ラブライブ!の世界に転生した俺はトップアイドル兼プロデューサー!? (とある幻想郷の暇人)
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転生
転生


ラブライブ!の二次創作を書きたくてたまらなかったので書いてみました! 処女作のため、変な文章になってしまったりするかもしれませんが、ご了承ください。
目標は、最後までやり遂げることです。


-----俺は愛されたかった。家族は生まれたばかりの俺を教会へ預け、どこかへ行ってしまった。シスターや神父は俺を可愛がってくれたが、俺を愛してくれてるとは思えなかった。-----俺は家族としての愛が欲しかったんだ。

 

 

そう思いながらも俺は毎日を楽しく過ごしていた。友達と馬鹿やって、部活をして、恋をして・・・。そんな日々がいつまでも続くと思っていた。だが、そんな日々は急に終わりを告げてしまう。

 

 

変わらない日常なんて、ない。

 

 

 

 

 

 

日も落ちて、暗くなってきた時分、俺は自室でギターを弾いていた。アンプにはつなげていなかったためか、あることに気付いた。---教会の方がやけに騒がしいと。 不審に思って向かってみると、シスター達が手を頭上に挙げて震えている。そして、彼女らの前には黒い服を着た、180cmある俺よりもデカい男が刃渡り20cmほどのナイフをもっていた。

 

 

それを目にすると、俺の体が勝手に動き始めた。俺の中で何かがキレた。

 

 

「俺の家族に何しやがんだテメェ!!!!!」

 

 

初めて彼女らを本当の家族だと思った。こんな事態になるまで思えないなんて、俺はバカだ。

 

 

強盗に飛びついた俺は何とか強盗を殴り飛ばし、家族を解放することができた。そして、近くからパトカーのサイレンも聞こえる。誰かが通報していたのだろう。安心してしまった俺は、

 

 

「良かった・・・。俺は、家族を救え「グサッ!!!」・・・え?」

 

 

背中にナイフが刺さっていた。心臓へ届いている。  

 

 

もう、俺は助からないだろう。

 

 

俺を刺した強盗はにやりと笑うと、倒れて気を失った。最後の力だったのだろう。

 

 

俺の体から力が出ない。俺は膝を着き、前のめりに倒れた。-----もう、何も感覚がない。

 

 

「あかつき!暁!」

 

俺を呼ぶ声が聞こえる。シスター達の声だ。いや、家族の声だ。

 

 

俺は家族を見つけた。そして、俺は家族に愛されていた。それを知ることがやっとできた。思い返すと、シスター達は俺の入学式や卒業式、参観会や発表会には毎回必ず全員で来てくれた。俺が小さいころに喧嘩してしまったら俺を叱って、一緒に謝りに行ってくれた。誕生日には大きなケーキを作ってくれた。

 

 

今までありがとう。俺のためにそんなに泣いてくれてありがとう。愛してくれて、ありがとう。

 

 

 

生きててよかった、と思える人生だった。

 

 

 

それを最期に、俺の意識は完全になくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、俺は神秘的な言葉で表せないような世界にいた。暑くも寒くもない心地よい場所だ。そんな世界で俺は寝転んでいた。

 

 

「知らない天井だ。・・・なんてね。ここは・・・どこなんだ?」

 

 

「あ、あの!ごめんなさい!!!」

 

 

透き通ったきれいな声が聞こえた。あわてて立ち上がって振り向くと、淡い水色の、サイドテールの真っ白なシルクの羽衣を着た、雪のように白い肌の、誰もが振り向いてしまうような美少女が土下座している。

 

 

・・・・・え?えええええ!? 突然のことで慌ててしまう。

 

 

「あ、頭を上げろよ! 何やってんだ!?」

 

 

「私は日ノ本の神々を統べる神、天照です。私が暁さんの出生の時に間違って不幸体質にしてしまったのです。だから暁さん家族に捨てられ、強盗に殺されてしまいました・・・。」

 

 

そういって天照は悲しい表情をし、眼尻に涙を浮かべる。この子が神?俺が死んだのはこの子が原因?・・・そんなのはどうでもいい。

俺の前で女の子が泣いている。その方が重要だ。泣かしてしまった俺がゆるせねぇ。

 

 

「泣くなよ。天照が神だか何だか知らねぇが、女の子はうれしいとき以外泣いちゃいけねぇ。それにな?俺は俺が死んじまったのは俺が原因だと思ってる。シスターや神父・・・家族を守ることができたんだ。神に感謝することはあっても恨むことはない。」

 

 

俺が言いたかったことをすべて言い切ると、天照は俺を顔を赤くしてうるんだ瞳で上目遣いで見上げ、手を祈るように胸の前で組んだ。

 

 

「暁・・さん/// ありがとうございます!私、とっても嬉しいです!(暁さん、素敵な人だな)」

 

 

「そうか。それはよかった。それで、俺はこれからどうすればいいんだ?というかここはどこだ?」

 

 

「は、はいっ!ここは群馬の野望の間。別名、転生の間です!」

 

 

「ぐ、群馬のやぼっ!?てか、ここ群馬かよ!」

 

 

なんだよ・・・。群馬帝国とかホントにあったのかよ・・・。

 

 

「はいっ♪それでですね、暁さんには早速転生してもらいます!」

 

 

最高の笑顔でよくわからないことを言われた。

 

 

「て、転生!?」

 

 

「はいっ♪暁さんには次の人生を幸せに生きてもらう義務がありますっ!」

 

 

そんな義務あるのか?その前に俺は既に幸せなんだけどな。

 

 

「いや、俺は既にしあ「どんな世界がいいですか?戦争がない世界がいいですよね?・・きいてねぇ」

 

 

そうだな・・・。なら、俺が愛してやまないみんなで叶える物語の世界に行きたいな。

 

 

「なら、俺をラブライブの世界に転生させてくれ。彼女たちの成長を近くで見てみたい」

 

 

そういうと、天照は人差し指を顎に当て、首を傾けた。

 

 

「ラブライブ・・・ですか?スクールアイドルという、学校生活を送りながらアマチュアで活動するアイドル達が活躍する世界ですよね?実際のアイドル並みに人気があるという・・・。」

 

 

「そうそう。俺、ラブライブのμ'sっていうスクールアイドルグループが好きなんだ。彼女たちの一歩一歩全力で進む姿が大好きなんだよ。」

 

 

「そうなんですか。(暁さんに好かれるなんて羨ましいです・・・。) じゃあ、ラブライブの世界に転生するということで、特典は何にしますか?〈幸運〉は付けるとして・・・。」

 

 

特典なんかくれるのか。何にしようかな。戦争があるわけでもないし、闘うチカラなんていらないしなぁ。

 

 

「じゃあ、〈愛〉を付けてくれないか?転生した世界では最初から愛されたいんだ。」

 

 

「〈愛〉ですか。(みんなに愛されるってことですよね。特に女の子にとか。嫉妬しちゃいますけど暁さんが欲しいって言ってますし、いいかしら。)・・・わかりました。他にはどうしますか?」

 

 

「うーん、転生したら前世の記憶を消してくれないか?新しい人生として生きたいし。」

 

 

それに、μ'sの未来も知ってるから楽しみが少し減ってしまうかもしれないしな。

 

 

「記憶を・・・、そうですか。わかりました。少し残念ですが、消しておきますね。」

 

 

「ありがとう。もう後はいいよ。」

 

 

後は転生するだけだなと思い、俺は目を閉じた。

 

 

「・・・暁さん。私、少しの間でしたけどあなたに会えて嬉しかったです。それでは、転生させますね。えいっと!」

 

 

ポヨヨーンとい音と共に現れたのは大きいトランポリン。

そして俺はそのトランポリンの上に落っこちた。ーーーつまり、おれは遥か上空へ飛ばされることに。

 

 

「う、嘘だろ!!!?」

 

 

そして俺は遥か上空へ飛ばされ、星となった。

 

 

「暁さん、私、あなたのことが好きでした。たとえ短い時間であっても、私には初めての感情でした。いつか会えることを信じて、待っています。」

 

 

天照の目からは涙が溢れ、その日、止まることはなかった。だが、本当の親に捨てられた暁の方が今の私より辛かったはずだ、と思い、空に向かって微笑んだ。

 

 

 

「お幸せに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実は、この話は7月の中旬には出来てたんですよ。でもなかなか投稿する勇気が出なかったので投稿していませんでした。これからは週1回以上の更新を目標に頑張ります!


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原作スタート1年前 春編
トップアイドル


転生し、16歳まで成長した暁。原作の一年前、暁とμ’sのメンバーが出会うとき、物語は始まる。


一人では広すぎる光輝くステージ。俺を照らす眩しすぎるスポットライト。一万人以上入るドームに空席は無く、興奮したような大きな歓声が耳に入る。皆、汗を流し、全力で俺の歌う曲に合わせて淡く光るサイリウムを振っている。

 

 

「暁ーー!」

「暁様ーー!」

「こっちも見てー!」

 

 

そんなステージの中心に、俺、神座 暁(かみくら あかつき)はマイクを右手に持ち、自分の中に溢れる気持ちを歌で表現していた。

 

 

 

今日、俺は東京にある、とあるドームでライブを行っている。俺は世間でトップアイドルなどと呼ばれているがあまり自覚はない。ただ、今を全力で生きるだけだから。

 

 

 

-----曲が終わった。

 

観客はワッと盛り上がり、

 

 

「最高ォ!!!」

「暁って良い曲ばかりよねっ!」

 

 

と、暁を賞賛した。

 

 

俺は深呼吸を一回し、頬をつたる汗をリストバンドで乱暴にふき取った。

 

 

「みんな!ありがとう!実は次の曲でラストなんだ。だから最後、ノリノリでいこうっ!!!」

 

 

会場全体の気持ちは1つにまとまり、皆、腹の底からオー!!!!!!!!!という声を出した。そして、ラストソングが始まる。体の奥をゾクゾクさせるようなギターのリフから始まり、一瞬で観客の心は奪われた。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

ライブが終わった。結果は観客の顔を見れば一目瞭然、大成功だ。

 

 

「それにしても、俺がトップアイドルか・・・」

 

 

俺が自分で言うのもなんだかおかしいが、実は俺の「アイドル」、という仕事は本業ではない。俺の本業は「NEXT」という世界的にも有名な企業の経営だ。俺はまだ16歳のため名前を出していないが、実際は俺が「NEXT」を創設したために会長という役柄になっている。・・・なぜだかわからないが昔から俺は「幸運」だ。「NEXT」だってもともとは1枚の宝くじから始まった企業なのに、今では世界的に有名になるまで成長したしな。まあ、これは俺の「幸運」だけではなく、「NEXT」の社長をしている姉の手腕もあったからだろうけど。・・・、とりあえず考えるのはやめてシャワーでも浴びるか。

 

 

 

 

汗を流し、楽屋で休憩をしているとコンコンという音が鳴り響く。だれかが来たみたいだ。

 

 

 

「はい?」

 

 

返事をして、ドアを開けると一人の女の子が立っていた。ワインのような赤い髪と、アメジストの色をした猫のような少しつりあがった瞳、均整のとれた体型の美少女、西木野 真姫がいた。

 

 

「ああ、真姫ちゃん。見に来てくれてたんだ。」

 

 

真姫ちゃんとは3年前に知り合った。「NEXT」主催の立食パーティが真姫ちゃんとの初めての出会いだ。真姫ちゃんは会場で一人、ポツンと隅で所在なさげに立っていた。真っ赤な真姫ちゃんの髪と同じ色をしたきれいなドレスを着ていたが、うつむき、悲しそうな顔をしていた。いてもたってもいられなかった俺は話しかけ、最初は警戒されたが色々あって仲良くなった。今ではこうしてライブに来てくれる。

 

 

真姫はそっぽを向いて頬を赤らめた。

 

 

「べ、別にいいでしょ!私はあなたのファンなんだから!」

 

 

唇を尖らせ、そわそわとしている。借りてきた猫みたいで可愛いなあ。

 

 

「うん、いつもありがとね。今度お礼に、真姫ちゃんの家へ行くよ。」

 

 

「ええ!?私の家に来るの!?」

 

 

「うん。真姫ちゃんの御両親にもひさしぶりに挨拶したいし。」

 

 

「わ、私のパパとママに挨拶!?」

 

 

真姫は眼を見開き、口をぽかんと開けて固まったが、固まりが解けるとワタワタし始めた。真姫の顔がどんどん赤くなっていく。

 

 

真姫ちゃんが何を想像したのかわからないが、俺はとりあえず笑みを浮かべ、真姫の頭を撫でた。すると、真姫はキッと俺を睨み、

 

 

「も、もう!意味わかんない!まぁ別にいいけど!」

 

 

と言ってまたそっぽを向いた。

 

 

 

・・・やっぱり真姫ちゃん、猫みたいで可愛いなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆さん、ステージに立ったことありますか?スポットライトって熱いし、明るすぎて観客が実はあまり見えないんですよ。μ’sがライブの後に汗だくなのは、全力で踊ったからだけじゃなく、ライトのせいもある、というのが私の持論です。

真姫ちゃんとの会話が少ないと思ったので、次回からは会話シーンを増やします。


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宇宙NO.1アイドルと高坂家の食卓

真姫が帰った後、俺は楽屋に置かれた俺宛の花束を見つけた。いつものあの子だろうか?えーと、なになに?

 

暁さんへ

にっこにっこにー♪いつも笑顔を届ける宇宙NO.1アイドルの矢澤にこですっ!今日はライブお疲れ様ですた。次のライブも絶対見に行きますね!それでは、暁さんも一緒に!にっこにっこにー♪

 

・・・・・。やっぱりにこちゃんか。この子、いつも俺に花束を贈ってくれるけど、どんな子なんだろう?会ったことがないけど、自分で宇宙NO.1アイドルって言ってるし、小学生かな?にっこにっこにー♪ってさすがに高校生とか大人はやらないだろうし。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

にこちゃんのことを考えてたら帰るのが遅くなってしまった。スマホを取り出して時間を確認すると、既に7時になっている。春とはいえ、夜は寒い。夕飯時だし、腹が減ってきたな。

 

 

辺りを見渡してみると、風情のある木造建築である和菓子屋を見つけた。「穂むら」という店名だ。疲れた体には甘いものが良いだろうし、腹が減りすぎて食べれるのなら何でも良いし、ここにしよう。

 

 

ガラガラガラという引き戸を引く音と一緒に聞こえてきたのは、

 

「いらっしゃいませー!」

 

 

という愛嬌のある元気な声だった。店内には明るい茶色の髪をした割烹着姿の似合う美少女店員がいる。きっとこの子がこの店の看板娘なのだろう。

 

 

「お客さん、何にしますか?この穂むらまんじゅうはとてもオススメですよっ!」

 

 

ニコニコとしながらまんじゅうを食べている。って、つまみ食いなんかしてもいいのかよ!

 

 

「く〜!やっぱ穂むらまんじゅうは美味い!」

 

 

知らねぇよ!俺食ったことないし!・・・でも本当にうまそうだな。まんじゅうだから日持ちもするだろうし、真姫の家に行くときのお土産にもいいかもしれない。

 

 

「じゃあ、穂むらまんじゅうを2箱ください」

 

「はーいっ!穂むらまんじゅうを2箱ですねっ!はいどうぞっ!・・・ってあれ?これいくらだっけ?」

 

 

ウンウンと腕を組んで悩み始めてしまった。値段ぐらい把握しといてくれよ・・・。5分ぐらいすると、女の子はハッと何かに気づいたようだ。やっと値段を思い出したか。女の子は暖簾のかかった通路に向かって大声で言った。

 

 

「お母ーさーん!!!穂むらまんじゅうっていくらなのー⁉︎わかんないよ〜!!」

 

目をバッテンにして両腕を頭上に上げているポーズは可愛いとは思うが、何だか迷惑をかけてしまったようで恥ずかしい。

 

 

 

 

少しするとお姉さんさんらしき人がパタパタとスリッパを履いたまま小走りでやって来た。エプロンを着けているし、料理中だったのだろうか。

 

「あ、お母さん!これいくら?」

 

お母さん⁉︎若!まだ20代にも見えるのに!

 

「こら、穂乃果!!お客さんの前で大声を出さないの!それに値段ぐらい覚えときなさい!」

 

店員の名前は穂乃果というようだ。穂乃果は、だってぇと言ってシュンと縮こまってしまった。申し訳なくなった俺は、

 

「いや、別にいいですよ。俺はそんなに急いでいませんし、そんなに叱らないでやってください」

 

と言うと、穂乃果は向日葵のような笑顔になった。やっぱり、この子は笑顔がよく似合うな。

 

 

「ほら!お母さん。気にしてないって!」

 

「もう…あなたって子は…」

 

そして穂乃果のお母さんは俺の方へ向かって謝った。

 

「すみませんね・・・。お客さん。うちの子が・・・って、ええ⁉︎あなたってもしかして暁⁉︎」

 

 

あ、バレた。

 

「う、嘘⁉︎お母さん、暁がこんなところにいるわけ…暁だ!!本物だよ!アイドルがウチに来ちゃったよ!テ、テレビかな⁉︎どこかにカメラとかあるのかな⁉︎どどど、どうしようっ⁉︎」

 

 

「おおお、落ち着きなさい穂乃果!慌てたってどうしようもないわよ!とりあえず!!!」

 

そして、二人は口を揃えて言った。

 

 

 

「「サインください!」」

 

 

 

・・・穂むらまんじゅうの箱を差し出しながら。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

サインした後、何故だか夕飯をご馳走してもらうことになった。そして俺の隣には美少女姉妹が座っている。

 

明るい茶髪のサイドテールの美少女は高坂穂乃果。俺と同い年の15歳らしく、現在は音ノ木坂学院に通っていて、高1だそうだ。趣味は水泳とシール集め。好きな食べ物はイチゴとパンらしい。

 

赤みがかった茶髪のショートカットの美少女は高坂雪穂。穂乃果の妹で、2歳下の13歳で、近くにある中学の2年生だそうだ。姉の方とは違って、しっかりとした少女だ。趣味は雑誌を読むこと。好きな食べ物ははイチゴとケーキらしい。

 

俺の向かい側にいるのは穂乃果と雪穂の両親である真穂さんと段蔵さんだ。真穂さんは俺の大ファンだそうだ。段蔵さんは、無口なようでまだなにも喋っていない。

 

 

「ごめんなさいね。私達、暁のファンだからついテンションが上がってしまったのよ」

 

と言って真穂さんは俺に謝った。

 

 

「いえ、構いませんよ。実は俺、腹ペコでして、夕飯をご馳走になっちゃって逆にありがたいです」

 

この夕飯であるハンバーグは本当に美味い。牛肉100%でつなぎがなく、何かのハーブを入れているようで肉のくさみが無い。拳骨ぐらいの大きさもあってボリュームも満点だ。

 

 

舌鼓を打っていると、隣りから穂乃果が俺の服の裾を引っ張った。

 

 

「ねーねー暁君!暁君てどこの高校行ってるの?」

 

「高校は言ってないんだ。今、大学に飛び級で入ってて、今度卒業するだよ」

 

すると、段蔵さんを除いた全員が驚き、雪穂が顔を近づけて聞いてくる。

 

 

「え⁉︎大学ですか⁉︎暁さんて15歳ですよね?どこの大学ですか?」

 

「東大だよ」

 

「「「と、東大⁉︎」」」

 

「ほえー、暁君て頭良いんだねぇ・・・」

 

「お姉ちゃん!頭良いって言うより、天才だよ!」

 

・・・・・・天才って言葉はあまり好きじゃないんだけどね。

 

 

こうして高坂家の食卓は終わった。というか段蔵さん、さっきから何も話してないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回でやっと1日が終わります。遅筆と話のテンポが悪くて申し訳ないです。


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穂乃果家での食後

お待たせしました。前回でも出てますが、時間が空いて忘れてしまった方のために、穂乃果の母の名前は真穂、父の名前は段蔵です。



夕食が終わると、穂乃果と雪穂が宿題を教えて欲しいと頼んできたため、疲れている体に鞭を打って教えることにした。

 

そして今俺らは穂乃果の部屋で卓袱台を出して穂乃果と雪穂が向かいになるようにして座り、俺は机に座って穂乃果の部屋にあった『美少女武将の野望』という漫画を読んでいる。

 

そういえばもう学校は始まってるから宿題は出るよな・・・。大変そうだ。

 

「ねーねー暁君!ここの空欄には何を入れればいいの?」

 

ん?穂乃果がやってるのは英語か。えーと、ここは・・・

 

「あぁ、ここにはmustを入れるんだ。ここに to pass the love live ってあるだろ?この to pass 副詞的用法の判断の根拠で、must と相性が良いんだ。だから、 must が正解。」

 

 

すると、穂乃果が凍った氷が解けたみたいに嬉しそうに笑顔になる。さっきからずっとウンウンと悩んでいて、やっと解けたから嬉しいのだろう。

 

 

「すごいすごい!やっぱり暁君て頭が良いんだね!穂乃果、10分以上悩んでたのにすぐに解いちゃうなんて!」

 

「まぁ、一応俺は大学生だからな。受験勉強もしたし。」

 

俺の言葉に納得したのか、穂乃果は次の問題に取り掛かり目線をノートに移した。穂乃果、アホの子だと思ってたけどやればできる子じゃないか。ちゃんと集中も出来てるし。

そして俺はまた『美少女武将の野望』を読み出す。『主人公が戦国時代にタイムスリップしたら、その時代の有名な武将のほとんどは美少女だった。美少女な織田信長に仕えた主人公はいったい何をするのか⁉︎』とか面白すぎだろ!この今川義元ちゃんとかマジ俺のタイプだし!

 

 

「暁さーん、645年に起きた出来事って何でしたっけ?」

 

645年・・・。戦国時代じゃないのか・・・。

 

「645年は大化の改新だよ。このとき、初めて『大化』という元号が使われたらしいよ。」

 

「へぇ、そうなんですか。歴史って覚えるの大変そうですよね。やだなぁ。」

 

「雪穂、歴史は歴史の漫画で流れを覚えると楽になるぞ。俺もそうやって覚えたしな。」

 

「わぁ!本当ですか⁉︎ 今度図書室で借りて読んでみますね!」

 

さっきと違って明るい顔になる雪穂。苦手な歴史の攻略法を知ることが出来たからだろう。

 

 

 

それにしてもこの『美少女武将の野望』面白いな・・・。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

かれこれ2時間ぐらいたったため、もう10時だ。穂乃果と雪穂の姿もいつの間にかなくなっている。・・・気づけないほど熱中して読んでしまっていたのか?

 

 

そろそろ帰ろうかと思い荷物をまとめに居間に行くと真穂さんに呼び止められた。

 

「あら、暁君今から帰るの?もう夜遅いのだし、泊まっていったら?」

 

「泊まるって・・・良いんですか?この家には穂乃果と雪穂がいるんですよ?」

 

年頃の女の子の家に泊まるのはあまり良くないのでは・・・?あいつらも嫌がるだろうし。

 

 

「大丈夫よ。後ろを見てみなさい!」

 

 

後ろ?後ろに何があるってんだ?

 

 

 

 

 

 

 

「わーい!穂乃果は暁君の横ー!!」

 

「あっ!ずるいよお姉ちゃん!じゃあ私は反対側にするもん!」

 

・・・居間に布団を敷いてはしゃいでるパジャマ姿の穂乃果と雪穂がいた。お前ら、俺は男だぞ?別に俺は枯れてるわけじゃないし普通に性欲だってあるんだぞ?わかってんのか・・・?まぁ、何もしないけどさ。

 

 

「ね?大丈夫でしょ?」

 

「・・・はい」

 

そうして俺の返事に満足したのか、真穂さんは居間を出ていった。仕方なく俺は穂乃果と雪穂の所へ向かい、風呂の場所を聞いて風呂に入った。・・・何故だか段蔵さんと一緒に。風呂の中での会話が「娘は簡単にはやらんぞ」だけでとても気まずかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

翌日、目が覚めると両腕に違和感を感じ、目が覚めた。俺の腕にひしっと抱きつき、穂乃果と雪穂は気持ち良さそうに寝ている。柔らかくて、女の子特有の甘い香りがするためドキドキとするが、動くと2人が起きてしまうため、動くことが出来ない。こいつら、自分が美少女だって自覚してないのか?

 

「ん、んぅ。もっとぉ、もっとちょうだい」

 

⁉︎ 穂乃果の寝言か。何の夢見てるんだいったい。耳元でそんな甘い声で囁かれるとマズイんだが。

 

「らめらってば! 穂乃果の中ではもういっぱいらからこれ以上はらめ!」

 

 

な、何がこれ以上はだめなんだ?何でいっぱいなんだ?心臓がバクバクしてヤバイ・・・!

 

 

「ら、らめぇ!もうこれ以上は入らないから!穂むらまんじゅう!」

 

 

・・・え?穂むらまんじゅう?・・・。

 

 

そして俺は何とも言えない朝を迎えた。

 




投稿スピードを早めたいです。


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鬼ごっこと迷える猫とツインテール

お待たせした分、長めにしてあります。設定を忘れてしまった方は申し訳ありませんが、2話から読み直してください。

主人公は、芸能活動のときはサングラスを掛けており、外す方がむしろ変装状態です。


人物の描写が苦手なため、よくわからない!って方はインターネットで画像を調べていただけたら幸いです。


穂乃果達と連絡先を交換したし、高坂家に昼食もお世話になるのは悪いと思うから家に帰ろう、そう思った俺は抱きついてくる穂乃果を引き剥がし、玄関に向かう。

後ろから穂乃果の怒りの声が聞こえてくるが無視だ無視。相手にしたら今日1日ずっとくっつかれてしまうだろう。

 

 

 

靴を素早く履いて玄関を飛び出し、俺は自宅へ走って帰る。背後からスリッパのパタパタとした音が聞こえるが、まさかスリッパかつパジャマ姿で追いかけてきてるんじゃねぇだろうな・・・?

 

 

「待ってよ〜!穂乃果も連れてって〜!!」

 

 

・・・そのまさかだった。勘弁してくれよ。今朝の穂乃果の寝言のせいでこっちは穂乃果を妙に意識しちまってるから今は一緒に居たくないんだよ。

 

 

 

「そんな姿でついて来るなんてアホか!さっさと家に帰って着替えて店番してろ!あほのか!」

 

「あほのか!? ひどいよ暁君!穂乃果はもっと暁君と居たいだけなのに!とにかく待ってよ止まってよ〜!!!」

 

「誰が止まるか!今日は俺は帰るって決めたんだ!穂乃果の家にはまた今度行くから勘弁してくれ!!」

 

「今度じゃなくて今!! 今はじゃないとヤダもん! うわぁ⁉︎」

 

 

穂乃果の悲鳴が聞こえたため、立ち止まって振り向くと穂乃果が転んでいた。はぁ、スリッパで走るからだよまったく。まぁ、逃げた俺も悪いんだけど。

 

 

「大丈夫か?穂乃果。手を貸せ。持ち上げてやる。」

 

 

派手に転んだらしく、涙目になり、口をへの字にしている穂乃果に手を差し出す。すると、穂乃果は両手で俺の右手に掴まり-----

 

「えへへ♪暁君捕まえたぁ!」

 

「あっ!!!」

 

涙目になりながら、嬉しそうに笑顔を浮かべる穂乃果はとてつもなく可愛いが、今の俺には悪魔にしか見えない。でも、俺には家に帰るという使命があるんだ。たとえ悪魔が俺の邪魔をするとしても、突破してみせる!

 

 

「あ、あのー?穂乃果?その手を離してくれると嬉しいな〜って思うんだけど」

 

「? やだよ? やっと暁君を捕まえたんだもん。だから今日1日、ずっ〜と手を繋いだまま過ごすの!! ね!いいでしょ!」

 

 

昨日1日で随分と懐かれてしまったみたいだ。今の穂乃果はまるで、飼い主が久しぶりに帰ってきたため、嬉しすぎて飼い主にぴったりとくっついてくる犬のようだ。可愛いけど、なぁ・・・。

 

 

「穂乃果?俺は今から用事があって家に帰るんだ。だから帰らせてくれないか?なんなら、住所も教えるから。」

 

「え!ほ、ほんとに!? 暁君の住所教えてくれるの!? だったら帰ってもいいよ!そのかわりに穂乃果が暁君の家に行くから!」

 

 

やっと手を離してくれた穂乃果に俺の住所をメールで送ると、ピロリン♪と軽快な音が穂乃果のスマホから鳴る。

そのメールを穂乃果は開くと、更に笑顔になり、スマホを胸元に持って行き、優しく抱いた。そんなに嬉しかったのだろうか。

 

「ねぇねえ、暁君って一人暮らしとかだったりする?」

 

「え?まぁ一人暮らしで家族とは別に暮らしてるけど・・・」

 

こんなこと聞いてどうするんだ?

 

「そっか!そっか!ウンウン!」

 

満足そうにうなづく穂乃果。もう、帰ってもいいかな。いい、よね。帰ろう。なんか嫌な予感もするし。

 

 

「じゃあ俺帰るわ〜!また今度〜!」

 

「今度お料理作ってあげようか?穂乃果、お料理はあんまり得意じゃないけど、頑張るから!」

 

 

何か穂乃果が言ってるようだが、既に俺はそこに居ないため何も聞こえなかった。

 

 

 

 

***

 

 

「やっと帰れた・・・穂乃果、しつこかったな」

 

疲れてヘトヘトになり、自宅のベッドでくつろぐ。ちなみに俺の家は秋葉原にあり、14階建てのマンションの最上階のフロアだ。このマンションは『NEXT』の建設部が建てたもののため、家賃はタダだ。このマンションはいわゆる、金持ちが住むためのもののため、外見も高級ホテルのようで素晴らしい。

 

 

ピロン♪とスマホから着信音が鳴る。メールが来たようだ。誰からだろう。

 

 

 

To 暁君

 

暁君元気?実はね、今日私達のCDが発売されたの!良かったら買って聴いてくれないかしら?後、豪華限定版の方ね!そっちの方は今日の午後から発売だから、今から行けばきっと間に合うわ。100人限定だから急いで!お願い!暁君!

 

 

From ツバサ

 

 

ツバサとは、A-RISEというUTX学院のスクールアイドルの一人で、リーダーの綺羅ツバサのことである。彼女は翡翠色の目で、前髪が短めのショートヘアのデコだしルックのカリスマ性のある美少女だ。

 

実は去年、彼女達のデビュー曲である『Private Wars』を作った。それから半年間彼女達のプロデュースをしていたが、今はやめた。彼女達はもう、スクールアイドル界のトップアイドルになったからだ。

 

A-RISEはもう、大抵のスクールアイドルには負けないだろう。よっぽどのことでない限り。

 

 

それにしても、豪華限定版のCDを買ってくれだと?しかも100人限定で午後から発売・・・。

 

今から行けば余裕だが・・・、どうしようか。まぁ、元A-RISEのプロデューサーといっても、彼女達のファンだし買ってやるか。

彼女達がどんな風に成長したのかも気になるしな。べ、別にもともと買おうとしてたわけじゃないしっ。しょうがなく買うだけだし!

 

 

 

ちなみに、A-RISEの残りのメンバーは優木あんじゅと統堂英玲奈だ。

 

 

 

優木あんじゅは、ゆるいパーマががったセミロングヘアのお嬢様風な女の子だ。いや、お嬢様風というより、お嬢様だ。優木財閥の令嬢であり、俺の会社である『NEXT』と連携している。

だから、彼女とは家族ぐるみの付き合いがある。よく、あんじゅの父からあんじゅと婚約しないか?と言われるが、ジョークだろう。俺と婚約する理由が分からないしな。

その場で速攻断ると、あんじゅはいつもこの世の終わりのような顔をするが、きっとそれも彼女の手の込んだジョークだろう。

そして、彼女の甘々な声とふくよかな胸は、安らぎを与えてくれる。

 

 

統堂英玲奈は、長い黒髪と切れ長の目を持ちクールな雰囲気を漂わせる女の子だ。左目に泣きぼくろがある。サッパリとした性格と、キレのある見た目から、女の子からの人気が高い。

 

 

この綺羅ツバサと優木あんじゅと統堂英玲奈の3人が、スクールアイドルのトップ、A-RISEだ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

ここでしか豪華限定版は売らないと聞いてやってきたスクールアイドル専門店に着き、A-RISEのコーナーに向かう。

 

ここは学生、大人、男女問わず賑わっている。というより、何か大行列になっている。まさか、ここが豪華限定版の販売レーンか?

 

 

間違えて並ぶのはやめときたいため、最後尾にいるオレンジブラウンの色のショートボブの眼鏡を掛けた美少女に話しかけてみる。いや、別に美少女だから話しかけるわけではない。

 

 

「ふ、ふぁぁ!A-RISEのグッズがこんなにある!私幸せぇ」

 

 

感激してプルプルとチワワのように震え始めた。この子、A-RISEが大好きなんだな・・・。感激してるところに話しかけるのも悪いと思うが、話しかけよう。

 

 

「すいません、この列ってA-RISEの限定版CDの列ですか?」

 

「ふぇぇぇぇ⁉︎ 」

 

 

できるだけ優しく話しかけたつもりだが、驚かせてしまったようだ。

 

 

「えーと、あの、その・・・そ、そうです。正確には、抽選会ですけど」

 

 

「そうですか!ありがとうございます!」

 

 

ここで合ってたみたいだ。良かった良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは!ただいまよりA-RISEの限定版CDの抽選会を始めまーす!押さないように前の方から順番にクジをお引きください!一人2回までです!」

 

 

 

抽選会が始まった。叫び声を上げてガッツポーズをする者もいれば、地団駄を踏んで悔しがる者もいる。

ところで、俺の後ろにサングラスとマスクすがたの黒髪のツインテールの小柄な変な人がいるのだが、強盗とかじゃないよな?背後を刺されたりしないよな?

 

 

 

「くっ!見てなさいよ。絶対にゲットしてやるんだからっ」

 

 

・・・ちゃんとした客のようだ。通報しなくて良かった。

 

 

 

 

 

 

「はい!お次のお客様どうぞ〜」

 

 

あっ、俺の前の眼鏡の子の番だ。緊張して、ゴクリと喉を鳴らしている。

そーっと手を箱の中に手を入れ、紙を2枚出した。俺も何故か緊張し始めた。手に汗が浮かぶ。俺と眼鏡の子と後ろのサングラスの子がじーっと店員の手元を見つめーーー

 

 

 

「おめでとうございます!1枚当たりです!」

 

 

良かった。当たったようだ。眼鏡の子は感激のあまりか固まってしまっている。後ろのサングラスの子は拳を握り、悔しがっている。そんなに欲しいのだろうか?

 

 

「はい!お次のお客様ー!」

 

 

「あっ、はい!」

 

 

俺の番だ。箱の中に手を突っ込み2枚取り出して店員に渡す。すると、

 

 

 

「お、おめでとうございます!2枚当たりです!」

 

 

2枚も当たってしまった。やっぱり俺は幸運なのかな?クジ引きは欲しいやつしか出たことないし。

後ろのサングラスの子は血走った目で俺を見てくる。いや、サングラスだから分からないけど。でもそんな雰囲気ん漂わせている。

この子から早目に離れよう・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

出口へ向かうと、半べそでウロウロしているオレンジ色のショートカットの美少女がいた。身体の起伏は少ないが、元気そうなイメージがする。

 

「かよちーん!どこにゃー!?か、かよち〜ん。・・・う、うぅ・・・・・・」

 

 

どうやらかよちんという友達とはぐれてしまったようだ。放っておくのも可哀想だし、今にも泣き出しそうだから話しかけてみるか。

 

 

「ねぇ君、かよちんって友達とはぐれちゃったの?一緒に探そうか?」

 

「え、あなた誰?」

 

「俺は神座暁。君は?」

 

「わ、私は星空凜だにゃ。神座暁君って芸能人のあの人と同じ名前なんだにゃ?でも芸能人の暁はサングラスを掛けてるし、暁君はサングラス掛けてないからきっと別人だにゃ。凄い偶然もあるものにゃー」

 

いや、まぁ本人なんだけどね。サングラスは仕事の時だけ掛けてるから、逆に外してるとよく見ない限りバレないんだよね。

 

 

そして、一人ではなくなったため安心したのか、少し落ち着いてきたようだ。そりゃ、迷子になったときに一人だけだと怖いし辛いもんな。

 

 

「えっとね、凜はかよちんを探してるの!かよちんてばココに来たらすぐに走ってどっかへ行っちゃったんだにゃ」

 

 

「すぐに走りだした?もしかしてかよちんってA-RISEのファンとか?」

 

「そうだにゃ!かよちんはアイドルが大好きで、その中でも神座暁とA-RISEが大好きなんだにゃ!」

 

「そ、そう・・・」

 

 

 

大好きって面等向かって言われてしまうと少し恥ずかしいような嬉しいような。

 

ともかくそれは置いといて、店に着いて走りだしたってことは何か急いでたってことだ。それで今日はA-RISEの豪華限定版の発売日。そしてかよちんはA-RISEのファン。これは、確定だな。

 

 

「もしかしてかよちんはA-RISEのコーナーにいるんじゃないか?今日はA-RISEの豪華限定版の発売日だし」

 

「あ!そうだにゃ!きっとA-RISEのコーナーにいるにゃ!」

 

 

凜は雲が晴れたかのように笑顔になった。

 

「ありがとにゃ!凜、A-RISEのコーナーに行ってくる!」

 

 

「あっ、ちょい!もしかしてかよちんって眼鏡の子のことか?・・・って行っちまった」

 

 

その場に残された俺だが、困ってる人を助けることができたし、まぁ結果オーライだ。さて、さっさと帰ってCDを聴くかな。

 

 

 

 

「あっ!いた!アンタちょっとこっち来なさい!」

 

「え!?な、なんだ!?」

 

 

さっきのサングラス&マスクのツインテールに手を引っ張られ、店の裏まで連れて行かれる。

そして、手を離しこちらへ振り向いた。

 

 

 

「アンタ、豪華限定版のCD2枚当たってたわよね?お金は払うから1枚頂戴!」

 

 

「えーっと、ハズレたの?」

 

 

「そ、そうよ!2回も周ったのに当たらなかったの!悪い!?」

 

 

「いや、悪くないけど・・・」

 

 

どうしようか。この怪しい子に渡すべきか逃げるべきか。

 

 

「とりあえず、そのサングラスとマスク外してくれないか?なんだか恐喝されてるみたいだから」

 

「え!?恐喝なんて私はしないわよ!」

 

そう言ってサングラスとマスクを外す。すると、ロリっぽい可愛い女の子、つまり美少女が現れた。

 

 

「それで、売るの?売らないの?」

 

「いや、売ってもいいんだけど、それだと他のハズレた人に悪いしなぁ」

 

「じゃ、じゃあ!何か1つ言うことを聞いてあげるから!」

 

 

言うことを聞くとか・・・。女の子が言うセリフじゃないだろう。俺が悪人だったらどうするんだ。

 

 

「じゃあ貸し1つでいいよ。君、A-RISEのファンだし、同志だからな」

 

 

「え!? いいの!ありがとう!!!」

 

 

嬉しそうに俺からCDを受け取ると、大事そうにぎゅっと抱きしめた。そして俺に視線を向ける。

 

 

「アンタ、どっかで見たことのあるような顔をしてるわね?まぁいいわ。連絡先交換しましょ。貸し1つだし、それにアンタもA-RISEのファンでしょ?アンタとは仲良くできそうだわ」

 

 

「あぁ、俺も君と仲良くできそうだ。じゃあ、交換しよう」

 

 

 

連絡先を交換し、名前を確かめる。・・・矢澤にこ?も、もしかして・・・?

 

 

「あ、あぁぁぁぁあ!?アンタもしかしてのもしかして本人!? え!? 嘘!? ど、どうしよう!!!」

 

 

 

 

 

ばれちまったか。しかもこの子、いつも花を送ってくれる宇宙NO.1アイドルの矢澤にこちゃんじゃん。小学生だと思ってたのに、しまったな・・・。

 

 

 

 

「えーと、とりあえず、その、にこちゃん。いつもお花ありがとね。これからよろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!?」

 

 

 

 

 

そしてまたにこちゃんは絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 



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にこの過去

最近、スカイリムっていうゲームをやり始めたのですが、とても面白くて時間を忘れてしまいます。


にこちゃんに身バレしてしまい、彼女は大きく取り乱しているが、どうやってなだめようか……。流石に女の子を叩くわけにはいかないし……。

 

 

「あわわわわ!暁様だ本物だどうしよう!こんな変な服じゃなくて可愛いお洋服でも着てくればよかったよーー!!うわぁ〜ん!!!」

 

「お、落ちついてにこちゃん!そのクルクルとした変わった帽子とかエリマキトカゲみたいな服とか可愛いよ!!」

 

「それフォローになってないー!やっぱ変なんだ〜!!!」

 

 

 

・・・しまったなぁ。慰めようと思ったのに失敗した。いや、本当に似合ってるよ?そのクルクルとした帽子なんていかにもオホホホホって口に手を当てて笑いそうな人がかぶってそうで面白いし。

 

 

 

「えーと、とりあえず落ち着こう?とにかく俺は似合ってると思うし、友達になったんだから普通に話そうよ」

 

 

 

 

 

するとにこは泣きやみ、潤んだ瞳で俺を上目遣いで見上げる。

 

 

「と、友達? にこの友達になってくれるの!?」

 

「うん。というかもう友達だよ?にこちゃん」

 

 

 

すると、一瞬嬉しそうな顔をするが、すぐに影がさしかかる。どうしたのだろうか?

 

 

 

「あの、ね?絶対ににこを裏切ったりしない?見捨てたりしない?一人ぼっちにしない?」

 

 

 

この言葉に俺は違和感を覚える。いったい、にこちゃんの過去に何があったんだ。こんな、たかが友達を作るのに怯え、不安そうな顔をするなんて。もしかしたら、昔、友達に裏切られ、見捨てられ、そして一人ぼっちになってしまった、という過去があるのだろうか。

 

 

 

 

 

「孤独」

 

 

これはゲームで負けることよりも、テストで悪い点数を取ってしまうことよりも、財布を失くしてしまうことよりも辛いことだ。

 

 

周りには自分の味方はいない。いや、むしろ敵かもしれない。

 

自分が何をすればよいのか、何がダメなのか。それもわからない。

 

ただ普通に朝起きて、学校に通って、誰かと話すこともなく、誰かと関わることもなく、学校が終わって家に帰る。

 

 

 

それは辛いだろうな。俺だったら耐えられないかもしれない。それをこの小さな身体で耐えて来たんだ。

 

 

今日、俺と出会ったんだ。ならもう、孤独になんかさせない。辛い思いなんてさせない!

 

 

 

 

 

 

「あぁ…!絶対ににこちゃんを裏切らないし、見捨てないし、一人ぼっちにしないよ!だからシュンとしないで。にこちゃんの話もちゃんと聞くし、友情はノーチェンジだよ!」

 

 

その言葉を聞くと、にこはパァッと一筋の光が向日葵に差したように笑顔になる。やっぱりにこちゃんは笑顔じゃなきゃダメだよな。笑顔届ける矢澤にこなのだから。

 

 

「ありがと!私、暁様のこと信じるわね!……友情ノーチェンジかぁ、良い言葉ね」

 

「様なんてつけなくてもいいよ。それじゃ、自己紹介しようか。俺は神座暁、15歳だけど大学生だ。後、アイドルもやってる。まぁ、これはにこちゃんなら知ってるかな?」

 

「私は矢澤にこよ。音ノ木坂学院2年生で、16歳よ。友達なんだから、たとえトップアイドルの暁でもタメ口でも良いわよね!」

 

 

 

 

調子が戻って来たのか、だんだんとにこ本来の話し方や態度になる。少し偉そうな態度をとりながら嬉しそうに笑顔を浮かべているが、たまにこちらの顔色をうかがってくる。やはりまだ完全には信じきれていないのだろう。まだまだ、これから仲良くなっていけばいいんだ。

 

 

ところでにこちゃんて年上だったのね。中学生ぐらいにしか見えないよ・・・。

 

 

 

 

***

 

 

 

にこside

 

 

私には憧れの人がいる。

 

その人はトップアイドルと言われているが、最近では伝説のアイドルとも呼ばれ始めた。ライブのチケットを売り始めると即完売。CMに出るとその商品は飛ぶように売れ、番組に出ると視聴率は30%を下回ることはないとか。それは本当かどうかわからないけど、テレビで見ない日はないほど活躍している。

 

そんな人間本当にいるのか?と聞かれると実在している。

 

 

 

神座暁だ。

 

 

 

もともと私はアイドルに憧れていたが、何もできずにただ毎日をぼんやりと過ごしていた。このやる気をどこへぶつければいいのか、その答えを音ノ木坂学院に来て見つけた。

 

 

スクールアイドルをやればいいんだって。

 

 

 

4人の友達と私でアイドル研究部を作り、スクールアイドルを始めた。これから輝かしい未来が待ってる!そう、思ってた。でも、実際はそんな未来なんて待ってなかった。

 

 

曲を作ることができない。だから既存のアイドルの曲を使うことにした。

 

ダンスが上手くできない。だから練習しようと言ったのにみんな諦めていた。

 

 

 

 

「にこ、あんたには着いていけないわ。あたし達はスクールアイドルだから簡単に人気者になれると思ったの。でも何?実際にやってみるとこんなに辛いじゃない。あんたもスクールアイドルなんてやめちゃいなさいよ。」

 

「どうして!? これから練習していけばいいじゃない! 最初からできるわけないでしょ!」

 

「その練習が嫌なんだっつの。アイドルなんかにこだわって・・・馬鹿じゃないの?」

 

 

その言葉が頭にきた。私は神座暁と肩を並べられるようなアイドルになるんだって、そう思って頑張ってきた。それをアイドルなんか、と言われ、馬鹿にされたり

 

絶対に、許せない。

 

「ふざけないで!私にとってはアイドルなんかじゃないわ!アイドルが人生なのよ!」

 

 

友達は私の言葉を聞いて更に冷たい目線になる。夢を追い続けることの何が悪いの。

 

 

「・・・。もう、私達はアイドル研究部をやめるわ。ついでに友達もやめるわ。私達はにこみたいな友達はいらないの。・・・さようなら。これからは話しかけてこないでね」

 

 

パタン

 

 

部室を出ていった。騒がしかった部室も静寂になり、私を孤独にさせる。

 

 

負けるもんか。絶対負けないんだから・・・!

 

 

 

 

 

 

それから1年。

 

私には友達がいない。1年前に友達に見捨てられたあの日のことが忘れようとしても忘れられないからだ。また見捨てられるのがたまらなく怖い。

 

 

 

私は作曲も作詞もできない。だから、放課後毎日校門でスクールアイドルをやらないかと勧誘をした。

 

だが話は聞いてくれても、首を横に振るだけで縦に振ってくれる人はいなかった。

 

 

 

 

 

神座暁などのアイドルや他のスクールアイドルを見ている時間だけが私を孤独から救ってくれる。だから私は大丈夫。まだ大丈夫だ。このくらい耐えられる。辛くなんて・・・ない。

 

 

 

 

そういえば明日はA-RISEの豪華限定版CDの発売日だったわ。絶対に手に入れないとね。なんたってA-RISEのライブのプレミアムチケットが入ってるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

変装してまで2周もしたのにゲットすることができなかった・・・。昔から私はくじ運がない。

 

それに比べて私の前の人は2つもゲットすることができてた。なんなのよ・・・もう。

 

 

とにかく、どうしても欲しいからさっきの人に1つ譲ってもらおう。にこが頼めば譲ってくれるはずよね♪

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきの幸運な人は簡単に私に豪華限定版CDを譲ってくれた。貸し一つという条件で。なんて良い人なんだろう。ま、まぁにこの可愛さを見れば当たり前よね。

 

そして連絡先を交換することになり、相手の名前を見てみると、神座暁と書いてある。まさか、とは思ったがなんと私の憧れの人である神座暁本人だった。びっくりした私はパニックになり、可愛い服を着てこなかったことに後悔した。

 

でも、暁はそんな私をめんどくさがらずに私を慰め、友達になろうと言ってくれた。

 

 

「友達」という言葉を聞いたのは久しぶりだ。もう、二度と聞くことなんてないと思ってたのに。そして、できるはずなんてないと思ってたのに。

 

 

私は、友達になろうという言葉を信じられなかった。どうせいつかは1年前みたいに裏切られてしまうだろうから。

 

 

でも、暁は私の言葉に察したのか、絶対に裏切らない、見捨てない、一人にしないと言ってくれた。

 

 

 

 

 

この人なら信じれるかもしれない。この人なら私を裏切らない。 暁の目を見て、そう思った。

 

 

 

友情ノーチェンジ、ね。 本当に良い言葉よね!

 

 

たとえトップアイドルの暁でもタメ口でも良いわよね。と、友達なんだから!

 

 

だからA-RISEのライブを一緒に行こうと誘ってもいいよね。

 

 

 

 

 

なんだか心臓の鼓動がいつもより早い気がする。友達ができて嬉しいからなのかな。

 

 

 

 

 

このときから私の見る世界は、灰色の世界から色鮮やかな世界になった。

 

 

 

 

side end

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この作品が面白いのかつまらないのかわからないので、できたら評価または感想をください!お願いします。


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西木野家でのお茶会

夏が終わってしまいましたね。もう少しすればことりの誕生日が来るなぁなんて考えて日々生活してます。


「ここ…か」

 

俺は今、友達である西木野真姫の家の前にいる。

 

真姫の父親はここらでは1番大きい病院を経営しているために、西木野家は金持ちだ。だからこの普通のサラリーマンの給料では買うのに1年はかかりそうな立派な門を設置してあるこの大きな家は真姫の家で合っているだろう。

 

この間のライブに来てくれたお礼をしに来てみたのだが、真姫ちゃんはいるのだろうか。

 

もしかしたら、連絡をせずに来てしまったのだし不在かもしれないが、まぁいいだろう。

 

右手に穂むら饅頭を持ち、いざチャイムを鳴らす。

 

 

 

ピンポーン♪

 

 

軽快な音が鳴り、少し待つと

 

「はぁい、どちら様かしら?」

 

と女性の声がモニターから聴こえた。この声は真姫の母である西木野姫香さんだろう。

 

「姫香さん。神座暁です」

 

と告げると、モニターからは嬉しそうな声で返答がくる。

 

「あら!暁ちゃん。入ってらっしゃい!」

 

 

ガチャ、と門が開いたので素直に上がらせてもらうことにする。

 

 

***

 

 

家に上がると、最初に広々とした玄関が俺を迎えた。俺の家はマンションのためにそれほど広くはない。この玄関なら20人ぐらいは一気に入れるだろう。

 

靴を脱いでいると、奥からは真姫と同じワインのような赤い髪色をした、20代にしか見えない美しさの真姫のはである姫香さんがやって来た。

 

 

「暁ちゃん、いらっしゃい。今、真姫はパパのところに行ってていないからこっちに来なさいな」

 

 

と言って俺の手を引く。余裕を感じさせる笑みと、部屋着であるために胸元が開いてゆったりとした服装の盛り上がった部分、真姫よりもある部分が成長した姿は少し魅力的でドキドキしてしまう。

 

……真姫も成長したらこうなるのだろうか。

 

 

俺の視線に気づいたのか、姫香さんは口角を上げてチラリとこちらを非難した視線で見てくる。

 

 

「……すいません」

 

ジロジロと見ていたことを謝ると、姫香さんはうふふと少し嬉しそうに笑った。どうやらからかわれたみたいだ。

 

 

「男の子だもの。しょうがないわよ。でも、気をつけなさい。女っていう生き物は男のHな視線には敏感なんだから」

 

「はい…」

 

 

何も釈明の余地がないため、大人しく返事をする。

 

 

普段は仕事で美人や美少女を見慣れているために耐性があると思われがちだが、実際は男の性というものはどうしようもない。

 

 

 

 

***

 

 

 

広いリビングに入ると、高級そうなソファには灰色の髪色をしたスーツ姿の綺麗な女性が座っていた。この人も20代の女性にしか見えないな。

 

俺と姫香さんが来たことに気づき、その女性はこちらへ振り向いた。

 

 

「あら、若いお客さんね。真姫のお友達かしら?あなた、お名前は?」

 

 

……美人だ。落ちついた雰囲気をしていて、スーツ姿からは仕事ができる女性、というイメージがする。

 

 

「えーと、真姫の友達の上座暁です。今日は真姫の家族に会いに来たんですけど…」

 

 

「暁君、ね。私は音ノ木坂学院の理事長をしている南ひな、よ。家族に会いに来たってことはもしかして…?」

 

そう言ってひなさんは口元を手で隠し、口角を上げ、ニヤリ笑い、姫香さんを意味深そうに見た。

 

落ちついた雰囲気とは一転、小悪魔のようなイタズラが好きそうな表情になった。

 

この人…もしかして勘違いしてるんじゃ?

 

 

俺は立ち上がって慌てて誤解を解こうとする。

 

 

「いや、ひなさん!きっとひなさんが考えてることとは違いますから!「あら、違うの?」姫香さんは黙っててくだはい!とにかく、俺は真姫がいつもライブに来てくれるからお礼に来ただけです!!」

 

 

はぁはぁと肩で息を抜く、誤解は解けたのだろうかとひなさんを見ると、残念そうな顔をした後に首を傾け、人差し指を顎に当てて頭の上に ? を作っていた。

 

その動作が真面目そうな見た目とは逆で、可愛らしかった。

 

「ライブって…暁君バンドとかやってるの?」

 

「あら、ひなってもしかして暁君のこと知らないの?テレビとかでよく観ない?」

 

「ごめんね、私はあまりテレビって観ないから。ってことは暁君て芸能人?」

 

 

ひなさんは目を丸くして俺に聞いてくる。俺は苦笑いをしながら頬ををポリポリとかきながら答える。

 

 

「えーと、一応アイドルやってます」

 

 

 

***

 

 

 

「はぁ、音ノ木坂学院が廃校になってしまうかもしれない、ですか…」

 

真姫が帰ってくるまで待つことにした俺は姫香さんとひなさんのお茶会に参加することにした。

 

姫香さんが淹れてくれた紅茶と、俺が持ってきた穂むらまんじゅうをお菓子代わりにする。

 

穂むらまんじゅうも美味いが、紅茶も美味い。俺と姫香さんはストレートで飲むが、ひなさんは砂糖とミルクをたっぷりと入れて飲んでいる。

 

甘党なのだろうか。

 

 

「えぇ、年々生徒が減少しててね、来年のオープンスクールの時に入学希望者が少ないと廃校になってしまうのよ。近くにはUTX学園という人気女子校もあるし、どうにかしたいのだけどなかなか良い方法が思いつかないのよ」

 

「真姫も来年から音ノ木坂学院に行くのだけど、後輩がいないっていうのは嫌でしょ?だから私達でなんとかする方法を考えてるの。暁君も良い方法思いつかない?」

 

「うーん、俺は音ノ木坂学院に行ったことないからなぁ。伝統がある学校だということくらいしか知らないです」

 

 

三人で頭を悩ます。生徒が減少ってことは生徒をたくさん集まればいいわけだろ?なら何か音ノ木坂学院だけにあるものアピールすればいいのでは?

 

 

「音ノ木坂学院だけにしかないものってないんですか?誇れるものとか」

 

俺の質問にひなさんは少し考えて返事をする。

 

「………アルパカがいるわ」

 

 

「……。…………。アルパカ?」

 

「えぇ、アルパカよ」

 

「………」

 

「………」

 

「可愛いじゃない!アルパカ。あのモフモフした毛とかキュートな瞳とか!姫香もそう思うわよね!?」

 

「可愛いとは思うわよ……でも、ねぇ」

 

「むぅぅ、どうして皆アルパカの可愛さがわからないのかしら」

 

 

ひなさんは口をツンと尖らせて、拗ねた顔をプイッと背ける。

 

 

 

「なかなか良い方法が思いつかないわね…」

 

「そうですねぇ…」

 

「そうね…」

 

 

乾いた喉に紅茶を口に含み、潤す。しばらくの間話していたが結局打開策は思いつかなかった。

 

だが、姫香さんは良い案を思いついたらしく、口元を緩めて笑顔を浮かべる。

 

「そうだわ!暁君に一度学校を見学してもらいましょうよ!そうすれば良いところや悪いところがわかるかもしれないわ!」

 

名案だとばかりに嬉しそうにひなさんに言う。

 

 

「あら!それは良いわね。たしかに私達は卒業生と理事長だから外部の人がどう思うか思いつかないから、他の人に見学してもらえば何か思いつくかもしれないわ!」

 

学校見学か…。そういえば俺、大学に飛び級してるから高校に行ったことないんだよな。見学、いいかもしれない。

 

 

「でも女子校ですけど男の俺が入ってもいいんですか?」

 

「来校許可証さえあれば入ってもいいわよ。私が発行しておくから都合が良いときに来てくれないかしら?」

 

「真姫も来年から通うから私からもお願いするわ」

 

「……。じゃあ、オフの日に行かせてもらいますね」

 

 

高校生活か…楽しそうだな。俺も行ってみればその気分を味わえるのかな? 見学、楽しみだ。

 

 

 

 

ガチャガチャ

 

「ママー?ただいま。誰か来てるの?」

 

 

「真姫が帰って来たみたいよ。私達が暁君と仲良く話してたら真姫が嫉妬しちゃうから足止めしてくるわね」

 

 

そう言って姫香さんはリビングから出て玄関へ向かった。

残された俺とひなさんは話を続ける。

 

「それじゃ、連絡先を交換しておきましょ。いつでも連絡してね」

 

「はい。それじゃ、俺から送りますね…よし」

 

「じゃあ…私も。それと、この廃校になるかもって話は秘密にしといてね」

 

「わかりました!それじゃ、俺も真姫のところに向かいますね」

 

そう言って俺はひなさんをリビングに残し、玄関へ向かう。

 

 

「暁君か……。とても良い子ね。アイドル、しかもトップアイドルだから私達とは感覚が違うと思ったのだけど、暁君も普通の男の子なのね」

 

 

 

 

***

 

真姫side

 

パパの病院で集中して勉強して私は家に帰って来た。今度はいつ暁に会えるのかと思いながら玄関に入ると、よく見る女性物の靴が一足と、どこかで見たことがある男物の靴を見つけた。

 

ただいまーと言って、誰か来てるの?と言うと、リビングからママが出てきて嬉しそうに私へ近づいてくる。

 

 

「ママ?誰が来てるの?この靴は南さんのでしょうけど、この靴は男の人のよね?」

 

 

そう言って真姫はデザインがシンプルだがセンスの良い靴を指差す。真姫は人見知りであるため、初対面の人には緊張するからだ。

 

「うふふ、真姫が大好きな人が来てるのよ」

 

姫香は右手を頬に当て、聖母のような笑みをする。子供を愛する母親の顔だ。

 

「えぇっ!? 暁が来てるの!? 」

 

「あら、私暁君なんて言ってないわよ?やっぱり真姫は暁君が大好きなのね」

 

「あっ! いや、その……うぅ…。べ、別に好きじゃないわ!家族以外で男で知ってるのは暁だっただけよ!!」

 

真姫は顔を湯気が出そうなほど真っ赤にし、必死に否定する。目線が泳いでてまったく否定できていないが。

 

「ふふふ♪」

 

「も、もう!からかわないで///」

 

「いいじゃない。私も暁君ってとても良い子だと思うわよ?暁君だったら息子にしたいわ。パパも嬉しがるわよ」

 

「うぅ……」

 

ママにはいつまでたっても敵わないなと真姫は思う。それで、結局誰が来てるの?

 

 

「ママ、結局誰が来てるのよ?」

 

「うふふ、それはね「おーい真姫ー?お邪魔してるぞー」…来たみたいね」

 

 

聞き覚えのある声がする方を見て見ると、リビングから出てきてこちらへ向かってくる暁がいた。

 

 

 

来宅していた人が暁だったことをわかった途端に安堵する。

 

 

 

私は、男の人なんてパパと暁以外は何とも思わない。

 

パパと暁以外の男の人なんて、ただのそこら辺に転がっている石ころみたいなものだ。

 

私が私らしくいられるのは家族と暁の前だけで、他の人の前では私らしくいることができない。

 

他の人は私の家のことを知って近づいてきたり、避けたり、羨んだりするだけで下心が見えるからだ。

 

中学の同性の同級生も同じようなものだ。…だから私は友達がいない。

 

 

まぁそもそも私は暁以外には興味がないから別にいいけど。

 

だって私には暁がいるもの。 暁さえいれば他はいらないわ。

 

 

暁がどんどん玄関に近づいてくる。

 

 

 

あっ、髪が乱れたりしてないかしら?

 

私は急いで手鏡を取り出してチエックする。

 

…大丈夫そうね。

 

私は暁の前ではいつも可愛い姿でいたい。

 

可愛い姿でいれば暁はきっと私を見てくれるだろうし、他の女の子に惑わされたりしないはずだ。

 

 

暁はトップアイドルだ。だから女の子にはモテるし、女優やモデル、アイドルなどが暁を狙ったり恋をしたりしている。

 

もしかしたら暁の家のことを知るともっと女の子が寄ってくるかもしれない。

 

 

 

………暁は誰にも渡さないわ。私のものだもの。私だけのものだもの。

 

 

 

でも、アピールしてもなかなか私に振り向いてくれない。女の子慣れしてるっていうのもあるからかもしれないけど、暁は鈍感だ。

 

私のことも妹ぐらいにしか思ってないかもしれない。

 

 

でも暁は誰とも付き合ったりはしていない。まだまだ時間はあるはず。

 

 

待ってなさい、私が絶対あなたを骨抜きにしてあげるわ!

 

 

 

 

 

暁が私の目の前まで来て笑顔を浮かべた。

 

この無垢な笑顔を見たら普通の女の子は恋に落ちてしまうだろう。

 

でも、そんなことさせないわ。

 

 

 

「もう!ウチに来るなら連絡ぐらいしてよ!」

 

「いやー、びっくりさせようと思ったんだよ。悪い悪い」

 

「ふふふ、仲良いわね、あなた達」

 

 

 

 

side end

 

 

 

 

 

 

 




今回は、音ノ木坂学院の訪問フラグでした。親の名前は娘の名前にちなんで付けているってわかりますかね?ことりの母の名前はひらがなで鳥っぽいのにしようと思ったら、ひなしか思いつきませんでした。


次回はことりと海未が登場します。


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恋人、王子様、騎士様

そろそろ南ことりの誕生日ですね。


急ペースで書いたため、ご都合主義や変な文脈になってるかもしれません。すみません。


ジリリリリリ…

 

もう朝か…だるいなぁ。

俺はやかましい目覚まし時計を止めるために腕を伸ばす。

 

そしてもう一度眠りの世界へ旅立とうとするが、俺の寝ているベッドの上に明るい茶色の何かが視界に入る。

 

あれ?俺こんな色の毛布使ってたかな?

まぁ…いいや……。

 

 

***

 

 

「暁君起きて!朝だよ!!穂乃果が起こしに来てあげたんだよ!!!」

 

……穂乃果の声?俺、そんな目覚まし時計持ってないぞ。もっと寝かせてくれ。

 

 

「むぅぅぅ…! 起っきろぉぉお!!!!!」

 

「うぉぉぉぉぉ!? えっ!?何で穂乃果が俺の家の中にいる!?」

 

穂乃果の大声で目が覚めると、俺の隣に穂乃果が寝転がって俺を起こしていた。穂乃果は頬を膨らませ、拗ねた顔で唸っている。

 

 

「むぅぅぅ…やっと起きた。何で起きてないの?昨日メールしたのに!」

 

め、メール? そんなものが来てたか?と俺は絶賛寝ぼけ中の脳を動かす。

 

 

ーー明日、穂乃果の大事な幼馴染を紹介するから穂乃果の家に来てね!

 

 

「あ……ごめん、忘れてた」

 

「やっぱりぃ! 穂乃果、朝早く雪穂に起こしてもらってずぅっと待ってんだよ!?なのに全然来ないし連絡もないんだもん。もしかしたら事故に遭ったりしたんじゃないかって心配したよー」

 

「…ごめん」

 

俺が全面的に悪いために謝ることしかできない。

 

しかし、どうしても腑に落ちないことが1つある。それは穂乃果が俺の家にいることだ。確かに俺は住所は教えた。だが、鍵を渡した記憶はない。

 

「ところでどうして穂乃果が俺の家にいるんだ!?」

 

俺の疑問に穂乃果は不敵な笑みを浮かべて口を開ける。

 

「暁君が来ないし心配だから来たんだよ!」

 

「で、でもどうやって部屋に入ったんだ!? マンションの入り口の自動ドアは俺が開けないと入れないし、玄関には鍵が掛かってたはずだぞ!」

 

「入り口は管理人さんに開けてもらったんだぁ。穂乃果がね、暁君の恋人だって言ってツーショットの写真を見せたら快く開けてくれたの!玄関は、近くにあったサボテンの鉢の下に鍵があったからそれで開けたんだよ!」

 

管理人め…!こんな穂乃果の嘘を信じやがって…給料減らしてやろうか……。第一、俺はアイドルだから恋人なんて作れないのに。サボテンの鉢の下に予備の鍵を隠しといたのは仕方がないけどさぁ…はぁ。

 

思わず溜息が漏れる。

 

「恋人ってお前なぁ…嘘でも他のことにしとけよ。誤解解かないといけなくなるし…」

 

俺の言葉のどこかにカチンと頭に来たのか、穂乃果は眉を釣り上げ、声を荒げる。

 

「何でよ!暁君は穂乃果が恋人だって言ったのがそんなに嫌なの!?」

 

穂乃果の豹変ぶりに少し驚くが、これは穂乃果なりのドッキリなのだろうと予想をたてる。

 

俺も昔、当時の人気女優さんにドッキリをされたことがある。その時は酔っ払って乱入してきたというドッキリだったが、今回はきっと穂乃果のお目覚めドッキリで、穂乃果が俺のことを好きだというドッキリだな。

 

俺の頭を完全に起こそうとするとは、なんて良い奴だ。

 

ここは、俺も穂乃果に乗るべきか?

 

 

いや、あえて捻って返そう。

 

 

俺の出した答えは…

 

 

 

 

「嫌に決まってるだろう!ベンベン!」

 

 

この返しは意外なはずだ。これで相手のペースに乗らずに自分のペースに変えることができる。

 

 

「えっ…!じゃ、じゃあ穂乃果のこと嫌いなの!?嫌なの!?勘弁して欲しいほど嫌なの?…ひどい、ひどいよ…」

 

 

「あれ…?」

 

 

マ ズ イ。

 

 

穂乃果が手で顔を覆って泣き出してしまった。手と手の隙間から涙が零れ、重力に従って零れた涙がシーツを濡らす。

 

 

嫌じゃないよとか言ったら、調子に乗るな!とか言われるかと思ってあえて捻ったのだが。

 

もしかして、穂乃果にとって男友達=恋人って思ってるのか!?

 

それで俺の返答で、

 

穂乃果の恋人が嫌=友達として嫌=穂乃果が嫌い

 

と思ったのか?

 

そうすると、これは穂乃果が俺のことを(恋愛的に)好きですー的なドッキリじゃなくて、(友達として)好きですーってやつだったのか!

 

しかも俺の返答で、穂乃果は俺が穂乃果のことを嫌いだとか思ってしまったのか!

 

 

「ご、ごめん穂乃果!穂乃果が嫌いとか嫌だとかそんなんじゃないんだ!」

 

馬鹿だ。俺は馬鹿だ。よく考えないで返答するなんて…。

 

「グスッ…じゃあ穂乃果のこと好き?」

 

「あぁ!(友達として)大好きだよ!」

 

えへへ♪と笑い、笑顔を取り戻した穂乃果。シュンとなったところは尻尾を下ろしたり、笑顔になったときは尻尾をブンブン降ってる小犬みたいで可愛い。

 

「ほんとに穂乃果のこと好き?大好き?」

 

「(友達として)好きだよ、大好きだよ。子犬みたいで可愛いし。」

 

「えへへへへ♪穂乃果も暁君が大好きだよ!…穂乃果、ワンちゃんだったら暁君がご主人様だといいなぁ」

 

わんわん!なんて言って右手を丸めて俺をつついてきた。たまに自分の頬を丸めた右手でこする真似をしている。だがな、穂乃果、それは猫だ。

 

「後な、俺はアイドルだから恋人なんて作るとスキャンダルになっちゃうから恋人だなんて言うなよ?」

 

「うん、ごめんね?」

 

 

恋人=男友達 という誤解を解くのはまた今度でいいや…。いつか自分で気づくだろ。

 

 

***

 

 

穂乃果side

 

 

えへへ♪暁君が穂乃果のことを大好きだって言ってくれた!

 

 

穂乃果が恋人なのは嫌?って聞いて、嫌だって言われたときはすぐにでも死んじゃいたいくらい辛かったけど、暁君はアイドルだから今は恋人を作れないってことを言いたかったんだよね?

 

穂乃果、わかってるよ。今は作れないだけで、アイドルを引退したら恋人を作れるから、そのときに穂乃果を恋人にしてくれるんだよね?

 

だって穂乃果のことを暁君は大好きって言ってくれて、穂乃果も暁君のこと大好きだもん!愛し合う男女が恋人になるのは当然だもん!

 

 

 

あっ!そういえば午後から海未ちゃんとことりちゃんが穂乃果の家に来るから暁君を紹介しようと思ってたんだった!

 

今から暁君が支度するのを待って…一緒に手をつないで穂むらまで帰って…2人が来るのを待って…ってあぁ!部屋の片付けをしてなかった!!

 

部屋が片付いてないと海未ちゃんに怒られちゃうし、暁君に整理整頓ができない女の子って思われたくない。

 

ど、どうしよう…。私が先に帰ってお片づけしないとダメかなぁ。

 

 

そこで穂乃果は暁君の部屋を見回す。本棚はキチンと出版社別に並べられており、部屋の隅には塵ひとつない。

 

 

すっごくすっごぉく残念だけど先に一人で戻ってよ…。

 

 

「暁君、穂乃果はみんなが来る準備をしないといけないから先に帰ってるね。暁君も支度ができたら来てね!」

 

「あぁ。起こしてくれてありがとな」

 

「うん!どういたしまして!」

 

だって将来の彼女として彼氏を起こすのは当然の義務だもん。

 

 

「じゃあね〜!」

 

顔が真っ赤になりそうなのを暁君に見せないために穂乃果は急いで飛び出した。

 

…見られるの恥ずかしいもん。

 

 

***

 

 

ベッドから降りてシャワーを浴び、普段着に着替えて支度をした俺はサングラスを鞄に入れて家を出た。

 

まぁ飯は向かいながらどこかで買って食べればいいだろう。歩いていくつもりだし。

 

 

そういえば、穂乃果の幼馴染を紹介するって言ってたけどどんな子なんだ?穂乃果みたいな天真爛漫が増えたら俺では対処しきれんぞ。

 

 

道を曲がったところで、ほわ〜んと醤油が焼けたような良い香りがした。そこには屋台があり、頭に鉢巻を巻いたおっちゃんがイカの丸焼きを焼いて売っていた。

 

 

朝から何も食べていないためペコペコだ。ここで何か入れとかないともたないかもしれん…。

 

「おっちゃん!イカの丸焼き5個くれ!」

 

「おっ!イケメンの兄ちゃん。ありがとよ!1500円な。」

 

「あざす。1500円ね、と」

 

「ピッタリだな。熱々だから気をつけろよ!」

 

確かに受け取ったイカ焼きが入ったパックは熱々で、口の中に冷まさずに入れると火傷しそうだ。

 

少し冷ましてから食べよう。そう思って曲がり角を3つ曲がって誰も来なそうな裏路地に入る。

 

 

 

***

 

 

 

???side

 

「ことり、このままでは約束通りの時間に間に合いませんから近道しましょう」

 

今日、私とことりは幼馴染である穂乃果に大事な人を紹介するから来て欲しいと言われ、約束の時間の少し早めに行く予定でした。

 

しかし、何故か今日は全部の信号に引っかかったため、約束の時間までには間に合いそうにありません。

 

そこでいつもは通らない裏路地を通って近道を通ることにしました。

 

そこはあまり治安が悪いため、通らない方がいいと言われていました。

 

しかし、そのときはすっかり忘れていて思い出すことはありませんでしたーー2人のガラの悪い男に話しかけられるまで。

 

 

 

「おい、そこの女共。可愛い顔してんじゃねぇか。ちょっと俺らと良いことしようぜ!」

 

「ケヒヒ!兄貴、俺こっちの灰色の髪の姉ちゃんがいいなぁ!」

 

「ひぃっ。う、海未ちゃぁんどうしよぉ」

 

「ケヒヒ!声も可愛いねぇ」

 

「誰かぁ!」

 

「何なのですかあなたたち!私達は急いでいるのです!!警察呼びますよ!?」

 

 

怖がって震えていることりを見て、私が何とかしなくては!と思って勇気を振り絞ってみましたが、男達にとっては逆効果でした。

 

怒らせてしまった私は何をされるのかわからなくて身体が震えてしまいます。

 

 

「うるっせーんだよ!!!いいから黙って俺らについてこい!!!!!」

 

 

 

激昂した男は私達の手を掴もうとし-----逆に掴まれたのはガラの悪い男の腕だった。

 

 

 

「おい、お前ら…俺が見ている前で女の子達を泣かすなんていい度胸してんな…」

 

 

このとき、後の私達が取り合いになるほど好きになった男の人が、私達の前に王子様のように颯爽と現れた。

 

 

side end

 

***

 

 

裏路地に入ったところで何か争っている声が聞こえた。どんどん奥へ向かって行くと、どうもそこらの馬鹿が誰かに絡んでいることがわかった。

 

また馬鹿が湧いて来やがったか…。こういう馬鹿はどこでも湧いて来るんだよな。Gか、台所によく現れる黒い悪魔Gかお前らは。

 

「ひぃっ」

 

女の子の可愛らしい悲鳴が聞こえた。これはマズイなと思い、現場へ駆けつけてみると可愛い女の子が2人、世紀末かとツッコミをされそうなモヒカン男2人が女の子達に絡んでいた。

 

こちらには気づいていない。

 

とりあえず…こいつらをどう料理してやろうか。

 

 

そんなことを考え込んでいたらモヒカン男が激昂し始めてしまった。

 

モヒカン男は凛とした女の子とほわほわっとした女の子の手を掴もうと薄汚れた腕を伸ばす。

 

 

「おい、お前ら…俺が見ている前で女の子達を泣かすなんていい度胸してんな…」

 

俺は女の子達の前に進み出てモヒカン男の腕を掴む。

 

「あぁん!んだテメェは?ぶち殺されてぇのか!?」

 

「俺たちは今からこの子達と遊ぶんだから引っ込んでろ!」

 

「うるせぇ!可愛い女の子には純粋な心で接しろよ!この子達、どう見たって嫌がってるじゃねぇか!」

 

「嫌がってるフリをしてるだけだろ!なぁお前らぁ!」

 

 

モヒカン男に怒鳴り声で話しかけられた女の子達はビクッと震え、俺の後ろに隠れて首を左右に振る。

 

「…嫌がってるじゃん」

 

 

 

俺の言葉と女の子達の拒絶でさらに激昂し、顔を怒りで真っ赤にしたモヒカン男達は殴りかかってきた。

 

 

「あぶねぇ!あぐっ!」

 

女の子達を抱きしめて庇ったため、背中を強打された。痛ぇな…。

 

俺に庇われた女の子達は涙目で俺に話しかけてくる。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「ごめんなさい…ことり達のせいで」

 

「いや、大丈夫だ。それに、こいつらを制圧するのなんて簡単だ。俺にはこれがある」

 

そう言って鞄から取り出したのは串に刺さった熱々のイカの丸焼きだ。正直言って持ってる串の方も熱くて今すぐにでも投げ出したい。

 

 

俺が意外なものを出したために驚いたのか、大口を開けているモヒカン男達の前まで素早く。

 

そして、右脚にチカラを込めて空へ飛び上がり、右手を真っ直ぐモヒカン男達の口の中へ向けて突っ込む!

 

熱々のイカの丸焼きを口の中へ入れられたモヒカン男達は-----

 

「「あふーーーーい!!!!!」」

 

「「あふっ!あふいあふい! ういてくうぇぇぇえ!!!」」

 

 

熱々すぎて口の中を火傷したモヒカン男達は転げ回った。だが、火傷した口の中とイカがくっついて取れず、苦しみ続ける。

 

 

今のうちだ、と思った俺は女の子達の手を掴み、裏路地の出口へ向かって走り出す。

 

 

あれ? なんか俺、かっこ悪くね…?

 

 

***

 

ことりside

 

変な人達に絡まれて、ことり達は困ってた。誰かに助けてもらおうと思っても誰も通らない。ことり達の力では抵抗もできないし、怖くて身体も動かない。

 

もうダメかな…なんて思ったそのとき、ことり達の前にかっこいい男の人が現れた。

 

お姫様を助けに来た騎士様みたいだった。

 

ことり達を庇って守ってくれたときに抱きしめてくれた彼の身体はとっても暖かくてポカポカとして何故か安心した。

 

鞄からイカの丸焼きさんを取り出したときには驚いたけど、ことりには聖剣を取り出した騎士様にしか見えなかった。

 

聖剣を取り出した騎士様は悪者をやっつけ、ことり達の手を引っ張って走り出した。

 

 

彼は騎士様で、ことりはお姫様で、海未ちゃんはお付きのメイドさんみたい!

 

 

 

見つけちゃった! ことりの…騎士様を……!

 

 

side end

 

 

***

 

 

「ふぅ…ここまで来ればもう大丈夫だよな」

 

ここはもう穂むらの近くだ。

 

俺は鍛えているため息切れをしていないが、凛とした女の子も息切れをしていない。

 

灰色の髪色の女の子は息が絶え絶えとしているが、目がキラキラと輝いている。…何故だ。

 

 

「あの…ありがとうございました。あなたのおかげで無事に幼馴染の家に行けます」

 

しずしずと俺の横にやって来てお礼を言う凛とした女の子。だが、近い、近いぞ。女の子特有の甘い香りがする。

 

「私は園田海未といいます。彼氏はいません。海未とぜひお呼びください。私は音ノ木坂の1年で、弓道部で、15歳、彼氏はいません。好きなものは幼馴染の家の饅頭で、嫌いなものは炭酸飲料です。趣味は読書と書道です。彼氏はいません」

 

 

……彼氏はいませんって言葉を3回も聞いた気がする。

 

何も聞かずに自己紹介してくれたこの凛とした美少女は海未という名前だそうだ。

 

海未という名前に恥じない綺麗な群青色の長い髪をしていて、大きな目は俺を上目遣いでじーっと見ている。目鼻立ちはくっきりとしているけれども派手でなく、まさに清楚可憐で、陶器のように白い肌は滑らかだ。

 

「えーと、俺は上座暁だ。とりあえず、近いから少し離れようか」

 

そうして俺は少し横にズレると海未はすすすっとまた距離を詰めてくる。

 

何でや……。

 

はっ…!きっと海未はまだモヒカン男達が怖いのだろう。

 

なら落ち着くまではこのままでいいや。

 

 

そうして溜息を吐こうとすると、後ろから誰かに抱きしめられた。

 

ほにょんとした弾力と女の子の甘い香りがする。

 

 

「はぁはぁはぁ…あん…んん…はぁはぁ」

 

息切れがまだ収まってないのか、可愛らしい声で俺の耳元で喘ぐ。

 

背中に当たる感触と香りと声が俺の脳内を刺激する。

 

「ちょっ…! 」

 

「ことりはぁ…南ことりって名前だよ。ことりって呼んで欲しいなぁ。それでね、ことりは海未ちゃんと同じクラスで幼なじみなのぉ。はぁはぁ…ことりも彼氏なんていないよ?」

 

「わ、わかったからとりあえず離れて!」

 

「も、もうちょっとこのままでいさせて欲しいなぁ…」

 

「う、ちょっとだけだぞ…?」

 

俺の背中に抱きついているのは南ことりという名前だそうだ。灰色の髪と特徴的な可愛らしい髪型と、目鼻立ちはくっきりとしているけれども、派手でなく、大きなタレ目がちの目はほわほわっとした雰囲気がマッチしていて、とても可愛い美少女だ。

 

声もとろけるような甘い声でいて、最高だ。

 

そのため、お願いをされてつい断ることができなかった。

 

 

 

 

ことりの呼吸が整ってきたようだ。だから離れるように言う。

 

「ことり?そろそろ離れてくれると嬉しいなーなんて」

 

「やだぁ!もうちょっとだけぎゅっとさせてぇ?」

 

「あ、あぁ…」

 

 

 

呼吸は整ったようだけど離れないからどうしよう、これ以上されたら萌え死んじゃうよなんて思っていると俺の腕にいつの間にか抱きついている海未が爆弾を投下した。

 

 

 

「ことり、離れてください。暁が嫌そうな顔をしているではないですか!」

 

 

「むっ!暁君が嫌そうな顔をしているのは海未ちゃんがくっついてるからだよ!ことりの方がおっぱい大きくて柔らかいはずだもん!」

 

お、おっぱ!? 考えないようにしていたのに…。それに俺は嫌そうな顔をなんてしていない。鼻の下が伸びそうになるのを必死に防いでいるだけだ。

 

「確かにことりの方が大きいですが、それは重いだけです!私のように適度な方が良いのです!そうですよね暁!?」

 

突然俺に話を振られた。どうしたいいのかわからずオロオロしていると2人は俺にさらに密着してきた。

 

「どうなの!?暁君!」

 

「どうなのですか!?」

 

「えと…その…」

 

ことりの手のひらに収まり切らないような胸もいい、だけど海未の手のひらにちょうど収まるくらいの胸もいい。

 

俺には…選ぶことなんてできない…!

 

 

 

そしてそこで、ことりと海未にとってはバッドタイミング、俺にとってはグッドタイミングで救世主がやってきた。

 

 

「あれ?暁さんに海未さんにことりさん、ウチの近くで何やってるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当は1話でまとめたかったのですが、前後編になってしまいました。次回は後編です。


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罰ゲーム?

お待たせしました


救世主、雪穂が現れた後ことりと海未の胸の話に関する争いは中断となった。

雪穂が話しかけたことで我に返ったようだ。

 

まぁさすがに道端で胸の話をするのと、男である俺に抱きついていたのが恥ずかしかったのか、俺から少し離れて顔を赤くして俯いている。

 

ーー俺の服のすそをきゅっとつまみながら。

 

なんか妹みたいで可愛いなぁ・・。

 

 

その様子を見た雪穂が俺に聞いてきた。

 

「ねぇ暁さん、いつの間にことりさんと海未さんと仲良くなったんですか?」

 

あれ? もしかして雪穂ってこいつらの知り合いなのか?

 

「え? 雪穂、お前この2人を知ってるのか?」

 

「うん。だってお姉ちゃんの幼なじみだもん」

 

穂乃果の幼なじみ・・だと? ということは、今日穂乃果が俺に紹介するって言ってたのはまさか・・・?

 

「今日お姉ちゃんが暁さんにことりさんと海未さんを紹介するって言ってたけど、もう会ってたんですね! 安心しました。お姉ちゃん、暁さんにはどうやって紹介しようか悩んでいましたから・・。それにお姉ちゃん何をしでかすかわかりませんし」

 

やっぱりか。でもまぁ手間も省けたし、穂乃果の怪しい紹介を回避できからラッキー、かな?

 

「あの、そろそろ家に行きませんか?私はおつかいに行った帰りなので、早く帰らないとお母さんに怒られちゃいますから。お姉ちゃんもきっと待ちくたびれてますよ?」

 

ハッとなり、スマホを取り出して時間を見ると、約束してた時間を軽く過ぎていた。

 

これは穂乃果怒ってるだろうなぁ。

 

 

「まずいな。海未、ことり、歩くからそろそろ手を離してくれ」

 

いや、可愛い子に裾をきゅっとつままれるとか超嬉しいんだけど、ずっとつままれたいんだけど、このままだとあらぬ誤解されちゃうから、ね?

 

 

「え〜離したくないよ〜?」

 

「・・・、離さないといけないのですか?」

 

「いけなくないよ! いけなくないんだけど・・・その、世間様の目が、ね?」

 

心の中で葛藤し、理性が勝った俺は苦笑しながら頬をポリポリと掻く。

 

うぅ、心が痛い・・・。

 

 

すると、俺の行動と言葉に疑問を感じたのか顔を上げて周囲に視線を向ける。

 

 

「「え?」」

 

 

2人の体が固まる。

 

 

なぜなら、そこには・・・

 

 

 

 

 

 

「ねぇねえ、あれ見て見なさいよ。若いっていいわねぇ〜」

 

「あら、私だって若い頃は凄かったのよ?」

 

「私も後30年若かったらあの中に入ってたわねぇ。あの男の子、凄いイケメンだし」

 

「あんたじゃ無理よ。見て見なさい、男の子の周りにいる女の子達を。みんな可愛いじゃない。」

 

「・・・私だって若い頃は可愛かったのよ! あの子達に負けないくらい!!」

 

「そうだったかしら・・・?」

 

 

 

 

と、俺らを話題にして井戸端会議を開いている近所のおばさん達がいるからだ。

 

 

 

いつもはバカップルを見るとからかいたくなったりするが、いざ自分にやられるとめちゃくちゃ恥ずかしいぞこれ。

 

 

「さ、さぁ早く行こうか! 」

 

恥ずかしさから、俺から手を離したことりと海未も顔を赤くして同意する。

 

「う、うん!」

 

「行きましょう!」

 

 

そして俺たちは雪穂を先頭にして逃げるように穂むらへ向かった。

 

 

 

 

***

 

 

「おーそーいーよー!!!」

 

穂むらの店頭で待ってた穂乃果は俺たちが来るのを見つけると、一目散に走ってきた。

 

牛かお前は。

 

「あれ? どうしてみんな揃ってるの?」

 

「いやまぁ、色々あって出会ったんだよ。それより早く部屋に行こうぜ。少し疲れたから休憩したいんだ」

 

「暁さん、大丈夫ですか?」

 

「あぁ、精神的に疲れただけだから大丈夫だ」

 

「 ん?よくわからないけど、早く部屋に行こ! ちゃんとお掃除しといたから!」

 

俺の正面に来てグイグイと腕を引っ張る穂乃果。そしてその後に海未とことりは穂乃果の強引さに呆れながらついてくる。

 

 

「じゃあ私は店番をしなければいけないので・・」

 

 

そう言って雪穂は店側へ行ってしまった。

 

雪穂・・中学生なのに偉いなぁ・・・。

 

 

***

 

 

「じゃあ改めて紹介するね! 南ことりちゃんと、園田海未ちゃんだよ! 2人は小さい頃から一緒で、仲良しなんだ〜。 それでね、こっちが神座暁君! アイドルをやってて、私のゴニョゴニョ・・・なんだよ!」

 

穂乃果が俺らの紹介を始めた。ゴニョゴニョのところが声が小さくて何を言っていたのかわからなかったが、まぁしっかりと紹介してくれた。

 

やればできるじゃないか穂乃果。俺は満足だ。

 

 

「え〜! 暁君アイドルだったの〜!?」

 

「はぁ・・・聞いたことがある名前だと思いましたら、やっぱり名の通った方だったんですね」

 

ことりは驚き、海未は納得したようにうなづいた。

 

うん、驚かれるのはもう慣れたよ・・・。

 

「アイドルだからといって態度を変えたりしないで接してくれると嬉しいよ。 改めてよろしくね」

 

「うん! 」

 

「えぇ」

 

良い子だなぁ・・・この子達。 穂乃果よ、よくぞ俺に紹介してくれた。 素直で優しい子の友達なんて久しぶりにできるよ・・・。

 

あんじゅ達3人なんて癖が強い奴らだし、撮影が一緒になるアイドルとかなんて俺を見ると何故か顔を赤くして逃げていったり、抱きついてきたり、どこかへ連れて行こうとするし・・・。

 

俺・・いじめられてるのかなぁ。

 

 

「暁、そんな悲しい顔をしてどうしたのですか?」

 

海未・・その優しさが何故か心に染みるよ・・・。

 

「悩み事があるのなら私ならいつでも聞いてあげますよ? わ、私の胸だっていつでも貸してあげます!」

 

・・・・へ?

 

む、胸をいつでも貸してくれるだとぉ!? ま、マジでぇ!!??

 

 

「ぜひとも貸してくだ「だ〜め!」ことり・・」

 

「ことりの方が〜 ふかふかしてるから、ことりの胸を貸してあげる♪ こっちの方が絶対いいよぉ♪」

 

 

そう言って両腕で胸をたくし上げる。

 

 

「で、でかい!! じゃなくて! 年頃の女の子がそんなことをしてはいけません! 」

 

 

俺に便乗して穂乃果も言う。

 

 

「そ、そうだよ! 胸を貸すのは穂乃果なんだから、ことりちゃんの胸は胸が穂乃果達より小さくて落ち込んでる海未ちゃんに貸しなよ!! 」

 

え? 海未が胸のことで落ち込んでる? 疑問に思って海未がいる方を見る。

 

 

「どうせ私の胸なんて・・・。胸なんてただの脂肪の塊ですし・・・弓道の邪魔ですし・・・体重が重くなるだけなのに・・・・。 これが格差社会でしょうか・・・ふふふふ」

 

 

「うぉーー! 海未ぃ! 胸なんて大小関係ないんだぞ!! それにお前はまだ成長期だ!だからこれから大きくなるし、気にするなぁ!」

 

 

なんとか励まそうとするが、これで効果があるのだろうか。

 

 

「・・・そ、そうですよね。これから、ですよね。・・・・よし、さぁ暁! 私の胸に飛び込んでください!」

 

 

「また降り出しかよぉぉぉぉぉ!」

 

「暁君! ことりの胸に来てよぉ〜!

 

「穂乃果の胸だってばぁ!! もぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

「お姉ちゃん達うるさーーい!!!」

 

 

最後に穂乃果が大声を上げたところで雪穂から苦情が来た。その声でバツが悪くなった俺たちは雪穂に謝り、大人しくすることに決めた。

 

俺は我を忘れていったい何をしてたんだ・・。

 

 

 

***

 

 

「な、なぁ・・トランプでもやらないか? トランプなら静かに遊べるだろ」

 

「トランプかぁ・・ちょっと待ってて! たしかここに・・・あったあった。何やる?」

 

「あの、私はババ抜きしか知らないのですが・・」

 

「ことりもババ抜きがしたいなぁ。罰ゲームありで!」

 

「いいね! じゃあじゃあ、勝った人が負けた人に一つ言うことを聞いてもらうとかでどうかな!?」

 

「えぇ! それじゃ王様ゲームじゃないですか! 」

 

王様ゲームか・・まぁ勝てば大丈夫だろ。俺は運がいいし。

 

「んじゃ、やろうか」

 

シュッシュッシュっと穂乃果がトランプをリズム良く切った後、全員に手札は配られた。

 

俺の手札は・・お、3枚揃ってる。

 

 

「じゃあ穂乃果からで」

 

俺、穂乃果、海未、ことりの順で丸く円を作って座っている。

 

「う〜ん、これ! あ! 揃った!」

 

さっそく海未からトランプを引いて揃ったようだ。

やるな・・お主。

 

「では私はこの1枚だけ飛び出たやつにしましょう・・・!? 」

 

ことりからトランプを引いた海未は、いかにもガビーンと音が鳴りそうな表情をした。

あ・・絶対にババ引いたな。というか、顔に出過ぎだろ。

 

 

「じゃあ〜、ことりはこれにしよ〜!」

 

俺の手札からカードを引いたことりはトランプが揃ったらしく、山札に揃ったトランプを置いた。

 

「俺の番か。じゃあ適当にこれでいいや」

 

・・揃わないか。いつもはすぐに揃うのに、今日はついてないな。

 

と、まぁこれで1周したわけだけど、ことりがもともと手札が少なくて有利だな。次に穂乃果で、俺と海未は同列ぐらいか。

 

いや、勝負はまだこれからだ!

 

 

***

 

 

「わ〜い! ことりが勝っちゃった〜!」

 

 

結局ことりが1位になった。

 

おかしい・・計画だったら俺が勝って敗者に、お兄ちゃん、と呼ばせるはずだったのに・・・!

 

残りの手札は俺が1枚、穂乃果が2枚、海未が2枚で、次は俺が穂乃果から引く番だ。

 

 

「どっちがいいんだ・・。神よ、俺にご加護を!」

 

神に祈りを捧げた後、穂乃果の手札からトランプを1枚引く。

 

ど、どうだ・・?

 

・・・・・・合わないか。

 

「はぁ・・・」

 

「ふふ♪ 残念だったね暁君。 大丈夫だよ〜暁君が負けても、ことりは優しい女王様だから優しい命令にしてあげる!」

 

「優しい命令ってどんなんだよ。というかまだ負けてない!」

 

負けたくない。何かことりから嫌な気配がするし。俺が負けたら何を命令されるかわからない。

 

 

「あっ!穂乃果揃っちゃった〜 イェーイ!」

 

 

なぬぅ!? 穂乃果、お前もか!この裏切り者!

ま、まぁいい・・・ビリにならなければいいんだからな。

 

 

後は俺と海未の一騎討ちだ。

 

 

「うぅ、どうして皆さんすぐに上がってしまうのでしょうか」

 

いや・・それは海未が罠に引っかかりまくったり表情に出過ぎたりするからだろ。

 

「まぁとにかく次は海未の番だ。どうぞ」

 

俺が持ってるのはハートのAが一枚とクローバーのキングが一枚の計2枚だ。

 

海未がそろーりと手を伸ばし、カードを掴んで俺を見つめる。

 

うるうると涙ぐんでいて半べそ気味だ。なんだか俺がいじめてるみたいで心が痛い。

 

 

ハートのAを自分の手札に入れた海未はトランプをシャッフルして俺の前に差し出す。

 

 

「ど、どうぞ・・」

 

 

「・・・・・・」

 

 

これはどっちにするべきか。どう見たって力んでる右手の方が怪しいんだが・・・・。

 

スッと手を右手のトランプの上に伸ばす。すると、海未はこの世の終わりのような顔をした。

 

こ、これは・・・・・・!!

 

次に左手のトランプの上へ手を移動させる。今度は救いの神様が降臨したかのようにぱぁっと明るい笑顔になった。

 

 

 

・・・・・・・・・・分かり易すぎだろ!!!!!

 

 

もう一度右手の上に手を伸ばす。すると、またこの世の終わりのような顔をした。

 

あれだ、ムンクの叫びの顔だなこれは。

 

どうしようかと迷っていると、海未が俺だけに聞こえるように小さな声で喋った。

 

 

「お、お願いです・・・それだけは選ばないでください・・・お願いです・・・」

 

 

「・・・・・わかった。じゃあ俺は左にするよ」

 

 

仕方ない、今日は俺が犠牲になるか。海未があまりにも可哀想すぎて悲しくなってきた。

 

楽な罰ゲームだといいなぁ・・・。

 

 

そして海未からババを引き、俺の手札に入れる。とりあえず、海未を上がらせてあげるためにハートのAを高くしとくか・・・はぁ・・。

 

 

 

***

 

 

 

「やったぁ、上がりましたよ! 初めてトランプで勝ちました!!」

 

「え〜!海未ちゃんすごい!」

 

「ということは〜暁君が罰ゲームで決定ー!」

 

「こんなはずじゃなかったんだよちくしょおぉぉぉぉぉお!!!」

 

「じゃあ〜女王様の命令〜!」

 

「ことり、楽なやつにしてくれよ?」

 

「大丈夫大丈夫〜! ことりの命令は、今度暁君のお洋服を作らせて欲しいことだから!」

 

 

え? 服を作る? そんなんでいいのか?

 

 

「え、それじゃあ俺の方が得しちゃってるんじゃないのか?」

 

「ん〜ん♪ ことりはお洋服を作るのが好きだから経験にもなるし、男の人のお洋服も作ってみたかったから♪」

 

 

ほわぁぁ。ことりって裁縫もやるとかどんだけ女子力高いんだよ。もしかして天使なのかな。

 

 

 

「暁君!ことりちゃんの作る洋服ってすっごくレベルが高いんだよ! ねぇー穂乃果も作って欲しいな〜」

 

「それはいいですね。私もスカートが長めのお洋服を作って欲しいです」

 

「うんうん♪ 順番に作ってくから待っててね」

 

 

「ありがとな、ことり」

 

「うん!」

 

 

***

 

 

 

ピリリリリ!ピリリリリ!

 

 

「あ、悪い。電話だ」

 

もう一度ババ抜きをやろうとすると、俺のスマホに着信が入った。一度みんなに断ってからその場で出る。

 

 

 

 

 

「もしもし、上座暁です」

 

「あ、暁さん。突然すみません、私先日の音楽番組のディレクターなのですが、実は撮り忘れたところがあって再撮影することになったんですよ。大変申し訳ありませんが、今からスタジオに来ていただけませんか?」

 

「そうですか。皆さんに迷惑をかけるわけにはいきませんし、今から向かいますね」

 

「すみませんがよろしくお願いします・・失礼します」

 

 

 

 

電話を切り、皆にもう帰らなければいけないことを伝える。

 

 

「えぇ〜もう帰っちゃうの!?」

 

「そうですか・・まぁそれは仕方ないですね」

 

「うん・・・お洋服が完成したら連絡するね」

 

「皆ごめんな」

 

 

穂乃果は不満そうな顔をし、頬を膨らませる。海未は残念そうな顔をするが、納得したようにうなづいた。ことりはさみしそうな顔をした。

 

 

俺ももっと皆と遊んでたかったけど、仕事だからしょうがない。

 

 

 

「じゃあまた今度、元気でな!」

 

「またね〜! 」

 

「ではまた会える日まで」

 

「ばいば〜い」

 

 

 

 

少し名残惜しいけど時間もあまりないため足早に出る。出口へ向かう前に穂むらまんじゅうを差し入れに買うことを忘れずに。

 

 

「あ! 暁さん、おまんじゅうを少しサービスしときましたので暁さんの分は2個ありますよ!」

 

「お、雪穂ありがとう!」

 

 

やっぱり出来た妹だな雪穂・・・。

 

 

 

 

 

 

そして俺は穂むら屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆さんこんにちは。1週間ぶりですね。 次回は、やっと音ノ木坂学院の学校見学の予定です。 そこで、原作1年前の春の季節は終了します。ですから、学校見学が終わると夏に入ります。夏では皆さんがお待ちかね?のA-RISEが登場する予定でいます。



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音ノ木坂学院学校見学①

最近は忙しくてあまり投稿できませんでした。ですが、今週からは少し時間があるので頑張っていきます。


「さて・・・とりあえず着いたけど・・どうするかな」

 

 

現在の時刻は午後4時。俺は今まで音ノ木坂学院の校門前に来ている。

 

ひなさんにどうして生徒が減少しているのか、音ノ木坂の魅力はどこか、などを調べて欲しいと言われて来てみたけど、どうやって入ればいいんだ?

 

放課後の時間のため、帰宅する生徒が校門から出てくる。そこで、俺が校門前で私服で立っているーーーつまり、俺は放課後に女子校の前で待ち伏せをしている不審者に見えるかもしれない。

 

これで通報されたら芸能人生終わるなぁ・・・。

 

なんかあそこで俺の方をチラチラ見ながらコソコソと話している女の子達がいるけど何なんだ?

 

 

 

「ねぇねぇ、あそこにいる人カッコよくない!? しかもそこらのアイドルよりもイケメンだし!」

 

「身長も高いし、着ている服ってこの間発表されたばかりの限定1000着しかないっていう新作だわ!」

 

「えぇ!? どうする? 話しかけてみる!? 」

 

「やめときなさいよ・・・。私達なんて鼻であしらわれるだけよ」

 

「ぶぅぅぅ・・・。せっかくの出会いなのになぁ」

 

 

 

何を話してるのか全く聞こえないけど、大丈夫・・だよね? 通報されたりしないよね?

 

 

・・・・ひなさんに電話しておくか。

 

 

 

***

 

 

 

場所は変わって理事長室。校門まで迎えに来てもらった俺は、ひなさんに連れられて理事長室へ向かった。

 

やはり男の俺が女子校に入っているせいか、皆俺を見て驚いていた。

 

そして今、俺たちは理事長室に置いてある来客用のソファに対面して座っている。

 

 

「それでね、暁君ぬは生徒会の2人と見学してもらいたいのよ。1人で周ると誤解を受けてしまうかもしれないから」

 

ひなさんは申し訳なさそうに眉尻を下げて言った。俺は苦笑いをして答える。

 

「いえ、かまいませんよ。逆に1人で周ると迷子になってしまいますから」

 

「ふふっ。それなら良かったわ。さっき連絡しておいたからもう少しすれば来るはずよ。だからくつろいで待っていましょ」

 

そう言ってひなさんはスーツの胸元を緩め、ソファに深く座り直した。

 

ひなさんが緩めた胸元には、手のひらには収まりきらない程度の大きさの自己主張する2つの山の間、陶器のように滑らかな白い谷間が少し見えた。

 

こ、これじゃあくつろげねぇよ・・・ひなさんマジ最高。

 

「そういえばこの間ことりがお世話になったそうね。ありがとう」

 

ひなさんは優しい笑みで微笑んだ。これは母親だけができる笑顔だ。

 

「いえ、俺はたまたまそこにいただけですよ」

 

「ふふ、ことりがとても嬉しそうに言ってたわよ。周囲には誰もいなくて絶望したけど、暁君が王子様みたいにことりを助けてくれたの!って。それからね、最近ことりがよく暁君の話題をするのよ。今日の暁君はね〜って。あの子が男の子のことを話すのなんて初めてよ」

 

ことりがそんなことを・・・嬉しいな。

 

「・・・そうですか、俺もことりと遊んだり話したりするの楽しいよって伝えといてください」

 

俺の言葉を疑問に思ったのか、ひなさんは不思議そうな顔をする。

 

「どうしてかしら? 自分で言えばいいじゃない」

 

「実はしばらくの間、仕事で忙しいんですよ。それに・・・自分で言うのは恥ずかしい・・」

 

俺は熱くなった顔を俯かせる。そして、テーブルに置かれた冷茶を一気に飲み干し、冷たい冷茶は俺の熱くなった体を内側から冷やした。

 

「うふふ。わかったわ、私に任せときなさい!」

 

そう言って立ち上がったひなさんは自分の胸をドンと右手を握って叩いた。

 

 

 

 

***

 

 

 

コンコン

 

 

それから少しして、ドアがノックされた。

 

 

「来たようね。どうぞ〜」

 

そう言ってひなさんは緩めた胸元を直し、冷茶を口に含む。くつろぎモードから仕事モードへ切り替えたようだ。

 

 

ガチャ

 

 

「「失礼します」」

 

2人の女子生徒が入ってきた。男である俺が女子校内にいることに驚いたが、すぐに気をとり直して俺に会釈をする。

 

1人は金髪のポニーテールをした女の子だ。女性の平均身長よりも背が高く、スラッとしているが出るとこは出ていて日本人離れした体つきをしている。陶器のように白い滑らかで白い肌に、金髪や青い瞳や端整な顔立ちから外国の方かと思ってしまった。だが、日本人の面影もあることからハーフかクォーターだろう。芸能界にいてもおかしくないような美少女だ。

 

 

「理事長。私たちに何か御用でしょうか?」

 

金髪のポニーテールの子は一歩前に進み出る。キリッとした態度から、おそらくこの子は真面目な性格なのだろう。

 

「絢瀬さん、東條さん、少し話が長くなるかもしれないから彼の隣りに座ってちょうだい」

 

ひなさんは俺の隣りを指差して相席を促す。絢瀬さんと呼ばれていた金髪のポニーテールの子は疑問を感じながらも「失礼するわ」と言って俺の左隣りに座った。

 

座るときにサラサラとした絹のような髪から香る女の子特有の甘い香りがした。思わず俺はどきりとしてしまう。

 

 

俺の右隣りに座ったのは東條さんと呼ばれていた女の子だ。整った顔立ちに、たれ目がちの優しい目から優しさや母性を感じられる。だが、身をつつみこむ制服を内側から押し上げる大きな胸が一番の特徴的だ。グラビアアイドルのように大きな胸に、安産型のお尻が女性らしさを感じさせてくれる。そして、綺麗な紫色の髪を後ろで2つ縛りにした髪型は女性らしさを少し抑え、女の子らしさを醸し出している。

 

「失礼するんよ」と言って俺の隣りに座ったところから、東條さんは関西人なのだろうか。

 

でも何だか違和感を感じる。実際にバラエテイの出演で関西人の芸人と話したことがあるけれど、イントネーションが若干違う。・・・まぁいいや。

 

 

2人が座ったところでひなさんは口を開いた。

 

 

 

「2人を呼んだのはね、彼に学院内を案内してもらいたいのよ」

 

その言葉に2人は驚く。そして、絢瀬さんが口を開いた。

 

「り、理事長! 彼は男子ですよ!? 女子校を案内してどうするんですか?」

 

「絢瀬さん、今我が校は生徒数が減少して困っているでしょう?」

 

「え、えぇ。ですが今生徒会で対策を考えていて・・!」

 

「でも、生徒だけでできることは限界があるじゃない。だから私も対策をしようと思って友達である彼を呼んだの。この学院を何も知らない彼には学院内を周ってもらって良いところや悪いところを見てもらおうと思ってるのよ」

 

ひなさんの言葉に納得したのか、絢瀬さんは横目でチラリと俺を見て黙る。

 

「他に質問は?」

 

「ウチは特にないです」

 

「私ももう大丈夫です」

 

「俺も大丈夫です」

 

全員が答え、ひなさんは満足そうな顔をした。

 

「それじゃあ2人に案内してもらって、わからないことがあったら2人に聞いてね。さぁ行ってらっしゃい!」

 

「ちょ!? ひなさん! 押さないでくださいよ!」

 

「理事長!・・ もう!」

 

「え!? ウチも!? 自分で出ますから! きゃっ!」

 

 

「ほらほら早く行きなさーい! 時間も私も待たないわよー!」

 

ひなさんに背中をグイグイ押されて俺、絢瀬さん、東條さんの順で部屋の外へ追い出された。

 

東條さんなんか勢いよく押されて転んでしまいそうだ。今なんかもう迫り来る床に覚悟したかのようにギュッと目を瞑って衝撃に耐えるかのようにーーーって冷静に見てる場合じゃない!?

 

「きゃあっ!?」

 

「危ない!」

 

俺は東條さんの前に出て、転びかけている東條さんを助けようとした。

 

すると、ドテン!という転んだ音でなく、ムギュッと音がしそうな何かに俺の顔は挟まれた。

 

ゴムボールのように柔らかくて弾力があるが、メロンのように大きくて中身が詰まっているこれは何だ?

 

甘くて良い香りがする・・・。

 

もしかして天国? 巨乳の女の子が転ぶのを助けようとして逝っちゃったのか?

 

・・・ん? ゴムボール、メロン、巨乳?

 

 

・・・。・・・・・・。・・・・・・・・・・!?!?!?!?!?!?

 

 

「くぁwせdrftgyふじこlp〜〜!」

 

意味のわからない言葉を発した俺は、急いで離れて東條さんの表情を伺う。

 

 

「ウチ・・・もうお嫁に行けへん・・・」

 

形容しがたいほど真っ赤でいらっしゃる!?

 

どうしよう!? 謝った方が良いかなぁ!? それともお礼を言うべきか!? もしかして、俺が責任を取って結婚しなくてはいけない!?

 

 

 

「希、そんなことを言ってはダメよ。彼はあなたが転びそうになったところを身を呈して守ってくれたんだから」

 

困ったところに絢瀬さんが助け舟を出してくれた。

 

「うぅ・・・それは分かってるんやけど恥ずかしいんよ・・・」

 

耳まで真っ赤に染めて、両手で頬を挟んで下を見ているり脇を締めて頬を挟んで腰を左右にふりふりと振っているため、俺がさっき挟まれていたものがもぎゅっとされている。

 

ゴクリと喉が鳴る。あの大きさは・・・あんじゅに匹敵するぞ!!

 

 

 

「ま、まぁ・・・とりあえず自己紹介しましょ。私は絢瀬絵里。音ノ木坂の2年で生徒会副会長よ。おばあちゃんがロシア人で、クォーターなの」

 

話が進みそうにないと思ったのか、絢瀬さんが自己紹介を始めた。

 

俺もおっ◯いのことを考えるのをやめ、思考を再稼働させる。

 

「ウ、ウチは東條希。えりちとは同級生で友達で、生徒会の書記なんよ。さっきはその・・助けてくれてありがとね。あんな態度取っちゃったけど、感謝してるんよ?」

 

頬が少し赤い程度になった東條さんは濡れた瞳で上目遣いで俺にお礼を言った。

 

「いや、いいんだ。東條さんは女の子なんだから仕方ないよ。俺は神座暁だ。大学生だけど、年齢は15歳だ。絢瀬さん、東條さん、今日はよろしく」

 

アイドルってことは聞かれたりするまで黙っておこうと思い、俺は絢瀬さんに握手を求める。

 

「ええわ、よろしく。絵里でいいわ。あなた、悪い人じゃなさそうだし」

 

「よろしく、絵里。俺のことも暁でいいぞ」

 

次に東條さんに握手を求める。

 

「よろしくな、東條さん。暁でいいぞ」

 

「うん、よろしゅうな。ウチのことも希でええで」

 

 

 

そうしてなんとなく打ち解けあった俺たちは学校見学を始めた。

 




やはり分けて投稿することにしました。次回は学校見学で、いろいろなところをまわってもらおうと思います。

ご感想お待ちしています。


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音ノ木坂学院学校見学②

学校見学スタートです


「ここは1年生のクラスよ。いつもはみんな部活へ行くか帰宅するのだけれど・・・今日は一人残っているみたいね」

 

グラウンドから聞こえてくる運動部の掛け声が校舎内にいる俺たちに青春と放課後を感じさせる。

だが、教室内にいる少女だけはまだ放課後が訪れていないようだ。

 

英語の教科書、可愛らしいオレンジ色の筆箱、そして真っ白なノートが机の上に置かれ、その上に少女は頬をくっつけて寝ている。

ノートは少女のよだれで世界地図ができてしまっていてベタベタだ。

 

うわ・・・汚ねぇ。

 

 

「・・寝ているみたいやね。起こしたほうがええんかなぁ」

 

希の声に少し反応したのか、少女は体をモゾモゾと少し動かして寝言を言う。

 

「ふみゅぅ〜今度こそ穂乃果が勝つんだよ〜」

 

 

「あの子はたしか・・高坂さんね。寝言も言っちゃって。ふふふ、可愛いわね」

 

「そうだな・・。こんなに気持ち良さそうに寝てるんだし、起こさずにそっとしといてやろうぜ」

 

起こすと色々めんどくさいことになるかもしれないしな、と心の中で呟く。

まぁ可愛いのは同意するけどな。

 

「そうやね。じゃあ音を立てないように移動しよか」

 

コソコソと音を立てないように俺たちは教室から出て、次の目的地へ向かった。

 

穂乃果、風邪引くなよ〜、いや、馬鹿は風邪を引かないか・・・。

 

 

 

***

 

「ここは講堂よ。ここで集会などをやるの。この辺ではウチとUTXにしかないから自慢の1つよ」

 

教室を出た後、購買、屋上、中庭に向かった後、俺たちは次に講堂へ来た。

 

この講堂は生徒が減少した現在、全校生徒が入るらしく、スポットライトも完備していて音響システムも良いだとか。

 

「まぁ古いんやけどね」

 

あはは、と希は苦笑いをする。

 

たしかに少し古いけど、綺麗に使われているようで特段汚くはない。

 

「でもこれは誇れるものの1つじゃないか? ここで劇とか演奏会とかライブとかできそうだぜ?」

 

「そうなのよ。この間オペラ歌手に来校していただいたんだけど、凄かったのよ? ・・・良かったらステージの上で何か歌ってみたら?」

 

「え? 勝手に使ってもいいのか? 」

 

誰も使っていないとはいえ部外者の俺が・・・。

 

「いいんよ。生徒会が許可したらOKやし」

 

なら大丈夫か。

 

「んじゃ、ちょっくら失礼して・・・」

 

俺はステージの上に登る。

すると、絵里と希は観客席の最前列に座った。

パチパチパチと拍手をして、絵里と希は意地悪そうな顔をしている。

 

・・・こいつら、絶対俺をからかう気だな。

ならば見せてやろう。俺の実力を!

 

俺は大きく息を吸い、新鮮な空気で肺を満たす。

音ノ木坂に来てからずっと思っていたけど、この学院はとても良い匂いがする。

ずっと嗅いでいたくなるような、甘い香りのような感じの。

 

ーーよし、歌うか。スゥーっと息を吐き出し、先週の音楽番組でリリースしたばかりの曲名を告げる。

 

 

「それじゃ、聞いてください。『ススメ→トゥモロウ』」

 

 

***

 

絵里side

 

 

開いた口が塞がらないとは今の状況だろうか。

 

希と私で暁をからかってやろうと思って3人しかいない講堂で歌わせてみた。

普通の人だったら緊張して歌えないのに、堂々とステージの中央に登って歌い出した。

 

だが、ただ歌っただけならこんなに驚くことはない。

 

なんというか、暁の歌は言葉にするのが難しいほど素晴らしかった。

 

ただ、話題が口に出せた一言は、

 

 

「ハラショー・・・」

 

 

の一言だった。

 

 

自称ではあるが、しっかり者の私でさえこの反応しかできないのだ。

なら希はどうなのかしら。

 

そう思って横目で希を見る。

 

すると、希も同じ反応だった。

 

彼の卓越した容姿、技術に呑み込まれたのか、目を見開いて口をパクパクと動かすだけで、何も言葉を発せていない。

 

こんな希も珍しいわね・・・。

 

 

side out

 

 

***

 

暁side

 

 

「ふぅ・・・」

 

上々の出来だった。俺はステージを後にして、絵里と希の元へ向かう。

絵里と希は俺が近くにくると、珍獣を見たかのように固まっていた。

 

いや、珍獣って俺は人間なんだけど・・・。

 

 

「あなた・・何者なの?」

 

やっと動き出した絵里が訝しげに聞いてきた。

 

「人間だけど」

 

「そんなのは見りゃ分かるわよ! そうではなくて、どうしてそんなに歌が上手くて容姿が整って、人を圧倒できるような魅力を持っているのかっていうことよ! 」

 

いやぁ、そんなに褒められると照れるなぁ。

 

「いや、容姿が整ってて人を圧倒できるような魅力を持っているのは絵里のことだろ。美人だし、スタイル抜群だし」

 

 

俺の言葉を聞いた絵里は顔をカァッと赤く染め上げてアタフタと慌てる。

 

さすがに本人に向かってスタイル抜群って言ったのはまずかったのか?

 

でも、「俺の好みなスタイルで最高っす!」なんて言ったら張り手か通報されてしまうだろうし。

 

 

「にゃにゃにゃ!? にゃにを言っているのよ! 私なんてそんな・・・」

 

噛み噛みに驚いた絵里は赤くなった頬を両手で挟み

体をクネクネと揺らして俺をチラチラ見上げた。

 

なんだよ・・・? 俺の顔に何か付いてるのか?

 

なんて思っているうちに、いつの間にか希が隣りにやってきて絵里に話しかけた。

 

「えりち〜いつもとキャラが違うで〜」

 

希の言葉を聞いて更に顔が赤くなった。

 

「.う、うるさい! 次行くわよ! 次!」

 

 

希が茶化したせいで怒ってしまった絵里はさっさと出口の方へ向かってしまった。

 

 

「ちょっ! 待てよ絵里! 」

 

「ちょっと待って〜!」

 

 

絵里を追いかけるために走り出した俺と希も講堂を後にする。

 

ちなみに、走ると縦に揺れる希の胸をガン見していたら階段につまずいて転んだことは一生誰にも告げる予定はない。

 

 

 

 

***

 

 

「ここは文科系の部室があるの。運動系は外にある部室棟よ」

 

「へえ、文科系も色々あるんだな・・・ん?」

 

 

物珍しくてキョロキョロと見回していたら何か変わった部活があった。

しかも何か音楽が聞こえてくる。

 

 

・・・・・・俺がリリースした曲じゃねぇか。

 

 

「あれ? 何かこの曲の声って暁君と似てる気がするんやけど・・・」

 

「確かに似てるわね。あそこの部室かしら」

 

 

そう言って絵里が指差しな場所には、『アイドル研究部』というプレートがかかっていた。

 

まずい・・・アイドルってことがバレるかもしれない。いやまぁ別に隠してはないけど。

 

というか、音ノ木坂学院のアイドル好きの女子高生なんてすげぇ当てはまる奴が1人いるんだけど。

 

 

「アイドル研究部はたしか・・・にこっちだけの部活やな」

 

「にこっち? 誰よそれ。とりあえずは注意しに行きましょ。廊下まで聞こえるなんて音が大きすぎるわ。良い曲ではあるけれど、生徒会として認められないわ」

 

そう言って顔をムッとしかめた絵里は俺と希を連れてアイドル研究部へ入ろうとする。

 

「待て待て待て! 廊下には俺たちしかいないんだし、放っとこうぜ! なっ! にこっちという子も一人で寂しいんだよきっと。寛大な心で見てやろうよ!」

 

まさにドアを開けようとした絵里の手を掴み、必死に止める。

 

開けさせねぇぞ・・・開けてしまったら最後、宇宙NO.1アイドルが出てきて平穏な学校見学ができなくなるかもしれん。

 

なぜなら最近のにこは独占欲が強くて、よく俺にメールとな電話で「今何をしてるの?」とか「女の子と一緒にいたりする?」とか聞いてくるし、仕事ですぐに返信できないときは何通もメールが来たり着信が来たりするし・・・。

 

ちなみに、俺がメールや電話を控えてくれと言ったら泣きそうな顔をしたけど渋々了承してくれた。

 

まぁきっとにこは友達が少ないから俺が友達をやめないかどうか不安なだけだろう。俺はずっとにこの友達でいると決めているのに。可愛い奴め。

 

 

「そ、そう? 暁がそこまで言うのなら今日は見逃しておこうかしら」

 

絵里は戸惑い顏でドアノブから手を離した。

よしよし! 後はここから離れるだけだ。

 

 

「それじゃあ次に行こう! 次!」

 

今度は俺が絵里と希の手を取ってグイグイと引っ張る。

 

こいつらの手・・スベスベで柔らかいな。俺のゴツゴツとした手とは大違いだ。

 

 

「あぁをや、そんなに引っ張らんといて〜!」

 

「ちょっ、手を繋ぐなんて恥ずかしいじゃない!」

 

 

希は少し慌てて追従し、絵里は頬を軽く赤らめて恥ずかしそうについてきた。

 

 

 




次回にて、音ノ木坂学院学校見学と、春のシーズンは終了なり、夏のシーズンになる予定です。

ご感想、ご評価お待ちしています。


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音ノ木坂学院学校案内③

なかなかの難産でした。


「こ、これがアルパカか・・・! くっそ可愛いじゃねぇか!」

 

本日の大イベントであるメルヘンな生き物、アルパカと触れ合いをするために俺はアルパカ小屋に来ていた。

 

アイドル研究部から離れるためとアルパカへの会いたさから、体の奥に溢れ出る力で無我夢中で走ってきたため、絵里と希の手がいつの間にか離れてしまっていて2人をどこかへ置いてきてしまった。

 

というか何だこの生き物は。初めてアルパカを見たけど超可愛い!!

 

「うん! すっごく可愛いよね〜!」

 

「このモフモフとした毛につぶらな瞳! あぁっもうモォフモォフしたい!」

 

「ふわふわで気持ちいいよぉ〜」

 

「うわ! 本当だ。お持ち帰りしたいなぁ」

 

「それはダメだけど〜ことりならお持ち帰りしてもいいよ〜〜!!」

 

「えっ! ことりならお持ち帰りしていいって・・・ことりぃぃぃぃぃいいいい!?」

 

白いアルパカを抱きしめている俺の隣に、満面の笑顔でバンザイをして俺を見ている南ことりがいた。

おい、なんだよその、だっこして! みたいなバンザイは。

 

「・・・いつからいたんだ?」

 

「暁君が来る前からいたよ? お母さんから暁君が今日音ノ木坂に来るって聞いてたからことりが案内しようと思ったんだけど、お母さんが、あなたはまだ入学して1ヶ月しかたってないんだからダメよ、って言って許可してくれなかったの。だからここでアルパカさんに慰めてもらってんだ〜」

 

「そうか・・・」

 

満面の笑顔が崩れて泣きそうな顔をすることり。歯を食いしばって位涙を堪えているが、このままでは泣いてしまいそうだ。

 

でももう回るのはここで最後だから今から案内してとは言えないし・・・あ、そうだ。

 

「なぁことり」

 

「なぁに? ことりをお持ち帰りする?」

 

「・・・どういう意味で言ってんだ?」

 

とりあえず思いついたことは置いといて、さっきから気になっていたことを聞く。別に期待してなんかはいないけど、ただ好奇心で聞いてみるだけだ。

 

まぁ、ことりのことだから絶対に俺が期待し・・いや、思っていることとは違うだろうな。

 

「んん? お家に連れてってもらって、いい子いい子して可愛いがってもらうことだよ?」

 

くっ・・・やっぱりか。ことりだもんな。わかってたよ、わかってたさ。でも少しくらいは期待してもいいだろう!? 男なんだからさぁ!

 

「そ、そうか。ところでさ、ことり。俺はそろそろ生徒会の人と合流してひなさんと話しをしてから帰るけど、ことりも一緒に帰るか?」

 

そう言って俺は照れた顔でことりのサラサラとした髪をクシャッと撫でる。撫でられたことりは嬉しそうにはにかみ、首を縦に振って返事をした。

 

「うん!」

 

 

 

***

 

 

それからしばらくして、俺たちは絵里と希と合流した。というより、もっと撫でて〜なんて言われてことりを撫で続けていたところに2人がやってきただけだが。

 

ちなみに、2人が来る前にこちらが先に気づいたので、密着していたことりから少し離れておいた。俺は別に見られても友達なら構わないけど、ことりが嫌がるかもしれないからな。

 

「暁君、ここにいたんやね。 やっぱり、カードの言う通りや!」

 

そう言って希は、トランプくらいの大きさの長方形のカードを右手の人差し指と中指に挟んで胸元から取り出した。

 

「カード?」

 

まさか・・・実はカードとはクレジットカードのことで、カードの言う通りや! とは、金の力を使って手に入れた情報が正しかった!って意味じゃねぇだろうな。

いやまぁ学生なんだから有り得ないとは思うけど。

 

その答えに、希ではなく絵里が答えてくれた。

 

「希はタロット占いが得意なのよ。だからカードはタロットカードのことよ」

 

何だ、タロットカードか。

 

 

「それよりもあなた、南さんとは知り合いだったのね」

 

絵里は、俺の後ろに立っていることりの顔でをチラリと見ると、聞いてきた。

 

「あれ?ことりのことを知ってるのか?」

 

「理事長の娘だもの。みんな知ってるわよ」

 

そりゃそうか。学校のトップである理事長の娘が入学してきたら有名になるに決まってるよな。

それでことりが嫌な思いとかしてなければいいんだけどな。

 

そう考えていると、ことりが俺の横に来て絵里と希に話しかけた。

 

「あの、そろそろお母さんのところへ行きませんか? 日も暮れてきましたし」

 

「そうやね。案内もここで最後の予定だからちょうどだったからちょうどええわ」

 

「んじゃあ行くか」

 

「えぇ。でも私達は荷物を取りに行かないといけないから先に行くわ」

 

そう言って絵里と希は先に校舎へと向かってしまった。その背中を見送り、俺はことりに話しかける。

 

「俺たちも行こうぜ。ひなさんも待ってるだろうしな」

 

「そうだね。じゃあ早く行こっ?」

 

ことりは俺の指とことりの指を絡ませ、俺の顔と繋いだ手を見て満足そうににこっと微笑んだ。いわゆる恋人繋ぎというやつだ。握ったことりの手は男である俺とは違っていて、スベスベとしていて、少し冷たかった。

 

「えへへ♪ 誰かに見られちゃったら誤解されちゃうかもねっ!」

 

向日葵のようにはにかんだ笑顔は抱きしめたくなるほど魅力的で、可愛いらしくて、天使のようだった。

 

 

 

***

 

 

 

理事長室に着いたところでちょうど絵里、希と合流した俺たちは、来校したときに座ったソファに座っていた。

ドアを開けて理事長室に入ったとき、ひなさんはことりが俺たちと一緒にいることに驚いていなかった。おそらくそんな予感がしていたのだろう。

 

全員が座ったのを確認したひなさんは俺に顔を向けて真剣な顔つきをした。本題に入るのだろう。

 

 

「さっそくだけど暁君、音ノ木坂を見学してみてどうだったかしら? 」

 

音ノ木坂はどうだった、か・・・。

 

「そうですね・・・落ち着いた雰囲気があって過ごしやすいと思いました。生徒は優しいですし、生き生きとしていました。 それと、不思議な魅力がありました。」

 

音ノ木坂には不思議な魅力があると思った。なぜなら他の学校に比べて、生徒の目が輝いていたからだ。青春を満喫している! 楽しい! などの前向きな気持ちが目を見るだけで読み取れるような輝いた目。だが、何故そんなに生徒の目が輝いていたのか?と聞かれると答えようがない。俺にもわからないからだ。

 

「不思議な魅力? アルパカのことかしら?」

 

何でそこでアルパカが出てくんねん。どう考えたって違うだろ。

 

「いや、アルパカも含めた学校全体が持っている魅力ですよ。でも上手く言葉に説明できなくて・・・おそらく、実際に見てもらわないと理解して貰えないでしょうね」

 

ひなさんは眉尻を下げて困った表情をした。俺がしっかりとした言葉を言えなかったからだろう。

 

「力及ばずで申し訳ないです・・・」

 

頭を下げて謝る。ひなさんの期待を裏切ってしまうようで心が痛い。

 

「いえ・・・そんなことはないわ。なんとなくだけど方向が見えてきたかもしれないし」

 

そう言って人差し指を右ほおに当てて考え込み始めた。

 

「確かに暁君の言うとおりかもってことりも思うな〜。ことりは音ノ木坂に入ってまだ1ヶ月しか経ってないけど、音ノ木坂は大好きだもん。どうして?って聞かれるとわからないんだけどね」

 

えへへと苦笑いをしながらことりは、俺の言う不思議な魅力を自分も感じると言った。

 

俺は1回来ただけで音ノ木坂が好きになったんだ。ならば俺よりももっと長く音ノ木坂いることりは愛着心が湧くのだろう。おそらく絵里も希も同じ意見のはずだ。

 

「うーん、でも見ないとわからないってことは、その魅力を伝えるためには一度、音ノ木坂まで来てもらわないとわからないってことでしょ? 難しいわね・・・」

 

「あの、俺が呼び込みましょうか? そうすれば人は集まると思うのですが」

 

俺が音ノ木坂の講堂を使ってライブを行なえばファンの人は集まってくれるはずだ。それで音ノ木坂が有名になってくれればと思った。

 

「ん? どうやって暁君が呼ぶん? 」

 

「そうよ。私達生徒会も呼び込もうとインターネットで宣伝してるのに、あまり効果が出てないのよ? 」

 

そういえばまだ2人に俺の正体をバラしてなかったな。そろそろ言おうか、と思ったのだが、

 

「それはダメよ。この問題は私達音ノ木坂の関係者が解決しなければいけないわ。暁君の申し出はありがたいけど、それでは意味がないの」

 

断られてしまった。まぁ確かに音ノ木坂の問題に部外者の俺が首を突っ込むのは良くない。ただ、手伝いはしたい。

 

「わかりました。でも困ったときはいつでも俺に頼ってください」

 

「えぇ、ありがとう」

 

ひなさんは嬉しそうに言った。

 

 

今の所では生徒が減少していてマズイというぐらいの問題だが、もしかしたら廃校・・なんてこともあるかもしれない。そのときに俺は全力でサポートをするつもりだ。だが、俺は部外者であるから表立って行動することはできない。

 

だからいつの日か、太陽の光のように強くこの音ノ木坂学院を照らす誰かが現れてくれれば・・・。

 

 

 

***

 

「それじゃあそろそろ俺は帰ります」

 

「えぇ。今日は本当にありがとう」

 

「いえいえ」

 

俺はソファから立ち上がる。すると隣に座っていたことりも立ち上がった。そういえば一緒に帰るんだったな。

 

「お母さん、ことりも帰るねっ!」

 

「あなたは待ちなさい。さっき保健室の先生が呼んでたわよ? 今日はことりの当番の日なのに保健室に来てないって」

 

少し怒り気味なひなさんはことりの手を取り、帰れないようにした。

 

「えぇ〜〜!? そんなぁぁ!!!」

 

悲しそうな表情をし、ペタンと女の子座りで座り込む。そして俺の顔を見てうるうると瞳を揺らす。口はへの字になり、泣きそうになるのを堪えているみたいだ。

 

「はぁ・・・昇降口のところでことりの用事が終わるまで待ってるよ。だから早く行ってこい」

 

パァッと表情を明るくしたことりはスクッと立ち上がった。

 

「うん! すぐに終わらせてくるから待っててね! 絶対だよっ? 」

 

そう言って一言を残し、ことりはタタタッと小走りで部屋を出ていった。

 

「困った子ね・・・。あ、それと絢瀬さんと東條さんも帰っていいわよ」

 

「「わかりました」」

 

2人は立ち上がり、お辞儀をして出ていった。うーん、何だか型にハマってるなぁ。

 

俺も帰ろうと思い、理事長の取っ手を掴む。だが、そこでひなさんに話しかけられた。

 

「暁君、ことりのことをよろしくね?」

 

ん? 帰宅への安全を見守るように、ということだろうか。

 

「? わかりました。俺に任せてください!」

 

俺は振り返って、ぐっと拳を握って親指を立てた。そして今度こそ部屋を出る。

 

 

***

 

理事長室を出たところで絵里と希がいた。どうやら俺を待っていたようだ。

 

「今日は案内をしてくれてありがとな」

 

「どういたしまして。・・・ねぇ暁、良かったら連絡先を交換しない?」

 

そう言って絵里は水色のスマホを取り出した。それに見習って希も紫色のスマホを取り出した。

 

「あぁ、いいぞ。ほいほいほいっと」

 

無事に連絡先を交換し、スマホをしまう。

 

「ねぇ暁君、今度こそあなたの正体を教えてくれへん? ウチらはそれが気になってたんや」

 

ふむ・・・さすがにくどくなってきた気がするな。そろそろ正体をバラすか。

 

「実は俺はアイドルなんだ。でもまぁ俺がアイドルだからといって遠慮する必要はないぞ。むしろ今までと同じ態度で接してくれると助かる」

 

別にアイドルが特別だとは思っていない。アイドルだってただの人なんだ。だから特別視されると悲しいしさみしくなる。

 

「えっ、じゃあ本物の神座暁なの?! 」

 

「ちょっ、ちょっと待って!」

 

希はスマホを操作し、カメラを起動させて俺の顔を撮る。そして画像に落書きをできるアプリを起動させて俺の目のあたりに黒ペンでサングラスを書き始めた。

 

あ・・・テレビに出ている状態の俺だ。

 

「ああっ!? 本人やっ!」

 

希は落書きされた俺の画像と俺を見比べて指を突きつける。いや、だから本人だって言ってるだろ。嘘つかねぇよ。

 

「えっ、ちょっと希! 私にも見せて・・・あぁっ!? 本人だわっ!」

 

あぁっ!? 本人だわっ! じゃねぇよ。何なんだよ・・・。俺、もうサングラスかけてテレビに出たりライブをやったりするのやめようかな。さすがにサングラスが俺を見分けるポイントだってのは辛い。

 

そもそもサングラスをかけてデビューしたのが間違いだったんだよ。誰だよ俺の楽屋にサングラスを置いてったやつ。俺の小道具だと思ったじゃねぇか。

 

「あぁ、うん・・・本人ですよー、サングラスが本体だと思われてそうな神座暁ですよー」

 

絶対サングラスなんてやめてやる!!

 

 

「あっ、そうだ。ここにサインを貰えないかしら? 妹があなたの猛烈なファンなのよ」

 

絵里はメモ帳とペンを取り出し、俺に渡した。

 

「お安い御用だ。妹の名前は?」

 

「亜里沙よ。・・・・アリーチカへと書いて貰える?」

 

「チカ? なんだそれ」

 

「ロシア語で、『ちゃん』って意味よ」

 

「なるほど・・・アリーチカへ・・とほいよ」

 

サインを書いたメモ帳とペンを返す。

 

「ありがとう。亜里沙も喜ぶわ」

 

絵里は優しく微笑んだ。

 

「そういえば暁君、南さんと一緒に帰る約束をしてたんやないの? 時間大丈夫?」

 

希の言葉にハッとなり、スマホを取り出して時間を確認すると既にことりが理事長室を出てから15分以上経っていた。もしかしたらもう用事は終わっているかもしれない。

 

「ちょっとマズイな。俺はもう行くよ。2人とも、気軽に俺にメールしたり電話してくれよ? 構ってくれないと泣いちゃうからな?」

 

「ふふふ、わかったわ」

 

「えぇで〜。後、実はウチは神田明神で巫女のアルバイトをしてるから、神田明神に来れば会えるかもね」

 

「そうか、なら今度御賽銭でも入れに行くよ。じゃあまたな〜」

 

希の巫女姿かぁ・・・う〜む、素晴らしい。ぜひとも今度見に行こう。

 

 

***

 

「ごめ〜ん! 待ったぁ?」

 

絵里と希と別れて昇降口で待って数分後にことりは小走りで来た。

 

「いや、待ってないよ」

 

まるで恋人のようにやり取りをする。

 

これは以前、ツバサと遊ぶために待ち合わせをしたときに、「お待たせ」と言われて、「おせぇよ」と言ったら足を踏まれて言い直させられたためだ。

 

ブーツで足を踏むとかありえないだろ・・・下手したら骨折だぞ・・・。

 

「じゃ、帰ろうぜ? 手、繋ぐか?」

 

俺は右手をことりに差し出す。

 

「うん!」

 

ことりは左手で俺の手を握り、嬉しそうに俺と共に歩きだした。

 

外に出て、見えたのは綺麗な夕陽だった。空を紅く染めて、自分の存在感を強調している。

 

あーあ、来月は仕事が溜まってるから、次に暇になるのは夏ごろになってしまうだろうな。

 

こんな綺麗な夕陽を見れるのもしばらくはないだろう。しっかりと、目に焼き付けておかないとな。

 

 

***

 

 

絵里side

 

学校から帰ってきて、部屋に着いた私は自分がいつも寝ているふかふかのベッドに腰掛けた。そして鞄からスマホを取り出し、最近の習慣となりつつあるロシアにいる妹への電話をする。

 

最近の出来事を話すためや、妹の話を聞くためだ。だが、今日は少し違う。妹が喜ぶサプライズがあるからだ。

 

「あ、もしもし? 亜里沙? 元気?」

 

『あっ、お姉ちゃん。元気だよ。 あっ! そういえばねっ、おねぇちゃん! 今日おばあちゃんがね、クレープを作ってくれたの! すっごく美味しかったんだよ!』

 

「あら、それは羨ましいわね。 私も1個欲しいな〜」

 

『ダメダメ〜! 亜里沙が全部食べちゃったもーん!』

 

おばあちゃんの料理や菓子は絶品で、一度食べたら忘れられない味だ。

 

また・・・食べたいな。

 

「ねぇ亜里沙? 亜里沙って神座暁のこと好き?」

 

亜里沙が暁のことを好きなのは知ってるが、確認のためだ。

 

『うん、大好きだよ! でもいきなりどうしたの?』

 

「実はね、今日神座暁に会ったのよ」

 

この先の展開に予想し、スマホを耳から遠ざける。

 

『ぇぇぇえええええええええ!!!! お姉ちゃんずるいっ!』

 

耳から離しておいて正解だった。

 

亜里沙は以前から来日して神座暁のライブに行きたいって言っていた。だから亜里沙にとっては暁と会ったというのは喉から手が出るぐらい羨ましいことだと思って、それは予想通りだった。

 

「安心しなさい。ちゃんと亜里沙へのサインを貰っておいたわ」

 

『ほんとっ!? お姉ちゃん大好き!』

 

「えぇ、後で送っておくわ」

 

そして後は他愛もない世間話をして通話を切った。

 

何だか今日は色々あったなぁ・・・なんて思って背中をベッドに預ける。ふかふかのベッドは私の背中を優しく受け止めてくれた。

 

「神座暁か・・・不思議な人だったわね」

 

容姿が整っているのを鼻にかけたりしないし、アイドルだというのを自慢したりしなかった。

 

「だからこそトップアイドルなのかもね」

 

優しかったり、面白かったり、私をからかったりもした。からかわれたときは恥ずかしかったり怒れたりしたが、何だか心が温まった。

 

もともと私は友達付き合いが苦手で、初対面の人には刺々しかったりしてしまう。でも、暁と初めて会ったときはそんなことはなかった。少し話しただけで心を縛っていた鎖が外れたように、本心で接することができた。

 

こんなこと、初めてかもしれない。

 

希と仲良くなったときは希がめげずに何度も私に話しかけてくれたから仲良くなることができた。

 

でも、暁の場合はたった1回でしかも数分で、だ。

 

「本当に不思議な人だったわ・・・」

 

また会いたい、なんて思えた。

 

「絵里」なんて暁に呼ばれると、内心では心がドキッとしていた。

 

自分でそう呼んでと言ったのだが、少し恥ずかしかった。

 

 

「後でメールを送ってみようかしら」

 

暁が帰ろうとしたとき、ここで何もしなかったら暁とは二度と会えないかもしれない、なんて思って交換した連絡先だが、交換しておいてよかった。

 

もししていなかったら後悔で泣き寝入りなんてことになっていただろう。

 

 

「ど、どんなメールを送ればいいのかしら? そういえば私、男の子にメールするのは初めてなのよね」

 

 

また・・・会いたいな。

 




これにて春編は終了です。次回は夏編の予定です。

評価、感想、一言でも良いのでお待ちしています。


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原作スタート1年前 夏編
にこの着信音


お久しぶりです。お待たせしました。 これからは週一以上の更新ができるよう頑張っていきますのでよろしくお願いします。


ミーンミンミンミーン。ミーンミンミンミーン。

太陽の光が強く照り輝く、とても暑い季節になった。

今年は去年よりも暑く、我が家のエアコンは大活躍している。

 

「はぁ…また暑い季節になったなぁ…今日は何日だっけ? ……8月1日か。俺は収録はまとめて一気に撮ってもらうから、7月は今月の分も働いたから今月は暇なんだよなぁ……」

 

オニイチャーン! デンワダヨーデンワダヨー! デナイトニコニーガナイチャウヨー!

 

「……なんだこの着信音は」

 

ベッドの上に置いといたスマホがにこの声の着信音を鳴らしながら揺れだした。

着信相手はもちろんにこだ。

 

「こんな着信音にした覚えはないぞ…。 はっ! まさかこの間にこに貸したときに……!」

 

この間、にこにスマホを俺のと同じものに買い換えたいから少し触らせて欲しいと言われたから貸してみた。

たぶんその時に勝手に設定したのだろう。

というか、にこの方が年上なんだからお兄ちゃんじゃねぇだろ!

 

俺は怒りで震える腕でスマホを握りつぶさないように優しく持ち、電話に出る。

 

「……はい」

 

『にっこにっこにー! あなたのハートににこにこにーの矢澤にこにこー! にこにーって呼んでラブにこっ! 』

 

あ、ダメだ。これはウザい。

 

「おい、にこ…」

 

自分で出したとは思えないほど冷たい声が出た。

だが、俺の怒りに気づかないのか、にこはまだ続ける。

 

『だぁめだぁめぇ! にこにーは〜み〜んなのアイドルだからぁ! でもぉ、どうしてもって言うなら考えてあげてもいいけどぉ?』

 

何を考えてくれんだよ。

 

「用がないなら切るぞ。俺は今変な着信音のせいで機嫌が悪いんだ」

 

『へ、変!? 私の最高傑作なのに!? やだなぁ、そんなに怒らないでってば! ほら! にっこにっこにーだよ! にっこにっこにー! にっこにっこにー!暁も一緒に… 』

 

俺は耳からスマホを遠ざけ、口元まで持ってくる。

すぅぅぅっと大きく息を吸い込み、大声でマイクに怒鳴りつける。

 

「にっこにっこにー! じゃねぇよ! 誰のせいで怒ってると思ってんだ!? もし人前で鳴ったら恥ずかしすぎて外に出れなくなるわ! 」

 

ちなみにお兄ちゃんと呼ばれたのは何気に嬉しいが、それは年下や妹限定で年上はダメだ。

ただ、どこかの巫女服が似合いそうなお姉さんが恥ずかしそうに「お、お兄ちゃん…」ともじもじしながら顔を紅潮させて言うのならいつでもカモンだ。

『や、やだなぁ。そんなに怒らーーー』

 

俺は電話を切り、設定画面を開いて着信音を変える。何度も電話がかかってきて変えずらかったが、何とか変えるこもができた。

 

「これでよし、と」

 

今もなお電話がかかってきているが全て無視する。

 

「今日は反省してもらうために今日1日は放置しとくか……ん?」

 

電話がかかってこなくなったと思ったら今度はメールがきた。

 

 

『 ……どうして電話に出てくれないのぉ? でもにこにーは〜心が広いから〜今なら許してあげる! だから〜早くにこにーに、電話して?』

 

………。見なかったことにしよう。

 

そうだ、気分転換に布団でも外に干そう。せっかくの良い天気だし、今日は干してフカフカになった布団でたっぷり寝よう。

 

そういえば何で干したばっかりの布団で寝ると気持ちいいんだろう? ………まぁいいや。

 

持ち運びやすいように布団を3つ折りにし、ベランダに運ぼうとしたところでまたメールがきた。

 

『何よ! 何なのよもう! 何で電話も返信もしてくれないのよ!暁のバカ! バーカバーカ!!! 』

 

無視だ無視。

 

スマホをポケットに入れ、布団をかかえてベランダに出る。

ベランダに出るために窓を開けた途端、うだるような暑さと夏特有の清々しさに包まれた。

雲1つないどこまでも青い空は言葉に出来ないほど美しく、自分の怒りなどこの大空の下ではちっぽけなものだと感じてしまう。

 

「…………はぁ、にこに悪いことしたかな…。俺ももっと広い心を持たねぇとな。」

 

そうだ、にこに謝ろう。

 

にこに電話するために、さっきからずっと振動しているスマホを取り出す。

 

「ふぁっ!?」

 

画面を見ると、大量に着信とメールの通知がきていた。

 

怖っ!数分しかたってないのに!

 

留守電を聞くのはなんだか恐ろしいため、メールを適当に開く。

 

 

にこからのメールの内容は…

 

 

『バカなんて言ってごめんね? 本当はバカだなんて思ってないよ! 本当だからね!』

 

『お願い、電話に出て? 暁の声が聞きたい』

 

『もしかして今誰かと一緒にいるの? 女?』

 

『…ヤダ。ヤダヤダヤダ! 暁の側から離れたくないよぉ』

 

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

 

『私から暁を奪ったのは誰?』

 

『許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない』

 

『捨てないで…。一人にしないでよ…』

 

『また誰にも相手にされない生活に戻るのは嫌なの……』

 

『何でもする…何でもするから……』

 

『そっち行く』

 

 

……これは完全に俺が悪かったな。にこにはできるだけ優しく接しようと思っていたのについやってしまった。

 

にこはもともとボッチ…もとい孤独だった。それがようやく俺という無二の親友ができて孤独ではなくなった。だが、俺がにこを無視してしまったことで、にこはまた自分が孤独になったと誤解してしまったのかもしれん。

最近のにこは俺に依存していて打たれ弱くなっている。……気をつけてたつもりなんだけどな。

 

 

 

というか、20分前のメールに今から行くって書いてあるけど、ウチからにこの家までは歩いて25分の距離だからすぐ近くにいるんじゃないか?

 

 

「えーと、にこの家は向こうの方角だから……いた! てかもうマンションまで後少しの距離じゃん。……けど、泣いて、る?」

 

涙をポロポロと地面に落としながらうつむきながら、右手に俺と同じ機種のスマホを持ち、ふらふらとおぼつかない足取りで歩いてきている。まるで肉体のみがこの世界に残っていて、精神は死んでいるような、空っぽのような感じだ。

周囲を歩いていた人は怪訝な顔をし、見てみないふりをするか、話しかけるが無視されるかのどちらかだった。

 

……。…………。

 

 

「うぉぉおおお!?」

 

俺は急いでベランダから部屋に戻り、スマホを充電し、財布とカードキーを持って廊下を走り抜けて部屋から飛び出した。

 

 

「ごめんね! ごめんねにこぉおおお! 俺が悪かったぁ! うぉぉおおお!!!」

 

今のにこを見ると罪悪感しか湧かなかった。

 

エレベーターがもどかしく感じ、常用階段を駆け抜けてにこの元へと急ぐ。

 

……何だか彼女に逃げられて追いかけている女々しい男に見えるが断じて違うぞ。

 

 

***

 

「にこーーー!!………いたぁ!!!」

 

マンションの非常用出口から出て、入り口に回る。そして、マンションの入り口にある、エントランスに入るためのゲートを開ける装置こ前ににこはいた。

 

だが、何かに夢中のようでまだこちらに気づいていないようだ。

 

……何をやってるんだ? さっさと入ればいいのに。どうせ俺の番号は知ってるんだから。……もう少し近づいてみるか。

 

見つからないように壁伝いに進むと、にこの手元と、声が聞こえるようになってきた。

 

 

「どうして…どうして開かないのよ!! 暁に教えてもらった番号はこれでいいのに……!」

 

いや、無理矢理聞き出した番号の間違いじゃねぇか?

というかごめん、番号は先週に変えちゃったよ。

 

だって穂乃果は勝手に入ってくるし、最近はストーカーの被害にもあってるし、しかもにこだって勝手に入ってくるじゃねぇか。

 

それに、男には女の子に見せられないものだってあるのに見られちまうとちょっとな。

 

「…壊してやろうかしら」

 

待て待て待て。お前が右手に持ってる物はなんだ? 文明の利器であるスマホを使って俺に連絡すればいいじゃねぇか。

 

「あっ! 暁に電話すればいいのよ!」

 

そうだそうだ。最初からそうしてくれ。

 

にこはスマホを耳に当て、俺が電話に出るのを待っている。

 

さて、出てやるか……って、スマホがない! えっ嘘!? あっ…………部屋だ。

 

電話に俺が出ないため、にこがまた泣き始める。

 

「出ない…。やっぱり無視されてるんだ…。あかつきぃぃあかつきぃぃ…うぅ…。暁と会いたいよぉ…暁と話したいよぉ…暁に触れたいよぉ…」

 

にこ……。お前って奴は…なんて可愛い奴なんだ! 俺を友達としてそんなに好きなんて!!! 安心しろ、にこ。俺は一生お前の親友でいてやるからな!!!!!

 

「にこーーー! 俺はここにいるぞぉ!!」

 

にこの元へ走り、背中から抱きしめる。

小さいが柔らかくて女の子らしい身体だった。

 

にこは振り返り、俺の顔を見つめた後、腕を俺の首に回して抱き合った。

 

「…え? 暁? 暁ぃ!!! うぇぇぇん、にこのことを嫌いにならないでぇっ! 何でもするからぁっ! 暁の奴隷でも何でもなるからぁっ!」

 

ど、奴隷? え、ちょっとだけ興味あるかも…。いやいや、だめだだめだ。にこは親友なんだから。

 

「馬鹿だな…にこは。俺がにこのことを嫌いになるはずがないだろう? だから女の子が何でもするとか奴隷になるとか言うなよ。そんなことを言っちまうと、本気にしちまう奴が出るぞ?」

 

そいつは俺です、なんてのは言わない。

 

「…暁だったらいいんだけど? 」

 

上目遣いで俺を見つめる。

 

「アホか。俺はお前が(友達として)好きなんだぞ? (友達として)好きな奴を奴隷にしたいと思う奴がどこにいる?」

 

いや、にこが俺の物だったらいいなぁなんて少しだけ思っちまったけどさ。

 

「……。あのね? 私ね、暁のことが好き。あなたのこと、好きなの。この世界の誰よりも、あなたのことが大好きなの! あなたのことを考えるだけで幸せになれて…あなたのためなら何だってできるって思えるくらい好きなの…」

 

うんうん、にこが、俺のことをそんなに友達として好きだなんて……。いやぁ、友達冥利に尽きますなぁ!

 

「…俺も、にこのことが好きだ。 この(にこを親友だと思う)気持ちは一生変わることはない…。それと遅くなったけど、無視したりして悪かったよ」

 

「うぅん、もういいわ…。暁がにこのことを好きって言ってくれたから。その言葉だけで十分伝わったわ」

 

「そうか……」

 

さらに、にこを強く抱きしめる。

 

「あっ……少し、痛いわ……」

 

「嫌か?」

 

「うぅん、嫌じゃないわ。むしろ嬉しいわ」

 

それから俺たちは1分間ほど抱き合った。

 

というか、暑い。夏なのに抱き合うとか暑いし熱い。友情確認の抱き締め合いなら涼しい所ですべきだろ。

 

「……部屋に行こう」

 

早くエアコンが効いた部屋に行きたい。

 

「そ、それってもしかして……。い、いいわよ? でも初めてだから…その……うぅ……」

 

初めて? 何の話だ? エアコンが効いた俺の部屋に入ることか? まぁ、確かににこが前回来たのはまだ暑くなかったからなぁ。

 

「いや、にこが俺に電話してきたのは何の用だったのか聞きたかっただけだけど……?」

 

するとにこは何かを勘違いしていたのか、顔を茹でた蛸みたいに真っ赤にさせ、あたふたと慌てた。

 

「あれっ? えっ? えぇぇぇええ!?…………何だ、そっちかぁ…。勘違いさせないでよ!この鈍感アイドル!……でもまぁ相思相愛になったんだから、鈍感でもないのかな……?」

 

あ? 何? 耳元で鈍感アイドルとか言われたから耳がキーンとして何を言ったか聞こえなかったんだけど。……まぁいいや。どうせ俺の悪口だろうし。

 

俺は装置に番号を入力し、ゲートを開けてさっさと中に入る。

 

「ちょ、ちょっと! 置いてかないでよ! 」

 

慌てて追いかけてきたにこは俺の左手を掴み、手を繋いだ。

 

「これで暁とにこは離れられないわね!」

 

そう言ってニコッと微笑んだ。

 

「そうだな」

 

「ふふっ。ねぇ、新しい番号教えなさいよ。いつでも暁のお世話ができるようにしとかないと!」

 

「俺のお世話はありがたいけど番号は教えられんな。一応、これでも俺はアイドルだからな」

 

というか、俺の部屋にある例の物を勝手に見られるわけにはいかんだけだけどな。

 

「むぅ〜、にこと暁の仲じゃない! いいでしょ〜?」

 

「ダメ、嫌だ、しつこい。……あ、エレベーター来たぞ」

 

にこは俺にしつこいと言われて、悔しそうに下唇を噛んだ。

 

「………わかったわよ。ケチ」

 

誰がケチだ。誰が。………まったく。

 

 

そして俺たちはエレベーターに乗り込み、俺の部屋へ向かった。

 

 

 

 

 




夏編が始まりました。まぁ、現実は冬ですけどね。 夏編が終わると、秋編はすっ飛ばし、冬編のあと、原作の時系列に入ります。そこでは、アニメ版を軸にストーリーが進んで行く予定です。

では、また次話でお会いしましょう。感想をくださった方、ありがとうございました。そして、感想をくださるかた、評価をくださる方、どうもありがとうございます。


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