【完結】カバネリ RTA 【金剛郭からの生存者】 (神埼)
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顕金駅脱出

小説自体初投稿です。よろしくお願いします。


何故か人間しかゾンビにならない物語のRTAはーじまーるよー。

ということで、『甲鉄城のカバネリ』のゲームをやっていきます。

キャラクリを終えてからがタイマースタートになります。

タイマーストップは実績の【金剛郭からの生存者】を手に入れた瞬間となります。

 

はい。キャラクリ始まりましたね。

性別は男性を選択。

職業は武士を選択します。他には蒸気鍛治、商人、医者等がありますね。

武士を選択しておくとステータスが他の職業よりも高めですのでおすすめですね。

見た目はランダムで決めてしまいましょう。

見た目は…うん。黒髪黒目で中肉で平均より背は小さめですね。少し幼い顔つきをしていますがモブらしい地味な顔でいいと思います。

15歳…15⁉︎そら幼い顔なわけだわ。

名前を決めていきます。

既存キャラの苗字をつけることはできますが、身内にはなりませんしステータスにも影響ありません。

堀川最上(ほりかわもがみ)君です。略してホモ。

 

ステータスはランダムで決まりますのであんまり低いと武士では生存できませんのでリセマラ案件ですね。

体力は低めですが問題ないです。カバネに噛まれたら一発退場なので。

職業が武士じゃなければワンチャンカバネリルートに入れますが、武士は潔く散る以外の選択肢がないのでね。

敏捷性と知力は高めで他は平均的な数値ですね。

経歴は…上侍…えぇ上侍かぁ。

まぁいいでしょう。

下侍だと基本的に来栖の指揮下に入るのですが上侍だとある程度自由に動ける代わりに、好感度が上がりにくかったり、肝心な時に信じてもらえません。

上侍は嫌われ者。はっきりわかんだね。

あとは菖蒲様に相談されて選択肢が出ます。時間の無駄です。なぜなら聞かれるだけで何も変わらないから。

RTA的にはマズアジですが菖蒲様のすぐ近くに侍れるので生存確率は上がります。

相談は好感度に影響するだけで甲鉄城の進行に影響はありません。

好感度は高ければ高いほどフォローに入ってくれたりするので稼いでいきましょう。

来栖とかカバネリの2人からの好感度が高いと戦闘中にフォローにじゃんじゃん来てくれます。

今回は武士ルートを行くので来栖の好感度を稼ぎます。

武士ルートは割と戦闘少な目で行けますが、来栖の好感度は稼がないと死にます。

カバネリ達と行動を共にすると戦闘中のフォローの大切さが身に染みますが今回はお見せする機会はたぶんないです。

菖蒲様からの好感度は来栖の好感度が上がる選択肢や行動を取ると大体勝手に上がります。

 

 

それでは始めていきましょう。

タイマースタートです。

蒸気鍛治以外の職業を選ぶと扶桑城が突っ込むシーンから始まります。

ムービーが始まりましたが扶桑城が突っ込んでくるだけですのでスキップします。

初期位置は職業によりある程度は補正されますがランダムですので運に任せましょう。

 

あっ⁉︎

 

ホモ君たら堅将様と一緒にいますね!

上侍ですもんね!

死亡フラグがびんびんしますがなんとかできます。

選択肢が出ました。

堅将様と一緒にいるか、物資の確保に尽力するか、先発して甲鉄城を警護するかの3択です。

ここは物資の確保に尽力します。

 

はい。フリーで動けるようになりました。とりあえず馬をとばして備蓄のある蔵に向かいます。

馬をとばしていけばカバネが来る前に蔵に着くことができます。

では馬で疾走している間に他の選択肢を説明します。

堅将様と一緒に動くパターンですが難易度ルナティックな上に甲鉄城に着く直前にはイベントムービーが流れて絶対に堅将様はカバネに噛まれてしまうので(メリットが)ないです。堅将様は移動速度も遅いので、初期値で難易度ルナティックに挑戦したい兄貴は護衛してみてもいいかもしれません。

 

次に甲鉄城の警護ですが3つの選択肢の中では断トツに早くて安全に甲鉄城まで着くことができますが検閲を始めてしまうので民人からの好感度が下がります。

民人は戦闘には関わってこないんだからええやろって思いがちですが、最初の頃の菖蒲様と六頭領の力関係を思い出してください。

堅将様も他の上侍もいない中、民人からの好感度がだだ下がりしているのはトラブルイベントが発生するので後々タイムロスが発生します。

 

蔵に着きました。

馬に荷車を着けることもできますが立ち往生することが多いのでやめましょう(2敗)

食糧を出来るだけ馬にのせます。

ホモ君の馬は有能なので騎乗していなくても少し離れたところから指笛で呼ぶと来てくれます。

ここからは騎乗せずに徒歩でカバネを避けつつ、時折馬を呼んでじわじわ進みます。

馬の積載量は400kgになっているのでぎりぎりまで載せてしまいましょう。

積載量ギリギリまで積むと駆け足はできませんが、馬はカバネに襲われないので問題ないです。

基本的にカバネに見つからないよう慎重に進みます。

見つかってしまった場合は蒸気筒ではなく刀で足を切断しましょう。殺せはしませんが進行する分には全く問題ないです。

一体にも合わずに甲鉄城につけるかと思いましたが流石に甘かったですね。

ではご覧下さい。ここではワザトリ君ではないので動き自体は単調です。

正面から突っ込んでくるカバネを避けて右脚にオラァ!!おっと浅いですね。

追撃で左脚を切断します。

ここからは馬を呼びつつダッシュで操車場に行きます。

あらホモ君の馬は優秀ですね。

テケテケの如く這い寄ってくるカバネを踏み付けてくれました。

 

はい。甲鉄城に着きました。下侍に命じて食糧を甲鉄城に載せます。

命令することで下侍からの好感度は少し下がりますが誤差みたいなものです。

菖蒲様と来栖が近づいてきましたね。

話しかける必要は皆無ですが、折角なので堅将様の行方を聞きます。

来てないようです。当たり前ですね!カバネとして線路でお待ちですからね!

 

甲鉄城に乗り込んで菖蒲様の側に侍っていれば生駒と来栖のゴタゴタには巻き込まれませんので時間を短縮できます。

 

さぁまたムービーのお時間です。

 

 

あれ?なんでムービーに入らないんですかね…堅将様を轢き殺すシーンで選択肢が出ました。上侍だからですね。こういうところロスなのよね。上侍は。

轢き殺す指示を出すか。沈黙するか。

ですね。

ここは轢き殺す以外の選択肢はないのでサクッと行きましょう!

挽肉にしておしまい!!

ということでムービーに入りました。

生駒君の活躍はスキップです。

 

 

 

顕金駅を脱出しましたので今回はここまで。

ご視聴ありがとうございました。




ホモ君は決してイケメンではないです。
幼いだけで地味顔です。


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顕金駅脱出【裏】

ホモ君視点です。


扶桑城が駅内に突っ込み爆発した。

鈴鳴りが鳴り響く顕金駅。

 

来栖は菖蒲の後ろに控え、堅将と菖蒲のやり取りを聞いていた。

 

「甲鉄城を確保したら合図を撃つ。そしたらお前も来い。」

 

堅将が馬首をめぐらせ背を向けた。

 

「堅将様。顕金駅を放棄する以上物資の確保が必要です。お側を離れる御許可をいただければ、私は今から備蓄庫へ向かい食糧の確保に尽力したいと思います。」

 

騎乗した若い上侍が堅将へと進言する。

 

「確かに。甲鉄城はまだ出立の準備も整っておらん。皆幾らかの食糧は持ち寄るだろうが、食糧は多いに越したことはない。任せるぞ堀川。」

 

堅将の許可を得た堀川最上は馬首をめぐらせた後、駆け足にてその場を離れて行く。

堀川は上侍の中で1、2を争う剣術の使い手でありながら、1番の若輩である。

来栖より2つほど歳は下ではあるが元服は済ませており、堅将に侍り始めた時から先程の様に自ら進言する胆力も持ち合わせていた。

他の上侍と違い歳下であるからか、来栖に絡んできたことはない。

 

「来栖。お父様は大丈夫でしょうか。」

 

堅将の背が見えなくなって暫くして菖蒲が来栖に声をかけてきた。

 

「護衛が複数ついております。合図を待ちましょう。」

 

「…そうですね。」

 

大丈夫だろう。とはとても言えなかった。

2年前カバネに噛まれたおそれのある女が1人逃げたことによって生じた、あの事件ですら駅内は統制が取れなくなるほど荒れた。

それは堅将の不在もあるが、何より武士にカバネを殺す力がないことが、顕金駅を混乱に陥れたのだ。

殺すことができぬカバネに囲まれれば護衛などいくらいたところで変わりはないが、それをこの状態で菖蒲に伝えることは殊更に不安を覚えさせるだけでなんの利もないのだ。

 

 

 

 

堀川最上は愛馬の疾風に乗り備蓄庫になっている蔵まで疾走していた。

 

(まだこの辺りにカバネは来ていないようだな。…といっても時間の問題だろうが…)

 

甲鉄城に何人避難することができるかはわからないが、整備中で出立の準備が全くできていない以上食糧は間違いなく不足する。まして通常駿城は移動手段として存在しており、駅中の人間が乗ることは出来ないし、食糧の搬入も通常の運行に必要な分に多少上乗せされた量しか積み込まないのだ。

駿城のような閉鎖空間で飢えは大敵だ。

ただでさえカバネに襲われる恐怖から気が立っている中、飢えまで重なれば間違いなく人同士で争いが起きる。

食糧を可能な限り持ち出さねばならない。

蔵の隣には馬に取り付けることができる荷車が置かれていた。

 

(荷車か。持ち出せる量を考えれば使うべきだろうが、悪路を行くことになるだろう…やめておくか。)

 

疾風に自分が騎乗する事は考えず、可能な限りの食糧を疾風の背に積み込んだ。

 

「疾風。すまないが甲鉄城までよろしく頼む。」

 

愛馬に声をかけ先行する。

疾風から目視で確認でき、周囲にカバネがいないことを確認しつつ指笛を吹く。

疾風は指笛に反応し自分に向かい早脚で近寄ってきた。

最短距離を行きたいところではあるが、カバネとかち合っては元も子もないため、少しばかり回り道をしながら甲鉄城を目指す。

民人が逃げ出す際に放棄したであろう荷物などが道には散乱しており、荷車できていたら立ち往生していただろう。

あと少しでたどり着くという時に、小路から一体のカバネが現れた。

 

「カバネ!ここまでたどり着いたというのに!」

 

襷掛けしていた蒸気筒は使うつもりが最初から無く、刀を抜いて応戦することを決めた。

蒸気筒は複数名で運用してこそ効果があり、単独で使うには隙が大きすぎるからだ。

まだ疾風は少し離れた場所に待機しているし刀を振るには問題はない。

 

自分の剣術がカバネに通用するかが1番の問題である。

自分は九智来栖ほど埒外の剣の腕を持っているわけではない。

しかし心臓被膜以外は刀で切断可能であることは知っている。

 

(何も殺す必要はない。機動力を削ぐ。)

 

(このカバネさえ抜けばもう甲鉄城まですぐだ。後ろからくる疾風は馬である以上積極的には狙われない。)

 

カバネは両手を前に突き出しながら一直線で向かってくる。

 

(正面から受けてはならない。体格は向こうの方が上だ。胴を切るべきか?いや両断できる臂力は私にはない。)

 

右にカバネを躱しつつ体勢を下げ右脹脛を深く切り付けた。

 

(回復するにしても腱を切断すればすぐには動けまい。)

 

転倒したカバネにさらに追撃として左脚も切断する。

指笛を吹いて疾風を呼びながら甲鉄城へ駆け出した。

疾風は這ってこちらに向かってこようとするカバネの左腕を意図せず踏み砕きながら堀川を追う。

 

甲鉄城に着いた時には民人の乗車が始まっていた。

 

(多いな。これだけの民人が避難出来たことは喜ぶべき事だが私の持ち込んだ食糧も焼石に水だな…)

 

「堀川殿⁉︎ご無事だったのですか!」

 

来栖の配下の下侍から声をかけられる。

 

「僅かばかりで悪いが食糧を確保してきた。搬入を頼む。」

 

「承知しました。」

 

少しばかりむすりとした表情で承知の意を返す。

 

(九智来栖にすでに何か指示されていたのを私の指示のせいで果たせなくなった不満か、単純に上侍の若輩者に指示されるのが不満か分からないが、あまりあからさまだと他の上侍なら許さないだろうによくやる。)

 

視線を巡らせると菖蒲と来栖が乗車しようと近くのタラップに向かってきていた。

 

「菖蒲様!」

 

菖蒲の名を呼び近づいて行くと、菖蒲は目を見開き

 

「最上!よくぞ無事に甲鉄城まで辿り着きましたね。」

 

「はい。力及ばす僅かばかりの食糧となりましたが、なんとか辿り着くことが叶いました。して堅将様は何処におられますか?」

 

堅将の所在を確認すれば菖蒲も来栖も視線を落とした。

 

「まさか甲鉄城に居られないのですか?」

 

二人の表情から意味する事はそういうことだろう。

二人は黙したまま視線を逸らした。

 

「堅将様を探して参ります!疾風!」

 

自分で口に出しながら、現実的な案ではないな。と思いながらも疾風に騎乗しようとしたところ

 

「なりません!最上も速やかに甲鉄城に乗車しなさい!」

 

菖蒲の指示に従い来栖が腕をとり疾風から引き離す。

 

「しかし!「お父様からの合図はありませんでした!私たちがこちらに来るまでの道中もお会いする事は叶いませんでした。お父様の到着はギリギリまで待ちますが捜索に向かう事は許しません。」

 

反論しようとしたところ菖蒲が被せるように言い募る。

来栖が腕を掴む力を強めた。

 

「…承知致しました。乗車致します。」

 

着々と出発準備が進んでいく。

無名という少女が艦橋に入って来ているが、堅将が客人として迎えた娘であるし、菖蒲の態度からするに功績もあるのだろう。

菖蒲に対し無礼な発言や態度ではあるが、態々咎める程ではない。

 

「お父様の姿はまだ見えませんか?」

 

菖蒲が見張りをしていた服部に声をかける。

 

「カバネだ!カバネが来るぞぉ!」

 

乗車していない武士が声をあげてすぐに操車場にカバネが押し寄せる。

来栖が運転士に声をかけた後、艦橋を離れていく。

来栖が菖蒲から離れる以上自分はここから離れる訳にもいかない。

上侍の殆どが堅将の護衛等でついていた以上、甲鉄城に乗車しているのはおそらく下侍ばかりだろう。

下侍のまとめ役は来栖であり、下手に自分が指揮を取れば現場を混乱させかねない。

 

(ままならんな。有事であるのに動けば足を引っ張りかねない。)

 

暫く状況を眺めていると服部が来栖を呼び戻した。

線路上のカバネを確認しに上に上がった来栖が戸惑っているのが伝わってくる。

菖蒲も来栖の戸惑いを感じてか上に上がって行く。

来栖が菖蒲を押し留めようとしているが菖蒲は外に顔をだす。

来栖はすぐに菖蒲を押し戻し扉を閉める。

 

「来栖…でもあれはお父「違います!…あれはただのカバネです。」

 

堅将がカバネとなって線路上にいるということは菖蒲と来栖のやりとりから理解できた。

菖蒲は嗚咽が漏れぬよう口を覆いながら静かに泣き出し、来栖は俯き歯を食い縛っている。

 

(堅将様…自決も叶わずカバネになってしまわれたか…お労しい…)

 

しかし線路上にいる以上、避けては通ることは不可能であり、今艦橋にカバネを轢き殺せと指示できるのは菖蒲、来栖、そして上侍の自分しかいない。

 

(上侍も下侍も正式な位ではないが、上侍として多くの権利を得て来た。義務を果たすべきだ。)

 

「止まるな!そのまま前進せよ!線路上のカバネを轢き潰せ!!」

 

来栖が弾かれたようにこちらを見る。

言い方は悪いが、運転士はカバネを轢き殺すのも仕事の内である。運転士に止まるつもりがあったかは知らないが、カバネとなったとはいえ主君を轢き殺す以上指示は必要だろう。現在城主である菖蒲は堅将を認識してしまった。カバネとなった者を轢き殺した責任を問うような方ではないのはわかっているが、きっちりと指示を出し責任の所在は明らかにしておくべきである。

おそらく今暫く黙っていれば来栖が指示を出していただろうがそれは上侍の役割であるべきだ。

堅将を含むカバネ達を轢き潰しながら甲鉄城は進んで行く。

 

不快な音と振動を聞かぬふりをしていると、すぐに跳ね橋前まで到着するが不具合により跳ね橋が降りない。

 

(次から次へと…)

 

甲鉄城に衝撃が加えられる。

カバネに追い付かれてしまったようだ。カバネが車体に体当たりをしているようで、激しい音と共に甲鉄城が左右に小さく揺られる。

冷却水の入った水槽が損傷し、もはや一刻の猶予もない。

艦橋内が混乱している中、来栖が艦橋を出て行こうとしたため吉備士達に止められている。外に設置されている跳ね橋を下ろすためのレバーを操作しに行くと言うではないか。

確かにこのままでは埒が開かないが、下侍のまとめ役である九智来栖をここで失うのは悪手である。

 

「私が行こう。乗車している武士は下侍ばかりだろう?失うなら下侍の指揮官たる九智来栖より私の方が道理だ。」

 

全員が利を理解してか押し黙る。

来栖の横を通り艦橋を出ようとする。

 

「見てください!カバネの中に人が!!」

 

耳を疑う報告が服部から上がる。

来栖が反射式望遠鏡を覗き込む。

状況は全く分からないが、菖蒲が加勢を指示するも来栖一同が扉を開ける事を拒否していることから、加勢はせずに外にいるという者に賭けるつもりのようだ。

 

(しかし…共喰い?どういう意味だろうか…外にいるのは人ではないのか?カバネがカバネを倒し人を助ける…あり得るのか?いずれにせよ静観するしかないか。)

 

服部達は外の状況に釘付けだ。

 

「やった!」

 

歓喜の声が上がる。

跳ね橋が降り甲鉄城が発車する。外の者を回収するつもりはないようだ。

いつの間にか艦橋にいた少女が姿を消しており、来栖が雅客と歩荷を連れて艦橋を出て行き、少し遅れて菖蒲が静を連れて艦橋を出る。

 

(なにやら私の知らない事情を九智来栖は把握しているようだし、とりあえず菖蒲様と共にいれば報告が聞けるだろう。)




甲鉄城に下侍オンリーなの凄いと思うの。


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葬儀

やべぇ状況でキャンプファイヤー始めるRTAはーじまーるよー。

 

前回は顕金駅を脱出したところまで進みましたのでその続きです。

 

菖蒲様にくっついて行ってカバネリの存在を認知しましょう。

時間短縮のため前回来栖と生駒のゴタゴタに巻き込まれに行かなかったのでホモ君はなにも事情がわかっていません。

ささっ!菖蒲様が動き出したので後ろについて行きましょう。

この辺りは選択肢は出ないのでひたすらボタンを連打です。

 

 

はい。ご飯の時間になりました。

ここでは鰍ちゃんのお手伝いをすることもできますが、武士がお手伝いするのはデメリットしか発生しないのでないです。

妊婦に2つ配給を渡すところでほかの職業の場合は、見なかったことにすれば鰍ちゃんの好感度がちょっと上がるだけなのですが、武士の場合は見なかったことにすると後で民人に指摘されて民人からの好感度が下がります。

ワザトリ君襲来で口減らしが済むまでは余計なトラブルでタイムをくうので民人の好感度を下げない方がいいです。

なおどの職業でも同じですが鰍ちゃんが2つ渡した時に指摘すると鰍ちゃんの好感度がもの凄く下がります。

鰍ちゃんの好感度が下がると口減らし後の民人の好感度や蒸気鍛治の好感度に影響がでますので武士の場合は配給イベントは関わらないのが正解です。

来栖達と蒸気筒の整備をしましょう。

見事に下侍しかいないので肩身が狭いですねぇ。

鰍ちゃんが来ました。

来栖が怒られているのを見た後、手を拭うことが出来ますので拭っておきましょう。

鰍ちゃんは上侍相手だろうと引っ叩いてきます。

ここで選択肢がきます。

配給を黙って受け取るかお礼を言うかです。

上侍が蒸気鍛治に礼を言うかって?言うんだよ!!

鰍ちゃんの好感度はもちろんですが居合わせた下侍からの好感度も少し上がります。

鰍ちゃんの好感度は高ければ高いほど全体の信用を得られます。

武士の場合は好感度の初期値が低いので、余計なトラブルイベントされないためにもあげときましょうね。

戦いの場ではメリットはありませんがそれ以外のパートではメリットがありますので好感度は稼いでおきましょう。

 

鰍ちゃんがいなくなった後、来栖の好感度が一定値を越えているとここで来栖から話しかけられます。

ここの会話イベントは武士でなければ発生しません。

下侍なら開始時点で一定値を越えているので、好感度が下がっていなければ自動的に始まりますが、上侍の場合は好感度を稼いでおかないと発生しませんので注意が必要です。

 

堅将様ひき肉イベントは何もしなくても好感度は下がりませんが、上侍限定で来栖より先に指示を出すと好感度が上がります。

堅将様ひき肉イベントで好感度をあげましたので会話イベントが発生する…はず…するよね?

 

はい。来ました。

 

質問内容はなぜ上侍のホモ君が指揮を取らないのか。というものですね。

選択式ですね。

上も下もない。来栖が指揮をとった方が効率的だ。

指揮した方がいいのなら変わるが?

の二択です。

後者は自信ねぇなら代わってやるよって皮肉なので好感度が下がります。

前者を選びます。

 

更に選択肢が来ます。

名前で呼んでいいか?

名前で呼んでほしい。

です。

どっちも変わらんやろって思いがちですが今までホモ君は来栖の事をフルネームで呼んでいましたし、来栖は家名でホモ君を呼びます。

先に自分から名前で呼んでくれと要求するとではこちらも名前で呼んでくれと来栖から提案されますが、名前で呼んでいいか?だと来栖からは家名で呼ばれ続けます。

家名で呼ぶとか仲良くない証拠ですね。

ということでこちらは後者を選びます。

ここで好感度を稼いでおくとこの後が楽です。

 

下侍の場合はカバネリをどう思うかと民人の状況について聞かれます。

 

こうやって来栖とおしゃべりしてる間に菖蒲様は六頭領とお話し中ですね。

来栖達と蒸気筒の整備をせずに菖蒲様に付いて六頭領とお話しすることも可能ですが、六頭領からの好感度が下がり菖蒲様の好感度が少し上がるだけなので(選ぶ必要が)ないです。

さっさと配給を食べたら速やかに装備を整えます。

そろそろ最後尾の車両からカバネリ2人が出ちゃったイベントが来ます。

準備ができてないと置いていかれますので気をつけましょう。(1敗)

 

カバネリが最後尾車両から出たイベントに来ました。

ここは選択肢も出ませんのでボタン連打で大丈夫です。着いてくることに意味があるのでね。

菖蒲様が来ました。

六頭領が周りを囲んでぐちぐち文句を垂れるので2歩ほど菖蒲様を前にだして菖蒲様の後ろにまわり六頭領に睨みを効かせます。

すぐに鈴木さんが来るのでこれ以外する事はありません。

この動きで菖蒲様と来栖の好感度が少しばかり上がります。

来たるワザトリ君襲来イベントのためにも来栖の好感度は稼げるだけ稼いでおきましょう。

 

 

給水の為に停車しました。

この時菖蒲様の近くに侍っていると、葬儀についてどう思うか聞かれます。

葬儀に反対するとか人でなしの所業のようですが、駅の外である以上やめておくべき、可能な限り静かに過ごすべきと進言します。

菖蒲様と来栖の好感度が少し下がりますが、道理がある以上だだ下がりはしませんし、ここは一時的に下がるだけですので問題ありません。

反対したところで葬儀は発生しますが、ここで反対しておかないと菖蒲様が意見を聞いてくる相談イベントが減ります。

相談イベントが減るのはタイムだけで考えるとウマアジですが、減る相談イベントの中に重要なものがあったりしますので反対しておきましょう。

 

葬儀が始まりました。

堅将様の為に祈ってもいいのですが、甲鉄城の上から葬儀の状況を見ます。

ここで葬儀に混じっていると六頭領が民人を焚きつけたり、菖蒲様が抜け出したのに気がつけません。

菖蒲様が葬儀を離れて倉之助と歩荷を連れて行くのを追います。

 

カバネリは人の敵か味方かイベントが始まります。

ここは菖蒲様の見せ場なので陰で見守ります。

菖蒲様には倉之助と歩荷がついているのでフリーで動き始めた無名ちゃんを追います。

途中で来栖に会うので簡単に事情の説明をして菖蒲様のところに向かわせます。

まあ声かけなくても来栖は菖蒲様のところに行くんですがね。

ちなみに無名ちゃんを追わずに残れば、生駒が菖蒲様を襲うイベントで来栖の代わりに菖蒲様を助けることが出来ます。

菖蒲様の好感度は上がりますが、来栖の好感度が下がります。

菖蒲様が押し倒されるまで手が出せないので、押し倒されるまで見ていた無能としてびっくりするぐらい好感度が下がります。

歩荷達は無罪放免だというのに…

 

それはいいとして無名ちゃんを追っても特にすることはないです。

カバネが来たら甲鉄城に乗って出発します。

 

給水場所から無事出発したので今回はここまで。

ご視聴ありがとうございました。



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葬儀【裏】

金属音が鳴る。発砲音は聞こえなかったが銃弾が跳ねたような音だ。

 

「菖蒲様。私の後ろへ。」

 

「わかりました。」

 

菖蒲は堀川の後ろに下がる。

堀川が扉を開けると来栖達が蒸気筒を少女達に向けていた。

 

「カバネは人の敵だ。」

 

「へぇ…」

 

来栖が蒸気筒を向けながら威圧するが少女は面白そうに来栖を見返している。

 

「おやめなさい来栖。」

 

菖蒲から静止の声が飛ぶが、来栖から反論が返る。しかも来栖に蒸気筒を向けられていた少女側にいる男までもが来栖に同調した。

まして自分はカバネだと主張している。

 

(これが跳ね橋を下ろしたやつなのか?会話は普通に成立しているな。)

 

走行中の駿城から飛び降りるつもりなのか扉の方へ男が向かうが、少女が立ち塞がり男に膝を叩き込んだ後、投げて転がす。中々体格差があるというのに、少女は男を軽く転がしたのだった。

 

「カバネじゃなくてカバネリ。身体はカバネでも心は人なの。」

 

少女は腰に手を当て不機嫌を露わにしている。

 

(とりあえず直ぐに交戦とはならなそうだな。カバネは屍の字の如くだが、カバネリ…どういう意味なんだろうか)

 

などと益体のない方向に堀川が思考を飛ばしていると、カバネリ2人は最後尾のボイラー車から出ないという約束のもと乗車の継続が決まった。

 

(2人ともカバネリという存在のようだが無名殿の方が遥かに強いな。堅将様は知っていたのだろうか…私では無名殿には勝てそうにないが男の方は…生駒だったか…生駒は動きが素人だ。殺せずとも行動不能には出来そうだな。)

 

堀川は前方の車両に向かいながらカバネリの2人について考えた。

 

 

 

蒸気筒の整備を武士数名が行っており、堀川もそこに混ざり蒸気筒の手入れを行う。顕金駅に居た頃であれば、上侍が下侍に混ざって過ごすことはなかったが、今の甲鉄城には場所に余裕などなく、武士は同じ車両にまとめておいた方が都合が良い。

 

(今まで甲鉄城に乗り込んだ武士を見てきたが、上侍は私以外居ないようだな。いよいよ肩身が狭いな。私は元服してから、すぐに堅将様に侍っていたが直接下侍と関わることは殆どなかった。上侍と下侍の確執自体はわかっているがどうしようもないな。)

 

吉備土が来栖に今後の不安を漏らしている。来栖は同調することなく、するべきこと、しなければならないことを反論している。

 

(こういうブレないところが下侍に頼りにされる所以なんだろうな。)

 

「配給です。」

 

蒸気鍛治の少女が食糧の入った籠を持って来て、来栖と吉備土に歩み寄り2人の後ろに立ち止まる。

蒸気鍛治の少女が声をかけた訳ではないが、気配が後ろに来た為来栖が振り返り食糧を取ろうとすると、蒸気鍛治の少女が来栖の手をぴしゃりと叩き、少女が年上の武士である来栖に対して手が汚れたままであることを叱り始めた。

 

(九智来栖が言い負かされている…まあ蒸気鍛治の言い分は間違ってはいないが、よく武士に噛み付くものだな。面倒な上侍がいたら今頃折檻されていても不思議ではないのだが、随分と肝の据わった少女だな。今のうちに私は手を拭っておくか。余計な揉め事は起こさないに限る。)

 

堀川が手拭いで手を拭い終わったころ、蒸気鍛治の少女が堀川の前までやってきた。

 

「どうぞ」

 

寝台の下段に座り込んでいる堀川に合わせて少女も屈んで籠を前に出す。

少女の目は堀川の顔ではなく手を見ていた。

 

(これは手の汚れを確認されているな。)

 

格好を見れば上侍だとわかるだろうに、手が汚れていたら容赦なく手を叩くのだろうと少し面白く思いながら、堀川は食糧を受け取った。

 

「態々悪いな。ありがたく頂こう。」

 

声をかけて受け取ると、少女はにっこり笑って別の武士のところに移動した。

 

来栖は堀川の態度を見て安堵していた。

 

(普通の上侍なら今この車両にいる中で1番の上位者である上侍のところに最初に持って行かなかったことで鰍を叱責しただろうし、蒸気鍛治が武士の手を叩いて説教するなどどう取られるかわかったものではなかったが、堀川殿が穏便な方でよかった。…まして配給を配ってまわる蒸気鍛治に礼を言うとは…)

 

周りを見ると吉備土達も目を丸くして堀川を見ていた。

 

(これからの事を考えれば堀川殿が己達の方針にどう出るのか確認しておく必要があるだろう。他の上侍であれば堅将様亡き今、聞くまでもなく菖蒲様すら従えようとするだろうが堀川殿なら話が通じそうだ。)

 

来栖は手入れを終えて堀川に近づいた。

来栖が近づいた為、堀川は顔を上げて来栖の顔を見た。

 

「もう終わるので少しばかり待ってもらえるか?」

 

蒸気筒を拭いながら、堀川は伺いを立ててくる。

 

「えぇ。邪魔をしているのはこちらですから。」

 

蒸気筒を拭い終わると、蒸気筒を横に立てかけ座っている寝台の上を軽く叩き

 

「どうぞ。」

 

と勧めてくる。

上侍らしくない態度に来栖は少し驚きながらも寝台に腰を下ろす。

 

「堀川殿は指揮を執らないのですか?今は下侍である己が指揮を執っておりますが…」

 

来栖は口に出してから言い方が悪いことに気がついた。

 

(これでは堀川殿が職務を怠慢しているから、己が代わってやっているという意味に取られかねない。叱責されるやもしれんな。)

 

吉備土も向かい側で渋い顔をしている。

 

「上も下もない。甲鉄城に乗っている武士は九智来栖の指揮に慣れているものばかりである以上、九智来栖が指揮を執った方が効率的だ。態々私が指揮を執って効率を落とす必要を感じないな。」

 

「そうですか。」

 

(上侍から出てくるとは思えない台詞だ。己の質問の仕方の悪さにも文句一つ言わない。)

 

「ところでそちらの方が年上であるし、必要以上に謙った態度はとらなくて良い。家名で呼ばずとも名前を呼び捨てにしてもらって構わない。カバネと戦闘になった時に一々気にしていられないだろう。他の武士達と同じ話し方で良い。」

 

来栖達にとって、驚愕の要求である。

上侍を呼び捨てにし、来栖が配下にしている話し方で話せと言っている。

 

「しかしそれでは堀川殿の立場が…」

 

来栖は了承しかねていた。

 

「上侍は私しかいないようだし誰も文句は言わないだろう。公の場では控えるにしても、甲鉄城の中では指示が速やかに通る方がいい。話し方に気をつけていたら指示や注意喚起が遅れました。では目も当てられない。」

 

道理である。

 

「では最上も己のことは来栖と。」

 

普段誰からも来栖と呼ばれる中、堀川からだけは九智来栖と呼ばれていた。

 

「わかった。来栖。これからよろしく頼む。」

 

来栖達を見守っていた吉備土達は安堵して食事に手をつけ始める。

 

(しかし来栖様が年上といっても2つしか違わないというのに、随分と譲歩してくれる。乗り合わせた上侍が最上様だけでよかった。)

 

倉之助は蒸気筒の仕上げに取り掛かりながら来栖と最上を見ていた。

 

 

来栖と最上が食事を終えて装備も整えたころ、後部車両が騒がしくなり来栖が駆け出し、来栖に続いて最上も後部車両へと向かう。

来栖はすれ違う民人から、カバネがボイラー車から出てきたと聞き目を吊り上げる。

 

「カバネどもめ…」

 

地を這うような低い声で来栖が悪態をつく。

最後尾のボイラー車の一つ前である民人達の使う車両でカバネリ2人が揉めているのが見えた。

 

「動くな!」

 

来栖が蒸気筒を構えて警告するが、無名の手には刀が握られている。

 

(しまったな。来栖も私も刀は置いてきてしまった。民人が多数残っている車両内での発砲は危険が大きいし、無名殿が無手ならまだしも刀を持っている状態でこちらは蒸気筒のみ。かなり不利だな。今後は敵わずとも刀を常時携帯するか。)

 

最上は蒸気筒の銃身を握り銃床側に手を添えて、無名が切り掛かってきた場合にせめて一撃受け切れるように構える。

来栖の批難に対して生駒が弁明をしているが、無名の態度を見て来栖が引き金を引き絞る。場の緊張は最高潮に高まっている。

 

(来栖が発砲したら無名殿はこちらを殺しにくるだろう。)

 

すぐに動けるように最上が重心を落とした時

 

「無名さん!」

 

菖蒲の声が響いた。

菖蒲の声を聞き、来栖は引き絞っていた引き金から指を離した。

蒸気筒は無名達に向いたままだが、来栖は後ろの菖蒲に視線を向けており張り詰めていた緊張は解かれ、最上も落としていた重心を戻して無名達を観察する。

 

(殺気立っていたのはこちらだけだな。生駒は別として無名殿はただの余裕の現れだと思うが…)

 

菖蒲の説明要求に対し無名は説明を拒否。駆けつけた六頭領は菖蒲を囲んだまま口々に菖蒲に苦言を露わにする。

最上は菖蒲の横まで下がり、菖蒲の腰に手を添えて2歩程前に進ませ、菖蒲の後方を囲んでいる六頭領達との間に入り睨みを効かせる。

無名から挑発の言葉が出て、再び緊張が高まり始めたとき、ゴンゴンと金属を叩く鈍い音が響く。

鈴木が車両の入り口でバケツを叩いて注目を集めた後、給水タンクの損傷を伝えた。

 

(給水タンクの損傷は問題だが、鈴木殿はいい時に来てくれた。しかし六頭領は無名殿の実力をわかっていないのか?顕金駅で操車場に向かう時見ていたはずではないのか?実際の戦いぶりを見ていない私ですら、周りから漏れ聞く話で無名殿は異常な程に強いと認識しているのだがな。)

 

全員の意識が鈴木に集まり、目下の問題に対応する為カバネリ2人から意識が外れたことで最上はため息を吐く。

 

 

線路に設置されている給水塔脇に修理と給水の為停車した。

修理が朝までかかると聞き、菖蒲は民人から要望のあった葬儀を行つもりである事を最上に告げた。

 

「最上。葬儀を行います。何か意見はありますか?」

 

「率直に申しますが反対です。民人が葬儀を望んでいることは聞きましたが、ここは駅の中ではありません。カバネが蔓延る外なのです。篝火を焚き、大勢が甲鉄城から出ていれば、カバネに嗅ぎつけられます。必要な人員以外が外にいれば避難も遅れます。」

 

「最上。」

 

来栖は最上を睨み付けてはいるが、道理の通らない事を言っているわけではないからか、名前を呼んだきり何も言わない。

 

「私も祈りたいのです。お父様のことを…」

 

菖蒲にそう言われては最上にはもう何も言えない。

堅将を轢き殺すように指示を出したのは自分であるし、主君の死を悼みたいと希望する総領の意見を無視する事はできない。

最上は視線を落とし

 

「周囲の警戒に行って参ります。」

 

と告げて艦橋から出て行った。

 

 

菖蒲は出て行く最上を見送った後、

 

「来栖。私は間違っているのでしょうか…」

 

来栖に対して問いかける。

菖蒲も最上の言い分が正しいことはわかっているのだ。

ただ正しいからといって、数多くの人達の感情を納得させるものではないこともまたわかっている。

 

「間違ってなどおりません。このままでは民人達の不満や不安は溜まるばかりです。甲鉄城内で暴動など起こされる訳には参りません。」

 

来栖の肯定で菖蒲は気を取り直し葬儀の為に指示を出し始めた。

 

 

 

篝火が焚かれ葬儀が始まった。

最上は甲鉄城の上から葬儀を眺めていた。

堅将を轢き殺す指示を出し、更には葬儀の開催に反対した以上、あまり篝火に近づく気にはなれなかった。

菖蒲の姿を眺めていると急に振り返った為、菖蒲の視線を追うと六頭領の間瀬が民人を数人集めてコソコソとしている。

 

(葬儀そっちのけで何をしているのやら…)

 

民人達が移動を始め、菖蒲も倉之助と歩荷を連れて後を追う。最後尾のボイラー車方向である。

六頭領はカバネリに対する不満ばかり漏らしていたことから、恐らく民人達にカバネリを襲撃させるつもりなのだろう。

 

(襲撃した民人をカバネリが傷付ければ、それを大義としてカバネリを追い出すつもりか。)

 

最上は甲鉄城の上から菖蒲の後を追う。

 

 

ボイラー車に向かう民人を菖蒲が止めているようだが、最上の位置からは菖蒲と民人達の声は聞こえない。

菖蒲が歩荷を連れてボイラー車に上がって行くのを、目で追っていると、無名が車内から飛び出しボイラー車の下にいた民人達に刃物を構える。

 

(最悪だ。…菖蒲様だけでもお護りしなくては…しかし無名殿相手に護りきれる自信がないな。来栖も連れてくるべきだったか…)

 

最上は蒸気筒を襷掛けにして刀に手をかけ、有事は菖蒲の傍に降りられるよう車両の上を進む。

なにやら間瀬が民人を煽っているようで、ジリジリと民人達が囲みを小さくして行く中、菖蒲から静止の声が飛ぶ。

菖蒲の静止の態度と、動揺して意識を逸らした民人達に気を削がれたのか無名はその場を離れて行く。

 

歩荷も倉之助も菖蒲を見ており無名を追うものはいない。

 

(生駒は対話する態度を示しているし、歩荷も倉之助もいる。私が無名殿を追うか…)

 

無名は炊き出しをしているところに歩いて行く。

もう少し距離を詰めるべく最上が車両の上から降りると少し離れた場所に来栖がいた。

来栖に駆け寄ると訝しんだ表情をこちらに向ける。

 

「来栖。民人がカバネリを襲撃しようとした。菖蒲様が止めに入られて怪我人はいないが無名殿が出歩いてしまった。生駒と民人はまだボイラー車だ。菖蒲様も倉之助と歩荷とボイラー車にいる。私は無名殿を監視する。来栖は菖蒲様の元へ。」

 

簡潔に状況を伝えると来栖は頷きボイラー車へと向かった。

 

 

最上は少し離れた場所から無名を監視していたが、無名は子供達と戯れていた。

 

(ああしていると普通の少女なのだがな。)

 

無名が子供達から離れて炊き出しの方へ向かい、炊き出しわしている女達に話しかけているようだが、最上の位置からは会話は聞こえず女達が動揺しているのだけが確認できた。

どうあれ揉められてはまずいと、最上は無名と女達の間に入るべく駆け寄って行ったが、無名と女達の間に入る前に悲鳴が響く。

篝火方向からカバネだと叫ぶ声がする。

篝火を見遣ると、カバネと思われる女がふらふらと歩いていた。

 

(あれは甲鉄城に乗車していた民人ではないのか⁉︎潜伏期間だったのか!)

 

無名が走り出し、通り道にいた武士からすり抜けざまに刀を掠め取り、その勢いのまま刀でカバネを刺し貫いた。

 

(刀で心臓被膜を貫いた?刀を2本掠め取ったのは、貫くためか?…いや。わかったところで再現不可能な技術だな…)

 

鰍と話していた無名が何かに反応し、今の状況とは関係のない方へと視線を向ける。

 

(視線が遠い。何を見ている?)

 

最上も視線を向けるが目視で確認できるものはない。

しかし車上の見張り役には見えていた。

 

「カバネだ!数多数!こちらに向かってきている。」

 

民人達はもう無名のことなど意識の外で我先にと甲鉄城に走り出す。

 

「早く甲鉄城へ!老人や子供に手を貸してやれ!」

 

凡そ半数が車両に乗り込んだころ、来栖達がこちらへ戻ってきた。

とうとう目視でカバネの光を確認できる距離まで迫ってきていた。

最上は蒸気筒を構えながら、民人達の最後尾付近から声をかけ続ける。

 

少しして民人の収容が完了した。

武士は甲鉄城の車両脇の通路や車上から、向かってくるカバネに発砲している。

 

(車両に取り付かれることなく逃げ切れそうだな。)

 

甲鉄城が速度に乗り始めたころ、最上は車上からカバネとの距離を確認して艦橋へと向かった。



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ワザトリ襲撃

おっさんたちが少女から大切なものを取り上げるRTAはーじまーるよー。

 

前回は給水場所から離脱させたところまで進みましたのでその続きです。

 

まず艦橋に行きます。

武士の場合艦橋に行くか、自分達の待機場所で待つかを選べます。

艦橋に着くと来栖だけが待機してますが、六頭領のおっさんたちがきたら菖蒲様もすぐに来ます。

 

おっさんたちは菖蒲様の責任追及をしますが、完全にいちゃもんつけてるだけって言うね。カバネリがカバネを呼ぶとか超無駄じゃん。無名ちゃん1人の方がよっぽど効率いいわい。

ここは選択肢が出ます。

菖蒲様を庇うか庇わないかです。

もちろん庇います。来栖の好感度は稼げるだけ稼いでおかないとワザトリ戦で死ぬのでね。

あぁ〜菖蒲様。ダメだって親鍵渡したらぁ。とはいえ17歳の少女がおっさんたちによってたかって責められてめっちゃ可哀想なので仕方ないね。

菖蒲様と来栖が艦橋を出て行きます。

はい。また選択肢ですね。着いて行くか行かないか。

今回はついて行きません。

 

というのもまず最初の選択肢ですが艦橋にこなかった場合、菖蒲様と六頭領のゴタゴタをスキップできるRTA的にはお得な選択肢のように見えます。

しかし菖蒲様と六頭領のゴタゴタを見た後艦橋に残るルートが1番タイムが短くすみます。

何故ならこの後艦橋以外の場所にいると、ボイラー車を切り離そうとした奴らがカバネに殺されて、車内にカバネが侵入するシーンのムービーが流れます。割とムービーが長いのでRTA的には(見る必要が)ないです。

しかもその後バリケードを作るミニゲームまで差し込まれますのでここは最初に艦橋に来て居座るのが正解なんですね。

艦橋に居座った場合、伝声管から連絡が入ってから前線に向かうとバリケードが完成しています。

菖蒲様も既に来ています。

 

このイベントは珍しくネーム有りのモブキャラの生き死にが変動するイベントです。何もしなかった場合原作通り結構死にます。

 

ちなみに原作よりも死なせることも可能ですが後が厳しくなるので地獄を作りたい兄貴以外はやめておきましょう。原作より死なせるルートを選んでもメインメンバーの菖蒲様、来栖、吉備土は絶対死なないんですけどね。

 

一番早くイベントを終えるには倉之助くんを助けて、来栖も助けるルートになります。

倉之助くんはね。死ぬときムービーが入っちゃうので(助けない理由が)ないです。ここで倉之助くんを助けると火薬樽が爆発しないので、自分で爆発させないと原作よりも死なせるルートに入ります。

 

この時刀を装備していないと死にますので葬儀イベント前から装備しておく必要があります。(1敗)

なお武士の待機場所に行けば装備できるのでRTAじゃないなら葬儀イベントの後でも装備できます。

倉之助くんを助けるなら刀をお忘れなく!

 

来栖の件は本来生駒が来るまでジリ貧防衛戦になるんですが、来栖を助けると生駒が来るまで前線を支えてくれる上に、生駒をプレイキャラにして行うワザトリ戦が発生しません。

 

はい。イベントが始まりました。倉之助くんの真後ろをキープします。来栖が戦線を離れたら、タゲを倉之助くんにしておきます。

倉之助くんが盾ごとダイブしそうになるのでここで助けます。

助けたら上侍の技能の居合切りを使いましょう。下侍なら横なぎで大丈夫です。居合切りの方が威力があるってだけで誤差です。誤差。

自爆イベントをキャンセルしてしまいましたので、火薬樽に向かってジャンプ!メニューの持ち物画面から自決袋を捨てます。カバネがいい感じに集まったら盾側のカバネにジャンプすると配管工の赤い奴みたいにさらにジャンプすることができます。

この時来栖の好感度が一定値を下回っていると援護射撃が来ません。

現場にいないのに来栖の好感度が適用されます。

はい。爆発。汚ねえ花火だ。

爆発で吹っ飛ばされたホモ君は基本的に着地できずダメが入ります。

カバネに噛まれたダメじゃないので問題ないです。

爆破イベントをこなせばすぐに来栖が戻ってきますのでワザトリ戦のために蒸気筒を準備します。

 

はい!ワザトリくんが来ましたね。

菖蒲様のちょっと前まで行きましょう。ここで前に出過ぎるとホモ君にタゲが移って死にます。ギリギリまで来栖に相手をしてもらいます。

助けに入る際はタゲをワザトリくんではなく来栖にしておく必要があります。倉之助くんと一緒ですね。

そろそろですね。

 

くるぞ。くるぞ……今!!

おらっ!あっちょっ…あっ…

 

ふぅ…なんとかなりましたね、

さっきのタイミングで攻撃すると来栖をワザトリくんの攻撃範囲外に出すことができます。

来栖に一撃入れたら直ぐにタゲを切り替えて攻撃この時使うのは蒸気筒にしましょう。

一撃打ち込んだらすぐにガードに入ります。さっきここでワザトリくんがクリティカル出してきましたね。

ワザトリくんはクリティカル出る確率が低いんですが、クリティカルの際はジャスガじゃないとスタンが入ります。

スタンが入っても来栖が無事なら援護射撃の時に回収してくれます。

ただし好感度が低いと回収してくれませんので気をつけてください。

来栖が回収してくれたら刀を貸してあげましょう。

 

さっきから何やらホモ君にスリップダメージが入ってるんですが?

なんでスタンだけじゃないの?

バッドステータスが付いてます。負傷ってやつですね。

バッドステータスについて説明します。

先程のスタン、負傷のほかに出血と感染と気絶があります。

スタンは一定時間行動不能。

負傷はスリップダメージが入ります。

出血はスリップダメージが入る上にカバネからのヘイトが集中します。

感染はスリップダメージがすごい勢いで入ります。カバネウイルスに感染してるので体力が尽きたらカバネになります。

感染した時に体力が半分以上あり、生駒が近くにいた場合、武士以外はカバネリルートに入れます。

気絶は戦闘パート以外で体力が尽きるとなります。イベントに一切参加出来なくなり、気絶の回復後も一定時間選択肢を選べなくなり原作ルートを進みます。

 

あれ?ちょっと不味いかも知れません。ホモ君は体力低めだというのに、クリティカルで思いのほかダメが入ったのとスリップダメージでやばいです。

生駒がワザトリくんを倒すまでは戦闘扱いなので戦闘中に体力がなくなると死にます。

戦闘パートが終了していれば先程の気絶のバッドステータスが入ります。

戦闘パートが終了して一定時間が経つと治療してもらえるのでスリップダメージを止められるんですが…え?これ間に合う?生駒ぁ!!早くぅ!!嫌ぁ!

キタァー!!早く早く!

はい。ワザトリくんが死にました。アーッ!!勝鬨とかいいからぁ!!早く治療したげてよぅ!

 

……はい。気絶入りましたね。ガバりましたがこのまま続けます。

今回はここまで…ご視聴ありがとうございました…。

 




設定とかガバガバかも知れませんが深く考えずに読んでいただければ幸いです。


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ワザトリ襲撃【裏】

艦橋に菖蒲の姿はないが来栖が控えている。

菖蒲が艦橋に戻る前に、六頭領が艦橋へ来て大声で菖蒲を呼ぶ。

急いで戻ってきた菖蒲に対して、六頭領はカバネによる襲撃は、カバネリを乗せたためだとして責任を追及する。来栖は六頭領の態度が無礼であると反論している。

 

(カバネリがカバネを呼ぶ…ね。少なくとも無名殿はカバネなど呼ばずとも、甲鉄城の人間を皆殺しにできそうだがな。)

 

「六頭領の各々方。駅の外であれだけ盛大に篝火を焚いて、カバネに嗅ぎつけられないと思っておられたか?カバネリがカバネを呼ぶという話より、篝火に誘き出されたと考える方がよほど自然だが。そして、葬儀の件は民人達からの強い申し出であったと認識しているのだが私の勘違いか?」

 

最上はため息を吐いた後、六頭領に視線をめぐらせながら皮肉を告げる。

六頭領からすれば菖蒲達よりも若い武士に口答えされるなど面白くないことこの上ない。

まして反論の内容は自分達の因縁じみたものと違い痛いところを突いてくる。

 

「黙れ若造が!!菖蒲様と話しておるのだ!!引っ込んでいろ!!」

 

大声で怒鳴りつけるが、最上は六頭領を睥睨するばかりだ。

六頭領は最上をやり込める事を諦めたのか、菖蒲に視線を戻し慇懃無礼な態度で菖蒲を責め立てる。

来栖は声こそあげるが、手は出さないと確信があるからか六頭領は来栖を気にしない。

菖蒲の目が不安に揺れているのが、最上には確認できた。

 

(これは菖蒲様が折れるか…)

 

とうとう菖蒲は親鍵を手放した。

親鍵を受け取った阿幸地は侑那に山越えルートへの変更を指示する。

菖蒲は反論するが阿幸地に強く出られずに黙り込んだ。

 

「親鍵を受け取った上で指示を出すのだから、これ以降阿幸地殿が責任を負われるということでよろしいな。」

 

「歳若い菖蒲様に変わり、私が責任を持って金剛郭へと導こうではないか。」

 

最上の言い分に、阿幸地が尊大な返答をする。

 

(六頭領…数が多くて面倒だな。きっとこれから好き勝手動き始めるのだろうな…監視するにも目も手も足りない。)

(しかし私が菖蒲様に取って代わるわけにもいかぬし、かといって六頭領を武力で抑え込むのも現実的ではない…困ったな…こうなると上侍のお歴々がいてくれたらなどと考えてしまうな。)

 

菖蒲と来栖が艦橋から出て行く中、最上は艦橋に残り阿幸地の監視をすることにした。

 

 

 

 

菖蒲は最上が自分について来なかったことで、一連の件で失望されたのだなと考えていた。

 

「来栖。…私は…」

 

何かを口に出したいのに言葉が出てこない。

 

「菖蒲様…」

 

来栖も菖蒲にどう声をかけて良いかわからない。

2人とも意味のある会話をすることはなく吉備土達と合流した。

 

「来栖。最上様はどうした?」

 

「艦橋に残っている。」

 

吉備土からの質問に来栖は簡潔に返答する。

菖蒲は視線を落とし呟いた。

 

「私が信頼を失ったから…でしょうか…葬儀の件、最上は反対していました。押し通したのは私です。」

 

吉備土達は艦橋にいたわけではない為事情が分からず来栖に目を向ける。

来栖は六頭領達の言い分と最上の言い分、そして親鍵を渡したことを説明した。

 

「菖蒲様。最上様は恐らく六頭領を監視しているだけかと思います。阿幸地殿に責任の所在を確認したというなら、何かあれば責任を追及して追い落とすつもりかと。」

 

「…そうなのでしょうか」

 

菖蒲は自信なさげに顔を上げる。

 

「最上様は元々菖蒲様の護衛ではありません。菖蒲様の護衛に来栖が付いている以上、単純な武力という意味では最上様は必要ではありません。ですが六頭領の動きを監視し、政の方面から攻撃する力は、乗り合わせた武士の中では最上様位しか持ち合わせておりません。そういうことは来栖には全く向いておりませんから。」

 

吉備土が最後に事実ではあるが余計な一言を付け加えた為、来栖は黙ってじろりと吉備土を睨む。

菖蒲は来栖達のやり取りを見て少し気持ちを持ち直した。

 

 

 

最上は、阿幸地がカバネリ2人の乗るボイラー車を切り離す指示をした時、口を出さずにただじっと観察していた。

 

(そろそろ切り離す頃合いか?)

 

などと最上が考え始めたころ、甲鉄城の天井に物が当たっている音が響く。

阿幸地は天井を見上げて視線を彷徨かせている。

指示を出す様子がない。

 

「阿幸地殿。恐らく高地からカバネが甲鉄城に取り付いたぞ。」

 

「わかっている!珍しいことではないだろう!いつも通り銃眼から迎撃させれば良い。」

 

「なら早く指示を回せ。ここで喚いても他には伝わらんぞ。」

 

「くっ!」

 

阿幸地が悔しげに伝声管に取りつこうとした時、伝声管から

 

「カバネだ!カバネが入ってきた!どんどん進んできてる!七両目から後ろはもうダメだ!」

 

悲鳴じみた報告が入ってくる。

阿幸地と修蔵が酷く動揺している。

 

(ここにいても時間の無駄だな。)

 

最上は艦橋から黙って出て行った。

前方車両に逃げる民人とすれ違いながら、後方車両に向うとバリケードの設置が間もなく終わるころであった。

バリケード後方に詰める武士の中に菖蒲の姿がある。

 

「菖蒲様。何故こちらに。前方車両にお下がりください。」

 

「いいえ。私も戦います。ここから先に行かせる訳には参りません。」

 

菖蒲は強い眼差しで最上に返す。

最上がちらりと来栖の様子を窺うが、来栖は武士達に指示を飛ばしており、菖蒲を下げるつもりはないようだ。

 

「承知しました。」

 

最上がそう返したころ丁度バリケードが完成した。

 

 

 

カバネが少し手前に設置したロッカーを倒しこちらへと向かってくる。

吉備土の号令で掃射が始まる。

菖蒲の蒸気弓や武士の蒸気筒で応戦するも、このままではいつか押し切られる。

来栖は吉備土から接近戦の可能性を示され刀を取りに前方車両へと下がっていった。

 

 

接近してくるカバネに対し手数が足りていないことから、とうとう均衡が破られた。

倉之助の支える盾にカバネが取り付き引き倒しにきたのだ。

 

「手を離せ!」

 

最上は前のめりに体勢を崩した倉之助の襟首を左手で掴み、後ろに引きつつ盾に右足で蹴りを入れる。

倉之助は転倒したが、他の盾よりも後方である。

一方最上は倉之助を後ろに引きつつ、全力で盾を蹴り飛ばしたことで、盾より一歩前に出ている状態だ。

最上はカバネの為というより無名への対策として、刀を常時持ち歩いていた。

倉之助を引っ張る為に蒸気筒から離していた手を腰の刀へと伸ばし体勢を低くして横なぎの一線をする。

横なぎに振られた刀を数体のカバネは後退して避け、後退しきれなかったカバネは大腿を深く切られて仰向けに転倒した。

最上はそのまま下がることなく壁際に置かれた火薬樽へと飛び乗った。

 

「最上!」

 

菖蒲が最上を呼ぶが最上は集まるカバネを見ているだけで答えない。

最上の援護をしようにも火薬樽があるため発砲はできない。

最上は自決袋を樽の上に落とし、盾側から寄ってくるカバネ目掛けて飛び出した。カバネの顔面を踏みつけながら叫ぶ。

 

「撃てぇ!!」

 

最上の指示に一斉に火薬樽に向けて発砲する。運良く誰かの撃った弾が自決袋に当たったのか火薬樽は爆発した。

爆風に煽られた最上は盾の上を越え武士達の後方に落ちた。

最上にはカバネリのような身体能力はない為着地に失敗し豪快に転倒しそのまま対角線の壁に上下逆さまに激突した。

 

「…いったぃ」

 

無様にひっくり返ったまま蚊の鳴くような声で最上が声を漏らす。

倉之助が駆け寄り最上を介抱する。

カバネはまだまだ残っている。

 

「キリがない。」

 

吉備土が小さく漏らした時、来栖が戻ってきた。

 

「菖蒲様。お下がり下さい。」

 

一言告げ前に出る。

来栖は向かいくるカバネを何体も叩き切る。

 

「倉之助…。来栖って本当に人間かな?」

 

最上が倉之助の手を借りながら立ち上がりつつ、ぼそりと言う。

最上が決死の覚悟で爆破特攻してまで殺したであろうカバネの数を越えたあたりで遠い目になる。

着地時に手放した刀を拾い鞘に戻しつつ様子を見ると綺麗に片付いていた。

 

(埒外の強さだとは思ってたがこれほどとは…万が一カバネリ2人と戦うことになったら来栖には無名殿をお願いしよう…ちょっとついていけない…)

 

「最上様。大丈夫ですか?」

 

「今はまだ…落ち着いたらしばらく使いものにはならないと思うが。」

 

雅客が蒸気筒を拾い装着している最上に近づいてきて声をかける。甲鉄城に乗ってから来栖以外の下侍から声をかけられたのは初めてだった。

 

「来栖!!」

 

吉備土の大声に全員の視線が来栖に向く。

刀を携えたカバネが来栖と衝突した。

一合目で来栖が受け流せなかった時点でどう考えても強い。

最上は蒸気筒の安全装置を外しつつ盾の前にいる菖蒲の前に控える。

来栖とカバネの激しい打ち合いに手を挟む余地がない。

 

(これはどう考えても私が入ったら邪魔だし死ぬな。)

 

来栖がカバネを弾き爆破により開いた穴まで後退させる。

このまま車外へ放り出せれば良かったがカバネは体格が大きく両手を広げて踏み留まる。

来栖は突きの構えでカバネに向かうがカバネの心臓に当たり来栖の刀が折れる。

来栖の刀が折れた瞬間最上は駆け出した。

刀が折れたことで一瞬動揺した来栖は隙だらけであった。最上は来栖の腰骨辺りを思い切り蹴り飛ばす。来栖と最上の間をカバネが突き出した刀が通り抜ける。カバネが前に出たことで最上とカバネは刀の間合いよりも近い。

蒸気筒を縦に構えカバネの顎下へ押しつけて引き金を引いた。

頭を撃ち抜かれたことでカバネは僅かに後退したが車外に放り出すには足りない。

最上がもう一撃叩き込もうとする前にカバネの左手から袈裟懸けの一撃が降ってくる。

蒸気筒を頭上に掲げ受け止めるが、力が強くそのまま膝をつく。

 

「体勢そのまま!撃てぇ!」

 

吉備土の号令で掃射が始まる。

来栖は最上に蹴られた後転倒していたし、最上も膝をついたままだ。

跳弾の危険はあるが、直接誤射する心配はない。

カバネの意識が吉備土達に向き後退し始めたことから、来栖は身を屈めたまま座り込んだままの最上に近づいて最上を抱えて後退した。

盾の後ろにつき最上から手を離す。

 

「さっきは助かった。最上は大丈夫か?」

 

来栖が最上に声をかけるが

 

「いや。もう無理。」

 

情けない応えが返る。

倉之助が駆け寄り最上を立たせようとするが、膝が笑っており立てそうもない。本人の申告通り無理そうである。

 

最上が刀を鞘ごと引き抜き来栖に差し出してくる。

 

「重さも反りも違うだろうから、使いづらいかもしれないが無いよりマシだろう。使ってくれ。」

 

「助かる。」

 

来栖は差し出され刀を受け取った。

 

 

最上は引き摺られて大きく後退した。

前線では来栖が刀で主力を担いつつ、吉備土達が蒸気筒で援護をしている。

来栖の集中力と体力が尽きれば戦線は崩壊するのが目に見えている。

長期戦は明らかにこちらが不利であるが、こちらには決定打がない。

全員の顔に焦りが浮かんでいる。

 

その時車上から男の声が響く。

 

「誰でも良い。俺に血を寄越してくれ。俺が其奴を倒す!!」

 

生駒が天井に開いた穴からこちらを覗き込んでいる。

 

「そうか。あいつの武器なら。金属被膜を破れる。お前達も見たろう。あれがカバネの心臓を貫くのを。」

 

吉備土が生駒の戦略価値を示した。

菖蒲は吉備土の言葉を聞いてすぐに駆け出した。車上に上がる梯子を登って行く。

ハッチを開き生駒を呼ぶ。

 

「これは契約です!私の血と引き換えに!生駒!戦いなさい!」

 

菖蒲が自分の手首を護身刀で斬りつけ生駒に血を差し出す。

血の匂いに釣られたカバネが車上に上がるべく天井に開いた穴に取り付いた。

来栖がすぐさまカバネの胴体に刀を突き刺しながら取り付く、来栖に続いて数名の武士がカバネを引き摺り下ろしにかかる。

カバネが天井から落ちると同時に生駒が天井からカバネ目掛けて落ちてくる。起きあがろうとしたカバネの上にそのまま着地し、カバネの心臓に武器をあてがう。

蒸気筒とは少し違う発砲音がした後、前線は静まり返った。

少しして菖蒲が左手を掲げ声を上げる。

 

「六魂清浄!」

 

吉備土が続き勝鬨があがる。

 

 

生駒が来る少し前から意識を保つのに苦労していた最上は壁に背を預けたまま完全に意識を手放した。

 




ワザトリ君の倒し方はアニメより漫画の方に寄せました。
あの運動性能を持つワザトリ君が、生駒にあっさりひっくり返って起き上がりもせずにトドメを刺されたのがなんとも言えないもので。漫画だとよってたかって押さえ付けてたので此方の方が個人的にスッキリしました。


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幕間

最上が意識を落としていることに最初に気がついたのは歩荷だった。

歩荷は吉備土の元に行き、最上を運んでくれるように声をかけた。吉備土の隣で来栖もその話を聞いていた。

 

「寝落ちしているのか?」

 

「寝落ちっていうか気絶じゃないのか?」

 

来栖が少々呆れた表情をしているのを見て、吉備土は笑いながら最上を背負う。

 

「顕金駅を出てから、短時間の仮眠しただけだろ。葬儀の時もあっちこっち動いてたし、俺たちの苦手な腹芸も担ってくれてたわけだしな。なにより倉之助と来栖の命の恩人だから少しくらい休ませてやろう。」

 

「む?倉之助もか?」

 

「そういえば来栖は刀取りに行っていていなかったからな。凄かったぞ。壁に大穴開けたのも最上様の策だしな。」

 

「目方が軽そうだから爆風で盛大に吹き飛んで着地に失敗してたな。」

 

「どこから落ちたんだ?壁に激突したとき凄い音してたが。どこか痛めてても不思議じゃないぞ。」

 

「来栖様を助けに入った時は、これは最上様死んだなって思った。」

 

「受けたのが蒸気筒じゃなくて刀だったら、刀ごと叩き斬られてそうだったよな。」

 

吉備土と来栖の会話に雅客や歩荷たちが混ざってくる。

来栖以外は基本的に最上とは距離を置いていたが、今回のことで本人の預かり知らぬ間に距離が縮まったようだ。

 

「吉備土。最上は大丈夫でしょうか?」

 

菖蒲が心配そうな顔で駆け寄ってきた。

 

「とりあえず五体満足ではありますね。意識がないのは怪我そのものより体力が尽きただけだと思うので、寝台に放り込んできます。」

 

菖蒲が気にし過ぎないよう、努めて軽い調子で吉備土が返す。

 

「よろしくお願いします。私は艦橋へ向かいます。指示すべきことは沢山あります。阿幸地様には親鍵も返してもらわなくては…来栖。着いてきてください。」

 

「はい。菖蒲様。」

 

菖蒲は今までの不安に揺れる表情ではなく、しっかりと顔を上げ来栖を付き従えて前方車両へと向かう。

 

(最上様。阿幸地殿から親鍵を取り上げるところに立ち会えなくて残念だろうなぁ。)

 

 

 

最上の意識が浮上するが、それと同時に身体の至る所が痛み、小さくうめき声が漏れる。

 

「最上様。目を覚まされましたか?」

 

最上が目を開けると雅客と倉之助がこちらを窺っている。

 

「…すまない。どのくらい寝ていた?」

 

「大体一刻位ですよ。起き上がれますか?」

 

倉之助に手助けしてもらいながら起き上がり寝台から足を下ろす。

あちこち痛めているのは確かだが、とりあえず首に激痛が走り首が回らない。

 

「状況は?」

 

首に手を当てながら倉之助を見て状況を尋ねる。

 

「現在車両の応急処置や清掃、怪我人の介抱を民人一丸となって行っているところです。」

 

「それと、親鍵は菖蒲様が阿幸地殿から回収しましたよ。」

 

倉之助の言葉に続き雅客が親鍵の行方を教えてくれる。

 

「そうか。それはなにより。まぁ…あれで返却してなかったら、少し考える必要があったな。」

 

倉之助は言葉のとおりに受け取ったようだが、雅客は最上の薄笑いを見て言葉の裏を察して少し引いた。

 

(考えるのは親鍵の返却如何じゃなくて阿幸地の扱いなんだろうな…。割と来栖を立てて扱うから上侍らしくないと思ってたがやっぱり上侍だなぁ。)

 

「倉之助。菖蒲様に最上様が起きたことを伝えてきてくれ。」

 

「いや自分で…「いっておきますが、右膝の怪我が結構酷いですよ。大人しくしていてください。」

 

雅客は最上の反論に被せて、負傷状況を伝える。倉之助は雅客の指示に従い退室していった。

 

「来栖を助けてカバネからの一撃を防いだ時、崩れ落ち方が少し変でした。変な足のつき方をしていたんですかね。結構腫れが酷いので包帯を巻いてあります。数日は安静にしておくようにと菖蒲様からのご指示です。」

 

「…承知した。…そういえばカバネリ2人の処遇はどうなった?」

 

「乗車の継続が決まりましたよ。…それに伴い、血の提供者を募っています。カバネリは人の血を必要とするようですから。」

 

「提供者は多い方がいい。どの程度の頻度でどのくらい摂取するのか知らないが、提供者は可能な限り間隔を開けた方がいい。提供する量にもよるが最低でも一月は間隔を開けたいな。失った血は数日で戻るようなものではない。誰がいつ提供したのか記録化した方がいい。」

 

雅客は呆けた表情で最上を見ている。

 

「なにかおかしなことを言ったか?」

 

「いえ…血の提供に不快感とかはないですか?…それに最上様は医学の心得がおありで?」

 

「菖蒲様がお決めになったのだろう?ならば従うのみだ。カバネリの有用性は理解しているつもりだ。医学については聞きかじり程度だな。乗車している民人に、医学の心得のあるものがいるなら詳しく聞いておいた方がいい。」

 

「医学知識のあるものなど甲鉄城にはおりませんよ…。」

 

雅客は年下の上侍は、自分達と頭の出来が違うのだな。と実感した。

前方車両側の扉が開き、菖蒲と来栖が入ってくる。

 

「最上。具合はどうですか?」

 

「菖蒲様。職務に従事できないばかりか、ご足労をおかけして申し訳ありません。首を痛めたようで今は首が周りません。右膝についてはまだ確認しておりませんのでどの程度支障があるかわかりかねます。」

 

「よいのです。数日は何もせずにゆっくり療養してください。…あぁ。それと親鍵はきちんと返却されました。最上には手間をかけさせてしまいましたね。」

 

「ありがとうございます。親鍵が菖蒲様の手元に戻りましたこと喜ばしく思います。手間など特にございませんでした。」

 

「ふふっ。最上は阿幸地様に随分手厳しくしたのですね。阿幸地様が気にしておりましたよ。」

 

「最初から態度を変えた覚えはございませんが。我々は四方川家に仕えているのであって、親鍵の持ち主に仕えている訳ではありませんから当然の対応をしたまでです。」

 

「そうですか。」

 

菖蒲はにこにこと笑顔を浮かべている。

 

「あれほどの大口を叩いておきながら甚大な損害を出したのですから、首の一つでも差し出して欲しいものですが、民人をまとめる上で有用である以上難しいところですね。六頭領に死傷者はおりますか?」

 

「間瀬様と萬鬼様が亡くなられました。他の方はご無事ですよ。」

 

菖蒲は親鍵を取り戻したことに喜び、処罰などといったことまで考えていなかったことを恥ずかしく思った。

確かに多くの民人が亡くなった。

ただそれは菖蒲が親鍵さえ渡さなければ起きなかった事態でもある。

 

「ふむ。悪くありませんね。特にあの2人、カバネリを排除するために、コソコソと小賢しい真似をしておりましたので。天祐和尚は民人に寄り添ってはおりますし1番弁えております。修蔵殿や生松殿は阿幸地殿よりはでしゃばらない。今回の件で阿幸地殿の頭を抑えられたのは不幸中の幸いです。」

 

「そ…そうですか。」

 

「菖蒲様は思うようになさいませ。進言こそ致しますが、私の意見はあくまで一意見として取り扱ってください。」

 

「わかりました。これからもよろしくお願いしますね。」

 

「お役に立てるよう精進して参ります。」

 

「それでは私は艦橋に戻ります。最上。くれぐれも安静にしていてくださいね。」

 

「はい。御心遣いに感謝いたします。菖蒲様もご無理をなさいませんよう。」

 

菖蒲は最後に笑顔を浮かべ来栖を伴って戻っていった。

菖蒲の姿が見えなくなって、少ししてから雅客が口を開く。

 

「最上様。普段からあんなこと考えてるんですか?」

 

「あんな。とは?」

 

「いや…六頭領達のことですよ。」

 

「甲鉄城に乗るまでは六頭領については気にしたことはなかったな。堅将様がおられれば、たぶん今も間瀬辺りが小賢しい動きをしているな程度の認識だったかと。それはアレらに主君を立てる気があるか否かの違いだ。立てる気がないのなら、我々が抑える必要もあるだろうと思っていただけだ。2年前の事件の際、私は元服前であったので特に関わりはなかったが、上侍の浮つき具合は私の目にも入っていたのでね。余りにも目に余るなら間瀬殿達には消えてもらうのもやぶさかではなかったが、丁度よく儚くなっていただけた。」

 

「そうですか…。我々下侍には考えもおよびませんでしたね。」

 

「適材適所ということでいいのでは?顕金駅を取り戻す日がくればそうも言ってられないが、現時点ではお前達みたいな純粋に主を立て守る存在の方が必要だろうし、計謀を用いるものなど1人いれば充分だ。菖蒲様が献策を採用するかは別として、耳を傾けてくれさえすれば注意喚起くらいにはなるだろう。」

 

「はぁ…。我々には分からん世界ですな。」

 

「性根がまっすぐなんだろ。顕金駅再興のためには、いずれ来栖の配下も1人くらい曲げておきたいが。」

 

最上がくすりと笑う。

性根がまっすぐだと言われて嫌な気はしないが、言っているのは上侍とはいえ元服してそう経っていない最上であることは複雑である。

 

(やっぱり最上様は怖い人だな。来栖には到底出来ないことを、できる人がいるのは助かるがな。)

 

倉之助が戻って来たのをみて、雅客はこの話題から離れることにした。



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八代駅

作戦とは何か考えさせられるRTAはーじまーるよー。

 

前回は私のガバで…はい。…ホモ君にバッドステータスが付きましたね。

 

とりあえず噴流弾の試射部分からスタートです。

ホモ君松葉杖ついてますね。

まぁここはバッドステータス付いてなくても変わらないのでボタンを連打しておきましょう。

ここ見るといつも思うんですが、鈴木さんと生駒は顕金駅にいた頃に兵器開発させておけばもっと凄いことになってそうですよね。

生駒も自分のツラヌキ筒じゃなくて、噴流弾を駅にいた時に作ってたらめちゃくちゃ評価されたと思うんですよ。

よっぽど自分が殺したかったのね。

顕金駅は駿城整備がメインの駅だから兵器開発とかは別の駅だったんでしょうか。

 

おっとここで刀の話題になりましたね。

武士限定ですが刀をワザトリ戦で装備欄に入れておけばこの段階で金属被膜刀を貰う約束ができます。

もし使わなくてもワザトリ戦では刀を装備欄に入れておきましょう。

はい。なんもないのでボタン連打で進めましょう。

 

甲鉄城が止まりましたね。八代駅手前に着いたようです。

ホモ君は試射してた場所においてかれましたね。君たちホモ君嫌いなの?怪我人おいて行くんじゃないよ!

艦橋に行かないと話が進まないので向かいましょう。

ホモ君が移動し始めると、甲鉄城も動き始めます。

移動速度が遅いですねぇ。いつもの半分くらいでしょうか。

では向かいながら説明しますがこれは艦橋に行かない限り話は進まず甲鉄城は走り続けます。

なので今回のは本当にロスです。

武士以外の場合はそもそも試射に行くか自分達の車両に残るかを選ぶことができます。

武士は黙って試射一択なんですよね。

艦橋に行かないと話が進まないのはどのルートでも同じです。武士でもないのに艦橋に行ったら怒られそうですが怒られないんですよね。

カバネリルートでも怒られないんですよ。不思議です。

 

艦橋に着きました。

着いたと思ったらまたも置き去りですね。本来ならここでホモ君も外に出るか残るかを選べます。RTA的には残った方がいいので結果オーライです。

ちなみに選択肢が出た時は残るを選ぶと好感度が下がります。サボってねぇで仕事しろってことですね。

まあ少しの好感度よりタイムですからRTAならば残る一択です。

 

外に出ると誰を手伝うか選べます。好きな相手を選びましょう。武士以外の職業を選んでいると榎久と無名ちゃんのやり取りを覗くイベントに入ることもできます。その場合は無名ちゃんの好感度が一定値を越える必要がありますので見たい方はどうぞ試してみてください。

菖蒲様を選ぶと1番早く終わります。

阿幸地を選ぶとクソ長いです。色んな人に話を聞きに行かされます。

阿幸地を手伝っても特にメリットはないです。

 

外に出ていたメンバーが戻ってきました。作戦会議です。

バッドステータスのせいで選択肢は出ないのでボタン連打です。

 

ホモ君松葉杖ついてますが別に負傷のバッドステータスが続いているわけじゃないです。

気絶の回復後の選択肢を選べない効果によるものなので時間が過ぎると急に松葉杖外れます。

原作の来栖の腕吊ってるのと同じくらい見掛け倒しです。

これにはいろんなバージョンがありますが特に効果に変わりはありません。

先程移動速度が半分くらいになってましたが腕吊ってても同じですので。

今まで見たバリエーションは、松葉杖、腕を吊る、頭に包帯を巻く、眼帯、胴体に包帯を巻くですね。他のやつを見たことがあったら是非教えて下さい。

 

作戦会議ですがここで選択肢が出れば自分も作戦に参加するか否かが選べます。武士だと最初は吉備土達と一緒にしか動けませんが、他の職業なら誰と行くか選べます。この時点でカバネリルートに入っていれば無名ちゃんより先行出来ます。起こることは変わりませんがタイムを短縮できます。

無名ちゃんより先行するなら顕金駅からカバネリルートに入っていた上で、ここに来るまでずっと生駒と一緒にいる必要があります。

生駒と一緒が1番レベルが上がるのよね。

吉備土達に同行した場合も撤退速度が上がりますのでタイムは短縮できます。

 

どのルートを選んでも来栖は留守番です。来栖がいたら無名ちゃんとクレーン死守出来ちゃいそうですからね。

ホモ君は吉備土達と撤退せずにクレーンに残ることも出来ますが、カバネリルートならまだしも人間のまま残ると難易度がやべぇです。クレーンはどうあっても死守できません。強制イベントでワザトリ君に負けます。

その後坑道に一緒に行くことになるので生駒と一緒に頑張る必要があります。プレイヤースキルに自信のある兄貴は試してみてください。

武士ルートでこの時点では金属被膜刀は許されません。来栖より先にお披露目することは認められてないんですね。噴流弾は使えるのでカバネを殺すことはできます。

職業蒸気鍛治でカバネリルートに入るとツラヌキ筒を使うこともできます。

ツラヌキ筒…カバネリにしか許されぬ武器なのよね。

来栖の刀でも間合いが近いのに、ツラヌキ筒とか噛んでくれって言ってるようなものですからね。

 

原作で生駒はあんなに作戦を自信満々に薦めたのに、自分で台無しにしていくスタイルなのがなんとも言えないですね。

作戦を最初から台無しにした無名ちゃんを、さらに台無しにして助けに行くとかもうね…。

これ主人公なのでなんとかなりましたが、普通なら自分が役目を放棄したことで甲鉄城が全滅とか半壊とかあり得ますからね。

目の前の事を捨ておけないのはわかりますが小を捨てて大に就くが出来ないと現実では信頼されないと思うんですよ。全員命かかってますからね。

ましてや今回は自分で立てた作戦ですし。

世界より幼馴染を選んで巨悪に勝つ。みたいなのは主人公にしか許されない。モブがやると幼馴染は死んでモブは周りにめちゃくそ責められますよね。

 

はい。ボタンを連打しているうちに黒煙君が出てきましたね。

こんなにカバネがいるのに3日も無事だった八代駅の人達は凄いですね。

 

今回はなんにもしてませんがここまで。ご視聴ありがとうございました。

 



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八代駅【裏】

吉備土の号令の後、発砲音が3発響く。

樵人、雅客、仁助が試射をしていた。

鈴木が生駒と逞生の作ったツラヌキ筒から着想を得て開発した噴流弾である。

的として下げられた鉄板は大きくへこみ、貫通していた。

武士達の反応をみて気を良くした生駒は噴流弾の構造をつらつらと説明する。

樵人らは生駒の説明が理解できない上、説明する生駒の勢いに押され困惑の表情を浮かべている。

 

「要するにこいつがあれば俺たちもカバネを倒せるってことだな。」

 

「そういうことです。」

 

雅客が代表して質問したが確認できることなどこれしかないし、最も重要な事である。

松葉杖を使い試射を眺めていた最上は、松葉杖を脇に挟んだまま小さく手を挙げる。

 

「何点か確認したいんだがいいか?」

 

「ど…どうぞ。」

 

試射が始まるまでの吉備土達の態度や格好を見て、来栖よりも立場が上であろうと判断した武士から質問がきたことに生駒は身構えた。

先程ペラペラと仕組みを説明したが、武士達が理解出来るとは思っていないし、先程雅客がした質問が武士達にとって1番大切な事であると思っていたからだ。

 

「まずこれまでの弾丸と構造が違うことは理解したが、材料は広く出回っているものなのか?希少な材料なら従来の弾丸を併用しなければならない。」

 

「はい。薬莢は従来のものに加えてカバネ心臓の金属被膜の一部を使いますし、炸薬も今使っている火薬の一部なので流通は問題ありません。」

 

「次に1発当たりの費用はどうだ?従来の弾丸との価格差は?甲鉄城は資金豊富とは言えない。あまり高額だと厳しいのだが。」

 

「1発当たりの金額は少し高額になります。使用している炸薬が少し高いので。今まではカバネの足を止めるためにひたすら撃ち続けている必要がありましたが、これならカバネを殺すことができるようになり、弾数を抑えることが可能になるので全体としては同じくらいかと思います。」

 

「最後に有効射程に変化はあるか?変化するなら戦術を見直す必要がある。」

 

「有効射程に変化はないですが、心臓を狙って撃つようになるでしょうから体感的には短くなるかと。」

 

「なるほど。理解した。」

 

雅客達は最上の質問を聞くたびに、確かにとは思うものの全く思いつかなかった自分達は不味いのではないかと少し落ち込んだ。

 

「生駒。刀にも何かしたって言ってなかったか?」

 

吉備土が次の話題へと促す。

 

「はい。カバネ心臓の金属被膜で刀身を覆ってみたんです。これで簡単には折れないはず。」

 

「へぇ。それなら来栖に丁度いいな。」

 

最上が感心していると吉備土が近寄ってきて口を開く。

 

「最上様もやってもらったらいいんじゃないですか?」

 

「来栖みたいに埒外の剣の腕はないんだが。」

 

「なんだかんだずっと帯刀してるんだからやっといて損ではないでしょう?それとも刀に手を入れられるのは嫌ですか?」

 

「刀は武士の魂って?冗談。簡単に折れる前提の魂などいらんよ。来栖ほど活躍させてはやれんだろうが、頼めるか?私の刀は後に回してもらって構わないから。」

 

「はい。大丈夫です。すぐにでも取り掛かれます。後で預かりに伺います。」

 

「すまんな。流石に今は帯刀してないからな。」

 

生駒達は頭を軽く下げてから退室していった。

試射を行なっていた武士達は片付けを始める。

 

「そういえば反動はどうだった?今までと同じくらいか?」

 

最上の1番近くにいた仁助に質問がいく。

 

「特に違いはないかと。」

 

「そうか。なら問題なさそうだな。」

 

松葉杖をつきながら的にしていた鉄板に近寄った。

 

(これは凄い威力だな。カバネを殺せる手段が増えるのはいい事だ。)

 

そろそろ部屋に戻ろうかと振り返ろうとした瞬間、高いブレーキ音をたて急制動がかかる。

進行方向に背を向けていた最上は身体を後ろにもっていかれる。近くに捕まるものもなく、松葉杖をついている現状では踏ん張りも効かないため転倒を覚悟した。

しかしすぐ後ろに樵人がいたため転倒することはなかった。

 

「すまない。助かった。」

 

「いえ。丁度後ろにおりましたので。しかし何事でしょうか。」

 

「我々は艦橋に向かいます。最上様はお戻りください。」

 

吉備土は樵人らを連れて小走りで出て行く。

戻れと言われたが流石になにが起きているのかわからないまま待ちぼうけるつもりはなかったため、ゆっくりと艦橋へ向かうことにした。

 

少しするとゆっくり甲鉄城が動き出す。

 

(発砲音も聞こえなかったし、カバネが出たとかではなさそうだな。)

 

最上が艦橋に着くころには八代駅の操車場へと到着した。

扉近くに控えていた倉之助が状況を説明する。

 

(避難民が増えるか…面倒ごとが起きなければいいが。)

 

「最上。私たちは外に出て情報を集めてきます。ここに待機していてください。」

 

「承知しました。お気をつけて。」

 

(いい加減仰々しいから松葉杖は手放したいんだが菖蒲様がお許しにならないんだよなぁ…少々過保護だと思うのだがな。)

 

最上は皆が戻るまで艦橋で座って待つことにした。

 

暫くして八代駅の地図を持って菖蒲達が戻ってくる。

線路を塞ぐ竪坑櫓の撤去のための作戦会議が始まる。

生駒が生き生きと作戦を説明する。

 

(学者肌のタイプのようだが、思ってたより感情豊かな奴だな。頼りにされることに喜んでいるのか?)

 

無名が不機嫌な様子で艦橋へやってきて階段に座る。

 

(こっちはこっちで気分屋だな…)

 

作戦の説明が続いていく。

 

「無名さんも手伝って貰えますか?」

 

菖蒲が無名に声をかけるが

 

「いいよ。でも一緒には戦わない。」

 

共闘の拒否である。

さらに無名は暴言を吐き、詰め寄ろうとする生駒を蹴り飛ばし、捨て台詞を残して去っていく。

 

(戦力としては認めるが、正直作戦には入れたくない奴だな。随分ご機嫌斜めのようだし、どう動くかわからない以上作戦から外したいが、あの様子では勝手に戦いに出るだろうな。)

 

「菖蒲様。よくお考えになった方が。」

 

「大丈夫です!俺の作った噴流弾もあります!」

 

来栖から菖蒲に進言するが、生駒の興奮した様子の主張に押されて菖蒲が作戦を了承する。

 

(生駒はワザトリを倒し、技術を評価されたことで天狗になっているのか?無名殿のあの様子…作戦に組み込める状態じゃないだろう。引っ掻き回されて台無しにならなければいいが…)

 

「逞生達に頼みに行ってきます!」

 

生駒が揚々と艦橋を出て行くのを、横目で追う。

 

「最上。何故黙って聞いていた?何も意見はないのか?」

 

生駒が完全に退室してから来栖は最上に話しかける。

作戦会議中、最上が口を開かないことに来栖は違和感を覚えた。無名の態度から、作戦の内容に自分すら疑心を抱くくらいだというのに何故黙っているのか。

 

「私たちが先に進むためには、クレーンで竪坑櫓をどかす。若しくは八代駅の人間を見捨てて食糧を節約しつつ回り道をする。の二択だ。さらにいえば回り道をした先も無事な駅とは限らない。よってクレーンで竪坑櫓をどかすという点においては賛成せざるを得ない。先程の作戦に無名殿を入れるのは反対だが、外したところで無名殿を留めおくことが出来るとも思わない。あの様子では引っ掻き回されかねないぞ。生駒もワザトリ討伐や噴流弾の評価で少し調子に乗っているようだ。作戦の成功しかみていない。生駒は生駒で作戦にケチをつければ自分1人でやるなどと暴走しかねない。」

 

「よって作戦会議に生駒を参加させた時点で軌道修正は不可能だった。とはいえ窯場のボイラーを動かし、クレーンで撤去作業を行うことを考えれば武士だけで竪坑櫓をどかすことも不可能だ。以上のことから発言するだけ無駄だと思った。」

 

どうにもならない状況に皆が黙り込む。

 

「運が良ければ無名殿が上手く動いて速やかに片付くだろう。特別運がいい場合を除けば作戦は失敗する可能性が高い。失敗する前提で動くのが1番被害を抑える方法だ。クレーンを担当する蒸気鍛治と自分達の身の安全を優先して動くしかないだろう。」

 

最上が口を閉じたことで艦橋に沈黙が落ちる。

最上ほどではないにしろ、先程の作戦会議では皆作戦の精度を疑ってはいた。

それ故に来栖は菖蒲に進言したし、歩荷は生駒に声をかけ、菖蒲は賭けるしかない。などと発言した。

 

「来栖は此方に残った方がいい。ただでさえ随分機嫌の麗しくない無名殿や、あれだけ自分の立てた作戦に絶対の自信を示している生駒と相性が悪い。」

 

「失敗する前提で己に残れというのか⁉︎」

 

来栖が最上に食ってかかる。

 

「失敗する前提だから残るべきだと言っている。撤退の援護や救助に行くのに接近戦をできる主力が1人は欲しい。作戦に参加している者達が戻ってくるまで甲鉄城が襲われない保証もない。」

 

「そうだな。来栖は此方に残った方がいい。作戦は俺達が参加しよう。」

 

吉備土が軽く手を上げながら応える。

来栖は不満そうな顔をしているが、クレーンを動かす蒸気鍛治の護衛や、生駒達の援護のために武士を数名出した上、カバネリ2人と来栖まで作戦に参加してしまっては甲鉄城が手薄になるのは理解していた。

まして失敗する可能性が高い以上、すぐには甲鉄城に戻れない可能性もある。そうなれば手薄な甲鉄城にまで被害が及んでしまうかもしれない。

 

「わかった。己は残ろう。」

 

実に悔しげである。

 

 

 

甲鉄城が操車場からゆっくりと走り出した。速度を上げることなくそのままクレーンへと繋がる細い足場に横付けして停車した。

菖蒲が伝声管に向かい指示を出した。

2号車から出た吉備土達が足場を進んで行く。

無名の姿はそこにはない。

何事もなくクレーンまで辿り着き、蒸気鍛治2人と武士2人がその場で別れた。

窯場へ向かう吉備土達4人はさらに足場を進む。

状況を観察していた服部から声が上がる。

 

「無名が別の足場から窯場へ向かっています。」

 

艦橋に緊張が走る。

 

「もう作戦から外れたのか!」

 

「2号車から出なかった時点でなにかやるとは思っていたが、まさか窯場に特攻しに行くとは、話を聞かないにも程がある。」

 

「生駒が引き返しています。無名のところに向かうようです。」

 

「どいつもこいつも!」

 

「無名殿は陽動扱いにすれば良いものを…。作戦とはなんだったかね…。作戦を立てた者が作戦を放棄するとは理解しがたい。」

 

「吉備土達も引き返して生駒を追っています。」

 

来栖が怒りを露わにし、最上は呆れ返っている。

しかし現時点で作戦を中断する訳にはいかない。

 

「吉備土達が窯場に入りました。」

 

吉備土達が窯場に入った報告の後、沈黙が落ちる。

窯場が動きを見せるのが先か、吉備土達が撤退してくる方が先か、艦橋はジリジリと緊張を高めて行く。

 

「窯場に火が入ったようです。煙が上がっています。」

 

「生駒達は上手くやったのですね!」

 

菖蒲の顔が明るくなる。

 

「来栖。車上で待機しておいた方がいい。カバネを引き連れて戻ってくるかもしれない。」

 

「わかった。菖蒲様。行って参ります。」

 

「は…はい。来栖。お願いします。」

 

最上も来栖も菖蒲と違い表情は難しいままだ。

 

「クレーンが動き出しました!クレーン付近にカバネが…カバネが下から登って来ています。かなりの数です。」

 

「吉備土達が渡っている足場まで甲鉄城を前進してください。」

 

菖蒲からの指示に従い侑那が甲鉄城を発進させる。

 

「クレーンに生駒を残して他は撤退してきています。無名は現時点見えません。」

 

甲鉄城が停車し、吉備土達を収容する。

 

「無名がクレーンのところに来ました。」

 

「菖蒲様!西通路!西通路に向かって下さい!生駒はそこに来ます!」

 

逞生が艦橋に駆け込んでくる。

竪坑櫓が退かせれば西通路に行くことができる。今もクレーンで竪坑櫓は上がり続けていることから、今から発進すれば辿り着く頃には甲鉄城が通れる高さまで上がるだろう。

 

「甲鉄城発進!」

 

菖蒲の指示が飛び甲鉄城が動き出す。

速度を上げ未だ上がりきらない竪坑櫓へと向かって行く。

間もなく竪坑櫓という時に甲鉄城に急制動がかかる。

最上は窯場に向かった吉備土達を回収するために発車した時点から座っていたため被害はない。

立っていた者たちも転倒したものはいない。

 

「どうしたのです⁉︎」

 

「クレーンが止まりました。これ以上進めません。」

 

「菖蒲様。カバネリの2人が崖下に!」

 

甲鉄城に衝撃が走る。

 

「窯場から大量の煙が出ています!複数箇所が爆発しています!窯場が爆発しました!」

 

断続的に甲鉄城が揺れる。線路ごと揺れているのだ。

窯場下の崖から黒い煙のようなものが姿を現す。

 

「なんだあれ。」

 

「まさか…あれが黒煙(くろけぶり)」

 




噴流弾についてはめちゃくちゃ捏造です。


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黒煙

黒煙が祟り神にしか見えないRTAはーじまーるよー!

 

前回は黒煙君発生部分まででしたね。選択肢が選べなかったせいで何にもできませんでしたが今回は間もなく解除です。黒煙君から逃げるところからスタートです。

 

とはいえここは侑那さんが勝手に逃げ切ってくれますのでやることはないです。

はい。逃げ切りましたね。侑那さんカッコいい!

侑那さんは見習いとは言ってたけど、ほぼほぼ完成形だったんだろうね。テンパってるとことか見たことないですし、菖蒲様に聞かれればそこはスピードが上がらないとかちゃんと言えるし、トラブってもちゃんと問題を理解してるの凄いと思うの。

まあ大体カバネの残骸が挟まってるので良くあることなのかもしれませんが。

 

 

ここで作戦会議です。この作戦会議は職業に関係なく参加できます。まあホモ君はもちろん参加です。見て見て。ホモ君の松葉杖が消えています。お前黒煙君から逃げてる間に松葉杖取れるとかどうなってんだ?

来栖でも腕吊ってるの外れるのはもっと後だぞ。といっても来栖はワザトリ君に腹部貫通攻撃受けてるのに戦いに参加する時点で異常ですがね。

六頭領のおっさん達も会議にログインします。良く顔が出せたもんだなぁ?何人殺したんだお前の失策で。

偉そうなこと言う資格お前にだけはないと思うの。

ここでは巣刈が四八式の説明をした後、作戦のどこに参加するか選びましょう。選べるのは、甲鉄城、クレーン、捜索隊の3つです。捜索隊だけは武士しか参加できません。それ以外はどの職業を選んでも参加できます。

 

今回はクレーンを選びます。捜索隊は選ぶと生駒達のムービーが入ります。長いので(選ぶ必要が)ないです。

甲鉄城は四八式を設置するミニゲームが始まります。どの職業でも参加です。なんでだ。蒸気鍛治以外が触ったらダメだろ!

クレーンに行くとクレーン操作のミニゲームがあります。プレイヤーキャラが一時的におデブこと逞生君になります。こちらもどの職業でも参加できます。プレイヤーキャラがおデブになるので関係ないんですね。出される指示に従ってクレーンを上げ下ろししましょう。

どこに行ってもムービーかミニゲームがありますがクレーンのミニゲームが1番早く終わりますので(選ばない理由が)ないです。

 

ということでクレーンに向かいます。

はい。ミニゲームスタートです。作業先で手信号が上がります。ウインドウに指示が出ますのでそれに従って作業します。

作業をしながらお話ししますが、動かしているクレーン…あの蒸気クレーンなんですよ。

だからなんだって?これ作業するために一度竪坑櫓下ろしてるんですよ。上げたら通れるじゃんね。四八式もカバネリ2人も回収せずに通過できるんですよ。私だったら余計なことしないで通過しちゃいそうです。甲鉄城の人達は善人の集まりだってはっきりわかんだね。六頭領はクズっぽく見えるけど一般的に考えたらここでは普通のこと言ってるからね。圧倒的善に囲まれてるので相対的にクズに見えるだけで。

 

四八式を拾い終わりましたので、今度は捜索隊の方です。

ここで倉之助君が生きていると捜索隊の手信号は倉之助君がします。死んでた場合は名も無きモブが担当します。

捜索隊に参加した場合はムービーがあるだけでミニゲームはありません。このムービースキップできないのなんなんですかね。ムービーがスキップできたら捜索隊に参加するんですが。

捜索隊は来栖を助けていてもいなくても来栖が参加します。戦闘には基本的になりませんが捜索範囲外に出るとカバネと戦えます。

レベルをめちゃくちゃ上げて美馬と戦いたい兄貴はここでのレベル上げをおすすめします。無限湧きする上に時間制限ないので。ただし武士限定なのでカバネリルートとかだと行けないのよね。ここで飽きるほどレベル上げをすればステータス上は来栖より強くなれます。ステータス上は…ね。

ステータスが上でもプレイヤースキルが敵わないので…TASさんかな?

 

ミニゲームが終了しました。撤収です。甲鉄城に戻ると黒煙君が坑道に突っ込むムービーが流れます。ここはスキップできるのでスキップです。

捜索隊の場合は坑道から出たらムービーが流れる仕様です。

 

無名ちゃんの説明パートですね。やることないのでボタン連打でいきましょう。

 

はい。黒煙君が来ました。どう見ても祟り神なのよね。

蒸気鍛治を選んでいた場合ここで黒煙を四八式で撃つことになります。逞生はどうしたんや。一撃で成功させると車上の戦いをスキップできます。

金属被膜刀の出番がなくなりますがRTA的にはウマアジですね。

今は武士ルートなので吉備土達と一緒に蒸気筒で戦います。一定時間戦闘が継続します。

金属被膜刀は来栖が先出しする運命なので、ここでホモ君は使うことができません。

蒸気筒の戦いは狙って撃てばカバネを殺せますしちゃんと経験値も入りますのでテキトー撃ちしないでちゃんと狙いましょう。

テキトーに撃っても前衛2人が抜かせないのでこちらは襲われません。

来栖!貴様は人か⁉︎カバネリか⁉︎

 

時間が来ましたので四八式の出番です。

薙ぎ払えぇ!

無名ちゃんがトドメをさして終わりです。あとはボタン連打で大丈夫です。

ちなみにカバネリルートの場合は無名ちゃんの代わりにトドメを刺すこともできます。生駒と無名ちゃんの好感度が一定値を越えている必要があるのでここに至るまででひたすら2人の好感度を稼いでおく必要があります。

自分で黒煙君を倒したい方は是非試してみて下さい。

 

 

無事に八代駅を脱出出来ましたので今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。




蒸気クレーンの件は捏造です。
四八式は甲鉄城のクレーンを使ったかもしれないけど、救助の方は何処のクレーンを使ったのかさっぱりだったので、蒸気クレーン使っちゃいました。
窯場が吹き飛んでも使える蒸気クレーンは、前半の窯場の話を吹き飛ばす存在ですが勢いで流した感がありましたね。なので私も勢いで借りちゃいました。すみません。


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黒煙【裏】

後退していく甲鉄城を黒煙が追う。

甲鉄城は本線から避難線へと進路を変える。避難線に進入してすぐ黒煙は前足を甲鉄城に振り下ろした。振り下ろされた前足は甲鉄城の先頭車両を掠め、先頭車両は大きく揺れた。

前足を振り下ろした影響で黒煙は一時的に足を止めたため、甲鉄城は避難線に設置された車庫まで後退した。

車庫に入ってすぐ吉備土達は車外へ出て行き、吉備土が車庫の門を閉めるべくレバーに取り付いた。レバーを下ろしてすぐこちらへ向かってくる黒煙に対して武士達は噴流弾を撃ち込む。

黒煙は大きすぎて噴流弾でも全く効果は見られない。

足止めにもならず黒煙はそのまま車庫に突進してくる。

黒煙が車庫に到達する直前、車庫の門が降りきり、門に黒煙は激しく衝突した。衝突の勢いは凄まじかったが、門は壊れる事なく黒煙を阻んだ。

 

「なんとか間に合ったな。」

 

吉備土達は冷や汗を拭いながら門から離れる。

 

「これからどうしましょうか…」

 

艦橋内で菖蒲が声を漏らす。

 

「黒煙はカバネが集まってできているようですから、門に当たって砕けていたとして門の周囲はカバネだらけでしょう。暫くは様子を見る他ないかと。」

 

「そうですね。生駒達のことは心配ですが今は外に出るわけにも行きませんから待機としましょう。」

 

菖蒲が全体に待機指示を出そうとしたところで、艦橋に阿幸地達が入ってきて今後の方針を尋ねた。

艦橋に入ってきた時にちらりと最上を確認していたが菖蒲達と話し始める。

別方向へ後退する案や、ある程度まで上がっている竪坑櫓を損傷覚悟で強行突破する案などが上がる。

 

「いや…でも…生駒と無名ちゃんを置いてっちゃうんですか⁉︎」

 

逞生が慌てて問いかける。

修蔵や阿幸地が自業自得として辛辣に返す。

 

(今回ばかりは全面的とまでは言わないが同意だ阿幸地殿…。)

 

吉備土は阿幸地達の言い分を乱暴であると批難し、菖蒲は黒煙の脅威について口に出す。

最上は阿幸地達に同意したい心情ではあったが、菖蒲達の様子から批難を口に出すのを避けた。

菖蒲も作戦開始前からの最上の様子から、意見を求めれば2人を見捨てる案を献策しかねないと考えていた。

最上は一歩下がった位置をとっていたため、地図を見つめる巣刈に気がついた。

 

(なにか思案中のようだな。あれもクレーン操作のために外に出ていたから、我々が気がつかなかった何かが見えていたのか?)

 

「最上。何かないのか?」

 

来栖は最上に意見を聞く。来栖も阿幸地達と似たような考えであり、最上も間違いなくこちら側だと思ったからこそ話を振った。

菖蒲は来栖の催促を聞いて、焦りを浮かべた顔を最上に向ける。来栖は口にこそ出していないがどちらかといえば阿幸地側の意見だろう。阿幸地、最上、来栖が意見を固めた場合、ひっくり返すのは難しい。

 

「そうだな。…巣刈と言ったか?先程から地図を見つめているがなにかあったのか?」

 

「えっ?」

 

巣刈はまさか上侍から意見を問われるとは思っていなかったため、きょとんとした顔を最上に向ける。

 

「クレーン操作の為に外に出ていただろう。我々より情報量は多いはずだ。何か見たのなら進言してほしい。」

 

来栖にとっても菖蒲にとっても予想外の展開だった。

阿幸地は巣刈に話を振ったのが最上であった為口を挟むことはしなかった。最上に口を挟めば1に対して10返されるとしか思えなかった。先程は黙っていたようだが、ここで生駒達の責任でも追及しようものなら先日の件で自分達にも飛び火しかねない。

 

「巣刈さん。なにかあるのですか?」

 

菖蒲は巣刈に希望を託す。

 

「この位置に四八式鎮守砲が落ちていました。拾ってみないことには使えるか分かりませんが、これが使えれば黒煙に対抗することが出来るかも知れません。」

 

地図を示しながら巣刈が説明する。

引き上げた鎮守砲が使えなければ振り出しに戻る案のため、巣刈はこの空気では採用はないだろうなと思いながら説明した。

 

「四八式か…。ありだな。」

 

「使えるかわからんのだろう!そんなことより後退すべきではないのか?」

 

まさかの最上が同意したことで阿幸地が声を上げる。

 

「まあ使えなければ振り出しなのは確かだ。しかしもし使えるならば掘り出し物なのは間違いない。それに後退してどうする?八代駅の民人が増えた今、八代駅を通過する道しか残されていない。八代駅の民人を全員降ろせば、回り道をしても次の駅まで保つかもしれないが次の駅が無事なら…というのが前提だ。言っておくが損傷覚悟の強行突破は反対だ。突破できてもかなりの損傷になるだろうし、突破できなければ竪坑櫓の下で立ち往生だ。」

 

「使えなければどうする⁉︎」

 

「使えなかった時に考えるとしよう。後退か強行突破かしか出てなかっただろう。第三の選択肢だ。個人的には強行突破は入れたくない。四八式が使えず他に案が出なかった場合、私が責任持って八代駅の民人を全員下車させてもいい。」

 

「最上!」

 

菖蒲は八代駅の民人を下車させるつもりなど毛頭ない。

 

「振り出しに戻った後、なんの策も出なければの話ですよ。さて菖蒲様まずは四八式の話です。ダメで元々です。拾ってみませんか?四八式を拾った際にカバネが集まり始めなければ、カバネリ2人を回収してもいいでしょう。今も生きているなら、ですがね。」

 

「わかりました。採用しましょう。巣刈。詳しい話を聞かせてください。速やかに作業出来るよう話を詰めておきたいのです。」

 

「はい。逞生。鈴木さんを呼んできてくれ。」

 

「わかった!」

 

逞生は顔を明るくして艦橋を出て行った。

吉備土が険しい顔で最上に近づいた。

 

「最上様。八代駅の民人の件本気で言っているのですか?」

 

「冗談で言うと思うか?四八式が使えず、なんの策も出なければ後退して回り道で先の駅を目指すしかなくなる。何日かかる?全員で飢えて殺し合う方がお好みか?八代駅の民人を受け入れる前から食糧事情で諍いが起きている。この先飢える可能性が高いと話が漏れれば八代駅の民人は私刑に遭いかねない。食糧消費を抑えるなら早いに越したことはない。」

 

「よくそんなことが言えるな。」

 

「誰かしら言わねばならんだろう。食料は祈ったところで増えんのだから。」

 

「それは…「吉備土。今は四八式とやらだ。使えればその話は不要だ。」

 

まだ抵抗しようとしていた吉備土を来栖が止める。

 

鈴木が合流して菖蒲と蒸気鍛治で四八式鎮守砲の回収計画の話が進む。話に混ざれない武士達は所在なさ気にしていた。

 

「武士はこちらへ。」

 

最上が地図を広げて武士に声をかける。先程の発言から全員が少し険しい顔で集まった。

 

「こちらはカバネリ捜索の話だ。服部。最後に2人を見た位置はどこだ。」

 

先程回収してもいいとは言っていたが、最上からカバネリ捜索の話が出るとは誰も思っていなかった為、武士達は目を見開く。

 

「服部。」

 

「はい!この辺りです。ですがいたるところが爆発して崩れた為どこに逃げたかはわかりません。」

 

服部は急いで最後の目撃地点を指差す。

 

「…近くに坑道があるな。捜索は服部が見た近辺及び坑道までに絞る。それで見つからなければ諦めろ。」

 

非情な判断ではあるが捜索隊を出す以上、最上も譲歩しているのは吉備土達にも伝わった。

 

「捜索隊には来栖を。人員は来栖に任せる。クレーンは一度竪坑櫓を下ろし、四八式を拾ったら坑道側へ回す。クレーンには私がつく。中継地に1人置きたい。それ以外で…3人だな。全部で4人選んでくれ。」

 

「おい。最上。大丈夫なのか。」

 

「きつめに固定したからまあ大丈夫だろう。クレーン側も捜索隊も作戦失敗から撤退の判断をする人間が必要だ。捜索隊の方は来栖が、全体の判断は私がする。見つからなくても撤退指示には必ず従え。それができないなら捜索隊は組まない。」

 

「わかった。吉備土、樵人、歩荷、中継地に倉之助だ。」

 

「クレーンのところに1人貸してくれ。あとカバネの観測に2人出す。それ以外は甲鉄城の警備だ。」

 

「じゃあクレーンは俺が。」

 

雅客が手を上げる。

 

「来栖。こちらは打ち合わせが終わりました。クレーンの操作は逞生さんが行います。そちらはどうですか?」

 

「捜索隊は己、吉備土、樵人、歩荷、中継地に倉之助。クレーンには最上と雅客が着きます。カバネの警戒に服部と仁助を出します。」

 

「最上。大丈夫なのですか?」

 

「えぇ。問題ありません。」

 

「では参りましょう。」

 

手信号の合図を決めた後、避難線の車庫から甲鉄城が出発する。

まずクレーンへ向かう足場に横付けで停車しクレーン担当3人と捜索隊5人とカバネの集結を観測する担当2人を下ろす。

それぞれが担当位置に向かう。

 

「あの!捜索隊の話を出して下さってありがとうございます!」

 

逞生が走りながら最上に声をかける。

最上は逞生をちらりと見て

 

「吉備土達も随分肩入れしてたからな。出さねば納得しない人間の方が多いだろうから出しただけだ。」

 

「それでもです!」

 

「それにしても最上様。憎まれ役をかうにしてももう少しやりようはあったのでは?」

 

雅客から車庫でのやりとりに触れられる。

 

「事実なんだ仕方ないだろう。やらねばいずれ来栖か菖蒲様が判断を下すことになる。菖蒲様はもちろん来栖も出来るだけああいうのはやらせたくない。あの二人には可能な限り潔白でいてもらいたいのでね。」

 

「万が一の時は俺も手伝いますよ。1人じゃ流石に無理でしょう。」

 

最上は雅客からの応えに随分と驚いた顔をしていた。雅客はこの年下の侍が偽悪的な態度を時々とることに気がついてた。

普段来栖にとって変わり指示を出すことはしないし、なにもなければ自分達をじっと観察していることが多かった。配給を運んできた鰍に礼を言ったり、下侍の倉之助を助ける等の善性も見せていた。

基本的にこの年下の侍は善人であると判断している。ただし頭が良いからかああいうことに気がついてしまうのだろう。他に言う者がいればたぶん口に出すことはなかったと思っている。

そして15の子供に誰もやりたがらないことをやらせざるを得ない現状を悔しく思っている。

元服していようが15なんて子供である。

 

「吉備土はお人好しなんです。悪く思わんで下さい。」

 

「わかっている。特に気にしていない。それと手伝いはいらんよ。」

 

最上は笑っていた。

クレーンへとたどり着いた為、逞生がクレーンの操縦所へと入り込み、速やかに竪坑櫓を下に下ろした。

クレーンを鎮守砲の辺りに回した時には甲鉄城は既に停車し、巣刈と数名の武士は作業用の梯子を降り始めていた。

甲鉄城の上に乗る鈴木から手信号がくる。

手信号を見て逞生がクレーンを操作していく。

下では鎮守砲へロープをかける作業が行われているだろう。引き上げを待つ間、ちらりと倉之助を窺う。倉之助から到着の手信号を確認した。

 

「捜索隊もついたようだな。」

 

視線を戻せば鈴木から手信号がきた。

 

「引き上げ開始だ。雅客。カバネの集結状況を確認してくれ。」

 

「どちらも合図ありません。」

 

「わかった。合図があれば速報してくれ。」

 

鎮守砲が、クレーンの位置からも見えるようになった。ここからは逞生の目視と鈴木の手信号で作業をすることになる。

周囲を警戒しながら作業を待つ。

鎮守砲を下ろし切った。ここからは甲鉄城に残った蒸気鍛治の仕事になる。先頭車両に付いているクレーンを動かして微調整をしているようだ。

こちらのクレーンは旋回して捜索位置辺りにつけておく。逞生の位置からは倉之助は確認できない為、手信号を見て最上が指示を出す。

瓦礫をどかしているのか何度かクレーンを上げ下ろししている。

鈴木から回収完了の合図がくる。これで甲鉄城は動かせるようになった。

 

「甲鉄城作業終了です。」

 

雅客は鈴木からの合図を2人に伝える。ここからはカバネの集結の合図がきた時点でクレーンから撤退しなければならない。

 

「まだか?まだ見つからないのか?」

 

逞生は焦れた顔でクレーンを操作する。倉之助から発見の合図が上がる。

 

「発見したみたいだな。…引き続きクレーンは使うようだ。言っておくが救出途中だろうが合図があったら撤収だからな。」

 

「わ…わかってます!」

 

最上の厳しい物言いに逞生は怯むが、そもそも生駒達の立場がかなり悪いのも理解していた。

4回ほどクレーンを動かした時、救出成功の合図が上がる。

しかし捜索継続の合図もまた上がった。

 

「継続?もしかして発見していたのは1人なのか?」

 

「カバネ集結の合図です!」

 

カバネが集結し始めたらしい。ここでクレーンからは撤退である。倉之助に手信号で撤収指示を出す。

 

「おい。撤収だ。」

 

「わかりました。」

 

逞生はやりきれない顔をしているが指示に従った。倉之助は捜索隊に更に指示を下ろし、撤収を開始した。

捜索隊には来栖がいる以上限界以上には粘らないだろう。

捜索隊以外の全員を収容した後、甲鉄城は坑道が見える位置まで移動することになった。

 

「黒煙。集合を終えました!」

 

「警笛を。時間切れだ。」

 

服部から良くない知らせが上がる。

警笛は緊急事態の合図であり、たとえ目の前に救助対象がいたとして必ず戻るよう捜索隊全員に指示していた。

けたたましく警笛が鳴る。

まだ蒸気鍛治は四八式鎮守砲に取り付いて作業をしている。作業が継続しているということは全くのガラクタではなかったということだろう。

黒煙は移動している甲鉄城ではなく坑道方向へ移動を開始した。

坑道出入り口にはカバネリ2人を含めて全員が揃っていた。

捜索隊達が甲鉄城へ乗り込んだころ、黒煙は坑道出入り口に頭を突っ込んだ。入り込もうとしているのかひたすら坑道内に進もうとしている。

一度降ろした竪坑櫓を再度上げなければならない為生駒は甲鉄城から降りてクレーンの操作へ向かった。作業をするなら黒煙が坑道に集中している今しかない。

 

その間に無名は菖蒲達に黒煙のことを説明していた。

融合群体と呼称されていること。

1匹心臓になっているカバネがいること。

大砲で身体をばらして心臓のカバネを叩くこと。

心臓を叩くのは無名が担当すること。

の4点であった。

仕事で返すと言って会議をしていた場から離れていく。

すれ違いでクレーンの操作を終えた生駒が戻ってきた。

 

「来ました!さっきよりでかい!」

 

服部の声が響き渡る。融合群体は坑道内部のカバネの死体を取り込んだようで一回り大きくなっていた。

生駒を回収するために停車していた甲鉄城が発車する。

融合群体はすぐに線路上に上がり後ろを追跡してくる。

四八式鎮守砲が接続を終えた。砲台が旋回し、追跡してくる融合群体へと砲門を向けた。

引きつけてから撃たねばならないところだか、逞生は少々早めに砲撃してしまった。逞生はあくまで蒸気鍛治であるので一発で決めろというのは酷である。

武士達は車上で待機していた。先の砲撃でバラけたカバネが甲鉄城の上に降ってきた。一度足を止めた融合群体はまた線路上を走り出す。それに合わせて車上のカバネも前進してくる。

鎮守砲を守るべく吉備土達は蒸気筒で対抗する。最上も吉備土達と蒸気筒でカバネを撃つ。

 

「前に出る!」

 

来栖と生駒が吉備土達の脇を抜け前へと躍り出た。

来栖と生駒はカバネを次々に倒していく。一体たりとも抜けては来ない。生駒はカバネリになって身体能力が飛躍的に向上したらしいのでわかるが問題は来栖である。

 

「なんだあれ。やっぱり来栖はおかしいな。胸骨も金属被膜も無視か。刀も凄いんだろうが、あれは来栖がおかしいだろ。」

 

最上は胡乱げな視線で来栖を見ている。横で聞いていた倉之助は、そういえばワザトリの時もそんなことを言っていたなと思い出す。来栖の剣術に関してだけ、普段は怖い位の舌戦を繰り広げる最上は年相応の反応をする。

 

融合群体が甲鉄城に飛び乗り最後尾車両が切り離され線路下に落ちていく。

甲鉄城の速度が上がり始める。

融合群体が前足を振り上げたところで、四八式鎮守砲が再び火を噴いた。

融合群体の胴体に当たり、胸から上にあたる部分が大きくばらける。

すかさず無名が飛びかかり融合群体の心臓であったカバネを殺す。

融合群体は心臓のカバネを殺されたことで爆発する様に分解した。

甲鉄城は高速を維持したまま、まもなく曲がり道に差し掛かる。車上に出ていた者たちは急いで車内に戻る。

全員の収容を完了したところで曲がり道に入った。進入速度が速すぎたため、車体の右側が浮き始める。

 

「皆さん!進行方向右に寄って下さい!このままでは脱輪します!」

 

菖蒲の声が伝声管から全車両に響く。甲鉄城に乗っている者全てが右側の壁を押すように寄る。

曲がり道で浮いていた右側が線路に戻り切った。そのまま速度を落とすことなく八代駅を離れていく。

 

 

 

 

最上と来栖以外の武士達が自分達が使っている車両に集まっていた。

 

「今気がついたんだが…最上様よくあんな作戦やる気になったな。」

 

「何がだ?」

 

歩荷の発言に吉備土が少し難しい顔で返す。

 

「蒸気クレーンで四八式?を拾っただろ?本当なら竪坑櫓をそのまま上げて通過できたじゃないか。強行突破はない。とか言ってたけど竪坑櫓が上がるなら別に四八式もカバネリも放置して抜けられただろ?」

 

「あっ…」

 

歩荷の説明に吉備土は驚いた。確かにその通りだ。ましてそんなことに最上が気がつかない訳がない。

 

「四八式が掘り出し物なのは確かだけど、なんだかんだ救助の時間を確保するために拾う策に乗ったのかな。阿幸地殿とかに気がつかれないように八代駅の話までしたのかもしれない。あの話が出てからみんなの意識は作戦が失敗すれば、八代駅の民人はみんな死ぬって方に行ったのは確かだ。クレーンから竪坑櫓を降ろした時も誰もなんでそのまま上げないんだって思わなかっただろ?俺も一緒にクレーンにいたのに微塵も思いつかなかった。」

 

「うわぁ…最上様策士ぃ…。」

 

「怖い。15歳が怖い。」

 

「来栖様の剣術を見てるときと、寝てる時は年相応な感じしてますけどね。」

 

「来栖の剣術?」

 

「来栖って本当に人間かな?とか、やっぱり来栖がおかしい。とか半目で見ながら言ってますよ。」

 

「なんだそれ。そんなこと言ってるのか!」

 

何人かがゲラゲラ笑う。

 

 

 

「おい。最上。あの時竪坑櫓を素直にあげれば問題なく通過できたんじゃないか。」

 

「そうだな。今気が付いたのか?」

 

「なら何故あんなやり方をした。」

 

「四八式は今後を考えればあるに越したことはないし。カバネリも回収できれば戦力になる。あの状況で助けられておいて、またあんな真似はしないだろう。四八式が使えず、カバネリも回収出来なかったら素直に竪坑櫓を上げて通過する方針にするつもりだった。」

 

「なら八代駅の民人の話はいらなかったではないか!」

 

「阿幸地殿を黙らせるのに丁度良かったじゃないか。今頃阿幸地殿辺りも気がついてるかもしれないが損害は最後尾車両だけだし、利益はあった。わざわざ文句を言いには来ないだろ。来たら来たで構わないが。」

 

艦橋で来栖と最上が話しているのを聞いて、菖蒲は小さく笑った。




吉備土とホモ君は致命的に相性が悪いです。
たぶん吉備土は突っかかったりしないだろうけど本作では突っかかります。


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倭文駅

さーさーのはーさーらさらーなRTAはーじまーるよー。

はい前回は黒煙君を倒したところまで行きましたね。今回は七夕回です。

 

まずは倭文駅に着く前の甲鉄城からです。倭文駅に着く前にキャラに話しかけてイベントを行います。話しかけたキャラの好感度が上がりますので、好感度を稼ぎたいキャラに話しかけに行きましょう。

カバネリーズとおデブと来栖・吉備土は5人セットで好感度が上がりますので、どうしても選びたいキャラがいなければここを選ぶのがおすすめです。

菖蒲様、鰍ちゃん、下侍ズ、侑那、巣刈、鯖さんら民人、何故かいる六頭領を選べます。

菖蒲様だと執務を手伝います。どの職業でも手伝えます。武士以外に手伝わせて良いんですかぁ?

鰍ちゃんは一緒に子供の面倒をみます。

下侍ズは雑談ですね。

侑那は不調部分の調査に走らされます。人使いが荒いぜ。上侍だろうが使われます。そこに痺れる憧れるぅ!

巣刈は好感度が高いとツンデレなセリフが聞けます。低いとただの塩対応です。

民人は鯖さん達と雑談できます。井戸端会議感あります。

六頭領は民人から話を聞く仕事をさせられます。こちらも侑那と同じで職業は関係ないです。

 

とりあえずホモ君はカバネリーズの下へ行きます。選択肢はでないのでボタン連打していきます。

来栖の真似っこしてるアレですね。生駒君はそんなお遊びしてる場合ちゃうぞ。お前映画まで行っても刀使わないだろうが。生駒君はひたすら無名と来栖相手に一対一、下侍らと多対一して鍛えた方が良いと思うの。

原作の来栖の最後の方見習え?なんだあれ。普通に無理ゲーなはずの先に行けイベント噛まれずに突破してきた奴だからな。何もしてこない打ち込み台に技一つ決まったくらいで喜んでちゃ駄目だろ。

 

はい。倭文駅に着きました。

ここでは商人ルートか上侍の場合のみ、手持ちを差し出して菖蒲様の小箱をリターンさせることができます。

こういっては悪いんだけど、七夕程度で手札切るのは悪手だと思うんですよ。福利厚生的な意味では素晴らしいんだけど、マジで有事の際にとっておいた方がいいと思うんですよ。菖蒲様は金剛郭がゴールだと思ってるんだろうから仕方ないけどね。

なんだかんだ甲鉄城の燃料とか触れられてないけど、たぶん現実なら1番金食うのは燃料よね。

 

倭文駅では菖蒲様、女性陣、生駒達、侑那達、またも六頭領が選べます。

六頭領…お前らなんなんだ。まあ商人か医者ルートなら六頭領か女性陣がおすすめなんですが。

ホモ君は武士なので領主の屋敷に行きます。武士ルートにいながら他のところ行くと来栖の好感度が下がります。菖蒲様より優先すべきこととかないから仕方ないね。

 

ホモ君達が領主の屋敷に着きました。待たされますが問題ないです。

基本的には原作通り夕暮れまで終わりませんが、知力が一定値を越えていると、噴流弾の見分という名の威圧的な呼び出しが早くなります。ホモ君は一定値を越えているのでちょっと早くすることが出来るんですね。ホモ君が唆したってことですね。

はい。助平爺がコロっといってくれたので、ここからフリーで動くことが出来ます。他のキャラに合流は出来ませんが、無名、生駒の名前イベントは見にいけます。行くと時間の無駄なのでRTA的にはないです。

 

ここでは買い物が出来ます。手持ちの資金は職業によって違いますが、ホモ君は上侍様なので資金は豊富です。

倭文駅では、武器、防具、アイテムなどを買うことが出来ます。

武士の場合は使える武器の幅が狭いので武器はスルーしていきましょう。

防具は良いんですが、ホモ君は敏捷性高めなので軽装のままでいいでしょう。回避できる方が重要です。ということで敏捷性が上がるものを買います。腕輪と髪紐が敏捷性プラスです。両方とも防御力はめっちゃ低いです。

当たらなければどうということはありません。

お金に余裕があるので両方買います。

これでステータス上は、来栖より速くなりました。ステータス上はね。

ホモ君は髪が長いので気になりませんが、短髪でも髪紐は装備できます。吉備土みたいに使うんかな?

 

次はアイテムを買います。ここでは貴重な回復アイテムが買えます。

金平糖、干菓子、ポン菓子ですね。言った順で回復量が多いです。金ならあるので金平糖を限界まで買っておきます。持てるのは10個までです。粒なの?袋なの?

しかし回復アイテムお菓子ばっかりですね。お菓子なのでキャラ達にあげると好感度が少し上がります。

 

買い物が終わったら走って甲鉄城に戻ります。ホモ君速くなりましたね。ステータス上は来栖以上ですからね。

甲鉄城に戻ると七夕イベントが始まります。

ここで最初に話しかけたキャラと願い事が大体同じになります。逞生だけは違いますが…逞生のところに行くと生き残りたい。になります。嫁3人とかどこの音柱?みたいな願い事に変更したからドロップアウトするのよ。

 

ここは書かずに車上に上がります。

書かずに花火が終わるまで車上にいると、今1番好感度の高いキャラが来てくれます。異性キャラが来た場合はちょっと良い雰囲気になります。

ホモ君の場合は、来栖ですね。というかこれで来栖以外が来たらびっくりします。武士ルート故に来栖偏重で来てますからね。選択肢は出ませんのでボタン連打です。ここでも来てくれたキャラと大体同じ願い事になります。逞生だけは…以下略。

 

夜が明けて狩方衆が来ましたね。

ここでも話しかけるキャラが選べます。それぞれ選択肢が出ますので色んな人を試してみてください。

ホモ君は菖蒲様に行きます。来栖が邪魔ですが話しかけられます。

選択肢は警告するか美馬について質問するかです。どれだけ知力が低くても出てくる警告…よっぽど胡散臭いのね美馬様。個人的にはレプリカとかいませんか?美馬様。って感じですね。

警告したところで流れは変わらないんですが、途中台詞に変化があるくらいです。一応警告しときますか。ホモ君知力高めなので美馬について質問するのもアレですし。

 

 

警告をボタン連打で終わらせたので今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 




七夕回。お饅頭食べてる菖蒲様は可愛い。来栖お前…ピュアすぎるだろう。


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倭文駅【裏】

甲鉄城は平野を進んでいる。

来栖達は客車の一部を使って鍛錬をしていた。生駒が来栖の型の一つを真似したことで、逞生に揶揄われている。

来栖が生駒と木刀を合わせ巻き上げた。巻き上げられた木刀は生駒の顔面に当たる。

さらに無名まで加わり来栖がいじられていた。

 

「なにしてる?」

 

最上がこちらに向かって来ていた。

無名と逞生が口々に今あったことを報告する。

 

「へぇ。真似が得意…。身体能力が上がることで動体視力や反射神経が上がった結果かな?ツラヌキ筒から持ち替えるのか?」

 

「いや…その予定はないです。」

 

「でも覚えるに越したことないじゃん。」

 

「それはそうだがワザトリ対策として、自分の得物で色んな得物相手を訓練した方が得るものは大きいと思うぞ。」

 

「そりゃそうですね。」

 

「それに型一つ一つを真似るのはさして難しくない。来栖の型なら私もいくつかできるぞ。実戦で使えるかはまた別の話だがな。どの場面でも考えるより反射で出るようになってこそだ。無名殿も一々どの攻撃を使おうか、などと考えていないだろう?剣術を使いたいなら反復練習した方がいいが、得物を変えないならツラヌキ筒での戦い方を確立した方が良いと思う。」

 

「な…なるほど」

 

「来栖より最上の方がおっとなー。」

 

「喧しい!」

 

最上が生駒達を丸め込んだ。事実生駒は戦いにおいて全くの素人であるので、余計な真似をしているより自分の武器を十全に使える様になってこそである。坑道の戦いにおいても自分の武器を使った上での辛勝であった。

 

「駅が見えたぞ!」

 

皆が知らせを聞いて外に顔を出す。

平野であり付近にカバネがいないのはわかっていたので、多くの民人が車体脇の通路に出て様子を窺う。

甲鉄城の警笛に対して警笛が返ってきたことから、生きている駅であることに民人が湧く。

 

「最上。助かった。」

 

「いい気になるなじゃ伝わらんよ。来栖はもう少し口が上手くなった方がいいな。下侍一同には伝わるだろうが、それ以外に伝わらないから誤解を招くぞ。」

 

「む…。…わかった。」

 

純粋にいい気になるなと思ったのもあるのだが、お遊びで人の技を真似るより他にやることがあるだろうとも思ったのも確かだったので、最上の説明でスッキリしたのだ。最上ほど口が上手くなることは一生ないとは思うが、技術指導位は先程の様な説明を踏まえてできるようにならねばと納得した。

 

 

倭文駅に到着したことから六頭領に甲鉄城を任せて、領主に会いに行くことになっている。最上は甲鉄城唯一の上侍であるので当然領主に会いに行く面子に入った。交渉事になるなら確実にいた方が良い。

鈴木から足らないと言われた材料は菖蒲達にはわからないため、蒸気鍛治の面々に買い出しを依頼した。

それに続いて他の面々も補修部品やら生活必需品の必要性も口々にする。

許された滞在期限は明日の夜までである。

今日が七夕であるという話題から、無名が七夕をしたいと口に出し、資金などから難しい旨を生駒が説明する。

 

「やりましょう。七夕。お金のことならこちらを。」

 

菖蒲は袂から細工の美しい小箱が差し出される。来栖が制止しようと声を上げるが菖蒲に引く気はない。

 

「菖蒲様。そちらではなくこちらを。」

 

最上は袂から見事な漆塗りの箱を取り出した。

 

「最上。そちらは?」

 

「上侍たるもの有事の際に売れる物を1つや2つ持っておくべきだと、お歴々に指導されましたので購入したものです。先達の指導は馬鹿には出来ませんな。」

 

「よろしいのですか?」

 

「かまいませんよ。もう一つありますので。」

 

最上が薄く笑いながら袂からもう一つ箱を覗かせるのを見て菖蒲は小箱を引っ込めた。

 

「助かったぞ。最上。だがあれは?」

 

「なに。先程の話は本当なのでね。…お歴々は有事のためより自慢のためだったようだが、お歴々に見せられる位、高価なものを一つは持ってないと侮られるのだよ。どうせなら助言通り、有事の際に売れるものをと買っただけだ。本当に役に立ったのだから、くだらないと思った助言も聞いてみるものだな。」

 

最上が助言したという上侍を馬鹿にしたように笑う。

 

(まあ…七夕が有事かと言われるとちと違う気はするが…来栖が止めたのだから、あの小箱は菖蒲様にとって大切なものなんだろう。ある意味主の有事ではあるしいいだろう。)

 

 

菖蒲達は領主の屋敷に来ていた。

最上は来栖達と廊下に並んで控えているが中々に待たされている。先に来客があったようには思えないが、出てこないということは舐められているのだろう。

 

「遅いな。」

 

「我々は招かれざる客だからな。どこも食糧は惜しい。」

 

「しかし交渉の機会すら与えんとは。戦う相手を間違えている。」

 

「生駒みたいな物言いをするんだな。」

 

「相談してくる。」

 

最上は来栖と吉備土のやりとりを聞きながらどうすべきか考えていた。

来栖が菖蒲の控える部屋の障子戸を引く。

 

「菖蒲様。…っ‼︎」

 

饅頭を頬張った菖蒲が振り返る。

 

「っ!…来栖…これは…その…」

 

「…あっ…し…失礼。」

 

来栖が少しばかり勢いよく障子戸を閉める。引いた方とは反対側である。

一連の行動を見ていた最上は訝しんだ。

 

(まるで着替えでも覗いたような反応だな…いや、来栖が菖蒲様の着替えなど覗こうものなら卒倒するか…)

 

「もう少し待ってみるか。」

 

「いいのか?交渉をいそが…「もう少しだけだ。」

 

吉備土の確認は食い気味に阻止された。

暫くして少し恥ずかしそうな菖蒲が顔を覗かせる。

 

「最上。私たちはどうするべきだと思いますか?」

 

「そうですね。だいぶ軽くみられているようですので、少し強気に参りましょうか。」

 

「強気に…ですか?」

 

「来栖。蒸気筒の準備を。」

 

「わかった。」

 

「蒸気筒を使うのですか?」

 

「噴流弾の見分をするだけですよ。献上品なのですから不首尾があってはなりませんので。流石に屋敷内で発砲音がしても出てこないほど間抜けではありますまい。」

 

「まあ…。なんてこと。」

 

菖蒲は驚いてはいるが、顔色は明るい。

 

「一発空に撃って向こうが出てきたら、菖蒲様はいつも通りで問題ありません。発砲したことについては先程の言い分を。謝罪はしないで下さい。さも当然のようにお振る舞い下さい。そして試射を見せてやればいいのです。一通りの説明を終えたら笑顔でも見せてやって下さい。」

 

「わかりました。」

 

「試射は来栖が。私では少々迫力が足りませんので。私も横に控えますが口を出すつもりはございません。何かあれば話は別ですが…どうしても回答に窮しましたら、動揺は見せずに薄く笑って名前をお呼びください。その後は私が。」

 

「ええ。最上の名前を呼ぶことがないよう頑張ります。」

 

「では参りましょうか。」

 

最上は菖蒲を庭に促した。来栖と吉備土は試射の準備をしながら話を聞いていた。

この威圧的な行為の説明を聞いて、なるほど発砲音がすれば間違いなく出てくるし、献上品の見分なら咎められもしまい。そもそも家格は四方川家の方が上であるのに、この扱いであるのだから少々強気にでても無礼にはならない。と納得した。

結果は菖蒲達が想像していたより容易に交渉が成立した。家老が助平爺であったからだ。菖蒲の笑顔でイチコロであった。日が暮れ始める前には交渉が終了した。

 

屋敷から出て最上が呆れたように

 

「ただの助平爺だったな。楽でいいが。」

 

と宣った。

 

「貴様が菖蒲様に笑顔などと言うからだろうが!」

 

「為政者の笑顔には価値がある。といってもだいぶお釣りが来たがな。」

 

「来栖。私が笑うだけで交渉がすすむなら良いのですよ。」

 

「菖蒲様。安売りはいけませんよ。あくまでトドメで使うようにして下さい。あとお一人の時は使ってはなりません。横に来栖などを侍らせている時にして下さいね。」

 

15にしてこれである。顕金駅を取り戻したら家老あたりにでもなれそうである。

 

「菖蒲様。少々外れてもよろしいですか?」

 

「何かありましたか?」

 

「いえ。私用です。」

 

「おい。最上。」

 

「来栖。良いではないですか。最上のおかげで早く終わりましたし、普段から嫌な役所を任せているのですから。いってらっしゃい。最上。日が完全に落ちる前には戻るのですよ。」

 

「菖蒲様。私は子供ではないのですよ。元服は済んでおります。…では行って参ります。」

 

最上が菖蒲達から離れていった。

 

「ふふっ。ちょっと弟みたいでしたね。もし弟がいたらあんな感じでしょうか。」

 

「弟ですか…アレは少し特殊な気はしますが…」

 

菖蒲達は甲鉄城への道を歩いていく。

 

 

菖蒲のいいつけ通り日が落ち切る前に最上は甲鉄城に戻ってきた。

買い出し組も少ししてから戻ってきた。着々と七夕の準備が進む。

準備が整い始めたころ短冊が配られる。無名が逞生の短冊を取り上げ読み上げるが、"生き残れますように"という願いであったため場がしんみりとする。

生駒が壮大な願いを発表したことで空気が少し変わる。菖蒲もその流れに乗ったことで完全に民人達の空気が緩んだ。生駒は流れを変えようと意識してやったことではあるが、菖蒲にそのつもりはなかったため、民人達の笑顔を見て戸惑った。

皆が流れに乗って夢を語る。それぞれが親しい者に夢を尋ねては笑う。

最上は誰もいない車上でなにも書いていない短冊を眺める。

 

(願い事ねぇ…。)

 

河原沿いで花火が上がり始める。甲鉄城からほど近いところで上がっているため、甲鉄城は特等席である。

暫く花火を眺めていたが終わりに一際大きい尺玉が上がり静かになった。

 

「書かないのか?」

 

菖蒲の隣に控えていたはずの来栖がいつのまにか車上にいた。

 

「こういうの得意じゃないんだ。」

 

「そういうものか?」

 

「望みは願うものじゃなくて、叶えるために策謀を巡らせるものなんでね。書こうと思うとなにをどうやってやろうかに思考が飛ぶな。」

 

「どんな思考回路をしとるんだお前は。なんでもいいから書け。」

 

「人の話を聞いてたか?」

 

「四方川家の家老になるとでも書いておけ。そうでもなければ菖蒲様の願いが叶うようにとでも書いておけ。」

 

「なぜ家老…。菖蒲様の…お前が書いたんだろそれは。」

 

「何故わかる⁉︎」

 

「わからいでか。まあいいか。菖蒲様の願いが叶いますように。っと。これでいいな。」

 

「雑に願うな!心して願え!」

 

「菖蒲様が関わると面倒くさいな。お前。」

 

「なんだと⁉︎」

 

「はいはい。じゃあ吊るしてきまぁーす。」

 

逃げるように最上は車上から降りていった。

 

 

 

朝方外から歓声が上がる。

倭文駅に狩方衆が来たようだった。

皆が狩方衆を眺めていたところ、無名が代表である天鳥美馬に駆け寄った。

無名は無邪気に美馬に話しかけている。

 

(12の少女がカバネリとはいえあの強さだ。今でこそ少女らしい振る舞いをするが、弱いものは死ぬだけとしていた無名殿に慕われる男か…。やり合いたくはないな。)

 

狩方衆を眺めている菖蒲と来栖の間に入り込み小さく声をかける。

入り込まれたことで来栖は視線を向けた。

 

「来栖こっちを向くな。前を見ていろ。菖蒲様。無名の繋がりがあるのであちらとの関わりは避けられませんが、お気をつけ下さい。表立って警戒する必要はありませんが、心の片隅に警戒心をお持ち下さい。あれからは同類の匂いが致します。素知らぬ顔でなにをするかわかりません。」

 

「最上。貴方が前もって警告する程なのですか?」

 

「私より彼方の方が上かと…。ことが起きてからでは進言が叶うかわかりませんので。目的如何によっては無駄となるやも知れませんが、どうぞお忘れなく。…もしも菖蒲様の叔父上君の話を詳しく聞かれましたら、私の名前もそれとなく出して下さい。堅将様について金剛郭へ訪ねた折に面識がございます。」

 

来栖は未だ嘗てない最上の様子に、驚いた。いつも後ろから観察し、必要がある場合か求めがあれば発言し、堂々と六頭領などをあしらう姿ばかり見てきたが、今回は事前に警告してきたばかりか、天鳥美馬の方が上であるなどと言うのだ。

最上は言い終えると小さく一歩下がった。

 



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狩方衆

今回はマジでごめんなさい。嫌いではないんですが、あまりにも美馬様が出てきてからがよくわからなくて…。


来客対応が全くできない克城なRTAはーじまーるよー。

 

前回は菖蒲様に警告したところまででしたね。続きをやっていきます。

 

菖蒲様が美馬に話しかけに行きますのでついて行きます。ここでついて行かないと克城に行けません。生駒君みたいに失礼な真似は普通できませんからね。武士以外は克城にはついて行けないので、武士以外の職業を選んだ場合は諦めましょう。武士以外でついて行こうとすると美馬に

 

「君は?」

 

とか言われてそれ以上進めなくなります。

克城は余計なイベント感ありますが、克城に行かないと指定キャラ10人に話しかけないと話が進みません。指定キャラはアイコンが頭上に出てますが地味に散ってるので、会話を飛ばしまくるなら克城行った方が早いです。

指定キャラとする会話ですが、美馬についての話を聞くだけです。

基本的に称賛してます。侑那とか巣刈は称賛しませんが、まあ世間的には英雄様ですから当然なんですよね。

 

克城に入りました。克城では一回しか選択肢も出ませんし、動かすこともできません。基本的にはただ菖蒲様について行くだけです。ボタン連打です。

美馬は人を招いておきながら車両の修理を始めます。非常識よな。部下を呼ぶんじゃなくて自分がやる。素晴らしい考えですが、美馬しかできないわけじゃないだろうに、客をほったらかして修理を始める神経がわかりません。

生駒が修理にのって来なかったらどうするつもりだったの?修理だけして終わるつもりだったの?

 

滅火はしごでき感だしておきながら、上役の招いた客を何故か車両脇の通路に放置します。お前ら本当になんなの?車内通って外に出す意味本当にわかんない。しかもいなくなるし。部屋に通して、お茶を入れに外すとかならわかるけど、応接する気ゼロすぎだろ⁉︎菖蒲様はキレていいと思うの。

 

瓜生はもっと意味不明よ。上役の客だが?遭遇時は誰だかわかんなかったとして、刀を渡せの下りで来栖が説明してるのに攻撃と取られる行動するとかね。無理だわぁ。蜘蛛がなんなの?

ここで選択肢です。防ぐか何もしないかです。ここは何もしません。

来栖が抜かなかっただけ凄いよ。よく我慢したな。地位ある人間に切り掛かってる形なんだから抜いても許されたよ。むしろ抜いて弾かれたりしたら瓜生かっこつかなかったよ。

さっきの選択肢で防いだ場合、美馬から警戒されやすくなります。それは困るので何もしないんですね。

この後倭文駅を出て行くとき克城とランデブーする訳ですが、この辺の理由で断っても許されるレベルで無礼のバーゲンセールよ。

 

これカバネの襲撃なかったらどうリカバリーするつもりでいたの?将軍の子息の下りで、親も子もないみたいな話しておきながら何様なの?四方川家の総領にして老中の姪をなんだと思ってんの?最初から最後までまともに接客してる奴いねぇから。

 

 

はい。カバネが襲撃してきました。

克城から降りましょう。マジでなんのために来たのやら。甲鉄城に戻ると自動で出撃します。カバネを5体倒すと榎久のイベントが始まります。ここでは刀を使いません。なぜなら蒸気筒で倒した方が早いからです。遠距離最高!ホモ君の刀は飾りかな?

はい。倒しました。

殺しにいって負けたら命乞い…そんなんだから捨てられたのでは?

しかし命乞いを聞かなかったことで生駒がキレ散らかしますが、ど素人のパンピーが町中とかでやってるならまだしも、カバネのいる戦場を抜けて来た、どう考えても戦える人間が襲い掛かっておいてする命乞いにどんな価値があるんですかね。

背中から切り掛かってますからね。そいつ。

美馬が親類か?とか聞くの割と親切よね。相手にせんでいいレベルよこんなん。

 

菖蒲様が謝罪しに行きました。

生駒ぁ!お前のせいで謝罪してんのやぞ!おデブ!責任持って頭下げさせない!

出ました警護の話題。菖蒲様ぁ。どう考えても無礼のオンパレードで、刃物まで向けてきたやつがいる非常識軍団は警戒してぇ。

 

 

連結ぅ。なんでなの菖蒲様ぁ。

とはいえ無名ちゃんがいなくなるので断れないって、戦力値的な部分もあるのかな。ホモ君は艦橋にいますがこの後自動で待機部屋行きです。職業によってこの時の位置は違いますが、一部の場合を除いてすぐに視点が変わるのであんまり関係ないです。

菖蒲様も艦橋を出て執務室?に行きます。

視点は菖蒲様に移ります。

親鍵イベントですね。なにも出来ませんのでボタン連打で行きましょう。侑那姐さんは肝が据わってますね。一歩間違えたらぶっ殺ですよ。

 

美馬が親鍵じゃないって気がつくのはまだわかるんですが、ボイラー室の鍵ってわかるのなんなんですか?駿城は親鍵とボイラー室の鍵しかないわけじゃないだろ。なんで言い当ててんだ?怖いよ。

 

おデブが呼びに来ました。さっさと行きましょう。しかしおデブ。お前菖蒲様呼ぶ事じゃねぇだろ。菖蒲様は生駒のお母さんじゃあないのよ。

このイベントですがカバネリルートで、無名ちゃんの好感度が一定値を越えていると参加できます。条件を満たしていた場合のみ視点が菖蒲様に切り替わらずに動くことができます。まあ克城一直線しかないんですけど。

無名ちゃんと生駒が決裂しましたね。

一回、目の前で人を殺したら、自分の身が可愛い卑怯者扱いですからね。まして殺したの自分の背後から切り掛かってきた奴ですから卑怯者扱いはちょっと…。

無名ちゃんが怒るのも無理ないです。

 

カバネリーズが解散したので、今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 



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狩方衆【裏】

菖蒲は最上からの警告を胸に美馬の前に出ていった。来栖と最上を従えていく。

 

「天鳥美馬様でいらっしゃいますね。四方川家の総領菖蒲と申します。」

 

「四方川…では、老中の。」

 

「老中牧野道元は私の叔父です。」

 

「兄様。みんなも金剛郭に行くんだよ。」

 

無名が話に入ったことで叔父の話は掘り下げられることはなかった。名前が出るくらいなら会話としては普通である。

そこへ生駒がやってきて、何やら無礼な態度で話し始めてしまう。抗議の声を上げた無名は、美馬により下がるように言われ、渋々下がって行った。

 

生駒を含めて菖蒲達は克城へと招かれた。

車内では蒸気漏れが発生しており、何故か美馬が整備をすると言い出した。生駒も手伝いを申し出た為その場に残り、菖蒲達は滅火に先導され車内を移動していく。

 

「ここでお待ち下さい。」

 

滅火は何故か先頭車両脇の通路に案内した後車内へと戻って行った。車両脇の通路など客を通す場所ではない。

 

「おやぁ?場違いなお姫様がいるなぁ。」

 

狩方衆の1人が声をかけてくる。間に入った来栖に対し刀を差し出すよう要求する。もちろん美馬の招待であるので差し出す理由はない。

 

「すぐに要らなくなるのに…」

 

小さな声で狩方衆は嗤い、背中から武器を抜いて菖蒲に切りかかる。来栖が菖蒲の背を押して避難させる。

 

「貴様なんのつもりだ。」

 

来栖の手が刀にかかる。

 

「おいおい。勘違いするなよ。」

 

狩方衆の武器の刃先には蜘蛛が捉えられていた。

 

「仲良くやろうぜ。仲良く。」

 

などと嘯いて来栖達の横を通り抜けていく。

 

「そっちの子犬ちゃんは護衛じゃないのか?護衛としているならもう辞めたら?全然反応が遅いじゃん?」

 

最上をちらりと見て去って行った。

最上は視線を下げたまま狩方衆になにも言わなかった。

 

「最上。何故言い返さなかった。」

 

来栖は最上が反応出来ない速さではなかったと判断したし、例え反応出来ていなくとも抗議して然るべき侮辱である。

 

「すみません。驚いてしまいまして。」

 

顔を俯かせながら気弱そうな声で返す。だが口元は笑っている。顔と台詞が全く合っていない。

そういう人物像でいきたいらしい。

こちらには無名がいるのにそれは無理では?と思ったが最上がやりたいようにやらせることにした。

 

最上は今まで一度も無名の前で本性は見せていない。生駒が来栖の技を真似た時に少し話したくらいであるので、無名の中では武士の中では偉い奴で、頭は良さそう。くらいの印象しかない。

 

警笛が響き渡り、カバネが倭文駅を攻めてきたとの情報が菖蒲達の耳にも入る。菖蒲達の元には美馬も滅火も現れなかった。客として招待しておきながら、外通路に放置した美馬はなにがしたかったのか3人には理解出来なかった。ともあれ美馬よりカバネである。

3人は甲鉄城に戻ることにした。

 

 

甲鉄城を西門に移動させ出撃準備をしていると、克城が跳ね橋を下させて駅の外へ出て行く。克城は外に出ると車体の一部を開き、そこから迫撃砲を撃ち込んだ後、狩方衆の各々が克城から出て戦いが始まった。

機動力のある先発が足を撃ち抜き動きを止め、後発がトドメをさす。

軍隊としての戦い方である。

 

戦場に融合群体ともワザトリともつかぬカバネが現れる。他のカバネを鎧のように纏っている。

無名と滅火が向かう。滅火は無名と同じ速度で移動していることからカバネリである。無名と滅火の連携によりカバネは倒された。

 

離れた場所で美馬が人間に刀を向けられている。

 

(あれは…八代駅で乗った奴だな。)

 

最上は菖蒲の後ろに控えながら、観察している。この戦場においては噴流弾のみを使用し、金属被膜刀は抜いていない。

男と美馬は会話でもしていたのか中々動かなかったが、男が斬りかかり一瞬で決着がついた。

美馬が男に刀を突きつけている。

 

「た…助けてくれぇ!」

 

自分から斬りかかっておきながら命乞いをし始めた。少しして美馬が男を貫いた。生駒が駆け寄り美馬に食ってかかる。生駒の主張は戦場にいるものの中で同意するものなどいないだろう。

逞生が止めに入り、さらに菖蒲が謝罪する。

 

(つくづく自己主張の激しい男だな。恐らく目の前で人が死ぬのが我慢ならないたちなんだろうが、程度があるだろう。自らを殺しにきた人間を殺して責められるというのは意味不明だ。)

 

最上は生駒の様子を菖蒲の後ろから窺う。

菖蒲の謝罪に対し美馬は金剛郭への道のりの警護を申し出る。

本日の夜には出発しなければならないため、角を立たせずに断る理由がみつけられない。断ったとして追随されれば同じである。菖蒲には受け入れるしかなかった。後ろに控える最上は口を開かなかった。

 

 

克城に甲鉄城を連結して出発することが決まった。

民人は解放者である美馬との道行きに喜びを顕にしている。

 

「最上。これで良かったのでしょうか…。」

 

「申し訳ありません。回避する手段がありませんでした。向こうの刻限が先ならまだしも、こちらの刻限の方が先でしたので例え断っても追従されただけかと…」

 

最上は難しい顔をしている。

 

「本来ならば利のない警護を申し出たのです。甲鉄城と行動を共にする必要があるのでしょう。…我々には分からない利がきっとある…。1番考えられるのは菖蒲様のお立場です。目的地が金剛郭である以上、老中の牧野様が目的のひとつかと…将軍の子息であるから目的というより手段なのか?金属被膜刀を使っていたが…」

 

菖蒲に進言していたはずが思案に耽り始めてしまった。

 

「最上。」

 

「っ!申し訳ありません。」

 

来栖が声をかけると、驚いて顔を上げ謝罪した。

甲鉄城で唯一政方面に強く、総領としての教育を受けてきた菖蒲ですら、頼りにしてきた最上が焦燥しているのが艦橋にいる者達に伝わる。

 

「とにかく次の駅までどうすることもできません。次の駅で離れることが出来ればいいのですが…少し考えておきます。失礼します。」

 

最上は頭を下げて艦橋を出て行った。

 

「来栖。…最上は大丈夫でしょうか。」

 

「己にはアレの考えはわかりません。いっそ考えていることを、理論だては置いといてすべて喋らせますか?」

 

「だが八代駅の時のように全て真実を語るとは限らないんじゃないか?」

 

吉備土は難色を示す。

 

「あれは目的あってのことだろう。今なら余計なことを考えている余裕はない。まあ考えを話させたところで己達がどうにかできるとは思わんが…」

 

「もう少し待ちましょう。次の駅まで時間があります。最上の読みなら目的は私の立場です。今事を起こす必要がありません。私は執務を片付けます。来栖。艦橋を頼みます。」

 

「はい。」

 

菖蒲も艦橋を立ち去って行った。

 

 

菖蒲は執務室にしている部屋で経費などの記録を付けていた。戸を叩く音が聞こえ顔を上げるとすでに無名が立っていた。

 

「無名さん?何かご用事?」

 

「うん。甲鉄城の親鍵を渡して。」

 

「えっ?」

 

「親鍵だよ。菖蒲さんが持ってるやつ。」

 

「何故親鍵が必要なの?」

 

「渡してくれないの?」

 

「無名さんが使うの?それとも誰かに頼まれたの?」

 

「渡してよ!そんなの良いから!」

 

「無名さん…。」

 

「菖蒲さんじゃあ私に勝てないよ。だから。ね?」

 

無名の手から苦無が覗く。

 

「渡してっ…」

 

「親鍵ならここに。」

 

侑那が声をかけて入室してくる。連結作業で使用していたなどと嘘をつき、何か別の鍵を無名の手に握らせた。

無名は親鍵をちゃんと見たことはない。侑那の説明もあり得る説明だったため、嘘には気が付かずに礼を言い去って行った。

 

「美馬様…ですかね?」

 

「そうなのでしょうね…。」

 

侑那も艦橋での話を聞いていた。最初の頃からずっと最上の言うことを艦橋で耳に入れてきた。今回の最上はいつもと違い、恐らく美馬に読み負けている。ここで仕掛けられたのを読めなかったのもそうだ。次の駅まで…と言っていた。次の駅までは何もないと読んでいたのだろう。目的地は金剛郭だから。

 

「菖蒲様ぁ!来てください!生駒が!」

 

逞生に呼ばれ、克城との連結部分までやってきた。逞生が銃眼を開くと生駒と無名が話していた。

 

「ここは任せましょう。」

 

無名がいる以上、現時点で出るわけにはいかない。親鍵の件がバレているのかがわからないからだ。

次第に無名と生駒の口論が激しくなり、無名が生駒を蹴り飛ばす。

無名が克城に戻ったことで逞生と菖蒲も外に出る。

 

「美馬。あいつは英雄なんかじゃない。あの時、あいつは笑ったんだ。」

 

 

 

最上は普段自分が使っている寝台に座って、美馬のことを考えていた。

 

(美馬と滅火は金属被膜刀を使っていた。戦略でうまく戦っている印象を受けるが、カバネリの技術と金属被膜刀…今まで聞いたことはなかった。金剛郭に行ったときもそんな話題はなかった。無名殿の熟練度からしてごく最近の技術ではない。ならば解放者と呼ばれ頼られてはいるが、技術は開示していない。カバネリはまだしも金属被膜刀は提供していても問題ない技術だ。自分達以外が対抗できることを望んでない?

美馬は勘当されていて、親も子もないと言っていた。かつて勘当した息子が他の追随を許さぬ戦力を得ていると知っていて迎え入れるだろうか…。菖蒲様に繋ぎを頼みたいのか?将軍様に迎え入れる気がないなら菖蒲様が進言しても通らないのはわかりきった話だ。…では人質?応じるとは思えない。老中の姪では弱い。

一体何がしたい?認められたいなら解放者として功績を上げ続ける方がいい。勘当した父親を殺したい?殺すだけなら謁見の権利がある者を抱き込んで、変装でもして部下として潜り込めば済む話だ。もう実行していていいくらいだ。狩方衆を組織して解放者なんて肩書きは要らない。…分からない。目的も手段も。)




ホモ君は頭良いムーブしてたけど、善人だらけの甲鉄城にいたからってだけで美馬様には勝てないです。
まあ美馬様の目的や行動基準が視聴者視点からでも割と意味不明なので読めたらおかしいんですけども。


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磐戸駅

ホモ君まさかの女装なRTAはーじまーるよー。

 

前回は無名ちゃんと生駒が喧嘩したところまででした。続きをやっていきましょう。

 

武士ルートだと艦橋で無名ちゃんが親鍵を強奪しに来た話を聞きます。がこの後すぐに磐戸駅につくのでボタン連打していきましょう。克城の皆さんさよーならー。

 

操車場に自動で移動します。瞬間移動ありがとう。ここで会議です。

この後菖蒲様と侑那さんが謁見しに行くのが正規ルートですが性別が女性でカバネを一度でも倒したことがあると共周りとしてついて行けます。性別が男でも身長が一定以下だと女装させられてついて行きます。

ホモ君は一定値以下なので女装しましょうね。顔も攻撃力も考慮されません。どれだけ男らしい顔をしてようが、筋力がめっちゃありそうな攻撃力があろうが関係ありません。身長のみが考慮されるんですね。

女装の場合、防具のアクセサリ枠の腕輪と髪紐は外さずにすみます。他の装備品は全て外されて、静の服と簪のみが装備になります。アイテムは5個しか持てません。まぁ使いませんが金平糖だけ持っていきますか。

 

前田様に会うのに女子供しか共周り駄目だよ。ってする割に身体検査とかないので女装でも会えちゃうんですよ。ガバガバすぎない?

というか甲鉄城は共周り関係ないじゃんね。ここに来栖と吉備土いたら前田様死なずに済んだかもね。流石に無理かな?

 

そもそも金剛郭からの指示で狩方衆入れるなって指示されてるのに、指示守らないから死ぬんやぞ?

そんなに可哀想だと思ったんなら、食糧くらい謁見せずともくれてやれば良かったのにな。その場合は滅火が手前をぶっ壊して、大門は狩方衆で占拠したかもだけどな。

 

はい。謁見スタートしましたが、美馬様登場。前田ぁ。お前なんで謁見被せるの?別々で良いだろ。甲鉄城の人間も警護の数に入れてたの?もしそうなら共周り規制するなよな。

無名ちゃんがトイレに行ったら鈴鳴りがなります。ここで美馬様が暗器使ってますね。身体検査しないからぁ。してても素手で皆殺しできるだろうけども…。

 

ここでは菖蒲様を庇うか庇わないか選べます。庇わないと本編通り侑那が助けてくれますね。庇わないと菖蒲様と侑那の好感度が下がっちゃうので庇いましょうね。もうここまできたら好感度はそんなに必要ないですが、下がるよりはね。

 

庇った後、降伏するか戦闘するかを選べますが、無手なのでカバネリルート以外では勝負になりません。

戦闘する場合は滅火と戦います。カバネリルートでめっちゃレベル上げておけば滅火に勝つことが出来ます。ただし菖蒲様が人質に取られるのでその後半殺しにされて気絶のバッドステータスがつきます。気絶のバッドステータスがつくと、後で発生する克城乗っ取り計画に参加するかどうかの選択肢が選べません。強制参加です。あの計画は長いだけで得られるものはないので(参加する必要)ないです。

戦っても良いことないので降伏しましょうね。

 

みんな無傷で克城へ行きます。

ここは会話ばっかりなのでボタン連打で大丈夫です。

ここで滅火を使う必要あったんですかね?大門だってたぶん普通にやっても占拠できた気がするんですが、そんなに超大型巨人みたいに壁破壊したかったんです?

 

お外に菖蒲様だけ出られます。来栖が来てくれますが、菖蒲様が余計なことするから、来栖がログアウトしますね。いやまあここでログアウトしないと色々都合が悪いので、ログアウトしていただく以外ないんでしょうがね。

ここではホモ君は何にもできません。我々にできるのはひたすらボタンを連打することだけです。

 

美馬様の演説聞いて思うのは、駅がなきゃ生産活動できないから、力あるものも死ぬだろって話。10年前補給線切られて大敗したんじゃなかったか君は。何故緩やかな自殺の選択肢を演説しているのか。

 

まあ美馬様は結局大暴れして死にたいだけよね。

 

じゃあこれで今回は…あれ?なんです?イベント始まったんですが?

ホモ君を金剛郭で使うってどういうことですか?今までそんなのなかったじゃない!何が条件⁉︎血を抜く?待って気絶だけはやめて!参加したくない!参加したくない!試走のときこんなのなかったじゃないですか!

なんかめっちゃ血を抜かれて甲鉄城に戻されましたね。ただいま。

 

やだぁ。気絶したじゃないですかぁ。乗っ取り計画参加なの?面倒だよぅ。

 

試走の時と違うとすればステータスかなぁ。上侍がいけないの?でも上侍でも2回試走したんですがね…。知力?わかんないなぁ。初見イベントが始まってしまいましたがこのまま走ります。というわけで今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 




女装回。別にホモ君は可愛くはないです。女の子のカッコしてるんだから女の子だろ。くらいの認識。
武士の時代の男が女装?役者でもあるまいしする訳ないじゃんっていう前提があるのでスルーされました。
サイズ感も不思議ないサイズ感なので。


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磐戸駅【裏】

「無名殿が親鍵を⁉︎申し訳ありませんでした。」

 

菖蒲は最上や来栖に昨日の夜の出来事を艦橋で話していた。

 

「最上のせいではありません。それに侑那さんのお陰で大事ありませんでした。」

 

「それは結果論です。完全に読み負けていながら、菖蒲様のお側を離れるべきではありませんでした。」

 

「最上。そこまでにしておけ。アレの考えがわからないのも、菖蒲様のお側を離れたのも、己も同じだ。」

 

「そういう問題では…っ!」

 

警笛が響く。

 

「磐戸駅に着いたようですね。」

 

「跳ね橋が降りません。」

 

服部から報告が上がる。

 

「一体どういうことでしょうか…」

 

磐戸駅到着間近の跳ね橋手前で克城は立ち往生していた。

 

磐戸駅の武士から、金剛郭からの指示で狩方衆は通すわけにはいかないとの説明があった。

甲鉄城の人間だけは駅に入る事を認められたため、甲鉄城を残し全員が下車を命じられた。

 

(やはり将軍様は美馬に会うつもりがない。恐らく美馬もわかっていたはずだ。だからこそ甲鉄城の警護など申し出たんだろうが、ここで離されるのは想定内なのか?だが甲鉄城はまだ連結されたままだ。)

 

「美馬様は入るなってよ。」

 

「バラバラになっちゃうの?」

 

民人は克城と引き離された事を不安に感じているようだ。

 

「これで彼らと離れられたのは僥倖でした。でも…無名さん…。」

 

「菖蒲様。無名殿の心配はわかりますが、彼女が親鍵を強取しにきた事をお忘れなく。アレはカバネリです。見た目が少女でも、人外の強さなのです。次は無事ではすみません。」

 

「わかっています…。」

 

線路を歩いて移動し、待機場所として操車場に案内された。

菖蒲達が集まっていると生駒達が近寄ってきて克城にはカバネが乗っていると説明される。それも1、2体の話ではなく100体以上が乗っているのだというではないか。

 

(そんなのは流石にわからんぞ!向こうの頭がいいとかいう次元ではないではないか。完全にイカれているではないか!)

 

そんな斜め上を行く話が出てくると思っていなかった最上は顔を覆って深いため息を吐いた。

磐戸駅で強制的に分断されたことで、克城と離れられたが絶対これでは終わらない。駿城にカバネを乗せているような奴が、入れません。わかりました。で帰るとは思えない。絶対に何かある。

 

「生駒。私も無名さんをあそこにいさせてはいけないと思うんです。あの子は…。」

 

「わかってます。必ず連れ戻します。」

 

(無名殿自体に悪意がないのはわかるがやめてほしい…。切実に。…しかし菖蒲様は随分と気に入ってしまったようだな…。)

 

「話は変わるが、共周りが女子供のみしか許されんとは…。」

 

来栖が苦い顔をする。

 

「侑那殿には頼んだが、侑那殿も別に訓練しているわけではないからな…。」

 

最上がぼやくと、来栖がこちらをじっと見ている。

 

「なんだ?」

 

「静殿。最上をどうにか女人にはできませんか?」

 

「はぁっ⁉︎来栖…何を言っている?」

 

「お前。無名と生駒の間くらいの身の丈だろう。侑那ともそう変わらん。誤魔化せるのでは?」

 

「おいおい「やってみましょう。」

 

「静殿?正気ですか?身体検査でもあったら我々は信用を失いますよ。」

 

静が最上の手を引いて物陰に連れて行く。

 

「侑那さん。手を貸していただけますか?」

 

「はいよ。」

 

「痛い痛い!無理ですって!内臓でちゃう…」

 

物陰から小さい悲鳴が上がっている。女子に見えるように、締め上げられている様だ。来栖は自分で提案したが、可哀想になってきた。

少しして静の着替えを着せられた最上がつれて来られる。髪は簪で留められており、腰は女子の様にくびれて、詰め物でもしているのか、ささやかに胸がある。うっすら化粧をして、喉仏が目立たぬ様にか薄手の布が巻かれていた。

 

「いけるんじゃない?私も女の中じゃ筋肉質な方だし並んでも菖蒲さんが一層ほっそり見えるだけじゃないかな。」

 

「苦しい…。」

 

侑那から言われ、皆が3人を並べて見る。最上の主張は無視である。

 

「良いのでは?元々最上様は雄々しい顔立ちではないし、ちょっと凛々しい女子に見えないでもない。」

 

「悪かったな。男前でなくて。」

 

吉備土からの評価に最上が拗ねる。

 

「バレたら女装趣味の子供とすれば良いのでは?」

 

静からとんでもない提案が上がり最上が完全に沈黙した。

 

「菖蒲さん。そろそろ。」

 

侑那が出発を促す。

 

「最上。大丈夫ですよ!似合っております!…皆さん。頼みますね。」

 

「にあっ…似合っておりますか…そうですか…。」

 

最上の背から哀愁が漂うが、菖蒲の安全には変えられない。例えバレて女装趣味を自称しなければならないとしても…

 

「来栖も酷い提案をする。」

 

「軽いつもりで言った。反省している。」

 

最上の服などを静から来栖が預かった。刀の他に以前見たもう一つの漆塗りの箱や小さな布袋なども渡されたため漆塗りの箱と布袋は来栖が預かり、刀と服は倉之助に預けることにした。

 

 

(うう…。苦しい。…しかし共周りを女子供ってなんだ?前はそんなことなかったのに…。もしかして美馬対策なのか?でも入れないのでは?入れたとすれば、あちらは滅火と無名殿の高戦力を使えるじゃないか。やはりカバネリのことは知らないのだな…。)

 

謁見前に身体検査はなかった。

胴を締め上げられ苦しんでいる最上は、少し顔色が悪く不安そうにしているため、緊張している女子に見えていた。バレたら矜持は木っ端微塵になるので緊張しているのは確かである。

菖蒲の挨拶の口上が静かに響く。

 

「共周りを女子供に限るなどと妙な条件をつけたね。そうでもしないと皆が美馬を招くことに反対で。」

 

(やはりそうか。うちは戦力激減だが、美馬には全く意味がない。)

 

「美馬様を招く。」

 

「食糧のことで相談があると言ってきてねぇ。私は分けてやりたいのだけど…「前田様はご存じないのです。美馬と上様の確執を。」

 

前田は家臣の厳しい言葉に穏やかに反論をする。

 

(前田殿は菖蒲様の様な性格なのだな。人の善性を信じている。いい主なのだろう。しかし美馬にあっては家臣の危惧の方が正しい。)

 

「お見えになりました。」

 

引き戸が引かれ女官の声がかかる。

 

(同時に招くのか?これは…振り向けない…。)

 

菖蒲と侑那が振り返っているなか、最上は少しだけ顔を傾け目線を向けただけに留めた。

 

前田は機嫌良く美馬を招き入れるが引き戸をくぐった瞬間、引き戸の影に隠れていた家臣が蒸気筒を向ける。

前田が咎めるが、板垣と呼ばれた家臣は譲らない。

菖蒲達は場所を譲り、美馬達から左斜め前に腰を下ろした。

美馬達はこちらを気にしていない様だった。無名だけは菖蒲を見ていたが、無名は厠に行きたいなどと声を上げた。

前田や家臣達が面を食らうが、前田側が女子供を指定した以上、礼儀がなってないことを咎めることはできない。

無名は殊更子供らしく振る舞っている。美馬が案内を頼んだことで部屋の周囲から少しばかり人の気配が減る。

 

(この程度の戦力の増減など意味はない。無名殿を使って何かするのか?追いたいが流石に無名殿の真似はできぬし、菖蒲様を美馬がいるところにおいては行けない。)

 

美馬と前田は穏やかに交渉を続けていたが、鈴鳴りが響き渡る。

鈴鳴りに前田や家臣達、美馬に蒸気筒をむけていた板垣すらも意識が外に逸れる。

隙を突いて美馬が暗器で板垣の後ろに回り込み、首をひと突きして殺した。

他の家臣が刀を抜くが滅火の踵に仕込まれた刃で首を掻き切られる。

美馬が前田に襲い掛かり壁に叩きつけた後、刀を抜いて切り掛かってきた別の家臣を袈裟斬りにする。

菖蒲は板垣が殺された時点で周囲を確認し、壁にかけられた薙刀へと向かう。

 

「おやめなさい!」

 

「勇ましいな。」

 

菖蒲が美馬に薙刀を向けたため、滅火が美馬に駆け寄った。

 

「止めます。」

 

駆け寄った時には振り上げていた簪を、菖蒲目掛けて投擲する。

菖蒲の前に最上が立ちはだかり簪を弾く。最上の髪を留めていた撥型の簪を握っているが、撥型の簪は金属製ではない。無手といっていい。

侑那はいつでも菖蒲を庇える様に菖蒲の横に控える。

 

「菖蒲様。薙刀を下ろして下さい。」

 

「最上!」

 

「なりません!」

 

最上の強い口調に菖蒲は薙刀を手放した。

 

(美馬のあの動き。カバネリや来栖と同等と考えた方がいいな。滅火1人ですら、まともに抑えられる自信がないというのに…2人を逃すのは私には無理だ。菖蒲様は必要なはずだ。反抗しなければ金剛郭まではご無事でいられるはず。私と侑那殿はわからんが…)

 

美馬は前田を斬り殺した。

 

「さて。君は男性だったと思っていたが私の勘違いだったかな?」

 

「いいえ。その通りですよ。美馬様を警戒するあまり、我々まで女子供しか共周りを許されなかったもので。美馬様達狩方衆と違い甲鉄城に女性の護衛はおりません故。」

 

「なるほど。確かに君は少々小柄だし、少し幼く見える。幾つかな?」

 

「15でございます。顕金駅にいたころは堅将様の共周りをしておりました。」

 

「ほう。堅将様の…金剛郭へは行ったことはあるかい?」

 

「二度ほどございます。滞在時は牧野様のお屋敷にてお世話になっておりました。」

 

「そう。優秀なんだね。」

 

「少しばかり小賢しいだけでございますよ。」

 

菖蒲も侑那も口を挟まずに2人のやり取りを聞いている。

 

「ならばどうすればいいかわかるな?」

 

「投降いたします。」

 

最上は撥型の簪から手を離す。床に簪が落ちる。

 

「うん。いい子だ。」

 

「最上⁉︎」

 

「菖蒲様。投降以外の手段でお護り出来る実力は私にはございません。ご理解下さい。」

 

美馬に先導されながら克城へと向かう。後ろからは滅火がついてきているため逃げる事も不可能だ。

 

「この様な事をして何を考えているのですか?」

 

「どんなものにも燃料というやつが必要でね。」

 

菖蒲の質問に美馬が答えた瞬間、蒸気筒を多方面から向けられる。

 

「ご同行願いますよ。菖蒲様。」

 

3人で克城に乗せられた。

乗せられる際遠くに馬に乗っている来栖がこちらを見ていることに菖蒲と最上は気がついた。

菖蒲達が通された部屋には蒸気筒を携えた者が数名と白装束の年配の男がいた。

克城がゆっくり移動していたが、緩やかに停車した後少しして、発砲音が何発も響き渡る。

 

「何が起きているのでしょうか。」

 

「…人を…殺しているのでしょう…。」

 

「何故です!ただでさえカバネの脅威に晒されているのに、更に人を人が殺す必要があるのですか?」

 

「先程の燃料とやらに帰結するのでしょうが、私にはわかりませ「オォオォォォオオォ!!」

 

「何事です⁉︎」

 

銃眼を開こうとする菖蒲を後ろに下げ最上が銃眼を開く。

 

「…融合群体が…」

 

「融合群体⁉︎なんということ…」

 

白装束の男は銃眼から双眼鏡で融合群体を観察している。

 

「鵺とはよくいったものだ。カバネリを心臓に使った人工の融合群体。楽しみじゃのう。どこまでやれるか。」

 

(カバネリ⁉︎無名殿か?滅火か?はたまた他にもカバネリがいるのか?カバネリの技術に留まらず融合群体にまで手を出しているのか⁉︎)

 

融合群体が大門へと進んでいく。

大門の上からは大砲が何発も撃たれ融合群体を削るが融合群体が大門に向かって倒れて行く。大門は轟音を立てて崩壊した。

 

「いよぉし。アレは使えるぞぅ。金剛郭とてこれならばっ。」

 

(金剛郭でも同じことをするつもりか⁉︎…いやここは前哨戦。金剛郭ではもっと恐ろしいことを計画しているんだろう。美馬を測ろうなどと考えたこと自体が間違いだった!一度引き返してでも美馬から離れるべきだった‼︎)

 

白装束の男が扉を開き外に出るのに続き菖蒲も外の様子を窺いに扉へと向かう。最上も続こうとするが蒸気筒の銃床で殴られ倒れ込む。

 

「ゔっ!」

 

「最上!」

 

「お前ら2人はここにいろ。」

 

菖蒲だけが外に出る事を許された。

 

(来栖!来ないのか!今が好機なんだ!菖蒲様1人なら連れて逃げられるはずだ!)

 

最上は扉が開いているからか、上に乗られて押さえつけられている。

 

「…っ。予想より早いな。やはりウイルスに枷紐が耐えきれなかったか…」

 

白装束の男の声が聞こえる。

 

「莊衛様。滅火殿に白血漿を。」

 

助手らしき白装束がケースを持って進み出る。

 

「無駄だ。ああなっては元に戻せん。」

 

何かを叩く様な音と短い悲鳴が上がる。

 

「来栖っ⁉︎」

 

菖蒲の声で来栖が来たことを知る。 

 

「菖蒲様は返してもらうぞ!」

 

発砲音と打撃音が響く。莊衛と呼ばれていた男が中に戻ってきて武器らしきものを持って外に向かう。

発砲音らしき轟音が響く。先程持って出た武器だろうか。

開いている扉から菖蒲が助手らしき白装束に足をかけて転倒させ、ケースを奪う。

 

「おやめなさい!」

 

菖蒲が声を荒げ手摺りより外にケースを吊るす。

 

「やめなければこれを投げ捨てます!」

 

「菖蒲様!」

 

「よせぇ!その価値も知らぬ小娘がぁ!」

 

「やめろぉ!」

 

莊衛と来栖の怒声の直後、再び轟音が響き菖蒲の近くを火花が舞う。菖蒲が驚いて手を離したことでケースは手摺りの向こう側へ落ちて行く。菖蒲はすぐに手摺りに取り付き

 

「来栖ぅ!」

 

来栖の名を叫んだ。

 

(来栖がやられたのか⁉︎くそ!状況が分からん!最低でも手摺りの向こう側か!)

 

暫くしてカバネや人は死に絶えたのか、克城まではなんの音も届かない。

静まり返る中、美馬の演説が始まる。

 

「見ろ。檻から解放されたこの世界を。今こそ全ての者は駅を捨て、戦いに身を晒すべきだ。ここでは。臆病者は死に絶え。力ある者だけが生き残ることができる。それがこの世界の理だ。よって我らは臆病の象徴たる将軍の居城。金剛郭を破壊し!解放する!」

 

美馬の演説の後、解放という唱和が何度も何度も響き渡る。

 

 

 

(馬鹿馬鹿しい!生産拠点である駅が無ければ駿城は直せない!燃料や食糧などの消耗品だって安定して手に入れることは出来なくなる!ただ積極的に戦わせたいだけなら、技術や戦略を提供して色々な駅を味方につければよかっただけだ。普通の駅の装備では満足にカバネは殺せない。技術を提供しなかった癖に勝手に壁を取っ払って戦いを強要するのは理にかなわない。

これはただの私怨だ!10年前の大敗に恐らく将軍が関わっている。将軍がとった消極的な何かが原因ということか⁉︎だから臆病の象徴⁉︎私怨だとして将軍さえ殺せれば良いのではという読みが浅かった。同じ目に合わせたいんだ…いや自分達より酷い目に合わせたいんだ。当時関わった者全員を!そして関わった者に守られている者達を!)

 

 

暫くして美馬が車内に戻ってきた。

 

「さて。2人には甲鉄城へ戻っていただこうか。沙梁。最上君は金剛郭で使う予定だ。だがあまり元気があっても困るのでね。限界ギリギリまで血を抜いておけ。」

 

「はい。…ついてこい。」

 

2人は途中で着替えさせられた後、侑那のみ腕に紫色の布を巻かれた。窮屈な格好から解放された最上はそっと息を吐く。

侑那は途中で別れ先に甲鉄城へと戻っていった。最上は採血をする為に用意されているであろう機械に繋がれている。

 

(クラクラしてきた。もう500は抜いたか?限界値はいかほどだっただろうか。)

 

目眩を感じた最上は横になる。さらに血を抜かれ意識が落ちかけたところで針が抜かれた。沙梁は壁際でこちらを見ており、最上の周りには白装束と蒸気筒を抱えた男達が数人いた。

 

「おい。意識はあるか。立て。」

 

指示に従い身体を起こそうとするが目眩が酷く途中でくずれ落ちる。

 

「かなり抜いたからな。仕方ない。運んでやってくれ。」

 

白装束らに腕を抱えられ、半ば引き摺られる形で歩かされる。

 

(気持ち悪い。寒い。目が回る。完全に貧血だ。)

 

「最上様っ!」

 

甲鉄城の人間が集められている部屋についたようだ。白装束達が手を離したため最上はその場で倒れ込む。

 

「最上様に何をした!」

 

雅客達が駆け寄り白装束らに食ってかかる。

 

(ここで衝突させるわけにはいかない。一方的に殺されてしまう。)

 

震える手を雅客に伸ばし服を引く。

 

「血を…抜かれただけだ…少しすれば戻る…。」

 

焦点が怪しい目線を雅客に向け、真っ青な顔で必死に服を引き、やめさせようとしている。雅客は意を汲んでそのまま引き下がり、最上を抱えて後退した。

 

「大人しくしていろ。」

 

そう言い置いて狩方衆は全員引き上げて行った。

 

「最上様。来栖のことは侑那から聞きました。これから我々はどうなるのですか…」

 

雅客が最上を床に下ろすと吉備土から質問が飛ぶ。

 

「甲鉄城の人間の処遇については…とくに何も言ってなかった。だが…金剛郭は…必ず、磐戸駅の再演に…なるだろう…。こんごうかくに、ついてからは…われわれに…かち…は…」

 

「最上様?駄目だ。意識がない。」

 

「一体どれだけ血を抜かれたんだ。」

 

「最上さんは金剛郭で使うって言ってましたよ。元気だと困るから限界まで血を抜けって…」

 

「そうか。しかしこんな状態で金剛郭までに回復するのか?」

 

皆に困惑が落ちる。




磐戸駅って入る時、甲鉄城は克城に繋ぎっぱなしで良いんですよね?どっかに転回して外したりできなかったのか…。


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克城

克城乗っ取り計画なRTAはーじまーるよー。

 

前回は初見イベントが始まってしまいましたが、このまま続けますね。 

 

スカリン他何名かが克城に転職してますが、プレイヤーキャラも武士ルートとカバネリルートじゃなければ、転職できます。小間使いとして克城をあっちこっち行くことになるので、克城を色々見て回りたい場合はおすすめです。

 

田助君が腕切り落とされちゃいましたね。

採血シーン見て思うんですが、これって飼ってるカバネの餌として集めてるんですよね?

甲鉄城の皆さんを餌にするまでどうしてたの?飢えさせておいても問題ないなら、わざわざ採血して餌あげる必要もない気がするんですが…。

飢えて凶暴化してる方が金剛郭で盛り上がるのでは?なんでここにきて餌あげる必要があったんですか?

 

2日目の夜に作戦会議が始まりました。

本来ここで選択肢がでて、反対すればイベントに不参加できます。好感度はだだ下がりしますがここまで来たらほとんど関係ないです。好感度よりタイムなのよ。

ですが気絶のバッドステータスがつくと、選択肢が選べなくなるので強制参加なんですよね。

ん?選択肢でないのにホモ君反対してます。もしかしてこのルート入ると反対以外選べないってことですかね。

参加しなくていいなら助かります。

 

この計画そもそも成り立たないですからね。先頭車両の機関室を占拠って普通に車内通ってやるなら、全員ぶっ倒さないと成立しないと思うんですよ。君たちの戦力で全員ぶっ倒すのは無理があると思うの。

後方で騒ぎを起こして、少数精鋭が車上から回り込んで先頭車両占拠ならまだわかるんですがね。

 

生駒が自信満々の時は失敗するよね。ツラヌキ筒は自分がカバネウイルスに感染。

八代駅では作戦崩壊。

克城では親友死亡。

生駒は作戦に自信がある時ほど一度立ち止まって考えた方がいいぞ?

 

そして武士達も誰も作戦のヤバさに気がつかないし、八代駅のことがあるのにめっちゃ生駒を信頼してんの本当に光属性しかいねぇなって思います。

お前ら拘束もされなければ、武器になりそうな物も手に入って、監視もされてない現状をなんだと思ってるんだ。生駒はね仕方ないと思うの。元々蒸気鍛治だから。だけどお前ら武士だろ?捕まえた奴はどうしとくべきだ?良く考えるんだ。お前たちがもしさっきの条件で放置するならどんなやつだ?

わかるだろ!

生駒しか拘束されてないじゃん。生駒以外警戒すらされてないじゃん。

 

はい。3日目の夜になりました。作戦開始ですね。ホモ君は参加しないのでなんもすることないです。

画面が暗転したと思ったら移動してますね。残った人集めたようです。何する気?やめてなんにも始めないで!って吉備土達が帰ってきました。よかった。乗っ取りイベント終わったようですね。仲違いしてますがこれは初見イベントルート以外でも参加しないと起こりますのでボタン連打で進めましょうね。失敗したからってあたるんじゃないよ。自業自得でしょ。

 

そもそも吉備土はなんで生駒とおデブを先にいかせたんでしょうね。あの時点で敵戦力の主力はほぼ無傷だったと思うんですよ。吉備土もなんだかんだで楽天家というかなんというか。

無名ちゃんが味方にならずとも敵にはならないとか考えてたとしても、あの時点で先行させる理由なかったと思うんですよね。

生駒はともかく、おデブはただの蒸気鍛治だぞ?カバネにビビってたおデブをカバネ殺しのスペシャリスト達の前に出すんじゃないよ。

 

美馬様も相手にもならないからか、菖蒲様の機嫌を損いたくなかったからか知らんが、よく逞生1人で許してくれたよ。優しい対処だと思う。

まあ、ねえねえどんな気持ち?を生駒にやったのはあたおかだと思いますが…あれなんて回答が正解なの?

弱いから死んだ。とか?榎久の時にキレてた生駒がそんなこと言うわけなくない?赤の他人殺されてもあんなにキレてたのに、仲間殺されてキレないわけなくない?不合格とか言ってるけど、榎久の時あんだけキレてたのに手のひらクルーしても信じられなくないか?

なに?美馬様生駒に親友でも殺されたの?と聞きたくなります。

 

克城乗っ取りイベントでは、おデブを助けることができるルートもあります。

カバネリルートで生駒達と一緒に動くことで、ワザトリ戦の来栖を助けた時みたいに割って入ることができます。

この場合は克城からは叩き落とされるので生駒と一緒に来栖達と合流します。

 

職業を医者にしていた場合、おデブは何故か瀕死で待ってますので、治療することができるんですね。もうこのための医者ルートみたいなもんですね。なお、医者ルートでも作戦に参加しなかった場合はおデブは死にます。なんのための医者なの?

 

武士ルートの上侍で作戦に参加した場合、カバネリルートと同じで割って入ることが出来ます。が、こちらは良くておデブと仲良く半殺しにされます。下侍じゃダメかって?ダメです。下侍だと問答無用で生駒とおデブを2人で行かせちゃうんですね。吉備土ェ。

ただし、沙梁と戦って勝たない限り仲良く半殺しルートに入れません。負けるとおデブは死んじゃうんで頑張りましょう。おデブなんですぐ死んでしまうん?嫁3人とか短冊に書くからやぞ!

沙梁はめっちゃ強いので、勝ちたいなら八代駅での無限湧きのところでブートキャンプしておく必要があります。

 

というわけで、倉之助と逞生の主要キャラ救済大団円エンドを目指すなら上侍しか出来ないんですね。

こちらはRTAなので逞生君には尊い犠牲になっていただきましたが、みんなを助けたい兄貴は、上侍でトライしてみて下さい。

 

 

そういえば、美馬は無名ちゃん以外には目的を話していたんでしょうが、なんでこんなに人望あるんでしょうね。沙梁とかは10年前から一緒なんでしょう。たぶん。若様とか呼んでるし。これはわかる。

 

滅火はなんだろ。年上彼女チックな感じ出してましたが、命かけてあげる価値がいつ生まれたのか気になります。顔か?まさか顔なの?

 

瓜生とか一番わかんないんだよなぁ。虐殺大好きとかでもないみたいだし、最終的に緩やかな自殺にしかならない計画に賛同する理由ってなんなんでしょうね。

 

克城のみんながどうやって、美馬様に心酔していくのか知りたいですね。スピンオフとかで美馬ルートが知りたいです。

 

 

乗っ取り計画も失敗したところで今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。




狩方衆サイドの話は本当に気になります。
正直10年前の戦いから見たい。最初は快進撃してたんでしょ?カバネリ・金属被膜刀抜きで。全員薩摩隼人かなにかだったんですか?
一歩間違えれば下侍ズのパッパとか克城にいても不思議じゃなかったよな。


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克城【裏】

ハイパーギスギス回です。


最上と侑那が甲鉄城に戻って一日目。最上は殆ど立っていることが出来なかった。座っているのがやっとで倉之助が、介抱していた。

 

(四日目には金剛郭だ。それまで身体を休めておく他ない。)

 

二日目の晩の採血で問題が起きたらしい。田助なる民人の腕が切断されたと騒いでいる。民人や武士達から憤りを感じる。

 

(よくない兆候だ。後ニ日大人しくしててくれ。血液の提供者としての価値しか今の我々には無いのだから…)

 

夜が更けてきたころ、生駒の捕えられている檻に武士が集まっている。

侑那が生駒に渡している竹筒から、生駒が紙片を取り出していたのを見ていたため、なにやらコソコソしていたのは最上も把握していた。

 

克城の機関室を占拠する計画だ。

夜にだけ鍵束を下げてくる白装束から、鍵束を奪い先頭車両の機関室を占拠。機関室さえ占拠すれば美馬も手が出せない…。

吉備土達は随分乗り気のようだが、最上は賛成出来ない杜撰な計画だった為口を挟む事にした。

 

「その計画で美馬をだし抜けると思っているのか?」

 

「なんだとっ!」

 

「最上様。申し訳ありませんが、民人達の体力もこれ以上はもたないんです。やるしかありません。」

 

「四日目には金剛郭だ。それまではもつだろう。」

 

「金剛郭についたら磐戸駅の再演だと貴方も言っていたではないですか。」

 

「美馬がこちらの考えを読めないとは思えない。読まれていた場合対策されるぞ。…それに戦力差を考えろ。来栖もいない。無名殿は向こう側だ。勝てると思っているのか?」

 

「全員に勝つ必要なんてない。機関室を占拠してしまえば、美馬だって「それが浅はかだと言っている。克城内部を進んで先頭車両に行く以上、避けては通れない。倭文駅で狩方衆の強さは見たはずだ。我々が拘束されていないのは何故だ?絶対に我々に勝てる自信があるからだ。」

 

「臆病者。」

 

「なんだと。」

 

「臆病者だって言ったんだ。あんた磐戸駅でも戦わずに投降したんだってな。今も戦わない理由を探してる。」

 

「最初から勝算のない賭けにでる必要性を感じない。死人を出す覚悟はあるのか?あいつらは人を平気で殺すぞ。」

 

「最上様。…いや最上。あんたには従えない。これで何もせずに菖蒲様に何かあったら、俺たちは来栖に顔向けが出来ない。」

 

「美馬にとって菖蒲様は、我々とは違って価値がある。金剛郭までは安全の筈だ。だが、失敗すれば菖蒲様がしなくても良い選択を迫られるとは考えないのか?途中で菖蒲様が人質に取られる可能性は?」

 

「とにかく俺は生駒の計画にのる。最上。あんたは確かに頭が良い。だけど美馬に読み負けて随分と自信を失っているようだ。来栖ならこんなとき間違いなく計画にのることを選ぶ。」

 

「……。」

 

吉備土が厳しい目を最上に向けている。最上は周りを見回して確認するが、他の武士達も譲るつもりはないようだ。

 

「そうか。勝手にしろ…。忠告はした。」

 

最上はその場から離れていった。

雅客や倉之助は最上を視線で追うが、追いかける事はなくそのまま背中を見送った。

 

(反乱を起こす面子の何人が死ぬだろうか。せめて片手分ですめば良いが…。私がいながら反乱を起こさせてしまうとは菖蒲様に申し訳が立たないな。人望がないのはわかっているが、そうか…生駒以下とは…。ふふっ。)

 

最上は自分でも自覚しきれていないが、これ以上ない程に落ち込んでいた。

 

雅客は迷っていた。

 

(確かに最上様の言う通り、この計画が美馬に読まれていない保証はない。戦力も足りていない。だが何もせずに菖蒲様に何かあれば来栖に申し訳が立たないというのも本音だ。)

 

倉之助も最上には申し訳なく思っているが、吉備土がいったように、来栖がいたらきっと計画にのるだろうと思えた為引くわけにはいかない。

 

(2年前のあの事件も解決に奔走したのは来栖旗下の下侍だ。最上は所詮自分の身がかわいい上侍ということだ。やるんだ。あの時だって来栖が切腹覚悟で奔走したから解決したんだ。)

 

吉備土は自分を奮い立たせるために、最上を心の中で批難した。

武器になりそうなものを集めるため、武士達は散って行った。

 

「最上様。」

 

「臆病者の負け犬になにか用か?雅客。」

 

「どうあっても失敗すると思いますか。」

 

雅客は質問というより、確認のつもりで聞いた。

 

「だから先程口を挟んだ。私が美馬の立場なら捕虜を自由にしておかない。なら何故民人だけにとどまらず、武士まで拘束されてない。勝てる自信があるからだ。来栖がいれば拘束してたかもしれないが、拘束されてるのは生駒だけだ。カバネリは警戒しているがそれだけだ。正直に言おう。生駒は身体能力こそカバネリ故優れているが戦い方は素人だ。生駒の無力化なら、私だけでも可能性がある。美馬擁する狩方衆が負ける姿が思い描けない。車内を移動して先頭車両まで行くのに全員と戦う想定もしてないじゃないか。人死が出るぞ。あいつらが磐戸駅でしたのは虐殺だ。こちらが虐殺される可能性を誰も考えてない。…とはいえ、もう止められないのも理解した。人は時に理論より感情を優先させる。生駒には扇動者としての才能があるのかね。私にはない才能だ。成功した暁には地べたに這いつくばって謝罪してやるよ。臆病者が生意気言ってすみませんでしたってな。」

 

最上が嗤う。

 

「最上様。俺たちはそんなこと求めてません。」

 

「どうかな。生駒や吉備土はそうでもないんじゃないか?もう良いか?少しでも休んでおきたい。疲れた。」

 

最上の顔は相変わらず真っ青である。以前最上自身が言っていた通り、血はすぐには戻らない。

 

「わかりました。失礼します。」

 

(雅客はまだ敬語使うんだな。まぁ…どうでもいいか。)

 

 

三日目の夜。食事の配給の前に最後の作戦会議が行われていた。

最上は離れたところから作戦会議を眺めていたが、布にくるまったままで口を挟む気はないようだ。

参加する気はないという意思表示である。昨日の様子から参加はしないだろうと思っていたし、昨日からまともに立ち上がれるようになった人間を戦力には数えていなかった。

 

鍋を叩く音が響き、皆が作戦位置に散開する。生駒は逞生から渡された針金を使い拘束から逃れ、布を被って民人に紛れた。少しして扉が開き蒸気筒を構えた狩方衆や白装束が配給の籠を持った2人を連れて入ってくる。

生駒が白装束に話しかけた後号令を出した。号令を聞き蒸気管のバルブを数名が開いたことで車内は蒸気に包まれた。

吉備土の号令で、武士や戦える民人が一斉に襲いかかって行く。

 

反乱は順調に進んで行く。蒸気筒を取り返し、克城への侵入に成功した。

克城内部の侵攻も順調に進んでいる。

 

(やはり最上が慎重になり過ぎていただけだ。このまま機関室を抑えて菖蒲様を解放しなくては。)

 

吉備土は狩方衆と戦いながら、勝利の光景を思い描く。

生駒と逞生を先に行かせて、狩方衆の制圧に尽力する。

 

「吉備土。もう間もなくだというのに採血室にいたやつ以外、狩方衆の主力らしきやつを見てないぞ。先に行かせてよかったのか?」

 

「生駒なら大丈夫だろう。」

 

雅客の質問に高揚した気分のまま回答する。

 

(ここに至るまで主力らしきやつが殆ど居ないのは何故だ?普段から全員機関室のある1両目にいるのか?いや…きっと違う。最上様の言う通り読まれている!主力を1両目に集中しているんだ!)

 

「吉備土。2人だけじゃ危ない。生駒はともかく逞生は普通の蒸気鍛治だぞ!」

 

「そうだな。急ごう。」

 

吉備土は随分生駒を過信しているが、逞生はその限りではないだろうと名前を出せば乗ってきてくれた。

 

2両目手前までたどり着いたが扉が開かない。

 

「なんでだ。鍵がかかっている!生駒達はここを通って行ったはずだろう!」

 

銃眼から朝焼けが差し込んでくる。

 

「どうする…来っ…」

 

吉備土がいつもの癖で来栖に指示を仰ごうとした。

いつもなら来栖が、たまに最上が指揮官をしていた。今まで判断を委ねてきた相手はいない。明確な上下があるわけではないが、下侍のなかで次席は吉備土だ。今回のことだって武士に指示を出していたのは吉備土であった。

銃声が響き、銃眼から悲鳴が聞こえてくる。恐らく生駒だ。

 

「生駒だ!やはり2両目にいるんだ!」

 

「どうする!上に出るか?」

 

「無茶を言うな!上に出たところで先の車両から入れるとは限らないんだぞ!」

 

「だったら生駒達を見捨てるのか⁉︎」

 

武士達が揉める中、後から民人達も追いついてきた。

 

「逞生君達はどうしたんですか?」

 

鰍が尋ねる。

 

「2両目に鍵がかかっていて通れないんだ。俺たちが来た時には生駒達はいなかった。」

 

端的に歩荷が答える。

朝焼けの色が次第に抜けていく中、次々と民人が追いついてくるが誰にも打開策は提示出来なかった。

 

暫くして完全に日が昇り、朝焼けの色はもうない。

カチリと扉がなる。

武士達が取り付き扉を開けた。

その先に広がっていた光景は、大量の血痕と血溜まりに沈む逞生である。鰍が駆け寄り逞生に縋り付く。

狩方衆は複数人いるが、美馬と生駒の姿はない。

作戦は失敗であった。

鰍が狩方衆に激昂する。侑那や巣刈が間にそっと入ると、狩方衆も殺戮するつもりはないのか下がっていった。

 

(最上様の言った通り、失敗したな。このことで菖蒲様に不利益がないといいが…)

 

雅客は逞生を運ぶ吉備土達を眺めながら考えた。

 

 

甲鉄城側に戻ると民人達の姿が見当たらない。もぬけの殻だ。2両目の車両まで進むと、可能な限り後方に民人を下げて車両中央に佇む最上の姿があった。

 

「なんだ、お前らか。」

 

「…なにをしていたんです?」

 

「貴様は馬鹿か?作戦が失敗した時に、自ら戦いに臨んだものは仕方がないにしても、戦えぬ民人まで殺される可能性を考えなかったのか?言った筈だ。あいつらは平気で人を殺すと。交渉するためにここにいた。それだけだ。…その様子だと失敗したようだな。誰でもいい、損害を報告しろ。」

 

吉備土の質問に、怒りを滲ませながら最上が返す。

 

「生駒が行方不明。死者一名。蒸気鍛治の逞生です。軽傷者多数ですが、重傷者はいません。現時点、克城側から追撃はありませんでした。」

 

雅客が要点のみを報告する。

 

「そうか。想像より損害が軽微でよかったよ。」

 

「ふざけないで!損害が軽微⁉︎戦いもしないで!逞生君が…死んじゃったのに!」

 

「鰍やめなよ。」

 

激昂する鰍を侑那が抑える。

 

「ふざけているのはお前らだ。あいつらは我々の血が欲しいのだと言っていただろう。殺してとってもいいと言っていたらしいじゃないか。あいつらはそもそも人殺しだぞ?反乱した面子は皆殺しでもなんら不思議はなかったんだ。磐戸駅での所業をもう忘れたのか?それに私は二日目の夜に生駒達が計画を話していた時に、作戦に反対した。無理だと伝えたが聞かなかったのは生駒達だ。戦いもしないで?勝てない戦いに参加して死ねとでも?死んだ一名は残念だが、反乱の主要人物だろう。私が反対した作戦会議にもいた。勝算の低さを知らずに参加したわけじゃない。自業自得だ。」

 

「この人でなしぃ!」

 

「鰍!」

 

掴みかかろうとする鰍を侑那が抑え込む。

 

「最上ぃ!」

 

吉備土が最上の胸ぐらを掴み上げる。

 

「1人でよかっただって?」

 

「自業自得だと?」

 

戦いに参加した者たちも怒りを露わにする。

 

「吉備土!馬鹿!やめろ!」

 

雅客が止めに入るが吉備土は離さない。

 

「貴様に怒る権利があるのか?被害者面するなよ。言ったはずだ。勝算のない賭けだと。その賭けに自ら命を掛けたのはお前らだ。菖蒲様や戦えぬ民人達の命も勝手に賭けてな。」

 

「最上様ももうやめてください。」

 

雅客が最上に口を閉じるように頼む。

 

「何度だって言ってやる!よかったな!あの虐殺者ども相手に死んだのが1人で!背負う命が1人分ですんで良かったじゃないか!皆を扇動したのはお前たちだ!参加者全員分の命を背負う可能性だってあったんだぞ!下手をすれば参加してない者の命もな!」

 

最上の怒声の途中で吉備土の手が離れた。初めて見る最上の激昂にたじろいだのだ。

 

「死なせる覚悟もないくせに扇動したのか⁉︎失敗しても誰も死なずにすむと思ってたか⁉︎それとも失敗は視野に無かったか⁉︎恥を知れ!お前と生駒が死なせた「最上様っ‼︎」

 

なおも続ける最上に雅客は声を上げる。雅客の制止にやっと最上が沈黙する。周囲で怒りを露わにしていた者達も最上の勢いに押されて沈黙している。最上は体力が回復していないため疲れたのか、ため息を吐いて進行方向の車両に去って行った。

 

後方で寄り集まっていた者たちは騒ぎが収まったことに安堵の息を漏らした。

服部が民人達から話を聞くと、作戦が失敗した場合、どこまで責任を問われるかわからないため後方まで避難してほしいと言われたこと、もし狩方衆が来たら刺激しないように静かにすること、例え最上が目の前で殺されても悲鳴など上げずに大人しく狩方衆に従うことなどを指示していたことを知る。

 

雅客や歩荷は、八代駅での事を思い出していた。あの時も作戦の失敗の可能性を提示し、失敗後に備える方に注力していた。

そして八代駅の民人を下車させるとして憎まれ役を買って出たことも。

ただし今回は、本心からの激昂だろう。慎重論を唱えたところ、臆病者と罵られ、武士は誰一人従わなかった。従わなかったくせに鰍と一緒になって責め立てた。

来栖はそういう性格ではないが、指揮官にとって戦場における武士とは数字である。現在何人いて死傷者は何人か。最上は本来すべき仕事をしただけだ。武士ではない鰍が怒るのは仕方がないが、吉備土が怒るのは筋違いだ。

 

最上は自己嫌悪に陥っていた。

 

(気に障る言い方をした自覚はある。だが言っておかねばならなかった。死者が1名ですんだのは奇跡に近い。本当に皆殺しにされても不思議では無かったのだから。だが、怒鳴り散らす必要はなかった。ただでさえこちらの話など聞く気がないのに…。悪化させただけだろうな。…はぁ。やってしまった…。金剛郭を無事に抜けたら、どこかの駅で降りた方がいいんだろうな。来栖が戻ればとりあえず問題ないだろう。戻らなかった場合は…考えたくないな。カバネリも来栖も抜きで進むのはなかなか厳しいだろうな…。疲れた……。少し休もう。もう少しで金剛郭だ。菖蒲様をお護り出来なければ話にならない。)

 

雅客と倉之助が最上の休んでいる車両までやってきた。完全に対立した構図のままは拙いと思ったからだ。

落ち着いて話し合った結果、武士達は最上に謝罪する方向で話はついた。吉備土だって来栖の不在で気負いすぎていただけだし、普段は素直でお人好しの穏やかなたちなのだ。最上が時折とる偽悪的な態度と致命的に合わないだけで。

しかし雅客達がたどり着いた時には、最上は休んでいた。顔色は相変わらず悪い。金剛郭に着く前に謝罪はしたいが、作戦失敗時の責任をとるために、体調が悪い中ずっと起きていた最上を起こすのも躊躇われた。

雅客達は出直すことにした。金剛郭で最上がどのように使われるか知らないが、少しでも休ませておきたい。




大筋を決めた当初は逞生はギリギリで助ける予定だったし、仲間割れももう少しライトな予定でした。でもちゃんと書くのにアニメ見直したらこれ最初から参加してないと助けられねぇやってなってこんなことに…。


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金剛郭

金剛郭大炎上なRTAはーじまーるよー。

 

前回は克城乗っ取り計画が失敗したところまででしたね。続きをやっていきましょう。

 

沙梁がホモ君を呼びに来ました。豪華なお迎えだな。装備品が戻ってきました。…あれ消費アイテムが戻ってこないんですが?女装パージした時に持ってたアイテムは何故か持ったままですが、女装した時に手放したアイテムがないですね。どこ行ったの?

 

沙梁について美馬に会いに行きましょう。刀を装備出来ました。なんで?ホモ君武士ぞ?刀でカバネ殺せるタイプの武士ぞ?…もしかして舐められてる?ぺろっぺろだな?

あれ?よく考えたらホモ君まだ金属被膜刀使ってないや。だからなの?もしかして倭文駅で刀使ってたらこのルート入らなかったんですか?

 

本来なら菖蒲様と美馬だけで行く将軍のところへホモ君も行くみたいですね。あのイベントはどうせ見るようだから良いですけど。

ホモ君は綱持ちみたいですね。まあ当然でしょう。

こうやって操車場に武士を配置しまくってるの見ると、やっぱり前田が危機管理能力低すぎたの問題だと思うの。

 

叔父様と他の老中?が出てきて、菖蒲様に美馬のこと聞きますけど、こんなお綺麗なまま捕まるわけねぇだろ。なんで信じちゃうの?磐戸駅で大虐殺した人間をこんな綺麗なまま捕らえるって逆に甲鉄城が怖いよ。美馬は惜敗感出そうとかそういう発想なさすぎでしょう。お綺麗な格好のまま微笑み湛えて立ってる時点で信じらんねぇんだわ。金剛郭の人達は信じてくれるわけですが。そんなだから滅ぶんやぞ。

 

菖蒲様とホモ君はお着替えですね。謁見するわけですから、それ相応の格好をしろってことですね。ホモ君の体力は、血を抜かれてから半分以下のままなので、金平糖で回復しておきます。女装した時持っててよかった。金平糖は今のホモ君の体力なら大体半分は回復しますのでほぼ全快しました。

 

謁見の間に着きました。

ここからは他のルートでも流れるイベントですね。ボタン連打でいきます。

短刀で怪我をした時将軍が騒いでいれば、後の混乱は少なくてすんでたんではないでしょうかね。

美馬にはアジテーターとしての才能があるんでしょうね。流石将軍の血筋だよ。ガンガン煽っていきます。たぶん同じことを違うやつが言ってもここまで効果ないでしょう。

気がついたら縄抜けした上、押収された美馬の所持品から刀を持ってきてるし、みんな目を離しすぎじゃないですか?

あぁあ。将軍が死んじゃいましたね。美馬が放送を入れます。なんで誰も止めないんだ。烏合の衆かな?

 

パニックが起きると菖蒲様が止めようとして道元様に止められます。おっと先にホモ君に止められましたね。まあそれはそう。こんなパニックで菖蒲様が1人頑張ったところでどうにもなりませんしね。むしろ標的になっちゃいます。

操作ができるようになりました。道元様について行きましょう。ホモ君は血を抜かれているからか、地味にスリップダメージ入ります。僅かなので無視です無視。止まれば自動回復が行われていますので時々立ち止まれば大丈夫そうです。バッドステータスは表示がありませんね。このイベントだけの特別な異常ということでしょう。

 

少し進んだら克城が金剛郭に入って来て、カバネを放流し始めました。ここからはカバネと戦うことになるでしょう。おっとホモ君が先行することになりました。道元様からたまに指示が来ますね。道元様達は一定の速度で移動してますが、これ立ち止まったら抜かれるの?試走だったら試したんですが、今回は止まらずに行きましょう。

とうとうカバネと出会いました。まずは1体!斬り捨て御免!菖蒲様達躊躇なく前進して来ますね。もう少しホモ君が先行しないとやられそうで怖いな。

はい。次!2体くらい余裕余裕!はっ!よっ!そりゃ!倒したぁ〜。

…ホモ君の体力が余裕じゃないですね。自動回復追いついてないよ。立ち止まらせて!頼むから!

道元!お前!勝手に動くなや!なに?入れって?

 

なにやら休憩のようですね。タイムは惜しいですが、ホモ君の体力が続かないので良かったです。自動回復が進みますねぇ。なんか会話してますがボタン連打でいきましょう。そういえば原作でも日が暮れるまで菖蒲様達は操車場に来ませんでしたね。休憩ちょいちょい挟んでたんかな?しかしこのイベントはロスですねぇ。本当なら牢屋で待っていれば菖蒲様は来たわけですから。

牢屋では指定キャラ10人から話を聞けば菖蒲様は帰ってきます。作戦参加してない場合は、ギスギスしてますが関係無く話しかけます。何回か断ってくるやつもいますがめげずに話しかけまくります。話しかけないと終わりませんからっ⁉︎あっ!いま選択肢出てた?やばい。テキトーに押しちゃった。金平糖菖蒲様達に1ずつ渡しましたね。馬鹿。スリップダメージ入ってんのお前だけなんだわ!

 

ホモ君の体力が全快したので再び進みます。式典用の線路?そんなんあるんだ。へぇ。まあ従う他ないので道元の指示どおりに先行します。

おりゃ!それ!倒したぁ〜。

カバネがちょいちょい出てきますが原作だと道元様が倒したんだろうか…。

やっ!とう!せいっ!

菖蒲様は無手だから流石に倒せんしなぁ。

 

着くぅ〜。よかった。立ち止まらせて貰えたぜ。何奴!えっ?道元の部下?驚かせんなよな!そういえばいたね原作でもう1人部下らしきやつ。お前か。

中に入れました。式典用線路に上がりました。お?スリップダメージ止まってる?ここだけなのか。もう終わりなのか。

まあいいでしょう。ダメージが入らないなら進むのみよ。移動距離に合わせてるのか凄い勢いで日が暮れてきてます。カバネ出ません!でかした!道元!しかし高台からだと金剛郭の炎上具合がよく見えますね。そろそろ日が落ちます。お前らノンストップで何時間走ってるんです?

おっと遠くに鵺ちゃんです。ちっすちっす!鵺ちゃん構築ムービー入りませんでしたね。牢屋にいると指定キャラへ話しかけてる時に、ちょいちょい謁見の間のやつも、鵺ちゃん構築ムービーも、生駒達の到着シーンも挟まってきますからね。…あれ?生駒達到着シーンは、生駒をプレイキャラにしてカバネを倒す筈ですがまだ入らないね。

おや?もしかしてこちらのルートだとカット?ありがてぇ。ただでさえロスしてますからカットできるならできるに越したことないです。

 

操車場が見えてきたので、式典用線路から降ります。出るぅ〜。

やだぁ。スリップダメージ復活したんですけど!でももう操車場ですからね!行きましょう!

おらぁん!邪魔邪魔ぁ!

えっ!なんで止まるんですか?うわぁ。いっぱいおる。囮?マジで?

その辺で死んでる武士から追い剥ぎができるようです。ホモ君上侍の癖に追い剥ぎとか恥ずかしくないの?

 

いやぁ!準備できたら勝手に飛び出すじゃん!撃てじゃねぇんだわ撃てじゃあ!めっちゃくる!相手してられませんのでここ上がりましょうね。はい。屋根の上ぇ〜。逃げます!なんで止まるの!だから撃てじゃあねぇんだよ!なんなの?強制的にFPSみたいにすんのやめろや!

視点が戻りました。これどこまで逃げればいいの⁉︎マップにセーブポイントありますね!とりまそこまで行きましょう!ホモ君回復しときましょう!はい。金平糖!こんなことならさっさと追い剥ぎするんじゃなかった!おっこのケーブル行けるんか。さあ行きましょう。

何気に屋根の上進めてますね。たまに休んでもカバネが1、2体来るくらいですんでます。もう少しでセーブポイントです。

いや高ぁ。登れってことですか?セーブには変えられません。行きましょう!

 

はいセーブ!ということでなんとかセーブできたので今回はここまで!ご視聴ありがとうございました。




克城や金剛郭では絵面的な問題か、朝焼けだったり夕焼けだったり夜だったりと時間の経過が見てわかる割にこの間なにしてんの⁉︎ってところが多くて四苦八苦しました。この文章量であっぷあっぷしてるので文字書き向いてねぇなって思います。
設定ガバガバなのはマジですみません。


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金剛郭【裏】

「おい。起きろ。若様がお呼びだ。着替えてついて来い。」

 

沙梁が甲鉄城までやってきて、最上に声をかける。

 

「わかった。」

 

最上はのろのろと起き上がり、着替えた後、沙梁について克城に入って行った。

 

 

 

「そろそろ最上様を起こしてもいいのではないでしょうか?」

 

との倉之助の進言で訪ねた時には、最上の姿はなかった。

患者着のような衣服が畳まれて残されていた。着替えたということは克城側からの指示だろう。

自分達がいては、寝づらいかもしれないと車両から出たのは間違いだった。謝罪の機会を失ってしまったのだ。

 

 

一方最上は美馬からの筋書きを聞かされていた。

 

「なるほど。理解しました。であれば刀だけは持たせていただきたい。貴方ほどの方を捕らえておきながら、私の実力で無手で佇むのは変です。磐戸でのお手並は拝見しました。私が刀を持ったところで脅威でもありますまい。」

 

「ふむ。いいだろう。君は倭文駅で蒸気筒しか使ってなかったしね。君も菖蒲様も話がわかる人間だ。君。昨夜はいなかったようだし。」

 

「参加する意味がわかりません。時間と労力の無駄です。」

 

「昨夜?」

 

「なんでもないよ。さあ。甲鉄城に乗り換えて、行こうか。金剛郭へ。」

 

 

離れた位置に克城を待機させ、美馬を乗せた甲鉄城は金剛郭へ向かったが、現在は跳ね橋前で待たされている。

 

「美馬様に聞いてみたいことがあったのですがよろしいですか?」

 

「何かな?」

 

「カバネリを人工的に作り出したと聞いております。その際実験などされているなら、本当に人間以外はウイルスに感染しないのか、カバネから離れた血などのウイルスはどの程度生きているのか、ご存じかと思いまして。」

 

美馬は予想外の質問に目を丸くした。

菖蒲のようになにがしたいのかを問われると思っていたからだ。

 

「おや。そんなことか。結論からいえば人間以外には感染しないし、人間を宿主にできなければウイルス自体は割とすぐに死滅する。大体丸1日あればいいかな。だから大地も獣も汚染されない。」

 

「なるほど。それで…駿城整備の際、車体を水で洗い。肉片を駅外に捨てておりましたが、獣が感染しているのをみたことがなかったので不思議に思っていたのです。」

 

「やはり君は頭が良いね。」

 

「恐縮です。まあその分、武がともなわず武士からの支持は得られないのですがね。」

 

「それで、あれということか。まあ構わないさ。」

 

「寛大な対応に感謝します。」

 

「跳ね橋が降りるようだ。準備をしよう。」

 

最上が美馬に縄をかけ、繋いだ先を最上が把持する。

 

 

甲鉄城が操車場へと滑り込む。

車両脇の通路へと出ると、ずらりと蒸気筒を持った者たちが囲んでいる。

 

(ここまで美馬を警戒しておきながら、何故前田のような人間に磐戸駅のような重要拠点を任せたのだろうか。板垣がそれだけ信用されていたのだろうか。)

 

「四方川家の総領菖蒲と申します。天鳥美馬をここに捕縛して参りました。」

 

菖蒲の口上が操車場に朗々と響く。

周囲が騒めく。

 

「人質がいること、お忘れなく。」

 

「貴方の芝居の筋書きは守ります。」

 

美馬が菖蒲に釘を刺すが、菖蒲はさらりと対応する。

 

(これは本格的に私は必要なくなりそうだな。)

 

「おい。菖蒲様に続け。妙な真似をするなよ。」

 

菖蒲が歩き出したことから、最上は美馬に指示を出す。

甲鉄城から降りると菖蒲の叔父、牧野道元が出迎える。

 

「菖蒲殿。」

 

「叔父様。ご無沙汰しております。」

 

「大きくなられた。…お父上は。」

 

「…カバネに…。」

 

「そうか。残念だよ。とても。ところでそちらは最上君だな。年始以来だな。君が菖蒲殿の側にいるのなら心強い。」

 

「恐縮です。しかし、堅将様をお護りすることの叶わなかった身でございますので、過分な評価かと。せめて菖蒲様はお護りしたいと、控えさせていただいております。」

 

「そうかそうか。」

 

「挨拶はそれくらいで良かろう。貴方が美馬を捕らえたのか?」

 

道元と同じ格好をした壮年の男が声をかける。

 

「甲鉄城の皆と協力し、捕らえました。皆故郷を失い、長旅で疲れています。どうか金剛郭に受け入れを。」

 

「金剛郭の検閲は、噛み跡に関わりなく、3日間は牢に入れる決まりだ。」

 

「伺っております。」

 

「お二人とその綱持ちは、上様のところに来ていただく。」

 

美馬の筋書き通り、将軍の元へ導かれることが決まった。

 

 

 

将軍の拝謁を賜るため、菖蒲と最上は服装を改めた。最上は着替えの際に、持っていた金平糖を噛み砕いた。倭文駅で私用で出歩いたときに買ったものだ。

菖蒲と最上は謁見の間の階段を上がり、将軍と同じ高さに立っていた。

とうとう最上の手から縄が離れ、金剛郭の武士に引き継がれる。縄を引き継いだため、最上は菖蒲の斜め後ろに控えた。

 

将軍と美馬が言葉を交わす。

持ち込まれた美馬の所持品から短刀が持ち出された。美馬がせめて父の手で死にたいと申し出たことから、将軍は手にしている短刀を抜こうとした。

しかし抜くことはなく、手のひらを眺める。

 

(なにやら仕込んだな?しかしなにを?)

 

美馬が語り出す。

 

「どうして私がカバネとの戦いで生き残る事が出来たか。カバネの脅威は人に潜むことだ。今この瞬間にも奴らは仲間を増やしている。私にはその見分け方がわかる。だから生き残れた。」

 

「噛み跡のことか。だから我等は検閲を!」

 

「検閲などでカバネは見つからない。その証拠に今もここにいる。よく見ろ。見つけたらやられる前にやれ。」

 

周囲に動揺が広がる。

 

(扇動が上手いな。普通ただの戯言としかとられまい。…っまさか!さっきのは!)

 

「さもなくば、今度はお前がカバネになる。」

 

将軍の手が変色していく。恐怖に駆られた武士をさらに美馬が煽り引き金が引かれた。

武士が発砲した瞬間から最上は菖蒲の前にでる。

恐怖は伝播する。仕込みに気がついてない以上、噛まれたはずのない将軍が急に発症したようにしか見えない。美馬は愉快そうに声をかけて恐怖を煽っていく。いつの間にか拘束を解いた美馬が刀を抜き、将軍の心臓を刺し貫いた。刀を抜かれた将軍の身体は、階段を落ちていく。

 

美馬は将軍の座っていた椅子に向かい通信機を持ち上げ放送をかける。

 

「まだ終わっていない。将軍までもがカバネだったのだ。他にも入り込んでいるに違いないぞ。」

 

謁見の間に恐怖が満ちている。狩方衆が謁見の間に入り込んで、武士の1人の手を針で刺す。

すぐ発症し変色が始まった。それを見たものが発砲したことで、満ちていた恐怖は爆発した。

各所で殺し合いが始まった。

 

「やめなさい!皆、銃を下ろして!」

 

「菖蒲様。なりません。」

 

「菖蒲殿!ここはっ」

 

前に出ようとする菖蒲の前に最上が立ちはだかり、駆け寄ってきた道元が菖蒲の肩を抑えて押し戻す。

道元の方が地の利がある為、菖蒲の誘導を道元に任せ、最上は刀を抜き警戒しながら後退していく。

 

3人は人気の少ないところを走っていく。克城が駅に入ってきているのが見えた。

 

「菖蒲様!克城が!」

 

「なんですって!」

 

克城は車体の羽根を広げて、カバネを駅内に落として行く。

 

「道元様!線路沿いは駄目です!カバネが放たれました!」

 

「何故カバネが⁉︎」

 

「急ぎましょう!早く行かねば操車場への道がカバネで埋め尽くされます!私が先行します!ご指示を!」

 

「わかった!階段を降りたら左だ!」

 

暫くはカバネに会うこともなく、道元の指示で移動していたが、道行き半ばでとうとうカバネにかち合った。

 

「邪魔だ!」

 

最上はカバネを一刀で切り捨てた。足を止めかけた2人はそのまま走り抜ける。少しして小路から2体のカバネが飛び出してくる。1体の首を飛ばして胴に蹴りを入れ距離をとり、向かってくるもう1体の脇を回転してすり抜け背後から心臓を刺し貫いた。

 

「はっ…はっ…。」

 

「最上!顔色が…」

 

「大丈夫です。必ず操車場までお送り致します。」

 

今の最上は大立ち回りができるほど、体力が回復していない。

その後も何体かのカバネにかち合うが、最上はなんとか切り捨てることができた。

 

(金属被膜刀様様だな。)

 

「最上君。こちらへ。」

 

「はっ…。はぁ…ここは?」

 

「いいから早く。カバネに気が付かれる。」

 

「わかりました。」

 

石造りの建物に呼ばれるままに入ると、すぐに道元が閂をかけた。

 

「一旦ここで休憩だ。」

 

「しかし…「君が倒れれば菖蒲殿はどうするというのだ。」

 

「そうです最上。そんなに血を抜かれたのですか?顔色がずっと悪いですよ。」

 

「申し訳ありません。少しばかり抜かれ過ぎまして…。」

 

「美馬様と会ってから最上は謝ってばかりですね。」

 

「そうですね。至らないばかりで…」

 

「まだ15ではありませんか。むしろ私達は頼り過ぎていたと思います。」

 

「もう15ですよ。元服しておりますので子供ではありませんよ。」

 

「ふふっ。倭文駅でもこんなやりとりをしましたね。」

 

「そうですね。…あっ。倭文駅といえば。どうぞこちらを。少しばかりですが。」

 

「あら。金平糖!私用って金平糖を買いに行っていたのですか?」

 

「いや、別に金平糖を目的に離れたわけでは…。」

 

「では1ついただきますね。」

 

「道元様もお嫌いでなければどうぞ。」

 

「悪いな。」

 

「いえ。そんなものしかありませんが。」

 

蔵の中で半刻ほど休憩をとった。

 

(そもそも菖蒲様の体力についても気を配るべきだったのに、全く気を配れていなかった。道元様が一緒で良かった。)

 

「そろそろ参りましょうか。」

 

「蔵を出たら一度東に向かう。」

 

「かまいませんが、何故東へ?」

 

「線路の上に上がれる。克城が通った線路とは別で完全に独立している線路だ。式典で使用している線路で、線路に上がる場所の鍵は老中しか持っておらん。目にはつくだろうが線路上はほぼ安全だろう。」

 

「承知しました。指示は頼みます。」

 

道元が静かに閂を抜き、最上が外を窺う。

 

「目につく範囲にはおりません。参りましょう。」

 

道元の指示に従って進み、道中3体ほどカバネを殺し、式典用の線路に上がる建物にたどり着く。道元が鍵を取り出した時、物陰から何かが飛び出してきた。最上が刀を向けるが人間のようだ。

 

「道元様!ご無事で!」

 

「馬鹿者。驚かせるな。最上君刀を下げてくれ。私の部下だ。」

 

「これは失礼しました。」

 

「いえこちらこそ。」

 

道元が鍵を開け全員で中に滑り込み速やかに施錠した。

かなり回り道にはなるが安全な方がいい。最上には来栖や無名程の強さはないのだから。

日が落ち始める。線路からは金剛郭がよく見渡せた。至る所で火の手と悲鳴が上がっている。かなりの高さがあるため下を追いかけてくるカバネも殆どいない。追いかけてきても下の道は並行していないため、建物などに阻まれてすぐにいなくなる。

日が落ち切るころ、遠くで何か大きなものが起き上がるのが見えた。

 

「鵺っ!」

 

「鵺とはなんだ⁉︎融合群体とは違うのか?」

 

道元に聞き返される。

 

「融合群体は自然発生ですが、鵺は人工的に作り出されています。鵺が発生したなら大体のカバネはあそこに取り込まれているはずです。」

 

「なんてものを…美馬…。」

 

「最上。あれは…」

 

「無理です。諦めて下さい。」

 

最上にだけ菖蒲が言いたかったであろうことは伝わったが、最上がどうこうできる問題ではない。

 

(無名殿の可能性が高いがどうにもならん。)

 

「最上君次で降りる!」

 

「承知。」

 

操車場がかなり近くに見える。

線路から降り、建物を下っていく。

扉に耳をつけなにも聞こえないことを確認して道元が静かに鍵を開けると、最上が外を確認してから滑り出る。

 

「状況ありません。どうぞ。」

 

最上の声を聞き全員が外に出た。

甲鉄城のある操車場はもう少しだ。

少し行くとカバネが2体彷徨いていた。2体とも背を向けていたため、1体は背後からひと突きで殺し、こちらに気がついたもう1対も、回転切りで首を落としてから心臓を貫いた。

 

「次を曲がれば操車場だ。」

 

「っ!止まって下さい。」

 

間もなくというところで最上から小さく制止がかかる。操車場直近にて複数のカバネが集まっていた。甲鉄城が操車場にあるのを知っているものが避難してこようとした結果のようだ。

 

「流石にあの数は…」

 

(来栖や無名殿なら問題ない数なんだろうが私には無理だ。しかし菖蒲様と道元様が後ろにいる…無理だなどと…。せめて引き離せば…!)

 

ちょうど立ち止まって様子を窺っていた場所に、最初の混乱の頃に死んだであろう銃創のある武士の死体が転がっている。

 

(引き離せば…菖蒲様と道元様は操車場に辿り着く!)

 

「道元様。私はこれからカバネを引き付けに参ります。あそこのカバネがいなくなったら操車場へ。菖蒲様を頼みます。」

 

「わかった。任されよう。」

 

「駄目です。最上。なんとかなりませんか?」

 

「申し訳ありません。私が来栖ほどの剣豪なら最後までお護りできたのでしょうが、非才の身ですので、ここまでが限界のようです。」

 

死んでいる武士から蒸気筒一式を奪い取る。

 

「御三方は物陰へ。私が2発目を撃ったら操車場へ。」

 

「最上…。」

 

「すまぬ。頼んだぞ。」

 

「はい。必ずや。菖蒲様。私はどちらにせよ甲鉄城には戻れませぬ故、操車場へ入ったらすぐに発進準備を。整いましたら脱出して下さい。」

 

最上は菖蒲に笑いかけたあと、武士の死体の首を切り捨てた。首を持ち上げ自分の羽織にかける。

 

「戻れないとは「菖蒲殿。静かに。」

 

道元に抑えられ菖蒲は問いかけることが叶わず最上の背を見送った。

 

(戻れないとは一体どういうことなのです?)

 

「こっちだ!カバネども!」

 

最上は首をカバネ達の方へ投げる。

カバネが最上に気がつく。蒸気筒で1体の頭を撃ち抜いたことで弾かれたように最上に向かって走ってくる。最上は積まれた荷物などを足場に屋根へ上がり走り出す。わざわざ音を立てて瓦を鳴らす。カバネ達が菖蒲達のいる小路を通り過ぎて猛烈な勢いでこちらを追ってくる。仕上げとして下から追ってくるカバネの先頭に蒸気筒をむけて撃ち抜いてから走る。走りながら確認すると菖蒲達が小路から出て操車場の扉に手をかけたところだった。

 

(これで役義は果たした。あとはそちらで頼むぞ。)

 

操車場には金剛郭にたどり着いた面子が自分以外揃っている。

最上は金平糖を口に放りこみ、張られたケーブルに蒸気筒を乗せ、両手でぶら下がり滑走する。

 

(せいぜい長く引きつけよう。)

 




カバネウイルスの件は捏造設定です。

ホモ君は来栖には及びませんが強い奴です。一応上侍で1、2を争う設定でしたので。上侍の中では謀の実力は中の上です。何せ若いので経験不足です。


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甲鉄城

金剛郭から脱出するRTAはーじまーるよー!

 

前回は初見イベントに巻き込まれた状態でなんとかセーブをしたところまでです。続きをやっていきましょう。金剛郭から脱出するとか言いましたが、今回で出られるかよくわかりません!

 

前回のセーブポイントからですね。

甲鉄城の皆さん今どんな気持ち?喧嘩別れしたやつが菖蒲様だけ送り出して戻ってこないのどんな気持ち?善人ばっかりだからきっとショック受けてるんだろうよ。私もショックです!戻れないとは思わなかった!ホモ君戻ろうぜ!

 

遠くに鵺ちゃんが倒れていますね。ということは生駒は今頃美馬戦ですね。カバネリルートだとご一緒できます。カバネリルート以外だとプレイヤーキャラが生駒に移って戦うんですが、このルートだとカットですね。もしかしてこのルートの方が早いんでしょうか。彼方に行くと無名ちゃんの心象風景とかもムービー入りますしね。

ですがこちらはなにしたらいいんだ?なにしたら終わるの?

 

おっ?鵺ちゃん崩壊しました。マジで早いなこのルート。マップにポイントが表示されてますね。進みます。

スリップダメージが終わったようですね。よかった。もう金平糖1個しかないんで、危なかったですね。

カバネェ。はっ!やっ!倒せましたね。

小出しにされる分にはなんとかなります。カバネの群れに突っ込まないように気をつけて行きます。道中助けを求める人がいますが無視です。(連れて歩く余裕)ないです。

指定ポイントに着くぅ〜。なんもねぇな!朝日が登り始めてますね。ということはそろそろ美馬様は無名ちゃんにやられたとこかしら。またマップに別のポイントがあります。今度はこっちに行けばいいんですね。ポイントに着けば時間経過があるようですから行かない理由がないです。

 

あぁ!あぶねっ!おらぁ!それ!

油断してると危ないですね。ホモ君は来栖には及ばない程度の強さの人間なんでね。うっかりしてると死んじゃうよ!やっ!とう!

もう少しでポイントです!

甲鉄城内部のイベントも入りませんね。このルートは他がなにしてるかさっぱりわからん!ということはクリアデータから始めるのが条件の一つでしょうか。

おらぁん!よしっ!

はい。ポイントに着くぅ〜。やっぱり何にもねぇ!次のポイントが出ました。いや!ここなんのためにきたの?なんの区切りなの?あれか?放送とか?入りませんが?鰍ちゃん!呼んでくれてますか⁉︎ホモ君を呼んでくれてますかぁ⁉︎まあいい!行くぞ関ヶ原!

 

ノーダメージで来てるので体力は問題ありませんが不安になってきました。これ甲鉄城に合流できるんですか?置き去りにしませんよね?光の甲鉄城メンバーに見捨てられるとかホモ君嫌われすぎだからな?大丈夫だよね?ね?

いくらタイムがよくてもトロフィー取れなきゃ意味ないです。

 

一応次のポイントは13番線方面なので大丈夫だと信じたい。

はい!とりゃ!死ねぇ!

カバネ以外誰とも会いませんね。道中見捨てて来ただろって?あれはモブなのでカウントしません。

瓜生達ですら甲鉄城乗れるんだから、ホモ君だって大丈夫!大丈夫!大丈夫だよなぁ⁉︎

よっ!ほっ!たっ!

間もなくポイントです。

つ〜い〜たっ!

なんで座るんですか?座ってる場合ちゃうぞ!甲鉄城に帰るんだよ!無名ちゃん来ました!無名様ぁ!!ホモ君!いけないとか言うんじゃないよ!無名様達と行かなかったら帰れないから。

 

えっ?無名ちゃんに一撃で体力削り取られたんですが…えっ?連れてってくれるんです?ありがとう!ありがとう!暴力は全てを解決する!力こそ正義!力こそパワー!無名様ぁ!!

 

本来のイベントに合流したようなのでボタンを連打していれば、後は甲鉄城に戻れます。カバネリルートの場合、美馬戦で体力を残せれば自力で甲鉄城に戻ります。残せなければ生駒と一緒で人間ミサイルになります。ホモ君は無名ちゃんに体力を削り取られたので人間ミサイル一択ですが。もし体力あってもあの距離は無理だと思うのは私だけですか?来栖は人間じゃないからできるけど、人間には無理だと思うの。

 

はい。人間ミサイル着弾。よし!ただいま!人外2人も甲鉄城に戻りました。もう少しで甲鉄城が金剛郭から脱出ですね。

 

【トロフィー"金剛郭からの生存者"を手に入れました。】

 

はい。タイマーストップです!

ちゃんと金剛郭から脱出できました!よかったぁ!初見イベントに入ったのでどうなることかと思いましたがなんとかなりましたね。最終決戦関連のイベントを総無視できる分、ポイント回りをさせられてもこっちの方が早かったですね。しかしルート分岐の条件が確定しないので困りましたね。

上侍、倭文駅で刀を使わないとかはあると思います。あとなんだ?少なくとも美馬と会ってからの選択肢かステータスしか条件にならないと思うんですが…。瓜生からの菖蒲様へのちょっかいに手を出さない。もかな?

ステータス的には知力か。磐戸駅の謁見参加も必要かな。

まとめると、クリアデータから始める、上侍、知力高め、倭文駅で刀を使わない、瓜生に何もしない、磐戸駅の謁見に混ざる。でしょうか。男だと中々低身長引けないんで、女の子の上侍作って検証してみることにします。

もし知ってる方がいたら検証する前に教えて下さい!お願いします!

 

えっこの後のホモ君?興味ないですねぇ。カバネリルート、武士ルート、蒸気鍛治ルートで克城乗っ取り計画に参加しないと好感度だだ下がりの上、八つ当たりされますから、甲鉄城に戻るのが幸せかは知りません。まあ阿幸地みたいに大損害出しても、のうのうと過ごせるくらいに甲鉄城は心が広い奴らばかりなので大丈夫なんじゃないですか?(テキトー)この後ホモ君が甲鉄城を降りようがなにしようが、シナリオは終わりましたし、トロフィーは取れたので問題ありません。

 

それではこの動画はここまで。ご視聴ありがとうございました!



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甲鉄城【裏】

菖蒲達が操車場へ入ると出入り口まで騒めきが届く。牢を目指して進むと民人達が牢を囲んで騒いでいる。

 

(人同士が争っている場合ではありません。)

 

「おやめなさい!」

 

民人達が菖蒲の方を向き、牢の中にいる甲鉄城の者達は湧き立った。

 

「菖蒲様!よかった。ご無事で!」

 

菖蒲は民人達から目線を逸らすことなく堂々と発言する。

 

「彼らはカバネではありません。」

 

「信じられるか!」

 

「秩序を守るのがあんた達の務めだろう!」

 

民人が菖蒲に蒸気筒を向けたため、道元や道元の部下から鍔鳴りがする。菖蒲は道元達を止めるため両手を広げた。

 

「いいえ。秩序は人を守るためにあるのです。銃を向ける相手を間違ってはなりません。撃ち抜くべきは!」

 

菖蒲は前に出る。怯んだ民人の銃口が僅かに下がる。

 

「互いを疑う心です!」

 

完全に銃口が下がり切った。

操車場に張りつめていた緊張が解ける。

 

「私達は金剛郭を脱出します。一緒に行きましょう。」

 

道元が牢を開け、甲鉄城の面々は牢の外に出た。発進準備を指示されたため慌ただしく甲鉄城へ急ぐ。

菖蒲の元へ雅客が寄ってきた。

 

「菖蒲様。…最上様は…。」

 

「っ!…カバネを引き離すために囮に…。」

 

「…そうですか。」

 

「雅客。最上になにかあったのですか?詳しく聞くことが叶いませんでしたが、甲鉄城には戻れない。と言っていました。」

 

「‼︎…くっそ!」

 

雅客は菖蒲に反乱の事を説明した。そして謝罪の機を逸した為に、喧嘩別れになっている事も。

 

「そんなことが…。」

 

「最上様を探しに行くことは、許可いただけますでしょうか…。」

 

「なりません。最上には戻る意志を感じませんでした。どこまで離れたかわかりません。甲鉄城の発進準備を急いで下さい。」

 

「…わかりました。」

 

菖蒲は最上捜索の許可は出さなかった。最上に戻る意志はなく、今は甲鉄城を確実に脱出させることに注力すべきだと考えたからだ。

雅客は悔しそうにしながら下がっていった。周囲で聞き耳を立てていた者たちも視線が下がっている。

 

菖蒲には当時の事はわからない。だが磐戸駅でのこと、甲鉄城の者たちの扱い、先行きがわからぬなか菖蒲の安否がわからなかったことから、全員の気が立っていた事はわかる。最上にも余裕などなかった筈だ。というより一番余裕がなかったのが最上だったかもしれない。

菖蒲には最上に責任を押し付けるつもりはないが、最上は頭脳労働を主としていたのに、美馬に読み負け、最終的に菖蒲の身柄を奪われている。そんな中の反乱である。

菖蒲を守ることが出来ないなら、せめて民人を守らねばと考えたのだろうが、誰一人耳を傾けなかった。作戦は納得できる様な内容ではなく、反対したら臆病者と罵られ、来栖を引き合いに出された。

血を抜かれたことで体調が悪かったことも相まって、最上は残された余裕を完全に失ったのだろう。

本来激昂などするより、淡々と事実を論い相手の心を折りにいく。そんな性格である。

 

最上は甲鉄城に乗るまで、今いる武士達と交流はなかった。来栖か最上かとなれば、来栖を選ぶのは明らかであるし、最上自身が武士達を来栖の指揮下に置く姿勢を示していた。

来栖がいれば、来栖さえ納得すれば問題がなかったし、来栖は義理堅い男であるが、感情より理論をとる方が多い。最上との相性は悪くなかったため、今まで問題にはならなかった。

効率的な運用のために、来栖に指揮権を任せてきたのに、まさか不在時にすら引き合いに出されるとは思わなかっただろう。

まして、生駒にすら信用が劣っていたと証明されてしまった。蒸気鍛治達が生駒を選ぶのは当然だ。しかし武士達が1人も理解を示さなかったのは堪えただろう。

吉備土達は、来栖ならきっとこうするだろうという考えで、来栖と最上を比べて来栖をとったのだろうが、その場に来栖はいなかった以上、客観的には生駒か最上かという話である。

 

吉備土達は謝罪したいという意志を示しているが、最上はそれを知らない。

菖蒲がいる以上、決定的な対立は起こり得ないとわかっているだろうが、自分がいれば不和が生まれると思ったのだろう。

最後のあの時、最上に決断させたのはきっとそれだ。来栖不在の中、自分がいなければならないと思ったなら、きっと今も最上はここにいた。来栖や無名のように、正面から複数のカバネを打ち倒せるとは菖蒲も思っていないが、他の出入り口を探すなり、一時的に引きつけて上手いこと戻る術を考えただろう。

 

最上なりにきっと武士達を信頼していた筈だが、最上からの信頼は失われた。菖蒲を送り出したことから、まだ信用は残っているのだろう。

 

美馬と会ってから、最上は謝罪ばかりしていた。自信を失っている時に追い討ちをかけられて、信頼できる相手が誰一人いないのは如何許りか。

 

(嫌な役ばかりさせてしまっていました…。率先してやってくれるからと任せ過ぎた結果が最上の孤立…。私が不甲斐ないからなのでしょうね。)

 

 

 

一方最上は、いつまでも走り続ける体力はなく、高所に一時避難していた。

いつのまにか鵺が倒れ込んでいるのが見えた。

 

(滅火の時と同じか?…無名殿。哀れな娘だ。無名殿の七夕のときの様子から美馬がこんなことをするとは思っていなかっただろう。幼いころの刷り込みが良く効いていたのか、とても信頼しているように見えた。ああまで信頼していた相手に裏切られて使い捨てにされる…。可哀想に…。)

 

「まあ…。私にはどうしてやることもできん。だが、操車場を襲わなかったことは感謝する。」

 

倒れている鵺に遠くから一礼すると、丁度鵺が崩壊していく。

 

「しかしまだ甲鉄城は出ていないようだが、まさか操車場にカバネが入り込んでいたとかではなかろうな…少し不安になってきた…。」

 

操車場に視線を向けるが未だ動きはない。

 

「さてそろそろ移動するか。」

 

火が周囲の建物を舐める。

火に巻かれる前に移動することにした。

 

別の高台に移動して暫くして朝日が昇ってきた。

 

「大体鎮火してきたな。しかし甲鉄城はまだか?本当に大丈夫なのか?菖蒲様を送り出したのは間違いだったか?道元様がおられるから、私の合流を待つなんてことはないだろうし…。あぁ…不安だ。」

 

 

 

避難民の受け入れ作業が続く中、甲鉄城の艦橋では線路選定の会議が行われていた。

 

「地図通りなら、6番線でいける筈だけど。」

 

「その線路が生きている保証はないぞ。」

 

「でも必ず道はある。美馬は自分が脱出するための線路を残しておく筈だ。」

 

「教えてやろう。」

 

意見が交わされる中、聞きなれない声が艦橋に響き、皆が声の方向に顔を向けると、狩方衆の瓜生が入り込んでいた。

 

「取引だ。脱出路を教える代わりに、俺たちを甲鉄城に乗せていけ。」

 

「ふざけるな!」

 

「応じると思うのか⁉︎」

 

瓜生の発言に、樵人達がいきり立つが、下緒が瓜生の前に走り出てそのまま顔を張る。

下緒はなにも言わずに睨んでいたが、菖蒲に抱き止められ涙を流す。

 

「協力しましょう。彼らも苦しいのです。でなければ力づくで私達を従わせている筈です。」

 

「ありがとよ。お姫さん。礼がわりに教えといてやる。野良のカバネリとあんたの忠犬も此処に来てるぜ。子犬ちゃんも見たが逸れたのか?」

 

「っ!」

 

菖蒲の目が揺れる。

 

「生駒も来栖も生きてたか!」

 

「最上様も生きてそうだな。」

 

「なんとか回収できないか?」

 

「こちらが迎えに行くのは無理だ。向こうから来てもらわないと…。」

 

「来栖達にどうにか合流場所を伝える方法を考えなくては…。」

 

「最上様は戻られるだろうか…。」

 

生駒や来栖が来ていたことに艦橋内が湧き立つが、問題は最上である。本人に戻る気がなければどうしようもない。

 

「なんだお前ら仲間割れしてたのか。まあいい。生きている線路は13番線だ。総長はそこから脱出する予定だった。野良のカバネリに克城をぶっ壊されたから、おじゃんになった訳だが。」

 

「13番線か。こっちから迂回すれば入れるね。」

 

「放送設備は生きてるか?」

 

「生きてたとしてどうやるんだ?」

 

「巣刈君!放送のライン甲鉄城から引けないかな?」

 

「スピーカーがどれだけ生きてるかわかんねぇけど、ライン自体は引けるな。」

 

「巣刈。ここ。操車場脇にスピーカーがある。ここから別のスピーカーに流せない?」

 

「壊れ具合にもよりますけど、最悪配線さえ取り出せればいけます。」

 

皆が口々に合流するための手段を模索する。

そうこうしているうちに避難民の受け入れが完了した。

 

「それでは確認です。操車場脇のスピーカーから金剛郭内に放送を流した後13番線に進行。合流次第脱出。これでいいですね?」

 

「はい。」

 

「では作戦を開始します!」

 

「よし。巣刈!行っといで!」

 

「やっぱり俺ですよね。」

 

巣刈はワイヤーを引いて線路下に降下する。スピーカーは崩れ落ちていたので、中から配線を引っこ抜いて被膜を剥がして、甲鉄城から引いてきた音声送受信用のケーブルを接続した。接続が完了したことで放送が始まる。

 

『無名ちゃん聞こえる?来栖さん。生駒くん。最上さん。聞こえますか?私は今甲鉄城から話しています。13番線で合流しましょう。甲鉄城もそこを目指します。無名ちゃん!みんなでまってるから!最上さんも色々ごめんなさい!待ってます!』

 

放送が終わり、甲鉄城が本格的に発進の準備を整えた。

 

「甲鉄城。発進して下さい!」

 

甲鉄城が操車場から滑り出す。

来栖達は、無名が先陣を切り生駒を抱えた来栖が続く。

 

「しかし最上も残っているのか。」

 

「最上さんって強いの?死んでない?」

 

「いつから外にいるのか分からんからなんとも言えんな。別に弱くはないが。」

 

13番線を目指してカバネを倒しながら進んでいると、少し離れた高所に最上が腰掛けていた。

 

「来栖。あれ。」

 

「あの馬鹿。なにをやってるんだ。」

 

「ちょっと行ってくる!」

 

「おい!無名!」

 

無名は崩れかけた建物を足場に飛び移り最上のところまで到着した。

 

「ちょっと!放送聞いてなかったの⁉︎さっさと行くよ!」

 

「無名殿!ご無事でしたか。放送とは?反響が酷くてここからは内容はわかりませんでした。」

 

最上は無名が元に戻っているとは思っていなかったため、目を丸くして無名を見上げた。無名から見て最上は顔色は悪く、疲れ切っているようだった。

 

「13番線で甲鉄城と合流するの!早くして!」

 

「私はいけませんので置いて行ってください。」

 

「何?噛まれた?羽織の血。あんたの?」

 

「いえ。そういうわけではありません。羽織のはカバネを引き寄せるのにその辺の死体から頂戴しました。」

 

無名は最上と話しているのが面倒臭くなってきた。放送で鰍は最上に謝っていた。たぶんなにかあったのだろう。だけど無名は早く甲鉄城と合流したいのだ。無名は考えるのをやめた。鰍が待ってると言ったのだから連れ帰るだけだ。

 

「ふんっ!」

 

銃床でこめかみを一撃であった。気絶した最上を抱えて来栖の元に戻る。

 

「お前何してるんだ⁉︎」

 

「だってごちゃごちゃうるさかったんだもん。甲鉄城に行かないとか言うし。鰍が待ってるって言ってたんだから連れてくの!最上さんの事情とか知らないから!」

 

無名と来栖はそれぞれ1人づつ抱えて作業用トロッコに飛び乗った。

 

 

 

甲鉄城は13番線を走行していた。

 

「いた!無名達だ!」

 

服部から声が上がり、甲鉄城は警笛を鳴らした。

車上では布を縫い合わせた大きい横断幕を広げていた。

無名達の姿は遠く声が届くとは思わないが鰍は声を張り上げる。

 

「無名ちゃん!こっち!」

 

横断幕を広げて支えているのは、武士や蒸気鍛治のみに留まらず、民人や六頭領までいる。甲鉄城へ無名が戻ってもいいと思ってくれてるのは鰍だけではないのだ。

無名の目から涙が滲む。

 

「生駒。帰ってきたよ。先に行きな。…おおぉりゃっ!」

 

無名は生駒を抱え上げ抱きしめたあと、勢いよくぶん投げた。

横断幕に勢いよくぶつかり生駒は受け止められた。

車上が喜びに包まれていると、服部が声を上げる。

 

「第二射来ます!」

 

鈴木は慌てて生駒を連れて脇にずれた。

 

「第二射って…」

 

などと笑っていたら最上がぶっ飛んできた。横断幕を滑り落ちてきたのを倉之助が受け止める。無名と来栖がきちんと回収したらしい。意識がないあたり実力行使のようだが、事情を知っていたとしてもあの2人が最上を丸め込めるとは思っていない。無名か来栖にぶん殴られたのではと思うと少し可哀想だ。

 

すぐに無名が並行する線路を経由して甲鉄城に帰ってきた。

 

「ただいま!」

 

「おかえり!」

 

来栖も自力で無名と同じように甲鉄城へと降り立ったが、最後にバランスを崩して後ろに落ちそうになり、菖蒲に腕を引かれた。

菖蒲はそのまま手を包み込んだ。

 

「おかえりなさい。」

 

「…ただいま、帰りました。」

 

来栖の顔は真っ赤である。

 

4人を回収した甲鉄城は加速していく、甲鉄城が通り過ぎた後、線路が崩れ落ちていく。

線路だけではなく、金剛郭全体が崩壊していくのを背景に甲鉄城は金剛郭を後にした。




本編終了。ここまで呼んで下さった方は心が広いですね。ありがとうございました。
一応エピローグがあります。


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エピローグ

謝罪回。
先に言っておきますが、読んでもスッキリしません。


甲鉄城内で無名は生駒に縋り付いて声をかける。

最上は無名に強烈な一撃を食らったそうなので、脳震盪と疲労で目が覚めていないが、倉之助と雅客が様子を見ている。

対して生駒は、目が覚めた時正気であるかの保証がないため、心配した菖蒲や一応警戒のため来栖が控え見守られている。

無名が名前を呼びながら揺さぶり続けると

 

「いてぇ…動かすな…」

 

生駒から声が漏れ、無名がそのまま抱きついた。

 

 

「こっちはだいぶ華が欠ける付き添いで申し訳ないな。」

 

「そこは気にしないと思いますけど。」

 

「しかしやっぱり顔色が悪いな。まだ血を抜かれて5日だから当たり前だが。」

 

「ゔっぅん。」

 

頭が痛いのかずっと眉間に皺を寄せて唸っている。

 

「無名が銃床でこめかみに一撃か。痛そうだな。」

 

「雅客。こちらはどうだ。」

 

「まだだな。そもそも最上様は大量に血を抜かれたらしいから、本来ならまだ安静にしてるべきだぞ。」

 

「まだ目ぇ覚めない?…えっとごめん。ちょっと強くやりすぎたかも…。」

 

「いや無名の一撃だけの問題じゃないだろうから気にしなくていいだろう。連れ帰ってきてくれてありがとう。」

 

「そう?…じゃあ生駒のとこ戻るよ。どういたしまして!あっあとよくわかんないけど、生駒も最上さんに謝りたいって言ってたよ。」

 

「わかった。起きたら伝えておくよ。俺たちが謝るのが先なんだが。」

 

「どいつもこいつも謝罪謝罪となんなんだ?」

 

「あぁ…。ここで話すことじゃないし、吉備土にでも聞いてくれ。」

 

「ふむ。わかった。」

 

 

夕方にやっと最上の目が覚め、謝罪待ちの人達が集まったが、

 

「謝罪?特に必要ないが。」

 

などと宣った。

 

「むしろ。鰍殿には失礼した。貴方は武士ではない。貴方にいうべきではないことを言ったな。と思っている。少々気が立っていたもので。」

 

「それでも言い過ぎました。私も興奮してたのでごめんなさい。」

 

「生駒は別に間違った事は言ってないしな。作戦如何はさておいて、私は基本的に出来るだけ損害の少ない方法を考えている。戦わない方が損害が少ないと思えばそちらを選ぶ。必要なら戦わない理由だっていくらだって探す。見方によれば臆病者だろう。改めるつもりもないので、そちらも気にせずとも良い。」

 

「いやでも最上さんの言った通りでした。美馬に読まれてた。臆病と慎重は違うと思うし…すみませんでした。」

 

「武士も別に…。私が全く信用されてなかったことの証明であっただけだ。前提がわかれば、今後はそのように対処を考えれば良いだけだ。これといって怒っていないので謝罪は不要だ。」

 

「いや。そんなつもりでは…とにかく申し訳無かった。」

 

鰍と生駒は良いとして、武士達への認識は問題だった。最上は信頼どころか信用されてないと言う認識である。また菖蒲と来栖が不在の場面が発生した場合、取り仕切ろうとすらしないだろう。信用していないものの指示に従うものなどいないのだから。

 

鰍や生駒は言いたいことは言えたので、スッキリした顔で出ていった。

吉備土達は最上が本当に怒っていない様子だったため、不完全燃焼ですごすごと退散した。

 

「ところで来栖はなにかあるのか?」

 

「すまない。預かっただけのつもりだったが消費してしまった。」

 

来栖の懐から空になった布袋が出てきた。女装させられた際、流石に金平糖を全部持ち歩くのは無理であったため、取り分けたときの余りだ。

 

「なるほど来栖が持ってたのか。むしろよくそれだけで大丈夫だったな。消費したことは全く問題ない。」

 

「あとで金は払う。」

 

「いらんよ。駿城で3日の道のりを、駿城なしで踏破する意味不明な旅路の役に立っただけで充分だ。ふふっ。」

 

「何がおかしい。」

 

「いや本当に意味不明すぎて、駿城で3日の距離だぞ?駅外を生身で過ごすだけでも凄いのに、追いつくか?普通。ふふふっ来栖の認識を上方修正しておくよ。」

 

最上はとても楽しそうである。

 

「あとこれも預かっていた。返しておく。」

 

「はい。確かに。」

 

来栖から漆塗りの箱が手渡された。

 

「しかし意外だったな。最上のことだから生駒にもっと言うかと思っていた。」

 

「私をなんだと思っている?謝罪内容に対してはさっき言った通りだし、作戦については充分授業料は支払っただろう。わざわざ追い討ちをかける利がないな。再起不能にした方がいいなら話は別だが。」

 

「再起不能にされては困る。…吉備土達は信用出来なくなったか?」

 

「信用はしてるさ。信頼はしないが。信用してないのはあちらだろ?まあ完全に美馬に読み負けてたんだ。信用されなくて当たり前だな。来栖が率いる分には信頼に値するから特に困らない。よく考えたら八代駅の時だって、甲鉄城の守りを薄くしてまで、捜索隊に来栖を据えたのは、来栖は撤収の指示に確実に従うと思ったからだ。言い換えれば、吉備土達は土壇場で情をとる可能性があると認識していたからだ。今回その前提を考慮しておかなかった私が間違っていただけだ。次回がないことを願うが、もしあればきちんと考慮するさ。」

 

「そうか。」

 

(だが、吉備土達は理解してくれると思ったから口を挟んだんだろう。止まってくれると思ったんだろう。最初から無駄だと思えば、お前は口を挟まない。そう信じていたのに裏切られたから怒っていたのではないのか?)

 

来栖は納得してはいないが、表情を変えず出て行った。

出てすぐのところに雅客が控えていた。

 

「雅客。どうした?」

 

「やっぱり怒ってなかったか?」

 

「信用はしているが信頼はしない。美馬に読み負けた以上信用されなかったのは当然。と言っていた。特に怒ってはいなかった。」

 

「そうか…。はぁ…怒ってないかぁ。」

 

「なんだお前怒られたかったのか。」

 

「なんかその言い方は嫌だが…そうだな。俺はたぶん来栖の次くらいには最上様と喋ること多かったからさ。」

 

「そういえば八代駅でもクレーンについて行ったな。」

 

「そう。そんとき八代駅の民人下車させるって言ってたろ?あの時俺は手伝うって言ったんだ。」

 

「は?お前…。」

 

「だって15の奴に1人でやらせることじゃないだろう。それに最上様が提示した条件下なら顕金駅の民人を守るのに必要なことだった。でも絶対菖蒲様は許可しない。なら本当に食糧をめぐって殺し合うのか?殺し合いになって、飢えて死に絶えるくらいなら最上様と俺でやろうと思った。罵られても殺されても良い。それでみんなが生き延びるなら。誰だってやりたくない。でも言い出した。なら乗ってやろうって思った。手伝うって言った時凄い驚いてた。その時にはネタばらしはしてくれなかったけど手伝いはいらないってのは言ってくれたよ。その時笑ってた。…だからさ。自惚れかもしれないけど、いざそういうことが必要になって1人じゃ無理なら俺に声かけてくれるかなって思ってたよ。」

 

「雅客。お前…。」

 

「でもさ。克城攻略の作戦の会議のとき最上様が反対して、生駒と吉備土から反論されてたとき俺は何も言わなかった。最上様の危惧していた点は理解できた。だけど場の空気に流された。立ち去る前、最上様はその場にいた武士全員見回したよ。無意識に味方を探してたのかもしれない。あの時せめて俺が最上様についていたらまだ違ったかな…。会議が終わった後に、一応声をかけに行ったんだ。そしたら、もし作戦が成功したら地べたに這いつくばって謝罪してやるって言ってた。言わせちまった。あの時はまだ怒ってくれてたんだ。あの時でもきっと間に合った。作戦が失敗した後だって激昂したんだ。まだ怒ってた。その後時間を置いたせいで最上様は諦めた。怒るだけ無駄だって思わせた。俺が一番信頼を取り戻せる機会を持ってた。なのになにもしなかった。いつも誰もやりたくないことやってくれてたのわかってたのに。八代駅の時からわかってたのに。来栖も居なくて、菖蒲様も引き離されてみんな焦ってた。最上様だってたぶんそうだ。むしろ頭が良い分俺たちが気がつかないことまで気がついて焦ってたはずなのに…俺は状況に流された。怒ってほしかったよ。俺は。なんで味方してくれなかったって。自分の味方なんていないから、次はそれを前提に対処するなんて諦めて欲しくなかったよ。」

 

「…。」

 

「来栖と最上様のどちらかしか選べないならお前をとるよ。だけどあの時はいなかった。なのに俺たちは来栖ならとか、来栖に申し訳が立たないとかお前を理由にした。最上様を選ばない理由を正当化した。正直あの場にお前がいたら、最上様の話ちゃんと全部聞いて決めた筈だ。生駒が煽って、吉備土は議論に応じなかった。怒る事すら諦めさせたのは俺たちなんだよ。頭が良い年下からよってたかって怒る理由を取り上げたんだ。俺たちが最上様より、来栖をとるのなんて最上様が一番わかってるだろう。」

 

「…そこまでわかってるなら取り戻せ。一度失ったからって二度と得られない訳じゃないだろう。」

 

「…そうかな。」

 

「次があればせめて全部聞いてやれば良い。わからなければこっちがわかるまで説明させれば良い。それで納得できなければいってやれば良い。あれは時々こちらを謀るが今まで菖蒲様にとって不利益を出したことはない。少なくとも己は、八代駅の民人を下ろす話に協力するつもりはなかった。だがお前は意味を理解した上で協力しても良いと思ったんだろう。だったら今度は状況に流されるな。己を理由にするな。断るなら自分の意見で断ってやれ。」

 

「お前のそういうとこ凄いと思うよ。だからお前は信頼されてるんだろうな。」

 

 

甲鉄城は金剛郭を無事に脱出できたことで喜びに包まれながらも、生まれてしまった確執や、避難民が増えたことの不安を抱えながら進んでいく。




ごめんね!良いよ!
とはならないよね。
たぶん謝らなきゃならないのがホモ君側だけならそうなるんだけど、ホモ君は光属性じゃないので。
そもそも上侍はホモ君しかいないんだなぁ。他の上侍達とは親友!みたいなのはないけど、少なくとも関わりがあった人達なのでそこそこ仲良いのがいました。
でも甲鉄城には誰一人居ないんです。周りはなんだかんだ仲良し!までいかなくても職業繋がりとかで仲間がいます。そんな中役割を果たしつつ、ホモ君なりに歩み寄ってましたが克城で梯子外された形なので、歩み寄ってもどうせ誰の仲間にもなれないと認識しました。
来栖はなんやかんや話は聞くし、菖蒲様の利益という点で分かり合えるので割と仲間換算ですが、菖蒲様の気持ち優先と菖蒲様の利益優先で微妙に方向性が違います。
菖蒲様は主人なのでちょっと扱いが違います。
雅客は結構良いとこいってましたが、だからこそ外された梯子を戻す気が現時点でホモ君にありません。だってまた外すんでしょ?この後雅客がガンガン攻めればそこそこ仲良くはなります。心の底から信頼するかは別ですが。
ホモ君が光属性だったら大団円だったんですが、すみません作者が光属性じゃないので、こうなっちゃいました。

アニメでも映画でも、さらっと道元様がログアウトしてどうなったかわかりませんが、道元様が途中で降りずに甲鉄城に残っているなら、ホモ君が一番仲良くなるのは道元様です。
たぶんさらっと来栖抜かして行きます。
金剛郭で老中してたくらいですし、元々関わりもあります。そして何よりあのパニックの中、優先順位を決めて動くのが早い。本来お前が、落ち着け!とかやるんだよ!ってところで見切りつけて菖蒲様を確保するのが爆速なので信頼が厚い。


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【小話】給水地にて

本編終了後の小話です。勿体ない精神で上げときます。
どんな話が来ても大丈夫な心の広い方のみお読み下さい。

死に設定の愛馬の疾風を使いたかったんです。
本編では流石に出せなかったので。


 

「遠方にカバネを確認!」

 

「カバネだ!速やかに乗車しろ!」

 

「小夜⁉︎下緒⁉︎どこにいるの⁉︎」

 

「どうした⁉︎いないのか⁉︎」

 

カバネ発見の報に皆が甲鉄城に乗り込む中、鰍が小夜と下緒の名を呼び周囲を見回していた。

 

「いた!小川だ!」

 

服部から所在地が告げられる。

甲鉄城から少しばかり距離があるが、最上は周囲警戒と愛馬の疾風をたまには走らせるため、疾風に騎乗していた。

 

「私が行こう。あの2人なら疾風に乗せて帰って来られる。乗車完了次第甲鉄城を出せ。初速なら疾風は追いつける。近づいたら厩舎のタラップを頼む。疾風っ!」

 

「わかりました!頼みます!」

 

最上は疾風の腹を蹴り2人がいる小川へ向かう。

小川に着くと泣いている小夜と、なんとか小夜を連れて行こうとしている下緒がいた。

 

「下緒!どうした⁉︎カバネが来るぞ!」

 

「小夜が転んで!」

 

小夜は手のひらから出血していた。

 

「下緒。馬に乗せるぞ。先にお前だ。後ろ向きで乗れ。小夜を私とお前で挟む。」

 

「は…はい。」

 

「小夜。下緒にちゃんと捕まっていろ。」

 

下緒を先に乗せ、小夜を間に挟み最上も騎乗した。

 

「下緒しっかり捕まっていろ。口を開くな。舌を噛む。行くぞ。はっ!」

 

疾風は3人を乗せて疾走する。

甲鉄城はゆっくりと走り出している。武士達が車上に上がり蒸気筒を携えこちらに何か叫んでいる。まだ距離があるため声は聞こえない。

だが最上から見て左方を指示していることから、そちらからカバネが来ているのだろう。

 

「下緒!跳ねるぞ!」

 

左方の茂みから2体のカバネが飛び出す。速度は充分。カバネが飛び出した場所は少々窪地となっている。疾風は踏み切りカバネを飛び越える。

下緒と小夜を抱えているため刀を抜ける状態ではない。甲鉄城の車上から武士達が蒸気筒で援護をする。

甲鉄城に対して斜めに接近していき、とうとう並走し始めた時点で厩舎車両からタラップが降りる。

タラップから車内へ駆け込んだ勢いが良すぎて疾風は車内をバタバタと走り回る。

タラップの上げ下ろしやカバネの警戒のために居た歩荷と仁助はタラップを上げる。

 

「どうどう。疾風。よしよし良い子だ。」

 

最上が手綱を操り疾風を落ち着かせる。

少しして疾風は落ち着きを取り戻し、厩舎車両の入口で様子を見ていた鰍と鯖は疾風に近寄った。

 

「鰍殿。下緒から下ろしていいか?」

 

「はい。おかえり。下緒。」

 

「こ…怖かったぁ…」

 

「全力疾走だったからな。すまん。」

 

怖がる下緒を見て申し訳無さそうに最上は声をかける。

 

「小夜。おかえり。」

 

鰍が小夜に手を伸ばす。小夜はいつも通りの表情で、鰍に抱き止められた後床に下ろされた。

 

「小夜。怖かったね。」

 

下緒が小夜の傍にしゃがみこんで声をかけているのを、横目で見ながら最上も疾風から降りる。疾風を馬房へ連れて行こうとすると、後ろから羽織を引かれた。

 

「小夜。駄目よ。」

 

鰍が小夜に駆け寄る。

 

「うま。たのしかった。」

 

最上の羽織を引きながら、こちらをじっと見上げてそう言った。まさか小夜に楽しかったと言われるとは思っていなかったため、最上は目を丸くした後破顔した。

 

「ははっ!楽しかったか。小夜は見かけによらず豪胆だな。」

 

最上は小夜の頭を軽く撫でる。

小夜が最上に話しかけたことも、その内容も、最上が笑っていることも驚きだったため、最上と小夜以外の厩舎にいた全員が固まった。

 

「またのる。」

 

「また今度な。」

 

最上は手綱を引き疾風を馬房まで連れて行った。

 

「最上様って笑うのね。」

 

「初めて見ましたね。」

 

鯖と鰍は、下緒と小夜を連れて厩舎車両から出て行った。

 

この後度々最上に馬に乗せてもらう小夜を見られるようになる。

 

 




疾風は愛馬なので、全力疾走だったのに楽しかったとか、また乗りたいだなんて言われて、純粋にホモ君は喜んでます。

でも別に子供好きとかじゃないので、特に優しいとかはないです。普段は基本的に子供達とは関わらないです。
一之進とかは、ホモ君が(なんとなく怖いから)苦手なので寄ってきません。

小夜ちゃんハイパー捏造!


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【小話】15歳

下侍達がくだらない話をしてるだけ


「最上様って寝顔は年相応だよな。」

 

「来栖と違って寝る時は熟睡してるから意外と起きないしな。」

 

「この間カバネが出た時、叩き起こされたけど寝ぼけてたのか、ロッカーにぶつかってた。」

 

「なにそれ。見たかった。」

 

「そんな15に俺たちはさ…。」

 

「やめろやめろ。その話題。」

 

「この間寝言言ってました。」

 

「そういうのが聞きたいんだよ。なんて?」

 

「563文って。」

 

「金勘定!菖蒲様と最上様に任せてるからな…。夢に見るほどしなくていいんだよ…。俺たちも手伝うか?」

 

「算学あんまり得意じゃないんだが…。」

 

「足すだけだろ!足すだけ!」

 

「この間2文合わなくて、計算し直して5文合わなくて、最上様がやってくれた。」

 

「うぐっ。」

 

「そういえば意外と眠くなるの早いよな。」

 

「こないだ艦橋であくびして、来栖に追い出されてた。」

 

「15だもんな。それに駅にいた頃は、汚れ仕事に奔走してた俺たちと違って、体力もそこまで必要なかっただろうしな。」

 

「堀川家ってさ。先代の奥「やめろ。その話題は駄目だ。」

 

「生駒って幾つだ?」

 

「17じゃなかったか?」

 

「最上様生駒より年下か⁉︎」

 

「巣刈は?」

 

「15だったはず!…仲良く友達にって感じじゃないな…。」

 

「巣刈は絶対侑那に気があるよな。」

 

「確かにそんな感じだな。15らしくて良いじゃないか。どんだけ斜に構えてても、好きな子がいるとか可愛いじゃないか。」

 

「最上様は?」

 

「好きな子?いるか?」

 

「小夜は懐いてるな。」

 

「ダメだろ。というか別に最上様が好きな訳ではないだろ。小夜が気に入ってるだけで。」

 

「鰍は?」

 

「無理だろ。絶対合わないわ。…というか最上様と合いそうな子いなくないか?」

 

「家柄だけで言ったら菖蒲様になっちゃう。」

 

「確かに家柄を忘れてたけど、好きな子ってそういうのじゃないじゃん!」

 

「好きな子に素直になれなくて意地悪しちゃうとか、照れて赤くなっちゃうとかさぁ。」

 

「最上様が意地悪したら大惨事になりそうなんだが…。」

 

「どんだけ壮大な意地悪すんだよ。」

 

「可愛い意地悪するの想像できなくて…。」

 

「わかるけど!好きな子にそんなことせんだろ!」

 

「この先どっかの駅で一目惚れとかしないかな。」

 

「したらどんな手を使っても甲鉄城に乗せそう…。」

 

「いや怖い。やめよう。この話題。」

 

「最上様ってちょっと背丈小さいよな。」

 

「確かに小さい気がする…けど巣刈もあんなもんだろ。…いや巣刈の方が大きいか?でも15ってあのくらいなんじゃないか?倉之助とか来栖って2年前どうだったっけ?」

 

「来栖はもう充分大きかっただろ。参考にならん。」

 

「倉之助は…。いや最上様よりは大きかっただろ。」

 

「将来倉之助くらいにはなるかな?」

 

「あのままってことはないだろ。」

 

「2年前の来栖くらい大きかったら15って忘れそうだわ。」

 

「今でもちょいちょい忘れてるだろ。」

 

服部と最上が戻ってきたのを見て武士達が一斉に黙る。

 

「…邪魔したか?いない方がよければ出て行くが?」

 

「大丈夫です!くだらない話してただけなので!」

 

「だが私がいたら続けにくい話題なんだろ?」

 

(最上様の話してたとか言えない。)

 

「好みの女の話をしてました。」

 

(雅客!よくやった!)

 

「へえ。」

 

「ちなみに最上様はどんな女性がお好きで?」

 

(雅客ぅ!)

 

「どんな?…うーん。」

 

(考えてはくれるんだ!)

 

「あまり賑やかなのは得意じゃないから、落ち着いた女性がいい。」

 

「甲鉄城で言うと?」

 

(掘り下げるのかよ⁉︎)

 

「…甲鉄城で…静殿?とか?磐戸駅では怖かったが…普段は落ち着いた方だろう。」

 

「年上好きということですか?」

 

「別にそういうわけではないが…甲鉄城だと殆ど年上なんだが…」

 

「それはそう。」

 

「菖蒲様とかは…」

 

「冗談でも来栖に睨まれそうな気がするからその話題はちょっと…。」

 

「ですね。」

 

(最上様もそういう認識なんだな。)

(来栖わかりやすいもんな。)

(15の配慮が凄い。)

(意外とこういう話題のってくれるんだな。)




先代の奥方(ホモ君のお母さん)?顕金駅にいるよ。^ ^
15歳の上侍の親が二人とも本編開始前に亡くなってる訳ないよね。お父さんは亡くなってますけど。

女の子の話ですが、一番歳が近くて条件を満たしているのは侑那です。
でもホモ君は自分の身分を弁えてるので、万が一侑那がタイプなんて噂を流されたら、お互いに不利益しかないので、相手として全く話題が盛り上がらなそうな静さんを出しました。
侑那は優秀なので運転士として気に入ってます。


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【小話】お医者さん

こちらも死に設定。
医学に明るいホモ君。


『菖蒲様伝声管から失礼します。寒さと乾燥のせいか、甲鉄城内で感冒が流行っています。5両目より後ろには行かないで下さい。大体は7両目と8両目に集めておりますがどうなるかわかりませんので。』

 

「わかりました。薬などはあるのでしょうか。」

 

『全員に処方できる量はございませんので、体力のない老人や子供に優先して処方しています。銃眼を閉めて湿度を高めにする様に対応しております。前方の車両でもそのようにお願いできますか?』

 

「わかりました。ところで最上は今どこにいるのですか?」

 

『6両目です。6両目で患者の対応や6両目以降の警備などを対応します。倉之助と雅客をお借りしています。至急対処が必要と判断しましたので、事後報告で申し訳ありません。』

 

「それは構いませんが、6両目の者達は大丈夫なのですか?」

 

『基本的に6両目と5両目は物の受け渡し以外では行き来を禁じました。6両目は感冒予備軍です。感染者との接触がなさそうなものは5両目に移しました。カバネリは感染するか不明なので、生駒達は6両目に待機させております。問題ありません。』

 

「わ…わかりました。よろしくお願いしますね。」

 

菖蒲が伝声管を閉じる。

 

「最上め。勝手なことを。」

 

「ですが感冒の封じ込めは大切です。甲鉄城にお医者様はおりませんから。」

 

4日後

 

「明日には駅に着きますがそちらの様子はどうですか?」

 

『あっ菖蒲様。倉之助が報告致します。7両目は軽症及び快方方向の者。8両目は重症の者で分けております。』

 

「わかりました。ところで最上はどうしましたか?」

 

『8両目で経過観察をしています。老人が2人ほど危ないとのことでして。』

 

「そうですか。次の駅でお医者様や薬が確保できるよう努力致しますね。」

 

 

 

交渉の結果。6両目以降の者は下車させない約束で、駅に入れることになった。医者と薬はなんとか都合がついた。

 

「駿城で感冒が流行ると、大変なことになりますが良く対処されていますね。」

 

「医者ではありませんが、医学に少し明るい者がおりましたので。」

 

「それはそれは。前に運転士が軒並みやられて壊滅したという話も聞きます。隔離措置が早くて何よりでした。」

 

「まぁ…なんてこと…。」

 

 

 

『こちら6両目。雅客。艦橋応答願う。』

 

「仁助だ。菖蒲様と来栖なら外に出ているが何かあったか?」

 

『医者と薬はなんとかなりそうか?最上様が8両目の住人になったぞ。』

 

「えっ⁉︎そりゃ大変だ。服部。伝令頼む。医者と薬はなんとかなると思う。待っていてくれ。」

 

『わかった。』

 

 

 

 

「滞在は3日。6両目以降の者は症状がなくとも下車は禁止。薬はお医者様次第で采配が決まるそうです。」

 

「噴流弾と設計図で、医者の都合がついたのですからよかった方かと」

 

「菖蒲様。ご報告申し上げます。雅客から最上様が8両目の住人になったとのことです。」

 

「8両目では重症ということではありませんか!」

 

「菖蒲様。医者の手配がついたのは僥倖でしたね。医者に任せましょう。」

 

「ええ…。大丈夫でしょうか。」

 

 

 

 

 

「こりゃなかなかひどいな。」

 

「むしろこの状況でよく前の車両が無事でしたね。」

 

 

 

 

 

「診察が終わりました。老人2名手遅れの者がおります。引き取りの交渉をなさった方がいいでしょう。8両目に看病を担当している者がおりましたので8両目の薬については説明して渡して参りました。7両目については6両目の者に薬を渡しております。こちらも薬には限りがありますので豊富にお渡ししたとは言えませんが。」

 

「いえ。助かります。ありがとうございました。」

 

 

 

「最上様。薬をいただきました。こちらが鎮痛解熱。こちらが咳止めとのことです。あとご老人2人は手遅れと…」

 

「そうか。ごほごほっ…すまん。……なら、あの2人には処方しない。ごほっ」

 

「えっ!」

 

「この後重症者が出ない保証がない。ごほごほっ…それと3番4番8番11番は鎮痛解熱はいらない。げほっ…私もいらない。まだ熱が低いからな。上がってから処方すべきっげほごほっ…後の判断は任せた……。」

 

「えっ!」

 

 

艦橋にて

 

「手遅れと言われたお二人は、この駅で引き取っていただけることになりました。明日には駅のものが来てくれます。最上はどうですか?」

 

『わかりました。最上様は簡単に薬の差配を倉之助に指示した後休んでいます。咳が酷いので疲れたようですね。』

 

「そうですか。何かあったら艦橋に連絡をお願いします。」

 

『はい。誰か連絡員を置いてくだされば随時連絡致します。』

 

滞在2日目の朝

 

『こちら雅客。艦橋応答願う。』

 

「来栖だ。どうした。」

 

『手遅れと言われてた老人が1名死亡した。』

 

「了解した。最上はどうだ?」

 

『今日の朝から熱が結構あるらしいが自分で判断して薬を飲んだと聞いている。今は寝てるそうだ。』

 

「雅客は8両目に行った訳じゃないのか?」

 

『俺は7両目担当でね。倉之助が8両目だ。』

 

「そうか。お前達は大丈夫か?」

 

『今のところは問題ない。』

 

 

6両目にて

 

『が!雅客さん!雅客さん!『やーっ‼︎』

 

「倉之助⁉︎何事だ?」

 

『こっちこないで‼︎『あっ!ちょっと待ちなさい!』

 

「…ねぇ。行った方がいいんじゃない?」

 

「だな。行ってくる。」

 

8両目にて

 

「倉之助!」

 

倉之助が泣き叫ぶ一之進を抱えて立っている。一之進は手足を振り回して暴れている。

 

「こないで!こないで!」

 

「錯乱してるのか⁉︎」

 

「そうなんです!どうしたら良いですか⁉︎」

 

「最上様は⁉︎」

 

「この騒ぎでも起きません!」

 

「ちっ!最上様!すみません!」

 

雅客は最上に駆け寄って頬を張った。

 

「うっ…がかく…?」

 

「申し訳ない!一之進が錯乱して大騒ぎしてる。どうしたらいい⁉︎」

 

「さくらん?…さくらん…ってなんだ?…ああ…熱で頭がおかしくなってるんだ。…げほげほっ…えっと…首とかを冷やして熱を下げないとあぶない…ごほっ…なんだっけ…あまりつづくとしぬんだったっけ…?ごほごほっ…」

 

「最上様?あんたも実は結構駄目ですね?」

 

「うわぁぁあん!「雅客さぁん!」

 

「とりあえず首とか冷やすぞ!最上様の指示が正しいか自信ないが!」

 

雅客は6両目に繋がる伝声管を開く。

 

「こちら雅客。無名。聞こえるか?」

 

「聞こえてるよ。大丈夫?だいぶ賑やかだけど」

 

「一之進が熱で錯乱してる。最上様も結構駄目だ。身体を冷やしてやりたいから外の雪を桶にでも詰めて寄越すように5両目に言ってくれ。」

 

「わかった。」

 

6両目に繋がる伝声管を閉じ、艦橋へ繋がる伝声管を開いた。

 

「こちら雅客。艦橋応答願う。」

 

「吉備土だ。随分後ろが騒がしいがどうした?」

 

「一之進が熱で錯乱してる。最上様も結構駄目だ。倉之助だけじゃどうにもならない。俺も8両目にしばらくいる。手が塞がるから報告は待って欲しい。以上だ。」

 

『了解した。』

 

「最上様!寝てて下さい!」

 

倉之助の声に驚いて振り向くと、最上が立ち上がっている。

 

「起こしたのはすみません!でも寝て!あんたまで錯乱したら困ります!」

 

「ねる…?ごほごほっ…。」

 

「そう!寝て下さい!」

 

「ん。」

 

「はい。良い子!」

 

7両目と8両目の間の扉が開き、桶を持った生駒が立っていた。

 

「雅客さん。雪置いときます。」

 

「わかった。助かる。」

 

倉之助と雅客は一晩中看病することになった。

 

翌朝。

 

「雅客?何故8両目に?」

 

「あんた覚えてないんですか⁉︎」

 

「何が?げほっ。」

 

「一之進が錯乱して大騒ぎ。あんたもたぶん結構駄目でした。」

 

「結構駄目。」

 

「覚えてないんでしょう?」

 

「全く。ごほん。一之進は?」

 

「あんたの指示で首とか冷やして半刻くらいで治りました。信じていいか半々だったんですがね。ついでにあんたも冷やしておきました。」

 

「それは悪かった。対処は間違ってない。」

 

 

重症者がいなくなるまでここから3日雅客と倉之助は奔走した。

 

「結局雅客も倉之助も罹らなかったな。」

 

「鍛えてますので。」

 

「悪かったな。軟弱で。」




甲鉄城ってほんとギリギリをいってるなって。
あんな閉鎖空間で病気が流行らないわけない。
まして拠点の駅もないから、甲鉄城内でどうにかしないといけない。
飢えもそうだけど、病気も怖いよねって話です。

民人に世話させないの?って話だけど世話手伝ってる人もいます。時代背景的に、まだ変な民間療法とか普通に存在してます。それをさせないために仕切るのは武士だけど、手伝ってるのは民人。ただ私が上手いこと使えなかっただけです。


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【小話】買物

「最上様、さっきの駅で反物を買ってたらしいぞ。」

 

「反物⁉︎確かに乾燥の為にかけられた反物は美しかったが…あれ…絶対高いぞ。」

 

「随分優美な桜の柄を買っていたらしい。」

 

「自分用じゃないな。女か?」

 

「…まさか…菖蒲様?」

 

「菖蒲様…だと…?」

 

武士達に動揺が走る。

そこへ最上が戻ってきたが、手に持つ反物は1本どころではない。

 

(もう贈物とかの範囲じゃないぞ。)

(何着作る気だ。)

(十二単でも作るのか?)

 

最上の後ろを追い無名と鰍が入ってくる。

 

「ねえねえ!反物買ってたんでしょ?誰かにあげるの?」

 

「無名ちゃん!駄目よ。」

 

「でもみんな噂してるじゃん。」

 

「別に構わない。あの駅の反物は有名なので、ある程度離れた駅に行ったら売却しようと思って何本か仕入れただけだ。領主に若い娘がいる駅とかがいい。需要があるところでは高く売れる。それか領主と謁見した時に交渉がいまいちだったら交渉材料にしてもいい。」

 

(商人か⁉︎)

 

「贈り物じゃないんですか?」

 

「違うな。贈り物をする相手とかはいないのでね。」

 

「菖蒲さんは?」

 

「主なので気軽に贈り物をする相手というわけではないな。それに歳が近いのに服飾品等を贈るというのは、色々誤解が生じるので…。」

 

「気軽?反物って気軽な贈り物の範囲?」

 

「いや反物が気軽なわけじゃないんだがな。」

 

 

無名達が立ち去った後

 

「それでなんで商人の真似事などなさってるんです?」

 

「甲鉄城の資金がどうなってると思ってる?今は技術を提供するかわりに食糧を得ているが、いつまで続けられる?次の駅でカバネへの対抗手段がないと言えるか?そのうち甲鉄城にも大きく金がかかるかもしれない。駿城の整備は金がいる。菖蒲様の私物と私の私物で足りれば良いが、足らない時はどうする?今我々には甲鉄城しかない。甲鉄城が修理出来なくなったら、何処かの駅の流民となるか野垂れ死にだ。」

 

「うっ。」

 

「駅にいた頃なら、そんなこと武士が気にすることではなかったが、今はそんなわけにはいかない。」

 

「民人に商人とかいるのでは?」

 

「生命線を商人に握らせるのか?商人の言いなりになるしかなくなるぞ?とはいえ全く触れさせないのは人的資源の無駄なので手伝わせてはいる。そのうちある程度資金を与えて運用させるさ。元手はこちらで出すのだ。勿論利益の何割か還元させる。」

 

「か…還元させる?」

 

「菖蒲様はお優しいから避難民が嵩む一方だ。分散して引き取ってもらってはいるが、財政はかなり不味いからな?甲鉄城の資金は運用できるほど余裕がないから、とりあえず私の資産だけで回してる。今のところ結構増えてるから、そのうち甲鉄城の資金に足して、甲鉄城の資金でも運用を考えなくては。」

 

「最上様って商人でしたか?」

 

「武士以外を名乗ったことはない。」

 

 

 

 

 

 




個人資産を増やすホモ君。わらしべ長者ではないけど、ちょっとした個人の資金(上侍様なのでそれなりの金額持ってました)からガンガン増やしていく。
お金はいくらあっても困らないし、良いものがあれば交渉にも使えるので、寄った駅で色々してる。
七夕すら菖蒲様の私物売り払うレベルなので、金稼ぎする奴が必要よね。
もちろん阿幸地達にも手伝わせるけど、阿幸地達は菖蒲様の臣下じゃないので菖蒲様陣営以上は儲けさせないよ。^ ^
金を握られるの怖いので。


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【小話】お医者さん2

金もなければ医者もいない。いつもギリギリな甲鉄城からお送りします。


「最上様‼︎来て下さい‼︎」

 

「何事だ?」

 

「早く早く!」

 

倉之助が最上の手を引いていく。厩舎車両で女性が蹲り、生駒と無名がついていた。女性は妊婦のようで、足元には水が広がっている。

 

「何事…って馬鹿!呼ぶのは私ではなく女性陣だ!生駒!鰍殿にお産だと伝えろ!人を集めさせろ!人選は鰍殿に任せろ!倉之助!隣の8両目から男どもを追い払え!7両目にでも詰めておけ!」

 

最上から悲鳴のような怒声で指示が飛ぶ。

 

「「はいっ!」」

 

生駒と倉之助がばたばたといなくなる。

 

「私はどうしたらいい?」

 

「とりあえず腰でもさすっていてやれ。準備が整わなければ出来ることもない。」

 

暫く無名が声をかけながら、女性の腰をさすっているのを最上は少し離れて観察していた。

 

「あの。こちらへ。」

 

8両目から女性が顔を出した。無名と最上で女性を支えながら8両目へ移動すると、お産のための場の準備が進められていた。8両目中央には布が張られており、布より後方を使うようである。妊婦を下ろし布の向こう側へ抜けると、丁度鰍や鯖が8両目に入って来たところだった。

 

「あっ!もう場所できてる!最上様がしたんですか⁉︎」

 

「まさか。私は8両目から男共を追い出せと倉之助に指示しただけだ。」

 

「助かります。」

 

「男どもにやらせることは何かあるか?」

 

「いえ。もう女達で間に合ってますので。」

 

「そうか。では失礼する。」

 

最上が8両目から出ていった。

来栖が武士を連れて7両目に来ていた。

 

「最上。何事か?」

 

「生駒と倉之助に聞いてないのか?お産だ。解散!」

 

「お産っ⁉︎倉之助!」

 

「すっすみません!」

 

「ほら散った散った。ここを通る女性陣の邪魔だ。」

 

桶や布を持って駆け込んできた女性陣を武士達が避ける。

 

「じゃあ一日がかりか。」

 

「もう少しで山道に入るぞ。」

 

仁助や樵人は年嵩なだけあり落ち着いている。

 

「山道か…。カバネに警戒せねばか。8両目には無名殿がいる。落ち着いている仁助と樵人を7両目につけて我々は他の車両だ。」

 

「わっ…わかった。」

 

来栖は人選に対して何も言わず引き返して行った。

 

「最上様。落ち着いてますね。」

 

「そうでもない。だから2人に任せる。」

 

最上は結構びびっていた。それなりにいいところの出であるし、弟妹もいないので、お産に立ち会ったことはおろか、まともに妊婦を見たこともない。

 

「最上様!」

 

「っ!どうした?」

 

8両目の扉が勢いよく開き、大声で最上が呼ばれた。最上はもう離れるつもりでいたため大層驚いて数センチ飛び上がった。

 

(おおっ。怖気付いてる。)

 

(一寸跳ねたな。)

 

「あの娘は予定日をかなり過ぎているので赤子が大きい可能性があります。初産ですし難産の可能性が高いものですから緊急のために待機していてもらうことは可能ですか?」

 

「…どちらかしか助からない場合の話か?」

 

「そうです。」

 

「…わかった。」

 

最上の様子を気にすることなく8両目の扉がピシャリと閉まる。

 

「や…やるしかないが…できるか?」

 

珍しく最上がおろおろと狼狽えている。

 

「できないなら断った方が良いのでは?」

 

「その場合は母子共に死ぬだけだ。駄目で元々で声をかけてるだろう。と…とりあえず準備してくる…。」

 

(今までで一番怖気付いてるな。)

 

(珍しく15らしい反応だ。)

 

最上は医者ではない。医学書などから知識を得たり、医者から聞き齧った内容を知っているだけだ。女達もわかっている。だが母親が出産中に亡くなった場合や、赤子が死んでいた上で母親も危なくなった場合、一か八か腹を裂く可能性がある。駅ではそういうことがあったと聞いたことがあった。だが女達は医学はわからない。裂くなら最上以外にいないのである。

 

最上がびびりながら準備をしていると、仁助から伝声管で報告を受けた来栖がやってきた。

 

「顔色が悪いが大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃない。がやれるのが私しかいない。警備は任せた。」

 

「それは任されなくともやるが…いや。そちらは頼んだ。」

 

「自信は全くないがやれるだけはやる。」

 

珍しくも大層怖気付いてる最上に、何をするのか一つもわからないが、気合いだけ入れておこうと背中を強く叩いた。

 

「馬鹿。痛い。」

 

「気合いは入れておいた。頑張れ。」

 

最上は準備を整え、すごすごと後方車両へと下がっていった。

 

 

妊婦の大声や女性陣の声が届く7両目で仁助と樵人は緊張している様子の最上を見守る。

 

(いつも人の生き死にを真顔で語る人とは思えんな。)

 

(なんか見てたら俺まで緊張してきた。)

 

車両の屋根にものが当たる音がした。カバネの襲撃である。

伝声管から指示が飛び、仁助と樵人は対応に奔走した。カバネの襲撃がひと段落した頃、産声が上がり8両目の扉が開く。

 

「母子共に無事です!お役目ありません!」

 

それだけを伝え、扉がぴしゃりと閉まった。

最上はその場に崩れ落ちて、息を全て吐き出すような深いため息を吐いた。

 

「よかったですね。」

 

「こりゃめでたい。菖蒲様にご報告せねば。」

 

7両目は喜びに湧いた。

 

 

 

数時間後の武士達の車両にて

 

特に何もしていないが、完全に気疲れしている最上を武士達が眺めている。

 

「なんかもの凄い怖気付いてたと聞きましたが、なにをする予定だったんですか?」

 

雅客は好奇心を抑えられずに最上に聞いた。

 

「出産中に母親が死んだ場合、母親の腹を裂いて赤子を取り出す。若しくは、赤子が死んでいて、母親が弱り切っていた場合、母親の腹を裂いて赤子を取り除き腹を閉じる。」

 

「えっ!腹を!裂く⁉︎」

 

「でなければ2人共死ぬ。」

 

「ご経験は?」

 

「ある訳ないだろ。医者ではないんだ。前者はともかく後者は、ほぼ勝算のない賭けだ。腹を閉じても生き残るか分からない。麻酔もない。環境も悪い。だがやらなければ確実に死ぬ。」

 

「そんなことになる予定だったのか…。」

 

「腹を裂く…腹を…」

 

「そりゃ怖気付いても不思議じゃないな…。」

 

「いい加減医者が欲しい。私は医者じゃないんだぞ。武士だぞ。切るのは生かすためじゃない。殺すために切るんだぞ本来なら。」

 

「医者は貴重ですからね。むしろよくそんなこと知ってましたね。」

 

「医者から話だけ聞いていた。私は医学書を少しと、医者からの話だけしかわからん素人だからな。あまり期待するな。無理なものは無理だ。西洋の人体解剖図は見たことはあるが、人間を掻っ捌いたことなどない。」

 

(普通の武士は医学書とか読まないんだよなぁ。)

(甲鉄城に医者が乗らない限りは、最上様がお医者様なのは変えられないと思う。)

(倉之助。まず最上様。ってのはやめなさい。可哀想だから。)

(まさか出産とは思い至らず…申し訳ない。)

 

この後も度々医者扱いされるのである。




もし子供が出産中に亡くなって、それでも産めなくて母親が弱って掻っ捌いた場合、母親も死にます。
無事に産まれてよかったね。ホモ君。
医者なんて駅が手放さないだろうし、カバネにのまれたばかりの駅から、避難民ガチャで手に入れるしかない結構無理ゲー。
こうやって書いてて思うのは、マジで甲鉄城は長期間旅するのかなりきっつい。お陰様でホモ君はカバネよりストレスに殺されそうです。


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【小話】廃駅にて

「警笛返りません!」

 

「カバネにのまれたか…。」

 

「跳ね橋は降りてますがどうしますか?」

 

「線路が無事なら通過しましょう。」

 

「菖蒲様。北西の建物に助けてと書かれた旗が掲げられています。」

 

「救助に向かいましょう。」

 

「最上。どう思う?」

 

「救助に向かうより先に、通過時の線路が生きているか確認したい。あの建物の旗がいつから立っているか分からない。もぬけの殻かもしれないし、全員カバネかもしれない。なら退路を確認した上で行った方がいい。」

 

「私もその方がありがたいですね。」

 

侑那が手を挙げて、最上に賛成する。

 

「では線路の確認をしてしまいましょう。」

 

「反対側も跳ね橋が降りていますし、問題なく通れそうですね。」

 

「……。」

 

「最上。何かあるなら言え。」

 

「いや。なんでどちらも跳ね橋が降りているのかと考えていた。」

 

「どういう意味だ。」

 

「片側だけなら、駅から駿城が逃げる時に降ろしたんだろう。もう片方は?既に別の駿城が通過した可能性を考えていた。」

 

「ではあの建物はもぬけの殻の可能性が高いのですね。」

 

「可能性としてはそうですね。通過した駿城がいたとして、救助するかは別の話ですが。」

 

「何故です?」

 

「あそこは線路から直接出入りできません。カバネを殺す術がないなら助けにはいけませんし、乗せる余裕がない場合も考えられます。」

 

「そうですか…。では当初の予定通り救助に向かいましょう。」

 

「では作戦と人員を決めましょう。」

 

「…。」

 

「最上?まだ何かありますか?」

 

「…生きている人間はいないかも知れません。我々は駅に入る前に警笛を鳴らしました。線路確認のため駅内を走行しました。ですがあの旗が立っている建物で動きがありません。救助隊と別に先発を出すべきかと。」

 

「先発隊なら俺と無名が行きましょうか。」

 

「私たちならさっさと見てこられるしね。人がいなかったら旗も外してきてあげるよ。」

 

生駒が手を挙げ、無名も賛同する。

 

「ではお二人ともお願いできますか?救助隊はどうしますか?」

 

「では己が。吉備土、仁助、雅客、歩荷で編成します。カバネリ2人が先行するなら戦力も充分かと。」

 

「ではそれで。甲鉄城はどこに停めるのがいいでしょうか。」

 

「建物南側の線路の方が建物に近いです。」

 

服部から声があがる。

 

「侑那さん。どうですか?」

 

「私も問題ありません。南側の線路に移動します。」

 

「では参りましょう。」

 

甲鉄城は旗の立てられた建物の南側の線路に停車した。

 

「じゃあ行ってくるよ。生駒。行こ!」

 

「ああ。じゃあ行ってきます。」

 

「よろしくお願いしますね。」

 

 

 

生駒達が建物に入ってからもう少しで四半刻だ。生駒達から合図もなければ姿も見えない。

 

「遅いな。何かあったか?」

 

「救助隊で見てきていただいた方がいいでしょうか…。」

 

「いえ。もう少し待ちましょう。それで音沙汰がなければ一度離れましょう。」

 

「最「吉備土。」

 

吉備土が口を挟もうとしたのを来栖がとめる。

 

「あの2人が緊急事態の合図すら出していません。無名殿がいながら…。有事だとするなら、あの2人がなす術ない事態です。救助隊の面子まで突っ込んで連絡が取れなくなっては困ります。有事ではなく単純に探索に時間がかかっている可能性の方が高い。甲鉄城をここに止め続けてカバネを集めては、いざ救助という時に困ります。少し待ってなんの合図もなければ一度離れて合図を待ちましょう。半刻になっても合図がなければ…私と誰かでもう一組先発を出します。」

 

「何故己では「生駒です!生存者無し!」

 

来栖が質問しようとしたところで服部からの報告が上がる。 

 

「最上。さっきの話。何故己ではなくお前だ?」

 

「馬鹿を言うなよ。あの2人がなす術なくやられた事態に無事に済むとでも?顕金駅でも言ったが捨て駒にするならお前より私だ。それに私では武士の統率はとれん。私たち先発からの合図がさらに半刻なければ、駅からの離脱をする作戦のつもりだった。」

 

「そうか。」

 

来栖は憮然とした態度ではあるが、理解はしたようだった。

 

(納得はしてないって顔だな。)

 

「ただいまぁ…。」

 

「ただいま戻りました。」

 

「遅かったな。何があった?」

 

「いや。単純に建物の中が迷路みたいな上、バリケードとかあるからなかなか進まなくてさ。旗は外してきた。」

 

「そうか。」

 

来栖と生駒達が話しているのを尻目に、雅客が最上に近づく。

 

「最上様。先発で連れて行くものをどうやって選ぶつもりでしたか?」

 

「自薦か来栖に選ばせるつもりだったな。勿論内容は説明してからな。」

 

「なら今のうちに自薦しときます。今度ああいうのがあったら、俺の名前を出して下さいね。」

 

「何故?状況によるだろう。自己犠牲精神は結構だが死にたがりはいらない。」

 

「あんたが言いますか?」

 

「近接戦闘ができるのは来栖と私だ。消去法だ。勝算が高いなら来栖を出した。」

 

「とにかく!ああいうのは今度は俺を自薦しときますので!別に死にたい訳じゃないですからね!」

 

「…?」

 

いつのまにか艦橋の全員がこちらを見ていた。

 

「最上。己の配下なら雅客が一番損切りができる。」

 

「なら今後の為にも残せ。損切り出来んやつばかり残ってどうする。」

 

「どうせ俺が推薦するのも雅客だ。諦めろ。」

 

来栖が少し楽しそうにしているのが、最上には解せないが来栖がそういうならそういうものなのだと納得することにした。




ホモ君としては"私では武士の統率はとれん"は嫌味とかじゃなく事実として言ってます。
無事ですまない可能性の高いところに、来栖を放り込んで帰ってこなかったら、ホモ君が武士の統率を取らなければならなくなります。でも克城で総スカンを食らっているので、従わないのが目に見えてる。
来栖より頭がよかろうが、駒が動かないなら意味がないので捨て駒なら自分って思考回路です。
ホモ君は別に自己肯定感がないわけじゃないので、来栖以外の武士と自分なら、自分を残した方が有益だと判断します。

来栖と菖蒲様がかなり早くホモ君に意見を言わせてますが、ホモ君的には"ちょっとまって。まって。まだ考えてるから"って状態です。元々ちゃんと考えてから発言したいホモ君ですが、菖蒲様達からすると自分達がいなかった時のトラブルを思えば、少し黙られるとまさか発言しないのでは?って思ってしまってるだけです。

吉備土は「最上。二人を見捨てるのか?」って言おうとしてました。付き合いが長いので来栖が爆速で阻止。

雅客がかなりわかりやすく攻めに行きました。ホモ君には伝わってませんが。来栖はホモ君が仲間を信頼できない現状を改善したいとは思ってるので、一番歩み寄ろうとしてる雅客のことは応援してます。


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【小話】義原駅

あまりそのまま駅名にするのもアレかと思って、同じ読みの別の漢字にしました。よしわら駅です。


武士達が寄り集まってコソコソとしている。来栖と吉備土と倉之助はいないようであるが、見張り以外は全員集まっているようである。

 

(次の駅…花街があるんだったか。たぶんそれだな。)

 

「最上様ちょっと…」

 

雅客が手招きする。

 

「なんだ?」

 

最上が近寄るとまだ早いだの言いつけられたらどうするだのと小声で抗議してる者がいる。

 

「次の駅は花街があるんです。」

 

「知ってる。芸者遊びまでならいいが、遊女を買うなら病に気をつけろよ。私は面倒見ないからな。あと遊女を買ったら暫くはカバネリへの血の提供から外れろ。病を貰ってたら血からもうつる。カバネリに性病がうつるかは知らないが。」

 

「ゔっ!」

 

「そこでです。一緒に行きませんか?」

 

「正気か雅客⁉︎」

 

「雅客。お前私の金子が目当てだな?」

 

「芸者遊びまでにしますから。ちょっとだけお付き合いいただきたいなぁと。金は出し合いますがそれでも少々寂しいもので。」

 

「芸者遊びまでなら付き合ってもいい。」

 

「やっぱダメ…えっ⁉︎いいんですか?」

 

「構わんが?」

 

「来栖は呼びませんが…?」

 

「あれが来る訳なかろうよ。倉之助は?」

 

「倉之助に言ったら来栖にバレるので。」

 

「そういうものか」

 

 

駅にて

 

「領主に紹介状をもらってきた。」

 

「紹介状⁉︎」

 

「まともな茶屋に行くなら当然だろう。雅客が最初に声をかけて来た時、紹介状を領主に頼んで欲しいのかと思ったくらいだが?菖蒲様や来栖には頼めまい。」

 

「頼りになるぅ。一番年下なのに!」

 

「さっさと行くぞ。」

 

「はい。他のものは分散して既に送り出しました。」

 

「手際がいいな。」

 

甲鉄城にて

 

「最上はどうした?」

 

「雅客さんと出かけたみたいですね。」

 

「そうか。雅客と仲良くなったか…。」

 

(雅客。頑張れよ…。)

 

茶屋にて

 

一番年嵩の芸者が上座に座る最上の横に座る。

 

「お侍さん。随分お若いのね。」

 

「一番の若輩者でね。後学の為に連れてきてもらった。こちらの駅では茶屋が多いが、駿城相手だけで商売になるのか?内需はそれほどでもあるまい。」

 

「茶屋そのものより、駿城で出張する方が身入りがいいのよ。危険な分。ね。その辺の茶屋は半玉ばっかりなのよ。」

 

「なるほど。では衣織駅や、篝駅なども出入りはあるのか?」

 

「あるわ。衣織駅は金剛郭が倒れてからちょっとピリついてるわ。領主が恐がりなのよ。検閲も執拗なの。篝駅はそうでもないわ。養鶏が盛んで結構賑やかでね。うふふ。いい雰囲気の時に鳴かれちゃうのよ。」

 

「おや。それはそれは。ふふっ。」

 

最上が手遊びしていた金子を芸者にそっと渡す。

 

「篝駅の先の九重駅は凄いわよ。カバネが人しか襲わないのを利用して外で山羊育ててたわ。」

 

「ほう。外で。逃げないのか?」

 

「埒があるのよ。大っきいのがあるわ。こつこつ作ったんですって。山羊を食べるのよ。乳を取るための山羊は中で、肉にする山羊は外で育てるの。餌やりは武士の仕事なんですって。時間をバラバラにしてあげるらしいわ」

 

「そうか。考えたな。だが餌やりが仕事とは拗ねてそうだな。」

 

「半々くらいかしら。食糧は売れるもの。山羊はちょっと臭いから私は苦手だけど。戦力があれば埒の外に堀を作りたいそうよ。小さな跳ね橋を渡せればもっと安全に世話出来るから。」

 

(最上様情報収集してる…。)

(だからきたんだな。)

(怖い15だね。全く。)

(しかし次は篝駅だな。これは。)

(卵焼き食べたい。)

(九重駅で警護を請け負う代わりに山羊を狙うのか?)

 




得た情報は、雅客とこの駅の民人から聞きました。で菖蒲様には報告します。(嘘ではない。)

ホモ君集られてますが、流石に1人だったら茶屋には行かないので、ちょうどいいかぐらいの感覚です。稼いでるのでまあ一回くらいは痛手ではないです。それよりピリついてる駅を避けたりしたい。カバネリが2人もいるので。

遊女を買いに行った武士がいるかはご想像にお任せします。


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【小話】牧野道元

道元様回。


「なんかさ。…最上様。すごく道元様に懐いてないか?」

 

「そうなのか?」

 

「昨日なんか冊子を持ってって、教えを請うてたぞ。」

 

「あれ以上何を身につけるんだ?」

 

「教えてもらってるとき、どことなく嬉しそうなんだよなぁ。」

 

「うちに最上様が知りたいだろうことを、教えられる奴いないし仕方ないだろ。」

 

「噂をすればだ。」

 

仁助が向ける視線の先には、道元の後ろをカルガモの子のようについていく最上の姿があった。少し離れているため声は聞こえないが、最上が道元に何か話しているようだ。

 

「えっ!思ってたよりも懐いてる。」

 

「来栖はどう思う?」

 

「…道元様は二つ先の駅で降りる予定だ。それまで精々道元様から知識を吸収してもらった方が良い。」

 

「道元様降りるのか?」

 

「えっ?まって。あのまま最上様ついて行かないよね。」

 

「知らん。もし道元様について行きたいなら、己には止められない。」

 

「えぇ〜。引きとめないのか?」

 

「いなくなるのは勿論困るが、最上が降りると決めたなら止められまい。…どうせ頭では敵わない。道元様も味方につけてから理論武装したあれには勝てない。」

 

「あ。止められないってそういう意味?確かに道元様味方につけた本気の最上様とか無理だな。」

 

「菖蒲様に許可をとった後に、決定事項を伝えてくるだけだろうしな。己に許可をとる必要はそもそもない。あれとて、自分の価値は理解してる。それでも降りるなら、こちらが止められない理由を絶対つけてくるだろう。」

 

「うわぁ…。」

 

「菖蒲様がならんと言うなら、なんとしても止める。力尽くでなら負けることはない。」

 

「最終奥義実力行使…。」

 

 

 

暫くしてから、菖蒲が執務のために使用している部屋にて

 

「叔父様。二駅先は四方川と縁が深いのですよね?」

 

「そうです。それゆえに私はあの駅で降りて、顕金駅再興のために伝手を頼って色々と準備をしなければなりません。顕金駅は駿城の整備などを担っておりましたので、周辺地域からも手は借りられる筈です。周辺の駅に代われるような産業を持つ駅はありませんからな。」

 

「叔父様のご協力に感謝致します。なにぶんそういったことができるのが、最上しかおりませんでしたので。」

 

「最上君は優秀だがまだ若い。領主などから信を得るには齢も必要です。若いというだけで舐められますからな。他の武士は下侍でしたか?」

 

「皆四方川に仕える武士です。その呼び方は…。」

 

「これは失礼。しかし受けている教育に差があるのも事実です。要職についていた者達は軒並みやられてしまいましたか…。顕金駅を再興するならば、せめてあと5人は欲しかったところでしたが…。再興後に要職を任せられそうな者もあたっておきましょう。」

 

「なにからなにまでお世話になります。」

 

「時に菖蒲殿。」

 

「なんでしょう?」

 

「最上君は随分甲鉄城では、浮いた存在のようですな。」

 

「あっ!…その…私が不甲斐ないために、最上がそのようなことに…。」

 

「失礼ながら先程の呼称をまた使わせていただきますが、上侍と下侍は仲が良くない。どこの駅でも呼び名はどうあれ同じです。きっかけは10年前です。ですが、10年でこうもはっきりと差別化されたのは、各駅の領主がそれを認めたからです。表明したか、暗黙の了解としたかはそれぞれでしょうが。」

 

「領主が認めた…?」

 

「上様が御子息をあのように扱った以上、領主とて倣う他ありますまい。それに残った穏健派が今の駅を築いたのです。昔のように広大な土地はない。限られた土地で、限られた物で臣下に報いなければならない。子息に罪がなかろうと疲弊が激しい中、大量の物資を消費しておきながらなんの成果も得られなかった罰は与えなければならない。そうでなければ穏健派は納得できない。信賞必罰は世の常です。九智などわかりやすいではありませんか。」

 

「来栖ですか?」

 

「あれの父は、貴方のお父上と仲が良かった。ですが貴方の護衛として召し上げられるまで、どのような扱いでしたか?召し上げる理由ができた時、お父上はさぞお喜びになられたことでしょう。友の残した子息です。誰が蔑まれているのをよく思うのです?ですが理由がなくばそれは叶わない。」

 

「つまりはどういうことなのでしょう…?」

 

「本来なら、最上君はあのような扱いを受ける謂れはないのではないですか?原因となった者は罰するべきでは?それとも最上君には私の知らない罪がございますか?」

 

「あ…ありません。ですがまた他の者に罪を問うというのも…。」

 

「それもわかります。この甲鉄城が今の貴方の治める領地です。限られた場所、限られた物で臣下に報いなければならない。まして臣下の数まで限られている。最上君以外は九智の配下の下侍です。さぞ結束が固いことでしょう。多少のことで下侍を罰することなどできますまい。」

 

「では…どうせよと仰るのですか?」

 

「私が暫く引き取りましょう。私と共に外から顕金駅再興を目指し、なった後には功績を讃えて要職に取り立ててやれば宜しい。」

 

「な…なりません!最上は私の臣下です!…本人が望むというなら致し方ありませんが…。」

 

「ではどうなさるのです?」

 

「今はそうでも、もう少し時間があればお互いに馴染むかと…。」

 

「時間が経って上侍と下侍という呼称ができて溝が深まりました。時間が解決するとは限りませんよ。」

 

「それでも!今歩み寄ろうとしています。ここで諦めたら、例え顕金駅が再興できても、溝はできたままになってしまいます。私は本人が望まない限り、最上を手放したりはいたしません!」

 

菖蒲は言い切った。道元の言い分はわかるし、もしかしたら道元について行った方が最上は幸せかもしれない。

だとして、本人が言い出してもいないのにそんなことは決められない。

 

(ここでお願いしますなどと言ったら、最上を用済みとして捨てたみたいではありませんか…。) 

 

「ようございました。」

 

「は…はい?」

 

道元は先程までの厳しい顔をやめて、穏やかな顔で菖蒲を見返している。

 

「即座に否定なさらなければ、本当に引き取ってしまおうかと思っておりました。」

 

「た…試したのですか?」

 

「そうなりますな。もし菖蒲殿が最上君を扱いを決めかねているのなら、下手な駅で降ろされるより、私が手元に置いておいた方が良いと思いましたので。優秀な人材の流出は避けねばなりませんからな。菖蒲殿。甲鉄城の者達は些か性根が真っ直ぐすぎるものばかりなのですよ。だからこそ権謀術数の渦巻く上侍の中にいた最上君が浮いているのです。私であれば齢も元の地位も充分ですから、誰も文句は言いますまい。最上君にはどちらも足りませぬゆえこうなっているのでしょう。せめて最上君が後3つ4つ年嵩ならもう少し違ったやもしれませんな。」

 

「ではどうにもならぬと?」

 

「そうです。九智が貴方の直臣である以上、九智と最上君は現状横並び。最上君が年嵩なら九智の上に据えてもよかったでしょうし、最上君がもう少し至らなければ九智の配下にしてしまってもよかった。甲鉄城のような狭い閉鎖空間におりますからお忘れでしょうが、顕金駅では複数の家同士が友人のように仲良く手を取り合って過ごしておりましたか?」

 

「いえ。違います。」

 

「四方川家に仕える九智家と堀川家として考える分には浮いていようが特に問題ありません。配下を持っているのが九智家だけという話です。」

 

「それは…。」

 

「甲鉄城の中では上下差はあまりないようですが、貴方は主、あれらは武士、その他は民人。全員を仲の良いご友人の様に扱うのはおすすめできません。ですが現状上手くいっているようですからやめろとまでは申しません。最上君は少々その空気に釣られたようですが、反省しておりました。武士として、臣下として扱う分には問題はないかと。」

 

「臣下として扱う他は何もするなと?」

 

「ほかにありませんよ。今から九智の配下にもできますまい。菖蒲殿の目的はなんですか?」

 

「顕金駅を再興することです。」

 

「そうです。甲鉄城という家でみんなで家族のように仲良く暮らすことでは無いのですよ。」

 

「…。」

 

「まあその辺りは当事者達が決めることですがね。最上君がまたその空気に釣られることもあるやもしれません。」

 

「そうですか…。…っそういえば!最上はどうしたいなどは言っておりましたか?」

 

「一日でも早い顕金駅の再興を望んでいるくらいでしょうか。私についてきたいかどうかは聞いておりませんが…」

 

道元の言葉が終わる前に、部屋にノックの音が響く。

 

「誰かね?」

 

「最上です。間もなく次の駅に到着しますので、菖蒲様を呼びに参りました。」

 

道元の誰何の声に応えたのは、話に上がっていた最上だった。

 

「すぐに参ります!」

 

菖蒲は扉の向こうにいる最上に返答して立ち上がった。

 

 

駅到着後の艦橋にて

 

「領主への挨拶は私と叔父様で参ります。護衛は来栖と最上にお願いします。」

 

「最上君。」

 

「はい。」

 

「君、次の駅で私と来るかね?」

 

「「⁉︎」」

 

「叔父様⁉︎」

 

「いえ。その予定はありませんが、なにかございましたか?必要なことであればその限りではありません。」

 

「いや。誘ってみただけだ。」

 

最上は不思議そうな顔で道元を見つめ、道元は愉快そうに笑っている。

艦橋で話を聞いていた者達は、最上の返答に胸を撫で下ろした。




道元様からしたら甲鉄城のアットホームさは異常。


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【小話】上侍・下侍

最上は、武士達が使っている車両で木箱を台にして書き物をしていたところ、来栖がやってきて話しかけたため書き物を中断して顔を上げた。

 

「菖蒲様が剣術?」

 

「ああ。剣術を教わりたい。とのことだった。一応一通りは学んだことはあるらしいが…どう思う。」

 

「教えて差し上げたらいいじゃないか。」

 

「己がか⁉︎」

 

「他に誰がいる?」

 

「お前とて教えられるだろうが!」

 

「悪いが時間がないな。お前の方が時間に余裕があるだろう。」

 

「だが…。」

 

「お前が、菖蒲様にお教えするのは嫌だというなら私がやるが。」

 

「嫌なわけがない!」

 

「なら決まりだな。菖蒲様への剣術指南は来栖が行う。以上。」

 

そういうと最上は書き物に戻ってしまったため、来栖は微妙な顔で戻って行った。

最上はちらりとだけ顔を上げて、近くにいた仁助に声をかけた。

 

「仁助。あれは何故私のところに来たんだ?来栖が言われたのだから来栖が教えるのが当然では?」

 

「さ…さあ。ですが主家への剣術指南となれば武士の誉れですし、本来なら上侍の方が担当していらっしゃったからではないかと。」

 

「いつまで上侍だ下侍だの言っているんだ。10年前の主戦派が国賊扱いになり、穏健派が上侍を名乗っていたのは知っている。たが今現在も主を守り、旅路を共にしているのは蔑まれてきたお前らだ。上侍は主を守れず、今も顕金駅を彷徨いているか死んでいるだろう。いつまでも卑屈でいるのをやめろ。顕金駅を再興できればお前達は忠臣だ。国賊などではない。」

 

「……はい。」

 

「私は上侍だった。お前達と違いそれ相応の教育を受けてきた。だからその得た権利の分、義務を果たしているだけだ。」

 

「はい。」

 

「年下らしく敬語でも使ってやれば理解できるか?」

 

「それは遠慮します。なんか怖いですし。」

 

「そうか。」

 

最上は書き物をしており、最初にちらりと顔を上げたきり仁助を見ることはなかった。

下侍一同は感動に打ち震えていた。こんな言葉を言われる日が来るとは誰も思ってなかった。来栖が唯一功績を上げたため、来栖が召し上げられ、自分達は来栖の配下として武士らしい働きが許されてきた。

顕金駅があんなことにならなければ、一生言われることはなかっただろうし、乗り合わせたのが他の上侍でも言われることはなかっただろう。

 

「ありがとうございます。」

 

「なにがだ。というよりお前ら、顕金駅が再興したら要職につくことになることを考えておけよ。」

 

「え"っ?」

 

「え?ではない。先程も言ったが忠臣となるんだ。忠臣に要職をやらぬ主人があるか。学がないのは知っている。学べ。それともお前ら再興後も今までと同じ仕事をしていれば良いと思っていたか?」

 

「…思ってました。」

 

「阿呆。何人余所から引っ張ってきて要職につける気だ?優秀な人間をそんなに余所から引っ張って来られるわけあるまい。」

 

「ゔっ…。」

 

「とりあえず勘定方は欲しいな。勘定を余所者に握らせたくない。」

 

「…。」

 

「来栖は兵部頭でいいだろ。防衛と勘定はどうあっても手放せん。」

 

「最上様はどうするんです?」

 

「家老も軒並みおらんのだぞ。家老達がしてた仕事を誰がやる?甲鉄城の面子では私しかいないではないか。それとも誰か自薦するかね。とりあえず道元様はなんとしても引きずり込まねば…。」

 

下侍一同は震え上がった。

2年前来栖が切腹覚悟で捕まえた家老。あの時、雲の上の人間だとしか思っていなかった家老を自薦。するわけがない。まして天鳥幕府で老中をしていた道元を引きずり込むというのだ。道元と並んで仕事などできるわけがない。なにせ学がないので。

 

「雅客やるか?「無理です!」

 

雅客が食い気味に拒否した。雅客が前に自分を自薦したのはそういう意味ではない。

 

 

 

この後来栖以外全員めちゃくちゃ算盤させられた。(商人とかから借り上げた。)

 

「とりあえず全員覚えて損はないからな。来栖?いらない。算盤する時間あるなら、絶対死なないようにカバネリと手合わせしてろ。」




たぶん倉之助とかは几帳面そうだからいけるのでは?
地獄の算盤教室は(死んだ場合の保険も兼ねて)何人かはずっと続く。適正がなさそうならある程度できるようになったらすぐ外していって他の適正を探します。

雅客とかは町奉行的なポジを持つことになりそう。


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海門決戦

小説から
来栖父が出雲の国一の剣士とのことだったので今の島根の東側辺りが顕金駅

映画から
最初のあらすじ?のところで金剛郭から画面が引いていくとき京都の辺りっぽいのでその辺が金剛郭
海門は地図的に今のギリギリ富山か新潟

半年どこ行ってたのかわからないけど南下してるから帰り道だと思ってます。顕金駅陥落から1年以内に帰るんじゃないかな?

以上の想定で書いております。ご容赦ください。


金剛郭崩壊から約半年。

甲鉄城は飛騨山脈を越えるため、北陸の要衝海門に向かっていた。

5年前カバネにのまれた海門は通行不能となっており、今は海門を手に入れんとする北陸連合軍が戦場にしていた。

 

「本当に向かうのですか?」

 

最上がやる気がなさそうに問う。

 

「戦力を募っているとのことですから。それに北陸の要衝が人の手に戻れば喜ばしいばかりです。」

 

「甲鉄城はいつから傭兵業を開始したので?」

 

「まあ!時々立ち寄る駅で戦力の提供はしてきたではありませんか。」

 

「それは立ち寄った駅から利益を得るためで、慈善事業ではありませんよ。海門を取り戻したとして、顕金駅に直接の恩恵はないではありませんか。周囲の駅ならまだしも、北陸では顕金駅奪還の際にあまり期待できませんし。」

 

「最上。」

 

来栖が最上を睨みつける。

 

「わかったわかった。悪かった。」

 

最上は両手を顔の高さまで挙げて降参の意を示した。

 

「往生際が悪いですよ。」

 

カラカラ笑いながら雅客が最上に声をかける。

 

「利にならないことは嫌いでな。」

 

「知ってますが菖蒲様がそういう方でないのはわかっているでしょうに。」

 

「顕金駅奪還のために山陰まで来いとは流石に言えん。遠征費用が馬鹿にならない。本当に利益がない。しかも連合軍とか…海門の領主が仕切ってるならまだしも、他の駅の奴らだろう?利権争いとかに巻き込まれたくないしなぁ。」

 

「未だかつて無いほどにやる気がありませんな。」

 

「最上。」

 

「もう黙りますよ。」

 

最上は再度来栖に睨まれ黙ることにしたようだ。

 

(いつもなら、なんだかんだ利益に繋げてきてたのに、よっぽど利益がないんだな。)

 

「もうすぐ海門に着きます。皆さん。よろしくお願いしますね。連合軍の方々への挨拶は、私と来栖。あと最上。お願いできますか?」

 

「それは勿論。どんな相手か見ておかぬことには、何も始まりませんから。」

 

 

海門へと到着し、菖蒲達は挨拶のため下車して行った。

 

「最上様があんなあからさまに嫌がるの珍しいな。」

 

「確かにな。でもよっぽど利益がないんだろ?」

 

「今までだって結構利益がない場合があった気がするがなぁ。別に人助けが心底嫌いって訳でなし。」

 

「利権争いがどうとかいってたな。うちはどうせ噛まないのに巻き込まれるか?」

 

普段から使っている車両に武士達が集まり艦橋での最上の様子を話題にしていた。

 

暫くして服部から集合の指示が伝声管を通して送られてきた。武士達は艦橋についてたじろいだ。

最上が笑顔である。背中に炎が立ち昇っているかのように感じる怒気を激らせての笑顔である。

まだ生駒達が来ていないため、吉備土は来栖にそっと近づいた。

 

「何事だ?」

 

「連合軍の者達に子供はすっこんでろと…。それから終わるまでずっとあれだ。」

 

「わぁ。」

 

最上は普段から態度がでかい上、服装も所作も見れば立場がある者だとわかるからか、今まで態度で舐めていますと示されることはあっても、はっきり子供はすっこんでろなどと言ってきた者はいなかった。ただでさえ乗り気でなかったのに、この扱いで更に機嫌を損ねたらしい。

生駒達も艦橋に入ってきて最上を見て二の足を踏んでいた。

菖蒲から北陸連合の作戦の概要が伝えられた。前線は北陸連合が、後方のカバネの掃討は甲鉄城が担当し、後方のカバネの掃討が終われば前線と合流とのことであった。

各地で活躍したため、甲鉄城のカバネリは広く知られるようになっていたし、現場での混乱を避けるためにカバネリについて説明したが、かなりの嫌悪感を示されたとのことであった。

嫌悪感を示されたことがないとは言わないが、やはり気分のいいものではない。

 

 

翌日、作戦開始時に無名は鈴木に何やら試作機を渡されていた。無名は試作機の運用にうってつけである。

武器の性能に多少の難があっても技量で補えるし、不測の事態でもとりあえず着剣さえしておけばカバネを殺せるからだ。

作戦の都合上、万が一の際カバネに噛まれても問題ない生駒と無名は単独での突出を許し、武士は後方の掃討が終わったら前線までは甲鉄城で行くことになった。

 

「いつもより気迫があるな。」

 

最上が前に出て、武士達が援護をするのはいつも通りであるが、今日は憂さ晴らしをしているようでいつもより少し前に出ている。だが援護の範囲内から出ないあたりが最上らしい。

 

「後方のカバネは掃討しました。速やかに乗車してください。前線と合流します。」

 

菖蒲の指示に従い武士達は甲鉄城に乗車した。

 

「今日はずっと刀を使っているようですが大丈夫ですか?」

 

最上は刀を使うが、来栖とは違い蒸気筒と半々がいいところだ。

 

「問題ない。筒の方がいい場合はちゃんと使うさ。」

 

まだ鬱憤は晴れていないらしい。

 

「皆さんで前線を支援してください。」

 

菖蒲の指示が伝声管から飛ぶ。

 

「行くとしようか。」

 

「無理せんで下さいよ。」

 

「しつこいぞ。基本的に私は突出はしない。」

 

確かに、初めてワザトリと戦った時と金剛郭以外で、無理をしたことも、突出したことも見たことはない。

 

「それは失礼。」

 

「雅客。お前も子供扱いか?」

 

「違いますよ。」

 

雅客は最上にじろりと睨まれた。

甲鉄城が停止し、武士達は外に飛び出した。

来栖の姿は早々に見えなくなったが、最上は突出することなく相変わらず援護の範囲内でカバネを殺していた。暫く刀で戦っていたが、急にバックステップで後退してきた。

 

「なにかありましたか?」

 

「いや。まだなんとも…。持ち替える。」

 

なにやら煮え切らない返答であるが、特に前衛がいないとならない場面でもないため、今は気にしないことにした。少し離れたところが、盛大に爆発したため、雅客と最上はちらりとそちらを窺ったがすぐに視線を戻して戦闘を継続した。

 

「無名殿達かな?」

 

最上がぽつりと呟いた。

 

 

暫くして見当たる範囲にカバネは居なくなり、発砲音なども届かなくなった。

 

「カバネはいないぞ!」

 

「我々の勝利だ!」

 

連合軍から声が上がる。最上は状況が終了したことから生駒か無名を探すことにした。

 

「少し離れる。」

 

そう言い置いて雅客達から離れていった。

 

「はっ?えっ?ちょっと…。」

 

雅客の声が虚しく響いた。

 

 

最上が生駒を見つけた時、生駒は連合軍の兵に絡まれていた。珍しくはない光景だったので特には助けに入るつもりはなかった。何せこれからもいくらでも起こり得る事だからだ。自分達で対処できなければならない。

 

「生駒。聞きたい事がある。」

 

最上が声をかけると、兵達は言いたいことは終わっていたのか、素知らぬ顔で去って行った。

 

「どうしました?」

 

「カバネと交戦中にカバネが何かに反応した瞬間があった。なにかわかるか?」

 

カバネリはカバネの気配を感じ取ったりするため、先程感じた違和感を一応確認することにしたのだ。

 

「何かに反応とは?」

 

「いや明確になにとまでは…。ただ視界の端に急に行動を変えたように見えた奴がいたってくらいなんだ。」

 

「なるほど。関係あるかはわかりませんが、ここのカバネは統率が取れているように思います。」

 

「統率?」

 

「はい。欲を満たすために血を吸うより、人を殺すことを目的としているような動きをしていた奴がいます。それに今足跡を追い始めたばかりですが、足跡が一直線なものが多いように感じます。」

 

「ふむ。嫌な話だな。もし関係あるなら、我々にはわからない方法で指示を出してるってことになるじゃないか。カバネは強靭で数もいるが、脳が足りんからマシだったのに、見えもしない指揮官がいるとなれば最悪だな。」

 

「それと…その…」

 

「なんだ?言え。」

 

「調子が悪いんです。頭が時々痛んで…。」

 

「感冒とか言わんよな?」

 

「ここに来てからです。それに無名も調子が悪いみたいで。」

 

「カバネリだけがかかる病気でなければ、見えない指揮官の合図をお前達も受け取っている可能性はあるな。内容が不明ならただ邪魔なだけだが。」

 

「指揮官の合図…。」

 

「可能性の話だ。確定事項にするな。それとその調子の悪さがどう出るかわからん。あまり単独で動くな。」

 

「わかりました。…あの。足跡を追ってもいいですか?」

 

「構わない。指揮官の合図があるかは置いといても、統率が取れているかどうかは確認しておきたいしな。」

 

 

侑那と巣刈が甲鉄城の消耗具合を見ていると、なにやらしゃがみ込んでいる生駒と最上を発見した。

 

「どうした。生駒。」

 

「珍しいね。生駒と最上さんが一緒にいるの。」

 

「ちょっとそこで一緒になったから、一緒に調査してたんだ。」

 

「調査?」

 

生駒が巣刈と侑那に、見えざる指揮官以外の説明をしている中、最上は行進とまでは言わないものの、目的を持って移動したであろう統率のとれたカバネの足跡を見ていた。

 

(これはやはり指揮官はいるな。だが前線にそれらしいのはいない…。となるとやはり放送のようなものがあるんだろう。それを生駒や無名殿が受信しているのか?後方から指揮できるとか嫌な相手だな。)

 

 

 

甲鉄城は連合軍本部の海門駅の操車場へと戻ってきた。

 

「ただいま戻りました。菖蒲様。」

 

「おかえりなさい。来栖。」

 

姿を消していた来栖が徒歩で帰ってきた。菖蒲に迎えられ赤面している。

 

(心配はしてなかったが、単独で戦地を駆けまわり、徒歩で帰って来た上であの余裕。来栖はやっぱりカバネリ換算でいいな。単独運用できるのはありがたいし。)

 

最上は来栖を人間として扱うのをやめた。

来栖が赤面後菖蒲の前から立ち去り、入れ替わるように海門衆の雲母がやってきて菖蒲と吉備土が対応している。和気藹々とした雰囲気である。

 

(今晩中に菖蒲様にご報告しておくか。)

 

夜、菖蒲に用意された部屋に武士達と訪れ、生駒と昼間話した内容を報告した。

 

「見えざる指揮官?」

 

「統率が取れた行動?」

 

武士達は最上からの報告に困惑していた。

 

「あくまで推測の域を出ませんが、そうとしか考えられないためご報告させていただきました。」

 

「わかりました。ですが、作戦を指揮しているのは北陸連合軍の方ですから、どうでしょうか…。」

 

「恐らく相手にされないでしょう。故に作戦会議の場ではなく、今ご報告させていただきました。北陸連合軍の作戦の全容はまだ聞いておりませんが、後方の守りを怠っている以上、先程の件は気が付いてはいないかと。ですので失敗することを考慮しておいた方が宜しいかと。」

 

「わかりました。」

 

「それと来栖。指揮官がいるならば後方とて安全ではない。甲鉄城から離れすぎるな。甲鉄城の守備が薄くなるのは看過できない。カバネリは当初のまま多少突出しても構わないが、お前は出来るだけ菖蒲様から離れるな。いつ不測の事態になるかわからんからな。」

 

「承知した。」

 

「生駒が海門に来てから調子が悪いとのことです。生駒がいうには無名殿も調子が良くないとのことですので、カバネリ2人は気にかけておいた方がいいでしょう。」

 

「調子が悪い?」

 

「頻繁に頭痛がするようです。あれらは普段、カバネの気配を感じ取ったりしておりますから、もしかしたら見えざる指揮官の合図か何かを受信している可能性もあります。」

 

「わかりました。報告ありがとうございます。」

 

「不確定事項ばかりとなりましたが、報告は以上となります。それではお休み中のところ失礼致しました。」

 

武士達は菖蒲の部屋を退室した。

 

「もしかして昼間急に下がってきて、蒸気筒に持ち替えたのって関係あります?」

 

雅客は昼間の最上の行動を思い出して口に出した。

 

「そうだな。確証は全くなかったから言わなかったが、急に行動を変えたように見えたカバネがいたから、とりあえず下がることにした。初見殺しみたいなカバネとか出てきたら嫌だしな。私は来栖ほど強くないんでね。」

 

「なるほど。」

 

その日はそれ以降なにもなく、穏やかな夜を過ごすことになった。

 

 

翌朝、菖蒲が来栖達を伴って会議の場に向かっていると生駒が遠くから同行したいと申し出てきた。無名が引きとめているようだが、それを振り切って菖蒲達に合流した。後ろから巣刈まで着いてきていた。

 

「無名殿はいいのか?何か引きとめていたが?無名殿に体調の確認はしたか?」

 

「いやなんか渡したい物があるとかだったので、後にしてほしいと伝えました。体調は聞きませんでした。後で確認しておきます。」

 

「頭痛はするか?」

 

「さっきもありました。でも継続してるというよりは、単発で痛みがあります。」

 

「頭痛の時間は長くはないのか?」

 

「結構短いですね。」

 

「うーん。指揮官からの合図ではないんだろうか。」

 

「最上。昨日の報告の件ですね。」

 

「そうです。でもちょっとわからないですね。カバネが短い合図を複数判断できるとは思えません。人間なら符号でやり取りもしますが、カバネがするとは思いたくありませんね。」

 

「最上さん。報告していてくれたんですか?」

 

「しない理由がない。それと生駒。寝癖直しておきなさい。」

 

「あっ!はい。」

 

生駒の頭痛の件を話しているうちに会議のための天幕に着いた。

 

「いよいよ最終段階だ。第五区画を奪還したことにより、晴れて自走臼砲鳴神を射程距離まで乗り入れることが可能性になった。これで城に取り付くカバネの巣を一網打尽にすることができる。」

 

信濃の玄路軍の者が朗々と説明し、会議の場が湧く。

 

「鳴神さえ来ればこっちのものだ。」

 

「武蔵では三千ものカバネを蹴散らしたというぞ。」

 

(なんで自軍の兵器の話なのに伝聞調なんだ。遠征していたとも思えんし、武蔵の国製なのか?売り文句なら多少盛っていても不思議じゃないんだが…融合群体一体やればそれくらい稼げそうではあるから嘘だとまではいわないが…まあ四八式よりは威力があるということだな。)

 

最上は盛り上がる連合軍を冷めた目で眺めている。

そんな中来栖が菖蒲に桜餅をすっと差し出し、菖蒲に断る仕草をされている。

 

(会議中に食わそうとするな。終わってからにしろ。お馬鹿め。菖蒲様が関わると思考能力が落ちるのはなんなんだろうな…。)

 

越後の虎落などは会議中に桜餅を食っていたが、菖蒲は括りとしては武士ではあるが淑女であるので会議中に食うわけがない。

 

「鳴神の到着及び作戦の決行は4日後の予定だ。我々玄路軍と虎落殿の部隊が、鳴神と共に第三区間まで進入し海門城を砲撃する。甲鉄城は最前線で保線の護衛を務めてもらう。海門衆は強化線の敷設のため200人を動員せよ。よろしいな。雲母殿。」

 

(玄路軍と虎落軍が手柄を上げて、我々と海門衆は捨て駒ってことだな。わかりやすい奴らめ。正直海門衆の損害はどうでもいいが、うちの損害は軽微にせねばな。)

 

「しかし昨日も多くの部下が負傷しました。」

 

「保線作業はいつも駿城より前に出ざるを得ません。危険を顧みずに…「何を言う!」

 

海門衆も流石に耐えかねたか反論を始めたが虎落が机を叩き声を荒げる。

 

「もうすぐ雪解けとなれば動きやすくなるのは我々だけではない。奪った領地も取り返されかねんのだぞ。」

 

「ご協力いただこう。あなた方の故郷を守るためだ。」

 

(たとえこいつらの作戦が物凄く上手くいっても、絶対に顕金駅奪還には関わらせないようにしよう。まあ。上手く行くとは「その奪った領地から攻められたらどうしますか?」

 

(うわっ馬鹿!こいつに黙っているように言っておくのを忘れてた。)

 

最上は頭を抱えるかわりに数秒目を閉じた。

生駒は前に出て地図を机に広げた。

 

(もうとりあえず生駒に説明させよう。どうせ採用されんだろうが説明を遮ったらそれはそれで面倒臭いし。玄路と虎落が座っていて、菖蒲様が立っているという力関係がなぜわからんのか…。)

 

生駒はカバネの足跡が連合軍の前線基地をまっすぐ目指していること、後方の第六区画からも伸びていることを説明した。

 

(第六区画。それは初めて聞いたな。昨日調査したのか?)

 

「我々の把握していない路からカバネが呼び込まれているかもしれない。後方にも兵力を割くべきです。まずは俺に調査に行かせて下さい。」

 

(説明自体は悪くないんだが…こいつらが我々を…ましてやカバネリを信じる訳がない。)

 

会議の場が静まり返る。

 

「愚かしいカバネどもにそんなことができるわけがない。呼び込んでいるものがいるとすれば、お前自身と思う方が道理だが。」

 

「「⁉︎」」

 

「玄路様!」

 

「だから言ってるじゃないか!この海門のカバネはおかしい!俺たちを殺しに来てるんだ!きっと命令している舵取りがいる。いいから俺に調べさせろ!」

 

(ああ。作戦を否定されると激昂するのはどうにかならんもんか…。まあでもいつもより激しいな。調子が悪いせいか?)

 

生駒の怒りに周囲は慄いた。生駒に玄路軍のものが掴みかかると、丁度頭痛が襲ってきたのか頭を押さえて崩れ落ちた。巣刈がすかさず近寄り声をかける。

 

「また頭痛か?少し休め。」

 

「休めるわけないだろ!一刻も早くここを抜けて「無茶言うなよ。」

 

まだ興奮している様子の生駒を巣刈が嗜めるが、玄路から声が上がる。

 

「軍議の場に相応しくない者がいるようだな。」

 

「申し訳ありません玄路様。戦い続きで昂っているのです。」

 

「どうして謝るんです!」

 

「黙れ生駒!」

 

菖蒲が謝罪を入れるが、菖蒲にまで盾突き始めたのを来栖が遮る。

 

(これ以上は駄目だな。)

 

「菖蒲様。生駒を連れて退室します。」

 

「わかりました。頼みます。」

 

「巣刈も来い。」

 

最上は生駒の腕をとって巣刈にも声をかける。巣刈は無言で頷き着いてきた。天幕から少し離れたところで生駒が最上の腕を振り払う。

 

「どうしてですか⁉︎最上さんも菖蒲さんもわかってるはずじゃないですか⁉︎」

 

「おい。やめろって。」

 

「お前はまず自分の意見を否定されたときに激昂するのをやめろ。次に菖蒲様の立場はあいつらより低く置かれている。菖蒲様だけお立ちになっているのがわからなかったか?そして甲鉄城だって乗り始めの頃は、カバネリがカバネを呼ぶだの言われてただろうが。我々には信用がない。最後に今のお前は克城の時の私の立場だ。あの時お前達は私の話を聞いたか?」

 

「…聞きませんでした。」

 

「我々には納得できても、あいつらには納得できないんだ。わかるな?」

 

「…わかります。」

 

「ならいい。とりあえず調査に行くんだろ。私が付き合う。今のお前は冷静じゃない。頭痛で苛立っているのか知らないが1人で行動するな。」

 

「はい。」

 

 

 

生駒と最上は準備のため、生駒が使っている部屋にきていた。最上が出入り口脇で腕を組んで待っていたところ、暖簾をくぐって無名が入ってきた。

 

「生駒。さっきの…あっ。」

 

「…すまん。外す。」

 

「ありがと。」

 

無名の雰囲気から、最上は席を外すことを選んだ。

 

「生駒。外で待つ。」

 

「はい。」

 

生駒から応えもあったので、外に出て向かい側の壁に背をつけて待つことにした。

 

(出歯亀する気はないが、これ以上離れるわけにも…声は聞こえんしいいだろう。)

 

(さて調査したとしてあいつらが信じるとは思えない。まずは海門衆に声をかけるか…。地の利はあいつらにあるし、菖蒲様と挨拶をしていた態度からして話くらいは聞くだろう。しかし玄路どもは可能な限り自分達は無傷で、海門衆は削り切って終わりにしたいんだろうな。鳴神分玄路の方が優勢か?6対4…いや7対3くらいは利権を持ってきそうだな。虎落より玄路の方が頭が良さそうだし。要衝だし喉から手が出るほど欲しいだろうよ。)

 

なにやら内容はわからないが、大きな声を出しているようだ。

 

「また興奮してるのか?ただの痴話喧嘩じゃないだろうな…。」

 

最上はため息を吐いて出入り口に近づいた。階段に足をかけようとしたところ、無名の背中が視界に広がった。

 

「はっ?」

 

最上は間一髪で回避したが、無名ごと外に出てきた生駒は唸り声を上げてふらついている。

回避した際に生駒の背後をとれたため、顔は確認出来ないが確実にカバネに寄っている。

 

(これはまずい!血が足りてなかったのか⁉︎)

 

最上が柄で沈めてしまおうと、刀に手をかけようとした時、小路から玄路兵が蒸気筒を持って出てきた。

 

「いやがった!」

 

「動くな。」

 

生駒の視線が無名から玄路兵に移り、生駒が玄路兵に襲いかかろうとしたのを、無名が阻止したが今度は無名を押し倒した。

無名を押し倒した際に路地から部屋の中に入ってしまったため、最上も慌てて後を追う。

殺さずに昏倒させるためには刀が必要だが出入り口付近は狭く、刀が柱に食い込みかねないため、咄嗟に生駒の腕を掴んで引き離そうとした。

カバネリの臂力を完全に忘れて。

 

「生駒!」

 

片腕を両腕で抱え込むように引き、声をかけた瞬間最上の両足が地から離れた。

 

「あっ!ぐっ⁉︎」

 

引き離そうと引いた腕をそのまま後ろに振り抜かれ、斜め後ろにあった柱に激突し、最上はそのまま意識を落とした。

 

「最上さん!」

 

無名が最上を呼ぶが反応はない。どこかを切ったのか血の匂いがする。一瞬生駒の視線が最上に向きそうになったが、揉み合っている最中のため生駒は無名をそのまま取り押さえた。

無名が泣いているのを見てか、生駒の目に光が戻る。

無名が泣きながら生駒に話し続けていると生駒は完全に正気に戻った。

 

「無名。」

 

生駒が無名に声をかけようとしたところ、玄路兵が部屋に飛び込んできて路地に連れ出された。そこへ菖蒲が来栖と吉備土を伴って駆けつけた。

 

「生駒!お前はなんだ⁉︎」

 

菖蒲を下げ、来栖が生駒に確認する。

金剛郭の時から来栖が生駒にしている確認方法である。

 

「来栖。俺は…「邪魔をすればお前達も撃つ!」

 

生駒が返答をしようとしたが、玄路兵が来栖達に蒸気筒を向ける。

 

「待ってくれ!提案がある。俺を…俺を独房に入れてくれ!3日間監禁して発症しなければ、危険はないと判断する決まりのはず。逃げも隠れもしない俺に時間をくれ!」

 

生駒の要求に対し、現場にやってきた玄路が許可を出したため、生駒は連行されて行く。無名が押し倒されていた部屋からふらりと出てきて菖蒲の外套の裾を引いた。

 

「無名!鳴神作戦までには戻ってくる。それまで待ってるんだ!わかったな!」

 

生駒が声をかけるが、無名は生駒には顔を向けず菖蒲の外套の裾をさらに引いて部屋へと誘導する。

 

「どうしたのです?」

 

「最上さんが…。」

 

「そうだ!最上がついていたはずでは!」

 

菖蒲の外套を引き部屋に連れ込もうとしていることから、中にいるのだろうと来栖が中を覗くと頭から血を流して倒れている最上を発見した。

 

「っ⁉︎…無名。生駒は噛んだのか?」

 

何より大切なことを確認する。噛まれていれば最上を殺さなければならない。来栖は刀に手を掛けた。やり取りを見ていた吉備土は菖蒲や駆けつけていた鰍達を下がらせる。

 

「噛んでない!振り払って…それだけ…」

 

「そうか。」

 

来栖は刀から手を離し、部屋の中へと入って行った。

来栖は倒れている最上の肩を叩き声をかける。以前最上から頭を打った人間を揺さぶるのは危険と教えられたため、肩を叩き声をかけるにとどめた。 最上からの反応がないため、負傷部位を確認しようと身体の向きを変えたところこめかみあたりがざっくりと切れて出血していた。鰍の手を借りて応急処置をした後、吉備土が背負い最上が使っている部屋へと向かった。無名は手当てを終えた鰍と先にその場を離れていた。

 

「うっ…。」

 

寝台に最上を降ろしたところで意識が戻ったようだ。

 

「吉備土。仁助を。」

 

「わかった。」

 

「最上。わかりますか?」

 

吉備土は退室していき、菖蒲が最上の眼前で手を振る。

 

「…菖蒲様?何故?」

 

最上はぼんやりとしており、状況を理解できていないようだった。

 

「なにがあった。説明しろ。」

 

「…?」

 

来栖が端的に質問するが、最上が困惑しているのが伝わってくる。

 

「覚えてないのか?どこまで記憶がある。」

 

「天幕から生駒を連れ出して…巣刈と別れて、生駒の部屋に…無名殿が来て……?…わからない…。」

 

「そうか。」

 

そこへ吉備土に呼ばれた仁助が救急箱を持って入ってきた。

仁助は武士達の中で年長で感情の振れ幅の小さい落ち着いた男であったので、最上が簡単な医療技術を引き継いでいた。

最上曰く、本職でも無いのに1人でやってられん。とのことだった。

こちらに向かいながら、吉備土から説明を受けたのか特に質問することなく、最上に近づいてこめかみに当てていた布を取り払った。

傷口の汚れは現場で流してきたため、目立った汚れはない。額からこめかみを通り耳の近くまでざっくりと切れ、まだ血が出ている。

 

「3寸くらい切れてますね。」

 

「縫うしかあるまい。」

 

意識がはっきりしてきたのか、仁助の言葉に最上が返す。仁助が準備をしている間に菖蒲に退室を促し、菖蒲は吉備土を伴って部屋から出て行った。

 

「そうだ。来栖。生駒はどうした?」

 

「玄路軍に拘束された。」

 

「えっ?なにがあった?」

 

「己たちはお前からそれが聞きたかったんだがな。」

 

「さっ。縫いますよ。」

 

仁助が針を構えている。最上は無言で懐から手拭いを出して咥えた。

仁助がちくりちくりと縫っている時、最上は布団をぎゅうぎゅうと抱き込んで耐えていた。

縫い終わると、縫っていた仁助も縫われていた最上もぐったりしていた。

 

「来栖。そも私はどこで見つかった?」

 

「生駒の使っている部屋の、近くの部屋だな。」

 

「なら、調査に出る前だな。巣刈に事情を説明して情報の精査を依頼してくれ。海門衆の雲母にも声をかけるように言ってくれ。地図にない情報もあるかも知れない。危険だから勝手に調査には行くなとも。」

 

「わかった。無名からも話を聞かんとな。」

 

「鰍に依頼しろ。お前が直接はちょっと…。」

 

最上は気を失う前の記憶が無名が来たところまでしかないので、生駒と無名がどんな状態か覚えていない。万が一男女間の諍いが原因だったら目も当てられないので来栖にそう指示した。

 

「…?わかった。」

 

来栖は疑問には思ったようだが了承して退室して行った。

 

「仁助。助かった。流石に自分の額は縫えんからな。もういいぞ。」

 

「いえ。頭を打ったら経過観察が必要と言ったのはあなたです。今日は私と倉之助で様子を診ます。」

 

「そうか手間をかける。」

 

 

翌朝、艦橋には海門衆も集まり作戦会議をしていた。

 

「なんだって?地下通路…」

 

「ええ。海門城の天守から延びています。村人をカバネから逃がすために、かつて景之様の命で作られた。」

 

「景之…駒井景之殿か」

 

「ご城主様ですね。」

 

「そうです。海門を思い、自ら戦陣に立たれた。いい方だった。」

 

「その地下通路と鉱山時代のトロッコ用の坑道が繋がっているらしいんです。第六区画のカバネはここから来ていた可能性が高い。つまりは全て生駒の読み通りだった。俺たちに調査に行かせて下さい。鳴神作戦が始まる前の今しかないんです。」

 

「私が案内します。」

 

巣刈が珍しく熱くなって、調査に立候補しており、雲母がそれにのった。

 

「しかし危険な道行きです。よろしいのですか?」

 

菖蒲が雲母に確認をとる。

 

「私にも確かめたいことがあります。すまんが保線を頼む。」

 

なにやら思うところがあるようで、雲母は調査に行くことが決定し、部下に保線作業の指揮を依頼していた。

意見がまとまったところで、菖蒲が皆を激励する。

 

「私も行く。」

 

姿を消していたらしい無名が艦橋に姿を現し、巣刈や鰍が心配しているが無名の参加が決定した。

同行する武士の選定は仁助、樵人、歩荷となったが

 

「私も行こう。」

 

最上まで手を挙げた。

 

「大丈夫なのか?」

 

来栖が確認をとる。何せ昨日頭部を強打し傷口を縫ったばかりだ。今もギリギリ目を塞がない程度に包帯が巻かれている。

 

「私も気になることがある。それに武士の中で一番調査に向いてるのは私だ。無理するつもりはない。仁助もいるし問題ない。」

 

「経過観察しかできないので、当てにされても困ります。」

 

「まあそういうな。」

 

最上は珍しく押し切った。

 

 

調査隊はトロリーに乗って坑道の入り口まで、間もなくというところで無名が最上に話かけてきた。

 

「ねぇ。」

 

「なんだ?」

 

「あの時生駒を殺さないでくれてありがと。」

 

「…?すまないが無名殿が来た後あたりから記憶がなくてな。」

 

「そうだったんだ。あの時最上さん生駒を殺せる位置にいたよ。でも殺すんじゃなくて止めに来てくれた。まあ…だから怪我しちゃったんだけど。」

 

「そうか。状況を覚えてないからなんともな。次は殺すかも知れん。礼を言われることじゃない。」

 

「うん。…でもありがと。」

 

「…はぁ。どういたしまして。」

 

最上と無名がそんなやり取りをしているうちに、坑道前に到着した。

 

「坑道はもう塞がれているじゃないか。」

 

坑道の入り口は土砂などに埋もれ、完全に封鎖されていた。

 

「あっちはどうでしょうか。」

 

並行している一段下がった位置の線路を雲母が示した。入り口を覆っている草を取り除くと開閉可能そうな扉が出てきた。

 

「隠してあった?」

 

「バカな⁉︎カバネにそんなことができるか?」

 

樵人が扉に近づいて行き確認したところ、扉を覆っていたのはカバネの金属被膜であった。

無名がなにか感じとったか、枷紐を弛めたとき、遠くから汽笛が聞こえてきた。

遠目に大きな砲を乗せた駿城が見てとれた。他の駿城も動き出しているのが坑道側からも確認できる。

 

「作戦を開始するのか?」

 

「どういう事だ?」

 

調査隊に動揺が走る。

 

「ただでさえ成功するか分からん作戦だというのに、予定を勝手に繰り上げて態々成功率を下げるとは馬鹿なのか?」

 

最上が毒を吐いていると、トロリーが近づいてきた。玄路兵が降りてきて蒸気筒を向けてくる。

 

「なにやってんだ?出撃だぞ?まさかカバネと相談つけに行くんじゃねぇだろうな。キチいな。おい!」

 

「はぁ…。出撃だって?予定の繰り上げの伝達を怠ったお前達のせいだろうが。カバネと相談?愚かなカバネには策を弄することなどできないのがお前らの見解じゃなかったか?そんなカバネと相談?難癖つけるにしても一貫性をもてよ。脳みそ入ってんのか?」

 

最上が毒を吐き切った瞬間、金属被膜で覆われた扉が、カバネの唸り声と共に叩かれた。

 

「離れて!」

 

無名が鋭く指示を出し、扉の前にいた者達が逃げていく。扉が軋み、カバネの光が扉の隙間から覗く。衝突音が響き、金属被膜が砕け始め、さらに続いた衝突音で完全に扉が開放され、中からカバネが雪崩れ出てくる。

甲鉄城の面子は線路脇に避難していたが、玄路兵は扉正面を陣取っていたままだったので、カバネにのまれてしまった。

玄路兵がやられている間に法面を上り避難しきれたが、無名が反対側に取り残されている。

 

「無名!早くこい!」

 

巣刈が無名を呼ぶが無名がこちらにくる気配はない。

 

「舵取りがいるって生駒が言ってたんでしょ!ならそいつを私が叩くよ!」

 

「無名!」

 

巣刈の呼びかけも虚しく、無名はカバネが出てきた扉を潜って見えなくなってしまった。

 

「巣刈!撤収だ。今我々だけで無名を追うのは危険だ!」

 

「だが!」

 

「いっそ生駒を回収に行くぞ!」

 

最上は巣刈を無理矢理トロリーに乗せた。可能な限りとばして戻っていると、伝令とかち合った。伝令は生駒の回収指示を伝えたため、そのまま生駒のツラヌキ筒を回収後、生駒のいるはずのところへ向かったが、もぬけの殻であった。

 

「脱走してるじゃないか。」

 

砕けた鎖を握りながら、最上がしかめ面をしている。

 

「まあいい。どうせあいつのことだ。天守に向かうだろう。坑道のカバネもある程度はけただろうから、坑道から天守へ向かう。その前に甲鉄城だ。」

 

「はい。」

 

トロリーで甲鉄城直近まで行き歩荷を降ろし伝令とした。

 

「さっさと行くぞ。」

 

「最上様。大丈夫なのですか?」

 

「いざというときに前衛なしでどうするつもりだ?カバネリ2人にすぐ合流できるか分からんのだぞ。」

 

「…わかりました。」

 

トロリーで坑道まで戻り、坑道内に侵入した。金属被膜が張り巡らされていたり、無名が発動させたのか罠らしき跡があった。

 

「統率が云々の話じゃないな。完全に策士がいるぞ。やだやだ。さっさと回収しよう。」

 

時折現れるカバネをトロリー走行中は蒸気筒で、罠などの確認のため停車した時は最上が斬り殺しながら進んだ。

 

「止まってください。」

 

巣刈の呼びかけでトロリーは停車した。

 

「穴が空いてます。かなり新しい。もしかしたら無名か生駒が落ちたかも知れません。確認してきます。」

 

「わかった。気をつけろよ。」

 

巣刈がポーチから出した縄を使って穴を降りていく。

 

「ふぅ…。」

 

「最上様。」

 

「大丈夫だ。少し疲れただけだ。」

 

仁助が最上の体調を確認していると、穴の中から声が響いた。

 

「生駒!そこか!」

 

トロリーに乗っていた一同が安堵の息を吐く。

 

「発見したみたいだな。」

 

「ですね。」

 

2人を引き上げた後、トロリーをなんとか穴の向こう側へと移動させ、さらに進んで行く。

 

「最上さんその怪我どうしたんですか?」

 

「お前にやられたんだが?」

 

「えっ?」

 

「本当だよ。私を押し倒してたとき。最上さんのこと吹っ飛ばしたんだよ。最上さんが出血した後も、噛んだりはしてないけど。」

 

「へぇ。理性を失ってたらしいが、野郎の血より無傷の女の子か、理性的…いやある意味本能的なのか?」

 

「すみませんでした!やめてください!」

 

「最上様。あんまり苛めたら可哀想ですよ。」

 

「そうだな。」

 

カバネリ2人と合流したため、最上は蒸気筒に持ち替えて援護に回った。巣刈が地図を見て誘導し、線路の切り替えを無名が狙撃で行った。

トロリーで行ける限界まで進行した後、徒歩で海門城に侵入した。

狭い坑道と違いどこからカバネが来るか分からないため、最上は蒸気筒を襷掛けにし、刀をいつでも抜けるようにしておいた。

 

「ここが天守?」

 

「おい。あれはなんだ。」

 

仁助が指差した先には青い光が見てとれた。樵人は懐から双眼鏡を取り出し確認する。

 

「青い繭に…子供か?」

 

その台詞を聞いた雲母が樵人の肩に手をかけた。

 

「見せてくれ。」

 

樵人が双眼鏡を貸すとすぐに覗き込み

 

「間違いない。」

 

と呟いた。

最上は樵人の斜め前から肉眼で青い光を確認していたが、青い光よりも下にきらりと光る何かを確認した。雲母から双眼鏡を渡してもらおうと、雲母の方へ一歩踏み出した瞬間。先程まで頭があった位置を何かが通り抜け、後方で甲高い音がなる。狙撃されたのだ。一瞬固まったがすぐに声を上げた。

 

「狙撃だ!下がれ!」

 

追撃に一撃飛んできたものの、張り巡らされている金属被膜に当たり、こちらまでは届かなかったため、全員来た道を速やかに引き返した。

 

「頭が吹き飛ぶところだった…。」

 

げっそりした顔で最上が呟く。

 

「よく避けられましたね。」

 

「無名殿や来栖と一緒にするな。偶然動いた瞬間に撃たれただけだ。双眼鏡を借りようと動いただけで、一瞬遅かったら頭撃ち抜かれてたよ。」

 

「流石に撃ち抜かれたら私ではどうにもできません。」

 

「私だって無理だ。」

 

仁助と最上で軽口を叩いていると雲母が天守を見つめたまま呟いた。

 

「やはり景之様だ。あの奥にいる。」

 

「駒井景之?」

 

「しかし彼は「死んではいない。あの時彼は自らの首を絞めて生還していた。」

 

「それじゃあ生駒と同じ。」

 

「カバネリってことか?」

 

「5年前景之様は海門を守るために戦い生還したが、幕府の武士は彼をカバネと恐れ銃を向けた。私もその時そこにいた。そして景之様は自らの娘の深雪様をも噛んだ。カバネにしてでももう一度生かそうと…。」

 

最上は少々呆れた顔で、雲母の顔を見た。

 

「雲母殿。そこまで理解していたのなら、我々がカバネリ2人を連れて来た時点で、景之殿がカバネリである可能性が非常に高いことはわかっていたな。玄路や虎落はまだしも我々に一言あっても良かったのではないか?」

 

「だが…景之様がこんなことをなさるなど、信じたくなかったのだ…。」

 

「はぁ…。ということはあの青い光は深雪殿か?」

 

「ああ。双眼鏡で確認した。」

 

青い光を見ていた生駒が無名に声をかける。

 

「あの光は見覚えがある。確か無名も…。」

 

「うん。あの子は黒煙の心臓になったんだよ。そしてカバネの群れが怖がる心をあの子に集めてる。」

 

「じゃあこの城ごと黒煙になるっていうのか?」

 

「そうだよ。巣が自分達を守ろうとして黒煙になる。もう張り裂ける寸前だよ。」

 

巣刈が想像でき得る展開を口に出し、無名が答える。

 

(カバネはウイルスによるものだというのに、時々精神面の部分が強く作用するのはなんなのだろうか…。それに結局景之殿が指揮をとれる理由もよくわからんのだが。カバネリは本来カバネに襲われるのではないのだろうか。あまり水を差さん方がいいんだろうなぁ。)

 

「そしてもうすぐ荒れ狂って全部を壊そうとする。何もかもを。私には分かるんだよ。「おい。違うよ。馬鹿。同じにはならないだろ。今度は止めるぞ。俺たちで。」

 

恐怖からか肩を抱えて縮こまる無名を、生駒が元気付ける。

 

「きっとあの光やカバネの恐れが不穏な気配になってみんなを不安にさせていたんだ。」

 

「そうだね。抑えよう。あの舵取りを。海門を破壊なんてさせない。」

 

(どっちも殺すって意味でいいんだろうか?張り裂ける寸前だというなら、カバネリを殺したら爆発して融合群体になるんじゃなかろうか…。少なくとも娘はカバネだ。殺さなければなるまい。それでカバネリを手懐けるのは無理だろ。やっぱり両方殺すってことかな?うーん。もうとっくに私の手の負えない範囲にきてるから、口を出すのもなぁ。)

 

仁助と樵人は最上が何か考えているのには気がついていた。菖蒲や来栖がいれば恐らく意見を聞いているだろう。

だがこの愁嘆場のような状況で確認していいものか悩んでいた。いずれにせよ相手はカバネリ。カバネリ2人のやる気を削ぐわけにもいかないし、黙っていることを決めた。この状況で克城の焼き直しはごめんである。

仁助も樵人も大正解であった。

 

砲撃でもしているのか城が断続的に揺れる。周囲のカバネ達の唸り声が強くなった。

 

「唸りが強まっている。」

 

「まずいぞ。」

 

仁助と樵人が焦りを露わにしたとき、雲母が飛び出した。

 

「景之様!戦いをおやめください。このままではあなたの愛した海門も滅びてしまいます。」

 

雲母が言い切った瞬間狙撃されたようだ。

 

(肩か。臣下を殺すのを躊躇ったか?)

 

「それでよいのですか!景之様ぁ!」

 

生駒が飛び出し、雲母の前に躍り出た瞬間、再び狙撃。

 

「今だ!無名!」

 

無名が飛び出し狙撃を返す。狙撃していた蒸気筒が落ち、途中の板に突き刺さる。

 

「当たった!」

 

仁助が声を上げ、無名はカバネリの驚異の身体能力で、張り巡らされている金属被膜を駆け上がる。

対して景之も蒸気筒のところまですぐに移動して、外れた管を取り付け構える。流れるような動きである。しかし無名の方が速かった。無名と景之が激突する。

状況は見えないが、剣戟の音や打撃音、発砲音が忙しなく響く。

 

(なにをどうしたら2人で戦ってあんな色々な音がなるのか…。)

 

無名が不覚をとったか弾き飛ばされたのが遠目に見えた。雲母はいつのまにか視界から消えており、生駒は金属被膜に手足をかけてよじ登って行くのが確認できた。

 

「おい。全員撤収だ。」

 

「ですが!」

 

「無名殿が張り裂ける寸前だと言っていただろう。景之殿を殺したら、融合群体になるに決まっている。そしたらここは崩壊するぞ。ただの人間の我々はすぐに死ぬ。死にたくなければ走れ。」

 

「はい!」

 

全員が全速力で後退を開始した。逃げ始めて少しして、カバネの悲鳴が響き渡り城が大きく揺れ、瓦礫がバラバラと降り注ぐ。

離れたところで雲母が落下する景之の手をとり支えていた。

 

「雲母さん!」

 

巣刈が足を止めて雲母を呼ぶが、最上が無理矢理腕を引く。

 

「殉じさせてやれ。」

 

なんとか全員が山の斜面まで逃げた時、とうとう融合群体が立ち上がった。雄叫びを上げ、腕を高く挙げて振り下ろした。

衝撃波が斜面にいる者達を襲う。

融合群体は身体を引きずりながら斜面を下って行く。

汽笛が最上達に届いた。

 

「あっちだ急ぐぞ!」

 

最上が先導でカバネを斬り捨て、山を駆け降りていく中、何故か来栖とすれ違ったため振り返った。

 

「はっ?」

 

「最上様!前!前見て!」

 

危うく金属被膜に引っかかるところであった。

 

 

最上達がたどり着いて、少しして来栖がカバネリ2人を連れて戻って来た。

巣刈は中に入ったと思ったら他の車両に移動して居なくなってしまった。

 

(急ぎすぎて、おいて行ってしまったのは申し訳ないが、無名殿を抱えているとはいえ、カバネリの生駒が人間より遅いとは思わなかった…。反省しよう。)

 

「これで全員だ。揃ったぞ!」

 

修蔵が伝声管にむけて叫ぶ。

甲鉄城が後退を開始する。山の斜面が崩れて来ているため、断続的に線路ごと揺れている。

衝撃が車体に走る。融合群体に捕まったようだった。先頭車両に身体を乗り上げ取りついている。先頭車両が融合群体の重さに耐えかねて軋みを上げる。

 

侑那が動揺する菖蒲達に声をかける。

 

「つかまって下さい。速度を上げて甍隧道にぶつけます。しかしスイッチバック手前で減速できるかどうかですね。」

 

「吸着ブレーキは⁉︎」

 

菖蒲は作戦の途中で使っていた吸着ブレーキを思い出した。

 

「あっ…やってみましょう。巣刈聞こえる⁉︎」

 

侑那は伝声管で巣刈を呼ぶ。

 

『はい。』

 

「悪いけどもう一仕事。スイッチバック前で急制動をかけるよ。制動距離は?」

 

『六百尺14秒ってとこですかね。』

 

「わかった。全車同時にブレーキをかける。そっちが先頭だから合図だして。」

 

『わかりました。』

 

侑那と巣刈で打ち合わせが済んだことから、菖蒲は伝声管で全車に指示を出す。

 

「皆さん。この後汽笛が5秒間鳴ってから急制動がかかります。車内の手すりにつかまって下さい。」

 

指示が流れた後、車内の者達は手近な手すりなどにつかまった。

融合群体の叫び声が甲鉄城全体に響いた後、汽笛がけたたましく鳴り響く。

隧道に入る直前、四八式鎮守砲が火を噴いた。融合群体は真正面にいたことから、顔にあたる部分に直撃しのけぞった。のけぞった瞬間に甲鉄城は隧道に高速のまま突入し、先頭車両にしがみついていた融合群体は、隧道入り口に激しく激突した。

先頭車両から融合群体が離れて、すぐに急制動がかかり、固定されていない物などが進行方向へと吹き飛んで行く。激しいブレーキ音が響き車輪からは激しく火花が散る。

次第に減速していき、行き止まりギリギリで停車した。

隧道入り口に叩きつけられた融合群体は砕け散り光の粒になって海門に降り注ぐ。

 

 

融合群体に殆どのカバネが取り込まれ消え去ったことから、海門の掃討は当初の予定より早く終わることとなった。海門の民人に見送られ甲鉄城は海門から離れていく。

 

「人的損害無し。出費は多少嵩んだものの、玄路と虎落が作戦失敗で、虎落も利権に殆ど口出し出来ず、海門の者達に殆どの利権が渡った。利権問題で一番小賢しそうな玄路は消えてくれたし最高の結果だったな。菖蒲様は運をお持ちだな。まあうちに直接の利益がないのは変わらんが。顕金駅を再興したら交易する相手として恩を売れたのは悪くない。」

 

最上は上機嫌であった。海門は要衝であるため、信濃や越後に握られるとあまりよろしくなかったが、推し進めた作戦が失敗し殆どの利権得る事ができなかった。信濃などほぼ全滅したことから、交渉役すらまともにおらず、越後に頼み込んで送って貰うことになった。

 

「あったでしょう。人的損害。」

 

憮然とした表情で雅客が言う。

 

「待て。聞いてないぞ。誰だ?負傷程度を報告しろ。」

 

最上が振り返ると、雅客が最上を指差していた。

 

「あんたのそれです。」

 

「ああ。これ。でもこれやったの生駒なんだろう?海門での損害ではないと思うがね。まあいいさ。女子でもあるまいし……っ!これで二度と女装はせんですむな!」

 

「なに喜んでるんですか…。」

 

「お前らもしてみるか?女装。苦しいし、バレたら女装趣味を自称せねばならなかった私の苦しみが分かるぞ。」

 

「いやです。」

 

「しかしカバネもカバネリもよくわからんままだな。結局なぜ景之殿がカバネを指揮できたのかわからないままだ。美馬とて使役していた訳ではなかった。血で釣ったりしていただけだ。深雪殿があんな用兵ができるとは思えんし、やはり指揮してたのは景之殿だったんだろう。」

 

「それそんなに重要ですか?」

 

「カバネリがカバネを使役できたら、楽に殺せるじゃないか。うちにはカバネリが2人もいるんだから。」

 

「変なことさせないで下さいよ。」

 

「せんよ。また額を割られたくないしな。」

 

「そういえば、あんたが頭撃ち抜かれなくてよかったですよ。仁助達から聞きました。もう少しで死ぬところだったと。」

 

「ああ、あれ。いや偶然助かった。しかしあんな遠くから正確な狙撃。素晴らしい狙撃技術だったな。無名殿も負けていないが。」

 

「なに呑気なこと言ってるんですか?」

 

「なんだ?ちゃんと来栖は残して行ったじゃないか。私が死んだとして、まあ多少困るだろうが、この半年でお前らに色々引き継いでるだろう。意外となんとでもなる。顕金駅を奪還した後の再興とて道元様さえ引き込めばなんとかなる。道元様は私より上手だからな。」

 

「そういうことじゃないんですがね。あんた自己評価が低くはないですか?」

 

「別に低くはないが?低かったら菖蒲様に着いて回らんよ。そもそも低く見積もってないから、ちゃんと知識の引き継ぎをしてるんだが?」

 

「あんたのそういうとこ嫌いです。」

 

「そうか。あっ!そういえば鳴神はどうだった?」

 

「一発しか撃ってないのでどうとか聞かれても…。」

 

「なんだ。満を持して登場したのに一発か。まあ遠目で見た限り大きすぎて邪魔だなあれは。通行できる場所が限られるだろう。それにあの口径じゃあ装填も時間かかるだろうしカバネ向きじゃないな。武蔵ではどういう運用したんだろうか?」

 

「邪魔…。確かに装填は時間かかったみたいですけど、なんで武蔵です?」

 

「武蔵じゃ三千のカバネを蹴散らしたとの前評判だったらしいからな。融合群体でもやったかね。速射性に欠けるし照準合わせるのが遅そうだからあまり平地向きでもない。囮でも置いて集ってきたのを諸共吹き飛ばせば結構いけるか?」

 

「発想が怖い。」

 

 

そのころ、甲鉄城の外では春が訪れていた。

 




ホモ君はリズム感皆無なので踊りませんw

「最上様w嘘でしょ!来栖も出来てるのにw」

「うるさい。」

北陸連合のその後は捏造です。
どう考えてもお人好しでは無さそうな奴らが、陣頭指揮をとっていたのでたぶんなんか利権とかあるだろうと、利権の話をしてました。あんまり深く考えないで下さい。

これ一本で本編くらいの文字数になってしまった。
しんどかったです。


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【小話】利権やらなんやら

海門の時の利権なんちゃら関係。
後半少し顕金駅奪還にむけて。

テキトーに書いてます。作者の頭以上の話は書けないのでご容赦ください。

下侍ズ(来栖・吉備土除く)とホモ君。


「最上様ずっと利権利権って言ってましたけどなんだったんです?」

 

「あー。甲鉄城の者達には、ちと説明が難しいんだよなぁ。」

 

「馬鹿だと言ってますか?」

 

「違う。お人好しだと言っている。」

 

「お人好し?」

 

「まず、私がいつも守銭奴みたいに利益ばかり求めてる訳だが、割とこれが普通だ。というかそういう思考回路じゃないと分からんかもしれん。」

 

(守銭奴みたいって自分で思ってたんだ。)

 

「甲鉄城はここにしかいられないから、みんな無給で働いているわけだ。言うなれば甲鉄城が家で、甲鉄城で働くのは家事だな。普通は人を動かすには金がかかる。ここまではいいか?」

 

「はい。」

 

「玄路軍で説明する。金額はわかりやすく小さくする。一日分の出費として、兵士一人当たり10文、蒸気筒の弾5文、兵士一人分の食糧5文。兵士は30人にしよう。では一日でいくらだ?」

 

「えっ!」

 

「いくらだ?」

 

「えぇっと…1人20文で…」

 

「はい。600文です。」

 

「おっ。倉之助早いな。」

 

「沢山計算させられてますからね…。」

 

「さらに30日でいくらだ?」

 

「頼んだ倉之助!」

 

「…18000…だから…えっと4…」

 

「頑張れ!」

 

「4両2000文だから…4両2分!」

 

「そうだな。」

 

「金額全然小さくない!」

 

「そうだそうだ!」

 

「例えなんだから文句言うな。もっと色々経費を入れても良いんだが?金額が嵩んで計算が大変になるぞ。駿城だってただじゃ走らんし。」

 

「いや。すみません。」

 

「さらに鳴神1発1分にしとくか。まあ作戦では鳴神自体が消し飛んだが、作戦が上手くいってたとして…計算しやすく8でいいか…8発撃った。さっきのと足していくらだ?」

 

「8分で2両だから6両2分!」

 

「本来なら他にも色々経費がかかるがこれでいいだろ。お前たちは海門の代表にする。海門は自分達の生活でいっぱいいっぱいだ。余裕など微塵もない。良く考えろよ。」

 

「代表…。」

 

「微塵もない…。」

 

「私が玄路だ。無事海門を取り返してやったんだから、かかった費用はもちろん謝礼を寄越せ。さてどうする?」

 

「払えません。」

 

「わかった。いいぞ。なんて言うと思うか?」

 

「思いません。」

 

「ならどうする?」

 

「コツコツお支払いします。」

 

「ちなみに作戦で結構海門衆は死んだ。残った民人はほとんど女子供だ。海門衆だけでは駅を守れない。」

 

「えっ⁉︎」

 

「お前ら困ってるだろ?兵を派遣しようか?」

 

「お願いします!…いや払えないってば!」

 

「さあどうする?」

 

「その矢立咥えてるの玄路殿の真似ですか?」

 

「そうだな。私は今玄路なのでな。」

 

「ただでさえ払えないのに⁉︎」

 

「なら選べ。信州に下るか、そのまままたカバネに蹂躙されるか。信州に下った場合、駅の名は海門のままでいいし、変わらず住んでて構わない。」

 

「…お世話になります。」

 

「越後にも借りがあるよな?」

 

「あ"っ!」

 

「というわけで、信州と越後で海門を管理するわけだ。働くのはもちろん海門のお前らが殆どだが、まあ守るのはやってやる。産めや増やせやして人が増えても上層部は信州と越後だ。北陸の要衝だから出入りする駿城も多い。交通の安全を守り、円滑に行き来できるようになったのだから、通行料を僅かばかりとろう。信州と越後で分けるが。」

 

「鬼!」

 

「通行料?そんなのどこもとってないじゃないですか⁉︎」

 

「嫌なら通らなければいいんじゃないか?僅かな金で飛騨山脈を抜けられるぞ?もう運行表を作ってた金剛郭もないしな。誰が罰するんだ?」

 

「極悪だ…。」

 

「なら言い方を変えよう。見て下さい。この取り戻したばかりの駅を。再興するには金がいるのです。なにもかも足りないのです。僅かばかりの食糧ですがこちらは提供いたします。ですが僅かばかり金子をお願いします。このままでは駅の維持が出来ないのです。」

 

「そう言われると…。」

 

「まあ貰った金子は信州と越後で貰うが。」

 

「鬼畜!」

 

「簡単にいえばこういう感じの話だ。わかりやすく通行料にしただけで、別に僅かな通行料が目当てな訳ではないが、わかったか?取り戻せてよかったですね!なんて笑顔で去ってくの菖蒲様くらいだからな?」

 

「うっ!」

 

「まあだから私が守銭奴になるわけだが。金がなければ甲鉄城は走らんし、噴流弾の材料も買えんし、食糧も買えん。」

 

「いつもお世話になってます。」

 

「結局玄路軍は爆発四散したし、虎落軍もでかい顔できる状態じゃない。海門衆も思ったより死ななかった。のであの決着だ。」

 

「いやでも金はかかってますよね?」

 

「そうだが。…うーん。お前らは信州の領主だ。」

 

「領主…。」

 

「でかい顔して現場を仕切っていたのに、自分で立てた作戦が失敗した上、切り札の兵器と共に爆発四散した臣下のことを考えた上で、金払えってでかい顔できるか?」

 

「うーん。」

 

「今度は私が海門衆だ。お前のところの奴に従って沢山死んだぞ!鳴神が爆発して沢山の家が吹き飛んだ!どうしてくれる!あんな大口叩いておいて全く役にたたなかったじゃないか!なんてやつを送り込んでくれたんだ!」

 

「あわわっ。」

 

「というわけで藪蛇の可能性を考えるとあまりつつきたくない。信州も海門は使いたいしな。」

 

「はあ。」

 

「ちなみに玄路達はうちも保線の援護にあてて削ろうとしてたからな?全く削れなかったわけだが。」

 

「えっ⁉︎」

 

「うちは今拠点はないし、あっても山陰だ。だけど嘴を突っ込まないと保証は出来ない。なら削っておいた方がいい。全滅したらしたで構わんし、残っても保線の援護じゃ大した手柄と言えない。大手柄の玄路と虎落には敵わない。ってことになる筈だっただろうよ。」

 

「なるほど。」

 

「あのうちの出費って…。」

 

「知りたいか?甲鉄城の燃料費、滞在中の食糧費、消費した噴流弾の材料費だけでもそれなりだが?」

 

「…知りたくありません。これから蒸気筒撃つ時躊躇いたくないので…。一発いくらとか聞きたくない。」

 

「次の駅あたりで甲鉄城を分解修理したいらしい。ただでさえ結構きてたのに、最後のあれだ。海門じゃあ流石にできなかったしな。いくらかかると思う?」

 

「乗車してる蒸気鍛治が作業するとして…「倉之助!やめろ!聞きたくない!」

 

「あの…今までの話からすると、我々が顕金駅を奪還する時って…。」

 

「うわっ!怖い!」

 

「いや。ああはならんよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「顕金駅は大きかっただろう?それだけ最初は余力があった。流民の受け入れも顕金駅が一番多かった。それ以外も周囲の駅は多かれ少なかれ顕金駅、というか四方川家には恩がある。海門で景之殿がいなかったのと違ってうちには菖蒲様がいる。さらに、顕金駅はあの辺りで唯一の製鉄の駅だ。」

 

「いやそれさっきの利権の話になるのでは?」

 

「まずは金より段階的な流民の受け入れを条件の一つにする。お前ら顕金駅にいた時流民をどう思ってた?まぁ言わなくていいが。歯に絹着せねば、有体に言って無駄飯ぐらいの犯罪者予備軍の邪魔者だ。」

 

「…まあ。そうなんですが、そこまで言わなくても…。」

 

「だがそもそも流民が働けないのは、その駅の特色にあった技能がないとか、働き口が限られているせいだ。奪還後の顕金駅は腐るほど働き口はある。ただ一気に受け入れは無理だから段階的に行う。」

 

「それだけじゃ足りないのでは?」

 

「当たり前だろ。だが海門と違い他の駅に大きな手柄は立てさせない。少しは頼むかもしれんが、基本的にはうちだけで掃討する。協力願うのは主に物資の融通だ。金はある程度なんとかなる。」

 

「金だけあっても食糧はなかなか…。」

 

「そこで道元様だ。」

 

「脅迫でもするんです?」

 

「もうしてる。」

 

「えっ⁉︎」

 

「半年くらい前に道元様が降りただろ?四方川に縁が深い方が領主の駅だ。その方の協力を得て、既に予鈴は出している。急に言われても困りますとは言わせない。」

 

「怖い怖い。」

 

「それに恩があるって言っただろ?突然訪ねた私や菖蒲様がお前四方川に恩があるよな?っていうより、然るべき家を通して道元様から言って貰う方が怖いだろ?準備期間まであるんだ。わかるだろ?」

 

「怖い!」

 

「まあそんな感じで準備は進んでるから海門みたいな感じにはならん。」

 

「そ…そうですか…。菖蒲様はご存知で?」

 

「知る必要がない。道元様が勝手にやってることだ。我々は知らぬふりで段階的な流民の受け入れの契約をして、金を出し、感謝を込めて礼を言い、後から恩を返せば良い。菖蒲様が心から礼を言えば、半ば脅迫してきた怖い総領ではないとわかる。四方川の為、可愛い姪の為に圧力をかけてきた道元様、という印象は残るが全く持って問題ない。今更道元様に清廉さとかいらんしな。幕府の老中が清廉潔白なわけあるまいよ。菖蒲様には清廉潔白にして勇敢な総領でいていただく。来栖と吉備土も顔に出るから教えない。」

 

「ではなぜ我々に話したので?」

 

「お前ら領主に合わんだろ?それに聞いたのはお前達だろうに。顕金駅を奪還したら、お前達もこういうのに無関係じゃいられないし、引き摺り込むためだよ。」

 

「怖い!」

 

「今回うっかり死ぬところだったし、こういうことも知っておけ。」

 

「やだ!死なないで!」

 

「できる気がしない!」

 

「大丈夫大丈夫。最悪道元様回収できればどうとでもなる。顕金駅奪還前には絶対道元様に会いに行くんだぞ?」

 

「あんた今回死んでたらどうするつもりだったんです⁉︎」

 

「来栖に遺書は預けてあるから、そこに大体書いてあるぞ?指示事項だけだが、定期的に更新してるから大丈夫だ。」

 

「もうやだこの人!」




倉之助は勘定方確定。

広告塔は綺麗じゃないとね!


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【小話】道元様合流

道元様が合流します。


「叔父様!」

 

「菖蒲殿。ご健勝そうでなによりです。」

 

菖蒲と道元が和やかに会話をしている。菖蒲の後ろで来栖は些か緩んだ顔をしているし、最上も嬉しそうにしている。

 

(あれこれ知らなきゃ最上様も懐いてた道元様との再会を喜んでるんだなってしか見えないが…)

(共犯者との再会だからな…)

 

道元が最上をちらりと見やり、最上も笑顔を向ける。

 

(絶対何か通じ合ったぞ今。)

(目と目で会話したな。)

 

「菖蒲殿。領主へ挨拶へ向かいましょう。」

 

「はい。では来栖、最上、吉備土。よろしいですか?」

 

「私は残りますよ。道元様がおられるので来栖と吉備土がいれば充分かと。」

 

「わかりました。では甲鉄城を頼みます。」

 

「はい。お任せ下さい。」

 

菖蒲が来栖達を振り返って声をかけたところ、最上が軽く挙手して辞退をした。最上は普段から護衛というより、いざというときの交渉を担うために同行している節があるので、菖蒲は道元が一緒ということで特に不思議に思うこともなく了承した。

菖蒲達の姿が見えなくなったころ、道元の部下が最上にすっと近寄る。

 

「首尾は如何です?」

 

「最低基準は越えています。もう少し上回りたかったのですが力及ばず。」

 

「菖蒲様はお優しいですからね。」

 

「ご理解いただけて何よりです。」

 

最上と道元の部下は横並びで会話している。

 

(絶対金の話だ。)

(すごい稼いでるって思ってたけど最低基準なの?)

(いったいいくら稼ぐつもりだったんだ?)

 

「何人です?」

 

「3人くらいですかね。」

 

道元の部下は武士達をちらりと見て最上に質問した。

 

(なにが3人⁉︎)

(怖い!)

(まて算盤教室が残り3人じゃなかったか?)

(勘定とか言ってないのに通じ合ってる!)

(それだけ重要ということか?)

(えっ⁉︎そうなんですか?)

(頑張れ未来の勘定奉行。)

(やめてください!)

 

武士達がコソコソと会話している間2人の会話が続く。

 

「そちらはどうでした?」

 

「とりあえず一通りは。どこも余裕はありませんが捻出できるかと。」

 

「それはそれは。流石は道元様ですね。」

 

(知ってるこれ。食糧の話だ。)

(脅迫が順調ってこと⁉︎)

(…そういうことだろうな。)

(一通り脅迫したんだ…。)

 

「そうだ。阿幸地殿!」

 

「っ⁉︎…なんだね?」

 

最上が阿幸地を呼びつけたため、少し離れたところにいた阿幸地が、小走りで最上のところへやってきた。

 

(阿幸地殿可哀想。)

(いや阿幸地殿なら大丈夫。たぶん。)

 

「近々貴方達をまた六頭領にしておきたい。候補はいるか?」

 

「…経験不足は否めませんが、まぁ出来ないことはないかと。」

 

「それは何より。よく教育しておいて欲しい。」

 

阿幸地の回答に、最上と道元の部下が薄い笑みを浮かべる。

 

(怖っ⁉︎えっ?なに?今4人だから2人増やせって?)

(頑張れ阿幸地殿!)

(あれか?もう奪還後の流民対策か?まだ顕金駅に着いてすらいないが?)

(着いてからじゃ遅いんだろ。)

 

「阿幸地殿。この駅は受け入れ確実だ。民人達に準備をさせておいてくれ。」

 

「わかった。」

 

阿幸地はさっさと退散した。

 

「しかし本当に武力提供はよいのですか?」

 

「問題ありません。むしろまともに交戦したことのない者達を入れるくらいならいない方がましです。手柄を求めて余計な真似をされては堪りませんし。」

 

「なるほど。」

 

「初期は専守防衛に努めてもカバネが釣れるでしょうから、守る対象は少ないに限ります。甲鉄城一城で充分餌になりますから。」

 

(餌って言った!)

(甲鉄城に群がるカバネを殺す。ってことでいいんだな?)

(いつも通りでは?)

(確かに。言い方が悪いだけだな。)

(最上様はああいう言い回ししなきゃ吉備土とも上手くいくと思うんだがな。)

(最上様は菖蒲様とか吉備土みたいなタイプと根本的に相容れないからなぁ。)

(でも菖蒲様には気を遣ってるじゃないか。)

(吉備土に気を遣う必要ないってことだろ。)

(それはそう。)

 

「とはいえ完全封鎖後に食糧を追加搬入する駿城は必要です。候補はありますか?」

 

「二駅程なら都合がつきます。」

 

「見返りは?」

 

「堅将様に大恩ある駅です。食糧の供出量の予定はいまいちですが、搬送に協力したいと。まあ多少燃料費は出すようでしょうが。」

 

「いいですね。いずれにせよ搬送は必要です。食糧に支払う分が燃料にいくだけなら問題ありません。供出量が少ないなら他の駅ともとんとんですみます。」

 

最上も道元の部下も何気ない顔でとんでもない話を進めているが、遠くから見たら穏やかに世間話でもしているように見える。

 

(これが上侍。)

(いや一部の特殊な例だと思う。)

(確かに。)

 

「では話を詰めましょうか。こちらへ。」

 

「失礼します。」

 

最上の案内で道元の部下が甲鉄城内に入っていく。

 

(道元様がいないのにこれって。道元様と最上様が話してる時は近寄らんようにしよう。)

(カルガモの子みたいに見えたあの時からこんな会話してたってことだろ?怖すぎるわ。)

(ちょっと微笑ましい光景だって思ってた。)

(離れて眺める分には微笑ましいだろ。)

(どういう話してるか想像しちゃうからもうそんな目で見れない…。)

 




菖蒲様はなんだかんだ総領としての教育を受けているので、ホモ君が非人道的なことを言っても嫌ったりはしません。必要なことなのは分かるので。採用するかは別ですが。
吉備土はただのお人好しなので、ホモ君の偽悪ムーブがダイレクトに効きます。
克城のことがあるので、ホモ君は一応吉備土が居ない時に腹黒発言をするようにしてます。嫌われたくないわけじゃなくて面倒なので。必要悪が理解できない奴とは必要がなければ話したくないから。
ホモ君の中で吉備土は善人だが駒として無能。来栖がいる時は駒として有効。みたいな立ち位置。
他の武士達は、ちょいちょい構ってくるので相手してたら、こいつら別に(吉備土程は)善人じゃねぇなって理解したので、先のことを考えて色々教えとこう。って感じです。
一応仲良くなってますが、菖蒲様と来栖がいない場面という前提では信頼はしません。どちらかいればちゃんと動くだろうなとは思ってるので、2人が不在じゃなければ信頼はあります。

なんやかんや続けてますが、本編しか書き溜めてなかったので矛盾が出てきたりしたらごめんなさい。


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【小話】お医者さん3

奪還作戦は書き切らないとちょっと載せられないので別話。


道元が1人の女性を伴ってきて菖蒲達に紹介した。

仁助や樵人あたりと同じくらいの年頃の、落ち着いた雰囲気の女性である。

 

「こちら医者の楓殿だ。腕は良いが女性故になかなか苦労していてな。甲鉄城ならば女性か否かは評価基準にはなるまい。」

 

「楓と申します。よろしくお願いいたします。」

 

「まあ。女性のお医者様は珍しいですね。どうぞよろしくお願いします。」

 

「菖蒲様が女性ですので、医者が女性なのは助かります。よろしくお願いいたします。」

 

(最上様大歓喜じゃん。)

(私はお役御免かな?)

(仁助。それは無理だ。どうせ前線じゃ最上様とお前だ。)

(よく医者なんか捕まえたな。道元様。)

(女性はなかなか身を立てるの難しいからなぁ。上手くいけば四方川家の御殿医だな。)

(うちじゃ女が出しゃばるな。とはならんからな。)

(確かに。菖蒲様がいるし、何より最上様が絶対死守するぞ。)

(楓殿に失礼をしたら菖蒲様に怒られるどころか、もれなく道元様と最上様も出てくるのか…失礼のないようにしなくては。)

 

「楓殿。引き継ぎをしてもよろしいですか?」

 

「あら。こちらの方は医者ですか?」

 

「いえ。最上は武士です。ですがうちでは一番医学に明るいので、お医者様の代わりをしていました。」

 

「そうでしたか。よろしくお願いします。」

 

「聞き齧りの知識で対応しておりましたので本職の方は大歓迎ですよ。ではこちらへ。仁助も着いてこい。」

 

「えっ?私もですか?」

 

最上が楓と少し戸惑い気味の仁助を伴って甲鉄城へと入って行く。最上の機嫌は大変良さそうだ。

 

「医者と医者代行2人の会話とか絶対ついていけないだろ…可哀想に…。」

 

「仁助。お前のことは忘れないぞ。」

 

「南無三。」

 

樵人達は甲鉄城に合掌した。

 

半刻程して最上だけが武士達のところに戻ってきた。

 

「あれ?仁助はどうしたんです?」

 

「置いてきた。楓殿にご教示いただいてる。」

 

「あんたはいいんですか?」

 

「楓殿が仁助と年頃が近いから、仲良くなってもらってあわよくばと思ってな。」

 

「「えっ⁉︎」」

 

「いや2人次第だがな?本人には言うなよ。女性は下心に聡いからな。」

 

「えっ⁉︎」

 

「本気ですか⁉︎」

 

「なんで仁助⁉︎俺たちだっていいじゃないですか。」

 

「共通の話題がないだろう。それに別に積極的に交際を推奨してるわけでもない。引き継ぎ中に、もしかして丁度いいかな?って思っただけで。」

 

「最上様もそんなこと思うんですね。」

 

「四方川の臣下と医者が結婚したら、臣下に医者の家系ができるじゃないか。」

 

「丁度いいってそういうこと⁉︎」

 

「医者の家系…。話が先過ぎる。」

 

「まあ上手くいかなきゃ早々に離すさ。とりあえず初歩的なことの教示を頼んだだけだし。段階的にする予定だから、駄目そうな時は教示を終了すれば良いだけだからな。」

 

「どんな顔したらいいかわからない。」

 

「普通にしてろ。」

 

「だって仁助が…。」

 

「お前らは色恋好きの女子か。くっつきもせんうちからそわそわするな。」

 

「しかし意外です。強制的にくっつけたりはしないんですね。」

 

「やっと確保した医者を誰が逃すか。楓殿には可能な限り気を遣う。楓殿が他の武士がいいなら仁助はどうあれそっちを斡旋する。」

 

「斡旋…。」

 

「仁助ぇ…。」

 

「仁助は物静かなほうだから、合うとは思うんだが楓殿の好みは知らんしな。」

 

「万が一楓殿が来栖に惚れたらどうします?」

 

「道元様と菖蒲様に仲人をしてもらう。」

 

「菖蒲様⁉︎鬼かあんたは!」

 

「菖蒲様が来栖と添い遂げたいならその限りではないが、そうではないなら知ったことではないな。」

 

「鬼畜だ。鬼畜がいる。」

 

「最上様が良いって言ったらどうしますか?」

 

「ひと回りくらい違うがまぁそれはそれで構わない。」

 

「いいんだ⁉︎」

 

「政略的に有効なら断る理由がないな。」

 

「夢も希望もねぇ…。」

 

「結婚に夢を見てるのか?政略結婚が普通では?」

 

「そうだよ。この人上侍だったよ。」

 

「逃げられたら困るから楓殿には気を遣ってるつもりだがな。…もしかして仁助には既に相手がいたりするか?流石に既にいるならやめておくが。」

 

「いませんけど。」

 

「なら暫く様子見だな。」

 

「ちょっとだけ優しさが垣間見えたな。」

 

 

この後仁助は武士達から無言でどつかれた。




楓さんは今後メインに食い込む予定はありません。
機会があればちょっとは使うかもですが…。

道元様セレクション。
女性ゆえに評価を得られないとか、次男とかで要職につけるか怪しい人を勧誘してます。(駅内の限られた要職はそこまでぽんぽん空かないと思うし、上手くやれば大出世可能な顕金駅は、出身地より可能性があると思って書いてます。老中出してる家柄なので、四方川家はかなり家格は高いと思ってます。)


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【小話】実力の話

ホモ君の実力ってどんなもん?って話です。
今、奪還作戦書いてます。お気に召すかは分かりませんが。


雅客はふと気になったことを来栖に聞いてみることにした。

 

「最上様って普通に弱くはないよな。」

 

「そうだな。技術もある。速さなら己より少し速いしな。」

 

「えっ⁉︎お前より速いの⁉︎」

 

「速いぞ?全くついていけないほど速い訳じゃないが。」

 

「当たり前だわ。お前がついていけない速度出てたらもう人間じゃねぇよ。」

 

「だが速いだけだ。臂力がない。技術があっても、1合目からこちらが押し込んでしまえば、体勢が崩れる。最上は守勢に回らせれば押し切れる。いくら速くとも、体勢が崩れた状態からの攻撃は恐るるに足らん。先の先さえ取らせなければ、攻勢に回られることはない。最上は好戦的な質ではないし、並の相手なら後の先で充分だったからか先の先をとる戦い方はしないな。」

 

「なんだかんだ生駒と一緒にボロボロになってることが多いからどうなのかと思ってた。」

 

「生駒は技術がない。カバネリの身体能力と耐久力で戦っている。最近技術が追いつき始めてきたが。」

 

「生駒と最上様どっちが強い?」

 

「2人が戦うなら、殺すことが目的なら最上だな。制圧が目的なら生駒だ。己や無名は最上の攻撃を捌けるが、生駒は受け止めるまでだろう。最上は己と違い一刀で殺す剣術ではない。手数が多い。受け止めるのは悪手だ。捌く時にこちらの調子に巻き込まなければ攻勢には回れない。まあ制圧でも手足の腱をずたずたにして制圧出来るかもしれんが、長時間の拘束は最上には出来ない。最上の打突は軽いからな。昏倒させても短時間になるだろう。」

 

「へぇ。そういう感じなんだ。」

 

「本当なら、最上が生駒に戦い方を教えるのが一番いいのだ。生駒は身体で覚えるというより、理論で理解して身体の動かし方を覚える方が早い。己や無名より最上の方が理論的に教えられる。まあ最上は絶対に生駒には教えないがな。」

 

「忙しいから?」

 

「いざという時に、生駒を殺せる可能性を高くしておくためだな。」

 

「えぇ…。」

 

「己がいない時に、生駒がカバネにのまれれば、最上が殺すしかない。最初から殺す気でかかるなら最上は殺せる。無名も己もいない場なら、説得抜きで最短時間で殺しにかかるぞ。」

 

「狩方衆の瓜生は?」

 

「あれは己と最上の間くらいの能力だな。最上ほど速くはないが、最上より臂力がある。カバネ相手なら瓜生の方が安定して強いな。瓜生と最上ならば、同格くらいだな。瓜生は最上より臂力はあるが、最上の体勢を崩し切れるほど重い攻撃ではない。」

 

「なるほど。」

 

「まあ、カバネ相手だと最上は単純に臂力負けしやすいから、あっちへころころ、こっちへころころと転がされたりしてボロボロになるわけだ。本人も下手に力負けして叩き切られるくらいなら、吹っ飛んで距離を取ることを選んでるからよく飛ぶのもある。もう少し身の丈が大きくなって、目方が増えれば化けるぞ?」

 

「今でも俺たちからしたら充分強いけど⁉︎」

 

「今の最上の戦い方はあまり防衛や護衛向きじゃない。もう少し目方が増えて、安定して戦えるようになってくれないとな。とはいえあの戦い方だからこそ顕金駅で甲鉄城にたどり着いたんだろうが。」

 

「ん?」

 

「最上が臂力で勝てる相手など、上侍にも殆どいなかっただろうからな。そもそも回避や受け流すのが上手い。その上、擦り抜けざまに腱を切ったりする戦法は、カバネを殺す手段のなかったあの時は、最も有効な戦い方だっただろう。」

 

「ちなみに最上様が来栖相手に先の先をとった場合は?」

 

「一撃目で致命傷さえ負わされなければ己が勝つな。」

 

「待った!一撃目でお前が負ける可能性あるの⁉︎」

 

「ないわけではない。あれが負傷覚悟で先の先で狙うなら、間違いなく致命の一撃だ。というかあれが己を殺そうと考えた時点で正面から来るとは思えんがな。暗殺しにきそうだ。ただ最上は四方川家の利益を第一としている。己が敵対する理由がないから、特に警戒する必要もない。」

 

「暗殺…。まぁ確かに、いざ尋常に勝負!とは来ないだろうな。損害なく殺せる手段があるのに、なんでわざわざ相討ち覚悟の一騎討ちすると思う?とか言いそうだわ。」

 

 

雅客は大正解である。




対人間相手なら結構強いです。上侍で1、2を争う実力設定でしたので。
瓜生はハイパー捏造!海門では出せませんでしたが甲鉄城に乗ってます。普段はホモ君と物騒な軽口叩き合ったりしてます。別に喧嘩するわけじゃなく、皮肉に皮肉で返してくるのをお互い楽しんでやってます。
瓜生も吉備土あたりとは相性悪いと思います。
なので来栖もホモ君も、基本的に吉備土と瓜生は一緒に運用しません。
なにやらホモ君と爆速で仲良くなった瓜生に、雅客はちょっとギリィってしてますが、何かあれば普通に説得なしにぶち殺しに行く関係性です。


うちの甲鉄城前衛戦力ランキング(対カバネ)
1.無名、来栖
2.瓜生、生駒(むらっ気があるので上がったり下がったり)
3.ホモ君(不動の最下位)


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顕金駅奪還作戦 作戦会議

顕金駅奪還作戦始めます。
色々無理あったりするかもしれません。
生暖かく見守っていただければ幸いです。


「皆さん!とうとうこの日が参りました!我々の故郷顕金駅を奪還するための作戦会議を開始致します!それでは最上。作戦の概要をお願いします。」

 

顕金駅の手前の宍道駅で操車場の一部を間借りしての作戦会議が始まった。

作戦会議には、直接戦闘には参加しない民人も参加している。

 

「はい。それでは私から作戦の概要を説明させてもらう。まず西門についてだ。西門は扶桑城が突っ込んで、扶桑城の爆発に巻き込まれている。道元様が集めた情報だと跳ね橋は落ちているとのことだ。しかしながらその情報が正確かどうかはかなり重要だ。よって西門の状況をまず確認する。西門の跳ね橋が落ちていればよし。落ちていなかった場合、上がるとは思わんし上げた者は駅内に残らなければならなくなる。その為一度跳ね橋を破壊する。一度西側に大きく回り込んで西門を確認する。」

 

「我々が脱出した東門から入って西門に行くのでは駄目なのですか?」

 

樵人がもっともな質問をする。西門に回り込んで戻るなど、1日がかりになるからだ。

 

「恐らく線路を扶桑城が塞いでいる。扶桑城の状況がわからない以上その方法は取れない。この中に西門及び扶桑城の状況を把握している者はいるか?いなければ話を続ける。」

 

会議に参加している者達は周りを見渡すだけで、誰も発言しようという者はいなかった。

 

「いないようだな。では続ける。跳ね橋が落ちているのを確認、若しくは破壊後、一度この駅に引き上げ、翌日、東門まで行き駅内に進入し跳ね橋を上げる。これでカバネが増えることはなくなる。」

 

「あの。」

 

生駒が手を挙げて発言を申し出た。

 

「なんだ?」

 

「他の駅に協力を仰いで西門をお願いするのは駄目なんですか?」

 

「跳ね橋の破壊をしなければならない場合が厳しいな。西門手前はトンネルだ。トンネルを抜けてからでは、四八式のような砲では距離が近すぎて使えない。もっと距離があれば曲射でもなんでもさせるがな。破壊工作の必要が出た場合、通常のカバネ相手も怪しい者達には任せられない。ワザトリでも出てみろ協力してくれた駿城を一城失うことになるぞ。我々基準で考えるな。顕金駅から脱出した頃のカバネリと来栖抜きの我々の戦力で考えろ。」

 

(さらっと来栖も抜いたな。)

 

武士達何人かがちらりと来栖を確認したが、来栖は特に文句はないらしい。人扱いされてないのに気がついてないのか、気にしていないのかわからないが掘り下げる必要もないので誰もなにも言わなかった。

 

「あっ!なら壁外の桟道橋はどうですか?あれなら壁沿いですから出直さずに東門から西門に行けます。検閲所に桟道橋用の車両があります。部隊を分ければ西門と東門を同時に進められます。」

 

「ここで部隊を分けるのは無しだ。融合群体が出た場合対応出来ない。最悪西門へ向かった奴らを見殺しにする可能性があるぞ。」

 

「ゔっ…。」

 

「話を戻す。東門の跳ね橋を上げたらカバネが集まるのを暫し待つ。集まれば跳ね橋前にてある程度掃討する。半刻を目安にする。集まらなければ操車場に行く。」

 

「操車場に行ったら全方位を囲まれるのではないか?」

 

阿幸地が手を挙げながら質問した。

 

「その通りだな。」

 

「いくら戦力があっても全方位は守り続けられまい!」

 

「だから操車場でカバネを殺せるだけ殺して完全に包囲される前に跳ね橋まで引き連れて行く。奴らは仲間を殺されれば怒るのだろう?ならば怒らせて跳ね橋前で掃討する。跳ね橋前なら陸橋だ。側面からの攻撃はあまり気にせず掃討できる。この時武士は班分けをして運用する。恐らく手は足りるはずだ。1日目は跳ね橋前で泊まり込みになる。カバネリ2人はある程度の突出を認める。戻れる範囲でな。これを何度か繰り返す。かかりが悪くなったら操車場を抑えるが、いくらかかりが悪くなるのが早くなっても、跳ね橋前で1日目の夜は過ごす。夜に操車場は抑えに行かない。操車場は遮蔽物が多く、視界が悪いと危険だからな。やるなら日が昇ってからだ。」

 

「うむ…。」

 

「ここで蒸気鍛治に質問だが、建造中の駿城は整備場に何両ある?完全に閉鎖できる物に限って報告しろ。」

 

「えっ?何両あった?」

 

「1…2…5両かなぁ…。」

 

「それ東出入り口のやつも入れたか?それはまだ扉ついてないところあるぞ。」

 

「じゃあ4両か?」

 

「4両も怪しいか?なら3両想定でいく。まず操車場の扇型車庫を封鎖する。封鎖作業は戦力を全て投入して速やかに行う。扇型車庫を封鎖したら閉鎖できる3両を作業車両で移動して、扇型車庫前の線路脇に掩体壕として設置する。掩体壕は民人の中で蒸気筒を扱える者に使わせる。さらにそれより外側に操車場内の資材などで阻塞を設置。全ての作業を終えたら扇型車庫を拠点とする。これを東門からの進入後3日以内に行う。不可能であった場合作戦を一時中断して引き「引き返すって言うんですか⁉︎」

 

「生駒。落ち着け。お前の悪い癖だな。」

 

「そこまでやっておいて引き返すなんて!」

 

「生駒やめろって。」

 

巣刈が生駒の袖を引くが、生駒は止まらない。

 

「……。」

 

「東門の跳ね橋を下ろして撤退したらまたカバネが入ってくる!外に出たら跳ね橋を上げられない!」

 

「生駒。顕金駅の人口を知ってるか?」

 

「はっ?」

 

「だから顕金駅の人口だ。」

 

「えっと3000くらいですか?」

 

「流民まで入れて4300くらいだ。」

 

「それがなんだって言うんですか?」

 

「扶桑城は何人くらい乗ってたと思う?扶桑城はうちと違って通常運行中だった。」

 

「だから!「何人だ?」

 

「…100くらいですか?」

 

「たぶんもう少しいるな。150人としよう。取り付いてたカバネも多めに入れて200。顕金駅脱出当初甲鉄城に何人くらい乗ってたと思う?」

 

「300くらいですか?」

 

「それは今の人数だな。八代駅手前で死んだり、駅で降ろしたりしたから顕金駅出身の民人は今それくらいだ。元は大体400いた。単純計算で4300引く400足す200だ。何人だ?」

 

「4100人です。」

 

「顕金駅に残された人間が全員カバネとなっていた場合は、その人数のカバネがいたことになる。カバネは血を求めて動くわけだが、いつまでも駅に留まる必要はあるか?」

 

「ない…ですけど…。」

 

「駅に餌はいない。となれば外に出る。顕金駅が堕ちたことが周辺に広がってからは駿城も立ち寄ってないはずだ。周辺最大の駅だぞ。そんなカバネの巣に立ち寄りたい駿城などいるものか。融合群体の思考回路はわからん。融合群体が巣にでもしてなければカバネの数はその程度の筈。お前と無名殿と来栖で、半日でカバネを何体殺せる?武士達で何体殺せる?」

 

「えっと…。」

 

「完全に封鎖してしまった後なら3日でかなり殺している筈なんだ。それなのに3日で先程の行程をこなせなければ異常事態だ。融合群体の心臓がいる可能性が高い。下手に粘って東門の跳ね橋を壊されてみろ。袋のネズミはカバネではなく我々になるぞ。跳ね橋は西門と東門にしかないからな。」

 

「…。」

 

「八代駅、金剛郭、海門で融合群体を見たせいで感覚が狂うのは分かるが、普通人のいなくなった駅にカバネが居座る理由はない。金剛郭は事情が違うが、八代駅と海門には人がいた。人がいないなら少なくとも増える理由はない。あるなら融合群体の心臓ができた場合だ。ここまではいいか?」

 

「…はい。」

 

「3日以内で行程をこなせなかった場合は融合群体有りとして、この駅に民人約200人客車2両を預かって貰い、甲鉄城は出来るだけ軽くしておく。我々は跳ね橋を下ろしたままカバネの巣を捜索し砲撃してカバネを刺激。融合群体を発生させた後融合群体を連れて脱出。融合群体は駅外に釣り出す。駅を大量破壊することになるから嫌だが、巨大な堀に囲まれた顕金駅に閉じ込められるのはごめんなのでね。融合群体は駅の外でぶち殺せば良い。わかるか?3日で行程を終えられないということは融合群体の心臓がいる。融合群体がいるなら、出直して駅外で殺す。異論は?」

 

「ありません。」

 

「そも融合群体を知っていても、無名殿は八代駅で初めて見たんだろう?狩方衆にいた無名殿がだ。我々とて金剛郭から約半年、海門まで見ていないではないか。そんなしょっちゅう発生してたら日の本はもう滅んでるぞ。だから基本的には融合群体は発生してない想定での作戦を説明している。一時中断する時は融合群体がいる時だ。話を続けていいか?まだ何かあるなら言っておけ。」

 

「ないです。」

 

「そうか。お前はすぐ感情的になるな。話は聞く。続けるぞ。」

 

「はい。」

 

「生駒。怒られてんじゃん。」

 

「うるさい。」

 

生駒が無名に揶揄われている。随分落ち着いたようだ。

 

「東門から進入して4日目にこの駅の駿城が物資の搬入に来る。拠点に戦力を残しつつ、甲鉄城で跳ね橋を下ろしに行く。扇型車庫に物資を搬入したらこの駅の駿城にはご退場いただく。そこからは地味に掃討して行くしかないな。普通の者達は無理だがうちにはカバネリがいるからな。カバネの探知には困らんだろ。4100体というと途方もない数に聞こえるが、こちらも単純計算だが武士は凡そ90名。狩方衆15名。1人あたり5体殺すと525体殺してる計算だ。無名殿や来栖、生駒、瓜生などこちらが1体殺す間に5体は殺すだろ?こちらが5体殺した時には25体、4人で100体。全体で625体。決して掃討不可能な数ではない。一日当たり625だとしても7日でお釣りがくる。」

 

「もっと倒せるし。」

 

無名がふくれっ面で抗議する。

 

「わかっている。単純計算だと言っただろう?武士だって5体殺すのに人それぞれ時間差は結構あるし、全員をずっと運用する訳じゃない。轢き殺すやつもいる。ワザトリだっているかもしれない。条件は様々だ。最初の一日はすぐに戻れるように目視範囲内とはするがカバネリ2人は突出していいんだ。好きなだけ殺してくれ。拠点設置後もカバネリ2人がいなければ捜索にかなり時間を取られるが、2人の協力があれば確実迅速に捜索を行える。全行程で長くて20日くらいだ。」

 

「長くて20日…。」

 

「ひと月くらいかかると思ってた。」

 

「そんなに上手くいくか?」

 

「海門のように指揮官をやれる奴がいれば無理だな。基本的にはカバネは馬鹿だ。初日で相当数は釣れる筈だ。血に飢えてる筈だからな。釣れなきゃ指揮が出来るカバネリでもいることになる。そうなったら少数精鋭でカバネリ叩きだな。作戦は完全に崩壊するわけだが。まあそれはそれだ。」

 

「それはそれって…。」

 

「簡単にまとめると、まず西門を確認。一度戻って翌日東門。東門に入ったら近くのカバネを殺す。いなくなったら操車場でカバネを殺す。完全に囲まれる前に東門に戻ってついてきたカバネを殺す。操車場と東門の行き来を繰り返す。東門で1晩。翌日早ければ操車場を抑える。無理そうなら1日目と同じ。3日目は操車場を抑える。これで抑えられなきゃ融合群体の恐れありで一時中断。抑えたら4日目に物資搬入。って流れだ。」

 

「よかった簡単にしてくれて。途中からよくわからなくなってたから。」

 

「作戦なんてその場で変わるかもしれん。だが予定通り進むならこれでいく。それと戦闘に参加する者達は覚悟しておけ。戦場は顕金駅だ。知った顔が襲って来る。躊躇うな。殺せ。あれらはカバネだ。もうお前らの家族ではない。友人ではない。こちらを食らうカバネなのだ。さっさと輪廻に送ってやれ。」

 

作戦の概要の説明が終わった。なにやら最後は演説じみた内容ではあったがその通りでしかない。顕金駅は故郷なのだ。誰かしらの家族、友人知人なのは確かなのだから。




顕金駅の人口は四八式鎮守砲に因んで、日本の村の人口48番目のところを目安にしました。アニメの最初の頃を見る限り駅内に田んぼも製鉄所もあって、小説を見る限り採掘もしてるので、あのサイズ感の駅に万単位はちょっと厳しいかなと思ったので。最初は村の中央値を取ろうとしたんですが2500くらいだったので変更しました。

顕金駅の詳細についてはここからハイパー捏造タイムに入ります。ご容赦ください。


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顕金駅奪還作戦 1

手前の駅の名前ですが、宍道湖からいただきました。
宍道(しんじ)駅となってます。


作戦初日。予定通り西門の様子を確認するため、甲鉄城は大きく南周りに回り込む形で進路をとっていた。

 

「跳ね橋が完全に残っていた場合どうするんですか?」

 

「甲鉄城が入れるなら中の偵察をしてもいい。扶桑城が線路を全く塞いでおらず、跳ね橋が上げられるなら西門を閉じてそのまま東門へ進行する。望み薄だがな。」

 

「一度戻る想定なのに、そんなことして大丈夫なんですか?」

 

「問題ない。あくまで食糧の搬入の手筈は、日付け指定になっている。不測の事態に備えて甲鉄城に食糧は充分積んであるし、搬入を任されている駿城は東門が上がっていれば、必ず指定した日付けに東門前で警笛を鳴らす。そういう契約だ。まあ駅では道元様が待っているかもしれんが、定刻に来なければ察していただけるだろう。」

 

「なるほど。」

 

倉之助の疑問に最上が回答し、続けて来栖が疑問をぶつける。

 

「跳ね橋の破壊方法はどうなっている?」

 

「5割以上残っていれば火薬樽を使う。以下なら擲弾発射器だな。」

 

「擲弾発射器?」

 

「海門で吉備土が試射しただろ?あれだ。」

 

「なるほど。」

 

「鈴木殿は天才だな。顕金駅が再興したら是非兵器開発に勤しんで欲しい。再興したところでカバネを殺さねば我々に未来はない。使う者を選ばない兵器は必要だ。」

 

最上は鈴木を手放しで褒める。今でも鈴木や生駒が企画書を持ち込めば、可能な限り資金を提供しているだけのことはある。生駒のツラヌキ筒の普及は、使い手を選ぶとのことで叶わなかったが。

 

半日をかけて西門にたどり着いた。トンネルを抜けた先には、損傷し3割ほど残っている跳ね橋が確認できた。

 

「まあこんなことだろうと思っていたよ。通行できない以上落ちていると評して差し支えない。だがそれは駿城に限ったことであり、カバネは通行可能だ。吉備土。出来るだけ跳ね橋の根元から破壊してくれ。」

 

「わかった。」

 

鈴木と吉備土が発射準備を進め、武士達は周囲の警戒に努めた。

擲弾が発射され、一発で跳ね橋の残骸は堀へと落下していった。

 

「西門はこれにて終了だ。宍道駅に戻るぞ。」

 

西門付近の壁は大きく壊れ、扶桑城が折り重なるように横たわっている隙間から、駅内が少しだけ確認できた。

顕金駅に戻ってきたというのに、入ることは叶わず、破壊工作だけを実施して離れなければならないことに、悔しさは感じるものの、ここから奪還作戦が始まるのだと武士達は奮起した。

 

 

宍道駅に戻ると操車場で道元と領主が待ち構えていた。

 

「菖蒲殿。如何でしたか?」

 

「跳ね橋が3割ほど残存しておりましたので、完全に落として参りました。当時は西門の状況を知ることは叶いませんでしたが、あのようなことになっていたとは…。」

 

菖蒲が沈痛の面持ちで説明した。

 

「いくら損傷が激しいとはいえ、破壊せねばならなかったのは、お辛かったことでしょう。しかし明日からが大事です。今日は英気を養われるとよろしいかと。」

 

「そうですね。そうさせていただきます。領主様にも大変お世話になります。」

 

「いえこちらこそ、こんな協力しか出来ませぬ故。」

 

「そのようなことを言わないで下さい。とても助かっております。」

 

菖蒲が、大変申し訳なさそうに頭を下げているのを見て、慌てて領主も頭を下げる。

 

(菖蒲様は真っ白だからな。戸惑ってるんだろうなぁ。)

(怖いのは道元様だけだからな。領主の認識では。…うちにも怖いのがいるが。)

 

武士達は微塵も顔には出さないが、最上から色々聞いていたため、領主の反応を察した。事情を知らぬ来栖達は随分と腰の低い領主だと思っていることだろう。

 

 

翌朝早く、甲鉄城は宍道駅の領主と道元が見送る中、顕金駅へと出立した。

 

甲鉄城が東門に着くと、脱出した時のまま跳ね橋は下りており、甲鉄城を中へと迎え入れた。検閲所内に入り生駒と無名で跳ね橋を上げた。まずは検閲所が拠点となるため検閲所内にいた僅かなカバネを掃討し封鎖を実施した。

検閲所内にはカバネのみならず、人の死体も放置され悪臭を放っていた。検閲所には駿城洗浄用の設備があるため、一部の武士と蒸気鍛治が洗浄を実施する運びとなった。その間に生駒、無名、来栖、狩方衆、武士達が甲鉄城と共に陸橋へと進出した。陸橋上には何体かカバネがおり、向かってくるものを掃討。陸橋をよじ登って来るものも同様に掃討した。

 

半刻ほど散発的にやって来るカバネを殺していたが、検閲所内の洗浄も一区切りついたため、検閲所を封鎖し全員が乗車した。武士達は車上を陣取り甲鉄城を守りながら操車場へと向かうことになった。

 

「検閲所及びその周辺でおよそ30。まあ悪くはない。」

 

最上がぽつりと呟いた。車上で眺めていたと思えば、数を数えていたようだ。

 

「お前呑気に数など数えていたのか。」

 

来栖が呆れた視線を最上に投げるが、どこ吹く風と聞き流していた。

甲鉄城で時折カバネを轢き潰し、武士達が迎撃しながら操車場の少し手前に到着した。操車場にはぽつりぽつりとカバネがいるのみで、そこまで数は見て取れない。

最上が無名に陶器の瓶を手渡した。

 

「なにこれ?」

 

「中に血が入っている。あの看板まで投げられるか?」

 

「余裕!むしろ扇型車庫も越えられるよ。」

 

「そこまでの遠投は望んでない。あの看板あたりで頼む。」

 

人ならば中々遠くにある看板だが無名には物足りないほどであった。というのも無名が人ですら遠投できるのを最上は知らなかった。なにせ遠投された時、気絶していたので。

 

「よいしょっと。」

 

軽い調子で投げられた陶器の瓶は、とんでもない速度で看板にぶち当たり、陶器の瓶は弾け飛び看板は曲がった。

 

「……想像と違ったが、まあいいか。」

 

甲鉄城の人の気配と、撒かれた血の匂いに釣られてカバネが集まってきた。

 

「警笛が撤収の合図だ。以上。戦闘開始!菖蒲様撤収指示は任せます。」

 

端的な指示にカバネリ2人と来栖が飛び出した。最上や瓜生も車上からは降りたが、援護の届く範囲内で対応していた。飛び出した3人が散開しつつも前方に展開したため、最上は右翼後方、瓜生が左翼後方を担当した。

撤収指示は菖蒲がするため、車上にて蒸気弓を使いながら周囲を観察している。

 

当初の予定では包囲される前に、跳ね橋前までカバネを釣り出すつもりでいたが、血を撒いた前方に散開した3人がばっさばっさとカバネを殺すものだから、甲鉄城より前方の3人にカバネが集中している。

 

(おかしいな。ちょっと想定と違うんだが…まあいいか。)

 

最上はちらりと前方を見て考えるのをやめた。前方を心配するより、自分の方が危ないからだ。

来栖ほどの腕は無く、カバネリのような耐久性もないので余所に気を配る余裕はない。武士達は甲鉄城の守りと最上の援護。狩方衆は瓜生の援護で忙しい。前方の3人が少しずつ後退してきたのを見て、菖蒲は伝令の服部に指示を出す。服部が侑那に指示を伝え警笛が鳴らされた。最上と瓜生が車上に上がると援護を担当していた武士が前方の撤退の援護に回った。

3人はまだまだ余裕そうな顔で撤収してきた。生駒だけ少々やられたようだが、無名と来栖はカバネと戦ってきたようには見えない綺麗さである。

最上と瓜生は来栖をじとりと見ていた。

 

「忠犬じゃなくて狂犬だったか?」

 

「磐戸駅から駿城なしで金剛郭まで追いついてくる奴だからな。」

 

「そうだったな。ところで子犬ちゃんは何体やった?」

 

「10かな。援護があるから、言い切るのは憚られるんだが。」

 

「へぇ。意外とやるよなお前。最初は糞弱いフリしてたのに。」

 

「特別強いわけではないのでね。美馬に警戒されないに越したことはなかったからな。」

 

甲鉄城がカバネを引き連れ後退していく中、瓜生と最上が軽口を叩く。

最上は蒸気筒に持ち替えて、線路脇の家から飛びかかるカバネを撃ち抜いた。

 

「邪魔だなぁ。家。焼いたら駄目かな。」

 

「お前意外と過激だな。駄目だろ。たぶん。」

 

最上の放火希望に武士達が突っ込む前に、瓜生が突っ込んでいた。

狩方衆にいたのでやり方を全否定はしないが、作戦会議で駅をなるべく壊したくないような発言をしておいて、ちょっと邪魔だし家を焼いたら駄目かな?みたいな発言には引いた。

 

陸橋を進み検閲所を背にカバネを迎撃していく。陸橋は幅が狭いので無名、生駒、来栖が交代で前衛を務めた。無名や来栖が担当すると一体も抜けてこないため、援護のためにいた武士達は陸橋をよじ登ってくるカバネの相手に注力した。

陸橋上を進んでくるカバネが散発的になると、最上と瓜生が前衛を務め、武士達が援護に回る。

その間に主力3人は長めの休憩である。

この時点で総計約200体のカバネを殺していた。まだ午前中である。

 

少し早めの昼休憩を交代でとった後、二度目のカバネ釣りに向かった。一度目と違い道中のカバネの襲撃は多いが、特に危機に陥るような事態にはならなかった。操車場にはそれなりのカバネが彷徨いており、甲鉄城を見ると走って向かってきた。

最上は来栖の腕を掴んで引き留めた。最上は30センチくらい引き摺られたが、引き留めに成功した。

 

「なんだ?」

 

「さっきより全方位に展開している。菖蒲様に万が一があっては困るからあまり突出するな。」

 

「わかった。」

 

来栖は了承するとひらりと飛び降りた。来栖が先頭車両前を陣取り、他は一度目と同じ布陣で展開した。

暫く戦っていると、最上が体躯の大きなカバネと激突した。

 

「ワザトリだ!」

 

援護をしていた仁助が声を上げる。

八代駅手前で襲ってきたワザトリのように、二刀を振り翳し襲いかかる。

臂力の差も大きい為、最上は凌ぐのが精一杯である。ワザトリの動きが速く、援護の武士達は車上にいるため、なかなか援護射撃を入れられない。

ワザトリ渾身の横なぎで、最上は車両前方へ弾き飛ばされたが、入れ替わりで来栖が交戦。5合目で討ち取った。

 

「5合かよ。」

 

最上が必死に凌いだワザトリは、来栖がサクッと殺してしまったため、最上は少し傷ついた。

援護の武士達も同情を隠せない。

来栖はすぐに踵を返して先頭車両まで戻って行った。

少しして警笛が響き渡り撤退が始まった。

 

「子犬ちゃん。ワザトリがきたって?」

 

「…ははっ…。」

 

怪我はなさそうだし、地面を転がってなかなかに汚れた最上をからかってやろうと、来栖がサクッとワザトリを殺したことを知らない瓜生が声をかけたが、最上は乾いた笑いだけを返した。

周囲の武士達のしょっぱい顔を見て、瓜生はそれ以上触れるのをやめた。

約半年同道してきたので、これはなにも言わなかったことにした方が良いなと判断した。

瓜生は甲鉄城に乗ってから空気を読むようにしている。根っからのお人好し共と、仲良しこよしするつもりはないが、菖蒲に関する来栖然り、金に関する最上然り、無名関する生駒然り、面倒は避けたいので。

 

二度目の跳ね橋前の戦闘も、一度目と同様に進んだ。跳ね橋前は前衛も、援護を担当する後衛も交代で休めるので、操車場前より効率は落ちるが気は楽だ。

 

本日最後の三度目のカバネ釣りも二度目とほぼ変わらない程度負担で終えることができた。尚三度目は無名と生駒のところに2体ワザトリが出たようだが、生駒が少し負傷した程度ですんだ。約半年で無名や来栖に扱かれてきた生駒は、なかなか戦い方が上手くなってきた。そもそもの才能が違うので、技術的には大幅に劣るためまだ負傷は付きものであるのはご愛嬌だ。

 

顕金駅初日は跳ね橋前と決まっていたので、甲鉄城を検閲所に入れ、前衛は来栖、最上、瓜生。後衛は武士達と狩方衆で3班を編成して夜警を回すことになった。夜警は検閲所の外で警戒する。カバネリ2人は明日も突出させる予定なので、緊急事態が発生しなければ一晩休みである。

前衛の中で一番戦力の低い最上の援護は、来栖の班から少し削って多めになっている。

別に来栖が自ら譲った訳ではなく、最上が削り取っていった。

最上は下らない矜持などないので、堂々と戦力の均等化を求めたのである。多少削っても均等にはならないが。

生駒は半年扱かれまくってきたが、最上は金策や武士達の教育に時間を割いていたので、経験値はそこそこに積んだが、劇的な実力の上昇はない。

そもそも最上は、技術的な面ではそれなりに出来上がっており、短期間での実力の向上は望めないので、来栖や無名も生駒を優先した。

 

誰も数えていないため、誰も知らないことだが、初日にして約1000体のカバネが討伐されていた。




一日目で1000殺してますが、流石に4日では終わりません。
カバネ討伐数ランキング(単独討伐数)
1無名、2来栖、3生駒、4瓜生、5甲鉄城(侑那)、6ホモ君
となっております。
線路上にいたら轢くしかないのでね。
ホモ君は援護のメンバーと戦ってる感じなので単独討伐数は少な目です。
狩方衆は援護もするけど、過保護じゃないので瓜生は単独討伐多めです。


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顕金駅奪還作戦 2

ホモ君も15歳なのでちょっとセンチメンタルになることもある。


夜警の交代時間となり甲鉄城の中に雅客達は撤収した。

 

「今のところ順調な感じだなぁ。」

 

「まだ生駒達も異常は感じないって言ってたし、これは想定より早く終わるんじゃないか?」

 

武士達がわいわいと話しているのを聞きながら、雅客はふと違和感を感じた。いつもなら弛みすぎると、気を抜くなだとか注意してくる最上が黙々と刀の手入れに勤しんでいたからだ。

ぱっと見る限りヒビや欠けなどは無さそうだが、何か問題があったのだろうかと思って声をかけた。

 

「刀になんか異常でもありますか?」

 

「…。」

 

無視である。つい先程まで一緒に戦っていたし、怒らせるようなことをした覚えもない。というか機嫌を損ねたところで、この年下は無視などという餓鬼っぽいことはしない。これは軽重は別として異常事態だな。と思い至った。取り落としたりしたら危険なので、刀の手入れが終わるのをじっと待つ。

 

他の武士も次第に雅客の様子に気がついて、会話を続けつつもそっと様子を窺っている。雅客が一番最上に構いにいっているし、最近は結構"あんた"だのと雑に呼んでたりするので、任せることにした。

最上が納刀したのを見計らって、雅客は肩に手を置いて声をかけた。

 

「最上様。何かありましたか?」

 

「っ⁉︎…何もない。」

 

肩をびくつかせて、わかりやすく驚いておきながら何もないという。

周りで見ていた武士達も、長々待っていた雅客に気がつかず、声をかけたらわかりやすく驚いたのを見て、これは異常事態だと察した。

 

「何もないわけないでしょう。あんたさっき俺のこと無視しましたよ。刀の手入れが終わるまで眺めてても気がつかないし、あんなにわかりやすく驚いておいてそりゃないです。」

 

「ちょっと疲れてるだけだ。軟弱で悪いな。」

 

最上はそれらしいことを言っているが雅客を見ない。

 

「ほら。さっさと食事を受け取りに行かないと鯖殿達に怒られるぞ。」

 

どうあっても言う気はないらしい。

 

(俺がこの人を丸め込める未来は見えないし、あまり食い下がるのも…。)

 

などと考えて、一つ思い至った。

 

「わかりました。菖蒲様と来栖に報告しときます。会話もままならない程、疲労しているようです。と。」

 

「…。」

 

菖蒲はともかく、来栖はこういう場面で気など使わない。問い詰められるのはさぞ面倒だろう。疲れてること自体は本当だろうけど、このまま放って置いてうっかり死なれでもしては堪らない。

そして即座に言い返さない時点で異常ですと言っているようなものだ。 

雅客はずっと最上の顔を見ていたが、最上がやっと顔を上げた。随分と不安そうで少々目が泳いでいる。これはいけない。たぶん作戦そのものがどうとかいう話じゃない。それなら黙ってないで菖蒲に報告をする筈だ。ならばきっと私事だ。

雅客がちらりと樵人に視線を送ると、樵人は頷いて他の武士達を連れて、食事の受け取りに出て行った。

 

「えっと。知り合いでもいましたか?」

 

雅客は発言してから気がついた。この年下の親しい人間など、1人も甲鉄城に避難できていなかったことに。自分達は上侍が最上1人で助かった等と考えていたが、家族も友人も知人もみんながみんな、顕金駅にいるはずだ。上侍の交友関係など知らないが、割と付き合いのいい最上に親交のある者が皆無と言うことはないだろう。親交のあった人が1人残らずカバネになっているとは如何許りか。

 

"躊躇うな。殺せ。あれらはカバネだ。もうお前らの家族ではない。友人ではない。こちらを食らうカバネなのだ。さっさと輪廻に送ってやれ。"

 

(あの演説じみた指示は自分に言い聞かせていたのか?)

 

「もう10は殺したかな。少しは躊躇するかと思ってたが全くしなかった。私は…おかしいのだろうか…。」

 

どうやら自分の感情に疎いらしい。全く気にしていないなら、様子がおかしくなる理由がないのだがわかっていないらしい。

 

「あんた馬鹿ですか?」 

 

「なに?」

 

「躊躇わないのはありがたいです。あんた前衛なんですから。でも躊躇わないだけでしょ。精神に負荷がかかってるから、今そんな顔してるんでしょうが。」

 

「そんな顔?」

 

「情けない顔してます。飯食ってさっさと寝て下さい。腹が減ってるし、疲れてるから余計なこと考えるんですよ。」

 

丁度良く、食事を受け取った樵人らが戻ってきたので、さっさと飯を食わせて休ませることにした。

前衛面子の中では、自他共に一段、二段劣ると認めているが、剣術の腕は雅客などよりよっぽどあるのだ。前衛を代われる者は武士達にいないので、早く立ち直って貰わなくてはならない。

友人か知人か知らないが、10も殺しているのだから、少しは感情のままに落ち込ませてやりたいが、そんなことをしていれば死にかねない。

 

 

最上は、翌朝には調子を取り戻したようにあちこちに指示を出して回っていた。

 

本日一度目のカバネ釣りは、釣果が芳しくなく、操車場から無名と生駒が離れ、少し遠くから引っ張ってくることとなった。

跳ね橋前に戻り検討した結果、次に操車場へ向かった際にカバネの集結がなければ、操車場を抑えるということになった。

 

想定通り、カバネは疎らに彷徨いているのみで集結する様子もない。

全戦力を投入し、扇型車庫内を制圧。蒸気鍛治達が封鎖作業を行った。整備場では4両の車両が確保できたため、予定通り作業車両を使用して、扇型車庫前に掩体壕として設置した。

さらに外側に阻塞を設置し、扇型車庫を拠点として確保することに成功した。

遅めの昼休憩を交代でしていたところ、生駒が菖蒲達に近寄ってきた。

地図を片手にしていることから、なにか提案でもあるようだ。

 

「あの提案があるんですがいいですか?」

 

「なんでしょう。まずは聞かせて貰えますか?丁度最上もおりますし。」

 

机代わりにしていた木箱に、生駒は顕金駅の地図を広げた。

 

「車庫内にあったトロリーを使って、南西側のカバネを引っ張りに行きたいんです。物見台に登って確認しましたがこの道なら線路は分断されてない筈です。」

 

生駒は地図上のトロリー用線路をなぞる。

 

「面子はどうしたい?流石に来栖は駄目だぞ?」

 

「無名と俺で行きます。あと武士の方から3人ほど手を借りたいです。」

 

「来栖。どうだ?」

 

「吉備土と樵人と仁助をつけよう。」

 

「吉備土。これを持っていけ。」

 

最上が口径の大きい短筒のようなものを吉備土に渡した。

 

「これは?」

 

「信号弾らしい。緊急事態の際は上空に撃て。物見台には誰かしら常駐するからすぐ気がつく。トロリーで応援くらいは出そう。間に合うかはわからんが。こちらの緊急事態は警笛で知らせる。警笛がなったら必ず戻れ。」

 

「わかりました。」

 

「それと生駒はある程度判別がつくと思うが、重要施設を爆発させるのはやめてくれ。」

 

「破壊とかじゃなくて、爆発…。」

 

「この約半年、お前と無名殿を別行動させると、割と爆発してる気がして…。」

 

「しませんよ!」

 

「ならいいが。武士達は生身だからくれぐれも無理はするなよ。欲をかいて引っ張り過ぎないようにな。」

 

「わかりました。」

 

生駒達はトロリーに乗って南西へと進行していった。

操車場へは散発的にカバネが来るため、交代制で防衛に当たった。

最上が担当の時間を終えようとしたとき、南西で小規模だが爆発が起きた。

 

「やっぱりするんじゃないか…。爆発。」

 

最上はげんなりした。来栖と交代し、物見台へと上がると南西の流民街が燃え盛っていた。

 

「あぁ。盛大にやったな。信号弾は上がってないのか?」

 

爆発前から物見台にいた倉之助に、一応確認したがそれらしいものは見ていないと言う。

最上は物見台から降り、下で待っていた服部に指示を出した。

 

「生駒達が向かった南西側で爆発があった。カバネを盛大に引き連れて来るかもしれん。休憩中の者も準備するように伝えておいてくれ。」

 

「わかりました。」

 

服部は了承して扇型車庫へと入っていった。

万が一を想定して、武士達と狩方衆以外は甲鉄城に乗車させた。掩体壕で応戦していた民人も引っ込め、ことが動くのを待った。

倉之助から合図があり、トロリー用の線路を見ていると、煤で汚れた生駒達がトロリーをとばして戻ってきたのが確認できた。

なかなかの数を引き連れており、掃討には苦労しそうである。前衛面子以外は掩体壕の上や甲鉄城の上に陣取り、生駒達が阻塞の内側に逃げ込むのを待った。トロリーが阻塞の内側に逃げ込んですぐに、無名と生駒はトロリーから降りてカバネ達に突っ込んでいき、生駒達が引き連れてきたカバネとの戦いが始まった。

 

四半刻ほど経ち、カバネは減少方向となってきた。ワザトリこそいなかったものの、カバネの数が多かったため、最上は疲れていた。そもそも交代したばかりであったので、殆ど休憩できていなかったのだ。

援護に入っていた武士達も、最上の動きが悪くなってきているのには気がついているが、今はまだ下げられるほどの余裕がないため、援護を少し厚くすることで対応した。

来栖などは休憩を終えたばかりで、体力も集中力も充分であったので、獅子奮迅の働きである。

少しして、とうとう最上は集中力を切らしたのか、袈裟斬りが浅くなったため討ち漏らしてしまった。袈裟斬りであったことから、カバネとの距離が近い。カバネはそのまま最上に襲いかかった。

これはやられると最上が思った瞬間、最上の肩に蒸気筒が乗り、そのまま銃口が火を噴いた。至近距離から撃たれたことでカバネは後ろに2歩ほど後退した。

顔面直近で発砲され、顔に軽い火傷を負い、発砲音で耳をおかしくして目を白黒させていると、襟首を掴まれ後ろに放り投げられた。

入れ替わったのは、いつのまにか掩体壕上から降りてきていた雅客だった。雅客に前線は支えられないが、援護の武士達が掃射をし、雅客もカバネに向かって何かを投げた。

カバネの前には自決袋が撒かれ、武士達の掃射により爆発した。

雅客は自決袋を投げた瞬間、踵を返して逃げ、勢いを落とさず最上を伸ばした腕で回収した。ラリアット状態であった。

最上は、だいぶ前に出ている来栖などとは違い、阻塞と阻塞の間を塞ぐように阻塞の少し前方で戦っており、最上が抜けた穴は直ぐに阻塞が追加され、来栖と無名の援護をしていた者から、さらに応援が回された。

吉備土と鈴木により擲弾まで投下され、最上が担当してた位置の前方は再び爆破された。

 

「怪我は?」

 

「えっ?なんだって?」

 

雅客が怪我の確認をするが、片耳がまだおかしいため、よく聞こえず最上が聞き返す。

 

「怪我はありませんか⁉︎」

 

「耳がキーンってしてるだけだ。」

 

「ならいいです。」

 

雅客が大声で確認してやっと回答を得られた。

追加で擲弾が投下され爆破が行われ、最上が担当していた場所はなかなか綺麗に片付いた。周囲の建物までなくなってしまったが。

 

状況が落ち着き、他の前衛面子も引き上げてきた。まだまだ元気な来栖と、カバネを引き連れてきた生駒のみ前衛として残り、武士の三分の一が援護。甲鉄城から蒸気筒を使える民人を出して掩体壕から迎撃させている。

 

「吉備土。引っ張りすぎでは?」

 

最上から当然の苦言である。

 

「いや。すまない。」

 

言い訳はないらしい。

 

「なにやら爆発していたが、重要施設じゃあないだろうな。南西の流民街はまあいいが、その辺はどうだ。」

 

「南西の歩哨所がふき飛びました。保管されていた火薬に引火したようで。」

 

「ああ。あそこ…。まあいいか。」

 

最上は疲れ切っており、嫌味を言う元気もないらしい。顔に少々火傷をしたため、頬には大きい絆創膏を貼られている。

 

「むしろ子犬ちゃんが担当してたところの方がふき飛んでねぇか?」

 

「返す言葉もない。」

 

別に最上がふっ飛ばした訳ではないが、前線を支えきれなかったのが原因であるため反論はしなかった。

 

 

その後、検閲所よりは忙しいものの、交代で警戒を回し2日目が終わる。




ホモ君はなんだかんだ鋼のメンタルをしているので立ち直るのは早いです。

半年の旅路で、生駒と無名をセット運用すると爆発するイメージがホモ君にはついてます。って捏造設定。


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顕金駅奪還作戦 3

朝の作戦会議で本日は阻塞や掩体壕の位置の前進。周囲のカバネの掃討を優先する方針の打診が入る。

 

「前進は無しだ。割ける戦力が少ないのに守る範囲を広げる必要を感じない。遠くから引っ張り込まず、掃討するのは賛成だ。海門では戦闘員ばかりの駿城が2城いたから、陣地を広げても対応できていたが、うちは100ちょっとしか戦力はない。守れもしない陣地を広げて抜かれるくらいなら、広げず確実に守るべきだ。」

 

「うっ…。」

 

「ただでさえ明日は物資の搬入が来るから戦力を分ける必要がある。」

 

「では本日は拠点の防衛と、周囲の掃討と致しましょう。」

 

菖蒲が結論をだした。

 

「菖蒲様。今日はちょっと私が生駒を借りたいのですがよろしいですか?」

 

「なにをするのですか?」

 

「周囲の地形や施設を確認したいのですよ。」

 

「地図ですむのではないか?」

 

来栖が口を挟んできた。疑問としては当然である。何せ元々の地図に民人達まで巻き込んで、足りない部分を書き足したのだから。

 

「それはそうだが、顕金駅が堕ちる前の状況だろう。今の状況で確認しておきたいところがある。」

 

「わかりました。生駒はお願いできますか?」

 

「はい。大丈夫です。」

 

「来栖。武士を2、3人貸してくれ。」

 

「なら、雅客、歩荷、倉之助でどうだ?」

 

「本人達がいいならそれでいい。」

 

本日はトロリーで最上達が出かけることになった。

 

「それでどこに行くんですか?」

 

「主には丁度昨日焼け野原になった南西側だ。」

 

「す…すみません。」

 

「いや別に構わない。南西側の壁に接続された蒸気管を閉めて、蒸気管の中継地も閉めておきたいんだ。」

 

「…あんたなにする気です?」

 

雅客が怪訝な顔で最上を窺う。

 

「今日は蒸気管を閉めて穴を掘って簡単な阻塞を設置する。」

 

「穴?」

 

「今日はそれ以上何にもせんよ。生駒は掘削機も使えるだろう?」

 

「使えますけど、掘削機を使うほどの穴を掘るんですか?」

 

「うん。明日使いたいからな。それが終わればもちろん地形の確認もする。」

 

 

一方操車場では、服部が菖蒲に報告を上げていた。

 

「菖蒲様。…最上様達が昨日燃えた南西の流民街を掘削しています。」

 

「…。掘削?」

 

「なにをやってるんだあいつは。」

 

「戻ったら聞いてみるしかありませんね。」

 

「おい。忠犬。そろそろ交代じゃないのか?」

 

今は無名が警備兼周囲のカバネ掃討を担当しているが、交代時間が迫っていたため、瓜生が来栖を呼びにきた。

 

「丁度いい。最上が何故か昨日燃えた流民街を掘削しているのだが、お前はなにをしようとしてるかわかるか?」

 

「は?掘削?わかるわけないだろ。」

 

「そうか。お前もわからんか。」

 

瓜生は、来栖達より最上と話が合うことが多いため、もしかしたらと思ったが駄目らしい。

 

日が落ちる前に最上達がトロリーに乗って帰ってきた。

 

「おかえりなさい。最上。」

 

「ただいま戻りました。地図に変更がありましたので書き込んでよろしいですか?」

 

「ええ。お願いします。」

 

戻ってきた面子全員で、手分けをして地図に書き込みを始めた。

なかなか広い範囲を確認してきたようで、封鎖されている場所などがどんどん書き込まれていく。

 

「ところで最上。南西の流民街ではなにをしていたのですか?掘削していると聞きましたが。」

 

顔を上げた雅客達はしょっぱい顔をしているが、最上は笑顔で報告を始めた。報告を聞いた者は皆ドン引きした。

 

 

 

翌朝早く最上と無名と雅客は流民街に向かって出発していった。

昨日の掘削で流民街だった場所の中央を残して周りは深い堀が掘られていた。南東方の少し離れた線路にトロリーを残して、堀に渡したしっかりした板を1人ずつ渡る。荷物があるので板が軋み一番目方のある雅客は戦々恐々としながら板橋を渡った。荷物を運び終えて準備を終えた。

 

堀の北側には、何個か木箱が置かれ、堀には放射状に何本か廃材の板が渡されている。堀の東西には阻塞が置かれ、南北を分断している。

 

「無名殿。よろしく頼む。」

 

「はーい。」

 

無名は渡された石を振りかぶり近くの鈴鳴りの鐘にぶち当てる。

鐘の音が大きく響く。

次に血入りの陶器の瓶が渡され、北側の蒸気管に向けて投擲、陶器の瓶は勢いよく蒸気管にぶつかり高い音を立てて砕け散る。更に追加でもうひと瓶、別の蒸気管に投擲された。

 

「それで?本当に私はもう戻っちゃっていいの?」

 

「ああ。南側から戻ってくれ。」

 

「わかった。じゃあね。」

 

無名は南側から、少し先の屋根を伝い操車場へと走って行った。

 

「雅客。」

 

雅客は最上から篠竹でできた簡易的な笛を渡される。

最上は笛を思い切り吹いた。甲高い笛の音が周囲に響く。雅客もそれに倣い笛を吹く。

鐘の音、血の匂い、笛の音に釣られて北側からカバネが走ってくる。

南側は一昨日釣り出され、更に昨日も排除されたため殆どカバネがいない。

更に追加で最上が北側の堀の中に陶器の瓶を投げ落とした。

そこからは蒸気筒を使ってカバネを撃つ。

遠くで警笛が何度か鳴る。

東門で宍道駅の駿城と甲鉄城が警笛で合図しているのだろう。

2人で対応しているので殆どのカバネを撃ち漏らしているが、カバネは堀にかけられた廃材の橋を渡ろうとして堀に転落したり、堀を飛び越えようとして届かずに落ちていく。

最上が前方に自決袋を投げる。雅客が撃ち抜き爆発。更に怒ったカバネが堀へと落ちる。

暫く続けた後、堀の向こう側がカバネの重さに耐えられずに崩れ落ちた。

 

「雅客。先に行け。」

 

「はい。」

 

雅客は全速力で最初に渡った板橋を渡る。板橋を抜けると少し先の家の前の木箱が階段状に積まれているところを駆け上がる。

走りながら振り返ると最上が堀に小さめの火薬樽を何個か蹴り落としている。

蹴り落とし切って、最上もすぐに橋を渡り屋根を伝いトロリーへ向かう。トロリーまでは配線が引かれており、先に着いた雅客は最上が屋根から降りた瞬間スイッチを押した。

 

堀の中に仕掛けられた発破が爆発し、追加で放り込まれた火薬樽も誘爆。同時に北側側に置かれていた木箱に入っていた発破も爆発した。木箱には鉄屑が詰められ、中央に発破。上の方は砂が詰められており、発破の勢いで上の砂は舞い上がり、周りの鉄屑は周囲に飛び散り堀に落ちなかったカバネの四肢をちぎり取る。

周囲に衝撃波が走る。

堀内での爆発のため、爆発の衝撃は上へと向かう。カバネの残骸は空高く舞い上がり落ちていく。

最上達は家を何個か挟んだ位置にいたため、衝撃波を直接受けることはなかった。衝撃波で吹き飛んだ屋根材などがバラバラと落ちてくる。2人で板を掲げて屋根材が降ってくるのを防ぐ。

 

「たーまやーってか。さっ。とんずらするぞ。」

 

「いやですよ。こんな花火。」

 

最上に指示され、雅客は南周りで北西の操車場へと向かうためトロリーを操作した。

 

 

一方操車場では、物凄い地響きと爆発音が響いた。一昨日の比ではない。南西を見ると空高く爆煙が上がっていた。

 

「なんだあれ。」

 

「生駒昨日の説明聞いてなかったの?」

 

「聞いてたけど!穴掘ったの俺だし!だけどあんな規模とは聞いてない!」

 

無名と生駒が騒いでいると、甲鉄城が宍道駅の駿城を引き連れて操車場へと滑り込んできた。

 

「いっ生駒⁉︎あれは大丈夫なのですか⁉︎」

 

甲鉄城から菖蒲が慌てて降りてきた。菖蒲には、物理なる学問は分からない。走行してる甲鉄城まで届いた振動と爆発音が、とんでもない威力なのはわかる。

 

「あんなに規模がでかいとは聞いてませんでした!」

 

生駒は慌てて自分の想定外だと告げる。

来栖は最上から"でかい爆発するけど問題ないから"と聞いていたので、気にすることなく物資の搬入を急がせた。

 

物資の搬入が終わり、宍道駅の駿城に追従して甲鉄城が操車場を出たとき、操車場のすぐ南側から信号弾が上がった。

 

「南方信号弾確認!距離1町!」

 

物見台にいた倉之助から声が上がる。

 

「最上さん達かな?私行けるよ!」

 

無名が挙手して、操車場を任されていた吉備土に申告する。

 

「頼む!」

 

吉備土から返答を得た瞬間、無名は走り出し、操車場から見えなくなった。

 

「またワザトリとかふざけるなよ。」

 

女のワザトリは動きが早く半ばで折れた刀で最上に襲いかかる。女のカバネは今までのワザトリと違い、臂力自体はそこまでではないらしく、最上がワザトリの攻撃を危なげなく捌いている。高速で行われる戦闘に雅客は手が出せない。近くにいたカバネ2体は雅客が撃ち殺したが、ワザトリと最上が打ち合う度に場所が入れ替わったりするため、ただ見ていることしかできない。持久戦になれば不利なのは最上だ。信号弾は上げた。来栖か無名が来てくれればなんとかなるだろう。

周囲の警戒に努めていると、発砲音が響きワザトリが倒れた。

 

「無名殿か。助かった。」

 

「全然気にしなくていいよ。というか最上さんも結構やるね。」

 

「打ち合えても、殺すまでには至らないがな。」

 

「ワザトリじゃ仕方ないよ。さっ。行こ。」

 

無名が屋根からひらりと降り、トロリーまで寄ってきた。

雅客達はトロリーに乗り操車場へと向かう。

 

「そういえば、みんなあの爆発に驚いてたよ。」

 

「おや。そうだったか。大きい爆発になるとは伝えていたつもりだったがな。」

 

「あそこまででかいと思ってた人、誰もいないんじゃないですかね…。」

 

「そうか。それは説明不足だったな。次は気をつけよう。」

 

「またやるの?」

 

「いややらんよ。次に専門的な説明をする時は、理解してるか確認するってだけだ。」

 

「ふーん。」

 

流民街跡地に集まっていたカバネは吹き飛んだか、鉄屑で身体をズタズタにされたか、四肢を大きく負傷したため最上達は追跡されることなくすんでいた。最後にワザトリと遭遇戦とはなったが、無名のおかげで無傷で終えることができた。

 

「ただいま戻った。」

 

しれっとした顔で戻りを告げた最上に、吉備土は報告を求めたが、菖蒲達が戻り次第まとめて報告すると断られた。

 

宍道駅の駿城を送り届けた甲鉄城が戻ってきて、すぐに菖蒲が飛び出してきた。

 

「最上!雅客!無事だったのですね!」

 

「無事に戻りました。100は殺せたかと。追跡はありません。」

 

「もうちょっといませんでした?」

 

「堀にいたやつ以外は死んだかわからんからな。」

 

「最上達が無事ならそれで良いのです。思っていたより大きい爆発だったので心配いたしました。」

 

「説明不足で申し訳ありませんでした。」

 

「いえ。少し早いですが交代で昼休憩と致しましょう。」

 

交代で昼休憩となり、最上が昼食をとっていると瓜生が寄ってきた。

 

「事前準備までして100とは効率が悪くねぇか?」

 

「東門の合図で警笛を鳴らす以上、そっちに釣られかねない。宍道駅の駿城がいるからな。殺せるにこしたことはないが、殺すことより少しでもカバネを引きつけたかったんだ。まあ爆発の後にも集まっただろうから悪くない結果だ。」

 

「あれだけでかい音立ててりゃ誘き出されてそうではあるな。」

 

「昨日道中の障害物も排除したし、午後からは近くまで甲鉄城で行けるぞ。あの辺は焼け野原だから、擲弾発射器も使えるし掃討しやすいぞ。活用しないとな。焼け野原。」

 

「過激派め。」

 

最上と瓜生が軽口を叩いている傍ら、雅客には歩荷と倉之助が声をかけに行った。

 

「無事で何よりです。」

 

「いやほんとに。」

 

「俺もあんなに盛大に爆発するとは思ってなかった。」

 

「初めてワザトリと戦った時もでしたが、最上様って爆破お好きですよね。」

 

「効率が良いそうだ。まあ2人で100殺したと思えば確かに効率はいいが…。俺の寿命も縮んだ。」

 

午後からは、南西側へと甲鉄城で行く面子と、操車場を守る面子で分かれることになった。

操車場は最上、瓜生、無名が残り、武士の一部と狩方衆を残した。瓜生や狩方衆と残して問題にならなそうな面子で構成したのだ。

万が一に備えるとして、民人も全員甲鉄城に乗せ、甲鉄城は操車場を出発した。

 

「無名がいるとはいえ、こっちはこんな少なくて良かったのかよ。」

 

「なんの為に民人も全員乗せたと思ってる。いざとなれば一度此処を放棄する。逃げるなら少ない方が良いだろ。」

 

「えっ⁉︎そうなの⁉︎」

 

「そうだ。どうせ甲鉄城が戻ればまた制圧できるんだ。死に物狂いで守る必要はない。どうせカバネは物資に興味ないしな。機動力があり、無駄な正義感を振りかざさない奴しか残してない。」

 

最上の台詞を聞いて、雅客をはじめとした武士達は微妙な顔をした。狩方衆との相性で決めたのだと思ったら、そういう理由だったので当然である。

 

そんな理由ではあったが、人が少ないためか偶にちらほらカバネが現れるのみで、放棄するような事態にはならなかった。夕刻に甲鉄城が戻ってきた。

爆発のせいでだいぶカバネを刺激していたらしく戻ってきた武士達はげっそりとしており、生駒はぼろぼろ、元気なのは来栖だけだった。

相変わらず人間を辞めている男である。

 

居残りの面子はむしろ暇すぎたので、そのまま警備を継続することになった。継戦時間の問題があるので、無名だけは休ませたが、それ以外は皆そこからニ刻の警備を担当した。

 

 

 

4日目にして実は3000体を超えるカバネが掃討されているが、誰も知ることはない。




書いてから思ったのは、顕金駅の岩盤やっちまいそうだなってところですね。南西側崩壊しちゃいそうですがしないってことにしといて下さい。

居残り組は武士の中ではホモ君と相性のいい方の奴らが選ばれてます。
ホモ君と相性が良い=瓜生ともなんとかやれるの図式。
瓜生と仲良しとかではないですが、皮肉めいた言い回しとかされても、流せるタイプとかそんな感じです。


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顕金駅奪還作戦 4

「最上。城は奪還せんのか?」

 

来栖から四方川家の居住区画であった、城の奪還についての意見が最上に向けられた。

 

「人間相手なら早々にとりたいが、カバネだからな。守るのは楽だが、万が一の際に撤退しづらい。何より城は破壊したくないのでな。可能な限り釣り出したい。」

 

「ふむ。わかった。」

 

海門の時のように城を砲撃するなどとんでもないし、可能ならこれ以上の損傷は避けたいのだ。

そこについては、武士達で文句のあるものはいない。

 

「これからは甲鉄城が走れる軌間の線路から障害物を取り除く。甲鉄城が駅内を自由に走れるようになれば掃討も楽になる。扶桑城はデカすぎるから後回しだがな。あれは作業車両も持ち込まんと無理だろうし、下手したら分解の必要もあるだろう。」

 

「障害物を取り除くのは、なにで行くんだ?トロリーか?」

 

「いや。甲鉄城には先頭車両にクレーンがあるだろう。甲鉄城で行ってもらう。編成は昨日と同じで良いか?」

 

「己は構わないが、そちらは良いのか?」

 

「むしろ暇してたくらいだ。こちらは構わない。」

 

甲鉄城は昨日と同じように民人を乗せたまま出発して行った。

 

「なんかさぼってる気分なんだけど。」

 

無名が口を尖らせて文句を言う。

 

「ならば周辺の掃討でもするか?甲鉄城が戻る頃に此処が無事なら良い話だ。全員でちょっと出かけても問題ない。」

 

「なに言ってるんですかあんた⁉︎」

 

「なんの問題が?とりあえず二刻くらい居なくても問題ない。戻ってきたら、無名殿がカバネを感知さえしてくれれば、甲鉄城を安全に迎え入れられるだろう。」

 

「よし!じゃあ行こう!」

 

「おい⁉︎」

 

雅客の突っ込み虚しく、操車場防衛面子は防衛開始後、四半刻たたずに操車場を放棄した。

 

「来栖に報告しますからね。」

 

「構わない。むしろ任を外れたのだから、私が菖蒲様に報告するが。」

 

「えっ?最上さん菖蒲さんに怒られる?」

 

「怒られない。顕金駅からカバネを殲滅する為に、拠点として確保してるのが操車場だ。カバネの殲滅が目的で操車場は手段だ。一時的に手放したとして甲鉄城が戻る前に取り戻せば、拠点としての手段を果たす以上、全く問題ない。」

 

「よくわかんない。」

 

「無名。気にすんな。子犬ちゃんが問題ねぇって言ってんだから問題ねぇんだよ。」

 

「わかった。」

 

狩方衆の兵は全く気にせず、武士達は渋い顔こそしているが、此処で怒るような者はそもそも選ばれていない。

ニ刻ほど周辺のカバネを殺し操車場へ戻ってくると、3体のカバネが彷徨いていたのみで、無名に瞬殺されて終わった。

 

「無名殿は一度休むと良い。」

 

最上に勧められて無名は掩体壕にしている車両に入り込んだ。

 

「お前意外と真面目じゃねぇよな。」

 

「融通が利くだけだ。目的を果たすのと、手段の選択は別の話だろう。」

 

「ああ。お前爆破魔だったな。」

 

「失礼な。あそこが既に焼け野原じゃなきゃやらなかったぞ。」

 

「普通の奴はそこに焼け野原があっても爆破しねぇんだわ。」

 

瓜生の後ろで、雅客が腕を組んで深く頷いている。

 

「目的を果たすためなら、手段は選ばない方でな。」

 

「確かにあんた、弱いフリもすりゃあ、総長に迎合してるフリもしてたな。」

 

「最終的に目的を果たす為に必要なら土下座だって出来るぞ。」

 

「そうかい。俺はできねぇな。」

 

「だろうな。私も自分自身の為なら死んでもせん。」

 

「へぇ。そんなにあのお姫様は魅力的かい?」

 

「主の宝を護るのは臣下の務めなのでね。」

 

「ふーん。」

 

(お姫様は主の宝。ね。)

 

 

午後も一刻程操車場から離れたが、無名の感知に引っかかるカバネはいなかった。操車場に戻ってもカバネはおらず、無名は大層不満そうであった。

 

「ねぇ。明日は甲鉄城に乗っても良い?」

 

「まあここで遊ばせておくのも、無名殿の無駄遣いが過ぎるしな。」

 

「もういっそみんなで行ったら良いじゃん。どうせここ放置するなら。」

 

「流石に無名殿がいないのに放置はせんぞ。」

 

「そうなの?」

 

「我々はカバネの感知はできんからな。」

 

「でも危なくなったら逃げるんでしょ?」

 

「死ぬよりましだというだけの話だがな。疲れて帰ってきて、更に拠点を制圧し直すのはみんなしたくはない。汚れるしな。」

 

「それもそっか。」

 

 

夕刻前に甲鉄城が戻ってきた。障害物の撤去が済んだところを地図に落としていく。

 

「ねぇねぇ。菖蒲さん。明日は私も一緒に行くね。」

 

「あら。こちらは大丈夫なのですか?」

 

「ものすっごい暇なんだもん。」

 

「カバネが全く現れない為、周囲の掃討に出ておりました。」

 

「最上。お前操車場を放棄していたということか?」

 

「そうだが、結局甲鉄城が戻る前には抑えてあるのだから問題あるまい。居残り組の戦力で再制圧出来ないような状態なら、そもそも残っていても守れていない。無名殿はカバネを感知出来る以上、操車場に潜まれることもあり得ないしな。」

 

「むっ。」

 

「無名さんがこちらに来ていただけるなら、とても助かりますが…。」

 

「今日だって全然いなかったし、瓜生と最上さんがいるなら大丈夫でしょ。」

 

「最上。どうですか?」

 

「昨日、今日の状況からすれば問題ないでしょう。万が一我々ではどうにもならない時は、信号弾を上げて逃げますので。」

 

「最上。お前な…。」

 

「死に物狂いで戦った上、カバネにでもなってお出迎えした方が良いならなんとしても残るが?」

 

「むっ。」

 

「わかりました。では無名さん。明日はよろしくお願いします。」

 

「うん。よろしく!」

 

無名はニコニコしながら、菖蒲の言葉に返事をした。

来栖が最上にスッと近寄り声をかける。

 

「で?本当に無名がいなくとも問題ないのか?」

 

「報告の通り、昨日今日の様子なら問題ない。状況が違えば放棄するがな。万が一放棄すると思えば、面子の入れ替えもできんし、明日は私達だけで留守番するさ。」

 

そもそもが瓜生と長時間組ませられる前衛は無名と最上しかいない。来栖は瓜生との相性は良くない。ちゃんと言っておけば喧嘩にはならないだろうが、わざわざ仲違いの危険の可能性をとるより、信用と実力のある来栖は菖蒲の護衛に置いておきたい。

生駒は相性が悪い上、時折酷く感情的になるので扱いにくい。何かあった時に援護の武士達が抑えられるとは思えないし、万が一の際に瓜生が殺しては納得出来ない者が多いだろう。それに拠点の放棄の判断が下手そうだ。

かといって瓜生を甲鉄城側に入れると、今度は操車場を臨機応変に放棄できないような武士も手数に入ってくる。

誰かと組ませるとなると、少々扱いにくい駒ではあるが、実力は充分ではあるので最上としては助かっている。狩方衆は元々美馬の元で戦っていたので、多少危険性の高いところに振っても大丈夫だし、感情より理論で動く。

拠点を放棄して逃げることも、生存戦略なら文句など言わない。

 

翌朝、無名以外は昨日と同じ面子を残して、甲鉄城は線路の障害物の排除に出発した。

 

雅客が最上に寄ってきて口を開く。

 

「これ本当に我々必要ですか?」

 

「私が放棄する。放棄する。などと言ってるから感覚が可笑しくなったか?戻ってきたら、奪われているかもしれない拠点を放置する奴があるか。」

 

「どの口が言ってんです?」

 

「まあ我々からすれば制圧し直せば良いだけではあるが、甲鉄城の民人はそうではない。いない間に家に空き巣が居座っているようなものだ。排除できても気持ち悪いだろう。民人達の精神負担は軽くしておきたい。暴動などはせんだろうが、精神に異常をきたされては堪らない。」

 

「左様ですか。」

 

「昨日までの地図の書き込みを見る限り、何もなければ、今日には扶桑城周辺以外は作業を終了するだろう。今日北側の障害物の排除を終えれば、甲鉄城は駅内を周回できるようになるし、カバネの掃討も楽になる。街のカバネが大体いなくなれば、城のカバネにも手が出せる。大方片付いてしまえば、あとは無名殿と生駒に探知してもらいながら仕上げをするだけだ。扶桑城は問題なければとりあえず放置してもいい。その辺りは蒸気鍛治の意見を聞こう。」

 

「そうですか。…しかし今日は天気が悪いですね。」

 

「そうだな。…これはひと雨きそうだな。」

 

雅客と最上が空を見上げていると、物見台にいた倉之助から声が上がる。

 

「城からカバネが駆け下りてきます!数凡そ100!」

 

「無名殿に居残りして貰えば良かった…。西側から襲撃!警戒せよ!」

 

最上はぽつりと愚痴を言った後指示を出した。

 

「最悪の場合は東門方向に撤退する!頭に入れておけ!」

 

操車場での戦闘が始まった。

 

 

 

一方甲鉄城は、障害物の撤去やカバネの掃討をしていた。

周囲に現れるカバネを殺していた無名の顔に雨粒がぽつりとあたった。

 

「あっ!雨降ってきた。」

 

「菖蒲様。中にお入り下さい。」

 

「いえ。皆が雨の中作業をしているというのに、私だけ中に入るわけには参りません。」

 

「ですが…」

 

「しかし雨の中の作業はやめておいた方がいいかもしれませんね。体調を崩してはなりません。今の作業が終了したら操車場に戻ると致しましょう。」

 

「皆のもの!現在の作業が終了次第帰投する!」

 

来栖から帰投の指示が出たことで、作業にあたっていた者達は作業の手を早めた。

小雨だった雨は次第に強くなり、とうとう土砂降りになった。

外に出ていた者が甲鉄城に戻った時には、全員がずぶ濡れになっていた。

 

「信号弾確認!操車場方向です!」

 

「「⁉︎」」

 

艦橋に緊張が走る。最上は"どうにもならない時は信号弾を上げて逃げる"と言っていた。

信号弾が上がるということは、最上と瓜生ではどうにもならないと判断したということだ。

 

「急ぎ戻りましょう!侑那さんお願いします。」

 

甲鉄城が操車場に辿りついたとき、まだ最上達は操車場にいた。

カバネに周囲を包囲され逃走が叶わなかったようだ。前衛を担当している最上と瓜生以外は、掩体壕にしている車両の上に避難して援護をしているが、掩体壕の上の武士や狩方衆には蒸気切れの者もいるようだった。

 

「先行するよ!」

 

「俺も行きます!」

 

無名が甲鉄城から飛び出し、それに生駒も続いた。

無名と生駒が先行して、最上達のところに辿り着くと、掩体壕の上から歓声が上がる。

甲鉄城がカバネを轢きながら、操車場へ滑り込むと、来栖や武士達も甲鉄城から出てカバネを殺し始める。

置かれた阻塞のおかげで、囲まれきってはいないものの援護が乏しい中、珍しく最上は前の方に出て戦っていた。

来栖達が掩体壕に辿り着いても下がろうとしない。随分と気が立っているように見える。ワザトリまではいかずとも、刀を振り回す武士の格好をしたカバネの刀を巻き上げ、空いた胸に刃を寝かせた刀を突き入れる。心臓を貫いてすぐ横に振り抜き、反転して次のカバネの首を飛ばし、噛みつきにきたカバネの口に腰から半ば引き抜いた鞘を噛ませ、カバネの勢いを殺さずに最上を支点として回転し、カバネが体勢を崩した時に鞘を完全に引き抜き、噛み付いた鞘ごと倒れ込んだカバネの背中に刀を突き入れた。

鞘を捨て置いたまま、次のカバネに斬りかかり、腕を切り落とした。カバネが使っていた刀を足で撥ね上げ、擦り抜けざまに、逆手でとった刀を足に突き立て、地面に縫い留めた。とどめは援護に任せるのか放置して次へ行く。

下がる様子が一切ない為、並んで戦っても邪魔にはならない来栖が近くを担当した。

 

操車場の制圧が終了した時には、掩体壕の上の武士達などは完全に蒸気切れであった。

掃討は終わったが、最上はまだ気が立っていることから、来栖は雅客に近づいた。

 

「撤退に失敗したのか?」

 

「ああ。実は…。」

 

雅客から聞いた話では、武士の一部が撤退に遅れたためとのことで、遅れた理由も丁度蒸気の充填中であったとのことであった。

 

「それで最上の気が立っているのか?」

 

確かに充填の機会は悪かっただろうが、特に反抗されたわけではない為、最上があれ程に気を立てる意味がわからない。

 

「いや違うと思う。…あれ上侍達じゃないか?見た事ある。たぶんそれでだと思う。」

 

「ああ…。確かに。」

 

最上は自分達と違い上侍だった。上侍が全員仲良くしていたとは思っていないが、中には来栖から見た吉備土や雅客達のような存在がいたかもしれない。

最上に視線を移すと、下を見てきょろきょろと何かを探している。

倉之助が最上の鞘を抱えて走り寄る。

最上はそれに気がつき、鞘を受け取り納刀した後、何体かのカバネを見遣り目を数秒閉じた後、扇型車庫へと引き上げて行った。

 

この日土砂降りはおさまる事はなく、雷鳴まで鳴り響いた。

土砂降りの中、甲鉄城が来るまで少人数で戦い続けた留守番組は、夜間警戒から外すこととなった。

 

顕金駅から6日目の夜が終わろうとしていた。

 




ホモ君が菖蒲様を主と認めてなさそうな不穏な描写がありますが、堅将様についていたので堅将様優位なだけです。
四方川家に忠誠を誓っているので菖蒲様にも当然忠誠はあります。


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顕金駅奪還作戦 5

朝には雨は上がり快晴であった。

甲鉄城は引き続き、障害物撤去の作業である。

早朝に無名と生駒を各方面に出して、カバネを感知させた結果、かなり残存しているカバネは少ないとのことである。昨日と同じ体制で人員を割り振ることとなった。

甲鉄城は障害物の撤去が、午前中には終わるだろうとの見込みの為、その後は駅内を周回してカバネの掃討をすることになっている。

甲鉄城が出発した後、雅客は少し離れたところで俯いている最上の様子を窺っていた。瓜生も空気を読んでか最上には近寄らない。

 

「最上様大丈夫でしょうか…。」

 

倉之助が雅客に声をかける。

 

「昨日だって、撤退指示も戦闘も的確だった。まあ撤退はこっちの不手際で叶わなかったけどな。」

 

「…そういうことではないんですけど…。」

 

「わかってるよ。だけど何も出来ない。俺達は共感してやることすら出来ないだろ。そりゃ昔馴染みの顔もいるけど、俺達は下侍仲間がいる。あの人には昔馴染みの奴なんて1人も甲鉄城にいないじゃないか。俺はさ、甲鉄城に避難したばっかりのころ、同乗の上侍が最上様だけで良かったとか思ってたよ。よく考えたら最低だよな。」

 

「…私も思ってました。」

 

「最初の頃、最上様はたぶん結構気を遣ってただろ。駅にいた頃なら歯牙にも掛ける必要がなかった来栖を立てて、蒸気鍛治や民人と無駄な衝突をしないようにしてた。自分と親しい奴が1人もいない中で、学がない俺達に代わって嫌な役だってやってくれてた。それなのに呑気に他に上侍いなくて良かったとか思ってたよ。」

 

「…。」

 

「初日の夜に、躊躇わずに10人斬れたの気にしてたんだ。友人か知人か知らないけどな。今回も躊躇わなかった。でも前回と違うわ。たぶん今回の奴ら仲良かったんだろ。年頃も近いし…。俺はもしお前らがカバネになったら、躊躇わずに殺せる自信ねぇよ。」

 

「…私もです。」

 

雅客と倉之助がしんみりとしていると、近くにいた他の武士達も会話を聞いて気まずそうにしている。心当たりがあるのだろう。そんな中、最上から雅客に声がかかる。

 

「雅客。ちょっといいか?」

 

「はいはい。なんです?」

 

「これどう思う?」

 

何かの設計図のようだが、雅客にはわからない。

 

「なんです?これ。」

 

「踏んだら爆発する爆弾。」

 

「あんたそんなに爆破好きでしたっけ⁉︎何を黙々としてるのかと思ったら‼︎」

 

「鈴木殿の設計図読み込んでた。」

 

「あっ!そう‼︎」

 

「なんだ爆破魔。また爆破するのか?」

 

空気を読んだ瓜生までやってきた。

 

「踏んだら爆発する爆弾の企画書がきたから見てただけだ。地面に埋めて使うらしい。駅内には危険だから設置しないが、良くないか?武士を常駐させずにカバネを防げる。鳴子と違って知らせるだけじゃなくて侵攻も阻める。」

 

「よかったですよ。駅内に仕掛けられたらどうしようかと。」

 

「で?どう思う?」

 

「駅外なら…まぁいいんじゃないですか?」

 

「おい。甘やかすな。俺達前衛が間違って踏みかねないだろうが!埋めるんだろ!地面に!」

 

瓜生が吼えた。

 

「目印つけるとか。」

 

「戦闘中にそんな気を払えねぇ。」

 

「決まった地点に沢山並べるとか。」

 

「一発で死ななきゃとどめさしに行かなきゃならねぇのにそんなところ行けるか。」

 

「カバネ相手ならいっそ埋めなくても。」

 

「草が繁ったら見えねぇだろ!」

 

「運用方法要検討。っと。」

 

鈴木の企画書らしきものに朱書きを入れている。

 

操車場にはカバネがちらほら来たのみで、昨日のような襲撃はなかった。

 

甲鉄城は駿城の軌間の線路をほぼ全開通させ、午後から駅内を周回しながらカバネの掃討をしていた。甲鉄城にはカバネの感知ができるカバネリがいるので、線路沿いから少し離れていても問題なく掃討できた。

 

夕刻になり、甲鉄城が操車場に戻りお互い報告し合う姿は明るい。

途方もなく感じていた顕金駅奪還が、誰にも近く感じている。

食事時も奪還したらあれをしたい、これをしたいと話が盛り上がっている。

 

「最上。城の制圧をしたいのですが駄目でしょうか。」

 

一昨日来栖が提案した城の奪還の相談を菖蒲がする。

 

「…。無名殿が斥候をしていただけるなら、状況に応じてしてもいいかもしれませんね。」

 

「斥候?いいよ。」

 

「では、斥候の結果大量のカバネがいなければそのまま制圧ということで。その後カバネ討伐が完了するまでは、城は封鎖してしまいましょう。ですが甲鉄城は城へは乗り入れられません。制圧面子を編成する必要があります。トロリーを2台出しましょう。それでも参加できるのは20名くらいです。」

 

「20名ですか。」

 

「菖蒲様。無名殿。来栖の3人は確定として連れて行けるのは17名です。」

 

「最上は来て頂けますか?」

 

「菖蒲様がお望みとあらば。」

 

甲鉄城を操車場に残す都合上、吉備土と生駒は瓜生と残りになった。間を取り持つために雅客と倉之助と仁助も残りである。

なにせ瓜生は吉備土や生駒とは相性が悪いので、余計な問題は起きないに限る。瓜生が皮肉めいた発言をしても、最上との掛け合いを聞き慣れている雅客と倉之助。武士達の中で一番落ち着きのある仁助の3人をつけておけば大丈夫だろうとの判断である。

城には菖蒲、来栖、最上、無名、樵人、歩荷、服部などの武士総勢18名と蒸気鍛治の手を借りたいときのため、鈴木、巣刈を編成した。

 

菖蒲が城の図面を取り出したが、城の図面など流出などしようものなら一大事の為、大した書き込みはない。

そこに菖蒲と最上が、あれこれと書き込んでいく。来栖は菖蒲の護衛ではあったが、城を自由にうろうろ出来る身分ではなかった為、2人が書き込むのをただ眺めている。

対して最上は堅将付きの上侍であったことから、一部の者しか知らない出入り口や通路などを把握していたので次々に書き込みをしている。

5枚にわたる図面への書き込みが終了し、菖蒲と最上が城の内部について参加面子に説明をした。最初の頃は必死に覚えようとしていたが、途中から殆どの者が脱落した。城の造りは蒸気技術まで導入されており複雑だった。

最終的には、万が一部隊を分ける時には菖蒲の班と最上の班で分かれるということになった。城で迷子になられたら非常に困るので。

 

 

翌朝、城の制圧面子はトロリーに乗り込んで城に向けて出発した。

 

最上が先導し、城の中を進む。

カバネがいれば殺していき、最下層は出入り口を念入りに塞いで周る。

下の階から隅々まで練り歩いていく。

 

「お城にもあんまりいないね。」

 

無名があちこちきょろきょろしながら感知結果を告げる。

 

「いないに越したことはないな。おい。樵人。そこに手をつくなよ。説明を忘れたか?」

 

昨日の城の説明で罠のあるところなどを説明されたが、一回じゃ覚えられなかったのだ。当然である。

カバネが発動させてしまっているものもあるが、まだ生きている罠も存在している。

 

時折見つけるカバネを殺しつつ進む。菖蒲などは大体顔見知りの為、悲しそうに来栖や無名が討伐するのを見ている。一体だけ、最上が来栖に譲ってほしいと申し出て殺したカバネもいた。名前は呼ばなかったが、知り合いなのだろう。最上は悲しそうにはしなかったが、そのカバネから短刀を回収していた。

城の中には、自害したのだろう武士の遺体も何体かあったため匂いが酷い。

顕金駅は夏に堕ちた為、半分以上白骨化しているが、丸一年も経過していない為腐肉に塗れている。

最上が、最上階手前の廊下で亡くなっている武士の遺体を見て立ち止まった。数秒黙祷を捧げた後何も言わずに進んで行った。

とうとう天守の最上階に着いた。

最上階にはカバネも居らず、武士の遺体もなかった。菖蒲が最上階から顕金駅を見渡す。

 

「お父様。ただいま帰りました。」

 

菖蒲の涙声が寂しく響いた。




勝手に四方川家の城カラクリ屋敷みたいにしてすみませんでした。
本当は分断しようかと思ったんですが、シリアス中にやったら不味いかなって思ってやめましたw


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顕金駅奪還作戦 6

城の制圧面子は自分達が出た出入り口も念入りに塞ぎ、トロリーに乗って操車場へと帰投した。

戻った頃には八つ時となっていた。

菖蒲は食欲がないとして、食事も受け取らず甲鉄城の執務室に下がって行き、静が後ろをついて行ったので任せることにした。

 

「最上さん!トロリーで駅内を周ってきて良いですか⁉︎」

 

生駒が大きな声で申告した。巣刈が城での空気を読んで、止めようとしていたのか生駒の腕を掴んでいた。

 

「構わないが、面子は?」

 

特段断る理由もなく、恐らく暇を持て余していただろうことから、最上は許可を出した。

 

「来栖に相談します。」

 

「そうか。来栖から3人ほど借りていけ。借りられなければ諦めろ。流石に一人では行かせんぞ。」

 

「わかりました。来栖ー!」

 

生駒は来栖の方に駆けて行った。

 

「あっ!私も行く!」

 

来栖は少し渋っていたようだが、無名が申し出たので、吉備土、仁助、歩荷を貸し出した。

 

「行ってきます!」

 

「日が落ち切る前には帰れ。武士達は夜目は効かんからな。」

 

「はい。」

 

生駒達は元気に出発して行った。

 

最上は阿幸地を捕まえて報告を聞いていた。というのも甲鉄城が障害物の撤去や周回を始めた頃に、建物の調査を頼んでいたのだ。

中まで確認することは叶わないが、外観から燃えたり、朽ちたりして立て直すしかないものなどを地図に落とすように依頼していた。

再興の際にいっそ、居住区画の整備も提案しようと思っていたので、阿幸地らを巻き込んで調査や意見の集約をしていた。

流民の段階的な受け入れも、今までのように流民街に突っ込む訳にはいかないのだ。なにせ厄介者の引き取りではなく、立派な労働力にするつもりであるので。

修蔵には意見の集約をさせており、もう殆ど終わっているらしかった。

天祐和尚には、掃討したカバネや残っている遺体の件で埋葬場所などの選定を頼んでいる。

生松には、民人の職業調査をさせておりもう最上までの報告をすませている。

 

最上が阿幸地から受け取った地図を眺めつつ、木箱に座っていると来栖が寄ってきた。

 

「何をしているんだ?」

 

「再興の際に、居住区画の整備を提案しようと思ってな。阿幸地殿に頼んでいた調査結果を見ている。」

 

「居住区画の整備…。」

 

「お前らは問答無用で、上侍達の居住区画に入って貰うからな。どうせ立派な家ばかりだ。使えないほど朽ちた家もあるまい。」

 

「は?」

 

「は?ではない。菖蒲様が、顕金駅脱出から奪還までをともにした武士達を、元々住んでた長屋に戻すと思っているのか?信賞必罰だ。成果に対しての賞は必要だ。」

 

「その辺りは何も考えてなかった。」

 

「わかっている。だが完全に奪還が終了したら、道元様を迎えに行き、菖蒲様と道元様を主軸に政をせねばならん。これからは、今までみたいに何も考えてませんでした。じゃあ済まさないからな。」

 

「うっ!」

 

「武士達はお前の配下だろう。まとめ役のお前が何にもわかりませんでは困るぞ。とはいえ、とりあえずお前は奪還が終わるまでは何もせんでいい。菖蒲様をお護りすることに全身全霊を注いでおけ。」

 

「わ…わかった。」

 

来栖はそそくさと最上から離れて行った。

 

日が落ち切る前には、生駒達が帰ってきた。特に怪我もなく表情も明るい。

 

「生駒。どうだった?」

 

「まだカバネの気配は感じますけど、殆どいないです。明日手分けして綺麗にしちゃいましょう。」

 

「そうか。検討しよう。」

 

顕金駅のカバネ殲滅は目前に迫っている。

その日の夜の作戦会議は、仕上げの打ち合わせとなった。カバネの感知ができるカバネリ2人を分けるのは当然であるが、その他の面子もすぐに決まった。

生駒の方には、最上、樵人、仁助、服部、歩荷、倉之助。

無名の方には、瓜生、雅客、狩方衆の者達である。

雅客が1人旧克城面子に入れられたのは、土地勘の問題や、何か破壊した際に報告する役が必要だからである。戦力値だけでいえば、生駒隊より無名隊の方が数倍安全なので、道案内と報告役を真っ当するしかない。

 

「なんで俺だけ…。」

 

しょんぼりしている雅客に武士達は苦笑いである。だが普段から最上にちょっかいをかけにいっている雅客くらいしか適任がいないのだ。

 

甲鉄城は、吉備土と残りの武士達の7割を連れて周回である。前衛なしの為甲鉄城から降りないことが条件である。甲鉄城には民人達も乗車する。

 

菖蒲と来栖と残りの武士達は操車場で待機である。菖蒲には、最上が阿幸地らから集めた資料を渡し、読み込んでもらうこととなった。

 

 

 

 

翌朝、生駒隊は上の区画から、無名隊は下の区画から、甲鉄城は周回へと出発した。

 

「あっ!あそこに1体います。」

 

「ふむ。うちだな。」

 

生駒の指差した方を見て、最上がとんでもないことを言った。

 

「えっ⁉︎お…俺だけで行って来ましょうか?」

 

「気遣いは不要だ。それより1人行動は禁止だ。」

 

「…はい。」

 

屋敷の敷地に入ると女のカバネがふらふらと彷徨っており、最上達を見て襲いかかる。最上がカバネの胸に刀を突き入れ、一撃で倒した。

 

「生駒。他に気配は?」

 

「あ…ありません。」

 

「そうか。次に行くぞ。」

 

「あのご家族の方ですか?」

 

生駒がした質問に、同行していた武士達は顔を顰めた。

 

(馬鹿!聞くなよ!)

(家にいたから家族とは限らんだろ。)

(そんなん聞いてどうすんだ!馬鹿!)

 

「いや。使用人の多恵さんだな。カバネになってまで、うちに控えておられたとは使用人の鑑だな。」

 

「えぇ…。」

 

最上の回答に全員微妙な顔になった。

 

上侍の居住区画のカバネの掃討が終了した。

 

「母上がいなかったな。行動力のある方だったから、別の区画にでも行ってしまわれたかな。…南西側で爆発四散させてたらどうしようかな。少々不謹慎な発言を…。まあいいか。」

 

「いいんですか⁉︎というか不謹慎な発言って⁉︎」

 

「雅客との秘密だ。後で口止めしとこう。」

 

最上の発言に生駒達は反応に困ったが、ここで鬱々しくされるよりはいいので触らないことにした。

 

(生駒。ああいうときに家族かどうかとか聞くんじゃない。)

(すみません。)

 

基本的にはトロリーで移動し、トロリーの線路から離れた場所は徒歩で移動して、彷徨いているカバネを殺していく。

幼児や赤子のカバネがいたが、躊躇う武士達と違い生駒と最上は表情を変えずに殺していた。幼児や赤子の場合最上は蒸気筒で殺していた。

 

「なんで刀じゃなくて蒸気筒なんですか?」

 

「一番力の入りやすい高さよりだいぶ下だし、そのまま地面に刀を叩きつけたり、刺し込んだりしたくないからだな。」

 

「なるほど。」

 

「お前だってやりにくいだろ。ツラヌキ筒じゃ。」

 

「そうですね。さっき噛まれちゃいましたし。」

 

「私はお前みたいに、気軽に噛まれるわけにいかんのでな。」

 

「いや気軽に噛まれてる訳では…。」

 

カバネの相手をしているより、移動している時間の方が長いので会話が多い。

会話をしながら進んでいると、顕金駅の象徴である大鍛錬所に到着した。

 

「ここも何体かいます。入り組んでるし、足場が沢山あるので上にも注意してください。」

 

「わかった。」

 

生駒隊は大鍛錬所に入って行った。

 

 

 

一方操車場では、菖蒲が最上の提出した資料を読んでいた。

 

「はぁ…。」

 

「菖蒲様。お疲れならばどうか休息を。」

 

「いえ。違うのですよ。本来ならこれを私がやらねばならなかったな。と反省していただけなのです。最上は前衛で戦いつつ、この資料を用意したのです。」

 

「あれは堅将様についておりましたから色々気がつくのでしょう。それに資料をまとめて上に報告することは、下の役目ですからお気になさる必要はないかと。」

 

「そうでしょうか。…そうだ。来栖も一緒に読みませんか?来栖の意見も聞きたいのです。」

 

「…拝見します。」

 

来栖には菖蒲や最上と並んで議論できる気がしない。ましてことが終われば道元まで議論に加わるのだ。だが最上には、今までのようになにもわかりませんでは済まさない。と言われているのでせめて資料は読んでおくことにした。

居住区画の整理、再興計画における民人の作業分配、慰霊や地鎮の為の祭事計画などの資料が積まれていた。

結果としてわかったのは、阿幸地らは頭がいいということだけだった。再興計画時は、一時的に武士達の全権を移譲するので、最上が指示してくれるのを期待することにした。

 

八つ時に甲鉄城が、夕刻前に生駒隊と無名隊が操車場に戻ってきた。

何故か生駒隊は全員煤まみれだった。

来栖は首を傾げた。

 

「なんでそうなる?」

 

「大鍛錬所で普段なら火が入っていて入れないところにカバネがいてな。一瞬でこれだ。炉なんて入るものじゃないな。」

 

最上が煤まみれの顔で答えた。

無名など生駒隊と合流してからずっと笑っていた。

 

「それで首尾は?」

 

「生駒と無名殿が感知したカバネは完全に排除した。明日は武士達も2人1組で出して、隈なく仕上げの確認だな。万が一の際は危険が伴うが、カバネリ2人が感知していないのだから大丈夫だろう。それでカバネが発見されなければ殲滅完了を宣言していいだろう。」

 

操車場内で、聞き耳を立てていた民人は密かに湧いた。

 

 

翌日、有志の民人も加えて、虱潰しに駅内の確認を実施。カバネの殲滅が確認された。顕金駅に入ってから10日目のことである。10日目は丁度食糧搬入日であったことから、夜は全員で飲めや歌えやの馬鹿騒ぎとなり、深夜まで六根清浄の唱和が顕金駅に響いていた。

 




ホモ君はもう知り合いが沢山出てくるので半ばヤケクソです。


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奪還後

サブタイトルを忘れて一度投稿した間抜けは私です。


最上が二日酔い共を叩き起こす。

最上は酒は一滴たりとも飲んでいない。

堅将にお前は二度と飲むなと言われたらしい。本人は記憶がないそうで、何をしたのかわからないと言っていた。

恐ろしいので、菖蒲に飲ませる阿幸地達も注ぎにはいかず、寧ろ話を知らない民人が注ぎに行こうとするのを阻止していた。

 

 

「二日酔い共!のんべんだらりと寝ている暇はないぞ!再興するのだろう!まずは掃除だ!」

 

掃除というのは、カバネや人の遺体の処理である。丁度焼け野原だからとのことで、南西側の旧流民街で大規模な火葬をし、後に慰霊碑を建てることが決まったのだ。元々農地としての適性がなかった土地であるし、いずれにせよ、顕金駅の民人全員分の墓を駅内に作るのは無理である為、集合墓地とあいなった。

 

甲鉄城やトロリー、荷車を使いひたすら遺体を南西側の墓地予定地に運ぶ。

血に濡れた畳や床材なども、剥がされ運ばれていく。東門の陸橋脇などカバネの遺体の山である。しかも陸橋のため甲鉄城が乗り付けられず、来栖や最上などは馬に乗れるため、馬で荷車を引き、遺体を積んで甲鉄城が乗り付けられる位置まで何往復もすることになった。

 

遺体を一度に焼くことは不可能であるため、天祐和尚と菖蒲が常駐する墓地予定地で順次焼かれていく。

全ての遺体の処理が終わるまで3日間かかった。

遺体の処理が終われば駅内の清掃である。城の清掃は遺体の処理と並行して行われた。

その際、倉之助が城の中で一時行方不明となったが無事に発見された。罠にかかったらしい。

 

城の清掃が終わり、遺体の処理も終えた時、菖蒲と一部の武士で宍道駅へ道元を迎えに行った。来栖はもちろん護衛として菖蒲に同行したが、最上は再興計画上不在には出来ず留守番となった。菖蒲達は奪還祝いとして宍道駅で1日歓待された。

 

遺体の処理が終われば、阿幸地らと民人達に作業を割り振り、倒壊している家の撤去や、蒸気鍛治らによる扶桑城の分解撤去を進めさせる。

海門で菖蒲が確保した稲を植えるため、田んぼの整備も急ピッチで進められている。居残り組の武士達や狩方衆も大体は各作業に入れられており、民人達とわいわいと作業を楽しんでいる。

 

菖蒲が道元と城に戻った時には、最上は報告の紙束に囲まれて修羅場を迎えていた。

忙しさを察した菖蒲と道元と道元の部下も、挨拶もそこそこに情報整理を始めた。

伝令の倉之助や雅客や瓜生が忙しなく出入りし、紙束を追加したり、口頭で各現場からの伺いを立て、回答を受け取って出て行く。

戻った武士達も、各作業に割り振られて城から蹴り出された。

来栖は残念ながら、蹴り出されることなく城に残り、菖蒲達の指示に従って紙束を分類したり、簡単な計算を手伝うことになった。

 

(伝令でもなんでもいいから外に出たかった…。)

 

奪還翌日から指揮を執り続ける最上の前でそんなことを言ったら、なにを言われるかわからないため、来栖は黙って仕事をした。

 

倉之助と雅客と瓜生は伝令であっちこっちに走らされている。本来なら雅客ではなく無名が伝令の予定であったが、生駒からひっそりと、田んぼの作業にしてもらえないかと頼まれたのだ。

最上は理由を聞いて、無名の配置を田んぼの作業をする鯖の下につけた。

12歳の少女の情操教育のためなら、多少の効率低下は最上の許容範囲だった。その分雅客を走らせれば良いので。

瓜生は瓜生でなんだかんだ約半年世話になってきたし、再興したら居着いて良いと言われているので、狩方衆らの定住先のために走っている。

 

各作業が1週間程度で落ち着きを見せたころ、六頭領らや武士達を城に集めて住居区画の整理である。

民人は阿幸地らが意見を纏めて提出したので、菖蒲達が確認して問題がなければそれで進めることとなった。

武士達は全員上侍らの屋敷が与えられ困惑している。それに際して当主が唯一いる最上の家以外から、着物や美術品などの値打ちのありそうなものを全て城にかき集めることになった。

 

最上曰く

 

「お前らどうせ美術品の価値とかわからんだろ。そんなもの飾っていても意味はない。そのうち再興資金にするから全部押収だ。」

 

とのことであった。

 

武士達は泥棒の気分を味わいながら、家主のいなくなった屋敷から貴重品らしき物をかき集めることになる。

 

甲鉄城に乗っていた者達の住居さえ決まれば、流民の受け入れも始まる。

流民は労働力として阿幸地らが割り振りを任されている。

阿幸地達は新しく2人の代表を加え、名実共に六頭領に戻っている。

新しく代表になった者たちは、報告のために城に上がることを、最初こそおろおろしていたが、振られる仕事が忙し過ぎてすぐに慣れたようだった。

 

倉之助や最上の算盤教室最終選考者は、作業が落ち着きを見せた頃にはひたすら勘定をさせられ始めた。

 

仁助は楓殿の助手兼護衛として駅内を周る。

 

雅客は町奉行の役割を振られたため、数人の武士と治安維持である。

今は甲鉄城に乗っていた者達ばかりのため、大した問題は起きていないが本番は流民が増えてからである。

 

服部は瓜生と伝令であちこちを走らされ、吉備土、歩荷、樵人らは、菖蒲や来栖と食糧提供などをしてくれた各駅への挨拶のお供をすることになっているため、それ以外の場合には、各作業にその日ごとに割り振られている。

各駅では、流民の受け入れや、道元が勧誘してある、余所の駅では要職につけなかったが、能力を持て余している次男三男や女性を連れて来ることになっている。顕金駅に要職は腐るほどあるので。

 

民人達は甲鉄城にいた時と違い、これからの為に忙しくするのが楽しいらしく笑顔が絶えない。

対して甲鉄城にいた頃より死んだ顔をしているのは、城に常駐している面子である。政を行える人間が少なすぎるのだ。

勘定方など泣きながらずっと算盤を弾いているし、菖蒲もぐったりとしているが、他駅に挨拶に行くのだから健康的な顔で行くようにと、夜は道元と最上に早々に執務室から叩き出されるのである。

道元と道元の部下と最上は効率を落とさないようにと、最低限の睡眠をとっているが、食事すら仕事をしながらとっている。

 

甲鉄城が他の駅に挨拶に行く日、操車場には疲れ切っている道元と最上の姿もあった。道元の部下は居残りである。菖蒲は回収すべき人員の書かれた紙を道元に握らされた。

 

「話はついています。よろしくお願いします。」

 

「菖蒲様。笑顔で落としてきて下さい。このままでは私も道元様も死にます。」

 

道元も最上も目が怖い。来栖も2人が怖かったので菖蒲の後ろで固まっている。

 

二駅周ったら一度戻る約束で、菖蒲達とカバネリ2人と武士達半数と瓜生を抜いた狩方衆を乗せて甲鉄城は出発して行った。

甲鉄城の面子は、最上と道元が怖いだとか、普段している仕事の話で盛り上がっている。菖蒲と来栖などいつもあの2人と城で一緒にいるため、久々の外の空気で顔が晴れ晴れしている。

 

 

甲鉄城はこれからの顕金駅のために走って行く。




完走しました!ここまでお付き合いありがとうございました。

海門で吉備土が苗を持って帰って…などと言っていたと思うので原作も田植えまでには奪還予定だと思うんですよ。種もみじゃなくて苗を持ち帰るって。海門3月か4月あたりだと思ってるので速攻で奪還しないと間に合わない。

ホモ君と道元様はこれからが本番です。菖蒲様?もちろん頑張って貰いますが、死にそうなくらい頑張るのはホモ君と道元様です。

下侍ズは急にでかい屋敷与えられて困ればいいよ。
何人かで寄り集まって生活し出しそう。部屋とか腐るほどあるから。

後日談はちょっとなんにも考えてないです。
もし思いついたら書くかもしれないけど、そもそも見たい人おるんかっていうね。


それでは小説初書きの拙い作品を読んでいただき本当にありがとうございました。


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【小話】屋敷

奪還まで終わってるので余談です。
庶民派の下侍ズの話。


雅客、樵人、歩荷は最上に呼び出されて最上の執務室に来ていた。

 

「先に言っておくが私は忙しい。」

 

「み…見ればわかります。」

 

最上の机の両脇には書類が積まれている。再興し始めの頃と違いちゃんとした紙を使えているので、だいぶ綺麗に整頓されているように見える。

 

「自分達が何故呼ばれたかわかるか?」

 

「いえ。わかりません。」

 

呼び出された理由に心当たりがないため正直にわからないと告げる。それを聞いた最上は深々とため息をついた。

 

「お前らなんで寄り集まって生活してるんだ。一人一人に屋敷が割り当てられていると思うんだが、私の記憶違いか?」

 

「ああ。それ…。」

 

「記憶違いではないですね。」

 

「お前ら実は兄弟だったりするか?それなら呼び出して悪いが。」

 

「兄弟じゃないです。」

 

「だよな。だったらなんで寄り集まって暮らしてるんだ。雅客の家で3人で生活する必要がどこにある?」

 

「広すぎるんですよ!一人であんな屋敷に手が周るわけないでしょ!忙しいから自分のこともままならないし。長屋にいた時より、自分の空間取れてるし、3人くらいで寄り集まってる方が色々便利なんです。」

 

「阿呆どもめ。屋敷など使用人に管理させろ。人を雇え。雇用を生み出せ。いい大人が3人寄り集まって暮らすんじゃない。人が住まない屋敷も傷むしな。無駄ばかりだ。」

 

「そ…そんな事言われても…武士としての仕事ならまだしも、私事で人を使うとか慣れないし。」

 

「慣れろ。そういう立ち場だ。他人がいるのが落ち着かないなら通いの契約にすれば良い。お前ら大体90人いるんだぞ。一人が一人雇うだけで90人の人間が職にありつける。何度も言うが、いつまでも下侍気分でいるのをやめろ。」

 

「うっ…。」

 

「倉之助達を見習え。」

 

「えっ⁉︎倉之助が人を雇ってるんですか⁉︎」

 

「当たり前だ。自分のことが自分で出来る時間に、帰宅させてやれると思うのか?」

 

「く…倉之助ぇ…。」

 

「来栖には3人雇わせた。」

 

「3人⁉︎」

 

「我々が雇用の場を作るのは義務だ。お前らの記憶にある上侍も人を雇ってただろう。別に贅沢のためだけに、雇ってたわけじゃない。雇用を生むのに協力しろ。と菖蒲様の前で説明して雇わせた。」

 

「なんで菖蒲様の前…。」

 

「なんだかんだ逃げそうだからだ。」

 

「よくおわかりで。」

 

「ということでお前達にも雇用を生んでもらう。お前らがそんなだから、他の武士達も似たような状況だ。どいつもこいつも寄り集まって暮すんじゃない。結婚したくないのか?」

 

「なんで結婚に話が行くんです⁉︎」

 

「野郎で寄り集まって生活してる奴に嫁ぎたい女が何処にいる。位は高いのに、誰も雇ってない奴のところに嫁ぎたい女が何処にいる。」

 

「ゔっ!」

 

「もう面倒だな。…話はわかったな?」

 

「とりあえず。」

 

「よし。服部!」

 

「はい。」

 

最上に呼ばれて服部がスッと襖を開ける。

 

「おかえりだ。そのまま阿幸地殿のところにでも放り込んでこい。使用人を斡旋しろと言えば人選は向こうでするだろう。」

 

「わかりました。」

 

「えっ!えっ!嘘でしょ。まだ心の準備が…」

 

「喧しい。もう一度言う。私は忙しい。何故こんな事を私が言ってやらねばならんのだ。いい年した大人が余計な手間をかけさせるな。下がれ。」

 

雅客達はすごすごと最上の執務室から出て行った。

 

「最上様めちゃくちゃ上侍だわ。」

 

「なんだそれ。」

 

雅客の言いように服部が笑う。

 

「あっ。服部も雇ってるのか?」

 

「当たり前だろ。倉之助と同じだよ。」

 

「服部ぃ…。」

 

「いやでも凄い楽。帰ったらご飯食べて寝るだけだし。」

 

「服部が染まってしまった。」

 

「なに言ってんの?雅客達も今から雇いに行くんだからな。これで雇わなかったら次は道元様が出てくるからな。」

 

「なんで⁉︎」

 

「雇用はいくらでも欲しいんだよ。最上様を無視できても、道元様は無視出来ないだろ。」

 

「いや最上様を無視する時点で既に怖いが。というかなんでクソ忙しい最上様が俺たちのこと知ってるんだ?」

 

「下緒と一之進達を最上様が引き取ってるんだけど知ってたか?」

 

「えっ⁉︎そうなの?」

 

「甲鉄城にいた人間は忙しくて面倒見れないから、早々に使用人を雇い入れた最上様の家で引き取ったんだよ。」

 

「へぇ。まあ最上様の家なら安心だわな。使用人もいるわけだし。」

 

「一之進達はいいけど、下緒は働かない訳にいかないだろ。だから使用人見習い兼間諜。」

 

「間諜⁉︎なにさせてんの⁉︎」

 

「間諜っていっても、噂話を街の女性達から集めてくる仕事だな。使用人見習いのついでに、噂話聞いてまとめて提出するんだ。最上様が気になるものがあれば、さらにそれについての噂を集めるんだ。」

 

「そこに俺たちが引っ掛かったってことか?」

 

「そういうことだな。噂が立ち始めたから、最上様が把握したんだろ。」

 

「噂されてんの⁉︎俺たちが⁉︎」

 

「というか下緒はなんで見習い?正式に雇っても問題ない年齢では?」

 

「もう少しそつなくこなす様になったら城に上がるんだよ。」

 

「…城で…間諜させるってこと?」

 

「それ以外に何かあるか?これからどんどん城にも流民上がりの使用人やら、他の駅から引き抜きしてくる文官やらが増えるわけだからな。」

 

「怖い怖い!最上様怖い!」

 

「信用できる間諜はいくらいてもいいらしい。」

 

「怖いよ!」

 

 

この後雅客達は、阿幸地にまだ雇ってなかった事を怒られた。阿幸地の斡旋で使用人を雇い入れることになった上、他の武士達の現状もバレたので更に阿幸地に怒られたのである。




小説を見る限りめっちゃ環境の悪い長屋に住んでたようなので、急に屋敷とか割り振られても困ると思うので書きましたw
奪還後の後書きに書いたやつですね。

ホモ君家は正式な使用人2人に見習いが下緒入れて4人居ます。使用人研修所状態w
全員に間諜の真似事させてます。
ホモ君は家に帰ってないので、見習いがそれぞれ簡単な報告書にして服部経由で何日かに一度報告してます。
正式に雇ってる使用人は、顕金駅出身の女性かな。
見習いはある程度そつなくできるようになったら、静にパスして本格的に教育します。


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【小話】食糧問題

道元様の部下が勘太郎になりました。
名前がないと不便だったので。


予定より10日早く奪還作戦が終わった為、当初の予定よりは余裕はあるものの食糧は不足する想定となっている。

駅内で野生化し始めた家禽や家畜を捕まえ、放置された畑で勝手に育った野菜等を収穫することで、当面はなんとかなるが流民が増えればそうはいかない。4000人以上が住んでいた駅ではあるが、住民数の割に顕金駅の耕作面積は広くはなかった。

春に駅を奪還できた為、畑に種まきや植え付けができたため、顕金駅の自給と、他駅からの買い付けでなんとかなる予定ではあった。

しかし、民人から冷夏の可能性を示唆されたのだ。冷夏となれば収穫量も減り、他からの買い付けも難しくなる。

 

「食糧問題は喫緊の課題だ。山の幸の収穫と狩りに行く。野生化した家禽や家畜を見つけたら殺すなよ。捕獲しろ。」

 

カバネリ2人と武士達と狩方衆でまさかの山菜採りと狩りである。もちろん手は多いに越したことはないので有志の民人もいる。

 

「元上侍の家からも多少備蓄を押収したし、放置されていたとはいえ、畑はかなり広い。我々は500人くらいだろう。そんなに切羽詰まっているのか?」

 

来栖から疑問が飛ぶ。

 

「切羽詰まってからでは遅い。これからは流民も増える。少しでも食糧に余裕を持たなくてはまずい。今年が冷夏だったりしたらどうするんだ。収穫量ががた落ちするぞ。作物の病気とかならまだしも、冷夏では周辺の駅とて凶作の可能性がある。本音を言えば私は食糧確保に出かけるほど暇じゃない。それなのにここにいる。わかるか?それだけ問題だということだ。食糧問題を舐めるな。」

 

「わ…わかった。」

 

「川魚も捕獲する。城と私の屋敷の池で飼う。」

 

「城の池で⁉︎」

 

「鯉など全滅していたのでな。清掃はした。」

 

「そういう問題か⁉︎」

 

「菖蒲様と道元様の許可は出ている。」

 

疲れ切っている最上の目が据わっていてとても怖いため、来栖はもう黙って従うことにした。それどころかカバネリ2人もそうだが、瓜生ですら声を発さない。

標的にはなりたくないのだ。

政は来栖達にはわからない。最上がここにいるということは、道元も賛成しているということだろう。そうでなければ、道元が政のできる最上が駅の外に出ることに反対していることだろうし、何より城の池の許可まで取っているというのだからもう従うだけである。

 

甲鉄城で出かけて、山菜採りや川魚の捕獲は民人を主力に、一部の武士が手伝い、周囲をその他全員で護衛する。カバネの襲撃もあったがカバネリ2人と来栖と瓜生までいるので割と過剰なくらいの戦力である。

夕暮れ前に撤収したが、随分沢山確保することができた。なにせ山など10年近く、まともに人が立ち入ることなどなかったので当然である。

 

家禽や家畜は畜舎などに入れられ、川魚は城の池、山菜や狩りで得た鳥や猪などは供給される食糧の一部となった。

 

最上がよれよれになっているが、家禽や家畜が思いの外捕獲できたので満足そうであった。川魚の一部が最上の屋敷の池にも投入されたが、まさかの庭の大半が畑になっていた。食糧問題への本気度がうかがえる。使用人もまさか武士の家の使用人となったのに、畑仕事をやることになるとは思わなかっただろう。

最初に畑を作るのは別に人を入れたらしいが、管理は使用人の仕事である。

 

なんだかんだ甲鉄城に乗っていたころはなんとかなっていたし、なんとかしていたであろう最上もここまでピリついてはいなかったのだが、どういうことだろうかと武士達は疑問に思った。

代表して雅客が質問することにした。

 

「甲鉄城でもギリギリだったんだとは思いますが、そこまで問題なんですか?いまいち実感が湧かないんですが。」

 

「甲鉄城では喧嘩をすれば無名殿が鎮圧し、蒸気筒を持った武士が見回り、阿幸地殿達が諌めていた。それができたのは閉鎖空間であるがゆえ、皆が我慢しているのだから、我慢しなければという同調圧力があったからだ。閉鎖空間から解放され、苦楽を共にした者達以外の余所者も来るのだ。食糧に不足の兆しがみえれば、盛大に揉める。食糧のためなら人は人を殺すぞ。」

 

「なるほど。」

 

「流民の段階的な受け入れにしたのはそういう事情もある。供給速度が追いつかなければ大変なことになる。もちろんカバネの討伐や武器を売ることで、他の駅からも食糧は得る予定ではあるが、冷夏や天候不順などで収穫量が落ちれば大体の駅は食糧が不足し備蓄を放出する。そうなれば余所に売れる訳がない。民人が揉め始めたらもう止まらん。」

 

「そんなことに…。」

 

「まあそういうことなので、定期的にやるからな。これ。」

 

「えっ!」

 

「今回ので勝手はわかっただろ。次回からは私は参加しない。これ以上やることが増えたら本当に死ぬぞ。誰か交代してくれるなら喜んで行くが。」

 

「次回不参加ですね!合点承知!」

 

「この野郎…。」

 

元気よく次回の不参加に承知の意を示した雅客に、恨めしそうな目をしながら最上が厩舎へ向かう。

 

「何処か行くんです?」

 

「最近は城に住んでる。移動時間が無駄だ。道元様の選んだ者も要職に増えたが、流民も増えたし、各職業が動き出したから我々の仕事が減らない。逃げられては堪らないので、増やした奴らはそれなりの時間で帰しているが、私と道元様と勘太郎殿は城に住んでる。恐らく約3ヶ月程度で各職業からの陳情等が、多少落ち着く筈だ。それまで我々はまともに帰宅できん。」

 

「えぇ…。」

 

「だから余計な仕事は増やしてくれるなよ。怒るとかそういう問題じゃない。死人が出るぞ。我々3人から。」

 

「き…気をつけます!」

 

 

などと備えていたが、冷夏にはならず天候にも恵まれ豊作の年となった。




天候なんか読めるわけないだろ!byホモ君

食糧の余剰は多いに越したことはないので、プラスマイナスでいえばプラス。


そもそも甲鉄城が旅をしながら、食糧を維持できたのは結構やべぇことだと思います。


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【小話】駿城建造中

新しく建造中のカバネぶっ殺駿城の話。


「…ほう。これは。」

 

鈴木の設計図と仕様を見た最上は試作機を見に行くことにした。

 

まだまだ前程の活気には劣る整備場に最上は足を運び、鈴木や生駒から試作機の説明を聞きながら、試射を見せて貰った。少々改善の余地ありとして、何点か指摘して整備場を後にした。

 

「あれ。最上様こんなところでなにをしてるんです?」

 

最上が愛馬の疾風に乗ろうとしていると雅客に声をかけられた。

 

「ああ。鈴木殿の試作機を見に来た。設計図と仕様だけなら完璧だったが、やはり試作機があるなら現物を確認したいしな。何点か指摘した箇所を改善できそうなら予算を出して、建造中の駿城に採用する。」

 

「なんの試作機です?」

 

「分類的には蒸気筒だな。駿城用だが。どうせ来たのなら覗いていけばいい。」

 

雅客は言われた通りに整備場に顔を出して、鈴木達の簡単な説明を聞いて試射を見せてもらった。

またやべぇものを作り出したなと認識した。

 

建造中の駿城は、顕金駅にいたカバネの金属被膜を使用して、先頭車両と最後尾車両を覆い狂った強度となっている。今まで先頭車両を覆っていた装甲を薄く出来るため総重量も中々軽くなった。客車はどうしても装甲の薄くなる、扉と扉の接合部のみ金属被膜で覆っている。

厩舎としていた畜舎車両は無くし、客車も減らして5両編成の予定である。

編成も短くなり、総重量は更に軽くなった為、甲鉄城より速度が出る。

この駿城は物資のやり取りの為というより、カバネ討伐用の駿城の予定である。

装備として四八式鎮守砲の後継機が1門搭載までは決まっている。

さらに鈴木が現在開発中の兵器が載る予定である。

 

最近は自決袋を自決以外に使っている場合が多かったので、手投げできる擲弾も開発された。

蒸気筒も今までより一回り小さく軽くなり、取り回しも良くなった。こちらも鋭意増産中である。

 

あちこちで色々なものが作られている為、蒸気鍛治だけでは手が足りず単純作業に流民を使っている。

流民も単純作業の手際によっては、蒸気鍛治の見習いに昇格できるし、最終的には蒸気鍛治になることもできる。

 

数日後、最上に指摘された点の修正を終えたため、鈴木の開発した兵器は駿城に搭載することが決まり、増産の許可と予算がおりた。

 

その兵器は、磐戸駅で菖蒲と来栖が見た、莊衛のガトリングガンから着想を得た物で、現代でいうところの機関銃である。もちろん弾は噴流弾。殺意が高い。据え置き式で客車1両あたり2台が搭載される予定だ。据え置き式の為、車両から蒸気を供給できるように設計された。

据え置き式と言っても、据え置き用の台座を設けるだけで普段は車両の中に仕舞われ、有事の際は台座に固定して蒸気供給の管を接続して使う。

台座は首振り出来るよう、可動域が広くとられている。

現行の蒸気筒より一回り大きく重いくらいなので、吉備土くらいの体格と臂力があれば手持ちでも使用が可能だが、普通の人間にはその大きさと重さの筒を、手持ちで撃ち続けるなど無理であるので、台座というわけだ。

連射性が高いので費用も恐ろしくかかるが、数の力を覆すには数が必要である。というのもこの駿城が運用になった場合、甲鉄城や駅の防衛もある為、それほど多くの武士を乗せられないのだ。人数が用意出来ないなら、沢山撃てる筒があればいいじゃない。ということである。

建造中の駿城への搭載が優先となるが、駅や甲鉄城にもまわされる予定である。

操作性は中々に簡素で多少練習させれば民人にも使える。従来の蒸気筒と違い狙って撃つ物ではないからだ。

この機関銃の蒸気供給の管は擲弾発射器にも使える互換性を持たせている。

 

この駿城が運用される時は、カバネリ2人の乗車が確定している。運転士は侑那が担当予定の為、巣刈も乗車予定である。城主は吉備土を予定しているため、瓜生以下狩方衆を編成するのは諦めた。医者として仁助も乗車する予定であり、樵人、歩荷も吉備土の補佐として乗せる。武士30名程度と有志の民人、蒸気鍛治15名程度となる予定である。

廃駅の奪還協力等の激戦が予想される場合は、甲鉄城を一時運行停止として、瓜生や狩方衆、菖蒲の護衛から来栖なども派遣予定である。瓜生は運用が難しいが、来栖によく言って聞かせ、雅客でもつければなんとかなるだろう。雅客はそんな想定をされている事実を知らない。

勿論その場合最上と菖蒲は居残りである。

 

一方建造中の駿城が運用可能になったら、流民として顕金駅にきた運転士がいるので、甲鉄城はそちらの運転士が担当する。

駅1つあたり、駿城はあって2城といったところなので、運転士は中々空きがないのだ。運転士は常に見習いを育てているので、余所者の出番などない。

流民には武士だった者もいるし、甲鉄城は寄せ集め面子と、一部の武士と瓜生含む狩方衆が担当する予定だ。一応最上が城主予定なのだが、現時点では目処が立っていない。

甲鉄城は交易目的で運用予定なので、交易ができる者が城主にならざるを得ない。

 

まだ駿城が建造中であることから、甲鉄城は新しい駿城の乗車予定面子と、甲鉄城を引き継ぐ面子の混成で運行しており、機関士なども将来的には足りないため、現在研修中である。

現在は菖蒲が乗車しない場合、吉備土を城主として、菖蒲や道元の書いた書状を持って、物資の運搬を請け負っているが、運行回数はそこまで多くない。

なにぶん他駅と食糧以外で交易するより、顕金駅再興のための方が各方面で忙しいからだ。西門の復旧も急がれており、人手はいくらあっても足りないのだ。

 

西門の復旧については一悶着あった。抗議行動まではいかずとも、一定数西門の跳ね橋再建を嫌がる者達がいたのだ。

簡単に言えば、一度破られたのだからまた同じことになるのではないかということである。それは基本的に学のない民人達の間で広がりつつあった。噂の広がりを危惧した道元達は方向修正をすることにした。

 

奪還作戦当時の西門の跳ね橋の損傷具合から当時西門の跳ね橋は下りていたのだろう。本来跳ね橋前で停車して、警笛でやり取りした後下ろす筈の跳ね橋が下りていたことから、顕金駅がカバネにのまれたのは、規定の手順を守らず、大丈夫だろうと横着したことが原因だとし、危険軽視による人災と位置づけた。

跳ね橋が上がっていたところで、西門が突っ込んできた扶桑城を完璧に防げた思えないが、上層部はこうこうこういう状態でした。再発しないようこういう対策をします。と発表することにしたのだ。

跳ね橋が下りてなくても無理だった。などと言おうものなら、西門前のトンネルを塞いでしまえ。などと言うものも出かねないのでこの方向で話を広げて、門の管理の徹底の約束をした。

勿論阿幸地などの知識層にはわかっていることだろうが、同時に東門も同様であることはわかっているので文句を言うような者はいなかった。

 

あちらこちらで行われる復興計画に、上層部も武士達も民人達もきりきり舞いである。

そんな中で、新しい駿城の建造はかなり余計な作業のようにうつるが、駅の中にこもっても安全ではない、安全が欲しければ勝ち取るのだ、カバネを殺せ。のお題目であるので特に文句は出なかった。顕金駅の民人然り、八代駅の民人然り、金剛郭の民人然り、余所からの難民然りカバネへの殺意が高い。

ちょっとついていけてないのは、道元が集めた要職についている者くらいである。とはいえ自分達がカバネと戦えと言われているわけではないので、基本的に一歩引いたところから見ているくらいのものである。

 

 

そのため新しい駿城の建造が他の作業を多少圧迫してても、誰も文句を言わないどころか、まだかまだかと完成を楽しみにしている者が多い。

新しい駿城にはまだ名前がなく現在民人達に募集中であり、取りまとめは吉備土がやらされているが、城主予定なので仕方がないのである。

 

駿城の名前が一般公募になったのは、菖蒲がやたら可愛い名前を出したり、最上が安直に鏖殺城とか言い出したためではない。決して。




顕金駅にいた4000近いカバネは材料になりました。
将来的には全車両覆えるといいね。

駿城の仕様はもっと凶悪にしようと思ったけど、とりあえずはこの程度からスタートです。その内アップグレードしてくんでしょう。(お前が考えるんだよ)

西門の件は捏造で書いてますが、もしかしたら駿城がカバネを引っ付けたままとか普通にあり得る気がするので、一時停車させてから迎え入れるべきでは?と思って書きました。まああの速度では、先頭車両はどうにかなっても、後続車両が駅に突撃しても不思議じゃないかなとも思うので、跳ね橋が下りてなくても駄目な気はします。


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【小話】休暇

甲鉄城が落ちてから凡そ一年経ちましたのでホモ君は16になってます。特に誕生日とか決めてないけどまあええやろ。


「終わった…。」

 

「私も…終わり…ました。」

 

「もう少しで終わります!」

 

道元と最上は処理すべき書類が終わり卓に突っ伏した。勘太郎はもう間も無くのようだ。

見るも異様な空間に丁度食事を運んできた服部が固まる。

 

「もしやお二人とも終わりましたか?」

 

「終わったぁ!」

 

丁度勘太郎も処理を終え、両手を上げて後ろに倒れ込んだ。

家老の役割をこなす三人衆の、普段は見ることのできない光景である。

 

最初の頃はここに来栖まで巻き込まれていたが、誰にも教えている余裕がないため早々に外されていた。

武力もどうしても必要なため、有志の民人に蒸気筒を教える仕事を振られ、喜んでいたのが記憶に新しい。

 

菖蒲や来栖などは、奪還成功の報を伝え感謝を述べるために、甲鉄城に乗ることも何度かあったため、息抜きができていたようだがこの3人は違う。

最低限の睡眠をとり、仕事をしながら食事をしていた。移動時間すら無駄だと、城に泊り込むこと凡そ二月半。

 

部屋の中にはまだ書類はある。服部にはわからないが、恐らくこの3人の中で決めていた範囲が終わったのだろう。

 

「お疲れ様でした。食事をとって寝て下さい。」

 

服部の声かけに3人はのろのろと起き上がって、服部から食事を受け取っていただきます。と言って食べ始めたが、最上など食べながら半分寝ている。

 

「最上様。食べるか寝るかどっちかにしてください。」

 

「…食べる。」

 

食べ終えるまでに服部は4回も叱ることになった。完全に気が抜けている。

3人とも帰る気力がないのか、その日はそのまま城に泊まった。

 

3人同時に休むのは無理であるため、交代で休みをとるらしい。

最初は一番勤続時間の長い最上からとなった。

 

「最上様今日休みだってよ。」

 

「おっ。やっとか。邪魔せんようにしないとな。」

 

「あの人休みの日なにするんだろ。」

 

「甲鉄城でもずっと働いてた印象だからなぁ。」

 

「疾風に乗るところくらいしか想像できない。」

 

「わかる。」

 

 

最上は城で朝食を食べた後、疾風に乗って帰宅したが小夜に強請られ、小夜を乗せ疾風を走らせた。暫く走らせた後は、自宅に戻り一之進達に勉強を教えつつ読書にいそしんで午前を終えた。

 

「はて。やることがないな。」

 

「ゆっくりしてたら良いじゃないですか。」

 

「だらだらするのはあまり性に合わん。」

 

下緒は呆れた目で最上を見た。

 

「甲鉄城に乗る前は、休みになにをしてたんですか?」

 

「勉学と鍛錬。元服して堅将様に付いてからは、覚えることの方が多かったから、今程ではないが忙しかったのでな。流石に今日鍛錬は無理だな。怪我をしかねん。他で言えば、交流のあった者と出かけたり、将棋や囲碁をしたりはあったがもうおらんしな。」

 

「誰か誘って出掛けてきたら良いじゃないですか。」

 

「誘う相手がいない。…読書と詰将棋でもしよう。」

 

「えぇ…。」

 

「下緒。私のことは気にせずいつも通りにしていろ。どうせ休みは今日だけだ。明日には城に戻るしな。あっ。明日からは帰宅はする。…たぶん。」

 

「わかりました。」

 

午前中に引き続きのんびり読書をした後、詰将棋をしていたら小夜に邪魔されたため、小夜と崩し将棋に変更になった。

 

 

翌日下緒は買い物ついでに、奉行所にいる雅客に最上の休日の話をしに行った。

何故雅客かというと、町奉行につけられたころは流民もおらず、取り締まりなどをするより、暇そうだからと簡単な相談所のような扱いだったからだ。

陳情する程じゃないけどちょっと困ってるとか、みんな忙しいから聞けないんだけど、これはどうすればいいかとかの相談ばかりだった。

雅客は別に博識ではないが、その話なら誰々だな。とか思い至れば一緒に聞きにいってやったり、わからなければ阿幸地やら最上やらに聞きにいってやっていたので、甲鉄城の面子からしたら奉行所は相談所なのである。

 

「えっ…なにそれ寂しい。隠居した老人みたいな過ごし方だな。いやでもそうか。友人とか…。うーん。」

 

「16歳の休日ではないと思います。」

 

「それな。」

 

「甲鉄城の時から孤立気味なのは知ってましたけど、最上様って道元様と勘太郎様としか交流ないんですか?」

 

「ゔっ!」

 

「休むことなく約三月働き続けて、これって流石にどうかなって思ったんですけど、武士の人で仲良い人とかいないんですか?」

 

「お…俺か、倉之助が仲良い方かな…。」

 

「そうですか。じゃあダメですね。」

 

「駄目ってなんだ⁉︎」

 

「友人って感じじゃないじゃないですか。」

 

「そうだな!」

 

雅客も倉之助も割と使い勝手の良い部下の位置であり、友人ではないのは確かである。仕事なら問答無用で召集されるが、私事で呼ばれる想像ができない。雅客からすれば、割と最上と仲良くすべく頑張ってきたので、下緒から言われたことに少し傷付いた。友人の位置取りでないのは自覚しているが、他人から指摘されると傷付くのだ。

 

「私たちを引き取ってから、少ししたら帰って来なくなっちゃいましたし、たまの休日くらい楽しんで欲しかったんですけど…仕方ないですね。」

 

「うぐぐっ。」

 

「話聞いてくれてありがとうございました。もう戻ります。」

 

「…おう。気をつけて帰れよ。」

 

「はい。それでは。」

 

去っていく下緒の背を見ながら、雅客はやるせない気持ちになったので、武士達に相談することにした。

 

「いや無理だろ。どうにもならん。」

 

「将棋も囲碁も瞬殺されるわ。」

 

「一緒に出かけたら仕事になりそう。」

 

「それな。花街でも仕事してたしな。」

 

「もう小夜と疾風に任せよう。」

 

これである。

 

実のところ下緒と雅客の心配のしすぎである。最上は割と一人で過ごすのが苦ではないので、完全に仕事が落ち着いたら違うかもしれないが、現時点では疾風に乗ったり、のんびり読書ができれば充分であった。

下緒はこの数日後には城に上がり、静について仕事を学ぶことになり、上層部の修羅場具合に引いた。遊びに行くとかどうでもいいから、ゆっくり休んで欲しいと思い直した。

 




雅客的にはホモ君は上司だけど歳の離れた弟みたいなポジションとして見てます。ホモ君の方が優秀なので特に頼られたりとかないし、怒られたりとかしてるけれども心配なものは心配なので。
道元様や勘太郎がいるので、最初の頃と違い一人で嫌われ役する必要がないから、ホモ君は割とストレスフリー。
ヤベェこと考える時も、道元様というもっとヤベェ人がいるので、相談が出来るのがなにより楽。
ストレスよりも仕事量に殺されそう。


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【小話】鰍

鰍の話です。


鰍は最上に呼び出され、最上の執務室に来ていた。

 

(私何かやっちゃったかなぁ。前に雅客さん達は呼び出されて怒られたって言ってたし…うぅっ…怖いよぉ。)

 

「し…失礼しまーす。」

 

案内してきた服部が襖を開けたので、そろそろと室内に入る。

 

「呼び出してすまんな。」

 

「いえ。それはいいんですけど、私何かやっちゃいましたか?」

 

「…?いや、頼み事があるだけだ。」

 

最上は自分が呼び出す事がどう取られるか自覚がなかった。なにせ甲鉄城では、一応敬語は使われていたが元々駅にいた頃のように遠巻きにされたりはしていなかったからだ。

甲鉄城では菖蒲が民人達との距離をあまり設けなかったため、菖蒲に付随する武士達も同様であった。鰍にあっては、その距離感が当然になる前から来栖の手を叩いたりしているので、余計に怖がられるなどと想像してないのである。然もありなん。

 

「頼みごとですか?」

 

「ああ。鰍殿は七夕の時に、寺子屋の先生になりたいと言っていたと聞いてな。人に教えるのは苦ではないと捉えていいか?」

 

「別に嫌じゃないですけど。あっ!子供に教えるのがってだけで、あんまり年上の方とかは困ります。」

 

「それは大丈夫だ。鰍殿より年下の流民に、読み書き計算や、ある程度できるようになったら蒸気鍛治の基本を教えてほしい。大人は単純作業から筋がいいのを引き抜いて見習いにさせるから、そこは鰍殿の担当ではない。」

 

「それならいいですけど、場所とかどうするんですか?」

 

「操車場脇の更地に建設した建物を使う。」

 

「ああ。あれそういうやつだったんですね。」

 

その更地とは奪還作戦時に、前衛の最上が抜けた穴を埋めるため、擲弾が投下され破壊された跡地の事である。

 

「週に4回、午前中のみだが可能だろうか?」

 

「それだけでいいんですか?」

 

「ああ。阿幸地殿経由でもう1人都合をつけてあるのと、武士からも1人だす。阿幸地殿経由の1人は商売の基本を、武士は刀や銃の取り扱いを教える。基本は鰍殿にお願いするが、他の2人も曜日別で教えさせる。希望者のみ他に行けば良い。蒸気鍛治が第一優先ではあるが、向き不向きもあるだろうしな。鰍殿以外の2人は大人の指導も並行させるが、鰍殿は子供だけ相手にしてくれれば良い。」

 

顕金駅は製鉄や駿城整備を担当している駅なので、蒸気鍛治育成は重要課題である。流民の子供には親のない者も多く、読み書きもまともにできない者がいる。親のいない子供は天祐和尚に面倒をみさせ、簡単な礼儀作法などを教えさせているので、そのまま鰍のところで勉強もさせてしまえということである。

蒸気鍛治になれば良し。商売の基本を学び商家で雇われるも良し。武士に戦い方を教わってカバネを殺せるようになっても良し。と完全に職業訓練所の様相である。

 

「意外です。」

 

「何がだ?」

 

「あまり流民の子供には興味がないかと思ってました。すぐに働けないし…。」

 

「ふむ。なるほど。まあ確かに利益にならないことは嫌いだ。だが子供なら話は別だ。学ばせなければ大した仕事はさせられんが、学ばせれば大成する者も出るかもしれん。大人と違って新しいことを覚える容量も沢山あることだしな。貧乏人がいつまでも貧乏なのは学が無いからだ。それなりの仕事につくには学がいる。放っておけば貧乏人になる者も、学ばせれば利益を生む。」

 

「なるほど。わかりました。」

 

「細かいことは、後日天祐和尚のところで勘太郎殿が説明する。その時また呼び出すのでよろしく頼む。」

 

「はい。じゃあ失礼します。」

 

鰍は自分が思い描いていた寺子屋の様相とは違うが、子供達に勉強を教えられるのが嬉しかった。自分のやりたいことができる上、駅の為になるからと最上達からのお膳立てまであるのだ。

服部の先導で帰り道を歩きながら鰍は笑顔を浮かべた。

 

整備場に戻ると何人かの蒸気鍛治が駆け寄ってきた。

 

「鰍!大丈夫だったか⁉︎」

 

「えっ?何が?」

 

「最上様に呼び出されたって聞いたから…。」

 

「あははっ。私もなんかやっちゃったかなって、思ってたんだけど違ったの。良い話だったよ。ふふっ。そうよね。最上さんに呼び出されたらやっぱり怒られるって思うわよね。実はね…」

 

鰍は嬉々として依頼の内容を蒸気鍛治達に話し始めた。




寺子屋というか…っていうね。別に孤児以外も通えます。ただ孤児がメインターゲットってだけです。
流民が使えない?なら使えるようにするまでよ!

小説の感じからすると、駅内の仕事は元々の民人で埋まってるから、その駅にあった技能を持ち合わせてないとあまり雇って貰えないようだし、生駒ほどの若さと執念がなければ中々職にもつけないようでしたのでこうなりました。生駒も執念プラス運が良かったから蒸気鍛治になれてるので流民の就職率の悪さよ。
顕金駅は再興中なので、まだまだ色んな職に空きがあるから余程でなければ就職できます。流民が来ると六頭領は大忙しで振り分け作業があります。住居から就職先まで選定して報告する。みたいな感じですかね。
鰍はみんなのお姉さんな感じ、そのうち保育園の先生とかみたいに子供の初恋掻っ攫って行きそうですね。


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【小話】お医者さん4

仁助回。


楓の助手兼護衛として、日々を過ごす仁助であるが最近は切実な悩みがあった。

楓がふとした時にそっと寄り添ってきたり、ご飯を食べて行けと仁助を家に上げようとするのだ。

 

「私はどうしたらいい?」

 

「はぁ?ふざけてんのか?」

 

「解散!解散!」

 

「ご馳走様でした!」

 

武士達はキレた。深刻な顔で相談があると言うから聞いていたのに完全に惚気ではないか。ふざけるな。

 

仁助は来栖にも聞いたが困った顔をして

 

「己に聞かれても…」

 

これである。

 

来栖も武士達も役には立たぬと仁助が選んだのは最上である。なんといっても最上によってつけられた立場であるので。

 

「お前は楓殿をどう思っている?」

 

「…か…かか…可愛いらしいなと。」

 

「そうか。家には上がったのか?」

 

「上がっておりません!」

 

「次誘われたら上がれ。食事だけいただいたら帰るつもりで上がれよ。それで更に寄り添ってきたら、自分の気持ちを伝えた上で楓殿の気持ちを聞け。そんなつもりではなかったと言われたら大人しく引け。仕事の調整はしてやる。そこで色良い回答ならあとは大人同士好きにすれば良い。楓殿の口から色良い返事を聞くまで手は出すなよ。殺すぞ。」

 

「は…はい。」

 

かなり具体的な助言が来た。しかも自分の勘違いで砕け散ったら仕事まで調整するときた。最後は物騒な言葉が出たが、仁助は心底感謝した。

横で聞いていた服部は、未だかつて殺す宣言されたのは、カバネだけだったから人では仁助が第一号だな。などと考えていた。

不幸な事故とか、消えてもらうとか、儚くなってもらうとかの言い回しはすれど、殺すと正面切って言っているのは初めてであった。

 

斯くして仁助は楓と気持ちを通じ合わせた。報告を聞いた武士達はキレながら仁助を祝福した。これが楓でなかったら、街で遭遇したら少しだけ茶化して憂さ晴らしくらいはしたかもしれないが、そんなことしようものなら最上に殺されかねない。

前衛面子の中では弱いが、前衛を張れない武士達からしたら最上は普通に強いので、恐ろしいことこの上ない。それどころか直接来ない方が怖い。何をされるかわからないのでとても怖い。武士の代わりはいても、楓の代わりはいないので、楓を不快にさせたら絶対に最上が出てくる。下手をしたら道元も出てくるし、菖蒲にも叱られかねない。なんという鉄壁の防御。

 

仁助と楓は仲睦まじく、往診のために駅内を巡る。

雰囲気が変わった2人は、民人に揶揄われて頬を染めながら笑い合っている。めでたい話題に民人達は時折茶化しながら、2人を暖かい目で見守っている。

 

 

対して

 

「ちきしょう!俺も嫁さんが欲しい!」

 

「来栖とか倉之助が女子に人気なのはわかる!だって顔が良い!仁助!お前は俺たちの仲間だと思ってたのに!」

 

「最近倉之助もお相手がいるらしいぞ。」

 

「なんだと!」

 

「道元様の連れてきた文官の女子だと。」

 

「またそういう子か⁉︎」

 

「ちゃっかりしてやがるな。倉之助の奴!後楯が怖すぎて茶化せやしない!」

 

「待て待て。服部は?あいつも城に勤めてるじゃないか!」

 

「そういう相手はいないらしい。」

 

「本当かよ。」

 

「聞いたとき遠い目をしてたから本当だと思う。」

 

「服部…。」

 

「ところで来栖は?」

 

「来栖が進展させられると思うのか?」

 

「いや。ないな。」

 

「それどころか道元様が菖蒲様の婿を連れて来かねないのでは?」

 

「道元様異性斡旋係みたいになっちゃってるじゃん。」

 

「いや連れてきたのは道元様でも仁助の件に手を入れたの最上様じゃん。…あれ?倉之助は最上様の手は入ってないのか?」

 

「待って待って。それ倉之助まで手が入ってたら、服部も実は手が入り始めてたりとか…。」

 

武士達は戦々恐々とした。

 

 

「それで実際のところはどうですか?」

 

「お前ら暇なんだな。くだらないこと言ってる暇があるなら、仕事を振ってやるからきりきり働けよ。」

 

雅客が代表して聞きに行かされたが、最上に塵を見るような目で見られた。

 

倉之助の件は、最上が手を出したことなどないし、特に気がついてもいなかった。別に最上は年頃の女子のように他人の恋愛事を話題にしたい訳でもない。仕事に支障をきたすなら話は別だが、そうでもなければ誰と誰が男女の仲になろうがどうでもいいのだ。

仁助の相談に乗ったのだって、楓を逃したくないが為である。甲鉄城の時でも厳しかったのに、今となっては医者の真似事などしてる暇などないので、万が一が起きないようにしたかっただけだ。

 

自分が忙しなく働く中、武士達は他人の恋愛事情に夢中である。それは塵を見るような目で見もするというものだ。




とうとう公式キャラをオリキャラとくっつけてしまった。
許して。

たぶん我が家の公式キャラ内で、一番結婚が早いのが仁助。
個人的に
生駒と無名は恋人期間長めで、人間に戻れたら結婚。
侑那と巣刈は仕事を一緒にこなしながら暫く過ごして、恋人期間はそこそこで結婚。
みたいなイメージがあります。
来栖と菖蒲様?読む分には好きなんですが、あそこくっつくのか?来栖のあれめっちゃ推してるアイドルに対する反応みたいな印象を受けるし、菖蒲様は来栖のこと意識してなくないですか?小説でもピンチを助けられて、まさかの"お母様"だったし。
読む分にはくるあや好きなんですがね。(大事なことなんで2回書きました。)


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【小話】八代駅

「八代駅、欲しいなぁ。」

 

「いやいや!なに新しい筆欲しいな。くらいの感じで言ってるんですか。」

 

間諜からの報告を届けに来ていた服部の前で、最上がとんでもないことを言い出した。

 

「八代駅は石炭が採れるんだよ。駿城でも熔鉱炉でも使うしいくらあっても邪魔にはならない。八代駅の生き残りに政をできるような奴はいなかった。道元様経由で半年近く親類も探してもらったが名乗り出ていない。甲鉄城の民人を引き取れと言われたくなかったのか、本当にいないのかは知らないがな。となれば我々が奪還すれば我々の物だ。」

 

「山賊か何かですか?」

 

「馬鹿言え。当然の権利だ。…まあ今八代駅の面倒など見られんから、暫くは無理だが。」

 

「もし八代駅の領主の親類が名乗り出たらどうします?」

 

「我々が奪還してからなら知ったことではない。だが自ら奪還のための助力を乞うなら協力しよう。何割か利権はいただくが。」

 

「えぇ…。菖蒲様が許しますか?それ。」

 

「菖蒲様とて、総領としての教育を受けておられるのだから頭ごなしに拒否はせん。最終的に菖蒲様の許せる範囲に落とせれば問題ない。通常ならあり得ないくらい、優しい条件にはなるだろうがその分恩は売れる。私と道元様が散々圧力をかけた後に、菖蒲様が条件を大幅に引き下げたら天照のように見えることだろうよ。」

 

「うわぁ…。」

 

「奪還後なら譲らん。血を継いでいるだけで、なにもしなかった者に権利などない。」

 

「それ。通りますか?」

 

「通るさ。八代駅の民人ですら、自分達のために何一つしてくれず、奪還後に権利だけ掠め取りにくる者など願い下げだろうよ。」

 

「顕金駅をもっと再興してからじゃないと、流石に八代駅までは手がまわりませんね。」

 

「そうなんだ。顕金駅ですら役人不足だからな。今の体制から人を削ったらどっちも立ち行かんしな。」

 

「もし実現したら領主は誰になるんです?」

 

「私か勘太郎殿だろうな。道元様はなんとしても顕金駅に残したい。」

 

「最上様が行く可能性あるんですか⁉︎」

 

「そりゃあるだろう。政ができて顕金駅の利益の為に働くとなれば我々しかいないし、落ち着いた頃なら別に私が居なくとも困るまい。私には配下もおらんし、ごそっと引き抜いたりはせん。流石に役人とか流民上がりの武士とかは多少は貰って行くがな。」

 

「居なくなったら困ります!」

 

「何故?…ああ。道元様や勘太郎殿にわからないことを聞きにくいか。2人共怖くはないぞ。」

 

「違いますよ!」

 

「なら何が困る?これといって思い当たらないんだが。むしろ勘太郎殿よりは私の方が強いし、行くなら私の方が良いと思うがね。」

 

「そういうとこ!もう!そういうところどうかと思います!」

 

「何を怒ってるんだ。」

 

机をばんばんと叩いて憤慨する服部に、最上は首を捻る。

実務的には最上が行っても勘太郎が行っても変わらない。しかし服部からすれば、最上は一緒に戦ってきた仲間である。当然のように残るとしか思ってなかったのにこれである。

この年下は平気で1人で行こうとしている。来栖の配下など絶対連れて行かないのだろう。

 

「もう怒りましたよ!帰ります!」

 

「そうか。報告書は受け取ったし構わない。」

 

「失礼します!」

 

「…何を怒ってたんだ?」

 

すたーん!と勢いよく襖を閉めて服部が退室して行ったのを見てさらに首を捻った。

 

服部はそのまま、今でも武士達がよく集まる雅客の家に突撃した。

 

「…とか言ってたんだけど!なんなのあの人!」

 

「えぇ…。」

 

「あぁ…。いや。うん。」

 

「最上にとっては己は九智家の当主で、お前たちは九智家の配下だからな。言いたいことはわかる。普通他家の当主が拡大した領地の為に、異動したとして困らんだろ。というところだろう。」

 

「来栖。」

 

雅客の家には樵人と珍しく来栖が居た。

 

「克城で失った信頼がここに…。」

 

雅客が両手で顔を覆って呻いた。

たらればの話であるが、克城での問題がなければ、恐らく最上が武士達を来栖の部下であって、自分は関係無いのだと割り切ることはなかっただろう。最上なりにじわじわ歩み寄っていたところで外された梯子は、割り切ってしまったことでそういう意味で二度とかかることがなくなった。

基本的に根に持ってネチネチ言われることもなければ、ふとした時に蒸し返して引き合いに出すこともない。怒ってないので当然である。

普段はめちゃくちゃこき使われるし、社交的に接してくるので忘れがちだが、時折引かれた線に気付かされる。

 

「ゔゔ…。結構仲良くなったと思ったのに。」

 

「事実たぶんお前が一番仲良いだろう。割とお前が使われることが多い気がするが?」

 

「そうだが!そうじゃない!」

 

「八代駅をうちが手に入れなきゃ良いのでは?」

 

「でも顕金駅の利益になるなら反対するの無理じゃないか?」

 

「落ち着いたら確保しに行くだろうな。」

 

「なんとかして勘太郎様が行くようにするとか?」

 

「無理だろ。」

 

「いっそ着いてくか?雅客。」

 

「ゔゔぅん。」

 

「そこで即答せんから、最上も呼ばんのだろう。」

 

「ゔっ!」

 

来栖がとどめを刺したため、雅客がそのまま倒れ込んだ。

 

「来栖。言い過ぎじゃないか?」

 

「だが事実だ。最上が言っているのはそういう話だろう。着いてくるか聞いても、どうせ誰も希望せんから文句の言えん者を連れて行くだけの話だ。勘太郎様と同じ立ち位置からものを言っているだけだ。どうせ選んでやらんくせに、最上からの信頼を求めるのは止めろ。」

 

「来栖は割り切ってるな。」

 

「己とて勘太郎様と最上なら最上に残って欲しいが、政に関することなら己が口を挟める範疇ではない。」

 

「それはそうだが。」

 

「あっ!瓜生!」

 

「あっ復活した。」

 

「何が瓜生?」

 

「最上様くらいしか瓜生使えないじゃん⁉︎どうすんの⁉︎」

 

「連れて行くのでは?」

 

「あいつらむしろ着いていきそうだな。来栖とも吉備土とも相性よくないし。」

 

「あれ?これ。勘太郎様だったら狩方衆行かないのでは?」

 

「これは最上様で確定か?」

 

「ちょっと!嘘だろ⁉︎」

 

武士達が喧喧諤諤意見を交わすこの話題であるが、実は菖蒲に聞いたら一発で決まるのである。

 

「最上が行く?ダメです。」

 

ただこれで方が付くのである。

菖蒲が駄目だと言ったら駄目なので、どうにかするために派遣する人員を、最上がせかせか調整することになる。

菖蒲は半年前ならいざ知らず、もうすでに本人の希望は関係なく手元に置いておくと決めたのだ。

 

 

さらに道元が

 

「最上君が?駄目だな。齢が足りん。いくら顕金駅の下につくといっても、領主が齢で舐められては堪らん。能力はあっても純粋に見た目の威厳が足りない。菖蒲殿の為に私をここに残したいのは、そういう理由だろう。何故自分に適応されないと思った?海門でも舐められたのだろう。学習したまえ。」

 

と最上を正論でぼこぼこにする未来があることをまだ誰も知らない。




八代駅の領主の親戚さえ現れなければ、たぶん行くのは勘太郎かな。


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【小話】無名

無名ちゃん回です。


「戻った。」

 

「あっ最上さんおかえり。」

 

最上が夜に自分の屋敷に帰ったら、何故か無名が居座っていた。

 

「無名殿?何事か?」

 

「ごめんごめん。小夜達と遊んでたら帰らないでって言うから泊まらせてもらっちゃった。」

 

「それは構わないが鰍殿は知っているのか?」

 

「うん。糸さんに伝言お願いしちゃった。」

 

「そうか。なら良い。」

 

糸とは最上の家に通いで来ている使用人見習いの女である。金剛郭からの民人で商家の娘であるが、後継ぎの長男がいた上、裕福であったため使用人の世話になっていたらしく、家業のやり方も継いでいなければ、家事もまともに出来なかった。器量も良しとはいえず、二十半ばでやっと結婚が決まったのに金剛郭が崩壊。甲鉄城では暫く泣き暮らしていたのだが、少しずつ元気を取り戻し不慣れながら炊き出しなどの手伝いをしていた。顕金駅奪還に伴い早急に仕事を決めなくてはならず、何も出来ないとおろおろしていたところ、最上の家の使用人に確定した穴子と鯉に誘われて、最上の家の使用人見習いとなった。最初は住み込みであったが、最近は蒸気鍛治の男と良い仲らしく通いと相成った。

無名は鰍の家に世話になっており、恋仲の男が蒸気鍛治の糸が伝言を請け負ったという訳だった。

 

「無名ちゃーん!まだぁ?」

 

「こら小太郎!もう夜なんだから大きい声を出すんじゃないよ。」

 

「今行くー!じゃあ最上さんおやすみ!」

 

「ああ。おやすみ無名殿。」

 

大きい声で無名を呼んだ小太郎が、鯉にぴしゃりと叱られているのに、無名も大きい声で返事をして走って行ったので、無名も鯉にちくりと注意されていた。ごめんなさぁい。という謝罪の声と子供達の笑い声が聞こえてくる。

 

「お疲れ様でした。」

 

「ああ。穴子さん変わりはないか?」

 

「特には。下緒はしっかりやっていますか?」

 

「大丈夫だ。静殿は教えるのも上手いし、下緒も物覚えが良い。」

 

「それはようございました。」

 

最上は穴子の世話になりながら、食事をとって持ち帰りの書類を少し片付けてから就寝した。

 

翌朝

 

「最上さんおはよう!」

 

「ん。…おはよう。」

 

「最上さん目ぇ覚めてなくない?いつもの半分しか目開いてないよ?」

 

「いつもそうだよ。下手すると半分寝ながらご飯食べて、穴子さんに怒られたりするし。」

 

「ええー。そうなの?意外。」

 

朝食の席で最上は隣に座った小夜に膝を叩かれていた。

 

「む。寝てた。すまんな小夜。」

 

「ねる。だめ。」

 

「最上さん小夜にも怒られてるじゃん。」

 

「よくあるよ。」

 

無名と小太郎はからから笑っていたが、静かに食べなさいと穴子に叱られた。

 

 

最上が出仕の準備をしていると、無名が一之進を伴ってやってきた。

 

「ねぇねぇ。一之進がね。剣術教わりたいんだって。」

 

「へえ。なら比較的暇な武士に渡をつけよう。」

 

「最上さんじゃ駄目なの?来栖の次に強いんでしょ?剣術。」

 

「いつも帰宅は大体あの時間だ。無理だな。服部辺りに言って都合をつけよう。一之進。」

 

「はっはい!」

 

「こういうことは無名殿に頼らず自分で言いなさい。」

 

「ごめんなさい。」

 

「あっ!違うよ!昨日一之進と話してて、剣術したいって言ってたから私が勝手に。」

 

「だが今無名殿の後ろで黙って聞いていたのも事実だ。」

 

「最上さんの意地悪。」

 

「それで構わない。一之進が私を苦手に感じているのも知っている。だが武士の子として武士を目指すなら、女子の後ろに隠れているようでは駄目だ。…まあ無名殿は私より強いがな。」

 

「よくわかんない。」

 

「無名殿はわからなくても問題あるまい。一之進。武士になりたいのか?それともただ剣術をしてみたいだけか?」

 

「っ!父上みたいに武士になりたい!」

 

「そうか。なら私にも自分から声をかけられるようになるんだな。」

 

「わっわかりました!」

 

「こういうのやっぱりわかんないなぁ。」

 

「生駒は蒸気鍛治だし、わからなくても問題あるまいよ。」

 

「なっなんで生駒が出てくるの⁉︎」

 

「…?恋仲なのでは?」

 

「こ…恋仲…!そ…そう…かな。」

 

無名が顔を真っ赤にしてもじもじとしている。

 

「生駒にはうちに泊まったことはちゃんと報告しておきなさい。」

 

「なんで?」

 

「あのな。私も歳のそう変わらぬ男なのだから、理由をちゃんと説明しておかないと心配するだろう。無名殿の口から聞くのと、他人から噂を聞くのではだいぶ違うぞ。」

 

「えっ⁉︎か…かか…勘違いとかされるってこと⁉︎」

 

「まあうちには子供もいれば使用人もいるから、勘違いするかはわからんが恋仲なのだから報告はすべきだと思うぞ。」

 

「だって最上さんだよ⁉︎絶対そんなことになんないじゃん!」

 

「なんだその信頼。」

 

「そんなふうに見たことないし!私より弱いし!」

 

「…私とて傷つくんだが…。」

 

「あっごめん。」

 

「まあいい。ちゃんと報告するんだぞ。鰍殿と一緒でも良いから。」

 

「わかった!」

 

「ではそろそろ時間なので失礼する。」

 

「はーい。いってらっしゃい!」

 

「…いってらっしゃいませ。」

 

「ああ。行ってくる。」

 

最上は疾風に乗って出仕して行った。

 

 

無名は最上に言われたとおり、生駒に報告することにした。勿論鰍も一緒に。

 

「ええ⁉︎最上さん家に泊まった⁉︎」

 

「うん。小夜達がね。帰らないでって言うから…。一之進と小太郎と小夜と二之介と5人で並んで寝たんだよ。兄弟とかいたらあんな感じなのかな。」

 

「も…最上さんは?」

 

「私たちが寝るちょっと前に帰ってきたから挨拶はしたよ。朝もご飯みんなで一緒に食べたし。あっ聞いて聞いて!最上さん朝弱いみたいで目半分も開いてなかったし、小夜に寝るなって怒られてたの。」

 

「そうか…。」

 

「それでね。朝最上さんに、泊まったことはちゃんと生駒に報告しなさい。って言われたの。噂とかで聞いたら心配するからって。…生駒…心配…する?」

 

「当たり前だろ!…最上さんだって男なんだから。」

 

「だって最上さん私より弱いよ!」

 

「お前。それ最上さんに言ってないだろうな!」

 

「言っちゃった。」

 

「こら!失礼だろうが!」

 

「ちゃんと謝ったもん!」

 

鰍はまだまだ続く二人の会話をにまにましながら聞いて、朝から幸せな気持ちを充電してから一日を過ごした。




ホモ君家の使用人は、穴子さんと鯉さんになりました。

下緒がホモ君家を卒業したので、新しい使用人見習いは補充されてます。
流民は沢山入ってくるので、即戦力ではない女性の内からチョイスしてます。
城には鯖とか下緒とかがいるので、城の使用人として即戦力採用された人達は、さりげなく観察されて報告されています。

一之進が武士の子設定は勝手にやりました。それっぽい見た目だからってだけですが。上侍派閥の下の方の子のつもりで書いてます。


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【小話】駿城の名前

扶桑城は蒸気鍛治達により分解撤去が行われた。バラバラに分解された後、使える部品と使えない鉄屑とに振り分けが行われ、使えない鉄屑は溶鉱炉で溶かされた。

 

新しく建造されている駿城は、扶桑城からそのまま生かされた部品や、溶かした鉄を再利用しており、その殆どが扶桑城で構成されている。

建造中の駿城は5両編成とかなり短い編成の為、使われなかった部品も存在しているが、流用している部品と同じ規格である為、予備部品として保管されることとなっている。

現在急ピッチで建造しており、思いの外流用できる部品が多かったことから、当初の想定より早い完成が見込まれている。

 

「完成が近づいてきたね。」

 

「試運転まであと一月ってとこですかね。」

 

侑那が建造中の駿城を見学に来ており、仕様の解説のため巣刈が対応していた。

 

「ていうかさ。まだ決まんないの?駿城の名前。」

 

「まだみたいですよ。侑那さんは何か候補出しましたか?」

 

「まさかこんなに決まらないとは思わなかったし出してないよ。最上さんとかなんかいい感じの名前つけそうなのにね。」

 

「最上さんは鏖殺城らしいですよ。たぶんちゃんと考えてないんだと思いますけど。」

 

「うわっ。それはないわ。それいつ聞いたのさ。城に泊まり込んでた時期じゃないだろうね。」

 

「さあ。いつ聞いたかまでは。まあ募集かけさせたのは最上さんみたいですから、本人は考える気ないんじゃないですかね。」

 

「ふーん。まだ締め切ってないならなんか応募してみようかな。」

 

「えっ⁉︎なんて名前にするんです?」

 

「まだ考えてもないから。あんたは応募したの?」

 

「いやぁ。してないですね。」

 

侑那と巣刈の会話を聞いていた者達も、自分はなんて書いて応募しただとか、誰々はなんて書いていたなどと言葉を交わす。名前の応募は、駿城の名前と命名理由を記載すれば誰でも応募が可能である。

 

侑那と巣刈が駿城の名前の会話をしてから、1週間後に締め切りとなり、吉備土が取りまとめた後、最上の下に届けられた。

取りまとめられた資料から、明らかに人の名前であるものや、既にある駿城の名前や同じ音の名前、長すぎる名前などが弾かれていった。

 

残ったものを菖蒲、道元、勘太郎、最上、来栖、吉備土らがいくつか候補を抽出し、さらに駅内投票となった。

掲示された名前の候補の隣には命名理由も記載され、文字は読めぬが投票したいという者の為、六頭領が案内としてつけられた。

 

そして投票で選ばれた名は蓬莱(ほうらい)城である。

命名理由は不老長生の仙境「蓬莱山」と、生命更新の仙木「扶桑樹」は並んで語られることが多く、扶桑城を再利用して建造されたことから、関係性のある名前にしたかった。とのことであった。

 

知識層からの受けがよく、学のないものからも、不老長寿という言葉が縁起が良いとか、扶桑城と関係のある名前は良いと支持を集めた。

駅を破壊したのは扶桑城ではあるし、扶桑城がカバネにのまれたことを知らない駅も多々あるため、扶桑城の名前をそのまま使うことはできなかったが、扶桑城を使って新たに駿城を建造するからには、なにか証のようなものは残してやれないかと蒸気鍛治達の間でも話題となっていたため、蒸気鍛治にも受けがよかった。

 

尚、鏖殺城は上層部の予選で落ちている。鏖の字の画数が多いから書類に書きたくないと最上が不採用にしていた。自分であげた案を自分で不採用にしたのだ。

最上からすれば、頭があまり働いてない時に聞かれて、いい加減に答えたのに、代筆で候補として入れられていたことに驚いていた。万が一にも採用されたら鏖の字を何回も書類に書く羽目になるため、積極的に不採用にした。

積極的に不採用にせずとも予選は通過しないのだが念のためである。

 

採用された名前の応募は無記名で入れられており、名前をつけた人物については不明である。

 

だが最上は知っている。何せ扶桑の意味や関係のある言葉を質問されたのは自分なのだから。無記名で入れたのだから知られたくないのだろう。

採用されたところで褒美などないのだが、まあ自分で運転する駿城に名前をつけられたのだから、それ自体が褒美みたいなものだろう。




侑那回でした。
一城分の材料が駅内にあるんだから有効活用しないとね。


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【小話】人材発掘

ネーム有のオリキャラが増えます。


「吉備土。次回の運行には道元様が同行するからそのつもりでな。」

 

吉備土が呆気に取られているうちに、最上は去って行った。

 

「えっ…。」

 

吉備土は聞き間違いか何かではないかと、服部を捕まえて確認することにした。

 

「間違いじゃないよ。道元様が同行することになってる。」

 

「なんで道元様⁉︎最上様ではなく⁉︎」

 

「人を顕金駅に迎えるために、一度お会いするらしいよ。」

 

「最上様でも良いじゃないか⁉︎道元様とどうしてたらいいんだ⁉︎」

 

「道元様が同行してた時って菖蒲様か最上様がお相手してたものなぁ。でも道元様がそもそも書状とかで都合つけたらしいし、やっぱり最上様じゃ若すぎるから道元様の方が良いんだって。仕方がないよ。」

 

「うぐっ。」

 

「吉備土は最上様のこと得意じゃないだろ。そんなに変わらないじゃないか。」

 

「普段は別にそこまでじゃない。俺たちの事を見下したりはしないし。ただ偶に非人道的なこと言ったりした時は反論してしまうが。最近は配置でも距離とられてる気がするし…。」

 

「あぁ…。わかる。最上様って吉備土のこと面倒がってるよな。」

 

「苦手とかではなく面倒…。」

 

「まあ道元様達が決めたことだから、なに言っても仕方ないし、諦めて行ってきなよ。」

 

後日、道元を乗せて甲鉄城は旅立って行った。

 

今回道元が会いに行ったのは、文官候補ではなく料理番候補である。

今までは甲鉄城で炊き出しをしてくれていた鯖達が頑張ってくれていた。しかしいつまでもそのままとはいかない。他の駅で、もてなされることがあるが逆もまた然りなのだ。今はまだもてなす機会はないし、あっても多少の手落ちも暫くは許されるだろうが早めに都合をつけなくてはならない。

 

まだ復興中であり、先行きが不透明な駅など地位が確保されている者は来たがらない。復興中でも来たいという者がいるとすれば今いる場所では、成り上がるのが難しい者である。

駅の重要な役職のポストが増えることはあまり無い。というのもカバネを防ぐ為の壁に囲まれており、領土が増えることがない為である。既に確立している政治体系など早々変わることはない。領土が増えでもすれば勿論管理するものが必要になるのだが、今の日の本ではそれも望めない。

普通の駅では、重要な役職は世襲であったり、後継者を育成している場合が殆どである。後継者に食い込めていないということは、実力に問題があるか、地位が足りないか、要職についた後継が既にいる家の次男等か、女性の場合である。

 

しかし、裏を返せば地位が足りないだとか、次男だとか、女性だとかの理由で重要な職につけない実力のある者は、いくらか存在しているし、復興中の駅で貢献すれば、復興後にそれなりの地位が約束される為、希望者はいるのである。

完全に復興し安定してからだと、今いる駅の領主より、家格の高い四方川家に取り入ろうと希望する者も出てくるだろう。そういった者は、現在復興の為に働いている元々の地位が低い者を蔑ろにしかねない為、早めに重要な役職のポストを埋めておきたいのが実情なのだ。

 

最終的には下侍であった者達全員を要職につけたいのだが、今それをしてしまうと実務が回らない為、最低限度は外から引き入れ安定してきたら、順次引き上げる予定となっている。順次引き上げると言っても、肩書きは既に付けられている者が多い。実務が伴っておらずとも、肩書きを与えて置かないと後からが面倒なのである。

 

約一年で、物資の提供を都合することの対価に契約していた流民の受け入れが完了する予定となっている。流民の受け入れがひと段落すれば、各所で余裕ができ始める為、一部の武士に対する教育が行われる予定である。

 

そういった事情であるので、料理番も早めに決めておきたいのだ。何せ主君の口に入る物を作るのだから、それなりの実力者を入れたい。

 

道元は幕府の老中であったことから、顔も広いため人材発掘が上手かった。菖蒲や最上では、手段を思いついても実現出来ない事である。

 

そんなこんなで、吉備土は胃の痛くなるような旅路を終え、道元と料理番予定の者を連れ帰ったのだ。

菖蒲や最上と違い、道元は武士達に対してそれなりに礼儀等に厳しい。勿論カバネの襲撃中などに空気も読まずに注意する事などないが、幕府の老中という雲の上の人であった道元はそこにいるだけで緊張するため、甲鉄城を取り仕切る武士達は胃がキリキリとする思いであった。侑那などは菖蒲や最上にするように道元さんと呼んでいたが、聞いていた武士達は血の気が引いた。

失礼ではあるのだが、道元も甲鉄城に乗っていた時期があるので、こういうものだと理解しており特に気にしていない。

 

迎え入れた料理番予定の者は、大きな商家の三男で名を鯏(うぐい)という。地位も無ければ家を継ぐ必要もないとのことで喜んで着いてきた。穏やかな気質で、城の厨を預かっていた鯖達とも上手くやれそうである。鯖達は男前が来たと喜んでおり、鯏は照れながら挨拶を交わしていた。

 

(おいあの料理番。来て早々に女子に人気だぞ。)

(顔が良い。仕方がないだろう。)

(半年以上甲鉄城で共に暮らした我々には何もないのにな。顔か…。)

(やめろ。悲しくなるだろ!)

 

鯏が厨に入るようになってから、食事が美味しくなったと、城の者達に評判である。鯖達の料理が下手だったわけではないが、鯏の料理は更に美味しかったのだ。限られた食材を文句も言わずに上手くまわしてくれている。

商家の出の為、各駅の食糧の生産事情にも程々に詳しく、相場も大体把握しており、帳簿の管理もできることから、道元ら3人は大喜びであった。

 

時折確認は必要であるものの、食糧費の管理は鯏に任せることができる。正直城の中での食糧費の帳簿などは、余計な仕事であったのだ。

仕事の一部を任せられるばかりか、駅全体の食糧を仕入れる場面においても、良い相談相手ができたのだ。

 

ご飯も美味しければ、仕事も減ったので道元らの機嫌は良くなった。

 




料理番必要だな。と思い至りましたのでこうなりました。
既存キャラでは無理があったのでオリキャラが追加になってしまいました。
いやもう本編はとっくに終わってるので、続けるならオリキャラ入れるしかないんですがね。まあ、料理番って大切だけどたぶん出番はそうないので許してください。


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【小話】菖蒲

菖蒲様回。


「これより訓練を開始する!」

 

武士達の約三分の一が集まり、銃の操法や剣術の試合を行うのだ。兵部頭につけられている来栖が、指揮監督をし技術の向上等を行う。カバネリ2人も参加することはあるが、来栖とカバネリ2人の3人で手合わせするくらいである。というのも無名の銃の取り扱いは他の追随を許さぬものであるが、残念ながら説明が壊滅的に下手なので、講師としては役に立たないからだ。生駒は蒸気筒や剣術を覚えるくらいなら、ツラヌキ筒での立ち回りを、もっと覚えるべしとの最上からの指示である。

ちなみに無名と来栖からGOサインが出れば、他に手をつけても良いと言われているが、許可を出す2人が強すぎて先が見えない。

 

生駒の手が届く最上や瓜生は、生駒が参加するときは不参加なので、ひたすら頑張るしかない。

 

最上が参加するときは、狩方衆も参加である。最上がいれば瓜生は大体最上と皮肉の応酬をしており、他の武士とトラブルを起こすこともないので。

瓜生から積極的に喧嘩を売ることはないのだが、皮肉屋ではあるので武士達がカチンときやすいのである。狩方衆は美馬について行っていただけあり、蒸気筒の取り扱いが上手く、説明も理論的なため、瓜生以外の狩方衆は割と武士達に受けが良い。とはいえやったことがやったことであるので距離はそれなりである。

手合わせでは来栖と最上がそれぞれ武士達の指導をする。それ以外には来栖対最上・瓜生で手合わせをするが最上達の惨敗である。来栖は2人に人間じゃないと毎回罵られている。

偶に最上と瓜生がガチンコ対決をするが、大体最上の負けである。

最初は互角なのだが最上の体力が尽きる方が早いからだ。顕金駅を奪還してからは特に顕著に結果が出ている。復興当初ひたすら伝令で走らされ続けた瓜生と、城に缶詰になりひたすら事務作業に追われていた最上では歴然であったのは致し方ないことである。

本来なら、来栖も最上の体力不足には苦言を呈したいところではあるが、じゃあ体力作りするから代われよ。などと言われては堪らないので、瓜生に嘲笑われる最上を眺めるに留めている。

 

今回来栖以外の前衛面子は不参加の日であったが、まさかの菖蒲が参加である。鈴木達の改良により蒸気筒がひと回り小さく軽くなったため、菖蒲が自分にも使えるのではと試しに来たのだ。

菖蒲は剣術も一応ひと通り出来るため、万が一にも怪我をさせない来栖が手合わせをする。

 

「随分軽くなりましたね。」

 

「はい。大きさも少し小さくなりましたので取り回しも良くなりました。己は扱うことが殆どなくなりましたが、最上などは筒も刀も使いますので喜んでおりました。」

 

「そういえばよく筒を襷掛けにしていましたね。」

 

「ええ。よく邪魔ではないなと思っておりますが、己と違いあまり突出しませんので両方携帯しておく方が都合が良いそうです。」

 

「なるほど。それでは私も試させていただきますね。」

 

「どうぞ。」

 

菖蒲が蒸気筒を構える。

 

「菖蒲様。もう少し足を開いて、少し重心を前に。はい。そのくらいで。大きく反動が来ますのでお気をつけ下さい。」

 

「きゃっ!」

 

発砲音と共に小さく菖蒲の悲鳴があがる。弾は的の端を掠めた。

 

「思っていたより反動があって驚きました。」

 

「お怪我はございませんか?」

 

「ええ。少し驚いただけです。それにしても、無名さんや最上が軽々撃っていたのでもう少し反動が小さいものかと思っていました。」

 

「無名はカバネリですし、最上も臂力がない方ですが、前衛をできるほどには鍛えている武士ですから。」

 

「いざとなれば使うことにもなるのでしょうが、やはり私は蒸気弓の方が良さそうですね。」

 

「菖蒲様の弓の精度は素晴らしいですからね。」

 

「生駒にお願いして矢尻に金属被膜の加工をしていただいたものも試して良いですか?」

 

「どうぞ。」

 

菖蒲が蒸気筒を撃った位置より少し下がって蒸気弓を構える。周囲が静まり返る中矢が放たれた。

放たれた矢は的の真ん中に突き刺さり、矢尻が中程まで鉄板の裏に突き出している。

 

「お見事です。」

 

「ありがとうございます。刺さりはしましたね。少し裏も確認致しましょう。」

 

来栖と菖蒲は的の鉄板の裏を確認した。

 

「貫通致しましたね。」

 

「ですが不十分です。本来刀より弓の方が貫通力はあるはずなのですから。」

 

「ふむ。確かに。生駒か最上辺りに後で確認してみましょう。」

 

この後菖蒲は来栖を相手に手合わせをして訓練を終えた。

 

菖蒲と来栖は揃って最上の執務室に来ていた。

 

「なるほど。確かに貫通力は間違いなく弓の方が上です。結論から申しますと先程お伺いした貫通力ならばカバネを殺せます。」

 

「では何故貫通しなかったのでしょう。」

 

「前提が間違っております。あの鉄板とカバネの心臓の金属被膜の強度は同一ではありませんよ。来栖はどうか知りませんが、私は刀であの鉄板を突いて完全に貫通するのは無理です。」

 

「そうなのですか⁉︎」

 

「なんだと⁉︎」

 

「ですから矢尻の中程まで貫通されたのであればカバネは殺せます。」

 

「本当ですか⁉︎」

 

「ええ。今度駅外で試してみましょう。まあ菖蒲様が直接カバネを殺す機会などない方が良いのですがね。」

 

「それはそうなのですが、やはり手段があるのとないのでは違いますから。」

 

「理解しております。試射だけであれば私がして参りますがどうされますか?菖蒲様ほどの精度はありませんが一応弓も嗜み程度には使えます。」

 

「いえ。自分で試します。」

 

「そうですか。来栖。来週吉備土が宍道駅に行く予定だっただろう。菖蒲様と行って来ると良い。道中試射をすれば良い。」

 

「わかった。」

 

「よろしいのですか?」

 

「宍道駅であれば長旅にはなりませんから問題ありませんよ。ついでに気晴らしでもなさってこられればよろしいかと。来栖がついていれば危険もございませんし。」

 

「わかりました。提案に甘えることにします。」

 

後日菖蒲は最上の提案通りに、宍道駅への道中で試射をし、カバネを殺せることを確認した。とうとう菖蒲もカバネを殺せる術を手に入れたのだ。

 




そもそも刀で殺せる来栖がヤバいと思うんですよね。いうなれば斬鉄を繰り返してるわけですよね。まあホモ君にもさせちゃってますが…。
蒸気弓が和弓より威力があるとするならば、矢尻さえ金属被膜で覆ってしまえばカバネを殺せても不思議じゃないと思うんですよね。
銃と違って速射性やら、使い捨ての矢に金属被膜は無駄とかの問題はありますが、菖蒲様にもカバネを殺す術を習得させたかったんです。


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【小話】中暑(熱中症)

暑い日々が続いておりますが、皆さまはお元気でしょうか。

毎日クソ暑いので熱中症ネタです。


その日の八つ時に下緒が廊下を歩いていると、少し先で壁に寄りかかって座り込んでいる最上を発見して駆け寄った。

 

「ちょ!どうしたんですか⁉︎」

 

「…下緒。…すまんが、厨から水と塩を少しもらって来てくれるか。」

 

「それは構いませんけど、誰か呼びますか?」

 

「…いや。大丈「あれ?下緒さん?どうか…って、最上様⁉︎」

 

「あっ!倉之助様!最上様を執務室までお願いできますか?」

 

「最上様。どうされました?」

 

「いや。…恥ずかしながら、中暑かな…。」

 

最上が少し眉の下がった情けない顔でへらりと笑う。対応し始めた倉之助を見て、下緒は小走りでその場を離れて行った。

 

「とりあえず、執務室まで行きましょう。廊下だと騒ぎになりますし。歩けますか?」

 

「…すまん。肩をかして貰えるか。」

 

「勿論ですよ。」

 

倉之助が肩を貸しながら、少し先の最上の執務室へと連れて行った。

 

「中暑ならとりあえず長着姿になった方がよろしいのでは?」

 

「ん。」

 

最上は怠いのか返事だけして袴に手を掛ける様子がない。もう問答無用で脱がしてしまおう。いっそ襦袢にしてしまった方が涼しいだろうと、倉之助は最上の袴に手をかけた。

袴を脱がせ、帯を外して長着を開いたところですぱーんと襖が開いた。

 

「最上さん!企画書持ってきました!お願いします!」

 

生駒である。丁度いいので楓を呼んでもらおうと、倉之助が声をかけようとしたが、

 

「おっ!お邪魔しました‼︎」

 

襖が勢いよく閉められた。

倉之助は、一瞬何を言われたのか理解出来なかった。だが側から見れば、なるほど勘違いされたのだと気がついた。

 

「いっ生駒!違うんだ!」

 

倉之助が声を上げたが時既に遅し、生駒は脱兎の如く逃げて行き、生駒は廊下で来栖に激突して怒られた。

説教をされているときに、生駒はハッとした。最上が執務室で昼間から事に及ぶことに同意するだろうかと。

2人はそもそも恋仲ではないし、異性が交際対象であるのだが、生駒の中ではそうなった。

 

「来栖!大変なんだ!倉之助が最上さんを襲ってた!服脱がせてた!」

 

「は?なんだって?倉之助が?」

 

説教の段階からちらほら視線を集めていたのに、廊下でそんなことを大声で言ったものだから、周囲の者も聞いてしまった。大事故である。

 

生駒は来栖をぐいぐい引っ張って、最上の執務室に戻って行った。

生駒が勢いよく襖を開けると、最上は襦袢姿で仰向けになり、倉之助に団扇でぱたぱたと扇がれていた。

生駒は想像していた光景と違ったことから呆気にとられていた。

 

「あれ?」

 

「よかった。生駒。悪いんだけど楓様探してきて貰えるか?」

 

「わっわかった!」

 

「生駒ぁ!廊下を走るなと何度言わせるんだ!」

 

倉之助に楓を呼ぶように言われ、それまでしていた勘違いも気まずかったので、生駒はまた全力で城の廊下を駆け出した。来栖の怒声が後ろから聞こえたので、更に速度を上げた。

 

「なんだ最上。お前が我々に気をつけろ気をつけろ、とうるさかったのにお前が中暑か?」

 

「…申し開きのしようもない。」

 

「最上様。お水と塩をお持ちしました。」

 

下緒が盆に湯呑みと陶器の瓶と塩の乗った小皿を乗せて執務室に入ってきた。

 

「すまんな。」

 

最上は起き上がって、下緒が卓に置いた小皿から塩をひとつまみ舐めて、湯呑みの水を呷った。

 

「忙しくてすっかり水分をとるのを忘れていた。鍛錬でもして汗でも流してれば忘れんのだが、座ってばかりだとなぁ。」

 

来栖達が呆れた顔で最上を見ていると、後ろから女性の声がかかり最上の肩がぎくりと跳ねた。

 

「あら。最上様。今年は例年より暑いから、風通しの良い場所でも水分の補給を怠らぬようにと、菖蒲様からお触れを出してもらうと決めた時に、同席されていたのはどなたでしたでしょうか。」

 

「わ…私です…。」

 

「最上様は医学にも明るいはずですが、私の認識違いでしたでしょうか。」

 

「…武士達よりは明るいかと。」

 

楓が笑顔のまま部屋に入って来るが、目は笑っていない。来栖は倉之助と下緒を目線で促して、執務室からするりと抜け出した。

廊下には仁助がおり、そのまま襖を閉めた。

 

「仁助。あとは頼んだ。我々は業務に戻る。」

 

「わかりました。皆さまもくれぐれもお気をつけて。」

 

仁助に笑顔で見送られ、それぞれの仕事に戻っていった。

 

最上は楓の問診で、寝不足も指摘された。日が暮れるまで楓と仁助に見張られ、日が暮れたら2人に家まで送られた。

楓は、穴子と鯉に今日だけはなんとしても仕事はさせないことや、子供達と同じ時間に就寝させることを言い含めて帰っていった。

 

「効率の良さを好み利益を常に気にしておられる最上様なら、どうするのが一番良いかお分かりになりますよね。」

 

笑顔を浮かべた楓の去り際の台詞である。最上は引き攣った笑顔で返事をしていた。

 

城では生駒の大声により広がった噂を訂正するため、倉之助が東奔西走する羽目になっていたが余談である。




皆さまも小まめな水分補給と充分な睡眠を心がけて下さい。

倉之助は暫く渾名が風雲児になった。
交際相手には誤解されてません。日頃の行い。


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【小話】蓬莱城

新しい駿城である蓬莱城が完成し試運転を終えた為、本日は出発式となっている。奪還作戦よりなにかと世話になっている宍道駅まで行き、宍道駅周辺のカバネ狩りをするのだ。

 

記念すべき初運行となる為、菖蒲と来栖を乗せ、カバネリ2人、吉備土、樵人、仁助、歩荷、雅客、瓜生以下狩方衆、その他武士の半数を動員することになっている。

 

「ということで、雅客。お前は狩方衆担当だからよろしく。上手いこと取り持ってくれ。」

 

「は?はぁあぁっ⁉︎」

 

最上に狩方衆担当を命じられた雅客は仰天した。

 

最上は留守番組である。留守番組唯一の前衛が、前衛最弱ではあるが駅内なので問題はない。

最上が前衛として戦わなければならないとすれば、多数のカバネが入り込んでいるかワザトリが入り込んでいるので、そもそも異常事態である。そうならないように武器の配備や検閲の見直しを実施してきた。

 

鈴木の開発した機関銃は掃射筒と名付けられ、跳ね橋付近や、城、操車場を担当する武士達に配備されている。

検閲所には、以前の様に審議司を配置してある。以前の審議司は、カバネに噛まれた者がいないか確認する武士達の取りまとめをしていたが、今の審議司は検閲所へ駿城が入るための判断から、万が一駿城に取りついてカバネが入り込んだ時の防衛の指揮を取るのが主な仕事である。勿論検閲の取りまとめもするが、主目的が防衛の指揮の為、武士の中から選ばれた6人が3人ずつそれぞれの検閲所に配置され、三交代制となっている。

厳しい審査の元選ばれた6名であり、検閲所担当者は全員審査に参加した為、誰もが6名を認めている。

なにせカバネ役をしたのが前衛組だったので、検閲所担当者は審査の時地獄を見た。検閲所担当者曰く一番カバネ役で優しかったのは生駒である。

 

出発式は朝から行われた。

 

「叔父様。勘太郎さん。最上。顕金駅をお願い致します。」

 

「こちらはお任せ下さい菖蒲殿。記念すべき初運行の成功をお祈りしております。」

 

道元達に見送られ、菖蒲達は宍道駅へと向かって行った。

 

艦橋に集まりこれからの活動の確認が行われた。

 

「それでは皆さん。これから我々は宍道駅へと向かい、宍道駅にて挨拶を終えた後、宍道駅周辺においてカバネの討伐を行います。カバネの誘引は無名さんにお願いします。」

 

「うん。最上さんからこれも預かってるから余裕余裕。」

 

無名が掲げるのは陶器の瓶で、奪還作戦に使用した物と同じである。

新鮮さが重要かは分からないが、新鮮に越したことはないだろうと宍道駅に着いたら、宍道駅で一度降りる商人などから血液を提供してもらう事になっており、採血は仁助が担当する。

 

「宍道駅から出発し、一里程の位置でカバネを誘引し討伐します。線路は東西に延びておりますので、南北に瓶を投擲する予定になっています。」

 

「姫さん。想定よりカバネが集まって融合群体にでもなったらどうするんだ?」

 

「一時的に顕金駅方向に移動しつつ、鎮守砲で散らして討伐予定です。最上曰く擲弾発射器もありますので容易だろうとのことでした。他に質問等はありますか?」

 

特に質問をあげる者もおらず、宍道駅に着くまで解散となった。

 

「侑那さん。蓬莱城はどうですか?」

 

「設計の段階から噛ませてもらっているので使いやすいですよ。それに総重量が軽いので速度も出ます。宍道駅までは平地の直線が多いので、甲鉄城より半刻は早く着きますよ。」

 

「まあ。そんなに違うのですね。使いやすいのならなによりです。」

 

菖蒲は機嫌の良さそうな侑那と笑顔で言葉を交わす。

 

 

一方顕金駅では、甲鉄城が分解修理にまわされていた。今までの旅路と違い部品をしっかり交換できるので、これを機に綺麗に修理する事にしたのだ。

旅路で継ぎ接ぎの部分も多い。旅の最中は足周りを優先し、車体は二の次であったのでそのあたりも手をつけられると蒸気鍛治は喜んでいた。半年以上も乗り続け、自分達の手で何もかもを手掛けてきた為、蒸気鍛治達にとって甲鉄城は思い入れが強いのだ。

顕金駅を奪還したら、至る所に駆り出され跳ね橋も蓬莱城も手掛けてきたので、甲鉄城は最低限の修理しか出来なかったが、今回蓬莱城が完成したことで、最上達から甲鉄城を徹底的に整備する権利を獲得した。

 

武士達がごっそりと出かけているが、検閲所や奉行所などは凡そ通常通りに武士の姿がある。城の中はかなりすっからかんだが、数日程度ならば問題ない。武士達の不在の間に、役人の1人は不慮の事故で亡くなり、使用人の1人が盗みで拘束されたが、それ以外の問題は発生しなかった。

亡くなった役人は、元々下緒達の報告から怪しい動きをしているなと目を付けていた。流民から即戦力として採用した人物であったので、引き渡しをした駅に道元が書状でその人物の背景を確認することになっている。

 

 

菖蒲達は順調にカバネを討伐していった。前衛を出す前に、有志で参加した民人に掃射筒を試させたが、中々の成果を得ており民人達にも好評だった。

宍道駅から乗車させた宍道駅の家老も掃射筒には興味深々であり、購入を希望したことから領主と相談後契約の運びとなった。前衛組を前に出してからは、前衛組の獅子奮迅の働きに家老は大変引いていた。

カバネの金属被膜はなにかと消費するので、討伐したカバネから金属被膜を回収し蓬莱城へと積み込んだ。

 

夕刻までカバネを狩り、宍道駅で一晩過ごして蓬莱城は帰途についた。蓬莱城の皆の顔は明るいが、雅客だけは疲れた顔をしていた。武士達と瓜生が揉めないように間に入り、仲を取り持つのに必死であったためだ。見かねた仁助も途中から手助けをしていたので、どうにか喧嘩にならずにすんだ。

瓜生の皮肉や軽口は割と核心をついていることがあるので、生駒や武士達はカチンと来やすいのである。

 

来栖はそんな雅客や仁助を見て、雅客と仁助を入れれば瓜生は編成可能と帳面に書付けた。

 

菖蒲達が顕金駅に戻ると天祐和尚が経を上げていた。何事かと天祐和尚の近くに居た道元に声をかけると、役人として働き始めた男が、事故で亡くなったことを菖蒲に報告した。夏であることから早朝のうちに火葬をすませてしまったとのことで、集合墓地に納骨するため天祐和尚に経を上げてもらっていたのだと言う。

 

「そのようなことが…。」

 

「菖蒲殿のご不在の間にこのようなことが起こり、面目次第もございません。」

 

菖蒲が悲しそうに目を伏せると、道元も目を伏せて謝罪をした。

 

「いえ。事故では致し方ありません。」

 

来栖は菖蒲と道元が話しているのを聞きながら、これは本当に事故か?と疑問に思った。夏ではあるから仕方ないが焼くのが早過ぎはしないだろうか。元々本日中に菖蒲は戻る予定であったのに、早朝に焼いてしまう必要はあっただろうか。

ちらりと周囲を窺うが最上の姿はない。事故でないなら最上が何か知っているだろうから後で確認することにした。

 

菖蒲達は納骨に立ち会った後、城へと引き上げていった。

 

「事故か。ほんっいったぁ‼︎」

 

雅客も来栖と同じところが気になって、その場で口に出そうとしたところを瓜生に後ろから蹴り飛ばされた。

 

「事故で死人が出たくらいでガタガタ騒ぐなよ。事故死したのが子犬ちゃん達ならわかるがよ。」

 

転倒した雅客は言い分はまだしも、蹴られたことに文句を言おうと顔を上げたところ、瓜生は口調では嘲笑っていたものの目付きが厳しい。

これは事故に触れるなということかな。となんとなく察した。

 

「そりゃ悪かったが蹴らなくても良いだろ。」

 

雅客は気を取り直して、ぶつくさ文句を言いながら起き上がり服についた汚れを払った。

 

「鬱陶しい。死んだのは流民上がりだろ。弔われるだけマシだと思うけどな。」

 

瓜生の言いように武士達の視線が鋭くなる。

 

「瓜生。もう黙れって。ほら最上様のところに報告行くぞ。恙無く終わりました。って報告せにゃならんのに、ここで揉めるのは勘弁してくれ。」

 

雅客は瓜生の背を押してその場を離脱した。

 

「おい。お前。おっさんが事故だって言ってんだから触るんじゃねぇよ。」

 

「いやすまん。助かった。」

 

2人きりになってから、瓜生が面倒くさそうに忠告してきたため、雅客は素直に礼を言った。

 

最上の執務室の前で、雅客達は来栖とかち合ったため一緒に執務室に入ることにした。

 

「最上。事故のことだが…「少し待て。もう終わる。」

 

最上は、書き上げた書類をヒラヒラと乾かして服部に渡した。服部は書類を受け取ると、脇に置いた盆の書類の束に重ねると盆を持ち上げ退室していった。服部の足音が遠のいてから最上は口を開いた。

 

「事故がなにか?」

 

「あれは本当に事故か?焼くのが早くはないか?」

 

「そうだな。道元様の使う予定の水差しに何かしていたのでな。試飲させたんだが、その後事故に遭ってしまってな。夏だし。早く焼いてしまわないと虫が湧くから仕方がなかったんだよ。」

 

最上はにっこりと笑ってそう言った。

菖蒲には、階段からの転落死と報告していたので、毒を自ら呷らせた後に何処かから落としたのだろう。事故ではなく完全に殺しにいっているが、道元と最上が事故だと言うなら事故なのだ。

 

「ふむ。事故だな。」

 

「子犬ちゃんよ。こいつのことちゃんと躾けておけよな。疑問がすぐに口をついて出るのよくないぜ。」

 

「それは失礼。だがそれの群れの頭は、お前の隣の忠犬の方なんだがな。」

 

来栖は何があったか把握していないが、雅客が反論しないことから瓜生に分があるのだなと理解した。

 

「なんで病死ではなかったんだ?」

 

「おや。変なことを聞く。ちゃんと遺体を発見した者もいるし、どう見ても死に至る外傷があるのだから、楓殿にお出ましいただく必要はあるまい。」

 

わざわざ落として死体の発見者を拵えてまで、楓を一件に関わらせたくなかったらしい。

 

「そういえば蓬莱城はどうだった?」

 

「宍道駅までの時間を半刻程短縮できた。侑那が言うには曲がり道が多いところではそこまで変わらんらしいがな。」

 

「まあそうだろうな。速度が出ればその分脱輪の可能性が上がるからな。…しかし半刻は大きいな。出来るだけ軽くさせた甲斐があった。掃射筒はどうだった?」

 

「結構うるさいな。撃ってる最中は指示が通らん。」

 

「それは考えてなかった。最低限の合図を決めておくか。」

 

雅客は普通の会話に戻った最上と来栖を見ながら、なんだかんだ来栖は清濁併せ呑めるから、最上とそれなりに仲が良いのだなと思った。

 

迂遠なネタばらしに立ち会えてる時点で、雅客もその枠に入るのだが本人は気が付いていない。




家老三人衆まっくろくろすけの回。


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【小話】審議司

前話で書いた審議司の審査の話。


「本日はカバネが駿城に取り付いたまま検閲所に入ってしまった想定で訓練を実施する。3人一組で内1人を指揮官にせよ。検閲所の審議司を決めるための審査でもある。指揮官には応問があるのでそのつもりで。」

 

武士達は30人いる為、十組できる計算である。30人の中で一番年嵩の武士が、年長者から10人選びその下に2人ずつつける案を出し採用となった。

応問は指揮官のみ呼び出され、訓練のために駐車されている甲鉄城の中で1人ずつ行われた。城主役の道元が中々に意地の悪い要求などをして、どう対応するかを確認したのだ。道元、最上、来栖、吉備土が採点をそれぞれ手持ちの資料に書き込んでいく。

10人の応問が終われば、次は実技である。二組を一班として実施し、一回りしたら二組の組み合わせを入れ替える。

武士達は訓練用に開発されたゴム弾を撃つが、カバネ役の前衛組は無手で、武士達の腰部に差し込まれた手拭いを抜くことで殺害認定である。なにぶん手加減が下手そうな者がいるので、安全の為その設定となったのだ。避難する民人役として、手の空いている民人などに時間を区切って参加してもらう。民人も手拭いを付けるのでカバネ役は民人も殺すことができる。

一班目は実技審査のやり方がわからないため、前衛組から好きな相手を選ぶことができたことから、一班目は最上を選択した。

 

武士達からすれば、前衛組最弱は最上なので当然の選択であったが、この訓練では臂力はあまり必要ないので、来栖より少しばかり速い最上は、厄介な方なのだが指名した者達は気がつかなかった。

 

訓練が始まってすぐに最上は民人3人から手拭いを抜き取った。

民人を背にして武士達へと向かう。蒸気筒を全員に向けられたが、背後に民人がいる為指揮官が撃つなと怒声を上げている。最上はそのまま指揮官に突っ込み手拭いを抜き取った。

もう1人の武士から手拭いを抜き取ったところで、もう1人の指揮官から発砲の指示が飛ぶ。手拭いを抜き取ったばかりの武士を盾にした後、がなる指揮官へと駆け出した。距離が近い為焦って引き金を引き狙いが甘い。殆どが外れである。銃口の向きから当たりそうな一発だけを、引き金を引くタイミングに合わせて避け、擦り抜けざまに指揮官と横にいた武士の2人から同時に手拭いを抜き取った。

最上はそのまま後退し、民人らから手拭いを抜き取っていく。残された武士2人が右往左往している間に、民人全員から手拭いが抜き取られた。その後武士達も手拭いが抜き取られ、あえなく全滅となったのだった。

 

「蒸気筒も刀も持ってないと身軽で良い。」

 

そこらに投げ捨てた手拭いを拾いながら最上が笑う。

応問と同じようにそれぞれが採点されていく。

 

「カバネはカバネでもワザトリじゃないですか⁉︎無理無理!」

 

「民人にゴム弾当たったら大事故ですよ!何考えてるんです⁉︎」

 

一班目の武士から批難が上がる。

 

「入り込むカバネがワザトリじゃない保証はないし、実際の現場にも民人はいるぞ。甲鉄城に乗っていた者達なら避難するのも早いが、余所の駿城の民人が速やかに避難するとは思うなよ。避難の指示を誰も出してなかったな。避難させないなら、民人諸共撃ち殺すくらいのつもりでいないと駄目だ。さて二班目は頭を回せよ。全滅したくなければな。」

 

四班目まで全滅が相次いだ。五班目は生駒がカバネ役であった。生駒は弾を避けるとか、故意的に民人を背にしたりしないので、武士半数を犠牲に討ち取られた。

生駒はそもそも気持ちで実力の上下が激しく、そこまで気分が乗ってない時は弾を避けるなどできないし、民人が訓練とはいえ撃たれるのは嫌だと思って、正面から挑むので討ち取れたのだ。

 

その後3巡程する頃には、武士達もだいぶ慣れてきた。前衛組も何も本気でかかってくるわけではないので、ちらほら討ち取るのに成功し始めた。

応問も慣れてくれば、毅然とした態度で対応できるようになってきて、5巡程して訓練兼審査は終了となった。

 

人間である前衛組の3人はあちこちに痣を作ったが、今後の駅の防衛の為であるので致し方ない。

 

「あそこまでやる必要あんのかよ。あいつらも言ってたがワザトリかっつうんだよ。」

 

瓜生が自分の痣を確認しながら最上に問う。

 

「生駒が偶に言ってるだろ。無名や来栖より遅い。とかって。あれと一緒だよ。実際カバネが入り込んだ時に、余裕を持って対応してもらうためだ。我々より速いカバネも早々いないだろ。それに武士達は指揮をされるのに慣れすぎたからな。どうしようもない状況でも、自分達で責任持って指揮することにも慣れてもらわねば。」

 

「では道元様のあれもそういうことか?あの応問は己もやりたくない。」

 

「そうだな。道元様相手に毅然とした態度を取れるなら、大体大丈夫だろう。礼義さえきちんとしていれば、必要以上に謙ることはない。審議司が城主にやり込められると困るからな。お前らは見下されることに慣れすぎた。前でいうところの上侍と同じ立場にいることに、慣らしておかなければ舐められる。」

 

「ふむ。凡そ10年で染み付いた意識を変えるのは中々難しいな。」

 

「そうだろうが、顕金駅を守るには必要なことだよ。応問の訓練はまたやるとしよう。戦うより苦手そうだったしな。」

 

くすくすと笑う最上を見て、来栖は心の中で審議司候補に合掌した。

 

訓練中誤って撃たれた民人には小遣い程度の金子が支給された。無傷の民人から俺も当たれば良かったなどと軽口も出ていたのは余談である。




たぶん戦うより、城主に対する対応の方が大変だと思うんですよ。普通は駅でそれなりに偉い人が城主してると思うので、城主上侍VS審議司上侍とかだったと思ってます。年始の挨拶のために参勤してた時は領主も来たでしょうから、審議司も実力は置いといて、それなりの地位の武士をつけなきゃいけなかったんじゃないかなと。
顕金駅には下侍ばっかりなので、しっかり覚えたら手抜きとかせずに愚直にこなしてくれそう。


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【小話】身長

身長の話


「最上様少し背が伸びましたか?」

 

「一年で一寸くらいな。」

 

「やっぱり。そうかなって思ってたんです。」

 

倉之助がにこにこしながら最上と話している。

 

(伸びた…のか?)

(よく分からん。倉之助凄いな。)

(吉備土みたいに大きくなったりせんよな。)

(それは怖すぎる。せめて来栖くらいまでで。)

(あのまま伸びるの止まったら可哀想だから、倉之助くらいまでは伸びてほしいなぁ)

(若いのもあるけど背が小さいから余計舐められるんだろうしな。)

 

丁度来栖が近くで聞いており、最上の頭に手を乗せて地雷を踏む。

 

「伸びた…か?」

 

「喧しい。い…一寸くらいは伸びた。あと頭に手を乗せるな。成長が止まったらどうしてくれる。」

 

「こんなことで止まるわけないだろう。」

 

最上は来栖の手を叩き落としている。

 

(背が小さいの気にしてるんだな。)

(一寸をすらっと言わなかったが鯖読んでる?)

 

「父上はお前くらいあった。まだ伸びる筈だ。」

 

最上がまだ伸びると主張しているが、自信は無さそうである。

 

「そうか。伸びるに越したことはないな。」

 

「…来栖。背を伸ばすには睡眠が不可欠だ。」

 

「寝る子は育つと言うしな。」

 

「というわけで私の仕事の一部をお前にくれてやろう。」

 

「⁉︎」

 

「ふっふっふ。そもそも我々に教えている時間がなかったから、今までお前は割と暇だっただけだ。我々3人から少しずつ仕事をやろう。少し減ればその分睡眠がとれる。そして私の背も伸びる。」

 

こうして来栖に仕事の一部を引き継ぐことが決まった。

 

(余計なちょっかいだすから…。)

(最上様の睡眠が足りてないのは事実だし仕方ない。)

(元々最上様は来栖を家老陣の中に入れたがってたからなぁ。)

(来栖があの3人と渡り合うのは無理では?)

 

武士達がひそひそと話している間に、来栖は最上と倉之助によって連行されて行った。

 

「そういえば。堀川家の先代の奥方ってもの凄く小柄じゃなかったか?」

 

「そうなのか?見たことないなぁ。」

 

「俺もチラッとしか見てないけど身長差が凄かった印象が…。」

 

「それ。暗に最上様は来栖ほどまでは伸びないって言ってるか?」

 

「もしかして最上様は将来一之進に抜かされてしまうのか。」

 

「一之進は最上様が後見してるからな。何においても環境がいいぞ。よく食べてよく寝れるぞ。きっと。」

 

「剣術指南で俺たちにも声かかったもんな。」

 

「小太郎は鰍塾だよな?」

 

「本人の希望らしいぞ。まあ小太郎はその方が合ってそうだが。」

 

「小夜が才女になるかも知れんな。」

 

「どうなんだろうな。小太郎のことを考えると自主性を重んじてるようだし。」

 

「小夜には最上様より菖蒲様みたいになって欲しいなぁ。」

 

「わかる。でも最上様見て育って菖蒲様にはならんよな。」

 

「それはそう。穴子さん達に期待しよう。」

 

「そうだな。菖蒲様だってあの城で育ったのにあの清廉さだ。望みはあるぞ。」




無名ちゃんが150センチ50キロくらいとのこと(正しいのかわかりませんが…)なので、生駒が170半ば、倉之助が170前半、ホモ君は160くらいで書いてます。ホモ君は一寸伸びたと主張してますがせいぜい2センチくらいですね。誤差も入れると…。
倉之助は、女子が切った前髪に気がつくタイプ。
来栖は、菖蒲様以外は何事も些事。
来栖は180あると思ってます。というか吉備土…お前は何センチ?


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【小話】一之進

最上の屋敷の庭では、畑の隣で一之進が竹刀で素振りをしており、樵人が見守っている。

 

「一之進。真っ直ぐ振れてないぞ。集中集中。」

 

「はいっ!」

 

小太郎は、鰍のやっている寺子屋に通うため朝早くから出かけて行った。最上の家から操車場までは、それなりに距離があるので早めにでなければならないのだ。寺子屋は鰍塾と呼ばれており、鰍が担当の日ではなくともその名称で呼ばれているため、鰍は恥ずかしがっている。

 

小夜は縁側で、最上所有の書物を眺めながら時折ちらりと一之進を見ており、二之介は使用人見習いが代わる代わる面倒をみている。

 

(読んで…はないよな?眺めてるだけかな?)

 

樵人は小夜をチラッと確認して、持っている書物が解剖図なのを見てドン引きした。

 

(絵は多いだろうけど解剖図!最上様!ちゃんとしまっておいて下さい!)

 

一之進への剣術指南は、まだ基本の型を教えたり、打ち込みに付き合ったり、素振りを監督するくらいなので、武士達が持ち回りで請け負っている。

先日吉備土が担当の日に、打ち込み台を作成したので、打ち込みも楽になった。

 

一之進は午前中は剣術指南であるが、三日に一度午後から一刻ほど弓術指南も菖蒲に受けている。というのも弓が使えるのは菖蒲と道元、勘太郎、最上の4人くらいである。一応年嵩の武士達も心得はあるが、弓より蒸気筒の操法を覚える方が優先だったので、上手くはないのだ。最上も教える時間はとれないし、もう少し大きくなったら蒸気筒の操法でも教えれば良いと言っていたのだが、一之進の剣術指南の噂を聞きつけた菖蒲の希望で弓術指南が追加となった。

菖蒲に手間をかけさせるのはちょっとと断ろうとしていたらしいが、菖蒲のきらきらした眼差しに押し切られたらしい。どうやら菖蒲は、人に何かを教えるということをしてみたかったようである。

 

弓術指南のない日は、最上が用意している書物の書き取りをする。この書き取りは、最終的に綴じられて鰍塾の書棚に納められるのだ。勉強するのに書かせるのだから、写本にしてしまえということらしい。

授業で使うというより、自由に読んで良い書物の扱いである。

 

一之進は、甲鉄城に乗っていたときより背が伸びたので、最上の子供の頃の服を与えられており、物が良いため着ている本人より、剣術指南の武士達の方が汚さないように気をつけている。

一之進の着ていた物はそのまま小太郎が着ることになり、流石に女児用は最上の家にないので、小夜の着物は使用人だった多恵さんの着物を幾つか解いて、穴子が仕立て直しをしている。

 

上侍の家から使用人が着ていた着物の一部が集められ、着物がまともにない流民のために阿幸地経由で配られている。上侍の家に住んでいる武士達からすれば、自分達が使いたいところであるが、最上から使用人の物を使うのは禁止されている。

使って良いのは上侍の普段着だった物である。奪還当初集められた物のうち、普段着と判断された物は返却されたのだ。

 

最上は自分が寸足らずになったら、自分の父親の物をと考えているようだが、まだかかりそうである。

直さずに着られるかはまだ誰にも分からない。

 

一之進は二之介と兄弟であるが、二之介は幼過ぎて父親のことも母親のこともわからない。自分が立派な武士になって二之介を守らなければと思っている。

一之進の実家は最上が押さえており、使用人見習いに風通しをさせたり管理させている。最上は二之介が5歳くらいになったら、一之進と二之介を使用人をつけて実家に戻そうと考えていることを一之進は知らない。




甲鉄城では一之進6歳、小太郎5歳、小夜3歳とのことなので、二之介は1歳くらいの想定です。
名前の感じから勝手に兄弟にしました。すみません。
現在、原作から一年くらいの設定なので、一之進は7歳、二之介は2歳です。
一之進が10歳二之介が5歳のあたりで、最上の家から実家に移ります。
生活スタイルはそのままで、住む家が実家になるだけです。一之進がしっかり職に就くまではホモ君から金も出ます。
一之進は実家に戻れることを喜ぶ反面、第二の実家のホモ君家を離れ難く思いますし、二之介は完全にホモ君家が実家の感覚なので、泣いて嫌がります。捨てられたとかでグレたりするかな?
「そもそもお前ら誰一人うちの子ではないが?」byホモ君
小太郎はたぶん一之進についてきてくれます。

小夜は同年代の異性なので行かないし、完全にホモ君家の子状態。将来医学に興味を持ったら楓の所に通う未来もあるかもですね。小夜は頭良く育つので上手いこと言って居座ります。


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【小話】管理職

今の顕金駅は、管理職も中間管理職も不足している為、道元達のところに本来処理する必要のない仕事が、毎日上がっている。肩書きだけ管理職の武士達には学がないので、一度教え込まないと管理職としての仕事を任せられないのだ。

流民の受け入れが落ち着くころには、本格的に管理職や中間管理職の育成に乗り出せる予定ではある。

 

家老は本当ならこんな死ぬ程忙しい役職ではないのだ。駅の全体の政治や経済の方針を領主と決めたりするのが本来で、彼方此方の経費やら、細かい方針やら、陳情やらを処理するのは管理職であるのだ。

勘定方に取りまとめの計算はさせているが、経費の割り振りは任せられない。奉行所も現場で終結させられるようなトラブルは処理できても、それなりの罰を与えなければならないようなものは処理できない等、各所において"ここまではできるけど、ここから先はどうしたら良い?"という状態なのだ。管理職さえいればその裁量で処理できるのだが、据えてあるのは肩書きだけの管理職なので仕方ない。

 

その上、道元達はどうせやるなら徹底的にと、使えなくなった家屋などを取り壊して区画を整理したり、寺子屋を職業訓練所にしたり、流民の孤児の育成計画をたてたりと、割と余計なことも自分達で企画しているので忙しいのは当然である。少し余裕が出来るとあれこれと互いに提案し、採用して動き出すまでが早いのだ。

菖蒲は基本的にNOは言わない。そもそも菖蒲がNOと言いそうな提案は上げないので当たり前ではある。

 

そこまで重要ではないが、菖蒲が難色を示しそうな場合は他に振るのだ。六頭領とか六頭領とか六頭領とかに…。

大体呼び出されるのは阿幸地である。

 

例えば着物である。

100人困ってます。と言われて50しか用意出来なかった場合、道元達が振り分けをしたら仔細を報告しなければならない。それを見れば菖蒲は城の財貨を放出しかねない。なにせ七夕で私財を投げ打とうとする人であるので。

そこで困った時の阿幸地(六頭領)である。困ったと申し出ている者の内、貰えるなら貰っとけと便乗している者も結構いるため、50を阿幸地に投げて振り分けをさせるのだ。

六頭領には家屋取り壊しの際、民家から使えそうな日用品の回収もさせているし、住居や職の振り分けも任せているので、入居先に着物があることも多いのでなんとかなるのだ。

 

報告では、

 

着物の不足の陳情の件は、武士の所有となった、元上侍の屋敷より提供された着物で対応することとした。準備した着物にあっては、六頭領へ受け渡し、真に困窮している者に対し順次配布予定である。

 

となる。

 

城での報告は六頭領に渡した時点で終結なのである。

まあ今後足りなくなるのは確実であるので、他駅へ行く商人などに依頼して準備させておくのだ。

 

組織形態としては、実は六頭領の方が優良である。というのも甲鉄城で武士達は戦いに明け暮れる日々であったが、六頭領は割と暇であった。

暇であるので、元々いた配下に加え甲鉄城の民人内で配下を作り、意見の聴取などにあてており、偶に最上に振られる仕事を如何に速やかにこなせるかを楽しんでいた節がある。

 

かつて六頭領は上侍に賄賂を掴ませたりしていたくらいなので、そもそもやり手であるし、その下の配下も民人の中ではそれなりの地位の人間なので人を使うのが上手いのだ。

 

家老3人衆の下につく武士達とはえらい違いである。武士達は下侍と蔑まれてきたため、使用人を雇う事すら気後れしていたので。

 

これでは六頭領が、ボランティア精神に溢れた善人のようだがそういう話でもない。

家屋取り壊しの際の日用品の持ち出しは何も民人の荒屋だけではない。極一部の上侍の屋敷からそれなりの商家なども含まれている。

道元達は把握していながら、そこからの押収はしていない。賄賂みたいな物である。万が一誰かに突き止められても、道元達が把握していた記録はない。あくまで取り壊し予定の民家からの日用品の持ち出しを許可した記録しかないのだ。

上侍の屋敷だろうが、商家だろうが民家は民家である。四方川の所有ではないので、六頭領も問題にはならない。

 

「再興にあたり混乱極まる中でしたので、高価な物品のある家屋の把握がしきれておりませんでした。」

 

「民家からの日用品の持ち出しの許可は得ています。一部例外があるとは伺っていません。」

 

これである。

例え絶対嘘だろ。と思われようが証拠も無ければ、この真っ黒黒助達が絶大な貢献をしているのも確かなので、誰にも文句は言えないのだ。

 

というわけで阿幸地達はしっかり利益は得ているし、道元達も仔細を報告したくないものの一部を阿幸地達に振っている。

せめて使える上侍があと5人くらいいれば、もう少し上手くやるのだが、いないものはいないので仕方がないのだ。

 




上手くやるってだけで、綺麗にやるとは言ってない(笑)
"菖蒲様は清く正しく美しく"が3人衆のスローガンです。その下が真っ黒でも良いんだよ。さらに下は割と綺麗だし。
上侍はそれなりの教育は受けてるし、なにより汚ねぇ奴を嗅ぎ分けて、汚ねぇ話を持ちかける能力が培われてるので沢山いなきゃ意外と便利。群れると面倒なだけなので、道元達も欲を言えば優秀なの10人くらい欲しいなぁ。とは思ってます。
まあ10人もいたら甲鉄城時代にギスるのでそもそも上手くいかないんですがね。
今の顕金駅は、菖蒲と3人衆の経営者枠の下に100近い新人社員がそのままついてる感じなのでめっちゃしんどい。
蒸気鍛治は割と沢山残ってるので、蒸気鍛治も割と職的にはしっかりまとまってます。それなりに年嵩の奴を管理職にしてます。鈴木さん?そんな仕事しなくていい。開発して。


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【小話】禁酒の理由

お酒回


「こちらが今日やってきた駿城の商人より買い付けた外国の製法で作られた酒になります。果実酒の一種ですね。」

 

「ほう。これはいいですな。」

 

「私には少し渋いです。」

 

「はははっ。女性や子供の口には合わないかもしれませんな。」

 

阿幸地が、他の駅から持ち込まれた果実酒を菖蒲や道元に差し出していた。

 

「最上くんもどうだね。」

 

「いえ。堅将様に二度と酒を飲むなと言われておりますので。」

 

「おや。そうだったのか。そう言われるとどうなるのか気になるな。」

 

「お許しください。」

 

阿幸地も実は少し気になっているが、奪還直後は何かあっては恐ろしいため避けたのだ。しかしここには道元がいる。物理的に止められる来栖もいる。他の駅の客がいるわけでもない。

これは最上の醜態を拝む絶好の機会ではと思い至った。

 

「しかしながら、誰も最上様がどうなるのか把握できてないのは、些か問題ではないですか?ご自身でも把握しておられませんよね?もしこの果実酒のような、初見の物を出されたら避けられない場合もあるやもしれませんよ。」

 

「むっ。」

 

最上の醜態を把握していた堅将は既にいない。本人も把握していない。上侍が生きていれば知っている者もいたかもしれないが、現状で最上が酔ったらどうなるか知っている者はいないのである。

最上が、阿幸地の言うことに理があるとわかっていながら、未だに堅将の指示を思い出して困っていると、道元が追い討ちをかけた。

 

「なら今日の夜、気心の知れた者だけを集めて試してみよう。」

 

道元も最上の醜態はちょっと見てみたかったのである。

 

「いやしかし…。」

 

「なに。無礼講だ。なにをしても問題にはせん。」

 

渋る最上は最終的に道元に押し切られた。

 

 

とはいえ菖蒲が同席して大丈夫な酔い方かわからないため、武士達数名を誘い万全の状態で夜を迎えた。阿幸地は酒の提供元として勿論参加である。雅客達は急に酒の席に誘われて困惑したが、事情を聞いて喜んで参加を決めた。誰も彼もが最上の醜態を拝むために参加したのである。

その下心がないのは菖蒲と来栖くらいであった。

 

(そういえば芸者遊びの時も飲んでなかったな。)

(確かに。)

 

以前芸者遊びに同席した者達はコソコソと話し合っている。

 

酒席が始まり、まずは阿幸地の持ち込んだ果実酒が提供された。渋味を気にいる者と、顔を顰める者で真っ二つに分かれた。最上は顰めた側である。

 

「おや。お好きではありませんか。」

 

「渋い。」

 

「そこが良いのですがね。」

 

「舌がお子様で悪いな。」

 

元々望んで酒席に着いたわけではないため、少々ご機嫌斜めである。

注がれた果実酒を半分も飲まぬうちに最上の顔が真っ赤になった。ちょっと目を離した隙に急激に顔色が変わったため、武士達はぎょっとした。仁助が慌てて最上に近寄る。

 

「最上様?真っ赤になってますが、大丈夫ですか?」

 

「…うん。」

 

問いかけには反応したが、既に頭がふらふらと揺れており全く大丈夫には見えない。かろうじて掴んでいるびいどろの洋盃を取り上げて、水の入った湯呑みを持たせる。

 

「水です。飲めますか?」

 

「…。」

 

全く飲む気配もなく、瞼が半分落ちている。これは異常だと周囲の武士達の視線が阿幸地に向くが、阿幸地は顔を青くして首を必死に振っている。

 

「誰か楓殿を!」

 

道元の指示を受けて弾かれたように来栖が部屋の外に出ていった。

 

「最上様?飲めますか?」

 

仁助が、最上の湯呑みを持つ手に手を添えた瞬間に最上の意識が完全に落ちた。崩れ落ちた最上と湯呑みを仁助が受け止める。

 

「最上様⁉︎」

 

酒席会場が騒めく。

 

「騒ぐな。倉之助君。人払いを。倉之助君以外誰も外に出るな。」

 

「はっはい!」

 

道元の指示が飛び、倉之助が外に出る。武士達は口を噤んで様子を窺う。阿幸地の様子から一服盛ったとは考えられないが、雅客は阿幸地の斜め後ろを陣取った。

仁助は最上を横向きに寝かせ、脈をとっている。

 

「どうかね。」

 

「泥酔からの意識喪失に似てますが…。」

 

「下戸にしても弱すぎないかね?」

 

「私にはなんとも…。」

 

「戻りました!」

 

道元が仁助と様子を窺っていると、来栖が鞄を抱えた楓を横抱きにして戻ってきた。早すぎる戻りであった。抱えられた楓の顔が真っ白である。

 

「あぁ…怖かった。」

 

降ろされた楓はぽつりとつぶやいてから顔を引き締め仁助に近づいた。

仁助が楓に飲んだ量やその後の様子、脈などを説明し、楓が様子を観察した結果。

 

「最上様はとんでもなくお酒に弱いようですね。あれがお口に合わなくて良かったです。洋盃を空けられてたら死んでいたかもしれません。」

 

「死っ⁉︎」

 

「ええ。死にます。とりあえず昏酔してますから、経過観察を続けましょう。一応点滴入れましょうか。」

 

「下戸ということか?」

 

「そうですね。ですが酒に弱いというより、飲めないと解釈してください。最上様にとって酒は毒と同じと考えてください。」

 

楓が仁助や道元と話しているのを聞きながら、周囲は胸を撫で下ろした。

 

(しかし堅将様はなぜ最上様に教えなかったんだ?)

(確かに本人が知らないのはおかしいよな。)

 

武士達はひそひそと言葉を交わす。

 

阿幸地は最上の醜態を見て笑うつもりが、自分の首が一時怪しくなって冷や汗をかいた。

 

「阿幸地殿。」

 

「はいっ⁉︎」

 

阿幸地が息を吐いていると、いつの間にか目の前に道元が居た。

 

「このこと、他言無用で願います。」

 

「勿論です!」

 

道元の笑顔を見て、これは他言したら死ぬやつだと判断した阿幸地は即答で快諾した。

 

「同席した皆の者も他言無用だ。」

 

武士達は神妙に頷いた。なにせ最上の明らかな弱点である。しかも殺せるときたものだ。

 

「何故お父様は最上に教えておかなかったのでしょう。」

 

「お父上はとりあえず自分が指示しておけば、最上君は絶対に飲むまいと信じておられたのでしょう。お父上より上位者は駅にはおりませんし、それ以外で最上君が単独で、上位者と飲む機会もありません。」

 

「ですが教えておいた方が良いと思うのですが…。」

 

「下戸と言うと凄く軽く聞こえます。下手に試すのを防ぎたかったのかも知れませんな。何をしたのかわからんとなれば、最上君も試したりせんでしょうし。皆も下戸だと断られた場合、少しくらいはと勧めるでしょうが、何をしたのか本人も覚えてないが、堅将様に二度と飲むなと言われたと断られれば無理には勧めません。まあ…あと驚かされた意趣返しもあったかもしれませんな。最上君はさぞ自分がどんな失礼をしたのか戦々恐々としたことでしょう。もう少し歳を重ねたら教えるつもりはあったと思いますよ。三三九度で大惨事とか困りますからな。はっはっは。」

 

「笑い事ではありませんよ。」

 

楓が道元を睨む。

 

「おっと。失礼。」

 

「どういう思惑があるにせよ。本人には教えなければなりません。本人が知っていれば今回のは防げた筈ですよ。果実酒が最上様のお口に合われていて、あれを飲み干していたら死んでいたかもしれないと言いましたよね?」

 

「はい。」

 

道元が楓に叱られて肩を落としている。

 

(楓様お強い。)

(うん。教えとこう。)

 

「最上様は私が診ておりますので、そのまま酒宴を続けられて大丈夫ですよ。最上様もこの状態では、外に連れ出せません。酒宴が始まったばかりで、こんなに真っ赤な最上様を連れ出しては弱いと言っているようなものです。」

 

楓の言う通り酒席を続けることとなり、給仕は事情を説明した下緒だけに頼み倉之助も席に戻った。最上は部屋のすみで点滴を受けながら寝かされている。

 

「くるしゅ!これ美味しいれすよ。」

 

「あ…菖蒲様。そろそろ控えられた方が…。」

 

酔った菖蒲が来栖に絡んでいるのを見て、武士達はこういう感じが見たかったんだよな…。と残念に思った。

 

「しかしまさかの結果だったな。」

 

「大トラになるとか、泣き上戸とか想像してたけどこれは想像してなかった。」

 

「あの弱さじゃ奈良漬も駄目だな。」

 

「確かに。うちの駅は酒を作るほど米の収穫がないから、酒粕使った漬物とか作ってなかったけど、気をつけてもらわんとな。」

 

翌日最上は楓から、酒の弱さについてこんこんと説明され項垂れていた。

誰がどう見ても有事である楓が来栖に横抱きで連れて行かれた件は、菖蒲が割れた洋盃で指を切った為とされた。

流石に来栖も菖蒲が指を切ったくらいでそんなことはしないが、何事かと噂されていた城内は納得したのか静かになった。

 

「解せぬ。」

 

来栖の不満の言葉は黙殺された。




アルハラ回でした。

うっかり死ぬところだったホモ君。全く飲めないタイプの下戸。
克城の採血設備等を鑑みて点滴は採用しました。まああの駿城はオーバーテクノロジーな気はしますがw

堅将様は教える前にお亡くなりになっちゃいましたが、そのうち教えるつもりはありました。

どうでもいい話ですが、今日で投稿始めて丸一カ月。本編分しか書き溜めてなかったのに、こんなところまできてしまった。一時のテンションってやばいなって思ってます。


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八代駅の縁者

八代駅回。ちょっと長くなります。


「八代駅の領主の縁者が名乗り出たってよ。今日謁見してるらしい。」

 

「うわぁ。道元様と最上様に圧力かけられてるのか。可哀想に。」

 

雅客の家に樵人が情報を持ってきた。欲を言えば詳細を知ってそうな城務めの面子も欲しいところである。

 

「お邪魔します。」

 

「おっ倉之助の声だな。」

 

「これは詳しく聞けそうだな。」

 

いつも武士達は勝手に上がってくるので、特に出迎えの必要はない。足音が近づいてきたが、2人分あるようだ。

襖が引かれ雅客達が顔を向けると、そこに居たのは倉之助と最上であった。

 

「邪魔するぞ。」

 

「最上様⁉︎何事ですか⁉︎」

 

最上は大変不機嫌そうな顔をしている。とりあえず、雅客は茶を入れることにした。

雅客は夕食後使用人を帰すことにしているので、茶を出すなら自分でやるしかないのだ。

 

「私が入れてきますよ。湯呑みは適当に選ばせてもらいますね。」

 

「おう。悪い。」

 

倉之助が流石の気遣いで、スッと厨の方へ消えて行った。むすりとした最上は勝手に席につく。

 

「それで?ご機嫌麗しくないようですが、欲しがっていた八代駅の縁者が名乗り出たから、ご不満なんですか?」

 

「違う。今の我々には八代駅に割く人員などほぼない。縁者が取り仕切ってくれるならそれに越したことはないんだ。」

 

「なら何がご不満で?」

 

「圧力かけられなかった…。」

 

「えっ⁉︎道元様と最上様が⁉︎どんなやばい奴が来たんです⁉︎というかあんたらが圧力かけられなかったような奴がいるのに、城から出てきちゃって良いんですか⁉︎」

 

「齢10の女子だった。」

 

「はっ?」

 

「齢10の女子に道元様と私が圧力かけるわけにはいかんだろう!正直に言えばいくつだろうと関係ないのだ!むしろ足元見てやれるんだ!来栖みたいな忠犬めいた奴にぎっしぎしに圧力かけたかった‼︎」

 

「とんでもねぇなこの人。鬼畜だよ。」

 

「でも絶対菖蒲様が齢10の女子に圧力かけるの良しとするわけないだろ!」

 

「そりゃそうでしょうよ。」

 

「むしろ女児に圧力かけたかったって言う最上様に引いてますよ我々。」

 

「海門と一緒だ!慈善事業だ!糞食らえ!」

 

「凄い荒れてるじゃん。」

 

「こんな荒れてるの初めてじゃないか?」

 

「10の女子と来栖みたいな忠犬が政できるわけないだろうが‼︎しかも手勢は50そこそこだ!碌な人材はいなそうだし、うちにおんぶに抱っこで奪還する気か⁉︎あの娘ダメ元で再興とか言ったぞ絶対に‼︎菖蒲様は乗り気だし‼︎」

 

最上が卓を両手で叩きながら突っ伏した。

 

「…確かにそれはそう。」

 

「えっ?奪還自体は良いとしても、その後どうするんだ?無理では?」

 

「奪還だってなぁ。無料じゃできんのだぞ。いくら出費すると思ってる?」

 

「ああ…。というかそこまで無理なら菖蒲様をお止めするべきでは?共倒れは流石に嫌です。」

 

「方向性は修正した。一応な。」

 

「だったら何が問題です?」

 

「海門と一緒ですよ。」

 

倉之助が湯呑みを4つ盆に乗せて戻ってきた。

 

「海門と?」

 

「連合軍にするんですって。」

 

「なるほど。他の駅にも付き合わせると。」

 

「ん?どこが音頭を取るんだ?八代?」

 

「うちだよ‼︎取れるわけないだろ八代に‼︎ほぼ流民の体でやって来たぞ‼︎」

 

「えぇ…。」

 

「うちが音頭取るのに、他が利権をさらってくって何⁉︎くそぉ…。」

 

「倉之助。最上様酔ってる?」

 

「素面ですよ。」

 

「…そうかぁ…。」

 

「道元様は?」

 

「菖蒲様を説得してます。勘太郎様と書類を積み上げて。」

 

「道元様も本気じゃん。でも方向性決まったのに何を説得するんだ?」

 

「利権の話と、期間の話です。」

 

「うちがそもそも周りの駅をあんな風に巻き込めたのは、四方川の威光と、顕金駅の特異性と、道元様の半年の準備期間あってこそだ。八代駅にはどれもない。炭鉱の権利くらいしか差し出せる物がない。うちが流民の受け入れを条件にしたから同じ条件は使えんし、その手札なんか切っても八代じゃ支えきれん。炭鉱の権利を切り売りしきれば今度は八代が保たない。完全に周囲の駅で割譲してお飾り領主が関の山だ。海門の最低な場合の再現だな。」

 

「うわぁ。…期間とは?」

 

「うちは20日を目安に奪還を計画したが、それだって人数をうちだけに抑えた計画だ。そんな日程だってやるならかなりの食糧が必要だった。連合軍じゃ人数は嵩むし、うちの普段の戦い方じゃ他駅はついてこられない。連合軍にする以上は体裁は整えなければならん。足並みを揃えると時間もかかる。ほぼ流民状態の八代の縁者に用意出来るとでも?今年はうちが周囲の駅から買い上げているから、周囲の駅だってそこまで余裕があるわけじゃない。立ち寄る駿城にも食糧を提供したりするわけだからな。」

 

「ということは?」

 

「今年の奪還は諦めろってことだ。」

 

「なるほど。その説得は最上様は居なくて良いので?」

 

「利権の一切を投げるおつもりなら、献策致しかねますって言って出てきちゃったんですよ。」

 

「うわぁ…。」

 

「大丈夫なんです?」

 

「大丈夫ではないなぁ。だが何度も言っているが、慈善事業じゃあないんだよ。うちだってかなりかつかつなんだ。1人くらい匙を投げなきゃ菖蒲様も考え直すまい。意外と頑固だからな。私が投げても道元様達がいるから菖蒲様は問題ない。」

 

「計画的に匙を投げてきたってことですか?」

 

「一応な。」

 

「道元様や勘太郎様ではダメだったんですか?」

 

「道元様も勘太郎殿も八代駅のあの状況は見ていないし、カバネとの戦い方にも明るくはない。奪還作戦を立てるなら私だろう。純粋に殺すだけなら来栖でも構わないが、糧食やら物資の都合もある以上は適任は私だ。なら献策に適した私が投げるのが一番効果はある。忠誠を疑われるのは嫌だが…はぁ。」

 

最上は深いため息を吐いた。

 

「家老職退いて審議司でもしようかなぁ。」

 

「待って待って!」

 

「何言ってるんですか⁉︎」

 

「いやそもそも私が家老の役割してる時点でどうかと思うがな。人材不足を喧伝してるようなものだぞ。そのくらいうちは拙い状態だと認識してほしい。あー。疾風に乗って駅中を疾走したい。」

 

「現実逃避やめてください。」

 

現実逃避しながら、ちびちび茶を啜る最上を3人は微妙な顔で眺めることになった。

 

 

一方城では、

 

「菖蒲殿。先程申しました通り、まず今年中の奪還は無理です。そこはご理解いただけましたか?」

 

「ええ。ですが連合軍にしては八代に炭鉱の権利が殆ど残りません。せめてうちの分だけでもと…。」

 

「奪還後、あの者達に政ができるならうちだけが協力して、少しばかりの利権を頂戴する形で良かったのです。ですが到底政を上手く出来るとは思えません。うちとて役職相応の仕事ができている者がどれほどおりますか?顕金駅に余裕があれば、役人を十人程度派遣してもよかったでしょうが、うちに手放せる余裕はありますか?」

 

「…ありません。」

 

「であれば各駅から共助してもらうよりありません。取り戻したから人だけ貸してくれとはいきません。連合軍として取り戻した後、利権を割譲するために人を派遣させる。このくらいしか出来ないのですよ。」

 

「ですが…。」

 

「信賞必罰ですよ。何事も功績を上げたら賞が必要です。」

 

「はい。」

 

「うちが協力するなら利権は必要です。先程見せました通り顕金駅の財政も潤沢ではありません。菖蒲様の御心は理解出来ますが、出費は補填せねばなりません。甲鉄城では最上君が随分と財を都合していたようですが、再興にあたりそういう次元ではなくなっております。来栖君以下の武士達が納得しても我々は納得致しかねます。海門でのことは伺いましたが、あそこも今頃苦労はしているでしょう。ですが元々の民人が400以上はいるのでしょう?まぁなんとかならない程ではない。八代は学も碌にない者が50そこそこしかいないのですよ。うちの六頭領のような者もいないではありませんか。」

 

「しかし顕金駅にも八代の民人はおります。誰もが故郷に帰りたいものではありませんか。」

 

「あの娘がせめて菖蒲殿程の齢であればそうでしょう。それか顕金駅に居着く前ならばそうでしょう。既に生活基盤の整い始めたここから出て、先行き見えぬ幼い領主に着いて行きたい者がいかほどいるか。まして今の今まで名乗り出ておりませんでした。そしてうちにいるのは八代駅に置き去りにされた民人ですぞ。民人も複雑な心境になるでしょうな。」

 

「利権を取らねば叔父様も納得できませんか。」

 

「勿論です。菖蒲様。私からすれば、海門でこれといった利益を上げていないことすら気にかかっておりました。しかし最上君が何も言わないのであれば、私が言うことではありません。ですが今回は利権を取らぬなら、最上君は献策致しかねるとのこと。最上君を今の職から落とすのか、利権を取るかよくお考え直しください。」

 

「何故最上の職が関係あるのですか?」

 

「家老が仕事を投げる覚悟で進言したのです。その意見を無視するなら、もうお前は要らぬと言うことです。」

 

「暴論ではありませんか⁉︎」

 

「ですが最上君はそのつもりで投げております。最上君がどうあれ我々は仕事を続けます。最上君1人いなくともどうとでもなります。一晩よくお考えください。朝議の場でお伺い致します。」

 

「…わかりました。」

 

道元と勘太郎は資料の束を回収して、退室して行った。

 

「…来栖。どうすべきだと思いますか?」

 

「最上は今まで四方川家の為に尽力して参りました。あれが利権を取らぬなら献策しかねるというなら、利権を取る方が良いでしょう。」

 

「そうですね。」

 

「ですが、道元様達はともかく最上は甘い方だと認識しております。」

 

「?」

 

「ですので何か考えてみましょう。己だけでは足りません。助力を請いましょう。」

 

「どなたにですか?最終的に行き着くのは政の話です。あの3人から反対されてることに対抗するとなると、顕金駅にはいらっしゃらないのでは?」

 

「暫しお待ちいただけますか?」

 

菖蒲が頷くと来栖はスッと下がって行った。

 

 

翌朝、朝議の場にて各所の代表が集められ昨日の八代駅の親族の件が説明された。昨日の騒動を伝え聞いた者たちはどうなるのか、はらはらとした心境で窺っている。大体の者は上層部の空気に困惑しているが、何故か一部の者は能天気そうな表情を浮かべている。

 

「菖蒲様。お決まりになりましたか?」

 

「はい。」

 

道元の問いかけに、菖蒲は昨日と打って変わって明るい表情で返事をした。

家老を担っている3人衆は、おや?と疑問に思った。昨日迫った決断で表情が明るくなるとは思えないからだ。

 

「まず八代駅の奪還時期についてですが、今年中に八代の者と我々で奪還します。」

 

「「「!?」」」

 

「そして八代駅を我が顕金駅の属領とします!」

 

3人衆は理解が追いつかないのか、反論することなく虚をつかれた顔で話を聞いている。

 

「最上!これが私の出した答えです!どうですか?」

 

「は…。いえ!今年中は無理だと説明があったかと⁉︎属領?無茶を仰らないで下さい!共倒れと説明したはずです!」

 

最上は取り繕う事なく焦った表情で反対する。道元と勘太郎は未だ呆然としている。

 

「八代駅に人が住まねば良いのです!」

 

「何をおっしゃっているのか全くわかりません!再興するなら人が住まねば不可能です!」

 

「再興せねば良いのです!」

 

「菖蒲様⁉︎再興しないならなぜ奪還するのです⁉︎八代の姫は再興を希望していたはずですが⁉︎」

 

「奪還の後、炭鉱の採掘のみ復興します。駅の警備は八代の者の一部が行います。採掘にだけ通えば良いのです!通う際は八代の駿城を使います。その他の八代の者達は当分顕金駅に住んでいただきます!再興は数年後に目指しましょう!」

 

「は?」

 

最上が完全に固まっていると、隣に座る道元が大きい笑い声を上げた。勘太郎も身体を震わせて笑いを堪えている。朝議に参加していた阿幸地や瓜生も、声は上げないものの完全に笑っている。

 

「はっはっはっは!菖蒲殿!一本取られましたな!八代駅はあくまで壁に囲まれた出勤先と言うことですか!」

 

「そうです。八代の者達には政が出来るようになるまで、顕金駅で役人見習いをしてもらいます。それまでは八代駅はあくまで出勤先。政の必要はありません。駅には最低限の者のみを置き、それ以外の者は採掘期間を除き、皆顕金駅に帰宅していただきます。」

 

「…出勤先?…役人見習い?」

 

最上は未だ理解が追いつかない。

 

「これではダメでしょうか?」

 

菖蒲が困った顔で首を傾げた。

 

「はっはっは。いや参りましたな。最上君いい加減追いついてきたまえ。」

 

道元が最上の背をばんばんと叩き、最上が目を白黒させる。

 

「要はただの採掘場所として奪還して採掘に通うという事ですか?跳ね橋の上げ下げの人員のみを残して?」

 

「そうです。」

 

道元の反応から自信を取り戻した菖蒲が、自信ありげな表情で返事をする。

 

「ただの出勤先では収入は顕金駅に全部入りますが?」

 

「あっ!」

 

しまった!という顔をした菖蒲に最上も笑う。

 

「まあいいでしょう。…ふっ。」

 

「わっ笑わないで下さい!」

 

「…ふふっ。失礼。では収入の6割は顕金駅で。」

 

「だっダメです!1割です。」

 

「それでは利益になりません。養う分や教育費もあるのですよ。では5割で。」

 

「将来的に八代駅にはお金が必要です!2割で!」

 

「4割。これ以上は譲れませんな。」

 

「ええっと。…あっ!八代の者に蘭学に明るい者がいます!蘭学の教示を頼むということで!3割で!」

 

「ほう…蘭学…。では3割で。」

 

菖蒲は3割に落ち着いたことで、表情をパッと明るくして満面の笑みで来栖を見た。

 

(もしや来栖の助言なのか?)

 

来栖は身体の前で拳を握って力強く頷き、はっとしたように顔を染め目線を逸らした。

 

斯くして八代駅の奪還についての大まかな方針が決定した。

 

 

朝議の後、最上は来栖を捕まえた。

 

「それで?誰の入知恵だ?随分大胆な案だったが。」

 

「八代の者達は勿論だが、瓜生と阿幸地だ。」

 

「あの娘やはり強かだな。…しかしすごいの捕まえてきたな。」

 

「最上の阿呆面を拝みたくないかと誘った。」

 

「おい!だからあいつらあんなに笑ってたのか!」

 

「それ以外に奇策を出せそうな奴が思い至らなくてな。」

 

「よくもまあ…。奇策の自覚はあるんだな。余所者の瓜生と、あまり深くは噛ませたくない阿幸地殿だが良いさ。お前がそこから意見を引っ張り出したことの方を評価しよう。私の阿呆面目当てだとしてもなぁ。」

 

「よかった。家老職の3人が激怒する可能性もあったからな。」

 

「そう思っていながら踏み切ったのか?菖蒲様は意外と思い切りがいいな。」

 

「昨夜席を外したのがお前だったからいけるかと思ってな。」

 

「私だから?」

 

「あの時匙を投げたのが道元様ならたぶん試さなかった。お前はなんだかんだ甘いじゃないか。下手に絆されんように外したんだろう?万が一道元様が激怒したら最上が助け船を出してくれるだろうと思ってな。」

 

「えぇ…。そういう捉え方だったのか…。」

 

「違ったのか。」

 

「違うが。…まあいいか。後で細々詰めねばならんことがある。臨時の領主は勘太郎殿か私のどちらが行くかとかな。」

 

「臨時の領主?」

 

「おい。いくら最低限しか人を置かないとしても必要に決まってるだろう。余所の駿城だって立ち寄るんだから。」

 

「⁉︎」

 

「お前…朝議で細かく話を詰められたらどうするつもりだったんだ。」

 

「瓜生に最初から勢いよく行けと言われた。下手に自信なさげだと詰められるから一気に説明しきれと。」

 

「あの野郎。穴だらけなのわかってるじゃないか。」

 

「そんなにか。」

 

「臨時の領主もそうだが、立ち寄った駿城は生きてる駅だと思って寄るんだぞ。甲鉄城で旅してた時に、立ち寄った駅が炭鉱しか生きてなかったら困ったに決まっているだろうが。顕金駅まで頑張れと言おうにも山間部を抜けるんだぞ。高地からのカバネの襲撃だってあるんだ。なんの補給もなしとは行くまい。」

 

「それもそうだな。」

 

「本当に勢いだけだったんだな…。」

 

最上は呆れた表情ではあるが、怒ってはいない様子なので来栖はそっと息を吐いた。

 




ホモ君達・ホモ君が協力しないぞ!良いのか?ホモ君が協力しないと作戦立案が難しいぞ!

来栖達・絆されないように席を外したのかな?これはまだチャンスあるぞ!

直接言わないと全く伝わってない現実。ちなみに瓜生と阿幸地には伝わってます。

瓜生達・勢いで突き崩せ。利益が出るなら釣れる可能性ある。結構穴だらけではあるけど、家老3人衆はたぶん乗る。ダメだったら知らん顔しよ。

連合軍パターンの利益無しでホモ君が家老職を降りた場合、各方面多少縮小すればなんとかなります。諸々1年くらい遅れが出ますが崩壊まではしません。道元様が優秀なので。


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八代駅の縁者2

菖蒲の執務室には、道元達と来栖と吉備土達数名の武士が集まった。

 

「まずは奪還時期についてです。早くても夏の終わり頃、遅くとも冬前です。」

 

「最上。日を置く理由はなんですか?」

 

「とりあえず八代の武士達がカバネと戦えるように鍛えねばなりません。掃射筒なども教えねばなりませんからね。それに八代駅との間の山間部のカバネも出来るだけ狩りましょう。ついでに食糧も狩ってきてもらいます。予定外の50人ですから、食糧確保も同時に進めましょう。」

 

「わかりました。」

 

「それと奪還後の臨時の領主ですね。立ち寄る駿城に対する説明などもありますし、なにより我々からすれば出勤先だとしても、属領であるならばそれなりの対応が出来る領主をおかねばなりません。そう考えれば勘太郎殿か私でしょうね。…八代駅の状況から考えれば、戦力的に私が行くのが妥当で「ダメです。」えっ?」

 

「ダメです。」

 

菖蒲が最上の言葉を遮って否定し、聞き返した最上にさらに笑顔で否定を告げる。

 

「いや…菖蒲様。そうは言われましても「ダメです。」…えぇ…。」

 

菖蒲は笑顔で否定するばかりで譲る様子は一切ない。菖蒲は最上を手放すつもりがないので、なんと言おうと認めない。さらに道元が最上に追い討ちをかける。

 

「最上君が行くだって?駄目だな。齢が足りん。」

 

「うっ。」

 

「いくら顕金駅の下につくといっても、領主が齢で舐められては堪らん。能力や武力があっても純粋に見た目の威厳が足りない。」

 

「見た目の威厳…。」

 

「菖蒲殿の為に私をここに残したいのは、そういう理由だろう。何故自分に適応されないと思った?海門でも舐められたのだろう。学習したまえ。」

 

「うぐっ。」

 

「私が城主ならただでさえ炭鉱しか生きておらず、駅がまともな状態ではないのに、臨時とはいえ領主が子供とはふざけているのか?と思うが。反論は?」

 

「ありません。」

 

(最上様可哀想…。)

(うわぁ…。)

(見た目はどうにもならんからなぁ…。)

 

勘太郎がスッと手を挙げた。

 

「では私が行くということで。」

 

「勘太郎を手放すのですから、ここにいる武士達にも相応の努力をしていただきますよ。」

 

武士達は道元の言いように震え上がった。家老3人衆から1人抜けるということは、その分を誰かがやらなければならない。道元達にその余裕はとうにないことはわかっているので、本来自分達が処理するべき分を処理できるように、知識の修得が本格化するということだ。

 

「最上君。」

 

「はい。」

 

最上が書物を山程持ち上げ雅客の前までやってきた。雅客の前に一度書物を下ろし、5冊程を雅客に渡した。

 

「これの写本を今週中に作成すること。」

 

「はい。…は?今週中⁉︎」

 

「今週中。部下と手分けしても良いぞ。八代のやつにも同じことをやらせるから写し終えたら一度返却しろ。一月で覚えて貰うぞ。詳細までとは言わん。概要は抑えて貰うからな。」

 

「えっ。」

 

最上は肩書きが要職の者達に書物を配っていく。最後に来栖の前に10冊程積んで席に戻った。

 

「死ぬ気で学べ。なに。カバネと戦うよりは優しいさ。本当に死んだりせんからな。写本は一週間。暗記に一月だ。勘太郎殿がいなくなった後に、八代駅と心中したくば手を抜いてもいいが、それが嫌なら死ぬ気でやれ。」

 

「最上!己の分だけ多くはないか⁉︎」

 

「来栖。勘太郎殿が居なくなるというのはこういうことだ。今まで我々が担ってきた防衛関係の決裁をお前に回す。そのために必要な知識だ。覚えられないとは言わんよな?無理なら諦めても良いぞ。菖蒲様をお守りする為の努力が出来ぬと受け取るがな。」

 

「お…覚えてみせよう。」

 

こうして武士達の勉強の日々が始まった。写本は手の空いている者達に手伝わせて一週間で終わらせて、ひたすら暗記の日々である。時折家老3人衆が決裁書類片手に訪ねてきて、どう処理すべきかの問題を出すので、写本片手にどうにかこうにか答えを出す。間違っていればその都度指摘される為、書き付ける為の帳面が手放せない。最近は家老3人衆を見るだけで、肩書き持ちの武士達は緊張するようになった。

 

家老3人衆も、本来なら仕事が落ち着いてからするはずだった武士達の教育が前倒しになりとても忙しい。八代の者達にも学ばせなければならず、このままでは誰か倒れそうである。

 

吉備土ら蓬莱城組は、顕金駅から八代駅の間のカバネ討伐を命じられ、ひたすらカバネ退治である。八代の者達も引き連れ戦い方の指南も行う。

 

稲が頭を垂れ始め、夏の終わりが近づいてきた。

 

 

八代の縁者の娘は国見菫(くにみ すみれ)といい、八代駅の領主だった者の姪にあたる。領主や民人の一部と駅から逃れ東海道方面を彷徨う中、民人や武士達がカバネとの戦いで命を落としていったのだ。領主もその中の1人である。道元が八代駅の領主や縁者を探しているのは小耳に挟んでいたが、財政も厳しく民人を受け入れる余裕などなかった。なにせ甲鉄城と違い武力に乏しく、持ち込んだ金目の物を売り払い食いつなぐ外なかったのだ。時には車両まで鉄屑として売り払った。

 

逃げ始めた頃は、丁度駿城が出発する直前であったので、領主と菫と護衛の武士が急いで乗り込んで、万全の状態で逃げ出せたのだ。黒煙を見て線路を破壊されては堪らないと、出発の為に既に乗り込んでいた者以外の民人を見捨てて逃げ出した。取引に使う為の金子や出荷用の石炭を大量に積んでいたこともあり、立ち寄る駅で金子や石炭で食糧を得た。領主の伝手で駅に長居させてもらい、日雇いの仕事をすることもあった。暫くはそうやって過ごしていたが、半年程前に領主がカバネに殺されてから足元を見られ、金子や石炭はあれど食糧が手に入らないことも多くなり、他駅で流民となることを選んだ者や、駿城内の揉め事で死んだりと数を減らしていった。特に駿城内の揉め事は地獄のようであった。民人は常に苛立ち、後方車両は日常的に人が死んだ。武士達は菫を前方車両に押し込み守り続けた。再興を目的として守り続けたのではない。自分達が結束し続ける為には、菫が必要だったのだ。菫を守り続ける間は、武士でいられる。菫すらも失えば、自分達も後方車両の民人達のように殺し合うことになるのだろうと思ったのだ。燃料が無駄だと見通しの良いところで火を落として過ごしたり、死んだ者の私物や人が居なくなり無人となった車両を売り払い、最早これまでかと考え始めた頃、顕金駅再興の話を聞いた。武士達はせめて菫だけでもどうにかならないかと、顕金駅を目指した。民人が居なくなり、菫と武士だけとなった駿城でどうにか顕金駅にたどり着いた。燃料もギリギリであった。

 

取り戻して四月程度だというのに、顕金駅には人が溢れ活気に満ちていた。見窄らしく流民のような自分達とは比べものにならなかった。どうにか領主の謁見を頼み込まねばと思っていたら、あっさりと要望が通り驚いた。知らせを聞き検閲所にやってきたのは、元服を迎えたくらいの青年であったが、審議司の者達に指示をしていることから、位は高いのだろう。青年は見窄らしい自分達を見て顔を顰めた後、そのままで謁見させるわけにはいかないのでと身繕いを要求してきた。操車場脇に湯屋があり、無料で使わせてくれた。菫は蒸気鍛治の女が女湯へと連れて行った。武士達は引き離されることを渋ったが、青年がそら自分が人質だとばかりに武装を解いて居座った。身繕いが済むと菫と武士3人が領主と謁見することとなった。

 

自分達を案内した青年のついた席を見て、彼は随分偉いのだなと気がついた。菫がどうにか挨拶を終えて、菖蒲に尋ねられて今までの旅路を辿々しく説明した。菖蒲や護衛と見られる武士は痛ましそうな表情を浮かべているが、家老に当たりそうな壮年の武士や、駅に迎えに来た青年などは冷めた目をこちらに向けていた。

領主の菖蒲なら、菫をそれなりの待遇で受け入れてくれるのではと期待した。2人が話を終えたら菫だけでも…と考えていたら、菫は八代駅を再興したいと言い出したのだ。今まで自分を守り通した武士達に報いたいと言うのだ。護衛の1人である空木(うつぎ)は感涙に咽び身体を震わせていたが、他の護衛はそうではない。色々なものをただ切り捨ててきただけで、報いてもらえるような働きではないのだ。それに再興するにしても何もかもが足りない。菖蒲はどうやら乗り気なようであったが、壮年の武士や青年はこちらをじとりと睥睨していた。とりあえず身体を休めるようにと、菫と護衛は城への滞在を許され、駿城で待つ者達は操車場の一角を間借りすることとなった。

カバネの襲撃に怯える必要はなく、食糧も提供され武士達は安堵で泣いた。

 

護衛の1人として城に滞在する芹矢(せりや)は、菫になぜ再興などと言ったのかと問いただした。

 

「だって貴方達私を菖蒲様に預けてしまおうとしたでしょう?1人になるのは嫌。」

 

「そのような理由なのですか?」

 

「そう。だってそうしたら私だけが恨まれ続けるのでしょう?嫌よ。一緒に恨まれて。一緒に苦しんで。貴方達だけで逃げないで。一緒に生きて。」

 

芹矢はハッとした。自分達は結束の為に菫を利用した。ここで菫を八代駅の領主の姪として保護してもらい、自分達は流民扱いで顕金駅に雇ってもらえればと考えていた。

顕金駅に住む八代駅の民人も、途中で下車した民人も武士一人一人など覚えていまい。しかし菫は八代駅領主の縁者として保護されれば、一生八代駅の呪縛から逃れられない。ここに至るまで菫を利用しておいて、自分達は菫を人柱にしようとしたのだ。他の護衛もその考えに至ったのか、全員で深々と頭を下げた。

 

「貴方達だけが悪いんじゃない。でも1人にしないで。逃げないで。お願いだから…」

 

菫は泣きながら訴えた。武士達は顔が上げられなかった。




菫ちゃんは、領主の弟の娘です。領主の弟が亡くなったため、領主の元で生活してました。領主の息子は八代駅で亡くなってます。菖蒲様と違って地獄の日々を過ごしてきたので夢見る少女ではない。再興はダメ元で言いました。どうしても再興したいわけじゃなくて、武士達を逃がさない口実がそれしかなかっただけです。一緒に生きて一緒に死んで。もちろん後で来栖に呼び出されて、菖蒲達と会議した時にそれは説明しました。瓜生と阿幸地にはクソ冷たい目で見られましたが。

八代メンバーは、技能持ちの民人や武士は早めに下車して他駅で雇われる道を選んでいるので、残ってるのは甲鉄城メンバーでいうところの下侍のような学が無い奴らです。蘭学の人だけ学がありますが、政はさっぱりできないので城に上がる面子には入っていませんでした。人材に飢えてる顕金駅でなきゃ蘭学が少しわかるからって評価されなかったので、売れ残ってました。まあ顕金駅でも別にすごい欲しかったわけでもありません。菖蒲にのってあげただけ。

ホモ君が言っていた菫ちゃんの忠犬は感涙に咽び身体を震わせていた空木君です。菫ちゃんを女湯に連れてく時に、引き離されることに一番ごねたのも空木君。来栖と違ってめっちゃ強いとかでもない。ただただ菫を大好きな忠犬。


名ありのオリキャラめっちゃ増やしてごめんなさい。流石に名無しでは無理があったので。


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八代駅の縁者3

最上が雅客のところに決裁書類を携えて訪問する途中、無名が駆け寄って来て隣に並んで歩きながら質問をした。

 

「最上さん。八代駅までの道で、最近はあんまりカバネに会わなくなってきたんだけど、いっそ八代駅内のカバネを引き寄せても良いの?」

 

「おやそうだったか。…それは構わない。奪還作戦は日数が短ければ短い程いいからな。というか別に仕上げに何日か確保するくらいでいいしな。」

 

「そうなの?じゃあ顕金駅はなんでああしたの?」

 

「いやうちはあれで500は乗ってたから、いついつまでに奪還するから食糧支援よろしくって言うなら支援出来ても、いつ終わるかわからないけど500人分の食糧支援よろしくは無理があるからな。うちだって急に増えた50人を養うのは厳しいが、奪還如何に関係なく受け入れる以上はあんまり変わらないんだよ。他の駅と違ってうちは駅外で狩りして食糧確保も出来るから、少しはましだ。」

 

「なるほど。ねぇねぇ。いつまでに終わりにする?」

 

「何かあるのか?」

 

「えっと。鯖さんと田植えの時に稲刈り一緒にしようねって約束したから。稲刈り一緒に出来るかな?って思って。」

 

無名は少し我儘を言っていると思っているのか、最上を窺うようにちらりと視線を向ける。

 

「稲刈りか。大丈夫だぞ。稲刈りは人手がいるからな。例え仕上げが稲刈りの時期に被っても、稲刈りを優先するから無名殿も稲刈り参加だ。」

 

「本当⁉︎やったぁ!楽しみだなぁ稲刈り!あっ生駒だ。じゃあね!最上さん。」

 

無名はニコニコしながら最上に手を振って、生駒の方へと走って行った。

 

本音を言えば、別に蓬莱城面子がいなくとも稲刈りは出来るのだが、奪還後最初の稲刈りであることから、稲刈りを楽しみにしている者も多いし、何より無名の情操教育である。どうせ本人が言い出さずとも、生駒や鰍あたりが直談判にくるだろうと思っていたから、蓬莱城面子の一部は稲刈りの予定で考えていた。

稲刈りが終われば、周囲の山に秋の実りを収穫にいかせて、少しでも食糧を確保しなくてはならない。栗や柿など量が確保できるものなど特に収穫しておきたい。カバネに追われる前は、駅の外も人が住んでいたため、集落跡地には栗の木や柿の木が多い。ちらほら柚子などの柑橘類もあると聞いたので、出来るだけ収穫に行かせたい。

 

 

八代駅の武士達は、蓬莱城に同乗しながらカバネとの戦い方を学んだり、仁助から簡単な医療知識を学んだり、持たされた写本から各種知識を得たりと忙しい。だが自分達だけで彷徨っていた時と違い、精神的に余裕があるため表情は明るい。カバネリや掃射筒には驚かされたが、吉備土達に旅の話を聞く度に、波瀾万丈な旅路に引いた。

自分達は劇的な事など何もなく全滅の危機だった。いやカバネに襲撃される事が悲劇的な事だと思っていたが、顕金駅の面子の話を聞くと自分達の無力さが恨めしい。顕金駅の面子が異常なのだが、八代駅の武士達は気が付かない。カバネリやら融合群体やら鵺やら金剛郭崩壊の渦中など、普通の駅は無関係であるので。

 

八代駅の武士達の興味を一番引いたのは来栖と最上であった。来栖など人の身でありながらカバネリ並みの強さを誇り、刀で近接戦闘をするというではないか。来栖の父は出雲一の剣豪とうたわれた人物であるので、九智の名を知るものは多かったので納得ではあった。それに操車場に迎えに来た最上という青年も刀で戦うと聞いて驚いた。来栖は多少若いが体格も良く、剣豪らしい屈強そうな雰囲気であったのに対し、最上は元服したてかと思える小柄な体躯で、文官じみた雰囲気であった。あの青年が刀でカバネを殺す姿が想像出来ない。今も政務に追われているらしく殆ど顔を合わせることもない。前衛組最弱とは説明されたが、そもそも前衛ができるような強者には見えない。

あの青年が刀でカバネと戦えるというなら、自分達も刀で戦えるのではと思う者もいた。駅に戻った際に来栖に稽古を頼み瞬殺されて諦めたのだが。

 

「あっ熊。」

 

カバネ捜索中に無名が指差した先には、かなり大きいツキノワグマがいた。熊はこちらと目が合うと踵を返して去って行く。

 

「どうする?」

 

「もう戻るし頼めるか?」

 

「それじゃ行ってくるね!生駒は留守番ね!」

 

無名は吉備土に伺いをたて、1人で熊の後を追って行った。すぐに熊を引きずって無名が戻って来たので、そのまま蓬莱城に戻り、先頭車両のクレーンで吊り上げ、無名が熊の首を切断した。このまま血抜きをしながら駅に帰るというのだ。異様な光景であるが顕金駅の面子は、わいわいと盛り上がっている。

検閲所に戻ると熊は降ろされ、トロリーに載せられて操車場へと搬送されていった。その際に鈴鳴りとは異なる鐘の音が鳴らされ、その鐘の音に城からも鐘の音が返る。狩りで獲物がとれた合図である。

検閲所で身体検査を受け、その間に蓬莱城の洗浄も行われた。カバネ討伐組が蓬莱城と共に操車場に戻ると、熊は既に解体され一部は城へ献上され、一部は漢方などに使われるため楓の下へいき、肉は切り分けられて鐘の音を聞いて集まった民人達に安価で販売される。カバネ討伐組は操車場で炊き出しを受け取れるので、炊き出しにも熊肉が投入されている。

毛皮は加工を得意とするものがなめして他駅への交易品になる。

 

炊き出しを食べ終わり住居としている長屋へと帰る途中、最上が雅客を伴って歩いているのを発見した。少し離れたところにこちらに駆けてくる空木もいる。

 

「最上様また家に帰ってないんですって?」

 

「帰る時間が無駄だ。本当なら、流民の受け入れを終えてからやるはずだった事が前倒しになってるんだ。仕方がないな。」

 

「最上様ぁ‼︎手合わせ願いたい‼︎「お断りだ。そんな暇はない。」

 

駆け寄ってきた空木が木刀片手に最上に頭を下げたが、食い気味に拒否されている。

 

「負けるのが怖いのですか⁉︎」

 

「暇がないと言ったはずだが、言葉が理解出来ないのか?」

 

空木が何故こんなにむきになっているのかはわからないが、世話になっている駅の家老に対してして良い事ではない。切腹ものである。止めなくてはと空木に駆け寄って行く。

 

「私が勝ったら、菫様に謝罪していただきたい!」

 

空木を無視して立ち去ろうとしている最上の前に空木が立ち塞がる。カバネ討伐組が辿り着き空木を進行方向から排除する。

 

「空木!無礼な事するなよ!」

 

「申し訳ありません!よく言い聞かせておきます!」

 

討伐組がぺこぺこと頭を下げるのを横目で見ながら最上は雅客と去って行く。謝罪と言っていた空木から事情を聞こうと拘束を緩めた瞬間、空木が最上に背後から木刀で切り掛かってしまった。雅客が間に入ろうと踏み出したが、最上は柄に手をかけ雅客の前に出た。空木は、木刀を振り上げ両手がまだ上がっている状態なのに、最上は既に無手の間合いに入り込み、反転し擦り抜けながら刀の柄頭で空木の顎をかち上げた。

空木が倒れ込んだところで納刀し討伐組にすっと視線をやる。

 

「よく言い聞かせておけ。次は五体満足では帰さんと。」

 

討伐組は血の気を引かせて返事をした。最上はそれ以上何も言うことなく雅客と立ち去った。

 

「あれで前衛組最弱?」

 

「顕金駅は修羅の国か?」

 

「空木が死ななくて良かった…。」

 

 

雅客は小走りで最上に並んだ。

 

「菫様に何を言ったんです?随分と怒ってましたが。」

 

「菖蒲様がお優しいからと寄生するな。働け。と言ったな。」

 

「えぇ…。10歳でしょう?」

 

「だったら?無名殿に戦わせている我々が10だからと配慮する必要はあるか?あれは人の上に立つ者として再興を願い出た。望んだのはあの娘だ。ならばそれ相応には働いてもらうぞ。ただでさえあの娘の配下はこちらにおんぶに抱っこなのだからな。何もできぬというのなら、諸共流民となれば良かったのだ。客なら配慮も当然だが客では無い。」

 

「手厳しい。」

 

特別優しい訳ではないが、甲鉄城に乗っていたとき、避難民に対して最上は辛辣に当たったりはしなかった。金銭をやりくりしながら、菖蒲が引き受けた避難民を見る度遠い目はしていたが、武士に愚痴を漏らすことはあっても避難民に直接言うことはなかった。

その分確かに流民には能力に応じた仕事の割り振りを阿幸地にさせていた。

 

「余計な体力使わせないでほしい。やっぱり疾風に乗って来れば良かった。そしたら轢き殺してやったのになぁ。」

 

「いや轢いたらダメでしょ。」

 

「馬は急に止まれんからなぁ。事故だよ。はぁ…。」

 

深々とため息をついており、本当に疲れている様子の最上の後ろを大人しく着いていくことにした。

 

尚、菫には繕い物の仕事が与えられた。最終的には領主をさせるために勉強もさせているが、菫に任せられる仕事などそんなものである。空木は菫にも烈火の如く叱られ、暫く落ち込んでいた。

菫に叱られた事もそうだが、一合たりとも打ち合う事なく瞬殺されたことに衝撃を受けたようであった。打ち合おうものなら、木刀をぶった斬られるか、空木がぶった斬られる未来しかなかったことは余談である。

 




ホモ君は無名ちゃんには優しい方。真心的な優しさではなく、打算的な優しさですが。
純粋に戦力として貢献してるし、生駒も技術的・戦力的に役に立っているので、無名ちゃんに優しくしない理由がないです。菖蒲様も無名ちゃんを気に入っているので、基本的には無理のない範囲で要望を聞く姿勢。
ホモ君は利を成す者には寛容です。

空木?殺されなかっただけ感謝しろよ。ぶっ殺して菫に責任追求してもよかったんだぞ?(堅将様が領主だったら少なくとも半殺しくらいはした。)
菖蒲様は嫌がるだろうし、吉備土とか生駒がうるさそうだからしないけど。
空木が持ってたのが真剣だったら、菖蒲様達がどうあれぶっ殺す。美馬と違って命乞いとかさせない。一撃で殺す。


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八代駅の縁者4

もう半月程で稲刈りとなる頃に、八代駅奪還作戦が行われることとなった。

とはいえ準備期間であった今までで、八代駅内のカバネを駅外に連れ出してかなり討伐しており、奪還作戦というよりは掃討の総仕上げといったところである。片側の跳ね橋は既に上げており、カバネの討伐も進んでいるので、完全封鎖後潜んでいるカバネを殲滅するのだ。

殲滅後、駅内に残る者もいるし今後勘太郎も生活することになるため、生活拠点の構築も必要である。

当時操車場には民人達が立て篭っていたことから、しっかりとした造りではあるので生活拠点は操車場の予定であるが、長期間滞在することを考えれば改装が必要である。領主の屋敷が無事なら勘太郎の居住場所はそこになる予定である。

 

奪還作戦には八代の武士達と蓬莱城の面子と来栖で行くことになっている。菫は留守番である。今回八代の武士達には菫の護衛も許されていない。護衛に割く戦力が無駄であるので仕方がない。最上には5日以内で殲滅を終えろと言われており、殲滅を終えたら一度来栖と武士の半分で顕金駅に戻り、最上と瓜生以下狩方衆、天祐和尚と蒸気鍛治10名と有志の民人が来栖達と入れ替えで八代駅に向かう。最上達は生活拠点の構築のための人員であり、天祐和尚は慰霊のためである。後発組にも菫は入れていない。役に立たないので城で待機である。

 

奪還組が送り出された後、甲鉄城には資材などが積み込まれていく。八代駅の図面を見ながら、蒸気鍛治や有志の民人らがどこから手をつけるかを検討している。八代駅の図面には討伐組が今まで記録した書き込みもあるため、多少の方針は決まっているが、作業にあたる人員が少ないため優先順位付けは必要である。

 

奪還組が出発して4日目の午前中に来栖達が顕金駅に戻ってきた。待機していた最上達は八代駅へと甲鉄城で向かう。

 

「いやぁ。早かったな。念のために見回りもしてこれか。実質2日半位しかかかってないな。」

 

「そりゃカバネリ2人と忠犬がいたらそうだろうよ。あの3人が2日も周りゃすぐだろ。」

 

「早く終わる分にはありがたいばかりだな。」

 

最上と瓜生が艦橋で軽口を叩く。

 

八代駅についてからは、蒸気鍛治や有志の民人で修復予定箇所の確認に向かい、他は八代駅内の清掃作業である。

2日程かけて修復箇所の確認を終え、床板の張り替えや、設備の修理が始まった。清掃作業は5日程を費やした。掃討の仕上げ前に出来るだけ駅の外で始末をつけたが、顕金駅の時と違い人員が少ないため中々の時間を要した。

 

「吉備土。私と天祐和尚と一緒に蓬莱城の面子は顕金駅に戻るぞ。」

 

「このまま作業を続けるんじゃないんですか?」

 

「追加で必要な物資や人員の表ができた。武士ばかりいてもここからは役に立たんからな。」

 

「わかりました。」

 

甲鉄城は八代駅から顕金駅へと戻り、追加物資や追加の人員の乗り入れなどが行われている。

 

「無名殿。」

 

顕金駅の操車場で追加物資の指示を終えた最上が無名を呼ぶ。

 

「何?なんか手伝う?」

 

「いや。無名殿と生駒はこれで終いだ。あと数日で稲刈りの予定だから顕金駅にいてくれ。」

 

「いいの?」

 

「問題ない。彼方は私と瓜生がいれば充分だしな。」

 

「わかった!ありがとう!」

 

無名は踵を返して生駒へと突撃していった。生駒は後ろから無名にどつかれ怒っていたが、稲刈りのことを聞いたのか最上を二度見した後、軽く会釈をして無名と一緒に操車場から出て行った。

 

「仁助と樵人は悪いが付き合ってもらうぞ。吉備土と歩荷はこちらに残れ。八代の駿城の連結と、物資の搬入、人員の乗車が終われば出発するぞ。」

 

八代の駿城は奪還作戦前に一通り修復されており、八代駅に駐車しておくことになっているため、甲鉄城に連結して持って行く。

 

「乗車完了!」

 

「連結完了しました!」

 

「物資搬入完了!」

 

「了解した。甲鉄城。発進せよ。」

 

甲鉄城は再び八代駅へと向かう。

甲鉄城に牽引される八代の駿城には、八代駅で採掘に携る者達が乗っている。操車場の居住場所の確保が出来次第、採掘を再開する為である。

 

甲鉄城が八代駅に着くと、すぐに物資が降ろされ作業が始まった。最上が領主の屋敷の様子を見に行くと、床板の張り替えを終え、障子の貼り替え作業をしていた。四方川の城ほど大きくはないが、それなりに大きいため中々時間がかかりそうである。夕刻に各所からの報告を受ける以外に、やることもないため障子の貼り替えを手伝うことにした。いつのまにか手伝い始めた最上を見て、作業していた民人はぎょっとしたが、なにやら楽しそうであるので放っておくことにした。

 

夕刻には操車場に全員が戻り、最上に報告を上げる。特段問題もなく、各所あと3日程度で作業を終えられるとのことであった。仁助や樵人は、狩方衆の一部と家探しが担当であった。顕金駅の時と同じように、金目のものを集める作業である。泥棒の気分になるので嫌なのだが、他の作業では役に立たないのでそんな抗議もできない。

顕金駅にいる八代駅出身者から依頼された物の回収も仕事のうちである。

八代駅の武士達の一部からは、最上がちらちら目線を向けられていたが、一蹴されていた。

 

「なんだ?言いたいことがあるなら今ここで言え。お前らの家には目印を立てさせただろう。家主不在の家から押収することになんの問題がある?」

 

(これやるから吉備土は連れてこなかったんだな。)

(私達は抗議しないからな。)

 

樵人と仁助は遠い目で最上と八代駅の武士達を眺めた。

外道の所業のようだが、後数年は再興はしない予定なので残しておくだけ価値が下がるので仕方がない。なにせ保存状態が良くないので。

持ち帰れば菖蒲の指示で大半は、八代駅の再興資金源として保管となるのだが、そういうことは教えないらしい。

 

3日が経ち、採掘面子や八代駅の武士の半数を残し、最上達は撤収した。

八代駅の駿城は、いざという時の為八代駅に残している。

 

最上達が顕金駅に戻ると、丁度稲刈りが始まっており、必要な人員以上の民人が集まりわいわいと稲刈りをしていた。最上は狩方衆と金目の物を城に運んでいき、他の者は解散となった。

どうせだからと仁助と樵人が稲刈りの様子を見に行くと、おろおろする来栖の前で菖蒲が稲刈りに参加していた。

 

 

最上が城に報告に上がると菖蒲の姿がなかった。

 

「菖蒲様が稲刈りですか?」

 

「やってみたかったのだとおっしゃってな。再興後初めての稲刈りだ。一度くらいは良いかと思ってな。」

 

「そうですか。」

 

「そちらはどうだった?」

 

「領主の屋敷と操車場は問題ありません。それなりの屋敷からは金目の物の押収も終えました。領主の屋敷は使用人が最低3人くらいは欲しいですね。武士もうちから3人は出しましょう。交代制とすればそこまで不満もでないでしょう。石炭の採掘関係の勘定もあるので勘定方から1人出します。八代の武士も含めて隔週で交代にしましょう。」

 

「ふむ。では正式な使用人は2人として、最上君のところの見習いも2人借りよう。武士は来栖君に当番を組ませればいいだろう。有事を考えて5人借りたいところだな。八代の者だけでは少々心許ない。うちは流民上がりの武士などが混成でも良いが、八代駅は元々の来栖君の配下で固めたい。勘定はその5人でやってもらおう。教えたのだろう?算盤。」

 

「承知しました。…まあ確かに教えましたが、大丈夫ですかね…。」

 

「なに。殆ど石炭の採掘関係の計算だけだ。難しくあるまい。それにむこうに行ったら勘太郎は暇だぞ?算盤のみならずそれ以外も教えさせれば良い。」

 

「確かに暇ができそうですね。いっそ菫殿はあちらで勘太郎殿にご教示いただく方が良いのでは?」

 

「男子ならそれでもよかったが、女子故勘太郎では手がまわらん。流石に静殿を彼方にやるわけにはいかんしな。」

 

「ああ…。そういった教養がありましたね。勿体ない…。ではその分うちの武士をしごいていただきましょう。」

 

「菫殿には屋敷を一つ貸し与えることになった。そこに武士も突っ込んでしまおう。その分ちょいと立派な屋敷になるが、城にいつまでも住まわせておくのも良くない。自分達のことは自分達でしてもらう。それとあの駄犬だがね。ずっと八代にいてもらうことにしよう。1人くらい仕事のよくわかる者が常駐する方がいいだろう。」

 

「なるほど。しかしあの駄犬。八代に置いてよろしいので?勘太郎殿のご迷惑では?手合わせが大好きな様子でしたから、こちらにいる時にひたすら前衛組と手合わせでもと思っていたのですが。」

 

「前衛組の時間の無駄だろう。しかし何故殺してしまわなかったのかね。」

 

「菖蒲様の御心に配意したのもありますが、生駒がそういうところが潔癖でして、面倒なのです。美馬が倭文駅で暗殺を仕掛けられた時に、失敗して命乞いをするその相手を殺したら食ってかかっておりましたので。生駒がカバネリでなくば一顧だにする必要もないのですが。持っていたのも木刀でしたし、殺せば五月蝿いのは目に見えていましたので。…人目につかぬところであれば事故にしたのですが。」

 

「そうか。君はまたあれらに影響されたな?戦力も技術力も評価するが、一蒸気鍛治にそこまで気を使うな。甲鉄城という閉鎖空間とはもう違うのだよ。…まあいい。主に侍りたい犬は、侍ることを許さずに八代で働いてもらうさ。島流しみたいなものだな。菫殿はしっかり頭を下げにきたし、責任追及をしたところで手間の割に得るものもない。」

 

「面目次第もございません。…流刑地みたいな言い方は勘太郎殿が可哀想では?」

 

「現状流刑地みたいなものだろう。勘太郎は貧乏くじだよ。それより食糧の搬送についてだが。」

 

道元と最上がこれからについて話し合っていると、廊下から2人分の足音が聞こえてくる。一つは随分軽いので菖蒲と来栖だろう。丁度話を通さねばならない2人が戻って来たようなので、話を進めてしまうことにしようと道元と最上は座り直した。




八代駅の武士達は、領主の意向とはいえ民人を見捨ててさっさと逃げ出した前歴があるので、家老3人衆は一切信用してません。駿城の親鍵も勘太郎が管理することになります。

道元様はおこです。
光の甲鉄城面子にちょいちょい影響されるホモ君にもちょっとおこ。
忙しかったので後回しにしてたけど、ちくりと言っておかなきゃ気が済まない程度にはおこ。
閉鎖空間で半年以上一緒にいるとどうしても影響されちゃうよね。別にホモ君は光属性にはならんのだけど、色々気は使ってたのでつい気をつけちゃう。みたいな。
主人公だからで片付くけど、生駒は甲鉄城で当然のように会議に参加したりと、かなり上に置かれてたなと。
生駒が菖蒲を押し倒して噛みつきそうになったり、自分で立てた作戦放棄してみたり、まだ表向き何も悪いことしてない英雄様の美馬に食ってかかったり、反乱扇動しといて失敗したり、軍議の場でキレたり、ヤベェこと沢山やってるので感覚狂ってます。

光の甲鉄城面子の許容範囲が広すぎる!最初の頃の来栖とかド外道野郎みたいに見えるけど、基本的に正しかったので光の甲鉄城で正しいことすると外道に見える不思議。

空木君は島流しの刑。島じゃないけど。再興するか、菫が会いに行けば顔を見ることはできます。芹矢君は弁えてるので護衛ポジゲットしてます。
ホモ君は(来栖、瓜生、ホモ君と)手合わせと言う名のリンチをするつもりでしたが島流しで決着。


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八代駅の縁者5

菫は元上侍の屋敷に移り、武士達も長屋からそちらの屋敷に移って行った。

菫は石炭を売った収入を得るまでは、仕事をするとして繕い物などを引き受け、武士達も役人として学びながら内職をこなしていった。

 

来栖の配下から八代駅に派遣される5名の当番が組まれた。派遣されると鍛錬以外は勉学に励むよう言われているので八代駅派遣は勘太郎塾と呼ばれている。

 

使用人も信用のおける者をということで、甲鉄城上がりの者だけで当番を組むことになった。最上のところからの見習いは例外としているが、城に上げても良いだろうと判断できた2人が隔月単位で行くことになった。八代駅から帰ってきたら城に上がれることになったのだ。

 

最低限の整備はせねばなるまいと、蒸気鍛治でも当番が組まれることになり、こちらも隔週交代での派遣となる。整備の仕事がない時は少しずつ各設備の整備をすることになっている。

 

人員の搬送は当初の予定と異なり、甲鉄城か蓬莱城で行う。八代駅の駿城は基本的には八代駅に常駐させておきたいからである。八代駅の駿城は人員交代の週とずらして石炭を隔週で顕金駅へと届けることになっている。こうすることでどちらかの駿城が毎週行き来することになるので、食糧などの物資の受け渡しが容易になるのだ。

八代駅の駿城は月に2往復、甲鉄城と蓬莱城のいずれかで月に2往復といった具合である。

 

最低限の人員でと計画した話で、沢山の人間が八代駅へと派遣される当番に組み込まれたことから、菖蒲は反省した。ここまで人が派遣されるとは思っていなかったのだ。よく考えたらわかる話ではあったが、勢いだけで進めてしまったのが良くなかった。

瓜生や阿幸地はある程度わかっていたが、まわせないようなら家老組が絶対許可しないのはわかっていた。愉快犯みたいなものである。

 

道元達はその辺りについての文句は、なにも言ってこなかった。勿論報告や伺いはくるが、文句はないのだ。菖蒲の望みをなんとか形にすべく、彼方此方に奔走して都合をつけていたのを知っているので、道元あたりがチクリと言ってくるのではと思っていた。

思い起こせば、顕金駅を脱出してすぐの葬儀の件もあわや全滅、海門の件も最上の負傷と甲鉄城の損傷があったが、最上の反対を跳ね除けて押し通した後、最上は特になにも言ってこなかった。

葬儀では因縁じみた内容だが阿幸地が、海門の件はこの間道元からチクリと言われたが、今回の件は誰も何も言ってはこない。

自分が押し通せば、反対していた者は黙って仕事をする。後から文句も言わぬ。お父様もそうだった。会議で反対意見が出ていても、ことが終えた後にお父様に文句を言う者などいなかった。領主なのだから当然だ。意見を求められれば忠言はするが、ことが終わった後に文句を言うなど不敬と言われてしまう。

これはいけない。あれだけ反対しておいて不満がないわけがない。朝議の場では面白がっていたが、両手を挙げて賛成するような話ではなかったのは流石にわかる。調子に乗りすぎた。困っている者がいると放っておけない。だが困っている者を助けて一蓮托生は自分がしていい選択ではない。

 

「…はぁ。あとで静に相談しよう。」

 

菖蒲は1人で反省しても、建設的な考えが出てこないので、後で菖蒲に厳しいことを言ってくれる静に助言をもらおうと決意した。

 

八代駅は炭鉱の町であり、顕金駅より元々の食糧の自給率が低かった。とりあえずは派遣員全員で100もいないことから、駅内の畑を使えばある程度は自給が可能であるが最初は顕金駅からの持ち出しに頼り切りとなる見通しである。最上達が行ったときに、秋に植えられる野菜などの種まきなどは、急いでしたものの暫くは駿城への食糧支援も不可能であることから、八代駅に立ち寄った駿城は、最低限の整備を行って速やかに顕金駅へと送り出すことが決まった。まあ道中のカバネは凡そ討伐済であるし、人員の搬送時も討伐予定であるのでなんとかなる見通しである。初回派遣される武士達には領主の屋敷の池の清掃が命じられた。その内池に川魚が入るのだなと武士達は察した。

 

八代駅は属領であり代理の領主は勘太郎であるが、正式には菫が領主の為派遣されている期間の給金は八代駅から出すことになっている。勘定方は余計な計算が増えて泣いたし、菫や菫の配下の武士達も帳簿に四苦八苦する未来がある。

 

道元と最上はこれを機に幾つかの決裁が手を離れた。まだ完全に管理職の者達に任せられるわけではないが、2人になっても仕事は今までの三分の二になった。

今まで、本来管理職が処理すべき仕事が10の内5が回ってきていたものを2程度になるように調整した。単純に2といってもピラミッド型を10分割した内の上位の2なので仕事は圧倒的に減ったのである。

勘太郎という事務戦力は減ったが、道元達の仕事も減った。今まで倒れそうなくらい頑張った甲斐があるというものだ。

来栖以下の武士達がひいひい言っているのを見てほくそ笑んでいる。

勘太郎も派遣先は暇なので、武士達はさぞ勉強が捗ることだろう。

 

八代駅は顕金駅の属領となり、顕金駅は石炭採掘の純利益の3割を得る。

菫や菖蒲がもっと手強ければ、良くて派遣員等の経費込みで3割だっただろうが、最上はかなり譲った様に見えてそうでもないのである。何せ派遣員の費用は八代駅持ちであるので、当初予定していた連合軍とは比べものにならない利益率であった。

まあ堅将が存命であれば4割を下回ることはなかったので、菖蒲に甘いのは確かである。

 

八代駅での採掘再開については、周囲の駅に蓬莱城で訪問した際に知らせることになっているので、そのうち八代駅に直接買付けに来る駅もあるだろう。

 

八代駅で八代の武士達は、凡そ半数ずつが交代で警備に着くことになる。そこから半々で跳ね橋につくのである。一応顕金駅でも検閲所担当者と訓練もさせたのでなんとかなるだろう。

万が一の際に備えて領主の館にはトロリーを常駐させ、いざという時はトロリーで操車場へと向かえるようになっている。馬も2頭置いておくことで、領主の屋敷に滞在する全員が至急避難できるようになっている。親鍵は勘太郎が管理するため、勘太郎が操車場へ行き着かねば、八代の武士達は駿城で逃げることも不可能である。

 

「なんとか目処がつきましたな。利益もかなりありますし、多少危険が伴うことを除けば良い結果でした。」

 

「そうだな。再興を先延ばしにできたのはよかった。うちに余裕があって、八代とうちだけで再興を目指した場合、諸々の経費を考えたら役人の給金はうち持ちで3割が良いところだったからな。経費すら持たずに3割は美味しい話だったな。」

 

「連合軍ともなれば経費込みで2割が良いところでしたしね。」

 

「多少の危険も蓬莱城で周辺のカバネを狩っておりますし、今後範囲を広めて今年中に、出雲のカバネを減らせれば大した危険もありますまい。」

 

「出雲の各駅には、噴流弾や手投げの擲弾や掃射筒も早く行商してしまおう。軽量化した蒸気筒は多少遅れても良い。行商は最上君に任せよう。」

 

「心得ております。各駅がカバネを殺せるようになり、蓬莱城が出雲を凡そ平定してしまえば、八代駅はなんら危険なく利益をあげられます。顕金駅の属領であれば他駅も嘴を挟むこともないでしょう。菫殿達が政ができるようになるまで再興もありませんから、ただただ利益を産む地となりましょう。」

 

家老3人衆は道元の執務室に集まって言葉を交わす。

 

「石炭の安定供給も得られたし、本格的に出雲平定といこうか。」

 

「そうですね。とりあえず私は出雲の各駅を行商しつつ、契約分の流民の受け入れと越冬の為に食糧を得て参ります。蓬莱城は基本的には顕金駅と八代駅周辺を周り、甲鉄城が戻った時には多少遠征をする形といたしましょう。まだ駿城が一城も長期間駅にない状況は民人も不安でしょうからね。」

 

「各駅がカバネを殺せるようになれば、他地域の者達に宣伝にもなります。多少設計図が広がったところで生産量はうちが一番でしょうから、買い付けにくる駅も増えるでしょう。それなりに広まるころには、軽量化した蒸気筒や新たに開発される武器も売れるようになるでしょうしね。」

 

家老3人衆の会話を部屋の隅で聞いている服部は遠い目をしながら思った。

 

(やっぱりこの人達怖い…。)

 




連合軍だった場合
炭鉱の利益
八代駅 4割(炭鉱以外の復興費用に
      大体消える)
顕金駅 2割
他駅1 2割
他駅2 2割
役人は八代駅以外で占めるので八代駅はお飾り領主。他駅は流民を突っ込んできますので労働力は多少確保できます。
菖蒲様はこの2割を放棄しようとしてました。
「させぬ。」by家老3人衆

八代駅と顕金駅で復興
八代駅 7割(4割は炭鉱以外の復興費用で
      消える上、残りの3割で人を雇
      わなければ政どころか生活す
      ら回せない。)
顕金駅 3割
復興で金は必要なので3割が良いところ、その上役人から民人まで派遣しないと何もかも回らない。顕金駅から回しても足らないし、顕金駅も人手不足。復興資金を考えると役人の給金は顕金駅持ちじゃないと無理。ホモ君が初期費用作り出してた甲鉄城と違って、初期費用0からなのでかなり無理ゲーな復興。不良債権抱えた形で顕金駅があっぷあっぷする。


今回の想定で領主が菖蒲ではなく堅将の場合

八代駅 4割(復興のために貯める)
顕金駅 6割
戦力も食糧も役人も採掘人も大概うちなんだからうちの利益が多いのは当然だよなぁ?文句があるなら流民になったら?別に協力する義理もないしな。後々他の駅と共同で奪還して、共同管理したっていいんだよ。
ヤクザ感あるけど、菖蒲様と違って慈善事業はしないと思うので。


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八代駅の縁者6

八代駅奪還完了から3日後、勘太郎を含む八代駅当番にあたる者達が、蓬莱城に乗せられ出発して行った。

ついでに菫に奪還した八代駅を一度見せておこうと、菫も護衛の武士3名と共に同乗させ、蓬莱城が戻る時に一緒に戻って来ることになっている。

 

顕金駅では、派遣員の当番により各所で多少人員の減少はあるものの、大きな問題は発生しなかった。

 

蓬莱城が戻り次第、最上を城主として甲鉄城が出雲の各駅へと行商に周ることになっている。甲鉄城には行商の為の武器等が大量に積み込まれていく。流民を採用した生産ラインが確立してきたことで、生産量はかなりのものになっている。とりあえず最初は3駅程周ってくる予定で、顕金駅奪還時に協力した駅であることから安価に提供することが決まっている。

武器の他にも、熊やウサギの毛皮や猪などの革、木材などが積まれている。

木材は駅の外には沢山あるが、気軽に外に採りに行けるのは顕金駅くらいであるため、需要の割に供給が少ないことからそれなりの値段で売れる。乾燥が不完全のため多少安価に売ることになるが、木材など腐るほど用意できるので全く問題がない。

 

 

蓬莱城が日暮れころに戻ってきたことから、甲鉄城は入れ替わりで顕金駅を出発して行った。蓬莱城の面子には出かける直前に最上から、明日以降は周辺のカバネ討伐と秋の実りの収穫をするように指示が出された。

 

「夏の間に目をつけた柿や栗の収穫だな。」

 

「柿は干し柿にもなるし沢山欲しいなぁ。」

 

「集落跡地に沢山あったな。背負い籠とか準備しとかないといけないな。」

 

「そろそろ城の川魚も補充しなきゃじゃないか?」

 

「これからの季節は冬に向けて獣も肥えてくる季節だな。」

 

武士達がわいわいと話しているのを聞きながら、菫はこの駅の人達は当然のように外に出て食糧を得る話をするのだなと感心した。

 

 

菫は道元に呼び出され、道元の執務室室まで護衛と共に来ていた。

 

「菫殿。言っておかねばならぬことがあるのだ。まあ自覚があるかもしれんが、君たちは八代駅の民人を見捨てて逃げ出した以上、顕金駅に住む八代の者達には恨まれている可能性が高いと考えておいてくれ。屋敷の立地からそう襲撃されるとは思ってはおらんが、街を歩くときは気をつけたまえ。」

 

「はい。承知しております。」

 

「それならいいがね。君だけではない。武士達も気をつけたまえよ。まあ民人達も得た生活を棒に振る真似はせんと思うが、感情は時として損益を無視出来る。」

 

「…はい。」

 

「わかっているならもう下がって構わん。」

 

菫は護衛達と共に道元の執務室を後にした。城にいた時は、家老陣から冷たい目線を受けていたが、他の者達は労り暖かく扱ってくれていた。武士達は長屋に住んでいたため、時折向けられる冷たい目線には気がついていたが菫はそうではない。襲撃されるかは別としてもこれからは冷たい目線を受けながら生活していかなければならない。

顕金駅の武士達と行動していると、自分達がしたことを忘れそうになるが、忘れてはならないのだ。

菫も武士達も気を引き締めた。自分達の身を守ることも当然だが、民人達に復讐をさせてはならない。今の生活を失わせてはならないのだ。

 

 

道元から忠告を受けた翌日、検閲所と城の鐘が鳴った。蓬莱城が獲物や収穫物を持ち帰ってきたのだろう。武士達は菫に柿などを食べてもらいたいが、流石に民人達が集まるあの場に行くのは憚られた。

 

駅では民人達が、沢山の背負い籠に入れられた柿や栗に大喜びしていた。

集落跡地には柚子の木もあったことから、柚子も背負い籠に詰め込まれていた。

アケビやサルナシ、ヤマボウシなど甘味を感じられるものも沢山収穫されており笑顔が絶えない。

猪も群れを見つけたらしく、何頭か解体されており其方も民人達に人気であった。

 

八代の武士達が残念に思っていると、吉備土が訪ねて来た。城に献上に上がる前に立ち寄ったらしい。

 

「買い取るなら多少融通しても構わないと言われています。どうですか?」

 

武士達は柿や栗を多少買い取らせてもらうことにした。

 

吉備土に対する指示は道元からのもので、不特定多数の集まる操車場に八代の者が買いに行くのは難しいし、全く与えないとなれば菖蒲が黙ってはいない。となれば城への献上品を一部買い取らせてしまうのが一番問題にならない。菖蒲から無償で与えられるのが一番拙いのだ。

菖蒲の指示であれば表立って批難する者は民人にはいない。なにせ菖蒲のそういった立ち振る舞いで受け入れられて来た者達ばかりである。しかし、不満は確実に溜まっていくことになるのでこの形が一番問題にならないのだ。

 

菫は属領の領主ではあるが、肩書きだけであり実務は代理の勘太郎がこなすことから何かと肩身が狭い。

武士達は自分達の力が及ばないからと申し訳なさそうではあるが、菫は満足であった。

カバネに襲われる心配はなく、食べ物も得られ、武士達も共にいてくれる。城に行けば菖蒲や静が勉学や教養を教えてくれる。かつて駅で得ていた生活とは程遠いが幸せなのである。




八代駅の民人も菫達もとっても幸せ!大団円!ではない。仕方ないよね。
でも許される範囲でみんなそれなりに幸せ。
再興は大変だぞ。
菫は菖蒲様と違って嫁入り前提だったので、覚えることが沢山あります。まあ10歳なので尚更ね。

八代駅の駿城が逃げたのか、そもそも出払ってたのか、どこかでカバネにのまれて失われていたのかはわからないけれど、逃げたのを採用しました。

顕金駅もあの時生きてた全員が乗れたとは思ってませんが、八代駅の駿城が可能な限り民人を乗せたら生き残れないので早々に見捨てた方向になりました。この設定でもよく今まで生きてたなってレベルですが、そこは許して…。


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【小話】反省会

菖蒲は執務室で静と向かい合っていた。

 

「本音と建前がございますが、どちらがよろしいですか?」

 

八代駅の件での道元達のことを相談したところ、静から出てきた言葉がこれである。

 

「ほ…本音で。」

 

「では失礼します。まず菖蒲様は領主である自覚をお持ちください。」

 

「はい。」

 

「菖蒲様。領主が自分のために死んでくれと命ずれば、武士は死も厭わないのですよ。」

 

「そのような命令は…。」

 

「しないでしょう。ですがそういう立場なのです。そして軽々しく頭を下げることなどできません。領主の判断で甚大な失敗があれば、家老以下を切って責任をとります。領主に判断を誤らせたのは家老の責任ですから。」

 

「うっ…。」

 

「後から文句を言わない?当然です。不敬は勿論ですが、言ってなんになるのです?言った者はスッキリするかもしれませんがそれだけです。軌道修正を失敗した自分達の恥の上塗りですよ。」

 

「は…恥…。」

 

「私は菖蒲様の慈悲深いところを好ましく思っております。道元様達とてそうでしょう。顕金駅には飛び抜けた戦力がございます。菖蒲様が救いたい者を救える力があります。」

 

「はい。」

 

「ですが、遍く救い上げることは不可能です。顕金駅から八代駅に逃れたとき、八代駅の民人を乗せましたが、八代駅に着く前のカバネの襲撃で民人が死んでおらずに、八代駅についていた場合も菖蒲様なら同じ判断をなさいますよね。」

 

「はい。」

 

「八代駅で立ち往生した時、最上様は八代駅の者を降ろす案も出しました。必要だからです。あの時提示された条件なら顕金駅の者達ですら食糧が怪しい見通しでした。民人が死んで数が減っていなければそもそも乗れたのでしょうか。乗れたとして倭文駅まで食糧はもつでしょうか。食糧がなんとかもつ計算だとして、それを民人は信じたでしょうか。民人は争わなかったでしょうか。」

 

「それは…。」

 

「私は無理だと思います。ただでさえ葬儀の前より食糧をめぐっていざこざが起きていました。そこにさらに余所者が増える等死人が多数出ていなければ不可能です。慈悲だけあっても、力だけあっても駄目なのです。衣食足りて礼節を知るといいますね。道元様達は衣食を重要視しております。」

 

「そうですね。」

 

「衣食足りず、力もなかったのが菫様達です。領主様が亡くなるまではなんとかなっていたのでしょう。力はなくとも衣食をどうにか都合できていたからです。」

 

「…はい。」

 

「とはいえ、私は道元様達も悪いと思うのです。」

 

「叔父様達が?」

 

「菖蒲様にとても甘い。昔顕金駅でカバネの疑いの女性が逃げた時、上侍の方々は慇懃無礼に菖蒲様に意見していたではありませんか。顕金駅を脱出してから六頭領以外でそんなことをしましたか?」

 

「されてません。」

 

「あれがためになるとは言いませんが、道元様達は菖蒲様を蝶よ花よと扱っているではありませんか。」

 

「子供扱いではありませんか。」

 

「白いものは一度染まると元には戻りません。菖蒲様には白いままでいて欲しいからと甘すぎるのです。」

 

「…えぇ…。」

 

「菖蒲様。救い上げるばかりでなく、見捨てろ、殺せと言えるのが普通の領主ですよ。道元様達は菖蒲様にそれを言わせる気がありません。無理のない範囲で救うのを見守り、見捨てねばならなければ3人がかりで仕事を放棄してでも断固として受け入れません。殺すのは勝手にやるでしょう。今回あの3人は利権をとって欲しかっただけです。それが許容範囲だったのでしょう。慈悲だけではなりません。菖蒲様の与える慈悲が顕金駅を食い潰してはなりません。」

 

「食い潰す…。そうですね。」

 

「まあ、道元様達の様子を見るになにやら悪くない結果になってるようですし、問題はなかったのだと思いますけどね。」

 

「そ…うですか?」

 

「はい。次はもう少し道元様達に耳を傾けたら良いかと。今回の奇策は上手くいったようですが、味を占めてはなりませんよ。今度は対立してようが、最上様でも無理矢理引っ張り込んで考えさせれば良いのです。」

 

「対立してては無理では?」

 

「来栖様ならお連れできるでしょう。」

 

「実力行使ではありませんか!」

 

「どうせ妥協点は模索しなければならないのですから、使える頭は使うべきです。」

 

「はい。」

 

「これで本音は終わりです。大変無礼を致しました。」

 

静はゆっくり頭を下げた。

 

「静!やめてください!お願いしたのは私です。」

 

「はい。」

 

静は何食わぬ顔で頭を上げた。

 

「ところで建前だったらなんと言うのですか?」

 

「菖蒲様が御領主なのですから、菖蒲様のなさりたいようになされば良いのです。臣下が主に尽くすのは当然のことです。しかしながら財政の面もございますから多少注意も必要かと。道元様達は財政管理に注力されておりますので耳を傾けるのも大切ですよ。…でしょうか。」

 

「やんわり過ぎない⁉︎」

 

「建前ですから。」

 

菖蒲は決意した。

武士達の耳障りのいい言葉は建前であるので、今回の静のように長々とした本音があると弁えようと。

菖蒲は戦慄した。

自分に一番耳障りのいい言葉を吐いているのは来栖である!来栖もこういった本音を隠しているかもしれないと思った。

 

「静…。もしや来栖も本音を隠して私に建前を「は?なに言ってるんです?来栖様は本音十割で菖蒲様を全肯定しております。」

 

静は菖蒲の発言に割り込んで否定した。至極呆れた表情である。

 

「そうなのですか?」

 

「大丈夫です。来栖様は菖蒲様が望めば二心なく地獄までも突っ走ります。」

 

「なにも大丈夫ではありませんね。地獄へ突っ走らずに止めて欲しいです。」

 

「来栖様の首根っこを引っ掴んで止めるのは最上様の役目でしょうね。」

 

「叔父様と最上の話をよく聞くことにします。」

 

「その方がいいでしょうね。来栖様は何があっても菖蒲様の味方ですから常に隣においておけば良いのですよ。」




来栖は菖蒲様全肯定bot
ホモ君達のやっている汚ねぇ事を、認識しておいて黙っている分別はあるけど、知ったら菖蒲の顔が曇るからとかそんな程度。
信じると決めた相手はとことん信じる誠実な奴。
海門の生駒のことはよくわからんけど敵を見誤ったことはない的な発言すげぇなって思います。見誤らずとも結構やらかしがちな生駒への信頼よ。小説でも配下の武士信じてたし、一度懐に入れたら絶対に信じてくれるのすごい。

必要悪は理解してるタイプの忠犬。


なんで菖蒲様と静さん回で来栖についての後書き書いてるんだ。

静さんは来栖を評価してます。なにがあろうと絶対に菖蒲様の味方確定で、なにより強い。


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【小話】行商

周辺の駅に行商に出ていた甲鉄城が戻ってきたのは、2週間後だった。

米や豆類などの日持ちする食糧を中心に買い付けてきたようだが、家畜や薬、工芸品なども買い付けたようであった。商品として持ち出した武器は売り切っており、かなり機嫌の良い最上が見られた。

 

武器はわざわざ他駅の者を甲鉄城に乗せてカバネを殺してみせる実演販売方式をとった。

実演で殺して見せれば、武器の性能を見せられる他、多少の恩も売れるので丁度いいのだ。前衛が活躍しても仕方ないので最上と瓜生はもっぱらカバネ誘引係である。蓬莱城と違い血入りの瓶は使わない。なにせ人間しか乗っていないし、狩方衆以外は寄せ集めであるので。最上は思う存分疾風をかっ飛ばし、瓜生は蒸気バイクをかっ飛ばした。

狩方衆は教えるのが大変上手いし、商品説明もちゃんとできるので、取引はとてもスムーズにいった。

 

領主と会う時は、狩方衆の中から顔が怖い奴を2人借りて行く。菖蒲が来栖と吉備土を連れているのと同じような構図だ。とはいえ顕金駅奪還時に協力した駅であるので流石に最上を舐めてかかる駅はなかった。あの道元に仕事を任された者であるから当然であった。カバネ誘引係をしてみせ、偶にカバネを斬り倒し、カバネの金属被膜を瓜生と2人で回収して周るので、甲鉄城の城主はやばい奴の認識になった。

 

カバネリくらい飛び抜けて特殊であればそこまでではなかっただろうが、なまじっか普通の人間であるので余計怖いらしい。この場合来栖はどちらに分類されるかは不明である。

 

商人も連れて行っており、材料費の殆どかかっていない毛皮や木材などの取引を任せている。売値の1割が対価であるが、自分の仕事のついでにやるだけであるので商人にはウケが良かった。商人は組合を設立したらしく、最上から依頼される物の販売の利益は組合に集約され、組合員に分配される。なにぶん商人全てが出払う訳にはいかないので、誰が行っても損をしない方法がそれだったようである。

道中も特に困りごとはなく初行商は大成功であった。

 

回収してきた流民はいつも通り阿幸地にへと引き継がれた。

 

入れ替わりで蓬莱城はカバネ討伐の旅である。他駅周辺より山間部などを担当している。

 

顕金駅に戻って来れば最上には書類が待っている。減ったとはいえ2週間も不在であったので、道元と来栖では捌ききれないのだ。

 

「来栖。悪いが明後日は雅客を連れて、甲鉄城面子と樹木の伐採に行ってくれ。」

 

「承知した。」

 

来栖の目が輝いた。よほど道元との書類処理が苦痛だったらしい。

来栖経由で話を聞いた雅客も目を輝かせた。駅外作業がストレス発散になるのは顕金駅くらいだろう。普通なら死刑宣告であるので。

 

 

来栖達が伐採した樹木は製材担当に回された。ついでに栗拾いと柿の収穫もしてきたらしく最上にもいくつか手渡された。

 

いっそ開墾して駅外に畑でも作ろうかななどと考えたが、顕金駅は山々に囲まれているため獣害に遭う可能性が高い。

 

これから冬になり作物の収穫量はガタ落ちする。外に出ても獣くらいが精々だろう。予定外に増えた約50名を含めて、顕金駅には現在凡そ1550名である。

 

今年は天候に恵まれ豊作であった。それは顕金駅に限らず他駅でもそうであるが、冬季ともなればどこも食糧は出し渋る。現時点では飢える想定はないが、またいつ人が増えるかわからない。なにせ菖蒲は犬猫を拾うが如く人を拾ってしまうので。

 

「よし!久手駅に行こう!」

 

久手駅とは出雲の国の中で数少ない海沿いの駅である。堀へクレーンで船を下ろして川を下り海で漁業をする珍しい駅である。曳網などで漁をするので量が見込める。ただし川の行き来でカバネに襲撃されれば、間違いなく死ぬので偶にしかやらないのだ。一度に大量にとって干物にする。

蓬莱城を派遣して、周囲のカバネ討伐と警護をして大量に干物を作らせて、後で受け取りに行こうということである。

 

まだ行商にも行ってはいないし、領主も小賢しい性格ではないので吉備土に任せても大丈夫だろう。大きくは無い駅なので、掃射筒は売れずとも構わない。狙いは干物である。

 

菖蒲や道元に相談して久手駅派遣が決定した。2人には書状を作成してもらわなければならない。流石に現地に突撃してから、吉備土が交渉できるとは思わない。菖蒲と道元の書状があれば問題なく話は進む。

 

カバネ討伐から帰ってきた吉備土を捕まえて、道元と概要を説明した。

一応武器の類は持たせるが、まあ売れたら良いなくらいの気持ちである。

 

阿幸地経由で商人を呼び出し、乾燥済みの薪や炭、石炭を任せることにした。冬季に入るため、薪や炭はいくらあっても良い。顕金駅は元々4000人越えの駅であったし、炭焼き小屋には薪や炭が大量に保管されていた。炭は現在増産させている。品質はそこそこであるが、どこの駅でも大体駅に引きこもって10年で様々な物資不足に喘いでいるので質はそこまで問題ではない。

 

2日程休養させた蓬莱城の面子を久手駅へと送り出した。

 

「最上様やっぱり商人感ありますよね。」

 

「何度もいうが武士だぞ私は。」

 

服部は書類を受け取りながら、中々に失礼なことを言う。

 

「ところで何で宍道駅じゃなかったんです?あそこも宍道湖あるじゃ無いですか。」

 

「あそこは海じゃなくって汽水湖だからな。」

 

「汽水湖?」

 

「海水が混ざってるんだ。とはいえ海と比べれば塩分濃度はかなり低い。干物の保存期間を長くするなら塩を濃くしてよく干さなければならない。大量にとっても加工するための塩が足りない。その点海沿いの久手駅ならば塩も作ってるから問題ない。宍道湖はシジミが上手いが、量と保存期間的に食糧確保の意味としては薄いな。」

 

「へえ。というか川魚も取れるのに、大量に干物を手に入れる必要ありますか?」

 

「海から離れた駅に行商に行くときに持って行く。穀類に変えてこないとな。うちも元々はそうだったが、山側は魚もまともに手に入らん。護衛してやって川魚を取りに行かせることもできるが、それは蓬莱城でいい。甲鉄城は行商が主目的だから一々付き合ってられんし、甲鉄城の面子でそういうのはちょっと不安があるからな。」

 

「確かに甲鉄城は寄せ集めで構成してますもんね。」

 

「甲鉄城で売れるものは多い方がいい。」

 

「やっぱり商人では?」

 

「やかましい。」

 

4日後蓬莱城が戻ってくると、掃射筒は売れずに持ち帰ってきたが、塩を大量に買い付けてきていた。薪などを売った金で買い付けたらしい。吉備土曰く、同行した商人の勧めで買い付けたとのことであった。干物のことしか考えてなかったので、すっかり塩の買い付けを指示し忘れていたが、商人が気を利かせたらしい。吉備土の後ろでにこにこしている商人には、後で少しばかり褒美をやらねばならない。

甲鉄城ならば最上がいるが、蓬莱城の場合は戦力偏重編成なので商人の手助けが必須である。

 

後から商人を呼びつけたところ、組合での氷室の使用権を交渉された。一年で返却予定で氷室を1棟貸し出すことにした。氷室の使用権などかなり過ぎた褒美であるが、組合への褒美であるのでこれで一年は蓬莱城に乗る商人は吉備土にあれこれ助言する義務ができた。

 

氷室は2棟あるが、氷室など四方川家と上侍くらいしか恩恵はなく、六頭領あたりはおこぼれに与っていたようだがその程度である。

権利を有していた上侍もいないので、一年氷室を貸したところで問題もないし、蓬莱城で商人の口を借りられる方が大きい。

 

氷室自体は四方川の所有物であるが、菖蒲は快く許可を出した。

菖蒲に任せるとそのままポロッと組合に1棟あげかねないので、借用状況の管理は道元と最上が行う。

 

出雲の国の駅への行商は甲鉄城が、各地のカバネ討伐は蓬莱城が行う。八代駅を手に入れたことで、石炭も大量に手に入るので、ガンガン走らせることが出来る。ただし蓬莱城はカバネの金属被膜を手に入れる以外実利は薄いので出費が凄い。蓬莱城の面子は知らないが、勘定方が目を疑う金額が出て行く。その分甲鉄城が金を稼がねばならない。今回の久手駅のように蓬莱城が派遣されて利益を生むこともあるが、大半は甲鉄城が稼ぐことになる。

 

近接戦闘をするものが多ければ金属被膜刀なども売れるのだが、なにぶんカバネ相手に近接戦闘をしようというのは、ハードルが高過ぎるので商品展開は今のところない。

腕に覚えがあり、闘争心に溢れた武士など10年前に死に絶えている。それ以降の武士は基本的に蒸気筒の操法などに注力したので、刀で戦おうなどと酔狂な者はあまりいないのである。

 




「私は商人じゃない」byホモ君

氷室なんて1棟あるだけすごいんだろうけど、まあその辺はご都合主義で。


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【小話】お饅頭

八つ時の菖蒲の執務室に静が饅頭を持って入ってきた。顕金駅ではサトウキビの栽培はしていないし、再興途中であり財政にも余裕がないため、砂糖は殆ど手に入らない。そのため大体八つ時に出てくるとすれば、山菜などを包んだおやきなどであった。

 

「菖蒲様。休憩のお時間です。」

 

菖蒲が卓の上を片付け、静が饅頭と茶を卓の上に置いた。

 

(今日は何の山菜かしら。)

 

菖蒲はまた山菜のおやきだろうと思って饅頭に小さく口をつけた。すると口の中に甘味が広がった。

 

「っ⁉︎…静!甘いです!これはどうしたのですか⁉︎」

 

「先日収穫された栗を使用した栗の餡が入っております。」

 

「流石に栗はわかります!ですがこれは栗だけの甘さでは…。」

 

「なにやら最上様が水飴を作られたそうなので、鯏様がそれを使ってお饅頭を作ってくださいました。」

 

「最上が?水飴を?…えっ⁉︎作れるのですか⁉︎」

 

「そのようですよ。まあそれはさておき、久しぶりのお饅頭ですからごゆっくりどうぞ。」

 

静はすっと下がって行った。

菖蒲は久しぶりの甘味を誰にも邪魔されることなくゆっくりと味わった。少し甘さは控えめではあるが、顕金駅に戻ってから久しく口にしていなかったお饅頭に舌鼓を打つ。

 

 

夕刻に菖蒲は最上の執務室を訪ねた。

 

「菖蒲様?どうされました?」

 

「最上。本日は最上のおかげで美味しいお饅頭が食べられました。ありがとうございます。」

 

「いえ。喜んでいただけたなら幸いです。」

 

「と…ところで、水飴を作ったと伺いましたが、よく作れましたね。」

 

「ああ…。馬鈴薯と大根で作れますよ。」

 

「えっ⁉︎馬鈴薯と大根⁉︎」

 

「まあ大量生産は無理ですが。丁度うちの庭に作った畑にあったので。」

 

「最上は凄いですね。」

 

「前に聞いたことがあっただけですよ。武器の行商が軌道に乗れば砂糖ももう少し買えますから、その時はちゃんとした饅頭を作って貰えますよ。」

 

「いえ。充分嬉しかったです。ですが私だけ甘味をいただいてしまって、少し申し訳ないですね。」

 

「それはよかった。一応阿幸地殿には作り方を教えたので、少量は民人にも出回るようになると思いますよ。嗜好品か薬扱いでしょうから高価には変わりありませんけど。現状馬鈴薯と大根は水飴を作るよりそのまま消費する方が多いでしょうね。」

 

「そうですか。民人も早く甘味を口にできるようになるといいのですが。」

 

「今はこの間の柿で、干し柿も作っているようですから大丈夫ですよ。アケビなども出回ったようですしね。」

 

「そういえば私もアケビやヤマボウシをいただきました。干し柿ですか。良いですね。」

 

「やはり駅の外に収穫に行けるのは大きいですね。冬になったらあまり恩恵はありませんが。駅内ではさつまいもも栽培中ですから、そのうち干し芋でも作るでしょうね。」

 

「干し芋もいいですが、その前に焼き芋ですね。」

 

「そうですね。楽しみです。ところで菖蒲様。そろそろ夕餉のお時間では?」

 

「あらいけない。静に怒られてしまいます。それではここで失礼致しますね。最上も早く家に帰って休むのですよ。」

 

「はい。これが終わったら帰宅致します。」

 

菖蒲はにこりと笑って退室して行った。部屋に控えていた服部は黙ってその様子を見ていたが、菖蒲が退室した後口を開いた。

 

「砂糖。高いですもんね。」

 

「そうなんだよ。だから早めに備前くらいまで討伐を進めたいんだがなぁ。」

 

「山間部ばかりですから中々大変ですね。まずは南下が先ですかね?」

 

「そうなるだろうな。まあ備後あたりでも砂糖の値は少し落ち着くとは思うが、安いに越したことはない。むしろ讃岐で大量に仕入れて、帰りがてら売り歩くのも悪くない。何処の駅でも砂糖は高く売れるからな。」

 

「暫くはやめてくださいよ。それ絶対長旅じゃないですか。」

 

「利益は絶対上がるんだがなぁ。」

 

「いくら仕事が減ったとはいえ、そんな長旅してたら道元様が過労で死にます。」

 

「家老だけに?」

 

「面白くありません。」

 

「悪かった。」

 

くだらないやり取りをしている内に、最上が仕事を終えたため、服部が書類を受け取り下がっていった。




本編で砂糖菓子出した私が言うことじゃあないんですが、あの世界で砂糖がまともに出回ってるのすごいなって思います。
この度ホモ君に水飴を錬成してもらいました。


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【小話】水飴

「もがみさま。なにするの?」

 

「ちょっと実験をな。」

 

最上が朝餉の片付けが終わった厨で何かしているのを、子供達が覗き見る。小夜は遠慮なく声をかけて近寄っていったが、一之進と小太郎は厨の出入り口で様子を窺っている。

 

「こらこら。男子厨房に入らずですよ。」

 

出入り口でこそこそとしている一之進達を見つけた鯉が廊下から声をかける。一之進達は、最上が厨にいるため鯉と最上を交互に窺い見た。

 

「あら。最上様。何をされてるのです?」

 

鯉がひょこりと厨の出入り口から顔を覗かせ声をかけた。

 

「いやなに。ちょっと実験をな。それと鯉さん。男子厨房に入らずではなく、君子、庖厨を遠ざくる也だ。別に男が厨に入るのが悪い訳ではないよ。」

 

「あらそうなんですか?」

 

「君子は憐れみ深いので、動物が捌かれる姿が見えてたり動物の悲鳴が聞こえたりする厨房に近づくことは忍び難いということだ。本来料理番とか男ばかりだろう。まあ武士の子は料理を覚えるより他にやることがあるから、厨に入ることもないといえばないのだがね。ところで鯉さん。おろし金って何処にある?」

 

「ははぁ。そうなんですねぇ。おろし金ならこちらですよ。」

 

「ああどうも。」

 

「やる。」

 

「なら手を洗って来なさい。」

 

小夜が手を上げて手伝いを申し出たので、手を洗って戻ってきた小夜におろし金と皮を剥いた馬鈴薯を渡してみたが、どう見ても危ない。

 

「小夜。やっぱりやめとこう。手をすりおろしそうだ。」

 

「やる。」

 

小夜は一生懸命馬鈴薯をすりおろしているが、目を離したら手を滑らせそうで目が離せない。ちらちら様子を窺いながら馬鈴薯の皮を剥いていると、早々に疲れたのか小夜の手の動きがゆっくりになっていく。

 

(疲れたら取り上げればいいか。)

 

と様子を窺っていると、手を洗ってきた小太郎と一之進も厨に入って来て、3人で交代しながら作業を続けた。

晒をかけたどんぶりにひたすら馬鈴薯を擦っていく。

 

すりおろし終わったらどんぶりの中で晒ごと絞り、別の水を張ったどんぶりに晒ごと入れて少し揉み込んでからまた絞っていった。

 

「で?これ何になるの?」

 

「こっちの液体は片栗粉になる。いや片栗じゃないから片栗粉というのも語弊があるが。」

 

「馬鈴薯は?捨てちゃうの?」

 

「いや流石に勿体ないし、米粉と混ぜておやきにでもするか。」

 

小太郎の質問に答えた後、どんぶりを放置して馬鈴薯の搾りかすに少し米粉を入れる。

 

「ふむ。これまとまるか?」

 

「無理じゃない?」

 

「たまご。」

 

「たまご?」

 

小夜が卵を一つ持ってきた。

 

「今日甲鉄が産んだんだよ。」

 

「甲鉄?」

 

「鶏の名前です。」

 

「すごい名前だな。」

 

「小太郎がつけました。」

 

小夜から受け取った卵を割り入れて混ぜる。なんとかまとまったので七輪にあみを乗せて焼いてみた。

 

「最上様。これちょっと焦げた。」

 

「少しくらい大丈夫だろ。」

 

4人でわちゃわちゃとしながら、七輪でおやきというか、芋餅もどきというかといったものを焼いていった。

 

作業している間にどんぶりの中に澱粉が沈澱したので上澄みを捨て、一つにまとめてから水を注いでまたしばらく放置する。

 

「次は大根をおろす。」

 

七輪を一之進と小太郎に任せて、最上と小夜で大根をおろした。

晒で軽く絞って搾り汁をとりわけ、大根おろしは芋餅もどきにでも乗せることにする。作業中に澱粉がまた沈澱したので、上澄みを捨てて水を入れてから小鍋に移す。

七輪が空いたので、小鍋を七輪に乗せて澱粉糊にしていく。粗熱が取れたら大根の搾り汁を入れて混ぜていく。混ざりきったら蓋をして、七輪から炭を取り出して、土間の隅に置かれているまだ使われていない火鉢の灰の中に埋めて、小鍋を炭の直上を避けて灰の上に置いて、火鉢の上に籠を被せて布で覆った。

 

「で。あとは夕刻だ。」

 

「夕刻なの⁉︎」

 

芋餅もどきは、昼餉に大根おろしに醤油を少し垂らして出された。

 

「うーん。可もなく不可もなく。」

 

澱粉が抜けていなければもう少し美味しいのだろうが、なにぶんわざわざ水で揉み込んでまで澱粉を抜いたので少し味気ない仕上がりである。

 

夕刻にまた火鉢の灰からまだ少し赤い炭を取り出して七輪に戻す。炭を少し足して小鍋を七輪に乗せひたすら灰汁を取りながら煮詰めていく。

 

「もう少し煮詰めた方がいい気はするが、間違いなく焦がすな…。こんなものでやめとこう。」

 

少々ゆるい状態で陶器の瓶に入れる。

 

「できた?」

 

「結局なに作ってたの?」

 

小夜と小太郎が寄ってきたので、小鍋に残ったものを匙で集めて匙ごと口に入れる。

 

「甘い!」

 

「あまい。」

 

少し離れて見ていた一之進も手招きで呼んで同様に口に入れてやる。

 

「甘いです。飴ですか?」

 

「うん。水飴だな。一応。本当はもう少し煮詰めた方がいいんだろうが焦がしそうだからこの辺でやめた。鯏殿に任せれば上手いことやってくれるだろう。」

 

小太郎と小夜が、小鍋に残った少しゆるい水飴を匙で一生懸命集めては口に運ぶ。

 

翌日、阿幸地に水飴の作り方を書いた覚え書きを渡してから城へと向かい、鯏に水飴が渡され栗饅頭となったのだった。量も少なく甘さは控えめであるので、元々多少甘い栗に混ぜる事でなんとか甘味となった。

鯏様様である。




「面倒だからもう作りたくない。はよ砂糖買えるようになろう。」byホモ君


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【小話】企画書

 

「最上さん!新しい企画書です!」

 

蓬莱城が出発するにあたり、吉備土に用があって操車場に来ていた最上に生駒が企画書を差し出す。

 

「試作機は無名が試す予定です。」

 

最上はぱらぱらと企画書を見て一息置いてから口を開いた。

 

「駄目だ。試作機は樵人か歩荷に試させろ。これ長距離狙撃用の蒸気筒じゃないか。海門の時の蒸気筒で狙撃仕返した無名殿じゃ参考にならん。無名殿が使ってみるの自体は構わんが、参考資料に無名殿の狙撃距離を示されても困る。」

 

「はい。」

 

生駒は少ししょんぼりしたが、それもそうかと思い直した。

無名は説明が下手である。無名が長距離狙撃に成功したとして、無名の説明では誰も習得できないのだ。

 

「今までは取り回しなどの都合があったから無名殿の方が良かったが、これは安全圏から使えるんだから武士達に試させて資料を作れ。」

 

「わかりました。」

 

武士達はこの会話を聞いて、自分達が新兵器の採用不採用を決めてしまうと知り慄いた。

 

試射の結果は散々であった。

無名は長距離狙撃に成功したが武士達で成功したものがいないのだ。

照尺ではなくスコープまで搭載したのにである。

 

「理論上十町は余裕でいけるんです!実際無名だって十町先を狙撃出来てます!」

 

「で?武士達は?」

 

「…誰も当たりませんでした。」

 

「…うーん。無名殿。コツとか説明出来るか?」

 

「だから普通に狙って撃ったら当たるでしょ!」

 

「無名殿しか使えないとなると量産は無理だな。」

 

「そんなぁ!」

 

「…とりあえず私も試射してみるか…。」

 

五町先に的を設置して試射をすることになった。擲弾発射器と同じく蒸気筒のタンクを複数連結して使う形のため、タンクをいくつか持って移動した。

 

「無名殿。見本を見せてもらっても?」

 

「はーい。」

 

無名は指をぺろっと舐めて風を確認した後、立ったままスコープを覗きこみ狙いすまして引き金を引いた。撃ち出された弾は五町先の的のど真ん中に的中した。双眼鏡で的を見ていた全員がどよめく。

 

「どんなもんよ!」

 

無名は自信に溢れた表情である。

 

「やはり無名殿の技術は素晴らしいな。次。樵人。」

 

「えっ!だから当たらないんですって!」

 

「いいからやれ。」

 

樵人は最上に言われ、渋々と狙撃筒を構える。樵人も無名と同じ格好で引き金を引いたが的にすら当たることは無かった。

 

「ちょっとぉ!ちゃんと見てる?」

 

「見てるって。」

 

「樵人。貸してくれ。」

 

「はい。」

 

最上は狙撃筒を受け取ると座り込んでなにやらスコープを覗いたり、姿勢を変えたりとゴソゴソとしている。

 

「最上さんなにやってんの?」

 

無名は至極不思議そうである。無名だけではなく見ていた者全員が首を傾げている。少しして最上が動かなくなり、黙って見ていると最上が引き金を引いた。

撃ち出された弾は的の端を跳ね飛ばした。

 

「おお!当たった!」

 

「ほら!理論は正しいんですよ!」

 

「そうかもしれんが当たらんもんは当たらんのだ。」

 

「最上さんは当たったじゃないですか!」

 

武士や生駒が騒ぐ中、最上はボルトを引いて次弾を装填した。無名以外誰も見ていない中、最上はもう一発発砲した。余所見をしていた生駒と武士達がビクつく中、無名は双眼鏡を覗いて的を確認していた。

 

「ど真ん中じゃないけどいいとこいったじゃん!」

 

その言葉を聞いてみんなで双眼鏡を覗くと、的の中央からは外れているものの、かなり中心に近いところに穴が空いていた。

 

「えっ!凄い!当たった!」

 

「ほら!当たるんですよ!」

 

「樵人。来い。座れ。」

 

最上は座っていた場所からどいて樵人を呼ぶ。樵人が最上の座っていた位置に真似をして座ると、後ろからちょいちょいと修正してきた。

 

「中央から少し右に照準をずらせ。」

 

「え?ずらすんですか?」

 

樵人は驚いて顔を上げる。

 

「こっち向くな。的を見ろ。中央からほんの少しだ。引き金はゆっくり引け。狙いはそのまま。少しもずらさないようにしながら引いていけ。」

 

ゆっくり引き金を引いていたため、樵人が意図していない時に弾は撃ち出された。弾は的中央近くに着弾した。

 

「当たった⁉︎」

 

「なんで⁉︎さっきだって狙ってたのに!」

 

全員が最上に視線を向ける。

 

「今までの蒸気筒と同じ撃ち方じゃ当たらん。無名殿は立ったまま撃っても微動だにせんから良いが、私達には無理だ。…それに今までは引き金を雑に引いてるから引いたときに銃口が少し動いている。」

 

「……?でも端くらい当たっても良くないですか?」

 

「当たらん。…あー。説明が難しいな。えーっと…。」

 

最上は首を捻って説明方法を考えている。生駒は最上が言いたいことが分かったが、どう説明したらいいかわからない。生駒は色々と書物を読んでいるため学があるのだ。角度と距離を使った計算である。山の高さなどを測るのに使う測量術の一つであるが説明が難しい。普通に計算式を教えて武士達が理解出来るとは思わない。

 

「あー。…まあいいか。樵人。ちょっと構えろ。立ったままでいい。弾は装填するなよ。」

 

樵人は立ったまま構えてスコープを覗く。

 

「今真ん中か?」

 

「はい。」

 

最上がそのままちょいと銃口を上に上げる。

 

「あっ!ちょっと!最上様。」

 

「どうだ?的は見えるか?」

 

「見えるわけないでしょ!」

 

「こういうことだ。」

 

「…ん?」

 

「今一分くらい動かしただけだぞ。それで的が見えなくなる。引き金を引いたときに一分動けば明後日の方向に行くということだ。照準を合わせてから引き金を引き切るまで、寸分たりとも動かしてはならないということだ。立ったままいつもの通り撃てば当たるわけがない。」

 

「な…なるほど?」

 

「掃射筒用の台座を使うとかさっきみたいに座るとかで固定せんと無理だな。あと引き金を雑に引くな。風にも影響されるから、その時々で調整しないとかなり難しいぞ。カバネは動くしな。しかしこれで十町先を当てる無名殿は本当に素晴らしい。」

 

「えへへっ。そうでしょ!そうでしょ!」

 

「というわけで生駒。量産は無しだ。」

 

「えっ!当たらない原因わかったのに⁉︎」

 

「相手は動くカバネだ。動かない的じゃない。実用できるまでとなれば訓練に時間がかかり過ぎるし、普段の戦い方で使えんだろ。殆ど山間部の山陰ではあまり使い道がない。有用な戦略がなければ持ち腐れだ。十町先を狙撃する必要も基本的にはない。これでは他の駅にも売れん。まあ無名殿は有効活用出来るだろうから、殆ど無名殿専用機だな。」

 

「そんな…。」

 

「だがこの技術は素晴らしい。今の蒸気筒の弾道を安定させられる技術じゃないのか?今の蒸気筒の性能を上げる方が間違いなく多くのカバネを殺せるぞ。」

 

「っ⁉︎それもそうですね!鈴木さんとそっちを煮詰めてみます!」

 

生駒はそのまま操車場方向へと走っていった。

 

「こら!生駒!片付けていけ!」

 

樵人が大声で生駒を呼び止めたがそのまま姿が見えなくなってしまった。

武士達はため息をついて狙撃筒や蒸気タンクを片付け始めた。

 

「やれやれ。生駒は根っからの研究者だな。しかし十町か。すごい性能だな。今の戦い方では活かせないのが勿体ない。殺す相手がカバネでなく、人間なら間違いなく採用なんだがな。訓練時間すら惜しくはない。」

 

「え"っ⁉︎」

 

「なんだ?」

 

「人間相手なら採用だったんですか?」

 

「そりゃそうだ。カバネは警戒しない。こちらが掃射筒を構えようが、撃っていようが構わず突っ込んでくる。だが人間は違う。純粋に人間同士ならいかに自分が負傷せず相手を殺すか考える。人間同士の戦なら指揮官が用兵するから厄介だが、これなら完全に相手の射程の外から殺せる。指揮官を狙い撃ちにできれば烏合の衆だ。十町ともなれば狙っていることすら気がつかれない。だからこそ他の駅には売りたくない。」

 

「最上さん。」

 

無名が真顔で最上を見つめている。

最上は顔の両脇に手をあげて降参の姿勢をとる。

 

「怒るな。採用しなかっただろう。大丈夫だ。使わん。それは無名殿が私物化しておけば良い。」

 

「わかった!じゃあ貰ってくね!」

 

無名は笑顔で狙撃筒を抱えて走って行った。

 

「な…なんです今の。」

 

「こ…怖ぁ…。」

 

「生駒の考えた武器を人殺しに使われたくないんだろ。」

 

「最上様よくしれっとしてられますね。」

 

「いや?私はいつだって無名殿が怖いよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「だって無名殿は私じゃあ殺せない。来栖と違って四方川家に忠誠を誓っているわけじゃない。生駒と違って人だって普通に殺せる。生駒が嫌がるから殺さないだけだ。」

 

「そりゃそうかもしれませんが、生駒と違って暴走は無いじゃないですか。」

 

「だからこそ怖いだろ?生駒はわかりやすい合図があるが、無名殿はわからんからな。暴走した生駒を殺したとして、無名殿はその後も味方かな?」

 

「…。」

 

「じゃあ私は仕事に戻る。片付けは頼んだ。」

 

押し黙る武士達を置いて最上は立ち去って行った。

 

「いや怖い!」

 

「なんつうこと言うんだあの人‼︎」

 




ホモ君は無名がめっちゃ怖い。生駒が暴走した時、来栖も無名もいなければ自分が殺すしかないけど、無名が納得できるかわからないから。来栖程の誠実さは自分にはないので無名がどう捉えるかわからない。無名が美馬みたいな破滅願望を持たない自信がない。だからこそ民人達と仲良くさせたい。稲刈りとかの参加推奨はそういうところから。万が一生駒を自分が殺して無名に殺されても、顕金駅を壊滅させないために愛着を持たせたい。
カバネもカバネリもメンタルで性能が上昇する意味不明さがとても怖い。
生駒を殺したら鵺になるとかありそうだし、鵺にならなくても来栖すら殺せそうなスペックなので、ホモ君はいつだって無名が怖い。

それはそれとして設計図の書かれた企画書は最上の手にある。カバネを討伐しきって、カバネリが人間に戻って、人間同士が争い始めるのが早かった場合は流出するかもしれない。


無名から見たホモ君
海門で生駒を殺しにかからなかったので割と信用してる。人殺しを普通にできる人間なのはわかってるし、そこは別にどうでもいいけど、生駒がカバネを殺す為に開発した武器で人殺しの算段するのは、生駒が知ったら悲しむから嫌。普段から結構融通きかせてくれるし、生駒の話ちゃんと聞いてくれるし、瓜生とも仲良くしてくれるから嫌いじゃない。


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【小話】炬燵開き

昔は炬燵開きなる日があったそうなので採用しました。


どんどん日も短くなり、寒さも堪えるようになってきたころ。

各家々では火鉢や炬燵の準備が始まっていた。

 

最上の屋敷でも使用人らが火鉢の準備をしたり、掘り炬燵の蓋になっていた畳を外して掃除をしたりと忙しくしている。

 

「一之進。炭斗持ってって。」

 

「小太郎!火箸で遊ぶんじゃない!」

 

子供達も細々としたものを運ぶのに駆り出されている。

最上の家には火鉢がいくつかあるが、小さいものは運べても大きいものは女手しかないため運べない。

 

「あと二つ運んだら終わりなんだけどねぇ。」

 

「これは男手がないと無理ですねぇ。」

 

穴子と鯉が大きい火鉢の前で困っていると土間の方から声がかかる。

 

「ごめんください。」

 

「あらあら。誰かしら。」

 

鯉が着物の埃をぱたぱたと払いつつ土間へと向かう。土間にいたのは巡回中の奉行所の武士であった。

 

「どうされました?」

 

「いや。今日は炬燵開きの日でしょう?各家を回って火鉢出してこいって指示なんですよ。」

 

「あらあら。助かるわぁ。上がってちょうだい。」

 

最上の屋敷に限らず、武士達の屋敷には使用人が1人2人程度であり女手ばかりである。男手は色々な職で引く手数多であるため、男の使用人は殆どいないのだ。

 

「ここでいいですか?」

 

「ええ。助かりました。一息ついていって下さいな。」

 

武士達を縁側に連れて行き、鯉が下がっていく。

 

「庭から縁側に来ることはあっても、家の中から縁側きたの初めてだな。」

 

「確かに。家の中に上がることなかったしな。」

 

「最上様の屋敷は一之進の稽古でよく来るけど、上がる用事はないからなぁ。」

 

「お待たせしました。どうぞ。」

 

「かたじけない。」

 

縁側の武士達にほうじ茶が出された。

 

「あったまるなぁ。」

 

「最近はめっきり寒くなってきたものな。」

 

「炬燵開きしたから家に帰れば火鉢が待ってると思うと嬉しくなるな。」

 

「そういえば、掘り炬燵とかあるよな。使うの初めてなんだよな。」

 

「長屋にそんな立派なものはなかったからなぁ。」

 

「綿入れもいつの間にか使用人が用意してくれたし、今年の冬は初めてなことばかりだ。」

 

「冬に限らず初めてなことばっかりな気がするんだが。」

 

「確かに。道元様と最上様って休んだら死ぬの?ってくらい、少し暇ができると次のこと始めるよな。」

 

「すごい助かってるけどな。家老の3人なしで再興とか無理だっただろ。」

 

「それな。政関係がわかるの菖蒲様だけとか本当に無理だわ。誰も手伝えなかったわけだし、それこそ出雲の国の他の駅に利権取られてただろうしな。」

 

「家老の方々様様だな。」

 

「さて、そろそろ次の屋敷に行きますか!」

 

「八代の屋敷は行かなくて良いんだろ?」

 

「そりゃそうだ。男手ならいくらでもあるだろ。」

 

奉行所の武士達は湯呑みを厨まで下げて、巡回兼お手伝いへと戻って行った。

 

夜間は炭を灰の下にしまってしまうので、最上が帰宅した時には厨と自室のみ火鉢で炭が燃えていた。最上はそそくさと自室に行き、火鉢で手を温める。

 

「あ"ー。あったかい。」

 

「最上様。食事はどうされますか?」

 

「軽くいただきたいな。」

 

「分かりました。」

 

「出したら穴子さんは休んでもらっていい。下げるのは自分でやるから。」

 

「なりません。報告がてら鯉が同席致します。」

 

「悪いな。」

 

「家主が後片付けなどするものではありませんよ。」

 

「ふぁい。」

 

「欠伸をしながら返事をしない。」

 

「はい。」

 

穴子は食事を準備しに下がっていった。食事を待つ間に寝巻きに着替え、上から長丹前を着る。火鉢に当たりながらうとうとしていると、鯉が膳を持って来た。

 

「最上様。寝ないでくださいよ。」

 

「悪い。」

 

最上が火鉢の近くで食事を食べながら、鯉からの報告を聞く。鯉からは見習いの教育状況などの報告と、八代の屋敷の噂などの報告を受ける。

 

「ふーん。今のところ八代の民人は手は出さんようだな。」

 

「そりゃそうですよ。見捨てられたわけですから憎いでしょうが、顕金駅の暮らしを捨ててまで復讐したいかと言われればねぇ。」

 

「今の生活を投げ捨ててでも、殺してやりたいと思うのも普通だと思うがね。」

 

「最上様はあんまり実感ないかも知れませんがね。今の顕金駅はとても過ごしやすいんですよ。昔の顕金駅は限界まで人を詰め込んでたでしょう?食糧は少ないし、今みたいに肉や魚、柿や栗や山菜なんて夢のまた夢でしたよ。少なくともただの民人にはね。仕事にあぶれて盗みを働く流民なんてしょっちゅうだったのに、みんな汗水垂らして働いて食事にありつける。武士も横柄じゃないし。…堅将様はとても良くして下さっていたとは思いますけど、やっぱり怖かったですよ。いつカバネに入り込まれるかもそうですが、いつ食糧が足りなくなって飢えるのかとかがね。それに半年以上もずっと甲鉄城で守ってもらいました。甲鉄城に乗っていた者からすれば、ここより安全なところなんてありませんよ。」

 

「ふむ。政は上手くいっているということだな。良いことだ。」

 

「私や穴子さんも、八代の民人にそれとなく話を聞くことはありますけど、菫様達への恨み言より、八代が再興したら出ていかなくてはならないのかとかの方が話題に上がりますよ。」

 

「ふむ。特に強制的に転居させる予定はない。それとなく噂を流しておいてくれ。」

 

「わかりました。でも再興の時はどうするんですか?」

 

「出雲の国に限らず流民などいくらでもいる。万が一うちがいっぱいになり始めたら、あちらに流民を流すが、基本的には菫殿が考えるべきことだな。こちらは口に出すなよ。」

 

「わかっております。」

 

「ご馳走様さまでした。」

 

話も終わり、最上も食事を終えたため、鯉は膳を持って下がっていった。

 

(復讐の兆しは今のところなしか。良いことだな。まあ勘太郎殿が上手くやっておられるから、あの娘が死んだとて特には困らんのだが、菖蒲様の顔が曇るのはよろしくないからな。)




止まったら死ぬマグロよろしく働き続ける道元・ホモ君ペアのおかげで、顕金駅はそれなりに生活水準が高い。
一度壊滅してるので、倭文駅みたいに花火とかの文化的余裕はないけど、冬に飢えて死ぬのではとか、凍えて死ぬのではって思考には至らない程度には民人に余裕があります。それこそ万が一また駿城が突っ込んできても、操車場か城に逃げれば生き残れるだろって考える程度には、他の駅より精神的余裕があります。わざわざ外に出かけて食糧確保したり、カバネ狩りに行ってる狂った武士達がいるので。


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【小話】刀

「そういえば最上はなかなか金属被膜刀を使わなかったな。何故だ?」

 

「美馬に警戒されたくなかったのもあるが、純粋に刀の重さも重心も変わったから慣れるまで使いたくなかった。」

 

「確かに。前より先に重心がきたな。」

 

「お前には関係なさそうだったけどな。」

 

「そうでもないが、己はあのくらいの重量でよかった。だいぶ研いで軽くなってたからな。」

 

「私は元が丁度いい重さだったからなぁ。」

 

「最上の刀は軽い方だろう。」

 

「お前と一緒にするな。」

 

来栖と最上の会話を聞いていた生駒は、近くにいた仁助に声をかけた。

 

「刀ってそんなに繊細だったんですか?重心とか特に気にしませんでした。」

 

「まあ。でも均等に纏わせたんだろ?最上様のは手元に重心がきてるから、刃体自体が重くなればやっぱりちょっと重心が先に行くんじゃないか?」

 

「重心ってそんなに大切なんですか?来栖と最上さんの刀そんなに変わらないと思うんですが…。」

 

「最上様!来栖!生駒が後学のために刀振りたいそうです!」

 

「えっ!ちょっと!」

 

最上と来栖が近寄ってきた。

 

「なんだ。また真似事か?流石に刀は…。」

 

「後学とは?」

 

「刀の重心の話です。口で説明するの難しいので。」

 

「なるほど。じゃあ来栖のから振るか?」

 

「そういうことなら構わない。手を切るなよ。」

 

来栖が鞘ごと刀を渡す。

 

「大丈夫だよ!」

 

生駒がそろそろと刀を抜いて10回ほど素振りをした後、そろそろと納刀したのを見て今度は最上が刀を渡す。

先程と同様に素振りをした。

 

「あれ?最上さんの刀の方が振りやすい。軽い?」

 

「まあそうだろうな。重量自体も多少軽いが、重心が手元にあるから余計軽く感じるんだ。」

 

「手元にあるから?」

 

刀を納めながら生駒が聞く。

 

「ふむ。ちょっとまってろ。」

 

最上は刀を受け取って腰に戻した後、木刀を二本持ってきた。木刀の刃先に工具をくくりつけたものと、手元付近にくくりつけたものを見せてきた。

 

「極端に言えばこういうことだな。」

 

「ああ。なるほど。でもそれなら軽く感じる方がいいんじゃないですか?」

 

「いや。叩き斬る分には重心が先の方がいいんだ。こっちで叩かれるよりこっちの方が絶対痛いだろ?」

 

先程の木刀を見せながら最上が説明する。

 

「元々カバネを叩き斬る想定とかしてなかったからな。人は腱を切れば動けないし、骨を切断しなくても死ぬしな。」

 

「気にせず叩き斬る方が早いし、行動不能になるのも早い。」

 

性格もだが戦い方も極端な二人である。

 

「なるほど。戦い方で使う刀も違うんですね。」

 

「まあな。とはいえ金剛郭で戦って思ったが、単騎でカバネと戦うなら来栖の戦法の方が有効なのは確かだな。」

 

「だろう?」

 

「いや。でもそもそも普通の人間は単騎で戦わないから。」

 

「お前だって金剛郭で一人で彷徨いてただろうが。」

 

「ほとんど屋根の上だし。地面に降りたら、囲まれてすぐ死ぬから。」

 

「お前はあれだ。多対一を練習した方がいいな。」

 

「この先私はカバネに囲まれる想定なのか?鬼かお前。悪いが私はまだ人間なんだ。」

 

「己も人間だが?」

 

「まあ重心についてはそんなところだ。来栖はあまり関係なさそうだし、私ももう慣れたから問題ない。ただ今後あの加工を施す機会があったら重心の説明はあった方が親切かもな。」

 

「わかりました。ありがとうございます。」

 

「構わない。では私はこれで。」

 

最上は木刀を戻して出て行った。

 

「無名も最上さんくらいわかりやすく説明してくれれば助かるんだけどなぁ。」

 

「無名?」

 

「前に戦い方教わったとき、くるっと回ってちょんちょんぱって言われたんで…」

 

「…くるっと回ってちょんちょんぱ?」

 




来栖の刀より最上の刀の方が反りが深いです。
刀の話はちょっと調べて書いただけなので刀剣に詳しい人は突っ込まないで下さい。

私は一応剣道初段は持ってるんですが、六段だか七段の人に稽古つけてもらった時に異次元を体験しました。地稽古?で何連コンボ決められたかわからないですw
私が弱いのもありますが、達人ってやべぇです。


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【小話】石見駅

本日顕金駅に訪れた駿城の城主と菖蒲が面会した結果、緊急召集がかかり広間へと武士達が集まった。

 

「石見駅から緊急要請が参りました。銀鉱山にカバネが入りこみ、鉱夫がカバネとなってしまい、鉱山を封鎖することになってしまったそうです。鉱山の奪還の協力要請です。」

 

菖蒲の説明を聞きながら、そっと最上を窺うと最上の目が輝いていた。

 

(うわっ目がキラキラしてる。)

(銀山だからな。)

(報酬はいいだろうな。)

 

「鉱山内ですので、擲弾の使用はできません。それどころか場所によっては噴流弾すら使用が制限されます。入坑していた200名の内150名の行方が分からなくなっています。凡そ150のカバネがいることになります。よって今回の討伐には前衛を担当する者全員に出ていただきます。最上と来栖を出す都合上、吉備土と樵人は残っていただきます。蓬莱城に乗っている有志の民人も今回は待機として狩方衆を投入致します。鉱山の封鎖もいつまで有効かわかりません。準備が整い次第出発してください。」

 

菖蒲の説明が終わり、武士達は各々の準備の為に散っていった。

 

操車場では急いで物資の搬入が行われており、武士達の参集も終わったことから、物資の搬入が終われば出発である。最上は珍しく二本差しで来ていたのが、来栖の目に止まった。

 

「お前が二本差しは珍しいな。」

 

「鉱山内だからな。海門の坑道は広かったから良いが、石見の坑道もそうかは分からんし、下手したら蒸気筒が使えない可能性がある以上、私もいつも通りとはいかんからな。」

 

「ふむ。己も二本差しにした方がいいか?」

 

「馬鹿言え。お前はいらん。私は普段の戦い方的に狭いところに向いてないだけだ。今回は蒸気筒は持たないからな。お前はいつも通りで問題ない。刀の振れないところにいたら釣り出せ。」

 

「ああ。場所によっては蒸気筒の援護が受けられないとなれば、いつものようにコロコロするわけにはいかんか。」

 

「コロコロ言うな。好きで転がされてるわけじゃないわ。」

 

物資の搬入が終わり、蓬莱城は石見駅へと出発した。

 

「炭鉱の場合はガス突出などがよくあるが今回は銀鉱山だ。ガス突出はそこまで気にしなくて良いが、落盤等は普通に起こり得るから注意が必要だ。噴流弾は威力がでかい。雑に撃つな。一撃で仕留めるつもりで使えよ。石見駅の鉱夫から案内人を出させて、3班編成とする。来栖と武士15、私と生駒と武士15、無名と瓜生と狩方衆の組み合わせでいく。」

 

本来であれば、最上は無名か瓜生と組みたいところであるが、無名と組むと生駒と瓜生で組ませることになる。瓜生と組むと無名と生駒で組むことになるため少々不安なのである。生駒瓜生の組み合わせは食い合わせが悪い。無名生駒の組み合わせは問題が発生しそうで怖いのだ。カバネリ2人を組ませると斜め上にカッ飛んでくることがあるので。

来栖は単体運用で充分である。

 

石見駅に着き、案内役をそれぞれ1人つけて坑道内へと入って行く。

 

「この先20間くらいは地盤が弱いので蒸気筒はやめた方が良いかと…。」

 

「聞いてたな?確実に当てられる場合を除き発砲はするなよ。」

 

案内役の言葉を聞いて、最上は武士達に指示を出す。

 

「生駒。頼むぞ。」

 

「はい。」

 

生駒が先行し、後ろを最上がついて行く。先の坑道は二股に分かれており、生駒は左に進んで行く。後ろからの襲撃を防ぐため、最上が殿に移動する。少し進んだ先で生駒がカバネと会敵する。

 

「カバネ5体!」

 

「生駒!抜けさせるなよ!」

 

「はいっ!」

 

「後ろからも来るぞ!中央固まれ!歩荷!蒸気筒構えとけ!無駄撃ちはするなよ!」

 

「はい!」

 

後方からもカバネが3体むかってくる。一体目をすり抜け様に右足の腱を切断し転倒させた後、二体目の心臓に刀を突き入れる。左横から来た三体目を逆手で抜いた脇差で受け止めつつ、反転し後ろに周りこみ順手に持ち替え心臓に脇差を突き入れた。転倒した一体目は歩荷が蒸気筒で仕留めており、最上は二体目から刀を回収する。

 

「あっ!」

 

「一体抜けた!」

 

生駒の脇をつるはしを持った一体のカバネが抜けた。最上は武士達の脇を抜けてカバネと激突した。脇差を納刀していなかったことから刀と脇差を交差させてつるはしを受け止めたが、受け止め切れるものではない。受け止めた瞬間には脇差を避けて、すぐに脇に流したが片手持ちではカバネの臂力で振り下ろされたつるはしを捌ききるのは無理があった。刀はつるはしの頭に引っかかり最上の手を離れ壁に突き刺さったが、脇差で心臓を貫くことには成功した。

 

「あっぶな…。」

 

一言呟いて最上は壁に刺さった刀を抜こうとするも、

 

「えっ!嘘だろ!」

 

抜けない。脇差を納刀して両手で引くも抜ける気配がない。

 

「抜けさせてすみませんでした!」

 

生駒が駆け寄ってきて謝罪したが、最上はそれどころではない。

 

「生駒!生駒!抜いてくれ!」

 

「…なんでそんなことになってるんです?」

 

「そんなことはどうでもいい!早く抜いてくれ!次が来た時脇差だけじゃ無理だぞ!」

 

最上に急かされ生駒が壁から刀を抜く。

 

「…そんなに簡単に抜かれると傷つく。」

 

「えっと。…すみません。」

 

初っ端からトラブルはあったものの、その後は順調にカバネを討伐していった。

 

「もう少しで行き止まりです。」

 

案内役の説明通り行き止まりに行き着いたが随分と筋骨隆々なカバネがいる。

しかも生駒達を見つけた瞬間、傍に放置されているトロッコを持ち上げ投擲の構えである。

 

「退避ぃ‼︎」

 

最上の指示で全員が全力で駆け出した。トロッコには鉱石も詰まっているので生駒もくらえばただではすまない。トロッコは坑道の天井部分に接触したため想像よりは飛ばなかったが、天井部分の一部が崩落した。

カバネは再びトロッコを持ち上げた。トロッコから殆どの鉱石は出てしまっているが、まだ一部が残存している。

 

「退避ぃ!無理!トロッコが武器とか無理!ワザトリか!」

 

最上の声に全員がもう一度駆け出す。

 

「もういっそ出口まで連れてくか⁉︎」

 

「駄目です!このまま地盤の弱いところに行ったら崩落します!」

 

最上の提案に案内役が却下を出す。

 

「ちっ!生駒!次の投擲で突っ込むぞ!」

 

「はい!」

 

ワザトリがトロッコを投擲した。もうコツを習得したのかさっきよりも低空で飛んでくる。ワザトリの手を離れたトロッコを見た瞬間、最上が反転して全速力でワザトリに突っ込んで行く。

 

「えっ⁉︎今ですか⁉︎」

 

投げた瞬間とは思ってなかった生駒が出遅れた。

最上はトロッコの脇をすり抜け、ワザトリへと向かうと、ワザトリが立てかけられていたつるはしを掴み取り横にないだ。

 

「ちょっ!わ!」

 

最上はスライディングしてつるはしを避けてワザトリの股下を抜けた。ワザトリは振り返りつるはしを振り上げたため、最上は後ろに下がり間合いをとったが、つるはしはそのまま投げられた。

 

「きゃーっ!」

 

まさかつるはしが飛んでくるとは思わなかった最上から女子のような悲鳴が上がる。

その間に生駒がたどり着いて、背後からワザトリを殺した。

 

「最上さん!大丈夫ですか⁉︎」

 

「大丈夫だ。刀は死んだが。」

 

「えっ!」

 

つるはしを近距離で投げられたため、回避し切ることが出来ず、刀で少し弾いた形になったが柄が壊れたのだ。

一度壁に突き刺さった時に、人外の臂力で引かれて目釘付近に損傷が出ていたため、刀身ではなく柄がぶっ壊れたのだ。

 

「こんな壊れ方あるかよ。」

 

帰り道は脇差一本である。

刀身は鞘に差し込んで、壊れた柄と鍔は武士に預けた。

 

「最上様。あんな高い声出たんですね。」

 

「喧しい!」

 

歩荷に悲鳴をいじられた。

 

「さて生駒。私は戦力ガタ落ちだ。頼むぞ。」

 

「はい!」

 

生駒は素直に返事をする。二股に分かれた位置まで戻ると、生駒が右の坑道を覗いてから最上を振り返る。

 

「こっちもカバネがいるみたいですけど、どうしましょうか。」

 

「道中倒してきたから挟み討ちはないと思うが…多いか?」

 

「うーん。10はいないと思いますけど。」

 

「…いや無理は止めよう。脇差だけとか無理だ。急いで引き返そう。他の班に任せる。」

 

「ですね。」

 

背後からカバネが来る恐れがあるので、生駒を殿にして急ぎ足で坑道を引き返して行く。大元の分かれ道まで戻ると来栖の班が戻っていた。

 

「終わったか。」

 

「終わってない。」

 

「…?何故戻ってきた?」

 

「刀が壊れた。柄が大破してな。悪いが代わってくれ。」

 

「…折れたのではなく柄が壊れた?どうやるとそんな壊れ方をするんだ。」

 

「帰り道にでも説明してやる。とにかく継戦不可能だ。」

 

「ふむ。わかった。生駒。行くぞ。」

 

「わかった!」

 

来栖は最上と入れ替えで生駒達と坑道内を進んで行った。

 

来栖の班員と待機していると、無名の班も戻ってきた。

 

「あれ?最上さんだけ?生駒は?」

 

「いや。私の刀が壊れたから、一度引き返して来栖と変わってもらったんだ。来栖と生駒でもう一度潜ってるよ。」

 

「えっ?金属被膜刀折れたの?」

 

「刀身は無事だが、柄が壊れた。」

 

「ふーん。」

 

「なんだ子犬ちゃんは戦力外になったのか。」

 

「脇差だけじゃなぁ。別に無理しなきゃならない場面でもなし、安全策をとっただけだ。ワザトリも出たし散々だ。」

 

「へぇ。ワザトリ。だからそんな汚れてんのか?」

 

「凄かったぞ。トロッコぶん投げてきたからな。」

 

「うわっ。よく無事だったな。」

 

「本当にな。そっちは?」

 

「60そこそこだったな。無名が殆ど平らげた。」

 

「63だよ。ワザトリとかいなかったし余裕。」

 

「はぁ。流石だな。」

 

「でしょ!」

 

その後も雑談を続けていると、生駒達が戻ってきた。

 

「たぶんこれでカバネを掃討できたと思うがどうだろうか?」

 

「あー。いないと思うけど。」

 

「来栖の班が行ったところがよくわからないので、ちょっと行ってきます。来栖と2人で走ればそんなにしないで見てこられますし。」

 

「己はカバネの感知はできんからな。」

 

「そうか悪いな。戻ってきてた無名殿に確認をお願いしておくべきだったな。」

 

「大した手間ではない。生駒。行くぞ。」

 

来栖と生駒の2人で来栖の班が入って坑道を駆けていった。

 

「…はぁ。」

 

「なんだ子犬ちゃん。辛気臭せぇため息ついて。」

 

「いや。なんでもない。」

 

最上は先程柄と鍔を預けた武士に声をかけて、柄と鍔を受け取って懐に入れた。来栖の班にいた仁助が最上をじっと観察している。

 

来栖と生駒が戻ってカバネの完全排除が確認できたことから、坑道から完全に出て石見駅の領主に最上と来栖で報告をした。報酬は石見銀山の3年間純利益1割である。これは派遣前から決まっていたことであり、特に受け取る物はない。

 

報告を終えて蓬莱城に戻ると、既に出発の準備が整っており、最上と来栖が乗車すると速やかに蓬莱城は発進した。石見駅の領主は一晩泊まって行くことを薦めたが、前衛面子が全員顕金駅を離れていることもあり、宿泊することなく戻ることとなっていたため、丁重に断って石見駅を離れた。

 

各々蓬莱城で過ごしていると、仁助が最上に声をかけてきた。

 

「最上様。ちょっと良いですか?」

 

「ん?何かあったか?」

 

ちょいちょいと誘う仁助について、最上は艦橋から出た。誰も居ない2両目で仁助は最上の右前腕を掴んで目線の高さに上げた。

 

「怪我してますよね?」

 

「…目敏くなったな。」

 

最上は手甲をつけているため、パッと見ではわからないが手首を痛めていた。一度は片手で把持していたとはいえ、壁に突き刺さる勢いで刀を絡め取られ、二度目は柄に損傷があったとはいえ、至近距離から投擲されたつるはしで柄が壊れる程の衝撃を受けた。

最上の右手首は若干腫れていたことから、仁助は手甲の紐をといて手甲を外させ、手首に湿布を貼った。

 

「で?何を落ち込んでるんです?歩荷に聞いた感じでは特に問題はなかったように感じましたが。」

 

「別に落ち込んでは「そんなことないですよね?」

 

「…む。」

 

仁助の笑顔の圧力に最上は負けた。

 

「いや…。改めて守る戦い方に向いてないなと思っただけだ。」

 

「そうですか?いつも前衛をしていただいてるので、そう思ったこと無いですが。」

 

「私は一人で請け負うなら、同時に2体が限界だ。それ以上は援護に任せるしかない。今回は場所によっては援護も受けられないどころか、抜けさせてしまえば後衛は危ないどころではない。」

 

「…あの。言っときますけど、前衛できる時点で我々からすれば異常ですから。カバネリ2人や来栖と並ばんで良いんですよ。」

 

「っ!…それはそう。」

 

仁助が呆れた顔で突っ込むと、最上ははっとした顔で同意した。いつも来栖を人間扱いしてないくせに、どうして並ぼうとするのか。

 

「今回負傷者は最上様だけです。私に言わせれば、最上様は前衛に出てほしくないんですがね。」

 

「前衛最弱で悪かったな。」

 

「そうではなく。政が出来て、前衛が出来て、医学が出来て、融通も効くからって、自分を都合の良い駒として運用するのやめて下さい。貴方にとって便利な駒ってことは、有用な駒ってことでしょう。顕金駅の有用な駒を失うのは困ります。少なくとも今の顕金駅で一番不足してるの政の出来る人間ですからね。今回は折衝がなかったとはいえ、責任者としての同行だけでもよかったのでは?」

 

「…それ。やっぱり前衛の私はいらんということでは?」

 

「武士の矜持があるのはわかりますが、貴方が命をかけるべきところと、そうでないところがあるでしょうって話ですが?こう言ってはアレですが、石見駅程度で貴方が命をかける必要ないでしょう。」

 

「おぉ。言うようになったな。」

 

「いや。感心するところじゃないんですよ。」

 

「まさかお前の口から石見駅程度と出るとは思わなくてな。」

 

「貴方に散々お人好し共と言われて来ましたけど、我々の殆どは菖蒲様や吉備土程お人好しではないので、貴方に死なれるくらいなら石見駅などどうでも良いんですよ。道元様や貴方からすると銀山は魅力的だったのかも知れませんが、なきゃないでどうとでもなるでしょう。」

 

「…。」

 

最上は無言で目を泳がせた。

 

「えっ?照れてます?」

 

「いや、だって…。」

 

「…貴方の正当な評価に対する対応をしてこなかった我々が悪いんですが、こんなことで照れないで下さい。石見銀山より大切って評価で照れられると複雑なんですけど。」

 

「だって銀山だぞ。」

 

「金銭的価値から離れてくれません?信用のおける人材は金では買えないでしょう。…とりあえず艦橋なら、まだまだ元気な来栖がいますから最上様は休んでて下さい。」

 

最上を2両目において、仁助は艦橋に戻って行った。艦橋に戻った仁助に来栖は視線を向けた。

 

「どうだった?」

 

「手首の捻挫ですね。少し腫れてたので湿布しときました。」

 

「そうか。…手首。…これはまた己に仕事がまわって来るんだろうか…。」

 

「あー。どうでしょう。でも来栖もだいぶ仕事に慣れてきたのでは?」

 

「そんなすぐに最上の代わりができるようになるものか。未だに道元様と最上が何考えてるかとか全く分からん。普通に怖い。」

 

「流石にそこまで求めてませんよ。」

 

「まあ一生できる気はしないな。」

 

「あとちょっと落ち込んでました。」

 

「刀の柄を壊したからか?」

 

「いえ。守るの向いてないって。」

 

「今更では?己達も守るというより、とりあえず一撃で殺すことに全力を注いでるだけだ。最上は元々後の先狙いだし、手数が多いし、四肢の腱などを狙いにいく対人間特化の戦い方だ。全くもってカバネ向きではない。あそこまで身に付いては矯正も難しいしな。むしろあれで前衛に出てるんだから充分強いんだが。」

 

「へぇ。それは知らなかった。」

 

「あぁ。前に話したことがあったのは雅客だったか。その辺の武士が正面から向かってきて、最上がやる気なら手足ズタズタにされるぞ。」

 

「殺さないんですね。」

 

「必要なければ殺すと思うが、必要なら拷問くらいするだろうな。」

 

「えっ!怖い。」

 

「堅将様が子飼いにしてたんだぞ。そのくらいする。元服前から城をちょろちょろしてたのは見た。当主が亡くなったから面倒を見ている体で子飼いにしてたようだな。そうでなければ、あの歳で道元様と面識があるわけないだろう。」

 

「…だから医学の心得もあるわけですかね。」

 

「…かもな。」

 

艦橋は微妙な雰囲気になった。

 

石見駅から蓬莱城が戻り、各々が通常業務に戻っていく。石見駅は片道一日半。凡そ3日半不在にしていた。来栖が危惧していた最上の仕事がまわってくるようなことはなく、八代駅を属領にした後から増えた仕事を必死に片付けるだけで済んだ。現時点来栖に補佐官はいないので、緊急のもの以外は来栖が不在だとそのまま溜まるのだ。来栖は勉強になった。次席か補佐官を据えなくては今後大変なことになると。最上に申し出て、城務めの武士1人を補佐官にもらうことになった。武士達は来栖の配下であるが、通常時の人事は道元と最上に丸投げしたので誰を引き抜いて良いか分からなかったのだ。




石見駅「助けて!」
菖蒲「大変!助けなくては!」
道元・最上「銀山!銀山!」

道元「余計な崩落をさせて採掘を遅らせないようにしたまえ。」
最上「承知!」

ホモ君の本差しの柄は早急に直されました。
ホモ君は普段は本差しのみ。二本差しにすると蒸気筒も使う関係上、とても邪魔な上に重いので。脇差も生駒に金属被膜刀にしてもらってましたが、普段は床の間に置いてます。

ワザトリの基準が分からないんですが、今回のはワザトリLV2くらいな感じで書きました。(アニメの最初のワザトリ君がLV5くらいで)
臨機応変に道具を使えるか、技術が高い奴をワザトリ扱いしてます。
ワザトリって学習するより、素体の性能による気がする。じゃないと刀はまあ分かるけど、八代駅の格闘技してた奴あり得なくないかなって。何度も格闘家と戦ったとかになっちゃうので。刀とか蒸気筒持ちと戦ってもあのスキル習得せんだろ。
ホモ君の本差しがぶん取られたカバネはワザトリ扱いしてません。

銀山がガス突出少ないかはよく分からないです。炭鉱の事故ばっかり出てくるからそういう方向で書きました。間違ってたらすみません。


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【小話】カバネリ

最上の執務室で服部がふと口を開く。

 

「生駒達は人間に戻れるでしょうか。」

 

「現時点では無理だな。」

 

「そんなはっきりと…。」

 

「無理なものは無理だ。来栖が金剛郭で放逐した莊衛がいたとしても無理だ。」

 

「ええ…。」

 

「私から見たあれも、来栖から聞いたあれも、到底人間に戻す研究をするような性格ではない。鵺とかの研究とかなら喜んでするだろうがな。まあ奇跡的に協力したとしても、信用していいのか検証出来ない。奴の方が頭がいいだろう。」

 

「じゃあ莊衛とやらから研究内容を聞き出して、最上様と楓様と生駒で研究するとか。」

 

「何度でもいうが私は武士だ。医者でも研究者でもない。ついでに楓殿と生駒にも無理だ。」

 

「最上様無理無理言い過ぎでは?」

 

「…はぁ。解剖図ってどうやって作ったか知ってるか?」

 

「なんです急に。」

 

「人間を切り開いて書き写して作られたんだ。じゃなきゃ書けるわけないよな。」

 

「…。」

 

服部は露骨に嫌そうな顔をする。

 

「通常医学において、病気や薬の研究をするときは動物で実験する。だがカバネウイルスは動物には感染しない。」

 

「はい。」

 

カバネウイルスが人類を滅亡に追い込まない利点であり、厄介なところは人間以外が感染しない点である。

小動物や虫が感染したら、駅などという形で生き延びることすら出来なかっただろう。だが人間以外に感染しないことから動物実験もできない。

 

「病気や薬の研究も最後は人間で試す。カバネウイルスは最初から人間で試すしかない。ついでにいえば、まずカバネリを作るところから始めないといけない。生駒曰く、感染した時に首を絞め、脳にウイルスがまわらないようにすることでカバネリになれるそうだ。正直にいえば、脳にウイルスがまわってないなんて私は信じてない。切り離さない限りまわるだろうよ。しかし絞扼することでカバネリになった実例がある。今のところ実例は生駒と景之殿だけだがな。」

 

「カバネリを…作る…。」

 

「実例はいるものの、本当にそのやり方で、10人中10人がカバネリになるのか分からない。もしかしたら1000人に1人しか、カバネリになれないかもしれない。」

 

「それは…。」

 

「美馬の方法でもそうだ。もし10人中10人がカバネリになれるなら、狩方衆にもっとカバネリがいてもよかった筈だ。」

 

「…そうですね。」

 

実験をするなら人間の検体は必須である。日の本のためとあらば、罪人やその辺の流民を使うことも可能といえば可能である。

 

「そして、成り立ちの違う無名殿と生駒は同じカバネリなのか?似て非なるものの可能性もある。まあそれは置いといても、まず罪人でも使ってカバネリを作るとする。この過程で何人死ぬか知らんがな。とりあえず5体用意できたとしよう。白血漿なるものが一番効きそうだから、それをなんやかんや改良したとして、まずカバネで試す。カバネで効果を感じられたら、5体のカバネリに試す。この過程でも誰も死なないかもしれないし、全員死ぬかもしれない。成功にしろ失敗にしろ、全員同じ結果なら良いが3人死んで2人生き残ったら?何が違うのか解明しなくてはならない。さらに情報が必要になるから、またカバネリを作る。その繰り返しだ。全部で何人死ぬかな?それは楓殿と生駒にできるかな?」

 

「無理…だと思います…。」

 

研究者やそれに関わる者には、人非人となってもらわねばならないのだ。

 

「だから無理だと言っている。莊衛が協力した場合も同じだけどな。実証実験は必要だ。顕金駅は善人の比率が高すぎる。どうせ実証実験は通らない。」

 

「じゃあ2人は一生カバネリのままなんですか?」

 

「さあ?もしかしたら外国でカバネリの事例があれば、人間に戻す方法も持ってるかもしれんがな。お祓いやらで治るなら色々試しても良いが、ウイルスであるならうちじゃあ何にも試せんよ。菖蒲様も楓殿も生駒も無理だろう?そういうの。ならば我々が目指すのは外国の情報を得ることだな。」

 

「外国…ですか。」

 

「そもそもカバネがウイルスによるものであると突き止めたのも外国だろう。病原菌を持ち込んだのも外国の船かもしれんがな。」

 

「なるほど。」

 

「病原菌を持ち込んだのは過失か故意か知らんがね。」

 

「…どういう意味です?」

 

「日の本は海に囲まれた要塞であり、カバネを外に逃がさない籠でもある。良い実験場になるな。…まあ最初に落ちたのが西海道だ。カバネが泳いで来たか流れ着いた可能性もあるがね。」

 

「実験場は穿ち過ぎでは?」

 

「あくまで可能性の一つだよ。どうあれ、現時点でカバネを捕らえて実験出来るような駅はうちくらいしかないだろう。だが研究できる者はいない。研究者を確保できても倫理が邪魔をする。となれば余所の研究結果を貰うしかない。外国が滅びてなければ研究は続いているだろう。」

 

「ではまずは日の本を平定しなければ話になりませんね。」

 

「そういうことだな。」

 

服部が処理済みの書類を持って執務室から出て行く。

 

(まあどこかの島にでも罪人と莊衛をぶち込んで色々研究させる手段もあるといえばあるんだが、そこまで私が暗躍する価値はない。戻し方より殺し方の方を検討してると言ったら軽蔑されそうだな。警戒さえされていなければ、無名殿を殺すことも不可能ではない。)

 




マジでどうやって戻るんでしょうね。莊衛あたりなら人間に戻れる薬とか作れそうですけどマッドサイエンティストが信用できない。むしろ騙されて黒血漿みたいなの投与する羽目になりそう。怖いわ。
海外からが一番可能性あるかなって思います。顕金駅だけじゃ絶対無理でしょこれ。
ホモ君はいざというときのために殺し方を常に検討してます。無名を殺した後に、事故に見せかけて自分ごと爆発四散するくらいは考えてます。殺すなら無名から。
八代で瓦礫の下敷きになったり、克城で麻沸(麻薬的なやつ?)が効いてたので正面切らなきゃ殺せなくもないだろって思ってます。
ホモ君が戻れば生駒に警戒されますが、証拠隠滅も兼ねて諸共爆発四散すれば生駒はキレるより絶望しそう。
その場合、生駒を殺せる協力者は必須ですけどね。正面切らなきゃ来栖以外でもいけるでしょう。


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【小話】お医者さん5

ことの始まりは小太郎が体調を崩したことからだった。小太郎が発熱して数日で口の中に発疹が出現したのを最上が発見したのだ。麻疹である。数日前に立ち寄った駿城には体調不良者が乗っていたらしいので、駿城経由と思われる。小太郎は鰍塾に通っており、駿城で立ち寄る者たちと交流することも珍しくない。

 

小太郎以外も体調不良者は出ており、麻疹は感染を拡げていった。

楓、最上は幼少期に麻疹に感染したことがあるため、駅内で診察に走り回ることとなった。

最上の屋敷では子供らが全員感染し、使用人見習いにも感染者が出た。穴子と鯉は感染したことがあるらしいのでそのまま看病にあたっている。

 

駿城を受け入れた検閲所の武士は、症状の有無に関わらず数日自宅待機となったが、それ以外の業務の武士達の中にも感染者が出ており、各業務に支障が出始めている。最上は本来政を担うべきだが、医者は楓しかおらず見習い兼護衛の仁助も蓬莱城と外に出ており、手が足りないことから医者側で走り回ることになったのだ。

 

かつての顕金駅であれば、医者も数人いたし、貧しい民人が多少死のうがどうでもよかった。それどころか流民が減ってくれるので駅中をまわる必要もなかったし、主に政をしていた上侍だけでも100人以上いたので、多少感染症が流行したくらいでは政にも支障はなかった。しかし今の顕金駅は武士の数も足りなければ、仕事の10割をこなせている者もいないのだ。他の業務の手助けなどもってのほかである。さらにいえば放置など菖蒲が許すはずもないし、なにより労働力の足らない顕金駅で、バタバタと死なせる訳にはいかないのだ。

 

駅の跳ね橋には赤い旗が立てられた。立てられたという話は殆ど聞いたことはないが、感染症などで駿城の受け入れが不可能な場合に赤い旗を立てる決まりがあるのだ。

なにせ駅自体も閉鎖空間ではあるが、駿城で感染症など死活問題である。

元々は金剛郭まで、結核や天然痘などの重大な感染症が届かないようにするために考えられた決まりである。

 

感染者は、病院として使っている楓の屋敷と最上の屋敷と、鰍塾として使われている建物で受け入れている。臨時の隔離施設となり、それぞれの場所で麻疹に感染したことのある者が面倒を診ている。

蓬莱城が丁度出払っていたため、蓬莱城も一度戻ってきたが、体調不良者がいないのを確認後、食糧を検閲所で積み込むことのみが許され、八代駅へ行くことになった。

 

八代駅の駿城も勿論立ち入らせる訳にはいかないため、蓬莱城は伝令の役目も負うこととなった。八代駅は有事の為に多めに食糧が運び入れられているので、蓬莱城に積み込んだ食糧もあわせて、その辺りの采配は勘太郎に任された。

 

数名の死者が出たが、感染者の山場は10日ほどで過ぎた。快方方向の者が多くなってきたころ、蓬莱城が再度戻ってきたが、受け入れは難しい為再度食糧の受け渡しのみが行われた。

 

2人で駅全体を対応するのは無理があり、楓が体調を崩してしまった。麻疹ではないが疲れから風邪をひいたようで、現在使用人のみが在宅する仁助の屋敷で世話になることが決まり、最上が1人で駅全体を対応することとなってしまった。山場は越えていることから大事には至らなかったが、主力の楓が抜けたため、1人で3箇所をまわる羽目になり、最上は疾風で駅内を疾走していた。民人は最上を見ると道を開け、邪魔にならないように協力し始め、現代の緊急車両みたいな扱いである。2人で担当していた時は、楓の屋敷と最上の屋敷を楓が、鰍塾を最上が担当していたので支障はなかったが、1人で周るとなると遠い。隔離場所の設定を誤ったと思っても既に遅い。

 

先に感染者を受け入れていた楓と最上の屋敷から感染者が退院し、残すは鰍塾の建物のみとなり、5日後に再度戻ってくる予定の蓬莱城は受け入れ予定となった。

 

「無理だ。もっと医療従事者を増やそう。死ぬ。」

 

「そりゃ甲鉄城の三倍居ますからね。今の顕金駅。」

 

「結局仁助がいても一人当たりの負担が変わってない…。楓殿に任せたっきりすっかり忘れてた。」

 

「下手したら最上様も不在の可能性ありますし、増やしておいた方がいいでしょうね。」

 

手伝いにかり出された雅客が同意する。雅客は甲鉄城で感冒が流行した時に手伝っていた上、麻疹の既往歴があったので、鰍塾に割り振られていた。最上はぐったりしながら、未だ発熱のある患者のために鰍塾で待機をしているが、うとうととし始めたため、雅客は最上に休憩する様に促した。最上は了承し、横になってすぐに夢の世界へ旅立っていった。

2人は交代で休憩をしながら、なんとか楓が戻って来るまで対応し続け、蓬莱城が戻る日に楓は仕事に復帰を果たした。感染者から数日離れていたことから、蓬莱城の者の診察は楓に任せることになった。

楓が復帰し仁助が戻ったことで、最上はやっと解放された。

 

顕金駅における麻疹の流行は終息したが、1500人を越える住民に対応するには、医療従事者が足りないということが浮き彫りになったため、流民の中から簡単な読み書き計算程度の学のある者を選んで、その中からやる気のある者に楓が医学を教えることとなった。医者まで名乗れずとも、せめて本格的な看護が行える程度までは医学を教えることとなり、希望者も随時募集するため、医学も鰍塾の講義に仲間入りすることとなった。




旗の件は勝手に設定しました。

医療従事者が足りないのは完全なる失策。甲鉄城でてんやわんやしてたのに、自分の手から離れたからってすっかり忘れてたホモ君。
普段は楓が精力的に頑張ってくれてたのと、有事でもなきゃ割と浮いちゃう人員になるので優先度が低かったのもあります。
医学を教わった奴らは、各職場に産業医みたいな感じで割り振られます。有事の際は召集。八代駅にも当番で行きます。今は八代駅の武士達がちょっとかじった程度の医学知識で頑張ってます。

職業選択の自由?申し訳程度にありますが、指定された職業につかないなら、顕金駅からのアシスト無しになります。実質ないのと一緒。指定の仕事しながら、鰍塾で勉強して転職はOK。


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【小話】勘太郎

勘太郎回。だが本人はミリも出ない。


隔週交代で入れ替えられていた使用人が1人固定配置となった。固定配置となったのは鯛である。

 

勘太郎からの書面で如何にもらしい理由が書かれていたが、要は良い仲になったらしい。勘太郎は立場があるので道元は良い顔はしなかったし、最上も同様であった。結婚とは政略の一つであるので、元々身分のある勘太郎をただの民人とくっつけたくないようであった。

 

雅客の家に集まって、武士達は勘太郎の件を話していた。

 

「最上様って俺達には好きにさせるのに、勘太郎様は駄目なのか?」

 

「元々俺達は下侍だからな。今の身分はどうあれ、家の名は一度落ちてるからなぁ。」

 

「でも最終的に許可されたんだろ?」

 

「手紙で道元様と勘太郎様がやり合ってたらしいぞ。」

 

「道元様が許可すれば最上様は関係ないか。」

 

「信用できない他家より、信用できる民人をとったらしいな。」

 

「確かに害はないだろうな。余所から嘴を挟まれることもないし。勘太郎様は結婚適齢期だから、そろそろ世継ぎも欲しいけど、下手に力のあるところから嫁入りともなれば、八代にはおけんしな。」

 

「へぇ。…世継ぎと言えば菖蒲様も適齢期に入ってしまったぞ。どうするんだ?」

 

「立場と能力からすれば最上様なんだよなぁ…。」

 

「最上様は適齢期じゃないだろ。」

 

「多少早くても問題ないだろ。」

 

勘太郎の件から、菖蒲の配偶者の話へと変化した。菖蒲は結婚適齢期であり、顕金駅奪還も果たしたことから、余所の駅からそれとなく話も振られているらしい。しかし菖蒲から実権を奪われては敵わないので、道元達は余所から迎えることに良い顔をしていない。

 

「来栖は駄目か?」

 

「駄目ではないだろうが…そもそも菖蒲様はどうお考えなのだろうか。」

 

 

 

一方菖蒲の執務室にて

 

「勘太郎様はやっと叔父様に認められたようですね。めでたいことです。」

 

「菖蒲様。他人事ではありませんよ。そろそろ菖蒲様もご結婚相手を決めねばなりません。」

 

「えっ⁉︎わ…私ですか?」

 

「当然です。世継ぎは作らねばなりません。」

 

「よ…世継ぎ…。」

 

静に言われて菖蒲は動揺した。今まですっかり自分のことを忘れていた。総領としての教育を施されてきたため、他駅に嫁に行くことは昔から考えたこともなかったが、婿を取らねばならない。漠然とお父様の決めた相手と一緒になるのだと認識はしていたが、決めてくれる堅将はもういないのだ。

 

「どっどうしたらいいでしょう?」

 

「勘太郎様か最上様か来栖様かと思っておりました。年齢的にも能力的にも勘太郎様が最有力かと思っていたのですが、此度のことでそれもなくなりました。最上様か来栖様か余所の駅の方ということになりますね。」

 

「最上も来栖もまだ適齢期ではないのでは?」

 

男性の適齢期は二十代半ばであるので、当然の疑問ではあった。

 

「では余所の駅から婿殿を迎えますか?」

 

「えっ…ええっと…。」

 

「それとなく他駅から話も来ておりますよ。道元様が切って捨てておりますが。」

 

菖蒲はおろおろと困っているが、静はそれをただ眺めている。

 

 

 

翌日の午前中、雅客は最上の執務室を訪ねた。

 

「菖蒲様の結婚相手?なぜ私に聞くんだ。聞くなら道元様だろう。」

 

「いや何か知ってるかなと。」

 

「私はその話に関わりはない。」

 

「因みに最上様が指名されたらどうしますか?」

 

「誠心誠意努めさせてもらうが…。私はちょっとなぁ…。」

 

「ちょっと?なんです?」

 

「ただでさえ菖蒲様はお若く手弱女と見られるから、婿には威厳がある方が望ましいな。私は見た目がな…。」

 

「はは…。」

 

最上の遠い目に雅客も乾いた笑いを返した。どうやら八代駅の話の時の威厳の話が堪えているらしい。

 

「本来適齢期も10年近くは先だしな。道元様に婿に入れと言われれば否やはないが、威厳ばかりはどうにもできないからな…。」

 

「確かに最上様は適齢期まだ先ですもんね。…来栖はどうです?」

 

「……別に構わないとは思うが。」

 

「なんです?今の間は。」

 

「来栖があの様子で、世継ぎはちゃんとできるのか?」

 

「ぶはっ!あっはっはっ!そこですか⁉︎」

 

「大事だろう。世継ぎは。」

 

最上は呻く様に言葉を吐き出して、じとりと爆笑する雅客を睨んだ。

 

その日の夜の雅客の家は、笑い声で賑やかであった。




雅客。笑い事ちゃうねんぞ。

勘太郎独身だったことになりました。
菖蒲様のお相手を考えた時に、独身ならば最有力候補だと気がついて、丁度八代に送り出してしまったのでもう誰かとくっつけようと思いました。(安直)
道元様は金剛郭で家族死んでそうですよね。流石に老中ともなれば城下に家族住んでるよね。そう考えるとノータイムで菖蒲様を選んだ道元様やべぇなって思います。


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【小話】鳩

行商に出る日、最上は籠を二つ程抱えて操車場へと来た。籠の中には鳩が入っていた。瓜生は籠を覗きながら口を開く。

 

「なんだその鳩。」

 

「道元様が伝書鳩を訓練中でな。一里位先から放してほしいらしい。」

 

「へえ。」

 

「宍道駅で世話になってた頃から、宍道駅の領主と話を進めてたらしい。とりあえず、うちと宍道駅と八代駅を行き来できるようにしたいみたいだな。」

 

「使えるようになりゃあ便利だろうな。」

 

「将来的には出雲の駅は全部対応できるようになると助かるな。」

 

「おっさんの屋敷が鳩屋敷になりそうだな。」

 

「現時点で既に10羽はいるみたいだがな。」

 

甲鉄城が出発し一里程度の位置から鳩を放すと、鳩は空高く羽ばたき一直線に顕金駅へと飛んで行った。

車上から最上と瓜生は鳩を見送る。

 

「私は鷹でも飼おうかな。」

 

「鷹ぁ?鳩じゃねぇの?」

 

「道元様の鳩以外を狩れるだろ?」

 

「鷹なんか使わなくても撃ち落とせば良いだろ?」

 

「精度の問題もあるが、間諜に銃声で勘付かれるのも良くない。」

 

「…無名に石でも投げさせたら良いんじゃねぇの?」

 

「⁉︎」

 

「たぶん当たるだろ。無名なら。」

 

「確かに。今度その辺の鳥を狩りついでに撃墜してもらうか。鷹も調教に時間がかかるし、何より私は素人だからな。そのうちどっかから鷹匠でも連れて来たいな。」

 

「鷹は諦めねぇんだな。」

 

「そりゃ無名殿は常駐してるわけじゃないし、将来的には出雲どころか遠くまで出かけてもらうことになるからな。」

 

いずれ間諜などに鳩を使わせるつもりであり、余所の駅も使うのは当然なので鳩の狩り方は検討しておく必要がある。天鳥幕府なき今、各地の駅がどう動くかわからない。

 

困った時はお互い様などと言う領主など非常に稀なのだ。戦こそカバネがいるからできないものの、暗殺や謀略を駆使して属領にする程度は既に起きていても不思議ではないのだ。

 

今回は最上が鳩を頼まれたが、吉備土も度々頼まれるようになり、徐々に距離を伸ばしていき、一カ月で宍道駅や八代駅と顕金駅の間を行き来できるようになった。八代駅はしょっちゅう駿城が行き来しているためそこまで必要ではないが、宍道駅は伝書鳩が使えるならそれに越したことはない。

 

行商先は出雲の国の生きている駅をまわりきり、余程小さい駅以外には掃射筒を売ることが出来た。噴流弾については唯一カバネを殺せる術として全ての駅が購入している。

カバネに落ちた駅もまだ存在しているものの、出雲の国のカバネを蓬莱城で殺して回っているため、出雲の国を行き来する駿城はカバネに遭遇することが極端に減っている。

 

勿論他の国の地域から流れてくるカバネもいるので、もう出雲の国は安全です。とはならないのだが、運行表もなくなったことで、必要の他行き来しなくなっていた駿城の行き来が増加した。

 

食糧を主産業としている駅など、生きるのには困らないため運行表がなくなってからは、殆ど駿城を走らせない駅もあった。他の産業を請け負った駅は、食糧確保のために駿城を出さざるを得ないが、可能な限り自給自足をした上で行き来していたのだ。

依然より安全になった道行きを互いに交易する様になった為、今年の冬は大過なく過ごせると喜んでいる。

 

食糧を主産業にしている駅以外は、中々に苦労をしていたのにも関わらず、道元に脅され顕金駅奪還時に食糧を提供していたので、それなりに恨んでいたのだが現金なもので、そういう駅ほど今となっては顕金駅にすり寄って来ている。

 




猛禽類に狩られることがあるから、確実性はないけどこの世界だと有効な連絡手段ですよね。
そもそも使ってそうだけど、小説の暁では周防城が無駄足踏んでて、その辺の情報のやり取り出来てなさげだったので、連絡手段として採用しました。

短い日常話ばかり上げて、カバネリ感あんまりないけど大丈夫なのか時々気になります。ゆるっと続けていきますので、片手間にでも読んでいただければと思います。


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【小話】白露屍人考

本日は休みであると聞いた最上の屋敷の前に生駒は来ていた。

 

(最上さんが"白露屍人考"を知ってるのか聞きたいけど、せっかくの休みに訪ねて良いだろうか。)

 

かつての顕金駅ならば、いち蒸気鍛治が上侍の屋敷を訪ねるなどもってのほかであったため、生駒は最上の屋敷の前まで来て躊躇っていた。

これが来栖などなら、気にせず訪ねるのだが相手は最上である。

甲鉄城が克城と繋がれていた時めちゃくちゃ失礼をしたのに、特にネチネチと言うことなく意見を聞こうとしてくれる良い人なのだ。最上からすれば、ちゃんと意見を聞いとかないと何するか分からんし、キレると暴走しかねないので聞いておきたいだけなのだが、生駒は知らぬことである。

 

「あれ?生駒。何してるんだ?」

 

「うわぁっ!」

 

最上の屋敷の前で考えこむ生駒に声をかけたのは、一之進の稽古の為に来た樵人であった。

 

「い…いや最上さんに聞きたいことがあって…。でも休みの日に訪ねて良いものかと。」

 

「仕事の話じゃないのか?」

 

「私事で…。」

 

「まあ試しに聞いてみるくらい良いんじゃないか?最上様はそのくらいで無礼討ちとかはしないぞ?」

 

「それはわかりますけど。」

 

「午前中は稽古してるか読書してるかだから大丈夫だと思うがな。」

 

「じゃ、じゃあ、お邪魔します!」

 

樵人の後に続いて、生駒は最上の屋敷の敷地に入って行った。

 

「最上様!生駒が来てますよ!」

 

「生駒?何かあったか?」

 

最上は着流し姿で、本を片手に顔を出した。

 

「あっ!お邪魔します!あの聞いてみたいことがあって!」

 

生駒は庭に突っ立ったまま、最上は部屋から顔を覗かせたまま、話が進みそうになったため、生駒を縁側に座らせることにした。

 

「生駒。こっちにきて座りなさい。」

 

最上は縁側に座り隣を軽く叩く。生駒が慌てて座ると、様子を見ていた穴子が茶を入れに下がって行った。

 

「それで?」

 

「お休みの日にすみません。…あの白露屍人考って知ってますか?」

 

「ああ。読んだことはないが、東欧の碩学アレクセイ・リヒテル博士の書物の和訳だろう。白露西亜における屍人の考察って意味だったかな?」

 

「内容はどれだけ知ってますか⁉︎」

 

「…あー。カバネは呪いなどではなく、ウイルスによるものってくらいしか知らん。ウイルスってやつは細菌より小さくて、外国で開発された電子顕微鏡ってやつじゃないと見ることもできないってことしか分からん。」

 

「電子顕微鏡⁉︎なんですかそれ⁉︎」

 

「詳しくは知らない。普通の顕微鏡より凄いやつらしいがな。」

 

「それがあればカバネウイルスの研究が進むんですね!」

 

「どうだかな。目に見えたところでどうこうできるなら、もう外国でなんとかしてるんじゃないか?」

 

「アレクセイ博士が日ノ本に来てるって聞いてたんですが会ったことありますか⁉︎」

 

「ないよ。というか日ノ本に来る必要性が分からん。お前がアレクセイ博士の立場だったら、わざわざ技術の劣る国に来て研究するか?」

 

「いや…。しないですね。でも危険を周知する為とかなら!」

 

「アレクセイ博士である必要がないな。」

 

「…来てないんでしょうか。」

 

「来てるとしたら、その頃カバネの脅威にさらされてなかった日ノ本に避難が一番ありえるがね。」

 

「うーん。避難かぁ。」

 

生駒は腕を組んで首を捻っていると、穴子が戻ってきてお茶を最上と生駒に出して下がって行った。

 

(もしも本当にアレクセイ・リヒテルが、日ノ本に来ているとして避難が目的でなければ、それは日ノ本を実験場にしている可能性が高いんだが、言わない方がいいんだろうな。)

 

研究者が現場に赴く理由は、そこに研究対象があるからである。自国で研究できるなら、設備の整った自国が良いに決まっているのだ。設備の整った自国でなく、協力の得られそうな欧州のいずれかの国ではなく、技術が劣り、ツテもない日ノ本に来るとすれば避難か実験以外ないのである。

まあ、菖蒲のような清い心で日ノ本を救うために来たという可能性もゼロではないが、科学的発展などには倫理が邪魔であるので善人の可能性はないに等しい。カバネウイルスは人にしか感染しないのだから、どうあれ人体実験は必要なのだ。カバネウイルス研究の第一人者が善人かといわれると難しいところである。本を書けるほどに研究を繰り返しているわけなので。

もしただの善人であるならば、自国を見捨てて日ノ本に来るとは思えない。見捨てていないとなれば外国ではカバネを殺し尽くしているか封じ込めに成功している筈だ。それならばカバネの殺し方や封じ込め方が広がっていないのはおかしい筈なのである。

 

「以前逞生がアレクセイ博士は金剛郭で実験してるんじゃないかって言ってたんです。」

 

「もしいたなら死んでそうだな。」

 

「わぁ!やめて下さい!」

 

「少なくとも、長時間高台を移動していた私は脱出する駿城は見ていない。謁見の場に居た者達が美馬の言葉に散々踊らされていたのを見る限り、金剛郭にはいなかったんじゃないかと思うがね。」

 

「死んでないって思う方が良いので、いなかったと思うことにします。」

 

「良いんじゃないか?いるかも分からんアレクセイ博士を探すより、日ノ本を平定して外国にでも行く方が建設的だろうな。」

 

「外国に行く…。」

 

「外国なら白露屍人考以降の研究が進んでいるかもしれない。美馬が10年であれだけ研究してたんだ。外国が劣るとなぜ言える。」

 

「最上さん。外国の言葉分かりますか?」

 

「お前は私をなんだと思ってるんだ?わかるわけないだろう。…だが八代の奴に蘭学をかじってる奴がいただろう。あれに教われば良い。鰍塾で教えてるだろ?」

 

「…行ったことなかったです。今度行ってみます!」

 

「そうか。頑張れ。」

 

「よし!やる気出ました。ありがとうございます。」

 

「それはなによりだな。このくらいなら気にしなくて良い。」

 

「それじゃあお邪魔しました!」

 

生駒は出されていたお茶を飲み干して帰って行った。

 

(アレクセイ・リヒテル。もしいるのなら、何処にいるかな。うちの戦力は異常だ。うちみたいな戦力を保有してる駅は現状ないようだし、そんな状態で研究できるものかな?取り入るなら生駒が言ってたように、金剛郭が一番良いとは思うが、美馬の仕込みに気がつかずあれほど混乱したのを見ると、アレクセイ・リヒテルが居たとは思えないんだよなぁ。)

 




日本ですらかなりのオーバーテクノロジーなので、海外なら電子顕微鏡ももう出来てることにしました。
外国(とつくに)外国言うてますが、別に海外進出する話書くつもりはないです。(じゃあ出すな。)
ホモ君はRTA卒業してるので正解まで最短ルートを選べる訳じゃないので。
ぶっちゃけ作者が正解わからんので仕方ないね。

逞生の言ってたアレクセイ博士が日本に来てる説を見た時、何しに来たんだ?って思いました。日本発祥なら来るのも分かるんですが、東欧発祥で日本に来るって何って思いました。
白露屍人考の意味は、勝手に考えました。白露ってことは白露西亜でベラルーシかな?白露が発祥なのか。白露の研究者なのか。
莊衛みたいなとんでも研究が進んでたら海外滅びてそう。美馬は個人利用だったけど、国レベルで悪用したらバンバン国が滅びるのでは…。

ところで生駒って茶飲めるのか?

アプリのストーリーはちょっと追えてないのでガン無視してます。申し訳ねぇ。OP見る限りなんか普通に戦ってる人いっぱいいるけど、戦力インフレしてない?話に入れるとなると全部履修しなくちゃならないので許して。


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【小話】公衆浴場

顕金駅には大鍛錬場から出る熱を利用した公衆浴場が存在する。

管理費や人件費などの都合があるため、無料とはいかないが非常に安価で利用することができる。

 

上侍の屋敷には浴室が存在するが、ずっと公衆浴場を利用してきた武士達からすると、自宅となった屋敷の浴室を使うより公衆浴場を使う方が慣れている。

 

「城務め面子は公衆浴場来ないよな。」

 

「あれ?これもしかして俺らも使ってるとまた怒られるやつか?」

 

「…上侍は公衆浴場来てたの見たことないな…。」

 

「服部とかに聞いてみるか?」

 

「また呼び出されるかもしれんと思えば確認したほうが良いな。」

 

武士達は、城務めの武士達が公衆浴場に姿を見せていないことに最近気がついた。示し合わせて行くこともないので、気が付かないのも当然であるが、気が付いてしまえば気になってしまう。寄り集まって暮らしたり、使用人を雇わなかったことで怒られた記憶が新しい。あの時も城務めの面子は、既に使用人を雇って生活していたのだから、今回も何かあるかもしれないのだ。

樵人や雅客は連れ立って、今日は休みの服部の家を訪ねることにした。

 

「は?風呂?屋敷にあるの使ってますけど。帰宅するの遅いことが多いですし。」

 

「…すまん。…屋敷にあるの使わないとまずいと思うか?」

 

「あー。…いや別に直接どうこうとかはないと思いますけど、流民は気を使うんじゃないですかね。」

 

「…それもそうか。甲鉄城からの民人は気にしてなかったしいいかと思ってたけど、新しく入ってきてる流民からすれば気になるか。」

 

「俺たち前でいう上侍と同じ立場だしな。」

 

「でも自分しか使わないのに用意するのもなぁ…。」

 

「風呂使う時は集まれば良いのでは?どうせ雅客さん家溜り場になってるんですし。」

 

「「⁉︎」」

 

「いや。それだ!みたいな顔しないで下さいよ。」

 

「今度からそうしよう。助かった。ありがとう。服部。」

 

「身綺麗さえしとけば、最上様達も別に文句は言わないと思いますけどね。」

 

「また呼び出しされたくないんだよ。」

 

「それはわかりますけど。」

 

元々武士達が定期的に集まっていた雅客の家では、風呂まで入るようになった。雅客の家以外も武士達は普段集まっている家で風呂を済ませるようになり、家主の設定した風呂の日になるとその家に集まり、互いに薪の具合を見る決まりができた。

 

「相変わらずより集まる奴らだな。」

 

ことの顛末を服部から報告された最上の言である。

最上の屋敷では、最上より前に子供らや穴子達も使っている。

風呂の日は最上もいつもよりは早く帰って来るが、それでも最上の帰宅が遅いのでそうなった。穴子達は最初断固反対していたが、効率の話を最上に淡々と説明され折れることになった。

 

 

後から入ってきた流民は別としても、甲鉄城時代からの民人は、武士達を殆ど見かけなくなり少し残念であった。というのも以前の上侍と違って普通に話をするからである。

割と武士達は民人と交流があった。純粋に会話を楽しむこともあるが、それとなく質問もしていたのだ。ここで提供される情報は特に重要なものではなく、民人達に公開しても問題ないものである。

民人に通達される事項は、御触書のように通達されるか、六頭領経由である。偶に失敗した伝言ゲームのように内容が少し変わることもあるため、風呂ついでに武士達に確認していたのだ。公衆浴場での質問が出来なくなったため、巡回中の奉行所の者達が呼び止められる機会が増えたのは余談である。

 

奉行所の武士達も、呼び止められることが増えたなぁ。くらいの感覚であるので特に問題もないのだ。

 




ホモ君が休みの日なら一番最初はホモ君ですがそれ以外は最後。
効率重視なので穴子さん達は胃が痛い。


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【小話】久手駅

出雲の駅で、現在一番顕金駅と仲が良いのは久手駅である。宍道駅ではないのだ。

 

久手駅はかつて一か八かの賭けで漁に出て、獲った魚で干物を作って売るのが主産業であった。

それが蓬莱城が来るようになって、安全に漁が行えるし、甲鉄城が行商時に干物を売り歩くので、買い付けに来る駅まで出てきたのだ。今までは命懸けであったから、数が用意出来ず中々の高値であった干物は、数を用意できるようになったことで、安価にすることが可能となり驚くほどよく売れた。

 

顕金駅は蓬莱城を派遣して、手伝いの報酬に干物を貰えるし、久手駅は死人が出ることなく、今までよりたくさん魚が獲れるお互いが得をする関係なのだ。

 

宍道駅とも勿論関係は悪くないが、久手駅ほどお互いが得をするといった関係ではない。久手駅の場合が特殊ではあるのだから仕方がない。

 

顕金駅を中心に蓬莱城や甲鉄城が出雲のカバネを狩るので、大した戦力のない久手駅の駿城も出歩きやすくなり、良いことばかりである。

まだ掃討したとは言えないが、駿城にカバネが取り付くことが極端に少なくなったことで、出雲の各駅は大層喜んでおり交易も盛んになりつつある。

出雲の駅に接する石見、備後、伯耆などから来た駿城も出雲は比較的安全だと認識したため、出雲経由で行き来する様になり、出雲の各駅は景気が良くなった。

 

先日海水を汲み上げるパイプが経年劣化で壊れた時も、甲鉄城が来た際に相談したら、直ぐに蓬莱城と材料、蒸気鍛治を派遣してきて一緒にパイプの再建まで行ったのだ。対価は塩の価格を半値にすることであった。

半額にしたところで主にかかっているのは燃料費の為、原価割れまではしないし、蓬莱城が仕入れる塩は甲鉄城が干物と共に売り歩くが、久手駅よりも多少高い値をつける。甲鉄城が行商した後は、久手駅に行けばもっと安く買えるぞ。などと宣伝までしているので他の駅が買い付けに来て駅始まって以来の好景気である。

甲鉄城からすれば、干物も塩も日持ちするため行商の足を伸ばせば売る相手などいくらでもいるし、膨大な量ではないが久手駅より高値のまま売れる。売った先で久手駅を宣伝しておけば、出雲の駅にくる駿城も増えるため出雲の景気は良くなる。出入りする駿城が増えればカバネも移動してくるが、道元達は今年は出雲を盤石にするため蓬莱城を出雲の守護に当てている。

 

久手駅からすれば定期的にカバネを狩り、漁に付き合い、パイプの修理を手伝い、干物や塩の宣伝までしてくれる顕金駅は神様のようである。

 

顕金駅からすれば漁に付き合うだけで干物が貰え、塩は半値で買い取るが塩の生産ができる海沿いの駅はそこまで多くない為、内陸部に売り歩けば確実に売れるし利益が出る。

駅制度が始まってから11年魚をまともに口にしていない民人など珍しくないし、塩は人間にどうしても必要である上、肉などの塩蔵の為にも塩は必要不可欠である。金剛郭崩壊以来引きこもっている駅も多いので、ちょっと足を伸ばすだけで飛ぶように売れる。

守るべき範囲内の久手駅と仲良くするだけで利益が出るので、仲良くしない理由がないのだ。

その他も木材や炭も馬鹿みたいに売れるので元手の安いものでとんでもなく利益が出ており、武器の類いを売るのが主目的であるが、たとえ売れずとも充分黒字であった。

 

出雲の駅は、顕金駅が役人も住民も少なく未だ発展の余地があるため、顕金駅に擦り寄ろうとするが、当初予定した流民の受け入れを終えた為、役人の登用も流民の受け入れも、基本的には停止している。道元達は役人については登用したいのが本音であるが、今の顕金駅の状況を知っている出雲の駅から引き入れるのには、二の足を踏まざるを得ない。というのも武士達の能力が追いついていないからである。まだ十全に職務をこなせない状況で、優秀な役人などを登用しては武士達は肩書きのみの役人となり、事実上優秀な役人に乗っ取られてしまうからだ。

 

顕金駅が軌道に乗る前に登用した者達は、道元が背景などを加味した上で勧誘しており、ある程度は信用できる。流民から引き上げた者は、背景が不明の者が多いので少々不安は残るものの、次席や補佐などにするつもりは当分ないので様子見の状態である。

 

そんな中久手駅は、顕金駅に役人を5人差し出すことに成功している。久手駅は顕金駅に害をなしても、なんの利もないどころか損しかしないからだ。久手駅は駅の規模が小さい為、それなりの身分の子女などが職にあぶれており、その内から戦うなど到底出来ぬような、なよやかな女性が5人選ばれた。顕金駅は元下侍が殆ど独身の為、将来的には嫁にでも貰われれば良いという考えである。女性が政に口を出すなどもってのほかといった風潮は久手駅でもあるものの、それなりの家で育った女性はある程度の学がある為、余所の駅では無理でも顕金駅ならば採用してもらえたのだ。3人は奉行所の事務仕事に、2人はそれぞれ検閲所に配置された。

 

武士達は道元達に怒られるのも怖いし、菖蒲が領主であることから女性を見下すこともなく、下世話な話嫁が欲しいので、この時代では考えられぬほど女性を丁寧に扱っている。

久手駅から来た女性は、あわよくば嫁入りするため武士達に愛想良く対応している。

 

嫁が欲しい武士と、嫁入りしたい女性で利益は一致しているのだ。

 




久手駅は実在する久手海岸辺りを想定したので、もしかしたらこれ石見の国だったかもと今更気がつきましたが、出雲の国に入れときます。


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【小話】避難訓練

火事などを起こさないように、日付けだけは事前通達された避難訓練が朝一で行われた。

鈴鳴りが鳴り響き、民人は常日頃から用意しておくように言われている必需品のみを抱えてひたすら走る。

走れぬ老人や怪我人も近隣の者が背負って避難する。武士達も避難誘導にまわっており、誘導に従って城と操車場へと走って行く。この避難訓練は大鍛錬場に勤務する一部の者のみ不参加である。大鍛錬場は基本的に火を落とさないため、不在にするわけにはいかないのである。半刻で城と操車場が閉め切られた。

 

間に合わず締め出された者達は、武士達に間に合わなかった理由を聴取される。幼い子供がいる者、住居が遠い者、近隣の老人や怪我人に手を貸していた者など理由は様々であるが、大抵致し方ない理由である。

 

一通り確認を終えたら解散である。民人達は雑談をしながら帰宅して行く。

 

 

武士達は避難訓練の反省検討会である。

 

「ふむ。どうしたものかな?」

 

「襲撃地点へ遊撃を出せば時間を稼げるのでは?」

 

「来栖でも出すか?来栖なら単独運用可能だが。」

 

「流石に単独だと厳しいな。カバネを殺すだけなら良いが、万が一救助の必要があったら見捨てるしかなくなる。」

 

「殺すだけならいいのか。やはり狂ってるな。」

 

「おい!お前が言ったんだろうが!」

 

「とはいえたまにある甲鉄城と蓬莱城の同時不在の場合はそれしかないな。来栖の馬についていけるように、城務めの武士何人かに乗馬技術を仕込むしかない。来栖。遊撃部隊を編成して訓練しといてくれ。」

 

「承知した。」

 

「甲鉄城の面子がいるときは遊撃に入るし、蓬莱城の面子もそうしよう。早く討伐できるに越したことはない。」

 

「最上様は城の防衛の方がいいのでは?指揮をとってもらった方が良い気がするんですが。」

 

「いざという時、いないかもしれない人員を防衛拠点のあてにするな。基本的に駿城の面子は駅にいたら遊撃に出る。城は服部に任せる。操車場は雅客かな。」

 

「私ですか⁉︎」

 

「どうせ全体の指揮は道元様と菖蒲様がとるが、最前線はお前だな。」

 

「城務めの役人にも掃射筒を仕込むか。」

 

「その方がいいな。二城不在で防衛となると手が足りん。掃射筒なら役人でも使えるし良いだろう。」

 

「避難誘導を減らしますか?」

 

「そこは削れん。…信号弾を使おう。カバネと会敵したら信号弾を上げる。そうすれば民人はそちらには近寄らない。遊撃部隊も動きやすい。」

 

「では通達を出しておくか。」

 

「検閲所も避難場所にしては?」

 

「駿城の出入りの為にも、検閲所にカバネを集める訳にはいかないから駄目だ。近くにいるものを拾う分には良いが、あまり集まりすぎるとカバネがそちらに集まってしまう。それに一番最初に落ちるとしたら、どちらかの検閲所の可能性が高い。だったら検閲所をあてにしない訓練をしておいた方がいいな。」

 

この避難訓練は菖蒲が言い出したものである。甲鉄城が行商に出るようになり、駿城が一城もない期間が多少発生することになったため、いざというときのために民人にも備えてもらうことになったのだ。持ち出しの荷物は常日頃から準備しておくように指示しているが、今回の避難訓練があるとわかってから用意した者もいるようだった。

今回は初回のため、武士達が問題の洗い出しをする意味合いの方が強い。二城出払っていた場合、戦力も少なければ脱出手段もない。城も操車場も再興に伴い籠城しやすい改修はされたが、如何に早く民人を避難させられるかが重要である。

城は服部が、操車場は雅客が防衛の指揮をとることが決まった。

 

扶桑城が顕金駅に突入してきたとき、最終的に生き延びたのは、運良く城に逃げてこられた者と、操車場で整備中の蒸気鍛治が殆どである。民人どころか武士達も混乱していた。

西門では扶桑城が爆発したことから火の手が上がっていたが、鳴り響く複数の鈴鳴りに殆どの者が、カバネが入ってきたことはわかっても、どこに逃げれば良いのかわからなかったのだ。

操車場に甲鉄城があることはわかっていたから、操車場方向へ逃げる者は多かったが、道中武士達がカバネに容易く殺されていき、それを見た民人はそこから散り散りに逃げるのが繰り返された。固まっていては狙われるからだ。食われる者を見捨てひたすら逃げた。結果殆どの民人は操車場にたどり着くことはなかった。

当時城に務めている者は殆どが上侍であったが、操車場を押さえに堅将が引き連れて行ってしまった為、残ったのは菖蒲の護衛をしていた来栖と来栖の配下の下侍だけとなったのだ。

扶桑城の時の規模となれば、被害を0に抑えることは不可能ではあるが、限られた戦力を集中し少しでも被害を抑えたいところである。

 

菖蒲や殆どの武士は気がついていないが、今が避難場所に避難出来る人員の限界値である。一応城はもっと収容出来るのだが、避難するとなると低地にある操車場に集中しがちである。低地に住んでいる民人の方が多いので、操車場は満員になる想定だ。制限時間を設けて全員を収容しなかったのはそういう側面もある。避難所自体は建設可能だが、守れる武士が既にギリギリなのだ。ちなみに全員脱出は無理である。

甲鉄城と蓬莱城に限界まで詰め込んでも1000には届かない。甲鉄城は500人は乗せられるが、蓬莱城は車両が少なく300程度といったところである。

1000人以上が生き残るには、籠城してカバネを掃討するしかないのだ。

武士の数が増えれば避難場所も増える予定だが、まだまだ先の話である。

 

以降年1回の恒例行事となるが、参加は各地区から3分の1程度で行うことになる。それぞれが動きを確認はしてほしいが、避難所に如何に入りきらないかを悟らせたくないからである。

道元や最上からすれば扶桑城の規模なら、実際は足手まといを見捨てたり、混乱して逃げ惑ったり、逃げ遅れたりして2、300程度は死ぬだろうからなんとか入りきるだろうという見解であるが、操車場に偏った場合は厳しいのが現実なので不安にさせないのも大切である。




民人の中にも気がついてる奴ら(六頭領とか)は居ます。絶対に言いませんが。余計なことを言うと、いざというとき、パニックになった群衆に自分が殺される可能性もあるので。いざというときはしれっと早めに避難するだけです。
とはいえ扶桑城の再現みたいなパターンはやる予定ないので、この避難訓練が生かされることはありません。

菖蒲・武士「助け合って一人でも多く!」(善人思考)

道元・最上「現時点なら1000割らなきゃなんとかなる。」(その後の復興思考の外道)

これ書いてて思うのは、上侍全滅ってどういうことだろうか…。上侍いたら六頭領ポジションは上侍だったと思うけども、来栖が指揮とってる以上下侍しかいないんだよなぁ。堅将様は、指揮役に上侍を城に数人残しても良いと思うのだけど。(いたらいたで邪魔になっただろうけど、それは視聴者目線でしかないので)


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【小話】駅外

甲鉄城は出雲の各駅に武器を売ってはいるが、いざという時の為に購入している駅ばかりで、継続購入している駅はあまりなく、多少駿城で使用した分を補充するために購入しているのが精々である。噴流弾でカバネが殺せるとはいえ、顕金駅のように積極的に外に出て、カバネを殺してやろうなどと考える駅は出雲にはなかった。

 

「なんで戦う力を得たのに戦わないんだ!臆病者ばっかりだ!」

 

生駒は操車場で憤慨し声を荒げる。

 

「仕方なくない?弱いんだから。」

 

憤慨する生駒に無名は返すが、生駒の怒りは収まらない。

 

「噴流弾でカバネが殺せるのは最上さん達が実演してるじゃないか!態々前衛の2人はカバネを引っ張ってくるだけで、殆ど蒸気筒だけで対応してるのに!閉じこもってばかりじゃカバネから土地を取り戻すなんてできっこない!」

 

無名以外の者も宥めようとするが、生駒は納得がいかないようでむすりとした顔をしている。蓬莱城は山間部などを中心に出雲をまわり、他の駅には補給に寄るのが殆どであるが、このままではそのうち他の駅で無礼な真似をしかねない。困った吉備土は最上に相談することにした。

 

「…何故私に話を持ってくるんだ。お前がなんとかしたらいいだろう。」

 

最上は至極面倒くさそうな顔で、吉備土の話を聞いていたが、返した言葉がこれである。

 

「そうなんですが、どう説明しても納得いかないみたいで…。」

 

「お前は蓬莱城の城主だろ。そういうのをなんとかするのもお前の仕事なんだがね。…まあいい。より面倒なことになる前になんとかするか。」

 

最上は翌日、流民上がりの武士を1人伴って操車場へと向かった。

この流民上がりの武士は糸賀という25歳の男で、普段は甲鉄城に乗っている。甲鉄城に乗っていない時は、奉行所で働いているのだが、生駒とあまり仲が良くない。糸賀は蓬莱城ができる前から有志で甲鉄城に乗っていたが、なにかと生駒と性格が合わない。生駒も糸賀もお互い合わないと理解している為、関わらないように過ごしている。

 

「糸賀。お前は生駒の何処が気に入らない?」

 

「結構自分勝手だし、武士でもないのに仕切り始めたりするところですね。元々甲鉄城に乗ってた方達が認めてるのはわかってるので、普段口には出しませんが子供の我儘に付き合わされてる気分になるので嫌です。」

 

「そうか。今から操車場で生駒と話すが、お前はただいるだけでいい。退室は認めないが、生駒と話す必要もない。わかったな。」

 

「承知しました。」

 

最上と糸賀が操車場に入ると、生駒が最上に近寄ってきた。

 

「最上さん。他の駅のことでお話があるんですが。」

 

「生駒。その前に私の用件を済ませていいか?」

 

「あっはい。大丈夫です。」

 

いつもは遮ることなく、生駒の話を聞いている最上が、先に用件を済ませたいと言ったため生駒は素直に引き下がる。

 

「生駒。お前は糸賀と仲が良くはないよな?何故だ?」

 

「えっ?あー…。性格が合わないからです…。」

 

「試しに今から少し話してみろ。」

 

「「えっ?」」

 

「はい始め。」

 

糸賀は困惑した。操車場に来る前、最上は話す必要はないと言ってはいなかったか。それなのに舌の根も乾かぬうちに話してみろとは一体どういうことか。

 

生駒も糸賀と同じく困惑していた。最上は普段生駒に対して誰かと仲良くしろと強要したことはない。むしろ組ませる相手を選んでくれており、衝突しそうになることがない。糸賀と仲が良くないのをわかっていて、話してみろとはどういうことか。

 

「「…。」」

 

生駒も糸賀もお互いを見たまま一切喋らない。糸賀は、操車場に来る前に話す必要はないと言われたのだから、いっそ黙っていようと開き直った。生駒は元々社交性は高くない。逞生と仲良くなったのも、カバネの研究の話で意気投合したからで、それまで逞生のことは捨ての仕事をサボるデブだと思っていた。社交性が低いから同僚に仕事を教えるのも、自分がやった方が早いからしてこなかった。そんな生駒であるので、いきなり話せと言われても何を話せば良いのか分からず困ってしまった。2人で黙りこくっていると最上が手を叩いた。

 

「はい。止め。生駒。何故仲良くしない?」

 

「えぇっと必要ですか?糸賀さんは普段甲鉄城だし、あとは奉行所じゃないですか。みんな仲良くお友達ってなる必要はないと思うんですが…。」

 

「そうだな。特段生駒が糸賀と仲良くしなくても困らないよな。」

 

「は…はい。そうですね。」

 

「もし、必要があればお互い譲歩するだろう。だが今仲良くする必要はない。」

 

「じゃあ今のなんだったんです?」

 

「お前が最近他の駅が外に出て戦わないのが不満で愚痴を言っていると聞いてな。規模こそ違うが、今お前と糸賀がしてたことがその答えだ。」

 

「…どういう…。」

 

「生駒は糸賀と仲良くしなくても困らない。切羽詰まれば仲良くもするだろう。他の駅も外に出なくても、生きていく分には困らない。切羽詰まれば戦う。同じ考え方だろう。お前は好戦的だが、交流を図るのは得意じゃない。だから交流を強要されても困ってしまった。他の駅も戦うことを強要されても困ってしまう。ここまではいいか?」

 

「…一応。」

 

生駒は少々納得がいかず、不貞腐れた顔で話を聞く。

 

「生駒。戦うつもりのない者を、外に叩き出して戦わせることは出来ない。外に出たいと思わせなければならない。」

 

「そんなこと言ったって10年以上も引きこもってて、自分から外に出たくなるんですか?ならないから今も引きこもってるんじゃないんですか?」

 

「例えばだが、もし糸賀が私と白露屍人考の話をしていたら糸賀と話してみたくなるだろう?」

 

「はい。でもそれって駅の場合どうやるんですか?」

 

「甲鉄城で一番売れている物がなんだか知ってるか?」

 

「えっと。塩ですか?」

 

「いや。木材だ。10年以上引きこもってるんだ。民人達の建物にガタもくるし、冬場に暖を取るには炭や薪がいるが、駅内の木なんて必要以上にはない。駅を出ればすぐそこにいくらでも生えているのに、うちから買っている。」

 

「甲鉄城から買えるなら出ないじゃないですか。」

 

「木材も炭も売ってはいるが駅内を満たせる量じゃない。今までは命がけでカバネがいない時に枝拾いに行くか、年々値段の上がるお高い木材を買うしかなかった。だが今年はカバネを殺せる術がある。しかも蓬莱城が殺してまわっているおかげで、大群に襲われる可能もかなり低い。事実駿城に取り付くカバネも格段に減っている。」

 

「はい!それで外に出てみようってなる訳ですね!」

 

「ちょっと早いがそうだな。続けるぞ。こうなってくると、今度は今まで余所より安いと飛びついていた甲鉄城の販売する木材の値段に不満が募る。そこまで危険じゃなくなってきたんだから、もっと安くて良いじゃないかと。」

 

「はっ?なんですそれ。自分勝手過ぎます!」

 

「そうだ。人間なんてそんなものだ。まあ甲鉄城は私が城主だ。勿論値下げなどせんし、あまり煩ければ暫くよらん。そうなれば民人達はこう思う。"目の前に木があるじゃないか。カバネを殺せる武器を買ったんだったら採ってこい。"ってな。武士達もそこまできてやっとやってみるかとなる訳だ。領主だって買わずに済むならその方が良い。今までだって命がけで採りに行くことはあった訳だからな。そこで上手いことカバネを殺せることが分かれば武士達に自信がつく。自信がつけば欲がでる。最初は枝拾いが精々だろうが、木を切り倒し、狩りや釣りで食糧を得るようになる。そこまで出来て初めて土地を取り戻したくなる。」

 

「…そう上手くいくでしょうか?」

 

「勿論最初のうちはそれなりに死者も出るだろう。だが今みたいに段階を踏めば外に出る者は多くなる。今お前はそう上手くいくのかと言ったが、お前が元々言っていたことはこの段階すら飛ばしている。実現しようとするなら美馬が磐戸駅でやった壁を取っ払うことと同じだ。」

 

「ゔっ…。」

 

美馬と違い、戦いを強要する為に強硬手段に出はしないが、言っていることが同じだと言われて生駒は言葉に詰まる。

 

「そもそも好戦的な武士は、美馬が率いた主戦派として死に絶えた。残ったのは穏健派だからな。段階を踏まねば中々難しいのは理解してくれ。私は引きこもっていたままで良いと言うつもりはない。ただ時間はかける。人は劇的なことがなければ急には考えを変えられない。甲鉄城の武士達はその状況だっただけだ。家族がいれば養わなきゃならない。家族と一緒に生きていたい。そう思うのが普通だ。心から納得しろとは言わん。ただ理解はしてくれ。」

 

「はい。わかりました。騒がせてすみませんでした。」

 

生駒はしょんぼりとしながら返事と謝罪をした。自分だって妹があんなことにならなければ、きっとみんなと同じだった。普通に家族がいて、それなりの生活をしている者が外に出たいと思わないのも理解できた。最上は引きこもったままを良しとしないとも言った。最上がそういう風に考えているなど、微塵も考えてなかった自分が恥ずかしくなった。

 

「お前はもう少しまわりの意見を聞いた方がいいな。言葉だけをとらえて違うと反発するんじゃなくて、どうしてその言葉が出てきたのかを聞いてみると良い。掘り下げたら納得するかは別としても理解は示せるかもしれん。少なくとも今回の話題は、吉備土達からも諌められていただろう?」

 

「はい。気をつけます。」

 

「お前の用件もこれで良かったか?」

 

「あっ!そうです。」

 

「では私は仕事に戻る。糸賀。行くぞ。」

 

「はっ。」

 

最上は糸賀を連れて操車場を出て行った。

 

「あそこまで懇切丁寧に説明してやる必要はありますか?」

 

糸賀からすれば、家老の最上がいち蒸気鍛治の為に、出向いて説明してやったことに納得がいかない。強いのは見たことがあるからわかるが、ご機嫌をとってやる必要性がわからない。

 

「ああ。あれは感情に素直過ぎるからな。こちらでたまにブレーキを引いておかないと、どうなるかわからん。私はあれに臆病者と詰られたことがある。」

 

「は?」

 

「その時は私も余裕がなくてな。あれを止めることを放棄した。その結果死人が出た。死人が1人で済んだのが救いだったが、下手をすれば皆殺しにされていたかもしれない。あれには中々に扇動者としての才があるらしい、だから私も反省した。あれが扇動し始めてからでは遅い。賛同者が出る前にあれのブレーキをかけねば危険だ。」

 

最上は生駒に懇切丁寧に説明し、武士がするとは思えぬ程に優しく対応していた。本来なら家老である最上が、白だと言えば黒でも白になるのにあの対応である。だから最上も吉備土達と同じように生駒を特別視しているのだと思っていたが、どうやら特別視の方向性が違うらしい。

 

糸賀は吉備土達が生駒の実力を認めていること自体に文句はないが、生駒に主導権を握らせることがあるのは納得していなかった。吉備土の指示で死ぬのは仕方がないが、生駒の指示で死ぬのは嫌だった。生駒は武士ではない。肩を並べて戦うどころか、カバネリという特殊性を活かして前衛を請け負っている事は評価している。糸賀は一度流民となったが、元々余所の駅で武士として過ごしていた。武士としての矜持が、生駒に主導権を握らせるのを良しとしないのだ。蓬莱城が出来て、吉備土を城主とした蓬莱城と、最上を城主とした甲鉄城に分かれ、甲鉄城の担当になったのは僥倖であった。

甲鉄城は吉備土や生駒と合わない者の寄せ集めだ。最上は多少若いものの家老をするほどであるし、元々の家格もある武士らしい武士である。狩方衆は多少特殊であるが、甲鉄城の武士達よりも武士らしい考え方であり、受け入れ易い。瓜生は態度も口も悪いが、でしゃばる事はなく主導権は常に最上であるし、狩方衆を率いているだけあり感情では動かず状況をよく見ている。

 

最上が無名と生駒を上手く使えるように、蓬莱城を編成したため必然的に生駒と合わない者が甲鉄城に集まっている。生駒は人殺しを忌避するが、武士など元々人殺しをするのが仕事なのだ。生駒の綺麗事や、自分の考えが正しいというような主張を、苦手とする者が一定数存在する。そういう者は顕金駅奪還後に入ってきた者であるが、元々の甲鉄城面子は激動の中、半年以上苦楽を共にしたので致し方ないことである。むしろ派閥分けするとして来栖派と道元・最上派の二派閥にしかならないので大きな問題にはならない。道元と最上が上手くやればそれで済むし、これで来栖が菖蒲や吉備土の様なお人好しだったら、目も当てられない状況になっただろうが、来栖自体は割と清濁併せ呑むことが出来るので対立することもない。




ホモ君はどいつ(生駒)もこいつ(流民上がりの武士)も面倒くせぇなって思ってます。流民上がりの武士達の意見が一般的なのはわかってますが、カバネリの戦力が高すぎるので、機嫌をとるならカバネリです。

生駒は小説で見る限り、ツラヌキ筒がまだまだ完成してない原作2年前ですら、マジキチカバネ殺すマンですが、お前初音ちゃんと住んでた駅が襲われなかったら、今でも一生懸命農業しながら初音ちゃん養ってたやろって思います。

やはり覚悟を決めるには劇的な状況か時間が必要よねって話。


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【小話】雪

「最上様!ゆきぃー!」

 

寝起きの最上の部屋に小夜が飛び込んで来た。今年初の降雪である。朝から冷えるとは思っていたが、深夜から朝にかけて雪が降ったようでそれなりに積もっている。顕金駅にいた時も、甲鉄城にいた時も雪などいくらでも見たというのに、いつも大人しい小夜がはしゃいでいる。

 

(はて、東山道や北陸道を移動してた時小夜ははしゃいでいただろうか。)

 

「小夜。朝餉前にはしゃぐものではありません。さあ準備しますよ。」

 

最上が寝起きで記憶を掘り返していると、鯉が小夜を連れて下がって行った。

 

(雪…。…っ⁉︎雪かき‼︎拙い。手が足りんな。各所で人手が足りんから、何処も作業効率が下がる。何より城だ。以前は下侍が一生懸命やってたが、以前より武士も極端に少ない。役人も投入せねば足りないか?)

 

かつての顕金駅では、城の雪かきは下侍の仕事であった。屋敷は使用人にやらせていたし、城は下侍がやっていたので、最上に雪かきの経験はなかった。

 

最上が、朝餉を済ませて慌ただしく城へと行くと、武士達が既に雪かきを始めており、結構広い範囲が既に終わっている。雪かきをしている武士達を見ている最上に気がついた服部が近寄ってくる。

 

「最上様。主要部分しか手が回りませんがよろしいですか?」

 

「それは構わないが、早いな。」

 

「まあ毎年やってますから慣れたものですよ。最上様は通常業務で大丈夫ですよ。」

 

「む。手伝わんで良いのか?」

 

「慣れてない人が1人増えても変わりませんよ。」

 

服部がからからと笑う。

最上にはその分書類仕事をやってもらった方がいいし、実際のところ雪かきをやったこともない最上がいても微々たるものである。

 

今の顕金駅で雪かきをした事のない人間はかなり少数派で、甲鉄城に乗っていた面子に限れば菖蒲と最上くらいである。

 

結局最上も道元も通常業務をしており、服部に確認したが城下も放っておけば民人達でやるから、各所の作業が遅れることだけ承知してくれれば良いとのことであった。

 

武士達の屋敷周辺も八代の武士や巡回の奉行所の者達が必要なところだけサクッと片付けていた。

 

「あの感じからすると、最上様も一応雪かきする気でいたんだな。」

 

「家老が雪かき。…ないな。」

 

「というかあの人やったことあるのかね?」

 

「上侍だぞ。ないだろ。」

 

「それでもやる気で来るあたり偉いよな。」

 

「甲鉄城に乗ってたのが上侍ばっかりだったら、まだ終わってなさそうだな。」

 

「そもそも道具の場所も知らんだろ。」

 

「下侍だったことが役に立つの初めてじゃないか?」

 

「おっ。そうだな。冬の間は大活躍というわけだな。」

 

武士達は道具を片付けながら笑い合う。

武士達からすれば、かつては上侍達が城に来る前に、城の雪かきを終えていなければ何を言われるかわかったものではなかったので、早く来て雪かきをするのが当然だったのだ。上侍の屋敷の辺りも同様であったが、今回は朝の段階では手が回らなかった。

道元は当然の様に遅刻してきたし、むしろ最上がちょっと早く来たことに驚いたくらいである。

 

最上が家に帰ると綺麗な雪だるまが一つと、泥に塗れた雪だるまが一つ若干溶けた状態で庭に鎮座していた。

日中は天気が良く、雪も降らなかったため2個目は溶け始めた雪で泥塗れになったのだろう。

火鉢にあたりながら、鯉が持って来た食事を食べふと気になったのが朝の小夜である。

 

「朝は随分小夜がはしゃいでいたがどうしたんだ?雪なんて甲鉄城でも飽きるほど見たと思うが。」

 

「そりゃそうでしょう。甲鉄城にいた時は雪遊びなんてできませんし、寒いし滑るし良いことなんて一つもありませんでしたからね。」

 

「寒いのも滑るのも同じでは?」

 

「そうですけど、閉鎖空間にいて大人しくしていなきゃならないだけでも気が滅入るのに、寒かったり、床が滑るようでは余計元気もなくなりますよ。ここなら雪遊びしても誰の迷惑にもなりませんし、寒くなったら火鉢や掘り炬燵がありますからね。」

 

「あんなにはしゃいでるのは初めて見た気がする。」

 

「最近少しずつ小夜も明るくなってきたってことでしょう。良いことです。甲鉄城で大人しくしてたのが年相応じゃないんですよ。」

 

「ふむ。確かに。碌に喋らなかったな。」

 

「最近は結構喋るようになってきましたよ。」

 

「それは良いことだな。」

 

「そういえば、今日は早くに出ましたけれど、結局雪かきはなさったんですか?」

 

「いや。私がついた頃には殆ど終わってたし、普通に仕事しててくれと言われた。」

 

「そもそも雪かきしたことありますか?」

 

「…ない。」

 

「では今後も今日と同じように奉行所の方々に頼むといたしましょう。」

 

「む。…やり方がわかれば出来るぞ。…たぶん。」

 

「慣れない人がやるより、慣れた人がやった方が早いですよ。それに八代の武士もまわってくれてましたし大丈夫です。」

 

「む。」

 

面倒な雪かきをやらなくていいと言っているのに、最上は少々不満そうであった。最上にとって特別やりたい作業でもないが、"出来ないでしょう?出来る人に任せましょうね。"と言われるのは面白くないのである。若干拗ねた最上を見て、鯉は意外と子供っぽいところがあるんだなと思った。

 

この冬は結局、最上が雪かきをすることはなかった。奉行所の武士や八代の武士が武士達の居住区の雪かきをして回ったからである。雪かき等で遅れる事務作業を道元と最上が処理し、武士達が雪かきをする適材適所である。

 




家庭用の手押しサイズの除雪機くらいなら作れそうなあの世界。
まだクソ暑い日があるこの時期に降雪話を書いてて変な感じです。


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【小話】最上

服部に誘われて、最上は雅客の屋敷に来ていた。雅客の屋敷には樵人と歩荷が来ており、囲炉裏を囲んでいる。

 

「で?態々呼びつけて何が聞きたい?」

 

「いや。普通に交流を深めようってだけなんですが。警戒しすぎでは?」

 

「お前ら私事で誘ってきたの義原駅でくらいだろうが。そもそも私事でつるむほど仲良くもないだろ。」

 

「えっ⁉︎酷い!」

 

「まあとりあえずお茶でもどうぞ。」

 

服部がささっと人数分の茶を持って戻ってくる。

 

「そういえば、最上様ってなんだかんだ愚痴をいう割に菖蒲様に甘いですよね。」

 

「堅将様の御息女だからな。」

 

「…主ではなく?」

 

まさか主と認めていないのかと武士達の目線が集まる。

 

「主は主だが、…なんといえばいいかな。…例えば来栖に子供ができて来栖の代わりに仕事をこなすようになったら、お前らは来栖に求めてたことをそのままそっくり子供に求めるか?どうせ甘やかすだろ?」

 

「そうかもしれませんけど、ちょっと違う気がします。年齢的に俺達にとっても子供世代になっちゃいますし…。」

 

「手近な例えがそれしかない。元々お前達は、菖蒲様の護衛を命じられた来栖の配下だから菖蒲様第一だっただろう?私は堅将様がそうだ。その御息女だからどうにもな。まあ私より歳は上だが…。菖蒲様は堅将様の宝だ。堅将様をお守りすることは叶わなかったからこそ、堅将様の為にも菖蒲様のことをお守りしたい。…物理的には来栖がいれば充分だから、それ以外で尽くしたいだけだ。御心を守るのもそのためだな。道元様ともその点は合意しているから問題ないしな。」

 

「道元様からしたら可愛い姪ですからね。」

 

「それに得難い心の清らかさだからな。態々汚すこともあるまいよ。甲鉄城では閉鎖空間故に信頼できる城主が必要だった。絶対に自分達は見捨てられないって信頼してただろ。信頼はあるに越したことはない。」

 

「それはそうですね。」

 

「信頼がなかったら、いつ八代みたいに内部崩壊しててもおかしくなかった。これからとてそうだ。いつか非道なことが必要になれば、私か道元様がやれば良い。隠し通すのが基本だが、隠し通せぬならやったものの暴走として切り捨てれば良い。どちらかが消えてもどちらかが残ればどうとでもなる。」

 

「いやそれはどうなんですか?」

 

「菖蒲様が悲しみますよ。」

 

「必要なことならやるとも。100人助けるために10人を犠牲にしなければならないとして、菖蒲様は110人助けようとする。八代の件で実証されただろ?顕金駅のためなら八代など捨て置けばよかったんだ。結果として石炭を楽に手に入れられるようにはなったが、あの段階でせずともよかった話だ。甲鉄城ではそれでもよかったが、もう甲鉄城のように抱え切れる範囲ではない。駅規模で損害が出るのは無理だ。民人も流民が大半だから甲鉄城の時ほどの無茶は出来ない。次があったとして、方向修正すら無理な時は私か道元様が基点の人物を消す。その後問題があれば、実行した我々のどちらかを来栖辺りが誅すればいい。」

 

「だからって道元様や最上様を切り捨てるなんて…。」

 

「バレなければいいんだ。1人消そうが、10人消そうが公にさえならなければ問題ない。消えたことが公になっても我々がやったとバレなければ良い。それを失敗したときには我々が消えるだけだが、そう簡単に尻尾は掴ませんよ。」

 

「さらっとすごいこと言った…。」

 

武士達は引いた。

 

「ここで話した意味はわかるな?」

 

「ひえっ。」

 

「何かに気がついても口を閉じておくだけの簡単な仕事だ。」

 

「あー!やめやめ!そういう話したいんじゃないんですよ!」

 

雅客が大きい声を上げて話題を中断させたため、最上は不満気な表情を雅客に向ける。

 

「そもそも振ってきたのはお前らだろう。」

 

「こんな話題に曲がるなんて思いませんでしたけど⁉︎」

 

「そうか。」

 

「なんかこう。もっと日常的な話しましょう。」

 

「日常…大体仕事してるからなぁ。」

 

「ふぐっ!…きゅ…休日何してますか?」

 

未だ管理職の仕事を習得しきれていない武士達のせいで、道元と最上の負担が未だ多いため大半は仕事をしている。雅客は、個人的に下緒から最上の休日の話は聞いたことがあったが、少しは変わっただろうかと休日の話を聞くことにした。

 

「んー。疾風に乗るか鍛錬か読書。」

 

全く変わっていなかった。業務の負担が多少マシになったくらいで、早々変わるものでもないのである。

 

「どんな本読むんです?」

 

「ざっくりいえば算学関係と医学関係が多いな。」

 

「そういえば、なんで医学勉強しようと思ったんです?」

 

「効率よく人を殺したり、死なせない拷問方法を知るためだな。」

 

「あー!またそういう話!」

 

「雅客。うるさい。」

 

話を振ると真っ黒な方向にカッ飛んでいくので雅客は困っていた。真っ黒なところを見せてくるようになったのは、信用を得られたようで嬉しいが、私事で真っ黒な話を聞きたいわけではないのだ。

 

「そういえばこの間水飴作ったんですよね?」

 

「えっ?水飴?」

 

「その話題面白いか?」

 

「是非!」

 

服部から振られた話題に最上は微妙な顔をするが、流石に水飴から真っ黒な話題にはいかないだろうと雅客は食いついた。

 

ひと通り水飴作成の話を聞いて雅客は口を開いた。

 

「意外と子供らと上手くやってるんですね。」

 

「ん?そうか?休日くらいしかまともに会わんからよくわからん。甲鉄城にいたときの方が顔を見てた気がするな。」

 

「一緒に水飴作ったりしてる時点で仲良いと思いますよ。一之進とかは養子にするんですか?」

 

「いや?一之進と二之介は何年かしたら間違いなくうちから出す。」

 

「えっ⁉︎どういうことですか⁉︎」

 

「どうもこうもないが?一之進の父親は上侍だぞ。まあ下の方ではあったけどな。一之進の実家は押さえてあるから二之介が5つくらいになったら、使用人をつけて実家に戻す。」

 

「実家押さえてるんですか⁉︎」

 

「お前達に家の采配をしたのは私だぞ?一之進の父親も一応把握してたから押さえておいた。小太郎と小夜は特に考えてないが本人次第だな。」

 

「二之介が5つってことは一之進は10じゃないですか。可哀想では?」

 

「何故?使用人はつけるし、金銭的援助もするが?うちにいたって実家に戻ったってさして変わらんだろ?」

 

「寂しいでしょ。」

 

「使用人を住み込みにすれば問題ないだろ?」

 

「駄目だこの人。」

 

心底分からないようで、不思議そうに首を傾げる最上に雅客達は少し困ってしまった。

 

「剣術の稽古はお前らに任せるし、お前らが構ってやれば良いのでは?勿論学問の書物は私が貸すし、今と特に生活は変わらない。10にもなれば一之進もしっかりするだろう。小太郎が甲鉄城に乗ってた時は5つだっただろう。二之介も自分のことはある程度できる年齢だ。なんの問題もない。」

 

「そういう問題じゃないと思うんですが。」

 

「何かあったときに頼る先などいくらでもあるし、上侍と下侍に別れたあのあたりで、来栖や倉之助なんて7つとかだったわけだろう。金銭的にも後楯にも困らないのだから、充分恵まれてると思うんだがな。そもそも私が面倒を見る筋合いもないといえばないんだ。」

 

「…それはそう。」

 

「よし。この話題やめよう。埒が開かない。」

 

今はなんだかんだと最上が面倒を見ているからと思っていたが、確かに最上が面倒を見てやる義理はないのだ。甲鉄城では鰍が面倒を見ていたが、鰍も炊き出しをしていた女衆も、再興のために子供達をみることが出来ないからと最上が引き取ったに過ぎない。

 

「最上様。今欲しいものってなんですか?」

 

「金と役人。」

 

「違う!個人的に!」

 

「うーん。馬。」

 

「疾風はまだ若くないですか?浮気ですか?」

 

「いや。疾風の交配相手の馬が欲しい。疾風は優秀だからな。血統を残したい。できれば相手の雌もそれなりの馬だと嬉しいが。」

 

「あぁ。甲鉄城に乗ってた馬以外は、野生化し始めてたやつしかいませんもんね。来栖の馬も雄だし。」

 

「しかも生き残ったのは馬銜を噛まされてなかったやつだろう。有事に使われなかった馬だからなぁ。」

 

「野生化し始めてたのに良いのはいなかったんですか?」

 

「いまいちだな。とはいえ余所から優秀な馬を買うくらいなら、他の事に使うから今いるのから選ぶさ。」

 

「他にはなんかないんです?もっと気軽な感じの物とか、あれ食べたいとか。」

 

「…うーん。…特に思いつかないんだが。」

 

「好物とか無いんですか?」

 

「だし巻き卵。うちに鶏がいるからたまに穴子さんが作ってくれる。」

 

「へぇ。だし巻き卵。良いですね。酒のつまみにしたいです。」

 

「酒は飲めんから知らないが。」

 

「他に欲しいものとかは?」

 

「うぅん。…特に無いなぁ。もう生駒に頼んでるのもあるし、現時点は無いな。」

 

「生駒に?何を頼んでるんです?」

 

「手甲や脛当てに入れる金属板。カバネ心臓の金属被膜で、板というか網というかってやつだな。軽さ重視でカバネの刀くらいは受けられるやつが欲しくてな。態々受けたりはしないが、回避し損ねても怪我せずに済むだろう。勿論作業の賃金は私費で払うぞ。」

 

「そんなの経費では?」

 

「武士達に配備するなら経費だが、あくまで私物だからな。…ふぁ。…欲しいものあったぞ。睡眠時間。」

 

「付き合わせてすみませんでした。」

 

「それは良いが、お前らはなんか欲しいものとかないのか?」

 

「「嫁。」」

 

「…。頑張れ。応援してるぞ。よし解散。」

 

最上は雅客達に呆れた目線を向けた後、服部と共に帰路についた。

 

「うーん。最上様の欲しいもの。馬かぁ…。」

 

「しかも疾風の交配相手。」

 

「もうそんなの疾風次第じゃん⁉︎例え名馬がいても疾風がやる気になるかどうかじゃん。」

 

雅客達は顕金駅から脱出した時から、なんだかんだと世話になりっぱなしの最上になにか礼がしたいのだ。最年少の武士に汚れ役から金稼ぎまでさせて、頼りっぱなしなので何かないかと考えた。七夕の時の短冊になんて書いたかも分からなかったが、まさかの来栖が内容を知っていた。しかし短冊の内容は菖蒲の願いが叶うようにである。

 

本人に礼がしたいと言えば、間違いなく"さっさと仕事が十全にできるようになれ"と言われるに決まっている。なにかわかりやすい物とかをあげたいのだが、欲しいものが馬。しかも疾風の交配相手ときた。残念ながら出雲には馬の名産地は無いし、疾風が気に入らなければ意味がない。

 

「どうしようかね。」

 

「仕事で返すってのもなぁ。そりゃ出来るにこした事はないけど、それって別に最上様個人へのものじゃないしな。」

 

「馬は無理。仕事も違うとなるとな。道元様ならなんか知ってそうだけど、道元様に聞くのもなぁ。」

 

「とりあえず物が決まるまでは仕事を頑張るか。」

 

「だなぁ。」

 

この後ひょんなことから、甘味が好きらしいと蒸気鍛治から情報を得ることになるのだが余談である。




菖蒲様も八代の件はやらかしたと自覚してます。甲鉄城では自分の采配が基本的に受け入れられ、お金の問題は最上が片付けてくれていたので、多数の民人の生活が激変するようなことは今までなかったので、八代で自分の采配が原因で多くの人の生活が変わってしまうことを学習しました。
道元も最上も普通に人を殺せる人達であり、堅将のように非道な決断を出来るとわかっているので、人が消えたら程度によっては気が付きます。とうとうやらせてしまったとならない為にも、菖蒲様は頑張りましょう。


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【小話】カバネ

雅客は奉行所の書類進達のついでに、ふと疑問に思ったことを最上に聞いてみることにした。

 

「カバネに噛まれたら、一か八かカバネリになるか自決かしかないんですよね。」

 

「なんだ今更。」

 

最上は、先日生駒達は人間に戻れるかを聞いてきた服部のことを思い出して呆れた目線を雅客に向ける。

 

「いや。最上様や来栖や瓜生は生身で戦ってるわけじゃないですか。」

 

「お前らも生身だしそこに変わりはないだろ。まあ前衛の方が感染の可能性が高いのは確かだが。」

 

「万が一感染したらカバネリになるつもりってありますか?」

 

「ない。成功するかもわからない。いつ正気を失うかもわからない。戻れるかもわからない。そんな賭けに出る気はない。」

 

「でも生駒も無名も今のところ問題ないじゃないですか。」

 

「今はな。というか無名殿は子供。生駒も戦闘とは無縁の状態からあの強さだぞ。無名殿に才能があるのは確かだが、私や来栖がカバネになったり、カバネリになってから暴走したら殺せるのか?どの程度身体能力が底上げされるか分からんのだぞ。下手をすれば私ですら無名殿より強くなる可能性も無くはない。来栖は考えたくないな。」

 

「それは…そうですが。」

 

最上がカバネリとなり、暴走した場合来栖なら殺せる可能性は充分にあるし、無名も追加すれば間違いなく殺せるだろう。しかし来栖は別である。ただでさえカバネリと同等の戦闘力を有する来栖は絶対にカバネリにしてはならない。最上にあっても普段外に出る時は甲鉄城であり、無名も来栖もいないのだ。基本的に賭けに出るわけにはいかない。

 

「あともう一つ手段がある。かなり限定的だが。」

 

「なんです?」

 

「噛まれたら場所が手足の末端なら、瞬時に切断することだ。」

 

「切断…。」

 

「血液は60秒で一巡すると言われている。噛まれた瞬間瞬時に切断できれば可能性はあるな。まあ私も来栖も金属被膜刀でカバネを切ってる状態だと、刀にウイルスがついてるから刀では無理だがな。」

 

「それは手段の一つに入らないのでは?我々が刀を携帯しても瞬時に骨ごと切断できるとは思えません。」

 

「だから限定的だと言っただろ。まあ切り離せればいい訳だから、自決袋で爆破して千切るというのもありだが。」

 

「切断もそうですが、失血死しませんか?」

 

「直ぐに応急処置できなければ死ぬな。それにウイルスが回る前に切り離せたか分からんから、カバネリのどちらかが感知の為に見張りにつかねばならん。ダメだった場合にカバネになりきる前に死なねばならない。出来れば無名殿が良い。生駒はカバネリになることに賭けたがりそうだ。」

 

「自決一択よりは望みがありますかね。」

 

「ごく僅かにってくらいだがな。まあないのと同じだ。あてにするな。」

 

末端が感染した場合、理屈上は切断してしまえばカバネになることを回避出来る。しかし切断の機会を逸すれば感染を許してしまうし、切断後の処置を誤れば失血死が待っている。楓がいれば処置は間に合う可能性があるが、見習いの仁助や最上では生存率はかなり低いといえる。

蓬莱城では仁助、甲鉄城では最上が医者代わりであるが、最上がそれをした場合甲鉄城に処置を出来る人間はいない。刀による切断であればある程度はなんとか出来る可能性はあるが、自決袋によりちぎり取った場合は絶望的といえる。

 

「やっぱり生駒はカバネリに賭けますかね。」

 

「そりゃそうだろう。だがカバネウイルスは必ずしもすぐに発症するわけじゃない。ゆっくり時間をかけて発症する場合もある。発症に合わせて絞扼しないと、普通に絞殺することになるぞ。その場合は絞殺死体がカバネになるな。発症に合わせたとしてカバネリになるかも分からんが。」

 

「絞殺…。」

 

「それに3年前男鹿殿を殺した篠田将吾の件もある。」

 

「将吾の件…ですか?」

 

「あれは大鍛錬場の保守施設でカバネに噛まれた後、首吊り状態だった筈だ。篠田将吾はカバネリになれたか?」

 

「…なったとは聞いてないです。」

 

「首吊り状態から下さねばどうにもできなかった筈だから、下ろしはしたんだろう。だがカバネになったともカバネリになったとも聞いていない。ということは絞扼し続ければ、カバネにもカバネリにもならずに死ぬということだな。どの段階で止めるとカバネリになるのだろうな。」

 

「分かりません。」

 

「そうだ。明確な基準がない。下手をすればカバネにもカバネリにもならず、仲間を絞殺するだけということだ。カバネリの実例がいるからと余計な希望を抱くな。そして抱かせるな。感染したら自決しろ。自決させろ。私でも来栖でもな。」

 

「…はい。」

 

「身近に実例がいて、海門でも実例がいた。だからといって安易にカバネリになることを手段に入れるべきじゃない。カバネリになる条件を調べるための実験としてなら反対はせんがな。失敗すれば仲間を見す見すカバネにするか、自らの手で絞殺するかだ。その覚悟を持って実験するなら止めんよ。ただし、それを視野に入れるなら全員に意思確認をしておけ。実験台になっても良いという者だけなら試しても良いぞ。」

 

「実験台って…。」

 

「実験台だろう?検証の済んでない手段だ。一か八かなど実験以外の何ものでもないよ。覚悟がないならやめておけ。お前達にそういうのはむいてない。話は終わりだ。今の話は武士達で共有しておけ。生駒にのせられて安易に試した結果、仲間を絞殺した上カバネになりました。なんて報告はごめんなのでな。」

 

「わかりました。」

 

雅客は意気消沈したように項垂れて帰って行った。

 

(最近の余裕具合から自決袋の携帯を怠る馬鹿者が出ないように、指示を再徹底する必要があるかな?)

 

最上は道元に相談の上、後日自決袋の携帯の徹底の指示を武士達に出すことになった。




小説の暁を読んで、マジで将吾君どうなったか出てこないのでそこが知りたい。生駒のカバネリのなり方的には変色が引いたら、絞扼をやめれば良いのかもしれないですけど、引いた後ウイルスが死ぬまで絞扼し続ければ人のまま死ぬのかなって思いました。将吾君の死体は下ろしてる筈ですが、カバネになってたら大騒ぎだと思うんです。心臓を撃ち抜いてから下ろしたとは思えないんですよね。何発もぶち抜いてから下ろせる高さでも無さそうですし、熔鉱炉も距離があるからそのままドボンもないでしょうし、そういう描写もないので絞扼し続けた場合カバネにもならずに死ぬということで解釈しました。


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【小話】友達

今日は朝から駿城が一城やってきており、現在城主と護衛が菖蒲達と謁見中である。そんな中武士達の屋敷周辺を余所の武士が1人うろうろとしていた。

それなりに身なりが良く、パッと見では倉之助と似た雰囲気を感じる武士である。表札を見て歩いている様であるが、何が目的かわからない為奉行所の武士は声をかけることにした。

 

「もし。こちらで何をしておられる?ここは居住区なのですが。」

 

「ああ。すみません。知人を訪ねてきたのです。生きているかはわからないんですが、生きているなら顔くらいは見ておきたいと思いまして。」

 

ここは元上侍の屋敷である。元々の住人など最上しかいないが、最上は現在謁見に立ち会っている。

 

「貴方のお名前と知人の名を伺っても?」

 

「私は備前の国、下津井駅の山本晶(やまもとあきら)と申します。知人の名は堀川家の最上です。昨年元服したはずです。」

 

「最上様の知人の方ですか。」

 

「最上様?」

 

山本からすれば、元服前の最上しか知らず、生きているかも知らなかったので家老をしているなど知っているわけがないのだ。

 

「最上様なら今そちらの城主の方の謁見に立ち会われておりますが…。」

 

「…?最上が?何故?」

 

「家老ですので。」

 

「家老⁉︎えっ⁉︎昨年元服したばかりでは⁉︎」

 

「ええ。色々ありまして…。最上様にご用事であれば城になりますな。」

 

「えっ⁉︎流石に城は!あの。では私が来たことだけ伝えていただけますか?」

 

「よろしいので?」

 

「謁見にもついて行けぬ立場ですので。」

 

言われてみればその通りであるが、謁見について行けぬ立場の山本がなぜ最上と知人となるのか。そこを山本に聞くのも悪いかと思い、武士の1人が城下町まで付き添い、他の武士が城へと報告に向かった。

 

その日の夕刻に最上は操車場へと向かった。下津井の駿城の入れられた車庫付近できょろきょろとしていると、山本が先に最上を見つけたため、手を挙げて声をかけた。

 

「最上!」

 

操車場に割と大きな声が響き、最上の呼び捨てに蒸気鍛治からの視線が集中する。視線を向けられてから、最上が家老だという話を思い出した山本は背中に汗が伝う。

最上は山本に気がつくと、小走りで駆け寄ってきて山本の前で止まった。

 

「晶さん。私の家を訪ねに住居区まで来られたとか。」

 

「最上。ちょっとまって。…堀川様って呼んだ方が良い?ですか?いやその。住居区で武士から家老してるって聞いたけど本当?ですか?」

 

最上が普通に会話を始めた為、慌てて山本は確認をとる。なにせ相手は出雲の国最大の駅である顕金駅の家老である。顕金駅の人間は最上がさん付けで呼ぶ人間がどんな人物か面白がって見ているが、下津井の城主は道元の隣に座っていた武士を部下が呼び捨てたことに冷や汗をかいて見ている。

 

「仕事は終えてから来ましたから、今まで通りで構いません。今は私事ですから。家老は本当ですね。」

 

「あっ家老は本当なんだ。顕金駅が再興したって聞いたから、生きてるかなって思って会いに行ったんだよ。そしたら家老だなんて言われて腰抜かすかと思った。」

 

「ここで話すのもあれですし、食事でも行きましょう。奢りますよ。手は空いていますか?」

 

「家老の奢り…。怖いんだけど。」

 

「いいじゃないですか。ほら行きますよ。」

 

会話を聞いていた城主が、どうぞどうぞと山本を差し出したので、最上は山本の背中を押して操車場から出て行った。

 

最上は山本を連れて食事処へと向かったが、最上が連れ歩いている余所者を民人はちらちらと窺っている。

 

最上は山本と金剛郭での待機中に仲良くなった。金剛郭の年賀の挨拶はとにかく待機時間が長い。道元の屋敷で世話になっていたが、元服前であり正式な立場で来ていたわけではなかったので、暇を持て余して町に出た時に仲良くなったのだ。山本も年賀の挨拶へと向かう領主に着いて金剛郭に来られる立場ではあったが、その中でも下の下であった。自分より明らかに年下が、お上りさんよろしくきょろきょろとしながら歩いていたので、親切心から声をかけたのが始まりである。一度目に仲良くなり、二度目も一緒に金剛郭を彷徨く程度には仲良くしていた。

 

食事処では個室に通され、適当に注文を済ませる。

 

「それにしても最上が家老かぁ。大出世だな。」

 

「致し方なくですよ。随分と死にましたから。」

 

山本は酒を、最上は茶を啜りながら会話をする。

 

「金剛郭で初めて見た時、完全にお上りさんだったのになぁ。」

 

「晶さんだってあんまり変わらなかったでしょうに。」

 

「背はちっちゃいままだな。」

 

「縮めて差し上げましょうか?」

 

「怖いこと言う。」

 

「今やカバネも殺せますから、晶さんを縮めることなど、造作もありませんね。」

 

「ああ。金属被膜刀ってやつ?というか前線に出てるのかよ。家老なのに。」

 

最上が傍に置いた刀の鞘をこんこんと叩きながら言うと、山本は呆れた目線を向けてくる。

 

「致し方なくですよ。随分と死にましたから。」

 

「その返し便利に使うな。まあ探ったりするつもりで来たわけじゃないし、なんでも良いけどさ。本当に無事で良かったよ。」

 

「探るつもりがないのはわかってますよ。晶さん馬鹿ですから。」

 

「おいっ!」

 

最上と山本は食事と会話を楽しんだが、山本は酒を飲み過ぎて酔い潰れたため、最上が背負って操車場まで連れて行った。城主が真っ青な顔で謝罪したが、私事なのでと最上は怒ることはなかった。どうせ城主にこっ酷く怒られるのだろうなとわかっていて、自分の屋敷ではなく駿城へと送り届けた辺り最上も悪い奴である。

自分の屋敷に連れて行き、伝令でも出して家老の自分が自宅に誘ったと説明すれば、城主も怒れないはずであるがそれはそれである。

 

「最上様にご友人っていたんですね。」

 

翌日の最上の執務室で服部が吐いた言葉がこれである。

 

「失礼だな。顕金駅にだっていたぞ。全員墓の下だが。」

 

「いや、それはすみません。というか山本殿とはどちらで?」

 

「金剛郭だ。」

 

「じゃあ山本殿も結構偉いんですか?」

 

「まさか。金剛郭に連れてこられる程度ではあるが下の下だよ。」

 

「山本殿ってどんな人ですか?」

 

「お馬鹿な犬。」

 

「ご友人を言い表す言葉じゃないですよ。それ。」

 

「だが誰彼構わず懐く飼い犬みたいな感じだからな。馬鹿なのは本当だ。」

 

「しかし意外です。馬鹿より賢い人の方が友人にいそうですけど。」

 

「顕金駅の友人に頭の悪い奴はいなかったな。多少馬鹿馬鹿しいことはしていたようだが、馬鹿ではない。余所の駅なら馬鹿の方が気兼ねなく付き合える。余所の駅の賢らしい友人など疑ってかからなければならないじゃないか。あれはそういう範疇にないよ。」

 

最上は金剛郭で初めて山本に声をかけられた時に警戒していたが、警戒するのも馬鹿らしくなり仲良くし始めたのだ。山本は馬鹿正直なので疑う必要もなく、気楽に付き合える。

 

その頃山本は城主にこっ酷く叱られ、車庫で正座をさせられていた。

もう冬であるので、寒さに震えて正座をしていると、蒸気鍛治がぱさりと厚手の布をかけてくれた。

 

「かっかたじけない!」

 

「最上さんのご友人ですよね。昨日背負われてたの見ました。」

 

帰りがけに最上と山本の姿を見た鰍がくすくすと笑いながら言うと、山本は恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしながら俯いた。

 

昼時に最上が様子を見にくると、山本は朝からずっと正座をさせられていたが、蒸気鍛治らがなにかと置いていくので、色々と物の置かれる地蔵の様になっていた。

 

「随分とお供物をされてますね。」

 

「にやにやすんな。」

 

「元気そうで何よりです。袖の梅を持ってきたんですがいらなかったですかね。」

 

「下さい。」

 

「素直でよろしい。」

 

最上は袂から白湯の入った竹筒と、酔い覚ましの袖の梅を取り出して、山本の前に供え手を合わせた。

 

「お供えするなよ。」

 

「おや気を利かせて白湯を入れてきたのですが不要でしたか?」

 

「いや。要ります。要ります。」

 

さっさと受け取って、袖の梅を口に放り込んで白湯を飲む。

 

(ここで私が一服盛る利点はないが、よくもまあ、なんの疑いもなく薬を全量飲むなぁ。)

 

山本は馬鹿なので、最上を疑う気持ちが全然ないのだ。

 

「いやぁ。あったまる。」

 

「それは何より。それでは仕事がありますので。」

 

「あっ!ちょっとまってて!」

 

足が痺れたのか、よたよたしながら立ち上がり駿城へと入っていく。城主の怒鳴り声が聞こえるが、山本は謝罪の声を上げながら転がるように最上の前に戻ってきた。

 

「はい。これ。昨日渡そうと思ってたのにすっかり忘れてた。居住区に行った時は持ってたんだけどな。」

 

山本は小さな箱を最上に差し出した。

 

「なんです。これ?」

 

「和三盆の干菓子。混ぜ物なしの一級品だぞ。好きだったろ。それ。」

 

「…好きです。ありがとうございます。」

 

以前金剛郭で会った時に、一粒貰った和三盆で喜んだのを覚えていたらしい。この先カバネの掃討を進めればそのうち讃岐まで行くこともあるだろう。交易の商品にも入るであろう和三盆の干菓子であるが、備前の山本からまた貰うとは思わなかった。山本は中々に高い干菓子を、生きているかも分からなかった最上に買ってきたのだ。

 

「袖の梅では釣り合いが取れませんね。」

 

「良いんだよ。手土産なんだから。沢山食べて大きくなれっいったい!足踏むな!」

 

折角しおらしくしていたと言うのに、余計なことを言うので当然である。

 

「ありがとうございます。大切に食べますね。それでは。」

 

「こっちも袖の梅助かった。ありがとう!」

 

操車場から出て行くために背を向けた最上に山本は快活に礼を言った。

 

(生きてるかもわからなかった人間に和三盆か。馬鹿だなぁ。)

 

最上は機嫌良く城へと戻って行く。とはいえ最上は家老であるので、次に会う時に山本が馬鹿のままか、仕込まれてくるかを待つことにする。馬鹿のままでいてくれれば、友人のままでいられるだろう。

 

山本は次回会う時も、領主の言葉の裏を理解できぬ馬鹿のままであるが、未来の話であるので最上は知らぬことである。

 

 

下津井駅のいつか

 

「領主様にお前と飲んできて良いって言われたぞ!行こう!今日は私の奢りだ!高い店ではないけどな!」

 

「酒は飲みませんよ。」

(情報取りかな?)

    

(日常の馬鹿話とか、女の子の話)

 

「今日は楽しかったな!また今度食事しよう!」

 

「次回は私が奢りますね。」

(口が軽くなるように酒を勧めたりもせず、めちゃくちゃどうでもいい話しか振って来なかったな。やっぱり馬鹿のままなんだなぁ。)

 




領主は一応なんか情報引き出してこいよってつもりで送り出してますが、山本に期待しません。馬鹿なので下手に仕込むと縁を切られるから、だったら友人関係続けさせとけばいいか。なんか情報とってきたら褒めてやろう。くらいの心持ち。
むしろすげぇのが友達だなって引いてます。

ホモ君からすれば、金剛郭に連れてこられた程度で、まだ自分に取り入る必要はない頃に仲良くなったやつなので、お馬鹿なままでいてねって状態。

武士達「えっ⁉︎こないだ好きなもの聞いた時和三盆とか言ってなかったじゃん!(ギリィ)」

山本君は余所の駅の子なのでレギュラーにはなりません。

書き始めた頃はとりあえずアニメ本編完走してからアップすることしか考えておらず、こんなに続くとは夢にも思ってませんでした。
再興まで書く予定がなかったのに続けたため、ホモ君がめちゃくちゃ頑張ることになってしまってますw
自分でもゴールが行方不明になってますので色々とご容赦いただければと思います。

更新スピードが遅くなりますことをお知らせ致します。流石にテンションが落ち着いてきたのと、ネタ切れ気味のためです。日常話が多くカバネリっぽさもあんまりありませんし、かといって早々急展開は難しいのでのんびりお待ちくださればと思います。


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【小話】年末年始

煤払いを間近に控えた頃、蓬莱城は近くの駅に煤竹を売りにまわっていた。駅外で採ったものなので、かかっているのは燃料代くらいである。炭や木材、石炭なども積んでいるので煤竹はおまけである。

 

すっかり年末も間近となった煤払いの日。武士達は屋敷を使用人に任せて、城の煤払いである。それぞれが各所に割り振られ掃除に励む。

本来であれば煤払いの際、全ての障子や畳の張り替えであるが、顕金駅にはそんな余裕がない。

城の来客を通す可能性の高いところのみを張り替えることにした。

古い畳は阿幸地が引き取り、天祐和尚のところや、商家や民家で傷んでいるものと交換するらしい。

武士達の屋敷は後回しである。特に余所からの来客などなく、商家の方が余程余所からの来客があるのだ。

武士の屋敷は道元の屋敷のみ畳が入れ替えられたが、最上の屋敷ですら畳の入れ替えはされなかったので、武士達も全く文句は言わなかったし、元々長屋暮らしだったので特に入れ替えの必要も感じなかった。

 

かつて、煤払いの最中に胴上げをする不思議な催しが城では行われていた。胴上げに巻き込まれたらしい最上は多少警戒していたものの、その気配はないなと警戒を解いた。なにせ当時参加していた者はいないのだから。

煤払いのときに戯れとして行われる胴上げは、女中などに顔の良い武士などが狙われるが、元服前から城をちょろちょろとしていた最上は、男前というわけでもないのについでとばかりに胴上げされて遊ばれていたようだ。

菖蒲がころころと笑いながら、胴上げの話をバラしたせいで、最上は結局武士達に捕まり胴上げされた。来栖と吉備土が張り切ったせいで、天井に激突したのは余談である。

 

煤払いの後には、少しばかりの蕎麦が武士達に振る舞われ、煤払いの翌々日には、餅つきが行われた。体力の有り余った武士達がいるので人手には困らなかった。蕎麦粉やもち米は年末年始に向けて甲鉄城が、行商先で仕入れたものである。

 

「まさか再興した年に蕎麦や餅にありつけるとは思わなかった。」

 

「甲鉄城がちょっと足を伸ばして遠出してたのはこれ目的だったんだな。」

 

「流石に蕎麦ももち米も育ててなかったからなぁ。」

 

道元や最上は再興の年だからこそ、縁起を大切にしてかき集めたのだが、武士達は知らぬことである。

 

さらに年末が近づくと、商人が注連縄としめ飾りを城に献上し、蓬莱城で採ってきた門松用の松を受け取っていく。

城下では簡素ながら歳の市も開かれていた。生活用品が殆どであるが、しめ飾りや羽子板、凧なども売られ賑わいをみせている。

 

金剛郭なき今、年末年始の挨拶の為の金剛郭への訪問もないため、菖蒲はのんびりと城で過ごしていた。以前なら歳暮の贈り物などを持った上侍などが挨拶にくるので、年末はひたすら金剛郭に出向いている堅将の代わりで、にこにことしていなければならなかったが、今年は武士達にそんな余裕もないだろうと禁止にした。道元や最上は出来るだろうが、2人からだけ受け取るのも悪いと思ったのだ。

禁止にした結果、菖蒲はのんびりとした年末を手に入れた。これは来年からもやらなくていいんじゃないかな、などと考えたが、道元、最上、静から怒られそうなので口には出さなかった。

 

大晦日には武士達を呼んで年越しを迎えた。最上は子供達がいる上酒も飲めないし、仁助は楓と過ごすべきと追い出され、その他家庭がある者も同様で、独り身の武士達と菖蒲で酒宴も兼ねた年越しとなった。

菖蒲はがらんとしてしまった城で、年越しをするのは寂しかったので武士達を誘ったのだ。使用人も家庭のある者以外は参加であった。

除夜の鐘を聞き終えた頃解散となり、必要最低限の使用人や武士が留まるのみとなった。

 

 

日も昇り武士達がそれぞれ城へ挨拶へと訪れた。以前の武士達は下侍であったので年始といえば、上侍の屋敷へ年始の挨拶行脚であった。家主もいなければ、ろくな扱いも受けないが、行かなければ後から酷い扱いを受けるため、ひたすら挨拶にまわっていたのだ。今回は菖蒲と道元と最上の屋敷のみ挨拶の対象であったが、道元と最上には事前に来なくて良いと通達された。というのも道元も最上も立場が家老なので、一足先に菖蒲に挨拶した後、菖蒲の側に控えているので一緒に済ませてしまえという理由である。もし挨拶に行ったとしても、道元も最上も屋敷は不在で対応するのは使用人であるし、使用人も甲鉄城の頃からの民人であるので、城で挨拶を済ませてしまえば充分なのである。実際挨拶するわけでもなく、年始帳に記名するための挨拶など無駄とのことであった。

 

「こんな気持ちの軽い年始は初めてだな。」

 

「挨拶回りの苦行がないからな。」

 

「挨拶回りがないということは寝正月か?」

 

「菖蒲様の晴れ着姿美しかったな。」

 

「残念ながら去年は見れなかったもんな。余計にお美しく…あっ凧上がってる。」

 

武士達は城から城下の様子を眺めながらゆっくりと帰路につく。

昨年は他所の駅に嫌な顔をされながら、年末からお邪魔させてもらって過ごした年末年始であった。年末年始分の滞在日数を貰えただけで御の字で、甲鉄城でできる限り年末年始らしさを出そうと四苦八苦した。少量の蕎麦、お屠蘇あたりが精々であったが、羽子板や凧なども手作りして楽しんだ。

三が日を過ぎれば追い立てられるように出発した。

 

「順調に再興してるって気がするな。」

 

「去年の年始は今年を顕金駅で迎えられるとは思ってなかったなぁ。」

 

「だなぁ。」

 

顕金駅が新しい年を迎えた。




江戸時代の年末年始を色々調べてて

胴上げ?何やってんだ?ってなったり、挨拶回り大変だなってなりました。年始帳に名前書くらしいから行かなきゃバレるなこれって思いました。

正月の祝い膳。それは「食積(くいつみ)」(関西では「蓬莱(ほうらい)」)と呼ばれるもので、年神様へのお供えとして飾るだけで食べません。

ほっ蓬莱⁉︎ってなりました。そして見て見ぬふり。


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【小話】剣術

その日訪れた駿城は安芸の国の高田駅のもので、謁見の際城主に連れられた武士である田中が明らかに菖蒲と良い仲になりたいと主張していた。

 

「顕金駅の再興は喜ばしく思います。しかしながら道元様と菖蒲様のみでは政は難しいのではありませんか?失礼は承知ですが、あまり教養高い者たちが多いようには…。」

 

「いいえ。そちらに控える最上も叔父様と並び家老として政に尽力してくれておりますし、何より他の者達も充分に務めております。」

 

「おや。最上殿の名は以前はとんと耳にしたことがありませんでしたが優秀なのですな。しかし少々若すぎるのではありませんか?私は剣術において安芸の国一の侍であり、政にも精通しております。私の叔父も金剛郭に勤めておりましたので、四方川家程ではないにしろそれなりの家格であると自負しております。女性である菖蒲様には、精強で政の行える者が必要ではありませんか?勿論伴侶として。」

 

「お気遣いは嬉しいのですが、まだ再興も始まったばかりですから、伴侶までは手が回りません。」

 

「おや。忙しいからこそ優秀な伴侶を迎えるべきではありませんか?再興もよく進めることが出来ます。」

 

安芸の国からきた男の言い分も間違えてはいない。菖蒲は他の者達もよく務めているとは言ったが、事実政を担える者が足りていないのだ。それに菖蒲の伴侶となる者が武を伴わぬなどは許されない。

 

しかしこの男でなければならない理由もない。菖蒲はどう断ろうかと笑みを浮かべながら思案していると、道元から助け船が出された。

 

「ほう。安芸の国一ですか。それはそれは。では是非、顕金駅一の侍である九智来栖君とお手合わせ願いたいものですな。」

 

「九智と申されましたか?まさかあの出雲の国一とうたわれた九智殿のご子息ですかな?」

 

「そうです。安芸の国一の田中殿であれば問題ありますまい。」

 

「御冗談を。顕金駅一と言えばカバネリとやらと同等と伺いました。流石に人外のカバネリなる者と同等と言われますと、恥ずかしながら私では役不足でしょう。しかしながら九智殿に次ぐ腕前はあると思います。九智殿には是非カバネ討伐に尽力していただき、私が菖蒲様の身の安全を御守りするというのはどうでしょう。」

 

出雲の国中でカバネリの活躍は話題となっており、それと同等であると来栖の噂も出回っているのだ。流したのは道元と最上であるのだが。対して最上は政治面武力面の両方で特に目立ってはいない。政治面では道元の名声を、武力面ではカバネリが実力を見せつけ、カバネリと同等である来栖の噂を流しているからだ。出雲の国の中で最上の立ち位置は道元の配下で、カバネに積極的に立ち向かうイカれた武士の1人でしかない。瓜生と共に運用しており、多数のカバネに単独で挑む等という狂った真似はしていない。

 

「謙虚ですな。では最上君などどうでしょう。現状最上君が来栖君に次ぐ実力者です。最近は政で忙しくしておりますので、安芸の国一の田中殿のお相手となるには不足やも知れませんが。」

 

田中は最上を観察したが到底強そうには見えない。道元が二番手と推すならば、それなりではあるのだろうが来栖の様に精強そうにも見えず、体躯も小柄で迫力も感じない。むしろここまで自分達を案内した吉備土という男の方が余程迫力があった。顕金駅は一度カバネにのまれており、人材不足なのは知れている。役人としてちらほらと目につく武士達も、元々地位がある者達の立ち振る舞いには見えないことから、家格の高い最上を持ち上げているか、余程剣術の腕の伴わない武士ばかりなのだろうと思った。

 

「九智殿に次ぐ実力者ですか。私でお相手になれば良いのですが。」

 

田中は口ではそう言いながら、最初は少々苦戦する振りでもしてやってから、勝利を収めて九智に次ぐ実力者に勝った者として改めて伴侶の座を求めれば良いと考えていた。

 

手合わせは袋竹刀ではなく木刀が手渡された。ここにきて田中は、家格がそれなりにあるであろう最上に木刀で打ち込んでいいものか思案した。下手な怪我をさせるのはまずいのだ。袋竹刀であれば酷い打身ですむような打ち込みでも、木刀では骨折させてしまうからだ。最上は家老として紹介されているので、骨折までさせては些か角が立つ。最上の実力がわからない以上手加減が難しく、勢い余って大怪我などさせられない。

 

「木刀なのですか?袋竹刀で良いかと思うのですが。」

 

「あっ。そうですね。袋竹刀にしましょうか。」

 

最上はきょとんとした後、木刀を袋竹刀に交換し田中にも袋竹刀が手渡された。いまいちピンときていなかった様子から、田中はこれは本当に接待剣術しかしていないのではないだろうか。あまりこてんぱんにしてしまうといけないから気をつけようと思っていた。手合わせが始まるまでは。

 

手合わせが始まり一瞬で小手を打たれ、田中は袋竹刀を取り落とした。

 

「田中殿。あまり手を抜かれると困ります。気を遣っていただかなくて結構ですよ。」

 

最上は困った様に眉を若干下げてそう言った。奇抜な戦法をとるでもなく、基本的な小手を打った最上にケチをつけられるわけもなく、田中は慌てて袋竹刀を拾い上げた。

 

「いやぁ。すまない。見事な太刀筋ですな。油断しておりました。失礼失礼。」

 

田中は軽い調子で謝罪したが、心中は荒れ狂っていた。

 

(このクソガキ強いじゃないか。手加減などと言っている場合ではない。全力で叩き潰してやろう。)

 

最上は最上で田中の謝罪を微笑んで聞きながら、小手調べの一撃で袋竹刀を取り落とした田中を下方修正した。

 

(うーん。遅い。互角くらいを想定して小手調べで軽めに打ち込んだのにこれか。使えんな。)

 

安芸の国一などというものだから、来栖程とはいわないもののそれなりの強さを想定していた。下手に負けると調子に乗られてしまうし、強かったら全力でいこうかなと思っていたのだが肩透かしである。

 

仕切り直して手合わせが始まった。今度は田中が先に打ち込んできたが、本来最上は後の先を得意としている。叩きのめす気満々で面を打ちにきた田中の小手を打って脇を抜ける。振り向くと再び田中が袋竹刀を取り落としていた。田中の顔は憤怒に歪んでいた。最上が真顔で待つ中再度袋竹刀を拾い上げ、ぎちりと袋竹刀の柄が鳴るほど握りしめた後、狙ってきたのは突きである。防具をつけていない手合わせであるのに、突きなど当たれば叩きのめすどころか死にかねない。田中の体躯は来栖と同程度であり、最上がまともに受ければ死ぬ一撃である。とはいえ最上はちょいと剣先で突きを逸らして横に抜けつつ、田中の小手を強かに打った。

その後も果敢に攻めてくる田中の小手を、ひたすら最上が打ち据えるのが続き、とうとう高田駅の駿城の城主が止めるために声を上げる。

 

「田中殿!そのあたりで…。」

 

城主は田中に声をかけるが田中も怒りで我を忘れている。田中は止まらず最上の足を狙ってきた。

 

(飛んで避けたところを打ち据えてやる!)

 

最上が右足を上げたのを見て口角が上がるが、最上はそのまま袋竹刀に右足を降ろした。袋竹刀を踏み砕いてぱかりと面を軽く打った。田中の顔が真っ赤に染まるが城主が駆け込んできて田中を取り押さえた。最上がひたすら小手を打ち据えたため、田中の両腕は腫れ上がっている。

 

「田中殿!突きのみならず足を狙うとは何事ですか!」

 

剣術の大半では足を狙うのは邪道である。実戦としてはありではあるし、最上はよくカバネの足を狙っているので、顕金駅の面子としては足を狙ったくらいはどうでもいい。どちらかといえば突きの方が問題であったが、かすりもしなかったので抗議し損ねたのだ。

 

「田中殿。私は来栖に次ぐ二番手と紹介されましたが、これは武士に限ったことでして、その他のものを含めた場合前衛最弱なのですよ。大変恐縮ですが私に一撃も入らないようでは菖蒲様はお任せ致しかねます。」

 

田中は怒りに震えながら最上を見ているが、最上はどこ吹く風でうっすら笑みを浮かべて見つめ返している。

 

「最上君もういい。下がりたまえ。」

 

「承知しました。」

 

道元に声をかけられて、最上は横に来ていた武士に袋竹刀を渡して田中に背を向けた。田中は最上にひたすら打ち据えられたが決して弱くはない。樵人あたりと手合わせをすれば間違いなく田中が勝つ。田中は城主を振り払い失礼するなどと言い捨ててずんずんと立ち去った。城主は青い顔でひたすら謝罪をしていたが、菖蒲は笑って許していた。そもそも最上が不必要に煽っていたのでこちらにも非はあるのだ。城主も退散した後、菖蒲は最上に声をかけた。

 

「あそこまで一方的に打ち据えずともよかったのではありませんか?」

 

「ええ。ですがあの程度の男を送り込んできた高田駅の領主に気を使う必要もないと思いまして。私を家老と認識しておきながら、突きを選択した時点で政治面でも無能ですよ。2回目の小手を受けた時点で、素直に負けを認めていれば良いのに。」

 

最上は呆れたといった態度を隠さずに田中をこき下ろす。そもそも道元が手合わせ相手に来栖を勧めた時点でやっちまえという事なので。来栖は下侍であったので接待剣術も可能だが、以前と違い道元も最上も接待をさせる気はない。カバネリと違い正当な戦力として最強を喧伝しておきたいのだ。

 

「まあ高田駅の領主の出方を見ることにしましょう。菖蒲殿の伴侶を狙って来ていただけですから、あの程度は問題ありません。最上君は正攻法で打ちのめしただけですから、恥ずかしくて抗議もできますまい。本当に安芸の国一の実力者かもわかりかねますしな。」

 

「叔父様がそう言うのであれば大丈夫なのでしょうね。ところで田中様の叔父が金剛郭に勤めていたと言っていましたが、叔父様は面識がお有りですか?」

 

「確か勘定方にいたかと思いますが、まあ大した地位にはおりませんでした。特にお気になさる必要もありません。」

 

「そうですか。しかし高田駅とは少し距離ができてしまいますね。」

 

「問題ありません。特に高田駅を優遇したい理由もこちらにはありません。高田駅は安芸の国でも中堅程度。安芸の国も一枚岩ではありませんから、高田駅と多少距離ができても他と繋がればいいのです。関わる駅全てと仲良くしなければならない訳ではありません。」

 

菖蒲と道元の会話を聞きながら武士達は視線を最上に向ける。

最上は最後以外ひたすら田中の小手のみを狙っており、胴が空いていようが、面が空いていようがひたすら小手を打ち続けていた。普段はカバネや来栖にコロコロ転がされている印象が強く、一方的に相手を打ちのめしているのは初めて見た。

 

(最初木刀用意してたけどもしかして前腕へし折る気だったんだろうか?)

 

(いや怖ぁ…。)

 

(最上様小手に恨みでもあるのかってくらい小手しか打たなかったな。)

 

手合わせで最初に木刀を用意したのは、手合わせといえど家老である最上を出した以上、約束動作程度の手合わせのつもりだっただけである。余所の家老に本気の手合わせを望むのは、安芸の国一の実力者なら普通はありえないので。安芸の国一といっても、余所の家老を負かすなど角が立つので接待一択の筈なのだ。婿入りしたいならなおのことだ。来栖なら現状負かしたところで問題はなかったが、いくら来栖に次ぐ実力者として最上が出てきても最上は家老である。婿入り先の家老に恥をかかせる奴がいるものか。木刀で約束動作じみた手合わせをちょいちょいとして、素晴らしい太刀筋ですなで済む話だったのだ。

 

最上は家老としては若すぎる為、家老として認識していても物凄く舐められている。顕金駅がカバネに落とされていなければ、家老につくことはあり得ない年齢であるし、菖蒲ではなく堅将が領主であればまだしも、菖蒲が領主だと余程人材不足なんだなとしかとられない。だからこそ人材不足でついているだけのお飾り家老に敬意を払わない。田中が袋竹刀ではないのかと聞いた時、

 

(へえ。婿入りを狙う先の家老に打ち込む気なのか。できたら叩きのめそう。)

 

となっただけである。最初から腕をへし折るつもりで木刀を用意した訳ではない。武士達の勘違いである。

小手をひたすら狙い続けたのは元々最上は真剣でも手足を狙うのでそうなっただけである。人相手の場合頭から唐竹割りなど不可能だし、胴とて殺す分には問題ないが、そのあと尋問したい時に困るので手足を狙う。足を狙うと邪道だの卑怯者などの誹りを受けかねないので、小手一択であっただけで別に小手に恨みがある訳ではない。まあ途中からいつ音を上げるかなと小手のみを打っていたのは確かである。

 

高田駅の駿城は翌日城主が再度謝罪にきた後そそくさと出て行った。

後日他の安芸の国の駅の駿城の城主から、田中が安芸の国一の剣術使いであるという話は聞けたが、剣術はどの駅も後回しであり競い合うのも中々難しい為、高田駅一は確かだがたぶん安芸の国一程度の話であった。

来栖の父親が出雲の国一の剣士とうたわれた頃は、剣術に重きを置いていたし、駅に引きこもる前であるので国一とうたわれるのは、今そう言われるのと雲泥の差である。




そもそも菖蒲様と結婚させる気がないので、どういう選択肢を選んでも田中君は不合格なんですけどマイナス100点でした。
来栖と正面からガチバトルで勝利すればワンチャンくらいの望み(無いのと一緒。)
道元様が手合わせで出てきたら、田中君はハイパー接待剣術をしたはずなんですが、ホモ君がどう頑張っても家老に見えないのでぺろっぺろに舐められてます。外見が伴わないので認識がバグりやすい。(なんかトラップみたいだな。)

菖蒲様(若い女性のため舐められる)
道元様(老中してたので知名度カンスト)
ホモ君(若くて小柄で舐められる)

上層部の3分の2が舐められる顕金駅。勘太郎がいたら勘太郎は舐められません。やっぱり初見だと外見に偏りがち。人材不足なのはわかっているから余計拍車がかかる。


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【小話】夜の話

下ネタ注意報。
最初の一文以外読まずとも大丈夫です。


先日仁助と楓の婚儀の日程が決まり、婚儀の準備が進んでいた。

 

「最上様。重要なお話があります。服部、席を外してくれないか。」

 

夕刻に仁助がやってきて、真剣な顔で服部の退室を求めた。

 

「服部。人払いを。」

 

「はい。」

 

これは只事ではないと、最上は人払いを命じて服部を下がらせた。

 

「それで?重要な話とは?」

 

「…最上様は筆下ろしは済んでますか?」

 

仁助の口からとんでもない話題が出た。これが雅客なら顔面に拳を叩き込んでいたかもしれない。

 

「…済んでるが?」

 

服部を追い出してまでする話とは思えないが、仁助の表情は真剣である。そこで最上は思い出した。楓の誘いに乗って良いものかを自分に相談しに来た仁助のことを。

 

「っ⁉︎まてまて。お前。済んでないとは言わんよな⁉︎」

 

「流石にそれはないです。」

 

最上は仁助の回答を聞いて胸を撫で下ろした。そんなことの助言を求められては困るのだ。

 

「で?結局なんなんだ。」

 

「11年前、我々は下侍となりました。その際、私や樵人等は元服を済ませておりました。」

 

「あー。なんとなく想像ついた。聞きたくない。」

 

「ですが下侍となってから元服を迎えた者は別です。」

 

「聞きたくないんだが。」

 

「国賊よと蔑まれた下侍に相手が捕まえられると思いますか?」

 

「やめてくれ。もう帰りたい。」

 

「一部自力でなんとかした者もおりますが、多くの者が清いままです。」

 

「なんで言っちゃうんだ。聞きたくなかった。こんなことなら義原駅で武士達を解き放てば良かった。言えよ!あの時に!」

 

「どうすれば良いと思いますか?」

 

「私が聞きたい。というか服部に席を外させたってことは服部も清いのか…。」

 

「さぁどうでしょう。わからないので席を外させました。」

 

「うーん。もうぶっつけ本番でも良くないか?流石になんとなくわかるだろ。」

 

「下侍のままならそれでも良かったとは思いますが、今の身分でそれは大丈夫でしょうか。」

 

「…いやわからん。というかお前ら、なんでもかんでも私に聞けば済むと思ってないか?道元様に聞けよ。」

 

「道元様に武士の殆どが童貞なんですがどうしましょうと言えと?」

 

「私にも遠慮しろ。」

 

「それでは話が進みません。」

 

「…。倉之助くらいの歳ならまあいいだろうが、それ以上は今更無理だろ。もういっそ義原駅から出張願うか?本来なら各家でなんとかするものだが、多少なら補助しよう。」

 

「倉之助はあれで済ませております。済ませてない者はおそらく40以上おりますが?」

 

「破産するわ。諦めよう。倉之助かわいい顔してやるなぁ。」

 

「あの顔だからとも言えますが。」

 

「40以上もいるのかよ。無理だよ。諦めろ。済ませた奴らが口頭で一通り教えてやれよ。」

 

「手伝っては「断固拒否!そもそも恥ずかしくないのか!一番年下に性教育させようとするな!年長がなんとかしろ!」

 

「来栖は清いです。」

 

「あっそう。別に驚かん。」

 

「万が一菖蒲様と良い仲になったらどうしましょう。」

 

「なってから言え。」

 

「せめて来栖だけでも今のうちにどうにかなりませんか?」

 

「無茶言うな。私が手配するのはおかしいだろ。お前らの首領だろ。お前達でなんとかしろ。というかそこまで言うならなんで義原駅で連れていかなかったんだ。馬鹿。」

 

「あの時お弁当の当番から外すって言ったの最上様じゃないですか。」

 

「そりゃ外すに決まってるだろ。」

 

「菖蒲様に筒抜けはちょっと。」

 

「別に、こいつ遊女を抱いたので当番から外します。とか言わん。そんなこと態々菖蒲様に言うわけないだろう。当番表が決裁に上がるだけだ。」

 

「えっ⁉︎」

 

「馬鹿。考えたらわかるだろ。」

 

「…。」

 

「…。」

 

「この話は終いだ。私は関わらんからな。」

 

「…はい。」

 

後日年長者が武士達を集めて指導がひっそりと行われた。とはいえ口頭での指導であるため、有意義であったかは不明である。




国賊扱いってかなり厳しいよね。

一応下侍90くらいを想定してるので半数以上は済んでます。


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【小話】雪道

予定では4日前帰還予定であった甲鉄城がまだ戻って来ていない。積雪の影響で予定を過ぎるのはよくあることであるため、最初は楽観的であった顕金駅の者達であるが、4日目ともなると不安がつのる。甲鉄城は伯耆の国まで行商に出ていたのだが、元々積雪を考慮した日程を組んでいるため、ただでさえ通常日程よりも長い日数で予定していた。

通り道である宍道駅まで行き着いていれば、道元の鳩を使って手紙の1つも届きそうなものであるが、それもなく4日も過ぎてしまっている。しかし蓬莱城を迎えに出すこともできないのは、甲鉄城の現在地がわからないからである。蓬莱城まで何日も駅を空けるわけには行かないのだ。

 

「甲鉄城は大丈夫でしょうか。」

 

朝議の場で菖蒲が甲鉄城の安否を口に出す。甲鉄城の城主は最上であるため、同情心などから余計なことに手を出して、日程を遅らせるとも思えないことから来栖は特に心配はしていなかった。

 

「未だ文の一つもありませんが、城主は最上です。狩方衆もおりますから滅多な事にはなっていないでしょう。もしかしたら雪崩などで線路が不通などは考えられますが。」

 

純粋な戦力であれば蓬莱城が断然上であるが、有事の対応力であれば甲鉄城の方が上である。最上のこともあるが、拠点を持たず克城で過ごしてきた狩方衆は、顕金駅の武士達よりも駿城について多岐にわたる知識があるのだ。

結局出雲の除雪やカバネ狩りや、八代との行き来をしなければならない蓬莱城を出すわけにもいかないため、朝議では特に建設的な案が出ることなく終了となった。

 

積雪の影響で甲鉄城の速度は遅くなるがそれはカバネも同じである。カバネとて積雪の中通常通りの動きは出来ない。それこそ融合群体でもなければ積雪の中、甲鉄城を強襲するのは難しいのである。

 

さらに2日が過ぎた時、宍道駅から伝書鳩が飛んできた。日程を大幅に過ぎたことの謝罪と人員装備共に異常は無いこと、宍道駅には滞在せずに戻るとの内容のみであり遅れた理由の記載はなかった。

 

2日後、甲鉄城が顕金駅に帰還した。

検閲の後、最上が城へと上がり事の顛末を報告した。

 

伯耆の国へは積雪の影響を少しでも抑えるため、山間部ではなく海沿いの線路を選択していた。甲鉄城は出雲を抜けるまでは順調に進んでいたのだが、目的地の米子駅の手前で切り離され置き去りにされた車両とかち合ったのだ。進路を塞がれた甲鉄城は置き去り車両のカバネを掃討した後、置き去り車両を牽引して出雲の給水塔まで戻り、置き去り車両を最後尾に牽引しながら米子駅に向かう事となった。

 

給水塔まで戻る際、後退していくしかなく最後尾車両が先頭車両へとなった為、排雪板がかなり簡易的であったことから1日を要した。給水塔で最後尾の排雪板を外し置き去り車両を連結して再出発したものの、進んだ先で今度は置き去りにしていったであろう先頭車両まで線路上で停車していた。停車している駿城はカバネにより全滅していたため掃討をしたのだが、再度牽引して給水塔まで戻る必要が出てきたのだ。先頭車両が無事なら甲鉄城が間に挟まる形で進行できたのだが、残念ながらカバネを振り切ろうと無理をしたのか窯の調子が悪かった。ただでさえ積雪をかき分けねばならない為、窯の調子が悪い駿城を先頭にするわけにもいかず、再度の後退を余儀なくされたが置き去り車両の最後尾に排雪板を取り付けなければ、最後まで後退できるか怪しいところであったので、簡易の排雪板の取り付けをしてから給水塔まで後退した。

 

給水塔で前後が分断されていた駿城を連結し、甲鉄城を先頭にして牽引して再出発までに4日を要した。

積雪の為低速運行を強いられているのに、お荷物の駿城一城を抱えることとなった甲鉄城は、米子駅に着いたのが予定を5日過ぎてしまうことになった。

 

回収した駿城は米子駅の駿城であり、食糧調達の帰りだったようで積載された食糧は殆ど無事であったため、米子駅の領主からは大歓迎を受ける事ができた。甲鉄城の面子は遅れを少しでも少なくするため、急いで連結作業を進めて最低限の休憩で米子駅まで向かったことから疲労で実演販売どころではなかった。実演販売こそしなかったものの、最上は武器と塩や木材や炭などを売りつけ、米子駅に一日滞在した後、甲鉄城は帰路に着いたのだ。

 

「最上。お疲れ様でした。」

 

「慰労のお言葉痛み入ります。以前の石見駅や此度の米子駅の件を考えれば、余所の国の駅は余力をジリジリと削られている状態です。雪解けの頃には兵器の販売範囲拡大が必要となるでしょう。」

 

現状の出雲の国はカバネの数が少なく、噴流弾や掃射筒などの兵器も出回っていることから駿城の往来も活発になりつつあるし、周辺の国から出雲へと来る駿城も多くなっている。カバネも駿城の移動に釣られて出雲に入った後討伐されているのか、周辺の国も出雲との境辺りはカバネが少なく感じる。

 

しかしそれは周辺の国に、カバネへの対抗手段があるから生じた結果ではない。故に兵器の販売範囲を拡大し、自衛能力を上げさせる必要があるのだ。出雲の国は二城がかりで守護している状況だが、周辺の国まで二城で守るのは不可能である。かといってもう一城建造しても人が足りない。八代の方にも人を割いているので現状の運用が限界値なのだ。

 

余所の駅に元武士の流民がいれば引き取ってもいいのだが、流民の中に元武士は中々いない。主君を守って死ぬのが武士なのだ。流民となる生き恥を晒す者が多くないのは当然である。顕金駅には流民上がりの武士が少しばかりいるが、全員最上の配下となっている。菖蒲の護衛であった来栖とその来栖の配下の武士達と違い、最上は堅将付きであったので主君を守れず生き恥を晒していると言える為、まだ劣等感を抱きにくかろうという配慮である。総領であった菖蒲は無事である為、流民上がりの者とは条件は違うのだが、心情的に来栖より最上の方が近いのは確かである。さらに言えば、来栖の配下は元々の経緯から結束も固い。その上菖蒲を守り通し再興まで果たしており、生き恥を晒していた者からすれば眩しすぎるのである。

 

とまあ人が足りぬという事情故、兵器の販売範囲の拡大が目下の課題となった。

 

甲鉄城の面子は休暇が言い渡され、最上以外は解散となった。最上は溜まった仕事を片付けるために執務室へと行き書類をさばいた。

 

「現状ではこれ以上の日数がかかる遠出は無理だな。武士達が仕事を十全にこなせればもう少し余裕もできるが…。というか家老二人が無理なんだよ。服部。家老しないか?」

 

「できる訳ないでしょう。最近は皆さんも少しずつ余裕が出てきたようですから、もう少し決裁権を下ろしても大丈夫じゃないですかね。」

 

「ふむ。そうするか。9割片付けてくれればもう少し余裕ができるな。奉行所にいる流民上がりの武士も勘定方に上げるか。なにやら民人で自警団を作ったようだし多少奉行所から人が減ってもなんとかなるだろう。」

 

「倉之助が喜びますね。年末は死にそうになってましたから、是非増員してあげてください。ですが流民上がりの方々は算盤できるんですか?」

 

「特段得意という訳ではないだろうができるようだぞ。それに奉行所の和気藹々とした雰囲気が、居心地が悪いようだし丁度いいだろう。」

 

「あぁ。確かに肩身が狭いかもしれません。その点勘定方は修羅場になってることが多いですし、効率重視だからいいかもしれませんね。」

 

現在顕金駅において大きな諍いはおきておらず、武士の総数が極端に少ない事を理解している民人達が自警団を組織した。自警団も六頭領の天祐和尚以外がそれぞれ10人規模で組織したもので、多少力に自信のある民人程度の集まりの上私刑は認められていない為、取っ組み合いの喧嘩の仲裁程度なら担当してくれるのだ。必然的に奉行所は仕事が減り、割と人員を持て余し気味であった。対して勘定方は顕金駅が再興すればする程仕事が増えるため、奪還当初から少しずつ人を増やしていたが未だ人員は足りていない。

 

「流民受け入れでもう少し諍いがおきると思ったが、想定よりはおきなかったな。」

 

「余所の駅からそのまま引越したならまだしも、流民を経験してますからね。働く場所もなければ食糧もない状態からうちにきたら天国ですよ。六頭領も上手いこと差配してくれてますから。」

 

「殺さなくてよかった。六頭領。」

 

「…怖い。」

 

「これからもきりきり働いて貰おう。適度に美味しい思いをさせれば、多少無茶なことをやらせてもこなすんだから優秀だよ。武士達じゃこうはいかん。」

 

「悪かったですね。使えなくて。」

 

「だが六頭領はカバネは殺せんからな。適材適所だ。」

 

出雲の国は蓬莱城と甲鉄城によりカバネが激減したことで交易が盛んだが、余所の国は出歩く駅と引き篭もる駅に分かれている。引き篭もる駅も食糧生産を産業としている駅以外は、最低限外に出ることを強いられている。駿城を二城所有していればまだマシだが、一城のみの駅などは出る出ないで揉めるらしい。運行表を金剛郭が決めていた時は、定期的に行き来があった駅も今や駿城が立ち寄らない駅もあり、どれだけ揉めても出ざるをえず、今回の米子の駿城のように全滅すれば命の優先順位を決めなくてはならなくなる。食糧生産を主とした駅以外では、自駅の食糧を賄い切れないところが多いからだ。

 

そもそもカバネを殺せないのが前提なのだ。金剛郭が崩壊したことで嫌々ながら運行表に従っていた駅が尻込みしている。立ち寄る駿城からどこどこの駅がカバネにのまれたと聞くたびに追い詰められているだろう。下手をすると駿城の立ち寄りすら拒む駅も出てきかねないため、早急にカバネを殺す手段を広めて、流通を活性化する必要がある。

 

「今年は道元様にも出て頂くか。」

 

「道元様ですか?」

 

「蓬莱城で余所の国の最大の駅と同盟なり結んでいかねばな。うちだけでやれる範囲は限られているだろ。最盛期の顕金駅の規模の半分でも維持していればもう少しやれるんだが、いかんせん民人に対して武士の比率が低すぎる。もう少し武士が欲しいな。有志の民人も頑張ってくれているから、そちらを育成して武士に引き上げた方が早いかな?」

 

「蓬莱城の民人なんかは随分手練れになりましたしね。」

 

「うん。武士に引き上げてもう一城建造するか。八代の行き来くらいなら前衛なしで問題ないし、八代のおもりがなくなるだけで楽になる。いやその前にもう少し流民を引き取るか。城主は流石に今の武士から出して…。道元様に相談しよう。…仕事が増えた。」

 

「道元様と最上様の思いつきで、新しい仕事が発生するのはいつものことじゃないですか。」

 

「春に向けて組織再編の案を検討しないとな。」

 

「その前にこれ片付けてくださいね。」

 

「わかってるよ。」

 

服部にせっつかれながら最上は仕事を片付けた。




服部は上三役の秘書ポジです。

ガッツリ一城建造するつもりはないです。奪還作戦時に掩体壕として使用した車両を中心に組み上げられます。つぎはぎ城w
走りゃいいんだよ。の精神。


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【小話】乗馬

めっちゃ短い話


最上は先日甲鉄城で出かけた際に、野生化した馬を捕獲した。顕金駅奪還当初も馬は何頭か回収されていたが、乗れるように躾け直すのに中々手間がかかる。

乗馬技術のあるものは武士の一部に限られており、特に現状では馬は不足していないため、一度城に献上した後最上に下げ渡された。

 

「馬のる?」

 

「小夜。この子はまだ危ないからダメだ。蹴られるかもしれないから離れてなさい。」

 

中々気性の荒い馬であったので、馬房の壁もよく蹴るし、乗れば最上がしょっちゅう手綱を引いて落ち着かせる必要があった。

 

離れたところからこちらを見ている小夜を見て、最上はふとそろそろ小夜を馬に乗せる時の服装を改めないと拙いのではないか、そもそも女子であるので、乗せるのをやめた方がいいのだろうかと思い至った。

 

「どう思う?」

 

「なんで私のところにきたんです?」

 

最上が意見を聞きに行ったのは侑那であった。

 

「いや。私がパッと思い描いた中で、唯一作務衣を着てた女性が侑那殿だったから。」

 

「乗馬させる気満々じゃないですか。まあいいと思いますけどね。」

 

「作務衣だと何か不便とかあるか?」

 

「いやむしろ楽ですよ。ただ作務衣に慣れちゃうと着物面倒になっちゃいますね。小夜をどうしたいか知りませんけど、作務衣とか着せたら穴子さんとかに怒られませんか?」

 

「しかし馬を跨ぐのに今のままの服装では拙いだろう。」

 

「割と今更だと思うんですが。まあ乗る時だけとかなら大丈夫ですかね。」

 

侑那の意見を参考に、穴子に小夜の作務衣を提案したところ微妙な顔はされたがすんなりと通り、穴子が作ってくれることになった。

穴子からすれば馬に乗ること自体反対したいところではあるが、小夜は最上の妹でもなければ、一之進達のように名のある家の子供ではないので、多少お転婆でも問題はないし、有事の時に出来ることが多いに越したことはないのだ。であれば作務衣でも与えておかねば、どうなることやらといったところである。

 

将来的に小夜が馬乗り袴を身につけて馬を乗り回すようになるのは余談である。

 

樵人は先日最上の欲しいものの話を聞いた内の1人であるので、馬を下げ渡されたと聞いて一之進の稽古ついでに馬房を覗きに行った。

 

「いや。雄か。菖蒲様惜しい。」

 

残念ながら雄であった。

 

「惜しい?何がです?」

 

「いや。こっちの話だ。さっ稽古始めるか。」

 

「はい。」

 

「そういえばあの馬名前はあるのか?」

 

「もう少し躾が済んだら私にくれるそうなので、私が名前をつけるように言われました。まだ決まってないんですけど。」

 

「そうか。一之進の馬になるのか。いい名前が考えつくと良いな。」

 

雄の馬の行き先は一之進らしい。あれだけ乗せているのに、小夜にいかなかったのは良いのか悪いのか。まあ年功序列としては間違ってないし、何より小夜は武士ではないので、武士の子である一之進が優先されるのは道理である。

 

 

数年後小夜には疾風の子供が与えられるのはまだ誰も知らない話である。




目指せ顕金駅のスピードスターw
昔の日本に横乗り文化ないよね。というか基本女性は馬乗らないしな。

小夜ちゃんをどうするつもりだお前と言われそうですが、頭を下げるよりありません。小夜ちゃんと二之介は幼過ぎて勝手に方向性を決めるしか…(言い訳)


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【小話】結婚

仁助と楓の婚儀が終わり、二人は晴れて夫婦となった。楓は仁助の屋敷に移り住み、楓の屋敷は住居兼病院から完全に病院へと変化した。

 

そもそも婚儀より前から武士達からも民人からも夫婦扱いであった為、本人達の変化はあれど周囲には殆ど変化はなかった。

 

婚儀の前に楓の実家に挨拶に行ったものの、出奔したいき遅れの娘のことなど知らぬ。勝手にすれば良い。と追い返され、楓より仁助が大層怒っていたようで蓬莱城の者達が戦々恐々としていた。道元や最上からすれば女だてらに医学を修め、年ごろとなっても結婚もせず、実家を出奔していたから勧誘したので当然の流れと理解していた。むしろ顕金駅と聞いて擦り寄ってきたらどうしようかと考えていたくらいである。

 

楓の実家は楓が男を伴い戻ってきて、結婚の挨拶だと言った時点で叩き出したので、楓が顕金駅で確固たる地位におり、相手も顕金駅の武士とは聞いていなかった。数年後その事実を知り大層慌てるが、最後まで話を聞かずに叩き出したのが悪いのである。

 

そんな状態であり、仁助にも親族がいないことから結納はろくに行われなかったが、仁助はどうにか色打掛を用意して楓に贈ることができた。楓も嫁入り道具も持参金もないが、病院となった楓の屋敷が嫁入り道具みたいなものである。

 

二人の婚儀は顕金駅で盛大に祝われることになり、2日前から蓬莱城が久手駅に入り、前日の早朝に水揚げされた魚をまだ残る雪で冷蔵しながら全速力で顕金駅へと輸送し、甲鉄城は3日前に宍道駅に行き寒しじみを生きたまま輸送した。かかった資金は普段飲み食いにしか金の使いどころのない武士達からのカンパである。駿城の行き先の都合は菖蒲が道元達に交渉した。交渉と言っても運行表があるわけでもないので、そこまで大袈裟なものではなく道元達は直ぐにのってきた。なにせ楓は顕金駅唯一の医者であるので。

 

このご時世の一武士の婚儀とは思えぬ程の豪華さであった。というのも唯一の医者と顕金駅脱出当初から尽力した武士であるし、何より慶事に飢えていた。初夜など決して邪魔が入らぬように最上が病院で泊まり込みをすることになった程である。

 

仁助と楓が結婚したことにより一つだけ問題がある。

現在の顕金駅において出産は、楓の病院で女達と楓が担当しており、楓が出産の際万が一があっては困るため、以降出産の際は経験を積ませるためにまさかの最上が呼びつけられることになった。

 

顕金駅には楓のみしか医者はおらず、最上、仁助しか医者の代理はいない。楓が出産する際、仁助の方が技術が下であるし、妻の一大事に仁助が冷静とは思えないので、必然的に最上も経験を積むことを要求された。

 

出産に立ち会う家老。異常である。

 

楓を確保できたのが奇跡であり、未だ医者探しは続けているが成果は出ていない。出産自体が多くはない中、そうそう切開を必要とする出産がある訳もなく、最上はただ立ち会うだけという状態であり、中々慣れないことから、出産に立ち会うと憔悴して帰宅するのが常である。

 

甲鉄城の時とは違い、麻酔も使えるし、器具もちゃんとしたものがある。ひと通り最上も仁助も使えるようになっているが、相手が妊婦では麻酔は使えない。

 

とうとう切開を要する出産があり、最上が補助に入ることになった。輸血と点滴をしながらなんとか無事に手術が成功し、母子共に無事であったが最上は燃え尽きた。その他の手術にあっては最上の方が優秀だが、こと出産に限っては仁助の方が余裕がある。補助の手は止めないものの最上はビビり倒しており、終わった頃には手術を受けた女の次にぐったりしていた。

 

いざというとき仁助が役に立つかわからないからと始まった立ち会いであるが、このままなら仁助の方がマシという結果であるため楓の出産まで何度も呼びつけられるのは余談である。

 

民人達は逞しく、以前と違い駅に食糧の余裕もあることから子作りが盛んであるため、ぽつりぽつりと出産があるのだ。

 

結婚から数ヶ月後、楓の妊娠報告を聞いて周囲が沸き立つ中、最上だけが血の気の引いた顔で微妙な表情をする未来が待っている。

 




現代の麻酔は使えるけど、あの時代感じゃ妊婦に麻酔はむりよね。
痛がる野郎を押さえつけて傷を洗浄したりするのは平気だけど、出産はなんかびびってるホモ君。

仁助の結納は一応やってますが、あれって嫁入り衣装を用意する反物とか贈ったりしてたのが、お金や保存食とかに変わったみたいなので原点回帰してますね。ただ家同士の儀式としてはできてないので結納をちゃんとしたとは言いがたいのがなんとも。
ただあの世界でだと保存食より、金か本来の反物や帯とか贈るほうが楽よね。だって保存食海の幸…。


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【小話】小田駅

春になります。


春先の朝議の場で告げられたのは驚きの内容であった。

 

「一週間後に小田駅を奪還することが決まりました。」

 

朝議に参加していた武士達が、ちらりと道元達を窺うが平然としていることから、八代駅の時と違って話はついているらしい。

小田駅とは顕金駅の西側に位置し、顕金駅のひとつ手前の駅である。顕金駅が落ちた日、甲鉄城が通常の到着時間より早く着いたのは、小田駅がカバネにのまれていたため素通りしたからである。

 

「神西駅、速谷駅、宍道駅、久手駅と合同で行います。小田駅は食糧生産を主産業としていました。食糧の確保はどの駅においても重要課題です。小田駅は八代駅のように縁者もおりません。合同で管理することとなります。」

 

「菖蒲様。合同で管理と申しましても我が駅には政のできる人員に余剰はないかと。」

 

来栖が意見を出す。領主代行ではないからと最上出すとも思えない。かと言って、他駅から派遣される役人と肩を並べて働ける者が他にいるとも思えない。

 

「それについては最上から説明します。」

 

「はい。来栖が言ったように顕金駅には役人の余剰などない。故に奪還については顕金駅のみで請け負い、その後の管理を他駅で行う。共同管理となるため、領主そのものは設けない。」

 

「それは後々利権とかで損はしないのか?」

 

「おっ?来栖。そういったことにも気が回るようになってきたな。今回については全く問題ない。奪還自体はうちがするからな。他駅は戦うことなく残った流民の行き場ができる。」

 

「…?だが奪還後は他駅に任せるのだろう。」

 

「間諜は入れるし時折監査はする。お前らは感覚が麻痺しているが、独力で駅を奪還できるなど異常だ。何駅か合同で死人を多数出しながら奪還するのが普通だろう。独力で駅を奪還できる戦力を保有している駅など、普通は怖いに決まってる。ましてうちに戦狂いしかいないなら、利益を誤魔化して上手いことやるかもしれんが、うちには道元様がおられるのでな。頭もある強い駅を敵にまわしたい駅などおらんよ。少なくとも共同管理の駅は戦力がそんなに高くない。最初に交わした契約を反故にしてうちの不興を買うようなことはせん。なんのために行商で余所の家老を乗せて実演してやっていたと思っている。売りやすいという利点もあるが、戦力を見せつけるためだ。速谷駅などうちの隣だぞ。やらかせば真っ先に狙われる。」

 

(あれ?また脅迫系統?)

(俺達が政できたらしなくていい脅迫だけどな。)

 

「久手駅はうちと対立しても損しかしない。久手の規模じゃ他の駅にのまれるだけだ。うちに従順な態度を示した方が利益を長く得られる。宍道駅は四方川家と縁が深いから多少は信用している。4駅中2駅はほぼうちのいいなりだ。」

 

((散々使っておいて多少なんだ。))

 

「奪還には、蓬莱城の面子と来栖と瓜生、狩方衆も突っ込む。蓬莱城のみでの奪還となる為、他駅との折衝もない。話は既についているから、お前らはいつも通りカバネを討伐するだけだ。蓬莱城が普段からあっちこっちでカバネを討伐してるから、小田駅のカバネもそうは多くない筈だ。すぐに終わるさ。」

 

春先に行われた奪還作戦は、最上の言った通り数日で終了した。各駅の役人や一部の民人、流民を引き入れ、蓬莱城が立ち会いの元、カバネがいないことを最終確認し、蓬莱城は要所に掃射筒を設置後撤収となった。

各駅から食糧や物資が運び込まれ急速に復興が進んだ。農業に詳しい者が音頭をとり、田畑の整備が進められた。顕金駅の蒸気鍛治ほどの専門性はないため、農業は学の無い流民でもある程度こなすことができる。各駅の役人や武士達の為にというお題目で、顕金駅から使用人が何人か移り住んだ。勿論間諜をさせる為である。

 

顕金駅から移り住まねばならない為、貧乏くじのようではあるが顕金駅から近く、食糧を主産業とする駅であるため間違っても飢える事はない。顕金駅の庇護下で食糧豊かな駅ならば、妥協できる範囲内である。最上の屋敷で見習いをする者は多く、良い立場は先に一人前になった者がついているため、これから再興する小田駅は身を立てるのには良い場所であるのだ。

 

使用人達は個人に雇われるというより、旧領主の屋敷の管理が仕事である。役人や武士達の主な仕事場であるので、細々とした雑事が発生するのだ。最上が屋敷で育てる使用人兼間諜は、噂話やら普段の仕事で見聞きすることをまとめて報告するのが仕事であり、本職の間諜のように書類を盗み見たり、忍び寄って聞き耳を立てる事は求められていない。

緊急の連絡手段として道元の鳩も小田駅を行き来できるようにする予定である。距離としては八代駅や宍道駅より近い為、巣箱に慣れさえすれば直ぐに行き来できるようになる。普段から行き来せねばいざという時に使えない為、使用人は訓練がてらばんばん手紙のやり取りもできる。

緊急の際直ぐに助けに行けるように、伝書鳩を訓練しますよ。という名目もあるし、そもそも共同管理のうちの一駅であることから、鳩を飛ばして咎められることもないのである。

 

顕金駅の隣であることから、いつ顕金駅から監査に来るかわからない為、心理的に不正もかなり難しい。監査をするのは最上を予定しているが、抑圧してばかりだと碌なことにはならないのでそこまで厳しくする予定はない。

不正なく食糧さえ生産してくれればいいのだ。

 

駅の運営に関わらない顕金駅が監査をするため、監査役が自分の駅の不正を見逃しただのといったことで、大きく揉めることにはならない。

 

最上は賄賂を受け取るようなタイプではないので、小田駅で弱味を作ったり、告発される心配は皆無である。なにせ小田駅で私腹を肥やしたとてリスクと見合わないのだ。小金稼ぎより食糧の方が大切であるので。

 

小田駅では長期保存可能な米や豆などの穀類作付け範囲が指定され、そこで生産される穀類をそれぞれ1割ずつ得ることになっている。残りの5割は小田駅で消費したり、立ち寄る駿城への販売用である。領主のいない小田駅は他からの流民を受け入れる予定は現状ないため、現在の住民の数であれば1割5分程度しか消費しない。残りの1割を立ち寄る駿城に売り、2割5分を備蓄に回しておくことになる。

 

穀類以外の農作物は、穀類の作付け指定範囲以外の畑の面積から算出した石高の1割相当を受け取る権利があり、各駅の駿城が適宜役人経由で受け取り、役人が各駅の帳簿に都度どの程度受け取り、後どの程度受け取れるかを記録していく形である。権利の1割相当の受け取りを終えれば、以降は購入という形となる。こちらは備蓄しようがないため立ち寄る駿城に積極的に売られていく。

 

各駅から数は少ないが、商人も移り住んだ。各駅が穀類以外の食糧を定期的に受け取りや購入に来るため、商人は駿城から農作物以外を買い付け販売することになる。

顕金駅は木材や石炭や炭、交易で得た物品、神西駅は竹製品、速谷駅は織物、宍道駅は川魚やしじみの佃煮や醸造品、久手駅は塩や干物などが集まるのだ。もとより金剛郭に割り振られた駅ごとの役割が被らないようになっているため、小田駅には各駅の物が集まることになる。駿城の整備や製鉄を主としている顕金駅は、商品が小田駅にとって日用品にならないため主産業の提供ではない。

 

顕金駅、神西駅、速谷駅、宍道駅、久手駅の5駅は、いざという時に備蓄の総量から1割ずつ受け取ることができる。備蓄量が安定すれば、入れ替えの際に各駅へ安価に販売されることになる。

 

小田駅は交易拠点となったため、数年後かなり裕福な駅となるのだがそれは余談である。

 

小田駅を共同管理することになり、他の4駅は形上は同盟駅、実質顕金駅の傘下となった。金剛郭が今も健在であれば、再興をして終わりであったが金剛郭なき今、出雲をまとめる必要があるのだ。現在出雲の駅で顕金駅と友誼を結びたい駅は他にもあるが、政治面における弱さがまだまだ補えていない為、急速な勢力の拡大は控えている。政治的な強さも兼ね備えていれば、出雲の駅全てを傘下に加えてもよかったのだが、現在の状況では同盟を名目とした形が精々である。

損得勘定から裏切らないとわかる駅を選んだのも、それが一番の理由である。




農家さんの一人当たりの生産量がやべえので、小田駅は凶作の年とかでなければじゃぶじゃぶ儲かります。年貢を納めるべき金剛郭もないし、領主もいないし、食糧生産が主産業の駅でなければ割といつでも食糧は貴重なのでよく売れます。
5割を各駅で分配と考えると、金剛郭あった時と変わらんやろ(江戸時代の年貢は五公五民くらい)ってなるけど、金剛郭に5割納めて残りの5割を流民含めみちみちの自駅で消費+他駅へ提供てのと大分差があります。あの世界観トラクターは無くても耕運機くらいはありそうなので、江戸時代より生産性が高い。

めちゃくちゃ食糧あるやんってなりますが、それだけ死んでるからですね。
顕金駅、八代駅、小田駅が一度カバネにやられてますから、出雲の総人口かなり減ってると思います。
さらに言えば顕金駅が狩りしたり、山の幸確保したり、久手駅に魚獲らせまくったりして駅外の物めっちゃ食ってたから、認識バグりますが大体何処も自駅の生産分じゃ民人養うのかなりキツキツです。故に奪還作戦時の顕金駅の恐喝は大分ヘイト集めてました。(道元様が)


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【小話】菜の花

「それでは本日は菜の花の種まきをします。」

 

蓬莱城と甲鉄城の面子が集められたかと思ったらこれである。

 

「なんで菜の花?」

 

「採油目的だ。」

 

無名の疑問に最上が端的に回答する。

 

「駅外にひたすら蒔くぞ。失敗したらしたでまあいい。駅内の畑は食糧生産のために使うから駅外で勝手に育って貰う。」

 

「駅外だからこの面子か。」

 

「そういうことだ。とりあえず耕耘機でざっくり耕して適当に蒔く。」

 

「いや雑すぎでは?」

 

「まあ育てばいいなくらいのつもりだから別に良い。行燈の灯油(ともしあぶら)は大体狩りで得た獣の油を使っているが匂いが大変不評だ。まあ贅沢言うなという話なんだが、今後を考えれば育てるに越したことはない。割と通電している場所が多いが、民人の家一軒一軒に配線は無理だ。当分は獣油を使わせることに変更はないが、民人が増えればそれも足らなくなるだろう。今から手をつけておいた方が良い。とはいえ菜の花栽培に割く人員などないのでな。とりあえず種を蒔いておくだけだ。今年採油出来なくても構わん。」

 

「確かに獣油は臭うよな。」

 

「魚油程じゃないけどな。あれは生臭い。まあ駅に篭ってからは魚は油搾る対象じゃないけど。」

 

駅に篭る前は魚油が一番安価な灯油だったのだが、安価なだけあり一番臭いがきつかった。ただ駅に篭るようになってから、油を搾るなどもってのほかであるため出回ることがなくなったのだ。駅内で増やす事のできる家畜から獣油を得ることが多くなり、獣油と植物油が主流となった。蒸気技術により電灯を使用できる為、行燈は主に配線の回されることのない民人が使用するものである。椿油や菜種油などの植物油を主産業としている駅も存在するが、限られた土地で栽培する上灯油以外の使い道があるため中々高価なのだ。

 

蓬莱城と甲鉄城の面子はその日から数日間ひたすら駅の周辺の伐採跡や線路脇をひたすら耕して種を蒔くことになった。菜の花が逞しく育ち夏には黄色い絨毯となるのは先の話である。

 

出雲にも採油を担当していた駅はあるが、運行表通りの交通が行われなかったことや、金剛郭に納めていた分が捌けなかったことで油を持て余していたため、昨年の秋の間に甲鉄城で買取り出雲の各駅に販売された。油は出雲の駅に回すことを優先とし、交易品として残ったのは高級な椿油のみである。凡そ半年流通が滞ったことから、大体の駅で油は不足していた。食糧を得るために駿城は出せても、油を得るために駿城を出すのは二の足を踏んだ結果である。

 

尚採油のために菜の花を育てている駅では養蜂も行われており、蜂蜜や蜜蝋も産業となっている。蜂蜜は年に一度、しかも巣の上部の一部を拝借する程度であるので、生産量はごく僅かであり、金剛郭があった頃は9割が金剛郭に納められ、蜜蝋は蝋燭となるため全てが金剛郭へと収められていた。

 

油、蜂蜜、蜜蝋を納めているため、米による年貢はなく、自駅で生産した食糧は全て消費することを許されていたが、作付け範囲が狭いため中々生活は苦しかったようである。金剛郭が崩壊したことで、今年は食糧の作付け範囲を広げる見通しとなっている。

 

出雲の各駅から駿城が来始め油が売れるようになり、採油担当の駅は賑わいを取り戻した。蜂蜜は将軍から褒美として下賜されるか、領主が薬として大金を払って買うくらいの物であったため、出雲の各駅の領主に販売されるのみとなった。金剛郭があった時よりは安価に販売されたため、出雲の各駅はこぞって購入して行き、余所の国の駿城はかなり値の吊り上がった蜂蜜に殆ど手が出せなかった。余所の国に対して値を吊り上げるのは、道元が要請したことである。

 

今出雲の各駅は、顕金駅にそっぽを向かれる訳にはいかず、余程の要求でなければ逆らう訳にはいかない。道元は何も嫌がらせでしている訳ではなく、まずは出雲を富ませ盤石にしておきたいのだ。顕金駅は戦力こそ飛び抜けているが、政治面では道元がいなければ弱小であるため、出雲全体をまとめることで、他の国の駅と渡り合うつもりである。顕金駅を頂点として出雲の国が纏まれば、多少力のある駅に何を言われようが撥ねつけられる。駅という閉鎖空間であるため、現代でいうところの経済封鎖が覿面に効くのだ。顕金駅単体ではなく、出雲規模となればある程度余裕ができる。

 

カバネに生活圏を奪われている中やることではないのだがやる奴はやる。道元も最上も思考がそちら側であるので、警戒するのが当然なのだ。小田駅を取り戻し食糧を生産することで、出雲は出雲の駅のみでそれなりにいい生活ができるようになる見通しだ。

 

昨年は顕金駅を中心に出雲のカバネが減り流通が活発になった。今年から目指すのは出雲を中心に周囲の国のカバネを減らし、流通網を拡げることである。




蜂蜜はニホンミツバチの設定で書いてます。年一しか採れない上に、巣を殆ど採るなら砂糖水入れなきゃならないようなので、上部のみ採取する方向。
小説を書けば書くほど、よく生活できてるなあの世界って思います。

次回100話目。よくこんな続いたもんだなって思ってます。
話を更新するとぱたぱたっとお気に入りが減ることが度々あるので、申し訳ねぇなと思いつつ、この程度が私の限界なので特になんかするとかはないです。するしないというか出来ないというかね。

それではまた次週。


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【小話】婚約

100話目!とうとうやってしまった。



「鬱陶しいことこの上ない。」

 

道元は余所の駅からの婿入りアピールの手紙に、断りの手紙を認めながら決断した。

 

「最上君。もう菖蒲殿と来栖君を結婚させてしまおうと思うのだがどうだね。」

 

「よろしいかと。堅将様と来栖の父は仲が宜しかったようですから縁も充分ですし、ここまで菖蒲様を守り通した忠臣ですので立場も問題ありません。」

 

「ふむ。自分がとは言わないのかね。」

 

「今後他駅との友誼を結ぶ上で、婚姻を必要とする場合来栖より私の方が適任です。どんな相手になるかわかりませんから、来栖には嫁入りした女子を疑ったり、人質のような嫁と平然と暮らすのは無理でしょう。…それに菖蒲様の隣に立つには私では威厳が足りませんので…。」

 

「であれば菖蒲殿に打診してみよう。」

 

道元と最上の中で菖蒲と来栖の結婚が決まった。

翌日、朝議の後道元は菖蒲の下を訪ねた。

 

「菖蒲殿。今恋慕う者はおりますか?」

 

「こっここ恋慕う⁉︎」

 

道元からの思いもよらぬ質問に菖蒲は赤面した。

 

「そうです。」

 

「おりませんが…。」

 

「そろそろご結婚を検討して頂かなければなりません。世継ぎの都合もございますが、何より菖蒲殿は結婚適齢期を迎えておりますので、他駅からの打診が多く来ております。再興のため忙しいことを理由に断るのも難しくなってまいりました。出来れば他駅から婿を迎えたくはありません。」

 

「結婚…婿…。」

 

「よって菖蒲殿には来栖君と結婚していただきたい。」

 

「来栖と⁉︎」

 

「来栖君では御不満ですか?最上君という手もありますが些か若年ですので。恋慕う相手がいるなら、相手にもよりますが検討できるかと。」

 

「こ…恋慕う相手はおりませんし。来栖が不満なわけでは…。」

 

「では来栖君でよろしいですな。」

 

「ちょっ!ちょっとだけ待って下さい!来栖をそんなふうに見たことがなかったので…心の準備が…。」

 

「そうですか。では5日で御心をお決め下さい。」

 

「5日⁉︎」

 

「それでは失礼致します。」

 

道元は言いたいことをいって退室していった。菖蒲の後ろに控えている静はそっとため息をついた。

 

(勘太郎様の時にお伝えしたのに考えてなかったようですね。)

 

「し…静。どうしましょう。」

 

「どうもこうもありません。ご結婚なさればよろしいではありませんか。」

 

「だって…。」

 

「だってではありませんよ。だから言ったではありませんか。他人事ではないと。」

 

 

 

一方朝議の後、最上は来栖を訪ねていた。朝議の後は武士達が集まっていることが多く、本日も来栖の執務室には数名の武士が集まっていた。

 

「来栖。ちょっといいか?」

 

「珍しいな。朝議で用件を済ませるお前がここに来るのは。」

 

「まだ決定してないからな。お前を菖蒲様の結婚相手に推挙してあるからそのつもりで。菖蒲様次第だから決まったら追って連絡する。それだけだ。失礼。」

 

「「……。」」

 

最上はスタスタと

 

「はぁ⁉︎えっ⁉︎はぁ執務室から去って行った。あっ⁉︎」

 

最上が去った後、来栖の口から出たのがこれである。同席していた武士達も寝耳に水で驚愕していた。

来栖にはお伺いではなく伝達であった。

 

 

5日後菖蒲が代替案を提示出来なかったため、菖蒲と来栖の婚約がなされた。以降菖蒲と来栖は赤面したり、目を合わせて話せなかったりが続くこととなる。

 

 

 

雅客の家で、本人不在の婚約祝賀会が開かれていた。

 

「いやぁ。来栖が報われる日が来た!」

 

「もうお膳立てどころじゃないが。」

 

「確かに。まあ武士の結婚らしいと言えばらしいか?」

 

「まだ婚儀は先だろ。その間道元様にみっちり教育されるそうだな。」

 

「教育係が最上様じゃないあたり本気を感じる。」

 

「教育が終わるまで結婚はお預けらしいが、これで菖蒲様狙いの奴等を追っ払うのが楽になるって道元様は喜んでたな。」

 

「そういえば年の差で言えば最上様と八代の菫様ってちょうど良いのでは?」

 

「嫌だが?」

 

「うわっ!来てたんですか⁉︎」

 

服部にこそっと最上も連れてこられ、途中から参加していたことに武士達は気がつかなかった。最上は心底嫌そうな顔をしている。

 

「まだ肩書きだけとはいえ、将来は領主ですよ?」

 

「石炭が主産業だろう。駅の範囲内でいつまでも採掘できると思うな。蒸気機関で馬鹿みたいに石炭を食ってるんだ。それに既に属領なんだから婚姻を結ぶ必要を感じないな。菫殿に兄でもいれば、お前らの内の誰かに菫殿を嫁がせるくらいはあったかもな。」

 

「いや流石に我々には若すぎます!」

 

「婚姻は政治的手段だ。別に問題あるまい。まあいずれにしろ菖蒲様の件が片付いたのはよかった。いい加減断るのも難しくなってきてたからな。」

 

「最上様もその内結婚するんですよね。」

 

「そりゃそうだ。精々駅の役に立つ結婚をするさ。」

 

「夢がねぇ。」

 

「お前らもうかうかしてると、気がついたら婚儀ってこともあるからな。好きあった相手と結婚したいなら、頑張ることだな。」

 

「…いっそ何もしなければ結婚できると?」

 

「その場合10歳だろうが、醜女だろうが、人質としての婚姻だろうが文句は言わせんからな。」

 

「さっ!頑張るぞ!」

 

「「おう!」」

 

武士達は一致団結した。




婚約しました。結婚はまだ先です。

菖蒲様って絶対来栖のことそういう目で見てないですよね。小説でも窮地を抱き寄せられて助けられても、まさかの"お母様"だったのはくっそ笑った。お父様ですらねぇ。
とはいえピュアそうだから意識したら二人して赤面してそうで可愛いよね。


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【小話】三城目

蓬莱城と甲鉄城では手が足らないとして、顕金駅における三城目の建造が決定した。三城目は奪還作戦時に、掩体壕とした車両などを流用し建造することとなる。まだ三城目を運用するための人員配置などは決定していないが、三城目が完成すれば蓬莱城と甲鉄城が遠出をしても出雲を任せることができるのだ。

 

有志で蓬莱城や甲鉄城に乗りカバネ討伐に出ている民人を武士に引き上げ、現在運用中の二城からそれぞれ人を出すというところまで決まっている。あくまで蓬莱城と甲鉄城が出雲をあける際に、出雲の防衛を担うためのもので、最前線に行くことも、他駅に行商や交渉に行くことも想定していない。

城主は樵人を予定している。

 

楓により育てられた看護を担える者、以降看護師と呼称するが、看護師も蓬莱城、甲鉄城、八代の駿城に一人ずつ配置がされており、三城目が運用になればそちらにも配置予定である。

 

運転手は蓬莱城、甲鉄城、八代の駿城でそれぞれ育成中であるが、一朝一夕で育つものでもない。

蓬莱城で見習いをしている者は、一番運行回数が多いのもあり一番早く仕上がる見込みである。蓬莱城の見習いがもう少し育ち、三城目が完成したら甲鉄城の運転手が三城目を担当し、蓬莱城の見習いが甲鉄城に就任する予定だ。甲鉄城には狩方衆がいるため多少の手助けが可能なため一番未熟な運転手を甲鉄城に据えるのだ。さらに甲鉄城の見習いを蓬莱城へと異動させる。一番危険を伴う蓬莱城は侑那の代理を置いておく必要があるからだ。侑那が怪我をする事態は考えていないが、体調不良などは充分考えられるからである。

 

とはいえこのままでは、全車が人手不足となるため、他駅から研修を募ることとなる。手取り足取りカバネ殺しの術を教えて駅に返すのだ。比較的安全にカバネ殺しの術を習得でき、自駅に技術を持ち帰れるためそれなりに人数を確保できる予定であり、現在各駅に道元が伝書鳩を使って交渉中である。

顕金駅からすれば、民人でも使える掃射筒を任せられれば良し。蒸気筒がちゃんと使えれば尚良し程度なので人選は他駅に任せることになる。

 

そもそもが掃射筒や手投げの擲弾は、誰にでも使えるのを目的に開発されている為、武士であれば少し教えれば充分戦力となる。

 

蒸気鍛治はいくらいても足りないが、流民を使った流れ作業の生産形態をとったことで、三城目が完成したらそちらにも回せる予定である。

 

現状想定しているのが以上の通りであるが、顕金駅内も人は足りていない。

元々顕金駅には4300人程度が住んでいた。本来顕金駅は、全ての業務を十全に回すとなれば、健康な大人が凡そ2000人程度必要となる。働けない子供を入れて1550程度の顕金駅では手が足らないのは当然であるのだ。まして八代駅も抱えている。想定の2000人とて、担当業務を十全に回せる者が前提であり、駿城を二城保有し、基本的に一城を運行表通りに動かしている程度の状態での適正人数である。駿城も本来なら100程度の武士が乗るのが普通であるが、有志の民人を含めて40〜50程度である。

武士も通常業務を兼任しつつ、有志の民人を引き上げ、蒸気鍛治も流民を組み込んで回している今の顕金駅は慢性的に人手不足だ。

それでも不満がでないのは、衣食住が満たされ、目に見えて再興しているからだ。働けば働いただけ生活が豊かになる。高度経済成長期のサラリーマンみたいな感覚である。

 

「「人が足りない。」」

 

道元と最上は頭を抱える。

 

「何度試算し直しても人が足りません。これ以上経済を活性化すると、武士か蒸気鍛治のどちらかは間違いなく潰れます。」

 

「余所から流民を引き取るしかあるまい。…とはいえどこから引き取るか。」

 

「関係性からいけば石見駅がよかったのですが、銀山で結構死にましたし採掘には流民を使っている割合が多いですから駄目ですね。出雲の駅はこれ以上引き取らずとも大丈夫でしょうし、伯耆、備後あたりでしょうか。」

 

「かといってお荷物である流民を引き取る以上、何かと引き換えにしたいな。」

 

顕金駅は人手が欲しいから流民を引き取りたいわけだが、欲しいといえば足元を見られる。何かを要求し、それの代償として引き取るのが良いのだ。菖蒲あたりが聞けば、流民を手放したい駅と人手が欲しい顕金駅で、お互い望みが合うのだからそれで良いのではと言い出しかねないが、政とはこういうものなので仕方がない。

 

「伯耆と備後ならどちらがいいでしょう。」

 

「備後なら鉱山があるな。銅鉱山のある岩谷駅と仲良くしたいが、石見と同じく流民は採掘か?伯耆の方が流民を持て余してそうだな。しかし伯耆になにを要求する?食糧は凡そ目処がついた。織物は素晴らしいが交易品だな。」

 

「「うーん。」」

 

「最上様。今よろしいでしょうか。」

 

二人で首を捻っていると倉之助から声がかかった。最上の許可の返答を聞いて襖を開けた倉之助は、道元がいると思っていなかったのか、目を見開いた後背筋を正した。

 

「取り込み中に申し訳ありません。」

 

「許可をだしたのだから問題ない。何かあったのか。」

 

「…実は勘定方で使用してる部屋で盛大に墨を零しまして…申し訳ありません。」

 

「なにやってるんだ…。まあ良い。去年は畳を変えてなかったし、どうせ勘定方の部屋に部外者は入ら…。」

 

「あの…。最上様?」

 

「畳…。」

 

「畳だな。」

 

倉之助がオロオロとする中、最上と道元が通じ合う。

 

「沼隈駅の備後表。」

 

「今年は総入れ替えだな。」

 

「倉之助!良くやった!」

 

「いや私は謝罪に来たんですが…。」

 

「今のうちから要求しましょう。」

 

「ついでに岩谷駅で銅を買い付けつつ、流民の状態を確認して持て余しているようなら、銅を値切って流民を引き取る。沼隈駅には年末に城の畳表を総入れ替えできるように注文をかけて、優先若しくは値引きしてもらう分流民を引き取る。備後表といえば金剛郭にも納めていた御用表だ。金剛郭亡き今そこまでさばく先がないだろう。よし!値切ろう。」

 

「あ…あの…。」

 

「流民の受け入れ数はどうしますか?最低100は欲しいですが。」

 

「100以上300未満だな。いやこの先別の駅から引き取る必要が出るかもしれんから200未満だ。ふむ。岩谷駅は帰りの方がいいな。畳表が優先だ。食糧は沢山持って行かせんとな。」

 

「使用人も連れて行きます。流民の面倒を見るのに我々だけでは手が足りません。」

 

「あの…失礼します…。」

 

「三城目用の車両を増設して行きなさい。通常の行商もするべきだ。車両が長くなると武士の手も足りんだろう。一時的に蓬莱城から引き抜いて行っていいだろう。民人上がりなら10人程度なら引き抜いても討伐に不都合はあるまい。蓬莱城の手が足りなければ一時的に八代の武士を使えばいい。」

 

道元と最上が今後の計画で盛り上がる中、放置された倉之助は静かに退室して行った。

 

後日、菖蒲に建前で綺麗に繕った報告書が道元から提出され承認された。行商に向かった甲鉄城は185名の流民を連れ帰り、流民は六頭領の采配で農業、製鉄、蒸気鍛治等に振り分けられた。しかし武士の人数は民人を引き上げた分のみの増員となり、本格的に政を行う立場の者達の不足が問題となっている。




現代で言うところ正社員2000人で回す仕事を、正社員300人(武士約90、蒸気鍛治約100、その他六頭領、流民の武士、狩方衆など約110)とパートで回しているようなものです。しかも武士は正社員って言ってもまだ2年目社員。
一番やべぇのは武士。蒸気鍛治もアホほど生産数を求められてるのに、人が足らんので結構やばいですが、下侍一同と違って、基本的に元々やってた業務量が多くなっただけなのでどうとでもなります。


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【小話】挑戦者

ネタストックすらもなくなってまいりました。


「やあやあ我こそは、美作の国、周匝(すさい)駅の内田将勝(うちだまさかつ)なり、九智来栖殿、手合わせ願う!」

 

来栖不在の屋敷に来栖宛のお客様である。奉行所の武士達は対応に困って城へ報告へ向かった。

本日来ているのは美作の国の駿城ではない。名乗りが本当であれば、駿城を乗り継いでここまで来たようである。

 

報告を受けた道元も最上も内田の名前は知らなかったが指名は来栖である。しかも要望は手合わせ。態々顕金駅最強だぞと噂を流している来栖に挑みに来た変わり者である。これは面白いなと手合わせの許可を出した。

 

「弁慶かな?」

 

手合わせ場所として城の開けた場所に内田を通したところ、吉備土より大きな体をした薙刀を持った男が来たので、最上の口から先程の言葉がポロリとした。来栖も一瞬うわっと微妙な顔をする。

 

「九智殿であらせられるか!手合わせ願う!」

 

身体もでかけりゃ声もでかい。手合わせ用に来栖には木刀、内田にも訓練用の薙刀が渡された。見届け役兼何かあった際に止める役兼医者として最上がここに来たのだが、内田を見て至極嫌そうに顔が歪んだ。

 

「どうしました?」

 

「どうもなにもあるか。何かあったら私が割って入るんだぞ。あの男の振り回す薙刀を止めるとか無理なんだが…。まあ来栖なら大丈夫だと思うが、駄目だったら諦めよう。」

 

「最上。聞こえているぞ。」

 

「いやお前に何かあった時点で私に出来ることとかないから。悪いな。」

 

「開き直るな。」

 

来栖はそう言うが、来栖が負けるなら最上が勝てるわけはないし、他の武士などもってのほかなので武士達はただ見守る事にした。

 

最上の掛け声で内田が来栖に斬りかかる。足を刈りにきた薙刀を後退してかわす。足は最上との手合わせで散々狙われているが、最上相手と違うのは臂力の差である。最上が相手なら打ち合って体勢を崩すのだが、内田はどう考えても臂力は強いし長物相手であるので、受けてしまえば最上に自分がやっている手段を取られる事になる。

 

苛烈な内田の攻撃を来栖は観察しながら何度か避ける。上段から振り下ろされた薙刀を受け流し刀を返して内田の首にぴたりと木刀を寸止めした。

 

「勝負有り!」

 

最上の声で2人とも離れ礼をした。

 

「九智殿!素晴らしい観察眼!素晴らしい太刀筋であった!」

 

「いや。内田殿も素晴らしい太刀筋だった。足を狙われ慣れていなければかわせず受けざるを得なかっただろう。」

 

内田は大声で来栖を褒め称え、来栖も賛辞を返す。あっさりと終わった手合わせに最上はほっと息をついた。

 

「最上。お前の苦手な手合いだ。お前も手合わせするといい。」

 

「そちらの御仁もお強いのか!?是非!」

 

まさかの裏切りである。なぜ苦手な手合いだとわかっていて薦めるのか。

 

「いや待て。無茶言うな。」

 

「最上殿!お頼み申す!」

 

内田が勢いよく頭を下げる。家老だと名乗っていない状態でこの様な対応をされて受けないわけにもいかない。来栖から木刀を受け取り、

 

「後で覚えていろ。」

 

地を這うような声で一言残して最上が内田と立ち会う。

 

来栖の掛け声で内田が斬りかかり、最上が避ける。間合いを詰めねばならないが、下手に間合いを詰めようとすれば石突で突かれかねない。何度か避けていると

 

「速い!速い!」

 

内田が喜んでいる。最上がげんなりしながら避けていると、だんだん内田の振り回す薙刀の速度が上がってきた。嬉しくない事に最上の速さに慣れて、振りを小さく速くして対応してきたのだ。本来なら大振りのうちに攻めておくべきだったのだが、内田の巨躯から繰り出される攻撃が恐ろしくて見切りを優先した結果がこれである。来栖もこれはまずいかもしれないなと思い割って入る準備を始めた。いつでも割って入れるように位置どりをしながら手合わせを観察する。

最上が体勢を低くしながら対応するせいで、内田の斬撃は低い位置に集中している。足を刈りにきた横薙ぎを飛んで避けると思いきや、柄を踏みつけて斜め上へと跳ね、内田の首に木刀を添わせて脇を抜けた。

 

「勝負有り!」

 

来栖の声で2人とも礼をした。

 

「軽やかな身のこなし!素晴らしい!素晴らしいですな!この様に素早い方をお相手したのは初めてです!」

 

「は…はは…内田殿に追いつかれはしないかとヒヤヒヤしました。…ところで内田殿は何故お一人でここまで?」

 

「主君が少々繊細なお方なのだ。顕金駅と交流を持つべきとの臣下からの声が多いのだが、そんな遠出はならんと言われてな。遠出もなにも食糧確保以外では殆ど篭りきりでなぁ。このままではならんというのと、噂に名高い九智殿に挑戦してみたかったのだ。」

 

(来栖への挑戦が殆どのような…。)

 

周囲で聞いていた武士達は皆同じことを思った。なにせ最上が聞くまで手合わせの話しかしていない。

 

「帰りはどうなさるので?」

 

「また乗り継いで戻ります。」

 

「甲鉄城で送りましょうか?」

 

最上からとんでもない発言が出た。

 

「よろしいので?」

 

「もちろん。ただし3日程薙刀を預けて頂きたい。金属被膜刀をご存じですか?是非その加工をさせて頂きたい。」

 

「話は聞いておりますが、残念ながら持ち合わせがそんなに無く…。」

 

「無料で結構。」

 

「しかし…。」

 

「周匝駅といえば製鉄の駅ではないですか。お近づきになりたいのはこちらも同じ。是非うちで作っている兵器の製造をして頂きたいので交渉に行きたいですね。」

 

「あいや。送ってくださる件もそうだが、最上殿にはそんな権限がおありで?」

 

「家老ですので。」

 

「かっ…家老⁉︎家老⁉︎これはとんだ失礼を!」

 

最上が笑顔で告げた事実に内田が仰天する。

 

(営業を始めたぞ。)

 

(内田殿を気に入ったのか?)

 

(金属被膜刀を薦めたぞ。)

 

武士達がひそひそと会話する中、最上は行商がてら、内田にカバネ殺しのやり方を教示しつつ周匝駅まで送ることが決定した。

 

生駒に薙刀の金属被膜の加工を頼み、道元と交渉項目を検討し、内田はひたすら来栖と手合わせさせている。どうも領主は臆病なようだから交渉を蹴られる可能性もあるが、販売範囲を拡大する上で美作の国の駅で兵器を製造できるのは大きい。顕金駅の直接的な利益ではないが、カバネを殺せる手段を広げる意味では大きな意味がある。今後販売範囲が広がった場合顕金駅だけでは数を用意できないのだ。流民を使い流れ作業で増産しているため、現状は賄い切れているが手が足りなくなるのは目に見えているからだ。

 

甲鉄城が出発してからは、狩方衆が掃射筒や手投げ擲弾の使い方を教え、最上と瓜生が前衛の立ち回りを教える。内田は周匝駅に着く頃には、最上達と前衛を熟せる様になっていた。

 

周匝駅で領主と最上が交渉し、武器生産の承諾を得た。領主は同行しなかったが、家老と周匝駅の武士を同行させて使い方や戦い方を教示し、甲鉄城は撤収となった。

 

顕金駅に戻って来てから、最上の執務室に来栖がやってきた。

 

「よく承諾を取れたな。内田殿の言い方では嫌がりそうに感じたが。」

 

「まあ一応断られるのも想定はしてたな。だが武器を生産していれば態々危険を犯して駿城で出ずとも、うちの行商範囲から買い付けが来る。主に食糧を望んでいると言っておけば、食糧に余剰がある駅は食糧を運んで来てくれる。駿城の出入りは増えるが、カバネ殺しの術を手に入れ、内田殿もいるとなればそこまで難しい話じゃない。今年は伯耆、美作あたりを行商がてらカバネ狩りをしておけば良い。蓬莱城も何度か入れればカバネもかなり減るしな。」

 

「ふむ。そういうものか。」

 

「うちには折角鈴木殿と生駒が居るんだから、既存武器の生産に時間を取られるより、改良や開発に時間を使わせたい。あと単純に生産力が低いからな。販売範囲が広がると行き渡らなくなる。今のうちから生産場所は増やしておかねばな。」

 

「最上。顔色が悪いが大丈夫か?」

 

「…忙しすぎる。もう少し政の出来る人間がいないと、今想定している行動範囲以上に拡大するのは無理だ。」

 

冬の内はまだ道元達も余裕があるように見えたが、小田駅の奪還あたりから忙しくし始めており、さらに行動範囲を拡大するためあちこちの人員配置の変更やらなんやらをしているのも知っている。勿論菖蒲と一緒に説明は受けているが、来栖はあまりついていけていないのが現状だ。

 

「すまん。」

 

「いや。そもそも人数が少な過ぎる。お前達ももうそれなりにできるようになってきたが、未だ兼業だからな。まあ、お前にはもっと頑張って貰うがな。」

 

「むっ。」

 

「当たり前だろう?菖蒲様の伴侶となるのだから政は分かりませんでは済まさん。…覚えてろって言ってあったなぁ?」

 

「…うっ。」

 

内田との手合わせを薦めたことで、確かに覚えていろと言われたのを思い出した来栖は冷や汗を流す。

 

「奉行所の業務を完全にお前に移譲しよう。なに雅客が十全に仕事が出来る様になればすぐに減るから大丈夫だ。頑張れよ。」

 

「…わ…わかった。」

 

来栖も正直に言えばやりたくないのだが、道元と最上の業務量が多すぎるのはわかっているし、道元と最上に倒れられる方が困るのだ。それに最上が振ってきたのは奉行所業務であるため、基本的に後ろ暗い処理や他の業務との折衝は必要のない業務である。明文化された法の下、処理を行えばいいだけなのだ。政治的事情が加味されるような場合はそうそうないし、あっても最初から道元達の手が入ると認識している為、それ以外が処理出来ればいいのである、ただし暗記できてないので、いちいち調べるのがすごく手間ではあるのだが。




内田君はホモ君的には不得意枠。
性根が真っ直ぐなのは好感を持ってるけど、脳筋武人はちょっと…。来栖。相手よろしく。みたいな。

イカれた前衛野郎が他駅に誕生しましたwとはいえ他のオリキャラ同様そう出ない予定。

そろそろ各駅とオリキャラまとめないと自分で分からなくなってきましたw


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【小話】飢え

ストックが…話のストックが…。


蓬莱城が流民53名を連れて帰ってきたが、完全に計画外であるため、吉備土は道元に呼び出された。

 

「吉備土君。経緯を説明したまえ。」

 

「はい。山間部のカバネ討伐中に立ち寄った備中の新見駅でのことです。新見駅は昨年いもち病に気づくのが遅れ、稲の半分がやられてしまったそうです。収穫量が激減した上、金剛郭陥落の少し前に駿城を失っており、製紙を主産業とする新見駅では食糧不足に陥り、民人達が食糧の奪い合いをした結果多数の死人が出ておりました。一部の者達が食糧の抱え込みをしているようで依然民人達が飢えに喘いでいたのです。」

 

「それで?」

 

「は…。領主より顕金駅に余裕があるのなら民人の一部を引き取って欲しい。食糧の支援をして欲しいと要請されました。」

 

「それで?」

 

「…以上ですが。」

 

「まずここに何故最上君がいないか分かるかね?」

 

「は?い…いえ。…その以前私が最上様と諍いをおこしたからですか?」

 

「いつの話をしているのかね。そうではない。最上君は君達に甘いからだ。そして君達もまた最上君に甘えているからだ。」

 

「甘い…でしょうか?」

 

「そうだな。まあそれはとりあえず置いておこう。…それで君は何様だね。」

 

「はい?」

 

「君は領主か?家老か?何故なんの伺いもなく流民の受け入れを承諾した?食糧の支援?受けたのかね?抱え込みをしている者がいるなら、うちから出す必要はあるのか?」

 

「…支援の要請は一度持ち帰ると回答しました。民人は出直していては死んでしまうと…。」

 

「それをどうにかするのが領主の仕事だ。領主が溜め込んでいる者から吐き出させれば、少なくとも蓬莱城が食糧を載せて戻るまで死にはしないのでは?君に流民の受け入れの権限を誰が与えた?私か?最上君か?菖蒲殿か?」

 

「…いえ。受けておりません。」

 

「もう一度聞こう。君は何様だね。困っている人がいるなら助けてあげようと?精神は大層立派だ。だがかかる資金は君の私財かね。違うな。顕金駅の金だ。君に顕金駅の金を動かす権利はないはずだ。」

 

「はい。」

 

「さらに言えば、放って置いたら死ぬかもしれぬと?死にかけをあれ程連れてきて何がしたい?私も最上君も流民の受け入れは慎重に行ってきた。君達から見ればそうでもないのかもしれんがな。基本的に勤労意欲のある者、不具でない者、世帯で入れる時は妻子の状況も送り出す側に確認させている。食い扶持だけ増やしても仕方がないからな。君の引き取った流民はなんの役に立つ?連れてきた53名中何人まともに働ける?」

 

「…把握しておりません。」

 

「病気はどうかね?確認したか?」

 

「…しておりません。仁助が蓬莱城で診察はしてましたが、発熱している者が居たこと以外は詳しくは分かりません。」

 

「天然痘などを持っていたらどうしたのかね。顕金駅を滅ぼすつもりか?」

 

「いえ。そのようなつもりは…。」

 

「君が可哀想だと思えば今後もこうやって受け入れるつもりかね?」

 

「いえ。ですが今の顕金駅には元々の半分以下の民人しかおりません。余裕はあるではありませんか。」

 

「定員数だけで言えばな。君は蓬莱城で出るのが仕事だからあまり気にならんのかも知れないが、行政は常にいっぱいいっぱいだぞ。政を行える人間も少ないのに民人だけ増やしたら、秩序をどのように保つつもりだ?現在保有する食糧や生産見込みの食糧で何人食べられるか知っているかね?顕金駅が何人になったらやめるつもりだ?」

 

「そ…それは…。」

 

「3000か?4000か?定員数を超えた時にカバネにのまれた駅から逃げてきた者が助けを求めてきたらどうする?カバネにのまれる前の顕金駅の定数すら超えて受け入れるのか?」

 

「や…八代や小田が…。」

 

「少なくとも小田は共同管理だ。他4駅の承認を得る必要がある。君が調整するのかね?八代の復興状況をどの程度把握している?現在使用可能な住居数は?食糧の生産状況は?勘太郎がほぼ一人で政をしている訳だが丸投げするつもりかね?それとも君が領主代理をするか?」

 

「…出来ません。」

 

「菖蒲殿の真似をするのはやめろ。菖蒲殿が決めたことを、最上君がどうにかできてしまっていたのが悪かったな。君は良いことを気持ちよくした後、我々に投げればどうにかなると思っているのだろう?」

 

「…。」

 

「先に最上君が君達に甘い。君達も甘えていると言ったが、今私が言った事を最上君が言ったら、君は最上君に噛みつきはしなかったかね。若年だから舐めているというより、駄々を捏ねればどうにかしてくれると思っていないかね。」

 

「それは…。」

 

「まあいい。君はとにかく自宅で謹慎したまえ。時期は決まり次第伝えよう。始末書の提出をしてもらうからそのつもりで。下がりなさい。」

 

「…はい。失礼します。」

 

吉備土は頭を深々と下げて下がっていった。吉備土が部屋を出て少ししてから、隣の部屋へ続く襖へ向かって声をかける。

 

「…菖蒲殿。聞いていてどう思われましたか?」

 

隣の部屋の襖が開き、菖蒲の姿が現れる。道元の執務室の隣の部屋で、菖蒲と静と来栖は道元と吉備土のやり取りを聞いていた。襖を開けたのは静と来栖である。

 

「吉備土の気持ちはわかりますが、叔父様の言い分が正しいかと。流民の受け入れは早計でした。抱え込んでいる者から食糧を放出させ、蓬莱城の余剰分を分け与えて一度顕金駅に戻り相談すべきことでした。」

 

「菖蒲殿。貴方が蓬莱城に乗っていたらそうしましたか?」

 

「…吉備土と同じことをしたかもしれません。」

 

「でしょうな。ですが貴方は領主ですから、貴方がすると決めたなら我々は従うまで。貴方は出雲や八代の現状も把握しておりますし、小田の件の交渉もできます。最終的に顕金駅が流民を抱えきれずに崩壊しようが、責任を負うのは貴方です。吉備土君はそういう立場ではありませんので謹慎を命じました。異論はございますか?」

 

「ありません。甲鉄城やここでの私の対応が招いた事態ですね。」

 

「八代の件もございますからな。」

 

「うっ!…そうですね。気を付けます。」

 

「とはいえ、菖蒲殿がどのように振る舞っていたとして、吉備土君が今回したことの免罪符にはならないのですがね。誰だって良いことをして礼を言われたいものです。ですがそれは自分の権限の範囲内でするからこそです。吉備土君は許されている裁量を越えた。それだけです。それでは新見駅の件をどうするか検討致しましょう。」

 

道元達が新見駅への食糧支援についての検討を始めた頃、吉備土はとぼとぼと帰路に着いていた。城から出て住居区画へと足を向けたとき、最上が服部を伴って戻って来た。楓が流民の検閲をしており、仁助と楓から流民の健康状態などの聴き取りをしていたのだ。

 

「吉備土。丁度良かった。流民に発熱している体調不良者が何人かいるから、蓬莱城の乗員は自宅待機だ。お前も自宅待機していろ。」

 

「はい。それでは失礼します。」

 

謹慎を言い渡されている吉備土にとって、自宅待機は相反する指示ではないため素直に聞き入れ自宅へと向かった。

 

「吉備土。元気ありませんでしたね。」

 

「道元様から怒られたんだろ。あんなに無断で連れ帰れば怒られるに決まってる。」

 

「ああ。なるほど。最上様は検閲所で何も言わなかったので気がつきませんでした。」

 

「検閲が先だ。それに先に怒ったら不都合なことを隠すかもしれんだろ。」

 

「…はぁ。」

 

「わかってないな?あいつらに隠す意図が無くとも、流民が隠すかもしれんだろ。体調不良なんかは隠されると困るんだよ。麻疹みたいな状態になるのはごめんだぞ。ぱっと見でわかるものばかりじゃないんだ。仁助の見立てでは感冒だったし、流民と殆ど接触してないから吉備土を城に上げたが、仁助の診断を盲信する訳にはいかない。仁助だってまだまだ勉強中だからな。」

 

「そういうものですか。」

 

最上と服部が道元達に合流し、まずは数日体調不良者の様子を見た後、甲鉄城が新見駅へと行くことが決まった。受け入れてしまった流民を返す訳にはいかないが、食糧支援は領主と交渉次第ということになったのだ。顕金駅とて食糧生産を主産業としているわけではないし、先日奪還した小田駅もまだ収穫は先の話である。

 

流民については、20名を八代の住民とすることが決まった。53名中若く勤労意欲の高い者から順に選出された男女20名である。残りの33名は阿幸地らと検討の上割り振ることになるが、内1名が盲目、2名が不具、7名が感冒、6名が脚気であるため可能な作業の模索や治療を優先することとなった。その他2名が就労が農業の手伝い程度になりそうな子供、3名が就労が不可能な幼児、7名が重労働や新しい技術の習得には向かない老人で、残りの5名が年若い女性であった。

 

感冒と脚気の患者は楓に、子供は天祐和尚に預けられ、他は流民用に新しく建設された長屋に割り振られた。

 

吉備土は会議の度に呼び出され、襖を閉めた隣の部屋で発言することを許されず、会議内容を聞くことを要求され、蓬莱城で吉備土の補佐を任されている樵人と歩荷も、自宅待機が明けても自宅謹慎の上始末書を書かされた。

仁助は流民の隔離をある程度実施し、健康状態の把握に努め、出雲内の駅に立ち寄った際に先触れとして伝書鳩を飛ばしていたためお咎めはなかった。

 

吉備土、樵人、歩荷は謹慎が明けてから、今後起こり得る事例などが問題として書かれた紙を渡され、3人で検討し回答を道元に提出することになった。大体朱書きで真っ赤になって返ってくる。一番最初に返されたものには、君達は打出の小槌でも持っているのかと書かれた。

 

吉備土達が謹慎中は、来栖と雅客と服部を蓬莱城に突っ込んでカバネの討伐が行われた。生駒は吉備土達の謹慎に不服であったようだが、来栖や服部がこれ以上道元達を刺激しないよう宥めることになった。

 

来栖達は道元達に文句があるならお前らでやってみろよと言われるのが何より怖いのだ。駅全員の命がかかっている。未だ自分の仕事を十全にこなせていない武士達には荷が勝ちすぎる。それこそ食糧から駿城の燃料代の管理まで全てを取り仕切っているのは道元達だ。殆ど利益にならない蓬莱城が、なんのやりくりも無しに走り回っていられるのも道元達がそう采配しているからだ。あんまりにも来栖達が必死に宥めてくるので、生駒は思ってたよりまずい事になったのだなと理解した。

 

顕金駅がカバネにのまれる前の家老は、もっと暇を持て余していたと武士達は記憶しており、未だ道元達が忙しくしているのは自分達が力不足だからであると認識している。確かに道元達は次々と新しいことを始めたりしているが、それを抜きにしても忙しくしているのはわかっている。遅く来て定時で帰る家老を見てきた武士達からすれば、今でもたまに泊まり込んでいる時がある二人に仕事を投げられる訳にはいかないのだ。

 

今回の吉備土の件は、来栖達にとって中々衝撃的だった。なにせ道元が全面的に対応したのだ。普段は道元ではなく最上が伝達役をすることが多く、処分らしい処分が下ったのも初めてである。ただでさえ人が足りない上、道元達の教育不足であるとして謹慎程度で済んだのは幸いであった。

 

新見駅は、既に春も迎え収穫も見込める状況ではあるものの、備蓄を抱え込んでいる者から多少吐き出させたところで、焼石に水程度であると判明した為、食糧支援の見返りに武器と駿城の購入契約をさせ、主産業の紙類を一年間割安で提供させる契約を交わした。

 

金剛郭がなくなったことで、危機的状況にある駅の把握や支援をする場所がなくなった為、今後の共助関係を検討する必要も判明したことから、まずは出雲の駅と伝書鳩を交わし、話を詰めていく仕事も増え道元達がピリピリとしている状況となっている。

 

出雲における共助関係は、小田駅を抱える5駅が中心となる方向であり、基本的な事務作業は宍道駅、神西駅の2駅が対応することとなった。顕金駅以外の4駅は顕金駅に人的余裕がないこともわかっているし、なによりここで有用さを示せば今後も顕金駅に次ぐ立場にいられるのである。顕金駅が余計なことに手を煩わされず、カバネ殺しに精を出してくれた方が出雲全体にとっても利益になるという点もあげられる。

 

出雲の国の団結力は上がったものの、顕金駅は道元達がピリついており多少の緊張感がもたらされることとなった。




金剛郭が小説で食糧支援(届かなかったけども)してたので、あっぷあっぷしてる駅もあると思うんですよね。

吉備土は圧倒的善人なので、ホモ君側を視点として書いてると"なにしてんだコラ"ってなるけど良い人ではある。吉備土や菖蒲様は良い人なんだけど、時代感的に合わないんですよね。人同士の戦とか駄目そう。

吉備土は善行をして気持ちよくなりたいとかではなく、純粋に可哀想だなって思って助けになりたかった。顕金駅は常に人手不足だし、食糧事情もかなり良いし大丈夫だろうと連れ帰ってしまいました。

困ってる?助けてあげたいなって思う菖蒲様や吉備土と、困ってる?見返りになに差し出せる?って思う道元様達の違い。

作者は別に吉備土嫌いじゃないですが、ホモ君と価値観の合わない菖蒲様・吉備土・生駒がなんか悪い感じになってんの申し訳ねぇ。圧倒的善人は主人公補正とかないと中々難しいよねって思っちゃうだけなんだ。この3人なら作者が一番交流するの無理なの生駒なのに、吉備土が毎回割り食ってすまんな。むしろトラ転とかしたら菖蒲様とか吉備土と仲良くしたいよ。現代人としては。

道元様が対応したのはホモ君が対応して喧嘩になるのが時間の無駄だからと、ホモ君にはバリバリ働いてもらわないといけないので、余計なストレスかけたくないのもあります。役人がいっぱいいたらホモ君に、今度こそしっかりおさめてみたまえってしたかもだけど、クソ忙しいのにストレスまで抱えさせて潰れたら困るので。


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【小話】共感性

菖蒲様と来栖の話


来栖はいつも通り菖蒲の後ろに着いて歩く。

 

(己が菖蒲様と婚姻…な…なんと畏れ多い…)

 

「〜ですよね。来栖。」

 

「え?」

 

「聞いていなかったのですか?」

 

菖蒲が振り返り、可愛らしく顔をむすりとしたのを見て来栖は赤面した。菖蒲は以前なら来栖の態度が気にならなかったが、婚姻が決まってから来栖を観察するうちに、もしかして来栖って私のこと好きなのかしらと気がついてからが駄目だった。今も来栖が赤面しているのを見て、菖蒲もなにやら恥ずかしくなってきた。2人は城の廊下で見つめ合いながら赤面している。

 

そんな2人の後ろから来た最上は、またやってるのかと呆れ返りながら来栖の膝裏を蹴飛ばした。膝カックンである。

 

「だぁっ!」

 

「来栖⁉︎」

 

「菖蒲様。八代の採掘量の件ですが、今よろしいですか?」

 

「えっえぇ。勿論。」

 

来栖が盛大に尻餅をついたのを無視して、最上は菖蒲に仕事の話を振り、菖蒲も戸惑いつつも最上の話を聞くことを優先した。最上は用件を終えると引き上げて行き、その間に立ち上がった来栖は、赤面したままの菖蒲の後ろを赤面したままついて行った。

 

菖蒲を執務室まで送り届けた後、来栖は最上の執務室へとやって来た。

 

「最上。今いいだろうか。」

 

「よくない。帰れ。」

 

襖ごしに断られたが、来栖は諦めずに最上の執務室にお邪魔した。

 

「服部。色ボケ野郎を叩き出せ。」

 

「最上。困っているんだ。話を聞いてくれ。」

 

来栖が話したのは、兵部頭の仕事の件であった。最上も服部もきょとりとした後、真面目に話を聞いて最上が解決策を提示した。菖蒲との件で来たと最上は早とちりして悪かったなぁと思い殊更丁寧に来栖に教えた。

 

 

一方菖蒲は

 

「静。どうしましょう。来栖が照れてる顔をみると私も照れてしまうわ。」

 

「ここ最近いつもではありませんか。慣れてください。というか来栖様は以前からずっとああですよ。」

 

「そうだったかしら。」

 

「そうです。来栖様が菖蒲様をお慕いしていることなど、甲鉄城にいた者全てが知っていますが?」

 

「す…全て?」

 

「えぇ。というか菖蒲様が微塵もお気づきでなかったことの方が驚きです。来栖様のあれは数年前からですよ。」

 

「数年…前…。」

 

菖蒲は来栖が女子が苦手なのだとずっと思っていた。見つめると頬を染めて目線を逸らすのを、寧ろ面白がってずいずい迫ったこともある。まさか自分限定だとは思っていなかったのだ。

 

「ど…どうしましょう。」

 

ここ数年の来栖の様子を思い出して、菖蒲は更に赤面して狼狽えた。

 

「とりあえずお仕事をなさいませ。」

 

「…はい。」

 

静にぴしゃりと言われて、菖蒲は仕事に精を出すことにした。

 

菖蒲が普段何かを相談するときは、道元、最上、静、来栖の4人であるが、道元と最上は最近また忙しくしているし、静は冷たくあしらってくる。来栖のことを来栖に相談する訳にもいかない為、どうしたらいいのかさっぱりわからない。お茶を持って来た下緒を捕まえて、こそっと聞いてみたが静と同じ表情である。

 

下緒から最上に報告が上がり、最上はとりあえず勘太郎と結婚した鯛との文通、仁助と結婚した楓の登城を手配したのだが、鯛と楓から当人が慣れるしかないとの回答をいただいた。

 

二人とも仕事はしているので、問題になる程ではないのだが、どうしたものかと考えていると歳の近い侑那を思いついたが、あまりこういった事に興味がなさそうな気がする。次いで出てきたのが鰍である。とりあえず鰍を手配するかと、服部に手紙を持たせて鰍に打診したところめちゃくちゃ食い付いて来た。

 

鰍はその日、蓬莱城が出かけており同居の無名が居ないことから、1人で晩御飯を作っていた。夕飯時に服部が最上からの手紙を携えて訪ねて来て、手紙の件は他言無用、返答は読み終わるまで待機する服部が口頭で受ける事、手紙は読み終えたら服部が回収する事との説明をされ、すわ何事かと仰天したが、内容は菖蒲の恋愛相談相手の募集であった。

 

「是非!」

 

と返答して手紙を服部に返却したが、服部は無名にも言っては駄目だと言い置いて帰って行った。

 

たかが恋愛相談、されど恋愛相談である。菖蒲の立場上触れ回ってはいけないことはわかる。だが言いたい。とはいえ言えばまずいのもわかる。手紙の扱いを考えれば、機密情報の類いなのだ。内容は恋愛相談相手の募集だが。

 

鰍は蓬莱城が不在の日に、鰍塾の授業状況の報告という名目で登城した。呼び出し内容を心得ている下緒が、そのまま鰍を菖蒲の執務室へと案内し、静、下緒が同席の下、恋愛相談が行われた。

 

よもぎのおやきを茶菓子に、行われた恋愛相談であるが、勿論こんなことに解決策などない。鰍は菖蒲に共感したりしながら話を聞き、菖蒲と鰍は時間いっぱいの一刻喋り倒した。今まで相談すると割と冷たくあしらわれていた菖蒲にとって、話を盛り上げ、共感してくれる鰍との会話でかなりすっきりとした。もう一度言うが解決策などないので、何にも解決はしていない。

 

同席していた静達は、きゃあきゃあと盛り上がる2人を眺めながら、しれっと茶菓子を美味しくいただいていただけである。下緒は何にも解決していないのに、すっきりした様子の菖蒲を見て、成る程共感してあげれば良かったのかと思ったが、鰍程きゃあきゃあと盛り上がれる気がしない。

 

鰍を城外へ送った後、最上の執務室に行き相談状況の報告をした。

結論から言えば何にも解決しておりません。となるのだが鰍が共感し喋り倒したことで菖蒲はすっきりした様子だったと告げたことで最上は納得したようだった。

 

「成る程。共感性か。鯖さんや秋刀魚さんは共感性は高いと思うか?」

 

「えぇっと。…鯖さんはどうでしょう。秋刀魚さんは鯏さんが料理番に来た時に、頬を染めていた内の1人ですから共感してくれるかもしれません。」

 

「わかった。どうもありがとう。下がってくれ。」

 

古来より女性の悩み事とは、解決したい場合とただ共感してほしいだけの場合がある。ただ共感してほしい場合、解決策を提示しても何やら不機嫌だったりするのだ。最上は父親を亡くした後、母親が時折そういう感じであったことを思い出して納得した。どうしましょうかと言うわりに、解決策を提示すると微妙な顔をしていた母親が、余所の上侍の奥方と同じ話題で盛り上がっていたのだ。当時は理解不能であったが、成る程共感か確かに聞かれた内容は割とどうでもいいことだった気がする。母親が解決策に思い至らないような内容でもなかった。

 

(要は共感してくれる相手に、お喋りしたかっただけなのだな。自分にそうしてきたということは、母上は寂しかったのだろうか。)

 

そこまで思い至って最上は少ししょんぼりした。

 




ホモ君母は別に寂しかったとかじゃなくて、なんとなくホモ君に話を振っただけ。解決策を提示されて、わぁ合理的。だけど違うんだよなぁ。愚痴りたいのよね。ってなってただけ。余所の上侍の奥方とめちゃくちゃ愚痴り倒した。現代で言うところファミレスとかに何時間でも居座ってお喋りできるタイプ。

静達共感できなかった女性達は、痩せたいんだけどって話題に運動を勧めるタイプ。共感してほしい女性達は、えっ?全然太ってないじゃんからの、全然食べてないのに太るのわかるぅ。みたいなのを求めてる。基礎代謝上げろとかの解答は求めてないんだ。作者は基礎代謝上げるのに筋力をつけるのを勧めて微妙な顔されたから知ってる。

女性だからといって全員が共感性高い訳でも、共感してほしいわけでもないし、男性でも共感性高い人って結構いるよね。共感性の高い人って大体聞き上手。

共感しながら、解決策が知りたいのか共感してほしいだけか見極めるのマジで難しい。作者にはできないのである。


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【小話】柱

先週は体調不良により更新ありませんでした。
まあ話のストックがなくなって来てるのもあるんですけどね。


謹慎明けの樵人が一之進の稽古の為に最上の屋敷に行くとなにやら鯉の怒る声が聞こえてきた。

 

「まったく!こんな事をして最上様に怒られても知りませんからね!」

 

しょんぼりした子供達を縁側に正座させ鯉の指差す先には特になにも見当たらない。一之進達は正座をさせられているが、唯一二之介だけは使用人見習いの女子に抱かれていた。

 

「あの。どうしました?」

 

「ああ。樵人様。もうこんな時間でしたか。さっ一之進。支度してしまいなさい。」

 

「はい。」

 

しょんぼりとした一之進が一度屋敷の中へと入って行く。

 

「樵人様。見てください。」

 

鯉の指差す先は縁側の柱である。内側を指差しているので、縁側に少し乗り入れて覗いてみると、恐らく身長を刻んだであろう浅い線傷と歪に一、小、さ、二と書かれていた。上を見上げても最上の身長辺りやそれより下に傷はない。真っ新な柱にやってしまったらしい。せめて最上の身長記録でも刻まれていれば許されるかもしれないが、これは怒られるかもしれないなぁと樵人も思った。なにせ自分達の所為だが最近の最上はピリピリしている。

 

「ああ。これはもしかしたら最上様も怒るかもしれませんね。」

 

樵人が鯉の意見を肯定したことで、縁側に残された小太郎と小夜がさらにしょんぼりとしており、二之介はまだ理解出来る年ではないからか、使用人見習いの女子に抱かれきゃらきゃらと笑っていた。一之進達はあくまで最上の屋敷に居候している身分であり、小太郎と小夜は武士の子ですらない。武士の屋敷の柱に勝手に傷を付けたのだ。以前居た上侍達なら子供をそもそも引き取らないが、こんな事をしたら絶対許さないだろう。最上が怒るかどうかはよくわからないが、怒るとしてどこまで怒るかわからない。

 

顕金駅ができた時からある柱なのだろう。柱に年季を感じる為下手に削って消すわけにも行かない。飴色の柱をヤスリで削って消したとして、そこだけ色が変わってしまうだろう。

 

「まあ素直に謝りなさい。」

 

樵人にはそれしか言えないのである。とはいえ最上は帰宅時間が遅かったりするので、一之進達が謝るのが先か最上が気がつくのが先かわからない。

 

 

その日の夜、子供達が部屋に引き上げてから最上が帰宅した。鯉と穴子はとりあえず報告せねばと、部屋に向かう最上を引き止めて柱の前に連れて行って報告をした。最上はむすりと難しい顔をしていたが、これ以上やらせないようにとだけ言って部屋に引き上げた。とりあえず、子供達を叩き起こして折檻等とならなくて良かったと穴子達はホッと息を吐いた。

 

翌朝、朝食の席では最上は半分寝たままご飯を食べていた。いつもはちょっかいを出す小夜も、柱の件があるからかちらちらと最上を窺っているが、ちょっかいをかけるのを躊躇っていた。穴子にぺしりと肩を叩かれて、何度か起こされながら最上は朝食を終えた。席を立ち部屋から出て行こうとする最上の着流しの裾を小夜が握って引き止める。

 

「柱。傷つけてごめんなさい。」

 

まだ最上がなにも言ってないのに既に小夜はうるうると目に涙を溜めており、一之進と小太郎もすかさず頭を下げてごめんなさいと謝った。最上はまだ多少寝ぼけているので、一瞬なんのことかわからなかったが、そういえば昨日鯉さん達が報告してたなと思い至った。最上が思案していたところ、もの凄く怒っていて無視されたと思った小夜は、べしょべしょに泣きながら蚊の鳴くような声でもう一度ごめんなさいと謝った。

 

「小夜。離しなさい。別に怒ってはいない。ただしあれ以上やるな。」

 

それだけ言い置いて最上は部屋を出て行った。言葉の通り最上は別に怒ってはいないのだが、これで子供に伝わるかというと論外である。年上とばかり接しており、それなりに接する機会のある年下の無名は、こういう簡潔な応答で充分であるので最上は簡潔に応答をした。小夜どころか一之進達もこれは怒っていると判断したのは仕方ないところである。

 

穴子達は怒らなくて良かったと言葉の通り受け取ったが、子供達はそっけなくされたため怒っていると勘違いしていた。特段最上は怒ってもいなければ、普段からこんな感じであるのだが、怒られると思っていたからか子供達は言葉通り受け取らなかった。子供達は固まってしまった為、食器を片付けに厨に下がっていった穴子達も子供達の様子に気が付かなかった。

 

樵人から昨日の件の引き継ぎを受けていた雅客は、一之進の稽古に来てしょんぼりとしている子供達を見て、これは怒られたなと判断した。

 

「なんだ元気ないな。最上様に怒られたか?」

 

「怒ってないそうです。」

 

「ん?じゃあどうした?」

 

怒られてないのになぜしょんぼりしているのか分からず雅客は首を傾げた。

一之進が朝の状況を説明する中、小夜が鼻を啜りだした。

 

「おいおい。泣くなって。最上様は怒ってないって言ってたんだろ?」

 

雅客は小夜の頭を撫でながら言葉をかけるが、

 

「だって、おごっでたも"ん」

 

号泣した。雅客がおろおろしていると使用人見習いから冷たい目線を向けられた。騒ぎを聞きつけた穴子がやってきたので、朝の状況を聞くと怒っていないというし雅客には何がなんやら分からなかった。

 

穴子と鯉を交えて話したところ、最上の対応で子供達が勘違いしたということは判明したが、居候でしかない子供達に丁寧に対応しろと、最上に説明するのも違う気がするのだ。

 

最上は武士の子であるので、幼少期に泣けば武士の子が泣くんじゃないと怒られただろうし、一之進達が泣いていたら男子が泣くなと怒ってたかもしれない。女子の小夜に泣くんじゃないと怒らなかっただけ良いと思うべきか、子供の扱いを教えるべきか悩むところではある。朝の件は目線を合わせてあげるとか、頭を撫でるとかをしていればたぶん勘違いされなかった筈である。

 

機嫌を損ねた女子が、本当は怒っているのに別に怒ってないと言いながらぷりぷりしているのと違って、最上は本当に怒っていないようなので、最上の中で柱の件は終結しているかもしれないが、穴子か鯉が帰宅した最上に水を向ける程度に話をすることが決まった。

 

夜に随分と草臥れて帰宅した最上に、余計なことを言うのは憚られたが、伝えぬわけにもいかないと穴子から一之進達が勘違いしていることを伝えた。最上に何故かと聞き返されたので、一応一通り説明することになったが

 

「ふむ。女子の扱いは難しいな。鰍殿にでも引き取って貰うべきか?」

 

小夜ギャン泣き案件である。柱に傷を付けたから捨てられたと、泣く小夜の姿しか思い浮かばない。

 

最上からすれば、扱いの良くないうちにいるより、甲鉄城で面倒を見ていた鰍に使用人付きで引き継いだ方がいいだろうかと思ったのだが、穴子に違うと怒られ、頭の一つも撫でてやればいいのですと言われ、とりあえず納得した。

 

翌朝の朝食も前日と同じく小夜はちょっかいを出すことなく、ちらちらと最上を窺っていた。朝食が終わり、最上は小夜の頭を撫でるという穴子の指示を思い出し、小夜の頭を雑に撫でながらポカンとしてる小夜に

 

「もう一度言う。怒ってない。」

 

と言ってから席を立った。小夜は髪型が崩れたが、撫でられた頭に手をやり満足そうである。一部始終を見ていた一之進達は本当に怒ってなかったんだと納得した。

 

数日後、最上の在宅中に庭で棒切れを振り回していた小太郎が、棒切れから手を滑らせ雪見障子の硝子をカチ割り、最上からのお叱りを頂戴し、小太郎は涙目になり、側から見ていただけの小夜と二之介は泣いたし、一之進は成る程確かにこの間は怒っていなかったのだなと改めて思った。

 




ホモ君は子供の扱いが下手。泣いてる小夜ちゃんに、目線も合わせず頭も撫でずに言うだけ言って退室したら、そりゃ勘違いされるってものです。寝ぼけてなくてもこの対応です。

小夜ちゃん危機一髪。もう少しで鰍のお家に行かされるところでした。

穴子「違う。そうじゃない。」

まあそんなことしたら、キレた鰍と無名がギャン泣きしてる小夜ちゃん連れて執務室襲撃しますが。良かったな。命拾いしたぞ。

穴子達から報告された時にむすっとしてたのは、客を通す部屋から見えるところだからちょっと具合が悪いのと、削ればワンチャン…いやないな。みたいに考えてたから。まあ庭も畑に改造してるし、池には川魚なので当分客を呼ぶ予定はありません。個人宅に呼ぶとしたら、今のところ山本君くらいしか思い浮かばないしまあいいかの精神。


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【小話】月間

「今月は甲鉄城も含めてひたすらカバネを狩る。蓬莱城は凡そいつも通りではあるが、甲鉄城も行商を後に回してひたすらカバネを殺す。来栖や雅客なんかもローテーションに入れて、可能な限りカバネを殺す事に注力する。」

 

操車場に甲鉄城、蓬莱城の面子が集められて最上から通達された内容がこれである。ざわざわと声が上がる中、仁助が挙手する。

 

「はい。仁助。」

 

「今まで行政も同時進行で慎重に進めて来たのに、何故今月はカバネ狩りに注力するのですか?」

 

「石見、安芸、備後、備中、備前、伯耆、美作あたりを今年中にはもう少し復興させておきたい。再来年辺りに南海道の伊予、土佐、讃岐、阿波を復興させ、南海道の四国を山陽道、西海道奪還のための安全な生産拠点とするためだな。…とはいえこれらは政が必須になるが、今の顕金駅は自駅の運営すら怪しい。顕金駅が何においても突出すれば、実利はどうあれ面白くないと思う駅は必ず出てくる。今の顕金駅の状況は、全く嬉しくないことに他の国にも察せられている。今の内に周辺国のカバネを減らしておけば、顕金駅を気にせず国の中で勝手にまとまる。ある程度均衡を図る事で顕金駅が目の敵にされるのを防ぐ。」

 

「なんで均衡を図らないと目の敵にされるんですか?」

 

生駒は素直に疑問を口にした。別に頭は悪くないのだが、政方面では全く頭は回らないらしい。とはいえこういった事は、権力者の矜持と欲望の都合なのでわからなくとも無理はない。

 

「あー…。なんて言えばいいんだろうな。うちには天子様もいなければ、菖蒲様が将軍に任命されたわけでもない。従う理由がないし、うちだけ力をつけるのは面白くないと思うものなんだ。…わかるか?」

 

「わかりません。面白い面白くないの問題じゃないと思うんですけど。」

 

「…だよな。まあそういうものなんだとしかいいようがないんだが、とりあえず今月はカバネ狩りの月です。ってことだけわかってれば良いよ。蓬莱城は概ねいつも通りだから。」

 

「わかりました。」

 

カバネを殺す事には、全く異議はないので生駒はすんなりと引き下がった。

 

このカバネ狩り月間で一番楽になるのは最上である。何も考えずにカバネを殺すだけで良いのだ。だったらひと月と言わずにと言われそうであるが、これは利益度外視なので恐ろしい勢いで金が飛ぶ。ひと月分の金銭的な体力が限度であったのである。

 

出雲の各駅からは、試験的に武士を出させて同行させる事になっており、各駅から武士を回収しつつ周辺国のカバネ討伐をすることとなっている。

 

カバネ狩り月間であった月、顕金駅の駿城は狂ったようにカバネを狩りまくった。蓬莱城が融合群体を撃破したり、甲鉄城がめちゃくちゃ強いワザトリと当たって最上と瓜生がぼろぼろになって帰ってきたり、来栖と雅客も時折編成しながら怒涛のひと月を終えた。

 

尚倉之助は笑えるほど吹っ飛び続ける金の勘定に追われて、目の下に隈をこさえて泣きながら算盤を弾いていた。カバネ狩り月間は勘定方から忌み嫌われる月間となった。

 

そして前衛組が来栖と生駒の日に、蓬莱城が余所の駅の施設をぶっ壊した為倉之助が修羅となった。ぼろぼろの最上と瓜生が甲鉄城で戻ったとき、操車場で"私たちは○○駅管理の給水塔を破壊しました。"と書かれた立て札の隣で正座をさせられている2人を見て仲良く合掌した。将来の菖蒲の伴侶を、操車場で正座させた倉之助に文句を言う者はいなかった。金を握っている者は強いのだ。

 

破壊した施設の弁償分多少予算から足は出たものの、怒り狂う倉之助のおかげで、道元と最上は笑いはすれど怒りはしなかった。

 

顕金駅は周辺国との折衝なしにカバネ狩りを実施した為、周辺国からすれば勝手にカバネを減らしてくれた形となる。勿論補給等で立ち寄る為、顕金駅の駿城がカバネ狩りをしている事は知っているが、それを恩と捉えるかは各駅の領主次第であり、勝手にやっているのだから恩と捉えない駅も多い。とはいえカバネが激減したことにより、道元達の目論見通り、周辺国の大きい駅が周辺の駅との交易を活性化させる結果となり、それぞれで互助関係を再開させる駅が増えた。

 

「これで新見駅のように、完全に孤立する駅を防げれば良いのですが無理ですよね。」

 

「無理だろうな。だが今回の事で各国で主導権を握る駅が出てきた。各駅と折衝するより、代表駅と折衝するだけで済むようになるだろう。もう少し政が出来る者が多ければ各駅と折衝した方が利はあったがね。居ないものは仕方がない。」

 

「道元様と勘太郎殿がいてくださって本当に良かった。いなかったらと思うと恐ろしいですよ。早々に宍道駅の傘下に入って政を丸投げせねばならないくらいです。」

 

「まあ君には伝手がないからなぁ。」

 

道元は酒を飲み、最上は茶を飲みながらの食事会である。周辺国の各駅との折衝が面倒すぎて、各国で勝手にまとまるのを期待して、今回のカバネ狩り月間を企画した事の反省会である。

 

「また行商で金策せねばなりませんね。勘定方の怒り狂いぶりはまずいです。」

 

「予算を多めにしておいて良かった。報告には驚いたが、まさか倉之助君が飛び出して行って、来栖君に雷を落とすとは思わんかったかったよ。」

 

「立て札を見て道元様ではないなとは思いましたけど、まさかの倉之助でした。逞しく勘定方をしてくれているようで何よりです。一番早く我々の手を離れそうですね。」

 

倉之助にとっては全く嬉しくない評価である。仕事ぶりを評価されるのは良いことではあるが、さらに仕事が増えるのだ。全く嬉しくない。

 

 

カバネ狩り月間により、蓬莱城の全ての車両の金属被膜化が終了したのは余談である。




菖蒲様なんもしてないじゃん?ってなるけど、ぶっちゃけ最終決裁は菖蒲様なので、道元達からの書類に署名押印するだけで忙しいのです。沢山新しいこと企画されるので覚えるのが大変。来栖はそこまでできてないけど、菖蒲様は覚えるべきはきっちり覚えてます。政治的な派閥がないので、そのあたりのバランスを取らなくていいのは楽なところ。


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【小話】戦い方

「えっ?来栖と手合わせ?いいよ。」

 

この日、来栖と無名が手合わせすることになったが、本気で手合わせするわけではない。というのもこれは最上が頼んだもので、無名が海門で使っていたスピンカートリッジの蒸気筒での戦い方を一部参考にしたいからである。

 

来栖は木刀、無名は弾の入ってない蒸気筒である。本気でやってもらわないのは、純粋に参考にならないからだ。残念ながら本気の無名の動きは最上には真似出来ない。

 

最上は普段刀と蒸気筒を携帯しているが、勿論近接で蒸気筒を使うことはない。普段使っている蒸気筒では、蒸気を送る管が邪魔で取り回しが悪く、近距離なら間違いなく刀の方が良いからである。それでも無名の戦い方を参考にしたいのは、蒸気筒を使っている時に急接近された時対策である。持ち前のセンスで、何を使っても戦う事の出来る無名の戦い方は参考に丁度いい。

 

刀は歴史があるため色々な流派が存在しているが、蒸気筒でぶん殴る戦い方など、カバネ相手しかしていない武士達で発展する訳がないのだ。ぶん殴っても殺せないので、そもそもぶん殴るという発想がなかったというべきか。過去に来栖が生駒をどついてはいるが、技術として体系化されているわけではない。

 

来栖と無名は6割くらいでと言われた為、準備運動のような手合わせを始めた。

 

「これ最上さんに向いてないと思うんだけど。」

 

「臂力が弱いから向いてはいないな。まあ蒸気筒を使ってる時に、少し使うくらいならいいんじゃないか?」

 

「そりゃそうだけど、スピンカートリッジに持ち替えるわけでもないんでしょ?」

 

「持ち替えんだろうな。蒸気筒に持ち替える時は後衛まで下がるから、安定して使える今の蒸気筒の方がいい筈だ。」

 

「実は私対策だったりして。」

 

「それはないな。あいつが正々堂々お前に挑むものか。勝てない戦いは基本的にしない。それにお前対策なら己とやらせる必要がない。最上がお前と手合わせした方が意味がある。」

 

「そういうもん?」

 

「例えば己を最上が殺すと決めたら、刀で挑まず毒とか盛ってくるぞ。きっと。」

 

「えぇ〜。武士としてそれで良いの?」

 

「あいつにそんな安い矜持はない。目的の為なら手段は選ばない。」

 

のんびりと喋っているが、二人とも激しく打ち合っており、互いのリズムに釣られてどんどん早くなってきている。

 

「こら!もう少しゆっくり!」

 

「はぁい。」

 

「むっ。中々難しいな。」

 

暫く打ち合った後、最上に声をかけられて手合わせは終了した。

 

「で?これなんのためにやったの?」

 

「他の武士達もそうだが、蒸気筒を使っている時に高所とかから予期せぬ襲撃を受けた場合に使える手段が欲しくてな。防ぐ、叩く、距離をとる。くらいの動きを身につけておけば、前衛が戻るなり他の武士が仕留めるなり出来るだろ。ある程度体系化して訓練しとかんと咄嗟に動けないからな。」

 

「でも私の戦い方スピンカートリッジのやり方だよ?」

 

「連撃するなら、スピンカートリッジの様に管の接続のないものが望ましいが、連撃するつもりはないから大丈夫だ。受けてから攻撃に入る動きを見たかったんだ。無名殿の動きは無駄がなくて美しいからな。」

 

「えっ?そうかな?えへへ。」

 

「カバネリの身体能力に関係なく、無名殿の動きは最適化されていて、最早才能以外では言い表せない。」

 

「やけに褒めるな?」

 

「そうか?お前の剣術も素晴らしいが、それは元々流派として確立されたものを昇華させたものだ。だが無名殿は大体何を持たせても直ぐに最適な動きをする。これを才能と呼ばずに何という?惜しむらくは言語化が難しい事だな。」

 

「えへへ。褒められた。」

 

(教えるのが下手だと言われているがな。)

 

「凡そわかったから、後は基礎に出来そうな動きに落とし込んで反復練習だな。使えそうなら武士達にも教える。」

 

「ふむ。興味があるんだが。」

 

「お前には必要ない。お前は刀だけ極めてろ。」

 

「あっはっは!じゃあ折角だしもう少し本気で手合わせしよっか。」

 

「怪我しない程度にな。」

 

来栖と無名の手合わせの傍ら、最上は基礎への落とし込みに勤しんだ。来栖達は高速で打ち合っており、その二人を見て最上は、やっぱりこいつらとは戦いたくないなと再認識した。

 

数日して基礎への落とし込みを終え、瓜生を付き合わせてさらに動きを最適化させ、武士達に受け流し方や引き打ちを教える事となった。とはいえあくまでも緊急時の使い方であり、積極的に使うものではないため護身術に近いものである。訓練風景を見た無名などは

 

「もっとパッとしてトントンピってした方がいいんじゃない?」

 

と口にして、瓜生に一蹴されていた。

説明も理解出来ないが、恐らく理解出来ても実現不可能な動きであるので、最上も理解を放棄した。

 

武士達に先んじて狩方衆に教えたところ、なかなか反応が良く狩方衆からの意見も少しばかり反映されている。

 

武士達に教えた際に、いっそ刀つけようぜとの意見が出たため、銃剣スタイルが確立され、蒸気筒に取り付けられる銃剣が開発された。既に無名は飛び出し式の銃剣を使っているが、武士達のものは後付け方式である。銃剣は無闇に振り回せば危険な為、狩方衆と武士の一部に配備され、試験期間が設けられることになった。

 

最上は蒸気筒を負い紐で襷掛けにしていることから、銃剣は邪魔になる為採用しなかった。銃剣を携帯するだけしても良いのだが、銃剣を持つくらいなら二本差しにしろと、来栖と道元から大変不評であった。とはいえ最上の体格で二本差しで蒸気筒まで背負うと、見た目がガチャガチャしており非常に戦いにくそうな上、最上も重いから嫌とのことで変更は無しとなった。さらに銃床での打撃が人一倍軽いとケチをつけられた為、問題のない程度に銃床を切り詰め、内部を削って軽量化を図る暴挙に出た。打撃を捨てたのである。

 

「お前が考えた戦い方をお前が放棄してどうする。」

 

「軽い軽いとケチをつけたのはお前らだろ。だったら軽量化して速く動けるようにした方がましだ。受け流して離脱する。」

 

ただでさえ、ひと回り小さく軽くなった蒸気筒を軽くしたことで、最上の蒸気筒は今顕金駅に存在する蒸気筒の中で最軽量となった。吉備土などは旧型の蒸気筒の銃床に金属を付けた為、顕金駅で最重量の蒸気筒である。勿論吉備土の蒸気筒も新型と同じくライフリングが刻まれている為、有効射程は格段に伸びているものとなっている。

 

他駅に出荷される蒸気筒は新型のみであるが、顕金駅の武士達では鈴木や生駒に相談してカスタマイズされたものが流行ることになった。

狩方衆は元々画一的な装備で戦力が均一化していたこともあり、新型の蒸気筒に銃剣を付けるか否かくらいの独自性にとどまった。行商の都合もあるため、標準装備を好んで使ってくれるところが最上にとっても助かるところである。

 




高速で打ち合う無名達と戦いたくない理由はスピードだけならついてけるけど(純粋な速さなら来栖より速いので)威力が段違いなのでw

銃剣後付け方式の理由は、既存の蒸気筒を少し改造すれば使える様にするため。いちいち蒸気筒から作ってられないので。

今ちょっと長いの書いてます。小話よりってだけで3、4話構成位になる予定。


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【小話】見合い

ホモ君は本編軸15歳。顕金駅奪還の年16歳。現在17歳。
本編軸の来栖と同い年になりましたが身長伸びてません。もうこのままでいいかなって思ってます。

もうね。人増やさんと駅の運営が厳しくて仕方ない。


「最上君。結婚せんか?」

 

「どなたとです?」

 

共にいた服部は急な話題にギョッとしたが、最上は平然とした態度で道元に問い返した。

 

「倉吉駅の姫だな。」

 

「以前破談になったのでしたか?」

 

「そうだ。どうやら元々あった嫁入り話が流れた後、嫁入り先が決まらぬらしい。」

 

「何故です?倉吉駅の姫とあればいくらでも嫁ぎ先などあるでしょう。」

 

「大層な美姫であったが、2年前駅であった火災で顔が焼けてしまい、普段は面を付けて生活しているらしい。今となっては姫の護衛以外は寄り付かぬそうだ。」

 

「はあ…。二目と見られぬ程だと?」

 

「素顔をみせたら婚約者が裸足で逃げ出したそうだ。」

 

「護衛はついて来るのですか?」

 

「そのようだ。護衛の武士達の忠誠心は、顔が焼けたくらいでは失わなかったようだ。」

 

「ふむ。悪くないですね。武士の手が足りておりませんし。姫の不利益になるようなことはしないでしょう。婚姻で手を増やすのは良いですね。」

 

「だろう?顔合わせで君が逃げ出さなければ成立する婚姻だ。正直を言えば君の婚姻の手札はもう少しとっておきたいところではあるが、このままでは政が滞るのが目に見えているしな。」

 

米子駅、宍道駅を経由して伯耆の国の倉吉駅から届いた婚姻話は、顔合わせの日程まで直ぐに進んだ。姫の歳は菖蒲の二つ上で顔も焼けているとなれば、早く結婚させてしまいたいのだろう。20を越えれば行き遅れなのだ。倉吉駅の領主は、嫁入り先から破談されて直ぐに伯耆の国の駅で嫁入り先を探したそうだが、まだ金剛郭が崩壊する前で駿城の行き来もそれなりにあったため、瞬く間に姫の火傷の話が広がってしまった。倉吉駅は伯耆の国最大の駅である為、家格を考えるとそれなりに上位の武士の下にしか嫁げない。しかし回った噂のせいで全く取り合ってもらえなかった。今回顕金駅に手紙を出したのもダメ元であったので、顔合わせをしようという道元からの返信に領主は仰天した。

 

顔合わせが決まり、菖蒲と道元のどちらがついて行くかが一番揉めた。何せ婚姻とは政治手段である。まして今回は嫁の貰い手がない姫を引き取る形になるのだから、有利に関係性が結べるので道元が行きたい。菖蒲も領主の娘を貰うのだから、領主の私が行くべきとの主張であった。

 

先の理由も勿論あるが実のところ、取り残される方が一人で顕金駅を回さなければならないのだ。さらに二人ともあまり外に出る機会がないため、余所の駅に出歩きたいのもある。

 

「最上!私と叔父様のどちらが良いですか⁉︎」

 

「道元様で。」

 

即答であった。

 

「何故です⁉︎」

 

「いえ。本来なら菖蒲様の方が良いのでしょうが、顔の焼けた姫に会いに行くのに、お美しい菖蒲様を連れて行くというのはちょっと。」

 

「あっ。」

 

最上も政の都合上、残すなら道元の方が良いのだが、姫の事を考えれば菖蒲が最上を伴うのは気まずいのだ。

最上の一言で道元が顔合わせについて行くことが決まり、顕金駅再興から初めて最上も道元も不在となる。

 

甲鉄城出発の日

 

「良いですか菖蒲殿。我々が不在の間余所の駅と大きい契約は避けて下さい。万が一の際は滞在させて勘太郎に伝書鳩を飛ばして相談するなり、呼びつけるなりなさって下さい。これは菖蒲殿が力不足とかではなく、お父上も家老と相談の上決めていたからです。」

 

「わかっております。」

 

「菖蒲様。謁見の際の護衛は必ず来栖にして下さいね。私が同席している時は来栖以外の時もありましたが、不在ですので基本的に来栖を連れ歩いて下さい。謁見は必ず来栖を置いて下さいね。婚約もしておりますのでなにを言われても下げる必要はありません。雅客も一時的に引き上げてますから来栖が離れるときは、服部と雅客から絶対に離れないで下さい。」

 

「わかってます。」

 

残される側が出発する側からもの凄く心配されていた。

 

「もう。二人とも心配しすぎです。こちらの心配をしすぎて、あちらに失礼のないようにして下さいね。」

 

「はい。問題なければ結納まですませて来ます。来栖頼んだぞ。」

 

「政はともかく、護衛は必ず。」

 

「政はともかくではないんだが。まあいいか。」

 

道元達は城で菖蒲への挨拶をすませた後、甲鉄城で顕金駅を出発した。

 

 

 

一方倉吉駅では

 

「見合いなんてしても、どうせまた逃げ出すわ。お父様も諦めて下されば良いのに。」

 

「桔梗様。そのように仰ってはなりません。」

 

「見合いはなんの面にしようかしら。般若とかどう?」

 

「素顔を見る前に逃げ出しそうですね。」

 

「般若くらいで逃げ出したら笑ってやるわ。」

 

「その意気です。とはいえあまり笑ってはいけませんよ。」

 

倉吉絣に身を包んだ女性が、顔に般若の面を当てながらくすくすと笑う。護衛の男に一応嗜められているが、護衛の男も以前結納まですませた男が、桔梗の焼けた素顔を見て逃げ出し、桔梗が大層落ち込んでいたのを見ているので、また傷付く可能性のある見合いには否定的であった。桔梗は今年で20を越え、相手の目処もつかず行き遅れなどと言われてしまっているため、見合いをさせないわけにもいかぬのが苦しいところである。

 

見合いと言えば偶然を装い、姿を確認する程度が普通であるが、桔梗の事情から城で部屋を用意して席に着いた状態で顔を合わせることになっている。

 

 

 

見合い当日。

 

「旭!大変だわ!ちらっと覗いてきたけど私の見合い相手子供だわ!」

 

旭とは護衛の男の名前である。領主に謁見している道元達を覗きに行った桔梗は、小走りで見合いで使う予定の部屋へと戻ってきた。

 

「はしたないですよ。相手は17だそうですが。」

 

「あれで?鯖読んでないかしら。泣いたりしないわよね。未婚の家老って言うから、てっきり何か問題のある年寄りでも来ると思ってたのだけど。おかめにすれば良かったかしら。」

 

「桔梗様の素顔を確認しにきたのですから、面などどうでもよろしい。」

 

「逃げ出したらせせら笑ってやろうと思ってたのに。流石に可哀想よね。困ったわ。」

 

「17は充分大人です。笑ってやればよろしい。」

 

「旭ったら厳しいわね。でも17で家老ってよっぽど人が居ないのね。」

 

見合いのために準備した部屋にひと足先に入って領主は驚愕した。

 

(桔梗!何故般若なのだ!見合いと言っただろう!)

(どうせ素顔を見たら逃げるのだから、面などどうでもいいでしょう!)

(だからと言って般若はないだろう!)

 

領主と桔梗はひそひそと喧嘩しているが、とうとう道元達が来てしまった。

 

「顕金駅の牧野道元様、堀川最上様が参られました。」

 

襖が開いて道元も最上も困惑した。

 

((般若がいる…。))

 

一瞬困惑したものの、二人は案内に従って席に着いた。

 

「桔梗。面を外しなさい。」

 

「はい。」

 

般若の面の下から現れたのは、顔面の上半分が火傷で爛れ皮膚が変色している。

 

「…視力に問題はございますか?」

 

「は?」

 

「視力です。問題なく見えておりますか?」

 

「はい。問題ありません。」

 

(お医者様かな?)

 

領主と桔梗は困惑した。逃げ出すか泣き出すか、はたまた顔を歪めるかと覚悟していたが、じっくりと観察されて視力の心配をされている。

 

「最上君。問題は?」

 

「特にありません。」

 

「では話を進めよう。よろしいですな?」

 

「えっ!はい。桔梗。堀川殿と庭でも歩いてきなさい。」

 

「えっ?は…はい。」

 

困惑する桔梗は般若の面をつけて、最上を庭へと誘った。

 

「恐ろしくはないのですか?」

 

「般若の方が怖いですね。」

 

「そうですか。…家老だと聞いておりますが、随分お若いのですね。」

 

「カバネにのまれた当時、駿城に乗れた者しかおりませんから、どの役職も人手不足なのですよ。」

 

「顕金駅の方々はカバネと積極的に戦うと聞きましたが本当ですか?」

 

「ええ。この顔合わせが終われば、顕金駅で生産されている武器のお披露目の予定ですから、その時にカバネ殺しを家老の方に見せる予定になってます。」

 

「最上様も出るのですか?」

 

「勿論。カバネを引っ張って来るのが私の役目なので。」

 

「家老なのに⁉︎」

 

「ええ。人手不足なので。」

 

「私も見に行っていいですか?」

 

「えっ?どうでしょう。こちらとしては問題ありませんが、領主様に確認しないとなんとも。」

 

「じゃあ聞いてきますね!」

 

「あっ。」

 

桔梗は最上を庭に置き去りにして、領主にこっ酷く怒られたが、甲鉄城に乗ることは許可されたため、武器の実演販売のためのカバネ殺しに立ち会うことになった。護衛には必死に止められたが、顕金駅に嫁ぐのだから見ておきたいと言えば渋々承諾された。

 

「桔梗様。危険ですので、道元様から離れないで下さいね。」

 

「はい。わかりました。」

 

桔梗は般若の面のまま、甲鉄城に乗り込んだ。

 

(般若だ。)

 

(何故般若?)

 

ちらりちらりと視線は向けられたものの、なにぶん甲鉄城は忙しいため視線を向けたのは最初だけで、あとはそれぞれ自分に任された仕事にかかりきりになっていた。一通り武器のお披露目が終わり撤収となる頃には、特に桔梗がいることを気にしている者はいなかった。蓬莱城と違い、乗務員の間にはそれなりに距離があるので雑談することもなく黙々と作業に勤しんでいた。

 

瓜生は最上の嫁予定の女が般若の面をつけていたので、心の中で鬼嫁とあだ名をつけた。口に出すと最上どころか道元が怖いので口には出さない。機嫌を損ねると一番まずい相手は道元だと認識しているのだ。普段はおっさん等と呼んで無礼なことこの上ないが、こういう場面の空気は読むのである。

 

 

倉吉駅に戻ってから結納をすませて甲鉄城は引き上げて行った。

 

「大変だわ。旭。私の旦那様ちっちゃくて可愛いのに、凄かったわね。」

 

「ちっちゃくて可愛いとかご本人に言わないで下さいよ?侮辱です。あとまだ婚儀は終えてませんよ。」

 

「だって私より小さいんだもの。…いいじゃない。結納までしたんだし。」

 

実は桔梗は最上より2寸程背が高かった。身長の高い護衛達に囲まれて育った桔梗には、ちまっとした最上が可愛く見えた。夫というより弟に対する感情である。桔梗は機嫌が良さそうにしているが、つけている面は般若である。

 

桔梗の護衛の武士は、顕金駅で言うところの下侍、来栖達と同じ立場の武士である。元々上侍にあたる武士も護衛としていたのだが、顔が焼けてからあからさまに距離を取られたので護衛から外すこととなったのだ。残った護衛達は桔梗について顕金駅へとやってくる契約となっている。

倉吉駅には後継となる桔梗の兄がいる為、上侍の護衛は全員そちらに着いてしまったのだが、顕金駅としては上侍等扱いに困るのが必至であるので丁度いい。

 

桔梗は菖蒲と違い総領としての教育は受けていないが、顔さえ焼けていなければ、他駅の総領の下へ嫁ぐ予定であった為、家中の人事管理や家内文書の作成、総領が領主となり死亡した際に行うべき一時的な領主代理の教育を受けており、なにより菖蒲ほどのお人好しではなく、政に必要な非道に嫌悪感を抱くこともない。要は政の人手として評価されている。一時的な領主代理は家老がいる事が前提となっている為、一人でなんでも出来るような教育を受けている訳ではないのだが、今の顕金駅では充分な戦力なのだ。桔梗が特別有能というより、顕金駅の行政力の無さ故である。

 

桔梗に着いてくる護衛の武士達は年嵩の者が多く、幼少期にそれなりの教育を受けており、性格も顕金駅の武士達より道元達に近いものがある。顕金駅の武士達は来栖が護衛に引き上げられたことで、来栖が配下として抱え込み一致団結していた経緯があるが、桔梗の護衛は桔梗の兄が拾い集め上侍の下に付けたのである。善意というよりは護衛として真っ先に死ぬのは下侍からの方が良いという発想からで、下侍は上侍を守り、上侍は桔梗を守る構図である。

 

桔梗にとっては上侍は火事の際自分を守れなかった無能であり、燃え盛る炎の中助けに来た下侍達こそが護衛に相応しいとして、火災の後から下侍達を重用し、嫁入り先にも連れて行くべく教育も施した。火災の後兄の下にそそくさと侍った上侍を、兄は桔梗に戻そうとしていたが、"無能な薄情者など要りませぬ。"と断った。上侍達は桔梗を守れなかった無能として、こそこそと後ろ指をさされているが、家格が高いため降格等でとどまっている。

 

桔梗の護衛達は30人おり、10人ずつ3交代制であった。桔梗が教育した程度ではあるが役人となれる者が30人増える事となる。

 

後に桔梗は顕金駅の非公認の暗部を統括し、現在の護衛武士を主軸に、カバネではなく顕金駅に都合の悪い人間を人知れず消す存在となり、道元達に重宝されることになる。閨を共にしながら、消えてもらう相手の相談をするやべぇ夫婦となるのだが、未来の話である。

 




善人ばかりの顕金駅に外道をものともしない奴らがログインします。桔梗さん自体は物理面は特別強くないです。口は達者で思考は道元達寄り。必要なら人を殺す判断も見捨てる判断も、手段を選ばず人を殺す事も出来るタイプ。護衛武士達は普段は普通にお仕事してます。

綺麗なことは来栖の配下、汚ねぇことはホモ君の配下で分かれます。万が一キレイキレイする必要が出た時に、ホモ君の一派を消せば済む単純構成を道元様とホモ君が作ってます。

後の瓜生「似たもの夫婦だな。初見の時般若の面つけててヤベェ女だと思ったら、想像よりヤベェ女だった。」


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【小話】薬と毒

ちょっと長いのは来週上げられる…はず。


一之進の鍛錬の為、最上の屋敷を訪問していた歩荷は庭を開墾した畑を見て違和感を覚えた。

 

(あれ?これ何を植えてあるんだ?)

 

いまいち見てもなんだかわからない作物ばかりで、じゃがいもやら大根やらとは違うようだ。手入れはされているようだが、ぱっと見雑草が生い茂っているように見える。

 

「あっ。歩荷さん。ダメですよ。触ったら。」

 

雑草に見えるそれに触れようとしたところ、準備を終えた一之進から注意が飛ぶ。

 

「ああ。ごめんごめん。…で。これって何育ててるの?」

 

「薬草とか毒草らしいです。」

 

「え"っ⁉︎二之介もいるのになんてもん育ててるの最上様⁉︎」

 

「小田駅を確保したから、食べ物より薬関係にしたらしいです。元々敷地内に夾竹桃も植わってますし、危ないのは元々ですよ。薬草とかは楓様のところでも育てているので、楓様のところの使用人が手入れに来てくれてます。」

 

「薬草はわかるけど、毒草なんか育ててどうするの?」

 

「使い方によるそうなので、一概に毒草が悪いとは言えないそうです。」

 

「へぇ。(楓様はともかく最上様は毒として使いそうだけどな。)」

 

これ以上掘り下げても怖いだけなので、歩荷は掘り下げるのをやめた。懸命な判断である。

 

実際毒と言われる物も薬として使われるが、最上が使うとすれば正しく毒としてである。カバネリである無名に美馬が使わせた麻沸が効いたと聞きつけて、カバネに試すのも考慮しているが主目的は人間相手である。とはいえ現時点では、大量に毒を生産するつもりもないので殆どは楓の下に流れる事になる。

 

その夜雅客の屋敷に集まった武士達で情報共有が行われた。剣術指南の為、最上の屋敷には複数の武士が出入りするので。

 

「うちの庭も似たようなものですよ。」

 

楓と結婚した仁助からも申告がされた。

 

「仁助の屋敷もなの⁉︎」

 

「薬は作っておかないといざという時に困るので。」

 

「へぇ。」

 

最上、楓、仁助の屋敷では薬草やら毒草が栽培され、主に病院となった楓の屋敷で加工されている。

 

「何事も過ぎれば毒と言いますが、適量を使えば麻酔などになるので必要なんですよ。」

 

「なんだろう。楓様と仁助のところはそうなんだろうけど、最上様の屋敷にあるだけで毒って感じするんだけど。」

 

「…。まあ毒なのは確かですし、間違ってはないんじゃないですかね。」

 

仁助は目を逸らした。

 

 

最上が休暇の日、雅客が一之進の剣術指南に赴くと、最上がぼやっとしながら読書をしていた。

 

「何読んでるんです?」

 

「毒の作り方。」

 

「やっぱり毒じゃん!」

 

「なにが?」

 

「だ…誰を殺すご予定で?」

 

「いや。カバネに効くかなって。瓜生が言うには、無名殿に麻沸が効いたらしいしな。」

 

「カバネリとカバネでは違うのでは?」

 

「そも人体を動かすには筋肉が必要だ。肉が腐り落ちて骨だけで動くカバネはいない。心臓も言ってしまえば筋肉の塊だ。音に反応する。匂いに反応する。目もたぶん見えてるだろう。ワザトリのように学習もするということは脳も動いている。カバネとて人間と同じ機能がある。ということは毒も効く可能性はある。カバネリが人間とカバネの中間点だとして、麻沸が効くなら他も効くだろ。ならカバネに効かないとは思えない。心筋が止まれば死ぬかもしれないな。」

 

「なるほど。理解はできますが今まで誰も試さなかった理由はなんでしょうか。」

 

「食わせるのは無理となると、吸わせるか打ち込むしかないが、気体はこっちも危ないし、打ち込むのも容易じゃない。」

 

「いや。それ研究するの無理では?」

 

「だるまにして首も落とせば研究は出来るぞ。打ち込み放題だ。」

 

「怖い。」

 

「桶に血を入れといたら飲むと思うか?」

 

「えっ⁉︎どうでしょう…。」

 

「それで飲むなら毒も食わせられるんだがなぁ。飲まないんだろうな。飲むならそういう罠出来てそうだしな。…あれ?克城で血を抜いてたのはカバネの餌の為だよな?飲むのか?瓜生に聞いてみようかな。」

 

「あれだけみんなから抜いておいて飲まないってことは無さそうですね。」

 

「人間以外襲わないってことは、人間の血だけ特別なのか?なにで判別している?混ぜものしたらバレるかな?」

 

「今まで誰も試さなかっただけの可能性もありますね。」

 

「まあわざわざ餌をやろうだなんて考えないもんな。毒が効かなきゃただ餌だ。…なあ雅客。菖蒲様の倫理観の線引きは何処だと思う?」

 

「え?」

 

「カバネをだるまにして実験するのは許されるか?捕まえてひたすら毒を食らわせるのは許されるか?無名殿曰くカバネには怖がる心があるらしい。仲間が殺されると怒るとも言うしな。皮膚のアレは腐っているのではなく爛れの様なもので、理性が吹っ飛んでいるだけだとしてカバネは化け物か?気狂いの延長か?」

 

「…それは…。」

 

「すみません!雅客さん!遅くなりました!」

 

最上の視線に雅客がたじろいていると、一之進が庭に駆け込んできたことで最上が視線を逸らした。

 

「剣術指南よろしく。」

 

「は…はい。」

 

一之進に剣術指南をしながら雅客は考える。人間相手では殺す気でむかってくる者は殺すのが当然だが、だるまにして実験をする事は許される範囲ではない。実験で死ぬまで毒を食らわせ続ける事もだ。最上や道元は人間相手でも必要と認めればやるのだろうが、カバネ相手にやる事が菖蒲の倫理観に引っかかるか否か。カバネは化け物か人か。カバネはウイルスに感染することでなる。要は病気だ。現時点治療法はないが、病気と定義するならカバネは人である。

 

(気が付きたくなかったなぁ。)

 

一之進の鍛錬を監督しながら雅客は途方に暮れた。

 

剣術指南を終え一之進が下がった後、雅客は最上に声をかけた。

 

「さっきの件ですが、もしやるなら狩方衆とこっそりやるべきかと。」

 

「だよな。やっぱり。」

 

「それとカバネの考察は他には言わない方が良いかと。」

 

「そうだな。殺せないなんて言い出す奴が出ては困る。…お前は殺せないなんて言わんよな。」

 

「言いませんよ。殺す気で来てるんですから、人であれカバネであれ同じでしょう。」

 

「…ならいいよ。剣術指南お疲れ様。」

 

最上は本をぱたりと閉じて部屋に引き上げて行った。

 




掘り下げなかった歩荷と、掘り下げてしまった雅客。
ホモ君はカバネが人だと断言されて罵られたとしても、だから?殺さない理由にはならないだろ?って言うタイプ。顕金駅奪還時に知人友人殺してへこんでましたので、へこむのはへこむけど必要ならやる。光の甲鉄城の皆様はめっちゃ曇りそうだよね。治療法が見つかれば顕金駅は大量殺人集団だよ。まあ人を食った奴を治療しても正気かはわからないけども。カバネリの治療法を見つけたら必然的にカバネの治療法でもあると思うんですよね。だって大元は同じウイルス感染なんだから。救いを求めるならカバネは部分的に脳死してて、カバネリは脳が全部生きてるとかかな。それならカバネはウイルスをなんとかしても脳死の人間になるだけだし。


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敗走

その日顕金駅は大騒ぎであった。

甲鉄城の者が送ってきた伝書鳩が原因である。

 

『死者3名、重傷者6名、軽傷者10名。最上、瓜生の両名は重傷。安芸国府中駅にて治療及び隔離中。至急蓬莱城の派遣願う。』

 

顕金駅再興後初の大損害である。

甲鉄城は基本的に線路沿いのカバネを狩るが、蓬莱城のように態々血をまいて呼び集めたり、危険そうな場所に突っ込んだりはしない。まして最上と瓜生が退き際を誤るとも思えない。

 

伝書鳩につけられる長さの手紙の為、詳細は不明であったが最上と瓜生重傷の知らせを受けて、事態を重く見た菖蒲は蓬莱城の派遣にあたり、吉備土に代わり来栖を城主とし、民人上がりの武士に代わり服部や雅客等の元々の武士達を連れて行かせる決定をした。政に多大な支障が出ることになるが、背に腹は変えられないのだ。

 

 

蓬莱城が府中駅に着いたときには、甲鉄城の手紙に書かれた日付から既に3日が経過しており、重傷者以外は操車場にて甲鉄城と待機していた。蓬莱城から下車した来栖の元に、狩方衆の1人が駆け寄ってきた。

 

「何があった。報告しろ。」

 

「ワザトリです。府中駅手前の山間部にてカバネに取りつかれ、ワザトリ1体他カバネ6体に車両内部に侵入されました。カバネの内1体は扉を開ける知識を習得していました。ワザトリが入り込んだ側は車体が破壊されていましたが、他から入り込んだカバネは扉を開けていました。ワザトリについては、厩舎車両から外に叩き出す事には成功しましたが、討伐には至っておりません。重傷者6名については感染は認められておりません。」

 

「重傷者の詳細を報告しろ。」

 

「瓜生様は肋骨と左足骨折、最上様は袈裟懸けの刀傷でまだ予断を許さない状況です。他重傷者内一名はカバネに右手首を噛まれたことから、最上様が武士の刀を使い肘関節から切断。他3名はワザトリによる刀傷によるものです。」

 

「最上と瓜生が揃っていてやられる程か。」

 

「太刀使いのワザトリでした。…来栖様とお二人の手合わせを見ているようでした。」

 

「ワザトリを叩き出した場所はどの辺りだ?」

 

来栖の問いに狩方衆は地図を広げて対応し始めた。来栖の後ろで報告を聞いていた武士達は動揺した。なにせ来栖クラスのワザトリが潜んでいるのだ。

 

「おいおい。来栖みたいなワザトリが来るのかよ。蒸気筒当たるのか?」

 

「カバネリ相手みたいなもんだろ。蒸気筒が当たるとも思えないな。掃射筒の使用の方がいいだろうな。それでも気休めだが。というか扉を開ける?学習したのか…。」

 

「戦闘技術を習得できる頭はあるんだ。扉の開け方を習得した奴がいてもおかしくはない。」

 

「ワザトリは私と生駒と来栖が相手した方が良いよ。みんなはワザトリ以外に対応してくれれば大丈夫。」

 

無名の言い分に武士達は黙り込む。確かにカバネリや来栖相手に無傷で済むとは思えない。同格をぶつけるのが道理である。

 

 

蓬莱城は狩方衆から報告のあった地点の探索、探索で見つからない場合は血を入れた瓶を使う方針で固まった。来栖と無名が、瓜生からワザトリについて聞いておきたいと申し出た為、重傷者の入院している病院に数名で面会に行くことになった。

 

「悪りぃな。ご足労いただいて。」

 

「いや。お前達がやられた以上、己達が来るのは当然だ。ワザトリはそれほどだったか。」

 

「ありゃ無理だわ。忠犬に近い。俺が叩き斬られなかったのは奇跡だな。仔犬ちゃんは刀巻上げられて、袈裟懸けにばっさりやられてた。まだ死んでねぇみたいだけどな。」

 

「待て。最上が刀を巻上げられただと?」

 

「ああ。まだ甲鉄城の車内にブッ刺さってんじゃねぇの?仔犬ちゃんが後ろに跳ぶのがあとちょっと遅れてたら、胴体が泣き別れだったぜ。俺は胴体に蹴りくらって吹っ飛んだ。出たらまずいもんが出るかと思ったぜ。」

 

「よく車外に追い出せたな。」

 

「俺たちが殿をしながら、厩舎車両まで誘導して手投げの擲弾で叩き出した。叩き出す前に俺たちはやられたわけだが。車内だと掃射筒使えなくて参ったぜ。擲弾もどうかと思うけど死ぬよりましだ。仔犬ちゃんの馬はもう走れねぇかもしれねぇがな。馬なんか避難させてる余裕なかったからよ。」

 

「…。」

 

「言っとくが、野良カバネリ。お前じゃ無理だぜ。死にたくなけりゃ無名と忠犬に任せな。てめぇの泥臭い戦い方に付き合ってくれる奴じゃねぇ。黒血漿でもあるなら別だが。」

 

「俺だって「承知した。」

 

「来栖!」

 

「3人では連携が取りにくい。己達の手が塞がっている間、他にワザトリが来ないとも限らん。生駒はそちらの警戒を頼む。」

 

「〜っ…わかった。」

 

生駒は顔をぎゅっと歪めていたが、無名と来栖の速度についていけないのも確かであるので渋々引き下がった。

 

一方最上の病室には仁助と雅客が向かっていた。最上は点滴をされこんこんと眠りについていた。発熱しているようで顔には朱が差しており、苦しそうに呼吸をしている。カバネの所持している刀など碌なものではない。破傷風になる可能性もあるのだ。

 

「袈裟懸けの刀傷が一番の負傷です。意識は戻っています。発熱のせいで寝たり起きたりを繰り返している状況です。甲鉄城の方から輸血も受けました。あとはこの方の体力次第でしょう。」

 

「…分かりました。ありがとうございます。」

 

府中駅の医者から簡単な説明を受け、仁助は感謝を述べた。

 

なんだかんだで今まで最上は前衛を勤め上げてきた。ここに来てここまでの大怪我を負うことになるとは誰も想像していなかった。ワザトリ相手にころころと転がされているさまは何度も見てきた。だが致命傷を負うような真似はせずに、素直に吹き飛ばされたり、回避に注力していたのを知っている。

 

「仁助。最上様…大丈夫だよな。」

 

「わかりません。感染症になれば体力が持たないかもしれません。」

 

「…。」

 

意気消沈した仁助と雅客は来栖達に合流した。

 

「最上はどうだった?」

 

「まだなんとも。意識は戻っているそうですが、私達が病室にいった時には寝ていました。発熱もしてますし、感染症が心配ですね。まだ発熱してるとなれば少々怪しいので。」

 

「そうか。…今回のワザトリは厄介そうだ。己と無名が請け負う。他のカバネは任せるぞ。」

 

「「承知。」」

 

 

蓬莱城は甲鉄城の無傷の面子を加えて府中駅から、ワザトリの最終確認地点まで移動した。車上には来栖、無名、生駒が待機し、カバネの襲撃に備えていたものの襲撃は無く、無名が血の入った瓶を投擲する事が決まった。

 

「太刀使いのワザトリが来たらすぐに報告しろ。」

 

来栖の指示に甲鉄城の面子は頷き周囲に注意を払う。無名が瓶を投擲しカバネが集まりつつあるが、甲鉄城の面子からワザトリの報告は上がらない。

 

一日目はカバネの襲撃のみで、ワザトリを確認することは出来ず、不完全燃焼のまま府中駅に帰還することになった。府中駅には迷惑がられるのでは、と来栖は予想していたのだが予想を裏切り、府中駅からはワザトリ討伐までは滞在してくれと頼み込まれる事態だ。二軍面子である甲鉄城であるが、府中駅からすれば先日のカバネ狩り月間等と、狂ったことしながら快進撃を続ける顕金駅の駿城の内の一城が、敗走した相手であるので討伐してもらわねばおちおち安心して眠れもしないのだ。

 

仁助が雪の入った桶、雅客が食事を手に見舞いに行くと最上がぼんやりと意識を取り戻していた。

 

「最上様。目が覚めましたか。」

 

「雅客…仁助…。そうか蓬莱城が来ているのか…。」

 

発熱のためぼんやりしてはいるようだが、受け答えはしっかりしていたので雅客達はほっと息をついた。

府中駅は余程蓬莱城にも甲鉄城にも離れて欲しくないのか、氷室から雪まで提供してきた。きんきんに冷えた水で手拭いを濡らして最上の額にのっけてやる。

 

「…つめたい。」

 

「雪を貰いましたからね。」

 

「他に誰が、来ている?」

 

「吉備土の代わりに来栖が。民人上がりの代わりに俺たちが来てます。」

 

「…そうか。」

 

発熱によるもの以上に、最上の目は潤んでおり時折鼻を啜っているのを、雅客と仁助は暫く知らないふりをした。今顕金駅が出せる最高戦力で甲鉄城の尻拭いにきたのだ。甲鉄城が出払っている上で、最高戦力で臨むなど政を放棄しているとわかるだろう。しかも最上はワザトリに叩き斬られてまともに動けもしない。悔しくないわけがないのだ。

 

「折角起きたんですし、食事摂ってもらいますよ。」

 

「…いらない。食べたくない。」

 

「うるせぇ。いいから食え。」

 

熱が高いので食欲がないのは勿論分かるが、少しでも食べて回復してもらわなければならない。問答する時間が無駄だと雅客は却下の意を示した。

 

「ほら。起こしますよ。」

 

仁助は既に温くなった手拭いをどけて、最上をゆっくり起こした。雅客が粥を掬って口元に持っていっても口を開かないので、催促しようかと思ったが、最上は雅客の手をそっと押し返した。

 

「自分で食える。」

 

「ならいいですけど。」

 

「瓜生達は…どうしてる?」

 

最上はのろのろと匙を口に運びながら、雅客達にちらりと視線を向けた。仁助が瓜生達の負傷程度を報告しているのを聞いて、わかりやすくほっと息を吐いた。

 

「ワザトリについては、瓜生から来栖達が聞いていますが、最上様から言っておく事はありますか?」

 

「…あれはかつて美馬の率いた主戦派のカバネだ。…ぼろぼろだったが、備後の犬飼家の家紋のついた甲冑を着ていた。…はぁっ…今となっては甲冑を着ることなど殆どないし、犬飼家は娘しかいなかった筈だから間違いない。」

 

「主戦派…。」

 

仁助も雅客もぎくりとした。なにせ下侍一同は親族が主戦派であったから、下侍の身分に落とされているのだ。10年以上時を経て、かつての主戦派の侍が牙を剥いているのだ。

 

「しかし犬飼家の家紋なんてよく知ってましたね。」

 

「うちと交流があったみたいでな、一応記録で…ふぅ…見たことがある。交流があったのは立場が別れるまでの話だが…。」

 

「そうでしたか。…ところで最上様。手が止まってますが?」

 

「…うっ。」

 

まだ半分食べたかどうかといった程度であるが、指摘されても匙をすすめるのではなく、目を逸らすあたり限界なのだろう。

 

「どうしても無理なら後は雅客が食べますよ。」

 

「俺なんだ。…いいけど。」

 

最上からそろりと器を差し出され、仁助が回収して雅客の手に渡った。

 

「はい。鎮痛解熱剤です。飲んだら寝て下さい。ワザトリ討伐が終わったら

顕金駅に帰るんですから、体力回復に努めて下さいね。」

 

「ん。」

 

また熱が上がってきているのか、最上の顔は真っ赤であった。看病要員に看護師を連れてきているので、最上を横にして手拭いを乗せ直した後、仁助達は看護師と交代して退室した。

 




掃射筒は基本的に手持ちを想定されてないのでこういう時に使えません。吉備土なら手持ちで使えますが、甲鉄城に手持ちで使える力自慢はいません。今後甲鉄城車内にも台座が付きます。蓬莱城は金属被膜コーティング完了してるので車内には台座は付けません。
ナチュラルにワザトリ戦外されてしょんぼりな生駒。生駒はタンク的な戦い方するので、黒血漿ブーストないと技巧派相手には向いてないよね。

主戦派のワザトリ君(カンスト)
どノーマル装備で最初は戦線押してたらしいし、化け物なワザトリ君が産まれてもなんら不思議じゃないよね。流石に全員ワザトリには昇格しないけど、来栖パパとかワザトリになってたら怖いよね。カバネリクラスの来栖のパパだぞ。(出ません)

扉を開けるカバネちゃん(レア)
戦闘技術は習得できなかったけど、扉の開け方を習得した。ある意味ワザトリ。


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敗走2

数日前の甲鉄城にて

 

「下がれ!下がれ!」

 

「テメェは忠犬野郎かっつうんだよ!くそっ!」

 

最上と瓜生がワザトリと打ち合っているが、完全に押されている状態で車両に入り込まれた時点で既に死者が出ていた。

 

「掃射します!」

 

狩方衆の声で最上と瓜生は体勢を低くしながら全速力で後退する。

 

「てぇっ!」

 

車内には掃射の音が響くが、通常の蒸気筒での掃射の為、数が足りないのかワザトリは刀で打ち払いながら前進してくる。

 

「駄目だなこれは。厩舎車両まで後退!タラップから叩き出す!」

 

「掃射やめぇ!下がれ!突っ込んでくるぞ!」

 

ワザトリが突っ込んで来ながら振られた一撃を、最上が受け流そうとするが流しきれず押し込まれて後方に吹っ飛んだ。

 

「この馬鹿力めっ!」

 

最上が吹き飛んだことで、前線に取り残された瓜生はワザトリの振るう太刀を避けながら後退する。

 

「こら!テメェ軽々吹っ飛ぶな!」

 

「無茶言うな!」

 

最上と瓜生が入れ替わりながら殿を務めているが、誰の目から見ても有効打も入っておらずジリ貧であった。

 

「進行方向からも入り込まれてます!」

 

「くっそ‼︎」

 

「掃射!」

 

「抜けてくるぞ!」

 

進行方向からもカバネが3体むかって来ていた。2体は掃射で仕留めたものの、1体が2体を盾に掃射を抜けた。前後を抑えられたため手が足りない事で、掃射の数が少なかった為たった3体を倒しきれない。

 

「任せる!」

 

「はぁ⁉︎」

 

最上はワザトリを瓜生に任せて、狩方衆を擦り抜け進行方向へ向かう。一番前にいた狩方衆の右手首にカバネが噛み付いたのを見て、カバネに刀を投擲してから、流民上がりの武士の腰から刀をすり取って、噛みつかれた狩方衆の肘関節に振り下ろした。

 

「ぐぁっ!」

 

「下げろ!止血!」

 

刀から手を離し、カバネに突き刺さった自分の刀を引き抜いて、心臓に刀を突き入れる。

 

「瓜生様!」

 

武士から悲鳴の様な声が聞こえて最上が振り返ると、瓜生が進行方向まで吹き飛んできた。

 

「伏せろぉ!」

 

前線に取り残された武士と狩方衆に指示を飛ばすが、伏せるのが遅れた武士の首が飛ぶ。狩方衆にも刀がかすり、背中を少し切られ転倒しながら退避して来た。

ワザトリの後ろからくるカバネは首の飛んだ武士に齧り付いているが、ワザトリは見向きもせずにこちらにむかってくる。最上と瓜生が狩方衆と入れ替わって前衛に戻る。

 

「次が厩舎車両です!」

 

「タラップ下ろせ!」

 

「擲弾用意しておけ!」

 

「馬鹿!車内で擲弾使う気か!」

 

「お前があいつを!叩き出せるなら使わん!っが!」

 

「そりゃ!っ無理だなぁ!」

 

ワザトリからの攻撃を受け流し、逃げ惑いながら最上と瓜生が口論している。

 

2人とも息が上がっている中、厩舎車両まで後退を済ませた。厩舎の柱に空振った太刀が食い込んだ瞬間、瓜生がワザトリに突っ込むがワザトリに蹴りを食らい大きく吹き飛んだ。突っ込んでいっていたこともあり完全に蹴りが入ったのか、瓜生が嘔吐しながら激しく咳き込んでいるのが聞こえた。最上も瓜生に遅れて突っ込んでいたが、瓜生が吹き飛ばされた直後に太刀が柱から抜かれたのを見て、大きく後退した瞬間最上がいた場所に太刀が振り下ろされた。

 

「瓜生を下げろ!」

 

最上には後ろを見る余裕もなく太刀を捌きながら後退したが、狩方衆が引きずる瓜生を追い抜いてしまったのに気がつき急停止。瓜生に振り下ろされた太刀をなんとか受けたが、次の踏み込みで瓜生の左足がへし折られた。最上はワザトリの足もとに一閃したが、数歩後退され躱される。最上はしゃがみながら指示を飛ばす。

 

「掃射ぁ!」

 

瓜生の悲鳴をかき消す様に掃射音が響くが、ワザトリに殆どが撃ち落とされる。近距離での掃射を弾かれ、跳弾が掠る武士や狩方衆もいた。

 

「タラップ降りました!」

 

タラップが降りきり、あとは叩き出すだけであるが既に瓜生は戦闘不能、跳弾でも当たったのか馬の嘶く声が車内に響いている。最上がワザトリと打ち合いタラップ方向に吹き飛んだ。危うく車外に叩き出されるところであったが、ギリギリ踏みとどまり向かってきたワザトリの足下を滑り込んで抜ける。ワザトリは直ぐに振り返り横薙ぎの一閃を放つ。横薙ぎの一閃は最上が咄嗟に上げた小手にあたり、最上が柱に激突。見ていた狩方衆と武士は最上の腕と首が飛んだと一瞬思ったが、最上は小手に金属被膜で作った金属板を挟んでいる為腕ごとの切断を免れていた。

 

ワザトリから最上への追撃が放たれ、擲弾を使うべき位置から遠のいた。最上が柱に激突しなければ擲弾を使えたのだが、柱に激突したことでワザトリと最上の位置が近すぎたのだ。

 

もう少し下げなければ擲弾を使っても叩き出すことは叶わない。残されているのは、前衛で1番非力な最上である。

 

「て…擲弾用意しとけ。俺の合図で…げほっ…投げろ。最悪仔犬ごと叩き出す。」

 

「瓜生様⁉︎」

 

「あれを…叩き出す方法が他にねぇ。」

 

「「了解。」」

 

流石の狩方衆は瓜生の提案に異論なく了解した。流民上がりの武士達は顔を歪めたが、代案など出せる訳もなく反論はしなかった。

 

勿論瓜生の指示は最上にも聞こえていたが反論する気はない。なにせ最上にも代案はないのだ。まして全滅するくらいなら安い犠牲である。

 

再度ワザトリと最上が打ち合いになるが押し込まれてタラップから遠ざかる。疲労で集中力を欠いてきていた最上が中段に構え直した瞬間、刀が巻き上げられ天井に突き刺さった。カバネの臂力で半ば無理矢理巻き上げられ、最上は万歳の状態でがら空きであった。ワザトリが太刀を振り下ろし最上を袈裟懸けに斬り裂いた。

 

「ゔっ!」

 

「最上様っ!」

 

咄嗟に後ろに飛んだものの、ざっくりと袈裟懸けに斬られた。襷掛けにしていた蒸気筒の負い紐が切れ床に蒸気筒が落ちる。最上は足で蒸気筒を跳ね上げ追撃を銃身で受け、横に吹き飛ばされる様に後退する。

 

「ぐぅっ!」

 

血がばたばたと床に散るがこれ以上は下がるわけにはいかない。もう捨て身で突っ込もうかと最上が考えた瞬間、ワザトリが床に落ちた血で足を滑らせた。最上は自決袋を放り投げ、ワザトリの顔面に当たった自決袋を撃ち抜いた。

 

自決袋の爆発でのけぞり後退したワザトリに突っ込んでいき、銃身の先を握って下から上に向けて思いきり振り抜いた。銃床がワザトリの顎に下からぶち当たり数歩後退した瞬間。

 

「投げろ!てぇっ!」

 

瓜生の号令で擲弾が3つ投げられ、さらにワザトリの顔面に向けて掃射が降り注ぐ。最上は蒸気筒を振り抜いた直後全力で後退した。直後擲弾の爆風に押されて最上は狩方衆に突っ込んで意識を消失。タラップから吹き込む風に吹かれ、爆煙が晴れワザトリの姿がないことを確認した時、全員の顔が喜色に染まったが、後方の爆発の中からカバネが3体むかって来ているのを見て蒸気筒構えた。最上はもうピクリとも動かないし、瓜生も戦える状態ではない。

 

流民上がりの武士達が怖気付く中、狩方衆は冷静に蒸気筒を撃ち込んでいく。カバネが全て討ち取られた後、瓜生は事態の収拾に努めることになった。

 

「仔犬ちゃんは生きてるか?」

 

「はい。ですが我々では応急処置以上は出来ません。」

 

「わかってる。駅までどのくらいだ?」

 

「四半刻位かと。」

 

「運転士に可能な限り飛ばせと言え。タラップは上がるか?」

 

「無理です。歪んでしまっているのでタラップが全く上がりません。」

 

「じゃあ応急処置でいいから塞いどけ。怪我してない奴らで此処につけ。他の破損箇所も塞げ。もう平地だから取りつかれはしねぇとは思うが、塞いで警戒は怠るな。つうか前方車両からカバネが来てたが運転士無事だろうな。暴走車両は勘弁だぞ。狩方衆中心に前方を確認しろ。」

 

「了解しました。」

 

「ちっ俺は指揮官じゃねぇぞ。おい!お前感染したか?」

 

「分かりません。片腕では自決袋を使えません。どうか殺していただきたい。」

 

最上によって、右肘から切断された狩方衆が願い出る。

 

「駄目だ。これも実験だな。悪いがお前には3日耐えて貰うぞ。」

 

「…わかりました。」

 

これが流民上がりの武士であればさっさと殺した方が良いのかもしれないが、非道な実験を繰り返していた克城に乗っていた狩方衆である。非道な実験の実験台になったことで、顔を歪めはしたものの喚き散らすでもなく黙って従った。

 

「止血は終わったな。見張りを立てて拘束しておけ。」

 

流民上がりの武士達が戸惑う中、狩方衆が瓜生の指示通り行動していく。

 

(狩方衆が使えりゃとりあえずはなんとかなるな。)

 

「駅が見えたぞ!」

 

「今のうちに人的損害纏めとけ。駅に着いたら鳩飛ばせ。蓬莱城寄越せとも書いとけよ。」

 

「了解しました。」

 

(はぁ。駅についても俺が対応すんのかこれ…。)

 

意識が戻りそうにない最上を見て、瓜生は深々とため息を吐いた。

 




ホモ君も瓜生も一太刀足りとも入れられてません。蒸気筒フルスイングが唯一の当たり判定。来栖クラスなのでもう悔しいとかの問題ではない。2人とも死ぬわこんなんって思いながら戦ってました。ホモ君の刀はよく突き刺さるね。手貫緒なんてつけたら逆に危なくてつけられない。

蒸気筒を軽量化したのでフルスイングはあんまり効いてません。体勢を崩してたので後退してくれましたが、軽量化の弊害。まあ元々の重さがあったところで、ホモ君では叩き出せないんであんまり変わらない。

図らずして切断によるカバネウイルス回避実験に成功しました。生駒の腕を考えると義手つければまだ戦えるね。(鬼畜)
あの義手って機械鎧なの?某錬金術師なの?

扉を開けて侵入してきたカバネは音がうるさかった方を目指して来たので艦橋は無事。


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敗走3

翌日も蓬莱城はワザトリ捜索に出たが、陽が落ちるまでワザトリを発見出来ず府中駅に帰還した。武士達のフラストレーションは溜まりっぱなしである。甲鉄城で大損害が出た事もそうだが、今府中駅に戦力が集まりすぎている。今顕金駅で何かあれば大惨事になり得るのだ。早く戻りたいが、甲鉄城に大損害を負わせたワザトリも討伐したい。来栖もカバネリ二人も太刀使いのワザトリの事を考えれば、突出も出来ずじりじりと気持ちばかりが逸る。

 

そんな中、最上に再手術が行われた。府中駅に運び込まれた当初、カバネになるのではとおっかなびっくり行われた手術が不十分だったのか、縫合した傷口の中が化膿していたのだ。仁助は顔を歪めていたが、府中駅の医者の気持ちも分かる為、文句を言いはしなかった。むしろカバネウイルスに感染しているかもしれなかった最上の命を繋いで貰っただけありがたいのだ。

 

府中駅に対しては、来栖が道元に持たされていた書状により話はついているし、なんとしてもワザトリを討ち取って欲しい府中駅側の希望もあり、来栖が折衝のため苦労する必要がないのが唯一の救いである。

 

府中駅滞在3日目

 

少し足を伸ばした先で、血入りの瓶でカバネを集めてカバネ狩りを行った。目当てではないワザトリに無名が対応し始めた時、甲鉄城の面子から声が上がった。

 

「あいつだ!」

 

「太刀使いです!」

 

来栖が指示された先に目をやると、太刀を手にこちらに向かってくるカバネが確認できた。無名はワザトリに対応中の為、まずは来栖1人での迎撃となる。

 

「生駒は車両から離れるな!」

 

今にも飛び込んできそうな生駒に警告を飛ばして、ワザトリと来栖が激突した。ワザトリはカバネの臂力を存分にいかして来栖を後退させた。数合打ち合いが続くが互いに有効打がない。激しく打ち合う中、来栖は違和感を感じた。最上や瓜生と近い動きが目についたのだ。

 

(もう学習したのか。こいつは此処で仕留めねば。)

 

先日の交戦で、最上や瓜生の動きを学習したワザトリは二人の動きを取り入れた。だが先日の交戦で二人は逃げの一辺倒だった為、回避行動こそ学習したものの攻撃はそこまで学習しておらず、最上のように足を刈り取りには来ない。とはいえ回避行動を学習したからから、此方からも有効打を入れられていない。

 

既に20合を越える打ち合いをしているワザトリと来栖を、カバネに対応しながら武士達は観察していた。とてもではないが横から援護できる状態ではない。臂力の差か若干来栖が押されているように見える。

 

「ワザトリだ!」

 

わっと武士達が散った場所に生駒が滑り込み、新手のワザトリに生駒が対応する。その間に無名がワザトリを討ち取り来栖の援護に向かう。

 

「来栖!入るよ!」

 

ワザトリの横合いから無名が蒸気筒で殴りかかる。最上達から学習した回避行動で、それをかわしたワザトリが無名に太刀を振り下ろすが、来栖が太刀を跳ね上げた。来栖と無名の猛攻を回避するワザトリが反撃を挟んで来るが、来栖と無名はお互いの隙を埋めつつ、ワザトリを押していく。激しい打ち合いが続いたが、来栖がワザトリの左手を跳ね飛ばし、無名が懐に入り込んでワザトリを討ち取った。

 

同時に生駒もワザトリを討ち取ったことで、残すはワザトリではないカバネの討伐である。融合群体になることもなく、集まったカバネを討ち取り切った。ひと段落したことで武士達は息を吐きつつ、来栖と無名相手に十数合もやり合ったワザトリに恐れ慄いた。

 

蓬莱城は甲鉄城より戦力偏重編成である。更には吉備土を来栖に、民人上がりの武士を元々の武士達に入れ替えて来ている。もし来栖がいなかった場合、このワザトリ相手に初見で死傷者無しを実現できるかと言われたら、不可能だと断言できる。そもそもがワザトリの容姿を知る甲鉄城の面子の指示で、来栖をワザトリに割り当てられたのだ。生駒が相手をしたワザトリの様に、ワザトリだと判明した瞬間には何人斬られているか分かったものではない。

 

最近は生駒も戦い慣れ、武士達と

無名との連携も円滑になったことで弛んでいた緊張を取り戻す結果となった。

 

甲鉄城は蓬莱城と比べれば戦力的には劣るものの、時に非道な判断もする面子が揃っていたためあの程度で済んだのだ。蓬莱城と違い金属被膜の加工もない車両で、あのワザトリに入り込まれ、更には他のカバネも入り込んでいたのだからあの程度の損害で済んだのは奇跡と言える。

 

ワザトリを討ち取ったことで、急いで蓬莱城は府中駅へと引き返した。蓬莱城には見届け役として、府中駅からの武士が数人乗車しており、連日獅子奮迅の大立ち回りをしていた来栖達が、該当のカバネを討ち取ったのを認めた為、府中駅から離れること自体は問題がない。

 

問題があるとすれば最上の件である。

再手術により弱り切った最上を移動させても良いのかということである。来栖、仁助、瓜生で検討した結果、府中駅から薬剤などの提供を受けて顕金駅に帰る事が決定した。最高戦力を投入した結果、現在の顕金駅は政方面でてんてこまいとなっているからだ。最上と損傷の激しい甲鉄城を置いていく訳にも行かず、甲鉄城と蓬莱城の面子を入れ替えて、二城連なって戻る事を選んだ。仁助や看護師は当然蓬莱城に乗り、顕金駅への帰路に着いた。

 

途中カバネの襲撃はあったものの、速やかに討伐され、顕金駅へと帰還を果たした。操車場へと滑り込んできたぼろぼろの甲鉄城を見て、蒸気鍛治達は大層へこんでいたが、三城目を建造中であったことから、損傷した車両を既に出来上がっていた三城目の車両と入れ替えて対応することにした。甲鉄城の面子が負傷者だらけの為、直ぐに走行する予定はないが、いざという時走りませんではすまないのだ。

 

帰還した蓬莱城の面子のうち、普段それなりの役を割り振られている者達は仕事に追われる事になった。最上がいない為、最上や道元に任せている部分の仕事も落ちて来たのである。本来なら最上や道元が数日不在にしても、直ぐに潰れない様に仕事を調整しているのだが、最上は数日で戻れる様な怪我ではない。ただでさえ元々の帰還予定日を過ぎていた為、最上が作っていた仕事の余裕はないに等しい。完全に道元が潰れる前に仕事を再配分した結果、役付きの者の殆どが参考資料片手に頭を抱える羽目になった。

 

重傷者は全員、病院である楓の屋敷に搬送され入院となり、最上は抵抗力が落ちていることから、面会謝絶の措置がとられた。

2度にわたる手術に、発熱が続いていたことから、最上は意識はあるもののぐったりとしていた。お見舞いがしたいと一之進達が訪ねてきたが、抵抗力の落ちている最上は些細なことでも命取りであるので、楓は面会を認めなかった。

 

最上は二週間後に退院が認められ、自宅療養へと切り替わった。最上が仁助の手を借りつつ、自宅に戻るとちらりと厩に視線を巡らせた後肩を落とした。厩に疾風はいなかった。

 

「疾風ですか?」

 

「うん。」

 

ただでさえ退院したばかりでくたっとしているのに、あんまりにもしょんぼりと肩を落としている姿は、いつもより一回り小さく見えた。

 

「言っておきますが、疾風生きてますよ。」

 

「えっ⁉︎」

 

最上は弾かれたように顔を上げた。目を丸くして仁助を見上げてくる。

 

「城で菖蒲様が預かって下さってますよ。跳弾が2発当たりましたが、右耳が飛んだのと、右股あたりに当たってました。もう走れないかもしれませんが、楓さんが言うには命に別状はないようですよ。」

 

「…よかった。」

 

最上はあからさまに顔が喜色に染まりほっと息を吐いた。

 

「言っておきますが、貴方は自宅療養中安静ですからね。」

 

「わかってる。…どうせ私が会いに行ったところでなにもできないしな。」

 

そういう事じゃないんだけどなとか、そんなに大切なら何故戦場に出すのかとか、言いたいことや聞きたいことはあったが仁助は何も言わずに最上を送り届けた。

 




ワザトリ君(カンスト)とは2人がかりで戦ってますが、安全性と確実性の為で、来栖と無名は単騎でも討ち取れます。ただし無傷ってわけにはいかないかもしれない。

疾風はホモ君が馬に乗れるようになった頃に与えられて、一緒に育ってきた相棒にして家族。知人も友人も家族も死に絶えて唯一残った家族。一緒に戦って死ぬなら仕方がないけど、あんな風に巻き込んで死なせるのは本意じゃない。

ホモ君の休暇の過ごし方から、疾風に乗るがログアウトします。

府中駅には御礼として、後日蓬莱城が食糧や薬等を持っていくついでに、周囲のカバネを殲滅しに行きます。ただでさえワザトリ探して殺しまくってたのでかなり減ってる中追い討ちをかける蓬莱城w

これがRTAだったら

はい。安芸の国の府中駅に行けるようになりました。周辺を蓬莱城が解放したからといって府中駅に行商に行くと手痛い損害を受けます。なぜならクソ強ワザトリ君がいるからですね。何度か試走しましたが甲鉄城が全滅したり、瓜生が死んだり散々でした。良くてホモ君中傷、瓜生重傷で死者6名でした。じゃけん来栖を連れて行きましょうね。ここで蓬莱城突っ込んどきゃいいでしょってやると、蓬莱城の武士が5人死にます。仁助も死にます。ただでさえ医者不足の顕金駅で仁助に死なれると困りますので、来栖を連れて甲鉄城で行きましょうね。ホモ君、来栖、瓜生以外はモブなんでね。死なれても顕金駅はノーダメージなので、死人確定のイベントは蓬莱城で行かずに甲鉄城でいきましょう。

来栖は甲鉄城の城主の仕事を見学させる名目で連れ出せます。菖蒲様の伴侶になるわけですから、城主の仕事くらいはできないとね!来栖を連れ出す場合は蓬莱城は顕金駅から遠く離れて活動できなくなりますので、他国とかのカバネを事前に狩っておきましょうね。

イベントが始まりました。やっぱり来栖は強いですねぇ。来栖と瓜生がいればホモ君はワザトリ君の方にはいりません。反対側からくるカバネに対処するために、艦橋に行くを選びましょう。カバネが3体入ってくるので、狩方衆と殺しておきます。おっと来栖達の方ももう終わったようですね。死者2名重傷者2名でゴールイン!死者2名と重傷者2名だけはどうしようもないので諦めましょう。ワザトリ君が入った時点でもうそうなる運命だから。蓬莱城に来栖を突っ込んでも、死者2名重傷者2名は変わらないので甲鉄城で行くのが正しいんですね。ネーム有りの武士に死なれると、政が滞ったり、士気がだだ下がりしたりします。何度やり直しても仁助が死ぬのよ。他の方の動画を見る限り、二城目を運行していた場合、二城目の中で一番好感度の高い武士が死ぬみたいですね。うちは仁助の好感度が一番高いってことですね。

みたいな感じですかね。


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敗走4

暫くして最上は事務仕事に復帰した。

最上の快気祝いとして、倉吉駅の桔梗からまさかの馬2頭が届いたが、最上の屋敷の厩が足りない為、増設まで城で馬を預かることになり武士達が面倒を見ていた。

 

「快気祝いで馬。」

 

「最上様疾風が怪我してから落ち込んでたし良かった…のか?」

 

「牝馬2頭。最上様の嫁から疾風の嫁が届いた形か。というかなんで知ってんの最上様が疾風のこと好きって。」

 

「これは良い馬だぞ。流石倉吉の姫。」

 

最上の回復に合わせて疾風は屋敷に戻されており、最上が甲斐甲斐しく世話をしている。桔梗はカバネ討伐に同行した際、最上に疾風の話を振っていたため"おや?この子馬好きだな?"とは気がついていた。疾風は牡馬だったので嫁入りの時にでも、牝馬を連れて行こうと選定を終えた時に最上の負傷の件を聞き、丁度良いから先に贈っておこうとなったのだ。倉吉駅で選び抜かれた牝馬2頭である。

 

最上は安静の指示が解かれてから仕事に追われていたが、暇を見つけては疾風の世話と鍛錬に没頭していた。縁側でゆるゆると読書をする姿は見られなくなり、刀を振っているばかりであったので武士達も心配していたのだ。一之進達も、読書している時の最上には話しかけていたが、鍛錬中は話かけるわけにも行かず会話はかなり減っていた。最上が疾風にも乗らず、本も読まなくなったため、小夜など目に見えてしょんぼりしているが、最上の目には入っていないようであった。

 

今まで前衛組最弱だろうが、戦線の維持にも問題がなかったことから、余暇は読書などに当てていたが、今回の件は最上に焦燥をもたらしていた。

 

甲鉄城は蓬莱城と違い利益を生む為に運行している。いつまでも運休するわけにはいかない。ただでさえ執務を優先し、体力不足は自覚していたのにも関わらず、今回の件でさらに下がった体力と筋力で出るわけにはいかないのだ。まして瓜生は足を骨折しているため甲鉄城を運行する時には間に合わない。

 

最上がどれだけ努力しようが、来栖や無名のようにはなれない。

 

 

朝議の場にて

 

「瓜生君の復帰が未定の為、甲鉄城は来栖君を城主にして運行を再開する。商談の際手を借りる件は商人組合と話がついている。」

 

「えっ…。」

 

道元の言葉を聞いて最上の顔から血の気が引いた。武士達はざわついているが、菖蒲や来栖を見ても驚いている様子はなく、既に話はついているようである。

 

「何か問題があるかね。」

 

「…あ…ありません。」

 

余所の駅は、前衛等という存在無しに運行しているのだから、まさか自分が外されるとは最上は想定していなかった。せいぜい運行範囲を狭める程度の対策で運行するつもりでいたが、道元は違ったようである。なんの反論材料もなく、朝議の場で諾と言わされてしまった。

 

その日帰宅後、最上は深夜であるのに厩に行った。立ったまま寝ていた疾風が気配を感じて起きると、暗闇の中に最上が立っており疾風に手を伸ばしてくる。

 

「起こしたか?ごめんな。」

 

暫く震える手で疾風を撫でていた。

 

 

 

一方朝議の後、道元の執務室には菖蒲と来栖が訪ねていた。

 

「叔父様。最上に話をしていなかったのですか?」

 

「いつまでも運休できぬ以上、これしかありません。最上君とて鍛錬を始めているようですが、まだ無理をさせられません。次ワザトリと遭遇したとして勝てますか?先日ほどではなかったとして、最上君が単騎でワザトリを討ち取ったことはありますか?私はとんと聞いたことがない。端的に申し上げれば実力不足です。金剛郭で同道しましたから、その辺のカバネなら問題ないのはわかっています。余所の駅の駿城なら最上君のような戦力ですら破格ですが、顕金駅の駿城はそういうわけには行きません。甲鉄城の面子とて、今の最上君と行ってこいと言われたらさぞ不安でしょうな。」

 

「ですが事前に言わない理由には…。」

 

「事前に君は実力不足だから単騎では運用しない。と告げれば良かったですか?どれほど優しく告げようが、意図はそれしかありません。」

 

「…そっそれは…。」

 

「それに今の最上君には、桔梗殿との婚姻も控えています。実務的にも政治的にもいなくなられては困る駒なのですよ。今回の件で失われなくて本当に良かった。最上君はその辺りまで思考が回っていないようです。その時点で外に出すなどもってのほかです。少なくとも瓜生君が戦線復帰出来るまでは、最上君を外に出すつもりはありません。」

 

「…わかりました。」

 

道元とて事前に話をすることはやぶさかではなかったのだが、菖蒲達が思っている以上に最上は賢しいのだ。事前に打診しようものなら、対策をしてきかねない。最上を出す理由、来栖を出さない理由など、見つけられては困るのだ。わざわざ朝議の場で諾と言わせたのもそのためだ。

 

 

菖蒲と来栖は、道元の執務室を後にして菖蒲の執務室に来ていた。

 

「まさか最上に話していなかったとは思いませんでした。」

 

「己もですが、朝議の場で諾と言わせたのは良かったですね。」

 

「何故です?あの場にいた者全てが、最上に事前の説明がなかったのはわかるではありませんか。」

 

「経緯はどうあれ朝議の場で了承したのです。後から理由をつけようと、それは簡単には覆りません。それこそ先手を打たれてこちらが了承させられれば、最上を出さざるを得なくなります。」

 

「そんな味方内で騙し合いのようなこと。」

 

「最上ならやります。ですが今のあれにはそれをする程の余裕もない。療養期間中に落ちた体力も筋力も一朝一夕では戻りません。余裕がない最上は前線に出さない方が良い。金剛郭のような真似をされては困ります。」

 

「…仕方がありませんか。」

 

金剛郭の事を出されると菖蒲ももう何も言えなかった。

 

 

その日から、最上には来栖の分の仕事も一部流れてきたが、ちょこちょことっていた休憩時間を排除して、まとまった時間を少しでも作っては鍛錬に勤しんだ。休暇も疾風の世話と鍛錬に注ぎ込んで、努力を重ねたが暫く続けて無駄な努力だと気がついた。

 

背も伸びず、来栖達と比べれば非力な自分は、今までと同じ戦い方ではいくら鍛えても意味はない。

 

狂ったようにしていた鍛錬を減らしたのを見て、周囲はやっと落ち着いたかと胸を撫で下ろしていたが、そう簡単に諦めるものかと雅客は訝しんだ。

 

最上はじりじりと焦燥だけが募る中、ふと気付きを得た。同じく甲鉄城から外された瓜生達を巻き込むことにして色々と試し始め、雅客が最上を観察していると、何やら重傷者組でコソコソとしている事に気がついた。最上、瓜生、狩方衆3名、流民上がりの武士1名と中々不穏な面子である。

 

最上が菖蒲に不利益になるような事はしないとわかっているから、雅客はどこにも報告しなかったし、必要以上に探りも入れなかった。増設した厩へと入った牝馬の面倒も見始めた最上が、馬に乗るようになったのを見て観察するのもやめる事にした。

 

瓜生が戦線復帰する前に、最上が婚儀を上げる方が先であるので、それまではそっとしておくことにしたのだ。

 




最上、瓜生、狩方衆3名、流民上がりの武士1名と中々不穏な面子である。→流民上がりの武士に熱い風評被害w他の面子は仕方ないね。

道元様の屋敷は鳩屋敷。ホモ君の屋敷は馬屋敷。

またすぐに敗走されたら困るのでホモ君単騎は認めない道元様。ホモ君に死なれたら困るのもあるし、死ななくても甲鉄城にまたすぐに敗走されるのも困る。甲鉄城は金属被膜なし、人間のみの広告塔駿城なので、そう立て続けに敗走されると実現モデルとして不適格になっちゃう。
他駅でも実現し得るモデルケース(行商時前衛はカバネを引っ張ってくるのがお仕事なので、カバネを倒すのは狩方衆と流民上がりの武士達が担当)が甲鉄城、顕金駅の強さのアピール担当が蓬莱城。

実際のとこワザトリが出たら、他駅の駿城は全滅するか、車両を切り離すのが精々だけど、それはそれとして他駅でもカバネを討伐できると体現する事で、他駅にもカバネを殺させたり、流通を活性化させている。

ホモ君はへし折れそうになってたけど、中々ぺっきりはいかない。主君を轢き殺す指示をだして、家族、友人、知人みんな死んで、ちゃんとやることやりながら下侍達にじわじわ歩み寄って梯子外されて、顕金駅で友人知人のカバネ殺してもメンタルぺっきりとは折れず、ダメージは受けつつも立ち直ってる奴なのでなんやかんや無事。
ダメージコントロールそのものは上手くないので、割とギリギリまでいくけど折れる前に方向転換して戻ってくる。


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【小話】婚儀

とうとう桔梗の嫁入りの日がやってきた。倉吉駅の駿城に送られて、桔梗が顕金駅へと到着し、操車場からの花嫁行列が行われた。

 

玉鈴の音がしゃんしゃんとなり、行列が町中を通って行く。最上の嫁を一目見ようと民人達はこぞって花嫁行列を見に行き驚いた。行列の全ての人間が狐の半面をつけていたからである。そもそも桔梗は素顔を人に見せられない。とはいえお互いの家格を考えれば、ちゃんとした婚儀をすべきである。こっそりと入家式を終えるのは、これから顕金駅で生きていく桔梗としても嫌だったのだ。手紙で最上に相談したところ、いっそ全員面をつけたら良いのではとの返答を得た。嫁入り先が良いと言うなら、いっそのこと盛大にやろうと、狐の嫁入りとかけて全員が狐の半面をつけての花嫁行列となった。

 

顕金駅には未だ娯楽は乏しいため、この奇抜な花嫁行列は民人達にうけが良かった。

 

最上の屋敷に到着し、門の前で入家式を終え婚礼の儀式となった。最上には親族がいない為、菖蒲と道元が同席、桔梗側は領主の奥方が同席し、三献の儀は、最上が酒が飲めない事を桔梗に伝えていた為水で行われた。

 

顔の出せない花嫁と酒の飲めない花婿である。

 

祝宴には一之進達も列席が許されたが、仁助の婚儀の時のように盛大には行わず、関係者のみで静かに行われた。祝宴でさえも花嫁側は狐の半面を外さず、一之進達は首を傾げていたが、きちんと静かに祝宴に参加していた。

 

祝宴を終え、倉吉駅の領主の奥方は護衛と共に城へと招かれ、一之進達は穴子達からくれぐれも大人しくしているようにとしっかりと監視された。

 

一之進達は早々に寝かしつけられ、静かになった屋敷で、最上と桔梗は床入りした。

 

 

 

翌朝、いつも通り寝ぼけている最上と、既に身支度を完璧に整え狐の半面をつけた桔梗が朝食の席に着いた。機嫌の良さそうな桔梗が寝汚い最上に声をかけつつ朝食を終え、最上は登城して行った。

 

最上が家を出てから、桔梗の指示で子供達や使用人が集められ、桔梗はその場にいた全員に素顔を晒した。息を飲む音や、小さい悲鳴が上がるのを聞きながら子供達に目をやると、一之進と小太郎は血の気が引いているが、小夜はぽかんとしているだけであった。子供達が泣き喚くかもしれないと思っていた桔梗にすれば肩透かしであった。

 

顕金駅がカバネにのまれた時、優しかった隣人が自分や自分の親を押し退けて逃げるさまや、お綺麗な顔をした美馬が磐戸駅や金剛郭でした事を知っている子供達は、顔の美醜よりも人の心根の方が怖いのだ。

 

「痛いの?」

 

小夜から声がかかる。

 

「いいえ。もう痛くないわ。でも醜いから隠しているの。」

 

よく分かっていないようで小夜は首を傾げているが、一言目が最上と似ていて桔梗はつい笑ってしまった。

 

「ふふっ怖くない?」

 

「なんで?」

 

「そう。…ならこれは?」

 

隠し持っていた般若の面を顔に翳すと、わあっと声をあげて子供達が逃げ出した。桔梗はくすくすと笑いながらも、般若の面を見てこれはそんなに怖いかしらと思案した。

 

桔梗の連れてきた武士達は居住区画の整理の際に新しく建設された長屋に入ることになった。倉吉駅でも住民は溢れており、主戦派の親族は程度の良くない長屋に押し込められていたので、綺麗な長屋にひっそりと喜んでいた。

 

さらに顕金駅はそういった立場の差別は一切ない為、非常に暮らしやすくなっている。護衛の武士は顕金駅の色々な役職に振られており、護衛筆頭の旭だけは最上の屋敷に住むことを許された。これにより、一之進の剣術指南は旭が受け持つこととなり、顕金駅の武士達が最上の屋敷に立ち寄る理由がなくなった。

 

桔梗から贈られた牝馬2頭は飛燕と紫電と名付けられており、紫電が現在疾風の子供を妊娠中である。

 

桔梗も城での仕事を得る予定であるが、本日は挨拶回りをするため午後から顕金駅を巡る予定になっている。本来なら桔梗が出向く必要などないが、地理の把握も兼ねており、非常時の避難路確認の意味もある。

 

護衛の旭を引き連れ、六頭領のところや奉行所、操車場などを訪れた。訪ねられた側は、まさか最上の嫁が挨拶に来るなどと思っていなかった為、どこもかしこも蜂の巣を突いたような騒ぎになった。最上の嫁は狐面との話は一日で駅内を駆け巡っていたため、誰もが最上の嫁だと直ぐに認識した。

 

最上が帰宅後、今日一日の感想を聞かれ桔梗は思案した後、

 

「概ねの地理は理解しました。私が連れてきた者達も過ごしやすそうで何よりです。ですが、狐面を見たら私だと判断されるのは問題ですね。顔は真似られませんが面は真似ることが出来ます。背格好の近い者が狐面をしたら私になれてしまいます。先触れ無しに面識のない旭だけを連れて歩いていたのに誰も疑いませんでした。」

 

これである。

 

「ふむ。それは問題ですね。なにか考えましょう。とりあえず要所は私の短刀無しに入れないようにしておきます。こちらを。」

 

桔梗に最上から家紋の入った短刀が渡された。

 

「確かに。お預かりします。逆を言えば、菖蒲様が私になることは容易です。折角ですから今後は派手な羽織も羽織ると致しましょう。」

 

「そうですね。いざという時は活用しましょう。柄は何が良いでしょうね。」

 

短刀は桔梗の懐に仕舞われた。挨拶回りをしただけでこんな会話になるのは異常であるが、二人はお互いの性格が近いものだと認識した。

 

 

一方武士達は

 

「最上様の結婚盛大にお祝いしたかった。」

 

「政略だろうが、結婚は結婚だしな。」

 

「甲鉄城から外されてる状態の最上様じゃあなぁ。朝議とかでも最近はしれっとしてるけど、絶対気にしてるだろあれは。ちょっと前まで狂ったみたいに鍛錬してたじゃん。怖かったわ。あれ。」

 

「そりゃするだろ。わざわざ商人組合の手を借りてまで、来栖に城主させてるんだから。蓬莱城と違って、甲鉄城は利益を出す為に走らせてる以上、来栖が商人組合の手を借りて城主するより、最上様が城主してた方が利益は出るからな。」

 

「あの外され方は矜持が傷付くしなぁ。」

 

「衆人環視の中、お前弱いから瓜生いない間は留守番な。なんか文句あるか?ってやられたわけだしな。」

 

「うっ!思い出しただけで辛くなってきた。」

 

「しかし道元様と最上様は、いつも打ち合わせしてるもんだと思ってたけど違うんだなぁ。」

 

本当なら婚儀の翌日あたりにでも、内輪でお祝いしようと思っていた武士達は非常に残念がっていた。最上は喜んで宴に参加するタイプではないが、服部辺りが引っ張って来れば、なんだかんだで祝われてくれると思っていたのだ。

 

府中駅の件があった為、最上の逆鱗に触れる可能性を畏れてやめておこうということになったのだ。

 




菖蒲をなんとしても逃したい場合、派手な羽織を着せて狐面をつけさせ、髪を解けば桔梗の出来上がりである。桔梗が髪を結い上げて顔さえふせて隠してしまえば囮の完成。使う機会はたぶんないかな。人間相手じゃないと機会がないので。

祝いたかった武士達
仁助の婚儀も協力してくれたし、盛大に祝いたかったけど状況が悪い。
嫌な顔されるのわかってるけど、初夜どうでした?とか下世話な話したかったし資金集めもしてた。


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【小話】道楽

服部が最上の執務室に入ってくると、鼻をすんすんと鳴らした。

 

「なんかいい匂いしますね。」

 

「あぁ。桔梗さんが先日買ったお香を焚いてたから移ったかな?」

 

「へぇ。流石お姫様ですね。」

 

「まあそうだな。香なんて金持ちの道楽だからな。」

 

「あれ?辛辣ですね。」

 

「いや。道楽に金が動くのはいい事だ。七夕の時に私が手持ちの物を手放したのを覚えてるか?」

 

「ああ。あれ。高価な物なんでしたっけ?」

 

「それなりにな。未だ上侍達はああいう高級品を見せびらかし合うような道楽をしてるんだ。下々が多少飢えていようがそういうのは変わらんな。」

 

「そうですか。」

 

「逆を言えば、上侍達にそういう道楽が見受けられない駅は余程余裕がないと取られる。正にうちだな。」

 

「えぇ…。」

 

「菖蒲様が生け花を飾ったりしてるのもそういうことだ。あれだって実質ただの無駄だろう。」

 

「む…無駄って。」

 

「花を飾る余裕がありますよって主張だな。交易品が売れる駅は余裕がある。売れない駅は余裕がない。そう見るのが殆どだ。質素倹約の領主の場合もあるだろうが、風雅のわからぬ朴念仁扱いされるぞ。うちはまだ再興中と見られてるからまだマシだが、そのうち貶されかねないから、少しでも桔梗さんが道楽してくれてる方が助かるよ。私と道元様は肩書きが家老である以上目につくしな。」

 

「貶されるんですか⁉︎」

 

「そうだな。カバネを殺すことしか頭にない野蛮人とか言われるんじゃないか?」

 

「えぇー。」

 

「武士とは名ばかりで道楽ばかりの腰抜け共め。とも返せるが、避けられる諍いは避けたい。そんな感じだからお前らもその内何か買っておけ。」

 

「何かって何を⁉︎」

 

「いざという時売れる物とか?お歴々の言うこともたまには役に立ったしな。」

 

クスクス笑いながら最上は筆を進めている。

 

「参考までに七夕の時の箱には何が入ってたんです?」

 

「鼈甲の簪。」

 

「べっ…鼈甲⁉︎」

 

「買い叩かれたみたいだが状況が状況だ。少々残念だが致し方があるまい。」

 

「うわぁ…うわぁ…。」

 

服部はその日雅客の家に押しかけて、最上とした会話の事を武士達に共有した。

 

「鼈甲とはまた…。」

 

「いざという時売れるって?そもそも見てもいい物とかわかんないんだが?」

 

「いっそ銀細工とか?」

 

「まぁ奪還当時回収された皿だの茶器だの掛け軸だのより、よっぽど価値はわかりやすいな。」

 

「というか最上様の言い方じゃ普段立ち寄る駿城から、ちょこちょこ工芸品とか買わなきゃ駄目ってことでは?」

 

「余計価値がわからんな。」

 

「お香…。燃えてなくなるのか…。正に道楽だな。」

 

 

翌日

 

「というわけでお呼びしました。阿幸地殿です。拍手。」

 

「なんだねこの集いは。」

 

目利きが出来ぬなら出来る人に相談しようということで、雅客の屋敷の集いに呼ばれたのが阿幸地である。手始めに最上と服部の話をすると阿幸地はぽかんとした後、

 

「ああ。あの鼈甲の簪か。」

 

と宣った。

 

「あのって何?」

 

「一個人の持ち物なんで知ってんの⁉︎怖い!」

 

「喧しい。この私が高価な買物をした上侍の話を知らん訳がなかろう!」

 

武士達は、そうだこいつ上侍と癒着してたわとジト目になった。

 

「お前らは知らんだろうが、堀川家は当時上侍の中じゃ金無しだ。普段殆ど贅沢せんかった堀川家が、話題になってた簪を買ったんだから騒がれもする。」

 

「えっ?そうなの?」

 

「当主が死んでから蓄財を切り崩して生活してた訳だからな。金のない堀川家など商売相手として上がらんかった。まあ元々質素倹約な家だったから、貯めてはいたみたいだがな。簪を買った時も借財はしとらんし。」

 

「へえ。最上様そんな感じだったんだ。」

 

「頭の出来が良いと堅将様に引き上げられて、元服前から多少の禄を貰ってちょろちょろとしていた小童程度の認識だったから交流は無かったな。おかげで脱出当初対応を誤ったわ。」

 

「なるほど。」

 

上侍と癒着してたくせに、随分と最上に敵視されてるなとは思っていたが、そもそも交流がなかったらしい。

 

「富永の当主など随分馬鹿にしておったからな。そのおかげで簪を買ったのなら、結果としてありがたい話ではあったわけだ。七夕以外でもあの簪を売り払った金は使っていたようだしな。」

 

「そんな感じだから最上様ってば、ああ言う割に道楽は桔梗様任せなのか。」

 

「まあそうだろうな。目利きは出来る様だが興味はなさそうだ。しかし勿体ない。あの簪は鼈甲ということを抜きにしてもかなりの芸術品だぞ。それをポロッと手放せるあたりが朴念仁なのだ。せめて我々が売りに行けば、鰍が売りに行くより2両は吊り上げられたというのに。」

 

当時六頭領は最上にそれなりに警戒されていたので頼むわけがないのだ。最上は六頭領をつけ上がらせたくなかったわけだから当然の対応だった。とはいえ2両。六頭領をつけ上がらせたくないから2両捨てた形となる。

 

「最初あんな大きく出るから…。」

 

「うるさい。わかっておるわ。お前ら協力して欲しいのか、して欲しくないのかどっちだ。」

 

「よろしくお願いします。」

 

「ふんっ。先に言っておくが相場より高く売るぞ。」

 

「おい!ぼったくり宣言か⁉︎」

 

「目利き代だ。それとも偽物でも掴まされたいか?本当ならお前らに偽物掴ませても良いんだぞ。道元様達も多少は勉強代として目溢ししてくれるだろうしな。」

 

「そうだ。こいつこういう奴だった。」

 

「まあお前らには、甲鉄城での恩があるからな。相場より高い程度で勘弁してやる。」

 

「ぐあぁあ!ムカつく!でもお願いしますぅ!」

 

「お前らなぁ。…まあいい。うちの店に来ればお前らには本物しか出さんし、駿城から買いたい時は声をかけろ。目利きが出来るやつを有料で貸してやる。」

 

「偽物置いてんのかよ。」

 

「当たり前だ。目利きが出来ん奴が悪い。」

 

お互い若干喧嘩ごしではあるが、交渉は成立した。阿幸地がだいぶ譲歩した交渉である。なんだかんだで甲鉄城で戦い続けた武士達のことは評価しているのだ。それにさっきは多少はお目溢ししてくれる等と言ったが、処罰はないというだけで最上あたりはちくちく文句を言うのが想像できた。家老は道元と最上しかいないのに最上のご機嫌は損ねたくない。

 

「しかし、そんなに当時の堀川家って金なかったのか?」

 

「あの簪が買えたのだから無かったわけじゃないな。金無しに見えてただけで。使用人も少なかったし、贅沢品も買わんし、奥方も繕い物などの仕事をしておったからな。堅将様に引き上げられたのが面白くないからと、叩きのめそうとして剣術で誰それが負けたと話題になって、カバネには意味のない剣術を極める程道楽に割く金がないと言われていた。」

 

「そういえばもう一個の箱は?あれも高いの入ってるんだろ?」

 

「知らん。少なくとも簪前後に高価な物は買って無いはずだ。買っておったら商人の話題に上がらない訳がない。」

 

「実は空とか。」

 

「それはないのではないか?富永の当主対策で持っておったなら、空では通用せんからな。金剛郭に2度行っていたようだから、そちらで買ったか形見の部類だろう。いずれにしろ鼈甲の簪より最上様の中では価値があるんだろうよ。」

 

「はぇえ。あんないかにも手放しても問題ありませんよって態度だったのに。」

 

「見栄を張るのも武士の仕事だろうが。」

 

「えぇー。そういうのよくないと思う。」

 

「お前らが価値も分からん高級品を買おうとしとるのと変わらん。用件が終わったなら帰るぞ。良いな。」

 

「呼び立てて悪かったな。」

 

「本当にな。さっきの話で分かると思うが最上様は経験ではなく、殆ど知識だけで我々と渡り合いお前らに教えとるからな。盲信も程々にしておけよ。道元様がいるから良いものの、そうでなければ屋台骨は中々脆いぞ。さっさと武士としての立ち振る舞いを覚えてやれ。小僧に家老などさせてるのが可笑しいんだ。」

 

阿幸地は吐き捨てる様に口にして帰って行った。

 

「小僧って言ったぞ。」

 

「まあ確かにあの歳で家老してるのは可笑しいよな。」

 

「知識だけでなんとかなってるのも可笑しいけどな。」

 

「府中駅の後もそうだったけど、もしかしなくても最上様の負担でかすぎる?」

 

「最上様いないだけで凄い量の書類降りてきたもんな。」

 

雅客の屋敷に居た武士達は、もっと仕事を頑張ろうと思った。




阿幸地からしたら、こいつらあの小僧に任せ過ぎでは?と思ってます。道元様達は結構急ピッチで下侍を育ててるつもりだけど、それ以上に再興政策をガンガン進めてるからあんまり手が回らない現状。

ホモ君はそもそも元服したてで顕金駅が崩壊してるので実務経験は実はほぼない。ただ城をちょろちょろして色んな仕事見てるので過去の資料ひっくり返しながら頑張ってます。城が燃えなくて良かったね。そんなわけなので、顕金駅奪還直後一人で修羅場ってたホモ君はマジでド修羅場でした。道元・勘太郎コンビはバシッと身支度して颯爽と合流したら、ホモ君一人がアホみたいに紙束積み上げてるの見て、ダメだこれ。兎にも角にも仕事しよ。ってなりました。

家老の書類内訳 道元:ホモ君
難しさ  7:3
量    4:6
本来管理職の武士がやるべき仕事がホモ君担当分に多いので、武士達が仕事を習得すると、道元からちょっと難しいやつがスライドしてきてこの比率を大体維持。


顕金駅政レベル(容姿で舐められてる分も含む。)

道元様>>>>>>勘太郎>>>ホモ君>>菖蒲様>>>>>来栖

道元様
言うまでもなくNo.1。金剛郭の老中は伊達じゃねぇ。格が違うのだよ。格が。

勘太郎
容姿と経験分ホモ君より上。地頭的にはホモ君の方が良いけど、金剛郭での経験ってかなり強いと思うの。

菖蒲様
処理能力そのものは悪くないけど、非情な判断が出来ないのでそもそも動乱期の為政者に向いてない。

来栖
地頭は悪くないけど戦闘能力極振りだから書類とかの処理が全然追いつかない。菖蒲様よりホモ君に近い思考回路はしてるけど、根が真面目なので後ろ暗い手段を自分から思いつくことはない。ホモ君を見て察する事は時々ある。

阿幸地殿
ホモ君以上は一定値を越えると普通に消されかねないので怖い。全員しれっと殺してきそうだからご機嫌は損ねたくない。むしろ戦闘能力極振りタイプの来栖はそういう心配がないので別に怖くない。本編前の顕金駅なら後ろ盾がつよつよだったのでホモ君も別に怖くなかった。今はないので超怖い。上3人は怖いけどそれはそれとしてお互い上手くやってwinwinの関係でいようね。って寄っていくのでとっても強か。


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【小話】一騎討ち

婚儀から暫くして、最上からの申し入れで来栖と最上が手合わせをすることとなった。

 

来栖に一騎討ちで勝ったら、甲鉄城の城主へ戻すように道元に要求したのだ。瓜生と2人がかりでも勝てないのにも関わらず一騎討ちである。来栖に一騎討ちで勝てるなら、城主に戻すのは吝かではないものの、瓜生が復帰するまではと元々決めた期限があるのだ。

道元としては、最上を城主に復帰させることを前倒す必要性はない。とはいえ断固拒否する程の事でもない為、負けた場合は二度と蒸し返すなと約束させた上で認めることにしたのだ。

 

最上が多少実力を上げたところで来栖に勝てるわけがない。一騎討ちは暗殺するのとはわけが違う。相手は一切油断していない状況で、格上に勝利せねばならない。

 

木刀とゴム弾の入った蒸気筒を装備した最上と、木刀を腰に差した来栖の一騎討ちである。武士達を集めて鍛錬場で行われることになった。

 

武士達も道元と同じく、一騎討ちで最上が来栖に勝つのは無理だろうと思っている。なにせ来栖は銃弾すら弾く男である。銃口の向きと引き金を引く指さえ見えていれば問題ないと曰うのだ。理屈上は最上も出来るだろうと、以前最上に銃弾を弾けるかと聞いた者がいたが、今から撃つから弾けと言われれば可能かも知れないが、戦ってる最中にそんなことできる訳ないだろ。アレと一緒にするな。と返されている。

 

最上は甲鉄城から外された面子とコソコソと話した後、中央で待つ来栖の下までやってきた。

 

「悪いが手段は選ばんぞ。仮想ワザトリなのでな。」

 

「それは構わん。」

 

来栖は道元に、最上がせめて以前の実力程度まで戻っていなかった場合、いっそ腕の一本でも折っておけと言われている。流石に折りたくはない。とはいえそんな状態で、自分に一騎討ちを申し込んだのなら折らざるを得ない。冷静になるまで大人しくしてもらわないとならないと思っている。

ただし想定より実力を上げて来ていた場合、折るつもりがなくても折らないように手加減出来るかは分からない。むしろ実力差が無いほど負傷させる可能性が高くなる。

 

そう考えている時点で、来栖には最上に負けるつもりは微塵もないのである。

 

樵人が2人の間に立ち手を挙げる。

 

「始め!」

 

樵人は手を振り下ろした後、巻き込まれてはかなわないと急いで後退した。

 

2人が激突し、打ち合いになっているがやはり最上が押されている。かつての体力も筋力も取り戻したようだが、言ってしまえばそれまでだった。今までも使っていた突き技の精度が上がってはいるが、飛び抜けて向上したとまでは思えない。元々技術的には仕上がっているのだから、劇的に技術が向上することはないのだ。

 

来栖は頭の片隅で、このくらいなら態々腕を折る必要はないなと考えた。

 

来栖の横薙ぎを受けて最上が吹き飛び、追撃の為来栖が最上に斬りかかる。来栖の斬撃を避け来栖の斜め後ろに抜けた。

 

「ふっ!」

 

更に振り返りざま横薙ぎの一閃をしたが、来栖の予想より最上は後退しており、来栖が完全に空振りの横薙ぎを振り抜く直前、最上の左手には信号弾の様なものが握られていた。

 

(目潰しか⁉︎)

 

片目を死守すべく左手を左目の前に翳した瞬間引き金が引かれた。

 

ぱんっと軽い音がなり、出てきたのは投網の様な物だった。

 

「はっ⁉︎」

 

後退しようとしたが既に遅く、来栖が網に捕われた。最上が突っ込んできた為、木刀を振ろうとしたが網が絡んで思うように振れず、最上が精度を上げてきた突きが来栖の心臓の前で寸止めされた。

 

「言っただろ。手段は選ばないって。」

 

「まさかこんな方法とはな。樵人。」

 

「し…勝負あり!」

 

甲鉄城から外された面子は手を叩き合い道元と瓜生は爆笑した。

剣術もそこそこに新兵器。しかも非殺傷の網である。もう一騎討ちというより、実演販売の為の商品紹介であった。

 

「本当なら剣術で勝ちたかったがもうそれは諦めた。私がどれだけ鍛錬しようがお前には届かん。」

 

勝ったくせに大層不満気な表情である。

 

「勝ったんだから不満そうにするな。というかこれをどうにかしてくれ。」

 

咄嗟に動こうとしたせいで網が絡んで身動きが取れない。最上が網を解こうとするが中々解けない。

 

「あれ?…うーん。ちょっと待て。」

 

「おい。いっそ切ったらどうなんだ。」

 

「これ金属被膜の鋼線を編み込んだから中々切れないんだ。」

 

「なんてものを作ってるんだ。お前は。」

 

武士数人でなんとか解く事に成功した時には、網に捕われてから四半刻も経過していた。

 

来栖は網が解かれるのを待つ間、最上が甲鉄城への復帰を焦るあまり、無謀な勝負を仕掛けてきたわけではなかったと理解して安堵した。

 

「実は顔面に散弾の案もあったんだが、車内じゃ使えないし、腕を翳されて目を死守されたら意味がないってなってな。」

 

「散弾の場合どう試すつもりだったんだ。」

 

「ぶっつけ本番しかないからとりあえず今回は廃案にした。お前相手に散弾は流石に使えんしな。」

 

「しかし網が出るとは思わなかった。」

 

「これなら誰でも使えるだろ。それこそあのワザトリでもなければ、多少やり方は限られるが前衛無しでもワザトリすら捕らえられる。鈴木さんには大変世話になったよ。」

 

常日頃から武器の類の開発は、誰でも使えることを重視しているだけあり、開発された武器もそれに則った物だった。

 

投網砲と名づけられ、掃射筒が配備されているところに追加配備されることになった。とはいえ金属被膜の鋼線製の為他の駅では製造不能な上、大量販売も無理であるので網の素材は検討予定である。

 

最上と来栖の一騎打ちを見て爆笑した道元は、最上の甲鉄城復帰を認めた。本音を言えば出したくはないのだが、来栖も菖蒲の伴侶としての教育中なので、来栖も実は外に出ている場合ではない。勿論行商範囲は少々狭目を設定しているが、瓜生が復帰するまでとされた。

 




最初散弾を想定してたのは作者です。車内でも一騎討ちでも使えねぇなと色々と検討した結果の網。ついでに新戦法も一応あるけど少なくとも狩方衆が数人必要なので、一騎討ちでは使えないんですよね。

武士達は婚儀の後祝えなかった分、一騎討ちの祝勝会したいけど、負けたのは自分達の首長なのでそうもいかないジレンマ。

これは完全に初見殺しなので、次回があっても来栖に通用しません。

今回新兵器に関わった人間以外誰もホモ君が勝つとは微塵も思ってませんでした。ちなみに瓜生達も勝てたら面白いくらいで、絶対勝てるとは思ってませんでした。

ホモ君は甲鉄城に戻ります。


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【小話】暗器

鈴木さんの喋り方がわからないw


最上は鈴木に依頼していた物の受け取りに操車場に来ていた。

 

「最上サン。完成はしましたがこれでは有効射程がとってもショート。」

 

「接近戦で使用するから撃ち出す初速さえあれば問題ないよ。いつも手間をかけて申し訳ない。」

 

「最上サンはしっかりデザインしてから来るので、そんなに手間じゃありまセン。」

 

「そう言っていただけると気が楽だ。それでは失礼。」

 

去って行く最上を、少し離れたところから見ていた生駒がむすりとしているので鰍は生駒に声をかけた。

 

「どうしたの?」

 

「前は俺に依頼してくれてたのに、最近は鈴木さんにばっかり…。」

 

「蓬莱城が出かけてる時間長いからじゃない?」

 

「そうかなぁ。」

 

生駒はいまいち納得のいっていない顔で首を傾げた。

 

生駒は最上に頼られなくて拗ねているのだ。最上は武士の中では一番蒸気技術に詳しく、企画書などの持ち込みにも真摯に対応してくれる。却下する場合も生駒にきちんと却下理由を説明してくれるし、生駒が感情的になっても落ち着くまで待ってくれる。生駒の中で最上は割と好意的な人物なのだ。

 

生駒は頼られたがりな一面がある。

なんでもかんでも頼られたい訳ではないが、カバネを殺すための蒸気技術については別である。鈴木の技術が評価されることに異論はないが、好意的な人物に得意分野で頼られたい気持ちがかなりあるのだ。

 

 

 

最上は城に戻ると来栖の執務室へと向かった。

 

「来栖。手は空いてる…か…。空いてないな。悪かった。」

 

断りなく襖を開けると、来栖の机には書類がいくらか溜まっており、来栖は参考書物らしき物と睨めっこをしていた。最上は直ぐに襖を閉めた。

 

「待て。最上!待ってくれ。」

 

最上が閉めた襖が直ぐに開き、来栖に腕を掴まれた。余程逃したくないらしい。

 

「これがわからんのだ。」

 

机まで連れてこられて、書類を確認すると来栖が見ていた書物では解決しない内容であった。来栖は菖蒲との婚約が決まってから、今まで以上に道元から書類を任されている。単純に量が増えるというより、難しい内容のものが多くなっているのだ。

 

まだ他駅との交渉事などは、護衛として聞いているだけであるが、もう少し書類仕事ができるようになれば、そういったことも少しずつやらせていく予定である。

 

「来栖。読むならそれじゃない。こっちだ。」

 

机の脇に積まれた本の山から、一冊取り出して机に置いてやる。

 

「助かる。」

 

「書棚があるんだから仕舞え。積むんじゃない。」

 

「直ぐ使う羽目になるから仕方がないんだ。」

 

来栖は別に片付けの出来ないタイプではない。たが道元から振られる仕事が参考書物がないと難しいことが多く、一度仕舞ってもまた直ぐ必要になるため、致し方なく執務時間中は出しっぱなしにしているのだ。

 

「…。なら分類ごとに積んでおいてやろう。」

 

「助かる。で?なんの用事だったんだ?」

 

最上がぱたぱたと分類別に書物を積み直していると、来栖が先程机に置いた書物片手に最上を窺う。

 

「これの使用感を見るのに、軽く手合わせしたかっただけだ。別に今日じゃなくて良い。」

 

最上が左手首をぽんと叩くと、ガチャっと音がして左前腕に小さい弓が展開した。

 

「なんだそれは?」

 

「暗器みたいなものだ。」

 

「カバネ相手に必要か?それは。」

 

「その検証はまだこれからだな。お前に不要なのは間違いないが、私や瓜生は使うかもしれん。まあ投網砲と違って前衛しか…というか私と瓜生くらいしか使わないと思う。」

 

「…先日の敗走はそんなに堪えたか?」

 

「そりゃそうだ。今まで瓜生と二人がかりでお前に勝てないのを放置していたつけだ。そのせいで3人死んだ。少なくとも1人は死ななくてよかった筈だ。前衛を請け負っている以上放置すべき問題じゃなかった。」

 

「己はお前に負けたくなかった。先日負けたのは堪えたぞ。」

 

「…あんな初見殺しで勝ってもな。でも剣術単体は諦めたって言ってるだろ。諦めたからこうやって小細工を模索してるんだ。」

 

「実戦なら死んでいた。負けは負けだ。小細工だろうとなんだろうと勝ちは勝ちだろう。己が戦うことでお前に負けたら立場がないではないか。散々無名達と手合わせさせられていたのにお前1人に負けた。己は初見殺しの小細工を使われようと勝てなければならない。お前だって己にそうあれと望んでいるだろう。」

 

「…なんだ。意外と気にしてたんだな。」

 

「当たり前だ。…それとお前は自分で理解してないようだから言っておくがお前は己より速い。蒸気筒を下ろして、ただ殺すことに全力を注いで、相討ち覚悟で初撃にかければ己に剣術単体で勝つ可能性はあるぞ。」

 

「…。」

 

「…何を赤くなっている。」

 

「べ…別に。お前の手は空いてないようだし失礼する。」

 

「あっ。おいっ。」

 

最上はすぱーんっと襖を閉めて廊下に逃げた。

 

来栖が先日の初見殺しの小細工で負けた事を気にしていたことも、最上を負けたくない相手と認識していたことも、意外と剣の腕を評価されていたことも全て予想外であった。正直に言えば歯牙にも掛けられてないと思っていた。

 

「そんなふうに言われたら、折角諦めたのに足掻きたくなってしまいそうだ。」

 

最上は顔をぎゅっと歪めつつ、深いため息を吐いてから気持ちを持ち直した。

 

足掻く暇などどこにもない。剣術の鍛錬よりもやるべきことはいくらでもある。自分は真っ当な剣士である必要はない。卑怯な手段だろうがカバネを殺せればいいのだ。

 

(これは今度カバネで試そう。)

 

暗器としての弓をパチリパチリと収納しながら、ほんの少しの寂寥感を感じつつ自分の執務室へと歩いて行った。

 

自分の執務室に取り残された来栖は、何故急に最上が怒ったのか分からず首を傾げていた。




ホモ君も男の子なので剣術で勝負できるなら剣術で勝負したい。身長伸びないし、非力(前衛メンバー比)だし、仕事忙しいしで諦めたのに、来栖に褒められたら頑張りたくなるだろぉ!馬鹿ぁ!って状態。

暗器の弓は毒を撃ち込むための物。色々試す気はなくて、初手からトリカブトを試します。矢に溝を掘って致死量の倍は突っ込んできます。
死ななくてもいいんです。動きさえ鈍れば殺せるから。

来栖とやりたかったのは動作確認と撃ち込み方の確認だけ。

来栖は何者にも勝てと望まれていると知っているから、融合群体とかみたいに物理的に単独でどうしようもないやつ以外に負ける気はなかった。初見殺しとはいえ正直ホモ君に負けたのめっちゃ悔しい。次は鞘で巻き取るなりして攻略してくるので、マジで初見殺しの効果しかない。ちなみにホモ君が初撃に全身全霊をかけても負けない。伊達に無名とばっかり手合わせしてない。原作来栖より強い。


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【小話】経費削減

その日生駒が最上の下に持ち込んだ企画書は速やかに受理され、企画物はすぐに量産体制に入ることになった。

その企画物は噴流弾に代わる新しい銃弾であったが何がそんなに最上にうけたのか服部にはさっぱりわからなかった。

 

「噴流弾と比べたら威力落ちてませんか?」

 

「まあ金属被膜は貫通できないな。」

 

「駄目じゃないですか?よく開発しましたね生駒。」

 

「貫通はできないが、掃射筒での運用ならこちらで充分だ。掃射筒は心臓に当たれば儲けものくらいの使い方だし、大体はカバネの突撃を食いとめるために乱射しているにすぎない。掃射筒で薙ぎ払った後結局トドメを刺してることの方が多いだろ?」

 

「そうですけど、これでカバネの足が止まるんですか?」

 

貫通力で見れば明らかにダウングレードしている弾丸は、抵抗弾と名付けられ、その実態は現在でいうところのホローポイント弾である。ホローポイント弾とは弾丸の先端に空洞があるもので、着弾時に先端が潰れて広がることで損傷が大きくなるのだ。カバネの心臓の金属被膜は貫けないが、カバネの肉を削り行動不能にするという点においては充分に機能する。

 

現在命中精度の高い武士は従来の蒸気筒でカバネの心臓を狙い、民人上がりの武士等蒸気筒の命中精度が低い者に掃射筒を使わせている。集団で向かってくるカバネに掃射筒による掃射を行い、カバネの四肢等を粉砕し突撃を食い止めるのが掃射筒の役割であり、掃射筒で撃たれた銃弾の殆どは心臓には当たっていないのだ。勿論掃射筒で心臓を撃たれるカバネもいるが、使われている銃弾の母数に対して、心臓に当たった銃弾の数は極端に少ない。

 

元よりそうなることはわかった上で、民人に掃射筒を使わせていたのだからそれ自体は問題ではない。顕金駅の奪還をしたことで、どうしても武士の手が足りず民人にも戦ってもらう為に掃射筒は多く配備され、蓬莱城に資金が注ぎ込まれているのだ。

 

とはいえ、節約できるなら節約したいのが本音である。

 

 

 

暫く運用された後、カバネの足を止めるという目的としては上々との報告を受け、段階は踏んだもののすぐに噴流弾との割合が半々になった。これにより、かなりの経費削減に成功したため、最上は生駒に金一封を渡した。

 

生駒の金の使い道など兵器開発かカバネの研究が殆どであるし、両方とも基本的に経費で落ちる。生駒は書物の類も好きだが申請さえすれば城の書物庫への立ち入りを許されている。

 

鰍は金一封の噂を聞きつけてすぐに生駒をとっ捕まえ、次回の蓬莱城の行き先で装飾品を購入させるべく、生駒に装飾品の講義をした。

 

生駒は至極興味なさげに聞いていたが、もし妹さんが存命で交際している相手が贈り物の一つもしなかったらどう思うのかと怒られてはっとした。生駒に任せると武器の一つでも贈りそうだと思い、次回の蓬莱城の立ち寄り先の予定は細工物が有名な駅であるので、妹さんがもらって喜びそうな装飾品を基準に何点か選んで、その中から無名ちゃんが喜びそうな物を選ぶのよ!と言い聞かせた。

 

結果生駒が買ったのは、装飾品ではなかったが無名は大喜びしたのだ。ご機嫌で顕金駅に戻った無名は、鰍に贈り物を見せびらかした。鰍も何を贈ったのか大変気になっていたので、喜んで見せてもらった。

 

生駒が購入したのは、オルゴールであった。小間物屋を覗いて、うんうん唸りながら首を傾げていた生駒に店主が声をかけ、勧めたのがこのオルゴールである。

 

オルゴールが鳴らされて妹を想像した。間違いなく喜ぶだろう。無名を想像して喜ぶか?とちょっと首を傾げた。

 

しかも鰍には装飾品と言いつけられていた。だが生駒はオルゴールを再度見て、妹は間違いなく喜ぶし、何度も繰り返し聞くだろうと思った。無名はちょっとわからないが、無名ちゃんは強いけど女の子なんだからね。と言っていた鰍の言葉を思い出して購入を決めた。生駒の手持ちは金一封どころか、全て吹っ飛ぶことになった。

 

無名に渡したとき、大層怪訝な顔をされたが、オルゴールを鳴らすと目を輝かせて喜んでくれた。なにそれ。くっだらない。とか言われたら立ち直れないところであったので、喜んでくれてホッとした。

 

無名は鰍にオルゴールを見せびらかして、何度もぜんまいを巻いてオルゴールに聴き入っていた。妹基準の贈り物作戦大成功である。

 

オルゴールを気に入った無名は、至る所に持っていき、色んな人にオルゴールを聴かせた。オルゴール自体が珍しく、みんなが興味津々にどうしたのか聞くものだから、無名は生駒からの贈り物だと自慢して回り、顔を真っ赤にした生駒が止めるまで続き、駅中に生駒が無名にオルゴールを贈ったと広がってしまった。

 

無名は生駒に止められる前に城にも突撃しており、菖蒲に留まらず道元や最上にも聴かせて回っていた。菖蒲は興味津々で、道元は微笑ましく聴き、最上は生温い笑みで無名の話を聞いた。

 

自慢したかっただけではあろうが、道元や最上にまで見せびらかしてきたのを受けて、思ったより無名殿に我々は嫌われていないのだなと最上は思った。




ホモ君
経費削減!最高!

無名
見て見て!すごいでしょ!生駒がくれたの!
別にホモ君も道元様も嫌いじゃない。嫌いだったら絶対見せない。
ホモ君は無名にびびってるから、基本的に無名が嫌がる事(生駒の考えた武器で人殺し)はしないし、無名はホモ君が無名にびびっている認識はない。嫌なことは嫌って言ったら聞いてくれるし、したいこと(稲刈りとかお泊まりとか)はいえばさせてくれる人の認識。


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【小話】桔梗

桔梗は阿幸地達や余所の駿城の商人を時折屋敷に呼びつける。

 

少し前は上質で派手な羽織を、先日は笹紅を購入しており、他駅では堀川家に嫁入りした倉吉の姫は高級品を買うと囁かれている。

 

とはいえ元々が領主の娘であるので目利きも出来る為、中途半端な物を持ち込んで出入り禁止にされた商人もいるのだ。

 

阿幸地は呼びつけられても、商品を見せることもさせて貰えない。ただし、阿幸地は物価情報や他駅の情報を買い取って貰っている。勿論そう高価な情報ではない為、かかる時間の割に利益は少ない。その上、阿幸地から高価な商品を購入したかのような噂を流すことも要求されており、単純に商売としてはいまいちであるが、顕金駅の家老の屋敷へ出入りしている商人という肩書きはかなり美味しいものである。

 

他駅からくる商人は、阿幸地を経由して堀川家へと繋ぎを取るため、まずは阿幸地の機嫌を窺わなければならない。阿幸地はなんの見返りもなければ、基本的に桔梗に繋ぐ必要はない。見返りさえあれば、桔梗に繋ぎを取る。阿幸地の顔が広くなれば、その分阿幸地が得られる情報も多くなり、それを桔梗が買う。桔梗も阿幸地もお互いを使って利益を得るのだ。阿幸地は多少手間ではあるが、その程度の損で済むので否やはないのだ。阿幸地が流す噂により、桔梗は大層な浪費家になっている。

 

良い商品を携えた商人は城に上がる為、菖蒲、道元、最上には目通り出来るが、桔梗は阿幸地が繋がなければ会う事が出来ないシステムなのだ。だが現状顕金駅で、浪費しているように見えるのは桔梗だけであるので、商人はこぞって阿幸地を訪ねるのである。話を聞きつけた道元からも資金提供があるため、桔梗は話題性のありそうな良い品を買い付けている。掛け軸や器の類は物が残り、他へと回せばバレる可能性があるため、基本的には飲食にかかるものを多く買い付けている。酒を買えば道元に、甘味を買えば菖蒲に、珍しい作物は料理番の鯏や六頭領と活用方法を模索する。消え物ばかりだと受けは良くない為、稀に反物だの紅だの装飾品だのを購入する。

 

噂では大層な浪費家であるので、民人達の視線は多少冷たいが、最上の嫁であり、特段桔梗の浪費により何か害が出ている訳ではない為、やっぱりお姫様ってのを嫁にもらうと金がかかるんだな。それに引き換え菖蒲様は…。程度である。そもそも上侍達が浪費家であったので、民人達も上の人間はそういうものだという認識なのである。

 

桔梗は顕金駅の政を手伝うべく、勘定方に顔を出して計算を手伝うことが多い。勿論倉之助が取り扱うような重要な部分には触れることなく、雑費などの計算を手伝っている。雑費となると重要度は低いが、なにぶん計算が多い。桔梗が勘定方に顔を出すと勘定方は顔が明るくなる。

 

顕金駅の規模に対して、勘定方の数が足りていないのだ。そもそも武士自体が足りていないので、当然どの役職でも人は足りていないが、甲鉄城の収入、蓬莱城の出費だけでかなりの金額が出入りする為、勘定方の負担はかなり重くなっている。そして何より他の役職と違って、簡単には他から人を回せないのである。なにせ学がない武士が殆どであるので。

 

本来なら不満のひとつでも出るところではあるのだが、家老をしながら甲鉄城で前衛をして、行商で各駅を回る最上に文句を言える者などいないのである。道元相手は怖すぎて文句を言おうとすら思わない。そんな中手伝いに来たのが桔梗である。桔梗は護衛の旭も連れ歩いているので、手伝いに来ると単純に2人の手が増えるのである。

 

旭はそこまで計算は早くないのだが、桔梗は勘定方と同じ速度で算盤を弾く上、無駄に数の多い雑費の計算をしてくれるのだからありがたいことこの上ない。

 

桔梗からすれば、算盤を習得しても活かす場はなく持ち腐れていた技能であった。雑費を計算するだけで、拝むが如く感謝されるので気分良く仕事をしている。倉吉駅では武士が有り余っていたので、領主の娘が算盤を弾くのは勉強の時だけであった。旭もゆっくりではあるが、慎重に算盤を弾くだけで感謝されるので苦笑していた。

 

桔梗も旭も若い最上が、問題のある桔梗を娶ることに多少の疑問は感じていたのだが、見れば見るほど顕金駅には武士が足りない。そりゃあ年増に片足を突っ込み、顔の焼けた女でも娶りたくなるだろうと思える人材の足りなさである。

 

聞けばかつての上侍は最上しかおらず、その最上ですら元服して割とすぐに顕金駅がカバネにのまれている。人が足りない上に、今まで政務を取り仕切っていた上侍が、軒並みいなくなっているのだから、今の体制でこのような速度で再興をしている顕金駅は普通ではない。城下で務める者達には多少余裕があるようだが、城で働く武士達は殆どが独楽鼠のようにくるくると忙しそうに働いている。

 

普通の駅からすれば、国賊扱いの下侍など嫁入りの際に連れて行きたいと言えば、無駄な食い扶持が増えるので嫌な顔をされるのが当然なのだが、顕金駅では大歓迎された上、それぞれの場所で即戦力とされている。最上が家老をしている時点で、人材不足というのは想像できていたが、想像を上回る人材不足であった。最上の帰宅時間もかなり遅いが、自宅に帰れるようになっただけ良くなった方、と言われた時はどうしようかと思った程である。

 

大体の駅で武士は6時間程度が勤務時間とされており、朝から晩まで働いているのは異常なのだ。まして家老陣など4時間程度しか働いてなくとも不思議ではないというのに、顕金駅は家老陣と勘定方の勤務時間が非常に長い。

 

桔梗は最上に許可を取り、更に20名程下侍にあたる武士達を呼び寄せた。屋敷に通わせ、算盤塾を行い勘定方にする為である。今以上の金の動きは現在の勘定方には賄いきれない。倉吉駅ではどうせ扱いが良くない武士達であるので、倉吉駅からも喜んで差し出された。武士達も要らぬと放り出されれば面白くないが、桔梗は倉吉の姫である為、姫が望んでいるとなれば否やはない。妻子持ちは妻子ごと転居を許されたし、国賊どもと詰られることのない顕金駅は、とても過ごしやすかった。

 




嫁いだからには良くするわよ!な桔梗さん。
倉吉駅も駅の圧迫具合は結構やばいので、下侍?好きに持ってけって状態。上侍は行きたいなって匂わせた奴(デカい顔できそうだから)はいるが、桔梗にすっこんでろ無能共ってお返事をもらっている。ぶっちゃけ政においてはそこまで無能じゃないけど、顕金駅で上手くはやれない。

浪費家の汚名を頂いた桔梗さん
ご本人はそれが何か問題あるの?家老の妻がケチじゃあ格好つかないでしょう?ってしれっとしている。

阿幸地
最上の嫁が嫁いできてから、すぐにフルスロットルでかっ飛ばしてくるので結構びびったが、かつての上侍と癒着していた男なので、普通に仲良くさせてもらっている。暫くしていなかったタイプのやり取りに少し満足感を得ている。だって顕金駅怖すぎる奴(道元、最上)か馬鹿正直しかいなかったんだもの。


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【小話】ぎっくり腰

始業時間を過ぎても道元は登城して来ず、代わりに来たのは使用人であった。

 

「道元様が?ぎっくり腰?」

 

「はい。布団に逆戻り致しました。」

 

「うーん。わかった。」

 

使用人を帰してから最上は頭を抱えた。道元の仕事は、最上が甲鉄城で数日不在にできるのと同じように、数日余裕を持って進められている。こういう時に共倒れしないためだ。本来なら頭を抱える必要はないのだが、明日から甲鉄城は出かける予定があったのだ。最上は服部を呼びつけ、甲鉄城の面子に中止の連絡を頼み、菖蒲へと中止の報告をすることになった。

 

道元も最上も数日分余裕を持って仕事をしているため、道元が2、3日くらいおらずとも、甲鉄城で出掛けて問題ないといえばないのだが、2、3日で復帰する保証もなければ、有事の際は菖蒲1人で対応することになってしまうし、顕金駅が心配で集中出来ない中、カバネと戦うのは命とりであるので大人しく仕事を進める事にしたのだ。

 

顕金駅における政の最高戦力たる道元の不在は長引けば致命傷だ。せめて他駅と交渉ごとの出来る者が、最上以外にもいればここまでではないが、見渡す限りお人好しばかりで謀など到底できない者達ばかりである。甲鉄城規模の頃であればまだしも、顕金駅規模となると菖蒲だけに任せるわけにもいかないのだ。

 

道元のぎっくり腰は中々長引き5日を越えてもまだ復帰には至らない。余裕を持って進めていた分が殆どなくなり、それ以外でもそれなりに急いで決済が欲しいものというのは存在する。勿論最上の元へ持ち込まれるが、最上も道元の仕事は手に余る。その上こういう時に限って、余所の駅の駿城がきて面倒くさい交渉事があったり、別の日には余所の駅の城主と生駒が口論をして大騒ぎになったり、大鍛錬場で作業中の事故が起きたりと余計なことばかり起きたのだ。

 

服部は、本日持ち込んだ書類を最上が見て顔を引き攣らせたのを見た。暫くして茶を出しに最上の執務室を訪ねると、最上が書物片手に必死に書類を処理しており、イライラとしているのが一目瞭然であったので、茶だけスッと出してそそくさと執務室を後にした。部屋を出て行く時、最上に引き込まれた道元の補佐官から恨めしげに視線を向けられたが、補佐官と違って服部には仕事は手伝えないので仕方がないのだ。補佐官は道元が休んだその日から、最上の執務室に引っ張ってこられ、業務が終わるまで最上と2人きりで過ごしており、だんだん苛ついてきている最上を見て縮み上がっている。

 

6日目の朝議の場には、目の下にべったりと濃い隈を貼り付けた最上が現れ武士達はぎょっとした。隈がだんだん濃くなっていたのはわかっていたが、もう限界ですと書いてあるようだ。道元の席は未だ空席であり、菖蒲も疲れた顔をしている。道元の仕事の殆どは最上に流れているが、いくらかは菖蒲が引き取っていたのだ。来栖にも勿論最上の仕事の内から、簡単なものがいくらか流れたが、菖蒲にも最上にも教えている余裕はなく、とりあえず簡単な説明で済むほんの僅かばかり仕事が増えただけであった。

 

完全に最上がよれよれしているのを見て、武士達は先日の阿幸地の言葉を思い出していた。道元が居なければ屋台骨が脆いという話だ。

 

道元、勘太郎、最上は横並びで仕事をしていたように見えたので、ここまでとは思わなかったのだ。雪と放置された駿城のせいで最上が長期不在になったり、府中駅の後も家老の仕事を長期で抜けていたが、道元の機嫌は悪かったもののそれだけだった。勿論自分達に仕事がばんばん降りてきたがそれで片がついていた。最上も仕事を下ろすことはあるが、執務室を訪ねた時に頭を抱えてたり、書物を睨んでいたのを見る限り、道元の仕事は自分達に下ろせないものが多いのだろう。

 

 

 

八代駅は属領、小田駅は神西駅、速谷駅、宍道駅、久手駅と同盟を結び共同管理となっており、道元の仕事は顕金駅内の仕事ばかりではなく、対外的な仕事がかなり多い。そのため、同盟を結びたいだとか、傘下に入りたいだとかの申し出があれば道元が対応するのだ。管理しきれないので基本的にお断りではあるのだが、最上の結婚を機に倉吉駅とは名実共に同盟関係となっている。

 

最上は基本的に顕金駅内の仕事が多く、最上の仕事から本来やるべき武士達へ引き継ぎが成されれば、道元が行っている仕事が最上にも分割されるのだが、今現在は対外的な仕事は基本的に道元がしていたため、今回最上は多大な仕事の負荷を負った形である。他駅とのやり取りなど記録を見返さねばわからないし、同盟などをお断りするにしても、駅の規模や元々の顕金駅との関係性を考慮した内容のお断りの手紙を認めねばならないのだ。

 

7日目にしてやっと道元が仕事に復帰し、急遽先延ばしとなっていた甲鉄城の行商に最上が出発して行った。最上の仕事の余裕が少ない為、また武士達にばんばん仕事が下りたが、そもそも下ろしている仕事は本来武士達が処理するべき仕事なのだ。完全に下ろすと滞る可能性が高い為、未だ最上が担当しているだけで、そのうち武士達が全てやるようになるべき仕事である。

 

そんなよれよれになった状態で行くのかと、武士達も引き止めようとしたのだが

 

「金に余裕がない。」

 

この一言で手を離した。

 

最上や道元の中での金銭的余裕とはどの程度か全く想像がつかないが、最上の口から余裕がないと言われればどうしようもない。

 

最上と道元は後悔していた。

余裕があるからと、カバネ狩り月間などして金を使い込んだことを。

勿論それでもある程度の余裕を持って予算を計上していたが、まさか甲鉄城が大打撃を受ける予想はしていなかったのだ。行商も一時的に取りやめ、再開しても来栖が城主となっていたため、出費の割に収入はいまいちであった。

 

余裕がないと言っても、数日で予算が底をつくなどといった杜撰な管理はしていない。とはいえ顕金駅はまだまだ収容人員の枠は余らせまくっているので、いつ如何なる状況で民人が急増するかわからない。なにせ顕金駅から脱出した時の甲鉄城ような駿城がきたら、菖蒲は絶対に受け入れてしまうと断言できるので。500人位は急増しても飢えない状況でなければならない。

 

行商から戻った最上は、出発前と比べて顔色が少し良くなっていた。

 

(駅外に出て顔色が良くなるとは此は如何に)

(儲かったんじゃない?)

(事務仕事で溜まった鬱憤をカバネで晴らして来たとか?)

(まあ元気に戻ってきたなら何よりだな。)




八代に勘太郎を放出しているツケがどしどし来てます。勘太郎がいた場合、ホモ君はなんも気にせずお出かけするし、ホモ君が長期不在時も道元様はイライラせずに済みます。

道元様が処理する場合処理に10割リソースを割けますが、ホモ君の場合調べ物に5割くらいリソースを割いているので滞る。ホモ君の仕事を武士達に下ろした場合も同じです。

江戸時代ってあんまり腰痛なかったみたいですけど、全くないわけじゃないだろうし道元様長期離脱のために採用しました。


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【小話】報告それぞれ

朝議が終了し、解散の直前に仁助から私事で大変恐縮ですがと前置きがあり、報告されたのは楓の妊娠である。

 

朝議に参加していた者達は、明るい顔で祝いの言葉を仁助にかけていくが、1人表情が優れないのが最上である。出産立ち会いまでのカウントダウンが始まったのだ。

 

しかも楓が妊娠に伴い、出産以外でも医者の仕事が出来ない時は、仁助と最上に仕事が回ってくる。とりあえず仁助を蓬莱城から下ろし、医者に専念させることが決まった。仁助を下ろした分看護師を1人追加配備し一応の人員補充を行った。

 

菖蒲と道元が退室した後、仁助は武士達に胴上げされて天井に激突した。人は違うが去年の年末に見た光景である。

 

楓は現代であればそうでもないが、初産が30歳を越えているのでかなり高齢出産の部類である。リスクは高い方といえるし、リスクが高いということは、医者の出番の可能性も高いということである。

 

最上は自分でくっつけておきながら、妊娠を素直に喜べない残念な事態であった。

 

 

周囲の興奮が収まってきた頃、雅客からも私事ですがお付き合い始めましたと報告が上がった。以前久手駅から来た女性の役人と恋仲になったらしい。そもそも久手駅から送り出された女性達は、嫁に貰われることが前提であったので、最上としても文句はない。が、ほかの武士達からはブーイングの嵐である。

 

「裏切り者!」

「奉行所に女人が3人も配属されてるの狡い!」

「振られろ!」

「奉行所でなにしてんだ!仕事しろ!」

「誰か町奉行呼んできて!」

「雅客が町奉行じゃん。」

 

散々な言われようである。

 

「素直に祝えよ!」

 

雅客は、罵る武士達を一喝した後、最上をちらりと確認した。最上は全くもって興味がなかったので、朝議の場で進達された書類を読んでいた。

 

「嘘でしょ!最上様!興味なさすぎでは⁉︎」

 

「は?結婚が決まったならまだしも交際を始めたくらいで何を言えと?」

 

「厳しい!」

 

「…まあ…お前、武士達でしょっちゅう集まってるのやめた方がいいんじゃないか?少なくともお前の家で開催するのはやめた方がいいと思うぞ。武士の溜まり場とか嫌だろ。たぶん。」

 

最上の台詞を聞いて雅客はぽかんとしたし、周りで聞いていた武士達は文句を言った。

 

「なんで助言なんかするんですか!雅客なんて振られればいいのに!」

 

「そうだそうだ!」

 

「おいっ!」

 

「雅客が振られること自体はどうでもいいが、それが原因で別れた後に陰口叩かれたりしては少々問題だ。武士全体が該当してしまうしな。」

 

「俺の心配じゃなかった!」

 

ぎゃんぎゃんと武士達が騒ぐ中、最上はいい加減退室しようと立ち上がったところ、立ちくらみを起こして床にぺたりと逆戻りした。武士達は最上を見てギョッとした。駆け寄った仁助に声をかけられ、俯いたまま

 

「大丈夫だ。ちょっと立ちくらみしただけだから。」

 

等と宣っているが、居合わせた誰もがそんな言葉を信じていない。まだ残暑が厳しく、昨年中暑(熱中症)になった最上はただでさえ信用がなかった。

 

楓が来るまで待機されられるどころか、ひんやりと冷たい床に横にさせられて仁助が問診を始めた。最上の目の下には、甲鉄城の頃から割と慢性化していた隈がべったりと鎮座しており、寝不足であるのは一目瞭然であった。

 

休日は馬の世話と鍛錬に注ぎ込み、それ以外は夜遅くまで城で働く。最上自身も無理をしている自覚はあったものの、府中駅でのことを考えると鍛錬の時間は削れないし、馬の世話は完全に息抜きであったが体力は使うのだ。こんなスケジュールで体力気力が持つわけがなかった。しかも先日そこに道元の仕事まで追加されたのだ。当然の結果である。

 

仁助が駆け寄ったとき、最上の顔は血の気がひいて真っ白であったし、脂汗もかいていた。しかも立ちくらみとくれば、貧血だろうと判断した。そもそも最上は低血圧で寝起きが悪い。暑さで脱水になり、更に血圧が下がれば脳貧血を起こしても不思議ではなかった。

 

楓がやってきて、仁助が問診を終え寝かしつけた最上に生理食塩水を点滴した。

 

「寝不足、疲労、脱水。まあ。安静にしていれば問題ありません。元気な時なら問題のない程度の脱水でも、寝不足と疲労が祟ったのでしょうね。」

 

楓は来栖と共に道元の執務室に行き、にこにことしながら報告した。表情はにこにこしているが、目は笑っていなかったので隣にいる来栖が目を逸らしていた。

 

最上は先日甲鉄城の城主に戻ったばかりだ。休養しろとまた城主から外したりすれば、今度こそ何をしでかすかわからない。どうしたものかなと道元が来栖や楓と話し合ってわかったことがある。

 

最上は甲鉄城に乗っている時が一番暇だということである。

 

顕金駅奪還前は500人位乗車していたし、先行きがわからないこともあり、

主に資金関係や物品管理で忙しそうにしていたが、今の甲鉄城は狩方衆と流民上がりの武士達、商人や乗車を希望した民人のみしかおらず、目的も目的地も期間もはっきりしているため、行商の結果をまとめるくらいしかやることがない。カバネも常に遭遇する訳ではないし、出雲を走っている間など殆ど遭遇しないと言って良い。

 

その上、甲鉄城では任務分担がしっかりされており、各々の報告を城主がまとめるだけのシステムになっているのだ。来栖が代打で城主をした時に、商談そのものは、商人組合からの協力があるものの、報告をどうしたものかと思っていたが全く問題がなかった。

正直カバネがでなければ暇しかない。

城主とは本来そんなものなのである。

 

先日道元がぎっくり腰になり、最上が道元の仕事を一時的に請け負ったのが追い討ちとなったと考えられる為、道元も最上に厳しく言えない。

 

対応策として、来栖の事務仕事を増やすこと、今までいなかった最上の補佐官を作ることとなった。

 

菖蒲、道元、最上、来栖の間を服部が行き来していたが、補佐や秘書というより伝令役でしかないのである。

 

菖蒲には静が、道元は自分で勧誘してきた文官が、来栖も配下の武士が補佐としてついている。今まで要職につけられる武士は来栖の配下しかいなかった。武士達は最上の補佐だろうが、勿論文句はないが道元と最上の都合が悪いし、最上と比較的仲の良い武士は各所に振られて要職に付いている。だが、最上が桔梗と結婚したことにより、倉吉から来た武士達が使えるようになったのだ。

 

 

 

最上が目を覚ますと自分の執務室にいた。ぼやっとしながら身体を起こすと、執務室内に般若がいた。

 

「…き…桔梗さん…?」

 

「お倒れになったとか。」

 

桔梗は般若の面をつけているので、表情は読めない。…が、桔梗の後方に控えている旭はこめかみの横に両手の人差し指を立てて鬼のジェスチャーをした後、手のひらを桔梗に向けた。

 

"桔梗様。お怒りですよ。"

 

ということらしい。面を見ればわかる。

 

「そうそう。今日、明日はお休みになりましたよ。帰宅いたしましょうね。」

 

「えっ⁉︎」

 

「帰宅。いたしましょう。ね。」

 

声色は一切変わらず優しいままであるが、般若が小首を傾げて見つめてくる。表情は見えないが怒っているのはわかっているし、自分に非があるのはわかっているので最上は身をすくませた。

 

「はっはい。」

 

「旭。旦那様を抱えて差し上げて。」

 

「承知「いや!歩けますけど⁉︎」

 

最上の抵抗虚しく、最上は旭に抱え上げられて帰宅する羽目になった。恥ずかしくて赤面し、顔を見られたくないからと旭にぎゅっと縋るものだから、すれ違う者達から生温い視線を向けられていたが、知らぬは本人ばかりである。いっそ堂々と抱えられていれば良いものを、恥ずかしがってますと一見してわかるのだから視線も生温くなるというものだった。

 

恥ずかしがってはいたものの、疲れ果てていたのも確かで、屋敷に着く頃には最上は完全に寝落ちていた。抱えている旭は、残暑でまだ暑いのによく抱えられたまま寝れるなと思いつつも、この状態で寝るのだから相当疲れているのだろうと思った。

 

屋敷に戻ると、旭に抱えられて帰宅した最上を見て子供達がわらわらと寄ってきて、心配そうに様子を窺うので寝ているだけだから静かにしているように、と言いつけて桔梗と最上を抱えた旭は最上の部屋へと下がって行った。

 

「随分と上層部がガタついてますね。」

 

「そうね。道元様と旦那様の2人で回しているのがそもそも無茶なのよ。」

 

「顕金駅の武士達も頑張ってはいるようですがね。」

 

「駿城に乗る武士と政をする武士が分かれてないのが問題よ。旦那様ですら兼務なくらいだもの。せめて勘太郎様がお戻りいただければ良いのだけれど。これ以上顕金駅を発展させたら、真っ先に上層部が潰れるわよ。勘定方がどうこうって話でもなかったかしら。」

 

「勘定方もなかなかに大変そうですから補充の話は良いと思います。」

 

「旭。決めたわ。」

 

「なんとなく想像がつきますが何をです?」

 

「上層部入りさせてもらいましょう。遠慮していたのだけど、そういう場合でもないわ。そうと決まれば城に戻るわよ。」

 

「承知しました。」

 

桔梗は穴子と鯉に後を任せて、城へと戻り道元に直談判をした。道元としても倉吉の武士から補佐官をと思っていたところであったので、この話は渡りに船である。流石に桔梗に家老の肩書きはやれないが、補佐官として桔梗をおければ最上不在時も最上の仕事を多少は回せることになる。倉吉の武士の場合は一から教えなければならないが、倉吉で領主代行ができるよう教育された桔梗であれば即戦力である。

 

とはいえ桔梗は最上になんの相談もしていない。道元が勝手に決めるのは如何なものかと思案していると、桔梗がすかさず

 

「道元様が反対でないのなら、旦那様には頷いていただきますので問題ありません。」

 

これである。

 

今顕金駅に、道元が反対しないなら最上を頷かせよう等と宣う者はいないのである。勿論道元が認めれば最上も認めざるを得ないが、そういう問題ではない。そもそも最上と渡り合って頷かせようだなんて思わないので。

 

桔梗は既に阿幸地を取り込んでいるし、倉吉の武士を補佐官につけようとしていた時点で、倉吉の姫だからは断る理由にならない。補佐官は謁見には立ち会わないし、浪費家の面はこのまま維持できる。道元は桔梗を補佐官に据えることを決めた。

 

最上が目を覚ますと桔梗は屋敷におらず、また勘定方でも手伝っているのだろうかと呑気に考えていたら、夕刻に帰宅した桔梗から補佐官の打診をされた。最初は反対していた最上であるが、桔梗に利点を並べ立てられ折れることになった。しかも道元に許可を取らないとと言えば、既に取ってきたと言われる始末だ。桔梗の完全勝利である。

 

 

桔梗の採用はかなり効果的で、道元も最上も帰宅時間が早くなった。勿論桔梗は夕刻になればスッと帰宅するのだが、勤務中はそれなりの速度で書類を捌いていくので、これには道元もにっこりである。阿幸地を巻き込んだ少々汚い報告を、菖蒲の目に触れても問題ないように綺麗に整えるのも問題なくできる優秀な人材である。

 

嫁を執務室まで連れてくるなど、普通なら口さがなく言われるものだが、顕金駅の武士達は桔梗様までお出ましいただいてしまった。これはまずい。早く十全に仕事ができるようにならねばと奮起していた。

 




桔梗さん上層部入りしました。流石に一年くらいで勘太郎は戻せないので仕方ないね。
派閥は分けておきたいのと、来栖の配下は報告ロンダリングが上手く出来ないので、今までホモ君の下には誰もいませんでした。

道元様とホモ君はまだ桔梗さんを全面的に信用してるわけじゃありません。間者的な行動を取れば、倉吉に首をお届けするくらいのつもりでいます。
が、それはそれとして手が足りないのも事実なので、お願いするしかない状況。まあ現時点倉吉駅が顕金駅に喧嘩を売ってもメリットがないので、完全には信用してないけど、徹底的に監視するほど疑ってもいません。
桔梗さんも自分の立ち位置はわかっているので、プレゼンの時にはメリットは並び立てるけど、私が信用出来ませんか?とは言わない。


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【小話】散弾

休暇の最上が操車場で車両整備をしている生駒のもとを訪ねてやって来た。

 

「無名殿が前に使ってた小型の蒸気筒みたいな形状の筒って作れるか?」

 

「作れなくはないですけど、あれはかなり有効射程が短くなるので無名位しか使えないんじゃないですかね。」

 

「あぁ。いやあれで火薬式の散弾銃を作って欲しいだけなんだ。」

 

火薬式等という骨董品、まして散弾などではカバネを殺すことはできないと生駒は訝しんだ。

 

「散弾?しかも火薬式ってカバネを殺せなくないですか?」

 

「殺すのが目的というより、目潰し的な用途だから威力より、取り回しと携帯性を重視したい。勿論近接戦闘での使用が前提だから大量生産はしないんだが。」

 

「なるほど。目潰しですか。」

 

「私の技量と臂力では、今後厳しい場面もあるだろうからな。最近は後ろに下がって蒸気筒撃つ方が少ないし、いっそ蒸気筒下ろして他の装備を充実させた方がいいかと思ってな。」

 

「形状的には単筒というより、蒸気筒を限界まで切り詰めるみたいな感じになりますけど大丈夫ですか?蒸気機関部分をなくせる分軽くはできますけど、装填できても2発が限度です。」

 

「むしろ2発も装填できるのか?」

 

「銃身を水平に並べることで2発は装填できると思います。無名のも銃口は水平二連式でしたから。」

 

「では片手間で構わないから頼めるか?」

 

「勿論です!…そういえば先日は俺じゃなくて鈴木さんに頼んでたのはなんでですか?」

 

「お前がいなかったからだな。それにお前にばかり頼むのも悪いかと思ったんだが。」

 

「やっぱり不在が多いからかぁ。」

 

「手間をかけて悪いが頼んだぞ。」

 

(まあカバネに毒を撃ち込む云々などというのは、生駒の反応がわからなかったのもあるがな。)

 

生駒は必ず用途を聞きたがるが、その点鈴木はそんなことは気にしないし、例え使い方を聞いたとして、それは開発に必要な情報としてしかとらえない。

 

最上が操車場から去って行く。

最上は府中駅の件で大怪我をしてから、鈴木とこそこそと投網砲を作ったり、暗器らしき弓を作ったりしていた。ワザトリに最上の戦い方が通用せず、瓜生と共に大怪我を負ったというのに、諦めたりせず他の手段を模索する姿勢に素直に好感を抱いていた。

 

そもそも最上は顕金駅が落ちた時に15歳で、自分が逞生達の協力を得て熔鉱炉にカバネを叩き落として殺した歳と同じであった。あの時ツラヌキ筒も完成しておらず、カバネから逃げるのすら一苦労であった自分とは大違いである。ツラヌキ筒が完成していたとして、カバネウイルスに感染せずにカバネを殺せたかと言われると、運次第といったところであるので、生身で前衛をはる最上と瓜生は凄いのだなと思うのだ。

来栖は無名とやり合える時点で人間とは認めていない。

 

 

暫くして最上に依頼された散弾銃が完成し、副産物として無名の2丁の蒸気筒も完成した。

 

「うーん!スピンカートリッジも悪くはなかったけど、やっぱりこれが馴染むなぁ!何より軽いのが良いよ!」

 

無名は取り回しを確認してからホルスターへと蒸気筒を納めた。無名は軽いと言っているが、最上の散弾銃ですら2斤(凡そ1.2kg)あり、無名の蒸気筒は3斤ちょっと(約1.8kgちょっと)あるので、決して少女が片手で振り回して軽いと喜ぶ重さではない。側から聞いていた巣刈は軽くはねぇだろと思いつつも、スピンカートリッジの蒸気筒を片手で撃っていたのを思い出して今更かと思った。

 

最近軽量化された蒸気筒ですら一貫七十匁(約4kg)はあるのだ。それ以前の蒸気筒やスピンカートリッジはもっと重い。

 

ちなみに掃射筒と擲弾発射器は二貫百四十匁(約8kg)はある。

 

 

最上は散弾銃を受け取った後、実験をすることにした。生駒には目潰しと言ったが、本当の目的はそこではない。

 

カバネは負傷すると、じわじわと回復する。とはいえ体内に入り込んだ異物は勝手に排出される事はない。ならば散弾を撃ち込めば、大腿筋や三角筋などの大きい筋組織に入り込んだ散弾が回復を阻害したり、関節に散弾が入り込めば関節が動かなくなる可能性がある。

 

更に言えばカバネの心臓を覆う金属被膜は網目状である。理屈上は散弾は金属被膜の隙間を通り抜ける。出来るだけ至近距離から心臓にむけて撃った場合、散弾は拡散しきる前にカバネの体内に侵入する。侵入した散弾が金属被膜をすり抜け入り込み、心臓通過後に進行方向の金属被膜に当たれば、体内で跳弾することで勝手に心臓をぐちゃぐちゃにしてくれるはずなのだ。

 

カバネやワザトリはそもそも警戒をしないし、カバネリも骨董品の火薬式の銃器などさして警戒しないだろう。金属被膜を破れないのが常識だからだ。

 

とはいえ至近距離で使わなければ、散弾が拡散しきってあまり効果はないだろう。瓜生が戻るまでは名目通り目潰しとして、その後は毒と併用して実験していくことにした。

 

 

結論からいうと瓜生復帰後の実験は大体失敗である。

殺したカバネを解体し確認すれば、体内に散弾は残留していたし、回復は少々遅くなる気はするが、そもそもが人外の筋力であるので、筋繊維のいくつかが回復出来ずともそれなりの運動機能を果たすのである。

心臓の金属被膜もすり抜けるが、外殻に弾かれる散弾の方が多く、そちらの跳弾が危険すぎた。失敗前提でカバネの四肢を落とし、盾で囲って実験したが、跳弾しまくったのである。殺せはするが、大変危険。

 

ただし、脊髄に対する効果は有効であった。カバネは首がへし折れようと回復するが、脊髄に当たれば四肢のいずれかが動かなくなる多いことが判明した。筋繊維と違い、脊髄神経は代替えが効かないのである。背面から撃たねば効果は薄く、実用的かと言われると疑問が残る。背面から脊髄を狙えるなら、心臓に刀を突き入れる方がいいのである。




重さだけで言うと掃射筒は軽機関銃の部類だけど用途と仕様が重機関銃。掃射筒は蒸気供給の都合上、基本的に据え置き式か携帯するなら蒸気タンクを複数持ち歩かなければならないので基本的には1人じゃ持ち運び出来ません。
吉備土なら、キャリーカート的なやつにでもタンク積んで、手持ちで乱射できますがわりと直ぐに蒸気切れになるので、持ち運びのメリットは低め。基本的には防衛用に据え置きで、向かってくるカバネを撃ちまくる。蒸気の供給がネック。

アニメとかで片手で銃撃つシーンって良くあるけど、重さ調べるとヤベェなって思いますwワンシーンだけの真似なら出来そうだなとは思うけど、大立ち回り続けてることを考えると、すごい体力と筋力ですよね。まあ反動とかも考えたらワンシーンすら無理ですけどw

ものの○姫のエボシさまとかヤベェと思うの。火縄銃普通に立位でぶっ放してるの。Twit○erで火縄銃撃ってる動画見たけど反動エグすぎたw

希望だけで言えば、ホモ君には刀と蒸気筒で無名ちゃんみたいに大立ち回りしてほしいんだけど、彼は人間なのでね。前衛してる時点で中々人外ではあるけど無双させちゃうのはちょっと違うかなって…。お陰様でホモ君は怪我したり、倒れたり忙しいけど未だ17才の青年なので。無双できちゃうキャラなら簡単に話は進むけど、あれは無名ちゃんと来栖の専売特許かなって思ってます。

来栖はほら。公式だから。駅外で彷徨こうが、ここは任せて先に行けってしようが無傷だから。ワザトリ君が唯一の大金星だから。


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【小話】三城目2

年末年始はちょっと小説書いてる暇がありませんで、放置プレイをしておりました。

無事です。生きてます。世間の年始の諸々は関係なく、ただ小説に手が回らなかっただけです。


とうとう顕金駅三城目の駿城が完成した。差添(さしぞい)城と名付けられた。当初は蓬莱城や甲鉄城からそれぞれ人を削る予定であったが、府中駅での件を考慮して、戦力の低下を抑える方針になった。

 

城主は樵人、運転士は甲鉄城の運転士で、ここまでは当初の予定通りであるが、八代、倉吉の武士をそれぞれ10名ずつ出し、小田駅で同盟駅の武士達を拾って出雲の守護をする予定である。

 

他駅に打診していた研修制度は、中々反応が悪い為、軌道に乗るまで時間がかかる見通しだ。指導の上手い狩方衆がいる甲鉄城で10名程度研修中で、結果如何で継続かが決まる。蓬莱城に乗せる案もあったのだが、甲鉄城の流民上がりの武士から反対意見があった。端的に言えば、

 

武士ですらない生駒や無名の意見が優先されやすい蓬莱城は通常の武士には合わない。

 

ということである。然もありなん。

 

差添城には同盟関係の神西駅、速谷駅、宍道駅、久手駅の4駅から武士を出させ、小田駅を中心に同盟駅周囲の巡回をする。

 

研修制度も差添城で行い、研修を受けている駅の巡回をしてほしいとの要望があったがお断りしたのだ。同盟駅は実質傘下に入っているようなものであるので、城主が人を従え慣れていない樵人でも務まるが、そこに研修制度でそれなりの立場の武士が入ると面倒事が起きること請け合いである。

 

それならば蓬莱城も同じではないかというと、蓬莱城の場合は指示に従わなければ死ぬだけなのである。とはいえ反対意見が尤もであったので蓬莱城の件はなくなった。対して差添城は比較的安全圏である出雲の顕金駅周辺を担当するので、蓬莱城や甲鉄城ほどの危険はない。比較的安全で暇があると余計なことをするのが人間であるので、差添城には研修制度は導入しない方針である。

 

神西駅、速谷駅、宍道駅、久手駅の4駅は顕金駅でいうところの下侍を30ずつぶっ込んでくる大盤振舞である。これにより、三城中一番乗車人員が多いのが差添城になった。大体の駅で国賊の子孫は持て余している。とはいえ顕金駅の機嫌は損ねたくないので、死んでも困らない人間です。好きに使ってね。とは言わないのだ。

 

道元と最上は勿論4駅の領主の考えなどわかっているので、1年間やり通し功績のあるものは小田駅で役職を与えるように迫った。食糧庫となる小田駅には顕金駅に恩義のある人間を置きたいのである。4駅の領主も要職でなければ構わないと条件を飲んだ。そもそも役人として小田駅に差し出している人員も、出来るだけ差別的でない者を選んで送り込んでいる。というのも顕金駅の武士は道元と勘太郎と最上を除いて、下侍やら、流民上がりやら、民人上がりで差別思想の強い武士を送り出せば問題があるとわかっていたからである。

 

小田駅も一度カバネに飲まれているので、住居などは未だ建設が続いており、差添城は木材の確保なども担当することになっている。

 

最初は城主なんて無理だと緊張しまくっていた樵人であるが、行商の必要性もなく、最前線でもなく、指揮下に入るのが下侍に当たる武士しかいないとわかってやっと腹を括った。八代の武士はほぼ壊滅の憂き目にあって若干卑屈なところがあるが、差添城に乗る倉吉の武士は一番若くて樵人と同い年であるので、主戦派が大敗する前に元服を済ませており、それなりの教養もある上で更に桔梗から教育もされ、多少の問題は対応できる為、樵人の下につけるのには丁度良かった。

 

差添城は運行表を作成し、同盟駅間の交通にも貢献するため、かかる費用は各駅が一部負担となる。各駅には週に一回程度立ち寄る程度であるが、駅周囲の巡回も兼ねている為、費用の負担は4駅からも不満は出なかった。

立ち寄りの際、商人等が行商などで使う為に乗車する場合、別途乗車料をとることになっている。商人等が主な対象であるので、乗車料に荷物の重さ分の貨物料も多少かかる。自分の駅の駿城であれば無料で乗れるが、流石に週一では運行していないのである。

 

差添城は甲鉄城と同程度の装備を備えており、いざというときの搬送にも役立てる為、通常運行時は7両編成であるが、最大12両編成にすることができるように、車両の予備が建造されている。予備の5両中3両は食糧備蓄庫扱いになっており、有事の際は優先的にその3両が接続される。三城中一番馬力があるので、冬季は除雪の役割も期待されている。

 

 

三城目の運行に伴い一番負担がかかるのが、毎度お馴染みの勘定方である。資金の出納がエグいのだ。今でさえひいこら言いながら処理しているというのに、4駅からの一部負担金やら差添城の出費やら、乗車料だの貨物料だのの差添城の収入やら諸々の出納が増えれば、もう処理しきれない。流石に勘定方が泣きついた。ここで桔梗に扱かれた勘定方部隊である。顕金駅は武士が極端に少ない為、禄の計算は非常に少ないが、駅全体の出納金額は他駅よりも多い。これから役人が増えたり、武士が増えたりすれば更に負担が増すのは目に見えているので、一気に20名の増員である。勘定方は泣いて喜び大歓迎したし、倉吉から来た武士はあまりの大歓迎に少し引いた。

 

嬉し泣きをしながら、一生懸命仕事の説明をする倉之助を見て居た堪れなくなりながら、倉吉の武士達は説明を聞いて更に引いた。下侍であった倉吉の武士には難しいことはわからないが、どう考えても出納の金額が大きいのだ。稼いでくる甲鉄城もやばいが、湯水の如くじゃぶじゃぶと消費する蓬莱城。その上蓬莱城の武士達の禄は意外と安い。

 

勿論それなりの額の禄は払われているが、しょっちゅう命懸けで戦っているとは思えない金額である。倉吉の武士達は知らぬことだが、元々甲鉄城に乗っていた時は、ほぼ無給に近かった武士達は安めの禄に不満がなかった。というかそもそも上侍の禄の相場を知らないので、下侍の頃よりだいぶ貰っているから使い道に困っている者までいるのである。

 




差添城の予備車両はデザインが差添城ってだけで、甲鉄城でも蓬莱城でも接続出来ます。一番馬力が少ないのが甲鉄城です。なにぶん一番古いので。
これで城主は
甲鉄城…ホモ君
蓬莱城…吉備土
差添城…樵人
となります。
差添城は比較的安全な同盟駅間をひたすらぐるぐるします。
これで甲鉄城と蓬莱城がちょっと長期的にいなくても、出雲の守りは安心ということです。


言い訳タイム

私はそもそもプロットを書かずに今まで書いております。なんとなくこんな感じはありましたが、だいたい思いついたシーンに肉付けしていく感じでプロットと言えるほどではありません。
例を出すなら敗走の話は元々ホモ君ばっさりやっちまおう。から始まり敗走2を書いてから他を付け足しました。
現在ちょっと長いやつを書いているのですが、想定より長くなり、思いついたシーンに肉付けするのに四苦八苦しております。勢いだけで続きを書いておりますので、最近息切れしてしまいました。

上記の理由から書き切ってから、ちょいちょい帳尻合わせをすることが多い為、まず書き切らないとアップができません。
長い話はたぶん書けると思うので、暫しお待ちいただければと思います。


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【小話】舞と詩

明るい短い話。

長いのに手こずっております。


その日の朝議では、指示事項を終えた道元がそういえばと切り出した。

 

「今後他駅と交流する際に、もてなすのに誰か猿楽でも朗詠でもできる者はおらんか?吟剣詩舞でもいいが。」

 

場は静まりかえり、ちろりちろりと視線を回す。そもそも最上以外全員が下侍であったので、舞や詩など人様に見せられる程の腕前の者はいないのだ。

 

「あの…。最上様は出来ないのでしょうか?」

 

そろりと倉之助が挙手して発言したが

 

「最上君はそういう才能は皆無だ。」

 

道元がバッサリ切り捨てた。道元の横で最上が俯き、両手で顔を覆って耳まで真っ赤にしふるふると震えている。

 

(できないんだ…。)

(ていうか才能皆無って。)

 

「最上君にやらせるくらいなら、君達を一から鍛えた方がましだ。」

 

(そこまで?)

(上侍の嗜みではないのか?)

 

来栖達は、舞や詩を宴席で披露する上侍を警備がてら何度も拝んでいるし、年嵩の者の内、当時家格があった者は少しばかり嗜んだこともあるくらいで、家格のある武士にとって一般的な教養でもある。それを最上が一切できないというのは、非常に不可思議であちらこちらから最上に視線がいくが、ふと視界に入った菖蒲も苦笑いをしている。余程才能がないらしい。

 

「わ…私は好きですよ。最上の朗詠。」

 

「やめて下さい!情けは無用です!」

 

最上は更に前屈みになり、そのまま額が床についた。菖蒲の優しい言葉が、最上の傷を抉ったらしい。哀れなり。

 

「最上君は置いといて、君達の中から何人か候補を出しなさい。私が教えよう。」

 

来栖達は、教養が少しばかりある者や、内輪の酒飲みでお遊びで上侍の真似事をして上手かったと思う者を選出した。最上は額ずいたままピクリともしなかった。さながら屍である。

 

朝議が終わり、菖蒲が退室し、道元が最上に声をかけて共に下がって行った。

 

「最上様そんなに才能ないのか…。」

 

「まああれ見たらそうとしか思えんが…。」

 

上侍の中には、来栖達から見てもあまり上手くはない者もいないではなかったが、あの反応からするとそれ以下なのだろう。それこそ道元が鍛えてやらせるという選択肢がなくなるほどには。

 

「雪かきに次いで我々が頑張るものができたな。」

 

政は簡単には追いつけそうにないし、戦いにおいても来栖と最上以外に白刃戦ができる武士はいないのだ。折角最上が出来ないものがあるのだから、自分達が頑張ろうと来栖の配下は気合いを入れた。

 

ここで最上を嘲笑わないあたりが、圧倒的に善人と言える。態度のでかい年下が、上侍なら出来て当然であろう教養の一部を修めていないのだから、笑っても不思議ではない中、ならばそれは自分達がやるべきだとやる気が満ち満ちた。

 

とりあえず楽を奏でられる者がいないので、朗詠と吟剣詩舞を数名が道元に教わることとなった。仁助は年嵩で元々は少し家格のある家で、少しばかりかじったことがあった事から、一番習得が早く道元が手を叩いて喜んでいた。道元に教えられた者達は、とりあえずお披露目できる範囲の者と、もう少し努力が必要な者にわけられたが、才能皆無の判定を受けた者は誰一人おらず、参加した者全員が、自分達に芸事が向いているとは思っていないが、才能皆無の判定を受けた最上はいったいどうなっているのかと首を傾げた。

 

 

朝議後の廊下にて

 

「最上君はあれだな。来栖君と手合わせでも披露すれば良い。」

 

「うう…。申し訳ありません。なにか映える約束動作を考えておきます。」

 

最上は、あからさまに落ち込んでへちょりとしていた。

 

「まあ他の武士達にも色々やらせるのは良いことだ。なんでもかんでも君で済ませてはよくないしな。…ふっ。」

 

「思い出し笑いやめて下さい!」

 

「そうですね。負担は分散しなくてはいけませんね。…ふふっ。」

 

「菖蒲様っ…。」

 

最上は顔を覆って立ち止まってしまった。また耳まで真っ赤になっている。

 

最上は、上侍にとって一般教養といっていい、舞や詩が出来ないのはとてつもなく恥ずかしいのだ。下侍であった来栖達に、立場ある者はこうあるべし、と示すように振る舞っているというのに、舞や詩が苦手どころか才能皆無と知られてしまった。

 

菖蒲は顔を真っ赤にして怒ったり、恥ずかしそうにしている最上をみて、大変嬉しく思っている。甲鉄城にいた時など、子供扱いした時くらいは、もう元服していると少し拗ねた顔を見せはしたが、基本的に菖蒲に子供っぽいところは見せてくれなかったので、今回は大変貴重な機会なのだ。

 

「最上。今度華道でも共にしますか?」

 

「既に母上に花が無駄と言われております。」

 

「ぶはっ!華道も駄目かね!」

 

「ええっと…では茶道はどうですか?」

 

「それならば。」

 

「歌詠み会でもするかね?」

 

「道元様!」

 

「はっはっはっ。冗談だよ。茶が気管に入ってしまう。」

 

「道元!様!」

 

その日は珍しく廊下が騒がしかった。




ホモ君は芸術方面が壊滅的。
光の甲鉄城の武士達は、ホモ君に出来ない事は俺たちが頑張るぞ!って張り切っているので馬鹿にはされないけど、恥ずかしいもんは恥ずかしい。
堅将様の子飼いみたいな扱いだったので、宴席でも近くに侍るだけでそういう役回りではなかった。実は堅将様もこんなレベルでできない事は知らない。自己申告で苦手であるとは伝えてあったけど、見せたことはなかった。


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【小話】豆腐

厚揚げ食べて思いついた話


雅客の屋敷に集まることは減ったが、未だ風呂の日は武士達が雅客の屋敷に集まっていた。そんな中、差添城の巡回から戻った樵人がぽつりと呟いた。

 

「久手駅で豆腐食ってた。」

 

「はぁ?」

 

だからなんだと、雅客が怪訝な顔を樵人に向ける。

 

「豆腐がなんだって?」

 

「久手駅で豆腐が流行ってるんだ。」

 

「流行る?結構高級品だろ?」

 

駅制度が始まる前から、豆腐は中々高級品の位置付けであった。駅制度になってからなど、そうお目に掛かれるものではなくなっていた。

 

「そっか久手駅なら不思議じゃないな。」

 

服部が1人納得した顔で、うんうんと頷いている。

 

「えっ?なんで?」

 

「だって久手駅は塩を作ってるじゃないか。腐るほどにがりがあるってことだよ。しかも小田駅から大豆もめちゃめちゃ入ってくるだろ?うちもそうだけど、久手駅って規模が小さいから人も少ない方だろ。豆腐作る余裕があるんだよ。」

 

久手駅は、小田駅を共同管理する駅の中で一番規模が小さい。受け取る農作物は小田駅における生産量の1割となっている。共同管理の駅の中で、一番民人の多い宍道駅と比べて、需要に対する供給の割合が高いのだ。最近は中々に安全になってきたことで、顕金駅の護衛がなくとも自分達だけで漁にも出ている。

 

そのため、久手駅始まって以来の飽食の状況となっていた。現代における飽食とはレベルが違うが、食うに困らず腹いっぱい食える者が大多数となっているのだ。そんな状況であるので、豆腐を作ってみたり、蒲鉾を作ってみたりと食を楽しみ始めたのである。貧しい者も豆腐作りで出たおからや、蒲鉾作りで出た魚のアラを格安で譲って貰い、流民の食事事情も中々のものである。

 

「豆腐かぁ。良いなぁ。」

 

「にがりを差添城が定期的に運搬すればできるんじゃない?」

 

「豆腐なんか作れねぇよ。」

 

「違う違う。阿幸地殿に相談したら良いじゃないか。商品展開の話なら悪い話じゃないだろ。」

 

「は…服部。最上様みたいなこと言うようになったなぁ。」

 

「喜んで良いのかな?」

 

「褒めてる褒めてる!」

 

服部は微妙な顔をしたが、褒めているのは間違いない。

 

 

 

数日後

 

「という訳でお呼びしました。阿幸地殿です。拍手。」

 

「だからなんだこの集まり。」

 

ぱらぱらと拍手がなる中、阿幸地はじとりと雅客を睨む。

 

「まあまあ。今回は金になる話です。…たぶん。」

 

「ほう?まあ良い。聞かせてもらおうか。」

 

雅客は最後にたぶんとつけたが、阿幸地としては気にはならなかった。金になると言いながら、最上ではなく阿幸地に話を持って来たのだ。最上に話を持っていって、相手にされなかったなら、阿幸地にも回ってこないだろうし、最初から阿幸地に話を持ってきたということは、商人が主体の話なのだ。

 

雅客達に商才があるとは思わないが、雅客達はそれが欲しいと思っているのだ。少なくとも需要はあると言うことだ。さらにいえば雅客達は庶民的なので、民人にも需要が望める可能性が高い。

 

雅客や樵人から話を一通り聞いて、阿幸地は驚いた。本当に金になる話だったからだ。

 

久手駅は塩を大量に作っているため、大量のにがりもできる。いくら豆腐作りが流行っても消費量など微々たるもので、わざわざにがりを買って行く駅もない。となれば大量のにがりは邪魔なだけなのだ。それを、定期運行しているだけの差添城が運ぶだけ。それだけで中々に高級品の豆腐ができるのだ。顕金駅もまだまだ民人の数は多くない。小田の豆類も中々の量だし、久手駅ほど手軽には提供できないが、充分商品としては魅力的である。

 

顕金駅は、道元達が管理しきれぬという理由から、民人の数は少なめを維持しており、純粋な市場としては狭いといえる。しかしながら、甲鉄城の行商について行くだけで市場は無限大である。蓬莱城も、商人組合の者がついて行くので中々悪くない商談もできる。だが差添城は盲点であった。定期運行で近場のみを回るため、商人がそれについて行くのは非効率なのだ。特に変わり映えしない市場と思っていたら、まさかの豆腐が流行っていた。

 

雅客達は、ただ豆腐を食いたいだけであるが、人の行き来が少ない駅制度下において、そういった情報は価値がある。

 

「次回の運行に商人組合から人を出そう。そこでにがりの定期提供の契約をしてこよう。」

 

「本当か⁉︎豆腐食える?」

 

「久手程は安くならんぞ。まあお前らの禄なら問題なく食えるだろうよ。」

 

わいわい喜ぶ武士達を尻目に、阿幸地は、差添城の面子の仕事に市場調査をねじ込めないか、道元に相談しようとほくそ笑んだ。

 

後日、差添城の仕事に市場調査が追加されたのは言うまでもない。

 




樵人「仕事が増えた!」

調べたら江戸時代の豆腐って高い!江戸時代って長いから時代によるかもだけど1丁825円ですって。めっちゃ高いじゃん。

駅制度を考えるとミネラルめっちゃ不足しそうだから、にがりは少量摂取した方がいい気はするけどミネラルの概念ないからな。


長い話に終わりが見えて来ました。とりあえずゴールはした。見直ししないとダメですが、勢いだけで書いたシーンが1割。帳尻合わせが9割。どういうことなの?びっくりするくらい長くなって震えてる作者です。あと帳尻合わせを書いてる内に急カーブ決めて、え?そっち行っちゃう?みたいな方向に行ってしまった。震える。

まあプロットとかなしで勢いだけで書いてるから悪いんですけども。


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南海道 1

長い話になりました。いつも感想はありがたく読ませていただいていますが、この話がとりあえず終わるまでは、先の話に触れる内容には返信致しかねますのでご了承ください。

勢いだけで書きました。(いつもですが)この話はノリで書いた1割の部分から生えた9割の話で構成されています。


最上の下に備前国下津井駅の山本から手紙が届いた。どんなくだらない内容が書いてあるかなと開いてみたら、とんでもない内容であった。讃岐国の武士でカバネリになった者がいると書かれていた。山本はカバネリと断定しては書いていないが、その武士はカバネを瞬く間に斬り倒し、一見すると人間だが、少しはだけだ着物の隙間からカバネの光が溢れていたのだと書いてあるのだ。確定以外のなにものでもない。最上は山本と食事をした際にカバネリの話題は出していないが、顕金駅に来ていた以上それとなく城主あたりから聞いてはいるだろう。

 

山本がカバネリを話題に出したのは、助けて欲しいとか、カバネリってどんな感じ?とかを書いてきている訳ではない。助けてもらった。めちゃくちゃ強かった。等という内容で、カバネリの事を報告しようとしたというより、先日死ぬかと思ったけど命拾いしたという内容であった。しかもその駅で学者みたいな怪しいおっさんがすごいもてなされてたなどと書かれていた。

 

(怪しいおっさんとは莊衛じゃないのか⁉︎違うとしても絶対克城にいた学者だろう!っ〜…晶さん!もっと詳しく書いて下さいよ!)

 

くだらない話を望んでいたくせに、非常に理不尽である。

 

最上は取り急ぎ道元に報告に走った。道元の執務室に、血相を変えた最上が飛び込んできて道元は仰天した。

 

大変失礼な話ではあるが、山本の手紙から無駄話を省いて要約すると

 

讃岐のいずれかの駅に、学者らしき男が大層もてなされており、その駅にはカバネリの武士がいる。

 

ということである。

 

学者らしき男がもてなされているということは、駅に利益をもたらしたということで間違いない。その駅にはカバネリがいる。ならばカバネリを作り、戦力を与えたと考えられる。

 

美馬がいない以上、破滅を望むかはわからないが、学者であるなら研究をしたいはずだし、莊衛であれば滅火の鵺で大喜びしていたくらいだから、カバネリを作って、はいおしまいとはならないだろう。

その駅は実験場として選ばれただけではないだろうか。カバネリは何体いるのか。鵺の実験はしないか。鵺に代わる何かを見つけてはいないか。

 

「とりあえずは何処の駅か聞いてみます。駅単位に取り入っているとなると、下手に動けば嗅ぎつけられます。」

 

「とにかく詳細が判明するまでこの件は内密にしよう。知れば突っ走りかねないのもいるしな。」

 

最上は山本に対して素直にその駅についてもっと教えて欲しいと書いた。迂遠な表現は伝わらない可能性が高いので仕方ない。手紙は何駅か経由して届く形だ。時刻表もない為届くのに中々時間がかかる上、確実性もないのだが、誰にも嗅ぎつけられずに情報を集めるにはこれしかないのだ。蓬莱城は念の為備州の三国に近寄らないように采配した。

 

ひと月ほどして山本から手紙の返信が届いた。道元の下に持って行く前にひと通り目を通して、目頭を抑えて深々とため息を吐く。今度は道元の部屋を普通に訪ねたが、道元は最上の微妙な表情を見てこれは良い知らせじゃなさそうだなと思った。

 

讃岐国多度津駅がカバネリのいた駅だそうだが、最上の手紙が届く前にカバネにのまれたと書かれていた。多度津駅からの流民は、今のところ下津井にはいないとのことであったが、当時多度津駅にいた高松駅の駿城の者が、城ほどの大きさの化け物がいたと怯えているとのことであるから、融合群体か鵺なのだろう。学者の存在を考えれば鵺の可能性が高い。

 

以前聞いたところによれば、女のカバネリしか鵺にならないとのことであったので、山本を助けたカバネリの武士は男であろうから、少なくとも2体はカバネリがいたことになる。

 

かつて鵺となった滅火は、鵺崩壊後暴走し狩方衆を殺し、無名は白血漿により正気に戻っている。鵺が崩壊してもカバネリは生きている可能性が高い。

 

もてなされていた学者は行方が分からず、容姿の特徴としては莊衛と考えられる。今となってはなんで殺しておかなかったと来栖に詰め寄りたいが、まさか金剛郭から生きて脱出できるとは誰も思わない。というか油虫並みの生存能力である。油虫とは現代で言うところのゴから始まる黒い虫のことである。

 

道元と最上は為政者側として考えた。自分達が何も知らないとして、カバネリの技術を知った時どうするか。得体の知れない者が、埒外の戦力を持つのは恐ろしい。しかし忠臣ならどうか。暴走の可能性を知らねば手を出す可能性はある。周囲をカバネに囲まれ、じわりじわりと、あちらの駅がカバネに飲まれただの、こちらの駅の駿城は行方がわからないだのと聞けば、外法の術にすら手を出したくなるのはわかる。まして学者とやらが提供するカバネリの技術は、生駒の方法とは違いカバネに噛まれる必要もない。

 

手を出すと決めたなら1人では済まさない。自分の横に1人、駅の防衛に1人、駿城に1人の最低3人は欲しい。そこに女は含まない。最低2人は確定しているが、推測では最低でも4人はいる事になる。鵺のみで崩壊したのか、それとも武士のカバネリの暴走もあったのかは不明だが、カバネリが4人以上いるつもりでいるくらいがいいだろう。

 

「しかし美馬率いる狩方衆ですら、無名殿、滅火、美馬の3人でした。あの面子の忠誠を疑っていたとも思えない。数が用意できないのか、成功率の問題かわかりませんが、欲しいだけカバネリにできるというわけでもないでしょう。」

 

「少なくとも克城が爆発した以上、手段も失っていた筈なんだがなぁ。どこかの駅に預けてあったか?」

 

「まあカバネリ2体は、確実ですからそういう事でしょう。女の方を領主が把握していたかはわかりませんが、武士の方は記録があるかもしれません。忠臣に使うのなら、専門的なことまでは分からずとも記録は残すでしょう。」

 

「カバネリ2体以上は確実な場所か。最上君はどう見る。多度津駅で剣豪の噂は聞いたことはないが、来栖君とて下侍であったから噂になっていなかっただけだ。」

 

「下侍には使わないのではないですか?下剋上されては堪りません。とはいえ素人の生駒があの強さですから、武士のカバネリとなれば無名殿や来栖の手は必要でしょう。」

 

「本来なら触らずにいきたいところだが、その内蓬莱城の者達が嗅ぎつけかねん。いつもの面子で突入して帰って来ませんでした。では話にならん。」

 

「やりそうなのがなんとも言えませんね。」

 

「崩壊を招いたのが女のカバネリであるなら、武士のカバネリは此方側に着くやもしれん。調査せねばならんか。」

 

「高松駅の城主あたりなら何か知っているかもしれません。甲鉄城で高松駅まで行きましょうか。」

 

「だが讃岐となると距離がなぁ…。」

 

高松駅は讃岐の国の駅である。備前を経由して、讃岐に行くとしてどうしても日数がかかる。府中の時に使った長距離対応の伝書鳩がいるので、とりあえず連絡は出来るが、最上が長期不在となると資金面などの都合もあるため、色々と話を詰めなくてはならない。



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南海道 2

菖蒲、道元、最上、来栖の4人で多度津駅の件を検討することになり、菖蒲の執務室にて人払いをした上で会議が行われた。

 

「カバネリ2名は確定。想定は4名とは随分な話ではありませんか?狩方衆でも3名ではありませんでしたか?」

 

「簡単に増やせるものではないでしょうが、2体を想定していて2体以上いるよりマシでしょう。最上君人員はどうする?」

 

困ったように頬に手を当て、少し首を傾けた菖蒲に、道元は首を横に振った後最上へと視線を移した。

 

「結論から申し上げれば、殲滅するなら現在の甲鉄城、蓬莱城の面子に加え来栖や来栖の配下も全員を入れねば足りません。流石に前衛を単騎運用するわけにも行きませんし、海門で景之殿が、カバネを使役していた方法は不明のままです。使役出来ない確証はありませんし、確定のカバネリ2体の内1体は武士です。元々の素体の実力次第でしょうが、来栖と無名殿が単騎で討てるかもわかりません。」

 

「確かに。例えば最上がカバネリになったら、底上げされた能力次第ではあるが単騎はかなり厳しいと言える。それも正面から来ればというのが前提だがな。」

 

「来栖と無名殿がそれぞれ単騎で相手をできても、それ以外のカバネリが同時に来たら厳しいと言わざるを得ません。同時に駿城も守らなければならない以上、蓬莱城一城編成にしても人手不足ですね。カバネだけならあまり気にせずとも良い部分まで、気を払いながら駿城を守り続ける必要がありますから。私がカバネリ側なら態々主戦力と斬り合いませんよ。まず鎮守砲でも撃ち込むなり、やりようは沢山ありますしね。カバネリが死なずとも、人が一定数死ねば引かざるをえませんから。」

 

最上の言い分は物騒ではあるが、カバネリは人間同様思考回路が生きている以上、馬鹿みたいに突っ込んではこない。海門の景之も、正面から戦うことなく、自走臼砲なるかみを破壊することで玄路軍を崩壊させた。

 

「ふむ。生駒君はどうなのかね。金剛郭では中々活躍したのではなかったか?とはいえ流石に全員出すわけにはいかんし、高松駅にでも応援を頼もうか…。」

 

「生駒は黒血漿なる物の底上げがあれば構いませんが、現状では心もとないですね。手段を選ばなければまだ私でも殺せる筈です。白痴なカバネならばいいのですが、武士のカバネリ相手では少々厳しいかと。景之殿にも負けておりましたし。…高松駅ですか。鵺を見て心が折れていませんかね?」

 

「折れたところで駅を捨ておける訳でなし、少しばかり揺さぶれば協力は得られよう。」

 

「それに武士のカバネリが我々と敵対すると決まった訳ではありません。最初から攻勢に出るわけにはいきません。」

 

一番の問題はカバネリの立ち位置である。多度津がカバネにのまれた原因が、融合群体か鵺と判明しているため、武士のカバネリがどう考えているかがわからないのだ。

 

「そこが一番の問題です。話し合いに赴いて襲われるのは勘弁願いたいですね。…とはいえ話し合わないわけにもいきません。」

 

「どうあれ武士のカバネリがまともなら、少なくとも周囲の駅を頼るのではないか?」

 

「現状では下津井駅にそういった話は入っていないようですが、下津井は備前ですからね。やはり讃岐に行かねば情報も足りません。」

 

「そういえば生駒と無名さんはカバネに襲われるのでしたね。多度津駅にカバネリが居座るのは難しいでしょうか。」

 

「海門を考えれば、居座っている可能性もあります。」

 

「やはり情報が足りんか。」

 

そもそもが、山本のもたらした断片的なことしかわかっていないのだから、情報が足らないどころではない。

 

「しかし顕金駅から集められる情報には限りがあります。最低でも備前。できれば讃岐の駅で様子を窺いたいところです。情報収集なら蓬莱城の面子を連れて行くとむしろ邪魔です。数日なら抑えられるでしょうが、あまり長い間大人しくしているとも思えません。何より出雲をいつまでも空にしておくのも不安が残ります。」

 

「各駅との折衝も考えれば最上君は確定か。甲鉄城で情報収集後、蓬莱城を呼び寄せる形がいいだろう。」

 

「できれば来栖は欲しいです。カバネリに襲われては、瓜生と私だけでは死にます。」

 

ワザトリに襲撃されて敗走したことは記憶に新しい。カバネリともなれば敗走すら叶わないだろう。

 

「来栖君か…。無名君では駄目かね。」

 

道元は、来栖か無名のどちらかを遠出させるなら無名にしたいのだ。来栖への教育の件もあるが、なにより道元にとってはカバネリは恐ろしい。最上からも、無名が暴走した場合は来栖が必須と言われている。そうそう暴走などしないとは分かってはいるが、最上も来栖も不在で爆弾を二つも抱えたくはないのだ。

 

「無名殿ですか…。であれば残留する蓬莱城の運用を少し考えねば危険かと。蓬莱城に来栖を乗せますか?」

 

「己は構わない。生駒だけでは少々不安だ。」

 

「では甲鉄城に無名君を乗せて、情報収集に向かうということでいいかね。」

 

「その間の資金面はどうしますか?来栖に任せるのですか?」

 

「であれば私が蓬莱城で出るかね?」

 

「それは政の面で少々厳しいのではありませんか?周辺国の出雲への出入りが多いですから。」

 

「桔梗君と旭君を一時的に八代にやって、勘太郎を蓬莱城に乗せるか。」

 

「ふむ。それが一番いいですかね。」

 

桔梗と旭であれば簡単には舐められないし、一時的に八代駅の運営を任せることになんの不安もない。

 

「来栖君の配下に今まで以上に頑張って貰えば、とりあえず最上君不在はなんとかなるだろう。」

 

「まずは下津井駅経由で高松駅を目指します。高松駅での情報次第でその後を考えるしかありませんね。ところで道元様は多度津駅の領主のことは何かご存じですか?」

 

「東雲君だな。確か34になるのだったか。お父上が病弱で早くに後を継いでおったはずだ。東雲君は少々臆病な質で、年始の挨拶に来ると道中の心労でいつもぐったりしておった。だからこそカバネリという手段に頼るのもなくはないと思っておる。」

 

「まずは東雲殿の行方ですね。周辺の駅に逃げ延びてくれていれば、話は簡単にすみます。」

 

「東雲殿は高松駅の領主によく世話になっていたはずだ。やはり逃げ延びるなら高松駅だが、山本君の話では高松駅に多度津の領主がいるとは無かったな。」

 

「ですが山本殿はそこまで地位が高くないので、知らぬだけという場合もあります。まあ下津井を経由するので、そのあたりは領主に聞いてみましょう。下津井は砂糖の流通に噛んでいますから、讃岐のことは放置出来ない筈です。」

 

「あら。最上。そういえば山本さんと文のやり取りしているのですか?」

 

元々の情報提供先は山本であるが、山本と文のやり取りをしているのは今回の件で判明した。勿論、最上が顕金駅に不利益な情報を山本に流しているなどとは思っていない。私的にやり取りしているのを知って、菖蒲は微笑ましくなったのだ。

 

「ええ。9割どうでも良い話ですが。今回は、山本殿のお陰で多度津の件を知りました。」

 

「9割。」

 

「同僚が女に振られたとか、近所の猫が増えすぎて困っているとか、そんな話題が9割ですね。」

 

「最上は何を書くのですか?」

 

「……ご容赦下さい。」

 

最上は暫し間を置いてから、少し頬を染めて断りを入れた。自分の書いた内容が恥ずかしいらしい。

 

「あらあら。山本さんと同じようなことを書いているのですか?」

 

「黙秘します。」

 

「ふふふ。隠されると気になりますね。」

 

「私信なのですから内緒です。」

 

「菖蒲様。あまり揶揄うと最上が拗ねますよ。」

 

にこにこと迫る菖蒲を来栖が嗜めた。来栖としても、最上が困っている姿は面白いが、拗ねられては面倒なのだ。

 

「あら。ではやめておきましょう。ふふっ。」

 

最上は少々むすりとしたものの、会議は続きルート選定、道中の行商の為の商品、多度津周辺駅との交渉での許容範囲などの取り決めが行われた。




桔梗さんと旭は八代行き。
来栖及び来栖の配下は最終的に多度津に行くので、八代にいけるのが桔梗さんしかいないのよね。流石に行商はさせられないので八代で。


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南海道 3

その日、蓬莱城から無名を引き抜いた甲鉄城は出発の準備をしていた。

 

「無名殿。付き合わせて悪いな。」

 

「別にいいよ。今回危ないんでしょ?詳しく知らないけど。」

 

「道中説明しよう。」

 

行商の商品となる武器や日用品等が次々と積み込まれ着々と準備が進む中、生駒が無名の見送りに近寄って来たのを見て、無名は生駒へと近寄って行く。

 

「無名。最上さんの言うことちゃんと聞くんだぞ。」

 

「わかってるよ。それに私最上さんに迷惑かけたことないもん。生駒じゃないんだから大丈夫だよ。」

 

「ぐっ…!…怪我するなよ。ちゃんと帰ってこいよ。」

 

「わかってるって。」

 

無名はそっけなく答えているが、頬を染めてそっぽを向いており、照れているのが丸わかりで、生駒に着いてきた鰍が微笑ましく見守っていた。

 

(まあ我々が帰る前に蓬莱城に応援に来てもらう予定だから、迎えに来てもらう形になるんだがな。)

 

などとちらりと思いながら最上は甲鉄城に乗車した。

 

 

まず目指すは、備前の下津井駅である。

道中立ち寄る駅で行商を行いつつ、一行は進んで行く。

 

「あの駅の三味線凄かったねぇ。」

 

「あの領主は三味線が好きらしいな。まあ習い事としては割と一般的ではある。高位な家の女人であれば琴が多いが、三味線は民人にも広く親しまれているから、曲も色々あるな。」

 

「最上さん三味線弾ける?」

 

「…音階はできる。」

 

「それ弾ける内に入らねぇだろ。」

 

最上の言い訳に瓜生はせせら笑った。

 

「仕方ないだろう。私にそういう才能は皆無なんだ。運指は合ってるはずなんだが、何故か下手らしい。母上に匙を投げられた。」

 

最上は芸術方面の才能は皆無なのだ。図面はひけても絵は描けぬ。運指は出来ていてもリズムが合わぬ。知識はあれど歌は下手。と結構壊滅的なのである。

 

「顕金駅じゃ三味線とか聞いたことないね。菖蒲さんがお琴弾いてたくらいかなぁ。」

 

「まだ余裕がないからだろうな。確か鯉さんは弾けると言っていたぞ。うちに三味線ならあるから今度弾いてもらえばいい。」

 

「そっか。教えてもらおうかなぁ。」

 

「なんだ。無名はそういうの興味あんのか?」

 

「いいじゃん別に。」

 

最上、瓜生、無名は相性は悪くない為、道中は中々和気藹々とした雰囲気で、戦力においては、普段の面子に無名が追加されている為、危ない場面もなく安全な旅路であった。

 

 

備前下津井駅にて

 

「最上ー!」

 

検閲所でぴょこぴょこしながら、一行を出迎えたのは山本であった。

 

「山本殿。今はまだ。」

 

「おっと失礼。身体検査後領主への謁見になります。」

 

「承知した。」

 

「最上さんお堅ーい。いいじゃん。友達なんでしょ。」

 

「無名殿。そういう問題ではないんだ。」

 

最上は無名に注意するが、甲鉄城の面子は顕金駅で山本を見ていたし、下津井駅の者達は、甲鉄城の到着を検閲所でそわそわと待つ山本を見ていたのであまり気にしていないのだが、公私混同はしたくないらしい。

 

下津井駅で領主から話を聞くも、やはり詳しいことはわからなかった。新たに得られた情報としては、莊衛と見られる学者は、顕金駅の面子が海門にいた頃には、多度津駅に居たということである。

 

下津井駅には3日程滞在し、次は高松駅を目指すことになった。

なお、瓜生の中で山本の呼び名はわんころになった。瓜生や無名にすらにこにこと寄ってくる姿は、正しくわんこであったのだ。菖蒲や吉備土と違うタイプの善人に、瓜生はちょっと苦手意識を持った為、山本が来るとそそくさと逃げるようになっていた。

 

山本は懐っこい犬のような男であるが、しっかりと武士であるので菖蒲や吉備土程の慈悲深さは無く、必要があれば見捨てることも、殺すこともできる犬なのである。ただ楽天的で天然気質なので、勉学はできるが馬鹿に見える勿体無い男であった。

 

多度津の件を、世間話でもする様に話す山本を見て瓜生も無名も、なるほど顕金駅にいない種類の人間だなと思った。

 

下津井駅からだと高松駅より多度津駅の方が近いのだが、情報もなしに突撃する気はなく、高松駅へと向かっていた一行は、道中の八十場駅にて高松駅の駿城で逃げることの出来た多度津駅の武士を見つけることが出来た。

 

「あんた達顕金駅の人達か。東雲様を殺しにきたのか?」

 

男は憔悴した様子で最上達に問いかけた。

 

「東雲殿を?ここにいらっしゃるなら話を聞きたい。多度津駅が落ちたと聞いて、様子を窺いに来ただけだ。」

 

「あんた達もカバネリとやらを使ってるんだよな。恐ろしい。あんなもの。よく平気な顔をしてられる。あんた達は人間か?実はカバネリだったりするのか?」

 

顔色を真っ白にして男はガタガタと震えている。この男から話を聞く為に最上に同行していたのは、狩方衆が1人と流民上がりの一之瀬という男である。

 

「今ここにいる我々は人間だ。」

 

「嘘だ!言うだけならなんとでも言える!」

 

男があまりにも疑うので、最終的に全員が一度半裸になる事態にはなったが、とりあえず話は出来るくらいに落ち着いた。

 

男は多度津駅で審議司をしていた久保治郎と名乗った。

 

「久保殿は東雲殿の行方をご存知か?話を聞きたいのだ。」

 

「東雲様なら多度津駅だよ。」

 

「んっ?カバネにのまれたと聞いているが誤報か?」

 

「いや。東雲様がカバネリなんだ。」

 

「はっ?東雲殿ご本人が?」

 

最上達は驚愕した。海門の景之は生駒と同じくカバネに変異する途中でカバネリにとどまっただけで、カバネリになろうと思ってなった訳ではない。領主が、自ら望んでカバネリになったというのは予想していなかった。

 

そしてふと気がついた。山本を助けたカバネリは、山本の話からするに東雲ではない。多度津の領主ならば、山本が知らずとも城主は知っていた筈だ。城主と共に礼を言ったという話であったので、城主が東雲に気が付かぬわけがない。

 

「久保殿。多度津にいた学者については知っているか?」

 

「非重(あらた)と言ったか…。あの男のせいだ。あの男が来てからおかしくなったのだ。最初は城内からちらほら武士が消えていった。東雲様の側近ばかりだったから、密命でもおびているのかと思ってたんだ。気がついたら大西殿がカバネリになっていた。その後もどんどん人が減って、木村殿もカバネリになっていた。木村殿がカバネリになってからは暫くはなにもなかったんだ。大西殿や木村殿が駿城に乗れば、死人が出ることなく運行出来ていた。」

 

話を聞いている最上達は、背を冷や汗が伝っていた。東雲、大西、木村と既に3体のカバネリが判明したのだ。鵺を入れて4体が確定してしまった。

 

(非重?莊衛ではないのか?)

 

「その頃には顕金駅の話もこちらに入ってきていた。出雲の顕金。讃岐の多度津と呼ばれる日も来るかなんて、ふざけたことをぬかしたりしていた。だが大西殿と木村殿だけでは足りなかったんだろう。また城内から人が消え始めた。そして家老の多田様までカバネリに…」

 

(待て待て!武士だけで4体いるぞ⁉︎)

 

「私が非番だったあの日、大西殿が急におかしくなった。あれではカバネと同じではないか。大西殿を抑えようとした木村殿がやられたと思ったら、今度は木村殿まで…。大西殿や木村殿に噛まれた者がカバネになって、駅内はカバネで溢れた。大西殿と木村殿は少ししたら大人しくなったようだが、人喰いなど…あぁ!恐ろしい!」

 

現状を聞く限り、大西と木村は生駒と同じような暴走の仕方である。そしてここまでの話では東雲を顕金駅が殺しに来る必要はない。

 

「東雲殿と多田殿はどうされた?」

 

「城門を閉じられた。私は操車場に逃げたが、城に向かった者達は締め出されていた。高松の駿城で脱出する時、城の閉じられた門の前に、押し寄せる民人とカバネを見た。…そして気がついたら城門のあたりに城ほどの化け物が…。周囲の人やカバネを取り込んでどんどん大きくなって…ああ!ああ!あんなもの!」

 

「久保殿。落ち着いて下さい。」

 

頭を抱えて大声を上げる久保の背を、最上はゆっくりと摩ってやる。

 

「何故?何が違うのだ?顕金駅と多度津駅!何が!何が違ったというのだ!お前達だってカバネリを使っているのに!何が!」

 

久保の声はどんどん大きくなっていく。久保がぎょろりと背を摩る最上を見上げた。

 

「あんな化け物!殺してしまえ!人の皮を被った化け物だ!殺せ!殺してしまえ!」

 

久保は最上に掴みかかり、殺せと喚き立てる。ぎりぎりと肩を握り、血走った目で最上を見ている。さらに喚こうとしたところで、久保の後ろから一之瀬がすっと腕を回して、裸絞めで絞め落とした。

 

「最上様ご無事ですか?」

 

「ああ。問題ない。最後はあれだが、非常に価値のある情報だったな。一之瀬介抱してやれ。それと情報料だ。渡しておけ。」

 

「承知しました。」

 

最上は狩方衆を連れて久保の長屋を離れた。

 

「おい。狩方衆はカバネリを作るのにそんなに人が消えるのか?」

 

「適合するかは賭けではありますが、あの男は審議司でしょう。あの男が認識できるほど人が減っているのは変ですね。あの薬をそんなに用意出来るわけがありません。残っていたとして1回分…2回分が精々でしょう。新たに作成するには、大量のカバネとカバネの心臓核が必要な筈。それを多度津で用意出来るとは思えません。」

 

「…お前意外と知ってるな?」

 

「そういうものだというのは。しかし恙衆以外は技術的なことは知りませんよ。」

 

「そうか。ところで非重とは?」

 

「あぁ。莊衛様ですね。非重莊衛というのです。」

 

「結局あのジジイか。聞く限りあのジジイめ相当に頭がいいようだな。というか何者なんだ?」

 

「帰化された方と言うことしか存じません。世界で最もカバネの謎に肉薄する男と自称しておりましたね。実際詳しかったですし。」

 

「帰化?…世界で最も?日の本ではなく?」

 

「はい。」

 

「アレクセイ・リヒテル?」

 

「は?」

 

「アレクセイ・リヒテルが日本に…もしかして莊衛はアレクセイ・リヒテルなのか?高尚な理由ではなく、あの性格だ…国を追われた?だからわざわざ日本に?アレクセイ・リヒテルが日本に来ておきながら、金剛郭に行かなかった理由…。」

 

「あの…最上様?」

 

「莊衛が何処から来たのか知っているか?」

 

「いえ。私が狩方衆に入った頃には既におりましたので。」

 

「そうか。わかった。」

 

ここにきて莊衛がアレクセイ・リヒテルである可能性が急浮上した。アレクセイ・リヒテル以外にカバネの研究者が日本に来た等と聞いたことはないし、莊衛は帰化人だというではないか。そして散々疑問であった訪日理由。

 

(やっぱり実験場ではないのか⁉︎…生駒には黙っておこう…。)

 

とりあえず生駒にこの推測は黙っておくことにした。なにせ生駒はアレクセイ・リヒテルに夢を見ているので。

 




莊衛=アレクセイ・リヒテル?
ってなって"あいぇええー!"ってなりました。作者です。無名ちゃんが表紙の小説版は時系列が八代の後なので、アニメ軸のみで進めて読むのを後回しにしてまして、ちょっと確認したいことがあってパラ見したら、帰化人って…お前…。


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南海道 4

八十場駅で得た情報は、瓜生と無名にも共有された。更に莊衛についても確認したが、あれ以上の事はわからなかった。

 

「東雲ってやつがカバネリってこと、そいつはいつ知ったんだ?」

 

「わからんが、断言していたからにはそうなんだろう。あれ以上聞くのは無理だ。もしかしたら高松駅で聞けるかもしれん。」

 

「でもやっぱり最初は東雲って人じゃない?臆病な人なんでしょ?部下がしょっちゅうカバネになってたら、自分もやろうってならないでしょ。」

 

「まあそうだな。しかしカバネリ5体の計算になったぞ。1人1体?無理無理。」

 

「うーん。でもさ鵺なのかな?融合群体じゃなくて?」

 

「ん?」

 

「だって黒血漿がいるんだよ。持ってたかもしれないけどさ。勿体なくない?莊衛は折角研究場所確保したわけでしょ?その駅で黒血漿使うかな。」

 

「確かにそうだな。そうか。融合群体の可能性の方が高いか。」

 

「つうかカバネリ3体作るのに何人消費したのかね。」

 

「審議司の目から見て分かるほど、人が居なくなっていたようだからかなりの数だと思うがな。…生駒や景之殿のやり方を試した可能性もあるか?」

 

「その方があり得るだろ。薬でとりあえず1体確保できりゃそこまで危なくねぇし。恙所作るよりよっぽど楽だぜ。」

 

「そう考えると、生駒や景之殿方式はやはり中々の賭けだな。是非に何人消費したか知りたいところだ。…そういえば東雲殿は何がしたいんだろうか。」

 

「あ?」

 

「別に敵対せんなら討たんでいいしな。武士のカバネリが4体居たら自分達で駅内のカバネを殲滅可能だろう。」

 

実際問題、カバネリであるからという理由は殺す理由にはなり得ない。少なくとも顕金駅はそれを理由に出来ない。

 

久保から聞いた話が真実ならば、発端は事故みたいなものである。莊衛の思惑はわからないが、少なくとも事の前には下津井駅の駿城を助けたりはしているのだ。美馬の様に破滅を望んでいたとも思えない。

 

協力体制でも敷ければ、臆病な性格と言われている東雲は別としても、他は武士として戦って貰えるのだ。

城門を閉じて民人を締め出したのだって、城内の者を守る為カバネを入れないよう、早めに閉めたとしても不思議ではない。大西と木村が城外にいたのなら、城には東雲と多田のみだ。2人で守り切るのは無理がある。守る為には、強さの問題よりも人数の問題が大きい。

 

カバネリを作る為に大勢の生贄がいたとして、協力できるのならそれはそれだ。菖蒲、吉備土、生駒あたりは嫌がりそうではあるが、カバネリの為に武士を消費した件や、暴走の件をこちらが裁く権利もない。カバネリ4体が確定の相手と戦いたくないのもある。

 

 

高松駅にて

 

高松駅で領主への謁見は速やかに受理された。ただしカバネリは下車させないでくれとの条件付きである。

 

「感じ悪ぅい。」

 

「多度津の件で怖がっているんだろう。すまんな。」

 

「良いけど。何日も滞在とか嫌だよ。」

 

無名は下車を断られた為、ぷんぷんと怒っていた。ないとは思うが、無名は甲鉄城時代に出るなと言われたボイラー車両から出てきたことがあるため、目付け役として瓜生も車両に残し、武士や狩方衆は情報収集へと向かわせた。

 

最上の共は狩方衆と流民上がりの糸賀である。

 

「よく来てくれた。顕金駅の噂は予々聞いておる。多度津の件だな。」

 

高松駅の領主は機嫌良さそうに最上達に声をかけた。

 

「はい。ご領主様は東雲様と親交があったと聞いていますが、カバネリの件何かご存知ではないでしょうか。」

 

「東雲君がカバネリになって直ぐに一度来たきりだ。不治の病に冒された奥方を助ける術となるやも、などと言っていたな。」

 

「奥方ですか。」

 

「潜ませていた間諜から得た話では、奥方に試す前に武士達をカバネリにしておったようだな。200は消えておる。狂気の沙汰だな。」

 

「200?奥方は結局どうなったのでしょうか。」

 

「間諜からの最後の文には、まだ奥方に試しておらんようだとは書かれていた。200分の3だ。奥方に試せる訳がない。まあ間諜が知るのが200というだけで、実際はもっといるやもしれんな。」

 

「事の後、多度津からなにか連絡などはありませんか?」

 

「ないな。どうなっておるかもわからん。様子を見てこいと言っても、化け物を見た者達は首を縦に振らん。他の者達もその様子を見て尻込みしておる。君達が来たということは様子を見てきてくれると思っても?」

 

「そうですね。様子は見ますが対応するかはわかりかねます。」

 

「なんだと。」

 

にこにことしていた領主の顔が歪み、低い声で最上達を威圧する。

 

「少なくとも現状の戦力では無理がございますし、顕金駅から総戦力を出す利も現時点ではございませんから。それにそも敵対するかも判然としません。」

 

「奥方の為に200は贄にできる気狂いぞ!大西も木村も人を食うたと言う話ではないか!」

 

領主は、肘置きに手を叩きつけながら大声を出してくるが、最上はしれっとした顔で話を続ける。

 

「顕金駅は特に損もしておりませんので。」

 

「顕金駅は義侠心に富むと聞いていたが、見込み違いだったようだな。」

 

「義侠を謳った覚えはありませんね。戦うにも金がかかります。人材不足も深刻でございます故。」

 

「君の様な若輩者が、家老をしているくらいだ。さぞ人材不足だろうよ。」

 

「ええ。ええ。正しく。」

 

鼻を鳴らして見下す視線を投げてくる領主に対し、最上は薄ら笑って返すのみである。

 

「…はぁっ。よい。様子は見てきて貰えるのだな。」

 

「ええ。こちらも放置しておいて、南海道の四国に落ちられるのは、最終的には困ります。故に現在どうなっているのか、東雲殿が今後どうするおつもりかは知らねばなりません。」

 

「その言い方。こちらに得た情報を渡すかは別とも聞こえるが?」

 

「おや。そういうつもりはありませんが、カバネリが下車出来ぬとなると下津井駅や八十場駅の方が勝手が良いのは確かですね。」

 

「そちらのカバネリは安全なのだろうな。」

 

「ええ。顕金駅から脱出した頃からの付き合いでございますので。」

 

「わかった。下車は許可する。故にこちらにも情報を。」

 

「承知しました。」

 

高松駅の領主はため息を吐いて、カバネリの下車を了承した。そもそも高松駅側はきれる手札がないのだ。

 

多度津は甲鉄城が勝手に始末してくれるだろうくらいのつもりでいたし、伝え聞く菖蒲の性格や、以前吉備土が備中の新見駅から流民を現場判断で連れ帰ったことの噂などから、最悪渋られても押せばいけると思っていたのである。

 

家老の肩書きこそ名乗っているが、まだまだ子供に見える最上を見てこれは良いと思っていた。なにせ肩書きは家老なのだ。ちょっと威圧して約束させてしまえば、家老から確約がとれたことになるのだから。

 

 

操車場への帰り道、共をしていた2人は相変わらずなめられる最上を可哀想に思っていた。恐らく道元や勘太郎であれば、同じことを言っても無駄な威圧などされないだろう。

 

そして何より代わって交渉出来る者が居ないのが痛いところである。吉備土など押し切られてしまいそうだし、来栖も口は上手くない。樵人は意外と激しやすいので、向こうが大声を出したら大声で返しそうである。雅客は多少マシだがカバネリの下車までは勝ち取って来られない。

 

かといって、狩方衆や流民上がりはでしゃばる訳にはいかないし、お偉方の言葉遊びはやはり難しいのだ。

 

「無名殿。下車の許可がおりたぞ。」

 

「本当⁉︎瓜生。買い物行こう!」

 

「はいはい。」

 

瓜生は至極面倒くさそうではあるが、無名に手を引かれて下車して行った。

 

「瓜生のやつ。なんだかんだ面倒見いいな。」

 

「そうですね。」

 

糸賀は蓬莱城の体制を面白く思っていないが、無名個人はそこまでではない。生意気な口を聞くし、最上達上層部の人間に無礼な態度は多々あれど、生駒と違い安定した強さを持ち、非情な判断に理解があるからだ。生駒と一緒に居ると生駒の意を汲みがちであるが、ここに至るまでの態度を見る限り本来ならば瓜生や最上と近い感性と知れる。

 

 

高松駅には2日滞在した後、多度津駅へと向かうことが決まった。

 




現在で言うところの四国地方は、本州と地続きじゃないので、将来的には安全な生産拠点の立ち位置にしたい顕金駅。なのでぶっちゃけ四国地方に壊滅とかされると困る。

ちなみに武士達の性格的な話は、捏造に他なりませんが、本編2年前が舞台の方の小説から出来るだけ拾ってるつもりです。来栖が自分の後釜考えてる時に吉備土はお人好しすぎ、雅客は疑り深いが剣の腕がいまいち的な評価だったのと、樵人は一番(怒る方面で)感情的でしたので、大体そんな感じで書いてます。八代でも生駒達が勝手した時怒ってたの樵人よね。確か。

まあホモ君主体で書いてると樵人のそういうところは書けてないんですけどね。


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南海道 5

一行は多度津駅の直近まで来て、望遠鏡で多度津駅を確認していた。

 

「あー…。なんか海門を思い出す風景…。やだやだ。」

 

最上は望遠鏡を覗きながら愚痴を吐く。

 

多度津駅は城にカバネの光が集まっており、海門を思い起こさせる光景であった。そもそもカバネリは本来ならばカバネに襲われるはずで、カバネの巣窟となった駅にカバネリが居座っているなら、カバネを操れる可能性が高くなる。

 

「無名殿も瓜生もカバネリがカバネを操る術を知らんのか?」

 

「知らない。知ってたら使ってるよ。」

 

「俺も知らんな。知ってたら莊衛が喧しく歓喜してただろうが、そういうのはなかったしな。」

 

「ふむ。海門に続き多度津もか…。既知の技術ならまだしも、金剛郭崩壊時点で知らない技術を提供できるもんかな?しかも鵺や融合群体は女子の専売特許なのだろう?男のカバネリが使役するというのは、特性としてあり得るのか?」

 

「どうなんだろう。そもそも男のカバネリが珍しいって話だったんだよね。たぶん素材…?原料?が融合群体?だからかな。たぶん女の方が適合しやすいんじゃないかな。お針子衆も女の子ばっかりだったもの。まあ生駒のやり方なら男女は関係ないんだろうけど。」

 

「なるほど。ところでお針子衆とは?」

 

「滅火を筆頭にした女の子の部隊かな。その中から選別を受けてお試しがあるの。お試しがカバネリになる為の薬の投与だね。私がお試しを受ける前はまだ、投与する量とか速さとか研究中で、結構な数の子がお試しに耐えられなくてカバネになっちゃった。私がなる頃には良い感じの量とか、ある程度決まったみたいだけどね。」

 

「だというのに、女人は滅火と無名殿だけだったのか?」

 

「選別される前は、生身でカバネと戦うからね。やっぱり死んじゃったりが多くてさ。カバネリになった後に死んじゃった人もいるよ。」

 

「ふむ。そうか。」

 

「で?どうすんだこれ。」

 

「嫌だが…行くしかあるまい。」

 

多度津駅の跳ね橋は降りっぱなしになっており、駅に入ることは問題なく出来た。とはいえ突っ切って城まで行くのは自殺行為である。海門は坑道を通って行った為、カバネの数も限られていたが多度津駅は地理もわからぬのだ。

 

「向こうにその気があれば、来てもらおう。」

 

甲鉄城に白旗を立て、信号弾を打ち上げた。暫く様子を見るがカバネが襲ってくることはなく、何もないまま時が過ぎる。

 

「みんな食べられちゃってたりして。」

 

「…ないとは思うが…。とりあえず二刻待機とする!有事の際は全力で撤退するぞ!」

 

「ねぇ最上さん。私ちょっと調子悪いんだけど。海門の時と同じ感じ。」

 

「ふむ。海門の不調は指示をなんらかの形で受け取るというよりは、不安を受け取るとかの方だったか?」

 

「うーん。上手く言えないけどそんな感じ。」

 

最上が指示を出した後、一刻ほど待ちぼうけをしていたが、武士が1人民家の影から歩み出て、大きな声で問いかけてきた。

 

「何用か!」

 

「あれ。カバネリだよ。」

 

無名がひそりと最上に告げる。

 

「出雲国、顕金駅の家老!堀川最上と申す!東雲様に御目通り願いたい!不躾は承知なれど、近場までご足労いただければありがたい!」

 

「承知!暫し待たれよ!」

 

謁見の要求に対し返答した後、武士はまた民家の影に消えて行った。

 

「連れてきてくれるのかな?」

 

「いや。どうかな。できれば甲鉄城からの目視範囲で会いたいところだな。それが無理でも城との中間地点あたりが望ましい。」

 

更に一刻程たち日が暮れ始めた頃、武士が同じ民家の影から出てきた。

 

「応じよう!ただし謁見するのは堀川殿ただ1人!場所は城だ!条件が飲めぬなら謁見は無しだ!謁見内容がどうあれ、そちらが危害を加えなければ、こちらも危害を加えぬと誓おう!」

 

まさかの最上1人の要求である。しかも場所は城。カバネに囲まれた城に、カバネリ4体は確定なのだ。行くべきではない。行くべきではないが、これを断ると真意は聞けない。文のやり取りに手段を変更する手もあるが、あちらは危害を加えないと言っている。状況はどうあれ、武士がそう言っている以上、その申し出を蹴ったら文にも応じるかわからない。

 

「応じよう!暫し待たれよ!」

 

「お前まじか。」

 

「えぇ…。流石に助けには行けないよ?」

 

「ああ言われては武士としては応じる他ない。」

 

「武士ってわかんねぇわ。」

 

「ねー。」

 

瓜生と無名は呆れた視線を最上に向ける。そもそも初手で文を頼めば良かったと後悔したが、後悔先に立たずである。

 

「死んだらすまん。」

 

「すまんで済むかよ。」

 

「何もなければ夜明けまで待機。襲撃されたらすぐに逃げろ。私は気にするな。夜明けになっても戻らなければ死んだと思え。判断は瓜生に任せる。高松駅への報告は糸賀に頼む。」

 

「ほっ本当に行くんですか⁉︎」

 

「武士なら敵地に1人で文持ってったりもするだろ。」

 

「家老はそんなことしないし、機嫌損ねると叩き切られて首だけ帰ってくるやつでは?そもそも最上様そういう時代生きてないでしょう!」

 

「首だけ帰ってくる方がマシじゃねぇか?カバネになるのとかやめてくれよ?」

 

糸賀も瓜生もやめとけと顔にばっちり書いてあるが、口に出すだけでとっ捕まえようとまではしない。来栖の配下ならたぶん拘束される。

 

「では行ってくる。」

 

全員から呆れた視線を向けられながら、最上はひらりと甲鉄城から降りた。

 

「まさか応じるとは思わなかった。」

 

条件を出した側もこれである。

 

「其方の名前を伺っても?」

 

「これは失礼。木村平助だ。どうぞ此方へ。」

 

最上は木村の後に続いて歩いて行った。

 

「あいつまじで行ったよ。あいつ実は馬鹿だったりするか?」

 

「これ最上さん殺されたら私たち怒られる?」

 

「俺たち止めたし、知ったこっちゃねぇ。とりあえず待機だ待機。二班編成で警戒着くぞ。狩方衆は無名。それ以外は俺が指揮をとる。」

 

甲鉄城の面子はどやどやと配置についたり、車内に引っ込んだりし始めた。切り替えが早いのが甲鉄城の面子である。

 

 

一方木村と最上はひたすら駅内を歩いていた。

 

「怖くはないので?」

 

「怖いが?私はカバネリでもなければ、カバネリ相当の強さもない。とはいえ木村殿が単騎で駅内を移動している以上、カバネはそちらの指示に従うのだろう?」

 

「よくわかりますね。」

 

「海門でカバネリがカバネを用兵していた。そうでなければカバネリもカバネに襲われる筈だ。」

 

「そうでしたか。前例がありましたか。我々が騙し討ちするとは思わないので?」

 

「わざわざ私1人を?するならもっと人数を呼んで袋叩きにした方がいいだろう。そちらが危害を加えぬと言った以上信じる他ない。」

 

「そうですか。」

 

話す限り木村は普通の武士である。カバネリかどうかすらも、無名に教えられていなければわからなかったくらいである。

 

城に近づくにつれカバネの密度は高くなり、カバネの呻き声が周囲に響いている。木村がちらりと最上を窺うと、最上は顔色悪く周囲を警戒している。

 

(怖いというのは本心なんだな。しかし条件を飲まねば応じないとは言ったが、普通は条件を飲まないだろう。)

 

城内に入るとやはり海門と同じように、金属被膜の様なものがあちらこちらに張り巡らされている。

 

(ふむ。海門と同じだな。これはカバネリがやっているのか?)

 

情報を持ち帰れるかは不明だが、周囲の状況を確認しながら城内を進む。

 

謁見用の広間らしき襖の前で木村が足を止める。

 

「お連れしました!」

 

「…入れ。」

 

連れてくると思わなかったのか、少々間があったが応答があり、木村が襖を開いた。

 

広間の上座に東雲と思われる男が座り、向かって右側の少し手前に多田と思われる老人、その次に大西と見られる男、そして莊衛が座り、襖の横に若い男が1人。

 

(おい!もう1人いるが⁉︎もうお前もカバネリだろ!どうせ!)

 

もう最上は冷や汗だらだらである。

 

「おや。見た顔だな?なんといったか覚えておらんが、確かにあの時甲鉄城にいた奴だな。無名は元気にしておるか?鵺になったのに正気に戻っておるとは、大変興味深い。」

 

「非重殿。」

 

「あぁ。すまんすまん。」

 

「まさか本当にいらっしゃるとは思わなんだ。」

 

領主までこれである。

 

「応じていただき感謝します。前置きもなく申し訳ないが、東雲様は今後どうなさるおつもりか。」

 

「どうとは?」

 

「周囲の駅に危害を加えるつもりはおありか?」

 

「カバネは飢え過ぎれば流石に言うことを聞かなくなる。もう駅内に人はおらぬ。危害を加えぬと確約はできぬ。」

 

「そも、なにを守らせているのです?カバネで城を囲う必要はどこに?」

 

最上の発言を聞いて莊衛はくすりと笑う。

 

(くそジジイ笑ってんじゃねぇ!その首跳ね飛ばしてやろうか!)

 

心中で悪態を吐きつつ、ふと気がついた。海門では娘の深雪が心臓となる融合群体ではなかったかと。カバネに飲まれた駅でカバネを殺さず、さりとて捨てずに残る理由。

 

「まさか融合群体?奥方か?」

 

東雲の眉がピクリと反応した。

 

「だったらなんだろうか。」

 

「うちにもカバネリがおります。鵺になったことがある者です。鵺は非重殿から既に聞いておられると思いますが、カバネリによる融合群体です。その者が言うには、集まるカバネは不安な気持ちを、心臓部たる者に集めるのだとか。奥方に「黙れ。」

 

東雲が殺気立ち、それに釣られて莊衛以外の者達もビリビリと殺気立つ。

 

「妻はカバネリにはなれなんだ。であれば、まだカバネのまま生きてもらう他ない。」

 

「ならばせめて周囲の駅に危害を加えぬようにカバネの数を減らすことはできませんか。駅内に止まるうちはいいでしょう。周囲のカバネも取り込んで肥大化すれば、何をきっかけに暴発するかわかりません。」

 

「その辺りは非重に任せておる。」

 

「お言葉ですが非重殿は研究者です。あなたの奥方の良いように計らうとは思えません。」

 

「失礼だのう。奥方のこれは儂も初めて見る現象だ。お主に何がわかるのだ?儂より詳しいつもりか?」

 

「海門で見た。同じだ。最後は融合群体として駅を破壊した後消滅した。通常の融合群体と違ってバラける訳じゃない。消滅するんだ。」

 

「ほう。消滅。消滅とな?興味深い。」

 

「東雲殿。今ならまだ亡骸を弔うこともできますでしょう。奥方を消滅させるおつもりか?」

 

「今なら消滅しない確証はあるのか?其方が見たのは海門の一度きりなのだろう?今妻を殺したとして消滅しない確証はあるか?」

 

「…っ。」

 

「確証はないのだな?ならやはり非重に任せた方が希望はある。カバネリにしてもらうのだ。」

 

「は?…カバネリに?既にカバネとなった奥方を?」

 

「できない根拠はあるのか?」

 

「ありませんが。」

 

「非重は研究を続けておる。私は任せると決めた。変更はない。」

 

「奥方の維持は承知しました。外のカバネはどうなさるのです?先程も申しましたが、周囲のカバネも取り込んで肥大化させるおつもりか?周囲の駅も緊張を強いられております。」

 

「わかってないのう。それも込みで研究中じゃ。集まれば集まるほど誘導体が集まる。克城の時よりも誘導体の集まりが良い。新たな血漿の研究も進んでおる。」

 

「暴発は防げるのか?」

 

「それも研究中じゃ。」

 

(このくそジジイ!研究中って言えば根拠がなくても許されるというのか!)

 

「用件は以上か?なら疾く立ち去れ。」

 

「周囲の駅は緊張状態を強いられております。せめて周囲の駅に説明をすべきです。」

 

「のこのこ出て行って殺されるのはごめんだ。必要ならば瀬戸大橋でも落としてくれる。橋が落ちれば備前以北は関われまい。多田。」

 

東雲が多田の名を呼んだ瞬間、鯉口が切られる音が鳴り、最上の首に白刃が添えられた。

 

「ほう?動かんか。それとも動けなかったか?」

 

「こちらから危害を加えなければ、そちらは危害を加えぬとのことだった筈だ。今ここで私を殺せば利益より不利益の方が大きいと思うが?こちらは崩壊した金剛郭の渦中から死人なく脱出し、海門でもカバネリも融合群体も殺した実績があるのだからな。大人しく私を帰した方がいいのではないか?」

 

「冷や汗流しておるくせに、生意気な口をきく小僧だな。まあいい。失せろ。木村。連れていけ。」

 

「承知。堀川殿。こちらへ。」

 

「それでは失礼する。」

 

木村が開けた襖を潜り、襖が閉められた瞬間どっと最上の顔に汗が浮かぶ。

 

(首。飛ぶと思った。)

 

木村は、その様子を見てよくもまああそこまで喧嘩を売ったものだと思った。最上を先導し、暫く進んでから口を開いた。

 

「貴方が外のカバネをあそこまで気にする必要はありますか?」

 

「海門は我々が行く前より北陸連合軍が既に攻め込んでいた。海門程の要衝ではなくとも、外から見て明らかに異常なこの事態。いつまでも放置するとは思えない。阿波や土佐も備前に抜ける為にこの辺りを通過する。逆も然りだ。瀬戸大橋の件もある。非重の研究成果が出る前に襲撃されるぞ。白刃戦をする必要もない。海門と違ってこの辺りは平地だ。しかも砲撃で壊滅しようと構わぬ立地。とはいえそちらはカバネリがいる。泥沼の戦になるぞ。」

 

「ならばそう言えば良かったではないですか。」

 

「それこそ首が泣き別れだろう。脅しに他ならない。それに非重は全く信用ならん。金剛郭を落としたのはあいつの研究成果だ。鵺が磐戸駅を破壊するのを見て、大喜びしていた男だぞ。」

 

「そうですか。」

 

「聞きたいのだが、東雲殿の奥方は駅一つ捧げる程か?主君に死んでくれと言われれば、死ぬのが武士ではあるが。理由は相応必要だろう。」

 

「…そうですね。東雲様は若くして領主になられてから、大層苦労しておいででした。奥方様も早くから嫁ぎ、影からずっと支えておりました。我々も共に歩んで参りました。それぞれ先代からの恩も思い入れもありましょう。」

 

(なにやら他人事だな。自分は違うとでも言いたそうだが…。)

 

「ここを曲がれば駿城です。」

 

「案内の手間をかけて申し訳ない。感謝する。」

 

最上が軽く頭を下げてから、背を向け甲鉄城が見える位置まで進んだ。道中は日が落ちきりほぼ暗闇であったが、民家の先には甲鉄城からの灯りが向けられているのか、かなり明るくなっている。照らされている場所に踏み出し、甲鉄城が視界に入ったことで、少し気を抜いた瞬間後ろで鯉口が鳴る。咄嗟に刀を抜きつつ振り返ると、抜き切る前に木村の横薙ぎが最上の刀に激突した。深い位置で受けた上、まだ通り抜け切れていなかった民家の壁に背を押し付けられ、下がることも出来ずぎりぎりと刀が鳴る。

 

「木村殿!何故!」

 

「このまま帰したら、貴方達はどうするおつもりですか?様子見でしょうか?多度津を滅ぼして貰わねば困るのです。」

 

「何を言っておられる!」

 

「先程言いましたね。駅一つ捧げる程かと!私はそうは思ってない!私の妻子もカバネとなった!なのに何故!東雲様の奥方様だけを救わねばならぬ!今奥方様がカバネリとなったとて、それがなんだというのだ。何にもなりはすまい!ただでさえ我々を除いて325人も捧げておきながらまだ足りぬと言う!領主といえど、領地はカバネしか住まわぬ地と成り果てた!これ以上忠義は捧げられぬ!」

 

「ならば何故従っておられる!」

 

「私は殺すぞ。あの男を。この地獄を作ったあの男だけはこの手で!それまでは従うと決めた。だが中々多田様や大西殿が離れぬ。機を待っているのだ。」

 

「であればこちらに来い。」

 

「駄目だ。非重は人間だ。流れ弾などで死なれてはかなわない。必ずこの手で殺す。それに私も人喰いだ。もう戻れぬ。」

 

「だとして私に斬りかかることになんの意味がある。」

 

「堀川殿の立ち位置。駿城から見えているでしょう。私の刀の刃先も見えている筈だ。家老に危害を加えられておきながら、顕金駅は何もせずに様子見をなさいますか?日和見はさせぬ。東雲様には、貴方が東雲様と奥様を侮辱した故に、私が切り掛かったと説明しよう。」

 

「滅ぼしてほしいと言うならば教えてほしい。襖の横にいた若い男もカバネリか?」

 

「そうです。あれは好井忠政。蒸気筒が達者です。お気をつけて。」

 

甲鉄城から足音が近づいてきたのに木村も気がついたのか、スッと刀を引いて去って行った。

 

「仔犬!」

 

瓜生がたどり着いた時には木村の姿はなく、民家の壁に身体を預けたままの最上だけが残されていた。

 




小説のお針子衆がアニメにいなかったじゃないか!カバネリでもない女の子達が前線で戦うとか見たかったよ!なんか回想で女の子1人だけ描写あっただけじゃんね!いや狩方衆の軍隊感も好きだけども。
しかしカバネリは本当に話畳む気無かったんじゃねぇかってとっ散らかり方してますね。
よって色々と勝手に捏造してますので、お針子衆が気になる方は公式の小説版をどうぞ。

ホモ君大暴走(1人で謁見)会
ホ「武士ってそういうもんだろ?」
瓜「違うんじゃねぇか?」
糸「違うと思います。」
お前それ戦国時代じゃねぇかって状態。そも時代設定を江戸時代あたりとしてみてるので、そういうの無縁の世代しかいない。だって既に統一されてるし、駅同士でそんな無駄なことしないから。


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南海道 6

「要するに東雲さんは奥さん大好きってこと?」

 

「要約しすぎだが、まあそうだな。」

 

「カバネリは全部で5体。木村?は数に入れるべきなのか?」

 

「一応入れておこう。しかし325名捧げて4体か。カバネリの強さを考えると無しという程でもないのが嫌な数だな。」

 

「暴走させたら赤字だろ。」

 

「しかし莊衛がいながら何故暴走を?」

 

「血を飲むのに抵抗があるとか?」

 

「大西は比較的早くカバネリになっている。ならもっと早く暴走してそうなものだがな。まあ嫌になった場合もあるか。」

 

「で?やるのか?多度津駅。」

 

「最終的にはやるしかあるまい。木村殿の独断で売られた喧嘩自体は握りつぶせるが、莊衛のやつが研究を続けている。新しい血漿の研究が進んでいると言っていた。既存の血漿も既に出来ていても不思議じゃない。黒血漿だったか?使われたらたまったもんじゃないぞ。莊衛に研究を続けさせるのは危険だ。その上瀬戸大橋を壊されるのは困る。だがこちらが突いている時に、周りから砲撃なんかされたら堪らんし、周囲の駅の動向を調査せんとな。高松駅にもご協力いただこう。」

 

 

一行は八十場駅経由で高松駅に戻り領主に事を報告。高松駅に周囲の駅の動向の調査を依頼した。さらに高松駅が、多度津駅に潜ませていた間諜経由で、手に入れていた多度津駅の地図を入手。狩方衆に地図の複製をさせつつ、高松駅にいる多度津の武士から多田らの情報収集も実施した。

 

この段階で一度長距離対応の鳩を飛ばしつつ、下津井駅に行き文の中継を依頼。顕金駅まで行かずとも、美作の周匝(すさい)駅に届けて貰えれば、周匝駅には顕金駅とやり取りする為の鳩がいるのだ。

周匝駅は武器の製造を依頼している関係上、出雲の駅ではないが鳩での手紙のやり取りを早々に導入していた。

 

長距離対応の鳩を飛ばしても確実に届くわけではないので、連絡は確実にしておきたい。そしてあわよくば返信を受け取れるとなお良い。元々長期化する予定ではあったが、南海道をまとめ上げて多度津に対応するとなると最上の手に余るのだ。カバネリの数が想定を越えている為、顕金駅と高松駅のみでおさまる話ではない。

 

高松駅はできれば関わりたくないようであったが、多度津駅は八十場駅に次いで瀬戸大橋に近く、万が一にも瀬戸大橋を破壊されるわけにはいかないのだ。多度津駅の領主である東雲が、高松駅に世話になっていたことは、讃岐のみならず土佐や阿波、備前にも知られている為、多度津駅が瀬戸大橋に損害を出そうものなら高松駅の立場も危うい。なにせ山陽道に繋がる3本の橋の内の1本である。

駅建設に伴い、死に物狂いになって行われた工事により建設された橋である。通常の線路とは扱いが違うのだ。

 

その上、顕金駅をかませてしまった。顕金駅には道元もいる。顕金駅は高松駅の依頼で、多度津駅に行き謁見までしてきたのだ。

 

顕金駅に調査をさせ、事態を知りながら知らんぷりをして、万一瀬戸大橋が落ち再建が必要となれば、必ず高松駅も引っ張り込まれる。それどころか多額の費用も押し付けられかねない。

 

多度津駅が高松駅の傘下ではないとしても、土佐も阿波も備前も知らぬ存ぜぬを許すはずがないのだ。

 

甲鉄城にちょいと見てきてもらって、あわよくば対処させようなどと事態を軽く見た為に、高松駅は多度津駅に対応する筆頭になってしまった。

 

甲鉄城は、高松駅が周囲の駅の動向の把握に奔走する中、行商に精を出しつつも動向の把握に努めた。

 

暫くして下津井駅へと立ち寄ると、まさかの顕金駅から大量の荷が届いており、文の返信まで来ていた。

 

道元は勘太郎と協議して甲鉄城が出発した後、蓬莱城で周匝駅に荷を運ばせていた。周匝駅は、顕金駅とやり取りをする鳩がいる中で、一番南海道から近い為、蓬莱城派遣後の中継地にするつもりだったのだ。

 

更に長距離対応の鳩がしっかり顕金駅に辿り着いていたことから、下津井駅の駿城が文の中継に来ると知り、周匝駅に鳩を飛ばして文と荷の受け渡し依頼をしたのだ。

 

下津井駅も瀬戸大橋に落ちられるのは大変困る上、顕金駅に恩も売れる為、文の中継や荷の搬送を喜んで受けていた。下津井駅は金剛郭崩壊後、讃岐の駿城の動きが悪くなっていたのを受け、砂糖の流通にかんで利益を出しており、意外と能動的な駅なのだ。

 

そして顕金駅に初期から積極的に協力することで、多度津駅の件に直接関わるつもりがないのである。顕金駅が蓬莱城を派遣した後も、物資の搬送で忙しいで逃れるつもりであり、顕金駅側もその方針を受け入れている。

 

下津井駅の領主は、山本経由で最上のことを知っており、道元に対応するくらいのつもりで対応していたため、その立ち位置を勝ち取ったとも言える。下津井駅の領主は強かなのである。

 

一方顕金駅側は、最上からの報告で大騒ぎであった。

木村の立ち位置は微妙ではあるが、カバネリが5体である。最初の想定を越えており、海門と同じくカバネまで使役する最悪の事態だ。

 

東雲が妻を優先し、駅を離れるつもりがなく、現時点ではまだ時間があるというのが救いではあるのだが、その時間もいつまであるかはわからない。

 

なお、最上が1人で謁見したことについては、菖蒲が大変お怒りであるが、謁見しなければ、5人目のカバネリである好井の存在、東雲の真意は判明しなかった為、珍しくも来栖が怒れる菖蒲を宥める姿があった。

 

 

最上は多度津駅の地図に、自分が目視で確認できた情報を落とし込んでいた。謁見までの待ち時間がかなりあったので、望遠鏡や双眼鏡で周囲の確認をしていたのだ。その上謁見時に歩いたルートも、出来るだけ周囲を警戒がてら見回して確認していた。

 

とはいえこれについては役に立つかは不明である。高松駅を筆頭にどういう手を取るかによっては、あまり意味をなさないのだ。それこそ自走臼砲なるかみでも何両も揃えて砲撃したら、地図の意味はないのだ。

 

 

讃岐の高松駅、まんのう駅、三豊駅、阿波のつるぎ駅、土佐の大豊駅、伊予の三島駅が協力する事になり、高松駅にて一堂に会すこととなった。

仮称南海道四国連合である。

 

各駅が領主や家老を出してきている為、側から見て最上の浮き具合が凄い。最上自身も流石にこれは厳しいと思っている。海門の時もそうであったが、おや?お子様がいるぞ?という視線がバシバシと飛んでくる。若くても30代後半がいいところの集まりに1人混ざる17歳が目立たぬわけがなかった。

 

例えばここにいるのが菖蒲で、隣に道元でもいればなんの不思議もないのだが、最上が連れてきている狩方衆も20半ばである。

 

浮きまくっているが、高松駅の領主から顕金駅の家老と紹介されて、さらに場が騒ついた。それはそうである。家老なんて10代でやるものではないので。

 

まあかなり浮きはしたものの、顕金駅の話は南海道にも届いており、その上多度津に行って謁見までしてきたのだから、話は聞いてもらえている。

 

一日目は各駅の提供できる戦力の話となった。

土佐の大豊駅は"なるかみ"ほどではないが、自走臼砲を出せると言う。大豊駅の所有ではないそうだが、高知駅から借りてくると言うのだ。

高松駅と伊予の三島駅は、甲鉄城の鎮守砲より大口径の鎮守砲を搭載している。

阿波のつるぎ駅は甲鉄城と同程度の鎮守砲であるが、2門搭載しており、他の駅の鎮守砲は甲鉄城と同程度である。

勿論甲鉄城以外にカバネリと戦える白刃戦力は無い。

 

ここで問題になるのは、臼砲や鎮守砲をやたらめったら撃ち込んで、カバネリが死んだか確認できないことである。流石に瓦礫の下敷きになったカバネリ捜索などしたくない。

5体もいるカバネリが全員行方不明など、安心していられない。

 

甲鉄城が行商したことで、顕金駅及び周匝駅の作成した掃射筒等の兵器も搭載しているが、カバネリが5体もいれば駅内戦闘も恐ろしい。

 

会議は中々に紛糾した。

 

海門の時は、そもそもカバネリの存在を、北陸連合軍が把握していなかったし、景之も前線に出てきたりはしなかった。多度津で保線作業などしたら、カバネリが突っ込んできて突き崩される可能性が高い。顕金駅のカバネリ相当の戦力は3名であるので、守りきる事も確約できない。そして多度津はまだ駿城があるのだ。鎮守砲を1門搭載しているとのことである。

 

カバネリのみで駿城が動かせるか、鎮守砲を撃てるかは不明である。会議に参加している者の殆どは、動かせないと見ているが、動かせないと思っていたら、鎮守砲を撃たれましたでは笑えない。

 

一日目は戦力の提示以外は、およそ建設的とは言えない内容で終了した。

 

顕金駅はカバネリと来栖の話が広がっている為、周りから直ぐに擦りつけられそうになるのを、最上がかわすのに終始していた。

すっこんでろと言わんばかりの北陸連合軍も面倒であったが、とりあえずお前らが行ってこいよと、言わんばかりの南海道四国連合も中々に面倒である。なにせ直ぐに言質を取ろうとしてくるのだ。老獪な家老や、強かな領主が至極面倒である。

 

一日目はなんとかかわしきったが、最上は疲労困憊であった。元々まともに政など経験していないのだ。道元に仕込まれていなかったら、一日目にして顕金駅が突撃することが決定するところであった。

 

「仔犬ちゃんが死んでる。」

 

「瓜生様。今は駄目です。我々の命運は最上様が握っているんですよ。」

 

甲鉄城に戻ってから、最上は報告書を書いている途中で寝落ちていた。

 

二日目も擦りつけ合いとなり、集中砲火は顕金駅である。会議中はしれっとした顔こそ保っていたが、甲鉄城に戻った最上は突っ伏して動かなくなった。

 

「これ大丈夫か?」

 

「頑張って下さってますが、なにぶん集中的に狙われてます。」

 

参加している駅が多すぎるのだ。2駅程度なら、ぶん投げて帰ってやろうか?この野郎!と最上でも出来るのだが、ここまで多いと最上の自己判断で喧嘩を売るのは厳しいのである。そして会議前に最上が把握していたのは、高松、つるぎ、大豊の3駅のみであった。倍になっている。

三島は大豊経由で参加しており、高松でも把握していなかった。まんのうと三豊は高松が報告してこなかったのだ。

会議前から結託されているのである。

顕金駅は下津井と結託しているが、下津井は会議には参加していない。大豊と結託できていれば、ここまで集中砲火されることはなかったが、高松を含む3駅程度ならなんとかなるかと甘く見た結果である。

 

アウェイで戦うには、最上は威厳と実力不足であった。




ホモ君は負けてます。防戦一方。ただし、白刃戦が出来るのが顕金駅しかいないという部分は、他には真似できないので完全敗北まではいってません。まあ白刃戦できるから擦りつけられそうなんですけども。

色々荒が目立っても許して。ユルシテ…。


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【幕間】砂糖の話

駅制度が始まる前から高松では砂糖作りが盛んに行われていた。駅制度が始まるとなれば作付け面積は驚くほど小さくなるのだが、金剛郭から限界まで砂糖を作れと指示をされていた。

 

元々砂糖は高額な輸入品であったが、国産化が始まって暫くしてからの駅制度。輸入などできるはずもないし、砂糖作りの盛んな西海道は既にカバネの巣窟になりつつあった。砂糖の原料となる吉備は育てられる地域も限られており、金剛郭は讃岐や阿波に砂糖の生産に全力を尽くすように指示したのである。

 

可能な限りの作付け面積を砂糖作りに使い、食糧等は他の駅から手に入れることが決められた。勿論金剛郭からの指示であり、食糧生産を主産業に決められた駅は、高松などの砂糖の生産を指示された駅に食糧を提供しなくてはならない。金剛郭は該当地域の年貢を軽くしたり、支援をするなどかなりの優遇措置をとっていた。南海道から金剛郭までの道のりでは、それなりに砂糖が出回っており、値段もそれ相応であったが、遠隔地では砂糖は殆ど出回らず、駅制度が始まる前の5倍の値段につり上がる事態であった。

 

駅制度が始まって暫くすると、ぽつりぽつりとカバネにのまれる駅が出始め、各地で食糧不足が問題になっても、砂糖の生産を請け負っている駅や、高松駅などに食糧を提供する駅の優遇は増すばかりで、そこまで苦労することはなかった。

 

金剛郭が崩壊してからは、優遇措置もなく砂糖ばかりが駅に溢れた。その状況に目をつけたのが下津井駅である。下津井駅は足繁く高松などの砂糖を生産している駅へと食糧を運んだ。食糧と砂糖を交換するのだ。元々の価格としては全く釣り合わないが、砂糖ばかりでは生きていけない。下津井駅は、山陽道の駅に砂糖を売りつけ、食糧を得て、また南海道へと行き食糧と砂糖を交換する。

 

下津井駅は多くの駅が引き篭もる中、せっせと金稼ぎをしていた。顕金駅の様に、異常に強い戦力がある訳でもないのに、山陽道と南海道を走り回っていたのだ。

 

顕金駅が再興し、カバネに有効な武器を生産していると聞いて山陰道の出雲まで来たくらいであるので、フットワークの軽さはかなりのものである。

 

砂糖生産の駅も、自分達で他駅に食糧を買い付けに行けば、足元を見られずに済むと考えた時期もあったが、駿城が帰って来なかったり、既に下津井駅がかなりの量の食糧を買い付けた後だったりと中々割に合わなかった。

 

黙っていても下津井駅は色々な駅から、食糧やらその他の生活用品等もかき集めて運んでくるし、砂糖と物々交換で生活できているのだから、まあいいかとなったのである。

 

そんな下津井駅と南海道をつなぐ瀬戸大橋は、砂糖生産の駅にとって生命線である。

 

下津井駅は下津井駅で、山本が顕金駅の家老となった最上と友人だというのには、知った当初は腰を抜かすほど驚いたが大喜びしていた。

 

道元がいる為、情で優遇されたりすることは無いのはわかっているが、貴重な伝手であり、人材不足の為かなり政方面で閉鎖的な顕金駅との繋がりである。今回の件も山本がなんの裏もなく書いた情報で、のこのこ顕金駅はやってきた。

 

早々に、手紙の中継や物資の搬送を請け負う便宜を図ることで、南海道四国連合への参入を免れる等、なにかと上手いことやっているのだ。今回の事で駅同士も友好的な関係を築けたため、更なる関係性も期待ができるというものである。

 




本日の更新はここまで。先が長い…。もう更新前のチェックの目が滑る。


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南海道 7

会議三日目

 

一日目、二日目ともに、早々に席に着いていた最上が席に居ないのを見て、そろそろ畳み掛けようかとか、まず遅いことから突いてやろうかと、領主達は舌舐めずりをしながら最上を待っていた。

 

開始時刻直前には顕金駅以外の全ての駅の者が着席しており、顕金駅の席だけぽかりと空いているのを見て、高松駅は少々焦っていた。顕金駅に逃げられると一番困るのは高松駅なのだ。

 

多度津駅で、単独で謁見までしてきたくらいだから、無断で逃走するとは思っていない。いないが、もし逃げられれば次の槍玉は高松駅なのだ。ただの遅刻なら良いのだが。などと思っていたら、襖がすぱりと開いた。開始時刻丁度である。

 

「すまんすまん。遅れてしもうた。」

 

襖を開けて入って来たのは牧野道元であった。会議に参加している者たちは血の気が引いた。

 

「い…いえ。丁度です。」

 

高松の領主は汗をかきながら返す。

 

「いやいや。二日も遅刻してしまった。申し訳ない。」

 

態度は全く謝っておらず、ずかずかと歩いて席にどかりと座った。後ろからちょこちょこと着いて来た最上も、軽く頭を下げながら道元の隣に着席した。

 

「進行は誰かな?始めてくれ。」

 

道元の一声で会議が始まった。

 

 

会議二日目の夜、下津井駅の駿城に乗って道元はやってきた。検閲をする武士など道元を見た事もないので、領主に報告されることはなかったのだ。

 

道元は顕金駅で、最上からの会議開催予定の文を見て、蓬莱城に飛び乗り脱線ギリギリの速度で下津井駅へと急がせた。下津井駅では、石見の銀のお菓子を少々領主に掴ませて、駿城まで出させて高松駅までやってきたのである。

 

大豊駅の領主は冴えない男だが、家老が老獪なのだ。鳩の帰巣本能を利用しているのが伝書鳩である為、高松駅に直接文を送ることはできない。最上に忠告したくとも、顕金駅からは周匝駅経由で下津井駅に運んで貰うしかないのだ。高松駅もやられっぱなしはなかろうと、勘太郎に顕金駅を任せて蓬莱城をかっ飛ばしてきたのだ。

 

甲鉄城で最上と合流して、やっぱりやられていたかというのが道元の感想である。最上の実力不足は、道元にとって想定範囲内である。だからこそ蓬莱城でかっ飛ばしてきたのだ。

 

会議は昨日までとはあからさまに状況が違った。道元はふんふんと意見を聞いてはいるが、それとなく擦りつけようとしようものなら、何故うちがそこまでしてやらねばならないのかね?あれだけの情報をとって来たというのに何が不服かね?別に尾道今治間の路線が生きてれば構わんよ。等と返してくるのである。東雲は駅から出るつもりが現時点はないのだから、顕金駅が積極的になる必要も本来ならないのだ。莊衛の研究は止めたいが、顕金駅のみの都合であり、他の駅はその話を知り得ない。勿論菖蒲は協力しましょうと言うが、それはそれである。

 

戦力を散々喧伝しておきながら、いざとなればお逃げになるかと三島の領主が責め立てたが、力があったら奉仕せねばならんのか?君達こそ恥ずかしくないかね。うちの主戦力はほぼ10代ぞ?子供におんぶに抱っこで。うちは情報も武器も提供しただろう?君達は何をするんだね?と全方位に喧嘩を売ってきた。

 

熱り立つ領主達を尻目に、道元は会議にならんな帰ろうかと席を立つ。南海道四国を敵に回されるおつもりか!と怒鳴られるも、おや?伊予も阿波も土佐も君達の意見が総意と捉えて良いのかね。と返したところ黙り込んだ為、その間に道元と最上はするりと会議の場から抜け出した。

 

「道元様。よろしいので?」

 

「良い良い。どうせ高松はこちらにつかねば、次に槍玉に上がるのだから機嫌をとりにくるさ。」

 

「ですが大豊、三島、つるぎが…。」

 

「まあそのあたりは他の路線を使う手もあるが、手を挙げておきながら、顕金駅が降りるなら降りるなどと言えまい。大豊など、わざわざ高知から自走臼砲を借りる話まで取り付けて来たのだろう?」

 

「しかし…。」

 

「私は前線に立たぬから、君達の強さを本当の意味では理解しておらん。君が、顕金駅の戦力なら余裕で勝てますと言うなら、それこそ突っ込んでもらっても構わんよ。だがそうではないのだろう?それこそ聞く限り、来栖君と無名君のみ単騎で渡り合える程度。うちの戦力を失うに足る利がなくば、無理をする必要などない。」

 

「はい。」

 

最上はしょんもりとしながら、道元の後ろについて行く。

 

道元とて正直に言えば、大豊、三島、つるぎを敵に回すのは、あまり嬉しくはない。だが取り込むには既に遅いのだ。

 

まあそれなりに揉めはしたものの、そこから二日ほどかけてやっと方針が決まった。

 

最初から砲撃を雨霰と降らせて、カバネリの所在が分からなくなるのは困るので、まずは顕金駅が跳ね橋付近の安全を確保。

橋頭堡となりえる場所の選定を終えれば、まずは高松駅と、三島駅が入る。

この時点でカバネリが2人程討てれば、つるぎ、まんのうが入り、大豊駅と三豊駅は瀬戸大橋の防衛である。

なにもなければ大豊駅も三豊駅も、ただ居るだけになるのだが、万が一融合群体が瀬戸大橋に向かった場合、玉砕しようとも死守するのが役目である。

 

顕金駅、高松駅、三島駅は損害が予想される為、予め規定した損害率を越えれば、つるぎ駅、まんのう駅が交代する。大豊駅と三豊駅も他駅の損害の程度によっては交代もありえる。大豊駅は駿城と自走臼砲は別城である為、大豊駅を前線に配置した場合も、自走臼砲は瀬戸大橋前に配置のまま、損害により下がった駅と瀬戸大橋の防衛となる。

 

顕金駅の負担割合は大きいが、顕金駅の戦力を考えると致し方ないし、下手に他駅を前に出して、カバネを量産させるわけにもいかないのである。

 

勿論ただで負担を請け負っているわけでもない。この作戦において顕金駅の駿城でかかる費用は、全て顕金駅以外の駅がそれぞれ負担することとなっている。顕金駅は、筆頭となる高松駅にかかった経費を請求し、高松駅が取り決められた負担割合で各駅に請求するのだ。湯水の如く弾をばら撒こうと実質無料なのである。

 

この取り決めにより、顕金駅は蓬莱城持ち込みの際は、抵抗弾を取りやめ、全弾噴流弾を使用する予定である。

 

ここまで決まれば、自分は不要と道元は甲鉄城に下津井駅まで送らせて、周匝駅経由で顕金駅へと帰って行った。

道元が顕金駅につけば、蓬莱城に準備をさせて送り出す予定である。

 

蓬莱城が着くまでは割と暇が出来た。各駅も領主や家老を駅に送り、体制を整えることになっている。そんな中、三島駅が喧嘩を売ってきた。

 

三島駅最強の男と手合わせしろと言うのだ。顕金駅も現在いる者の中から最強を出せとのこと。強さで言えば無名なのだが、無名は手加減は上手くない。そして女子である。衆人環視の中少女にのされる武士。外聞が悪い。来栖がいれば来栖一択なのだが、無名を出して良いものか最上が迷っていると、三島駅は早くしろと騒ぐので、最上が無名を出したが、三島駅側は顔を真っ赤にして怒り出した。

 

「そのような少女に戦わせておるのか!」

 

最もな言い分である。

だが、これで面白くないのは無名である。

 

「だったらなに?私が一番じゃ悪いの?私はカバネリ。あんたより強いよ。」

 

「今いる者で人間に限定するならこっちだ。」

 

最上は瓜生を出した。

 

「ちなみにその次が私だな。」

 

最上も前に出る。

無名、瓜生、最上が並ぶが、三島駅側からすれば、少女、武士には見えない若い男、幼く見える家老である。どれを選んでも、強そうに見えない。三島駅側が言葉に詰まっていると、無名が前に出た。

 

「一番が良いんでしょ?いいよ。遊んであげる。」

 

無名が馬鹿にしたように、笑ってちょいと手招きをする。

 

「小娘。後悔しても遅いぞ。」

 

「本気で来てよ?後で女だから手加減したとか、恥ずかしい言い訳しないでね?」

 

まあ当然無名の圧勝である。遊んであげるとの宣言通り、ちょちょいとひねって終了であった。

 

結果としては、良い宣伝にはなった。カバネリがなんぼのもんじゃいと、突っ込んでいって死なれてはかなわない。少女である無名が実力を見せたことで、観戦していた者達はカバネリの強さを知ることとなった。まあ同じカバネリでも無名と生駒では、段違いなのだがそれはそれ。

 



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南海道 8

蓬莱城が顕金駅を出発した。

 

「道元様が蓬莱城に飛び乗ってきた時は驚いたな。」

 

「本当だよ。寿命が縮んだ。」

 

来栖がぽつりと言った言葉に、吉備土が返す。吉備土は道元が苦手だ。相性が悪いのもあるが、以前徹底的に怒られたのが効いている。

 

「脱線するかしないかを攻めたんだって?」

 

雅客は他人事であったので、面白そうに話題を振る。

 

「そうだよ。下津井までひたすらかっ飛ばしたんだよ。」

 

「最上様が心配でって珍しいよな。まして交渉事だろ?」

 

「実際ギリギリだったらしいぞ。」

 

「6駅対最上だったらしいからな。相手は領主や家老らしいから、仕方ないのではないか?」

 

「あんまり想像できないな。」

 

「割と普段から道元様のところに相談にきてるぞ?道元様に色々教えられながら、そういうのを見ているとな。顕金駅奪還前の最上は、結構はったりだけの時があったのだなと気がついた。」

 

「「えっ⁉︎」」

 

「最上のやつ。いかにも拙い時は任せろって顔でしれっとしてたがな。どうにもならん場合は結構あると知ったぞ。」

 

「へぇ。そうなんだ。」

 

「気がつかなかった。え?しれっとしてたけど、実は俺たちの横で冷や汗流してたってことか?」

 

「まあ何回かあると思うぞ。」

 

「う…うわぁ…。良かった。なんとかなって。」

 

「確かに最上様元服したてだった訳だし、出来るのがおかしいんだよな。そんな15歳にすがってた俺たち…。えっ?俺たち恥ずかしくないか?」

 

「そうだな。己も最近そう思う。だが当時唯一の上侍の最上の立場を考えれば、無理です。できません。とも言えないのは己もわかる。」

 

来栖や倉之助あたりは17であったが、最年長の仁助など28である。上侍でござい。と、いかにも問題ありませんという顔をしていたから気にしてこなかったが、最近最上の事情も少し知った側としては、情けない気持ちにもなるというものである。

 

美馬率いる狩方衆と邂逅した時、最上が早々に菖蒲に自分では駄目だと申し出たのは、もっと真剣に受け止めるべきだったなと来栖は思っている。最上の立場で、あれを言うのはかなり苦しい選択だった筈なのだ。

 

 

蓬莱城には、雅客や服部、その他来栖の配下を可能な限り乗せているが、樵人は差添城の城主、倉之助は勘定方の要、仁助は医者として駅に残っている。来栖の配下は要職についている者が多いが、八代、倉吉の武士達が代打を務める。来栖の配下凡そ90名のうち、70名が動員されており、民人上がりの武士の殆どを駅防衛の為に顕金駅に残してきている。

 

なお、蓬莱城の行商の為に呼びつけられていた勘太郎は、道元が戻った今でも未だ顕金駅に残っている。

 

甲鉄城には、狩方衆と流民上がりの武士で凡そ40名がいる為、合流すれば凡そ110名となる。凡そ110名の動員は顕金駅には中々の負担だが、他の駅では通常運行時が大体武士100名程度であるので、大所帯ではなく寧ろ少ないくらいである。

 

高松駅などの南海道四国連合は、それぞれ凡そ300名程度は動員しており、凡そ1800名の参加である。

 

今回はかかる経費は、全て南海道四国連合に押し付ける取り決めを道元がもぎ取ってきたことから、蓬莱城には弾薬等が腐るほど積み込まれている。

 

蓬莱城に僅かばかり居る民人上がりの武士は、戦力というよりは炊き出し等の雑用要員で、看護師もいざという時を想定して数少ない男の看護師が動員されている。蒸気鍛治も同様で男ばかりが乗車しており、運転士の侑那が唯一の女人である。

 

 

蓬莱城が経由地として下津井に到着した時、山本が蓬莱城に対応した。

 

(最上様の友達だ。)

 

(うーん。わんこ感。)

 

山本は、カバネリである生駒にも絡みに行っており、生駒がたじたじになっていた。つっけんどんに返しても、笑顔でがんがん来るのだ。

 

下津井駅を離れた蓬莱城では、もっぱら山本の話題であった。

 

「凄かったな。山本殿。あれが最上様と仲良くなる社交力…。」

 

「笑顔に裏がない。」

 

「差し入れまでもらってしまった…。」

 

「凄い。城下のご婦人の如くぐいぐい来る。」

 

蓬莱城が高松駅に到着する頃には、高松駅を除いて3駅が到着していた。既に着いていた駅や高松駅の者達から、ジロジロと見られて居心地が悪かったが、操車場を出て理由が判明した。

 

操車場前の広場で、最上が手合わせで大立ち回りをしていた。

 

「何やってんですか⁉︎最上様ぁ!」

 

雅客がすっ飛んで行ったが、来栖は近くに居た瓜生に声をかけた。

 

「なんだあれは。」

 

「いやぁ。領主や家老と違って血気盛んな武士殿達に喧嘩を売られてな。仔犬ちゃんが対応してる。」

 

「なんで最上なんだ?無名で良いのでは?」

 

「仔犬ちゃんがな。白刃戦担当最弱は私だ。私に勝てん奴は黙ってろってさ。笑ったわ。」

 

「何をやってるんだ…。」

 

「いや最初はお話し合いしてたんだぜ。でもまあ最後にものを言うのは暴力ってことだな。」

 

「そうか。」

 

来栖の視線の先では、最上がばったばったと武士を薙ぎ倒しており、雅客は間合いの外からおろおろとしていた。

 

大立ち回りを終えて、最上が来栖達に合流した時には、割ところころとして来たのか、見た目はぼろっとした状態であった。

 

「白刃戦ができそうな奴が2人くらいいたぞ。まあ私以下だが。」

 

「そうか。なら今回はあてに出来んな。」

 

とりあえず全勝してきたらしい。

領主や家老と違い実力で黙らせてきたようで、最上は良い笑顔であった。最上とて鬱憤が溜まりに溜まっていたので、ちょうど良く発散させてきたのである。

 



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南海道 9

「生駒。手合わせするぞ。」

 

「えっ?」

 

最上から生駒に手合わせの誘いである。

未だかつて生駒は最上と手合わせはしたことはない。いざという時に、生駒を殺せる可能性を高くしておくためとは、生駒は知らないが、最上が生駒と手合わせをする気がないのは生駒も気がついていた。

 

「多度津駅では武士が複数カバネリになっている。多田、大西、木村は刀使いだ。刀使いとの戦い方も慣れておけ。相手が来栖だけでは不十分だ。来栖は埒外だからな。」

 

「おい最上。」

 

「わかりました。お願いします。」

 

「本気で来い。」

 

生駒と最上の手合わせが始まると、心臓までは届かないものの、生駒は手足を袋竹刀でばしばし叩かれている。

 

「達磨にされるつもりか?」

 

「うっ!くっそ!」

 

生駒は最上が自他共に認める前衛最弱だから油断していた。カバネリである生駒達と違って、一撃でもまともに食らえば致命傷の中戦っているのだ。弱い訳がなかった。生駒は気分でムラっ気が酷い為、そもそも敵認定していない最上に無意識で遠慮している部分もある。

 

「仔犬ちゃんもっとやってやれ!野良カバネリ!何回手足落とされた?」

 

「うるさい!」

 

「くだらない野次に集中力を割くな。」

 

「いたっ!」

 

「ほらまた右手が飛んだぞ。」

 

最上は来栖と違って悪く言えば甚振っているような戦い方だ。そもそも非力であるから削っていくスタイルなのだが、側から見たら甚振っているようにしか見えない。

 

「生駒ー!もっとぱっちょんぴってしなきゃ!」

 

「わかんねぇって!なんだよ!ぱっちょんぴっ!いったぁ!」

 

「ほら首が飛んだぞ。死にたいのか?もっとちゃんと見ろ。不可視の攻撃などない。学習しろ。一度食らったら二度目は食らうな。」

 

「はいっ!」

 

「人が実現し得る動きの範疇だ。剣先を見るな。視線は胸元。胸元を見ていれば腕の動きは読める。足の動きも読める。カバネリの動体視力と反射神経なら反応できる筈だ。」

 

来栖が使わない足下への攻撃も飛んでくる為、何度も足を叩かれている。

 

「足が飛んだぞ。機動を削がれれば、滅多切りにされるぞ。足を止めるな。お前の間合いはもっと近いぞ。私の間合いの内側に入れ。」

 

最上にばんばん叩かれている生駒を見ながら無名は思った。

 

(なんだ最上さん強いじゃん。)

 

「ねぇ。来栖。なんで最上さん普段あんなころころ転がされてるの?」

 

「カバネは殆ど回避行動をしない。力強くで押し込んでくる。最上は目方が軽いし非力だからな。突進する様に攻撃されると引かざるを得ない。受けきれないからな。ワザトリの様な技術もあるカバネに押し込まれるとなおのことだ。要はカバネの臂力に振り回されている。生駒が押し込めば簡単に吹っ飛ぶぞ。生駒が遠慮してるからああなっている。まあ今回は刀使いのカバネリらしいから、刀使いとの戦い方を学ぶのは良いことだ。力押しで最上に勝っても意味はない。」

 

「ふーん。っていうか来栖だって刀じゃん。」

 

「ばっか。無名。忠犬は規格外だから学習にむかねぇんだよ。学習する前にぼこぼこだわ。段階踏まなきゃ野良カバネリには無理だ。野良カバネリにお前みたいな才能はねぇよ。」

 

「お前な。」

 

来栖がジト目で瓜生を睨んだ瞬間動きがあった。生駒が最上の右腕を捕まえて上に振り抜き、最上の足が簡単に地から離れた。柔道の様な投げ方ではない。カバネリの臂力に任せた力強くの投げである。生駒は最上の腕を掴んだままだ。

 

「生駒!手を離せ!」

 

来栖の怒声を聞いて生駒は、ぱっと手を離した。丁度山なりの頂点で離された為、最上は身体を捻ってなんとか着地した。叩きつけられたら下手をすれば半身不随である。

 

「あっ。す…すみません。」

 

「いや。構わない。」

 

「最上。肩は無事か。」

 

「抜けるかと思ったが大丈夫だ。もう腕を掴まれたか。目が慣れてきたのかな。」

 

右腕をぐるぐる回しながら最上は首を傾げる。

 

「さて。生駒もう一度だ。もう少し速度を上げるぞ。」

 

「えっ…。」

 

最上は全速力ではなかった。そもそも全速力ではべらべら喋れないので当然である。その日生駒は最上に散々叩かれた。

 

「生駒は強いやつと戦い過ぎたか?胴体への攻撃に慣れすぎたな。手足が疎かだ。姑息に削ってくる戦い方に慣れていない。カバネリだからと多少の負傷を気にしないのがよくないな。侍相手なら落としてくれと言っている様なものだ。もっと負傷に気をつけろ。」

 

「はい!」

 

「まだ視線が柄あたりに行きがちだ。見るのは胸元だ。全体を見ろ。腕を目で追うな。」

 

「でも、つい追っちゃうんです。」

 

「慣れるしかないな。相手の間合いを把握しろ。獲物の長さは見れば分かるだろう。お前は殆ど無手同然だ。足を動かせ。間合いの内側に入るんだ。相手の間合いで戦うな。…もうお前も私と同じように金属板仕込んだ方が良いんじゃないか?せめて小手は作っておけ。金属被膜刀を受けられる様な強度が良い。多少無理矢理でも小手で受けてしまえば間合いに入れる。間合いに入ったら出るな。間合いを切られたらお前が不利になる。」

 

「は…はい。」

 

生駒は初めてまともなアドバイスを貰った。来栖は遅いとか何処を見ているとか止まるな等と言うが、それはアドバイスではない。たぶん最上と同じような意味で言っていたんだろうがわかる訳がない。無名は言わずもがなである。

 

最上が生駒と手合わせしたがらないのはわかっているが、これからも最上が教えてくれないかなと思った。

 

最上はこれでいざというとき殺しにくくなるなぁと思ったが、生駒をこのままにして多度津駅で討たれる方が困るのだ。ただでさえ、カバネリ5体はかなり無理があるのだ。

 

「最上さん!生駒にぱっちょんぴっ見せるから、さっきのぐっさっしゅってやって!」

 

「無名!だからそれ伝わんねぇって!」

 

「………これか?」

 

無名のリクエストがどういうものか、言葉を理解するのではなく無名がぱっちょんぴっと言った時の動きを再現した。

 

「それ!」

 

「嘘だ!なんで伝わってるんですか⁉︎」

 

「いや。言葉では分からん。さっき無名殿が生駒に助言した時にやってた動きをしただけだ。」

 

「なんだ。よかった。あれで伝わったのかと…。」

 

生駒はほっと息を吐いた。

 

「はい!最上さん!全力で良いよ!」

 

「待て待て。それでは生駒が分からん。ゆっくりやるぞ。」

 

「えー!生駒!全力で良いよね!」

 

「良いわけあるか!」

 

「もう!わがままだなぁ。」

 

「無名殿。5割くらいで頼む。いくぞ。」

 

「いいよ。はい。ぱっ!ちょん!ぴっ!」

 

「ゔっ!」

 

無名のぴっの掛け声とともに最上の顎がかち上げられ、最上は足がちょっと地から浮いた後仰向けに転倒した。

 

「最上さぁあぁん!こら!無名!やり過ぎ!」

 

「最上さん避けてよぉ。」

 

「最上。無事か?」

 

「め…まわ…る。」

 

来栖が最上の上体を起こして声をかけるが、最上の頭はふらふらとしており、正面から最上の顔を覗き込んだ瓜生は首を横に振った。

 

「駄目だな。無名。こういうときは寸止めすんだよ。普通に殴るなよ。」

 

「えぇ…。だって来栖は避けるじゃん。」

 

「手本で本当に殴るやつがあるか。」

 

瓜生からも来栖からも注意され、無名はむくれながらそっぽを向いた。

 

「だってそんなやり方やったことないもん。」

 

「…確かに。俺いつも無名に手本見せてもらうとき、普通に投げられてたし殴られてた。」

 

「まあ、仔犬ちゃんも次からは避けるだろ。おら口あけろ。舌はかんでねぇな。」

 

「歯…いたい…あごいたい…。」

 

「とりあえず折れてねぇとは思うぞ。」

 

「最上横になってろ。あとは己がやろう。」

 

「…まかせた…。」

 

最上はそれ以降使いものにならなかったし、食事をとるのも苦労する羽目になった。

生駒はこの後来栖に散々叩かれ、無名からの理解不能なアドバイスが飛び、瓜生からの野次が飛び続けた。

 

周囲で見ていた他の駅の武士達はドン引きしていた。なにせ現在到着している駅の武士のうち腕に自信のある者は、最上に全員のされているのだ。

生駒の技術が伴っていないのは、見て明らかであったが、最上とやっていた時に力強くでぶん投げたり、来栖との手合わせは遠慮なく攻撃するので、臂力の強さや打たれ強さは伝わったし、最上より容赦なく生駒をボコボコにする来栖にびびっているのである。

 

生駒を一通りボコボコにした来栖は、無名と全力で手合わせもしたものだからドン引きも致し方ない。あちこちから

 

(目で追えない。)

(残像とか初めて見た。)

(武士の方は人間でいいんだよな?)

(衝撃波きた。おかしいだろ。)

 

などと囁かれていた。

 



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南海道 10

その日蓬莱城は、自走臼砲を借りてくる大豊駅の到着が遅れている為、偵察がてら多度津駅に来ていた。車両防衛の観点から、甲鉄城は高松駅に残し、蓬莱城の一城での偵察である。

 

「とりあえず今日は様子見だ。跳ね橋付近の状況の確認を最優先とする。絶対に無理はするなよ。」

 

偵察にはカバネリとかち合っても良いように、無名、生駒を主軸とした班と来栖を主軸とした班を編成し、最上と瓜生は車両防衛及び救援部隊である。

 

無名班は生駒と普段から組み慣れた来栖の配下の武士、来栖班は雅客と配下の武士、最上班は流民上がりの武士、瓜生は狩方衆がそれぞれ班員である。吉備土と服部は、残った武士をそれぞれ割り振って車両担当である。

 

「先に言っておくが、相手はカバネリだ。カバネみたいに馬鹿みたいには突っ込んでは来ない。私が敵にいたらどういう手を取るか考えろ。私が無名殿や来栖相手に正面から戦うと思うか?」

 

「それ自分で言ってて悲しくならんか?」

 

来栖は最上をじとりと見た。最上が自分に対して、正面から向かってこないことなど分かりきっているが、堂々と本人が言うことでもない。

 

「ならん。いいか?正々堂々戦ってくれると思うな。姑息な手を使うぞ?常に警戒しろ。臆病者は姑息な手を使う。」

 

「臆病者って言っちゃったよ。実は根に持ってます?生駒が克城の時に言ったこと。」

 

「すみません…。」

 

「違うが?お前らは馬鹿正直ばかりだ。馬鹿みたいに突っ込んでくるだけのカバネだけの場所とは違う。カバネリがいる。とはいえ兵はカバネだ。狩方衆程の統率力も戦術もない。なら正面からは戦わん。私なら絶対にだ。ちまちま削って、嫌がらせもして精神的に追いつめる。」

 

「姑息だ。いっそ潔いな。」

 

雅客や来栖がちょいちょい口を挟むが、最上は全く気にした様子はない。

 

「無理だと思ったら信号弾を上げろ。来栖や無名殿は周りに気を配れ、欠員は認めない。守れないと判断した時点で信号弾だ。無名殿はいいとして、来栖は搦手には弱そうだから雅客をつけた。雅客。周囲の警戒を怠るな。私が敵だと思えよ。」

 

「そんなにですか?」

 

「当たり前だ。相手は臆病な領主と経験豊富な家老がいる。いっそ道元様だと思っても良い。」

 

「いや。逆に想像できません。」

 

「ならやはり私だな。最大限警戒しろ。」

 

最上からしつこい程に、忠告をされ偵察部隊は送り出された。

 

来栖班は北方を担当し、道を進んでいく。北方は道幅が広く見通しは悪くない。カバネが時々襲ってはくるものの、大軍に襲われるわけでもなく順調に北進していた。

暫く北進したところで、真っ白な煙が漂ってきてカバネが多数襲撃してきた。

 

「目眩しか?互いに声を掛け合え!」

 

民家の間を抜けてきたのか、カバネは来栖の部隊の後方にも展開していた。

 

「来栖。引こう。」

 

「早すぎないか?まだ問題ないぞ。」

 

来栖が進行方向である北方を単独で抑えている為、後方の対応も問題なく出来ている。だが雅客は嫌な予感がしていた。確かに煙は目眩しになっており、互いに声を掛け合い位置を把握せねば危険ではあるが、現時点では大きな問題はない。決定的な危険がないからこそ疑わしい。最上ならこの程度では終わらない。そして仕掛けられた時点で、最大限に警戒すべきと感じている。

 

「これ以上仕掛けられたら対応できない。挟み討ちになってる時点で駄目だ。」

 

「わかった。雅客。信号弾はお前の判断で撃て。後退する!弾を惜しむな!」

 

雅客は来栖班の命運を託された。

 

 

一方無名班は西方に進行していた。北方と比べると道幅が狭く、障害物も多く置かれている。障害物は民人がいた時の名残りと言うよりは、態々配置されていると思われる位置取りである。

 

「無名は、最上さんが言ってた姑息な手?とか詳しいのか?」

 

「詳しくはないかな。」

 

「えっ。大丈夫なのか?」

 

「詳しくはないけどなんとなくわかるじゃん。生駒。そこ踏んだらだめだよ。」

 

「えっ?」

 

生駒が下を見ると、足元には紐が張られており、左右を見渡すと見づらい位置に小さい弓矢のような物が設置されていた。

 

「わっ!危ねぇ!無名!ちゃんと言えって!」

 

「言ったじゃん。あっ!生駒!駄目!」

 

生駒が足元の紐に驚いて数歩後ずさると、いく先には蓙が打ち捨てられている。無名の静止は間に合わず生駒が蓙を踏んだ。

 

 

蓬莱城では、北方と西方にも気を配っているが、一番警戒しているのは東方である。南方は跳ね橋であるのでそこまでではないが、東方は偵察部隊も出していない。カバネリが1人来るだけでも危険なのだ。なにせ最上も瓜生もカバネリと単騎で戦うのは中々厳しい。府中駅手前時のように車内ではないから、掃射筒での援護も受けられるが、相手の実力は未知数である。

 

多田、大西、木村の3人は刀を使うというのは既に分かっている。事前に得た情報では、大西はそれなりに剣の腕はあるようであるし、カバネリになって身体能力が底上げされたことを考えれば、来栖と同程度を想定しておくべきである。多田、木村はそこまでではないらしいが、生駒のような素人がとんでもなく強くなるのがカバネリである。警戒しておくに越したことはないのだ。

 

「北方!閃光弾確認!来栖達の方だ!」

 

「なんだと⁉︎」

 

吉備土の声を聞き、最上も車上へと上がる。吉備土の近くで双眼鏡を覗いていた武士から、双眼鏡を引ったくり来栖達の方を確認する。

 

煙で少々見通しは悪いが、煙の中で数名が膝をつき、来栖も少々押されている様に見える。しかし双眼鏡で確認できる限り、交戦しているカバネに異常に強そうな者も確認出来ない。

 

(来栖で苦戦するなら、無名殿くらいしか応援には出せんが何かおかしい。なんだ?なにがおきている…。)

 

「最上様!援護に行きましょう!」

 

「待て!状況確認が先だ!」

 

最上は双眼鏡で周囲を確認すると、目についたのは煙の発生源である。燃えていたのは夾竹桃の生木であった。

 

「夾竹桃だ!中毒症状が出てる!急いで回収するぞ!私の班はついてこい!瓜生!車両の防衛は任せる!」

 

最上は車上からひらりと降りて班員を連れて、北方へと走って向かう。

 

「あの煙は夾竹桃だ!回収の際は出来るだけ煙を吸うな!直ぐに離脱するぞ!視界が悪い!同士討ちするなよ!」

 

煙に囲まれた来栖達は、殆どのカバネを倒し切っており、そこまで乱戦にはならないだろうが中毒になっているものが動揺してこちらに撃って来ないとも限らない。

 

「来栖!南方から私の班が入るぞ!煙からの離脱を優先しろ!煙を吸うな!毒だ!」

 

声をかけてから最上達は煙の中に突入した。最上はカバネを切り捨てつつ最前線の来栖の元へと走る。班員が下がらねば来栖も下がれない。

 

最上の班員が来栖の班員を回収しつつ煙の中から後退して行く。前線に来栖と雅客が残っているが、来栖がとうとう膝を着いた。前衛をする以上運動量が多くかなり煙を吸っている様だ。来栖の前にはまだカバネが3体残っている。

 

最上は来栖を抜きつつ、カバネを1体蹴り倒し2体目の心臓に刀を突き入れる。

 

「雅客!援護は不要!来栖を連れて急いで下がれ!」

 

カバネがいなくとも最上では来栖と雅客を抱えることは出来ない。2人になんとかしてもらうしかないのだ。カバネはまだ残っている上、最上もあまり長居するわけにはいかない。

 

3体目は少々大柄でのしかかる様に突っ込んでくるが、最上は脇を抜けてカバネの脚の腱を切断する。蹴り倒した1体目が来栖達へと向かっていた為、背後から飛び掛かり蹴り倒しつつ心臓へと刀を突き立てた。刀を抜きつつ後退状況を確認すべく、視線を巡らせたところで脇道からカバネが走り出て来るのを確認し、横にずれて片腕を切り落とし心臓へと刀を突き入れた。

 

「…けほっ。」

(早く離脱しないとまずいな。)

 

最上は少々咳き込みつつ来栖達の後を追った。

 

「ワザトリだ!」

 

前を行く武士から声が上がる。煙の中で来栖がなんとか2合程打ち合ったが、来栖はまともに打ち合える状況ではない。ワザトリは来栖より大柄で今度は最上が蹴り倒せる体格ではない。

 

最上は即決した。

 

最上は全速力で駆け寄り、そのまま来栖を蹴り飛ばした。

 

「離脱しろ!」

 

ワザトリから振り下ろされる刀を後退して避け、顔面に散弾をお見舞いし、更に数歩下がって投網砲で捕獲。網に囚われもがくワザトリの心臓に刀を突き入れた。

 

(気持ち悪くなってきた。)

 

最上は煙の中で走り回り、カバネとも戦っているため、救助に向かった面子の中では一番煙を吸っている。来栖がまともに戦えない以上、蓬莱城まではもたせなければならない。

 

更にカバネを2体ほど切り捨てたあたりで最上も煙から抜け、殆どの者が単独歩行が怪しい来栖の班員と周囲を守る最上の班員と合流した。

 

「点呼!」

 

最上の号令で班員がそれぞれ点呼をし、全員が煙から離脱しているのを確認した。

 

「全員いるな!蓬莱城まで後退する!糸賀!先頭を行け!私が殿をする!」

 

脚の腱を切断したカバネが煙の中から飛び出してくるが、もう一度脇をすり抜けつつ脚の腱を切断し、転倒したところにとどめをさす。

 

最上が殿をしながらなんとか蓬莱城まで辿り着いたが、来栖の班員は嘔吐する者まで出ていた。

 

「吉備土。無名殿達が戻り次第駅外へ離脱する。警笛で呼び戻せ。」

 

「承知しました。」

 

来栖の班員は殆ど皮膚に炎症が見られ、眩暈や倦怠感を訴え、何名かは嘔吐までしている。最上も少しの気持ち悪さと倦怠感を感じており、カバネリに襲撃された時に戦える状況ではない。

 

「負傷状況の確認を優先しろ。介抱してたらカバネになりましたでは笑えんぞ。負傷状況を確認するのに服を脱がせたら、水で身体を洗い流させろ。」

 

指示を出した最上が車上に上がると同時に蓬莱城から無名班を呼び戻す為の警笛が鳴り響く。

 

「仔犬ちゃんは洗わんでいいのか?所々赤くなってんぞ?」

 

「万が一を考えればまだ無理だ。無名殿が戻ればそうさせてもらう。危うく偵察で飛車落ちするところだったな。」

 

炎症を起こしている場所が痒いのか、最上が顔をぽりぽりと掻きながらため息を吐く。

 

「忠犬が飛車なら、無名は角行か。」

 

「あちらが飛車角4枚持っているのが怖いが、その上で姑息な手を使われるのは中々厳しいな。」

 

「角行と香車は無事かな?」

 

「香車は生駒か。無事でいてもらわねば困っ「西方信号弾!」あ"ぁ?」

 

「俺が行くか?」

 

「頼む。瓜生が出るぞ!周囲警戒を怠るな!」

 

瓜生は車上から双眼鏡を覗いているが、無名班は建物の影で確認できない。

 

「見えねぇ。仕方ねぇな。」

 

瓜生は最上に双眼鏡をぽいと投げ渡し、車上から降りて班員を従えて行った。

 

「吉備土班!厳戒態勢!吉備土班以外は車両内に入れ!」

 

「北方からカバネが来ています!」

 

「だろうな!私だって追い討ちをかけるよ!北方以外も気を配れ!」

 

(くそっまだ気持ち悪い。)

 

最上もそれなりに煙を吸っており本調子ではない。だがここで来栖を出すわけにもいかないのだ。

 

「鎮守砲!発射準備!」

 

「鎮守砲⁉︎駅内ですよ⁉︎」

 

「言ってる場合か!照準急げよ!掃射筒も3、4両目は北方照準!」

 

吉備土は抗議しているが、鎮守砲に割り当てられているのは流民上がりの武士であるため、最上の指示通り鎮守砲は北方へと砲塔を回した。

 

「照準よし!」

 

「よし!鎮守砲!撃てぇ!」

 

最上の指示で鎮守砲が火を吹いた。北方から押し寄せるカバネに鎮守砲が着弾する。幅員の広い道であるが、鎮守砲はさらに周囲の民家も一部吹き飛ばした。

 

「二射目装填急げ!掃射筒はもう少し引きつけろ!」

 

「東方からもカバネが!」

 

「鎮守砲東方に照準!5両目の掃射筒は東方照準!」

 

「東方照準了解!」

 

「ちょっと最「糸賀以下5名戦線に戻ります!」

 

動揺する吉備土を余所に、水をかぶってきたのかびしょびしょのまま、最上の班員の一部が車上に上がってきた。

 

「東方だ!糸賀と山田は擲弾発射器用意!他は蒸気筒だ!擲弾を撃ち込んだ後私が前に出る!吉備土!うるさい!北方の指揮をとれ!やらんなら車内に引っ込んでろ!邪魔だ!」

 

「はっはい!」

 

吉備土は、まさか市街地にばかすか鎮守砲を撃ち込むと思っていなかった為、わたわたとしていたが最上に怒鳴りつけられて、そそくさと北方の指揮に移動した。

 

「鎮守砲照準よし!」

 

「よし!鎮守砲!撃てぇ!」

 

東方の幅員の狭い道を走って来たカバネが周囲の建物ごと吹き飛ぶが、後ろから押し寄せるカバネはそのまま前進してくる。

 

「歩荷!無名殿達はまだか!」

 

「まだ姿が確認できません!」

 

「東方!掃射筒撃て!」

 

「擲弾発射器準備完了しました!」

 

「掃射筒やめ!糸賀!撃て!」

 

糸賀の撃ち込んだ擲弾により、更にカバネを吹き飛ばす。

 

「糸賀!蒸気筒に持ち替えろ!一之瀬が来たらアレの準備をさせておけ!山田!もう少し引きつけろ。まだだ。」

 

「無名達確認!生駒以下3名が担がれてます!」

 

「山田!撃て!」

 

再度撃ち込まれた擲弾で東方のカバネはまばらになりつつある。

 

「山田も持ち替えろ!援護を頼む!糸賀!指揮権を譲渡する。」

 

「承知!」

 

最上は車上から降りてカバネを迎撃し始め、班員からの援護が飛ぶ。最上の班員は順次車上に上がり始め、援護射撃が増えていく。

 

「無名班全員収容!」

 

「最上様!上がって下さい!」

 

蓬莱城が動き始め、最上は急いで蓬莱城へと乗り込んだ。最上が前線を離れた為、掃射筒による掃射が開始された。最上が車上に上がる頃には蓬莱城はカバネを轢き殺しながら、跳ね橋を目指していた。

 

「一之瀬。準備は?」

 

「出来てます。」

 

一之瀬と呼ばれた武士は、蒸気弓を携えて車上で待機していた。

 

「適当に撃ち込んでおけ。」

 

「承知しました。」

 

一之瀬が撃ち込むのは火矢である。一之瀬が何度か火矢を撃ち込むと、じわじわと市街地が燃えていく。

 

「最上様!何故火付けを⁉︎」

 

吉備土が一之瀬のしていることに気がついて、慌てて駆け寄ってきた。

 

「嫌がらせだ。」

 

「嫌がらせって…。」

 

吉備土は愕然とした。いくら民人が死に絶えていたとしても、民家に火付け等するものではないし、今までの廃駅奪還の際もそんなことはしたことも、指示されたこともない。

 

「一之瀬。そろそろ終わりで良い。車内に戻るぞ。」

 

「はい。」

 

最上は吉備土の横を通って車内へと入っていき、一之瀬も吉備土を無視して車内へと戻っていった。蓬莱城も徐々に速度を上げていく。

 

「吉備土!早く中へ!」

 

歩荷に声をかけられて、吉備土も燃えゆく市街地に目をやった後、車内へと入っていった。

 




ホモ君は元々道元様から、領主は臆病な質だと聞いていた上、謁見の際に武士が勢揃いしていたので、臆病者の確信を得ています。東雲本人がカバネリである以上、謁見には大西か多田のどちらかだけを置いて、木村に立ち会わせればそれで充分なはずなのに、戦力の秘匿より安全を優先していたので。

夾竹桃でここまでの症状が出るかは、ぶっちゃけわかりません。口に入れたらやばいのはわかるんですがね。危ないから家庭で燃やすなっていうのは良く見るのでとりあえず採用。事件物の青酸カリとかクロロホルムくらいのつもりで見てください。(どっちも現実的ではないらしいので)


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南海道 11

少しセンシティブな内容があります。


車内では無名、生駒班の負傷者の確認と、来栖班の介抱が行われていた。

 

「無名殿。感染者はいそうか?」

 

「たぶんいないと思う。潜伏期間の可能性もあるから絶対じゃないけど。」

 

「悪いがここで経過観察を頼む。ところで信号弾を上げるほどとはなにがあった?」

 

「罠だよ。狩猟罠みたいなのが沢山あって、大体怪我の原因はそれ。全くやんなっちゃう。」

 

無名は腕を組んで深々とため息を吐いた。

 

「毒などは塗られていないのか?」

 

「現時点でそういった症状はありません。」

 

最上からの問いに、看護師が簡潔に回答した。最上は看護師の回答に頷き、周囲をぐるりと見回した。

来栖は未だ復活できておらず、びしょびしょのまま横たわっていた。来栖の班員も殆どが横たわり、座っている者は雅客と他1人だけであった。

 

「仔犬ちゃん。お前いい加減洗い流した方がいいぞ。さっきより酷くなってるぞ。」

 

「そうさせて貰おう。さっきからあちこち痛痒い。しかし偵察ですぐに撤退する羽目になるとはな。」

 

最上はぼやきながら負傷者が集まる車両を後にした。

 

蓬莱城に普段から乗っている面子は、今回の撤退に少なからず衝撃を受けた。

 

以前甲鉄城は敗走したことがあるが、蓬莱城はその経験はない。甲鉄城の敗走もワザトリによるもので、ワザトリが最上と瓜生より強かったからだ。今回顕金駅の殆どの戦力を注ぎ込んでいるにも関わらず、カバネリと戦うこともなく敗走している。

 

「最上様が言ってた通りになったな。」

 

雅客が深々とため息を吐いた。

 

「確かに臆病者は姑息な手を使うって言ってたな。まさかカバネリと戦うこともなく撤退とはなぁ。」

 

「しかし何故火付けなど…。」

 

歩荷は肩を落とし、吉備土は困惑しながら口を開く。

 

「見通し良くなっていいじゃねぇか。カバネを用兵してくる上、罠まで仕掛けて来るってのに、見通しも悪くちゃやってらんねぇだろ。今回ご丁寧に偵察の二班とも罠に引っかかってんだぞ?」

 

「だが…。」

 

「ならデカブツてめぇはなんか有効な策出せんのか?出せねぇなら黙ってな。死人出してまであの駅を綺麗なまま確保したい理由でもあるのか?ねぇだろ?」

 

瓜生はいかにも馬鹿にしていますと顔に書いているような薄ら笑いを浮かべながら鼻を鳴らす。普段甲鉄城に乗っている者達もじろりと吉備土を睨め付けている。

 

「ちょっと瓜生。やめなよ。」

 

無名が口を出し、瓜生はため息を吐いて口を閉じた。車内は少々居心地が悪く負傷者ではないものは、そそくさと別車両へと逃げて行く。

 

普段何やかんやと主張の激しい生駒は、珍しく周りの話を聞くだけであった。というのも罠に引っかかった筆頭だからである。あの罠にまた迎えられるのは勘弁願いたいのである。

 

顕金駅奪還前は、菖蒲が吉備土と同じスタンスであったから、最上は基本的に菖蒲の意にそうように計らっていたし、反するであろうことをいう時は態々悪ぶった態度であったので、最上が非道な人間のような立ち位置であり、吉備土はここまで周りにしらけた視線を向けられたことがなかった。

 

それどころか来栖の班員や無名達の班員すら、微妙な視線を吉備土に向けている。勿論焼かずに済むなら焼かない方が良いに決まっているが、罠にかかった側からすると火付けに文句は言えないのだ。罠に引っかかるだけでなく、救援要請をした以上また同じ事態は避けたい。

 

暫く微妙な雰囲気であった車両に最上が戻ってきた。手拭いで髪を拭きながら戻ってきた最上は、微妙な空気に首を傾げたがそのまま来栖の様子を見に行った。

 

「来栖。少しは良くなったか?」

 

「まだ気分が悪いが、少しマシになった。」

 

「それは重畳。お前なしでカバネリとやり合うつもりはないぞ。暫くそこで転がってろ。」

 

最上は立ち上がって指示を出す為に口を開いた。

 

「では「無名!怪我してるのか⁉︎」え?」

 

生駒が無名の足を見ており、無名の右足には血が伝っていた。

 

「え?そんなことないと思うけど…。あれ?」

 

周囲の武士は当然無名に注目した。確かに血が流れているが、血が伝うのは内腿であった。理解した瞬間視線を逸らす武士が多数の中、生駒は無名に近づこうとして、最上に蹴り倒された。

 

生駒を蹴り倒した最上は、急いで羽織を無名の腰に巻いて抱き上げた。

 

「ちょっと!」

 

「ゆっ侑那殿のところに行くぞ!」

 

「無名!そのまま行くぞ!」

 

「え!え⁉︎なんで?」

 

「なんでもだ!」

 

「生駒!経過観察頼んだ!」

 

察した瓜生も扉を開けて、無名を抱き上げた最上を先導して行く。事を理解できていない生駒がぽかんと見送った。

 

「赤飯炊かなきゃ。」

 

雅客がぽつりとつぶやいて、歩荷がじとりと雅客を睨んだ。

 

「駅に帰ってから鰍にやってもらうべきでしょ。この面子に赤飯出されるのは無名が可哀想でしょうが。」

 

「赤飯…なん……えっ⁉︎」

 

生駒は赤飯のくだりでやっと理解し、顔を真っ赤に染めた。微妙な空気は最上の指示と共に吹き飛んだ。とはいえこの事態であるので、高松駅で大人しくするしかないなと全員が理解した。

 

一方艦橋に慌ただしくやってきた最上達は、運転士の見習いに運転を交代させ、侑那に無名を託した。だってお午の対応なんてどうしたらいいかわからないので。

 

「び…びっくりした…。」

 

「飛車角落ちだな。」

 

「…お前…。とりあえず大豊が来ても暫くは待機だな。」

 

蓬莱城は、顕金駅奪還後に建造された為、城主の執務室のスペースは甲鉄城と比べると小さくなっており、その分菖蒲と静が乗車した際、客車で寝るのを避ける為に寝室が併設されている。

菖蒲と静の使用の為の場であるので、普段は誰も使わないのだが、今回は無名に使用させることになった。

 

しかも今回の旅路は看護師すらも数少ない男の看護師を2人乗せたのみで、女子は侑那と無名しかいないのである。最悪の状況を想定して男ばかりにした弊害がここで出るとは思わなかったのだ。




無名ちゃんの成長は止まっているのかどうだかわからないんですが、多少遅れつつ進んでいると解釈しています。
まああのスタイルですから、早くに二次性徴迎えてそうですがそれはそれ。

吉備土は善良な感覚なだけです。江戸時代だと火付けは火罪(火あぶりの刑)という死刑です。駅制度下じゃなくても火罪なので、もっと資源の限られている駅制度下なら間違いなく死刑です。急に死刑相当のことされたからびびってる。

ホモ君「火付けって言うな火攻めだよ。カバネリも莊衛も殺しに来たのに火攻めくらいでガタガタ言うな。」

今までの、駅を奪還して復興してきた復興活動と、公益の為に死んでね。って仕掛けてる戦の違い。こうやって書くと極悪非道。


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南海道 12

長過ぎて皆様が読むの嫌になってないか不安。私はチェックしてて嫌になってきた…。


蓬莱城が高松駅に戻ってきても、未だ大豊駅は来ておらず、大豊駅以外の駅が揃っていた。

最上は狩方衆を引き連れて、偵察結果の報告へと高松駅の領主のもとへ行き、他の者達は操車場で待機となった。

 

「偵察段階でその有様とは、大丈夫なのかね。」

 

高松駅の領主は渋い顔で最上に問いかける。他人任せの癖に大変失礼ではあるが、高松と三島は顕金駅の次に多度津入りする予定なのだから当然の反応と言える。

 

「寧ろカバネリと接敵する前に状況が判明したのは良いことですよ。火攻めをして参りましたので、多少見通しがよくなっているかと。阻塞や掩体壕の準備は進んでおりますか?」

 

「ものは言いようだな。うちと三島が設置する分は準備できておる。」

 

カバネリが何処から襲撃してくるかわからない以上、海門のように保線しつつ範囲を広げることは出来ない。守備範囲を広げてカバネリに突き崩されるのは避けたいのだ。守る範囲は小さい方が良い。とはいえ駿城の防衛の為には阻塞や掩体壕は必須である。蓬莱城が引き入れる高松や三島の駿城は、陣地を守る為に阻塞や掩体壕を持ち込み設置しなければならない。

 

阻塞や掩体壕を設置し、掃射筒で固めてしまえばカバネリとてそう簡単に攻め入ることは出来ない。カバネリがいかに身体能力に優れようが、耐久性が並外れていようが、噴流弾が絶え間なく降り注ぐ中を突破するのは至難の技である。

 

蓬莱城が高松駅に戻ってから3日が過ぎた頃、大豊駅が自走臼砲を引き連れて高松駅に戻ってきた。

 

全ての駅の城主が集まり軍議が開かれ、作戦の確認が行われた。

 

「俺も城主なのに。」

 

蓬莱城の城主ではあるが、吉備土は最上に軍議への参加を断られ、操車場で待機になっていた。最上は軍議に来栖と瓜生を連れて行ったのだ。

 

「仕方ないだろ。領主や家老が相手じゃなくなったって言っても、厄介な相手なのは間違いないんだし。」

 

「まあ確かに俺では役には立たないどころか足を引っ張るか…。」

 

雅客からの返答にしょんぼりとしながら吉備土は相槌をうった。

 

吉備土も自覚はあるのだ。

自分は最上と合わないし、他の駅の城主と渡り合えるような口の上手さは持ち合わせておらず、かといって立場は城主だから発言には責任が伴ってしまう。吉備土の発言で言質など取られるわけにはいかないのだ。どの駅の城主も自分達の損害を少なくしたい。どの発言を拾って顕金駅に不利益を与えてくるかわからない。みんなが仲良く手を取り合って、助け合っていきましょうとはとはならないのだ。

 

作戦開始が3日後に決まり、最上が少し疲れた顔で戻って来た。吉備土は最上をじっと見た後、嫌がられるのを承知で最上に寄って行った。最上は最初怪訝な表情をしたが、吉備土からの用件を聞いて目を丸くした。

 

吉備土の用件は、多度津においてどこまでの損害を想定しているかの確認である。反対するつもりではなく、心の準備をするためだと言う。撤退時に指揮官でありながら、足を引っ張った自覚があるためだ。

 

「どういう心境の変化だ?」

 

「今回最上様が指揮を取れなくなったら、後方の指揮は間違いなく俺です。ただでさえ来栖も貴方も前線にいて不在の可能性が高い。俺次第で、顕金駅が多大な不利益を被ることになるのは俺にもわかります。いつも通りじゃ駄目だってわかります。」

 

最上はちらりと周囲を見るが、雅客や来栖も驚いた顔をしており、誰かに促されて出た台詞では無いようである。

 

「多度津の損害は考慮しないのはわかりました。各駅の命の優先順位を教えて下さい。磐戸駅でも金剛郭でも沢山見捨てました。余裕がない時は見捨てていたのに、時々勝手に余裕があるって判断して噛みついてました。貴方が無駄に犠牲を出してる訳じゃ無いのはわかっているのに。申し訳ありませんでした。」

 

吉備土が深く頭を下げたことで、最上は更に驚いた。菖蒲、吉備土、生駒は最上とものの見方が違う。命の価値の見方が違う。仕方がないことであるし、丁寧に説明する相手としても認識してはいなかった。

 

「教えたとして見捨てられるのか?」

 

「見捨てます。見捨てなかった皺寄せで、顕金駅の誰かが死ぬのはごめんです。」

 

「わかった。ここで話す事じゃ無い。着いてこい。来栖、雅客、瓜生、糸賀、一之瀬も来い。」

 

最上に声を掛けられた面子は、蓬莱城の執務室へと着いて行き、最上からの指示を受けることになった。来栖、瓜生は、そもそも前衛の指揮を普段から任せているし、判断基準はそこまで心配していないが、今回は他駅との都合があるのだ。

 

その日の夜、最上は来栖をちょいちょいと呼び付けた。

 

「吉備土のあれはなんだ?お前達が嗾しかけた訳ではないんだろう?」

 

「いや。己も驚いた。」

 

「お前がへばってたのが効いたか?」

 

「それよりお前が水を浴びに行った時に火付けの話になったからだと思う。」

 

「火付けって言うなよ。火攻めだ。火攻め。確かに噛みつかれたがいつもと特別変わらんだろう。」

 

「瓜生に噛みつかれていた。」

 

「ふーん。でもなんで今日?」

 

「さぁ。」

 

最上も来栖もこれだとピンとくるものはないが、吉備土が覚悟を決めるというならば否やはない。まして6駅相手に内輪揉めをしている場合ではないのだ。

 

 

 

一方吉備土は艦橋で、最上に渡された資料を読んでいた。

 

「で?どうしたんだ?」

 

「どうしたって…いや、まぁ…雅客の言いたい事はわかる。」

 

雅客が吉備土に探りを入れていた。特に吉備土がおかしな行動をするとかを疑っているわけではない。だが最上と吉備土の今までを見てきた者は、吉備土の歩み寄りに驚いていたのだ。

 

「瓜生にさ。死人出してまであの駅を綺麗なまま確保したい理由があるのかって聞かれただろう?」

 

「ん?そうだな。」

 

「瓜生は死人が出るのが前提なんだよ。わかってた筈なんだ。死ぬんだ。誰かしら。」

 

「…。」

 

「なんだ今更って思ってるよな。」

 

「…まぁ…。」

 

「でも甲鉄城が府中駅の手前で死人を出す以外で、最後に戦って死人が出たのっていつだ?」

 

「克城かな。」

 

「あの時はさ、菖蒲様も来栖も無名も甲鉄城から離れてただろう。最上様は参加しなかったけど、参加できる状態でもなかった。最上様もいっぱいいっぱいだった。金剛郭以降は戦っても死人も出なくなって、海門でも最上様が生駒にやられた怪我くらいだ。顕金駅奪還も思ってたより簡単に済んで、八代も石見も小田もずっと簡単だった。」

 

「そうだなぁ。」

 

「俺が強いわけじゃないのに。勝手に余裕感じてたんだよ。余裕がない時は、自分と周りの事に必死で必要以上に助けようとかしない癖にな。初めてワザトリと戦ったときなんか人死が出ても、誰かを責めたりしなかった。余裕がなかったからだ。純粋に生き残ったことを喜んだ。段々最上様に多くを求め過ぎてた。わかりやすく悪ぶってた最上様に責任押しつけて、自分達は強くなった気になって、菖蒲様や生駒の言う理想に共感してた。」

 

「まあ、そうだな。最上様も態々そういう立ち回りしてたのもあると思うけどな。」

 

「瓜生にああ言われた後、周りを見たらみんな冷めた目をしてた。そりゃそうだ。火付けしたからなんだよ。次は偵察で出てた面子が無事に済むとは限らない。死ぬかも知れない。来栖も無名も生駒も。今まで死ぬなんて思ってなかった面子が。まだカバネリを相手にもしてないのに、なに下らないことにこだわってたんだろう。」

 

「…俺は来栖と最上様なら来栖をとる。でもお前や生駒と最上様なら、今度は最上様をとるよ。綺麗事だけじゃ誰か死ぬ。」

 

「ああ。わかってる。余所の駅の誰かを助けて、顕金駅の誰かが死ぬのは嫌だ。今回も克城の時と同じだ。最上様に余裕がない。今日だって、余計な口出しをしない来栖と瓜生を連れて行ったのに疲れた顔してただろ。俺が余計な手間かけたりしたら蹴っ飛ばしてくれ。」

 

「お?容赦なくいくぞ?」

 

「そうしてくれ。」

 

雅客は吉備土を見てふふふと笑い、吉備土は居心地が悪そうに資料に目を落とした。

 




ホモ君:急になに?怖っ。

吉備土:ホモ君が府中駅手前でばっさりやられたり、実は政も経験はほぼ経験なしと知った。高松駅では道元が駆けつける様な状況だったと聞いて、来栖はカバネリと戦う事なく戦線離脱。自分は撤退時に実害はなかったとはいえ足を引っ張り、軍議から戻ってきたホモ君が疲れた顔してるの見たらもう駄目だった。やめる。綺麗事言うのはやめる。

雅客:キックスタンバイ。任せろ!


吉備土は、劇的な場面ではそこまで思考を回さないし、お人好しなので基本的に善良な行動を選ぶ。

そもそもホモ君が、来栖を同列に置いたことで意見できる環境にしていた事、吉備土と近い倫理観の菖蒲が主軸だった事、なんだかんだ死人が出ないことで周りを助ける余裕があると思っていた事が今までの態度の原因。

事情を知り、よく見て、よく考えて、ただ押しつけていただけと実感を得た感じ。戦うことも、金銭面も、仕事も自分達と違って出来るからって押しつけたのが、戦力面はまだしも政においてはスペシャリストでもなんでもなくて、ちょっと頭が良いだけの子供だという事実。


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南海道 13

やっと多度津です。長いよね。前振りが…。


とうとう作戦開始の日が来て、蓬莱城はひと足先に多度津駅へと入ることになった。

 

南側の検閲所を抜け、検閲所付近の少し開けた場所を拠点とする。

北西に線路が伸びており、その先には操車場がある。操車場は駅西側に配置されており、北側の検問所と南側の検閲所から少しばかり距離があるため、拠点としては少々都合が悪かった。

検閲所を背にすれば、脱出経路も確保できるが、操車場ではそうはいかない上に、全方位に対してカバネリを警戒しなければならず、駿城防衛に割く人員がかかりすぎるのである。

 

駅内は南北と東西に開けた通りが走り、駿城は走れないもののトロリーや馬車が通行できるよう整備されている。

多度津は鉱山を抱えてはいないが、工業が盛んで他から鉄を購入し、駿城の建造を請け負っていた。その為、西側は作業場が大きくとられている。東側には城があり、検閲所付近は流民街の粗末な長屋や、民人の家々が立ち並んでいる。中心地は商家や裕福な民人の家屋が建ち並び、東側は凡そ上級武士などの立派な屋敷が並んでいる。

 

偵察時に南側の民家等を焼いたことで、南側は焼け落ちた民家等の残骸が広がり、かなり見通しは良くなっている。中心地や東側とは少し距離があるため、焼けたのは南側のみとなっていた。

 

「いやぁ。見通しが良くなったな。」

 

最上は手庇を作って周囲をぐるりと見回した。この日最上は蒸気筒を下ろし、二本差しの格好であった。というのも武士のカバネリ相手に、いつもの前衛後衛どっちつかずな装備は向かないと判断した為だ。

 

カバネに塗れた多度津駅は、消火活動など出来る訳が無く、粗末な作りの長屋や民家は悉く燃え落ち、柱すらも所々残る程度の燃え尽きようである。

 

蓬莱城が高松や三島を引き込む為にしなければならないのは、多度津の駿城の無力化である。

 

侑那や生駒や機関士に確認したところ、そもそも武士が5人ではまともに動かすことすら不可能との事であるが、相手には莊衛もいるのだ。油断は禁物である。

 

本来なら操車場ごと、鎮守砲で吹き飛ばしてしまいたいのだが、操車場にある確証もなく、作業場やはたまた別の場所に移動されている可能性もあるのだ。目視確認をしてから無力化せねば、おちおち拠点も作れない。

 

駿城を無力化するため、無名、生駒、最上、及び来栖の配下と狩方衆を動員することとなった。万が一カバネリが蓬莱城にきた場合、カバネリとやり合える来栖は蓬莱城に残すことにし、本来甲鉄城に乗っている面子の指揮を瓜生に任せる事にした。

 

無名と最上が先頭を行き、生駒が殿となり北西に走る線路上をひたすら進んで行く。操車場に駿城を乗り付けさせない為か、線路上には障害物が多くおかれ、罠もいくつか散見される。無名と最上が解除したり、注意喚起しながらぱらぱらと遭遇するカバネを倒しつつ進行し、操車場まで行き着いた。

 

「罠も少なく、強襲も無し。罠は設置が追いつかなかった可能性もあるが、襲撃もされないのは何故だ。駿城をあてにしていないか、誘い込まれているのか。」

 

「どうかな。まあ考えても仕方がないし、ちゃっちゃと片付けちゃおう。」

 

警戒しながら操車場にするりと入り込むと、操車場内は死体と僅かばかりのカバネが彷徨いているだけであった。事前に聞いていた多度津の外装の駿城も操車場内に確認できた。操車場内は死体が腐敗し、酷い悪臭が漂っていた。

 

生駒に狩方衆を付け、駿城の無力化に向かわせ、無名と最上と来栖の配下で周囲の警戒をする。

 

「最上さん。東から来るよ。」

 

「最後までなにもなしとはいかんか。総員戦闘準備!カバネリも何処から来るか分からん!駿城に上がれ!」

 

操車場の正面出入り口が、ばんばんと叩かれ、ぎしぎしと音を立てて扉が歪む。

暫くは耐えたが、正面出入り口が壊れてカバネが操車場内に雪崩れ込んできた。

 

「擲弾投下!」

 

蒸気の供給の問題から、掃射筒は携行していない。手投げの擲弾がカバネの群れに投げられ、カバネが吹き飛んでいく。多数の擲弾が投下されるも、カバネが駿城に取り付き始め、無名と最上が駿城に上がらんとするカバネと交戦し、武士達も数名が蒸気筒で応戦する。

 

「終わりました!」

 

暫く応戦していると、生駒が勢いよく車上に上がってきた。

 

「撤収するぞ!」

 

最上が車上から南側に降り、無名も車上から南側を重点的に狙い撃つ。順次駿城から降り立ち、最上に続いて南側の出入り口へと向かう。最上が扉の影に隠れつつ扉を開け放つと、操車場内に弾丸が飛び込み地面にめり込んだ。

 

「無名殿!狙撃だ!射角が広い!高所からだ!」

 

無名は狩方衆からスピンカートリッジの蒸気筒を受け取った。無名の二丁の蒸気筒では射程が短いからである。無名と入れ違いに最上が後方に下がり、生駒と共にカバネに対応する。

 

蒸気筒が上手いという好井が近くに潜んでいる可能性が高い。

 

(狙撃が出来る好井を単独運用はしない筈だ。)

 

「生駒!他にもカバネリが来るかもしれん!警戒しろ!全員出来るだけ固まれ!」

 

襲いくるカバネに対応しながら最上は視線を巡らせる。

 

「上です!」

 

生駒の声に反応し、最上が後退するが振り下ろされる刀の間合いの内である。刀を掲げて受けたものの、臂力の劣る最上では受け止めきれず、ギリギリ斜めに流した。びりびりと腕が痺れる。

 

「っ!大西だ!」

 

大西はカバネリとなった武士の中で、剣の腕が一番あると聞いている。生駒など前に出そうものならだるまにされかねない。最上が大西の名を上げたことで、生駒は交代するわけにもいかず、カバネの対応を続ける。最上がそのまま打ち合うが、身体能力の底上げされた大西は来栖並みだ。最上がどんどん押されていく。必死に対応しているが、最上が討ち取られるのも時間の問題である。無名は好井をまだ撃てておらず、南側から離れられないが、最上や生駒が狙撃を代われる訳もない。

 

「指揮官には、早々に退場して頂こう。」

 

大西の横薙ぎで最上が左に吹き飛んだ。

 

「最上様!」

 

飛び出そうとした雅客を狩方衆が引き戻す。

 

大西が最上に追撃すべく、袈裟懸けに斬りかかる。速さは来栖と同程度。臂力は来栖以上であるが、剣筋は来栖以下である。であれば、蒸気筒を背負っていない最上には避けられる。最上は打ち合う事なく回避に専念した。打ち合うのは、自分の体勢が崩れるばかりで良い事がない。

 

操車場内には、カバネがまだまだ残っており、あまり大西から距離を取りすぎると、最上もカバネの群れに向かう形になるし、大西が武士や生駒を狙わないとも限らない。

 

暫く距離を取りすぎないように注意しながら、必死に回避に専念していると、生駒の止めきれなかったカバネが最上と大西に向かう。

 

「抜かれました!」

 

最上が大きく避けたが、大西は丁度大きく振り抜いた直後で、カバネと向き合う形となった。カバネは一番近い大西に襲い掛かり、大西に斬り殺された。

 

「使役しているのはお前じゃないな?」

 

カバネが大西に襲いかかったのを見て、最上は大西に薄ら笑いを向ける。

 

「そういえばお前高所から強襲したな?カバネと一緒に雪崩れ込むのではなく、別行動をしていた。カバネはお前を判別出来ないということか。」

 

大西はぴくりと眉を動かしたが、最上の問いかけには答えない。カバネを使役するでもなく、だんまりを決め込んだ時点で認めたも同じだ。

 

「襲えという指示で、カバネは我々を襲うがお前らも例外じゃない。使役している者以外は等しく襲う対象ということだな。個人の判別はつかないというわけか。」

 

大西と最上が睨み合う。まともに打ち合えば最上に勝機はない。時間を稼ぎ、無名が合流するのを待つしかない。

 

南側の出入り口から発砲音がなる。大西は最上に斬りかかった。最上は回避を続けるが周りに注意を払う余裕がなかった。元々立ち回りに少々不安のあった生駒と背中合わせで激突した。その瞬間大西から横薙ぎがくる。回避すれば生駒が両断である。生駒を背で押しつつ横薙ぎを受け止めたが、最上は目方が軽く生駒も体勢を崩したため、最上は生駒ごと吹き飛んだ。追撃が来ると、直ぐに起き上がった最上が見たのは逃走する大西であった。

 

「ごめん!逃した!」

 

無名がこちらに来た時には、大西の姿はなく、無名も好井に逃げられたと言う。

 

「場所が悪い。追撃は無しだ。撤退を優先する。」

 

最上達は狙撃に警戒しつつ駆け戻る。

無名は狙撃の警戒を、最上は先導を、生駒は殿をしつつ、カバネに追われながら蓬莱城まで駆ける。蓬莱城に行き着くと、掃射筒がカバネを薙ぎ払い、暫くするとカバネの襲撃は引いていった。

 

「ごめん。頭は撃ち抜いたんだけど、心臓は無理だった。」

 

「いや。こちらのせいで追撃しに行けなかっただけだろう。こちらこそすまん。」

 

蓬莱城に戻ってから、無名と最上が謝り合う。

 

「生駒もぶつかって悪かった。余裕がなくてな。」

 

「いえ。俺が気をつけるべきでした。最上さんはカバネリを相手にしてたのに…。」

 

生駒は基本的に乱戦には向いていない。乱戦になるなら共闘相手が立ち回りに気をつける必要がある。生駒はそもそもが一般人であるので交戦時の視野が狭いのだ。最上もカバネが相手なら、生駒にぶつかるような真似はしないのだが、カバネリ相手にそこまでの余裕はなかったのである。

 

「大西は来栖のちょっと下ってところだな。来栖と無名殿は間違いなく殺せる。生駒はやめた方がいいな。私と瓜生は回避に専念して時間稼ぎが精々だ。単騎戦力が来栖以下とわかったのは良かったな。」

 

「でも狙撃手は早めに倒したいよね。」

 

「そうだな。己も狙撃を気にしながら戦うのは不安がある。」

 

狙撃手の好井が非常に邪魔である。通常の蒸気筒の射程であるから、無名にとっては狙撃勝負に問題はない。だが、無名以外に狙撃で勝負できる者が居ないのだ。狙撃用の蒸気筒を生駒が開発した時に、採用しなかったのだから、狙撃の腕が突出していい者はいない。

 

(狙撃用の蒸気筒採用しとけばよかった。)

 

後悔しても後の祭である。

 

「大西対策の為にも、基本的に前衛は無名殿か来栖を主軸に3人1組とし、最低でも2人1組で運用する。無名殿は狙撃も出来るから良いとしても、来栖の時はどうするか…。」

 

ライフリングがある分、こちらの方が射程はあるが、射程だけあっても技術が伴わなければ意味がない。

 

「試射の時、最上様上手かったじゃないですか。」

 

「馬鹿言え。狙撃を得手としてる相手とはやりあえん。」

 

歩荷が狙撃用の蒸気筒の試射の件を出すが、あれは動かぬ的をじっくり狙えたから出来たことであって、狙撃手の捕捉から狙撃勝負ができるという訳ではない。

 

「じゃあ狙撃手を落とすまでは、無名と忠犬を組ませるしかねぇな。」

 

「…致し方ないか。駿城は動かせなくした以上、優先すべきは好井だな。まずは高松と三島を引き込んでしまおう。」

 

高松と三島の駿城を引き込むべく、信号弾が打ち上げられた。高松と三島の駿城は多度津の駿城が無力化され次第、多度津入りするために付近で待機していたのだ。

 

信号弾を確認した高松と三島の駿城は、蓬莱城に続いて停車し、阻塞や掩体壕を設置していく。カバネの襲撃こそあるものの、カバネリによる襲撃はなく、無事に阻塞と掩体壕の設置が完了した。掃射筒の蒸気供給のため、大型の蒸気タンクが複数掩体壕に配置された。

 

高松と三島の城主には、駿城無力化時の件が共有されたが、高松や三島からすればカバネリは自分達の管轄外である。自分達は拠点の防衛が担当であるとの態度を崩さなかった。

 

蓬莱城としても、勇み足で高松や三島に損害が出るのは本意ではないが、狙撃は拠点に撃ち込まれないとも限らず、高松や三島の面子の内、蒸気筒の腕が良い者数名にライフリングのされた蒸気筒を提供した。勿論狙撃勝負ができるとまでは期待していないものの、一方的に撃ち込まれ続けるのを避ける為である。

 




なんか生駒が弱いみたいな扱いになってますが、ホモ君と瓜生は敏捷性高め防御力紙、生駒は敏捷性低め防御力高めのステータスの違い。生駒は回避率が低いので、武士のカバネリはおまかせし辛い。


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南海道 14

阻塞や掩体壕を設置した翌日、無名、来栖、瓜生を主軸に、来栖の配下の武士と狩方衆は操車場へと出発した。

 

操車場内にあるトロリーを確保するためである。トロリーを確保に向かった無名達が、トロリーを操車場の外に運び出した時、カバネの大群に襲撃される事になった。

 

「雅客!信号弾!」

 

来栖の声に即座に反応し、雅客が合図として信号弾を打ち上げる。

 

「操車場にて信号弾!」

 

「こちらもカバネが来るぞ!」

 

同時刻に拠点にもカバネが襲撃を始め、生駒が前衛をしつつ防衛戦が開始された。

 

操車場では、カバネの襲撃に際し無名と瓜生が主にカバネの相手をしており、来栖は他の武士同様蒸気筒でカバネに対応していた。というのもそういう事前の取り決めがあったからである。

 

「大西は間違いなく、私を殺す自信はあるだろう。無名殿も接近戦はまだしていない。だが、生駒と無名殿がカバネリである事は察しているだろうな。」

 

「まあカバネリならカバネリの感知は出来るだろうね。莊衛もいるし。」

 

「来栖の実力はバレていない筈だ。私があちら側なら、まずカバネリを片付けたい。無名殿と来栖と瓜生で一度出てもらう。基本的には瓜生と無名殿で交戦してくれ。」

 

「あ?忠犬は戦わねぇのか?」

 

「無名殿が好井を追う場合に、残るカバネリに対応してもらうが、それまでは基本的に大人しくして油断を誘う。好井は一度無名殿に頭を撃ち抜かれているが、無名殿が大西あたりを相手にしていれば、狙撃の出来る無名殿を狙って来る筈だ。狙撃手は邪魔だからな。」

 

「それって私が撃たれない?」

 

「勿論狙われるだろう。だがこちらの戦力を、向こうが把握しきれていないうちでなくば、好井は迂闊に出てこない。」

 

こちらが先にカバネリを捕捉出来ない以上、他のカバネリはどうあれ、好井は早めに落としておかねば、来栖や無名の運用に支障が出る。そして多度津側も指揮官か狙撃手は落としておきたいはずなのだ。莊衛がいる以上こちらの戦力も割れていそうなものだが、瓜生曰く

 

「忠犬がいくら強かろうが、人間である以上莊衛は興味ねぇよ。」

 

とのことであった。

金剛郭まで行動を共にしていた来栖も

 

「恐らくカバネとカバネリにしか興味が無いと思う。ひたすら無名の鵺を見る事ばかりに執心していた。」

 

とのことであったので、多度津側が来栖の容姿や強さを正確に把握している可能性が低くく、対して無名や生駒は容姿や強さは筒抜けと考えられる。強い上に狙撃の出来る無名は、最優先で狙ってくる筈なのだ。

 

一番狙われると分かり切っている無名を、拠点から離すことで好井を引っ張り出すのだ。

 

カバネの襲撃が始まって暫くして、操車場側にはカバネリが現れた。

 

「大西ってやつか?」

 

「おじいちゃんだから、多田って人じゃない?」

 

瓜生と無名が、カバネを倒しながらひそひそと会話をする。

 

「無名。ここで大西を使わない理由がない。どこかにいる筈だ。」

 

「カバネリ2人と狙撃手ぅ…。」

 

雅客からの忠告に、無名はげんなりしながら周囲を警戒する。好井が出て来なければ、来栖の戦力を秘匿する為、無名と瓜生で相手にしなければならないのだ。

 

「瓜生はカバネをお願い。私はおじいちゃんの相手するね。」

 

「さっさと殺すなよ。狙撃手が出てこなくなる。」

 

「はぁい。」

 

多田と無名は、当然のように無名が優勢で交戦が始まった。しかし来栖が前衛に出てない為、カバネの動向にも注意を払わねばならず、そこまで手加減をせずとも決定打には欠ける状況である。

 

「無名!左だ!」

 

瓜生の声に反応し、無名が引くと大西が左方から切り掛かってきていた。

 

「あっぶな。女の子によってたかって恥ずかしくないの?」

 

「非重はお前が傑作だと言っていたのでな。普通の女子の扱いはせぬ。」

 

大西は顔色を変えず、多田と共に無名に攻めかかる。

 

 

 

一方拠点側はカバネの大群に襲撃されており、掃射筒の射撃音が絶えず響いていた。生駒が撃ち漏らしに対応する中、最上は蓬莱城の車上に待機しており、流民上がりの武士達も軒並み車上で望遠鏡や双眼鏡を覗き込んでいた。

 

「いました。恐らく好井です。」

 

山田が遥か先の好井を捕捉した。

 

好井はかなり離れた位置の鈴鳴り櫓の上に陣取っており、ライフリングした蒸気筒でも射程範囲外である。勿論好井も拠点側から捕捉されたとしても、射程範囲外とわかっていてその位置についたのだろう。

 

「距離凡そ8町。」

 

「射程範囲内だな。まあ後は私の腕次第ということだが…。自信がないな…。」

 

最上は車上で狙撃用の蒸気筒を構えていた。好井は拠点から8町も距離をとっている為、こちらを警戒していない。無名とその周囲のみに警戒しつつ、好機を待っているのだ。

 

 

 

「おじいちゃん頑張りすぎぃ!」

 

無名は大西と多田を相手に手こずっていた。大西は来栖のちょっと下と最上が評していたのもあり、中々強く油断は出来ない上、多田が大西の隙を尽く埋めてくるのだ。大西が無名を弾き飛ばし、無名とカバネリの距離が空いた。

 

(まずい!狙撃される!)

 

大西達から距離が出来れば、誤射の可能性は低くく狙撃をするには好機である。無名が警戒を高めた瞬間、鈴鳴り櫓の鐘が鳴り響いた。

 

「無名!」

 

歩荷からスピンカートリッジの蒸気筒が投げ渡され、来栖が大西と多田の前に踊り出た。無名は蒸気筒を受け取ると鐘の音が鳴った方角へと走り出した。大西と多田は、来栖と数合刀を交えた後、多田が手投げ擲弾のようなものを来栖に投げつけた。来栖が後退すると、大きな爆発音と煙が発生し、煙が引く頃には大西と多田の姿は消えていた。

 

 

好井は突然の狙撃に動揺していた。

高松駅らの拠点としている場所からは遠く離れており、鈴鳴り櫓に登る前から周囲を警戒し、登った後も操車場以外に人影はなかった筈なのだ。

 

だが、完全に不意を突いた一撃にも関わらず、好井から大きく外れ鈴鳴り櫓の鐘への狙撃である。相手の精度は高くはない筈と、移動するよりスコープで相手を探すことを優先した。無名は大西と多田が抑えているのだから、先にもう1人の狙撃手を片付けるべきと判断したのだ。方角的に拠点側からの狙撃だが、蒸気筒の射程内に人影がない。

 

再度狙撃され、今度は先程より近い手摺が跳ね飛んだ。そこで初めて拠点から直接狙撃されたことに気がついた。

 

(届くのか⁉︎あの位置から⁉︎)

 

狙撃の精度は低いが、いつまでも一方的な射程範囲内にいる訳にはいかないと、好井は櫓を降りようと、北側の梯子に足を掛けたが、好井の意識はそこで途絶えた。

 

「まず1人。」

 

心臓を撃ち抜かれ落下していく好井を、少し離れた民家の屋根の上で、蒸気筒を構えたままの無名が眺めていた。

 

 

「好井が落ちたな。しかし私の狙撃は大外れにも程がある。無名殿が討ってくれて良かった…。」

 

最上は狙撃用の蒸気筒を近くにいた一之瀬に渡し、未だカバネの殺到する前衛に入ろうと刀を抜いた。

 

一番カバネが殺到しているのは北側であるが、先頭に駐車している蓬莱城の面子が上手くやっており、そこまで押し込まれてはいない。東側はどうだろうかと視線を移すと、東側から悲鳴が上がる。三島の陣営が食い破られている。

 

最上が急いで東側へと向かうと、そこにいたのは木村である。少々俯いたまま、ゆらゆらと体を揺らしている。

 

「木村殿?」

 

最上が小さく上げた声に反応し、木村が顔を上げた。目はギラつき、金属被膜のような物が少し絡みついているように見てとれる。

 

(暴走か?)

 

最上が刀を構えた瞬間、木村が最上に突っ込んできた。だが異様に速い。最上は受け流すのが間に合わず、大きく吹き飛んだ。最上が起き上がるより早く木村からの追撃が来る。追撃で更に最上が吹き飛ぶ。

 

(大西より強い!)

 

最上はまともに打ち合うことすらさせてもらえない。木村の目は血走り、正気とは到底思えない。周囲で武士達がわぁわぁと騒いでいるが、最上はそちらに気を払う余裕が一切ない。その様子を見た蓬莱城から信号弾が打ち上がり、警笛が鳴らされる。最上が袈裟斬りをぎりぎり受け流したと思った瞬間、木村からの蹴りが最上の胴に入った。瞬時に後ろに跳ぼうとしたが間に合わず、吹き飛ばされて掩体壕に叩きつけられた。

 

「っ!ゔっ…おぇ…え。げほっ…。」

 

激痛で起き上がることも出来ず、うずくまったまま嘔吐した。

 

三島の武士達が掃射筒を木村に乱射するが、木村はその悉くを避け、掃射筒を撃っていた武士を斬り殺す。一度陣形を崩された以上、個別に掃射筒を撃っても密度が低ければ、木村には当たらない。蓬莱城の警笛が鳴り響く中、生駒が東側に着いた時には、三島の武士達は急いで後退していく者と、掃射筒を乱射する者で大混乱となっていた。

まだ襲いくるカバネに対応する為か、三島の鎮守砲が撃たれ、遠くでカバネが吹き飛び、車上からは防衛線に掃射が降り注ぎ、カバネの行手を阻んでいる。

 

木村を見た生駒は、黒血漿だと悟った。一方最上は黒血漿を打たれた者を見たことがなかった。

 

最上が掩体壕に寄りかかりながら、よろよろと起き上がると、木村の目が最上を捉えた。

 

「最上さん!逃げて!」

 

最上が転がるように回避すると、木村の突きが掩体壕に突き刺さり、木村は回避した最上を目で追った。

 

「俺が相手だ!」

 

生駒の大声で、木村の目は生駒へと向く。掩体壕の陰から一之瀬が最上を回収しているのが、生駒から確認できた。

 

(俺が此処を守らないと!)

 

一之瀬は最上を抱えて、蓬莱城まで後退していく。

 

「待て。…生駒…だけじゃ無理だ。も…戻る。」

 

一之瀬は最上が、苦しそうに言った言葉を無視して蓬莱城へと急いだ。生駒だけでは無理であるのは、一之瀬にも一目瞭然であるが、最上を戻したところで死体が増えるだけである。動きの制限されない屋外で、回避すらままならず、動けなくなった時点で継戦させる訳にはいかないのだ。三島の武士などいくら死のうが一之瀬の知ったことではないし、生駒はカバネリなので多少の怪我は我慢してもらいたい。

 

「一之瀬。…下ろせ。」

 

「お静かに。気がつかれます。」

 

「…っ。」

 

一之瀬に、一切下ろす気がないとわかり最上は口を閉じた。

 

蓬莱城に到着し、最上は治療を断って車上に上がった。狙撃用の蒸気筒を手に取り、生駒と木村へと向ける。生駒は木村に押されており、切断こそ免れているが、既にいたるところに切り傷が刻まれている。

 

警笛は未だ鳴り響いているが、操車場からはどんなに急いでも、まだ時間がかかる。

 

木村は獣めいた動きこそするが、武士として染み付いた動き故か、時折間合いを切って構え直す。狙撃で殺す必要はない。動きを阻害できれば、生駒はまだ時間を稼げる。最上に狙撃の腕があれば仕留めてやりたいところだが、動く相手を仕留めるまでの腕は持ち合わせていない。無名のような神業は不可能である。

 

じりじりと生駒と木村の交戦を観察する。

 

 

 

操車場では無名が合流した瞬間、けたたましい警笛が聞こえ、信号弾が見えた。鎮守砲の砲撃音までしており只事ではない。

 

「おいおい。仔犬と野良カバネリがいてなんだってんだ。」

 

「急いで戻るぞ。」

 

「先行していい?」

 

「駄目だ。大西と多田がどこに行ったか分からん。単独行動するな。」

 

来栖達からすれば、大西、多田、好井がこちらに来ていた以上、拠点を襲撃するであろうカバネリは木村しかいない。木村の剣の腕は大西に劣るというし、生駒と最上がいて対応出来ない事態がわからない。確かに2人ともカバネリとやり合うには少々心許ないが、そもそも掃射筒が複数待ち受ける陣地を食い破るのは容易ではない。怪我をしてしまえば、生駒や最上でも対応できる筈なのだ。

 

 

生駒は必死に戦っていた。最上と違って吹き飛びはしないが、どんどん負傷が増えていく。間合いの内に入れたと思ったら、すぐに間合いを切られてしまうため、まともに攻撃が当たらない。まだ掃射筒に取り付いて機会を窺っている武士達もいるが、下手に撃てば自分達が標的となるのがわかっているからか、援護は望めそうにない。生駒の肩口をざっくり斬った後、木村は一度間合いを切った。正眼に構えようと、やや下を向いていた剣先がスッと上がる。正眼の位置まで上がり切る直前、木村の頭が撃ち抜かれた。

 

脳を損傷したことと、狙撃の衝撃で木村はふらりとよろめき、それを好機と見た三島の武士達から、掃射筒と蒸気筒の弾が降り注ぐ。数発は当たるが、木村は弾丸を刀で弾き始めた。掃射筒を撃っていた者達がおよび腰になった瞬間、掃射筒についていた2人が斬り殺された。生駒が直ぐに木村に向かい、生駒と木村が交戦する。数合打ち合うと、木村が間合いを切った瞬間、再度狙撃で木村の頭が撃ち抜かれた。その隙に生駒が攻勢に出るが、討ち取れる程ではない。木村が生駒と距離を取った後、ぐるりと蓬莱城の方を見た。

 

木村の頭を2度撃ち抜いた最上は、スコープ越しに木村と目が合った。その瞬間スコープから木村が消える。

 

「来るぞ!下がれ!」

 

最上の怒声で、蓬莱城の面子は蜘蛛の子を散らすように場を空ける。防衛線の維持の為に、あまり遠くには離れられないが、可能な限り最上から距離をおいた。

 

(よくて相討ちだな。)

 

最上は自分の生存を諦めた。なにせ剣筋こそそこまでではないが、速さも臂力も桁違いなのだ。

 

(うーん。相討ちも高望みだろうか。)

 

蓬莱城の車上に現れた木村は、すでに負傷が治っており、生駒も三島の駿城の方から走ってきているが、間に合いそうにない。

 

最上はいっそ気分が良かった。何に気を払うわけでもなく、ただ一撃に全力を注げばいいのだ。

 

同時に踏み切ったが、僅かに木村の方が速い。だが最上は一切気にしなかった。自分の身体に刀が食い込もうと、木村の心臓に刀を差し込めさえすれば良い。それ以外は全て些事なのだ。

 

互いの間合いに入る寸前、木村の刀がハバキの一寸先からへし折れた。狙撃である。

 

木村の刀の刀身が失われたことで、最上は斬られることなく、木村の心臓に刀を突き入れた。木村が絶命したのを確認し、狙撃のあった方角を見ると、スピンカートリッジの射程ぎりぎりと思われる位置にある蒸気管の上に無名の姿が確認できた。最上の顔がそちらに向いたことに気がついて、蒸気筒を片手で掲げてひらひらと軽く振った後、蒸気管からするりと降りて姿が見えなくなった。

 

「かっこいいな。惚れそうだ。」

 

「「え"っ⁉︎」」

 

木村を討ち取ったことで武士達が歓声を上げる中、最上がぽつりと呟いたのを聞いて、声の届く範囲にいた吉備土と糸賀が勢いよく振り返った。

 

「生駒。すまんが、三島が立て直すまで東側を頼んでいいか?」

 

「はい!わかりました!」

 

吉備土と糸賀の反応には気が付かず、最上は生駒に指示を出し、生駒は指示を了解して蓬莱城から離れていく。

 

「吉備土殿。指揮を。糸賀も。最上様にやらせるおつもりか?」

 

「あっ!あぁすまん!」

 

「悪い!」

 

最上を車内に引き込みにかかる一之瀬が、吉備土と糸賀をじとりと睨みつける。最上は一之瀬に素直に従って、車内に引っ込んで行く。自立歩行をしているが、腹部に手を当てて、眉間に少しばかり皺を寄せているところを見るに、まだ腹が痛いようである。




無名ちゃんのスーパーアシストがなかったらホモ君死んでました。

対してアシスト失敗したホモ君。本当だったら、ホモ君が初撃で好井を討つのが理想でしたが、保険として無名もスピンカートリッジをすぐ使える様にしてました。保険が役に立ったね!


本日の更新はここまで。
明日で終わりまでいける予定。


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南海道 15

最上は結果として、肋骨にヒビこそ入ったものの、内臓はなんとか無事であった為、看護師にぎっちりと固定されたのみであった。

 

「内臓潰れたかと思った。」

 

「わかる。」

 

瓜生もかつて、ワザトリに腹部をしっかり蹴られた為、最上の感想に深く頷いた。

 

現在は蓬莱城の車上に主要面子が集まって相互に報告をしていたのである。車内に引っ込んでいる間に、カバネリに襲撃されてはたまらない。

 

「最上さん。鐘鳴らしてくれてありがとう。お陰で狙撃できたよ。」

 

「…あぁ。別に鐘を狙ったわけではないのだが、役にたったならよかったよ。」

 

失敗した狙撃に対して、無名が礼を言ったことで最上が微妙な顔をし、流民上がりの武士達が笑ってはいけないと、口をもにょもにょとさせている。

 

「しかし無名殿の狙撃は素晴らしいの一言だったな。あの距離から刀をへし折るとは神業と言っても過言じゃないぞ。」

 

「へへーん。凄いでしょ!」

 

「うん。凄い。」

 

最上は純粋に無名の技術を称賛した。なにせ最上は狙撃用の蒸気筒を使って、無名よりも遥かに近い距離から、足を止めた木村の頭を撃つのが精々だったのだ。心臓を狙っても、外せばさしたる痛痒にならぬと頭を選択した。

 

対して無名は、最上の全力よりもやや速い木村の刀を狙撃でへし折ったのだ。褒めるなというのが無理な話である。

 

「生駒も1人で任せて悪かったな。」

 

「いや。俺が倒せなくてすみません。」

 

生駒からすれば、あの状況で最上が前線を離れた以上、自分がカバネリを倒すべきだったと思ったのだが、最上の言い方は単騎は期待していないともとれた為、しょんぼりとしながら謝罪をした。

 

「しかしなんだあの強さ。暴走するとあんなに強くなるのか?怖いな。」

 

最上の発言に前衛面子はぽかんとした。実のところ最上以外の前衛面子は、黒血漿を投与した者を見たことがある。最上も黒血漿の報告自体は受けていたが、あれだけで判断がつくわけも無かった。

 

「仔犬ちゃんよ。ありゃ黒血漿だ。そういやお前、滅火の時も野良カバネリの時も見てなかったか。」

 

「…待て待て。ということは、大西は黒血漿を使えば、来栖の実力を越える可能性があるということか?」

 

「そりゃあな。寧ろ聞く限り、木村があの程度の底上げですんで良かったな。ありゃあ、莊衛からしたら失敗作になるんだろうよ。野良カバネリは克城に勝ったぞ。そもそも鵺になる様な薬だぞ。あれは。」

 

「克城に勝つってなんだ。」

 

「駿城に正面衝突して勝ってる。」

 

「…内臓どころか、身体が爆発四散するところだったのか…。怖っ…。」

 

「つっても普通は割と理性も吹っ飛ぶし、黒血漿を使ったら白血漿で正気に戻るかも賭けだ。そう気軽に使えるもんじゃねぇ。」

 

「ふむ。木村殿は切り捨てられたということだな。莊衛を殺そうとして失敗したのか。勘付かれていたのか。」

 

多少、木村の協力を得られないかと期待していたので、非常に残念な結果である。

 

「最上様。木村殿の脚絆からこちらが。」

 

糸賀から差し出されたのは、城内の地図と手紙である。手紙は最上宛てで、内容は何としても莊衛を殺してくれというものだった。

 

「死体を漁ると期待されていたか。」

 

大西達も黒血漿を打つ前に懐等は漁っただろうが、脚絆の下までは確認しなかったようである。最上の台詞に生駒や吉備土は微妙な顔をしていたが、声を上げることはなかった。

 

地図には奥方のいる位置や、複数の通路が書かれており、非常に貴重な情報であった。ただし、莊衛の研究場所や資料の位置などは書かれていない。研究ごと葬れということだろう。

 

「まあ暫くはカバネの数を減らすことに注力しよう。融合群体は少しでも小さい方が良い。早々に2人削られた以上、カバネリの突撃もないだろう。」

 

「三島は下げて、まんのうとつるぎとを引き込む形になりますか?」

 

「予め決めていた損害率にはもう少しといったところだが、一度下げた方がいいだろう。三島もかなり士気が下がっている。」

 

三島は東側を担当していたが、かなりの数の武士が斬り殺された上、黒血漿により異常な強さとなった木村に恐れをなし、生き残った者達の中には怯えて使いものにならない者もいるのだ。

 

蓬莱城も最上が負傷したことで、多少の療養をさせておきたい。大西や多田が黒血漿を使わないとも限らず、少しでも最上を回復させておきたいのだ。

 

 

翌日には三島が後退し、まんのうとつるぎの駿城が多度津入りを果たした。時折カバネの大群が押し寄せるが、掃射筒と鎮守砲により殲滅が繰り返された。カバネをひたすら殺しつつ、蓬莱城の面子はカバネの金属被膜を回収するものだから、顕金駅は死体漁りをすると話題になっていた。

 

まあ事実ではあるし、金属被膜はなんだかんだと使い道がある以上、致し方ない謗りである。

 

海門でも確認されていたが、カバネ同士で死体を盾に突っ込んできたりもする為、各駅に少しずつ損害が増えていく。前衛面子は最上が療養で前衛には出ないことから、4人で防衛線を維持しており中々の負担であった。

 

蓬莱城の面子は慣れている為、前衛面子からの指示にはなんの疑問もなく従い、後退したり掃射したりと対応が早いのだが、他の駅は来栖以外の指示に即座に反応出来ず、じわじわと損害が出ているのだ。顕金駅ですら、無名や生駒の立ち位置に完全に折り合いがついていないからこそ、蓬莱城と甲鉄城でしっかり色が分かれているのだから、想定の範囲内といえる。

 

しかしながら、日を重ねるごとに抵抗は少なくなってきているようで、無名や瓜生からの愚痴がかなり減ってきている。

 

まんのうとつるぎが多度津に入ってから7日目、線路の障害物を排除すべく、来栖と瓜生、来栖の配下の一部と狩方衆を残し、高松の武士の一部を借り受け、蓬莱城は操車場を目指す。操車場を経由しなければ、駅内を駿城で移動出来ないのだ。

 

罠もあるため、解除しつつの進行となったが、カバネリを2人も殺されているためか、追加で設置されている様子は無く、操車場までの障害物の排除は1日で完了した。カバネの襲撃はあれどカバネリは姿を見せず、最上は指揮を取るだけにおさまった。

 

操車場までの線路を確保後、更に先の線路の安全確認が行われることが決まったが、休養日を挟む事になった。カバネリがいつ来るかと前衛面子の緊張が高いことから、適度に休養を挟まねば襲撃時に瓦解しかねない。

 

休養と言っても、嫌がらせのように散発的にカバネの襲撃があるため、完全に羽根を伸ばせるわけではなく、最上と来栖など、他駅との軍議もあるため、大して戦っておらずとも疲れが溜まる。

 

 

休養日の深夜、カバネの襲撃が始まった。今までは日中の襲撃が多く、深夜の番についていた者達は油断しており、その日まんのうが担当していた北側が半壊、前衛面子として生駒がついていたが、混乱するまんのうの武士達へ指示が上手く出せず、来栖と最上が叩き起こされた。

 

「北側以外も警戒しろ!来栖はまんのうの再編だ!生駒は高松のいる東側へ行け!」

 

まんのうの武士にも勿論指揮官はいるが、混乱した前線を立て直すには、どうしても前線に出て指揮を取る必要がある。混乱極まる中なら、来栖の指示が一番通りやすい。最上は、西側の様子を確認しようとつるぎの防衛線に目をやったが、なにやら甘い匂いがする。

 

「一之瀬。なんか甘い匂いがしないか?」

 

「確かに。どこからでしょうか。」

 

最上の近くで寝ていた為、一緒に起きてきた一之瀬と共に匂いを辿る。本日は北から微風が吹いており、そのまま北側の防衛線付近まで来る羽目になった。防衛線からまんのうの武士達がぞろぞろと後退してきている。

 

「最上。何をしている?」

 

「来栖。前線を下げているのか?」

 

「いやに甘い匂いがしてな。偵察時のあれは忘れられん。あれとは匂いが違うが、警戒するに越したことはないだろう。」

 

「後方のまんのうの指揮官に引き継いで西側を頼む。仕掛けてきたならまだ何かあるかも知れん。匂いの元は私が確認する。まんのうの武士に東側へ伝令に行かせろ。」

 

「わかった。」

 

来栖はまんのうの武士達をまとめつつ、掩体壕まで前線を下げた。最上と一之瀬は共に下がりつつ、双眼鏡で阻塞の先を確認する。

 

「最上様。倒れた篝火に何か焚べられています。」

 

「私も確認した。…なんだあれは。まあ碌なものではあるまい。」

 

「…あれ。麻ではありませんか?」

 

「それでこの匂いか。甘い匂いがすると聞いたことはあるが、嗅いだのは初めてだ。」

 

最上はまんのうの武士を捕まえて、麻が焚かれていたことを告げ、体調の確認を急がせた。

 

その日はそれ以上の襲撃もなく、麻により正気を失った者もいなかった。

 

しかしこの日から毎晩襲撃を受け、毎度倒れた篝火に麻を焚べられる始末で、篝火の位置を阻塞の内側にせざるを得なくなった。ただでさえ、視認性の悪い夜間に襲撃が続きピリつく中、篝火の位置が下がり視認性がさらに悪くなったことで、夜間の警戒は緊張が高まっている。

 

わざわざ配線を伸ばして、電気を通しても襲撃に合わせて電球が割られ、篝火が無くとも麻が焚かれる。

 

 

そして何より毎度襲撃されるのがまんのうの配置なのだ。配置を変えてもまんのうばかりが襲撃される。まんのうに特別恨みがある訳ではないだろうが、わざわざ襲う相手を固定することで、精神的に負荷をかけていると考えられた。

 

「まんのうが完全に潰れる前に三豊と交代させる。」

 

軍議でまんのうの一時撤退が決まった。軍議では、早々に城を落とせとせっつかれているが、黒血漿の問題もある以上、カバネを出来るだけ減らして、少しでも危険を排除せねばただの自殺行為である。

 

「麻はあまり吸えば正気を失うし中毒性もある。だが、一番は匂いがキツいことが問題だ。少量でもかなりの匂いがするから、あの匂いに気がつくとカバネリが近くにいると必要以上に警戒する。」

 

「まあ篝火に麻を焚べてるのは、カバネリだろうから間違ってはねぇだろうな。」

 

「焚べたら直ぐに撤退しても、此方に長時間の緊張を強いることができる。それにここまで匂いに反応する様になったら、匂いのしない時に襲撃してくるぞ。少なくとも私はそうする。」

 

「性格悪っ。」

 

「やかましい。」

 

「元々カバネリが襲撃してくる可能性はいつだってあっただろ。」

 

「今まで、適度な緊張感で長時間警戒していた状況が、匂いによって崩されている。軍議でも指摘しているが、匂いがする時は、確実に直近までカバネリが来ている以上聞く耳を持たない。」

 

「仔犬ちゃんを入れても、前衛は5人しかいねぇからな。毎晩叩き起こされてたらかなわねぇ。」

 

カバネリの印象が、黒血漿を投与された木村になっていることで、甘い匂いがした瞬間、前衛面子が叩き起こされることが続いていた。継戦時間の短い無名は出来るだけ避け、現在戦力としては心許ない最上が出来るだけ出るようにしている。前衛面子が出て来れば現場はとりあえず落ち着いて行くのだ。いざカバネリとなれば、無名や来栖を起こすまでの時間さえ稼げれば良い。とはいえ毎回最上が起きるのは負担が大き過ぎる為、多少の分散は図られている。元々前衛面子の誰かしらが起きている上で起こされるため、無名以外の前衛面子は慢性的に寝不足が続いている。

 

最上と瓜生がそんな話をしていた晩、全方位で麻の匂いが確認され、夜間警戒の者達が大騒ぎする事態となった。生駒の事態収拾能力が低いのを見抜かれているのか、偶然かは分からないが、生駒が警戒中の時に襲撃され、来栖はシャキっとしているが、最上は一見して寝ぼけたまま事態が収拾するのを待つ羽目になった。

 

余所の駅の者達は、どうしても武士である来栖と最上を要求しがちで、断れば大騒ぎされるため、速やかに2人のいずれかを差し出す方が、他の面子まで騒ぎで起こされるのを避けられるのだ。2人まとめて起こされるのは、生駒が担当の時が殆どである。

 

明け方に東方から匂いが確認され、警戒についていた瓜生が、東方に引っ張って行かれて、すぐに西方の高松の防衛線が大西に襲撃された。カバネを引き連れることなく、2、3人を叩き斬って撤退したようだが、蜂の巣を突いた大騒ぎで、蓬莱城の者は1人残らず叩き起こされた。慌てて外に出た時には、当然大西は影も形も無く、無駄足を踏まされただけである。

 

勿論この状況で更なる路線の安全確認などできるわけもなく、蓬莱城の面子は他の駅に足を引っ張られている状態である。




嫌がらせで疲弊させてやろうって感じですね。麻をポイっと投げ入れたら帰るだけで相手が勝手に疲弊していく簡単なお仕事。焚かれているのは乾燥大麻ではなく、乾かしてもない大麻。栽培してるだけで甘い匂いがするらしいから、乾かしてなくても匂いは結構するでしょう。…たぶん。
現代じゃないので、麻縄とかでも使うから普通に栽培してる駅もあります。


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南海道 16

「来栖と生駒は寝ろ。今晩は起きていて貰うからな。」

 

「お前が一番寝た方が良いと思うんだが。昨日とか立ったまま寝てただろ。」

 

「軍議に行ってくる。もう一度言うぞ。寝ろ。お前の配下もだ。」

 

「わっわかった。」

 

最上が据わった目で来栖に圧をかけ、来栖の了承を聞いてから、糸賀と狩方衆の1人を連れて軍議へと向かって行った。

 

明け方に襲撃があったことから、軍議は昼過ぎに開かれた。昼間は無名と瓜生、狩方衆と流民上がりの武士が警戒を担当し、来栖と生駒、来栖の配下は夕刻まで睡眠をとった。来栖が起きて車上に上がると、瓜生が大層引いた目で最上と話していた。軍議で一体何が決まったやら、恐ろしくて聞きたくはないが、夜間の担当を言いつけられた以上間違いなく、自分は当事者になるのだ。

 

「正気か?麻を吸いすぎたか?」

 

軍議の内容を聞いた来栖の口から出た台詞がこれである。

 

「正気だぞ。高松の城主と散々計算もした。つるぎと三豊も反対はしていない。いざとなれば大豊、三島、まんのうに頑張って貰おう。」

 

(つるぎはともかく、三豊は反対出来ないだけじゃないか?)

(高松はうちの次に長居してるからなぁ。)

(高松の城主すげぇぴりぴりしてるもんな。)

 

武士達はこそこそと無駄口を叩いた。

 

軍議に出た城主の中で一番ストレスが溜まっているのは最上かと思いきや、実のところ高松の城主が一番ストレスを溜め込んでいる。蓬莱城は駿城そのものも非常に頑丈な上、前衛面子を抱えているのだ。なんだかんだ全滅の心配まではしていないが、高松などカバネリが来たら、掃射筒以外対抗手段がない中、決定的な損害がないため後退も出来ずに長居させられているのである。しかも木村が、唯一の対抗手段である掃射筒による掃射を避けたり、打ち落としたりしたものだから気が気ではないのだ。

 

つるぎもまんのうが追い詰められていくのを見ていたからか、多度津入りしたばかりの三豊とはストレス具合が違う。

 

「今晩の主な指揮は高松に任せた。防衛は任せたぞ。」

 

最上はさっさと蓬莱城に引っ込んで行った。

 

この日は作戦の都合上、再び篝火を阻塞の先に設置し、それ以外にも全車両に火が入っている。電気の供給の為に駿城に火を入れていたこともあるため、そこまで異様な光景ではないが、これからを知る来栖は微妙な目で高松の駿城を眺めた。

 

いつも通りカバネの襲撃が始まり、甘い匂いが東方から漂った。東側の警戒についていたつるぎの武士が信号弾を打ち上げた瞬間、高松の駿城の鎮守砲が火を吹いた。昼間の軍議で散々計算した通り、多度津の城に着弾した。着弾位置は、木村から提供された奥方がいるという位置である。

 

高松の鎮守砲は、今多度津にいる駿城の中で一番口径が大きく、飛距離も最長である。海門と同じく、カバネの金属被膜が網の様にめぐらされている為、鎮守砲が一発当たったところで崩壊などしない。

 

麻を篝火に焚べた大西は、まさかの砲撃に呆気にとられた。麻を焚べて直ぐに、合図と思われる光弾が打ち上げられ、鎮守砲が撃たれたのだから報復行動なのは一目瞭然であった。

今まで慎重に、カバネを減らすことに注力していた高松駅らが、カバネの襲撃そのものではなく、麻を焚べた事で砲撃に出た。

 

その後も高松からの砲撃は続き、計3発が撃ち込まれた。大西は慌てて城へ向かい、城からは使役されたカバネが拠点を襲撃したが、襲撃ありきの砲撃であったため、拠点側は通常通りに迎え撃った。

 

これは完全に南海道四国連合側の嫌がらせで、嫌がらせには嫌がらせということである。海門ではなるかみによる砲撃で、城のカバネの呻きが活発になった事と、無名曰く不安な気持ちが融合群体の核に集まるとのことであったので、カバネを騒がせることで奥方に対して嫌がらせをしているのだ。大西や多田が奥方自体をどう思っているかは知らないが、領主の東雲は奥方の為にこんな事をしているのだから、奥方に負担がかかるのは避けたがる筈と考えた。

 

鎮守砲を撃ち込みカバネを刺激することで、融合群体になるのも致し方なしの手段であったから、全車に火を入れていつでも駅外に逃れられるようにした。奥方が融合群体になり駅外まできてしまえば、カバネリも融合群体を追わざるを得ない。遮蔽物も碌にない駅外ならば此方としても戦いやすい。

 

カバネリ全員が黒血漿を使って追って来る可能性もあったが、黒血漿は理性がなくなるため、同士討ちの危険性もある。多度津側もそう簡単には決断出来ない。

 

かなり強引な手段ではあるが、高松の城主がこの決断をするくらいには、夜間の襲撃と麻の匂いはストレスを与えていた。

 

翌日以降は麻を焚べらることがなくなった。怒るか引くかは読めぬところであったが、臆病な性格故か、奥方を慮ってかは不明であるが、麻により足並みを乱されることはなくなった。

 

南海道四国連合側が、麻を嫌がった事など丸わかりであるのに、一度の報復程度で引いたのは意外であった。麻を焚べられる度に、鎮守砲をぶち込む気満々であった高松の城主などは、不完全燃焼も良いところであったが、南海道四国連合全体としてはいい結果だ。

 

「まあカバネリがいつ襲撃して来るか分からんのは変わらないんだがな。」

 

蓬莱城からすればこれに尽きるのだが、誰にでも分かる形でカバネリの存在を主張される圧が無くなったことで、全体的には落ち着きを取り戻した。

 

「つうかよ。これじゃあ膠着状態じゃねぇか。麻焚べにきたカバネリを殺した方が良かったんじゃねぇの?」

 

「己もそう思うが、何かあるのか?」

 

「そもそも人間かカバネリかの区別はついても、カバネかカバネリかの区別はつかんのだろう。」

 

「そうだね。そんな細かいことは分かんないかなぁ。」

 

無名は最上の問いかけに頷いた。

 

「カバネの襲撃にあわせて近くまで来ていても、都合よくカバネリ一体を感知するのは現実的じゃない。多田が麻を焚べて、大西が別方向で待機してたらどうするんだ。此方は、浮き足立った拠点を守りながら、大西が黒血漿を使う前提で、来栖と無名殿を出すしかないんだぞ。来栖と無名殿が多田に釣られてる間に、黒血漿を使った大西が突っ込んで来たら目も当てられん。南海道の武士が死ぬのは良いが、蓬莱城の武士が大打撃を受けるのは困る。」

 

「そういう言い方。生駒が怒るよ?」

 

「なんとでも。どうせ誰かしら死ぬ。ならば南海道の武士に死んでもらう。うちの欠員は認めんぞ。」

 

「木村って奴と一騎討ち始めた奴がなんか言ってらぁ。」

 

現在蓬莱城内にて、前衛面子で話し合っているが、生駒は外で警戒についておりこの場にはいなかった。最上とて生駒がいたら、態々キレさせるような発言はしない。欠員は認めないと言う最上を瓜生が鼻で笑う。

 

「別に好きで一騎討ちした訳じゃないんだが。」

 

最上としては心外である。あの状況で他にどうしろと言うのか。

 

「それで?膠着状態を続けるのか?」

 

「暫くはな。お前達を突出させたとて、カバネリが釣られてくれるとは思えん。私と生駒で突出すれば、釣られてくれるかもしれんが私が死ぬぞ。木村殿1人相手であのざまだ。」

 

「餌が高くつき過ぎるな。」

 

「とりあえず、カバネを減らすことに注力しよう。操車場から先の線路は後回しだな。南海道四国連合は我々が拠点を大きく離れるのを嫌がっている。多度津もカバネを無駄に消費することを良しとはせんだろう。多度津側が新たな嫌がらせを始めるか、襲撃をやめるかせんと此方も余計なことは出来ない。」

 

「嫌がらせが来たら、また城に鎮守砲ぶち込むのか?」

 

「勿論。故に多度津側は実質襲撃を止める他ない。襲撃の回数が極端に減れば、我々も拠点を少しは離れられる。」

 

「うへぇ。先が長いな。」

 

瓜生が舌をべっとだして、嫌そうな顔をする。

 

「文句を言うな。顕金駅は順調に行きすぎて奪還が早かっただけだし、カバネリ5体の状態から始まっていると思えば、既に2体殺しているのは早いだろうが。」

 

大きな動きがなく数日が経過し、下津井駅の駿城が多度津に物資の搬送にやってきた。食糧などは、多度津から離れた南海道四国連合の駿城が運んでいるのだが、弾丸などの物資は、下津井駅が周匝駅から、顕金駅と周匝駅で製造されたものを運んで来るのだ。

 

「げっ!わんころ!」

 

瓜生は山本を発見すると、そそくさと逃げて行き、同時に生駒も逃げて行った。丁度よろしく最上は休憩中であった為、雅客が最上を山本の元へと連れて行き、下津井の城主は、顕金駅に関わる時は山本を好きにさせておく気らしく、蓬莱城の面子のところに来た山本を特に咎めることなく放置している。

 

流石に他駅もいる中、家老の最上が完全に私事の態度をとるわけにもいかないとわかっているのか、最上を連れて下津井の駿城へと入っていった。

 

下津井の駿城は、物資の搬出で忙しくしているが、山本は最上を客車へと連れて行き、自分が普段使っている寝台に座らせた。

 

「ふっふっふっ。いい物持ってきたぞ。」

 

山本は荷物の中から、着物の塊を取り出した。着物の塊の中から小さい陶器の瓶を取り出して栓を抜いた。

 

「ほら。手を出せ。」

 

「えっ。なんです?」

 

まあいいかと恐る恐る手を出すと、山本は陶器の瓶を傾けて中身を最上の掌にいくつか出してきた。

 

「柚子の皮の砂糖漬け!」

 

柚子の皮は煮た後しっかり乾燥されており、周りには砂糖が塗されていた。山本は最上の掌からひとつとって口に放り込んだ。

 

「うん。良い出来だ。」

 

山本が食べたのを見てから、最上も口に入れる。

 

「美味いだろ。」

 

「はい。甘い物は久しぶりなので。」

 

「俺が作ったんだぞ。」

 

「はっ?」

 

他駅の家老に手作りの物を食わせるとんでもねぇ男である。最上の掌に出した分を2人で食べきり、掌に残った砂糖を最上がぺろりと舐めた。

 

「美味しいのが腹立つ。」

 

「素直に悔しいと言いたまえよ。」

 

からからと笑いながら、山本は瓶に栓をして、そのまま瓶を最上の膝の上に置いた。

 

「やる。頑張れよ。死なない程度に。橋は落ちたら落ちたで仕方がないだろ。」

 

「城主に聞かれたら怒られますよ。」

 

砂糖の流通でかなりの利益を出している下津井の武士の言うことではない。

 

「死ぬなよ。死ぬくらいなら、橋くらい良いだろ。またかければ良い。それまでは、別の橋使ったって良いじゃないか。」

 

「工事がどれだけ大変だと思ってるんです?」

 

「わかってるよ。建設には下津井からも人が出たんだ。建設時に死んだ人だっているし、維持管理に下津井だって協力してるしな。」

 

「ならそんなこと言うべきじゃないでしょう。」

 

「でもお前関係ないだろ。関係ないところで死ぬな。」

 

山本は、真剣な顔で関係ないと言ってくるが、莊衛の事がある以上、顕金駅は無関係ではいられない。研究が進めば碌なことにはならないとわかっているからだ。

 

「あなたの真面目な顔初めて見ました。」

 

「茶化すなよ。いまのぐっとくるところだろ!」

 

「その一言でしらけましたね。」

 

急におちゃらけた山本をじとりと見る。

 

「なんて奴だ!…なぁ、嫁さん泣かすなよ。」

 

「あの人は泣きませんよ。」

 

「じゃあ俺が泣くからな!言ったら俺の手紙が始まりだろ。」

 

関係のあるなしより、一番山本が気にしているのは其処なのだ。自分がなんとなしに書いた情報で顕金駅が出張ってきたのだ。領主に褒められて初めて気がついた。自分がきっかけで友人が死ぬかも知れないのだ。

 

友人とはいえ武士である以上、死ぬこと自体は仕方ないと山本も思っている。だが今回は全く関係のない出雲から顕金駅が来てしまった。出雲を守って死ぬなら誇りであろうが、遠路遥々やって来た讃岐の地で死ぬ必要はないのだ。

 

「この件は遅かれ早かれ関わる事だと思います。」

 

「死んだら墓に水飴塗りたくって、墓石ありんこ塗れにしてやるからな。」

 

「よくそんな嫌がらせ思いつきますね。」

 

遠くで搬出完了の声がする。

 

「まあ、これはありがたくいただくとします。」

 

「おう!」

 

山本はにっこり笑って最上を外に連れ出した。

 

「お返ししまぁす。おいくらですか?」

 

雅客のところまで最上を連れて行き、こんな事を言ったので雅客も下津井の城主もギョッとした。

 

「揚代1両になります。」

 

「高っ!大夫かお前は。」

 

最上の返しに山本がどついて返すものだから、下津井の城主は山本の頭を引っ叩いて、山本の耳を引っ張りながら退散して行った。

 

「最上様も冗談言うんですね。」

 

「そのくらい言うが?」

 

下津井の駿城の出発準備が整ってゆっくりと多度津駅から去って行った。

 




以前和三盆で喜んだので、甘い物好きだろうと甘い物で餌付けする山本君。ホモ君の好き嫌いを熟知してるわけではない。酒が飲めないのも知らない。
いうて金剛郭の年賀の挨拶の時に2年連続で会ってただけだから。初めての年に手紙送るからって言われて、ホモ君がはてな浮かべたら友達だろ!ってなんの含みもなく言うので友達になった。
ちなみに有言実行の男なので、今回の件でホモ君が死んだら、本当に墓に水飴を塗りたくりにいく。


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南海道 17

東雲は、じりじりとカバネが減らされていく現状に苛立っていた。

 

(何を捨てても共に生きると決めたのだ。)

 

青く光る繭の様なものに包まれた愛しい妻を見上げる。

 

「これ以上カバネが減ると研究にならんぞ。」

 

莊衛が近くの機械から顔を上げる。

 

「わかっておる。」

 

「それに木村と言ったか?黒血漿を使ったのに、ただの人間に殺されおって。」

 

「木村は剣の腕はそこまでではない。仕方があるまい。」

 

「馬鹿を言え。顕金駅の野良のカバネリなど元々武士ですらない。それでも黒血漿を使ったときは桁違いであった。アレも素体は興味深い。無名といい、野良といい、黒血漿を使っておきながら、今もカバネリとして普通に過ごしておる。なにが違うのか…。」

 

莊衛は最初は東雲に向かって話していたものの、途中から独り言になりぶつぶつと喋り続けた。

 

「停戦は呼びかけられぬだろうか。顕金駅からきた武士は、カバネが集まりすぎている事を気にしていただろう。これだけ減ったのだ。跳ね橋を上げてしまえば増えもしない。」

 

「東雲様。顕金駅はさておいても、他の駅の武士を何人も殺している以上、不可能かと存じます。」

 

東雲の弱音に多田が首を横に振る。

 

「いっそカバネリさえ殺せれば、他の駅を打ち払うことも可能ではないですか?」

 

「大西。あの娘っ子を儂と2人がかりで討ち取れなかったことを忘れたか。その後交戦した武士も、人間だというのに異常な強さだったではないか。来栖と呼ばれておったか?」

 

「ですが、非重殿の言う野良とやらと、堀川は間違いなく討ち取れます。堀川は木村との交戦以降、まともに白刃戦はしておりません。負傷でもしたのでしょう。」

 

「暫く放置しておけば、勝手に分かれて行動し始めるだろう。分かれ方を見て決めよう。もし堀川と野良とやらだけが残る機会があれば、一気に落としても良い。野良とやらは良いとしても、堀川を殺せば士気は落ちる。あれで家老なのだろう?人材不足が知れるわ。」

 

「小娘と来栖とやらは、私が黒血漿を使えばどうとでもなるでしょう。」

 

「馬鹿者。不確定なものをあてにするでない。…好井が討たれたのは大きいな。好井がいれば多少の無茶も通せただろうに。」

 

多度津側は瓜生の存在は認知しているものの、家老の最上、莊衛の気にしている無名と生駒、短時間とはいえ大西と多田を抑えた来栖の印象が強く、そこまで警戒はされていない。頭抜けて強くはないが、最上や生駒より強いか同程度の評価である。凡そ正解である。

 

東雲は多田と大西のそんな会話を聞いてはいたが、どうにか引いては貰えぬかとカバネ一体に文を持たせて、南海道四国連合の拠点へと送り出した。勿論カバネは殺されたが、カバネを殺した後金属被膜を回収する蓬莱城の武士が文を回収した。そもそもカバネが、一体だけでやってきたことに疑問を感じ、連合側もそのカバネを警戒していたのだ。

 

東雲からの停戦要請の手紙に高松駅の城主は激怒した。読んで直ぐに、多度津の城に鎮守砲を撃ち込むくらいには怒っている。

 

「あの小僧ぉ。ここに来て我らが引けると思うているのか。それとも此方をこけにしておるのか。」

 

人間同士の戦ならば、ある程度で譲れるが、カバネとカバネリ対人間なのだ。両者痛み分けとは考えられない。南海道四国連合側に多大な損害が出た時点で、もう引けない状態なのである。

 

数日は襲撃もなく、南海道四国連合には挑発ととられた文により、こちらから行動すべきとの気運が高まった。恐らくこちらが動けば、多度津側も放置はすまいと、軍議ではあれこれと意見が交わされる。

 

結果として、まずは操車場の先の線路を確保することが決まった。

 

来栖と生駒、来栖の配下を半数拠点に残し、それ以外の面子と高松の武士30名は蓬莱城で操車場へと向かった。初めに、北側へ抜ける線路の罠や障害物を撤去し、それが終われば、その他の線路から罠や障害物を取り除いていく。

 

カバネをこれ以上減らされては困るのか、彷徨いているカバネに遭遇するのみで、襲撃されることもなかった。それは拠点側も同じで、来栖と生駒はひたすら待ちぼうけであった。数日にわたる作業の為、交代しないかと持ちかけるも却下され、ただ待ち続ける日々である。

 

戦力的に無名と来栖は分けて運用したいし、カバネの感知を考えれば、無名と生駒も分けて運用したい。となれば無名、瓜生、最上と、来栖、生駒に分かれるのは致し方ない。罠の撤去を考えると無名、瓜生、最上の組み合わせが、蓬莱城で線路の安全確保に向かう方が合理的である。

 

無名と来栖が分かれたことで、どちらも危険ではあるのだが、相手も襲撃をするには賭けになる。黒血漿を使うと敵味方の判別がつかなくなる可能性が高い為、大西と多田の両者が同時に黒血漿を使って同一場所を襲撃する可能性は低い。

 

どちらかが黒血漿を使い、同一場所を襲撃する可能性もあるが、下手をすれば大西と多田の両者を同時に失う可能性が高い以上、東雲が踏み切るとは思えない。白血漿を使っても無名や生駒の様に正気に戻る可能性の方が低いのだ。少なくともどちらかを手放すつもりでなくてはならず、追い詰められきってはいない現状で使ってくるとは考えられない。

 

東雲が、大西や多田をまだ手放せない段階と考えられる状況で、事を進めておく必要がある。つるぎの駿城が、駅外にいる連合の駿城に伝達に行き、駅内と駅外で着々と準備が進む。

 

線路の安全確保を始めて5日、予定していた範囲内の障害物の撤去が完了した。

 

「そういえばさぁ。城の中にいるよね。カバネリじゃない人。」

 

「莊衛のことか?」

 

「違うよ。お弁当の為にも必要じゃん。」

 

「あっ!そうか!」

 

「確かに!」

 

軍議に最上と来栖が出ている間に、無名がそんなことを言って、生駒や吉備土がハッとする。瓜生は苦い顔でそんな一行を見ており、雅客は目線を逸らした。

 

最上がその想定をしていないとは思えず、かといって話題にしなかったのだから、いないものとして扱う予定だったとしか思えない。だが無名が生駒達に気が付かせてしまったのである。

 

南海道四国連合の駅からすれば、だったらなんだという話で、気がついたところで救出だなんだという話が出るとも思えない。

 

吉備土はすぐにそれに気がついたのか、渋い顔をして黙り込み、生駒はそんな思惑には微塵も気がつかなかった。

 

「生存者がいるなら助けないと!」

 

生駒は吉備土を、パッと見上げた。そして吉備土の表情に疑問を覚えた。

 

「吉備土?」

 

吉備土とて助けられるなら助けたい。だが、どこにいるかもわからない生存者の救出に人手が割けるとも思えず、連合側も、僅かばかりの生存者の為に作戦を変更するなどいい顔はすまい。そして何より、今回吉備土は仲間に死人が出るくらいなら、見捨てると宣言したのだ。

 

「生駒。諦めてくれ。偶然拾うのはあり得ても、捜索は無理だと思う。」

 

「でもっ!」

 

「来栖や無名が大西を単騎で討ち取れるかもわからない。多度津の民を助ける余裕はない。生存者を考慮すれば、今進んでいる計画を白紙に戻さなければならない。南海道四国連合を納得させることは不可能だ。…それに、多度津の民を助ける為に、誰かが死んだりしたら俺は嫌だ。」

 

「…わかりました。」

 

苦しそうな吉備土の表情で、どうにもならないことだと分かった生駒は、残念そうに頷いた。同じ意味の台詞を吐いても、最上であれば淡々とした表情であるし、言い回しが悪い事が多い為、吉備土や生駒の反感を買いやすい。最上が上侍らしさを追求したが為の悪癖と言える。

 

 

軍議を終えて、最上や来栖が戻り今後の方針を説明した。

 

3日後、南海道四国連合と蓬莱城は拠点を放棄し、確保した線路上から蓬莱城以外の駿城で、多度津の城に対して砲撃を行う。融合群体が発生すれば、狙われた駿城が融合群体を駅外へと引き連れていく。他の駿城も融合群体を追い、鎮守砲で破砕を試みる。駅外で待機している駿城も、融合群体を仕留める為に待ち受ける。自走臼砲の駿城もいる為、破砕できないとは考えられないし、瀬戸大橋をなんとしても落とされるわけにはいかない為、死に物狂いで融合群体に対応する心算なのだ。

 

駅内に残った蓬莱城は、2班編成で木村の提供した地図情報を元に、多度津の城へと進行する。カバネリが融合群体と同じ速度で移動するのは不可能である為、カバネリは駅内に残っているはずで、東雲が城に居る以上、大西と多田も城から離れられない。万が一、東雲が融合群体を追えば、無名が狙撃で東雲を殺す。

 

「融合群体引き剥がしたら、お城壊れちゃわないの?海門の時壊れちゃったでしょ。」

 

「おっ。無名殿よく気がついたな。」

 

「おい。最上。軍議でそんな事言わなかっただろう。」

 

来栖がじとりと最上を睨む。

 

「私が謁見で見た状況と、木村殿の地図の書き込みからすると、すぐには崩壊しないと思う。たぶん。」

 

「たぶんってお前。」

 

「海門と多度津では、海門の方が融合群体が取り付いていた期間が長いし、取り込んだカバネの数も違う。多度津は海門程金属被膜は多くない。あの金属被膜は融合群体の一部みたいなものなのだろう?西側はそれなりだったが、謁見に使われた東側は殆ど金属被膜はなかった。二ノ丸は崩壊するだろうが、本丸は恐らく問題ない。まあ長居は無用だがな。蓬莱城の警笛がなったら速やかに脱出しろよ。もし崩壊しなかったら、あとで臼砲でもぶち込んでもらおう。」

 

「態々壊すんですか?」

 

「うちがこっそり研究機材を持ち出せるなら、残しておきたいが流石にそうはいかんしな。残しておいて悪用されては堪らん。」

 

莊衛がいなくなったとしても、研究資料や研究機材から気付きを得る者がいないとは限らない。

 

東雲が奥方に固執したせいで失敗したが、大西と木村をカバネリにした段階までは、客観的には悪くない状況なのだ。顕金駅はカバネリの戦力を使い、急速に再興を果たし、多度津もカバネリの戦力を得てから、駿城の行き来が順調であった。側から見れば、多度津が上手く使えなかっただけなのだ。自分なら上手く使えると考える者が現れないとは思えない。

 

多度津の者と莊衛、そして顕金駅以外では、現状カバネリになる方法を知っている者はいない。カバネリの技術など広めるべきではないし、潰えてしまうべきなのだ。




書いてる途中で気がついたけど、お弁当要員必要よねって。というか海門の景之殿はどうしてたんだろうか。カバネでも齧ってたの?

まあ生存者は当然見捨てます。そんな余裕はどこにもねぇ!

高松の城主はバチくそにおこです。ストレスは人を追い詰めて、鬱々とすることもありますが、怒髪天を衝くタイプもいます。やってやるよクソが!ってなってたのに、燃料(停戦のお手紙)投下した東雲さん。


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南海道 18

多度津の城には、高松、つるぎ、三豊、そして今回初駅内入りした大豊の駿城が、絶えず鎮守砲を撃ち込んでいる。高松と三豊が北側に配置し、大豊とつるぎが南側に配置されており、蓬莱城は操車場直近の、建物で隠れた位置からその状況を観察する。

 

「頭いたぁい。」

 

無名が頭痛を訴え、生駒も顔を顰めている。海門の時の話からするに、今も不安な気持ちとやらを、なんらかの形で受信しているのだろう。

 

城を覆うカバネが蠢いて、徐々に融合群体が姿を見せる。それに合わせて多度津の城の二ノ丸は崩壊を始めた。融合群体の頭部らしき部分が、持ち上がろうとした時、丁度よく大豊の鎮守砲が頭部らしき部分に直撃した。融合群体は遠吠えの様な声を上げて、大豊の駿城へと頭部を向けた。

 

大豊の駿城は大急ぎで南側の検閲所へと向かう。大豊が目をつけられたことで、北側にいた三豊と高松は沈黙し、大豊と同じく南側にいたつるぎも大豊に続く。つるぎの駿城には鎮守砲が2門搭載されており、大豊の駿城と二城で砲撃をしながら後退していく。融合群体が四つん這いで後を追うが、右手にあたる部分に砲撃があたり、体勢を崩して商家の並びに突っ込んだ。その間に検閲所を通過し、つるぎと大豊の駿城は南東方へと全力で走って行く。融合群体は南側の検閲所を無視して、南東の壁をぶち抜き、堀を越えてつるぎと大豊の駿城を追い始めた。

 

高松と三豊は北側から出て、別方向から合流するつもりであったが、南側の検閲所と跳ね橋が無事であったことから、南側の検閲所を抜けて融合群体の後を追った。

 

無名、生駒、瓜生、流民あがりの武士、狩方衆の一部で1班、来栖、最上、来栖の配下の一部と残りの狩方衆で2班を編成、他は蓬莱城に残り防衛を担当する。

 

いつもであれば、前衛面子は無名と最上と生駒か瓜生、来栖と瓜生か生駒の組み合わせであり、瓜生に狩方衆全員、最上側に流民上がりがつくのだが、今回は大西が黒血漿を使う可能性を考慮して、無名と来栖がそれぞれ連携がとりやすい、瓜生と最上が配置され、生駒は気持ちで戦力が左右されるため、無名側についたのだ。

 

前衛面子が来栖と最上だと、無名班とのバランスが悪いため、来栖の配下と狩方衆を最上側につけることになった。来栖の配下と狩方衆はやはり練度が違うのだ。流民上がりの武士達は、生駒と相性は悪いが、無名班は実質指揮を取るのは瓜生であり、指揮系統に問題は生じない。生駒と瓜生は相性が悪いが、今回ばかりは両者我慢してくれとしか言いようがない。

 

「東雲さんは、奥さん追わなかったね。」

 

「大西あたりに止められたんだろう。」

 

無名は狙撃用の蒸気筒を下ろして、近くにいた吉備土に渡し、蓬莱城から飛び降りて瓜生達に合流した。

 

来栖と最上は先行して、北側の隠し通路から城を目指し、無名達はトロリーに乗って城を目指す。トロリー乗車中は、無名はスピンカートリッジの蒸気筒を使い残るカバネを狙い撃つ。

 

来栖達も隠し通路内をトロリーで進行していた。

 

「お前。出発前に薬を飲んでいたと聞いたが、体調不良とか言わないだろうな。」

 

「大丈夫だ。咳止めだよ。」

 

「…咳止め?咳などしていなかったと思うんだが。」

 

「まあ咳を止めるために飲んだわけじゃないからな。体調も問題ない。」

 

「よく分からんが、大丈夫なら構わない。」

 

城に近づくにつれて、隠し通路内には金属被膜が増えていく。しかしながら融合群体はもう居ない為、金属被膜を切ったところで感知されないし、来栖と最上は人間であるから、カバネリにカバネの気配で感知されることもない。木村から提供された隠し通路は複数あり、たった3人で隠し通路を抑え切ることは出来ない上、堂々と正面から無名達がやって来るのだから、東雲達は来栖達が城内に侵入したことに気が付かなかった。

 

「領主を守るなら、謁見で使った部屋あたりが良いだろう。まずはそちらを目指す。」

 

「ふむ。道案内は任せる。」

 

来栖も一応城内の地図を覚える努力はしたのだが、城は中々複雑で最上がいるなら道案内を任せて、周囲の警戒に気を払う方が合理的である。城に取り残されたカバネを斬りつつ、城内を走って移動して行く。

 

「あそこだ。無名殿が正面から来ている以上、大西は恐らく正面だろう。東雲殿といるとしたら多田だろうな。」

 

「東雲殿の実力が分からんが、黒血漿を使われたらそちらを己がやろう。」

 

「そりゃそうだ。使われなくてもカバネリなんて私の手に余る。さっさと殺して助けてくれ。」

 

「素直なのは良いことだな。」

 

来栖はスッと襖に近づいて、最上達を窺う。最上が頷いたことで、すぱんと襖を開け放った。

 

 

無名達は、トロリーで城に進行していたが、トロリーの線路が融合群体により破壊されてしまった為、途中から走って城に向かっていた。

 

鍛錬で使うのだろう広場に出たところで、大西が待ち構えており、様子を見るに黒血漿を使ったようである。

 

大西と無名が激突したが、無名が大きく弾き飛ばされ、大西の猛攻が始まる。瓜生と生駒がちょいちょいと援護に入るが、生駒は直ぐに右大腿を切られ戦線から外れる羽目になった。

 

「野良!てめぇ!」

 

瓜生は必死に援護をしながら、生駒に怒声を飛ばした。散々最上と来栖にぶっ叩かれたが、そんなすぐに適応出来たら世話はない。無名の継戦時間の都合もあるから、出来るだけ早く仕留めたかったがそうはいかないようである。それどころか無名が押されている。来栖と最上の手合わせの最上の様に、無名が押し負け回避を優先している。

 

「っ!この!」

 

無名の蹴りが大西の胴に入るも、大西は微動だにしない。来栖より速く重い剣撃が無名を襲い、無名は回避ばかりをすることになっている。二丁の蒸気筒で撃とうとも、胴体部分に飛ぶ弾丸は刀で打ち落とされる。

 

無名は、少しずつ切り傷が増えていき、肩で息をしている。

 

「野良ぁ!まだかぁ!」

 

「入れる!」

 

瓜生が一旦下がるのに合わせて、生駒が前に出た。瓜生は狩方衆と流民上がりの武士に指示を素早く飛ばす。

 

生駒が弾き飛ばされるのに合わせて、瓜生が前に出て大西に信号弾を撃った。信号弾の光は大西の目を潰したが、黒血漿を打った大西には、無名が大西の目が暗んだ今攻めてきても、捌き切れる程に身体能力が底上げされていた。経験による勘と、カバネの気配を察知できるカバネリの力がそうさせている。

 

「…?」

 

だが、無名は攻撃を仕掛けては来なかった。視界が戻ると、無名どころか人っ子一人居なくなっていたのである。瓜生は一度立て直させるつもりで、無名を抱えて全力で逃走していた。生駒も狩方衆に手を引かれ、戦線を離脱させられた。

 

 

一方来栖達の方は、謁見の間にいたのは東雲だけであった。東雲は黒血漿を使っており、どう見ても正気ではない。木村より獣じみた立ち姿だ。

来栖と激突し、来栖は後退を余儀なくされた。東雲は速さが最上と同程度、力は来栖より上で、剣の腕は恐らく結構あったのだろうが、木村より獣じみた動きをするので、正確には測れそうにない。最上が援護に入り、若干来栖が押されつつも、無名達と大西の様に逃走しなければならない程の脅威ではない。最上が嫌がらせの様に四肢を狙い、動きが鈍ることで東雲と来栖は凡そ互角となっていた。

 

補助として援護に入っているだけにも関わらず、最上は割と全力で戦っていた。速さが同程度であるので、気を抜くわけにはいかないのだ。来栖が上手く受け流して、東雲の首を刎ねようとした瞬間、最上が来栖に衝突した。来栖は最上を引っ掴んで、サッと東雲との距離をあける。

 

東雲からだいぶ離れた位置に、多田の姿があった。東雲に巻き込まれないように、最上を吹き飛ばした後、すぐさま飛び退ってその位置に避難したのである。

 

多田は最上を攻撃したのではなく、来栖に対して横薙ぎの一閃を放ったのだが、最上が刀で受け止めに入り、受け止めきれずに来栖に衝突したのだ。

 

多田は黒血漿を使っている様子はなく、多田の相手は最上がすることになった。

 

最上の援護が無くなったことで、来栖は多少苦戦しているようだが、打ち合う内に東雲の動きに慣れ始めていた。問題は最上の方である。謁見の間に入る前に自己申告した通り、カバネリの相手は手に余る。しかも東雲の目が他に移っては困る為、武士や狩方衆に援護も頼めない。

 

「無様に逃げ回って恥ずかしくないのか?」

 

「いや全く。お前こそ背後から斬りかかっておいて失敗したんだ。さぞ恥ずかしかろう。」

 

最上からすれば、カバネリ相手に時間を稼いでる時点で上等なのだ。最上の返しに多田の眉が、ピクリと動いたが挑発に乗る気はないようだ。剣筋が乱れてくれた方が助かるのだが、多田もそれを狙っているのだ。似た者同士である。まあ最上の方が圧倒的に押されているが、強い奴に転がされ慣れているので、決定打を打たせないことに終始する。

 

来栖が東雲の動きに慣れて、次第に東雲を押し始めた。

 

「お主の様な小僧が家老なぞ、領主の程度が知れるわ。」

 

「ははっ!顕金駅は栄えているぞ。崩壊してる多度津に言われても痛痒にもならん。月夜の蟹め。」

 

来栖と来栖の配下は、菖蒲への侮辱にピクリとしたが、最上は即座に言い返し、むしろ月夜の蟹に意識が行った。

 

(使ってる人初めて見た。)

 

頭が空っぽだと侮辱された多田は、あからさまには乗ってこないが、確実に苛ついていた。そして最上が忘れていることがある。カバネリは気持ちで実力が左右されるということだ。多田はこの瞬間、いつもより少し強く速く斬りかかることが出来た。

 

最上は振り下ろされた刀の回避には成功したが、直ぐに繰り出された裏拳が脇腹に当たり、ぱきりと乾いた音を聞いた。そのまま転倒しながら距離を取った瞬間、東雲の首が飛んだ。最上の背後で首が飛んだため、最上は事態を把握できなかったが、東雲と多田の間に最上がいた事で、多田は来栖が東雲の心臓を貫くより速く、東雲のもとに駆けつけることが出来なかった。来栖が、東雲の心臓に刀を突き立てると同時に、多田は全力で逃走した。

 

「はっ?」

 

背後からどさりと音がして、初めて来栖が東雲を討ち取ったことに気がついた。

 

「無事か?」

 

来栖は涼しい顔で、最上の様子を窺う。最上は脇腹に手を当て、少しばかり身体を曲げており、負傷したのは一目瞭然であった。

 

「いや。折れた。物凄く痛い。」

 

「…そんなにか。」

 

「麻黄なぞ飲んでいるからでしょう。」

 

「まおう?」

 

狩方衆からの指摘に来栖は首を傾げた。

 

「咳止めとして出回ってますが、まあ簡単に言えば興奮剤です。」

 

「興奮剤。」

 

「疲労感がなくなり、頭が冴えたりします。神経過敏になったりもしますけど。」

 

所謂ドーピングである。最上は麻黄にそういう効果があるとわかっていて飲んだのだ。来栖の足を引っ張らない様に、服用していたが少しばかり神経が過敏になり、折れた場所が物凄く痛い。元々ヒビが入っていたあたりが折れたようである。

 

「あとで説教だ。とりあえず固定してやれ。」

 

来栖は難しいことはわからないが、身体に良いものでない事くらいはわかる。とはいえ、最上なりの死なない為の手段だと思えば、致し方ない気もするのだ。看護師に相談するか、顕金駅に戻ったら楓に相談しようと決めた。

 




スポーツ選手が咳止めでドーピング検査引っかかったりするやつ。
ホモ君はとうとうドーピングに手を出しました。だってカバネリと戦うの無理だもの。麻黄は成分が覚○剤に成分が似ているそうです。葛根湯とかにも入っているので、適量なら全く問題ありません。ホモ君は用法用量を守らず服用しました。


月夜の蟹
月夜の蟹は中身がスカスカと信じられていた。(月光を恐れて餌を漁らないと認識していたようです。)転じて、見た目が立派でも、中身が伴わないとか、知能指数が低いとか、内容が無いとか、そういう意味になるそうです。


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南海道 19

無名と生駒は、お弁当を飲んで回復に努めていた。黒血漿を使った大西は強く、そう簡単には討ち取れない。だが大西を来栖達の方に任せる訳にはいかない。

 

来栖は良いとしても、最上が大西にまともに対応出来るとは思えないのだ。無名の状況から考えて、来栖ですら一方的にやられる可能性すらある。生駒と瓜生の2人がかりで、やっと無名の援護ができるくらいなのだから、最上1人で来栖の援護は無理がある。

 

城から1発の信号弾が打ち上がった。カバネリを1体討ち取った合図である。

今回の作戦にあたり、信号弾の合図を変更していた。

 

1発は討ち取った合図で、2体討ち取った場合は2発間を開けて上げる。2発同時が救援要請である。多度津では、救援要請に1発打ち上げるのを使っていた為、1発のままだと救援が必要な状況が相手にも知られてしまうからだ。変更したことによって、救援が必要な状況に追い討ちをかけに来た者は、討伐を終了した者にぶち当たるのだ。

 

「拙いな。」

 

「何が?」

 

瓜生は、信号弾を見て苦い顔をしており、無名は首を傾げた。

 

「大西とやらがあっちにいっちまう。忠犬はまだしも仔犬ちゃんは死ぬぞ。」

 

「あっ!」

 

本来なら、フリーになった来栖達のところに、大西が行くのは構わないはずであったが、大西の強さを考えたら来栖達の方に行かれるのは拙いのだ。

 

無名も生駒もとりあえず回復したことから、大西をこちらに呼び込む為に信号弾を打ち上げた。

 

 

最上達は信号弾を打ち上げた後、何か応えがあるか少しだけ待機していた。

最上達は城内にいる為、先に信号弾を上げた形だが、もし無名達が大西を討ち取っていれば、信号弾が1発上がるはずなのだ。

 

「ん?3発同時?救援要請は2発同時だし…。なにか想定外が起きたか?」

 

「どうする。」

 

少し間を開けて2発の信号弾も打ち上がった。救援要請である。大西を討ち取るなら来栖の手を借りるべきと判断したからだ。

 

「2発。よし。あちらに向かおう。我々が東雲殿と多田と交戦したのだから、あちらは大西だ。多田の所在がわからんが、大西を先に落とすに越したことはない。」

 

最上と来栖がこんな会話をしていた頃、大西はより目を引いた上、近い無名達の元へと向かっていた。

 

「お前らここにいろ。俺はちょっと、仔犬からの頼まれごとを片付けてくる。」

 

瓜生は狩方衆5人を連れて、無名達が避難した場所から出て行ってしまった。瓜生は、金剛郭で狩方衆を連れ歩き、甲鉄城まで避難してきたくらいには危機管理が出来ている。恐らく大西に見つからぬように、慎重に動くだろう。

 

来栖が先頭を走り、間に武士と狩方衆を挟み、殿を最上が請負い無名達のもとへと急ぐ。また2発の信号弾が打ち上がる。

 

「おいおい。本当に拙いみたいだな。」

 

「無名が苦戦するのか。どれほどの強さだろうか。」

 

「お前ちょっと喜んでないか⁉︎」

 

来栖は無名が二度も上げた救援要請に昂っていた。最上と違って薬による興奮ではない。

 

無名達の位置から凡そ10町ほどの距離に来た時、多田がカバネを引き連れて襲撃をかけてきた。カバネをその辺でひっかけて集めてきたようだ。

 

「来栖。先に行け。」

 

「待て。むしろ己が残ってお前が行くべきでは?」

 

「馬鹿言え。どう考えても彼方がお前だろ。大西相手じゃ瞬殺だぞ。私が!この爺は絶対に抜かせん。さっさと行け。」

 

「わかった。任せる!お前達はここに残りカバネの排除だ。」

 

来栖は多田の相手を最上に任せ、武士達をおいて先に進んだ。正直単騎で駆け抜ける方が早いのもある。

 

「お主が儂を抜かせぬと?舐めたことを。先程も無様に逃げ回っていただけの癖に笑わせる。」

 

「無駄口叩くなよ。同じ場所に居ながら主君を殺された癖に。」

 

「糞餓鬼が。」

 

「冥土に片足突っ込んだ爺がよく吠える!」

 

最上と多田が激突する。武士達は周囲のカバネに対応しながら、2人の戦いを観察するがやはり最上が押され気味だ。そんな中狩方衆の3人だけが最上と多田に蒸気筒を向けたままだ。

 

「口だけか!小僧!」

 

狩方衆の1人が笛を短く数度吹くと、4回目の音がした瞬間最上が頭を下げ、そこに蒸気筒が撃ち込まれる。多田の頭に3発連続で当たり、多田が仰け反った。最上は、展開していた左手の弓矢を多田の胴体に撃ち込んだ。

 

「小賢しい!」

 

多田の刀が猛威を振るう。最上が捌いていると再度笛の音が鳴る。4回目で最上は左に飛んだ。多田は頭に飛んでくると思っていた弾が胴体に着弾したことに驚いた。最上が左手を後ろに回し指を二本立てた。

 

「小細工を!」

 

「はっはっはっ!」

 

怒り狂う多田に対して、最上は笑い飛ばしながら刀を捌いていく。また笛の音が聞こえ今度は2回目で蒸気筒が火を吹いた。4回目で飛んでくると思っていた弾が、2回で頭に飛んできた上、最上は避けもしなかった。最上の身長が低い上体勢も低くしていた為、多田の方が頭一つ分上なのだ。頭が一瞬仰反るくらいでは、討ち取れる程の隙にはならない。最上が多田に猛攻を仕掛けるが受け切られている。

 

「軽いぞ!それで勝てると思うのか!」

 

更に笛の音がなる。今度は長音だ。多田は最上に視線を向ける。合図がなんであれ、最上が避けるならそれに着いていけば良いだけの話なのだ。音が途切れた瞬間、最上の後ろの3人以外の狩方衆から十字砲火が飛ぶ。最上は一切避けていない。

 

「気狂いめ!」

 

「信用しているだけだ!」

 

多田はこれで全方位に気を配らなければならなくなった。最上を見ていても避ける時と避けない時がある。笛の音が2回鳴った瞬間最上が右に飛び、多田の胴体に2発着弾する。多田も、周囲の来栖の配下の武士達も、笛の音の規則性がさっぱりわからない。狩方衆がいくら鬱陶しくとも、最上を無視して殺しに行く事は出来ない。再びの長音が鳴り響き、多田が周囲に注意を払うも何も飛んでこず、最上からの斬撃で左手が飛ぶ。

 

「さあ!腕が飛んだぞ!」

 

「粋がるな!息が上がっているぞ!」

 

多田の指摘通り、最上の息は上がっている。なにせ多田と高速で打ち合い続けているのだ。まともに息つく暇もない。それどころか、めちゃくちゃ骨折部分が痛いのを我慢している。泣きそうなくらいには痛い。また笛の音が鳴る。短音が何度もなるが4回を越えても鳴り続ける。丁度10回目で最上の頭が下がるのを見て、多田が下段を斬り払うが最上は上に飛んだ。11回目の後、多田の足に弾が飛び3発中1発が命中する。

 

「くっ!」

 

「足元がお留守だなぁ!」

 

「小僧ぉっ!ゔっ!」

 

多田が急に胸を押さえて苦しみ、最上は後退して距離をとる。

 

「やっと効いたか。はぁっ…致死量の3倍は入ってたんだが。…はぁはぁっ…回復の為に循環が早くなるなら、もっと早く効くと思ったが…意外と遅いな。」

 

「もしや…毒か。貴様には武士の矜持がないのか。」

 

「あっはっは!面白い事を言う!カバネリなんて、外法の術を使ってる貴様にだけは言われたくないな!」

 

最上が駆け出し猛攻が多田を襲う。毒が回った身体では満足に動けないのか、右手を刎ねられ心臓に刀を突き入れられた。

 

「貴様らも…道連れに…。」

 

最上が多田を討ち取った。カバネを撃ちながら様子を窺っていた武士達が、わっとわき、狩方衆が信号弾を打ち上げる。

 

「はぁー。はぁはぁっ…つ…疲れた。うっ…痛い。うぅ〜。」

 

最上が、脇腹を押さえてその場にしゃがみ込んだ。少し息を整えてから立ち上がり、カバネを殺す為に再び駆け出した。蒸気筒の装備一式のない最上は、いつもより少し速く戦場を駆け抜ける。ワザトリが一体紛れていたが、投網砲を使って直ぐに捕獲して心臓を貫いた。

 

暫くしてカバネも討ち取り切った。最後のカバネを歩荷が討ち取って直ぐに最上は座り込んだ。

 

 

「…し…しんどい。はぁはぁっ…痛いし…。鎮痛剤…はぁはぁっもって来れば良かった。」

 

ひいひいと呼吸をしている最上を見て、武士達は心配ではあるが何も出来ることはない。

 

「最上様。あの笛の音はなんです?」

 

「…はぁっ…あぁあれ。はぁはぁ…ちょっと待て。…はぁ。」

 

「あれは元々決めた合図で撃っているだけですよ。」

 

最上の代わりに狩方衆から返答があった。

 

「でも避けたり避けなかったりとか、ばらばらじゃなかったか?」

 

「1回目は頭2回目は胴体を狙うとか、長音は十字砲火、長音1回目は撃つ、2回目は撃たない3、4回目は撃つとか色々決まってるんですよ。参加する者は全ての規則性を覚えた者だけです。避けるかどうかは最上様と瓜生様に一任してます。」

 

「うへぇ。出来る気がしねぇ。」

 

「府中駅の件から始めた合図ですから、全員必死に覚えましたね。」

 

「お陰で多田を討ち取れた。はぁ…訓練で何回もゴム弾撃ち込まれた甲斐があったよ。はぁっ…あの爺はしっかり考える頭があるから、面白いくらい引っかかってくれたな。きっと規則性を考えてたんだろうが無駄な労力だ。ワザトリ相手だと、我々が引かずに援護を受けられるってくらいしか、利点がないからあまり使わなかったが、やっと日の目を見たな。」

 

「覚えてから訓練やったんじゃないんですか?」

 

「何もしてない時ならまだしも、戦いながらだと一瞬思案してしまうとかあるし、慣れるまでアザだらけだったよ。瓜生と衝突したりとかもあったしな。」

 

「さぁ。来栖を追うとしますか。」

 

「いや。彼方もそんなにせんで終わるだろう。なにせ無名殿と来栖の2人がかりだ。あの2人が揃って無理なら、行っても死体が増えるだけだ。こっちは退路の確保に入ろう。」

 

「退路って…。」

 

「私は知ってるぞ。金剛郭といい、海門といい、こういう戦場になったら崩壊するんだ。」

 

「極論すぎでは?というか本丸は崩壊しないって言ってませんでしたっけ?」

 

「二度あることは三度あるだ。融合群体が離れただけじゃ、本丸は崩壊しない。融合群体が暴れた上、多田は一旦姿を消していた。道連れとか言っていたし、なにかあるだろうな。駅そのものに大損害を負わせる様な手が。お前らが多田の立場なら、せめて私たちだけでも道連れにしたいだろ。」

 

武士達は困惑したが、やけに自信に溢れた最上に押されて半数が蓬莱城へ向かい、半数で蓬莱城を待機させる場所の確保に向かう。

 




基本は4回(頭、胴体が交互)、指示があった時だけ笛の音2回が2回(頭、胴体が交互)入る。2回を終えたら11回(足元)が一度入って4回に戻る。長音は1、3、4回目は十字砲火を撃つ、2回目は撃たない。長音を挟むタイミングは位置取りの問題もあるので狩方衆の判断。避ける避けないの判断は最上と瓜生。他にも3回とか5回パターンとかはあるけど大体こんな感じ。読まれない為に複雑化したので覚えるのが大変だったし、めちゃくちゃあざだらけになった。

最初はモールス信号的な合図を考えてましたが、純粋に回数の方が騙しやすくて良いなと思って回数になりました。全く分からない合図より、相手が手の内を読もうと思える程度の合図の方が引っかかるので。

狩方衆しか援護出来ないし、最上と瓜生しかこの援護は受けられないので、甲鉄城でもたまにしか使わない。練習が大変な割に役に立ってなかった。狩方衆も最上も内心めちゃめちゃ喜んでる。


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南海道 20

莊衛は、融合群体がいなくなったことで、少しずつ崩れゆく多度津の城から撤収する為、小ぶりなケースにアンプルを収め、ケースを抱き抱えた。

 

「おい。」

 

「おっ?瓜生ではないか。無名はどうした。」

 

莊衛が振り返ると、狩方衆を5名連れた瓜生が扉に寄りかかっていた。

 

「無名は今頃大西って奴あたりとやりあってるんじゃねぇか?てめぇをとんずらさせてやるから、とっとと荷物まとめろ。」

 

「ほぅ。お主。顕金駅についているのではないのか?」

 

「今はな。それなりにいい子ちゃんにしてりゃあ生活に困らねぇ。てめぇの伝手を残しておきてぇんだよ。面が割れてんのは、顕金駅の一部にだけだ。今ならつるぎの駿城にでも紛れさせてやるよ。俺達はつるぎに回収される予定だからな。」

 

「ふむ。悪くない。」

 

莊衛は、元々抱えていたケース以外に触れることなく瓜生の方へとやってきた。

 

「そんだけか?」

 

「ふん。研究資料は儂の頭の中だからな。これさえあれば充分よ。」

 

莊衛は抱えたケースを撫で摩る。

 

「ふぅん。まあてめぇの頭なら不思議ねぇか。隠滅しときたい資料は?あるなら言え。さっさと処分してずらがるぞ。」

 

「領主が抱えとる手記は、あまりよろしくないがそれ以外は特にないな。」

 

「そうかい。着替えろ。」

 

莊衛は瓜生から投げ渡された狩方衆の服を身に纏った。瓜生が先導し、莊衛の周りを狩方衆が囲み部屋をあとにする。

 

彷徨くカバネを、瓜生が殺しながら城内を進んで行く。

 

「領主に女をカバネリにしてやる約束してたんだって?カバネをカバネリになんて、克城じゃあ聞いた事ねぇけど?」

 

「わかっておるくせに。できる訳なかろうよ。」

 

瓜生は、振り返ることなく莊衛に話しかけ、莊衛も足を止めることなく会話に応じる。

 

「だと思ったぜ。そもそも感染したカバネウイルスって後からどうこうできんのか?」

 

「理屈上は可能だが、カバネになったら脳が死んでおるのでな。例え体内のウイルスを殺したところで、動く死体がただの死体になるだけよ。」

 

「無名のやつが人間に戻りてぇとかほざいてたが?その理屈ならカバネリは人間に戻んのか?」

 

「馬鹿馬鹿しい。カバネリは進化の形よ。態々退化する奴があるか。理屈上は人間に戻ることは可能だが、寿命は保証できんなぁ。」

 

心底馬鹿馬鹿しいと思った莊衛は、呆れた顔で首を横に振る。

 

「進化ねぇ。野良カバネリ見てると進化って感じしねぇんだがな。」

 

「瓜生もカバネリになってみるか?」

 

「ふざけんな。てめぇがカバネリになってねぇってことは、まだ安定してねぇんだろうが。賭けなんかするかよ。」

 

「なんだかんだ堅実だのう。」

 

「まぁな。だからこそ、ここにいるんだろ。」

 

莊衛としては、身体的にも中々強く、頭も悪くない瓜生は、素体としてそれなりに魅力的なのだ。まあ、カバネウイルスとの相性がどうかは、また別の話であるし、カバネリ化の為の薬を使うなら、女の方が親和性が高い為、強引に薦める程ではない。

 

「あぁ。残念だ。折角研究が進んでおったのに。野良カバネリのおかげで、誘導体を使わぬカバネリ化も、領主のおかげでカバネの使役もできておったのに。手放さなければならんとは。」

 

「カバネを使役できるのなんなんだよ。あの頃使えりゃ金剛郭で終わらなくて済んだだろ。」

 

「ここであの女を研究して、初めてわかったのだから仕方がないではないか。滅火が暴走せねばなぁ。鵺のままなら使えたかもしれん。あぁ。勿体無い。あの頃に知っておれば。」

 

「滅火?ここじゃ領主が使役してたんだろ?使役すんの総長じゃねぇのかよ。」

 

「ここの領主は、融合群体の核となった女を介して使役しておったんだ。融合群体や鵺の力の一部だな。ただし核の時でないと意味がない。誘導体を循環させる金属被膜を張り巡らせ、それにより指示を伝達する。融合群体や鵺がカバネを取り込む力の延長線じゃな。急激にカバネを取り込むと、核となった者が暴走するが、恐らく少しずつ融合群体を形成した場合にのみ使役ができるのだ。ここの融合群体は一度暴走したが、崩壊した後領主達が抱え込んだのでな。かなり緩やかに再形成が行われた。滅火も、黒血漿を数回に分けて投与していたら上手くいっただろうか。」

 

莊衛は、説明しながら興奮してきたのか、少しばかり声が大きくなり、話す調子も早くなる。

 

「おお。それだけ聞くと進化だな。まあその前提だと女しか進化って感じじゃないが。」

 

「そうなのだ。男は黒血漿を使っても身体強化にしか働かん。野良カバネリ。研究したいのぅ。」

 

「無茶言うな。流石に、あいつを誰にも気が付かれずに攫うのは無理だ。」

 

「確かにあれは中々に凶暴よな。」

 

「そういや黒血漿はカバネウイルスを活性化すんだろ?白血漿は沈静化だ。なら黒血漿を打ってないやつが白血漿を打ったらどうなる?大人しくなんなら野良カバネリも攫えるかもな。」

 

「急速にカバネウイルスが沈静化し、人間に近い力しか使えなくなるだろう。悪くない案だな。」

 

「打ち続けたらカバネリは退化すんのか?」

 

「理屈としてはそうだな。…時に瓜生。」

 

「なんだよ。」

 

莊衛が足を止め、瓜生が振り返る。

 

「お主。そんなにカバネウイルスに興味があったか?」

 

「克城に興味ねぇ人間がいたかよ。」

 

「あの頃お主は恙衆に関わらなかったではないか。」

 

「総長が理解してりゃあ、それで良かったからな。」

 

「お主まさっ」

 

発砲音が鳴り、莊衛は頭から血を噴き出しながら倒れ込んだ。狩方衆の1人が莊衛の頭を撃ち抜いたのだ。

 

「まだちょっと早くなかったか?」

 

莊衛を撃った狩方衆は、そのまま莊衛の心臓を撃ち抜いた。

 

「最上様には、疑われた時点で殺せって言われただろ。金剛郭から単独で逃げおおせた奴だぞ。」

 

この男、実は狩方衆の格好をした雅客である。

 

「監視ご苦労さん。」

 

「監視じゃねえよ。お前がこいつを逃がすつもりなら、俺がいたって止められないだろ。それに最上様がお前を疑ってたら、そもそもこの役目をさせてない。」

 

「ふん。なんでもいいけどな。さっさとこいつの持ち物回収して撤収するぞ。」

 

真実最上は瓜生を疑っていた訳ではない。しかしながら、顕金駅において未だ狩方衆は微妙な立ち位置であるし、いまいち情報を取れなかった場合に、隠しているのではと疑われることのないよう雅客をつけたのである。

 

「おっ。黒血漿と白血漿。カバネリ化の薬は無しか。まあこんなもんだろ。」

 

「へぇ。これが。」

 

莊衛が大切に抱えていたケースには、黒血漿と白血漿が2本ずつ収められていた。

 

「瓜生様。こちらを。」

 

狩方衆が莊衛の懐から、瓜生の知らない液体の入ったアンプルを取り出した。

 

「なんだこれ?見たことあるか?」

 

「いえ。初めて見ます。」

 

「なんだ。お前らも知らないのか。回収はしとこう。」

 

瓜生が摘んでいたアンプルを雅客に差し出したが、雅客は首を横に振り数歩後退する。無言の押し付けあいである。莊衛が懐にいれていたとはいえ、なんだかわからない物を持ちたくないのだ。というか莊衛の持ち物という時点で怖い。

 

最終的に、近くの部屋にあった文箱の中に、布を敷き詰めてアンプルを入れ、雅客が持つことになった。

 

瓜生はカバネと白刃戦をするし、瓜生と連携するなら狩方衆の方が上手いからである。雅客は戦々恐々と文箱を紐で縛り、布で覆って襷掛けに背負い、血漿の入ったケースを抱えて脱出する羽目になった。




もしもカバネウイルスに対して完全な治療法が見つかって、カバネリじゃなくてカバネがしっかり人間に戻れる場合、ホモ君は切腹します。
堅将様ひき肉にしちゃいましたんでね。勿論ちゃんと一区切りつけてから、ひっそり切腹します。

切腹√回避。

莊衛はしっかり死にました。カバネリになって蘇ったりもしません。アレクセイ・リヒテルかどうかは闇の中です。

ちなみにこの話、帳尻合わせから生まれたので、書き始めた当初は微塵も決めてなかった内容です。勢いって怖いね。


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南海道 21

蓬莱城が指定された場所に滑り込んだ時に、城近くの釜場が異常な蒸気を噴き上げており、彼方此方の蒸気菅がガタガタと揺れている。窯場と蒸気菅が噴き飛ぶと、隠し通路のあたりも同時に爆発し、地響きが鳴り響く。上級武士の屋敷の一部が急激に燃え上がり、駅内が火の海となった。

 

「あの爺さん。想像してたより過激だな。さては謁見の間に来る前から仕込んでたな。」

 

「えっ!本当に崩壊するのか⁉︎」

 

「来栖達はまだか⁉︎」

 

「警笛鳴らせ!」

 

「居たぞ!あそこだ。」

 

吉備土の指し示した先に、無名と生駒を抱えた来栖が見えた。カバネがちらほらと来栖達に向かって行っているが、来栖は2人を抱えている為刀を抜ける状況ではない。流民上がりの武士や瓜生達は、ひと足先に蓬莱城まで行き着いており、残すは来栖達だけである。

 

「行ってくる。」

 

最上が駆け出し来栖達に向かって行く。ぱらぱらと残るカバネを屠りながら走り続ける。

 

「最上!助かる!」

 

「お前はそのまま走れ。」

 

来栖達の横の建物が徐々に崩壊していく。落ちてくる瓦礫にカバネが下敷きになる。

 

「走れー!」

 

「早く早く!」

 

武士達が叫んでいるが、カバネリ2人を抱えた来栖ではそこまで速くは走れない。

 

最上が背後から来たカバネを斬り殺した時、最上と来栖の間に瓦礫が落ちた。

 

「最上「足を止めるな!」

 

来栖が振り返るが最上から怒声が飛ぶ。無名程では無いにしろ最上は身軽だ。瓦礫を足場に瓦礫を越えてきて、来栖達は完全に崩壊し切る前に蓬莱城へと行き着いた。

 

「発進するぞ!」

 

「鎮守砲!擲弾発射器用意!」

 

「なんでぇっ⁉︎」

 

最上からの指示に武士達は仰天したが、狩方衆はすぐに準備に入る。

 

「目標!左方鈴鳴り櫓及び蒸気菅!鎮守砲は櫓!擲弾発射器は蒸気菅だ!」

 

進行方向左側の鈴鳴り櫓とその周辺が線路に向かって徐々に傾いてきているのだ。蓬莱城が滑り出すがこのままでは下敷きになる。

 

「鎮守砲装填完了!」

 

「擲弾いつでも撃てます!」

 

「まだ撃つなよ!数え5だ!5!」

 

蓬莱城の走る線路は先が緩い曲がり道となっている為、今撃てば破砕された瓦礫は線路に乗る。

 

「4!」

 

鈴鳴り櫓周辺がぱらぱらと細かい瓦礫を散らしながら傾いていく。

 

「3!」

 

蓬莱城は速度を徐々に上げていく。

 

「2!」

 

曲がり道に侵入し、更に蓬莱城の速度が上がる。

 

「1!」

 

間もなく曲がり道を抜ける。

 

「てぇっ!」

 

曲がり道を抜けた瞬間、鎮守砲と擲弾発射器3丁が火を吹く。計4発が着弾し、鈴鳴り櫓とその周辺は吹き飛んだ。そのまま蓬莱城は更に速度を上げて線路を走り抜ける。南側の検閲所を抜けて、跳ね橋を渡り多度津駅から完全に脱出した。

 

「言っただろ。崩壊するって。」

 

「本当に崩壊するとは…。」

 

武士達は、げんなりとしながらため息を深々と吐いた。

 

 

暫く、徐々に遠ざかる多度津駅を眺めていた。燃え盛っている為、もうもうと煙が上がっている。いつまでも見ていても仕方がないと、全員が車内に戻り、それぞれ散ろうとしていたが、最上がその場で座り込んだ。

 

「最上様?どうしました?」

 

雅客が、しゃがんで最上の顔を覗き込む。

 

「…だるい。眠い。痛い。」

 

完全に薬の効果が切れたのだ。薬の件を知らない武士達は、わたわたと慌てたが、狩方衆と来栖、来栖の配下の一部は最上のドーピング行為を知っている。

 

「薬切れですね。」

 

「切れるとこんなことになるのか。大丈夫なのか?」

 

「何度も使わなければ大丈夫ですよ。」

 

「最上。治療がまだだろう。立て。」

 

「無理。もうここで寝たい。あたま痛い。気持ち悪い。」

 

「廊下で寝るな。せめて寝台に行け。」

 

「おきたら行く。」

 

「起きたら寝台に行く必要ないだろうが。」

 

ぼそぼそと駄々をこね始めた最上を見て、来栖はじとりと睨みつけた。

 

「仔犬。報告あるんだが?」

 

「むり。頭に入らない。あとで…あとで聞くから…。」

 

瓜生の報告も聞く気が一切ない。

普段、寝不足時は分かりやすく眠そうにしているが、こんな駄々をこねる姿は見たことがないため、ちょっと可哀想になってきた。力が抜けて、ぐでんぐでんの最上を吉備土が抱え上げた。

 

「わっ!熱もある。ここで話してても仕方がないし俺が運ぶよ。医務室に連れてったらいいのか?」

 

「ああ。悪いな。あと肋骨折れてるぞ。」

 

「えっ!骨折!気をつけて運ぶな!」

 

来栖は、最上に代わって指揮を取るため艦橋へと向かって行き、瓜生は報告出来ないなら、自分も休もうと客車へと引き上げて行った。

 

「…薬って何?怖っ…。」

 

融合群体の件が、どうなったかもわからないのに、座り込んで駄々をこね、ぐでんぐでんで運ばれていく最上を見て雅客は震えた。

 

頭が痛いとか、気持ちが悪いとか主張するだけあって、吉備土が運んでいる間も寝落ちてはいなかった。だというのに完全に脱力しており、吉備土に掴まろうとすらしない。

 

吉備土は、最上を医務室に送り届けて艦橋へと戻り、ぐでんぐでんの最上を思い出して笑っていた。

 

「なにあれ。凄いな。びっくりした。酔っ払いみたいになってたじゃないか。」

 

「薬切れらしいな。」

 

「さっきも思ったけど、薬ってなんの?体調悪かったのか?」

 

「いや。咳止めらしいぞ。なんか興奮剤としての効果があるらしい。」

 

「咳止めであんなことになるか?最上様今後咳止め飲まない方が良いんじゃないか?」

 

「詳しくは己も知らん。後で最上に説明させる。」

 

蓬莱城は現在、瀬戸大橋方面へと向かっていた。融合群体がどうなったのかがわからないからである。駿城6城と自走臼砲で、砲撃の雨を降らせたのだろうから、そこまで心配はしていないが、確認しない訳にもいかない。

 

最上は、少なくとも自分が役に立たなくなると分かっていたのか、侑那に瀬戸大橋に向かい、その後高松駅へと向かうように指示だけしていた。

 

瀬戸大橋の無事を確認し、高松駅へと向かい始める頃には夜が明け始めていた。艦橋で来栖と雅客が、それぞれ多度津の件を話していると、気まずそうな顔をした最上がするりと艦橋に入ってきた。

 

「最上。」

 

来栖の咎めるような声色に、最上は流れるように正座した。

 

「指揮を放り出してすまなかった。」

 

「それはどうでも良い。なんだあれは。本当に大丈夫なんだろうな。」

 

「問題ない。」

 

「問題しか無かった気がしますけどね。」

 

「あれは、疲労感が吹っ飛んで、集中力が増すだけだ。限界を越えられる。人間の範囲内でだが。お陰様で、多田ともなんとかやりあえた。まぁ反動というかなんというか…あれだ。やる気の前借りだな。」

 

「やる気の前借り…。」

 

「麻黄と言ったか?禁止だ。あんなもの。」

 

「用法用量を守ればただの咳止めだ。」

 

「なら用法用量を守れ。馬鹿者。というか発熱しとるんだろう。医務室に戻れ。」

 

侑那や艦橋にいた機関士達は、珍しくて面白い光景だなと思いながら、素知らぬふりで運転を続けた。

 

高松駅に着くまで、最上は蓬莱城の中ですれ違う者達に困ったような表情で見られたり、思い出してふふふと笑われたりしたが、子供みたいに駄々をこねたのだから、仕方ないと甘んじて受けていた。

 

骨折のせいで発熱はしているが、やらなければならないこともあるし、駿城の振動が骨折に響くので、のんびり寝てもいられない。

 

瓜生と雅客からは、莊衛の件の報告も受けた。瓜生達が中身も確認せずに、適当にかっぱらってきた書類等も複数あり、内容も確認しなければならない。

 

東雲の手記は最上が回収しており、莊衛が東雲らに要求した機材などが書き留められていた。

 

「機材が作れるかはわからんが、完成すれば融合群体狩りだな。白血漿を大量に作れば、カバネリは人に戻れる…ね。」

 

「理屈上はって言ってたから、本当に出来るのかは知らねぇぞ。」

 

「充分だ。まずは、カバネを動く死体から、ただの死体にするところから始めれば良い。ところで莊衛のことはなんて言ってあるんだ?」

 

「カバネに殺されたことにしてあります。」

 

「そうか。わかった。南海道四国連合には、死亡を確認したとだけ説明しよう。」

 

高松駅に着くと、操車場には、ぼろぼろになった大豊の駿城と、2両減ったつるぎの駿城を始め、全車両が揃っていた。

 

「全車戻っているようだな。私は報告に行ってこよう。来栖。吉備土。行くぞ。」

 

「えっ!俺も?…ですか?」

 

「嫌なら来なくていいが?」

 

「嫌じゃないです!行きます!」

 

吉備土は、多度津の件では一度も城主として軍議などには参加しておらず、今回も留守番だろうなと思っていた。

 

「今まで連れて行かなかったのに、どういう風の吹き回しだ?」

 

来栖も疑問に思ったらしい。

 

「別に、報告だけなら不利益被ることもないだろ。」

 

戦う前は、如何に言質を取られないようにするかでピリピリとしていたが、もうこの段階では気にする必要はなく、吉備土を連れて行っても問題はないらしい。

 

最上が報告のために高松の城に上がると、全駿城の城主が揃っていた。顕金駅は報告を終えると、殆どやることはない。なにせ道元が来た時に、事前の取り決めがなされているから、今更なにか要求することもないのだ。今回の作戦における貢献度についても飛び抜けており、なにも文句をつけられる謂れはない。

 

ただし、南海道四国連合同士はそうでもない。貢献度や損害率で費用の分担具合を決めねばならない。最初にある程度決めていたとはいえ、損害の具合にだいぶ差があるためだ。醜く争う南海道四国連合をただ眺めることになった。下津井駅を運用したことは、顕金駅の出費扱いの為、下津井駅も特に損はなく顕金駅に任せきりで、報告会に顔も出さない。

 

昼過ぎに始まった報告会は、日が暮れるまで続いたが、全く決着を見せず翌日に持ち越されることになった。

 

「なんですか。あれ…。我々がいる意味はありますか?」

 

「見てるだけなんだから文句を言うなよ。関係性を測るという意味では無意味ではない。私はあの渦中で2日過ごしたぞ。道元様のおかげで大どんでん返しをきめたがな。領主と家老じゃなくて城主同士だから、今日は中々柔らかい雰囲気だったくらいだぞ。」

 

「あれで?」

 

「あれでだ。というか来栖。お前途中から聞いてなかっただろう。」

 

「聞く必要があるのか?聞いても己には関係性は推察できん。大丈夫だ。お前くらいしか気がついておらんだろ。」

 

「嘘だろ。来栖。」

 

吉備土の知らない間に、来栖は中々図太くなっていたようである。

 

「明日はどうする?」

 

「己は報告書を書きたいんだが。」

 

「いいぞ。帰りに確認するから頑張れ。」

 

「吉備土はどうする?」

 

「不参加でも良いんですか?」

 

「私がいれば特に困らん。」

 

「じ…じゃあ不参加で。すみません。胃に穴が開きそう…。あっ…やっでも最上様発熱してますよね。」

 

「繊細な胃だなぁ。座ってるだけだし問題ない。薬も飲んでるしな。」

 

「城主って…難しい。」

 

吉備土は項垂れた。

 

 

 

一方操車場では、生駒が一際落ち込んでいた。

 

「生駒。なにしてんの?」

 

「俺。今回、全然役に立たなかった。」

 

多度津において、好井と大西を無名が、木村と多田を最上が、東雲を来栖が討った上、生駒はダントツに指揮がド下手なのだ。顕金駅の武士はどうにかなっても、他駅の武士はどうにもならなかった。そもそも生駒は蒸気鍛治同士ですら、円滑な友好関係を築けているわけではないし、自分でやった方が早いからと教えるのも下手なのだ。

 

「いいじゃん別に。」

 

「…良くない。」

 

遠くでお帰りと声がする。

 

「来栖達帰ってきたよ。お迎え行かないの?」

 

「ちょっとほっといてくれよ。」

 

生駒は邪険にするというよりは、意気消沈で動く気もしないといった感じであったが、無名にとっては面白くない。そもそも生駒にカバネリを殺す事を誰も期待してなかったのだ。戦力としての問題ではない。殺すという行為に生駒は忌避感があるからだ。言葉を話し、意思疎通ができる相手は、生駒にとっては人間換算なのだ。生駒以外は、必要ならカバネリですらない人間だって、普通に殺せるのだから、殺せる者が殺せば良い。

 

生駒はカバネリを殺すとは言わなかった。正気を失っていた木村のことすら、自分が倒せなくてすみませんと言った。本人が気がついてないだけで、殺す気がないのである。そりゃ結果も振るわないに決まっている。

 

「最上さぁん。生駒が落ち込んでるんだけど。」

 

「…何故?落ち込むような事あったか?」

 

「今回全然役に立たなかったぁって。」

 

最上達は顔を見合わせた。戦功としてあげるとすれば確かにない。首印を並べて、何人殺しましたというのは別に求めてないし、顕金駅はそういう評価方法はしていない。

 

「ほら城主。出番だぞ。こういうの得意だろ。」

 

「吉備土。行ってこい。己達が何を言っても仕方がないだろう。」

 

最上と来栖は吉備土の背中をばしっと叩いた。送り出された吉備土は、無名に連れられて生駒のもとへと走って行った。

 

翌日も報告会は長引いたが、なんとか落とし所を決める事ができ、やっと帰ることができるようになった。顕金駅は駿城も無事で、無名と生駒は怪我も治り、来栖と瓜生は大きな怪我はない。最上が肋骨を2本折ったくらいで、帰路に着くのも問題がない。

 

高松の領主が戦勝会を企画したが、丁寧に断ってその日の内に高松駅を出発した。南海道四国連合と違って、顕金駅は遠いのだ。もうだいぶ冷え込んできており、雪が降る日も近い。

 

ここにいるのが、最上ではなく道元ならば、戦勝会に参加して各駅とそれぞれ、これからについて話し合ったりするのだろう。今後を考えれば、最上とてそうするべきなのだが、あまり調子が良くないのだ。体調が悪い時に、狐と狸の相手はしていられない。下手を踏むくらいなら、さっさと帰った方がマシである。

 

夜間に着いたというのに、下津井駅では丁寧に扱われ、一晩お世話になる事になった。高松は元々砂糖が主産業の駅で物資は中々乏しい上、南海道四国連合が居座っていたものだから、長居しても意味がない。対して下津井は、ばんばんと流通を請け負っているため、色々な駅の物が集まり品数が多い。

 

買い物がしたいとの希望で、翌日の昼に出発を予定して、その日は就寝となった。

 

希望者は、午前中に買い物へと出かけていった。といっても買い物に出る人数はそれ程多くはなく、最上も甲鉄城の城主の執務室に居座っていると聞いて、雅客は最上の元へとやってきた。

 

「山本殿に会いに行かないんですか?顔くらい見せてあげればいいのに。」

 

「極力動きたくない。」

 

「もしかして、結構痛いんです?」

 

「へっくしっ!ゔぅ…。」

 

「うわっ。痛そう。感冒ですか?」

 

「たぶんな。だから近寄るな。」

 

感冒だと言うなら仕方ないと、雅客が山本に伝えに行くと、しょんぼりしていたが、すぐそばで生姜を購入して雅客に手渡した。

 

「すったやつお湯に溶かして飲ませてあげると良いですよ。」

 

「最上様のおばあちゃんかな?」

 

山本はからから笑って帰って行った。雅客はさっそく生姜をすって湯に溶かし最上のもとに持って行った。

 

「山本殿からです。」

 

「辛い。」

 

ちょっと生姜を入れすぎたのか、最上は飲んだ後べっと舌を出した。子供舌なので仕方がない。柚子皮の砂糖漬けを思い出して、ちょいと入れて美味しくいただいた。

 

「なんですそれ。」

 

「柚子皮の砂糖漬け。山本殿が作ったやつ。」

 

「やっぱり最上様のおばあちゃんじゃん。」

 

「おばあちゃん…。」

 

「報告書書き終わったんならさっさと寝てください。今最高戦力揃ってるんで、あんたの出番ないですから。」

 

「生駒によろしく言っといてくれ。」

 

「何故生駒?来栖ではなく?」

 

「そう。生駒。来栖は城主代行で忙しいから、私の分も頼んだって言っておけ。」

 

「はぁ…。わかりました。」

 

出発前に、雅客は生駒に最上からの伝言を伝えた。骨折の上、感冒の疑いの為、最上の分も頼んだと言っていたと伝えたら、何やらやる気を出していた。

 

現在蓬莱城と甲鉄城は連結して運行しており、高所からカバネが取り付くと、生駒が張り切って甲鉄城までやってきてカバネを排除していた。来栖は別に忙しくもなかったが、忙しいことにしとけと言われたので、そういう事になっている。

 

最上は、2日程大人しく寝ているとくしゃみも出なくなり、感冒の疑いはなくなったが、骨折はしているのでそのまま防衛を生駒に任せていた。駿城が大きく跳ねただけでもぴきり、寝返りでぴきり、服を着替えてぴきりと割といつでも痛いので、最上は殆ど駿城から出なかった。最上としては寝返りで痛むのが一番嫌だった。ぴきりとするたびに起きてしまうので、全く忙しくないのに熟睡できないのだ。

 

そんな話を雅客から聞いて、生駒は更にやる気を出して、顕金駅に着くまでひたすら頑張った。

 

なにをしても痛いから、なにもしたくない最上と、とにかく多度津で役に立たなかったから、役に立ちたい生駒で需要と供給がつりあったのである。

 




多田:罠関係は大体この人が作ったし、最後の大爆発も爆破ピタゴラスイッチみたいなのをせっせと作ってた。奥方がいなくなった時点で最後の仕込みに行ってたし、東雲が死んだ後に作動しに行った。ホモ君に勘付かれたせいで、道連れに出来なくてとっても悔しい。最期まで頭を回していたいタイプなので、黒血漿は持ってすらいなかった。持ってたらホモ君は殺せた。


なんで大西戦がないかって?
劇場版の景之殿と無名の戦闘シーンみたいなのを3人で繰り広げたからさ。速すぎて書けないよ。純粋な速度だけならホモ君も入れないことはないけど、パワー不足で相手の攻撃を綺麗に捌ききれないので、入ったら死にます。


薬が切れたらどうなるかは捏造ですね。知らないし。結果シュンケル切れたみたいな感じになった。


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南海道 22

顕金駅に甲鉄城と蓬莱城が戻り、検閲所では菖蒲、道元、桔梗が出迎えた。多度津に行くことのできなかった、仁助や樵人達などもおり、検閲所は中々の人手になっていた。

 

菖蒲は、最上が多度津において1人で謁見したことを怒っているが、まずはしっかりと無事を喜んで迎えてあげねばと、甲鉄城と蓬莱城の面子に笑顔で労いの言葉をかける。

 

下車してくる者達を一人一人労って行く。最初の方で下車した最上が、桔梗のもとへ行き、変わりないかどうかを聞いていたのだが、

 

「ややこができました。」

 

「おや。そうでしたか。ありがとうございます。」

 

これである。2人とも非常に淡々と会話をしている。周りの武士がそわそわしているが、仁助の時のように胴上げをするわけにはいかない。なにせ最上の肋骨が折れているので。

ちなみに菖蒲も知らなかったので、菖蒲もちょっとそわそわとしてしまった。

 

桔梗と話しているので、邪魔をしてはいけないと、武士達はそわそわと最上の近くを彷徨くのみで、流石に絡みにはいけなかった。

 

「旦那様には沢山お話ししたいことがございます。」

 

「そ…そうですか?」

 

周りはなんとも思わなかったが、最上はなんとなく雲行きが怪しい事に気がついた。

 

「屋敷に着いたら、お心当たりがいくつあるのか教えて下さいね。」

 

口元は緩やかに弧を描くが、狐面から覗く目が笑っていない。旭が遠くで、米神あたりで指を立てて鬼のジェスチャーをする。

 

(怒っていますよ。)

 

との事である。

 

(わかってるよ!)

 

とはいえ検閲所では、それ以上なにも言うことなく、報告の為一旦城に上がる事になった。

 

口頭で凡その報告がなされた。それぞれの報告書もあるが、後日の進達となる為、来栖と最上が大体の流れで報告をしたのである。

 

菖蒲は1人で謁見に行った事、薬を使った事を怒ろうかと思っていた。結果として好井の存在がわかったり、無名達が二度も出した救援要請に、来栖を早急に送り出せたりと功績はあるが、結果論なのだ。上手くいったから良かっただけで、失敗した可能性だって大いにある。

 

「最上。色々と報告を受けています。私怒っていたのです。怒っていたと思っていました。」

 

おや?と最上も来栖も思った。特に来栖など出発前に、大層お怒りの菖蒲を見ている。間違いなく怒っていたはずなのだ。手紙を見て

 

「もう!最上ったらこんな真似!もう!」

 

と大変可愛らしく怒りを顕にしていた。

 

 

「もっと自分を大切にしてください。私が不甲斐ないせいで、無理をさせているのはわかっています。でももっと自分で自分を大切にしてください。」

 

菖蒲はポロッと涙をこぼした。怒られる覚悟はしていたが、泣かれる覚悟はしていなかった。最上はかなり動揺したが、隣で来栖はもっと動揺していた。隣が非常に挙動不審になっている。

 

菖蒲は悲しかったのだ。まあ怒ってもいたが、最終的には悲しいのだ。金剛郭で分かれた時となにも変わっていない。全体の利益と自分の命を天秤に載せて、全体の利益に傾くのは仕方ない。武士とはそういうものだから。だけど最上は、自分の命が軽いというより載せるのが早いのだ。

 

金剛郭の時は手段は選べたはずなのに、極論で言えば不和解消の為にいなくなった。

 

謁見の件だって、文のやり取りに変更して何度も訪ねれば良かったはずなのだ。好井の存在は分からなかったかもしれないが、それ以外はわかった筈で、早さと正確性の為に命をかけた。

 

薬の件だって確かに生き残る為に手札を切ったのかも知れないが、もっと時間をかければ、そこまでの賭けに出る必要もなかった筈なのだ。最上の命を賭けてまで、高松の城主に合わせてやる必要はない。主導権は蓬莱城が持っていた筈なのだから。

 

それらしい理由がいつもついているが、命を天秤に載せる前に時間をかけない。確かに時間をかけたからといって良案が出るとは限らないが、出ないとも限らないのだ。

 

「絶対に命を賭けるなとまでは言いません。でも本当に最上が決断した時は、それしか手段がありませんか?時間をかける事で生じる不利益は、貴方の命を賭けねばならない程のものですか?」

 

最上は困惑していた。自分も大概結果論だが、菖蒲の言い分も結果論なのだ。生じる不利益を生じる前に測ることは出来ない。菖蒲の言い分を承諾することが正しいか判断がつかない。

 

菖蒲は最上がちょっと困った顔をしているのに気がついた。菖蒲の言っている事が分かるなら、そもそもぱっぱと自分の命を賭けたりしないのだ。最上は自分の命を賭ける事自体に、それ程躊躇する必要を感じていない。菖蒲は涙を拭った。泣き落としなど領主のすることではない。こうやって不甲斐ないところばかり見せるから、最上は1人で頑張るのだ。

 

「わかりました。言い方を変えます。最上は叔父様が貴方と同じくらい強かったら、同じ状況で命を賭けることが当然だと思いますか?」

 

「…思いません。」

 

最上の中で、道元と最上の命は等価ではない。道元がいなくなれば、政が立ち行かなくなる。

 

「それは何故ですか?」

 

「道元様の代わりなど、私にはとても務まりません。」

 

「では貴方の代わりは、誰が務まるのですか?」

 

「来栖と来栖の配下をその為に指導しております。」

 

「いいえ。違います。貴方の代わりの為に頑張ってもらっている訳ではありません。」

 

「…いえ。ですが実際私の長期不在時は代わりを…。」

 

「叔父様が不在の時は貴方が代わりですよね?なにが違うのでしょうか?貴方の不在時に、来栖達が頑張っているのは知っています。叔父様の不在時に貴方が頑張っているのも知っています。では叔父様が亡くなったら、貴方と私がもっと頑張ればいいのでは?」

 

「そういう問題ではないのは、菖蒲様もおわかりではありませんか。」

 

「そうですね。叔父様と私と貴方がそうなのに、何故貴方と来栖達は違うのですか?同じことです。」

 

「同じではありません。」

 

「同じです。叔父様も貴方も来栖達も、全員私のものです。」

 

「は…?」

 

「私のものの価値を勝手に下げないで下さい。貴方がどう思うかは関係ありません。叔父様も貴方も等しく家老。私の中では等価です。勝手に下に置かないで。今度から命を賭ける時は、叔父様の命でも賭けるのか検討してから賭けてくださいね。」

 

「…。」

 

「ふっ。まさか菖蒲殿が最上君を黙らせるとは思いませんでしたな。」

 

「叔父様。」

 

「まあ私も少しばかり。最上君。君は私の代わりはできぬと言うが、来栖君達が君の代わりもできんよ。君は領主と家老陣に2日間いじめられてきただろう。謁見で君が死んだとして、来栖君と来栖君の配下で言質を取らせないと言えるのかね。早々に多度津に突っ込むことが決まりそうなのだが?というか君の代わりにならんから、甲鉄城の行商を、君が今でもやっとるんだろうが。軽々命を賭けられては堪らん。私を過労で殺すつもりかね?」

 

「いえ。」

 

「報告も聞いたし、最上君は骨折もしているのだろう。桔梗君も待っておるだろうしもう帰ると良い。」

 

「そうですね。まさか妊娠したとは知らず、桔梗さんにも色々頑張っていただいてしまいました。よく話を聞いてあげて下さい。」

 

「はい。」

 

最上はすごすごと退散することになった。襖をすぱりと開けると逃げ遅れた雅客と、既に先の廊下を曲がらんとしていた樵人が居た。報告中に誰かが来たのはわかっていたが、来栖がぴくりとした後気にしていなかったので、配下の誰かだろうとは思っていた。

 

「盗み聞きとはいい趣味だな。町奉行。」

 

「あはは…。菖蒲様に怒られる最上様が見たかったので。」

 

「素直に言えば良いってものじゃない。」

 

「俺だけじゃないです。樵人も倉之助も仁助も居ました。」

 

雅客は、樵人が見つかったのはわかっていたが、他の面子も売り渡した。一蓮托生である。

 

対外的な報告しかしておらず、色々と隠しておきたい内容は、個人の執務室などで人払いをして行う予定だが、盗み聞きはよろしくない。

 

「雅客。城の道場の雑巾がけ1週間な。」

 

「え"っ!」

 

盗み聞き面子の雑巾がけ週間が始まった。

 

 

 

下緒は走っていた。ここ暫く、走るなんてはしたない真似をしていなかったが、一生懸命走っていた。

 

「ご…ごめん下さい!」

 

訪ねたのは最上の屋敷である。

 

「下緒。何事ですか。」

 

「鯉さん。桔梗様は居られますか?」

 

下緒は、本来なら最上の屋敷を訪ねられる立場ではないが、最上の屋敷で使用人見習いをして、使用人兼間諜として送り出されたことから、報告に来ることも珍しくはない。とはいえ駆け込む真似などしたことはない。庭で鯉に桔梗の在宅を確認していると、桔梗が縁側までやってきた。

 

「あらあら。下緒。どうしたのです。」

 

桔梗が来てからは、桔梗が報告を受けることの方が多く面識は充分にあったため、下緒は桔梗に会うことになんの問題もない。まあ駆け込んできたものだから、旭が少しばかりぴりっとしていたがご愛嬌である。

 

「最上様のことあんまり怒らないであげてくれませんか?」

 

「どうしてかしら。」

 

「あ…菖蒲様にやり込められていたので…。」

 

「立ち聞きしたのですか?」

 

「はい。…申し訳ありません。雅客さん達としました。」

 

「町奉行が一緒になってなにをしているのだか。…菖蒲様が、ねぇ。」

 

桔梗からすれば、かなり意外な結果であった。下緒がやり込めたと感じる程の怒り方をする菖蒲が想像できなかった。だが下緒が駆け込んできたくらいだから、最上も反省するなりなんなりで戻ってくるだろう。

 

「まあいいでしょう。あっちでもこっちでも、叱られるなど可哀想ですしね。」

 

桔梗の言葉を聞いて、下緒は嬉しそうにぱっと顔をあげた。

 

「旦那様に見つかっては叱られてしまいますから…そうですね。これを。」

 

「なんでしょうか。」

 

「この文を楓さんのところに届けなさい。そこから帰れば旦那様と遭遇することもないでしょう。いつ帰ってくるとも限りませんよ。早くお行きなさい。」

 

「はい。それでは失礼します。」

 

桔梗から手渡された文をしっかりと手に持ち、下緒は深々と礼をして小走りで屋敷を出て行った。

 

「咎めないので?」

 

「間諜が間諜の仕事をしただけではないかしら。」

 

「桔梗様がよろしいのでしたら構いませんが。」

 

旭は軽くため息を吐いた。

 

 

最上はとことこと帰路についていた。肋骨を骨折しているので、馬に乗るわけにもいかない。やっと帰ってきたのに、暫くは乗馬もお預けである。しかも屋敷にはたぶん般若が待っている。大変憂鬱である。

 

「只今戻りました。」

 

「お帰りなさいませ。」

 

玄関にひょこりと顔を見せた桔梗は、般若の面ではなく、いつもの狐の半面であった。般若の面で出迎えられると思っていたので少し驚いた。

 

「お風呂の準備ができておりますよ。」

 

「えっ?は…はい。」

 

ごく普通に風呂を勧められた。身体を拭くくらいはしたが、臭うだろうかとちょっと不安になった。

 

鯉と穴子に着物を脱がされ、髪も解いて上から下まで綺麗にされた。怪我をしてても風呂くらい1人で入れます。と断っても鯉も穴子も気にすることなく、洗い終えた最上を湯船に突っ込むまで止まらなかった。小太郎が湯加減を聞いてくるので、風呂炊きは小太郎がしているようだ。

 

「なにこれ…。え?そんなに臭ってたか?」

 

風呂から上がると脱衣所に小夜が待ち受けており、部屋まで連れて行かれて、火鉢の前で髪を拭かれている。

 

その後も至れり尽せりで、普段自分でやることも全て誰かがやっている。一之進に布団まで敷かれて、寝る準備まで整ってしまった。

 

「あら。まだお休みではないのですか?」

 

「桔梗さん。なにやら随分と、至れり尽せりでしたがどうしたのです?」

 

「別に私の差金ではありませんよ。私も、数日前に戻ってきた時に同じ目にあっております。それに、戦に出ていた家長が帰宅したのですから、貴方が至れり尽せりでも何も不思議はないではありませんか。」

 

「そうでしたか。体調は大丈夫なのですか?」

 

「問題ありません。ところでお心当たりはお幾つありましたか?」

 

「2つ。でしょうか。」

 

「既に菖蒲様に叱られたのでしょう?」

 

「まあ…はい。」

 

「なら結構。実は可愛い座敷童から、叱らないでと言われているのです。」

 

「座敷童?」

 

座敷童と聞いて、最上の頭をよぎったのは小夜である。だが小夜が事のあれそれを知るわけがない。首を傾げる最上を見て桔梗はくすりと笑った。下緒は、座敷童に例えられるような幼子ではないし、下緒が態々桔梗にそんなことを言いにくるとは思っていないだろう。

 

桔梗は顕金駅がカバネにのまれてから、再興するまでの話を殆ど知らない。勿論何処で何をしたくらいは把握しているが、各個人がどうであったかなど知りようがない。

 

ただ、甲鉄城にいた頃は個人が選べることなど殆ど無く、顕金駅を奪還してからは、個人がそれぞれ自立しなければならなかっただろうことは、容易に想像できる。製鉄の駅である顕金駅では、女子供はさぞ困った事だろう。選択肢だけ渡されても、見合う力がなければ選びとることは出来ない。

 

きっと最上は奉仕の精神とかではなく、利を考えて女子供を引き取ったのだろう。間諜から上がる情報は多岐に渡る。それだけの数を引き取っていたということだ。どんな思惑があれ、仕事ができるようになるまで面倒を見て、仕事に送り出してくれる。ありがたくない訳がないのだ。下緒など本来城に勤められる身分ではない。最初は必死で気が付かないが、時が経てばどれだけ得難いことか実感も湧くというものだ。

 

気がついた者達から、じわりじわりと恩返しされてしまえば良いのだ。




終わり!

後日談はそのうち…たぶん…。
くっそ長かった…。多田とホモ君戦を書いたところから、この話が始まりました。こんな壮大な話になる予定じゃなかったんですが、勢いって怖いですね。

こんな長いの読んでくれてありがとうございました。


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【小話】恙所

お知らせ
南海道の1で先の話に触れる内容には、返信致しかねますと告知いたしましたが、南海道の連載は終わりましたので、コメントは今まで通り返信できます。


甲鉄城と蓬莱城が顕金駅に戻った翌日、道元の執務室には、道元、菖蒲、来栖、最上、雅客、服部が集まっていた。人払いを済ませており、周囲に人の気配はない。

 

莊衛が瓜生に語った件の報告である。

 

あの時点で、莊衛が瓜生に嘘を語る必要はなく、希望的観測による誇張がないとまでは言わないが、全くの嘘ということはないだろう。

 

「極論、白血漿なるものを継続投与できれば、カバネリは人に戻るということで良いかね。」

 

「そうなります。カバネもカバネリも突き詰めれば、カバネウイルスに感染している人間です。ただしカバネは発症の過程で脳の大部分が死ぬというだけかと。思い返せば、自律思考する違いだけで、能力的な部分はカバネもカバネリも同じと言えます。白血漿がカバネウイルスを最終的に殺すのならば、理屈上はカバネリは人間に戻れます。」

 

「ふむ。理屈上は…ね。」

 

「えぇ。理屈上はです。身体的に異常な強化をされ、怪我が異常な速度で回復し、血液で生き永らえる。人間に戻って生き続けるかは分かりませんね。カバネウイルスがそれを可能にしているならば、カバネウイルスが無くなればその反動がある可能性も考えられます。」

 

「では生駒や無名さんは、人間に戻ったらすぐに死んでしまう可能性があるということですか?」

 

菖蒲は悲しそうな顔で、最上に問いかけた。

 

「そうなりますね。可能性の話ではありますが、なんの反動もないと考えるよりは現実的でしょう。」

 

「あの…。」

 

服部が、恐る恐る手を挙げて発言の許可を得る。

 

「なんだ?」

 

「最上様は、以前カバネリが人間に戻れるかの話題に、あまり前向きではなかったと記憶しています。現実的な手段が見つかったとはいえ、この件を研究するのですか?」

 

「そうだな。そもそも何もない状況から、研究する気はさらさらなかった。だが今は理屈上は、と前置きは必要ではあるが答えが示されている。」

 

「はぁ…。」

 

服部はあまり納得がいかなかった。なにせ、再現できるかは分からない技術なのだ。そこに労力を注ぎ込むのが、カバネリを人間に戻すこと。割に合わないのだ。人情的には、生駒や無名は人間に戻れたら良いと思う。だが、たった2人の為に、最上や道元が資金と労力を注ぐとは思えない。

 

「そしてなにより、カバネがただの死体に、カバネリが人間に、ということは、カバネウイルスに感染した場合、脳が死ぬ前ならばカバネになることを回避出来るようになる可能性も秘めている。」

 

「あっ!」

 

「なかなか厳しい条件下にはなるが、治療薬となる可能性がある以上、研究は無駄ではない。」

 

「ちょっといいか?」

 

「どうぞ。」

 

服部に続いて来栖が手を挙げた。

 

「己にはそれが可能なことかは分からん。だが、それをするということは、融合群体を飼うということだな?駅内は承伏出来ない。」

 

「流石に私も駅内は嫌だ。最低でも克城の恙所規模は必要だ。駅外に建設するしかあるまい。」

 

「秘匿が難しくないか?特に生駒と無名はカバネを感知出来る。あれらには言わねばならんのではないか?」

 

「カバネの心臓核を確保できたら伝えるさ。それまでは言う気はない。」

 

「それは問題ないのか?」

 

「何処に問題がある。家老が一蒸気鍛治と民人に、そこまで配慮する必要はあるのか?お前が現実的な問題を提起するなら考慮しよう。だが生駒と無名殿にそうする必要はない。」

 

最上がなにかと生駒や無名に配慮しているのは、所詮円滑に2人を運用する為に他ならない。こちらの方針を逐一説明して、許可を得る必要など何処にもないのである。

 

「建設地は何処にするつもりかね。」

 

道元は建設予定地を確認する。

 

「顕金駅の近くで選定します。堀を作り、残土は堀の内側に盛り土をして、土手で囲います。土手の中に建屋を建設し、建屋内部に廃車となった駿城の車両を入れ、その車両内を恙所とします。顕金駅から望遠鏡か双眼鏡で監視できる位置が好ましいですね。」

 

「堀と土手まで作るのか。厳重だな。」

 

「建屋内には発破と火薬樽も配置します。いざという時は消し飛ばします。土手はその際に爆風の方向を操作をするためです。摺鉢型にすることで、爆風は上に向かい元の位置に戻ります。破砕されたものの飛散防止ですね。」

 

「過激ですね。」

 

雅客が引いた目で最上を見つめる。

 

「必要な措置だ。土手の内側には、小規模だが爆弾を埋める。」

 

「爆弾…。埋める?それ…鈴木さんの考えた踏んだら爆発する爆弾ですか?」

 

「よく覚えてたな。雅客。」

 

「えぇ。まぁ。」

 

なにせ顕金駅奪還時、知己の上侍のカバネを殺した事で落ち込んでいると思ったら、眺めていた図面がそれである。お蔵入りしたのだと思っていた。

 

「それは大丈夫なんですか?建屋の火薬に引火しませんか?」

 

「かなり小規模にするからな。踏んだ足がずたずたになるくらいの威力にしかしない。」

 

「うへぇ。人間対策ってことですか。」

 

「出雲のカバネはかなり少なくなっている。カバネの心臓核を元に形成する融合群体が、勝手に肥大化することはないと考えられる。ならば、次に警戒すべきは人間だ。」

 

「最上。それは…流石にどうでしょう…。」

 

流石に菖蒲から戸惑った声が上がる。この段階まで、反論らしき反論が出なかったことが意外だなと思いながら、最上は菖蒲に視線を向ける。

 

「非道は承知の上です。しかしながら、出雲はカバネの出没状況が落ち着いて来ているとはいえ、未だ民人が駅外を自由に出歩ける程ではありません。善良な人間がうっかり迷い込むようなことはありません。」

 

「そうですか。…いえ、そうですね。」

 

菖蒲は厳しい表情をしているが、納得しようとしている。最上はきょとりとした。今回の件は、一番の難所は菖蒲だと思っていたのだ。

 

「わかりました。許可します。私の名の下に進めなさい。」

 

「いえ。菖蒲様のお名前をお借りする程では「いいえ。やるなら私の名の下に進めなさい。」

 

顕金駅の近くで事を進める以上、菖蒲は無関係とはいかないが、最上の名の下であれば強引に進められた印象が強くなる。他駅から見る顕金駅は、道元と最上が強権を振るい、菖蒲は慈悲深いが、家老を御しきれない冴えない領主である。

 

道元と最上がわざわざ狙ってやっている事である。

 

「叔父様。最上。私知っておりますからね。」

 

菖蒲から突き出されたのは、顕金駅奪還当初のころの書類が数枚。

来栖達は書類を覗き込んだが、奪還当初に道元と最上が作成したもので、特段問題はないように思われた。が、道元と最上はぺかっと笑った。菖蒲もにっこり笑って、

 

「そんな顔をしても駄目です。」

 

菖蒲、道元、最上が全員笑顔で向かい合う。来栖達は何が何だか分からず困惑した。

 

「叔父様達が、仲良く私を除け者にしているのは知っておりますからね。それを知っていながら、私はちゃんと綺麗に笑っているでしょう?」

 

菖蒲は基本的に中々忙しい方ではあるが、道元や最上がしっかりと仕上げきってから書類を進達するため、大体が名前を書くだけのものが多い。それこそ静が代筆でもしてくれないかしらと言いたいくらいである。一応読んでこそいるが、大体は先に説明に来ているので、ああこの間聞いたなぁくらいの話である。ひたすら名前を書くだけで書類が片付くので、道元や最上から比べると、暇はあるといえた。

 

そこでふと奪還当初の書類はそこまで事前説明もなかったし、自分もじっくり読めなかったなと思ったのだ。誰もが忙しかったので仕方がないが、片手間で読んでおこうと奪還当初の書類を持ち出し、仕事の合間に読み始めた。

 

読み始めてすぐに違和感を感じた。

今進達されてくる書類と違い、時々弛めの言い回しというか、明記を避けているというか、といった部分が目についたのだ。当時は非常に忙しく、道元や最上も勘太郎も大変だったから疲れていたのかな、とも思っていたのだが、最後まで記録を遡って確信を得た。

 

これは間違いなく故意であると。

 

最上は不慣れな様子が端々に見てとれて、あら書き損じとか、この間来栖に注意していたところ間違えて訂正してるわとか、微笑ましく見ていたのだが、確信を得たのは道元と勘太郎の書類で、道元と勘太郎が顕金駅入りしてからすぐの頃の書類にすら、明記を避けた言い回しがあるのだ。確信を得てから読み返すと、気になる書類が出るわ出るわ。最上も、奪還前はあれだけ厳しく対応していた阿幸地との契約に、遊びを持たせた言い回しがあるのだ。

 

同時期の阿幸地関係の書類をみたら、あらもしかして阿幸地さん得してる?と察するものがあったのだ。菖蒲が見つけられるような事を、道元と最上と勘太郎の全員が見落とすのはあり得ない。ならばこれはわざとやっているのだ。書類そのものには全く問題はないが、付き合わせるともしかしてがいくつか出てきたのである。

 

恐らく、全部見つけたわけではないと菖蒲もわかっているが、道元達が黒とまでは言えないまでも、灰色くらいの処理をしていた。

 

まあ、このくらいのことであれば、責任を追求するほどではないし、道元達が必要だと感じたことなら致し方ない。致し方ないのだが、自分が思いつきで書類を読み返さなかったら、気が付かなかったことである。

 

当時の菖蒲に、3人が何も言わなかったのもわかる。当時の菖蒲が聞けば、八代の時のように迷惑をかけたかもしれないし、なにより3人は為政者らしく汚いことも、必要ならばなんの躊躇いもなく出来る。菖蒲に話して余計な手間がかかるくらいなら、菖蒲に知らせずに行って、そのまま闇の中にした方がいいのだ。

 

暗躍にも限度がある。来栖達が仕事を覚え始まり、道元達だけで完結することがなくなってきているからだ。ならばその内菖蒲に話はしても、菖蒲を極力関わらせないようにすることがあると思った。

 

だからこれは、その時に使おうと決めた。貴方達が、綺麗にと守ってきた私は知っているぞと、知ってもちゃんと綺麗だったでしょう?と言ってやるのだ。

 

「言った筈ですよ。叔父様も最上も私のものです。私は貴方達のお人形ではないのです。最低限はそれでもいいでしょう。ですがこれは私が負うべきことです。その上で、私が泥を被ることのないように、綺麗なままでいられるように精一杯努力なさい。」

 

綺麗な笑顔で菖蒲は言い切った。来栖は頬を染め、雅客と服部は顔を青くし、道元と最上は吹き出した。

 

「わっ笑わないでください!」

 

菖蒲は道元や最上に舐められてはならないと、精一杯頑張ったのに2人は吹き出した。困ったら困った顔を見せずに、笑えと最上が言ったから練習したのに!

 

「わかりました。菖蒲様の名の下に、必ずや成果を出してご覧に入れましょう。」

 

「ははっばれていましたか。まさかお気付きになるとは。少々やり方が杜撰でしたかな?」

 

最上は深々と頭を下げ、道元はからからと笑う。

 

菖蒲の名の下に、白血漿製造計画が始まった。




まあそう簡単には恙所は出来ません。


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【小話】雪2

雪の日、甲鉄城が帰路にて蓬莱城とかち合った。蓬莱城は最後尾車両の左側に小規模な雪崩れにぶち当たり、完全に脱線しないまでも傾いていた。

右側は山の斜面となっており、完全に脱線していたら大事故になるところであった。

 

恐る恐る除雪が進められていたが、今しばらくかかりそうである。甲鉄城を見た吉備土が線路上を走ってきて、とんでもない報告をした。

 

「生駒と無名殿が遭難?」

 

「はい。丁度カバネを討伐して、車上から引っ込むところだったんですが、雪崩れの衝撃で2人が蓬莱城から投げ出されたようで…。」

 

「よりによってあの薄着二人組が遭難。捜索は?」

 

「崖下なのでまだ行けていません。」

 

蓬莱城が動けない以上、崖下に投げ出された無名達を探しに行くことも出来ず、困っていたところに甲鉄城が来たのだ。

 

「ふむ。なら私達で捜索するとしよう。瓜生!」

 

最上は瓜生を呼びつけて、ことの次第を説明し、前衛の2人が分かれる提案をした。

 

「俺は居残りとか嫌だね。」

 

瓜生は吉備土が好きでは無い。生駒とも合わないが、無名がいるなら生駒の方に行った方がマシである。

 

まあ、そうなるかと最上も思ったため、低体温症などの対処法などを、ささっと書きつけて瓜生に手渡した。

 

甲鉄城が引き返していくのを、蓬莱城の車上で見送っていると、除雪で汗をかいた歩荷が、最上に近寄ってきた。

 

「最上様がこっちなんですね。良かった。」

 

「…なんだ。お前も瓜生が苦手か?」

 

「えっ?違いますよ。だって最上様、雪歩き下手そうなんですもん。」

 

そう。最上は雪かきもしたことがない。雪を避けられた道ばかり歩いてきた男だ。

 

「そんなことは…。」

 

「言い淀んだ時点で自信ないってことですよね?というか、またいつ雪崩れが発生するかわからないんですから、せめて車内にいて下さいよ。最上様軽いんだから、無名達みたいに投げ出されちゃいますよ。」

 

ぐいぐいと背を押されて、最上は車内に引っ込められた。

 

車内では全くやることがない。カバネが出ない限り、なにもするなとばかりに茶まで出されてしまった。

 

家老どころか城主とは、普通はこんなものなので、なんらおかしい対応ではない。

 

たまに、除雪をしていた武士達が、手が霜焼けになる!と車内に避難してきて、蒸気管に手をかざして暖をとりにくる。

 

「手伝うか?」

 

「いえ。結構です。」

 

にべもない。悲しいかな駅内の雪かきもしたことのない人は邪魔なのだ。

 

暇すぎた。暇すぎたので、蓬莱城の出納簿を引っ張り出して、間違い探しをした。何人かで確認しているようで、訂正の朱書きの字がバラバラである。今回の分はまだ未確認だったようで、間違いがあるが朱書きはない。検算をして間違いを修正していく。

 

「おや、緊急監査ですか?」

 

「違うが?」

 

声の掛け方がいやらしいが、暇を持て余した商人である。どうせ暇だからと、お互いに情報を交換する。お互い大した情報でもないが、暇つぶしにはなる。商人と暇つぶしをしていると、歩荷が駆け込んできた。すわカバネかと立ち上がると

 

「熊です!最上様お願いします。」

 

まさかの熊。冬眠に失敗したらしい。雪崩が怖いから出来れば蒸気筒は使いたくないとのことであった。

 

「毛皮も売れるので、あんまりズタズタにしないで下さいね。」

 

商人は家老より毛皮の心配である。

 

「あっ胆嚢は無傷でお願いします。」

 

注文が多い。図太くて結構。

 

 

 

甲鉄城が戻ってくると、蓬莱城のクレーンに熊が吊られていた。

 

「なにやってんだ。お前。」

 

「熊狩り…。」

 

カバネを斬り殺した刀は嫌なので、他の者から刀を借りたのだが、まさか刀で熊を殺す日が来るとは、最上も思ってなかった。

 

熊は心臓を一突きにして殺した。来栖であれば、獣毛をものともせずに首でも刎ねるのだろうが、最上は得意な突き技を選んだ。人間相手でも首を飛ばすのは中々難しいのに、熊の首をなどもってのほかである。来栖はカバネに骨がないかのように、するりと腕だろうが首だろうが刎ね飛ばすが来栖が異常なのだ。

 

甲鉄城には、無名と生駒がきちんと回収されていたが、2人ともまだガタガタと震えていた。カバネリも寒いものは寒いらしい。回復するので凍傷にはならないが、低体温症にはなるらしく、無名は一時意識がなかったらしい。生脚を出しているから仕方ない。

 

「カバネは何故低体温症で死なんのだろうな。」

 

「回復するからじゃねぇか?動けなくなっても冬眠に近いのかもな。」

 

「冬季に全滅してくれたらいいのにな。あんな薄着ばっかりなのに…。そう考えると、冬季に活動してるカバネはかなり根性があるのか?」

 

「どうだろうな。元々意識ねぇみたいなもんだろ。根性論ではねぇと思う。」

 

「まだまだ謎だらけだな。カバネウイルス。」




熊は美味しく頂かれました。

無名ちゃんが海門で手に息をかけていたので、まあ寒いものは寒いんだろうと思います。しかしなんでカバネは凍らないのだろうか。新陳代謝がアホ程活発なのか?凍死してくれたらめっちゃ楽なんですけどね。


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【小話】鈴木と小太郎

鈴木は外国の人間である。

 

鈴木は外国の蒸気船の整備士をしており、日本近海で蒸気船が難破し日本に流れ着いたのだ。鈴木は自国の他の船が来るのを待ち、帰国するつもりでいた。しかし、外国におけるカバネの状況がよくなかったのか、外国の船はぱったりと日本に来なくなってしまったのだ。

 

せめて大陸に渡れれば、どうにか帰国出来るのではと、大陸に渡る手段を探していたところ、西海道で美馬率いる主戦派とカバネが激突した。日本は駅建築に躍起になっており、到底大陸に渡れる状況では無くなった。

 

本来ならば、外国の人間である鈴木は駅内に迎えて貰える筈はなかったが、高い技術を持った蒸気鍛治は重宝された。鈴木はまず生き延びることを優先した。当時西海道を目指していた鈴木は、運良く製鉄を主産業に振られた顕金駅の近くにおり、技術を売り込んで顕金駅内に入ることが許されたのだ。

 

当然であるが、鈴木の本名は鈴木鍛左衛門ではない。顕金駅で働くにあたり、名乗りはしたが日本人には上手く聞き取れず、日本名をつけてしまった方が何かと楽だと、鈴木鍛左衛門の名がつけられた。ニックネームのようなものであると認識しているので、呼び名としては気にならなかった。

 

元々片言の日本語は使えていたが、必要に駆られてどんどん日本語が上達した。ただ、読み書きはあまり得意では無く、自分につけられた呼び名の画数が多すぎて、署名しようとすると真っ黒になってしまう。筆で書くには鈴木の呼び名は難しかった。

 

最上に企画書を上げる時は、代筆を頼むことが多いが、ミミズがのたくったような字で上げても、最上は怒らない。署名なんてカタカナでスズキと書いているだけだが、特に文句を言われることもない。むしろ署名のカタカナを見て、企画書も全部カタカナで書いて良しと言われたくらいである。

 

最上からすれば、鈴木は優秀な技術者で、重要視すべきはその頭脳と技術である。書類の形式などどうでもいいのだ。カタカナが比較的綺麗に書けるなら、全てカタカナで書いてもらった方が、読む側としても助かるくらいだ。

 

筆記具についても、鈴木は筆に馴染みがないからと、大鍛錬場から出る煤と駅外から採集された粘土を使って黒鉛もどきを作った。最初は現在で言うところのクレヨンのような仕上がりで、細い字を書くことが出来なかった。

 

操車場に来ていた小太郎が、クレヨンのような黒鉛もどきを見て、最上の屋敷から先が駄目になった筆を持ってきて、筆先を切り落として中に詰めちゃえば?と言ったことで、筆先を落とした後、筆管に少し切れ目を作り、細く形成した黒鉛をさし、紐で巻いて鉛筆もどきが完成した。

 

初めて鉛筆もどきで企画書を上げたとき、最上は企画書の内容ではなく筆記具に食いついた。

 

鈴木は外国の鉛筆の説明と、ゴムで擦ると消えてしまうこと、作ったのはもどきであるので、本来の鉛筆より定着が悪く、指で強く擦るとのびて真っ黒になってしまうことを説明した。

 

最上は道元と阿幸地を呼び出して、鉛筆もどきの議論を始めた。煤で黒い字が書けるなら、朱粉で朱色のものが出来るのでは?と議論は盛り上がった。朱色は置いておいても、煤は腐るほどあるのだ。これは良い発明だと、煤と粘土の割合の検討がされ、筆管は竹細工の得意な神西駅に頼り、現在で言うところの鉛筆が生産された。

 

重要な文書の作成には向かないが、それ以外では中々便利な品であった。

 

鉛筆もどきは、顕金筆と名付けられて、主に商人層を対象とした商品として、急速に広まっていった。

 

鈴木が小太郎のアイディアがあってのことだから、開発者として小太郎の名前も併記してほしいと言ったことで、鈴木だけでなく小太郎にも金一封が渡された。

 

最上の執務室にて、書類の進達に来た服部が微妙な表情で最上に話しかけた。

 

「小太郎にも鈴木さんと同額あげたんですか?」

 

「鈴木殿が開発者として名前を併記してほしいと言うのだから、同額に決まっているだろう。」

 

「いや小太郎には多すぎませんか?」

 

「ではいくつだったら良かった?線引きを元服とするならば、例えば一歳違いで元服した者と、していない者であったら差をつけるのか?信賞必罰。貢献した者にはそれ相応の賞が必要だ。」

 

「そりゃそうですけど。」

 

「あぶく銭ではないが、得た金が身につくかは小太郎次第だ。」

 

 

最上の執務室で話題となっていた小太郎は、操車場で鰍にお金の使い道を相談していた。

 

「日頃の感謝の気持ちで最上さんに何かお礼するとか、貯めておくくらいかしら。」

 

「じゃあ貯める。」

 

「あれ?お礼しないの?」

 

「一之進と小夜はもらってないから。」

 

「なるほどね。ところで小太郎は鈴木さんのお手伝いするんだって?」

 

「そう。代筆するんだ。そのかわり蒸気鍛治の仕事を教えてもらうことになってるよ。」

 

「じゃあ将来は蒸気鍛治ね。」

 

「まだわかんないよ。」

 

小太郎は鰍塾でも蒸気鍛治の授業に参加しており、着々と蒸気鍛治の技術を学んでいた。蒸気鍛治の仕事はそれなりに力も使う為、まだまだ子供の小太郎では、十全に仕事をこなすことは出来ないが、このまま学んでいけば確実に知識豊富な蒸気鍛治になるだろう。小太郎はまだわからないなどと言っているが、駅内の仕事で一番興味があるのが蒸気鍛治で、鰍塾や操車場をちょろちょろとしているものだから、蒸気鍛治達も小太郎は将来蒸気鍛治になるんだろうなと思っているのである。

 




今更だけど鈴木さんって外国人よね。この話では鈴木さんの奥さんは海外にいます。エンジニアの兄と美人な奥さんがいるって言うけど、甲鉄城に乗ってるとは思えないし、死んだって感じでもない。となると別の駅か海外かなって。

海門で生駒が矢立使ってたから、鉛筆はまだ日本に入ってきてないものともしました。あれだけの蒸気技術があるのに矢立。


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【小話】経年劣化

駅も駿城も、カバネ襲撃による損傷や経年劣化は大敵であるが、そういう主産業の駅に持ち込んだり、自駅で修復したりで対応している。

 

だがそうもいかないのが給水所である。無人であるからカバネに襲撃されることもなく、経年劣化のみが殆どであるが、建造から10年以上が経過し整備の必要が出ているのだ。

整備の必要が出ているとはいえど、勿論耐用年数である15年を越えたところで全ての給水所がいっぺんに駄目になるわけではない。

 

線路の整備は各駅がそれぞれ修復してきたが、給水所は10年を節目に金剛郭が製鉄などを主産業にしている駅に修復を依頼する予定であったのだが、10年目にして金剛郭が崩壊した為、それも依頼をする前に終わっている。

 

顕金駅は製鉄の駅であるし、道元がいる為、出雲の駅から集金して修復を行うことになった。

 

しかし問題は他の国である。そもそも経年劣化で修復が必要になっていること等知らないのだ。まあそろそろ不味いのでは?と思っている者もいないこともないだろうが、そういう認識があるであろう技術者と、そういう認識のない領主等のお偉方は話す機会などない。例え話す機会があったとして、じゃあ直してこいよ等と言われてはたまらない為、技術者が態々いうこともない。

 

線路もそうであるが、給水所も死活問題である。顕金駅としてもしょっちゅう遠出している為、放置していて良い問題でもない。とにかく周辺諸国の最大駅には、蓬莱城と甲鉄城がそれぞれ道元の書状を持って行き知らせたが、問題はそれ以外の国である。多少足を伸ばせば、少し先までは顕金駅で知らせること自体は可能だが、全ての国に知らせることなど出来はしない。

 

全ての国に知らせるとなれば1年ではすまないのだ。こういった連絡は運行表なき今、有効な連絡手段が存在しない。運行表があれば書状のリレーも出来たし、年始には金剛郭に集まっていたのだからその時に知らせることもできた。

 

「どうしようかね。」

 

「流石に書状を全ての国に届けるのは現実的ではありません。届けたところで修復するとも限りませんし、利がありません。」

 

「しかし各地の給水所が壊れてしまえば、駅に行きつかぬ駿城が増え、駅を維持出来なくなる可能性が加速度的に増していくのではないですか?」

 

道元、最上、菖蒲は、頭を悩ませていた。菖蒲の言い分は最もであるが、出雲の一駅でしかない顕金駅が、年間計画をしてまで知らせて回らなければならない義理も余裕もないのだ。既に周辺諸国の何箇所かの給水所の修復に手を借りたいと申し出も来ているくらいである。大抵の給水所は2駅合同等で対応する予定のようだが、場所によっては応援を頼みたいと言われている。顕金駅の当面の目標は、出雲と周辺諸国を盤石にすることである。

 

「やはり各国の領主の目端が利くのを期待するしかありませんな。」

 

「今後の活動範囲拡大時に知らせていくしかないのではないでしょうか?」

 

「新規の場所に活動範囲を広げる際は、特に気をつけるよう通知しましょう。まぁ甲鉄城は私が乗りますし、吉備土もその辺りは言い含めれば問題ないかと。後は周辺諸国の駅には情報の拡散も依頼しておきましょう。」

 

結局のところ、顕金駅が直接手を出すのは周辺諸国に留まり、今後の活動範囲拡大時に地道に話を広げていく方針となった。周辺諸国には情報の拡散を依頼したが、どこまで情報が広がるかは未知数で、今後は路線図の給水所の位置も入念に確認しながら活動範囲を広げていくこととした。




運行表って、隣の駅に行くのに死者が普通に出る世界観だけで考えると、定期的に死亡フラグが立つ糞仕様だけど、連絡を密にとるためには必要な措置だなぁって思います。

現在の水道管ですら耐用年数超えてるのが13万キロらしいですしね。一気に作ると一気に寿命を迎えるのがなんとも言えない。水道管は耐用年数40年らしいですけど、もうちょっとなんとかできなかったのか…。


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【小話】刀

最近最上が贔屓にしている蒸気鍛治がいる。生駒は最上が何を頼んでいるのか知らず、気になってはいるのだが、贔屓にされている蒸気鍛治は、生駒と特別仲が良いわけでもない。

 

そわそわと気にしていると、鰍が生駒に寄ってきた。

 

「泉さん見つめてどうしたの?」

 

泉とは、最近最上に贔屓にされている蒸気鍛治のことである。

 

「いや…最近最上さんが、泉さんになんか頼んでるだろ…。鰍は知らないか?」

 

「ああ。あれかぁ。刀預けて細工を頼んでるのよ。」

 

「細工?いったいどんな?」

 

「あはは。別にカバネを殺す為の細工じゃないのよ。」

 

「えっ!そうなのか?」

 

鰍が笑って説明した。

 

「府中駅で甲鉄城が結構壊れたでしょ。あの修理の時に、泉さんたら遊び心で、厩舎車両のタラップにちょっとだけ、彫刻を入れたのよ。」

 

「えぇ…。なんのために。」

 

「言ったでしょ。遊び心って。深い意味なんてないわよ。それで、その彫刻が最上様に早々に見つかってね。」

 

「怒られそう…。」

 

「怒られてないわよ。器用だなって褒められたって言ってたもの。」

 

「ふーん。でも最近贔屓にしてるのと関係あるか?」

 

「刀に彫刻を入れてるのよ。」

 

「強度が…。いや金属被膜をつければ…。」

 

「実戦刀じゃないらしいわよ。かなりの透かし彫りしてるから、泉さんも大変みたい。元々彫刻は趣味でしかないしね。」

 

「ふーん。」

 

最上が泉に頼んだのは、数打ちとまでは言わないが、名刀でもないごく普通の刀に透かし彫りをしてほしいというものだった。泉は本職ではないが、最上の依頼を受けた。なにせ金払いが良い。個人的な頼みなので、プライベートの時間にせっせと彫刻を進めた。意匠は倶利伽羅龍で、広い範囲に透かし彫りを入れるため、中々仕上がらないのだ。最上は時折様子を確認しにくるが、急かすことはなく早さよりも彫刻の出来の方を重視しているようだった。

 

鞘も蒔絵を別の人間に頼んでいるようで、完全に美術刀の部類である。

 

暫くして、泉の彫刻が完成しすると金属被膜加工に回された。来栖や最上が使うには、強度に心配があるものの、人を斬るには充分な強度である。鞘には子柄や笄もつけられて刀が完成した。誰もが、最上の屋敷に飾るのだと思っていたのだが、これは下津井の山本に渡す贈り物である。

 

和三盆や柚子皮の砂糖漬けなどの、高価な贈り物に対するお返しがまだなのだ。お返し目当てではないからこそ、きちんと返さねばと思っていた。行商先で探していたが、これだというものがなく、どうしたものかと思っていたのだが、無いなら作ってしまえと思い至った。

 

山本はカバネと白刃戦はしないが、武士であるので刀は貰って困るものではない。元の刀は普通の刀ではあるが、各所に手を入れた。美術刀としては中々の物になった。とはいえ刀も彫刻も鞘の蒔絵も本職の作ではないので、山本が所持しても問題にならない程度の価値である。

 

珍しくはあるが、実際のところ価値はそれほどない。だが、山本はこういう変わったものが好きであるので、喜んでくれるだろうと最上は満足した。

 

後に下津井駅に立ち寄れるタイミングがあり、山本に刀を贈ると最上が引くほど喜んだ。

 

「家宝にする!」

 

「やめてください!珍しいかもしれませんけど、際物の類ですよ。」

 

実戦刀ならいざ知らず、美術刀に金属被膜加工をした時点で珍しい部類だが、しかも本職ではない者達の作った美術刀もどきである。家宝にされてはたまらない。話のネタくらいのつもりであったのだ。

 

この美術刀もどきは、透かし彫りを広範囲にしたことで、びっくりするほど軽くなっていた。金属被膜加工で人を斬れる強度こそあるが、カバネ相手は不安が残る。

 

そもそも金属被膜刀がそこそこ珍しい。普通の駅は金属被膜を手に入れる機会が極端に少ない。駿城で轢いた時の残骸が引っかかっているか、自分達で殺さなければ手に入れることはできない。殺せても回収できるかはまた別なため、金属被膜は中々に希少価値があるのだ。そのため金属被膜刀は、それなりの地位にいる者しか持つことができない。

 

まあ金属被膜刀で白刃戦をしてやろうなんて者もそういないので、地位のある者の権威誇示のために使われているのが殆どである。

 

後の世で、実戦刀でもないのに金属被膜加工がなされ、装飾も非常に多い珍品として博物館に寄贈されることになるのは、この時代の誰も予想しなかったことである。

 

 

 

刀自体は特に振るわなかった刀工の作であるが、誰が施したか不明の彫刻があしらわれている。この刀工は鑑賞価値の低い実戦的な作刀が多く、彫刻自体は全く関係のない者が後から加えたものと考えられる。刀の銘には特に何も加えられておらず、彫刻が彫られた年代も不明であるが、金属被膜加工がなされていることから、カバネの溢れた天鳥幕府の時代から、それ以降とされている。金属被膜加工のなされた刀は実戦刀ばかりで、美術刀で金属被膜加工がなされているのはこの刀のみとなっている。金属被膜の厚さから、当時金属被膜加工を得意とした顕金駅において加工されたと考えられているが、詳細は不明である。




みたいな?当時価値がなくても後から価値が爆上がりするのって珍しくないよね。山本君が個人的に貰った物だから記録もクソもない。

正体不明の彫刻師になっている泉くん。刀に彫刻とかこれっきりだし、甲鉄城も残らなかったので、マジで正体不明。そもそも彫刻師じゃないので当然。彫刻の腕はまあそれなり、後の世でも誰それの習作ではと話題になるが、違うと判明するの繰り返しをしてれば良い。

遥か未来では、甲鉄城は1両目だけ残されて、後は資源として溶かされてます。


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