紅い翼と白い鎧【IS】 (ディスティレーション)
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ドイツ編
第01話 異世界


この小説は、機動戦士ガンダムSEEDDESTINYのシン・アスカがIS世界に行くお話です。

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更


「ここは……俺はなんで……」

 

朦朧とした意識の中で呟いた言葉に、答える者はいない。

真っ黒な空間の中を漂い、目の前に存在する赤く光る球体を見つめていた。

直前に何をしていたのか思い出せず、なぜここにいるのか分からない。

それにだんだんと体が空間に溶けていくような奇妙な感覚に襲われている。

 

(早く……ここから出ないと)

 

そう思うと腕が動き、手を伸ばて赤く光る球体を掴むことができた。

掴まれた球体は、光がますます強くなっていき空間の全てを包み込んでいく。

 

(光が……広がっていく)

 

その光を眺めながら、彼の意識はなくなっていった。

 

 

 

 

 

――CE.74年7月

シン・アスカがMIA(作戦行動中行方不明)になった。

二度目の大戦の終結後、わずか半年後の出来事だった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

どの位気を失っていただろうか、体に冷たい風が当たったことで意識が覚醒する。

立ち上がって辺りを見回し、ここが見知らぬ公園だと理解する。

そして立ち上がった際に感じた重力からここは地球だと判断する。

 

(地球? 俺はずっと宇宙にいたのに……)

 

自分の感覚に間違いがあったのかもしれないと、今度は夜空を見上げる。

コロニーの天井が見えないためここが地球であるのは間違いない。

しかし、地球から見えるはずのコロニー群が見えない。

どういう事かと誰かに聞きたいところだが、夜なので誰もいない。

次になぜこんなところにいるのか考えてみる。

 

(俺は廃棄コロニーに潜むテロリスト討伐のために、ナスカ級に乗った。

そして任務の打ち合わせをした後、部屋で寝て……なぜかここにいる。

もしかして寝ている間に放り出された? いや、さすがにそれはないだろう)

 

考えれば考えるほど状況が理解できなくなる。

戦闘中に何かあったのかとも考えたが、自分が今軍服であることから違うだろう。

 

(とりあえず公園から出てみるか)

 

公園から出ようと思ったが、入り口の近くに地図を見つけたので覗いてみる。

その地図の地名を見た瞬間、シンは公園の外にある建物を見回した。

 

「ベルリン……。

そんなバカな……だって、ここはあの時!」

 

シンはかつて守れなかった少女と、彼女が壊した都市を思い出す。

もしあの時……と考えてしまうが、過去は変わらない。

だからこそ、同じ過ちを繰り返さないために自分は軍人として戦うことを選んだ。

だがここにあるのは廃墟からの復興中の都市ではない。

まるであの時の悲劇が全て夢であるかのように、整備された街並みがここにある。

 

何も考えたくなかったが、街中を歩いて人に会うたびにここは本当にベルリンか確認した。

 

 

 

 

 

やっぱりベルリンだった。

 

 

 

 

 

ZAFTのジブラルタル基地について聞いた。

 

 

 

 

 

ZAFTなんて軍は存在しないそうだ。

 

 

 

 

 

今の年月日も確認した。

 

 

 

 

 

今は西暦だそうだ、しかも再構築戦争よりもさらに昔ときた。

 

(もしかしてここは過去の世界なのか?)

 

次々と判明する事実に頭を悩ましても答えはぜず、どうしようもないので

 

(少し冷えると思ったら今は10月か……)

 

などとどうでもいいことを考え、気を紛らわせることにした。

任務に向かったのは7月だったのだが、そんな事ではすでに驚かなくなっていた。

人に尋ねるのをやめ、何も考えずに歩いていると大通りに出た。

 

そこに街頭テレビを見つけたので、近くのベンチに座り画面に目を向ける。

 

「本日、国際IS委員会より第4回モンドグロッソ大会の開催国がアメリカに決定しました」

 

ISが何か気になったのでそのまま見たが、ニュースの内容だけではよく分からなかった。

 

「本日は第4回モンドグロッソの開催国決定に伴い、第1回と第2回大会の特集をお送りします」

 

幸い次はISの番組なので、そのままテレビを見ることにした。

 

「第1回大会はISの開発国である日本で、第2回は我が国ドイツで開催され――」

 

司会者の後ろの画面には、過去大会の物と思われる映像が流れていた。

 

(パワードスーツによる模擬戦か?

しかし変なデザインだ、上半身がほとんど露出している。

模擬弾とはいえ当たると痛いよな……)

 

「そもそもIS、インフィニット・ストラトスとは――」

 

ここからISそのものの説明が入る。

元々は宇宙開発用ということなので、ISはMSの先祖に当たるのかと考えたが

説明の続きを聞いてシンはまた頭を悩ませることになる。

現実逃避で見ていた番組は不幸にも、彼に追い撃ちをかけることになった。

 

(PIC、量子変換、絶対防御……そんなの聞いたことないぞ)

 

この番組のおかげで、ISが何なのか理解することができた。

 

天才、篠ノ之束が1人で作り上げた世界最高のパワードスーツ。

 

しかし、自分はISの存在を今まで知らなかった。

MSの前身である宇宙用のパワードスーツの一種であるにも関わらずだ。

そしてISには、女性にしか使えないという訳のわからない欠陥を差し引いても兵器として十分な(MSクラスの)性能がある。

現在は競技用とはいえ結局アラスカ条約なんて無視されて、再構築戦争に使われたはずだ。

もし仮にすぐに技術が失われて戦争で使われなかったとしても、パワードスーツに変革をもたらしたISが歴史から完全に消える事ができるはずがない。

他にも、この時代にISが存在していたのなら、CE時代にビーム兵器の小型化に苦労したのもおかしな話になってくる。

その小型化だって約18mのMSが使うサイズで、ISの物と比べれば明らかに大きい。

考えれば考えるほどおかしい事だらけであり、過去と未来が繋がらない。

 

 

つまりここはCEとのつながりがない場所……

 

 

ここまでくれば誰もがある答えにたどり着くだろう……

 

 

 

――異世界――

 

 

 

ここが過去ではなく異世界だとすれば、すべて辻褄が合うではないか。

 

「あは、ははは……」

 

頭が痛い。

 

「次のイタリアでは今回果たせなかった初代ブリュンヒルデとの勝負を――」

 

番組の内容なんてとうに頭に入ってない。

いっそ狂ってしまえたらどれだけ楽だっただろうか……

しかし、過酷な戦争を生き抜いた精神は壊れてはくれなかった。

なぜ今、ISを知ってしまったのだろう……どうせなら状況が落ち着いてから知るべきだった。

 

 

 

何も知らない方が幸せだった……。

 

 

 

 




みなさん初めまして。今後よろしくお願いします。
夜中に街中を赤服で徘徊して迷子みたいな質問する主人公……
MSはついて来なかったので、シンが異世界から来たって向こうは分からないから仕方がないね。


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第02話 飛行試験機

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更


(ここにいても仕方ないか……)

 

ここが異世界だとしても、途方に暮れていてはどうしようもない。

とにかく行動を起こそうと、停止した思考を再起動し持ち物を確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IDカードもクレジットもナイフも拳銃も何も持っていなかった……

 

 

 

 

 

自分の全財産は今着ている赤服だけだった。

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

大通りを歩きながら今後のことを考える。

 

(まずは当面の生活費だけでもどうにかしないと……)

 

ここが山の中とかならサバイバルできただろうが、川とかがあってもここは市街地だ。

売ってお金にできる物もないので、身元不明でも雇ってくれる所があればいいが……。

 

 

 

 

 

そうこう考えているうちに大通りを抜け、ISアリーナの前にいた。

何かのイベントが行われているのか夜中だというのに賑わっていた。

 

「ISの技術を利用し飛行を可能にしたアーベントヴォーゲル社の試作パワードスーツのデモンストレーションか……ちょっと覗いてみるか」

 

ISの技術というのが気になったので足を運ぶ。

 

 

どうやらデモフライトは終了したようだが、試作パワードスーツは展示されていて間近で見ることができるようだ。

 

 

順番待ちをしながらスクリーンに映る昼間のデモフライトの映像を見る。

このパワードスーツはISと違い人間と同じサイズになっている。

たしかに飛行しているが、ISと比較する以前のレベルで遅い。ラジコンの方が速いくらいだ。

ただ説明を聞く限り性能が低いわけでなく、今のパイロットの腕ではこれ以上の速度を出すと機体を正確に制御できなくなるそうだ。

ちなみにパイロットの男性はドイツ軍の少尉で戦闘機乗りだそうだが、軍人の腕をもってしてもこの程度の速度しか出せない制御システムで大丈夫なのだろうか。

 

 

映像を見ているうちに順番が回ってきた。

機体の周りに集まっている人に説明を行う担当者と飛んだ時の感想を語る少尉。

すると突然、1人の女性が柵を超えて機体に近づいて行った。

 

「あ、勝手に入っちゃ「動くな!」

 

女性は銃を取り出し担当者に向けようとする。

それと同時にシンは柵を越え、少尉も取り押さえようとする。

女性は少尉に銃を叩き落とされ、捕まらないように距離を取ろうとする。

シンは移動する女性の背後に回り取り押さえようとするが、できなかった。

 

 

 

女性が突然光りだした。

 

 

 

光が収まるとそこには人間の倍ほどの大きさの緑の鎧が存在していた。

 

「IS……ラファール・リヴァイヴ」

 

少尉の呟きからこれが本物のISだと認識する。

会場はパニック状態になり、全員が一斉にアリーナの外へ駆け出していく。

女性はこの状況に意を介さずパワードスーツの方を向く。

 

「すみやかに武装を解除して投降してください」

 

少尉は銃を構えて警告する。

 

「ISの使えない男に何ができる」

 

女性はISで殴ろうとするが少尉は後ろに下がって避け、構えた銃を発砲する。

少尉は正確に女性の肩を撃つが、当たった場所にバリアが現れて防がれる。

この状況で投降させるのは無理と判断したのか少尉が担当者に指示を出す。

 

「時間を稼ぎます。その間に搬送してください」

 

少尉と共にISの注意を引くため、シンは女性が落とした銃を拾いISを後ろから撃つ。

 

「あんたがパワードスーツを着て逃げろ!飛ぶのは難しくても走れるだろ!」

 

「だ、ダメだ。腰が抜けて立てない」

 

機体のすぐ横にいる担当者に着てもらおうと思ったができないようだ。

 

「くっ 着込めばすぐに動かせるんだな」

 

ここで時間をかけても意味がない。担当者の肯定の言葉を聞き機体に近づく。

会話が聞こえたのか、ISがこちらを向く。

 

シンは振り向いた所を狙って顔面を撃つ。

 

銃弾を防いだバリアの発光で視界が塞がれ、ISの動きが一瞬止まる。

その隙をついて少尉が照明を倒し、ISの動きを封じる。

ISが動き出さないうちに、シンは機体を纏う。

 

 

 

 

 

「装着を完了した。どこに行けばいい?」

 

「連絡はしてあるのでもうすぐ軍のISが来るはずです。

外に出ると市民に被害が出るので、貴方はアリーナで時間を稼いでください。

その機体は安全のため稼働中は常時全方位に“ISと同じバリア”が展開されています。

ラファールの武器では突破できませんので、エネルギーが切れない限り大丈夫です」

 

そう言うと少尉はシンにインカムを渡し、担当者を立たせる。

ISが動きを取り戻し、こちらを取り押さえようと迫ってくる。

シンはこれを避け、少尉の指示通りにアリーナへ向かう。

 

「アリーナの天井を開けて軍のISを突入させます。私たちも行きましょう」

 

少尉と担当者はアリーナの制御室へと向かった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

(とにかくアリーナに向かって……それからどうする?

武器は拾った銃しかないし、あまりバリアにも頼りたくない)

 

正直言って不可視のバリアは展開されているか分からないので怖くて頼れない。

そうなると全ての攻撃を避けなければならない。

 

「少尉、この機体で空を飛ぶにはどうすればいい」

 

「訓練なしで飛ぶつもりですか!」

 

「バリアで亀になって捕まるよりマシだろ」

 

「……イメージです。飛ぶイメージを持てば機体は飛びます。

ですが制御が難しいので、イザという時以外は飛ぶよりジャンプしてください。」

 

「サンキュー」

 

礼を言って通信を切ると、アリーナに到着する。

 

「あら、鬼ごっこは終わりかしら?」

 

「いや、まだ終わってないよ鬼さん。」

 

先手を取って銃を撃つ。少尉には悪いが忠告を無視して上昇する。

 

(なんだこれ。少しのイメージでこんなに加速がつくのか)

 

機体制御に戸惑っていると、ISはライフル銃を出現させていた。

 

「そんな下手な飛行で逃げられるものか!」

 

シンは引き金を引く直前に飛行をやめる。

飛行能力を失った機体は重力に引っ張られて落下し、撃ち出された銃弾は空を切りアリーナの天井のバリアに当たる。

 

今度は避けられないようにと、ISはライフルをしまい次はマシンガンを2丁構える。

シンは飛行に慣れようと上昇と落下を繰り返しながら空中に浮遊している。

 

「バカにして!」

 

ISは飛行しながらマシンガンを連射する。

今度は大きく旋回して躱していく。

 

 

 

 

 

「このッ このッ!」

 

時間が経って焦っているのかISは闇雲にマシンガンを乱射している。

一方シンは飛行に慣れてきて、だんだんと速度を上げて回避していく。

 

(大気圏内じゃなくて宇宙空間を移動するイメージだな。

軍人より宇宙飛行士のほうがこの機体にむいてるな)

 

生身でもMSでも、宇宙空間での移動と姿勢制御は体に染みついている。

とはいえイメージで飛行する感覚には違和感を覚えるので、まだ細かい動きはできない。

 

 

 

 

 

そうこうしているうちにアリーナの天井が開く。

 

「時間切れだ。あんたの負けだな」

 

「くっ ここで捕まるわけには」

 

そう言うとISは一目散に天井から外に出ていき、待機していた軍の同型機と接触する。

 

 

 

 

 

2機は戦闘をしながらアリーナの上空から離れていった。

 

 

 

 




次回は眼帯を付けた謎の少女と出会います。
眼帯の少女……いったい何者なんだ。


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第03話 模擬戦

3話にしてようやく原作キャラ登場。
ラウラはもっと戦闘で活躍するべきだと勝手に思ってます。

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2015.11.14:サブタイトル変更


襲撃事件の後、シンはパワードスーツの開発会社からある提案をされていた。

 

「君にその気があるのなら、是非このスーツのテストパイロットになってくれないか」

 

聞けば、普段は研究員がテストパイロットをしているが、まともに飛べないらしい。

デモンストレーションの時は上手に飛んでいるところを見せるために、ドイツ軍に協力を頼みセンスのあった少尉に乗ってもらったそうだ。

今後はより詳細な飛行データを取りたいのだが、研究員では満足に取れず、軍人を長い間派遣してもらうわけにもいかない。

そのため、正式にパワードスーツのテストパイロットをしてほしいと頼まれた。

 

シンからしてみれば願ってもいない提案なので、すぐに承諾した。

その後研究室で自分の状況も話したのだが、異世界については信じてもらえなかった。

確かに自分も相手の立場なら信じないが……。

 

おかげで今は住む所があるし、身元の方もドイツ国籍で融通してくれるそうだ。

それほどこの会社にとって、このパワードスーツの開発が重要なのだろう。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

「いっけね、時間がない。急がないと」

 

あの事件から1週間ほど経ち、訓練を繰り返すことで飛行にも慣れてきた。

そして昨夜は自分の歓迎会を開いてくれた。

それは嬉しかったが、久しぶりにお酒を飲んだせか寝坊してしまい集合時間に遅れそうだった。

そのため今は走ってIS試験場に向かっている。

 

「ここを曲がればすぐだ。良かった、間に合うぞ」

 

速度を落とさず曲がろうとするが、それがまずかった。

別の方向から歩いてきた人物とぶつかってしまった。

 

(しまった)

 

ぶつかったことで互いに後ろに倒れていく。

シンはとっさに手を伸ばし、相手の腕を掴む。

そのまま相手を引き寄せ、その反動で自分の体勢も立て直す。

結果、ぶつかった相手は倒れることはなくシンに抱かれる形となった。

歳は自分より少し下だろうか、研究員の誰かの娘かと思ったが恰好がそれを否定する。

ストレートに伸びた長い銀髪の小柄な少女だが、眼帯に軍服は父親の仕事場に来る恰好ではない。

 

「ご、ごめん。急いでたからつい……。

大丈夫? 怪我はないか」

 

「あ、ああ……大丈夫だ」

 

少女は突然のことで少し混乱していたが、怪我はないので大丈夫だと返す。

シンは少女の言葉を聞いて安心し、もう一度謝罪するとIS試験場へ走っていった。

取り残された少女はようやく冷静になり何が起きたのか理解した。

 

「あ、あいつ。

人にぶつかっておいて、さらには抱き寄せるなどと……新手の痴漢か!」

 

「いえ、彼はただ隊長が転ばないようにしただけかと」

 

「そんなことは知るか。

クラリッサ、私たちもいくぞ」

 

後ろにいたクラリッサと共に少女もIS試験場へ向かう。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

<<戦闘開始>>

 

「シン・アスカ 行きます!」

 

パワードスーツを着て試験場の上空を舞う。

武器は間に合わせだが、実体剣とマシンガンを装備している。

ターゲットが5体出現し、こちらに向けて光線を放つ。

光線を避けつつ、マシンガンで1体ずつ確実に撃破していく。

低速移動に単調な攻撃しかしないターゲットを全機壊すのに時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

<<戦闘終了>>

 

ターゲットを全機撃破すると、シミュレーションの終了が伝えられる。

 

「いやあ、今でも信じられないよ。

ここまでISみたいに飛ぶ事ができるなんて」

 

この研究の責任者である主任が目に涙を浮かべながら言う。

周りにいる他の研究員も似たように感動している。

今までは誰がやってもただ飛べるだけだった機体が、低レベルとはいえISの戦闘シミュレーションをこなせるまでになったからだろう。

 

すると見覚えのある少女が声をかけてくる。

 

「まさかお前が新たなテストパイロットだとはな……

確かに、今までの誰よりも使いこなしている」

 

軍服を着た少女が言う。

そう、ここに来る前にぶつかってしまった少女である。

少女とその横にいる女性はシンの横にいる主任に近づき敬礼して挨拶をする。

 

「ドイツ軍IS配備特殊部隊隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐です」

 

「同部隊副隊長、クラリッサ・ハルフォーフ大尉です」

 

彼女たちの名乗りを聞いた主任はシンに目を向ける。

おまえも自己紹介しろと目で言われたので、シンは敬礼し自己紹介する。

 

「アーベントヴォーゲル社IS開発部所属、テストパイロットのシン・アスカです」

 

「で、私が開発部の主任だ。今日はよろしく頼むよ。

それじゃあ、銃弾全部模擬弾に変更したらすぐに模擬戦始めるよ」

 

模擬戦をするとは聞いていたが、まさか相手が軍の少佐とは思わなかった。

そしてその少佐がぶつかった少女だとは思わなかった。

互いに何か言おうと思ったのかシンとラウラは目を合わせるが、すぐに目を離し模擬戦の準備に取りかかった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

<<戦闘開始>>

 

合図とともに両機が動き出す。

最初に攻撃したのはラウラのシュヴァルツェア・レーゲンだった。

右肩に装備されている巨大な砲塔をシンに向ける。

 

「シン・アスカ、先ほどの礼をここでさせてもらう」

 

言うと同時にレールカノンから砲弾が飛んでくる。

シンはこれを避けてマシンガンの弾と一緒に言葉を返す。

 

「あ、いや、確かにあれは俺が悪かったけど……そこまで言うか!?」

 

「貴様の不注意を矯正してやる、感謝しろ」

 

そういうと今度は2本のワイヤーを自在に操ってシンを襲う。

迫りくるワイヤーを避け、剣で斬り落とそうとするも斬れない。

 

「なんだよこれ。ナマクラじゃないか!」

 

剣で斬れないのなら、模擬弾のマシンガンでも駄目だろう。

とはいえ、ワイヤーの2本くらい避けるのに苦労はしない。

悠々と避けながらマシンガンで応戦していく。

 

「ほう、少しはやるようだな。では、これならどうだ」

 

そういうとさらにワイヤーを4本追加する。

6本のワイヤーによる全方位攻撃によって、ラウラが優位に立つ。

シンは完全に防戦に回ってしまい、反撃できてもせいぜいワイヤーの隙間からラウラを狙ってマシンガンを撃つぐらいであり、当然そんな状態での攻撃など当たるはずもない。

それでもシンは6本全てのワイヤーを避け続けている。

 

 

 

 

 

(まさか全てのワイヤーを躱し続けるとは……

手数で翻弄して、足を止めたところを絡め取るつもりだったが)

 

数分間続いたこの均衡を破るためラウラはもう一度右肩のレールカノンを撃つ。

シンはすぐさま射線から外れ、ワイヤーを避けながらレールカノンも避ける。

 

(砲を向けてからの反応が速い。

この状況でも常にこちらの動きも見ているというわけか……なら!)

 

ラウラはISにレールカノンをオートでロックオンするように命令を出し、シンの意識をよりレールカノンに集中させる。

ロックオンされたシンは射線から外れるように動くので、ラウラはレールカノンを撃たずにワイヤー操作に集中し、回避先を狙う。

 

シンの回避に余裕がなくなっているのが分かる。

だが、ワイヤーはまだシンには届いていない。

ラウラにとってこの状況は想定の範囲内……ワイヤー6本とIS本体の動きを常に認識している彼をこの程度で捕まえられるとは思っていないし、レールカノンの囮も長くは続かないと思っている。

囮がばれる前にラウラは次の行動に移る。

今度は発射間隔をランダムにレールカノンを自動で発射するように設定する。

弾数は多くないのですぐに弾切れになるだろうが、すぐに決着をつけるつもりなので問題はない。

これで少しは囮とばれにくいだろうし、たとえ囮と分かっていても避けるためにはレールカノンに意識を集中させなければならない。

 

作戦は成功し、レールカノンを避ける度にシンはどんどんワイヤーに追い込まれていく。

 

 

 

 

 

「うわっ!」

 

3発目を避けた時、とうとうシンは体勢を崩してしまい思わず声が出る。

その隙にワイヤーが襲いかかるが、シンは手足を大きく振ることで強引に姿勢をずらして避ける。

避けられたからといってせっかくのチャンスを見逃すラウラではない。

シンの体勢が戻る前に攻撃を仕掛ける。

 

「もらった!」

 

右手のプラズマ手刀を展開し、瞬時加速で一直線に接近する。

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

「私の勝ちだな」

 

ラウラはシンの面前にプラズマ手刀を、シンはラウラの面前にマシンガンを突きつけている。

そしてシンの背中を狙うように空中で静止している6本のワイヤー……。

 

「ああ、俺の負けだ」

 

 

 

 

 

 

<<戦闘終了>>

 

シンが負けを認め、模擬戦は終了した。

 

 

 

 




あれ? ラウラが有線BT付けたら結構強くね?

さて、このペースで行くと一夏登場までに何話かかるんだろう……。


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第04話 CE

更新履歴
2015.05.17:最後の部分を大幅に改稿
2015.11.14:サブタイトル変更


ISが発表されてからドイツ軍と共同で、” ISの女性にしか動かせない欠陥の原因究明と解決”のための研究を行っていた。

当時、このような研究は世界各国の研究機関で行われていた。

しかしISコアは完全にブラックボックスであり、この世に1人しかいない制作者以外にはどうすることもできなかった。

 

この分野の研究については、世界中にあるどの研究機関も前に進むことはできず、次第に研究は打ち切られていった。

ドイツも例外ではなく、研究は打ち切られた。

ISが女性にしか扱えない事実を受け入れるしかなかった。

 

 

 

 

 

世界は1人の天才に勝つことはできなかった……。

 

 

 

 

 

だがISが女性にしか扱えないのに納得できなかった。

 

国の援助は打ち切られても、民間企業の中で研究を続行することにした。

ドイツ軍研究者の一部が共感し、軍と交渉してISコア1個確保して移籍した。

 

それからはブラックボックスを解明する研究と、ブラックボックスのままでも男性がISを動かせるようにする方法の研究を行った。

国からは直接的な援助はないが、元ドイツ軍所属の研究員のコネで軍のIS関連のデータを一部提供してもらえるようにもなった。

 

こうして研究を続けていくうちに私たちは、女性がISを動かす時にISが受信している信号の解析に成功した。

そしてその信号の男女差を研究し、男性の信号を女性の信号に変換させることが可能になった。

ここまでくれば後は変換した信号を使ってISを動かすだけだった。

 

 

 

軍との共同研究から苦節8年、ようやく男性でも動かせるISが完成した。

 

 

 

だが、これで完全にISを動かせるようになったわけではない。

ブラックボックスの解明は進んでいないし、この方法で動かすとISがパイロットを認識しないという状態になる。

ISの認識では無人状態なので、ISの操縦者保護機能の全てが機能していない。

コア・ネットワーク、絶対防御、ハイパーセンサーといった主要機能が使えないのでは、ISとしては欠陥品と言わざるを得ない。

 

それでもPIC、エネルギーシールド、拡張領域は使うことができた。

それらがどこまで使えるかを見るために作ったのが、あのパワードスーツだった。

当然この機体が使える機能は全て把握している。

だからこそ相当高度な訓練を長期間行わなければ、ISに匹敵するレベルでその機能を使いこなせるようにならないと知っている。

 

では、なぜ彼はその能力を持っているのか?

やはり彼の言う異世界というやつなのか、それともただの世紀の天才だというのか。

世紀の天才なら既に1人存在するが……。

 

うやむやのままにはできない、今すぐにでも確かめよう。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「やっぱり、君が異世界から来たというのは本当なのか?」

 

「まあ、自分でも信じられませんけど、確かにそうとしか言えないです」

 

模擬戦終了後、全員が集まる研究室に戻ってきた。

全員が模擬戦を見ていたのか、主任が質問している理由を理解しているようだった。

 

「最初聞いたときは冗談としか思わなかった。

もしかしたら何らかの影響で記憶障害が起きているのかとも思った。

君が襲撃事件の際の飛行を見た時は天性の才能を持った人間だと思った。

だが、さっきの模擬戦を見て確信した。

私はあの状況下で、君が攻撃を避けるためにどう動けばいいか瞬時に判断し、その判断通りに機体を動かしているように見えた。

これを1週間ほどの飛行訓練でできるようになるのを才能・天才で片付けていいのか」

 

主任の言葉にラウラが続く。

本当に天才だとしたら、遺伝子強化試験体として生まれ、越界の瞳まで移植してずっと軍事訓練をしてきた自分の存在はなんだというのか。

 

「実際に相手をした私から少し言わせてもらう。主任の言っていることは正しい。

さらに言うとシン・アスカは常に私の射線に入らないように位置取りをしていた。

ハイパーセンサーが使えない機体でだ……自分の眼だけでだぞ!

1週間の訓練でこんなことができる天才がいてたまるか!」

 

全員の視線がさらにきつくなる。どうやら皆、大天才が嫌いなようだ。

当たり前と言えば当たり前だ、ここにいる人たちはISを作り上げた大天才に対抗するために研究をしているのだから。

ドイツ軍の2人に関しても、ISの戦闘訓練を長期間に渡りこなしてきたのだろうから良い気にはならないだろう。

当然だ、MSに乗って1週間足らずの人間に性能が明らかに劣る機体で同じことされたら、自分だって良い気分にはならない。

 

この状況なら全てを話せば信じてくれるだろう。

向こうも異世界から来たのか、ただの天才なのかと問いかけてきているのだし。

 

「……俺も本当のことを話します。だから信じてください。

俺は天才ではなく、異世界から来たということを」

 

この前は宇宙進出とMSについてしか話さなかったが、今度は事細かにCEについて話をした。

コーディネイターの存在、ナチュラルとの確執、MSの出現、2度に渡る戦争を……。

そして2度目の戦争で自分は最前線で戦い、戦後の任務中に気付いたらこの世界にいたと。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「宇宙に人が住んでるのか!?」「MSはISとはまた違うのか?」

「あの赤い服ってコスプレじゃなかったのか……」

 

シンの話は衝撃的なものであり、中には異世界が信じられず、やはり記憶障害による妄想ではないのかとシンを心配する者もいたが、真偽は置いといて彼の話には興味深い内容が数多くあり、それに関する質問が次々と湧き上がっていた。

特に宇宙に人が住むために作られたコロニーについてとMSについての質問が多く、シンは自分が答えられる範囲でそれらに答えた。

 

この世界では宇宙に行くことはできるが、宇宙ステーションがあるくらいで民間人が一般生活できるような場所は未だできていない。

近年ISの登場で宇宙開発が躍進すると思っていたが、様々な政治的要因によりIS利用による宇宙開発は計画の段階で完全に凍結、できたことといえばISが本当に有人で宇宙空間を活動できることを証明しただけだった。

さらに世界はISの技術開発に力を入れるようになったため、結果として宇宙開発はIS登場以前のまま停滞してしまった。

 

そしてアーベント・ヴォーゲル社は主力事業の一つとして民間用のパワードスーツを作っているため、ISと合わせて自社製品とMSの比較に目を輝かせていた。

そしてデリケートな問題だと判断したのか、それともただ単に技術者として宇宙やMSへの興味がそれ以上に大きかっただけなのか、研究者達はコーディネイターについてはあまり触れなかった。

 

ラウラはそれをただ黙って見ていた。

彼の口から語られた、自分と同じ存在について考えながら。

 

(コーディネイター……)

 

驚きだ、彼の世界では遺伝子操作が賛否こそあるが一般に認知されている。

そして私は戦闘能力を高めるために遺伝子操作されて生まれた人間だ。

 

遺伝子強化試験体――通称アドヴァンスド。

 

名前の通り未だ試験段階の技術であるが、この世界にも人間の遺伝子操作技術はあった。

しかし倫理に反するとして人間への遺伝子操作は禁止され、その存在は世間へ認知される前に試験段階で終了した。

 

(いったいどんな人生を送ってきたんだ……お前にとってコーディネイターとはなんだ?)

 

コーディネイターとしての人生を彼は語っていない。

彼にとって戦争がコーディネイターよりも大きな位置にある事は分かった。

だが彼自身はコーディネイターをどう考えているのか、戦争を経てコーディネイターとしてどう生きているのか、それがこの世界に来たことで変化があったのか……

自分と似た存在でありながらまったく別の境遇である彼について、ラウラはただ知りたかった。

 

シンが嘘をついている、あるいは嘘でなくても何らかの記憶障害による妄想の可能性など、ラウラは微塵も考えていなかった。

 

 

 

「はあ、こりゃあ想像以上だ。

でもまあ、巨大機動兵器のエースパイロットなら納得だよ」

 

その場を一旦治め、主任はシンの話の感想を述べる。

答えられるものには事細かに答えた事もあり、ほとんどの人がある程度納得してくれた。

それでもまだ納得しきれない人もいるが、シンに実力がある事と新たに入った仲間だという事は全員が認めてくれた。

シンは、まだここに居てもいいと分かり気が楽になった。

そして一応は言っておかないと、と思い皆に向かって喋る。

 

「あ、できるならCEに帰りたいので、帰り方知ってたら教えてください」

 

「ははは、私たちが知っているわけないだろ。

もしかしたらあの篠ノ之束なら異世界への行き方知ってるかもな!」

 

 

 

…………

 

 

 

皆が静まり返った。

主任は冗談で言ったのだろうが、皆の気持ちは見事に一致した。

 

((あ~、あの人なら知ってても不思議じゃないな))

 

むしろあの人も異世界から来たんじゃないだろうか……。

 

「では、我々はここで失礼する。

シン・アスカ、今回は良いデータが取れた。次に会う時も楽しみにしているぞ」

 

ラウラが帰る旨を伝えると、こちらに向かって右手を差し出してきた。

 

「ああ、次は負けないからなラウラ」

 

シンは差し出された手を握ってラウラと握手をする。

 

(おや、これはもしや!)

 

それを見たクラリッサが何かに気付いたようだが何も言わずに研究所を後にした。

それを見届けた主任は声を張り上げて全員へ指示を出す。

 

「さて皆、研究を再開するぞ。まだまだやることはいっぱいあるからな。

それとシン。君にはこれから次の2つの事をしてもらう。

1つはその機体の稼働データを取るためのテストパイロット。

もう1つ、MSの設計思想や実際に使われている技術に興味がある。

本当は実物を見たいところだが、そうはいかないからMSのデータを書き起こしてくれないか?

大まかなデザインとか、どういった武器を使っているのとかだけでいい」

 

主任の言葉を聞き、シンはそれを了承する。

一先ずの信頼を得たシンは、共に研究をしながら、いずれ元の世界に帰ると決意する。

 

 

 



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第05話 第3世代型IS

サブタイトルに悩む今日この頃……。

更新履歴
2015.05.17:加筆
2015.11.14:サブタイトル変更


あるところに平凡な女子学生がいました。

ある日彼女は学校に遅刻しそうになり、道中見知らぬ男子学生とぶつかってしまいました。

 

その日、クラスに転校生がやって来ました。

そしてどういう訳かその転校生は登校中にぶつかった男子学生ではありませんか。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

「という運命的な出会いをまさかこの目で見れるとは思わなかった。

そして紆余曲折を経て2人は恋人同士に……。

隊長、恋愛に障害は付き物ですが頑張ってください」

 

自分の趣味である少女漫画の王道展開のような出会いをしたラウラとシンが、そのまま王道展開を経てハッピーエンドを向かえるまでを妄想しだす。

 

「クラリッサ、お前は何を言っているんだ?」

 

「い、いえ、なんでもありません!」

 

突然隊長に声をかけられて動揺してしまうクラリッサ。

そんなことはお構いなしに隊長ことラウラは話を始める。

 

「明日、アーベント社の研究所に出向する」

 

「ついに、再戦の申し込みですか」

 

「いや、あの機体を第3世代型ISにするための監修をするようにと上からの命令だ。

だが、その機体が完成すれば再戦もありえるだろう。

ふふ、楽しみだな。その頃にはAICも完全に機能するようになるだろう」

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

あの模擬戦から1か月

 

「先日、ドイツ軍の上層部から通達があった。

今まではパワードスーツということにして国際IS委員会への情報開示を回避してきた。

しかし、さすがにここまで来るとISである事を隠し通すことはできない。

そのための対応策として、その機体を第3世代型ISにするようにとの事だ。

新規開発の第3世代型ISとして情報を公開すれば、重要な部分を隠すことはできる。

でだ、ISのコンセプトとか武装とかを今から決める。

やはり男にも使えるISということで、見た目に独自性を出そうと思う。

そのためにシンの世界のMSを参考にISをデザインしようと思うのだがどうかな?」

 

シンはあれから自分が乗っていた機体とZAFTの一部MSをまとめた。

そのデータを見ながら皆は意見を交わす。

だがMSを参考にISの見た目を決めるつもりだったのに、意見を交わすうちにどのMSをいかにしてISで再現するかという話になっていった。

ISで変形機構は無理だとか、遠隔兵器は既にイギリスのBT兵器があるとか……。

 

「なあ、シンはISにするならどのMSがいいんだ?」

 

「ISにするなら俺はインパルスかな。

拡張領域を利用すれば戦闘中のシルエット換装が簡単にできるようになる」

 

シルエット換装によるどんな局面にも対応した万能機を目指したインパルス。

しかし専用母艦が必須だったり、シルエットで艦のスペースを圧迫したりと課題も多く、試験機だけで終わってしまった。

だがISなら拡張領域があるため、シルエットの換装に母艦は関係なく拡張領域の容量以外に圧迫する物もない。

 

「パッケージ換装による万能機か、これならISの特長を生かせるしいいんじゃないか?

流石に変形・合体機構は無理だけどな」

 

皆にも聞いてみると、全員賛成してくれた。決まれば皆の行動は早い。

やれ、拡張領域の容量をいかにして拡張するだとか、色はどうしようだとか……。

そこで初めてラウラが意見を述べる。

 

「うむ。コンセプトは決まったようだな。

だが、表向きは第3世代ということで特殊武装を付けてもらいたい。

まあ、パッケージの武装にそれを組み込むくらいでいいだろう」

 

「こちらが、ドイツで搭載が見送られた第3世代型IS用の特殊武装の一覧です」

 

そう言うとクラリッサはデータを表示する。

数が多い。今ここで全てを見ている時間はないので主任はデータをシンに渡す。

どの特殊武装を使うかシンが決めろとの事だ。面倒なので丸投げされたとも言う。

 

「さて、大方方針が決まったところで具体的に設計を始める。

換装用のパッケージは後回しにして、今はISの素体を作る。

さらに、現在使うことのできないISの機能を補う補助装置の設計と製作を行う。

シンは第3世代型ISとして搭載する特殊武装と初期状態の武装を決めてくれ」

 

こうして、第3世代型ISインパルスの開発が始まった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

――12月24日

搭載する特殊武装を決めたので、それを開発している軍の開発局に挨拶に行った主任とシン。

 

「いやあ、助かりますよ。これで私たちの研究も役に立つというものです。

それでは、また後日に打ち合わせをしましょう」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

最初の打ち合わせは順調に終了した。

主任は家族との約束があるとシンにある物を渡して即座に帰宅した。

 

(レストランの割引券か……せっかくだし今晩はそこで食べてくか)

 

「おや、今夜はデートですか?あなたも隅におけませんね」

 

「うお! クラリッサか、いきなり脅かすなよ」

 

いきなり後ろから声をかけられてうろたえるシン。

軍の基地内にいるとはいえまさか遭遇するとは思わなかった。

 

「それで相手は誰ですか? もしかして隊長ですか?」

 

「いや、これはさっき主任がくれたんだ。

別に誰かを誘うつもりはないな、そもそもただの割引券だし」

 

「では、私たちもご一緒しても? ちょうど仕事も終わったところですし」

 

「ラウラもか? 別にかまわないけど……奢りはナシな」

 

シンの了承を得るとクラリッサはラウラに電話をかける。

ラウラから基地の入り口で落ち合う約束をする。

第3世代型ISの開発が始まってから彼女たちはちょくちょく研究所を訪れていた。

年が近いというよりも同じ軍人でありパイロットであることから、研究所の食堂でよく一緒に食事をしたりしていたが、プライベートで外食するのは初めてだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

3人はレストランにやって来た。

高級ではないがかといって安っぽいわけではない綺麗にまとまっているレストラン。

料理が運ばれてきたのでグラスを取り、乾杯する。

 

 

 

 

 

「ソードはパッケージじゃなくて武器だけを拡張領域に入れることにしたよ」

 

「そうだな、MSだからこそ意味のある換装ではあるがISだとな……

それとシン、おまえはあの大剣を2本同時に使う気か?

ISはパイロットの動きに追従する。あんなの2本も振れるとは思えない」

 

「確かにな、大剣二刀流の技術なんて俺にはないし。

そうなるとエクスカリバーよりアロンダイトの方がいいな……

そもそもIS相手だとビーム刃の利点がないな、いっそのこと全部実体刃にするか」

 

近状報告から気付けばISの話ばかりしている。

酒が入ったせいか、いつも以上に議論に熱が入っている。

 

(せっかく、クリスマスにレストランで食事をしているというのにこの2人は……

ここは私が流れを変えなければ!)

 

クラリッサはそう思い会話に加わる。

 

「ISの武装を好き勝手決めることができるせっかくの機会なんですから、もっとロマンあふれる武装をしましょう。

大型の実体剣なら刀身にPIC仕込んで変速攻撃できるようにするとか!」

 

クラリッサも酔っていた。

結局3人は最後までMSとISの話しかしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――2月

クリスマスが過ぎ、年が明け、ついにインパルスは完成した。

 

 

 

 




せっかくのクリスマスに何やってんだこいつら……

それはともかくようやくインパルスが完成しました。
専用機完成まで5話か……IS学園or束の所に転移→機体が何故かISに!
という王道展開使えばここまで1話で終わった気がする。


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第06話 インパルス

ようやく完成したインパルスの初戦闘です。

更新履歴
2015.05.17:加筆
2015.11.14:サブタイトル変更


2月になりようやく第3世代型ISインパルスが完成した。

完成と言っても本家のシルエットに当たるパッケージはまだ完成していないので、インパルスの素体だけだが……それでも拡張領域に武器を入れているのでそれなりに戦える。

元のままではハイパーセンサー等といったISの一部機能が使えないので、インパルスに再構築した際に男性操縦時用の補助装置を搭載した。

この補助装置はIS以外の兵器に使用されている物なので、性能面ではISには及ばない。

それでも本来ISが持っている機能は一通り揃えてある。

PICの制御が難しいため、シン以外にはとても使いこなせないと思われがちだが、PIC以外はそれなりの技術があれば使いこなせる。

PICを使用しない――つまり飛行を諦めて陸戦に徹すれば軍人なら使いこなせるだろう。

歩兵用のパワードスーツと考えれば、現行兵器と同等のセンサーと現行兵器に耐え得るエネルギーシールドを搭載し、さらには手持ちサイズのビーム兵器も搭載可能。

それでいて重量を気にせず武器を搭載でき、稼働時間も長いという超性能である。

ISコアが個数限定であるため、この性能でも貴重性に見合わないが……。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

シンはインパルスの待機形態であるカードを手に持って眺めている。

形状は四角で、中央に半球の突起があり、それを押すことでインパルスが展開される。

今日はついにラウラとの再戦だ。稼働試験はすでに済ませてある。

 

「シン、準備ができ次第始めるぞ」

 

主任からのアナウンスは入ったので、ISを展開する。

インパルスそのものの全身装甲だが、顔だけは覆われていない。

MSを参考にして作られたので一般的なISとは異なる構造をしている。

それはISの手足がパイロットの長さと同じ事だろう。

ISはパイロットの行動を先読みして機体の手足を動かしている。

これによりISはかなり高い追従性を誇っている。

だがインパルスにはその機能はないので、パイロットの動きをトレースして長い手足を稼働させるよりは、パイロットの動きそのもので直接動いた方が速いからだ。

世界最大のパワードスーツ製造会社である自社の技術をふんだんに使いたいというのもあるが。

パイロットの動きそのものが機体の動きになるので、IS以上にパイロットの身体能力に依存する。

本体の固定武装はなく、拡張領域に入っている武器と最初から出してある武器がある。

最初から装着している武装は、腰の裏側にビームライフル、腰の両側にビームサーベル、左手にインパルスと同型の物理シールド、両足側部に高周波ナイフ。

そして拡張領域には予備のライフルとシールドの他に、マシンガン、狙撃銃、大型実体剣がある。

 

 

 

 

 

<<戦闘開始>>

 

「シン・アスカ、インパルス行きます!」

 

戦闘開始の合図とともに出撃する。反対側のピットからはラウラが出てくる。

互いに目が合うも、前回とは反対に今度はシンが先に攻撃する。

 

シンが放ったビームライフルを避けつつラウラはワイヤーを射出する。

今度は最初から6本全てで攻撃にかかる。

シンはライフルを左手に持ち替え、右手にビームサーベルを持つ。

 

「この前みたいにはいかないからな」

 

前の機体で避けれて、インパルスで避けられない道理はない。

シンはワイヤーを避けつつビームサーベルとライフルで切断していく。

 

ラウラはワイヤーを継ぎ足しつつ接近する。それに答えるようにシンも接近する。

挨拶代りのレールカノンを避けると、ビームサーベルとプラズマ手刀が激突する。

 

「この程度で勝てるとは思ってないさ」

 

数秒の鍔迫り合いの後、両者は反発するように武器を引く。

 

「だからこそ、出し惜しみはしない!」

 

ラウラは叫ぶと同時に、弾かれていない左手を突き出す。

シンは左手のライフルで牽制し、右手のサーベルを構えなおす。

 

ラウラは一切の回避行動をとらず、ビームをバリアで受け止めてシンの動きを止める。

 

「体が動かない。これがAICって奴か」

 

AIC――対象の慣性を停止させる事ができるとは聞いてはいたが、止められるのは銃弾程度で、まさか機体ごと止めれるほど強力な物だとはシンは思っていなかった。

だからこそ接近戦を挑んだのだが、それは失敗だった。

 

「もらった!」

 

間髪入れずにラウラはレールカノンを動けないシンに向けて放つ。

 

砲弾が爆発した反動でAICが解除され、シンは後方へ吹き飛ぶ。

だがシンは後方へ吹き飛びながら勢いを殺し、自らの意思で飛行する。

 

「とっさに拡張領域からシールドを展開して直撃を避けたか……」

 

たしかに直撃は避けた……だが機体のエネルギーはかなり削られてしまった。

シンはサーベルをしまい、マシンガンを出す。

今度は不用意に近づくことはしないで距離を取って戦う。

 

(やはりAICを警戒して近づいてこないか。

もう一度こちらから接近したところであいつは乗ってこないだろうし……)

 

ラウラは前回と同様にワイヤーにレールカノンを織り交ぜて攻撃してくるが、今度はワイヤーを切れるため、攻撃密度は下がっている。

そのためシンの攻撃頻度もそれなりにあり、ワイヤー操作とAICに集中力を振り分けているが、少しずつ被弾が積み重なっていく。

 

 

 

 

 

十数分の攻防で、互いにエネルギーは残り少ない状態になっていた。

だが今はシンが攻撃をして、ラウラがそれを避ける図式に逆転している。

ラウラのワイヤーは既に無くなっており、レールカノンの弾も尽きている。

だがシンもAICに止められないビームライフルを多用しているため、最初の被弾と合わせてエネルギーがかなり減っている。

 

(このままだとこっちが先にエネルギー切れだ。

マシンガンの弾もそろそろ無くなるし、この状況でスナイパーライフルは使えない。

ならAICをどうにかして接近戦を仕掛けるしかない)

 

シンはマシンガンをしまい、アロンダイトをベースに作った大型実体剣を取り出す。

だがこのまま一直線に接近してもAICで止められるだけなので……

 

 

 

「せええええい!」

 

 

 

掛け声とともに投げ槍の要領で剣をラウラに向けて投げ飛ばす。

剣に仕込んだPICを使って加速をつけ、剣は銃弾のように飛んで行く。

シンは足からナイフを取り出して接近する。

避けるにしろAICで受け止めるにしろ、その後にAICを使う暇を与えず倒す算段だ。

 

ラウラはAICで剣を受け止めた。

間髪を入れずにシンが横に回ってナイフで攻撃する。

 

「AICは使わせない!」

 

シンのナイフによる猛攻に、ラウラはプラズマ手刀で応戦する。

しかし、インパルスに比べてレーゲンの腕は長かった。

そのためIS1機分も離れていない距離では小回りの利くインパルスが有利だった。

シンの攻撃に次第に追い詰められていくラウラ。

 

(くっ! 避けれない……それなら!)

 

エネルギーは少ないとはいえまだ残っている……一撃なら直撃しても大丈夫だと判断したラウラは、防御を捨てシンに攻撃する。

互いに攻撃が直撃し大きく仰け反る。

 

 

 

 

 

この攻撃で両者のエネルギー残量は1桁になる。

 

 

 

 

 

これはつまり先に攻撃を当てた方が勝者となる。

 

 

 

「「はああああ!」」

 

互いに声を上げ、崩れた姿勢から右手を相手に打ち込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<<戦闘終了>>

 

 

 

 

 

戦闘終了のコールがかかる。

しばらくの静寂の中、先に声を発したのはラウラだった。

 

「私の負け……か」

 

ラウラの拳はシールドで受け流され、シンのナイフがレーゲンに刺さっていた。

負けた事は悔しいが、試合そのものに後悔はない。

 

「ふっ、いい試合だった。だが、次は負けん」

 

「ああ、俺だって負ける気はないからな」

 

自然と互いに手が伸び、両者は機体越しに固い握手を交わす。

 

 

 

この模擬戦から数日後……あるニュースが報道され、世界を震撼させる。

世界の流れは大きく変わり、シン達もまたその流れの中へと踏み込んで行く。

 

 

 

 




戦闘場面のテンポはこんなんですが大丈夫かな?


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設定紹介+番外編「もしも機体が○○だったら」

機体設定とアーベント社とエネルギー兵器について。
IS世界のエネルギー兵器の立ち位置がよく分からなかったので、自分で勝手に決めました。
原作でどうあれこの小説ではこういう認識で扱います。

それと思いついた小ネタを入れました。

追記:アーベント社の主力商品とシュヴァルツェア・レーゲンの設定を追加しました。

2015.05.17 順序変更、各種設定追加


設定

 

アーベントヴォーゲル社

 

義体、民間用パワードスーツをメイン事業としている精密機械会社。

ベルリン本社では男性でも動かせるISの研究を行っており、シンはここに所属している。

人気・売上No.1は土木建築用パワードスーツ「アイゼン・ツヴェルク」であり、今や建設業の必需品とまで言われている。

 

 

 

エネルギー兵器

 

ビームやレーザーを使った装備の総称。

膨大なエネルギーを必要とするため、IS以外では大型装置に限定される。

ISなら小型化できるが、自身のライフを少量とはいえ削る形になるのであまり採用されない。

拡張領域もあり、IS相手なら実弾装備で十分であるのも大きい。

エネルギーさえあれば簡単に防げるので、CEほどの脅威はない。

 

 

 

 

 

機体設定

 

アイゼン・ツヴェルク

分類:土木建築用パワードスーツ

製造:アーベント・ヴォーゲル社(独)

 

現在世界で最も普及しているパワードスーツ。着込むタイプであり、手足の長さは人間と同じ。

動力はバッテリーで、稼働時間は約2時間ほど。

両腕にコネクタが付いており、作業に応じて工具を切り替える事ができる。

工具は一式バックパックに収納されているため、非常に便利。

両腰には高所作業用にワイヤーアンカーが取り付けてあるが、射出して攻撃なんてできない。先端を固定して伸ばしながら命綱のように使う。

 

 

 

 

 

飛行試験用パワードスーツ

分類:試作パワードスーツ

製造:アーベントヴォーゲル社(独)

 

シンが最初に着ていたパワードスーツ。

表向きはアーベントヴォーゲル社の新型モデルの飛行機能試験用パワードスーツ。

実際は男性でも動かせるようにした世界初のISである。

女性の信号を解析し、男性の信号を変換する事で一部機能が使用可能になった。

ただしこの方法ではIS側が搭乗者を認識しない(無人と判断される)ので、アクセスできるのは搭乗者からISへの一方通行の機能のみ。

 

 

 

 

 

インパルス

分類:第3世代型IS

製造:アーベントヴォーゲル社(独)

 

男性にとっての第1世代型IS。

女性が使う場合は普通のISなので、表向きは第3世代型ISの開発となっている。

ただし、その第3世代装備を搭載したパッケージは製作中である。

本機から男性操縦時用補助装置を搭載して性能不足を多少改善している。

ISの機体追従性に少しでも近づけるために手足はパイロットと同じ長さになっている。

アーベント社のパワーアシストを搭載しているため、顔以外の全身装甲になっている。

装甲はインパルスまんまで、顔だけ出てる。あと非固定浮遊部位もない。

コンセプトも同様で、”複数のパッケージでどんな状況にも対応できる万能機”を目指している。

 

武装一覧

高周波振動ナイフ ×2

インパルス(MS)と同じように両足の側面に格納してあり、使用時は展開して取り出す。

柄の内部がバッテリーになっていて、格納時に充電している。

生身の時でも使用可能で、振動OFFでも普通のナイフとして使える。(柄にスイッチがある)

そのためシンがIS装備分とは別に2本所持している。

欠点は高周波振動故に非常にうるさい事(IS搭乗時は問題ないが生身では自滅行為)。

 

ビームライフル

威力も高めで連射性もよく亜光速の弾速と、使い勝手の良い武装。

インパルス(MS)と同様に、腰の後ろ側に取り付けてある。拡張領域に予備が1丁ある。

IS本体のエネルギーを使用するため、消費量は少ないとはいえ使い過ぎに注意。

CEでは万能武装だが、盾以外に当たると致命傷なMSと違いISだとエネルギーがある限りどこに受けても問題ないので、ビームである利点はあまりなかったりする。

 

ビームサーベル ×2

インパルスではなくガイアのように腰の両側に取り付けてある。

こちらもビームライフルと同様にエネルギーを少量消費する。

 

物理シールド

インパルスと同型だが伸縮機能はない盾。(常に開いている状態)

左手に取り付けられている物と、拡張領域に予備が1枚ある。

IS世界にはアンチビームコーティング技術がないので、ビーム耐性は低い。

基本的にはエネルギーを消費せずに攻撃を防げるとはいえ、相手の攻撃力次第ではエネルギーシールドとの複合で攻撃を防ぐ必要がある。

 

マシンガン ×2

普通のマシンガンで主に牽制と迎撃に使用。

 

スナイパーライフル

対ISアーマー用特殊徹甲弾(狙撃仕様)を打ち出す狙撃用レールガン。

現在のインパルスの装備で、最高の威力と最大の射程を持つ武装。

 

バスターソード

アロンダイトのビーム刃発生部分が実体刃になった巨大な剣。

拡張領域に入っているので折り畳み式ではない。折り畳み式ではない!

当初はインパルスという事なので片手で持てるエクスカリバー2本の予定だったが、シンに生身の大剣二刀流の技術がないのでアロンダイトになった。

IS相手にビーム刃の切れ味は意味をなさないので、破壊力重視で完全な実体剣にした。

刀身内部にPICが仕込まれており、変速攻撃が可能になっている。

 

 

 

 

 

シュヴァルツェア・レーゲン

分類:第3世代型IS

製造:ドイツ

 

実戦モデルの機体に試験武装であるAICを搭載したドイツ軍の第3世代型IS。

 

武装一覧

ワイヤーブレード ×6

パイロットが自在に操る事ができる。直接的な攻撃力は無く、基本的に捕縛用の武装。

 

プラズマ手刀 ×2

両手に装備されているプラズマブレード。

 

大口径レールカノン《ブリッツ》

対ISアーマー用特殊徹甲弾を打ち出す大口径のレールガン。

 

AIC

慣性停止結界とも呼ばれる本機の第3世代装備。

対象の動きを止めることができるが、意識を集中しないと停止させることはできない。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

番外編 もしも機体が○○だったら

 

 

 

 

 

「ふははは、見よ! これこそが新時代のISだ!」

 

完成したISを展開したシンに向かって主任は叫ぶ。

おかしい、明らかにおかしい。たしかにこんなISは他に存在しないだろうが……

 

 

三本指の足と丸まった腕部はまだ問題ない。

 

 

だが、一際目立つのは白い三角形を被ったような上半身だろう。

 

 

三角形ではあるが流線型のフォルムになっており、色と相まってイカを連想する……

 

 

 

 

 

「ってただのグーンじゃねえか!」

 

そして機体の顔の部分から自分の顔が出てるとなれば、はたから見ればグーンの着ぐるみを被ってコスプレしているようにしか見えない。

 

「グーンの何が悪い! 見た目の割に戦闘能力だってちゃんとあるんだぞ!

さらに水中戦ならIS最強だって」

 

そもそも水中戦を想定しているISなんて存在するのか?

そして主任の言うとおり水中以外でも戦闘能力がそれなりにあるのが逆に腹立たしい。

 

両腕に7連装魚雷発射管、顔の両横にはフォノンメーザー砲、さらにスーパーキャビテーティング魚雷までしっかり再現してある。(当然のように地上でも撃てるとこまで再現してある)

拡張領域は全て魚雷で埋まっているのでそうそう弾切れはしないだろうし、防御面もエネルギーシールドがあるから脆くはない。

懸念事項の地上での機動力もPICで空飛べるから悪くはない。

 

 

 

 

 

空飛ぶグーンなど違和感しかないが……。

 

 

 

 

 

違和感と言えば、MSの再現的に言えば問題ないのだが(むしろ完璧)、ISに乗ってる自分としては顔の真横に砲門があるのはなんか落ち着かない。

 

一番落ち着かないのは周囲からの視線なのだが……

 

「あ、その……なんだ、結構かわいいと思うぞ。

ブハッ! すまん、おまえの顔が出てるのがなんか可笑しくて」

 

ラウラが話しかけてくるがシンの顔を見た瞬間、あまりの格好に耐えられなかった。

他の研究員もグーンを被っているシンを見て笑いをこらえている。

 

……おい、クラリッサ。無言でIS展開して映像を取るな。

それ周りにばら撒く気だろ! コスプレ扱いすんな!

 

「よしシン。これでIS学園行け! 女の子たちのハートをがっちり掴めるぞ!」

 

「これで本編やるのか……

 

 

 

『あんたが正しいって言うなら、俺に勝ってみせろ!』←グーン搭乗中

 

 

 

プッハハ! くっそ、おまえは私を殺す気か!」

 

「何やっても格好付きませんね」

 

主任、ラウラ、クラリッサの順に皆好き勝手に喋っている。

ってラウラ、お前いくらなんでも笑いすぎだろ。

まだ言い足りないのか主任が口を開く。

 

「よし、おもしろそうだからこれで本編やろうぜ!」

 

「あんたって人はーー!」

 

 

 

――おわり――

 

 

 

※本編はインパルスです。ご安心ください。




前代未聞! ネタ機体で進むクロスオーバー! (番外編は本編とは一切関係ありません)
IS化の恩恵で最低限の防御力(エネルギーシールド)と機動力(PIC)が保障されるから、見た目ネタでも実は戦闘能力は結構高かったりする。
恐ろしい事にやろうと思えば本編やれる最低限のスペックはある。

思ったけど、ネタISを使った小説って見ませんね。(オリ機、クロス系どちらも)
一点特化系はよく見るんですけどね。(そもそも白式もそうだし……)
まあそれやるとギャグ系の話しかなくなるから仕方ないね。

ちなみに空飛ぶグーンは連ザで見れます。
むしろ連ザやってた人なら空飛ぶグーンに違和感はないかもしれないですね。


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1学期編
第07話 IS学園入学


アスカ来日
ようやくIS本編に突入です。

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更


女……女、女、女……

 

右を見ても、左を見ても……どこを見ても女……

 

 

 

女 女 女 女 女 女 女 女 女 女 女 女

 女 女 女 女 女 女 女 女 女 女 女 女 …… 男!

 

女性しかいないこの空間の中で、自分以外の男性を見つけて狂喜する。

ここに男がいるという事は、彼も俺と同じ境遇なのだろう。

女性の中に男が1人という地獄の空間で3年間過ごす事にならなくて良かった。

俺こと織斑一夏がなぜこんな事になっているのかというと……

 

 

 

 

 

高校受験の会場で迷子になり、展示してあったISに触れたら起動した。

知っての通りISは女性にしか動かすことはできない。

それを男である俺が動かしてしまい、現場は大パニック! 俺も大パニック!

その後、世界中にこの事がニュースとして流れたり、政府に保護されたり、気付けばここ、IS学園に入学する事になってしまった。

 

適性試験とか言っていきなり教員と戦わされたり、寮の部屋はあるけど入学手続きがまだ終わってないから入れないとか、いろいろゴタゴタした日々が過ぎ、今日からIS学園での生活が始まる。

最初は不安しかなかったが、箒もいるみたいだし同じ境遇の男もいるという事でなんとかやっていけそうだと思った。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

ごめん、やっぱ無理。女子の視線がきつい。

 

今自分が座っている場所にも問題がある。

最前列の教壇の目の前……教室中のほぼ全ての席から見る事ができる。

もう1人いる男の席は窓際最後列……誰もが憧れるベストポジション。

お願いします。変わってください。

 

 

 

 

 

しばらくすると緑髪の教師が入ってくる。教壇に立ち自己紹介を始める。

 

「皆さん、入学おめでとうございます。私は副担任の山田真耶です」

 

その後簡単にIS学園について説明をするも、生徒の反応はない。

それもそのはず、生徒は皆2人しかいない男が気になってしょうがないのだ。

とはいえHR中なので一応は教師の方を見ている――つまり俺を見ている。

窓際にいる箒に助けを求めて視線を送るが無視されてしまった。

 

「それでは、出席番号順に自己紹介してください」

 

じ、自己紹介……まずい、どうしよう。何を喋ればいいんだよ。

普通の学校なら普通に自己紹介すればいいが、ここでは存在そのものが全員に注目されている。

下手なことは言えない。

 

「では次はアスカ君ですね」

 

その言葉と同時に皆勢いよく後ろを向いたので、俺もつられて後ろを向く。

どうやら俺よりももう1人の男の方が、出席番号が早いようだ。

 

(良かった。俺よりも先に自己紹介してくれて……)

 

よく見ると彼も女子の視線に威圧され、どう自己紹介すればいいか迷っているようだ。

 

「シン・アスカです。ドイツから来ました。

日本に来て日が浅いので、日本について色々と教えてくれると助かります」

 

シンの自己紹介が終わると、教室内に歓喜の声が響く。

 

「キャー、外国人だ!」「赤目がかっこいい」「いじめてください!」

 

そんな女子たちの奇声など、今の俺には耳に入ってこなかった。

シンの自己紹介は普通だったが、俺の自己紹介の参考にはならなかった。

 

(どうしよう……俺日本生まれの日本育ちだから同じこと言えねえ)

 

 

 

 

 

「織斑君、織斑一夏君!」

 

「あ、はい」

 

気付けば自分の番になっていた。

考えはまとまっていないが、山田先生に催促されて自己紹介を始める。

 

「お、織斑一夏です。よろしくお願いします。

 

……

 

…………以上です」

 

皆がずっこける音が聞こえるが俺はこれで打ち切ろうとする。

しかし次の瞬間、俺の頭は盛大にはたかれて乾いた音が教室に響く。

 

「痛てっ! あ、千冬姉」

 

「自己紹介もまともにできんのか。それと織斑先生と呼べ」

 

そこには出席簿を持った俺の姉、織斑千冬がいた。

 

「私がこのクラスを担当する織斑千冬だ。

私の仕事はお前たちを使い物になるようにすることだ。

できない者はできるようになるまで指導してやる。

逆らってもいいが私のいう事はよく聞け!」

 

彼女の自己紹介と共に教室はまた歓喜に包まれる。

 

「「キャアーーー」」

 

「本物だ、本物のブリュンヒルデだ!」「あなたに憧れてIS学園に来ました!」

「私もはたいてください!」「…………(返事がない失神しているようだ)」

 

千冬姉も呆れていたが、一喝してHRを進める。

 

こうして俺の……IS学園での生活が始まった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

(な、なんだ……この居心地の悪さは)

 

シン・アスカは女性の視線に耐えていた。

教室の外には男性IS操縦者を見ようと他のクラスや学年の生徒がたくさん集まっている。

周りの視線に威圧され、彼はただ黙って席に座っていることしかできなかった。

 

そんな中もう1人の男、織斑一夏がこっちに来た。

彼もこのプレッシャーに耐えきれなかったのだろう。

 

「よう、俺は織斑一夏。数少ない男同士、これからよろしくな」

 

「ああ、俺はシン・アスカだ。よろしくな」

 

そう言うと自然と互いに手が伸び、固い握手を交わす。

互いに言いたいことは理解している。

この地獄の空間を共に乗り切るためには仲間の存在が不可欠だ。

そんな中、黒髪のポニーテールの女性が声をかけてくる。

 

「すまない、一夏少しいいか?」

 

「あ、ああいいぜ。じゃあシン、また後でな。」

 

そういって一夏は声をかけてきた女性と教室を出ていく。

あの様子からすると2人は知り合いなのだろう。

今度は俺に金髪の女性が話しかけてくる。

 

「あなたが2人目の男性操縦者のシン・アスカさんですね。

わたくしはイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットですわ」

 

「確か入試主席で、今年入った2人の代表候補生の内の1人だったな」

 

「そう、そのエリートであるわたくしとお話しできるだけでも光栄でしてよ」

 

「最初の成績に胡坐かいて、卒業までに後ろから追い抜かれないようにな」

 

アカデミーでもこういう奴はいたな……エリートを自称して努力を怠り、最終的に下から追い上げてきた奴らに抜かれて赤服になれなかった奴。

 

「入試で唯一教官を倒したわたくしに、あなたが追いつけはしませんわ。

ですが、他のクラスにいる候補生なら可能性はありますわね。

一応忠告として受け取っておきましょう」

 

「教官なら俺も勝ったぞ」

 

「な、なんですって。わたくしだけと聞いてましたのに」

 

「まあ、俺は特別枠で後から入ったからな……」

 

隠蔽工作は上手くいっているので元々はIS学園に入るつもりはなかったのだが、織斑一夏の一件から、彼がISに適応した理由を調べるために急遽入学する事になった。

表向きは2人目のIS適正者……ただし、インパルスしか動かせない不完全な適正者という事になっていて、世間への公表は卒業までしないように手を打ってある。

シンは一夏と違い、所属がはっきりとしているためこのような事が出来た。

 

「そういう事でしたか、ではあなたもISの操縦には自信がおありのようですね」

 

「まあな。少なくともあんたには負けないかな」

 

「そこまで言うとはなかなかの自信のようですわね。

そう言うあなたには一度、わたくしの実力で完膚なきまでに負かして差し上げますわ。

うふふ、その日が来るのを楽しみにしていてください」

 

そろそろ休み時間が終わるためか、セシリアは自分の席に戻っていった。

チャイムが鳴り、次の授業が始まる。

 

 

 

授業内容はISの基礎知識だ、この学園に入る生徒なら既に知っている内容でしかない。

途中一夏が必読参考書を読まずに古い電話帳と間違えて捨てたことが発覚し、織斑先生からお叱りを受けた以外は順調に授業が進んでいく。

 

一夏はずっと頭を抱えていたが……。

 

そして授業が終わる10分前に織斑先生がクラス代表について話をする。

 

「さて、今からクラス代表を決める。

クラス代表は再来週に行われるクラス対抗戦にでたり会議や委員会に出たりする。

決まると1年の間変更はしないからそのつもりで。

自薦他薦は問わない。誰かいないか」

 

「織斑先生、もし候補者が複数の場合はどうなさるのですか?」

 

セシリアが立ち上がり、質問をする。

 

「じゃんけんでも投票でも、本人同士が納得するならどんな決め方でもいいぞ。

で、お前は立候補するのか?」

 

その言葉を聞いてセシリアは確信する。

これを機に先ほどの宣言を実行するべきだと。

 

「ええ、わたくしが立候補しますわ。

そして、シンさんをクラス代表に推薦しますわ」

 

その言葉にシンは驚き、一夏はとりあえず自分が候補にされなくて安心している。

クラスの皆も、立候補しておいてシンを推薦するセシリアの意図が分からなかった。

 

「代表はやはりクラスで最も実力がある者が務めるべきです。

いい機会ですからあなたにわたくしの実力を教えて差し上げます。

ですからあなたにISでの勝負を申し込みます!」

 

正直クラス代表になる気はないが、イギリスの第3世代型IS相手にインパルスの稼働データも取れるし、なによりここまで言われたら受けないわけにはいかなかった。

 

「ああ良いぜ。その勝負受けてやるよ」

 

「良いだろう、アリーナを使ってクラス代表を決める。異論はないな」

 

織斑先生はそう言って2人に確認を取る。

2人に異論はなかったが、ある生徒が慌てて進言する。

 

「異議あり! 織斑君も推薦します」

 

「そ、そうだよね。せっかくだし織斑君が代表やっても良いかも」

 

「うむ。なら織斑、アスカ、オルコットの3人で良いな」

 

「ちょっと待ってくれ。俺は勝負するなんて……」

 

このままシンとセシリアで代表を決めるものだと思っていた一夏は、突然名前が上がり慌てて辞退しようとする。

 

「このような選出手段になった以上、男のあなたがわたくしに勝てないのは明白です。

ですから、負ける前に辞退するのも仕方の無い事ですわ。

あ、シンさんは辞退しないでくださいね。わたくしの実力を直接お見せできなくなるので」

 

セシリアの発言で、辞退する気は失せた。

シンに勝負を挑んだのだって、男は女に勝てないと見せつけるためだろう。

 

 

ISが使えない男は弱いと女性は言う、ならISの使える男は?

 

 

「そこまで言われたら、はいそうですかって引き下がるわけにはいかないな。

良いぜ、俺もやってやるよ。男の意地って奴を見せてやるよ」

 

「ではあなたにも教えて差し上げましょう。

このわたくしの、セシリア・オルコットの実力を」

 

「よし、話はまとまったな。では来週に第3アリーナでクラス代表を決める」

 

 

 

こうして来週クラス代表を決める勝負が行われることになった。

 

 

 

 




今だから言える……実はヒロイン未定だったりする。
さすがにそろそろ決めてフラグを立てていかないと……。


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第08話 クラス代表決定戦Ⅰ

ヒロインの件ですがいろいろ意見ありがとうございます。
一部は確定しましたが、まだ全てが決まったわけではありません。

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更


「失礼します」

 

放課後、織斑一夏は職員室に呼び出されていた。

 

「来たか。これがお前の部屋の番号と鍵だ。

荷物は既に部屋に運んである。寮への行き方は分かるな」

 

そう言われて織斑先生から部屋の番号が書かれた紙と部屋の鍵を受け取る。

一夏は来週に試合をすることになってから、姉に頼みたいことがあった。

 

「千冬姉……じゃない織斑先生。頼みがあります」

 

「なんだ、言ってみろ」

 

「俺に……俺にISの使い方を教えてください!」

 

「ほう、やる気満々だな。だが、残念ながらそれはできない。

どっかの連中がお前の身柄を引き渡せと言ってきてな、そういった連中を納得させるのに忙しい。

訓練なら他を当たってくれ……それとアリーナや機体の利用申請は早めにしろよ」

 

「そっか、俺のせいで大変なんだな」

 

「お前が気にする事ではない。

それと例の参考書は明日取りに来い。まずはそれを全部読んで基礎知識をつける事だな」

 

今日の授業を思い出し、うなだれる。

用事も済んだので職員室を出て、これから生活する事になる寮へと向かう。

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「ところでシンはどのくらいISに乗ってるんだ?」

 

一夏は荷物の整理をしながら同室になったシンに話しかける。

ちなみにシンが先に外側のベッドと机を使っていたため、一夏は強制的に内側である。

 

「半年」

 

「は、半年ってそんな前から! てっきりつい最近かと……

それにそんな前にIS動かしたのにニュースになってないよな!」

 

自分の時はあれだけ大騒ぎになったというのに……

荷物整理の手が止まり唖然としている一夏にシンが答えを言う。

 

「俺は動かしたISを持ってた企業に入る事になったけど、ずっと隠してきたからな。

お前のニュースがなかったらIS学園に来ることもなかったさ」

 

「そ、そうなのか」

 

つまりISを動かしてしまったところを誰に見られたかの差という訳か……

俺の事も黙っていてくれたらと思うも、今更どうしようもなかった。

 

「あ、半年ってことはもしかしてISの操縦とか完璧だったりする?」

 

「ああ、じゃなきゃセシリアとの勝負を受けたりしないさ」

 

「……」

 

「……晩飯食いに行こうぜ」

 

時間も頃合いなので2人は部屋を後にして寮の食堂へ向かう。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「箒、ここ良いか」

 

食堂で席を探していると、一夏が箒を見つけたので声をかけて正面に座る。

知り合いかと聞かれたので、一夏は幼馴染である箒をシンに紹介する。

 

「そう言えば一夏。来週の勝負どうする気だ」

 

「千冬姉に教えてくれって頼んだけど、忙しいからダメだってさ。

とにかく場所とIS借りて練習するつもり。1週間でやれるだけやるさ」

 

「な、なら私が教えてやる! 何も知らないまま1人でやるよりは良いだろう。

よし、そうと決まれば食べ終わったら剣道場へ行くぞ。

ISは身体能力も重要だからな、今日は操縦とか無理だろうから体を動かすぞ」

 

なぜか慌てたように早次で教えてやるという箒。心なしか顔が少し赤い気がする。

当然のように一夏は気付かず、シンはあまりの剣幕に少し引いてる。

 

「本当か、ありがとう箒! なあ、シンも一緒にやるか?」

 

「いや、俺はいいよ。剣道とかやったことないし」

 

一夏にISの事を教えるとなると基礎中の基礎からだろう。

俺は既に知っていることなので一緒になって教わる必要はない。

俺が一夏に教えるというのもありだが、せっかく箒が教えるというのだから任せよう。

 

食事を済ませると2人は剣道場へと向かっていった。

結局一夏は消灯時間ぎりぎりまで箒と剣道をしていた……。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

「さて、これが例の参考書だ。1週間で覚えろよ」

 

翌日、職員室で織斑先生から自分が捨ててしまった参考書を受け取る。

一度寮に戻ってISの事を教えてもらおうと箒の所へ行こうとするが、貰った参考書から何かがはみ出しているのが見えたのでそれを手に取る。

 

「なんだこれ、最初にもらった時こんなの付いてたっけ?」

 

それは1枚のディスクだった。一緒に「他言するなよ」と書かれた紙も挟まっていた。

今はちょうどシンもいない、それがなんだか気になったので中身を見る事にした。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

「イグニッション……ブースト?」

 

そこにはISの戦闘技術の1つである瞬時加速の内容と練習法が記されていた。

 

「千冬姉、ありがとう」

 

これができればシンやセシリアとも戦えるようになるだろう。

箒との剣道で体を慣らし、参考書を熟読して基礎知識を付け、打鉄で練習をする。

 

 

 

一夏はクラス代表決定戦までこれを繰り返した。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「ではこれより、クラス代表決定戦を行う。時間が無いから勝負は2回。

アスカとオルコットが先に戦い、勝った方が織斑と戦う。異論はないな」

 

ついにクラス代表決定戦の日が訪れた。

一夏はなぜ自分がそのポジションなのか疑問に思ったが、次の山田先生の言葉で納得する。

 

「織斑君の専用機も届いています。

ですがフィッティングがまだですのでアスカ君たちの試合中にやっておきます。

決着が早く着いた場合はフィッティングが終わってなくてもそのまま試合を始めます」

 

「よし、アスカとオルコットはすぐにアリーナに出ろ、すぐにでも始める」

 

織斑先生の言葉を聞き準備に取り掛かる2人、一夏は箒と一緒に専用機の元へと向かう。

 

「これが、俺の専用機……」

 

「はい、日本で開発されたISで、名前は白式です。

搭乗すればフィッティングが開始されますのでそのまま乗っててくださいね。

アスカ君たちの試合は正面のモニターで見られます」

 

一夏に一通り説明すると山田先生は通信室へと走っていった。

残った一夏と箒はフィッティング完了を待ちながら試合を観戦する。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

<<戦闘開始>>

 

「ついにこの時が来ましたわね。

このわたくしの実力を、身をもって教えて差し上げますわ!」

 

アリーナの空中で向かい合いながらセシリアはシンに話しかける。

対してシンは実際に見たブルー・ティアーズに驚いていた。

 

(データでは知ってたけど、ほんとにストライクフリーダムに似てるな。

あの先端にあるのがドラ……BT兵器か)

 

「あら、ブルー・ティアーズが怖いのかしら?

せっかくの舞台なんですから、がっかりさせないでください!」

 

「ちょっと似ている物を思い出しただけさ。

あんたこそ俺をがっかりさせないでくれよ。せっかくそれ(BT)持ってるんだから」

 

シンの言葉と合わせて両者が動き出す。

互いに手に持ったライフルで相手を撃ちながら、距離を開ける。

 

「あら、よく勉強なさっているのね。でしたらお望み通りに使って差し上げますわ。

踊りなさい! わたくしと、ブルー・ティアーズの奏でるワルツを!」

 

そういうとセシリアはBTを4基切り離し、シンを囲うように移動させる。

そしてそれぞれからランダムにレーザーが発射される。

 

シンは攻撃をやめてレーザーを避けながらBTの動きを見る。

 

(的確に相手の反応が遅れる位置に置いてくる。移動と射撃の精度も良い)

 

青いビット兵器を避けているとCE――ストライクフリーダムの事を思い出す。

ヤマト隊と行った合同訓練で、決着がつかなかった模擬戦の事を……。

 

「あら、なかなか良い反応ですわ。

わたくしのBTをここまで避け続けるなんて……しかし、いつまでももちませんわ!」

 

セシリアはBTに命令し攻撃頻度を上げるが、シンは気にせず回避し続ける。

 

それを見てセシリアは驚愕する。これでもまだ1発もBTを当てていないからだ。

 

デブリもなければ乱戦でもない、この何もない空間においてビット4基の位置と射線を把握する事など、数で劣る戦いをしてきたシンにとっては造作も無かった。

 

(これだけ避けてるのにセシリア自身からの攻撃が無いな……

もしかして、操作に集中して動けないのか)

 

セシリアの表情から少し焦っているのが読み取れる。

シンはライフルを左手に持ち右手でサーベルを抜き、BTの包囲から抜けてセシリアに接近する。

 

(振り切られた……BTを、こんな簡単に!)

 

BTが引き離され、加速して接近してくるシンに、BTに集中しすぎた思考は判断に迷う。

BTで後ろから攻撃するか、BTを捨てミサイル? それともスターライト?

 

「え?」

 

シンの行動にセシリアは思わず疑問の声を出す。

真っ直ぐ接近してきたはずのシンが突然大きく軌道を外す、そして次の瞬間……

 

 

 

 

 

腹をビームサーベルで抉られていた。

 

 

 

 

 

目の前で一瞬視界から外れる軌道……それでもハイパーセンサーのおかげで常に相手を見る事は出来ていたが、セシリアの思考は機能しなかった。

気付けばシンが正面にいて、振り抜いたサーベルと目減りしていくシールドエネルギーで攻撃されたことに気付く。

BTもセシリアの制御から外れ、自動操作で機体に向かって飛んでいる。

 

シンは即座に次の行動に移り、左手に持ったライフルを腹に押し当て連射する。

 

これでセシリアは少し冷静さを取り戻し、エネルギーが残っているのを確認して後退をかけるが、時は既に遅かった。

 

後退で距離を開けるより先に、シンが振り下ろしたサーベルが直撃する。

 

 

 

<<戦闘終了>>

 

 

 

最後の一撃でブルー・ティアーズのエネルギーが0になり試合は終了した。

 

「すぐに次を始める。オルコットは戻って、織斑はアリーナに入れ!」

 

織斑先生のアナウンスを聞き、セシリアはピットに戻っていく。

そこには最初の時のような自信に満ちた顔はなかった。

 

 

 

 




機体がストフリに似てるせいでシン相手だとフルボッコ確定なセシリアさん……
さらにこの小説だと、ラウラの方がBT適性高そうだとか言ってはいけない。
IS強化も考えてるけどブルー・ティアーズの強化案が浮かばなかったりするけど……

めげるなセシリア、がんばれセシリア、きっとそのうち輝かしい出番が来るさ(たぶん)。


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第09話 クラス代表決定戦Ⅱ

みなさんお待ちかね一夏の初陣です。

更新履歴
2015.07.16:設定の明確化に伴い修正
2015.11.14:サブタイトル変更


「シンが勝ったんだな」

 

試合を見ていた箒の呟きを聞いて一夏が意気込みを伝える。

 

「相手がシンでもこの1週間の成果と男の意地を見せてやるさ」

 

「そうか、なら勝ってこい!」

 

「ああ」

 

箒に激励され一夏はアリーナへと飛び出す。

そこにはセシリアを倒したままの状態のシンがこちらを向いていた。

 

 

 

<<戦闘開始>>

 

開始の合図とともにシンは左手のビームライフルを連射する。

 

「う、うわっ! なんだこれ、シミュレーターより速ええ」

 

何とか最初の一撃は避けたものの2発目は被弾してしまう。

弾速のあまりの速さに驚く一夏だったが、ハイパーセンサーの射線認識システムによって視覚化された射線と白式から送られる発射タイミングの予測を頼りに5発目から回避するようになる。

 

(よし、できるだけ射線上に来ないように機体を動かしてっと……)

 

弾速が違うだけで基本はシミュレーターの攻撃を避けるのと同じだ。

コツを掴んで単調に連射されるライフルを危なげなく回避するようになる。

 

「へへ、だんだん分かって来たぜ。さあて反撃開始だ!」

 

とは言ったものの武装は雪片弐型という実体剣1本しかなかった。

だが無い物はしょうがない。雪片を取り出し、弾幕の隙間から接近する機会を窺う。

 

しかし、すぐにシンはライフルでの攻撃を止めた。

これを機に接近して雪片を振るうも、シンに悠々と後退して躱されるが反撃はなかった。

 

「なんだよシン。当たらないからってもう降参か?」

 

「まさか、今度は当ててやるから安心しろよ!」

 

そう言うとシンは再度ライフルを連射する。

 

 

 

1発目――白式の右側を掠めるように撃つも、一夏は左に移動して回避する。

 

「あいつ、浮かれているな」

 

織斑先生の言葉は山田先生にしか聞こえていない。

 

 

 

2発目――移動先に向けて撃つが、今度は急停止して回避する。

 

「だから気付かない。アスカの狙いに……」

 

山田先生は織斑先生の発言をただ黙って聞くだけだった。

 

 

 

3発目――足元を狙ってきたので上昇して躱す。

 

(なんだよ、さっきより狙いがずれてるじゃないか……)

 

さっきまではずっと機体の中心を追いかけるように移動していた射線が、今度は機体の進行方向に動かしているのに気付いた。

射線が見えるなら、その前で停止すれば避けるのは簡単だ。

一夏がこの程度かと言ってやろうと顔を向けると、そこにはスナイパーライフルを右手に持ち、こちらに構えているシンがいた。

 

急停止からの上昇で速度が出ていないこの状態では避けられない。

そして既に引き金が引かれている以上、瞬時加速は間に合わない。

 

「遊ばれたな、馬鹿者め」

 

 

 

4発目――ライフルの弾丸が腹に直撃した。

 

 

だが着弾と同時に強力な光が発生し、一夏と白式を覆い尽くした。

突然の出来事に観客はざわめき、シンはスナイパーライフルを戻しビームサーベルを抜く。

 

(なんだ……これはいったい)

 

当事者の一夏でさえこの状況を理解できていなかった。

 

 

 

最適化処理――完了――

 

 

 

白式からフィッティングが完了したことを告げられる。

 

(零落白夜……これはいったい? いや、これならいける!)

 

使用可能と表示される零落白夜、最初は何のことか分からなかったが、白式からこれが何なのかが流れ込んできてすぐに理解する。

まだ1週間の成果を出し切ってはいない……俺はこのまま負けるほど潔くはない!

 

「ふっ、機体に助けられたな」

 

織斑先生の呟きと同時に光の中から形を変えた白い鎧が飛び出してきた。

灰色の機体は白くなり、手に持った剣は変形しエネルギー刃を形成している。

 

「行くぞ、白式……イグニッションブースト!」

 

一次移行で上がった白式の速度を瞬時加速でさらに上乗せする。

シンの驚いた顔を見ているのに、ビームが腹に刺さっている。

だが、この程度で止まる俺と白式ではない。雪片を構えてそのまま突っ込む。

 

(くそッ! なんて速さだ)

 

全力で後退――だめだ、最高速度相手に静止状態からでは間に合わない。

シンはあまりの速度に逃げられないと判断し、右手のサーベルを構える。

交差する一瞬、両者は剣を振り抜く。

 

だが、雪片とビームサーベルが交わったのは一瞬だけだった。

 

雪片が触れた瞬間にビームサーベルの刀身が消滅……

受け止める物が無くなった雪片はそのまま振り下ろされインパルスを切り裂く。

 

初めてシンに一撃を与えた、とはいえまだ一撃だ。

このぐらいではエネルギーは尽きない、ここから誰もが反撃すると思っていた……

 

 

 

 

 

<<戦闘終了>>

 

「なんで、エネルギーが空に……」

 

シンから驚愕した声が漏れる。

 

 

白式から貰った一撃でインパルスのエネルギーは0を表示していた。

 

 

いくら連戦とは言え、セシリア戦ではそこまでエネルギーを消費していないにも関わらず。

 

「はぁはぁ、ギリギリセーフだな。こっちのエネルギーも残りわずかだぜ」

 

「ったく、イグニッションブーストなんていつ覚えたんだよ」

 

勝負は織斑一夏の勝利で終わった。

織斑先生のアナウンスで2人はピットに戻って行く。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「最後の織斑の攻撃だが、あれはバリア無効化能力によるものだ。

私がモンドグロッソで優勝したのもこの能力によるところが大きい。

当時はエネルギー兵器の武器はなかったからバリア無効化能力と言われているが、先ほどの戦闘を見ても分かるように正確にはエネルギー消滅能力と言ったところだ。

この能力は強力だが、自身のエネルギーを大幅に消費する。所謂諸刃の剣という奴だ」

 

「だからビームサーベルが消えた上に一撃でエネルギーが尽きたのか」

 

織斑先生の説明を聞き、シンはあの時起きた現象に納得する。

一夏は、千冬姉と同じ武器と能力である事に喜んでいる。

箒は一夏にこれなら剣道の腕はさらに重要になると言い。

セシリアはただ黙って話を聞いているだけだった。

 

「さて、これでクラス代表は織斑に決定だ。

来週末のクラス対抗戦の他、この1年間クラスの代表としての責務を果たすように」

 

その後解散し、途中で祝宴をするから後で食堂に来るようにとクラスの人に言われた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「なんで……」

 

寮の自室でシャワーを浴びながらセシリアは今日の勝負を振り返っていた。

4基のBTを躱し続け、その上一瞬で振り切って接近してきたあの男。

ハイパーセンサーのおかげで死角が無いとはいえ、BTを全て避ける事は簡単ではない。

できないわけではないが、でも……なんで!

 

 

 

なんで    なんで    なんで    なんで    なんで    なんで    なんで    なんで   なんで   なんで   なんで   なんで   なんで   なんで   なんで   なんで  なんで  なんで  なんで  なんで  なんで  なんで なんで なんで なんで なんで なんでなんでなんでなんでなんで……

 

 

 

なんで、わたくしとブルー・ティアーズが……!

 

あの時の宣言で実力を見せると言ったが、逆に自分が見せつけられた……BTをもってしてもこの結果である以上、完全に実力で負けたとしか言えない。

 

両親が事故で亡くなってから、オルコット家を守るために必死になった。

高いIS適正もありイギリスの代表候補生にもなった。

他の代表候補生に打ち勝ち、ブルー・ティアーズのパイロットにもなった。

それなのにBTを使っても当てる事すらできなかった、その現実がたまらなく悔しくて、気付けば拳を握りしめ両手と頭を壁に押し付けている。

 

この悔しさは男に負けたからではなく、代表候補生としてのプライドからだ。

冷静でない思考の中でも、なぜかこれだけは自覚していた。

 

 

 

オルコット家は名家だった。

そこに婿養子で入ってきた父はいつも母の顔色を窺っていた。

それがISの登場でさらに肩身が狭くなり、その情けなさにさらに拍車がかかった。

それでも子供のころは忙しい母に代わってよく父に遊んでもらっていたので、父親としてみれば優しい良い親であったと言えるだろう。

母はよく父の事を情けない男と言っていて、自分も将来は父のような情けない男とは結婚しないと心に誓っているため、男としての評価は低い。

 

 

 

なんで今父の事を考えたのだろうか……?

 

彼は女性に対しても堂々としていて父とはまったく似ていないというのに……。

 

彼に父とは違う男としての姿を見たから……いや違う。

 

父も彼のように強い男であって欲しかったと思ったから。

 

(なんだ……ただ「男のくせにISぐらいで卑屈になるな」って思ってただけじゃない)

 

気付いてしまった。自分が父や男性に対して思っていた感情を。

 

自分が男性は女性に勝てないと言うのは、父のような情けない男性を見たくなくて……彼のように男ならそれを真っ向から否定して欲しいだけだったのかもしれない。

 

男性は女性に勝てない。 男なら強くあれ。

 

ただの偏見だ、勝手に男はこうあるべきだって決めつけてるだけ。

 

シン・アスカのように女性に勝てる男性もいれば、父のように勝てない男性だっている。

織斑一夏だって勝負を申し込んだあの日から逃げずに努力を続け、どうやったかは知らないが1週間という短期間で瞬時加速を習得している。

実力はまだまだだが、勝負を諦めなかった事で見事に奇襲を成功させた。

そう考えればISは強さの一要素ではあるが全てではない。

なら男性であるか女性であるかなど、強さを考える上ではあてにならないという事だ。

 

自分の勝手な基準で相手を否定しても意味がない。

今はもう知る術は無いが、父にも何かしらの強さがあったのかもしれない。

まずは自分が、女性としてではなくセシリア・オルコットとして強くなろう。

 

そう思うと父や男性に抱いていた感情も無くなり、心が軽くなった。

 

(こんな気持ちになったのは初めて……でも)

 

淀みが消え、綺麗になった心に残ったのはパイロットとしての純粋な悔しさだけだった。

 

(このまま、このまま負けたままでいられるもんですか!)

 

代表候補生の自分が実力で大敗を期すとは思っていなかった。

だからと言ってこのまま「ありえない」、「悔しい」と嘆いているだけでいいのか……否!

 

彼も言っていた、「後ろから追い抜かれるなよ」と……ならば

 

「わたくしが追い抜いて差し上げますわ。シン・アスカ!」

 

決まれば早い。セシリアはシャワールームからでて着替えをする。

 

「まずは今日の反省と分析をして、今後の訓練メニューを考えませんと。

そう言えば、これから一夏さんの代表就任祝いをすると言っていましたわね」

 

それを思い出し、急いで身だしなみを整えて食堂へと向かう。

 

 

 

 




アニメを見た零落白夜の感想→こいつがきっちり決まった場面無くね?

なんか零落白夜がせっかくの強力な効果の割に活躍してないなと思ったので、この小説ではきっちり決めてもらいました。

おかげでイグニッションブーストの影が薄くなったけどな!

そしてセシリアさんが色々と吹っ切れました。



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第10話 クラス代表

セシリア先生のIS講座は一夏君には早すぎたようです。

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更



クラス代表が決まった翌日、1組はグランドでISの実習を行っていた。

整列している生徒の前で織斑先生が指示を出す。

 

「これより、ISの基本的な飛行操縦の実践をしてもらう。

織斑、アスカ、オルコット、ためしに飛んでみろ」

 

3人は列から抜け、それぞれISを展開して織斑先生の合図で同時に飛行を開始する。

地力の差が出たのか、白式がインパルスとブルー・ティアーズを追う形となった。

 

「遅い! スペック上の出力では、白式が最も速いはずだぞ」

 

ISに乗ったのが最近の人にしては綺麗な上昇と飛行ではあったが、織斑先生は激を飛ばす。

 

「よし、急降下から地面ギリギリで完全停止だ。やってみせろ」

 

「了解です。ではわたくしから行かせてもらいます」

 

織斑先生の指示を受け、まずはセシリアが急降下し地面すれすれで停止する。

その後にシンが続き、これも地面すれすれで停止に成功する。

 

「よし、俺も行くぜ!」

 

最後に一夏が急降下を開始する。

すぐに地面が近づき、制動をかけ勢いを殺す。

 

 

 

「あ……」

 

 

 

だが勢いを完全に殺すことができず、気付けば機体の足が地面に着いていた。

 

「誰が着地しろと言った」

 

「す、すいません」

 

「でも綺麗な着地でしたし、他の生徒の見本にはなったかと」

 

織斑先生の言葉に謝罪する一夏と、フォローを入れる山田先生。

事実一夏の着地は合格点級だった。

 

 

 

 

 

「やっぱまだ慣れないな、空飛ぶのって。

自分の前方に角錐を展開させるイメージとか分かんねえよ。

前から後ろに付き抜けるイメージでも普通に飛べるし……」

 

現在織斑先生たちは他の生徒の指導中であり、専用機持ちは休憩中だった。

そこで一夏が、教本に書いてある飛行時のイメージが分かりにくいと物申す。

 

「イメージは人それぞれですのでやりやすい方法で飛べばいいのですよ。

ちなみにただ前方に角錐を展開してもうまくは飛べませんわ。

この方法で飛ぶのでしたら、進行方向を軸として前方の一点を頂点に角錐を描きます。

この時底面は正方形であり、なおかつ軸に対して垂直になるようにすれば頂点から底面の辺への直線が力のベクトルとなるのですから、上下左右のベクトルは相殺され力の向きが進行方向の反対を向いた軸上になるので機体が直進しますわ。

ただ直進するだけでしたらこの方法では非常に面倒なのは事実ですが、この角錐を描くことは旋回時に意味があり、底面を傾ける事でベクトルが相殺されず、力の向きが軸から外れる事で機体が旋回するようになるのです。

これによって前進と旋回を1つのイメージの流れで行えるのが利点ですわ。

角錐なので曲がりたい方向と動かすべき辺のイメージが着きやすいというのもあり、教本ではこの方法を載せているのです。

これよりさらに細かい方向制御を考えるなら角錐ではなく円錐をイメージしてくださいな。

底面の傾きをより細かい方向でイメージするのは円のほうがやりやすいですから。

他の方法といたしましては――」

 

「セシリア……一夏聞いてないぞ」

 

セシリアの教本解説が難しかったのか、一夏は話に全くついてこれていない。

その後すぐに山田先生に呼ばれて飛行実習を再開した。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

放課後、シン、一夏、箒、セシリアはアリーナに来ていた。

残念な事に打鉄は借りれなかったので、箒は見学だが。

 

「まずは俺と近接戦の訓練で、次はセシリアと回避訓練な。

クラス対抗戦まで時間が無いからどんどん行くぞ」

 

「よし、来い!」

 

シンは盾をしまい、ビームサーベルを2本持って白式に接近する。

まずは零落白夜を使わずに接近戦を行う。

インパルスのサーベルを受け流しつつ、一夏は雪片を振るう。

 

そして彼らを余所に、空いているスペースを使ってセシリアは自身の訓練を始める。

撃破不可設定の敵機を表示させ、攻撃を避けながらスターライトとBTで表示したターゲットを撃ち抜く訓練だ。

これをBTの数を増やしながら行い、BT操作中に動けなくなる欠点を克服しようとする。

 

(2基までならなんとか実戦で使えるレベル……まだまだですわね)

 

とはいえ現在の自分のレベルを把握できただけでも意味はある。

セシリアの訓練が終わるころには一夏の方も締めに入っていた。

 

「こんのおおおお!」

 

一夏がイグニッションブーストでインパルスに接近して斬りかかる。

だがシンにあっさりと避けられ、後ろからサーベルが突きつけられる。

 

「そんな分かり易いタイミングで使ったって意味ないぞ」

 

シンからアドバイスをもらいつつ箒とセシリアの元へ降りていく。

ここで休憩しながら前半の訓練のおさらいをする。

 

「シンってさあ、戦い方上手いけど剣の振り方がイマイチだよな」

 

シンとの訓練で思った事をそのまま口に出す一夏。

 

「俺は剣道とかやってないから剣の振り方は我流だよ。

だからまあ、純粋な剣の腕だと一夏には勝てないかな」

 

「同じ接近戦でも一夏さんとシンさんでは根本的に戦い方が違いますからね。

一夏さんにとって必要な技術、それはいかにして接近するかですわ。

ですから今からの訓練では、わたくしの射撃を躱しながら接近してもらいます」

 

セシリアの言葉に「うへえ」と声を出す一夏。

実際に射撃を受けるのは初めてであるが、昨日の試合を見る限り避けれる気がしない。

 

「一夏、なにがなくともお前はまず接近しなければ意味がない。

その実力をつけるのにセシリア以上の相手はいないだろ」

 

「それもそうだな。俺と白式には雪片しかないからな。

シンの様に俺もあの弾幕を華麗に避けてやるぜ!」

 

箒の言葉を受け訓練を開始するも、BT2基と本体の攻撃に翻弄され、接近どころではなかった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

数日後、2組に転校生が来たとクラスで話題になっていた。

 

「今の所専用機持ちは1組と4組だけだから余裕だよ」

 

2組のクラス代表が変わった事で、強い奴なのかと思った一夏にクラスメイトが答える。

そんな話をしていると、扉から誰かが声をかけて来た。

 

「その情報古いよ。

2組も専用気持ちが代表になったの。そう簡単には優勝できないから!」

 

突然の来訪者に全員が唖然としている中、一夏だけが彼女の事を知っていた。

 

「鈴、おまえ鈴か!」

 

「そうよ! 中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ!」

 

代表候補生を名乗るツインテールの少女に宣戦布告された一夏だが、格好つけてるのが似合わないと言ったりしている。

クラスの皆はそんな2人をただ黙ってみているだけだった。

 

今度のクラス対抗戦……本当に大丈夫なのだろうか。

 

 

 

 

 

……

…………

 

 

――所変わってイギリス

IS開発局では、ある会議が開かれていた。

 

「さて、先日IS学園のセシリア・オルコットから4月期中間報告書が届いた。

その報告書は各自既に読んでいるだろうから前置きはこれくらいにして本題へ入ろう。

単刀直入に言うが、BT兵器がこのままの状態では欧州連合の次世代機選定計画、イグニッション・プランで我が国のティアーズ型が選ばれることはないだろう」

 

議長である初老の女性の声が会議室に広がる。

欧州連合における第3世代型ISの次期軍用主力機を決めるイグニッション・プラン。

ティアーズ型以外にドイツのレーゲン型、イタリアのテンペスタⅡが候補に挙がっている。

ティアーズ型の特長は何と言っても遠隔誘導兵器であるBT装備である。

だがBT適性が最も高いセシリアですら、4基同時使用で自身の動きが止まる有様だ。

今までは包囲攻撃により本人が動かなくても相手を圧倒できると言ってきたが、送られてきた戦闘記録を見れば無理がある事は一目瞭然だ。

 

「それは前々から言われてきた事でしょう。

それなのにサイレント・ゼフィルスのBTの機能を増やして、あろうことか6基同時使用での攻撃と防御の使い分けを要求した結果、誰も満足に動かせないのが現状です!」

 

若い女性がそれは前から分かっていた事だと非難する。

事実を指摘されて静まり返る会議室。だがそこで眼鏡をかけた女性が発言する。

 

「とにかく今はBT兵器の使い勝手の向上が必要という事です。

そうなると、考えられる対処法はBT兵器を諦めて最初から作り直すか、自動操作あるいは操作補助システムの導入のどちらかでしょうか」

 

「諦めるのはまだ早いとして、却下。

自動操作だってできれば最初から搭載している。今のままではできない。

操作補助なら何とかできるかもしれないですけど、劇的に使いやすくはなりませんよ」

 

若い女性が提示された内容に対して現状を説明する。

 

「あ~あ、ISが勝手にBT操作を学んで補助してくれれば楽なのにな~」

 

なんとも投げやりな発言が聞こえてきて全員が発言者に視線を送る。

本当にそうなら良いのは確かだがそうは言ってられないだろうと全員思っていた。

 

(ISの自己進化とか、あてにならんしな~。

二次移行なんてそうそう起こらない事象を願うだけじゃだめだよね。

進化しなくていいから成長してくれないかな~。

ん? 成長? 成長するシステム……それってつまり人工知能?)

 

「そうだ! AIに補助してもらえばいいんだ!

ブルー・ティアーズに補助AI積んでBT操作の経験積ませて、ある程度成長したら学習結果を取り出してそれを元に補助制御システム作るのはどうでしょう!」

 

先ほどの投げやりの発言をした女性が自分の言葉で閃いたことを発言する。

 

「たしかに方法としてはありだが、肝心のAIはどうするんだ」

 

言いたい事は分かるがそう簡単にできる事ではない。

それについての疑問をある女性が発現するが、意外な事にそれに答えたのは議長だった。

 

「知っている人もいるでしょうが、先月宇宙開発局が無人探査機に搭載するAIを完成させました。

そこと協力すれば補助AIが作れると思うので、私から協力を頼んでみましょう」

 

宇宙開発局は無人機にAIを搭載して、より高度な情報を収集する事を目的とした宇宙探査計画を進行中であり、その無人機に搭載する自己対話型複列分散処理AIを先月完成させたばかりだった。

 

この会議で最終的に、宇宙開発局の協力を得てBT用の補助AIを作る事と、それができない場合は自力で操作補助システムを作る事に決まった。

 

 

 

 




セシリア喜べ! ブルー・ティアーズの強化案が決定したぞ!



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第11話 セカンド幼馴染

遅れてすいません。ほんとは10月中に投稿したかったけど無理でした。
リアルが忙しい→なかなか書けない→また忙しくなる
のコンボを食らっちゃいました。(言い訳ですけどね)
これからはちゃんと、活動報告に遅れる旨を書くことにします。

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更



「お、幼馴染だと!」

 

昼食を取りながら、一夏は今朝宣戦布告してきた凰鈴音の事を箒に話す。

それを聞いた箒が聞いてないぞと言わんばかりに食ってかかるが、とうの鈴は余裕の表情で一夏の隣でラーメンを啜っている。

シンとセシリアは少し離れたところで昼食を取りつつ、話を聞いている。

 

「そうか、箒とはちょうど入れ違いだったっけ。

篠ノ之箒、前に話しただろ。箒はファースト幼馴染で、お前はセカンド幼馴染だ」

 

ファーストと言われて表情を和らげる箒に、鈴はラーメンを置いて箒の顔を見る。

一瞬不機嫌になるも、すぐに治して箒に挨拶する。

 

「ふーん、そうなんだ。初めまして、これからよろしくね」

 

「ああ、こちらこそ」

 

互いに含みのある笑顔で挨拶を交わす。

 

「そう言えばアンタ、1組の代表になったんだって。

良かったら私がISの練習見てあげようか。そ、その、私がつきっきりで……」

 

「そりゃあ助かる」

 

何故か最後は小声になっていたが、鈴が一夏に提案する。

ISに乗って日が浅い一夏にとって、代表候補生である鈴に見てもらえるのはありがたかった。

最後の小声は当然一夏は聞いていない。

 

「大丈夫だ、既に練習相手はいるし、敵に教えを乞うつもりもない」

 

鈴の言葉を全て聞いていた箒は、一夏とは逆にはっきりと拒否を示す。

その言葉にムッとして箒を見る鈴に、箒はキツイ目で返す。

 

今のやり取りで互いに理解した。

 

 

ただの幼馴染ではない、こいつは恋敵であると――

 

(一夏との付き合いは私の方が長い、それを後から出てきて……)

 

(彼女が噂の箒って子ね。それにしても……なんてデカさなの、聞いてないわよ!

けど、私たちは既に将来を誓い合った仲なんだから、諦めなさいよね)

 

火花を散らす箒と鈴を見ていた女子達は

 

(え、なになに、これっていわゆる修羅場!?)

(薄々思ってたけど、やっぱり篠ノ之さんって織斑君の事……)

(わぁ、オリムー。モテモテだぁー)

 

などなど、当事者に聞こえないように小声ではあるが、盛り上がっている。

ちなみにシンとセシリアは、巻き込まれるのはごめんだと傍観を決め込み

 

(一夏……ストレスで禿るなよ)

(お取込み中のようですので、挨拶は後ほどにしておきましょう)

 

と、シンは知り合いの様に前髪が後退していかないか一夏を心配し、セシリアは状況が落ち着いてから鈴に挨拶しようと考えていた。

 

彼女たちはまだ睨み合っていて、緊迫した空気が漂う。

 

そんな空気の中一夏は「まさか鈴が代表候補生とはな。弾が知ったら驚くだろうなー」と、残りの昼食を食べながらのんきに呟いていた。

 

そうこうしている内にチャイムが鳴り、皆急いで昼食を片付ける。

ここでようやく膠着状態が解け、箒から目を離した鈴が一夏を指さす。

 

「確かにクラス対抗戦では敵同士……なら、それまで手の内は隠させてもらうわ。

いいわね、一夏! 私と当たるまで負けるんじゃないわよ!

それと、練習が終わったころに行くから、時間空けといてよね」

 

早継ぎにそう言うと、鈴は食器を持って退席した。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「……」

 

放課後のアリーナで、箒はIS―打鉄―を無言で展開する。

そこには一切の無駄がなく、代表候補生には及ばないが、IS学園に入るまで本物のISを触ったことのない者にしては、展開時間が早かった。

 

「箒さん、もしかしてISの搭乗経験がおありですの?」

 

「……」

 

こなれた感じでISを展開する箒を見て、セシリアは疑問を口にする。

しかし、相も変わらず箒は無言で……ふくれていた。

 

「箒、いくら今日は一夏がいな「べ、別に一夏がいないからとか、一夏とあいつが会ってるからとか、そう言うわけではない!」お、おう」

 

「まあまあ箒さん。落ち着いてくださいな」

 

シンの言葉を遮るように、箒は顔が赤くなりながら早口で指摘を否定する。

自分の発言で盛大に墓穴を掘っているが、シンとセシリアは昼の出来事から分かりきっている事なので、それ以上何も言わなかった。

 

「シン! セシリア! 今日は一夏がいない分、私を鍛えてくれ!

クラス対抗戦が終われば、学年別トーナメントがある。

私も一夏に負けてられないからな! さあ、早く始めよう!」

 

先ほどの発言で墓穴を掘ったのに気付いたのか、箒はさらに顔を赤くして捲し立てる。

箒の言葉に促され、シンたちは訓練を開始する。

 

 

 

 

 

……

…………

 

「――以上で今度のクラス対抗戦の説明を終わる。

専用機持ち以外は必ず期限までに使用するISを申請する事。

質問があれば各自受け付ける。では解散!」

 

シンたちが訓練している時、クラス代表たちは1つの教室に集められ、織斑先生から今週末のクラス対抗戦についての説明を受けていた。

ちなみに対戦相手は、本番直前に抽選で決めるそうだ。

 

本日午後の授業で、クラス代表は集まるように通達された。

クラス代表――つまり一夏と鈴もここにいる。

 

(ど、どうしよう。思いっきり練習終わったらって言ったのに……いや、これはチャンスよ。

今ならあの幼馴染もいない事だし、話したい事はたくさんあるんだから)

 

そう思いさっそく一夏に声をかけようと彼の方を見るが、普段は学年やクラスが違うため会う事の出来ないISの男性操縦者の1人(つまり一夏)と話をしようと、他のクラスの代表に囲まれていた。

 

すぐに教室を出て行ったのは教師陣と一部の生徒だけで、集まったクラス代表のほとんどが一夏の周りに集まって色々と話しかけている状態だ。

出鼻を挫かれてしまった鈴は、遠くからこの波が引くのを待つことにした。

話しかけるのはそれからでも遅くはないはずだと、自分に言い聞かせて。

 

すると、教室の隅で波に乗らず一夏を軽く睨むように見ている生徒が目に入った。

 

(一夏、あの子に何したのよ。眼鏡の下から睨まれてるじゃない)

 

鈴がそのまま眺めていると、不意に彼女と目が合う。

彼女は鈴の視線に気づくやいなや、そそくさと教室から出て行った。

 

鈴は不思議に思ったものの、特に気にはしなかった。

 

 

 

 

 

しばらくすると波は引き、くたびれた様子の一夏に声をかける。

一夏から離れたクラス代表たちは次々と教室から出て行き、最後に残ったのは鈴と一夏の2人だけだった。

 

「へー、一夏ってば人気者だね」

 

「よせよ鈴。みんな珍しがってるだけだって」

 

沈みかけた夕日が窓から入り、全体がオレンジに染まった放課後の教室。

そんな場所に今ここに居るのは鈴と一夏だけ……

 

 

 

この凰鈴音、この機を逃すような甘い女ではない!

 

「やっと、二人きりになれたね。

ねえ一夏、覚えてる? あの約束……」

 

小学生のころにした約束、彼は今でも覚えていてくれてるだろうか……

 

「ああ覚えてるさ。あの時もちょうどこんな夕方だったな」

 

時間が経っているため少し不安だったが、一夏の言葉を聞いて安心する。

そしてそんな一夏言葉を聞いて、鈴と一夏は互いに向かい合ったまま昔の事を思い出していた。

 

 

 

――

――――

 

夕日に照らされる鈴の顔には、凛々しさとどこか儚げなさを持っていた。

あの時とは違う鈴の顔が綺麗で……俺は一瞬この顔をずっと見たいとさえ思った。

 

月日が経てば人は変わる。

 

それでも全てが変わったわけではなく、鈴の活発な所は相変わらずだ。

 

(箒もそうだったけど、やっぱり久しぶりだと少し変わるよな。

自分じゃ分らないけど、あいつらから見れば俺もどこか変わってるんだろうな)

 

あの日と今で、あの約束も変わるのだろうか……

 

鈴の家は中華料理屋を営んでいたので、よく食べに行っていた。

そして当時の鈴は料理を始めたばかりで、お世辞にも上手とは言えるほどではなかった。

それでもめげずに料理の練習をしていて、俺も料理をするので一緒になって練習したものだ。

そんなある日の放課後、ちょうど今の様に夕日の差し込む教室で鈴は俺に言った。

 

「料理が上手になったら、毎日私の酢豚……食べてくれる?」

 

料理ができるようになったら、お礼として酢豚を食べさせてあげるという約束。

 

その約束は未だに果されていない。

中学生になり、十分上手と言えるレベルの中華料理を作れるようになった鈴に、そろそろ食べたいと言ったが、まだ早いと言われてしまった。

これはつまり、俺とと鈴の間にどこまで行けば”料理が上手”と言えるのかという認識が食い違っていたという事だろう。

 

鈴はまだ自分の料理の腕に満足していない。

 

となれば鈴の料理の目標は、親父さんではないか?

鈴に料理を教えていたのは親父さんだ。鈴はいずれ父を超えるつもりなのだろう。

そう考えればあの約束も

 

「将来中華料理屋を継いだ時、お礼に毎日酢豚を奢ってあげる」

 

という意味で鈴は言っていたのだろう。

 

そんな鈴が中国の代表候補生になり、なぜISに乗る事になったのかは分からない。

もしかしたらそこには深い事情があるのかもしれない。

それが何なのか俺には分からない。

 

 

それでも、もしもの時は俺がお前を守ってやる。

 

 

だからいつか、約束通り酢豚を食わせてくれよな。

 

――

――――

 

 

 

 

 

「いつか毎日飯を奢ってくれるって約束」

 

「ハァ!?」

 

 

 

さっきまでの真面目な顔はどこへやら……鈴の素っ頓狂な声が夕方の教室に響き渡った。

 

 

 

 




毎日飯を奢ってくれるとはこういう意味だったのか!(錯乱)
なぜ一夏がそういう認識になったのか強引に解釈してみました。


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第12話 クラス代表戦

クラス対抗戦です。
龍咆が変換できなくて辛いです。

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更


――

――――

 

「料理が上手になったら、毎日私の酢豚……食べてくれる?」

 

日本には「毎日味噌汁を作ってくれ」という、口説き文句がある。

今作れるのは中華料理だけなので味噌汁の代わりに酢豚を、作るのは私なので相手に食べて欲しいと変換し、出てきたのがさっきの言葉だった。

 

この約束もあり、私は一層料理の練習に力を入れた。

そのかいもあり、中学生になった頃には料理ができると周りに言えるぐらいにはなった。

 

そんな私の料理の上達ぶりを見て言った一夏の言葉には、本当に驚かされた。

 

「なあ鈴。あの時の約束なんだけどさ……そろそろ良いんじゃないか?」

 

まさかこのタイミングで!?

 

確かに料理が上手になったらとは言ったが、私たちはまだ中学生だ。

当然結婚なんてまだ早いのは言うまでもない。そんなの一夏にも分かってるはずだ。

それでも言ったという事は、もうすぐにでも私の料理を”毎日食べたい”ということだろう。

この一夏の告白が嬉しすぎて、その時の私は頭の中がゴッチャになっていたのは、今でも鮮明に思い出せる。

 

「なななな、いきなり何言ってるのよ一夏!

気持ちは嬉しいけど……まだ早すぎるでしょ!」

 

「そ、そうか……でもいつか食わせてくれよな」

 

「も、もちろんよ。その時は毎日腕によりをかけて作ってあげるからね」

 

それからしばらくして……両親が離婚した。

私は母と一緒に、生まれ故郷である中国に帰る事になった。

 

あの時はまさか、こんな場所で再会するとは思わなかった。

そもそも男である一夏がISを動かせるなんて、想像できるわけがない。

でも、そのおかげで再会できた。

 

今度は離れないからね……一夏。

 

――

――――

 

「いつか毎日飯を奢ってくれるって約束」

 

「ハァ!?」

 

一夏の予想外の言葉に鈴は思わず声を上げる。

まさか約束の意味を履き違えられているとは思わなかった。

 

「最低! 女の子との約束をちゃんと覚えてないなんて。

男の風上にもおけない奴。犬に噛まれて死ね!」

 

「なに言ってんだよ。ちゃんと覚えてただろ!」

 

声を荒げる鈴に反論する一夏。

教室には2人しかいないとはいえ、言い争いは続く。

 

「約束の意味が違うのよ」

 

「じゃあ本当はどう言う意味なんだよ」

 

「そ、それは……言えるわけないでしょ」

 

一夏に詰め寄っていた鈴だったが、本当の意味を言えずに後ずさる。

さらに恥ずかしさのあまり顔を伏せ、声も小さくなっていた。

 

「言ってくれなきゃ分かんないだろ」

 

一夏も一生懸命自分の間違いを正そうとしているのだが、それが鈴に追い打ちをかける。

 

(そんなの直接言えないからああ言ったのに……なんで気付いてくれないのよ)

 

この再会を機にいっそ言ってしまうという考えも浮かんだが、ここまで問答を続けてあっさり答えるというのも癪だった。

 

しばらくの沈黙の後、負けず嫌いな性格ゆえの「気付いてくれるまで言うもんか」と言う意地と、「これを機に言ってしまえ」と言う葛藤の末鈴が下したのは、とある提案だった。

 

「ああっもう。ほんとアンタってば相変わらずなんだから。

じゃあ、今度のクラス対抗戦でアンタが勝ったら教えてあげる。

私が勝ったら1日私に付き合ってもらうから。いいわね」

 

(負けたら潔く言おう、そして勝ったら付き合ってもらってそこで言おう)

 

鈴の心は決まった。

昔から変わらず素直ではないが、強引に理由をつけて、そこではっきりと言うと決めた。

 

「ああ、それでいいぜ」

 

そんな鈴の決意も知らぬまま、一夏はこの提案を受ける。

 

夕日が沈み、暗くなった教室を出た2人は決戦の準備へと赴く。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

そしてむかえたクラス対抗戦、一夏と鈴は初戦で当たる事になった。

両者は既に機体を纏っており、アリーナの上空で対峙している。

 

≪戦闘開始≫

 

「さあ、行くわよ!」

 

すかさず鈴は背中の双天牙月を手に取り、白式に向かっていく。

 

「ああ、かかってこい」

 

一夏も雪片を構えて甲龍を迎撃しようとするが、白式から警告が出る。

 

≪警告 非固定浮遊部位にエネルギー反応≫

 

ハイパーセンサーを通して、甲龍の非固定浮遊部位にエネルギーが集まっているのが見て取れる。

それを見た一夏は即座にフルスロットルで甲龍の後ろに回り込むように飛ぶ。

それにより鈴の持つ青龍刀は豪快に空を切る。

 

「よし、これなら!」

 

鈴が青龍刀を大振りで振り抜いたことでできた隙を一夏は狙う。

非固定浮遊部位はこちらを向いていない。あれが砲口なら後ろは狙えないはずだ。

 

(悪いな、鈴。 零落白夜で、一気に決めさせてもらう)

 

一夏は零落白夜を発動し、雪片を……

 

 

 

 

 

……振り下ろせなかった。

 

「グアッ」

 

凄まじい衝撃が不意に押し寄せ、機体が――身体が軋む。

鈴の真後ろから距離を詰めていたはずなのに、気付けば距離が離されている。

 

「その程度で、私に勝てるわけないでしょ」

 

ブレーキをかけ衝撃を殺した一夏が目にしたのは、余裕の表情でこちらに機体を向ける鈴だった。

 

 

 

「なんだ、何が起きた!?」

 

後ろを取ったはずの一夏が何かに弾かれ、吹き飛ばされた――

何が起きたのか分からず、観客席で試合を見ていた箒はとっさに声が出た。

それは箒だけでなく、観客席のいたるところから湧き上っている。

 

「衝撃砲か……」

 

「ええ、空間に圧力をかけて、それを撃ちだす兵器ですわね」

 

箒の疑問に答えるようにシンとセシリアは呟く。

相手に搭載されている武器に不安を感じつつも、箒は一夏の勝利を願う。

 

(一夏……いや、大丈夫だ。一夏なら勝てるはずだ)

 

(後ろには砲口は見当たらない……攻撃時に展開するのか?)

 

(もしあれが第3世代兵器なだとすれば、ただの衝撃砲ではないはず。

後ろに撃てたのも第3世代兵器としての機能でしょうか……)

 

後ろに撃てる衝撃砲にそれぞれ思考を巡らせながら、3人は試合に目を向ける。

アリーナではちょうど、体勢を立て直した一夏が再度鈴に挑みかかっている所だった。

 

 

 

試合は近づいては離れ、近づいては離れを繰り返している。

一夏としては接近戦に持ち込みたいのだが、衝撃砲を警戒していて、鈴が使おうとすればすぐに距離を取っている。

 

しばらくそれを繰り返していると、痺れを切らした鈴が衝撃砲を連射する。

その猛攻の前に一夏は近づけず、ただ逃げる事しかできなかった。

 

「ほらほら! 何よ一夏、この程度なの!」

 

「んなわけないだろ!」

 

鈴の煽りに答えはしたものの、連射される衝撃砲の前では接近できない。

ハイパーセンサーでエネルギー反応と空間の歪みを見る事で衝撃砲を避ける事はできるが、そのためには完全に後手に回らざるを得ない。

 

このままでは攻撃できない。

 

どうする、どうすればいい? このまま逃げ続けたってやられるだけだぞ。

 

(しっかりしろ。俺は千冬姉と同じ武器を使ってるんだぞ)

 

自分を奮い立たせ、鈴に勝つための作戦を考える。

零落白夜が決まればおそらく一撃……まだ瞬時加速も使っていない。

 

「ふーん。良く避けるじゃない。この龍咆、砲身も砲弾も見えないのが特長なのに。

でも、逃げてばっかじゃあ、私に勝てないわよ!」

 

鈴は攻撃を続けながら、一夏に話しかける。

 

「ああ、分かってるさ。だから、今度はこっちから行くぞ」

 

(前にも撃てる。後ろにも撃てる……なら下からならどうだ!)

 

一夏は急降下し、地面すれすれで方向転換し鈴の真下へ潜り込む。

衝撃砲の撃てない真下から瞬時加速で奇襲をかけるのが一夏の作戦だった……

 

 

 

「残念! 下にも撃てるのよ!」

 

だが一夏の考えは外れ、左右の非固定浮遊部位から真下に向かって衝撃砲が放たれる。

 

衝撃波はアリーナの地面を抉り、一面に砂が舞い上がる。

観客席からは一夏を心配する声が上がっているが、鈴はハイパーセンサーにより一夏が衝撃砲を避けたのを見ている。

おそらく砂に紛れて奇襲を仕掛けるのだろうが、来ると分かっていれば対処はできる。

 

アリーナの中には障害物は何もない。つまり隠れる場所は砂塵の中しかない。

そしてハイパーセンサーの視野をもってすれば、どこから出てこようとも感知できる。

鈴はいつでも衝撃砲を撃てるようにし、高度を上げて飛び出してくる一夏を警戒する。

 

 

 

しばらくすると、砂塵の中から這い上がってくる影が見える。

 

「来た、真正面!」

 

砂塵の中央から雪片を構えた白式が飛び出してくる。

まさか堂々と真正面から来るとは思わなかったが、それが一夏らしいと思いながら、鈴はすかさず準備していた衝撃砲で迎え撃つ。

 

「うおおおおおおおお!」

 

だが一夏は機体を後ろにそらして衝撃砲を避け、瞬時加速で突っ込む。

避けられるとは思わなかったのか、鈴の動きが一瞬止まる。

一夏はそのまま速度を落とさず懐へ飛び込み、零落白夜を発動する。

 

(や、ヤバイ)

 

エネルギーは十分残っている。受け止めてから反撃する余力はある。

だがこの攻撃を受けてはならないと、脳が全力で警鐘を鳴らしている。

鈴はこの直感に従い、とっさに衝撃砲を撃つ。

 

(当たらなくいい。反動で距離を……)

 

衝撃砲を撃った瞬間、振り下ろされた雪片が甲龍のエネルギーシールドに当たる。

ほぼ密着状態のため衝撃砲は外れるが、雪片が振り抜かれる前に反動による離脱に成功する。

 

だが、離脱には成功したものの甲龍のエネルギーはかなり削られてしまった。

 

(ちょっと、何よこれ!?

なんで掠っただけでこんなにエネルギー持ってかれるのよ!)

 

たった一度の攻撃で、甲龍のエネルギーは3桁を切っていた。

もしあのままバリアで受け止めていたら、あれで勝負がついていただろう。

 

(だからって、まだ負けたわけじゃないのよ!)

 

一夏を見れば振り抜いた雪片を構えなおしながら追撃しようとしている。

それに呼応して鈴は双天牙月を構え、スラスターを全開にする。

 

 

 

 

 

だが、再度2人がぶつかる事はなかった。

 

≪警告 上空より未確認機体が接近中≫

 

 

 

 

 

警告の直後、アリーナの天井をビームが貫き、黒い巨体が落ちてきた。

 

突然の出来事に一夏と鈴は、ただ黙って巨体を見つめるだけだった。

 

 

 




龍咆は不可視の砲身・砲弾&射角無制限と単体でも何気に強力な武装だと思うけど、これを生かすならやっぱり砲身が見える通常射撃武器は必須だと思う。
これがあれば通常武器で牽制して見えない衝撃砲で狙い撃ったりと、戦いの幅も広がるし、砲身の視認性を生かして相手を揺さぶるテクニカルな戦いができる機体になると思うんだ……

鈴の性格(=戦闘スタイル)にはまったく合わないけどな!


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第13話 無人機

1月42日か、ふう……何とか間に合ったぜ。
……間に合ってませんね。ごめんなさい。

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更


突然の出来事に、悲鳴を上げてパニック状態になる生徒。

観客席のシャッターは閉じられ、アリーナに警報が鳴り響く。

 

「千冬姉、山田先生……なあ、聞こえないのか!」

 

先ほどから一夏は管制室にいる先生方に呼びかけているが、返事がない。

アリーナに降り立った正体不明機は、何かを待っているのか……それとも見定めているのか、一夏と鈴を見つめたまま動かない。

その機体はとにかく大きかった。実際はISより一回りほど大きいくらいだが、機体も搭乗者も黒色で覆われ、その巨大な手足によりより大きく見える。

 

「ちょっとあんた、いったい何のつもりよ!」

 

鈴が武器を構えたまま、相手に怒鳴っている。

だが、まだ相手は動かない。

 

一夏は繋がらない通信を諦め、相手に話しかけようとするが、突如辺りが暗くなる。

 

「な、何だ」

 

とっさに上を見ると、アリーナの天井が動いている。

そしてすぐに天井は閉じられ、同時に照明が点灯する。

 

「まさか……閉じ込められた!?

くっ、アンタねえ、こんなことしてどうなるか分かってんの!」

 

天井が閉じられては救援が突入できない。

先生方がそんな事をするとは考えられない、どうやったのか知らないが閉じ込められたようだ。

一夏も雪片を構え直し、鈴に続いて相手に問う。

 

「お前、何者だ。答えろ、目的は何だ!」

 

すると、今まで無言だった正体不明機が突如両腕をこちらに向ける。

そして肥大化している両腕の先にエネルギーが集まる……

 

まずい――

 

「一夏!」「鈴!」

 

互いに声をかけ、左右に離脱する。

その直後、2人のいた空間をビームが貫く。

 

「なんて出力だ……シンやセシリア以上じゃないか」

 

危険だ――こいつを学園内で暴れさせちゃいけない。

通信も繋がらない、皆を守るために今俺たちにできる事は……

 

「鈴! こいつを野放しにできない。俺たちで倒すぞ」

 

「システムを乗っ取られてる以上、救援はすぐには望めないわね。

それにさっきの試合でエネルギーを消耗してる……正直時間稼ぎが関の山だと思うけど?」

 

天井を閉めたのが相手の仕業だと考えれば、アリーナのシステムは掌握されているという事だ。

それほどの敵を相手に、万全の状態ではない私たちで倒せるのか……鈴は相手の戦力を予測して自分たちが不利である事を告げる。

 

「逃げたきゃ逃げてもいいぜ」

 

「何言ってんのよ、私はこれでも代表候補生よ!」

 

だからと言ってこのまま尻尾巻いて逃げる気などない。

救援が来れるかどうかすら分からなくなった以上、私たちがやるしかない。

 

「そうか、なら俺もお前の背中ぐらいは守ってみせる」

 

「この状況で、よくもまあ言い切るわね」

 

正体不明機の攻撃は頻度を増し、両腕のビーム砲以外に肩からもビームを連射してくる。

状況はこちらに不利だ。

だが、倒すと決めたからにはこのまま逃げ続けるわけにもいかない。

 

「一夏、私が援護するからアンタは突っ込みなさい。

そんでその物騒な武器を叩き込みなさい」

 

「ああ、任せろ」

 

相手を倒すためには攻撃しなければならない。

鈴は指示を出し、龍咆を撃ち込んで足止めを狙う。

そして一夏はシールドで衝撃砲を防いでいる正体不明機へ飛び込む。

だが大型であるにも関わらず敵の動きは素早く、一夏の攻撃は避けられてしまう。

 

「くそ、まだだ」

 

それでも一夏は諦めることなく、再度攻撃を仕掛ける。

 

 

1回――

 

 

2回――

 

 

3回――

 

 

攻撃を仕掛けるもいずれも同じ結果に終わる。

エネルギー残量を気にして、無意識のうちに消極的になっているのか足止めが成功しない。

このまま消極的に攻めても結果は変わらずエネルギーが尽きるだけだ。

こうなったら全てのエネルギーを使って全力で次の1回で倒すしかない。

鈴は一旦攻撃をやめ、一夏のエネルギー残量を聞く。

 

「一夏、イグニッション・ブーストとあの物騒な攻撃、両方使うだけエネルギー残ってる?」

 

「あ、ああ。1回分なら」

 

甲龍のエネルギーは残り少なく、龍咆もあまり連射できない。

なら白式のエネルギーが残っているうちにやるしかない。

 

「なら作戦変更よ。あんたはいつでもイグニッション・ブースト使えるようにしときなさい。

そんで私があいつの動きを止めるから、そしたら全力で攻撃しなさい」

 

私が全力で足止めし、一夏が全力で攻撃する。

失敗すれば2機ともエネルギーが尽きるだろうが、手を打たなければあいつには勝てない。

鈴は一夏の返事を待たずに正体不明機へ接近する。

 

「お、おい鈴!」

 

一夏は一方的な打診に戸惑うも、瞬時加速の準備をしつつ鈴を追う。

 

鈴は龍咆を撃たずにビームを避けながら連結した双天牙月を投げつける。

投げた武器はブーメランのように敵を襲うも、易々と避けられてしまう。

だがそれは重々承知の上だ。

 

回避したところにさらに龍咆を撃ち込むが、シールドに弾かれる。

一瞬とはいえわざわざ足を止めて受け止めてくれたのは嬉しい誤算だった。

 

おかげで少ない軌道操作で双天牙月を足に当てる事が出来た。

 

これにより敵はバランスを崩した。

だがシールドがあるため足は無傷であり、この程度では足止めの時間としては不十分だ。

だから鈴はその瞬間に現在撃てる最大威力の龍咆を撃ち込み、一夏に合図を送る。

 

「一夏、今!」

 

一連の鈴の行動に合点がいき、合図とともに準備していた瞬時加速で相手に突っ込む。

 

「うおおおおおお!」

 

敵は何とかバランスを取り戻し左肩のビーム砲で迎撃しようとするも、それよりも先に零落白夜が発動した雪片が食い込み砲門が潰れる。

 

肩が砲門から斬り落とされ、そのまま搭乗者を斬りつける。

零落白夜によりエネルギーシールドは消滅し、敵のISは搭乗者を守ろうと絶対防御を展開する。

 

(よし、このままエネルギーを……)

 

だがそう思ったのも束の間、敵は自ら絶対防御を解除し、雪片を搭乗者が左腕で直接受け止める。

 

「バカッ何やってんだ!」

 

絶対防御も張らず雪片を受け止めた敵を見て思わず声を上げる。

エネルギーシールドはおろか、絶対防御もなしに搭乗者自らが攻撃を受け止めるというのは、零落白夜でなくてもただの自殺行為だ。

 

そこに雪片を阻むものは何もなく、高出力のエネルギー刃は易々と肉体に食い込んでいく。

 

 

 

そして一瞬にして、雪片は振り抜かれる――

 

 

 

 

それにより身体と左腕が分離する。ISのではない……搭乗者の腕が――

 

 

 

白式は瞬時加速の勢いでそのまま離脱する。

一夏は先ほどの出来事が信じられず、自分が斬ったモノを確認しようと振り返る。

 

そこには左腕を失い、振り抜かれた雪片の軌跡が脇から腹にかけて刻まれていながらも、無表情のままこちらを向いている敵の姿があった。

 

 

 

その姿はどう見ても人間のものではなかった……

 

 

 

切り落とされた左腕の切断面からは無数の配線が飛び出し、切り裂かれた身体からは見慣れぬ機械を覗かせており、そこからは血液の代わりに火花をまき散らしていた。

 

無人機――

 

≪警告 右腕にエネルギー反応≫

 

自分たちが戦っていた相手は人間ではなく、ただの機械の集合体だった。

無人機だという事への安堵なのか、自身の損傷を気にもとめない無人機への恐怖なのか分からないが、一夏はこの異常な光景から目を離せずにいた。

 

 

 

そして視界が光で染まって初めて、敵が動いている事に気付いた。

 

 

 

ビームで吹き飛ばされた白式は地面を数回バウンドする。

それにより白式が強制解除され、一夏は地面に投げ出される。

 

「こんのおおおおおお!」

 

無人機の方を見ると、鈴が後ろから奇襲をかけている。

だが無人機は先ほどの損傷を意に介さず、身体を軸にして回転し、巨大な腕部に遠心力を乗せて甲龍に叩き付けた。

 

甲龍はそのままアリーナの壁に激突し、機体ごとそのまま地面に倒れ込む。

打ち所が悪かったのか鈴と甲龍は倒れたまま動かない。

これで敵が何をしようと、俺たちはただ見ている事しかできなくなった。

 

(ちくしょう……ここまでなのか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

諦めかけたその時、無人機に2つの光が刺さる。

 

攻撃を受けた無人機は様子を窺うように光源から離れる。

そして光の出所を見ると、インパルスとブルー・ティアーズがライフルを構えていた。

 

「一夏、無事か!」

 

箒の声がアリーナに響く、見ればシンとセシリアの後ろのピットに箒が立っていた。

意識こそあるがピットに届くような大声は出せなかった一夏は、腕を上げて答える。

 

「俺が奴を引き付ける。その間に2人を」

 

シンは指示を出すと、ライフルで牽制しながら近づき、サーベルで無人機を攻撃する。

セシリアは無人機がシンと戦っている間に一夏を回収し、箒の隣に降ろす。

 

「一夏、大丈夫か」

 

「ああ、なんとかな」

 

箒は一夏の無事を確認し、ひとまず安堵する。

そしてセシリアが向かうより先に、意識が戻った鈴が自力でピットに戻ってきた。

 

「すいません。もっと早く来られれば良かったのですが」

 

「いいわよ、気にしなくて……悪いけど、後は頼んだわよ」

 

セシリアと鈴が言葉を交わし、アリーナから出る鈴に代わりセシリアが入る。

アリーナではシンが1人で戦っている、片腕が無い無人機相手に有利に立ち回っているものの、強固なエネルギーシールドを抜けないためダメージを与えられずにいる。

セシリアは上空へ飛び、BTを全て切り離して無人機を取り囲み、攻撃を開始する。

 

「シンさん、お待たせしました。

それにしても無人機ですか……いったい誰がこんなことを」

 

「分からん。でも今はこいつを倒すのが先だ」

 

2人とも無人機の存在に疑問が浮かんだが、すぐに友人を傷つけた無人機への怒りに変わる。

そして一夏たちの安全を確保した2人は反撃を開始する。

 

シンはセシリアに足止めを任せて接近攻撃を繰り返し、セシリアは無人機の足を止めつつダメージを与えるようにBTを操作している。

その動きはいつもより攻撃的で、1基は残っている右腕を重点的に狙い、2基のBTで相手の回避先を読んで攻撃して動きを止め、最後の1基は別方向から搭乗者を狙う。

そして4基全てを別々の方向へ動かし、常に4方向から攻撃を加えている。

 

その攻撃に容赦はなく、片腕の無人機は反撃することもできず、セシリアの作ったレーザーの檻の中で踊る事しかできなかった。

 

無人機は動きを封じられ一方的に攻撃されているが、エネルギーシールドでブルー・ティアーズのレーザーとインパルスのビームサーベルをなんとかしのいでいる。

でもそれは辛うじて首の皮一枚が繋がっている状態であり、防ぎきれるのも時間の問題だろう。

 

 

 

「すごい……あれがシンとセシリアなのか」

 

ピットで戦闘を見ていた一夏が小さく呟く。

セシリアが敵を逃がさないようにレーザーを連射しているにもかかわらず、シンは自由に檻から出入りして攻撃を繰り返している。

セシリアもセシリアで、シンが接近してようともお構いなしにレーザーを連射している。

一緒に訓練していても、2人がコンビネーションの練習をしている所は見ていない。

即席でこれだけ動けるというのは、それだけ2人の実力が高いという事だろう。

 

2人の実力を見て無意識のうちに拳を握っていたが、一夏を含めてそれに気付く者はいなかった。

 

 

 

そしてついに、文字通り最後の首の皮が切れる。

今まで防いでいたビームサーベルを無人機は防げず、搭乗者の頭部が斬り飛ばされる。

エネルギーが尽きてエネルギーシールドも絶対防御も展開されなくなり、レーザーの雨が背部や腕部を次々に貫いていく。

 

それでも攻撃の意思は止まる事は無く、近くにいるインパルスを右腕で殴ろうとする。

だが無人機は満身創痍であり、そんな状態で攻撃したとしても当たるはずもない。

 

「これで終わりだ!」

 

シンは踏み込んだ無人機の搭乗者の左足を、ビームサーベルで切断する。

既に限界なのか反撃するそぶりも見せず、無人機はその場に崩れ落ちていく。

 

 

 

搭乗者の部分はレーザーの貫通により無数の穴が開き、機体の部分は穴が開く以外にも大部分が熱で溶けだしており、その形は原形を留めていなかった。

 

 

 

あれだけ暴れまわっていた無人機は、今は見るも無残な鉄塊となっていた。

 

 

 

 




2月は忙しいため次は3月以降になります。


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第14話 それぞれの思惑

もう忘れ去られてるかもしれませんが、長い間お待たせして申し訳ありません。
今までの分を色々と修正しまして、今更ですが感想への返信も書きました。

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更


無人機との戦いの後、一通りの検査と手当を終えて寮に戻ろうとした私を、一夏が呼び止めた。

制服を着ているため分かり難いが、袖の隙間から包帯を覗かせている。

思いっきり地面を転がったんだ、おそらく全身包帯巻だろう。

 

「なあ鈴。この前の約束って、どうする?」

 

並んで歩きながら一夏が話しかけてくる。

それは先日のクラス対抗戦で勝った方の言う事を聞くというという約束……

しかし、試合は乱入者により中断したため、勝負はついていない。

 

「引き分けよ引き分け。それでいいでしょ」

 

そもそもあんなことがあったため、勝敗を付ける気が起こらなかった。

 

「だな」

 

一夏もそうなのか、私の返事を聞いて笑顔を向ける。

だが私はその笑顔に見とれていたせいか、突如襲った頭痛により倒れそうになった。

 

「鈴!」

 

とっさに一夏が支えてくれたため、私は倒れずに済んだ。

 

「あ、ありがとう」

 

礼を言うと私は顔を上げる。

するとそこには心配そうに私を見つめる一夏の顔が真正面にあった。

抱きとめられた状態で顔が近くにあるせいか、互いに見つめあったまま動こうとはしなかった。

 

 

 

……

 

静寂に包まれた空間、密着した体、一夏の心臓の音まで聞こえてきそうだった。

しかし、今にも破裂しそうな自分の心臓の音がそれをかき消す。

 

そして音をたてないようにゆっくりと、一夏の顔があるところまで自分の顔を持ち上げていく。

 

 

 

…………

 

互いの顔が接触するまであと数cm――

耳には自分の鼓動しか入ってこず、目を開いているはずなのに何も見えていない。

自分が触れている一夏の肩と、私の肩に触れている彼の手の温もりが、奇妙な浮遊感を作り出す。

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「一夏!」

 

だが、誰かが一夏を呼んだことで私の足は地面に着く。

自然と顔は離れ、誰かが走ってくる音が耳に入ると感覚が元に戻る。

ここでようやく、一夏の後ろから箒が駆け寄ってきているのが分かった。

今の私たちの状態を見て箒が睨んできたので、私は睨み返す。

 

 

 

今にもキスしそうだった私たちを見て心中穏やかじゃない箒と――

 

無意識の行動だったとはいえ、せっかくのチャンスを潰された私――

 

 

 

「おい、どうしたんだよ2人とも」

 

一夏は一触即発の事態に驚いていたが、なぜ私たちが不機嫌なのか分かっていないようだった。

 

 

 

結局この睨み合いは、シンとセシリアがやってくるまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

一夏達が寮に戻った頃、研究室では回収された無人機を解析していた。

そしてその結果は、まさに私の悪い予感がそのまま表れたものだった。

 

「やはり、未登録のISコアのようです」

 

解析結果を伝える山田先生の顔は、驚きが半分と予想どおりが半分といったところか……

無人機を作り出すだけでなく、IS学園のシステムに侵入できるような人間とくれば、未登録のISコアが使える事も想像の範囲内だろう。

 

「はぁ、あの馬鹿。いったい何のつもりだ」

 

ため息とともに愚痴がこぼれる。何をしたかったのかは何となく予想できる。

くだらない理由に付き合わされて、後処理をするこっちの身も少しは考えて欲しい物だ。

 

(まあ、世界中を振り回している奴に言っても無駄か)

 

思考を一旦戻す。

今考えなければいけないのは目の前にある未登録のISコアの存在だ。

ISコアの製造法は公表されておらず、生みの親である篠ノ之束にしか作れない。

そしてあいつはそれを467個作ったところでやめたため、世界は今、限られたISコアを分配して研究開発や実戦配備をしている。

そんな中で新たに作られたISコアの存在など、厄介な代物でしかない。

 

「このコアはここで厳重に保管するしかないだろうな」

 

私の言葉に山田先生は黙って同意する。

それにしても、何で今になって新しく作ったのか……

いや、あいつの手元にはあと何個のISコアがあるのかを考えるべきか。

 

考える事は山積みだが、まずはこの機体から得られるだけの情報を得ようと解析を続ける。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

IS学園に無人機が侵入してから数週間。

織斑一夏を巡る世界の動きは、未だ収束する気配はなかった。

 

「現時点を持って、IS学園の所属となるラウラ・ボーデヴィッヒ少佐に代わり、クラリッサ・ハルフォーフ大尉をIS配備特殊部隊隊長に任命する」

 

ドイツ軍中将であり直属の上官である老人の言葉を受け、ラウラとクラリッサは敬礼を返す。

ラウラがIS学園に入る理由……

それは現在トライアル中の第3世代型ISシュヴァルツェア・レーゲンのデータ取りだけではない。

 

“世界で唯一のISを動かせる男性”である織斑一夏がIS学園にいる。

 

そこでアーベント・ヴォーゲル社の協力を得て、シン・アスカを急遽2人目の男性操縦者としてIS学園に送り込んだ。

彼は特異性から特例としてすぐに入学できたが、ラウラの場合は部隊の引き継ぎや正規の転入手続きに時間がかかり、遅れてしまった。

織斑一夏がISを動かせる理由を知るためだけなら、シン・アスカだけでも十分である。

それでもラウラを向かわせる理由、それは織斑一夏に対するドイツ政府の認識もあるが、中将の計らいでもあった。

 

「ラウラ、学校にいる間、貴女は軍人ではなく生徒です。

軍人である事に囚われず、勉強、部活、行事と、学校生活を楽しんでください」

 

中将は穏やかに語りかける。

生まれてから今までずっと、戦闘に関する教育と訓練を続けてきたラウラに学校生活を知ってもらういい機会だった。

 

「はい、ありがとうございます。

ではこれより、任務に向かいます。失礼しました」

 

ラウラは再度敬礼をすると、出発の準備をするため部屋を後にした。

そして中将は、いつも通り任務に赴くラウラの姿を最後まで見つめていた。

 

「本来なら君たちみんな、それぞれの青春を過ごしている年頃なのに……」

 

遺伝子強化試験体として生まれ、普通の人生を歩めなかった者たちに懺悔する。

そんな中将を見て、クラリッサがゆっくりと語りかける。

 

「私はもうそんな歳でもありませんよ。

それに……アドヴァンスドであろうとなかろうと、私は自分の意思でここにいます」

 

彼女は本心から言ってくれているのを知っている。

だがその中には、諦めと呪縛にも似た決意がある事も中将は知っていた。

だからこそそのことについてはこれ以上何も言わず、静かにその言葉を受け入れる。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

しばらくの沈黙の後、中将はふと思い出したことを話す。

 

「そういえば、ラウラに頼みたい事がると言っていたが……」

 

「あ、すっかり忘れていました。ありがとうございます。

ではボーデヴィッヒ中将、私も失礼します」

 

中将の言葉でラウラに伝え忘れていたことを思い出し、クラリッサは急ぎ足で退出する。

内容は個人的な事だそうなので聞いていないが、ラウラが向かう先は日本なので大方予想は着く。

 

「諦めか、憧れか、それとも両方か……」

 

自分に向けてなのか、彼女に向けてなのか分らない問いが四散する。

そして中将は静かになった部屋で仕事に取り掛かる。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

織斑一夏の存在を確かめるべく動き出したのはドイツだけではなかった。

フランスのデュノア社もその一つだった。

 

「デュノア社長、息子さんのIS学園への御入学、おめでとうございます。

世界で3人目の男性IS操縦者ですが、その存在は世界に広く知れ渡るでしょう」

 

スーツを着た中年男性は、社長室でデュノア社長に挨拶をする。

彼は国際IS委員会委員を務めており、デュノア社長の大学の同期であり親友であった。

デュノア社長は友人から祝言を受け取るが、友人の言う3人目に引っ掛かった。

 

「ありがとうレイモン。

だが、3人目とはどういう事だ。男性操縦者は織斑一夏だけではないのか」

 

アラスカ条約により、ISに関連する情報は全て開示しなければならないとされている。

開示された情報は国際IS委員会に集められ、委員会が全ての情報を把握したうえで各国のIS保有数を規定する。

だがそこには、国家や企業の優位性を維持するために開示したくない情報や、世間に公表すべきでない情報が存在する。

その場合は国際IS委員会との合意を得る事で開示の範囲を決定することで規制する。

ただし国際IS委員会の情報の独占を防ぐため、どんな情報であっても各国政府には開示しなければならないと定められている。

 

世間に公表されていない2人目の情報は、一民間企業であるデュノア社では知る事ができない。

3人目の情報も公表するタイミングはこちらで決めるとしているので、扱いとしては同等なのだが、まさか同じような人物がもう1人いるとは思ってもいなかった。

 

「ああ、世間には公表されていないが、ドイツでもう一人見つかった。

いや、正確に言うと隠すのをやめたというべきかな」

 

驚きを隠せないデュノア社長に、レイモン委員は用意しておいた資料を渡す。

その資料にはレイモンが話す通り、世界初の男性操縦者である織斑一夏ではなく、シン・アスカという見た事も聞いた事のない男の情報が載せられていた。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

シン・アスカ(16歳・男)

国籍:ドイツ

管轄:ドイツ政府

所属:アーベント・ヴォーゲル社

区分:テストパイロット

機体:インパルス(第3世代)

 

略歴

昨年10月、アーベント・ヴォーゲル社にパワードスーツのテストパイロットとして入社。

そこで開発中のISを起動させるも、混乱を避けるため国際IS委員会に報告せず。

その後は第3世代型ISの開発に参加し、IS学園入学に際し正規のテストパイロットとなる。

翌年2月、織斑一夏の存在が知れ渡るのを機に国際IS委員会へ報告し、IS学園への入学を求める。

 

織斑一夏の一件からIS学園入学までの調査記録

2月16日――織斑一夏がISを起動した事を即日公表

2月25日――織斑一夏のIS学園入学と日本政府の暫定保護を発表

3月01日――シン・アスカの存在を国際IS委員会に報告

3月09日――国際IS委員会監査官5名がISの起動を確認[1]

3月12日――シン・アスカの存在を認知し、彼に関する取り決めを決定[2]

3月19日――IS学園にて面接及びIS適性試験を行い、正式に入学を許可

3月24日――入学手続き完了

4月01日――入寮

 

[1]アーベント・ヴォーゲル社で開発中の第3世代型ISの起動は確認できたものの、他の機体は起動できなかった。監査官がそのISを起動して調査を行うが、異常は確認されなかった。そのため原因は不明だが、そのISのみ動かすことができる男性である事が確認された。

[2]ドイツ政府の要望でIS学園在学中は世間への公表はしない事で合意。

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

デュノア社長は一通り資料を眺めると、「面白くない」と思った事を口に出す。

 

「ドイツのアーベント・ヴォーゲル社か……

流石民間用パワードスーツ世界シェア第1位の企業だな、第3世代型ISと男性操縦者を引っ提げてIS事業に新規参入か。

まったく老舗大企業様とは嫌な相手だよ」

 

量産型ISの世界シェア第3位を誇り、第2世代型ISの終着点とも言われるラファール・リヴァイヴを製造しているデュノア社ではあるが、現在は経営危機に陥っている。

世界は今、欧州連合のイグニッション・プランに代表されるように第2世代型ISから第3世代型ISへの世代交代を目指している。

当然世界シェア第1位と第2位や、シェア逆転を狙っているIS関連の企業は完全に第3世代型ISの開発を始め、今や第2世代型ISの開発から完全にシフトしている。

そしてこういった企業は元々、軍事兵器や重機などの製造を行っており、そこからIS事業に手を出したような大企業ばかりだ。

しかしデュノア社はIS事業のために設立した会社であり、元からある技術力の差と操業年数が少ないゆえの他企業とのつながりの薄さによる情報力不足により、未だに第3世代型ISの開発にシフトできていない。

そういった事情を抱えるデュノア社からしてみれば、ぱっと出でありながらあっさりと開発競争に入り込む大企業は嫌味にしか見えなかった。

だがデュノア社を始めとした新規設立企業のほとんどが、ISの部品や武器の製造に留まる中で機体製造において上位に入っているだけ快挙ではあるのだが、現状が経営危機である以上それは過去の栄光でしかなかった。

 

「たしかに男性操縦者と共に新型ISの発表というのは、こちらと同じ作戦ですね。

IS事業に関しての実績はありませんが、パワードスーツ分野での実績があるアーベント社と勝負する場合、こちらが勝つのは難しいでしょう」

 

レイモン委員はデュノア社側が不利である事を冷静に分析する。

それはデュノア社長も分かっているので、一応の対応策を提示する。

 

「だからこそ、アイツには先を越されないように頑張ってもらわないとな」

 

IS学園に集まる情報、それを元に第3世代型ISの開発に着手する。

目標としては現在難航しているイグニッション・プランに滑り込むこと。

アーベント社側もそれを狙っているのかは不明だが、いずれにしろ勝つためには先に発表する必要があるので、息子の迅速かつ有益な情報の収集が必要不可欠となる。

 

 

 

こうしてデュノア社の命運を背負った少年が1人、IS学園へ足を踏み入れる。

 

 

 




唐突にオリジナル人物&設定をガンガン突っ込んでくスタイル……
こういう設定ばっかり浮かんでくるのに肝心の本編が(ry

そういえばIS世界って年号や年代の設定とかってありましたっけ?
このあたりも設定しておかないと不便だから設定しようと思うんだけど、なかなかいいのが思い浮かばないです。


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第15話 転入生

よし、まだ7月にはなってないな……

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更


「皆さん、今日は何とこのクラスに転校生がやって来ました。

では2人とも、自己紹介をお願いします」

 

入学してから1か月以上が経ったある朝のHR、山田先生が2人の転校生を連れて来た。

 

「シャルル・デュノアです。

ここには僕と同じようにISが動かせる男性がいると聞いて、フランスからやって来ました。

これからよろしくお願いします」

 

まずはブロンドの髪を後ろで束ね、中性的な顔立ちをした少年が自己紹介をする。

そしてそれに、軍服を連想するズボンに眼帯という格好をした銀髪の少女が不愛想に続く。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、所属はドイツ。

シュヴァルツェア・レーゲンの専属パイロットだ……」

 

2人の自己紹介が終わると、シンと一夏はとっさに耳を塞ぐ。

貴公子と呼ばれる雰囲気を持つ少年が3人目の男性操縦者として来たとなれば、次に起こる事など火を見るよりも明らかだった。

 

「金髪美少年!金髪美少年!」「嘘!3人目の男の子!?」「わが世の春が来たぁぁ!」

「デュノア? どこかで聞いたような……」

 

「レーゲン型って、本国でトライアル中って聞いたけど!?」

「ドイツってアスカ君と同じところだよね。もしかして知り合いだったりするの?」

「ねえねえ、アスカ君。そこんとこどうなの?」

 

シャルルはISを動かせる3人目の男性であり、ラウラはシンと同郷という事で、シンと一夏の予想通りクラス中が熱狂している。

その光景を見た当事者の2人は、面を食らったのか少し引いている。

 

「静かにしろ。今日は2組と合同でIS実習を行う。

各自着替えてグランドに集合。以上だ」

 

転校生に盛り上がるクラスを黙らせ、織斑先生は連絡事項を伝えるとHRを終わらせる。

それを聞いてクラスの皆は、名残惜しそうに次の授業の準備を始める。

 

「君が織斑君だね。よろしく」

 

先ほどの集中砲火がやんだので、シャルルは一夏に話しかける。

 

「ああ、いいから……それより急ぐぞ」

 

しかし一夏はシャルルの話を聞かず、彼の手を取ると一目散に教室を出て行った。

突然の出来事に思わず声が出るシャルルだったが、すぐに一夏の取った行動を理解する事になる。

廊下に出るとそこには、他クラスや上級生の群れが新たな男性操縦者を見ようと待ち構えていた。

 

「噂の転校生発見!」「あー、織斑君と手繋いでる」

 

などなど……好き勝手に盛り上がりながら、前だけでなく後ろからも女子が次々と集まってくる。

一夏は慣れないシャルルの手を握ったまま、女子の群れを迂回して更衣室へと走っていく。

 

「あ、新聞部です。せめて写真を……」

 

これ以上は迷惑だと思ったのか、それとも一目見れただけで満足したのか、女子の群れは走っていく2人をこれ以上追う事はなかった。

 

 

 

 

 

「ハァハァ……何とか撒けたな」

 

「それにしても凄かったね」

 

「そりゃあ、俺たちは数少ない男子だからな」

 

何とか更衣室にたどり着き、先ほどの光景を思い出しながら一息つく。

そして落ち着いた所でようやく2人は、ある事に気付く。

 

「そういえば、アスカ君は? 置いてきちゃったけど大丈夫かな」

 

「あ」

 

今日の女子の狙いはシャルルであり、今更シンが大々的に狙われる事はないだろう。

それに万が一そういった事態が起きても、シンなら大丈夫……なんせ、入学当初は毎日のように自分たちが狙われたのだから、いやでも対応できるようになる。

シンの事をすっかり忘れていた一夏だが、大丈夫であろうと結論付ける。

 

 

 

 

 

で、置いて行かれたシンはというと……

 

「あれが、織斑一夏か……」

 

「ラウラ、早く着替えた方が良いぞ。

遅れると織斑先生の一撃が飛んでくる」

 

一夏の行動を見届けたラウラに声をかけていた。

 

「知っている。私もくらった事があるからな。

それにしても……ISを動かせる男が他にもいたとはな」

 

「でも、何で動かせるかは誰も分かってないんだよな」

 

シンは表向き“ISを動かせる男性”という事になっているが、実際は“男性でも動かせるIS”に乗っているだけに過ぎない。

シンはインパルスを動かせる男性ではあるが、インパルスはシン以外の男性でも動かせる。

操縦難易度を考えればシンにしか動かせないとも言えないこともないが……

その事実を知っているからこそ、織斑一夏以外に現れた男性操縦者に2人はかなり驚いていた。

何故ISを動かせるのかは、専門家も一夏本人も分かっていない。

おそらく今日転校してきたシャルルも同様だろう。

 

「そうだ、重要な事を言うのを忘れていた。

ついにできたぞ、第3世代装備を搭載したインパルスのパッケージが」

 

「本当か!?」

 

インパルスは第3世代型ISであるが、肝心の第3世代装備はまだ搭載されていない。

それを搭載したパッケージがようやく届くと聞いて、シンは思わず喜びの声を上げる。

 

「ああ、一緒に持ってきた。今日中にはここに到着するはずだ。

今回はアーベント社が提案したパッケージが届くが、今後は軍からそちらに第3世代装備を搭載したパッケージを送る事になった。

シンには届き次第そのテストをしてもらいたい」

 

インパルスはパッケージ換装によってどんな状況にも対応できる万能機だ。

ISのパッケージというと、全身をがらりと変える物がほとんどだが、インパルスはMSを参考にしているため、パッケージで変わるのはバックパックだけである。

つまりパッケージに搭載可能な第3世代装備であれば、インパルス一機で全てのテストができるというわけである。

そこに着目したドイツ軍は、ラウラを通してシンに打診してきた。

会社側には既に話は通してあるそうなので、シンとしても断る理由はなかった。

 

「ゴホン……シンさん。少しよろしくて?」

 

話がひと段落したところで、セシリアがシンに話しかけてくる。

それに答えようとシンは振り向こうととするが、それより先に両手で自分の目を覆われてしまう。

 

「お、おいセシリア。何を!?」

 

「ほらほら、早く行きませんと、着替えもある事ですし授業に間に合いませんわよ。

それに……」

 

突然の行動にシンは困惑する。

セシリアの言う通り、そろそろ教室を出ないと授業に間に合わないのは確かだが、わざわざこんな事をする理由は分からなかった。

 

ちょっとした悪戯なのだろうか?

 

「シンさんがいると、わたくし達まで着替えられませんわ」

 

ここで初めてシンはセシリアの取った行動を理解する。

女子は教室で着替える事を完全に失念していた。

 

「あ、ああ、すまん」

 

シンは慌てて謝ると、目隠しされたそのままの状態で教室の外まで歩いていった。

教室を出たところでセシリアは手を離し、シンは恥ずかしさのあまり全力疾走で更衣室を目指す。

シンが出て行ったのを確認すると、女子達は一斉に着替えを始める。

中にはシンが残っているのに気付かず着替えてしまった人や、知っていて着替える人もいた。

 

「えー、アスカ君なら別にいいじゃん」

 

「いや、だめだろ」

 

教室内で上がった不穏な発言に箒が即座に突っ込む。

だが、先ほどのハプニングのせいか、女子達のテンションは何故か上がっていた。

 

「そりゃあ、篠ノ之さんは織斑君の方が良いもんね」

 

「な、なんでそこで一夏が出てくるんだ。

それにあいつとはただの幼馴染であって……」

 

突然矛先を向けられて弁明する箒だが、篠ノ之箒が織斑一夏の事が好きだという事は、既にクラスの皆が知っていた。

知らぬは当事者の2人と今日来た転校生ぐらいである。

 

「まあまあ落ち着いて。それに箒さんの言うとおりですわ」

 

廊下から戻ってきたセシリアが箒に助け舟を出す。

だが、女子達の追撃は終わっていなかった。

 

「でもさー、結婚したら旦那さんに……」

 

「そ、それ以上はいけませんわ!

淑女たる者、発言には気を付けて頂かないと。

ねえ、箒さん……箒さん?」

 

これ以上は言わせてはいけないと、セシリアが強引に割って入って発言を止める。

箒も同様に感じてくれていると思い、彼女の方を見るが何やら様子がおかしい。

 

赤くなった顔を伏せながら、何やらブツブツと呟いている。

 

「だ、旦那、旦那……確かに結婚すれば、そういった……

昔は一緒に風呂に入ったりもしたが……ああダメだ、まだ心の準備が」

 

((ダメなのはアンタのほうだよ……))

 

おそらくその相手は……いや、言うまでもないか。

妄想が爆発している箒を見て、クラスの心が一つになった。

 

「日本では結婚する時、“不束者ですが、よろしくお願いします”

と挨拶すると聞いたが?」

 

「うわああああああああ!!」

 

「ラウラさん、ドイツ人だよね。いったいどこでそんな日本語を……」

 

何故そんなことを言ったのか分からないラウラの一言で、箒は完全にオーバーヒートしていた。

そしてドイツ人でありながら日本の様式を知っているラウラにみんな驚いていた。

 

「アンタたち何やってんのよ!早くしないと遅れるわよ!」

 

2組の鈴が廊下から叫んでいる。

それを聞いた、1組の皆は慌てて準備に取り掛かる。

流石に騒ぎすぎたし、なにより彼女の言うとおり時間も切迫している。

遅れれば出席簿だ、それは避けたい。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「ごめん。待たせた」

 

「遅いぞシン、早くしないと千冬姉に怒られる」

 

「悪い悪い」

 

シンがアリーナの更衣室に到着したのを、既に着替えを終えた一夏とシャルルが迎える。

時間も押しているので、シンはそれに答えながら素早く着替えていく。

 

……

 

…………

 

「ごめんね、アスカ君。置いてっちゃって」

 

シンの着替えが終わり、3人はグランドに向かいながら雑談を始める。

 

「こっちもラウラと話してたから、気にしなくていいさ。

あと、俺の事はシンでいい」

 

「俺も一夏でいいぜ。数少ない男同士、これから頑張ろうな」

 

「うん。僕の事もシャルルでいいよ。

一夏、シン。これからよろしくね」

 

改めて挨拶をすると、シンは気になっていたことをシャルルに問う。

 

「なあ、ファミリーネームがデュノアって事は、シャルルってもしかして」

 

「うん、そうだよ。デュノア社の社長は僕の父さんだよ」

 

「気品があっていい所の育ちって思ってたけど、社長の息子って凄いな。

所でデュノア社って何の会社だ?どこかで聞いたような気がするんだけど……」

 

「おい、一夏。デュノア社と言えばラファール・リヴァイヴで有名だろ」

 

ISに携わる者になら常識である。

シンは呆れながら一夏に言うと、シャルルが続いて説明する。

 

「他にもIS関連の商品も作ってるよ。僕が着てるスーツもデュノア社製のオリジナルなんだ。

一応フランスで一番大きなIS関連企業かな。

でも、規模で言ったらシンのアーベント・ヴォ-ゲル社の方が凄いよ。

IS以外のパワードスーツと言えば、アーベント社製が常識って言うくらいだし。

IS産業が動き出した当初は、一番危険視されてた企業なのに参入してこなかったのが業界内で最大の謎だって言われてるよ」

 

「別に俺は社長の息子でもなんでもなく、一介のテストパイロットだけどな……」

 

いくら企業が大きいといえども、社長の息子と一社員では差がある。

そしてさっきから「凄いんだな」としか言っていない人がいるが、そいつはそいつで世界最強と言われるブリュンヒルデの弟である。

さらに一夏は何を思ったのか、突然2人に向かって突拍子の無い事を言う。

 

「シン、シャルル……卒業したら働かせてくれ!」

 

「一夏、何を言ってるんだ。冷静になれ!」

 

「そ、そうだよ。一夏は世界中に知れ渡ってる上に、無所属なんだよ。

君を欲しがってるところはたくさんある。それこそどんな手を使ってでも!」

 

シンとシャルルは即座に一夏を説得する。

シャルルの言う取り、一夏は世界中に存在が知れ渡った無所属の男性IS操縦者である。

今はIS学園にいるため表立っての行動はないが、彼が欲しい組織は世界中にあり、それぞれ水面下では獲得しようと相手を牽制し合っている。

結局一夏はグランドに着くまでずっと、自分の微妙な立場についての説明と、安易にどこかに所属するなんて言わないように言いつけられていた。

 

 

 




一般社員でも大企業なら勝ち組じゃねえかああああ!!

……というわけで、シャルル初登場&ラウラ再登場回でした。
そしてようやくインパルスのパッケージも届きました。
今回のパッケージは2種類ですが、詳しくは次回。
(まあ、隠さなくても皆さんにはバレバレな気がしますが……)


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第16話 交流

なんか解説回になってしまった気がする。

追記:うわああああ!! 思いっきり設定ミスしてるぅぅぅ……orz (詳しくは活動報告で)

更新履歴
2015.07.16:時系列の矛盾を修正
2015.11.14:サブタイトル変更


放課後、シンは第1アリーナの整備室で届いた荷物を受け取っていた。

届いたのは砲撃型パッケージ「ブラスト」と高機動型パッケージ「フォース」の2つ。

名前の通り、ZGMF-X56Sインパルスのシルエットシステムを参考にして作られたパッケージだ。

 

 

 

砲撃型パッケージ「ブラスト」――これはブラストシルエットをそのまま再現しており、MSと同様、4連装ミサイルと高出力ビーム砲が上下に取り付けられた円錐形に近い2つの巨大な砲塔と、それにより増加した重量を相殺するために大型化したスラスターにレールガンが2門付いた接合部からなる。機動力・運動性こそ低下したものの、それを補って余りある圧倒的な火力を持つ。

 

 

 

高機動型パッケージ「フォース」――こちらは本来のフォースシルエットとは違い、デスティニーの赤い翼となっている。理由は単純に搭載されている第3世代装備「電磁推進スラスター」の可動域を確保するためである。このパッケージは電磁推進スラスターと通常のメインスラスターで構成されていり、武器の追加はないが通常時でも高い機動力・運動性を持つ。

 

 

 

シンはインパルスを展開し、届いたパッケージと整備用の端末にコネクタを接続する。

一緒に届いたディスクを起動し、パッケージのインストールを開始する。

 

 

 

『インストール中………… 現在:000% 残り09:58:34』

 

 

 

正常にインストールが開始されたのを確認すると、残り時間が表示される。

この長さでは今日中には終わらないので、調整は明日する事にしてシンは整備室を出る。

 

 

 

 

 

アリーナを出て寮に戻る途中、聞いた事のある声が聞こえてきた。

シンは声をかけようと、その声が聞こえて来た方へと歩いていく。

 

そして、そこには2人の人物がいた。

1人はドイツで知り合ったラウラ、もう1人は担任の織斑先生だ。

真剣に話し合っている2人に、シンは自然に足を止めていた。

 

「まさかここでもう一度、教官の指導を受ける事ができるとは思いませんでした」

 

「教官はよせ、今の私はただの教師にすぎん。

そしてお前もここでは軍人ではなく生徒だ、力を抜け」

 

「了解です」

 

本当に分かっているのかと不安になった千冬だが、今はそれよりも重要な事がある。

それはドイツが織斑一夏の護衛としてラウラを入学させると言ってきた事についてだ。

 

「それよりもアイツの護衛の件についてだ。

……結論から言うと、必要ない。

それについてはこちらで対処するし、独断による国の支援はIS学園の中立性を損なう」

 

IS学園は日本に存在しているが、管轄は国際IS委員会だ。

特定国家への肩入れを防ぐため、学校への支援は委員会を通して行われている。

故に、今回のような独断を受け入れる事はできない。

 

「いえ、我々はそう言った意味で護衛を買って出たわけではありません。

2年前の事件……あれは我々が招いてしまったようなものです」

 

「今のアイツにはISがある。

それに、そんな国の言う事を全て信用して受け入れる事はできない」

 

千冬が教官を務めている時、事件の背後関係を知った。

当時の罪滅ぼしとは言え、どんなにラウラ自身が信用できたとしても、一枚岩ではないドイツ軍の介入は一夏を危険にさらすリスクを上げるだけだ。

 

「この事についてはこちらからはっきりと拒否を示す。

だが、ドイツ軍人としてではなくお前個人がやると言うのなら、止めはしない」

 

「私は……」

 

千冬の言葉にラウラは考え込む。

織斑一夏の護衛は任務の1つだが、学園側が受け入れない以上遂行はできない。

彼はISを動かせる男性の中で唯一の無所属だ、狙う者は沢山いる。

 

(だが教官の弟とはいえ、私個人が彼を守る理由など……)

 

「焦って答えを出す必要はない。3年ある、その間大いに悩めよ小娘」

 

その場で思考をめぐらすラウラにそう言うと、千冬はその場から離れていく。

そしてそのまま歩きながら、物陰に隠れているシンに聞こえるように呟く。

 

「それと……男がガールズトークを盗み聞きとは、感心しないな」

 

「ガ、ガールズ……トーク?」

 

シンは素直に出てくるも、見つかった事よりも織斑先生から出た言葉に驚愕する。

予想通りの反応に満足したのか、織斑先生は少し笑いながらそのまま通り過ぎていく。

 

「冗談だ」

 

それを聞いてシンは安心すると同時に、「あの人も冗談とか言うんだな」と思った。

そして織斑先生が去った後、シンはラウラに先ほどの会話の事を聞く。

 

「なあ、さっき言ってた2年前の事件って?」

 

「第2回モンドグロッソ大会。そこで教官が決勝戦を棄権した事は知っているな」

 

「ああ、確か機体の整備が間に合わなかったって理由だったな」

 

「表向きはそうなっている。が、実際は裏である事件が起きた」

 

ラウラはシンに2年前の事件について語り出す。

第2回モンドグロッソ大会、織斑一夏は千冬の応援のため開催地のドイツに来ていた。

そして決勝戦の直前、一夏はホテルから会場に向かう途中で何者かに誘拐された。

要求は「指定した場所・時間にISを持たないで織斑千冬が1人で来ること」だった。

しかし、捜査を行っていたドイツ軍から情報を得た千冬は、決勝戦を放り出して一夏の監禁場所にISで突入した。

交渉時間前の奇襲に犯人は抵抗できず、その場で同行していたドイツ軍に拘束された。

その後、織斑千冬は情報をくれたドイツ軍への感謝と決勝戦を放り出した責任から、1年間ドイツ軍のIS操縦訓練の教官を務める事になった。

 

しばらくして犯人の裏から糸を引いている者たちの存在が明らかになった。

なんとそれは、政府と軍に跨るとある一派が亡国企業と手を組んで事件を起こしたという。

身内が犯人であった負い目から、男性IS操縦者と分かり政治的な重要性が今まで以上に増した織斑一夏を守ろうとドイツは考えたというわけだ。

 

「まさか、一夏にそんなことが……

ところで、亡国企業ってなんだ?」

 

ラウラの話を聞いて、シンは一夏の過去の一片を知る。

そして裏で手を引いているという亡国企業について疑問を持つ。

 

「ああ、ファントム・タスクとも呼ばれるテロ組織でな。

最近はISを強奪したりしているが、詳しい事は分かっていない。

あの日、アーベント社の試作機を奪おうとしたのもおそらく亡国企業だろう。

あの機体にISコアが使われているのをどこかで知って奪いに来たと推測されている」

 

だがそれはあくまで推測の域を出ない。

ラファールで逃亡した犯人は軍用機と接触するもこれを巻くほどの手練れであり、その後の捜索でも見つからないことを考えると、強大な組織がバックにいるとみて間違いないだろう。

 

「ラウラ、俺は何が起きても一夏を守るつもりだ。

一夏だけじゃない、この世界に来て知り合った皆もだ」

 

亡国企業のような組織がいくつあるのかは分からないが、先日の無人機襲撃のような事が今後も起こり得る事は想像に難くない。

ISを動かせる男性が世界でたった2人のなか、自分は幸運にも世界に1機しかない男性でも動かせるISに巡りあった。

ならば、皆の明日を守るために俺はこの力を使おう。

 

「そうか……」

 

何かを決意したようなシンの顔を見ながら、ラウラは一言だけ返した。

 

 

 

 

 

何のために強くなる?

                  ――それは完璧なアドヴァンスドになるためだ。

 

 

本当にそれだけ?

                  ――他に何がある。

 

 

じゃあ今浮かんだ人たちは?

                  ――仲間と恩師と友だ。

 

 

そんなの強くなるのに要らないでしょ?

                  ――簡単に捨てるやつは嫌いだ。

 

 

 

 

 

…………くだらない。

 

「シン、学園の案内を頼めるか?」

 

調子が狂う。やはりまだこの環境に慣れてないからか……

ラウラは一旦考える事をやめ、気分転換にシンに学園施設の案内を頼む。

 

「ああ、いいぜ」

 

「では行くとするか。射撃訓練場はどこだ?」

 

シンは頼みを承諾し、ラウラに学園を案内していく。

ちなみに射撃訓練場はIS学園にはない。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

第3アリーナでは、一夏とシャルルが模擬戦を行っていた。

シャルルはオレンジ色のラファール・リヴァイヴのカスタム機を操り、一夏を追い詰めていた。

 

(くそー、近づけねえ)

 

ラファールの左手から放たれるマシンガンを、右手に構えるアサルトライフルの射線に乗らないように回避していくが、一夏は回避に集中するあまり近づく事が出来ない。

今までの訓練とハイパーセンサーの射線認識システムで射線を見ているため、被弾自体はあまりしていないとはいえ、シャルルにいいように翻弄されている。

 

「避けるだけじゃ埒が明かねえ!」

 

一旦止まり、放たれたライフルを防ぐ。

シャルルはもう一発ライフルを撃つが、一夏はそれより先に加速して突っ込む。

一夏はマシンガンを防ぎながら射線の下を潜り抜けるような軌道でそのまま接近し、シャルルが右手に構えた銃を発砲するが、射線上ではないため気にせず突っ込む。

 

「!?」

 

しかし、突然銃弾が拡散しその一部が白式に当たる。

一夏の認識外からの攻撃に白式は絶対防御を展開しシールドエネルギーが目減りしていく。

そのことに気を奪われている一夏にシャルルは右手にいつの間にか持っていたショットガンを戻し、即座にアサルトライフル呼び出して追撃する。

 

 

 

≪戦闘終了≫

 

 

 

模擬戦が終わり、シャルルは一夏が勝てない理由を分析する。

 

「一夏が勝てないのは単純に射撃武器の特性を理解できてないからだよ」

 

「うーん。一応理解してるつもりではあるんだが……」

 

「それに射線認識システムは便利だけど、頼り過ぎちゃだめだよ。

例えば、僕が最後に使ったショットガンっていうのは小さな弾を詰めた弾丸を発射して、途中でそれをばら撒くことで広範囲に攻撃する銃なんだ。

だから射線だけじゃなくて、攻撃範囲読まないといけないよ」

 

「言われてみれば確かに……

いやー、シンとセシリアは実弾装備をあんまり使わないからショットガンを忘れてたよ」

 

箒は打鉄で射撃武器を使わないし、鈴にいたっては射撃武器が見えない龍咆しかない。

セシリアの機体にはレーザーと誘導ミサイルがあるが、誘導ミサイルを使っているところを俺は見た事が無い。

シンの機体にはビームライフル以外にも実弾装備があるがショットガンはない。

それに俺との訓練ではビームライフルしか使わない。

 

「実弾装備とエネルギー兵器って考えるより、避ける側は弾道の種類で考えた方が良いと思うな」

 

「へー、ちなみにどんな種類があるんだ?」

 

「僕個人の分類だけど、平射、曲射、拡散、誘導の4つかな。

平射って言うのは弾が水平にまっすぐ進む軌道のことで、だいたいの射撃武器はこれだね。

曲射は山なりの軌道を描いて目標に向かう軌道で、追撃砲とかがこれに当たるよ。

まあISはこういうのは装備しないから、グレネードなんかの投げる武器くらいだけどね。

そして厳密には平射した弾がたくさんあるだけなんだけど、拡散は別と考えるよ。

さっきのショットガンもそうだけど、面での攻撃を意識しないといけないからね。

最後に誘導、これは目標に向かって自分で軌道を変えるタイプでミサイルが代表例だよ。

射線認識は平射にしか対応してないから、どのタイプの武器か見極めが重要になる。

その点エネルギー兵器は、平射と拡散しかできないから弾道予測はし易い。

実弾の中には平射からの拡散といった複合軌道の物もあったりするからね」

 

「へー。シャルルの説明って分かり易いな」

 

「そ、そうかな?」

 

「ああ、他の皆は説明が分かり難くてな」

 

褒められて照れるシャルルに一夏は皆の事を話し始める。

 

……

 

…………

 

シャルルが来る前のとある放課後、鈴も交えて皆で特訓をしていた。

俺はその時、皆に回避や防御のコツを聞いたんだ。

 

「いいか一夏、グワーンと行ってこうガキーンとだな……」

 

「だからそこは、感覚よ感覚。グイッと避けてからドカーンと一発……

って、なんで分からないのよ!」

 

箒と鈴は感覚で動かしているのか、擬音語を多用して説明する。

当然こちらには何を言っているのかさっぱり分からないが、たぶん俺も説明する側になると同じ事をするだろうというのは、容易に想像できた。

そして、それの真逆を行くのがセシリアだった。

 

「防御する時は、防御側の半身を斜め前に5°出し、腕を水平から45°持ち上げた状態で、対象の投射物の軌道上に腕を持っていき、腕から20cmほど離れた位置に軌道上を中心とした投射物の直径に着弾誤差を加算して求めた円形のシールドを展開!

え、なぜ円形ですのかって?

それは当然、展開面積を減らすことで防御時に消費するエネルギーを減らすためですわ。

シールド展開時にかかるエネルギー消費量は一般的に――」

 

一つ一つの動作を具体的な数字を出して理論整然と事細かに説明してくる。

理論的であるが故に聞く人が聞けば分かる分、箒たちよりマシなのだろうが俺には無理だった。

そしてなんとなく箒たちのような感覚型のイメージがあったシンだが、意外な事に理論を交えながらも分かり易い説明だった。

 

「最初に非誘導の射撃武器についてだが、これはまず相手の武器を見る事が重要だ。

武器を見ていれば銃口がどこを向いているのかが分かるだろ。

そうすればどれほどの数の銃口を向けられようが、射線上に自分を置かないように立ち回れば攻撃は当たらない。

これは射撃武器を避けるうえでの基本中の基本だ。

これだけで全て避けれるわけじゃないが、これができないと話にならないぞ」

 

確かに分かり易い、射線上に居なければ当たらないというのは俺にも理解できる……

だが、それを1つだけならともかく、全ての射線を把握して動けなんて無理に決まってるだろ!

いくら射線認識システムがあるといっても、数が増えたらどうしようもねえよ!

それが基本とかいう奴がいるか! あ、千冬姉も言いそうだ……。

 

「まあまあ、確かにいきなりそのレベルは無理ですが、基礎から一つ一つきちんと積み上げていけば、いずれはシステムなしでも織斑君ならできるようになりますよ」

 

いつの間にかアリーナの点検に来ていた山田先生が助言をする。

そして最終的にはシステムなしが目標な事に驚き、俺が驚いた事に皆が驚いている。

聞いてみると確かに箒以外みんな使ってなかった。

 

「わたくしとしたことが、忘れていましたわ。

一夏さんは専用機に乗っているとはいえ、本格的にISに乗り始めて1ヶ月程度……

もっと基本的な所から教えるべきでしたわ」

 

「そうだな、俺も忘れてた。

もう遅い気もするが、変な癖がつく前に基礎を叩き込まないと……」

 

シンとセシリアが俺に基礎からやり直そうと考え込んでいる。

今までの実践形式の訓練が少なくなるのは少し寂しいが、基礎は大事だな。うん。

 

「私も早くシステムなしで戦えるようにならないとな」

 

「まあ、射線認識システムなんて補助輪みたいなもんだし。

私が教えれば、一夏ならすぐに外せるわよ!」

 

「俺は自転車に乗れない子供かよ!」

 

……

 

…………

 

「凄く便利なのになんで皆ずっと使ってないのか疑問だったけど、そういう事だったんだな」

 

「あ……ああごめん。

そうとは知らず、僕はムキになって……」

 

システムを使って慣れるのが目的なら、ここで例外を持ち出したのは失敗だったかな。

最後の突撃に少しムキになって意地悪をした事をシャルルは反省する。

 

「なんでシャルルが謝るんだよ。

いつかはシステムなしで避けれるようにならないといけないって、これではっきりと分かったわけだし、むしろショットガン撃ってくれてありがとな」

 

「ぷっはは。撃たれてありがとうっておかしいよ」

 

一夏は素直に感謝を伝えたはずなのに、言い方のせいかシャルルは笑ってしまった。

確かに撃たれた事にありがとうは変だったかもしれないが……

 

「あ、おい笑うな。俺は純粋にだな……」

 

でもシャルルの可愛い笑い顔が見れたのは良かったかな。

 

……

 

…………

 

はッ! 俺は何を考えてるんだ、男を可愛いと思うなんて……

 

「ふふ。はいはい、分かりましたよー。

で、まだ時間もエネルギーもあるし、次はどうする?」

 

くそう、その悪戯っぽい笑顔も可愛いじゃねえか、箒や鈴とはまた違って……

いかん落ち着け、そもそも女子と比べるな! シャルルに失礼だろうが!

 

……

 

…………訓練で体動かして忘れよう。

 

「じゃあ防御と回避の基礎訓練に付き合ってくれないか?」

 

そう言うと一夏はシンとセシリア特製の訓練メニューを転送する。

それを受け取ったシャルルは内容を確認し、ラファールを飛ばして位置に着く。

 

「OK。今度はショットガンを使わないから安心してね」

 

「俺もシステム使わないからな」

 

両者位置に着き軽口を交わす。

まずは防御の訓練――

射手はその場を動かず10秒間隔で訓練者にライフルを撃ち、防御側はその場を動かずにシールドを展開してライフルを防ぐ。

防御側は機体のどこが狙われているかを判断し、適切な大きさでシールドを展開する訓練になる。

これを20回ほど行い、以降は攻撃タイミングを予測する訓練として射手は発射間隔をランダムにして射撃を行う。

回避の訓練は両者飛行状態で始め、手順は変わらず防御側は最小限の動きで回避する。

 

 

 

≪訓練開始≫

 

合図がなり、訓練が始まる。

一夏とシャルルは白式のエネルギーが尽きるまで訓練に打ち込んだ。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「どうしてこうなった」

 

翌日、朝食をとっていた箒は周りの生徒たちの様子にため息をつく。

今日は休日で皆いつもとは違ってのんびりと朝食をとりながら、雑談を楽しんでいる。

 

「ねえねえ、聞いた聞いた?

今度の学年別トーナメントで優勝すると、男子と付き合えるんだって!」

「私はデュノア君が良いなー」「断然アスカ君でしょ」「織斑君と付き合って千冬様とも」

 

なぜかトーナメントで優勝すると男子の誰かと付き合えることになったらしい。

今日はどこもかしこもその話題で溢れかえっている。

やっぱり、昨日私が一夏に言った事を誰かが聞いていたのだろうか……

 

……

 

…………

 

鈴と一夏に関する協定(抜け駆け禁止)を結んだあと、鈴のクラス代表戦での約束の話を聞いた。

すると今度はアンタが学年別トーナメントで一夏と何か賭けたら?と言われた。

私はわざわざ機会を譲った事に疑問を持ったが、鈴はクラス代表戦があのような結果になってすぐに同じことをする気にはならないのと、あんたは小さい頃の幼馴染なんだから今はあの時とは違うってアイツに意識させないと何も変わらないと言われた。

そして昨夜、一夏の部屋に行き声をかけた。

 

「一夏、話がある」

 

「おう、なんだ」

 

一夏が出て来たのでそのまま話を切り出す。

その緊張のあまり、部屋にシンがいたかどうかすら判別できなかった。

 

「こ、今度の学年別トーナメントだが……私が優勝したら、付き合ってもらう!」

 

 

 

今思えば部屋に入らず扉の所で言ったのが悪かった。

さらに言えば勢い余って結構大きな声を出したのも悪かった。

 

……

 

…………

 

うん。誰かに聞かれていてもおかしくないな。

少なくとも部屋にいればシンは確実に聞いている。

まあ、彼なら聞いたところで変に広めたりはしないと思うが。

 

「焚き付けた私が言うのもなんだけどさ、アンタ何やってんのよ」

 

隣で一緒に朝食をとっていた鈴が話しかける。

変な噂が広まってしまったのは少し可哀そうだが、他にも突っ込み所はある。

 

「そもそもアイツに勝ったらじゃなくて、優勝が条件って本気なの?

アンタ、私だけじゃなくてシンとセシリアを相手にして勝てるの?」

 

「う……だが、やるからには優勝しないと」

 

こういった根性はあるのに何で一夏相手だと一歩が踏み出せないのよ……

箒に対して鈴はそう思ったが、自分も同じなので声には出さなかった。

 

「はあ、まあ私がアンタとペアを組んであげるわよ。

焚き付けた私にも責任あるしね」

 

恋心が空回りする箒の姿がさすがに哀れだったので、鈴は手を差し伸べる。

箒もそれを振り払う事をせず、受け入れる。

そして2人は食べ終わった朝食を片付けるべく、席を立つ。

 

 

 

 

 

「あ、のほほんさん。おはよう」

 

一夏は食堂で出会ったのほほんさんに挨拶をする。

今日はいつも一緒の3人組ではなく、眼鏡をかけた別のクラスの人といた。

 

「オリムーおはよう。あ、こっちは私の友達で、4組のクラス代表」

 

「更識簪です」

 

自己紹介を聞いて、クラス代表の集まりに彼女がいた事を思い出す。

 

「そう言えば同じ1年のクラス代表なのに挨拶して無かったな。

俺は織斑一夏。クラス代表で専用機持ち同士、これからよろしくな」

 

一夏は握手をしようと右手を差し出すと、彼女はいきなりで戸惑っていた。

しかし戸惑いも一瞬、右手を持ち上げた所で表情が一転し一夏を睨みつける。

 

 

 

彼女の右手は思いっきり振り抜かれ、一夏の手に叩き付けられる。

 

 

 

乾いた音が食堂に響き、皆が一斉に音のした方を――こちらを――向く。

彼女はそれを意に介することなく、一夏を睨んだまま恨みを向ける。

 

「トーナメントで……貴方を倒す」

 

他にも色々と言いたいことを抑え、彼女はその言葉を残して食堂を去って行った。

周りは何事かと集まってくるが、一夏は掌の痛みを感じながら立ち尽くす事しかできなかった。

 

 

 

 




ハイパーセンサー先生ならこのくらい余裕と思い、謎機能が追加されました。
そして簪さん安定の一夏睨み(6話ぶり2度目)から、ラウラの代わりに一夏をペチーンしました。


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第17話 4組のクラス代表

データが消えかけて焦りました。

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更


「クラス代表で専用機持ち同士、これからよろしくな」

 

織斑一夏のこの言葉を聞いて、私は思わず彼の手をはたいてしまった。

私の専用機……打鉄弐式はまだ完成していない。

私がIS学園入学に合わせて受領する予定だった第3世代型IS打鉄弐式は倉持技研で開発されており、2月の時点では最終調整を残すのみの段階まで完成していた。

しかし織斑一夏の存在が発覚し、彼に専用機を与える事が決定してから状況は一変した。

新規に開発しては間に合わないため、弐式を彼に回し私の機体は新規開発となった。

そして追い打ちをかけるように、男性が乗るという事で一部仕様の変更、計測装置の追加、それに伴う機体の再調整に技研の人員が割かれ、私の機体は完全に放置されていた。

そこで私は専用機にする予定で初期化だけしたISコアを譲り受け、自分自身の手で第3世代型ISを組み上げる事にした……自分の姉がそうしたように。

専用機を取られはしたが、これだけならまだ彼に怒りを覚える事はなかった。これだけなら……

 

 

 

 

 

彼が今使っている機体は白式……そう、打鉄弐式ではない。

 

 

 

 

 

それは入学式の約1週間前に遡る。

技研で弐式の最終チェックをしていたところに、突如篠ノ之束が現れたのだ。

彼女は周りの制止を気にも留めず、弐式の端末を弄りだす。

 

「やっぱダメだね、いっくんにふさわしくない……というわけで、この機体貰ってくよ。

ちゃんと終わったら返すから大人しく待っててね」

 

そう言って彼女は弐式を纏うと、技研の壁を破ってどこかへ飛んで行ってしまった。

我に返った研究員が即座に政府に連絡をするも、彼女を捉える事は出来なかった。

 

 

 

そして入学式の日、いつの間にか技研に白式が置かれていた。

結局私の専用機は、天災の手によって白式に書き換えられただけだった。

織斑一夏に渡すからと専用機を諦めたのにその結果がこれでは怒りが湧く。

 

織斑一夏の姉はブリュンヒルデの織斑千冬であり、篠ノ之束の友人である。

そして彼の幼馴染である篠ノ之箒は篠ノ之束の妹である。

篠ノ之束から見れば友人の弟、妹の幼馴染……特別視する理由にはなる。

 

だがなぜわざわざ弐式を書き換えたのか? 技研には打鉄だってあったはず。

いや、そもそも彼女が新規コアを作ってそれで白式を作る事だってできたはず。

 

 

 

――あのコアでなければならない理由でもあるの?

 

 

 

わざわざこんな事までして白式を作った篠ノ之束に関しては、もう疑問しかわかなかった。

そして、行き場を失った私の怒りは残った織斑一夏に向けられた。

 

彼がISを動かさなければ、弐式を回される事はなかった。

 

彼が篠ノ之束の関係者でなければ、弐式が無駄になる事はなかった。

 

そして新たな打鉄弐式の製作が思うようにいかない現実がそれを増幅させる。

それがただの八つ当たりだと分かっていても……

 

(とにかく学年別トーナメントまでに仕上げないと)

 

トーナメントで織斑一夏を倒す……そのためにはまず機体を完成させなければならない。

自然と早足になって整備室のいつもの場所に向かうが、近くまで来るとなにやら音が聞こえる。

 

(誰かいる?)

 

そこには黒髪の男子生徒が1人、機体の整備を行っていた。

彼は確かシン・アスカ……実際に会うのはこれが初めてだった。

いつもの場所に先客がいた事でとっさに落胆の声が出る。

 

「そこ私の場所……」

 

「あ、ごめん。すぐにどくから」

 

聞こえていたのか、彼はとっさにその場を空けようとする。

いつも使っているとはいえ、自分が貸切っているわけでない。

 

「別にいい。今日は稼働テストする事にしたから」

 

長々と彼と話をする気のない私はとっさに思い浮かんだことを言って会話を打ち切ると、すぐにその場を離れた。

彼は突然現れて突然去っていく私を呼び止めるが、私は無視してアリーナへ向かった。

 

 

 

今日の天気は曇天、雨は降っていないが気分は重い。

アリーナに着くとすぐさま打鉄弐式を展開し、稼働テストを始める。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

簪がアリーナに向かった後、シンはインパルスの調整の続きをしていた。

パッケージのインストールと呼び出しに関する設定が終わり、今はパッケージ装着時の機体パラメータの調整を行っている。

 

「うーん。これは実際に動かしてみないと分からないな」

 

ISはMS以上に調整が難しいとシンは感じている。

その理由はPICが機体に及ぼす影響が大きく、それに各種パラメータが複雑に絡み合い、PICの出力を少し変えるだけで、操縦感覚が大きく変わる。

普通のISならば最適化処理やISの自己判断で操縦者に合わせて調整されるのだが、インパルスは男性でも動かせるようにした影響でそれらは機能してない。

 

「よし、俺も起動テストするか」

 

パラメータの調整だけでなく、実際にパッケージが動くかどうかもテストしたい。

それにさっきの娘――確か日本の代表候補生で4組のクラス代表の更識簪――もいるだろうからテストの相手を頼んでみようと思ったシンは、機体を待機状態に戻してアリーナに向かう。

 

 

 

その時、爆発音がアリーナから聞こえてきた。

 

 

 

驚いたシンはすぐさまピットに駆け込み、アリーナを見る。

すると上空で見た事のない機体が、両足から火を吹いて急上昇しているのが見えた。

 

「脚部スラスターへの推進剤供給をカット……だめ、さっきの爆発でバルブが壊れたんだ。

なら、PICの出力を上げて逆方向に制動をかけて減速……」

 

打鉄弐式の飛行試験を行っていると、突如両足のスラスターが爆発。

バルブが破損したせいか推進剤が最大量で供給され、機体は大空へ急上昇していく。

簪はパニックにならないように自分を抑えながら、機体の姿勢を直そうと試みる。

 

「PICの出力が下がってく……そんな、なんで!?」

 

が、PICの出力は逆に低下していき、機体は一瞬減速したもののすぐに加速していく。

打つ手が無いと簪が諦めかけた時、機体に通信が入る。

 

「おい、大丈夫か!」

 

異常事態を察知したシンがインパルスを展開して追いかけてきた。

あと数十秒もすれば弐式に追いつく……簪は助けが来てくれたことに安堵した。

しかし、低下していく弐式のPICの出力が0になった時、異常が発生した。

 

出力は0で止まらず今度はマイナス方向に急上昇していく。

 

出力がマイナスになった事で力場が反転し、少しとはいえ上昇を抑えていたPICは一転し、今度は機体を加速して上昇させる。

PICの干渉か両足のスラスターがバックファイアを起こし、機体の両足が爆発で吹き飛ぶ。

絶対防御があるので簪は無傷だったが弐式はPICの出力を上げ続け、スラスターが無くなったにもかかわらず今まで以上の速度を出して上昇していく。

 

「う、ぐ。と、とまって……」

 

PICを停止しようとするも、ISの保護機能を超えてかかる重圧に体が動かない。

エラーアラートが鳴り響く中では簪の思いは届かず、弐式はスラスターを全開にしているインパルスを引きはがす。

 

(このままじゃ届かない)

 

爆発後の弐式が異常加速したため、今のインパルスでは追いつくことはできない。

シンは未調整であるがそんな事お構いなしに、フォースパッケージを呼び出す。

 

(くっ、遅い)

 

パッケージの展開に5秒かかり、スラスターとPICで加速をするもシステムの起動が遅いのか信号にタイムラグがあるのか一瞬時間がかかり、重力に引っ張られる。

そこからフォースを加速させて相対速度を縮めていくが、それでもまだ弐式の方が速い。

このままではいつまでたってもインパルスは弐式に追いつかない。

さらに速度を出すにはさらに第3世代装備の電磁推進スラスターを使うしかない。

 

「くっそおおお、間に合えええ!」

 

シンは考えるより先にぶっつけ本番で電磁推進スラスターを起動させる。

インパルスの赤い羽が開くと、そこから光が放出され巨大な紅い翼を形成する。

光の流れが力となり、機体をさらに押し上げて加速していく。

 

(私は、やっぱりお姉ちゃんには追いつけないの……)

 

パイロットを無視した加速を続ける弐式に、簪が耐えられなくなってきている。

ブラックアウト寸前まで追い込まれ、今にも切れそうな意識を何とか繋ぎとめる。

しかし頭に浮かぶのは偉大な姉に追いつけない自分だった。

 

(もう、だめ……)

 

意識を保つのが困難になり、身体から力を抜きそのままブラックアウトしていく。

薄れた視界で最後に見たのは徐々に近づいてくる巨大な紅い翼だった。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

(冷たい……何かが体に当たってる?

音が聞こえる……これは、雨?)

 

雨に打たれた感覚で、簪は意識を取り戻す。

気付けば機体は解除されており、インパルスに抱きかかえられている状態だった。

 

「お、気が付いたか?」

 

簪はもたれかかっていた体を起こして頷くと、さっきまで自分がいたであろう場所を見上げる。

そこには弐式が空に残した白い軌跡があり、雨によってその跡がだんだんと消えていく。

それを見ていると助かった実感がわいてきて、簪は助けてくれたヒーローに抱きつく。

 

「どうした、寒いのか?」

 

ISスーツで雨に打たれているためか、シンは簪がとった行動は体を温めるためだと思った。

簪は助かった興奮からか寒さは感じていなかったが、彼の言葉に甘えようと返事をしようとした。

しかし、彼女の視界の片隅にはとんでもない物が映っていた。

 

「ねえ、エネルギーが空なんだけど」

 

簪の言葉を聞いてシンは表示されているモニターをチェックする。

そこにはアラートが鳴っていないのに、エネルギー残量が0と表示されたモニターがあった。

 

「簪、しっかり掴まってろ!」

 

簪が腕に力を込めてしがみつくと、シンは速度を上げて下降していく。

エネルギーがいつから0だったのか分からない以上、いつ機体が強制解除されてもおかしくない。

 

それでもなんとかピットの付近まで下降できたので、着地のために減速する。

 

しかしインパルスがピットに侵入して着地しようとした瞬間、ついに機体が強制解除される。

あまり速度は出ていないとはいえ、機体が無くなった事で2人は宙に投げ出される。

いち早く反応したシンは空中で簪を抱き寄せると、着地の体勢を取ろうとする。

しかし、雨で濡れたピットの床と放り出された時の慣性、それと人を抱えた事によるバランスの悪さから、シンは着地に失敗する。

 

「きゃあああああ」

 

簪の悲鳴と、彼女を抱えたまま横転し体を打ちつけて床を滑る音が響く。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

しばらくすると、雨の音以外の音が無くなった。

簪が目を開けて周りを見ると、衝撃で外れたのか自分の眼鏡が転がっているのが見える。

そしてピットの正面から機体を入れたおかげか、端から落ちる事も壁にぶつかる事もなくシンに抱かれたままピットの上に横たわっていた。

シンの左手は後ろから簪の腰を巻きつけて右手は脇の下から肩に伸びており、衝撃を抑えるために目いっぱい引き寄せたため2人は密着している。

降り続ける雨と水浸しの床から伝わる冷たさと、背中から覆われるように感じる彼の温もりが、自分がまだ生きている事を実感させてくれる。

 

(もう少し、このままでもいいかな)

 

その感覚が心地よく、簪は今度こそ助かった事を認識すると体から力を抜いてその身を委ねる。

しかしその時間も長くは続かず、夢心地に浸っていた簪の意識は後ろから聞こえてきたシンの声によって現実に戻される。

 

「簪、怪我はないか?」

 

簪はシンの声で完全に意識が戻ると、途端に極薄のISスーツを着ている自分が抱かれている今の状況と体勢に恥ずかしさがこみ上げてきた。

簪は落ち着こうと、今にも破裂しそうなほど鼓動している心臓を押さえようと手を動かす。

すると心臓から少しずれた位置に置いてあるシンの手に触れる。

 

(あれ?)

 

その手が気になり、簪は押さえようとした手を彼の手に重ねる。

動揺していたせいかなぜ彼の手がここにあるのかも分からず、さらに心拍数が上がる。

そしてその鼓動を押さえようと、彼の手ごと押さえる。

 

「あ」

 

彼の手からなにやら柔らかい物を押さえている感覚が伝わってくる。

そして数回、手を押してその感覚を確かめる……触れているのは自分の胸だった。

 

「あ、ああああ!」

 

シンの手が触れていた物を知り、簪は慌てて彼の手を振りほどいて立ち上がる。

落とした眼鏡を拾ってかけ直すと、シンも立ち上がってこちらを見る。

 

「えっと、その、ごめん。

助けに来たのに、怖い目に合わせちゃって。

それとさっき――」

 

「それ以上は言わないで。

……私の事よりあなたは大丈夫なの?」

 

自分を庇ってピットの床を滑ったシンを簪は心配する。

するとシンは両手を大きく動かして怪我が無い事をアピールする。

 

「俺は大丈夫だよ。

それより、簪に怪我が無くてホント良かった」

 

「あなたが庇ってくれたから……」

 

(それにしても、まさか未調整のパッケージで助けに来るなんて、怖いもの知らずなの?)

 

普通あの場面で未調整のパッケージを使おうとは思わない。

彼だってそう思っていたからこそ、最初はパッケージの無い状態で助けに来た。

でも予想外の状況が続き、その状態では追いつけないのは明らかだった。

そこで諦めずにぶっつけ本番で未調整のパッケージを使って、見事に助けてくれた彼は何者をも恐れずに勇敢に人々を助けるヒーローのようだった。

 

「くっしゅん」

 

「風邪をひく前に戻るか。

それと着替えたら念のために医務室に行った方が良い」

 

全身びしょ濡れで雨に打たれていたせいか、簪からくしゃみが出る。

このままだと風邪をひいてしまうので、シンは簪に着替えと医務室に行くことを勧める。

 

「うん、そうする。

それと、助けてくれてありがとう」

 

改めて簪は助けてくれた礼を言うと、アリーナの更衣室へと向かって行った。

シンはそれを見送ると、1人思案する。

 

……

 

…………

 

「さて、このずぶ濡れの制服どうしようか……」

 

現在はISスーツすら持っておらず、着替える物は何もなかった。

結局そのまま寮に戻り、部屋にいた一夏を驚かせてやった。

 

 

 

 




箒&鈴以外のトーナメントのペアが決まりました。
皆さんは3組全てを当てる事ができるのか?(90パターン)


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第18話 ペア決め

祝・1周年!

何かやろうかと思ったけど、気付いたら過ぎてたし、ネタも思い浮かばなかった……
そしてなによりも、何かやれるほど本編が進んでなかった。

そして早くもサブタイの二字熟語縛りに無理が出てきた。(サブタイ書き直そうかな……)

更新履歴
2015.11.14:サブタイトル変更



薄暗い鉄の部屋の中、柱に縛り付けられている少年と、それを他人事のように見つめる私がいる。

彼は確かに今まで苦楽を共に乗り越えてきた仲間の1人だという事は分かるのに、目隠しされているわけでも間に遮蔽物があるわけでも、ましては見えないほど部屋が暗いわけでもなく、彼の顔をはっきりと視覚で認識しているのに、私は彼がどんな顔でどんな表情をしているのか分からない。

この異常な状況や感覚も、今の私には違和感はなく正常異常を判断しようとも思わなかった。

 

そして後ろから1人の研究員が私に近づいてくる。

当たり前のように見ているはずの顔が分からないが、私に違和感はない。

するとその研究員は、私に拳銃を渡してきた。

 

その意味は単純――彼を撃ち殺せという事だ。

 

「そんな、どうしてだよ……おいやめろ、〇%△×」

 

何の疑問も抵抗もなく、拳銃を受け取る私に彼が叫ぶ。

確かに私の名前を言ったと認識したはずだというのに、そこだけ何て言っていたのか分からない。

 

「…………」

 

ただ言われるがままに拳銃を構える。

今の私はただの人形、命令に何の疑問も持つことなく実行する。

 

「〇%△×、聞こえてんだろ? なあ、何とか言ってくれよ」

 

無表情に仲間に銃を向ける私、ただ見ているだけの研究員……この中で正常な感覚を持っているのは縛り付けられている彼だけだった。

だがこの状況ではそれが逆転し、正常であることが異常になる。

 

「…………」

 

 

 

――そして私は引き金を引く。

 

 

 

1発、2発、3発……発砲音が部屋に響く。

そこに一切の戸惑いはなく、私は淡々と彼に銃弾を撃ち込み続ける。

 

 

 

「ちくしょう、なんでだよ……なんで、こんな事に……」

 

撃たれながら漏れる彼の無念の言葉――その問いに答える者は当然いなかった。

 

そして最後の1発が眉間を貫く。

 

アドヴァンスドのおかげかまだ生きていたようだが、彼はもう呻き声しか出せなかった。

その声も次第に小さくなっていき、しばらくすると不気味な静寂に戻っていった。

 

「これで出来損ないは後1人……」

 

弾を撃ち尽くした拳銃を渡すと、研究員は受け取りながら私にこう言った。

そしてなぜか彼女の口元だけが鮮明に認識できた。

どんな顔かは相変わらず分からないが、その釣り上った口から笑っているのが分かる。

その顔が非常に不快で、かつ恐怖を覚え、一刻も早くここから離れようと焦燥する。

 

しかし体は動かない。それどころか思考は相変わらずこの状況に疑問を持たない。

感情と思考の剥離が、より一層焦りを生み恐怖を増幅させる。

 

(早く、早く! ここから……こいつから離れなければ)

 

そう念じて体をがむしゃらに動かそうとすると、今度は動く事ができた。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

気付けば先ほどの光景が無くなり、布団から勢いよく体を起こす。

外から聞こえる雨の音に、先ほどの息苦しさから出る呼吸音が重なる。

 

「ハァハァ」

 

呼吸を整えながら辺りを見回す。

同室のデュノアはいないようだが、確かに寮の自室だった。

 

(私は、私は出来損ないなどでは……)

 

ただの夢であればどんなに良かったことか……

今にでもそんな言葉が出そうなほど、嫌になるほど現実味を帯びた夢だった。

 

この嫌な感覚と寝汗を落とすために、ラウラは起床してシャワーを浴びる。

そして着替えが終わった頃には、夢の内容を思い出せなくなっていた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「2週間後に行われる学年別トーナメントについてだが――」

 

織斑先生が今度の学校行事についての説明をしている。

今の僕はその言葉が耳に入ってこず、配布プリントを眺めながらため息をついている。

 

転入してから1週間、自分の想像を超えた事が次々と起きている。

まずは一夏以外の男性操縦者がいた事、でもそれ以上に驚いたのが寮の部屋がボーデヴィッヒさんと同室だった事だ。

なんでも1年生の部屋はもう全部屋に2人ずつ入っていて空きが無いからだそうだ。

そして彼女は男である僕と同室になっても気にも留めないばかりか、追い打ちをかけるように毎日全裸で寝ている。

僕は彼女をどうこうする気など微塵も起きないからいいのだが、男性と同室でもお構いなく全裸で寝るというのは、女の子として危機感が無くて心配になる。

 

でも、本当に悩んでいるのは彼女の事ではなく僕自身のこと。

彼女の事を言い訳にして、今まで考える事から逃げてきた。

それは僕がIS学園に来た本当の理由、それを果たすべきかどうかについて……

 

「なあ、シャルルは誰と組む?」

 

気付いたら織斑先生の話が終わっており、ボーっとしている僕に一夏が話しかけてきた。

周りを見ると、どうやら今度のトーナメントで誰と組むかで盛り上がっているようだ。

 

「ラウラさん。貴女が転校してきてくれた事をこれほど嬉しく思った事はありませんわ」

 

「奇遇だな、セシリア・オルコット。私もだ」

 

教室の一角から聞こえてきた声が気になって、僕と一夏はそちらに目を向ける。

そこでは2人が睨み合いながら対峙している。

僕が知る限りでは特別仲が悪いようには見えなかったのだが、最近何かあったのだろうか?

 

「2人の間に何かあったの?」

 

「俺に聞くなよ……2人は何か知ってるか?」

 

「「知るわけないだろ」」

 

一夏がシンと篠ノ之さんにも聞いてみたけど、誰も心当たりはなかった。

でもこのままにしておくわけにもいかなから、シンが止めに行くことになった。

一応僕らも後ろからついていくことにした。

 

「ラウラ、セシリア。喧嘩なら余所でやってくれ。

それと、ペアがまだ決まってないならどっちか俺と組んでくれないか」

 

シンの言葉を聞いて流石に恥ずかしくなったのか、2人は睨み合いをやめてシンの方を向く。

逆にクラス中がシンからペアに誘われた2人に対して羨ましさを爆発させることになったのだが、シンも含めて僕らは気にしないことにした。

 

「おっと、わたくしとしたことが失礼いたしました。

ですが、シンさんと組むわけにはいきません。私はシャルルさんと組みますから」

 

「お前と組んだらトーナメントで戦えないだろ。

ペアはそうだな……おい織斑一夏、私と組め」

 

「え、えっと……よろしくね、オルコットさん」

 

いきなり僕の方に話を振ってきたのは驚いたけど、断る理由もないから承諾した。

 

「え、俺!? シンじゃなくて、本当に俺でいいのか?」

 

「何度も言わせるな。ペアを組んだらトーナメントでシンと戦えないだろ」

 

ボーデヴィッヒさんはシンとセシリアと戦いたいから一夏と組みたいらしい。

結局一夏は自分がシンと組むという発想に至る事はなく、彼女の申し出を受けた。

 

「箒、俺と……」

 

「すまない。私は鈴と組むことになっている」

 

「はい」

 

篠ノ之さんは鈴さんと前々から組むことが決まっていたらしく、シンだけペアができなかった。

そしてそうこうしていると、山田先生が教室に戻ってきた。

 

「すいません。先ほど言うのを忘れてました。

アスカ君とデュノア君は今から職員室に来てください」

 

クラスの皆に何事かといった表情で見られながら、僕らは山田先生と教室を後にする。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

放課後、アリーナの整備室でアスカ君を見つけた。

あの時の私の言葉を覚えていたのか、今回は隣の場所でモニターと格闘していた。

 

(いた。よし、今日こそちゃんと)

 

あの時助けてもらった事を改まってお礼をするために、手作りのクッキーを持ってきた。

だが、生まれてこの方異性にプレゼントなど上げた事のない私は、どう渡していいのか分からずにすごく緊張している。

しかも彼は集中しているのか凄い速さでキーを叩いていて、話しかけていいのか迷ってしまう。

 

「ふう。翼のエネルギー調整は済んだし、一息入れるか」

 

そうこうしているうちに作業がひと段落して席を立つ。

出口には私がいるので隠れるわけにもいかず、彼と鉢合わせしてしまった。

 

「お、簪も機体の整備か?」

 

「えっと、今日は違う。あの時の事、改めてちゃんとお礼をしにきた」

 

とっさの事で本来の目的も口に出てしまったため、こうなったらもう勢いで言ってしまおう。

 

「あの日、助けてくれてありがとう。

貴方が助けてくれなかったら、機体だけじゃすまなかった。

それとこれ、クッキー……私が焼いたの、良かったらどうぞ」

 

ちょっと恥ずかしいけど、焼いてきたクッキーを彼に差し出す。

彼はそれを受け取ると、軽く持ち上げて私に見せる。

 

「簪に怪我が無くてよかったよ。それと、クッキーありがとうな。

それにしてもこれ、結構焼いたな。大変だったろ?」

 

「お、男の子だからいっぱい食べると思って……その、多かったかな?」

 

「俺はそんなに食う方じゃないからな。あ、だったら簪も一緒に食べようぜ」

 

「うん、分かった」

 

多いと言われた時はちょっと焦ったけど、こうして一緒に食べられるのなら悪くないと思った。

そして私たちは近くの自販機で飲み物を買い、休憩室でクッキーを食べる事にした。

彼がクッキーをおいしいと言ってくれたことで、今日1日の緊張が全て吹き飛んだ。

 

……

 

…………

 

「そういえば、一夏に宣戦布告したんだって?」

 

突然の発言に思わず声が出そうになる。

事故の事や彼へのお礼で悩んでいたこともあり、今の今まですっかり忘れていた。

そして冷静に考えると逆恨みである理由を、織斑君の友人であるアスカ君に言いたくはなかった。

 

「う、うん。織斑君の白式にちょっと思う所があって……。

本当は専用機で戦いたかったけど、それも無理なんだよね。

あの事故で機体の両足は修復不能で、パーツの取り寄せは間に合わないから」

 

「そうか」

 

濁して伝えようとして余計なことまで言ってしまったのか、気まずさから会話が止まる。

普段ならこうなっても気にしないのに、どうやって切り出そうかと考えている自分がいる。

そこでふと思い浮かんだことを彼に尋ねてみる。

 

「ねえ、トーナメント、誰と組むの?」

 

「俺? 俺はまだ決まってないけど」

 

1組の専用機持ちの誰かと組むと思っていただけに、彼の言葉を聞いてからはすぐだった。

他人との関わりは面倒だと思う私だけれども、なぜか彼とはもっと話していたいと思った。

彼のことをもっと知りたいし、私の事も知ってほしいから。

 

 

 

なら、もう少し彼と一緒に居てもいいよね。

 

 

 

 

 

「じゃあ、私と組んでくれる?」

 

「いいぜ。よろしくな、簪」

 

「うん、よろしくね……シン君」

 

この気持ちは何だろうか?

よくは分からない感情が湧いているけど、不思議と嫌な感じはしなかった。

もしかしたらシン君が、私のヒーローなのかもしれない。

 

 

 

「なあ簪……女装ってどうやってやるんだ?」

 

「え?」

 

私の……ヒーロー?

 

 

 

 




夢の中の感覚を表現するのは難しいですね。

そして今回決定したペアは、シン&簪、一夏&ラウラ、シャル&セシリア、箒&鈴です。
皆さんの予想は当たったでしょうか?

次回からようやく学年別トーナメント開始です……
が、9月に資格試験があるため更新速度はしばらく遅くなりそうです。
申し訳ありません。


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第19話 トーナメント準備

遅くなって申し訳ありません。
あ、9月の資格試験は無事に合格しました。
それと全話サブタイ変更しました。



シンとシャルルは山田先生に呼ばれて職員室に来ていた。

どうやら学年別トーナメントの事について伝えたいことがあるらしい。

 

「2人とも、学年別トーナメントが外部に公開されることはご存知ですよね」

 

学年別トーナメントは毎年外部公開されており、一般人だけでなくIS関連企業の人たちも観客として来場する。

それはつまり、このまま学年別トーナメントに出場すれば“織斑一夏以外に2人、男性のIS操縦者がいる”ことを世間に知らしめることになる。

特に今年は一夏がいるため、例年以上に1年生の試合を見に来る人が多い。

 

「お2人の立場を考えますとこのままでは出場できませんよね。

そこでこちらで考えたのは次の2つです。

1つは、出場を辞退すること。

もう1つは、何らかの方法で男性だとばれないように出場することです」

 

今年はイレギュラーが多く、例外を設けたようだ。

IS学園からも、できる事があるなら何でも補助するそうだった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

職員室でのことを話したら、なぜかオルコットさんの部屋に行くことになった。

そして僕は抵抗することなく、おとなしく彼女に髪を梳かされながら疑問を口にする。

 

「オルコットさんはなぜ僕と組もうと思ったの?」

 

「貴方と仲良くなりたいから……ではダメですか?」

 

彼女は髪を梳かす手を止めることなく質問に答える。

その手つきは非常にやさしくて温もりがあって、でも母に梳かしてもらうのとはまた違う。

親子というよりは姉妹といった感覚だった。

 

「ううん。ダメじゃないよ」

 

その心地よい感覚から自然と言葉が漏れる。

彼女も鏡越しに笑顔を返してくれた。

 

「はい、シャルルさん。完成ですわ」

 

「ありがとう。これなら大丈夫そうだね」

 

まとめていた髪をほどいて梳かし、軽く化粧をしてくれた。

鏡の中の自分はどう見ても女の子で、ISに乗っている姿を見て男という人はいないだろう。

 

「シャルルさんは中性的な方ですからいいですが、シンさんはどうするんでしょう?」

 

この姿なら僕は絶対に男だとばれないと言い切れるが、確かにシンはどうするんだろう?

セシリアは僕の肩に手を置いて、いざとなったら自分が完璧に仕上げると自信満々に言っているが……

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「イグニッション・プラン?」

 

教室での出来事の原因を、なぜかペアを組むことになった当事者のラウラから聞く。

 

「ああ、ドイツのレーゲン型とイギリスのティアーズ型が候補に入っている。

試合に勝つことで相手に対する優位性を示し、プランを有利に進める事ができると言うわけだ。

これは互いにとって好機だからな、負けるわけにはいかない」

 

「そんな大事な試合なら、なんで俺と組んだんだよ?」

 

「お前が今、どのくらい強いのかを確かめるためだ」

 

ラウラの回答に衝撃を受ける。

彼女の真剣な顔から、これが冗談だとは到底思えない。

強さを確かめる? なぜ、なんのために?

 

「もし、俺を弱いと判断したら?」

 

「場合によってはIS学園以外の場所で保護するべきだと、教官に直訴する。

2年前の事件が再び起こらないためにも必要であると……」

 

彼女の言葉に顔を強張らせる。

2年間の事件のせいで千冬姉は決勝戦を棄権し、大会2連覇を逃した。

あの時の俺は弱く、何もできないまま、ただ助けが来るのを待つことしかできなかった。

でも今は不可抗力で得た力ではあるが、白式がある。

この力があれば自分だけじゃなくて周りの皆を守る事だってできる。

 

“もう千冬姉に守られるだけの俺じゃない”

 

いつまでも千冬姉に迷惑ばかりを……重荷を背負わせるだけなんて嫌だ。

ラウラの進言で本当にそうなるのかは分からないが、それを言わせないためにも俺は彼女に弱くないことを証明しなければならない。

 

「だったら……俺の強さをしっかり見せてやるよ」

 

「やる気があるなら結構だ。期待させてもらうぞ」

 

ラウラはそう言うと先に寮の方へと歩いて行った。

少なくとも最初から弱いと決めつけられてはいないようだ。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

学年別トーナメント当日――

 

今年は例年にも増して観客がIS学園に集まった。

特に今年多いのがIS関連企業の方々で、この機会にISを動かせる男性である織斑一夏と接触し、あわよくば自分の所へ彼を引き込もうという魂胆があることは想像に難くない。

そんな中にデュノア社長はいた。

 

「これはこれは、デュノア社長ではありませんか」

 

「マックスウェルさん。貴方も来ていましたか」

 

デュノア社長は声をかけて来た長めの金髪にサングラスをかけた男性と挨拶を交わす。

 

「はい。今は一緒に居ませんが、息子さんもこちらに来ています」

 

「そうか、エリックはどうだ?」

 

「お元気ですよ。今は機体の整備を任せています」

 

機体と言えば警備用のパワードスーツEZ-8の事だろうか?

本来軍用として開発したのにそちらには全く普及せず、逆に警察や災害救助隊といった方面に普及した機体で、おそらく今日も会場警備に動員されているのだろう。

ライセンス生産であるのにもかかわらずライセンス元が来るとは念の入れようである。

 

「出向先でも変わらないようだな」

 

それに息子も相変わらず機械いじりが好きみたいだ。

技術者ではなく経営者としての成長のために出向させたというのに……

2人がしばらく雑談を続けていると、ある人物の話題になった。

 

「織斑一夏はなぜISを動かせるのだろうな」

 

デュノア社長が疑問を口にする。

それはここに居る人の大半は思っている事だろう。

 

「おそらく本人も分かっていないでしょう。

私としては女性にしか動かせない理由の方が知りたいのですがね」

 

「だが、今はそうであると受け入れて考えるしかない」

 

「しかし、それもいつまで続くかと言ったところでしょうか。

ISによる男女の格差は既に女尊男卑という形で表に出始めている。

これが拡大していけば、いずれ格差をひっくり返そうと行動する者が現れる。

そして人間は再び引き金を引き、歴史を繰り返す。

おそらく篠ノ之博士は、それを未然に防ぐためにコアの数を制限したのでしょう」

 

「もしかしたら織斑一夏は、それを防ぐ存在として篠ノ之束が仕込んだのかもしれない」

 

「可能性の一つとしては考えられます。

問題は、女性にしか動かせない事が篠ノ之博士にとって想定の範囲内の事なのかどうか」

 

長い間話をしていたのか、アリーナで開会式が始まる。

2人は先ほどまでの重い雰囲気を引込め、式典を観賞する。

 

 

 

このトーナメントでは1学年を4ブロックに分け、ブロック優勝者で決勝者トーナメントを行う。

ルールは制限時間5分、タイムアップ時はシールドエネルギー残量の合計で判定する。

 

開会式が進み、各挨拶やトーナメントの説明が行われている。

ISスーツに着替えた生徒たちは、待機室で発表されたトーナメント表を見ている。

 

 

 

 

 

 

「ラウラ、俺は負けないからな」

 

「なら、当てにさせてもらうとしよう」

 

 

 

Aブロック――

織斑一夏/白式&ラウラ・ボーデヴィッヒ/シュヴァルツェア・レーゲン

 

 

 

 

 

「鈴……一夏の相手は私にやらせてくれないか?」

 

「OK。ドイツ娘は任せておきなさい」

 

 

 

Bブロック――

篠ノ之箒/打鉄&凰鈴音/甲龍

 

 

 

 

 

「ではシャルルさん、参りましょうか」

 

「うん、行こうセシリア」

 

 

 

Cブロック――

セシリア・オルコット/ブルー・ティアーズ&シャル・デュノア/ラファール・リヴァイヴ

 

 

 

 

 

「緊張してるのか?」

 

「大丈夫、サポートは任せて」

 

 

 

Dブロック――

シン・アスカ/インパルス&更識簪/打鉄

 

 

 

 

 

役者と舞台が揃い、学年別トーナメントが開幕する。

クラス代表戦のような事が起こらないようにと祈りながら……

 

 

 

 




ペアについては戦力バランスを考慮してみました。
最初はシン&ラウラとか考えたけど、どう考えても最強ペアなのでやめました。
似たような理由で簪も専用機無しで参加となります。


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第20話 学年別トーナメントⅠ

もうすぐ、12月も折り返しか……
今年の年末年始はどうしようかな。



各ブロックの優勝者が決まり、休憩時間に入る。

観客たちも一旦席を外し、少々遅めではあるが昼食を取り始める。

 

「各ブロック優勝は専用機持ちか……順当だな」

 

「それにしても、あの全身装甲の専用機は何でしょうかね?

フルフェイスのHMDが不恰好で、とてもISには見えませんでしたよ」

 

デュノア社長の感想に、途中で合流したエリックが続く。

エリックとしてはそれ以上に聞きたいことがあるのだが、それは家庭の事情であるため、今は全身装甲の専用機の話題で会話を進める。

 

「おそらく、ヘルメットは後付でしょう。

ですが、デザイン、武装、戦闘スタイル……ISの中であれだけが異質」

 

(あの機体を私は知らない。しかし明らかに……)

 

ISが普及しているこの世界の住人には違和感がある機体――インパルス――

ビームライフルとビームサーベルを装備し、鎧というよりは装甲をイメージするデザインに、マックスウェルは既視感があった。

 

「あれだけ露骨に怪しいと、清々するな。

一体どんな奴が乗っているのか、是非知りたいものだ」

 

誰が乗っているのか知っているデュノア社長はわざとらしく嫌味を乗せる。

そしてそれが引き金になったのか、しばらく会話もなく移動をする。

 

「父さん、少しいいかな?」

 

沈黙を打ち破るようにエリックはデュノア社長に問う。

デュノア社長もいずれはと身構えていたのか、驚くこともなくその言葉を受け入れる。

 

「マックスウェルさん、すいませんが少し外してもらえますか」

 

「分かりました。では、また後ほど」

 

マックスウェルは提案を受け入れて立ち去った後、2人は人気のないところへ移動する。

 

「父さん、何故“シャルロット”が試合に出てるんだ」

 

「ああ、すまない。お前には言ってなかったな。

今日の試合に出ている事からも分かるように、私があの子をIS学園に入れた。

織斑一夏がなぜISを動かせるのか……お前だって気になるだろ?」

 

エリックは父の含みのある物言いに気付く。

この時は決まって、嘘は言っていないが何かを隠してる。

 

「……父さん、いったい何を隠してるんですか?」

 

「ふむ、私のポーカーフェイスもまだまだのようだな」

 

「何年あなたの息子やってると思うんですか」

 

やはり身内相手だと気が緩んでしまうなと思いつつ、息子の問いに答えないように切り返す。

 

「なら、IS学園にまで来てお前が整備していたのは何だ……EZ-8じゃないんだろ?」

 

「う、何故それを」

 

「私はお前が物心つく前から父親やっているんだぞ」

 

最初はただの整備だと思っていたが、どうやらそれが別の何かであると気づいたのは、息子の試合を観戦している様子だった。

妙にそわそわしていて、でもそれが試合そのものに対するものではないと分かったのは、やはり父親だからだろうか。

デュノア社長には彼のその様子が、新しいおもちゃで遊びたくてしょうがない子供のように見えたため、警備用のEZ-8ではない何かがあると思った。

 

「はあ、分かったよ。これ以上聞くのはやめるよ」

 

エリックは軽く両手を上げて降参のポーズを取った。

 

「賢明な判断だ、早く私の後を継いで欲しいものだな。

ああそれと、時間があれば“シャルル”に会ってやりなさい。

あの子も兄に会えば少しは不安が和らぐだろう」

 

「父さんこそ、はるばる日本まで来たんだから、ちゃんと閉会式まで見ないとだめだよ。

織斑一夏といい、今年はイレギュラーな一年になりそうだからね」

 

これ以上は話せないと判断したのか、お互いに別れ際に言葉を残して去って行った。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

休憩時間が終わり、ここからは専用機同士の対決であるという事もあって1年生の試合が行われるアリーナでは、観客が試合の開始を今か今かと待ち構えていた。

選手の準備も万端という事でついに各学年の決勝トーナメントが始まる。

 

 

 

Aブロック優勝:織斑・ボーデヴィッヒペア VS Bブロック優勝: 篠ノ之・凰ペア

 

 

 

≪戦闘開始≫

 

 

 

開始の合図とともに睨み合っていた4機が動き出す。

鈴が龍咆を撃つと、回避した一夏はそのまま直進しラウラは上空へ飛翔する。

 

「行くぞ、一夏!」

 

打鉄に乗った箒が刀を振るい、一夏もそれに応えて雪片を振り下ろし、互いに直進の勢いを加えて刃を押し付け合う。

最初は拮抗していた鍔迫り合いも、打鉄と白式の出力の差から箒の方にジワジワ押されていく。

 

「くっ」

 

何とか持ちこたえる箒だったが、ついに耐え切れなくなり一旦離脱する。

押し切った一夏は箒が着地した瞬間を狙って追撃をかける。

 

(やはり白式相手に力では勝てないか……)

 

刀を横に寝かせて上空から振り降ろされた雪片を受け止める。

機体性能の差を実感した箒は、力で押し切られる前に刀を傾けて一夏の雪片を滑らせていく。

さらに箒は滑る雪片に合わせて刀を引いていき、一夏は推力と重力による加速を押さえる事ができず、箒の持つ刀の動きに合わせて白式ごと前につんのめる。

箒はすかさず体勢を崩した白式に合わせて、引いた刀を踏み込みながら振り上げて一閃する。

 

「くそ、まだだ!」

 

直撃を貰った白式のエネルギーが減っていくが、一夏はお返しと言わんばかりに、雪片を片手持ちして片足を軸に高速回転をしながら振り抜く。

それに合わせて箒も回転して対抗しようとするが白式のスピードには勝てず、先に雪片が打鉄を切り裂き、箒の刀は左腕のシールドに阻まれてしまう。

 

 

 

そのころ上空では、ラウラと鈴が一進一退の攻防を繰り広げていた。

レーゲンはAICで受け止められない龍咆がワイヤーブレードを吹き飛ばすためレールカノンで狙撃できず、甲龍はAICを警戒して接近できないため性能を生かし切れない。

 

((攻めにくい相手だ……))

 

互いにそう思いながら、時間だけが経過していく。

 

(ドイツに戻ったら中距離用の装備を申請しないといけないな)

 

「ああもう、次から次へと面倒ね。いっそのことまとめて吹き飛ばしたいわ!」

 

中距離戦で攻めあぐねいているラウラ相手に、鈴は双天牙月を投げつける。

AICを使わせる算段だったのだろうが、シン相手に同じことをされたラウラはワイヤーブレードを網目状にして絡め捕る。

鈴は一瞬驚いたもののそのまま龍咆で牽制しながら突撃する。

 

「AICがあると知っていながら接近戦を挑むとはな」

 

案の定接近してAICに捕まる鈴だったが、臆することなくラウラに向かう。

 

「チマチマした戦いは嫌いな質でね!」

 

AICで止められていながらもレールカノンに対抗して鈴は龍咆を撃とうとする。

しかしラウラはその行動まで想定済みなのか、予測される龍咆の着弾地点ではなく、砲門に押し当てるような形でシールドを展開した。

 

「くっ、こいつ!」

 

鈴が声を発した瞬間、レールカノンと龍咆が発射され爆炎が両者を包む。

すると爆発の衝撃で吹き飛ばされるように、二機はすぐに爆炎の中から姿を現した。

そこには先ほどとは逆に、驚いたような顔をするラウラと自信に満ちた顔をした鈴がいた。

 

「あの一瞬で同じことをやり返すとは……大した反射神経だ」

 

「当然よ、私を誰だと思ってるの!」

 

互いに啖呵を切りながら、瞬時加速で突っ込んでいく。

衝突した二機はAICも龍咆も使わせないように、空中での殴り合いへと移行する。

 

(鈴……)

 

上空でラウラを引き付ける鈴を見て、今一度気を引き締めて一夏を見る。

鈴が作ってくれたこの機会、無駄にするわけにはいかない。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

学年別トーナメントが始まる数日前、私は鈴と一緒に訓練をしていた。

 

「剣道をやってたとはいえ、2か月でここまで動かせるようになるとはね」

 

「いや、私は一時ISに乗ってた時期があったんだ……」

 

「え、そうなの!?」

 

ISに乗るのは入学してからだと思うのも無理はない。

 

「私は篠ノ之束の妹だからな。

重要人物保護プログラムがどうとか言って、IS適性測る名目でしばらく乗っていた。

IS適性が低かったおかげか、一通り動かせるようになったところで終わったけどな」

 

「篠ノ之束ねえ……今はどこにいるんだか」

 

「さあな、いつも勝手に連絡してくるくせにこっちからは連絡取れないからな」

 

かけて来た電話に履歴から即座にかけ直しても通じないほどだ。

一体どんな手段を使っているのか考えたくもなかった。

 

「昔からそうだった……いつも周りを気にせず、やりたい事だけを好き勝手やる。

子供の内は自由奔放で済むが、気付けばISを作り、世界を変えても変わらない」

 

「その様子だと、仲は良くなさそうね」

 

まあ、そうだろうな。

姉との楽しい思い出なんて、それこそ幼かった時しかない。

 

「向こうは気にかけてるみたいだが、正直言って私は姉の存在が怖い。

姉という身近な存在が、何を考えてるのか分からない世界を塗り替えた存在であることが……

そして姉のせいで、一夏とも家族とも離れることになった」

 

世界を変えた人間が身内にいて、その人物が破天荒であると身をもって知っている。

だからこそ、また世界規模でやらかすんじゃないかと思うと、私は怖くてしょうがない。

今度は一家離散では済まないだろう。

 

「道場のある実家を離れる事になっても、剣道だけは続けた。

でも全国大会で優勝した時、剣道を続けていたのはただの憂さ晴らしだと自覚したんだ。

こんな気持ちで剣道をやるべきではないと思ってはいるんだが……」

 

そんな気持ちだからだろうか、一応は剣道部に入っているが通常の部活の時間には道場へ行かず、時間外に貸切で使わせてもらっているだけだ。

それに剣道を取ったら私に何が残るのだろうかと、やめるべきだという感情と対立する。

 

「別に憂さ晴らしでもいいじゃない。

私だって、代表候補生になったきっかけは憂さ晴らしだしね」

 

「え?」

 

「国に帰ったあとね、IS適性検査を受けたらやや高めでね。

養成所に入れる基準を満たしてたから、一夏と別れた鬱憤を晴らすために入ったんだ。

でもそこでISに乗ってるうちにね、同期や先輩には負けたくないって思うようになって……

それでがむしゃらに特訓して、気付いたら甲龍のパイロットに選ばれる形で候補生になってた」

 

負けず嫌いの鈴らしい理由だなと思いつつ、黙って続きを聞く。

 

「切っ掛けはどうあれ私はまだISを降りる気はないし、いずれは代表候補になって千冬さんを超えてやろうと思ってるわ。

今でも一夏と剣道やってるってことは、本当は辞めたくないんでしょ。

昔を理由に辞めるくらいなら、今を理由に続けてもいいじゃない。

目標でも願望でもなんでもいい、あるんでしょやめない理由が」

 

確かに一夏と再会して、ISの訓練と言いながら剣道をしている。

それは剣道によってあの頃を思い出すからか……その思いも確かにある。

でも一番は、一夏の隣に居たいからだ。

 

「私は……私は、あの頃のように一夏と剣道がしたい!

ISに乗ってもずっと一夏の……あいつの隣で剣を振りたい!」

 

口に出したら途端に軽くなり、むしろ逆に今まで以上にやる気が出てきた。

我ながら単純なような気もするが、過去の感情が口から出て言った気分になった。

専用機のない私がISで一夏の隣に立つには剣道を起点に強くならなければいけない。

 

「ちょっと、誰がそこまで言えと言ったのよ。あいつの隣は私の場所よ!」

 

その後は互いに譲らず、鈴と一夏を巡って口論になった。

結局その日はそれ以上の訓練はできなかった。

 

けど、ありがとう。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

上空の殴り合いほどではないが、こちらも剣を交えながら互いのエネルギーを削っていく。

一夏はまだ剣道のブランクを完全に取り戻してはいないが、試合経験、IS操縦のセンス、機体の性能差はそれを覆すアドバンテージとなっている。

 

(もっと、もっと強く……お前の隣に立つためにも)

 

だが、それに甘える箒ではなかった。

自分を奮い立たせるためにも、距離を置いて仕切り直す時にかつての宣言をもう一度する。

 

「一夏、約束通り優勝したら付き合ってもらうからな」

 

「いいぜ。だからといって、負けてやる気はないけどな」

 

「ふん、当然だ」

 

箒は踏み込みながら突きを放つと、一夏はそれを避けながら懐へ飛び込む。

一夏が雪片を振るうと同時に、箒は刀を振り下ろす。

互いの攻撃はヒットし、エネルギーが減っていく。

 

(残り30秒)

 

残り時間で決着をつけようと、一夏は振り返りながら零落白夜を発動させる。

対して箒はそれを見て完全に立ち止まり、居合の構えで待ち構える。

 

(来い、一夏)

 

一夏は居合の構えに臆することなく、瞬時加速で突っ込む。

白式が打鉄とぶつかった瞬間、両者は渾身の一撃を放つ。

 

 

 

≪試合終了≫

 

 

 

エネルギー残量

白式:152 シュヴァルツェア・レーゲン:327 vs 打鉄:0 甲龍:294

勝者:織斑・ボーデヴィッヒペア

 

 

 




フラッシュエッジの如くポンポン投げられる双天牙月……

シン「近接武器投げるとかよくやるな」

ラウラ「お前が言うな」



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第21話 学年別トーナメントⅡ

明けましておめでとうございます。(気付けば1月も終わるが……)
今年は就活があるため私としては「ついに明けてしまったのか……」感でいっぱいです。
私の今年の第一目標は就職ですが、皆さんは何ですか?
どんな目標であろうと、お互いに達成できるように頑張りましょう。



Cブロック優勝:オルコット・デュノアペア VS Dブロック優勝:アスカ・更識ペア

 

 

 

≪戦闘開始≫

 

開始の合図と同時に動き出したのはインパルスとブルー・ティアーズの2機。

インパルスは本日初のフォースシルエットを付け、光の翼を起動させる。

ブルー・ティアーズはBTを切り離さず、非固定浮遊部位を動かしてBTの砲口をインパルスに向けながら、誘導ミサイルを発射する。

打鉄がそれを撃ち落とし、ラファールはインパルスを近づけないようにショットガンをばら撒く。

両チームとも第2世代型が第3世代型を援護する布陣となった。

 

「その翼が貴方の第3世代装備ですか……」

 

セシリアはシャルルの援護を物ともせず高速移動しながら接近しようとするインパルスをスターライトと固定したままのBTの一斉射で迎撃する。

簪はその瞬間を狙って狙撃しようとするも、ラファールがそれを阻む。

シンはアリーナを高速で飛び回っているのだが、飛び回るだけで一向にライフルすら撃つ気配のない様子に簪は疑問に思った。

 

「動きが変だよ、どうしたの?」

 

「こいつを試したかったんだけど、ここだと狭くてスピードを生かせない」

 

高機動装備のフォースシルエットはアリーナという限定空間には過剰速度であり、気を抜くと天井や観客席のバリアと激突してしまいそうだった。

それならと、シンは翼を消して減速するとマシンガンでセシリアを牽制する。

 

「ブラストに換装する」

 

「え、本気なの!?」

 

突然の換装発言に思わず驚きの声が出る。

インパルスのパッケージはバックパックのみとはいえ、戦闘中のパッケージ換装をしたという例は聞いた事が無い。

武器を切り替えるのとは訳が違う事を知らないはずではないのに……。

とにかく簪は換装を援護するために、左手に焔火(アサルトライフル)を呼び出すと右手の撃鉄(スナイパーライフル)と一緒にシャルルに撃ち込んで足止めをする。

 

「遅いですわ!」

 

換装にかかる時間は数秒であるが、セシリアは見逃さなかった。

攻撃の隙間から換装中のインパルスにスターライトとBT4基の一斉射を行う。

シンは盾とシールドで防ぐと、2射目が来る前に換装を終える。

 

「すげえ、ほんとに数秒で換装できる」

 

その事は起動テストで分かってはいたが、実際に戦闘でもできると分かって興奮する。

もしMSでも同じ事ができたなら、専用母艦が必要無い事に加えて戦況に合わせた即座の換装も可能となり、開発者が目指していたインパルスの理想形が実現できたのかもしれない。

そう思いながらブラストの砲口をブルー・ティアーズに向け、高出力のビームを吐き出す。

 

「パッケージ換装だって!?」

 

「油断大敵です」

 

インパルスのパッケージ換装に気を取られていたシャルルは、目覚めの撃鉄を貰ってしまう。

シャルルは気を取り直して簪を狙うように変更し、シンへの牽制は片手間で行う事にした。

 

「行きますよ、シンさん。もうあの時と同じようにはいきませんからね」

 

セシリアはここでBTを4基全て切り離すと、インパルスがばら撒く小型ミサイルを撃ち落としつつ射撃戦へ移行する。

BTの欠点を知っているシンは動けなくなったブルー・ティアーズにビームライフルを撃つが、回避行動をとりつつ避けられないものは的確にシールドで防がれてしまう。

 

(BTを操作しながら回避と防御……2か月でここまで)

 

BTを全機切り離すと操作に集中するため動けなくなるという欠点があったが、それをクラス代表決定戦から今日までの間で克服したセシリアの成長にシンは驚いた。

ミサイルを撃てばBTが撃ち落とし、高出力ビームランチャーは回避に専念している。

 

(時間が経てばシンさんにばれてしまう……だからその前に)

 

実際には自動回避システムをオンにすることである程度の回避運動を行い、ビームライフルは射線認識システムと連動した自動防御システムを使って防いでいる。

自動回避・防御システムは射線認識システムと同様、戦闘に不慣れな者が使うシステムではあるのだが、セシリアはあえてそれを使う事でBTの欠点を補う事を思いついた。

ビームランチャー回避時はBTを自動操作にして、回避後に再操作しているにすぎない。

BTの自動操作は帰還機能と攻撃機能(その場に留まってターゲットを攻撃するだけの単純なもの)があるのだが、今までは手動操作のテストのために攻撃機能はオフになっていた。

 

シャルルの援護もありBTをシールドで防がせる事はできるが、こちらの防御事情と合わせてもトータルではこちらのエネルギー減少速度の方が速い。

第2世代型の援護戦は手数の多さと近接攻撃を交えた撹乱によりシャルルが優勢であるため、今の所撃鉄がこちらに向けられたことはない。

 

(まだ、まだ届かない……)

 

後一手が足りないセシリアに、シンはBTを避けてミサイルを発射する。

セシリアはレーザーの壁でミサイルを迎撃しようとBTに命令を出す。

しかし、自身のハイパーセンサーにはもう2つの信号が映し出されていた。

大きなミサイル発射口に意識が向いていたために、両肩に展開された砲門に気付かなかった。

 

「そんなところに!?」

 

シンは今までビームライフルがあるからと使っていなかったパッケージのレールガンがミサイルと同時に発射される。

ミサイルはBTで撃ち落とし、レールガンにはシールドを張ったため致命傷にはならなかったが、着弾の衝撃で一瞬だけ意識が飛んで機体とBTの制御バランスが崩れる。

シンは追撃しようとビームランチャーを構えている。

 

(BTの操作をカット、PICで姿勢制御……

いえ、PICとスラスターをカットして自動誘導でミサイル発射、BT2基を自動帰還)

 

崩れたバランスを立て直すためにセシリアは早継ぎに機体に命令を下す。

ブルー・ティアーズは命令通りに動き、重力による落下で攻撃を避けつつミサイルを発射。

ミサイルは盾で防がれるも、その間にBT2基が帰還し機体の姿勢を直す。

現在、自分が動きつつ操作できるBTの限界は2基……

シンが相手ではやはり自分で動かなければいけないと思い、作戦を変更する。

 

「シャルルさん、陣形チェンジで!」

 

「分かった」

 

シャルルは簪との戦闘を切り上げてセシリアのそばへ向かう。

すると今度はラファールが前に出て、それをブルー・ティアーズが援護する布陣を取る。

シャルルはマシンガンとショットガンを織り交ぜながら接近する機会を窺う。

セシリアはBT2基でシャルルの手数を増やしつつ、回避先をスターライトと帰還させて非固定浮遊部位に装着した2基のBTで狙撃する。

シンはレールガンとビームライフルで応戦し、左手にビームランチャーを構えて牽制する。

簪は焔火による反撃をやめ、回避しながら撃鉄による狙撃を敢行する。

 

「「ターゲット・ロック」」

 

セシリアと簪が互いに移動しながらの狙撃……射線の合った一瞬に引き金が引かれる。

射線が完全に重なり合った結果、スターライトのレーザーが撃鉄の実弾を破壊し、そのまま砲身を潜り抜け打鉄の持つ撃鉄を貫く。

BTの攻撃は避けたものの簪は撃鉄を失い、即座に拡張領域から焔火を2丁取り出す。

シンは間髪入れずにビームランチャーを放つことでセシリアとシャルルを分断すると、ここでシャルルは発射の隙を突いてインパルスに突撃する。

 

「武器の換装なら僕にだって!」

 

マシンガンを撃ちながら接近し、得意技であるラピッド・スイッチによってブレッド・スライサーへ切り替える。

マシンガンがいきなりブレードに変わった事で一瞬反応が遅れたものの、シンはこれをなんとか盾で弾くが、密着状態になったことによりブラストシルエットによる迎撃ができなくなった。

シンは右手で高周波ナイフを引き出そうとし、シャルルはラファールの盾をずらしながら弾かれていない左手で殴りかかる。

 

(くっ、次は何を出してくる?)

 

シンはナイフの対処では間に合わないと判断し、シャルルの武器換装を警戒して盾を出す。

盾に当てられたのはラファールの拳ではなく、盾に隠れるように装備された砲身だった。

 

「こいつの威力なら!」

 

盾に押し付けられた砲が炸裂し、砲身から鋭い杭が撃ち出られる。

シャルルの言うように威力は抜群であり、シールドを張れなかった盾は粉々に割れてしまった。

 

「やった」

 

思わず歓喜の声を上げるシャルルだったが、シンとて黙ってやられるだけではなかった。

パイルバンカーの衝撃を物ともせず、右手に持ったナイフで腹を突き刺す。

エネルギーが減ったことで先ほどの油断を後悔したシャルルはブレッド・スライサーで反撃するが、ブレードを振り下ろした右腕はインパルスの左腕によって防がれてしまう。

 

「させませんわ!」

 

セシリアの声が聞こえてくると共にインパルスはラファールから離れて、2本の光線が空を切る。

インパルスは後退しながらブルー・ティアーズに向けてミサイルを撃つと、今度は打鉄からマシンガンの雨が降り注ぐ。

シャルルが応戦しようとした時、インパルスのレールガンが飛んでくる。

その瞬間マシンガンの雨はやみ、レールガンを防ぎながら相手の方を見る。

そこには大砲を両脇に抱えてこちらに向けているISがいた。

 

「ごめん、セシリア……」

 

ラファールの盾は吐き出されるビームを防ごうとするが、一点に収束するように放たれてはいないため全てを防ぐことはできなかった。

盾のおかげでエネルギーは残ったが、結局これが決定打となり残り時間で逆転できなかった。

 

 

 

≪試合終了≫

 

 

 

エネルギー残量

ブルー・ティアーズ:138 ラファール・リヴァイヴ:95 vs インパルス:121 打鉄:210

勝者:アスカ・更識ペア

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「ごめん、僕があそこで突撃しなければ……」

 

「何をおっしゃいますか、シンさんの盾を壊したじゃないですか」

 

「最後は盾ごとやられたけどね」

 

セシリアとシャルルは先ほどの試合について語りながら、決勝戦を観ようとアリーナの更衣室から出て観客席へ移動していた。

するとこちらを見つけた1人の男性が声をかけて来た。

 

「シャルル、久しぶり。試合見させてもらったよ」

 

「に、兄さん」

 

シャルルはその男性を見ると、驚いたような声で反応した。

そして男性はセシリアの方を向くと、改まって自己紹介をした。

 

「初めまして、私はエリック・デュノア、シャルルの兄です」

 

「こちらこそ初めまして。わたくしはセシリア・オルコット、イギリスの代表候補生ですわ」

 

「兄さんはどうしてここに?

確か、ITDO(国際技術開発機関)に出向していたはずじゃ……」

 

国際技術開発機関(International Technical Development Organization)、通称ITDOは各国の技術者が集まり最先端科学技術の研究開発を行っている国際機関であり、現在は国連からの要望もありISに代わるパワードスーツの開発を行っている。

第1回モンドグロッソ大会に合わせてEOSを発表したが、その性能はISどころかすでに普及している民間用にすら劣るありさまであった。

その後、第2回モンドグロッソ大会の時にアーベント・ヴォーゲル社のアイゼン・ツヴェルクをベースに軍用開発したEZ-8を発表した。

こちらはISには及ばないがそれなりの性能を有してはいたが、軍用には普及せず警察や災害救助などの用途で普及している。

ちなみにITDOはISの基礎研究こそ行っているものの機体の開発は行っていない。

それでもデュノア社長はITDOとの技術協力を取り付けて、第3世代型ISを開発する足掛かりとなる技術を得るためにエリックを出向させた。

そしてエリック・デュノアはデュノア社代表として、ITDOのパワードスーツ開発部門の技術顧問兼テストパイロットのギルバート・マックスウェル氏の元で現在働いている。

 

「そっちの仕事も兼ねて来たんだけど、まさか君がいるなんて知らなかったよ。

父さんも酷いよね、ついさっきまで僕にも教えてくれなかったんだもの」

 

「……父さんも、来てるの?」

 

エリックの言葉から父もいるのではないかと思い、聞き返した。

彼が一度だけ頷くとシャルルの体は緊張で固まってしまう。

不安げにもう一度彼を見る、すると察したのかシャルルの頭を撫でてきた。

 

「嫌なら嫌って言ってもいいんだぞ。

僕も父さんもしばらく日本に居るから、一緒に言いに行くか?」

 

その言葉にシャルルは少し安心する。

少なくとも兄は事情を知ったうえで、配慮してくれている。

でもそれをすれば、皆に全てを話さなくてはいけなくなる。

 

「ありがとう。でも、少し待ってくれる?」

 

「分かった。その時は連絡してくれ」

 

シャルルの答えを了承すると、エリックはセシリアに時間を取らせてしまった事を詫び、仕事があると言って去って行った。

セシリアは今まで2人の会話の様子から感じた事を問う。

 

「お父さんと、上手くいっていないのですか?」

 

「うん、実はね……」

 

その言葉に再度緊張してしまい、この場にいるセシリアに隠すことはできないだろうと思い無理にでも言ってしまおうと思ったが、喋る前にセシリアが口に指を当ててきた。

 

「確認したかっただけですので、無理に言う必要はありませんわ。

わたくしから言える事は、父親と話し合うのでしたら機会がある時にすぐにでも話し合いをするべきだという事だけです」

 

「セシリア?」

 

「さあ、早くしないと決勝戦が始まってしまいますよ」

 

彼女の言い方に少し違和感があったが、急かされるまま観客席に向かった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

シン達の試合が終わった直後、更衣室に向かう途中でラウラはある人物と出会う。

どこにでもいるような中年の日本人女性であり、ただ道に迷っただけの人のようにも見える。

しかし女性は、ラウラが来るのを待っていたのか姿を見つけるなり喋り出す。

 

「お久しぶり、No.0702……それとも出来損ないと呼んだ方が良いかしら?」

 

中年女性はそう言うと、口を歪めて笑顔を作る。

No.0702――それはアドヴァンスドの製造番号であり、最初に付けられたラウラの名前だった。

ラウラはその言葉と表情から、驚くより先に彼女が何者なのか理解する。

年こそ取っているが、見間違えるはずがない。

自分達を出来損ないと罵る研究員の記憶がフラッシュバックし、激昂しながら銃を向ける。

 

「き、貴様がなぜここにいる!」

 

ラウラがまだ研究施設で教育と訓練を受けていたころ、彼女は研究員としてそこにいた。

彼女はDr.Mと呼ばれており、他の研究員との会話から地位の高い人物だったと思われる。

 

「なぜって、織斑一夏を見に来たのよ。

それと……一般客に銃を向けるのはどうかと思うんだけど」

 

他に何の理由があるのかと、小ばかにしたように言う。

そして暗に銃を下すように言うが、ラウラが銃を下す気配はない。

 

「嘘をつくな、本当のことを言え」

 

「あらあら、本当に彼を見に来ただけなのに……

まあ、見てたら他に面白そうなのを見つけたのは事実かな」

 

警戒心が最大まで引き上げられているラウラにこれ以上付き合ってられないと思ったのか、それとも面白い事をしようと思ったのか、ポケットから機械を取り出してスイッチを入れる。

ラウラは引き金を引こうとするが、機械が発する音が耳に入った途端に意識が朦朧とした。

 

「う、あ……ああ」

 

「うんうん、聞き分けがいい子は嫌いじゃないわよ。

それじゃあNo.0702……まずはその物騒な物をしまってくれる」

 

女性の言葉に素直に従い、ラウラは拳銃をしまう。

今までの警戒心は消えうせ、ラウラは無表情のまま次の言葉を待つ。

 

「さて、それじゃあ今から私の質問に答えてくれるかな?」

 

「はい……」

 

「あの全身装甲のISに乗っているのは誰?」

 

「シン・アスカ……」

 

「聞いた事ないわねえ……次、なんで顔を隠してるの?」

 

「男である事を隠すため……」

 

本来なら答えてはいけない質問であってもラウラは無表情のまま淡々と質問に答えていく。

さっきまでの警戒心が嘘のように、まるで人形のように無抵抗のまま質問に答える。

ラウラとは逆に、質問の答えを聞いた中年の女性は笑顔になる。

不思議なISだとは思っていたが、まさか中身が男性であるなんて思わなかったからだ。

 

「男ですって!?

一夏以外にもISに乗れる男がいるって事は、もしかして探せば他にも出てくるのかしら!?」

 

「分からない……」

 

興奮したまま出てきた独り言ではあったが、ラウラは律儀に答える。

機械からは相変わらず音が出ているはずなのに気にもせず無表情で立ち尽くす少女と興奮する中年女性、傍から見れば異様な光景であるがそれを見る人も聞く人もいなかった。

 

「へー、どんな顔してるんだろう」

 

「黒髪赤目で目付きが少し悪い……」

 

「もしかしてイケメン?」

 

「顔は整っていると思う……」

 

「おお、そこまで聞くと顔が見てみたいな。写真とかないの?」

 

「ある……」

 

「だったら――」

 

例の人物の写真を見せてもらおうとラウラに言おうとしたその時、遠くから声が聞こえてきた。

 

「おーい、ラウラー。どこにいるんだー、そろそろ始まるぞー」

 

ISスーツに着替えた織斑一夏が、なかなか来ないラウラを探しに来たようだった。

女性はこれ以上引き止める事はできないと判断し、彼のタイミングの悪さにあきれつつラウラに最後の命令を言う。

 

「写真は諦めるわ……その代わり、次の試合で彼のヘルメット吹き飛ばしてね」

 

「了解……」

 

「あ、いたいた。全く、どこ行ってたんだよ」

 

こちらに気付いた一夏がこちらに走ってくる。

中年女性は彼を見るとそちらに向かって歩いていき、話を始める。

 

「ごめんね、私が彼女を引き留めちゃって……

それにしても、ISに乗れるなんて凄いじゃないの、私もびっくりしたわ」

 

「あ、いえ、俺も何が何だか分かってませんが……」

 

まるで自分の事のように話す女性に圧倒される一夏は、あいまいな返事を返す。

ラウラはまだ無表情のままで、こちらを見ている。

一夏がラウラを気にしているのに気付いたのか、女性は一旦ラウラの元に戻って行く。

 

「後は頼んだわよ、No.0702」

 

耳元でそう呟くと、女性はポケットの中にしまっていた機械のスイッチを切る。

するとラウラの表情は普段通りに戻り、一夏の元へ向かって行く。

 

「すまない一夏、では行こうか」

 

「2人とも、決勝頑張ってね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

応援を受けてさらにやる気を出す一夏と、表情を崩さないラウラ、笑顔で観客席に戻る女性。

ラウラの準備も終え、ついに決勝戦が始まる。

 

 

 

 




トーナメント終わって一段落したら、今までの設定をまとめようと思います。
質問や疑問があればネタバレにならない範囲で答えます。
不定期更新ですが、今年もよろしくお願いします。


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第22話 学年別トーナメントⅢ

皆さん長らくお待たせしました。私のほうは無事に就職先が決まりました。
まさか8月までかかると思いませんでしたが、これで後は卒業するだけです。
そしてこの小説も気づけば2周年です。(まだ学年別トーナメントだけど……)
新たなシン×IS小説も増えて完全に埋もれてしまったような気がしますが、これからもよろしくお願いします。



Aブロック優勝:織斑・ボーデヴィッヒペア VS Dブロック優勝:アスカ・更識ペア

 

 

 

≪戦闘開始≫

 

1年生とはいえ専用機持ちと代表候補性、更には男のIS操縦者が入り乱れる試合ということもあり、観客は例年以上の賑わいを見せていた。

試合のほうはインパルス対シュヴァルツェア・レーゲンのドイツ対決と、打鉄対白式という日本対決となり、どちらも一進一退の攻防を繰り広げていた。

そのさなか、一夏はあの日宣戦布告された疑問をぶつける。

 

「なあ、俺に勝負を挑んだ理由、聞いていいか」

 

「……いいよ、試合が終わったら教えてあげる」

 

すでに心情は変わっているため教えてもよかったのだが、自分から勝負を挑んでおきながらあっさり撤回するというのは、さすがに恥ずかしかった。

 

「へえ、勝ったらじゃなくて良いのか」

 

「うん、このことは織斑君も知っていた方がいいと思うから」

 

そして冷静に考えた結果、このことは白式を使う一夏も知っておくべきだと考えた。

今日の試合を見て白式への疑問は解決するどころか逆に増えたと言っていい。

戦況は、簪が焔火と撃鉄による射撃戦で優位に立っている。

そしてもう片方、ドイツ組みの対決の方は異様な雰囲気になっていた。

 

「対象を確認――殺傷兵器ではシールドが発生するため注意」

 

まるで機械のような口調で独り言をいいながら、ラウラはシールドが発生しないワーヤーブレードでヘルメットの脱離を狙う。

シンはフォースシルエットで回避に専念しながらラウラを攻撃する。

しかしラウラはレールカノンによる砲撃も、AICを絡めた接近戦もしてくる様子がなく、違和感を覚えたシンは通信を入れる。

 

「対象からの通信を確認――応答します」

 

「おいラウラ、どうしたんだ。俺と戦いたいから一夏と組んだんだろ?

後、冗談でもヘルメットを集中攻撃するのはやめてくれ」

 

「対象から任務の破棄を要請――却下します」

 

通信でのやり取りによって、シンはラウラの様子がおかしいことを実感する。

試合を見た限り準決勝の時は普段通りだった。

ということは、自分たちの準決勝からこの試合直前までに何かあったということになる。

それでもペアを組んでいる一夏が側にいたと考えると、シンはどうしてこうなったのかまるで見当がつかなかった。

 

(とにかく今は、ラウラを正気に戻さないと)

 

シンは簪にこの異変を伝えると、試合を終わらせて一刻も早くラウラをISから下ろすことを考える。

簪は一夏と戦いながら、シンとラウラの戦いを見て通信が正しかったことを確かめる。

 

(やっぱ、近づけねえか)

 

中々接近させてもらえない一夏は、強行突破することにした。

ヒット&アウェイもせずに徹底して距離を取っているということは、零落白夜を恐れているだけではなく近接戦闘に自信がないということ。

なら、被弾覚悟で突っ込んでも懐に潜り込めばこちらに軍配が上がる。

相手は手数重視で火力が低いため、被弾しても足は止まらないしエネルギーも足りる。

そして零落白夜の発動を見せておけば、警戒してこれまで以上に射撃による足止めに注力して逃げるという選択はなくなるだろう。

仮に全力で逃げたとしても、機体性能は完全に勝っているため追いつける。

 

「よし、いくぞ零落白夜!」

 

思考がまとまると、一夏は雪片を正面に構えて見せつけるように零落白夜を発動する。

雪片に金色のオーラが纏い、簪は零落白夜を発動したことを認識する。

 

(あれが零落白夜……なぜ、二次移行せずに使えるの)

 

本来なら二次移行して初めて使えるようになるワンオフ・アビリティを白式は一次移行しただけで使えることに疑問を感じる。

ラウラや白式のことを考えていると、弾幕をものともせずに一夏が瞬時加速で突っ込んでくる。

考え事をしていたせいか対応が遅れ、すれ違いざまに雪片が一閃される。

 

「くッ、避けきれない」

 

零落白夜の一撃を脇に食らい、今まであったエネルギーのアドバンテージが逆転した。

直撃していればエネルギーが0になっていたことを考えると冷や汗が出る。

 

「浅かったか!」

 

簪は考え事を一旦隅に置き、今はシンのヘルメットを取ろうとするラウラを優先する。

試合時間はようやく折り返し地点、憂いを断つためにも先に彼女を倒すべきだと判断し、簪は機体をシュヴァルツェア・レーゲンに向ける。

 

「先に彼女を落とす」

 

「敵の接近を確認――任務遂行に支障をきたすため、直ちに排除します」

 

ラウラは自分に向かってきた簪を排除するため、瞬時加速で打鉄へ突っ込む。

簪はAICで銃撃を止めながら突っ込んでくるシュヴァルツェア・レーゲンを止めることはできなかった。

それでも諦めずにすれ違いざまのプラズマ手刀を回避し、即座に反撃した――はずだった。

 

「!? いつの間に……」

 

打鉄の足にワイヤーブレードが巻き付いていた。

ラウラは打鉄を加速の勢いのまま引っ張ると、急制動をかけてアリーナの壁に叩き付ける。

簪は抵抗することもできず、そのままレールカノンを撃ち込まれてしまう。

これにより白式との戦いで消耗していた打鉄のエネルギーは0になった。

 

「くそッ」

 

シンはラウラに向かってライフルを撃ちながら接近していく。

それに応じてラウラもシンの方へ向かおうとするが、その間に割り込む機体があった。

 

「ラウラ、ここは俺に任せろ」

 

ラウラの様子に気付いた一夏は、シンとの間に割って入り彼女を一旦下がらせようとした。

 

「仲間からの要請を確認――任務内容と相違するため却下します」

 

「いや、俺がやる。ラウラは下がってろ」

 

いくら短い付き合いだとしても、明らかに普段とは違う口調であり、今までの試合からISに乗ると口調が変わるタイプではないことから、彼女の様子がおかしいことは決定的だ。

ここでシンと直接対決させるよりは、自分が間に入って試合終了まで戦う方がおかしなことが起こらないだろうと一夏は判断した。

シンもその判断を理解し、ビームサーベルを抜いて一夏の接近戦に乗った。

 

「勧告を無視――任務遂行の障害になるため、排除します」

 

しかしラウラは一夏を排除してでも任務を遂行することを選択した。

まずは一発、白式に当たるギリギリの射線でレールカノンを発射。

 

「危なッ! おい、嘘だろ」

 

その後、ワイヤーアンカーで白式を掴み、インパルスの傍から引っ張って地面に叩き付ける。

そしてレールカノンを白式に向けて撃とうとする。

 

「あ、ちょっと!」

 

ヘルメットが取れるのを今か今かと観戦していたDr.Mは、ラウラが一夏を撃とうとしたのに驚いてとっさに声を上げて立ち上がる。

周りに座っていた観客は驚いて、立ち上がった彼女に注目している。

その様子はISのハイパーセンサーの端に映っている。

シンに妨害されたためレールカノンは撃てなかったが、障害の排除に成功したラウラは任務を遂行しようとした。

しかしハイパーセンサーに映った彼女を見つけた瞬間、ラウラは自我が戻り今まで自分がしてきたことを思い出した。

 

「あ、ああ……私は、私はいったい……」

 

 

 

覚えのない記憶がフラッシュバックして行く。

ドイツ軍に入る前、まだ研究施設にいた時の記憶だ。

色々な研究員に様々な命令をされて、それを淡々と実行している。

そして最後に思い出すのは薄暗い鉄の部屋の中で柱に縛り付けられている少年。

 

 

 

――そんな、どうしてだよ……おいやめろ、No.0702。

 

 

 

この時もそうだった。

ただ命令を遂行することしか頭に入らず、その内容に疑問すら持たなかった。

 

 

 

――No.0702、聞こえてんだろ? なあ、何とか言ってくれよ。

 

 

 

ああ、聞こえてるよ……聞こえてたんだよ。

だけど私は、何も感じなかった。考えなかった。だから――

 

 

 

――ちくしょう、なんでだよ……なんで、こんな事に……。

 

 

 

言われるがままに撃った。私が彼を殺した。

そして私は、また同じことをしようとした。

任務遂行に邪魔だからと、この試合では味方の一夏を撃った。

状況はまるで違うのに、あの時と同じに思えて気持ち悪かった。

 

 

 

――これで出来損ないは後1人――

 

 

 

「私は、私はあああああ!」

 

ラウラが叫びながらレールカノンをDr.Mに向けて放つが、観客席のバリアに防がれる。

そして彼女は、錯乱したラウラを見て命令が解除された事を認識する。

 

「あらあら、久しぶりのせいか効果が弱かったわね」

 

これ以上見ていても仕方ないと思ったのか、彼女は出口へ向かう。

その様子をハイパーセンサーで見えたラウラは冷静さを失っているせいか、引き留めようとシュヴァルツェア・レーゲンが高速で突っ込む。

 

「ラウラ!」

 

シンはそこにインパルスを割り込ませ、シュヴァルツェア・レーゲンと激突する。

加速しすぎたせいか、2機とも盛大に弾かれるほどの衝撃を受けた。

 

「シン、すまない。私はなんてことを……」

 

衝突の衝撃で冷静さを取り戻したのか、ラウラは一言残して気を失った。

これによりシュヴァルツェア・レーゲンのエネルギーが0になったと同時に、タイムアップによって試合が終了した。

 

「ラウラ、いったい何があったんだ……」

 

 

 

≪試合終了≫

 

 

 

 

エネルギー残量

白式:34 シュヴァルツェア・レーゲン:0 vs インパルス:163 打鉄:0

優勝:アスカ・更識ペア

 

 

 

優勝が決まり観客席から盛大な歓声が響く中、シン達はピットに戻ろうとした。

しかし、戻ろうとしたピットから謎のISがアリーナに侵入して来るのが見えた。

 

「何だ、あの見たことないIS」

 

一夏が疑問を口にした時、謎のISは堂々とピットから出てきた。

観客からも見える位置まで移動したそのISは肩にかけるほど長い砲身を持った大砲を持っており、その砲口をゆっくりとアリーナへ向けて発射体勢をとる。

 

「一夏、2人を頼む!」

 

シンが即座に前に出ると、謎のISはインパルスに向けてビームの大砲を放つ。

ビーム砲を防いだシンは、改めて侵入者を見る。

シルバーグレーの全身装甲と言うだけなら第1世代型ISと言う可能性もあるが、その機体には非固定浮遊部位がなく、ISであれば人体の延長のような形状であるのに対して鎧のような装甲のような重圧感のある形状をしているため、インパルスと同系統の異質さを持つISである。

 

「そんな、嘘だろ……」

 

それはシンにとっては見慣れた機体であり異質さや違和感はないが、この場で自分とラウラしか知る者のいないはずのその機体が存在することに驚いている。

インパルスのフォースシルエットとは違い開きそうもない重厚な羽、バルカン砲を取り付けられた縦長の楕円形の盾、そしてこの場に最大の異質さをもたらす鶏冠を持った一つ目の顔をした機体――

 

 

 

ZGMF-515 シグー

 

 

 

前大戦時に指揮官機として投入され、CE74年においても少数ながら実戦配備されているMSであり、この世界には存在しえないはずの機体が目の前にいた。

 

 

 

 




VTシステムなんて無かった。
そして1戦目で中止になることに定評のある学年別トーナメントを表向きは問題なしに決勝戦までやったぞ。





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第23話 シグー

シグーの中の人、いったい何者なんだ……


突如現れたCEのMSであるシグーを前に、シンは一瞬固まっていた。

それでも、相手がビーム砲をその場において飛び出したのに反応してこちらも動き出す。

 

(なんで、シグーがここに……)

 

今すぐにでも通信で疑問を投げつけたいが、自分の正体を隠すために気持ちを抑える。

シグーはバルカン砲を撒きながらビームライフルで狙撃してくる。

こちらもビームライフルで応戦するが、どちらの攻撃も当たる気配がなかった。

単調な攻撃ではないが、どういうわけか相手の狙いが読みやすいと感じる。

妙に戦いやすいというか、自分と似た考え方をしているような気がする。

 

「おい、アンタ。いったい何者だ」

 

「……」

 

そんな中、簪とラウラを戻してきた一夏がスピーカーで相手に呼び掛ける。

相手からの返答はなく、ただの全身装甲のISに見える一夏はこの間の無人機を思い出す。

 

「アンタが敵だってんなら、俺が相手になってやる」

 

一夏は啖呵を切ると雪片を構えてシグーに向かって行き、シンはそれをライフルで援護する。

そのおかげで一夏は被弾することなく接近することができたが盾で受け止められてしまう。

シグーは右手に持ったライフルを撃とうとするが、シンが放ったビームライフルを避けるために白式から全力で離れる。

 

「待て!」

 

一夏は後退するシグーを追おうとするが、バルカンによって阻まれる。

そして回避するために方向転換しようとしたところをビームライフルで狙撃される。

 

「く、ここまでかよ」

 

シグーのライフルは一夏の腹に見事に刺さり、ついに白式のエネルギーが0になる。

さすがにこの状態で戦うわけにもいかず、一夏はシンに後を託してピットに戻る。

そしてシンは、シグーの一連の行動を見て確信する。

あの時、エネルギーシールドで攻撃を防いでライフルを撃てば、エネルギー残量がわずかしかない白式を退けることができたはずだ。

シンは今までISで戦ってきた相手と比べ、シグーは被弾を極端に避けようとしており、特にビームライフルに対しては大きな警戒心があると感じた。

そしてISであれば表面積の大きい機体の上半身を狙うところを、シグーはわざわざ表面積が小さいパイロットの腹部をピンポイントで狙った。

これらの癖はシン自身にも当てはまったが、それはほぼ全てのMSのコックピットが腹部に存在し、ビーム1発で生死が分かれるCEの戦場においてはこの感覚を身に着けなければ生き残ることはできないものだった。

 

(間違いない、こいつCEのMSパイロットだ……となると俺と同じ元ZAFTか?)

 

シンはシグーの戦い方や癖から自分と同じMSパイロットであると確信する。

それはつまり、自分以外にもCEからこちらの世界に来た人物がいることを意味する。

また相手がインパルスを知っており、今のフォースシルエットの翼がデスティニーを元にしていると分かれば、シン・アスカにたどり着くのは容易だ。

 

(もしかしたら、相手は既に俺の正体に気付いているかもな)

 

しかしセカンドシリーズが発表される前にこちらの世界に来た可能性もあり、あくまでも可能性の1つとして思い留めることにして今は相手を退けることに集中する。

見た目がシグーであるせいか、ISであることを忘れCEでMS戦をしているようだった。

そして戦場の感覚が呼び起こされるのか、自然と今まで以上に集中力が高まっていき、頭の中で赤く光る何かが弾けようとしている。

CEで何度か経験した、頭の中がクリアになり視界が全方位に広がったような感覚の前兆だった。

 

「アスカ、もう戻れ」

 

しかし、突如聞こえてきた織斑先生の通信によりその何かが弾けることはなかった。

こちらの世界に来てから今まで使ってこなかったからか、それとも途中で中断されたからかは分からないが、先ほどまでの感覚が今まで以上に鮮明に残っていた。

それに気づいたシンだったが、シグーが攻撃をやめてビーム砲を置いたピットへ戻っていくのを見て次になにかをしようとしているのか疑問に思った。

 

『以上により、エキシビションマッチを終了します』

 

「な、どういうことだよこれは!」

 

そして直後の放送でシンは完全に混乱し、思わず怒鳴りつける。

通信越しに織斑先生のため息が聞こえ、投げやりな口調で指示を出す。

 

「とにかく一旦戻れ、それから説明する」

 

シンはその指示に渋々従ってピットに戻ると、走って管制室に向かった。

そこには先に戻った一夏だけでなく、簪、箒、鈴、セシリア、シャルルも来ていた。

 

「さて、どう説明したものか……」

 

「まずは皆さん、モニターを見ていてください」

 

織斑先生が頭を抱えている間、山田先生に促されてアリーナが映っているモニターを見る。

そこにはシグーだけではなく、マイクを持った見知らぬ男性が何か喋っている。

 

「えー皆さん。先ほどのエキシビションマッチ、如何でしたでしょうか?

私達国際技術開発機関(ITDO)は本日、こちらの機体を発表するためにこの場を設けました。

まずはご協力して頂いたIS学園に、この場を借りてお礼を申し上げます。

さて、皆さんも気になっているでしょうからそろそろ本題へ参りましょう。

それでは、機体にご注目ください」

 

司会は観客を誘導すると、シグーの上半身が開き中からパイロットが下りてくる。

その人物が現れると、観客はどよめきが上がった。

それは管制室でも同様であったが、その中でシンだけは違う反応をしていた。

 

「レイ……?」

 

その人物は白に近い灰色のISスーツを着た、長めの金髪をした30前後の男性だった。

シンはその姿から親友であるレイ・ザ・バレルを思い浮かべたが、よくよく見ると年齢が合わないのと、戦い方が違う感じがしたことから彼ではないと結論した。

すると、呟きが聞こえていたのか簪が話しかけてくる。

 

「知り合い?」

 

「いや、知り合いに感じが似てただけだ」

 

シンはそう答えたが、レイに似ているであろうCEの人物には心当たりがある。

しかしその人物についてはレイから聞いた限りであり、自分がZAFTに入った時には既に戦死していたため確証はなかった。

その間にアリーナではパイロットであるギルバート・マックスウェルが紹介されていた。

 

「そしてこの機体、名前はシグーと言い、性別問わず搭乗することができます。

これにより、ISは女性にしか動かせないという常識はなくなりました……

と、この場で発表できれば良かったのですが、まだその域には達していません。

それはシグーにはISコアをただの動力としてしか使っていないからです。

本来のISであれば、ISコアは動力としてだけではなくパイロットと機体・武器全てを管理するシステムも兼ねており、それによりコア・ネットワーク、拡張領域、ハイパーセンサー、エネルギーシールド、PIC、操縦者保護機能など様々な機能が使えますが、シグーでは動力としてしか使っていないため、エネルギーさえあれば使えるエネルギーシールドとPICしか使えません。

その代わり、ISコアはパイロットとの接触がないため性別関係なく使えるというわけです。

他の機能はIS以外の技術で取り繕っているだけですので、シグーはISとは言えないでしょうが、匹敵するポテンシャルがあることは先ほどの試合をご覧の皆さまなら納得して頂けると思います」

 

司会の口からシグーがなぜ男性でも動かせるのかと、その大まかな原理が説明される。

しかし、この発想自体はIS研究の初期から存在しており、新しいものではない。

今まで実現しなかったのは、ISコアが数量限定であることから、劣化ISにしてまで男性を乗せる事が、女性を乗せるだけで本来の性能で運用できる数を減らすことに見合わないからだ。

説明を聞く限り今のシグーでもその判断は変わらない。

観客の大多数はこの発表に湧き上がっているが、こういった事情を知る知識人にとってはこうして大々的に発表したことを疑問に思う。

そのことを想定していたのか、司会はさらに説明を続ける。

 

「皆さん、喜んでいるところ申し訳ないのですが、このシグーは量産できません。

なぜならISコアが数量限定であるため、この方式の機体に回す分が無いからです。

ですが安心してください。

先ほど説明したように、シグーにとってISコアはただの動力……

ようは自動車のエンジンやモバイル機器の電池と同じです。

ISコアに個数制限があるのなら、それに代わる動力を用意すれば量産できます。

そしてITDOでは、ISコアに代わるバッテリーを開発しました。

後は実用化に向けた各種調整を残すのみであり、早ければ今年中、遅くても第3回モンドグロッソ大会までには正式な量産機として新機体を発表できると思います。

ISコアを使用しないため、ISではない独立した機体になりますが、性能は本日の試合でお見せしたシグーと同程度の量産機をご期待ください。

本日は突然のことで申し訳ありませんが、最後まで聞いていただきありがとうございます」

 

全ての説明が終わったのか、ITDOの人たちはシグーを持って引き上げていった。

観客席からは様々な声が巻き上がり、アリーナは興奮に包まれた。

そして管制室では、補足の説明を織斑先生がしていた。

 

「誰が優勝するのか分からなかったのと、本当のことを言えばシグー相手に手を抜く可能性もあったから黙っていた」

 

「はあ、何だそうだったのか。

俺はてっきり、また無人機が乱入してきたのかと思ったよ」

 

シグーについての種明かしがされ、一夏は安心する。

アリーナでの説明と織斑先生の言葉から他の皆も危険性がないと判断する。

シンも敵ではないことが分かり、今は決勝戦で様子がおかしかったラウラについて聞いた。

 

「織斑先生、ラウラはどうなったんです?」

 

「ああ、あの後医務室に運んでおいた。

検査したところ異常はないそうだから、まだ寝てるはずだ。

それとアスカ、ボーデヴィッヒについて心当たりはあるか?」

 

「いえ、俺にはさっぱり……」

 

「そうか、本人に心当たりがあれば良いが……

おっと、いつまでもここでウダウダしていてはいけないな。

ほらお前たち、もう閉会式が始まってるから観客席へ戻れ」

 

 

織斑先生の言葉に従い、シン達は管制室を後にした。

今日1日で色々なことが起こり、閉会式など耳に入ってこなかったが今年の学年別トーナメントは中断することなく幕を下ろした。

そして今日の発表はすぐさま報道され、世界中の人々に新たな衝撃を与えることになった。

 

 

 




うーん、前話と言い戦闘シーンが圧縮されすぎてる気がする。

次回で学年別トーナメントが区切りになるので
その後に設定等をまとめたものを投稿しようと思います。


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第24話 アドヴァンスド

先週バイトの面接をしたんですが、まさかのお祈りでした。
そのせいで就活の苦痛が蘇ってしまいました。

卒業までしか働けないため試用期間で時給が減るのは避けたいし
研究の時間も確保するとなると厳しいのかもしれません。


学年別トーナメントが終わり、寮の食堂ではトーナメントの結果と最後に発表されたシグーの話題で盛り上がっていた。

日が沈み夕食を終えたシンは、騒がしい食堂を抜けて医務室に向かおうとしたところ、正面から歩いてきたラウラと出会った。

 

「ラウラ、もう大丈夫なのか?」

 

「すまない、心配をかけた」

 

今日のことで色々と話したいことがあったので、2人は人気のない外に出た。

シンは途中の自販機で飲み物を買うと、先にベンチに座っているラウラに手渡した。

ラウラはシンが隣に座った事を確認すると、小さな声で話し始めた。

 

「私は遺伝子強化試験体、アドヴァンスドと言われる存在だ……

つまりお前の世界でいえば、私もお前と同じコーディネイターというわけだ」

 

「!?」

 

突然の告白に驚くシンを横目に、ラウラは説明を始める。

 

遺伝子強化試験体――通称:アドヴァンスド――は戦闘能力の強化を目的として、遺伝子操作により肉体を強化した人間のことであり、CEの戦闘用コーディネイターにあたる。

年間平均3~4人が送り出されており、公式記録上では世界で47人いるそうだ。

幼児期から教育と訓練を始め、5歳で越界の瞳を移植して10歳になると各軍に派遣される。

こちらの世界ではCEほどの技術力はないらしく、最初は生まれる確率が半分ほどで10歳までの死亡率は2/3という厳しい状況だった。

そして出生後の死亡原因は越界の瞳を移植するための遺伝子操作が原因だそうだ。

 

「それからは越界の瞳に関する遺伝子を調整していくことで、最終的には出生後の死亡率はほぼ0にすることができた……だが、その過程で私と同時期に生まれたアドヴァンスドは越界の瞳に適合しないという失敗が起きた」

 

ラウラは眼帯を外してシンに左目を見せると、そこには金色に変色した目があった。

その表情は普段とは違い、今にも消えてしまいそうで不安になった。

 

「これは普段は普通の目なんだが、起動させれば望遠したりセンサー情報を表示したりと……

まあ、スケールダウンしたハイパーセンサーだと思ってくれればいい。

そして、私の左目はこれが常に起動した状態になっている」

 

死亡率を下げるための遺伝子の調整が、越界の瞳と適合しないという結果になった。

幸か不幸かこの失敗はラウラの同期だけに起き、その後は順調に死亡率が下がっていった。

 

「越界の瞳の制御が効かず、人間の能力を超えた目に振り回された。

今までの訓練すらまともにできなくなり、私たちは“出来損ない”と言われるようになった」

 

「……」

 

ラウラはここまで話すと、力が抜けたようにシンにもたれ掛かってきた。

シンは先ほど買った缶コーヒーを握り潰しながら、ラウラに肩を貸す。

そして話を聞いて、思い出すのはステラやエクステンデッドのことだった。

人体実験をするような連中から失敗と判断されれば、その後の展開は想像に難くない。

CEの事を知っているラウラは、シンの考えている事を肯定するように話を続ける。

 

「ああ、1人……また1人と基準に満たなかった者からいなくなった。

実際に生きた人間を撃つ練習台として同期の的にされてな……

恐ろしいのは縛り付けられた方の意識はあるのに撃つ側の意識がないことだ」

 

「ちょっとまて、意識がないのにどうやって……まさか!?」

 

意識がないのにどうやって銃を撃つのかと考えたが、決勝戦でのラウラの様子を思い出す。

つまりはCEにおける“ゆりかご”のような洗脳装置か何かがあるのではないかと。

 

「アドヴァンスドは生まれてから、反抗防止のために特定の音を聞かせることで意識を朦朧とさせ、強制的に命令を実行させることができるように教育されている。

本来ならこの事実や命令されてからの記憶は残らないはずだが、だいたい7年くらいぶりだったからか効果が中途半端で記憶が戻ったみたいだ。

おかげで、自分の身に何が起こったのかを認識することができた……」

 

そこまで言い終わると、ラウラは肩から体を起こした。

そして震える体を両手で抑えながら、消え入りそうな声で頼みごとをした。

 

「すまない、少し……向こうを向いてくれ」

 

その言葉に従い、シンはラウラの反対側を向くように体を動かす。

するとラウラはシンの背中に縋るように頭をつけてきた。

 

「全て、全て思い出したんだ。今まで受けてきた命令の記憶が……」

 

今までの話と行動でシンは、ラウラが思い出した記憶を察した。

彼女は生まれてから同じ施設で育った仲間を、自分の手で殺したことになる。

それも記憶に残らない命令で行わせるという非道行為によって……

 

「私が、私が殺したんだ。最後まで一緒に生き抜いてきた仲間を……

そして今日、仲間である一夏を撃とうとした。

試合だからで済まされる問題ではない……もしかしたらいずれ、大事な局面で仲間に銃を向けてしまうのではないかと」

 

シンはアスランとメイリンが乗ったグフを撃墜したことを思い出す。

今でもあの時の感覚は克明に覚えており、その時は“脱走したから”だとか“任務だったから”と自分に言い聞かせたが、ルナマリアを前にした時にはそんなものは簡単に吹き飛んでいった。

今のラウラに“強制的に命令を実行させられたから”と言っても、効果はないだろう。

なら、せめて背中で震えるラウラを安心させるようにと力強く話しかける。

 

「大丈夫だって、今日は結局俺のヘルメット取らなかったろ。

自分の意思じゃあどうにもならないっていうなら、その時はまた俺が元に戻してやるよ」

 

「それではお前に負担がかかるだろ」

 

「俺だけじゃ無理なら、織斑先生やクラリッサ達にも頼むさ」

 

「周りを巻き込むなんてお前らしくないな」

 

背中で顔を伏せたままのラウラだったが、少しは元気が出たのか声に覇気が戻る。

 

「この事は皆に説明して対策を取らなきゃいけないし、もし他のアドヴァンスドが命令された時はラウラが元に戻してやれるだろ。

それならお互い様だ、お前は1人じゃないだろ?」

 

「……ああ、そうだな」

 

シンの言葉に不安で支配されていた感情が解放されていく。

震えは止まり、ラウラが背中から離れるとシンは元のように座りなおす。

そしてラウラは再び肩に寄りかかってきた。

 

「シン……もうしばらく、肩を貸してくれ」

 

 

 

アドヴァンスドとして生まれたことを恨んだこともあった――

 

越界の瞳に適合できなかった自分を憎んだこともあった――

 

そしてアドヴァンスドに施された呪いに絶望した――

 

それでも、今の自分には仲間がいることを改めて認識した――

 

 

 

シンがラウラを見ると、最初の不安げな表情がなくなっていた。

不安が解けたからか普段以上にリラックスした様子は年相応の少女であり、とても彼女が一部隊を率いる軍人には見えなかった。

 

「今日は星がよく見える」

 

その姿をずっと見ていたいと思っていたが、ラウラの言葉でシンも空を見上げる。

そこには雲一つなく、空には星々が綺麗に浮かんでいた。

特に月は満月であり、寮以外に明かりの灯っていないIS学園を照らしていた。

 

「ああ、月が綺麗だ……」

 

「シンの世界では、月には簡単に行けるんだよな」

 

CEの話を思い出したラウラがシンに語り掛ける。

それから2人は宇宙を見上げながら他愛のない話を続けた。

 

月に行くのはこの世界で言うと海外に行くようなものだとか――

 

だいたいこの位置にプラントのコロニー群が見えるだとか――

 

CEでは火星にも人が住んでいることだとか――

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

同時刻、シンが抜けた後も食堂は賑わっていた。

一夏・シャルル・箒が負けた試合の反省会をしており、セシリア・鈴・簪は代表候補生としてシグーについて話していた。

そして彼らのところに他の生徒たちが大勢集まってきて、簪に問いかけた。

 

「更識さん、優勝おめでとう。で、誰を選ぶの?」

 

「あ、ありがとう。えっと……その、選ぶって何を?」

 

祝言を受け取りつつ、ある女子生徒の問いを理解できなかった簪は聞き返す。

その言葉を聞いて、ある意味元凶となった箒は思い出して固まってしまった。

 

「優勝したら男子の誰かと付き合える権利が貰えるってやつ。

大丈夫、誰を選んでも皆は貴女を応援するから」

 

「いや、そう言うことじゃなくて」

 

ここまで聞いてトーナメント前に親友の本音がその事について言っていたことを思い出す。

一瞬シンが頭に浮かんだが、目の前の光景に混乱してしまった。

 

「ペアを組んでたからアスカ君かな」「ラファール×打鉄的な意味でもデュノア君もあり」

「いやいや、もしかしたら織斑君かもよ、負けた貴方は私の物よって感じで」

 

集まってきた女子たちは本人そっちのけで盛り上がっている。

そして「ねえ、誰、誰なの?」と言わんばかりにこちらに詰め寄ってくる。

こんな事態に慣れていない簪はさらに混乱して言葉が出なかった。

他を見回しても一夏とシャルルは「その話は冗談じゃなかったのか」と驚愕しており、鈴は「私のせいなのか」と項垂れている箒を慰めている。

 

「皆さん、落ち着いてください!

そんなに詰め寄っては簪さんも決めるに決めれませんわよ!」

 

セシリアの一喝で食堂は一旦静まり返る。

簪はその堂々と言い放ったセシリアの姿をかっこいいと思った。

そして冷静になったのか、詰め寄っていた女子たちは離れていく。

 

「いやー、ごめんごめん。気になっちゃってつい」

 

「とにかく、誰か選べばいいんだよね」

 

「そうそう、付き合ってほしい男子ね。優勝者の特権だから遠慮はいらないわ」

 

親指を立てって思いっきりの笑顔を向けている。

他の女子たちもニコニコしながら簪の決断を待っている。

それを見た簪は大げさに考えるポーズを取り、思考する時間を確保する。

 

(これだけ期待されると、誰も選びませんって言うのは何か可哀想だよね……

だからと言って皆の前で堂々と宣言するのも恥ずかしいし……

うーん、ならいっそのこと笑いを取りに聞くべきかも……あ、そうだ!)

 

簪は数十秒ほど考えると、あることを閃いた。

巧くいけばこの場をうまく乗り切れるかもしれない。

 

「それじゃあ……織斑君、話があるから付き合って」

 

「「きゃああああああ!!」」

 

「「何いいいいいぃぃ!!」」

 

簪の決断に女子たちは盛大に声を上げ、一夏・箒・鈴の3人はまさかの人選に声が出た。

特に箒と鈴は驚きのあまり立ち尽くしていた。

 

「え、なんで俺?」

 

「前から貴方に関心があった」

 

「え、でもそれって……」

 

「話したいことがあるから少し席を外しましょう」

 

簪が一夏の問いに答えるたびに食堂が沸き上がる。

特に1組、2組の箒と鈴を知る者からは彼女たちのライバルの出現にさらに興奮していた。

 

(あ、これは何か企んでる)

 

そんな中、簪の幼馴染でもある本音は彼女が本気で言っているわけではないと悟る。

ちなみにセシリアとシャルルは、これはもう収拾がつかないと思い、会話を聞きながら優雅にティータイムを楽しんでいる。

簪は一夏を連れて食堂を出ようとしたところで振り返り、声を振り絞って宣言する。

 

「白式の開発経緯、君にだけ教えるから付き合ってもらうよ」

 

「「ええええええ!!」」

 

「あ、そういえば話してくれるって言ってたな」

 

簪の期待させるような一連の行動のオチに女子たちは驚きの声を上げる。

勝手に期待して勝手に驚いているだけなのだが、予想以上の反応に簪はクラスメイトと一緒に笑いをこらえながら手を振っている本音に向かってVサインを返す。

 

「決勝で言ってたことを今から話す」

 

「分かった、じゃあ場所を移すか」

 

一夏は食堂にいる人たちに向けて大きく手を振ってから退席した。

そして離れたところに移動したところで、簪が話を始める。

 

「……君はそのISが元は何だったのか知ってる?」

 

そこには先ほどまでのお茶目な彼女ではなく、真面目な顔をしていた。

そして語られる、白式が誕生するまでの経緯を一夏は聞いた。

 

 

 

元々は簪の専用機として作られた打鉄弐式が一夏回されることになった事――

 

入学式直前に篠ノ之束が持ち去り、白式に作り替えられた事――

 

自分が今、初期化されたコアから第3世代型を組み上げている事――

 

そして本来なら第一移行しただけではワンオフ・アビリティは使えない事――

 

 

 

簪は知りうる限りのことを一夏に告げた。

 

「ねえ、不思議に思わない?

あの時、倉持技研には2つのISコアがあった。

完成間近の打鉄弐式に使われているコアと、私が譲り受けた初期化されたコア――

篠ノ之博士はなぜ、弐式を初期化してまで白式を作ったのか。

ただの気まぐれかもしれないし、何かしら理由があるのかもしれない。

つまり貴方に当たった理由としては、彼女に迷惑をかけられたから」

 

簪としては、今は疑問こそあるが一夏をどうこうする気はないことを伝える。

当事者の一夏は彼女の話したことが嘘だとは思えず、非常に驚いている。

篠ノ之束のことを知っている一夏にとっては、身内以外に対して一切の関心がない彼女ならやりかねないことではあると思う。

それでも本当は何がしたいのかなど、一夏には分からなかった。

 

「束さん、いったい何がしたいんだよ……」

 

「ごめんなさい。でも、白式を使う以上は織斑君にも教えておこうと思って」

 

「いや、頭の片隅には入れておくよ。ありがとう、更識さん」

 

「あ、私の事は名前で呼んでくれて構わないから」

 

「だったら簪も、俺の事は名前で呼んでくれよ」

 

「うん。一夏君、これからよろしくね」

 

今度は簪の方からあの時の一夏の言葉と共に手を差し出す。

一夏はその手を握り、新たに友人ができたことを喜んだ。

長かった学年別トーナメントも終わり、IS学園は日常へと戻っていった。

 




これで学年別トーナメント編が終わります。
ペア決めから1年と随分と長い間やってたことになりますね。
次回は予告通り、1学期編で出てきた設定や機体のまとめを投稿します。



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設定紹介2

今回はITDOとアドヴァンスドについてと、登場した機体についての設定紹介です。


設定

 

国際技術開発機関(ITDO)

 

正式名称はInternational Technical Development Organizationであり、各国の技術者が集まり最先端科学技術の研究開発を行っている。

国連からの要望もあり、現在はISに代わるパワードスーツの開発に力を入れており、EOSやEZ-8を開発した。

研究開発機関であるため、開発したものはライセンスを購入した企業が生産している。

現在は男性にも動かせるパワードスーツとしてシグーや新規量産機を開発している。

特にISコアの代替として使用されるバッテリーに技術者からの注目が集まっている。

 

 

 

遺伝子強化試験体(アドヴァンスド)

 

戦闘能力の強化を目的として、遺伝子操作により肉体を強化した人間のこと。

CEの戦闘用コーディネイターにあたる。

年間平均3~4人が完成体として送り出されており、公式記録上では世界で47人いる。

幼児期から教育と訓練を始め、5歳で越界の瞳を移植し10歳になると各軍に派遣される。

最初は生まれる確率が半分ほどで、10歳までの死亡率は2/3だった。

出生後の死亡原因は越界の瞳を移植するための遺伝子操作が原因だった。

以降は研究が進み、07期のみ不適合という事態が起きたものの死亡率はほぼ0になった。

また反抗防止のため、特定の音を聞かせることで意識を朦朧とさせ、強制的に命令を実行させることができるようにしている。

命令の完了以外では時間経過または睡眠や意識を失うなどすると元の状態に戻る。

これは出生後からの教育によるもので、遺伝子改造や機械装置によるものではない。

強制命令中の記憶はないが、思い出さないように教育しているだけなので、何らかの拍子に思い出す場合もある。

この事は研究所の人間しか知らず、派遣先の軍には知らされていなかった。

その後遺伝子操作などが倫理に反するとして、6年前に国際的に禁止された。

それに伴い希望者は軍に留まり、他は一般人となった。

そのため自分がアドヴァンスドと知らない者もいる。

 

 

 

 

 

追加設定

 

インパルス

 

パッケージ(バックパック)が追加された事で一応の完成を向かえ、CEのインパルス開発陣にとっての万能機インパルスの完成形ともいえる機体になった。

機体コンセプトとIS学園入学というイレギュラーを利用し、第3世代装備の試験機として併用する事になった。

パッケージはブラスト(砲撃型)とフォース(高機動型)の2種類あるが、VPS装甲じゃないのでパッケージを変えても色は変わらない。

 

 

 

ブラストシルエット

 

まんまブラストシルエット。

欠点も同様で、砲塔上部のミサイルと下部のビーム砲の同方向への同時展開ができない。

デファイアントはオミットされている。

 

武装一覧

高初速レールガン ×2

両肩にあるレールガンで、威力・射程はそこそこで連射性に優れている。

 

4連装ミサイルランチャー ×2

砲塔上部から小型誘導ミサイルを1度に4発発射する。

 

高出力ビームランチャー ×2

砲塔下部から高出力のビームを発射する。連射はできないが相応の威力がある。

 

 

 

フォースシルエット

 

デスティニーの翼だけがバックパックになっている高機動戦用パッケージ。

武装の追加はないがこの翼が第3世代装備であり、高機動で自由自在に飛ぶ事ができる。

 

電磁推進スラスター

PICと電磁波を利用して高機動を得る次世代型スラスター。

使用時に光が放出される事から光の翼とも言われる。

エネルギーを消費するので長時間の使用に注意が必要だが、システム未使用時でも通常のスラスターとしても機能するので高い機動力を持っている。

 

 

 

 

 

機体設定

 

白式

分類:第4世代型IS

製造:倉持技研(日)

 

一夏に回されることになった倉持技研の第3世代型IS打鉄弐式(元々は簪の専用機になる予定だった)を束が奪取して再構築した近距離格闘型の第4世代型IS。

初期装備の雪片で拡張領域が埋まっており、追加武装ができない。

本来なら第2形態で現れるワンオフ・アビリティが第1形態から使用可能であるなど、その製造過程と合わせて謎の多い機体。

零落白夜を使うと自身のエネルギーを大量に消費するため稼働時間が極端に短い。

 

雪片弐型

普段は普通の実体剣だが、展開装甲である雪片弐型を展開するとエネルギー刃が発生する。

この状態では普通のエネルギーサーベルである。

 

ワンオフ・アビリティ ≪零落白夜≫

白式のワンオフ・アビリティで、全てのエネルギーを無効化・消滅させる能力を持つが、自身のエネルギーを大量に消費するため燃費が非常に悪い。

直撃させれば対象のエネルギーを空にできる一撃必殺の威力を誇るが、展開し続けると自身のエネルギーがなくなる諸刃の剣。

 

 

 

 

 

ブルー・ティアーズ

分類:第3世代型IS

製造:イギリス

 

BT兵器のデータ収集を目的とした試験機で、BTとスターライトによる射撃型の機体である。

 

武装一覧

スターライトMkⅢ

本機の主力装備である大型レーザーライフル。

 

インターセプター

近接戦用のサーベル。

 

ブルー・ティアーズ(BT)

レーザー装備4基、ミサイル2基が装備されている。

遠隔操作による全方位攻撃を可能とするが使用にはパイロットの多大な集中力を必要とする。

稼働率の高いセシリアでもレーザー装備4基同時使用中は機体を動かせないほど集中しなければならない。

学年別トーナメントの時点では、機体を動かしながらの同時使用は2基が限界。

 

 

 

 

 

甲龍

分類:第3世代型IS

製造:中国

 

パワータイプの格闘と射撃の複合型で近距離戦を得意とする機体。

第3世代型でありながら燃費と安全性を考えて設計された実戦モデル。

 

武装一覧

双天牙月

両端に刃を備えた翼状の青龍刀。

分割して二刀になる他、PICが組み込まれておりブーメランのように飛ばすこともできる。

 

空間圧作用兵器・衝撃砲 《龍咆》

非固定浮遊部位に装備された衝撃砲であり、空間に圧力をかけて衝撃波を発射する。

連射性良好で射角制限が無い上に、砲身・砲弾が不可視なのが特長。

 

 

 

 

 

ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ

分類:第2世代型IS

製造:デュノア社(仏)

 

基本装備(プリセット)を外して、さらに拡張領域を倍にしているラファールのカスタム機。

豊富な武装によるマルチロール・チェンジ可能な汎用機となっている。

搭乗者が得意とするラピッド・スイッチ(高速切替)を生かすために高速変換処理が施されている。

 

武装一覧

ヴェント ×2

アサルトライフル

 

ガルム ×2

アサルトカノン

 

レイン・オブ・サタディ ×2

ショットガン

 

ブレッド・スライサー ×2

近接ブレード

 

マシンガン ×2

砲身の短いマシンガン

 

デザート・フォックス

重機関銃

 

灰色の鱗殻(グレー・スケール)

盾の内側に装備されているパイルバンカー

 

物理シールド

左腕に装着されており、内側にはグレー・スケールが隠されている。

 

 

 

 

 

ラファール・リヴァイヴ

分類:第2世代型IS

製造:デュノア社(仏)

 

第2世代最後期の機体だが、性能は第3世代初期型にも劣らない。

量産型ISでは世界第3位のシェアを持ち、装備によってあらゆる状況に対応できる。

第2世代型ISの終着点とも言われているが、他のIS関連企業ではこれを、デュノア社が未だに第2世代に取り残されているという意味で使っている。

武装はグレー・スケールがないだけでカスタムⅡと同様であり、オプションとしてクアッド・ファランクスがある。

 

クアッド・ファランクス

25mm7連砲身ガトリング砲4門を4脚で支えている。

火器の重量と反動を抑えるためにPICが割り振られるため、使用時は移動できなくなる。

 

 

 

 

 

打鉄

分類:第2世代型IS

製造:倉持技研(日)

 

武者鎧のような形態をしており、性能が安定していて使いやすい。

両肩部分に装備された楯は「破壊される前に装甲が再生する」など防御力に特化している。

第2世代型で最大数のパッケージに対応しており、パッケージによって大幅に戦闘スタイルが変化させることができる。

 

武装一覧

刀のような形をした大型の近接用ブレード。

強度や破壊力に優れ、人によってはこれ1本で戦う者もいる。

 

焔火

アサルトライフル

 

撃鉄

スナイパーライフル

 

 

 

 

 

シグー

分類:試作MS

製造:国際技術開発機関

 

ISコアを動力とした機体で、ISと同じ装備を使う事ができる。

エネルギーのみ貰っている状態なのでエネルギーシールド、PICしか使えない。

そのPICもインパルス同様に飛行補助装置が無く制御困難という欠点がある。

CEのMSシグーを模して造られていて、顔も含めた全身装甲である。

こちらはISと同じサイズであり、パイロットの手足が機体の肘・膝の部分に来る。

 

武装一覧

バルカンシステム内装防盾

盾の裏側にバルカン砲が内蔵されている。バルカンの取り外しも可能。

 

ソニックブレイド

腰の左側に装着してある実体剣で刀身を高周波振動させることで切れ味を上げている。

 

ビームライフル

普通のビームライフル。腰の右側に装着してある。

 

特火重粒子砲

荷電重粒子砲で、普通のビーム兵器より弾速・連射性は劣るが破壊力は増している。

 

 

 

 

 

EZ-8

分類:戦闘用パワードスーツ

製造:国際技術開発機関

 

アーベント・ヴォーゲル社のアイゼン・ツヴォルク(EZ)をベースに軍用設計した機体で白色の無骨な全身装甲とHMDで人体の露出をなくし、両腕には各種装備用のコネクタを搭載してある。

普及率の高いEZと同じ操作系統を採用し、アーベント社の最高性能のパワーアシストを搭載し他にも各所に最新技術を使っている。

人間と同じサイズのパワードスーツにして軽量化し、背面にスラスターを搭載することで短時間の飛行を可能にした。

軍用に開発したはずが、警察や機動隊、災害救助隊の方が普及している。所属によって機体カラーを変えたり、盾にマークを入れていたりする。

基本装備はISの物理シールドを流用した盾のみで、その他の武器はそれぞれの所属が各自で用意した物を使用している。

 

 

 

 




次回からようやく臨海学校編になります。
これからもよろしくお願いします。


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臨海学校編
第25話 シャルル


臨海学校へ行くのはもう少し後です。


学年別トーナメントが終わって数日、一夏は1人で訓練していた。

射撃を中心に使用してくるようにシミュレーションを設定し、白式の生命線である零落白夜を使うにあたり必要となるエネルギーを節約するため、バリアと瞬時加速を使わないように敵機を撃破していく。

 

 

 

≪戦闘終了≫

 

 

 

自己ベストを更新したというのに表情は険しく、休憩しながら記録を振り返る。

 

(もっと、もっとだ……千冬姉はもっと速い)

 

あの日、エネルギー残量が少なかったとはいえシグーにあっさりと負けた。

あれがもし千冬姉だったら、同じ状況でも一撃を与えることは難しくなかっただろう。

 

「あれ、一夏だけ?」

 

「まあな」

 

最近は国へ報告する学年別トーナメントの報告書を書くのに忙しいらしく、箒も毎日ISを借りることができるわけではないため、1人で訓練する日が続いていた。

ラウラに至ってはトーナメントが終わってすぐ帰国し、今日帰ってくるそうでシンが迎えに行っている。

報告書が書き終わったのかそれとも息抜きかは分からないが、シャルルが声をかけてきた。

 

「あ、それって織斑先生の……」

 

「ああ、千冬姉の公式試合の記録さ。

俺の戦い方で一番見本になるのは、やっぱり千冬姉だからな」

 

「いつ見ても刀1本で圧倒する光景はすごいね」

 

「それよりも、用があって来たんじゃないのか」

 

「そうだった……さっき山田先生に会ってね、今日から男子の大浴場解禁だって。

詳しいことは寮の掲示板に貼ってあるから後で見てくるといいよ」

 

「本当か! 夜にはシンも帰って来るし、皆で入ろうぜ」

 

「わ、分かった……じゃ後でね」

 

そう言うとシャルルはアリーナを後にする。

正直に言えば一緒に入るのは避けたかったが、反射的に答えてしまった。

そのことを後悔するがもう遅く、シャルルはどうやって乗り切ろうか頭を悩ませる。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「よっしゃー、久々の風呂だ」

 

IS学園に来てから部屋についているシャワーだった一夏は、久々の湯船に歓喜する。

その声に反応して先に来ていたシンが肩まで浸かりながらこっちらを振り向く。

しかし、この広い浴槽の中にはシンしかおらず、シャルルの姿が見えない。

 

「あれ、シャルルは?」

 

一夏が聞くとシンは腕を出してある方向を指差す。

それにつられてそっちを見ると、桶を壁のように積み上げてその内側に座り、バスタオルを胸まで巻いてシャワーを浴びているシャルルがいた。

 

「何やってんだ……?」

 

「恥ずかしいってさ」

 

思わず口から漏らした言葉に呆れたようにシンが答える。

同じヨーロッパ出身でもこうも違うものかと一夏は思いながら、桶を取りにシャルルの方へ近づいていく。

 

「ここには俺たちしか居ないんだから、そんななに恥ずかしがることないだろ」

 

するとシャルルは顔を上げて一夏の方を見る。

その行動に一夏は納得してくれたと思ったが、どうやら違うようだった。

一夏が桶に手をかけて取ろうとした瞬間、シャルルは突然立ち上がった。

 

「あ、待って一夏!」

 

「うわっ」

 

桶を取り返そうと突然立ち上がったせいか、不安定だった桶の壁が崩れ、それに巻き込まれるように2人が倒れこむ。

床に仰向けに倒れた一夏を潰さないように、シャルルが覆いかぶさるように踏みとどまる。

 

「いてて、悪い大丈夫……か!?」

 

転んだシャルルを心配した一夏に驚愕の光景が写りこむ。

さっきまで巻かれていたバスタオルはほどけ、背中から両サイドに垂れており、そこには男性には本来ないはずの豊かな胸が目の前にあった。

それは明らかに女性の上半身であり、眼下に広がるその光景に一夏は混乱した。

 

「あ、シャルル、え、あ……」

 

「!!!!」

 

状況が飲み込めたシャルルは言葉にならない何かを発しながら、素早い動きで一夏から離れた。

しかし立ち上がろうとはせず、バスタオルで全身を隠しながら座り込んでいた。

 

「えっと、その……2人とも大丈夫か」

 

湯船から上がったシンが声をかけるが、その声はどこか困惑していた。

シャルルは気づいていないが、動揺しているせいか座り方は完全に女性的であり、バスタオル越しに胸の膨らみが確認できたりと隠しきれていなかった。

 

「シャルル……おまえ女だったのか!?」

 

そして状況が理解できたのか立ち上がりながら一夏は確認してきた。

決定的な一言をもらい、シャルルは観念した。

 

「うん、僕は女だよ……」

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

浴場でシャルルが女であることが発覚した後、3人はシンと一夏の部屋に集まった。

あの場所であの格好のまま色々と話を聞くのはマズイと判断したからだ。

 

「……本当に女だ」

 

部屋についたシャルルを見てシンが呟く、シャルルは部屋着なのかジャージを着ていたが、それでもなお主張している胸部を見れば、男性と判断する者はいないだろう。

それにしても、一夏曰くセシリア以上箒未満もあるこの質量を今までどのように隠していたのか不思議である。

 

「はは……えっと、どこから話そうか」

 

シャルルは少し悩みながらも、少しずつことの経緯を話し始めた。

 

自分は愛人の子供であり、2年前に母親が亡くなって引き取られたこと。

 

IS適性が高かったため、非公式にデュノア社のテストパイロットになったこと。

 

その時期から経営が悪化し、正妻の息子である兄をITDOに出向させたこと。

 

一夏のニュースを知り、そのデータを盗むことを画策したこと。

 

男性同士であれば接触しやすくなり、その後は広告塔に使えること。

 

「ふう、喋ったらなんかすっきりしたよ」

 

一通り話し終えると、シャルルはお茶を飲んで一息つく。

話を聞いていた2人の反応はそれぞれ違い、シンは話の内容に頭を抱え、一夏は彼女に向かって真剣な表情で問いかける。

 

「これからどうするんだ?」

 

「分からない。

バレちゃったから、退学して帰国して……その後は良くて牢屋かな」

 

「本当にそれでいいのか。

そりゃあ、親がいなけりゃ子供は生まれないさ。

だからって、親の言う事が絶対じゃないだろ!」

 

「僕だって、できる事ならちゃんと女の子としてここにいたいよ。

でも……」

 

「だったらここにいろ。ここにいれば外からは手出しできない。

俺たちが黙っていれば卒業までは大丈夫なはずだ。

それまでに何か方法を……」

 

「ダメだ」

 

「なんでだよ、シン」

 

一夏の提案にシンはストップをかけた。

この案は、IS学園の所属生徒は外部機関からの干渉を受けないという特記事項を利用してデュノア社からの命令を拒否し、卒業までの間に対策をするというものだ。

 

「俺たちが黙っていたとして、3年間隠し通せるのか?

それに隠したままっていうコンプレックスを抱えたまま過ごせるのか」

 

「無理、だね。

現に1か月で2人にバレたんだし、嘘をついたまま皆といたくない」

 

「そうだけどさ、だったらどうすればいいんだよ」

 

シンの意見には納得した一夏だったが、解決策が閉ざされて苛立っていた。

一夏はシャルルを助けたいと思っており、シンもシャルルの意思を捻じ曲げて利用しているデュノア社には怒りを感じている。

だがシンはその感情を素直に出すことはできなかった。

なぜならシンもまた、彼女と同様に嘘をついてIS学園にいるからだ。

インパルス限定で“ISを動かせる男性”ということになっているが、実際には“男性にも動かせるIS”のパイロットに過ぎない。

だがドイツ政府という強力なバックがついているため、仮に発覚したとしても身の安全は保障されており退学以上の事にはならない。

主導したドイツは国際社会から非難を受けるだろうが、 同時に“男性にも動かせるIS”の存在が知れ渡っているため、その技術が欲しい国は表向きの批判で済ませるだろう。

外交において有利なポジションを得ることができるため、発覚したときのリスクというのはほとんどないと言っていい。

完全なバックアップにより安全が確保されているシンとは違い、大企業とはいえデュノア社は一企業に過ぎない。

ここまで考えて、シンはとある疑問を抱く。

 

「あれ、なんでシャルルは男として入学できたんだ?」

 

「どういうことだ」

 

「大企業とはいえデュノア社だけでこんな事できるのかってことだ。

アーベント社でも俺を入学させるためにはドイツ政府の協力が必要だった」

 

「言われてみれば……俺の時だって日本政府が色々と手を回してくれたみたいだし」

 

「少なくてもフランス政府は知らないはずだよ。

国に知られたら開発許可が剥奪されるから絶対に正体を明かすなって言われたから」

 

普通に入学するだけなら何も問題はない。

だが、特例として入学するからにはそれなりの伝手がなければならない。

しかもIS学園は国を通り越して国際的な機関である。

そこに不正入学するとなれば、一企業だけでどうこうできるものではない。

 

「つまり、他に手を貸した奴がいるってことか」

 

「ああ、だが相手次第だとさらに面倒なことになるぞ」

 

「ごめん、僕には知らされてないんだ」

 

シャルルが知らない以上、デュノア社以外の相手を知る術がない。

彼女を助けたいという気持ちこそあるが、それが逆に焦りを生んでいた。

どうしていいか分からなくなったころ、扉が叩かれ声が聞こえてきた。

 

「一夏いるか」

 

「箒か」

 

一夏が返事をして扉を開け、シャルルは物陰に隠れた。

するとそこには箒だけでなく鈴、セシリア、ラウラ、簪も一緒にいた。

 

「皆揃ってどうしたんだ?」

 

「ああ、新聞部が学年別トーナメントのベスト4にインタビューをするそうだ。

その日時の打ち合わせをしたいんだが、シンも含めて今から時間あるか?

それとシャルルがどこにいるか知ってたら教えてくれ」

 

(どうする、今のシャルルを合わせるわけにはいかないし……)

 

「もしかしてさっきまでデュノアさんいたの?」

 

「え、何で」

 

「だって、机の上に湯呑が3つあるから……」

 

箒が皆を連れてきた事にも驚いたが、簪の指摘に一夏はさらに動揺した。

先ほどまでシャルルと話していたことも加え、完全に思考も言葉も詰まってしまった。

そこで比較的冷静さが残っていたシンがフォローに入ろうとするが、先にシャルルが何かを決心したように物陰から出てきた。

 

「一夏、ありがとう……僕も覚悟を決めたよ。

皆、僕の話を聞いて欲しい」

 

全員を部屋の中に入れ、シャルルは2人に話したことをもう一度話した。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

シャルルの話が終わっても、2人部屋に8人いるとは思えないほど静かだった。

そして最初に口を開いたのは鈴だった。

 

「……一夏のデータには手を出してないでしょうね」

 

「うん、誓ってもいいよ」

 

「なら、私は協力してあげる」

 

「ん、私は初めから協力する気だったが」

 

鈴の言葉に箒が続く。

そしてセシリア、ラウラ、簪が顔を合わせる。

 

「もちろんわたくしたちもですわ」

 

「でも、あくまで一生徒として……代表候補生としては協力できない」

 

「すまないな、流石にこればかりは……」

 

「ううん、皆ありがとう。僕のためにそこまでしてくれて」

 

「はいはい、感動するのは後。それよりどうするか考えましょ」

 

鈴の言葉に促されて、それぞれ解決策を考え始める。

だが、彼女の正体がバレたうえでIS学園に戻ってくる方法など考えつかなかった。

 

「こればかりは教官に事情を説明してこちら側についてもらうしかないのでは?」

 

「千冬姉か……やっぱそれが一番だよな」

 

協力するといった手前、より有用な解決策を提示したかったところだが、やはり事が事なため自分たちでは解決できそうになかった。

 

「まって、ただ織斑先生に言うだけだとダメな気がする」

 

「簪、何か考えがあるのか?」

 

「まず正体が完全にバレたうえで復帰することはまず不可能……

だから彼女の正体をバラさないで、内々で無かったことにさせるのが一番だと思う」

 

「理屈は分かりますが、そうさせる事ができるのですか?」

 

セシリアの問いに簪は続ける。

 

「絶対とは言い切れないけどね。

シン君の言ってたデュノア社に協力している人がいるって話だけど、もしかしたらIS学園に協力者がいる可能性がある。

なら、デュノア社とその人物に対してIS学園に彼女の正体を報告すると脅しをかける。

男性として入学させた事実を揉み消して女性として正式に入学させろってね」

 

「男として入学させることができるなら、それを揉み消す力もあるってことか」

 

「となると、内通者はIS学園の運営をしている上層部の誰かだな……

なるほど、そこで教官の力を借りるというわけだな」

 

簪からシン、そしてラウラと続く。

 

「うん、織斑先生なら上層部の事についても知ってるはず。

それにただ協力してくださいって言うより、具体的な方針を含めて説明した方が協力してくれると思うから……」

 

「なら、他にも協力してくれる方が必要ですわね。

でしたらシャルルさん、先日お会いしたお兄さんに協力を仰げませんか?

それと……」

 

セシリアはトーナメントで出会ったエリックの事を言うと、真剣な眼差しでシャルルに告げる。

 

「お父さんが日本にいるうちに一度お会いしたほうがよいかと」

 

セシリアの言葉に一瞬飲まれそうになった。

でも……

 

性別を偽っていると分かっても、助けようと動いてくれる。

そうした仲間たちを見ていると自然と勇気が湧いてくる。

だからこそ、自分も逃げずに立ち向かわなければいけないと思った。

 

シャルルは皆を見回した後、力強い声で答えた。

 

「分かったよ、セシリア。

兄さんと一緒に父さんと会う……そして、僕の気持ちを伝えるよ」

 

彼女の答えに全員が頷く。

希望的予測ではあるが、先にデュノア社長と決着がつけばそこからIS学園にいる内通者に話が行き、こちらの要求が達成される可能性もある。

 

「それならこっちはその話し合いの結果を見て動いた方がよさそうだな」

 

「でも千冬さんにはシャルルの話し合いの件も含めて先に言っとくべきよね」

 

「その件については俺とシンとシャルルで伝えるよ」

 

箒の提案を鈴と一夏がまとめ、今後のスケジュールの話し合いに入る。

全員の結束のもと、この計画が無事に成功することを願って。

 

 

 

 




ここでようやくシャルルの正体がバレました。
今回は正体発覚~説得の展開が中々決まらず、時間がかかってしまいました。
最初はシンも一夏と一緒に説得してもらうつもりでしたが、書類誤魔化してる点は同じなので控えめにしました。
シンとラウラは内心で冷や汗をかいている事でしょう。


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第26話 シャルロット

気づけば11月も中盤にさしかかる……
そろそろ研究と並行して修論を書き始めないといけなくなってきましたね。

できれば今年中には臨海学校編を終わらせたいと思っています。



 

東京にあるとあるホテルの会議室で男性は電話をしていた。

相手は異母妹であり、父と話す機会が欲しいというのと、その時は自分に協力してほしいといった内容だった。

男性はそのことを了承して電話を切ると、元いた席へと戻っていく。

ここには自分の出向先の上司と、外にはねた青髪のIS学園の女子生徒がいた。

 

「妹さんからですか?」

 

「ああ、父さんと話し合いたいから協力して欲しいそうだ」

 

「それは好都合……彼女もいいタイミングで決心してくれました」

 

女子生徒は扇子を広げて笑うポーズを取る。

それに合わせてマックスウェルが動き出す。

 

「彼女が動くのであれば、少しばかり計画を修正しなければなりませんね」

 

「となると、妹と一緒に父さんと取引して、IS学園や国際IS委員会で今回の件に加担した人物を差し出してもらいましょう」

 

「そうですね、これなら彼女を餌にせずともIS学園に潜む害虫を炙り出せる

万全を期すとはいえ、うちの生徒を危険な目にあわせたくはないですから」

 

目的を達成するために彼らと接触したとはいえ、彼女は生徒の身を案じている。

 

「私としては例のパイロットと接触できれば、今回の件に関わるつもりはありません」

 

「それに関しては僕から妹を通じてコンタクトが取れます。

デュノア社長との交渉については、更識さんと改めて内容を決めますね」

 

マックスウェルとエリックが計画の修正について意見する。

彼らもまた、シャルルたちとは違う形で行動を起こしていた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

会談当日、シンはある人物と待ち合わせをしていた。

それは先日のシグーのパイロットであり、おそらく自分と同じCEの人間だと思われる。

向こうも同じように思ったのか、シャルルとの会談の打ち合わせを通じて接触してきた。

 

「初めましてかな、私は――」

 

「ラウ・ル・クルーゼ……

世界樹攻防戦の功績によりネビュラ勲章を授与され、白服として隊を率いていたにもかかわらず、戦争犯罪を行い第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で戦死。

その正体はアル・ダ・フラガのクローンであり、老化を隠すために仮面をつけていた……」

 

サングラスをかけているとはいえ、その姿は画像で見たラウ・ル・クルーゼそのものだった。

レイやキラ・ヤマトから話は聞いていたとはいえ、シンからしてみればZAFTのエースパイロットとして名を遺した人物であるせいか、少し緊張していた。

 

「これはこれは、私も随分有名になったものだ。

では、君は何者かな? その口ぶりから察するに君も元ZAFTかな」

 

「ああ、俺はシン・アスカ。

アンタが戦死した後にZAFTのアカデミーに入って赤服になった。

詳しい説明は省くが、俺は半年前にCE74年からこの世界に来た」

 

「なるほど、私がこちらに来てからの時間を考えると、時間の流れはどうやら同じようだ。

ふむ、では聞かせてもらおう、私が死んだ後のCEの歴史を……」

 

クルーゼに促され、シンは第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦の顛末から自分がこっちに来るまでのCEの歴史、自分の経歴、レイ・ザ・バレルとデュランダル議長について語った。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

シンの語ったCEの歴史を聞いても特に表情を変えなかったクルーゼだったが、レイやデュランダル議長の死についてはサングラス越しでも分かるように感情を露にしていた。

それは本に載るような冷徹な指揮官でも、キラ・ヤマトたちに聞いた世界に憎悪を撒き散らすような人物でもなかった。

 

「そうか、ギルバートだけでなくレイも……」

 

「……」

 

その表情につられてシンはレイとの最後のやり取りを思い出す。

メサイア攻防戦の直前、デュランダル議長の話しを聞いて引っかかっていたこと。

 

――レイの運命は変わらないのか?

 

ラウ・ル・クルーゼである事が本当にレイの運命だったのか……その疑問は時間が経った今でも時々考える。

しばしの沈黙の後、クルーゼは気を取り直して話し出す。

 

「すまない、もう少し色々と聞きたいところだが本題に入ろう。

君はどうやって“こちら”に来たと思うかね?」

 

「どうって……さっきも話しましたけど、直前の記憶がないのでよく分かりません」

 

「ふむ、では私の体験を話そう」

 

今度はクルーゼがこれまでの経緯を語った。

ヤキン・ドゥーエでキラ・ヤマトの乗るフリーダムに撃墜された後、青い光が見えた。

気づくとその光に向かって手を伸ばしており、目には見えなかったが周りには同じように光に向かって手を伸ばす多くの人たちの気配があった。

それらを押しのけて掴み取った瞬間に光が強く発光して視界を覆いつくした。

 

「そして次に意識が戻った時、私はギルバート・マックスウェルとしてこの世界にいた」

 

「ちょっと待ってください。その名前って偽名じゃなかったんですか!?」

 

「そうだ、“本物のギルバート・マックスウェル”は元々この世界に存在していた人物だ。

家族は既に居ないようだったが、友人や職場の同僚など彼の過去を知る人物が存在している。

その人たちが言うには、交通事故で生死の境を彷徨った後、何とか生還したらしい。

それがどういうわけか、“私”になってしまったと言うわけだ。

それから私は、記憶喪失のギルバート・マックスウェルとして生きることとなった」

 

シンは自分の時とは色々と違う状況だったことに混乱する。

自分たちの身に起きたことはどちらも同じ現象なのか?

 

「もしかして俺もこの世界にいた“誰か”を追いやって存在しているのか?」

 

「おそらく、私と君とで同じことが起こっていると考えるのが自然だろう」

 

そしてクルーゼはシンとの話と合わせてとある仮説を立てた。

 

・こちらの世界に来た理由は謎の光を掴んだからであること。

・こちらの世界で死んだ人間を自分に書き換えることで存在していること。

・周りの人間はその変化に違和感を覚えないこと。

 

「死んだ人間を書き換えたってどういうことですか!」

 

「“本当のギルバート・マックスウェル”はおそらく交通事故で死んでいる。

そして君との話からCEとこちらの世界の時間の流れは同じと考えていい。

となると、自分と全く同じ容姿の人物が存在し、転移のタイミングと同じくして死亡する確率など0に等しい。

なので仮説としては“書き換え”ていると考えた。

偶然、今まで“君”を知る人物が現れなかっただけで……

恐らく君も、転移のタイミングで死んだ“誰か”を“書き換え”てこの世界に存在しているはずだ。

そしてこの“書き換え”だが、完全に元の自分を再現しているわけではないらしい」

 

「やぱり、そう考えるのが自然ですよね……

でも、この体はやっぱり完全に同じだと思いますよ、違和感なんてありませんし」

 

仮説とはいえ誰かの犠牲によって自分が存在していることに罪悪感を覚える。

だが、“書き換え”が不完全であるというのには実感がなかった。

実際、CEにいた時と今とで健康面や身体能力に何か変化があったわけではない。

 

「君はこちらの世界で遺伝子検査を受けたことはあるかね?」

 

「いえ、ありませんが」

 

「私は受けた……その結果、今の私に遺伝子欠陥は存在しなかった。

これがどういう意味か、レイから話を聞いた君になら分かるだろう。

恐らく君も、CEと今とで遺伝子配列が異なっているはずだ」

 

「!?」

 

驚いた、驚いて声も出なかった。

そして思ってしまった、ここにいるのがレイだったらと……

シンの思考を知ってか知らずか、クルーゼは小さく呟く。

 

「皮肉なものだ、なぜレイではなく私だったのだろうか」

 

「……俺も、機会がったら検査を受けてみます」

 

「そうしたまえ。では、最後の質問だ……君は、なぜISを動かせる?」

 

「今は言えません……ですが、貴方とはまた話をしたいと思ってます。

できればその時に話したいと思います」

 

「そうか、意外と私を信頼してくれるようだな。

では、私も君の信頼に応えよう」

 

そう言うとクルーゼは連絡先をシンに渡した。

シンも連絡先をクルーゼに渡すと、彼はサングラスを取って手を差し出した。

 

「ここで出会ったのが君で良かったよ。レイもいい仲間を持ったようだ」

 

一連の行動に面を食らったシンだったが、恥ずかしながらもその手を取った。

そして2人は分かれ、それぞれがデュノア社長との会談の結果を考えながら帰路についた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

同時刻――とあるホテルの会議室で会談が始まった。

当事者のシャルルと主犯のデュノア社長、そして協力者のエリックと一夏が集まった。

各自簡単な自己紹介をした後、シャルルが今回の件を切り出す。

 

「父さん、僕はもう男としてIS学園にいる気はないよ。

標的だった一夏にはバレちゃったし……」

 

「だから手を引けと……ITDOの開発方針がISの代替である以上、我が社が第3世代型ISを開発するためにはお前がデータを取って来なければならない。

シャルロット、お前にもそれは分かるだろ」

 

「待てよ、ISのデータが欲しいならそんな事させる必要はないだろ。

模擬戦や試合の戦闘記録なら……」

 

デュノア社長の回答に一夏は反論する。

だが当然、向こう側とてそのことを考えなかったわけではない。

むしろ考えたうえで、それではダメだと判断した結果が今回の騒動の発端である。

 

「我が社に必要なのは目に見える情報ではなく、それらを作り出している技術だよ」

 

「それでシャルにこんな事をさせたのか……アンタそれでも父親かよ!」

 

納得のいかない一夏は憤慨する。

誰もかれもが自分勝手に子供を振り回すような親であって欲しくなかったからだ。

 

「一夏君、父親だからこそだよ。

IS学園に入学可能な社員はいない……だからと言って、社員の娘にこんな重大な事をさせるわけにはいかない。

となれば、会社の事情を知り、なおかつ信頼できる人物となれば、自分の娘しかおるまい」

 

「なんだと!?」

 

理屈はなんとなく理解できる。

だが、一夏にとっては到底許せることではなかった。

このままでは喧嘩になると思ったのか、シャルルは一夏を制止する。

 

「まって一夏、ここからは僕が言う……

父さん、今更今までの事をどうこう言うつもりはない。

僕の正体が一夏にバレてなお、IS学園にいろと言うのか?」

 

ここから先はリスクしか存在しない……それでもなお続けろと言うのか父親に問う。

デュノア社長は真剣な眼差しで問いかけるシャルロットを見て、彼女の母親を思い出す。

先ほどまでの発言は、当初の自分の立場と意見を相手に伝えるためであり、正体がバレてしまった以上、撤退することに異論はなかった。

 

「……潮時だな。お前の言う通り、正体が知られた以上ここは引くしかあるまい」

 

「それと虫のいい話かもしれないけど、今度は女の子としてIS学園に通いたいんだ。

ここでできた友達とこれからも一緒にいたいって気持ちが一番だけど、戦闘記録を通して第3世代型ISの情報を得られるという利点がある。

リターンは小さいけどリスクはない……悪くない提案だと思うけど」

 

「そうだな、悪くない提案だ……が、すまないがその願いを聞くことはできない」

 

こんな時ぐらい、交渉ではなく、我が儘100%で訴えてくれてもいいのにと、誰の影響か強かに育った娘に、デュノア社長は父親としては少し寂しくなった。

そして残念なことに、その願いを叶えてやることはできなかった。

 

「そんな……なんでだよ!」

 

「IS学園にいる協力者との緩衝で再入学が望めない可能性が高い……そうだろ、父さん」

 

「ああ、この時のために撤退の準備はしてある。

だが、再入学は考慮していない。失敗したら終わり……そういう計画だ」

 

この計画はデュノア社長1人で実行できた事ではない。

エリックが言うようにIS学園側に協力者がおり、計画失敗で撤退となればその尻拭いも必要になる。

そのような状況で何事もなかったかのように再入学など、協力者は認めないだろう。

 

「分かったよ」

 

「シャル、本当にいいのか?」

 

「うん、意外な形だけどこれで決着が着きそうだからね。

それにIS学園には戻れないだけで、日本に留学する事は問題ないからね」

 

「ああ、そのくらいのことは便宜を図ろう」

 

協力者がいることは一夏たちも事前に想定している。

であれば、これ以上の条件で交渉が成立するとは思えないため了承する。

これで大筋合意となりそうだったが、ここにきてエリックが深刻な顔をして話を切り出す。

 

「……残念だけど、それはできないよ父さん。

既にIS学園の一部にそのルートは監視されている。

もしそれを使えば、父さんと協力者が捕まる上にこの件を揉み消すことはできない。

すまないシャルロット、本来はお前が不利になるようなら切るカードだったんだが……」

 

「う、嘘でしょ兄さん」

 

「エリック、続けろ……」

 

エリックの言うように、これは本来ならシャルロットの主張を認めないデュノア社長への脅迫のために用意されたカードだった。

さらに言えばこのカードの本来の持ち主はエリックではなく、彼のところに事前に交渉に来たIS学園の一派のものだった。

そのため、このままカードを伏せたままにしておくことは、本来のシャルロットへの協力になるどころか妨害になるためできなかった。

 

「だから父さん、僕らと取引をしよう。

こちらの目的は父さんに協力した人物を炙り出すこと……

だから父さんの罪状を見逃す代わりにその人物たちを売って欲しい。

でも本当に何もしないっていうのは無理だから、形式的には何かしてもらうよ。

おそらくデュノア社を国営化するか、社長辞任のどちらかになると思うけど」

 

「それは本気で言っているのか?」

 

「嘘だと思うなら僕のことは無視して強行すればいい。

その場合IS学園の理事長と更識が相手だからお勧めはしない」

 

エリックの言う更識に簪は含まれているのかは分からないが、突然のことで2人は驚く。

そんな彼らをよそに、デュノア社長はこれらの発言が嘘ではないこと、相手が相手だけにこちら側の勝ち目がないことを悟り、その条件を飲んだ。

 

「まあ、しでかしたことに対しては小さく済んだと思うしかないな。

名残惜しいが私も引退か……エリック、次期社長として準備しておけよ」

 

「結局、シャルはどうなるんだ?」

 

「大丈夫だよ、そのあたりも含めて僕が交渉の窓口になってる。

具体的な決定は向こうと父さんの交渉次第だけど、期待してくれて良い」

 

「なんだよ、不安にさせやがって」

 

突然の切り出しで一夏は不安になったが、結果として当初の予定通りの条件が成立しそうで安心する。

これで今度こそこの会談における交渉が成立した。

実際にこれからどう行動するのかは、エリックを仲介役としてデュノア社長とIS学園側で行われる交渉において決定する。

そして全員が会議室を後にする時、デュノア社長はシャルルに声を掛ける。

 

「シャルロット、お前は織斑一夏の事をどう思う?」

 

「正体を明かしても一緒にいて良いって言ってくれて嬉しかった。

だから、“シャルロット”として一緒にいたいと思う……かな」

 

僕の正体を明かした後、最初にここにいても良いって言ってくれたのが一夏だった。

そこからシンや皆が僕のために力を貸してくれた。

 

「ははは、真実を知ってもお前を庇うためにここに来るほどの好青年だ。

これなら不正などせず、普通に入学させて彼の婿入りを期待するべきだったな。

いや、今からでも遅くはないか、彼なら私は歓迎するよ」

 

「と、父さん……一夏とは友達であって、そういうのじゃないから!?」

 

社長とテストパイロットではなく、父と娘としての久々の会話だった。

彼女は恥ずかしがって父の傍から駆け足で離れ、一夏の方へ向かっていく。

そして追いついたところで、気持ちを切り替えるために一夏に語りかける。

 

「ねえ一夏、なんで呼び方かえたの?」

 

「そりゃあ、あの場でシャルルって呼びたくなかったからかな。

今までの癖で呼んじゃいそうにならないようにシャルにしたんだけど、嫌だったか……」

 

「そんなことないよ……それと、今日はありがとう」

 

先ほどの父親の発言からか、一夏の言葉ひとつひとつを意識してしまい顔が赤くなる。

もう少しこの時間をゆっくりと過ごしたいと思いつつも、今は協力してくれた仲間たちに早く報告するために急いで帰ろうとする一夏に続いた。

 

 

 




今回はシャルをどうやって再入学させる流れに持ってくか悩みました。
そしてシグーの中の人はバレバレのあの人でした。


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第27話 臨海学校

臨海学校は前々から構想していたので、そんなに投稿が遅くなることはない
……と思います。



臨海学校当日、シン達はIS学園が所有するとある離島に来ていた。

2泊3日お世話になる宿の人たちに挨拶をし、各自部屋に荷物を置いて近くの浜辺に向かった。

 

「なあシン、今の状況が知られたら俺たち全国の男子に殺されそうだよな」

 

「ISスーツで見慣れてるから水着ぐらい今更……って言ったら余計にな」

 

初日は自由行動であり、浜辺いっぱいに広がって各々水着ではしゃいでいる女子たちを見て改めて自分たちの異質さを痛感する一夏とシン。

そう、目の前には沢山の水着の女子たちで溢れており、健全な男子高校生には刺激が強い。

しかし、幸か不幸か普段の実習でボディラインがはっきりと出るISスーツを着て行っているせいか、普通に会話するだけの余裕はあった。

 

「確かに、この光景見ても水着の選び方に性格が出てるよなーって感じだしな」

 

「逆に俺たちは普段ISスーツ着てるから、Tシャツ脱ぐのに抵抗感あるよな」

 

「なんの話しをてるの?」

 

海水パンツにTシャツスタイルの2人が話していると、シャルロットが話しかけてきた。

その姿は以前の男装した姿ではなく、本来の女性の姿で水着を着ていた。

本来ならデュノア社長が行動を起こすのは夏休みに入ってからであり、正式にシャルロット・デュノアとしてIS学園に復帰できるのは2学期からの予定ではあるが、本人の希望もあり、書類上はシャルル・デュノアのままであるが正体を明かして在籍している。

彼女の水着姿を見て、シンは先日の出来事がなければ正体を隠したままこの行事に参加するつもりだったのだろうかと考え、一夏は風呂場での出来事を思い出して赤面してしまった。

その反応でシャルの方も思い出してしまい、両腕で胸を隠しながら恥ずかしがる。

 

「一夏のえっち」

 

「なんでだよ!」

 

「お、他の皆も来たみたいだな」

 

シンの言葉通り、残りのメンバーも着替えてやってきた。

先ほど一夏も言っていたように水着にそれぞれの性格が表れていた。

 

「なんでISスーツ!?」

 

「愚問だな、いざという時にも動けないのでは意味はない。

となれば機能性・耐久性に優れ、水着としても使えるISスーツが最適だ」

 

シャルの問いに当然だと言わんばかりにラウラは答えた。

拳銃こそ持っていないが、両足のホルダーにナイフを入れており、その本気ぶりが伝わってくる。

 

「それじゃあさっそく泳ぐわよ。誰が速いか競争よ!」

 

「お、いいぜ。中学の時みたいに勝たせてもらうぜ」

 

「俺も久々に本気で泳いでみるか」

 

「なら私もだ、軍人としての実力を見せるいい機会だ」

 

「水泳には自信があるから僕も参加させてもらうよ」

 

鈴の提案に一夏が乗っかり、それに軍人組のシンとラウラが追従する。

水泳に自信のあるシャルも参加し、残りのセシリアと箒と簪は泳げないわけではないがスピード勝負するほどではないので審判を買って出た。

 

「ほう、面白そうだな。私も参加させてもらおうか?」

 

「ち、千冬姉!」

 

「だ、誰が相手でも不足はないわ!」

 

こうして、鈴、一夏、シン、ラウラ、シャル、千冬の6人で競争することになった。

これだけの人数、面子で行うとなれば先に浜辺で遊んでいた人たちも注目する事態となった。

大勢の応援を受けながら、シン達はスタート合図を受けて約1kmのコースを泳ぎ始めた。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

「ふ、まだまだ負けてやるつもりはないさ」

 

常に1位をキープし、最初にゴールしたのは織斑先生だった。

そのスピードは圧倒的であり、素人目に見ても勝ち目はなかった。

そしてなにより1kmという距離を常にハイペースで泳ぎ切った彼女はまさに化け物だった。

 

「くそッ、追いつけなかった!」

 

「まだまだ教官には届かないか」

 

それに少し遅れて、シン、ラウラの順でゴールした。

化け物じみた織斑先生に隠れがちだが、それにある程度食いついていた彼らもまた普通じゃないと観客皆は思っていた。

 

「織斑君頑張れー!」「鈴さんファイトー!」

 

シンとラウラが息を整えたあたりで、一夏と鈴がラストスパートをかけていた。

どっちが勝つか分からないデッドヒートに辺りは2人への応援で盛り上がっていた。

 

「「プハッ、俺(私)の勝ちだ(よ)!」」

 

同時にゴールした2人は声を上げる。

しかしお遊び企画なので厳密なゴール審判はしていないため、結果は引き分けだった。

そしてその後ろからシャルがゴールし、全員が戻ってきた。

 

「ぜえ……ぜえ……なんで……あのペースで……泳ぎ切れるの……どれだけ……体力が……」

 

正直、ここまで廃スペックが求められる勝負になるとはシャルは思っていなかった。

シャルとて一般人から見ればかなりの身体能力ではある。

事実、500m地点までは織斑先生を追いかける2人につられてハイペースになってはいたが、一夏よりも前にいたのだ。

 

「誰も1kmコースなことに疑問が湧かなかった時点で、彼らの体力を推し測るべきでしたね」

 

「セシリアの言う通りだ。

千冬さんが規格外なのはいつもの事だが、一夏もなんやかんやであの人の弟だしな」

 

「もしかしたらお姉ちゃん以上かも……」

 

その後は水泳競争が盛り上がったからか、他の生徒たちで競争してみたり、チームを作ってビーチバレーをしたりと、臨海学校初日は楽しいひと時となった。

ひとしきり遊んだあとは、旅館で夕食や温泉を満喫して就寝した。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

翌日、生徒全員がISスーツを着て実地における訓練実習の説明を聞く。

現在ISはスポーツという形になっており、基本的にはアリーナ内部で行われるものだが、非常事態における自衛・防衛・救助などの理由でISを使用する可能性がある。

そのため、エリアが限定されない状況下における注意事項やISの使用感覚を学ぶ事がこの臨海学校の本来の目的である。

 

「それでは、各グループに分かれて順番に実習を――」

 

「ちーーーーちゃーーーーん!!!!」

 

織斑先生の説明が終わりかけたころ、上空から甲高い女性の声が響いてくる。

いや、それだけではなく何かが高速で接近するような音も一緒に――

 

「全員伏せろ!」

 

織斑先生の叫びと共に何かが近くに落ちた。

幸い大きな衝撃や四散物はなく、伏せていた生徒たちは順々に立ち上がってそちらを見る。

するとそこから女性が出てきて、勢いよく織斑先生に突っ込んでいく。

 

「ちーちゃん、久しぶりだね」

 

「なんでお前がここにいるんだ……」

 

突っ込んできた女性を手で止めながら、織斑先生は呆れている。

その対応から知り合いだとは思うが、謎の女性が現れて生徒たちは混乱していた。

 

「えっと……織斑先生、彼女は?」

 

「篠ノ之束、ISの生みの親だ」

 

「「ええええーーーー!!!!」」

 

このピンクの長髪に謎のうさ耳を付けた人物が、あの天災だという事実に驚きしかなかった。

この反応は想定済みなのか織斑先生は全てを諦めていた。

 

「あ、束さんお久しぶりです」

 

「いっくん久しぶり。どう白式は、束さん謹製だからもう凄いでしょ!」

 

「ええ、色々と凄いISだと思います」

 

「初めまして博士、わたくしはイギリスの代表候補生のセシリア・オルコットですわ」

 

彼女を知る一夏が話しているうちに冷静さを取り戻したセシリアが挨拶をする。

しかし帰ってきたのは予想もしない言葉だった。

 

「ああ、BTとかいうフルスペックを出せるパイロットがいない装備を作った国の人ね」

 

「おい、アンタいきなり何を――」

 

その物言いに頭に来たシンが言い返そうとするが、それより先に彼女が近づいてきた。

そしてシンをジロジロ見ながら言い返す。

 

「いきなりアンタ呼ばわりとはひどいなー。

そういう君こそ、何でここに居るのかな……

 

 

 

ISを使えないなら帰ってよね」

 

 

 

最後だけ今までの軽い口調ではなく、わざわざシンにしか聞こえないように話してきた。

恐らく彼女はインパルスについて知っている。

その事実にシンは驚き、どう対処しようか思考を巡らせる。

しかし彼女はまだ何か気になることがあるのか、まだシンのことをジロジロ見ている。

 

「んー、おおそうだ。君、妹いるでしょ。

どっかで見たことあるなーって思ったら、探してるって言ってた写真の男の子だ。

いやー束さん、うっかり忘れるところだったよー」

 

「それはホントか!?」

 

驚いた――

 

戸惑った――

 

不思議だった――

 

疑問だった――

 

嬉しかった――

 

突然の出来事に一瞬で様々な感情が駆け巡り、束に詰め寄った。

“あの日”から4年経つだろうが、クルーゼさんのようにマユもこの世界に来たのかもしれない。

 

「実際どうするかは、一応人違いじゃないか帰って確認してからだけどね」

 

興奮気味のシンに落ち着けとジェスチャーをしながら確認を取ると言う。

周囲の目もあったためここは抑えて次の言葉を待つシンだったが、束はそんな事お構いなしに感じていたことをそのまま言い放つ、

 

「でも正直がっかりだよ、探し人がISモドキ使ってるなんてさー。

例のシグーと言い、折角のコアをこんなゴミみたいな機体にするなんて馬鹿みたいだよ」

 

「束、その辺にしろ」

 

これ以上はいけないと判断したのか、織斑先生が束を制止する。

シンも何か言い返したかったが、織斑先生に目で止められたため何も言わなかった。

彼女もそろそろ本題に入りたかったのか、素直に言うことを聞いて仕切り直した。

 

「それじゃあ改めて、箒ちゃん誕生日おめでとー。

今日はプレゼントを持ってきたよ」

 

「な、姉さん。何で今になってこんな……」

 

「だって、折角IS学園に入ったんだもん。

そこで束さんは、気合いを入れて箒ちゃんの専用機をコアから作ってきました!」

 

そう言って自分が落ちてきた何かの方へ視線を誘導する。

そこには赤色のISが1機鎮座していた。

 

「この子の名前は紅椿……世界に2機しかない第4世代型ISだよ。

さあ、フィッティングするから早く乗って」

 

しかし箒はその言葉に従わず、困惑したまま立ち尽くしていた。

そして先ほどまでとは間違った雰囲気がこの空間を覆った。

 

「姉さんの妹だという理由だけで、その機体に乗っていいのか?」

 

ある意味、ここに居る生徒の大多数を占める感情の代弁だった。

困惑から不安になる箒に声をかけたのはシャルロットと簪だった。

 

「良いと思うよ。僕だって社長の子供ってだけで専用機貰ってるからね」

 

「おそらくコアから箒さん専用に調整されていると思う。

あの人の事だから既に他人には乗れないようになっていても不思議じゃない。

だからもう貴女が乗るしかない」

 

2人の言葉で少し気が楽になった。

あの姉の事だから自分以外には使わせる気はないことは分かる。

そして織斑先生の言葉が、最後に背中を押した。

 

「篠ノ之、“刀は振ったようにしか振れない”……私はISも同じようなものだと思っている」

 

「……はい!」

 

箒は覚悟を決めて紅椿の調整に向かった。

そして彼女抜きで実習を再開しようとしたとき、山田先生が血相を書いて走ってきた。

 

「織斑先生、大変です!」

 

彼女が伝えた内容、それは実験中のISが暴走しこちらに向かっているというものだった。

それは篠ノ之束の登場より厄介なものだった。

 

 

 




束さんの言動を表現するのが難しいです。
そしてシンが良い意味でも悪い意味でも彼女に目を付けられました。


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第28話 銀の福音Ⅰ

Wiki見てたら千冬さんの身長166cmてあってビックリしました。
一夏(172cm)より背が高いイメージだったので、シン(168cm)とほぼ同じなのは意外でした。
あ、ここのシンは原作終了から結構時間が経過しているので、身長は一夏とほぼ同じくらいです。



実験中のISが暴走し太平洋を横断している。

この機体を洋上で確保するために、臨海学校中のIS学園に協力が要請された。

この要請を受け、実習は中止され生徒は旅館の部屋で待機することになった。

その中でシン、一夏、セシリア、鈴、ラウラ、シャル、簪は専用機持ちということで先生たちのいる臨時管制室に集まっていた。

 

「緊急事態ではあるが、専用機を持ったお前たちにやってもらうことがある」

 

「この島の防衛や周辺の海上封鎖の手伝いですか?」

 

織斑先生の発言に緊張から息をのむ者が多い中、シンが率先して発言をする。

専用機持ちとは言え学生に担当させる役割というのはたかが知れているため、皆の緊張を解すための質問だった。

しかし、返ってきたのは予想外の答えだった。

 

「いや、ターゲットと交戦して確保してもらう」

 

「教官方にもISはあるはずです。なぜ我々が?」

 

「それについては私から……まずはこのデータを見てください」

 

ラウラとしては軍人である以上、自分が交戦すること自体は問題ではないが、他の者は代表候補生とはいえ学生という立場であり、交戦する教師陣の援護をすることはあっても最初から直接交戦させることは合理的ではないため理由を問う。

そして、その質問に答えるために山田先生がターゲットの情報を見せる。

 

「無人機だって!?」「これインパルスより速いぞ」「ハァ!? 何このふざけた数値」

「う、嘘ですわよね?」「想像以上だ」「ラファールじゃ無理だよ」「よくこんなISを……」

 

そこに記されたシルバリオ・ゴスペル(銀の福音)というISの圧倒的なスペックに全員が驚愕する。

アメリカ・イスラエル共同で開発した第3世代型ISであり、広域殲滅を主眼に置いた機体である。

武装はメインスラスターに組み込まれた広域殲滅用の特殊射撃兵装一つだけだが、36の砲口から高密度に圧縮されたエネルギー弾を発射できるため圧倒的な制圧能力を誇る。

だが、この機体の最大の特徴は何といっても無人機として開発されたことだろう。

そのため有人による制限を考慮する必要がなくなり、性能を極限まで高めた大型のメインスラスターと両手両足に補助ブースターを搭載することで、現行機をはるかに上回る機動力を得ている。

この現行機を凌駕した機体性能は、最強の第3世代型ISと言っても過言ではない程のものだった。

 

しかし、現在の無人機の技術ではこの機体をフルスペックで動かすことはできず、今回の開発の目的も人間の代替となりえる無人機技術の発展がメインであった。

それがどういうわけか暴走してしまった。

このスペックの機体を止めるのに第2世代型ISでは圧倒的に力不足であるため、第3世代型ISに対抗してもらうしかなかった。

さらになぜIS学園が対応しなければならないのかと言うと、銀の福音の武装の性質上、戦闘時に流れ弾が確実に発生してしまうため被害を最小限に抑えるために洋上で対応しなければならない。

だが各国の軍は洋上への展開が間に合わず、どうしても上陸時に迎撃する形になってしまうため、たまたま近くにいるIS学園に頼んだというわけである。

 

「教員たちのISではターゲットに太刀打ちできません。

そのためどうしても第3世代型を持つあなたたちの力が必要なんです」

 

「作戦としては織斑・アスカ・オルコットが先行し、足止めをして後続を待つ。

合流後は全員で相手をしながら、織斑の零落白夜で落としてもらうつもりだったが……」

 

「事情は分かりました。

ですが訓練を受けていない者が第3世代型ISで出撃をしても本来の実力が発揮できず、作戦に支障が出ると思われます」

 

事情は理解したが山田先生と織斑先生の案にラウラは異議を唱える。

機体性能を考えれば、このような結論になるのは分かるのだが、一歩間違えば大惨事になりかねないこの状況で、スポーツとしてISを動かしてきた彼らを矢面に立たせるには不安が大きすぎる。

 

「ならボーデヴィッヒ、お前から見て作戦に連れて行けるのは誰だ」

 

「私とシン……それとセシリアです。

シンは軍用機との訓練経験があり、他の者は私の知る限り訓練を受けていません。

ですがその中でもセシリアは状況判断能力の高さから可能と判断しました」

 

シンについては本当はCEでの経験からだが、それをこの場で言うことではないため、ドイツにいるときに訓練経験があることにした。

実際に軍用機相手にインパルスの稼働テストをしているため嘘ではないが、1回しかしてない上にあくまで稼働テストだったため、もしこれがシンでなければラウラは選ばなかっただろう。

 

「待ってラウラさん……更識家の一員として私も訓練は受けてる。

専用機はまだ素体しか完成してないけど、私も行けます」

 

軍人のラウラ、訓練経験のあるシンと簪、この状況でも普段通りに動けると判断されたセシリアであれば、先ほどラウラの言った懸念は起きないだろうと織斑先生も思った。

 

「よし、良いだろう。アスカ、オルコットお前たちはどうだ」

 

「俺はいつでも行けます」

 

「わたくしもですわ」

 

本人たちの了承も得られたため、この4人を中心にした作戦を考える。

当初の予定より減った人数は教員で穴埋めしたとしても、機体性能に不安が残る。

 

「待ってくれ千冬姉、俺も行く! 俺の零落白夜ならそいつを倒せるんだろ!?」

 

「そう熱くなるな。お前にはお前でやってもらうことがある」

 

「でも、あいつをどっかの国に上陸させたら被害が広がるんだろ!?

それなのにここで黙って見てろって言うのかよ」

 

「ちょっと一夏、落ち着いて」

 

「そうよ、この島の防衛とか、海上封鎖とか私達にも仕事はあるんだから。

そりゃあ、私だって行ける事なら行きたいけどさ……」

 

銀の福音による被害を事前に防ぐため、一夏は自分もと名乗りを上げる。

せっかく白式と零落白夜という力があるのに、それを守るために振るえないのが嫌だった。

だが今回はスポーツという範疇を超えた出来事のため、シンは一夏に留まるように説得する。

 

「一夏、今回の相手は今までとは違うんだ。

気持ちは分かるが今回は俺たちに任せてくれないか?」

 

「分かった……でも、何かあったらすぐ駆けつけるからな」

 

一夏は完全には納得しなかったが、これ以上言っても自分の意見は通らないし、何より仲間が任せろといったのだから信頼することにした。

一夏が黙ったところで織斑先生が部隊編成を告げた。

 

「では、私・ボーデヴィッヒ・アスカ・オルコット・更識でターゲットと交戦する。

そして海上封鎖はISを持った教師が行い、凰・デュノア・織斑でここの防衛を行う。

山田先生はそれらを統括する通信管制を頼む……何か質問は?」

 

「教官、ISの編成はどうしますか?

今回は敵が敵だけに、可能な限り第3世代型を前に出したいのですが……」

 

「1対1なら私は打鉄でも負ける気はしない……

が、それはあくまで相手が私との勝負を真っ向から受けた場合だ。

逃げに徹されると捕まえるのは不可能だ。

ボーデヴィッヒ、何か案はあるか?」

 

「はい、教官が白式、簪が甲龍、一夏に打鉄、鈴に弐式です」

 

ワンオフ・アビリティこそ使えなくなるものの、戦闘スタイルが同じ織斑先生であれば白式の装備が刀1本しかないことなどデメリットにはならない。

そして簪には未完成の機体を使わせるよりは、使用に特別な適性が必要ない甲龍で出撃してもらう方が作戦成功率は高くなるとラウラは考えた。

 

「なるほど、更識、織斑、凰、異議はあるか?」

 

「「いいえ!」」

 

「よし、では各自競技用のリミッターを解除して機体を交換し――」

 

「ちょっと待ったーー!!」

 

それぞれが作戦準備に取り掛かろうとしたとき、管制室に束が乱入してきた。

どうやら箒を無理やり連れてきたらしく、彼女の後ろで申し訳なさそうにこちらを見ている。

 

「わざわざそんなことしなくても、箒ちゃんが紅椿で出れば万事オッケーだって!」

 

「束、今までの話の流れで篠ノ之を向かわせると思っているのか?」

 

「えーいいじゃん。紅椿のスペックなら銀の福音に対抗できるって」

 

そう言うと束は紅椿のデータを千冬に見せた。

束謹製の第4世代型ISということで覚悟はしていたが、彼女の言う通り対抗できるだけの機体性能を有していた。

が、一夏たちをここに残すと決めた以上箒を前線へ出すわけにもいかなかった。

 

「なら篠ノ之には、織斑たちと共にここの防衛をして貰う。

篠ノ之も準備に取り掛かれ……束もそれでいいな」

 

とはいえ折角の戦力であるので、一夏たちと拠点防衛に当たってもらうことにした。

束としては不服だったがこれ以上は物理的に止められそうな気配がしたため、何も言わなかった。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

各自の準備が終わり、後は開始の合図を待つだけである。

一夏は教員用の打鉄に乗りながらエネルギー残量を眺めている。

今まで800だったものが競技用のリミッターを解除したことで10000と表示されている。

これはISの全エネルギーであり、今まではリミッターがかかっていたためエネルギーが0になっても実際には9200のエネルギーが残っていたからしばらくは普通に動くことができたが、これが0になれば完全に機体が停止してしまう。

PICも絶対防御も操縦者保護機能も全てが止まるため、戦場でこのエネルギーを全てなくしてしまえばあとは死を待つだけである。

 

「緊急事態ではあるが我々はあくまで協力者だ。いざというときは自分の命を優先しろ」

 

『時間です……織斑先生、アスカ君、オルコットさんは出発してください』

 

「よし、白式出るぞ」

 

全員を舞妓するような力強い声を残して織斑先生が出撃する。

 

「シン・アスカ、インパルス行きます」

 

それが当たり前であるかのような自然な振る舞いでシンが続く。

 

「セシリア・オルコット、ブルー・ティアーズ行きますわよ」

 

プレッシャーを物ともせず自信をもってセシリアも続く。

 

『では、後続のラウラさんと簪さんも出発してください』

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、シュヴァルツェア・レーゲン出撃する」

 

この事態でも努めて冷静なラウラが出撃する。

 

「更識簪、甲龍で出ます」

 

機体が変わっても普段通りの動きで最後に簪が出撃する。

出撃した5人を見送りながら一夏たちも配置につき、いよいよ作戦が実行される。

 

 

 




一時的に別機体にのる展開っていいですよね。
シンもいつかはインパルス以外にも乗せてあげたいと思ってます。


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第29話 銀の福音Ⅱ

もうすぐクリスマスですが、皆さんはどう過ごされますか?
彼女のいない私は恐らく修論で終わると思います。(年末年始も)



インパルス、白式、ブルー・ティアーズが先行し、視界の先に銀の福音を捉える。

どうやら先に見つけたのはこちらだったようで、先制攻撃を仕掛ける。

 

「相手はまだこちらに気付いていないな……アスカ、オルコット狙撃しろ。

その間に近づく!」

 

「「了解!」」

 

織斑先生の指示通り、シンはスナイパーライフルで、セシリアはスターライトで狙撃をした。

こちらに気付いていなかった銀の福音は回避行動をすることなく直撃した。

 

「はああああ!」

 

そこに白式に乗った織斑先生が飛び込み、すれ違いざまに雪片弐型で一閃する。

ここでようやく銀の福音はこちらを敵と認識して高速移動をやめるが、反転と同時に瞬時加速をした織斑先生が二発目を食らわせる。

その間にシンとセシリアは別々の方向に分かれ、銀の福音がどの方向へ逃げ出しても対応できるように位置取りする。

 

「このまま一気に決めさせてもらう」

 

 

 

反転――瞬時加速――斬り抜け――

 

反転――瞬時加速――斬り抜け――

 

反転――瞬時加速――斬り抜け――

 

反転――瞬時加速――斬り抜け――

 

反転――瞬時加速――斬り抜け――

 

 

 

シンとセシリアが援護する相間もなく、織斑先生の反転した直後に瞬時加速からの一閃による連続攻撃が銀の福音に襲い掛かる。

だがこのまま受け続けてくれるわけはなく、翼を広げて周囲に弾をばら撒き始めた。

 

「逃がしませんわよ!」

 

織斑先生の連続攻撃から逃れた銀の福音にセシリアが攻撃する。

狙撃が命中したことで動きが止まるも、銀の福音は弾をばら撒きながら離脱する。

 

「逃がさないと言ったろ!」

 

逃げようとする銀の福音の背後に光の翼を展開したインパルスがピッタリとくっ付く。

シンは最大まで加速させたバスターソードを相手の翼に叩き付ける。

その衝撃は凄まじく、夕暮れの洋上に巨大な衝突音が響き渡る。

 

「なんて堅さとパワーだよコイツは」

 

銀の福音は剣ごとその衝撃を受けとめ、空中で静止している。

渾身の一撃を無傷で受け止めるほど堅固なバリアと空中で位置を維持するほどの出力に驚く。

そんなシンを憐れむかのように銀の福音はその両翼でインパルスを包み込もうとする。

 

「だが、足は止まった」

 

シンが離れると同時に織斑先生が瞬時加速で斬りかかる。

銀の福音は数回斬られながらもエネルギー弾で牽制して距離を取ろうとする。

そして後続の2人も合流しより、銀の福音に攻撃を加える。

ラウラがレールカノンで牽制し、回避先に龍咆を撃ち込む。

 

「よし、このまま奴を落とすぞ」

 

全員が合流したことでセシリアはBTを2基切り離してより攻撃に集中する。

さすがにこの人数が相手では逃げ切れないと判断したのか、銀の福音も応戦する。

特に織斑先生の連撃が堪えたのか、接近されないように彼女を執拗に攻撃している。

 

「くっ、これでは近づけん……」

 

簪は単発の出力を下げて連射性を上げた左の龍咆で牽制し、逆に単発の出力を上げて精密性を上げた右の龍咆で狙撃をする。

その攻撃から逃げようとする銀の福音を、シンが光の翼で機動力に対抗しながらビームライフルとビームサーベルで抑え込む。

そこにラウラのレールカノン、セシリアのBTとスターライトによる援護を受けた織斑先生が接近戦を仕掛けてはいるが、その機動力からなかなか相手に有効打を与えることができず、エネルギーだけがいたずらに消費されていった。

 

「私がAICで奴の動きを止める。援護を頼む」

 

ラウラの要請を受けてまずは簪が左右両門の龍咆を連射する。

シンはその隙にブラストに換装してミサイルを全弾放つが、銀の福音はその機動力と武装から龍咆とミサイルを全て回避する。

だがそれは想定されていたことであり、そちらに意識が向いているところにレールガンとビームランチャーのフルバーストをわざと収束させないで放つ。

意図を察したセシリアがBTとスターライトで援護をする。

 

「これで終わりだ、銀の福音!」

 

無人機である銀の福音は、センサーの情報から正確にシンとセシリアの攻撃が当たらない隙間に潜り込んで回避する。

その瞬間を狙って瞬時加速で接近したラウラがAICで拘束する。

そして背後から雪片を構えた織斑先生が近付き、銀の福音に一太刀浴びせる。

だが次の瞬間、銀の福音は体を大きく揺らしながら両翼から見境なしにエネルギー弾をばら撒き始めた。

 

「うぐっ」

 

突然の変貌に対応できなかった2人は直撃を受けてしまい、AICも解除されてしまう。

その姿はまさしく荒れ狂う人間のようで、その自慢の機動力ででたらめに飛び回っている。

その無差別な制圧能力は圧倒的であり、フォースに戻したシンでさえ回避に専念するほどだった。

 

「わたくしのBTが!」

 

各自が回避に専念しつつも、任務を遂行しようと包囲網を維持していたが限界があった。

そのエネルギー弾を高速広範囲にばら撒く荒れ狂った攻撃の前では、セシリアといえど機体と分離した2基のBTを回避させ続けることはできず、BTが破壊されてしまった。

 

「ま、待って」

 

そんな状況が続けば包囲網を維持できるはずもなく、簪の言葉もむなしく突破されてしまう。

包囲網を抜けた銀の福音は、攻撃をやめてとある方向へ一直線に加速した。

最初の進行方向とは別の方向へ向かったことに嫌な予感がした。

そしてその予感は、織斑先生によって現実であったと知ることになった。

 

「アスカ、全力で追え! 奴は我々のいた島に向かっている!」

 

モニターに映っている位置情報を見てみると、確かに銀の福音の進行方向と自分たちが臨海学校で訪れていた島が重なっていた。

シンはインパルスの翼を全開にして最大出力の光の翼とスラスターで加速する。

他の皆もそれに続くように各自最大速度で追従する。

 

「くっ、間に合ええええ!」

 

自分以外を置き去りにするほどの速度で追っているのに、銀の福音との距離は開く一方だった。

それでも島に居る皆を守るために必死に追い続けた。

 

 

 

その時、頭の中で何かが弾けた――

 

 

 

頭の中がクリアになり、全ての感覚が広がるのを感じた。

CEの戦場で幾度となく経験したこの状態に懐かしさを感じながら、シンは銀の福音を追う。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

銀の福音が接近しているという通信を受け一夏たちは迎撃態勢を取る。

今旅館では、万が一に備えて避難の準備をしている。

 

「皆大丈夫かな……」

 

「ターゲットは包囲を振り切って来たって話だから心配しなくて大丈夫よ」

 

不安になった一夏を鈴が励ますが、その表情は硬かった。

あの5人を振り切るような奴を相手に、専用機を貸した自分たちが抑えなければならない。

 

「先生、相手の状態はどうなってますか?」

 

『エネルギーは減っていると思いますが、機体の損傷はありません』

 

シャルが山田先生に相手の状態を聞く。

こちらの戦力では撃破は無理――となれば島の安全を確保したうえで、追いかけてくるであろう交戦部隊と挟み撃ちにするのが最善だと判断する。

 

「私と箒であいつを抑えるから、2人は島への流れ弾を防いでちょうだい。

特に一夏! あんたは今白式じゃないんだから、無茶して前へ出ようとしないでよ!」

 

「う……分かったよ」

 

鈴は皆に指示を出すと、一夏に前へ出ないように釘をさす。

先手を打たれた一夏は、鈴の勢いに乗せられて了承する。

 

「それと箒、あんたは何も考えずにその新型で暴れてきなさい」

 

「何故だ? 私とシャルロットは逆の方がいいと思うのだが……?」

 

「言いたくないけど、篠之ノ博士が作ったそのISしかスペックで対抗できないのよ。

それに私が使ってるISは未完成の機体を急造で動かせるようにしてあるだけ……

ベースが第3世代型ISだから、訓練機よりはましだけどね。

あと、このISの武器は銃器中心だから、近接型のあんたと足並みが揃わないの。

性分じゃないけどフォローは全部私がやるから、あんたは何も考えずにその機体のスペックを引き出してくれればいいわ」

 

「分かった、なら後ろは任せたぞ」

 

残存戦力の機体性能を考えると、紅椿しか対抗できるISがないため箒に頼んだ。

だが、専用機を受領したばかりの彼女にこの非常事態においても戦闘をしながら周りに気を配る事まで要求するのは無理がある。

そのため鈴は、箒を戦闘に集中させることにして、それによって必要となるフォローを自分がすべて受け持つことにした。

 

『まもなくターゲットが来ます。皆さん気を付けてください』

 

役割分担が決まったところで山田先生から通信が入る。

各自のセンサーにも高速で島へ向かってくる銀の福音が映る。

 

「さあて、来たわね。良い、千冬さんたちが来るまでここで抑えるわよ!」

 

鈴の号令に気合いを入れるように返事をする。

紅椿に乗った箒が銀の福音に向かって飛び出し、そのあとを鈴が着いていく。

そして一夏とシャルがその場に残り、島の防衛に備える。

 

 

 




人数が多い戦闘シーンを書くのって難しいですね。
せっかく乗り換えたのにうまく表現できなかった気がします。
こういう一時的に別の機体に乗る展開が好きなので、また機会があればやろうと思ってます。


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第30話 銀の福音Ⅲ

12月中に投稿する予定が気付けば2月になってました。
1月は修士論文を書かなきゃいけないのにインフルエンザになったりしましたが、何とか期日までに完成させることができました。
皆さんもインフルエンザには気を付けてください。



夕暮れの洋上で、銀の福音と紅椿がぶつかり合う。

紅椿はそれぞれ攻撃・防御・機動と切り替えることができる展開装甲を持ち、それによりパッケージ換装なしで全ての状況に対応できるようにした第4世代型ISである。

機動力重視で装甲を展開した紅椿は銀の福音を超える機動力を有しており、初搭乗で不慣れな箒は、そのスピードに振り回されながらも肉薄する。

 

「これでは確かに、周りを気にしている余裕は無いな」

 

スピードは足りると言っても、気を抜けばエネルギー弾の嵐が直撃する。

鈴の援護を受けながらそれらを掻い潜り、二刀を振る事が出来たとしても、反撃されればその間合いを保つことはできない。

箒や鈴が避けたエネルギー弾の大半は海や空に消えていったが、それでもいくつかは島へ向かってしまい、そのたびに一夏とシャルが食い止めている。

島からさほど離れていない場所で戦闘しているため仕方のないことではあるが、銀の福音と対峙している鈴はできれば押し返したいと思っている。

 

「こっから先には行かせないわよ!」

 

鈴は拡張領域からビームライフルとバズーカを取り出すと、景気よく連射する。

そしてその攻撃でできた一瞬の隙を付いて、特化重粒子砲をぶちかます。

回避こそされたものの箒が接近するには十分だった。

 

「……」

 

銀の福音に神経を研ぎ澄ました箒の一閃が炸裂する。

そのまま連撃に移ろうとしたが、銀の福音の両翼が光り輝いている。

 

「箒、下がれ!」

 

どこからともなく聞こえてきたシンの声に箒が反射的に後退した瞬間、目の前にいる銀の福音に光の翼を広げ大剣を構えたインパルスが弾丸の如く突っ込むと、激しい金属同士の激突音と共に吹き飛んでいく。

その様子を見ていた鈴はパイロットにかかる衝撃を想像してしまい声を上げそうになるが、2機の状況を認識するとそれも引っ込んでしまった。

超高速による突撃をもってしてもバリアを貫くことはできず、銀の福音は大剣を脇に抱えてインパルスの速度を殺している。

バリアの堅さを知っているシンは即座にブラストに換装するとミサイルとレールガンを全門斉射し、衝撃で離れたところにビームランチャーを叩き込む。

だが銀の福音も黙ってやられるわけもなく、ランチャーが発射されるまでの一瞬で反撃する。

 

「ハァハァ……間に合った」

 

「あんた、無茶しすぎよ……って、こいつ相手じゃそれでも足りないんでしょうけど!」

 

あれだけの攻撃を受けたというのに銀の福音はいまだ健在だった。

フォースに戻したシンは何事もなかったように箒と共に銀の福音に立ち向かっていく。

人数が増えたからか、銀の福音はより一層自身の得意とする中距離を維持しようとする。

 

「ええい、逃げるな!」

 

数度の接近をことごとく躱されてしまった箒はその感情を吐き出す。

銀の福音の攻撃を避けながら次の接近の準備をしていると、一筋の閃光が走る。

その次の瞬間には白いISが高速で接近し、銀の福音に襲い掛かる。

 

「さすがにそう何度も通用しないか……」

 

「千冬姉!」

 

奇襲を回避した銀の福音を逃がさないよう、追いついてきたメンバーが展開する。

全員が合流したことで鈴は肩の荷が下りたものの、変わらず動き続けながら指示を待つ。

 

「私は避難誘導に回る。織斑、白式を返すから私と共に来い。

残りの者はボーデヴィッヒの指揮に従い、作戦を続行しろ」

 

「「了解」」

 

合流して早々に織斑先生は指示を出すと、一夏を連れて島へ戻る。

残って戦う皆に後ろ髪引かれつつも、一夏は今まで気になっていたことを聞いた。

 

「なあ千冬姉、何でアイツはあれだけ暴れまわってるのにピンピンしてるんだ?」

 

銀の福音はアメリカでの起動実験中に暴走して太平洋を横断した。

その後の交戦で砲撃やバリアでISのエネルギーはかなり消耗しているはずであるのに関わらず、変わらず動き回っているのが不思議だった。

 

「……ISにおいて最もエネルギーを消費するのは何だと思う?」

 

「絶対防御じゃないのか?」

 

「半分正解だ……正解は絶対防御を含む操縦者保護機能全般だ。

パイロットと機体の接続、バイタル測定と生命維持装置、重力や衝撃からの負担を軽減する慣性制御など、ISには絶対防御と合わせてパイロットを守る幾多の機能が搭載されている。

ISのエネルギーの多くはこれらの機能に割かれているため、パイロットのいない無人機であればその分のリソースを稼働時間や武装に回せるというわけだ」

 

普通に戦闘するだけでも有人機であるこちらはエネルギー的に不利である。

さらに無人化の恩恵で機体性能も突出している以上、こちらには数しか優位性がない。

 

「私はこれから山田先生と避難誘導を行う。お前は白式に乗りなおして急いで戻れ」

 

「分かった、行ってくる」

 

一夏は乗っていた打鉄を織斑先生に渡し、代わりに白式を受け取った。

白式を展開するとスラスターを全開にして皆の所へと飛んで行った。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

一夏も合流して銀の福音に立ち向かうが、一向に墜ちる気配がない。

全員が合流してから本気を出したのか、銀の福音は持ち前の高機動を思う存分発揮している。

 

「ああああ、なによこの無人機!

脳ミソが2つも付いてるみたいであの時と全然違うじゃない」

 

クラス対抗戦とは全く違う動きの無人機に鈴は苛立ちをぶつける。

自身が高速で移動しながらも、正確な射撃で牽制や本命を撃ち込んでくる姿に、鈴は移動と攻撃で脳が分かれてるんじゃないのかと思った。

 

「複座でここまで動ければ最高のコンビだ……だからこそ、無人機とは厄介なものだ」

 

人間同士では相手の思考を推測することはできても直接読むことはできない。

だが機械同士であれば、並列で計算された結果を随時相手側に渡すことで、自身の計算にフィードバックすることができる。

そこに一切の誤解はなく、情報は過不足なく正確に相手側に伝わる。

本来であればこれは無人機の目指す理想形であり、開発者はその理想形を目指して日々研究・開発・試験を繰り返しているはずのものだ。

この銀の福音とて、その過程で生まれた機体であったはずだ。

 

そしてラウラは疑問に思う。

以前に公開された資料では、単純な移動と攻撃くらいしかできなかったはずだ。

ISではないがドイツ軍も無人機の研究はしており、その成果は似たり寄ったりである。

公開資料では本来の性能を隠している事も考えられるが、暴走しただけでこうも的確な回避や攻撃ができるようになるものなのだろうか。

それに、自分は見ていないがIS学園に無人機が乱入した事件があり、そちらのAIも人間に近い動きができるそうだ。

世界レベルで見ても年代を飛び抜けた性能差を見せるAIが、IS学園に乱入した無人機と銀の福音を動かしているのでれば、その製作者は同じ可能性が高い。

その因果を調べるためにも、ここで何としても銀の福音を確保しておきたい。

 

(作戦を開始してからかなりの時間が経つ。

各自の疲労や重圧を考えても早々に手を打ちたいところだが……)

 

まず自分自身の状態が良くない。

既にレールカノンは弾切れを起こし、機体のエネルギー残量は約1500にまで減っている。

シールドを張って強引に接近してAICを使うには心許ない量だ。

だからこそ、中遠距離から攻撃しつつここぞという時にAICを使いたいのだが、肝心の攻撃手段がないため、今はシンから予備のビームライフルを借りている状態だった。

 

「ええい、そろそろ落ちろって!」

 

雪片がことごとく回避されて若干焦りが見られるが、一夏は今のところ問題はない。

最初は織斑先生が乗っていたこともあり、白式のエネルギー残量は約2200ある。

零落白夜を使うには十分なエネルギー量であり、機体の損傷もなく、本人もようやく前に出られるようになって体力・気力共に充実している。

 

「俺とセシリアで頭を叩く!」

 

シンはインパルスの機動力を持って箒と一緒に近接戦を仕掛けたり、セシリアと連携して牽制射撃を行ったりと、その動きには目を見張るものがある。

そんな激しい戦闘をずっと続けているにもかかわらず、エネルギー残量は約1700ある。

銀の福音を相手にするために展開し続けている光の翼は決して燃費の良い兵装ではないが、奴と似たような理由で継戦能力が向上しているのは喜ぶべきなのかは分からなかった。

だが、機体本体の損傷こそないが度重なる攻防のせいでバスターソードと物理シールドが破壊されており、予備のシールドもいつ壊れてもおかしくない状態だった。

シン自身はCEの経験からか疲れた様子はなく、集中力を維持している。

 

「大丈夫、甲龍はまだ動く」

 

銀の福音を足止めするために、簪は攻撃を回避しつつ龍咆で弾幕を張る。

甲龍の損傷はないが、龍咆を打ち続けていたせいかエネルギー残量は約1400になる。

その顔には長時間の戦闘による疲労が表れているものの、本人が訓練を積んでいると言っていたように、動きには表れていない。

 

「……」

 

簪に続いてセシリアがBTによる牽制射撃で援護する。

だがBT 2基をフル稼働しているため、機体のエネルギー残量は1100を下回っている。

ラウラはパイロットの安全を考慮してエネルギーが1000を切った者は撤退させるつもりだ。

途中でBT2基を失ったことでまだ基準値は切っていないが、人数が減れば任務成功率にも影響するため、できればその前に決着を付けたい。

セシリア自身は戦闘に集中しているためか呼びかけても反応は返ってこないが、指示には従っているところを見ると声が聞こえない程ではないようだ。

BT2基を操りながらブルー・ティアーズ自体の回避と狙撃を長時間続けるその集中力は、ラウラですら驚くものであったが、それに甘えるわけにはいかなかった。

 

「よし、ドンピシャ! このまま行くわよ!」

 

無言のまま完全に集中しているセシリアに対し、鈴は良く声を出している。

銀の福音に対抗して手持ちの銃火器で弾幕を張っているが、機体が急造の第3世代型ISであるのもあり、エネルギー残量は約2500と余裕がある。

全体の指揮はラウラがするため、味方への発破や攻撃時の掛け声で士気を維持してくれるのはありがたかった。

 

「ハァハァ……僕だって!」

 

シャルも鈴に合わせて弾幕を張る。

第2世代型ISであり装備も実弾で揃えられていることもあり、エネルギー残量は約3300と全機体中最大である。

しかし、軍人でもなければ代表候補生でもないシャルにとって、肉体的・精神的にかかる疲労は他人の比ではない。

息はたえだえで呼吸は荒く、機体操作に精彩を欠きながらも何とか食いついている状態だ。

 

「はああああ!」

 

そしてそれ以上に危険な状態なのが、今までずっと最前列で刀を振るっている箒だった。

紅椿が機体性能で銀の福音に対抗できるISであるため、自然と彼女に負荷が集中する。

そのためエネルギー残量は約1300と、ブルー・ティアーズに次いで低い。

訓練経験のない彼女がここまで長時間、積極的に攻撃役として動いていられるのも最初の鈴の指示が剣道をしていた彼女にとって最適であった結果と言える。

しかし、剣道の試合とは違いこの作戦に明確な終了時間はない。

そのポジション故に、セシリア以上にいつ集中力が切れてもおかしくはない状態だった。

 

(もっとだ……もっと速く、鋭い一撃を)

 

シンとセシリアが逃げ道を封じ、皆の弾幕で回避範囲を狭めたところで、奴の動きを完全に止めるために……そこから一夏の零落白夜に繋げるために――

箒は銀の福音の動きにより集中する。

 

「しまった、箒!」

 

しかしこの瞬間、その集中力が仇となってしまった。

攻撃することにさらに神経を集中させた箒は、銀の福音の移動の意味を読み取ることができず、味方の射線上にまんまと誘導されてしまった。

 

「ッ!?」

 

シャルの声が聞こえた時には既に遅く、彼女のアサルトカノンが直撃してしまう。

被弾によって箒の視界が急激に元に戻ったことで、仲間の様子を知覚する。

 

(深追いしすぎたか……シャルロットに気にしないように言って……

それから……それから……それから……)

 

味方に攻撃を当ててしまい動揺しているシャルに声をかけようとするが声が出ない。

そして視界には攻撃を回避しながら動きの止まった紅椿を攻撃いようとする銀の福音が映る。

 

「箒、無理なら一旦下がりなさい!」

 

張り上げた鈴の声で箒は思考を取り戻すが、集中力が切れたせいか呼吸が整わず、全身の汗による不快感とこれまでの戦闘による重度の疲労感に襲われ、すぐに動くことができなかった。

直撃を覚悟した瞬間、箒は誰かに突き飛ばされたことに驚いた。

さっきまで自分のいたところには白式――一夏がおり、こちらに飛んできた銀の福音の攻撃の全てをその身で浴びた。

 

「一夏ああー!!」

 

既に日の沈んだ洋上に箒の悲鳴が響き渡る。

パイロットである一夏が気を失ったことで、白式は静かに海に墜ちていった。

 

 

 

 




本来ならここで決着をつけるはずが、長引いて次話に持ち越しになりました。
もっとさっくりと戦闘場面を書けるようになりたいです。


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第31話 銀の福音Ⅳ

皆さん、お久しぶりです。
今回で長かった福音戦が決着します。



一夏の墜落というアクシデントにより、今まで保っていた均衡が崩れた。

特に庇われた箒ときっかけを作ってしまったシャルの動揺は激しかった。

 

「あ、一夏……ああ」

 

「う、ああ、僕が……僕のせいで」

 

このままでは一夏に続いて彼女たちも撃墜されてしまう。

しかし先ほどまでのように戦うことができる状態ではないので、ラウラはクールダウンさせるために戦闘以外の指示を与える。

 

「……箒は一夏の回収、シャルロットは浮上ポイントの確保と誘導!」

 

あえて今まで以上に大きな声で指示を出すことで2人の意識を少しでも回復させる。

効果があったのか、動揺は完全に消えないまでも2人は指示に従う。

そして、箒が海に潜り、シャルが配置についてところでラウラは続きを話す。

 

「シャルロット、一夏と箒が上がったらそのまま島に戻れ。

それを合図に私達も撤退する」

 

そして今、ブルー・ティアーズのエネルギーが1000を切った。

セシリアに加えて一夏、箒、シャルをこれ以上戦わせることはできない。

4人が抜けた状態でこの包囲網を維持することはできず、敵のエネルギー残量が不明な以上、これ以上の戦闘はじり貧になるだけであり、深追いすれば撤退すらできなくなる。

 

「全員、聞こえたな……一夏を回収次第、我々は撤退する。

時間は十分に稼いだ、後は各国の対応にまかせよう。

だが、このまま下がれば奴は我々を追って島に来る可能性がある。

そのため、シャルロット達の合図が来るまでに可能な限り引きはがす」

 

「悔しいけど、時間切れか……」

 

一夏が墜落した以上、鈴をはじめとしてラウラの決断に異議はなかった。

作戦が受け入れられたところで、ラウラはシンにプライベート通信を開く。

 

「シン、撤退時は私が殿を務める。

その時の指揮はお前に任せるが、私の回収は後回しにしろよ」

 

「なら、俺が残ってラウラが引きずってでも皆を島に返す……役割が逆だな」

 

士気の低下を防ぐため、撤退時の役割をシンにのみ話したが、反論されてしまった。

確かに、機体性能と状態を考えればインパルスの方が適任ではある。

 

「軍人の私よりも、民間人のお前の安全の方が優先されるんだがな……

すまないが、もしもの時は頼んだぞ」

 

「了解……皆は頼んだぞ」

 

話がまとまったところで銀の福音に集中する。

幸いシャルの方には興味がないのか、そちらへ向かう気配はなかった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

白式と共に海に墜ちた一夏は、気づくと不思議な空間にいた。

既に日は暮れたはずなのに空には青空が広がり、自分は見渡す限りの水面に立っていた。

太陽が存在しないのか、自分だけでなく目の前にいる見知らぬ少女の影も無かった。

 

「君は……力が欲しいですか?」

 

長い白髪に白い帽子をかぶり、白いワンピースを着た少女に尋ねられる。

一夏はこの状況を不思議に思いながらも、彼女の問いにはっきりと頷く。

 

「ああ」

 

「……何のために?」

 

「俺は今まで、千冬姉に守られてきた。

いつまでも守られてばかりじゃ駄目だって思ってたから、早く一人前になりたかった。

そんな俺にも守りたいと思う仲間がいる。

だから今度は、俺が千冬姉みたいに皆を守る側になりたい!」

 

「それが、君の意思なんだね」

 

一夏の力強い答えを彼女は目を閉じて自分の胸にしまい込む。

すると今度は、どこからか聞きなれた声が聞こえてきた。

 

――一夏……一夏!――

 

「箒……?」

 

一夏は箒の声であることは認識できたが、彼女が切羽詰まっている理由は分からなかった。

そしてそんな彼を名残惜しそうに見ながら、彼女は手を差し出した。

 

「迎えが来たみたいだね」

 

それを見た一夏は、覚悟を決めたように彼女の手を取ると、眩い光が辺りを覆いつくす。

すると自分の身に白式が展開され始め、頭の中に彼女の言葉が響いてくる。

 

 

 

――君は心、強くなろうとする意志――

 

 

 

――私は力、強さを体現する鎧――

 

 

 

――そして今、対となる2機が揃った――

 

 

 

今まで曖昧だった自分の感覚が現実に引き戻され、自分の今の状況を思い出す。

そして今にも泣きそうな箒の顔を見て、安心させようと声をかける。

 

「箒、ごめん。心配かけた」

 

「な、なぜ、お前が謝る。謝るなら私の方だ……」

 

「はは、じゃあお互いさまってことで、戻ろうぜ」

 

「ああ、行こう」

 

箒の表情も戻り、会場へ浮上しようとした時、紅椿が黄金に光出す。

困惑する2人だったが、すぐにその状況を理解することとなった。

 

 

 

――絢爛舞踏――

 

 

 

それは箒と紅椿のワンオフ・アビリティの発現だった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

最初に異変に気付いたのは浮上ポイントを確保しているシャルだった。

海中の一部が黄金に輝き、白式と紅椿のエネルギーが回復していく。

 

「なにこれ、いったいどうなってるの?」

 

シャルが困惑していると、白式と輝いている紅椿が飛び出してきた。

そして箒がラファールの肩に手を当てると、先ほどの2機のようにエネルギーが回復した。

そして間髪入れずに箒は飛び立ち、皆の所へ行ってエネルギーを回復して回る。

 

「いろいろ言いたいことはあるけど……一先ずは無事でよかったよ」

 

「心配かけた。で、これからどうする?」

 

シャルの元に残っている一夏は現在の状況を聞く。

しかし、彼の予想に反してここからは撤退という回答が返ってきた。

だが、箒のおかげでエネルギーが回復したのなら、もう少し戦えると一夏は思った。

 

「ラウラ、撤退は少し待ってくれ」

 

「エネルギーが回復できるのなら倒せるまで攻撃できる……そう言いたいんだな」

 

正直言ってラウラ自身はこの状況への理解が追いついていない。

試算では銀の福音のエネルギーは残り僅かだ。

なら一夏の言う通り、回復するエネルギーをもって消耗戦で削りきることも可能ではある。

現在は、エネルギー切れという問題が解消されたことで全員の士気もかなり高まっている。

しかし、エネルギーは回復することはできても、推進剤や弾薬、破損したパーツ……

そしてなにより、パイロットの肉体的・精神的疲労回復しない。

 

「一度だけだ……最後に一度だけ、奴に総攻撃をかける。

成否に関わらず、その後は撤退する……いいな?」

 

「ああ、ありがとう」

 

「よし……各員、最大火力を奴に叩き込んでやれ!」

 

一夏の提案を受け入れ、撤退を延期した。

そしてラウラの号令と共に最後の攻撃を始める。

 

「ここから先は弾切れを気にする必要はない」

 

「全弾もってけええええええ!!」

 

絢爛舞踏では回復できない実弾武器主体のISに乗るシャルと鈴は、残弾のある火器をありったけ取り出しては弾幕を張る。

銀の福音は持ち前の機動力と制圧能力でこれを回避・迎撃していくが、動きが少し鈍る。

 

「よし、行くぞ箒!」

 

「ああ、これで終わらせよう」

 

ラウラと箒は同時に瞬時加速をすることで二方面から銀の福音を強襲する。

弾幕に集中していた銀の福音は迎撃の対象を変更するが、シールドを全開にした2人は物ともせず攻撃を加えていく。

だが、それもずっと続くわけではないので、シン達が後に続く。

 

「セシリア! 簪!」

 

「言われずとも!」

 

「準備はできてる」

 

シンの掛け声と共に3人は回復したエネルギーを全て吐き出す勢いで火力を集中させる。

甲龍の龍咆による衝撃波の嵐と、ブラストのビームランチャーとブルー・ティアーズのスターライトを最大出力で照射する。

直撃させることができたのはほんの一部分だけだが、その圧倒的な火力と弾幕を前に銀の福音の行動範囲はかなり狭まった。

 

「「一夏!」」

 

「うおおおおおお!!」

 

皆の声を受け、零落白夜を発動させた白式が瞬時加速で砲撃に耐える銀の福音に迫る。

日が沈んで暗くなった洋上に、振り下ろされた雪片の黄金に輝く軌跡が浮かび上がる。

零落白夜が直撃したことでエネルギーを完全に失い、銀の福音はバリアを張ることができなくなりシン達の砲撃に押し潰されていった。

 

「……」

 

砲撃の衝撃で、ISコアを含む銀の福音だった塊が宙を舞う。

先ほどまで戦闘によって発生していた光や音がなくなり、静かな夜が訪れる。

一夏がその塊を受け止めると山田先生からの通信が入る。

 

『目標の沈黙を確認……皆さんよく頑張りました!』

 

その言葉で全員が任務の成功を実感する。

長時間の戦闘で溜まった疲労を癒すため、全員で島へ帰投する。

 

 

 




とりあえず次の1話をもって1学期が終了です。
ここまでは基本原作沿いでしたが、その後の夏休み編からはオリジナル展開に入る予定です。
不定期更新ですが、これからもよろしくお願いします。


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第32話 一夜明けて

みなさんお久しぶりです。
早いもので社会人になって3か月です。
皆さんは新しい環境に慣れたでしょうか。



銀の福音戦から一夜明け、元の予定通りに帰宅する準備が始まる。

そんな中、一夏の所へ束がやって来る。

 

「やあ、いっくん。昨日のラストは見事だったよ!」

 

「あ、束さん。おはようございます」

 

「白式だけどね、もうしばらく預からせてもらうよ」

 

束のテンションに慣れ切っている一夏は、普通に挨拶を返す。

彼女もそんなこともお構いなしに、昨日強引に預かったISの返却を延期する。

 

「え、そんなに酷かったんですか!?」

 

「いやいや、損傷の方はバッチリ直したよ。

ただ、ちょっと気になる事を確かめたいんだけど、ここじゃ設備が足りないからね。

一旦持ち帰らせてもらうよ」

 

「気になる事?」

 

「ほら、昨日言ってたじゃん。気を失ってる時に少女と会ったって……」

 

「あれは夢みたいなもんだろ」

 

一夏は昨日、帰還した後にそのことを皆に話していた。

ただ、口ではそう言っても、どうしてもただの夢とは言い切れなかった。

だって、自分と話していたのは……

 

(白式だと思ったなんて、言えるわけないよな)

 

「でもいっくんはそう思ってないよね」

 

「え?」

 

「ううん、なんでもない。それより箒ちゃんは?」

 

「箒ならまだ部屋ですよ」

 

一瞬、心を読まれたかと思って動揺しつつも、箒について答える。

そんな一夏の事など気にも留めず、束は旅館の中へ入っていった。

 

「……」

 

前に簪が言っていたことを一夏は思い出す。

そして先日の出来事やシンとの会話で聞こえてきた言葉に疑問が湧く。

 

なぜ、白式が既存のコアで紅椿は新造のコアなんだ?

二次移行せずにワンオフ・アビリティが使えることと関係があるのか――

 

なぜ、シンのインパルスをISモドキと言ったんだ?

シンがインパルスしか動かせないことと関係があるのか――

 

なぜ、俺はあの少女が白式だと思ったんだ?

そして、それをなんで束さんが知ってるんだ――

 

そもそも、俺とシンがISを動かせるのはなぜだ?

女性にしか動かせない理由と関係しているのか――

 

束さんや自分自身に対する疑問が浮かんでは消えていく。

以前簪から話を聞いたときは、言われてみれば確かに不思議だと言った程度だったが、ここに来て彼女の疑問に実感を伴って共感する。

 

(束さん、貴女はどこまで知っているんだ?)

 

束に対する疑問と共に不信感が一夏を襲う。

だが今は考えても答えは出ないため、帰宅の準備をすることで気を紛らわせる事にした。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

旅館では、帰り支度を終えた皆が部屋から出てきた。

だが、昨日の激戦の疲れが残っており、その足取りは重かった。

 

「筋肉痛で体が重い……」

 

「そりゃそうでしょ。私だって結構きついもん」

 

箒の呟きに鈴が答える。

鈴からしてみれば、自分以上に負荷のかかる戦闘をしたにも関わらず、痛みこそあるがなんとか1人で歩けるレベルで済んでいる箒は少しおかしい気がした。

 

「うう……僕も人並み以上には体力はあるつもりだったのにな」

 

「訓練はしていたとはいえ、私もここまで大規模な作戦は初めてだったから、節々が痛い」

 

水泳競争の件といい、箒と同レベルの疲労を感じているシャルは少し自信を無くす。

とはいえ、訓練をしていた簪でさえ痛みが残るレベルなのだから、先日の戦闘はそれほど激戦だったということでもある。

それでも作戦中にダウンしなかったのだから、シャルの体力が特別低いわけではない。

 

「訓練もなしに実戦であれだけ動ければ大したものだ。普通はああなる」

 

普通に動けるラウラはシャルのフォローをすると、別の部屋に視線を向ける。

そこからシンが、セシリアに肩を借りながら壁に手を付きながら出てきた。

 

「シンさん、大丈夫ですか?」

 

「体中が悲鳴を上げてる……」

 

「そりゃあ、高速で機体ごと体当たりしたり、射撃戦と近接戦を常時切り替えながらこなせばそうなるのも当たり前でしょ」

 

箒と銀の福音に割って入った時を思い出しながら、鈴はそうなるのも当たり前だと返す。

そしてシンがそんな事をしていたと知ったセシリアと簪は思わず声が出る。

 

「体当たり!? シンさん、そんなことしたんですか!」

 

「あ、あまり無茶なことはしないでね」

 

(別に無茶な事だとは思わないんだけどな……)

 

シンとしてはいつも通りに戦闘していただけであり、ここまで体に響くのは想定外だった。

なぜなら、CEにいた時はこれ以上の戦闘を何回もこなしており、その中には今回のように“頭の中がクリアになる”状態での戦闘もあったが、体に響くことは一度も無かったからだ。

 

「おーい、荷物は積み終わったぞ」

 

そうこうしていると、一夏が皆を呼びに戻ってきた。

お世話になった旅館の人たちに挨拶を済ませ、一同は帰路についた。

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

旅館で生徒たちが帰り支度をしている頃、少し離れたところに2人はいた。

箒に会おうとしていたところを千冬に半ば強引に連れ出された束は不満だった。

 

「ちーちゃん、いったい何の用かな?」

 

「この前の無人機と今回の騒動……どっちもお前の仕業だな」

 

「あ、やっぱり分かっちゃう?」

 

千冬の問いに一切の戸惑いも無くおちゃらけて返す。

そのふざけた言動で誤魔化そうとかそういうのではなく、本心から悪いと思っていないからこその言動なのが束である。

 

「で、目的は?」

 

「いっくんと箒ちゃんの華々しいISデビュー!」

 

半ば確信していたこととはいえ、こうまで堂々と回答する彼女に頭を抱える。

正直に告白されたところで、こちらには説教以外にできることはないのもたちが悪い。

この身内以外を認識しないのは相変わらずだが、それ故に疑問がある。

 

「で、アスカの妹とやらを保護したと言うのは?」

 

「あの忌々しい糞女の施設を潰そうとしたら見つけた」

 

あの束が無意識ではなく意識的に毒づく。

その相手に興味はあるが、どういうわけか千冬にすら誰なのかは話そうとしない。

 

「あの時は紅椿のコアを作るのに忙しくてさ、見つけた施設を放置してたんだよねー。

そしたらなんか、いきなり内乱かなんかで炎上しちゃっててね。

後から焼け残ったデータとかを片っ端からぶっ壊して回ってたらね、施設の近くで生き残りのあの子を見つけたってわけよ」

 

(施設……アスカとも関係あるのか)

 

話してるうちに束は元の言動に戻っていたが、千冬は生徒の重大な秘密が掘り起こされた気がして心配になった。

もっと色々と聞きたかったところだが、山田先生からの準備完了の連絡により切り上げる。

 

「あまり余計なことはしないでくれ……」

 

「流石に生き別れた兄妹の再開に水を差す束さんじゃないから安心してよ。

じゃあ、後で預かったISと一緒に日時を伝えるから」

 

そう言いながら、束は山田先生の元へ向かう千冬を見送る。

その後はどうやったのか、島民に一切気付かれることなく島を出ていった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

帰りの船の中、疲れからか戦いに参加していた皆は寝ていた。

その中でシンとラウラだけが起きていた。

 

「すまないな、シン。私は無意識のうちにお前に無理をさせてたらしい」

 

今のシンの状態を見て、ラウラは無理をさせてしまったことを謝る。

しかし、シンからしてみれば特別無理をさせられたつもりはなかったし、仮にそうだったとしても軍人ではない他の皆に無理をさせるよりは自分のほうが良いと思っている。

 

「別にラウラが謝る事じゃないだろ。ほとんどは俺が好き勝手に動いてただけだし……」

 

「そうは言うが……」

 

ラウラは結構この事に責任を感じているらしい。

だが、この状態に心当たりのあるシンは周りに聞こえないように気を配りながら話し始める。

 

「前に戦闘中に“頭の中がクリアになる”話をしただろ……」

 

ラウラが頷くのを確認して、シンは自分の考えを伝える。

この世界に来てはじめて“頭の中がクリアになる”状態でIS戦をしたからではないかと。

 

“頭の中がクリアになる”状態――

思考・反応の高速化や、視野が360°になったように周囲全てを知覚できたり、動きがスローモーションに見えたりと感覚が強化され、さらに身体能力も強化される。

 

今まではそのような状態で戦闘をしても体に反動が来ることはなかった。

MSは操縦桿やペダルによって操縦するため、身体能力の向上が直接的に操縦への恩恵を与えることはないが、ISは全身を動かして操縦する。

腕の振り、武器の保持、回避運動……その全てが身体の動きによって行われるからこそ、身体能力の向上はダイレクトに操縦への影響を与える。

普段以上の力で体を動かせば普段以上の負荷がかかるのは当たり前である。

だからこそMSの時は反動がなく、ISに乗っていた今回は反動が来たとシンは考えている。

 

「いわゆる火事場の馬鹿力というものか。

確かに、その状態で長時間体を動かし続ければ肉体に負荷がかかるのは当たり前だな。

頼むからCEほどの頻度で使おうとするなよ……何か嫌な予感がする」

 

「そう言われても気付いたらなってることがほとんどだからな……

まあ、またこうなるのも嫌だし、注意しておくさ」

 

「そうしてくれ」

 

こうして銀の福音に乱入された臨海学校も何とか無事に終える事が出来た。

戦いの疲れを癒した後はまた平和な日常へと回帰していく。

期末テストが終われば長かった1学期も終わり、IS学園に夏休みが訪れる。

 

 

 

 




今回で1学期終了です。
次回は設定紹介で、その後は夏休み編になります。


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設定紹介3

今回は機体設定と各キャラの能力設定になります。


機体設定

 

打鉄弐式・亜型

分類:第3世代型IS

製造:倉持技研(日)

 

完成の目処が立たない打鉄弐式を素体だけで組み上げた機体。

第3世代装備が前提のためこの状態では固定武装は存在しない。

そのため倉持技研からあるだけの武器を搭載することで緊急時でも対応できるようにしていた。

 

武装一覧

焔火 ×2

撃鉄

ショットガン ×2

バズーカ ×2

ビームライフル ×2

特火重粒子砲

ソニックブレイド ×2

ロングスピア

 

 

 

 

 

紅椿

分類:第4世代型IS

製造:篠ノ之束

 

白式と対になる第4世代型ISでエネルギーを増幅させる絢爛舞踏のワンオフ・アビリティを持つ近接型のIS。

展開装甲によってパッケージ換装なしでどんな状況にも即時に対応できるようにした万能機。

さらに高度な支援システムも搭載しており、展開装甲を状況に応じて適切に使い分けたりビット操作の補助をしたりしている。

当然のことながら基本スペックも現行機を凌駕しているが、絢爛舞踏前提の全部乗せであるため基本的な燃費は最悪である。

束が箒のためだけに作った機体であるため、箒以外では起動しないように設計されている。

 

武装一覧

展開装甲

両肩・腕・脚と背中に2機装備されており、それぞれが攻撃(近接/射撃)・防御・機動モードに切り替えることができる。さらに背中の2機はビットとしても使用できる。

近接→エネルギーソード 射撃→エネルギーブラスター

防御→エネルギーシールド 機動→スラスター

 

多機能近接ブレード ×2

日本刀のような片手持ちの近接ブレード。

刀身はエネルギー刃で覆われており、刺突することで雨月を、斬撃で空裂を発動できる。

雨月→刺突に合わせてエネルギー刃を発射する。

空裂→斬撃に合わせてエネルギー刃を伸ばして広範囲を攻撃する。

ワンオフ・アビリティ ≪絢爛舞踏≫

紅椿のワンオフ・アビリティで自身のエネルギーを無限大に増幅し、他者への譲渡も可能にする。

 

 

 

 

 

シルバリオ・ゴスペル

分類:第3世代型IS

製造:アメリカ・イスラエル共同開発

 

アメリカとイスラエルが共同で開発していた無人機であり、広域殲滅と高機動を両立した第3世代型IS。

メインの大型スラスターに射撃武器を搭載し、両手両足に補助ブースターを搭載することでコンセプトを実現している。

無人機ゆえに有人機では不可能な域にまで機動力を高め、そこに広域殲滅用の特殊射撃武器を搭載したため現行機最強のカタログスペックを持つISになった。

また、ISのエネルギーの多くがパイロット保護に割かれており、その必要がない本機は有人機の倍以上の稼働時間を誇る。

しかし無人機として動かすためのAIが不完全なため、現状ではそのスペックを発揮することはできない。

稼働試験中に突如暴走状態となり、太平洋に飛び出した。

その先でシン達と交戦し、機体はIS学園に回収された。

 

武装一覧

銀の鐘(シルバー・ベル)

大型スラスターに広域射撃武器を融合し、それらを統括するシステムを組み込んだ装備。

36の砲口を持ち、それぞれから高密度に圧縮したエネルギー弾を全方位に向けて射出できる。

常時瞬時加速並みの速度・加速で飛行できるだけでなく、それらを高出力で多方向に向けることができるため化け物じみた機動力を持つ。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

今回は新機体が少なかったので、この作品における1学期終了時点での各メインキャラの能力設定も紹介します。

あくまで作品を作るうえでの参考設定ですので、状況や相性によっては必ずしもこの序列になるわけではありません。

ついでに戦闘に関する各キャラの評価も紹介します。

 

 

 

総合戦力

箒+紅椿>ラウラ+レーゲン≧シン+インパルス>セシリア+ティアーズ>一夏+白式≧鈴音+甲龍>簪+弐式(亜型)>シャルロット+ラファール(シャル機)

 

機体性能

紅椿>白式>>ティアーズ≒インパルス(女性搭乗時)≧甲龍≒レーゲン>弐式(亜型)>ラファール(シャル機)>>インパルス(男性搭乗時)

 

操作技術

シン>ラウラ>シャルロット>セシリア>簪>鈴音>一夏≒箒

 

戦闘技量

シン≧ラウラ>簪>セシリア>鈴音>箒>一夏≒シャルロット

 

身体能力

シン≒ラウラ>>箒>一夏≧鈴音>シャルロット≒簪>セシリア

 

指揮能力

ラウラ>>シン>セシリア≒鈴音>簪>シャルロット>一夏≒箒

 

 

 

総合戦力・機体性能・身体能力はそのままなので説明は省きます。

操作技術→どれだけ機体を思い通りに動かせるか

戦闘技量→戦闘に対する適切な判断や行動ができるか

指揮能力→作戦の立案・指示が適切に出せるか&仲間の士気を向上・維持ができるか

 

 

 

シン・ラウラ

軍人として訓練だけでなく実戦も経験しており、遺伝子操作を抜きにしても高い能力を持つ。

戦闘スタイルについても、どちらも近距離~遠距離まで高レベルでこなせるオールラウンダーであるため、戦闘に関することは1人で全てできる。

2人の比較なら指揮のラウラと戦闘のシンだが、戦闘指揮ならシンも十分にこなせる。

 

一夏・箒

ISに関する訓練を受けていないのでパイロット能力は低めだが、剣道の経験により近接戦闘の能力は高く、第4世代型ISのおかけで周りに埋もれない戦力となっている。

それ故に一般人よりは身体能力、戦闘技量は高い。

一夏もブランクを取り戻せば箒並みかそれ以上になれる。

どちらも指揮能力は完全に一般人。

 

セシリア

代表候補生として長年訓練を受けており、軍人組を除けば総合力はトップとなる。

狙撃能力だけでなく状況認識力も高く、名家出身のため上に立つ者としての能力を有しているため、指揮官としての適正もある。

が、戦闘中はBTに集中力をほとんど持っていかれるため、その役割を与えられることはない。

訓練はIS操縦がメインのため、身体能力は運動のできる高校生レベルである。

 

鈴音

代表候補生としてはセシリアほどの訓練経験はないが、一通りのことは学んでいる。

元々活発であるのに加え、一夏や千冬に対抗していたため自然と身体能力も向上していった。

セシリアとは逆に、操作技術の低さを身体能力で補っている感じ。

指揮能力の高さは、自分が先頭に立って皆をぐいぐい引っ張っていくリーダーシップによるもので、現メンバーで唯一、戦意高揚や士気の維持に長けている。

 

更識家の一員として訓練は受けていたので、実戦に必要な能力が揃っている。

身体能力はそこまで高くないが、情報処理に精通しているため作戦の立案に関しての能力は高い。

しかし、内気な性格と相まって指示を出すのが苦手なため、指揮官より参謀の方が向いている。

 

シャルロット

テストパイロットではあるが代表候補生ではないので、訓練量は一夏たちよりはマシと言った程度である。

総合的なパイロット能力は一夏・箒以上なのだが、戦闘に関する知識・判断力は一般人の域を出ないため、機体が唯一第2世代型ISということもあり後れを取りやすい。

操作技術の高さと高速切替があるので、戦闘技術を磨けばすぐにでもオールラウンダーとして活躍できるだろう。

 

 

 




次回から夏休み編になります。


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