ハリネズミと天才【完結済み】 (妄言A)
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本編
ハリネズミ化けの皮を剥がされる


 

 

「なぁ〜んだ、ただの臆病なハリネズミじゃん」

 

 中学1年の夏頃廊下ですれ違った人に一言ボソッとそう呟かれた。

最初はなんのことか分からなくて??ってなってたけど後で調べたら刺激に弱くデリケートで臆病なんて書いてあってあの人は一瞬、ほんの少しすれ違っただけで私の嘘を暴いて弱い私の中身を一瞥してしまった人。

 

 いや…ほんっっとう…ね?

 

 コホンッ…。

 

 それから妙にその人のことが気になるようになった。

 その人はクラスを回ってみたけど見つからなくて、恐らく先輩なのかな〜っと思って探してみたら…いた。

 周りの子があの人の噂をしてたのをたまに聞いたことがある。

 

「ぁ〜あの先輩?めちゃくちゃかっこいいよね〜」

 

「そーそー!頭もすっごいいいんだよ?」

 

「でも」

 

「誰かと話したとこあんまり見かけないな」

 

 他の子達の話も聞いてみたけどそれ以外のことはほとんど出てこなかった。

 

 秋になって図書室で本を読んでるあの人を見かけた。

 眼鏡をかけてなにか難しそうな本をじっと睨みつけるように読んでる。

 

 普段他の人に興味なんて湧かなくて、名前も顔も覚えることが出来なかった。 でも何故かその人はあの一瞬すれ違った時から忘れることがなくて、記憶の隅にずっと残ってた。

 

「あ、」

 

 こちらの視線に気づいたのかチラッとこちらを見たけど、すぐに視線を逸らして本を読み始めてしまった。

 

(私って一応アイドルなんですけど!人気はまだまだこれからだけど私が見てるのに全く興味も示さないでスルーするってどういうこと!?)

 

 変に興奮しちゃってた。

 

 たぶんこの時からあの人に対して…まぁ…あの…言葉を選ばないようにすると…ムカついちゃった…?のかな…?

 嘘で塗り固めて真実なんて零れるわけもないのに、あの人相手には私の中の本音が零れる感じ…この感覚がなんなのか全く分からなくて、

 

「先輩前に私にハリネズミって言ったの覚えてます?」

 

 思わず話しかけてしまったのが始まりだったと思う。

 

 

 一目見るだけで、彼女の雰囲気がモブとは全く違うことは誰もが認めるだろう。

 顔を見たなら彼女につい近寄って愛を囁いて、自分1人では抱えきれない思いの丈をぶつけたくなる。

 その瞳に見つめられれば全人類彼女の虜になってしまう。

 そういう噂が立っていた。

 どんなものだろう?そういえばアイドルだっけ?

 まぁ…一目ぐらいは見ておくか。

 

 廊下ですれ違う瞬間にわかった。確かに彼女は特別だ。すれ違うだけで振り返り思わず声を掛けたくなってしまう。

 

 でも分かってしまった。嘘で塗り固めて真実を隠し、全ての人間に都合のいいように振る舞うことの出来る彼女は、確かに完璧で究極のアイドルの名を欲しいままにできる逸材だろう。

 しかし、それでファンになるのは彼女の嘘を暴くことも無く彼女の愛(嘘)に溺れることの出来る存在のみだ。

 

 だから思わずボソッと呟いてしまった。何の気なしに生きづらそうな彼女を見ていて思わず…。

 

 はぁ〜。

 

「先輩〜可愛い後輩が構ってほしそうにこっちを見てますよ〜?」

 

「可愛い後輩だったら今僕は読書をしてるんだから邪魔しないでくれるよな?」

 

「えぇ?先輩いっつも読書ばっかじゃないですか〜?たまには私に構ってくださいよ〜」

 

 「うりうり〜」正面に座り、ほっぺたをぐりぐり指で押してきてかまって欲しいアピールをしてくるこの女、名前を星野アイ。あのつぶやきから懐かれたのかなんなのか校内で引っ付かれるようになってしまった。

 

「僕の普段を知らないくせによく言う。というかお前アイドルなんだろ?男相手に引っ付いてるところとか誰かに見られたら不味いんじゃないの?」

 

「いやいや。先輩って全然人目のつかない所に居るので大丈夫じゃないですか?」

 

 そう言って机にうつ伏せになる。

 

「まぁお前がそれでいいなら良いけどさ」

 

「というか」

 

 ずいっと突然顔を近づけてくる。

 

「先輩のせいですからね?」

 

「は?何が?」

 

 意味がわからず思わず本から目線を外してじっと顔見つめる。

 

「私ってこれでもバレたことないんですよ?まぁ、そりゃ事務所の人は嘘をつくの前提でアイドルやってるって分かってますけど、でも普段の私の嘘は絶対にバレないのに、それをあっさり、しかも一瞬すれ違っただけで言い当てられて、私ちょっと自信無くしちゃったんですよ?」

 

 ブーブーといじけるフリをしながらジト目で見つめた。

 

「それに…自分ではどれが嘘で何が本当か分からないのに、なんで先輩には分かるんですか?」

 

「はぁ〜」

 

 ため息とともに本を閉じてじっと見つめる。

 

「なんでって言ったか?見たから」

 

「…見た?」

 

「お前を見た瞬間に、ぁ〜こいつめちゃくちゃ嘘ついてるわ〜って。特別なんだよ僕は」

 

「全然説明になってないですよ?先輩」

 

「ったく…家族構成は父、母、そしてお前。父親は小さい頃によそで女を作って出ていった。母親はお前を何年かまでは愛情を持って接したが、劣等感や日々のストレスでお前相手に虐待を繰り返すようになった。その影響で白米を食べるのが未だに苦手。恐らくガラスの破片などが混入したことによるトラウマだろうな」

 

(突然この人は何を語り出したんだろう…やめて欲しい…苦しい…なんで?なんで?)

 

「その後母親は万引きを繰り返し捕まり、お前は児童養護施設に入る。刑期を終えた母親は出所したがお前を迎えには…」

 

「やめてッ!!」

 

 突然大声を出して中断する…。静かな図書室に、普段じゃ考えられないような切羽詰まった声が響いた。

 仮面の中身を、嘘で塗り固めた真実を引っペがされるのを拒むかのように。

 

「な、なんで…。し、調べたの?私の事…なんでそこまで」

 

「調べてない。僕は君のことなんてすれ違う瞬間まで全く知らなかった」

 

「じゃあ…なんで…?」

 

「今、僕が君を見ているから。言ったろ?僕は特別だって」

 

「ひ、一目見ただけで?」

 

「だからそう言ってるだろ?僕が他人の人生を知るのにそいつの卒業アルバムを見る必要はない。その人間を少し見れば、それだけで大抵の事は分かる」

 

「私が…ハリネズミって」

 

「言ったよ?お前は些細なことに反応し恐れ、否定されるのを拒む。だから自分を嘘で塗り固めて、他人に愛を語るんだよ。そうすることで誰もがお前に愛を持ってくれる。でもお前自身誰かを愛せると思ってない」

 

「そ、そこまでバレちゃったか〜あはは…。ほんっとなんて言うか…すごいね…先輩」

 

(すごいとか、すごくないとかじゃない…。私のことを調べれば出てくる情報を繋ぎ合わせればこれぐらいは出来ると思う…でも、この人はそんなめんどくさいことをしないって分かる。

それに…普段から嘘をついている私は、この人がひとつも嘘をついてないって分かってしまう)

 

「だから…ハリネズミ…?」

 

「そうそう。まじでピッタリだと思うよ?」

 

「愛ってなんだと思う?私は愛が知りたい…だから嘘をついてみんなに愛を語ってるのに、私は誰かを愛したことがない…愛されてる訳でもない」

 

「愛されてないなら今頃干されてるだろ」

 

「というか愛が分からない?はぁ〜まじハリネズミ」

 

「そのハリネズミやめてよ」

 

「い〜やハリネズミだよお前は」

 

「というか愛されてないとかまじ言ってんの?馬鹿なの?」

 

「ば、ま…まぁ…頭は悪いけど」

 

 

「愛っていうのは一方通行なんだよ。恋は私はあなたの事が好きだから貴方も私のことを好きになってください!ってやつ。

んで愛は一方通行。私は貴方の事を愛してます。貴方からどう思われてようとその気持ちは変わりませんってこと」

 

「恋と…愛…」

 

「んで?お前はアイドルとして今活動してんだろ?少なくともお前相手に愛を持ってなきゃファンなんて誕生してないしな」

 

 そう言って言うことを言い終わったのか、また本に視線を戻し読み始めた。

 

「で、でも私は嘘で愛を」

 

「愛にも色々あんだよばーか」

 

「ばぁ…」

 

 突然の罵倒に怯む。

 

 というか後輩の、しかも女子相手に馬鹿って普通言う?

 

「ババアが孫に向ける愛、熟年夫婦がお互いに向ける愛、両親が子供に向ける愛、友達が友達に送る愛。

愛っていうのは一方通行。でもお互いのことを信用したり、こいつなら信じれるなぁ〜って思ってる奴が居るなら、それも愛だ」

 

「色んな愛…でも私は愛されて…」

 

「だからァ!!」

 

 だんっっと机を叩いてずぃっと顔を近寄らせる。

 

「ちょ!!せ、先輩顔近いッ!!」

 

「いいか?そんなうだうだ理屈こねくり回して考えるものじゃないの!相手からしたらお前に愛されてるって思った時点でそれは本物なの!そーやってうだうだ考えてる暇あったらとっとと恋人作ったり友達作ったり普通の女子っぽいことしてこい!」

 

 ったく…。なんてそのまま困惑してほんの少し頬を赤らめているアイを無視し、読書を再開する。

 

(意味わかんないんだけど。ぜんっぜんなんの説明にもなってないし納得出来る要素ひとつも無いし、私の悩みをかっこよく解決してくれるわけでもない…)

 

 ぼぉーっとした顔でじっと読書に戻ってしまった先輩の顔を見つめて…。

 

「なんか…いいかもな…」

 

「あっそ。なんか良いのが浮かんだか?うだうだ変な理屈考えてる暇あるんだったら青春してこい青春」

 

(本当に…デリカシーないし、人の気持ちも知らないでうるせぇとっとと青春してこいとか…。アイドルに向かってこの人は何を言い始めてるんだろう…。ほんっっと…最低な人だ…。真剣に悩んでて結構心の奥底を出したのに、それすら一蹴して)

 

「1個決めた」

 

「ぉ〜いいじゃんか。やっぱできる時にやっとくもんだよ青春ってさ」

 

 ページをめくってこちらに完全に興味を無くしてしまったのかもう目線を上げてくれなくて…。

 

「じゃあ先輩…付き合お?」

 

「ぉ〜なんかやる気になったんだな。そーだな〜気が向いたら付き合ってやるよ。気が向いたらな」

 

「そーじゃなくて」

 

「?」

 

「恋人なってよ?」

 

「…………………はぁ?」

 

 やっと目があったね…先輩♪




多分続かない

その後あの瞳の人間に気に入られたらどうなるかをしっかりと教えられた先輩さんは無事色んなところを連れ回されなんなら襲われているかもしれない


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猪突猛進

なんかめちゃくちゃ見られてることにテンション上がってしまいとんでもねぇスピードで書き上げてしまいました、いや本当にだから推しの子見るのは嫌だったんですよ!ハマらないわけないんですからね!
あと感想とかくれると励みになるので…書いてもええんやで?


 

(何言ってんだこいつ)

 

(ある日突然アイドル(まじのアイドル)系後輩に絡まてれとりあえず本音をぶちまけまくっていたらいつの間にか付き合う話になってしまっていた…何を言ってるのか分からねぇと思うが僕も何を言ってるのか分からないただ1つ言えることは)

 

「馬鹿なのお前?」

 

である

 

転生特典のおかげで一瞬見ただけで彼女がどんな人間なのか理解してしまい、

へぇ〜そんな感じなんだな〜と思わず呟いてしまったのが運の尽き…僕は今…

 

「見て〜佐藤さん!この人私の彼氏なの!」

 

「ッ…!?あ、アイ!?う、嘘だろ!?」

 

「……………………」

 

助けて…

 

遡ること少し前

 

 

「先輩ーあれから考えてくれました?」

 

廊下を歩いているとすっと近寄ってくる

周りに人目がないことをしっかりと確認してからの突撃

 

「いや、まじで何言ってんの?というか無理って言ったじゃん何言ってんの?」

 

2回も言いながら鬱陶しそうにシッシッ!と手を振って

 

「いいじゃん!私みたいなこ〜んなに可愛いことお付き合いできるんだよ?凄いことでしょ?」

 

「それを自分から言うのは腹立つけどまぁ認めてやるよ、というかアイドルが男つくんな!」

 

「えぇ〜でも恋愛しろって言ったのは先輩でしょ?だからこうして青春してるんじゃんか」

 

ほっぺたを膨らませながら腕に絡みついてくる

 

(だぁ〜距離近いんですけど?なんなの?僕原作読んだことないけどあっちでもこんな感じなの?というか)

 

「いい加減人目付くから離れろバカ」

 

「いてっ」

 

軽く小突くと軽く距離を置いて

 

「もぉ〜…あ!じゃあ今日ちょっと付き合ってよ」

 

「え?何に?どこに?」

 

「いーからいーから!」

 

そう言ってさっさと自分のクラスに戻るために階段を降りてしまう彼女

 

「今日の放課後時間空けといてね〜」

 

それだけ言い残して行ってしまう

 

 

 

 

 

(まじでなんなんだ?いや…まぁあいつからしたら中身全部カッ捌いて上から下まで眺めてしかも自分の中で通用してた嘘が一切通じないって言う物珍しさみたいなものはあったと思うんだ…ん〜なんなんだ?なぜ突然付き合うとか言い出してるんだ?童貞に女心はわからん!)

 

転生特典、神様とかに会ってはいないが「シャーロックホームズ」や「エルキュール・ポアロ」のような頭脳を持ち合わせているので並大抵のことは分かるし一目見るだけで理解出来る。

でもいかに強い転生特典を手に入れたとしても前世が非モテで人間関係なんてものを構築するなんて高度なことをしてこなかったので全く理解出来ていない

 

 

そんなことを考えながら気づけば放課後

逃げ出そうとしたけど捕まってしまい

 

「今からどこ行くんだよ?」

 

「いーからいーから」

 

ニコニコ笑顔で連れていかれる

 

(どうしよう、なんかめちゃくちゃ嫌な予感するんだよな…)

 

その予想が当たり、建物を見た瞬間

 

「帰るわ」

 

「ちょ!せっかくここまで来たんだからいいじゃん!」

 

踵を返してとっとと帰ろうとするのを全力で止められる

 

「うるっさい!お前が何考えてるかなんて僕が分からないとでも思ってんの?嫌です〜帰ります〜」

 

「いいんですか?先輩♪」

 

ニコッと笑って

 

「今ここで私が叫んだらどうなるかなあ?」

 

「お前…」

 

そうここがどこかの予想はもはや確信に変わっている、事務所だ、星野アイが務めている苺プロダクションその目の前で所属する現在売り出し中のアイドルが叫び始めたら?そしてその近くに同じ制服を来た目つきの悪い男が居たら?

そんなものは御用である見つかった瞬間アウト

なんなら何もしていないのに法の裁きを受けなければいけないなんてことになってしまう

 

それら全てを考えてここまで連れてきた星野アイ

 

「おっ、お前…悪魔か…?」

 

「アイドルだよ〜?ほら?早く行こ?」

 

なすがままに事務所に連れていかれてしまう

 

「お疲れ様でーす佐藤さん」

 

「お疲れ様〜あと俺の名前は斉藤だ」

 

「ど、どうも」

 

金髪グラサンという柄の悪い男が星野アイを出迎え入ってきたもう1人の人間を見つける

 

「…?アイそいつ誰だ?」

 

「ん〜この人はね〜」

 

そこから…冒頭に戻る

 

 

「か、かかかかかか彼氏!?な、何言ってんだアイ!?彼氏!?いつの間に!?というかなんでここ、ここに!?」

 

「あはは〜そんなに慌てないでよ佐藤さん〜」

 

素っ頓狂な声を上げて慌てふためく社長とは裏腹に笑って軽く流すアイ

 

(なんだこれ…え?何?なんでこんなことになってんの?僕なんか悪いことしたの?)

 

「お前アイドルだろ!?というかいつそんなことに!?」

 

「ぇ〜?昨日かな?」

 

考える顔すらいちいち可愛く見る人全員が流してしまいそうな雰囲気をまとって答える

 

「アホか」

 

「アイタッ!!」

 

後頭部に軽くチョップして

 

「いや違いますからね?突然連れてこられたと思ったら承諾してないのに彼氏宣言されただけで僕とこいつは赤の他人です」

 

「赤の他人…?」

 

斉藤と名乗る人物は2人をキョロキョロ見比べてアイは「いったたぁ〜」なんて呑気につぶやく

 

(誰か助けてくれ…)

 

 

 

しばらくして…

 

「ぁ〜つまり君はアイの学校の1個上の先輩で交友自体も1週間すら経っておらず、そして交際の事実もないってことでいいか?」

 

(その後何とかしてあいつを黙らせて冷静な話し合いに持っていきとりあえずは落ち着きの形を取り戻した)

 

「良かったぁ…いや、本っ当にありがとう!」

 

「い、いえなんというか本当に苦労してるんですね」

 

手を掴まれてそのままブンブン上下に振られながら若干涙目でお礼を言われ

その横で「ブーブー」

幼稚園児みたいな不貞腐れ方で不満を露わにする星野アイをガン無視した話し合いの結果ようやく理解してもらい

 

「たく…まじでびっくりするからやめろよ?アイ、心臓飛び出るかと思ったぞ」

 

「だってぇ〜」

 

「だってじゃなくてなぁ」

 

「私だって青春?みたいなのして見たかったんだもん〜」

 

「まぁ話が片付いたってことなので僕は…離せ…」

 

不貞腐れながらもしっかりと制服の端を掴むことで退出を妨害している

 

「あのさぁ?青春しろとはいったけど無理に彼氏作れとは言ってないのよ、友達とショッピングや海に行ってアホな男相手にナンパされて、ひと夏のアバンチュールを求めて来いって言ってんの!」

 

「ブー 私友達とかいないし、それに海とか日焼けしたりするしそういう身体目的な人って分かりやすくて全然ダメだから〜!」

 

「ナンパはダメだから!」

 

「はぁ〜?結局あれだろ?友達作ったりするのって怖いしめんどくさいよな?」

 

「な、ち、違うもん!」

 

「違いませーん!ビビってるだけでーす!さすがハリネズミ」

 

「だからそのハリネズミっていうの辞めてって言ってるでしょ!」

 

ギャーギャーと騒ぎ立てて星野アイに至っては顔を赤らめ興奮した様子で、そこにいるのは皆に夢を届けるアイドルではなく友達とじゃれあって喧嘩したりするただの中学生

 

「お前ら…仲良いな?」

 

「いや?全然仲良くないですよ?」

 

「そーなんですよ社長〜先輩ってちょっとしか私のこと見てないのに一瞬で私の嘘のこと見抜いちゃったんですよ?凄くなーい?」

 

「へぇ…」

 

(何がそうなんですよー?なの?こいつ…)

 

「凄いでしょ?先輩って私のことちょっとしか見てないのに過去とかも全部丸裸にされて!もうこれは先輩が責任を取るしかない!」

 

「とるわけがないんよ、お前が変な感じに絡んできたからちょっとビビらせたろ!っと思ってやっただけだから」

 

「アイの複雑な過去を一瞬で?ちょっと俺にやってみろ」

 

「はあ?まぁいいですけど?」

 

そういうとじっと斉藤を見つめる…見つめて見つめて、身体の隅々を見つめる相手を丸裸にするような髪の毛1本すら徹底的に逃さず、残さず見つめるように

 

「年齢30〜35、付き合った人数11人結婚回数2回離婚も2回現在子供はおらず1人暮し、でもある程度いい人間はいるから結婚するまで1年以内、家族は父親、母親、兄、と4人家族何不自由なく暮らして居るけど兄に対して苦手意識がありなにか大きいことを成し遂げようとこの道にアイに対しては家族…どちらかと言うの娘のように思っていて…大抵のわがま…」

 

「そこまでストップ!!」

 

途中で止められ、不思議そうな顔で見つめて

 

「な、なぁ実は裏で調べてたってことは…」

 

「それはないんじゃないかな?先輩っていちいち人のこととか調べないだろうしここに連れて来るのも先輩には何も伝えてないし」

 

「まじか…これは…使えるな…」

 

「でしょ?」

 

「なんでお前が自信満々なの?なんで誇らしげなの?」

 

何故か自信満々の星野アイにツッコミを入れて

 

「お前…名前は?」

 

「名前ですか?明智乱歩ですけど」

 

「んっふぅぅwそりゃあいい」

 

「いや笑い事じゃないないからこれ!僕だって笑いたくなるわ!」

 

「ふーん…」

 

「何?なんか不機嫌?」

 

「ベッツにぃ〜〜」

 

明らかに不機嫌そうな顔でそっぽを向いて、斎藤はそんなこと気にせず

 

「お前ここで働く気は無いか?」

 

「…は?」

 

 

 




最後の方の佐藤さんのプロフとかはこちらで勝手に考えました、佐藤さんのファンの方がいらっしゃいましたら正確なデータもし知ってたら教えてください書き直します



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不機嫌なハリネズミ

もうなんというか止まったら負けなんじゃないかと思ってるんですよね僕は深夜テンション+推しの子に対する熱が暑すぎるんですよね本当に!
めちゃくちゃ気温高いから熱放出もできませんしね!


 

あれから数日後

 

 

とりあえずどうするか考えるため一旦答えを濁して持ち帰った

 

ちなみにあれから星野アイは何故か不機嫌になってしまいその後交流はない

 

 

「明智くんありがとうね?」

 

「ん〜?いやまぁ別に大したことじゃないだろ、まあなんかわかんない所あったら言えよ?」

 

「ありがとね〜」

 

テスト期間この時期になるとクラスの雰囲気がピリッとする、全員将来を見据えて勉強をしてなるべくいい成績を残そうと必死になるのだ、

だが

 

(テストの時って早めに帰れるから割とラッキーなんだよな)

 

天才的な頭脳の持ち主である明智にかかれば中学レベルの問題なんて軽く解けるなんなら早く帰ることができてラッキーぐらいにしか考えていない

 

「あの、明智くん」

 

「ん?」

 

「ここ分からないんだけど」

 

「あ〜そこはな」

 

この光景もこのクラスでは珍しいことでは無い、普段全くクラスの人間と喋ることは無いがテスト期間中にはよく話しかけられ分からないところを質問されたりする

 

(まぁクラスではある程度浮いた存在の僕がこうして頼ってもらえるって言うのは悪いことではないんだよなぁ)

 

ブルルルッ!?

 

「明智くん?どうしたの?」

 

「ん?ぁ〜いやなんでもないよ?それでここはな」

 

(なんだ?なんかめちゃくちゃ寒気感じたんだけど、風邪か?ぁ〜?)

 

クラスの女子相手に教えながら誰かから見られてると感じチラッと横目で確認すると

 

じぃぃ〜〜〜

 

なんかいた

 

(え?なんなの?めちゃくちゃ見られてるんだけど?は?こっわというか今授業中だろうがまぁこっちは自習だからなんの問題もないけどさ?あいつ何してんの?というかなんでバレないの?)

 

そんなことを考えながらなので正直教えることに全然集中出来ていなかったけどそこは天才的な頭脳の持ち主なんの問題もなく教えて

 

「こんなもんかな?」

 

「ありがと明智君!」

 

「ん〜?いやいや基礎の方はできてたからあとは応用問題解きまくったら余裕でいい点取れると思うよ?頑張れ立花さん」

 

「あ、ありがと!あ、あのね…明智くん…」

 

「ん〜?」

 

何か言いたいのかモジモジして顔を赤く染めながら勇気を出そうとしてる時も

 

ジッットォォォ……

 

(圧がスっっごい…というかなんかめちゃくちゃ寒いんだけど…震えがすごいんだけど…何?なんなの?)

 

「ビシッ!」

 

目も鋭ければジェスチャーも鋭く勢いよく指を振ってこっちに来いと伝えてきて

 

(めちゃくちゃ行きたくねえ…)

 

「ぁ〜ごめんねちょっと僕御手洗」

 

「え、あ、ご、ごめんね!」

 

そのまま別れて教室に出て扉を閉めた瞬間

 

「…………………」

 

「おいなんだよ?うっお!?ちょ、何?」

 

突然腕を引っ張られて空き教室にまで連れてかれそして

 

ドンッ!!

 

壁ドン…身長差があるため見上げられる形になる壁ドン…

 

(圧が…圧が…めちゃくちゃ目が怖い…真っ黒に輝いてるのなんで?怖すぎ…)

 

「先輩あの人たち誰です?なんであんなに親しげなんですか?」

 

(敬語なんだけど普段の敬語の3倍ぐらい低い敬語なんだけど…)

 

「いや別に普通にクラスメイトだけど?」

 

「へぇ…そのクラスメイトと何してたの?」

 

「普通に勉強教えてたんだよ」

 

「そうなんだ、先輩って人気なんだね?私ずっと見てたけど女子ばっかり話しかけてたように見えたけど気のせいかな?」

 

明智に話しかけてくるのはずっと女子、明智はクラスから浮いている訳ではなく女子人気はめちゃくちゃ高い、そのため日夜クラスの女子全員が責め落とそうとするが全く堕ちないことで有名

 

「しかも顔赤らめてモジモジさせて?まるでデートにでも誘おうとしてたみたいに見えましたけど?」

 

「そうなんじゃないの?まぁ悪い気はしないな」

 

ビシィ…

 

頬をポリポリ掻きながら少し照れくさそうにする明智を見てまた空気が凍てつく

 

「へぇ…先輩は私っていう可愛い彼女が居るのにそうやってすぐ他の子に目移りしちゃうんですね」

 

「待て待て僕がいつお前の彼氏になった?」

 

「それにあの人には名前呼びだったよね?私はずっとお前とかなのにさ?しかも私に名前教えてくれないし」

 

「いや…まぁ…確かに言われてみればそうだな…いや、名前は聞かれなかったし、というかお前も教えてくれなかったろ?」

 

「だから…まず私のこと名前で呼んで?」

 

「いやそれは…というか無視すんなよ」

 

「何?」

 

「な、なんでもないです…」

 

「名前」

 

えぐい圧をかけ続ける…真っ黒な星の目をしっかりと明智の目に合わせて、絶対逃がさないという圧を感じる

 

「はい…呼びます…」

 

ダメだった…いかにチートを搭載していようと明智は元非モテの童貞…押しの強い星野アイ相手に勝てる訳もなく

 

「私以外と喋らないで」

 

「いやそれは難し…」

 

「喋らないで!」

 

「は、はい」

 

胸元をドンッ!と叩きながら無茶なことを言い始める

 

「私以外に笑いかけないで、優しくしないで、名前を呼ばないで…私を…ほおっておかないで…」

 

最後の方は小さくまるで呟くように、祈るように呟いて…そのままポスっと顔を預けてくる

 

(甘えたがりの子供みたいだな…)

 

子供…その表現にしっくりと来てしまい思わず…

 

「ぁ…」

 

「悪い、何となくこうした方がいい気がして…さ?」

 

頭に手を置いて…優しく…優しく、硝子細工を扱うみたいに…優しく丁寧に頭を撫でて…

 

「気がしてって…ふふっw」

 

「なんで笑んだよ?」

 

「だって見た人のことなんでもかんでも分かっちゃうのに…そういうのは分からないんだ〜っと思って」

 

「そりゃなぁ…僕はこういうことしたことないし」

 

「へぇ…ないんだ…」

 

声色が少しづつ元に戻っていき

 

「ほんとに?」

 

「ないって、言わせんな恥ずかしい」

 

「へぇ〜〜〜」

 

「何ニヤついてんの?」

 

「別になんでも〜ほら、もっと撫でて?」

 

「えぇ、もうそろそろ戻んないと」

 

「いいから〜」

 

「はぁ〜はいはい」

 

「というかあの時名前教えなかったから不貞腐れてたのか?」

 

「ち、違うよ?」

 

「それにほっとかないでって言ってたよな?へぇ〜構って欲しかったのかなぁ?」

 

ニマニマしながら追い詰める…

 

「んぅぅ〜知らない!」

 

「いっでぇぇ」

 

「黙って続けて!」

 

「はぁーい」

 

胸板に思い切り頭突きをくらいこれ以上茶化すのは危ないしと考えて、でも真っ赤な耳はしっかりと見えてしまってたりする。

 

結局授業終了のチャイムがなるまで頭を撫で続けることになった。

 

 

 

放課後

 

みんなが帰り支度を始める中1人だけ椅子に座ってじっと座り

 

(なんだろうあれ…何気なく授業をサボってついでに先輩の様子でも見てみよ〜って思ってきて…でも先輩は笑顔で他の子に優しく勉強のこと教えて、それで…それで…名前を呼んで、デートに誘われそうになってるのに先輩は何も言わないで…真っ黒でドロドロした物がお腹の中に溜まって胸まで込み上げて…ズキズキずっと突き刺してきて…

先輩に当たって理不尽なこと言って…

ずっと治んないと思ったのに、頭撫でられてて…それだけでなんか…安心…?しちゃった…お腹に溜まってた黒いものが無くなってポカポカしてきちゃった…)

 

撫でられた箇所を触ってみる

 

(先輩に撫でられたら所…まだじんじんしてる暖かくてそれに…)

 

 

(「そりゃなぁ…僕はこういうことしたことないし」)

 

先程の発言を思い出して自然と口角が上がって

 

(そっか…先輩はほかの子にしたことないんだ…あれ?私今…笑って)

 

自然と作り笑いをすることはある、何度もアイドルにとって笑顔とは商売道具、嘘の愛を皆に捧げるための絶対必要な武器

それなのに今は…作ろうと思ってないのに

先輩に嘘の愛を届けるために笑おうなんて思ってないのに

自然と口角が上がってアイドル失格のニヨニヨ顔になってしまう

 

(本っ当にあの人は…悪い人だよ、私は誰に対しても笑顔でマイペースでみんなのアイドルアイなのに、先輩の前だと怒鳴ったり、怒ったり、不機嫌になったり先輩の前で自分を取り繕えない、嘘の仮面を被って自分をよく見せることが出来ないなんて…)

 

 

「ほんっっとムカつく…責任とってよね?先輩」

 

目が妖しく輝き始める

 



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完璧で究極で嘘つきなハリネズミ

勢いのままに進んでますので正直時系列とか色々あやふやになっているところとかもあるのでそこについてはまじでご了承ください!
あと多分2話ぐらいで終わりかな〜っと思ってるのでおそらくこのまま突っ走って終わる感じになります!もし良ければ最後までお付き合いお願いしまーす

感想…どしどし送ってくれていいんですよ?


 

あれから星野アイと話す機会はそれなりにあった、お互いがお互いにムカつくことを言って言われて、喧嘩して、離れそうで離れないそんな感じで友達なのか、はたまたそれ以外の何かなのか分からないような状態で宙ぶらりん

でもその距離感が心地良いものになっているのだと明智は気づき初めている、

本当に拒絶したいのであればどうにでもできているはずだし話しかけられても無視すればいい興味が無いと突っぱねればいい、でもそれをしない、

それを本人の前で絶対的に伝えることはしないけどあからさまに拒絶することもない

 

(ぁ〜なんというかあいつの前で絶ッ対に言わないけどなんだかんだあいつとの関係が心地のいいものになってるってことには気づいてるよ…いや、ツンデレとかじゃないよ?ただちょっと…まぁ…その…)

 

なんて寝る前に考えたりして、天才的な頭脳をもとうと男女間のあれこれについてなにか明確な指標が出てくるわけでも名案が生まれる訳でもななく変にムズムズした気持ちで寝ることが増えてきた。

 

 

ある日の放課後なぜかいつも同じ方向をダラダラと喋りながら歩いている時突然星野アイがこんなことを言い出した

 

「そういえば先輩?」

 

「何?」

 

「佐藤社長の言ってたヤツどうするの?」

 

「ぁ〜そういえばそんなこともあったな」

 

「忘れてたの?」

 

「いや、忘れてる訳じゃないのよ」

 

ジトッとした目で見つめられて濁した態度を攻められると流石にそろそろ決めなければと考えて

 

「そんなに迷ってるならさ1回私のライブ来てみれば?」

 

「ぁーそういえばお前のライブ1回も行ったことなかったな」

 

「名前…」

 

ボソボソ聞こえずらいがしっかりと聞こえている…でも聞こえないふりをして

 

「じゃあ1回言ってみようか、今度いつライブやるの?チケット取ってみるわ」

 

「はぁ〜」

 

「な、何?」

 

「なんでもないで〜す」

 

呆れられた態度で明らかに逃げたと言うのがバレて

 

(流石に常に嘘ついてる奴相手にはバレバレか…いや…だって恥ずかしいじゃん!今更さぁ?もうこのままのキャラでいかせてくれよ)

 

「チケットだったら佐藤社長が用意してくれると思うよ?」

 

「いやいやまだ僕は関係者って訳じゃないしそれにあれだって斉藤社長のノリみたいな所あるだろ?」

 

「あのあと聞いたらあんな人材連れてくるとはアイやるな〜って佐藤さん褒めてくれたよ?」

 

「まじか、まぁ…チケットぐらいは自分で頑張ってとってみるよ」

 

「ふ〜んあっそ」

 

歩くスピードが上がって明智が顔を見ることはなかったが、その顔はほんの少し、ほんの少し、仮面で見ることは出来ないような顔だった。

 

そこから明智は何とかチケットをとってライブを見ることに

 

それは圧巻の一言だったB小町星野アイがセンターを務めるアイドルグループ確かに、確かに周りのレベルも高かった歌もダンスも表情もこれぞプロ、アイドルとはこういうもの!

と伝えるようなパフォーマンス…でも…

でもダメだったどうしても視線が外せない固定される夜中の明かりに群がる虫のようにどうしてもあるひとつの一番星から目を外すことなんて出来ない。

 

とてつもない、そういう陳腐な言葉しか出てこないそういう在り来りで在り来りのような言葉しか出てこなかった

あぁ、騙されてしまうのも仕方がないだって嘘を見抜くことが出来て、相手の生い立ちや性格ある程度の行動予測、数えあげればキリがないほどこの頭脳は正確に目の前の人間をデータとして弾き出すことの出来る代物だ。

そんな代物を持ってしてもあの輝きの前ではなんの意味もないのではないかと思ってしまう…騙されてもいいのではない?あんなに綺麗な嘘を、いや、明智以外にはそれは綺麗すぎて嘘にしか見えない本当の愛をあんなに声高々に歌っているでは無いか

あれは仕方がない嘘を見抜くことの出来る男ですらその嘘に騙されて愛されている…なんて勘違いしてしまう程の熱量を持って歌声が、視線がぶつかってくる。

 

 

 

ライブが終わりみんなが解散していく中

二人の男が話していた

 

「で?どうだったアイは?」

 

「いや…正直舐めてましたよ、とんでもない僕ですらこのザマですからねそりゃ他の人間があいつにベタ惚れしたとしても責めれないし責める気もない」

 

「だろ?アイは才能の原石磨けば光るどころか既に光っていた最高の才能だ」

 

そう言ってまるで自分の娘を自慢するかのように話す社長

 

「あれだけ強く輝いて周りに嘘の愛を振りまいて、社長いずれ問題が起こるんじゃないんですか?」

 

「それに関してはこっちとしても万全の対策をしてるから問題ないさ、それで話なんだが」

 

「無理でしょ」

 

「まぁ…そうなるよな…」

 

明智の言葉に予想してたかのように呟いて

 

「あいつは絶対これからとんでもない人間になる、それなのにあいつの嘘を暴ける僕が近くに居たらダメでしょ?」

 

「そんなことは無いだろ、最近はアイも楽しそうにお前の話をしてるぞ?」

 

(だから問題なんだろ…)

 

「いやぁ〜身が重いですってあんなとんでもない才能の塊の補佐とか支えるとか無理ですよ〜僕に何期待してるんですか?まだか弱い中学2年生ですよ?」

 

「そりゃ…でも…お前…」

 

「それ以上言ったらあんたはアイを守る立場じゃなくなりますよ」

 

「そうかもしれないけどお前…」

 

「いやいやあんな人間と一緒に少しでも過ごせてとっても楽しかったですよ〜じゃあ僕はこれで」

 

そう言って出ていこうとして最悪のタイミングって言うのはいつも最悪な気分の時に現れて今1番世界一会いたくない人物が目の前に現れて

 

「お、お前めちゃくちゃライブ凄かったじゃんこれからも頑張れよ?」

 

いま取り繕えているだろうか?我慢できているだろか?最高の嘘は付けているだろうか?その自信はない、けど…

 

(あぁ…その顔は…ダメってこと…か…)

 

「ねぇ…行っちゃうの?」

 

(きつい…ほんっときつい…)

 

「嘘…つくの?」

 

「嘘…?何言ってんだよお前はさ!僕は嘘つくことなんかないだろだって…」

 

そう言って言葉を溜めて…腹の底から絞り出すように

 

「初めっから約束なんかしてないだろ」

 

腹の底から声を出したはずなのに、絞り出すように出た言葉は思いのほか小さくて

通り過ぎる時に聞こえた言葉がこれからもずっと僕を呪い続ける

 

「嘘つき…」

 

そこから僕とあいつが関わることは無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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弱虫に針をぶっ刺す

いやぁ〜まじでノリと熱量だけで書き続けたんですけとねなんと一応最終回の方も描き上がってますよ!もう最後に関しては熱量が凄すぎて勢いでしか書いてませんからね!
思いのほか皆さんに見ていただけてるみたいでめちゃくちゃ感謝です!

もう少し来たら最終回の方も出そうと思うので!感想とかくれてもええんやで?


 

 

そこから初めっからあいつと関わっていたのがまるで嘘のように僕とあいつは関わらない

そもそも廊下ですれ違うことなんてほぼない、それどころかもうあいつの顔を見ることも無くなった

良く考えればわかる事だクラスが違う移動教室だって被ることがたまにあるだろうけどそれで顔を合わせることも無く僕は卒業高校に入学した

 

あれから毎日考える…考えて…考えて…それで同じ結論にたどり着く

 

そりゃ僕は天才だ頭がいい正直並大抵のことが起きたって僕にとってはなんてこと無い道端にある石ころを蹴る感覚、その程度で全てを解決することが出来る、でも…違うだろ…そういうことじゃない…これから先もあいつは上を目指して嘘の愛で皆を包む

その嘘を全て見抜く僕

水と油そしてお互いに宙ずりの距離感

そんな状態で隣に居続けていいわけが無い、そしてその状態をどうにかできる自身も勇気も湧いてこない

 

(あいつにハリネズミって言ったけど正直僕の方が全然臆病者で卑怯者だ…分かってる…多分あいつの求めてるものはなんなのか…愛……自分の嘘を見抜かれて見透かされてそれを全部踏みにじってそこから僕とあいつの関係は始まった…あいつにとってはどれが嘘で何が嘘でないかの判別は本人にすら難しい…でも僕はその全てを分けてあいつの本音を引き出す…それが出来る…できてしまう…だから余計に関係がこじれておかしくなってしまう)

 

「はぁ〜まじで…きついな…」

 

(本当に臆病者で逃げるって言うのはきつい)

 

高校の夏休みを利用していま宮崎の田舎に来ている

なんでここにいるのか?それを理解しているけど理解したくない自分がいる

僕の脳みそはアイが数年以内に妊娠、出産することを弾き出した、そして斉藤さんやアイがどう言った思考で場所を選んで病院を決めるかなんてものは正直見つけるのは造作もないこと…

こんなことをしている自分が気持ち悪く思うし正直今回ばかりはこの脳みそを全力で投げ捨てたい衝動が襲ってしまうが…それでも来てしまった

あの時あいつにかけるべき言葉を僕が本当に言うべきことがなんなのかわかってて僕は言わなかった、立ち止まらなかった、隣に立つことをしなかった

せめてあいつが安全に…幸福に生きられるような場所かどうか…

 

(気持ち悪い…)

 

それでも足は進み病院をの前まで来る…

 

(来たところで何するって言うんだろうな?診察する訳でもないしあともうしばらくしたらアイドルが出産しに来ますよ?なんて言うつもりなのか?うっわぁ…キッツ…)

 

「何してんだろうな僕?」

 

そのまま寝っ転がり

 

「やっべぇ…どうしよう…」

 

あたりは真っ暗人っ子一人いない状態になっていた

 

「ぁ〜マジでやばいな本格的に、ある程度地形は把握出来てるとはいえ深夜の森を歩くとか自殺行為だぞ?というかなんかクマの看板なかった?気のせいか?いや…気の所為だよな?」

 

「今狼の遠吠え聞こえなかったか!?絶滅してなかったっけ!?」

 

なんて馬鹿な独り言を繰り返し呟きながら宛もなす歩き続ける

 

「このまま遭難して誰にも気付かれずに死ぬ?」

 

「まぁ…それも悪くないかな…」

 

ガサゴソ…突然前方の暗闇から草をかき分けて何かがこちらに向かってくる音が聞こえた…

 

「…?これは…?ぁ〜」

 

(原作は見ていないけど…確かいた気がするよ…だから僕はここに来たのかな?)

 

「おい?こんな深夜に何してるんだ?」

 

眼鏡を掛けて目つきは悪く、でもどことなく女たらしなオーラを発している男

 

「ぁ〜遭難しちゃって…助けてくれません?」

 

雨宮吾郎アイドルであるアイの出産を担当する医者である

 

「まぁなんにもないところだけど上がってくれ」

 

そう言って連れてかれたのは広くてふる…大変風情がある日本家屋、結構な広さで屋敷と呼べるようなサイズ?と考えるほど大きく見えた

 

「いや〜まじですいません」

 

「別に一泊するぐらいは構わないけどあんなところで何してたんだ?」

 

「いやぁ…うっかりあそこで昼寝してたら気づいたら周りは真っ暗どうすることも出来ないでいたんですよね」

 

「あんなところで昼寝って…クマは出ないけど普通にアライグマとかは出てくるぞ?」

 

「へぇ〜アライグマってあの?」

 

「荷物を漁られたりするのはマシな方だ、そのまま噛みつかれでもしたら狂犬病になってお陀仏だ」

 

「うっわぁ…田舎こっわ」

 

思わずゾッとしてしまう

 

「それで…まぁ…詳しいことは聞かないで置くから明日にはちゃんと帰るんだぞ?」

 

「いやぁ…まじで助かります」

 

何も聞かず1晩泊めてくれる人の優しさに触れて風呂に入りご飯を食べる、お互いアイについて知っているので話が合うのか打ち解け始めて

 

「いやぁ明智もアイが好きだったとは」

 

「そうですねぇあ、アイのライブ生で見たことあるあるんですけどとんでもなかったですよ」

 

「うっわぁ!それはまじで羨ましい、俺も行きたかったんだよなぁ〜でもこんな田舎の病院だと休みもなかなか取れないし」

 

「うっわぁ…それはまじでご愁傷さまですね」

 

吾郎の方は酒が進みどんどん聞いてもいない話をし始めて

 

「いやちょっと酔っ払いすぎですって」

 

「ぜんっぜんよっれないよぞ!」

 

「いやぁ〜昔さ?俺が担当してた子がいてさ名前はさりなちゃんって言うんだ、退形成性星細胞腫っていう悪性の脳腫瘍で入院してずっとそのまま入院してたんだよ…」

 

ポツポツと顔を赤らめながら今自分が何を話してるのか分かっているのか、わかってないのか、そんな状態で話始める

 

「俺はその子の影響でアイにハマってさ?その子と約束したんだよ…もし病気が治ってアイドルになったら一番の推しにしてって言われてさ?」

 

「それでその子は…?」

 

「…亡くなったよ…」

 

「それは…」

 

「本当にいい子だったんだよ…まぁ俺みたいなやつと結婚する、とか言ってたから男の趣味は悪かったけど、だから推せなかったあの子の分までアイを推してるんだよ」

 

(お前めちゃくちゃすごいぞ…病気で苦しんでて未来に希望なんて一つもないかもしれない人間にお前はしっかりと希望や夢を見せることができるんだな…マジで…お前はすごいやつだな…アイ)

 

「えっと…これは友達の話なんですけど」

 

そう言って相手がしっかり聞いてるのか、聞こえてないのかそんなことも関係なく、ただポツリポツリと独白のように語り始める

 

「すごい才能の持ち主がいて、そいつは嘘をつくのが得意で皆を幸せにできて、でもそいつの嘘を全部理解してそいつから無理やり本音をたたき出すことの出来るってやつがいたらしいんですよ…でもそいつの隣には立てなくて立っちゃ行けなくてだからそいつから離れたんです…でも離れた方は後悔ばっかであいつがいま何してるのか?なんて考えがずっとどっかの片隅にあってどうしても考えちゃうらしいんですよ…その場合…そいつはどうするべきでしたかね?」

 

目をつぶったまま独り言のように全部呟いてそして身を開く

すると

 

「すぅぅ…」

 

「寝てる…」

 

(うっわぁ…僕は一人でなにを言ってんだ!いや別に聞いてほしくて言ったわけじゃないけどね?別にこれはただの独り言だからね!!さっきめちゃくちゃ真面目な雰囲気だったじゃん!お互いの心の内語り合うターンだったじゃん!!)

 

なんて内心でブツブツ文句を垂れながら毛布を掛けて自分も床に転がって

 

(こうやって考えてるんだから…分かりきってるくせにさ…本当に…臆病者だな…僕は)

 

 

次の日なんだかんだ医者なので朝は早いのだろう昨日あれだけべろべろによっていたのに既に起きていて

 

「いやぁ〜まじで助かりました、ありがとうございます」

 

「いいよいいよ、でもまじで次からあんなとこで昼寝するなよ?」

 

「あはは…気をつけます」

 

じゃあ、と去ろうとすると

 

 

「俺は付きっきりでさりなちゃんを医者として誠心誠意できることをできるだけやった」

 

「………」

 

「でもそれでも…もっとできたことがあったんじゃないか?もっとああすれば良かったんじゃないかって考えが膨らんで俺の頭の中でずっと囁き続ける」

 

「そうやって悩んで離れてるうちにもしその子が死んじゃったら多分…死ぬまで引きずるぞ」

 

「…んっっぅぅはぁぁ〜〜〜〜」

 

(重たすぎる…医者として、命を預かる人間から言われた言葉は重たすぎる…うじうじうだうだと悩んで足を止めてる人間からしたらかっこよすぎて…眩しすぎる…)

 

「ありがとうございます…」

 

「また機会があったらアイについて語ろう、その時はその子も一緒にな?」

 

なんて言う吾郎さんの顔を背にして

 

流石にカッコ悪すぎだろ僕…

 

もう…かっこ悪いところ見せたくないな

 

歩くために出した1歩はここに来た時と違って真っ直ぐに、輝いた目で前を向いてしっかり歩き出す

 

 

 



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愛とアイドルと天才

なんだかんだ走りきれましたねぇ…いやぁ…まじで素直に嬉しいですよ
まぁ多分みなさんもまだみたいのもとかあると思うのでこれ終わっても番外編書いたりとかすると思います!とりあえず!
本編は終わったので!これから書くのは甘々だぜぇ!

感想書いてくれるとシンプルに嬉しい!ありがと!




 

あれからどのくらいだったろう?正直よく覚えていない、ただ一つだけ分かることがある

私は人を愛せない愛が分かることもないし理解されることも、理解することもきっと出来ないんだろうってことだけはわかる気がする

 

あの時あの瞬間から私は完璧な嘘がつけるようになった作り物だと言う人も居たけど私がステージにたって飛びっきりの嘘を込めた笑顔でスポットライトを浴びた時のファンの反応でそれが理解出来た

 

佐藤さんは私のことを心配してくれたけどもう心配いらないよ?私は今日もこれからもずっと嘘をつき続けてみんなに愛を届け続ける

 

だってそれがアイドルでしょ?

 

それから

 

「日本の男はママに変な幻想抱いてまちゅねぇ〜アクア〜」

 

「そっちはルビィーだろ?」

 

「あちゃぁ〜あはは」

 

子供が生まれたお互いに理解出来る、今度こそ愛が分かるんじゃないかって思ったけど…ダメだった、心のモヤモヤ、ムズムズするような感覚も、暖かな感触もあれ以降何も無かった

身体を重ねてみたけどそれで何か変わったことはなくて…

でもこんな私でも子供を産んでそれで家族を作ってそれで本当の愛がわかるって思ってた…でも…それでも私はこの2人に愛してるって言葉を本当に伝えられているかどうかの自信が無い

 

でもアクアとルビィーがとっても頭が良くて天才でオタ芸をした時は本当に心のそこからキュンってきて、笑った

ファンにはこの笑顔が良いらしくて私はさらに嘘で顔を塗りたくることができるようになった

 

そんな私も気づけばドームアイドルとして登るところまで登ってそこからファンの皆んなに最高の嘘を届けることが出来るアイドルとしてこんなに凄いことは無い

 

でも…なんでだろう…とっても嬉しいことのはずなのに完璧な嘘で完全な愛を皆んなに届けられるのに、それなのになぜか心に穴が空いてそこから何もかも流れ出ちゃってまた空っぽになっちゃう

 

 

「ママ!ドーム楽しみ!」

 

「そうだねルビィー!」

 

(でも大丈夫私は愛がなんなのか少しづつわかってきてると思うから!もう2人のことも間違えないししっかりと愛おしいって思う…)

 

ピンポーン

 

「2人は待っててね?」

 

おそらくこの子達の父親だ…星野アイはそう思った、2人が変な勘違いをしてしまっていたのといい加減そろそろ合わせておかなきゃな〜と考えていたので今日せっかくの記念になる日にサプライズとして合わせようとしてドアを開けた

 

「アイおめでとう…双子は元気?」

 

まず目に映ったのは白い花束、真っ白でとても綺麗…でもフードを被った顔はどこかで見た気がするけどどこで見たのかはっきりしなくて…

そしてキラリと光るものが見えた瞬間

 

(あぁ…)

 

嘘の愛で皆を包むことが出来る…でも強すぎる光に人は魅了され正気を失う

 

(でもこんな時になんでだろう?なんで貴方の顔が出てくるのかな?)

 

(最後に…私の愛を…飛びっきりの嘘を伝えたかったなぁ…)

 

「アッフゥゥンゥゥ!?!?!?」

 

「……………?」

 

いつまでたっても何も起こらず変な奇声以外何も聞こえない静寂

うっすらと目を開けてみると

そこには

 

先程の男は下半身を抑えてピクピク震えて蹲り意識を失っていて

 

「ぁ、ぁ〜その…久しぶり…?」

 

間抜けな顔で頭の中の人物より歳をとってて背が伸びてて、花束をもって申し訳ないような…気まずいような顔で立っていた

 

「…ぇ…」

 

「ひ、久しぶりだね〜いつぶり?」

 

あぁ、やっぱりダメだ…突然の事で頭は真っ白だったけど反射的に嘘が飛びてて意識してなかったのにとびきりの笑顔で出迎えてしまう

嘘つきでムカつく…でもこの人にだけは嘘をつきたくなかったのに出迎えてしまった…

 

「ぷッ…お前さぁ?いい加減学べば?僕相手にお前の嘘が通じるわけないだろばーか」

 

なんて言われちゃったら…しょうがないよね…

 

ベッチィンゥッ!!

 

「いっでぇぇぇ!?何?いやマジで何!?と、突然どうしたんです?乱心…?ご乱心なの?暴力系アイドルにでも転身したのか!?」

 

ほっぺたをパーでぶん殴って

まるであの頃みたいに軽口叩いて当たり前のように接してきて、いま危ない目にあっていたのとか嘘をついて私から離れたのとか

突然現れて…ほんっっと…

 

「ほんぅっとうにムカつく!!突然なんなの!いきなり普通の顔して現れて花束持ってキザッぽいことして!平然と現れて!私の気持ちとか!思いとかそんなのぜんっぶむしして!私がせっかく綺麗な嘘で守ってるのに!いつも!いつもいつもいつも!私の醜くて汚いところばっかり引っ張り出して!」

 

今までの感情の発露だったのか…今ここにいるのは完璧なアイドルアイではなくてただ目の前のムカつく男にただを捏ねて喧嘩する子供みたいに胸をどしどし叩いて叩く度にポロポロと涙が零れ落ちて嘘で取り繕った顔なんか出来なくて醜くて可愛くなくて誰からも愛されない星野アイとして目の前の男に感情の全てを爆発させて

 

「グッふぅ…!グッデェ!わ、わるかっぅぐぅぉ!、ちょぉ!まじで…まじわるかグッォォ!!痛い!まじで1発1発が重いって!」

 

「はぁ〜…はぁ〜……いつも…いつも…なんで?綺麗な私で居させてくれないの?」

 

肩で息をしながら必死に…縋るような目で…見つめる

 

「ん〜いやまぁ…確かに嘘をついて完璧にアイドルとしてアイとして振舞ってるお前は凄いと思うけどさぁ?」

 

そう言葉を切って花束を渡して

 

「軽口叩いて、わがままで、自分の思い通りにいかないとすぐ不機嫌になって、嫌なことあったら当たってきて、すぐ手が出て来て、まぁ正直上げ出せばキリがないお前の嘘は完璧で僕でさえその嘘に騙されてしまってもいいんじゃないかって思うぐらいに綺麗だ…」

 

「でもさぁ…」

 

「あの頃みたいに軽口叩きあって距離感気にしてお互い子供みたいに喧嘩する…そういうお前に…僕は惹かれてる…お前がこれから先どれだけ綺麗な嘘で固めようが僕が必ずその中にあるお前を見てやる、僕だけが嘘に嘘を重ねて自分を見失いそうになってしまうお前を探し出してやる…」

 

そう言ってそっと近寄り顔を近づけて…

 

「僕は本当のお前を愛してるよ…アイ」

 

「ぁ…」

 

優しく口付けをする

 

(なにこれ…ダメ…これはダメやなやつだ…ムカついてる!突然私の前から消えて!人の嘘は暴くくせに自分は嘘をついて消えたくせに!なのに、ダメ!ムカつく…ちゃんと私はこの人にムカついてる!ダメ…暖かいのが流れて…あの時のが比べ物にならない…あぁ…私は…)

 

「愛してる…」

 

口から零れ落ちたのは涙で顔をぐしゃぐしゃにさせて可愛くなくて、でもとっても綺麗な

 

 

本当の愛

 

 

 

 

これはハリネズミのように些細なことに反応し恐れ、否定されるのを拒み綺麗な嘘で自分を包んで周りに愛を授けたアイドルと

 

そのアイドルと同じぐらい臆病で意気地無しでそれでも目の前の女性の嘘を片っ端から踏みつけて彼女の本物を引っ張りあげるそんなデリカシーの無い天才とがお送りする

 

どこにでもは無いかもしれないただの嘘と愛の話

 

 

 

 

 

 



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番外編
締まらない再会


ここからは番外編、ある程度書かなきゃ成立しない部分もあると思いますけど基本的に珍しいアイのイチャイチャをお送り出来たらなと思います!


 

2人だけの世界を作ってそこでうっとりしていると…後ろから水色の瞳を持った子供が…

 

「えっと…そこで倒れてる人…どうするの?」

 

「「ぁ、」」

 

アイは子供の前だということに気づいて、明智はたった今不審者を撃退したことにやっと気づきお互い名残惜しそうに離れる

 

「えっと…それでこの人は…確かりょーすけくん…かな?」

 

「ぁ〜まぁこいつもこいつで色々可哀想な奴でさぁ…とりあえず救急車と警察でも呼んでおけばいんじゃね?」

 

「可哀想って…アイが襲われかけたんだぞ!」

 

子供にしては必死に目の前の現実に起きた非現実的な状態を見て声を荒らげる

 

「何言ってるんだ?僕がいるのになんでこいつが危険なのか理解ができない」

 

そう言って刺された指を

 

「そういうのいいから」

 

ベチィッと弾いて

 

「いっでぇ!だからすぐ手が出るじゃん!というかさぁ?僕のおかげで助かったわけだからねここはひとつ僕にお礼をするのが礼儀ってものじゃないのかなぁ?」

 

「何言ってるのかアイよく分かんなーい」

 

「何可愛こぶってんだこいつ、もう20歳だろうがいい加減いっでぇ…!!」

 

余計なことを口にする度にシンプルな打撃が飛んでくる

 

「はいはーいアクア〜こんな教育に悪い人の言うことなんか聞いちゃダメですからね〜」

 

「はぁ?お前相手に教育云々言われたくないんですけど?」

 

「ほーらす〜ぐこうやって怒鳴って怖いねぇ〜」

 

「こっっのぉ…」

 

「ママァ…大丈夫?」

 

扉の向こうから赤い宝石のような瞳の女の子がこっそりと様子を伺うように見つめてきて

 

「大丈夫だよ〜ルビィー心配かけてごめんねいま悪い人は全員連れてってもらおうね〜」

 

「今僕のこともさりげなくカウントしやがったぞこの女」

 

はぁ〜っとため息とともに

 

「さっきはめちゃくちゃ素直で可愛かったのに」

 

ぼそっと呟いて

 

「ッッッ!!!」

 

ベッチィィ!!

 

「いっでぇ!!だからぁ!何?考えてもらっていいかなぁ?もうお前は子供じゃなくて大人なんですけど?シンプルに打撃の1発1発がめちゃくちゃ痛いのよ!」

 

「ほんっっとそういうところ考えられないの!昔から思ってたけどデリカシーってものが!!…」

 

「うるっせぇなぁ結局僕に見透かされて嬉しそうにしてたじゃんこのかまってちゃ…」

 

「「2人とも」」

 

 

「「ドームライブ」」

 

「ぁ…やっべぇ!おい!お前社長の迎えは!」

 

「え、えっとぉも、もうすぐのはず!」

 

「あぁ〜お前が変に絡んでくるから時間ギリギリじゃん!というかお前顔すっごいことになってるぞ早く治してこい!」

 

「こうなったのは誰のせいだと思ってるのかな?私誰のせいでこうなってるのかなぁ?」

 

この時2人は思った…

 

(あぁ…夫婦喧嘩は犬も食わないんだな…)

 

そこから社長と奥さんが来るまでギャーギャー騒ぎ立てて、そこに警察と救急車も加わって阿鼻叫喚

ドームにはギリギリ間に合ったという

 

その後ストーカー被害自体はあったもの子供やアイ達になんの被害もなかったのが幸いそしてドームは大成功になったのでみんなでどんちゃん騒ぎ

 

そんな中で

 

「…………………」

 

「ねぇ…あれって…」

 

「近寄っちゃダメですよ」

 

アクアが遠くに離され現在楽しい雰囲気の対極みたいな位置に正座する男と仁王立ちでその男を睨みつける完全無敵のアイドル…残念ながらライブが大成功で終わった顔では無い

 

「あの…」

 

「何?」

 

「みんな見てるから…一旦辞めない?」

 

「………」

 

「そのぉ…」

 

「…………」

 

「なんでも…ないです…」

 

さっきからこれの繰り返しでかれこれ30分程度正座したまま…しかもフローリングのためなかなかに足に激痛が走る

 

「説明しよっか?」

 

「説明…ですか?」

 

「なんで私から離れていったのかとか、突然現れたのはなんでなの?とかさ色々あるよ…ね?」

 

口調は完全に皆の知るアイなのだが…笑顔が…笑顔が違う…目の中の星が完全に真っ黒で笑ってない…

 

「あのなんそのですね…色々ありまして…ね…」

 

「説明」

 

「はい…」

 

ここから醜くもどうしようもないけど愛すべきアホの供述

 

「寂しく…なった…といいます…か…」

 

「は?」

 

みんなの内心(は?)

 

「何言ってるのかなぁ?アイ分かんないな〜あっはは」

 

「ひぇぇ…えっとですね…はい、その…さぁ…なんかお前が危ないっていうのは前々から分かってたから本格的に手を出さないと取り返しつかない事になるな〜っていうのは分かっててさ?正直それは二の次でさ?そんなことは僕がいればどうとでもなるしそんなもん置いといて…さ?

さ、寂しくなった…あの時お前は絶対凄いやつになるって言うのが分かってたから僕がお前の隣を一緒に並んで歩くなんてことをしたらそれが出来なくなるんじゃないかと思って、お前との会話とか関係とかそういうのは結構心地のいいものだったけど、やっぱりお前の目標の邪魔になるんじゃないかと思って…お前から離れた…でも…結局こうやってお前の憎まれ口を小生意気な顔を見たくなっちゃって…

だから…その…寂しくなったから…来てしまいました…

 

「ふーん…フーーーん…フーーーーーん!」

 

そっぽを向いて足をパタパタさせて

 

(ぇ?何この人?こんなに頭悪かったっけ?私のためにカッコつけて離れたって言ったくせに結局寂しくなって帰ってきたってこと?えぇ?馬鹿なの?先輩って頭いいけど本当にポンコツというか全然ダメダメというか…ぁ〜もぉ…ほんっっうに…ムカつく…こんなの絶対許せないはずなのに!申し訳なさと恥ずかしさのミックスみたいな顔でこっち見るのやめて!ぁ〜もぉ…)

 

アイは気づいてないが先程からチラ見しているギャラリーの大半は普段のアイだと見ることの出来ないだらしない顔でニヨニヨしていてそれを必死にこのアホに対して見せないようにしている構図

 

(こいつらバカップル化してんな)

 

(まぁ同じ女として同情しちゃうかなぁ…)

 

(うっわぁ…もしかしなくてもあの時話題に出てたのってアイのことだったのか?いや…まぁ…多分推しのこんな顔見られるものじゃないから役得…なのか?)

 

(はぁ?なんなのあの男?パッと現れたと思ったら突然完璧で最強のアイの唇奪うわサイテーなこと言い始めるは…でも推しのあんな顔見たことない!!!くやじい!!私だって推しにあんな顔させたぃ!!ずっるぃ''!)

 

 

「あ、アイさん?」

 

「何…」

 

ムスッとなんとか表示を取り繕ってはいるけど口元はにやけてすぐに解けてしまいそうなのをなんとかきつく結び直して

 

「あの…す、直ぐにとは言わないのでてゆーかもし良ければ…仲直り…とか…しません…か?」

 

「ふ、ふ〜ん先輩は私と仲直りがしたいってことなんですね」

 

(あれ?アイが敬語?しかも先輩?えぇ?この男アイの先輩なの?こんなすごいアイドルに先輩って言われて敬語使われてんの?あの時置き去りにしとけば良かった…)

 

「ゥェェァーーーンマッマ〜〜〜〜!!!」

 

ここでルビィーがぐずり出して中断

 

「ぉ〜よちよち〜」

 

(やっべぇ…どーしよ…やっぱ無理か…?いや…でもあいつが本気で許さないんだったらそもそも家に入れてもらってないし会話もできてないよな…わ、わんちゃんあるか?)

 

そう思ってちらっとみると

 

 

べぇぇ〜〜〜〜〜

 

目が赤い方の子供が思いっきりべろ突き出して小馬鹿にしてきてた

 

(はァァ?えぇ?何?何今の?うっそだろ?今子供完全に僕のことバカにしたよね?おいこら!そいつ精神年齢いくつだ!明らかに含みを持って人間をバカにする時の顔つきだったろ!)

 

しかもしっかりアイにバレない位置なので何も言うことができず

 

(まじで何者だよあの子こえーよ!ていっぅかめっちゃムカツクゥゥ!!的確にムカつく顔してくるんだけど!絶対あれ中身子供じゃないだろ!確実に子供じゃない何かが入ってるだろ!)

 

「よし!そろそろ時間も遅いし僕は帰」

 

 

「座ってて」

 

「はい…」

 

なんとかこれを機に帰ろうとしたけれどあの子供に向けられた優しい笑みではなく絶対零度の眼差しで座ることを命じられる

 

(な、なんて拷問だ…赤子にバカにされ…す、気になってる人には冷たい態度で命令され…)

 

ポンッ…と手を置いてくれる青い目をした男の子…

 

「あの…大丈夫…?」

 

「ぁ…やっぱりあれだよな!男同士の友情って僕あると思うんだ!僕の名前は明智乱歩!君は?確かアクアだっけ?」

 

「うん…僕の名前はアク」

 

「愛久愛海だよ」

 

その横でアイが被さるようにつぶやく

 

「アク…ん?アクアマリン…?」

 

「………うん…そうです…アクアマリン…です」

 

悲痛な顔で自分の名前を言う子供にグッとくるものがあって思わず抱きしめて…

 

「大丈夫だから…正確な年は忘れたけど正式な理由があれば名前変更できたと思うから…その…頑張ってな?アクアマリン…ぶっふぅぅ…」

 

「ふん!」

 

唯一の味方になりえそうだった存在すら自分の敵にしてしまう男…

 

「ごめんって違うから!ちょっと水族館が頭の中を横切っただけだから!」

 

「えぇ〜私は愛久愛海ってとってもいい名前だと思うけどな〜」

 

「お前まじ?お前もし次があった時は絶対お前が名前をつけるなよ…」

 

「何言ってるのかなぁ〜?絶対先輩より私の方がセンスいいから!」

 

「はぁ?そんなわ…は?え?ぼ、僕…より?

 

「そうだよ〜絶対私の方がセンス…いい…と」

 

自信ありげに答えて言ったが途中で自分が何を言い出したのかしっかりと理解して顔を真っ赤、顔から煙の出る勢いで

 

「そ、それって…その…つまり…2人で…な、名付ける機会が…」

 

わざわざ分かりきったことを言い始めるのもこの男の悪い癖

アイの顔はさらに真っ赤になり

 

「ほんっっとぉ!…バカ…」

 

いつものように軽口が飛んできてなんなら軽い暴力が飛んできて、それでいつも通りの空気感になるはずだったのに、

お互い顔を赤く染めてそっぽを向いていた

 

しばらくして子供たちは眠りにつき大人は酒盛りで酔い潰れ、ベランダで

 

 

「いやマジで…申し訳ないと思ってる、あの時僕がするべきだったのは…お前の隣に居たいって素直に口にすることだったと思う」

 

お互いによりかかり顔を見ないようにして星を眺める

 

「それで?結局寂しくなって帰ってきちゃったんだっけ?」

 

「グゥ…そ、そうだよ、お前みたいに騒がしくて小生意気な後輩なかなかいないからな、忘れられるわけなかった」

 

「なにそれ〜先輩にとってうるさくて生意気なだけだったの?」

 

寄りかかって…顔を近づけて潤んだ整った顔で、綺麗な瞳で見上げてくる

 

あぁ…

 

「わがままで可愛い後輩だったよ」

 

「…ふ、ふーん…本っ当に効かないんだね」

 

自分を嘘で固め仮面を被った、それでもやっぱりこの人には全然効かなくて

 

「当たり前だろ?僕がお前の嘘に騙されることは無いよお前がどれだけ最高の嘘をついても僕は絶対本物を引きずり出すからな」

 

「ほんと〜?」

 

「あぁ、ほん…」

 

その言葉を言い終わる前にアイが胸元に顔を埋めて抱きついてくる

 

「じゃあ…これにも騙されないで…もう二度と遠くに行かないで、連絡先交換して…私が連絡したらすぐ既読つけて…つーわしたい時はすぐ電話出て…他の子と遊ばないで…笑わないで…」

 

 

「私を…ほぉって置かないで…」

 

そう言ってグリグリと頭を擦り付けて…

 

「私だけ見てて…」

 

「分かったよ、わがままだよな相変わらず」

 

(嘘は最高の愛ってお前は言うかもしれないけど…残念ながら僕だけは騙されてやらないからな)

 

そう言って抱きしめ返す

 

 

 

 



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赤い宝石は寂しがり

もうなんというか、勢いで全てを書き綴った感じになってます

正直色々暴走しちゃってるので色々解釈違いの人はまじですいません…



 

それからというもの明智は大学、アイはアイドルを引退し女優の活動、子供の世話などお互いにそれなりに忙しい毎日を送り、毎日チャットをしたりたまに電話をかけるなどそれなりの交流を積み重ねている

 

そんなある日

 

「子供の世話?」

 

明智はベランダでスマホ片手にタバコを吸いながら思わぬ頼み事に少し驚きながら

 

「そうそうミヤコさんも忙しいらしくてさ〜それで私も仕事で社長も私の付き添いでしょ?だから面倒みれる人がいないんだ〜」

 

「はぁ〜まぁそれは別にいいんだけどさ?」

 

「大丈夫だって!2人とも頭良いし!可愛いよ、でも流石に誰かが見とかないとダメだからさ、お願い出来る?」

 

「いやそれは別にいいけどね?」

 

大事な子供を預ける、なんてことを簡単に言ってくれるとはだいぶ信用はされているらしくそれを相手にバレないようにほんの少し喜びながら…が…

 

「でもアクアはまだ大丈夫だと思うけど確実にルビィは僕の事嫌ってるよ?」

 

そう、問題は子供の方だ、アクアという子はまだ、男同士というのもあり恐らくそこまで嫌われてはいないし拒絶される心配も少ないと思う…、でもルビィーに至っては確実に明智のことを嫌っていて拒否られることが目に見えている

 

「えぇ〜?そうかなぁ?基本的に誰にでも心開いたりするから全然問題ないと思うけどなにかしたの?」

 

「いや…流石の僕もあんな小さい子相手に意地の悪いことするわけなくない?本気で心当たりないんだよなぁ…」

 

ほんの少し引っかかっていることはある

天才的な頭脳でどんな人間も相手を1目見ただけで全てを把握出来る明智だが、はじき出される答えに初めて自分自身を信じられなくなっている節がある

 

「まぁ頼める人もそんなに居ないからお願い出来る?」

 

「まぁその程度であれば全然構わないよ」

 

「じゃあお願いね?おやすみ〜」

 

「はいはいおやすみ」

 

最初は電話だけでいちいちドギマギしたものだがいつの間にか日常に溶け込むぐらいにはこの時間をいつしか心待ちにしている自分がいるのを感じて

 

「寝るかぁ」

 

この感情の答えにたどり着いているくせにわざと先延ばしにして、ベットに潜り込む

 

 

 

「と、言うことでこれから君たちの面倒を見る明智ですよろしくね〜」

 

最大限の愛嬌を振りまき子供たちに似合わない笑顔を晒す明智

 

「……………」

 

「へッ」

 

なにか物悲しい物を見つめる目で見られたり、完全に小馬鹿にされ…そのままテレビでアイの出演してる番組を見始めたりと反応は様々だが、ひとつ確実に言えるのは…

 

「僕ってまじで子供に好かれる才能がない!」

 

それでも負けじと声をかけるが

 

「、る、ルビィーちゃんよろしくね」

 

プィッ

 

子供になんとか気に入って貰おうとなるべく高めの声を意識して話しかけたら思いっきりそっぽを向かれ子供の前に真っ白で燃え尽きている21歳の姿

 

(まぁ子供に嫌われてても危ないこととかしないように見とくだけで問題ないだろうから最悪いいかぁ…いやまじで凹むな…僕って子供に好かれる才能がないのか?)

 

なんてアクアの方をちらっと見ると分厚い文庫本、明らかに子供が見るには大人びすぎている物を取り出して読んでいる

 

(いやいやまじで?アイが天才とか何とかとか言ってたのも納得だな)

 

と予想以上の手のかからなさに驚きならノートパソコンを広げて横目で様子を伺いながら作業を進めると言っても

 

(いやぁ…まじでどうしたもんか…子供と仲良くなる方法ってマジで何?どうすれば受け入れられるのとかよく分からない…ルビィに関してはまじで取っ掛りすら掴めない…)

 

パソコンで課題を進めながらもチラッと2人に視線を送って観察する

今、明智の天才的な頭脳が徹底的に2人を観察している…その理由は

どうすれば仲良くできるか…である!

 

そう考えて10分くらいだろうか?チラチラと視線を感じる…何かと思って見たらアクアがこちらを見ているのがわかる、正確にはパソコンだろうか?

 

「気になる?まぁ子供が見ても楽しいものじゃないけど」

 

まぁこういうのも気になる年頃かと考え、ちょいちょい…と手で呼ぶ

 

「今何してるの?」

 

「課題〜分かりやすく言うと宿題かな?」

 

そういったきり反応もせずじっと画面を食い入るように見つめる、

その様子をキーボードをカタカタ打ちながらもしっかり観察していくと、少し面白いことに気づく

 

「へぇ…アクアはすごいな」

 

「え?…何が?」

 

「だって、僕が今何を書いてるのか正確に把握して、しっかりと読むことができるから」

 

「別に凄くな…」

 

「いやいやすごいよ…正直今やってるこれは教師ですら苦労するような物なのに、完全に理解できる子供…ねぇ?」

 

ビクッ!…

 

「べ、別になんにも分からないよ?」

 

そう言うけれど、肩が跳ねて青い顔になって慌てたように距離をとって本を読み始める

そして先程から視線を飛ばしているもう1人に話しかけて

 

「何か心配事?」

 

「べ、別になんでもないよッ!」

 

慌てた様子で視線を逸らしてテレビに戻る、だけれどどこか嘘くさい、その様子をじっと眺めて観察しているうちにとあることに気づく

 

(いや…まじか…これはすごいな)

 

「ルビィはとっても頭がいいよね?」

 

「…?」

 

突然何を言ってるんだ?とうとう頭がおかしくなったのか?という顔で明智の顔をじっと眺めて

 

「いやぁ〜何となく思っただけだよ、顔つきでその人がどんな人間か分かるって言うか、僕は結構苦労して大学に入ったけどルビィなら勉強しないで試験突破余裕でしょ」

 

「えぇ〜突然何言ってるのぉ?」

 

「アイ譲りで顔も可愛いし、まさに天は二物を与えるってやつ?」

 

「えっへへぇ」

 

気を良くしたのか内心(こいつ私の頭の良さに気づいてる?、やっぱり溢れ出る知性は隠せないか〜!)なんて調子に乗って

 

「いやそれは無いだろ」

 

真顔でアクアが否定する

 

「いやいやお兄ちゃんには分かんないんだよ!私の溢れ出る天才ぶりってやつがさ!」

 

「いやいや、あれがどれだけ過酷なのかお前が知らないだけだから」

 

「そーそー実際マジで苦労したよ僕は、1番苦労したのはなんだったの?」

 

「やっぱり英語かな……ぁ…な、なんでもない」

 

慌てた様子で口を噤んで青かった顔がさらに青くなる

 

「へぇ…苦労したことあるんだ?」

 

「な、ないよ?僕だってまだほんのこ、幼児だよ?」

 

そういう声は震えていて、あとから気づいたのかルビィも顔を青くして気まずそうに震えている

 

「僕さ、実は天才っていうやつなんだよね」

 

本日何度目かのこいつ何言ってんの?顔を頂きつつも、明智は続けて

 

「僕は人を見た瞬間にその人間の過去、人間関係、性格、趣味嗜好、そういうあらゆる情報が僕の脳みその中では当たり前のようにはじき出されるんだよね」

 

そう言って2人の間にたってルビィと目線を合わせて

 

「じゃあ軽くお披露目会をしてみよう、ルビィ…僕はずっと疑問なんだけど…なんで君は…いつも愛されるための演技をしているの?」

 

「ッ!?…………」

 

驚き、困惑、恐怖、そんな表情を一瞬のうちに浮かべて

 

「今ので確信した、君がこれから否定の言葉や何を言ってるのか分からないと言うかもしれないけど、それは全部嘘だ、それが元から生まれ待った才能だったら僕も特に気にならなかった、アイの子供だからね?でも君には元からそんな才能はなかった」

 

そのまま言葉を続けて

 

「君にそんな才能は無い、でも君は嘘をつくことができる、それも呼吸をするかのように、人に愛されるための嘘を何の気なしに、常に嘘をつき続けることが出来る、正直驚いたよ、君たち2人の幼児の演技自体は簡単に見破れたのに、君のもう1つの演技自体は一瞬気づけなかった、自然体すぎて、あまりに真実のような嘘をついていたから、一瞬僕はその嘘を信じかけた」

 

「それでさ?なんで君はそんな嘘をつくのか聞いてもいいかな?」

 

ルビィは恐る恐る顔を見上げる、そこには

しっかりと目を見つめたまま、でも犯人を追い詰めた探偵のような鋭はさなくてそこにはただ、優しさだけが溢れていた

君の全てを理解しているから安心して全てを吐き出して欲しい、そういう顔だと一瞬のうちに理解した、

顔を見るだけで相手が何を考え、何を思っているのかそれを理解できるのは彼女があの病室で常に人の顔色を伺って生きて来たからだろう、そんなに優しい顔をするすくせに優しい嘘で包んでみんなに都合よく、自分に都合のいい嘘で隠し通していることを、傷つかないようにしていることも理解しているくせに

 

ルビィの心には恐怖よりも怒りが湧いてきた

 

「…ないから…」

 

「うん」

 

「愛されないから!ダメダメな私じゃ愛されないから!生きていけないから!、だから!だから私はいい子で居なきゃいけないの!いい子でいない私に価値なんてない!生まれた意味も!人に優しくされるのも!本当の私なんかじゃ手に入らないから!」

 

ボロボロと赤い宝石のような目から涙を零しながら、でもしっかりと目を見つめて、自身の最も苦しい過去を無理やり引きずり出され、夢のままで居られたはずなのに現実に戻された少女は泣き続ける

 

あぁ…もう戻れないのだと、夢の終わり、夢から覚めてしまった

もう…誰も私を愛すことなんて出来ないだろう…でも早くてよかった…早い方が傷は少なくて済むから、

だから…

 

「ぁ〜これか」

 

「ごめんな、これはアイに言われるわけだ、デリカシーがないって言われても当然だな」

 

そう言って頭をかいて申し訳なさそうにしながら

 

「何…それッ!じゃあ暴かないで欲しかった!ずっと夢のままでいさせて欲しかった!なんでも分かるんだったらなんで放っておいてくれないの!ずっとこのままで!」

 

「でもムカつくからいいか」

 

「僕はさ?正直アクアとルビィが何者かなんて興味が無い、別に何者でも構わないしそんなことはこの際どうでもいい…でも、アイが君たちのおかげで救われたんだよ、僕じゃ無理だった、僕にできるのはせいぜい嘘で包んで誰にも傷つけられないように自分を守るあいつの嘘を無理やり剥がして引っ張り出すことしか出来なかった」

 

それはアクアとルビィに語っていると言うより自分自身に言っていて、どこか懺悔のように感じさせる声色で

 

「そうやって引っ張り出して、結局あいつに本物がどんなものかを伝えることが出来なくて、そのくせ、嘘で包んだアイツの中身を暴いてしまう、あいつのためにならないからって自分勝手な言い訳で逃げ出して、関係を修復することすら怖くて、ずっと二の足踏んでた…でも…君たちのおかげであいつは本当の愛って物がどんなものか分かったんだよ、それなのに…それなのになんで君が…アイに本当の愛を教えて救ってくれた君が…そうやって嘘をついて自分を隠してるんなんて…

そんなの…寂しいだろ…」

 

「怖いから…否定されるのは…無視されるのは…怖い…から…」

 

「怖いことも正直あるだろけどさ…でもさ?見てくれよ…ルビィ…お前の今の周りにいる人間は、嘘で包んで守ってなきゃいけないほど怖い人たちは居るか…?」

 

(ママとパパは…私が病気になって…治らないって分かってから来てくれなかった…でも!…でもいつか…私の事を見てくれるって…自分自身に嘘をついて…病気に負けない健気な私だったら…待っててくれるんじゃないかって…見てくれるんじゃないかって…でも…見てくれなかったそれなのに…)

 

目を…合わせてみる…しっかりと相手の瞳の奥の奥まで見つめて

 

(キラキラと黒い宝石のような瞳が優しく、でも寂しそうな目で私の事をじっと見つめてた…)

 

「でも…誰も…」

 

「ルビィ、別に君は演技しなくても、君はもう愛されてるだろ?

ほら、ここに1人…とりあえずさ?友達から始めませんか?」

 

そう言って手を差し出す、その掌は大きくてあの時私を励ましたのとはちがって優しくなくて、デリカシーがなくて、かっこよくなくて、でも…とっても暖かい…

 

そのまましっかりと手を結んで大声で、その時少女は初めて、本当の意味で涙を流した

 

 

ルビィが泣き止むまで10分以上かかった…その間手はしっかりと繋いでいて、少し力を込めたら壊れてしまいそうな掌をしっかり握って、でも優しく繋ぐ

アクアはルビィの背中を優しく撫でて今この空間に自分を否定する人はいない、拒絶も、無視も、ただ、自分が泣き止むまで優しく寄り添ってくれる…嘘をついてない自分の隣に、当たり前のように座ってくれる…

 

「えっと…そのぉ…まじ…すいませんでした…」

 

ひっく…ひっくッ…涙を出せるだけ出して落ち着いたのか、じっとりとした目で見つめられ、そこにアクアの目線も加わり…外見だけ見れば幼児相手に大人気ないことをしたこの男は…静かに…ただ、美しく土下座をした

 

「デリカシーが無さすぎる…」

 

「その通りでございます…」

 

「デリカシー…なさぉぉ…」

 

「はぃ…ほんっっとうに…ないです…ごめんなさい…!」

 

そのまま居心地の悪さに本格的に自分のデリカシーの無さに絶望していると

 

「本っ当に…デリカシーとか無いわけ?」

 

「はぃ…ないです…見えすぎるほどものが見えて…しまって…その…はぃ…突っついてまわったり…とか…暴いてしまったりとか…して…はぃ…なので…こんな僕でよければ…友達〜…になってくれませんか…?」

 

そう申し訳なさそうな顔でこっちをじっと見つめてくるその顔を見てたらだんだん馬鹿らしくなってきて

 

(本当に見ただけでその人がどんなことを考えてるのか分かって…抱えてる悩みも、不安も、自分を守るためについてる嘘も全部引っ張り出して、ひっぺがして…裸にしたくせに…こんな申し訳なさそうにして…身勝手で、デリカシーがなくて…でも…本当の自分をしっかりと見て…それでも友達になって欲しい…なんて…卑怯だよ…あぁ…アイがああなっちゃうのも分かるかも…)

 

「と、友達ぐらいだったら…いいよ…」

 

そう言って手を差し伸べてくれる

 

「ははッ…ありがと」

 

その手をしっかりと握り返す

 

そのまま泣きいて疲れてしまったのか

 

「マジでありがと、アクア」

 

ルビィの頭を優しく撫でているアクアに感謝を伝えて

 

「まぁ…本当にデリカシーって言うものがないのを改めて再認識したけど」

 

「グゥ…それに関しては本気で反省してます…」

 

上を向いて

 

「昔からそうだったんだよ…見えすぎるほど見えて、他人が抱えてるもの全て見通せて、人が否定したいものも、隠しておきたいものも、忘れてしまいたい過去も全部引っ張り出して…だから…友達ってできたことなくてさ?」

 

「………」

 

「だからあの時はびっくりしたんだよ?僕は、忘れてしまいたい過去を引っ張り出して、守っている嘘を剥がして、まっさらにして…それなのに僕に付きまとい始めてさ?」

 

「それって…」

 

「だからマジでアクアとルビィには感謝してるんだよ、あの時僕は確かにあいつの命は救えたかもしれない、でも心までは救えなかったと思うんだよ…だから…ありがとう…あいつに愛を教えてくれて…」

 

心からの感謝を込めて頭を下げる

 

「心が救えても命がなかったら意味は無いよ」

 

遠い昔を思い出すかのようにアクアが言う

 

「だから俺達はアイに本物を教えて、明智はアイの命を救った」

 

ポンっと頭に手を置いて

 

「だから…俺達3人のおかげでアイを救えたんだと思うよ」

 

優しくて小さい、でも自分の手のひらよりずっと大きく感じる、その思いに思わず涙が零れそうになってしまい上をむく

 

「まじでさぁ?あんた何者?僕が人生において言い負かされるのってこれで2度目なんだけど?」

 

「さぁ?でも他の人よりほんの少しだけ、人の価値を知ってるだけ…かな?」

 

そう言って笑うアクアは随分大人のように見えた

 

 

その後

 

「ママ〜!!」

 

「ただいまルビィ、アクア!」

 

「ねぇ…ママ…私の事愛してる?」

 

「それはもちろん…ふふっ」

 

ルビィの顔を見て優しい笑みを浮かべてしっかりと赤い宝石のような瞳を見つめて

 

「私はルビィのこと愛してる」

 

しっかりと自分の中の本当の愛を伝えて…

 

「私も…ママのこと…愛してる」

 

そう言ってしっかりと抱きつく、お互いに今のが本物かどうかの判断はつかないかもしれない…でも…ただ1人、他人の本物を見続けた男だけは…理解しているのかもしれない…

 

 

 

「いやぁ〜ありがとね、先輩どうだった?仲良くなれた?」

 

甘えてくるルビィを抱っこしながら聞いてくる

 

「まぁ〜ちょっとは仲良くなれたかもな、とりあえずは友達からだよ、な?ルビィ」

 

そう言ってルビィのほっぺたを指でつんつんしようとして

 

がぶぅぅッ!!

 

「イッデェェ!!??」

 

(確かに私は友達になるって言うのは認めたけど調子に乗らないで!このデリカシーなさ男!!私にとっての1番はこれからもこの先もずっとせんせぇなの!あんたなんかッ…まぁ…100位以内には入れてあげる…)

 

 



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止まり木

あれ?おかしいな…なんで僕は本編が終わったはずなのにストーリーを考えて自分の文才の無さに絶望しながらもこうして続けているんだ…?おっかしいなぁ…まぁ、やるけど…やるけどね?まだまだ見たいものたくさんありますし!

誤字報告ありがとうございます!ちょっと機能に疎いのでできてるかどうか分かりませんけどありがとうございます!

あと感想とか評価くれるのめちゃくちゃ嬉しいもんですねぇ…

感想の返信出来てないけどしっかりと見てるのでどしどし送ってくれると血反吐吐きながらも頑張って書きます!


 

「ほんっっとうにずるい!!」

 

子供たちの前でそう叫ぶ現在人気も人気大人気アイドルを引退し女優になった大人気モデル星野アイ彼女は現在家族水入らずのお茶の間で突然声を上げ始めた

 

「先輩って本当にずるいんだよ〜?再会してさ?連絡先の交換とかしたのに、毎回私からチャット送ったり、電話かけたり!これじゃあ私がかまって欲しいみたいに見えない?ねぇ〜どう思う〜アクア〜」

 

顔を赤く火照らせて明らかに通常のテンションから逸脱している状態で息子にだる絡みし始めて

 

「お、落ち着いてアイ、向こうは本当は会いたいけど恥ずかしくて声をかけづらいとかだと思うよ?」

 

「嘘だぁ〜ヒック…あの人にそんな所は…所はぁ…まぁ…あるかぁ…」

 

 

「ママ可哀想〜」

 

「でしょぉ〜ルビィ〜」

 

そのままルビィに寄りかかってうりうり頬っぺたを押し付けて役得なのかニヨニヨしているルビィ

 

「もぉ〜先輩はいつもそうなんだよ?嘘は最高の愛なのに、いつも私の本当の部分を引きずり出してくるんだよぉ?それにさぁ同じ学校の時も私から行かなきゃ全然来ないしぃ〜」

 

なんて愚痴なのか惚気なのかよく分からないことボソボソ呟きながらルビィにだる絡み

 

「んっ…すぅぅ〜…」

 

そのまましばらく喋って満足したのか、ソファで寝てしまい

気を利かせたアクアが毛布を被せて

 

「あのさぁ?明智を本当に何とかしたいんだけど?アイ可哀想…悪い男に捕まっちゃった〜」

 

「相変わらずだねルビィ、でもなんだかんだ明智のおかげでアイの新しい一面が見れるのは嬉しいんだろ?」

 

「ぅ…そ、それは…さぁ?まぁそうだけどさぁ?でも全然進展ないよ?」

 

「まぁアイも忙しいだろうしあっちもあっちで今大学生だからそこそこ忙しいんじゃないか?」

 

「う〜んむかつくぅ、明智とアイが絡むのもムカつくくし!デリカシーなんて全くなくて人の脆いところに突っ込んでくるくせに変なところで1歩引いてがっついてこないし!こんな可愛い子にデレデレされてるんだよ!本当に男なの!」

 

なんてよく分からない感情の狭間でキレ散らかして今日も今日とて厄介オタク全開のルビィ

 

「う〜んお互い忙しいし、物理的に距離があるしなぁ…ならさぁこうするのはどうだ?」

 

なにか思いついたのかアクアがルビィに伝えると

 

「さっすがアクア!!」

 

そしてしばらくして

 

 

「お疲れ様〜ミヤコさ〜ん!」

 

「はいお疲れ様です、あぁ、新しい人が入りましたよ」

 

「へぇ〜新しい人?」

 

もうすぐ来るから後で挨拶させますねと言われてしばらくして

 

ガチャ…

 

「すいません思いのほか講義が長引いちゃって」

 

「初めまして〜私アイです!よろし…何してるのかなぁ?」

 

そこには明智がスーツ姿で登場していた

 

「なんか…誘われた」

 

「私が誘いました、明智さんは前々から優秀だと社長に聞いてましたので」

 

そういうとボソボソと双子と喋り始めて

 

「こ、これでいいんですか?」

 

「これ!これでいい!ムカつくけどママのあの顔みた!?作ってた表情が変わったぁ、あんなアイ初めて見た〜!」

 

「ルビィ、声が大きい、ありがとう、とりあえずこれで」

 

物理的には距離が縮まったな

 

そう思って2人を眺める

 

「へぇ〜ここで働くんだ〜」

 

「まぁなんかアルバイトみたいな感じでどうだ?って誘われてな、大学もそんなに忙しくないし」

 

「大学…忙しくないんだ?」

 

「ん?まぁな正直出たい講義とかないし出席取らない講義を中心的にとって友達に代わりに出席とってもらったりしてるから基本的にほぼ家でないし!」

 

キメ顔で言って

 

「ふ〜んそうなんだ〜」

 

「あぁ?何不機嫌になってんの?」

 

「ぜんっぜん不機嫌になってませんけど?変な勘違いしないで!」

 

「僕がお前の嘘に騙されないって後どのくらいで学ぶんだお前?、まあいいけど…とりあえず」

 

手を差し出して

 

「これからまぁ…その…よろしくな?アイ」

 

「ぁ…う、うん…まぁ…仕方なく…ね!」

 

(ほんっと…ずるい!ずるいずるい!暇があるなら少しは私に連絡すれば良いのにとか!もっと会いに来る時間作れるじゃんとか、言うことあるのに!名前呼ばれただけでこんなになるなんて…ッ!)

 

「あの時以来だ……」

 

ボソッとつぶやく

 

「ぅぁ…い、いやあれだからな!!こういう正式な挨拶の時はお互いやっぱり大事だろうが!」

 

「ぷぅッ…そうだね!じゃあよろしく」

 

(そういえば初めてかな?)

 

「先輩!」

 

そう言って差し出された手に手を重ねる

 

 

 

そこからは以下の通り

 

 

 

「ねぇ〜なんかお腹空いたんだけど?」

 

カタカタカタカタカ

 

「ねぇ〜?聞いてる〜?」

 

「ふぁ〜〜」

 

ムカッ

 

「ねぇ…先輩?」

 

「どぉっわぁ!?!?」

 

ガタガタッ!!

 

パソコンで作業している明智構ってほしいアイをガン無視していると真後ろまで近づいてきてそのまま耳元で囁きかけて来る、これには思わず反応してしまい

 

「どぉっわぁ〜だってぇ〜変なの〜!!」

 

「あのっさぁ?僕は今仕事してるの仕事!タレントのマネジメント!あとその補佐、諸々の調整と雑用!お前の相手をするのは業務内容に含まれてないから!終わるまで待ってろ!」

 

「何言ってるの〜?私苺プロの主力商品なんですけどぉ?私のために働くってことは実質苺プロの仕事をしてると同義だと思うんだよねぇ」

 

「だいぶ暴論過ぎない?」

 

「暴論じゃないでーすお腹空いたから何か買ってきて〜それか…一緒に食べよ?」

 

「はぁ?残念ですけど主力商品であるお前様の名に傷がつくようなこと出来ませんので大人しくしててくれやがれください」

 

その背後でコソコソしている2人

 

「アクア…なんか逆効果じゃない?」

 

「いや…よく見てみろ」

 

「んー?」

 

そう言ってよく観察しているとアイも明智もお互い軽口を叩いて、軽い喧嘩みたいなことをしてるのに口元は少し笑っててまるで家にでもいるかのようにリラックしているそれを見て

 

「ほんっっとうに…ほんっっとうに尺だけど…ママがすっごい嬉しそうなのがすっごい可愛い!!」

 

そのまま悔しさをバネにアイに抱きついて

 

「ママ〜!」

 

「おっとぉ、どうしたの〜?ルビィ?」

 

「なんかママ嬉しそぉ!」

 

「えぇ〜そんなことないよ〜いつも通りだよ?」

 

「そうだぞルビィ…君のママはいつもこんな感じでなぁ?僕がなにかしてる時に必ず邪魔をしないと気が済まないんだよ」

 

「違いまーす先輩が私っていうとびきり可愛い女の子にまったく反応がないのがおかしいだけだもん」

 

「あのぉ?痴話喧嘩もいいけど仕事してね?」

 

正面からこちらを顔を覗かせてくるミヤコ

 

「はい…」

 

「うっわぁ〜怒られてる〜ルビィ可哀想だねぇ」

 

「うん!可哀想!!」

 

ここぞとばかりに煽り初めて、なんならそれに便乗するルビィ

 

 

「こんっっのッ…」

 

と悔しがりながらもしっかりとキーボードを指で叩いており歯ぎしりしながらきっちり仕事はしているというだいぶ器用なことをしている。

 

「仕事ぉ」

 

「ぁ〜すいません、とりあえず日程の調整と撮影場所の許可、カメラマンの交渉と、機材についてもだいたい確認済みです」

 

「え?ほんと?」

 

そう言って慌てて明智のパソコンに顔を近づけて

 

「ほんとだ…終わってる…」

 

「まぁ僕は天才ですからね?この程度」

 

「うちに来てくれてありがとぉ!!これも神の啓示よ!!」

 

「なんかテンションおかしくないです?いや…まぁ僕頑張りますね?」

 

そのまま感極まったのか両手を繋いで

 

(よく見たらこの人目の下にクマが…どんだけギリギリの状態だったんだこの会社)

 

いくらドームのアイドルを生み出したとはいえ、弱小の会社が突然大きくなる訳ではなくこういうところで社会の闇の一端を知る明智

、それになんだかんだ男なので美人に手を握られるのは役得のような所がある、特に拒否せず受け入れて

 

ジィィィィィ…

 

その後方ですっごい目で明智を睨みつけている人物が居なければであるが

 

「わ、私は仕事に戻るわね!!」

 

そのままいそいそと逃げてしまいなんならこの部屋から退出してしまう

 

「良かったね〜あんな美人さんに手握られて」

 

「いやいやあの人既婚者だろ!そういうのじゃないから」

 

「それにしては鼻の下伸ばしてたけどなぁ?」

 

「ぁ〜わかった、分かったからご飯、ご飯な!」

 

こうなったらしばらくかかると思ったのかアイに帽子とサングラスを掛けさせて

 

「ちょ!何それ!面倒くさくなったからご飯で機嫌を取ろうとしてる!?」

 

「はいはいそういうのじゃないから!ぁ〜この辺で個室で食べれるところは〜てんおい、早く行くぞ」

 

「ちょ!わかった!わかったから!押さないでって!」

 

「あ、アクア、ルビィ!いい子にしててね?ミヤコさんの言うこと聞くんだよ?」

 

そのまま有耶無耶にすることに成功した明智、犠牲として個室で高い焼肉を奢り、諭吉を何人か生贄に捧げることで何とかして機嫌をとった

 

「行ってらっしゃ〜い」

 

「ほらな?良い感じになったろ?」

 

なんとも投げやりなアクアである

 

明智が仕事場に居るという非日常にも慣れて、日常になったある日

いつも笑顔のアイが疲れた様子で帰ってきた

 

「ただいま〜」

 

「おつかれ〜」

 

そのままソファにボブっっと座り、しばらくしたら寝息をたてはじめる

 

「今日の撮影は相応ハードだったみたいね、ちょっと何か買ってくるわ」

 

「ぁ、僕も行くルビィも一緒に行こ」

 

「えぇ〜私ママと」

 

「いいからいいから」

 

「アイの事よろしくね?」

 

そう言うと2人っきりの状態にしてしまった

 

「………アクアめ、明らかに邪な感じで気を使いやがって…はぁ〜」

 

起こさないように毛布をかける

 

「お前はやっぱり凄いやつだなアイ」

 

「んぅ…?先輩?」

 

少しの物音で目を覚ましてしまったのか寝惚けた目で明智を見つめる

 

「悪い、起こしたか?」

 

「ん〜先輩がどこか行っちゃった気がしたから起きちゃった」

 

「なんだそりゃ、疲れてるんだろ?今ミヤコさんが買ってきてくれるってよ、なんか食べたいものあるか?」

 

「なんかテキトーに」

 

「それが一番困るんだよなぁ」

 

「うりゃぁっ」

 

何を思ったかそのまま引っ張って隣に座らせ、太ももに頭を載せて

 

「うっぉ?どうしたんだよ?」

 

「別に〜何となく」

 

特に明智も抵抗しないでされるがままに

 

「男の太ももとか硬いだけだろ」

 

「確かに硬いけど…結構寝心地いいよ?」

 

「そりゃよかったよ」

 

不意に手が動いてアイの顔に掛かった髪の毛を優しい手つきで払う

 

「どうしたの?」

 

「何となくだ」

 

「なにそれ〜」

 

2人して軽く笑って

 

「随分おつかれだな?」

 

「そんなことないよ〜」

 

「僕の前では?」

 

「嘘は効かない、でしょ?そりゃ疲れるよ」

 

「素直でよろしい」

 

「疲れるけど…楽しいよぉ」

 

「そうか」

 

「ん〜、先輩」

 

「なんだ?」

 

「なんでもなーい」

 

「なんだよ」

 

「なんでも…ないっ…って…ばぁ…」

 

またうつらうつらと船を漕ぎ始めて

 

「軽く寝とけ」

 

「んーそうするぅ」

 

「どこにも行かない?」

 

「行かないって…いいから寝てろ」

 

そう言ってまた優しく頭を撫で始めて

 

「んぅ…」

 

安心しきった顔でそのまま寝始めて

 

「ほんっと凄いやつだよアイ、お疲れ様」

 

そのままずっと頭を撫で続ける、優しく、丁寧に、愛おしそうに

 

(髪の毛…すっごいサラサラだな、普段あの吸い込まれそうな瞳が目立ってるけど、髪の毛だってしっかりとサラサラで、この距離なのに甘い香りがするな…

アイドル引退したとはいえ美が重要な世界にまだ席を置いてるから、当たり前と言えば当たり前だけど、やっぱりものすごく綺麗な髪の毛だ…いつまでも触ってたい)

 

「はぁ〜本っ当アイはずるいよな」

 

(こんな甘え方されて意識しない男とか居ないだろ)

 

 

ミヤコ達が帰ってくるまで優しく頭を撫で続ける明智と、一切不安のない顔で幸せそうに眠るアイとの空間がしばらく続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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嘘の使い所

1話飛ばして投稿していたことに気づかなかった馬鹿ですどうも、
いやぁ…まじで一瞬焦りましたよ、申し訳ないですけど一旦消しての連続投稿です!




 

「アイの付き添い?」

 

いつも通りパソコンに向かってカタカタと仕事をして、その間だる絡みしてくるアイの猛攻を退けながらもさっさと仕事を終わらせた明智は、ソファにぐったりと寝っ転がった状態で

 

「そうなのよ、社長は他に出る所があって、貴方仕事覚えが早いし、初めて1ヶ月経ってないのに主戦力として申し分ないから社長がね?そろそろ現場につれて行ってみてもいいんじゃないかって」

 

ソファから起き上がって

 

「いやいや、僕の立場って今のところただのバイトですよ?そのバイトにこれ以上の何を求めてるんですか?」

 

「まぁ…私の目の前でさっさと自分の仕事を終わらせてだらけきるようなバイトでは無いはね…」

 

ピクピクを頬を引くつかせて…

心情的にはものすごくイラついているのだが、仕事が早い、丁寧、一切のミスがない、割り振った仕事の量は一日やそこらで終わるものではなく、何日も掛けてやっと終わる物もある、

それをほんの30分かそこらで終わらせて暇そうにしている明智を見るのも精神衛生的に悪いのか、

あと普通にアイと痴話喧嘩をすぐ始めるのもある

 

「いやいや〜僕みたいなペーペーは裏方とかで十分ですよ」

 

「えぇ?先輩撮影来るの?」

 

どこで聞いていたのかひょっこりと現れて

 

「そうなのよ、裏方の作業だけじゃ分からないところも出てくると思うから1回現場の空気を知っておくって言うのも大事だし!」

 

「いやいや!あれですからね僕は」

 

「いいじゃん!はい決定!いやぁ〜先輩にかっこいい私を見せちゃいますか〜」

 

「そうね、ここはうちの主力がどれだけのものかこの小生意気な新人に教えるチャンスよ!」

 

明智が何とかして行きたくないアピールをするがそんなことはお構い無しに話が進んでいき

 

「分かるかぁ?ルビィ、これが安い賃金で働かされて店長が黒を見て白と言ったら白い…そういうイエスマンな生き物がバイトという存在なんだよ?ルビィ」

 

「ママッ…!のぉ!かっこいい所が見れるところに…ッ!行かないとか!ありえない…ッ!し!あとッ!暑苦しいから離れて!」

 

ルビィによっかかってだる絡みし始めて、相当に嫌なのか何とか引き剥がそうとしながら

 

じぃ〜っとルビィと明智を見つめて

 

「この前までそんなに仲良くなかったと思ったけど、仲良しになったんだね!」

 

「ママっ!ち、違うの!こ、これは明智がかってに!!」

 

「なんで不倫がバレた夫みたいな反応してるんだ?ルビィは」

 

アクアが少し離れたところから冷静に突っ込んでいて、ルビィに助けを求められては居るが関わりたくないのか一定の距離をキープ

 

「ハイハイ!遊んでないで支度して?」

 

 

「先輩、私のかっこいいところいっぱい見せちゃうからね?」

 

「ん〜?じゃあお手並み拝見と行かせて頂きますよ」

 

「いい加減っに…離れッろぉ!!」

 

べちんっっと乾いた音が事務所に響く

 

 

 

「アイさん入りまーす」

 

「苺プロダクションから来ました、アイです!よろしくお願いします!」

 

大勢の人、機材、それらの中を歩く時も我らが主力、苺プロダクションのアイは目立っていた、その横にミヤコ、その子供2人、そして明智の順番で入っていく

 

「おぉ〜今日はよろしくな?」

 

伸ばしっぱの髪、雑な髭に煙草の臭いを纏って監督が挨拶しに来る

 

「ぁ〜監督、今日はよろしくお願いします!」

 

「ぉぉ〜よろしくな、早熟コンビとマネージャーも久しぶりだなー」

 

顔見知りなのかお互い挨拶を交わしていると

 

「ん?そいつは?」

 

「ああ、彼は」

 

「うちの新しいマネージャー候補だよ!監督」

 

「へぇ?新しいマネージャーねぇ」

 

「明智乱歩と言います、よろしくお願いします」

 

きっちりと挨拶をして腰の角度も気を使い、できる限り真面目な印象を与えるように振舞って、後ろの方からぶふっと軽く吹き出す音が2つぐらい聞こえたのは明智は気のせいだと無視して

 

(ここで重要なのは意識されすぎないこと、真面目すぎず、どこにでもいるような新人っぽい雰囲気を纏って、あぁそういえばそんなやつもいたっけな?程度に収める)

 

「新しいの入ったのね、ま、よろしく」

 

「はい」

 

そのまま興味をなくしたのかさっさと行ってしまう

 

「うっわぁ先輩なんか似合わないね?」

 

周りにバレないような距離ででも明智にギリギリ聞こえるような声量で

 

「あのなぁ?僕がなるべく目立たないようにしてんのにお前さぁ、ここでの主役はお前なんだから、そろそろ始まるんだろ?とっとと行ってこいよ」

 

「かっこいい私見ててね?」

 

そう言って衣装を整えに行くアイを見送って

 

「それでこの後僕達何するんです?」

 

「挨拶回りとかよ」

 

「ふーんじゃあちょっと辺り見てきますね」

 

「あ、ちょっと」

 

静止の言葉も聞かずにさっさと言ってしまう

 

「はぁ〜」

 

 

 

とりあえずある程度みんなから離れて見ることのできる場所で、でも近すぎず、遠すぎず、

相手の表情を見れてなおかつこちらにあまり注目されない場所で人を俯瞰で見つめて

 

(現在婚約者がいる、けど隠れてほかの女と付き合ってんなあの人、ぁ〜あの人は二股かけてる、ホストに大金貢いでるなぁ…もうしばらくしたら色々爆発しそう、あの人は2回結婚して2回目の離婚調停中、あのカメラマンと脇役のあの子隠れて付き合ってるのか

あの女優…ふ〜ん…)

 

 

そんなふうに芸能人の闇と言うものを暴きに暴きに暴いてしっかりと現場の空気を堪能してボソッと

 

「あぁ…なるほど、だからわざとアイをぶつけるのか」

 

「ほぉ…それに気づくか?」

 

周りを観察していて周囲に気を配っていなかったとはいえ、突然横から話しかけられ思わず振り返ると、先程の監督が煙草を吸っていて

 

「お疲れ様です」

 

「ぁ〜そういうのいいから、お前猫かぶってやがったな?」

 

そうニヤニヤ言いながらタバコの煙を吐き出して

 

「ここいい場所だろ?ここだったら俯瞰して周りを見ることが出来る、撮影機材、裏方、役者の状態も全部な」

 

「いえ、僕はたまたまここに来ただけで、ミヤコさんに現場の空気を知ってこいと言われてきただけのペーペーなのでなんとも」

 

なんて言ってチラッと目線を向けるけれどどうやら通じないらしく

 

「教えてくれよ?なんでわかったんだ?今回の魂胆が」

 

「はぁ〜タバコ一本くれます?」

 

髪の毛をかきあげながらため息をひとつ

 

「うぉッ、突然雰囲気変わったな!」

 

煙草を一本もらって火をつけ煙を吐き出しながら

 

「そりゃ僕はただの裏方ですからね、裏方が目立っちゃダメでしょ、だから誰にも印象を持たれないようにしてたのに…まさかこんな凡ミスを僕がするなんて」

 

「へぇ…」

 

「ぁ〜まぁ…バレたのがあなたで良かったってのは少しありますね、それで?なんで分かったのかって話でしたっけ?」

 

「そーそー見た感じ誰かと話してる様子もなかったのになんで分かった?」

 

「今回アイの役目は2つ、ひとつは看板役者、ドームを成功させたアイドルが女優に転身、それで現在CMにもガンガン出てるし出演料も正直そこまで高くない、とりあえず出しといて損の無いカード」

 

一旦言葉を区切って煙を吐き出して

 

「2つ目の役目は現在実力を兼ね備えていて看板としても有効なあの女優をある程度潰すことが目的、看板としてはアイが完全に勝ってる、まぁそこに負けないだろうけど、正直演技だったら全然勝てない、でも、そんなの視聴者には関係ない」

 

「視聴者は確かにある程度演技を見ている、中には鋭い観察眼でその演技にどれほどの価値があるのかわかる人間はいる、けどそういう人間は絶対数が少ない、だからこそ画面の中で1番目立つ人間に食われる、しっかりとした実力があり、看板としても充分の役割を果たすことが出来るのにわざわざアイをぶつける」

 

「多方ほかの奴らはもっと安価であの女優を使いたい、だからこそアイをぶつけて食わせる、そうすることで作品としてのレーベルが保てないかも?と周りに思わせておいて、そこである程度の値段をふっかけて使い潰す」

 

そう言って煙草を踏み潰し、それを拾って差し出しながら

 

「これだから芸能界って言うのは好きになれないんだよ」

 

「まじかよお前何者だ?この一瞬でそこまで全部見通すとか…」

 

「明智乱歩、どこにでもいるただの天才ですよ」

 

 

「おもしれぇ…お前なんで裏方なんてやってんだ?お前だったら絶対経営者の方が向いてるだろ?」

 

「いやいや、そういう大人の皆々様の都合で回っていく世界に興味が無いので」

 

「お前…」

 

「役者はやりませんよ?」

 

「いやいや!お前だったら絶対いい画が取れるって!」

 

「いやいやマジで遠慮しときますって!そんなことより苺プロのアイをよろしくお願いします!」

 

ごねる監督をあしらいながら撮影が始まり撮影終了後

 

「興味が湧いたら電話かけてくれ」

 

「だからやりませんって」

 

名刺を渡される明智

 

「一体何があったの?」

 

「さぁ?なんか気に入られました」

 

 

そんなふうに監督に名刺を渡されたことも忘れたある日いつも通りの業務に当たっていると固定電話に着信があり

 

「はい、こちら苺プロダクションです」

 

ミヤコが電話の対応をしてる時なぜか嫌な予感がしたのかそそくさと退散しようとする

 

「先輩?どこ行くの?」

 

「いや…なんか嫌な予感がしてさ」

 

対応が終わったのか電話を置いて

 

「明智君…」

 

「僕ナニモキコエナイ」

 

「貴方にオファーが来たわ…」

 

ソファに丸まり耳を塞いで聞こえないフリをする

 

「はァァァ〜〜」

 

面倒事に巻き込まれる予感しかなく、さらにソファで丸くなる明智

 

「いやいや無理でしょ?あんなプロの集団に僕みたいな素人が入って行くとか絶対無理だから」

 

「えぇ〜そんなことないって〜!先輩だったらなんだかんだ言いながらムカつくぐらい完璧になるでしょ!」

 

「褒めてると見せかけてさりげなく攻撃してくるのまじでやめてくんない?」

 

「はぁ〜一体どうしてこんなことに…」

 

「いやいや、そもそも普通に無理ですよねミヤコさん?別に僕苺プロに所属してる訳でもないし」

 

「まぁ…そこはどうにでもなるけど…」

 

(どうにでもなるんか…)

 

「いいじゃん先輩!出ようよ〜!」

 

「はぁ?あのさぁ?めちゃくちゃ簡単に言うのやめてくんない?」

 

(いやいや確かに僕は天才だけどさ?正直演技とかしたことないし、やったことも、そもそも考えたこともないんだよ!さすがに無理だろ!)

 

「へぇ〜散々天才とか言ってるくせに出来ないんだ?」

 

「は?」

 

普段の明智だったならばこの程度の煽りでいちいち反応するような男ではなかった…が

 

「まぁ?先輩がいくら天才って言っても?正直演技とかだったら全然勝てる気しかしないし〜」

 

そうやって煽ってくるアイを見ると、ピキピキとダメな方のテンションが湧き上がってしまって

 

ピキッ

 

「ちょっと待ってろ」

 

そのまま部屋を出て言ってしまい、アイは煽りすぎたかな?と少し不安にミヤコはなんでこんなことになるの…そう言って頭を抱えて

 

そんな中ガチャっとドアが開き入ってきた

 

「あ、ちょっと言い過ぎちゃったな?ごめんねせんぱ……」

 

そこに居たのはアイだった、よく見ると服装は明智の物でメガネを外し、髪を上手い具合に崩して、服装も違う、顔はそもそもと男と女なため絶対的に違う、でも纏っている雰囲気はまさにアイ…完全無敵、嘘の愛でみんなを照らす一番星

 

「今日もお仕事頑張るぞぉ〜あ、みんなおはよ」

 

両目が輝き、一瞬アイドルの衣装に身を包んだアイに見えた…でもそれは一瞬で

 

「ぁ〜やっぱ女声はどうやっても無理があるな…まぁ…どうよ?これが僕の実力ってやつ?」

 

そういうと纏う雰囲気は普段と変わらない明智に戻る

 

「う…そ…今どうやったの…?」

 

「どうやった?人を観察して、理解、脳みそに100パーセント情報を持ってくるのが僕の得意なこと…あとは雰囲気、歩き方、髪型、そこに気を使ってトレースすれば」

 

また、雰囲気が変わって、一瞬でスーパアイドルアイの雰囲気を纏って

 

「好きな食べ物はナスのおしんこ!スーパアイドルアイだよ〜」

 

完璧なポーズで普段言わないようなことを言って明智以外の全員が吹いた

 

「どーよ?僕が普段からどれだけお前の嘘も本当も見続けてると思ってんの?出来ないわけないんだよなぁ」

 

「むぅぅ…ムカつくっ!先輩って本当にムカつく!この!天才!器用!なんでそんな簡単にできちゃうの!一瞬本気で私が2人いると思ったんだけど!でも、声はぜんっぜん似てなかった!」

 

「それは無理だろ!どう頑張っても女声は出せないなんでけど、お前のことなら世界で1番僕が知ってる、これだけは確かだ」

 

その発言にそっぽを向いて…

 

「ふ、ふ〜ん…ま、まぁまぁじゃないのかな?」

 

アクアとルビィにはさっきの発言が余程刺さったのかニヨニヨしてる推しの姿を目撃する

 

「明智って本当になんでもできるの?」

 

「なんでもはできないさ、できることだけ」

 

「は?何言ってんの?」

 

ネタが伝わらず、若者の冷たい目線がグサリと刺さる

 

「でも本当にママみたいだった!!」

 

「やっぱりなぁ?」

 

「でも声は変」

 

「それは許して?さすがにそこまでのトレースは難しいから」

 

「これは…絶ッ対に売れる!行けるわ!明智君行けるわよ!」

 

ずいずいと距離を詰めてキラキラした目で明智を見つめるミヤコ

 

「いやいやいや!そもそも社長の許可が出るかどうかわかんないじゃないですか!それにまだ出るとも決めてないし!」

 

「あいつなら何とか説得するから!」

 

「あいつて」

 

「ねぇ…先輩…」

 

「な、なんだよ…?」

 

少したじろいで

 

「出てくれないの…?」

 

「いや…だからさ?」

 

袖を意地らしく掴まれて、うるうるした瞳で見つめられて、明智にはこれが嘘だとわかる、そしてその嘘に飲まれるこのなんてないという自負もしっかりとある…が…

 

「ドラマに出るかっこいい先輩見たいなぁ…?」

 

「ッ…ぐぅッ…」

 

「お願い…先輩…ね?」

 

この日初めて明智は

 

「はい…出ます…」

 

アイの嘘に飲み込まれた

 



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侵食

 

あの子の隣は僕のもの、高校一年生、何の変哲もない女子高生雪宮夕と同じく同じ1年の幼なじみ雨宮空の純愛恋愛漫画、というどこにでもあるような題材で10万冊以上の売上を誇る漫画、それの実写ドラマの2年の

篠崎蒼真と言うキャラクターを演じることになった明智自身の演じるキャラクターをとりあえず把握してみようと漫画を読み始めると

 

「うっわぁ…なんだコイツ…どんだけ属性詰め込めば気が済むんだ?」

 

ソファに寝っ転がりながら自身の演じるであろうキャラクターに対してすごい顔をしながらページをめくっていく

 

「えぇ?先輩どんな人の役やるの?」

 

「ん」

 

「どれどれ〜えーと…ぷッ…ぶっ……あはははははは」

 

漫画を渡されたアイが見ると、思わず笑って

 

「先輩似合わな〜!」

 

「似合う人間がこの世にいるのか?ってぐらい属性盛りすぎだろそいつ」

 

「確かに、ドSお金持ち王子様わがままイケメン?」

 

「あとそこに傲慢とかも追加しとけ」

 

「えぇ〜どうなるのか楽しみ」

 

「あのねぇ?他人事だと思って勝手なこと言うんじゃありません」

 

「でも先輩だったらどうにかしちゃうんでしょ?」

 

「まぁ…出る以上成功、大成功を収めさせてやるよ」

 

そんな啖呵を切ってしまった以上意地でも成功させなければ行けないのだが

 

 

 

「苺プロダクションから来ました篠崎蒼真役…明智乱歩です、よろしくお願いします」

 

「はい、よろしくね」

 

周りもドライというか軽い感じでさっさと次に行ってしまい、他の役者に挨拶をしても同じく軽くあしらわれる、本番までの時間でじっと周りを見つめて…

 

(なるほどね…まぁ当たり前か、まともな実績も活動記録もなくて配役自体も作者は渾身のキャラを作ったのかもしれないけど甘い雰囲気のこの作品に登場するにはキャラが強すぎて2巻以降は突然に姿を消す、で、撮影側からしたらこんなキャラクター消したかったけど原作者からの要望で消すことも出来なくて、なら最大限生かそうとした…おそらく僕という新人に出演のチャンスを与えることで貸しをつくり…見てるのはアイってことか…)

 

そう冷静に判断すると腹の底から黒い気持ちが込み上げる

 

(なるほどねぇ?随分とまぁ…って感じ、さすが芸能界ドラマ1本に一体どれだけ思惑が積み重なってる事やら)

 

わっるい顔で笑って

 

(まぁ…そっちの都合は概ね把握した…おそらくメインの奴らは演技力云々で選ばれてない、選ばれてるのは話題性があり、そして顔が整っている奴ら…)

 

じゃあ…まぁ…

 

(僕も僕のやりたいようにやらせてもらいますか)

 

「そろそろ準備お願いします!」

 

各々が自分のポジションに入り

 

「本番行きます!」

 

そしてそのまま芝居がスタートする

 

主人公でヒロインの夕と幼なじみの空のシーンから始まり、甘酸っぱいラブコメと言えばこれという王道のスタイル、だがしっかりと組み立てられたストーリーや丁寧なキャラ描写などなんの新鮮味もないこの原作がどうしてここまで売れたのかがしっかりと分かる内容、原作はいい…原作はいいのだが

 

(なんであんなに棒読みなんだ?表情が全然違うだろ、あと手振りがいちいち激しすぎ、名前呼ぶ時の独特な発音は、なんとかならないのか?)

 

夕役の役者の演技は申し分ないのだがそれにしても幼なじみ、喧嘩っぱやいツンデレ男子、真面目な優等生タイプなどキャラクター自体も非常に王道で、それでも絶対に外れることの内容な設定ばかりなのだが如何せん演技で全てを台無しにしている感じである

 

「次明智さん準備お願いします!」

 

「はい」

 

そのままスタート位置に立つ

 

そうしていると幼なじみ役の役者が近寄ってきて

 

「お前コネで役貰ったって?せいぜい足引っ張んなよ?」

 

「まぁ気をつけるわ」

 

(お前が空演じるの絶対だめだろ)

 

そう思いながらも本番が始まる

 

「夕?もし良かったら今日僕と一緒に」

 

その瞬間…空気が変わる

 

「あっれ?空じゃん、お前こんなとこで何してんの?まだ学校居たんだなお前wというかそのちっこい女誰?」

 

(肩で風を切る、背筋は伸ばして、顔には笑みを浮かべる、篠崎には自信がある、こいつは絶対的に女に対してモテると考えていて世界は自分を中心に周り、周りの人間は全員下、傲慢でナルシストで殊勝な志などない、そりゃこの作風の漫画だったら合わないキャラだよな)

 

「ッ、し、篠崎!」

 

「はぁ?いつ僕がお前に名前で呼んでいいって許可したの?というか質問に答えろよお前誰?」

 

そのまま夕の顎をクイッと持ち上げて顔をちかづける

 

「な、なんですか突然!し、失礼じゃないんですか!」

 

(でもまぁ?別に合わせる気ないけどな?、そーそーギア上げてこうよ、正直僕だって腹たってんだよ?この原作は面白い、でもくだらない一部の大人共のせいでクオリティがダダ下がりだ、あいつらからしたら僕は目立たないでさっさと役目を終わらせて退散して欲しいって感じだろうけどさ?僕からしたら知らないから、全部ぶっ壊す)

 

二ヘラァっと篠崎が笑いかけて

 

「僕のこと知らないとかお前マジで言ってんの?はぁ〜、まぁ、お前ちょっと面が良いから教えといてやるよ」

 

「…お、おい…篠崎…やめろよ…ッ!」

 

空の役者は演技と言うより何とか絞り出すように言葉を発して

 

「はぁ?お前は黙っててくれる?今こいつと会話してんだから…さぁ?」

 

ドンッっと小突いて転ばせる

 

「ッ!…いっててぇ…」

 

「空!ちょっと…離してください!」

 

ドンッと両手で離そうとする…台本通りであればそのまま距離を取って2人は帰っていくという台本だったが

明智は離れずさらに距離を詰めて

 

「ちょ!?」

 

「今僕と話してる時に他の奴に意識向けんなよ?」

 

(カメラの位置はだいたい把握…この辺に顔を持ってけば…)

 

「なぁッ!?ちょ、ちょっとやめ…!」

 

そのまま顔を近づけて…キスをする寸前でピタッと止まり

 

「本気でするわけないじゃん…騙された?」

 

ボソッと呟いてから

 

「僕の名前は篠崎蒼真…よろしくしといてやるから覚えとけよ?」

 

「は、、はい…」

 

明らかに演技ではなく素で反応してしまい、顔を真っ赤にさせてそのまま潤んだ瞳でまっすぐ見つめる…

 

「か、カット!!」

 

慌てて映像を止めて

 

「ちょっと!困るよ!台本にないことされちゃ!」

 

慌てて監督が明智に駆け寄って

 

「ぁ〜すいません、でもこのキャラクターだったらここまでやるかなと思って思わず、すいません、あ、実際にキスはしてないので安心してくださいね?」

 

後、と言って空役に手を差し伸べて

 

「ちょっと強めに押しちゃってごめんね?大丈夫だったか?」

 

「ぁ…あぁ…」

 

唖然とした顔で手を取ってゆっくりと立ち上がる

 

「と、とにかく今のは」

 

「今のままでお願いします!」

 

突然の大声を出しながら近寄ってくる

 

「ぁ、せ、先生来ていただけてありがとうございます!そ、そのまま…ですか?」

 

「そう、そうです!今の!今のままで!そうだった!このキャラを活かしきるならここまでやらなきゃいけなかった!でも私にそこまでこのキャラを理解することは出来なかった…き、きみ!!ありがとう!君のおかげで私が与えられなかった命が芽生えた!!」

 

そう言って明智の手を握ってブンブン上下に振り回して

 

「い、いえですが!このまま使うとなるとこの先のシーンに違和感が!」

 

「いいや!このまま使う!こんな素晴らしい演技をしてくれたんだからむしろ使わない方が申し訳ない!それにあなた!」

 

「は、はい!!」

 

夕役に突然方向を変えて

 

「さっきの顔!アレ良かったよぉ!?あれぞ正しく私が思い描いた夕っていうキャラクターの照れる顔!素晴らしい!演技であそこまで表現できるとは素晴らしい才能だ!!」

 

「あ、あの…ありがとう…ございます…」

 

少し複雑そうにしながら

 

「で、ですが先生!これをこのまま使うとなればその後に影響が!」

 

「いいや!このまま使う!使わないと言うのであればこのお話はなかったということで!」

 

「そ、そんな!せ、先生!!」

 

その後明智の出番が増えるわけでもなく何事もなく終了し、ドラマは早速放送明智の演技は原作を見ていたファンにも好評らしく

 

 

 

 

え?ヤバくない?突然キャラの濃いやつが来て鬱陶しかったけどあの人のアレ何?やばくない?

 

あんな初っ端からキスするシーンとか原作にないよね!?ありがとうございます!!

 

流石にあれはカッコよすぎる!!あんな人がやってくれるならもっと出番あっても良かったのにぃ!!

 

夕の反応がガチ過ぎてやばいだろあれ、あんな顔されたら惚れちゃうに決まってるじゃん

 

というかあれ本気でキスしてかなった?あんなイケイケオーラ全開のイケメンに突然アドリブのまじキス?そりゃ真っ赤になるよ!

 

いやいや流石にキスはしてないだろ、しかもアドリブで、でもキスしてた方がキュンってくる〜!!

 

というかこの役者さん誰?見たことないんだけど!

 

あんなの見せられちゃったら速攻でファンになっちゃうに決まってるじゃん!無理じゃん!

 

明智の初出演はなかなか好評らしく、一気に明智乱歩という名前は広がり始めた、

そして明智の初めての出演が成功に終わり、放送を見た視聴者の反応も悪くなくおおよそ好意的な意見が多い

 

「ふぅ〜何とか成功で収めましたよ」

 

「明智君は本っ当にムカつくぐらいなんでもできるのねぇ、でもとってもいい演技だったわよ」

 

「ありがとうございます」

 

「調べた感じ今のトレンドに乗ってるらしいよ?凄かったよ明智さん」

 

「トレンド?うっわぁ…なんか恥ずかしいような嬉しいような…ムズムズするんだけど」

 

「明智ってなんでもかんでも熟すからすっごいムカつく」

 

「ルビィ?たまには素直に僕を褒めてくれてもいいんじゃないの?初めての演技で結構緊張してたんだよ僕?」

 

そう合えばと

 

「あれ?社長もアイもまだ戻ってないんですね?」

 

「そうね〜仕事が結構長引いてるみたいで」

 

「早くアイツに見せてやりたい物ですね僕の活躍を、煽って来てたから今頃後悔してるんじゃないですかね〜」

 

珍しくテンションの高い明智

 

「今ならアイになに言われても笑って許せる気がしますね」

 

「いや…でもあれって…」

 

「アイに見せてもいいのかな…?」

 

何やら双子がボソボソ呟いてて

 

「はぁ〜でも結構緊張したんですよ?」

 

「そうね、なんでも上手くできるとは言っても初めての経験で慣れないこともあったろうから、お疲れ様」

 

 

そうやってみんなで楽しく過ごして

そのまま解散して家に帰ってベランダでタバコを吸いながら

 

(今までこんなに満ち足りた気持ちになったことって僕あったか?他人の中身を覗き込むことなんて簡単に出来て、でも正直この才能があったって使う機会がないから使わなくて、不貞腐れて塞ぎ込んでて…)

 

月に向かって煙草の煙を吹き出して

 

(それもこれもあいつのおかげだ…あの時あいつが話しかけてくれなかったら、強引に関わろうとしなかったら今の僕はないだろう)

 

「今度ご飯でも奢らないとな」

 

ピンポーン

 



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スーパーノヴァ

はーいまたやりましたよ、完全に熱に浮かされて勢いよく指を動かしまくった感じの物が出来上がりました、なんと番外編って言っているのに本編を声た気がするんですけど気のせいですよね?…気のせいですね

誤字報告、感想、評価などなどシンプルに嬉しいのでじゃんじゃんしてくれると助かります


 

「おいおい、アイ!明智のやつ凄いぞ、ドラマ放送されてからちょっとしか出てないのにトレンド入りだってよ〜負けてられないな、アイ!」

 

「そうなんですか佐藤社長!」

 

「斎藤な、いやぁ…本当にうちに来てくれてよかったよ」

 

(へぇ…先輩…本当に成功させちゃったんだ、本っ当に先輩はすごいよ、私の方が演技に接してる時間は長いはずなのに、そんなの先輩には関係なくて、ちょっとむぅっとするところはあるけど…なんでだろ?私の事みたいに誇らしい!)

 

「よぉ〜し私も負けないように頑張るよぉ!佐藤さん!」

 

「おう!その意気だ!でも斎藤だからな」

 

(私も負けてないからね!先輩)

 

仕事が終わった時明智のお疲れ様会は終わってしまい参加は出来なかったけれど、スマホに送られてくる写真から楽しいってことがいっぱい伝わってくる

 

(ぁ〜私も参加したかったな〜あ、ルビィにケーキ取られてる、先輩鼻にクリームついてるし、なんか先輩のテンション高いなぁ

ふふっ…はしゃぎすぎだよ〜もぉ〜子供みたい)

 

そんな送られてきた写真を嬉しそうに眺めて、しばらくエゴサをしていると、明智が出演している動画の切り抜きを見つけて

 

(あ、先輩…、先輩本当に凄いな、結構無茶な気がしたけどしっかりとこのキャラのらしさを出して、先輩が出た瞬間全てに注目させるような、自分の演技以外見てる暇あるの?って訴える感じ…凄いな…私がライブしてる時の感覚と似てるかも)

 

私を真似してくれたのかな?なんて少しほっこりして…そして…

 

「は?」

 

 

 

 

(胸がぐちゅぐちゅする身体中から変な汗が止まらない…なんで?だめ…止まらない…黒いドロドロしたものがお腹に溜まって…心臓が張り裂けそうなほど痛くって…これが本当の愛なの?こんなに辛くて苦しくて…胸が張り裂けそうなほど傷んで…あぁ…そうなんだ…私って先輩のとこ…愛してるけど、好きなんだ…好きで、好きで好きで好きで好きでたまらなくて…先輩にも私の事好きになってもらいたいんだ…わがままだよ…欲張りで…こんなのじゃ…先輩に嫌われちゃう…それなのに…ダメってわかってるのに…止まれない…止めることなんて出来ない…本当の愛を知っちゃたから…本物がどういうものか分かっちゃったから…好き…大好き…先輩)

 

ストンっと表情が一気になくなり無表情になる…が、感情の昂りを表すかのように両方の瞳が真っ黒に輝き出した

 

 

 

 

「なんだお前か?こんな時間にどうしたんだよ?あ、僕の出てるところ見てくれたか?いやぁ〜いくら僕が天才とはいえ流石にちょっと緊張したよ、でも何とかやりきってなんならトレンドにまで上がっちゃったらしいんだよ!」

 

「………………」

 

「?まぁとりあえず入れよ」

 

中に促すとそのまま進んで、でも一切喋らず表情は見えない

 

「ほんのちょっとしか出てないけどああいうのって楽しいな?、まぁ…あんまりこういうこと言うとお前が調子に乗りそうだから嫌なんだけどさ?今日の僕は機嫌がいいから言うよ、お前があの時無理やりにでも僕と関わろうとしてくれたおかげで今の僕があるからさ、ありがとな?」

 

「お前もお疲れ様会参加出来れば良かったのにな?そういえばミヤコさんが結構写真撮ってたみたいだけど送ってもらったか?」

 

「おーい、どうかしたのか?今日の撮影も結構ハードだった感じ?こんな遅くまでやってんだもんな、お前も早く帰って休めよ?」

 

「先輩…」

 

「どうしたんだ?体調悪いのか?」

 

(先輩が笑ってる、楽しそうに…初めてドラマに出演して、先輩でもやっぱり嬉しいんだ、でも私は全然嬉しくない…なんで?なんで先輩はあの人にキスしたの?漫画にはそんなシーンなかった、ミヤコさんに確認もとったけどそんなこと台本に書かれてないって、そんなことするわけないって、ただちょっとした役で出てそれだけで終わるって…先輩が…先輩がしたくてキスしたの?私以外の子に?あんなふうに優しくて熱い唇を重ねたの?なんで?なんで先輩は笑ってられるの?嬉しいから…初めてのドラマで成功して嬉しいから…でも私は全然嬉しくない…なんで撮影なんて出ちゃったの?あぁ…私だ…私が…あんなこと言ったから、先輩は他の子に目移りしちゃったんだ…やだ…失いたくない、嘘で包んでた頃に戻りたくない…ありのままの私を受け入れてくれる居場所を失いたくない…私だけの場所、私だけの優しさ…私だけの…先輩)

 

「いくら僕と言えども初めてのことが成功するのは嬉し」

 

「全っぜん嬉しくない!」

 

「お、おい突然どうしたんだよ?んっ!?」

 

「んっぅ…だめ…誰にも渡さない…私だけの場所、私だけの先輩…他の誰にだって渡してやらない」

 

「あ、アイお前突然…ンッ!??」

 

「んっ、はぁ…ぜんっぜん嬉しくない…」

 

ポロポロと熱い涙が明智の顔に落ちる

 

「先輩が…凄い人だって周りの人に分かってもらえるのは嬉しい…でも!私は全然嬉しくない!喜べない!だって先輩は私だけのものだから!先輩は私の醜い本当の私を見てくれるから…先輩…だけが…」

 

「アイ…お前…」

 

「収まらないの…お腹の中の黒いドロドロしたものが、へばりついてずっとお腹の中で暴れ回って…私が!先輩に出て欲しいって言ったのに!でも!先輩が他の人にしてるの見て…全然嬉しくなくなっちゃって、居ても経っても居られなくて…こんな時間に押しかけて…迷惑も考えないで、自分勝手でわがままで…こんな私じゃ先輩だって…愛してくれないッ!!」

 

アイを強く…強く抱き締める

 

「愛してる…僕はそんなお前を愛してるよ、アイ…」

 

「嘘…嘘だよ、そうやって私に嘘ついて前だって離れてった!私のことが嫌だったから」

 

「ッ!!…僕がいつお前のこと嫌って言ったよ、確かに嘘はついたけどあの時からもう…お前のことを愛してたよ」

 

「なんでそうやって嘘つくの?私に都合のいいことばっか言って!私がそんな嘘で騙されると思ってるの!いい加減にして!」

 

「いい加減にするのはそっちだろ!!」

 

「ぇ…」

 

「僕だって…僕だって!お前のためを思って離れた!めちゃくちゃ痛かった!お前に嘘付くなとか言ったくせに僕はお前のためとか自分自身に嘘ついて!そのままお前から離れた!そしたらお前は他の男に取られてて!その時はしょうがないって思ってたよ…僕がお前から離れたから…だから、お前の行動に口出せるわけじゃないって…ずっとそう思ってた…でも…めちゃくちゃ悔しかったに決まってるだろ…お前が僕に愛してるって…嘘じゃなくて本当の言葉で伝えてくれた時からもう、ずっとお前を僕の物にしたいって考えてた!自分勝手に離れておいて!そのくせ独占欲だけはいっちょ前に肥大化してて!だから…」

 

「せん…ぱい…」

 

キラキラと光る目から星のような輝きの涙を落として

 

「先輩も…同じだったんだ…」

 

「お前みたいな可愛い子に付きまとわれて、嬉しくない男とか居ないだろ…」

 

「嬉しいなぁ…ねぇ…先輩」

 

「なんだよ…」

 

「私を…先輩のものにしてくれますか…?」

 

「そ、それって…」

 

「お願い…私のお腹の中の黒いドロドロしたもの…取れないの…先輩も取れないんでしょ?」

 

「そ、それは…その…」

 

アイはそのまま耳元で…

 

「私を先輩の女にして?」

 

これを言われてしまったら男はもう理性で考えて行動なんて出来なくて、ただ欲望のままに、今までお互いに触れ合えなかった分を今すぐに、一瞬で取り戻すように…お互いを激しく求めあった



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味を占める

はいどうも、最近番外編とは一体なんなんだろうか?と、概念について考え始めてますどうもよろしく

誤字修正、感想など励みになってますのでありがとうございます!これからも送ってくれると嬉しい


 

深夜…目を覚ます、別に寝苦しかったわけじゃない、むしろその逆、今まで以上に幸福な気分で安眠できていた、けれどなぜか起きてしまった、あまりにも現実みがなくて、頭の中でこんなに幸せなことが起きるはずがない、だから早く冷静になって現実に帰っておいで?そう、手を伸ばされた気がしたから…

隣を見る

 

大丈夫…隣には安心しきった顔で眠っていて愛しい寝顔がそこにあって…

下腹部に疼く甘い疼き、全身がヒリヒリとする感覚すら愛おしく感じて…起こさない程度に抱きつく…

 

(本当にしたんだ…それに…なんというか先輩って…私に全然自分の気持ちとか話してくれてなかったんだなぁ〜、まさかあそこまで…ねちっこく…真っ黒な…うぅ…思い出したら顔から火が出そう…)

 

「はぁ〜」

 

ため息が漏れ出る、あまりに幸福すぎて、やっと欲しかった物が手に入って隣にいる…

 

(それにしても…ここまで上手くいくとはなぁ〜)

 

ほっぺたをつんつんと突いて

 

(確かにムカムカした、ムカついた、いや、正直かなり…黒くてモヤモヤした感情が今までの比じゃないぐらい飛び出して頭で考えることが一切出来なくなった、でも、だからこそ、操ることにした、本当の愛ってすごいね?先輩、だって前の私だったらあそこまでできたかどうか分からなかった、本当を知って感情のままに動こうとする私と、冷静にどうやったら先輩が私の物になるのか考える私…その両方が同時に私の中に存在してた)

 

「私は嘘つきなんだよ?先輩の嘘が分からないわけないじゃん」

 

 

(先輩はなんだかんだ理由をつけてどうせ私から離れようとするから…ね?

それに先輩は普段は冷静であんまり他の人に感情を出したりしないけど、アクアとルビィ、特に私に対しては全然隠さないよね?冷静でもいられないし、私に対して思うところもあって、それがそんなに大きくなってたのは計算外だったけど、私は嘘の愛でファンのみんなを包んでたんだよ?先輩の嘘ぐらい見抜けちゃうし、ちゃんと先輩のことは見てるからね?

あーあ

先輩のこと騙しちゃった、だから言ったでしょ?嘘は最高の愛だって…もう離さないからね…先輩…)

 

もう嘘で愛を伝えるアイドルは居ない、ここに居るのは本物を知り、そしてその感情のエネルギーがどれほどの物かをしっかりと自覚した、彼女の言葉に嘘は無い、激情にかられ、嫉妬し、思うがままにワガママに行動するだけのアイドルはここにはいない、ここに居るのは…真っ黒な感情に支配されながらもその感情を巧みに操り思うがままにする

 

本物を理解したアイドルがもし嘘をついたら?見抜ける人は本当に居なくなってしまうのでは無いか…?でも、それでも自身の嘘を見抜いてくれる、自分自身をしっかりと愛してくれる、そんな存在にあったアイはもう本当を使うことに抵抗は一切ない

 

「私の嘘を見抜けるのは先輩だけ…そして、先輩の嘘を見抜けるのも私だけ…先輩は私の意図に途中から気づいてたでしょ?」

 

ッ…

 

隣でしっかりと寝ているはずの明智がほんの少し動いたように感じて、でも明智は寝たフリを続けて、それに騙されたフリをしながら

 

「私に騙されちゃってもいいやって思っちゃったんだよね?ふふっ…でも、もしあれが嘘だったら先輩は拒絶してた、本当の行動にほんのちょっと嘘を混ぜただけ、先輩が断れないように、わざと先輩を煽るようなことを言って…私の嘘は見抜いてるって、騙されないって言ってたけど、私わかっちゃった、先輩は本当にわたしが迫ったら断れないって…逃がさないからね、先輩…愛してる」

 

そう言って、頬にキスを残すと、幸せの余韻を噛み締めるように眠りについた

 

(あーあ)

 

先程から同じ理由で起きていた明智は、アイが隣でモゾモゾと動き、独り言のように、いや、明智が起きているのを理解した上で語っていた、

 

(今のは完全にあれだろ?勝利宣言ってやつだろ?分かってるよ、感情は本当だ、でも明らかに僕の感情を煽るように意図して発言してる箇所が何個かあった…はぁ〜今までだって完璧な嘘だったのに、そこに本当と嘘を混ぜ込んでくるとか…まぁ)

 

そのまま隣ですやすやと寝息をたてはじめたアイに優しく抱きついて

 

(今とてつもない幸福感で頭回らんし…別にいいかぁ…)

 

 

 

チュンチュン、外で雀が鳴く音で先に目を覚ましたのは明智だった

 

「これが世にいう朝チュンと言うやつか…」

 

隣ではまだ気持ちよさそうに眠っているアイ、そっと起こさないようにベットを抜け出し服を着てベランダでタバコを吸う

 

(まじかぁ…僕って実は頭悪かったりするか…?)

 

自分の脳みそを若干疑い出して、通行人をちらっと見つめる

 

(未婚、兄弟が2人、弟は大学生、兄は建築関係の仕事についてる、前々から気になっていた男性が他の女性と結婚したのでしばらく恋愛をすることは無いだろうなぁ)

 

自身の能力を改めて再認識して

 

(いや…全然天才だわ僕、なのになんでだ?あいつの前でだとすっごいポンコツになるんだけど…はぁ〜ムカつくわぁ〜ポンコツになるのがむかつくんじゃなくてそれでいいと思い始めてる僕自身にムカつくわ〜)

 

なんて考えながら煙草吸っていると

 

「あぁ〜先輩どっかいっちゃったかと思ったよ〜」

 

ベランダにひょこっとアイが現れる

 

「別にどこにも行かないよ、ただ煙草吸ってただけ」

 

「朝起きたら隣に好きな人がいるってシチュは女の子の憧れだよ、本当に先輩って女心が分かってないよね〜」

 

「あ〜はいはいそれはすいませんね」

 

「先輩って煙草吸うんだ?吸うとこ初めて見た」

 

「まぁな、外では基本吸わないよ、最近はどこも喫煙者の肩身が狭いし、芸能界の人間の近くにいるんだから臭いっていうのはある程度気を遣うしな」

 

「へぇ〜」

 

「だからあんまり近くによるなよ」

 

そう言って近寄ろうとするのを静止しようとすると

 

「無理でーす、ちゅ」

 

「あのなぁ?んっぅ??」

 

いきなり近づいて、顔を掴まれそのままキスをする…

 

「苦いキスご馳走様、私お風呂入ってくるね?」

 

ポカーンとしている明智を横目にぺろっと唇を舐めて子供っぽく、でも妖艶に微笑んでさっさと行ってしまう

 

「ぐぅぅぁ…くっぅぅ…そ…!!」

 

それを見届けたあと突然しゃがみこんで唸り始めて

 

(はぁ〜あいつなんなの!?マジでなんなの!?ほんっっとうにムカつくんだけど!?はぁ〜!はァァ〜!?!?)

 

 

タバコを吸い終わり、アイが風呂から上がったら自分も入ろうかな、なんて考えていると

 

「ねぇ?先輩〜」

 

「ばっっか!?お前何裸で出てきてんだよ」

 

あろうことか一糸まとわぬ姿でアイが風呂場から出てきて

 

「石鹸しかないんだけど?シャンプーとかないの?」

 

「ぁ〜僕基本石鹸しか使わないからなぁ」

 

「ボディソープとかも?」

 

「使わない」

 

「なにそれぇ、私女優なんですけど?」

 

「お前が突然押しかけてきたんだろうが」

 

「そうだっけ?てへっ」

 

べろを出して誤魔化す

 

(くそ…かわいい…)

 

「先輩買ってきてよ」

 

「やだよめんどくさい」

 

その言い方にアイも考えがあるらしく、ゆっくり歩いてきて

 

「前々から思ってたんだけどさ先輩」

 

「それよりもお前濡れた状態で…近いって!」

 

何も着てない状態で近寄ってそのまま抱きつき、唇がくっついてしまいそうなほどの距離で

 

「これからはお前って禁止ね?ちゃんと私の事アイって呼んで?わかった?」

 

「わ、わかった」

 

そのまま耳元で…

 

「あとお風呂道具1式買ってきて?」

 

「は、はい…」

 

「いい子、お願いね?先輩」

 

そのまま軽く頬にキスをするとさっさと風呂場に戻ってしまう

 

明智はそのまま言われた通りに近所のコンビニに向かい…1式揃えて購入し帰還

 

(ぁぁぁ''〜〜〜〜〜〜!!!!!!)

 

内心大絶叫、散々アイの嘘に飲まれない、本当のお前だけ見てると言ったくせに

ホンモノの感情を乗せた嘘にコロッと堕ちてしまう明智だった

 

 

その後明智もシャワーを浴びて流石にアイを事務所に送り出し、明智は大学に行ったあと事務所に

 

 

「はぁ〜お腹空いた」

 

パソコンとにらめっこしながら独り言を呟く

 

「そうねぇ、ちょっと小腹が空く時間よね」

 

正面のミヤコさんも反応

 

「なんか食べたくないです?ぁ〜僕お寿司が食べたいな〜」

 

「あのねぇ…」

 

わざとらしく食べたい物をリクエストしてると

 

「私も〜」

 

「僕も」

 

双子まで乗っかってきて

 

「まぁ…社長のお金でたまには豪勢に行きましょう」

 

「「「やったぁ〜」」」

 

そんなことを言ってると

 

「ただいま〜」

 

社長とアイが帰ってきた

 

「ただいま〜ミヤコさん〜アクア〜ルビィ〜いい子にしてた?」

 

双子をぎゅぅぅっと抱きしめて

明智はもう少しで作業が終わるのか無視していると

 

「先輩ただいま〜」

 

「ぁ〜?おかえり」

 

アイの方に顔すら向けずに手のひらを適当に振ってあしらって

 

「ねぇ…先輩?」

 

「だからおかえりって…な、何?」

 

「ただいま」

 

「お、おかえり…アイ」

 

「ふふっ」

 

後ろから抱きついてゼロ距離で顔を見せつけ、再度おかえりを要求して、どうやら満足したのかそのままスっと離れる

 

その反応に周囲は

 

(え…何今の?)

 

(今のアイなんというか、小悪魔見たいな顔してなんだけど?なんだあれ?俺の目の錯覚か?)

 

(ママが…ママがぁ…メスの顔になってるぅぅぅ!!!!)

 

周囲のそんな反応なんて関係ないのか

 

「先輩私お腹空いた〜」

 

「喜べ、ミヤコさんが社長の金で寿司を奢ってくれるらしいぞ?」

 

「それは俺が奢ったことになるんじゃないか?」

 

「だからご飯連れてって」

 

そんな社長のツッコミや、明智の言葉など無視してそのまま

 

「ね?ご飯連れてってよ」

 

「いや、だからミヤコさんが…ゥ…」

 

また、いつの間に近くに居たのかじっと目を見つめ方に手を置いてねだるような声色に

 

「ぐぅ…ぐぅぅ…はぁ〜すいませんミヤコさん、どこ行きたいんだよ…」

 

「え?べ、別にいいけど」

 

「やったぁ〜」

 

「はぁ〜お前と食べに行くってなると個室ある店しかダメじゃん」

 

そう言いながらご機嫌だったアイが突然頬を膨らまして、そんなアイを無視してサングラスと帽子を被らせて

 

「ほら、行くぞアイ」

 

「ッ!!はぁーい」

 

そうして何故か機嫌を取り戻したアイは明智と共に去っていってしまった

 

「なんだあれ?」

 

「完全に飼い慣らされてるわね」

 

「ママがぁ…ママがぁぁ…」

 

「まぁまぁ」

 

ルビィの背中をアクアが優しく撫でて

確実に変化している2人の関係性を生暖かい目で見守るのであった

 

(ぁーあ知っちゃった、先輩の弱点完全に理解しちゃったな〜でも程々にしないと慣れちゃったりしそうだし、ちょっとずつにしなきゃね、私ってこんなに悪い子だったんだなぁ…愛してる人に自分のワガママ聞いてもらって、本当の自分を全部受け止めて欲しくて…でも先輩がこんなふうにしたんだから…ちゃんと責任とってよね?)



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嘘のご利用は計画的に

感想、誤字報告ありがとうございます!もうなんかこれはある意味本編なんだな〜と思って書いてます


 

 

「恋愛リアリティーショー?」

 

「そ、やっぱり前回のやつがだいぶ効いたみたいでね出演オファーがかかってるわ」

 

仕事中に軽いノリで次の出演のオファーについて語られる、

 

「はぁ?まぁ、何となく概要は知ってますけどねぇ、あれでしょ、裏で大人が糸引いて子供の役者生命でギャンブルするやつでしょ?知ってる知ってる」

 

「だいぶ偏見のある理解ね、最近はそこまで酷くないわよ?」

 

ほら…とノートパソコンを渡されて最近放送された物を見せられて

 

「ふーん…なるほど…」

 

アクアとルビィも気になったのか明智の近くに陣取りじっと画面に食い入る

 

「どお?そこまで酷いものじゃないでしょ?」

 

「そうですね…面白い」

 

「面白い?」

 

「えぇ、これだいぶ面白い」

 

そう言って目を輝かせながら画面をじっと見つめて

 

「ケダモノ」

 

ルビィが冷たい目でじっと明智を見つめる

 

「いやいや、違うからほら?この女よく見てみ?今軽くこの男に視線送ったでしょ?」

 

「えぇ?よくわかんない」

 

「あ、確かに」

 

ルビィにはよく分からなかったようだが、アクアにはピンときたらしく真剣に画面を見始める

 

「でも今この瞬間の主役はこの男と、この子、でもこの子は他の男に合図してる」

 

「つまり?」

 

「つまり、この女は画面に長く映りたいからって理由で他の男と主役張ってる状態なのに他の男に色目使ってるってこと」

 

「ぅわぁ…」

 

アクアが凄い顔でドン引き

 

「まぁ、ここからの展開は想像にかたくない、散々気のある振りをして3人とも振る」

 

場面が進む事に明智の言う通りに展開して、最後

 

「私じゃふさわしくないから…ごめんね」

 

とか

 

「勇気くんとはお友達との関係が心地いいから…このままでもダメ…かな?」

 

など、体のいい理由を並べて全員振っていく

 

「まぁ誰とも形式上付き合うわけないよな」

 

「なんでだ?」

 

「そりゃ全員好みじゃなかったからでしょ?これだからお兄ちゃんは」

 

「まぁ好みじゃないのはあってるな、だって付き合ってる人居るし」

 

「「え?」」

 

「この感じだと恐らく事務所にも言ってないだろうな」

 

「な、なんで分かるんだ?」

 

「ん?よく見てみろよ、似合わない男物のブレスレット、ネックレスには小さいイニシャルが2つ、E&Aこんなブランド名は存在しない、そしてこの子の名前はアイナだから確率は高いと思うぞ、まぁ全部合ってるだろうけど」

 

「な、なるほど…?」

 

「いやぁ〜これは面白いな…台本がなく、ほぼアドリブで物語が進み、番組側もアドバイスか指示、どちらにとれるか分からないことしか言わない…面白い」

 

「いや…そういうことじゃないんだけど」

 

なにか別の意味で面白さを感じている明智に少し引きながら

 

「ま、まぁ…いいわ、それでこの仕事受けるの?」

 

「なになに〜?なんの話ししてるの?」

 

ひょこっと帰ってきていたアイが話しかけて、明智はまずいと思ったのか

 

「ぁ〜いや?なんでもないぞ」

 

「今明智くんに新しいオファーが来たところよ」

 

「へぇ?凄いじゃん先輩!どんなのに出るの?」

 

「いやぁ…僕もちょっと分からないというか」

 

あんなに語ってたくせに何を言っているんだ?というアクアの冷めた目にも負けずシラを切ろうとする…が、

 

「恋愛リアリティショーよ」

 

その瞬間明智は

 

(あ、終わった…)

 

空気が凍りとてつもない冷たい目で見られながら詰め寄られてしまうんだろうか?

 

そんなことを考えてると

 

「へぇ〜いいんじゃない?」

 

「へ?」

 

以外な反応に思わず間抜けな声が出る

 

「どんなのに出るの?」

 

明智の反応などお構い無しにミヤコに話しかけるアイを不思議そうに見つめて

 

「学生たちが放課後に集まってイベントなどを通じて交流を深める…まぁよくあるやつね」

 

「へぇ〜でも先輩って高校生じゃないよね?」

 

「今どき年齢なんてそう見えなければだいたいOKよ」

 

「さすが芸能界ですなぁ」

 

「それで?明智君どうする?別に断ってもいいけど」

 

「ぁ〜そうですね」

 

ちらっとアイの顔をバレないように横目で見つつ

 

………ニコッ

 

その視線に気づいたのかにっこり微笑まれるだけでおわり

 

(ぁ〜絶対こいつなんか考えてるわ…ふ〜ん?まぁたしかに?僕はアイ相手に今のところ負け続きですよ?そりゃぼろ負けですよ?でもさぁ?流石にちょっと舐めてきちゃってる感じするなぁ…へぇ〜ふ〜んいいじゃんか、受けてたってやるよ)

 

「面白そうだし、興味湧いてきたので出ます」

 

「わかったわ、正式に決定したらまた報告するわね?」

 

「わかりました」

 

そんな感じで明智の役者としての道がまた1つ積み上げられることになった

 

撮影前

 

「じゃあそろそろだから準備して?」

 

「はい」

 

「はぁーい」

 

「ん?アイはなんでついてくるき満々なの?」

 

「私も仕事だからだよ?」

 

そう言ってさっさと車に乗ってしまう

 

(ふ〜んまぁ付き添いはアイに対して…僕の撮影場所とアイの撮影場所がたまたま近くだからか)

 

そう考えながら車に乗る、だが時間が経つごとに違和感に気づき始める

 

(いやいやおかしいだろ、普段だったら社長がつくはずなのになんで今日に限ってミヤコさんなんだ?それに前からアイのテンション変だし…ぁ〜こいつ日に日に僕に情報を隠すのが上手くなってるのなんなんだ?)

 

頭の中であれでもないこれでもないといくら考えても答えは出ない…が、それはただ単に明智がそんなはずは無いと鷹を括り現実を見ようとしないだけであった

 

「アイ」

 

「どうしたの?先輩」

 

「いや…僕の勘違いなら気のせいでいいんだけどな?」

 

「?」

 

ゴクリ…と唾を飲み最悪の現実を確認、いや答え合わせをするために

 

「もしかして僕とアイって撮影場所同じ?」

 

「あちゃ〜…………気づかれちゃった」

 

てへっ、と可愛く舌を出して

 

「ミヤコさん僕この車から降ります、なんなら仕事からも降ります、いえ!下ろしてください!」

 

「いや無理だから」

 

「いやいや!あんたら何考えてんの?普通に考えておかしいって!アイをあからさまに燃えるような場所に投下するのもおかしいし!そこに僕も入れるって…なんで燃えそうな場所にさらに燃料投下してんの?」

 

ミヤコはその質問が分かってたのかため息をついて

 

「私も一応止めたのよ?でも」

 

「社長が行っていいってOK出したからね」

 

「はぁぁ?」

 

ため息をついて頭を抱える

 

「アイ…」

 

「な〜に?」

 

「お前やったな?」

 

「お前じゃなくて?」

 

「うるっさいなこのわがまま放題な小娘め!」

 

「な、にゃにふるのへんはい」

 

アイのほっぺたを摘んで引っ張る

 

「というかこんなことしてお前になんのメリットが…ぁ…」

 

「もぉ〜女の子に乱暴しちゃダメだよ、先輩」

 

ニコッと笑うその顔をみて、何を考えているのか全て理解して

 

「おっ…お前さぁぁ…」

 

「一緒にお仕事頑張ろうね?…それに…」

 

耳元でボソッと…

 

「逃がさないって……言ったよね?」

 

「〜〜〜〜〜〜!!!!!」

 

声にならない叫び声を上げながらも撮影場所に向かう3人

 

 

そこから撮影は始まる

各々の自己紹介がおわりそして

 

「明智乱歩って言います、うわぁ…こういうの慣れてないから緊張する、皆よろしくね?」

 

めちゃくちゃに猫を被ってお前誰?というレベルの演技こんなに爽やかな感じを演出しているが内心は

 

(どーしよ、あいつ確実に僕に影響されてレベルアップしてるんだけど…怖い…誰かあの子止めて!僕の手に負えなくなったらまじで止めれなくなること居ないよ?)

 

なんて冷や汗ダラダラでそんなことを考えていたら

 

「ごめ〜ん遅刻〜」

 

ガラッと入ってきた瞬間空気が変わった、演者、スタッフ、カメラ…全ての視線を釘付けにしてその女は入ってくる

 

「あれ?自己紹介もう終わっちゃった?私の名前はアイよろしくね?〜皆!」

 

自己紹介1発で完全に全員の視線を釘付けにしてしまった

 

そこから各々軽く交流から初めて行くらしく

明智はあゆゆという子と座って会話している

 

「明智さんって先輩ですよね?やっぱり先輩って呼んだ方がいいですか?」

 

「いやいやあゆゆ見たいなぁ可愛い子には普通に呼んで貰いたいかな」

 

「えぇ〜じゃあ明智くんって呼んでいいですか?」

 

「うん、でもあれだね?結構照れる」

 

(ぁ〜キッツ…女子との会話きっつぅ、何このきらきらしてる感じ?僕陰キャだから普通に会話とかムズいから)

 

内心めちゃくちゃに四苦八苦しながらも持ち前の頭の頭脳で適切なタイミングで適切な言葉をかけて

 

「うっわぁ〜早速仲良くなってんじゃん?」

 

赤髪でもツンツンヘアーの高村が話しかけている

どうやら向こうの方は落ち着いたのか会話を終わらせて明智の方に合流したらしい

会話に加わってくる

 

「えぇ〜私も気軽にアイちゃんって呼んで欲しい〜」

 

「えぇ?いいんですか?そんなの恐れ多くて」

 

「いいのいいの、全然気楽に行こ、ね?」

 

「アイさ、ちゃんって可愛いですよね」

 

「そうかなぁ?まぁ…私だからね!」

 

謙遜入れず軽い感じで自分に自信があるということを表す

 

(こいつまじでこういうことやらせたら世界一なんじゃね?)

 

と考えていると明智の方を向いて

 

「先輩も気軽に名前で呼んでいいんですよ?」

 

「あ、そう?じゃあ気軽に呼ぶね?アイちゃん」

 

そんな感じでファーストコンタクトがおわる

 

(とりあえずの感じ、あゆゆは真面目な優等生タイプオドオドしているけど度胸はそれなりにあるタイプ高村狙い…アイになんかありそうだからフォロー入れとくか坂本結は、見た目通りのギャルを演じてる、けど中身はそこそこ純情っていうのを売っていく方向に、高村は良くも悪くも表裏タイプ…狙いとかは特にない感じか?オガワは寡黙だけど普段の呟きから見るに実はノリのいいタイプっていうギャップを見せていきたい感じか)

 

と、ある程度どんな周りがどんな人間で何を目的として居るのか理解していく

 

(それで…やるべきことはっと)

 

「明智さんってぶっちゃけた話誰が好み?」

 

少し離れた所で高校生っぽい会話をして

 

「うっわぁ〜突然だな?高村は誰がいいとかあるの?」

 

「えぇ〜そりゃ俺だって男ですから、気になるところは気になるけど〜」

 

そう言って女子3人で喋っている所をちらっと見つめて

 

「俺は坂本が可愛いと思ってる」

 

「おぉオガワ意外な感じだな?もっと真面目なタイプが好みだと思ってた」

 

「僕もそれは意外だわ、でも確かに可愛いよな」

 

(そりゃそうだよなぁ…ここでアイの名前出すわけにはいかないよな、集団で関わる分にはまだギリいけるだろうけど確実に個人間でってなると話は変わってくるしな)

 

休憩に入り

 

「高村ほい」

 

「うおっと、どうしたんですか?」

 

「あゆゆちゃん飲み物持たずに行っちゃったから渡しといてくれるか?」

 

「?わかりました」

 

「ぁ〜後、それは自分からのってことにしといた方がいいぞ」

 

「は、はぁ」

 

そのまま歩いて行く高村を見送って

 

(さてと…そろそろか?)

 

「そろそろかな〜」

 

「…?どうしたのアイちゃん?」

 

「ん〜?なんでもないよあるるちゃん♪」

 

その後お互いにペアを組んでの料理作りが始まる

 

「僕結構こういうの得意だよ?」

 

「私もすっごい得意だな〜もう明智君なんて全然って感じ?」

 

(こいっつ)

 

「へぇ〜?じゃあその腕前見せてもらおうかな?」

 

意図した発言、明智もアイが何を狙っているのか…いや、前々からなにか狙っているとは考えていて、嫌な予感がしつつも

 

あゆゆ×高村

 

オガワ×坂本

 

アイ×明智

 

このペアでお菓子作りのチャレンジ

 

「とりあえず卵割っちゃおうか」

 

「そうだな、一旦その腕を下ろすところから始めようか」

 

「えぇ?なんで?卵割らないと使えないよ?」

 

とりあえずの掛け声で卵を持ったアイを静止させる明智、卵を持った手を頭まで持ち上げて勢いよく振り下ろすようなポーズで聞いてくるアイに思わず静止する明智

 

「あのぉ…アイさん?」

 

「どうしたの明智君」

 

「料理したことある?」

 

「そりゃあるって!私に任せてってば〜」

 

「だから卵はそんなに打点高くなくても割れるって!ぁ!ちょぉ!」

 

そのまま卵を振り下ろして、凄い量の殻が混入する

 

「え、えっとぉ…まぁ、失敗は成功の母って言うじゃん?ね?」

 

「それを言う人はもう少し難易度の高いことで言い始めると思うんだよなぁ…」

 

その後も

 

「バター入れすぎ入れすぎ」

 

「えぇ?このぐらいないと分かんないでしょ」

 

「いやいや!丸ごと突っ込んだらダメだって!あぁ〜!!」

 

「砂糖もこれくらいでいいよね」

 

「多いってちょっとまて、お願いだからまてって!」

 

「ん〜えーと砂糖とバターをよく混ぜる…よく混ぜる?」

 

「いやいやバカバカ!どんな力で混ぜて…力強いな!?強すぎてボールから溢れてるから!」

 

「まぁ鍛えてますからね!」

 

「なんでそこでドヤ顔!?」

 

「ほら、私だって上手にできるでしょ!見てよこの綺麗な星型」

 

 

「まぁ…お前がそれでいいならいいんじゃない?」

 

 

そんなふうに自信満々に言ったアイが実は全然出来なくて、なんならポンコツ、そのアシストとして明智の化けの皮が剥がれ、常識人の苦労枠ポジションとして周囲に広まっていくことになる

 

 

 

今日の見た?

 

 

見た…

 

最初はさ?最初はだよ?絶対無理だわ〜って思ってたわ

 

そりゃそうだろだって伝説のアイドルアイだぜ?

 

そもそも男と話してるのすら無理って言われてんのに

 

でも…

 

あぁ…

 

気持ちはわかるわ…

 

俺も…

 

可愛くね?

 

可愛いよ!

 

なんであんなにポンコツなのに自信満々にできるとか言っちゃうの?

 

ペアの明智あれなんだよ、ほぼコントじゃん!

 

いやぁまじで笑ったわ

 

「鍛えてるから」「なんでそんな自信満々!?」

ってくだりがバカ面白かった

 

いつの間にアイは芸人として活動し始めたの?

 

明智が完全に親戚のお兄ちゃんじゃん

 

というか明智って確かなんかのチョイ役に出てなかったっけ?

 

あぁ〜めちゃくちゃキザなキャラで出てたな

 

私見た子あるけどあれはやばいなんなら妊娠する

 

勝手に妊娠しとけ定期

 

でもあれは男の俺でもやばい、子宮できたもん?

 

何言ってんのこいつら?怖…

 

それでさぁ?普段のプライベートとかどんな感じなんだろう?喋って見たらどんな感じなんだろう?

 

蓋を開けてみたら

 

常識人の苦労するタイプあんちゃん

 

まじであの2人息ぴったりじゃん

 

前から交流あった感じなのかな?

 

そういえば事務所同じゃなかったっけ?

 

まじか〜そりゃ仲良いのは当たり前か

 

普段事務所でどんなことしてるのか大体の予想つくんだけど

 

 

と、おおよそ好意的な反応が多く、中にはもちろん明智に対しての中傷、そもそもアイがこんな番組に出ている時点で反感をおぼえる視聴者が居るようだが思っていたよりなかなかいい反応だった

 

(あいつさぁ…絶対狙ってやってるだろ…これ、恐らくあいつは少しづつ僕とアイをセット売りのようなもので売り出して世間に少しづつ認めさせる、そのまま僕に対しての逃げ道すら塞いでる…はぁぁ〜ムカつく…だってさぁ?これ僕があいつの企み阻止して僕に何の得もないってこと…あいつそういうの全部分かっててやってるよなぁ…まぁ…別に嫌じゃない…けどなぁ…全部があいつの思い通りに進んでると思うとめっちゃムカつく…あいつのにやけ面が目に見えるわ)

 

そんなことを考えていても、撮影は始まってしまう

 

 

「おまたせ〜」

 

「遅かったな」

 

「まぁね」

 

(ポケットのハンカチが少し出てる…手洗いか?いや…じゃあなんで足元が濡れてる…?それに…)

 

なんて考えていると突然アイが中庭に出て

 

「それにしても明智君って将来絶対苦労するよ〜」

 

「はぁ?突然何言い出してんのかなこの子は」

 

「何となくかな?ほら、昨日とかすごい声出してたし」

 

「じゃあその声を出させてる張本人様がもう少しまともにしてくれたらなんとかなると思うんだけどなぁ」

 

その瞬間…違和感は確信に変わって

 

「アイッ!!」

 

「え?きゃぁ!」

 

突然明智が走り出しアイを押して退かすとその瞬間水がびちゃぁっと思い切り降りかかり、明智をびしょびしょにする

 

「うっぉ!?み、水?」

 

「あはは〜」

 

「おーいアイさんOK〜?」

 

「明智さーんごめんなさーい」

 

上からあるると高村の声がして上をむくとバケツを持って嬉しそうな高村、申し訳なさそうなあるるが2人を見下ろしていた

 

「お前らなぁ!!後で覚えとけよ!?」

 

「いやぁ、助かったよありがとね」

 

「ありがとねじゃねぇぇよ!!」

 

ほっぺたを摘んで引っ張り始める

 

「お前も普通にグルだろう?ん〜このお口かなぁ?悪い子のお口はここかなぁ?」

 

「ぃひゃぃいひゃぃ…ほっぺたひっぱらないれぇぇご、ごめんひゃなぃ」

 

「ちょっと遅れたのって打ち合わせするためか?わざわざご苦労だな全く」

 

「えへへ…先輩なら気づいて守ってくれるって思ったからね」

 

「たく…お前さぁ?」

 

「お前じゃなくて?」

 

「はいはいお怪我はありませんかアイさん?」

 

「うむ苦しゅうない!」

 

「ちッ」

 

「いててててッ!ご、ごめんなさい!調子に乗りましたぁ!」

 

そんな様子を

 

「あの2人仲めちゃくちゃいいじゃん」

 

「そ、そうだね…見習わないと…」

 

「なんか言ったか?」

 

「う、ううん、なんでもないよ!」

 

そして誰もいなくなったこの回が放送された日のつぶやきは

 

 

なんかさぁ?

 

やめろ…

 

考えないようにしてるんだから…やめろ…

 

できてない?

 

めちゃくちゃ必死だったじゃん

 

というかなんであの一瞬で気づけるんだよ

 

いやいやあれ単なるヤラセだろ

 

気づかなかったら普通にアイにかかってびしょ濡れになってたろうし

 

まじか!明智許さん!!

 

いやいや、トランプで遊んでた時相手のカード全部言い当てたりとかしてたからまじじゃない?

 

いやそれこそイカサマだろ

 

その程度でいちいちイカサマするかぁ?

 

そんなことはどうでも良くてさ?庇う瞬間のあの必死な感じはもうおじさん分かっちゃったよ

 

というかあの後のやりとりやばくない?

 

何あれ、お前じゃなくてぇ?ってくだりはなんなの?

 

あれはやばかった…

 

乗ってない所でもあんなのしてんの?

 

甘すぎない?

 

ちょっとコーヒーブラックで飲んでくるわ

 

てか付き合ってんじゃね?ってくらい距離感が夫婦のそれ

 

その後も出るわ出るわって感じだよ

 

なんならわざとなんじゃって思っちゃうぐらいドジなのちょっと面白いな

 

転びそうになった時明智めちゃくちゃスマートに助け起こしてたよな?

 

え?何?なんなの?超能力とか持ってたりすんの?

 

未来予知かもしれん

 

1番やばかったのはやっぱ窓から見下ろしてる時に落ちそうになったやつだよな

 

あれわマジひゅんてしたは!

 

あの時の明智の顔必死すぎてマジで惚れる

 

たぶんシーンカットされてるけどカットされたところは絶対明智のがち説教が入ってたよね

 

まじで危なかったもんね

 

思いっきり抱きついて何とかって感じだった

 

 

 

 

 

その後

 

(いやぁ…先輩って本当に鋭いよなぁ、わざとハンカチ出したりしてたのに水を汲んでる時のちょっとした足の水滴で気づいちゃったりするんだもん、転ぶやつは軽くいなされちゃったし、落ちそうになったやつもすっごい必死になっててでもしっかり気づくんだもんなぁ、本当に些細なところすら見逃さない…って感じなんだよなぁ、あれ?先輩からだ)

 

 

今日来れる?

 

?突然どうしたの?

もしかして私のこと愛しくなっちゃった?

 

いいから

 

ぇ〜

どうしようかな〜

 

早く

 

(ん〜?なんか凄い余裕ない感じ…なんだろう?まぁ行ってみれば分かるかな?)

 

わかりましたよ〜寂しがり屋の先輩のために可愛い後輩が人肌脱いであげます

場所はどこですか?

 

僕の家

 

「え?」

 

今動揺したろ?

 

してないゆ

 

してるじゃん

ちなみに

そのつもりだから

 

心臓がトクンと跳ねて顔が赤く染る

 

せ、積極的だね…

 

待ってるから

 

その後チャットを送っても明智からの反応はなくて

 

(せ、先輩…いきなり積極的になっちゃった…あ、あれだ、男は1回やったら毎日求めてくるようになるってやつ…)

 

念の為お風呂に入り、下着を吟味、着る服をきちんと選び、アクアとルビィはミヤコさんに見てもらってそのまま家に

 

(うわぁ…どうしよう…来ちゃった…下着はOK…今の私変な格好してないよね?)

 

大丈夫、めちゃくちゃ!可愛い!と部屋番号を打ってインターホンを鳴らすと、押した瞬間扉が開いて

 

「せ、先輩おじゃまきゃ!」

 

扉を開けて玄関に入った瞬間手首を捕まれ部屋に連れ込まれる、後ろ手で鍵を閉めてじっとアイを見つめる

 

「え、えっとぉ…その…」

 

「アイ」

 

「は、はい」

 

「水のドッキリのヤツあったろ?」

 

「う?うん」

 

(さ、流石にやりすぎた?先輩怒ってる?)

 

「あれさぁ?」

 

「お前が被ったらどうするつもりだったの?」

 

「え?」

 

「転ぶやつも」

 

「え、えっと…」

 

「あと1番怒ってんのは、お前さあ?落ちそうになったやつ」

 

「あ、あれは落ちないように計算して」

 

「その計算が間違ってたらどうしたんだっていってんだよ」

 

「ぇ…ぁ…えっと…」

 

「だからさ、あの時僕が気づけなくて、計算が間違ってたらどうしたんだって聞いてるんだけど?」

 

「ほんっ気で落ちて怪我でもして…最悪障害が残ったりしたらどうしてたんだよ」

 

「ご、ごめん…ッなさい…」

 

そのまま明智の胸の中で泣き始める

 

「アイが何考えてああいうことしたのか理解はしてる…でも頼むから、嘘でも危ないことに自分から突っ込むのはやめてくれ…頼むから…心配だから…」

 

「ごめんなさい…ごめんなさっ…ごめんなさい…」

 

泣きながらしっかりと抱きついて、胸板に顔を押し付けて、それは子供が悪いことをして叱られた後で何とか許して貰おうと甘えてるように見えて

 

「落ち着いたか?」

 

「うん…その…ごめんね…次からもうしない…」

 

「はぁぁ〜まじでホットした…お前ってまじ聞き分けないところあるからな」

 

「むっ…私だって本当に悪いと思ったら反省するし…というか呼び方!」

 

「はいはいアイアイ」

 

「そんなお猿さん見たいな呼ばれかたしても全然嬉しくない!」

 

やっといつもの調子が戻ってきたのか

 

「まぁそれはそれとしてさ」

 

「え?んッ…」

 

突然キスをして

 

「ど、どうしたの…?」

 

突然のキスに驚くと同時にうっとりして顔を赤らめながら

 

「水のヤツさ、考えなかったわけ?あの時濡れて他の人にお前の下着姿とか見られるって」

 

「え、えぇっと、あの時は一応見せてもいいようなやつ選んでて」

 

「そういうことじゃないから」

 

(嘘…もしかしてこれって嫉妬?先輩私相手に嫉妬してる…きゃわわ〜〜〜〜♥️♥️

うっそぉ…先輩ってそんな可愛いところあるんだ、下着だけでこんなに?それに…先輩も先輩で相当拗らせてるな、ぁ、でも目が本気だ)

 

「そ、その…ごめんなさい?」

 

「ダメ…許さないから、おしおき」

 

「お、お仕置?」

 

そのまま手首を掴んで壁に押し付けると

 

「絶対許さない…」

 

「え、えっと1回シャワーんッう…」

 

逃げようとするアイを有無も言わせず唇奪ってお姫様抱っこでベットに運んで

お説教は終わった、明智はアイにとって最愛の人でアイを特別扱いするがきっちりと線引きをして間違っていることをしたら叱る、いいことをしたら褒める、そう、まるで親のように、だが明智はアイの父親では無い、ので

 

「あ、きょ、今日可愛い下着履いてな」

 

「はい嘘、どうせ下着だって選んできたんだろ?」

 

「選んできた…」

 

「ほんと許すつもりないから」

 

「それにあのチャットの内容でここ来た時点で期待してたろ」

 

「し、してない…」

 

「はい、嘘」

 

そのままアイに覆いかぶさった

 

「け、ケダモノ…」

 



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不意打ちランデブー

皆さん感想、誤字報告、評価ありがとうございます!いやぁやりたいことありすぎて普通に本編超えましたね、まぁなんがかんだ緩い感じなのでこれからもよろしくお願いします


 

撮影日、そろそろ恋愛リアリティーショーの撮影も終わりが近づき、各々が独自のドラマを演出する中

 

「だからぁどう考えてもお前が悪いよねあれは」

 

「いやいや先輩に責任があるに決まってるでしょ」

 

あーだこーだ言っていた

 

視聴者に飽きられないように、またかと言われないタイミングで口説くない物を提供し続けて

2人が普段一緒に居たとしても特に問題なく過ごせるようになってきた

 

 

「プレゼント交換会…?何それ?なんかめちゃくちゃ小学生じゃん」

 

「いやぁでもこういうのがなんだかんだ上がるでしょ!」

 

男3人が選んだ3つのプレゼントを女性陣3人がくじを引くことで誰が選んだプレゼントが渡るか分からないと言うもの

 

「めちゃくちゃでかいびっくり箱とかでもいいのかこれ」

 

「オガワ、坂本に当たったらあれだからそれはやめとけば?」

 

「いやぁ〜どーしよ好みとかわかんねぇ〜」

 

「まるで渡す相手が決まってる感じだな?」

 

(まぁ…番組側の意図はある程度読める、くじ引きでどこをどう引いたら良いかアドバイスという名の誘導で連れていき、偶然を誘発させる…アイにぶつけるならここぐらいしかない気がするしなぁ…)

 

そんなことを考えて当日

当然のように各々が誘導された必然の偶然に喜びキャッキャやっている時

 

「わぁ〜先輩とっても嬉しいです!ありがとうございます!」

 

「おう、いっぱい料理練習するんだぞ?」

 

プレゼントである可愛らしいうさぎが印刷されたエプロンをニコニコ顔で見ているが

 

(あっれぇ?おかしいなぁ?完全にそろそろ次のステップに進むべきだよね?なんで?なんで先輩は確実に私のお兄ちゃん枠に収まろうとしてるのかなぁ??)

 

脳内であれこれ考えながらしかし演技は完璧に

 

「これとっても可愛くて気に入っちゃった!」

 

「それは良かった」

 

(はァ?ある程度協力するとは言いましたけど全部預けたりするわけないんですけど〜?何言ってるんかなぁ?僕不思議ですよ〜というか僕の予想通りの物なんか渡した瞬間シンプルに燃えるわ!)

 

(別にいいじゃん!ちょっと燃えるだけで私たちの関係が皆に浸透していくんだよ!)

 

(クレイジーすぎるんだよお前はさぁ?)

 

「なんかあの2人…」

 

「めちゃくちゃ笑顔なのに笑顔の圧がすごい」

 

 

「ほんっと信じられないんだけど〜あのタイミング的にどう考えてももっと他のがあったよね」

 

「お、、落ち着いてアイ」

 

アクアにダル絡みするアイ

 

「ほら言われてるよ?明智」

 

「いやあのさぁ?逆になんの問題もなくそして結構センスのいいプレゼントをあげれた僕をむしろ褒めて欲しいくらいなのよルビィ」

 

だいぶ気を使って選んだんだからな?ボソッと呟いて

 

「でもあれママに似合いそうだよね」

 

「ぁーまぁな?」

 

「なんで?私にだけ教えて」

 

「仕方ないな…」

 

ごにょごにょ

 

「マッマ〜!プレゼントはママが着るのイメージしてプレゼントしたんだってぇ!」

 

「あっれぇ?ルビィちゃんぅ?お兄さんとの約束を守ってくれないのかなぁ?」

 

グルンっっとすごい勢いで明智に向き直り真っ赤な顔で

 

「本当なのぉ?」

 

「アイお前目が座ってるぞ…というかめちゃくちゃ酒の匂い強いな、飲みすぎだって」

 

「別にそんなに飲んで無いレ〜す」

 

「それは飲みまくってるやつのセリフだからな?」

 

肩を貸して

 

「とりあえずソファで横になっとけ」

 

「いやぁ〜連れ込まれるぅ〜襲われるぅ〜」

 

「人聞きの悪いこと言ってんじゃねぇよ」

 

そのままソファに寝かせてタオルケットを掛ける

 

「随分珍しいわね」

 

「そうなんです?あいつ酔っ払うと大体あんな感じだと思うんですけど?」

 

はぁぁ〜とため息をついて

 

「貴方だってあの子が馬鹿じゃないってことぐらいわかってるでしょ?お酒の量自体そこまでとってるわけじゃないのよ、」

 

「お酒に弱すぎ…ぁ…いやぁ…それは」

 

気づいてしまったのか顔を赤くして手で覆う

 

「そ、あのくらいなら酔わないはずなのに何故か貴方が居ると一瞬でああなるのよ」

 

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

 

「ほんっと信用されてるのね?」

 

そのまま崩れ落ちてルビィにだる絡みを始める

 

「あのさぁ…いやまじで君のママちょっとあざといが過ぎない?」

 

「ママだからね!」

 

ドヤ顔で答えながら引き剥がそうともがくルビィを尻目に

 

(分かってるよ…何時までも宙ぶらりんって訳には行かないよな)

 

 

そしていよいよ最終日、番組の1番の見せ場である告白のシーンに映る

呟きを見るとそこまで否定的な言葉はなく、

むしろ2人は付き合っているのでは?という噂まで出回っていた

 

(ほんっとうにずるいんだけど!先輩ってなんでいちいちあんなにあざといことが出来るの!)

 

それはアイが酔いつぶれ寝てしまった時に起きた出来事

 

「んぅ…?」

 

なにか違和感がある、触られてる…どこを?手だ、自分の左手の指になにか紐のような物を巻き付けられてる感覚、薄目でぼんやりと眺めると

 

明智が真面目な顔で指のサイズを測っていた、それも左手の…薬指

最初は何をしているのか分からなくて

 

「先輩…何してるの?」

 

まだ覚醒しきっていないホワホワした状態で聞くと

 

「ん〜?告白するための前準備?」

 

「へぇ〜告白するんだ…誰に?」

 

「アイに」

 

「へぇ…へ?……私ッ!?」

 

「ちゃんと意識しといてくれよ?」

 

「ひゃ…ひゃい…」

 

耳元で囁かれて、明智はそのまま去ってしまう

そんなとこがあってからアイのギャグのようなドジはなくなり、ほんの少しだけど確実に素の、事務所で明智と喋っている状態までになってしまう、でもそこはプロどんなにやりづらくても自身の目的の為にも絶対的に嘘をつき続けなければ行けないと思っていても

 

「アイ?今日なんかいいことでもあったの?」

 

「?別になんもないよ?」

 

「じゃあ気のせいか、普段より可愛く見えたからさ」

 

とか

 

「んぅ〜先輩って本当に料理が上手だよね〜」

 

「まぁアイよりは出来ると思うぞ?ぁ」

 

「ん〜?ちょ…せ、先輩?」

 

顔をじっと見つめてそのまま…

 

(ぇ!?嘘!?こ、ここで!?)

 

前のアイなら動揺しても嘘をつくことはできたのだが1度明智がどれだけ自身に対して愛を持っているのか自覚してしまった今では顔が近いと言うだけでなにかされるのではと期待して顔を赤くする

 

「食べかすついてたよ?」

 

「あ、ありがと」

 

など

やりすぎないように注意しながらアイの嘘の仮面の中身、本当を突っついてくる

まるでパンパンの風船の割れないギリギリを意識して突っつくかのように

 

(んっもぉぉぉ!!なんなの!普段あんな甘いことしてこないじゃん!絶対楽しんでる!私の反応見て内心ニヤニヤしてる!)

 

ほんっっと

 

「どれだけ私の事好きなの…」

 

それを呟いた瞬間顔を赤く染め、耳まで真っ赤に

 

(あぁ〜ダメだ…もう前みたいに私は先輩に愛されてないって嘘をついて自分にも嘘をつけない、自覚しちゃってる…)

 

もう逃げられない、想い人からの愛に対して逃げる言い訳も、言い分もない、アイの天才的な勘で既に理解していた物を理屈として身体が覚えてしまっていて…

 

(こ、これが…身体に教えこまれるってこと!?)

 

だいぶ酷い理解の仕方をしていて

 

 

それに…

 

(あの時と違って…先輩は私から離れていかないから…どこにも行かないで、隣にいてくれる…それがとっても嬉しくて…当たり前になってくれてるのが嬉しい…)

 

そう思いながらでもなんなだかんだムカつく!と明智に絡みに行くアイの顔を見たものは、本物だと答えるだろう

 

視聴者の反応も

 

 

最近明智とアイヤバくない?

 

なんなの?なんであんな顔してるの?凄いんだけど?めちゃくちゃメス顔なんですけど?

 

あれじゃん従兄弟のお兄さんに対しての恋心を段々と自覚していくやつじゃん

 

明智女たらし過ぎない?なんであの伝説のアイドルアイを容赦なくメス顔にさせてんの?

 

前世で一体どんな徳積めばあんなことあんな感じになれるんだよ!

 

羨ましぃぃぃぃ、!!

 

でもあの関係は壊したくないのがオタクだよな、分かるぞ

 

 

と、打って変わって明智優位、アイが翻弄されているように話が進んで

 

見えないところでバレないように、軽く睨みつける

 

ニヤぁ

 

まるで(お前の考えてることに丸ごと乗っかっていいようにされる僕だと思ってんの?おもろ)

と言ってるかのような様子で腹立つ笑い方に

 

(ふぅぐぅぅ!!あぁ〜あの顔ほんっとムカつく…!でも好き!!そういう顔もすき!!意地が悪い所もすき!!)

 

内心喜んでたりするアイ

 

 

「なんか本当にこういうのいいね」

 

「こういうのってどういうの?」

 

椅子に座ったまま伸びをして

 

「あんまり忙しくてこういう学祭っぽいの出来なかったからさぁ」

 

「あぁ、お前はそうだろうな」

 

「だからさ?先輩とこうやって遊べるの楽しいよ?」

 

「そりゃどうも、こちらとしても大半貴重な体験だったよ」

 

「もうすぐ…だね」

 

「だな」

 

2人とも終わりを意識する、もう少しで終わって…もしかしたら…何かが始まるのかもしれないという希望に胸を抱いて

いよいよやってくる告白のシーン

 

振られたり成功したりする中

 

アイにむかって明智が歩いてくる

 

 

ゴクリっと唾を飲む込む

 

「こういうのって結構緊張しちゃうね?」

 

アイがいつも通りの表情で、でも汗ばんだ手をしっかりと握り込む

 

「確かに、そうだな…」

 

ざっとしゃがんで小さな箱を取り出しアイにむかって差し出す

 

(あ、あれだ…寝惚けていてよく覚えてない…でも…あの時の衝撃のせいでしばらく寝付けなくて…)

 

そんなことを考えながら明智が箱を開けるのが随分スローモーションに見え…やがて…

 

「きゃァァ!?!?」

 

びょ〜〜んと飛び出してきたのはよくありふれたジョークグッズで、しっかりと箱に全意識を集中させていたアイは驚きのあまり大声を上げて飛び跳ねる

 

「?……?……???」

 

「ぷッ…あっはぁはははははははははッ!!すっごいはねたぞ今!!」

 

周囲もそしてアイもこれが撮影だということを忘れてぽか〜んとしている、そう、撮影を忘れてしまった

 

「、何してるの!い、いきなり突然!こんなことして!も、もしかして私が寝てる時にわざわざ薬指のサイズ測ってたのって!!」

 

「はぁ?あんなもん仕込みに決まってるじゃんか?僕がいちいちそんな細かいこと計らないと分からない訳なくない?」

 

アイが怒鳴りながら距離を詰めて、明智も迎え撃つように近寄り、

 

「ほ、ほんっっとうに最低!そうやってすぐ乙女心を弄ぶの本当に許せない!私がどんな気持ちで待ってたか分かってるの!?」

 

「そんなもん分かってるよ、分かっててやった、ちょっと我慢できなくて」

 

「ッッッ!!!!!」

 

顔を真っ赤にさせて地団駄を踏んで

 

「さてと…僕と付き合ってください」

 

「ッ 」

 

満足したのか澄ました真面目な顔でそう言って

べちんっ!!という音が告白の返事であった

 

こうして前代未聞の告白を実行した明智はバズりにバズり散らかし、アイもアイで普段とは全く違う反応で、これもこれでバズり、また騒がれたりするらしい

 

「ほんっっと信じられない!」

 

 

「まぁまぁそう怒るなって、あれが炎上しないで穏便に済ます…ぷッ、方法だったろ?」

 

車内でまだ怒りが治まらないのか、何かあればすぐに肩をポコポコ殴るアイ

 

「それにしてもやり方があるでしょ!というか!私の考え通りだったら今頃上手くいってたのに!!」

 

「ちょっと〜車内で暴れないでよ?」

 

「もぉ〜先輩のことなんて知らない!」

 

そのままそっぽを向いてしまい

 

「まぁまぁ怒るなって、可愛い顔が台無しだぞ〜」

 

余程アイを出し抜いて気分がいいのかご機嫌で、アイのほっぺたをつんつんする

 

ガブっぅ!!

 

「イッデェェ!!」

 

結局事務所で軽い慰労会をした時も最後まで膨れっ面のまま、途中明智に弄られて怒るアイという結局いつもと変わらない光景がそこにはあった

 

(もぉ〜ほんっっとうに、信じられないんだけど!)

 

「はぁ〜ほんっと先輩は!人の気持ちも知らないで!いや!分かってるからこそ余計に質が悪い!!」

 

家に帰ってベットに転がると手足をバタバタさせながら不満をさらに爆発させて

 

「はぁ…本当に期待したのに…先輩の馬鹿」

 

ブーブーとスマホがなり、名前を見ると

 

明智

 

(ふ〜んだ、先輩なんてしばらく会話してあげません)

 

しばらくしてもなり続けてそれでも無視していると

 

お〜いまだご機嫌斜め?

 

チャットが飛んでくる、既読も付けずボーと眺めていれば

 

そういえばプレゼントは気に入って貰えたか?

 

(プレゼント?あの箱のこと?ッ… もう知らない!)

 

スマホから完全に目を離して、それでもチャットは飛んでくるのでいい加減通知を切ろうとすると

 

バックに入れといたんだけどもしかしてまだ気付いてないの?

 

「バック?」

 

その言葉につられてバックの中身を探ってみると触り慣れない感触、

 

(あれ?私こんなの入れた覚えないけどな)

 

取り出してみると白くて小さな箱だった

 

それを見て思わず心が高なった

 

(先輩はまたそうやって乙女心を弄ぶんだね)

 

別にいいですし〜、そう思って驚くわけないと思って箱を開ける…そこには

 

「う……そ…」

 

銀色のキラキラと輝く指輪が姿を現した…地味で、でも存在感があり、主張が強くなく、それでもはっきりとその存在を示すように、アイが最も欲しかったものがそこにはあった

 

スマホを開いて文字を打とうとしても目の前がボヤけ、ぽたぽたとスマホに涙が溢れおちる

 

 

明智は焦る

 

「あっれぇ?もしかして気づかないパターンとかある?いやいや、流石にそれは…いやぁ…でもバレないためにやったからなぁ…」

 

もしやミスディレクションが完璧に行き過ぎて気づかれないのでは?と思い、冷や汗を流していると

 

「お、既読ついた」

 

ついたはついたのだが一向に返信が来ない

 

「もしかして盛大にミスった…?ぁ〜」

 

頭を抱えて

 

(なんでもっとこうさぁ?ちゃんと渡せないわけ?僕って…こういうひねくれた感じだしてるから僕って)

 

などと頭を抱えて反省していると、チャットの返信が帰ってきて

 

なにこれ

ずるい

ひきょう

せんぱいはいつもずるい

ワガママなくせに

ひねくれたことしていじわるするくせにさいごにやさしくして

それで私がぜんぶ許すと思ってる

 

ご、ごめんさすがにやりすぎたか?

 

絶対許さない

 

いや、まじでごめん、そのぉ…サプライズになるかなって?

 

許さない

 

(ぁ〜これやばいか…?)

 

早く来て

直接私にはめてくれないと

二度と口聞かない

 

分かったよ

 

早く

すぐ会いたい

すき

大好き

愛してる

 

僕も

好きだよ

愛してる

アイ

 

そのまま急いでむかって

玄関に入った瞬間泣き腫らした顔のアイに抱き着かれ文句を散々言われ、満足するまで頭をぐりぐりと押し付けながら胸をどんどん叩いて、散々暴れ回って言いたいことを全部言い切った後に

指輪をしっかりと薬指にはめてさらに号泣するアイを慰めて

 

生暖かい目線を感じながら泣き疲れて眠ってしまうまでアイのことをやさしく抱きとめた



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自分自身は騙せない

感想、評価、誤字報告ありがとうございます〜!
いやぁなんだ感が続いてますねぇ、これからもゆるく続くと思うのでよろしくお願いします〜


 

いつも通りの日常、明智は恋愛リアリティーで名前がさらに売れて、たまにドラマや映画のチョイ役に出演が決まったり、

アイもアイで余程最後の告白のシーンが受けたのかこちらも引っ張りだこ、お互い事務所に顔を出すため会わないわけではないが確実に2人が顔を合わす時間は少なくなっていく

 

「先輩〜どこか遊びに連れてってよ」

 

「はぁ?いきなり何言ってんのこの子?」

 

いつも通りパソコンに向かって作業している明智にだる絡みするアイ、そんなアイを軽く流しているととんでもないことを言い始めたので思わず手を止めて振り返る

 

「だってさ、よく考えてみたら私と先輩ってどこか一緒に出かけたこととかないな〜って」

 

「まぁ…確かに言われてみればそうだな」

 

ココ最近を思い返して見ても、アイと明智が一緒に出かけていくというのは滅多に、どころかたまにご飯を食べに行くぐらいなもの

 

「簡単に言うよなぁ…僕はまぁある程度顔がバレてるってだけだけど、アイに関してはとんでもないレベルで認知されてるからな?」

 

「まぁそうだけどさ、でも出かけたいんだよ」

 

「そっすかぁ…」

 

どうしたもんかと頭を回しながら仕事をさっさと終わらせて

 

「明智、ママのために何かいいの考えて!」

 

ルビィが明智に話しかける、この最近のルビィやアクアとの仲もそこまで悪くないのを見てアイはにっこり笑顔

 

「そんなこと言ってもなぁ?ん〜じゃあちょっと協力してくれるか?」

 

「協力?」

 

そう言って明智は立ち上がり片手にルビィを、ミヤコさんに何か言うと別室に移動し始めた

 

「ちょっと待ってろ」

 

「私自分で歩けるんですけど〜!」

 

「行ってらっしゃい〜」

 

(明智、何するつもりなんだ?)

 

「アクア、みんなが来るまで暇だね〜」

 

「そ、そうだね…ち、近いって」

 

「えぇ?別に普通でしょ〜アクアの恥ずかしがり屋さんも相変わらずだね」

 

ぎゅぅっと抱き着かれスリスリされる

 

(あ、明智…早く帰ってきてくれ!)

 

数十分後アクアはアイとの攻防を何とか耐えて居ると

 

「終わったぞ〜」

 

そういうとルビィの背中をぽんと押して

 

「えぇ?何したの?ッうわぁ…ルビィお姫様みたい」

 

「うっわぁ…」

 

元々の可愛さを損なわないようにメイクは薄く自然に、下地なども軽く塗る程度、ポイントに気を使ってどちらかと言うと新しく作る、というより元々の物を強調させる為の物

 

それを見た2人は思わずため息をついて

 

「ママ?私可愛い?」

 

「す、すっごいことになってるよ!これも先輩がしたの?」

 

「まぁな、ほらルビィアクアにもお披露目してみ」

 

「えぇ?私まだ自分がどうなったか分かってないんだよ?」

 

「いいからいいから」

 

そのままアクアの方まで背を押して

 

「どうなの?アクア」

 

じっと覗き込むみたいにアクアの顔をじっとみつめて

 

「ッッッッ〜〜〜〜〜す、すっごい可愛いぞ?」

 

「ほんとに?うわぁ〜本当だぁ!ママみたい!」

 

鏡を確認して自分の顔に驚くルビィとアイに似ているのがさらに似ていたのか顔を真っ赤にさせるアクア

 

「あ、明智がやったのか?」

 

咄嗟に話を逸らそうと話を振って

 

「まぁな、僕に芸術的な感性はないと思ってたんだけど、要は化粧って足し算なんだよ、元々ある特徴を伸ばしたいのか、変化させたいのか、それを選んでやっていけば」

 

ルビィの肩に手を置いてアクアに向かせて

 

「ざっとこんな感じよ」

 

「?」

 

「ッッ!!そ、そんな簡単に言ってるけど、難しいんじゃ」

 

ルビィの顔に驚くアクア

 

「まぁな?ルビィの場合元の造形が良すぎて変に何かを足すより元々ある長所を全体的に分かりやすくしたって感じかな?」

 

「明智くんこれもっと早くできたりするの?」

 

「まぁ?今の感覚だともっと早くやろうと思えばできるって感じですかね?」

 

これからやってもらおうかしら…

なんて呟いて

 

「それでさ?先輩、ルビィがものすっごく可愛くなったのと関係あるの?あ、ルビィポーズとって、そうそう!きゃわ〜〜〜  ルビィアイドルになれちゃうよ〜!!」

 

ルビィにポーズを取らせて目をハートにしながら写メを何度も取り続ける

 

「まぁまぁ、よしアイも来てみ」

 

「?分かった」

 

そのままアイを連れていき

 

「ちょ、先輩顔近いってば」

 

「はぁ?近づけなきゃよく見えないだろ」

 

「だからぁ…」

 

「この程度でいちいち顔赤らめるなようぶかな?」

 

「ほんっとデリカシーない!」

 

なんて会話がしばらく聞こえてきたが、その後落ち着いたのか10分くらいで出てきて

 

「う、うぉぉ…」

 

「ママが、ママじゃないみたい」

 

そこにはアイがいた、が普段の誰彼構わず目線を奪う理不尽なまでの存在感はなくて、よく見ればアイと分かるかもしれない、けど普段のアイにあるはずの絶対的な存在感は無くなっていた

 

「どうよ?これで、眼鏡と帽子を付けてやれば」

 

よく見れば美形、だけれど存在感はなくて、アイが変身した姿としっかりと認識していればわかるけれど、そう出ないなら分からない

そういう状態になった

 

「すっごい…よくこんなことが出来るな、明智」

 

「僕も若かったのさ…」

 

「?」

 

小さい頃自身の才能が突出していたことについて十分理解していた明智はいずれ難事件に巻き込まれるのではと思い探偵としての術を学んでいた、その時に参考にしたのがかの有名な名探偵シャーロック・ホームズ

だが、平和な世の中に明智を必要とする場面はなく結局使うことは無かった特技

 

「まさか、こういうところで役に立つとはねぇ?」

 

「これで私は先輩と遊べるってこと?」

 

「いや、でもさぁ?」

 

ちらっとミヤコさんを見つめる明智

 

「はぁ〜どうせ何言ってもアイはやるし、貴方もそれに付き合うんでしょ?何言っても聞かないから構わないけど、スキャンダルには充分気をつけてよね…」

 

そう言って許可を頂いたアイは早速どこに出かけようかとあれこれ考えて

 

明智はソファに座って

 

(そろそろかな?)

 

なんて1人で考えていた

 

 

「先輩次はあそこ行こ!あそこ!」

 

「はいはい、分かった分かりましたから」

 

2人の予定を考えてやっとお互いオフの日を迎え、ようやくお出かけできることに相当テンションが上がっているのか大喜び、あっちに行ったりこっちに行ったりといつも以上の元気を見せていた

 

(まぁ、僕の変装がバレることは無いけど、アイのは少し心配かな?)

 

(さて…)

 

「アイ、あそこで飲み物買ってきてくれない?僕御手洗行きたいから」

 

「わかった、何がいいの?」

 

「別になんでも、アイのセンスに任せるよ」

 

そのままアイを見送って

 

(こんなもんかな…ほら…来いよ)

 

この時間、このタイミングで自身の演技を一気に解く

 

「誘われた…という感じでいいですか?」

 

「その通り、まんまと誘われたってこと」

 

「では隣にいたのがアイですか、一瞬気づきませんでしたよ」

 

「そりゃ気付くわけないよ、僕が隠したからね」

 

整った顔、絹のような金髪、両目の輝く瞳

 

「正直驚きですよ、あのままでいたら僕には絶対バレなかった、絶対に隠し通せたはずなのに」

 

「まぁねぇ?でもいい加減1度ぐらいは話をしとこうと思ってな」

 

「あなたみたいな才能の人間に声をかけて頂けるなんて恐縮です」

 

そうにっこりと嘘の表情を作って隣に座る

 

「それでご要件は?」

 

「まぁ正直君が何をしようが僕がそばにいる、アイという存在を知っていて君をしっかりと認識している限り絶対にアイの周りにも君の周りにも何も起きないし起こさせない、その絶対的な自信がある」

 

「えぇ…貴方でしたらできてしまうんでしょうね」

 

「だから、そんな非効率的なことはさっさとやめてアイから手を引けよって言いに来ただけだ」

 

「それを僕が自分の意思で出来たらもうしてますよ」

 

だろうな、と言って

 

 

「止まれないよな、君は1度味を知ってしまった、そう勘違いしてた方が楽だもんなぁ」

 

「……なんの話しです?」

 

「才能がある人間を潰すことに生きがいを感じて、でも自身のミスで1人の人間の命がなくなくなり無関係の人間を巻き込んだ、だから君は自分の手では止められない、だから誰かに止めて欲しいんだろ?」

 

ふふっとまるで失笑するように笑って

 

「残念です…貴方には期待していたんですけど、そんなくだらないことを言うためにわざわざアイを囮に?」

 

「囮じゃないよ、これはただのデート、これから先僕があいつを外に連れ出す度にこんなめんどくさいのが釣れる釣りなんてやりたくないし」

 

それに…

 

「僕は一言で君のことを論破できる」

 

「へぇ…」

 

面白そうに明智を見つめて

 

「賭けをしよう、僕の言う言葉に全く反応しないんだったらこれからもアイを狙えばいいさ、ただし」

 

「少しでも心に響いたのならアイに近寄るなと?」

 

「そこをどうするかは後で決めよう、どうせ僕が勝つしな」

 

「面白い…いいですよ?お好きなタイミングで」

 

その時、明智は初めて男の顔を見た、男の輝く瞳を見た…いや、その奥すら見透かして、全てを見つめて、ただ俯瞰しているような顔で

 

「貴方を産んでよかった、産まれてくれてありがとう」

 

「ッ…!?」

 

「ただ愛情が欲しかっただけの小さくて寂しがり屋の子供だよ」

 

「そ、…そんな訳…わ…」

 

「そろそろかな」

 

そう言って立ち上がり

 

「もうそろそろアイが帰ってくる、」

 

「ち、違う…!僕は…!」

 

「子供にもアイにもいずれしっかりあって話せ、全く寂しがり屋の後輩2人の面倒は大変だよ」

 

困惑して声をふるわす男の頭を雑に撫でて

 

「欠けてしまった人間だろうが、過ち犯した人間だろうが、そこで止まって引き返して、やり直そうと思えばやり直せる、他の人間に愛される人間になれ、出来れば自分をしっかりと見て貰えるような、そんな人に出会え」

 

そのまま歩いて

 

「まぁ、めちゃくちゃきついだろうけど、たまに来いよ、ご飯ぐらいなら奢ってやるし、周りを巻き込まないんだったらいくらでも付き合ってやる」

 

怯えてまるで子供のように狼狽えている男の肩に軽く手を置いて、そのまま…

別れた

 

「先輩〜買ってきたよ」

 

「お、ありがと…これなに?」

 

「マカロンフォエバー」

 

「なんだそれ…甘ったるそうな名前だな…」

 

「…?誰かと話してたの?」

 

「まぁな、ちょっと手のかかる後輩2号と会話してた」

 

「何それ?」

 

不思議そうな顔のアイに早く行くぞ、と急かして行ってしまう

 

その2人を見つめる瞳には何が映っているのだろうか

 



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貴方に見せたくて

これは本格的に第2章ってことにしといた方がいい感じがしてきたと感じますどうも

まぁ…変わらずにやってていいかぁ…楽しいし…

感想、評価、お気に入り登録励みになってますのでじゃんじゃかしてくれると助かります


 

「保育参観〜?」

 

「そうなの、それでママが来るんだけど」

 

いつものように仕事を終わらせてソファに寝っ転がってるところにルビィが話しかけてきて

 

「はぁ〜?なるほどねぇ?母親思いなのはいい事だな、それで僕になんの用?」

 

「明智ってムカつくけどなんでも出来るでしょ?ムカつくけど?」

 

「なんかすごい棘のある感じなのはまぁ、置いといて、大体のことだったら僕は可能だよ?」

 

「私にダンスを教えて!」

 

「ダンスかぁ、そういえば僕やった事ないな」

 

ヒョイッと立ち上がり、イメージする、アイが舞台の上でたって踊る、確か曲名は

 

「サインはbだっけ?」

 

そう言って軽く踊り出す明智、しばらくはふよふよと漂うような、変な踊りだったが、次第にアイドルらしさ前回の可愛い振り付けで踊り始める

 

「よっと、確かこんな感じだっけ?」

 

「あなたダンスもできるのね…」

 

逆に何が出来ないんだという目で見られる

 

「そーそー!それ一瞬でも完コピしてるのはムカつくけど!お遊戯のダンス上手に踊りたいからさ、教えて」

 

「教える…?僕が人に…?いいよ、まぁ僕に任せなさい!」

 

そうして始まったダンスレッスン、曲は子供たちが踊ってそうで大人受けバッチリな感じの曲で

 

「ど、どぉ?明智?」

 

とりあえず1曲通しで踊らせてみて、ルビィに飲み物を差し出しながら

 

「う〜ん悪くないんだけど、動きが全体的にたどたどしい感じがするなぁ」

 

「ぅ〜んあんまりこういう曲聞かないからなぁ…リズムに乗れない」

 

「じゃあ普段何聞いてるの?」

 

「ママの曲!!」

 

「野暮だったわ」

 

頭をガシガシとかいて

 

「じゃあアイのサインはbで踊ってみて」

 

「よ〜しやるぞぉ」

 

見てろよ〜と踊り出して

 

「はぁ…はぁ…あ、明智…完璧…でしょ?」

 

「くったくたじゃんめちゃくちゃに疲れきってるじゃん」

 

肩で息をしてへたり込んでしまうルビィの背中を優しく擦りながら飲み物を近くに置いて

 

「ぁ〜ルビィ君は今の自分の身体をしっかりと自覚する所からはじめないと」

 

「身体の…はぁ…自覚…?はぁ…」

 

呼吸が少しづく落ち着いてきたのか分からないという顔で明智を見つめて

 

「そ、ルビィの今の動きは完コピ、まるで何度も、何度も脳裏に焼き切れるまで瞳に移した動きをコピーして自分の身体に再現した感じ」

 

「焼き切れるまで…」

 

何か思い出したのか、一瞬顔を暗くさせて…

 

「そ、でも今の君は身体は小さい、手足は短い、体力はないししっかりと訓練してる訳でも無い、今のがアイの100%の再現ってイメージかもしれないけど、現実だとせいぜい良くて5%くらいかな?」

 

「け、結構自信あったのにぃ…」

 

しょんぼりと項垂れてしまう

 

「まぁまぁ、体力はゆっくりつければいいし時間と共に身体も成長すると思うからそれは大丈夫でしょ」

 

「体力、つまり走り込み?」

 

「まぁ最初から飛ばすと長続きしないからゆっくりやってこ、まずは体幹を鍛えないとね」

 

「体幹?」

 

明智は立ち上がり片足でクルット綺麗に一回転する

 

「アイドルにとって回転はめちゃくちゃ大事だろ?アイとかも結構やったりするし、後でバランスボール買ってあげるから暇があったら周りに物が無い状態で乗ってみ?」

 

「アイドルにめちゃくちゃ大事…明智!私頑張る!」

 

「そうだな、まぁゆっくりやってこう」

 

「じゃあもう1回やるからちゃんと見ててよ!」

 

「はいはい見ときますよ」

 

そう言ってまたアイの曲を踊り始めたルビィをみて、あれ…?お遊戯会のダンスの練習は?と思ったが、本人がやる気を出しているのでそのままスルーすることに

 

そこからルビィと明智、2人の特訓が始まった、まだ幼いルビィにきつい運動は難しいので、軽く流すように取り組ませ、そして毎日コツコツと体力をつけるように教えていく

 

「明智、ちゃ、ちゃんと抑えといてね?ほんっと、しっかり抑えといてね?」

 

震える顔でバランスボールの上に乗っかるルビィとそれを半笑いで支える明智

 

「な、何笑ってるの!?私がいま必死に…ぅゎァ!?」

 

コテンと体制を崩し後転を失敗した状態、裏返しになったダンゴムシの状態で軽く落っこちる

 

「ぷッ…大丈夫か?ルビィ」

 

「っっっっッ〜〜〜〜〜〜〜明智 」

 

「だっははははははは」

 

2人は時に喧嘩し

 

「女の子の痴態を見て笑うなんて信じられない!さいってぇ〜!」

 

「ごめんて、なんか丸まった芋虫みたいに落っこちるから面白くて」

 

「明智ッ!」

 

時にいがみ合い

 

「まだ行けるよ私」

 

「いや無理だからそろそろおねんねの時間です」

 

「行けるってば!子供扱いしないでよ」

 

「いや子供じゃん、めちゃくちゃ子供じゃん」

 

そしてついに

 

「はぁ…はぁど、どぉ明智?」

 

「今のはよかった、現時点でルビィが繰り出せる最大の出来だな」

 

「やっったぁ…」

 

嬉しかったのかそのままへなへなと倒れ込んで

 

「私…アイドルになる…なりたい…」

 

もっと喜ぶかと思っていたら、鏡に向かって何かを決心したような顔で

 

「アイドルか、まぁきついと思うけど、ルビィなら行けるでしょ」

 

そう言って頭を優しく撫でる

 

「女の子にそういうことしたらセクハラだから」

 

「まじか…たまにアイにやっちゃうんだけど」

 

「惚気すんな!!」

 

そんなふうに過ごしていると

 

「明智俺の演技見てくれないか?」

 

「演技?いいぞ」

 

今度はアクアが話しかけきた

ルビィのダンスを横目に見つつアクアの相談内容を聞き始めて

 

「幼稚園で舞台をするらしいんだけど、やっぱ、アイには誇れるような子供って思って欲しいからさ」

 

「幼稚園児がそんなこと言い出す時点で母親としてはもう号泣だろうな」

 

そういえば中身大人だったなこいつらなんて考えながら演技を見ていると

 

「どうだった?」

 

「だいぶいいな、自然に見える感じかな?演技してると言うより普通に喋ってる、なのに演技として成立しているから違和感がない」

 

「そうか」

 

「でも役者としてはダメダメかな〜」

 

「ど、どうして?」

 

「役者っていうのは不自然当たり前、正直人間が普段こんなふうに感情を発露させたりすることってあんまりないだろ?」

 

「ま、まぁな」

 

「クラスで大声で泣き出したり、感情爆発させて喧嘩したりするって不自然でどこか浮いてる、だって普段人間はそんなことしないで心の奥底で抱えてるものだからさ」

 

一旦言葉を区切って

 

「でも、その不自然さを自然にして、見てる人間に受け入れさせることの出来る人間が役者っていう種族なんだよ」

 

「不自然を受け入れさせるのが役者」

 

「そ、自然にできてる、それはすごい…でも不自然に見えないから周りに注目されることもない」

 

「でもそういう役者もいっぱいいるだろ?」

 

「そりゃいるよ、世の中全員が主役なんて言われていても劇の中には主役や脇役としてしっかりと配役が決まってるから」

 

ただし、と言葉を続けて

 

「でも不自然な演技を自然に見せることが出来ないってわけじゃない、役者は求められた役に答えたり、求められた以上の何かを監督に見せつけるのが仕事、今のままでもある程度の成功はできると思う、でももし不自然な演技を求められる機会があった時それを実現できないんだったら」

 

明智が手をゆっくりとアクアにさして

 

「役者として登れる段階はそこで止まる」

 

「役者として…」

 

「大富豪だってやぎり、10捨て、7渡し、色んなカードがあった方が戦略も広がるし、考え方も勝ち方も変わってくるでしょ?要はそういうこと」

 

「俺のところだとQボンバーとかあったな」

 

「マジで?僕の地域ないなそれ」

 

考え込みながら

 

「でも不自然な演技ってどうやってやるんだ?」

 

「簡単簡単」

 

明智はゆっくりとアクアの胸をとんとんと拳で軽く叩いて

 

「人間だったら誰でも出来る、感情の発露だよ」

 

「感情…」

 

「ただ感情を爆発されるのは情緒不安定、その感情に指向性を持たせて上手に操るのが役者」

 

「そんなことがみんなできるのか…?」

 

「できるできる、まぁ中には違和感を押し付けておいてそれを嘘だけで成立させるっていう化け物もいるけどな?」

 

ちなみに君のお母さんね、と付け足して

 

「明智!俺に教えてくれ」

 

「まぁ今のところ僕暇だからいいよ」

 

そうやってアクアとルビィ2人の師として活動を始めた明智

 

事務所の仕事を終わらせ、たまに来る役者としての仕事などを終わらせ帰ってくるとやる気満々の2人を見る

そしてたまに大学の授業なども入るためココ最近の明智は忙しくなり始めていた

 

「2人とも〜そろそろ帰るよ〜」

 

「はぁーい…はぁ…」

 

「うん」

 

「はい、じゃあ今日はここまででーす、アクアはメモ見返してしっかり脳みそに今言ったこと写しとけよ、ルビィはもう充分疲れてるからとっとと休んで寝ろ」

 

そうやって2人のお迎えが来るまで見ているので、明智とアイが会う日がなかなか作れない

 

「2人とも頑張ってるんだねぇ、今度私にも見せてよ」

 

「ママにはまだだめ〜」

 

「アイには見せない」

 

「えぇ〜そんなぁ」

 

メソメソと悲しい振りをしてたまにちらっと子供二人を見つめる

 

「本番で見せるからね」

 

「本番で見せるよ」

 

「じゃあしっかり期待して待ってる」

 

ぎゅぅっと抱きついてそのまま

 

「またね先輩」

 

「またな〜」

 

双子2人は、意外に最近さっぱりとした別れに内心驚きながら

 

 

 

「先輩って本当に釣った魚に餌をあげないよね」

 

電話越しに不満げな声で突然言われてタバコを落としそうにしながら

 

「はぁ?突然君は何を言っているのかな?僕がいつ釣りをしたんだよ」

 

「私を完璧に釣り上げてるくせに何言ってるの?先輩はもっと自覚を持って欲しいよ」

 

はぁ〜?と困惑した声色で

 

「でもアクアとルビィと仲良くなってくれてるのは嬉しい」

 

「仲良くなってる…?のか、あれは?」

 

「なってるよ、なんだか先輩と一緒に居る時は2人は話しやすそう」

 

「まぁ、気軽に頼れる年上って感じじゃないか?」

 

「私に何か隠してる感じするしなぁ」

 

「まぁ、近すぎると逆に見えないみたいなもんだろ、大事だから、大切だから、見せれない物もあるってだけ」

 

ふーんと納得したのか、してないのか分からないような声で

 

「私って」

 

「お前はあの子たちのことを愛してて、あの二人もお前のことを愛してる」

 

「ちょっと、私の言うことに先読みして答えるのやめてよね」

 

「アイが言いそうなことなんて大抵分かるからな、というかわかってて聞いたろ?」

 

「えへへ、バレた?」

 

「ただ不安なんだろ?今の状態がふわふわしてて幸せで、崩れ去ってしまいそうな感じがしてさ」

 

しばらく返答はなかったが

 

「うん…私多分先輩と会ってなかったらあの時死んでるだろうな〜って思う時があるんだ」

 

明智は黙ってタバコの煙を空に吹く

 

「先輩が来てからなんだか現実味があんまりないんだよねぇ」

 

「僕は…お前から離れることが正解だと思ってたし、それが正しいと正直今も思ってる…でも…」

 

「でもな?僕は離れるのが嫌だった、ただそれだけ、離れたくなくて、でもお前や周りも守りたくて、だから間違いだと思っても離れなかった、それだけだ」

 

「そっか…先輩も結構欲張りなんだね?」

 

「まぁね?アイには負けるけどな」

 

「なにそれ〜」

 

そんな他愛のない会話を繰り返しながら夜はフケていく

 

「参観日にし…ごと…」

 

「そうなのよちょうどその時間に撮影があって、そこまでかかるものじゃないから完全に終わる前には来られるだろうけど」

 

二人の出し物は見れない…と申し訳なさそうにミヤコさんが言って

 

「そんなぁ…せっかく二人の出し物楽しみにしてたのにぃ」

 

ヘナヘナと崩れ落ちるアイ、その横で何か考えことをしている明智

 

「私は2人のお迎えに行ってくるから」

 

あとはよろしくね?と明智に言って

 

「どうしよう先輩、私…絶対みたいよ、ルビィとアクアが頑張ってくれたんだもん…絶対みてあげないと」

 

そう何かを覚悟した顔で言いながら

 

「ボイコットはさせないぞ」

 

「そ、そんなことするわけ…ナイジャンセンパイナニイッテルノォ」

 

「棒読み棒読み、というか顔に全部出てる」

 

「だって、私あの子たちの親だから見てあげないと、仕事を言い訳にしたくない」

 

「まぁ度重なるスケジュール調整、どっかで綻びあると思ってたけど、この場合悪いのはあっちだろうな」

 

突然の撮影日の変更、恐らくほかのキャストの都合だろう

 

「まぁ親として見てあげなきゃって思うのは大事な事だけど、それでお前自身に何かあって自分のために傷つくのが1番きついのは二人だろうけどな」

 

「先輩はいつも正しいよねぇ…正しくて容赦がないよ」

 

「ただいま〜」

 

アクアとルビィが帰ってきたのかアイに抱きついて

 

「ママ、私ダンスすっごく上手になったからちゃんと見ててね!」

 

「うん!しっかり見てて」

 

がしっとルビィの頭を雑に撫で回して

 

「まぁ、まだまだこれからだけどある程度及第点には乗ってるからな、せいぜいアイを驚かせてやろうぜ」

 

「ッ……」

 

アイの一瞬驚いた顔を無視するように雑にわしゃわしゃ撫で回して

 

「だから!そういうの女子にするのはセクハラだからね!」

 

「ルビィは女子じゃなくて女児だからセーフ」

 

そうやってルビィと騒いでいる明智を見つめるアイの目は…キラキラと輝いていた

 

 

「ちょっと…どうするつもり?」

 

「まぁ…やるっきゃないですよ〜」

 

しばらくしてアイ一家が帰った事務所で明智とミヤコが会話している

 

「撮影の時間を伸ばしてもらえるわけでも、園の出し物の時間を変えてもらうのも無理よ?バックれるなんて言うのは…させられないし」

 

「わかってますよ、アイには撮影に出てもらう、そしてルビィとアクアの出し物もしっかりと見てもらう」

 

「いや、それが出来たら確かに最善だけど」

 

「最善だからやるんですよ、それに…僕って以外と欲張りらしいですよ?」

 

 

撮影日

 

「先輩、本当に大丈夫なの?」

 

「任せろ、ミヤコさん、社長、指定の位置にお願いします」

 

今回はアイに明智が同行する形に、そしてそのまま撮影、集中していなかったアイを時々明智がちょっかいをかけることで集中させそして撮影が一区切りすむ

 

「一旦休憩」

 

「お疲れ様でした〜!!」

 

なんて挨拶をしていると、明智が突然

 

「すいません、うちのアイは撮影の疲れが出てしまっているようなので一旦失礼します」

 

と、体のいいわけを言って一旦アイを控え室に戻して

 

「行くぞ、今から30分以内で幼稚園に到着、その後2人の劇を見て速攻戻る!」

 

「えぇ?今撮影中なのに?」

 

「誤魔化すのは社長に頼んでる、あと撮影が始まらないような細工はある程度してあるから、行くぞ!」

 

そのままアイにさっさと最低限の変装をして、

 

「タクシーで行くの?」

 

「いや、一旦電車」

 

「で、電車?」

 

「そ、電車で4駅先まで行ったらタクシー、その後上手く行けば速攻で着くけど…ぁ〜ダメだな、渋滞できるだろうからまた電車だ」

 

「え、えぇ?」

 

わけも分からず困惑しているアイをよそにさっさと引っ張るように連れていく明智

電車タクシー電車と一切渋滞やトラブルに巻き込まれず、さらに、電車の出発時間ギリギリ快速の発車時間を理解、線路の各駅を全て脳みそに叩き込んでいる明智の行動に一切無駄はなく、そして連れ回されるアイは何がなんだか分かっていない

 

「あれ?電車来ない?」

 

「はぁ〜まぁしゃあない!」

 

そのままどこかに電話をかけてると車でミヤコさんが迎えに来て

 

「早く乗って!」

 

「み、ミヤコさん?どうしてここに」

 

「僕が呼んだ…んぁ?電話?」

 

「明智〜!やばい!そろそろ誤魔化せないかもしれない!」

 

切羽詰まった様子で社長がボソボソと電話をかけていて

 

「分かりました、僕が速攻戻るのでそれまで、事前に伝えたやり方で凌いどいてください、じゃ」

 

そう電話を切るとアイをさっさと乗せて

 

「先輩!!」

 

「ミヤコさん、途中いくつかのルート僕が電話中に指定するのでナビのルートと違くても迷わないでください」

 

「わ、わかったわ」

 

「せ、先輩は?」

 

「いいから行ってこい!大事なのはお前だ!」

 

扉を閉めて通話を繋いだ状態でそのままタクシーを広い、ミヤコさんにルートの指定をしながら最速で戻る

 

「つ、着いちゃった」

 

「彼本当に何者…?」

 

ミヤコは半信半疑で明智の指示に従っていたが、やがて見慣れた道に出て気づけば迎えに来ている建物まで来てしまった

 

「さぁ、ここからはバレないように注意してね?」

 

「はぁ〜〜〜」

 

「どうしたの?早くしないと」

 

顔を埋めてグリグリ頭を自分の太ももに押し付ける

 

「先輩は…本当にずるい…正しくて容赦がなくて…とっても優しい」

 

その後ルビィとアクアの出し物に大興奮したアイをミヤコがなんとか制して、そして劇が終わった瞬間、余韻に浸る暇もなく明智の指定したルート道理に進み

 

「すいませーんもう大丈夫です」

 

少しの疲れも気取られないような満面の笑みで戻ってきたアイを社長はホッとしたように、明智は満足そうに

そして周りに怪しまれないような距離感のまま小声で

 

「よ、しっかり見れたか?」

 

「うん…バッチリ」

 

「ならよかったよ」

 

「先輩、ありがと」

 

「どういたしまして」

 

そんな会話をした後アイは普段通り嘘を纏ったが、ほんの少し、ほんの少しだけそこに本当の笑みが零れて居るのはただ1人を覗いて気付かなかっただろう

 

その後事務所でアクアとルビィの発表会が上手くいったことを祝っての軽いパーティが始まった

 

「ほんっとヒヤヒヤしたんだからな!俺は!明智が来てくれなかったら絶対バレてたんだぞぉ!」

 

お酒が入っているのかいつもよりオーバーリアクションで明智の背中をバンバンと叩いて

 

「いや、これに関しては私も同意…渋滞にかからないように電車を使って回避するっていうのは分かるけどなんで正確な駅の場所とか、渋滞するのとかが分かるわけ?」

 

「まぁ僕ですからね、各駅の線路に関しては覚えれば済む話ですし、ニュースで乗ってる交通情報、その他もろもろ含めて考えればどこで渋滞するかを予測するのは難しいことじゃないですよ」

 

はぁ〜とため息ひとつ

 

「あなた絶対うちに居るべき人材じゃないわよ」

 

「まぁ別にいいんじゃないんですか?割と僕は好きですよ?この場所」

 

「ママに見て貰えたのは嬉しいけど明智!私今までで改心の出来だったのに見てくれなかったのはムカつく」

 

さっきから背中にぐりぐりと足で突っつかれている明智

 

アクアもアクアで

 

「俺もアイに見せれたのは嬉しかったけど、普段あれだけ小馬鹿にしてくる明智の鼻をへし折れなかったのは残念だ」

 

「2人とも先輩のこと大好きだねぇ」

 

「「好きじゃない」」

 

「おいおい?誰のおかげで君たちのママ相手にかっこいい姿見せられたのかなぁ?」

 

「そ、それは…」

 

「まぁ…」

 

2人してそっぽを向いて黙りこくって

 

「そこまでして僕のおかげって認めたくないのかなぁ?」

 

「あっはは〜本当に仲良しだよねぇ」

 

「どこがだよ、まぁ2人にはしっかりお礼してもらわなきゃ困るしな」

 

「お礼って…?」

 

「ケダモノ」

 

「ルビィ、さすがの僕もそろそろ傷つくぞ」

 

2人の頭にぽんと手を乗せて

 

「ルビィにはしっかりアイドルとして舞台の上に立ってもらわないと?ちゃんとサイリウム振って応援するからファンサしてくれよ?」

 

「アクアは役者になって僕の心を震わせるような演技をしてもらわないと、それは嘘でも本当でもどっちでもいいけど、僕を驚かせてくれよ?」

 

2人にはそう言いながら頭を撫でて

 

「あとママ大事にしろよ」

 

「言われなくても、明智に言われなくてもママのこと大好きし!絶対アイドルになって私にメロメロにさせてやる!」

 

「俺だってアイのこと大好きで、大切な家族だ、明智が感動で咽び泣くみたいな演技してやるからな」

 

そう言う二人を優しいような、満足そうな顔で見つめる明智と2人の大好き発言で舞い上がり思いっきり抱きついてニヨニヨして

そんな家族を見つめる明智は優しい目でただ見つめるだけ…

 

「ほら、先輩も」

 

だったはずなのに…

 

「早くおいで?」

 

いつの間にか

 

「はいはい…」

 

そこに居たいと思ってしまうようになるまで、この小生意気な後輩に、絆されてしまったのだろう



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飲んで飲まれて

感想貰えると新しいの思いついてさらにかける感じがするから貰えるのはありがたいですねぇ…

まじで番外編じゃ無くなってきてる感じがしなくもないですけど…まぁ…基本緩いのしか書いてないので別にいいか〜と毎回思ってます


 

たまに全員の時間の都合があった場合、アイの家で飲み会のようなことをすることがあり明智もそこにお呼ばれしたのでみんなで食事している時

 

「そういえば先輩ってお酒全然飲まないよね」

 

アイが少し酔った状態で話しかける

 

「ん?まぁな、前1回飲んだことあるけどそんなに酔えなくてさ、それ以来全然アルコールは入れてない」

 

「へぇ〜じゃあたまには付き合ってよ」

 

「そんなにお酒好きじゃないんだよなぁ、なんだったらジュースの方が美味しいし」

 

そう言って鬱陶しそうにジュースを飲んで

 

「もしかしてそうとうお酒弱いってこと?」

 

「はぁ?お前と違ってしっかりと自分のキャパを弁えて飲むから」

 

「へぇ〜そんなこと言ってちょっと飲んだだけですぐ酔っちゃいそう」

 

「はぁ〜かけてもいいけど絶対酔わないから」

 

そこからアイに勧められるまま、社長も悪ノリして酒を飲み続ける明智、そして

 

「うっへへぇ…えっ、へへぇ…」

 

普段とは考えられない状態でアルコールに脳みそをやられている明智の姿があった

 

「うっわぁ、本当はお酒弱いんじゃんもぉ〜」

 

(なにこれかわいい、普段しっかりしてるのにちょっとお酒入ったらすぐ潰れちゃうの可愛すぎ…絶対他の人に見せれないよこれ、えぇ〜こんなにグテングデンになっちゃう先輩ってすっごいレア!写真撮っとこ)

 

「明智〜なんらァ?もうダウンかァ?情けないねぇ〜」

 

「貴方も飲み過ぎだから、はぁ…明智君もダメね、軽くお酒はいるだけでダメになっちゃううちの男共」

 

「先輩どうしようか?このままじゃ帰れないでしょ?」

 

「まぁ、私が車で明智くんの家まで送るから問題ないわよ」

 

「明智が溶けてる、普段からは想像の出来ないふにゃふにゃ顔」

 

「そうとうお酒弱かったのか、次の日辛そう」

 

そうやって明智をどうするか考えているとピクっと動いて

 

「ほ〜ら、先輩そろそろ帰らないと明日に響くよ?」

 

「んぁ…?明日ぁ?もう無理ぃ…」

 

「んっぅ…ふぅぅぅぅ…そ、そんなこと言っても…ほ…ら」

 

(いつも明智がアイをセーブさせてるのに今はその逆…というかお酒入れてると人って本性出るって言うけどこれが明智の本性か?)

 

「あとアイを止めないとやばいかもルビィ」

 

「えぇ?」

 

いつもと違いふにゃふにゃ、デロンデロン、だらしない部分はあるがいつもの数倍は酷い状態にアイは何か色々刺激されたのか息を荒らげながらも子供の前のためなんとか平常心を保っている

 

 

「んぁ〜?全く…ルビィお前のことなんて好きに決まってるだろぉ…なのに変なこと言って周りと壁造りやがってぇ〜このぉ…」

 

「えぇ…ちょ、ち、近い!あとお酒臭い!離れて、あ、アクア見てないで助けてよぉ!」

 

アイに引っ張られてそのまま床に倒れ込み、なんとか這った状態でルビィを見つけて絡み始める

 

「えぇ〜じゃあ先輩?アクアは?アクアはどう思ってるの?」

 

「ちょ、アイ!?」

 

普段あまり本心を明かさない明智にここぞとばかりに質問するアイ

 

「アクア〜?頭は良くて知識を詰め込めるけど応用力にかけるぅ…お人好しでだれかれ構わず助けて自分がそんをするたいぷぅ…」

 

「ぉぉ…酔ってても流石先輩…」

 

「だから…今のうちにあるていど教えとかないとぉ…将来女に惚れられまくってそのうち刺される気がする…」

 

「なんだそれ…なんでちょっとありそうなことを…ルビィ!?なんだその目は、まだ俺何もしてないからな?明智が勝手に言ってるだけだからな?」

 

(改めてすごいな…まるで僕の前世を知ってるみたいに話してくるし)

 

「そーか、アクアは将来モテモテかぁ」

 

「私は?」

 

ミヤコも気になるのか明智に話しかけて

 

「ミヤコさんぅ…?自分の利益を追い求めるけど甘さを捨てきれなくて結局損するタイプ…アイに負い目があってこれから先何かある度にアイと双子を支えようとしてる…美人だけど婚期逃すたいぷぅ…」

 

「ほ、本当にすごいわね…」

 

「負い目って何〜?ミヤコさん?」

 

「そ、そんなとこより…アイ!あなたについて聞いてみれば?」

 

「それは私も気になる!先輩私は?」

 

「アイ…?アィ?あいつさぁ……自分勝手でわがままで欲張りで…」

 

「あ、あっれぇ?全然褒めてくれてない」

 

先程のふたりとは打って変わって褒めると言うよりマイナスよりな回答ばかり続く

 

「そんでさぁ…僕は1人で生きて行けるって思ってたのに勝手に人の心にズカズカ入り込んで…お前が居なきゃ寂しくてぇ…その輪を外から眺めるだけで満足出来てたのに…その輪に無理やり引っ張って…離れられないようにしてくる…」

 

「なんかこう聞くとアイがダメ男で明智を引っ掛けた感じが」

 

「ち、違うからね!そんなことしてないよ私!」

 

「だから…もぉ無理だろぉ…お前が居ない人生とか無理ぃ…寂しくて死んじゃいそぉ…」

 

そう呟いてソファにゴロンと寝っ転がりほわほわしている

 

「……………みんな、ちょっと先輩と2人っきりで寝室行ってくるから待ってて」

 

「ちょ、ま、まぁ…女として気持ちは分かるけどちょっと落ち着いて!」

 

何かがプッツンと切れてしまったのかアイはその細腕では考えられない力で明智をお姫様抱っこすると寝室に連れていこうとして、それをミヤコを筆頭に慌てて止めようとする

 

「だ、だって普段あれだけしっかりしてて頭いい先輩がほんのちょっとお酒飲んだだけでこれだよ!こんなのもうさぁ!もう…さぁ!」

 

少しアルコールが入っているせいもあるのか、目が座った状態で明智をなんとか連れ込もうとする

 

「あ、アイ落ち着いて」

 

「お、推しのアイドルが男を寝室に…」

 

わやわやしている間に何とか落ち着いて

 

「はぁ〜この状態だと明智君が家に入って鍵を閉めれるかって問題が出てくるわね」

 

「あ、じゃあさ〜」

 

「まぁそうなるよな」

 

「まぁ…う〜ん…でもぉ…」

 

アクアはそうなると思ってたのか納得し、ルビィは唸りながらもどちらかと言えば肯定する感じ

等のアイは

 

「えへへぇ〜お泊まりだね〜先輩」

 

呑気にソファで眠っている本人をよそに話が決まってしまう

 

 

「んぅ…?」

 

真夜中何か違和感を感じて目を覚ます、見慣れない天井見慣れない寝心地の寝具、よく見るとソファに横になっていてタオルケットを掛けられた状態らしい

 

(なるほどなぁ…えぇ?僕ってそんなにアルコール弱いか?前飲んだ時は全然酔わないくせに値段の高さにあほらしさ感じて飲まなくなったんだが…その間に弱くなったのか…?)

 

 

「いてて…ぁ〜頭痛い…あと身体が全体的に重い…まさかそこまで酒に弱くなってたと…は…」

 

「すぅ…すぅ…」

 

「は?」

 

思わず素っ頓狂な声を上げてしまう、身体が重く、身動ぎすることすら難しいことに流石に違和感を覚え、タオルケットをどかすと、そこにはアイがすやすやと明智をベット代わりに寝息を立てていた

 

「な、何してんの?というかこの状況は何?」

 

アイを起こさないように小声で喋って、なんとか脱出を図るもどうやってもアイを起こしてしまいそうになるので断念

 

「せ、せめて…水…水を飲まないと…」

 

そう呟きながらどうするかと考えていると横からスっとコップを差し出され

 

「あぁ、すまん…助かる」

 

なんの違和感も感じずにコップを受け取り飲みにくそうにしながらも全て飲みきって

 

「悪い助かった…わぁ…アクア…」

 

大声はなんとか隠せたが2回目の素っ頓狂でか細い声を出して

 

「な、何してんだ、こんなところでというかここは」

 

「ここはアイの家だよ、明智は酔っ払ってそのままソファでダウン、アイが夜寝る前に様子を見てくるって言ってしばらくしても来ないから様子を見に来たらこうなってた」

 

暗くて見えないが若干の月明かりでじっとりとした目で見つめられていることに気づく

 

「い、いや何もしてないぞ、まじで…本当に記憶が…記憶が…忘れてくれ…」

 

言ってる途中に段々と思い出したのか唸り始める

 

「明智って意外と寂しがり屋なんだな?」

 

「うるさいな…しょうがないだろ?どんなに1人で全てをこなせても、1人で生きて行ける人間なんてそう居ない」

 

「まぁ、それは確かに」

 

「アクア、とりあえずアイを起こさないように起きたいんだけど手伝って」

 

「お幸せに〜」

 

「おいアクア…おーい…」

 

はぁ〜とため息ついて

 

「寝るか…」

 

もう何かを考える気力もなくしてそのまま眠りにつく…嗅ぎなれない甘いふわふわとした香りに包まれて、くっついて寝苦しいはずなのに今まで以上に安眠してしまったのは言うまでもない

 

次の日

 

(んっ?なんか…包まれてる…?昨日は確か…あぁ、そうだ、普段絶対見れなそうな先輩が見れてテンション上がっちゃって…そのまま…そのまま…あれ?)

 

昨日のことを思い出しながら起き上がろうとしても、身体を全く動かせない、全身を包み込まれて安心感がお腹の底から湧き出てくる感覚に困惑してしまい

 

(ぁーれ?ぁ、そういえば先輩にタオルケット掛けた時まぁ、いいかなってそのまま一緒に寝ちゃってたっけ?ん〜どうしよう全然起きれない)

 

少し身動ぎをしてなんとか起きようとするも明智がしっかりとアイを抱き締めているため起き上がることが出来なくなってしまい

 

「先輩〜?朝だよ、もう起きないとんっ…ちょ、先輩」

 

なんとか起こそうとして声をかけたり抜け出そうとするがさらに身体をぎゅぅっと抱き締められて余計に動けなくなってしまう

 

(あ、あれぇ?どうしよう、全く起きれない…というか先輩すっごい安心仕切った顔で寝てる、かわいい…なんだか大きい子供みたい…)

 

「普段からこうやってもっと分かりやすくしてくれたら助かるのになぁ…」

 

なんて呟きながら頭をなでなでしていると

 

「んっ…?」

 

「あ、起きた、おはよ先輩」

 

寝ぼけた目でアイをじっと見つめて

 

「おはよ…んぅぅ…まだ眠い」

 

「先輩って朝弱いもんね」

 

「朝は弱い…あと5分」

 

そのままさらにソファの背もたれと明智自身でアイを拘束して

 

「ちょ、せ、先輩!?」

 

あたふたするアイをよそ目に完全に寝に入って行く明智

 

「ど、どうしよう…もぉ…甘えた顔で寝ちゃってさぁ?先輩は本当に」

 

その言葉の途中で視線に敏感なアイはピタリと止まる…ゆっくりと視線を向けると

なんともいたたまれない顔でアクアが2人をじっと見つめていた

 

「あ、アクア!?え、え〜とこれはね?」

 

必死の弁解をしようとするアイを無視してスタスタと歩いてしまい

 

「ルビィ〜しばらく、あと30分ぐらいリビングに近寄っちゃダメだぞ」

 

なんて変な気を利かしたまま部屋から出て言ってしまう

 

「は、話を聞いて?私の話を聞いてアクア〜〜!!」

 

 

そこからなんとか明智から脱出したアイは朝の準備をして、今日はそこまで急ぐほどでもないのかゆっくりと3人で朝食食べてのんびり過ごしていると

 

「うっぉ!?今何時!?」

 

ソファで寝ていた明智が勢いよく起き上がって

 

「あ、起きた」

 

明智の近くでテレビを見ていたアクアが明智が起きたことに気づいて

 

「あぁ?なんでアクアがここに…ここは…あぁ〜頭痛い…」

 

寝ぼけていて朝のことを覚えてないのか二日酔いのせいで頭痛を感じながらゆっくりソファに座る

 

「ぁ、先輩おはよ、とりあえず顔洗ってくれば?」

 

「ぁ〜そういえばなんか昨日酔っ払って…悪いな迷惑かけた」

 

「いいよいいよそんなの気にしないで」

 

先輩の分もご飯あるからね〜と言われて、ここまで来ればお言葉に甘えてしまおうとお礼をして、そのまま顔を洗う為に洗面所に

 

「あ、そういえばルビィお風呂入ってたっけ?まぁいいか」

 

「ぇ!?、ちょ、明智ストップ!」

 

アイは能天気に答えて、でもアクアからしたらことの重大さを知っているので慌てて止めようとする…が

 

 

「な……な…」

 

「ふぅぅ〜お?おはよルビィ」

 

わなわなと震えた状態で固まったルビィと特になんの反応もしないで普通に挨拶してさっさと去ろうとする明智

 

「きゃァァァ!!!!!」

 

「うっぉ、突然どうしたんだよ?」

 

「お、女の子の裸見といて何その反応!!」

 

「はぁ?あ〜そういえばそうだな悪い悪い気をつけるよ」

 

「気をつけるじゃなくて!あとその反応ムカつく!レディの裸見たのにその態度って!顔赤らめたりしなよ!」

 

そう真っ赤にして身体を隠した状態でぷりぷり怒り始めてしまう

 

「顔を赤らめる…?はっ…10年後に出直してこい」

 

「はぁ〜何その反応、ムカつく、マジムカつく!!」

 

「も〜2人してどうしたの?朝からテンション高いね〜」

 

「ママぁ明智のせいでお嫁に行けない…」

 

「ちょっと言い方に語弊生まれるようなこと言うのやめてくんない?」

 

「先輩…ってそう言う趣味があったんだ…へぇ…」

 

ハイライトの無い目でじっっと見つめて

 

「いや、違うから…ほんっと違うから、いやいやどう考えても知ってるのに止めなかったアクアが悪い!」

 

「そ、そういえば…お兄ちゃん!」

 

「いや俺はとめようとしたって!」

 

こんなふうに騒がしい日常がこれから先ずっと続けば良いなぁ…そう思いながら

 

「先輩、とりあえず説明ね」

 

「ぇ…はい…」

 

明智を詰問するアイだった



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お帰りくださいお嬢様

感想返せないけど基本的に全部見てます、励みになったり、新しいネタ思いつくキッカケになったりするのですシンプルにありがたいんですよね


「今月の明智君の予定だけど」

 

事務所で明智相手にミヤコが何かを伝えて、そのままパソコンの画面を見せる

 

「分かりました、これで大丈夫です、ただここからの期間は…」

 

「ああ、そうだったわね、それに関してはこっちで調整するから」

 

「お願いします」

 

「あと例の件大丈夫そうですか?」

 

「えぇ、特に問題はないわよ?」

 

「ありがとうございます」

 

「楽しんできてね?」

 

「まぁ…ある程度は」

 

そして会話が終わりいつも通りの業務をさっさと終わらせそのままソファに座り込む

 

「先輩お菓子食べる?」

 

「おぉ、食べる」

 

そのままアイの隣でのんびりお菓子を食べ始める明智をじっと見つめて

 

「もうしばらくしたらちょっとここに顔出しづらくなるぞ」

 

「へぇ〜大学が忙しいんだ」

 

「まぁな」

 

普通の会話だったが、ほんの一瞬、些細な、アイでしか見抜けないような嘘を感じて

 

「じゃあ寂しくなるねぇ」

 

「いやいやちょっと出づらくなるだけだって、1週間ぐらいで…」

 

そこでハッとした顔で情報を引き出されてることに気づき口を噤む

 

「どうせチャットなり通話なりで話すだろ」

 

「まぁ、そうだけどさ〜」

 

(な〜んか隠してるなぁ〜)

 

そんなことを考えて一切顔には出さずに、この日は普段通りに過ぎていく

 

 

「な〜んか先輩隠してると思うんだよね〜」

 

家に帰り家事などを済ませてのんびりしている時、独り言のように呟いて

 

「アイ、また明智について?」

 

双子もこのくだりには慣れているのかルビィに至っては会話に参加せずテレビを見ている、どうやらアイが演じたドラマが放送されているようで、それに夢中になっている

 

「そうなの、先輩今日ね」

 

と今日あったミヤコとの会話をアクアに話して

 

「絶対なにか隠してるんだけどなぁ…なんだろ?」

 

「うーん…」

 

(大学生…1週間…顔を出しづらくなる…)

 

「あ、多分あれじゃないかな?」

 

「あれって?」

 

そして場面は代わり大学

 

 

「お疲れ様です」

 

久しぶりに明智が所属している推理小説大好きな人達が集まる同好会に顔を出して

 

「明智氏!随分久しぶりですな!」

 

「先輩久しぶりです」

 

静かにページをめくっている人や、なにか熱い議論を交わしている人達がいっせいに明智に向いて

 

「おぉ、明智さん」

 

「明智…今日こそお前を倒す!」

 

なんて言葉が響いて

 

「はいはい?それについては片付けてやるから、それで?僕達学園祭で出し物やるって聞きましたけど?何やるんです?」

 

「ふぅむよく聞いてくれましたな明智氏、我々考えました、正直これから先我がクラブ、ディオゲネスクラブ存命のための一手を打つ必要があると!」

 

そして立ち上がりホワイトボードを回転させると

 

「そこで!なんとうちには無駄に顔のいい奴らが居るではないかと気づいたので執事喫茶を開きまぞ!」

 

「へぇ…は?」

 

そんな明智の困惑はどこ吹く風なのかみんなどの執事服がいいのかと既に考えているらしく

 

「あ、既に決定済みで明智氏にもバリバリ執事服来てもらうからお願いしますぞ」

 

「いやいや、うち非公式の名とはいえディオゲネスクラブ名乗ってますよね?静寂とは程遠い喫茶店とか良いんです?」

 

「いいのですよ!というかそろそろ新たな同士獲得に動かないと本格的に無くなってしまいますからな」

 

うっわぁ〜とため息をついて、執事服を着ることに少し抵抗はあるがこのクラブの中には単位のために代わりに出席を取ってくれる人もいるため無下にもできない…ので、そこに関しては問題は無い…問題は

 

(絶ッ対茶化しに来るやつが居る…1人…いや正確には3人)

 

「まぁ…一応役者なので事務所の確認取ってからでいいなら」

 

「それで構いませんぞ!」

 

「明智!俺の推理小説を読め!」

 

「はいはい」

 

そのまま諦めたのか自作した推理小説を読んで現実逃避しながらも、しっかりあっさり犯人を突き止めてしまう明智

 

そんなこんなで学園祭の準備のため苺プロでの仕事や役者としての仕事を調整してもらい、結局あまり顔を出せずに準備に奮闘、

事務所の人間と顔を合わせないで過ごす久しぶりの1週間を過ごした

 

 

「そっちはどうだ?なんか困ったこととかあったか?」

 

いつも通り、アイからかかってきた電話にベランダでタバコを吸いながら出る明智

 

「特にはないかなぁ、でもミヤコさんが先輩が居てくれたらとっくに仕事終わってたのにぃ…って呻きながらパソコンと睨めっこしてたよ?」

 

「うっわぁ…それは悪いことしたな」

 

今度お詫びになんかしないとと呟いて

 

「そっちはどうなの?忙しい感じ?」

 

「いや?こっちはそうでも無いな、まぁ慌ただしくはあったけどそこまで切羽詰まった感じじゃなかったし」

 

学祭の準備を思い返して、慌ただししく、でも久しぶりの学生らしい活動に笑みをこぼして

 

「へぇ〜じゃあ私楽しみにしてるからね」

 

「楽しみに?」

 

「そ、じゃあね先輩」

 

「またな」

 

そう言って通話を切る

 

(楽しみに?何言ってるんだあいつ?会えるのを?いやいや通話とかチャットでいつも会ってるような物だし…まさか…な)

 

何を考えたのか少し身震いして、でもそんなわけないと考えを捨てて

 

(いくら学祭でもやっぱ演技をするからな…チョイ役の役者でも役をやるなら完璧にしないと)

 

「明日頑張るか〜」

 

そう言いながら眠りにつく…この時考えれなかったのか、いや、答えにたどり着くことはできたはずなのに、アイ相手に完全に気を許してしまっている結果こうなってしまったと言った方が正しいかもしれない

 

 

 

ニコニコ

 

「は、はは…」

 

「えへへ、来ちゃった」

 

変装したアイが双子の手を握った状態でお帰りになられた姿がそこにはあった

 

 

「……」

 

いや、だが明智はまだまだこれからと言っても役者は役者役どんな時でも役に入り切ってこその役者である

 

「おかえりくださいませお嬢様」

 

でも無理な物は無理だった

 

「えぇ?せっかくお嬢様が帰ってきたんだよ〜?その対応はどうかと思うなあ?」

 

「おっ…まぇ…」

 

聞きたいことは色々ある明智、だがなんとか堪えて

 

「失礼しました、お帰りなさいませお嬢様、お坊ちゃま」

 

「あら、ありがとう」

 

にっこにこの笑顔で満足気に頷くアイ

 

「うっわぁ…」

 

「ふふっ…」

 

ドン引きするルビィとコソッと笑うアクア、そんな中でも明智はしっかりと心を殺して執事として対応する

 

「素敵なお連れ様ですね」

 

「えぇ、自慢の子達なんですよ?」

 

「えぇ、とってもお似合いの御家族です…ではお席にご案内します、お手をどうぞ」

 

「あらありがとう」

 

そのまま星野一家をエスコートして席に座らせる時にも椅子を引く、水を注ぐ、執事としてとりあえずの完コピを見せつけて

 

「こちらメニューになります、当店ではこちらのメニューの裏に簡単なクイズがございます、こちらのメモに解答を書いて頂きお近くの者を呼んで頂ければ解答を確認し、正答率に沿った景品の方をご用意させていただいております、もしよろしければ挑戦してみてください、ご注文が決まり次第またお伺い致しますので…では、失礼します」

 

そう言い終わるとスっと立ち去って

 

「えへへ〜先輩が私にお嬢様だって?というか先輩執事服も似合うなぁ、メガネ外してたけどコンタクトかなぁ?」

 

なんてニヤニヤやっているアイの横で

 

「なんかあの明智不気味だったぁ…お兄ちゃん何見てるの?」

 

「あぁ、クイズって言ってたろ?それだよ」

 

メニューの裏のクイズを確認する

 

「へぇ〜シャーロック・ホームズの住んでいる場所は?……全然知らない…」

 

「これは簡単だなベーカー街221Bだよ」

 

とそんなアイを横目に2人はメニュー表の裏のクイズを解いている、そして

 

「ウッグゥ…グッはァァ…ぐっぅぅ…」

 

裏で顔を真っ赤にさせて死ぬほどの羞恥心と戦っていた

 

「きっつっ、これマジでキッツイんだけど!!マジできついんですけど?はあ?馬鹿なの?というかなんで普通にいるの?おかしくない?伝えてないよ!、こうなるから伝えたくなかったんだよ僕は!!」

 

そのまま壁に寄っかかりタバコを吸おうとして周りに止められ、注文が入ったから行ってこいと蹴り出させる

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 

「はい、オムライス2つとカルボナーラ、飲み物は私はコーラ」

 

「オレンジジュース」

 

「コーヒー」

 

「かしこまりました、しばらくお待ちください」

 

「執事さん似合ってる〜!」

 

「……ッ…ありがとうございますお嬢様」

 

アイの野次にも負けずなんとか切り返してそのままさっさと行ってしまう

 

「あぁ〜どうしようずっと隣にいて欲しいけどその場合っていくら払えば良いのかなぁ?」

 

「いや、そういうサービスはやってないから」

 

その後別の執事が料理を運ぶ、味は学園祭なのでそこまでのクオリティはなく、まぁ食べられる程度、それを食べながら過ごしていると

 

「執事さんって写真だめぇ〜?」

 

明智が他の客に絡まれていた

 

「申し訳ありませんお嬢様、当店ではそのようなサービスを行っておりません」

 

「えぇ〜お兄さんみたいにかっこいい人の写メ撮りたいな〜」

 

「それは出来ませんが…私はお嬢様とここでしか作れない体験を差し上げたいのです…ワガママな私を許していただけますか?」

 

「は、はぃ…よろしくお願いします」

 

サラッと手を握り目を見つめて、他の客もそれを見てゴクリッと唾を飲み込みあとから何とかして明智に対応してもらおうと注文をして

 

「お〜さすが明智だな…しっかりと否定しながらも後を引かない接客」

 

「「……………」」

 

アクアは素直に明智の対応に感心しているのだが、女性陣二人の目は冷たく絶対零度の目で明智を見つめている

 

「私の先輩なのに他の人にキラキラ笑顔ばらまいちゃってさぁ?まぁ?確かに私だって他の人に笑顔を振りまくけど、先輩は私のなんだよ?それなのになんで…」

 

「なんか…こう…知り合いの男が他の女相手にキラキラ媚び売ってるのめちゃくちゃ腹立つ…」

 

「い、いやいや2人とも、ここは執事喫茶だから、なるべく穏便にことを済ませようとしてるだけだからな?」

 

「それはそれ!」

 

「これはこれ!」

 

「そ、そうですか」

 

息ぴったりな言葉にアクアも何も言い返せずコーヒーを1口飲んで

 

「すいません!」

 

アイが執事を呼び、なぜか明智が居ると売上が上がるという理由で大抵明智が出張ることになり内心渋い顔をしながらも

 

「お嬢様、ご注文ですか?」

 

サッと完璧な笑顔で注文を聞きに来る明智

 

「コーラ!私だけの執事さんでしょ?」

 

「オレンジジュース!他の女に簡単にデレデレしちゃって…」

 

「こ、コーヒーおかわり」

 

女性陣2名は注文した後小声でそれぞれ愚痴みたいに零し始めて

 

「かしこまりました、ですが申し訳ありません、私は皆様の執事でして、誰か特定のお嬢様、旦那様の執事ではありません…申し訳ありませんですが…今この時だけはあなたの執事として名乗られて頂けますか?」

 

「ふ〜ん」

 

「……お前の前でこんなめんどくさい仮面被る暇ないから…わかった?ワガママお嬢様」

 

「ひゃ………」

 

顔を近づけて普段とは似ても似つかないキラキラした笑顔に顔に胡散臭そうな顔で見つめていたが…突然耳元でボソッと本当の口調で喋られてしまい、思わず赤らめコクコクッと頷き

 

「確かにこちらに来てくださるお嬢様方は大変綺麗な方ばかりでつい目を奪われてしまいます…貴方のような素敵なレディは…特に…」

 

「は、はい…」

 

(す、すげぇ…二人を黙らせた…)

 

そのまま軽くお辞儀をして裏に歩き去っていく明智

 

(ほんっっと先輩ずるいんだけど!…普段と全然違くて…それに今私だけ…私だけにわざわざ小声で本当の先輩を見せてきた…んぅぅぅ〜〜〜!!!先輩あざとすぎ…)

 

(くっぅぅぅ…嘘って分かってるのにぃ…普段の明智がデリカシーなくて態度悪くて目つきも口も悪いのわかってるのにぃ…でも普段とのギャップでキュンってしてしまう…悔しい…執事ってずるいぃぃ!!)

 

それでノックアウトされてしまった二人は運ばれてきた飲み物をコクコク飲んで、そろそろ退出しようと席を立とうとすると

 

「ここの執事さんってみんな胸に宝石つけてますけど、執事さんの宝石はなんの宝石なんですかぁ?」

 

「こちらですか?こちらは曹柱石、マリアライトと言った方が通りがいいかも知れませんね、とても綺麗な宝石で私としても大変気に入っているものでして、まるで瞳のようで、一番星のように輝いているでしょう?」

 

その時一瞬…見られた人物とその周囲しか分からなかったが確かにこちらを目だけで見て

 

「………ッッッ〜〜〜〜!!!!!!!」

 

それに気づいてしまったのか立ち上がりかけた状態で顔を真っ赤にさせて、何とか会計を済まして、退店する時通りかかった明智にボソッと

 

「ばぁ〜か」

 

そう小声で呟かれ、退店した直後に座り込んで耳まで真っ赤にさせた元アイドルが居たらしい

 

(何…やってるんだろう僕…)

 

裏で壁に頭を押し付けながらブツブツ何かを呟いている明智の姿がそこにはあった、先程のキラキラしたイメージは一切なく、どんよりとキノコが生えそうなほどの湿気を伴って消え入りそうな声で独り言を喋りはじめる

 

(いや…絶対おかしい…あれは僕じゃない…絶対に僕じゃない…あれは絶ッ対に僕じゃない…どう考えても違うだろ…何…何あれ?アイに対してなにあの俺様ムーブ…ルビィに対してはなんなんあれ?小さい子相手でも一人前のレディとして扱ってますムーブきっつ…)

 

知り合いに見られている、それでもやりきらなければならないという使命感がぶつかり変なテンションのまま演技をしてしまい、段々とそれが楽しくなってしまったのは否定できない

 

(やべぇ…この後顔合わせるって考えたらまじで消えたくなってきた…そうだ…苔になろう…誰にも見つからない場所でひっそりとジメジメ暮らそう…)

 

そんなよく分からないことを考えているとスマホが振動して

 

休憩時間になったらどこかで合流しよ?

 

とチャットが飛んでくる、何をどうしようかと悩むことも無く

 

分かった、場所は後で指定するから

バレないように注意だけはしとけよ

 

了解!

 

デフォルメされたうさぎが敬礼しているスタンプを送られそこで会話は中断される

 

「もぉ…どうにでもなれ…」

 

その後ヤケになってキラキラムーブ全開の執事としてして売上に貢献し

 

「はぁ〜終わったぁ…」

 

疲れきった顔で着替えを済ませてアイと待ち合わせ場所に行く

 

「おーい」

 

「あ、先輩〜」

 

余程ご機嫌なのかニコニコ顔で近づいてきて

 

「あのさぁ?」

 

「なーに?」

 

「はぁ〜なんでもない」

 

大変ご機嫌が良いのか笑顔で対応されてしまい、毒気を抜かれてため息をひとつ

 

「どう?私の変装完璧でしょ?」

 

「まぁ…僕以外だったら気付かれないだろうな」

 

「じゃあ早く行こ」

 

「はいはい」

 

「明智!私あれやりたい」

 

「執事服似合ってたぞ」

 

「うるさいなぁ、アクアお前が演技した時覚えとけよ?」

 

そう言って隣を歩き始める

 

「じゃあルビィ、僕と勝負でもする?」

 

「勝負?」

 

「もし僕に何か一つでも勝てたら何でも言う事ひとつ聞いてあげるよ」

 

「えぇ〜」

 

興味無さそうな顔して

 

「いやいや、僕相手にこれは結構破格だと思うだけど」

 

「あ〜私もやる!」

 

「じゃあ俺も」

 

結局星野一家全員が明智と戦うことになり

 

「まぁ…その代わり僕が勝ったらなんでも言う事聞かせるから」

 

「別にいいよぉ?私たちなら勝てるし」

 

「明智に負けるわけないでしょ」

 

「ぁ〜なんか嫌な予感するから俺は」

 

その言葉を言い終わる前に明智が肩に手を置いて

 

「まぁ…こうなるよなぁ?」

 

「嘘…でしょ…」

 

「ぜ、全敗…」

 

「まぁ、僕がこの手の遊びで負けるわけないけどさ」

 

射的

 

「えっ〜とぉ?狙ってぇ…あれぇ?ぜんぜん当たらない」

 

アイが銃を構えて的を狙う、だが弾は的外れの方向に飛んだり、当たってもほんの少し角度を変えるだけに留まる

 

「あのなぁ?こういうのは狙う角度とタイミングとかが結構重要だったりするんだ…よっと」

 

「あぁ〜!それ今私が狙ってたやつ!」

 

アイが撃った弾でほんの少し的が揺れて、その隙を見逃さず、すかさず弾を撃ち込み景品を横取りする

 

「言ったろ?こういうのはタイミングって」

 

「くぅぅぅぅ〜もう1回!」

 

輪投げ

 

「うぅ〜ん…えいっ!!」

 

「上手いこと飛んでかない」

 

アクアとルビィが輪を投げて引っ掛けようとするが全く当たらず

 

「まぁこれは投げる角度と輪を離すタイミングだけ気をつければ」

 

二人が苦労している横でヒョイひょいと簡単に輪を引っ掛けていく明智

 

「あぁ〜!」

 

「ほんとムカつくな…」

 

「アクア?お前はもうちょっと腕を伸ばせ」

 

しゃがみこんでアクアのフォームを正して

 

「お前の場合、狙いは良いけど腕の伸びが足らないから届かないんだよ、ほら、このまま投げてみろ」

 

「よっと、おぉ…入った」

 

「そうそうその調子、ルビィに関してはな?そもそも力込めすぎ」

 

「えぇ?でも力込めないと届かないよ?」

 

またルビィにも同じ指導方法で

 

「まぁ、こんな感じかな?力込めなくてもタイミングと腕の軽い振りだけで充分届くよ」

 

「ほ、本当だ…敵に塩を送るなんて随分余裕だね!」

 

「いや、流石にぼろ勝ちすぎてちょっと可哀想になってきた」

 

「哀れまれた!!」

 

その様子をニコニコと見守りながら内心明智に対するロリコン疑惑が浮上し始めているアイ

 

「せ、先輩〜私も投げ方分からないな〜」

 

「ん〜?アクア教えてやれ」

 

「…………」

 

(こ、怖い…この状態で放置しないでくれ明智…!明智ぃ!!)

 

 

そうやって学園祭を楽しんでいる途中ルビィとアイは御手洗に、そのまま明智とアクアが2人の帰りを待っている

 

 

「あれだろ?どーせミヤコさん経由だろ?」

 

「まぁ、最初は俺だけどな」

 

あ、たこ焼き1個ちょうだい?とアクアのたこ焼きを1個頬張りながら

 

「なんで教えなかったんだよ?」

 

「恥ずかしいからに決まってるだろ?」

 

「違うな」

 

「ほぉ、その根拠は?」

 

「俺だって伊達にお前と一緒にいる訳じゃない、嘘をついてるかどうかぐらいはだいたい分かるようになってきた」

 

「やるねぇ…そうだよ嘘、まぁ、恥ずかしかったのは本当」

 

「じゃあなんで?」

 

「僕がアイなんか可愛いく見えるくらいの化け物だから…かな?」

 

「化け物…?」

 

不思議そうな顔で明智の顔をじっと見つめる…

 

「お、じゃあもう少ししたらアイが帰ってくると思うからそこで大人しく待っとけよ」

 

「あ、おい!明智!」

 

アクアの静止の声も聞かずにそのまま去ってしまう

よく見ると慌てた様子でアイがこちらに走ってくるのが見えて

 

(あれ?ルビィは?)

 

 

 

(あ、あれぇ?)

 

ルビィは手洗いに行って帰ってみるとアイとはぐれてしまった…御手洗を出た瞬間突然人の波に襲われポツンとひとりぼっちになっていた、とりあえずどうしようか考えた末歩き回ったら明智相手に馬鹿にされそうと考えたルビィは大人しくベンチに座ることにした

 

 

(そういば…ここ最近は1人でいることなんてなかったな…)

 

沢山の人がいる、男だけの集団、カップル、親子連れ…

 

親子連れ…

 

(あぁ…1人になるとまだ出て来ちゃう…私が…さりなが出てきて…私の中にまだ居るって、天真爛漫で誰からも愛されるルビィじゃなくて、病室で1人寂しく陰鬱なことばかり考えてた頃の私になっちゃう)

 

「でも…流石にママは違うけど、明智とアクアに対して私は好かれる私を演じてるのかな?」

 

演じてない…

 

(アクアは…私と一緒に生まれたけど、私とはたまたま一緒に産まれただけで、赤の他人じゃん…明智だって、私がアイの子供だからって理由で一緒に居るだけ…)

 

ダメだ…どうしても思考がマイナスに下ってしまう、母さんはあの時迎えにきてくれなかった…私には…頼れる人なんて…

 

「せんせぇ…」

 

俯いて…周りの景色を見ないようにして…何故か涙がこぼれそうになってしまうのを堪えて…一人ぼっちは寂しいと…気付いてしまう

 

「あ、いたいた」

 

「え?せんせぇ、ひゃぁァ!?」

 

見つけてくれた?もしかして?と期待しながら前を向こうとしたら頬に当たる突然の冷たい感触に思わず飛び上がり

 

「やっぱり迷子か?」

 

冷たい飲み物をルビィのほっぺたに押し付けて、そこに居たのは頼れる先生じゃなくて、わがままで、ひねくれてて、デリカシーのない、そんな大嫌いな男が立っていた

 

「と、突然何するの!」

 

「いやぁ?アクアと2人で待ってる時にアイがダッシュっでこっち来てたから、ルビィとはぐれたんだろうなと思って、探してみたら…ほらこのとおり」

 

「な、なんでここがわかったの?」

 

「ルビィだったら何処にいるかそれを考えただけ」

 

「考えただけって」

 

簡単に言って

 

「僕と会ってないルビィだったら色々歩き回ってたかもしれないけど、僕と会ったルビィなら僕に小馬鹿にされるかもしれないって理由でそう遠くには言ってないと思ってさ」

 

合ってる

 

「じゃ、じゃあなんで私の場所が分かったの?」

 

「特に詳しく聞くつもりもないけど、なんでか知らないけど家族に対して欲求があるだろ?」

 

当たってる…

 

「だから、周りの人間を眺めつつ、ある程度目立つ場所、そして座って休むことが出来る場所を重点的に当たって行ったら…ほら?見つかったろ?」

 

そう笑って飲み物を差し出してくる

 

「ありがと…」

 

差し出された飲み物を素直に受けとって

 

「どしたの?なんか元気ないな」

 

「別になんでもない…」

 

少し暗いルビィに違和感を覚えて

 

「当てようか?」

 

「だから…なんでもないってばッ!!」

 

そう大声を出してしまい、ハッとなる…まただ…また嫌われるようなことを言ってしまった…1人では生きられないくせに、他人に好かれることすら捨ててしまった私

 

「ルビィ」

 

「もぉ…ほっといむぎゅっぅ」

 

明智がまたルビィを呼んで、何回も呼ばれていい加減に…と顔を見ようと見上げた瞬間ほっぺたを引っ張られる

 

「なっにぃ…すふぅのぉ」

 

「いや?なんとなく?あ、変な顔」

 

そうやってある程度頬を弄り終えたら満足して離して、隣に座る

 

いつもそうだ…人が真剣になっている時もこの男はいつも、その程度のことで何を悩んでいるんだ?みたいな態度をとってくる…そういうのが…ほんっっとうに…

 

「明智のそういうとこほんっっと嫌い」

 

「お、やっといつものルビィらしくなってきたな?」

 

「こんなの私じゃないし」

 

「いやいや、わがままで自分勝手で自分の思い通りにならなくなったらすぐ怒る、いつものルビィだよ」

 

「そんなのぜんっぜん私じゃないし、それに…そんなのじゃ」

 

「「愛されない」」

 

明智がルビィと一緒に喋って

 

「か?」

 

「そうやって…人の考えてること全部わかって羨ましい…明智はみんなの人気者だったでしょ、なんでもできてなんでも分かって」

 

明智はそれを聞いて…笑った

 

「僕はめちゃ嫌われてたよ?」

 

「そ、そうなんだ」

 

「小さい頃から他人が隠したいこととか、隠してる秘密とか全部暴露しまくってたからね」

 

「嫌われてたんだ…」

 

(それなのになんで…)

 

「なんで変えないんだって?」

 

「…うん…だって嫌われたらどうするの?」

 

「嫌われたら…まぁちょっと傷つくよ?でも僕は僕だからさ、他人のためになんで自分が変わらなきゃいけないんだって考えてるよ」

 

あぁ…この人は違う…この人は自分一人で生きていけるから…誰に嫌われたって問題ないんだ…

 

「でも1人だけ嫌われたくない人が居たなぁ」

 

「へぇ…誰?元カノ?」

 

「嫌われてる僕が居ると思う?母親だよ、母親」

 

「母親…」

 

私もだ…私も…ママに嫌われたくなくて…でも…ママは私のことを愛してくれてたんだろうか…

 

「そ、だから母さんに教えられて1つのことだけは今も守ってる」

 

「約束事?」

 

「人を傷つけるより助ける人間になりなさい、その方が気分が良いから」

 

「なんか大雑把」

 

それを聞いてまた笑い出して

 

「だよなぁ…でも、なんかそれは良いなって思ったんだよ」

 

「じゃあ守れてないじゃん、私今明智のせいでとっても気分悪いし」

 

「そりゃだってね?僕ルビィの前ではいつもこんな態度だし」

 

「あ、アクアとアイに対してもだいたいこんな感じ…いや、誰に対してもこんな感じだな僕」

 

「じゃあ結局守れてないじゃん…」

 

クスッと笑って…自分が笑っていることに気付いて慌てて口を噤む

 

「でもルビィは僕とこうして話してくれるだろ?嫌ってるのに」

 

「それは…まぁ…」

 

(あれ?なんでだろう?明智は私の最推しに引っ付く悪い虫で、口も悪いし…人がほおって置いて欲しい部分に土足で踏み込んできて、心の底から嫌いって言える…でも…)

 

「友達って結局そんなもんだよ、簡単に離れちゃう所もあるし、どんなに悪口言い合ってくだらないことで喧嘩しても、結局寂しくなってまたくだらない喧嘩しに戻ってきちゃう」

 

 

 

(ママと明智みたい…)

 

「でも…やっぱり嫌われたら」

 

「ルビィ、今僕は未来の話をしてるんだよ、過去の話はしてない」

 

「ぇ…?」

 

「正直僕はルビィとアクアに何が起きてるのか、予想はついてるけど確信がもててないし、それを聞くつもりもない…けど…僕が話しているのは今の君だ」

 

「今…」

 

「過去の君は他人に嫌われるのを恐れている、いや、もっと本能的な恐怖…嫌われることで自分の心と命が脅かされてしまう…それを分かってたから演技してた」

 

「本当にどうなってるの?なんで何でもかんでも分かっちゃうの?」

 

「ルビィがものすごい悪い子でも僕からしたらそんなの可愛いもの…僕は化け物だからね」

 

「化け…物?」

 

「化け物だから君のことなんてまるっきりお見通しってこと」

 

目をじっと見つめられて…

 

この目に見つめられると全てを見透かされているように感じて…正直苦手だ…でもルビィとさりな両方をみて私という個人と接している

 

「僕は過去の君に対しても未来の君に対しても同じ言葉を送ったつもりなんだけど、伝わってなかったみたいだ」

 

そう言って笑いかける

 

「どっちもと友達にしてよ?そしてもう一回だけ信じてみよう」

 

「信じるって何を?」

 

「これから先の君の友好関係は分からないけど、とりあえず、今…君の周りにいる人間は君のことを嫌いにならない」

 

「明智は…私と友達になりたいの?」

 

そう言われると考え込むように唸って

 

「なりたいよ、だって楽しいから、ルビィとくだらない話をしたり、喧嘩したり…楽しいからかな?」

 

「友達…」

 

「ルビィは嫌われると思ってるみたいだけど、普段の君だって充分好かれてる」

 

「好かれてなんてない」

 

「好きじゃなきゃ僕はわざわざ君を探しに来ない」

 

「それは…私がアイの」

 

「今僕は君と話してるんだけど?よその女の話しちゃダメよ」

 

「ぷっ…何その口調」

 

「君は演技しなくても優しくて、可愛くて、思いやりのある女の子だよ」

 

だから…と手を差し出して

 

「約束する、どんなに大喧嘩したって、君を怒らせるようなことを言っても、僕は君と仲直りしてくだらないことで笑いあって、また喧嘩して…そんな友達になろう」

 

あぁそうか…この感じ…なれない感情でイライラしてしまうのも無理は無い…せんせぇは私の初恋で…アイは私にとっての最愛で…でも…それ以外の感情なんて知らなかったんだ…

軽口言い合って、くだらないことで喧嘩して、嫌いでもう二度と口を聞かない…なんて言っても…気付いたらどっちかが話しかけて…それでまた喧嘩して…これが…友達…かぁ…それは

 

「初めての友達が明智ってちょっとやだな」

 

「えぇ…」

 

真剣だったのか、突然のルビィの態度に軽いショックを受けるけど、それでも口元は少し笑っていて、その様子がおかしくてルビィは笑ってしまう

 

「明智!私お腹すいた!なんか買って!」

 

「はいはい、分かりましたよ、何がいいんですかお転婆お嬢様」

 

「お転婆は余計だから、えっとね、たこ焼き、お好み焼き、たい焼き、りんご飴」

 

「粉物多くね?絶対食べきれないだろ」

 

「食べきれない分は明智が食べればいいじゃん」

 

えぇ〜と不満そうにしながらも

 

「そんなに食べたら太っちゃうぞ」

 

「女の子の体型に口出してくるとか本当デリカシーがない!」

 

プリプリと怒りながらも

 

しっかりと手を繋いで歩いていく



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指にぃ…指にィィ!!!!

なんだかんだ続いてることに自分自身が驚いてますがまぁまだ当分続く感じはしてます




 

「またですかぁ?」

 

ソファに寝っ転がって本を読んでいる、本来のバイトとはかけ離れた姿で信じられないと言うような顔を雇い主に向けている明智

 

「えぇ、どうやらアイと明智、貴方たち2人に対して視聴者は目を向けてるらしくてね、それに」

 

ノートパソコンを机に置いて明智に見せる

 

そこには明智が恋愛リアリティーショーアイに対してドッキリを仕掛ける場面

 

「何してるの!い、いきなり突然!こんなことして!も、もしかして私が寝てる時にわざわざ薬指のサイズ測ってたのって!!」

 

そのセリフを流したらカチッと止めて

 

「あぁ…」

 

「えぇ…そうよ」

 

「僕のせいじゃ…ぁ…なんでもないです…」

 

咄嗟にアイのせいにしようとしたが、後ろに阿修羅が見えそうなほど青筋を浮かべているミヤコに対して為す術なく、姿勢をただし、土下座でそっぽを向いている

 

「それに、最近あの子何故か指輪をはめてるらしいのよ、それも…薬指に…ね?」

 

「…………………」

 

汗をダラダラ流して必死に目線を合わせないようにして

 

「まぁ…正直こうなるんじゃないかと社長と私は思ってたのよ」

 

「み、ミヤコさん…」

 

「あの子の場合何言っても聞かないし、明智君のおかげでアイに良い影響があることは認めてる」

 

「つ…つまり…」

 

「私達としても2人の関係性を周りに隠し続けるよりは、認知させる方向に持っていきたいのよ」

 

「な、なるほどぉ…あと…絶対アイならこの仕事断りませんよね…」

 

「えぇ!そうよ!絶対隠してた方がいいのに!アイは指輪はめて匂わせてるし!社長もアイになんだかんだ甘いから何も言えてないし!!アイツゥゥ!!」

 

余程ストレスが溜まってるのか炎が出るくらいにキレ散らかして…

 

「ということであなたに拒否権はありません」

 

「は、はい…」

 

「アイにも伝えておくから」

 

「それでちなみにどういうのやるんです?」

 

「えっと確か…」

 

 

 

深夜…

少しの風で木々がざわめく丑三つ時、

明かりはカメラの都合上多いが2人一組で歩く場合に持たされるのは提灯のみ

周囲に建物はなく、電灯なんてものもあるわけない

そんな屋外型おばけ屋敷に来ていた

 

「さぁ〜始まりました!最近話題の気になる関係性の方々を怖がらせて、本心を暴く!心霊デート!!」

 

司会がこの場にそぐわないような大きな声を出して元気に進行を始める

番組のミニコーナーに出演

 

「本日はあの元大人気アイドルアイさんと!そして同じ所属の人気が上がってきた俳優明智さんに来て頂きました〜」

 

「はーい皆さんこんばんは〜アイで〜す!」

 

元気に声を出して片手が塞がっている状態で登場、ピンクと紫を組み合わせた浴衣で髪もポニーテールにしていて大変可愛く仕上げられていて

 

「あ、…、明智です…」

 

一方明智も目つきは悪いが顔はそこまで悪くない、シンプルに黒の浴衣で髪型も決めてもらい、眼鏡もそこに+され大変かっこいいデキる男、に見えるのだが、プルプル震えながらアイの手をしっかりと握っているというなんともカッコつかない状態で登場する

 

 

「テンションヒックゥ!?どうしたん!?というかこれから関係性を確かめようって時になんで既に手繋いでるん?もう既に関係ばらしちゃってるやん!」

 

「いやぁ〜これなんですけど〜」

 

と語り始める撮影が始まる少し前

 

 

「う、嘘だろ…こ、こんなところで撮影…?お化け屋敷…?屋敷って言ってんだから屋内でやれよ!なんで屋外なんだよ!建物周囲に全くないし!コンビニは!?24時間営業のスーパーとかないの?僕に!、誰か僕に文明の灯火をください!!」

 

車の中でガタガタ震えていた

 

「もぉ〜そんなこと言ってもここまで来ちゃったんだからもうしょうがないよ〜?先輩」

 

「は、はぁ?僕は嫌だって言った気がするんだけどぉ…無理だろ…こっわ…何こここっわ…」

 

(なんでだ?宮崎に行った時深夜の森とか全然余裕だったじゃん!というかなんであの時僕行けたの!僕心霊とか無理なのに!)

 

そう考えてなぜあの時はいけたのかこのちじこまった状態でまともな思考なんてできるはずはなく、

その時はアイに会えない寂しさや、自分自身の憤りなどでそんなこと頭からすっぽり抜けていた…明智はこれからも認めないだろうがその時から既にアイに脳みそを焼かれている

 

「もぉ〜先輩手繋ぐ?」

 

「つ、繋ぐ…あれだから、何が起こるか分からないから僕はお前のために繋ぐんだぞ!」

 

「もうそれでいいよ?ほら」

 

「よいしょ…ふふッ…」

 

突然不敵に笑いだしたアイに

 

「まじで余裕だなお前…ま、まぁ僕だって余裕ですけどね?」

 

「はいはい、行くよ先輩」

 

「わ、分かったって!」

 

怖がっていても屁理屈は止まらないのか、そんな明智に苦笑いして優しく手を差し伸べる、

その手を明智は握り…今に至る

 

「ようみたら手めちゃくちゃ小刻みにプルプル震えてんなぁ大丈夫か?」

 

「なんかいつもの先輩じゃなくて可愛いでーす」

 

「ほんでこっちは余裕やなぁ…おい明智大丈夫か?男としてめちゃくちゃカッコ悪いぞ」

 

「な、何言ってるんです!?ぼ、僕余裕ですけど」

 

少し落ち着いたのか手は震えておらず、スっといつもの顔に戻って

 

「あ、幽霊」

 

「ッ〜〜!?!?!?ッ!?!?ッっ!?」

 

「おっとと、先輩危ないってば」

 

司会に適当な方向をしていしこんなもの嘘だと分かりきってるはずなのに反応してしまい、咄嗟にアイの後ろに隠れる

 

「居ない!?もう居ない!?」

 

「居ないってば、ほら、隣おいで?」

 

そう言われておずおずと怯える野生動物のようにアイの隣に戻って

 

「関係性調べましょ〜言うて呼んだけどお母さんと子供やなぁ」

 

「こんな大きい子供いませ〜ん」

 

それもそうか、と一通り笑って、

進行も充分なのか一旦カットが入る

 

「あぁ〜すまんアイ一通り落ち着いた」

 

椅子に座り水を一口飲んで落ち着いたのかふぅ〜と息を吐きながら上をむく

 

「先輩ってお化けとか苦手だったんだ以外、そういうの真っ先に否定しそうなのに」

 

「ま、まぁ僕だって昔から苦手なわけじゃないんだよ」

 

そう言って昔の話をする

 

小学生の頃、林間合宿で森に行き、深夜にキャンプファイヤーをしていた頃、友達なんて居ない明智は1人で森の中を散策していた、

どうせ帰れるのだから問題ないだろうと思って歩いている時、何がガザガサと動く音が聞こえ、その方向に近づいた

なんだろう?と近づき、でも近づいたら動きが無くなってしまったので

な〜んだただの動物か、

そう思った瞬間黒い物体は明智の顔にダイブそのまま明智はひっくり返りあまりの衝撃に気絶して以降

 

「ま、まぁ…余裕だって…僕にかかればこんなもの一瞬で暴いてやるから」

 

「先輩水こぼしてるよ」

 

水を零しながら余裕たっぷりな顔をする哀れなモンスターが生まれた

 

 

「はーいでは今からこの提灯のみでチェックポイントを回ってもらいまして、このお札を貼ってかえって来てくださいねぇ〜」

 

そのまま進行していき

 

「行ってらっしゃーい」

 

そうして地獄は始まった

 

「あ…アイ…今なんか動かなかった?」

 

「動物じゃないかなぁ?」

 

ガサゴソ…と聞こえる度にビクッと身体を震わせて…明智はアイに引っ付く…こんな状態の人間に提灯は持たせられないと片手に提灯、片手に明智両手が塞がっている状態でなおかつ何かある度に身体を押し付けられる…この状態にアイは

 

(んっふぅぅ…計画通り…)

 

そう、分かっていた、初めから明智が心霊やお化けという物が苦手だと理解していた、

たまにやるアイの家での飲み会の時も、心霊番組が始まるとさりげなく番組を変えたり、

 

テレビで流れてくる心霊映画のCMが流れれば、気づいたら手洗いに行ったり

 

そんな些細な行動や表情などをアイが見逃すはずもなく、今回このミニコーナーに出るために番組関係者と関係が深い社長に頼んでセットしてもらった企画

 

(はぁ〜先輩可愛い…普段全部自分で抱え込んで終わらせちゃって、私に全然頼ってくれないのに…もうプルプル震えて私に抱きついて…必死になってるの可愛い…

なんだろう?母性かな?今なら先輩にも親子としての愛してるって気持ち分かっちゃうかも)

 

と考えながら特に苦手でも得意でもないアイは明智の手を掴んでさっさと歩いていく

 

 

「ぎゃぁぁ!?!?」

 

「おぉ〜骸骨だ」

 

突然飛び出してくる骸骨に驚きアイに向かって抱きつく明智と、シンプルに感心するアイ

 

「アイ…やばい…というかなんでそんなに余裕なの!?やばいでしょ!これはダメでしょ!?」

 

「えぇ〜普通だよ思うよ?先輩のリアクションがオーバーなだけで」

 

「あれだからな?置いてかないでね!?ぼく置いてったら祟るから!」

 

「置いてかないし、先輩祟るって死んじゃってるでしょ、ちゃんと生きて帰ろ」

 

「あぁ…そうだな!僕とお前だったら行けるよな!2人で頑張って切り開こう!」

 

「はいはい」

 

(ぁ〜もぉ…きゃわぁ…きゃわぁすぎるよぉ…凄い抱きついてきて置いてかないで〜って犬みたいに甘えてくるの可愛いよぉ…でも私とこんなに距離が近いのに意識してくれないのはちょっと減点だよ?先輩)

 

「ぁ〜!!やっば…何あれ?炎!?炎出てる!?」

 

「すごいね〜どうやってるんだろう?」

 

完全に怯える子供と宥めてあやす母親にしか見えない2人は進んでいく

 

(それに…なんだかんだ先輩は私に堕ちてるだろうし…そろそろいいよね?私は欲張りだからさ?もっと先輩から愛されてるって感じたい、だから…ね?今日で仕留めるから覚悟してよね)

 

そうにっこり笑いかけて

 

「な、何笑ってんの!?なんでそんなに余裕なの?助けてぇ…もう無理だろこれ…」

 

「さっきから大袈裟だってば先輩」

 

そんなふうにギャーギャー騒ぐ明智をアイがあやしながらチェックポイントを進めて言って

 

「あ、ここじゃないかな?」

 

御札を貼る場所に着いたのか立ち止まって提灯で照らす

 

「えぇ…なんでぇ?なんで僕たちがこんなことしてんの?霊媒師の仕事だろこれ!陰陽師でも可!」

 

うだうだ言ってる明智をほおってそのまま入って

 

「ほら?先輩お札貼って」

 

「えぇ?アイが貼ってよ!なんで僕が」

 

「いや、私両手塞がってるからね」

 

「そ、それもそうだな…」

 

お札から距離があり、アイの手を引っ張りながらへっぴり腰でなんとか貼る

 

「こ、これでいいんだろ!?は、早く帰ろう!」

 

「ぉ〜先輩よく出来ましたねぇ、よちよち」

 

背伸びをして頭を撫でる

 

「子供じゃないからね僕は」

 

これでやっと帰れると思い少し落ち着いたのか冷静になって…その時…左手にキラリと光る何かを見つけて…

 

「あ、あれ?アイさん…それって…」

 

「ん〜?」

 

明智の目線の先を追って…どこを見ているのか分かったのかバレちゃった…てへぺろとべろを出してしぃ〜っとバレないようにジェスチャーで伝える

 

(えぇ…うっそ…どこから…?どこからどこまでこいつの策略…?嘘でしょ?僕嵌められたの?この僕が?他人の全てを理解出来る僕が?オッマェェ!!どうすんの?これどうするの!?いや…落ち着け…僕はアイの左手を握っていた…しっかりと…だからバレるはずは…あれ?)

 

なにかに気づいたのかアイと手を繋いでいる右手の指に違和感を感じて…見てみる…そこには

 

「はぁぁ!?」

 

いつの間に付いていたのか銀色に輝く指輪が右手の薬指にしっかりとはめられていた

 

(いつ…どこで?一体いつの間に…あれ…そういえば手を握る時不敵に笑ってなかったか…?え?もしかして…あの時!!嘘だろ!?なんで?なんで気づかなかったの僕!?う…嘘だろ…)

 

明智でなくても簡単に気付きそうなものなのに、全く気づかずに馬鹿みたいな声を上げて騒いでいた自分を振り返って…シンプルに沈む明智をそのまま引っ張って帰りの道を歩いていく

 

「先輩はさ」

 

途中驚かせる要因の予算なさそうな仕掛けはなく、のんびりと歩いている時アイが話しかける

 

「自分自身を信じられない私を信じてくれるし、信じさせてくれる…それはとっても嬉しくて…私幸せなんだよ?」

 

「お、おう…突然どうしたアイ」

 

何かを察していて、でもここで置いてかれたら終わると思ったら手を話すことも出来ずにただ黙って話を聞いて

 

「だから、先輩のことは疑ってないし、疑う気もない…それは本音」

 

「それは…まぁ…素直に嬉しいな」

 

シンプルに褒められて頬をポリポリ

 

「でも…私だって女の子だからさぁやっぱり愛しの人となりたい関係ってあるんだよね」

 

「へ…へぇ…」

 

突然近寄ってきて…明智もこの空間に怖がっている場合ではなく、突然距離を縮められ顔を少し赤らめ…ただ背中の汗はすごいことに

 

「私を…先輩の特別な人にして?」

 

「ばっ!お、お前さぁ!もっとタイミングとかあるんじゃ…」

 

顔を真っ赤にさせて

 

「でもさぁ?前私がせっかくお膳立てしてあげたのに逃げたよね?」

 

「あ、あれはあの時完璧にお前の思惑通りになるのが気に食わなくて…」

 

「そ、そうやって逃げて…はぐらかして…私とふわふわした関係続けようとしてる」

 

「別にはぐらかしてるわけじゃ」

 

ふ〜んと立ち止まって顔をじっと見つめる、月明かりをに照らされたその瞳は黒く輝いて

 

「前にも言ったけど、私、先輩のこと…逃がすつもりないから…ね?」

 

そうニコッと笑ったあとなんでもなかったかのように2人で歩いてゴールする

その後は何事もなく撮影は終了して、

でも…アイと明智は帰りの車の中で一言も喋らなかった

 

番組は無事放送され

 

 

いやいや…なんか光ってなかった?

 

光ってたな…

 

輝いてたんだけど

 

最初は立場逆転してるじゃん!めちゃくちゃ明智君可愛い!アイ可愛い〜!だったじゃん

 

でも…もうさ?怖がる明智に向ける表情が…

 

やめろ

 

言うな…

 

言わないで…

 

女だったじゃん…

 

あぁ''〜〜!!!!!

 

もうできてるじゃん!

 

2人の薬指に輝いてるじゃん!

 

いつから!

 

いつからだ!?

 

恋愛リアリティショーの時からじゃねぇか!!

 

だって怒ったアイ言ってたろ!!寝てる時に指のサイズ測ってたとかさぁ!!

 

ぐっぉぉ…

 

 

 

 

その後もネットは阿鼻叫喚、誹謗中傷のコメントが数多く発信される

その中でもアイの策略通りに少しづつ…でも確実に受け入れられつつある2人の関係性

 

 

「明智…最高にあははははははッ!!だっさ!だっさぁぁ!!普段から散々カッコつけといてお化け怖いってぇだっさぁぁ〜〜」

 

一緒に放送を見ようとアイの家に誘われて、最初は行きたくないと渋ったが

今すぐ先輩を物にしちゃうよ?

と言われ何も言い返せず素直に家に行き、馬鹿みたいにルビィに馬鹿にされる明智

 

「う、うるさい…あれだ…これは…その…あれだ…」

 

「何それぇ〜全然言い訳できてないよ?あ、もしかして何も言えないのかなぁ?えぇ〜?」

 

「まぁまぁ…ルビィもそんなにいじめてやるな、苦手なもののひとつやふたつお前にだってあるだろ?」

 

「アクアぁぁぁ…!!」

 

「うっぉ!?気持ち悪いから抱きつくな!」

 

そのままアクアに抱きついて…若干の酒の匂いを纏って

 

「ルビィはめちゃくちゃバカにしてくるじぃ!アイはアイでもう完全に僕のこと欺き始めるしぃ!!もうアクエもんにしか頼れないんだけど!!」

 

「その未来の猫型ロボットみたいな呼び方やめろ」

 

後半何言ってるのかよく分からなかったのかとりあえず頭を撫でて

 

「ちょっと先輩、私を先輩みたいに小狡いこと得意なふうに言うのやめてよね」

 

アイが飲み物をとって戻って来て

 

「はぁ…僕と関わってくうちにあんなことまでできるようになってさぁ…」

 

「先輩が悪いんじゃん、こんな可愛い子待たせるのが悪いでーす」

 

ねえ〜ルビィ〜とルビィの頭を撫でながら

 

「やだねぇ…アクア…ああやって自分のやったことを正当化するためにすぐ女ってのは派閥を作りたがる…アクアは僕の味方だよな!な!!」

 

「いやぁ…どうだろう」

 

困り顔で、でもしっかり明智にロックされているから抜け出せないし、逃げ出せない

 

「というか先輩がやったことをやり返しただけでーす、私悪くありませーん」

 

ほんのりと赤い顔で

 

「はぁ?僕だってアイに対してお灸を据えるためにやっただけだから、僕悪くないし」

 

こちらもほんのりと赤い顔

 

「だとしてもタイミングってものがあるでしょ!なんでああいうずるいやり方しか出来ないの!」

 

「あ…いや…あれは…確かに…僕も…」

 

だんだんアイの方がヒートアップしてきて、それを言われるとタジタジになって

 

「第一!私の方は全然いいって言ってるのに先輩からは全然来ないじゃん」

 

不貞腐れたようにそっぽを向いて

 

「僕も結婚できるならとっくにしてるし…」

 

ボソッと呟いて…それを聞いた顔を真っ赤にさせて

 

「け、けっ…結婚!?な、何言ってるの先輩!!」

 

「ッ!!、ほ、ほらそうやってお前だって結局恥ずかしいんじゃん!顔真っ赤でさぁ」

 

「そ、そうじゃなくて!段階を踏んでいってって話で!…それに…私だって別に嫌とは言ってないし…」

 

モジモジ最後の方は小さくなっていき

 

「わ、私もう寝る!おやすみ!」

 

耳まで真っ赤にさせた状態で寝室に引っ込んでしまう

 

「な、なんだよ…なんだその目は…その目やめて!何その目は?僕か?僕が悪いのか!?」

 

「女たらし…」

 

「デリカシー無し男」

 

じっと赤と青の瞳に見つめられて…

 

「わ、わかったよ…行ってくるよ…」

 

 

 

寝室に行くと布団も被らないでベットに横になってるアイ、その横に腰を下ろして、軽くビクッとなるアイを見ながら

 

「何しに来たの…ケダモノ」

 

「ケダモノって…ルビィと同じこと言うのやめない?」

 

頭を手を置いて優しく撫でながら

 

「僕に対して不満があるんだろ?」

 

コクっと頷く

 

「教えてよ」

 

「先輩は分かるんでしょ…自分で考えて見れば〜」

 

「お前の口から直接聞きたい」

 

「…それずるい…先輩はいつもずるい」

 

苦笑いしながら頬を優しく撫でて

 

「そのズルい先輩に教えてくれ」

 

「先輩は…私の事全部知ってて、私の悩みも、怯えも、全部分かってて、纏めて引っ張り出して…ひとつ残らず解決しちゃったんだよ?」

 

「うん…」

 

「でも私は先輩のことなんにも知らない…先輩、昔のこと全然話さないから」

 

そう言い終わると座り直して明智の背中に頭を預ける

 

「先輩のこと…もっと知りたい、私普通の恋人がどんなふうに仲良くなるのか分からないから…でも、先輩が昔どんな子だったか知りたい…嬉しいことがあったら一緒に喜びたい…悲しいことがあったら一緒に悲しみたい…教えて?」

 

そう言い終わると黙り込んで

 

「もしかしてそれが言えないからああやって僕の指に指輪はめたの?」

 

少し遅れてコクん…と頷く

 

「もっと距離が縮めば教えてくれるかもっておもってさ」

 

「お前…めんどくさいな…」

 

「どーせ私はめんどくさい女ですぅ」

 

「ごめんごめん、今のは褒め言葉」

 

背中に頭をぶつけて

 

「どこが褒め言葉だったの」

 

「距離感の詰め方が分からなくて、それでも僕のことを知りたくて外堀から埋め始めたの?」

 

「うん…」

 

「初めから聞けば良いのに」

 

「だって先輩…過去に嫌なことがあったんでしょ?」

 

ビクッと震えて

 

「だから…普通に聞いても教えてくれないと思ったから」

 

「なんでわかったの?」

 

「私は先輩のこと…先輩が思ってるよりずっと見てるよ?私と子供たちが楽しそうにしてる時、輪に入って来ないですっごい優しい顔で…でもちょっとだけ悲しい顔するから」

 

「そこまで見られてるのかよ」

 

見られてないと思って油断した〜とそのまま横に倒れるように寝っ転がる

 

「先輩は自分が思ってるより何倍も甘えん坊だよ?」

 

そう言って頭を優しく包むと、膝の上に乗せて

 

「家族を見るとさ…思い出すんだ」

 

「うん…」

 

優しく、頭を撫でて…ゆっくりと話し始める

今まで誰にも話したことの無い傷を

話すことは無いと思っていた過去を

でも、包み込まれているから…話しても受け入れてくれると思っているから

信じているから

 

ポツポツと話し始めた



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ドロドロに溶かされて

幼少期編どれぐらい続くの?と疑問の皆さん、正直僕も分からないという答えしか提供できないですね…

まぁ…多分続くと思う


 

(くっっそ…)

 

明智は自室のベットに寝転び枕に顔を埋めて耳まで真っ赤にさせた状態でバタバタ暴れ回っていた

 

(あれは酒のせいだ!絶対に酒が悪い…)

 

誰にも言ったことのない自身の弱み、自身の家族にすら語ったことの無い傷をなんの躊躇もなくベラベラと晒して…丸ごと包んでくれた…そんなアイの包容力に対してノックアウトしてしまった明智は、アイと会うのが気恥しすぎてどうにかなってしまいそうになっていた

 

(ぁ〜心許しすぎだろ…どれだけ僕の中に入り込んでくるんだよあいつ…他の人もこんな感じなのかぁ?僕ってこんなえげつないことしてたの?反省しなきゃ…)

 

自分がやってきた行いがどれほど心を掻き乱し、いても立っても居られなくなるのか分からせられてしまう

 

(まぁ…タイミングが良かったのが幸いだな)

 

 

少し前に戻る、アイは撮影、明智はミヤコに話があると呼ばれ

 

「ここ最近忙しかったでしょ?」

 

「まぁ…そうですね」

 

ここ最近は苺プロの業務に加えて役者、番組などコツコツと経験を重ねてそこそこ有名になり、仕事自体をいくら早く終わらせたところで次から次に湧いて降ってくる物量を明智が捌き続けるというのが現状

 

「なので、ちょっと流石に酷すぎるので3日間、まとまった休みを与えます」

 

「おぉ…まじですか?」

 

「まじよまじ、おおまじ」

 

「休みかぁ…久しぶりだなぁ」

 

「というかあなた大学は大丈夫なの?」

 

「問題ないですね、全然行けますよ」

 

「まぁ、久しぶりに羽を伸ばして来てね」

 

と言われてから、明智は家にこもってやりたいことをやった、買いだめした本を読み漁り、積み上げたゲームをやって、そんなことをしていればあっという間に2日目の夜

 

無言で画面に向かってコントローラーを操作し続ける

ただ2日ほど寝てなくて、ご飯はたまに思いついたら完全栄養のブロックを口に含む

 

ゲームをしている時ただ目の前の敵を殲滅することだけに思考を傾けていれば良いから楽だ…

 

本はいい、その世界に入り込んでただページをめくるだけで進んでいくから

 

(ぁ〜そろそろお腹すいたな…)

 

(半固形の食べ物が苦手だ、正直米もそんなに好きじゃない、ゼリーとかヨーグルトは大嫌いだ、味噌汁とお粥とかを全部ぐちゃぐちゃに混ぜられて…その状態で出されて…でも食べないと空腹は収まらないから…何度も戻しそうになりながら何とか食べた…はぁぁ〜最悪、2日寝てない程度でナイーブとか…僕精神的に弱くなりすぎじゃない?)

 

初めて人に傷を見せてから昔のことを思い出す、幸せだと感じる度に過去がフラッシュバックする…

アクアとルビィを見る度に、居たはずの子達を想像してしまう、

そして2人を気にかけるのただの贖罪ではないかと考え…

 

(気持ち悪…転生したと自覚して10年余自身が前の僕なのか今の僕なのか、自覚できない…そんな化け物…気持ちの悪い…)

 

そんなことを考えながら栄養食をボリボリと食べて

 

ピンポーン時刻は夜の8時、来客の予定は入って居なかったはず、誰だろう?とドアを開ける

 

「やっほ、先輩」

 

袋を持ったアイがそこには立っていた

 

「えぇ…何してんの?」

 

「みんな心配してるんだよ?チャット既読つかないし、電話出ないし」

 

「えぇ?まじか?」

 

とりあえず、とアイを中に入れて

 

「ほら」

 

手を差し出して重そうなレジ袋をさっさと取って

 

「ありがと」

 

そのまま台所に置くと

机の横に置いてある携帯を探し出して、充電が切れていてなんの反応も示さない

 

「充電切れてたわ」

 

「えぇ…先輩ってもしかして一人暮らししちゃダメなタイプの人?」

 

「おぉ、なんだ今更気づいたのか?」

 

「だって前来た時は片付いてたからさ」

 

「まぁほとんど家に帰ってなかったからな…」

 

「顔色悪いよ?寝てなかったりする?ご飯ちゃんと食べてる?」

 

お母さんみたいなことを言い始めて

 

「母親?まぁ安心しろって、2日寝てない程度だしご飯は食べてる」

 

「食べてるってもしかしてあのゴミ箱に大量に積まれてる栄養食?」

 

あと睡眠はちゃんととりなさいとお母さんみたいなことを言いながら

ゴミ箱の空箱に指をさして

 

「そうだよ?」

 

そんな明智の様子にため息をついて

 

「先輩って私より生活能力がないんだね」

 

「なんか心外だな、料理は作れるけどめんどくさいし…それに…」

 

「食べるのは苦手…でしょ?」

 

自身の得意技を使われなんなら先を越されてしまう

 

「でも知ってるよ?先輩私が作った料理は食べてたよね?」

 

「まぁ…普通に美味しいし」

 

前のお菓子作りが演技だということは分かってたからな…なんてそれっぽい理屈を並べ立てて

 

「へぇ〜?でも食べるの苦手なのに私のは食べれるんだ?」

 

「うっわぁ…うるさ」

 

「素直じゃないな〜先輩は」

 

「はぁ、それで?ご飯作りに来てくれたのはありがたいけど、それだけか?」

 

料理の準備をしながらあ〜と考えて

 

「先輩が心配な可愛い彼女…かな?」

 

そういうと先輩は座っててね〜といって料理を始めてしまう

何となく料理をしてる背中を見つめる…その背中をじっと見つめると昔母親が料理をしていた姿を見て今日の機嫌を当てたり、

何を作ってるのか当てるのを楽しんでいた…気がする

 

「先輩見すぎ」

 

「あぁ…悪い…なんとなくな」

 

「まぁ別にいいよ?料理作ってる時先輩から視線向けられてるの分かってるし」

 

「えぇ…僕そんなに見てた?」

 

「すっごい見てたよ?寂しそうな目でじぃって」

 

慣れた手つきで包丁を扱い食材を均等に切り刻んで

 

「僕ってそんなにわかりやすいのか?」

 

(作ってるのはチャーハンか、いや普通に料理出来るアイってなんか違和感がすごいな)

 

とか考えながら

 

「先輩は分かりにくいよ?言ったでしょ?先輩の嘘を暴けるのは私だけって」

 

「まぁ…確かにそんなこと言ってたな」

 

その後は特に喋ることも無く、ただじっと背中を見つめて

 

「はいどうぞ〜」

 

「おぉ…普通に美味しそう」

 

どこにでもあるような一般家庭で出てきそうなチャーハンが湯気を立てて机に置かれて

 

「なんか元ドームアイドルが普通のチャーハン作るの面白いな」

 

「なにそれ〜」

 

いただきますといいひと口食べる

 

「美味し…」

 

「ああいうのばっか食べてるからでしょ」

 

「いや、あれも結構美味しいからな」

 

そうやって無言で食べ続ける明智を見つめて

 

「何?そんなにじっと見られると食べづらいんですが…」

 

「ええ?いやぁよく食べるなぁって」

 

「まぁ…ご飯はそんなに好きじゃないけどちゃんと固形だしな、寿司は割とすきだし」

 

「お粥がダメなんだもんね」

 

一口口に含んでコクっと頷いて、そのままもぐもぐ口を動かす

 

「んっ…なんかお前変だな」

 

「えぇ〜?どこも変じゃないと思うけど」

 

「目も変だし態度も変だよ」

 

「心外〜いつも通りだよ」

 

そうは言うけど目は優しく、態度は柔らかい…どことなく母親のような雰囲気をまとって明智が食べるのをじっと見守る

 

「お前さぁ?僕に同情してるの?…あれは僕の自業自得」

 

「同情じゃなくて心配、先輩が好きだから心配してるだけ」

 

「どっちも似たようなもんだと思うんだけど…ご馳走様」

 

「お粗末さまです」

 

食べ終わったら笑ってそのまま頭を撫でられる

 

「やめい、まったく」

 

軽く手を弾いてそのまま洗面台に食器を置いて

 

「私がやるから先輩は休んでよ」

 

「いや、ご飯作ってくれたから別にいいって」

 

「いいからいいから先輩は休んでて」

 

そういうとそのままソファに押されて、スポンジを取られてしまう

 

「まじでお母さん?母親じゃん…マッマって呼んだ方がいいか?」

 

「いや、そこは普通に彼女でいいじゃん」

 

じと〜…とした目線を向けられてる大人しくソファに座ると…2日ぶりの温かいご飯に満腹感…明智自身素直に認めないが、アイの顔を見た安堵でそのまま自然と瞼が閉じてしまう

 

「よし先輩終わったよ〜って、、寝ちゃってる」

 

食べてすぐ寝るなんてこれじゃあ本当に子供みたい…そう思いながら隣に座り、明智の頭を自身の膝の上に優しく乗せる

 

(同情じゃなくて、心配だ…先輩はずっと抱えていたんだろう、あのまま誰にも自分の傷を晒すこともしないで…飄々として、まるで過去に何も無かったみたいに周りに接して…そのくせ人のことは洗いざらい吐き出させて…スッキリさせて前を向かせる…ずっとそうやってきたの?)

 

頭を撫でて…安堵仕切った表情で眠る明智の顔を優しく見つめる

 

「先輩はやっぱりずるいよ、人の傷に無遠慮に触れて、勝手にいじり回して、それでカサブタにしちゃうんだから…自分だって本当は誰かに話を聞いて欲しかったはずなのに、自分のことは何一つ話さないで…先輩からしたら何気ない一言だったのかもしれないけど、私からしたらあの言葉のおかげで本当を知れたんだよ?本当を知るきっかけになったんだよ?」

 

ポツポツと明智に聞かせる訳でもなく、聞かせるつもりもなくて…でもいいたいことは山ほどあってだからこうして押しかけて、

 

でも私のことは全然拒絶しない

 

「怖かったんだよ?また私から離れていっちゃうかもって思って…でも先輩はもう私を拒まない、距離を置こうとしない…だから…私遠慮しないからね」

 

 

(昔だったら…私と似たようなことを経験してて、だからお互いに理解して傷を舐めあって、それでもしかしたら本当の愛が分かるかもって思って先輩に近づいたかもしれない…でも今なら自信を持って言える…私は先輩が心配だ…好きだから…愛してるから、先輩のそばにいたい)

 

 

「もうこれしかないよ、だって先輩は無理やりにでも距離をつめないと離れていっちゃうからさ、逃がさないって私は伝えた、先輩は否定してない、嫌だって一言も先輩から聞いてない、ずっと隣で私と一緒に居て?先輩」

 

そう言って優しく愛おしそうに頭を撫でて、両眼の五芒星が黒く光った

 

 

そして休暇3日目

明智は現在

 

土下座をしていた

 

ミヤコに呼び出されまさかの休日出勤?とこれが社畜の宿命…と少しブルーになりながら事務所に行くと青筋を浮かべているミヤコに正座を迫られ、訳が分からずアイの方をむくとそちらもどうやら仲間らしくこくこくと頷いていたため2対1で勝てるはずもなく、圧に負けて正座をしていた

 

「ぁ…あの…そのぉ…」

 

「アイから全部聞いたわよ?貴方ねぇ?仕事してる日より人間らしい生活してないとかどういうことなの!」

 

「ぇ、えぇっと…基本的に家に居なくて…あと…まぁ…別に死なないし…」

 

コツコツと綺麗に手入れされた爪で机にリズム良く叩きながら

 

「そういうことじゃなくて、私がなんのために予定空けたか分かってるのかってこと」

 

「ぇ、えぇ…休むため…?」

 

「そうよね?それで?貴方何してたの?」

 

「ほ、本読んだりゲームしたり…」

 

「どのくらい?」

 

段々と声が小さくなっていき

 

「15…冊ぐらい…ゲームは…その…積んであるやつが3本くらいあったので…2日ぶっ続けで…」

 

「それを世間一般的には休んでないって言うんですけど?というか普段の仕事より画面に向かってない?」

 

「い、いやぁ…これぐらい余裕というか…」

 

「余裕とかじゃなくて!」

 

「はぃ!」

 

「はぁ〜ズレてるとは思ってたけど、まさかここまでズレてるなんて…うちとしても貴方はもう主力よ?これから役者としてもどんどん伸びていく貴方を潰す訳にはいかないの…分かる?」

 

「はぃ…その通りです…」

 

「なんか母親と息子の会話みたいだね」

 

横で撮影に出かける準備をしているアイがクスッと笑って

 

「こんな大きい息子産んだ覚えはありません!!」

 

はぁ〜とため息をついて

 

「貴方に能力があって、早いし、的確だし、ミスもない…それは認めてます、でも、貴方は人間なの、案外脆いんだからもっと気を付けて」

 

人間…というのにアイが軽く反応し…明智もピクっと反応する

 

「いやぁ…なんというか…まじで母親みたいですね?」

 

「馬鹿なこと言ってない、ということで今日はここで休んでもらいます」

 

「仕事場で休み…かぁ…社畜じゃん」

 

「普段もダラダラしてるでしょ、ほんっとに…仕事してる時の方が活動時間少ないってどういうことよ」

 

なんてブツブツ言いながら退出する

 

「先輩って将来しりに敷かれそうだよね」

 

「まぁ…なんとなくそんな気はしてる…」

 

「じゃあ…覚悟しててね?」

 

「ほんとあざとい」

 

そのままいってきまーすと社長の運転する車に乗り込んでさっさと行ってしまう

 

「はぁ〜〜〜〜」

 

顔を埋めて、双子が冷めた目で見つめるまでがワンセット

 

その後ソファに埋もれて特に何もすることが無いので本を読んだり、スマホを弄ったりと家よりくつろぎ始めて

 

しばらくして御手洗のため立ち上がり、

 

(あ、本屋行きたい)

 

そのままコソッと抜け出して、本を買いに外出する

 

「よし、まぁ、このぐらいは別にいいだろ」

 

目的の本以外にも買ってしまい、重たい感触に満足感を得つつ事務所に歩いている途中で…

 

「せめてアポとかとってくれよ」

 

「取ろうとはしたんですけど、連絡先を知らないもので」

 

突然ため息と共に止まり、周囲の通行人に同化していた背景が突然実態を持って歩き出したかのように黒い星の輝く目をした男が明智の前に現れた

 

「とりあえず座るか?重いし」

 

「えぇ」

 

そのまま2人はベンチに座り

 

「なんか飲む?」

 

「では紅茶を」

 

「はいはい」

 

自販機から2本飲み物を取り出し差し出してから座る

 

「どうも」

 

「それで?なんの用?」

 

口の中に炭酸を入れてから話し始める

 

「賭けの時言いましたよね?相手になると」

 

「まぁ、確かに言ったな、言ったけど暇なの?」

 

軽く苦笑して

 

「いえいえ…これでも僕は多忙の身なんですよ、どれだけ忙しくても貴方のことならぜひ知っておきたいと思いまして」

 

「あっそ…まぁ別にいいけどな」

 

呆れたように呟きながらタバコに火をつける

 

「それで?」

 

「一応僕はあなたについて軽く調べてみました」

 

「はぁ〜それはそれは、だいぶ暇人だなお前」

 

「いえ、大変楽しかったですよ?正直驚きました、確かにあなたは母親を失って片親、父親は大変地位のある方だ…でも」

 

「何か特別な才能に目覚めるような経歴じゃない…だろ、」

 

「後は、僕や、アイよりももっと上の、才能…いや、同じ括りにすることすら恥ずかしい程の物を持つような人生では無い」

 

そりゃそうだろうな、と呟いて…煙を吐いて

 

「ただ、2年間精神病院に入院されてますね?」

 

ハハッと乾いた笑みをこぼして

 

「よくそこまで調べたな?そうだよ、あの時は荒れに荒れてさ」

 

「ただ、こう考えました、家族に理解されずに拒絶された結果なのでは?と」

 

灰を地面に落として

 

「へぇ…まぁ、半分正解って感じかな?」

 

「ではもう半分は?」

 

「祖母だよ、片親になってからも父は僕に興味なんてなくてな、祖父母の家で暮らすことになった、祖父は僕の能力を無理に理解しようとせず普通に接してくれた…けどまぁ祖母には化け物に映ったんだろうな」

 

「それで2年間もの間精神病院に?」

 

「無駄に権力だけはあるらしくてなぁ、父親が気づくまで2年だ、あの時はムカついたから片っ端から病院の奴らの性遍歴だったり、人間関係のあれこれ、それら全部を暴きまくってた」

 

「そこが不思議なんですよ…なぜ貴方はそっちにいるんですか?」

 

初めて目が合った…真っ黒い輝きを灯して明智の目をしっかりと見つめてくる

 

「昔母に1度だけ言われたことがある」

 

昔を懐かしむように目を閉じる

 

「貴方から見たら私も含めて人は馬鹿に見えるでしょう、でもそれだけの理由で人を馬鹿にしたり、否定してはいけません」

 

「それだけ…」

 

「それだけ、ただそれだけだよ、昔母親に言われたその一言だけ、それだけが今こうしている理由だ」

 

見つめる瞳が少し揺れて、一瞬困惑したような顔になるがすぐに元の薄ら笑いを浮かべ始める

 

「分からない…貴方は苦しんだはずだ、自分のせいで母を失い、そして弟や妹も失ったなのに…」

 

「なんで自分の命に価値を見いだせるのかって?」

 

また驚いたような顔で固まる…それも一瞬

 

「えぇ…僕にはあなたが理解できない…貴方程の人間ならどんな事でも実現可能だ」

 

「確かにやろうと思えばなんでも出来る、どんな者にでもなれるし、どんな物でも手に入る…」

 

タバコの吸殻を携帯灰皿に入れて火を消す

 

「人を傷つけると気分悪い、それだけだよ」

 

「それ…だけ…」

 

「人を傷つけるより助ける人間になりなさい、その方が気分が良いから」

 

そうじっと相手の目を見ながら言って

 

「僕はたまたま幸運だっただけだ、たまたま運良く母親に生きる道を教えられた、だから今の僕がいる、もし母が居なかったら僕は本当の化け物になってたよ」

 

「貴方は化け物だ、今も充分」

 

「あぁ正しいことに囚われるだけのただの化け物、でも世の中正解と不正解だけで回ってるものじゃない、人間がそんなに単純だったらどんなに楽だったろうな」

 

でも

 

「お前に関しての答えは僕がもう用意してる、お前は産まれてきて良かったんだよ、化け物が保証してやる」

 

「ッ……」

 

よいしょと立ち上がって

 

「僕からしたらお前は可愛いものだよ…僕みたいに本気の化け物になる前に止まっておけ」

 

そういうとそのまま事務所に帰っていき、どこで道草食ってたんだ?と詰め寄られ、昼ごはんを双子とミヤコに奢ることになった

 



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天才VS番組VSアイドル

気づいたら結構な人に見て貰えてますね、シンプルに感謝です


 

(ここでいいんだっけか?)

 

とある番組の打ち合わせのため呼ばれた場所は控え室、なぜ?と思いながら部屋に入って中を一瞥した瞬間

 

(あ、ドッキリだわこれ…)

 

えぇ…と、ミヤコに仕事を振られた時の違和感…仕事内容の確認をした時も何故か変にたどたどしい…なんだろう?と思っていたが信用していたため特段追求することはせず当日を迎えた…

 

(どうしよう?引っかかった方がいいのかこれ?)

 

まぁ…でも…分かってるものに突っ込むのもちょっと嫌なので

 

見渡す。

 

(カメラ発見、椅子に座ったら崩れる、ペットボトルは固定されてて上から持ち上げたら溢れる、鏡にも仕掛けか…あれか?クリーム爆弾でも飛んでくるのか)

 

そう考えてはいても、ただじっと立っている訳には行かないためなにかしなければと思い、仕掛けのされてない反対側の椅子と取り替えて座り

ペットボトルには指1本触れずに…

 

(来ないなぁ…やっぱ鏡見なきゃダメ?えぇ…)

 

仕方なく鏡に移動して、しばらくじっと見ていたら、仕掛けが開きクリーム砲を飛ばされたので

ひょい、と躱す

 

そこから…戦いは始まった

 

その後番組は放送され、明智が見事に全てのドッキリを回避したのに話題を呼ぶ、だが世間ではヤラセでは?というそこで終われるわけはなかった、これはもはや番組としての意地プライドをかけた戦いである

 

(またか…)

 

部屋まで案内され、そこでアンケートを書いて待ってくださいよ言われ、部屋を見る…

 

(あ、カメラ発見)

 

カメラに近づいて言って、ニコッと笑いそのまま椅子に座る、軽くアンケートを書き終わった瞬間

 

後ろからバズーカを持った人が現れた明智を狙う

 

「こっわ…」

 

明智が躱した瞬間クリームが飛ばされて、

 

「えぇ…なんか威力上がってない?僕のこと殺しに来てる?」

 

「なんでわかるんですか!というかカメラの場所見てましたよね!」

 

「まぁ…分かりやすかったですよ」

 

番組スタッフがドッキリ大成功という看板を持ってテンション高めに詰め寄ってくる

 

「あれ?前にやりませんでしたっけ?まぁ…引っかからないと思うので大丈夫ですけど」

 

そうしてドッキリに引っかからない役者が出ると番組の視聴率は上がっていき

 

「このボールを投げれば良いんですか?はぁ…」

 

ヒョイッとボールを投げると井戸から貞子が出てきて投げ返してくる

 

「うぉ、本格的」

 

そのままボールを蹴り飛ばして貞子に命中、ノックアウト

 

「あぁ!?や、やべ思わず!」

 

そのまま慌てて貞子に駆け寄り介抱しだす明智

 

 

部屋で待機していたら突然部屋が真っ暗に…逆に驚かせようと暗闇の中スタスタ歩き出して

 

「わぁ!!」

 

「ウッォォ!?!?」

 

逆に芸人を驚かせ

 

道を歩いている時に怖そうな集団の人混みに挟まれた時は、

 

「おぉ〜怖いな」

 

何故か想定外の方向からそれを眺める明智が発見され

 

 

あいつなんなん?

 

なんか最初はヤラセだろ?って思ってたけど最近は番組側が頑張って明智を陥れようとしてるじゃん

 

壁が壊れて突撃してくるって時、あれ壊れるの見越して数歩下がってたとかさぁ?やばいだろあれ

 

机の中に誰か潜んでるって分かったから壊しながら突撃してきた芸人に普通に挨拶したのはマジで笑った

 

え?どうするの?まじであれ引っかからないの?

 

逆にここまで来ると引っかかるな

 

バッティングセンターで一斉にゴムボール飛んできた時全く当たらない場所に陣取ってたのはなんなの?

 

その後番組側も意地になって飛ばしてたけど全部バットで弾くな

 

あれ楽しい〜!!とか言いながらボール弾いてたな

 

あそこはそういう遊びをする場所じゃないです

 

あとクリームの爆撃交わした後に「なんか威力上がってない!?死人でそうじゃん!」

って言いながら躱すの面白い

 

確かにあれに当たったらめちゃくちゃ痛そうだもんな

 

番組側もピキってるの面白すぎだろ

 

 

「明智…1回ぐらいは引っかかってあげたら?」

 

「いや、なんというかここまで来たら番組と僕との戦いだから」

 

番組の放送を事務所で見てるとアクアに突っ込まれる

 

「それに見え見えだったからさぁ、僕なんかあからさまな演技?はちょっと気が引けるしな…」

 

 

そうして幾度もドッキリを回避し、逆に驚かせるなんてことをやっていると

 

「いやぁ〜先輩はどんな些細なことからでもバレちゃう恐れがあるのでドッキリとかだったら絶対バレちゃいますよ」

 

手が尽きてきた番組スタッフが同じ所属、そして最近話題の元アイドルを頼るのは自然なことなのかもしれない

 

「だから、先輩を騙す時はシンプルにしちゃいましょ!」

 

「大丈夫ですって!私だったら余裕ですから!」

 

 

そしてまた明智は呼び出された

 

(またか?って…なんか前見たやつじゃん、鏡また見ないとダメかこれ?あれだろ?芸人さんがクリーム飛ばしてくるやつ、いい加減引っかかってあげた方がいいのか?)

 

そう考えながら鏡の前に立ちじっと眺める

すると

 

ウィィーーン

 

ニコッ

 

「アイ?何しんっぶぅぉぉぉ!?!?」

 

鏡が上に開いた瞬間見慣れたアイドルがクリーム片手に、目が会った瞬間ニコッと笑われ、一瞬…そう、一瞬呆気に取られた瞬間…明智の顔面をクリームが覆った、結構な力で

 

「ぶっほぉ!!…お、お前…あぁ〜!くっそぉ!!」

 

「えへへ〜先輩騙すなんてちょろいもんだよ」

 

寝っ転がってなんとかクリームを取ろうともがいてる横でドッキリ大成功の看板を手ににこにこしてるアイ

 

「おっ前さぁ!?事務所の時は欠片も態度に出てなかったんだけど!?どんだけ隠すの上手いんだよ!」

 

「先輩相手に欠片でも見せるわけないじゃん、何言ってるの〜」

 

カメラが2人のやり取りをとり、主に明智にズームアップ

 

「というかこれいいの!?役者なのに顔面クリーム塗れの顔は事務所的にいいのこれ!?」

 

「佐藤社長は良いって、でも私はダメだってさぁ」

 

「斎藤社長な!あと僕はいいのかい!」

 

「なんか猫みたい」

 

「どのへんがァ?」

 

クリーム塗れの顔面で怒鳴って

 

「先輩ってさぁ?他の人相手だったら警戒心上げて絶対に引っかからないですよねぇ?」

 

「はぁ?何が言いたいんだお前は、もうどうでもいいからとりあえずクリームを取らせろ」

 

ハンカチで落とそうとするが思った以上の速度で投げられ、顔面に対して過剰に搭載されたクリームの相手に手間取っている

 

「私相手だったら警戒心ないんだね?」

 

「はぁ?お前が突然現れたからビビっただけですけど?」

 

ニマニマ〜とした目で見つめられて

 

「何その目は」

 

「そもそも同じ事務所で見た瞬間に先輩だったら分かりますよね?」

 

「ぐ……」

 

言葉につまり…

 

「あれれぇ?おかしいなぁ…な〜んで先輩は他の人になら気付くのに、私相手だったら気付かないんですか?」

 

ねぇ〜なんでぇ?クリーム塗れのほっぺたをつんつんして

 

「うるっせぇぇな!!最近お前が僕相手に隠すの上手くなってる自覚あるだろうが」

 

「まぁ、最近の先輩私に甘々なので楽にいけますね」

 

「はぁ?どの辺がぁ?」

 

いつまでたってもギャーギャー騒ぎ立てる2人に一生やってろバカップル…

こうして見てる視聴者は尻に敷かれてるなぁ…と思った

 

 

「というかミヤコさん、僕ってキスシーンOKなんです?」

 

「突然どうしたの?」

 

「いや、何となく…なんか新しくドラマの撮影決まったじゃないですか、それで僕が演じるのキスシーンあるんですけど」

 

「確認したらそのシーンは省くらしくてね、また前みたいにアドリブでしちゃダメよ?」

 

「前のやつはあっちの方が面白いな〜と思っただけですからね…それにしてません」

 

「先輩またなんか撮影決まったの?」

 

仕事終わりのアイが帰ってきて

 

「そうそう、またなんか決まってさ」

 

「出演者ってだいたい決まってるんです?」

 

「えぇ、変更がない限りは」

 

そう言って紙を渡され、内容を確認していると

 

「あ、この子あれじゃん…たしかぁ…なんだっけぇ?ぇっとぉ…あ!重曹を舐める天才子役」

 

「違う、10秒で泣ける天才子役」

 

そうだっけ?と顔を傾げながら

 

「いやぁ…この子か〜楽しみだなぁ」

 

「あら?この子知ってるの?」

 

「えぇ、僕この子好きなんですよねぇ」

 

「貴方ってこういう子に興味無いと思ってたわ」

 

意外と言う顔で明智を見つめる

 

「いやいや、そんなことないでしょ、この子は見てて面白い、まるで自分を見ろって叫びながら演技してる…だからつい追ってしまう、才能のある人間を見るのが大好きなんですよ」

 

いやぁ〜楽しみだなぁ…なんて嬉しそうにしてる横で冷たい目で見つめているアイに気づかない明智

 

 

「先輩ってこういう子が好みなんですねぇ〜〜」

 

「はぁ?好み?ただシンプルにファンなだけだよ」

 

「へぇ〜」

 

「何その冷たい目?おいおい僕はロリコンじゃない、ただ才能を持つ人間が好きなだけだって」

 

「まぁ…信じてあげる」

 

「あぁ良かっ」「ただし!」

 

「デレデレしたらちょ〜っと私許せないかなぁ」

 

首を少し傾げて…声色は凄くゆったりしているのに、目は冷たくて真っ黒…

 

 

「う、うっす」



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簡単でちょろい天才子役

 

「明智さん入りまーす」

 

「苺プロ所属明智乱歩です、よろしくお願いします」

 

どこでも人間が忙しそうに準備に周り、現場の緊張感が高く、前に来た現場よりも相当力を入れているというのが準備の段階で理解出来て

 

「おぉ…本格的だなぁ…」

 

こんなところに呼ばれるぐらいには少し名前が売れ始めて来ているのを少し嬉しく思いながら周りをキョロキョロしてる時

 

「本日はお願いします」

 

幼い声ながらしっかりと口調で現場入りする子供が1人、赤い髪に赤い瞳、顔立ちは整っていて美形、有馬かなが撮影現場に到着した

 

「おぉ…実物可愛いなぁ」

 

明智自身シンプルにファンらしく、貰えるものならサイン欲しいなぁ…と考えるぐらいには有馬かなに入れ込んでいる

 

(だが待てよ…僕から話しかけるって絵面的にキツくない?20歳超えてるとかあの子にしたら普通におっさんだし…あぁ〜)

 

とか考えながら有馬を見つめている

 

「ぁ?はぁ?」

 

なにかに気づいたのか、だが撮影は始まってしまったので話をしに行くことも出来ず、そのまま一旦休憩に入り、飲み物を飲んで休んでいる有馬に

 

「お疲れ様です先輩」

 

「?……?わ、私ですか?」

 

最初は誰に言ってるのか分かっていなかったのか、辺りをキョロキョロ見渡して…でも目線はこちらに向いていると気付きびっくりして声を出す

 

「当たり前じゃないですか、なんだって芸歴が違いますからね…有馬先輩」

 

「せ、先輩…そ!そうよ!私は有馬かなよ!貴方なかなか見所があるじゃない!名前は?」

 

「僕の名前は明智乱歩ですよろしくお願いします」

 

ちっちゃい子にペコペコ頭を下げる成人男性という奇妙な絵面が繰り広げる

 

「あぁ…クリーム避けたり、お化け怖がってる人」

 

「知っていてくれたんですか、恐縮です…まさかあの重曹を舐める天才子役に知ってもらえるとは…」

 

ははぁっと幸福そうに言いながら

 

「10秒で泣ける天才子役!!あなたあの子の差し金!?」

 

大声で否定して

 

「おっと失礼、つい癖で」

 

「癖って…あんた私のこと全然ソンケーしてないでしょ!」

 

「いやいやしてますよ、ただ反応が面白いからからかってるだけで凄いとは思ってますよ」

 

「からかってるじゃないの!!」

 

声を出して疲れたのか肩で息をしながら顔を真っ赤にさせて

 

「大丈夫ですか先輩?これどうぞ」

 

「あ、ありがと、あなたなかなか気が利くじゃない」

 

差し出された飲み物を素直に受け取って

 

「尊敬してますけどちょっとガッカリですね」

 

「な、…何よ…」

 

少し暗い顔をして…

 

「だってビビっちゃってるじゃないですか」

 

「び、ビビってないわよ」

 

驚いた顔をしながら明智を睨みつける

 

「ビビってるって…だって前みたいにやらないじゃないですか」

 

「前見たいって…あんたも結局…」

 

「前の有馬かなは私を見ろって叫びながら演技してた…今は作品のクオリティがどうの、ここでは誰が1番注目されるべきかとかつまらないこと考えて」

 

「つ、つまらないって…」

 

「つまらないよ…有馬かな、僕は私以外見る必要ある?ストーリーとか他の人間とか気にしてる暇あんたあんの?って顔で演技する有馬かなが好きなんだよ」

 

「ス、好きぃ!?」

 

びっくりしたように思わずたちあがってしまい

 

「あーあでももうあんな先輩見れないなぁ〜ザンネンダナ〜」

 

棒読みでニヨニヨして、有馬を見つめて

 

「な、何よ…私は才能なんてないし」

 

「才能ないねぇ?じゃあ僕のことしっかり見てて下さいよ?先輩」

 

「え、う、うん」

 

そのまま本番が始まり

 

(見といてって何よ…あんただって昔の私…なんでしょ?今の有馬かなに何を求めてるのか知らないけど…今の私には…)

 

 

「君大丈夫?派手に転んだね?」

 

「こ、子供扱いしないで!私だって充分大人よ!」

 

ガラの悪い男が有馬とぶつかって、そのまま転んでしまい、そこを通りかかる明智との絡みから始まる

 

「えぇ?そんなにちっさい癖に…怪我はない?」

 

「ち、チッコくないわよ!」

 

そんなセリフは台本にない…思わず反応してしまい、キッっと睨みつける…けれどいつまで経ってもカットの声はかからない

 

「えぇ?僕と全然身長違うけどなぁ?大丈夫?というか怪我してるじゃん」

 

「い、今は転んじゃっただけで本当はあんたよりおっきいから!」

 

嘘だぁ〜なんて呟きながら荷物を纏めてひょいとお姫様抱っこして

 

「ちょ、ちょっと!何してるのよ!」

 

「えぇ?子供扱いが嫌だったんでしょ?ちゃんとレディとして扱ってるだけじゃん、あと怪我したんだったらちゃんと洗わないといけないしね」

 

(ここも違う…本来ならおんぶで運ぶし…こんなセリフない…こいつ、何考えてるのよ…私も思わず反応しちゃったけど…)

 

「よいしょ、とりあえず大丈夫かな?」

 

「ふ、ふん…余計なお世話よ」

 

「素直じゃないなぁ?まぁ傷は残らないかな?せっかく可愛いんだから傷は治しとかないとね」

 

「う、うるさい…ま、まぁ…その…」

 

なにか言おうとする有馬だがモジモジと顔を赤らめながら

 

「美人さんの助けになれて良かったよ」

 

「びぃ!…じん…」

 

突然耳元で近づいて

 

「才能のない有馬だったらついて来れないアドリブしちゃった?ごめんね?」

 

「ッッ〜〜〜!!!」

 

そのセリフに

 

「その…あのね…」

 

「うん…何?」

 

「あんたが良かったら…将来お嫁さんになってあげる」

 

ひまわりみたいな笑顔で笑う有馬に…

 

「ッ…う、うるせー、大人をからかうんじゃありません」

 

少しだけ演技じゃなく、本気で見惚れてしまったのは内緒

 

 

撮影終わり

 

「あんたっねぇぇ!!!」

 

「ごめんって先輩」

 

幼女に詰められている成人男性の姿がそこにはあった

 

「あれ!アドリブ!途中演技取れちゃってた!!」

 

「えぇ?演技じゃないのぉ?先輩だったらあのぐらい演技で余裕だと思ったんだけどなぁ」

 

「ま、まぁ…私レベルになるとぉ…じゃなくて!!」

 

「明智くん、有馬ちゃん」

 

スタッフに呼ばれて

 

「いやぁ…あれ良かったよ!有馬ちゃんもお転婆な子供がよく表現出来てたし、明智君も流石だね?相手を自分のペースに巻き込む感じ、やりすぎなければどんどんやっちゃって!」

 

「いえいえ、有馬先輩のおかげですよ、若輩の僕に色々教えてくれたんですよね?」

 

「ま、まぁね!!」

 

次もその感じで頼むよ?と言われそのまま2人から離れていく

 

「あんた…私の後輩って言うくせに生意気…」

 

「えぇ?でもいいって言ってたよ?」

 

「でもあんなの、他じゃ通じない…」

 

「通じる人もいる」

 

「え?」

 

明智を見上げて

 

「ここの監督は作品が良くなるんだったらある程度役者の好きにやらせていいって人、原作者も作品が良くなるんだったら原作にない演出をしても怒らない人」

 

「そ、そんなのなんで分かるの?」

 

「僕にはわかるから…まぁ…先輩のやり方が間違ってる訳じゃないよ?確かにみんなにとって都合のいい役者やればずっと正解できる」

 

しゃがんで…しっかりと有馬の目を見て

 

「これは1ファンからの勝手なお願い…僕は私を見ろって叫びながら演技する有馬かなが見たい…だから…たまにでいいから見せてよ」

 

「そんなに…見たいの?」

 

「僕が昔って言ったのは…今の君が周りを引き立たせるためだけに演技してるから」

 

「子役として…どんどん価値が下がってる私なのに…?」

 

「子役として有馬かなを見たことなんて1度もないかな?僕は…有馬かな…一個人として君を見てるよ」

 

驚いたように目を見開いて…明智の顔を…瞳をじっと見つめる

 

見つめられた所が熱くなる気がして…それを振り払うように

 

「しょ!しょうがないわね〜!可愛い後輩が言うんだったらやってあげるわよ!!」

 

「やっぱちょろいなこの子」

 

「ちょろくないわよ!」

 

そうだなる有馬を小馬鹿にしたようによしよし頭を撫でる明智

 

 

事務所のテレビで

 

「あ、重曹を舐める天才子役!」

 

「10秒で泣ける天才子役な、ルビィ、お前覚える気ないだろ」

 

間違えるルビィにツッコミを入れながらじっと眺めるアクア

 

「いやぁ、流石有馬かなだったなぁ」

 

「明智が人を手放しで褒めるって珍しいね」

 

「ルビィは僕をなんだと思ってるのかな?」

 

「性格が悪い」

 

「う〜んシンプル悪口、ただ僕が有馬かなが大好きってだけ」

 

じとぉっとした目で見つめられて

 

「明智ってロリコン…」

 

「違うよ、ただもったいないと思っただけ…有馬かなは才能がある、なのにそれが周囲のせいで潰れそうになってる…だから…僕としてはあの演技が見たくて今回焚き付けたわけだし」

 

さっきからテレビに食い入るように見ていたらアクアがそれを聞いて納得したのか

 

「あぁ…ここ原作と変えてるな…うっわぁ…最後の…すごいな」

 

「あれだろ?実は最後のあれを至近距離で食らった僕の反応若干素だから…」

 

「へぇ…明智でもやられる時はあるんだな」

 

「やっぱり…ロリコン…」

 

アクアはニヤニヤとルビィは冷たい目で明智を見つめて

 

「はぁ?違います〜ちょっとうっぉ…生有馬かなの演技すごぉ…可愛い…って思っただけデーす」

 

「本格的にやられてんじゃねぇか」

 

「この浮気者」

 

「浮気ってなんだよ!ち、違うから…違うからね?」

 

「帰ってきたらママに報告しないと」

 

「だ〜れだ」

 

「は…は…は…は…」

 

突如明智の視界が遮られ、柔らかい手の感触が顔に伝わる…声は優しくふわふわしていて

甘い匂いが鼻腔にほんのり香る

 

「ねぇ…だ〜れだ」

 

「お、おかえり…アイ、早かったね」

 

「うん、ずっと前からいたんだ、ただいまアクア、ルビィ♪」

 

「う〜ん誰だろうなぁ?僕分からないな〜全然わかんないわ、ちょっとわかんないから答え見ていい?出かけてきていい?」

 

ほんの少し力が強まった気が…いや全然強い力で顔を捕まれ圧力をかけられる

 

「イデデデデデ!」

 

「えぇ?わかんないのぉ?ほんとぉ?本当に言ってるんだぁ?あぁ、もしかして新しい子見つけたから私の事なんてもういらないって言う」

 

「待て待て!!何の話だ!?先輩か?先輩話か?」

 

「先輩?」

 

ルビィが不思議そうに声を上げて

 

「あぁ!有馬かな先輩だよ、僕より芸歴ながぃっでぇ!!力強!どんな握力してんだお前!」

 

「へぇ先輩なんだぁ?アイドルとして何年も先に芸能活動してる私より先輩なんだぁへぇ〜」

 

やっと拘束をとかれ、しばらく頭をさすりながら

 

「おかえりアイ」

 

「ただいま」

 

何事も無かったかのように挨拶する明智そして一応返すアイ

 

「今日もお疲れ様じゃあ今日も遅いし解散に」

 

「お家…行こっか、今日泊まりなよ?」

 

「ぇっとぉ」

 

「来て」

 

「はい…」

 



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裸で男は仲良くなる

 

「先輩先にお風呂入っちゃって」

 

家に入って荷物を置いている時に言われ

 

「いやでも僕着替えとか持ってきて」

 

「あるよ?」

 

「あるの?」

 

「あるよ」

 

なんで?と疑問に抱いて少し考えてから

 

「あぁ、前僕が泊まった時のやつ結局回収してなかったなそう言えば」

 

「そうそう、だからお風呂入ってきちゃって」

 

「分かった」

 

そういいお風呂に行こうとする途中でアクアと目が合う…

 

「アクア君…」

 

「なんだ?」

 

「男同士の付き合いしよう」

 

「えぇ…」

 

「頼むから、お願いだから今度なんか奢るから」

 

「まぁ…いいぞ」

 

そう言われるとそのまま逃げるようにそそくさとアクアを連れていく明智、その様子をニコニコした顔で見届けたあと、こちらはこちらで…

 

(いえーい!!)

 

内心ガッツポーズをしていた、少し心を開いて頼ってくれるようになった明智、だが本格的にあの男を落とすには決定的に足りないもの…それは…家に泊めること、家に泊めさせるという考えではなく自然に…帰ってきた時ただいまと言わせるまで家に通わせてしまえばもうこちらの勝ち、そう考えたからこそのアイのあの演技!最近の演技は神がかっており、年々レベルを向上させている…完全に騙すことはできなくとも、少なくとも注意を傾いて時間内までに連れてきてしまえばこちらの勝ち!!が

 

(先輩ってルビィの時に思ったけどやっぱり小さい子好きなのかなぁ?私以外に本気で照れたとか言ってたし、演技ならまだしも…結構真剣に刺さったってことだよねぇ?ロリコン?やっぱり?先輩って中学の頃に私に話しかけたのって小さいから?へぇ〜)

 

それはそれ、これはこれ…いくら作戦を遂行するために決行したとはいえ心の中まで騙し切る事は不可能、グツグツと心の中で炎を燃やして、どうしてやろうかあの男と考え始める

 

 

(明智が今日泊まるのかぁ…ふ〜んまぁ別に?明智が泊まった所で全然何の問題もないんだけどね?でも、ま、まぁ…歓迎はしてあげようかなぁ?私ってほら?優しいから?ね?本当に困っちゃう)

 

嘘である、この女友達が家に泊まりに来るというイベントごとに内心ドキドキワックワクが止まっていないのである、友達が泊まりに来たらやりたいことをリストアップして

「いつかできるかなぁ♪」なんて考えるぐらいには友達とのお泊まりに憧れのあるタイプなのである

 

(初めてが明智っていうのがちょっと気に食わないけど…まぁ…いいかぁ!)

 

お風呂、身体を清潔にするだけでなくリフレッシュのために風呂に入り心と体の健康のためにこれ以上ない場所…そこで2人は…

 

「まじで怒ってると思う…?」

 

「いや、明智だったら分かるだろ」

 

「いやぁ…マジでわからん…全部じゃないんだよ、100%のうち95%分かる感じ?まじでヤバすぎる…あいつなんなの?」

 

「いや…僕に聞かれても」

 

切実だった…明智は過去の事を思い出していた、少し他の異性と喋っただけで機嫌が悪くなり、しばらく撫でていなければ機嫌が治らなかったあの日を思い出して…

 

「でもさぁ?ルビィと1個しか違わない子相手に嫉妬とかあるのか?」

 

「ぁ〜可愛いとか言ってたし、べた褒めしてたからじゃないのか?」

 

「マジで?あれだよ?犬可愛いみたいな感じだよ?」

 

「でも本気で照れてるって言ってなかったか」

 

しばらくの沈黙…

 

「言ったな…言ったわ…」

 

「まじなの?」

 

こくりと頷き小さく頷いて…

 

「やばかった…素直に言うと14の時だったら堕ちてたかもしれん…」

 

「それお前が中二の時じゃん、ダメじゃん…申し開きもないじゃん」

 

「い、いやでも直接何かしたとかじゃないからね!?なんもしてない、むしろ健全な関係よ?普通に有馬かなのことは1人の役者として好きって感じで」

 

「うわぁ…女たらしが言いそう」

 

ブーメランが突き刺さりそうな顔で言って

 

「アクアには言われたくないんだよなぁ…」

 

「いやいや…俺はまだ子供だから」

 

「中身おっさんだろ」

 

「ま、まだまだこれからだから!」

 

嘘つけ、とお湯を顔にかけて、やったな?とやり返して一通り現実逃避したあと

 

「俺そろそろ上がるからな」

 

「まって…置いてかないで…」

 

「いやのぼせるから…早めに上がってこいよ」

 

「あくぁぁ…」

 

頼れる相棒はさっさと上がって言ってしまう

まぁ…でもしばらくしたら上がらないとなぁ〜とぼんやりお湯に使って居ると扉越しにゴソゴソ服を脱ぐ音が聞こえて

 

(ぁ〜?ルビィ?いや僕に裸見られるぐらいであの騒ぎ様だからなぁ…)

 

とか何とか考えていて、ガラッと開けられた扉を横目で見た瞬間

 

「いつまで入ってるの〜先輩遅いから入っちゃった」

 

「お前まじ…?」

 

アイが乱入してきて、そのまま困惑してなるべく見ないようにしている明智を無視し、「ほら、詰めて詰めて」そう言って湯船に浸かる

 

「はぁ〜お風呂は人間の洗濯だよねぇ」

 

「まぁ…そうだな…」

 

「何してるの?散々見たくせに」

 

ニヤニヤ笑いながら見ないようにしてる明智を笑って

 

「お前さぁ!?」

 

「撮影次もあるの?」

 

慌てている明智を無視して話を切って

 

「ん?あぁ、まぁ何回かはあるぞ」

 

「じゃあ次から指輪…して?」

 

「ぇ…まじ?」

 

「なにか不都合でもあるの?」

 

そう言われると

 

「いや特には無いけどさぁ?」

 

「じゃあいいじゃん、虫除け」

 

「虫除けて」

 

「いいから…して?」

 

左手の薬指を撫でながら目をじっと見つめられる

のぼせた頭、目の前には意中の相手

いくら天才とはいえまともな思考ができる訳もなく

 

「はい」

 

素直に頷いてしまって、それを聞いたアイは満足そうに頷いて

 

「いつまで入ってるの?エッチ」

 

「お前からきた気がするんだけど?」

 

「ほらほら、ルビィも来るから早く出た方がいいよ」

 

「はいはい」

 

そのまま湯船を出て行きこうとすると

後ろから抱きつかれ…直の感触が明智を襲う

 

「先輩が私の事こんなふうにしたんだよ?」

 

「お前…さぁ」

 

なんとか理性を総動員させてお風呂から上がりそして…

アクアの前で崩れ落ちる

 

「ほんっっと…なんなの…」

 

うずくまってはぁ〜と顔赤らめて、それを冷たい目で見ながらお風呂に入りに行くルビィ

 

「もう色々負けてるだろ」

 

「負けてないから、まだギリセーフだから」

 

「どの辺が?」

 

アイが台所で料理している、それをソファで座りながらのんびり眺めて

 

「ままにさっきから視線向けすぎ…思春期の中学生?」

 

「いや違うよ、ただ…何となく落ち着くだけ」

 

そのまま立ち上がって台所に向かって

 

「なんか手伝おうか?」

 

「別にいいから座ってなよ?」

 

「いや、流石になんか手伝わせろよ」

 

「いいからいいから」

 

そう笑顔で言われてしまえば引き下がるしかなくて、そのままソファに戻る瞬間

 

「母親姿が板に付いてるな」

 

ボソッて呟きながらソファに戻って

 

「どう?先輩美味し?」

 

「美味いぞ」

 

「良かった〜」

 

もぐもぐと咀嚼する明智をじっと見つめて、にこにこして

 

「その拾ってきた犬がやっとご飯食べ始めたみたいな感じで見つめてくるのやめろ」

 

「なにそれ」

 

そんなふうに流れて言って、流石に皿ぐらいは洗わせろとアイを無理やり台所から追い出して

 

「良しと」

 

洗い物が終わり、これからどうしようか?と考えてると

 

「明智こっち」

 

ルビィがちょいちょいと手招きする

 

「どうしたルビィ」

 

そのまま部屋に入ると鏡張りのダンスレッスン用の部屋で

 

「私が踊るからオタ芸して!」

 

「えぇ?僕そういうのやったことないんだけど」

 

「ママの時ファンサとかしなかったの?」

 

「全くしてなかったな…というか1回?いや…2回ぐらいしかそもそもライブ見てないし」

 

それを聞くと信じられないと言った顔で

 

「お兄ちゃん!」

 

「まぁな、やってもらわなきゃ困る」

 

そこから明智に対しての特訓が始まった

 

5分後

 

「オタ芸って意外と面白いな?」

 

「本当にムカつくよなこいつ」

 

「教えがいというものが全くない」

 

完璧なオタ芸を披露する明智に複雑そうな顔を向ける2人

 

「じゃあ今から私が踊るから2人はやってね!」

 

そのままサインはbを踊りアクアと明智が2人でオタ芸してる時に思ったことがあるが…しっかりと最後までやりきって

 

「はぁ〜はぁ〜どぉ?明智あの後もちゃんと練習したんだよ!」

 

「まぁダンスは成長してるけどさぁ?」

 

なにか言いたいことがあるのか含みをもったかんじで

 

「言いたいことがあるなら言いなよ」

 

「下手じゃない?歌」

 

「ぇ…とぉ…」

 

「明智そこは触れてやるなよ」

 

「でもさぁ?あのまま気づかなかったらオーディションとかで踊って歌う訳でしょ?やっぱ早めに伝えてあげた方がいいと思うんだけど」

 

コソコソとアクアが明智に言うけれど、そもそもアクア自身の妹の歌のレベルが低いこと自体には気づいていて

 

「わ、私はこれから推してくれるみんなにちょっとずつ歌が上手くなるっていう成長?そういうドラマを提供出来るの」

 

「それ上手くならなきゃドラマ提供出来ないから無理そうだな」

 

「練習すればどうとでもなるでしょ!」

 

そうかぁ?とアクアに向くとアクアも特に何も言わない

 

「なんと言うか全体的にあれなんだよ、アイの真似しようとしてるけど音程があってないから変に聞こえる」

 

「変…私のアイドル生命絶たれた…」

 

ズーーンと沈んで崩れ落ちる

 

「まぁ練習でなんとかなるんじゃないのか?ダンスは上手いわけだし」

 

アクアの助け船に顔がパァァと明るくなって

 

「そうだよね!練習あるのみだよ!2人とも練習付き合って!ほら!もう1回行くよ!」

 

「えぇ…まだやるのか?」

 

「別にいいけど汗かいちゃうんだけど」

 

「乙女か!いいから!」

 

そう渋る男二人を無理やり練習に参加させて、そのおかげでルビィはオタ芸されながら踊って歌う楽しさを再認識し、ルビィの体力の限界まで付き合わされたふたりは、アクアの方はまだ何とかなったが、喫煙者の明智には相当答えたらしく、しばらくの間筋肉痛が酷かった

 

 

「あれ?先輩どこか出かけるの?」

 

子供も眠って、やっと開放された明智は子供のパワーを再確認しながら出かける準備をしていた

 

「ん?タバコ吸いに行くんだよ」

 

流石にここでは吸えないしなとタバコの箱を見せて

 

「いいよ別に灰皿も一応あるしさ」

 

「お前さ…やっぱ狙ってたろ?」

 

「バレた?」

 

呆れてため息をつきながら灰皿を借りてそのままベランダに行く…

 

「なんで着いてくんの?」

 

タバコを吸おうと火を付けようとした明智の隣に立って空を眺めていた

 

「えぇ?先輩のタバコ吸うところが好きだから?かな?」

 

「匂いつくから離れろって」

 

「じゃあもう1回お風呂入ったらいいじゃん」

 

おっ前さぁ…呆れながら煙を口に含んで、アイから離れた場所に煙を吹く

 

「私に吹きかけてもいいよ?」

 

「お前意味わかってて言ってる?」

 

「分かってたらどうするの?」

 

「悪い男に引っかかった売れないアイドルみたいだからやめようね」

 

「ドームにも立った伝説的な元アイドルでーす」

 

「うん、タチ悪いわ」

 

空を眺めながらぼんやりと…お互い特になにか喋る訳でもない時間、そんな時間を共有しているとなんだか明智と一緒に暮らしていて…なんて考えが頭をよぎる

 

「ああやって先輩があの子たちと仲良くしてくれるのは嬉しいよ」

 

突然明智に話しかける感じでもなく呟いて

 

「どうしたの突然?」

 

「だって私だったら嫉妬しちゃうかもしれないし」

 

「何言ってんだお前は、子供はなんも関係ないだろ?」

 

「そういうことサラッと言うの本当にやめて?あざとすぎる…他の子相手にもそういうこと簡単に言っちゃうんでしょ」

 

ジトっとした目で見つめて

 

「いやいや、そんなことはないと思うぞ?」

 

「どうだろうね?先輩って無自覚に女の子たらしこんでる感じするよ」

 

「ないから」

 

「有馬ちゃんだっけ?やっぱり先輩って小さい子好きなの?」

 

「違うって」

 

重なっちゃった?そう呟いて…明智を見つめるアイ…その目は優しくただ相手を包み込むように2つの星がじっと見つめる

 

「お前マジで、僕と同じぐらい天才か?頭悪い癖に」

 

「いちいち一言余計」

 

肘で横腹をつついて

 

「そうだよ、有馬かなには才能がある、でも周りのせいで潰れそうになってた、だから…ちゃんと見てる人は案外居るんだぞって教えただけ」

 

「ふーん…」

 

なぜか不満そうにぐりぐりと頭を腕に擦り付ける

 

「なんだよ?アイって機嫌悪くなるとすぐ暴力だよな」

 

「暴力じゃないし…私以外に優しくして、まぁ…それも先輩の良さだけどさ?他の子相手にデレデレしちゃってさ?」

 

不貞腐れたように頭を擦り付けて、ブツブツ呟きながら明智に攻撃し続ける

 

「デレデレ…はしてるな…優しく…、まぁ…考えようによってはしてるのか?」

 

「私の時は絶対こいつ面白そうだなって感じで呟いたでしょ?」

 

「バレた?」

 

「先輩はその時は私のこと可愛いって思わなかったって事なのかなぁ?」

 

二の腕をぐりぐり摘んで

 

「いでででで…違う…違うから」

 

「じゃあ何?」

 

それを聞かれると目を逸らしてなんと答えたらいいか分からないと言った顔で言いずらそうに固まって

 

「早く…それともなにか言いづらいことでもあるのかなぁ?」

 

「一目見た時…可愛い…なって…思ったから…思わず、口から…ボソッと…」

 

そう…つまり、

 

「気になる子にちょっかいかけたってこと?」

 

「ち、違う」

 

顔を赤らめてそっぽ向いて…明智は今、クラスに可愛い子がいるけど関わり方が分からない、だからちょっかいかけて構ってもらおうとする男子小学生みたいな理由を話したことによる羞恥心で顔が真っ赤になってしまう

 

「へぇ〜へぇぇ〜私のこと初めて見た時から可愛いって思ってたんだ〜へぇ〜」

 

ニマニマした顔でほっぺたをつんつんと突いてそれなら納得出来る、初めて会った時周りの人には普通に会話したり、勉強を教えたりしていたのにアイに対しては冷たく接して、突き放すように会話していた時のことを思い出してニマニマし始める

 

「ぁ〜うるっさ、まじでうるさいわ、本当にどうしようもなくうるさいわこの小娘」

 

「はいはい、そうやってまた私に構って欲しいんでしょ?先輩は可愛いなぁ」

 

「あ〜もう知らん、僕は寝る」

 

さっさとベランダを出ようとする明智に後ろから抱きついて

 

「最初は面白い人だな〜って興味あるな〜ってだけだったのに…先輩が私に本物を教えたんですよ?」

 

責任取ってくださいね?

そう耳元で言い終わると、フリーズする明智を置いてさっさと言ってしまう

 

明智は1人ベランダでもう一本タバコを付けて、なんとか冷静さを取り戻してから眠りについた



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裸眼で見てよ

 

ここ最近の明智はドラマの撮影の為に多忙を務めていて、自宅から直接撮影現場に向かい、そのまま家に帰るという生活になっていて、今日も撮影現場に入る明智

 

「おはようございます」

 

現場に入り、挨拶してそのまま

 

「先輩おはようございます」

 

「あ、おはよう…近いわよ!!」

 

「いでぇ!」

 

いつも通り有馬に挨拶した明智、だがいつもであれば有馬が見上げる形の挨拶が、なぜか至近距離で明智に見つめられながら挨拶に朝イチの脳みそが処理できずに頭突きをしてしまう

 

「いてて…なんかすっごい近くなかった?」

 

「いやぁ…すいません」

 

「あれ?あんた眼鏡は?」

 

「寝惚けて落としたメガネを踏み抜きました」

 

「えぇ…新しいの買いなさいよ」

 

「いやぁ…めんどくさくて」

 

あんたねぇ…と呆れる有馬

 

「いやいや、別にドラマ撮影自体に影響はないですよ?」

 

「まぁ、問題ないなら別にいいけど…あ、台本でさ」

 

「はいはい」

 

そのまま有馬の説明を聞こうと近づいて隣に座る…

 

「いや…あのね?」

 

「どしたの先輩?」

 

「近いのよ!距離が!距離感がちっかいのよ!」

 

一旦距離を取りながら

 

「しょうがないじゃないですか、あ?もしかして嫌でした?」

 

朝一応お風呂入ったりしてるんだけどなぁ…と軽くしょんぼりして

 

「ま、まぁ…別にいいけど」

 

(こいつは小生意気な後輩!普段人のことを小馬鹿にしてくる嫌な男…まぁ…私のことを見てくれてるのは嬉しいけど…じゃなくて!!)

 

そう心に言い聞かせながら明智の顔が近づくのを何とか耐えて、お互いの演技の確認をしていく

 

「だからここわね?」

 

「はいはい、分かってますよ?カメラ的にも僕が引いた方が先輩が目立ちますからね」

 

「あんたも目立ちなさいよ」

 

「いやいや、先輩を引き立たせるのが後輩の役目なんですよ」

 

いつも通り、あってまだ少ししか経っていないがフランクに、そして年下だからという理由で子供扱いしないで対等に接してくれる明智は案外やりやすく、気軽に接することのできる相手としてありがたい…けど

 

(やっぱり近すぎる気がするんだけど…まつげ長…目つき悪いけど顔は普段ニヤニヤしてるから締まりないのよねぇ…)

 

そんなことを考えながらもそこはプロ、芝居に付いての確認が終わり、本番も特に問題なく、有馬かなの良さを引っ張り出して

 

「先輩今日もキレキレでしたね?」

 

「まぁね!まぁ、あんたも悪くなかったわよ?」

 

「先輩のおかげですよ」

 

「ま、まぁね!」

 

「明智さんいいですか?」

 

「はい」

 

スタッフに呼ばれ有馬と別れる、そんな明智をじっと見つめて居るとあることに気付く

 

(えぇ?何よ、普段私に対してニヤニヤしてるくせになんで他の人相手だと真剣な顔で対応してるの〜?え?私だけ?私に対してだけ?えぇ〜困るぅ〜!!どれだけ私のこと好きなのあの後輩〜!)

 

なんて考えながらニマニマとした視線を明智に向けている

 

「あ、あの…近いです」

 

「あぁ、すいません、眼鏡壊しちゃって…迷惑でした?」

 

「い、いえ…」

 

女性スタッフはドアップの明智相手に顔を染めながらもなんとか懸命に仕事を全うしている、そのまま伝えられたのか明智がてくてく戻ってくると

 

「先輩すいません、次のシーンの確認を…先輩?」

 

ブッスゥ〜っと不貞腐れた顔で明智を見つめる天才子役の顔があった

 

「距離近いわねぇ〜視力悪いって体のいい言い訳で顔近づけてお得〜〜」

 

「何言ってんの先輩?いいから準備しな?」

 

「まぁ〜あんたみたいに顔が良いんだったらあっちこっちからお誘いありそうよね〜」

 

「えぇ…あ、先輩」

 

ズカズカと準備するために歩いて行く有馬を呼び止めて

 

「何よ?」

 

「はい、飲み物」

 

「あ、ありがと…」

 

りんごジュースを渡して

 

「ちゃんと水分とってくださいね?」

 

「い、言われなくても分かってるわよ!!」

 

そのままさっさと歩き去ってしまう

 

「ツンデレってめんどくさいだけだと思ってたけど…僕の場合内心も分かっちゃうから可愛いな」

 

(ムカつく…ムカつく!どーせ色んな女の子垂らしこんでるんでしょ!)

 

そう思いながらもしっかりと水分を補給して本番に臨む有馬

 

そんな風に撮影は続き、明智は

「別に作らなくても、そんなに困らないからいいかなぁ…めんどくさいし」

という理由で眼鏡を新しく作らないで撮影に臨み

たまにはと帰りにヒョイと事務所に顔を出す

 

「久しぶりです」

 

「お疲れ様、撮影現場に顔出せなくて悪いわね?最近はどうなの?」

 

「まぁ、ぼちぼちですね、先輩は可愛いですし」

 

「先輩?」

 

思わぬ単語に?マークを浮かべて

 

「あ、有馬かなですよ芸歴だと僕より上ですからね、それに才能もありますし」

 

「へぇ…子供を先輩扱いする成人男性」

 

「いやいや、普通に接してるだけですからね?」

 

そんなふうに話しているとアイが気づいたのか

 

「先輩〜可愛い後輩に会いに来ないって何事〜?ん…」

 

「いや、なんだかんだ撮影忙しくてな?割と面白いか…何?」

 

明智に近づいたアイがピクっと止まり…クルクルと周りを回りながらスンスンと鼻を鳴らして

 

「他の女の匂いがする…」

 

「ええ?まぁ、スタッフの中には女性もいるけど」

 

「いいや、もっと長時間くっついてないとつかない感じ」

 

「えぇ?あ〜一応性別は女の子だけど子供だぞ?有馬先輩」

 

「先輩…?」

 

辺りの空気が凍り始め…アイの瞳が真っ黒に輝き始める

 

「そ、撮影の合間にお互いの出るシーンの確認とかのために台本持ち寄って意見交換してる」

 

「へぇぇ…というか先輩眼鏡はどうしたの?」

 

「壊れたんだよ、まぁ別になくてもなんとかなるしな、作りに行くのめんどいし」

 

まぁ文字見るのに苦労するけど、そこまで日常生活に支障はないからな〜と呑気に答えて

 

「へぇぇ…でも危ないから作った方がいいんじゃないかな?」

 

「確かになぁ」

 

じぃぃとアイの顔を見つめて…近い距離で、ジィィッと…ある程度見つめたあとなにかに気づいたのか

 

「ま、まぁ、やっぱりお芝居をする上で勉強になるって言うかな?やっぱり子役として芝居に関わってるから経験値が違くてさ!勉強になるんだよ〜!」

 

アイの顔を至近距離で見つめて何かを気づいたのか、突然言い訳するようにペラペラと聞かれてもいないことを言い始める

 

「ふ〜ん…」

 

それを聞いてまだ不満そうな顔を向けるアイ…明智の左薬指をすりすりと撫でて

 

「虫除け足りないかなぁ…」

 

そんなふうにボソッとつぶやくのを…明智はしっかり聞き逃さなかった

 

 

ドラマ撮影もいよいよ佳境撮影現場に緊張感が走り、

 

「よ、余裕よ、余裕よ!」

 

しっかりと影響を受けてある有馬かなと

 

「先輩なんかロボットみたいになってますね、おもろ」

 

普段通りの明智の姿があった

 

「誰がロボットよ!」

 

「何緊張してるんです?」

 

「し、してないし!」

 

少しづつ有馬かなという存在が薄れ始めて以降、今までの撮影では上手く立ち回ってほかの役者を輝かせることだけに意識を集中していたが、今回では明智に引っ張られ(せいで、とも言う)自分が輝く演技をしている…つまり、自分が何かミスをすれば作品全体に影響を及ぼしかねないと考える…小さい身体にそのプレッシャーは少し重たいのか、緊張して普段のキレがない

 

「自分がミスしたらとかなんか考えてます?」

 

「べ、別にそんなこと…」

 

「それか自分のせいで作品のクオリティーが落ちちゃうかもとか?」

 

「ぐっ…そうやって人の考えてること何でもかんでも当てるのやめなさいよ」

 

言い当てられてしまい強がりだとバレてしまったので顔が沈んでしまう

 

「そうよ、今までだったら周りを引き立たせる…それで他の人が輝いて、私はそれを支える…でも支えられる側も結構大変なのね」

 

「馬鹿だねぇ」

 

そう言われるとバッと明智の顔を見て

 

「馬鹿って…まぁ…最近落ち目だし…」

 

「あのさぁ?」

 

屈んで目線を合わせる…眼鏡がないためいつもより顔が近くて

 

「な、何よッ!」

 

「僕は自信満々に演技してる有馬かなが好きだ」

 

「‎ふぇ!?ス、好きぃ!?」

 

顔を真っ赤にさせる有馬を無視して

 

「プレッシャー掛かってようが、怖かろうが自信満々の有馬かなが見たい」

 

「な、なにそれ…勝手」

 

「そりゃ勝手だよ、僕は有馬かなのファンだからさ、大丈夫…僕がいる…有馬かなをきちんと見てるから」

 

(何よそれ!こんなに怖くてプルプル震えてる女の子に容赦なく自信満々に頑張れって…こういう時は優しい言葉をかけて慰める場面でしょ!)

 

まぁ…でも

 

「小生意気な後輩、しっかり私を見てなさい!あんたが好きな有馬かなって役者を!」

 

「そう来なくっちゃね?」

 

撮影するシーンは明智が他の女性と仲良くしているのを見た有馬が幼心に嫉妬してしまい強く当たってしまうというシーン

 

 

「ふーん…あの人と仲良いんだ、へぇぇ〜〜」

 

隣を歩きながらランドセルを持たせて、不機嫌そうに石ころを蹴る

 

「まぁ、仲はいいよ?同じクラスだしね」

 

「ふ〜んまぁ別にいいんじゃないの?私には関係ないし〜大人の付き合いってやつでしょ」

 

「子供のくせに妙なこと知ってるな、何?英才教育?」

 

「別に子供じゃないし」

 

「?どう見ても子供なんだけどなぁ」

 

「ッ!子供じゃない!!」

 

このシーンは本来茶化しながら明智が相手の女性に恋心を抱いているか確認するシーン、

見た目は幼いが、中身はしっかりと大人…

誰にも秘密を打ち明けられず、でも恋をしてしまった有馬が大人の余裕を持って、でも少しの嫉妬心を覗かせながら相手との関係を探るシーン

 

なぜか、気づいたら…言葉が零れて落ちてしまった、もう気づいた時には戻せずに、ドラマの撮影としてここにたって演じているというのが頭からなぜか抜け落ちてしまって

 

(あ、子供扱いされてるってことは分かってる…でもこいつは私を見てくれてる、周りの大人と違って子役の有馬かなじゃなくて、私…役者としての有馬かなを見てくれてる対等に接してくれる…今そんなこと気にしてる余裕ない…何とかしないと…このシーンは私の大人としての余裕を見せつける…あぁ…ダメだ…これじゃあ1回撮影止めないと…)

 

演技、と言うより思わず飛び出てしまった言葉、自分をしっかりと見てくれる…そんな人に出会って感情の制御が聞かずに、演技と分かっているのに反応してしまった、

何が天才子役だ、少し理解してくれる人間が居たからって感情を抑えられないで…これで天才と呼ばれるなんて許されない

不自然を自然に見せる…そんなこともできないくらい舞い上がってしまった…

 

 

「そんなちんちくりんなくせに何言ってるんだか」

 

いくら振り払おうとしても考えが纏まりついて演技に集中出来ないでいる有馬、撮影が中断されると思っていたら…明智がセリフを差し込み始める

 

「ほ、本っ当にレディに対するマナーがなってないわねあんた!」

 

「レディ?ランドセル姿が大変似合ってますねレディ」

 

顔を真っ赤にさせて

 

「に、似合ってないし!」

 

「似合ってるよ、大変お似合いですよお嬢様」

 

「茶化すな!」

 

そのまま足を蹴って…「いってぇ」と笑って

 

「あの人とは何でもないよ、本当にただのクラスメイト」

 

「そ、そうなんだ…へぇぇ…」

 

このヒロインはストーリーが進む事肉体に引っ張られていた精神が戻っていき、最終的に元に戻るという内容…つまり

 

(私のミスを咄嗟にアドリブにした…そのまま既存のセリフに繋げて、新しい一面を見せつつ原作の流れに戻した…?)

 

「これで満足?」

 

そう笑いかける明智に

 

「ま、まぁ、あんたみたいな奴に彼女なんて居ないんでしょうけどね!」

 

「ひっど」

 

で、でも…と顔を少し赤らめ…モジモジしながらなんとか明智の顔を見て

 

(本っ当に…小生意気後輩…私よりずっと歳上なくせに先輩扱いしてきて、いつもヘラヘラしてさ…でもしっかり私の事見てくれて…ミスしたらカバーしてくれる…本当に…)

 

「もし10年後も彼女が居なかったら…私が彼女になってあげようか?」

 

「はぁ?な、何言ってんの?」

 

そう笑う彼女に思わず照れてしまったという顔をして

 

「うっわぁ?顔真っ赤、何赤らめてるの?私子供なんでしょ?お兄さん」

 

他人とか関係ない、今私が演技をしてる…私が今最高に凄い演技をしてるから、見てよ?私の輝いた姿が見たいんでしょ?ほら、見なさいよ、ばーか

 

 

子供の笑顔、でもそこにしっかりと大人の女性としての何かを含ませた有馬かなは恋する乙女のように笑った

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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初めてのスパイ

皆さん感想くれて助かります、いや、あれですからね…別に重曹先輩のこと曇らせたいわけじゃないから!本当だから!信じて




 

「なんであんたがここに居んのよ」

 

「こ、こっちのセリフなんですけど!」

 

ルビィと有馬なぜか撮影現場で向かい合った状態で、ちっこいのとちっこいのが火花を散らしている状況

 

時は少し遡る

 

「撮影現場の見学?」

 

「そうそう、やっぱり1回は見ときたいからさ」

 

アクアがミヤコに対して、そう話し始めたのが始まりだった

 

「えぇーと、なんでです?」

 

「単純に明智の演技はレベル高いから、それを間近で見たいんだよ」

 

「はぁ…」

 

ため息をつきながらなにかほかのことを考えているのではと、ジロジロ見つめて

 

「私も行きたい」

 

「えぇ?な、なんでなんです?突然どうしたんですか?」

 

ルビィの一言に驚くミヤコ

 

「まぁ…1回ぐらいは挨拶に伺わなきゃと思ってましたから良いですけど…あまり騒ぎを起こさないでくださいね?」

 

「これでいいの?」

 

「あぁ、有馬と明智がどんな会話してるのか見るにはやっぱり直接見た方がいいだろ?」

 

そう双子は最近有馬の話題が多い明智に対して不満たらたらのアイのためにスパイ活動を実施することに

 

「わかりました、明智君にも連絡は入れておきますからね」

 

「はーい」

 

そして

 

アクア、ルビィ、ミヤコの3人は明智の撮影する現場に行き、軽い挨拶をして

 

「さて、俺は普段の2人の話を聞いてくるからルビィは2人を探してくれ」

 

「分かったよ!任せて」

 

挨拶回りに忙しいミヤコの目を逃れさっさと散ってしまう双子

 

どこにいるのか分からず、とりあえず辺りをウロウロしていると

 

(あ、居た!)

 

人目につかず、あまり騒がしくないところに2人を発見したルビィは早速2人を見る

何やら台本を見ながら話をしている様子

 

(?台本の確認でもしてるのかな?距離近くない?なんでそんなに距離近いの?えぇ…明智は普段通り…いや、なんかテンション高い…重曹ちゃんはなんか楽しそう)

 

基本明智が何かを言って有馬がそれにつっこむ形で話は進んでいるらしく、軽く殴られたり、言い負かされたりと普段とは信じられないぐらいに表情が変わる有馬

 

(へぇ〜明智楽しそう、ふ〜んママ相手にはそんなにテンション上げてないのになぁ〜それに私と喋ってる時にしない顔してるし)

 

友達!!

 

人とは人によって態度を変える生き物、この子にはこう対応し、あの子にはああする、人間は誰これ構わず同じ対応をするというのはなかなか難易度の高いもの、

明智もその例に漏れず人によって対応の仕方を変える、今回有馬に関しては同じ目線で物を語れる才能があるため基本的に子供扱いはせず対等に接する

それに

 

(な〜んか全体的にニヤニヤしてるんだけど?え?マジでロリコン?明智って本当にそんな趣味が…?)

 

盛大な勘違いをしているルビィ、そして観察されている2人の会話内容と言えば

 

「あんたねぇ?分かったってば、どんだけ好きなのよ全く…」

 

「いやぁ〜先輩話しやすくて助かりますよ、なかなかこういう話できなくて」

 

「まぁ…事務所に本人居るからねぇ」

 

「でしょ?流石に本人の前で話せるわけもないですし」

 

「どんだけ好きなのよ…アイさんのこと」

 

!?

 

今確かに聞こえた、アイという単語…2人が話している内容が何なのか気になったルビィは少しづつ距離を縮めていき…

 

「そ、そろそろ僕の番始まりそうですね、ほら!行きますよ先輩」

 

「ちょ!突然何よ?わ、わかった、分かったから押さないでって」

 

なにかに気づいた明智が有馬の背中を押してさっさと退散してしまう

 

(くぅ!逃げられた…でも今確かにママの名前が出たような?)

 

なぜアイの名前が出たのか分からず困惑して、とりあえず自販機の前まで進む

 

「全く、急かすから飲み物置いてきちゃったじゃない」

 

「「あ」」

 

忘れ物をしたのか引き返してきた有馬とばったり会う

 

そして冒頭に戻る

 

 

「こんな所で何してるのよあんた」

 

「べ、別に重曹ちゃんには関係ないし〜」

 

「誰が重曹よ!顎殴って脳揺らすぞコラ」

 

「明智と仲良いんですね!」

 

ルビィにとって初めての友達、自信を理解し簡単に手を伸ばし、そして友情を誓った人間が他の子に見せる態度に若干ムカついたルビィ

(何あんたって!こんなちっさい子に普通にそう呼ばせてるとか本当に明智って)

 

有馬にとって子役としての自分しか見てくれない周りの大人と違い、しっかりと有馬かなとして認識してくれる人、

自身のことを先輩と呼び対等に接してくれる

そんな人がフランクに接する小生意気な子に若干ムカついた有馬

(普通にあいつを明智呼び?こんなちっさい子相手にも対等に接するなんて)

 

((まぁ…でも))

 

 

((私の方が仲良いし!!))

 

今ゴングはなった

 

 

「べ、別に仲良くなんてないわよ!まぁ〜私のファンってだけでぇ、あいつから話しかけてきただけだけどね」

 

言い訳みたいに言いながら

 

「へぇ〜明智に先輩呼びされて嬉しいんだ」

 

「別にそうでも無いって、てかあんたはあいつのなんなのよ?」

 

「別に〜先輩には関係ないんじゃないかなぁ〜」

 

わざとらしく呟いてそっぽ向いて

 

「グゥ…そ、そうよねぇ、あいつは私の後輩!なわけだし!あんたとはなんの関係もないわよね〜」

 

「んぅぅぅ!そ、そんなことないし!私明智の友達だからね!」

 

 

 

有馬は元の性格が災いしているため誰これ構わず基本キツい口調になってしまう、ルビィもルビィでも人との距離の詰め方が分からずただ何となくムカついてしまう目の前の先輩に対してどんどんムカムカしてきて

だんだんお互いヒートアップしてきてしまう

 

「と、友達…」

 

「そうですよ〜!私は明智とお泊まりして遊んだこともありますし!」

 

お泊まり!!

 

基本仕事が忙しく学業と仕事のふたつを両立させている有馬にとって友達とお泊まり会なんてものは夢のまた夢!!

 

「お泊まり…わ、私だってあいつの好きな物とか教えて貰えるし!それに!先輩だからぁ何かと私に頼ってくれるって言うか〜!」

 

「た、頼ってくれる…」

 

頼れる先輩!!

 

普段明智はルビィに対してとる態度は年上の悪友!!そして守るべき対象、そんな明智がルビィに対して相談をする機会などない!!

 

そんな2人の火花を散らした戦いなんて物は露も知らず呑気に歩いてくる張本人

 

「あ、いたいたルビィ?お前何行方不明になってんの?ピーチ姫並に消えやがって、僕はマリオじゃないぞ」

 

「ピーチじゃないし!」

 

軽く頭にチョップを叩きつけながら参上する明智

 

「あれ?先輩、ルビィと知り合いなんです?」

 

「ま、まぁ知り合いって程じゃないわよ、今あんたがどれだけ私のことを頼れる先輩って思ってるか話してるところってだけよ」

 

「まぁ先輩は演技の面では天才ですからねぇ」

 

「明智のこと好きなくせに…」

 

明智の背後に隠れてぼそっと呟くルビィ

 

「な、なぁ……そんなんじゃないわよばーか!!」

 

「何が?絶対演技じゃなかったじゃん!」

 

「違うわよ!あれは、私の完璧な演技なの!」

 

「明智!」

 

「あんた!!」

 

「「私とこの子どっちが大事!!」」

 

まるで二股を掛けた男がデート中に彼女と遭遇したかのようなこの現象…いくら天才的な頭脳の持ち主でも完璧な回答など用意出来るはずもなく

 

「えっとぉ…2人とも大事かな?」

 

「これだから男って…」

 

「さいってぇ〜」

 

幼女2人にあらぬ罪で冷たい目線で射抜かれる明智

なんで?僕なんかした?えぇ…なんかめちゃくちゃ泣きたくなってきた…

そんなふうにしょんぼりしているとここでルビィが

 

 

「明智は!ママのこと大好きだし!!!」

 

爆弾を投入した

 

「な!?!?」

 

「ちょ!?ルビィ!?」

 

その発言の瞬間明智はびっくりして慌ててルビィを抑える、その時有馬の脳内では

 

(ぇ…この子の母親?えっとぉ…確か私とアクアが共演した時に2人の母として来てたのは…は!?あのマネージャーね!!)

 

そう考える有馬かな

 

「よし!ミヤコさんが呼んでたぞ!今すぐ行こう!」

 

「ちょ!まだ話は終わってない!ずっとママ相手にやられてるんだからね!明智は!!」

 

「もういい黙れ!お願いだから!」

 

騒ぐルビィをひょいと持ち上げさっさと離れていく明智を見送る有馬

 

 

ルビィを抱えたまま歩く明智

 

「お前さぁ?まぁ、ミヤコさんって勘違いしてたと思うから大丈夫だと思うけどさぁ」

 

「うぅ…私だって言うつもりなかった」

 

普段なら抵抗して降ろさせるが、今はされるがままに運搬されている

 

「やっぱり友達居たな?」

 

「え?誰のこと言ってるの?もしかして重曹ちゃん?」

 

「あれだけ言い合えるなら充分友達だろ」

 

「別に違うし!全然仲良くないから!」

 

何をどう見たら仲良いの!と不貞腐れて

 

「えぇ?僕とルビィがだいたいあんな感じだろ」

 

「でも友達じゃないし!」

 

「はいはいそうやってお互いにいがみ合ってるんだからどうせいつかは仲良くなるよ」

 

「ならないから!」

 

そう否定する明智と絶対に友達なんてならないと、宣言するルビィ

 

そして本来の目的通り話を聞いていたアクアは

 

「あ、あんた!アクア!やっぱりあの子が居るから絶対居ると思ってたのよ!」

 

「えっと、確か重曹を」

 

「10秒で泣ける天才子役!!」

 

お決まりのやり取りをして

 

「今日はなんで来たの?」

 

「明智の演技を見学に」

 

「じゃあまた演技するの?」

 

「まぁ…考えてはいるよ」

 

「良かったぁ…」

 

ほっと胸を撫で下ろして…そして

 

「つ、次は負けないんだからね!」

 

指をさして顔を真っ赤に、取り繕うように

 

「まぁ、機会があったらな…所で普段明智とどんな会話してるんだ?」

 

「えぇ?アクアもあいつと知り合いなの?」

 

「まぁ…ちょっとな」

 

う〜んと頭をひねりながら

 

「まぁ、別に普通よ?演技のことだったり、感情を作る時のイメージだったり、あとは…」

 

普通の雑談なんかも挟むけど〜と言葉を続けて

 

「アイさんに関してもよく話すわよ」

 

「え?ほんとか?」

 

「まぁ一方的にあいつが喋ってくるだけね、ダンスや歌は凄いけど…最近は演技も上手くなってるって、あいつ本当にアイさんのこと好きなのよねぇ」

 

全く、後輩の話を聞くのも大変ねぇ…

なんて呟いて

 

「へぇ…」

 

いいこと聞いた…ニヤッと悪どい笑みを浮かべるアクアに気づかない有馬かな

 

 

そしてアクアの隣にいるミヤコに突然視線を向けたと思ったら

 

「私の後輩のことお願いします!」

 

「え?は、はい…」

 

わけも分からずとりあえず頷いたミヤコ、そして後から合流する明智は必死になってその誤解をとくために頭を回転させ

その様子を面白そうに眺める双子

 

 

車の中後部座席になぜか3人で座り、明智を挟んだ状態で双子が居て

 

「話を聞いたけど明智…有馬によくアイについて話してるみたいだな?」

 

「へぇ〜まぁ確かに重曹ちゃんから聞いた時もママの名前出てたな〜」

 

尋問を受けていた

 

「黙秘します…」

 

「それはほぼ認めてるんじゃないか」

 

「いいから認めなよ、めちゃくちゃママのこと大好きですって言いなよ」

 

「弁護士を呼んでくれ!僕は何も喋らん」

 

双子が何を言おうと黙秘を貫き、誤魔化すために全ての脳のリソースを使う

 

「それよりも、僕の演技どうだったアクア?」

 

(あ、こいつ誤魔化したな今)

 

「まぁ、凄かったよ…有馬と明智だけレベルが違った、不自然を自然に見せる…感情が篭ってたのに自然にサラリと流れる感じ」

 

「僕を驚かせたいんだったら有馬と同じくらいのレベルにはなってもらわなきゃな」

 

「それは…」

 

難しいだろう、明智はなんでもこなせる万能型の天才、そしてその天才に自分よりも才能があると言われた有馬かな、

それと同じくらいの演技をするなんて難しいという次元じゃない

 

(まぁ…あんただったら行けるんじゃないの?)

 

そろそろ…きちんと片付けなければ行けない

 

(なにかにずっと思考を逸らされている感じ…はぁ〜証明できない、でも僕には分かってしまう謎の存在…ずっと僕相手に姿を隠して上手いことやったみたいだな?1回負けた…でももう次は無い)

 

「アクア、カラスって見たことあるか?」

 

「カラス?まぁ見たことはあるけど」

 

「僕見た事ないんだよなぁ、図鑑とかテレビでは見るけど…生で見たことは1度もない」

 

「はぁ?そんなのありえないだろ」

 

「まぁ、ありえないよな」

 

 

 

 

 

 

 

「何適当なこと言って誤魔化そうとしてるの?騙されないからね?」

 

そのままゲシゲシとルビィに殴られながら帰宅

 

 

 

 

 



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本心は四角の中

「いやぁ〜マジで先輩さぁ?」

 

「先輩やっぱすごいわ〜マジで推しちゃう、アイドルとかやったらペンライト持って真ん前でオタ芸するね」

 

「先輩はマジで打てば響く感じ?うちの事務所入ったら楽しいだろうな〜」

 

こんな感じで…明智の最近の話題は何かと有馬かなという天才子役に焦点を当てたものばかり、初めは楽しく聞いていた、先輩にも好きな物があり、好きな人がいる、普段より高めのテンションで語ってくる先輩に対してほっこりした気持ちを持っているのも認める、でも…

 

ぶっっすぅぅ〜〜と机に突っ伏し女優とは思えない顔で不貞腐れるアイ

 

(口を開けばすぐ先輩、先輩…私だって芸歴で言えば先輩の先輩なんだよ?)

 

理屈ではわかる、明智の感情はシンプルに推しとして有馬かなに向けられていて、それと才能がある人間が周りのせいで潰れてしまう、その気持ちも分かるからこその入れ込み…

そして相手は小学生、恋愛的な意味合いではないことなんて理解はできている

 

 

感情ではそうはいかない

 

(私だって伝説のアイドルって言われるぐらい凄いのにさぁ…私の時は全然そんなの無かったじゃん…ばーか)

 

そうやっていじけてはいても何も進まない、でもどうやってそれを伝えれば良いのか、小学生相手に張り合って私の方が凄いから私の事推してよなんて言える訳もなく

 

「いってきまーす」

 

仕事に向かうアイに双子は行ってらっしゃいと見送ってから作戦会議を始める

 

「どうしようやっぱり伝えた方がいいのかな?」

 

「まぁ…一応有馬から聞いた話だとアイについてよく話してたらしいんだよ」

 

「えぇ…でも明智って普段全然ママについて話さないじゃん」

 

 

「まぁ…本人の前では恥ずかしいんじゃないのか?」

 

そんなものなの?私だったら絶対目の前で褒めちゃうけどな〜と言いながらミヤコのスマホを弄ってると

 

「あ、見てお兄ちゃん」

 

「ん?なんだこれ?」

 

明智の現場の休憩中の写真らしく、そこには笑いながら台本を見ている明智と、恐らく怒鳴りながら、でも楽しそうに明智にムキになってる有馬かなの姿が写っていた

 

「随分楽しそうだな」

 

「でしょ?ママ以外のメスに乗り換えようとしてる…」

 

「ルビィ小学生だから、普通にないって」

 

「いーやあれは完全に恋する乙女だった」

 

「お前恋したことあるのか?」

 

「そ、それは…まぁ…大人のレディですし?」

 

明らかに嘘わかる下手な演技

会話の途中になにか気づいたのか

 

「お前はアイと明智の交際に反対だと思ってたけど、いつの間に応援してたんだな」

 

「え!?、ま、まぁ…明智は性格悪いけど…まぁ、いい人っていうのは…分かってるし…」

 

ま、まだまだママの隣に立つにはふさわしくないけどね!!

と照れ隠しのように声に出して

 

「というか、明智ってアイのこと推してるってことになるのかな?」

 

「どうだろう?そういえばそんな話したこと無かったな」

 

「サインはbは完璧に踊ってたよ?」

 

「でも明智だいたい何でもこなすからなぁ…」

 

「そういえば、明智がアイの真似した時世界で一番見てるとか小っ恥ずかしいこと言ってたよ?」

 

「あぁ、言ってたな」

 

「明智がいくら何でも出来るからって一瞬見ただけでその人になりきるってできるのかな?」

 

「どうだろう?」

 

2人で考え込み

 

「明智ならやりそう…」

 

「確かに…」

 

「何とかして本心を聞き出さなきゃ!」

 

う〜んと2人とも唸り考え込む

 

「そういえば、前に明智のスマホの画面を見た時、いつもの役者としてのアカウントのプロフィール写真と違うやつだったな」

 

「どういうこと?」

 

「つまり、違うアカウントを持ってるってことだよ」

 

「あぁ…なるほど、じゃあママのことを推してるならもしかして」

 

「そのアカウントに推し活の何かが見えるかもしれない」

 

「それをママに見せれば良いんだね!」

 

そこでひとつ欠点に気付く

 

「でもさ?どうやって見せるの?」

 

「素直に見せてくれる訳ないよな」

 

2人で唸って…明智相手にスマホをバレずに取る…いや、明智相手に何かしようとしてそれを隠し通すことすら難しいのにそんなことができるのか?

その時ひとつ思いついたのかアクアが声をあげる

 

「あ、1個手はあるぞ」

 

「えぇ?何?」

 

「酔わせればいい」

 

「えぇ…お兄ちゃん…それは」

 

「正直まともにやりやって明智相手に何かを聞き出すのは無理な気がするんだよ」

 

それも確かに…と納得してしまう妹

 

「でも明智相手にどうやって飲ますの?」

 

「それこそ簡単だろ」

 

そしてルビィに何かを伝えるアクア

 

その後

 

「うっぁぁ…ひっくッ」

 

すっかり出来上がった状態の明智がそこにはいた

最初は明智もそんなに連続で泊まれるかと遠慮していたが誘われ続けるうちにたまになら…たまにが週に2、3回そのまま増えていき

泊まると言うより住んでいるになり始めてしまう

そしてたまになら良いでしょ?とアイ相手に飲酒を付き合わされるのも普通の対応、そのままアイがいる場所でのみお酒が弱すぎる明智が酔っ払えばあとは簡単

 

「わ、私…ちょっと先輩のこと介抱してくるね!」

 

「僕はまだいけるぞぉ…というかお前めがこわぃぃ…やー助けて〜へへッ」

 

へべれけの状態の明智を目をギラギラさせたアイが寝室にお持ち帰りした

 

「な?」

 

「スっっっごい複雑なんだけど!!」

 

「まぁ…それは俺もそうだけどさ」

 

兄弟二人はそれぞれ気まずいような、仲が良いのはいいことなのか、と考えながらも気を取り直し

 

「じゃあ見よう」

 

「まぁ、ロックとかされてるかもだから」

 

そうスマホを弄り始めると以外にもロックは掛かっておらず素通りできてしまう

 

「あれ?明智って案外不用心なんだな」

 

「まぁいいじゃん、それになんかちょっとドキドキするし!」

 

ルビィはスパイみたいなことをしていることに興奮し始めてしまい、アクアは冷静にアプリを開き、裏垢を探す

 

「あった…行くぞ?」

 

「う、うん…」

 

謎に心拍が上がり、ドキドキしながら…裏垢の呟きを確認する

 

 

 

裏垢!!

 

現在では誰もが腹の底に抱えてはいるが周りの人間に吐き出すことの出来ない思いの丈を吐き出すための場所として使われることが多い、他の人間に見られる心配は少なく、自身の思いの丈をありのまま文字として吐き出し消化するために利用されることが多い

上司の愚痴、彼氏の悪口、友達との折り合いが上手くいかないことの不平不満、それらと上手に付き合うためには現代人にはなくてはならない場

 

そしてこの場合は絶ッ対に何がなんでも本人に伝えられるわけもない思いを発散させる為に使っている物、正直これがバレれば恥ずかしい所の騒ぎではない、

今すぐ携帯を叩き割りこんなもの書いてないと否定し無かったことにしたい程の恥ずかしい代物…天才、超人、いくら才能があろうが人間は人間、そして腹の底に抱えているのは何も悪い面だけでは無い…いい面に置いても人は何かを隠していたりする

 

 

 

ロックの表示があり、フォロー欄もフォロワーも1人も居らず、ただ明智がしたであろうツイートのみが表示されていた

 

 

うっわぁ…マジで可愛い…めちゃくちゃ可愛くない?は?なんであいつあんな可愛いの?面が良すぎ

 

 

 

嫉妬心全開でぶつかってきて、人の気も知らないで嘘ついてるとか何言ってきてんのあいつ!?僕がどんだけお前相手にベタ惚れしてるかも知らないでマジでムカついた、誘導されてる感じはあったけど無理だった…男って馬鹿です…

 

まじか…僕が嘘で丸め込まれて言う通りにしてるんだけど…無理だろあれ…あんなのされたら誰だって従っちゃうよ、はぁ〜まじ可愛い…好き…

 

 

びっくりしてたなぁ…でももうちょいスマートなやり方あったんじゃないのか?と自分で考えて思いつくんだよね、でもさぁ?なんかこうひとひねり加えていかないと負けた気になってくるんだよ!!僕は悪くない、でも驚いた時の顔は最高に可愛かった

 

 

マジで可愛い…演技も最近上手くなってるし、どんどんレベル上がってくの凄いなぁ…僕も負けてられないな、でもなんか男と距離近くない?いやいや別に気にしないけどね?僕は全然気にしてないけどさ?

 

ライブに生で行ってペンライトを振り回したい、オタ芸ってどうやるんだ?いやいや…ダメだろ…いやぁ〜でも…くっそ!現地に行けるヤツら羨ましすぎる!!!

 

 

延々と、流石に名前は書かれて居なかったが近くにいた2人はこれが誰の手によって書かれ、誰に対して書いて居るのか理解して

 

「うっわぁ…きつ…」

 

「だいぶ重たい感情持ってるなあいつ」

 

結構真剣に引いていた

 

「え?明智ってヤンデレだったの?普段からこんなこと考えながらママに接してたの?」

 

「全く態度に出さないで接してたってことか」

 

えぇ〜と呆れ顔のルビィ、履歴を遡っていくと

 

「あ、この日ママのライブあった日だ」

 

「しっかり呟いてるな、ガッツリオタクだわ」

 

「めちゃくちゃママのこと好きじゃん」

 

「だな」

 

 

「えぇ…これママに伝えた方がいいの?伝えない方がいいの?」

 

「ど、どうだろう…俺もよく分からなくなってきた」

 

2人とも何かあれば面白い、程度の考えで人の秘密を暴いてみたが…思った以上のものが掘り起こされてしまいどう扱っていいか分からず困惑している

 

「まぁ…でも…」

 

「うん、そうだね」

 

「「何もしなくてもどうにでもなるでしょ」」

 

明智裏垢騒動からしばらくたった日

ここ最近アイの機嫌が悪いことは明智にも分かっていて、ある程度の原因も把握している

 

(ど、どうしよう…いやでも…う〜ん)

 

天才的な頭脳の持ち主だろうが、好きな人に対してどのように振る舞えば機嫌が直るのかについて真剣に考えてしまうのが恋愛の恐ろしい所、

事務所に顔を出す時は先輩の話題を控えよう、そう考えて事務所に顔を出す

 

「先輩〜お疲れ様〜」

 

「お、おうお前もおつかれ」

 

ニコニコと笑って出迎えてくれるアイをじっと見つめて

 

(嘘…じゃないな?なんでこいつこんなに機嫌が良いんだ?なんか僕したっけ?いやいや、なんにもしてない気がするんだけど…ん〜?)

 

アイが嘘の演技をしている様子はなく、なぜかご機嫌なアイを不思議そうに眺めて

 

「な、なぁ?なんであいつあんな機嫌いいの?」

 

アクアにコソコソと話しかけると、黙って無言でスマホを見せてくる

それをまだ買い替えてない裸眼の状態で見ると

 

「いっつもアイさんの話題ばっかり出てくるのよね、私相手に布教してくるもぉがァ!?な、なにふるの!」

 

「先輩!ほら!早く行きましょうよ!台本の合わせもあるじゃないですか!ね!ね!!」

 

有馬かなと明智が動画に映っていて、どうやら最近話題のドラマの撮影現場の様子を撮るという試みの一部分、仲の良い2人に対して軽いインタビューのようなものを行っていた、

 

ああ、そういえばそんなこともあったな〜と考えて…大変な事実に気付く

 

「あんたって本当にアイが好きなのね」

 

「まぁ、嫌いな人いないんじゃないですかね?可愛いし、ダンスも上手いし、ライブとかめちゃくちゃテンション上がりますよ?」

 

呆れながら

 

「はいはいその話は何回も聞いたわよ、はぁ〜〜」

 

話しやすさ、明智はあまり友好関係が広い訳では無い、そして何かとアイと明智の2人に注目が集まっている状態で推しに着いて語り初めてしまえば結果は火を見るより明らかになってしまう

その点幼いながらもしっかりとした考えを持っていて、シンパシーを感じている有馬には話しやすく、台本の確認以外にもアイについて語ったりと1度心を許すまで遠いが1度許した相手ならどこまでも信頼する明智の悪い所が全面的に出たところを思い出して

 

 

「あ、あぁ、ぁ…」

 

「先輩?今日も泊まるよね?」

 

後ろに立ったアイがニッコニコの状態で話しかける

 

「ゆっくりお酒でも飲みながら…お話、聞かせて欲しいな〜」

 

そう笑う彼女は、相手を威圧しないように丁寧に対応して、近づいてきた獲物を食べる捕食者のそれだった、

どこか風の噂で聞いたような気がする

 

笑顔とは捕食者にのみ許された武器であると

 

 

 



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徹底討論

「それでぇ?先輩は私のどういう所が好きなのかなぁ?」

 

「だ…から…さぁ…その…」

 

「うんうん」

 

現在星野家ではニコニコ笑顔のアイドルと顔を真っ赤に染めながらなんとか言葉を捻り出している天才の様子があった、逃走防止のため左右に双子ががっちりと付いていて、逃がさないという意思表示は完璧

腹の底打ちまけちまえ状態だった

 

「ダンスめちゃくちゃ上手いし…周りに対してどう見えたら可愛く見えるとかも考えてて…ターンとかすごい綺麗…だし…」

 

「うんうん、それで?それで?」

 

「めちゃ…くちゃ…可愛い…と思った…し…思ってる…」

 

「へぇ〜先輩私に対してそんなこと思ってたの〜」

 

きゃ〜〜〜と大変ご機嫌な様子

 

「も、もう良いだろ!?勘弁してくれよ、なにこれ?公開処刑?」

 

「だーめだって他の子に対してはもっといっぱい言ってたよね?ほら、他には?」

 

「歌が…上手い…たぶん計算で入れてる部分もあると思うけど…可愛い…ウインクのタイミングとかバッチリだし…というか顔が強すぎ…演技も上手くなってて…その…」

 

「あとあれでしょ?他の男が近寄ってるのがなんだっけ?」

 

「えぇ?何それ〜?」

 

「はぁ!?ルビィ!?な、なんでそれ…」

 

「ほら、早くゲロっちゃえよ、もっと素直にやれば良かった所とか言えよ」

 

「アクア!?お前ら…!!」

 

裏垢の内容を見ている双子からさらに追撃が入る

 

「その…あの…ドラマ撮影の時…ちょっと…ちょっとですよ?なんと言いますか…はい…その…」

 

「えぇ?なーに?私に分かるように言って先輩♪」

 

ウッキウキ、前まであれだけ天才子役相手に張り合っていたのが嘘のように今までで最高の笑顔を見せる

 

「ち、近いなぁ〜って…」

 

「距離近くて嫉妬したんでしょ?」

 

翻訳家みたいに的確なタイミングで援護という名の追撃を行うルビィ

 

「お前ら双子はまじで後で話がある…」

 

もう勘弁してくれ…顔を覆って机に突っ伏す

完全に白旗を上げて降参の意思表示

 

「もぉ〜私が取られるとでも思ってるの?先輩可愛い〜〜♪」

 

「うるっっさ!まじでお前は自分の可愛さ自覚しろバカ!こっちがどんだけお前のこと好きかも分かってないだろバカが!あ〜!そうですよ嫉妬しましたよ!あの程度で嫉妬するぐらいお前のこと好きだよばーか!!」

 

「……………う……うん……気を付けるね…」

 

「〜〜〜〜〜ッッ!!!!!」

 

もう我慢の限界!と言うふうにぶちまけ終わって、アイのガチの反応にしまった、と思った時には既に遅く、お互い赤鬼ぐらい顔を真っ赤に染めてる停止してしまう

 

「先輩だってす〜ぐ他の子に優しくしてさ!最近すっごい距離近いじゃん!ドラマ撮影の時も距離近すぎるの何回か見たよ私!」

 

ダンっと机を叩いてこちらにもあると立ち上がって

 

「は、はぁ?まぁある程度態度は柔らかくしてるけど…」

 

「それ!ぜんっぜんある程度じゃないじゃん!先輩かっこいいくせになんですぐ顔近づけるの!あと何でもかんでもその人のことが分かるからってさ!す〜ぐ飲み物差し入れしたり!体調気遣ったりしてさ!それが全部当たっちゃうんだもん!そんなの好きになっちゃうでしょ!」

 

「は、はぁ!?普通に心配したりとか、ある程度好意的に見られた方が都合いい場面あったりするからだから!」

 

「へぇ〜じゃああの子役ちゃんにもそう見られたかったんだ〜」

 

「先輩はシンプルに僕の推しだから優しくするんだよ」

 

それ!それが!!と机をバシバシ叩きながらヒートアップ

 

「そういうのが女の子一番キュンってきちゃうの!周りの誰にも理解されないのにある日突然全部理解して、しっかり自分を見てくれるって!白馬に乗った王子様みたいじゃん!!」

 

「そんっっな小っ恥ずかしいものになった覚えはない!!お前だって誰これ構わずにこにこしやがって、お前みたいに可愛い子に笑いかけられたら男なんて即堕ちだろうが!!」

 

お互いアイの言い分の時にはルビィがうんうんと頷き、明智の言い分の時にはアクアが頷く…これはもう…男女間の戦いになって来ているのである

 

「違います!やっぱり現場に来るんだったらニコニコしてて機嫌良さそうな子が来てくれた方がみんな嬉しいでしょ!それだけ!」

 

「はぁ〜?自分の面1回鏡で見てこい!どんだけ顔面強いか自覚無いのかマジで!おまえに微笑みかけられたら男なんて絶対すぐ好きになるわ!」

 

「そっちだって!」

 

そんなふうにいつまで経っても終わらず、痺れを切らしたアイがルビィを連れてお風呂に入ってしまう

 

「はぁ…はぁ…な、何してるんだ僕」

 

「夫婦喧嘩だな」

 

「そんなことしてたのか…僕…」

 

そこまで絆されたことに対して軽く笑って

 

「ちょっと話せる?」

 

「俺と?何の話?」

 

「ちょっと真剣な話しようぜ、アクア…いや」

 

吾郎先生

 

そう呼びかけられたアクアは驚きのあまり固まってしまう

 

「いつ…から…?」

 

「結構前から、確証は得られなかったけど」

 

ベランダでタバコを吸いながら

 

「それで?俺と何の話がしたいんだ?」

 

「僕はあんたに救われた、なのに僕はあんたを救えなかった…気付いた時には既に…」

 

「それに関しては気にするなよ、死んだのを気にしてないって言うと嘘になるけど、あの時は俺も馬鹿な真似したと思ってる」

 

「ほんっっとだよ、どーせ暗闇の中スマホの明かり頼りに突っ込んだんだろ?」

 

ぐっぅとなんで見てないのに見たように言ってくるんだよこいつ…という顔で

 

「それでさ?もう場所の検討もついてるけど、見る?」

 

「いや…別にいいかな」

 

「一応父親に言えばメディア関係に載せないとかもある程度なら融通きくけど?」

 

「いや、お前の父親って何者だよ」

 

苦笑いしながらタバコの煙を空に吐き出す

 

「まぁちょっと権力あるだけのおっさんだよ」

 

「ちょっとではないだろ」

 

それで…

 

「これだけじゃないんだろ?話って」

 

「………実行犯に関してはもう終わってる…裏で操った奴も分かってる」

 

「恐らく俺たちの父親だろ?」

 

「流石に察しがいいな…まぁ…正直余裕でなんとでもなる…けど許して欲しい…とは言わない…ただ、あいつにチャンスを与えてやって欲しい」

 

「チャンス…?なんでそこまでお前が肩入れするんだ?」

 

煙草を灰皿に押し付けて、アクアの目を見つめて

 

「僕は運が良かった、強くて優しい母親に生き方を教えてもらった、だから今の僕がある…あいつは運が無かった僕なんだ、あいつを見捨てたら僕は自分自身を見捨てることになる…」

 

だから頼む…頭を下げて…お願いする

 

「僕のことをぶん殴ってくれても構わない…アイやその周りに近づくなって言われても構わない…でも…あいつをなんとかしてやりたい…頼む」

 

そう明智は頭を下げる

 

納得させるための手札も、収めさせて気づけば納得させられるような話術も持ち合わせている明智が頭を下げる、なんでも出来て全てを自分の思い通りにできるはずの怪物が頭を下げて頼み込む

 

「正直許せない…俺を殺したって言うのは正直そこまでだけど…でもアイを殺そうとしたのは許せない」

 

でも…

 

「アイを大事に思ってるお前が、自分の好きな人を殺そうとした奴を許すそうとしてるから…」

 

「許しては無い、反省はさせる、正直死ぬほうが楽だと思うよ…普通に優しい人間だったら」

 

「アイはお前のおかげで救われた…後悔しないで済みそうか?」

 

「……あぁ、ちゃんとしっかりやれそうだよ…吾郎先生」

 

「じゃあ…お前を信じるよ」

 

ありがとう…そう言って下げた頭を上げる

 

「仏は手厚く弔うよ」

 

「この場合俺は葬式に出席した方がいいのか?」

 

「ぷッ…知らねーよ」

 

「だな」

 

そう言って笑い合う

 

「ぁ、一応ルビィの前世も分かるけどどうする?」

 

「それは本人から聞いた方が良いだろ」

 

「たしかにな」

 

遠くからお風呂入っちゃいな〜と言われ

 

「裸の付き合いしますかぁ吾郎先生」

 

「別にいいけど外でその呼び方やめろよ?」

 

「分かったよ女たらし」

 

「ちげぇよ!女遊びは程々だから!」

 

「してんじゃねぇか!」



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いっぱい食べる君が好き

 

「先輩最近肥えて来たね」

 

その一言で明智の手が止まる、ホカホカの白米を箸で口に運ぼうとした動作が一時停止のように停止する

 

「な…何言ってんの?僕ってほら、あれだから、太りにくい体質って言うかさ?食べても太れなくてむしろ困ってるって言うか?」

 

何を言っているのか理解できない、いや…受け入れられないというふうに伝える明智の顔には冷や汗が浮かんでいて…

 

「ルビィ…アクア」

 

アイが2人の名前を呼び、アクアが明智の服をひっぺがし…

 

「あ、や、やめ…やめろぉ!!」

 

ぐにゅんぅ…ルビィが摘んだ瞬間柔らかいものが指に挟まった

 

「ぁ…あぁ…」

 

「おぉ〜明智だいぶ肥えたね」

 

「肥えたって言うのやめな?傷つくよ?ねぇ?嘘だよね?嘘って言って?」

 

信じられないと言った風にアクアに縋り付く

 

「まぁ…最近家来ること多いし、それで三食しっかり食べてるからじゃないか?」

 

そう、明智の普段の食生活は壊滅的…元々食べること自体が好きじゃなかった明智

必然的に食事の回数や量が減ることも自然なこと、食べたとしても栄養食を食べるだけで済ますことがほとんどだった、

そんな食事が苦手な明智であったが何故か、そう…本人にとって理由は分からないと思いたいので分からないと記載するが、

アイに対してドロ甘になっているため出された物は基本美味しく食べる

しかも規則正しい生活を強制されているため生活習慣が正しくなり、食生活も見直され…

明智は今、幸せ太りになっていた!

 

「うそ…だろ…」

 

「先輩はいつも美味しそうに私が作った料理食べるからねぇ〜」

 

ニコニコ笑顔で嬉しそうに笑うアイ

 

明智は立ち上がり決める

 

「ダイエットだ、痩せなければ」

 

炊飯器の炊きたてのお米をよそいながら決意する

 

「おら、普段僕は君たちふたりに付き合ってるんだから一緒に走ろう」

 

「まぁ、俺は別にいいけど」

 

「なんで私まで…」

 

アクアとルビィ2人を引き連れランニングに

アイはシンプルに仕事

 

「まぁ一人で走ったりしても続かない感じするから」

 

よし行くぞ、と引き連れしばらくして

 

「明智大丈夫か?ほら、飲み物」

 

「あ…はぁ〜はぁ…はぁ〜ありがとぉ…」

 

ダウンしていた、ルビィは公園の滑り台を堪能している

 

「な、なんでだ…」

 

「理由明白だろ、シンプルに運動不足」

 

あと煙草、冷たく言い放たれる言葉のどれもに思い当たる節がある明智

 

「というかそんなんでよく役者できるな」

 

「まぁ…基本1発でOK貰えるし、今の所アクションで呼ばれたりしてないからな…」

 

水を飲んで少し回復したのかため息をついて

 

「というかルビィやばいな、なんであんな底なし沼みたいな体力してんの?HP自動回復とか付いてる?」

 

「前におまえに言われたことをずっと守ってるんだよ」

 

そう言いながら隣に座って

 

「前?…あれから毎日こまめにやってるのは気付いてたけど…ここまで差が出てくるとは」

 

「バランスボール、最近バランスとるのめちゃくちゃくちゃ上手くなってるし」

 

そういえば前にバランスボールに乗っているルビィを軽く押した時、なんとか体制を整えながら文句を言っていたのを思い出して

 

「ルビィはあれだよな、今の自分の身体をめいっぱい楽しんでる感じがする」

 

「そうだな…」

 

「さりなちゃんみたい?」

 

「そうやってさぁ、俺が言わないようにしてたこと言うのやめろ」

 

「案外そうだったりするかもよ?」

 

「ないだろ」

 

そんな都合のいいことがあるわけない、それに…

 

「ルビィはルビィだろ」

 

「もっと単純に物事を考えれば良いのにさ?」

 

「見てみて〜こんなことできっっ!!」

 

そう言ってるとルビィが滑り台から足を滑らせ落っこちる

 

 

「うっわ、大丈夫か」

 

「バカかルビィ!」

 

血相を変えたアクアが飛び出して

 

「打ちどころが悪かったりしたら骨折だぞ!」

 

「な、ちょ、ちょっと落ちて擦りむいただけじゃん!」

 

「なんでこう考え無しなんだよ」

 

「なんでそんなに怒るの!!」

 

2人が言い合いを始めてしまい

 

「おいおい、とりあえず怪我何とかしないと、とりあえず水で砂利落としとけよ」

 

色々買ってくるからな〜とコンビニに走っていく明智

後に残された2人は、アクアが肩を貸して水で歩く時も特に会話はなく

 

「いて……染みる…」

 

「これくらいで済んで良かったよ、心配させるな」

 

「別に頼んでないし…」

 

「頼まれなくても心配するんだよ、家族っていうのは」

 

不貞腐れながらも大人しく水で洗われるルビィ

 

「はいはい帰ってきましたよ、とりあえずハンカチ渡すから拭いとけ」

 

そのままアクアは慣れた手つきで処置をして

 

「よし、痛んだりするか?」

 

「別に痛まないよ」

 

「やっぱ手馴れてるな?」

 

「やっぱ?」

 

「ぁ〜なんでもないぞルビィ」

 

とりあえずおぶって帰るかとルビィを背中に背負って

 

「帰ったら僕叱られそう」

 

「なんで?」

 

「かわいいかわいい娘が怪我してるからなぁ」

 

「あれはルビィがはしゃいだ結果だから自業自得だろ」

 

「アクア冷たい!!」

 

「冷たいんじゃなくて優しいんだよなぁ」

 

「どこが…?」

 

ルビィにそう言われるとニヤッと意地の悪い笑みを浮かべて

 

「だってあれだろ?自分の可愛い妹に何かあったら絶対に嫌だからな、兄としては妹が心配なんだよ」

 

「で、でもすっごい怒ってたよ?」

 

「感情表すぐらいお前の怪我に慌てただけだよ、愛されてますねぇ?ルビィ姫」

 

そうニマニマしてるとアクアもルビィも顔を赤らめて

 

「愛してる…」

 

「普通に心配しただけだからな、普通に!」

 

明智は身体に精神ってやっぱ引っ張られるものなんだな〜誤魔化し方が子供のそれなんだけど

 

 

 

「薄々気づいてるんじゃないの〜?吾郎先生」

 

ベランダでタバコを吸いながらアクアと話す、この光景も日常の一部として溶け込み始めている

 

「なんの話しだよ」

 

分からないフリをして、気付いていないと、考えていないと嘘をつく

 

「流石にあれは違和感タラタラ、演技としては0点だよ」

 

まぁ妹を心配する兄としていい線だけど

 

「ちょっと過剰だよ」

 

「それは…まぁ…俺もそう思ったけど」

 

「あの子は楽しんでる、今の自分の身体がどこまでも自由に、まるで翼でも生えたんじゃないかってぐらいに動き回れるのに対して」

 

そんなことは分かってる…わかりきってる

 

「そんなの非現実的だろ、どんな確率だよ」

 

「いやいや、自分がそもそも非科学的な現象に晒されてるじゃん」

 

「そんな都合の良いことがあってたまるか」

 

「そう?僕は童話寓話ファンタジー推理物、色んな物語を見るけど、基本的にはハッピーエンド、大団円で終わるのが好きだよ?」

 

「現実はそうはいかないだろ」

 

タバコの煙を吹いて、子供のくせにまったく夢のないことを語る五郎に呆れて

 

「大丈夫…僕はハッピーエンドが好きだから、まぁ…別にいいと思うよ、どうせ遅かれ早かれって感じだと思うし」

 

早めに言ってあげないと怖いよ〜女の子の感情の強さ舐めんな

そう言いながらベランダから出る

 

「あれ絶対実体験だろ」

 

そう言いながらベランダから出る、その時カラスが見ていることに気づかない

 

 

 

 

「ぁ〜いてて」

 

撮影の合間、台本を確認している時少し動く度に筋肉痛の痛みに襲われる明智

 

「どうしたのよ?」

 

そんな明智を心配する有馬

 

「いやぁ…最近ちょっと体重増えてきたから走ってるんですけど、痩せるには細かく筋トレしないと効率悪いっぽいからコツコツやってるんですよ」

 

「へぇ〜太ってるんだ、なんか意外ね」

 

体力ないと撮影きついんじゃないの?そう言いながら準備して

 

「基本的に1発でOK貰えるからそこまででもないんですよね〜今の所アクションもないし」

 

準備する有馬を手伝いながら

 

「まぁ、体力あって困るものでもないから付けときなさいよ」

 

「まぁ、コツコツやりますよ」

 

「ぁ、じゃあさ?」

 

「?」

 

公園

 

ブランコ、砂場、滑り台など子供向けの大きさの遊具が並ぶ場所、最近では近隣住民の苦情により遊具の数は減っているがここはその影響をまだ受けていないらしく、まさにこの状況にピッタリだった

 

そんなところで明智は今

 

「はぁ…はぁ〜ちょ…ちょっと待って…先輩…きっっつい…」

 

「ほら、まだセット終わってないわよ」

 

小さい鬼コーチによる指導を受けていた

 

「せ、先輩…きっつい…もう無理…マジ無理…」

 

「何言ってんのよ〜ほら!頑張りなさい!」

 

正直明智は今すぐ逃げ出したかった、というかシンプルにキツすぎる

有馬自信自分にストイックな所があり、それが他人にまで及ぼされる…そして遠慮を知らない無垢な笑顔で馬鹿みたいな火力で筋肉を炙るように引きちぎる

 

走り込み×10

 

「ほら全力で!!」

 

「ウッグォォォ…!!」

 

腿上げ100回

 

「1!2!1!2!ペース落とさないで!」

 

「し、死ぬ…まじ死ぬ…本気で死ぬ…んっぅぅ…無理無理無理無理ちぎれる…まじちぎれる!」

 

「今日はここまでね!じゃあ次の日はね?」

 

「ぇ…?え…?せ、先輩…?」

 

「頑張るわよ!明智!」

 

「あ、はい…」

 

有馬自身なぜ自分がこんなことをしているかの自覚はなかった、ただ

 

(ふん、こうでもしないとこいつと一緒にいる時間を作れないじゃない…?なんで私がこいつと一緒にいたい為に何かやってるのよ…?)

 

天才、才能があるそういくら言っても人生経験の少ない子供二人、世の中には色んな感情が溢れていて今自分がどんな感情に突き動かされているのか理解出来ていない、ただ一つだけ確かなことはある

 

だが…

 

「ほら、明智〜頑張んなさい!」

 

「ゥ、ウッゥォォ!!!」

 

ただひとつ分かること

 

(こいつ、私のことだいすきなのよねぇ♪普段小生意気な態度でひょうひょうとしてるこいつがヘロヘロになって必死に汗水垂らして…しかもわたしの言葉一つでカンタンに頑張っちゃう…気分いいわぁ♪)

 

その感情な名前は知らない…が、有馬かなは小悪魔でドSで

 

ファンが推しの為に行動するのを身をもって知った

 

アイに膝枕をされても何も文句を言わないぐらいに疲弊している明智

 

「先輩最近お疲れだね〜」

 

「なんか先輩に変なスイッチ入ってな…今すごいことになってる」

 

「へぇ〜じゃあ休んじゃえばいいのに」

 

「それはしない…先輩がなんか楽しそうだしな」

 

「そうやって何でも自分が飲み込んじゃうの?」

 

「そんなつもりは無いよ…」

 

そう言って疲れからか寝てしまう明智の頭を優しく撫でる

 

あぁこうやって疲れた時にしか甘えてくれない、そう考えながら彼の心の奥底のつぶやきを今日も聞いて…何とかそこから連れ出してあげたいと思った

 

母さん…ごめんなさい…

 

幼子のようにつぶやく明智の頭を優しく撫でる

 

 

 

 

過酷という言葉では言い表せない、

天使のような笑顔で悪魔みたいなえげつない追い込みをかける有馬

そんな状況でもやり遂げようと努力する明智はのちのちこう語る

 

「いやぁ〜まぁきついですけどね?めちゃくちゃきつかったんですけど、自分の推しに頑張れって言われちゃったら…ねぇ?再確認しましたよ、ファンは推しの奴隷なのだと」

 

そう表紙を飾った写真を撮った時に語ったという

 

半裸の明智がムキムキの身体をさりげなくワイシャツから見せるというポーズ

 

その後ニコニコ笑顔で明智が表紙の本を買った有馬は、

「この子私が育てたんですよ!」

と語ったという



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天才でも恋する乙女に敵わない

みんながどんなシチュを望んでるかちょっと気になるので、もし良ければ教えてくれれば幸いです

あと今回も勝手に指が動きました、僕は悪くねぇ!!


 

 

 

28時間テレビそれは年に1回行われる全編生放送の特別番組、テレビ離れになっていてもある程度の視聴率を獲得していて、これに出て人気を獲得した芸能人は数多くいる

そんな番組に

 

「はーいリポーターの明智と」

 

「有馬かなです、今回は明智と一緒にリポートするのでよろしくお願いします」

 

「番組終盤に重大発表があるらしいのでお楽しみに〜」

 

「何それ?」

 

「さぁ?私もよくわかんないわ」

 

リポートとしての出演が決まっていた、前々から話自体は持ち上がっており明智自身様々な番組に出演、役を貰うなど人気を確実に獲得していて

同じ事務所のアイにも当然のように声が掛けられていて、アイ自身これはチャンスなのでは?と思っていた…が…

 

「いやぁ〜凄い熱気ですね先輩」

 

「そうね、みんな熱中症には気を付けてくださいね」

 

「先輩はドラマ撮ってる時めちゃくちゃ汗かいてましたよね」

 

「うるさいわね!あんただって体力ないじゃない!もやし!」

 

「もう以前の僕じゃないから、知りませんね〜過去は振り返らないので」

 

年上の明智が有馬を先輩と呼び、そして有馬も後輩扱いする、この2人組はドラマ撮影のインタビューや他の番組に軽く触れられるなどして人気を集めていて、現在ではこの2人をセットで使う番組が増えた

 

そして

 

「現場の明智〜有馬ちゃん〜」

 

「お、スタジオから連絡来ましたよ」

 

アイはドーム以降アイドルを引退しマルチタレントとして活躍している、そんなアイは明智と違いスタジオに出ている、アイの考えとはかけ離れてしまい、そもそも距離自体があり、生放送の都合上なにかするのも難しいそんな状態に

 

「えぇ〜この子めちゃくちゃかわいい〜」

 

「でしょ?僕一推しですよ、先輩はなんか嫌われてましたけどね」

 

「嫌われてないわよ!!こ、この子は私のこと好きって言ってくれてるし!」

 

保健所で飼育されている犬や猫などの紹介

 

「えぇ〜私も触りに行きたいな〜」

(せっかくの生放送、ここで勝負を決めたらいくら先輩だと言ってももう逃げ道ないのに、何とかして接触しないと)

 

「これぞ現場リポーターの役得ってやつですねぇ」

(どーせなんか考えてるんだろうなぁ…ダメだから、お前がやること全部危ないんだからさ、今回もしっかり妨害してやるから)

 

「そろそろそちらにお返ししまーす」

 

そんな2人の考えなど知らない有馬がさっさと終わらせて

 

「ふぅ〜あっつい…」

 

「大丈夫先輩?水とオレンジジュースどっち飲む?」

 

「オレンジ」

 

休憩中汗をタオルで拭きながらペットボトルを受け取る

明智も隣に座ってスタジオでの様子を眺めていると、違和感に気づく

 

(あれ?あいつならこんな時絶対指輪付けると思ったんだけど…?ん〜変だな…普段通り、って感じでもないし)

 

その違和感に注目して数分すると

 

「はぁ〜先輩ちょっと僕行くところあるんで」

 

「え?このあとも予定あるわよ?」

 

「大丈夫ですよ、すぐ戻れるので」

(予定あるって言ってもだいぶ空きはある…)

 

そのままスタッフにバレないように行ってしまう

 

「?」

 

わけも分からず急いでいく明智を困惑した顔で見送る有馬

 

(今は撮影中、周りも慌ただしいからこの時間帯この場所に誰か紛れ込んでも問題は無いっと)

 

アイの控え室まで簡単に歩いてきて

 

「僕がストーカーとか泥棒だったら天下取れちゃうなこれ」

 

控え室に入り、周りをキョロキョロ見渡す

 

「さてと」

 

物を探すことなんて明智からしたら簡単で、

見つからないということは

 

(そもそもここにはない?でも、あいつの指に指輪はついてなかった、そもそも付けてなかったのか、外したのか…ん〜?)

 

「ぁ」

 

「やっぱり来た♪」

 

その声に後ろを振り返るとアイがニヤッと可愛らしく笑いながらそこにはたっていた

 

「………お前さぁ…誘ったな?」

 

「先輩って本当になんでも気づくよね?」

 

ため息をついて天井を見上げて

 

「さっきのやつももしかして仕込み?」

 

「そうそう、スタジオから話しかける時一瞬指気にしたのは、演技♪」

 

「ほんっっと僕のこと騙せるのはお前くらいだよ…それで?わざわざこんな状態にしたのはなんのため?」

 

そうだった、先輩のこと騙せて嬉しくて、と言いながら後ろ手でドアを閉める

 

「2人っきりってタイミングなかったな〜と思って」

 

「それだけじゃないだろ」

 

「とりあえず指輪返して」

 

「やっぱわざとか」

 

そう指輪をポケットから取り出して見せる

 

「ここに置いたのは私だよ?先輩のことだからどうせ見つからないな〜で誤魔化そうとしてたでしょ?」

 

「まぁな、わざと無くしたフリしてたから本当に隠し持ってやろうかと思ったよ、だってお前なんか考えてるんだろ?」

 

これ渡したらどうせ爆弾発言するんだろ、疑わしいめで見つめてると、

無駄に上手い口笛を拭きながらそっぽを向く

 

「だって先輩って」

 

ゆっくり近づいて

 

「踏ん切りがつかないんでしょ」

 

「ッ………」

 

一瞬動揺する…が

 

「何の話だよ?」

 

「そうやって誤魔化して…そもそも私を寄せ付けない、問題は一人で全部抱えて、なんでもかんでも完璧に解決しちゃう…でも今回のだけはダメ」

 

じっと2つの星が射抜くように見つめてくる

 

「別に…決まったわけじゃない」

 

「嘘、先輩だったらどうなるかなんてわかりきってる…それなのにやろうとしてる」

 

先輩の嘘は丸わかりだよ?、そう言いながら手を握る

 

「僕は化け物だからな…お前のそばに居たいと思ってるけど…化け物は最後退治されて、それで物語はハッピーエンドだ」

 

「先輩自身がハッピーになってない、そんなの私は認めない」

 

「お前に認められなくても関係ない、母親は僕のせいで死んだ、あの時僕がいなかったら妹も弟も死んでない」

 

「だから私から離れたいの?」

 

「そんなわけないだろ…ただ、お前の傍に居続けるって言うのが…僕のわがまま…それを選んでしまったから…」

 

「今先輩が居なくなったら私は悲しいよ?苦しい…絶対に認められない」

 

それでも、アイの手を離して

 

「それしかないしな…」

 

「またそうやって嘘つくの?適当な理由作って、私から離れて…またそうやって私をほっとくんだ」

 

「お前…が…来ただけだろ…」

 

言いたくなかった言葉…明智は化け物、自分のことは自分が1番理解していると自覚している

最後の踏ん切り、アイがいくら責めても最後の一歩明智から向かってこない、その理由は

 

怖いから

 

 

 

 

 

「僕は…初めから…お前に対して…面白い…と思って話しかけただけだ…なにか面白いことに巻き込んできれるんじゃないかって…思っただけだ、それだけの理由で話しかけた…それで…飽きた、それだけだ」

 

「そっか、先輩にとって私は面白いってだけだったの?」

 

「それだけでお前に近づいた」

 

そっか〜とため息をついて

 

「先輩がここまでわからず屋で頭が悪いなんて思ってなかったよ」

 

「は、はぁ?」

 

そんなことを言われるとは思ってもおらず、惚けた声を出して

 

「まぁでも?頭わるくて馬鹿でドジな先輩も可愛いのは可愛いんだけどね?」

 

「めちゃくちゃ言うじゃん、すっごい言うじゃん…ダメじゃんもう暴言吐きまくりだよこの子」

 

「そもそも私相手にここまで絆されて、堕ちる所まで堕ちてるのに適当な理由つけて本当に馬鹿だよね」

 

「て、適当!?僕にとっては結構な理由なん

 

「だから、私からしたらそんなのどうでもいいって話でしょ?」

 

有無も言わさない迫力に為す術なく…はい…と返事して

 

「指輪返して」

 

「あ、はい…」

 

言われた通りに指輪を返そうとすると、指を差し出されて、無言の圧力に屈して…スっと指輪を付ける

 

「よろしい、はぁ〜まぁ先輩はどうせうじうじ馬鹿なことで悩んでるな〜て思ってるとは思ったけど」

 

「ば、馬鹿な…」

 

結構真剣なんだぞ…そう言って落ち込む明智を無視して

 

「ひとつ宣言しておくね、先輩…今日で確実に堕とすからね?」

 

早く戻りなよ〜

 

言うことをさっさと言ってそのままスタジオに戻ってしまう

 

「まじで僕一生アイに勝てる気しない…」

 

そのまま崩れ落ちそうになると

 

「あともう1つ!」

 

「うぁ!?な、何?」

 

「私の事好き?」

 

「はぁ〜僕でも驚くぐらい好きだよ」

 

「んふふ〜♪私も好き」

 

そう言い終わるとさっさと行ってしまう

 

 

その後有馬と共に問題なくリポーターを務めた明智番組では現在重大発表ということになっていて、何やら準備をしている

 

そんな中のんびり有馬と座って待っている

 

 

「重大発表ってなんだろ、先輩なんか聞いてる?」

 

「さぁ?私も知らないわ、たぶんスタジオに居る人しか知らないんじゃない?」

 

「なんかの映画の告知とかですかね?」

 

「そうなんじゃないの」

 

結婚報告とかだったらどうします〜?

あはは〜わざわざこんな所に晒す人居るわけないでしょ〜

 

呑気に雑談していると準備が終わったのかアイが正面に立った状態で

 

「皆さん聞いてください、サインはb〜!」

 

「へぇ〜あいつが今回限りアイドルになるって言うのが企画なんかね〜」

 

「まぁ、ドームにもたった伝説のアイドルだしね、アイさんって」

 

やっぱりアイは凄い…ダンス、笑顔、表現力、歌、どれをとっても1級品

歌う度にキラリと光るなにかに目をつぶればアイのファンである明智も素直に楽しめただろう

 

「あ、あいつ…いやいや…ないだろ…それは無いだろ…先輩…ここからスタジオって近いっけ?」

 

「えぇ?あぁ、確かに近かった気がする、最後にみんな集まって挨拶するから、それがどうかしたの?」

 

冷や汗をタラタラと流して

 

「い、いやいや…いやいやいやいや…ないない…それは無い…流石にそれはありえない…いやいや…ありえないって」

 

「どうしたのよ?さっきから冷や汗ダラダラで凄いことになってるけど?暑いの?中入る?」

 

「いや、別に全然暑くないですよ?まったく」

 

「なんで強がってるのよ」

 

呆れ顔で、早く中入りましょと促されている時

ライブが終わりアイが口を開く

 

「私結婚します!!」

 

あぁ…そういう奴だった、やばいタイミングでやばいことを思いついて、そしてそれを躊躇なく実行に移せる人間だと明智は再度認識…いや、甘い認識を呪い…そして

 

「私、アイは!明智乱歩と結婚します!」

 

キラリと指輪の光る手をしっかりと見せて

なんと現場に繋いでます!と司会がいい

 

本気で驚き、顔をかっぴらいた状態の明智がそこに立っていた

 

「あ、先輩〜」

 

呑気に画面越しの明智に手を振るアイ

 

「お、お前…お前さぁ!?何言ってんの!?何言っちゃってんの!?」

 

「だってどうせ適当なこと言って逃げるんだからさ〜」

 

「適当って言うなよ!結構重要だから!だいぶ重いから!」

 

もう言っちゃったも〜ん♪

悪びれることなくケラケラ笑って

 

「というかあれだろ!?お前、全部これのための前フリだろ?狙ってたろ?なぁ?」

 

「えぇ〜最初はそんなつもり無かったけど、まだ先輩が私に対して堕ちてるって自覚足りないな〜って思って、気付いたら勢いで言っちゃった♪」

 

「言っちゃったじゃないから!マジで!!あぁ〜もぉ!!」

 

まだまだ言いたいことはある、言い足りないこともある

 

「はーい証拠映像こちらでーす♪」

 

控え室でしていた会話、そして顔を真っ赤にしながら崩れ落ちる明智が映し出され…

指輪を嵌める所もしっかりと4kでバッチリ高画質で映っている

 

「おっ…ぼえてろぉ…」

 

「えぇ〜先輩私のこと嫌いになっちゃった?」

 

うるうるした瞳で画面越しに見つめられる、

嘘だとわかっている…分かりきっている…

 

「ぐぅぅ…す、好きに決まってるだろ…」

 

「はーいだよね〜♪」

 

 

そのまましゃがみこむ…流石に見兼ねたのかぽんと肩に手を置いて慰める有馬

 

その後放送終了の挨拶の時、明智に抱きつきながら笑顔でピースするアイと、なんだかんだ口元が緩いけど全力で死にそうなアヒルの顔をしている明智が映り幕を閉じた

 

トレンドはしばらくの間

 

アイ結婚

 

明智許さん

 

で埋め尽くされたと言う

 

 

 



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親という生き物

「あっぐぅぅぁぁぁ〜!!!!!」

 

家のソファでバタバタと足を動かしている明智、まるでバタ足でそのままどこか遠くに逃げ出そうとしているのでは無いかと言うほどの勢いで足を動かし、周りの冷たい目など気にしない様子

そして当たり前のようにアイの家に帰宅している当たりしっかり調教の成果が出てしまっているということさえ、今の天才では気付くことも出来ない

 

「僕は絶対に悪くない気がしてきた…」

 

「なんというか…おめでとう」

 

アクアにポンっと背中を叩かれる

 

「まぁ、一応の対策はしたけどな?」

 

「対策?」

 

そういうとスマホを出してアクアに見せる

 

「ほれみろ、今世間の動きは結婚じゃなくて婚約って感じにしてる、僕はまだ負けてない」

 

なぜか勝ち負けの話になり始める明智を冷たい目で見るルビィは

 

「もう負けてない?だってママ言ってたよ?本気で嫌がってないから、ただのツンデレにしか見えないって」

 

「ぁぅぐぅ…」

 

「明智がとっとと腹括らないからこうなったと言うべきだな」

 

「僕が悪いのこれ!?」

 

「ふんふ〜♪ご飯できたよ〜」

 

「「「はーい」」」

 

当たり前のように定位置につきご飯を食べる、いつも通りの日常、日…常…?

 

「そういえば…僕今週自分の家に帰った記憶が無い…」

 

「えぇ?先輩の家はここだよ?」

 

「いやいやいやいや、え…嘘…まじ記憶ない…一人暮らしだったはずなのに…いつの間に…」

 

そう言いながら炊飯器に向かってしっかりおかわりし始める

 

「なんというか明智が居るのが普通になってきたな」

 

「うん、前なんて普通に洗濯物回収してたからね」

 

そう、明智は否定しているがアイの目論見通りしっかりとこの家自体に馴染み始めてしまっている

 

みんなが食べ終われば

 

「おら、食器を僕によこせ洗う」

 

朝には

 

「洗濯物締め切るぞ〜」

 

風呂掃除、トイレ掃除

 

「一番風呂は頂くからな」

 

思い出せば思い出すほど、明智はこの家で過ごした時間が普通に一人暮らしの家より長くなっていることを実感してしまう

 

「なんか…凄い馴染んでる、馴染み方が異常だよ僕…」

 

「えぇ?そんなことないと思うけどなぁ?」

 

嘘である、しっかりと狙った結果である

明智はなんだかんだ面倒見がいい男、マルチタレントとして活動しているアイが家事も両立させるとなると時間が圧倒的に足りない、それを同じく俳優として活動している明智はしっかりと把握、そしてご飯を作って貰っているのはシンプルにありがたいので必然的に手伝うようになり…気付いたらすっかりおなじみになってしまった

そしてそれら全てを分かっていて誘導したのが

アイという人間である

 

やることが終わりのんびりした時間、ベランダでタバコを吸っていると

 

「考え事?」

 

「ん〜?まあな」

 

煙を口に含んで、少し横にずれる…そこに当たり前のようにたって一緒に外を眺める

 

「お前のせいで僕の考えがひとつダメになったからどうしようかな〜ってさ」

 

「考え?あぁ、先輩はまだ死にたがりなのかな?」

 

「かっこよく死にたかったのに、今死んだらかっこ悪いだろうが」

 

「嫌だったらしないでいいよ?」

 

そう言いながら真剣な顔で見つめる

 

「嫌だったらそもそもお前と関わってない、分かってて言ってるだろ」

 

「バレた〜?」

 

ニコッと笑って明智に寄りかかり、匂い移るぞ、と言ってもどかないのでそのまま放置して

 

「でもまぁ、あいつは救うぞ」

 

「先輩って本当に損するよね」

 

「損って…ただ僕は運が良かっただけ、あいつにはそれがなかっただけ…ただそれだけだよ」

 

「またひとりで全部抱えて解決しちゃうの?」

 

煙草を灰皿に押し付けて

 

「そういうこと」

 

「もし私があっちいっちゃったらどうするの?」

 

「まぁ…お前がそれでいいなら」

 

そうやってまた、自分より人を優先する…いつもいつだって自分の考えじゃなくて人の考えを第一に考えて…自分の意見を押し殺す、あぁ、そういう所も好きだけど…きら…

 

「でも…まぁ…その、あれだ…やめて欲しいけどな?」

 

「え?」

 

「だから…もしそうなりそうなら…僕は止める…僕の所に居ろって…言ってお前を引き止める…」

 

そう言われて、しばらく何を言われているのか理解できなかったが、理解出来た瞬間に…にっまぁぁ〜と笑みを浮かべて

 

「えぇ〜先輩〜私の事好きすぎ〜」

 

「うるっっさ、マジでうるさい、本気でうるさいわこいつ」

 

ぁ〜うるさいうるさい、と言いながらベランダからとっとと退散する

 

「ん?」

 

スマホが振動する、誰かからメッセージが飛んできた

中身を確認すると

 

「うっわぁ…」

 

顔を顰めて仕方なく返信

 

「誰から〜?」

 

「父親だよ、あの野郎テレビ見てやがったな」

 

「そういえば先輩の家族にまだ挨拶してないや」

 

「挨拶〜?そんなの別にいいだろ」

 

「いやいや、ちゃんと先輩のこと貰いますって言わなきゃ」

 

「はぁ〜」

 

そして数日後

 

気品漂うレストランで正装をした明智は向かい合う

 

「久しぶりだな」

 

「どんだけテンション上げてんだよ、わざわざドレスコード必要な店予約しやがって」

 

文句タラタラ早速襟を緩めて座る

 

「恋愛なんて時間の無駄だ、なんて斜に構えてた息子がまさか結婚することになるなんて思わなかったからな」

 

「いつの話だよ、それたしか中学のときだろ?」

 

「いや、お前は大学に入っても言っていたぞ」

 

「忘れたね」

 

「お前の記憶力で忘れたは無理があるだろ」

 

溜息をつきながらグラスに注がれた酒を1口飲む

 

「それで?わざわざなんの用だよ?」

 

「息子に会うのに理由がいるか?」

 

「はぁ〜はいはい」

 

父親は明智にとって苦手な人間の1人だ、本来人目見ただけで全てを見透かすことの出来る明智は父親と母親この2人の中身だけは何をどうしても見ることが出来ない、それがなぜなのかについて理解している…だから尚更苦手なのだ

 

「それで式は何時にするんだ?学生のうちに結婚するのか?」

 

「はぁ?式?ぁ〜しないんじゃないか?あと卒業してからだよ、するならな」

 

「そういうのはきっちり決めておかないと後で文句を言われるぞ、結婚してから記念日の度にどうこう言われるぞ」

 

「警視総監様も嫁には勝てないのかよ」

 

そう言われると鼻を鳴らして

 

「当たり前だろう、部下を何人従えようと家に帰れば嫁相手に頭が上がらない、古より決まった世界だ」

 

「結婚ねぇ〜僕には現実味が無さすぎてなんともって感じだよ」

 

「まだ気にしているのか?」

 

あれはお前が悪くないと何度も言ったろう

運ばれた料理を慣れた手つきで口に運びながら

 

「気にしてるんじゃねぇよ、あれは僕の罪だ…僕のせいで母と妹と弟は死んだ」

 

「まったく…お前はあいつが心配で電話を掛けただけだ、そしてその電話を取った瞬間に信号を無視した車が轢いた、それだけだ」

 

ミスがあるとしたら、と言葉を続ける

 

「足で通える距離なのだから、その言葉を信じて送り迎えをしなかった私と、そもそもの話信号を無視した運転手の過失だ、あの時のお前に落ち度は無い」

 

「あるんだよ、僕は天才でありとあらゆることを正しい方向に持っていくことの出来る、どんな人間と戦っても必ず勝つ性能を持ってる」

 

どんなものでも僕は予想できるし的中できる、それなのに外した、そもそも遅すぎた

 

「お前は似ている、目元があいつそっくりだ」

 

「今顔の造形の話してなかったろうが!」

 

本当に苦手だ、気付いたら素っ頓狂な所に会話が流れていくし、キャッチボールをしようと優しいボールを投げてみても突然スライダーを投げてきて話がぐちゃぐちゃにこんがらがる

 

 

「そういえばどんな子なんだ?確か元アイドルで今はマルチタレントだったかな?お前みたいなめんどくさい奴にはああいうガンガン責めてくれる子が1番だと思っていたからな、孫の顔を早く見れそうで安心するよ」

 

「はぁ?流石に気が早すぎるだろ、まだ結婚すらしてないんだけど?あと孫っぽい顔なら見れると思うぞ?」

 

「何言ってるんだ?若いんだからやる事やってるんだろ、私は早く孫の顔が見たくてうずうずしてるんだよ、孫っぽいとはなんだ?」

 

「50過ぎたおっさんのウキウキはどうでもいいわ、あぁ、一応連れ子居るし」

 

「連れ子…??」

 

どんなことにも冷静に対応する父親の顔が困惑するのを見て少し気を良くする

 

「あぁ、確かあいつが16の時に産んだ子らしいぞ」

 

「さ、最近の若い子怖…」

 

お、お前はそれでいいのか?そう質問して、何とか冷静さを取り戻そうとワインを1口飲む

 

「あいつと関わるのに別になんの障害にもなんないだろ、僕は気にしてないよ」

 

「そうではなくてな…」

 

「?なんだよ?」

 

普段であったら相手が何を考えてるのか理解し先に答えを提示できる、でも明智は目の前の父親という生命体に対してはそれが出来ないので、のんびりゆっくりとした会話をしなければならない

 

「もう私はおじいさんになってしまったのか…ど、どんな顔をして会えばいいと思う?やっぱり怖いかな?」

 

「知らんがな、まだ5歳とかだから気にすんなよ、2人とも人懐っこいし」

 

「写真とかあるのか?」

 

「あぁ、確か前写真送ってきたような」

 

そう言ってスマホの写真をスクロールしていき、3人で幼稚園の看板の前で撮った写真を渡す

 

「おぉ、可愛いな…2人とも母親にそっくりだ」

 

「右がアクアマリン、左がルビィだ」

 

「突然宝石の名前を出してどうしたんだ?」

 

「ちげぇよ、今の会話の流れで察せよ、その2人の名前だよ」

 

2、3回明智の顔を写真を見比べて

 

「最近の子の感性はわからん…」

 

「それに関しては僕も同意する」

 

そんな他愛もない会話を繰り返す、本当に苦手だ…いくら頭を回転させてもなぜか目の前の人間は父親という情報と+の感情しかキャッチできない、父親と話している時の明智は天才でも、超人でも、化け物でもなく

ただの人間として会話している

そう思わされてしまうから…

本当に…苦手だ…

 

そんな会話を繰り返していたら時間はあっという間にすぎて

 

「今度都合が良い時に顔を見せに来なさい」

 

「まぁ、都合があったらな」

 

「なるべく早めにだぞ?やはり早く会っておいた方が甘えられる確率が上がる」

 

「分かったよ、一応話してみる」

 

「またな乱歩、身体に気をつけるんだぞ」

 

「そっちもな、親父」

 

そう言って別れる、特段いつもと変わらない、たまに会っては食事をして他愛ない会話をする…それだけ…ただそれだけの話

 

 

「ということで私結婚することになりました」

 

ビシッと宣言するアイ、青筋を浮かべながら何か言いたそうにする斎藤

 

「というわけじゃねーよ!!やるんだったらせめて事前にいえ!というかそもそもやんな!!」

 

「えぇ〜だってああやっておかないと先輩なんだかんだ言って逃げちゃうもん」

 

「あのなぁ…まぁ、俺としても明智に恩を感じてるぞ?あの時お前を助けたのは明智だ、それに…普段の仕事も的確でミスもないしそもそもスピードが早すぎるしな、ウチに居てもらわないと困る人材だよ」

 

そう言いながらため息をついて頭を搔いて

 

「別にそんな理由じゃないでーす」

 

「そんなもんは知ってるよ、あの時からだ、お前から本当の笑顔が減ったのは」

 

「何それ、何時の話か分かりませーん」

 

「あの時お前ら2人は二度と会わないような気がしてた…でもあいつは離れられなくて戻ってきた、それでお前もお前であいつのおかげで今楽しそうにしてる」

 

だから…まぁ…えぇーと、言いずらそうに頭をかいて、そして

 

「幸せになれよ、お前のわがままも無茶苦茶も全部受け止めれる男なんてそうそう居ねぇからなクソアイドル」

 

「うん…ありがと…」

 

ボソッと最後の方に何かを呟いたアイに

 

「なんか言ったか?」

 

「べっつになんも言ってないよ〜!!」

 

嬉しそうな笑顔で笑うアイとなんのことか分かってない斎藤

 

「ほら、先輩来たらパッ〜とやるんだから早くしよ!斎藤さん!」

 

「だから俺は斎…え?」

 

ちょ、おい、アイ!?今俺の事なんて呼んだ!?おい!アイ!おいって!!

 

 



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この時間が永遠に

 

あれから少しして先輩は変わった、変わったと言うより私の調教の成果が出てきたのではないかと思い始めてきている

例えば

 

「先輩最近爪伸びてきたね〜そろそろ切らないと」

 

「えぇ?あぁ、最近爪噛む癖なんか無くなったんだよな」

 

「へぇ〜でも長いとかけちゃったりして大変だよ?切らないと」

 

「お母さんかよ、爪切っといて」

 

僕今本読んでるから

 

そう言って差し出してくる

なんというかもう…ギャップがすごい…爪ぐらい自分で切りなよ〜なんて言いつつしっかりと爪を切って磨いてきちんと形を整える

 

その間先輩はずっと本を読んでてたまにちらっと目線を向けてくる、指を触る度に少し身体が震えてくすぐったそうにしてるのが最高にキュートでたまらないよね

 

「はい、終わったよ?」

 

「おぉ〜随分綺麗に仕上げてきたな、ありがと」

 

「じゃあ私のもやって?」

 

「えぇ、お前ネイリストにやって貰ってるじゃん」

 

いいから〜と言うとため息ついて面倒くさそうに、でもなんだかんだやってくれる

基本的に先輩は嫌がるフリをする、もし嫌だな〜て時でもだいたい私の言うことは聞いてくれるからツンデレ以外の何者にも見えなくてこれもまた可愛い

 

「はいはい、お嬢様爪のお手入れのお時間ですよ〜」

 

「苦しゅうない」

 

どっちかって言うと王様だなそれ

そう言って私の手に触れてくる、最初爪を削る前の確認?と思ったけどおかしい、手の甲を優しく撫でて、指の間、関節、手のひらを優しくすりすり…って触ってくる

しかも顔が凄い…なんというか愛おしさ全開みたいな顔で見てくるのはやめて欲しい…

私の視線に気付かないぐらい私の手に触るのに夢中になってるってことでしょ?

それは卑怯だよ…本当にあざとすぎる

 

「手、綺麗だな」

 

「ま、まぁちゃんと手入れは欠かしてないからね」

 

「ふ〜ん」

 

「ちょ…くすぐったいよ」

 

ちょっと意地悪に笑って手のひらを指でゆっくり優しく撫でるのをやめて欲しい…こういう時の先輩はイタズラする子供みたいで可愛い

バレてないよね?今私顔真っ赤だよ?心臓の鼓動が早くなるのが自分でもわかるぐらいに高鳴ってる

 

「えぇ?何が?くすぐったつもりないんだけど?爪を切る前の確認だからきちんとしとかないとな」

 

「こ、これの…っ…どこが…んっ…確認なのかなぁ?」

 

ぁ〜ずるいって…ずるいよ、私の顔見た時のあのわっるい顔、先輩が私のことをからかう時はいつもこういう顔する、どんな人間に対してはも基本的に優しくてすぐに気づいてその人が望むことをして、どーせ色んな子を垂らしこんでる先輩が

嫌がってる…まぁ、嫌では無いけどね?

私の反応見て楽しんでいじめてくる…その時にたまに見せてくれる顔がずるい

 

私だけに向けられてる感じがして特別扱いされてるって感じちゃうよ

 

「よし、とりあえずこんな感じでいいか?長めで形整えるだけにしといたぞ」

 

「ありがと〜ぉ〜先輩を私専用のネイリストにしても問題ないね」

 

「それはありがたく辞退させていただきますねっと」

 

そのままソファに座って本を読み始める

ぁーぁ隣にこんなに可愛いお嫁さんが居るのに本ですよ本、本当にこの人は本の虫

家に行った時も本棚の中からはみ出すくらいの本ですよ

可愛い可愛い彼女より本が大事ですか〜

なんて不貞腐れて

 

「先輩枕入ります?」

 

「ん?まぁ欲しいけど」

 

「じゃあどーぞ?」

そうやってふざけてみる、前の先輩だったら何言ってんだ?やるわけねぇだろとか言ってくる

今回もとりあえずかまって欲しくて先輩をいじって楽しもうって思ってたのに

 

「動くなよ?」

 

「ぇ?ぁ…」

 

よっとそういう声とともにずっと太ももに頭を乗っけて呑気にページを捲り始める

本当に…いや…あざといって、あざといよ先輩…前までここまで素直に甘えてくれなかったじゃん!

いくら私の調…信頼の結果だからってちょっと…これはもう結婚だよね?

 

先輩まつ毛長いな〜髪の毛ちょっと伸びてきた?眼鏡いい加減買わないのかな?

目付き悪いけど眼鏡のせいかな?

コンタクトにした方がいい気が

ぁ〜でも眼鏡姿の先輩もかっこいいしなぁ

 

のんびり呑気にページをめくる先輩の顔をじっと眺めて、たまにおでこにかかった髪の毛を指で優しく払うように撫でるとくすぐったそうに目を細めるのが猫っぽくて可愛い

 

「なんかすごい視線感じるんだけど」

 

「気のせいじゃないかな?いいから先輩は読書に集中しなきゃ」

 

ジトッとした目でこっちの顔を見てくる、恐らくそこまでちゃんと見てなかったからバレてないと思うけど今頬が赤くて心臓の音がトクン…トクン…って早くなってる

なんというか幸せだ

ただの些細な日常で、なんてことの無い日のはずなのに

私は嘘をと本当の区別もつかないはずだったのに、この人に対する思いだけは本当ってどうしようもなく理解させられてしまう

 

「いや、そんな顔真っ赤にした状態で言われてもあんまり説得力がないですよ?アイさん」

 

「そういうことは気づいても口に出さないのができる男って感じがするかな!」

 

わざわざ口に出して報告してくるデリカシーのない先輩のおでこに軽くデコピン入れちゃえ

いてッ!じゃないよまったく…はぁ〜まぁこういうところで私は先輩に興味を持ったから良いんだけどさぁ…他の子にもやってるんでしょ?その人の隠したい事とか、悩み事とか全部見通して、暴いてどうにかしちゃう…

はぁ〜これからも先輩から目が離せないなさそう、ちょっとでも目を離した隙に〜とか…

 

「先輩?どうした…」

 

突然先輩が私の頭を優しく掴んで、そうかと思うと強引に引き寄せて…突然キスをしてきた

突然何を?なんで今?ぇ?今事務所人居た気が

唇ちょっとカサカサ

そんな考えが一瞬で浮かんでは消えて

長めにされた口付けは一瞬みたいに感じて…

 

「な、何…突然どうしたの?」

 

「いやなんか、可愛かったから」

 

「〜〜〜〜ッっ!!!!」

 

「いっでぇ!?」

 

おでこを強めに弾いて顔を手で覆う、いや…これはずるい…私が不安になった瞬間にこういうことしてすぐ大丈夫だよって、心配ないよって行動で示してきて…私をまたダメにする…卑怯者って言うレベルじゃない…なんで先輩はいつもこうずるいの?

はぁ〜すき…

 

先輩は本当に心配になるぐらい警戒心って言うものがないんじゃないかと思い始めてきて大変困る

この前だって私が事務所に行ったら何故か昼寝してる先輩に遭遇して、色々イタズラしたりしたけどまったく起きる気配ないんだよ?なんで鼻つままれたりデコピンされたり…そ、その…ほっぺにキスしたりとかされてるのにまったく無反応なの?野生動物が飼い慣らされた姿ってああいうことを言うのかな?

 

「先輩は警戒心が無くなってきてるよね」

 

「はぁ?何言ってるんだ?」

 

「だってさ、昔の先輩って人を寄せ付けない感じがあったけど、今の先輩にはそういう所が全くなくて、むしろ人を寄せ付けてる」

 

昔は憧れだけど近寄り難いってイメージで通してたはずなのに、いつの間にか周りに対して気を配って優しくして、みんなに好かれる先輩になってしまっている

それがほんのちょっぴり、ちょっぴりだけ許せないのも無理はないと思う

 

「昔の僕は…まぁ…その…色々荒れてたから…今はそうでも無いけど」

 

「今はもう荒れてないの?」

 

「まぁな誰かさんのおかげで」

 

へぇ…その誰かさんって誰だろう?先輩は過去の出来事があって荒れて、それを救ってくれた人が居たってこと?私は先輩に救われてなのに私は先輩のこと救えなくて…

 

「へぇ〜もしかしてそれって私かな?」

 

なんて冗談っぽく言ってみたり、これで違うって言われたらちょっぴり悲しいのと、お腹の中に黒くて濁った物が溜まっちゃうから先輩に八つ当たりしちゃお…

 

って思ってたのに

 

「お前以外に誰がいるんだよ…ばーか」

 

そっぽ向いて目線が合わない、それでも頬が軽く染っていて恥ずかしがってることはわかって…あぁ…もぉ…

 

「先輩あざとい」

 

「はぁ?僕のどの辺があざといか言ってみろ」

 

「もうなんと言うか…存在?」

 

「ゆるキャラみたいな存在感いらなすぎる、返品したい」

 

そうやって恥ずかしいから誤魔化していつも通りの空気に戻しちゃう、先輩はこうやっていっつも逃げて私が追って逃がさないようにしないとす〜ぐ甘い雰囲気壊しちゃうんだよねぇ

 

「そういえば先輩からも言って欲しいな」

 

「何を?」

 

「プロポーズ」

 

「はぁ?お前からされたから良いんじゃないの?」

 

「本当に女心が分かってないよね、好きな人に貴方と人生を一緒に生きたいって言われたくない女の子なんて居ないんだよ?」

 

「それなら…もう随分前に言った気がするけど」

 

「先輩って理屈っぽく言い回すから分かりません〜、ちゃんと分かりやすくはっきり伝えてくれないとダメ」

 

ため息ついて、目を逸らして顔を赤らめて何かを言おうとしてでも途中でやめて…それを膝枕してる状態で見てるからその悶えてる感じが全部丸見えで、あれ?先輩ってこんなに表情隠すの下手くそだっけ?

って思っちゃうぐらいには表情がコロコロ変わって正直見てて面白い

 

「アイ…あ、あの…その…な?、え……えっと」

 

「う…うん…」

 

正直生放送中に言えたのは久しぶりにアイドルとして皆の前にたって、テンション上がって思わず言っちゃったみたいな所がある、

テンションに身を任せて勢いで何とかなれ〜

って思いながら言っちゃったけど…こうやってまじかで、ゆっくり真剣に今からプロポーズされるって意識しながら待つのは物凄い緊張する

あれ?普段私の可愛い顔ってどうやって作ってたっけ?

どの角度が可愛く映るんだっけ?

でも目線は外せない、じっと上から目つきの悪い顔をじっと見つめて…ただその言葉を待ち続ける

 

 

「ただいま〜!!」

 

大きな声にびっくりした先輩が私のおでこに思いっきり頭突きをしてきてめちゃくちゃ痛い…

そのままソファから落っこちておでこをさすってる、流石の私も涙目で悶絶しちゃうよ…もぉ〜なんてタイミング

 

「おぉ…おかぇり…」

 

「おかえり…」

 

ミヤコさんとアクアとルビィ、3人とも不思議な顔でおでこを撫でながら悶絶する私たちを見る、けどなんかミヤコさんはため息ついてるからたぶんバレてる気がする…

 

「はぁ〜イチャイチャするのは構いませんけどあんまりよそでやりすぎないでくださいね?」

 

「い、イチャイチャなんてしてませんけど?ちょっとどっちの頭が固いか競争してただけですから」

 

「それはそれでどういう状況よ」

 

必死に誤魔化そうとすればするほど自体をよりややこしくするって普段の先輩なら簡単に分かりそうなのに、物凄い慌てよう

 

「ママ大丈夫?」

 

「うん、大丈夫だよ、おかえりルビィ」

 

ルビィはよく甘えてきてくれて可愛いなぁ…頭なでなでするぞ〜

でもちょっと残念だなぁ、あと少しで先輩が私にプロポーズしてくれたのに、

 

「ほら、アクアおかえり」

 

「うん、ただいまアイ」

 

アクアは恥ずかしがり屋であんまり来てくれないけど、おいで〜ってすると顔を赤らめながらこっちに来てくれるからこれもこれで可愛い…もぉ〜うちの子きゃわ〜〜〜♡♡

 

「ほぉ…よ〜しバリバリ働いちゃうぞ〜」

 

「自分の仕事終わらせてなかったあなた?」

 

そうやってま〜た逃げる、まぁ別にいいよ先輩?先輩が1歩踏み出してくれたから今の私が居るからさ、私が意気地無しな先輩のために頑張るけど〜

 

たまにはそっちから来て欲しいな〜って思っちゃうぐらいに先輩のこと好きなんだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 



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色物は色物と惹かれ合う

何書こうかな〜って思った時にIFが結構思い浮かぶから軽く書いてみようかな〜と思い始めてる今日この頃です


 

「はぁ〜お疲れ様でーす」

 

いつも通り事務所に顔を出した明智、普段と違って言葉がへなへなしていて、猫背のまま入室する

 

「おつかれ、どうしたのよ?うわ…そのダンボール箱は何?」

 

ダンボール箱を抱えながら入ってきた明智を見てまた面倒事かと顔を歪ませるミヤコ

 

「いやいや、僕もなんでこうなったか分からないんですけどね?」

 

話は少し遡る

 

大学内で退屈な授業を受けて適当に本を読みながら過ごしていると

 

「お前モテモテだな」

 

「はぁ?何言ってんの突然」

 

隣の友達が小声で話しかけてくる

 

「お前がアイに結婚報告された時はめちゃイラッとして正直殺そうかと思ったけど」

 

「おいおい、物騒なことを言うのやめなさい、それで?モテモテってどういうこと?」

 

「まぁ、前々からお前はこの学校で有名だったんだけどな?なぜか今回の件で火がついて、ほれ」

 

一枚の紙を渡される、それは可愛らしいデザインの手紙で差出人の名前は書いてなかったが

 

「ラブレター?誰に対して?」

 

「お前だよ、お前」

 

「えぇ…」

 

話をよく聞くとどうやら所属しているサークルにも大量のラブレターが送られているらしく

 

「いやいや、なんで?普通に考えてまぁ…まだわからんけど結婚騒ぎが起こって爆発ってどういうこと?」

 

「まぁ、俺もよく分からないけどだいぶ溜まってるって言ってたから今度回収しに行ってやれよ?」

 

「うわぁ〜」

 

手紙をまじまじと観察して、ため息をついて

 

そして今に至る

 

「はぁ…まぁ貴方は今や雑誌の表紙を飾れるぐらいの有名俳優、そして元ドームにたったアイドルとの熱愛、女としてはそんな男の隣を歩けたらステータスup確定よ」

 

嫌なことを言いながら手紙の山をちらっとみて

 

「それでどうするのよ?その手紙の山、というかなんで手紙?」

 

「ぁ〜基本的に信用できる人間としか交換してませんし、直接告白されても断ります、そもそも大学に通うの自体稀ですしね」

 

まぁ〜貰い物なので一応中身は確認しますよ?礼儀なので、そう言って手紙を分け始める明智

 

「それをここで当たり前のように確認するのもだいぶ勇気あるわね貴方」

 

「えぇ?そうですか?」

 

手紙を一枚確認するとうわぁ…と顔を歪ませながら

そうやって一枚一枚確認作業をしていると

ルビィとアクアが帰ってくる

 

「ただいま〜何この手紙の山」

 

「これ?今どき珍しくラブレターですよルビィさん」

 

「うっわぁ…流石明智粉をまくのに余念が無いね」

 

「流石とか今言われても嬉しくないなぁ…まぁ」

 

「モテモテだな」

 

茶化すようにアクアが言うと、ペラっと一枚の紙を渡して

 

「そうだよ?まぁ、素直にモテてるなら僕としても嬉しいんだけどね」

 

「?…う、うわぁ…」

 

「なになに?こわ…」

 

渡された手紙の内容を確認すると苦虫をかみ潰したような顔で、後ろから確認したルビィもドン引きしている

手紙の内容はこうだ

 

私のことを覚えてますでしょうか?貴方に以前体調が悪い時介抱して頂いたものです、その時に感じました、私とあなたは運命なのだと…私は貴方に対して赤い糸で結ばれています!なのに貴方は結婚すると言われています…嘘…ですよね?私とあなたは既に結ばれている…それなのに…いえ、大丈夫、私だけが貴方をわかってあげれます…ね?ね?

 

愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる

 

 

「ひゃァァァ!!!!??」

 

終わりまで事細かにびっしりと綴られたラブコールに思わず悲鳴をあげてたたき落とすルビィ

 

「な、なんで?もしかしてこの手紙の中って」

 

「おそらくほぼこういうのだろうな…なんか、大学外からも集まったらしくてな?怖いよ…シンプルに恐怖なんだけど?ホラー苦手なんだけど?」

 

ガタガタ震えながら手紙を拾ってきちんとしまう

 

「なんというか…明智の通ってる大学って個性的だな?」

 

「いや…普通だと思うよ、というかこれ絶対外から来たやつだからね?こっわぁ…まじ怖い本気で怖いシンプルに恐怖」

 

そうやって戦慄しているとひょっこりアイが現れて

 

「何してるの〜?うわ、すごい手紙の数、ファンレター?」

 

「ラブレター」

 

「……へぇ…」

 

部屋の温度が少し下がったような気がするが明智がアイに手紙を渡すと

 

「こ、個性的だね!」

 

「まぁな!なんでだろう?僕って色物に当たる確率高い気がする、アイを筆頭にして」

 

「誰が色物かな〜?」

 

「勢いで爆弾発言かますようなやつは色物でも足りないだろ」

 

はぁ〜と言いながらも何とか手紙一枚一枚をしっかりと確認する

 

「人のこと色物扱いは…この相談を聞いてくれて嬉しかったですってなに?」

 

試しに1枚開いて中身を確認したのがそれを見せながら尋ねて

 

「あぁ、彼氏が浮気しててどうすれば〜って言ってたから、浮気の証拠叩きつけて学校内の評価終わらせたやつだな」

 

懐かしいなぁ…見ててこっちが胸糞悪かったからむちゃくちゃにしてやったよ

そう語りながら懐かしそうに手紙を受け取って

 

「へぇ〜じゃあこの勉強を教えてくれたおかげで大学に入れたって書いてるのは?」

 

「あぁ〜大学に通ってる友達の妹さんに勉強教えてさ、そのおかげで入れたって言ってたけど…まぁ本人の頑張りでしょ」

 

「へぇ…」

 

 

手紙の中は色物が多い、が…けれど確実に本気の感情が見え隠れしているのにしっかりと気づいて…また部屋の温度がだんだん下がっていいく

 

「ねぇ…先輩?」

 

「?何?」

 

「先輩ってなんでこう人の悩みの種にぶつかってダイレクトアタックしちゃうの?」

 

「攻撃はしてねぇよ、ただ僕の場合見えちゃうからまぁほっとくのもあれだしいいかな〜と思って何となく」

 

「その何となくで何人垂らしこんで来たのかなぁ?」

 

「垂らしって言うのやめない?シンプルにお礼の手紙とか…ぁ…」

 

そう言って取り出した一枚をただお礼したいだけっと言おうとして女物上品な香水の匂いがしたため止めて

 

「へぇ?これって割と高いやつかなぁ?こんな匂い付けた手紙出して食事に誘うのがただのお礼?ふ〜〜ん」

 

じっとりとした目で見られて…正直明智は手紙の内容の殆どはガチすぎて怖いやつか、色物…この二択だと思っていた、こんなふうに淡い恋心や、虎視眈々と狙ってくる手紙が紛れているとは思わなかった

 

「いやぁ…」

 

「前から言おうと思ってたけど先輩って誰彼構わず基本甘いよね?」

 

「そんなことないと思うけど?お、ほらこれなんて見てみろよ、子供だぞ?」

 

小さい子が好みそうな装飾を見つけて弁明するかのように手紙の中身を読み始めると

 

「将来結婚してください、だってぇ〜へぇ〜良かったねぇ?モテモテだねぇ?」

 

「いやぁ、あれだって…うん、子供ってほら年上とかに憧れ抱いちゃう感じじゃん?」

 

「ふ〜〜〜ん」

 

頬を膨らませて見つめてくる、明らかに演技…その演技を見抜けない明智ではない、が…見抜けるからなんだ、という話である

 

「あ、喜べ明智」

 

無言で手紙を漁っていたのか何かを見つけてそれを差し出す

 

「ん?へぇ…ほぉ…え、えぇ…僕って…モテるのか…」

 

「そうだよ、先輩はそういう自覚を…」

 

その手紙をよく見てみると、筆跡は力強く

短く丁寧な言葉使い、そして最後の名前の欄を見ると

 

「ゥ…うそぉ…僕ってそういう需要もあるの…?」

 

「なんか…あれだな、前半裸で表紙になってたの、あれを見て惚れたらしい、だから真剣にお付き合いかダメでも1度デートをしたいらしいぞ」

 

「確かにあの先輩はちょっとダメだよね、あれをするんだったらしっかり私の許可をとって欲しかった」

 

「許可ってなに?なんでお前に許可が必要なの?」

 

以前半裸で撮影した明智が相当バズったのかなんなのか、明智を表紙にするという謎のブームが巻き起こり、現在コンビニの雑誌の表紙は毎月必ず明智がどこかに潜んでいる

 

「特にこの両手を拘束されてる感じのは非常にダメだよね、なんでこんなの撮っちゃうの?私以外に見せちゃダメな顔してるよね?」

 

「別に誰かに見せる用事はないけど…なんかちょっとずつ過激になってるのは、うん…撮影する時のカメラマンは確実に向こうの人だよ」

 

その瞬間アイは明智に駆け寄って肩を掴んで揺すり始める

 

「せ、、先輩!!ダメだよ?まだ他の子に負けるのはいいの!でも、男子に負けちゃったら私どうすればいいの!?まだ性別が同じなら何とかなるけど、性別が違う場合はどうすれば!」

 

「や、やめろ!落ち着け!?僕は他人の趣味嗜好を否定する気は無いけど女性が好きだから…!!揺らすな!バカ!!」

 

そうやってアイが明智を揺すってる時にルビィも興味が湧いたのか手紙を漁り始めて

 

「ん〜?これ読めない」

 

「何見てるんだルビィ、うわぁ達筆な字だな」

 

うねうねとミミズが這ったような字で書かれており、手紙自体も和を思わせるようなデザインで、明智がそのまま受け取ると

 

「うわぁ…和紙…めちゃくちゃいい所の紙使ってるなこれ、ぇ〜となになに?簡潔にまとめると、結婚相手に家の孫はどうですか?現在孫は5歳、色っぽい美人に育つこと間違いなし…」

 

「お、お見合い先輩がお見合いに誘われてる」

 

まさかの交際をすっ飛ばしたいきなり婚約しませんか?とのお誘いにビビるアイ

 

「怖すぎる!シンプルに怖い…おばあちゃん落ち着いて?だって5歳でしょ?僕もう大人なの!気が早いってレベルじゃないって」

 

「明智ってなんか多種多様だよね」

 

「アイ落ち着いて、もうなんというかここまで来たらちょっと面白いと思いながら見た方がいいかもしれないよ」

 

 

呆れながらもなんだかんだちょっと楽しくなってきてる兄妹

 

「なんでこんなにバラエティーに富んでるの?」

 

「僕が聞きたいよ」

 

「というかこのおばあちゃんとはどういう知り合いなんだよ」

 

「えっーと確か祖父の殺害を疑われててその疑いを晴らした時のばあちゃんかな?というかなんで送ってきたんだよ」

 

「疑いを晴らす?そんな探偵みたいなことやってたのか?」

 

「ん〜?まぁ父親が警視総監だからコネでなにかと割り込みまくった」

 

「け!?」

 

「お兄ちゃんけいしそうかんって何?」

 

「警察のトップ」

 

「社長?」

 

「まぁその扱いで間違ってないかな?」

 

権力があるってそういうことかよと1人納得するアクア

 

「へぇ〜じゃあ挨拶する時ちゃんと正装した方がいいのかな?」

 

「そんなの気にする人じゃないから大丈夫だよ、最近の若者の感性について来れないおっさんだし」

 

ペラっとまた1枚確認すると五芒星が印刷された紙が出てきて…その真ん中に名称不明の毛が貼り付けられている

 

「ギャァァ!!!?」

 

思わず離してそれを拾おうとするルビィを慌てて止めて

 

「や、やめろそれは拾っちゃだめだ、ピュアで居てくれ、まだ世間の怖さをこんな形で認識しなくていいから!」

 

その言葉に?を浮かべるルビィと何が張り付いているのか理解してゾッとするアイとアクア

 

「先輩…悩みがあったら私になんでも言ってね?力になるよ」

 

「明智…その…頑張れ」

 

事態を理解してる2人に優しくされても心に響かず、ただわけも分からずポカンとしているルビィだけが唯一の救いだった

 

ある程度落ち着いて手紙の山を何とか全て片付けて一休みしているとミヤコさんにファンレターも目を通しておいて、と言われてそちらも片付けて

 

「純粋に応援してくれる手紙は嬉しいなぁ…」

 

そういうとシンプルなデザインの青い手紙を見る

 

「有馬先輩と共演した時の演技が凄かったです、ファンになりました…これからも応援します…うん…心が癒される…癒しだなこの子」

 

純粋なファンレター文字の書き方や言葉選びをとっても小学生くらいの子供にファンと言われて悪い気はしない、嬉しそうに笑って、この手紙だけはしっかり保存しておかないと思って

 

「落差がすごい…さっきまで散々酷いラブレターもどきを処理してた僕としては、こういう純粋な子の手紙を受け取れるのは嬉しい」

 

アイの家に帰ってからもタバコを吸いながら手紙の内容をもう一度眺めて

 

「この子ってさっき言ってたけど女の子か?」

 

隣にいるアクアが尋ねる

 

「ん〜?そうだよ、文字の書き方やセリフの使い方が女性的、紙の状態もいいな、先輩のファンだけど僕と共演している所を見てファンになってくれたのかな?」

 

そこそこ裕福な家庭で育ってて心身ともに健康、一直線で純粋、それが仇となってちょっと痛い目にあったり重たい所もあるだろうけどそれがこの子の才能かな?

 

そう独り言のように呟いて

 

「凄いな、手紙だけでそんなことも分かるのか」

 

「まぁね、だからさ実際に会った人間がどういう人なのか理解なんて簡単だよ?いい加減認めれば?認めると言うより、そろそろ僕がルビィに恨まれそうなんだけど」

 

「いや…分かってはいるんだけど、なんというかなかなか言い出しづらくて」

 

そう言ってどうするか悩んでいるアクアを横目でチラッと眺めながら煙を吐き出す

 

「あの子からしたらお世話になった人は既に死んでて、なんなら葬式も終わってる、一応メディアには出てないけど、どーするの?」

 

「ま、まぁ…」

 

「あーあ可哀想だなぁせっかく奇跡的に再会できたのに意気地無し男のせいで感動の再会に時間掛かっちゃう」

 

「前世のことだろ?だからまぁ、俺の事なんて忘れて楽しく暮らしてもらった方がいいような気が」

 

「そういうこと言っちゃう?絶対本人が聞いたらブチギレるってちょっと分かってて言ってない?天然?これが女たらしのテクニックなの?」

 

人聞きの悪いこと言うな!と明智に怒って

 

「いずれ言わなきゃとは思ってるけど、俺は」

 

「2人でなんの話ししてるの?」

 

ガラッと珍しくルビィがベランダに来て、タバコを見ると顔を顰めて

 

「タバコ臭い」

 

「そっちから来たのにそりゃないよルビィ姫」

 

「それで?何の話?」

 

「詳しくはアクアに聞いた方がいいと思うぞ」

 

そうなの?とアクアの方を向いて

 

「何の話?お兄ちゃん?」

 

「ぁ〜えっと…その…な?ルビィ…」

 

ご飯できたよ〜、何かを言おうと決心したアクアに少し身構えたルビィが待っていたら外から来たアイに中断される

 

「アイ今めちゃくちゃいい所だったんだけど?凄い惜しかった、なんでこうベストなタイミングで来ちゃうの?」

 

「えぇ?何?先輩は私のご飯食べたくないってこと?」

 

「いやそれは食べたいわ、食べたいです」

 

ぁーあ惜しかったな〜と煙草の火を消して部屋に入っていく明智、あとから続いて2人も入る

 

「結局なんだったの?お兄ちゃん」

 

「ぁーまた今度話すよ」

 

このタイミングで言ってもな…と思い

 

(やっぱり伝えない方がいいような気もするし、俺のことなんて忘れて新しい人生を楽しんで最高に可愛いアイドルになって欲しいしな)

 

そう考えながら部屋に戻る



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初恋プラトニック

 

ママと明智が結婚した式はそこまで大きい物じゃなくて身内の人間やお世話になってる人を呼んでの結婚式、幸せそうに笑いながら涙を流すママと、普段素直じゃない明智が嬉しそうにただ純粋に笑ってるのが印象に残ったなぁ

私もいつかせんせぇとあんなこと…ま、まぁ?私がアイドルやってちゃんとせんせぇの推しになってからの方がかっこいいと思うし!と、とりあえずもう少し成長してからっていうのが基本だよね!

 

なにか変化があるかと思ったけど特に何も無くて、明智は住んでるのか住んでないのかよく分からないけど、まぁあの感じだとほぼ住んでるような気はする

でも最近アクアの様子がおかしい、よそよそしい?というより妙に私を見る時の表情が柔らかくて暖かい、態度も優しくて私の事いっつも褒めたりしてくれる

シスコンだと思ってたけどまさかここまで?

 

でもたまに明智が眼鏡をアクアに掛けさせるのはやめて欲しい、初めて見た時吾郎せんせぇに見えて顔が真っ赤になって本気で心臓がドキドキしちゃって…しかもその状態で顔を近づけて優しい声で心配してくるんだよ?アクアは乙女心をもう少し学んだ方がいいと思う

あと後ろでニヤニヤ動画を撮影してた明智は後で腰を蹴り上げておいた

 

 

そういえば前に明智に聞いたことがあったっけ

 

「なんで明智って私と友達になってくれたの?」

 

いつかは忘れたけど私が学校帰りにいつの間にか居た明智にそうやって聞いたのをぼんやりと覚えてる

 

「えぇ?前言わなかったか僕?」

 

私とアクアの立場は微妙だ、昔はあんまり気にしてなかったけど少しして考えて私たちは明智の子供じゃない、だからなんで当たり前のように受け入れてくれているのか分からなくて聞いてみたことがある

 

「そうじゃなくて」

 

そう言いずらそうにしてたのをよく覚えてる、こっちを見て少ししてあぁ、と何か納得して切り出して来た

 

「そういうこと?別に僕は気にしないかなぁ、その時僕とあいつは付き合ってたわけでもないし、それに親子っていうのは血が繋がってるからなれる訳でもないし、そもそも僕親って感じじゃないでしょ?だからなれるとしたら友達くらいかな〜と思って」

 

「血が繋がってなきゃ親子じゃないんじゃないの?」

 

「なんの関係があるの?そんなの関係なくない?」

 

そんな顔で言わないで欲しい、当たり前のことのように言わないでよ、そうやって言われちゃうと私が本当は愛されてなかったって自覚して悲しくなる…本当にデリカシーがない

 

「やっぱり私は…」

 

「そこに答えを出したいの?それはきついよ、正直へこんじゃうと思うけど?」

 

「だって…明智が言ったじゃん血が繋がっててもって」

 

「ぁ、言っちゃった」

 

しまったみたいに口を抑えるのやめて、ちょっと面白くてクスって笑っちゃった

人が真剣に話してるのに本当に私の初恋の人と全っぜん違う、眼鏡かけてるところぐらいしか共通点がないよ!まったく!

 

「まぁ、今は僕もアイもそれにアクアも居るからさ、きつくても周りが支えてくれると思うよ」

 

それ以降別に会話はなかったけど、それは少し信じれるって思った…明智は私の前世を多分知ってる、知っててその上で関わってくれてる、ママとアクアは分からないけど…あれ?でもアクアは態度が違う気が…あれはどういうことなんだろう?

ちょっと気になって聞いてみた

 

「あぁ〜あれはあれでめんどくさいこと考えちゃってるパターンだから直球勝負で本人に直接聞いた方がいいよ」

 

どういう意味だろう?よく分からなかったけどとりあえずアクアに直接聞けば良いのかな?

 

でもな〜ぜか答えてくれないんだよねぇ

直球で聞いた時はさりげなく話をそらされるし、頑張って遠回しに聞こうとしても話がこんがらがっちゃって何をしようとしてたのか分からなくなるし、

な、なんならお風呂に突撃した…けど…あの時は本当に私も変なテンションになってたのと、明智に唆されてそのまま突撃しちゃったって言うのもある…あの時は本当に私の責任じゃない、それでそのままテンション上がってママも参戦しちゃって大変なことになったけどそれは置いといて

 

「明智〜アクアの前世ってなんなの?」

 

もうどうやれば良いのか分からなくなってベランダで1人タバコを吸っている明智に聞いたりもして

 

「どーするって言われても、まさかアクアもここまで教えないとは僕自身想像してなかったよ」

 

煙草を口にくわえながら呆れたように言う、というか煙草くさい、なんでこんなものを好き好んで口に含むのか理解できない

 

「明智って私たち二人の前世もう知ってるんだよね?」

 

なんならもう明智から教えて貰えばいいんじゃないかな?って思い始めて聞いてみても

 

「いやぁ、僕から言っても良いけど、こういうのって本人から言うべきことじゃないか?ルビィだって僕がアクアに前世のこと勝手に言うのやだろ?」

 

まぁ…それはやだけどさぁ…こういう時に限って明智って正論パンチしてくるんだよね…

 

「明智正論パンチしてくるからきらーい」

 

「なんで僕って正論言うと嫌われるんだろう?アイにも言われた記憶があるんだけど」

 

まぁもう少しだけ待ってあげれば?あっちにも色々準備があるみたいだしさ

そう言われて納得出来るんだったらもう納得してるし〜

そう思いながらほっぺたを膨らませてると

頬を指でつついて空気を外に押し出される

ちょっと笑ってたのがムカついたから思い切り指に噛み付いてやった

 

ある時事務所で宿題を終わらせてのんびりしてたら眠気に誘われてそのままソファで寝ちゃってた、しばらくして目が覚めてぼんやりしたまま薄目を開けて周りの音を聞いてる時

 

「アクア、頼まれてたやつ…親父に頼んで何とか取っといたよ」

 

「お、悪いな…これはやっぱり持っとかなきゃいけないから助かったよ」

 

そういう会話が聞こえた…明智の父親?確か警察の偉い人で、その人に頼むことってなんだろう?

ぼんやりしたまま薄目を開けて2人の様子を観察してると、なにかピンク色で小さい物を明智が渡してるのが目に入った

 

なんだろうあれ?どこかで見覚えがある気がするんだけどなぁ…

 

まぁいいかぁ…眠い…

 

んぅ…せんせぇ…16になったよ私…結婚…しよ?

 

 

アクアが優しくでもたまに意地悪な、まるで吾郎先生みたいな態度で私に接してくるから正直私の心臓は持たない、おかしいって!顔は全然違うはずなのに笑い方がそっくりだもん!

あとよく分からないのは明智も私に対して優しくなった気がする、あとよく2人でコソコソ話してるけどなんなんだろう?たまに

 

責任とってこいよとか1発も100発も変わらねぇよ

 

出来るわけないだろバカかお前は!!

 

みたいな会話が聞こえてくるのも本当に不思議だ

 

小学校の授業参観の日私とお兄ちゃんは別のクラスだからどうするんだろう?と思っていたら最初はママとミヤコさんが来てくれた、小声で

 

「ルビィかわいい〜!」

 

「流石私の子天才!」

 

って言ってその度にミヤコさんが必死にフォローしてたのが面白かったなぁ、私の推しがキャピキャピしてるの尊すぎてマジ無理しんどい…

 

その後手を振ってアクアの方に行っちゃったのは寂しかったけどその後いつの間にかいたのか明智がニヤニヤしながら手を振っててちょっと殴りたくなった

 

授業が終わって

 

「な、なんでここにいるの!」

 

「いやぁ〜ふたりが居なくなったあと寂しいかなぁ?って気を使ったんだよ?僕めちゃくちゃ偉くない?ちゃんと授業うけてて偉いねぇ〜ルビィ」

 

いつにもましてムカつく顔で褒めてくるのが腹立つ…腹立つけど…ちょっと嬉しかったのは内緒

でもムカッときたのは事実だからほかのママさん達にちやほやされて満更でもなさそうだった明智の様子はきちんとママに報告しておいた

 

いい気味である

 

運動会の日私はアイドルになるため日夜特訓を重ねているのでレースで1着をとれた!

ママに頭をぐちゃぐちゃにされるぐらい撫でられながらすごいすごい!と言われるのは優越感が凄かった…

推しに褒め殺しにされるのっていくら払ったらこんな特典つくの?凄くない?娘最高

アクアは借り物競走でママを連れて走ってた

あとから聞いたら美人って書いてあって正直どうなの?って思ったけどママが嬉しそうにしてたからいいんじゃないかな

 

二人三脚でママとアクアが行っちゃったからどうしようかと思ったら明智が組んでくれた

 

でも僕が組んであげますよルビィ姫って言いながら組むのは腹立ったから2回ぐらい足をわざと踏みながらスタートラインに立ってやった

 

その後両方一着をとってアクアがママに抱きつかれて本気で赤面してたのを見てちょっと笑ったでもなぜか心にチクッと刺さったような気がしたけど気のせいだと思う

 

何となくその事で明智に聞いてみたら

 

「あ、うん…ま、まぁ…そういうこともあるんじゃないの?」

 

って苦笑いしながら言ってたけどなぜか冷や汗ダラダラだったな、変なの

 

毎日が楽しくて仕方がない、前の私だったら考えられないようなことをいっぱいして

経験したこともないようなことをめいっぱい楽しんでこんな毎日が続けばいいのに…

 

 

…信じられない…なんで?どうして?嘘でしょ…せんせぇ…せんせぇ…

 

「ぇ…吾郎せ…さんって…」

 

「はい、吾郎さんは既に亡くなられています、」

 

頭が真っ白になって何も考えられない…前電話で確認した時は行方不明だったのに…遺体が見つかって…それで…正式にお墓の中に遺骨が埋められたって言ってた…

なんで…先生がどうして死ななきゃいけないの?

 

私だ…私が行けないんだ…私は関わって人を全部不幸にしちゃう…なのに今楽しんでるから…他人を不幸にしかできないくせに人生を楽しんで、これからもこんな毎日が続けばいいなって欲張って…こんな私が生まれてしまったから…

 

ダメだ…私がここにいちゃ…

 

「出ていかなきゃ」

 

「出ていくってどこよ?」

 

突然声がして慌てて後ろを振り向いたら、明智が居た…パソコンを見てため息をついて

やっぱいずれこうなるよな、ってそのまま隣に座って…

 

「だって…私が関わった人は全員不幸になるから!せんせぇが死んじゃって…だったらママもアクアも明智も…みんな…死んじゃうかもしれない!」

 

「そんなことにはならないし、吾郎さんが死んだのはお前の責任じゃなくて僕の責任だ」

 

「違う!!」

 

「違わない、僕のせいだ…僕だったら気づけたのに勝手な都合で逃げてそのせいで1人死んでしまった、ただそれだけだ」

 

そうやっていつも自分が悪いって、全部自分で背負って悪くないから安心しろって言うのやめて!私が悪い子だからママは私のことを…愛してくれなかったんでしょ?

私がいい子だったら、もっと…もっと…

 

「だからこうなるから早くしとけって僕は言ったんだよ、ほら、あとは自分でなんとかしてあげろよ王子様」

 

そう言ってどこかに行っちゃった、何を言ってるのか分からなくて涙で見えずらくなったまま見たら、アクアがそこに立ってた…

 

「ルビィ」

 

「やめて、私は悪い子だからそんなふうに近寄らないで!」

 

「近寄るよ、ルビィは悪い子じゃない…いい子だよ、それに俺は君の兄だから」

 

「た、…たまたま一緒になっただけの他人でしょ!」

 

違う!こんなにことが言いたかったわけじゃない!でも今頭がこんがらがってぐちゃぐちゃになってて!自分でも何を言ってるのか分かんなくなって!すぐこれだ…私はすぐ人を傷つける、余裕がなくて…焦ってて、人を不幸にする…それが私

 

「そんなふうに言わないでくれ、あの時辛いはずなのに病室での君は輝いてた」

 

「ぇ…」

 

何言ってるの…?病室?なんでさりなのことを知ってるの?私は1回も入院したことがないのに…なんで病院が出てくるの?

 

「な…何言ってるの…?なんで…今、病室って」

 

「あの時の君はキラキラ輝いてた、俺は君に何も出来ないって思ってたのに君は辛いのに笑って…そんな君だから俺は推したいって思ってたんだ!アイドルになって可愛い服を着てコール貰って、そんな一番星になって欲しいって思ってたんだ!」

 

「せんせ…せんせぇ!!」

 

音が何も聞こえなくてただがむしゃらに抱きついて大きな音がずっと響いてて、喉の痛みでそれが自分から出てる泣き声って言うのにやっと気づいて…こんな奇跡があるなんて思わなくて…泣いて…泣いて…そのまま疲れて眠ってしまうまで…必死に抱きついた

 

せんせは随分前から気づいてて、なんなら明智はだいぶ最初の方から知っててそれを黙ってた明智にムカッときてしばらく無視して…それで仲直りして、でもせんせも分かってたなら早く教えてくれれば良かったのに…

 

せんせ、私きっとママよりすごいアイドルになって輝いてみせるから…その時は約束守ってよね

 

絶対だよ…

 

せんせぇ♡




おっっもぉ…


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湿度が高いと保湿できる

 

 

「あぁーもぉ無理…めんどくさい〜むーり〜なんでこんなことしなきゃなの、おにいちゃん無理ぃ…私無理だよ、絶対的に無理なんだよ〜」

 

机に突っ伏して項垂れるルビィ、小学校の夏休みの宿題のために机に向かったは言いものの、なぜか部屋の掃除をしたり、無駄にカチカチシャー芯を出したりと無駄な動作を繰り返し、気づけば30分は経とうとしている

 

「ルビィ、さっきから無駄なことしかしてないじゃないか、アイドル志望とはいえ一応勉強はしといた方がいいぞ」

 

そう言いながらさっさとやることを終わらせたアクアは本を読みながらソファに座っていた

 

「勉強教えてよぉ…私分かんなぃぃ…」

 

アクアに項垂れてひっつき虫になるルビィ、あの一件以降とりあえず引っ付いてベタベタに甘え始めているため、なんというかその空間だけハートが舞っている状態になる

 

「ルビィ、暑いとりあえず離れてくれ、勉強なら教えるから…近いって、いやまじで近いって」

 

「えぇ〜兄妹ならこれぐらい普通でしょ?ほーら可愛い可愛い妹に構ってぇ〜」

 

頬を合わせてスリスリ匂いを擦り付ける様はまさにマーキング

 

「どう思う?」

 

「いやぁ〜僕はちょっと知らないですね、まぁいいんじゃないですか?美しい兄妹愛って感じで僕感動しちゃう」

 

我関せずの態度を貫いて違うソファで読書をしている明智に2人の様子を見たミヤコが異常事態に気づいて声をかけるが、

知らない一辺倒

 

「いやいやいや!おかしいでしょ!まぁ仲がいいのはいいことだけどさすがにあれはおかしいわよ!何がどうなったらああなるのよ!」

 

「いやぁ〜良いじゃないですか、仲が悪いよりは全然、ルビィ〜お兄ちゃんのこと大好きか〜?」

 

「ん〜?私おにいちゃんのこと大好き〜将来はおにいちゃんのお嫁さんになるんだ♡」

 

そうにっこりと笑いかける様子は、獲物を見つめる捕食者の目で、目の星をキラッキラさせながらしっとりと見つめる。

見つめられるアクアはゾクッっと身体を震わせてSOSと目で語りながら明智の方を見るが

 

「ほら、可愛らしいじゃないですか?小さい頃お父さんのお嫁さんになる〜みたいなもんですよ」

 

「ま、まぁ…それなら別に」

 

時間が解決してくれるでしょ

そう言いながらペラペラとページを捲って読書に戻ってしまう

表面上を見ればまったく動揺しておらず、ミヤコも明智が言うなら問題ないだろうと仕事に戻っていく。

 

そして

 

いやいやいやいや、どうするの!?あれどうするの!?いやぁ?あれだよ?結構な物抱えてるとは思ってたけどさぁ!?軽く押してみたらそれが奈落一直線に落っこちていく大穴だったって誰が気づける?いや…気づいてたし、正直時間の問題だった気はするよ?でも、でもさ?どーするのあれ?僕は知らないよ?絶対知らないから、関係ありませーん僕には無関係デーすそんな弱った子犬みたいな目を向けられても内心ちょっと素直に妹に甘えられて嬉しがってるブラコンのことなんて知りません

 

嘘であるこの男めちゃくちゃに動揺していた、いずれ分かることは早めに片をつけた方がいいと思い押して見たら、それがまさかの返しのついた罠だった、明智自身予想してはいたが思った以上の豹変ぶりにどうする?どうすれば丸く収まる?と考えをめぐらしている

 

「よ〜し2人ともこっち向いて〜」

 

「「?」」

 

パシャとスマホで写真を1枚撮り、角度を変えて何枚か撮影していく

 

「まぁこういうのも思い出だからな」

 

「明智〜可愛く撮ってね?」

 

「……………」

 

死んだ魚のような目でじっと明智を見つめるアクアをガン無視しながら任せろ!なんて言ってある程度撮影して

 

「ルビィ、ちょっとトイレ行くから」

 

「えぇ、まぁいいか…はーい」

 

そのまま明智をじっと見つめ、ため息ひとつ明智も同行し

 

「これどうすればいい!?」

 

必死だった

 

「いや…なんというか、諦めて貰うしかないような気がする」

 

「いやいやいやさすがに駄目だろ!どう考えても駄目だろ!」

 

「うるせーよ責任取ってやれよ」

 

「責任ってなんだ責任って!なんもしてないぞ俺!」

 

「どーせあれだろ?生きる希望与えるために結婚出来る歳になったら考えてやるとか曖昧なこと言ったんだろ?」

 

「ぐぅぅ…」

 

図星だったらしくぐうの音も出ない様子

 

「まぁ、まだ早めの段階に言えたのは幸いだったと思うぞ」

 

「と言うと?」

 

「良いか?恋してるって感情は一時的なもので、脳内が起こす化学反応みたいな話があったと思うんだよ」

 

「脳内の神経伝達物質であるPEAが大量に分泌されるってやつだな」

 

「そうそう、夫婦円満に続いていくのは凄いことだけど、やっぱり人間そういうのにも慣れていくんだ、これから先ルビィは色んなことを経験して色んな感情を知っていく…その過程でもしかしたら吾郎さんに対する感情は親愛から来るものでは?って思えばこっちの勝ちだ!」

 

「な、なるほど…だから早めの方が良いってことか」

 

「そうそう今は身体に心が引っ張られてる状態だ、子供心は粘土ほど変わりやすい…これからだからな」

 

もしかしたらまだチャンスはある、その希望に近親相姦と言う単語が脳内から薄れていくのを感じて

 

「でも吾郎さんも注意しないとな?兄妹として産まれたけど価値観はある程度引き継いでるわけだから、その…あれだ…耐えなきゃ行けない」

 

「はぁ〜あのなぁ?俺にとってさりなちゃんは大事な患者だぞ?そんなこと思うわけないだろ」

 

何を言っているんだこいつは、という目を向けてあきらながらに

 

「まぁ吾郎さんなら大丈夫だとは思うけどさ?」

 

そんな会話をしてとりあえずの安心を得た2人は戻っていく、

 

そしてアクアが居ない時にルビィから話を切り出させる

 

「明智…どうやったらせんせは私に堕ちると思う?」

 

「…………ど、どうやったらって…ど、どういう…?の…かな?」

 

先程の会話を聞かれたか?と一瞬肝を冷やしたがそういう訳ではなく、ただ単に兄をどうやったら異性として堕とせるかなんて言うのは他の人間には聞けないため妥協で聞いたという話、それに少し安心する…が

 

「だってさ?正直今の私はちんちくりんでしょ?女の子として意識して貰えるのはまだまだ先だからさ、とりあえず甘えてベタベタ引っ付いてるけどこのままじゃダメな気がするんだ〜」

 

まさかの正解を引き当てているのに驚きを隠せない明智

今のままでは可愛らしい妹としての地位しか掴めず恋人になることなど出来ないとしっかりと理解している

 

「ど、どうだろうなぁ?そもそも普通に妹だから、そ、そういう感じにしか見られてないんじゃないのかなぁ?」

 

言葉を選び当たり障りのない様に伝える、明智史上最も言葉を選び、考えながらの返答

 

「そうだよね〜だからどうしたらいいのかな〜って?中学生ぐらいになったら布団に忍び込むとか?」

 

なんて現実的で理性的なプランなのだろう、

いくら兄妹として生を受けたとはいえ中身は他人、身体にある程度引っ張られている節はあるもののそれを何としても攻略しようとする意識がある

 

「あぁ〜ルビィって本当に吾郎さんのこと好きなんだな?」

 

「そうだよ、私が1人病室で居た頃にさ、よく私の所に来てくれてたんだ〜あの人は体のいい理由ですサボれるとか言ってたけど…それでも私は嬉しかった…」

 

それに、私のことを心配してくれてるくせに恥ずかしがって言い訳作って、めんどくさいよね〜

そう語るルビィの顔をじっと見つめる明智

 

「本当に吾郎さんのこと好きなんだな、ルビィは」

 

「うん!あの人のおかげで私は光を見れた…だから今度は私があの人に光を見せてあげるんだ、飛びっきりの一番星を!」

 

そうニコッと笑って

 

「そういう訳だから明智、私のアイドル活動とこいつどっちも応援してね?明智も一応私のファンって認めてあげる!」

 

そう言ってアクアに甘えに行くルビィをみて

 

「いや…無理だろ…ごめん吾郎さん…僕にはどうもできないかもしれない」

 

ベランダでアクアに懺悔する明智

 

「と、突然どうしたんだ!?何があった?」

 

「いやさぁ?だってさぁ?あんなのさぁ?健気やん…愛されてるでぇ?あんた」

 

「口調変わるぐらいの何かがあったのか…さりなちゃんはそこまで俺のことを…何も出来てない俺なんかを」

 

「何も出来てなくても、隣に居たんだろ?それで充分なんじゃないの?」

 

「まぁ…そうなのかなぁ」

 

当時を思い出したのか暖かい笑みを浮かべて

 

「まぁ…それかあれだ、誰か他の人と付き合うとか?」

 

「付き合う?俺が?今の所候補が居ないんだけど」

 

「有馬先輩とかどう?めちゃくちゃ可愛いし、前にアクアの話題出した時感触は良い感じだったぞ?」

 

「いや、わざわざその為だけに付き合うとかはしない方がいいだろ」

 

「ちゃんと付き合いたいって思ったら付き合うとかでいいと思うけどさ?モタモタしてたら食われるぞ」

 

それを聞いてははっと苦笑いして、いや流石にそれは無いだろ、さりなちゃんがそんなにことする訳ないし

 

「いっこ怖い話しようか?」

 

「?」

 

「僕はなぜか、なぜかアイの前で酒を飲むと速攻で酔いが回って潰れるんだけどさ?」

 

自分でも理由分かってるだろこいつ…そんな冷たい目はガン無視して話を続ける

 

「まえドラマの撮影の時にキスシーンがあってさ?まぁ役者やってる以上別に構わないと思って…それで終わって、しばらくして放送したんだよ」

 

 

「先輩〜今日はたまには飲も」

 

「ん〜?まぁ別にいいけどそんなにお酒強くない僕に飲ませて楽しいか?」

 

「いいのいいの、ほら」

 

コップに注いで居たのか渡されて、キンっとグラス同士をぶつけて乾杯する

そして飲もうとした瞬間ピタッと明智の動きが止まる

 

「どうしたの?先輩」

 

「ん〜?んん〜?」

 

グラスをじっと見つめ、そこに入れられている液体を眺め…不審そうな目でアイをじっと見つめる

 

「なーに?」

 

「いーや、なぁ…グラス交換しない?」

 

「なんで〜?」

 

明智は見逃さなかった、今の一瞬ほんの少し、ほぼ一瞬だったが動揺したのをバッチリと確認…グラスの中身を飲まなかったことは正解だと判断し

 

「これさぁ?なんか入れてる?」

 

「お、お酒は入れたよ?」

 

「へぇ〜じゃあ別に入れ替えても問題ないよなぁ?ん〜?」

 

じっとりとした目でアイを見つめているとだんだん汗を垂らし始めて

 

「ん〜な、なんでぇ?の、飲まないと氷溶けて味薄くなっちゃうよ」

 

そのまま誤魔化すようにごくごくと喉を鳴らして一気に飲んでしまう

 

「ォ〜いい飲みっぷり、ほらもういっぱい行け、おら!流石に舐めすぎじゃ!何入れた!いえ!僕のグラスに何を注いだ!」

 

「や、やめてぇ!な、なんにも入れてない!ほ、本当だって!私を信じてくれないの?」

 

うるうるとした瞳で見つめられ…るが

 

「その誤魔化しがいつまでも通じると思うな!おら!当ててやろうかぁ?睡眠導入剤でも突っ込んだろ!お酒弱い僕がこんなの入れたら速攻でダウンだろうが!」

 

ぐりぐりとグラスをアイのほっぺたに押し付けながらなんなこんなことした〜?んん〜?

と尋問

 

「だっ、だってぇ!先輩キスしたじゃん!私の先輩なのにさぁ?私の物でしょ」

 

「じゃあ普通に言えよ!なんでこう回りくどい感じになるの?ねぇ?シンプルにお前の倫理観が僕は心配、もうお酒飲みませーん」

 

「ごめんなさぃ…分かった、もうしない!もうしないから〜!」

 

話し終えてタバコの火を消す

 

「こんなことがあった…そしてルビィは中身はさりなちゃんでも、アイの遺伝子を継いでる…分かるよね?」

 

「い、いやいやいや…流石にないだろ…流石に…な?そ、それに…明智だって普通に何とかやめさせたんだろ?」

 

流されると思ったけど案外頑張れるんだな、と言われると動きを止めて

 

「ぇ…?おい…まさか…」

 

「ぼ…僕が負けるわけないだろ…」

 

「首に赤い痕ついてるぞ」

 

そう言われると項垂れて…

 

「無理だよ…何をどうしても勝てる気しないって…」

 

とっくの昔に白旗をあげていた明智が勝てる訳もなく、あの流れから何故か明智がアイが満足するまで好きにさせると言うことになった…らしい

 

「お互い…頑張ろうな」

 

「だな…」

 

そう2人は遠い目をして暗くなり始めた空を眺めた



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後輩=兄

 

先輩って夏休み暇?

 

こんな文言のチャットが突然送られよく分からずに撮影のない日を報告したら

 

じゃあこの日もし良かったら遊園地行かない?

 

そしてあれよあれよという間に

 

(来てしまった、前に家族と1回来たことあるけど改めて見ると凄い人ね)

 

軽くメイクを施され有馬かなとして認識されないように軽い変装をされた状態で入口の列に並んでいる

後ろを振り向くとアクアはいつも通り仏頂面で、ルビィは目をきらきらさせながら興奮を抑えられないらしい

 

そして誘った張本人は

 

「あっつぅ…夏ってまじでやばいなぁ、先輩熱中症怖いんで気をつけてくださいね?」

 

「分かってるわよ、子供扱いしないでよね!」

 

なんでこうなったのか

 

「なんか知らんが親父に遊園地のチケットを4枚貰ったわ、勿体ないから行こうぜ」

 

事務所でいつも通りグダグダしている双子に声を掛ける明智

 

「遊園地!遊園地ってあのジェットコースターとか!回転するコップに乗れるあの!?」

 

ものすごく目をキラキラさせたルビィが速攻で飛びつく

 

「おう、なんか知り合いがその関係者らしくてな?毎年配ってるらしい…でも特に使う予定もないから腐らせるのも勿体ないとこっちに回ってきた」

 

キャァ〜!!と黄色い声を上げて飛び跳ねるルビィ

 

「明智撮影とかはないのか?」

 

「ん〜?まぁ今の所調整してもらってないよ、もうそろそろ僕も卒業だしね?」

 

それは大学のための調整なんじゃないのか?という目で見つめられ、パソコンに向かい合って作業しているミヤコはため息をつく

 

「遊ぶのはいいけどあなた大学は大丈夫なの?」

 

「問題ないですね〜まぁ正直面白半分で入った感じなので、あと1枚はアイで〜あぁあいつ撮影だったな?」

 

現在マルチタレントとして成功を収めているアイは基本的に暇がなく

 

「うっぁぁ…私も…私も行きたいよぉ…」

 

後から伝えたらただを捏ねたがまた今度でいいだろと

ルビィはアイが居ない状態で少し寂しと思いはしたが初めての遊園地にテンションはMAX

アクアにへばりつきながらいつも以上にキラキラしている

 

そんなわけで余った1枚はどうするか、となった時に明智は

 

「あぁ〜有馬先輩は多分暇だろ」

 

そういう経緯でちびっ子3人に大人ひとりの状態になった

 

「なんかものスっっごい複雑なんだけどね!」

 

「ま、まぁまぁ良いじゃないですか?ちゃんと親御さんの許可も降りたわけですし」

 

「それが問題なのよ!」

 

有馬にとっても母親は気難しい人間で他人の話を聞いたりしないと認識しているのに電話を母が変わって会話していると嬉しそうに笑ったり、最初は高く他人ように声を作っていたのにいつの間に普段通りに会話していて、気が付いたら上機嫌の母に問題ないから楽しんできなさいと言われ送り出された

自身の親があれよあれよという間に丸め込まれてしまったのを驚いていた

 

「落ち着いてよ〜有馬ちゃん!今日は遊園地だよ!あの遊園地!絶対楽しいって!」

 

「あんたはなんでそんなに上機嫌なのよ」

 

顔を合わせるとどちらともなく(だいたいルビィ)から突っかかって行くはずが遊園地の魅力に取り憑かれたルビィにとってそんなことは関係ないのか上機嫌に有馬の手を掴んでブンブン振っている

 

「諦めろ、今日のルビィは一日中こんな感じだぞ」

 

理由は分からないがアクアも何故か少しほっとした様子なのを見てさらに訝しむ…がそうは言っても有馬にとっても今回は楽しみにしていた日だ

カレンダーに花丸を付けてまだかな〜♪

と心待ちにしていたのは内緒

 

早速開演しゾロゾロと列を作った集団が足並みを揃えて歩いていく

 

「とりあえずアクアは僕の手を掴んでルビィのこと離すなよ?先輩は反対の僕の手掴んでてくださいね」

 

そう言って差し出された手の感触を違和感を少し覚えて納得する

 

(そういえばこいつ結婚したんだった、結婚式のこいつはとっても楽しそうで笑顔で幸せそうだった…なぜか心が少し傷んだ気がしたけどきっと気の所為ね、というか意外と手が大きい)

 

そう考えながらも流れを崩さないように歩いて園内に入る

 

そこから先は非日常、まるで映画やドラマのセットのような空間にルビィと有馬は目を輝かせて

 

「うっわぁぁ〜〜!!すっごい!ファンタジー見たい!」

 

「す、凄いわね!!これ!!」

 

2人ともテンションが一気に跳ね上がり、有馬は途中生暖かい目で見られていることに気づいて顔を赤らめたが、ルビィにはお構い無し

あれに乗りたいあそこに行きたいと大はしゃぎしている

 

「待て待て、落ち着けお転婆プリンセス×2とりあえずどうする?軽く園内ぐるっと回ってみる?」

 

「こういう時は大人がリードしてくれるものじゃないかしら?」

 

先程のをなかったことにしたいのか、一端のレディっぽく振る舞う

 

「ぁ〜僕のは参考にしない方がいい、僕は友達と何回か来たことあるけど…基本的に景色ガン無視でアトラクションに乗りまくり、パレードのことをチャンスタイムと言う人間にこういう時の行動の指針を取らせては行けない」

 

「あんた…ここの楽しみ方ヘッタクソね…」

 

「良いんです〜楽しみ方は人それぞれ、思い思いに楽しめるのが遊園地でしょ、まぁとりあえずアクアに任せていいんじゃない?」

 

そこで話しかけられるとは思ってなかったのかルビィの手網を必死に握っているアクアは明智に顔を向けて

 

「いや、俺に言われても困るんだけど」

 

そういう時明智は顔を近づけて

 

「色んな女と来てるでしょ」

 

「来たことは…あるけど…さぁ」

 

じゃあ頼むと言われてしまえば仕方なく、貰った地図を見て

 

「こういうのはどういう風に楽しむかまず決めてから行動しないと、どんな風に回りたいんだ?」

 

「全部!全部乗る!全部見る!」

 

「私は…まぁ、あんた達に合わせてあげるわ!お姉さんだし!年上だし!先輩だし!」

 

「だ、そうですよアクアお兄ちゃん」

 

「はぁ〜とりあえず何か一つ乗って回るか」

 

そうと決まれば行動が早く、ルビィはウキウキでアクアがそれを何とか制御して、明智は少し後ろで有馬と一緒に歩いている

 

「先輩ははしゃがなくて良いんですか?」

 

「わ、私は別にそんなはしゃいでるわけじゃないわよ」

 

なんでこう丸見えの嘘をつくんだろうこの子、と思い売店に寄って買った物を頭にそっと乗せる

 

「?なにこれ?」

 

「やっぱこう言う所に来たなら被り物でしょ、先輩は猫って感じ」

 

「なんで猫?」

 

「寂しがり屋なくせに本心を隠して意地っ張りな所とかめちゃくちゃそっくり」

 

「誰が寂しがり屋よ!」

 

そう怒りはした物の特に外すことはせず、軽くつけ耳を撫でてふわっと笑う

 

「ぁ〜有馬ちゃんそれ可愛い!明智私にも買って」

 

「へいへい、ルビィは〜」

 

そういう時ルビィには兎、アクアにはフクロウ

 

「私うさぎさんだってぇ〜」

 

「よくフクロウなんてあるな」

 

「ぉ〜良い感じじゃんそこに3人並んで?」

 

3人を並ばせて写真をパシャリと1枚撮る

 

「後でアイに送っとこっと、先輩にも送るから後で母さんに見せてみ、きっと喜ぶよ」

 

「うん…!」

 

そして

 

「きゃァァァァァ!!!!!!!」

 

「…………………」

 

「ぇちょっと!?ここから落ちるの!?やめなさいよ!?降りる!!やっぱり私おり……ヒッャァァァァ!!!!!!」

 

「ぉ〜各々性格通りって感じだな」

 

身長制限のため大きな絶叫アトラクションには乗れないので小さい子供向けのジェットコースターに乗っている姿をパシャりと撮って

 

「うっわぁぁ!!これ回せば回すだけどんどん早くなる!!」

 

「ちょ、ちょっとまちなさい…と、止め…やめろぉぉ!!」

 

「ルビィ…早い…ちょっと…待て、うっ…はや……」

 

ルビィが勢いに任せて回転し続け、それに青い顔をして怖がっては居るものの楽しんでいる有馬と青い顔で小さくボソボソと本気できつそうにしてるアクア三者三様の様子を動画に収める明智

 

「ほら!かなちゃん!次あっち!あっち行こ!!」

 

「ちょっと!あんたが馬鹿みたいな速度で回し続けたせいでまだ足元がふらつくのよ!ちょっとまちなさい!」

 

「うっぷ…」

 

少し後からアクアを抱えた明智が2人の様子を眺めながら背中を撫でて

 

「大丈夫吾郎さん?三半規管よわよわだねぇ?」

 

「いや…あれに乗ったらお前もああなるからな…」

 

それにしてもと…アクアに飲み物を渡しながら

 

「いやぁ〜先輩は良くも悪くも流され易くて、ルビィは根の方は少し複雑だけど基本は単純明快、もう仲良しなお友達だな」

 

「まさかそれが目的か…?」

 

少し落ち着いたのかゆっくりと降ろされたアクアが明智に質問する

 

「ん?いや普通に勿体ないから来ただけ、あとは最近先輩の出番は減ってる、単純に事務所の方針がクソなのと母親が問題の根幹にある…けどまぁよそ様の家にズカズカものを言う訳にもいかないでしょ?こうやってリフレッシュの機会は与えたくてさ」

 

そう言い終わると

 

「おーい!あんまりはしゃぎすぎんなって、とりあえず一旦休憩しろ〜」

 

「えぇ〜〜」

 

「ルビィはしゃぎすぎよ…全く」

 

「だってぇ…」

 

しゅんとうなだれてしまうルビィに視線を向けて

 

「何も焦らなくても、この後もまだまだ乗ってないものや見てないものは沢山あるでしょ?とりあえず休憩にしましょ?」

 

ね?と差し出された手をうん、と頷き素直に受け入れるルビィ

その2人の様子を写真に収める明智

 

「仲良きことはいいことだねぇ吾郎さん」

 

「明智もしかして…」

 

なにか言おうとするアクアを遮って

 

「先生、僕は貴方のおかげで今こうして居られる、そして僕は貴方に恩返しは愚か僕自身のわがままを聞いてもらってる…だからさ?これから先色んなことがあると思う、その度に苦しんだり悲しんだりいいことずくめじゃないのなんて分かりきってる…でもさ?ちょっとは僕にも先生の背中を押させてよ?」

 

「明智…」

 

「それに意外と人って忘れるんだよね、だからこうして写真を撮る、写真を撮ってその写真自体を忘れて、部屋を片付けてる時にたまたま見つけて、そういえばこういうこともあったなって笑って思い出す…それが出来る人生はきっと楽しいんだと思う」

 

ほら、と見せた写真…そこにはキラキラと輝く星のような笑顔を向けるルビィの姿がそこにはあった、

その時ルビィが吾郎にはどのように見えたのか

明智は深く聞くことはしなかったらしい

 

「2人とも早く〜!!」

 

「置いてくわよ〜!!」

 

「はいはい分かったって」

 

吾郎さんも楽しめば?そう言いながら急かす2人を追いかける明智の背中が少しぼやけた気がした

 

「そういえば明智は何も乗ってないじゃん」

 

休憩のためにベンチを確保し、明智が買ってきたピザを食べて汚れたほっぺたで言う

 

「ん〜?別に僕はいいよ、楽しむみんなを見てるだけでシンプルに面白いし」

 

もうちょっと落ち着いて食べなさいよ、

ウェットティッシュで口を拭いて

それをぷくぅっと軽くほっぺを膨らませて見つめる有馬に気づいて

 

「はいはい全く手のかかる先輩ですね」

 

同じく頬を優しく拭うと

 

「よ、余計なお世話よ!」

 

最初は満足した表情だったがすぐに顔を赤くしてプイッとそっぽを向く

 

 

「な、何よそれ!私なんて急降下したり回転したりしたのよ!あんたもなにかやりなさいよ!」

 

「って言ってもさぁ?君たちに合わせてるから基本お子様向けだし?僕が乗るんだったらガチの絶叫系じゃないと物足りないって言うかぁ〜」

 

「ならいい所があるぞ?」

 

そうニヤッと笑ったアクアに全力で嫌な予感がした明智

 

そして

 

「おぉ〜本格的〜」

 

「な、なかなか風情があるじゃない」

 

「こういう時風情は使わないぞ」

 

わ、わかってるわよ!

会話しているちびっ子3人の後ろで青い顔をした成人男性が1匹居た

 

「無理無理無理無理…絶ッ対無理…ガチで無理だから!馬鹿じゃないの?あれ?夏だから肝を冷やすってやつ?馬鹿なの?冷やしたいなら水風呂に氷でも突っ込んで全力で寒中水泳のモノマネでもしとけよ!」

 

駄々をこね成人男性1匹に全力で冷たい目を向けるちびっ子3人という光景が広がっていた

 

「わ〜ママに話は聞いてたけど本気の本気で無理なんだね〜」

 

「明智はなんでこういうの苦手なんだ?だいたい驚かすタイミングとか全部分かるだろ」

 

「いやいや無理無理!ガチで無理…馬鹿なの?マジで馬鹿なの?絶ッ対に行かん!行くと言うなら3人で行ってきなさい!僕その辺で待ってるから!」

 

あまりのガチの拒否っぷりに3人は集まってコソコソと相談を始める

 

「どうする?いつもの明智の5倍は情けないんだけど?ちょっと面白いから後で写真撮っとこ」

 

「どうするのよ?あいつをここに入れるなんて難しいってレベルじゃないわよ?なんならあんなあいつ見たことないんだけど」

 

「俺に作戦がある…耳を貸せ」

 

そうコソコソと作戦を伝えるため2人の耳元に近づけると1人は顔を赤くして、もう1人はひゃん…と軽い声をあげるが何とか伝えきって

 

「ねぇ?お兄ちゃんいくら明智がチョロチョロだとはいえこんなので上手くいくの?」

 

「あぁ、さりなちゃんはよく分かってるでしょ?」

 

「ねぇ…明智」

 

モジモジしながら顔を少し赤らめて…その顔は少し悲しげに

 

「な、なんです?先輩?」

 

「明智は私の思い出作りのために今回誘ってくれたんだよね?」

 

「ま、まぁね?」

 

普段の態度とは違いまるで演技をしている時のような態度に嫌な予感がビシビシといや…明智の天才的な頭脳派既に何が起きようとしているか既に把握している…なのに目を離せない

 

「私…明智とも思い出作りたいな…ねぇ?ダメ?」

 

「で、でもね?僕こういうの苦手でさぁ?ほ、他!他だったらいくらでも付き合うから…ね?」

 

そういうと突然ポロッと涙を流して

 

「ぐす…ごめんね…明智の嫌がることって分かってたのにこんな無理なお願いしちゃって…グスゥ…酷いこと言っちゃったよね…」

 

「い、いや!?全然酷くはないよ!?むしろ先輩がそんな風に思ってくれてるのはとっても嬉しいって!」

 

「明智…お願い…一緒に思い出作ろ?私…明智ともっといっぱい仲良くなりたい…私のわがまま聞いて欲しいな?……だめ…?」

 

そう涙を溜めた上目遣いでうるうると見上げられてしまえば

 

「ファンはどこまで行っても推しの奴隷なんだよ」

 

「は…はい…」

 

「明智…!」

 

今度は打って変わって満面の笑顔、まるで向日葵が咲いたような輝いた笑みを見て

 

「言質とったわ!!」

 

先程のしおらしい態度など微塵もなくなり、涙もスっと引いてニヤッとした笑みを浮かべて双子に向かって勝利のVサインをする有馬

演技だとわかっている、嘘の涙だとわかっている、だが…どこまでいってもファンは結局推しの奴隷

推しのお願いを断れるファンなどこの世に存在しない

 

(まぁでも…一緒に思い出を作りたいって言うのは嘘じゃないって分かるからさ…)

 

そう思い、いい顔で笑った明智を見て

 

「チョロチョロ星のチョロリン」

 

「あいつマジで有馬に10億くれって言われても断らなそうだな」

 

一瞬で肝が冷えるような冷めた目で見つめる双子だった

 

そして

 

ガタガタ震えながら入場しようとする明智はなにかに気づく

 

「あれ?これって2人1組になって探索するってやつだから別れないと無理だぞ」

 

「本当だな、マップにもそう書いてる」

 

そして始まるのはどこと何処が組むのかを考え始める時間

 

「アクアは僕と組んだら後から大変そうだから、僕がお転婆プリンセスどっちかを引っこ抜くからどっちかを持ってけ」

 

「なんでそんなポケモンみたいな感じなんだよ、最初の1匹選んで冒険に出かけていかねぇよ」

 

そうなったので明智はよく観察し

 

「よしルビィ来て!お願いだから!先輩ノリに乗ったは良いけど自分もそんなにホラー得意じゃないんだけどな〜みたいな顔で震えてるから!お願い!」

 

先程から小刻みに震えている有馬と吾郎せんせと一緒に…キャ!なんてひとりの世界に入っているルビィを見比べてさっさとルビィを回収する明智

 

「ちょ、離れて!私はご…お兄ちゃんと一緒に行くんだから!というかなんで私!?かなちゃんのこと推してるなら守ってあげなよ!」

 

「いや無理無理無理!だってプルプルだもん今猛烈に後悔してるもん先輩!絶対ノリにノッちゃって降りれなくなってるだけだもんあの人、泥船でもちょろいから乗っちゃうもん!それに…」

 

「ルビィ相手ならもしもの時はルビィを置いてダッシュで逃げれば僕だけは助かる…」

 

「ほんっっとうに最低なんですけど!絶ッ対嫌!ほんっとうにこの男さいてーだよ!こんな可愛らしい女の子一人置いてのうのうと一人生き延びようしてるもん!」

 

「さっきから黙ってればいい気なもんじゃない!別に余裕よ!私にかかればこのくらい全く問題ないわ!行くわよアクア!!私たちの実力を見せてやる!」

 

「えぇ?ちょ、有馬、お前引っ張るな、分かった、分かったから!」

 

そのままムキになった有馬がズルズルとアクアを引っ張ていきルビィと明智を置いて行ってしまう

 

「明智…」

 

あぁ…やっぱり前世の記憶があろうと親子なんだなぁ…血の繋がりがあるんだなぁ…

そう、真っ黒な星を輝かせた目で見つめられた明智は悟った

 

「うぅ…あ、アクア…絶対に手を離しちゃダメよ?絶対よ?やっぱり年上としてあんたのことを守ってあげないといけないから、それだけ!それだけよ!」

 

「分かった、分かったからそんなに強く握らないでくれ」

 

「あ、ご、ごめん」

 

強く握っていた手を離すが、物音にビクゥとしてアクアに抱きつく

 

「何もいない…怖くない…ピーマンの方がよっぽど怖い…お化けなんてないし嘘だし」

 

「有馬…暑い」

 

「う、うるっさいわね!私はあんたを守ろうと必死なの!大人しく一緒に着いてきてもらうわ!」

 

いつの間にかアクアは銀行強盗の人質のような扱いを受けて暗い道を歩いていく

コツコツと2人の軽く小さい足音だけが響く廊下を歩いている途中

 

「なぁ、有馬って明智のことどう思ってるんだ?」

 

「な、何を当然聞いてるのよ!」

 

いきなりの質問にここが何処かを忘れてサッと距離を置いて

 

「いや明智と喋ってる時の有馬は自然体…?いや、楽しそうにしてるからさ」

 

「そ、そんなこと…」

 

自覚はある、明智と喋っている時はなんのしがらみもなくただの有馬かな、そして役者としての有馬かなを見てくれている

だからこそ安心して会話ができる

明智は結婚した、幸せそうに笑ってその時にチクッとした痛みを今も覚えている…そしてその感情がなんなのかまだぼんやりとしててしっかりと理解ができない…でももう手を伸ばしても届かないことだけは理解している…

居心地のいいあの人はもう他の人の場所なのだろうと

 

でも…それでもあいつは私を見てくれて、私を気にかけてくれて…それで充分…充分なはず…

 

「ま、まぁ…あいつは私のファンだし!ファンの対応も役者としての勤めよ!勤め!それに、私はあいつの先輩だから」

 

不思議そうな顔をして

 

「そんな感じじゃなかったけどな、もっとこう…なんて言うんだろう?兄…」

 

「やめて!」

 

立ち止まって大声でその先をかき消す

 

「なんなのよ…別にいいじゃない…私にとってあいつはそういう存在で…大事で…居心地が良くて…それだけ…それだけよ」

 

「なにか気に触ることを言ったなら悪かった…でも別に有馬を怒らせようとした訳じゃなくて」

 

「ただ、明智の前で笑う有馬、俺は可愛くて好きだぞ?って言うのを言いたかっただけだ」

 

「ぇ…?あ、あんた…ほんっっとバカ!馬鹿なの!ばーか!本気で馬鹿なんじゃないの!馬鹿よばーか!」

 

突然何を言い出してるのよこいつは!いきなり!突然!馬鹿なんじゃないの!可愛いとか!好きとか!簡単に口にして!欲しい時に欲しい言葉をかけてくる所はあいつそっくりなのね!

 

「ほら!バカなこと言ってないでさっさと行くわよ!」

 

「え?おいそんなにスピード出したら怪我するぞ?薄暗いんだからもうちょっとゆっくり」

 

うるっさい!と一言言ってそのままズカズカ歩き始めてしまうのを

 

最近の子の考えてる事はよく分からないな

 

と思いながら歩き始めるアクアには

 

「ほんっと…ばーか」

 

耳まで真っ赤に染った顔でこう呟いたのは聞こえることは無かった

 

 

「ぎょァァ!!!ちょ、ルビィ!まじで僕の手を掴んでてくれよ?!?置いてかないでねお願い!後でお小遣いあげるから、ほおぉ!?何今の、?はぁ?馬鹿なんじゃないの?ばーか!!」

 

「明智うるさい、驚かせる人が逆にびっくりしてるから」

 

なんでこうなったんだろう?本来の作戦であればせんせにベッタリくっついて甘えて、それで吊り橋効果を狙って距離を縮めようと思ったのに…まだまだ難しいのかもしれない

 

はぁ〜とため息をつきながら私はここに居るから落ち着いてって

 

「はぁ〜いやぁ良かったよルビィと来れて」

 

「何かあったら私を置き去りにできるから?」

 

「ん?まだそれ気にしてたのな?ぅぉぉ…なんだ今の骸骨…置いてくわけないだろ?」

 

(そんな震えながら言われても…)

 

ほんの少しの仕掛けや飾りにビクつきながら歩いている明智が何を言っているのか分からず歩きながら視線を向けて

 

「だってさ?先輩は僕の推しだし、吾郎さんにはこれ以上かっこ悪いところ見せられないからさ、ルビィと来れて良かったよ」

 

「何それ?私だったらかっこ悪いところ見られても良かったってこと?」

 

「そりゃそうだろ、友達に見せる姿なんだからさ」

 

「……………」

 

「えぇ?ルビィ…な、なんで黙るの?こ、怖いから!まじでやめて!こっ、こっわぁ!ちょ!手を離すなよ!絶対離すな!まじでぇ!」

 

こんなカッコ悪くてダサくていつもはもうちょっとかっこいい所も頼りがいのあるのにわざわざ私には見せていいって、その理由が友達だからって

 

「あっはは!!変なの!明智ってやっぱり変!」

 

「はぁ?何言ってんのルビィ!?突然どうしたの?と、取り憑かれたのか!?大丈夫か!?」

 

そんなわけないでしょ!なんでIQ3ぐらいになってるの

 

ほ〜んとカッコ悪くてマヌケで最低でデリカシーがない

でも私の自慢の友達

 

「ねぇさっきの手を絶対に離さないでよってフリ?もしかして誘ってる?」

 

「そんなわけねぇだろ!馬鹿か!」

 

えぇ〜どうしよっかなぁ?

 

そうからかって遊んで大きい手が強く握りしめて来るのをほんの少しだけ握り返して

ゆっくりと進んでいく

 

そして帰ってきたら

 

「あ、あんたのこと…ちょっとは認めてあげてもいいわよ」

 

「そうか?、ありがとな有馬?」

 

「なよ……」

 

「なんだ?」

 

「私のことは…かなって…呼びなさい…」

 

「?わかったよ、かな…これでいいか?」

 

「えぇ!!それで良いわ!!」

 

何があったのか分からないが仲良くなって…いや…少し怪しい雰囲気になっている2人をみてルビィはじっとりと黒い星の目で明智を責めるように見つめる

 

 

楽しい時間はあっという間に終わり、帰るためにタクシーに乗り込む

最初はあれが楽しかっただの、これは面白かったとワイワイと賑やかな会話が聞こえてきたがしばらくして振り返るとルビィと有馬が真ん中のアクアに寄っかかって疲れのあまり眠ってしまっている光景が広がっていた

 

それを見た明智は優しい笑みを浮かべてそっを写真を1枚とってアイに

 

ちびっ子3人組遊び疲れて寝ております

 

というチャットと共に写真を送り、チャットなのにやかましい反応に笑って返信する明智だった

 

 

 

 



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お粥は意外と美味しい

 

「はぁ〜」

 

ベットに寝っ転がりながらため息をひとつつく

 

(最悪なんですけど…まぁ最近はこうなる機会が少なかったからまだマシか?)

 

ぼやっとする頭で考えようとする度に鈍痛が響くように頭が痛み、思考が中断されてしまう

 

幼い頃からそうだった、身体が弱いという訳では無い、けれど発熱とともに頭痛み酷い時には1週間寝込むこともある

最近は無くなっていただけに油断していたというのもあるが

 

「はぁ〜便利だけど不便だなぁ…」

 

脳みそが馬鹿みたいに動いて…その分エネルギー使って1回壊れたら他の人間より治るのが遅いし、栄養もそこそこの量取らないと不足してまた崩すし

はぁ〜不便だ頭が回らない

 

今日は休むか…とスマホを取りだしミヤコに連絡

 

一応病院に行っておきなさいよ?

 

とチャットが飛びなんなら送っていこうか?

とまで出てくるがそこまで迷惑はかけれないと断りの連絡を入れて目をつぶる

 

(暇だ…ぁ〜無理だ〜なんも考えられない、1個もまとまらん…なんなら思考できない…やなんだよなぁ…体調崩すと人に見せれない…あやふやになってぐでぐでになるからまじで最悪なんだよ…)

 

そんなことを考えながらなんとか眠りにつくことは出来る

 

(ぁ、これダメだぁ…ポートするぅ…なんかふわふわ〜ってプリンみたいになるぅ…頭考えられなぃ)

 

数時間寝て本格的に身体が熱に支配される

 

先程からピコピコと通知が来ているがそれに何とか返信する

 

先輩大丈夫?

 

どうやらチャットの相手はアイらしい

 

だいびょぶ

 

誤字ひどいね〜?

 

ひどくらい

 

熱高いの?

 

たっかぁい

 

電話出れる?

 

でれっるぅへ

 

 

なんて返していたら電話が掛かってきたのでそれをとる

 

「先輩もしもし大丈夫?看病行こうか?」

 

「大丈夫に決まってるだろぉ?お前にうつすぅ…とあれらかぁ…来んなぁ〜ばーか」

 

あれ?とここで違和感に気付く…なんというか全体的に幼い?感じだ…言葉遣いは普段と似たようなものだがどことなくふわふわ熱に浮かされていて

 

「ありゃりゃ、本格的にダメそうだね?本当に辛かったら連絡してね?仕事放り投げちゃうから!」

 

冗談半分に答えてみても

 

「えぇ〜?馬鹿なのぉ〜仕事放り投げちゃうのなんてダメに決まってるだろぉ!頑張ってこい…やっぱこいバカぁ」

 

この瞬間確信する

 

ぁ〜この先輩は絶対見なきゃだめな先輩だ…

そこからの行動は早かった

 

「分かった!待っててね、先輩!」

 

電話をさっさと切り撮影場所に向かう

今回は雑誌の表紙の撮影など巻けばそこそこのスピードで終わらせられる物ばかり、

完璧な表情で1発OKを連発して仕事を片付け

 

そして

 

「先輩〜入るよ〜」

 

当たり前のように合鍵を取りだして部屋に入る

買ってきた物を置いて部屋の中に入って

 

「大丈夫先輩?」

 

顔を赤らめおでこに冷えピタを貼った明智が部屋を散らかしていた

 

「うっわぁ先輩どうしたの?」

 

「ない…」

 

「何がないの?」

 

「色鉛筆が見当たらない…これじゃあお星様書けない…」

 

一瞬フリーズする、何を言っているんだろう?

発音は電話した時よりだいぶマシにはなっていたが今目の前の様子を見ると普通に子供のようなことを言い始める先輩

 

「お星様書くの〜?なんで?」

 

目線を合わせて優しく聞く

 

「だってぇ…1番好きだから…キラキラ…好き」

 

目線を合わすと明智がじっとアイを見つめて…アイというよりアイの瞳を見つめてニコッと笑う

 

「そ…そうなんだぁ〜でも今先輩は体調が悪いでしょ?ほら、寝ないと…ね?」

 

堪えながらも優しくベットに誘導していく

 

「あぅぅぁ〜うるっさいなぁ…というかなんでここにいるの?アイ?お仕事は?」

 

「速攻で終わらせてきたよ!」

 

「はぇ〜そんなに馬鹿みたいに早く終わらせて来たんだぁ…僕のこと好きだねぇ〜寂しかったからもっと早く来いばーか」

 

(んっグゥっっ…)

 

おかしい…流石にこれはおかしい…

何だこの生き物…普段の正しい明智はどこに行ってしまったんだ…

この自分の欲求のための素直な言動…これじゃあまるで

 

「本当に子供みたいだね先輩」

 

「はあ?僕子供じゃないんですけどぉ?僕のこと好きならもっと心配しろー寂しいし!というかなんで一緒に居ないの?今日はもうずっと一緒にいて」

 

んっっぅ!!

 

「分かったってばぁ、お腹すいてると思うからご飯作るね」

 

そうやって何かを必死に押しとどめながら部屋を出ようとすると手を掴まれて

 

「ぁ〜約束破る気だなぁ〜どっか行くの?寂しいって言ったんだけど?僕の言うこと聞いて僕のそばにずっと居て」

 

んっ…んぅっ…んぅっぅぅっ!!!

 

「ちょ、ちょっとだけ、ちょっとだけ離れるだけだから…ね?」

 

「早めに戻ってこないと許さないよ」

 

そう言うと納得したのか手を離して

そして部屋を出た瞬間

 

(きゃわ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!

可愛すぎる!何あれ!お酒飲んでる時はふわふわしてるけど基本的には先輩って感じなのに!何あれ!子供みたいに駄々こねてワガママ言って!もぉ!!何あれぇ!かわいぃ!普段の先輩だったら絶対言わないようなこと言ってぇ!離れちゃヤダとか!好きとか!もぉぉ〜!!!!)

 

パタパタさせながら悶えてなんとか冷静さを取り戻す

料理をしていると段々と落ち着いていき

 

(ふぅ〜さっきの先輩はきっとちょっとだけ…ちょっとだけのやつ…私は冷静、私は可愛い…完璧で究極のアイドル)

 

精神統一して戻りお粥を見せて

 

「はぁーい出来たよ?熱いから気をつけて食べてね?あ、なんならアーンしよっか?」

 

普段だったら「小っ恥ずかしいからいらん」

と1人で黙々と食べるだろう…けれど今は

 

「ぁ、食べさせて」

 

「ッッ……もぉ〜甘えん坊だなぁ〜先輩は」

 

一口掬い冷ましてから口に運ぶとパクッと一口食べて咀嚼をする

その様子をじっと見つめて

 

「ん…美味しい」

 

「ほんと?良かった」

 

「アイのご飯はいっつも美味しい…食べすぎちゃうから下手に作って」

 

「、、、せ、先輩に食べてもらうから美味しく作ってまーす、これからもそのつもりだよ」

 

「あっそぉアイは意地悪だね………好き…」

 

あぁ…可愛い…素直になんでも口に出して

普段は思っても口から絶対出さないようなことを当たり前のように言ってわがまだし、こっちが怒られるのは変な気はする…けど

 

(え?これいくら払えばいいの?)

 

よく分からない思考になっていた

 

勿体ないとスマホを構えて動画を撮影しながら素直にパクつく明智を動画に収めて

 

「ご馳走様…」

 

「お粗末さまでした〜」

 

食器を片してまた元に戻る

 

「アイは僕のこと甘やかしすぎてる…ダメにされる…でもアイならダメにされてもいいかもしれない…責任取って甘やかして」

 

「えぇ〜先輩のことならもっといっぱい甘やかすよ〜ほーらおいで〜可愛いなぁ、先輩」

 

口を開けばこんなことばかり言ってくる明智に保てる訳もなく現在は抱きついて頭を撫でまくっている

 

「お前の方が可愛いだろバカ…膝枕して」

 

「はぁーい良いですよ〜」

 

普段甘やかすと言っても基本的に隙がなく甘えてくる時など一瞬の明智、そんな明智が全開で甘えてくるのでもうよく分からない感情が爆発してドロッドロの甘々な状態で明智を甘やかすアイ

 

そして明智はまた眠りアイと言えば

なぜか頬がツルツルテカテカの状態でスマホの写真フォルダを見返していた

 

「ぁ〜先輩可愛い…どうしよう?これが俗に言う供給過多って事なのかなぁ?」

 

アクアとルビィがそろそろ帰る時間になると流石にアイも帰らなければ行けないので

書き置きだけ残して

 

「先輩、ゆっくり休んでね?」

 

寝てる明智に声をかけてそしてそのまま部屋を出る

 

そして次の日事務所で顔を合わせる、この時どんな風にすればいいか若干分からなくなってはいたが

 

「昨日は悪かったな、いやぁ最近ないと思ってまじで油断してた」

 

「愛する旦那様のためだから気にしないで」

 

普通に接してきた明智、だが申し訳なさそうにしているのを少し不思議がって

 

「いやぁ、なんというか大丈夫だったか?」

 

「何が?」

 

気まずそうに頬をかいて

 

「僕ってそのぉ…熱出すと記憶なくなるんだよね、正直何してたか全く覚えてないんだけど…父親とか祖父が言うにはなかなか手がつけられないクソガキになるっぽくて、借りてきた猫を何とかして慣らして行かないと懐かない〜みたいな感覚なんだってさ」

 

「そ、そうなの…?」

 

「そ、だからなんか物凄い迷惑を掛けたと思うんだよ、マジでごめんな?今度お詫びさせてくれ」

 

借りてきた猫?クソガキ?懐かない?

じゃああれはなんだったのか?素直に自分の快、不快を言葉に出して…でも嫌がってるわけでもない…なんならその逆

 

「先輩って私のせいでダメになっちゃいそうになるの?」

 

ニヤニヤ〜と明智に笑いかけて

 

「は…?ぁ、いや…そんなわけないでしょ?僕って大人だから」

 

驚きはしたがなんとかとり繕える…まだ

 

「そばに居ないと寂しいの〜?」

 

「そ、そんっっな…訳ない…だろぉ…?」

 

上擦った声で、段々と近づいてくるアイの目線を逸らすように上を向いて

 

「まぁ、私は先輩の本音知ってるからそれが嘘って分かっちゃうけど」

 

「ア…アイ…僕って一体…どんな感じで…」

 

「ん〜?」

 

恐る恐る自分の様子を聞く

 

「ご馳走様♪」

 

「ぇ!?マジで怖い…何?僕って何したの!?本気で何してたの!?えぇ…ちょ!おい!アイ!!まじで何したの僕!?」

 

そう戦々恐々としていると後ろからトンと背中を叩かれ、振り向くと

 

「明智」

 

「る、ルビィ…」

 

「その歳で赤ちゃんプレイはちょっと…」

 

「ぇ''ぇ!?ま、まじで僕どうなってたの!?ねぇ!教えてよ!!教えてくれって!」

 

それだけ言うとさっさと行ってしまうルビィの背中を見つめて叫ぶ明智

 

その後満足いくまでわけが分かってない明智を弄って満足していたアイは見事に風邪をひき

 

「うぅ…先輩梨剥いて〜よしよしして〜ずっとここに居て〜頭痛い…食べさせて〜」

 

「はいはいもうすぐ剥けるからもうちょい待ってろ、ほら、剥けたから…ほら口開けろはーい食べれて偉いぞ、よしよし」

 

看病してくれたからと明智がアイの面倒を見て

普段より柔らかくアイに接して

 

「先輩こういう時優しい…好き…結婚しよ」

 

「僕は基本的に優しいしな、あと結婚はしてる」

 

そうだった〜えへへ…と笑ったあと

弱った女の人にすぐこういうことするんだ?女たらし…私なんて

普段より感情的になってグズり始めてしまう

 

「はいはい、今は僕が居るから安心して寝とけって」

 

「ほんと?どこも行かない?」

 

「行かない行かない、だから安心しろ?」

 

「うん…」

 

施設の時風を引くと暇で心細くてこんな時に居てくれたら…って叶わないことばっかり考えてて…それなのにさぁ…

 

(こうやって隣に居てくれるだけでポカポカしてくるから…本当にずるいよ…)

 

「先輩…私先輩がいてくれ…」

 

「明智ィィ〜〜」

 

その時隣の部屋で呻くような声が聞こえてくる

 

「はいはい今行くから待ってろよ」

 

今いい感じになろうとしていたのでムスッとしている

 

「僕もお前のこと好きだから」

 

軽くおでこにキスをしてそのまま行ってしまう

 

その後しばらくじたばたと物音が聞こえることになるがそれは置いといて

 

「うぅぅ〜頭痛い、りんご剥いて!冷えピタ冷めてるぅ〜!頭痛いぃ!!治らなぃい!」

 

「似てるようで親子で違う物注文するのやめな?今梨剥いてきた所なんだけど」

 

ルビィも現在風邪を食らってしまいベットの子になっている

グズりにグズって駄々をコネて何かと明智が様子を見に来る

 

「うぅ〜早く治してぇなんでも出来るならそれぐらい余裕でしょ!早く私の看病して!何とかしてぇ!」

 

「いやそんなこと言われても僕無理だからね?はいりんご剥けたぞ?」

 

食べれるか?と差し出されたりんごを素直に食べる

 

「むぅ…」

 

「普段と違ってだいぶ素直だなルビィアクアが居た時はしなかったのに」

 

「こんなところせんせに見せれないじゃん!」

 

好きな人にいくら風邪だからといってこんな所を見せれるわけが無い、それに病気で苦しんで居る時も健気な自分で居たのだ、かっこ悪い所を見せたくない

 

「そうかぁ?好きな人にこそ色んな自分を見てもらいたいって思うもんな気がするけど」

 

「乙女には色々あるんです〜」

 

それに…

 

「友達にはかっこ悪いところ見せても良いんでしょ?」

 

「ぷっ…だな?ほらりんご食べるか?」

 

「何笑ってるの…んっ…食べる」

 

そんな風に時間は流れてそして

 

「アクア〜お母さんに甘えても良いんだよ〜?ほら、頭なでなでしてあげるね?」

 

「お兄ちゃん大丈夫?汗でベタベタするの気持ち悪くない?拭こうか?なんでも言ってね?」

 

「おーいアクア…わぁ…」

 

アクアも無事風邪をもらってしまいルビィとアイによる全力の看病を食らっているアクアは梨を剥いて戻ってきた明智に全力で助けてのサインを送ってくるが

 

「梨向いてきたけど食べさせてあげれば?」

 

「ほらアクア」

 

「お兄ちゃん♡」

 

「「あ〜ん」」

 

年下の母親ともっと年下の妹に赤ちゃんプレイを強要されるアラサー未婚医者の姿がそこにはあった



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恥ずかしがるほど嬉しくて

感想、誤字報告大変励みになってます!ありがとうございます!

毎回ネタがァ…ネタがァ…と言いつつ何となく楽しく書き上げてます



 

「じゃじゃーん!!どうよこれ似合う?」

 

グラサンを掛けた明智がテンション高めに帰ってくる

 

「似合ってるな?なんだそれ買ったのか?」

 

「いやいやなんか有馬先輩に貰ったんだよ〜ちょうど良さそうなのがあるから送っとくわ!感謝しなさいよね!って」

 

似てない声真似を披露しつつ、推しにプレゼントを貰えて嬉しいのかニッコニコ

 

「へぇ〜似合ってない」

 

「はぁ〜これだからお子ちゃまは〜僕はやっぱり何か身につけてた方がいいんじゃないの?と思ってさ変装にもなるし一石二鳥よ」

 

「ふぅ〜〜ん」

 

そう言ったっきり何も言わないで後ろ手で何かを隠してさっさと行ってしまう

 

「?なんか今日ルビィテンション低いな?」

 

「まぁお年頃ってやつだよ」

 

「なるほどねぇ…大変ってやつか」

 

そんな呑気に会話している2人をよそに

 

(ちょ〜〜っと高そうなグラサン贈られたぐらいです〜〜ぐにへにへしちゃってさぁ、やっぱりああいうの渡した方が良いよね?

こんなのじゃ全然)

 

そう思いながら可愛らしいプリントが施された2枚のピンクの手紙を見つめる

 

小学校の授業で日頃の感謝を両親に伝えようと手紙を書いて見ましょう、そう言う内容の授業が始まり、アイに対してはオタクが推しに送るような長文お気持ち表明が

そして明智には特に思いつかなかった…というより長く書かないでサラッとした物を書いて軽い気持ちで作った

 

問題なのは書いたはいいものの未だにどちらも渡すことが出来ていないということ

 

アイは喜んでくれるんだろう…嬉しそうに手紙を読んで、ルビィ愛してると抱きしめてくれる…そう思っている…いや、思っているだけでそんなことはなくてただの願望なんじゃないかと思ってしまう

 

前のように…

 

そして…こちらもこちらで、なんというか気恥ずかしいようななんというか

そう考えていたら渡せなくなってしまい

そこに追撃の有馬のプレゼント、恐らくそこそこ値の張るものを渡したのだろう

明智にも似合っていて文面ではあんなことを言っていたけどどうせ何時間も悩んだ末に送ったプレゼントだと言うのは一目瞭然

 

(はぁ〜どうしよう?渡さないって言うのも変だし、渡した所でって感じがなぁ…)

 

せめて明智のは文面だけでももうちょっと鮮やかにしようか?と鉛筆を持って紙の前に向かっても出てくるのは楽しかったりムカついたりした記憶だけが出てきて、ろくに文字数を稼ぐことも出来ない

 

なんとしたものかとため息をついて

 

(ん〜かなちゃんのに勝てるわけないしなぁ〜どうしよう?んぅ〜というか!なんで私がこんなに悩まなくちゃいけないんだろう?明智の為に…まぁ…感謝してるけど…もぉ〜!!)

 

頭を掻きむしってああでもないこうでもないと考えては散って、霧散していく

 

「大丈夫か?ルビィ?」

 

ノックして心配そうに顔を覗かせるアクア

 

「せんせ〜どうしよう、だってさぁ?こんなの渡したってさぁ?」

 

「そうか?別に2人だったら喜ぶと思うけど」

 

本当かなぁ〜?と言いつつ明智だったらと思う気持ちはもちろんある…けれどそれだけでは無い

 

「こういうのどうすればいいか分かんないし」

 

「さりなちゃん…」

 

思い出すのは母の日…何か出来ることは無いかと考え紙を折っただけの質素な物に感謝の気持ちを込めた文字を綴ったこと

それを嬉しいと言ってしまってくれたけれど果たしてあの時読んでくれただろうか?本当に嬉しいと思ってくれただろうか?

 

そう思うとこの二通の手紙…血の繋がった母と、繋がっていなくても自身を友達と言ってくれる人に対して送ることが出来なくて…うだうだしては時は無駄に過ぎていってしまう

 

「それならさ?俺も授業で一応手紙は作ったから俺と一緒に渡すって言うのはどうだ?」

 

「せんせも書いてたんだ、もう渡してるのかと思ったよ」

 

少し気恥しそうに頬をかいて

 

「いやぁ〜実は俺もこういうことしたことがなくてさ、なんか気恥ずかしくてなかなか渡せなくて」

 

「へぇ〜せんせも恥ずかしくて渡せないんだ〜」

 

「恥ずかしいとは言ってないだろ、ただちょっと今更になると変だなってだけだ」

 

2人して困り果ててしまう、前世を含めて普通の人より長生きをしているはずなのに人一倍こういうことには敏感で臆病で何にもまして1歩引いた所で考えてしまう

 

そんな不器用な2人のことなどつゆ知らず

 

「はい四角ゲット」

 

「あぁ〜!ちょっとは手加減してくれても良いじゃん!」

 

呑気にオセロに勤しんでいた

 

「なんかさぁ?最近2人変じゃない?モジモジしたり、考え込んだり、なにか言いたそうにしてたけどなんだろ?」

 

子供の変化に目ざといアイは真っ先に気付いていて、でもそれがなんなのかまでは分かって居ないらしく疑問を浮かべている

 

「ん〜?悩みたいことぐらいあるんじゃないのか?小学生って子供って言われがちだけどなんだかんだ自分の考えは持ってるだろ」

 

ん〜そうかなぁ〜?と納得いってない様子のアイに

 

(まぁ〜おおよそ理由は分かるけどなぁ、こればっかりは僕がどうのこうの出来る問題でもないし)

 

「果報は寝て待て、のんびり待ってれば良いでしょ」

 

「ん〜〜ぁ〜!!また負けたぁ〜」

 

そう言い終わると盤面が真っ黒な状態でゲームが終わって

 

そしてアイが先に眠ってベランダで煙草でも吸うかとリビングに行くと

小さい影が2つ何やら小声で喋っている

 

「何してんの?」

 

「うっわぁ!?」

「きゃ!?!?」

 

ビクッと軽く飛んで慌てたように何かを隠して明智の方を振り向く

 

「なんだ明智か…」

 

「なんだってなんだよ」

 

失礼〜と言いつつちらっと2人の様子を伺って

 

「ははーんなるほどねぇ?授業で日頃の感謝を伝えようって手紙書いて、でも恥ずかしくて渡せないって感じか?」

 

「ゥ…」

「そ、そんなんじゃないよ…」

 

「別に気にしなくてもいいと思うけどね?あいつだったら2人にそんなことされたら小躍りで喜ぶだろ」

 

「そうなのかなぁ?」

 

「そうそう、お前らが考えるようなことなんてあるわけないでしょ」

 

「そうは言ってもなぁ?」

 

「こういうのはダイレクトに直接渡した方がいいぞ?枕元に置いたりとか居ない隙にとかやらないで直接顔を見て渡すのがやっぱ最強だよ」

 

ギクッとやろうとしていたことがバレて肩を震わす2人

 

「明智もこういうの経験あるの?」

 

「ぁ〜あるね、母親は喜んでくれるのは分かってたけど父親は喜んでくれるか分からなくてさ?最初僕に興味無いと思ってて、でもまぁ一応恩はあるわけだからと渡したら、手紙受け取ってとっととどっか行っちゃってさ?後でこっそり覗いたら泣きながら手紙読んでて、いやぁ〜あの時は意外すぎる一面見てカルチャーショックが止まらなかったよ」

 

昔を懐かしむように言って

 

「自分の推しの意外な一面みたいな〜って感じまでも良いから直接渡してみれば?」

 

「意外な…一面」

 

「明智も見せてくれるの?」

 

じっとルビィが見つめてくる、それを少し意外そうにした後

 

「さぁ?どうでしょう?」

 

そう言うと早く寝ないと明日に響くぞ〜

そう言って煙草を吸いに行ってしまう

 

そして

 

「えっと…えっとね?ママ…いつも…ありがとう…」

 

「アイ…その…いつも…ありがとう…」

 

2人して名刺を差し出すみたいにぎこちないロボットのような動作で手紙を差し出して

 

「えぇ〜なになに?えっとぉ…」

 

最初はなんだろう?と

明るく手紙を受け取って読み始めているとそのうちポロポロと涙を落として、ルビィのを読み終わったらアクア…そして

2人に抱きついて…

その先は分からない、明智はただ3人のその様子を写真に収めてベランダでタバコに火をつける

 

昔を懐かしみながら煙を空に吹いてその顔は嬉しそうな、少し寂しいような顔で

そうやって煙草を吸っているとベランダにルビィが入って来る

 

「お、成功したみたいだな?良かったな、やっぱり直接の方が良いだろ?こういうのは」

 

そう優しく微笑むのだがルビィは下を向いてモジモジさせて

 

「?どうかしたかルビィ?」

 

そのまま無言でずいっと何かを差し出されて、思わず受け取る

 

「ん〜?ぁ…」

 

渡された物が何か一瞬分からなかったが、それがなにか気づくと小さい声を上げて…ルビィはルビィで渡してしまうとさっさと逃げるようにベランダから出て言ってしまい呆然とそのピンク色の可愛らしいイラストの描かれた手紙を見ていると

 

「明智」

 

ほら、ともう1枚差し出されて

 

「お、…おぅ…」

 

それを少し震える手で受け取ると

 

「なんだかんだ言いつつ俺もルビィも感謝してる…ありがと…」

 

それだけ言い逃げてさっさと行ってしまう

 

学校で使うような紙質、子供が好むデザイン…まるでずっと握っていたかのような皺が少しできていて、これを渡す時を待っていた…

頭はそう思考して手紙を開封して

文字が汚くて短い文章、消しゴムのあとがあることから何回も書き直している

 

こちらも短い文章で違う点は1発で書き上げはしたが文字の所々に迷いが見えて、どんな言葉がいいんだろう?と悩みに悩んで何とか書いた感じ

 

必死に脳みそを動かして誤魔化しては居るけれど、それも限界…頭とは関係なく身体は涙腺は勝手に緩み涙を流して手紙の文字を滲ませてしまう

 

その後明智とアイは双子を連れてくると抱きついた状態で酒盛りを始めて大いにはしゃぎ

笑いながら泣いてぐちゃぐちゃにしながら眠りにつく

 

「酷い目にあった…」

 

「ママと明智のテンションがフルスロットルだね」

 

酔いつぶれたため色々ぐちゃぐちゃの状態ではあったが何とか解放されてため息を1つ

 

「流石に親バカがすぎるんじゃないかこの2人?」

 

「明智に関しては私たちの前世知ってるくせにね」

 

そう言って風邪をひかないようにとタオルケットを持ってきて2人にそれぞれ掛けて

 

「さりなちゃん良い親に恵まれたな…」

 

「そうだね…せんせ」

 

満足そうに微笑んだ

 



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最善の策は大体ゴリ押し

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(ぁ〜マジでどうしよう)

 

ベランダでタバコを吸って考える、けれど自分が今手を出せることは何も無くていくら天才とはいえ時間が掛かり、かかった時間だけ取り返しのつかないことになると理解出来てしまう

 

「なんか悩み事か?」

 

悩んでる明智にアクアが声をかける

 

「まぁね?有馬先輩をどうにかしなきゃって感じ」

 

「あぁ…」

 

有馬かなは一時期明智と組むことで多少仕事を貰えてはいたが、それは明智と組んだ場合にのみ、有馬自身の役を見て判断している訳ではない

 

「このままだと先輩は…はぁ〜今からやろうとしても手は無い…いやあるけどさぁ?」

 

そう言ってチラッとアクアを見つめる

 

「なんだ?何するんだ?」

 

「アイのコネを使って〜とか僕の方の大人のコネを使えばできることがあるんだよねぇ、でもさぁ?アクアって役者やりたいの?」

 

「役者…か…」

 

1度演じた、あの時はアイのバーターのために出演したもののあれ以降特になにかに出た訳では無い…一応苺プロにはまだ所属まだ名前は置いてあるが

 

「でも俺には」

 

「うん…無いね」

 

キッパリと言われて少し苦笑いしてしまう

 

「まぁ無いって言うのは厳密には違うかな?でも有馬かなと同じくらいとは甘く見ても言えないかな」

 

「それはそうだろうな、合わせることはできても自分を爆発させるのがいまいち難しくて感覚が掴めない」

 

アクアは周囲に合わせることが出来る、監督やディレクターの望むとおりの役を演じることができる、それもひとつの才能

ただし

 

「僕が今アクアに求めてるのはちょっと違う」

 

「俺が明智の代わりになって有馬を引き立たせるってことだろ?」

 

その通りーとタバコの火を消しながら

 

「アクアは完全に理屈派の人間だからさぁ?感覚で言われても分からないでしょ?だったら全部理解して考えてそして全部見通して行動しないといけない」

 

それは…とてつもなく大変なことなのだろう、明智は一瞬でそれを物にした本物の怪物、だが人間がそれをするとなると大変なんて物じゃすまない

 

「カメラの位置、演出効果、セリフの意味、立ち位置…それら全部がなんのためにあるのか理解しろってこと?」

 

「その通り、アクアがもし役者をやるって言うならそれら全部を理解した上じゃないと…有馬かなっていう天才の隣には立てないよ」

 

「だんだん話が見えてきたんだけどさぁ?もしかして…」

 

「そ!というわけでアクアには有馬先輩の隣に立っても遜色のない、また彼女の魅力を引き出せる人間になってもらいマース!」

 

ドン引きの表情で明智を見つめるアクア

 

「だって言ったでしょ?僕を驚かせるって、役者になってよ、それで僕のおねがい…有馬先輩のために頼むよ」

 

「はぁ…もし僕が有馬レベルになったらどうなるんだ?」

 

「マジでびっくり仰天、それはつまりさ?天才の全速力に秀才が追いついたってことだから」

 

その一瞬のためだけに努力しろと言っているのかこの天才は…そう思うも自然と笑みがこぼれてしまう

 

「はぁ〜じゃあまずやることは」

 

「監督の所にレッツゴーだよ」

 

そこからアクアは小学生とは思えないほど忙しくなった、学校に通い、終われば監督の所に行って裏方のアレやこれらを学んでいく

 

「最近アクア忙しそうだね?大丈夫?」

 

「だ、大丈夫だよアイ…」

 

「いやぁ〜頑張れ〜」

 

呑気な明智にムカつき軽く蹴りを入れて

 

「でもアクアはとっても才能あるから大丈夫だよ!きっと立派な役者さんになるね!」

 

そう言われて抱き着かれてしまうと

奴隷としては頑張らなければと思ってしまうあたり、自分は単純なんだなとアクアは思ってしまう

 

「アクアの様子はどうです?」

 

「良くやってるよ、ほんと何者だアイツ?あんな小学生見たことねぇぞ」

 

監督の所に様子を見に来た明智

 

「まぁ〜彼は秀才ですからね、僕のやりたいことのために頑張ってもらってます」

 

「やりたいこと?なんだよ?」

 

「監督〜次のキャスティングなんですけどねえ?」

 

「お前…最低だな!」

 

監督が耳打ちされたのを聞いて

 

「いやぁ〜それほどでも?」

 

「褒めてねぇよ!たくぅ…まぁ俺も見たくはあるけどなぁ?」

 

でしょ〜!とわっるい大人が意気揚々と笑いあっている様子を見て

 

(明智ぜってぇ許さねぇ…)

 

心を燃やしているアクアだった

 

 

(これは結局僕のエゴなんだよねぇ?アクアにはああいったけど吾郎さんには才能がある、周りに合わせてっていうのがあるからかな?それとも過去の体験でそうなってしまったのかは分からないけど貪欲に貪るように知識を蓄える…有馬先輩が太陽だとしたらアクアは雲…太陽を隠すけど隠されたあと太陽を見たら何倍にも光って見えるように錯覚する…見せてよ…僕はそれが見たくてこんな無茶ぶりしたんだからさ?)

 

監督がキャストを選んだ時は多少驚かれたろう、1度しか経験がないアクアが選ばれ、そして有馬がそのヒロインとして抜擢された

 

 

「今度は負けないわよ私!」

 

「俺も負けるつもりは無いよ有馬」

 

「ぇ?えっと、うん…というか呼び方!」

 

「ハイハイかなかな」

 

「虫か!!」

 

そんなやり取りして撮影が開始される

最初は普通に開始されたはずなのに、少しづく違和感に気付く、おかしい…変だ…何がおかしいのか分からないけど漠然と感覚でアクアの演技に違和感を覚える有馬

 

(なんだろう?いつも以上にやりやすい…?やりやすいのは確かなんだけど…今回の主役はあんたなのよ?なのになんでそのアンタが私にスポットライトを当ててるの?それに感情だってオーバー気味、立ち位置も私と少し被るからこっちの調整が難しい…私のことを妨害してる…?いや、違う…)

 

その違和感の正体がなんなのか分からずモヤモヤしてしまう、そして今撮ったのはおそろくそこまで出来のいいものじゃないと肌で感じる

 

(気付けよ天才、俺がなんのためにこんなことしてるのか分からないってわけは無いだろ?俺が1年かけて学んだことを感覚でとか、空気感の違いを肌でとか言い出すんだろ?

それなら気づけるだろ?)

 

そうこれは喧嘩を売っているのだ、天才子役有馬かなにあろうことかアクアは喧嘩を吹っかけている、この程度も分からないのか?と

この程度もできないのに天才?と

 

端的に言うと

 

煽っている

 

それに気づいた有馬、本来であれば少しは気にはするだろうけれど感情を殺して演技に専念する、そういう生き方が染み付いてしまった…けれどアクアは違う、小さい頃に有頂天だった自分の鼻っ面をへし折った相手、ライバル意識がありこいつには何としても負けたくないと意識してしまったいたから…

 

(あっそぉ!そこまで私に出張って欲しいのね?どーせ明智かなんかの入れ知恵でしょ?そうやれば私が我慢できなくなって飛び出すと思ってる!ムカつくのよ!人の気も知らないで思いっきりやれって言って!こっちの気も知らないで、誰かに見てほしいから、必要とされたいから合わせてるのに…関係ないってぶち壊して!ほんっとあんた達似てるわね!!そっくりクリソツよ!!!)

 

そこから有馬かなの演技は変わった、変わったと言うより元に戻ったと言う方が正しい

私を見ろと叫びながら演技して、アクアのオーバー気味の感情表現にも合わせ、アクアの仕掛けた物全てに乗っかり自分を全部出す

 

その日の撮影が終了しアクアは汗をボタボタと垂らしながら飲み物を飲んでいると

 

「ほんっっと嫌になる演技するわよね!」

 

有馬が満足そうな顔で、でも文句タラタラで隣に座る

 

「明智に言われたんだよ、かなが輝く演技の為の影になれってさ」

 

「はん!どうせそんなことだと思ったわよ!全部用意してやったからあとは思いっきり暴れてくださいよ?お嬢様っていうのが気に食わないわよ!」

 

「あぁ〜あいつなら実際にそう言いそうだな」

 

苦笑いして肯定する

 

「まぁでもあんたのおかげで久々に本気の演技ができたわよ…ありがと」

 

「お礼なら明智に言ってくれよ、俺はただ」

 

そう否定しようとするアクアに有馬が何を馬鹿なことを言ってるんだこいつ?と食い気味に

 

 

「はぁ?何言ってるのよ?あんたの動き…全部計算に入れた上で動いてた、演技が好きで役者になるために努力した人の動きだったわ、そんなのが人に言われたからってできることのレベルを超えてるのよ」

 

「そう…か…まぁ…そうかもな…」

 

役者にそこまで興味はなかった、ただ漠然と自分に才能はなくてあるのは中途半端な武器のみ…それを使っても何倍もの強さの武器を研ぎ続けた天才には勝てない…そう思ってた…でも…

 

「アクア演技とっても上手だったね?将来は役者さんかな?」

 

幼稚園のお遊戯会…ただそれが終わったあとこう言われて褒められた…だから演技の道に興味が出てきて…

 

(明智のやつ…それ分かってて戦い方を学ばせたのかよ…)

 

はぁ〜とため息がつく…

 

「俺…自分に才能はないと思ってる…でも、かな、お前に負けたくない」

 

「ふ、ふ〜〜ん…まぁ…私に勝てるようになるには相当頑張らなきゃダメだけどね?」

 

ニヨニヨした顔でそう言ってそっぽを向いてしまう

 

 

映画が上映されると最初の伸びは悪かったものの、子役とは思えない2人の演技のレベルの高さに注目が集まり、有馬かなとアクア

2人の名前はしばらくの間トレンドの上位に食いこんだ

 

 

「おめでとう〜ぐぅぇ」

 

軽い口調で祝福する明智の顔を踏んずけるアクア

 

「なんでぇ?」

 

「ムカつく、そのほら?僕の思い描いてた通りになったろ?って顔が腹立つ」

 

「いやまぁ、予想はしてたけどアクア自身の頑張りでしょぉ?そんな卑下しなくても良いんじゃないの」

 

「分かってて言ったのか?俺に」

 

「まぁね…正直今あの密度で詰め込み続ければアクア、有馬先輩に勝てるよ?」

 

そう真顔で言われるとゴクリと唾を飲み込む

 

「今の有馬先輩もそりゃ凄いけどさ?まだ伸びしろがある、天才とはいえまだまだこれから、今を全速力で行けばアクアは先輩に勝てるかな〜って」

 

そうにっこり言われると尚更ムカついたので2~3発蹴りを入れておく

 

「ぐぅぇ…だって医者か役者どっちかでしょ?でも知識自体はあるわけだし、それに第二の青春なにかにチャレンジしといてそんはないと思うよ?」

 

「そういうの分かっててあの時無茶振りしたってことか…はぁ〜ムカつく…しかもやりたいことって分かってるかのように言ってくるのが尚更ムカつく」

 

「お兄ちゃん凄かった〜!!!」

 

「流石私の息子!天才!天才だよぉ!!」

 

半分涙目になりながらアクアに抱きつくアイと黒い笑みを浮かべながらも嬉しいのか抱きつくルビィ

 

「流石だよォ!!凄かったよォ…私感動しちゃったよぉ…ぅぇぇーん…」

 

「ちょ、アイ!?わかった、分かったから一旦離れてくれ!」

 

「お兄ちゃん?ねぇ?お兄ちゃん…最近かなちゃんと距離が近い感じがするかなぁ〜って?いやとっても演技自体は凄かったよ?私も感動しちゃったけどさ?なんであんなに距離近いの?ねぇ?ほぼキスしそうになってたよ?」

 

 

泣き疲れたり、呪詛を囁かれたり大変になりながらも

 

(ムカつくよ本当に…最初は有馬を引き立たせるためだけとか言ってたくせに、俺に火がついて負けたくないって思うってこと自体も計算に入れてたってことだろ?明智がみたいかなの演技も見れるし、俺の役者としての最高のスタートをさせた…狙ってたのか…分かったよ…いずれおまえのことも演技で圧倒してやるから覚悟しとけよ…明智)

 



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心に響く音痴であれ!

 

「はぁ〜はぁ〜ふぅぅ…ど、どうだった明智?」

 

鏡張りの部屋で肩で息をしながら倒れ込むように座るルビィに飲み物をとタオルを差し出す明智

 

「うん、やっぱりダンスは凄いと思うよ?この感じで積み上げて行けば良い感じに仕上がると思う、ただし…」

 

「ただし…?」

 

「やっぱ音痴だよね」

 

「ぐっ…」

 

音痴問題、ルビィは音痴と言われてから多少は練習していたがダンスに熱を入れてしまい結局なかなか練習できず音痴は相変わらずだった

 

「これじゃあまだ野生動物の求愛する歌の方が上手いくらいだね、クジラとか」

 

散々な言われように反論しようとしたが下手なことは自覚しているためベッタリと倒れ込む

 

「だってさぁ〜どうすればいいか分からないし!私はこの状態でアイドルになってストーリーを提供するアイドルになる!!」

 

「まぁ、それも良いけど根本的な問題としてさ?僕じゃなくてもっと専門家に頼れば?」

 

「専門家?」

 

「そ、君の近くにいて一番アイドルとして熟知している人…居るでしょ?」

 

「あぁ!!」

 

そこから話は早かった、娘に頼られたアイはテンションが上がり全力でルビィのサポートに回るようになる

 

「行くよ〜」

 

「んぅ〜」

 

午前6時まだ薄暗い中眠たい目を擦っているルビィとシャキシャキとランニングに連れていくアイ

 

それが終わったら朝ごはんを食べて学校、その後家に帰ってくるなり指定されたメニューを熟す

 

「頑張ってるな〜」

 

暇なのか様子を見に来た明智がペラっとアイが渡したレッスン表を見ると

 

「うっわぁ…」

 

柔軟、振付確認、体力トレーニング、発声練習

 

こと細かに指定されていて明らかに小学生にはオーバーワーク気味な内容にドン引き

 

そこからアイが帰ってきたら振り付けの間違えがないか、ダンスの表現方法、笑顔の作り方をミリ単位で調整…それが続いて、

 

「おーいとりあえず食材の下拵えはしたけどこのまま作っちゃおうか?」

 

「あ、もうそんな時間?ありがと先輩」

 

「いや、それは良いんだけどさ?大丈夫ルビィ?」

 

「え?ぁ…る、ルビィごめんね!?ちょっとママテンション上がっちゃって」

 

「ひゅぅぅ〜〜〜ふぅぅぅぅ…ひゅぅぅぅ〜」

 

どこぞのガスマスクみたいな呼吸をしながら大の字になり、汗だくでぶっ倒れてるルビィに駆け寄る

 

「だ、だいじょ…だいじょび…だよぉ…ママ…ふぅぅ〜〜」

 

「あぁ〜なんか呼吸が凄い不安定になっちゃってるぅ、ご、ごめんねぇ?」

 

「どうする?このままやっちゃおうか?」

 

「ぁ〜私がやる!先輩ルビィのこと見て

て!」

 

「へいへい」

 

そうしてバトンタッチしてルビィの隣に座る明智

 

「どうよ?一日体験してみた感想は」

 

「や…やばぃ…ママやばい…」

 

息も絶え絶えに何とか口に出して、差し出された飲み物を口に含む

 

「まぁ、体格とか年齢的な意味合いがあるから断定は出来ないけど、これが今の所のルビィとアイの差だよ」

 

「私と…ママの…ふぅぅ〜差…?」

 

「形の整ってなかったダイアモンドが全力で磨かれた、だから今のあいつがあるって事」

 

「そういえば…ママって凄かった…仕事終わったら練習して帰ってきたら家のことして…私達の面倒を見てくれて…これをこなし続けたってこと…?」

 

「そうよ、まじで意味わかんないよな、体力お化けって意味でも、精神力って意味でも」

 

そう考えると頭のおかしいスケジュールだろう、いくら斎藤夫妻が手伝っていたとはいえ率先して育児、家事などをこなしさらに振り付けの確認、発声練習、体力トレーニング、

パフォーマンス向上のためのさらなる練習

それらをこなし続けて来たからこそアイはドームに立つほどのアイドルになることが出来た

 

「天才ってさ?どういう人がそう呼ばれるか分かる?」

 

「えっとぉ…ママみたいな人とか?なんでも出来て、人より時間をかけないで何かをやってのけちゃう人?」

 

「僕はね、天才って呼ばれる人種はその人間が最高速度を出し続けている時に呼ばれる言葉だと思ってるよ」

 

「最高…速度?」

 

「天才っていうのは案外ゴロゴロ出ちゃうんだよ、でも天才と呼ばれ続けるのは難しい、有馬先輩だってもう天才じゃないって扱いにされてる」

 

「呼ばれ続けるのは難しい」

 

「天才がトップスピード維持したまま走り続けて、そしていつか天才は伝説に生まれ変わる…まるでアイだろ?あれは天才がやりきった最終ゴール地点」

 

 

「じゃあママって…」

 

「マジで凄いよ?ルビィの目標がどこにあるのかは分からないけど、アイをなぞるのはめちゃくちゃきついよ〜って事」

 

「…明智……もしかしてわざと私がママに頼るように誘導したの?」

 

体力が回復してきたのか起き上がって、明智をジトッとした目で見つめる

 

「?そうだよ?人間早めに壁にぶつかった方が良いからさ?良い感じにボキッて折れた?」

 

「明智って本当に人でなしだよね!」

 

ベチィッと小さい掌で思い切り叩いて

 

「いっでぇ!?、でも、今自分がなんのためにコツコツ積み上げているのかしっかり理解した方が努力の質も上がるだろ?」

 

「それ…はぁ…」

 

正論しか言わないから反論ができない、正しいと思ってしまうから何も言い返せない…ムカつく…結局心のどこかでは明智がなにか間違ったことをするはずないんだと思って信用してしまう自分が居る

 

「レベル上げするのだって強い敵を倒したいからだしね、打倒アイでも目指してみれば?」

 

「はぁ?何言ってるの?ママは完璧なアイドルなんだよ?越えられるわけないし!」

 

「へぇ〜?そう?僕案外ルビィだったら行けちゃうと思ってるよ?それに…」

 

耳元に口を近づけて

 

「吾郎先生に見せるんだったらやっぱアイドルとして輝いてる姿見せたいでしょ?」

 

「ま…まぁねぇ?そ、それはそうだけどぉ〜」

 

ニヤッと笑って立ち上がり

 

「よーし!打倒アイ!!」

 

「ぇ、えぇ…」

 

「ドームに立ってやれ!なんなら親子でドーム立ってみたとかやれよ」

 

「そんな勝手なことばっか言わないでよ!」

 

そう明智に怒るけれど、もし未来でママとドームに立って親子でアイドルをする…それも案外悪くないんじゃないかとそんな未来を想像してしまう

 

そこから明智とアイで調整し、今のルビィにあったメニューを作り、それを効率よく、丁寧に、確実にこなしていくルビを見て満足そうに頷く明智

 

「先輩って本当に口が上手いよね、自分が見たいもののために焚き付けて…ひっどぉ〜い」

 

ベランダでタバコを吸っていると珍しくアイがやってきて非難の目を向けられる

 

「いやいや、本人が望んでやってますからね?僕は強制してないですから」

 

「詐欺師のそれじゃん!別に強制した訳じゃないけどやってくれたら〜とか、みんなやってるよ?って誘ってるんだ…悪い人」

 

ベランダに体重をかけながらうだうだ言い始める

 

「言い方に悪意がありすぎませんかね?偏向報道極まれりって感じ」

 

「ちょっとムカッときたから殴っていい?」

 

「ダメに決まってるでしょ?やめてね?」

 

「じゃあつねる」

 

「結局暴力にはいてててて…」

 

そのまま抓られて頬を引っ張られる

 

「ルビィはきっと凄いアイドルになるんだろうなぁ…」

 

「かもなぁ…痛いんだけど」

 

カラオケで安い値段で個室を借りることの出来る学生や主婦まで広い世代に愛されている施設

 

そこで

 

「ど、どう?」

 

「35点すっごい下手」

 

「グゥ…」

 

「この点数でその顔するな」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「可愛かったから100点!!」

 

「まっまぁ〜〜!!」

 

思わず優しい言葉を掛けてくれたアイに抱きついて…男性陣にあっかんべーをする

 

「いやぁ〜きっちり下手ってこういうことを言うんだな」

 

「下手なアイドルかぁ…基本的におバカ系とコンテンツとして消費されて即座に使い捨てだろうな」

 

「ひっどぉいよぉ…ママ…容赦ないよぉ…」

 

「大丈夫だよ、きっと上手くなるよ、それにほら?変な歌い方で愛嬌あって可愛かったよ?」

 

「へんぅ…」

 

「あ、トドメさした」

 

「アイ…」

 

「ぇ、えぇ!?ご、ごめんね?ルビィ…そんなつもりで言ったんじゃないんだよ?」

 

そこまで言うならと失意の中マイクを握らされる明智

 

「しゃあないな…」

 

なぜか選曲は既にされていて

 

95点!!

 

「まぁ?こんなものかなぁ?音程合わせるなんて余裕よ余裕!」

 

「先輩の歌い方は音程合わせるためだけに音を取ってる感じがします15点」

 

「なんかムカつくから10点」

 

「嫌いだから0点」

 

「君たち全体的に辛辣だよな?そこまで言うならよぉ?やってくれるんですよね?アクアさんでサインはb〜ダンスもお送りします」

 

「はぁ!?ちょ、」

 

文句を言うまに立たされてそして…

 

52点

 

「びみょぅ…43点、でもダンスは上手かった」

 

「うちの子が可愛すぎるので100点です!」

 

「お兄ちゃんの完コピダンス推せます100点」

 

変なパワーバランスが発生しているのか酷い扱いの差を受ける明智

 

「もうお前ら双子でユニット組んでアイドルやれば?」

 

「何を勝手なことを言ってるんだお前は」

 

「いいじゃん!アクアとルビィがコンビくんで新生b小町!それいいじゃん!うちの子ならいける!!」

 

「お兄ちゃんと…ユニット…いい!!」

 

「ない!絶対にない!」

 

「今度社長にお願いしてみるね!!」

 

そういうと選曲して歌い始める

 

「行くよ〜サインはb〜〜〜!!」

 

全員100点を出して、こうしてすぎていく

 

そして…この時軽く口に出した双子ユニットが思わぬ形で叶うことになるとは夢にも思ってない、現在全力でオタ芸を披露しているアクアさん

 

(あいつ絶対真剣にやらせようとしてるんだろうな…)

 

遠くない未来そう思う明智だった



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寝室と書いて戦場と読む

新しいのを書きつつなので少し短めです


明智はアイと共に寝ているがなぜか2人とも寝不足で眠たそうに瞼を擦っている、

何とかしようとする明智と本能のままに動き回るアイの戦い

 

「ふぁ〜〜」

 

「すごい眠そうだね明智」

 

「ん〜まぁねぇ〜」

 

眠たそうに欠伸をして顔を洗う明智

 

一方

 

「んっふぁ〜〜」

 

「アイ寝不足、大丈夫?」

 

「ん〜ちょっとね、でも全然問題ないよ!」

 

こちらも眠たそうな欠伸をして

 

(どう考えてもこれは…)

 

(アイのせいだろこれ…)

 

そう考えながら昨日の夜まで時間は遡る

 

「おやすみ…ふぁ〜」

 

眠たそうにさっさとベットに潜り込んでそのまま眠りにつこうとする明智

 

 

「あれ?先輩もう寝ちゃうんだ…」

 

「はぁ?お前も明日仕事だろ、僕も仕事あるし…はよ寝て明日に備えなきゃダメだろ」

 

少し残念そうな口調のアイに何を言ってるんだと言い反対を向いて眠りにつこうとする

 

「ねぇ…先輩」

 

柔らかい感触が背中に触れる…同じ物を使っているはずなのに自身の数倍甘い匂いが鼻腔をくすぐり、心臓がどくんと跳ねる

 

「な、何だよ」

 

「1回だけキスしよ?1回…それだけで寝るから…ね?」

 

もうお分かりだろう、寝室とはただ身体を休めて眠るための場所では無い、同じ布団で入眠を行うということは、毎回そこに違った戦いがあるということを

 

「わ、わかった…1回だけだぞ…1回…ッ」

 

「ん…えへへ、おやすみ」

 

軽いくちづけが終わると満足したのか可愛らしく笑ってそのまま眠ろうと目を閉じる、それがわざわざ明智の方を向いて目を閉じるのでキスを待っているように見えてしまい…

 

「もう1回…あと2回…いや、後30分だけ」

 

「ちょっと〜んぅ…んっ…先輩って獣だよね〜」

 

「お前が全体的に悪いだろ!」

 

「うわぁ〜人のせいにするなんて先輩は悪い狼さんだね、ほら…乱歩…ね?」

 

「お前…まじで…」

 

これはそんなどこにでもあるバカップルの戦いである

 

 

 

次の日

 

「真剣に寝不足なので今日は寝ます、絶対に睡眠時間を確保します」

 

正座の状態で宣言する明智とブーブーと不満げなアイ

 

「横暴だ〜詐欺だ〜」

 

「なんでそんな否定的なんだよ、お前だって眠いだろ…別に僕はソファで寝たって構わないんだよ」

 

「それはダメです、先輩にはこの物凄く高かったベットで上質な睡眠を取ってもらわないと」

 

「その睡眠時間が削れてんだよ!」

 

バンバンと沈むベットを叩きながら

 

「先輩だって乗り気じゃん」

 

「ぐぅ、、、」

 

そっぽを向いて言われると何も言い返すことなど出来ない、そもそも明智自身乗せられてしまっているので反論などできるはずもなく

 

「僕が悪かったから…今日は寝ましょう」

 

「はーい」

 

そのまま電気を消して横になる…相変わらずいくら掛けたのか分からないベットは寝心地抜群で時間もかけずに入眠しそうになると背中を細い指でなぞられる感触にビクッとする

 

(無視無視…どうせちょっと遊んでるだけだろうし、この程度で構ってたら僕の身が持たないんだよ!)

 

そう耐える無視の姿勢を構えているとさらに指が明智の背中を撫で回す

 

「〜〜〜〜♪〜〜〜♪」

 

呑気に鼻歌を歌いながら上から下に指をなで下ろし、円を書いてたまに爪でカリッと引っ掻いたりと好き勝手に指が蠢く

 

(いや…あの…あのさぁ…ほぼ愛撫だろこれ!何?なんなの?僕が必死に耐えてるのを嘲笑ってるだろこいつ!ぁ〜ムズムズする、背中こそばゆいんだけど!)

 

そうやってたまにビクッと反応して、じんわりと汗をかき始めると、不規則な指の動きが規則正しくなり始める…

 

(?指文字?)

 

せ・ん・ぱ・い・の・い・く・じ・な・し

 

その後に♡を書かれる…

 

「お前マジで覚悟しろ…」

 

ガバッと後ろを向いてそのまま覆い被さると嬉しそうな顔でニヤニヤしながら特に抵抗しないアイ

 

「うわぁ〜先輩こっわぁ〜突然どうしたの?寝るんじゃなかったのかなぁ〜?」

 

「おっっまぇさぁ 」

 

今夜の勝敗アイの勝ち

 

 

「明智本気で眠そうだな」

 

「あぁ…まぁな〜仕事速攻で終わらせて寝る」

 

そうして眠たい目を擦って午前中を過ごして

 

 

「ねぇ、せんぱい、これはちょっとないんじゃないの?」

 

「よしと、これでお前は僕に対して何も出来ん、安心しろ痕が残らないやつだから」

 

そういうと抗議するアイを無視してさっさと布団に潜り込む明智

 

「はぁー仕方ないなぁ〜寝ますよ〜寝れば良いんでしょ〜」

 

ほっと…胸を撫で下ろす明智、

これでやっと寝れる、このベット寝心地は大変いい…そして隣にはありえないぐらい甘い匂いがする抱き枕、こんな好条件で寝れるなどなかなかないこと、そのまま眠るために目を閉じると

 

モゾモゾ…モゾモゾ…

 

ベットの中で動き回る芋虫みたいなのがいた

 

(なにしてんのこいつ?なんで手を縛られてるのに諦めないの?不屈の精神過ぎない?どんだけ?やばいよ、こいつこぇよ寝かせろよ、なんでアイは余裕で体力持ってんだよ)

 

そう考えているとガバッと布団を捲って顔を出してくる芋虫系アイドル

 

(はぁ〜無視無視適当に頭撫でて寝るか)

 

そのまま手癖で頭を撫でながら暑いな〜と考えている

 

最初はなぜかビクッと反応したり、抵抗しようとしていたが手が使えない上に自分から不利な体制になってしまったため特に気にせず指を動かす明智に全く抵抗できないアイ

 

「んっ…せ、…せんっ、、ふぅ…んぅ…耳…よっ、弱いから…やめ…んぅぅ…」

 

(あれだよね、こういうのってアニマルセラピーって言うよな、落ち着くわぁーめちゃくちゃに癒される、髪の毛サラサラで耳の所とかコリコリしてるのとぷにぷにしてるのの感触の違いが楽しいわこれ)

 

完全に猫感覚で撫で回す明智

 

(んっぅ…せ、先輩…これわざと絶対にわざと!確実に私の反応見て楽しんでぅくぅぅ

はぁ〜はぁ…、、耳カリカリ反則ッ〜!

コリってするのやめて…根元撫でないで!

ぁ〜もぉ!一切こっち見ないで何癒された顔してるのこの人!)

 

そのまま顎に思い切り激突するアイに

 

「いてぇ!?ど、どうしたんだ…アイ…?うわぁ…」

 

そこには耳まで真っ赤にさせ、涙目で明智を睨みつけている姿がそこにはあった、余程抵抗したのか手首の拘束が取れかけていて、フ〜!!フ〜〜〜ッ!!と猫のように息を荒らげるアイの顔がドアップに映る

 

「ぇえぇーと」

 

「責任…取ってくれなきゃ困る」

 

バカとそっぽを向かれ…そのまま…

 

今夜の勝敗

 

両者敗北

 

「あれ?ママどうしたの?手首に痕付いてるよ?」

 

「これ〜?昨日先輩が無理やり付けたんだよ〜」

 

「ぶっぅぅぅぅ!!!!」

 

爆弾発言に思いっきり咳き込む明智、すっごい気まずそうな顔をするアクア、

ゴミを見るような目で明智を見るルビィ

 

「明智…ドン引き」

 

「ち、違う!あれはどう考えてもアイが悪い!」

 

「昨日はねー私が辞めてって言っても全然辞めてくれなくてね?泣かされちゃったの〜!」

 

「もういい黙れ!お前は一言も喋るな!お願いだから!」

 

 

そこからしばらくの間ゴミを見るような目でルビィに見られる明智だった

 

 

 

 



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化け物と天才は紙一重

リアルが忙しくて書けなかったのでとりあえずのリハビリです!

あぁ〜難しい!まじで難しい!

あとこれが見たい!とかもしあればお願いしまーす


「そういえば貴方に新しい仕事が来てるわよ?」

 

そういうと1枚の紙を明智に渡すミヤコ、それを受け取って確認すると

 

「劇団のワークショップ?」

 

劇団ララライが行っている体験会、それにゲストとして参加して欲しいという依頼が明智に飛び込んでくる

 

「そこでゲストとして出てもらって少しでも劇について知ってもらおうって言うのが表向き、裏向きは」

 

「劇団側としても新しい才能は欲しいってことですか」

 

まぁ、そういう事ねとパソコンに向かいながら

 

「どうする?興味ある?今の貴方だったらある程度の仕事は選ぶことは出来るわよ?正直に言うとこの仕事はそこまで美味しい訳でもないし」

 

「ん〜まぁ前から劇団には少し興味があったので行ってみますよ」

 

少し悩んでから答えると、じゃあとスケジュールを調整を始めるミヤコ

 

(劇団…テレビ用の演じ方だったら絶対だめだよな)

 

そして

 

(つ、疲れた…)

 

劇団相手、テレビでしか演じたことのなかった明智が劇団の人間に受け入れられると思っていなかったのだが、思いのほか友好的に接してくれ、なんならファンも何人かきてサインを書くことになったりと1日中動き回り、やっと開放された明智は裏のベンチで休憩していた

 

 

(ふぅ〜案外受け入れてくれてたな、畑が違うと仲悪いって思ってたけど…いやぁ…まぁそれよりも)

 

視線を感じてサッとそちらを向くと、急いで隠れる小さな影がひとつ見えた

 

(ずっとなんだよな)

 

全員の視線は把握してるつもりの明智、だが常に全ての人間から注目されてる訳では無い

たまに目が合ったり、話かけるタイミングを伺ったりすると言ったもの…今注目している視線の主の見方に違和感を持つ

 

(ん〜なんというかただ眺めてるだけじゃなくて、見てる…視て、考えて…頭の中でイメージを膨らませてる感じかな?憧れとか羨望とかもあったけど…僕のことを観察してる…)

 

そう考えていると口元が自然と笑ってしまう

 

「ふぅ〜そろそろ帰ろうかな〜」

 

わざとらしく声を出して立ち上がる

 

「あ、あの…えっと…」

 

そうすると決心がついたのかモジモジしながら遠慮気味に話しかけてくる小さな女の子…

青い髪、青い瞳…可愛らしい容姿で将来は美人になること間違いなし…

 

目を伏せてはいるが明智を見て靴、服、立ち姿…振る舞い…それら全てを見逃さないように目は鋭い

 

「僕をずっと見てたよね?話があるのかな?」

 

目線を合わせて、なるべく優しい声色を意識して声を掛ける

 

「え、えっとぉ…ずっと気になってて…か、かなちゃんと…一緒に出てる時から見てて…」

 

そうおずおずと言うこの小さな女の子相手に

 

「へぇ…でもそれだけじゃないよね?」

 

「ぇ…?」

 

まだ化け物になっていない雛に好奇心が刺激されてしまった

 

「君が僕を見ていたのは確かにそれが理由だ、でもそれは半分…もう半分は違う…君は僕を観察していた、動作、立ち姿、雰囲気、服装、ありとあらゆる要素を見て僕がどんな人間か判断しようとした…でもそれじゃあ君の才能全部を活かした物にはなってない」

 

「ぇ…ぇ…才能…ですか?」

 

優しい雰囲気がなくなり、うずうずと新しい玩具をもらった子供のように目の前の小さな子供に向かう化け物

 

「そう、才能だ、君は僕と違って他人の全てが見えるわけじゃない、だから足りない物、見ることの出来なかった物を補う必要がある…君に必要なのは人生経験、そしてそれを補う方法は読書、それと長い人生を全速力で走ること」

 

「そうすれば…そうすれば私は…かなちゃんがあの時なんであんなことを言ったか、あの時何を考えてたか分かりますか?」

 

そう初めて目が合った、もしかしたら、自分の欲しい物が手に入るかもしれない…分からなかったことが分かるかもしれない、好きな人の考えが読み解けるかもしれない…そう考えてキラキラした目を向ける

 

それを向けられて…明智は…

 

「無理」

 

「ぇ…で、でも今…」

 

低い声でそう呟いて相手の目をじっと見る、それは相手の全てを見通して見透かして、まるで自分が人形で登場人物で、今目の前の相手から役や考え方を与えられる…それほどまでに見られているようなそんな感覚に陥る

 

「まず目線、何あれ?あれじゃあ私は今あなたの事を観察してますと伝えているようなものだ、あんなんじゃあ不審がって情報を落としづらくなるに決まってる」

 

相手の何が足りないか、何がいけなかったか、明智は今小さな女の子に向かって話しているのではなく、同等の相手として語っている

 

「目を配る場所も違う、顔は確かに情報の塊だ…でも顔以外にも見るべきポイントは大量にある、そして君の観察眼は素晴らしい物があるけど僕と違って君のはまだまだ精度が甘いしそもそも見落としもある、君はある程度心理学については勉強してるみたいだけど人間の心は心理学だけじゃない、寓話、童話、ファンタジー、はたまた画集…ありとあらゆる場所に人間の脳みその中身を見ることの出来る物なんて今の時代大量に転がっている…なんでそれをしないのか分からないな」

 

今明智は小さな女の子相手に話しているというのを完全に忘れている、将来自分と同じく化け物になれる素質を持っている目の前の子の見た目や年齢など関係なく、ただその才能の活かし方がなってないことが明智の中のなにかに引っかかっている

 

そうして一気に巻くし立ててしまえば…

 

ひっく…と声が聞こえる、その声に我に返って見ると…

 

「ご、ごめんなさい…私…私…」

 

「ぇ…?ぁ、あぁ!ち、違う!ご、ごめん!僕は君を責めてる訳じゃなくて!君は凄いものを持ってるからそれをどうすれば開花できるかを教えようとしただけで…」

 

気付いた時にはもう遅くて…慌てて慰めようとハンカチを渡したり、周りを見渡して誰も居ないのを確認して控えめに頭を手を置いて優しく撫でたりしたが

 

「わ、わたし…かなちゃんがすっごい輝いてるのが好きで…でも…かなちゃんは酷いことを言ってきたから…なんでそんな事言うのって、もっとかなちゃんらしい演技をしてよって、思って…それで…それでぇ…」

 

ボロボロと涙を零して心の内側を晒す子供にもうどうしようもなく自分がやらかしてしまったと後悔する明智

そうやってアワアワやっていると

 

「何してるの先輩」

 

思い切り後頭部を叩きながらアイが現れた

 

「いて!!な、何してるんだこんなところで?」

 

「私の事よりこの子の方が先でしょ?どうしたのぉ?ごめんね?この人子供なんだよねぇ…す〜ぐ興味があると惹かれちゃうんだ〜よしよし怖くないよ〜お姉さんがついてるからね〜?」

 

そう優しく抱き寄せて頭を撫でながら目を見つめていくと、不思議なことに子供は泣き止んでいき

 

「あ…アイさん…!」

 

「そうだよ〜?私の事知ってくれてるんだ?嬉しい!ありがとね!」

 

頭を撫でて、来ている服に書いていい?聞くとサラサラとサインを書いて

 

「ほら、先輩もちゃんと謝って?」

 

「ご、ごめんね?別に君を責めたわけじゃなくて…君には凄い才能がある…それは正しく使えば沢山の人間を笑顔にすることができるんだ…けど間違った使い方をすると危ないものでもある…だから…そのぉ…ごめん」

 

そう頭を下げて謝る明智をポカーンとした目で見つめる女の子

 

「私…かなちゃんのこと分かるようになりますか…?貴方みたいな凄いことが出来て、かなちゃんの隣に立って…あなたみたいな演技が出来ますか…?」

 

そう、真剣な眼差しで聞かれる明智は…相手の目を見る…今度は優しい目で見つめて…そして…

 

「うん、きっとなれる…君はいつか天才と呼ばれるようになって僕より凄い演技ができるようになる」

 

そういうと笑顔になり、そのままお辞儀をして戻って行った…

 

「先輩さぁ?」

 

「いや…あの…ねぇ?」

 

そ、そんなことより!と分かりやすく話題をすり替えて

 

「お前なんでこんなところにいるんだよ?」

 

「ミヤコさんが先輩のこと迎えに来るって言ってたからそれについてきたんだよ」

 

「な、なるほどなぁ…いやぁさっきはマジで助かったありがとな」

 

「いえいえ〜どうせあれでしょぉ?何か凄い物があの子にあって、それを見つけた先輩が好奇心を我慢できずに質問攻めして、暴かれたくない物全部ばらされちゃって泣かされちゃったんでしょ?」

 

そうじとっとした目で見つめられると何も言えずにそっぽを向いてしまう

 

「はい…大変申し訳ありません…」

 

「………このたらし…」

 

「たらしじゃねぇ!!」

 

ボソッと言った呟きにしっかり反応しながら明智とアイは迎えに来たミヤコの車に向かっていく

 

 

この時明智も気づかない

 

「そうか…私の見えている物は全部って訳じゃなくて、細かい見落としがあるんだ、だから間違えちゃったり、考えの矛盾が起こっちゃったりしてた…他のお仕事をしている人がどんな暮らしをして、どんなことをして、何を食べて、何を着て、普段どんな場所に行ってるのかも分からなかった理由がようやくわかった…知識、経験、発想…それが足りなかったんだ…」

 

キラキラと輝いた瞳で空を見上げる

この人明智は自身に迫る化け物を生み出してしまったことをまだ知らない

 



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ずるいって言った方がずるい

「むぅ…ずるい、ずるいよ!」

 

ソファに座って寝っ転がりだらけている明智

アクアは本を読み、ルビィはダンスの練習をしている時、突然スマホを弄っていたアイが立ち上がり明智に詰め寄る

 

「先輩!」

 

「あ、はいなんです?」

 

久しぶりになにか読んでいるわけでも考えているわけでのない明智は若干面倒くささと眠気の間にゆらながらも目の前のアイドルの相手をするため顔だけ向ける

 

「これみて!」

 

見せられた写真には明智と双子、そしてたまに有馬が混ざった状態でプールに行ったり、

キャンプをしたりと全力で夏を満喫している様子を明智が撮影、(たまにルビィ)

の撮影している写真を見せて

 

「お、おうみんな楽しそうだな?ぁ〜これは僕が枝だけで火を起こそうとしてちびっ子達に冷たい目で見られてる時の写真じゃん、結局成功させてやったけどなぁ!」

 

「その後服に燃え移って慌てて川に飛び込んでたろ」

 

ボソッと我関せずをしていたアクアが思い出し笑いと共に思わずつぶやく

 

「ふぅ〜あ、明智が虫ぐらい簡単に取れるだろってカブトムシに突撃されてたんこぶ作った写真だ」

 

ダンスの練習が終わったのかルビィが帰ってきてアイのスマホに映っている写真を見て小馬鹿にしたように笑い寝っ転がってる明智の背中当たり前のように座って写真鑑賞を始める

 

「いやいやあれはまじで僕の予想をはるかに超えた現象だから、というかその後あの野郎僕に追撃しようとしてきたからね怖いなんてもんじゃなかったよ」

 

「カブトムシ相手に負ける成人男性…」

 

「はぁ?ルビィだって全力で逃げ回ってたろ」

 

「それは明智が追い回してくるからでしょ!」

 

乗っかられてる人と乗ってる人がワイワイ楽しそうに会話するのを見て

 

「私も先輩と一緒に出掛けたい!ずるいよ!最近アクアとルビィは先輩のこと好きすぎる!」

 

「好きじゃない」

「それはまじでないよママ」

 

「ほら!その反応!というかルビィまた更に仲良くなってる!何そのお互い遠慮がない感じ!」

 

「明智相手に遠慮してたら持たないよママ」

 

「ルビィは基本何してもだいたい笑って許してくれるから」

 

「私別に許しては無いからね?」

 

仲良くなる、それは悪いことでは無いしむしろいい事だ…というかアイ自身が自分で思うのもなんだがこの人はちょっと気まずいとか思わないのか、まさに昔からの知り合いレベルで相性の良い2人を見る

 

「ほーら!アクアもルビィもかなちゃんも先輩のこと大好きすぎ!独占しすぎなので、しばらく私が独占します!」

 

「アイ別に俺たち独占してる訳じゃないよ?」

「ママ別に独占してないよ?」

 

「別に独占されたつもりもないし人に所有権を明け渡したことも今の所僕はないはずなんだけどなぁ…」

 

もうなんというか諦めたらしくされるがままにする明智

 

「はーいとりあえずこっち来て」

 

へいへいと膝の上を軽く叩くアイの膝に頭を乗っける

 

「えへへ〜久しぶりの先輩」

 

とりあえず満足したのか頭をサラサラと撫でながらご満悦そうに

 

「まぁそれでお前が納得するならいいけどさぁ?」

 

「まだ満足してないので続行しま〜す、先輩は人たらしの才能があるよね、モテてないとか言って絶対モテてるよ」

 

「はぁ?何言ってんの?僕がモテる?ぁ〜まぁ多少そういうのはあった気はする」

 

黙って頭を撫でられながら過去を思い返してそれっぽい物をなんとか思い出す

 

「そういえばプールに行った時ナンパされてたよ」

 

その時の明智は最近グラサンは最強の変装アイテムだ、と皆に宣言して着用していて

なぜか周りには全く役者だということ自体気づかれてはいなかった

それが逆にいけなかったのかもしれない

 

「あぁ、僕実は子供3人いて妻に逃げられたけどそれでもいい?って言ったら逃げていったの面白かったな」

 

「でも逆に萌えるって言われて連れてかれそうになってたけどね」

 

「あれは特殊だろ何逆に燃えるって、怖いわ」

 

あはは〜と呑気に会話している2人と真剣な顔で悩むアイ

また何か言い出すんだろうなと思うアクア

 

「ルビィ〜他にどんなことがあったのかな?」

 

その後も出るわ出るわ、一目見ただけでその人を把握できる明智には困っているかどうかの判別ができるので何かと目に付くらしく、それらをサッとスピーディーに解決するので何かと絡まれるケースが多い

 

「いやあれはしょうがないだろ迷子だったから送り届けただけだし」

 

「その後ハンカチで涙拭いてたじゃん、あの子可愛そぉ…こんな人たらしの男のせいで恋愛観ぐちゃぐちゃになってそう」

 

「いやあれはさぁ?」

 

「小さい子にまで粉をまいてるんだね先輩」

 

「言い方ァ」

 

そして明智を一旦どかして…そして

 

「お出かけをします!私も纏まった休み取れそうだし」

 

「ぁ〜〜」

 

そう言われると気まずそうにそっぽを向く

 

「何?どうしたの先輩?こんなに可愛らしい後輩兼奥さんとのお出かけを断るなんて言わないよね?」

 

「いや別に行きたくないわけじゃないけどさ?」

 

何か言いずらそうにしながら頬をかいてそっぽを向く明智に?を浮かべながらじっと見つめるアイ

 

「基本的にお前と一緒に居ることの方が多い気がするんだけど?」

 

「えぇ?そんなわけ、、、あれ?」

 

そう言われて思い出してみるアイ、普段の生活、双子は基本的に小学校に通うため居ない、

アイと明智は同じ場所に勤務するとはいえアイが基本的に現場に向かっての撮影が多いためそんなに長時間一緒に居るという訳では無い…が

 

「僕1週間のほとんどお前と普通にいるけど?」

 

「ほ、ほんとだ!」

 

撮影が終わったら関係者から飲み会のお誘いなどがあるがそれら全てを匠に躱し、明智が仕事をしている事務所に戻るとそこからは捻りのない会話を繰り返して居る

 

「うん、どう考えても僕を独占しているのはお前だと思うんだよね」

 

「ぇ、えぇ?でも」

 

だが今は夏休み明智やアイに休みという概念自体はないが双子にはある、必然的に事務所に預けられた双子の相手をするのは明智になる

 

「でもやっぱりお出かけはしたいです!」

 

それはそれ、これはこれと突っぱねる

 

「分かった分かった纏まった休みだろ?まぁ〜僕も休み重なると思うしどっか行くか?」

 

「やった〜〜〜久しぶりに先輩を独占できる〜」

 

「だから普段とあんま変わんないってば」

 

そう言いながらもなんだかんだ楽しみにしているのか顔が綻ぶ明智をみて双子は何やらコソコソしている、

 

がそれを無視

 

「それで?どこ行くんだよ?」

 

「ふふーん場所は決まってるんだよね〜2泊3日温泉旅行!」

 

「へぇ〜〜まさかの泊まり込みかよ」

 

そんな風にして話は纏まった

 

 

 



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温泉たまごは美味い

アイドルのMV(声優さんが歌うバージョン)を聞いてしまい勢いのままに投稿してしまいました


 

 

「いやぁ〜既にいい匂いするね〜〜〜」

 

温泉、日本人にとって風呂とは身体を清潔に清める為だけのものでは無い、簡易的に入れるスーパー銭湯にも暖かいお湯に浸かりながら富士山の絵を見て心身共にリフレッシュするなど、日本人のお風呂好きは筋金入りと言ってもいいだろう。

そんな日本人が温泉に入るためだけに遠くにわざわざ行く、それなのにワクワクしてしまうのがなかなか憎い、そんな風に目的地についてテンションが上がっているのかフラフラと辺りを歩き回って居る、サングラスをかけて帽子を被った黒い髪の艶やかな、高校生と間違えそうな風貌をしているアイ、そして

 

「まさかの泊まりにしてまで僕を独占したかったのかお前は…」

 

恐るべき行動力と資金力を見せつける若干大人気なくもないようなやり方に苦笑いしながらも、その口元には軽い笑みを浮かべている

 

「そんなこと言って〜先輩だって温泉って聞いてワクワクしてたでしょ?」

 

「いや、それは確かにそうだけどさぁ?」

 

問題は少し存在する、今フラフラとテンションマックスではしゃいでいる人物は超人気の芸能人、明智と結婚しているというのが広まっているとはいえもしバレてしまえば多少なりともめんどくさい事になると考えてしまう

 

「大丈夫だって、なんせ私が予約した所は泊まるところに露天風呂があるからさ」

 

「まじか、でもでかい所に入りたいとかじゃないのか?」

 

「ん〜?まぁそれはそうだけど、先輩忘れてない?」

 

そういうと明智にピッタリと近づいて

 

「この3日間先輩のこと独占するって言ったでしょ?」

 

「っ!!お、お前はさぁ?」

 

身長差がある為わざわざつま先立ちで耳元にポショポショと可愛らしい声を聞かされてしまうと顔を赤らめてしまう

 

「ふふーん、ほら?早くチェックインして荷物置こ?これからこの辺り観光しなきゃだし!」

 

そういうとさっさと歩いていってしまう、先程までの甘ったるい雰囲気を吹き飛ばされてしまい、相変わらず振り回される、いや、どちらかと言うと

 

「なんか久しぶりだな」

 

「何してるの〜?置いてくよ〜」

 

「はいはい」

 

確かに関係は昔とは違うかもしれないが、ああやって自分を振り回すところは少し昔に戻った気がして、手を振り回して早くしろとアピールされると、少し早歩きで行かなければと思ってしまうあたり、もうとっくに手遅れだと自覚してしまう。

 

 

 

 

「う〜〜ん!!この温泉卵美味しい!」

 

「温泉地来たら絶対1個は食べるよなそれ」

 

荷物を預ける時思いのほか豪華すぎる旅館に案内された明智は自分が今のところ財布の紐を緩めていないことに気づき、慌ててアイに尋ねたがスラスラとはぐらかされ、こうして現地の食べ物に舌鼓を売っている

 

「あ、見て先輩、温泉まんじゅうって言ってるけど温泉ってつけてるだけでただの饅頭があるよ」

 

「おい、みんなが分かってて黙ってることをあえて言うんじゃありません、でも揚げまんじゅうもあるみたいだぞ?」

 

「お〜ほんとだ!すいませ〜ん!抹茶とごまとさつまいもくださーい!」

 

毒を吐きながらも揚げまんじゅうを見つけると目を輝かせて注文をし始める、それを見て明智も同じく注文して、

 

「僕は普通のやつ2つください」

 

「あれ?そんなので足りるの先輩?」

 

届いた揚げまんじゅうを食べながらアイが聞く

 

「いや、旅館に帰ったら夕飯出てくるだろ、だからセーブしてるんだよ」

 

「ぁ…」

 

すっかり忘れていたのか既に1個目を完食し2個目に伸ばそうとしていた手が止まる

 

「先輩って饅頭好きだったよね?」

 

「なんだその本人ですら初見の情報、はぁ〜1個手伝ってやるから」

 

ありがと〜と言いながら饅頭を渡す、ある程度小腹を満たしたところで日陰になっているちょうどいいベンチを見つけそこに腰をかける

 

「本当はさぁ冬が良かったんだよね〜だって夏に温泉って熱いし」

 

「この旅行全否定すんなよ、というかお前本当に良いのか?流石に全部払ってもらってるのは気が引けるんだけど」

 

宿のお金どころか先程から買い食いしている物までアイがお金を出しているので流石にいたたまれなくなった

 

「えぇ?だって先輩あの子たちいっぱい遊びに連れて行ってちょっと金欠でしょ〜?」

 

「ぐぅぅ!?」

 

普段の明智からは考えられないような声を上げてしまう、そう一応働いていて大学卒業をまじかにしているとはいえまだ大学生、そんな明智が色々やりくりしているとはいえ夏休み暇があれば遊びに誘っているので財布にはそこそこのダメージが積み重ねられている

 

「まぁ私纏まったお休みがどう取れるか分からなかったからしょうがないかな、それにいつも頑張ってくれてる先輩を労う意味もあるし、私旅行ってしてみたかったんだよね」

 

そうやって本当に嬉しそうに笑う、光を木が遮っているとはいえ焼け付くように照らす太陽の光に照らされて、星のように弾ける笑みを浮かべられてしまえばどうすることも出来ず

 

「そうかよ、じゃあ今度はあの2人も連れてってやらないとな」

 

「だね」

 

そう言って暑い風を感じながら汗をかいて、2人で笑いあった。

 

旅館に戻った2人は豪華な夕飯を食べて、そうしてしばらく寛いでいる

 

「アイ、そろそろ風呂入ったらどうだ?」

 

「ん〜?そうだね〜でも先に先輩入って?」

 

「まぁ、別にいいけど」

 

そんなやり取りもあり身体を洗った後、温泉に浸かる

 

「あぁ〜この時間帯は夏といえども少しはマシかな?」

 

日が沈み辺りにあるのは街灯の光のみ、そんな中で個室にある露天風呂に入ると、思わず力が抜けてしまう。

 

そんな風に贅沢な環境の入浴を楽しんでいるとガラッと音がする、ボーとしたまま音のなる方を振り向くと

 

「この時間だったら気持ちよさそうだね〜」

 

「おっまえ、何してんの?」

 

「何ってお風呂に入りに来たんだけど?」

 

ガラス戸を開けて入ってきたのはもちろんアイ、バスタオル1枚で体を隠した状態で当たり前ですけど?というように、身体を洗い、そして

 

「んっぅぅ〜〜〜〜」

 

明智と少し離れた場所で湯船に浸かり、伸びをする

 

「あのさぁ?せめて事前に言っておいて欲しかったんですけど?」

 

責めたいような、嬉しいよな、よく分からない感情で話し始める、この時から周りの景色がどうとか湯加減がどうとかそういうものに頭が回らなくなってしまう

 

「私言ったよ、先輩のこと独り占めするんだ〜って」

 

そう言いながらゆっくりと近づいていく、明智も特に距離を置くでもなくそれを見守り、2人の距離はほぼ0に。

 

「いや、確かに言ってたけどさぁ」

 

「というか先輩だったら私が何考えてるかぐらい当てれたんじゃないの?」

 

それを言われてしまうとぐうの音も出ない

 

「お前がそれを全部理解した状態で利用してくるけどな」

 

「そんなことないでーす!」

 

そう言いながら明智の前に移動してゆっくりと体重を預ける

 

「あの、暑いんですけど」

 

「こんなに可愛い女の子にくっつかれて出る感想がそれぇ?」

 

ちらっと後ろを振り向いて不満な顔をするが、余裕のない明智の顔を見てにっこり笑う

 

「お前ってホントくっつきたがるよな」

 

「だって先輩くっつくと面白い反応するんだもん」

 

「はぁ?そんなことしてませんけど、お前がくっつき虫ってだけだろ」

 

確かにと笑いながら明智の左指にある指輪を軽く撫でる

 

「こんな時ぐらい名前で呼んでよ、先輩ってそういうところデリカシーが足りないよね」

 

「お前だって名前で呼んでないだろ」

 

それもそうかとカラカラと笑う、遠く離れた場所で2人っきり、邪魔する存在などないこの場所で密着してしまえばどちらの心臓の音か分からなくなってしまう、汗が落ちるとアイの身体を伝って流れ落ちる

 

「先輩とくっついてなきゃ不安だもん…」

 

そう、突然ボツリと呟く

 

「ホームシックかよ」

 

そう言いながら明智もアイの指に着いている指輪を撫でる

 

「違いまーす、ずっと何時までも続くのかなぁって思っただけ」

 

いつも通り、にしてはずっとテンションが高かったアイ、その少しの違和感に気づいていない訳ではなかったが、こうやって見せられると

 

「ごめん、アイ…」

 

「ぇ?ちょ…せんぱ…んっ、、」

 

突然アイの顔を自分に向けさせると少し乱暴にアイの唇に明智の唇を重ね合わせる、お互いに火照った唇で、火傷しそうなキスをした

 

「いい加減そのいじらしい感じやめろ、まじでくるものがある」

 

「え、せ、せんぱ!?」

 

「僕は名前で呼んだのにそっちは呼ばないんだ?」

 

「ちょ、ちょっと!ま、まって!!」

 

そういうとバシャっと水音を立てて立ち上がるアイ、その顔は真っ赤に染まっていてのぼせたにしては目が潤んで居る

 

「わ、私、先に上がるね」

 

「お、おう」

 

流石にやりすぎたかと少し反省していると

 

「女の子には準備しなきゃいけないことがあるんだよ、乱歩のバカ」

 

そう鳥が囀るように言われてしまえば、その後どうなったかは言うまでもない、

 

ひとつ言うことがあるとすれば明智の背中には引っかき傷と噛み跡、アイの身体の目立たない部分には蚊に刺された様な跡があり、翌日は2人ともテカテカとした肌で観光していたということは伝えておく。



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IF
女の子は負けず嫌い


前提情報

明智とアイが付き合って居ない
明智が前に進めず、アイが燻っている状態


 

年月は人を変えるというけれど、あいつはなんにも変わってなくていつも通りまるであの時あった見たいな顔で私のことを見つめてくる、私を見てくれる

私を、しっかり見てくれる…

 

私を…

 

「あんた…アイさんとどんな関係なのよ?」

 

ソファに寝転がってのんびりと読書をしているあいつに聞いてみる、マネジメントをしながら役者をやっていると聞いた時には何を言っているのか分からなかったけど、こいつの作業スピードを見ていたら納得だった、ミヤコさんがパソコンの前で作業している間にさっさと自分の仕事を終わらせてのんびりソファに座って自宅のように寛いでいるのを眺めて

 

「僕とあいつの関係?あぁ〜あれだよあれ、腐れ縁ってやつかな?僕とあいつは昔ちょっとした縁で知り合ってね?そこからたまに話すようになったってだけ」

 

「へぇ〜あっそ…座るから場所空けなさいよ」

 

そっちから聞いてきたのに冷たい反応…とうじうじ文句を言いながらもしっかりと私が座る場所を開けてページをめくる、

こいつは普段私の全部を見透かしてくるけど、ここ最近はそれが減った気がする

なんでなのかアクアに聞いたら

 

「あぁ、明智に心開かれてるからだと思うぞ」

 

なんて言われて少し舞い上がってしまったのは内緒

 

そして

 

「こ、恋人…とかじゃないの?」

 

「ん〜?違うよ、僕とあいつは腐れ縁、それ以上って訳でもないしそれ以下でもないかな」

 

なんでそんなこと聞いてくるの?みたいな顔で見つめてくるのはやめなさい、

人がどれだけ勇気をだして聞いたと思ってるのよ

というか、なんでこういう時は察してくれないのよあんた!

 

「へぇ〜ふ〜ん…」

 

ニヤニヤした笑を抑えられてるのな自信が無い…でも役者としてのプライドで何とか普通の顔を貼り付ける

 

「いきなりなんでそんなこと聞いてきたの先輩?」

 

「別に?私の後輩の恋愛事情に少し興味が出ただけよ」

 

「へぇ〜先輩こそどうなのよ?年頃の女の子なんだしそういうキャピキャピした話に対して興味津々なんじゃないの?」

 

「あのねぇ?私はこれでもアイドルよ?まだまだこれからだとしてもわざわざ自分からスキャンダルの火種になりそうなことするわけないじゃない」

 

こうやってまた嘘をつく、興味津々に決まってる…そもそも興味がなきゃあんたにこんな話振らないでしょ普通!

いつもみたいになんでも当てて私の内心見透かしなさいよ!

 

なんて、見透かされたらされたで困ってしまう、気づいて欲しいけど気づいて欲しくないそんな矛盾した考えがこいつと話す時はいつも心の片隅に湧き出てくる

 

 

「そういうもんかね?僕が前見たアイドルグループの内、半数以上は隠れて恋人居る感じだったな」

 

「まぁ…隠れて付き合ってバレないようにしてるんでしょ?人間所詮獣よ獣」

 

そうやって興味のないフリをしていると明智が突然立ち上がり、毛布を持ってきて有馬にかけてくる

 

「冷房ちょっと弱めようか?」

 

「べ、別に大丈夫よ…まったく、あんたは余計なお世話が好きよねほんとに」

 

「まぁ後輩ですからね、可愛い先輩のためになることなら何でもしますよ」

 

そのままソファに座ってまたペラペラとページを捲り始める

 

本当に…こいつは…人の気も知らないで、全然私の顔なんて見ないで話すくせに私をちょっと見るだけで飲み物を差し出してきたり、冷房弱めたり、体調の変化にすぐ気づく…

それが全部当たってるから余計にタチが悪い

一体何人の女の子がこいつに垂らしこまれて来たのかと考えるとだんだんムカムカしてきた…

 

「本当にこういうの気付くわよね、はぁ〜どうせほかの女の子にもしてるんでしょ?す〜ぐにそうやってポイント稼いで、な〜に?なんか交換してくれたりするの?景品とか出るの〜?」

 

またこうやって口から嫌味が出てしまう、本当は嬉しいのに、でも他の子に対してもどうせこいつは優しくて、これは特別扱いなんかじゃないって思ったら少し胸がチクッとして

でもこいつならこんな私でも許してくれるって分かってるからつい言葉が出てしまう

 

「?他の子に対してもこういう対応はするけど、先輩のことは大体わかるかなぁ?先輩のこといつも見てるし」

 

「はいはい分かってますよ、お得意の僕は君だけを見てるキリッ!ってやつでしょ?モテる男って罪よねぇ〜」

 

ぁ〜もぉ…すぐこういうことを言う、欲しい時に欲しい言葉を簡単に投げてきて、そんなことで簡単に舞い上がって頬の熱を抑えるのに必死になってしまう

私は特別扱いされてるって心の奥底に染み込ませるみたいにしてくる…

 

ほんっと…

 

「あんたは昔からずるいのよ…」

 

「別にズルくないですよ、先輩が好きですからね〜僕は、好きな人なら見たくなるのは人として当然では?」

 

「そういうセリフをサラッと出てくるのが本当に女たらしって感じがするわよねぇ〜女の敵?」

 

やめて欲しい勘違いしそうになってしまう

幼い頃にも言われた言葉、あの時は純粋に嬉しかった、子役として落ち目な私を見て好きだと純粋に好意を伝えてくれる人間が居るんだって思えた、役者としての有馬かなを見てくれる人間は居るんだって

意地悪ででも優しい…兄が居たらこういう人なんじゃ無いかなって考えたことは1度や2度じゃない…

 

でも…

 

今は違う、こいつから好きって言葉が出てくる度に胸の奥に届いて、心臓の鼓動が早くなって、まるで有馬かなに対して好意を抱いてるように勘違いしてしまいそうになる

 

あの時と違って私は…もう大人だ

年齢差が離れてて色恋に対して無知で好意は一種類しかないと思っていたあの頃の私じゃない

物事を冷静に俯瞰でみれるし、あんたが言った通り恋愛にも興味津々の女の子…恋に恋しちゃうぐらい考え無しなただの乙女

 

「たっだいま〜」

 

帰ってきちゃった、自然とそう思ってしまう

こいつはただの腐れ縁だって言ってるけど明らかにアイさんはこいつに対して好意を抱いてる、何となく…それがわかる

多分だけどアイさんもあいつに心の奥底まで見透かされて欲しい言葉を投げかけられて、無責任に、不躾に、無遠慮に、デリカシーの欠けらも無い言葉で心を振るわされたんだと思う

 

「先輩〜可愛い後輩が帰ってきましたよ〜お、かなちゃんもいる〜」

 

「こんな小生意気な後輩を可愛いと思ったことは僕実は1度もないんだよなぁ」

 

「またまた〜先輩は何時もそういうことばっかり言って〜照れ隠しかな?」

 

本当に照れ隠しだと思う、こいつはアイさんに対してだけ態度が明らかに違う

あけすけで、表裏もなくて、冷たくて、でもなんだかんだ言ってワガママを全部聞く

羨ましい…アイさんは特別なのかな?

私はどうだろう?私はこいつにとって推し

特別扱いだとは思うけど、それは役者…アイドルとしての有馬かなに対する特別

 

でもアイさんに対しては違う…アイドルとしでも女優としてでもなくて、アイさん個人に対していつも接してる…

 

「ほらほらー可愛い後輩がお腹空かせてますよ〜ご飯奢ってご飯」

 

「はぁ?お前連れてくってなったら個室しかないんですけど?どうせ僕が奢るんだったらせめて自分で食べたいもの選ばせてくれ」

 

「明智!」

 

「うっぉ!?どしたの先輩?」

 

立ち上がり思わず名前を呼んでしまう、何か考えがあったわけじゃない、2人の会話を中断させる体のいい言い訳があるわけじゃないのに天才子役子供みたいに駄々を捏ねて、また明智を困らせて…甘え始めてしまう

 

 

「この後私の買い物に付き合うって言ってたでしょ!行くわよ、ということでアイさん明智借りますね」

 

そう言って困惑している明智を無理やり引っ張って立たせる

こういう手段しか取れない、スマートなやり方なんて知らない

10年前から思うところもあってそれでやっと見えてきたチャンス…どんなにカッコ悪くても

 

私は負けたくない

 

「へぇ…2人っきりでお買い物?はぁ〜しょうがないな〜じゃあ先輩約束忘れないでね?」

 

「え?あぁ…分かったよじゃあ行きますか先輩」

 

一瞬通り過ぎる時2人だけの何かをして、ニコッと笑うアイさん

その余裕にムカッときて、まるでお子様を見るような目で見てくる

何よ!ちょっと私より長く明智と一緒に居て、年上で!大人の余裕があって、顔がめちゃくちゃ綺麗で!スタイルが良いだけじゃない!

 

ぐっ…

 

外に出て歩く、特に予定もないのに連れ出してどこかに行く用事なんてあるわけないからただ歩く

 

「私には将来性がある!」

 

「今日の先輩は変だね、突然1人でどうしたの?悩み事?話聞こか?てかL○NEやってる?」

 

誰のせいよ誰の!あんたが色んな女にモテまくるのがいけないんでしょ!

 

「なんでもないしいつも通り、LI○Eは交換してるでしょ」

 

「まぁそれは別にいいけどさ、でも先輩?なんの予定もないのになんで連れ出したの?」

 

「そ、それは…あれよ!あれ、たまたま外の空気を吸いたくなって〜それでやっぱ先輩が出掛けるとなると後輩をパシリに使いたいじゃない」

 

「なんて嫌な思いつきなんだよ、完全に発想がヤンキーだよヤンキー」

 

そう言いながらもじっとこちらを見つめてる…この目…苦手だけどこの目で見られるのは嫌いじゃない、いや…ぶっちゃけるとだいぶ好きだ

自分の中身を全部見られてる感じ、どうしようもなさとか、やるせなさとかが全部見られてて、私が本当にどうしたいのか分かってくれる、そんな感じがする

 

少ししたら納得したのか意地の悪い笑みを浮かべて

 

「安心してくださいよ、僕はいつまでたっても先輩の後輩ですから」

 

そう笑顔で言われて、なんでいつも分かるのにこういう時だけ理解してくれないの!とか

変なところばっかり気が回るくせに!とか

考えが浮かんでくるけど、私の傍に居るってだけでこんなにも笑顔になってくれる、ただそれだけで許してしまいそうになってるから私は本当にダメかもしれない

 

「それじゃ嫌だから言ってるのよ」

 

「ぇ?うっそ…せ、先輩?」

 

「な、なんでもない!早く行くわよバカ!!」

 

驚いた顔で少し顔を赤らめた明智にこの顔を見せたくなくて早歩きで先に行く、

明智の顔の数倍…いや耳まで真っ赤に染まっているこの顔を見られたくなかったからだ

 

太陽が沈んだのに外はジメジメと暑くて、

セミの鳴き声がうるさくて、私のさっきの言葉も全部聞こえてなければとさえ思ってしまうけど

後ろから足音が早いペースで近づいてくる度に

私の思いが伝わってて欲しいと、近づく度に胸が高鳴っていく

 

うだるような夏の私の恋の話



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