真・恋姫†無双 外史『劉懿伝』 (老虎)
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党固の禁

数多ある外史が紡ぐ物語は、時にその外史を監視する者の予想を裏切り駆け出すことがある

 

これから始まる物語もまたその一つ

 

大徳、奸雄、小覇王

 

三つの英雄を繋げ新たなる時代を切り開いた男

 

名を劉懿、字を公斥、真名を鏡夜

 

太傅陳蕃の懐刀と呼ばれた彼が中枢を離れ

 

何を思い考え動いたのか――――――

 

―五年前―洛陽―

 

「己が欲望のため霊帝閣下を弑し自らが皇帝の座に就こうとした大将軍竇武、そして竇武に影から力を貸し国の政治と財を欲しいがままにしようと企んだ陳蕃、以上の二名を首魁とした謀反人100余名・・・・その全てを処刑する!」

 

声高らかに宣言するは十常侍が筆頭、張譲。

 

「ふざけるなぁあああああああっ!!!陛下!眼をお覚ましなされ、真の謀反人はこやつら十常侍ですぞ!?彼奴らのような腐れ宦官のお言葉になど耳をお貸しなさるなぁあああああ!!!」

「・・・・・・・・」

 

自らの無実と十常侍の非を叫ぶ竇武、それとは対照的に黙して語らぬ陳蕃。

 

「ふん、そのけたたましく叫びを上げる獣をとっとと連れ出し煩わしい口を首ごと落とせ」

「っ張譲ぉおおおおおおおお!!!」

 

兵士たちに連れられていく竇武。

 

「貴様はなにか言う事は無いのか?陳蕃・・・・」

 

張譲が厭らしい笑みを浮かべながら問いかける。

 

「この期に及び是非もなし」

「そうか・・・・連れて行け」

 

つまらない、そう言わんばかりの表情で兵士に命ずる張譲。

 

「・・・・」

 

この時、陳蕃の脳裏に一人の青年の姿が思い浮かんでいた。

 

「(公斥、無事に逃げ延びるのだぞ・・・・せめてお前だけでも・・・・)」

 

太傅陳蕃がその最後に思い浮かべたのは子でも無ければ妻でも無く友人でも無い、自らの懐刀として長年仕えてくれた青年の姿。何時か自分が出来なかった事を必ず、あの青年ならば成し遂げると信じて・・・・

 

―洛陽北東部の森―

ただひたすらに駆け抜けていた、襲い来る刺客を返り討ちにし、転んでも直ぐに立ち上がり。既に体中傷だらけ泥だらけ、誰が見ても明らかに疲労困憊であるにも関わらず駆け続ける。

 

「っ・・・・ぁ・・・・!!」

 

10年間仕え続けていた主人である陳蕃様が処刑された、己らが欲望に従い腐敗した政治を続けてきた十常侍を弾劾すべく暫く動き続けていた。が、それはどこからか露見していた。大将軍竇武や他賛同していた100余名と共に処刑された。

 

「っ・・・・!」

 

当初は、義理を果たすべく陳蕃様の家族を逃がそうとも考えた。だが彼の家族らは頑として動かなかった、曰く「陳蕃は朝廷随一の功臣、彼を慕う者も多いのだから我らに危害は及ぶまい」と・・・・甘すぎる、十常侍という連中に対する見識も、先を見通す視野も。

 

「覚悟ぉ!!」

「邪魔だぁあああああああ!!!」

 

草むらから飛び出てきた男を一太刀で切り伏せる。

 

「っ・・・・ぁ・・・・あ・・・・」

 

おそらく十常侍は竇武、陳蕃様に関わる者は三族はおろか部下だったもの、交友のあるもの問わず須く討つだろう。

 

「生き延びて・・・・やる・・・・必ず・・・・」

 

処刑の前日、陳蕃様の記した手紙を見た。『おそらく竇武と私の謀は失敗する、だから逃げろ』・・・・大まかにそう記されていた。だからひたすらに逃げた、ただただ・・・・かつて陳蕃様と語った『夢』を潰えさせないために・・・・

 

「劉懿」

 

ふと、聞こえてきた声・・・・俺はこの声に聞き覚えがある。

 

「応累か!」

 

俺が呼びかければ草むらから小太りの男が姿を現す。この男は応累、陳蕃様に仕えていた間諜で幾度か俺と共に仕事もしたことがある・・・・同僚とも言うべき男だ。俺が表を、応累が裏を支えていた。

 

「簡単に殺されるわけが無いとは思っていても、やはり姿を確認するまでは心配なものだ」

「お前も無事だったか」

 

細い目の奥から、いつもの鋭い眼光では無く本気で安堵した様子を見せる。

 

「・・・・洛陽は、どうなった」

「・・・・酷いありさまだ、竇武、陳蕃様に関わりのあった者は女子供問わず殺された・・・・生き残っているのは俺とお前ぐらいなものだ」

 

予想はしていた、それでも実際それを聞いてしまうと心が締め付けられる、悲鳴を上げ軋む。

 

「これから、どうするのだ?」

「・・・・一時身を隠そうと思う。何をするにせよ、どう動くにせよ、今動こうとすれば全てが潰える」

「分かった、幸い私の部下も無事だったのでな。しばらくは大陸各地で情報を集める事にするよ」

 

僅かに、静寂の時間が訪れ、先に口を開いたのは応累だった。

 

「・・・・君は、まだ諦めるつもりは無いのかね?陳蕃様と語り合った『夢』を」

「無論だ、諦める理由も無い」

「ならば、安心した。もし君が再び立ち上がるならば私は・・・・何時如何なる場所からでも馳せ参じよう」

「ああ、頼むよ戒」

「任せろ、鏡夜」

 

握手を交わし、互いに違う道へと歩み始めた二人。

 

この二人が再会し物語が再び動き始めるのは・・・・これより五年後になる。




このあとがきコーナーでは作者のちょっとした雑談と次回予告を掲載していきます。

この話に登場した戒(応累)は北方三国志の登場人物です。張飛の妻と息子を暗殺者から護ろうとして仁王立ち・・・・間者なのに強くね!?と感じたのは私だけだったんでしょうかね?

では次回予告、時が突然流れ流れて五年。もはや隠遁生活も身に付いた頃に訪ねてきたのはほんわか大徳の劉備と種馬北郷、こんな二人で大丈夫かと不安に思う鏡夜が出した決断とは!!「真面目にやらんかぁ!!(in愛紗)」・・・・次回『再動』をお楽しみに!!


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再動

月日が流れるのは早いものだ、あの後俺は冀州東部のとある山の中に小屋を建て暮らしていた。麓の村の人々に開拓に関する知恵を貸す代わりに建築用木材を提供してもらったり時々襲ってくる賊を追い払う代わりに食料を提供してもらったりと持ちつ持たれつな関係になっている。

 

「鏡夜さーん、村長さんから大根いただきましたよー?」

「師匠ー、度さんが屋根直して欲しいって言ってたっすよ」

 

そしてこの一年で同居人が出来た。

 

おかっぱ頭で背が小さく、小動物のような雰囲気を出す少女。徐庶、字を元直、真名を灯里・・・・元々は荊州のとある私塾で軍師になるべく勉学に励んでいたらしい。で一年ちょっと前に無事卒業、仲の良かった子たちと別れ仕官先を探すも外見で断られ続け食うものも食えずに行き倒れしていたところを俺が保護。以後、「恩返しを」と住み着いて家事をやってくれている。

 

腰ほどまである長髪、キツネ目な灯里とは真逆の小動物系。李厳、字を正方、真名を伽耶。ある日突然押しかけてきた少女、半年程前に突如現れ「弟子にしてください!」と突然言われた時は何事かと思ったがどうやら戒の紹介だったらしい。何でも何時しかどこかに仕官してバリバリ働きたい、との事らしい・・・・どういう経緯で戒と知り合ったかは戒がなぜか言い淀んでいるので良くわからない。

 

「なら今日の夜は大根粥にしようか・・・・度さん家の屋根は明日直しに行こう」

 

日々を畑仕事をしながら灯里と兵法、政治の勉強をし村の仕事をしながら伽耶に武術の鍛練を施し、たまに戒と顔を合わせ話をしたりと・・・・それが今の俺の日常。

 

「了解、じゃあ度さんに伝えてきますー」

「ああ、気をつけて行くんだぞ」

「うぃうぃー」

 

元気よく駆け出していく伽耶を送り出す。

 

「じゃあ伽耶が戻ってきたら夕飯にしようか」

「はい」

 

――――――

暫くすると・・・・なんだろう、伽耶の声なのだがそれ以外の声が聞こえてくる。聞きなれない声だから客人なのだろうが珍しい事もあるものだ。

 

「灯里、九人分の茶を用意してくれ・・・・どうやら客人のようだ」

「分かりました、お茶請けはどうしましょうか?」

「時間も時間だし・・・・大根粥も作り置きする程あるから場合によっては夕飯を馳走する事にしようか」

「ではそのように」

 

灯里が湯を沸かすために水を汲みに裏手へと回った頃に、伽耶が門をくぐる。

 

「師匠ー、お客様っすよー」

「ああ、お通ししてくれ」

 

何にせよ村人以外が訪ねてくる事はまれ、ともなれば久々の客人をもてなす事にためらいは要らない。

 

「えっと・・・・お邪魔しまーす」

「こんばんはー」

「夜分遅くに押しかけ申し訳無い」

「なんかいい匂いがするのだ・・・・」

「はわわ・・・・」

「あわわ・・・・」

 

珍妙な集団だ、いやまぁ俺たちも人のことは言えないが実に珍妙な集団だ。この国のものではない異国の衣装を身にまとう青年、やたらめったら一部自己主張の激しい少女、美しい黒髪が印象的な少女、元気という言葉がそのまんま歩いているような少女、人見知りの激しそうな少女が二人。

 

「あれ・・・・朱里ちゃん?雛里ちゃん?」

「え?灯里ちゃん!?」

「灯里ちゃんだぁ・・・・」

 

そしてどうやら人見知り少女二人は灯里とは知り合いのようだ、というよりも真名で呼び合う程の親しい仲なようだ。灯里は水鏡塾の出身だと言っていたからその繋がりなのだろう。

 

「ふむ、親友同士の再会といったところか」

「女三人、寄ればかしましいなどと言うが正しくその通りだな。灯里・・・・徐庶も普段は口数多い方では無いのだがね」

「確かに、それに・・・・」

 

灯里たちから視線を逸らせば元気っ子二人組がそれぞれ薙刀と蛇矛を構えながら話をしている。

 

「いやいや、だから組み合ったらどりゃあああ!って感じで押し返せば良いっすよ」

「うにゃ?鈴々はえりゃああ!!って感じで押し返しているのだ」

 

ダメだ、あちらの世界に入り込めない。

 

「あー、えーっと・・・・取り敢えず」

 

来客でたった一人の男性である少年が居住まいを正す。

 

「鈴々、朱里、雛里・・・・そろそろ本題を切り出したいから・・・・」

「分かったのだ」

「はわわ!しゅみません!」

「あわわ・・・・」

 

あちら側は少年と緋色の髪の少女が一歩前でその後ろに残る四人が並んで座る、こちらは俺の後ろに灯里と伽耶が控えている。

 

「それでは改めて、初めまして・・・・俺は北郷一刀、って言います」

 

異国の衣装を身にまとっていた少年・・・・北郷君がまずは自己紹介をする。と言うか本当に異国の出身のようだな、名前からするに。

 

「あ、私は劉備って言います」

「関羽、と申します」

「張飛なのだ!」

「諸葛亮れしゅ!」

「ほ、ほーとーれす」

 

と、続けて自己紹介をしていく。と言うか後ろ二人は大丈夫か?すんごい噛んだりしてるが・・・・ああ灯里の表情で察した、昔からそうなのね・・・・だって「ああ、懐かしいなぁ」って顔してるし。

 

「俺は劉懿だ、で後ろの二人が・・・・」

「徐庶、です」

「李厳っす」

 

さて、これで自己紹介が終わった。で視線で話をするように促す。

 

「劉懿さんの力を借りに来たんだ」

「ふむ・・・・俺のような隠者に何を」

「ご謙遜は結構です」

 

俺の言葉を遮ったのは劉備だ。

 

「私、実は数年前まで魯植先生の開いていた私塾の門下生だったんです」

 

魯植、文官だが軍学者として名高く怜悧な知将としての評判がある人物だ。後世を担う人材を育てる、と言う事で私塾の経営もしていたと記憶にある。

 

「それで・・・・ここにいる皆と義勇軍を立ち上げたんです、ほんの一月前に」

 

ふむ、劉備は魯植先生に学んだぐらいだから優秀なのだろう。関羽、張飛も立ち居振る舞いと放つ気からかなり手練であると予想出来る。諸葛亮、鳳統に関しても灯里と同窓と言う事だから相応の知力なのだろう。

 

「先生に久しぶりに会ったのは一週間前でした」

「武力、知力に旗印」

 

ここで諸葛亮が口を挟んできた。

 

「桃香様はまだ何かが足りないのではないか?とお考えになり魯植先生に助言をこいに行ったんです」

 

おそらくだが並みの人物ならば現状に満足してしまうだろう、後は兵だけだと、これ以上今は要らないと考えてしまうだろう。だが劉備はそれでは納得しなかったというわけだ。

 

「その時、魯植先生から聞かされたのが・・・・劉懿さんの事だったんです」

「俺・・・・の?」

「はい、・・・・軍事、政治両面に通じた人物であり今の私たちに必要な力を持った方だと伺いました」

 

どうやら党固の禁のことは黙っていてくれたようだ、あれが露見すると今でも命の危険はある。

 

「それで、君たちに足りないものは何だと思う?」

「経験です」

 

そう淀みなく答えたのは北郷君だ。

 

「若さもそうだし場数もそう、俺に至っては戦も無いようなところにいた。圧倒的に経験が足りない」

「俺だって大差無いさ」

「それでも!少なくともこの中では最も経験があります、そして『表』も『裏』も知っている」

 

北郷君、意外と聡いみたいだね。異国故かは知らないが思考に柔軟性がある、しっかりとした人物に師事すれば大化けするかも知れない。

 

「・・・・まぁ、仮にそうだとしよう。君らが俺を誘ってまで求める理想とはなんだ?」

 

それが一番大事だ、おそらくは俺が行くと言えば灯里も伽耶もついてくる・・・・二人のためにもハッキリとさせなければならない。少なくとも権力欲に塗れたような連中や非道を平然と強いるようなやつに力を貸させたくはない。

 

「私たちは・・・・皆が笑って暮らせる世の中を作りたいんです、一人一人が理不尽に虐げられたりしない世の中を・・・・」

「・・・・」

 

照れながら言う劉備の姿に、俺は思わず固まっていた。

 

『私はね、民が・・・・民だけではない、官も、商人も、農民も、王侯貴族も・・・・誰一人残さず皆が笑って暮らせる世の中を作りたいんだよ。夢物語と笑われても構わない、叶わぬ夢を追う馬鹿だと罵られても構わない』

 

頬を伝う雫を気にも止める事なく、頭の中ではかつての主君が語った言葉が今目の前で言われた事のように思い浮かべられる。

 

『それは勿論、公斥・・・・お前も含まれている。よかったら手を貸してはくれないか?私がつまづきそうになったら手を貸してくれ、勿論私も手を貸す』

「・・・・っ」

 

ボロボロと溢れる涙を拭う事すらしない、北郷君や劉備、灯里や伽耶、他の皆が驚いた顔をしているが構わない。

 

『もし私が志半ばで倒れたら君が代わりに紡いでくれ、共に夢に挑む仲間を見つけ出し』

 

『成し遂げてくれよ』

 

あんな夢物語を真顔で言うのは陳蕃様ぐらいだと思っていた、そんな酔狂に付き従う自分の事をも酔狂だと思った。陳蕃様が死んだ時、全てを自分でやらなければならない気がした。灯里にも伽耶にもこの夢のことは語っていない・・・・それで灯里と伽耶が離れていく気がしていたんだ。

 

「劉備殿」

 

だが、目の前にいる。かつての陳蕃様と同じ夢を同じ目で語る人が、その夢に付き従おうと共に戦う仲間たちが。彼女らと一緒にならば出来るかも知れない、あの日々で追いかけた夢を再び・・・・

 

「この劉公斥、貴殿の一臂の力となり尽力しよう」

 

ここから・・・・再び始まるんだ。




ちなみに私が好きな三国の登場人物ですが蜀が李厳、法正。魏が張遼、劉曄。呉が諸葛瑾、魯粛ですね。文官に近いほうが多いですよねぇ・・・・ゲームの三国志でも武官は少数で文官を大量に雇い込むタイプです。

さて次回予告、一刀、桃香と共に行く事を決めた鏡夜。再び時代のうねりに身を投じた鏡夜が向かう先は幽州。懐かしい顔との再会、新たなる出会い、乱立の兆しを見せ始めるフラグ!「何の話だ?(in鏡夜)」次回!『幽州に行こう』をお楽しみに!


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幽州に行こう

さて、俺と灯里、伽耶が劉備軍に参入して半月が経つ。時間が経つに連れて色々と問題が浮き彫りになってきた・・・・そう、俺を仲間に引き入れに来た時の一刀と桃香(劉備)の言っていた足りないもの、がかすむぐらいに。

 

「・・・・兵が足らん、兵糧が足らん、武具が足らん、防具が足らん」

 

義勇軍であるが故・・・・以前に兵がいない。そこらの山賊程度ならば俺に愛紗(関羽)、鈴々(張飛)、伽耶がいれば何とでもなる。一刀だってそれなりに戦えるようだから問題無い・・・・が、兵が居なければ多勢に無勢。どうあがいても限界はある、やはり兵は必要なのだ。そしてそれに伴い武具に防具、兵糧が足りない、兵がいたとしても以上の三つが無ければ話にならない・・・・武具、防具は最悪戦場で奪うとして問題は兵糧だ・・・・それというのも・・・・

 

「うにゃ?」

「なんすか?」

 

鈴々と伽耶、二人に大食らいを擁するが故に・・・・だ。ただの大食らいなら節制を要求するだけだがこの二人は間違いなく一騎当千の猛者、飯を食わせないでいて力が出ない・・・・ではシャレにならないのだ。

 

「・・・・あのーお兄さん?」

 

そう言えば俺が劉備軍に入ったら桃香からの呼び方がなぜか「お兄さん」になった、他の子たちは名前なのに・・・・まぁ悪い気はしないけど。

 

「どうした?」

「うんとね、ちょっと提案なんだけど・・・・」

「ふむ」

 

この半月、桃香は的外れな事を言う事も多かったがその分こちらの意表を突くような意見を言う事もままあった。聞くだけならば決して損はしないだろう。

 

「えっとね、公孫賛って知ってる?私と同門のお友達なんだけど・・・・」

「白馬長史だろう?」

 

公孫賛、白馬義従と呼ばれる白馬で統一された精鋭騎馬隊を率いて烏丸討伐に多数の功績を残した名将と聞いている。

 

「その公孫賛ちゃんが幽州に赴任したって話を聞いたの、だからね・・・・一度行ってみてもいいかなぁ・・・・なんて。お手伝いとかすれば当面の食住は何とかしてもらえると思うし」

 

思ったよりまっとうな意見だ、桃香が言う通り公孫賛を手伝いその代価として一時的に食料と雨露をしのぐ場を提供してもらえるならば・・・・

 

「交渉とかは・・・・あー、いいや。まぁそのへんは任せる」

「うん!任せてよ!」

 

なんでだろう、いろんな意味で不安しか無い。

 

―幽州・易京城―

あれから公孫賛の居城である易京まで来たのだが・・・・

 

「桃香!ひっさしぶりだなぁ!」

「白蓮ちゃん!!」

 

桃香と抱き合い再会を喜ぶ公孫賛、本当に仲が良かったんだろうなぁ・・・・と見て分かる。

 

「あれから二年かぁ」

 

魯植先生の下を離れてから、と言う意味だろう。

 

「桃香はあれからどうしてたんだ?」

「えっとね、困ってる人を助けてたよ!」

 

うん、間違ってない。間違ってないのに何かが間違っているように思えるのは気のせいだろうか?

 

「他には?」

「ほぇ?」

「まさかそれだけってことは・・・・」

「それだけだよ?」

 

唖然とした表情の公孫賛、まぁ分からんでもない。桃香は無能では無い、それどころか性格が天然な事を除けば非常に優秀な人物だ。官軍に入りまともに戦っていたならばとっくの昔に太守ぐらいにはなれてただろう。

 

「バカかお前はー!!」

 

だからこそ公孫賛の叫びがわからないでもない。

 

「お前ぐらい優秀だったらとっくに太守とか・・・・上手く行けば州の長官ぐらいなれてただろ!?」

「でもね白蓮ちゃん、私・・・・どこかに所属しちゃったら決まった範囲内の人しか助けられないから・・・・それが嫌で・・・・」

 

桃香が優秀である事を以前確認した俺も同じ事を言ったが、その時も桃香は同じ答えを返してきた。

 

「公孫賛殿、貴殿も桃香の友人であるならば十分ご存知でしょう?桃香がこういう性格であるのは」

「まぁ・・・・そうだけど・・・・?お前・・・・」

 

ん?俺の顔を見た公孫賛が首をかしげた。俺の顔になにか・・・・

 

「・・・・っ・・・・劉懿!?」

「・・・・へ?」

『え?』

 

あれ?ありのままを説明するぜ?気がついたら公孫賛が俺に抱きついていたんだ、何を言ってるか分からねーだろ?ってかやばいやばい!桃香程じゃ無いけど柔らかい感触がぁ!?

 

「ちょっ!?鏡夜さんから離れて下さい!」

「白蓮ちゃん!?お兄さんから離れて!!」

 

灯里と桃香が引き剥がしに来た。

 

「私を、私を覚えてないか!?」

 

引き剥がされながら縋りつき問いかけてくる、その姿に俺は少しづつ記憶を掘り下げていく。ん?見覚えがあるぞ・・・・だがあれは・・・・もう少し視線が・・・・あ。

 

「お前・・・・六年前の・・・・」

「覚えててくれたのか!!」

 

思い出した、六年前・・・・俺が洛陽から逃げる一年前だ。その頃、幽州で暴れていた張純と言う賊の討伐に俺は兵を引き連れて向かった。張純は幽州各地から人を捕まえ烏丸に売り渡しそれを資金源とし反乱を繰り返し、また烏丸からの援護を得ていた。

 

「あの時の娘か・・・・」

 

三万対八万・・・・数字だけを見るならば圧倒的不利ではあったがそれと地の利を過信した張純の軍を俺は徹底的に奇襲と伏兵で掻き回し、更に当時既に渤海太守であった袁紹を煽て援軍を得た事により壊滅させる事に成功した。その時に売られる一歩手前の少女たちを救出する事に成功したのだが・・・・その中に『白蓮』と名乗る少女がいた。

 

「と言うか・・・・お前、あれ真名だったのか・・・・」

「う・・・・うるさいな、あの時は私だって怖かったんだ・・・・それで助けてもらったのが嬉しくて・・・・つい」

「・・・・鏡夜だ」

「へ?」

「俺もあの頃みたいに白蓮と呼ぶから鏡夜、って呼べ」

「わ、分かった・・・・///」

 

ん?妙に顔が赤いが・・・・

 

「うぅ・・・・まさか白蓮ちゃんもなんて・・・・」

「が、頑張りましょう桃香様!」

 

桃香と灯里がなにか言っているが気にしない事にしよう。

 

「さてと、改めて本題に入ろう白蓮」

「あ、ああ・・・・そうだな」

 

ん、と白蓮が居住まいを正したのを確認してから俺が話を続ける。

 

「まぁ単刀直入に言おう、一時期で構わんからここに置いて欲しい。客将として扱ってくれて構わん、人でが足りないと言う情報も来ているから軍事、内政問わず手伝おう」

「それはありがたいが・・・・鏡夜と桃香の能力は知っているが他の皆は?」

「関羽、張飛、李厳は武勇に優れ、諸葛亮、鳳統、徐庶は知力に優れる。経験不足ではあるが教え込めば相応の仕事が出来ると思う。ここにいる・・・・俺らの旗印の北郷一刀だがまだ経験も浅く異国人であるがゆえに文化に馴染んでいない、が思考に柔軟性があり鍛えれば使い物になる・・・・一刀以外は直ぐに使ってくれて構わない」

 

うんうん、と首を縦に振る白蓮。

 

「じゃあよろしく頼むよ」

「おやおや白珪殿、私の紹介はしてくださらんのですか?」

 

部屋の入り口から声と共に姿を見せたのは白を基調とした衣装に身を包んだ女性。

 

「常山郡に槍を使う在野の武芸者がいる・・・・と聞いたがな、外見まで一致している。君のことか?趙雲とは」

「よく、ご存知で」

「優秀な間諜がいるもんでな、一定以上の力があるやつの話は直ぐに入ってくるさ」

「蛇の道は蛇、と言うことですかな?」

 

ニヤリ、とあちらが笑ってきたのでこちらも笑い返す。

 

「なんでだろう、あの二人が笑ってるとものすごく怖いんだけど・・・・」

「ご、ご主人様もそう思う?」

「まるで肉食獣のような笑い方ですね・・・・」

「なんか近寄りがたいのだ・・・・」

「ガタガタ」

「ブルブル」

「ほらほら朱里ちゃん、雛里ちゃん、大丈夫ですからねー」

「・・・・怖いなぁ・・・・」

 

「ハハハハハハハハハッ」

「フフフフフフフフフッ」

 

どこまでも易京の太守執務室の中で、二人の笑い声は響き渡る・・・・




ちなみにオリ主である鏡夜の名前ですが作者が三国志で新規武将を作成する時に必ず作る名前です。相性は常に劉備と良く、生まれ年は馬超と同じ。まぁ今作では劉備軍参入時28歳とやや(?)年上設定にはなっておりますがキッチリ劉備との相性良し(むしろフラグ)と言うことで。

さて次回予告!とうとうくだされた黄巾討伐の勅令、幽州を離れる決意をした鏡夜を縋りつきとめようとする白蓮「待て!私はそんなことしてないぞ!?(in白蓮)」次回!『乱に起つ』をお楽しみに!


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乱に起つ

幽州に来てから早一ヶ月が経過した、一刀を筆頭に皆が足りない経験を積みながら徐々に仕事になれつつある。

 

「おい北郷!これ間違ってるぞ!?」

「え!?マジで!」

 

一刀は少しいろいろな面でたくましくなってきた。内政では白蓮に怒られながら朱里、雛里、灯里に教わりながら仕事をして。

 

「うわぁあっ!」

「北郷殿!あまりご無理をなさるな!」

 

軍事では公孫賛軍古参の将である田楷に鍛えられ、少なくともこの時代で生きていける程度には成長してきている。

 

「ふむ・・・・」

 

皆の成長は実感できている、桃香も白蓮について上に立つ者の仕事と言うのを学び始めているし愛紗、鈴々、伽耶は部隊を率いて戦う事を覚えたし朱里、雛里、灯里も実地での知識の使い方を学んだ。

 

「鏡夜」

「戒か・・・・」

 

背後に現れた気配を感じ取れば振り向くことなく俺は言葉を返す。

 

「近頃黄巾をまとった賊が多いだろう?」

「ああ」

「その数が大陸全土で膨れ上がっている、既に50万を超えた。まだまだ増える兆候がある」

「50万・・・・だと?」

 

その数は何なんだ?普通はありえない、賊がそこまでの徒党を組むなんて・・・・

 

「近々、朝廷から討伐命令が出るはずだ」

「動くとしたらその時、か」

「ああ、同時に他の雄たちも動く時だ。大諸侯は更に力を伸ばし無名の者は飛躍の機会となる」

「名を上げそうなのは?」

 

ここでようやく振り向くと、以前と変わらぬ小太りだが鋭い目つきの男が適当な椅子を掴んで座る。

 

「兵力のある袁紹、袁術とそのの客将だがそれに留まらぬ才を持つ孫策、濮陽の劉岱、張邈、併州の丁原、それにここの公孫賛・・・・中常時曹騰の孫、曹操」

 

おおよそ、予想通りだ。特に気をつけなければならないのは・・・・

 

「孫策と曹操か」

「ああ、孫策は家臣団を散らされているが腹心の周瑜、黄蓋、陸遜の三人はまだ手元にある。曹操はまだ手元の駒は少ないがいずれも優秀、おそらくは当人の能力値もあり直ぐに台頭するだろう」

 

孫策は、かつて見た。江東の英雄孫堅の戦場を覗き見た時に別働隊を率い苛烈な攻めを行っていた少女だろう、あれが主君としての資質を身に付けたならば・・・・かなり厄介な相手には違いないだろう。

そして曹操は直接面識がある。陳蕃様に連れられて名族や高官が集まる場に連れて行かれたことがあった、「私たちの夢にとって障害となるかもしれない相手の顔だ、見ていて損は無いだろう」とのことで。そこで俺は曹操と会っている・・・・あの不敵な眼を、忘れはしない。

 

「しばらくはまた情報収集を頼む、急な案件があれば直ぐにな」

「分かった」

 

目の前でその姿がかき消えるのを見れば再び机に向かい合う、さて・・・・そろそろか。

 

――――――

その日、俺らは全員太守執務室に集められていた。まぁおおよそ要件の検討もつく。

 

「だから、お前らにとってこれは好機だと思うんだ」

 

白蓮の言葉を好意的に受け取るならば俺たちが独立し名を上げる好機だと、有り体に言うならばそろそろ出て行け・・・・というわけだ。確かに最近俺たちの名は幽州で広がってきて総合的な名声だけなら白蓮より上だ、そんな連中がいつまでもいると言うのは太守と言う立場上よろしくないのだろう。

 

「ありがとう白蓮ちゃん」

 

口火を切ったのは桃香だ。

 

「ごめんね、長々とお世話になっちゃって。確かに白蓮ちゃんの言う通りこれは好機だもんね、私たち頑張るよ!」

「桃香・・・・」

 

うん、分かる。桃香は白蓮の言葉を極限に好意的に受け取っていて白蓮もそれがわかっているから余計に心が痛むのだろう。

 

「それは構わんが・・・・兵が足らん」

 

約二ヶ月の幽州での生活で俺たちを個人的に慕い集まってくれた連中はいる、がそれでも100に満たない程度だ。粒ぞろいではあるがここからの戦いを生き抜くならばせめて500以上は欲しいところだ・・・・

 

「ならば幽州で募兵して行かれれば良かろう」

「星!?無茶言うなよぉ・・・・私だって兵が必要なんだぞ!」

 

突如口を出す星(趙雲)に白蓮がちょっとだけ顔を青くする。

 

「何、その分は我らが頑張りましょう。なぁ?田楷殿」

「然り、それに劉備殿に募兵の許可をお出しなされば『友の門出に兵を譲った義の人』として評判が上がりましょう」

「うぅ・・・・後の名声より目先の兵力なんだが・・・・あぁもう!わかったよ!好きにしろ!でもあんまり連れてくなよ!?」

 

ちょっとヤケになってるなぁ・・・・

 

「白蓮」

「鏡夜・・・・」

「まぁ長いこと世話になった」

「そんな、ことは・・・・」

 

急に顔を赤くしたなぁ。

 

「こうやって俺らが一歩踏み出せたのも白蓮のおかげだ、ありがとうな」

「う・・・・ぁ・・・・」

「また会おうぜ」

「あ・・・・ああ!」

 

ひらひらと手を振りながら戻ると一刀が「あれがフラグか・・・・」とか呟いている。

 

「さて、厚意に甘えて募兵するぞー!」

『応!』

 

――――――

募兵に応じた人数は3000、まぁ一ヶ月弱の成果としては十分か。白蓮が「お前ら取りすぎだぁああ!!!」とか叫んでいたけどこうなれば聞かなかった事にしてしまおう。

 

「フハハハハッ!だいぶお集めになられたなぁ!」

「確かに、ここまで集まると壮観ですなぁ」

 

ようやく出征、と言う頃合で田楷さんと星が見送りに現れた。

 

「お嬢が兵が足らんと喚いておったがまぁ気にせんでええ!ワシと子龍が何とかするでな」

「うむ、私と田楷殿がいれば3000足らん程度では問題あるまい」

「ま・・・・俺もそう思うよ」

 

田楷さんも星も一騎当千とも言える実力者、先ず多少の戦力の誤差ならひっくり返せるだろう。

 

「世話んなった、直ぐにお前らも出陣だろう?」

「そうなるな、南から上がってきた賊が北に回り込み異民族と手を結ぼうと動いているらしいんでな・・・・お前ら見送ったらこのまま俺らは南を、お嬢が北を押さえ込むと言う事だ」

「すまんな大変な時期に」

「構わんさ、全てはお嬢の判断だ。何・・・・ワシらも自分の言葉には責任持ってやるさ」

 

ケラケラと笑う田楷を見れば何かと安心出来る。

 

「お兄さーん!!行きますよー?」

「おう、待ってろ」

 

遠くから声をかけてきた桃香に返答を返す。

 

「・・・・また会おう、公斥殿」

「ああ、また会おうぜ田楷さん」

 

拳をコツン、と突き合わせて互いに背を翻す俺と田楷。

 

「まったく・・・・男と言う生き物は・・・・」

 

星がその光景を見て微笑みを浮かべていたのを、俺たちは知らない。




今回登場の田楷さんは年齢で30半ばぐらいです。白蓮をお嬢呼ばわりする理由は仕える主だから、とのことです。イメージ的には任侠とかそんな感じです、能力的にはちょっと器用貧乏だけど忠誠心と情熱だけは人一倍なキャラです。真名はいずれ公開する事になりますが。

さて次回予告です。乱世にようやく乗り出した鏡夜とその仲間たち、数多訪れる出会いと再会。その始まり、軍事も政治もなんでもかんでも一人でできちゃうけど身長と胸が足りな「死ねぇっ!!?(in華琳)」あぶっ!?じ、次回ぃっ!『覇王との邂逅』をお楽しみぬぁあああああ!!!「待てぇえええええっ!!!(in春蘭)」


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