ある可能性の劇場 (シュレディンガーの熊)
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そこは異世界ですか?~YES!ウサギさんに呼ばれました~

早速ですが、皆さんは異世界というものを信じたことがあるでしょうか?俺はあります。というか、現在進行形で異世界にいます

 

どうも、相川歩です。さて、どうしてそんなことを聞いたのかというのは、ほんの数時間前に遡ります

 

 

――――――

 ――――

  ――

 

 

 

 

 

まだ外出に手袋やマフラーが手放せない寒い冬の季節。その日は、いつものリビングを賑わす彼女たちは珍しく家におらず、自分ただ一人ちゃぶ台に腰を下ろしていた。昨日確か、三人共ショッピングに行くと言っていたっけ

 

ちゃぶ台の上に用意したお茶で一服した俺は、雨戸の先の穏やかな庭の様子を眺める。乾いた風に舞い散る枯葉、葉が散っていない色褪せた木々。太陽の光が弱い曇り空から察するにそろそろ雪も降りそうだ

 

・・・毎日彼女たちによって騒がしくも愉快で非日常な日常を送っているが、極偶には、一人になるというのも悪くないな

 

なんて一人和んでいると、ヒラリと頭上に何かが降ってきた

 

「手紙?」

 

頭上から手に掴んだのは、天井から突然降りてきた、一通の手紙。宛先は【相川歩様】・・・俺?しかも差出人はない

 

はたして誰からだろうか?自分なりに考えてみた

 

頭領や彩香様、吸血忍者か?・・・いや、彼等吸血忍者ならセラやサラスとか他の吸血忍者を介してちゃんと手渡ししてくるはず

なら大先生や京子、ヴィリエの魔装少女か?魔装少女=奇妙奇抜というのはハルナでいやというほど結びつく。・・・しかし魔装少女であればもっとぶっ飛んだ郵便方法が為される気がする、矢文とかミサイルとか・・・たぶん

となると、デューバイスやネネさん、冥界人か?魔装少女同様、冥界人ならこういった趣向もやりそうだ。だが、冥界人、特にあの王様は基本自由奔放、何をするにも唐突だから、手紙なんか送らず直接用件を伝えにくるだろう

 

兎にも角にも、中身を拝見するしかないか。俺は封を切り中の手紙を開いた。そこには一文―――

 

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを投げ捨て、我ら“箱庭”に来られたし』

 

 

・・・?なんだこれ?数度読み返すがさっぱり意味が解らない

 

異才、才能、箱庭・・・何かの暗号だろうか?それともただのいたずら?

 

手紙を読み終えた次の瞬間、俺は異様な浮遊感に襲われた

 

いつの間にかはるか上空にいた

 

 

「ええええええええええええええええええええええ!?」

 

 

 

周りを見ると自分以外にも落下している人が三人と猫が一匹。なぜに猫?

 

一通り驚いても未だ落下し続けている。どんだけ高いところなんだ

 

少し遠くを見ると森ばかり、真下には大きめの水溜り―――たぶん湖か何かだろう

 

ここはどこだ?地球か?ヴィリエか?冥界か?全く見当がつかない!

 

GYAAAAAAAAAAAAAAHHH!!!

 

落下しながら推測してると、遠くからこの世ならざる生き物の叫び声が聞こえた

 

後ろを見ると異様に巨大な鳥。蛇のような長い尾をもった鶏のような、そんな怪鳥が飛んできた

 

全長15mほどだろうか。とにかくデカい。そんな巨大な鳥がこっちに迫ってきている!?

 

「!」

 

「大きい・・」

 

「ギニ゛ャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛!!!(ば、化け鳥やぁ!!)」

 

「ヤハハハハハ!」

 

化け物目の当たりにして一人驚き、一人高笑い、一人無反応。唯一叫んでいるんのは猫だけ

 

ってか、これ全員吹き飛ばされるぞ!?だが変身もできない今、空中では身動きが取れない

 

 

【避けなさい!】

 

 

万事休すか?と思っていたら、一人が怪鳥に向かって命令する様に叫んだ。すると怪鳥は俺たちの間を縫う様に飛んで行った。言葉を理解できたのかあの鳥

 

取り敢えず誰も被害に合わなくて良かった―――と思ったその時、怪鳥の長い尾の先が俺の顔に当たった

 

「嘘だろっ!!?」グルグルグルン

 

弾かれた勢いで俺の体は古代怪獣ガ○ラのように大回転した

 

弾かれた俺は回転しながら三人から離れていく。さらに運の悪いことに、回転の勢いでシャツ、ズボン、パンツと剥き出されていった。いくらなんでもそれはヤバい!

 

回る視界の中、下に見えるのは木々が生い茂る森。これ無事で済まないな・・・たぶん無事だろうけど

 

と、達観していると大地が見えてきた。もう間もなくで到着するのか・・・着地したらこの姿をどうにかしないと―――

 

「・・・ん?」

 

「へ・・・?」

 

その時、落下予測地の茂みにウサ耳を付けた女の子がいることに気が付いた

 

気配に気づいたのか彼女は上を見上げると、迫りくる変態と目があった

 

あ~・・・うん。その程度()で済むわけないですよね~

 

 

 

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!??」

 

 

「い~やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

 

 

 

 

ドチャっと酷い音を立てて、ウサ耳を付けた女の子は、大回転しながら産まれたままの姿で突っ込んできた変態(ゾンビ)と激突した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《そこは異世界ですか?~YES!ウサギさんに呼ばれました~》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、俺ゾンビっす。あと、魔装少女で、此の度異世界人にもなりました

 

 

 

 

 

 

 

 



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ハイスクールD×D BEHIND STORY~ミルたんの異世界冒険譚~

皆さんは彼女?を覚えているだろうか・・・

 

 

 

 

ある赤龍帝はその姿に戸惑いを隠せなかった

 

ある白龍皇は知らぬ間に接近を許し驚嘆した

 

ある吸血鬼はその威圧感に恐怖し命乞いした

 

ある聖剣使いはその佇まいに敬意を表した

 

ある悪の魔術師達はその規格外な行いにひるんだ

 

あるエロい男子高校生達は更に現れた同志らしき存在達に絶叫した

 

ある魔王少女はその素質に関心を示し眷属として欲した

 

 

 

 

・・・その者、猛者にして、人でありながら人の力を超えた、圧倒的な肉体を持つ漢女(おとめ)!!?

 

その名は魔法少女―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミ~ルたんだにょ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

ある夜、某アパートにて

 

とある一室の中では、ゴスロリ服もとい『魔法少女ミルキー』のコスプレを身に纏う者がいた

 

その衣装もはちきれんばかりの巨漢である彼女?は、タンスやら何やらをひっかきまわして、必要な物を鞄に詰めていた

 

「優しい天使さんや宿敵である悪魔さんに頼んでも、やっぱりミルたんは魔法少女になれなかったにょ。でもでも、ミルたんはまだまだ諦めないにょ!」

 

色々な精霊さん達と交信した結果、他にも異世界が存在していることを知ったミルたんは・・・

 

「新しい世界に行って、今度こそファンタジーなパワーをもらいに行くにょ!」

 

かつて試した手段―――再び異世界を渡ることを決意した

 

荷物の準備も整えたミルたんは、『ミルキースパイラル7オルタナティブ設定資料』を参考にチョークを使って足元に転移の陣を描く

 

「・・・さて、そろそろ出発の時間だにょ」

 

ミルたんは魔方陣の上に立ち、深く深呼吸をして・・・

 

バキバキッ! メリメリッ!

 

ミルたんの鋼の筋肉が盛り上がった。と同時に、さながら某野菜人化のような、とてつもないオーラが発せられる

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!」

 

精神を研ぎ澄ますミルたん

 

同時にミルたんの放つオーラが彼の暮らすアパートそのものを揺らしていた

 

そして、

 

「ミルキーアストラル・・・ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンプゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!――――――にょ♡」

 

某日某夜中、町全体に轟く怒号を上げながら、ミルたんはこの世界から姿を消した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはミルたんの、魔法少女になるべく再び異世界に渡った話である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

行先予定地(変更の恐れ大いに有)

 

科学と魔術の交差する、超能力者の学園都市

 

魔法使いが隠れ住む、世界樹のそびえる学園都市

 

願いと呪いが渦巻く、儚き魔法少女達の暮らす町

 

英雄の力を操る、並行世界を旅する魔法少女達の暮らす町

 

天上人と侍が暮らす、笑いと人情の溢れる江戸の町

 

魔装少女、吸血忍者、冥界人、ゾンビが暮らす、珍騒動の絶えない町

 

筋肉を魅せる魔法少女?が邪神と闘う混沌の世界

 

 

 

 

 

 

 

 

SAN値直葬!?

 

 

 

「・・・まさかここまでプランに支障をきたすとは。魔術にも科学にも染まらない、イレギュラー・・・」

 

 

「あ、亜人…なのかな?この人」 「いや、人じゃねぇっすよアニキ!」

 

 

「魔女をあんな力技で倒すなんて、本当に訳がわからないよ」

 

 

 

阿鼻叫喚!

 

 

 

「怖い!この人怖すぎる!!」『正に魔法少女(物理)って感じですね♪』

 

 

「あの、すいません。ここ屁怒絽さんのご自宅ではありません。隣の方です」

 

 

「めっちゃスゲェな!なぁ!アンタが悪魔男爵なんだろ!」

 

 

 

空前絶後の巨大クロス作品!

 

 

 

「奇遇ですね。じつは私もやってるんです、魔法少女」「「だ、ダブル筋肉だぁぁぁ!!?」」

 

 

 

 

 

 

 

「ミルたんにファンタジーなパワーをくださいにょ!」

 

 

 

 

 

 

《ハイスクールD×D BEHIND STORY~ミルたんの異世界冒険譚~》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Coming soon!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以前作者の作品【ハイスクールD×D〜忘れられた魔王の約束〜】にて投稿した嘘予告です



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そこは異世界ですか? 2話

スランプって次へ進まない本編に逃避してたら書き上げた続きです


「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

 

「右に同じだ、クソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだったぞ。これなら石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 

「・・・いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう、身勝手な人ね」

 

湖の側にて、はるか上空から湖へと着水し、ずぶ濡れ状態の3人の少年少女と1匹の猫

 

岸に上がった各々は濡れた服装を軽く絞って乾かしていく

 

「で、まず間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。オマエたちにもあのへんな手紙が?」

 

「そうだけど、まずは<オマエ>って呼び方訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴方は?」

 

「春日部耀。以下同文」

 

「それで野蛮で狂暴そうなそこの貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介ありがとよ。見たまんま野蛮で狂暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義者と三拍子そろった駄目人間なので、用法と容量を守ったうえで適切な態度で接してくれよお嬢様」

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

三者三様に自己紹介を終える

 

「ここが何処かってのも気になるところだが、さっき別の方に飛ばされた奴を探しに行く方が先か?」

 

「そうね。と言っても、生きていないかもしれないけれど」

 

「生死は不明」

 

3人はほんの少し前の出来事を思い出す。彼等と同様に空中に投げ出されるも、思わぬアクシデントによってはぐれてしまった一人の少年

 

「確か、あっちの方角に飛んで行ったはずだ」

 

「うん。ガメラのように回転しながら飛んでった」

 

「・・・二人とも良く見えたわね」

 

「かくれんぼは負けなしなんでな」

 

「目はいい方」

 

最後の一人を探しに森へと入る。しばらく進み、落下したであろう位置に辿り着く3人。彼らの目に映ったのは・・・

 

「うきゅ〜・・・」 「」チーン

 

胸元を強調させたエロチックな衣装を着たウサ耳少女と、その上に、隠すものなど一切ない真っ裸の少年とが重なり合った状態で気絶していた

 

「・・・う、う〜ん・・・」

 

ここで女の子の方が意識を取り戻す

 

「・・・はて、なぜ黒ウサギは気を失っていたのでしょうか?確か召喚された方を観察しようとして・・・って、ここここれは!?///」

 

先ず目に入ったのは自分の上に乗った裸の少年。その様子は正に寝込みを襲われたかのような

 

「一体いつの間にこのような変態さんが黒ウサギの上にいるのですか!!?これはもしかして黒ウサギの貞操の危機・・・―――ハッ!?」

 

ここに来て、自分に向けられている三人の視線に気付く

 

「ヤハハハ・・・何か面白ぇ有様だな?」

 

「破廉恥極まりないわね」

 

「お邪魔だった?」

 

 

 

 

 

「・・・ち、違うんですぅぅぅぅぅぅっっ!!!」

 

黒ウサギの絶叫が森に木霊した

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

しばらくして、少年――相川歩は目を覚ました

 

「・・・あれ?ここは・・・」

 

「あ、どうやら目が覚めたようです!」

 

・・・わお・・・

 

目を覚ますと見知らぬ天井ではなく、見知らぬデカメロン

 

俺の知りうる吸血忍者達といい勝負であろう特大サイズを目前に突き付けられ、思わず息を飲んだ

 

体を起こすとそこは見慣れた自分の部屋ではなく、バカに広い湖と深い森というファンタジーな風景だ

 

「あら、貴方生きていたのね」

 

「びっくり」

 

「えと・・・どちら様?」

 

「そういうのは、自分が先に名乗るのが礼儀ではないかしら?」

 

いかにもお嬢様な女の子が目を細めていった

 

「・・・あ、はい。相川歩です」

 

「そう、久遠飛鳥よ。よろしくね、歩君」

 

ドレスを身に纏う女の子は微笑む

 

「春日部耀。こっちは三毛猫」

 

「で、俺は逆廻十六夜だ。よろしくな変態」

 

出会って早々変態扱いされた!

 

ニャーと鳴く猫を抱えた少女は簡素に淡々と、いかにも不良な見た目の少年は不敵な笑みを浮かべて名を名乗った

 

今周りにいる人は見覚えのない・・・いや、さっき空で見た人達だ

 

・・・ってことは、夢じゃ無かったのか

 

不思議の手紙を開けたら不思議な世界へご招待

 

生来、いや死来割とハチャメチャな日常を送っていたけど、まさかここまで露骨なファンタジーワールドに放り込まれるとは思わなかった

 

「さて、コイツも目を覚ましたし、いい加減説明してもらおうか?黒ウサギ」

 

黒ウサギと呼ばれる女の子、その名の通りバニーガールを彷彿とさせる恰好をした彼女は話を始めた

 

「そうですね。これ以上待たせてまた黒ウサギの素敵耳を弄られるのは勘弁願いたいですし・・・・さて。改めましてようこそ、《箱庭の世界》へ! 我々は貴方がたにギフトを与えられた者達だけが参加できる【ギフトゲーム】への参加資格をプレゼントさせていただこうかと思いまして、この世界にご招待いたしました!」

 

箱庭、ギフトゲーム

 

手紙の文面にもそう書かれていたことを思い出す。差出人はこの女の子だったのか

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです! 既にお気付きかもしれませんが、貴方がたは皆、普通の人間ではありません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた《恩恵》でございます。【ギフトゲーム】はその《恩恵》を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございます!」

 

黒ウサギは両手いっぱいに広げこの箱庭の世界をアピールした

 

確かに、ゾンビである俺は、世間一般でいう普通の人間ではないな。だからここに呼ばれたのだろう

 

それから、黒ウサギと三人の少年少女による問答を繰り返しながらこの世界について理解していった

 

そして、最後の質問とばかりに十六夜が黒ウサギに声をかけた

 

「・・・この世界は面白いか?」

 

「YES!ギフトゲームは人を超えたものだけが参加できる神魔の遊戯、外の世界より格段に楽しめると黒ウサギが保障いたします♪」

 

その言葉に十六夜は嬉しそうに笑った

 

「・・・えーと、黒ウサギさん?」

 

「はい、相川さんも何か質問がございますのでしょうか?」

 

と、黒ウサギは俺に聞いてきた

 

「えと・・・今すぐ元の世界に帰れるか?」

 

自分で手紙を開けてしまったとはいえ、不本意にこの世界に来てしまったんだ。それに、アイツらが買い物から帰ってくる前に作りかけの晩飯を終えないといかん

 

「えっ―――」

 

俺の質問に対しての黒ウサギの凍った反応に、嫌な予感がひしひしと沸いてきた

 

「あ~・・・そうですか、帰りたいんですか。でもせっかくここまで来たのですから少し遊んでから帰るっていうのもいいんじゃないでしょうか?」

 

「悪いけど興味ないんだ」

 

「そうおっしゃらずに!ひとえにゲームと言いましても、決闘や迷宮探査、ナマコ拾いなどいろいろありますので!」

 

ナマコ拾いって何それ!?逆にやってみたい!・・・じゃない

 

彼女の言動はとても引っかかる

 

これまで数多くの難敵の策略に嵌められてきた俺にとって、彼女が話を誤魔化そうとしている体であることはとても分かり易かった

 

「・・・なぁ、アンタの目的ってのは何だ?」

 

「ドキッ!」

 

うわ、口で『ドキッ』言っちゃったよこの人

 

「あ、あの御三人様、黒ウサギは相川さんとちょっとお話をしてきますのでほんの少しお待ちください」アハハ

 

後ろからグイグイと背中を押されて、俺は森の茂みの方へと連れ込まれた

 

「・・・それで、アンタの目的は?」

 

「そそそれは、皆さんをこの世界でオモシロオカシイ生活を過ごしてもらおうと・・・・」

 

「・・・違うな。アンタは間違いなく何かを隠している。わざわざこんなところに俺だけを連れていくのが何よりだ」

 

「な、なんという初歩的なミスを・・・」

 

俺はここまでの会話の様子からある一つの推論を割り出す

 

一般人を越えた力を持つであろう俺達を呼んだのは、危機状態にある自分たちのコミュニティを強化する為。しかもその状態は、俺達に同意を致し兼ねるほどひどい有様なんだろう

 

そう告げると黒ウサギは硬直した。どうやら当たっているようだ

 

「話を聞かせてもらえるか?」

 

「・・・分かりました」

 

観念した黒ウサギは告白した

 

『ノーネーム』と呼ばれる、名も旗印も無くした自分たちのコミュニティの現状、そしてそれを奪った魔王という存在

 

魔王なんていうラスボスじみた存在を聞かされた俺の脳内には、大先生やネネさん、クリスに女王とマジもんのラスボスたちを浮かべた。あながち間違っていないと思う

 

「騙していたことは謝罪します。この箱庭にも、異次元世界を渡航するギフトもおそらく存在するので、それを用いれば元の世界へ帰ることもたぶん可能だと思います!それが手に入るまでの間でも構いません!ですから!」

 

どうか私達のコミュニティに入ってください!

 

黒ウサギは深々と頭を下げる

 

今帰る手段がない以上、しばらくは見知らぬこの世界にいることになる。それに、ここまで頼まれたら断れない

 

「・・・分かった。帰る手段が見つかるまで、俺で良ければ手伝うよ」

 

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒ウサギとのお話を終え、三人ところへ戻る最中

 

いきなり連れてこられた異界の地、そして帰る手段がない、なんて小説なんかでお約束の展開に、俺は目を閉じた

 

昔そんな冒険物語を愛読していた時期もあっただろうけど、まさか自分がそうなるなんてな・・・。まぁ今迄もそれ以上に冒険していたけど

 

兎にも角にも、こうして主人公気分を味わうことになった俺は、ファンタジー物語の主人公たちと同様に、困っている女の子を助けることになった



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ミルたんの異世界冒険譚(銀魂編)

観客動員数(UA)なんと300!

最近ここでばっか書いてる駄作者です

3/26 加筆修正いたしました



ここは江戸中で最も危険といわれる、かぶき町。そんなかぶき町の一角、そこにその店はあった

 

――万事屋 銀ちゃん――

 

 

 

 

「あ?魔法少女だぁ?」

 

「ええ。最近デビューした魔法少女アイドル『ミチルン』っていうのにウチの親衛隊が現を抜かしているんですよ」

 

と言って青年の掛けたメガネ―――新八は可愛らしい魔法少女姿の女性が写ったCDケースを取り出した

 

「ちょっと!逆!メガネと新八が逆なんですけど!?」

 

「何言ってんだあってんだろ?新八の95%はメガネで占めているんだから」

 

「それもうほとんどメガネだろ。僕5%未満ですか」

 

「いや、3%は水で残り2%はゴミだ」

 

「ごみの中かオイ!」

 

「うっせぇな。いちいちそんな細かい事ツッコんでたら先にすすまねぇだろうが」

 

「新八、ナレーさんを怒らせたらマズイヨ」

 

「そんな事って何ですか・・・とにかく、そういうわけで親衛隊から没収したんですよ。・・・後、軍曹には鼻フックデストロイヤーの刑に処しました」

 

「ケッ、いかにもぶりっ子な面してるアル。こういう女は、専ら裏では煙草やヤク吸いながら、ホストクラブで他人蹴落すことばかり考えてるに決まってるネ」

 

「つーかマスコットに黒猫とか完全にセーラームーン気取りじゃねぇかよ。うさぎちゃんナメンなよ?キザでセクハラ好きな残念イケメンと恋仲になって、エターナル化して指先一つで惑星滅ぼせるようになってから出直せ」

 

「そんなアイドル嫌ですよ・・・」

 

「やれちみっこどもは魔法少女とかプリキュアに憧れたりするけどよ、魔法少女なんてろくなことになんねぇぞ?実は天人のマスコットキャラに魂を抜き取られたりとか、見た目893な妖精に変身する度に性転換されたりとか、猫の着ぐるみ被ったおっさんにAVまがいなことさせられたりとか、どんな夢と希望にも裏と闇があんだよ」

 

「最後のに関しては明らかに魔法少女関係ないヨ」

 

「大体魔法自体非科学的すぎんだよ。杖とか箒でファイガとかファイアーボールとかメラゾーマとか出すとかおかしいだろ。しかも魔法使う度に呪文を唱えるとか羞恥プレイじゃねぇか。羨ましくなんかねーよ?ダイ達救うためにハドラーに全霊のメガンテ使う勇者アバンとか、瀕死のメルル救うために覚醒してザオリク唱えるポップとか、瀕死ながらも魔物の軍勢相手に一人で戦うヒュンケルのグランドクロスとかカッコイイけど羨ましくなんかないからね?」

 

「やっぱり羨ましいんじゃないですか」

 

ピンポ~ン

 

ふとインターフォンが鳴る。それは普段は客などからきしのこの店に久しぶりに客が来たことを示していた

 

「―――久しぶりにお客さんみたいですよ。・・・はい、いらっしゃ―――」

 

「きゃっほーい!これで今晩は卵かけごはん食べられるヨ!」

 

「実際家にはもう金がねぇからな。こういう時にふんだくれるだけふんだくっとこうぜ。依頼内容によっちゃそれで脅迫もできるしな」

 

「おお!銀ちゃん黒いアル。乳首と一緒に腹も黒いネ」

 

「どこぞのドSポリ公と一緒にすんじゃねぇ。っていうか俺の乳輪そんなに黒いの?銀さんこれでも身だし気にしてんだけど?」

 

と会話をする中、未だ新八が戻ってこないことに気付く銀時

 

「何やってんだぱっつぁん。いつまでも金蔓r・・・依頼主を玄関に立たせてんじゃ―――」

 

玄関にその依頼人はいた。2mはあろうその巨体と、筋肉でミッチミチなピンクのゴスロリ服を無理やり着たその姿を例えるのであればこうであろう

 

―――怪物―――

 

「あのあの?ここは万屋さんですかにょ?」

 

「「イイエヒトチガイデス」」ピシャン!

 

 

 

 

 

 

ー第×××訓 男でも婆でも心は魔法少女ー

 

 

 

 

 

改めて、ここは江戸中で最も危険といわれる、かぶき町。そんなかぶき町の一角、万事屋 銀ちゃん

 

「え、えと・・・お名前うかがってもよろしいでしょうか?」

 

「は~い!ミルたんだにょ!」

 

とにかくインパクトのある彼女?の挨拶を終えると3人は顔を合わせた

 

(すごいインパクトのある人?ですね)

 

(あれ人か?百歩譲ってもトロールかオーク鬼とかにしか見えねぇぞ)

 

(いや、あの人一応人間だと思いますよ?屁怒絽さんとエリザベスを足して二で割って、西郷さんを掛け合わせた感じかと)

 

(違うネ。アゴ美とザキヤマ足してウザさと芸人気質とオカマを引いたものアル)

 

(それもうただのケツ顎じゃねぇか!)

 

(顎・・・もしかして西郷さんのところの人じゃ無いですか?)

 

(仮にそうだとしてあの化けオカマの連中が今更俺たちに何の用があるってんだよ)

 

(いやそんなの僕だって知りませんよ)

 

(んだよ使えね~な)

 

(そんなんだからいつまでもお前は新八ネ。今の売りは新六アル。新八はもうお払い箱ネ)

 

(新八の何が悪いんだよ!全国の新八さんに謝れぇぇぇぇっっ!)

 

「あのあの?」

 

「「!!」」

 

「ここは万屋さんですよね?」

 

「・・・はい、そうですけど。えと、依頼があってきたんですよね?」

 

「そうだにょ」

 

ズイッとミルたんの顔が目前に迫る。怖い!怖いから!

 

「実は、ミルたんを魔法少女にしてほしいにょ!」

 

「「・・・はい?」」

 

「あ~それなら大丈夫です。実はここにいる新八君も魔法使いを目指していてね」

 

「本当かにょ!じゃあミルたんのお仲間だにょ」

 

「・・・あのすいません銀さん。いつから僕は魔法使いの弟子になったんでしょうか?」

 

「安心しろぱっつぁん。30歳まで童貞貫いてムラムラしとけばすぐ成れる」

 

「ハッ倒すぞアンタ!」

 

「落ち着けヨ童貞(新八)

 

「神楽ちゃん今『童貞』って書いて『新八』って言わなかったか!?」

 

「大丈夫だって。適当に親指が離れるマジックとかでもやれば信じるって」

 

「今時小学生でもやらないですよそんなの!」

 

「実はミルたんも独自に魔法を覚えたんだにょ」

 

「マジアルか!」

 

「・・・じゃ、その魔法っての見せてもらおうじゃねぇか」

 

「分かったにょ。じゃあ・・・これを使うにょ」

 

そう言ってミルたんは部屋に立てかけてあった仕事用の脚立を手に持つ

 

すると、彼女?の体中の筋肉がより一層隆起し始め、大きめの脚立を軽々と折り曲げ、ひしゃげ、丸めていく

 

バキバキバキッ! ゴリゴリッ! ベキンッ!

 

大きな破砕音を立てながら目の前にあった脚立は小さく圧縮され、

 

―――いびつな鉄球と化した

 

「・・・はい。これが脚立を鉄球に変える魔法にょ!」

 

((全然魔法じゃねぇぇぇぇぇっっ!!))

 

「なんですかあれ。脚立がテニスボールぐらいなったんですけど」

 

「やっべえよ。トロルかと思ってつついてみたら獣王様だったよ。そのうち獣王会心撃を撃ってきそうだよ」

 

「そんなのきっと私にも出来るネ」

 

「張り合わんで良い!」

 

「どうかにょ?万屋さん」

 

「なんていうか凄いよね。単身で魔王少女も英雄王も倒せるよきっと」

 

ここまでの会議?の末、どう考えても無理と判断した万屋一行は、依頼を断ろうと―――

 

「あ~悪いんだが、今回の依頼は―――」

 

「あそうだ。これ今回の依頼料だにょ」

 

と言って懐から出したのは拳くらいの大きな宝石であった

 

「万屋の全てを持ってしてあなたを魔法少女でも悪魔男爵でもさせて見せましょう!」

 

「私たちに任せるネ!」

 

・・・だがやはり、金が一番だった

 

 

………………

 

 

「では早速特訓を開始する」

 

「イエーイ!」

 

「わ~」パチパチ

 

銀時の発案により特訓が始まった

 

「方法も分からないのに何を特訓するんですか?」

 

「何言ってるんだ新八。キン○マン然り、O○E P○ECE然り、新たな力を手に入れるってのは大体特訓の中で生まれるのが相場なんだよ」

 

「いわゆるお約束ってやつアルか」

 

てっきりふざけるのかと思いきや、割と理にかなった提案だ

 

「ってことで先ずはこのとても重い亀の甲羅を背負ってもらう」

 

「はーい!」

 

何処から出したのか、ミルたんは差し出された亀の甲羅を背負う。しかし武骨で大きな体躯に対し小さい甲羅姿がシュールだ

 

「じゃあ次はこの『魔』と書かれたインストラクターを遠くに投げるからそれを持ち帰って来る様に――」

 

「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!それドラゴンボールのパクりだろうがぁぁぁ!!」

 

「そこら辺のインストラクター拾って書いても無駄だからな?字でわかるから」

 

「そこはインストラクターさんの顔で判断してあげろよ!って言うか道端にインストラクターなんか落ちてるわけあるか!!」

 

新八のアンテナ頭の少年もたじろぐツッコミが炸裂する

 

「大体それ前の特訓まがいの奴とまんま同じネ」

 

「こんなことのためにまたこの人たちまで呼んで・・・インストラクターさんも何か言ってやって下さいよ」

 

「インストラクターさんじゃ無い―――桂だ」

 

無言を通していたインストラクターと思わしき人の正体は銀時の元同志であるロン毛のテロリスト、桂小太郎であった

 

「ふむ。今日はファンタジアさんと共演すると聞いてインさんの中でスタンバッていたのだ」

 

肉じゅばんを脱ぎ捨てメタ発言をする桂が彼女?に近づく

 

「しかし、噂には聞いていたがここまで武骨な体格であったとは・・・あらゆる戦場を駆け抜けたことにも頷ける。初めまして―――ゼルガディス殿」

 

「はじめましてにょ」

 

「それ作品違うからぁぁぁっ!!!」

 

「何!?俺は今日『ラ・ティルト』を教えてもらおうと思っていたのだが」

 

「精神体崩壊呪文覚えてアンタは何と闘うつもりなんだよ!!?」

 

「ちょっと白い悪魔とモメてな」

 

「どこの紅い彗星気取りだ!」

 

「うむ。この間蕎麦屋で白い人鳥(ペンギン)の悪魔のお揚げを取ってしまって」

 

「それただエリザベスと喧嘩しただけじゃあねぇか!」

 

「今日のコラボの相手は石踏先生の『ハイスクールD×D』という作品ですよ」

 

「ハイスクールD×Dだかハイスクール奇面組だか知らぬが「いや、えらい違いですよ」それはどういった作品だ?」

 

「ああ。ぶっちゃけ劣化『TOLOVEる』だな」

 

「アンタなんてこと言うんだ!」

 

「似たようなもんだろ?主人公おっぱい大好きすぎてハーレム作るとか、リト君を欲望のままにしただけだろ?ほんでさもバトルがメインであるようにずらしていったっていうのが見え見えじゃねぇか」

 

「銀魂も段々シリアス回頻繁に出して真面目なバトル作品にずらしてるネ。一緒アル」

 

「ちょっと!?これ以上メタメタしい発言はやめて!色々規制引っかかりそうだからマジでやめて!」

 

「これは・・・なんてハレンチな作品なんだ。胸や尻をみだらに出して、○○やら●●を××して・・・」

 

「俺はこのレイナーレっつうボディコンのネーちゃんなんかいいな。優位に立ってる気になってるところを屈服させて荒縄で◇◇してから□□を××して」

 

「おいぃぃぃぃっっ!!この作品18禁じゃねぇんだよ!これ色んな人が見てんだよ!作者通報されるだろうが!」

 

「大丈夫アル新八。こんな駄文読むのよっぽど暇人かケツの青い餓鬼ぐらいネ」

 

 

 

 

………………

 

 

あの後「仲直りにオーフェン4巻のビデオを借りに行ってくる」と行って桂さんは帰って行った。そこはスレイヤーズじゃないのかよ・・・

 

「じゃああれだ。もっとシンプルなのでいこう」

 

ここにきての方向転換

 

「様はファンタジックな力が欲しい訳だ。知られていないが実は人間の体にはまだ未知の力が秘められている。これからそれを用いた大技を教える」

 

シリアス回で見せるやけに真剣な顔で銀時は説明を続ける

 

「いいか、まずは精神統一だ。気持ちを落ち着かせろ。次に、自分の体内に眠る潜在エネルギーを探り、凝縮させる。次に、両手の手首を合わせて手を開け。それから集めたエネルギーを手元に集中させるんだ。上半身を捻って両手を右後ろに持っていく」

 

その姿は正に―――

 

「そして腰を落として、最後にこう叫びながら手を突き出せ!」

 

 

 

 

 

 

最強のZ戦士

 

 

 

 

 

「か~め~は~め~・・・・波ァァァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・とまぁこんな感じだ」

 

「オイィィィィィッ!!結局それかよ!!!」

 

新八は叫ばずにはいられなかった

 

「アンタいい加減ドラゴンボールから離れろよ!」

 

「かめはめ波が駄目なら他にも魔貫光殺砲や気円斬、ギャリック砲などもある」

 

「え~私気功砲がいいアル」

 

「そういう問題じゃねぇだろ!そんな技使ってたら鳥山先生に消されるでしょうが!」

 

「ただし繰気弾は駄目だ。出し惜しみしてる割に使い手と一緒で使えねぇ」

 

「ヤムチャだけハブるなよぉ!ヤムチャだって悟空に勝ちかけたんだぞ!!」

 

ドォォォォォォォォォォオオンンッッ!

 

と大きな破壊音が響き渡る。そこには両手を突き出したミルたんの姿と、大きな穴のいた壁が

 

「わ~い。できたにょ~!」

 

「」 「」 「ミルたんすごいアル!」

 

「わ~いわ~い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

((・・・か、かめはめ波、マジで撃ちやがったぁぁぁぁっっ!!!!?))







珍しく有言実行しました

続くかはお客さんの反応と作者の気分によります


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DOG DAYS 悪喰の魔人

観客動員数(UA)500人突破

そしてDOG DAYSの三期も放送決定とうれしい限りです



というわけで、これは一期後から二期を想定した話です


フロニャルド  パスティヤージュ公国

 

昔、フロニャ力が弱かった頃、パスティヤージュ近辺は魔物が多く、人々の生活圏内に現れることが多々あった

 

それを憂いた当時の領主は、異界からの勇者召喚により勇者、アデライド・グランマニエを召喚された。呼び出された15の少女、勇者アデルはパスティヤージュ領主と共に魔物を退治していった。

 

魔物の数が多く苦戦を強いられたが、旅の途中パスティヤージュを通りかかった退魔剣士のマキシマ兄妹の協力により魔物を退き、国は救われた。

 

それをきっかけにアデルと領主は、領主の弟『魔王』ヴァレリア・カルバドスを加え、マキシマ兄妹と共に魔物退治に世界を廻る旅を始めた

 

そして、世界中の魔物を討伐、封印を終えた後、前王の遺志に従い、『白き英雄王』として、パスティヤージュ公国国王となり国を治めた。さらに後、英雄王は国を子孫に託すと、魔王と共に永き眠りに入ったとされ、以後パスティヤージュには英雄王の石碑が国を見守っていると云われている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

英雄王、魔王の封印から幾日・・・ガレット獅子団領とビスコッティ共和国領境にある渓谷

 

ザァッと雨が降りしきる中、そこに三人が傘も差さずに立ちつくしていた

 

1人は白の流しを羽織る狼の耳の青年、イスカ・マキシマ。その隣に立つ鎧を着た女性。もう1人はその妹、ヒナ・マキシマ

 

そして、二人の視線の先にいるもうひとり。雨に濡れて一層艶のある黒き髪、その間から顔を出す熊のような丸耳の男。

 

「ユキカゼちゃんは?」

 

「風月庵でねむっているでござる。ここまでの長旅で疲れたのでござろう」

 

「さようですか。・・・そういえば、先ほどイスカさんから聞きましたよ?ビスコッティ国から騎士の勲章をもらったそうですね。おめでとうございます、ヒナさん・・・いえ、ダルキアン卿?」

 

「・・・たいしたことではないでござる。それより・・・本気でござるか?」

 

『何がですか?』ととぼける男に、ヒナは冷やかな視線を向ける

 

「・・・ええ、もちろん本気ですよ。英雄王も魔王もいない今、私がこの世にいても、人々の迷惑になるだけでしょう。と申しましても、私は封印術には疎い者ですから、私を封印してもらいます。・・・その役を二人にお願いでしたのですよ?」

 

「「・・・・・」」

 

押し黙る2人。たとえ目の前にいるのが、数々の国を襲う魔の物であろうと、仮にも今まで共に戦ってきた仲間を、自らの手で封じなければならないのだ。戸惑っても仕方がないだろう

 

「お二方とも、そんな顔をなさらないでください。これが永遠の別れではないでしょう。あなた方とは、また会えると思います。それに・・・」

 

魔人の深き黒の瞳が崖の向こうを遠く見据える

 

今は曇天で見えないが、彼の視線の先にはパスティヤージュ公国がある

 

「魔王と英雄王の帰還をこの目で見るために、これから旅立つあなた方を見守るために、私はこの見晴らしの良い場所で眠ることにしたのですよ?それなのに、あなた方がそんな顔をなされては、私は安らかに寝られないじゃないですか」ニコッ

 

瞳を閉じると、彼は優しく微笑んだ

 

「・・・では、約束でござる。『必ず、また会おう』と・・・」

 

「分かりました。その約束、『魔人』の名において、必ず成し遂げましょう」

 

「フフッ。君がそう言うなら、間違いないだろうね」

 

「・・・そうでござるな」

 

「ええ。もちろんですとも」

 

 

………………

 

 

別れの時は訪れる

 

イスカとヒナは魔人を挟んで立ち、剣を構えた

 

「あ~、最後にパンケーキを頂きたかったですね。ハチ蜜をたっぷりかけて」

 

「こんな時まで、食い意地が張るかお前は。ちょっと前にビスコッティで食事をしてきたというのに・・・」

 

「やはりお主の胃袋は底なしにござるな」

 

別れの瞬間だというのに食欲に訴える彼に二人は苦笑を浮かべる

 

「・・・よし、なら皆で再会したとき、私がご馳走しようじゃないか」

 

「おお!それは良き提案ですね」

 

「兄者、彼を相手にそれは、あまり勧めないでござるが・・・」

 

「・・た、確かに。やっぱり今のはなs」

 

「いやぁ。今から楽しみですよ。私が目覚めた頃にはとても(・・・)お腹がすいていると思いますので」

 

「」

 

空腹感を強調させて笑う彼の姿に、イスカは遠くない未来に全財産がたった一食で潰える未来を想像するに容易かった

 

「頑張るでござるよ、兄者」

 

先ほどと打って変わり兄妹の和やかなやり取りを見て、彼は微笑んだ

 

「・・・それでは、イスカさん、ヒナさん。またいつか、お会いしましょう」

 

「ああ。再び相まみえるその日まで・・・」

 

「しばしの別れにござる。また会おう―――」

 

「「アラン」」

 

 

 

 

 

 

ザシュ

 

 

 

 

 

 

 

 

その渓谷の頂上にポツンと小さな石碑が建てられた。そばには封印の施された剣が突き刺さり、石碑にはたった一文が書き込まれている

 

【我らが同胞、『魔人』アルフレッド・ベルモット。再会を夢見て、ここに眠る】

 

 

 

 

かつて人々は彼を恐れ、【魔人】と呼んだ

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

英雄王、魔王、魔人が眠ってからおよそ150年という時が経っただろうか

 

マキシマ兄弟は世界中を渡り歩きながら、残った凶悪な魔物や禍太刀を封印しているおかげか、人々は魔物に遭遇することが少なくなり、平和が保たれている

 

本来魔物との戦いに向けての訓練となる『戦』は一大イベントのような興業扱いになり、勇者召喚はもはや伝説となっているほど、それはもう平和であった

 

かのように思われたが・・・

 

先日、ビスコッティ共和国とガレット獅子団領との戦興業の最中、空が黒き雲に包まれ、雲の隙間から大型の魔物が現れた

 

魔物は暴れ、がレットの街に向けて走っていく。

 

しかし、ビスコッティ領主、ミルヒオーレ=F=ビスコッティ姫と、ビスコッティの召喚した異界からの勇者、シンク=イズミの二人により、街の人々を救うだけでなく、禍太刀に呪われ、魔物と化していた土地神の子をも救ったのである。そして、禍根たる禍太刀は、討魔の剣聖ブリオッシュ・ダルキアン卿と、天狐の土地神ユキカゼ・パネトーネにより封印され、再びフロニャルドに平和が訪れたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・しかし、まだ終わってはいなかった

 

 

………………

 

渓谷

 

辺りは闇夜に包まれ、月光が大地をほんのりと照らす。つい先ほど、土地神を救いだしたことにより、抜け殻となり崩れ落ちた魔物の残骸があった

 

事件から既に二刻と経ち、皆ビスコッティのセレモニーの方へと行ってしまい、誰もいなくなった

この場所で怨嗟の言葉が、木霊していた

 

オノレ・・・

 

オノレ・・・

 

ニンゲンメ・・・

 

「オノレ人間メ、我が肉体ヲよもや封印シヨうトハ・・・」

 

崩れた魔物の肉体の山の中に、一枚の刃

 

「シカシ、我ガ体ハマダ残ッテイル事に気付カなかった!愚かな人間共メ!」

 

それは土地神を呪っていた禍太刀だった。ミルヒオーレとシンクの2人に刃を折られ、ダルキアン卿とユキカゼにより封印されたはずであったが、折られた際、刃の一部を魔物の残骸に隠し、免れていたのだ

 

「我ガ新たナ肉体を得ネば・・・!」

 

大部分を失くし、存在を保つのも困難である禍太刀は、憑代となる新たな刃を求めていた。そして、すぐ近くに憑代になりうる存在を見つけた

 

すぐ近くの崖の頂上に、ポツンと一本の剣が刺さっていた。その傍には小さな石碑が立っていた。何か彫られていたようだが掠れて読めない

 

禍太刀は残された力を放出させた。瘴気の如き負のオーラが触手の様に形をなす。オーラは這うように崖を登り、頭頂に差さる剣を掴んだ。掴まれると剣は黒ずみ始めた。伸びた先から浸食し始めた。どうやら刺さっていた剣には封印のようなものが施されていたらしいが、長い年月が経っていたからか、既にその力は、砕けた魔剣の脅威に値しないほどに弱まっていた。やがて禍太刀はその剣を完全に乗っ取った

 

再び肉体を得た禍太刀は歓喜の声を上げる。そして再び人間どもに復讐せんとここに誓う

 

「今度コソ、必ズ殺しテやる、人間ドモ・・・」

 

おどろおどろしい声色で、人々を呪いながら禍太刀は刃を光らせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・おや?何か良い香りがしますね?』

 

その時、この渓谷に柔らかな声が響き渡る

 

『この匂いは魔剣の類でしょうか?フフフ。久しぶりの食事ですね』

 

大地が揺れる。天変地異でも起きたのか?禍太刀は動揺する。次の瞬間

 

ガバァ

 

大地が盛り上がると、まるで大口を開けた様に大地が割れ、魔物の亡骸ごと禍太刀は飲み込れた

 

「カ、体が!砕けテいく!?」

 

大地は再び閉じ、禍太刀の残された体が潰されていく

 

正体不明の存在に気付いた頃には禍太刀は粉々になり、その者の胃の奥へと流し込まれていた

 

『歯応えも良く味わい深い魔力・・・とても、美味でしたよ。名も知らぬ魔剣さん』

 

そっと感想を漏らすと大地は元の姿に戻る。その者はまた眠る。約束の日まで・・・

 

 

 

ここはビスコッティ共和国とガレット獅子団領間の渓谷、『魔人』アルフレッドの眠る土地

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

三日後

 

グゥ~・・・

 

 

「・・・・お腹が、空きました」

 

寝るに眠れず、完全に目覚めてしまった魔人は、空腹を満たすため歩く。その先はビスコッティ共和国

 

 

 

 

 

後日、ビスコッティ国で国中の食糧が荒らされる事件が多発したがその詳細は、また別の機会に・・・












オリキャラ

アルフレッド・ベルモット

『魔人』ベルモット

黒髪ショート、熊耳、白い肌に翡翠の瞳

英雄王アデル、魔王カルバドス、マキシマ兄妹、召喚の姫と共に魔物と戦った古代英雄の一人

魔物の派生

フロニャルドに平和の訪れた後、アデルとヴァレリーとは別に、自らを封印してもらう

丁寧な口で話す温和な性格、しかし超がつく大食漢


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死神憑きの処刑人

観客動員数(UA)850人突破

着々と増えています

さて、これはハイスクールD×Dのオリ主物です


とある町の一角にある神社。その神社に仕える宮司は悪霊祓いで名のある者であった

 

といってもこの男、雑霊を大仰にでっち上げては、これまた適当にお祓いした上でアフターケアと称しご利益など皆無であろうお札を売り付ける輩。詐欺同然である

 

そんな神社にある一人の少女が現れた

 

背中まで長いであろう艶やかな黒髪を三つ編みに結ったおさげ、目元には青縁のメガネ、緑色のジャージを着たその姿は、一昔前の田舎少女を彷彿とさせる素朴さと陰気暗さに溢れている

 

「すいません。ここお祓いで有名と聞いたんですけど・・・」

 

「はい、私がそうですよ」

 

今日も鴨が葱を背負ってやって来たと、心の奥でほくそ笑みながら、男は来客を本殿に上げる

 

「お祓い・・・と言うことは、お嬢さんは何かに取り憑かれていると?」

 

「はい。実は私、昔からそう言うのが見え易いみたいで・・・」

 

か細い声で話す少女は簡単に経緯を話した

 

幼い頃から霊が見え、取り憑かれることも年に1、2度、害の少ない低級霊が数日入り込んでくる程度であったが、先月から身体を乗っ取るような厄介な霊が取り憑いたようで、それがずっと居座っているので困ってここに来た・・・との事だ

 

そうなんですか。それは大変お辛かったようで。と、相槌を打ちながら話を聞く男。だが男が心の奥底で思ったことは『なんとも電波なガキが来たもんだ』である

 

「事情は良く分かりました。ここに来られたからにはもう安心してください」

 

だがそこは商売、それらしいことをしてサッサと金を巻き上げよう、と男はお祓いへと準備に取り掛かった

 

神酒、浄めの塩、動物の頭蓋、お祓い棒、十字架、蝋燭、御札、etc・・・

 

何やら色々と混在している気がするが此れが私独自のやり方ですと押し通し、お祓いが始まった

 

「オン・ハンドマグダラ・アホカンジャニ・ソロソロ・ソワカ…」

 

デタラメな真言を口ずさみ、祓い棒片手に動き回る男。その様子を少女はただ正座して待っていた

 

動き回ってから5分と経った。ここら辺で終えておくか、と男が祓い棒を下ろしたその時、

 

「―――っ!」

 

ドサッ

 

側で見ていた少女が突然倒れた事に驚く男。彼女の側に寄り、起こさんと触れようとしたその時、その手を払われた

 

《ククク・・・クククク》

 

先のか細い声とは全く異質の不気味な笑い声。少女はゆらりとその体を起こす

 

ゾクリと背筋に寒気を感じる。暑くもないのに顔から大量の汗が流れる。理由は分からない、が逃げろ。と、危機を男は感じとった

 

その時、男は少女と目が合う。怪しげに嗤っている彼女の瞳は、鮮血の様な真紅に染まっていた

 

「」ニタァ

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃあああああああああああ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

少女は目を覚ました。いつの間にか寝ていた様だ

 

身体を起こして辺りを見回して、自分はお祓いに来たことを思い出していく。神棚の下には先の宮司が倒れていた

 

「だ、大丈夫、ですか・・・?」

 

彼女は倒れている男を軽く揺さぶり起こす

 

「う・・・あ、ひぁっ、ああああ!?」

 

意識を取り戻した男は少女と目が合った瞬間彼女を押し払った。突然押された少女は後ろに倒れると、男は逃げるように隅まで後ずさる

 

「助けてくれ!俺は祓いなんてできない唯の坊主なんだ!騙して悪かった!もうこんな真似は二度としないから!だから、命は、命だけはあああ!!」

 

神主なのに坊主かよ、と言うツッコミが入りそうな懇願だ

 

恐ろしい化け物でも見るかのような怯えた様子で無様に少女に命乞いをする男。それを見て少女は何も言わず、部屋から出て行った

 

 

………………

 

 

私は朱主 沙希(あけす さき)。この春から駒王学園に通うことになったごく普通の女子高生―――ではないや。ごく普通と言うのが当てはまらない

 

「はぁー。今日もダメだったか・・・」

 

成果が出ず、神社を出て私は溜息をつく

 

私には人と明らかに違う物を持っている。それは決して、超能力や魔法が使えるだとか、異世界出身だとか、妖怪の血を引いてるだとかそういったものではない

 

《ハッ!俺を祓おうなんて無駄だよ無駄無駄》

 

頭の中に一人の声が響く。これだ。これが私が普通ではない要因だ

 

霊視―――幼い頃から私には幽霊と言うものが見えていた。しかも、ただ見えるだけならいざ知らず、あろう事か私は憑かれやすい体質だったらしい。昔は雑霊が間違えて入ってきたとか、さほど問題になるような事ではなかったのだけれど、つい先月、高校へ通うため一人暮らしを始めた途端、私はこの悪霊に憑かれてしまったのだ

 

当然それを快しと思っていない私は、休日は宮司、神官、霊能力者等を探して、悪霊のお祓いに勤しんでいる

 

しかし結果は今日の通り惨敗。これで通算7敗目だ。まぁ殆どが彼に恐れてボロを出した偽物だったけど

 

《いい加減無駄骨って分かっただろ?諦めて俺に協力しろよ》

 

姿は見えないけど、踏ん反り返って威張っているだろう

 

悪霊の中には、金持ちにしてやるとか、モテモテだよ?とか甘い言葉で油断させて完全に乗っ取ったり、憑き殺そうと画策する輩もいる。けど、これは・・・ただの馬鹿?

 

《こいつ馬鹿か?と思ってるな?俺は約束は決して破らねぇ!協力した暁には望みを一つ叶えてやるよ》

 

「えっと・・・なんでも叶えられるのであれば、自分の悩みも解決できるのでは?」

 

《・・・》

 

ふと無言になった

 

《良いから手伝えや!》

 

えー!いきなりキレられた!

 

「その・・・、如何にも怪しい人の言う事は信用するなって親から言われているので・・・」

 

《怪しいとはなんだ!そもそも!俺様は人じゃねぇ》

 

まぁ幽霊ですし

 

《いやそうじゃねぇよ。聞くがいい。俺様は神だ。それも・・・死神だ》

 

「死・・神・・?」

 

死神―――生命の死を司るとされる神様。人間に死期を知らせたり、死者の魂を回収する者を指す

 

「・・・」

 

《あん?信じてねぇな?》

 

確かに信じられない。幽霊という存在を長年かけて、最近になってようやく呑み込んだ私に、今度は死神を信じろというのはなかなかの無茶ぶりであろう。今の私には神だとか言って威張っている小物臭漂う幽霊としか思えない

 

《顔に似合わず口の悪い嬢ちゃんだな・・・。あー分かったよ。そこまで言うなら証拠見してやんよ》

 

証拠ってなんだろう?名前を書いたら死んでしまうノートとか

 

《それはないが・・・とりあえず、街の方へ行け》

 

死神である証拠と言って死神を名乗る悪霊は私を外へと誘導していく。言われたままに歩かされ、気がつけば駅の近く、人々の賑わう声が聞こえてくる

 

《・・・お!丁度いい所に。オイ、今すぐあの公園にはいれ》

 

呼び止めた場所は、中央の噴水が有名な自然公園だ

 

《あれを見な。あの噴水の方だ》

 

悪霊に促され噴中に入る。ピークを過ぎたというのにまだ残っている桜の花びらが地面に敷かれ、まだ春を感じさせている。そのまま奥に進み、公園のシンボルともいえる噴水を見てると、二人の男女がいた。

 

一人はなんと、学園のブラックリスト、駒王のおっぱい魔人、と(悪い意味で)有名な兵藤一誠先輩。その隣にはとても綺麗なお姉さんが座っている。まさか彼女さん!?

 

驚きだった。友人曰く変態の代名詞と言われている兵藤先輩を好きになる人がいるなんて・・・きっと明日には学園は大騒ぎなのではないだろうか?

 

《さて、俺様には人の死期が分かるなんていうのはいかにも・・・あの男―――兵藤一誠か。あれ、これから死ぬぜ?》

 

突然の言葉に反応ができない。兵藤先輩が死ぬ?友人曰く、『ゴキブリ以上にしぶとい男』の彼が?

 

何の冗談を言ってるんだろうか?遠くから見た感じですと、雰囲気も好調、今にもキスのシーンに入るのではないかというほどにではないでしょうか?とてもこれから死ぬような展開になるとは思えません。

 

むしろ、ここにいる私がこれからこの甘い酸っぱい雰囲気を壊してしまわないだろうか?こんなデバガメみたいな真似をしている私、バレたらどうなってしまうのでしょうか―――

 

この時、『兵藤一誠に捕まったら何をされるか分からない』とクラスメートの冗談めいた警告を思い出した。見つかったら私は何をされるのだろうか?とにかくここは見つかる前に早々にこの場を離れようと足を半歩後ずさる

 

《おっと、今は動かない方が良いぜ?》

 

「え・・・?」

 

ふと頭に語りかけてくる悪霊。いきなりの忠告に足が立ち止まった

 

その時でした。兵藤先輩の隣にいたお姉さんの背中に羽が生えました。何言ってるのって自分でも思っているけど、比喩でも冗談でもなく、本当に羽が生えてます。烏みたいな真っ黒な羽。何、あれ・・・

 

そして次の瞬間、お姉さんは槍のような光輝く物体を兵藤先輩の腹に刺した。兵藤先輩はお腹から大量の血を流しながら地面に倒れ伏して、瞬く間に兵藤先輩の周りに血の海が広がっていく。その様子をお姉さんは何か呟くと空へと飛んで行ってしまいました

 

そんな衝撃的な一部始終を見た私は公園から走って逃げていました。一言も発さず、無我夢中で走ったのだと思います。余りにも非現実で衝撃的だった出来事から逃げるために

 

気がついた頃には、私は自分の部屋のベッドの上にいた

 

《つーことで、信じてくれるよな?》

 

「・・・」

 

《おい?》

 

「・・・さっきのが夢じゃないのなら、あの女の人は何なの?いきなり真っ黒な羽が生えるし、と思ったら光り輝く槍で兵藤先輩殺しちゃうし!・・・あ!兵藤先輩そのままじゃない!?ああどうしよう!もしかしてこれって私警察に行くべきなの!?いやでも『翼の生えた女の人に殺された』なんて言っても信じてもらえるわけ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《・・・落ち着いたか?》

 

「・・・はい」

 

取り乱しました。突飛な話と衝撃的場面で混乱してました。ゆっくりと深呼吸をし、落ち着きを取り戻した

 

さて、さっきのが幻覚でも白昼夢でもなく歴とした現実なら、兵藤先輩は死んでしまった。きっと明日のニュースで報道されるだろう

 

この悪霊、いや死神の言っている事が事実と証明するに値するだろう。死期が読めるというのも如何にも死神らしい能力だ。しかし、なぜそんなものが私に取り憑いているのだろうか?

 

「もしかして私ももうすぐ死ぬのですか!?」

 

ああ、なんてことでしょう。齢16という若さで死んでしまうのか、私は。美しい青春も、甘酸っぱい恋の一つもせず・・・

 

《悲しんでるところ悪いが、今の俺にお前の魂取れるほど力はねぇ。っていうか、取りに行けないんだよ》

 

「・・・へ?」

 

―――――

 ―――

  ―

 

《俺がちょ~っと仕事でへましただけだってのに、コキュートスに放り込みやがってよぉ。大体あの骸骨爺、陰険なプルートやヘルメースのキザ野郎ばっか贔屓にしやがって・・・》

 

「つまり、貴方の肉体はそのコキュートスって場所にあるってこと?」

 

《そ。氷点下ぶっちぎってやがるから俺様の本体は氷漬けマンモスちゃん状態。凍ったバナナで釘が打てるんじゃなくて、凍ったバナナが釘と一緒に砕け散るレベル》

 

「それで、動けない状態から何とかするために身体から脱け出して、転々と色んなものにとり憑いて、そして今度は私に・・・」

 

《ま、そんなところだな》

 

またしても暴走仕掛けた私に、死神は事の経緯を語った。それを簡単に纏めると、

 

冥府という所で死神の一人として働いてた彼は、ある日、仕事で大きな失敗をした上、上司の逆鱗に触れてしまい、コキュートスとよばれる牢獄に放り込まれた。それをなんとかするために精神を身体から離脱し、出るために色んな人や物に憑いては脱走せんと画策している

 

とのことらしい

 

《以上。他に何か聞きたいことはあるか?》

 

「ねぇ、死神さん」

 

「タナトスだ」

 

「タナトス、さん。あの女の人は、何者なんですか?」

 

素朴な疑問だった。人に見えて明らかに人ではないことをしたあの女性はなんなのか

 

《あの女か。あれは堕天使だ》

 

「だ、堕天使?」

 

《欲に溺れて堕落したり、問題起こして天界から追い出された元天使。俺から言わせてみればただの烏だな》

 

タナトスの言いよう。確かに、神様と天使だったら神様の方が上だろうけど・・・

 

しかし悪霊、死神と来て今度は堕天使か。・・・まるっきりファンタジーの世界じゃないですか。ひょっとしたら妖精やドラゴンなんかも案外いるのではないだろうか

 

《いるぜ?》

 

「いるの!?」

 

っていうかさらっと私の心を読んだ?

 

《そりゃお前に取り憑いているからな》

 

という事は私が考えている事は全部筒抜けなんですね。普段の日常の事とか。は、恥ずかしい悩みとか・・・

 

《豊胸ぐらいで悩むもんか?お前ぐらいなら普通だと思うが》

 

余計なお世話です!

 

デリカシーのない死神だと溜息を吐くとふと疑問が湧いた

 

「・・・でもなんで、そんなのが兵藤先輩を?」

 

そう。そんな大層な人外がなぜ彼を殺したのだろうか?誰かに頼まれた?実は神様から嫌われていた?

 

―――ハッ!もしかしてあの人も―――

 

 

 

『クッ!おのれ、人間が・・・!』

 

『ゲヘヘヘ・・・さぁ、俺と一緒に楽しいことをしようぜ』

 

 

兵藤先輩に何か辱めなことをされて・・・((((;゚Д゚))))

 

《いや、あれは多分神器(セイクリッド・ギア)持ちだからだろう》

 

「・・・セイクリッド、ギア・・・?」

 

《神器。聖書の神が人間に与えた異能の力ってやつだ》

 

「そんなものが・・・」

 

《あの坊主も中々の上物を持っていたしな。だが、坊主自身は気づいてすらいなかっただろうがな》

 

先輩からすれば理由もわからずに殺されてしまったってことか。そう考えると、いくらブラックリストと呼ばれている彼でも、可哀想だと思った

 

《他人事みたいに言ってるが、お前も持ってるぞ?》

 

「え!?」

 

私にもそんな選ばれた者のような物を!?

 

《あーでも、まだ使えないようだな。これじゃあ宝の持ち腐れってやつだな》

 

神器は使えない。でも持ってるから堕天使には命を狙われる・・・少し前の出来事を思い出し、背筋がゾクリとした

 

取り敢えず今日はもう寝よう。色々とありすぎて、頭が痛い

 

先を考えることを放棄して、私はベッドに潜り込んだ

 

 

………………

 

 

翌朝、私は目が覚めた。ああ、なんて清々しい朝、まるで長い夢を見ていたような―――

 

《オスオース!やっと目が覚めたか、神器持ちの嬢ちゃん》

 

「夢じゃ、なかった・・・」

 

一瞬にして現実に叩きつけられ、気が沈む

 

とはいえ今日は月曜日。学校に行かなくては

 

まだ真新しい制服に袖を通し、トースト1枚を食して家を出る。既に玄関には私の友達、淡い青色の髪を靡かせる元気な女の子、諌崎 恵美香(いさざき えみか)が待っていた

 

「オッハロー!」

 

「おはよう、恵美香」

 

「やっぱりこの学園選んで良かったよね。制服は可愛いし、綺麗な御姉様もいるし、そして木場様もいるし!」

 

道すがらの会話で目を燦めかせうっとりする恵美香。私の友人は学園の王子様にご執心みたいです

 

会話をしてるうちに校門迄来ていた私達。周りにはワイワイと同じ様に登校する生徒達

 

なんでもない平凡な日常だけど、今の私にはそれがとても心地良い。まるで、昨日のあれがうそみた・・・い・・・?

 

ドサッ

 

「沙希?」

 

「あ、あ、あ・・・!」

 

鞄を落としてしまった私に呼びかける恵美香。私が鞄を落としたのは、別に転んだわけでも、捨てたわけでもない。驚くべきものを見てしまい、手からこぼれてしまったから

 

その見開いた私の目には、学園のブラックリスト、兵藤一誠先輩がいたのだから

 

昨日、堕天使とかいう羽生えた変なお姉さんに殺されたはずの先輩。だが今私の目の前で欠伸をしながら平然と登校している

 

「あー、兵藤先輩か。見てくれは悪くはないんだけど、やっぱり変態はダメよね」

 

呆れた顔で恵美香は兵藤先輩に対し辛口評価を述べるが私はそんなものは聞ける状態じゃなかった

 

なんでいるの!?夢?幻覚!?それとも本当は死んでいなかったとか!

 

《落ち着きな、嬢ちゃん》

 

これが落ち着いていられると!?つい昨日死んだはずの人間が翌日になってこうも平気な顔して自分の前に現れたのですよ!やっぱり夢だったの!?

 

《だからあいつは一度死んだって》

 

じゃあなんでここにいるの!生き返ったっていうのですか!ゾンビ!?ゾンビなの!?

 

《いや違うな。あれは悪魔だ》

 

「あ、悪魔!?」

 

つい声に出してしまった。突然の大声に周りの生徒たちが私に視線を向ける

 

「あ、あ~、言えてる。あの倫理のハゲ山マジで悪魔みたいね。うわ、今日1限ハゲ山じゃない。ホント最悪!」

 

恵美香の言葉に周りの生徒は、ただの悪口か、と去っていった

 

「あ、ありがとう」

 

「良いって。それより、いきなり叫んでビックリしたじゃない。一体何考えてたのよ?」

 

「た、大したこと、ないよ?」

 

「怪しい・・・白状しなさい!」

 

ガバッと後ろから抱きついて私の胸を揉み始めた

 

「ちょ、やめ、人が見てる、から・・・!」

 

再び私に視線が集まった。特に男子が。視界の端で鼻血を出してる人がいた気もします。顔から火が出るほど恥ずかしい!

 

「ほれほれ!YOU言っちゃいなよ?」

 

「わ、分かったから止めてぇ!」

 

 

朝も早くから、少女の叫び声が学園に響き渡っただろう

 

………………

 

 

私は昨日のことを恵美香に白状しました

 

「成る程、兵藤一誠に女の影がねぇ・・・確かにそれは一大事だわ」

 

あくまで死神とか堕天使のことは言ってません。言ったら間違いなく痛い子認定ですから。でも決して間違ってはいません。これは確かに昨日起きたことですので

 

しかし、今度は悪魔。二日目にして悪魔まで出てきちゃったよ!

 

《ま、それだけ人外は身近にいるってわけさ》

 

タナトスとの意思疎通の一方、恵美香に引っ張られて教室に入る

 

「オッハロー!」

 

「おはようございます」

 

と元気よく挨拶しながら入っていく恵美香の後に続き、私も教室に入る

 

『オハロー、恵美香』

 

『オッス!諌崎』

 

『朱主さんもおはよう』

 

恵美香の登場にクラスのみんなが彼女に挨拶している。入学から僅か2週間、人当たりの良さも相まって、今では彼女はクラスのムードメーカーです

 

「小猫ちゃんもオッハロー!」

 

「お、おはよう、塔城さん」

 

「・・・おはようございます、諌崎さん、朱主さん」

 

彼女は塔城小猫さん。私達のクラスメートです。寡黙でクールを装っているのでしょうけど、体格の小ささや、食べる時の仕草が相まって、学園のマスコットなんて呼ばれているそうです。わたしも、彼女を見てるとお菓子をあげたくなってしまいそうです

 

かく言う私は、特に目立つようなことはなく、皆からは唯の生徒の一人という認識だと思います。でも私はそれでいいのです。二人の様に人を惹きつける物も持っていませんし、目立つのはあまり好きではないので

 

しげきてきなハイスクールライフも良いですけど、ほどほどに、平穏に学校生活を送りたいですから

 

授業開始のチャイムと同時に教師が教室に現れて、今日も私の学校生活が始まった

 

 

………………

 

 

昼休み

 

「初日から思ってたけど、小猫ちゃんってものすごい大食いだよね」

 

「うん。たくさん食べるんだね。と、塔城さん・・・」

 

「はい。食事は身体の資本ですから・・・」

 

もしゃもしゃとあんぱんをかじる小猫さん。彼女の席には購買で売っているパンが、山の如く積もっていた

 

「いやいや、小猫ちゃんは今のロリっ子体系のままが一番はピッタリだよ」

 

ズバッとそれを言うのはどうなんだろうか

 

「それに貧乳はステータスだ!希少価値だ!っていうし。それに今の時代は美乳だよ。ほら、沙希の胸とかさ!」

 

「だから私の胸を揉もうとしないでください!」

 

胸を腕で隠す私にえ~、と不満げな恵美香

 

「・・・別に、胸を大きくしたいとか、そういうつもりではありません」

 

「もう、拗ねてるのも可愛いですなぁ!」

 

プイッとそっぽを向く小猫さんをギュッと抱きしめる恵美香。傍から見ればとても仲の良さそうな光景です

 

「・・・ん?ねぇ、あれって兵藤一誠じゃない?」

 

小猫さんを抱きながら恵美香は窓の向こうを指差す。指した方には兵藤先輩がいた。何か焦った様子で渡り廊下を走り回っていた

 

「ふーむ。これは怪しいねぇ」

 

興味ありげに恵美香は走り去っていく兵藤先輩を観察する

 

・・・悪魔、か

 

幽霊、死神、堕天使、悪魔

 

わずか二日で、漫画の世界のような奇想天外な人外達に出会ってしまった

 

果たしてこの出会いは私の生活に一体どんな影響を及ぼしてしまうのでしょう

 

やはり私は、この学園で普通に青春して、普通に恋をして、そんなありきたりでノーマルな学園生活を送りたいのです

 

しかし、その願いがそう遠くないうちに叶わなくなる事を痛感させられるとは、この時の私は分かるはずもなかったのです

 

一方その間小猫さんは、我関せずと唯ひたすらパンを齧っていました

 

 

………………

 

 

その日の夜、私はテレビのリモコンの電池を切らしていたので、コンビニで買って帰ろうとしていた時だった

 

「ふーん?こんな大人しそうな子が神器持ちか」

 

帰り道で黒のゴスロリ服を身に付け、金髪を両側に束ねた女の子が目の前に現れた

 

「死ぬ人間相手に変だけど・・・初めまして。アタシはミッテルトと申します」

 

お嬢様のようにスカートの裾を持って会釈をする少女。その背中には、真っ黒い翼が

 

神器、黒い翼、死ぬ―――堕天使。そんな言葉の羅列が頭をよぎった

 

《あーらら。短い命だったな、嬢ちゃん》

 

「淡白すぎない!?」

 

仮にも人にとり憑いてるんだから少しぐらい親身になってくれてもいいんじゃないかな!?

 

「なんかゴチャゴチャ言ってるけど、さっさと仕事終わらせて帰ろ。さよなら、お姉さん♪」

 

と、昨日のお姉さんと同じように槍の形をした光の塊を手に、目の前の女の子は私に向けた

 

その時、私の脳裏に浮かんだのは昨日の出来事―――血まみれに倒れた兵藤先輩の姿。その次に浮かんだのは―――

 

「う、わああああああ!!?」

 

怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!

 

何も考えもなく、ただその場から逃げるため、私は後ろを向いた

 

まさか次の日になって自分の番が訪れるなんt―――

 

ドスッ!

 

その時、右足に鈍い痛みを感じる。見ると私の太ももに光の塊が突き刺さっていた

 

「―――っつあああ・・っ!!」

 

足に力が入らなくなりその場に倒れ込んだ。刺さったところから真っ赤な血が流れている

 

「ウフフ♪逃げられると思った?」

 

「うあ、あああ・・・」

 

痛い、痛い、痛い!痛みで気が遠くなりそうだ

 

太股から血がだくだくと外へ流れていく。段々と身体が冷たくなっていくのを感じる。意識も霞んできた。・・・ああ、私死ぬんだ

 

《なぁ嬢ちゃん・・・生きたいか?》

 

死の間際になって死神が話しかけてきた

 

「死ぬのは、怖いよ。・・・生きたいよ」

 

《そうかそうかそうだよな?・・・じゃ、取引でもするか?》

 

「取、引・・・?」

 

《何簡単だ。俺と契約すればいいのさ。何、悪魔以上の保証はしてやるぜ?》

 

これ見よがしに餌をぶら下げてきた。それはまるで、禍々しい色のした毒林檎の様だ

 

それを手にすれば、この先碌な事が待っていないことを容易に想像させる

 

毒林檎を食べてこれからを命懸けで生きるか、食べずにここで死を受け入れるか。生と死の天秤が私の目の前で吊るされている

 

生き残るには毒を選ぶしかない。でも、理性がそれを止める

 

葛藤をしてる中、動けない私の前に立った堕天使が、光の槍を振り上げる

 

「じゃあね。恨むのなら、神器を与えた神様を恨むッスよ?」

 

その一言。その言葉に私は動かされた

 

―――神様。神様の悪戯で私は、私の人生は踏み躙られるの・・・?

 

それはあまりに・・・理不尽で、無茶苦茶で、悔しいなと思った私は―――

 

「・・・するよ。だから・・・私に、力を!」

 

毒林檎を齧った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《いいぜ・・・契約、成立だ》

 

薄れ行く意識の中で、私は髑髏の仮面を被った男を見た気がした

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

突如、風が吹き荒れる。突然の突風にミットルテは弾き飛ばされる

 

「ナニコレ。風がいきなり・・・これがあの子の神器?」

 

風は円を描くように集まり、沙希を包んでいた。やがて風が止むと沙希?は棒立ちしていた

 

「《・・・俺様、参上!》」

 

そして某仮面の戦士のようにポーズを唐突に決める沙希?。いつの間にか掛けていた眼鏡は無くなっており、三つ編みは解けて腰まで長い黒髪が夜風に靡いて揺れている

 

「なんかよくわかんないッスけど、とりあえず殺しちゃえば同じッスよね!」

 

再び光の槍を手元に出して少女に投げた

 

沙希?は先ほどの逃げ腰とは大違いに、大きく跳躍して攻撃を避ける

 

「《さてさて、使えるかな?と・・・お!》」

 

沙希の右手から一本の鎌が現れた。鋭い刃が月明かりに照らされ妖しく輝る。禍々しい雰囲気を放つ―――

 

―――草刈用の鎌が

 

「《小っさ!これで刈れんの!?》」

 

「成程、それがアンタの神器っスね。でも―――」

 

堕天使は背中の黒翼をはためかせ、空に上がった

 

「空からなら、届かないっしょ?」

 

光の槍が彼女の周りに多数現れる。彼女がニヤリと笑うと光の集まりが降り注いだ

 

そのうちの一本が沙希?の顔に迫る。しかし彼女が鎌をフッと振るうと、光は形が崩れ、中空に霧散した

 

「うええ!?」

 

「《whew!・・・切れ味は問題ねぇみたい!》」

 

嬉々として鎌をブンブンと振り回す沙希?。予想外に唖然とするミッテルトだが、直ぐに我を取り戻し、二つ三つと光の槍をまた投げた

 

沙希?は小さな鎌を振り回し、飛んでくる槍を器用に捌いた

 

「《ハッハー!テメェに勝ち目はねぇぜ!》」

 

「むー!・・・でも、攻撃ができなきゃアンタに勝ち目は無いっスよ!」

 

「《フン・・・いいだろう。とっておきを見せてやる!》」

 

「と、とっておき!?」

 

力強く主張する沙希?は、手に持った鎌を真上に掲げ、身体を捻ると―――

 

「《おりゃあっ!》」

 

ぶん投げた

 

意外!縦に回転しながら小さな鎌がミッテルトに襲いかかる!

 

「《必殺!トマホークサイズチョップ!》」

 

「・・」サッ

 

「《アッ!?》」

 

・・・しかし、少し横に避けると、鎌は素通りして夜空の彼方へと飛んで行ってしまった

 

「《しまったぁ!俺の鎌がぁぁ!!》」

 

「キャハハ!バカだ!バカがいるっ!」

 

「《ぐぬぬ・・・》」

 

「さてこれで、お終いッス!」

 

ミットルテはとても太い光の槍を脇に抱えて沙希?へと飛び込み始めた

 

突撃してくる堕天使、しかし武器は投げてしまい防ぐ手はなし。万事休す!

 

・・・しかし、この時、彼女?は、

 

「・・・な〜んちゃって」

 

真紅に染まった瞳を細めて、ニタリと不敵な笑みを浮かべていた

 

 

 

 

 

 

 

ドスッ!

 

沙希?の僅か数メートルまで接近して来たミットルテの胸から刃が飛び出した

 

「・・・え?」

 

彼女の背中には先ほど投げた鎌の柄が突き刺さっていた。刃の現れた所から血が噴き出す

 

「《どうやら俺様の鎌は、綺麗に帰ってきたみたいだなぁ?まるでそう、ブーメランみたいに》」

 

「・・・カフッ!」

 

心臓を的確に貫かれたミットルテは血を吐くと、そのまま地面に墜落した

 

「《いやぁ~。こうも分かりやすく正面から突撃してくれるとはなぁ?実に呆気ない結末だよ》」

 

「嘘・・・アタシが、こんな・・・」

 

踏み潰された虫のごとく悶えながら這いずる。それも間も無いうちに動きは弱々しくなり、自分の血に塗れながら彼女は動かなくなった

 

「《さて、記録か。・・・下級堕天使ミットルテ。神器持ちの人間を殺すところを返り討ちにあい死亡、と。こんなもんか》」

 

ミットルテに突き刺さってる鎌を引き抜くとそこから青白い光が漏れる。それを手元に手繰り寄せ、沙希?はそれを懐へしまった

 

処理を終え、沙希?が指を鳴らした途端、ミットルテの身体から炎が噴き出した。揺らめく蒼炎が堕天使の亡骸を燃やし尽くし、炎が消えた頃には道に灰すら残っていなかった

 

「《呆気ない生涯だったな、烏ちゃん》」

 

真っ赤な帰り血で汚れた沙希?は振り返り、闇夜へと消えていった

 

 

………………

 

 

翌朝、気が付けば私はベッドの上にいた。昨夜の記憶が全くない。血生臭い匂いが鼻を刺激した

 

「昨日のことが途中から思い出せないんですけど」

 

《取り敢えず、あの堕天使は死んだぞ》

 

「し、死んだ?!」

 

《俺様がこう、プチっとな》

 

まるでアリを踏み潰すような言い方です。あの堕天使の子には申し訳ないけれど、これで安心、なのかな?

 

《全然だな。むしろ、神器使いに殺されたことを知った仲間たちが近い内に一挙に攻めてくると思うぜ》

 

むしろ悪化!?

 

《まぁ気を落とすなって。ほら、新しい朝が来た〜って》

 

「希望の朝・・・なんてないじゃない!」

 

なんて気が重い朝なんでしょう

 

「・・・あとなんか、頭痛い」

 

《そうそう。たった2杯で酔い潰れるなんて、弱い身体だぜ》

 

「人の身体で何やってるんですか!?」

 

「いや、ちょっとキャバクラで可愛いお姉さんとニャンニャンしようとしてただけだよ」

 

キャバクラ!?ニャンニャン!!?

 

《しかし、学生の身体ってのは不便だな。店で門前払いされちまったから側の屋台でやけ酒しちまったよ》

 

「人の身体で勝手にそんなことしないで下さい!」

 

私の猛抗議にタナトスは呆れるように溜息を一つ付いた

 

《勝手だ?オイオイ何言ってんよ。お前、契約しただろうが》

 

「契約・・・」

 

確かに最後の記憶で私はそう言った

 

《そ。内容はお前の望み、【生きるために俺の力を与える】その代わりに、代償として・・・【お前の身体を一時的に借りる】だ。契約書は机の上な》

 

机の上にはさもそれっぽい丸められた羊皮紙が置かれていた。広げるとよく分からない文字が書かれ、右端に血判と拇印が押されていた。拇印はたぶん私のだろう

 

昨夜持ちかけてきた死神との契約。今こうして生きていられたとはいえ、契約するんじゃなかったと思う私がここにいる。数年の間の我慢とはいえ、私の精神は果たして何年持つだろうか・・・

 

《あ、契約期間は100年な》

 

え、一生!!?一生憑き纏われるの私!!?

 

《ま、しばらくよろしくな、嬢ちゃん》

 

二ヒヒと嗤う死神に、私は頭を抱える他なかった




最近こっちで書いてばかりの駄作者ですいません



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月光校庭のエクスカリバーと聖人

観客動員数1100人突破!お気に入りも5人

嬉しい限りです

さて、今作はクロス作品、ハイスクールD×Dの町に聖人達が・・・


メソポタミア文明以来、現代の人間社会において、通貨は重要な存在である。地獄の沙汰も金次第、三途の川の舟渡しでの六文銭のように、あの世であろうとも人の行く末はお金に左右されるのである

 

 

 

 

そしてお金は今も、救世主達の明日を左右していた

 

 

 

「この町のスーパーのタイムセール、豆腐一丁74円、4個入り卵一パック88円、醤油一本98円。これを逃さないてはありません」

 

六月の半ば、春の迎春セールや、友人や弟子たちとの宴会、大家さんのお孫さんへのこどもの日等々、春先から予想以上の出費がかさみ、節約せざるを得なくなっている聖人二人は、わざわざ遠出をしてまでとある町まで買い物にきていた。

 

「でも、この町まで歩いていくのはちょっとつらくないかな?せめてカンタタ二号を持ってくればカゴに荷物も詰められるし・・・」

 

「いいえ、この街の駐輪場はすべて一時間無料。しかし駐輪場から目的のスーパーへの往復時間、そしてタイムセール時の他のご婦人方の参加による大ラッシュ、レジの所要時間まで計算に入れても一時間を超えてしまい、そうなると延長料金を支払わなくてはなりません」

 

立川から数駅分程離れた駒王町、そこに二人の聖人が歩いていた。キリストを広めた救世主――イエス、仏教を広めた目覚めた人――ブッダ。彼らは、下界は日本の立川にて有給バカンスをしているのであった。

 

「君のお財布のひもは本当に固いね」

 

「君が緩すぎるんだよ。この間も24の新シーズンDVDを買っていたじゃないか」

 

「いやだってこういう続編物って最後まで欲しくなる物じゃない?」

 

「イエス。君はいつもいつも・・・わたしがこの生活をしていくためどれだけ切り詰めているのかを―――」

 

パアッと体を震わすブッダの後ろから光が差し込む

 

「待って!街中で後光指すのはマズイって!・・・あ!ここじゃないかな!」

 

どうやら話をしている間に目的地に辿りいついたようだ。二人の目前には大型スーパーがそびえている

 

「・・・うん。ようやく着いたようだね」

 

二人のたどり着いたスーパーには、まるで神に縋る人々のごとく、買い物客で溢れていた

 

「うわ、すごい人だかりだね」

 

「そう、ここからが本当の苦行なのです。フフフ・・・」

 

「・・・今の君はとても輝いているよ、ブッダ」

 

カチリとブッダの苦行スイッチが入る音が聞こえたとイエスは語る

 

D✩D

 

「今日は良い買い物をしました」

 

ホクホクとした顔でレジ袋に詰め込まれた戦利品の数々を手に店を出るブッダと、そのあとを追うイエス

 

「・・・ねぇブッダ。今度来た時はお弁当を買おうよ。値段が半額のシール貼ってあったし」

 

「私も脇で見ていたけど、あの弁当に群がる者たちの眼は尋常ではなかったね。あの子達は皆、飢餓系の苦行でもしていたのかな?」

 

弁当売り場の一角で繰り広げられた狼達の闘いに異なった見解を述べるブッダである

 

「せっかく遠出したんだし、ちょっとだけ見て回らない?」

 

「う〜ん、卵とか生物買っちゃったから少しだけだよ?」

 

駅前の商店街を中心に町並みを散策する二人の聖人

 

「あ、見てブッダ。絵画の個展をやってるみたいだよ」

 

イエスが見つけたのは、小さなビルの表に雁削(かりそぎ)画伯画廊展と書かれた看板

 

「芸術・・・そう言えば王宮に居た頃は色んな芸術作品を父が私に見せてもらっていたな」

 

「お~!評価とか鑑定とかできるの?」

 

「う〜ん。そういった目利きはないかな?毒キノコ引き当てるような目だし・・・」

 

「もし、そこのジョニーデップ似のお兄さん?」

 

「私のことでしょうか?」

 

ジョニデ似とおだてられ、キメ顔で振り向くイエス。そこには縦縞のワイシャツを着た見た目40代の男がニコニコと笑みを浮かべていた

 

「ええそうですはい」

 

「ちょっとイエス!」

 

「雁削画伯の絵にご興味があるようで。こちらをご覧下さい。この絵に描かれているお方は何方だと思われますか?」

 

柔らかな物腰で男はそばにあった絵画を指差す。そこには首元に赤いスカーフをつけた白い服の男が描かれていた。その前面には薔薇の花が咲き乱れ、背景には大きなバナナの葉があった

 

傍から見れば意図がサッパリ理解できない、ただの男の絵だろう

 

「この絵は・・・」

 

その絵を見て手を顎に添えて思考するイエス      

 

「・・・もしかして―――マルベルデ君かな?」

 

「マル・・・?」

 

「あ、それって義賊をしていた彼?」

 

「うん。でも彼って麻薬とマフィアの守護をする人だから教会認定はされていないんだよ。それでも、彼のファンは世界中にいるからすごいんだけどね。彼、死ぬ前は仲間を守るために囮になったりとかしたらしくて」

 

「悪のカリスマ・・・ルシファーさんとかと気が合いそうだね」

 

「(マルベルデって誰だよ!サッパリわからねぇぞ!・・っていうか麻薬とかマフィアとか・・・この人たちもしやそっち側の・・・!?いや、怖気づくな!ここはこの道15年のベテランの腕を見せる時!)え、ええ・・・実はそうなんです。いやはやお目が高い!」

 

雁削なんていう画伯などいやしない。この絵も、どこかの誰かさんが、これを誰かなど考えず適当に描いたものだ。他の絵と比べ、近代的かつ神聖さを感じさせないこの絵は、あくまで自分の博識さと絵の価値の高さを騙るための引き合い程度と思っていたが、思わぬ収穫である

 

男は目を細めてちらりとイエスを見る

 

(一見30代の欧州風の優男、先ほどのジョニデ発言からも煽てに乗り易いと見た。少し前に来た少女同様、押していけば容易いカモだ)

 

男はここぞとばかりに手を組んでイエスに歩み寄った

 

「では、ご購入をご検討なされてはいかがでしょうか?」

 

「え、でも・・・」

 

「いやいや、こういった物は価値の分かる方にこそ相応しいのです!今ならこの額縁も加えてこのお値段で提供させて頂きます!」

 

懐から取り出した電卓を叩きだした数値は75万

 

「え、でもなぁ・・・」

 

「本来なら3倍、いえ5倍はするところをここまで勉強させていただいているのですが・・・仕方ありません!貴方様に出会ったのもなにかの縁!60万で構いません!」

 

さらに畳み掛ける男

 

「さらにさらに!このハンディタイプの洗浄水タンクもおつけいたしますよ!」

 

「いやでも、今私お金が・・・」

 

「それでしたら!分割払いもございます!月々ほんの50000円を16ヶ月払いで構いません!」

 

「だ、だから、その・・・私は・・・」

 

「さぁ、さぁ、さぁさぁさぁ!」

 

 

 

 D✩D

 

 

 

「・・・わ、私が間違っていたんです!ああ、今までの私はなんてことを!これからは正しき道を歩もう!この素人が書いたデタラメな絵は資材として送ります!騙し取ってしまったお金はもう持ち主に返せそうにない・・・だから、このお金は全財産と一緒に恵まれない子供達へ募金をしよう!ああ、アガペー!!」

 

 

 

  D✩D

 

 

 

「・・・ごめん、未だに商人の時のトラウマが治ってなくて」

 

「君は本当に押し売りが苦手だよね・・・」

 

「うん・・・訪問販売の人とかが来る度にあんな感じになっちゃうんだよね」

 

押し売りに対しつい説教をしてしまったイエスは、ブッダと共にその場から逃げてしまった

 

「思わず逃げて来ちゃったけれど、あの人大丈夫かな?」

 

(きっと今頃、懺悔しているだろうな)

 

それからもイエスとブッダは商店街を歩き回る。声を張り上げる魚屋、小さなテラスが付いたカフェ、学生が賑わうゲームセンター、噴水が綺麗な自然公園・・・

 

「えー、迷える子羊に御恵みを~」

 

「どうか、天の父に代わって哀れな私たちに御慈悲をぉぉぉぉ!」

 

「あれって、君の信者だよね?」

 

「うん、たぶん・・・」

 

一通り回ったところで、駅前でなにやら大きな人の声が聞こえる。よく見ると駅の昇降口の傍で白いローブの二人組が祈っていた。行きかう通行人たちはその2人を、奇異の視線を向けて通り過ぎていた

 

「なんて事だ。これが超先進国であり経済大国日本の現実か。これだから信仰の匂いもしない国は嫌なんだ」

 

「毒づかないでゼノヴィア。路銀の尽きた私達はこうやって、異教徒どもの慈悲なしでは食事も摂れないのよ? ああ、パンひとつも買えない私達!」

 

悲観する二人組は夕焼け空を仰ぐ。迷える仔羊・・・なのかな?

 

「どうかなされたか、少女よ?」

 

「―――っ!遂に私達の話に耳を傾けてくれる人が!もしやあなたも教徒ですか!」

 

「あ、いや、私は父さんの息子で―――」

 

「ふむ。確かに人は皆神の子であるからな。こんな極東の町にも理解のある信者がいるとはな・・・」

 

「ああ、主よ。この出会いに感謝いたします!」

 

勝手に自己完結して十字を切って祈る二人の少女。それはそれでバレなくて好都合なイエスとブッダであった。

 

「はじめまして、私は紫藤イリナです。プロテスタント所属の祓魔師(エクソシスト)です」

 

「ゼノヴィアだ。カトリック本部ヴァチカンで祓魔師(エクソシスト)をしている」

 

ローブのフードを下ろして名を名乗る2人。腰下まで届きそうな長い髪をツインテールにした栗毛の少女――イリナ。そして青いショートに緑のメッシュがかかった長身の少女――ゼノヴィア。彼女らはイギリス、イタリアからこの町にやってきたキリスト教徒である

 

「えと、さっき困っているように見えたけど、どうかしたのですか?」

 

「ああ、実は仕事でこの町に来たのだが、路銀が無くなってしまったのだ。彼女がこんな絵を買ってしまったおかげで」

 

「こんな絵とは何よ!貴女にはこの絵画に描かれた聖なるお方が分からないの!?」

 

ゼノヴィアが指差す方に一枚の絵画があった。頭に輪をつけた、貧相な服を着た外国風の男と、その周りに幼き天使達がラッパを持って祝福してるような、そんな絵であった

 

(あの絵ってさっきの人の所のじゃ・・・)

 

「では聞くが、その絵に描かれているお方は誰だ?」

 

「・・・ペトロ様・・・かな?」

 

「聖ペトロがこんなわけないいだろう。聖人を貶しているのか」

 

「そんなことないもん!」

 

「ペトロさんだったらたぶん怒らないんじゃないかな?」

 

「そうだね。『パネーっす!』とか言って笑い飛ばしそうだね・・・」

 

「む?だが聖ペトロは生前、捕われた聖イエスのため番兵の耳を削ぎ落とす様な激情家であったと聞いたことがある」

 

「確かにあの時はそうだったけど、普段は笑わせにくるし、今ではかなり丸くなってるよ」

 

「・・・それは想像がし難いな」

 

後日、ペトロは送られてきたその絵画を見て、なんて言ったのかという話は、別の機会に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってゼノヴィア!あまり油を売っている場合じゃないわよ!」

 

軽く交わす会話を遮るのはイリナ。それに対し、ゼノヴィアも会話をやめた

 

「・・・そうだな。私達には聖剣を取り戻すという使命があったのだった」

 

「「聖剣?」」

 

――聖剣、そんな単語に聖人二名は興味を示す

 

「その聖剣がどうかしたの?」

 

「ふむ、実はな―――」

 

イエスの問いに答えんとするゼノヴィアを遮るイリナ

 

「ちょっとゼノヴィア!いくら親しき隣人でも、これは極秘任務ってこと忘れたの!?」

 

「ああ、すまないイリナ。どうも彼らの頼みにこう、逆らえなくてな」

 

「いえ、ここで出会ったのもなにかの縁ですし、出来ることがあれば手伝いますよ。それに―――」

 

「極秘任務・・・」

 

「イエスも乗り気のようだしね・・・」

 

キラキラと輝かせるイエスの目には、彼女たちが某スパイ映画の女スパイに見えていたそうな

 

ーD☆Dー

 

遥か昔、天使、悪魔、堕天使の三勢力による三つ巴戦争を起こした。その被害は甚大であり、悪魔は魔王を含む多くの悪魔を、天使や堕天使も多くの同胞を失った。かの有名な聖剣エクスカリバーは、その際に砕けてしまった

 

しかし、教会はあらゆる手を尽くした結果、砕けた聖剣の欠片から、エクスカリバーは新たに7本の剣として生まれ変わったのである。新たに生まれた剣には、エクスカリバーの力からそれぞれ特殊な能力を秘めている。そして今は、行方知れずとなった1本を除き、6本の聖剣はカトリック、プロテスタント、正教会の三派閥が2本ずつ保管することとなったのであった。

 

「実は教会が保管しているエクスカリバーの内3本が、堕天使に盗まれたのだ」

 

「あ~、アーサーくんの剣か」

 

「因みに、残る3本の内2本がここにある」

 

「これが私の聖剣、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)よ」

 

イリナが懐から木刀を取り出す。木刀を軽く振るうと瞬く間に真剣へと姿を変えた

 

「わぁ!リアル聖剣だよ、ブッダ!・・・少しだけ触ってもいいかな?」

 

「う~ん・・・少しだけなら」

 

少し渋ったイリナは、再び木刀へ姿を変えてイエスに貸した

 

「うわぁ!かっこいい・・・!」ワクワクドキドキ

 

「ああ、イエスそういうの好きだよね」

 

「私デモハン(ネトゲ)では弓兵役なんだけど、偶に剣士とか羨ましく思っちゃうんだよね。勇者みたいで」

 

「私達に武器は似合わないんじゃないかい?君も私も非暴力主義だし、向かってくる敵も、なんだかんだで仲間に引き入れちゃうから」アングリマーラトカ

 

「でもやっぱり伝説の武器ってかっこいいから欲しくなるy―――痛っ!」

 

「うわっ、ととと!」

 

突然エクスカリバーを手放すイエス。聖剣は宙を飛ぶも、持ち主のイリナが飛び込んで受け止めた

 

「大丈夫イエス?」

 

「あ、うん。ちょっと指を切っちゃったみたい」

 

「見た目が木刀でも本質は剣だからな。というか、聖剣をぞんざいに扱はれては困る。・・・剣は無事か?イリナ」

 

聖剣を放ってしまったイエスにゼノヴィアは嘆息し、イリナに無事を確かめる。しかし彼女はエクスカリバーを掴んだまま無言を通し、反応がない。やがてスクッと立ち上がった

 

「聖剣は無事のようだな」

 

「見くびらないでゼノヴィア。なぜなら私は真のエクスカリバー使い、紫藤イリナなのだから!」

 

突如、何かに目覚めたかのような、なにやらテンションがおかしいイリナ。さらに、その手に持っていたエクスカリバーは変貌を遂げていた。擬態により木刀の姿だった剣は、厳かな装飾が施され、剣から発せられるオーラは先の聖剣よりも大きく神々しいものだ

 

「突然テンションが激しくなるのは良くあることだが・・・いやそれよりも、エクスカリバーが変わってしまっただと!?しかもデュランダルに勝るとも劣らないそのオーラは・・・」

 

「目覚めなさいゼノヴィア。天の国は近いわ!」

 

かの聖イエス・キリストを貫いた槍は、その血を受け【黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)】として後世に語り継がれている。さっき手を切った時に血が付いたのだろう

 

(ああ、ここにもまた新たなロンギヌスが・・・)

 

イエスは自身の過ちに再び懺悔するのであった

 

因みに、お仕事モードのイエスみたい、とブッダは密かに思っていた

 

「・・・それにしても堕天使か。マーラやルシファーさんみたいな悪魔とは違うんだね」

 

「アザゼルさんが代表でね。彼結構人を惹きつけるものを持っているから。それにセンスもカッコイイし!」

 

(以前ミカエルさんから聞いた閃光と暗黒の龍絶剣(ブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレード)っていうのは言わないほうが良いかな・・・?)

 

「イエス知り合いなの?(イエスのお父さんと離縁した人達だから、神の子であるイエスはあまり歓迎されていないんじゃ・・・)」

 

「ブログ仲間だけど?」

 

「彼ブログやってたの!?」

 

「うん。そういえばこの間のブログで部下に手を焼いてるみたいなこと言ってた気がするよ。どこも個性的な人はいるんだね。トマスとか・・・いい人だけど疑り深いのがね・・・」

 

「私の場合天部の人たちかな?全員・・・教祖にした時も、漫画家にした時も・・・」

 

彼らのプロデュースはおばちゃんのお布施よりも強引だとか

 

それはそれとして、とここまでの経緯を話すゼノヴィア。その間イリナはエクスカリバーを片手に色々と格好良いポーズを繰り返していた

 

「―――というわけで、私とイリナの二人で任されたわけだ」

 

「(う~ん。何度聞いても、かなりの無茶だね・・・)」

 

「(ていうか私、そんなことになってるなんて知らなかったんだけど・・・)」

 

「(それはイエスを心配させたくないからじゃないかな)」

 

「それでも私は、迷える仔羊を放っては置けないよ!」

 

「・・・そうだね。私たちに出来ることがあれば協力させてもらえないかな?」

 

我らが救世主たちはイリナ達の任務に協力することを提案した

 

「そうしてもらえるのならありがたい」

 

「ちょっと待ちなさい、ゼノヴィア」

 

さっきまで会話から外れていたイリナがゼノヴィアを呼び止める。彼女の背中を押して、イエス達から少し離れると小声で問いかけた

 

「ゼノヴィア、協力を願うのは構いません。しかし協力するに当たって、貴女はあの人たちを頼って大丈夫っていう保証はどこかにあるのですか?」

 

「ないな」

 

「はぁ!?」

 

サラリと告げた答えに声を荒げる

 

「信頼に値しないかもしれないし、裏切られる可能性も否定しきれないだろう。・・・だが、私の直感が告げるんだ。この方たちに任せれば大丈夫だ、と」

 

「直感って・・・まぁ貴女のその野性的直感には何度も助けられてるし・・・いいわ、ゼノヴィアを信じる」

 

尚も平然とした顔で答えるゼノヴィア。それに対しイリナは苦い顔をするが、彼女をよく知る相棒の経験上、自分の考えを折らないと理解しているからか、渋々納得した

 

「すまないなイリナ」

 

「いつものことでしょ?」

 

話がついたのか、イエス達の前に戻ってきた2人は、彼らの前で手を合わせて祈り出した

 

「改めて、協力に感謝する」

 

「うん。よろしくね」

 

「主よ、この素晴らしき出会いに感謝いたします」

 

「あはは・・・」

 

本人の前で祈りを捧げられても困るイエスだった

 

「それじゃあ、どうしようか・・・」

 

いざ何をすべきかと悩んでいると、

 

くぅ〜・・・

 

小さな腹の音が鳴り出した

 

「と、兎に角・・・腹が減っては戦もできないわね!」

 

顔を真っ赤にしてイリナはとっさにお腹を抑える。音の出処は彼女からで間違いないようだ

 

「そうは言ってもだ。パンを買うお金もないぞ」

 

「う~ん。今私たちも今手持ちが少ないし」

 

「さっき買ったのも殆ど生で食べられないだろうし・・・」

 

どうすればと悩むブッダとイエス

 

「こうなったら何処かから石を拾ってそれをパンに―――」

 

その時、ササッと何かが2人の前に現れる

 

 

 

 

 

 

「にゃあ・・・」 「ちゅう・・・」

 

 

 

 

 

それは皿を加えた猫とマッチを持った鼠だった。マッチを2人の傍に置き、猫と鼠は置かれた皿にゴロンと仲良く横たわっていた

 

「だからバーベキューはしないって!」

 

「預金を下ろせばどうにかなるから!!」

 

この後、ATMから下ろした非常用の一万円を彼女たちに貸し、その日は家に帰ることにしたイエスとブッダであった




おまけ1

イエス達と別れた翌日

「なんだイリナ。イメチェンという奴か?」

「取り敢えずこの栗毛をブロンドに染め上げて、髪も後ろにまとめてみたの!本部に帰ったらこの戦闘服も変えるつもりよ。青を基調としたドレスに銀の鎧ね」

「待つんだイリナ!理由はよく分からないがそれは何かマズイ気がする!」

「私の意志は固いのよゼノヴィア!」

やいのやいのと騒ぎ立てるエクソシスト達だった





おまけ2

ブログ『アザゼルさんと秘密結社神の子を見張る者(グリゴリ)活動記』


○月×日

赤い龍が悪魔達の方に取られちまった。Sの野郎め、身内に白いのも囲ってもいる癖に・・・!羨ましいっ!

それはそれとして赤い龍を宿した少年に俄然興味が湧いてくる

ってなわけで取り敢えず、正体バレずに街に乗り込む事に決めた!

紅い龍の少年がどんな奴か楽しみだ。ついでに解剖とか実験ができたら面白そうだな?

まぁ先ずは小うるさい副総督の目から逃れる手段を考えるとしよう



comment

あ~麺@天部~~~
 どんまいです。また次代にチャンスがあるはずですので、お互い頑張りましょう

サハリー@サイエンティスト~~~
 改造なら任せるのだ

アルマー@ショッカー~~~
 天龍か。戦車かそれとも戦艦と融合させるのはどうだろうか?





○月◻︎日

侵入成功してやったよ!悪魔のセキュリティ緩すぎて笑っちまうwww

ついでに目当ての赤い龍の少年に会ったが、真面目でムッツリなガキって感じだな。欲望に忠実なのは、なるべくして悪魔になったかもしれねぇ。とにかく面白そうな奴だ。ま、しばらくは人間のフリをして遊んでいようかね?



comment

ぜくす@リーアたん~~~
 一体いつの間に入ってきたんだい?まぁ、迷惑をかける様な真似は遠慮してくれると嬉しいかな?

おでん@主神~~~
 今代の赤と白はどの様なことになるだろうか、暫くは遠くで観察させてもらうとしよう

シェム猫@副督~~~
 今そこにいるのか、待っていろすぐに向かう

バラキエル@雷光
 逃げろアザゼル!




○月☆日

ウチの戦闘バカが聖剣を盗んだらしい。しかもそれ持ってSの妹の所に乗り込んだときた。あのバカはホント何なんだよ、面倒な事しやがって・・・

これってやっぱり俺の責任にされちまうのかな?今のうちに副総督のせいに出来ねぇかな?って画策してたら、なんか後ろから殺気が―――

comment

アルマ@ショッカー~~~
 惜しい奴を亡くしたな・・・(ˇ人ˇ。)ナム

タミフル@ビジネスマン~~~
 遺影の準備してくるわ

いえっさ@救世主~~~
 えっと、一体何ごとですか?



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銀魂×型月 大聖杯騒動in歌舞伎町

久しぶりの創作意欲・・・しかしこれは無茶でした(笑)

銀魂と型月作品(カーファン)を意識して書きました


ここは江戸中で最も危険といわれる、かぶき町。そんなかぶき町の一角、万事屋銀ちゃん

 

「願いを叶える星?」

 

「なんでも、手にした人はどんな願いでも叶えてくれる彗星が近々通るらしいんです」

 

「私その星て手に入れて、酢昆布と卵かけご飯食べ放題アル!」

 

「んじゃあ俺はチョコパフェを死ぬまで・・・いやストロベリーも捨てがたいな」

 

「いや、もう少し夢のあるお願いはないんですか?」

 

「夢だなんだ言葉並べたって実現しなきゃただの戯言なんだよ」

 

「夢の中で腹一杯食べてもやっぱりお腹はペコペコネ」ガサゴソ

 

「アンタらそれでも主人公とヒロインかよ!」

 

「いいんだよノ○ノラといい俺が○るといい、最近の主人公は(根性)まがったダメな男、略してマダオぐらいが丁度いいんだよ」

 

「またサラッと色んなとこに喧嘩売るようなこと言い出したよこの人」

 

「つまりだ。今時ど直球の王道ははやらねぇってことだ。それを考えると、俺達は全然大丈夫だな」

 

「全然大丈夫じゃねぇよ!数々の汚らしい表現やパクリ疑惑のおかげで日々度重なるクレームで今にも打ち切られかねないよ!」

 

「そうは言うがゴリラはこの11年間は逃げ切れたんだから大丈夫だろ。・・・おい待て神楽!何一人で米食ってんだ!」

 

「何言うアルか。こういう物はレディーファーストネ」

 

「ファーストどころかファイナルまで行ってんじゃねぇか!中身完結しちまうじゃねぇか!最終回じゃねぇか」

 

「問題ないネ。悪の帝王宜しく復活させれば再び始められるヨ」

 

「テメェが毎日平らげてるせいでドラゴンライスボールも作れねぇんだよ!いいからそれ寄越せ!」

 

「いやアル!これは私の御飯ネ」

 

「ちょっと二人ともいい加減―――」

 

「「オンドリャャャァァァァあああッッッ!!!」」

 

ドガシャァァァンンッ!

 

「ぶべらぁぁぁぁああああっ!?」

 

炊飯器がメガネの顔面にスパーキンッ!

 

こうして万事屋の炊飯器はメガネ(新八)と共に息を引き取った

 

「勝手に殺すなぁぁぁああ!!」

 

 

………………

 

ここは江戸の某所、警察組織、武装警察真選組屯所

 

とある一室にこの組織の3トップが揃っていた

 

変態ゴリラ、近藤勲

 

マヨラー、土方十四郎

 

腹黒サド、沖田総悟

 

「オイ・・・俺たちの説明、雑すぎやしねぇか?」

 

「全くですぜ。土方さんはチンカスだろうが」

 

「誰がチンカスだ!」

 

(特に約二名に関して、)仲が良いとは言い切れない三人が顔を合わしているは、彼等の上司である松平片栗虎からの連絡を受けたからであった

 

「魔芒星から流れた聖杯を保護しろとのことだ」

 

「魔芒星って言うと、魔術とかいう奇天烈な力で攘夷戦争の前線において大活躍したっていう妖術師(オカルト)集団ですかい?」

 

「ああそうだ。魔芒星の大使館からの直々の任務だそうだ」

 

「トシ、その聖杯ってのはなんだ?」

 

「松平のおやっさんの話だと、なんでも一つ願いを叶えさせてくれる器だとか・・・何処に行くつもりだ、近藤さん?」

 

ギクゥッ!と露骨に体をビクつかせて硬直する近藤

 

「あ、いや、その、ちょっと厠に」

 

「そっちは外だ。・・・仮にも局長のアンタが聖杯盗んだら事だぞ」

 

「だって何でも叶えてくれるんでしょ!?それさえあればお妙さんも振り返ってくれるんでしょ!野獣もイケメン王子になれるんだったら是が非でも手に入れるよ!」

 

「ゴリラは呪われる前からゴリラだから安心しろ」

 

「そうと決まればさっさと行きやしょう。取り敢えず先ずは丸越デパートで替え玉用を」

 

「待て総悟。テメェもサラッとパクる準備してんじゃねぇ」

 

「心外ですぜ土方さん。俺はまだ『土方死ね』なんて聖杯に願うなんて言ってやせんぜ?」

 

「言う気か?言う気だなオイ?」

 

「まて総悟!器を買いに行くんなら阪急百貨店の方が品揃えがいいぞ!」

 

『いいえ!カーテンのシャーまで取り入れてるLOFTこそ一番です!』

 

「オイちょっと待て、今変な声まで聞こえてきたぞ・・・。たく、埒があかねぇ。ザキ、全隊士に連絡入れてこい」

 

部屋の隅で待機していた影の薄い密偵、山﨑退に命を下す・・・が、居なかった

 

「山﨑なら、外でミントンしてやすぜ」

 

「テメェザキ!今更ミントンに戻ってんじゃねぇ!つーか仕事中に遊んでんじゃねぇ!!」

 

………………

 

 

「やれやれ。ただでさえ金がねぇってのに、今更炊飯器を買い直さにゃならんとは・・・」

 

自分達で壊しておきながら渋々と町を歩く銀さん。とは言った物の年中明日の飯の心配をするほど貧乏な彼らに炊飯器を新しく買う金などあるわけも無い

 

「こうなったらそこら辺に捨ててあるのを持ってって源外のジジイに直させるか」

 

小道に入り粗大ゴミを漁り始める始末。・・・コイツ本当に主人公なの?

 

「・・・お!」

 

早々と見つけたのは旧型の白い炊飯器だった。主人公補正とも言える幸運ここにありだった

 

しかし,蓋が開かなかった

 

「・・・なぁ銀の字、俺はからくり技師であって修理屋じゃねぇんだが?」

 

「良いからサッサと直せクソジジイ、警察に突き出すぞ」

 

「兎に角俺は忙しいんだ。また今度にしな」

 

便利屋扱いしているカラクリ技師の源外に押し付けるも,素気無く追い出されてしまった

 

「ったく、まぁいい。こういうのは斜め45度からチョップすればそのうち直るだろ」

 

ガンガンと容赦なくチョップを振り下ろす。やがてその間隔は短くなる

 

一向に直りそうにない。そう思った銀時はその場にあったゴミ捨て場に放ったその時

 

ゴミ溜めに落ちることなく、炊飯器はふわりと浮き上がった

 

「・・・あれ?なにこれ?もしかしてこれ、なんちゃら大魔王でも封じてた?」

 

後悔先に立たず。何か嫌な予感を感じる銀時であったが時すでに遅し

 

そして、それはまるで地獄の釜の蓋の如く、ゴゴゴと物々しい音を立てながら炊飯器の蓋が開いていく。開きだした炊飯器の口から眩い光が溢れ出す

 

光が消えたその時、開かれた炊飯器の中から何かが現れた。それは―――

 

「・・・あらん?アタイに何か御用かにゃ?」

 

言葉を話す謎の生命体であった



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月光校庭のエクスカリバーと聖人 2

観客動員数(UA)4500人突破


久しぶりの執筆活動・・・これでしたw




キリスト教の敬遠な信者、エクソシストである少女らと別れたその翌日

 

「イエス。紫藤ちゃん達から、今日の夜に駅前に来て欲しいって連絡が来たよ」

 

「早速来たね。それにしても、天界じゃない人から電話がもらえるっていうのは、やっぱり新鮮だね」

 

「そうだね。下界で連絡を取るのなんて竜次さん達ぐらいだし」

 

神様達の下界でのアドレス第1号はヤクザさんです

 

「それじゃあ早速準備をしなくちゃ!」

 

「準備って?」

 

「それはもちろん―――スパイ七つ道具だよ」

 

007で馴染み深いスパイ御用達の七つの道具のことである

 

「ボイスレコーダーとか盗聴器とか・・・」

 

「そんな物ウチにはありませんし買うこともできませんよ?」

 

後半部分を若干、いや割りかし強調してブッダはイエスに言った。その迫力は笑顔だった分とても怖かったとイエスはのちに語る

 

「うーん。それじゃあある物だけでも持って行こう」

 

二人は部屋を片付け、待ち合わせ場所へと向かって行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、聖さん」

 

「遅れてしまってゴメンね」

 

「いや、此方も突然呼び出してしまって申し訳ありません」

 

待ち合わせていた小さな公園にて少女たちと再会した。彼女たちは先日同様真っ白なローブで身を包んでいた。

 

「ようやくミッションスタートだね!」

 

「張り切ってるね。ところで・・・この人達は?」

 

「うむ。我らの協力者だ」

 

彼女達の前に四人、高校生ぐらいの茶髪の少年、同じく学生らしき金髪の少年、クリーム色の髪の少年、そして白髪の幼き少女が一人がいた

 

「えっと、彼らって・・・」

 

「どもッス。俺は兵藤一誠です」

 

「匙元士郎ッス」

 

「・・・塔城小猫です」

 

「・・・」

 

「ああ、そっちのイケメンは木場祐斗って言います」

 

金髪の少年の一人は不機嫌な態度で何も言わない。その様子に一誠と名乗る少年が代わりに名前を教えてくれた

 

「もしかしなくても彼らって・・・悪魔?」

 

「今回の件、協力者は多いに越したことはないのでな」

 

(いやいや、その悪魔を滅する救世主の前に悪魔()を向けちゃまずいでしょ)

 

「よろしく。私のことは救世主(セイヴァー)と呼んでくれ」

 

「は、はぁ・・・」

 

ジョニデっぽいキメ顔で悪魔の子達と握手するコードネーム救世主ことイエス

 

ブッダ同様にイエスはこの世に生まれ落ちてから2000年も経つ言ってみれば超が付くどシニアだ。それだけの長い年月が経てば、嘗て争っていた天敵や裏切り者でさえも許し、それなりの友好を持っているのである

 

とは解っていても、ブッダはその時一抹の不安を持っていた

 

職業病と呼ばれるものがある。自分の持つ職業に従事するあまり、休日の様な日常においても仕事時のように行動してしまう等が最たる例だ

 

弟子であるペトロやアンデレ等を含めイエス達の生前の生業は救世主にして悪魔祓いであった

 

現世を発ってもそれはなお続き、21世紀という永い時を経ても彼ら一同は、仮想空間(オンラインゲーム)で悪魔を狩り続けているのだ

 

人に害為す悪魔は滅せよ。それが彼らの共通認識であるのだ

 

そんなイエスが悪魔である彼らを前に平然と、いやむしろ友好的に接していたその姿は、信者からすれば異常この上ないだろう

 

「ブッダ殿。敬遠な貴方方が不穏に思うのも致し方ないだろう。だが、我々が借りるのはあくまでドラゴン、赤竜帝の力だ」

 

ブッダが思ったであろう疑問にゼノヴィアが答える。そこではないのだが、その答えは些か屁理屈な気がした

 

 

D✩D

 

 

夜、街は静まり返り、人ならざるもの達が徘徊する闇の世界

 

「事前に偵察に向かわせていた神父達は既に亡き者にされていたとはな」

 

「だから、私たちもこうして神父御一行に扮するんでしょ?」

 

「成程、木を隠すなら森の中って奴だね」

 

その夜、一行は修道服、法衣に着替え、囮として街中を歩き回っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・いや、神父シスターの一団の中に新撰組は明らかに浮いてますよ」

 

一名を除いて

 

「聖職者に混じってお侍さん・・・シュールですね」

 

「アウェー感がはんぱねぇな」

 

「そんなに浮いてるかい?」

 

「うーん。苦行林で乳粥もらった後の私みたいな?」

 

「それかなり浮いていたよね!?」

 

結局法衣に着替えるイエスであるがこれだけは!と模造刀だけは腰に携えたままにした

 

「・・・っていうかブッダがそれ着て大丈夫なのかい?」

 

「うーん。まぁ衣は気候や状況に合わせて改変しても良くはしてるし、たぶん大丈夫。それに、郷に入っては郷に従えって言うしね」

 

改宗の恐れはないが宗教戦争の引き金になってもおかしくない格好ではある

 

 

D✩D

 

 

―――その日の結果はというと、その日は何も現れなかった。時刻は0時を超え、日を跨いでいた

 

「ではまた明日も同じ時間に会おう」

 

「ああ」

 

「ゼノヴィアちゃん、イリナちゃん。またね」

 

そう言って少女たちは夜の街の中を帰っていった

 

「そういえば、彼女たちは一体どこで寝泊まりしているのかな?」

 

「そうだね。昨日はお金がないって困っていたし・・・きっとどこかの教会に泊めてもらっているんじゃないかな?」

 

その実彼女らは廃墟にて野宿をしていたのを聖人たちは知らないでいる

 

「それじゃあ俺たちも学校があるんで失礼します」

 

と、兵藤たちも別れを告げる

 

「明日も頑張ろうぜ匙!俺たちの夢の為にも!」

 

「ああ!木場のためにも、俺たちのためにも!俺の夢―――会長とでき婚するためにも!そして会長と・・・グフフ」

 

「匙君、貴方は悪魔(マーラ)なので欲を持つことを諌めるつもりはありません。しかし、色欲は須く世を滅ぼしかねないもので―――」

 

「え、ちょ、え何これ!?」

 

匙の欲望丸出しの宣言に対し何かスイッチが入ったのか、突然ブッダは匙に詰め寄り説法を始めた

 

「・・・あれ?ブッダもしかして説法モードに入っちゃった!?」

 

「た、助けろ兵藤!」

 

「兵藤君。君も私に何か聞きたいことがあるみたいかな?例えば一夫多妻の害悪性とか」

 

ギギギと首だけ向けられた一誠は息を呑んだ。そのピンポイントな話題に恐怖を覚える

 

「スマン匙、俺には無理そうだ」

 

助けられそうにない。それどころか巻き添えを喰らう絶対に、そんな予感に一誠は匙を見捨てるのであった

 

 

  D✩D

 

 

 翌朝、同町にある共学の高等学校、駒王学園。その学園の現生徒会長である支取 蒼那。それは表の顔であり、その正体は、匙 元士郎の主、シトリー家の次期当主の上級悪魔、ソーナ・シトリーという悪魔である。今日もいつものように朝早くに来た彼女は、生徒会室で執務に取り掛かっていると、いつもの様に匙が入ってきた

 

「おはようございます、支取会長」

 

「おはよう、さ・・・じ?」

 

彼の姿を見て、バサリとソーナは手にしていた書類の束を床に落としてしまった。彼の特徴であるクリーム色の髪が根こそぎなくなっていたのだから、驚くのも無理はない。丸々と剃られた彼の頭頂部が、窓の隙間から差し込む朝日を反射して燦々と輝いていた

 

「匙・・・貴方、その頭は・・・」

 

「ああ。俺―――いや私は、先日お会いしたさるお方の説法を聞き、己の欲の深さに気付き、戒め、そして悟りました。これからは会長の眷属として、誠実で清い、新たな道を歩む所存です」

 

「は、はぁ・・・」

 

「では私はこれから授業開始まで屋上で瞑想してまいりますので、失礼いたします」

 

礼儀正しくお辞儀をし、匙は生徒会室を後にした

 

たった一晩で彼になにがあったのだろうか?一体全体さっぱりわからないソーナは、額に手を当て悩むのであった

 

 

D☆D

おっす俺の名前は兵藤一誠!

 

私立駒王学園に通う高校生・・・でもあり、リアス・グレモリー様の下僕悪魔でもある

 

今俺たちは教会の聖剣使いと行動を共にしている

 

彼女たち以外にも二人の協力者

 

一人は頭に茨の冠を被った外人さん。西洋風の顔立ちでどこか海外ドラマとかにいそうな感じだ

 

冴えなさそうな顔をしているが、俺たちにセイヴァーと名乗っていたことからも、教会のスパイとか言われてもおかしくない気もする

 

そしてもう一人が―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・なんつーか、大仏だった

 

髪型といい、異様に長い耳といい、どこをどう見ても奈良や鎌倉の大仏様にしか見えねぇ

 

外人さんと大仏様という奇妙な組み合わせに困惑したもんだ

 

そんな彼らも加え、俺たちは神父を狙う奴らの囮となるため街を歩き回った

 

かれこれ蛍光灯や車のバックライトが異様に輝いたり、街中にいるはずのない蛍や鹿に梟がやってきたりもしたが、肝心の犯人は現れず、俺たちはやきもきしていた

 

連日歩き回っているが中々見つからないので今回は二手に別れようという話になった

 

イリナと小猫ちゃんに匙、そしてブッダさんは街の郊外へ

 

ゼノヴィアと木場、俺とセイヴァーさんは高台の近辺を歩き回ることに

 

戦力の分散はあまり良い手ではないと話したばかり故に・・・この日は痛感した

 

「神父の一団にご加護あれってね!」

 

高台の麓まで近づいたその時だ。上から何者かが襲い掛かってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰かと思ったら何時ぞやの雑魚悪魔のイッセーくんかい?これはまた奇妙珍妙な再会劇でござんすねぇ?ドラゴンぱぅわーは健在かい?」

 

「フリード!」

 

白髪の少年神父フリードが、長剣を携えて立っていた。彼の持つ剣からは異様な存在感と共に聖なるオーラを醸し出している

 

「聖剣・・・僕がこの手で・・・!」

 

油を得た炎のように復讐に躍起になっている木場は周りも見ずにフリードに襲いかかって行った

 

だからと言って、そんなんで聖剣に勝てるほど世の中は甘くできちゃいない

 

「チミチミ、エクスカリバーに憎悪してるみたいだけど、これで斬られちゃうと悪魔くんは消滅確定だぜぇ!」

 

魔剣を振るっても砕かれる。木場は一度下がると様々な魔剣を出してフリードへと飛ばした

 

「おやぁ?もしかして【魔剣創造】でございますか?わーお、レア神器持ってて罪なお方ですねぇ。でも・・・」

 

構えなおすと、フリードの持つ聖剣がぼんやりと光だし、次の瞬間

 

「俺様の聖剣はそんなもんじゃ壊せないぜ!」

 

突然フリードの剣をふるう速度が増し、剣先がブレて見えなくなった

 

次の瞬間、フリードを囲んでいた魔剣がすべて砕け散った

 

「貴様の持つ聖剣、それは天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)だな?」

 

「Exactly!そういうお嬢さんのは破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)でごぜぇますよね?それから・・・おやおやーん?これはこれは、どうもそこのお嬢さんの物以外にも聖剣があるみたいっぽい~?・・・めっけ!」

 

「え!?わ、私!?」

 

突然指を指されイエスは肩をビクリと震わせた

 

フリードが目につけたのはセイヴァーさんの腰に着けた刀だ

 

「君の相手は僕だ!」

 

「邪魔でござんす!」

 

木場が幅の広い剣でフリードに打ち込むが、聖なるオーラをまとった聖剣の一撃に容易く砕かれた。その一撃に木場は吹き飛んだ。飛んできた木場を俺が受け止める

 

「無事か木場?」

 

「すまない、イッセー君」

 

―――っ!フリードは!

 

木場を容易く弾き飛ばしたフリードは目標を変えずセイヴァーさんのもとへ

 

その間にゼノヴィアが立ち塞がった

 

「裏切りの使徒フリード・セルゼンよ!このお方へは指一本触れさせんぞ」

 

破壊の聖剣を手にフリードに立ち向かう

 

「うう~ん。破壊の聖剣とは厄介なりよ~・・・。でもそうは烏賊の金○!」

 

ギィンッ!

 

あらゆる物を破壊する破壊の聖剣の一撃を受け止めた

 

「私が振るいきる前に止めようとは・・・」

 

「相性が悪かったざんすねぇ。バカ力程度じゃオレっちの天閃の聖剣は止められねぇんだよ!」

 

2擊3撃、不可視に近しい速さで振るわれる複数の斬撃に受け続けるゼノヴィア。その隙を突かれ、横合いから蹴飛ばされた

 

「ゼノヴィアちゃん!」

 

セイヴァーさんを守っていたゼノヴィアも離され、フリードは一人となったセイヴァーさんの前にたどり着いた

 

「う~ん。こういうのって大概僕チンみたいな悪党を即ぶった斬れる様なチート武器ってお約束じゃな~い?そういうのはまだお呼びじゃごぜぇませんのことよ!ってなわけで殺っちゃおうスパッと!」

 

俺たちはセイヴァーさんを助けるため駆け出した

 

ゼノヴィアも助けに入ろうと駆け出すが距離もあって間に合わない

 

「セイヴァーさん!」

 

「えちょ、待っ―――」

 

セイヴァーさんが斬られる。そう思ったその時だった

 

ドォォォオンッ!

 

上空から大きな光の塊が、セイヴァーさんとフリードの間を割るように降ってきた

 

光が収まり、光の落ちた場所に誰かが居ることが分かった

 

その者を見たその瞬間―――

 

 

 

ゾワリ

 

 

 

――っ!??

 

まるで首筋に剣を当てられたような言い知れぬ悪寒と恐怖が俺を襲った

 

短く切られた金の髪、刃のように鋭い目つき、3対6翼の純白の羽

 

「イエス様。断罪するのは、そこの異端者で間違いないでしょうか?」

 

端正な顔をした天使が、炎を纏った剣を片手にフリードに相対していた

 

「よもや・・・ウリエル様か?」

 

突然現れた男の姿を見てポツリとゼノヴィアがこぼした

 

ウリエルって確か―――天界の大天使様じゃねぇか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其の名は「神の炎」を表す。四大天使の一角を担う大天使ウリエルが、地上に降り立った

 

「おやおや〜ん?もしかしなくても天使様降☆臨☆deathか〜?」

 

突如現れた大天使を前にフリードは笑っていた

 

敬遠な信徒であれば、いや理性ある戦士であればウリエルの絶対的な脅威に気づき、畏れたであろう。しかし元より情緒が安定していない上に、聖剣という力の麻薬に溺れているフリード・セルゼンには相手の力量を読み切れる程の理性が欠如していた

 

「僕チン前から天使様を一度斬ってみたかったんだよねー?良いでしょ良いざんしょ?ってなわけでレッツチョンパ!」

 

ヒャッハーと某ならず者のごとくフリードはエクスカリバーを振り上げ、上から斬りこもうとウリエルへと飛び込む

 

それに対しウリエルは剣を抜くどころかフリードを目にも留めずただ立っていた

 

「あ―――」

 

危ない!一誠がそう言おうと思ったその瞬間だった

 

フッとウリエルの姿が一瞬ブレたように見えた

 

果敢に切り裂くと思われたフリードはというと、剣を上に振り上げたままウリエルの目前で立ち止まった

 

「おいおい・・・チートすぎだろ・・・」

 

ふと呟くと右肩から左わき腹にかけて一閃、フリードの身体が二つに分かれた

 

「嘘だろ?あのイカレエクソシストが一瞬で・・・」

 

「動きが、全く見えなかった」

 

一瞬で決まった結末に兵藤や木場は戦慄していた

 

「断罪せよ」

 

ウリエルの一言と共に二つに裂かれたフリードの亡骸がボッと浄化の炎に包まれ,欠片も残さず焼き消えた

 

登場から瞬く間にフリードを瞬殺した大天使を前に、二人を除く全員が身構える

 

フリードの始末を終えたウリエルはこちらに振り向き、剣をしまい近づいてきた

 

「イエス様、ご無事でしょうか?」

 

そして、イエスの前に跪いた

 

「え、あ、うん」

 

それはもはや誤魔化しようがなかった

 

 

D✩D

 

 

高台の中腹に建てられている教会にて。既に使われておらず廃墟となっていたはずだった

 

そこに一人の男と一人の人外が拠点として潜んでいた

 

「なんだ!この揺れは!それに異常な神気は!?」

 

青い顔をして騒いでいる初老の男。皆殺しの大司教と呼ばれたバルパー・ガリレイ

 

「・・・そうか。お前がきたのか」

 

得体の知れない自体にあたふたするバルパーを他所に、その奥に潜む1人の堕天使が奮えていた

 

「フフフフ・・・永き因縁に決着を付けようではないか―――ウリエル!」

 

漆黒の翼を広げ、血走った眼で笑みを浮かべる

 

その男の名はコカビエル。聖書にまつわる強大な堕天使の1人だ

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らが邂逅するその時は目前に迫っている




おまけ

自己紹介


「赤龍・・・ああ!もしかして君があのドラゴン君!」

「知ってるのイエス?」

「うん。昔父さんが地獄で二匹のドラゴンが暴れてたから、それを封印したとか・・・あの時、父さん天界の戦争の時以来の大運動したらしくて、未だにその時の筋肉痛が来てないって不安だって・・・」

「二天龍を相手に筋肉痛か・・・」

「さすがは聖書の神・・・なのか?」

「それで、ドライグは神器に封印されたのか・・・」

「でも、なんで籠手なんでしょうか?」

匙小猫ふとした疑問にイエスは続けた

「それも父さんから聞いたよ。確かあの時は・・・」

『あれ?軍手がないなぁ・・・最後どこに置いたかな・・・うん、この間のドラゴンの魂を使って作るか』

神が力を込めると、左手に翡翠の宝玉が埋め込まれた紅い籠手が生まれた

『・・・ちょっと別の形になったし片手だけか・・・ま、良いか』

「――って」

「「「「「「・・・・・」」」」」」

『フフフフ・・・まさか天龍とも言われた俺が草むしりの軍手とは・・・ウウッ』

禁手化状態の鎧は蜂の巣駆除用の防護服だそうです



没ネタ


フリードに襲われるシーン



「えちょ、待っ―――」

フリードの聖剣が振り下ろされたその時

ギィンッ!

金属がぶつかり合う音と同時にフリードの剣がイエスの目前で止まっていた

それは一本の刀だった

イエスの腰元にあった模造刀「菊一文字則宗」が独りでに抜かれ、フリードの一撃を防いだのだ

「オイオイ。これは・・・ただの刀じゃないいですかぁ?」

「剣がセイヴァーさんを・・・」



付喪神というものが日本の伝承にある

長く人に愛用された、もしくはその逆の物が長い時を経ると神や霊魂などが宿るといわれている



「おおう!?」

使い手のいない刀はフリードの聖剣を弾くとそのまま剣戟を始めた

誰の手も借りず、その刀は宙を舞ってフリードの聖剣と渡り合っているのだ

模造刀の猛攻がさっきまで圧倒的優位に立っていたフリードを押していた

「ウゼェウゼェウゼェ!ただの刀のくせにウゼェっす!」

苛立つフリードは天閃の聖剣の能力で反撃を行う。目にも止まらない動きが複数の斬撃を生み出して模造刀に襲い掛かる

あれはさすがに無理だ。砕けてしまう。誰もがそう思っていたが、模造刀はその全てを綺麗に受け流していた

「バカな・・・」



当然、長い時というのは早くても100年を要する

しかしだ。わずか数日といえど全人類の罪を背負い、世界の全てを愛する神の御子の愛が注がれたその刀は、精霊が宿るには十分であった



ゴオッ!

「眩しい!」

「なんだこの光は!」

模造刀が突然輝きだした。その光は天に太陽が昇ったかのごとく、エクスカリバーの輝きも霞むほどに煌々と

あまりの眩しさにフリードは立ち止った

ゼノヴィアはまばゆい光の中で刀がゆっくりと下ろされるように見えた

攻撃をやめた?いや違う

剣士として生きてきた自分の本能がそう告げている

これは止めだと

宙に浮く模造刀の姿しかないはずなのに、ゼノヴィアの目には腰元に刀を添えて構える背丈のすらりとした美男がぼんやりと映っていた





加えて御子の祝福の籠を受けたその刀は、例え伝説といえど人の手が加えられた聖剣の敵ではなかった







『神の御子様。我が力を望むときはいつでも呼んでください』

ぼやぁっと剣を持っていた侍は天に昇っていったように、ゼノヴィアのみ見えた

やがて光が収まるとそこには




バキィィィンッ!!




バラバラに砕けたエクスカリバーが地面に散り、亀裂はおろか刃こぼれ一つとない模造刀が地に突き刺さっていた

「アイエエエ!?なんで伝説のエクスカリバーちゃんが粉々に!!?」

何が起こったのか、気が付けば自分の武器が完全破壊されているその状況に混乱しているフリード

「・・・ジーザス」

そして頭から血を流して物憂げな表情で刀を見つめるイエスの姿であった






そろそろ神バレした方がいい気がしたため


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Fate Ragnarok night

観客動員数5000人突破、お気に入り28人

今も続いてる某ゲームのキャラたちが冬木市へ・・・


真っ黒の艶のある綺麗な黒髪をツインテールに結いた少女は地下の工房の時計を確認する。その床には複雑な術式が描かれている。

 

少女―――遠坂凛は手を術式に掲げ、深呼吸する。そして、発し始める

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」

 

第一節を紡ぐ。静かに、しかし闇の中には映える光が魔方陣を源として発生する。凛はそれを見て少し安心した。そして詠唱を続ける。

 

「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。

 

ただ、満たされる刻を破却する。」

 

淡かった光は詠唱に応じて次第に強さを増してゆく。もう止めることは出来ない、後戻りはできないのだ

 

「――――告げる。

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 

誓いを此処に。

 

我は常世総ての善と成る者、

 

我は常世総ての悪を敷く者。」

 

最後まで気を抜いてはならない。遠坂の一族であるなら尚のこと。一族の特殊な遺伝に危惧して凛は一心に唱え続ける

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

 

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」

 

それが引き金となり、眩い光に包まれた。あまりの眩しさに両腕で目を庇うが、それでも眩しかった。光だけではない。それは現象のひとつに過ぎず、魔方陣からは強風が吹き出、辺りの物を吹き飛ばす。

 

そして彼女の左手には魔力の共有をする経路パス|が、確かに繋がっていた。そのせいか、少し身体に気だるさがある。しかし、それが紛れもなく英霊召喚に成功したということを証明していた。

 

穏やかになる光。立ち込める煙が徐々に薄れ、魔方陣の上にサーヴァントが現れる―――はずだった

 

「あ、あれ・・・?」

 

あれだけの風が魔法陣の上で起こったのだ。てっきり、魔法陣の上に立っているのではないかと思っていたサーヴァントは、一切姿が見えない。

 

「おっかしいわね・・・」

 

もしかしたら、数分ほどしてから現れるのかもしれない。そう思いながら、魔法陣の前に体育座りで待機する。

 

それから―――5分、10分、20分

 

 

―――30分

 

 

「・・・お・・・遅ーーーーい!!!」

 

 

いくら待てども、一切その姿が現れない。呼び出したはずの従者が、英霊が、どこにもいない

 

なぜ?儀式の失敗か?いやそんなはずはない。魔術回路は確かにどこかへと繋がっている。きっとどこかに隠れているんだ、そうに違いない

 

思うやいなや即行動と凛はサーヴァントを探さんと地下室を出る。そこで気がついた。この屋敷に誰かがいると

 

両親は幼き頃に他界し、この屋敷には自分一人で生活していた。加えて、敵に備えて周囲に張り巡らせた外敵の侵入探知には誰も引っかかっていない。ならこの今屋敷内にいるのは誰か?答えは決まっている

 

「そこにいたのね!」

 

私のサーヴァント!身を乗り出すような勢いで何者かのいるリビングに飛び込むとそこには―――

 

モグモグ、ペラリ

 

「ふむふむ」

 

おっさんがいた

 

青のストライプパンツ、ど真ん中に『おでん』と書かれた白い半袖のシャツ、クセの強い茶髪、昔ながらの泥棒の様な口髭、古めかしい丸眼鏡。英雄の様な気品さや気高さどころか、家に不法侵入した浮浪者の方が納得のいく見た目のおっさんが、ソファに寝そべって漫画を読んでいた

 

「・・・サーヴァント?」

 

「んん?あぁ、お嬢さんが僕を召んだのかな?」

 

漫画を置くとソファを降りて凛の前にチョコチョコと近づいた

 

「初めまして。僕を喚んだマスターと云うのは君かな?」

 

やはりこのおっさんが私のサーヴァントで間違いない様だ

 

「そ、そんな・・・」

 

こんなのが私の従者とは。変えられる物なら是非変えたい。然し聖杯戦争のルール上変更は至難な上、新たなサーヴァントを喚ぶための儀式を組む余裕も既になかった

 

という事は必然的にこのおっさんと聖杯戦争を戦わなければならないという事になる

 

一族の悲願たる聖杯を手に入れるため意気込んだというのに、『いざという時にうっかり失敗する』遠坂の血筋を心底恨めしく思う

 

「まぁ落ち着いてこれでも食べなよ」

 

と言っておっさんは食べかけていたポテトチップスの袋を凛に差し出す

 

落ち着くも何も原因はアンタにあるのよ!

 

差し出されたポテトチップスを払いのけ怒鳴り出す。英霊なのか疑わしい目の前のおっさんに怒鳴り散らす姿は優雅さの欠片もない醜態に違いない。だが、この遣る瀬無い怒りを何処かにぶつけないと壊れてしまいそうだ。そんな言い訳を胸に凛は己のサーヴァントに怒りを向ける

 

「大体アンタは何者なのよ!」

 

「そういえば自己紹介が未だだった?」

 

眼鏡が光った様な気がした。おっさんは手を腰に当てると、胸を張り背を後ろにそらすーー所謂偉そうなポーズをすると言葉を紡いだ

 

「僕の名はオーディン。ヴァルハラで主神をやってます」

 

凛が主神の言葉を耳にし、理解し、数度の反芻を経て、大仰な反応をするのは30秒後の事であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある家屋にて、1人の少年がサーヴァントの召喚を果たしたのだ。然しサーヴァントの出現に対して少年の反応は、呼び出せたことへの歓喜でも想定以下のサーヴァントである事に対する失望でもない

 

驚愕だった。その少年―――衛宮士郎は魔術師としての修行を殆ど受けておらず、云わば最低クラスの魔術師だ。聖杯戦争はおろか魔術師としての知識をほぼ知らないのだ

 

この日彼は蔵の整理途中に手を切り、蔵の床に描かれていた魔方陣に偶々(・・)飛び散ったかと思えば、突然荘厳な鎧を身に纏った(しろがね)の美少女が現れたのだ。驚くのも無理はなかった

 

「女の子・・・」

 

「む?ここはどこだ?フレイヤ様は?・・・! 頭の中に何何かが入って。・・・そこの少年、君が私を呼び出したマスターという奴だな?」

 

「マスター?」

 

「・・・どうも君は私よりも事情を知らない様だな。私の事はそうだな・・・戦乙女(ヴァルキリー)のヴァル子さんとでも呼んでくれ」

 

こうして正義の味方を志す未熟な魔術師は正義を貫くひよっこ戦乙女と共に聖杯戦争へと足を踏み込んでいく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御三家の一つ、間桐の子息である間桐慎二は目の前の変人?を前に突っ込まずにはいられなかった

 

「おいおいおい!どういうことだよ!呼び出したのは『ライダー』のはずなんだよな!?」

 

「ええ。私のクラスは『ライダー』でございます。慎二殿」

 

 

 

ほんの5分前の話、召喚の儀式が終わったにも関わらず、未だに出てこない義妹や蟲爺に腹が立った慎二は、蟲蔵の戸を叩こうとしたその時戸がバンと力強く開くと義妹である桜が飛び出てきた。その青くなった顔つきはまるで何か恐ろしい物から逃げているかの様に怯えていた

 

パニックに陥っている桜から話をよく聞けなかったがとんでもないサーヴァントを召還したのだろう。慎二が恐る恐る蟲蔵を覗くとそこにいたのは、黒いスーツを着た馬面の男---いや、これだと語弊を産むだろう。そこにいたのは首から先が馬の化物だった。その傍にはさっきまで燃えていたのか、黒ずんだ何かが黒煙と共に焦げ臭い匂いを発していた

 

ふと化物と目が合う慎二。馬は真正面を向くと恭しく頭を下げた。そこで思わず何者かと問う慎二は間違っていない。そして冒頭に至る

 

 

 

「じゃあなんでお前が出てくるんだよ!お前どう見ても騎手じゃなく騎獣の方じゃないか!」

 

騎獣だとしてもこんなのに乗りたくはない、桜はそう思った

 

「ご安心を。これでもわたくしは紳士ですゆえ。この神獣スレイプニル、慎二殿を安全かつ早急に何処へなりとも送り届け致します。ですので、鞭を!私のお尻に鞭をビシッと!!」

 

「どこの変態紳士だよ!寄るな!気持ち悪い!」

 

ハァハァと息を荒げながら泣き喚くワカメを追いかける馬男。その光景は正に混沌(カオス)だた

 

『うふふ。明日は先輩に何を作ってあげようかな?』

 

桜は現実逃避をすることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬木市の片隅にある古城、そこは御三家の一つアインツベルンの拠点である。その夜、城の離れにある小屋の地下室でイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは聖杯戦争の為にサーヴァントを召喚した。触媒にはアインツベルンから送られた神殿の礎から切り出した巨大な斧剣、つまりヘラクレスを呼び出さんとしていた

 

バーサーカーの為の一節を加え、唱え終えたその時、雷が直撃した

 

城周辺から光が消えたその一瞬、唯一光が残された魔方陣から強風と共に白き雷が走り出した。そして契約者たるイリヤまでも包み込んだ光が収まると魔方陣の中心に人影が現れた。城に再び明かりが灯されるとその人影の全身が彼女らの双眸に映し出される。僅かな光に照らされたのは雷のごとく輝く金の髪、2mを優に超える筋肉隆々の大男がブーメランパンツ一丁で立っていた

 

「あ、貴方がバーサーカー・・・ヘラクレスなの・・・?」

 

「ヘラクレス君?確かに彼も僕に劣らない良い筋肉を持っているけれど、上腕二頭筋は僕の方が自信があるよ」

 

イリヤの問いに大男は謎の返答をすると証明といわんばかりにダブルバイセップスを披露する

 

話が通じていない。バーサーカークラスだからだろうか、狂化によって知性が欠如しているのだろう。兎に角筋肉に対する主張が激しいバーサーカーとの、時折筋トレを挟みながらの会話の末、彼がヘラクレスではないことだけは分かったのは30分後の事であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーどうしようかしら」

 

美と愛と豊穣の女神フレイヤは夜道を彷徨っていた

 

ほんの数十分前までアースガルドでいつもの如く、仕事をサボって遊んでいたオーディンに殴りかかったと思ったら突然辺りが光に包まれ、気が付いたら見知らぬ部屋の中にいた

 

突然の転移に困惑していたところに、そこにいた金髪褐色肌の青年が執拗にナンパを仕掛けてきたので工房と呼ばれる場所ごとまとめて一発ぶちのめし・・・いや、ひっぱたいて逃走した

 

「っていうか、アレが私のマスターってやつだったのね・・・」

 

外に出たところで事の経緯が脳内に伝わったフレイヤは先ほど殴り飛ばした優男を思い出し、いやそれでもないわ~と切り捨てた

 

「はぁ。美しいのは罪なのかしらね」

 

普段ツッコミに回る彼女、次元を超えた異界の地で珍しくボケるが、誰も突っ込んではくれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖堂教会の一員にして此度の聖杯戦争の監督役である言峰綺礼は遠くを見つめていた。彼の前には蜂の巣状態と化した礼拝堂が辛うじて残っていた。こうなった事の原因は今教会の外で死闘を繰り広げている2人のサーヴァントである

 

数時間前、魔術協会から派遣されてきた聖杯戦争参加者バゼット・フラガ・マクレミッツからサーヴァントを奪い取った。令呪を手ごと切り落とし、虫の息である彼女は捨て置いた。彼女が手にしていた、眠り続けるサーヴァントに目を向ける。それは紅き髪の美青年だった。腰に動物の角と思わしきものを携え、緑のマントを纏う青年は静かに眠っていた。如何にして起こすか考えているとその目は開かれた綺礼にその顔を向ける

 

「そうか。遂に、遂に僕に出番が!他の皆も居ないってことは、僕が主役ってことだよね?」

 

青年は目覚めたと思うとキョロキョロと辺りを見回すと突然意気揚々と立ち上がる

 

「名も知らぬ英霊よ。目覚めて早々だが汝のクラスを伺いたい」

 

「え、クラス?・・・もしかしてこの配役の事なら・・・アサシンだね。・・・ふふふ、僕のモーションを考えるなら剣士のはずなんだけど暗殺者だなんて、まるで影の薄いという理由だけで選ばれた気がするよ」

 

でも出番があるだけマシだよね、と彼は笑う。その顔には影が差していた

 

言峰綺礼はアサシンと名乗る英霊について考える。10年前喚びだした山の翁などでもなく、歴代で呼び出された者とも共通点が見いだせない。つまるところ彼が何者か見当が付かなかった

 

青年にその名を問おうとしたその時、青年は後ろへ飛び退いた

 

次の瞬間、青年の頭上から剣、槍、槌、凡ゆる武器が降り注がれた

 

敵襲か?否。この攻撃は敵のものではない

 

「綺礼よ。此度の聖杯戦争、実に愉快なことになるぞ?」

 

全身をこれでもかと言わんばかり黄金に包まれた男が宙から現れた。その背後には歪んだ空間と武器の数々

 

ウルクの王、英雄の中の英雄、英雄王ギルガメッシュ。10年前の聖杯戦争において受肉を果たしたサーヴァント。綺礼の協力者だ

 

「王よ、それは一体どういうことですか?」

 

「何故なら綺礼、貴様は異教の神を呼び出したのだからな。しかも他の英霊も此奴の縁者だ。此度は神話の大戦を再現することになろうぞ綺礼?」

 

神話の大戦の再現。その言葉が真となるのであれば、冬木の被害は10年前の比ではないだろう。だがそれだけ戦力が高いことを示している。ある程度の神性は落ちていようとその実力は期待できるだろう

 

「ああ・・・。なんだその煌びやかな衣装!?その目立つような恰好!我とかいう呼称!!そしてその傲慢で不遜な態度!!!まるで・・・まるで君が主役みたいじゃないか!!!!」

 

青年の周囲からドス黒い瘴気が広がっていく。まるで彼の鬱屈とした心が周囲に影響を与えているみたいだ

 

「決まっておろう。この世の財総て我の物よ。故に我こそこの世界における主役なのは明白だ!」

 

「確かに僕の知名度はフレイヤやオーディン様、トール様より圧倒的に低いのは解ってる。それでも数は少なくても僕も成した伝説が、出番があったはずなのに、ことごとくお蔵入りされているのはなぜなんだ!ああそうだそうだね!欲しければやっぱり自分から動くしかないよね!」

 

青年は腰元に提げていた角を手に取る。見た目こそそこらに生えてるものと大差ないがそこに込められた魔力、神秘性は人の手で計り知れるものではない

 

彼は豊穣と平和の神フレイ。出番のなさ、空気化に妬み疎み屈折した末、アサシンにありながら低度の神性と狂化を備えた空気サーヴァントがここに誕生したのであった

 

異教の神―――聖堂教会の崇拝する神と異なる神を手にしたという綺礼の行為は果たして幸か不幸か

 

「異教の神か。フフフ、ハハハ・・・」

 

綺礼はただ笑う。そこに込められた感情は誰もわからない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬木市に集められた7人?の神に等しき者たち。果たしてこれは偶然か、それとも・・・

 

今、冬木市全土に神々の黄昏(Ragnarok)ゆる〜く(・・・・)始まろうとしている

 

 

「働きたくないでござる」



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ミルたんの異世界冒険譚(プリティ☆ベル編)

ハーメルンの皆様お久しぶりでございます

一先ずリハビリということで一本どうぞ



神威(しんい)の呼び鈴】リィン・ロッド

 

其を鳴らすは魔法(ちから)ある乙女

 

揺らがぬ黒を討ちに秘め

 

天翔ける翼に纏うは触れえぬ拒絶の純白

 

付き従うは神話の軍勢

 

不条理を捻じ伏せる不条理

 

理不尽を踏みにじる理不尽

 

魔を帯びし聖戦士、神威の召喚者

 

その名は・・・

 

 

「サイドチェスト!!!」

 

「ダブルバイセップス!!!」

 

「アドミナブル・アンド・サイ!!!」

 

 

魔法少女プリティ☆ベル!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――って、どこが少女だ!プリティだ!!どう見ても筋肉マッチョの大男じゃねぇかぁぁぁッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは太平洋の上空、近隣の島から数百キロ離れたところ

 

蝙蝠の様な黒い翼を広げ、迫り来る恐怖から逃れんとあちらこちらと飛び回っている。彼の名は分からないが、種族は悪魔である

 

魔界で燻っていた彼は名を上げるために最近復活した魔法少女を打倒せんと人間界へやって来た

 

しかし、現実は非情である

 

魔法少女に相応しい、フリルを多くあしらうピンクを基調とした衣装を身に纏う魔法少女(怪物)を前に、1人の悪魔は絶叫していた

 

襲ってくるのは魔法少女とは名ばかりの筋肉お化け。しかも、筋肉隆々な大男がポーズを決める度にその身体中から放たれる怪しいレーザー弾幕を、悪魔が死に物狂いに避けるその様は、戦闘というより蹂躙の方が適切だろう

 

『ごもっともです』と、戦場から数km離れてその様子を見ていた二人の少女(?)は悪魔の絶叫に対し心の中で同意した。

 

彼女らはミルクとココア。見た目こそ10代前半の少女であるが、初代からプリティ☆ベルをサポートし続けている33歳の天使である。愛称は二人合わせてミルココ。年齢が生々しい点については触れないことを勧めよう

 

「ダブルバイセップス・バック!!!」

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHH!!!!」

 

「あ、終わったみたいですよ?」

 

とうとう怪光線を真正面からモロに当てられたようだ。断末魔のような叫び声をあげて悪魔は気絶した。倒れた悪魔の様子を伺う大男

 

彼は高田厚志35歳。職業はボディビル選手兼私有ジムのコーチ。奇しくも、神威の呼鈴リィンロッドに選ばれた5代目魔法少女プリティ☆ベルである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、今になって厚志のアニキに刃向かう悪魔が来るなんて」

 

「どうせ、実力筆頭のアニキを倒して名を挙げてやろうとかいうマヌケだろ」

 

倒した悪魔は魔界へと送り返し、我が家へと帰らんと道を歩く一行。先の戦闘でもミルココのとなりで同じように戦いの様子を伺っていた二人の悪魔が談笑する

 

1人は身の丈以上の縦長な荷物を背負う者と、その荷物を上回る体躯の大男。彼らはリカルドとマッド。魔界では名うての暗殺者であり、かつてはプリティ☆ベルである厚志の命を狙ったのだが、敗北を機に厚志と行動を共にするようになった

 

「どこの軍にも属さないから厄介極まりないな。そういうのは桜だけで十分だってのに・・・」

 

「再び彼と闘うのは、出来れば遠慮したいかな」

 

過去幾度魔族と敵対していたプリティ☆ベルの誕生当初は、リカルド&マッドや『狂犬』桜といった悪魔達が富や名声、単なる興味等等、人間界に乗り込んではこぞって襲い掛かって来ていた。しかし、先に挙げた彼らの様な強者を尽く撃退した事実に加え、魔族を統べる4人の魔王たちとの会合の末、不可侵と同盟を結ぶ事によって、プリティ☆ベルの襲撃は激減した。

 

詰まる所、今や襲いに来るのは魔王達の下に属さない、余程の馬鹿ということだ

 

「!・・・南西330km上空、上級魔族級の魔力を感知」

 

 

遥か遠くに存在する魔力を感知するミルココ。彼女らは大雑把であれば最大半径3,000kmまで感知することができる

 

先程片付けたばかりというのに、新たな悪魔の登場

時間は夕方5時。夕御飯の支度があるから手早く済ませようと、厚志が変身の為リィンロッドを取り出したその時

 

RIIIINN!! RIIIINN!!

 

突如リィンロッドが鐘を鳴らす。これまで無かった出来事に全員の視線がロッドに集中する。

 

「これは一体・・・」

 

「ちょっとアンタ、一体何が起きたのよ!」

 

《厚志のアニキ。これは俺っち自身も驚きとしか言いようが無いぜ・・・》

 

「さっさと答えなさいこの糞ステッキ!」

 

《うるさい合法ロリ》

 

「「へし折るぞ!」」

 

厚志というイレギュラーによって喋りだした(バグった)リィンロッドの口の悪さに苛立たずにはいられないミルココは今にも折りにかかりそうだ。折れないだろうけど

 

結局2人と1本を宥めて、話を聞くのに10分はかかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わーい!お空の上だにょ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタ・・・それマジで言ってんの?」

 

《マジだyo》

 

「今になって・・・3人目の候補者が現れたですって!!?」

 

ミルココはリィンロッドの言葉に叫ばずにはいられなかった

 

魔法少女プリティ☆ベルはリィンロッドに選ばれた者に受け継がれる。初代からこれまで10歳前後の一人の少女が選ばれていた。だからこその『魔法少女』だ。だが事今代は異例の連続であった

 

厚志が選ばれている時点でそれは言うまでもないだろう。だがそれ以外にも、歴代の数百倍もの素質を持つ美咲エリ(小学1年生)というもう一人の候補者もいる。此度一度に二人もの候補者の出現にミルココ達は、(嫌々だが)厚志をメインにおいてプリティ☆ベルとして戦ってもらう事となっていた

 

30代の怪光線マッチョマンに世界破壊クラスの爆弾少女。これ以上の色物が出るというのか・・・

 

5代目プリティ☆ベル誕生から3ヵ月、更に新たな候補者の登場に当の厚志も含めて全員が困惑していたのであった

 

 

「・・・取り敢えず、挨拶に行こうか」

 

冷静に、厚志達はその候補者へ会いに向かうのであった

 

 

・・・果たして、新たなプリティ☆ベルとは?



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世界征服〜おしり団VSズヴィズダー

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お気に入り39名
今回は知らない人がたくさんいそうです


悪の組織

 

社会から爪弾きされた者、敷かれた秩序に不満を持つ者、社会に反した大きな野望を持つ者、そんな者たちが集い悪虐を行う組織を総称して呼ばれている

 

人員数、戦力、理念、それは組織によって様々である。が、彼らの行き着く最終的目標は突き詰めれば同じだ

 

 

【世界征服】

 

 

人間の長い歴史の中でそれを成し遂げたものなき妄想であろう。しかし今、その世界征服に最も近づいている悪の組織がある。その総帥である幼女、星宮ケイトによって、日本国ほぼ全土の征服を成し遂げたのである。

 

 

 

 

 

 

「我らがズヴィズダーの光をあまねく世界に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

そこは都某所、市街から離れたある森の中にそれはある

 

森林の奥深くに座する大きな建物。悪の組織【おしり団】の住処である

 

出オチみたいなふざけた名前をしているが、これでも世間の皆様にそれなりに知られている悪の組織である

 

俺こと十王正人はその団の参謀である

 

現在は3徹を乗り越えて団内の事務処理を終え、みんな揃っての朝食を迎えるところであった。そんな折にテレビでは、とある話題で持ちきりであった

 

その話題は悪の組織の食卓全体を賑わせていた

 

「今まで都知事に日本の殆どを握られていたこともですけど、それを突然現れた悪の組織がたった数日で征服したなんて・・・。あ、正人さん。お代わりがありましたら遠慮なく言って下さい」

 

「ああ。ありがとう、美夜」

 

「ぐぬぬ・・・。なんか美味しいところ纏めて掻っ攫われたみたいで悔しいZE!」

 

台所からご飯と味噌汁と、朝食を持ってきた特大おしりの黒髪美少女。彼女は橘美夜。今は俺達おしり団が利用しているこの基地だが、元々の所有者であった悪の組織【シャーウッド】、そこの二代目リーダー―――通称魔女モリガンと呼ばれていたのが美夜だ。しかし、【おしり団】との決闘で敗れ、傘下に入ったのである。今ではこうして家事全般をやってくれている

 

俺の座る向かいで箸を拳で握りしめているセーラー服を着たプリ尻の女子高生―――谷岡邦江。『タピ岡』という女性らしからぬ渾名を持っているが、歴とした悪の組織の一員であり、このおしり団の戦闘員・・・だったっけか?

 

「なに、その『ずびずだー』とやらを傘下に加えれば良いのだ。正人殿がやると言われれば、私はいつでもカチコミに行く所存でござる」

 

朝から物騒な話はやめような。タピ岡の隣で味噌汁を口にする岸我緩花もまた、【マッドエンペラー】という暴走族風な悪の組織の元総長であり、【シャーウッド】のリーダーであった美夜のライバルだった。しかし、とある事件を境に和解、タピ岡含む【マッドエンペラー】の一部を引き連れて我らがおしり団の仲間入りをした。自分を男と主張していたからか、今も着ている道着姿の下は・・・ぴっちりと締まったフンドシだと思う

 

「あのヴィニエイラさんのお尻に謎があると思います!是非会いに行って確かめたいです!」

 

それ団長がお尻会いになりたいだけじゃないですか?

 

元気ハツラツにお茶碗を掲げている、身長150に満たないロリっ子少女。これでも俺と同じ高校一年生だ。彼女は伊佐波美。3度の飯よりおしりが大好きな、我らが団長様である。趣味はヒューマンウォッチングならぬヒップウォッチング、近所の女性の全お尻データを有すという、変態もドン引くおしリストだ

 

日々団長と共にいるせいか、俺も段々とおしり色に染められている気がする。できることなら気のせいであってほしい

 

「波美、ほっぺにご飯粒が付いてますよ」

 

その隣で彼女を気にかける、キュッと引き締まったおしりの女の子。スカディ・W(ワイズマン)・東郷。【おしり団】結成当初からいる団長の親友だ。軍人家系の出身である彼女は、俺のことを正人中尉と呼び、『正人中尉の副官になりたい』と日々言っている

 

「呪いを背負いし永き支配者が再び、世に現れた。しかしそれが世界の運命ならば、私は只見守るのみである」

 

騒がしい食卓の中唯一人、神秘さを醸し出しながら端っこで静かに食事をとっている褐色肌の少女。彼女は最近【おしり団】に入ってきた子であるが、その実厄介な力を秘めている為ウチで保護してるという訳あり美少女である

 

ここまで聞けば『お前何ハーレム築いてんだ。そこ代われヴォケ』と野次が飛ぶだろう。間違いなく。だが断る!

 

まぁそもそも男もいる、というか割合的には男のほうが圧倒的に多い。悪の組織というと男のほうが断然やるイメージだし

 

そう、ただ偶然(・・)【おしり団】の主要メンバーのほとんど(・・・・)が美少女達で占められているだけなのだ

 

 

 

 

「どう見てもあっちのほうが悪の組織っぽいよな」

 

「あそこまで堂々と世界征服なんていう奴なんて本当にいたんだな」

 

「まぁ他所は他所、家は家さ〜。別にそんな難しいことを考える必要なんかないんじゃないかな〜」

 

地下の倉庫から元シャーウッドの古参である佐藤、鈴木、田中の三人が食卓に顔を出した

 

さっきから食卓での会話の種である【ズヴィズダー】という組織

彼等は、日本の各地で秘密裏に活動していた秘密組織らしいのだが、本拠地があるという西東京の西ウド川市での多くに渡る大型怪獣の襲来、西ウド川市喫煙者の暴動騒ぎ、地元中学校の大破壊、そして東京都知事との全面戦争と、数々の悪行という名の功績が、最近になって新聞やニュースで多く取り上げられたのだった

 

この時点で、我々【おしり団】なんかよりも遥かにとんでもない組織と言うのが理解できるであろう

 

「というか、俺たち本当に悪の組織なんですかね?」

 

「違うのですか?」

 

キョトンとさも当たり前な顔をする一同

 

「俺たち悪の組織じゃなかったなんて、衝撃的だZE・・・」

 

いや、唯一人タピ岡が俺の言葉を鵜呑みに信じていた

 

「じゃあ皆さん、ここ最近の悪事報告をしてください」

 

「私は基地内の家事を中心に、あと時々に正人さんの事務処理の補佐を務めてました」

 

「近所の老人ホームの介護を、鈴木さんと行ってきたZE」

 

「駅前で新たなおしりを探求してました!」

 

「私は波美に付き添ったり、岸我殿と稽古をしたり。それから正人中尉とお散歩に・・・」

 

ポッと頬を染めないで下さいスカディさん。如何わしく聞こえるから

 

「スカディ殿と模擬試合をしてござった」

 

「幼稚園の遠足の付き添い」

 

「同じく〜」

 

「タピ岡ちゃんと老人ホームに行ってたな」

 

うん。どれ一つとして悪の組織らしからぬ行動ですから

 

こんなんでも、悪の組織と呼ばれている事に疑問を感じる人もいるだろう。しかし、それは読んでる人の認識の問題である。彼女達を始め、【おしり団】の皆は犯罪を犯す様な悪人という訳ではない

 

 

 

「ん?電話?」

 

 

 

………………

 

 

 

――MT。Mind Trancer――

 

突然人間に生まれた、人間の信念を物理的な力に変える未知の能力。何かを信じる心が強いほど、強大な力を発揮できる異能の力。その数値は一般には0〜1000程度。MT能力の強さは人によって様々だ。当然、大きな力は危険を及ぼすものだ。だから誰かが彼らを管理しなければならない

 

そのMT能力者を取り締まるのが、警察から独立した正義の組織【MINOS】だ。【MINOS】はMT能力の悪用を防ぐため、MTを数値化し、一定基準を超えた人は【MINOS】に強制入隊させて、MT能力者達を組織内外で律していた

 

当然それに逆らう人もいる。そういう者達の集まりが『悪の組織』と呼ばれている。悪の組織、その数は大小含めて百を超える。その中でも、【MINOS】が注視するほど巨大な組織達、

 

【シャーウッド】、【アザゼルバンク】、【MTCメイソン】、【マッドエンペラー】、【黒援隊】

 

この五つを称して悪の五大組織と呼ばれていた(・・・・・・)

 

いた、という事は過去のことである。五大組織の内の二つは経緯で我らがおしり団に吸収、分解され、また一つは後のとある事件で解体、今では俺たち【おしり団】が代わりに上がり、【アザゼルバンク】、【MTCメイソン】の3強である。・・・なんて世間では言われているが、実際はというと一番最初から【アザゼルバンク】の一強なのである。そして俺は今、その最強の悪の組織のトップに電話で呼び出されていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【ズヴィズダー】に関わるな?」

 

「そう。・・・といっても、団長さんは会う気なんでしょうね」

 

ご明察です。いつもながらこの人には頭が上がらない

 

彼女?は斑鳩青森。大企業でもあり、悪の組織の最強最大の組織である【アザゼルバンク】の代表取締役。つまりここ()のトップである

 

彼女?からは色々アドバイスを受けたり、裏から援助されたり、何かと俺達の事を気にかけてもらっていた

 

そんな斑鳩さんが今度は俺達に忠告をしてきたのであった

 

「そんなにヤバいところなんですか?」

 

「どれだけ・・・と言われてもね、彼女らの実力は底が知れないのよ」

 

溜息を一つ吐いて斑鳩さんは話した

 

「規模は・・・とにかく大きいわ。彼女等は随分と昔から裏で手を伸ばしてたから。やつらの末端は日本中、もしかしたら国外にもいるかもしれない」

 

世界規模の悪の組織。そんな言葉だけでとてつもない大きさを感じさせられる。

 

「で、戦力は知っての通り、国の実権握ってたあのクソ都知事を吸収する程」

 

「でもそれだけの大物がどうして今まで世に出なかったんですか?」

 

「いや、正直に言えばゲンちゃんもあたしも、星宮ケイトの事は昔から目に付けていたよ。ただズヴィズダーは神出鬼没で足取りがほとんど掴めなかったのさ。ゲンちゃんのほうも都合が悪くなったからね」

 

「都合って・・・」

 

「ズヴィズダーの連中はMT能力者じゃない」

 

「え、MT能力者じゃない!?」

 

【MINOS】で定義する『悪の組織』とは『MINOSの取り締まり対象とされているMT能力者集団』であることだ。故に、MT能力を持たない者は対象外となる。成程、通りでこれまで聞いたことがなかった訳だ

 

「でも怪獣だとかビル破壊とか、普通の人間にできるとは思えないんですけど」

 

「あいつらが使うのはUDOというまた別のエネルギーと科学技術を掛け合わせたものと定義されているのよ。だからMT能力者以外に手を出すのは、クソ都知事の息のかかった警察の連中に睨まれる。それも併せて手を出せなかったってわけ」

 

チッと舌打ちを打つ。都知事にひどい恨みでもあったのだろうか

 

「まぁでも最近になって、そのUDOがMT能力の派生ではないかという話がようやく浮き上がったそうだけど。奴らに征服された今となっちゃ、手遅れだけどね」

 

コーヒーを片手に斑鳩さんは窓の外を見つめていた

 

その先、西東京の辺りには建設中の石像が鎮座していた。

 

…………………

 

 

 

所変わって都内、西東京は西ウド川市

 

とある片隅に目立たんとばかりに存在感のある建物が建っている

 

その建物の扉に掛けられたネームプレートに小さく書かれた文字

 

【悪の秘密結社ズヴィズダー作戦本部基地】

 

そう、此処が日本全土を征服した悪の組織【ズヴィズダー】の基地である。その基地内の一室に彼女らは集まっていた

 

「皆の者、征服に行くぞ!」

 

「登場早々いきなり何言ってんだよ!」

 

テーブルに身を乗り出し、勢いのある台詞を言う威勢の良い銀髪の幼女。その脇には兎に見えなくもない珍妙なぬいぐるみを抱えていた。彼女はただの幼女ではない。彼女―――星宮ケイトこそ、この悪の秘密結社【ズヴィズダー】の首領『ヴィニエイラ様』なのだ

 

そして、その彼女の発言に対しすかさずツッコミを入れているフードの少年。彼の名は地紋明日汰。彼女に気に入られ、この【ズヴィズダー】に巻き込まれた憐れな新入り戦闘員『ドヴァー』だ

 

今日この日、『ズヴィズダー】の幹部勢揃いによる食卓会議が行われているのであった

 

「征服しに行くと言ったのだ。お前は話を聞いていなかったのかドヴァー!」

 

「聞かないも何もそんな話初耳だ!大体、つい先日日本を征服したばっかりなのに、今度は何処へ行くってんだよ!」

 

東京都知事にして東京都軍特別遊撃隊の総司令であった彼の父、地紋京志郎を下したことにより、俺達【ズヴィズダー】は都知事が支配していた日本の約90%を征服したばかりなのだ

 

「実はまだこの日本の、しかも極めて近くに我々を倒さんと抵抗する奴らがいる」

 

「それって【ホワイトライト】のことか?」

 

「いや、どうも違うようだ」

 

明日汰の答えを否定するスーツ姿の大男

 

スーツとサングラスを身につけた大柄の男は鹿羽吾郎。かつては西東京を仕切っていた広域暴力団鹿羽連合の総長だった。しかし、組が解体し、同業者に追い詰められたところを『ヴィニエイラ様』に救われた親父は、3幹部の一人『ピェーペル将軍』としてこのズヴィズダーについている

 

仮にも『不死身の吾郎』と名高い親父が、見た目ちんちくりんな幼女の下についているという情けない事態である。だがそれほどまでに、『ヴィニエイラ様』は恐ろしい人物なのだ。・・・今思い出しても怖い

 

その側で親父を甲斐甲斐しく世話をしている女性。彼女は隼房香織。鹿羽吾郎の亡き妻椿さんの妹で、元々は正義の組織【ホワイトライト】の総司令官『ホワイトファルコン』として敵対していたが、先月の都知事との戦いの際、組織を辞め、どう言うわけか親父とゴールイン。ついこの間ハネムーンから帰ってきてからというもの、ずっとこのように親父とベッタベタである

 

「今の責任者の白鷺さんに聞いて見たけど、最近は残りの10%、琉球からの敵対組織との交渉に忙しくてそれどころじゃ無いって言ってたわよ。はい、あ〜ん」

 

「あ~ん・・・」

 

「じゃあいったい誰が?」

 

「そがいなもんとうに調べ済みじゃ。場所は東京のど真ん中、正義の組織、名は【MINOS】」

 

『位置情報、組織総員数、財政、etc解析済みです』

 

この独特の広島弁訛りで話す金髪の少女はナターシャ。この基地や戦闘服等、【ズヴィズダー】の軍事科学総てを造り上げたたった一人の科学者。通称3幹部の『ウーム教授』だ

 

その隣では赤縁の眼鏡をかけた青い装甲のアーマロイド―――ロボ子が敵の情報を開示していた

 

「【MINOS】って・・・MT能力者の集まるトンデモ組織じゃないか!?」

 

「うむ。正義の名を掲げ我々に敵対するその度胸、称賛に値する!」

 

『ドヴァー』の叫び虚しく、上から目線で敵に感心を示す『ヴィニエイラ様』は平常運転だ。これは面倒事確定だろう

 

「ま、なんにしてもあれからずっと平和で体が訛ってたから、ちょうど良いじゃねぇか」

 

食卓台に片足を上げて身を乗り出し、腰元の刀を抜いて戦う気満々と意気込む女子高生。その右眼に髑髏のアイパッチを付けた彼女は鹿羽逸花。親父の実の娘であり、『泣く子も燃やすプラーミャ』という肩書きを持つ、3幹部の最後の一人である

 

「では行くぞお前ら!これから始まるのは戦争だ!正義を語る【MINOS】とやらに目に物を見せてやるのだ!」

 

『我らがズヴィズダーの光をあまねく世界に!』

 

 

かくして、8名の精鋭たる【ズヴィズダー】の進撃が始まるのであった

 

・・・何?一人足りないって?

 

そうだったな、紹介が遅れた。いや、やはり俺がいなくては何も始まらねぇな。じゃあ、名乗らせてもらうぜ

 

最後の1人。俺こと【ズヴィズダー】戦闘員を束ねる主任戦闘員!その名も―――

 

「ヤス!さっきからブツブツうっせぇぞ!」

 

「すいやせん姐さん!」

 

・・・俺は『アジーン』。孤独を愛する男、その本名は両角安兵衛。鹿羽連合の時から親父に憧れ、ずっとの親父の後ろを追いかけている、いわゆる下っ端だ。この【ズヴィズダー】でも、今の様に扱き使い回されている。・・・だが俺は決して屈さない。例え今は泥にまみれ、地べたを這いずり回っていようとも、必ずチャンスが訪れる。その時俺は栄光を手にするのだ。だから今はただじっと耐えるのさ、輝を手にするその日まで―――

 

「ヤス!テメェまた洗剤買い忘れたな!」

 

「ヘイすいやせん!!」

 

その日、までは・・・

 

 

 

 

 

 




世界征服〜謀略のズヴィズダー
×
悪に堕ちたら美少女まみれで大勝利


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