卯花色のリリェ -宵の明星- (Eo.)
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Prologue

プロローグ


最愛なる"かな"へ

 

私が長年研究してきたウィルスは、人の病気を治す為のものであったが

 

研究中の副産物として、摂取すると一瞬にして人間の細胞を破壊するウィルスが

 

出来上がってしまった。

 

この事は私を含め、ここの研究者だけが知る極秘事項だったが

 

その研究者のうちの誰かが裏でこのウィルスについての情報を漏らしていたようだ。

 

数日前、研究所が何者かによって襲撃された、目的は副産物としてできた

 

ウィルスだった。

 

お父さんは今、そのウィルスサンプルを持って逃げている。奴らは血眼になって

 

 

私を探しているだろう。

 

 

何とか逃げ延びて、また"かな"に会いたい。

 

 

愛しているよ。

 

 

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9月、日本は秋を迎え夏の暑さが和らぎ、ふく風に若干の爽やかさを

 

感じるようになった。

 

学生は夏休みが終わり、新学期が始まる。

 

「今日から二学期かぁ~、文化祭も体育祭もあるし頑張らないと!」

 

ここにも夏休みを終え、始業式を迎えるために学校へと向かう少女が居た。

 

彼女の名前は "明星 かな" 東京都内の高校に通うごく普通の高校1年生である。

 

早くに母親を病気で亡くし男手一つで育てられた。

 

彼女の父は有名なウィルス研究者の一人で、数年前から日本を離れ

 

海外で暮らしている。

 

父親と離れての生活ではあるが、彼女はこの生活に慣れ始めているようだ。

 

「かな~!おはよう!」

 

「おはよ~!夏休みどうだった~?」

 

登校中に友達に会い夏休みにあったことを語りつつ学校へ向かうのであった。

 

 

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でーあるからしてー....

 

 

 

 

「校長先生の話長かったね~」

 

始業式が終わり、生徒は自分たちのクラスに戻って来ていた、そこへ担任の

 

男性教師が入ってきた。

 

「お前らー席につけー、今日は転校生を紹介するぞー」

 

一瞬にして教室がざわつき始める、彼女もまたその一人であった。

 

「(男の子かな?女の子かな?)」

 

「よし、入ってきていいぞー」

 

そんな想像をふくらませていると、担任の言葉とともに教室の前の扉が

 

ガラッと開き、先程までのざわつきが一瞬にして静まり返る。

 

入ってきたのは銀色の髪、白い肌、整った顔立ちの少女だった。



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1.苦さは大人の味


【挿絵表示】

主人公側の前日談


北大西洋に浮かぶ人工浮島(メガフロート)、滑走路と管制塔、ハンガーなどがあり

 

海に浮かぶ一つの小さな空港となっており、外となりには居住区も設けてある。

 

メガフロート自体に推進用のエンジンが取り付けられており、牽引船無しでの移動が

 

可能となっている。

 

そしてこのメガフロートには、とある極秘組織のメンバーとその協力者たちが居る。

 

「......」

 

とある海が見える一角にあるベンチに座り、銀色の髪をなびかせ、永遠と続く

 

海を眺める少女が居た。

 

「そんなにここが好き?」

 

銀色の髪の少女の後ろから白衣を着てメガネを掛けた若い男が話しかけた。

 

「海が良く見えるからね」

 

振り向かず、地平線の向こうを眺めたまま少女が言う。

 

「もう海なんてここのメンバーは全員見飽きてると思うんだけどなぁ...」

 

ずっとこのメガフロートに居る人間は永遠と続く海に嫌気が差している。

 

「私に何か用?」

 

「おっと、そうだった、リーダーが君を呼んでいるよ」

 

「うん、分かった」

 

そう返事をするとベンチから立ち上がり、本部のある建物の方に歩み始めた。

 

彼女の名前は "シャルロッタ・リリェホルム" 周りからは"シャル"と呼ばれている。

 

幼いころに両親を亡くし、行く当ての無い所を"極秘組織"に拾われ、この世界で

 

生き抜く力と戦闘能力を身につけた。

 

数々の任務に関わり、今年で16歳になった。

 

「リーダー」

 

小さな一室に長机とその対にソファがあり応接室のような部屋がある。

 

「ん、またあそこに居たのか」

 

「うん」

 

「そうか、まぁ立ってるのもなんだ、座ってくれ」

 

そう言われるとシャルロッタはソファに、ぽんっと腰掛けた。

 

「それで、私になにか話?」

 

「あぁ、まず状況から説明しよう」

 

部屋の明かりが消え、白い壁にプロジェクタでとある研究施設の情報が映し出された。

 

「数日前E国にある、とあるウィルス研究所が何者かに襲撃され死傷者13名を出した。

 

このウィルス研究所では世界中に存在する病原体ウィルスの研究、その病原体に

 

対するワクチンの研究がされていた。」

 

シャルロッタは話に耳を傾けつつ、じっとプロジェクタから投影された映像を見ている。

 

「しかし、ワクチンを作るにあたって出来た副産物のウィルスがどうも人間に対して

 

相当な破壊力があるらしい。」

 

「その襲撃してきた人達はその、副産物で出来たウィルスを手に入れるために研究所を襲っ

 

たってこと?」

 

「多分その線が強いだろうな、ただ奴らはウィルスを入手することは出来なかった」

 

「どういうこと?」

 

シャルロッタが首を傾げるとプロジェクタの画像が切り替えられ一人の男の

 

写真が映される。

 

「明星博士、本名、"明星 直樹" 46歳、この男がウィルスのサンプルを持って研究所から姿

 

を消している。」

 

「この人もウィルス目当て?」

 

「いや、そもそもこの情報は彼、明星博士が現地のメンバーを介してこちらにくれたものだ。自分が

 

作ってしまったウィルスが他人の手に渡り、悪用されないために持ち出して

 

逃げたのだろう。」

 

「それで、この人は今どこに?」

 

「それがだな...」

 

シャルロッタにコーヒーを手渡し、自分用に入れたコーヒーを口にし、再度話し始めた。

 

「この情報を送ってきたのを最後に明星博士を保護していた現地の

 

メンバーと連絡が取れなくなった。その直後に今回研究所を襲ったと思われる奴らが

 

犯行声明を出した。」

 

その映像がプロジェクタに映しだされた。

 

「明星博士、君がウィルスを持ちだしたことはわかっている。君がウィルスサンプルを

 

こちらに渡してくれないのなら、君が大切にしてる一人娘、"明星 かな"を拉致する。」

 

その映像は首から上が暗くなっており顔はわからず、声にも加工がなされていた。

 

「奴らも俺達も明星博士の行方を追っている、シャル、君には今の映像でも言われていた

 

博士の娘、"明星 かな"を保護して欲しい。」

 

「わかった。」

 

「君には日本に飛んでもらい、彼女が通っている高校に転入生として潜入してもらう。数日

 

間の監視、護衛を行ってもらいたい。まぁ国は違うが歳相応の学生生活を数日だけだが

 

楽しんできてくれ。」

 

「学校、かぁ...うぇ...苦い。」

 

淹れてもらったコーヒーを手に取り口に含むが、顔を歪ませる

 

「まだまだ子供だな、ははは。」

 

そう言われたシャルロッタは少しむっとした表情を浮かばせながらコーヒを飲んだ。




・"リーダー"
本名 "ベルンハルド・バックマン"
49歳、極秘組織の創設者にしてリーダーを勤める男
主人公と同じ北欧、スウェーデン出身者、身寄りのない主人公を
この組織に招き入れたのも彼。
創設当時は彼も現場に赴き、行動していたが歳のせいもあり、身を引き現在は
メガフロートにて各メンバーのリーダーとしての役目を果たしている。
一人娘と妻が居たが、事故で亡くしている。

・"アンソニー・ベイズ"
極秘組織に所属している医療関係、メンタルケア等のサポートを行う
メンバーの一人。
メガネを掛け、いつも白衣を着ている。
24歳、出身はイギリス。

・"Kawasaki Z1000 (2014 Model)" ※挿絵
シャルロッタが乗るバイク。
日本製、1043cc、水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブエンジン搭載。
組織に改造されており、高度な姿勢制御コンピューターを搭載し、小柄な
シャルロッタでも乗りこなせるようにアシストが働く。
シャルロッタ本人も結構気に入っている。


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2.卯花色の転校生

プロローグの最後につながる部分


日本、東京都某所

 

「同世代とはいえ学生、それも高校生はこれで初めてなんだ、演技するにしても

 

色々注意してくれ。」

 

シャルロッタは頭の中で、メガフロート出発前のリーダーの言葉を思い出しつつ

 

目的地の高校を目指し、一人歩いていた。

 

「高校、上手に馴染めるかな。」

 

小学校はおろか、中学にさえ通ったことがない彼女は、今までしてきた潜入よりも

 

若干ではあるが緊張していた。

 

「...ここだ。」

 

携帯端末の地図と照らし合わせ、潜入をする高校に辿り着いた。

 

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「君が転校生の小百合さんだね。」

 

「はい、小百合 シャルロッタです。」

 

事前にリーダーから当日のするべきことが書かれたメモを渡され、登校後は

 

最初に職員室に向かい、自分が転校生であることを伝える。と、書いてある

 

とおりに行った。

 

「北欧生まれなんだって?にしては日本語が上手だね。」

 

「むこうで日本語勉強してきましたから。」

 

学校へは行ったことがない彼女だが、組織に入った後生きていくのに必要なことや

 

世界の常識、各国の言葉など小~高校で習うことはすべて教えられてきた。

 

「なるほどねー、あっ先生ちょうどいいところに、この子が本日付で先生の

 

クラスに加わる小百合 シャルロッタさん、小百合さん彼があなたの担任だよ。」

 

「おっす、俺が担任の林田だー、よろしくなー。」

 

体育の教師をしている林田 昇、体育会系のガッチリとした体格で彼が

 

受け持っている、空手部の生徒たちからは"鬼教師"と言われているほどである。

 

「よろしくお願いします、林田先生。」

 

「硬いなー、日本に来てまだ経ってないのにこっちの高校だもんなー、なーにすぐ

 

友達の4、5人できるだろう。」

 

そんな話をしていると、朝のホームルームの開始を知らせる予令が鳴る。

 

「お、じゃあそろそろ教室に行こうか。」

 

「はい。」

 

この高校には北棟と南棟があり、北棟にある職員室から連絡通路を通り

 

南棟の1階に1年生の教室がある。

 

1年生は全部で3組まであり、シャルロッタが転校生として入るクラスは2組で

 

この2組には護衛対象である"明星 かな"が居る。

 

「じゃあ呼んだら入ってきてくれー。」

 

「わかりました。」

 

「みんなの前ではニッコリと、なー」

 

彼が歯を見せにっとしつつ教室に入っていった。

 

「にっこり、にっこり...」

 

普段、顔に感情をめったに出さない彼女にとって"にっこり"とは

 

どうすればいいのか、若干悩んでしまったがとりあえず"笑う"

 

ということに結びつけ、演技というお面を被る。

 

「よし、入ってきていいぞー」

 

林田先生の合図が出た。

 

「(自己紹介、あいさつ、にっこり...)」

 

頭の中でもう一度言葉を一周させ、扉に手をかける。

 

扉を開けると、教卓が最初に目に止まりその奥に担任の林田先生、そして左には

 

こちらへと視線を向ける、2組の生徒たちが居た。

 

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教室に入ってきたのは銀髪の、明らかに日本人の顔つきではない"可憐"という言葉

 

が良く似合う少女だった。

 

「(うわぁ可愛い...!!!)」

 

彼女は目を輝かせ、その転校生を見ていた。

 

彼女を含め、教室にいる男女すべてが同じことを思っただろう。

 

「はじめまして、今日からこの学校に転校してきました。」

 

くるっと後ろを向き、黒板にチョークで名前を書く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「小百合 シャルロッタと言います、北欧、スウェーデンから来ました。

 

お母さんは日本人、お父さんがスウェーデン人のハーフです。

 

まだ日本に来て少ししか経っていないので、分からない事が沢山有りますが

 

どうぞよろしくお願いします。」

 

転校生の彼女は自己紹介をし終わると、一礼をした。

 

教室は拍手喝采、周りでは"可愛い"、"お人形さんみたい"など様々な声が

 

上がっていた。

 

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「(自己紹介、あいさつ、にっこり、出来た。ちょっと恥ずかしかった....)」

 

顔には出さないが、頭のなかではそう思っていた。

 

「じゃあ、小百合の席はえーっと窓側の後ろから2番目の右側、あー明星の隣だ。」

 

「明星...」

 

小声で口に出した、担任の指差す方を見ると大きめのリボンに、ツインテールを

 

した少女がこちらに向け、熱い視線を送っていた。

 

「明星ー、隣の席だから小百合にいろいろ教えてあげてくれー。」

 

「はいっ!わかりましたー!」

 

手を上げ、元気に返事をする彼女こそ今回の護衛対象であり、保護対象でもある

 

"明星 かな"である。

 

シャルロッタは指定された席に座った。

 

「よろしくねっ!」

 

席ついた途端、右、つまりは明星から声をかけられた。

 

「うん、よろしくね。」

 

にっこりと笑顔で返す。

 

「なんて呼んだらいいかな?」

 

「呼びやすい呼び方でいいよ。」

 

「うーん、じゃあシャルロッタから最初の三文字を取った"シャル"なんてどうかな!」

 

「シャル...うん、分かった。」

 

「よしっ!じゃ決まりだねシャル"ちゃん"!」

 

「ちゃ...ん...?」

 

"シャル"そうシャルロッタの事を呼ぶのは"リーダー"くらいである。

 

幼い時、両親が自分のことをなんて呼んでいたかなんて覚えてない。

 

「私はあなたをなんて呼べばいい?」

 

「"かな"でいいよ~、みんなそう呼んでるから。」

 

「じゃあ、かな、よろしくね。」

 

「うん!、よろしく!」

 

こうして高校への潜入と"明星 かな"の護衛の作戦が始まるのであった。



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3.小さな学生生活

本編開始


午前の授業を終え、昼休みとなった教室は賑やかになり食堂へ行く生徒や買い出しに

 

向かう生徒が多く見られる。

 

「ふぅ~、午前はつかれたね~...ってあれ!?」

 

「小百合さんなら教室から出てったよ?」

 

直前の授業を居眠りで終わらせた明星は隣に座っていたシャルロッタが

 

居なくなっていたことに気づいていなかった。

 

「あれ~、どこ行っちゃったんだろう...迷子にならなければいいけど...。」

 

「かなは小百合さんと一緒にご飯食べたいだけでしょー?」

 

「そうだけど~!」

 

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『うまくやってるか?』

 

「うん、対象の明星 かなも確認してるよ。」

 

学校の屋上、そこにシャルロッタは居た。

 

『こちらでもテログループの動きは監視しているが万が一のことがある、くれぐれ

 

も正体がばれないようにな。』

 

「うん、わかってる。」

 

イリジウム衛星電話を介し、メガフロートに居るリーダーと通話をしていると

 

屋上に訪問者が現れた。

 

「シャル~、シャルちゃ~ん?」

 

「誰か来た、またあとで。」

 

すぐさま電話を切ったシャルロット、"誰か"がといってもこの呼び方は

 

今のところ1人しか居ない。

 

「かな?」

 

「あっ!、ここに居たんだ!探したよ~にしてもどうして屋上に?」

 

「外の空気が吸いたかったんだ。」

 

「ふぅ~ん?、東京の空気は吸っても美味しくないよ?そうそう!そんなことより

 

お昼ご飯一緒に食べよ!」

 

「うん、いいよ。」

 

屋上を後にし、教室に戻る二人。

 

「さてさて~、お弁当何持ってきたの~?」

 

「これ。」

 

ごそごそっとカバンから出した弁当箱、組織に入ってから覚えた料理の作り方。

 

まさかここで役に立つとは彼女も予想していなかった。

 

タコ足ウィンナー、玉子焼きなど、定番のおかずで固めた箱に

 

小さなおにぎりが入っている。

 

「うわぁ!美味しそう!」

 

「いただきます。」

 

手を合わせ、箸でウィンナーを取り口に運ぶ。

 

「(あぁ~、食べてる顔かわいいなぁ~。)」

 

目を輝かせながら、食べている姿を見る明星。

 

「?」

 

「う、ううん!なんでもないよ!、いただきます~!」

 

昼食を食べたあとは、ハーフの転校生ということもあり隣のクラスからも

 

生徒が集まり、シャルロッタを囲んだ。

 

「好きな食べ物は何!?」

 

「えっと...」

 

「好きな芸能人は!?」

 

「えぇー...」

 

「彼氏とか居るの!?」

 

「....。」

 

質問の嵐。

 

「まぁまぁ、みんな落ち着いて...! えっと、シャルはなにか好きな食べ物ある?」

 

「日本の食べ物だと...うーん...お寿司かな...?」

 

「お寿司かー!」

 

そんなことをしているうちに、昼休みは終わり

 

また午後の授業が開始された。

 

「準備運動はしたかー?よしじゃあとりあえずお前ら好きなのをやってみろ、はい

 

開始ー。」

 

体育の授業、担当は担任の林田先生。

 

今日の内容はマット運動、体の柔軟さを高める授業である。

 

「うへぇ...私苦手なんだよねぇ...シャルは、って言っても

 

やったことないよね。」

 

「うん、でも雰囲気で何とかやってみる。」

 

「おぉ~、運動が得意なんだ?」

 

「普通くらいだと思うよ?」

 

明星の番が来る。

 

「うーん、じゃあこの"そくほうとうりつかいてん"って言うのやってみようかな」

 

"側方倒立回転" 回転時に手を90°横にして着き、そのまま横方向に回転する

 

技である。

 

「おー!出来た!」

 

明星は自慢気に帰ってくる。

 

「次はシャルの番だよ!初めてだから気をつけてね!」

 

「うん、じゃあやってみる。」

 

そう言うとシャルロッタはマットに背を向けた。

 

「(後転?)」

 

しかし、シャルロッタは立ちの姿勢で腕を振り、勢いをつけそのまま

 

後ろに宙返りした。後方宙返りである。

 

「うわ...っ...」

 

思わず、目を閉じてしまった明星と近くで見ていたクラスメイト達

 

再び目を開けると、そこには顔色一つ変えずに立つシャルロッタの姿があった。

 

「す...すごい!」

 

近くで見ていたクラスメイト、林田先生から拍手が上がる。

 

「マット運動やったことなかったんじゃないの!?」

 

明星が駆け寄る。

 

「マット運動はやったことはないけど、これは出来るよ。」

 

「は、はぁ...」

 

明星は拍子抜けした顔だった。

 

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午後の授業も終わり、帰りの準備を始める生徒たち。

 

「ん~!今日も学校疲れた~、シャルはお家遠いの?」

 

「うーん、そんなに遠くはないよ、あっちの方。」

 

シャルロッタが指差す。

 

「私と同じ方向だ!、じゃあ一緒に帰ろっか~!」

 

「うん。」

 

荷物をまとめ、校門へ向かう。

 

「シャルってお父さんお母さんと暮らしてるの?」

 

「ううん、一人だよ。」

 

「そっかぁ、私も実は一人なんだ~」

 

「へぇ...」

 

「そうだ!ちょっと寄り道していかない!?」

 

「寄り道?」

 

そう言われると、学校からほど近い商店街に向かった。

 

「ここのアイスクリームすっごく美味しいんだよ!!。」

 

「アイスクリーム...?」

 

「アイスだよアイス、冷たいの。」

 

「????」

 

シャルロッタはアイスクリームを知らなかった。

 

一般的な子供ならアイスクリームを知らないなんてほぼありえない

 

ことなのだろうが、彼女は他の子供達とはかけ離れた人生を送ってきた。

 

「もしかして知らない...?」

 

「うん。」

 

「(宙返りはできるけどアイスクリームは知らないんだ...)」

 

「とりあえずいっぱい種類あるから好きなの頼んでみるといいよ!」

 

「わかった。」

 

数分後明星の助言もあり、なんとか購入できた。

 

「...二段。」

 

「チョコレートにバニラ、定番の組み合わせだね~。」

 

「いただきます...。」

 

二段ある一番上、バニラアイスに口をつける。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「わぁ...美味しい。」

 

「ほっぺたにくっついてるよ~、スプーンあるからこれ使って。」

 

「うん...!」

 

「本当に食べたことなかったんだね~、もうそんなに急いで食べなくても!」

 

「おいしいね。」

 

「あんまり笑わないと思ったけど、笑うんだね~」

 

「そ、そんなこと...」

 

笑っている、なんて言われるまで気付かなかったシャルロッタ。

 

普段、感情を表に出さない彼女がこの時ばかりは普通の少女に戻ったのであった。

 

「この器はどうするの?」

 

「コーンのこと?それも食べられるよ~。」

 

「えっ...。」

 

試しにかじってみると、さくっと音がした。

 

「アイスと一緒に食べると美味しい...。」

 

「ね~。」

 

歩きながら食べていると、明星の自宅についた。

 

「私ここだけど、シャルは一人で帰れる?」

 

「大丈夫、私そこだから。」

 

明星が住む一軒家のすぐ隣にあるアパートを指指した。

 

「えっ!?すぐ隣だったの!?」

 

「うん、そうだったみたい。」

 

「じゃあ朝も一緒に学校行けるね!」

 

「そうだね、一緒に行こう。」

 

「やったぁ!、じゃあまた明日ね~!」

 

「うん、また明日。」

 

明星は手を振り、玄関へと入っていった。

 

「....。」

 

シャルロッタは何事もなかったかのように、アパートの階段を上がり一番近い

 

部屋に入った。

 

「リーダー、一日目終わったよ。」

 

鞄を置き、中から衛星電話を取り出しリーダーへと話しかけた。

 

『ご苦労、特に問題はなかったようだな。』

 

「うん、アイスクリーム美味しかった。」

 

『ほう、まぁ任務に支障をきたさない限りは自由なことして構わないぞ。』

 

「分かっているよ。」

 

『では、また何かあったら連絡してくれ。』

 

「うん。」

 

通話を切り、何もない部屋の一角にあるベットに倒れこむ。

 

「これって、楽しいって...言うのかな。」

 

今までの人生をずっと戦うことしか歩んでいなかったが、今回の任務で普通の

 

少女として生活できるこの時間は、彼女にとって貴重なのかもしれない。

 

「また明日、楽しみ。」

 

こうして彼女の一日目が終了したのである。



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4.本当の始まり

保存日時:2014年08月25日(月) 00:40

 

「おはよう。」

 

「おっはよ~!」

 

シャルロッタ、潜入二日目。

 

季節的には初秋が始まっているが、まだ少し暑さが残る。

 

明星にとっては何ら変わらないいつもの朝。

 

「今日も帰りにどこか寄っていく?」

 

「まだ学校についてもないけど...」

 

「そうだよねぇ~...」

 

「そういえば、かなのお父さんってどういうお仕事してるの?」

 

すでに分かっては居るが、それとなく聞いてみる。

 

「ウィルス研究の科学者だって、お父さんは言ってるけど実際仕事場とか見たこと

 

無いんだよねぇ、それって凄いことなんだとは思うけど...。」

 

明星が寂しそうに語る。

 

「やっぱり離れて暮らすのは、ちょっと寂しいっていうのもあるよ、うん...」

 

「そっか...」

 

「あぁ、ごめん!」

 

「ううん、こっちこそ。」

 

若干の気まずさの中、学校に到着。

 

「おはよう~!」

 

「おはよう。」

 

「「おはよう!!」」

 

クラスメイト達から挨拶が帰ってくる。

 

「よいしょっと、シャル~まだ二日目だけど学校どんな感じ~?」

 

「楽しいよ、みんな優しいし授業も楽しい。」

 

「そっかそっか~!、部活動とかもあるからもっと楽しくなるかもね~!」

 

「そうだね。」

 

ホームルーム開始10分前の予令が鳴る。

 

開始は8時30分だが必ず10分前に予令が鳴る様になっている。

 

「10分前!、ちょっとお手洗い行ってくるね~」

 

「うん。」

 

明星が席を立ち階の一番端にあるトイレへと向かう。

 

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午前8時22分、北棟職員室

 

「というわけでして、今後とも先生方には~....」

 

職員室では教師達の朝礼が行われていた。

 

「では、これにて...」

 

こんこん、っと校舎外につながる扉を叩く音がした。

 

「どちら様でしょうこんな朝早くに。」

 

「自分が出ますよー。」

 

明星達の担任、林田が扉を開ける。

 

「はい、どちらさまでしょうー?」

 

外に居たのは全身黒ずくめの男だった。

 

「あぁ、すいませんここの生徒の"明星 かな"さんに用があるのですが。」

 

「明星 かなですか、その生徒の担任の林田と申しますご用件というのは...」

 

カシュッ。

 

乾いた音。

 

「あっ...がぁっ...」

 

バタッと倒れこみ、体を中心に血が広がる。

 

「えっ...!?」

 

職員室にいた全員がこの光景を目の当たりにした。

 

「先生方、お静かに、我々はここの生徒"明星 かな"に用があるだけだ。」

 

「あなた達一体...!?」

 

「聞かれたこと以外口を開けるな!、じゃないとそこの先生みたいになるぞ。」

 

別の男が倒れている林田を持っているサプレッサー付きの銃で指す。

 

『同志、こちらアルファ班!準備完了です!』

 

「ようし予定通りだな、始めろ。」

 

無線機からの報告に応答し、近くにあった椅子に腰掛ける。

 

「明星博士、娘はいただくぞ。」

 

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午前8時23分、南棟一階女子トイレ

 

「あれ、リボン曲がってる...?」

 

用を済ませ、鏡を見つつ頭の後ろについたリボンを直す。

 

このリボンは明星が幼いときに父からもらった唯一のプレゼントである。

 

「よしっと~。」

 

改めて鏡を見直す。」

 

「(お父さんとは次いつ会えるかな...。)」

 

リボンの鏡越しに見つめ、そんな気持ちになる明星。

 

「よしっ、今日も一日...」

 

バリン!!!

 

ガラスの割れる音、それとともに聞こえる生徒の叫び声。

 

「えっ...!?何...?」

 

突然の音にびっくりする。

 

生徒達の悲鳴は相変わらず聞こえる。

 

「何が起きたんだろう....」

 

そおっとトイレの扉を開け教室の方を覗く。

 

そこにあった光景は、割られた窓ガラス、廊下に落ちたガラス片、銃を持ち

 

黒の服に身を包んだ男達が数名とその足元に手と足を縛られ、倒れている

 

生徒たちだった。

 

「なっ...なにこれっ...!?」

 

音を立てず扉を閉める。

 

「えっ...なんで...何あの人達...。」

 

手が震える。

 

すると、トイレの外で声がする、が全く聞き慣れない国の言葉だった。

 

「日本人じゃない....目的は何なの...」

 

耳を澄ませよく聞くと、聞きなれない言葉の間に"アケボシカナ"

 

自分の名前が話されていた。

 

「私...?この人達私を探してるの...?」

 

確かに先ほど扉から覗いた時、生徒の顔を確認していたのを彼女も見ていた。

 

「なんで私を...?あの教室に私だけ居なかったから...?」

 

すると外からつたない日本語で生徒に質問している声がした。

 

「"アケボシ カナ"か?」

 

「"アケボシ カナ"はどこだ?」

 

「違う...あの人達の目的自体が私....!?」

 

バンッ!バンッ!バンッ!と、銃声が聞こえた。

 

「ひっ....?!」

 

明星の体がはねる。

 

立て続けに続く銃声。

 

「誰を...誰を撃ったの....?!」

 

いろんな想像が頭を回る、が、よく聞くと生徒の叫び声では無く

 

男達の声だった。

 

「......急に静かになった....?」

 

と、こちらに近づいてくる足音がする。

 

「こっちに来てる....!?」

 

足音はどんどんとこちらに近づいてくる。

 

「あぁ......」

 

トイレの前で足音が止まる。

 

明星はその場に座り込んでしまった。

 

音を立て扉が開く。

 

「っ.......!」

 

「かな。」

 

聞いたことのある声だった、

 

さっきまでほんの10分前まで聞いていた声。

 

「えっ....。」

 

そこにいたのはシャルロッタだった。

 

ハンドガンを右手に持ち、左肩にスリングを通されサプレッサーが装着された

 

サブマシンガンを背負っていた。

 

「シャ...ル...?」

 

「助けに来た。」

 

手を差し伸べる。

 

「さっきの音って...」

 

「私があの人たちを撃った。」

 

顔色一つ変えず答える。

 

「撃ったって...えっ....?」

 

「ここに来た人達は皆、明星 かな、あなたを狙ってる。」

 

「ど、どうして...?!」

 

「詳しいことは後、ここから逃げるよ。」

 

「逃げるって...!」

 

明星の手を掴み、トイレを抜け出すとちょうど前から黒ずくめの男がこちらを確認し

 

銃を構えた。

 

「かな、伏せて。」

 

「わっ...!?」

 

シャルロッタは明星の頭を押さえ、姿勢を低くさせ銃を構えた。

 

バンッ!バンッ!と、黒ずくめの男に撃ち込み男は間も無くその場に倒れた。

 

「大丈夫だよ、かな。」

 

明星がそっと顔を上げると、頭から血を流した男が倒れていた。

 

「ひっ....!」

 

明星が後ずさりする。

 

「私は明星 かな、あなたを保護するためにこの学校に転校して来たんだ。」

 

「保護って...私何かした!?」

 

シャルロッタに問う。

 

「ううん、かな自身が何かしたわけじゃないよ。」

 

「じゃあどうして....!」

 

「明星博士。かなのお父さんがテロリストに追われてる。」

 

「お父さんが!?」

 

明星の表情が変わる。

 

「今、行方が分からなくて明星博士を誘き出すためにかなを誘拐してっていうのが

 

あの人達の魂胆だよ。」

 

「それでシャル...あなたは一体...」

 

「私はとある極秘組織に所属するオペレーター、さっきも話した通り、あの人達から

 

かなを保護するためにここに転校生っていう名目で潜入してる。」

 

「にわかには信じ難いけど...、もし本当なら私が捕まったら....」

 

「かなのお父さんはかなを守るために身代わりとして出て来ちゃうだろうね。」

 

「お父さんは今どこにいるかわかるの...?」

 

「私たちも数日前までは分かってたけど、今はわからなくなってしまったんだ。

 

とにかく今はここを離れないと。」

 

シャルロッタが再び歩きだそうとすると、明星は手を掴んだ。

 

「かな?」

 

「私だけ逃げるなんて出来ないよ...」

 

「どういうこと?」

 

「この学校には私やシャルだけじゃない...、他の生徒もいる...私だけ逃げるなんて出来ないよ...!」

 

「他の生徒も助けるって事?」

 

「うん...一緒に過ごして来たんだもん...。」

 

明星がうつむく。

 

「分かった、でももしもかなが危ない状況になったらかなを優先するよ、それでいい?」

 

「うん...」

 

「後、これ着て。」

 

明星に防弾ボディアーマーを渡す。

 

「これは...?」

 

「防弾ボディアーマー、いわゆる防弾チョッキだよ。さっ私たちの教室の前にいた

 

人達から取ったものだけど。」

 

「シャル...。」

 

「?」

 

ハンドガンと敵から奪ったサブマシンガンを再装填し、準備をするシャルに聞く。

 

「人を殺しちゃうことに躊躇いはないの...?」

 

「無いよ、任務のためだもん。」

 

「そう...なんだ...。」

 

ガチャンっとサブマシンガンのコッキングレバーを引く。

 

「行くよ。」

 

「う、うん...」

 

シャルロッタに手を引かれ、校舎を走るのであった。



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5.分裂

1時間後、各教室を回り、黒ずくめの男たちを排除し生徒たちを解放したシャルロッタと明星。

 

そして最後に辿り着いたのは各教師たちが捕まっていると思われる、職員室だ。

 

「先生達無事だといいけど...」

 

「それじゃあ入るよ、3、2、1。」

 

勢い良く扉を開け、銃を構え周囲を確認する。

 

「...クリア。」

 

「先生達は...!?」

 

教師たちは職員室の中で麻袋を頭から被せられ、身動きができないよう手足を縛られていた。

 

その中に一人、腹部から血を流し倒れている教師が居た、林田先生である。

 

「先生!、林田先生!!」

 

明星は林田先生の名前を何度も呼ぶが、反応はない。

 

「...かな、残念だけど林田先生はもう。」

 

「そ、...そんな...」

 

明星は肩から崩れ落ちた。

 

「うぅ...林田先生!!!!!」

 

「かな...」

 

すると突然、職員室のスピーカーから放送が流れる。

 

『小百合・シャルロッタ、体育館まで来い。』

 

「シャル...!」

 

「かなは警察に電話して、私は体育館に行ってくる。」

 

「まって!私も!」

 

「かなは先生達をお願い...!」

 

「わ、分かった...」

 

シャルロッタは明星に教師たちを任せ、一人体育館へと向かう。

 

「(黒ずくめのこの人達は皆、ロシア語を話してた...ということは明星博士を狙ってるのは

 

ロシアのテロリスト...?)」

 

今まで校内で戦闘した黒ずくめの男たちはロシア圏の言葉を話していた。

 

そう考えているうちに、体育館の扉まで到着した。

 

扉を開けると、壇上に一人の男が立っていた。

 

「君が私の部下を次々と倒していった小百合・シャルロッタだな?」

 

「そうだよ。」

 

「普通の高校生ではないな、どこから送り込まれた?」

 

「それを言うと思う?」

 

「それもそうだな。」

 

男はそう言うと、壇上から飛び降り体育館のコートへと降りた。

 

シャルロッタはすぐさま銃を構える。

 

「まぁ待て、これで勝負しようじゃないか。」

 

腰から取り出した二本のナイフ、その片方を床にすべらせシャルロッタの方へ渡した。

 

「いいよ、相手になってあげる。」

 

「女子だからって手加減はしないぞ。」

 

お互いナイフを構え、ジリジリと詰め寄る。

 

「ふんっ!」

 

先手は男の横振り、しかしシャルロッタはそれをかわす。

 

かわすと同時に、男の顔へと刃を滑らせる男はかわしたが頬に浅く入った。

 

「っち、やるじゃないか。」

 

「もう終わり?」

 

シャルロッタが少し自慢げな顔をする。

 

「言わせておけば!」

 

男がシャルロッタに向けて走り、刃を突き立てる。

 

「...。」

 

まるで闘牛士のようにさらりと交わし、男の太ももに斬りつける。

 

「ぐあっ...!」

 

「もう降参したらどう?」

 

シャルロッタは息一つ乱さず、男へ言う。

 

「なんの!!!」

 

再びシャルロッタに斬りかかるが、向かってくる刃をナイフの裏で弾き、弾かれたナイフは

 

宙を舞い、シャルロッタの後方の床に落ちた。

 

「くっ...」

 

「あなたは殺さない、生きたまま拘束して情報をいただくからね。」

 

「それはどうかな...?」

 

男は着ていたベストの前を開けるとそこにはC4プラスチック爆弾が6つ括りつけられていた。

 

「...!?」

 

「さよならだ。」

 

懐から起爆スイッチを出す。

 

「っ....!!!」

 

シャルロッタはとっさに体育館の入口まで走るが間に合わず爆発、シャルロッタは吹き飛ばされた。

 

「...爆発!?」

 

職員室に居た明星にも爆発の振動と音が聞こえた。

 

「た、体育館が!シャルっ...!」

 

数時間後警察が到着し、事件は収束した、かに思えた。

 

--------------------------------------------------------------------------------------

 

「.....。」

 

気が付くと自分のアパートの部屋のベットに寝かされていた。

 

「...大丈夫!?」

 

目が覚めたシャルロッタに駆け寄る明星。

 

「...かな...。」

 

ゆっくりと体を起こす。

 

「あー、頭の包帯とガーゼ変えるね、...あれ...?」

 

包帯を外ずし、ガーゼをはがすと爆発のときに破片が当たったであろう頭部の傷が

 

綺麗に無くなってるのである。

 

「ど、どういうこと...!?」

 

「かな...私、他の人よりも自然治癒力が異常に高くてこれくらいの傷だとすぐなくなるんだ...。」

 

「そ、そうなんだ...」

 

「あんまりびっくりしないね...?」

 

「色々見せられたからね...」

 

明星が苦笑いをする。

 

「どうしてここに...?」

 

「体育館で爆発が起きたでしょ?あの後、外で倒れてたシャルを見つけたんだけど

 

そのままだと警察が来て色々シャルの都合の良くない方に行っちゃうと思ったから...

 

でも病院に連れて行かないと死んじゃうと思ったけど...結局警察が来る前にシャルの家まで

 

運んできたんだけど...。」

 

「爆発...?」

 

「覚えてないの...?」

 

「....。」

 

「もしかして、爆発の衝撃で記憶喪失に...!?」

 

「自分の名前はわかる...それと私の体の特徴も、でもどうしてここにいるのか...思い出そうとすると...」

 

シャルロッタは頭を押さえる。

 

「...どうしよう。」

 

「詳しく今までのことを教えて...」

 

シャルロッタに言われた通り、明星は今までの経緯をすべて話した。

 

「私が...人を...」

 

「本当に覚えてないんだ...」

 

「とりあえずわかったことは...かなを守ること...それとかなのお父さんを見つけること...」

 

「正直私はもうお父さんのことは諦めかけてるよ...」

 

明星がうつむきながら言う。

 

「テロリストに追われてるんだよね...私が...私に助けられる力があるなら...!」

 

「あっ、無理しないで!」

 

シャルロッタはベットから起き上がると、明星の方を向いた。

 

「記憶を無くなる前の自分を探すなら、かなのお父さんを探していくうちにわかるかも...。」

 

「で、でももしまた悪い人たちに襲われたら...」

 

「その時は記憶を無くす前の私が助けてくれる...はず...。それにお父さんのこと

 

簡単に諦めちゃ駄目だと思う。」

 

「シャル...」

 

「必ずかなを守って、お父さんを探して合わせてあげるから...。」

 

そう言うとシャルロッタはまた気絶した。

 

「シャ、シャル!?...っ?」

 

倒れた拍子にシャルロッタのポケットからタブレット端末が落ちた

 

「これは...?」

 

どうやら電子マネーのみの機能がついてるタブレットのようだが、その金額に驚く。

 

「ご....500万ドル...?ということは円に変えると...5億円!?」

 

電子マネーの残高はぴったり5,000,000$と表示されていた。

 



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6.孤立

今回から語り手が主人公に変わります。
↓シャルロッタ、かなの立ち絵

【挿絵表示】



雪の降る街。

 

私はまだ幼い姿だ、これは...夢?

 

街はクリスマスムード一色、広場に立つ大きな針葉樹はクリスマスツリーになっている。

 

幼い姿の私はその街を一人でとぼとぼと歩いている。

 

夢の中の私の意思で歩んでいるのではなく、この幼い頃の私の視界だけを共有しているようだ。

 

夢は過去にあった、頭の記憶に残っている出来事を見せたりするというが

 

あの時の爆発の衝撃のせいか、やはり思い出せずにいた。

 

幼い私は小石に足を取られ、そのまま転んだ。

 

夢のせいか痛みは感じなかったが、視界を共有している私の目に映った擦りむいた

 

足は中々痛そうだった。

 

「大丈夫かい?」

 

ふと、誰かに声をかけられた。声がする方を振り返る、男の人が立っていた。

 

しかし顔に靄がかかっていて顔が判別できない、この人は誰...?

 

彼が手を差し伸べる。

 

幼い私はその手に手を伸ばした。

 

「...ル...ャ....ル...。」

 

かすかに声が聞こえる。

 

「シ....ル....シャ。」

 

聞いたことのある声。

 

「シャ....シャ...ル。」

 

かな...?

 

「シャル、シャル?」

 

私は目を開けた、夢から覚めたんだ。

 

「シャル...大丈夫?」

 

視界がぼやけている、でもかなが心配そうにしている表情ははっきりとわかった。

 

「私、気絶して...」

 

すぐベットの隣の机にある時計に目をやると最初に目が覚めた時から一日経った

 

午前7時過ぎだった。

 

「おはようシャル、あの後さすがに一人にするわけにも行かないからシャルの

 

お家でお泊りさせてもらっちゃった。さっき私も起きたんだけど、シャル寝てる時

 

涙流してたよ?」

 

「えっ...?」

 

目元を拭うと確かに濡れていた。

 

「何か夢でも見てたの?」

 

「うん...私の幼い時の夢、でも覚えてないんだ...」

 

「そっか...。朝ご飯つくろっか、どっちみち今日は土曜日で学校は休みだからね~。」

 

そう言うと、制服姿にエプロンをしキッチンに立った。

 

私が確認した感じだと、教室は机と椅子が散乱し、銃撃戦で壁に穴が開き、ガラス

 

が割れている状況では授業はできないと思う。

 

「私達、警察に捜索されてるかもしれない。」

 

「そうだよね、あの後警察来た時には私達もうあの場所には居なかったもんね。」

 

私の事を考えてあの後私をこの家に運んできてくれたようだ。

 

でもやはり、誰の指示でここまで来たのか、全く思い出せなかった。

 

部屋の角に置いてある黒い大きなボストンバッグとバックパックには数種類の銃器と

 

弾薬、防弾ベスト、その他装備、救急キットやなど、明らかに普通の人間ではない。

 

私は人を殺めることができる人間、それを今までずっとしてきた人間。

 

私はどこで産まれ、どういう風に育って、どんな人生を送ってきたのか、今はそれが

 

一番知りたかった。けど、今はそれを知るすべはなかった...。

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

「はいっ、できたよ~。」

 

お皿に盛りつけられた目玉焼き、ソーセージ、レタスのサラダ。

 

白米と日本のスープ、お味噌汁。

 

「おいしそう...」

 

「簡単な感じだけど、ちゃんと食べないとね~。」

 

「いただきます。」

 

湯気のたったお味噌汁に手を伸ばす。

 

「シャル、日本の食事のマナーは忘れてなかったんだね~」

 

「えっ?」

 

「お味噌汁があるときは最初にお味噌汁をいただくっていうのがあるんだよ~。」

 

偶然だったのか、それとも私が思えていたのか

 

どうやらやっぱり、覚えていることもあるみたいだ。

 

「あったかい...おいしい。」

 

「よかった~!、じゃあ私もいただきます~!」

 

黙々と箸を進める最中、ふと私はテレビを付けた。

 

『都内の高校が謎の武装勢力に襲われ死者が出ています。』

 

『なお現場から姿を消した二名の女子生徒を警察は捜索しています。』

 

「やっぱり。」

 

「そりゃそうだよねぇ...」

 

「かな、ご飯食べ終わったら一端家に戻って荷物まとめて。」

 

「えっ、どうして?」

 

ご飯を口に運びながら首を傾げる。

 

「記憶が定かじゃないけど、多分昨日戦った人たちはあくまで氷山の一角...もしかするともう

 

私達の居場所を特定してるかも知れない、それに警察のこともあるし。」

 

「なるほど...」

 

「とうぶん家には帰ってこれないかもしれない」

 

「お父さんの居る場所の手がかりもつかめてないしね...」

 

私は食べ終わり、箸をおいた。

 

「必ず見つけて会わせてあげる...!」

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

一時間後、支度を済ませ家を出た。

 

お互いの家は特定されてると予想し、待ち合わせは近くの駅にした。

 

私の荷物はバックパックに3日分の着替えと救急キットなどの小物。

 

ボストンバックに銃と弾薬が入っており、かなりの重さ。

 

銃の使い方は体が覚えてるのか、手間取ることはなかった。

 

誰かと連絡を取るために使ってたであろう衛星電話は爆発の衝撃で壊れていた。

 

通り過ぎる人が私の事を目で追う、バックパックを背負った銀髪の少女が住宅街をこの時間に

 

歩いていたらさながら海外から来たバックパッカー、見るのはあたりまえだけど。

 

そして数分歩いたところで駅前に到着。

 

「かな。」

 

「シャル!」

 

かなはカーディガンにロングスカート、リュックにバックという出で立ちだった。

 

「シャル、怪しまれなかった?」

 

「?、どうして?」

 

「こんな可愛い子がこんな時間に大きいリュック背負って歩いてたら怪しいもん。」

 

「っ...。」

 

「それで、これからどうしようか...?」

 

家からは出たものの行く宛がない、と思っていた矢先、声をかけられた。

 

「君達、ちょっといいかな?」

 

身長の高い、180cmといったところだろうか、若い男の人が立っていた。

 

「?、どうしました?」

 

かなはその男の人に返答をする。

 

しかし私はボストンバックを静かに地面に置き、ポケットに隠してある銃に

 

自然と手を伸ばしていた。

 

「君は明星かなさんだね、そしてそこにいる君は..."シャルロッタ・リリェホルム"」

 

「かな、下がって。」

 

「えっ...?」

 

私はかなの腕を引っ張りこちらに引き寄せた。

 

「あぁ、紹介が遅れたね自分は極秘組織"フォルセティ"の日本人オペレーター、武器兵器

 

から移動手段のサポートを任されている"河田 守"だ。まぁ、言っちゃってるから極秘

 

じゃないんだけどね。」

 

彼は苦笑いした。

 

「極秘組織...?」

 

「君が所属してるところだよ、今回の作戦で君のサポートを任されたのが私だよ。」

 

「私が...所属...極秘組織...。」

 

思い出そうとすると頭がズキズキと痛む。

 

「河田さん、でしたっけ、シャルは昨日学校で起きた事件のときに爆発の衝撃で記憶の

 

一部がなくなっちゃてて...」

 

私の代わりにかなが事情を話してくれた。

 

「高校に武装集団が侵入、死者1名負傷者多数のあの事件だね。立ち話もあれだし、私

 

の隠れ家に案内するよ。」

 

彼が本当のことを言っているのか私にはわからなかったが、今はこの人から

 

色々と情報をもらうことにする。

 

10分ほど歩き、人通りの少ない路地に入る。

 

「さっ、入って。」

 

中に入ると壁の両端ある大きな本棚、それに挟まれた形でPCの置いてあるデスク、来客用の

 

ソファーとテーブルがあり少し殺風景な印象だ。

 

「どうぞ腰掛けて、話の続きをしようか。」

 

彼は私達をソファーに案内すると置いてあったティーカップを手に取り

 

ティーバッグを入れ、カップにお湯を注ぎ私達に出した。

 

「あの武装集団は明星かなさん、君を狙ってたんだ。」

 

「はい...、それはシャルから聞きました。お父さんも追われてるって...」

 

「そうだね、そしてシャルロッタは君のお父さんと同じく狙われる可能性のあった

 

君を助けるために同じ高校に転校生として潜入して監視してたわけだ。」

 

「そこに案の定、人質として捕まえるためにあの学校を襲った...。」

 

「僕はあの現場に居たわけじゃないから詳しくはわからないけど、あれから

 

シャルロッタと連絡が途絶えたって上から連絡があって君の隠れ家の近くを探ってたら

 

見事、二人でいる所を見つけたってわけ。警察より早くてよかったよ。」

 

「それで...私とシャルはどうすればいいんでしょうか...?」

 

「君のお父さんは変わらず行方不明、もうすでにテロリストの手に落ちてる可能性は

 

無きにしもあらず、こっちでも捜索はしてるみたいだけど手がかりはつかめてないんだ。」

 

「そう...ですか...。」

 

かなは俯いてしまった。

 

「そしてシャルロッタ、君のことだけど。ここに来る間に君に起こったことを上と

 

メールでやりとりした結果」

 

彼は私の目をじっと見つめた。

 

「"消せ"の一言だけ帰ってきたよ。」

 

「それってどういうことですか...?」

 

かなが聞く。

 

「"消せ"つまり"シャルロッタの存在を抹消しろ"ってこと"殺せ"ってね。」

 

「そ、そんな!?」

 

「記憶がなくなってしまった以上、下手に動かれるわけにも行かないしもしも敵に

 

捕まってしまったら不利になってしまうからね。」

 

「シャルを...この子を殺すんですかっ!?」

 

かなは大声で目の前に座っている彼に言った。

 

「いや、僕は殺すつもりはないよ。それに僕はもう組織の人間じゃないしね。」

 

「どういうこと...?」

 

私は聞いた。

 

「割が合わない、ただそれだけだよ。やり方がちょっと気に食わないし

 

僕に人殺しは向いてないからね。」

 

彼は首を横に軽く振りながらそういった。

 

「でも僕が君を殺さなかったとしても組織の人間が君を消しに来るだろう。彼らは

 

君と同じ、戦闘のプロだ君だけじゃ手に負えないだろう。君はもう覚えてないだろうけど

 

僕は君のサポートを2年位前からしているんだよ?」

 

「それってつまり...助けてくれるってことですか...?」

 

「そういうことだね、移動手段とか、その他もろもろは僕がサポートする。

 

でも君を敵から守れるほど人数も居ない、君を抜いて動けるのは僕とシャルロッタだけだから

 

だから君にも少し手伝ってもらうよ、自分の身は自分で守るってね。」

 

「でもかなは普通の高校生だよ、危険なことがいろいろ...」

 

「シャル、大丈夫...!守ってもらってばかりじゃ釣り合わないもん、私もサポートするから!

 

その代わり、私のお父さんを必ず救って!」

 

「かな...。」

 

「明星博士をどこの誰よりも早く見つけて、保護するのが僕達の任務。僕達はいろんな

 

組織を敵に回すことになるよ、政府も、国も皆味方にはなってくれないと思った方がいい。」

 

「覚悟はできてるよ。」

 

「う、うん私も...!」

 

こうして私達は、かなの父親の行方を追うためにこの世界から孤立したのだった。

 




シャルロッタのボストンバックに入っている、今後出る銃器紹介

・MAGPUL FPG(Folding Pocket Gun)
【挿絵表示】

アメリカの銃器設計者"ユージン・ストーナー"が80年代に開発したARES FMGを元に
銃器用アクセサリーメーカーのMAGPULが改良・開発した折り畳み式短機関銃。
折り畳めばポケットにぴったり入るサイズになり、その形は全く銃には見えない。
9x19mmパラベラム弾を使用し、その中身はマシンピストルGlock 18。

・Glock 17 (シャルロッタカスタム)
【挿絵表示】

オーストリアの銃器メーカーであるGlock社が開発した自動拳銃。
プラスチックを多用した自動拳銃として有名だがこれをシャルロッタは
カスタマイズし、精密性の高いSALIENT ARMS社製のスライドとバレルに変更。
グリップ周りも自分の手に馴染むように加工されている。
高校潜入時はバッグの中に隠し、テロリスト襲撃後、かなを守るために使用した。
(カスタム参考はタクティカルトレーニングインストラクターの
クリス・コスタ氏のGlock 17を参考に)

・Ak 5C(シャルロッタカスタム)
スウェーデン軍が採用しているAk 5CはベルギーのFN社製アサルトライフルFN FNCを
スウェーデンの気候条件に合わせて改良した銃Ak 5のカービンタイプ。
シャルロッタはこれをカスタマイズし、ストックをMAGPUL社製の
ACRタイプフォールディングストックに変更、同社製のAFG(Angled Fore Grip)を装着。
Aimpoint T-1マイクロドットサイトを載せ、素早くサイティングできるように
している。

*挿絵は順次追加予定。


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