テンプレ異世界物のよくある宿屋酒場物語 (ドラソードP)
しおりを挟む

第一章 営業再開! 宿屋酒場ユートピア
プロローグ まどろむ記憶、見えぬ明日


追記:現在、一話が長い物語を二分割する編集を行っております。
流石に10000文字を毎回だと話の進みも悪いし、見づらいし、更新も遅くなるので。
30分アニメのCMだと思ってくださいな。
細かく投稿していくのでヨロシク!!


プロローグ

 

 

 かつて世界に神は居た。

 それに世界は争いで溢れていたらしい。

 

 そこには勇者も存在した。

 勇者より祖父の方が偉大だった。

 

 絵本の話は真実だった。

 それでも僕は争いを知らない。

 

 その日神は死んだらしい。

 それでも今は続いている。

 

 少年は窓際で陽の光を浴びながら、そんな事を考えていた。しかし少年がそう感じ取ったのも、先の大戦を知らないのも無理は無い。窓から眺める先の世界には、争いなんて一つも無いからだ。少年が小さい頃から、昔の大戦をよく聞かされたが、それは人伝。実際大きな争いなど経験した事が無かったから、分かりようが無かったのだ。

 少年が耳を澄ますと、今日も外では無邪気に子供達がはしゃぎまわり、肉の新鮮さをアピールする肉屋の大声と、吟遊詩人の歌声が聴こえる。この平和な日常が示す通り、彼にとって、今まで生きてきた中で一番大きな争いも、せいぜい近場の雑貨屋が強盗に襲われた話程度だ。戦争と言われてもあまりに途方が無い話すぎて、まるで絵本や伝承の様な、ひとつの物語のようにしか感じない。

 

 何のために産まれ、どこに行くのか。

 

 代わり映えのしない毎日の中で、それでも必死に生きて、何かの為に自らの人生を捧げる人は、何がそうさせるのか。

 

『夢』とは、なんなのか。

 

 そんなことを考えながら、少年は幼い頃の祖父とのやり取りを思い出す。

 

『俺はこんな歳になったが夢がある』

『ゆめ?』

『そうだ』

 

  それは遠い日の祖父との思い出。

 

『俺は、理想郷を探している』

『りそうきょう?』

『そうだ』

 

 過ぎ去ってしまった在りし日の思い出。

 

『――いたなら後から直せばいい、いつか――は――になる、それじゃ未来の――の前借なんだ。起こってしまった事実は――』

 

『――な――が――なくなった空白はステーキじゃ――れない。逆に、飢えは大切な人の愛だけじゃ満たせない。だから、そうなる前に――向き合って、根本的な問題を――しなければならない』

 

 そこは果たして何処だったのか。風の匂いだけはしっかりと覚えている。

 

『悲しいが、神様でもない俺には、世界のあり方その物を――ることはできない。――も、――も』

 

 それは誰かに向けた言葉だったのだろうか。それとも、自分に向けた自責の言葉だったのだろうか。或いは誰にも向けることのできない行き場を失った言葉だったのだろうか。

 

『だが……きっと、少しでも心に――があれば、――ぎが――ば、無意味に――を――る必要はなくなるはず。そしてだれかと――り、――合い、『繋がり』の――はきっとどんなに――な――でも塞ぐことができる、どんな――でも乗り越えられるはず。俺はそう信じている』

 

『――がわかる人間になれ。そして、――――――を恐れるな』

 

  老人は少年に小指を突き出す。その小指の意味をなんとなく理解していた少年は、同じようにして小指を差し出す。

 

『10年後、またここで会おうぜ』

 

 思い出される記憶の断片。その多くは、時間の流れの果てに零れ落ちてしまっている。だがそれでも、その意気揚々と語る祖父の顔だけは少年の脳裏に焼き付いていた。一切曇りのないあの笑顔。本当に理想郷などという与太話を信じている、純粋な瞳。まるで、自分と祖父のどちらが少年だったのか。旅支度をしながら少年はそう考える。

 

『……うん!!』

 

 

 でも、そんな少年の様な笑みを浮かべる祖父は、世界で一番格好良かった。

 

 

「……夢なんて、簡単に持てると思っていたけど」

 

 それは16歳になってから、半年程経った朝だった。それは飛び込んできた突然の報せ。

 

「僕には、そんな立派に生きることはできなかった」

 

 その日、偉大な祖父が死んだ。

 

 大きな疑問を残して、旅立った。

 

 答えを唯一知るその存在は、今では悠久(じかん)の彼方へ。

 

 祖父が死んで二カ月、少年は父から受け継いだ一本の剣と、頭に黄色のバンダナを鉢巻き状に巻き、見慣れた窓の景色に別れを告げる。

 

「父さん、母さん、じゃあ俺、行ってくるよ!!」

 

 少年は、祖父の想いを、願いを、そして自分の未来を確かめる為に旅立った。あの憧れた背中を追うために。そして、あの幼き日に祖父から出された、宿題の答え合わせをする為に。命尽きるその直前まで、祖父が見つけようとした理想郷へと。

 

『夢はできたか? 生きる意味は見つけられたか?』

 

 何故自分なのか。何故理想郷にこだわったのか。夢とは、その命を最後の最後まで費やしてまで、祖父が欲しかった物とは。

 何故、何故、何故、結局答えは何一つ分からなかった。だから、その背を追うことにした。

 

『俺はついに見つけたぜ、理想郷を』

 

 一枚の手紙を握りしめて。少年は遥かなる大自然へと飛び込んでいく。

 理想郷を目指して、遠い遠い場所に旅立ってしまった祖父の背中を追って。長い長い人生の旅。その答えを見つけるために。

 

『お前に理想郷のすべてを託す』

 

 

 

===========================================

 

古びた剣

 

祖父から父に、そして少年に託された、未来を切り開くマスターキー。

一般的に流通している長剣より全長が少し長く、伸ばしたひし形を思わせる特徴的な刀身をしている。

大剣と呼ぶには小さすぎ、長剣と呼ぶには取り回しが悪い。だが刀身は特殊合金で形作られており、重量は程々に押えられている。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

経営ファイル1 不安な幕開け

プロローグを除けば第二話です。
なぜわざわざプロローグと一話を別々にしたのかと言うと
雰囲気がいいからです。

2024/1/24 追記
世界観の掘り下げとお遊び的な要素として話の最後に
よくあるステータス表記的なのを入れてみました!!
その他解説なども追記していくかも?
ますますよくある物語に……


経営ファイル1

不安な幕開け

 

 

 少年は目の前に突きつけられた無慈悲で、理不尽な現実から、ただただ必死に目を逸らそうとしていた。

 その手紙に書かれていた目的の場所を目指し、野を越え、山を越え、森を抜け、川を渡り、時には魔物と戦い、嵐にも吹かれ、荷物の大半を失い、途中からはサバイバル同然の生活を強いられ、何日も、何日も、何日もかけ、ようやく辿り着いた場所が、お化け屋敷同然な、だだの廃墟だった現実からだ。

 

「まるで、台風にでも襲われたかのような風貌だけど……」

 

 確かに目を瞑れば、見たくもないそれは勿論見えない。だがそれは、そこにある事実が書き変わった訳では無い。ただ一時的に隠し、誤魔化しているだけにすぎないからだ。それは少年自身がここまで辿り着くのに、心底苦労したからこそ一番理解していたことである。

 

「どうか、間違いであって欲しい……」

 

 少年は諦めて目を開けると、もう一度手紙に目を通す。そしてそこに書かれた、目的地の特徴を注意深く見る。大雑把で限られた情報ながら、しかし対象の建物を判別するには、どれも充分な量の情報だ。

 

『木造三階建てでそこそこ大きめの宿屋』

 

 まず一つ目の特徴、木造三階建て。確かに目の前の建物は三階建てで、少し古臭い木造建築だ。だが、そんな建物はどこにでもあるだろう。

 

『建物の横に巨大な大木が生えている』

 

 そして二つ目の特徴、大木。宿屋の隣には、建物と同じ位の高さになる木が生えている。だが大木の捉え方や定義は人によって異なるだろう。だからこれで確定したかどうかはまだわからない。

 

『ユートピアという宿屋の名前が書かれた看板がある』

 

 それでは三つ目の特徴、看板。これで全ては確信となった。どこからどう見ても、その宿屋の入口には『ユートピア』と大きく書かれた、壊れかけの看板がある。これでもう事実からは逃げられない。

 

「……じいちゃんが言ってた理想郷って、本当にこの宿屋のことだったのかなぁ?」

 

 目の前に書かれた看板の『ユートピア』という文字を見て、少年は大きなため息を吐く。

 

「前を向けば草原、後ろを振り向けば森、向こう側には岩場。湖や川もあって、確かに空気も良い。普通に旅行とかで来るなら、これほどまでに適した場所はないかもしれないけど……」

 

 道中は天候に恵まれず、馬車の地方定期便は予定の八割で停止。徒歩に切り替えるも、再びの大嵐で荷物の大半を失ってしまった。これだけ書くと彼の旅路は過酷ではあったものの、単なる長旅くらいの印象になるだろう。しかし、彼の移動距離はおおよそ300km。この旅は、過酷その物であった。

 

「来る前から局地的大嵐の話は聞いていたけど、まさか自分が当たるとは」

 

 出発前、少年が父の知り合いの傭兵から聞かされていた、局地的大嵐。ここ数か月前から、この地方で目撃されている、通り雨のようにすさまじい雨風が降りつける現象だ。酷い時には、まるで竜巻が通過した後のように、暴風雨であらゆるものが削り取られることもある。にわかには信じがたい天変地異だったが、実際それを目撃して、しかも自らの身で体感した少年は、その恐ろしさを知っている。

 

「建付けも悪いし、ここもまるで嵐に吹かれたみたいだ。建物が残っていただけ、幸運と考えておくべきか……」

 

 背後から照りつける陽に照らされ、その白にも似た銀髪と、腰にぶら下げた魔石が煌びやかに光る。

 小柄という程では無いが、平均よりは少しだけ小さな身長、幼さの残るその顔つき、おおよそ長旅をしてきたようには見えないその軽装が、広大な大自然の前にある一種の違和感を生み出している。

 

「……とりあえず、中に入ってみない事には始まらない。もしかしたら、中は意外と綺麗だったりするのかも」

 

 少年は自分に言い聞かせるように独り言を言うと、その腐りかけていて、今にも倒れてしまいそうな木製の扉に手をかける。そして力を込めると、扉は鈍い音を出し、ゆっくりと開いていく。

 

「中は結構広いけど……だめだ、やっぱり外観と同じかな」

 

 さて、扉を開けた向こう側には、明かり一つついていない薄暗い闇が広がっていた。窓は固く閉ざされ、壁に空いた小さな穴や、ボロボロのカーテンの隙間から漏れる、僅かな日光以外殆ど光という光は無い。そんな建物の中はまるで、外界から隔離されているかの様な、異質ともとれる閉鎖感を出している。

 

「そもそもこの感じ、嵐に吹かれる以前の問題だったんじゃ?」

 

 実際、建物の広さ的な問題もあるのだろうが、既に入り口の時点で部屋の中はあまりよく見えない。更にその暗さのせいも相まってか、そんな部屋の無駄なまでの広さがより際立つ。

 恐らく宿屋としてまともに機能していた頃には、ここのロビーも多くの人で賑わっていたのだろう。そう考えると、少年はなんだか寂しい様な、切ない様な、そんな気持ちを感じられずにはいられなかった。

 悩んでいてもことは進まないと、諦めがついた少年は勇気を出し、建物の中へと進む。闇の中には微かにカウンターの様な物が見える。更にその前には、木製のテーブルやイス、掲示板のようなものが壊れて散乱していた。よく見ると、カウンターの奥にある棚には酒瓶や割れた樽などが置かれており、小さいながらバーか酒場の様なものを経営していた跡も見られる。つまり、ここはただの宿屋ではなく、俗に言われる宿屋酒場か、冒険者酒場、冒険者ギルド、或いはそれに近い物だったのだろう。もしそうだとしたら、ここは見た目の大きさ通り、それなりの規模の宿屋だったことになる。

 

「あ、あのー……お邪魔しまーす!」

 

 少年はその幽霊でも住んでいそうな宿屋に一言挨拶をしたあと、更に奥へ、奥へと恐る恐る進んで行く。もっとも、挨拶を言った後に、そもそも今は無人の筈だから挨拶をする必要は特に無かったよね、と思ったのだが。

 

「……誰だ?」

「ひっ!?」

 

 しかしそんなことを考えていたのも束の間、突然返ってくるはずの無かった返事に声をかけられ、少年は驚き裏返った声をあげた。

 驚いた少年は辺りを見渡し、部屋の奥の方を注意深く見る。すると、暗さのせいで姿はほとんど見えないが、大きな影が壁にもたれかかった状態で座っている、ということがかろうじてわかった。

 

「あのー……すいません、どちら様――」

「質問を先にしたのは俺の方だ。まずはそっちから名乗るってのが、筋ってモンじゃないのか?」

 

 男の声が冷たく遮る。その圧に抑えれ、ライトは恐る恐る答えていく、

 

「……ぼ、僕の名前はライト。この宿屋を経営していた……先代店主の孫です」

「……なるほどな、あの先代の爺さんが言っていた孫か」

 

 ライトが名前と身分を答えると、男の口調が少しだけ和らいだ。

 

「そっちが名乗ったんだ。じゃあ俺も名乗るか……と、言いたいところだが生憎、名前なんてもんは随分と昔に、酒の酔いと一緒に忘れちまっててな。へへっ……意地悪なことしちまった」

 

 そう言うと男は、その酒で潰れて嗄れてしまったのであろう声で、話を続けていく。

 

「まあ……なんだ、俺はお前の爺さんが経営していた頃からの、この宿屋の常連でな。行先が無い俺は、爺さんが亡くなってここが無人となった後、ちいとばかり寝床として貸してもらっていた」

 

 そういうと男はゆっくりとその場に立ち上がる。そして、覚束無い足元を支えるようにしながら、壁に寄りかかった。

 

「もっとも、流石にこの広さだから隅々まで手入れまではできとらん。何より最近は、嵐のような通り雨が多くて窓は割られるわ、物は吹き飛ばされるわ、飛んできた石ころで壁や天井は穴ぼこだらけにされるわ。挙句雷が落ちた時はついに屋上から三階にかけての一部が破壊されちまった。お陰で雨風をようやく凌いで、寝泊まりするのが限界のこのザマだ」

「僕のじいちゃんを……知っているんですか?」

「そりゃあな、良くうまい酒を仕入れてくれたもんよ。あの爺さんは味ってものをよく分かっている人だった」

 

 暗闇に目が慣れてきたせいか、ライトの視界には男の姿がようやく、少しずつではあるが見えてくる。影だけで顔等までは繊細に見えないが、少なくともその低音で太い声に似合うだけの、大きな体軀をしていることだけはよく分かった。

 

「で、ここに来たということは、お前さんがここの二代目店主になるのか?」

「一応、そういうことになりますね」

「まったく、あの爺さんから随分と厄介な物を押し付けられたな……」

 

 ライトは声の低さや話口調、見知らぬ相手に対してのやたらと落ち着いたその様子からして、相手は年季の入った男性だということがすぐに分かった。そして同時に、自らの祖父の話を即座に理解していたことから、危険な人物などではなさそうだな、と判断することにした。

 ではしかし、今度はその男性は何故、こんな山奥の廃れた建物にいるのだろうか。再び疑問が残る。

 

「押し付けられた……っていうのは多分、少し違います。この店を継ぐと決めたのは、紛れもない僕の意思ですから。ただ、現物を見たら少しだけ……僕の予想とは違うものでしたが」

 

 少しだけ、とは口先では言ったものの、やはり本心では大分違う物だった。彼は宿屋と聞いて、もっと綺麗で、扉の立付けも良く、都会にあるような物を期待していたからである。

 だが、実際にその目で見たものはまるで、廃墟同然のオンボロ宿屋状態だった。その頭の中で投影されていた映像とのあまりにもなギャップに、非常に驚かされていた。もっとも、最初からある程度の覚悟を決め、家元を出て来た彼にとっては、この程度のことで引き返すつもりは無かったのだが。

 

「じいちゃんとは、仲良かったんですか?」

「生憎今日は酒の回りが強い。あまり上手いことや細かいことは話せないが……」

 

 男は何か言葉を絞り出そうと悩み続ける。そして暫く何かを考えたあと、こう続けた。

 

「……ビッグな男だった。俺なんかより夢も、抱えてる物も、きっとな」

 

 たった一言だったが、そこにライトは祖父の生きた『時間』を感じた。たった一言、だが、それだけでじいちゃんがどのように生きてきたのか、この人が本当に信頼できる人間なのか。なんとなく、全てを理解した。

 

「……小僧は、これから一人でこの宿屋をやっていくのか?」

「当分はそうするしかないですよね。今後、この宿屋を営業出来る程度にまで綺麗にし終わったら、従業員さんとか、メイドさんとか、事務員さんとか、できれば専属のそういった人達を雇っていたいんですけど」

「一応最初に言っておくが、俺はここで働く気は無いからな。それが嫌なら別に、今すぐにでも追い出してもらって構わねえ。言ってしまえば俺は今、店主が居ないことを理由に、他人の店に居座っている不法滞在者だからな」

 

 とは言っているものの、ライトはこの人がじいちゃんのいなくなった宿屋を守っていてくれていたのだろう、と確信をしていた。根拠はないが、否定するには少々人が良すぎる。この建物の外部からの遮断感。仮にこの人が山賊か何かだったとしたら、すでに自分は襲われているだろう。

 

「どうせまだ、宿屋の開店までは時間かかりそうですし、じいちゃんの知り合いの方だというなら、別に居てもらっても構いませんよ。僕も、この無駄に広い廃墟に一人っていうのはなんだか寂しいですし」

「寂しい……ヘッ、やっぱりまだ小僧じゃねえか。まあそれでも、このお化け屋敷同然の宿屋を引き継ごうという、その度胸は認めるが」

「一応、僕もそれなりの覚悟はしてきているので」

 

 ライトの言葉を聞き、男は一瞬だけ笑いをこぼす。何を感じたのか、何を思ったのかは分からないが、ただ1つわかるのは、入口に立つ逆光の影は、男の見覚えのある人物にそっくりだったということだけだった。

 

「……それじゃあその覚悟、口先だけのものにならない様に気を付けろよ」

「はい! 今日から店主、頑張っていきます!」

「……変わらないな、お前と」

 

 男は最後に何かを呟いた。ライトは聞き返そうとしたが、男はライトに興味を失ったのか、或いは酒の酔いが辛かったのか、再び床に座り込んでしまった。そしてそのまま男の次の言葉が出てこない辺りを見ると、どうやら眠ってしまったようだ。

 とりあえず、声の主が悪い人等ではなくて良かった、と安心したライトは、緊張して強ばっていた体から漸く力を抜く。

 

「お酒、こんな山奥でどっから持ち込んだんだろう……」

 

 そんな疑問はさておき、男との会話を終えたライトの意識は、再びこのオンボロ宿屋の方へと向いていた。

 これから先どうしていけばいいのか、どうやって宿屋を開店できるまでに立て直していくのか、というかそもそも、どうやってこんな山奥の廃れた宿屋で生活をしていけば良いのか。そんなことを頭の中で考えながら、彼は荷物を床に下ろす。

 

バッギィィィィッッッッ!!!

 

 しかし、こうして一息つこうとしたのも次の瞬間、今度は突然彼の背後で何かが破壊される様な、砕け散るような、とにかくとても大きく鈍い音がする。

 静寂を突如として引き裂いた、不快な破壊音。ライトは驚き、咄嗟に後ろの方を振り向く。すると、入口のドアとその周囲が蹴破られていた。そこには砂ぼこりと逆光で繊細には見えないが、小柄な影が片足を前に突き出した状態で立っている

 

「うーわ、きったな……って、あれ? もしかして、先客の方?」

「なっ……!?」

 

 あまりにも非常識としか言えない、その暴力的な行動。しかし声の主はあっけらかんとした感じで話しかける。まるでその行為がさも当然で、何もおかしくないとでも言いたげに。

 

「……なによ、黙ってないでなんか答えなさいよ」

 

 埃が消え、外からの光にようやく目が慣れてくる。するとその影の主がメイド服を着た赤髪の少女であることが徐々に分かってきた。その手にはとても大きなカバンを持っている。

 

「……だっ、誰ですかあなたは!?」

「なんでそんなバケモノを見る様な目で、こっちを見るのよ」

 

 驚き硬直するライトを尻目に、少女は気だるげに話す。そんな彼女と突然の出来事に、彼は言葉を失うことしかできなかった。暗闇からの突然の声にも少しだけしか動じなかったライトではあるが、流石にこの事態には驚きを隠すことができない。

 

「い、いやだって、いきなり人の店を破壊して誰かが入ってきたら、誰だってそうなるでしょ!!」

「人の店……ということはじゃあ、アンタがあの爺さんが言っていた孫で、ここの新店主?」

 

 赤髪の少女は手に持っていたカバンをボスンと床に置く。そして腕組みをすると、淡々と話し始めた。

 

「アタシはアンタの爺さんに雇われやってきた、まあ……なに、見ての通りメイドよ。良かったわね、アタシと言う最高の札を引けて。アタシを雇った爺さんに、死ぬほど感謝しておきなさい」

 

 ライトは、ようやく頭が状況に慣れてきた。一連の出来事に興奮状態だった脳がようやく落ち着いてきて、今度は突然冷静になってくる。おかげで少女の顔がとても端麗で、かわいいこともわかってしまった。

 

「と、言うわけで……アタシの名前はガーネッタ。ガーネッタ・フレイ。まっ、そういう訳で今日から宜しく!」

 

 彼は無言で、ただただその場に立ち尽くすことしかできなかった。何故か、彼女があまりにもかわいかったから見とれていた? はたまた怒りのあまり言葉がでてこなかった? そう、答えはそのどちらでもない。

 ライトの頭は今、この短期間に押し寄せるあまりにもの情報量に、緊急停止せざるを得ない状況に追い込まれていたのだ。

 

 廃墟の宿屋、謎の居候の男、自称メイドの破壊魔系少女。そして、祖父の真意と見えない未来。果たして、赤の素人による倒壊寸前の宿屋の経営は、こんな調子で上手くやって行けるのだろうか。と言うかそもそも、宿屋を営業可能な状態に建て直すことすら、彼には、彼たちにはできるのだろうか。

 

 晴れ渡る様な青空のその日。とある空気の澄んだ、山奥の廃墟にて。止まった時計の針は、再び動き始める。

 

 これより宿屋酒場ユートピア、営業再開である。

 

===========================================

 

■ライト■

年齢:16歳

肩書:楽園の若き店主

体力:C  筋力:C

魔力:F  俊敏:B

 

能力

・サバイバルの知識

・商売の知恵

・????

・????

・????

 




【次回予告】

 他界した祖父から山奥の廃れた宿屋を受け継いだ少年、ライトは宿屋に住み着く酔っ払いのドワーフオヤジと、ガーネッタと名乗るメイドの少女との衝撃的な出会いを迎える。
 そして衝撃の出会いから早くも数日が経ち、ライトとガーネッタは地道ながらも宿屋の修復や食料調達、周辺地域の探索を進めていたのであった。
 そんな中、宿屋裏の森林の更に奥地に潜るため、ライトはガーネッタに同行するように頼むのであったが……

 淀む空気、うねる疾風、狂気に蠢く魔物たち。未来の光は瘴気を断ち、メイドの少女は爆炎と踊る。

次回、異世界テンプレ物のよくある宿屋物語
第2話『そして物語は始まりへ』

ご期待ください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

経営ファイル2 そして物語は始まりへ(前編)

題名の通り、物語の始まりです。
今回の話ぐらいからから、自分の書きたい作品が
よくわかってくるのではないでしょうか。

ちなみに、影響を受けた作品は山のようにありますが
その中にマ〇クラとル〇ファクがあるのは、見ていれば言うまでもないと思います。

作者は本を読むよりもゲームのシナリオで育ってきた生い立ち故に……

そんなこんなで始まります。
いろいろ作者が影響を受けた作品なんかも想像しながらどうぞ、お読みくださいまし!
ちなみに毎日投稿は(多分)無理です。社畜故、N●Sとマ〇ターデュエルの奴隷故に……


経営ファイル2 そして物語は始まりへ(前編)

 

 

 それは高知に広がる大自然。前を向けば草原、振り向けば大森林、遠くを見渡せば岩山から荒地まで。

 空には鳥――時々ワイバーン。人工的な造形物など、ここを除けばどこにも見当たらない。よく言えば抑圧的な世界からの解放、悪く言えば文明社会からの完全な孤立。一般の人間が見慣れたそれとは、まるで別次元の世界である。

 そんなある種、幻想的ともとらえられる世界でも日は昇り、やがて沈む。そして月が浮かび、またやがて沈む。月日の移り変わり(ときのながれ)だけはこの世界が地続きである以上、変わらずそこにある。そんな非日常の中の日常は、未開の地の冒険者たちに、ささやかな安心感と明日への希望を与える。

 

「ふぁ〜……あ……」

 

 大草原の端、森林地帯を背にして建つ一軒のボロボロの宿屋。その敷地の中に構えられたテントの中から、一人の少年が欠伸をしながら出てくる。

 

「……テントでの寝起きには慣れてるけど、さすがにベット以外で連続で寝た回数は、記録更新かな……」

 

 少年は伸びをすると、外着に着替える。そして防具を装着し、無骨な長剣を背負う。最後にお気に入りのバンダナを、ハチマキ状に頭に巻いた。

 少年の髪は白髪にも近い美しい銀髪だ。外に出ると朝日に照らされ、まるで磨かれた銀食器のようにきらびやかに光る。

 日の光を浴びつつも、冴え切ってない頭のまま宿屋に向かう。

 

「……う~ん……おはよう、ガーネッタ」

 

 宿屋に入ってすぐ、メインのエントランス。そこではメイド服を着た赤髪の少女が、涼しげに箒を掃いていた。

 

「おはよう。相変わらず早起きね、アンタ。店主らしく、寝坊でもしてきたら?」

 

 少女はふてぶてしく挨拶を返す。彼女はオンボロ宿屋の若店主・ライトに仕える、自称メイドの少女ガーネッタである。

 

「ちゃんと、仕事はしてるんだね」

「アンタと同じく、アタシも"できた"人間だから」

 

 二人は顔を合わせるなりイヤミの応報を繰り広げる。だが、それも無理はないだろう。二人は今から少し前、最悪で、破滅的な出会いをしたからだ。

 

 そう、あの衝撃的な出会いから数日。話はその出会いの日に遡る。

 

 少年、ライトは祖父の経営していた宿屋を引き継ぐため、僻地のここまで数週間かけやってきた。しかしいざ到着してみれば、宿屋は嵐にでも吹かれたのか、廃墟寸前の有様。しかもそんな現実に絶望している暇もなく、入り口のドアをけ破り『赤髪の悪魔』が現れる。

 赤髪の悪魔もとい、メイドの少女ガーネッタが話す限り、彼女はライトの祖父が生前、ライトのサポートの為に遣わしたメイドとのこと。最初は懐疑的だったライトだが、彼女から見せられた祖父のサインは確かに本物だった。

 暴力的で、破壊的で、非常識に溢れた彼女。勿論、その性格と突き付けてきた契約の内容は、まさに悪質その物。悪魔ですらためらう契約、いやもはや一方的な要求だったのである。その制約に縛られてしまったせいで、ライトは建物のオーナーでありながら、建物の外で寝泊まりを強いられてしまっていたのであった。

 

「……人の顔を見るなり嫌味を言ったり、改めて、君は一体何が目的なんだ?」

「別に。理由をアンタに言う権利は無いわ」

「これでメイドっていうんだから恐ろしい……」

 

 ライトは呆れ気味にため息を漏らす。その顔には、とても濃い疲労の色がうかがえる。

 

「さすがの僕も、君の横暴な態度にはうんざりだ。これ以上、酷い態度を続けるようなら――」

「契約書、サインしたの忘れたの?」

 

 ガーネッタは食い気味に発言を止める。

 

「仮契約、試用期間だといったじゃないか。僕は君の――」

「それでも契約は契約よ。アタシだって生きていくのにギリギリなの。目的のために手段なんて、選んでいられる状況じゃないんだから」

「そりゃ、あんな契約を押し付けていれば誰も契約してくれないでしょ……」

 

 ライトはあきれ気味に視線を逸らす。

 

「第一に、アタシの最初の態度や契約内容を見ていれば、どういう未来になるのかなんて想像ついていたでしょ。試用だろうが、本採用だろうが、アタシの性格や態度は、間違いなく変わらないわよ」

「それは――その……」

 

 ライトは頭を抱える。ライトはこう言われると、とにかく言葉の歯切れが悪い。ガーネッタもその弱さを見越し、利用しているのだ。

 

「じいちゃんがわざわざ契約してくれたってことは、きっと何か意味があってなんだと思うし、わざわざ選んでくれた人をおざなりにはできないし――」

「それだけじゃないでしょ?」

「――うぅ……」

 

 ではなぜ、ライトはそんな要求をのみ、苦い顔をしながらも彼女の滞在を許可したのか。それは僻地での生活の"限界"故である。

 

「道具の数々は旅の道中に失い、川を跨ぐこの周辺唯一の連絡橋は陥落、復旧に一か月程。王都に戻ることもできず、かといってどこか行き先があるわけでもない。そして周りは大自然。人っ子一人いるわけない。哀れなものよね、不幸もここまでくるとお笑い沙汰だわ」

 

 そう、彼女が言う通り、ライトは現状"詰み"かけている。それはここまで来るまでの間に、道具や食料など、冒険や生活に必要な物の大半を失ってしまったからだ。

 一応彼には、父親から学んだ剣技とサバイバルの知識、そしてそれなりに恵まれた身体能力がある。そのため野営をして、ある程度大自然で生活をしていくことは、割と不可能な話ではない。しかしながら、彼はまだ16歳と少しの少年だ。さすがに限られた道具・現地調達が基本の食糧事情で、何か月もの一人でのサバイバルは、いささか心身ともに負担が大きすぎる。そして畳みかけるように、ここは都会からかなり距離の離れた、いわゆる僻地だ。人の通りなど一切見えないし、近くに人の集落があるのかもまだわからない。いざというときに誰の助けも借りられないのは誰であろうと致命的なことである。

 

「だから、アタシにアンタは頭が上がらないと」

 

 彼女の言うことは全てごもっともである。そのため、ライトは言葉の歯切れがとても悪い。

 

「で、どうしたいの? 実際この環境で一人でやっていけるの? 追い出したいならさっさと追い出せばいいじゃない。そもそもここには警察も、裁判官も、国王陛下もいないわ。一方的に破棄しても証拠がないから、誰にも咎められないわよ」

 

 ガーネッタのマシンガンのような言葉攻めの数々に、ライトは盗み食いを叱られる犬のように、黙り込むことしかできない。正論という凶器は、時に物理的な攻撃より致命傷になる。

 

「わかった、降参だ。君の実力の高さには、本当に僕も驚かされている。ただ、これからは接客業をするわけだから、せめてもう少し言葉遣いくらいは――」

「うっさいわね、アンタは客なの? 一円でも店に金落とした? 客と店主は立場が違うの。お客様は神様、メイドは女神様、店主は奴隷、今の流行りの言葉でしょ?」

「確かに、今の時代、社会においてのメイドの立場はかなり高いけど……それにしてもそんな無茶な……」

 

 口は悪いが、彼女の発言も実は『一部』間違いではない。

 かつて地上は『神』と『人』との長い戦いが繰り広げられていた。一時は混迷を極めたが、そんな戦争は訳あって『人』の勝利で幕を閉じる。それから戦後七十年と少しの現在。世界の需要は兵器開発や戦争経済から、娯楽や広告・福祉での競争にへと変貌を遂げていた。その中でも特に活躍の場が増えたのは、ほかでもない『メイド』という職業である。彼女たちは今や店や企業の顔であり、彼女たちの存在こそが店の存在価値にもなりつつある。いわば彼女たちは広告であり、顔。つまりアイドルなのだ。

 

「第一、他にDIYもできるメイドなんて世の中にいる? 戦闘から魔術、経理、料理、力作業、サバイバル、アタシはなんだってできるわよ? 顔や声だけの連中なんかと一緒にしないでもらいたいわね」

 

 これに関してはガーネッタの言う通り、彼女の価値はメイドであることと暴言だけではない。

 彼女は家事は万能で、話によると経理もできる。戦っている姿を見たことは無いが、本人曰く「ドラゴンだって叩き落とせる」らしい。なによりこういった極限状態のサバイバルにおいて、ライトと同じく『非常に』優れた知識と技術を持っている。

 提示された条件は非常に厳しいものではあったが、ライトにとって彼女の実力は未知数なものがあった為、試用期間として契約された。

 ちなみに契約の内容は様々だが、手始めの契約金は3000ゴールド。一般的な仕事の月収が1000ゴールドなので、それなりの金額だ。そこに細かな勤務体制から、極めつけは最後の一文『雇用主より良い待遇を所望する』である。いい加減にしろ。

 

「で、今日は何すんの。また資材調達と部屋とかの修復作業?」

 

 ガーネッタは特に自分の発言を悪びれることもなく、話をサラッと流し進めていく。

 

「……基本はね。ただ、今日はちょっと遠くまで行くかも」

 

 ライトは腰にぶら下げた青色の石をかざす。すると、まるでホログラムか何かのように、空中に地図が浮かび上がる。

 

「まさかこの宿屋周辺が、市販の地図には無い地域だとは思わなかったよ。お陰で手動で地図を作らないといけなくてさ」

 

 ガーネッタは、自身の生活する為の綺麗な部屋を確保した後は、全てにおいてやる気が非常に低い。ほぼ毎日掃除か、時折食糧・水の確保のために、少しだけ外出するくらいだった。それはライトに小言を言われない為の理由付けであり、まごころや奉仕の心は一ミリもない。そんな中、ライトは毎日自身の部屋を確保するために、資材調達や宿屋の修復作業に、東奔西走していたのであった。これではどちらが主人なのか。

 

「とりあえず、資材調達のついでに、周辺環境の調査って感じかな。このまま宿屋の営業を続けていくかはわからないけど、しばらくはここに住むことになりそうだから。周りのことを何も知らないってのはちょっとアレかなって」

「わかった。そういうことならアタシも建物の掃除や修復にも飽きてきた所だったし、今日はついて行くわ」

 

 そういうとガーネッタはホウキを軽く投げ捨てる。するとホウキは炎に包まれ、どこかに消えてしまった。

 

「意外だね。てっきり、まためんどくさいとかなんとか理由をつけて、断ると思っていたけど」

「アンタの言う通り、こんな未開の地で周辺のことを知らないのは、いざと言う時命に関わるから。アンタは男で体力的には頼れるし、こういう機会がある時位、ついて行って確認しておかないと」

 

 ちなみに、この宿屋の設備は以下の通りだ。

 

・客室(一階と二階、三階にあり。二階は外からの飛来物か何かで所々壊れている。三階はほぼ全壊。なおどこの階層も飛来物などで、壁や床に穴が開いていたり、雨水などで腐っている)

 

・従業員の生活スペース(事務室件、従業員側の生活スペースとなるであろう部屋がカウンター奥に一つ、さらに生活スペースの奥に寝室が三つ。一つの部屋にベットが二つあり、おそらくそれ以外の物は共用)

 

・ガーネッタの部屋(生活スペースの寝室の一つ。元より比較的綺麗だったのもあるが、ライトと協力し、二日ほどで部屋を綺麗に修復した。その後ライトを追い出し、完全に乗っ取った)

 

・調理場(調理器具などは無事だったが、衛生的な問題でまだ使えない)

 

・壊れた炉(二つ付いていた。おそらく調理用と鍛冶用。つくりからして燃料の供給元は一つ)

 

・食料庫(ほぼ空。しかし酒蔵が付いており、酒蔵は地下室に合ったこともあってか酒類は無傷。ドワーフのオヤジはここから勝手に酒を持ち出している)

 

・倉庫(物置。さまざまな工具や農具、その他簡易的な武器防具も置いてあった。建物の修復につかえそうな物はほぼ使い切った)

 

・コアストーン(建物の設備全体を動かしたり、外部と通信できたりする、建物の要となる大きな魔石。通信機能が使えないが、完全に壊れているようではないようだ)

 

・水道(設備はあるが水が出てこない)

 

「アンタ、持ち物に余裕はあんの?」

「なんとかって感じ。魔石も全部持ってかれた訳でもないし、スミスに工具とか、必要最低限の物はもらったから、今は何とかなっているけど……」

 

『魔石』

 

 この世界のインフラの一部を(にな)う、重要な物資である。その成り立ちや種類、生成方法や歴史は多岐にわたるが、主に物質の再変換と持ち歩き、情報・魔力の記憶・伝達などに扱われている。彼らのような一般人が使うのは、その中でも一番オーソドックスなタイプである、先程ガーネッタが箒を何処かにしまったように、物を粒子化してしまえる物質保管の魔石や、携帯のように離れた場所でも通話できる通信石、そして文章やメモ、映像などを記録しておける記録石がある。他にも使い捨てで魔術を発動できる石や、魔力を保管しておける石、かなり希少で値は張るが、空間移動の石などもある。なお使用するには、多少でも魔術の才能が必要である。

 

「てか、スミスって誰?」

「あのドワーフのおっちゃんだよ。鍛冶屋だからスミスでいいって」

「ふーん、なるほどね……」

 

 ちなみにドワーフの親父もとい、スミスはそれなりの頻度で宿屋を空ける。酒類は店の倉庫から持って行っているらしいが、なんの目的が有り定住しているのか、たまにどこに赴いているのかは未だに不明である。

 

「まっ、それじゃ準備もできてるなら無駄口叩いてないで、さっさと行きましょ。見知らぬ土地で夜を出歩きたくは無いから。朝早くのうちに行って、暗くなる前には余裕を持って帰りたい」

「了解。荷物準備するから待ってて」

 

 こうして一行は簡単に準備を整えると、そそくさと宿屋を後にする。

 二人は森を目指し、小さな旅に出るのであった。

 

===========================================

 

■ガーネッタ■

年齢:16歳

肩書:破壊魔

体力:C  筋力:D

魔力:B  俊敏:B

 

能力

・サバイバルの知識

・商売の知恵

・????

・????

・????

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

経営ファイル2 そして物語は始まりへ(後編)

経営ファイル2 そして物語は始まりへ(後編)

 

 

 宿屋を後にした二人の姿は軽装その物で、とてもこれから危険な森の奥深くに潜るとは思えない。それは魔術が発展しているが故の光景である。

 

「で、森に行くとは言っても、無作為に草木をかき分けて進むの? 流石にないわよね? アンタ、変なところで天然そうだから」

「一応森林地帯の前の木々を沿って歩くと、入り口になりそうな開けた場所がある。そこからなら多分、入っていける」

「随分と詳しいわね。この数日、ずっと色々探索していたわけ?」

 

 宿屋の後ろ、100メートルも歩けば、すぐに大森林が広がっている。しかし、木々や草木の密度・高さは、とてもではないが人が入り込める余裕がない。無知識に、無計画に森に入ろうものなら、文字通り森に喰われることになる。

 ただライトの言う通り、少し森林沿いに進んでいくと、開けた入り口のような場所がある。そこからであれば、探索にも無理がないだろう。

 

「実は、ここに来たのは初めてじゃない……らしいんだ。幼い頃――とはいっても、記憶もまばらな幼少期のころに、父さんに連れられて一度だけね」

 

 ライトが言う通り、彼がここに来るのは、実は初めてでは無い。幼少期に、平原で祖父と様々な話をした記憶が薄らとだけあるとのこと。しかしその大半は時間の流れと共に失われており、漠然とした祖父への憧れだけが残っている。

 

「あとは父さんからいろいろ事前に聞いていたからね。この辺りは数十年前、元々人が住んでいたり、資材集めのために、王都の資材調達班が来ていたんだってさ。もしかしたら、その時の名残が有ったりするのかもって」

 

 そんな話をしながら歩いていると、二人はやがてライトの言う通り、森の入り口のような場所にたどり着いた。人工的な造りは無いが、安全に行き来できるほどの獣道があり、草木が無秩序に生い茂る中をかき分けてまで進む必要はなさそうだ。

 

「一応僕も、何度か入り口のあたりは探索している。少し道からそれると、草木が生い茂っていて視界は悪いけど、十分に気を付けていれば問題はなさそう」

 

 こうして二人は草木が生い茂る、鬱蒼(うっそう)とした森に入っていく。道は人二人が並んで歩いても多少余裕があるくらいの広さはあるが、道からそれると足元は全く見えない。常に気を貼っていないと、周囲の危険などに対応ができないだろう。

 

「遠くの高台から確認した限りじゃ、この森の向こう側に、何か空間がありそうだった。いつも水を汲んでいる川の上流もこの近くだし、有るとしたら湖かなにかだろう。だから資源とかも豊富かなって。探索してみる価値は十分にありそう」

「まあ、アタシがついて行く理由はさっき言った通りよ。仮にも状況がヤバくなったら、躊躇無くアンタは置いていくから」

 

 森の中は木々が予想以上に生い茂っており、昼間であるにも関わらず薄暗かった。本来であれば無理をして立ち入る必要は無いのだろうだが、現在宿屋は慢性的な資材・食糧不足である。危険があるということは、それ以上に大自然の恩恵も大きい。

 

「資材に使える頑丈な木材なども十分にある。今後のことも考えて、資材を集めつつ草木を刈り取ったり、目印を付けたりして、道を舗装していこう」

 

 こうして二人は草を刈り、木の実を集め、時に小動物を狩り、程よい大きさの木であれば切り倒し、地面を固めながら森を進んでいく。単調な作業ではあったが、気が付けば一時間ほどの時間が経過していた。しかし一向に変わらない景色と作業内容に、二人の口数も目に見えて減ってくる。

 

「それにしても小動物が多い。平原よりも生き物が多いな。最近は魚か木の実、野菜ばかりだったから助かるよ」

 

 現在、彼らの主食は川で釣ってきた魚と、稀に平地で狩猟できた小動物、そしてほとんどの場合がそこら辺の野菜と草である。家畜にもされているような、中〜大型の食するのに適した生物は現状狩れていない。そもそも狩猟をした所で、調理手段が限られる為無駄が多いのだが。

 

「しかしアンタ、よくこれだけ作業をして体力が尽きないわね。歩くのでさえ体力を無駄に使うのに、木を切り倒したり、小動物を上手くしとめたり。いくら日陰で涼しいとはいえ、無理をして倒れられたりでもしたら面倒よ」

「さすがに僕も、そろそろ休憩しようと思う。ちょうどあそこの大木の当たりが広くなってるし、無理が祟る前に、休んでおこうか」

 

 ガーネッタの提案を聞き、体力的にも余力を残しておきたい、そう考えた二人は、大木を中心に丁度広くなっているスペースを見つけたので、そこで野営をして、体力の回復に努めることにした。

 

「しかしあのドワーフのオヤジ……スミス?、ほんと寝てるか、酒飲んでるかね。たまにどっかにフラフラ出歩いて行くけど、何をしているのか、なんの目的があるのか、イマイチよく分からないわ」

「でも宿屋の構造にも異様に詳しいし、道具も色々貸してくれた。じいちゃんの知り合いなら、邪険にするのもなんか違うし、どことなく悪い人には思えない」

「まあ、アンタの言いたいことはわかるわ。こんな山奥じゃ人が一人いる、居ないでも色々変わってくるし。アタシも、アイツがよほど変なことしない限りは、追い出すつもりは無いわよ」

「それを言いたいのは僕の方だよ――」

 

 とても皮肉の利いた一言である。言ってやったり、そう思っていたライトだった。だが次の瞬間、その表情は刹那にして険しいものとなる。

 

「――待って」

 

 違和感に気が付いたライト。彼は背中の剣に手を構え、臨戦態勢に入る。

 

「アンタも気が付いた?」

 

 二人は違和感を感じ、耳を澄ます。よく聞くと何かの呼吸音と、犬の呻き声のようなものが聞こえた。

 

「数は?」

「わからない、でも一頭じゃない」

 

 周囲の草木が揺れる。じりじりと何かが距離を詰めているのがわかる。

 

「魔物……この草木に隠れられる背丈に、慎重で追い込むかのような動き、きっと魔狼系ね。昼間には珍しいけど。ここは暗がりだから、活動していた?」

 

 魔物。モンスター。魔の物、つまり文字の通り、意思の疎通が取れない害獣である。基本的には強い魔力に当てられ狂暴化した動物や、死んだ動物の肉体に汚れた魔力が入り、再び活動を開始した物。その他人間に対して害があり、危険と判断された存在が、そう呼ばれることがある。そして魔狼……またの名をマッドウルフは、そんな魔物の一種で、死んだ犬・オオカミ系の動物が魔力に当てられ、狂暴な別生物としてよみがえったものである。

 

「まあいいわ、ちょうどいい機会ね。アタシの実力を、アンタに見せつけるチャンスとして」

 

 ライトとガーネッタは一切の動きを止める。大自然の中に生きる魔物や原生生物は、都会で出会う犬や猫とはわけが違う。魔狼は特別希少な生物というわけではないが、相手は成人の体躯と同じくらいはある猛獣だ。油断すれば、荒々しいナイフのような牙・爪に、一瞬にしてボロ雑巾のようにズタズタにされる。

 

「この数、動きの感じならこちらの方が有利よ。行ける?」

「君、サバイバルもできて、DIYもできて、魔物の知識もあって、何者?」

「メイドよ。性格の悪い」

 

 空気が制止する。血液のめぐりが止まったかのように感じる。しかし、心臓はその鳴りを強める。比較的森の中は涼しいが、冷や汗が頬を伝う。視界が悪く、武器の取り回しも決してよくはないこの状況で、勝敗を分ける要因は『判断力』と『反射神経』だけである。

 

「飛びかかるまでおよそ数十秒といったところね。自信がないならしゃがんで」

 

 そう言い、ガーネッタも立ち上がり、静かに攻撃の構えを取る。はたして彼女は何を考えているのか、どう撃退するのか。ライトは彼女の圧を前に、剣を構えることしかできない自分に情けなさを感じていた。

 

「……来るッ」

 

 刹那、陰から魔物が一体飛び出す。ライトは言われた通り、いつでも迎撃できるように背中の剣に手を構えたまま、その場にしゃがみ込む。ガーネッタは飛んでくる『それ』を体をひねるようにして避けながら、回し蹴りを入れる。そして間髪入れずに両腕を構えると、その手元は炎に包まれる。炎が激しく燃え上がり、やがて消えると同時に、そこには二丁のボウガンが握られていた。

 

「落とす」

 

 腕を交差させ、引き金を引く。乾いた弦の空を切る音がする。ライトが頭で矢が放たれたのを理解する前に、飛んできた一頭と草陰のもう一体にそれぞれ矢が突き刺さる。

 

「爆破魔術」

 

 ガーネッタは淡々と呟く。突き刺さった矢は赤く変色し、見る見るうちに黄色く変色していく。やがて何かに耐え切れぬように膨張すると――

 

「……炎属性魔法の、ちょっとした応用よ」

 

 ――刹那、矢は魔物ごと二度の大爆発を起こした。

 

「散れ」

 

 対象が爆発四散したのを見届けると、ガーネッタはボウガンをくるくると回す。そして右手に握ったボウガンを肩に担ぐ。

 

「ちょっ――爆発!?」

 

 想像にもしていなかった光景、初めて見るガーネッタの戦う姿に、しゃがみ込んだ格好のままあぜんとするライト。やがてその光景を見た周囲の影たちも驚き、少しずつ後ずさりをしていく。

 

「こうなりたくないなら、二度と近づくんじゃないわよ。クソボケが」

 

 ガーネッタは左手のボウガンを気だるそうに近くの木に向ける。ライトの知らぬ間に再度矢を装填しており、引き金を引く。やがて木に刺さった矢は、先程と同じ様に爆発する。周囲に数頭居た姿の見えぬ魔物たちは、一連の異様な光景を見せつけられ、蜘蛛の子を散らすように草木の生い茂る森の奥へと消えていった。

 

「……血肉の一つも残さないなんて、一体それはどんな技術なんだ? 爆薬? 魔法矢?」

 

「爆薬なんてボウガンの(ダーツ)には仕込めないわ。魔術を込めるにしても、威力が小さいし、消費に合わない」

 

 そう言いながら両腕を前に突き出すと、ボウガンから手を離す。手から解放されたボウガンは瞬時に燃えていき、やがて地面にたどり着く前には魔石に取り込まれ消えてしまっていた。

 

「"暴走"させるのよ、わざと。魔術式を。特定のタイミングで、魔術を失敗させる様に調整することによって、着弾と共に魔術の崩壊現象を引き起こす。そして最低限の消費で最大の威力を発揮する。アタシの父から受け継いだ技術よ」

 

「……魔術関係のことはよくわからないな。火種の魔術くらいしか使えないや」

 

 この世界において、魔術を使うのには基本的にセンスが必要だ。それこそ、センスがない人には一生魔術は使えない。それこそ『見えない』ものを『見て』更に『形』にし『つかむ』必要があるからだ。故に魔術を使う人間は、生まれたときからそのセンスが有るか、偶然そのセンスを会得するかしかない。火種の魔術を使えるだけでも、ライトはかなり恵まれた方の人間と言える。

 

「そんなアンタは戦えるの? 担いでるものを見るに、剣は握れるみたいだけど。今の所戦いは何も出来なさそうじゃない」

「……君の気迫に押されてただけだ。僕だって戦えはするよ、さすがに」

 

 ライトはガーネッタの言葉に不服そうに答える。

 

「これは父さんから貰ったんだ。元々はじいちゃんが使ってた剣らしくて。年季が入ってるけど、全く刃こぼれ一つしてなくてさ。不思議な剣だけど、使いやすさも抜群だね」

 

 そういうと剣を見せつけるように、ガーネッタに背を向ける。

 

「傭兵一家かなにかなの?」

「……まあ、そんな所かな」

 

 ライトは何やら言葉に詰まる。

 

「……別にわざわざ聞かないわよ、家族関係なんかについては」

「助かる」

 

 ライトの詰まったような返しを受けて、二人の間には微妙な空気が流れた。やがて、再び沈黙が訪れる。草木のざわめきと二人の足音だけが響き渡る中、時間は更に刻一刻と経過していく。

 ちなみに、そんなふたりの持ち物は現在以下のとおりである。

 

《ライト》

 

・魔石(キャンプキット、サバイバル用品、資材などの道具入れ用)

・魔石(周辺の地形を記録できる地図用の魔石)

・剣(背中に担がれている。長剣よりも大柄で、大剣ほど大きくはない)

・ランプ(魔力で火をつける魔力式。種火の魔術で火をつける)

・ナイフ(小型。切れ味は抜群)

・水筒(先程足したから満タン)

 

《ガーネッタ》

 

・魔石(キャンプキット・資材などの道具入れ用。ライトよりもキャンプキットの質が良い)

・魔石(周辺の地形を記録できる地図用の魔石)

・魔石(お手製のボウガンの矢が大量に収納されている。念じれば手元に現れる。ちなみに予備の弾薬が体中に様々な形で仕込まれている)

・ボウガン(こちらもお手製。魔石に格納されている)

・水筒(先程足したから満タン)

 

「しっかし、アンタもほんとに慣れてんのね、山道や森の歩き方。普通ならこんなズカズカ進まないわよ」

「一応目印は記録してきているから大丈夫。地形も意外とそこまでの起伏や複雑な地形はないから、地図の記録もそこまで大変じゃない」

 

 そう言いながらライトは、再び魔石で地図を投射する。

 

「……っと、道も入口と同じくらいには広くなってきたし、事前に確認してきたメモや、僕の推測からするに、確か多分この辺りに何かりそうなんだけど――」

 

 そう言い道の先を注視するライト。そんなライトの視線の先、森林地帯の切れ目に、一際強い光が見えた。

 

「――やっぱりだ、間違いない!!」

「ちょっ……バカ!! ガキじゃないんだから走るんじゃ無いわよ急に!!」

 

 二時間と少しほど、変わらぬ景色を歩いていたライトは、さすがに飽き飽きとしていたのだろうか。森林の切れ目に気がつくと、光に向かって嬉々として走っていくのであった。

 

「ちょっと待ちなさい!! ライ――」

 

 走り出したライトを追い、そしてガーネッタが追う。こうして二人は駆け抜け、一瞬にして森を抜ける。そこには――

 

「――ッ!!」

 

 ――そこには、平原のように開けた巨大な湖が広がっていた。

 

 視界の先には、幻想的とも言える光景が広がっていた。大草原とはまた違った、壮大な景色が広がっており、湖の奥の方には滝も見える。一つの大きな湖ではあるが、所々の水流に削られた岩肌や陸地が、大きな湿原のようにも見える。あまりにも現実離れし、美しい光景を見て、ガーネッタは言葉を失った。

 

「広大な草原もワクワクするし、解放感があって気持ち良いけど、この閉じた中の開けた感じも、すごく幻想的で心が踊るなぁ!!」

「珍しいくらいに饒舌(じょうぜつ)ね、アンタ」

「こういうの……こういうの、とても好きなんだ!! 幼い頃からいろいろな場所に連れてかれたりはしてたけど、こういう綺麗で、広大な場所には来たこと無かったから!!」

 

 見慣れぬ光景に、はしゃぎ倒すライト。いつもの落ち着いており、冷静で、年齢よりどこか大人びた雰囲気はどこへやら。口数を減らすガーネッタに対し、年相応の珍しい姿を晒すライトなのであった。

 

「あれを見てガーネッタ!!おそらく、ここの湖からいつも水汲みをしていた下流の川につながっていたんだ」

 

 早速湖に走っていくと、ライトは懐からナイフを取り出す。そし水面にナイフの先を入れた。その後何かを確かめるように、道中で確保していた木の皮や、小動物の肉などを漬けていく。

 

「見たところ、変な反応も起きない。緑の濃さや、水の丁度良い濁り方からして、きっと土地の栄養も豊富だ。資源の調達とかには最適かもしれない!!」

 

 ライトは湖の水質検査に必死だ。周りが全く見えていない。ガーネッタは、ライトのそんな子供じみた様子にあきれながら、周囲の状況を確認する――

 

「ライト、後ろ」

 

 ガーネッタがそう静かにつぶやくと、ライトは息も乱さず振り向き、そのまま一瞬で背中の剣を振るう。ライトの斬撃を受け、背後を取ろうと忍んでいた、魔物が両断される。

 

「助かった」

「さっきの借りは返したわよ」

 

 湖に気を取られていた二人。気がつけばライト達の背後には大から小、様々な魔物が熱いまなざしを向けていた。その中には、先程森で退治した魔狼の仲間と思わしき個体も存在している。

 

「これだけの恵まれた環境、汚染されていない水源、豊富な資源。やっぱり、ここに集まるのは人間だけじゃない、か……」

「バカ、人間はアタシたちだけよ」

 

 二人は魔物たちの方へと改めて向き直す。魔物たちを見直すと、その数はかなりの物だ。少なくとも、両手で数え切れる量では無い。

 

「ひい、ふう、みい……ざっと二十体弱ね。準備運動がてら、ブチのめすのも悪くないかも」

「とりあえず、一旦一人で何体行ける?」

「九」

「了解、こっちはとりあえず残りいくよ」

 

 魔狼たちの中には、先ほど遭遇した群れにはいなかった、ひときわ大きな個体がいる。群れか、何かのボスだろうか。明らかに周りとは違うオーラを放っている。

 

「手強そうだね」

「よく言うわ、あの剣筋をしといて」

「そりゃ確かに、そっか」

 

 ライトは剣にこべり着いた血を振り払う。ガーネッタは空に手をかざすと、先ほどと同じように炎と共にボウガンが現れる。

 

「下手に油断して、あっさり死ぬんじゃないわよ。面倒だから」

「この程度、慣れっこだよ。君も下手にケガしないでね、いろいろ請求されるの面倒だから」

 

「"グオオオオオオォォォォン!!!!"」

 

 群れの長が強い雄たけびを上げる。それが開戦の合図となり、熾烈な生存競争が始まるのであった。

 

 

===========================================

 

■マッドウルフ■

 

危険性:C

 

魔狼。群れを成して襲い来る冒険者の天敵。

死体となったオオカミが魔力を受けて転生したもの。

その生まれの特性上オオカミと違い群れをなすことは珍しいが

特殊な条件下で個体が集まり群れをなす。

特殊な性質の牙や爪は皮装備ではなすすべがない。

 




【次回予告】

魔力で凶暴化した狼、魔狼の群れが現れ、交戦するライトとガーネッタ。
ふたりの実力の前に、魔狼たちはなすすべなく一頭、また一頭とその数を減らしていく。
数こそ魔狼が有利だったが、ついには二人の圧倒的実力差の前に全滅する他なかった

そんな中、二人は魔物たちの行動に違和感を覚えた。やがて湖に響き渡る魂まで壊されるかのような咆哮。湖の奥、山岳地帯から感じたすべてを飲むかのようなプレッシャー。それが脅威になるのか、自分達とは別世界の話なのか。
ふたりは今後を決めるために、何かに道引かれるように、山岳地帯へと向かうのであった。

響く咆哮、うねる雷鳴、対峙するは宿命の翼。

次回 異世界テンプレ物のよくある宿屋酒場物語
第三話 『嵐の神、顕現』

ご期待ください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

経営ファイル3 嵐の神、顕現(前編)

どうも、投稿者代理の強化人間621です。うそです、作者です。
惑星ルビコンで独立傭兵をしていたら1週間弱が立っていました。怖い。
さて、今回から物語が大きく動き出します。そしてタイトルにもある通り、強大な存在が現れます。
魔物達との戦いをどうやって切り抜けるのか、嵐の神とは、いろいろどうなることやら……

ちなみに今回のお話にもいろいろ影響を受けた作品の要素がたくさん出てきます。
世間一般的に知られているいろいろなゲームやアニメ、洋画などはそれなりに網羅している自身があります。作者アレ好きだろ、というのに気が付いてもらえたら宣伝と布教成功です。やったね!!

それじゃあ今回も物語、スタートです!!

■お詫び■
前回ライトの持ち物が抜けてました。ライトは腰に魔力式のランタンをぶら下げてます。あかり持ってないのはサバイバルする人間としてどうなんだ。


経営ファイル3 嵐の神、顕現(前編)

 

 

「"グルルルル……グァウ!!!!!"」

 

 宿屋周辺の環境調査のために、森の奥深くへと潜ったライト達一向。その先で資源豊かな湖を見つけたのもつかの間、息をする間もなく魔物の群れに襲われるのであった。腕に自信があり、意気揚々と挑む二人だったが、魔物達の予想外の抵抗により現在、苦戦を強いられている。

 

「あーっ、もう!! 次から次までジャレてきて、本ッ当にうっとおしいわね!! そんなに暇なら、自分の尻尾ででも遊んでたらどうなのよクソッタレ!!」

 

 魔物と少年少女の激しい攻防は続く。一人は飛び掛かる魔狼や魔物を飛んでは避け、矢を放ち、華麗に攻める。もう一人は攻撃を受け流し、剣で薙ぎ、堅実に攻める。ライトとガーネッタの二人は、魔物たちへ果敢に応戦する。

 

「流石に数が多過ぎるッ――!! それに気のせいか、コイツら僕達の動きを読んでいないかッ……?」

「ッ……明らかに、さっきまでとは動きが違うわね……」

 

 ライトが相手の注目と攻撃を受け、援護するようにガーネッタはボウガンを乱射する。なお矢は手元に魔石から出現する為、装填に手間がかからないようになっている。

 

「"グギュイイイイッッッ!!!!!"」

「ガーネッタ!! 右から来てる!!」

 

 魔狼の群れの合間から、まるで一回り大きなブタのような姿をした、毛むくじゃらの原生生物が牙を構え、騎兵隊のように突進してくる。ライトの叫びを聞いたガーネッタは、宙返りで突進をかわす。

 

「わかってるなら少しは手助けしなさい!! こっちはバッタじゃないんだから、ずっと飛び跳ねてるだけってことは出来ないの!!」

 

 いくら二人が戦い慣れているとはいえ、人間側は生身。一撃でも食らえば致命傷なうえ、何より多勢に無勢だ。普段のように軽口を叩きあっているが、その顔には常に冷や汗が垂れている。

 

「ハァッ……ハァ……すぅーっ……あったまキたッ……コイツら全員、潰すッ……!! クソ毛玉アァァァァァァァ!!!!!」

 

 そう言うとガーネッタは、狂戦士のように叫び声を上げ、魔物の群れに突っ込んでいく。そして矢を乱発した後、向かってくる魔物を掻い潜る様にスライディング、回し蹴り、サマーソルト。そして再び宙を舞う。そしてそのままボウガンを構えると、空中で回転しながら矢を命中させていく。その野を駆ける飛び跳ねる姿はまるでアクロバットスター。重力を無視して、天と地をさかさまにしているかの様だった。

 

「っとッ、ぜェ……はァ……コノケダモノ連中、草木に隠れて奇襲するのもそうだけど、開けた場所で囲い込むのも上手いっていうのッ……!?」

「……すぅ……ふぅ……これがあいつらのやり方だ。単体なら問題は無いけど、集団になると本当にタチが悪い」

 

 上手く場所を調整しながら着地し、ライトと背中合わせの形になるガーネッタ。魔物達の連撃と牽制の前に、二人の息は絶え絶えになってくる。

 

「……っ、ふぅ……残りは?」

「まだ半分も行ってない。こんなに苦戦するなんて、アタシとしても心外」

 

 二人の実力の割には、倒した魔物の数はあまり伴っていない。現在倒せた魔物は八体のみ。二人にとって計算外だったのは、魔物達の司令塔となっている、一際体躯の大きな魔狼の存在だった。

 

「あのデカブツ、図体だけでなく、それなりに脳ミソもでかいわね。こちらの動きに合わせて、周りを上手く巻き込みながら誘導、スキをついて攻撃してくる」

「うん、追い込み方が上手い。アイツ自身が動けるから、魔狼と関係の無い周りの魔物や、原生生物とも上手く連携してこられる」

 

 また、襲ってきた魔物の集団の中には、魔狼とは関係の無い魔物も存在している。特に厄介なのが昆虫群体型の魔物・ホーネットと、先程から突進を仕掛けてきている原生生物・マーダーボアだ。どちらも魔狼との連携をされると、苦戦を強いられることになる。

 

「てか、サラッと流してるけど、なんでマーダーボアやホーネットが魔狼と連携してくるのよ!! アイツら、本来なら互いに捕食しあう関係性じゃないの!?」

「わからない。でも、言ってしまえばこちらは人間だ。向こう側からしたら見慣れない部外者。つまり、基本的に共通の敵になる。敵の敵は味方。だから見た感じ、普段なら共生するはずのない生き物も一緒に襲ってきてい――るッ!! クソ、コイツら話してる時も容赦ないな!?」

 

「"グッギャアアアアアア!!"」

 

「ああもう!! あのマーダーボア(ホーミング生肉)、会話してる最中まで攻撃してくるの!? 信じらんないわコイツ!!」

「言葉も意志も通じないんだから当たり前でしょ!!」

 

 だが、相性が抜群なのはなにも魔物だけでは無い。ライトとガーネッタも、その連携は絶妙だ。

 

「本ッ当に腹立つわ、アイツら。さっきから、しきりに着地狩りも狙ってくる」

「とりあえず、ガーネッタの着地点は僕が死守する。だから君は回避と、僕が対応しきれない奴のカバーをしてくれ」

「アンタに指示されるのは癪に障るけど、今は頼んだわよ」

 

 ライトは抜きん出た体力と冷静な判断力、剣による攻防一体の攻めがあるが、剣の重さ故に連撃のタイミング次第では防戦一方になる。対してガーネッタは、ライトの剣撃より威力がある一撃必殺の爆裂矢に加え、手数と身軽さの利点があるが、体力の消耗が激しく呼吸が乱れやすい。お互いにメリットもデメリットも有るが、逆に言えばそこをカバーし合うことにより、なんとか多勢に無勢になることなく持ちこたえられていたのだ。

 

「……で、君はまだ戦えるの?」

「……流石にキツいかも。そもそもアタシは、この戦い方だから中期戦以降の長期戦には向いてない」

「何か決定打を見つけないと、そろそろ不味いかもね」

 

 しかし言い換えれば、その人間と魔物、甲乙つけ難いお互いの戦闘力が、この現在の拮抗した状況を生み出してしまっているとも言える。故に長期戦になった場合、野生で生き抜くために恵まれた体躯を持つ野生動物に対し、人間側が確実に不利となる。

 

「そろそろ不味いかもね、じゃなくて、何かこのクソッタレな状況を打破できる秘策は無いの!? よくそんなに冷静に居られるわね!? このままじゃアタシたち、ジリ貧で負け確よ!! 弱点を付ける秘策とか、向こうの弱点とか、思いつきはなんか無いの!?」

「僕の方こそ聞きたいよ!! なんかこう……もっと派手で、強い魔法は無いのかい!?」

「うっさいわね!! アタシは魔術の扱い方に自信はあるけど、一度に制御できる魔力量が少ないのよ!! だから、燃費の良い爆破魔術に頼るしかないの!!」

「うそでしょ!?」

「だから!! アンタに聞いてるの!! アタシはもう!! これで!! 手一杯!! アンタが!! なんか!! 考えなさい!!」

「こんな時に無茶を言わないでくれ――」

 

 そう二人が言い争っている間に、再び複数の魔狼が連撃を仕掛けてくる。

 

「――っ!! この無駄のない連携をしてくる魔狼に、弱点……? そんなもの、本当にあるのか……?」

 

 ライトは体勢を立て直すため、なんとか呼吸を整えながら、全ての神経を回避に集中させる。そして好機を探るため、相手の行動をひたすらに読み続ける。

 

「……改めて回避に集中してみると、攻撃をかわすだけなら意外と簡単だな。こっちはそれなりに体力を消費しているのに、回避に無理がない。もしかして、そこに突破口が――?」

 

 魔狼の群れは囲い込むように周りに展開してくる。時折不意を突いたような動きはしてくるが、意外にも単体の攻撃精度は鈍い。むしろホーミング生肉こと、マーダーボアの方が、こちらを良く狙ってくるまであった。

 

「魔狼は普段夜行性だ。今日は特に天気もいいし、もしかしてこの陽の光が目潰しになっていたりするのか……? つまり、何らかの手段で視界を潰せれば――」

 

 そこで脳裏に映し出されたのは――

 

『"暴走"させるのよ、わざと。魔術式を。特定のタイミングで』

 

『魔術を失敗させる様に調整することによって、着弾と共に魔術の崩壊現象を引き起こす。そして最低限の消費で、最大の威力を発揮する』

 

『うっさいわね!! アタシは魔術の扱い方に自信はあるけど、一度に制御できる魔力量が少ないのよ!! だから、燃費の良い爆破魔術に頼るしかないの!!』

 

 ――先ほどのガーネッタの戦う姿と、言葉だった。

 

「――策を思いついた、時間と距離を稼げる?」

「何をするつもり?」

「秘策がある。あいつらに絶対的なスキを生み出すから、それまで囮になってほしい。回避に集中すれば、きっと攻撃は当たらないはず」

「だから何をする気なのよ!!」

「……今は信じてほしい」

 

 そこで数秒の沈黙がある。そしてガーネッタは、やれやれといったリアクションをした。

 

「……アンタがそこまで言うなんて、本当(マジ)に勝算がある訳ね」

 

 そう言うと眼を閉じ、深く深呼吸をする。そして数拍の間を置いて、再び強く魔物達の方を睨みつけた。そこから突然付近の魔物に向け手当り次第にボウガンを乱射する。

 

「わかったわ。どんな奇策が出てくるかは知らないけど、簡単に死んで(くたばって)くれるんじゃないわよ!! いいわね!!」

「……ああ! とりあえず、スキを生み出したら合図する!! そしたらタイミングを見て、すぐに魔狼の司令塔を撃ちぬいて!!」

 

 ガーネッタは自らに注意が向くのを確認すると同時に、その場から大きく回り込むように弧を描きながら走り、陽動作戦に賭けて出た。

 

「……ありがとう、ガーネッタ」

 

 注意が自らからそれたのを確認すると、ライトは腰に装着していたランプを手に取った。そして目を閉じ、右腕で突き出すように構える。

 

「イメージしろ……強い魔術を、意識しろ……種火を、意識しろ……意識しろ……意識しろッ……!!」

 

 強い念を送られたランプには、徐々に光が灯る。しかしまだ、少し明るい火種程度の光り方だ。

 

「明かりだ……種火より強く、爆炎より優しく――」

 

 ライトが何か行動に移したことに気がつき、魔物達の数頭がガーネッタの陽動を逸れる。そしてライト目掛け、一直線に駆け寄る。

 

「見逃すわけ――ナイでしょッ……!!」

 

 それを直感で感じ取ったガーネッタは、ライトに駆け寄る魔物に爆裂矢を向ける。

 

「チャンスッ……!!」

「"ギャッ――"」「"グギュイ――"」

 

 そしてそのまま放った矢は、見事に魔狼とワイルドボアの一体に命中した。そして断末魔を上げる暇もなく、爆発四散する。

 

「っしゃァ、二頭撃破ァッ!!」

 

 ライトは奮闘するガーネッタを信じ、詠唱に集中を続ける。

 

「センスがなくたって、使える魔術が弱くたって、"使い方さえ工夫すれば"道は……あるッ!!」

 

 そういうとライトは、ランプを握りしめるように掴む。

 

「"満ちろ"、"満ちろ"、"満ちろ"ッ――陽の光ッ!! "導け"、"照らせ"、"輝き"、"爆ぜろ!!"」

 

 そして遂に、種火は収束し、やがて光になる。そしてランプは光で満たされる。

 

「よしッ……!!」

 

 ランプに光が満ちたのを確認すると、ライトはもう片方の手で指笛を吹き、叫んだ。

 

「ガーネッタ、目をつぶれッ!!!!」

 

 突然響き渡った笛の根と叫び声に、魔物達の注目が完全にライトの方へ向く。ガーネッタはライトの言葉を受け、腕で顔を隠し視線を逸らす。その瞬間を待っていたかのように、ライトは魔物達の群れの真ん中に、光り輝くランプを投げつける。

 

「 ……緊急術式『火種・改』(ライトブラスト)ッ!!!!」

 

 それは、美しいフォルムから投げられる一撃。それは、古典的な戦術。それは、威力を持たぬ必殺。それは、先の見えぬ未来(くらやみ)を照らす陽光。

 

「いっけえええええええぇッッッ!!!!!!」

 

 強烈な光による、目くらましである。

 

「"キャイン!?"」「"グギギィ!?"」

 

 力の限り投げつけられたランプは、魔物の群れの中心に落ちると共に文字通り陽のごとく、凄まじく強い光を放った。ライトの方を向いていた魔物の群れは光に怯み、一斉に動きを止める。

 

「今だガーネッタ!!!!」

 

 その瞬間、ガーネッタは回避に専念するのをやめ、ボウガンを一丁に構え直す。その間約二秒。

 

「狙い撃つッ……!!」

 

 ライトが作り出した一瞬。それを無駄にしないために一丁、ただ一丁、ただ一発、それに全ては込められた。

 

「アイツを潰せば……司令系が一気に崩れる」

 

 膝を着く。呼吸を整える。視界が収束する。周囲の時間が止まる。やがて狙いを定められた引き金は、ゆっくりと引かれた。

 

「……終わり――」

 

 放たれた矢は、そのまま魔狼のリーダーへ向かっていく。

 

「"ギャウンッ!!"」

 

 やがて魔狼のリーダーは回避する間もなく、矢が背中に命中する。そして次の瞬間には、その肉体は激しく爆発しており、その大柄だった肉体も、塵も残さず消えてしまった。

 

「――よしッ♪」

 

 高速で繰り広げられる一連の流れに、謎の光。突然爆死した群れのリーダー。先ほどまで完璧だった指揮系統は、一瞬にして混沌と化し始める。

 

「ッとどめだあああああああああッッッ!!!!」

 

 ライトはその様子を好機とみて、剣を構えたまま突撃する。そして群れの隙間を這うようにして、流れるかのような鬼の八連撃をたたき込み、魔物の群れをあっという間に殲滅したのであった。

 

「ゼェ……ゼェ……ふぅ……」

 

 二人の呼吸音だけが響き渡る。魔物の僅かな残りは恐れをなし、そのまま離散して消えてゆく。爆発と叫び声、魔狼の遠吠えでごった煮していた戦場は、いつの間にか元の静かで美しい湖に戻っていた。

 

「ようやく……終わり?」

「多分だけどね。メイドとしてはアレだけど、戦いに関してはなかなかやるじゃん」

「そういうアンタも、なかなかバケモノじみてたわよ」

 

 戦いが終わり、二人は安堵の呼吸を漏らす。そしてその場に座り込む。

 

「まったく……勘弁して頂戴……本当に」

 

 周囲には、魔物が死屍累々としている。すべての魔物を殲滅したわけではないが、それでも数えられるだけ十六は息絶えている。爆発して消滅した個体を含めると、その数はさらに増えるだろう。

 

「……で、ライト。さっきやったのは何?」

 

 ガーネッタは不機嫌そうに問いただす。

 

「……君がやったような、爆破魔術だよ。僕の魔力量なら、目くらましだけに特化した爆発が起こせるかなって」

「……は?」

 

 ガーネッタはどこか理解できなさそうに聞き直す。

 

「だから君がやった爆破魔術を真似したんだ。火種の魔術を、光量だけに特化させて」

 

『火種の魔術』

 

 超初級魔術。魔力の超小規模な爆発を起こすことにより、焚き火やオイルランプに火をつける、何かと便利な魔術である。しかし威力などとても無く、攻撃に転用するのはとてもじゃないができるものでは無い。しかしライトは見よう見まね、聞いただけの知識で、ガーネッタの爆破魔術を真似、火種から小規模の爆発を起こしたのだ。

 

「いくら君が一度に扱える魔力量が少ないとは言っても、それでも素人のなんかより、扱い方に慣れているのは間違いない。でも、きっと、だからこそ器の方が耐えられないし、制御できなくて危険かなって。あの状況じゃ、僕がやるしか無かった」

「本気で言ってるの、それ?」

 

 実際、これは魔力が少ないライトだからこそできた芸当だ。ガーネッタが同じことをしたら威力が強すぎ、投げる前に爆発、自らも爆発に巻き込まれてしまったことだろう。

 故に、爆発に破壊力は無かったが、それは激しい光を放った。光は魔物達から視覚を奪うのには充分すぎる光量だ。特に普段、夜行性で視覚と嗅覚に優れた魔狼にとって、それは不意打ちで、致命的な事象を引き起こした。

 

「アンタ、あっけらかんと言ってるけど、そもそもアタシが暴走魔術を習得するのに、一体何年かかったと思ってんのよ!! それをそんな簡単に言われて? はーッ!! はーッッッ!!!! 意味が分かりませんけどーッッッッ!!!! アタシの努力は何だったんですかねー!!!!!」

「……別に、君から聞いた原理を試して見ただけだよ。飛んで跳ねて、ボウガンまで扱って。同じことをやれって言われたら僕には無理だ。あらためて、やっぱり君はすごいよ……」

「……そっ――!! そうね!! 確かに……アンタの言う通りだと思うわ」

 

 ガーネッタは、ライトの返しに調子を狂わせられる。

 

「でもじゃあ、なんで最初からその事を言ってくれなかったのよ!! あの土壇場で信じろは、いくら何でも無茶があるんじゃないの!? 」

「この作戦を君に言ったら、最初から協力してくれた?」

「そっ――そ、それは……」

 

 珍しく強気なライトに戸惑い、ガーネッタは言葉を詰まらせる。

 

「……少なくとも、内容を聞いていたらアンタの案には絶対に乗らなかったわね」

「……僕の勝ち♪」

「……は?」

 

 ガーネッタの言葉を聞き、上機嫌になるライト。そして対局的に、初めて見せつけられたライトの余裕そうな姿に、ガーネッタは過去最大の怒りを見せる。

 

「……アンタ、もう一回言ってみなさいよ。ええ、いい根性してるじゃない」

「ご、ごめんて……」

 

 ライトは苦笑いをしながら答える。

 

「ちょっと……君の悔しがる顔が見た……かっ……」

 

 そう言い、ライトは後ろに倒れ込む。

 

「ちょっ――ちょっと、なによ!?」

「魔力、慣れてないのに使いすぎた。休ませて」

 

 その言葉を最後に落ちるライトの意識。意識はどこかに吸い込まれていくのであった。

 

 

===========================================

 

■マーダーボア■

 

危険性:D

 

巨大なイノシシ。魔物化はしていないが、そもそもが凶暴。

縄張りに入ってきた獲物に頭突きをかましてくる。

単体では対処は難しくないが、他の魔物などと合わさると非常に面倒。

 

 

===========================================

 

■ホーネット■

 

危険性:C

 

魔蜂。小さく動きが機敏で対処が難しい。

動きを追うのが難しく、そのクセ強い毒を持つ。

対処には範囲攻撃が有効。広範囲が攻撃できる魔術師が居ると楽かもしれない。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

経営ファイル3 嵐の神、顕現(後編)

追記:現在、物語を二分割する編集を行っております。
流石に10000文字を毎回だと話の進みも悪いし、見づらいので。
30分アニメのCMだと思ってくださいな。


経営ファイル3 嵐の神、顕現(後編)

 

 

 

 目の前には、女性が歩いている。子供はそれを追いかけていく。

 

 そこには大木があった。大きな、大きな、大木が。

 

 女性は何かを告げ、その場から立ち去る。子供は笑顔で女性を送る。

 

 やがて、時間が流れる。立っているのに疲れた子供は、木の前に座り込む。

 

 時間が流れる。空は赤く、赤く染まりゆく。

 

 やがて空は暗くなる。子供の表情も、暗くなる。

 

 子供はひたすらに待ち続ける。しかし、待てど待てども待ち人は来ず。

 

 やがて子供の心を表すかのように、雨が降る。

 

 子供は泣いた。寂しくて泣いた。

 

 泣き疲れた子供は、何かを決心したかのように走り出す。

 

 宛もない山道を、記憶の限り走り続ける。

 

 やがて足を滑らせ、坂を転げ落ちる。

 

 雨が体を冷やす。魂まで全てを冷やす。

 

 子供はまだ動けた。しかし全てを諦めていた子供は、もう動くことは無かった――

 

 ――髭面の、まるで山賊のような男に、手を引かれるまでは。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 焚き火の音がパチパチとする。何かが焼ける匂いがする。

 

「……んぅ……」

 

 あれから約一時間。ライトの目覚めは最悪だった。酷い悪夢を見た。その時間はとてつもなく長かったような、短かったような。しかしとにかく悲しい気持ちになっていることだけは、理解出来た。

 

「目覚めが悪そうね? だいぶ」

「……内容までは覚えていないけど、だいぶ酷い夢を見た……」

「慣れない魔術なんか使うからよ」

 

 目が覚めたら美少女の膝の上……なんてことは無く、ライトは柔らかいクッションの上に頭を乗せられ、寝かされていた。横ではガーネッタが、焚き火で何かを焼いている。

 

「どうせ魔術の使い過ぎだってのは分かってたから、簡易的に寝かせてあげてたわ。感謝しなさい」

 

 焚き火の匂い以外に、何やら甘くていい匂いがする。ライトはそのとても良い匂いに、思わず息を深く吸い込む

 

「これもしかして、君のクッショ――」

「嗅いだら殺す」

 

 ガーネッタの語気の本気度に気が付き、ライトは飛び上がる様に起きる。

 

「……テントはわざわざ組み立てるのがめんどくさかったから、立てなかったわよ。クッションで我慢して頂戴。後でちゃんと洗濯して」

「……意外と、優しいんだな」

「黙れ、潰すぞ」

「ごめんなさい」

 

 ライトはまだ微妙に覚めない頭で、ぼんやりと景色を眺める。

 

「アンタが寝ている間に、見ての通り犬っころの死体はもう全部消えたわ。ボアは凶暴だけどただの原生生物だから、バラして肉焼いて食ってる」

 

 ガーネッタの言う通り、辺りには先程まであったはずの死体は、ほとんど無くなっている。そのお陰でグロテスクな光景は無くなっていた。

 

「基本的に魔力で魔物に生まれ変わった存在は、再び死ぬと朽ちて魔力に還る。未だに不思議な現象よね」

 

 そう言いながら、ガーネッタはボアの肉の焼き加減を確かめる。

 

「一応魔力抜きして、魔狼の毛皮と爪、牙、ある程度素材に使えそうなものは集めといたから。後で使うなら言って」

「助かる」

 

 自然界の魔力に当てられ、普通の生き物から生まれ変わった魔物は、死ぬと急激な肉体の変化と制御できなくなった魔力に耐えられなくなり、塵になって消える。しかし死んだ直後に上手く魔力を抜くと、魔物の肉体の一部を剥ぎ取り、活用することができる。魔物由来の素材は普通の生き物より頑丈で、特殊な性質が備わっている可能性もあるため、武器や防具、様々な道具などに重宝されている。

 

「しかし、寝ている内にだいぶ天気も悪くなったな」

 

 ライトが寝ている間に、空は黒く曇っていた。それも、それなりに強く雨が降りそうになるほど。

 

「それでも、体感一時間程よ。簡易的に焚き火作って、ボアをバラして、アタシもようやく、息が整ってきた所」

「また魔物が襲ってくる気配は?」

「……見ての通り、さっきまでのゴタゴタが嘘かのように、エラく静かよ」

 

 そう言いながら、ちょうど良い焼き加減になったボアの肉を、ガーネッタは食べ始める。

 

「そもそも(もぐもぐ)あれだけ負傷した・死んだ仲間を出せば(むしゃむしゃ)魔物や魔狼側も安易には人間に近づこうとはしなくなるでしょうね。それこそ(もぐもぐ)復讐を考える個体も居るかもしれないけど(んっくっ)群れのリーダー、司令塔も失った今、あの群れがそこまでの段階に戻るのは、そう簡単な話では無いと思うわ」

「食べるのか喋るのか、どっちかにしなよ……」

「ここは野生のど真ん中よ。滞在時間は効率化しなきゃ」

 

 するとガーネッタは、焚き火で焼かれていたもうひとつの肉を差し出す。

 

「食っていいわよ」

「あっ、ありがとう……」

 

 普段慣れないガーネッタの優しさに、ライトは困惑しながら肉を受け取る。

 

「この串、君の自作かい?」

「そうよ。適当にナイフで切り出せばこれくらい造作も無いわ」

「……そもそも君、前から気になっていたけど一体どんな生い立ちをしているんだい?」

「山育ち。この戦い方も、魔術の使い方も、ナイフの使い方も、親父からすべて教わった」

 

 そう言うとガーネッタは少しだけ懐かしそうに昔話を始める。

 

「アタシは男じゃないから、直接的なフィジカルで劣る点もあるし、一度に扱える魔術の量も、世間一般からすると少ない方。だから相手の攻撃や危険を受けるのではなく、回避する方法や、魔力を少なくても精密に、効果的に制御する方法を徹底的に教えてくれた。山での生活はそもそも大変だったし」

「意外だなって。君、そういう過去の話はしてくれないと思っていたから」

「別に、隠す必要があることでもないじゃない。それにアタシだって機械じゃないんだから、時にはそういう思い出話にふけりたくなる時もあるわ」

「赤い悪魔だけどね……」

「なんか言った!?」

「いえ、何も!!」

 

 その後も魔物と戦った疲労を回復するために、一時間ほどかけ二人は肉を食べながら休憩をした。肉の味は意外と美味で、頬張る二人の顔は、無意識のうちに綻んでいた。二人にとっては、一ヶ月かぶりのしっかりとした食事だったからだ。

 

「しっかしそもそも、さっきの騒動以前に生き物が少ないわね、ここ」

「……君も違和感に、気がついたかい?」

 

 そういうとライトは、広大な湖を見渡すように眺める。

 

「ほかの魔物がほとんど見当たらない。というか、鳥の一体すらまるで居ない」

 

 辺りには静寂が訪れていた。たまに吹く風の音と、ポツポツと降る雨の音が聞こえるくらいだ。

 

「そもそもこんな昼間から、夜行性のウルフ系が群れを成して移動していたのも違和感がある。それにいくら野生動物とはいえ、あそこまでよそ者に対して集団で拒否反応を起こすのも珍しい」

「……何が言いたいのよ」

 

 ガーネッタは何かを察したかのように、神妙な顔つきをするライトの答えを急かす。

 

「とりあえず、準備が整ったら早くここを出発しよう。可能性の話だ。仮にもこの近くに、何かが迫っていて、皆逃げている最中なのだとしたら。例えるならば局地的大嵐とか――」

 

 そうライトが言いかけた次の瞬間、辺りはは白く染まり、爆音が鳴り響く。

 

「「雷!?」」

 

 そしてその大きな一撃の爆音を皮切りとして、雨音は一瞬にして鳴りを強める。気が付けば、陽の光は完全に遮られていた。

 

「この感じ、突然の雨――」

「やっぱりだ、間違いない――」

 

 二人は顔を見合わせる。

 

「「――局地的、大嵐ッ……!!」」

 

 それは実に不思議な光景であった。事態に感づいた二人の視界の先。湖の向こう側、山岳地帯から、土砂降りが壁のように迫ってくる。

 

「クソッ、気づくのが遅かったッ……!! 酷くなる前に、ここから離れるよガーネッタ!! ここは湖だ、増水なんかされたらたまったもんじゃない!!」

 

 数十分前、雲一つなかったはずの場所は一瞬にして曇天の空模様となる。二人は焚火の日を急いで消すと、あわてて走り始める。

 

「なんでこう急に来るかな!!」

「天気はそういうもんでしょ!!」

「まるで君の感情みたいだね!!」

「なんか言った!?」

「言ってないです!!」

 

 太陽が欠けていく。食われるかのように欠けていく。まるで何か大きなものに覆いかぶされるように、塗りつぶされるようにして、空は漆黒の闇に包まれていく。それは雨雲と呼ぶにはいささか黒すぎる。どす黒い何か。悪意のようなものが形を成したもの。

 

「まずいまずいまずい、周辺は森林、宿屋まで走って逃げるには遠すぎる!! ああくそ、最悪だ……」

「嘆いてる暇があるなら走りなさい!! 死にたくないなら、今を何とかするしか無いのよ!!」

 

 二人は雨風があまり降っておらず、川や湖の増水などに巻き込まれないであろう場所を目指す。

 

"ギュオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!"

 

 高台へ向かうため走り続ける二人は、形容し難い金属音の様な、爆発音のような、とにかく体の中から不快感を感じる爆音を聞く。

 

「雷じゃ……無いわよね……!?」

「魔物……の……声……!?」

 

 それは生き物の声なのか、それとも違うのか。まるで王国製の戦闘艇の飛行音のような、到底生物が発するとは思えない異質な音。どこからともなく湖周辺に響き渡ったが、ひとつだけ分かるのは、二人にとって肉体が、魂が拒絶するかのような、異質な音だったことだけだ。

 

「……だとしたら、魔物なんてレベルじゃないわよ、この響き方は!!」

 

 空気が張り詰める。少なくとも、この付近に異様な圧を放つ存在がいる。二人はすぐに理解した。

 

「とにかく急ごう、この場から離れないと!!」

 

 二人は逃げる道中、比較的雨風が少なく、地盤が安定していそうな高台を見つけた。その安全地帯わや目指し、全力で駆け抜ける。

 

「あそこだ!! あの高台を目指せ!!」

 

 気がつくと空は、まるで夜のように黒く染まっていた。陽の光は完全に消える。

 

「何が……始まるって言うのよ……」

「少なくとも、普通に生きてる人間が遭遇することのない、別次元の事象だッ……!!」

 

 周囲には雨風が吹き荒れる。それは既に、嵐の中心だった。時折近くには、翡翠色の雷が落ちる。ライトの言う"別次元の事象"が始まったのだ。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 命からがら嵐の吹き荒れる地帯をぬけ、何とか高台に登った二人。二人は高台から、湖の方角を見る。

 

「アンタ、局地的大嵐は経験したことあるんでしょ? こんなにヤバかったの?」

「……うん。この地方に入る直前、野宿をしていた所に突然ね。その時に色々破壊されて、持っていかれた」

「噂には聞いていたけど、本当に酷い現象ね、これ。状況が状況なら、普通に死にかねないわよ」

 

 青天の霹靂(へきれき)。予兆も一瞬で、猶予はほとんどなく、突然それはやってくる。自然現象と呼ぶにはあまりにも不自然で、あまりにも唐突すぎるそれ。限られた一角だけが非常に強い雨風に吹かれ、酷い時は地面が抉られる。岩や木々は巻き上げられ、周囲は破壊し尽くされる。事前知識が無い限り、それは命に係わる致命的な事象となるだろう。

 

「僕もここに来る途中に街の人に聞いた時、にわかには信じ難かった。でも実際に目にして、そんなことが本当にあるんだと驚かされ――」

 

 そう語るライトの前、湖の真上、遥か上空に異変は起きていた。

 

「……!! アレを見ろ、ガーネッタ!!」

 

 ライトは叫んだ。ガーネッタもライトの叫び声で、反射的に上空を見る。そこには――

 

「まるで嵐の、眼……?」

 

 空を覆いつくす深淵、位置的には湖を中心として、その上空には渦が巻く。

 

「……ごめん、さっきの言葉は撤回だ。これは局地的大嵐『すら』越えた、もっと別の――」

 

 そうライトが言いかけた瞬間、渦の中心に『穴』が開く。やがて穴は広がり、後光がさすかのように、天の奈落より、光が差し込む。

 

「……なんだ、アレは――」

 

 降り注ぐ雨が風で流され、光に反射して、刃の様な光の軌跡を描く。その軌跡を辿るように、雷撃が縦横無尽に駆け抜ける。穴の周囲の黒雲は、大地に向かってせり上がり、まるで竜巻の様に渦を巻く。そしてその中心を、巨大な影が光と共に舞い降りてくる。

 

「――ドラ……ゴン……!?」

 

 巨大な影は、翼をはためかせながら舞い降りる。そして雄叫びをあげると共に、周囲には無数の落雷が落ちるのであった。

 

「これが……局地的大嵐の、正体だって言うのか……!?」

「……今日は、帰るのがだいぶ遅くなりそうね」

 

 二人の視線の先、そこには――

 

 

"ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォン!!!!!!!!!"

 

 

 ――そこには、白銀に輝く鱗を持った竜が『嵐』をまとっていた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

『SYSTEM:ターゲットを確認しました_』

『SYSTEM:戦闘モードへの移行権限:承認_ 』

『SYSTEM:No.11、状況を判断して対象に接敵してください_ 』

 

 

===========================================

 

■ライト■

年齢:16歳

肩書:楽園の若き店主

体力:C  筋力:C

魔力:F  俊敏:B

 

能力

・サバイバルの知識

・商売の知恵

・剣術:A ←NEW!

・????

・????

 

===========================================

 

■ガーネッタ■

年齢:16歳

肩書:破壊魔/舞い踊る烈火 ←NEW!

体力:C  筋力:D

魔力:B  俊敏:B

 

能力

・サバイバルの知識

・商売の知恵

・射手:B ←NEW

・????

・????




【次回予告】

暗黒に包まれた空。その中心から白銀の竜が下りてくる。
少年と少女は圧倒的な存在を前にして、ただただ逃げることしかできなかった。
しかし神にも等しい存在から逃げ切れるはずもなく、やがて二人は追いつめられていく。

それは神の審判か、それともただの気まぐれか。
運命と対峙した二人は、その先で何を見るのか。

次回 異世界テンプレ物のよくある宿屋酒場物語
第四話 『追い風 Run A Way』

次回もお楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

経営ファイル4 追い風 Run A way

賽を投げて全Sランク取ってきました。どうも、クソ作者です。
期間が空いたので初投稿です。
長い道のりでした。さすがにルビコンでやることもなくなってきたので、そろそろ宿屋経営に戻ります。

さて、前回謎のドラゴンが出てきたところで終わっておりましたが、二人の前に現れた巨大なドラゴンの正体は、果たして……そんなドラゴンの姿は俗に言われるバ〇ムート体型を思い浮かべてください。鳴き声はバ〇ファルク。

てな訳で最新話、どうぞ!!

ちなみに今回から一話前後編になります。流石に10000文字は読む側もキツいし、更新頻度も落ちるからね、仕方ないね、
そんじゃそんな感じで、スタートです!


経営ファイル4 追い風 Run A way(前編)

 

 

 全てを滅ぼすが如く、世界の怒りをひとつに集めたが如く、暴風吹き荒れる中、破壊の神は佇んでいた。

 

「何よ――これ……」

 

 翼を含めれば十メートルはあろう体躯、そんな体躯のほとんどを担う腕と一体化した巨大な翼腕と、翼腕とは異なりしなやかで人間の腕を思わせるもう一つの腕、刃のような鋭い鱗、美しさと畏怖を併せ持つ頭部、そんな頭部側面から天を貫くように生える角、長髪のようにたなびくタテガミ 、先が剣のようになった尾、そして何よりも異質なのが、鎧甲冑を着た人間のように見えるその姿。例えるならそれは竜騎士。まるでよく見かけられる爬虫類のような姿をした竜――ドラゴンとは、似ても似つかない姿をしていた。

 

「……わからない。ただ、間違いなく……」

 

 こんな場所にいるはずのない存在。居てはいけない存在。明らかに次元の違う存在。

 

「……間違いなく、僕達なんかが関わってはいけない存在だ」

 

 ライトとガーネッタの二人は、魂を抜かれたようにその白銀に輝く竜を見つめていた。

 

「こちらを……見ている?」

 

 先程湖に響いた咆哮は、果たしてこのドラゴンの咆哮だったのだろうか。嵐は、ドラゴンが引き起こしたのだろうか。そもそもこのドラゴンはどこから来て、何の目的でここにいるのか。二人の耳にはもう、五月蠅い雨風の音は聞こえていなかった。

 

「ええ、あの視線は間違いなくアタシたちを捉えて――」

 

「"ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!"」

 

 しかし、そんなガーネッタの言葉は咆哮によって遮られた。周囲には雷が連鎖するが如く落ち、雨風は巨大な衝撃波を思わせるように吹き荒れる。

 

「――ッ!?」

「……マズい、来るぞガーネッタ!!」

 

 次の瞬間、ドラゴンは突然こちらに向かい、弾丸のように飛来してくる。

 

「「ギャアアアアアアアアア!!!!!!」」

 

 息ぴったりな悲鳴。初めて二人の意思と声が揃った、歴史的な瞬間である。

 二人はどこに行けばいいかもわからないまま、Uターンしてひたすらに走り始める。

 

「走れ!! とにかく逃げろ!!」

「この状況で逃げない奴はアンタよりバカ(ホンモノ)よ!!」

 

 二人は力の限り走り抜ける。先ほどまで体力を使い果たしていたとは思えないほどに、その足は俊敏そのものだった。

 

「とりあえず来た時の森の中を抜けていこう!! 森はかなり入り組んでいるし、この暗さなら光もなかなか通さない!! なんとかヤツの視界を欺くこともできるはずだ!!」

 

 そう話していた矢先、行く手を阻むかの様に二人の周囲に暴風が吹き荒れる。

 

「ッッ……!! クソッ、あのドラゴン、間違いなく僕らを狙っている!! さっきやたらと静かだったのは、僕達がどう動くか見極めていたんだッ……!!」

「見極めるって、アタシ達ただの一般人よ!? そもそも狙われる理由もなくない!?」

「そうとも言い切れない!! 例えば、ご先祖様がこいつに喧嘩を売ったとか――」

 

 ヒュュュン……

 

 次の瞬間、まるでドアの隙間の隙間風のような、風が何かを抜けるような、そんな異質な音が二人の耳に入る。

 

「……!! ガーネッタ止ま――」

 

 ドゴオオオオオオオオオオォォォォォン!!!!

 

 次の瞬間、二人の目の前に謎の大爆発が起きる。回避が遅れたガーネッタの頬には、時間差で切り傷ができる。

 

「なっ……なによ!?」

 

 ライトの視線の先、数十メートルほど。二人が入ってきた森の出入り口が、粉微塵に破壊される。クレーターが空き、木々はなぎ倒され、着弾した跡には何も残っていない。直撃していたら、二人は瞬時に消し飛んでいただろう。

 

「奴だ!! 奴が何かをした!! もうそれ以外に何かを考えることは出来ない!!」

「知ってるわよ!!」

「あー!! アレだ!! 空気砲!! 多分空気砲だ!! 今飛んできたのは超高速の空気弾!! 圧縮した空気はなんとかかんとか!! あいつは圧縮した空気を射出している!! 理論は知らない!! 逃げろ!!」

「逃げてるのよ!!」

 

 あり得ない状況、あり得ない存在を前にして、二人の語彙力と知能はあり得ないまで下がる。先ほどまで魔物の大群と命のやり取りをしていたとは思えない、頭の悪い言葉の数々。しかしそれも無理はないだろう。圧倒的力を前にして、二人は半ばヤケクソになっていたからだ。

 

「クソッ……、他に逃げ道は……」

「……!! 向こうにも森の入り口みたいなところがあるわ!!」

 

 ガーネッタが指さす先、湖の入り口から少し逸れたところに、小さな木々の切れ間がある。

 

「一か八か……竜にやられるよりも、森で迷った方がまだ……!!」

 

 二人は森のもう一つの入り口に向け、全力で走り始める。そうこうしている間にも、ドラゴンはどんどんと距離を詰めてくる。

 

「森の入り口が見えた!! あと少しだ!!」

 

 二人の後ろでは、竜が羽ばたく音が響き渡っている。とても大きな、空を仰ぐ音。とても大きな、何かが飛ぶ音。

 

「「間に合え間に合え間に合え間に合え間に合ええええぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」」

 

 命からがら走りに走り抜き、二人はようやく森に入る。そしてそれから数秒も経たずして、背後から猛烈な暴風が吹きこんでくる。

 

「ッッアイツは!?」

「ッ、少なくとも森に突っ込んでくるほどバカじゃなさそうだッ……!!」

 

 ドラゴンは二人めがけ高速で滑空してきていたが、目の前の鬱蒼(うっそう)とした樹海を前に、上空にへとその軌道を逸らしていた。

 

「なんとか()いた――」

 

 ライトがそう口にした瞬間、二人の走り抜ける近くから、爆発音がする。

 

「――!! アイツ、もしかして僕らを仕留めるまで、空気砲で爆破してくる気か!?」

「ウッソでしょ……勘弁して頂戴ッ……!!」

 

 湖に入ってきた時とは違う場所から湖に入ったため、この先に何が待ち受けているのか、それは未知の世界だった。

 

「ホントにアンタ、喧嘩を売った記憶とか無いの!?」

「うん、さっぱり!! 生まれてこの方、商品以外のものは売ったことが無いよ!!」

 

 周囲は生憎の嵐模様だ。だが幸いにも、森の中は木々が雨風を多少緩和してくれている。お陰で突風が吹いても身動きが取れなくなることは無い。しかし雨風で荒れた道は、必要以上に二人の体力を容赦なく奪って行く。

 

「これ、どこまで逃げればいいんだ!?」

「わからないッ……でも、少なくともアンタが危惧していた通り、迷子よアタシたちッ……!!」

 

 二人は息を切らしながら、見知らぬ獣道をひたすらに駆け抜ける。例え分かれ道があっても選ぶ隙など存在しない。ひたすらに、ただひたすらに。どれ位の時間だったか。数分か、数時間か、一瞬か、無限か、その逃避行は周囲の爆発音が聞こえなくなるまで続けられた。

 

「……はぁ……はぁ……とりあえず、どうするのさこれからッ……いつまで、逃げればッ……」

「ひとまずッ、息を整えましょ。爆発も一旦は鳴り止んだみたいだし、とりあえず撒けたみたいッ、よ」

 

 息が上がった二人は、倒れ込むように近くの木々の根元に座る。

 

「ここから先、焦って無策に行動したら……あっけなく、死ぬわよ。今は落ち着いて、状況の整理をするのが、最優先」

「君の言うことは、一理ある。まずは呼吸を、整えよう……」

 

 そう言い、二人は息を整えるために深呼吸をする。そして呼吸を落ち着かせてから、話を再開させる。

 

「アンタ……ッここから、宿屋の位置は、分かる……の?」

「なんとか、ね。魔石に……ベースポイントを、設定しておいた。お陰で、方角だけなら……常に、わかる」

 

 そう言うとライトは、腰にぶら下げた魔石を一つ手に取る。そのまま石を手のひらの上で浮かべると、一点を指すように矢印が浮かぶ。

 

「しっかし、いきなり怖いくらいに静まり返ったわね」

「原理はわからないけど、あのドラゴンの周囲だけに嵐が起きる。これが局地的大嵐の真相だったのかもしれない……」

「これで終わりとは思えない。うまく、鉢合わせないようにしたいけど……」

 

 ドラゴンの空気弾は飛んでこない。オマケに周囲の雨風は、嘘のように静まり返っている。しかし、曇り空は相変わらずだった。それはつまり、破壊の神を撒ききれていないことを、暗に示している。

 

「……そんなことより、さっきの傷は大丈夫? 他に怪我は?」

「……かすり傷よ、こんなの」

 

 そう言うとガーネッタは、袖で頬を垂れる血をぬぐう。そんな様子を見たライトは、懐から小さな小瓶を取り出した。

 

「……以前この森に入った時に、樹液、薬草、木の実から精製しといた活力剤だ。味はよくないし、とてもしみるけど、飲んでも塗っても効く。失われた体力の回復と、傷口の治りを良くするのには、充分かなって」

「器用なことするのね、アンタ」

 

 そう言うと、ガーネッタは小瓶を受け取る。そしてそのまま顔にかけると、残った薬を即座に飲み干す。

 

「……っぷ」

「豪快な飲みっぷり、君らしいよ」

「なんか言った?」

「いいや? 何も」

 

 豪快に活力剤を飲み切ったガーネッタは、そのまま(うつむ)き黙り込む。ライトも体力を回復させているのか、それから無駄な言葉を話さない。周囲には、雨風と二人の呼吸音だけが静かに響く。

 

「……アリガトウ」

 

 ガーネッタは小声で何かをつぶやいたが、吹き荒れる雨風の音のせいか、状況の余裕のなさからか、ライトの耳には届いていなかった。

 

「……って、ちょっとアンタ、さっきから雑木林の中をじっと見つめて、何か――」

「……風の流れが――」

 

 ふと、ライトはそう呟く。

 

「……風?」

 

 ライトは何気ない風に、得体の知れぬ気持ちの悪さを感じ取る。神妙な顔つきをしながら、遠くの揺れる草木をじっと眺める。

 

「――ッ!! マズい、走るよガーネッタ!!」

「ッ!! 今度は何!?」

「いいから!!」

 

 ライトはガーネッタの手を引き、その場から走り出す。

 

「風だ!! 風の流れで、奴は――」

 

 次の瞬間、それまでライト達のいた場所が、何かの衝撃によって抉り取られる。

 

「奴は風の、空気の流れで僕達の居場所を探している!! やっぱりまだ追ってきている!!」

「ハァ!? なによそれストーカー!? 信じらんないわ!! ドラゴンのクセして、やることが蛇みたいよ!!」

 

 二人は再び、その場から走り始める。それを待っていたかのように、周囲には叩きつけるような雨音と、空気弾の爆発する音、雷の鳴り響く音が響き渡る。ドラゴンもちまちまと逃げる人間がいじらしくなってきたのか、いよいよ攻撃の激しさを増していく。

 

「走れ、走れ走れ走れ!! 生き残るために走れ!!」

 

 その爆撃は何度繰り返されただろうか。何度心が折れかけただろうか。永遠に続く薄暗い道。永遠にも感じる恐怖。側に感じる爆音と空気のひずみ、そして死。二人は極限状態の中、ひたすらに道を走り続けた。

 

「不味い、こんなことの繰り返しをやっていたら日が沈む……ランプを付けなきゃ道が見えなくなる。そうなったら、奴に居場所がバレて終わりだ……!!」

「じゃあどうすんのよ!! 奴と戦うって訳!?」

 

 だがそんな二人の杞憂もつかの間、逃避行は不意に終わりを迎える。

 

「……先が開けている」

 

 道の先、暗闇の先が開けている。それはすなわち、ドラゴンから自分たちを保護してくれていた、木々の終わりが迫っているということである。

 

「残念だけど、もう他に道は無い。いつまでも森の中を逃げていた所で、とてもじゃないけど見逃してくれるとは思えない」

 

 森の終わりを目前にして、二人は走るその足を一旦止める。

 

「……覚悟を決めるしか、無い」

 

 ライトの言葉を聞き、ガーネッタは数泊を置いてただ一言「そう」とだけ呟いた。

 

「……この先がどうなってるかもわからない。僕が先に行く。だから気を引いているうちに、君は――」

「正直、こんなことに巻き込んだアンタを、強く恨んでいる自分がいる」

 

 ライトの言葉を遮るように、ガーネッタは冷たく言い放つ。

 

「でも、ここに来ることを選んだのは間違いなく自分」

 

 そう言い、ガーネッタは言葉を続けていく。

 

「だからアタシは、アンタを責めない。別に、責任を感じたいなら、勝手に感じてもらって構わないけど。でも最低限、生き残ることだけは考えて」

 

 ガーネッタは今までに見せたことのない、芯のある目つきでライトの瞳を捉える。

 

「躊躇無く置いていくんじゃなかったんだっけ?」

「……今アンタが死んだら、次は間違いなくアタシよ。二人ならコンマパーセント生き残る可能性が、一人になったらゼロになる」

「本気なんだな」

「アタシには、死ねない理由(なすべきこと)がある」

「……わかった」

 

 二人は心を決めると、足並みを揃え森の外へ走り出す。嵐のせいか、先程湖に出た時とは違い、鬱蒼とした森を抜けた先も変わらず薄暗かった。

 

「なによ、これ……」

 

 二人が駆け抜けた先、そこは木々によって外界から閉ざされた、小さな草原だった。そしてその中には点々と、規則正しく、壊れた石造りの建物が並ぶ。それはまるで――

 

「遺跡……?」

 

 古代の遺跡を思わせる、森の中には不自然すぎるほどの、人工造形物の数々だった。

 

「じいちゃんが現役だった頃、宿屋の付近に人が住んでいるとは聞いていたけど……それにしては、あまりにも建物が風化し過ぎている」

 

 そのほとんどが、壁の一部と思われる場所を残して朽ちてしまっている。だが、一部の建物はその姿を残していた。その大きさはごく一般的な一軒家ほどだ。建物が規則正しく並ぶ様はまるで、小さな町か、或いは集落を思わせる。

 

「――ッ!! ガーネッタ、前に飛べ!!」

 

 刹那、ライトの直感に電撃が走った。二人は大きく前に跳ぶ。更に次の瞬間、後ろで大きな音が鳴り響く。二人が後ろを振り向くと、先ほどまで来ていた道が木っ端微塵に破壊されており、木々が倒れている。とてもではないが、引き返せない状況になっていた。

 

「――ッ!?」

 

 ガーネッタは驚き声を上げる暇すら無かった。

 元々生憎の曇り空だった二人の頭上は、瞬時にして漆黒に覆われる。それは空を覆い尽くす巨体だった。

 

「考察は帰ってからだね、これは」

 

 ドラゴンは二人の頭上を通り抜けていくと、その視線の先で動きを止める。そして荒れ狂う暴風雨や雷とは正反対に、ただ静かにその場で羽ばたき続けるのであった。

 

「……戦うの? コイツと?」

「……」

 

 ライトは答えなかった。否、答えられなかった。そのガーネッタの問いに。

 

「……今更怖気付くんじゃないわよ、ライト」

 

 ライトは恐る恐る背中の剣を構える。ガーネッタは片手を突き出すと、その手にはボウガンが握られる。しかし二人の呼吸は乱れており、その手は確かに震えていた。

 

「"ギュオオオオオオオオオオン!!"」

 

 ドラゴンはけたたましい雄叫びを上げる。空気が震える。大地が揺れる。圧倒的力を前に、ライトとガーネッタは武器を構え、ただただ立ち尽くすことしかできなかった。そんな二人の絶望を他所に、ドラゴンが大口を開けて迫り来る。

 

「……無理だ」

 

 ライトはそう口から絶望をこぼし、構えた剣をその場に落とした。ガーネッタもいよいよ万策が尽き果て、ボウガンを突き出した腕を下げる。

 

「逃げ切れる訳ない、あんな化物(バケモノ)から――」

 

 50m、30m、10m……ドラゴンは雷を纏い、果てしない速度で距離を詰めていく。

 

「ああ、やっぱり僕には、何も無かったんだ――」

 

 ライトにとって、迫り来るドラゴンは目を背けていた現実だった。全てが順風満帆だった毎日。

 

「……じいちゃんみたいな夢も、父さんみたいな力も」

 

 きっとどうにかなるだろうという楽観。それらで霞んでいた将来、どうにもならない巨大な壁。それが今までの帳尻合わせの様に迫っていた。

 

「悔しいなぁ、結局、諦めるしかないじゃないか――」

 

 やがてドラゴンは数メートルに迫り、二人は覚悟を決めて目を瞑る――

 

 

 ズギュアアアアン!!!

 

 

 しかし刹那、何か衝突する音と共に、二人の目の前からドラゴンが瞬時に消える。

 

「……?」

 

 周囲に響く轟音。突然軌道を変え、凄まじい勢いで地面に叩きつけられたドラゴン。あまりにも突然の出来事に、二人は状況の変化に追いつくのに、数秒の時間を要した。

 

「――……消えた……!?」

 

 周囲には砂埃と石粒が舞い散る。二人は視界を塞がれ、咳き込んだ。やがて数泊を置いて、視界の先の砂埃が晴れていく。二人の見つめる先には、巨大な影が浮かびゆく。

 

「……何よ、アレ……」

 

 漆黒の体表に、紫の光が駆け巡る。

 

「黒い……巨人……?」

 

 おおよそ人の三倍か四倍はあろう体躯に、巨大な腕。

 

「……違う、魔物や原生生物じゃ……ない!!」

 

 鳥や獣を思わせる逆関節の足に、ドラゴンを思わせる尾。

 

「何よ、コイツ……」

 

 そして何より異質なのが、三角形で無機質な頭と思われる部位。

 

『SYSTEM:損傷・1%. 作戦の遂行に問題無し. 暴走した六王の排除を継続してください_ 』

 

 例えるならそれは、黒鉄の鎧。超古代兵器(ゴーレム)か、王都の新型魔術兵装(アーキテクト)か。はたまた既知の存在を超えた未知の存在か。『それ』は二人からしたら未知の存在だった為に、具体的な言葉で表すことができなかった。

 

 理想郷を追い求める少年と、野心に火を灯した少女。圧倒的な力を持つ白銀の竜。そして突如戦場に飛来した黒鉄の巨影。役者は既に、舞台に揃いつつあった。

 

 

 

 

 




【次回予告】

着々と世界を蝕みつつある歪み。それを体現した二体の巨影は、大いなる意志の元に約束の地に集う。
数多の疑問を抱え、少年少女はこの地に、この世界に根ざした闇の一旦を知る事になる。

見知らぬ何処かで歯車は鳴る。運命が噛み合い、世界は今日も回って行く。運命を知れぬ若者は、無知を嘆き時の流れに身を委ねる。

次回 異世界テンプレ物のよくある宿屋酒場物語
第五話 『竜機相搏つ』

頑張ります。執筆を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。