恋姫†無双 孫呉に現れし黄金の獣 (月神サチ)
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序章 黄金の獣、孫家の一員になる
プロローグ 偽りの黄金の獣


――目を開く。

 

そこには自分と十二人の魔人とも言える者たちが鎮座する円卓が在った。

 

――彼らは私の一部である。

 

そう直感的に自覚した瞬間、

 

「……そうか、私はかの男の追憶……牢獄(ゲットー)から抜け出せたというわけか」

 

自然と言葉がこぼれる。

 

「故に、貴方は目を覚まし、かの女神を騙る者と対面することになるでしょう。我々を引き連れ、何処に転生するのかはわかりませぬが――貴方のような怪物が生まれ落ちる地が穏やかな場所にならないのは、想像に容易い」

 

隣の席にて、何処か演劇じみた語り口で告げる我が友、カール・クラフト。

 

「父上の行くところならば、何処までもお供いたします」

 

対面に位置する席、『私』の血を引くイザークが冷静に告げる。

 

そして他の者たちも頷く。

 

「卿らの忠節、感謝する。では征こうか、新たな世界に!」

 

私の言葉に視界が白く染まっていった――。

 

 

 

 

目を開くと私はいつも座っていた黒円卓の第一席と同じものに座っており、眼の前には白銀の腰まであろう白銀の髪を遊ばせている白磁の如き肌の美女がこちらを見ていた。

 

「……えっと、転生特典取得できましたかね?」

 

腰の低い態度に懐かしささえ感じつつ、私は静かに頷く。

 

「10桁を超えたあたりから数えるのを忘れたが、黄金の獣の力は我が物とした。……英雄王の力や宝具の取得にかかった時間に比べると桁の違う差があったことについて、思うところがない訳では無いが」

 

「英雄王の方はクラスカードという概念が前例にあって、それを元に生成したものを貴方用に設定、紐づけし、宝物庫の中身補充だけなので妥当かなと」

 

女神の言葉を聞いて、忘却の彼方にあった記憶が蘇り、そういうものかと思考を打ち切る。

 

「して、あと2つの転生特典はどうなった?」

 

「『グルメ界のある異界』については影の国の第3層から行けるようにしたものがあるので、それを使ってください。『生前育てたポケモン』については、生前のデータの子たちの方ならいいですよ。ただ、全部は時間かかるので、最初はリストのうちの六匹だけになりますが」

 

そういってリストを女神は渡してきた。

 

「……ならこの6体を頼む」

 

すぐに選んだあと、忘れていたことを女神に問いかけた。

 

「そういえば私は何処に転生するのかね?」

 

「あれ?忘れました? 恋姫無双の世界ですよ?」

 

転生先をそこにした覚えがない。

 

……単に忘れただけかもしれんが。

 

「…………そこに彼の御遣いはいるのかね?」

 

「いません。 代わりに聖杯戦争が発生するフラグ立ってたりしますが。あ、恋姫たち食い散らかしていいですからね?」

 

「もう少し言い方なんとかならんかったのか?」

 

「……とりあえず、準備できたので送りますね。なにかあったら呼んでください。夢経由で参上しますんで」

 

私の言葉をガン無視し、一方的に告げると私の意識は滑り落ちる様に闇の中に落ちて行った……。

 

「あ、サプライズ用意したけど、言い忘れた。……ま、そのうち気がつくかな」

 

 

 

 

 

 

――side ???

 

満天の星空の元、ある丘にて。

 

「……」

 

日に焼けた小麦色の肌、夜空を見上げる蒼い瞳と、腰まであるピンク色の髪をした女性が、夜空を睨んでいた。

 

「炎蓮様、どうなされたのです? 急に『遠乗り行くからついてこい』なんて私と祭に告げて城を飛び出したりして……」

 

後ろにいた水色の髪の女性がそう問いかけると、炎蓮と呼ばれた女は振り向いて問いかけた女性に口を開く。

 

「――勘だ」

 

「えっ、勘でこんなことを?」

 

キョトンとする水色の髪の女性。

 

「粋怜、勘で動く大殿の奇行は割りといつものことではないか。……最近は雪蓮様がやってるから、目立たなくなっているだけで」

 

水色の髪の女性の隣でため息交じりに突っ込む薄紫色の女性。

 

「んだと祭。それで悪い方に転がったことねぇ……!」

 

炎蓮は言ってる途中でなにかに気がついたか、先程まで見ていた方角に目を向ける。

 

そこには――

 

「あっ」

 

「金色の……流れ星?」

 

金色に光る流れ星が、丘の少し下ったところに落ちる光景が在り――

 

「――行くぞ、テメェら!」

 

落ちた場所に炎蓮は駆け出した。

 

「あ、ちょっと!」

 

「判断が早い!」

 

粋怜と祭はそのあとを慌てて追いかけるのであった……。

 



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第一話 黄金の獣と孫呉の大殿

――side ラインハルト

 

目を覚ますと満天の星空と――何処かで見たことのある3人の女性の姿が視界に入ってきた。

 

仰向けに倒れていたことに気が付き、私は起き上がる。

 

それに対して、3人のうち2人は驚いた様子を見せるが、1人は泰然としたまま、こちらを見ていた。

 

「……テメェ、流れ星と共に現れたが、ナニモンだ?」

 

「ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。大抵の者はラインハルトと私のことを呼んでいる。何者かと問われれば……迷い人になるだろうな」

 

ピンク色の髪の女性……孫堅こと、孫文台の問いかけにそう答えると、彼女はこちらに歩いて寄ってきた。

 

「迷い人?つーことは行く宛も帰る場所もねェってことだな?」

 

「そうなる」

 

私の言葉に獰猛な笑みを口元に浮かべる孫文台。

 

「――なら、ウチに来いよ、歓迎するぜ?」

 

「穀潰しかもしれんぞ? 大丈夫かね?」

 

わざとらしくそう問いかけると

 

「武人のような無駄のねェ動きや目線の動かし方を無意識にできる穀潰しだったら、オレの目が節穴ってことで適当なとこで放り出すさ。それにオレの勘はテメェがオレたちにとって有用な奴って告げてるんでな。生憎外したこと無いから大丈夫だろ」

 

孫文台は言い切って見せた。

 

「ならばよろしく頼む。……そちらの女性含め、何と呼べば良いかね?」

 

私が右手を差し出すと、その手を孫文台は握り

 

「オレは孫堅、字は文台。真名は炎蓮(イェンレン)だ。――オレのことは炎蓮と呼べ」

 

「いきなり真名を!?」

 

「大殿、正気ですか!」

 

2人の言葉に鬱陶しいと言わんばかりの顔をする炎蓮。

 

「真名を誰に預けるのかはオレの勝手だろ。……そういえばお前の場合真名は何になるんだ?」

 

思い出したように問いかける炎蓮。

 

「残念だが、真名の文化が無いのでな、預ける真名は持っておらん」

 

「なら気にしなくていいか。とりあえずオレは真名を預けたから真名で呼ぶ、真名知らねぇ奴、預かってない奴の名前は迂闊に言わねえこと。このあたりとりあえず気をつけとけ。――許してない相手に真名を呼ばれるのは、素っ裸に剝かれてケツ穴まで覗かれるくらいの屈辱だからな。殺されても文句言えねえ。……テメェの場合は殺しても死ななそうだけどな」

 

そう言いながら、背を向けて歩き出す炎蓮。

 

「ふむ……気をつけよう」

 

私もそれに続く。

 

2人の女性はなにか言いたそうだったが、私のあとについてくる形で歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side 粋怜

 

背まである金色の髪に金色に煌めく双眸。

 

日に焼ける私達とは別世界の住人のような白い肌。

 

およそ8尺*1という、めったに見ない背丈。

 

見たことのない服装。

 

……観察してるうちにと、近頃噂になっていた『金色の髪の天の御遣い』の特徴にそっくりだと気がつく。

 

偶然か、必然か……。

 

「……小言の多い雷火とか、蓮華様あたり、何を言うかしらね……」

 

「なんの相談もなしにあの男を城に入れたことを先ず問い、それを止めなんだ儂らにも飛び火するのは確実じゃろうて……」

 

「「はぁ……」」

 

「お前らは外出るときの護衛につれてきただけだから、文句言ったら『テメェが護衛なしでふらつくな言ってただろ!』って言い返してやるからいいだろ」

 

炎蓮様が耳聡く反応して私たちの言葉にそう言ってくださった。

 

「……上が破天荒だと、下が振り回されるのは世の常か」

 

ラインハルトがこちらを見つつそう零す。

 

「なんじゃ、お主もこういう主がおったことあるのか?」

 

祭が問いかけると

 

「あるのは間違いない。――同時に私もそういう時期が有ったのでな、その部下たちに迷惑かけたことを思い出したところだ」

 

肩をすくめるラインハルト。

 

「……あ」

 

「どうした、粋怜。腹でも減ったか?」

 

炎蓮様の選択肢が相変わらず野性的なものなのは何故かしらね……?

 

「いえ、ラインハルト……殿に私たち名乗ってないと思いまして」

 

「そういやそうか」

 

「反応が軽い……」

 

炎蓮様の言葉にラインハルトは困惑気味に反応してる。

 

「こほん。――私は程普、字は徳謀。こっちは黄蓋、字は公覆。私の真名は粋怜。黄蓋の真名は本人から呼ぶ許可もらって頂戴」

 

「……真名をそんな容易く許して良いのか?」

 

怪訝そうな顔をするラインハルト。

 

「人によってまちまちだからな。閨に招く相手以外預けないやつもいれば、飯奢れば預けるやつもいるらしいし。オレのトコの連中は大方オレが預けてること分かれば預けるハズだ」

 

「それ同調圧力……いや、郷の掟等に口を挟むのは野暮だな」

 

ラインハルトはそう思考を打ち切った。

 

「で、祭はどうするんだ?」

 

「……儂は祭。名と字は粋怜が告げた通りじゃ。好きに呼べ、ラインハルト」

 

「分かった、よしなに頼む、祭」

 

平然と敬称なしで呼ぶラインハルト。

 

「……ところでお前歳いくつだ?」

 

炎蓮様の問いかけに少し悩んだ顔をするラインハルト。

 

「肉体の年齢はおよそ28、生きた年数なら100は超えてる……と答えておこうか」

 

「えっ、どういうこと???」

 

「(天の御遣いの血は入れられそうか……)手を出したい女いたら相談しろよ? 人妻じゃなきゃなんとかしてやるから」

 

「炎蓮様!?」

 

ラインハルトの言葉も謎だけど、炎蓮様の言葉も謎だらけ。

 

……えっ、もしかして炎蓮様、この人を天の御遣いと断定して、この人の血を私たちに取り込ませようとしてる?

 

「……気が向いたらな」

 

「チッつれねぇなぁ。オレでも全然アリだぞ? 旦那居ねぇし。それか娘たちどうだ?年頃のから、幼女趣味に合うのまでいるからよ」

 

「娘を売るな」

 

眉をひそめるラインハルト。

 

「……ま、とりあえず……ようこそ、我が街、そして城へ。歓迎するぞ、ラインハルト」

 

不敵な笑みを浮かべ、炎蓮様はそう告げたのだった……。

 

*1
当時の度量衡は1尺=24.1cmとのこと。つまり192cmくらい



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第二話 黄金の獣と孫家の恋姫

――side ラインハルト

 

城についた時点で夜は明けており、既に起きていた周泰と張昭に見つかり、大騒ぎ。

 

寝てる面々が叩き起こされ、玉座の間に寝ぼけ眼数名含めた孫家の現在所属する恋姫が一堂に集められた。

 

玉座の前に私、背後に炎蓮、私に対し半円を描くように並ぶ恋姫たち。

 

「……私はラインハルト。フルネーム……正式な名をラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒという。真名を持たぬ所の育ち故に預け呼んでもらう真名を持たぬ。ラインハルトで通っているのでそう呼んでもらいたい」

 

私の言葉に背後で頷いたらしい炎蓮が口を開く。

 

「とりあえずお前らはコイツのことラインハルトで呼んどけ。んで、粋怜と祭紹介済みで真名預けてるから省略して……雷火、冥琳、穏!わかりやすいように前に出ろ」

 

炎蓮の言葉に3人の女性が一歩前に出る。

 

1人は幼児体型だが貫禄のある薄水色の髪をしたあまり日に焼けていない女性。

 

1人は腰まである黒髪と翠玉色の双眸、赤いフレームのメガネをかけたスタイルのいい褐色肌の女性。

 

1人は小さなメガネを付けた若草色の髪と白い肌の女性。

 

「ワシは張昭、字は子布。……お主が本当の天の御遣いか知らぬが、孫家に害為す者なら覚悟しておけよ?」

 

「……周瑜、字は公瑾。その、なんだ……色々大変そうだな」

 

「私は陸遜、字は伯言です。真名は穏といいますー。天の御遣い様って色々なことご存知ですよね?ぜひとも本を交えながら色々談議してみたいですねぇ」

 

「とりあえず3人下がれ。次、明命!」

 

その言葉に張昭、周瑜、穏は下がり、かわりに膝まである黒髪の娘が一歩前に出てから、慌てふためく。

 

「私だけ!? えとえと、私は周泰、字は幼平、真名は明命です! 御遣い様、よろしくお願い致します!」

 

そういうと元の位置に戻る。

 

「最後はオレの娘たちだ。――雪蓮、蓮華、小蓮!」

 

右から長女、次女、3女とわかる炎蓮の面影が色濃く残っている3人が前に出る。

 

「私は孫策、字は伯符。雪蓮って呼んでね」

 

「……孫権、字は仲謀」

 

「シャオは孫尚香。真名は小蓮。皆シャオって呼んでるから、お兄さんもシャオって呼んでね♪」

 

自己紹介終わると3人とも元の位置に戻る。

 

「――で、誰か気に入ったの居たか?」

 

「……顔と名前だけで判断はできん。いや、そもそも己を種馬にしようと目論んでる相手にそんなこと答えると思うかね???」

 

炎蓮の言葉に反論すると、つまらなそうな顔をする。

 

「はーーーーーー、つまんねぇ。ここで何人か食い散らかせばそれ理由に他所に行かないように楔にできたのによぉ……」

 

「しれっと恐ろしいこと言ってるな、コイツ」

 

「大殿をコイツ呼ばわり……!!!」

 

張昭が私の呼び方で反応して少なくない怒りを見せる。

 

「とりあえずコイツは食客……客人扱いでウチに居させる。かわりにラインハルトは天の知識あたりでなんか役に立ちそうなモンあったら提供しろ、できねえなら種出せ」

 

「種馬にならんよう、知恵なり何かしらを出させてもらうとするか」

 

「んじゃまあ、とりあえず他になんか報告無きゃ解散だ。ーーなさそうだな? んじゃ、解散。オレと粋怜と祭は寝てるからどうしてものときは起こせ。あとラインハルト、寝るときは部屋の前の札黒い札に代えとけよ、寝てるって意味だから」

 

そう炎蓮が連絡事項など伝えると一同は解散する。

 

「ねえ、ラインハルト」

 

……約一名が好奇心全開で寄ってきた。

 

「何かね、シャオ」

 

「お兄さんって本当に天の御使い? ちょーーっと信じられないんだけど……」

 

メスガキ風の煽りに見えた気がしたが、気のせいと思いつつ、少し考える。

 

「ふむ……ならコレを見せるか。――近いうちに外に出してやろうと思ってたしな」

 

私は懐からマスターボールを取り出し、それを近くに放り投げる。

 

「ウルォーード!!」

 

飛び出てきたのは剣を背の鞘に収めたザシアン。

 

マスターボールが手元に戻ってきたのでそれをキャッチし、懐に戻す。

 

「……ザシアン、ちょっとおとなしくしててくれ」

 

「?」

 

こちらを見て首を傾げたあと、おすわりの体勢になるザシアン。

 

「コレ何!? どうやって出したの!? 犬でも狼でも無いよね!? 何コレ!?」

 

目を丸くして近づき、あちこちを見たり触ったりするシャオ。

 

「天の国より離れた地のとある地方にて、伝説とされていたモンスター……一番近い言葉では怪物かな。その片割れだ。名はザシアン。ーーよほどのことがなければ私の言うことを大人しく聞くから多少なら触ってもいいぞ。ーー大丈夫だよな?」

 

「ウォン……」

 

なんか少し肩透かし食らった感じで覇気がない返事をするザシアン。

 

「懐から出した球から出てきたわよね。それ私も使える?」

 

興味津々のシャオ。

 

「出したとしても私以外の言うことは基本聞かんし、広域豪雨による災害起こせるヤツ*1や自然発火する鱗粉を無意識に撒くヤツ*2や体が鋼の棘で覆われているの*3がいるゆえ、取り扱いが難しいのだ。ーー後ろから腰にあるであろうボールを取ろうとしてる雪蓮あたりは特に気をつけてもらいたいものだ」

 

「げ、バレてる」

 

振り向くとそそくさと距離を取る雪蓮。

 

「……テメェが出すなら、問題ないんだろ? 出せるだけ出してみろよ」

 

玉座の位置に戻ってる炎蓮。

 

周りを見るといつの間にか全員が戻ってきてザシアンを見たりこちらの挙動を注視したりしている。

 

私はため息混じりにボールを4つ投げる。

 

ネットボールから出てきたのは頭、両腕に2個ずつ、背中に4つのコブを持つ青いカエルことしんどうポケモンのガマゲロゲ。

 

モンスターボールから姿を見せたのは赤い3対の羽を持つ蛾のような姿のたいようポケモンのウルガモス。

 

タイマーボールから現れたは背面が黒、前が黄色の翼を持つ黄色い鳥のでんげきポケモンことサンダー。

 

ハイパーボールから飛び出したのは表面の鋼に太い棘をつけた金属の円盤のような身体に頭側から生える3本の足で体を支えるとげだまポケモンのナットレイ。

 

4匹が揃って着地し、そこそこ音が鳴り響く。

 

「……あと1体が、その、雨を降らせるやつなのか?」

 

張昭がおずおずと問いかけてきた。

 

「……短時間雨降らせる程度なら出してもいいが、ここだと少し狭い」

 

「そんなにでかいの!?」

 

シャオが興味津々。ついでに孫権も気になってる様子。

 

「そっちの中庭ならどうだ?」

 

炎蓮に言われてそっちを確認。

 

「問題ない。――雨が降り始めるが構わんな?」

 

私の問いかけに一部はまだ疑いの目をもつが一応全員が了承の反応を見せてくれる。

 

「――出てこい、カイオーガ!」

 

2つ目のマスターボールを投げるとそこにはゲンシカイキしたカイオーガが……

 

「なぜゲンシカイキしている!」

 

瞬間的に天気が塗り替わり、大陸全土に土砂降りの雨が降り始める。

 

「んべっ」

 

カイオーガが口から何かを吐き出したのでそれをキャッチすると……

 

濡れてるあいいろのたまがあった。

 

「…………ゲンシグラードンが現れたら返す。とりあえず没収な。」

 

そう言い終える前にカイオーガの姿が光り、光が収まるとそこにはいつもの姿に戻ったカイオーガが鎮座していた。

 

「……」

 

どこか不満そうだが洪水起こされたらたまったものではないのでやむなし。

 

「……本当にそいつが現れた瞬間に大雨になったな……」

 

祭が困惑する面々を代表してそうこぼす。

 

なお雨はゲンシカイキの解除とともにすぐに弱くなり、軽い雨で10分もすれば止むだろう。

 

「天候を操る獣従える男が天の御使いじゃなかったら何が天の御使いだと思う? 雷火ァ」

 

振り向くとニヤニヤしながら張昭に疑問を投げかける炎蓮の姿が。

 

「――わかりました、コヤツを天の御使いだと認めますから、そのような顔はやめてくだされ」

 

頭を振りながらそう答える張昭。

 

「とりあえず、そいつらが何できるか、オレたちに説明してくれるよな?」

 

「構わんよ。――最も、コレが私の手札の全てではない。追々見せることになるとだけ言っておこう……」

 

彼らを従えることだけが取り柄と思われるのはあまり気分がよくないので釘を差しつつ、説明を始めるのだった――。

 

*1
カイオーガ

*2
ウルガモス

*3
ナットレイ



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第三話 孫呉での暮らし

『それを言っちゃぁおしまいよ』
ラインハルト視点、前の話の翌朝の話。

『雪蓮に酒、穏に本、明命にネコを与えるときは計画的に!』
ラインハルト加入数日後、雪蓮視点のお話。

『積み重ねた常識は知らぬうちに色眼鏡となる』
ラインハルト加入後約1週間後、雷火視点の話。

それではどうぞ。


 

『それを言っちゃぁおしまいよ』

 

――side ラインハルト

 

ポケモンたちの能力などの説明とその関連用語の翻訳に半日使い、自室で寝る振りしつつ転生特典などの確認をしていたら翌日になっていた。

 

一応6匹ともボールに戻したが、カイオーガが自由を求めているため、転生特典一つ――影の国の方に放牧……放流して必要になったら呼ぶスタイルにすることをとりあえず決める。

 

服などを整え、聖餐杯、シュピーネ、ベイ、マレウスの4人に影の国の確認ついでに適当な階層でくつろがせるようカイオーガを託してから部屋をあとにする。

 

「……いかん、食事しないと流石に不自然に思われるな」

 

ラインハルトという怪物の恩恵か、三大欲求が驚くほど薄いことに今更気がつく。

 

――グルメ界の食材を手に入れられるというのに、楽しむことを忘れたらもったいないな。

 

そう思いつつ、食堂を探す。

 

しばらく見当たらず首を傾げながら徘徊していると、近くのドアが開く。

 

「ふぁああ……」

 

そこには寝ぼけ眼、下着が透けるような薄着の孫権の姿が。

 

「……」

 

無意識に気配を消して、彼女が過ぎ去るのを待つことを選ぶ。

 

声をかけると話が拗れそうだからな。

 

あと少しで完全に空気と一体化するところまでき「おい、ラインハルト、何してんだ?」

 

振り向くとそこには酒と書かれたひょうたん片手にした炎蓮が居た。

 

「こんな通路の真ん中で何を……なんだ?寝起きの蓮華でも手籠めにするために息ひそめようとしてたのか?」

 

「あの姿に声掛けしたら面倒事になると思ったから回避しようとした「そうなんだ」」

 

炎蓮にかまけて居たら腕で胸元と股あたりを隠しながらこちらを睨む孫権が直ぐ側まで来ていた。

 

「……恋仲でも無い女の下着姿見ておいて何もなしは無いんじゃないかしら……?」

 

ジト目の孫権。

 

「別にいいじゃねえか、減るもんじゃねえし。つかコイツが住むことは昨日伝えただろ、それなのにそんな姿してるお前が悪いだろ」

 

「お母様みたいに開けっ広げなつもり無いですから!!」

 

耳かっぽじりながら冷静に突っ込む母親に反論する娘。

 

「胸の内側下半分からヘソ下くらいまで開けっ広の、前の切れ込み大きな服を普段から着てソレ言われてもなぁ……他所の連中的にオレたち同類だと思われてるぞ、多分」

 

炎蓮の反論に石化したような孫権。

 

「……!? そ、そんなはずは……ラインハルト! あなた視点どうなの!?」

 

「……ノーコメント。回答拒否だ」

 

「!?」

 

困惑する孫権を横目に炎蓮は私の腕を掴む。

 

「さて、何にせよ、朝の飯食わねえとな。行くぞ、ラインハルト」

 

「掴んで引っ張りながら言う言葉ではないぞソレ」

 

私は炎蓮を怪我させないためにも大人しくついていくことにした――。

 

 

 

 

 

『雪蓮に酒、穏に本、明命にネコを与えるときは計画的に!』

 

――side 雪蓮

 

彼が来て数日。

 

知らないところで粋怜と鍛錬で粋怜負かしたり、碁で冥琳相手にそこそこの差をつけて勝ったりしてるらしいが、幸か不幸かそういう場面に出くわさない。

 

「……うん? お酒の匂い……? でも嗅いだことない匂いがするわね……」

 

私のお酒探知する鼻が匂いを嗅ぎつけたのだが、自分の知らない酒の予感がする。

 

とりあえず今行けばありつけそうだし、行ってみよ。

 

 

 

 

匂いを頼りに城の東屋にたどり着くと、そこには酔っ払ったネコたちを撫でて幸せそうにしてる明命と、見たこと無い光沢の表紙をした本を読んでうっとりしてる穏、そしてそれらを東屋の卓から興味深そうに見てるラインハルトとお母様が居た。

 

「お、予想通り来たな」

 

「本当に来たな……」

 

なんか嬉しそうなお母様とそこそこ困惑してるラインハルトの手元を見ると、見たことのない器に入った酒(匂いの発生源!)とソレを注いだ椀が3つ並んでいた。

 

「ソレお酒でしょ?私にも頂戴?」

 

私は空いてる席に座りながらそう言うと、椀の一つを私の前に差し出してきた。

 

「……もしかして、私が来るって思って予め用意してた?」

 

ラインハルトに聞いてみると

 

「炎蓮の勘通りにな。――その酒は私の持ち込んだものだが、希少というほどでもない。――駄賃代わりにこの酒瓶ごと渡すゆえ、後始末を頼む」

 

一口含んだだけでわかる。

 

きれいな水と相当良い米を使った酒だ。

 

――なんの駄賃代わりかわからないけど、酒瓶ごともらえるなら安いものだ。

 

なんか嫌な予感がするって勘が言ってるけど無視しつつ、私はうなずいた。

 

「ついでにつまみも置いておく。――烏賊を炙ったものだ。味は悪くないはずだ。あとは頼んだ」

 

そう言うと、ラインハルトはどこかに去っていった。

 

「つれないわねぇ。酒飲みながら腹割って色々話したいのになぁ」

 

「アイツ(ザル)どころか枠だぞ、酔わせようと思ったら、大陸の酒必要になるかもな」

 

その言葉に私は驚いて噎せてしまった。

 

「けほっ……お母様ソレ本当??」

 

「ああ、昨日の夜、アイツ酔い潰して既成事実作ろうとしたんだけどな、オレが先に潰れたから間違いねぇ。――オレのほうはどぶろくで、アイツはその酒より強いのを同じ量飲んだのに今日全く二日酔いした気配もねぇからな。――少なくともそこらの酒買い集めなきゃアイツの頬赤らめさせるのも難しいだろうな」

 

そう言うとお母様はつまみを半分ちぎって咥え

 

「雪蓮、明命の方は放置で良いが、穏の相手はしっかりやっとけよ。――ラインハルトがウチのご先祖様の兵法書を商売で活用するって本を穏の癖知らずに渡しちまったみたいだからな」

 

言い終わるやいなやそそくさとどこかに行った。

 

「えっ、ちょっと待って。後始末ってそうい――」

 

お母様問い詰めようと立ち上がろうとしたが、両肩を掴まれて座り直させられた。

 

「ふふふ~雪蓮様がこの、火照りなんとかしてくださるんですよね―?」

 

……お詫びとして酒とつまみくれたラインハルトはともかく、つまみ半分持っていったお母様にはそのうちぎゃふんと言わせないと……。

 

なお、明命を巻き込んで被害減らそうとしたけど、気がついたときにはネコとともに消えていた。

 

判断が遅かったわね……私。

 

 

 

 

 

『積み重ねた常識は知らぬうちに色眼鏡となる』

 

――side 雷火

 

「……この案件は……却下じゃな、割りに合わん。こっちも却下。あからさまに予算が多い。中抜き目的にしても露骨すぎるわ。こっちは……権限を超えてるから大殿に確認。こっちは許可、こっちは……」

 

書簡に書かれた嘆願や他の県の役人仕事関連の決済を捌いていると、扉を叩く音がする。

 

儂は筆を休め、そちらを見る。

 

――扉を叩くヤツなど居た覚えがない。一体誰が扉の向こうにいるのだ……?

 

場合によっては声を上げることを覚悟しつつ、

 

「入って良いぞ」

 

と告げる。

 

すると扉を開けたのは抱えるほどの量の書簡を持った、天の御遣いだった。

 

「……何をしてる?」

 

「暇が過ぎたのでシャオの勉強用に回された過去の案件に付いて解決方法の助言したりしてたら炎蓮から『文官仕事できるなら雷火の手伝いをしてきてやれ』と言われたのでな。ついでに城の入り口に来てた書簡を受け取って持ってきたところだ」

 

そう言って御遣い……ラインハルトは空いた机にその書簡を下ろした。

 

「本当にできるなら構わんが……邪魔だけはするでないぞ?」

 

「そうさせてもらう」

 

そう言って筆などをどこからともなく取り出すと、驚く速さで読み解き、書簡を分類し、必要なら訂正を入れ始める。

 

「……」

 

儂以上かもしれん手早さに目を丸くしてると、手を止めてラインハルトがこちらを向いた。

 

「……ああ、流石に卿が任せるに足るまでは卿に後で確認してもらうのはこちらも了承している。ぜひとも私のミス……間違いがあったら教えてもらいたい。人間是日々勉強為だ」

 

いや、言いたいことは違うが……。

 

口が動かないので諦めて今やってる分を片付けることにした。

 

 

 

 

 

「…………ラインハルト」

 

「なにか間違い「明日からぜひとも手伝ってくれ」えぇ……」

 

陳情や草案に対して的確な対応、予算がおかしい場合はその概算になった理由の請求と本来想定される予算額とその内訳を添付して返し、草案などについて清書並みにしたものを追加してみせる。

 

この男もできたとしても武官だろうと思っていた自分が恥ずかしいくらい完璧な仕事ぶり。

 

ぜひとも! 文官仕事を任せたい。

 

場合によっては孫家の筆頭内政官の座を譲っても良いと思ったくらい使える。

 

なんで使えないと思ったのか、過去の自分を叱りたいくらいだ。

 

……歳を取ったのは否定できない。だが自分の人を見る目は昔のままと思っていたが、積み重ねた常識が人を歪んだ認識で見てしまうようになったのかもしれない。

 

――人間是日々勉強為……たしかにそうだな。

 

同時に人の判断をするときは気をつけねばならんな。

 

「今日は失礼する。――張昭殿」

 

「雷火じゃ」

 

儂の言葉に何をおもったのか、退出しようとした体勢のまま、こちらを見るラインハルト。

 

「……それは……」

 

「お主をほんとうの意味で孫家の仲間として儂は認める。故に真名で呼んで良いといったのじゃ。――わかったらさっさと出ていけ!」

 

「む、分かった。失礼するぞ、雷火」

 

そういってそそくさと出ていくラインハルト。

 

……なんじゃ、なんか調子が狂うのう……。



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第四話 黄金の獣、阿蒙を拾う

――side ラインハルト

 

今日は特にやることなかったので暇を持て余し、練兵場で兵士の鍛錬(五十人程度?)を見ていた所、5人隊長の中にモノクルを付けた人物が見えた。

 

「ふむ……」

 

動きも含め、ちょっと気になったので声をかけるタイミングを伺っていると

 

「全体、四半刻の休憩とする!……む? どうした、ラインハルト」

 

兵士たちを調練していた冥琳が丁度休憩を言い渡していた。

 

「なに、少し気になるのを見つけたのでね。休憩中なら話をしても大丈夫かね?」

 

私の問いかけに少し考える素振り見せる冥琳。

 

「引き抜きなら、私に一声かけてくれ、今いる連中は一応私が受け持ってる兵士たちだからな」

 

「わかった。おそらく1人抜擢できる気がする」

 

私はそういって兵士たちの方に向かう。

 

ほとんどの兵士たちは私に気がつくが、かしこまる必要は無いと手で伝えると、また思い思いの体勢で休んだりし始める。

 

「そこの娘」

 

「……? 私……ですか?」

 

「いや、俺らの中で女は嬢ちゃんしかいねえから」

 

「御遣い様に見初められたか?」

 

「いや、なんか違う感じだべ」

 

娘の反応に周りの連中が苦笑し、私と彼女の邪魔にならぬよう移動する。

 

……連携の良さが先の訓練以上だったが、見なかったことにするか……。

 

私は座り込んでる娘の前で膝をつく。

 

「……えっと……?」

 

状況が飲み込めず困惑してる娘。

 

「卿の名前はなんという?」

 

「名は呂蒙、字がし……子明です!」

 

「ふむ……卿は槍や戟の類は苦手と見る。……扱えぬ訳では無いが、長時間使い続けるのは得手ではないな?」

 

「それは……」

 

私の言葉で呂蒙の言葉が詰まる。

 

「何、得手不得手は誰にでもある。恥じることはあるまい」

 

「そういうもんかな」「御遣い様が言うんだしそうじゃないか?」「呂蒙ちゃん苦手なこと頑張ってたのか、すげえな」

 

外野がうるさいがそれは無視。

 

「――それに磨けば光るものを感じた。気の扱いを覚え、手に馴染む武器を使えばそこらの兵をものともせぬ実力を発揮すると見た。 ――私のところで鍛えてみたいなら」

 

私は手を差し出す。

 

「この手を取るといい。なに、悪いようにはせんよ」

 

私の顔と手を交互に観たあと、彼女はおずおずと手を取る。

 

「――ということだ、冥琳。彼女をもらっていくぞ」

 

「なるほど? そういう娘が好みと……」

 

「好みかどうかはさておき、愛が足りんよ」

 

「否定はしないのだな」

 

「ノーコメント」

 

私はそういうと、呂蒙を横抱きにし、いくつか気になるところを確認するために東屋に向かうことにした。

 

 

 

 

 

東屋についたため、適当な席に座らせる

 

「すまぬがいくつか確認させてもらうぞ?」 

 

「ふぇ?」

 

驚く彼女を放置し、彼女の目を軽く確認する。

 

「……右目モノクルの矯正込みで0.3、無しで0.1未満、左目0.2前後、両方微弱に乱視が入っているというところか……」

 

「あ、あうあう……」

 

「む、すまない」

 

私は少し離れて彼女が落ち着くまで待ちつつ、宝物庫からいくつかものを取り出す。

 

「……視力検査用のセットも出すか」

 

必要なものを一通り出したあと、彼女にモノクルを渡す。

 

「?これは……?」

 

「特別なモノクルだ。つけてみるといい」

 

いつも使ってるものを外し私から受け取ったものをつけてこちらを観た瞬間、呂蒙の顔が真っ赤に染まった。

 

「!!???」

 

「……確認したいことがあるゆえ、その位置のまま、この輪っかを見てほしい」

 

このあといくつか用意したモノクル(付けたものの両目の視力矯正をかける英雄王の宝物庫産概念礼装)から、一番合っているものを視力検査などの確認で選んだがそこそこ時間喰ったので割愛。

 

 

 

「……えっと……着替えました……」

 

視力検査しながら用意した呂蒙の服をバビロンの補助で近くの倉庫にて着替えさせたがやはり彼女にはこれがしっくり来るな。

 

……アリスの姿は甘寧居ないのでまだ用意していない。

 

「ふむ、似合っているぞ」

 

「……あわわ」

 

呆れながら消えるバビロンは無視しつつ、暗器の類を用意していると、彼女が五体投地*1をし始めた。

 

「より目が見える様にしていただいた上、こんな仕立ての良い服まで対価が要らないと言われてしまっては立つ瀬がございません! 貧相な身体ですが捧げますのでどうかご自由にお使いください!!」

 

「――その必要はない」

 

「で、でも……」

 

「ふむ……そういえば卿の名と字は聞いたが、卿は呂蒙と呼べば良いかね?」

 

その言葉にハッとする呂蒙。

 

やはり地頭いいけど純粋に勉強できる環境とか色々あったんだなと思っていると、彼女は起き上がって服の砂埃などを落としてから、拱手する。

 

「私は呂蒙、字は子明! 真名は亞莎! 一廉の人物になると信じ、様々なものを与えてくださったラインハルト様に我が真名をお預けいたします!」

 

「ああ、これからよろしく頼むよ、亞莎」

 

 

 

 

 

――side 明命

 

「って経緯なんです」

 

ものすごーく腰低い亞莎ちゃんの話を聞きながら、ラインハルトさんの慧眼に私は割りと驚いていました。

 

なぜなら私も多少暗器も使いますし、気の扱いもそれなりにできると自負していましたが、亞莎ちゃんは私以上にどちらも使える素質があると鍛錬してる間に感じたからです。

 

お猫様の好物という練り物を条件にラインハルトさんに代わって暗器と気の扱いを教えてますがそのうち教えること無くなりそうなんですよね……。

 

お猫様にたくさん触れられる練り物……亞莎ちゃんに教え終わったあとにももらえる交換材料を今のうちに探さないといけないかも……。

 

「っと、キリがいいですし、定時連絡があるので今日はここまでということで」

 

「はい!ありがとうございました!」

 

……ラインハルトさんの見る目があるって炎蓮様に改めて報告しないと……。

 

 

*1
土下座の上位互換




現在の亞莎の立ち位置や周囲の評価
ラインハルトの部下、まだまだ伸びしろあり。
武勇方面を伸ばし中。知力方面は未着手


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第五話 黄金の獣と遠征お留守番と……?

記憶はだいぶ飛んでいますがこのラインハルトは前世に七次元端末*1だったりします。


*1
シェルノサージュ、アルノサージュプレイしたやつのこと

――side ラインハルト

 

「つーわけで、黄祖っつーちょっかいかけてくるやつ〆てくるから、蓮華、シャオ、穏、雷火、明命、亞莎、ラインハルトは留守番な」

 

ある日の朝、唐突にそう告げられ、兵士3000を集めて炎蓮たちは出立した。

 

「……拙速は巧遅に勝るというが、前触れがなさすぎるな……」

 

「大殿の決断力と行動力は常軌を逸しているが、そのおかげで乗り越えた苦境や詰みから打開出来たことが数え切れぬほどある。思うところはあるが、文句は言えん」

 

出立から約1時間後――書簡の嘆願などを処理しながらぼやいた言葉に雷火が反応して答えてくれた。

 

「……そういえば亞莎とか言った小娘……明命から気と暗器の扱い学ばせるのは良いが、儂から文字や文学・礼節、冥琳から軍師の知識、穏から歴史の勉強をさせようと思った? 言い方悪いがアレが勉学できるようにはあまり見えんのだが……」

 

「――なんとなく、と言ったら怒るかね?」

 

私の言葉にため息混じりの雷火。

 

「…………お主にだけ見える何かがあるのだろう。とりあえずはそういうことにしておいておく。――実質お前の部下だからな、大殿とあの小娘、お前の同意で大殿の家臣になるまで、お前の部下……陪臣のままだ。その間の尻拭いや面倒はちゃんとやれよ」

 

「無論。――孫家が人の道を違えぬならば、いずれ亞莎は一廉の将として、采配を振るい、軍師としてその知略を孫家のために振るって見せるだろう。――内政官として何処までできるかは……未知数だが」

 

「育ててみねば分からぬところがあるのは人も作物も同じか……儂も筆頭内政官と呼べる者の育成を考えねばな」

 

思うところがあったのか、ぼやくように零す。

 

そしてこちらを見て

 

「もし在野や下級文官のまま燻る者でお主のお眼鏡にかなう者がいるなら、推挙してもらうかのう」

 

と冗談めかして言う雷火。

 

「そんな人物がそうそういるとは思えんが、居たら推挙しよう」

 

そんな軽口を叩いていると、扉を開いて一人の女性が入ってきた。

 

金色のボブカットに近い髪型をし、青い目をしている。

 

服装は……質のいい古着をアレンジしたようなモノに見える。

 

「城から書簡が届きました」

 

「ご苦労」

 

雷火はうなずいてねぎらいの言葉をかけていた。

 

「では失礼して――「少し待て」」

 

私はその女性を止めた。

 

「……何でしょうか」

 

「――イオナサル・ククルル・プリシェール」

 

「! どこでその名前を――」

 

驚いて言葉をこぼしたか、ハッとして口をふさぐ。

 

「雷火、彼女を確保するんだ!」

 

机を視点にバク宙して入り口を塞ぐ。

 

「藪から棒にどうした!?」

 

「この娘、十中八九前世に大国の宰相をしていた有能なやつだ!絶対に逃してはならん! そうだろう、レナルル・タータルカ!」

 

「なぜ私の前世の名を……!?」

 

「卿のジェノメトリクスにイオンと入ったこと*1もあれば、知らないうちにイオンの心を治す手伝い*2をしたりと卿とは何かと縁があったのでな!」

 

「えっ、まさかアーシェス……!?」

 

「すまん儂話についていけてないぞ!?」

 

アワアワする雷火を横に、私は彼女に告げた。

 

「――悪いことは言わん。私が推挙しよう。孫家の内政を担ってもらおうか。何、サボりがちのネイの代行分もやっていた宰相時代に比べたら仕事量は天と地ほど差があり、確実に楽でやりやすいはずだ……! それに卿の実力を発揮すれば給金も弾むはずだ、そうだろ? 雷火」

 

「お、おう。儂並に働くなら数年で屋敷建てられると思うぞ?」

 

「……!そ、それは……」

 

「悪い話ではないはずだ。さあ、どうする?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ということで抜擢した是儀(シギ)だ」

 

「是儀、字は子羽、真名を鈴黄(りんふぁん)と申します。ラインハルト様からはレナルルと呼ばれておりますので、そちらで呼んでいただいても構いません。――ラインハルト様から抜擢され、雷火様より次期筆頭内政官として教育を受けております。また明命様に変わり、細作の持ち帰った情報の精査及び細作の統括を命じられました。――過分な対価を頂いております故に犬馬の労も惜しみませぬ」

 

「オレたちが小競り合いしてる間に何してんだ……雷火の肩の荷が下りるっぽいし良いけどさぁ……」

 

そこそこホコリにまみれ、帰ってきた炎蓮たちとの定例会議にて彼女を紹介したところ、ジト目で見られた。

 

「あ、ラインハルト様には、イオン……妹に会ってもらいますのでよろしくお願いします。――アレだけのことしたのですし、責任、しっかり取ってくださいね」

 

しれっと言われた一言で私はいくつも驚きの事実と逃げてはいけない宿命を突きつけられた。

 

「おい、お前いつの間に城から出て女に手ぇだしたんだ!? オレ知らんかったぞ!?」

 

目を丸くする炎蓮。

 

「残念だがこの地に降り立ってから今までに城からは出てない。――かといって城に誰かを招いた覚えも、ない。――もっとも、その件の娘とは……うむ……」

 

前世云々の説明どうしようか悩んでいたが、その前に炎蓮が爆発した。

 

「どういうことかキリキリ吐けよラインハルトォ!!!!!! 正妻……一番と決めた女がすでにいるならそうといえば攫……迎えを出して連れてきてやったんだぞ! もっと早く言えよ! 天の国にいるならどうしようもなかったがこっちにいるならなんとかしてそいつに話つけて一夫多妻認めさせることできるだろうが!!!!」

 

「怒る理由が不純かつ流石に露骨すぎるわよ、お母様!」

 

炎蓮の言葉に流石に突っ込む雪蓮。

 

「詳しくは追々話す。とりあえず彼女が文官仕事することは伝えた。あとはよしなに」

 

私はそう言って逃げ出すことにした。

 

*1
アルノサージュ

*2
シェルノサージュ



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第六話 黄金の獣と(元)七次元先の少女

随分と巻きな展開だって?
ご都合主義はいってるし、筆の乗りが落ちるレベルで丁寧にやってたら時間無いし、体力も気力も持たないから是非もないんだよ。

代わりに各章(黄巾党編とか反董卓連合?編とか)の前後の日常編は頑張るから許してクレメンス……。

それではどうぞ。


――side ラインハルト

 

「「「…………」」」

 

私は今、栗毛色の腰まである髪と水色の髪の少女と机を挟んで対面していた。

 

何故かといえば、先日レナルルが言っていた『妹』と会うために、レナルルの家を訪れたからである。

 

ちなみに私に真名が無いことを伝えるようレナルルに予め伝えたところ、天の御遣いという認識で、私は既に認知されていたらしい。

 

閑話休題(それはさておき)

 

「……あの、なんでふたりとも黙ってるの……?」

 

口を開いたのはお茶を持ってきたレナルルだった。

 

「いや、だって……前世で『帰れた』けど会えなかった人にようやく会えて……思った以上にその、眩しいしかっこよくて……まさか天の御遣い様になってたなんて……思わなかったから……」

 

もじもじとイオンがレナルルに理由を答える。

 

可愛らしい。

 

「……ジェノメトリクス*1で結婚し……あのとき彼の姿はアーシェス*2で、姿が分からなかったものね。……で、ラインハルト様はなぜ黙ってるのかしら」

 

こちらに矛先が向いたので、腹を括る。

 

「実は『かくかくしかじか』で転生したのはいいが、よもや卿がいるとは夢にも思わなんだのでな……この肉体と力取得のおりに追体験こそしたが、卿へ操立てていた」

 

転生云々はイオンという特異点みたいな例があるからか割りと2人は素直に受け入れていた。

 

「なら何で……」

 

レナルルの言葉に私は片手で顔を覆う。

 

「本人を前にしたら擦り切れていた記憶を思い出し、色々浮かんだことが多すぎて……言葉に詰まっている」 

 

すると眼の前の娘……イオンが笑い出した。

 

「ふふふ、思うところあったり、言いたいこと多いと言葉が詰まっちゃうところ、私と居たときと変わってないね。……よかった、貴方は変わって無かったんだね……なんだか……とても安心した……」

 

「……イオン……」

 

私が目を丸くしてると、彼女は立ち上がり、私の隣にやってきた。

 

「それじゃ、質問にこたえてね、あなた」

 

「む?」

 

「――このときより、健やかなるときも、病める時も、私と一緒にいてくれますか?」

 

「――無論だ」

 

私は手を取り、頷いたあと、再び離す。

 

「卿にも問おう。――この戦乱の世界にて、時に修羅となり敵を屠り、時に悪魔のように敵対するものを冷酷に始末する私と……、血に塗れるであろう私と……共に生きる覚悟はあるかね?」

 

私は立ち上がり、手を差し出す。

 

同時に甘さを抜いて彼女を試すように睨みつける。

 

少し怯えた様子だったが、こちらを強い決意の光を宿した瞳で見返して、私の手を掴みながら――

 

「――覚悟、ある!」

 

まるで離すまいと手を握りしめるようにしながらイオンは言ってのけた。

 

「――ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒは誓おう。袂を分かつまで、共に在ることを誓おう」

 

「私、是幹(シカン)、真名は鈴玲(リンレイ)。前世の名、『■■ ■』、そして……『イオナサル・ククルル・プリシェール』はあなたと袂を分かつまで、あなたと共にいることを誓います」

 

誓いの言葉と共に、私と彼女に見えない繋がりが生まれたのを実感する。

 

「……今回は再会を喜んだりするだけかと思ったけれど、まさか眼の前で婚姻宣言されるとは思わなかったわね」

 

「はっ!」

 

イオンが飛び跳ねて私から距離を取りながらレナルルに対して荒ぶる鷹のポーズをする。

 

「人生は長いようで短い。そして私とイオンは婚姻してもおかしくないだけの時を既に過ごし、精神世界とはいえ、婚姻してる身……再会とともに婚姻宣言してもありえんことではない」

 

私の言葉にどう返すか悩む素振り見せるレナルル。

 

「……事実は小説より奇なりってことで納得しておくとして……イオン」

 

「?」

 

「孫家、彼を囲い込んでて彼の血を孫家に入れたい。私孫家に務めてる。彼、孫家で内政官と武官してる。孫家、一夫多妻を正妻に求めたい。どうする?」

 

「レナルルさんすっごいカタコトだけど言いたいことなんとなくわかった!」

 

驚きながら冷静に答えられるのは一種の才能だなと思いつつ、イオンの回答を待つ。

 

場合によっては夜逃げで罪人の流刑地である交州あたりに3人?で逃げることになりそうだからだ。

 

「――私が一番で、あなたとその人が同意すること、私にもちゃんと話通して、私が必要だと思ったらその人が話し合いに応じること……それが約束できる人なら……いい、かな……」

 

「――だそうです、炎蓮様」

 

レナルルがおもむろに入口を向き、そう告げるや否や

 

「委細把握したぞ、嫁殿ォ! 側室候補の身元はオレやレナルルが責任持って調べるし、やらかしたときのケジメはしっかりつけさせるから安心しなァ!」

 

そういいながら扉を開けて入ってきた炎蓮。

 

「ヒエッ、どこから聞いて――」

 

「最初から最後まで一部始終しっかり全部!」

 

驚くイオンに語気強めに告げた炎蓮。

 

「気配消した明命に気がつく私が気が付かぬとは……!」

 

私が戦慄してると炎蓮は言い切った。

 

「――天の御遣いの血を孫家に入れるためならなんてことない!」

 

「もはや執念を超えたナニカだな……」

 

一周回って落ち着いた私は、とりあえずイオンに提案する。

 

「イオン」

 

「なに?あなた」

 

「――城に引っ越さないか? 通うのも悪くないが、側にいたほうがいざというとき、守れるのでな」

 

私の言葉に私キョトンとしていたが、意味を理解したのか、嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「うん!そうする!」

 

「よーし、なら引っ越しだな! レナルル、せっかくだし城のそばにある屋敷の一つ与えるからここから引っ越せ、命令だ。嫁殿か城の部屋に入れたい荷物は別途城に搬入な!必要なら人手はオレの名前でだしてやるからさ。ラインハルトも手伝え!」

 

「「話に聞いてた通り強引!」」

 

――こうして、炎蓮号令の元、是姉妹の引っ越しが行われ、同日に家臣団の前でお披露目が行われた。

 

これにより、彼は炎蓮公認で正妻と結ばれ、同時に素直に喜べない一夫多妻の許可を手にしたのであった……。

 

 

*1
シェルノサージュ、アルノサージュでの用語。平たく言うと精神世界

*2
アルノサージュで操作するキャラクターの一つで平たく言えばロボット




感想、評価があると頑張れるので……できたらよろしく!
そしてここまで読んでくれて感謝!


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第七話 黄金の獣と幾つもの兆し――

――side ラインハルト

 

「…………む」

 

「どうした、ラインハルト。なにか見つけたか?」

 

執務室にて雷火と共に諸々の案件を捌いていると、幾つかのキーワードを見つけた。

 

「最近街で黄色い頭巾を被ったものをみかけるようになった。そしてそれらが立て札やあちこちの壁にこう書かれた紙を貼っているらしい。『蒼天已死 黄天当立 歳在甲子 天下大吉*1』……随分と度胸のある者がいるようだな」

 

私の言葉に怪訝そうな顔をする。

 

「胡散臭い宗教家の集まりが信者獲得のためにあれこれしてるだけの話じゃろ?」

 

そう言ってお茶を飲み始める彼女に対して

 

「――河北を中心にすでに10万の勢力になり、まもなく青州が彼らの手に落ちると言ってもか?」

 

その言葉に思いっきり茶を吹き出し、噎せる雷火。

 

「――明命を始めとした細作にはそんな知らせ届いておらんぞ! 届いておったら冥琳たちが血相を変えて重臣の緊急招集を――」

 

「――あなた! 雷火さん!」

 

扉を開けて飛び込んできたのはイオン。

 

――何もしないのも申し訳ないと城の掃除や伝言役をするようになったのだがそれはさておき。

 

「――重臣たちの緊急招集かね?」

 

「うん!」

 

「――始まったか……」

 

私が玉座の間に向かうのを追うように、雷火、イオンも付いてくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で、なんだっけ?」

 

間の玉座にて頬杖つく炎蓮。

 

ソレに対し、レナルルが手元の書簡を広げ、報告を始める。

 

――黄巾をつけた者たちによる青州の武装蜂起と電撃的占領が発生したこと。

 

それに連動するように河北を中心に黄巾をつけた者たちが武装蜂起をし、各地で暴れ始めたこと。

 

加えて賊は10万を超えているが、時間とともに数、占領地を拡大していること。

 

ついでに現在孫家が統治してる廬江の北と北西、寿春と汝南を収めてる袁術の政治に反発してる連中がソレと合流する可能性が高いこと。

 

それらがレナルルより告げられた。

 

「…………は―――――っ……傷が癒えて河賊の調略が大方終わり次第黄祖ぶん殴りに行こうと思ったのにマジかよ……」

 

おおきなため息を吐いて愚痴をこぼす炎蓮。

 

「――雪蓮。家督譲るし上に廬江太守の任雪蓮に引き継げるよう掛け合っておくからその黄巾……?の賊討伐と黄祖ぶん殴る戦力の準備……場合によっては長江以南の実効支配する準備しとけ、蓮華は内政と外交を雷火から学んどけ。あと河賊調略場合によってはお前もやってみろよ」

 

「は!? 藪から棒にどうしたのよ!?」

 

流石の雪蓮も困惑してると、炎蓮が獰猛な笑みを浮かべる。

 

「――幸か不幸か……時代の節目って奴に今オレたちは立ってるってことだ。――苛政と中央の腐敗による大規模な反乱……コレを中央の実戦経験が殆どない禁軍*2でどうにかできるとはおもえねぇ。そうだろ?」

 

その言葉に、一同が沈黙で肯定する。

 

「――となればオレたち地方の連中はどうするか――自衛して、あわよくば自分の管轄外で賊を討伐しようとするはずだ。オレもそう考えてるし、ソレをお前らにやらせようとしてる。――ここで動機が忠勤なのか、野心なのかは関係ねえ。『搾取してる皇帝の部下である禁軍に代わって賊を討伐してくれた』と民が思うことがミソだ。民が自分を守ってくれたヤツと守ってくれなかった禁軍、そしてソレを従える搾取するばっかの皇帝(とその政治家たち)……どっちに民が靡くか馬鹿じゃなきゃまあ分かる話だわな」

 

そういって座りながら両手を組んで伸びをしてから続ける。

 

「そうやって権威の凋落と共に民の支持を得たやつらによる群雄割拠が起き、そしてそいつらによる潰し合い。最期に笑ってたヤツが新たな皇帝になる。……これが繰り返された歴史の流れってやつだ。雪蓮もちっとは学んどけよ。歴史は先人たちの反面教師談8割、ためになる教訓2割でできてるようなもんだからな、覚えておけば自分の経験からしか学べない馬鹿よりは要らん失敗せずにその分先に進めるからな」

 

「なんでアタシだけ……」

 

雪蓮がいやそーな顔をすると

 

「オレから家督を継ぐってことは、臣下であるコイツらの命運もお前の指示で決まるってことだからな? そんなヤツが過去の連中がやったのと同じような過ちして共倒れしましたなんて笑えねえぞ?」

 

「……!」

 

ハッとしたような顔で皆を見る雪蓮に炎蓮はカラカラと笑う。

 

「――オレが背負ってたもん、少しは理解できたか?」

 

「ええ……言葉じゃなくて、身体で理解したわ……」

 

引きつった笑みで母親からの形なき試練(家督継承)を受ける雪蓮。

 

「すぐに全部任せて潰れたら目も当てられねえからな、段階的にできるようになれよ、雪蓮。あと乱世を自分で切り開けりゃ、自信にもつながる。――オレなりの優しさだ」

 

「……ええ……ありがたいわね……」

 

雪蓮の呻きに近い言葉にうなずく炎蓮

 

「――あと、ラインハルト」

 

「む?」

 

「お前この先の展開なーんか知ってるっぽいから釘刺しとくけど……オレの目から光が消えるまで、オレや雪蓮の軍事行動とかに関しては静観しろ。破ったら1回に付き一人孕ませな。もちろん正妻以外な」

 

「……良いだろう。卿らのお望み通り、天の御遣いとして振る舞い、内向きの仕事以外は口を挟まぬようにしよう。――私も私で――大陸でなさねばならぬことが増えたようだからな」

 

右手の甲に感じた熱と、転生時に女神が言っていた言葉を思い出しながら、そう答えた。

*1
意訳 詳しくは各自で調べよう:蒼天(天帝、ここでは漢を修めている皇帝のこと)はすでに死んだ。黄天(次の王朝。ここでは後漢の徳が火であり、土徳は火徳よりいずるという五行説より土徳の王朝)が立ち上がるべきだ。今年は干支の甲子、天下に大きな吉事の年だ!

*2
平たく言うと皇帝直下の軍隊。この時点での練度? お察しください




次話から数話は予告通り?日常回を予定してます。
何話になるかは……ナオキです。

感想、評価お待ちしています!


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序章 拠点にて
拠点にて その1 


『孫三姉妹、母の軌跡を聞く』
自分の生まれる前、親が何をしてるか気になった3人。
彼女たちが雷火から話を聞いたところ、とんでもないことをやらかしてたようで……?


『眠らぬ獣の優雅な?一時』
睡眠がいらないつよつよぼでーのラインハルト。
何を思ったのか誰も居ない厨房で料理を始める。
今回はフグ鯨がメインの食材のようです。
孤独のグルメかにぎやかなグルメかはてさて……?


『孫三姉妹、母の軌跡を聞く』

 

――side ラインハルト

 

雷火、冥琳、穏、レナルル(と自主的に書類運びなどの雑用を志願した亞莎とイオン)とともに書類仕事をしていると、雪蓮、蓮華、シャオが押しかけてきた。

 

「どうなされた? なにか仕事で不備がありましたかな?」

 

心当たりがない雷火が代表するように、首かしげて問いかけた。

 

「お母様のこと……特に昔の事とか、色々教えて頂戴?」

 

シャオの切り出した言葉に雷火がしばらく意味を理解できないのか硬直した後絞るように告げた。

 

「……本人に聞けばよろしいのでは?」

 

「それがさー、『昔のことなんざ忘れた、雷火や祭あたりから聞いとけ』の一点張りなの」

 

「たぶん自分の黒歴史を自分の記憶から忘却してるわよ、アレ」

 

シャオと雪蓮がため息混じりに理由をこぼす。

 

「祭からは徐州で初めて出会ったときの破天荒ぶりや、私たち妊娠してて明らかに重いおなかのまま賊討伐してたことは聞いたけど、その他の期間どんな風だったのか、知ってる?」

 

蓮華の言葉にうーーむと唸るように筆を止めてこめかみのあたりを指で刺激する雷火。

 

興味あるのか自分以外仕事が疎かになっている。

 

「廬江太守になる前、揚州刺史直下の司馬*1として、揚州各地を転戦してた時期がありましてなぁ。……そのおかげか当時の豪族や商人、各地の太守や県令と面識を得ましたな。アレが今の孫家の安定に一役買っているのは事実。実際、今でも大殿の管轄外にいる者の何割かとは時候の挨拶以外で大殿と文を交わしております。……ただ、たしかそのあたりで揚州の四姓のドラ息子をぶん殴って揉めたせいで揚州の四姓が今でも距離を置いていると記憶してますな」

 

「ドラ息子云々、何があったのかものすごく気になるんだけど」

 

シャオが目を丸くする。

 

「大殿以外の当時の関係者が全員墓の下らしいので、詳細と真実は不明ですな」

 

「本当に何があったの!?」

 

「いや、純粋に関係者が大殿以上の年でお三方からすれば爺婆の一つ上の世代くらいの年ですからな。……まあ、大殿黙っていれば美人ですし? そのドラ息子は金で女買い漁っておりましたので、おそらくは……」

 

尻すぼみな言葉に殆どの面子は察して諦め気味に納得した素振りを見せる。

 

「母様なら怒って殴りつけるくらいしそうね」

 

「昔はもっと手が早かったらしいのにその場で斬らなかったんだ……」

 

「お母様ああ見えて完全に頭に血が上ること無いらしいから……」

 

三者三様の感想を述べる三姉妹。

 

「他に印象に残ることと言えば、無計画大陸横断旅行ですな。儂、大殿、祭、粋怜の四人……たしか粋怜と大殿が面識持ったばかりの頃でしたな……。大殿が洛陽見に行こうと言い出してロクに荷物もなく出発しましてな……」

 

遠い目をし始める雷火。

 

「――洛陽行くまで路銀尽きかけたり、大殿ら3人で虎狩りして盗賊から金を巻き上げて路銀稼いだりしましたし、洛陽で半月ほど物見遊山したあと帰ると思えば、洛陽で馬に乗って気に入ったのか『涼州で馬買うか』と涼州まで行く羽目に……」

 

「ら、雷火? つらいなら思い出さなくても良いのよ?」

 

蓮華が困惑しながらそういうも、雷火は止まらずに語り続ける。

 

「涼州の馬騰という太守の馬褒めて意気投合したあと、馬譲って欲しいと言い出して値段知らずの大殿が家畜以下の値段で請求し、馬騰殿を怒らせて喧嘩になったのはもはや遠い思い出ですな……」

 

「喧嘩した末にその馬が種付した仔の一頭だった焔って名前の紅い馬もらって、炎蓮様はたしか……続討伐で手に入れた紅玉の髪飾りや一抱えくらいの銭と絹織物を渡してたわね」

 

いつの間にか会話に割り込んでいる粋怜。

 

「帰りは帰りで馬がいるからあまり船は使えず、橋を探して遠回りしたり、馬に乗って飛び越えたり、無理やり渡ったり……大変だったわね……」

 

粋怜も遠い目をし始めたぞ……。

 

「……なんか、その……ごめんね?」

 

いたたまれなくなったのか、シャオがそういうと、雷火と粋怜は首をふる。

 

「もう過ぎたことですしのう。それに見聞を広め、学べたことも多かったのも事実」

 

「普通なら会うこと無いような人とも面識持てたのもあるので、とても良い経験なんですけどね……」

 

宿将2人の言葉に頷く一同。

 

「……私が旅行するとなったら、冥琳とラインハルトに頑張ってもらうから大丈夫かな」

 

「非公式とはいえ、孫家で保護してる天の御遣いをどうこうさせようとしないでください、お姉様……」

 

「そーだよ! 旅行するならシャオとラインハルトの新婚旅行が先!あ、もちろんイオンとラインハルトの新婚旅行が先だけどね」

 

雪蓮が零す言葉に反応する蓮華とシャオ。

 

前者はともかく、後者は私欲に塗れている。

 

「……あなた? シャオちゃんに手を……?」

 

「今のところ卿以外に手を出しても出されてもないからな?」

 

イオンの疑いの言葉から話は脱線していき、仕事が詰まった文官の腰の低い状態での指摘が来るまで雑談が続いた……。

 

……私は仕事ちゃんとこなしたからな??

 

 

 

 

 

『眠らぬ獣の優雅な?一時』

 

――side ラインハルト

 

夜寝静まった頃。

 

イオンを寝かしつけ(意味深)たあと、厨房に来ていた。

 

手には極楽米(グルメ界産)を宝物庫で仕込んだ精米歩合*240の日本酒の入った大瓶と毒抜き済みのフグ鯨数匹が入ったクーラーボックス。

 

「竈の炭は……問題なし。薪入れの薪が少ないな。足しておいて……」

 

灰の中にあった赤熱する炭や薪入れを確認。

 

すぐ使う薪を足元におき、何時でも竈へ放り込めるようにセット。

 

そのまま宝物庫から取り出した小鍋に酒を注いで鍋にそこそこの水を張る。

 

鍋に小鍋を置き、浮かばないことを現場猫風にヨシッ!としたら、次の作業。

 

包丁でフグ鯨をさばき、ヒレは取っ手のついた金網の上にのせ、平行して残りを捌く。

 

刺し身と茶漬け分として選り分けたら竈に薪を放り込み、次の段階へ進む。

 

三口ある竈にそれぞれ、マグロ節を少しばかり入れた水入りの薬缶(やかん)、研いだET米の入った釜、フグ鯨のヒレを載せた金網を設置。

 

それぞれの様子を見つつ、薬味や調味料、梅干しなどの付け合せを用意していく。

 

「何しとるんじゃ?」

 

不意にかけられた声に反射的に振り向くと、祭、穏、冥琳、レナルルが厨房の入口から覗いていた。

 

「――夜食だ。卿らも食べるかね?」

 

「いや、私たちは勝手に厨房を使ってることを咎め」

 

冥琳の説教タイムは、腹の虫によって始まる前に終了した。

 

「酒精の匂いもするが、大殿や雪蓮殿に振る舞った酒ですかな?」

 

祭の言葉に私は首を横に振りつつ、炙り終えたヒレを鍋から取り出した小鍋にいくつか放り込み、次の小鍋をセットして鍋の上に乗せる。

 

「アレよりも美味いものだな。……しかし前のものと方向性が違うのでな、誰か味見して2人の舌に合うか見てもらえぬものかなと思っていたのだが……」

 

「その口車に乗ってやろう。のう、冥琳」

 

「いや、私は」

 

祭の言葉に反論しようとする冥琳。

 

だが、彼女の肩に手を置いた穏の言葉を聞いてしまう。

 

「冥琳さん、お腹すいてるのにこんな美味しそうな匂いを我慢するんですかぁ?――できるんですか?」

 

「……!」

 

二度目の腹の虫の音と共に膝から崩れ落ちる冥琳。

 

「……ご相伴預かります……」

 

最後のレナルルだが……

 

「今生の妹の旦那様にして、上司であらせられるラインハルト様のお誘いを何故無下にできましょうか」

 

言うまでもなかったらしい。

 

 

 

 

 

「フグ鯨の刺し身と湯漬け、酒はこだわりの酒にヒレを入れたヒレ酒の熱燗だ」

 

「いい匂い……!」

 

「早速いただくとしようかのう」

 

祭の言葉と共に3人が箸を手にするが――

 

「この世のすべての食材に感謝を込めて、いただきます」

 

「いただきます」

 

私とレナルルが手を合わせてそう言ったので3人も真似していただきますと各々告げた。

 

「これは……天の国での作法で?」

 

穏の言葉に少し困りつつ答える。

 

「一部の地方でやっている作法だな。食事を食べられること、食材となった生き物の命を頂いていることを忘れぬためのな」

 

「食事を、命を馳走になったことに感謝するためにごちそうさまというそうです」

 

「食に感謝か……たしかに大切じゃのう……」

 

そう言いながら猪口に酒を注ぎ、一口含む祭。

 

「むっ、これは……!」

 

「どうしました?」

 

穏が首傾げながら問いかけると、祭が興奮気味に口を開く。

 

「口を付ける前に芳醇な香りが鼻を満たし、含んだ瞬間辛さと共に広がる旨味……!舌に広がる辛味と酒の味……!  喉に残る酒精……! 素晴らしいの一言に付きますな!」

 

その横で湯漬けを一口ゆっくりたべてから、どこか色気ある吐息を吐いた後、面白そうに口を開く。

 

「……湯漬けと言われていましたが、何やら湯の方にひと手間加えられてますな?」

 

「マグロ……こちらでは金槍魚(ジンチャンユー)と呼ばれる、普通なら足が早くて*3敬遠されてる魚を加工したモノを出汁にしている。よく気がついたな」

 

「湯の時点でほんのり色が付いておりましたから」

 

冥琳の洞察力は腹ペコでもしっかりしてるようだ。

 

「イオンが刺し身といえば醤油とわさびと言っていましたが……なるほど、量に気をつければいい香りと味になりそうですね……」

 

わさび醤油をつけすぎて撃沈しながらレナルルも感想をこぼす。

 

「辛子と酢、緑色のお塩で食べるのもまたいいものですね。色々食べ比べるのも面白いです」

 

穏もちびちびと酒を飲みながら刺し身や湯漬けに舌鼓を打っている。

 

「――ラインハルト殿、おかわり!酒も!」

 

「!? もう食べたのか!?」

 

「昔に戻った気分じゃよ。不思議じゃのう!」

 

祭から突き出される椀ととっくりに目を丸めながら私は受け取る。

 

「……そういえば祭殿最近箸が進まないと言ってましたな……それでも一人前は普通に平らげていましたが」

 

「確かに。……はて、心なしかお肌の艶が格段によろしくなってますねぇ……」

 

冥琳の言葉に同調するように穏も首を傾げてる。

 

「おそらく料理のいずれかが祭の身体に合ったのだろうな。――医食同源と言うし、特殊な食材には人の身体を活性化させる力を持っているからな」

 

「……他にも色々食材あるのか……よし、4日に一度その特殊な食材の料理を作ってくれ。さながら秘密の夜食会といったところか。もし見つかっても儂の所為にすれば良い。――夜食を作ってること、大殿に知られたら大事になると思うがどうかのう?」

 

「……卿の舌にあうかどうかは保証できんぞ?」

 

私は乗り気でないことなど言外に伝えるが

 

「構わん。お主なら食べれんものを出さんじゃろ。――作っておるときのお主の目は、料理人のソレじゃったしな。信じられるわい」

 

期待されては仕方あるまい。

 

「……ま、バレなければな。――ソレとは別に私は私の気まぐれで夜食などはやるつもりだ。そっちは分ける分はまあ無いと思うのでなくても怒らぬようにな」

 

そんな感じで大人5人、のどかな時間を過ごした。

 

「ごちそうさまでした」

 

「「「「ごちそうさまでした!」」」」

 

もちろんごちそうさまと後片付けは忘れてない。

 

孤独のグルメもいいが、にぎやかなのも良いものだ。

 

 

 

 

――なお朝の朝礼開口一番に祭が匂いを指摘され、祭が速攻で詰められて白状したので秘密の夜食会は第一回?で頓挫したのであった――。

 

他4名は匂い消ししてたため告発されるまでバレなかった。

 

炎蓮の機嫌取りにその日の半日費やしたのはご愛嬌……だろうか……。

*1
主に軍事統括してる役職

*2
酒とか作る時に削って『残った』米の割合。ちなみに似た言葉に精白率があるがこちらは『削った割合』なので間違えないように。

*3
取れる場所と移動速度の関係で



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拠点にて その2

今回はフラグを立てる回のようです。 
かなり短め……。

『獣、風呂を欲する』
イオン視点。
『城』や影の国に風呂を持っているか、大陸側に風呂を持っていないのでどうするか悩み、お風呂を作るフラグを立てるようです。

『獣、前世の業を思い出す』
???&ラインハルト視点
どうやらラインハルトの中身は前世でも女の子を泣かせていたようです。(風評被害)


『獣、風呂を欲する』

 

――side イオン

 

「……そういえば……風呂がないな」

 

朝起きて私の髪をブラシで梳かしながら私の旦那様がそう答えた。

 

「たしかに……でもお湯を用意するための労力を考えると……この世界だと難しいかなって……」

 

個人では桶とかに水を汲んで、それをつかって手ぬぐいとかで拭くのが精一杯。

 

薪はそこそこ値が張るし、使う量からも自力で用意は難しい。

 

水も浴槽を満たす量を用意するのも骨が折れるし加熱するのも火加減とかある。

 

「……作るのはできるが、維持管理が問題か……」

 

(´・ω・`)ってかおしてる旦那様。

 

つ、妻として知恵を……あ……。

 

「炎蓮さんに相談してみるのはどう? 乗り気なら、巻き込めるかもだし、城で使うなら、共用ってことで私達も使えるかも?」

 

「なるほど……イオン、ありがとう」

 

優しく撫でられて嬉しくなるちょっと?単純な私。

 

「さて、食事は城で食べる故、早めに出るぞ。……髪は整えた。着替えが終わったら呼んでくれ。それまで隣で別のことをしておく」

 

「はーい」

 

私は返事して旦那様を送り出す。

 

……こういう時間でグルメ界というところから食材を採ってきたりするらしいが、私が採取してる間待ってたあの人もこんな気持ちだったのかな……?

 

 

 

 

 

旦那様が夜なべして作ってくれたシックなロングスカートのメイド服を着て、旦那様と出仕。

 

私の仕事は雑用たがら、基本朝の集会に呼ばれないんだけど、旦那様のお願いで同行することに。

 

何が起こるかと思ったら、おもむろに旦那様が影の国ってところに皆拉致したの。

 

何が目的かなとおもってたらそこに作った銭湯に全員放り込んで体験させることだったみたい。

 

旦那様の持つ城とやらから4人、監視兼入り方の指導として銭湯に派遣された。

 

私? 旦那様と一緒に服のお洗濯。

 

乾燥機とかも付いてるから便利なんだよねー。

 

 

 

 

 

 

「つーことで城に湯の設置を決定した。ラインハルトと亞莎、レナルルが主体となるから、頼まれたら力貸すように」

 

炎蓮さんの言葉に拱手するみなさん。

 

ジャンプーやコンディショナーはラインハルトさんこだわりのものだったのもあってか、皆髪の毛の艶が良くて皆喜んでる。

 

なんだかんだで身だしなみを気にしてるのもあるのかも。

 

ちょっと強引だけど、私の自慢の旦那様。

 

……レシピと材料があれば、私もなにか作ってお手伝いできるんだけどなぁ……。

 

っと、お仕事やらなきゃ。

 

今日も1日、がんばるぞい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『獣、前世の業を思い出す』

 

――side ???

 

とある地にて、人参型のロケットのハッチが開く。

 

「到着っと……空間、位相の座標はあってるし、時間もそこまで誤差ないはずだから、ここの何処かにいるはずだよ」

 

中から現れた機械のうさみみを付けた女性の言葉に、中から顔を出した同行者四人が怪訝そうな顔をする。

 

「でも束さん、明らかに荒野では?」

 

黒髪の優しい雰囲気の娘が首傾げる。

 

「でもここに出現したのはたしか。束さん、嘘付かない」

 

「なんでカタコト……?」

 

うさみみの女性の言葉にツインテールの娘は困惑。

 

「水と食料があるとはいえ、補給をできるようにせねばならん。……ちゃんとこのロケット仕舞えるんだよな?」

 

少し吊り目気味の女性の言葉にうさみみの女性はふんすふんすしながら答える

 

「モチのロンだよちーちゃん。まあ一応、戻れるようにビーコン埋めとくからちょっとまってね」

 

「……あの人はこの地でも、独身のままなのだろうか……誰かに操を立てていたし、きっとそのはず……」

 

ポニーテールの娘の言葉は荒野の大地が無慈悲に消し去っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

今日は珍しく非番なので、隣で寝ていたイオンに書き置きと大きな柿*1を机に置いて朝早くから外出することにした。

 

 

 

 

早朝というだけあり、街は比較的静かだ。

 

動いているのは仕込みをしてる料理屋や街の外の農作業を監督するもの、あとは巡回してる孫家の兵士くらいか。

 

元の世なら、新聞配達などが終わって戻る者や早番の人間の移動時間あるから、もう少し人通りがあるだろう……。

 

――千冬たちはトレーニングとかいって走って配達していたな……。

 

……千冬? はて……その名前は……。

 

突然踏み出した足が浮遊感に襲われ、意識を戻すと街の高台から私は片足を突き出して片足が行き場を無くしていた。

 

慌てて空中歩行に切り替え、力技で軟着陸してから一息吐く。

 

なんの偶然か前世の記憶が殆ど忘却の彼方なのを再確認した私は、何か思い出すきっかけがないかという思考を頭の片隅に置くこととした……。

 

 

 

適当に露店で小物を買ったり摘めるものを買っていたらそこそこ大きな料理店を見つける。

 

金は有り余ってるのでそのまま入店。

 

「お好きなとこどうぞ」

 

私は適当な席に座り、メニューを確認。

 

羹や肉の丸焼きなどのシンプルなものが多い中、酢豚定食が目についたのでそれのご飯大盛りを注文。

 

ふと厨房を見ると、ガタイの良いおじさんが中華鍋を駆使して炒飯を作ってるところが見えた。

 

――鈴が中華鍋に振り回されなくなったのは中1くらいだったか……

 

またも思い出す名前。

 

「おまちどうさま」

 

そういって出された酢豚と飯と羹。

 

一口食べるとやはり食べ慣れた味ではないと魂がぼやくのを感じる。

 

米は一夏が研いで炊いたものが良いし、それを箒がおにぎりにすると束が喜んでいたっけ……。

 

……「直前の前世」を完全に思い出した私に来たのは2台のトラックに挟まれて死んだショック。

 

次に5人に別れを告げられずに居なくなったことに対する申し訳無さで胃がキリキリし始める。

 

しかし強靭な肉体のおかけで普通に完食し、そのまま店をあとにできた。

 

……5人とも、元気にしていればいいが……。

 

 

*1
書き置きと柿おっきいをかけたギャグ。有名どころだとブラック・ジャック原作『失われた青春』で使われている




次話から黄巾党編の予定。
なお、活動報告でのリクエスト次第で追加があるかも?
では、また次のお話にてお会いしましょう。



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第一章 黄巾の乱と黄金の獣 前半戦
第八話 対黄巾党 孫家の一手目と来訪者


――side ラインハルト

 

今日の朝の集会は今までと少し違うところがある。

 

「……本当にここからじゃなきゃだめ?」

 

「だめに決まってんだろアホ娘。率いてる奴がどんな様子してるのか確認するのも長の仕事だからな」

 

雪蓮が玉座に座り、炎蓮が他の面々と同じ段に立っているところだろう。

 

世代交代というやつだ。

 

「……とりあえず……黄巾の賊関連……でいいのかしら?」

 

「いや、オレは隠居だから司会進行確認すんなし」

 

顔色伺うような態度に炎蓮は呆れ気味。

 

それを見た雪蓮は自らの頬叩き、深呼吸するといつものおちゃらけた雰囲気から冷静な様子に切り替わる。

 

「……冥琳、穏。軍備の状態は?」

 

「歩兵2万、弓兵9千の計2万9千。うち歩兵9千、弓兵千を残した1万9千。号令をいただければ2日で遠征に出せます。」

 

「残りは治安維持及び険悪勢力の黄祖迎撃の保険として残しておかないと危ないかなと。あと、指揮できる人を1人2人残しておかないと万一のときが危ないかなと」

 

2人の言葉を聞いて少し考える素振りを見せる雪蓮。

 

「……お母様、太守っていつ頃引き継ぎできそう?」

 

「んあ? 数ヶ月かかるかなぁ。」

 

その言葉にうーん、と雪蓮は唸ってから思考開示する。

 

「ならお母様は私と同行。蓮華とシャオ、祭、穏は残ってもらいたいわね。雷火、レナルルは兵站管理もあるし残ってもらう。明命は斥候任せたいから同行、粋怜と冥琳は遠征組にするとして……」

 

こちらを見る雪蓮。

 

「ラインハルトとイオン、亞莎はどうしたい? たぶんイオンはラインハルトについていきたいと思ってるからラインハルト次第だと思うけど」

 

「私は遠征組についていく。……念のため保留組には騎士団の何人かを喚び出して残しておくつもりだ」

 

指をならすと私の近くに3人ほどの姿が現れる。

 

1人は病的なまでに白い肌と髪のサングラスをかけた男。

 

1人はピンク色の髪をした華奢な娘。

 

3人目は私と同じ体格をし、メガネを掛けた神父。

 

「ベイ、マレウス、クリストフ。話は聞いていたな?――城のものと喧嘩せず、留守を頼むぞ」

 

「ヤヴォール!」

 

3人目が元気よく返事したので私の後ろに移動するように指示。 

 

「……少々自尊心が強い者がいるが、いずれも数の暴力を殴り返せる個だ。役に立つはずだ」

 

「ええ、ありがとう。いざってときは蓮華の指揮に入ってもらうわ」

 

雪蓮はそう言ってから、イオンと亞莎の方を見る。

 

「私は……旦那様についていきます!」

 

「私はまだまだ未熟なので、学ぶためにもついていきます!」

 

2人の言葉に頷く雪蓮。

 

「それじゃ決まりね。蓮華。私達不在の間は代行よろしく。穏や祭、雷火がいるから困ったら頼りなさい」

 

「わかりました」

 

「冥琳。遠征の準備をよろしく。それじゃ解「大変でございます! 侵入者です!」なんですって……?」

 

指示がおわり解散するところだったが、侵入者を知らせる兵士の言葉に遮られる。

 

「何をしてる、すぐに捕まえろ!」

 

「それが、敵はやたら強くて……」

 

「少し見てこよう。3人はここで皆の護衛をしておけ」

 

私は直感じみたものに導かれ私は駆け出した。

 

 

 

 

 

気配を辿っていると、兵士たち相手に無双してる集団を見つけた。

 

「――そこまでだ」

 

私は威圧感を込めてそう言い放つと全員の動きが止まる。

 

「……一夏、千冬、箒、束、鈴…………何故ここにいる」 

 

侵入者である5人の名を告げると5人が目を丸くする。

 

「……お、お兄さん……?」

 

黒髪の女性……千冬は胸ぐらつかんでいた兵士を落としながら言葉を零した。

 

「姿がかなり変わったからな。ひと目見たら分からんか」

 

「いや、お兄さんがもってたゲームのディエス・イレのボスキャラが眼の前に出てきても直ぐにはわからないって!」

 

スタイルがいい黒髪ロングヘアーの娘の一夏のツッコミに他4人も頷く。

 

「……積もる話はあるが、とりあえず大人しく私の指示に従ってくれるかね? でなければ牢屋に放り込んだりせねばならん」

 

「兄さんがそういうなら……」

 

そういうと彼女たちは掴んでいた兵士たちを離してこちらの方に集まる。

 

「……兵士諸君、警戒態勢は解除。怪我人は治療を受けるように。治療費がかかる場合は軍部経由で内政官に伝えるように。……雪蓮、彼女らは私の客人だ。身柄を預かっても?」

 

最後、いつの間にかここまで駆けてきていた面々に確認する。

 

「貸し1。半年で1追加ね。客間がいい?それとも大広間で私達も同席する?」

 

「高く付くが仕方あるまい。後者で頼もうか」

 

私の言葉に兵士たちは持ち場、あるいは衛生兵駐屯所に向かい、私達は玉座の間にとんぼ返りすることになった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカかね?」

 

『私』の死後、私と会うために研究開発の末に時空跳躍する装置を開発し、片道切符とわかっていて飛んできたという5人の経緯を聞いて頭抱えながら思わずそう言ってしまった。

 

「バカってヒドイ! お兄さんに会うために死にものぐるいで頑張ったのに!」

 

よよよと泣きながら私に抱きつく束。

 

「あと悪いが今の私は妻帯者なのであまり妻が怒るようなボディータッチは自重してくれ」

 

「なっ!? 操を立てていた兄さんが結婚……!?」 

 

鈴が困惑し、束がしぶしぶ離れると、イオンが前に出る。

 

「イオンです。今生で漸く結ばれました」

 

「……ってことは、貴女が……」

 

千冬が何かを言うのを飲み込む。

 

「あ、一応正妻のお眼鏡に適ってラインハルトの同意もぎ取れれば重婚するって言質とってるから正妻を諦めるなら結婚できるぞ」

 

「ここでそれバラす?」

 

炎蓮の一言にツッコミを入れてしまった。

 

「……他に条件ある?」

 

人に興味ない(これでも改善された)束の質問に、少し考えるような素振りしてから炎蓮は告げる。

 

「たしか……専業主婦だったか? それだと相当な水準の技能なきゃ正妻様の心象かなり悪いし、そうでなきゃ何かしら仕事とかしてなきゃ旦那のほうがいい顔しないみたいだぞ?」

 

「……後半に関してお兄さんは言及してないみたいだけど……そっちの思惑は分かった。 共同戦線張ろうか。お兄さんの性癖とか癖変わってないみたいだし、役に立つ事教えられるかもだから」

 

束……交渉みたいなことができるようになったんだな……*1

 

「良いだろう。――仕事が欲しけりゃ城の中で用意する。住居はひとまずオレの持ってる屋敷の一つ貸すからそこに住んどけ」

 

「……勝手に話が進んでいくなぁ……」

 

遠い目をしながら私はそう零した。

 

 

 

 

 

――同日夜

 

「あなた本当にモテてたんだね……」

 

「あの5人は年の離れた妹か娘くらいの感覚で接していただけなんだがな……」

 

「……やっぱり胸大きい方が好き?」

 

「(大きいと答えると鈴の立つ瀬がなくなるのもあるが……)どちらかというと感度がある程度良いならあまり気にしておらん」

 

「……そういえばネイちゃんやカノンさん、ネロやシュレリアとゃんとの禊は積極的だったし……胸はあんまり関係ないんだ……。あれ?サーリちゃんとは相対的に少なかった気がするけど……メガネとか苦手だっけ?」

 

「サーリに関しては白鷹が生きてる気がしてたからな、彼氏持ちと禊は気が乗らん」

 

「ふーん? ……レナルルさん独り身だし、高嶺の花って感じで、良い人いないんだよね……今生は家の関係で貧しかったし……」

 

「……」

 

「私寝たあと、城の厨房で夜食をレナルルさんたちとたべてるでしょ? レナルルさんもまんざらでも無いみたいだよ?」

 

「自分の旦那に嫁候補進める正妻、戦国かファンタジーの中だけかと思ってた(こなみ)」

 

「3人いれば派閥ができるってあるけど、女同士だと割りとドロドロしてるから……レナルルさんが側に居たら心強いな〜って」

 

「大奥とかそうだったな……」

 

「だから無闇矢鱈と手を出さないでね? 2人仲良く胃薬手放せないのはそれはそれでいいかもだけど……」

 

「……気をつけるとしよう」

 

*1
感動するとこソコ?



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第九話 第2歩目で予定が狂う

遠征にはまだ出る予定は今のところありません。 
もし遠征に孫家が動くなら、それは予定外です……。


――side ラインハルト

 

遠征の準備といっても、まだ中央に第一報が届いてないはずなので、周辺で黄巾賊が出現したら即座に動ける体勢を整え、中央の動きを見てから管轄外の討伐等をすれば良い。

 

――そう考えていた時期が私達にもありました。

 

「……黄色い頭巾被った賊が寿春と汝南の城を包囲してるから何とかしてほしい……?」

 

客人を迎えるために雪蓮を中心に左右に展開して雪蓮の対面に客人がいる形になったのだが……。

 

――その客人は袁術と張勲で、用件が想像の斜め上だったので私達一同は思考停止してしまった。

 

「……城には誰がいるのかしら?」

 

再起動して引き攣った顔で問いかける雪蓮。

 

「うむ? 汝南には紀霊。 寿春にはの丁奉、あとそれぞれの兵士……たしか5千ほどかのう?」

 

「それ何日前?」

 

「汝南は半月前、寿春は先週包囲されてるのも見たのじゃ」

 

「お礼はしますので対応お願いできませんかね?」

 

張勲の言葉に雪蓮と炎蓮が互いにアイコンタクトし、雪蓮は立ち上がる。

 

「報酬は救援にかかった費用の負担は当然として、口止め料とか諸々と、そうね……もし私達が遠征することになったとき、その遠征に必要な物資を6割援助するでどうかしら?」

 

「……七乃、それは高いのかぇ?」

 

「足元見まくりでドン引きですー。せめて遠征期間の上限と遠征終了の認識をすり合わせさせてもらわないと、遠征してるって言い張られて延々と搾取されかねませんからねー」

 

雪蓮の言葉に首を傾げ、張勲に問いかけると冷静に問題点を告げた。

 

「そのあたりは雷火、穏、すり合わせよろしく。さて、残る面々は前言っていた通りの割り振りで、出立は明後日。寿春、汝南の順で包囲してる賊徒を追い払うわよ」

 

「「「応!!!」」」

 

 

 

 

 

「亞莎、千冬は冥琳の補佐。おそらく兵士の確認などを頼まれるから各隊長から確認とること。束はレナルルの手伝い……何?嫌? イオンの姉だから心象良くしておけばイオンの印象良くなるぞ? 情報分析する奴がいると私も助かるしな。……で、一夏、箒、鈴はイオンの手伝い。たぶん物資の搬入出の指示手伝いもするから誘導間違えんようにな」

 

私は自分の直下にいる面々に指示をし、全員が退出するのを確認する。 

 

「……さて……いつの間にか追加されたこのボールの中身は……おそらく……」

 

懐から『5つ』のボールを出して放り投げると5匹ノポケモンが飛び出す――

 

緑の冠のようなものを被ったシカノような顔つきの小柄なヒトガタポケモン……豊穣の王バドレックス

 

分厚い氷を纏った白馬――ブリザポス。

 

黒い体に紫のたてがみ、そして一房白いたてがみをもつ片目を隠した黒馬――レイスポス

 

そして一見双子に見える鎧のような模様の毛並みをした熊……ウーラオスのれんげきのかたといちげきのかたの二匹だ。

 

「……バドレックス、馬車の御者を頼んでも?」

 

私の言葉に冠の王はものすごく嫌そうな顔をするが、馬の2匹は人参くれるならと顔に書いてあったので多数決で折れてくれた。

 

今夜の夜食はカレーに決まりだな……。

 

気を取り直し、2匹のウーラオスの方を向く。

 

「……お前達については、2人の少女の護衛を頼みたい。交代要員も用意するゆえ、問題あるまい?」

 

私の言葉に対し、2匹は顔を見合わせてからこちらに向き直って頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで卿らにこの2匹のウーラオスとナットレイ、ウルガモスを預けておく。孫家の姫の護衛として申し分ない働きをするはずだ」

 

「藪から棒過ぎない???」

 

「ならシャオこっちの熊とこの……虫?さん借りてくね」

 

「シャオは順応早くない?????」

 

暇を持て余していた2人を捕まえて4匹のボールを預けておく。

 

ちなみに最初の6匹うち、サンダーは先日から城の中庭におり、たまにそらから城の周り等を確認させてる。

 

そのせいか文官とかからは吉兆の鳥扱いされている。

 

そしてガマゲロゲ、ザシアン、カイオーガは手元、あるいは影の国にいるので今の手持ちはその3匹に加えバドレックスとブリザポス、レイスポスとなる。

 

「とりあえずその2匹は人の言葉もわかるし、身振り手振りで意思表示するから会話も一応できる。可能な限りどちらかを常に出しておけば、何かと役立つはずだ」

 

「……ありがとう?」

 

首を傾げながらとりあえずウーラオス(いちげきのかた)とナットレイを受け取る蓮華。

 

ベイやマレウス、クリストフを駐在させておくが念のためである。

 

「それはそれとして」

 

「ん?」

 

蓮華が何か説教っぽいことを言い出す気配。

 

「……孫家の誰かに手を出す予定は無いの? お母様アレでも心配というか、目論見が外れてて私達の縁戚から年頃の女見繕って宛てがおうが本気で考えてたから私としては……被害者?を増やしたくないと言うか……」

 

「シャオは何時でも良いからね? イオンお姉さんとも仲良くしてるし、派閥云々が起きてもシャオが孫家派閥まとめるからさ。……だめかなー?」

 

しれっと隣から腕を抱きしめるシャオ。

 

「卿が私に思いを向けてるのはわかるが……それは恋や愛のそれでは無い。どちらかというと未知に対する好奇心だ。 故に同意もできねば抱くこともできんよ」

 

何かを見ようとして、同時に見たくないと言いたげな顔をする蓮華。

 

「私の場合は?」

 

「……孫家の役に立ちたいという義務感。奔放な姉や妹に対する劣等感と反発の心ではないかね? 政略結婚ならばあとから恋や愛を抱くのも良いだろうが私は気が乗らん。それに『私』にまだ疑心を持っているが興味を持っていない。無関心でないだけマシだか……愛が足らんよ」

 

「そうね……言われて自覚できたわ。ありがとう」

 

蓮華は憑き物が落ちたような、どこか穏やかな顔になっていた。

 

「ぶー、シャオ良いお嫁さんになるのにー。料理だってできるもん」

 

「いや、シャオ? この人料理は下手な料理人が裸足で逃げ出すくらいうまいわよ? 一昨日夜食食べさせてもらったけど、今までの食事と雲泥の差だったから」

 

「え!? ラインハルトの手料理食べたの!? お姉ちゃんばっかりずるい!私も食べたい〜」

 

近くの郡で黄巾賊がいるとは思えない、長閑な時間が過ぎていくのだった……。

 

あ、料理はやむなしと軽いものとゼリーを振る舞っておいた。

 

袁術と張勲がしれっと同席していて、シャオが不機嫌になったがまあ……2人の運が良いということで……。

 

 

 

 

「七乃。あの男を籠絡……?できんかえ?」

 

「もしかしてあのゼリーとかいうの気に入りました?」

 

「それもあるか……ほれ、麗羽……お姉様に妾の旦那として自慢したらどちらが格上か理解するかもしれんじゃろ?」

 

「流石お嬢様! 従姉に見せびらかすために明らかに多彩、偉丈夫、美形にお金持ちな人の旦那寝取ろうとは、よっ、悪ですね〜」

 

「悪ではない、賢いと言うんじゃよ七乃」

 

「よっ、お嬢様天才!どう育てばそんなこと思いつくんでしょう!」

 

「もっと褒めるが良いのじゃ」

 

「(ただあの人幼女趣味じゃなさそうですし、本当にそうなら私がこまりますからねー。……私の身体使えば行けるかなぁ……。お嬢様のためだし、がんばりますか)」

 



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第十話 寿春救援戦、そして二人目候補

――side ラインハルト

 

慌ただしく支度をし、出立したと思ったらもう寿春が目と鼻の先だ。

 

その間に張勲のハニトラを躱したり束が夜に人には見せられぬ姿で私の天幕に来てイオンに詰められたりしたが気が向いたら話そう。

 

それはさておき。

 

「……街に入られてるけど城は……まだ持ちこたえてるといったところか……敵が2万弱いるけど耐えてるってことは守ってる側の練度がかなり高いわね……」

 

(宝物庫から貸し出した)望遠鏡による遠見と明命はじめとした細作の報告から状況を纏める雪蓮。

 

「さっさとなんとかしれくれんかの?」

 

同席していた袁術の言葉に一同がジト目を向ける。

 

「……ここで無策に突っ込んで兵を失っては寿春救援ができたとしても汝南の方を助ける余裕がなくて撤退の可能性もあるが構わんのか? 無論報酬はきっちりもらうと話は付いているようだからな、損するのはそちらだが」

 

私が代表して答えると

 

「うぐ……とにかくはやめに、2つの城の救援を頼んだのじゃ」

 

そう言うと袁術は張勲とともに天幕を後にする。

 

兵士たちがちゃんと割り当てた天幕に戻ったことをハンドサインしてくれたのでやっと本音が話せる。

 

「……久しぶりに身体を動かしたい。――賊を追い立てる役か城に単独で飛び込んで物資補給と援軍が来たことを伝え、門から飛び出して賊を撹乱する役……どっちならやって良いかね?」

 

「どっちもダメ。――戦況をひっくり返せるあなたの存在露見したら絶対引き抜こうとするやつが出てくるから。力見せてないのに袁術動いてるみたいだし……。――せめてウチの誰かに手を出して義理立てするまでは出せないわよ」

 

「そこは許しておけよ、前の約束*1破った扱いで誰かねじ込めたのによぉ……」

 

「いや、ソレやったらある日突然いなくなりそうだし……私の勘では黄巾賊なんとかしてる間になんとかなるって気がするから今は待つべきだわ」

 

親子で意見が割れてる横でイオンたちが困ったような顔をする。

 

「……やっぱりレナルルさん……?」

 

イオンの言葉にどうしたものかと考えつつとりあえず武器弾薬の支援だけにとどめて本陣で待機することに。

 

束、露骨にアピされてもイオンにお前を御すのは負担が大きすぎる。

 

遅かれ早かれそうなるとしても手綱握れる千冬か箒の後だ。

 

大人しくする? 私とイオンを胃痛と心労で倒れる未来しか見えんのだが?

 

……言い過ぎたと思うが側室の2人目くらいまでで必要なのはイオンとツーカーで必要なら纏め役できるイオンが現時点心許せる相手なのだ……許せ……。

 

 

 

 

 

 

良い忘れていたが現在孫家軍は寿春のほぼ真南4里ほどの位置に陣取っている。

 

兵力は1万9千。

 

相手はおおよそ2万。

 

城の兵は4500ほどだが、打って出る余力はなさそう。

 

この状況で普通にぶつかると損害が大きい。

 

そのためまずは別働隊5000を使い南西~西南西の方角からなるべく目立つようにしながら攻撃。

 

ある程度乱戦になってきたら敗走したふりをする。

 

ここで賊がまったく釣られないなら繰り返して相手を挑発。

 

ある程度釣れたらなるべく距離が開かないようにしつつ南西方面に逃げ、近くにある森から伸び切った賊を急襲してたたき、同時に別働隊も反転。一応逃げ道残しつつ袋叩きする。

 

この時点で城の兵数とこちらの軍合わせた兵数で兵数差は確実に逆転するのでそのまま討伐する。

 

調べた限り万単位の正確な指揮ができる命令系統が無いので、このレベルの作戦でどうとでもなるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言って見てるだけかつ、敵が弱かったのであっという間だった。

 

粋怜と穏による突撃からの絶妙な引き方による主戦力の誘引成功の時点でほぼ勝ちは確定したようなものだった。

 

その後その主戦力を包囲殲滅したら返す刀で包囲していた連中を撃退した。

 

全員狩り尽くしてないのは生存本能が高いやつや逃げ足の早い奴らが逃げ切ったからである。

 

逃げたのが4000、6000ほど捕虜、後は墓の下だ。

 

「捕虜の殆どが殆どが食い扶持無い奴らだな……しかも半分は女子供だ」

 

どうすっかなーって顔の炎蓮の言葉に亞莎が口を開く。

 

「……あの、提案があるのですが……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう風の吹き回しです? 捕虜の身柄を引き取るから前話した報酬のうち、成功報酬はいらないなんて」

 

入城した城の玉座の間にて、私とイオンがものすごーく紀霊と呼ばれてる武将に話しかけるのを抑えて雪蓮たちの会話を確認する。

 

……向こうもイオンみてからチラチラこっち見てるから考えてること同じらしい。

 

それはさておき

 

「なに、理由はわからんが黄巾賊に加担した連中について――袁術は手元に置いておきたくない。――オレたちはちょっとばかし人手がほしい。――そして捕虜になった奴らは飢えてる。だから――オレたちが引き取って面倒見ればこっちもそっちも捕虜連中も嬉しいだろう? 三方良しってやつだ」

 

「……構いませんけどー、汝南の方も対応してくださいね?」

 

「ああ、わかってるさ」

 

そう言うと蜂蜜水を飲みたいと駄々こねる袁術とともに部屋を去っていった。

 

「――粋怜、歩兵5000と捕虜6000連れて廬江目指せ。明命。先行して捕虜の話とか伝えてここ数年で廃棄された邑とかを復活させる手続きと5000の招集して寿春に向かえ。2つの軍が合流したらそれぞれの兵士受け取って交代。明命は廬江に歩兵5000と捕虜6000を廬江に行軍、粋怜は汝南に向かってオレたちの軍と合流するように。――たぶんケリついてるから無駄骨かもしれんが戦線膠着したときの後詰めだ。それとラインハルト、イオン」

 

「ん?」「は、はいっ!」

 

「……そこの紀霊の嬢ちゃんが話したそうにしてるからさっさと相手してやんな。律儀にも待ってたからな。(もしイオンの気心しれるやつなら引き抜け。――前世で浮気容疑かけられた一人なら、寧ろ二人目に最適だからな)」

 

「……努力しよう」「? りょ、了解」

 

炎蓮の指示を受けて孫家の話の輪から離脱し、寿春を防衛してみせた『紀霊』の方へ向かう。

 

――左右の一部を太い三つ編みに、背中側の紙をストレートにした少し変わった白銀の髪型をした、胸部装甲が孫呉の大物と張り合えるスタイルの良い娘が、おずおずと口を開く。

 

「……あなたは……イオナサル……?」

 

「……ってことはやっぱり……カノンさん?*2

 

「ええ……今生では紀霊と名付けられ、この世界に生きています。……積もる話はありますが、ひとまず……またあえて嬉しく思いますよ、イオナサル」

 

少し張り詰めていた緊張が緩んだのか、優しい笑顔を見せる紀霊。

 

「私も、カノンさんに会えて嬉しいです。あ、こっちがあのアーシェスです」

 

「彼が……? ……アーシェスとは似てもにつきませんが、イオナサルがそう言うならきっとそうなのでしょうね。公式では紀霊で、そうでなければカノンと呼んでください」

 

丁寧に一礼するカノン。

 

「ラインハルトだ。――……イオン、レナルル、卿がいるとなると、他にもいるかもしれんな」

 

「イオナサルももしかしたらいると思っていましたが……そちらにはタータルカ宰相殿がいるのですね」

 

「? まるでカノンさん、私以外に前世の知り合いがいるみたいな言い方してません?」

 

イオンの指摘にハッとするカノイール。

 

「そうです。――寿春で指揮をしている丁奉。彼女はネィアフラスクなのです。汝南にいるのですが、半月ほど前の襲撃で応援を呼んだのに連絡が無いのです。――なにかご存知ではありませんか?」

 

その知らせに私とイオンは顔を見合わせる。

 

たしか袁術の証言通りなら半月以上前から汝南が包囲されているからだ。

 

そのことを慌ててイオンが伝えると

 

「なっ!? ソレを早く教えてください! 私も兵を連れていけるだけ連れてあなた方と共に救援に向かいますから!」

 

そういって駆け出そうとするので回り込んで止める。

 

「なぜ止めるのです!」

 

「今袁術配下の兵でこの城から外に出せる余剰は無い。――むしろ防衛で動けなくなってるのを疲労困憊してるのを考慮すれば、卿が救援に同行するのを認めるとも思えん」

 

「……それなら私は野に下るだけです。――何度も諌めたのに、悪政をやめなかったあの二人に今回ばかりは愛想をつかしましたからね」

 

私のたしなめる言葉に対し、袁術の家臣の地位投げ捨てるのもやむなしと言い切った。

 

「そ、それって大丈夫?」

 

「それなりに金はありますし。――いざとなればそちらの客将や小間使いとして糊口を凌ぐことも考えてますから」

 

「……カノンさん、保守的なのに変なところで思い切りいいよね……」

 

「イオナサル、なんか言いました?」

 

「な、ナンデモナイヨ―」

 

「とりあえず話し合ってきます。――どちらにしても追いかけますので、よろしくおねがいしますね、イオナサル、ラインハルト殿」

 

そう言って去っていくカノン。

 

「……ネイちゃん……大丈夫かな……」

 

「……今のところは、なんともいえんな」

 

足元の影が蠢き、2つほどの影が私から離れて西へと飛ぶように消えたのを横目にそう答えたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

――side ???

 

「やばいわねぇ……かれこれ3週間、援軍なしで包囲……街中抑えられたから向こうの食料は充実してるし……こっちも食料はあるけど、数の差が6倍近いのはキッツい……」

 

幸運なのは奴らが馬鹿なのか、夜襲とかそういうのが全く頭に無いし、はしごとかそういうのまったく作らないことだ。

 

おかげで登ってくる可能性が低く、門をしっかり抑えて死体や人を踏み台に登ってくるのをどうにかすれば防げてる。

 

ただ、精神的に約6倍いるってのがきつい。

 

兵士たちも終わりが見えないせいかだんだん疲労の色が隠せなくなってきている。

 

どうしたものかしら……。

 

『――では、敵を半分にすればあと1週間ほど、持ちこたえられるかね?』

 

「まーねぇ。ついでに城の城壁に張り付いてる死体どうにかしてくれれば、なんとかなるかも……?」

 

『よかろう。――1週間ほどで助けが来る。そのカリスマで兵士をまとめあげ、もちこたえたまえ』

 

誰かの軽口なのか、幻聴かと思いつつ、声のしたほうを向いたが、誰も居ない。

 

「……とうとう幻聴が聞こえたみたいねぇ、ヤバいかなぁ……」

 

千人隊長たちに任せてもう少し寝る時間増やさなきゃ……。

*1
第七話 黄金の獣と幾つもの兆し―― より

*2
かつてイオンと皇帝候補として争ったことや、同じ目的のために協力したり共依存関係になったり色々あった人。詳しくはカノイール・ククルル・プリシェールで検索



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第十一話 『二人目』と汝南救援と『三人目』

――side ラインハルト

 

同日夜、私達は依頼報酬の一部としてここまでの遠征にかかった兵糧などを袁術から分捕って出立の準備を整えていた。

 

穏と粋怜、明命は捕虜輸送などの関係で不在だ。

 

すると30人ほど引き連れたカノンがやってきた。

 

軍議用の天幕に孫家が集まり、彼女とその取り巻き?もそこに集められた。

 

「汝南救援に向かう皆さんに合力する旨を伝えたところ、クビにされた。それでもついてきてくれる者たちがいるのでできるなら客将や兵士等で雇ってもらえないだろうか」

 

「良いわよ。貴女は……ラインハルトの指揮下に。他の者はうちの部隊に組み込むわ。……兵士とか貴女に家族とかは?」

 

確認のためおずおずと問いかける雪蓮。

 

「皆独り身なので身軽です。同じ志を持った者から、すぐ動ける者をあつめましたからね」

 

「そう……それじゃ、彼らの案内を」

 

「はっ!」

 

雪蓮が天幕の内側にいた兵士に声をかけると彼は取り巻きたちを連れて行った。

 

「……で、イオンとラインハルト的にどうなんだ?」

 

「私としてはカノンさん居てくれたらとっても安心できるかな〜」

 

「……あとは本人次第だろうが……さほど時間もかからんだろう」

 

「? 何の話で?」

 

蚊帳の外であるカノンは首を傾げ、イオンがサドっけある笑みを浮かべる。

 

「なんでも? 積もる話もあるし、一晩の為に天幕追加は労力増えるから、私達の天幕でお話したり、身体休めてね」

 

「? たしかにラインハルト殿の指揮下にと言われたので命令とあれば従いますが……貴女たち夫婦なのでは?」

 

「それはそれ、これはこれだよ。 さ、場所移動しようか」

 

そういってカノンの背をおして天幕を出るイオン。

 

私も出立が明日の朝なのを確認し、イオンの後を追う。

 

なお、亞莎は冥琳のところに預けてる。

 

表向きは指揮や相談事についてを実際に見聞きして勉強させるため……実際は夜に目を覚まされて情事を目撃されるのはあまりよろしくないからである。

 

束たち5人も別の天幕に配置してある。

 

まあ、イオンの心の平穏のためのコラテラルダメージということで是非もなし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の天幕にたどり着くと、組み立て式の寝台に椅子が数脚用意されていた。

 

「カノンさん」

 

「えっと……随分と機嫌がよろしいですね、イオナサル」

 

椅子に座らせてその後ろで鼻歌交じりに手櫛で髪を梳かし始めるイオン。

 

「うん。だって――好きな人と好きなものを共有したいって思うのは普通でしょ?」

 

「へ?」

 

「……」

 

カノンは素っ頓狂な声を上げ、私は沈黙を保つ。

 

「あの、それはどういう」

 

「……アーシェスと禊してて、アーシェスのことを恋する乙女みたいな顔で話してて、隠せてると思った?……私達が還ったあとも、ネイちゃんやレナルルさんみたいに最後まで独身貫いてるのも知ってるからね?」

 

触らぬ神に祟りなしなので気配遮断して空気であることを務める私。

 

「――だから、2人目はカノンさんが良いんだ。 旦那様も認めてくれてるから……だめ……かな?」

 

「…………随分と強かになりましたね。 お二人が良いと言うならば……」

 

立ち上がってこちらを振り向くとカノンは頭を下げる。

 

「未熟者で頑固な不束者ですが、どうかよろしくお願いいたします」

 

「うん! よろしくね、カノンさん!」

 

「イオンのこと、助けてくれるとありがたい」

 

私の言葉にイオンが何か閃いたようだ。

 

「……早速だけど、カノンさんに手伝って欲しいことあるんだ」

 

「私にできることなら何でも」

 

「……」

 

カノンの返事にイオンが笑みを浮かべ、自分は手加減せねばと心のなかで合掌しつつ、流れに身を任せることにした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日はお楽しみだったようだな?」

 

「イオンが今まで見たこと無いくらいで、ツヤツヤしてる……」

 

出立前に一同が揃う中、開口一番に炎蓮と雪蓮が脊髄反射で気がついたことを零していた。

 

「ほーら、カノンさん、皆に報告しなきゃ」

 

「ひゃん」

 

そういってうしろからカノンのお尻を軽く叩くイオン

 

聞いたこと無い声を出したカノンだが、すぐに我に返る。

 

「……紀霊。真名は香音(カノン)。この度、ラインハルト殿の第二夫人となりました。皆様と知り合い日は浅くありますが、どうかよろしくお願いします」

 

「……で、ラインハルト的には3人目以降解禁か?」

 

炎蓮が私に問いかける。

 

「あまりポンポン増やすものではないのだが……まあ概ねそういう認識で構わん。但し、3人目はほぼ内定しているし件の人物は向かう先にいる」

 

「……あんまり引き抜いて袁術怒らせないでよね?」

 

私の言葉と前袁術が言ってた証言から、誰なのか見当ついた雪蓮がやれやれポーズしながらたしなめてきた。

 

「善処する」

 

「んじゃまあ、兵士の調練ついでに賊討伐して、袁術から報酬とラインハルトの3人目候補ぶんどるとすっか!」

 

「ええ、そうね。――これより西方、汝南救援に向かう、天幕撤去次第出立!」

 

「「「応!!!」」」

 

 

 

 

 

 

――side 丁奉

 

「なんか城壁直下の死体が消えて敵も半分くらいになったのは良いけど、そろそろ士気が限界っぽいのよね……どうしたものか……」

 

『先日の約束までまだ1日と少しあるが……朗報だ、東を見たまえ』

 

ここ数日1人で居ると聞こえてくる幻聴?の言う通り東を向くと土煙が見えた。

 

「……孫の旗……あ、カノン……紀霊の旗あるじゃん。援軍呼んだのに来なかったから向こうもなんかあって来られないのかと思ってたけど……」

 

『4日程前まで黄巾の賊に城を包囲されていたが、南の孫家が救援に駆けつけ開放したのだ。……他にも君の古き友人やそのパートナーであるアーシェスと呼ばれた機械を操っていた者も君の無事を願っている。あと一息を耐えたまえよ』

 

「は? ちょっとそれどういう……気配が消えた……」

 

周りを見ても誰もなし。

 

眼科には敵の蠢く姿。

 

「……あと一息、ここで抜かれるわけには行かないわね」

 

 

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

汝南近郊に到着後、殆ど休息することなく敵にぶつかる強行軍がなされた。

 

――え? そうでもないと兵士が鍛えられない?

 

そういうものではない気がするが……。

 

なお、カールとマキナによる頭数減らしもあったが、包囲で摩耗していたのは攻める側も変わらず、孫家軍の一当で敵軍は瓦解。

 

待っていたとばかりに打って出た丁奉軍により多くの賊が討ち取られた。

 

 

 

 

 

 

「ってことで、アタシは丁奉。真名はネイ。袁術には愛想尽かしたから出奔してきたわ。よろしく。特にイオンとイオンの旦那さん♪」

 

濡羽色の髪をサイドテールにした、金色の瞳の……少々幼いスタイルの娘が超絶軽い挨拶を言ってのける。

 

「ネイちゃん! うん、うん!よろしくね!」

 

「良しなに頼む」

 

「……ネイ、貴女も……ふふ……」

 

喜ぶイオン、握手に応じる私、どこか遠い目をするカノン。

 

とりあえず……今あそこにいる袁術との交渉が先だな……。

 

 

 

 

 

 

「寿春と汝南救援、ご苦労じゃ。またなにかあれば頼むぞ」

 

天幕にやって来た袁術はそういうとさっさと去っていく。

 

ねぎらいの言葉RTAかな?

 

……なんかネチネチ言われたりするかと思ったが、何もなし。

 

「復興の方が優先度高いだけでは?」

 

「そこに隠れてる2人が出奔したのもあるんじゃねえか?」

 

「いつもひっついてる張勲不在が原因でしょ。難癖つけてくるのいつもアイツだし」

 

冥琳、炎蓮、雪蓮が心当たりを告げる。

 

……しれっと人の心読んでない?

 

「不思議そうにしてるのと状況から察した」

 

「なんとなく」

 

「お母様と同じく」

 

「わ、私も頑張らなきゃ……」

 

3人の返答に対抗心を燃やすイオン。

 

卿は卿だ、得意分野で頑張ればいいから……。

 

 

 

 

 

 

 

「……で、なんでアタシ縛られてるの?」

 

帰路についた夜、私の天幕にて。

 

眼の前には後ろで腕を縛られて椅子に座らされているネイと、その左右で宝物庫産の蝋が何故か減らない低温蝋燭を持ったイオンと音は派手なのにあんまり痛くない鞭を持ったカノン。

 

「……いやね? ネイちゃんも禊でアーシェスと仲良くしてたし、私が居なかったら仲のいい熟年夫婦みたいにいつの間にかなってた気がするから、『3人目』になってほしいかなーって。 私との相性もいいし、カノンさんも居るからさみしくないよ?」

 

「ネイ、そのうち慣れます。貴女だけ逃げようなんて許しませんから」

 

「いや、慣れたらダメでしょ、そのあたり! というかカノンのは完全にエゴだし」

 

イオンとカノンの言葉にツッコミを返すネイ。

 

料理とか発明品とかは頓珍漢なものを作ったりするネイだが、こういうところでは常識的なツッコミを入れてくれる。

 

2人のブレーキを頑張ってもらいたいところだ。

 

「ラインハルトもラインハルトでいいの!? 重婚だけど」

 

「……卿が皇帝の仕事から逃げられなかったように、私も半ば忘れていた前世の業から逃げられなかったということだ。……いや、それは言い訳だな。卿が私の側に居てくれると嬉しいし手放したくない強欲さとイオンの立場に今生の私の立場……諸々が絡み合ってる結果だ。 よほどがなければ受け入れる覚悟はできている」

 

「……アンタの想いは分かったしアタシも望んでたところあるし受け入れる。3番目っていうありがたいところもね? でもね……」

 

言葉を区切って、私達3人を見ながら告げた。

 

「アタシ、SM(そういう)プレイは興味ないから」

 

「「「えっ?」」」

 

「えっ?」

 



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第十二話 廬江凱旋と現在の大陸情勢

高評価……お願いします。


――side ラインハルト

 

汝南にて捕獲した捕虜三千ほどと共に出立し、途中で粋怜が後詰に輸送してた部隊と合流。

 

そのまま廬江へと凱旋することに。

 

なお、捕虜については、微妙に反抗的なところがあったので、凱旋パレードをイチ抜けし、寿春での捕虜と一緒に英雄王譲りのカリスマと黄金の獣のカリスマを叩きつけて跳ねっ返りをしっかりへし折っておいた。

 

……やりすぎ? たまにはそういうこともある。

 

素直になった連中は予め雪蓮たちに聞いておいた通り、各地の廃棄された邑や人手がほしい所に振り分け、必要なら物資をしっかり持たせて出立させた。

 

 

 

 

 

 

パレードが終わったら兵士を解散させ、留守組も含めた主だったメンバーで報告会となった。

 

「――つーわけで、捕虜が約1万。うち四千が鍛えれば使えそうだから近いうちに編入予定。また袁術のトコから引き抜いた紀霊と丁奉がラインハルトの二人目と三人目になった。喧嘩すんなよ。遠征組の連絡事項は以上だ」

 

炎蓮の言葉に緩い返事をする留守番組。

 

……む? 蓮華の後ろにいるのは……。

 

「留守組の報告は2つ。 1つは交州の士燮がこちらと接触してきたから、とりあえず友好的にもてなしをしておいたわ」

 

「あの妖怪ジジイがねぇ……」

 

「どういう風の吹き回しかしら……っと、続けて?」

 

蓮華の言葉に怪訝そうな顔をする炎蓮に雪蓮。

 

「2つ目は……錦帆賊……いえ、錦帆組ね。彼らが私達の旗下に入ってくれたわ。 思春、挨拶して」

 

「はっ」

 

蓮華の言葉に反応して2歩ほど前に踏み出して拱手する。

 

「名は甘寧、字は興覇。錦帆組のまとめ役をしていました。蓮華様のためなら犬馬の労も惜しみません」

 

「……」

 

「……? お母様どうしたの?」

 

複雑そうな顔をする炎蓮とそれに困惑する雪蓮。

 

「錦帆の甘寧っていやぁ、黄祖のヤツがめちゃくちゃ執着してたなーって。……アイツがこっちにちょっかいかけてくる口実が増えるなぁと」

 

「そして実際にあったら殴り返せるからツイてるなぁって思ってるのか……」

 

私が続きを告げると彼女はうなずく。

 

「そうそう。――蓮華、今後長江沿いで活動を広げる。――ソイツら使って他の連中吸収しておけ。――黄巾賊討伐終わった頃には水軍を万単位の兵で本格始動させる。あ、それなら捕虜として連れてきたやつで使えそうなの1000くらい見繕うから甘寧の下に配置してソレも鍛えてくれ」

 

「はっ!」

 

「報告はこんなとこか……大陸全体の情勢どうなってる?」

 

その言葉にレナルルが前に出る。

 

「現在黄巾賊について第一報が中央に届いたようです。また、徐州の陶謙、幽州の公孫賛、冀州の袁紹が州境を越えようとしてる黄巾賊と戦闘が散発、州内でも黄巾賊が複数回目撃されているようです。また、并州、兗州に寿春、廬江以外の揚州に荊州、司隸でも黄巾賊の活動が見られ本格化するのは時間の問題かと」

 

「あれ、豫州は?」

 

雪蓮の問いかけに、レナルルは資料をめくって答える。

 

「汝南郡は討伐されましたし、許昌は董卓とその幕下が目を光らせてるからか黄巾賊は徹底的に討伐されてます……ラインハルト殿、どうなされました?」

 

前半は既知の情報だったが、後半は私の知らない情報で思考がフリーズした。

 

「……ああいや、なんでも無い」

 

「……?」

 

炎蓮に怪訝そうな顔をされたが……まあなんとかなっただろう。

 

「他に確認事項は……無いな? ならちょうどいい。今一度揚州とその周辺の状況を確認する、お勉強の時間としようか」

 

そういって手を叩く炎蓮。

 

それとともに私が前渡した畳二畳サイズにした大陸南東部の地図と、ソレを乗せるためのテーブル、ついでに幾つかのコマを兵士たちが持ってきて、テーブルにセッティングして撤収していく。

 

……そのためにスタンバイしてたのか……。

 

「とりあえず廬江は太守がオレだから廬江とその周辺の廬江郡に属する都市、村や港は実質的にオレがまとめてる。――順調に行けば中央で話がまとまってる頃だからもう少ししたらこの基盤をまるごと雪蓮が引き継ぐことになる」

 

「責任が……重い……誰か隣で負担してくれないかしら―ちらっ」

 

「……話が脱線してるぞ」

 

私の言葉につまらなそうにしつつ炎蓮が続ける。

 

「んで、北にある寿春とここから見ると北西にあるのが汝南。袁術が兼任してやがる」

 

「前から疑問だったのですが確か州を跨いだ官職の兼任って基本できないのでは?」

 

亞莎の言葉にうなずく炎蓮。

 

「基本は、って枕言葉がつくときは、例外が大体あるもんだ。――アイツ、寿春の太守と豫州の州刺史を兼任してて、んでもって、汝南の太守は『何故か』空席だから『やむなく』刺史が兼任してるって建前でまかり通ってる」

 

「……」

 

薄汚れた世界を見て複雑そうな顔してる亞莎に合掌しつつ、話の続きを聞く。

 

「とりあえず次な、廬江の西側、江夏は黄祖の管轄だ。上司に相当する荊州刺史が劉表だが、あの爺はオレと黄祖が険悪なのが好都合らしく黙認……場合によっては長江経由で偶に贈り物してくるな」

 

「どっちかというと、自分の手に負えない狂犬が自分の手を噛まないように私達を囮にしてる感があるけどねぇ」

 

雪蓮がため息混じりにそうこぼす。

 

「んで、南の柴桑はしばらく前に山越に対して偉そうなこと抜かしてぶっ殺されてたから空白、建業はたしか痴情のもつれで無理心中に巻き込まれて死んでるからこれも空白……会稽と建安は厳白虎とかいうヤツとその弟が収めてて、呉の太守が揚州刺史兼任してる劉繇。――会稽と長江の間に山越っていう複数の部族がいる割りと広範囲の地域があるがあそこは基本不可侵……つーか手を出すとめんどうだから不干渉だ」

 

「山越を帰順できれば楽なんだけどねぇ。……一枚岩じゃないから、割れて揉めるとかもあるし、主だった派閥を形成してる部族と仲良くしておくのが精一杯ってところね」

 

雪蓮の補足に皆がうなずく。

 

「とりあえず周辺と揚州関係についてはこんなとこだ。――黄祖の動きを監視しつつ、山越と友好関係作って、今後に備えるって感じだ。――とりあえず遠征組は今日は休み。明日から雪蓮が仕事割り振るからキリキリ働けよ―」

 

「そうだった……とりあえず解散~」

 

雪蓮の言葉で解散する一同。

 

……董卓陣営が許昌にいるのは自分の想定外。

 

他に相違点がないか今のうちに調べておく必要がありそうだ……。



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第十三話 サーヴァント召喚と各地の動き

――side ラインハルト

 

アレから一ヶ月、内政と軍備増強に勤しむ日々。

 

小康状態が続いていたのでそろそろ動くべきと判断して準備を始める。

 

城の自室にて、宝物庫の宝具の原典等を使って空間隔離を施し、宝石を溶かした液体で陣を描く。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。祖には神座『永劫水銀回帰(オメガ・エイヴィヒカイト)』」

 

手袋を外した右手の甲に刻まれた赤き刻印が赤く光り始め、陣が呼応するように光り始める。

 

「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

力場が生まれ、力が循環する。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。――繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

己の中に眠る歯車が噛み合い、動き出す。

 

「―――――Anfang(セット)

 

見えぬ糸が私と何かの間に縁を紡ぐ。

 

「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

何かが弾け、他の可能性が砕ける音がした。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

光に包まれた後、陣の中心に一人の人物が立っていた。

 

赤い槍を持ち、後ろで膝ほどまである青い髪を黄色いリボンで束ね、赤い瞳には本人の気性である明るさが宿っている。

 

「――サーヴァント、ランサー。 マイ=ナツメ……あれ? クー・フーリン?ってなんだろ……まあいいか。呼ばれたからには頑張るから。とりあえずよろしくね、マスター」

 

「ラインハルトだ、よろしく。……卿は聖杯に何を願う?」

 

私は認識確認のために問いを投げたが

 

「特に……? 強いて言えば強い相手と戦えて、現世をある程度楽しめればいいかなって」

 

なんか青タイツのランサーみたいな事言い出したぞ。

 

「なんか『混ざってる』みたいで、それに引っ張られてる部分あるみたい。……たぶん、座に登録されてない存在を無理やりサーヴァントとして成立させるために座に登録されてる存在をベースにしてる……っぽい? 記憶もわりと曖昧なところ多いし」

 

「……妙なサーヴァントだな」

 

「なんだろーね、他のサーヴァントもそんな気がする。たぶん聖杯も変なモノじゃない? 電気ポットとかそういうヤツ」

 

うーん、と首傾げながらそう零すランサー。

 

「(聖杯……電気ポット……あ、カニファンネタ*1か) まあ、万一聖杯が汚染等で危険なら壊すし、卿が受肉したければ何とかできる。とりあえず聖杯が気になる故、生き残りを優先しつつ、卿が楽しめるよう、取り計らおう」

 

「うん、よろしく」

 

私の差し出した手を取るランサー。 

 

「とりあえず……呼び方は「マイで」……マイ、パス経由で魔力供給はできてるか」

 

「? できてるけど……なんで?」

 

「……私の魔力の容量(キャパシティ)の桁が違いすぎるらしく、卿に渡してる魔力量が誤差の範囲にあるせいで認識不能なのだ。」

 

「すごい……さっきから調子いいのそれが理由なんだ……」

 

軽く体動かしたりジャンプしたりするマイ。

 

何処とはいわんが揺れてるぞ、思いっきり。

 

「……もしかして、令呪つかって逆らえなくしてこのままエッチな展開ですか? エロ同人みたいに!」

 

視線に気がついたのかバッと私の身体を隠すマイ。

 

「ワタシ、妻帯者。 妻たち、怒る そのつもりなし」

 

「それはそれでモヤっとしますね……スタイルはイイと思うんですけど……」

 

「私はそこまで飢えてるつもりもないのでね。……さて、卿を紹介せねばな」

 

私は指を鳴らして空間隔離を解除し、大広間へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

予め聖杯戦争について説明していたのでサーヴァントについて根掘り葉掘り聞かれることなかったが……

 

「やっぱり胸でかいほうがスキじゃねえの?」

 

炎蓮が爆弾投下したお陰でシャオ、鈴が噴火し、明命と亞莎がしょんぼりし、イオンとネイがジト目を向け、甘寧からゴミ見るような目で見られた。

 

「だから言っているだろう! 大きさより感度だと!」

 

「……炎蓮様、あまり夫を虐めないで頂きたい。 心労が祟って倒れかねませんので」

 

「煮ても焼いても死ななそうなコイツが?」

 

カノンの言葉に炎蓮首傾げ。

 

「いや、この人前世から肉体的にはかなり丈夫だけど、精神的には妙に脆いところあるので……何度か束さんや千冬姉がやらかしたことあって、それで兄さん心配したり後始末に奔走して倒れたことありますし……」

 

「なんともはや……気をつけとくか……そういうのでたまに男は不能になるしな……」

 

一夏のフォロー?によりとりあえず自重する旨を炎蓮が言ったのでとりあえず収束。

 

「さて……大陸の情勢がそこそこ変わったし、軍もすこし増強できたからな、行動方針そのままで良いか確認だ」

 

炎蓮の言葉を雪蓮が引き継ぐ。

 

「先日先触れが来て、数日後に中央から使者が到着する予定と言われたわ。……お母様が何をやったのか知らないけど、廬江太守継承の認定と揚州牧の地位を約束したんだけど……」

 

「州牧!? 刺史からまた変わったので!?」 

 

驚く雷火。

 

「いや、中央が刺史はそのまま、州牧も追加したみたい。レナルルも中央でそういう勅出したって裏とれたし」

 

「は……? 中央は何を考えて……?」

 

雷火が目を丸くする。

 

「……刺史と州牧の違いわかんないんだけど」

 

「えっと……刺史は前漢にて設けられた役職で、当時は州全体の監視する役職でした。具体的には現地にて拠点を定めずに担当区域を移動しつつ、現地の豪族とかが結託して反乱しないか監視や監査をしていました。ただ……」

 

一夏の疑問に亞莎が始まりを解説。

 

その続きを穏が引き継いだ。

 

「……権限小さすぎてあまり効果ありませんでした。立ち入りの監査とかも人手とか圧倒的に足りないし、その人が賄賂受け取りたくなるほど給金よくなかったので。それらを加味した結果、刺史に軍権を付与し、州の長としての地位を付与したのが州牧の始まりです。もっとも、その後名称を刺史にもどしたり、軍権を外したり戻したりの権限に関して紆余曲折があって、州の長の地位、現地の監視の役目に非公式に私兵をもつ権限持つのが現在の刺史となってます」

 

「現在の州牧の認識は刺史の権限に加えて公式な軍権があり、州牧の軍を編成できる。また、必要なら管轄内の太守の兵を許可なくつかうことができる。……使った場合は中央に事後報告で報告義務があるがな。……っと、州牧については数世代前の皇帝が廃止して、州の長は刺史ということで今までやってきていた。それなのに大体同じ権限持つ州牧を復活させると中央が言い出したと聞けば……雷火殿が驚くのも無理はないということだ」

 

冥琳が丁寧に教えたおかけで知らない組は納得した様子を見せた。

 

「ちなみに州牧の条件として、「生まれた州の牧にはなれない」があるけど、雪蓮様たちが生まれたのは徐州だから、条件に関してないから就任は可能なのよ」

 

粋怜の追加説明は知らなかったのでなるほどと頷く私。

 

「まあとりあえず、官職についてはこんなところ。レナルル、大陸の情勢についてよろしく」

 

「はい。では」

 

レナルルが手を叩くと兵士たちが前つかった大陸の地図と様々な色の駒の入った箱に地図を乗せるテーブルを運び込んで設置が行われた。

 

「まず、黄巾賊関連について。……徐州北部が黄巾賊に制圧され、刺史の陶謙が逃げ遅れて討ち死に。徐州北部を橋頭堡(きょうとうほ)として兗州(えんしゅう)に勢力を伸ばしております。その影響か、大陸各地で黄巾賊が活性化しています」

 

駒を配置しながら告げられたレナルルの言葉に全員がしかめっ面である。

 

火事と大乱は似たようなもので、初動で抑え込めないなら大事になって被害が大きくなることが確定だからだ。

 

「それと平行して、中央は禁軍の派遣を決定。将軍として何進を、補佐として盧植、皇甫嵩を付け、数12万を動員。現在東進中ですが……その……兵士の質はかなり悪いようです。確認してる時点で現地で物資を勝手に徴収したり、徒党組んで現地民に暴行加えたりしてたようなので……。現地の民はもちろん、太守や豪族たちも不満を持ってますね」

 

「練度が低い以前の問題かよ……」

 

炎蓮があーあ、って顔してる。

 

「地方も腐敗してると思っておりましたが、中央はそれ以上でしたか……」

 

孫家の内政官だけど、漢の臣下でもあるみたいなことたまに言っていた雷火が失望の色を見せている。

 

「たぶんあと1月で禁軍と黄巾賊が交戦する。……オチ見えてるから後手に回らないようにしたいわね。……州牧に任命されたあとの動き……。揚州の掌握、刺史で属人*2の劉繇への対応……やることは多いわね」

 

雪蓮がやること多い……とぼやいたあと、ハッとしてレナルルに続きを促す。

 

「他に主だった情報は……袁術に寿春太守の返上の代わりに豫州牧を、袁紹に冀州牧を。……袁紹配下の田豊に空席の并州刺史を、公孫賛に幽州牧を、曹操に兗州刺史を任命する使者が出た模様」

 

「劉表のジジイや益州、交州、涼州の刺史にかんしての使者は出てねえのか?」

 

あれ?と首傾げながら炎蓮はレナルルに確認を飛ばす。

 

「はい。……中央的には黄巾賊が発生してる州の刺史たちに管轄内の賊討伐責任押し付けるための緊急対応みたいなので。あ、雪蓮様の州牧については、刺史の劉繇が名家に擦り寄り、賄賂を宦官に送らないからという嫌がらせも入っているみたいです」

 

「……宦官共が……自分たちの手は汚したくねぇと考えてるようだが……まあ渡りに船だ、しっかり受け取っておけ。 時代の大きなうねりに飲まれないためにもな」

 

「ええ。……とりあえず行動方針の確認だけど基本変化なし。……想定外だけど揚州牧は受ける。それに伴って禁軍と黄巾賊の交戦結果が判明するまでに揚州の掌握と劉繇の対応と領内の黄巾賊討伐を済ませたいところ。禁軍が交戦したあと、中央が泣きついてくるまでは外征なし。 これで大丈夫?」

 

雪蓮は思い出すように予定外を上手く組み込みつつ予定を告げる。

 

「大丈夫だろう」

 

「問題ないかと」

 

「腕が鈍らないように賊討伐や調練を然とやらねばな」

 

「活躍の場がほしいけど、平和がいいから複雑だけどね」

 

冥琳と穏のお墨付きが出たあと、祭と粋怜は軽口叩きながら方針は任せると暗に告げる。

 

「私としても問題ない」

 

「内政官としては寿春復興や他の郡の案件も増えるだろうから人員増加を前倒しで請求させてもらうぞ」

 

「そこはモチロン募集かけてるから大丈夫……多分」

 

雪蓮、最後の一言で不安が増えたぞ?

 

……バビロンやシュピーネにも頑張ってもらわねば……。

 

*1
カーニバル・ファンタズムの『バーサーカー はじめてのおつかい』より

*2
皇帝と同じ祖を持つもののうち、現在の皇帝からかなり親等が離れてる人たちのこと。なお、当時は属人に生活保護みたいなのがあったらしいよ。



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第十四話 揚州牧孫策と揚州刺史劉繇

高評価お待ちしてます……


――side ラインハルト

 

数日後の廬江にて。

 

「皇帝 劉宏様の名の下、孫文台の家督継承に伴う廬江太守の役職の継承を認め、同時に孫伯符を揚州牧に任じる。漢への忠義、忘れぬようにな」

 

「はっ!」

 

使者に対して拱手する一同。

 

私は変に目立つので気配遮断して梁の上に回されている。

 

ちょっと複雑。

 

それはさておき、これでかなり権限が増大した。

 

代わりに面倒事や仕事量も増えるだろうが。

 

「あとは劉繇がどう動くか……よね……」

 

「雪蓮が州牧になるという噂を細作使って現在の拠点周りで流して居たから、耳にしているとは思うのだが……」

 

使者が用事済んだとばかりにとっとと帰ったので私は上から降りて着地。

 

「本人の人となりを知らぬから推測できんな……」

 

「……あ、その人、お猫様好きなので、悪い人ではないかと……」

 

思い出すように明命が零す。

 

「猫好きに悪い人居ないかはさておき……それ初耳なんだけど」

 

「いつの話?」

 

雪蓮が驚き、蓮華が冷静に確認する。

 

「えっと……昔修行の一環として、「あるものを持って帰るまで家の敷居またげぬと思え」と家から追い出されたことがありまして、その折に建業の町外れの庵でお猫様に「にゃーん」とお猫様の鳴き真似で話しかけているところに遭遇して、一晩お世話になったことあります。劉繇様と呼ばれていましたし、その人も属人と言ってましたので」

 

懐かしそうな顔をする明命。

 

「……」

 

「ん? どしたのイオン」

 

「ネロのことを不意に思い出しただけ。ソレイルで宇宙の中心にに向かってる時暇だからって猫のマネしたりしてたなーって」

 

イオンとネイのやり取りでネロと呼ばれたパールホワイトの髪と金色の瞳をした、苦難の人生を歩んだ少女を思い出す。

 

私はなんとなくスケッチブックと鉛筆を取り出してネロの似顔絵を描いてみる。

 

「……兄さん相変わらず工具系関わらないと完成度高いわよね」

 

「なにそれ詳しく」

 

鈴の零した言葉に反応するネイ。

 

「……兄さん、鉋掛けや釘打ちとかのいわゆる工具に呪われてるみたい。そういうの使うと何故か大体変なことになるんだよね。釘とかは真っ直ぐ叩いても曲がるし、鉋掛けなら真ん中凹むような削れ方するし……。代わりなのか、工具系使わないことについてはプロ……一流どころ顔負けのモノ作れるんだ」

 

「だから日曜大工とかやるとなったら、兄さんは設計、姉さんと千冬さんが加工、私達3人が組み立てと役割分担したりしてたな……」

 

一夏、箒がなんでかなーという顔をしてる横で私は似顔絵を完成させた。

 

「劉繇とは、こんな感じかね?」

 

私が描いたネロの似顔絵を見せると目を丸くする明命。

 

「そうですそうです! この人です!」

 

「……え? もしかして劉繇もあなた達の前世つながり?」

 

粋怜が察したのか問いかけてきた。

 

「それなりに可能性ある。もっとも、そうだったとしても記憶があるのかは……会ってみねばなんとも言えんな」

 

「とりあえず解散だ解散。今じゃこっちが立場上だからな。向こうが動くまでどっしり構えてりゃ良い。――あ、レナルルは細作使って揚州全体に揚州牧就任の噂を流せ。雷火は今の仕事ラインハルトとレナルルに丸投げしていいからツテ使って揚州の豪族と連絡取れ。穏は山越に州牧になったこと伝える挨拶の使者の選定と挨拶の手紙やっとけ。蓮華は祭と甘寧と共に揚州域の長江の賊討伐と吸収。あとは先日雪蓮が言った通りで」

 

炎蓮の言葉に全員頷いて各自仕事にとりかかる。

 

――劉繇から先触れが来たのが翌日、本人が来たのはその2日後だった……。

 

 

 

 

仕事の都合上蓮華、祭、雷火、甘寧が不在。

 

そんな状況で劉繇とその従者が来たのだが……

 

「あれ、アンタ……」

 

「やっほー、お久しぶり」

 

従者の1人……たしか太史慈だったか?

 

雪蓮に対してフランクだが不敬罪とか大丈夫なのだろうか……。

 

「梨晏……積もる話はあとよ。先に堅苦しい挨拶と面倒くさい話すませてから」

 

劉繇がそういうと太史慈は大人しく引き下がる。

 

……その劉繇の後ろに気になるのが数名いるが今は無視しとこう。

 

「……こほん……。孫伯符殿、州牧就任おめでとうございます。 皇帝の威光をしらしめ、不忠の輩を取り締まる役目を持つもの同士力を合わせられればと思います」

 

「え、ええ……それができると良いと思うわ」

 

雪蓮がそういったあと、頷いてから

 

「堅苦しい挨拶はこの辺で。とりあえず、いくつかそちらの部下に質問いいかしら?」

 

と確認をする劉繇。

 

「……私達も聞いてていいなら構わないわよ?」

 

「どうも」

 

そういうとイオンのところまでやってくる。

 

「……イオナサル、貴女は家に帰れた?」

 

「! うん。……なんとか……ね」

 

「そう……良かったわね。ところで、彼が……そうなのかしら? お揃いの指輪してるし」

 

「……そう、だね」

 

そういうと、私の方に歩いてくる。

 

マイが防ごうとしたのでそれを止めて私も歩み寄る。

 

「貴方のお陰で元の世界に帰れた。ありがとう。……あと、約束覚えてるかしら?」

 

――もしあなたに会えたら、そのときはアプローチするから

 

思い出した記憶に懐かしさを感じながら、申し訳無さや無駄に近い抵抗じみた意味を込めた確認の言葉を告げる。

 

「……私、妻帯者なのだが???」

 

「この国、内縁の妻は黙認されてるから大丈夫。……それにイオナサルをあなたは娶ってるでしょう?」

 

「? そうだが……」

 

何か約束とかした覚えがないので困惑しかない私。

 

それを横目に劉繇……ネロはイオンの方を向く。

 

「『どちらがが彼の伴侶になってるなら、もう片方が内縁の妻になれるよう、手引する』って協定を帰るときに結んでるの。……イオナサル、忘れたなんて言わないわよね?」

 

「も、もちろん」

 

イオンの焦り方で『忘れてたな?』とこの場の面々の意思統一されたがそれはさておき。

 

「……イオナサルには協定の条件満たしてるから履行してもらうとして……孫伯符」

 

「はいっ」

 

急に呼ばれてビクッとする雪蓮。

 

「私と私の部下を召し抱えてくれないかしら。もちろん何かしらの仕事するから」

 

チラッと母親を見るが、当人は好きにしろとアイコンタクト。

 

「梨晏はさておき「えっ?」私は彼が責任とってくれるなら彼に身も心も捧げるから敵対することはないだろうし、私の妹分は幼いながら家宰の仕事もしてたから文官として優秀よ? それと後ろの鎧のと金銀の3人、武人や指揮官の適正あるし、私に返しきれない借りがあるから、私が居る限り、私のいる勢力の為にがんばってくれるわよ?」

 

「しれっと梨晏ちゃんが外されてる……」

 

「いやまあ、我々の中では新参だし、先々月きたばかりだからなぁ……」

 

「私達と色々違うので除外されたようですね……」

 

後ろ3人が小声でヒソヒソ言ってるが全部聞こえてる。

 

「……わかったわ。『全員』召し抱えることにする。……仕事や給金については各自の資質と実績からこちらで決める。それでいい?」

 

「ええ。……劉繇、真名はネロ。孫家の為……正しくは旦那様が仕えている孫家に微力ながら力を貸します……かしら」

 

「こ、コッコロは、主様の部下として、微力ながら孫家に仕えさせていただきます」

 

「……私はジュン。攻めの戦いはあまり得意ではないが、守ることはそれなりに自身がある」

 

「私はクリスティーナ。クリスでかまわん。……ここには楽しめそうな相手が多くてたすかる。いずれ手合わせ願いたいものだ」

 

「私は、トモ。他の人に比べたらまだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします!」

 

ネロと古参の部下が挨拶したあと、ちらっと太史慈の方を向く。

 

「……えっと、私は太史慈。字は字義。真名は梨晏ですっ! よろしくお願いします!」

 

どうしてこうなった?という顔で挨拶する太史慈……梨晏。

 

「……こちらとしても想定外が多かったけど、歓迎するわ。ラインハルト、プランC?でよろしく」

 

「では、時間も良いし、夕食も兼ねた歓迎会をするとしよう。――支度はできている故、食堂に移動だ」

 

 

 

 

その後、早い夕食を兼ねた歓迎会をしてネロたちはそれを楽しんだ。

 

……のは良かったが、雪蓮たちが飲み比べ等で酒飲みまくってダウンしたりしたため、翌日二日酔いに悩まされながら仕事することになったが是非もないだろう……。

 

 



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第一章 拠点にて
拠点にて その3


黄巾党編を前半戦(各地の情報見つつ足場固め)と後半戦(孫家が遠征し、黄巾賊本格的に討伐、他諸侯と面識を持つ)に分割しました。

ここから数話、前編の拠点回の予定です。



『ネロとお出かけ……?』
州刺史の経験を垣間見せる、ちょっと不思議系な少女、ネロのお話……かな?


『疾風のおネイさんのヤキモチ格付けチェック』
ネイちゃんが料理を使って何かをするみたいです。
……でもちょっと抜かってません?


それでは、どうぞ。


『ネロとお出かけ……?』

 

今日は雷火が別件で手が空いてないため彼女の分の仕事を済ませ、追加で幾つか仕事をこなしているとイオンがメイド服でやってきた。

 

非番なので十中八九おねだりと自分の趣味で着たのだろうな……。

 

「あなたー、ちょっと宝物庫から取り出せるものの権限追加してほしいんだけど―」

 

「……? 食料、布類、食器に調理道具、裁縫道具関連、生理用品の他に何か欲しい物あったか……?」

 

……今の会話でなんとなく察しただろうが、私が使っている『王の財宝』の宝物庫から出し入れする権限をイオンに制限付きで与えているのだ。

 

「……」

 

恥ずかしそうに左右見た後、耳元で許可ほしいモノを囁いた。

 

「……何のために?」

 

「後ろとかでその……ね?」

 

イオン、そう言われてもな……。

 

「その手の道具はともかく、薬類は認められん。卿が悪意なくとも、曖昧な取り出し方すると劇薬が出る可能性もある。宝物庫の性質故な……。――どうしてもほしければ、城に新設した医務室のバビロンに頼め。治療という意味なら医術を研鑽してるシュピーネでも良いわけだしな」

 

「むう……」

 

「ちなみに何故薬類の権限を?」

 

「それはレナルルさんの後ろを調教するのに…………あっ……」

 

「本当に何してるんだ????」

 

とんでもない発言が出てきたのでとりあえず簀巻きにすることに。

 

「あなたも手を出さないし、レナルルさんもまんざらでもないくせに動こうとしないし、見てて本当にじれったくて……。私とそういうことは普通にできたけど、初めてを私がっていうのはなんか違うかなって……」

 

「……とりあえず1週間閨出禁な」

 

「やり方間違えたかもだけどあなたのため思ってやったのにぃ……」

 

だばーと涙流すイオンの頬かるく突っついていたら扉が開かれる。

 

「……何してるの?」

 

そこにはネロが居た。

 

「少々悪いことをしていたので折檻してる」

 

「そう……ところで今暇?」

 

「暇にしようと思えば暇に出来る」

 

今残ってる仕事はいずれも期限に余裕があるものばかりだからな。

 

「なら今日はお出かけしない? といっても、娯楽は殆どないから、街中の散歩になるけど」

 

「構わんよ」

 

私が頷いているとうしろから声が。

 

「えっ、私は? もしかして簀巻きの(この)まま放置?」

 

「いや? 既にその縄に拘束効果はない。……藻掻くの辞めればほどけるぞ」

 

「そんなはず……本当だ」

 

立ち上がる音がするが私はそのままネロを連れて立ち去る。

 

「じゃ、旦那様1日借りてくわね。……一人目は無理だったけど、『この世界で最初』は諦めてないから」

 

……天からの授かりものの類は巡り合わせもあるということで……。

 

 

 

 

 

 

 

そのまま私達は城の外を出て、市場に足を運ぶ。

 

「やっぱり廬江は栄えてるわね。他の郡とは大違い」

 

「そうなのかね?」

 

「ええ。……寿春は華北と華南の中継地だからそれなりに栄えてるけど、その立地に胡座をかいて他より商いに関して税が高いの。建業や柴桑は長江で物流を担ってるけど河賊の存在から輸送費がどうしてもかかる。……残りの地域は中央からかなり離れているせいか、人があまり増えないし、モノのやり取りが物々交換に寄ってる。割合については……実際に見たり、数字確認しないとわからないけど、体感7割がそうね」

 

「ふむ……刺史を務めてた経験は伊達ではないということか」

 

「ええ。……でも知ってるだけ。利権やしがらみが多くてそれに太刀打ちできる力も一変させる知恵もなかったから」

 

そういってから私の前に動き、私の顔を見る。

 

「でも、雪蓮たちと力を合わせれば、変えられると思うの。……私の手が届く場所をより良いものにするために、あなたも手伝ってくれるかしら?」

 

「無論だ。私も生きるこの地を良いものにしたいと思っているのでね。……ところでこれは卿の意図したことかね?」

 

路地裏に誘ったネロに問いかける。

 

「私があなたを害する理由、あるわけ無いし、私に殺気飛ばす相手を雇うわけ無いでしょ?」

 

その言葉と共に四方から飛翔する暗器。

 

私は彼女を抱き寄せて跳躍。

 

「馬鹿め!逃場はないぞ!」

 

農民や町民のふりをした暗殺者?連中が追加で毒を塗ったらしい暗器を投擲するので空中歩行して回避。

 

適当な建物の屋根に着地する。

 

「!?」

 

驚く者たちを横目に私は私達と彼らを閉じ込める結界を展開し、同時に言葉を紡ぐ。

 

「――ベイ、1人は残せよ」 

 

「jawohl」

 

虚空から現れた我が爪牙は獰猛な笑みを浮かべた。

 

Wo war ich(かつて何処かで) schon einmal und war(そしてこれほど幸福だったことが) so selig(あるだろうか)

 

空間が軋む

 

Ich war ein Bub',(幼い私は) da hab' ich die noch nicht gekannt.(まだあなたを知らなかった)

 

世界の法則が歪む

 

Wer bin denn ich?(いったい私は誰なのだろう)

 

空間が閉ざされた

 

Wie komm' denn ich zu ihr?(いったいどうして)――Wie kommt denn sie zu mir?(私はあなたの許に来たのだろう)

 

頭上を満たす太陽と蒼天が消え、紅き満月と星あかりが姿を見せる

 

——Sophie, Welken Sie(ゆえに恋人よ 枯れ落ちろ) Show a Corpse(死骸を晒せ)

 

そして顕現する

 

Briah―(創造) Der Rosenkavalier Schwarzwald(死森の薔薇騎士)

 

――我が爪牙が一人、闇夜の吸血鬼、串刺し公(カズィクル・ベイ)が不敵な笑みを浮かべた。

 

そして屋根から飛び降りたベイは品定めするように暗殺者たちを見る。

 

「――ハイドリヒ卿に相手してほしければまずはオレを倒してからにしてもらおうか。――テメェらみたいな雑魚じゃ、相手にならんだろうがな!」

 

躊躇いのない一撃で近くの一人の心臓を素手で穿つ。

 

「ひぃ!」

 

「化け物!」

 

蜘蛛の子を散らすように逃げる暗殺者たち。

 

「馬鹿だろ。――ここはオレの腹の中も同然だ。どこに逃げてもわかるし――」

 

一人を残して暗殺者が地面から生えた血の槍で串刺しになり、一人が片足を穿たれる。

 

「――槍はどこからでも生やせるからな」

 

片足穿たれた一人を除き、あっという間に干からび、灰となる。

 

「いや……いやああああああ!」

 

「五月蝿え、劣等が……」

 

叫ぶ暗殺者の頭をつかみ、槍を消滅させながら持ち上げるベイ。

 

それに抵抗するように暗殺者は暴れるが、傷つけることもできない。

 

「ハイドリヒ卿、どうしますかコイツ。孫家の連中に渡すんで?」

 

めんどくさそうに確認するベイ。

 

「拷問はマレウスとシュピーネが向いているだろう。――城に連れていけ」

 

「jawohl」

 

そう言うとその暗殺者と共に消え去る。

 

それとともに空が元の太陽の日差しが降り注ぐ青いものへと戻る。

 

「……もしやコレのために私を誘った?」

 

「半分はそう。もう半分は純粋にあなたと一緒が良かったから」

 

「そうか……」

 

うなずいて下ろそうとしたらネロは首を横に振り、私の服を掴む。

 

「……このまま連れて帰れと?」

 

「それもいいけど……」

 

彼女が向いた方を向くと、最近噂になっている連れ込み宿*1が見えた。

 

「………………本気かね?」

 

「あそこ、簡単な食事も頼めるから良いでしょ?」

 

「明日ベッドから起き上がれなくても知らぬからな」

 

「初めてなのに情熱的に求められるのも、わるくないかも……」

 

ネロの言葉に肩をすくめながら、私は連れ込み宿へ足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

『疾風のおネイさんのヤキモチ格付けチェック』

 

――side ネイ

 

アタシはネイ。

 

前世では料理人*2だったり皇帝*3だったり疾風のおネイさんだったり……プリティーベリーって名前でトップの踊り子*4とかもしてたわ。

 

……今語らなかったことも色々あるけどそれはさておき。

 

今日は非番で、なおかつアイツ……私達の旦那も暇らしい。

 

暇だなーと朝起きたときにぼやいてたら天啓みたいなものが降りてきたの。

 

――旦那の周りに女の子多いし、うまく取り繕う娘が多いらしい。

 

――全力出せれば超新星爆発でもかすり傷らしい旦那ではあるが、女に痴情のもつれで刺されたとなったら夢見が悪いのでは? ってね。

 

ということで東屋でひましてる彼のところに訪れる。

 

「はい、『乙女の焼き餅*5』~。たくさん作ったから、気になる子に焼いてもらいなさいな」

 

「……なんとなく知っているからわざわざ焼くまでもないが……まあうん。感謝する」

 

一抱え分を受け取って宝物庫とやらにしまう旦那。

 

……あ、そういえば……。

 

「ところでレナルルに手を出す予定あんの?」

 

「また何かイオンがやってるのか??」

 

「うん。こっちの裏でこっそり流れてるその……張り子とか鞭とか買ってたし、さっき孫家で作ったっていう地下室借りて、レナルルに話があるって連れて行ったわ」

 

「――前世では違うとは言え、今生では姉妹のはず……。 物議醸し出すから一言言わねばな」

 

そう言うと彼はカップなどを宝物庫にしまって地下室のある西側の倉庫に駆けていった。

 

ナチュラルに傲慢だったりする割に変なところで真面目よねぇ……。

 

っと、まだ餅はけっこう余ってる。

 

「……せっかくだしやってみようかしら、餅会」

 

大広間近くにある予定板*6を見に行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……これは何の集まり?」

 

困惑してるのは織斑って名字の姉妹の妹の方……確か一夏だったかしら。

 

かなりある胸の下で腕組みながら首を傾げてる。

 

「お餅拵えたから、振る舞おうと思って。――旦那から醤油に海苔、きな粉に砂糖、大根おろしに変わり種だとチーズやすりつぶした大豆とかもらったから、焼いたあとに掛けたりつけたりしてね。――あ、餅の方はセルフサービスで焼いてちょーだい」

 

織斑姉妹に篠ノ之姉妹に凰鈴音。

 

孫家組だと明命にシャオちゃん、祭さんに亞莎ちゃん。

 

カノンとネロ、ついでにネロが連れてきてた部下5人。

 

「せるふ……さーびす……とは?」

 

「ああ、簡単に言えば自分で勝手にどうぞという意味合いですね。自分で餅を焼き、好きなもので味付けしてとのことです」

 

困惑する祭(+孫家組)に対して、カノンが解説する。

 

「お先に」

 

いつの間にか傍にあった大皿から一つ餅を取って並んでる七輪の金網に乗せるネロ。

 

大きさは……そこまでじゃないのか……。

 

「おや、思ったより膨らまないのですね……?」

 

カノンも餅を焼くけどそこまでじゃないらしい。

 

「え、なんで? 焼く前の3倍くらいになってる!? コレ大丈夫なの!?」

 

振り向くとそこには膨れ上がった餅の姿が!

 

まあデカくなるの見るのが初めてだとそうなるわよね……。

 

「へーきへーき、食べ頃になったら穴空いて萎むから」

 

……織斑妹は要注意っと……。

 

解説入れつつ、他の人のも確認っと。

 

「なんだか焼く人によって、膨らみ方が違うみたい……わっ、一夏お姉ちゃんほどじゃないけど膨らんだ……」

 

しれっと本質見抜いてるシャオちゃんも要注意……。

 

「……これは一体……」

 

篠ノ之姉……なんで膨らんだり萎んだりを繰り返してる?

 

その時の気分次第ってことかしら……。

 

千冬さん、箒ちゃん、鈴ちゃんは……普通……かな?

 

「……外側が少し破れて中の膨らむはずの部分が少ししか見えませんね」

 

「亞莎ちゃんも?」

 

「お主ら、奇遇じゃのう、儂もじゃ」

 

孫家の残り3名は割りとヤキモチとか焼かないのかしら……。

 

「なんか海にいる海月(クラゲ)を思い出しますね」

 

「私のも似たようなものだ」

 

「……なるほど? 護衛隊長殿はそうなのか」

 

「え、何か分かったの?」

 

「フッフッフッ……内緒だ」 

 

「本当に知ってるのかなぁ……?」

 

コッコロちゃん、ジュンさんはけっこう膨らんでて……トモちゃんとクリスさんはそうでもない感じか……。

 

あら、梨晏はそこそこヤキモチ焼きか……。

 

「ねえ、ネイさんは食べないの?」

 

シャオちゃんが不思議そうに、問いかけてきた。

 

「あ、ああ……そうね。アタシも食べないと、あははは……」

 

流石に怪しいか。

 

さてさて、膨れ具合はどうかなー。

 

……前世通りなら、あんまり膨れないはずなんだけど……

 

網に載せてしばらくすると、結構膨れ上がった。

 

……アレ?

 

 

 

 

 

 

腑に落ちないことが多々合ったけど、普通の餅としてみんな思い思いのトッピングとかで満喫した。

 

「ねえ」

 

みんな満足して解散した後、誰もいなくなったのを確認して後片付けをしてたら、後ろから声をかけられた。

 

振り向くとそこには孫家の末娘のシャオちゃんがいた。

 

「――あの餅、ヤキモチの焼きやすさで膨らみ具合、変わるんじゃない?」

 

「! ……さ、さあ、わかんないわねぇ」

 

ごまかそうとするけど

 

「いや、流石にそれぞれが3~4個焼いて、全部1つ目と同じような焼け方したら流石に不自然で怪しいって。――シャオ、ヤキモチというか、嫉妬っぽいところあるし? 祭と明命はそうでもないからなんとなく察し付いちゃった」

 

冷静に告げられて八方塞がり。

 

「――黙ってておくから、私にもあの餅2~30個くらい頂戴」

 

「……何に使うつもり?」

 

「今日来なかったウチのみんなに焼いてもらって、膨れ具合確認しようかなって。――くれたなら、ちゃんと後で結果おしえるから。――お兄さんのお嫁さん候補のヤキモチ焼きやすさとか知りたいって思ったんでしょ? ――シャオなら怪しまれないだろうし……悪い話じゃないでしょ?」

 

……めちゃくちゃ強かねぇ……。

 

「わかった。調味料については旦那に伝えて厨房に置いてもらうから、そのときになったら、そこからちょろまかした感じで持って行って頂戴」

 

「わかったわ。餅ができたらよろしくね。――あ、怪しまれないように、最初の一つだけその餅使いたいから、普通の餅もよろしくね」

 

言いたいこと終わったのか、返事を聞く前に去っていった。

 

……バラされて面倒事になるし、さっさと作って渡しておかないとね……。

 

アタシは肩をすくめて、片付けを続けるのであった。

*1
現代でいうラブホである

*2
とある人の店を事実上乗っ取ってそこで店長と兼任していた。なお、出てくる料理はゲテモノ系が多かった

*3
ここではラシェーラという星の統一国家の長を指す。なるためには特殊な条件が必要。なお、本人はやるつもりなかったが、ある事情によりやる羽目に。イオンに押し付けられたとも、あるべき場所に戻ったとも言う。詳しくは各自で調べてクレメンス

*4
数少ない娯楽特化の都市でテッペン取れてるので実力は間違いないだろう

*5
アルノサージュより。その餅を火にかけた子がヤキモチ焼きであるほど膨らむ面白い性質を持った長方形の餅。ゲテモノ寄りな料理を作るネイが作り出した、普通に食べれる料理の一つ

*6
少し前に旦那が提案し、炎蓮がゴーサイン出し、各自の予定確認のために設置した



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拠点にて その4

『湯で洗濯するのは汚れた心だけで十分』

 

――side ラインハルト

 

「……よし、完成した……!」

 

何故か現世に呼ぶと現場ネコ*1になる爪牙の髑髏たちが、私の言葉でゆるキャラ感ある丸い手を叩いたり跳ねたり小躍りしたりして喜びを見せた。

 

まあ何が完成したかといえば、風呂*2である。

 

サイズとしてはそこそこ……小さい銭湯くらいか?

 

数人入れる湯船が3つある浴室、脱衣所がある。

 

これを2セット。

 

片方は男湯 or 来客用を想定している。

 

どっちがどっちかは雪蓮たちに後で決めて貰う予定だ。

 

「さて……今日の非番は誰だったかな」

 

生贄……じゃなかった。

 

被験者を探さねばな……。

 

私の顔見てドン引きしてる現場猫がいたが、そんなに変な顔してたか……?

 

 

 

 

「それで、アタシたち集められたわけね」

 

雪蓮、蓮華、レナルル、穏、祭、ネイ、イオン、一夏、千冬、束、箒、鈴、甘寧、クリスと城にいた非番の面々はとりあえず捕獲……任意同行……ことの詳細伝えて付いてきてもらった。

 

「そのとおりだ。――左右対象に作った。――二手に分かれて好きな方を試しに使ってくれ」

 

「……あなたは入らないの?」

 

イオンが首を傾げて問いかけてきたが

 

「――私が入ると揉めるだろう。――故にここで卿らを待つ。――マレウスたちを同行させる故、問題なかろう」

 

私は丁重に断った。

 

異性に柔肌見せたくないのがいるだろうし、まだ心の準備ができてないものもいるはずだ。

 

――問題ない組とそうでない組で分ければいい?

 

……オチが読めるので論外。

 

「……カランとかシャワーの使い方や入り方の実演考えるとアタシ、イオンとそっちの元IS組*3の7人がどっちかに固まるのはダメね……ん? アンタら何して」

 

ネイが私の後ろの方を見たので振り返ると墨を顔面にぶっかけられた。

 

「――ワー、ゴメンネ―。オ風呂でキレイにシナキャネー」

 

「流石に主君ポジでもダメよね。――だからお詫びさせて、ね?」

 

墨で目を開けると面倒なので心眼と耳で対応するが……棒読みで目線が泳いでるイオンと、割りと本気で申し訳無さそうにしてる雪蓮が視えた。

 

「……ああ、そういう? ……んじゃ、アタシはこっちで実演とかするし、ひとっ風呂入るからイオンと雪蓮の『お手伝い』したい人はそっち、そうじゃないならこっちに分かれましょうね」

 

「あ、待て、ネイ。――マレウス連れて行け」

 

「ほいほい……ってうわ、ハイドリヒ卿の金ピカの髪が黒でまだらに……」

 

ぎょっとしたらしいマレウス。

 

「設備の説明の補足、お願いするわね」

 

「オッケー。それじゃ、私も説明ついでに風呂はいっちゃおっと」

 

そういってネイとマレウスがもう一つの方に向かう。

 

「うーむ……出世を狙うなら手伝うべきだろうが……しきたりなど面倒なのがあるのでな、今回は辞退させてもらう」

 

「……蓮華様、あんなのはほうっておくべきです」

 

「え、あ、ちょっと思春?」

 

ネイの方にはクリス、蓮華、思春が二人の後をついていく。

 

「主の失態は部下も連帯責任ということじゃな。儂もひと肌脱ぐとしようか」

 

「あれ、コレ私も巻き込まれます?」

 

祭と穏がこちらがわ……後の面々も以下同文らしい。

 

私はとりあえず爪牙を召喚して床の掃除を指示。

 

半ば自棄になりながら傍の脱衣所に向かうことに。

 

 

 

 

「とりあえずここが脱衣所。――棚の籠に服など入れて基本手ぬぐいや自分が使いたい小道具など以外はここに入れておけ。あと浴室につながる扉の石畳部分のところで極力水気を切って、髪を丁寧に拭くのはこちらでやるように」

 

私は目を閉じたまま脱衣。

 

「……アレが……」

 

「子供の頃見たときとサイズ変わってない」

 

色々言われてるが無視だ。

 

私はそのまま、籠棚から少し離れた、浴室傍の棚に近づく。

 

「――一応ここに大きめのバスローブ……湯上がり用の部屋着とタオル……身体を拭くための布はあるが、共有備品扱いだ。――使ったら洗って返却か雑色*4に渡して風呂の備品の旨伝えるように」

 

下から順に取りやすい作りになってるのでソレを実演するために一つタオルを回収。

 

「ここの説明はとりあえず終わりかな?」

 

「髪を乾かすための諸々があるが、それは戻った後だからな。――その時に説明聞ける状態かはさておき。先に入っているからな」

 

私がそう行ってタオル片手に扉を開き、そのまま浴室に進む。

 

入り口傍に風呂桶類や椅子類があるので適当に見繕い、左右の壁にあるカラン列のうちの一つを陣取る。

 

カランの傍に固定型のボディーソープやシャンプー、コンディショナーなどがあるのを確認し、ボトル部分の突起で判別つくか確認したあと、カランから湯を出し、手桶に湯を貯め、溜まったら身体にかけていき、墨を落とせるだけ落としておく。

 

「――説明前に一人でやったら意味ないんじゃない?」

 

扉が開き、人が何人か入ってきた音がしてるとそんなツッコミが飛んできた。

 

「墨を落とすの面倒なのでな」

 

「まあそうだけどさ……」

 

肩を落とすイオンが視える

 

「手桶や椅子類についてはそこにおいてある。――使ったら戻すのを、忘れないように」

 

その言葉にうなずく一同。

 

「――で、コレがカラン。安全面を考え、この取っ手を上向きに上げると――湯水が出るようにした。――熱さについては左右に取っ手を動かして調整可能だ」

 

「うわ、便利だわ……」

 

驚いてる雪蓮の声が聞けて少しスッキリ。

 

「ここで先に身体を洗い、身を清めてから、浴槽に行くように。……身体洗う前に浴槽に飛び込むたわけが居たら簀巻きにして軒先に吊るすからな?」

 

「あ、圧がすごい」

 

「お湯入れ替えとか考えると妥当……かしら?」

 

私の言葉に困惑する一同。

 

私は威圧を止めて説明を続ける。

 

「ここを押すと出る液体は身体、こっちは髪の毛を洗うのに適している。 こっちは髪の艶などを整える」

 

「実践するのが手っ取り早いかな。髪の毛から」

 

そういうとイオンがシャンプーを出して泡立てたあと、正面に立って私の頭を洗い始めた。

 

「……自分でできるのだが?」

 

「たまには尽くされてもいいと思うよ?、ね、雪蓮さん」

 

「そ、そうね。アタシがやったことでもあるし」

 

背中に先端が少し硬い全体的には柔らかいナニカがうしろから当たる感触。

 

前にイオンの気配と匂い、後ろは雪蓮。

 

しれっと私の足の間にいる束。

 

「お兄さんが手を出してくれればこんな強硬手段に出なかったんだから……責任取ってね」

 

「……無論だ」

 

待たせた自覚がある。

 

負い目があるので強く言えない。

 

「こういうのはノリと勢いってことでね」

 

「うわ……そんな事するんだ」

 

しれっと私の身体も弄り始める束。

 

私は一度湯を被って目を開いてから改めて、生まれたままの彼女たちに目を向ける。

 

緊張するもの、歓喜するもの、慣れてるものと三者三様だが、私は気にしない。

 

私は誰だ?

 

総てを愛する黄金の獣だ。

 

――総て受け止め、(アイ)してみせよう。

 

*1
ネットミームの1つ。白と灰色の毛並みをして、(主に)黄色いヘルメットを被った二足歩行のネコのこと。仕事でやらかしたり、無茶振りされて白目になったり、腐れ上司をダンボールに詰めて東尋坊あたりから海に捨てるなど色々やってたりする。今日も一日 ご安全に!

*2
『拠点にて その2』から暇を見つけて設計や縄張り張ったりやっていた

*3
いつの間にか定着してるインフィニット・ストラトスの世界線にしてラインハルトの前世がいた世界線の面々をまとめてそう呼ぶようになった

*4
いわゆる使用人




現ハーレムメンバー
イオン、カノン、ネイ、ネロ、レナルル
雪蓮、祭、穏
一夏、千冬、箒、束、鈴


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拠点にて その5

残酷な描写や苦手そうな描写(採血描写)があります。
ご注意ください。


『抜き打ち?健康診断』

 

――side 炎蓮

 

ラインハルトが雪蓮と祭、穏を食ったので非番なのにかこつけて自分の部屋で1人祝い酒してたらラインハルトがやってきた。

 

――お? 次はオレを相手してくれんのか?

 

そう思って用件尋ねると

 

「主だった将官の健康診断をしたい」

 

と言い出した。

 

健康診断……?

 

「言葉からして健康かどうか調べるってことなのは分かるけどよ……何処か具合悪けりゃ気がつくもんじゃねえの?」

 

「ある程度のものはな。……一部の病には、『自覚出来るような症状出てきた時点でかなり不味い、あるいは手遅れ』なものがある」

 

ボケかましてる目じゃねぇな……実際に気がついたときには手遅れだったなんて話も聞いたことあるし、オレの周りでは『見たことがない』だけなんだろうな。

 

「……その健康診断受ければわかるもんなのか?」

 

「無論だ。ちなみに体質や生活習慣で自覚がないことなども診断でわかることもある上、自分の健康状態を数値として『見える』形に出来る。悪い話では無いと思うが」

 

……見える形なら『大丈夫なのかわからない』がなくなる。

 

「……いいんじゃね?」

 

「では、通知の方や日取りの選定を頼む。一応半日あれば検査項目総て終わらせられるが、難しければ2日のどちらかに参加という形も対応可能だ」

 

そう言って逃げ出すラインハルト。

 

あ、アイツ予定調整をオレに丸投げするためにわざわざ来たのかよ!

 

あとでとっちめて……?

 

いつの間にか部屋の真ん中にある丸机に抱きかかえられる大きさの柿と3本の大瓶が並んでいた。

 

柿の下に『予定調整と通知仕事の依頼報酬の半額前払い。残りは診断終わったら渡す』という紙が敷かれていた。

 

……仕方ねえ、一肌脱いでやるか。

 

ところで、この柿も前払いの半分扱いなのか……?

 

 

 

 

 

――side 冥琳

 

ある日の朝の集会にて。

 

特に何かあるわけでもないので、報告無しでおわるとおもわれたが……

 

「……つーわけでオレの判断により明日は健康診断ってのをやる。今夜から明日の診察終わるまで、色々飲み食いに制限あるから、今日好きなもん食いたい場合は昼飯までに済ませるように」

 

……前触れのない言葉に皆目を丸くした。

 

我に返った者たちの反応は様々。

 

大殿の宣言に文句言ったり困惑したりする面々が多いが、一夏たちあいえす組なる5人組や、ラインハルトの正妻であるイオンは懐かしそうな顔をしている。

 

「……健康診断とはなにをするんだ?」

 

近くにいた一夏に聞いてみる。 

 

知らないことを聞くのは少し勇気が居るが、知らないことを知っ出るように振る舞い、後で痛い目に遭うよりは遥かにいい。

 

「んー、胸とか腹に専用の道具当てられながら深呼吸して、その呼吸の音に変な音がないか調べたり、手首や足首、心臓のあたりとかに吸盤みたいなのつけて心臓の拍動がおかしくないかとか調べたり?」

 

「他には視力……ある程度離れた距離からこういう……一部欠けた円を見せられてどの向きが欠けてるかを確認させて目がどれだけ見えてるかを確認したり、高さや大きさの違う音をちゃんと聞き取れるかの検査もするぞ」

 

一夏の説明に箒が追加をしてくれた。

 

にしても視力か……メガネはずしたらかなり厳しいのだが……。

 

「あとは採血……二の腕と腕の間のここらへんに針刺して少し採取して、その血液を使って色々検査するわよ?……コレは採血だけやって、調べた結果は後日になるんじゃないかな?」

 

「針を刺して……血を抜く……?」

 

血を取るのはわかるが、針を刺す場所は指先で良いのでは?

 

鈴の言葉に疑問符が浮かぶがそれはさておき。

 

「あとは……尿検査とかレントゲンかな?」

 

「バリウムは不味いし胃カメラがいいなぁ……」

 

イオンは恥じらいの表情を、束は嫌そうな顔をする。

 

「……というか設備有るのか? 胃カメラとかレントゲンとか」

 

「人類の生み出したものが入ってる蔵を兄さんが持ってるからあるんじゃない? 前現場猫たちが宝物庫から持ち出した戦車乗り回してたのを村の人が見て、怪物騒ぎになってたし」 

 

知らないところで面妖なことが起きていたらしい。

 

後でラインハルトに確認取らねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

検査項目について問い合わせが多発したので、検査項目とその説明(ゆるキャラによるイメージ図つき)のパンフレットを配布したところ、過半数が昼食を抜くという自体が発生。

 

抜いてないのはイオンやネイ、鈴に束、箒に千冬に一夏、炎蓮などの『割り切れてる』組と亞莎や明命の『説得で折れた』組くらいだ。

 

「……さ、最近お腹周りが……」

 

「二の腕にたるみが……」

 

一部白目向いて説得拒否したりらしくなく焦ったように理由を捲し立てるメンツを見て

 

「次は寝起きに襲撃かけて朝から検査するか」

 

と心に決めたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

――side 明命

 

私は今、城の中庭にて健康診断というものを亞莎ちゃんと一緒に受けて回ってます。

 

「えっと……あと何を受ければいいんだっけ……」

 

アワアワしてる亞莎ちゃんの質問に、私は持っている『検査項目表』を確認することに。

 

「検尿ってのは朝終わってて……身長体重に聴力視力とれんとげん?に聴診と問診は終わってるから……採血で終わりかな? 胃の検査とかは今回私達対象外みたいだし」

 

数字らしきものや、見たこと無い文字が検査結果の項目に記入されてる物を確認したあと、検査結果が空欄の項目を確認してそう答える。

 

「採血……は、針刺すんだっけ……?」

 

「さっきイオンさんが『採血はちょっとびっくりするだけ』って言われたでしょ? たぶん大丈夫だから。ほら、終わったら胡麻団子食べに行くんでしょ?」

 

「ふええ……がんばる……」

 

そういってぷるぷるする亞莎ちゃんを『採血』と書かれたゲルという屋根付きの天幕に向かった。

 

そこには片方の二の腕と腕の間部分を抑えている雪蓮様やカノンさんが居た。

 

「はい、カノンさんはもう大丈夫ですね。一応それは夜くらいまで外さないように」

 

手元の時計?とやらを見ながら白い顔、長身の細身の男の人がそう告げた。

 

……ここはシュピーネさんが担当みたいですね。

 

「明命さんと亞莎さん、採血は今手隙なので採血できますが今すぐやりますか?」

 

「お願いします」

 

「え?」

 

「ではこちらに」

 

亞莎ちゃんと一緒にシュピーネさんについていく。

 

机の上に細くて短い帯?のようなものがいくつかあった。

 

「明命さんから順にやっていきましょう。確認なのでまとめて聞きますけど、酒は弱かったりします? わからないならちょっと別の確認したいので追加でお時間いただきますから」

 

「人並みには飲めるかなと」

 

「私は……御主人様が出した強い酒のんでも特にふらつくことなかったし、たぶん大丈夫かなと」

 

え、あの雪蓮様が一杯で呂律あぶなくなったアレを!?

 

「なら大丈夫そうですかね。それじゃ、追加で確認。どちらで採血します? 利き腕の逆の方がいいと思いますが」

 

「なら左かな」

 

「私も左で」

 

「では失礼」

 

私の言葉にシュピーネさんは私達から検査項目表を回収し、私の腕を掴んで机の上の台に腕を乗せ、前腕と二の腕の中間、関節部分で何かを確認する。

 

「では……こちらの血管に刺します。まずは消毒を」

 

そういって指で示した場所周りに湿った綿を当てて塗り拡げた。

 

「……あ、酒精の匂い。お酒が苦手か聞いたのは、肌に塗っても大丈夫か聞いたんですね?」

 

「その通り。肌が荒れるならまだマシな方。ひどいと採血どころではないこともあるので」

 

亞莎の言葉にシュピーネさんは丁寧に教えてくれた。

 

「では、次は二の腕に少しきつめに帯巻きます」

 

そう言って少し痛いくらいのキツさで帯を巻いたシュピーネさん。

 

「少しチクッとしますけど、暴れると針が折れたりするので……我慢してくださいね?」

 

そういって針のついた硝子の管みたいなのを見せるシュピーネさん。

 

手早い動きで私の腕を抑えつつ、私の腕に針を刺した。

 

なんか少し痛かったけど怪我の痛みに比べたら一瞬で痛みもそんなになかった。

 

代わりに血が針を通じて管の中に入っていく間、腕から血が抜けてく感覚がかなり変なでもどかしい感じがした。

 

「……はい、これで終わりです」

 

そういって針を抜く前に針を刺した場所に小さな固めた綿?っぽいのを当てたかと思うと、針が抜かれて綿を覆うように包帯を一巻き巻かれた。

 

……正直、針を抜かれるときの痛みはなくて、ほっとした。

 

「刺した場所の傷口を早く塞ぐため、ここをこのくらいの強さでしばらく抑えててください。時間になったら呼びますので。お若いのですぐ止まると思いますがなにか気分悪くなったりしたら別途言ってくださいね。……あ、亞莎さんの付き添いします?」

 

そして包帯部分をおさえるとシュピーネさんは二の腕の帯を外してくれた。

 

「……お願いします」

 

亞莎ちゃん見たらそういわれたので同席することに。

 

「といってもやることは変わりないのですぐ終わりますよ」

 

そういって手早く針刺す血管を見つけて綿を押し付けて塗りつけをしたあと、二の腕に帯を巻くと手早く針を刺した。

 

「うっ……」

 

「亞莎ちゃん、がんばれ!」

 

「……あんまり痛くないけど、血が出てく感覚が……違和感でしかない……」

 

「わかるよ!」

 

「……はい、終わりましたっと」

 

硬めの綿で刺したところ抑えつつきれいに針を抜いて手早く後処理をするシュピーネさん。

 

「とりあえずお二人もあちらの方の席でしばらく待っててくださいね。 次の方ー……あれ?いない?」

 

シュピーネさんの指示通りに行くとカノンさんと雪蓮様が居た。

 

……あれ?カノンさんはもう大丈夫なのでは?

 

「雪蓮殿が暇すぎて話し相手ほしいといわれたので。私は、採血で終わりなので彼女が終わるまで居る予定です」

 

なるほど?

 

「……ふたりともすぐ終わったのね」

 

「? どういうことで?」

 

雪蓮様の言葉に私は首を傾げた。

 

「雪蓮殿、血管採血できる血管がなかなか見つからなかったので、そこら辺で時間かかったのと、針刺されたとき大声あげてましたからね……シュピーネさんが暴れて針折れないように取り押さえたりしてたようなので……」

 

「ちょっと、カノン!?」

 

「へぇ……」

 

「怖いもの知らずの雪蓮様にも、怖いもの類、あるものなのですね」

 

しれっと告発したカノンさんに驚く雪蓮様。

 

……針苦手になってないといいけど……。

 

「あ、雪蓮さん、腕の圧迫はもう大丈夫です。但し、今日一日採血した腕で重いもの持ったり、夜まで包帯外すのは止めてくださいね。その包帯なら風呂も一応はいれますが、気になるなら日が沈んだあとに外してください、お疲れ様でした」

 

いつの間にかこちらに来ていたシュピーネさんがそう告げたので、2人は天幕をあとにした。

 

「そう言えばこれ、年に一回できたらやりたいって言ってたけど、遠征とかしてるときはどうするんだろ」

 

「帰ってきてからとか……?」

 

そんな世間話してると、蓮華様、思春さんが姿を見せた。

 

「……ふたりとも……終わったかんじ?」

 

こちらを見た蓮華様がやってきて何かを確かめるように聞いてきました。

 

「はい、今は傷口を早く塞ぐため、傷口圧迫してます」

 

「……痛くなかった?」

 

「鍛錬の怪我に比べたら誤差ですよ?痛みは一瞬だけなので。……代わりに血を抜かれてる間の感覚は変というか、もどかしいところありますけどね」

 

「……なるほど、ありがと。おかげで心構えできたわ」

 

そういって思春さんと共にシュピーネさんがいる衝立の向こうに進んでいった……。

 

「あ、明命さん、亞莎さん。圧迫は大丈夫です。先程聞いたと思いますが、今日一日採血した腕で重いもの持ったり、夜まで包帯外すのは止めてくださいね。その包帯なら風呂も一応はいれますが、気になるなら日が沈んだあとに外してください、お疲れ様でした」

 

と衝立越しに告げられた。

 

「それじゃ、胡麻団子食べに行こっか」

 

「うん!」

 

私達は街に繰り出すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side 一夏

 

健康診断から3日後。

 

朝の集会にて学校で成績表もらうときみたいに旦那様から一人一人名前呼ばれて健康診断の結果を渡された。

 

結果は『至って健康、特に注意することもない、健康でよろしい』と日本語、中国語*1とドイツ語*2で書かれてた。

 

――一部の人が顔を青くしたりしてるけど、なにか不味いことあったのかな……?

 

「たぶん酒の飲み過ぎを指摘されてるだけでしょ。本当にやばかったら旦那様が禁酒を皆の前で言い渡してるだろうし」

 

鈴の言葉にそうだなって納得する。

 

「雪蓮」

 

「何?」

 

あ、旦那様がなんか雪蓮さんに動いた。

 

「――しばらく冥琳は入院。仕事は禁止。絶対安静だ」

 

「「「「は!?」」」」

 

突然の宣言で困惑する一同。

 

「……相当ヤバい病?」

 

束さんが険しい顔で問うと

 

「……特発性間質性肺炎だ。状態は線維化がそれなりに進んでいる。発症理由は遺伝と環境の複合が予想されるがそれは後だ。治療の方法は有るが――問題は症状が悪化するのが先か肺の培養と手術に取り書かれるのが先がだ」

 

険しい顔で返した旦那様。

 

「……ISの身体保護使えば症状遅延できるかも。あと培養の方引き受けよっか」

 

「任せた。――というわけだ、しばらく彼女を借りていく」

 

そういうと、目を丸くしてる冥琳をお姫様抱っこで連れていき、束さんはすこし急いで城の中庭に作った地下室のラボへと駆けていった。

 

しばらくして我に返った一同。

 

ざわつくが炎蓮が手を叩いて冷静に告げた。

 

「冥琳が動けないだけで機能不全になるような組織作った覚えねぇぞ! それに他のやつも小言以外特に無い健康とわかったし、手遅れになる前に気がついたから僥倖だろ!ほら、わかったら解散!」

 

そして追い出すように私達は大広間から追い出された。

 

……思うところ有るけど、仕事しないとな……。

 

 

*1
そういえばここ一部情勢とかちがうけど、後漢末期、つまり三国志の時代の大陸だった

*2
束さんが教えてくれた。あと筆記体みたい




次話からほんへに戻る予定です。
感想、高評価お待ちしています……。


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第二章 黄巾の乱と黄金の獣 後半戦
第十五話 遠征前日


――side ラインハルト

 

「――皇帝劉宏の名において、軍権を持つ孫伯符揚州牧に黄巾賊の征伐を命じる。――頭目の討伐できたものにはその功に見合う報酬が用意されている。しかと励め」

 

大広間の梁の上で使者の様子を確認しているが、聞いてる限り、討伐報酬が渋い。

 

どこか一つの勢力、あるいはそのまとめ役だけ……最悪「漢の長は皇帝なので皇帝が受け取る」とか屁理屈で何もなしが有り得そうな可能性まであるので正直「火中の栗」である。

 

――まあ、「禁軍でさえなんとかできなかった賊を討伐した」という実績を手に入れられるのだから、ひと肌脱ぐのはやむなしか。

 

「――降りてきていいわよ」

 

使者が出ていき、居なくなったことを兵士に外を確認させた雪蓮がそう告げたので着地する。

 

「大陸の情勢加味しつつ、遠征の支度する予定なのだけど。――前に2回*1に一応打ち合わせしたけど、それから人増えたり冥琳安静で抜けたりしてるから改めて再編もしたいわね」

 

「では早速現在の大陸情勢を説明します。――ハイドリヒ卿は軍部の情報の取りまとめと遠征についての説明に人事発表お願いします」

 

「(雪蓮に手を出した分権限と責任が激増したんだよな……)わかった。先にレナルルの説明を聞かせてもらおう」

 

私の言葉にうなずいたレナルルが手を叩くといつもの兵士たちが手慣れた様子でテーブルと大陸地図、各勢力のコマを配置していく。

 

……コマについては予めレナルルから配置位置聞いてるなコレ。

 

「現在、徐州は下邳が制圧され、小沛にて陳珪、陳登の親子が禁軍の敗残兵の一部と徐州にやってきた義勇軍を率いてなんとか前線を維持してる状態です。……彼らが倒れれば揚州にやってくる可能性が高いです。ここに救援を向かわせたほうが良いと個人的に考えていますね」

 

指差し棒で徐州の南西部の白いコマと徐州北西部から青州周りに点在する黄色いコマを示しながらレナルルは述べた。

 

「続けて――河北では幽州の公孫賛が北方の蛮族が反乱を起こして南から流入してきた黄巾賊と三つ巴となっており、遠征どころではないようです。あ、たしかそこで何故か盧植将軍と皇甫嵩将軍が見つかり、現在そこで保護されているようです。逆に、袁紹は事実上冀州と并州を支配しているため、并州の兵を冀州と青州の州境に貼り付け、冀州の主力で冀州領内の討伐をしてるため、他の領地の遠征ができるかと思われます」

 

「公孫賛……三つ巴とか運ねぇな……」

 

炎蓮が遠い目をしてる。

 

「――次に、兗州について。徐州北部から兗州に流入した黄巾党はおおよそ討伐されています。また他の領地に細作を放っているようで、こちらの防諜網を掻い潜り入り込もうとしたのも確認されています」

 

「……鼻の利くヤツがいるようだな。――雪蓮、ここの勢力とは顔合わせできる機会があったら積極的に狙ってけよ」

 

「ええ、そうね……っと、続きお願い」

 

獰猛な笑みが親子そっくりだな……。

 

「はい。――といっても他の勢力については特に動きはありません。涼州は馬一族を筆頭の軍閥による統治で安定。益州の劉焉、荊州の劉表、交州の士燮は部下含めて動く予定はなさそうです。また豫州は袁術が統治していますが、汝南の復興優先で動く様子はありません。――ただ、袁術の名代で許昌の董卓が動く可能性があります。ここが動くなら連携できると楽ですが……今のところ細作もそういう動きは確認できないそうです」

 

「動いてて連携できたら運がいいくらいに思っておいたほうが良いわね」

 

粋怜の言葉にうなずくレナルル。

 

「後は中央……司隸ですが、禁軍敗北の責を宦官閥、名門閥が互いの責任となすりつけ合いをしています」

 

「えぇ……(困惑)」

 

「曹操が防壁してなかったら洛陽に黄巾賊がやってきててもおかしくないのに平和ボケしてる……」

 

全員ドン引きである。

 

「おそらく報酬云々の話もこの揉め事で本来各地に赴き、成果を確認する人員の選定ができてないため起きているのかと」

 

「どっちにしろ賄賂とか渡さんと討伐怠けてるとかで上から地位没収されたり下手すりゃ連座の死刑もあり得る。面倒くせぇことこの上ないな」

 

だるいって顔に書いてある炎蓮を横目に、レナルルは締めに入る。

 

「報告としては以上です。……軍備、行軍方針についてはハイドリヒ卿お願いします」

 

「……まず、行軍方針だが、寿春を経由し、北上、曹操領に入ったら東進で徐州へ向かう。その後小沛の前線と合流し、押し返しを考えている。このとき、廬江郡の兵を本隊、揚州で遠征できる残りを後詰として本隊の後を追跡させる形をとる。後詰は兵站の維持と本隊が取りこぼした敵の後始末を担当し、合流した場合は本隊と共に黄巾賊征伐を行う方向だ。……ここまでで問題はないかね?」

 

「良いと思うわ。……続けて軍備周りお願い」

 

雪蓮ノ言葉に私は頷く。

 

「現在、廬江郡の兵力は陸軍4万、水軍1万8千。……北では船があまり使えないのと、操船技術の取得難易度などを勘案し、今回は陸軍のみ3万の動員と考えている。が、長江以南の兵力の輸送がある故、水軍が終始暇を持て余すことはない」

 

私は駒を置きながら説明を続ける。

 

「寿春は復興中のため動員不可。柴桑に2万、建業に1万5千、呉に2万5千の陸軍がいるが、柴桑の1万、建業の5千、呉の1万を動員予定。また、会稽と建安の厳白虎たちにも使者を送り動員可能な兵力が2郡合わせ陸軍3万、水軍1万であることもわかっている。先程陸軍2万を率いて寿春に向かう命令を携えた最速の使者を出したので今日中には使者がその旨を伝えるはずだ。そして廬江の軍を本隊とし、柴桑、建業、呉と会稽建安の兵を後詰と考えている」

 

「誰残して誰出陣を考えてるの?」

 

「留守は炎蓮、ネロ(劉繇)には領内に目を光らせてもらうために確定。蓮華、甘寧には引き続き長江の河賊の調略と討伐、そして長江間の陸軍輸送の指揮のためこれも確定。、雷火にレナルルは内政官であり、兵站管理もある程度任せることになるのでこれも同じく。そしてコッコロ、ジュン、クリス、トモは調査の名目で兵を千ずつ率いて主要な郡城の財政関連の調査。ネイ、カノン、一夏、千冬、穏、シャオ、明命は後詰の指揮のために一時待機で必要なら別途追加で指示予定。箒、鈴、束は冥琳の看病等。私のポケモンに騎士団のバビロン、シュライバー、マキナ、ザミエルを配置し、西が敵対時の対策と平時の治安維持などを担当する」

 

「つーことは残りの雪蓮、祭、粋怜、梨晏、亞莎、イオンと……マイ?にお前の黒円卓とやらの残りが廬江の兵率いて行くわけだな?」

 

「そうなる。何処か問題有るかね?なければ私からの『新型兵器』をお披露目、希望者に配布予定なのだが」

 

炎蓮ノ質問に答えたあとの宣言で、一部を除き目を丸くする。

 

「え? なにそれ聞いてない」

 

「教えてないからな。――指摘なども無いな? 今告げた新型兵器とは、これだ」 

 

指を鳴らし、宝物庫から机に乗った腕時計型情報端末を取り出す。

 

 「……これが兵器?」

 

首を傾げる一同。

 

「ああ。といっても、これで人を殴るなどの凶器として使うのは用途ではない。――『同じ端末を持つもの同士、距離に関係なくほぼ時間差無しで連絡をとったり、情報を文字にして相手の端末に送る事ができる』……といえばその厄介さはわかると思うが」

 

私は、そう言いつつ、端末を左手首に取り付け、認証請求してきたので指紋を登録する。

 

「!!」

 

「……確かにそれなら便利ね。でも誰かに悪用されたりとかは」

 

「生体認証をしてしまえば、認証した者以外時計の用途以外で使えなくなる。それと私の本気の攻撃も一度までなら無傷で耐える変態じみた耐久性をしている。そう水や火にもかなり強く、簡単には壊れんので多少雑でも扱えるのが利点だな」

 

それを聞いた雪蓮は、玉座から降りて、左手首に装着し、一同を見る。

 

「……ならここに居る皆に私から命令するわ。――私達孫家に、彼に尽す覚悟があるなら、この端末をつけ、生体認証をしなさい」

 

その言葉に皆が駆け寄り、端末を取り合うように手にし、利き腕と反対の腕に装着。

 

私を真似て装着した腕と反対の手の指の指紋を登録した。

 

「……では使い方を説明しよう。 これからの説明にない機能の疑問点や使い方忘れた場合、端末に使い方を尋ねるように」

 

予め医務室に居る冥琳とバビロンにも渡していたので、試しに2人に通信の動作確認のテスト相手をしてもらった。

 

……今のところは問題なさそうだが、冥琳の様子は気を配って置かねばならないだろう……。

 

*1
『第八話 対黄巾党 孫家の一手目と来訪者』と『第十三話 サーヴァント召喚と各地の動き』



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第十六話 遠征開始からの……?

――side ラインハルト

 

総勢3万の兵士たちが並び、彼らの視線は一箇所に集まっていた。

 

視線の先にいるのは――数段高い台の上に立ち、炎蓮から渡された孫家の家宝、南海覇王を手にした雪蓮だ。

 

閉じていた目を静かに開き剣を掲げる。

 

「コレより我らは、略奪に狂った黄巾賊を討伐するため、賊の本拠地である青州に向かう! 遠征部隊、全軍――出撃!」

 

太陽を背に告げた雪蓮の言葉に兵士たちの声が波のように広まっていき、士気は炎のように燃え上がる。

 

そしてソレとともに兵士たちは規則正しい隊列を組み、進軍を開始する。

 

「さて、私達も乗るか」

 

私の言葉に遠征組の将(とイオン)は馬車に乗り込んでいく。

 

「マスター、とりあえず交代で御者かな?」

 

隣にマイが現れて質問してきたのでうなずいておく。

 

「どっちが先?」

 

「今回は……ちょっと上からの呼び出しがあるゆえ、マイが最初しばらく頼む」

 

「上……? とりあえず了解」

 

私は御者台の片隅に座り、目を閉じて意識を手放す。

 

 

 

 

 

 

目を開くと女神がいる白い空間に佇んでいた。

 

そしてその眼の前には玉座のようなものに座る女神の姿。

 

「今朝から呼び出しをかけていたが、何のようだ?」

 

私の言葉に女神は少し困った様子で告げる。

 

「すっかり良い忘れてましたが……貴方が既に出会ってるサージュ・コンチェルト組*1と力技で次元乗り越えてきたIS組以外で別の場所からやってきたらしい存在にそろそろ接触するでしょう」

 

「そうなのか」

 

「はい。――まあその人達は……その……レジェアルの主人公たちにまつわる噂*2みたいな状態なので、彼らがこの世界で死んだとしても、呼び出し元には何ら影響はありません」

 

「……で、私にどうしろと?」

 

「お望みならば食い散らかして結構です。」

 

「そろそろこの槍で神殺しをするべきか……?」

 

「ひえ、暴力反対です! あとまだ用件あるので!!」

 

構えた武器を下ろして続きを促す。

 

「あと外史の管理者のうち、外史を否定するサイドがバーサーカーの――を召喚したのでサーヴァントが全員揃い、聖杯戦争が始まりました。今いる外史存続したい場合は三国分立か大陸統一確定までサーヴァント4騎以上残すか、最後の1騎が自分の契約してるサーヴァントになるよう、うまく立ち回ってください」

 

「聖杯に泥があるような言い方だな?」

 

「そのあたり回答拒否します。かわりに――バーサーカーのマスター以外、現地民or迷い人かつ、この外史においてかなり話のできる人たちなので、その辺うまくできるかもしれませんよ?」

 

言いたいことを言い終えたのか私は無理やり意識を切断させられた――。

 

 

 

 

 

 

「起きた?」

 

目を覚ますと隣で手綱を握るマイがいた。

 

「ああ。 ……いいニュースと悪いニュースがある」

 

「……悪いニュースは?」

 

「明確に敵対する勢力に、卿以上の実力のサーヴァントがいることが確定し、先程サーヴァントが揃ったので聖杯戦争開始した。後ついでに聖杯が汚染されてる可能性がある」

 

「サーヴァントとしては強い相手と戦えるからうれしいけど、マイ=ナツメという一人の存在としては死にたくないから確かに悪いニュースだね。……汚染されてるなら受肉しちゃってサーヴァントとしての戦い楽しむの諦めて人生エンジョイに切り替えようかなぁ」

 

複雑そうな顔をするマイ。

 

「いいニュースはバーサーカー以外のマスターが対話し易いらしい。――うまくやれば協力体制を作ってバーサーカーだけ脱落させて戦況維持ができるかもしれん」

 

「聖杯汚染疑惑があるのを考えたら最高のニュースだね」

 

うんうんとうなずくマイ。

 

「問題はバーサーカーだが……アレだからなぁ。……視えすぎる眼と全盛期じゃない肉体で戦車をサーベル2本で破壊するあたり、生半可な結界とかでは強行突破しかねん」

 

「ならルーンの知識あるからソレ使ってなんとかできないか試してみるかな……」

 

連絡からいつの間にか雑談なっていた会話を続けながら

 

この後訪れる戦乱の足音を肌で感じていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特になにか起こるでもなく、

 

寿春が目と鼻の先まで来た頃に、寿春外縁部に先行し、駐屯地を設置していた兵の1人が駆けてきた。

 

「どうした?」

 

通信端末で馬車内の面子に通信をつなげる。

 

「喧嘩です! 片方はヘビ女含め6人、もう片方は女2人です! 我々では歯が立たず……救援お願いします!」

 

ヘビ女……?

 

「……私が行こう。マイは御者を中の面子から交代してもらったらついてくるように」

 

私はそのままUターンした兵士の後に続く。

 

途中で兵士がへばった(距離からしてやむなしなのかもだが)ので、脇に抱えて案内させつつ私は目的地まで驀進したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

寿春外縁部の南門前で舞うように闘う銀色髪の青年剣士と黒髪アシンメトリーツインテールの女ガンナー。

 

「――」

 

私は兵士をその場において、2人の中間に飛び込み、攻撃を受け止める。

 

「!?」

 

「サーヴァントの攻撃を受け止めた……?」

 

「しかも見たところ無傷って……」

 

驚きというのは、思考に空白を与え、リセットさせるのに丁度いい。

 

「……さて、揚州の統治を任された孫策の家臣として、お膝元での私闘……兵士の静止命令無視した乱闘騒ぎは本来なら喧嘩両成敗にせねばならん。……が、今停戦するならお咎めなし。希望するなら領外への送り届け、あるいは監視付きだが領内での保護を約束しよう。停戦か、継戦か……懸命な判断をすると良い」

 

そう告げながら軽く圧をかけると誰かが息を呑んだ。

 

そして赤毛のツインテールの娘が口を開く。

 

「セイバー、停戦よ」

 

「わかった」

 

素直に赤黒いオーラをまとった剣をしまう青年剣士。

 

「アーチャー、ウチらも停戦ね」

 

「あなたがそう言うなら、構いませんけど……」

 

金髪の娘?の言葉に両手の銃を手放して消し去るアシンメトリーツインテールのアーチャー。

 

「おお……」

 

「流石だ……」

 

手が出せず遠巻きに見つつ、野次馬を避難させてた兵士たちの声を聞きつつ、私は続ける。

 

「私はラインハルト。ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒだ」

 

「私はランサーのマイ=ナツメですっ!」

 

しれっと現れたマイに身構えるセイバーたちだが私はそのまま続ける。

 

「さて、卿らの名を聞かせてもらおう。――ああ、サーヴァントの二人の真名は無理に聞かぬよ。――私の管轄外で矛を交えるときに弱点を突かれる可能性があるだろうしな」

 

すると赤毛のツインテールと白い眼帯をつけた娘が口を開く。

 

「花園ゆりね。――あいにく現地人じゃないから、真名とかないわ」

 

隣りにいた金髪碧眼で、下半身蛇の裸族である娘がめちゃくちゃ品定めするような顔でこちらを見ていた。

 

「私は邪神ちゃんですの」

 

「アタシはミノス。よろしくな」

 

そして『ビーフ100%』と書かれたTシャツをきた牛の角が生えている青髪の娘が元気そうに自己紹介。

 

「あ、私はメデューサです」

 

その反対側の隣であわわしてる紫髪のアホ毛が被ってる麻袋から出てる娘がこちらを見てペコペコする。

 

「……セイバーだ」

 

「エーリスと申します」

 

銀髪の青年剣士と、紫髪の巨乳メイドがそれぞれ挨拶。

 

セイバー側の自己紹介は確認した。

 

「ウチはブリジット。よろしくお願いします」

 

金髪碧眼の少女?が笑顔を見せる。

 

「私はアーチャーですわ。――弓兵なのに銃を使いますが、アーチャーらしいですわ」

 

アシンメトリーのツインテールの娘が主を見つつ若干何か言いたそうな顔でクラスを名乗った。

 

「さて、自己紹介も済んだことだ。――停戦の交換条件の確認と行こう。――監視付きの保護か領外への移動か……どちらを希望かね?」

 

「私達は――」

 

「三色昼寝と小遣い付きVIP対応で保護お願いしますの」

 

ゆりねの言葉をぶった切って条件つけての保護を要求する邪神ちゃん。

 

「流石に図太すぎない??」

 

マイが困惑するのを横目に、ゆりねが邪神ちゃんをぶん殴り、意識を刈り取った。

 

「働き口があるならそこで働いてそのお金で生活しますので」

 

「ふむ……妥協案として、三食に衣食住の保証……食事の調味料類の水準は卿らの水準とは幾分か見劣りするだろうが他の質と量の保証はする。かわりに嗜好品の類は自費。そのための働き口はなんとかしよう。こちらからは孫家の不利益になる行動をしないことを約束してもらう。――悪い条件では無いと思うが、どうかね?」

 

「……そちらがよろしければ?」

 

ミノスとメデューサ、セイバーとエーリスを見て確認したゆりねが代表して答える。

 

「ウチらもその条件で保護してもらえます?」

 

ブリジットがアーチャーとともに近寄ってきて確認をしてきた。

 

「無論だ」

 

「大丈夫です? またイオンちゃんから勝手に候補増やしてとか言われません?」

 

「私からは手を出さんよ。――私からはな」

 

マイの指摘を詭弁でのらりくらりしてから

 

「――卿らを歓迎しよう。――卿らが袂を分かつまで、食客として可能な限り手厚くもてなすつもりだ」

 

私はそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言うまでもないと思うが、勝手に食客を抱えたことに雪蓮とイオンから小言を言われた。

 

正座させられて平謝りしてる私の姿みて誤認識してくれれば楽だが……たぶん一人くらいしか引っかからないだろう……。

 

 

 

 

 

――side 花園ゆりね

 

「あの金髪が私達の衣食住保証してくれるお金持ち。その金髪があの二人には頭が上がらない……ひらめきましたの!」

 

隣で邪神ちゃんがなにやら馬鹿なこと考えてるけど、彼はそう認識されるのも織り込み済みでわざと道化を演じてるわね。

 

ふと視線を感じてその視線の元へ目を向ける。

 

そこにはブリジットと先程名乗った人がなにやら心配そうな顔をしてる。

 

ああ、邪神ちゃんが変なことしないか心配してるのかしら。

 

大丈夫。

 

――迷惑かけたなら、ちゃんとお仕置きするし。

 

……何故か少し距離を取られた気がするわ……。

 

 

 

 

*1
イオン、ネイ、カノン、ネロ、レナルルの5人

*2
状況証拠からダイパの時代からアルセウスに呼び出されたとされるが、アルセウスによって複製されたため、そもそも現代に帰る場所が無い存在という噂




ざっくり人物紹介

ブリジット
『ギルティギア』シリーズの登場人物。
ヨーヨーを武器に戦っている。
本作ではアーチャーのマスター。現時点の性別は自認が女というトランス女性。
ハイドリヒ卿の餌食になるのかは……ナオキです。

アーチャー
赤と金色のオッドアイ、長さの違う黒髪のツインテール。
古式な二丁拳銃を使うのが特徴。
マスターの性別についてはひとまず静観している。

花園ゆりね
邪神ちゃんドロップキックの主役の一人。
この世界でも武器持たせれば武将の中堅くらいまでとやりあえそう(マイ談)とのこと。
明確に胸がない勢なのもあるのか、ブリジットを仲間と思っているかもしれない(なお)

邪神ちゃん
寄生先を確保した対人系幸運値高めの悪魔。
根っこにお人好しなところはあるが、基本クズなのは変わらず。
あいにくこの世界にパチンコは無いので金を溶かすことはなさそうだが……?

ミノス
邪神ちゃんの友人である悪魔。
なまじ実力があるせいで黄金の獣のヤバさに気がついてて邪神ちゃんが変なことしないよう、見張らなきゃという使命感を獲得したらしい。

メデューサ
邪神ちゃんの友人である悪魔。
保護してもらえて良かった反面、邪神ちゃんに依存されない気がしてて歪んだ願望が満たされないことを危惧してるところもあるらしい。

セイバー
3つの未来を歩み、試練を乗り越え本物の「咎人の剣“神を斬獲せし者”」を獲得した青年。
エーリスにすごく気に入られている。

エーリス
セイバーのことをすごく気に入っている紫髪巨乳メイド。セイバー召喚に割り込み、一緒に召喚された。その正体は……自分の目で確かめよう。
最近首輪とリードを差し出して自分の首につけてほしいとお願いしたらセイバーに逃げられた。
噛み癖があるらしくセイバーの首に度々噛み跡がついている。
なお、プライドからか狂犬病の予防はちゃんとやっているらしい。


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第十七話 セイバーたちのお家

つなぎの回なのでそこまで重要な回ではないです。


――side ラインハルト

 

セイバー組、アーチャーを保護したあと、すぐさま寿春の城の周りで彼女らが住める屋敷の確保に走った。

 

英雄王の幸運値のおかげか、袁術が使っていた屋敷を安く手に入ったので即座に修繕・改築・リフォームを行い、キレイに整えた。

 

同時並行で廬江や建業にも同じ間取りの屋敷を急ピッチで建築しているが、理由は後述。

 

「個室20部屋、4人部屋4部屋、リビングダイニングキッチンあり、トイレは水洗。食事は城の食堂をつかってくれ。自分で作るのも一応できるがその場合は前日に管理人に何をどれだけほしいか伝えるように。また風呂は城の方をしたので希望者はそっちを使うように」

 

私の言葉に8人は返事をした。

 

「あと、言った通り管理人をおいておくが、住人のいざこざはゆりね嬢とブリジット嬢を中心に対処するように」

 

「わかったわ。……邪神ちゃん以外人に迷惑かけそうにないけど」

 

「信用値ゼロ!?」

 

邪神ちゃんが驚いているが妥当だと思う。

 

「最後に、現在同じ間取りの屋敷を揚州の主要都市に配置している。理由はこちらの事情で転居を要求することがあるからだ。卿らが把握しておくべき事項は転居要求されることがあること、転居先は確保済みなこと、荷物の搬入出及び卿らの移動は一箇所にまとめてもらえば瞬間的に可能であること。仕事については城の城代に問い合わせてること。……なにか質問は?」

 

「娯楽はねーんですの?」

 

「有るわけ無いでしょ」

 

邪神ちゃんの質問にゆりねの怒りゲージが上がった気がする。

 

「あるぞ。ゲームで言えば卿の知る名作からマニアしか知らぬマニアックなソフト、ハードはファミコンからセガ系列フルセットにPCゲー。……対戦相手などの都合でオンラインは出さんが、オフライン完結系ノものは一通り用意はある。また、本を探したいなら蔵書がありすぎる故、管理人経由で司書に何を読みたいか要望を出せば貸出できるぞ」

 

ゲーム類に書庫ノ一端として本棚を取り出して見せる。

 

「なら私はゲームしてあそぼ――あばばばばば」

 

「じゃ、邪神ちゃんー!?」

 

邪神ちゃんが触ろうとしたが、防壁に流れる電撃で黒焦げに。

 

メデューサが安否確認している。

 

「……本の貸出はともかく、本の購入やゲームがほしいなら稼ぎたまえ。また、ゴルフなどのスポーツ方面も基本的な道具貸出するが紛失汚損した場合は費用を請求するし、貸出品で満足できぬなら自分に合うものを購入するように」

 

「まあ妥当だな」

 

セイバーの言葉に力尽きてる邪神ちゃん以外が頷く。

 

再度質問ないか確認しようとしたが、通信端末が着信を告げる音を出したため、話を打ち切る。

 

「どうした」

 

『補給も終わって出立できるけど、そっちまだ?』

 

かけてきたのは雪蓮だった。

 

「こちらも用件が終わったところだ。先に出立しても構わんぞ?あとで追いかける故」

 

『それもあるけど……馬車2台にできないかなーって。ほら、昨日一昨日なかったでしょ?』

 

「……卿の順番ではなかったはずだが……まあいい。合流してから追加する故、とりあえずはそのままで」

 

『はーい 大好きよ、あなた』

 

「うむ、私も愛している」

 

通信を切ってセイバーたちの方に向き直ると、皆目を丸くしていた。

 

「……どうした?」

 

「いや、その……」

 

困惑してるブリジットに代わり、エーリスが口を開く。

 

「愛してるとかそういう言葉を言うような人には見えなかったといいますか……ウィルフレド様も見習ってほしいものです」

 

「おい、何故こっちに話を振るんだ」

 

エーリスとセイバーが乳繰り合ってるがそれはさておき。

 

「私とて愛の言葉ノ1つや2つ囀ることくらいできる。私を何だと思っているのだ……」

 

「強者ゆえの傲慢」

 

「節操なし?」

 

「かかあ天下で嫁に頭上がらない?」

 

「女は駄菓子とか言ってた時期ありそうですね」

 

ミノス、邪神ちゃん、アーチャー、エーリスの言葉に表情がひきつる。

 

最後私というかラインハルトのこと知ってるのでは???

 

「……そうか」

 

「貴女たち、この人に親殺されでもしたの……?」

 

ゆりねが困惑してるがすくなくとも半分は私が原因なのでなにも言うまい。

 

「何と言われてもやむなし。それはそれとして、仕事がある故、なにかあれば2人経由して連絡してくれ。2人にも端末を預けておく」

 

私は2人に腕時計型端末をゆりねとブリジットに預けた。

 

そして私は雪蓮たちに合流することに。

 

 

 

 

 

 

――side ゆりね

 

……行っちゃったわね

 

「とりあえず部屋割決めましょうか」

 

「賛成〜」

 

ブリジットさん、しれっと司会進行ぶん投げたわね?

 

「ゆりねー、私4人用の部屋1人で使いたいですの」

 

邪神ちゃんのリクエストがあの人の言っていたことに引っかからないか確認……。

 

「……良いんじゃない?だめとは言われてないし(駄目ならあとで引っ越しさせればいいし)。他に4人部屋使いたい人は?」

 

問いかけるとエーリスさんが手を上げた。

 

「4人部屋は可能ならで。それよりも、私と主様は一緒の部屋でお願いします」

 

「……セイバーは全力で拒否してるけど」

 

顔真っ青にして首横に振ってるし……

 

あ、エーリスがその姿見て、顔だけ笑顔になったわ。

 

「……すこし、お話してきますので、失礼します。……私達一部屋で大丈夫ですので、あとはお任せします」

 

「えっ、あっ、ちょっとマスターヘルプ――」

 

首根っこ掴まれて連れて行かれたわね……。

 

「そっちのサーヴァント、なかなかに濃いコンビだね」

 

ブリジットが面白そうに私に話しかけてきた。

 

「えぇ。……2人を一緒にしなければ真面目な話もできるし」

 

「止めないあたり、確信犯だよね……」

 

「エーリスの愛情表現が歪んでるけど、割と一途っぽいし、なんだかんだで似合ってるから」

 

「なるほど?」

 

っと、部屋割の方、早く決めないとね……。

 

……あとで管理人さんに言う予定だけど、金銭の貸し借り禁止のルール追加を提案しておこう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

「♪〜」

 

新しく出した馬車の中にて

 

膝の上で私に寛ぐ雪蓮。

 

大きな猫感あるな……。

 

江東の虎の娘だし、虎はネコ科だから違和感はないか。

 

肩から前に垂らしている髪を櫛でそっと梳いていると彼女は振り向いた。

 

「最近気がついたけど、髪を触るの癖だったりする?」

 

「……わからん。わりと無意識でやっていた」

 

「乙女の命な髪の毛、無意識に触られるの癪なんですけど〜」

 

ぶーぶーと不貞腐れる雪蓮。

 

「なら私ノ髪を触ってもらうから代わって?」

 

「やーだー」

 

「雪蓮殿、幼児退行しておるのう……」

 

イオンの要求を拒否し、身体の向き変えて私にしがみつく雪蓮。

 

祭は不思議そうにそのやり取りを見ている。

 

「三姉妹の長女だし、母親が甘やかす系の人じゃないから甘えたい欲求あるんじゃないかと」

 

しれっと現れるマイ。

 

「……む? こっちは『そういう』人限定だと聞いていたが……」

 

「一昨日から!」

 

性に奔放なケルト因子のせいかしれっとバラすマイ。

 

「……一昨日と昨日来なかったの、マイさんが理由なんだってー」

 

イオンにもバラされた。

 

「なぬ? ……せっかく競争相手少ない時にお情けをくれぬとは……獣殿はいけずじゃのう」

 

「しばらく暇だし、耐久*1してみる?」

 

最近と雪蓮が不敵な笑みを浮かべた。

 

「4人で耐久……マイさんに頑張ってもらえばいけるかな、新記録」

 

「今回は最初にギブアップせぬからな」

 

……どうやら今暫くは、のんびりすることができなさそうだ……。

 

*1
休まず何日できるかな?という検証。なおハイドリヒ卿のスタミナより先に女性側のスタミナが底尽きる模様。何の耐久って? お察しください




感想、高評価お待ちしています。
低評価の場合は一言もらいたいです。
それではまた。


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第十八話 三英雄邂逅 前編

――side ラインハルト

 

「……太陽が眩しいな」

 

マジックミラーになっている窓から差し込む陽の光に目を細める。

 

「今回の記録……1日と18時間……新記録ならず……ガクッ」

 

一応記録を取っていたマイも気絶。

 

4人でローテーションなので回復加味しても持った方だろう。

 

身を清め、服を着たあと、馬車から飛び出して屋根の上に。

 

「……む、北数里先*1に軍勢が居るな……」

 

「申し上げます!」

 

ザリガニ*2……じゃなかった、斥候の兵士がこちらに駆け寄って、声を上げた。

 

「話せ」

 

「北二里の地点にて他軍の斥候と接触。確認したところ、曹孟徳の軍勢が近くを行軍中とのこと。いかが致しましょう!」

 

「(向こうの斥候と所属とかは情報共有しているし……)先触れをしてほしい。そちらの長と挨拶したい旨も伝えるように」

 

私の言葉に斥候は拱手してから去っていく。

 

そして馬車に戻り、雪蓮たちを叩き起こして情報共有。

 

「別に挨拶とかいいと思うけどなー」

 

「炎蓮の言ってたこと忘れたか」

 

「ちぇー。わかったわよ。冥琳居ないからあなた、アタシと梨晏、勉強のために亞莎の布陣で行くから、祭と粋怜は部隊の指揮よろしく」

 

『『『了解』』』

 

「……ほんと便利よね。頼り切ってると痛い目見そうだけど」

 

端末で行軍面子と通話していたのだが、完全に使いこなしている。

 

「……できたぞ。服は自分で着るといい」

 

ブラッシングなどが終わったのでそう告げると不貞腐れたように

 

「めんどくさいから着せて〜」

 

と言ってきた。

 

「着るに難しい服ではないだろう。それに私がやれば着せるだけで終わらんだろうに」

 

「えっち」

 

「そういう匂い漂わせて人前に出たら後ろ指刺されかねんぞ?」

 

「ついでに露骨にあなたとの関係ほのめかせばあなたへの詮索や他の勢力が引き抜きしようとしても諦めるかなーって」

 

「私を引き抜けば実質孫家掌握できるとか思われかねんからやめよう、な?」

 

「はーい」

 

素直に服を着て近くの姿見で確認し、頷く雪蓮。

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

そこには後に小覇王と呼ばれるであろう、苛烈さを身に宿した英雄が不敵な笑みを浮かべていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

両軍の進軍を一時止め、曹操軍側には天幕が作られていた。

 

「――私は曹操。字は孟徳。この軍勢の指揮官で、兗州牧よ。こっちは夏侯惇に夏侯淵。荀彧に曹洪よ」

 

金髪ツイン縦ロールの美少女は自己紹介と部下の紹介しつつ、こちらを見定めるようにすこし圧をかけていたが、直ぐにそれを解いて

 

「楽にして頂戴。同じ黄巾賊討伐する同志なのだから」

 

笑顔を見せる。

 

「……私は孫策、字は伯符。揚州牧よ。こっちは私の夫のラインハルトに部下の太史慈に呂蒙よ」

 

私たちは挨拶をする。

 

「……男を連れてくるとか正気かしら」

 

「桂花。……部下が申し訳ないわね。ただ……一廉の将の待遇の男が珍しいと思ったのも確かね。実力のほどはどれほどかしら」

 

「たぶんこの場にいる全員で殺しにかかっても返り討ちよ?」

 

こちらにアイコンタクト向けてきた雪蓮。

 

……どうなってもしらんぞ?

 

「そんなまさか」

 

「論より証拠。直ぐ塞がる程度で加減しなさいよね」

 

雪蓮の言葉を横に私は加速し、日本刀で一度に5つの斬撃を繰り出し、納刀する。

 

「……その証拠に彼もう武器を振り終えてるし。首筋のそれが何よりの証拠ね」

 

5人が首筋に触れると薄っすらと滲んだ血がそれぞれの手に付く。

 

「ありえないわ、妖術よ!」

 

荀彧が現実を拒否するようにそう告げるが

 

「やめなさい、みっともないわ。――春蘭、秋蘭は『見えた』かしら?」

 

「……自分の側をなにが光るものが通ったことくらいしか」

 

「微かに音もしておりました。……が、自分の首元以外は見えませんでした。」

 

汗を一筋流しながら答える2人。

 

それを見て、こちらに向き直る曹操。

 

「……疑って悪かったわね」

 

「自慢の夫のこと、わかってくれればいいのよ」

 

「なお、雪蓮様は正妻ではない模様」

 

梨晏がからかい混じりにそういうと、目を丸くする曹操。

 

「正妻じゃない? 正妻は別にいて複数人で囲ってるってこと?」

 

首を傾げる後の覇王。

 

「まあそうなるわね。夜の方も1人じゃまず歯が立たないから2〜3人がかりが普通だし、色々規格外なのよ」

 

「……彼を単独で黄巾賊に突っ込ませたらどうなるかしら」

 

「たぶん20万くらいなら皆殺しにできるわよ?三日三晩私たち相手できる持久力とさっきの斬撃を連発できるのだから。『だからこそ』彼には本陣で指揮官しててもらうつもり。そっちも適性あるし」

 

何処まで遠慮しないかで変わるが大体雪蓮の言うとおりだろう。

 

「なるほどね。……ラインハルトだったかしら、もしそちらから出奔するなら私の所に来なさい。歓迎するから」

 

「検討はしておく」

 

「でしょうね。だからこそほしくなるのだけど。……それと袁紹には気をつけなさい。あなた彼女に好かれる気がするし。そうなったら金に糸目を付けないで振り向かせようとしてくると思うわ」

 

「そんなにか」

 

「ええ。 やっても驚かないわね」

 

「それは気をつけねばな」

 

私の言葉に頷く曹操。

 

世間話みたいな雰囲気から一転、空気が引き締まる。

 

「さて、そろそろ『仕事』の話をしましょうか」

 

「お話し中、申し訳ありません!」

 

曹操が話の腰を折られて不満気味だったが、声を上げた兵士に目線を向けた。

 

「なにが起きた。敵襲か?」

 

「いえ、義勇軍を名乗る一軍がこちらにきておりまして、この軍勢の長に挨拶したいとのこと」

 

その言葉に雪蓮と曹操が視線を交わす。

 

「そっちの兵数は?」

 

「えっと、1万だったかしら」

 

「あら、それなら私たちは八千もいないことになるんだけど」

 

「「……」」

 

面倒臭そうな予感を感じたのか、軍勢の長を押し付け合い始めた。

 

「雪蓮。必要なら補佐する」

 

「…………わかったわよ」

 

ため息ついてから

 

「4人選抜して来るよう伝えて頂戴」

 

「はっ!」

 

「ところで代表者はなんていうの?」

 

「劉備と名乗っておりました」

 

「……」

 

どうやら三国志を代表する3大勢力がここで邂逅するようだ。

 

 

*1
約10キロ

*2
信長の野望・革新で、たびたび前線からの急報を伝えてくる伝令のこと。甲殻類っぽい赤の具足姿に描かれているため、この呼び名がついた。作品によっては、「アメリカザリガニ」「ロブスター」「エビちゃん」「海老蔵」などの名で呼ばれることもある。



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第十九話 三英雄邂逅 後編

――side ラインハルト

 

兵士に先導されてやってきたのは、劉備、関羽、諸葛亮と……白い饅頭みたいな三等身の少年だった。

 

配置としては長机の短辺に雪蓮と私達、反対側に劉備たち。

 

私達の右側に曹操たちがいる配置だ。

 

「……」

 

「気になる子……って目じゃないわね、どうしたの?」

 

雪蓮の言葉に肩を竦める。

 

「なに、同じ催しの参加者を見つけただけだ」

 

「っ!」

 

「……」

 

少年がわずかにたじろいぎ、曹操が観察するように私達を見ているが、私はそれを無視する。

 

「すまない、話を進めてくれ。必要になるまで口出しせぬ」

 

私がそういうと、雪蓮がため息まじりに司会進行をしていく。

 

「とりあえず自己紹介してくわね。 私は孫策、この軍勢の長扱いされてるけど、そこの曹操と大体兵数同じらしいからそこよろしく。彼はラインハルト。私の旦那。部下の太史慈と呂蒙よ」

 

「紹介された曹操よ。こっちが部下の夏侯惇と夏侯惇、荀彧と曹洪」

 

「わ、私は劉備です。こっちが義妹の関羽、こっちが諸葛亮に、キャスターです……」

 

「……で、義勇軍の長が何の用かしら?」

 

「……その、義勇軍の台所事情……特に兵糧方面が厳しいので、援助いただけないかなって……」

 

「「は?」」

 

雪蓮と曹操が息揃えて疑問符を浮かべた。

 

「……」

 

荀彧と曹洪が小声で情報交換を始める。

 

亞莎と梨晏がこちらにアイコンタクトしてきたので『物資に余裕はある』と返しておく。

 

「援助ねぇ……してもいいけど」

 

「本当ですか!?」

 

雪蓮の言葉に飛びつく劉備。

 

しかし諸葛亮とキャスターの表情は険しい。

 

「何をそっちは差しだせるのかなーって」

 

「え?」

 

呆然とする劉備に対し、説明するように曹操が口を挟む。

 

「1つ、貴女と私たちは初対面。いきなり援助してと言われても、援助するに足るかとか、それぞれの判断基準を満たしてるのか判別できない。2つ、軍隊は歩く胃袋なんて言われてるから兵糧の管理とかかなり気を使わないといけないの。そこに何人分を何日間分……『正確にどれだけ必要なのか』わからないのにホイホイ出したとして、万一補給遅延とかで自軍が飢えたら本末転倒でしょう?3つ、それらを加味して、『初対面同然の相手に痛い支出するなら、それに見合うものがないとやってられない』ってことになるのよ。――理解できたかしら」

 

「……」

 

「ちなみに私だったら『食い扶持の確保を対価に私の旗下に入ること』になるかしらね。――私利私欲が無く、賊討伐したいと思うなら、最善だと思うけど」

 

「それでは……!」

 

関羽が口を開いたが諸葛亮が止めた。

 

「……アタシの場合はどうしようかしらね……何が良いと思う?」

 

雪蓮がこちらに話を振ってきたので、私は肩をすくめる。

 

「立場的にも物資的にも、曹操と卿の立場と手札はそう変わらん。故に曹操の案が卿視点でも最善にして安牌だ。……なので手札の数と量が違う私が提案するとしようか」

 

紙に条件を書き、4分割してそれぞれの手元に放る。

 

「4人それぞれの別の条件を提示した。全員が条件を飲むなら『同行中の劉備旗下義勇軍の兵糧の全負担及び兵数分の武器防具の支給し、成果に応じ報酬を用意する』。悪い話では無いと思うが……ああ、キャスター。先にいうが免罪符程度でこの契約は踏み倒せんからな」

 

「!?」

 

目を見開いてこちらを見るが私はそのまま続ける。

 

「……家政婦、孫悟空、あとは今の姿の世界線を識っているし、本来の世界のことも少しだけな。――返事はいつでも構わんが、義勇兵たちが餓える前に決めることをおすすめしよう」

 

「ちなみに何書いたの?」

 

雪蓮に言われると思って手元に用意してた写しを放り投げる。

 

「こっち*1はまあ順当。こっち*2は……ふーん? こっちの方*3は……ある意味一番簡単で難しいわよね。 こっち*4は……うわ、コレ……ん? ……あー、はいはい、そういう……意地が悪いわねぇ」

 

読み終えて苦笑する雪蓮。

 

「――私がこの条件突きつけられたら、4人の条件全部ひっくるめても『受ける』わよ。ここまで破格の条件出してくれるところなんてまず無いし、最良の好機ですもの。……というか、対価についてはいずれも妥当だし、『そういうこと』考えてるならこのくらいの自尊心削られることや現実に向き合えなきゃやってられないわよ?」

 

「……」

 

4人はお互いを見合う。

 

「すごい条件気になるんだが聞いてもいいか!?」

 

「姉者、空気を読め!」

 

「気になったのは事実ですし……」

 

「(私も気になってたからよくやったわ猪武者!)」

 

「(後でお仕置きしないと……)」

 

夏侯惇、夏侯淵の漫才っぽいノリの横で曹洪がたしなめ、荀彧がガッツポーズしたり、曹操が呆れ顔をする。

 

「……何、簡単だ」

 

私が条件(キャスターについてはぼかした)を告げると、

 

「……私としては諸葛亮の条件が一番厄介ね。関羽の条件も屈辱的ではあるけど……?」

 

「……なかなかに意地悪な条件が多いわね」

 

曹操は後半で気が付き、荀彧も険しい顔する。

 

「ふむ……支援者に殴りかからないのは普通のことでは?」

 

「何かしら理由があるのだろう……」

 

「むしろこの条件そこの猫耳に全部飲ませますのでウチの軍でもやってもらえませんこと?」

 

夏侯惇が首を傾げ、夏侯淵が補足する。

 

ついでに曹洪が閃いたとばかりにふっかけてきた。

 

「相手に合わせて条件を変える故、卿らに支援するならもっと吹っ掛けるだろう」

 

「まあそうよね。……で、答えは決まったかしら?」

 

曹操は私の言葉に肩をすくめてから、劉備たちの方を向いて問いかけた。

 

「……そもそも、この約束を履行してもらえるかどうか」

 

私は指を鳴らし、予めあちこちにちらしておいた現場猫の一匹を利用して義勇軍側に居た個体を使い宝物庫を展開。赤いカーペットの上に食料の山に武具を配置する。

 

すこし浮いた状態で配置したので軽く振動がこちらまでとどく。  

 

「物資を用意した。卿らの陣地の側に行くと良い。……義勇軍が手を触れた瞬間契約を締結したと見なす故、勝手に触れぬよう、通知することをおすすめするがね」

 

私の言葉に4人は天幕を飛び出す。

 

「せっかくだし、見る? 彼の個人資産の一端」

 

「……ええ」

 

私達も義勇軍の陣地側に移動することに。

 

 

 

 

 

――side 曹操

 

私達が義勇軍の陣地側に訪れると、そこには複数の蔵が載せられそうな巨大な赤い敷物の上にのった、食料の山に武具に矢などの消耗品。

 

「華琳様……どうやったのでしょう」

 

「さあ。……1つ言えるのは彼がこれだけの物資を用意できる手段と財力があるってことね」

 

春蘭の疑問に私はわかることだけ伝える。

 

「味方なら心強いですが、敵に回られたら……」

 

「今のところは味方よ。……それに彼は基本的に興味がなければ傍観者でいるみたいだし、積極的に動くときは……まあ滅多にないと思うわ」

 

桂花の懸念はもっともだけど、どうしょうもないと告げる。

 

……あ、義勇軍の兵士が、勝手に武器を手に取り始めたわね。

 

関羽たちの静止を聞かないあたり、練度は知れてるわね。

 

ラインハルトが義勇軍の将たちの所に行ったわ。

 

「……なにやら揉めてますが、止めますか?」

 

「結果は見えてるわ。今はそれより先にやることあるでしょ?――孫策、そちらの進軍方針確認させて」

 

「ええ。こちらも確認しようと思ってたの。早速すり合わせしておきましょ♪」

 

……孫策とラインハルト……油断できないわね……。

 

 

*1
キャスター宛:同行中聖杯戦争関連での戦闘は禁止。自衛は例外とする

*2
諸葛亮宛:貸し1。何かあったら返してもらう

*3
劉備宛:義勇軍兵士の名簿を作り、定期的に更新すること

*4
関羽宛:娼婦の真似事をすること



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第十九話 東進中の出来事と揚州の変化

――side ラインハルト

 

少々ごたついたが、劉備軍との契約は締結。

 

義勇軍は台所事情を気にしなくても良くなった。

 

代わりに――

 

「……私は何をすればよいのでしょうか」

 

(孫家全員いる状態の)馬車の中にて、北半球が露出してるすこし際どいメイド服を着た関羽が私の隣にいる。

 

「ふむ、とりあえずお茶を入れてもらおうか。イオン、厨房の使い方を頼む」

 

「はぁい。関羽さん、こっちね」

 

そういって関羽をイオンが連れて行く。

 

すると亞莎が私の座るソファーの隣に座って、据わった目で問いかけてきた。

 

「……ラインハルト様、何故あの女を?」

 

「亞莎さん?なんかいつものおとなしめおどおど雰囲気はどこにいったのかしら???」

 

雪蓮が亞莎の変化に困惑している。

 

「いえ……何故かあの女をみてると……あの女がラインハルト様の隣にいるのが我慢できなくて……」

 

「(原典因縁補正か……?)亞莎、夜『もう一つの馬車に』来い」

 

「……! はいっ!」

 

機嫌が良くなるのを確認してると、何故かガスマスクつけたイオンと不穏な煙を上げてるカップをのせたお盆を持つ関羽がやってきた。

 

「……お茶を用意いたしました」

 

後ろでイオンがバッテンマークを手で作ってるが……。

 

「ありがとう」

 

私はためらわずにお茶を受け取り、一気に飲む。

 

内蔵がいくつか破裂する音がしたり、口に血がせり上がってきたが無理やり抑え込む。

 

飲み込みきれずに口の端から垂れてきたので手で拭う。

 

「ラインハルト!?」

 

「ラインハルト殿!?」

 

「ラインハルト様!? ――貴様毒を!」

 

亞莎たちが立ち上がろうとしたのを手で抑える。

 

「……料理などは経験あるかね?」

 

「いえ……あまり……」

 

お茶がこの身体にダメージ与える劇物になる時点で相当なヤバさだが、一部常識が通用しない世界なので是非もなし。

 

「……誰かに師事を受け、問題ないと言われるようになるまで料理などは1人でしないこと。これは個人的な約束だが……約束してもらえるかね?」

 

「……は、はい……」

 

言わなかったら亞莎あたりがブチギレて攻撃しそうだったのもあるだろうが、関羽は私との約束に素直に頷く。

 

「出されたものは基本いただくのが私なりの流儀ではあるが……水銀や爆発物、生半可な猛毒さえ通用せぬ私が飲食でここまで負傷したのは今までを通じて初めてだ。ある意味誇っても良いかもしれん」

 

「……ラインハルト様、大丈夫なので?」

 

亞莎がお腹あたりペタペタさわってるが無自覚か?

 

「案ずるな……あと半刻(1時間)あればもとに戻る。……関羽」

 

「は、はい!」

 

私は宝物庫からいくつか本(同人誌くらいの薄さ)を取り出し、リストと宛先を記載する。

 

「この本たちを卿の所に届け、この一覧に宛名がある場合はその相手に、居ない場合は相応しいと思った相手に渡したまえ。ケホッ……読んだ感想をできたら書簡に書いて返してもらってくれ。渡してから返すまで自由にしてていい。ただし服はそのままで、汚損した場合は取り替える故こちらに来るように。わかったかね?」

 

「承知しました」

 

そういって本を持って馬車を出ていく関羽。

 

私はそれを見届けてから、宝物庫から数本のポーション類を取り出して無理やり飲み干す。

 

「――久しぶりに死を感じた」

 

「「「そんなに!?」」」

 

雪蓮とイオン、マイが軽く飛び上がる

 

「今のうちに始末したほうが良いのでは? ……ラインハルト殿を負傷させられた時点で相当稀有な存在なんでしょ?」

 

粋怜が険しい顔をする。

 

「……今こそラインハルト様たちから学んだ暗殺術を見せるときでは?」

 

「気持ちはわかるがラインハルト殿は喜ばぬというておろうが」

 

「そうそう、だからその物騒なものしまおうね……!」

 

亞莎を祭と梨晏で抑え込んでいる。

 

「とりあえず、だ」

 

私は意識切り替えさせるために手を叩く。

 

そして端末を使い、全員と通話状態にする。

 

軽く先程までの経緯を説明をしてから

 

「――劉備の勢力はいずれ無視できん勢力になるだろう。……先の援助はそれを見越した投資だ。……あと、大陸を1つの国が治めるには少々大きすぎると考えている」

 

と告げる。

 

すると冥琳が口を開く。

 

『つまりお前は漢が滅んだあと、天下を二分……あるいはそれ以上の分割で治めるのが良いと見ているのか?』

 

『確かに北は1年の半分以上寒いし南は年中クソ暑な環境だ。同じ括りにするにゃ、ちときつい。いっそある程度同じ環境の連中を国って形で括って相互監視させておけばなんとかなる……と?』

 

炎蓮が納得しつつも、問題点があるだろと言う声色で締める。

 

『互いに牽制するだけならまだしも、戦争に入ったら泥沼になりそうなのが問題点でしょうか?』

 

「そうなるならそれで構わん。栄枯盛衰、形あるものはいずれ滅びるのだ。無理に統一し、腐敗して内側から破綻し滅びるか、相互監視が崩壊して野心の焔が自他を焼き尽くして滅びるか、その程度の差でしか無い」

 

私がそう切り捨てると、少し考えるような素振り見せてから雪蓮が口を開く。

 

「……蓮華はどっちが良いと思う?」

 

『姉様? 何故私に話を振るんです?』

 

「だって、私帝位とか王位に興味ないし、将軍やってるほうが性に合ってるのよ。シャオも私寄りだし」

 

『……大国を治めて毛色の違う連中の反発に頭悩ませるくらいなら、徒党組まれなければ自衛できるくらいの勢力に収まるほうがマシに思えるわね』

 

「ならそうなるように誘導してく方針で。詳しくは復帰したら冥琳、それまではラインハルト筆頭に穏、亞莎、レナルルを中心に知恵絞ってちょうだい」

 

言質取ったと雪蓮が方針変更を宣言。

 

『え、私の一言で方針変更して良かったので?』

 

「いやだって、ある程度形になったら家督ぶん投げて武官の統括の地位に収まって悠々自適したいし」

 

『……さ、最低だこの姉!』

 

『いや、雪蓮お姉様の行動方針ずっとこうだし』

 

蓮華の言葉にシャオがツッコミをいれる。

 

『とりあえず、こっちからの連絡は以上ね。他連絡ある人は?』

 

雪蓮が話をぶち切り、確認をする。

 

『あ、こっち炎蓮。黄祖のヤツがちょっかい出してきてるからぶん殴りに行く。あ、ラインハルト。カノンとネイ、ルサルカ連れて行きたいんだけど』

 

「構わん」

 

『あんがと。……蓮華と思春、カノン、ネイにルサルカ連れて水軍でぶん殴ってくる』

 

「……ちゃんと帰ってきてね?」

 

『死ぬときゃ死ぬが、まだその時じゃねぇからな』

 

雪蓮は『知っている』側だからこそ、心配してるようだ。

 

……まあマレウスがいるのだからしくじることは無いが。

 

「他にいる?」

 

『レナルルです。山越の主だった長3人が近いうちに来るとのこと、雪蓮様が居ない場合は炎蓮様、蓮華様、小蓮様の順で名代として対応する予定です』

 

「なんか気が変わったのかしら……とりあえず了解」

 

首かしげる雪蓮。

 

私も情報が足りんので首を傾げるのみだ。

 

『次、シャオだけど、カノンとネイお母様が連れてくみたいだから代わりにザミエルさんとマキナさんを後詰部隊に連れて行っていいかしら?』

 

「マキナは廬江から動かしたくない。代わりにヴァルキュリア……ザミエルの補佐が得意な者を回す。半日以内にそちらに付く故、それを連れて行ってくれ」

 

『はぁい』

 

「他にない?……なさそうね?とりあえず突発的招集は以上。解散」

 

雪蓮の言葉と共に私は通信を終了した。

 

私はヴァルキュリアを呼び出す。

 

「呼ばれて飛び出て電撃バチバチ! 皆の戦乙女、ベアトリス・キルヒアイゼンでございますっと、何用ですか、ハイドリヒ卿」

 

金髪ポニテ*1に碧眼の軍服に身を包んだが娘が姿を見せた。

 

「ザミエルの所に向かい、指示を仰げ。位置情報はこの端末に入っている」

 

私は端末(耐電仕様)を渡して命令を告げると

 

「では早速行ってきます!あとカイがドバルカイン化しちゃったのでできたら元に戻していただけるとありがたいです!では!」

 

ヴァルキュリアは言いたいこと言って去っていった。

 

一段落したしおやつでも食べるか。

 

「……さて、おやつに胡麻団子でも作るか」

 

「あ、手伝います」

 

亞莎が一番に手を挙げる。

 

「私も手伝っていい?」

 

粋怜も手を上げた。

 

「……粋怜って家事できたっけ?」

 

「儂も記憶にないんじゃが???」

 

「外野は黙ってて。これでもできるから」

 

雪蓮と祭の言葉に粋怜は噛みつく。

 

「まあ、マスターが見てるなら失敗することは稀だし……」

 

「寧ろ料理下手なら手取り足取りしてくれるから……もしかしてそれ狙い?」

 

マイとイオンがフォロー?しつつ何かを察したらしい。

 

「そそそんなことないし!」

 

「……とりあえずつくっていこうか」

 

 

胡麻団子の出来具合だが、亞莎はプロ並み、私も同じく。

 

粋怜は普通以上だった。

 

 

 

 

 

「お、お邪魔します……」

 

「よく来たな」

 

もう一つの馬車にやってきた亞莎。

 

「えっと、どちらに座れば」

 

「ここで構わんよ」

 

寝台の縁で私の隣を示すと、彼女は借りてきた猫みたいに緊張しつつ、私の隣に来た。

 

「……ラインハルト様に見いだしてもらえたおかけで、阿蒙と言われていた無知なあの頃から変わることができました。本当にありがとうございます」

 

「私が見いだせずとも、いずれ誰かが見出していただろうがね」

 

「それでも! 見出されたとしても文官や軍師の才を見出されたとは思えません。……私にここまでしていただいて、本当に……感謝していますし、お慕いしているのです」

 

「私利私欲のために卿を使い、孫家を裏から操るために卿を使ってると思わなかったのかね?」

 

「それを考えているなら、冥琳様や雷火様を篭絡した方が早かったですし、雪蓮様や炎蓮様と関係を持った方がよほど効果的です。……揺さぶりを見破れるくらいには、私も交渉の手解きや書物での勉強で賢くなったつもりです」

 

亞莎の言葉に成長を感じ、頷く。

 

「卿のことをすこしばかり娘や弟子のように見ていたようだ。――だが卿も1人の女。手折るのが私になるが、本当に良いのだね?」

 

「はい。……私の初めてをラインハルト様に捧げられて、とても幸せです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疲れ果て眠っている亞莎を見つつ、私は部屋にあるクローゼットを開く。

 

そこには目が点になってる粋怜が居た。

 

「……あ、あはは……それじゃ」

 

逃げようとしたので捕まえ、雪蓮と祭に連絡する。

 

「粋怜が居たが、これは宣戦布告と取ってよいだろうか」

 

「そんなつもりは」

 

『『良いと思う』』

 

「う、裏切られた!?」

 

ガーンとショックを受けてる粋怜を横に雪蓮たちが理由を述べる。

 

『いやだって、いつの間にかいないと思って調べたら、そっちにいたから……』

 

『今宵は亞莎の番、しかも初めてなんじゃぞ? それを知ってて覗き見したんじゃからなにされようと文句言えんじゃろ』

 

それはそう。

 

『……あ、閃いた』

 

「嫌な予感するんだけど!」

 

『――確か映像記録できる道具あるのよね?それ用意しといて。私と祭……え、マイにイオンも? ……2人も来るらしいからよろ』

 

言うだけ言って雪蓮たちの通信が切れた。

 

「……あの、救いとかは」

 

「あると思うかね?」

 

「デスヨネー」

 

今夜は徹夜みたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

――side ???

 

桃香様の名簿作りを手伝ってる折、墨が撥ねていたらしく、寝る前に気がついた。

 

そのため、服が汚れたので取り替えに来たのだが……。

 

「あれが……いや、本でさえ一刻は異常と聞くのに……!」

 

中身が外見より明らかに大きい馬車の中であの男と呂蒙が致していたことを見てしまい、入るに入れず、馬車の外で頭を抱えていた。

 

偶に終わったか様子見してるが中々終わらず、終わったと思ったらもう一つの馬車(よく見たらこちらが昼に出入りしたものだった!)から孫策たちが出てきた。

 

こちらに向かっていたので馬車の下に隠れる。

 

「流石に覗き見、しかも初めての娘のはだめよね」

 

私が覗いてるのがバレた……!?

 

いや、それなら何故もう一つの馬車から孫策たちが出てくる!?

 

わけがわからない!

 

混乱していると、

 

「もし関羽とか言う娘が服取り替えにここに来て覗いてたらどうするんじゃ?」

 

鼓動が止まった気がした。

 

と同時に覗いてるのは私以外にも居て、そちらが見つかったことに安堵した。

 

どうやって隣の馬車から情報を手に入れたかわからないがそれはあとで考えればいい。

 

「そんなこと有ると思う? 夜もかなり遅いのよ? ……でもまあ、もしそんなことあったなら……」

 

息が詰まった気がする。

 

「――彼に手籠めにさせるかしら。……元未亡人で自称性豪の旦那相手でも夜の方淡泊だったレナルルが欲しがるようになるくらいの手管よ?生娘じゃもう忘れられなくなると思うわ」

 

「そういえば旦那様にレナルルさん未亡人って言ってなかった。……まああの男はろくでなしの穀潰しだったし、知らない忘れた方が幸せだから良し!」

 

そう言いながら馬車の中に入っていく孫策たち。

 

………………明日改めて服の取り換えをお願いしよう。

 

また覗き見したいという、あるまじき衝動をなんとか抑え、私は自分の天幕に戻ることにした。

 

……覗き見した後ろめたさ、打ち明けたら楽になるだろうか……。

 

*1
ザミエルの髪型を真似ているらしい



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第二十話 小沛にて

――side ラインハルト

 

あれから数日。

 

何故か真名を預けてきた関……愛紗がいたり、交換条件達成したのに『自分はまだ満たしていない』と言い出して亞莎が見せたこと無い不機嫌そうな顔をしていたがそれはさておき。

 

道中何度か黄巾賊のはぐれらしいやつと接敵したが兵力差などで鎧袖一触したりして進んでいる。

 

そんな感じで小沛までやってきたが……。

 

「対黄巾賊の最前線だけあるわね」

 

「城壁はボロボロ、周囲は死体だらけ……」

 

「……」

 

曹操、雪蓮、劉備の反応はそれぞれだ。

 

特に劉備は凄惨な状況に顔を青くしている。

 

すると最前列を指揮している曹操軍の隊長?らしき人がやってきた。

 

「どうした」

 

「代表者を見て判断したいとのことです」

 

「助力しにきた相手にえらそうに……!」

 

荀彧が憤慨してるけど、曹操はそれを視線で黙らせる。

 

「……私と孫策、劉備に護衛としてラインハルト。この4人で行きましょうか」

 

「まあ、妥当ね」

 

「愛紗ちゃんが信用できるって言ってるし……お願いします」

 

「これが数の暴力か」

 

雪蓮にドナドナされて4人城門前に降り立つ。

 

「お前たちは何者か!」

 

門の上から武人らしき姿の人が問いかけてくる。

 

「我々、皇帝の勅にて黄巾賊討伐にきた揚州牧孫伯符!」

 

「同じく、兗州牧曹孟徳!」

 

「義勇軍劉玄徳!」

 

「……亡き徐州刺史陶謙が名代、陳珪様より許可が降りた!貴公らの入城を認める!」

 

武人の言葉に門が開かれる。

 

兵士たちが入城していくが

 

「これで既に黄巾賊に小沛落とされてて、入場おえた途端内外から包囲されたら手痛い被害受けそう」

 

「……もし、斥候たちが数日前に黄巾賊と殺し合ってるのを見てなかったらその可能性が頭に過ったかもしれないわね」

 

「……」

 

私達はそのまま小沛に入城したのだった。

 

 

 

 

 

 

「手狭でごめんなさいね」

 

迎えたのは左右に勾玉の陰陽の片割れモチーフの髪飾りをあしらった、濃い蒼色の髪をした美女である。

 

……コレで経産婦というのだから世の中わからんものである。

 

手狭と言われたため、先程の4人+荀彧、亞莎、諸葛亮の3人を追加した7人で赴くと、城の応接室に案内された。

 

劉備、曹操、雪蓮の3人が椅子に腰掛け、それぞれの参謀がその後ろに、そして私は扉傍の壁でソレを傍観するような立ち位置だ。

 

対して陳珪側は娘である陳登と……

 

「……プレミアに……ティア……?」

 

黒髪の前髪ぱっつんのショートに金色の髪飾り、ライトブルーの瞳をした10代前半の少女(プレミア)とその少女の髪色を白に反転させ、およそ6~8年ほど成長させた姿の(ティア)の姿をみて思わずこぼす。

 

とある仮想現実世界の一つ(SA:O)にて、黒の剣士とその仲間が邂逅した少女たちだ。

 

「!?」

 

「私達のことを……ご存しなのですか?」

 

「……伝聞がほとんどが、多少は識っている」

 

「教えてください! 私達が何者なのかを!」

 

「……申し訳ないけど、ふたりとも後に「約束したはずです! 私達が何者か知るために協力して援助する、その代わりに力を貸せと!約束を違えるつもりで!?」……わかったわよ。ただし、こっちは話があるから外でやって頂戴」

 

「わかりました」

 

「ええ、わかったわ」

 

私は両腕を掴まれたので振り向いて

 

「私にも聞けるようにしておいてくれ」

 

ソレだけ伝えておいた。

 

そして片耳にイヤホンをつけつつ、連行された――。

 

 

 

 

――side 雪蓮

 

私は端末を起動し、ラインハルトとの通信を始める。

 

「……さて、話の続きと行きましょうか。――まずこちら……ああ、二人がどれだけ情報開示するかはお任せするわ――私達孫伯符の軍勢は歩兵2万に弓兵の兼業が1万の合計3万。――物資については実質青天井。――その気になれば100年でも籠城できる」

 

「なっ!?」

 

「いやそれあの人頼りなんでしょ?」

 

「私達だって、条件をうまく使えば無制限にできるんですから!(あと怖いですけど)」

 

アタシの言葉に陳珪さんは驚いたけど、曹操と劉備の部下の諸葛亮が指摘してくる。

 

彼の財は私も使えるから*1。――乱用するとロクな事にならないらしいけど。

 

「……それは本当で?」

 

「嘘言ってどうするのよ。――ほら、コレでどっ!……う?」

 

手のひらを皿のようにして、虚空から金の延べ棒を受け止め――重っ!

 

慌てて力入れて体勢ととのえてから、目の前の机にドンと置いて見せる。

 

「……本物の金でできた棒みたいですね」

 

「やろうと思えばこの城をコレの山で破壊もできるんだけど、どうする?」

 

「雪蓮様、流石にラインハルト様に怒られるのでやめましょう?」

 

あれー? 私主なんだけどしれっと亞莎が首元に暗器突きつけてきたわ。

 

……彼の狂信者のほうが正しいか。

 

「……主従揃って、できないとは言わないのね」

 

「もしソレが本当なら、この国の金の価値が大暴落するのでは……?」

 

「あの人の力が孫策さんにも使えるなら、私達も使えるんじゃ……? 出ない」

 

「何らかの権限をラインハルトさんから付与されないと今の孫策さんのマネできないみたいですよ?」

 

『……あとでお仕置きな』

 

どこからともなく聞こえた声に、いつの間にかすり替えられていた耳飾りが通信機対応してたのを思い出して口がひきつる。

 

「……ラインハルト様がお仕置きを決定されたのでこの場でなにかするのはやめておきます」

 

そう言って亞莎が武器をしまう。

 

「えっと……兵士は3万、物資の方は心配不要な量あるってことね?」

 

陳珪の言葉にうなずく。

 

「次は私ね。――兵士は歩兵2万に騎兵と弓兵が4000ずつよ。物資は陳留からの補給路経由で定期的に受けてるわ。最後に受けたのが昨日。一応半月持つようにしつつこまめに補給してるわ」

 

「騎兵かぁ……後方の撹乱とかに使えると楽ね……」

 

曹操の言葉に陳珪がうなずく。

 

「私達は義勇兵で兵力は……その、2千……です。代わりに私の配下なら食料に加え、武具や消耗品を無制限に使える契約をさっきの人と交わしてます!」

 

「なので、契約の解釈を使えば『城にいる兵士や義勇兵にも食料、武具に消耗品をほぼ無制限に提供できます』が……」

 

劉備の言葉と諸葛亮の発言に陳珪が察したようだ。

 

こちらは物資の支援できるぞ、と言っていることに。

 

……それ実質、ラインハルトから支給されたものの横流しなんだけど……大丈夫なのかしら。

 

『残念だが形式だけでも劉備配下になっているなら適応対象になる。――まあ条件の追加を互いに禁止していないのでな、適当に条件追加して不履行による強制解除はできるので、私視点目に余る場合は強硬手段を使うつもりだ』

 

しれっと解説されて複雑な心境。

 

「――何がお望み? できることは限られているけど」

 

アタシたちも何かを言おうとしたけど、目で『まずは彼女たちの条件を聞いてから』と陳珪に告げられたので黙る。

 

「そうですね……『形だけ配下になること、あと中央と渡りをつけて』くださるならそれで」

 

「……そうねぇ……」

 

こちらを向いて次は私達の番らしい。

 

さて、どう条件をつけ――うん?

 

扉の方から足音がしたのでそちらを向くと

 

兵士が扉を開き、息をきらして駆け込んできた。

 

「大変です! 推定敵兵数10万! 数刻以内に到達します!」

 

「なんですって!?」

 

「……城の兵数は?」

 

「一万も居ないわ。――いえ、ソレより厄介なのは城壁や城門がかなり損傷してるから、防衛中に崩れてそこからなだれ込まれる可能性も……」

 

曹操が問いかけると焦るように陳珪が告げる。

 

私の方を向く曹操。

 

「……ここは打って出ましょうか」

 

「ええ。――籠城なら守りながら反撃の隙を狙う事もできるけど防衛拠点が正直心もとないわ。それに私と孫策合わせた時点で兵数は向こうの半分以上あり、質は間違いなくこちらが上……でも兵士全員城にはいってるから完全な野戦は無理か」

 

野戦を選びたいが、展開が終わるより先に敵が城に張り付くほうが早い気がする。

 

「では変則的ですがこちらの案を――」

 

諸葛亮が即座に案を提示してきた。

 

「いや、その案だと――」

 

「ならばこの形で展開すれば――」

 

荀彧、亞莎も負けじと案を提示している。

 

知恵袋いるのは便利よね。

 

……早く冥琳、良くならないかしら。

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

「――というわけだ」

 

「「…………」」

 

私が知り得る情報を提示したところ、二人は複雑そうな顔をしていた。

 

……本当にふたりとも名前と互いが身内であるコト以外エピソード記憶*2が完全に欠落しているらしい。

 

「……あと、おそらくだが……元の世界に戻っても、意味はない」

 

「何故です?」

 

「……あまり言いたくないが……卿らがそれぞれをもとに作られた分身の可能性が高いからだ」

 

「「……」」

 

ふたりとも考える素振りを見せる。

 

「なら、わたしたちがいる意味はなんなのでしょうか」

 

「そうね……その仮想現実に戻れないなら、いる意味は……ちょっと待って」

 

ティアがこちらを見る。

 

「貴方の話と映像見る限り『キリト』という人の視線で話してる。それでさっき伝聞でと言っていたわね。――何らかの手段でキリトを通じて私達を知っていた……ゲーム、そうよ、貴方がゲームのプレイヤーで、キリトがアバターなら辻褄が」

 

綴命の錬金術師の有名なセリフを言いそうになったが抑える。

 

「その仮説が正しければ、彼の愛人になることがキリトの愛人になることと同意義になりますね」

 

「…………さすが桁違いのリソースを持ったAIだ。――今は違うようだが、頭の回転の速さは変わらぬようだな」

 

私は両手を上げて降参のポーズを取る。

 

「……私達に話しかけたのは……後悔や罪悪感があったのかしら?」

 

「ああ。――すまない」

 

ティアの言葉に素直に謝罪する。

 

「先程からおそらくや多分などの類推を使っていましたが全部知っていてあえて誤魔化していたと?」

 

「そのとおりだ」

 

プレミアの澄んだ目を見ていたら嘘をいう気も無くした。

 

「ちなみに愛人などは?」

 

「……露骨な格付けは後に響くと思ってな、一応の序列を作った嫁たちがいるだけだ」

 

「そこに私達もいれてくれるのかしら?」

 

「……卿らが抜けたらここの防衛が詰むだろう」

 

私は余計な揉め事を持ち込まれては困ると思っていたら、口が勝手に喋っていた。

 

「なるほど。ではここの領地が安定したら、そちらに合流します」

 

「それなら文句無いわよね?」

 

「……なるべく穏便にな」

 

私の言葉にうなずく二人。

 

「なるべく」

 

「穏便にやります」

 

などと会話していると、雪蓮から追加で連絡が来る。

 

『迎撃戦の作戦決まったわ、私達は北に展開するから、急いで合流して頂戴!』

 

「うむ、分かった」

 

私は通信を切り、二人にまた後でと伝えて窓から飛び出す。

 

そして屋根伝いに北門を目指すのだった――。

 

*1
獣注:制限かけてるため、出せるのは食物か金か剣の近接武器のみ

*2
個人的な出来事や経験を記憶したり思い出したりする場合の記憶である



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第二十一話 黄巾党迎撃戦(小沛防衛戦) 準備編

思った寄り話が膨らみました。
ではどうぞ。


――side ラインハルト

 

現場に駆けつけると、北側城門の外に雪蓮たちが軍の一部を展開させている。

 

イオンも指揮を何故か取っていた。

 

「あなた!」

 

イオンが私に気がつくと抱きついてきた。

 

「私も前線に出る。城に収容する故、待っててくれ」

 

「……っ! ネイちゃんやカノンさんなら一緒に戦わせてくれてたんじゃないの……!」

 

「ああ」

 

「……悔しいなぁ……どこでも、貴方の隣にたちたいから。……でも我慢だよね」

 

「……1つ方法はある。だが残酷にして血にまみれた道だ。……後に詳細を教えるが……できればその道を選んでほしくない」

 

私はそう言いつつ、彼女を城に収容する。

 

「ラインハルト!」

 

雪蓮が駆け寄ってきた。

 

「作戦は聞いている。城の耐久と全員入場状態を考えればやむをえんが」

 

敵は東から進軍中してきている。

 

順当にいけば現在一番被害の大きい東門に最初に貼り付くと予想される。

 

対してこちらは北側に孫策軍、南に曹操軍を一定数だして城沿いに貼り付けておき、敵が迫ったら一気に残りの出陣と共に展開して、現代で言う鶴翼の陣を展開。

 

敵からすれば急に敵が増えたように見えるのでその動揺する隙を狙い、包み込む様に包囲。

 

城に突撃するなら小沛の兵と劉備軍が城の城壁と城門を使い防衛、逃げるなら逃げ切れなかった敵を包囲殲滅。

 

包囲殲滅後、魚鱗の陣で中央から正面突破と同時に曹操軍の騎馬隊で後方撹乱ではさみ撃ち。

 

騎馬隊撤退後、再度鶴翼で包囲殲滅を狙い、殲滅できれば上等、撃退できれば良しという作戦だ。

 

混成軍で練度などにムラがあると考えた上、できる限り役割分担出来る案がこれらしい。

 

「あ、そういえば小沛(ココ)、形式的だけど劉備軍の下に入るって」

 

「……ベイを置いておく、なにかあれば端末かベイ経由で連絡してくれ」

 

私は急ぎ東門付近に向け駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

――side 愛紗

 

「なんという無茶を! というかあの方はその場に居合わせたわけでは無いのでしょう!?」

 

私達義勇軍に割り当てられた区画に戻ってきた桃香様と朱里の言葉を聞いて、私は悲鳴に近い声を上げた。

 

いくら契約の範囲内とは言えど、知らないところで一万弱の兵分の物資が追加で必要になるのは強引すぎる。

 

単純計算で5.5倍ではないか!

 

「……寧ろ好都合です。物資を補給してもらえるなら陳珪さんに恩を売れ、間に合わないならその責を持って契約不履行として契約終了あるいはより良い条件の再契約を突きつければ良いだけなので」

 

朱里の説明を補足しつつ、雛里は賛同する。

 

「ああくそ、霊体化してでもついていくべきだった……! ……ボクの視点から言うと、その一手、招いたのは最悪の状況。この一言に尽きるな」

 

キャスターが頭を抱えてながら口を開き、私達を驚かせた。

 

「え?」

 

「どうして?」

 

「1つ、諸葛亮に出されてる条件が貸し1という曖昧な内容であること。これはどれだけ投資したかで返してもらうときに内容を相手都合で変更出来ることを意味してる。どんな形で『返せ』と言われてもこちらは拒否できない。もしできたとしてもその事実を喧伝されたら商人とかが関わりを避けるようになりかねない。取引は基本信用と金次第だからな」

 

「それは最初からなので、寧ろ今のうちにできる限りもらえるものもらい、それを有効活用するのが正しいのでは?」

 

朱里が反論するが、私は何故かこの時点でキャスターの意見が正しいと思った。

 

「2つ、あの男は昨日までの時点、『厚意で投資』しているからだ」

 

「……4人に条件を突きつけているのにですか?」

 

美花が険しい顔をするが、キャスターは首を横にふる。

 

「人1人ができる事なんてたかがしれてるだろう? よしんばそれなりの地位についたとして、そこから貸し1の返済強請られそうになってお前達仲間を売るなんてできないだろう? 地位を捨ててでも仲間を守ることを選ぶだろう。つまり貸し1の取り立ては出来て個人からが精々だ。……諸葛亮が一番負担大きいのを差し引いても4人。しかも残りの3人は物的に損はほぼ無く、黄巾賊討伐終われば事実上終了するモノだ。……これが本当に千人弱の食料や武具、消耗品を契約期間保証し続ける対価として見合うか?」

 

「……それは」

 

言葉を詰まらせた美花。

 

その姿が見合わないということを如実に語っていた。

 

「外れててほしいが、先の話し合いで諸葛亮が繰り出した策をボクたちが思いつき、使った場合まで計算に入れてるだろう。その上でどう動くか観察してるとおもう」

 

「「「「!」」」」

 

「そしてそれを見てどう動くかは……予測がつかないが、思いつく範囲だと、『諸葛亮の貸しに相当なことをふっかけてくる』か『契約の打ち切りを宣言』してくる可能性があるところだろうな」

 

「……」

 

沈黙が天幕を包む。

 

「……ん?」

 

私は気配を感じ、北西を見ると空中を駆けてくるラインハルト様の姿が見えた。

 

そして華麗に天幕内へ着地と同時にその音で全員が彼に目線を向けた。

 

「! いつの間に!?」

 

「武器を構えてどうする! 勝ち目はないのだぞ!」

 

反射的に武器を構えようとした者たちに叱責を飛ばした。

 

「……」

 

む?こちらを向いて……あ、何度か見たことある……。

 

『話をこちらに合わせろ』という旨を無言で伝えてるときの目をしてた。

 

何故知っているのかと言うと、何度か口裏合わせできなかった時にあの目を孫策やイオンという正妻殿に向け、その後にラインハルト様の語りに同調して難を逃れたのを見ているからだ。

 

私がわかったという意味を込めて頷くと、彼は語りだした。

 

「――契約に対応する配下の数が増えたようだな」

 

それとともに近くの区画の方から前も経験した揺れ――おそらく物資を何らかの方法で出現させたようだ――を感じた。

 

「物資は用意した。配給はそちらでやるといい。あと契約の対価についてだが、先日の関羽……いや『愛紗の申し出』により『愛紗が払えるモノで対応する代わりに他3人の対価をなし』とし、『愛紗を通じて契約完了まで物資の供給を対応する』こととなった」

 

そう言いながら私の元にラインハルト様はやってきて、私の耳と首に何か飾りをつけた。

 

『対価は卿が決めると良い。卿が提供できるもので構わん。それと卿がその首飾りと耳飾りをつけていれば、私と連絡を取ることも、もう一つの馬車の中を覗くことも、私の資産を取り出すことも出来る。……契約が終わったとしても私と連絡は取れるようにしておく故、困ったら連絡するといい』

 

飾りをつける間にそう耳打ちし、付け終えたら私から離れていった。

 

……やはりバレて居たのですね……!

 

覗き見してる間、何度かこちらを見て時折見せつけるようにしていたのは確信犯だったと理解し、羞恥心と前聞いたお仕置きが無い事への安堵と不満を一度に味わう。

 

「……本当なんですか? 愛紗さん」

 

「……ああ。私から申し出た」

 

朱里の問い掛けに私は頷く。

 

「愛紗ちゃんどうして?」

 

「……貸し1などという曖昧な契約では、何を取り立てられるかわかりませぬし、桃香様に負担をかけ続けるわけにもいきますまい。ならばと私が、と取引した次第。ラインハルト様もいちいちこちらに足を運ぶ労力やそれを理由にごねられるくらいなら、取引の条件に私に権限の一部を付与し、常に桃香様の側にいるほうが双方都合が良いとのことです。……また、契約の対価については詳細の他言無用も条件に入れられています。内容については答えられません」

 

「……ボクから契約の対価がなくなったということは、ボクがそちらに害為しても問題ないということになるがいいのか?」

 

威力偵察代わりの問い掛けをキャスターがしたが、アレは――!

 

「――自惚れるなよ?キャスター」

 

私達全員、急に体の重さが倍以上になったような感覚に襲われ、膝をつく。

 

「やりたければやると良い。反逆を目論む不忠も、傅いて蹲る弱者も、等しく愛しく思う。が、歯向かうならば我が手で壊すのみ。それと、劉備。私は卿らに期待をしているのだ。あまり失望させないでくれ」

 

そう言い終えると圧と共にラインハルト様の姿が消えた。

 

……いつの間にか城の城壁や城門が修繕……いや、私達が入った時のものより格段に良くなっている。

 

おそらくは……。

 

「し、死ぬかと思った」

 

「……聞いていた以上の怪物ですね」

 

「こ、怖かったのだ……」

 

皆が安堵している中、私は『宝物庫』の使い方や端末の使い方を頭に刷り込まれていることに気がつく。

 

『あと、敵が城に向かっているのに呑気にしててよいのかね?』

 

耳元で囁かれて軽く飛び上がってしまったが、同時に状況を再認識できた。

 

「桃香様! 思うところはあるかもしれませんが、考えるのは敵を退けてからでも遅くはありません!」

 

「……それもそうだね。みんな!東門や街の東側に移動するよ!」

 

……私は桃香様や皆のため、あの男を繋ぎ止めてみせますから……。

 

 

 

 

――side 華琳

 

……指示は出した、あとは各自が考えて動いてくれるからすこし考える時間がある……。

 

……孫策曰く、あのラインハルトという男は底なしの財を持っている。

 

そして劉備を見た限り『何らかの可能性を持つ者には採算度外視』で援助する習性?がある。

 

……私には可能性が無いのかしら。それとも彼のお眼鏡に叶う可能性を持ち合わせてないだけ?

 

『少々前提が違う』

 

声を聞いてふと顔を見上げると、私以外の周囲から色が抜け落ちていた。

 

「!?」

 

しかも誰一人として動いていない。

 

『これは夢のようなものだ。信じるか否かは卿次第』

 

いつの間にか側に色の抜けていないラインハルトが立っていた。

 

「……なんのつもり?」

 

「誤解があるので訂正しにきただけだ。――信じるか否かは卿に任せよう」

 

「……聞かせてもらおうかしら? 何を誤解しているのかを」

 

私の言葉に彼は頷く。

 

「まずは卿に援助を持ちかけなかったのは、その必要がなかったからだ」

 

「……続けて」

 

「孫策は私を拾い、臣下とした。同時に男と女の間柄。多少は情があるゆえ、持ち合わせている底なき財の一端を与えている」

 

「貴方も人の心持ち合わせていたのね」

 

私の言葉に彼は困惑していたが続きを促すと渋々話しだした。

 

「劉備は1から旗揚げし、先日出会ったときには本当に台所事情が火の車だった。それと同時に義勇兵はさておき、将や軍師は私たち、あるいは卿のところの武で言えば夏侯惇や夏侯淵、知で言えば荀彧に引けを取らなかった」

 

「なら貴方が取り込んでしまえばよかったんじゃない?」

 

「……」

 

「……?」

 

急に無言になったせいで調子が狂いそうになった。

 

「……目先の益を考えれば最善だ。だがそれは私の思い描く絵が完成しないことを意味する」

 

……劉備たちを取り込むことで頓挫する計画を彼は描いている……?

 

「……その話はどうでもいい。今重要なのは卿だ」

 

「……私?」

 

なにかあったかしら……?

 

「ああ。卿が望み、それに見合う対価を私が提示する。双方が納得すれば契約締結だ。卿だけ契約しないのは公正なのかもしれぬが、平等でも、公平でもないのでな」

 

「……あら、ならどう足掻いても負ける絶望的な戦いを一回、ひっくり返してほしいとしたら何を対価に求められるかしら?」

 

「……その時が来ることが無いのにそれを論じるのは不毛だ」

 

彼が首を横にふる。

 

――つまり彼は――。

 

「……そう。それが聞けただけでも満足よ。万策を尽くし、窮地でも命を諦めず、最後に立っていれば負けとは言わないものね」

 

「だろうな。……時間を取らせた。お詫びの品だ。私と話をしたければその耳飾りをつけると良い」

 

いつの間にか手のひらに銀色の小さな涙の形をした耳飾りを私は握っており――

 

「――様!――様!――華琳様!」

 

気がつくと私を揺する桂花の姿が。

 

「どうしたの?桂花」

 

「急に椅子にもたれかかったかと思ったら声をかけても反応しなくなったので困っていました!」

 

「……すこし、眠気に誘われたようね……?」

 

右手に何かを握っていることに気が付き、そちらを見ると、夢?の中でいつの間にか持っていた耳飾りと同じものを持っていた。

 

「……あの、華琳様?それはいつからお持ちに?」

 

「ついさっきかしら」

 

桂花の言葉に答えながら私は耳飾りをつけてみる。

 

不思議と重さを感じさせず、違和感もない。

 

「どう?」

 

「似合ってると思いますが……ついさっきとはどういうことで!?」

 

「今はそれどころでは無いでしょう?――気が向いたら、閨で話してあげるから」

 

私が囁くと桂花は元気よく指示を飛ばし始める。

 

……彼の描く未来は私の思い描く未来と違う。

 

どちらの形になるのか、あるいはどちらにもならないのか……来る未来を怖いようで、期待している自分が居た……。

 




高評価お待ちしてます。


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第二十二話 黄巾党迎撃戦(小沛防衛戦)と後始末

――side ラインハルト

 

「全軍、展開!」

 

雪蓮の言葉に兵士たちは怒号をあげて駆け出し、勢いよく鶴翼の片翼を形成していく。

 

私は小沛城壁の北東端にてその様子を確認しつつ、作戦実現のために曹操と雪蓮(と愛紗)に情報を提供してる。

 

「敵先頭東門よりおよそ1里。敵最後尾1里と四半の三里ほど。予想よりかなり詰まっている」

 

『今更作戦変えられないわよ!?』

 

『何か策があるからそこに居るんでしょ?』

 

鶴翼形成してる二人から悲鳴じみた声と信頼してるっぽい問いかけがきたので脳筋案を提示することに。

 

「最後尾1割を残して分断。追い立てながら間引こう。曹操は5回落雷が敵後方に見えてから騎馬隊を動かせ。」

 

私は矢を番えて、敵の後方へと放つ。

 

着弾と同時に落雷と爆発が起こるが気にせずに次射装填し、発射する。

 

5回の攻撃で敵の最後尾およそ1割と残り5割を分断。残り4割は感電死か爆死で死んだと思われる。

 

それを見て、逃げ出す末尾1割。

 

しかし残りの進んでいる黄巾賊は止まらない。

 

否、止まれない方が正しいだろう。

 

後のものからすれば引けば先の攻撃が自分に届くかもしれないと恐怖により前に押しかけ、前のものは後ろに押されて止まれないのだから。

 

私は躊躇わずに狙撃して追い立てと間引きをしながら鶴翼の中に敵を押し込む。

 

そして騎馬隊が後方に蓋をしたのを見計らい、不可視の弾ける矢で敵兵を狙撃し、敵に恐慌を発生させる。

 

「敵は恐慌で浮足立っている。兵数も互角以上、あとは卿らで何とか出来るだろう」

 

『ココまでお膳立てされて』

 

『負けたら洒落にならないわね!』

 

『城壁に取り付いた賊は我々が対処します!』

 

3人の答えを聞いた私は、適当に安楽椅子を用意し、残る成り行きを見守ることにした。

 

 

 

 

 

――side 華琳

 

あれから体感で一刻と少し。

 

「包囲した敵の殲滅を確認。包囲しきれなかった敵は既に逃走済。……我々の勝利です!」

 

桂花の言葉に頷く。

 

「皆のもの、勝鬨を上げよ!」

 

「「「えい、えい、応!!!」」」

 

私達の周りの兵の言葉に他の兵たちも反応して勝どきの声が広がる。

 

「一先ず城に戻りましょう。……全軍撤収!」

 

私は命令後、兵士たちと共に城へと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

――side 陳珪

 

「皆様のお陰で敵を撃退することができました。誠にありがとうございます」

 

私は3人の前で頭を垂れる。

 

「私は状況変更にも対応してお膳立てされたのに乗っかっただけ。感謝ならあの人にして頂戴」

 

孫策様はそういって入口側で佇んでいるラインハルト、と呼ばれた男を示す。

 

劉備経由とは言え、膨大な食料と武具に消耗品を提供してくれたと聞く。

 

「私が渡すと決めたわけではない。礼を言われても困る。……こちらとしてはプレミアとティアが付いてくると言い出していることに申し訳無さをかんじているのでな」

 

いつの間にか彼の左右に侍る姉妹?をチラ見するラインハルト殿。

 

「……その申し訳無さに漬け込んで、私と一緒に徐州を守護する守護者になってもらいたいところですが」

 

「流石に無理だ」

 

「ですよね」

 

「だが朗報はある」

 

朗報?

 

「詳しくは当人から聞くべきかと」

 

そういって孫策の方を向くラインハルト。

 

「……ああ、アレね!」

 

完全に忘れてたような反応してたのだけれど?

 

大丈夫かしら……。

 

「後詰めとして4万5千前後の兵を寿春に集結中です。予定通りなら、今日明日にも出立すると思われます」

 

「なんですって!何でその兵も連れてこなかったのよ!こっちはアレで出せる全部なのに!」

 

曹操が立ち上がる。

 

「地理的要因もある」

 

ラインハルトが指を鳴らすと、4人の真ん中にある背の低い机に揚州とその周辺の地図を出現した。

 

「揚州は廬江と寿春以外の長江の南にあり輸送にも時間かかる。隣接しているのは交州、豫州そして兗州と徐州。兗州は卿が黄巾賊討伐しており平和、豫州も州牧袁術……ではなく許昌の董卓の積極的により討伐されて平和。そして交州は流刑地で蜂起する者は居ない上妖怪と名高い士燮が目を光らせている。徐州は兗州または長江のどちらがを超えねばならんのが壁となっている。そして山越も気にはなるがおとなしい。念の為懸念のある箇所には兵を貼り付けているがそれを差し引けど余力は有る」

 

彼は再度指を鳴らし、兗州の地図を出して見せる。

 

「対して兗州は徐州と隣接し、逸れた連中の討伐に奔走し、西の司隸に黄巾賊を通さぬために監視を念入りに配置している故、今連れてる以上難しい。違うかね?」

 

「1ついいかしら?」

 

私は流石に無視できずに確認をとる。

 

「む?」

 

「こっちの地図……兗州の地形だけじゃなくて軍事拠点とか州軍の巡回経路書いてあるみたいだけど?」

 

しばらくの沈黙が場を支配して彼が素で間違えた事がはっきりした。

 

「……兗州の防衛網丸裸とか最悪ね。これ他所に流出してもいいように防衛網の再構築しないとだめじゃない」

 

頭を抱える曹操。

 

「というかいつ作ったんです?」

 

素の疑問を投げかける劉備。

 

「数日前から作り、今朝完成させたところだ」

 

「は? 梨晏も巻き込んで全員でくんずほぐれつ相手したのに返り討ちにして、全員力尽きてる横で地図描いてたの!?」

 

雪蓮が立ち上がる横で、曹操が窓の外を眺める。

 

「……色欲で混沌とした現場で作られたと聞くと、なおさら複雑なんだけど……」

 

曹操さん、私もそう思うわ……。

 

「……あのーそろそろ話戻したほうがいいかなーと思うんですけどー?」

 

劉備の言葉に一同が落ち着く。

 

「とりあえず後詰めが来る事はわかりました。……彼らの一部に復興や領内の治安維持協力を許可していただけるのでしたらありがたいのですが」

 

「……うん。大丈夫よ。――念の為誰か置いていく?」

 

「……誰を置いていっても揉めるだろう。私の方から適当に人員出しておく。後で紹介する故、適当に部屋をあてがって置けば後詰め到着まで勝手に仕事するはずだ」

 

孫策の言葉にラインハルトが対応して私に告げてきた。

 

「は、はあ……その程度なら」

 

……ラインハルトと孫策に別系統の家臣団がいるみたいね……。

 

「では後詰め到着見届け次第」

 

「暇を頂きますね」

 

「ええ。分かったわ」

 

やはりだめか……。

 

「あと死体は可能な限り焼却するほうが良いのだが……」

 

「基本土葬なんだけど……理由がありそうね」

 

ラインハルトの言葉に曹操が指摘しつつ、続きを促した。

 

「人の死体は疫病の元だ。……一人なら被害はあまりないが、あの量ではしばらく東側は田畑として使えんくなる」

 

土いじりが好きな喜雨をどうなだめるべきか……いやそもそも。

 

「……まあ元々城壁内外に死体だらけだったし……」

 

ソレどころじゃなかったので……。

 

「一段落した以上、死体を弔うべきだろう。私としては明日明後日で死体を弔ってから出立しても遅くないと思うが……」

 

「……そうね。アタシは残ろうかな」

 

「私も残ります。――ここの物資も追加できる限りしておきたいので」

 

「……ここは同調圧力に流されておきましょうか。私も残らせてもらうわ」

 

……滞在日数が増える分、私としては交渉したりする機会が増えるし、好都合だから良いか……。

 

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

夜、用意した天幕の一つにて私は――1/700プリンツ・オイゲンのボトルシップを作っていた。

 

全長303mmの作品をボトルシップにするのは些か無謀だったかと思い始めた頃、天幕傍に気配が現れる。

 

「……愛紗です」

 

「入ると良い」

 

私はボトルシップがあるテーブルを横に避けて、新しいテーブルを召喚しつつそう告げる。

 

「……なにかなさってる途中でしたか?」

 

「構わん。暇つぶしだ。……さて、なにようかね?」

 

私が茶を用意し、ソレを対面の席に置くと彼女は椅子に座りお茶を飲む。

 

そして何度か深呼吸してから意を決したように告げた。

 

「……何度も覗き見した非礼の詫びと物資援助の対価を支払いに。一晩私を差し出します」

 

「私とそういう関係になるのは、背反行為ではないのかね?」

 

「背信行為? 私は先程言った通り非礼の詫びと援助の対価を払いに来ただけですよ?――そしてあわよくば貴方との契約の更新を目論見交渉をしているだけです。それに朱里の……諸葛亮の対価に我々が立ち直れないようなものを求められる可能性を考えれば誤差では?」

 

「ソレはそうだな。――まあいい。――劉備軍に潰れられては困るのでな――」

 

 

 

 

 

――side ???

 

……ラインハルトは劉備配下の関羽を使って誘導している……?

 

なんのために?

 

何を見据えているの?

 

……生娘らしい昼見た限り真面目の極みみたいな彼女をあんなふうにするあたり、手管も相当みたいね……。

 

…………手を出したらただじゃ済まないでしょうし、やめておきましょう。

 

代わりに娘を差し出したら喜ぶかしら?

 

 

 



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第二十三話 小沛にて

――side ラインハルト

 

「農業書が欲しい?」

 

小沛の死体処理と城壁修復などの陣頭指揮をしていると、陳登がやってきてそう告げた。

 

「そう。貴方本もたくさん持っていて、この大陸以外の農業書があると聞いた。田畑をより良くしたいんだ」

 

「……1つ言いたいことと、複数の問題がある」

 

「タダで見せるわけにはいかないってことと、翻訳出来るのかってこと? 大秦の言葉なら翻訳は少しなら出来る」

 

「しれっとタダで読もうと思ってるあたり……まあいい。その上で複数問題がある。私の持つ農業書は間違いなく今の大陸含め、この世界で最先端のモノだと言える。が、大秦の言葉とは違う言語な上、前提知識が無ければ翻訳できたとしても意味がないのだ」

 

「……どういうこと?」

 

首を傾げる陳登。

 

「生物学、化学、地質学……生き物に関する学問、バケガクという物質の変化に関する学問、2つを踏まえた土に関する学問をある程度理解してる前提で書かれている。……卿はいずれも初めて耳にするだろう?」

 

「うっ……」

 

「それを学ぶ環境は? それも私に頼むならば私の時間を相当削ることになるのだが、それでも何も無いと言われれば流石に拒否したいところ。……独学で学ぶのは茨の道など生温い言葉では済まん故、諦めてもらいたい所だ」

 

「でも……!」

 

「どのみち明後日には出立する。必要な知識を得るための時間を加味すれば私についてきて学ぶ他無い。がそれはすなわち、徐州を離れて学ぶ事を意味する。対価とその覚悟、両方揃えてから出直すと良い」

 

「……」

 

暫く立ち尽くしていたが、間もなく走り去っていった。

 

「……辞書とかあるだけじゃだめなの?」

 

しれっと雪蓮が現れて私の背中に飛び乗る。

 

何処まで聞いていたのやら。

 

「同じようなことを言った雷火や穏が挑戦した。結果雷火は前提知識の翻訳途中で力尽き、穏も時間さえかければ翻訳はできそうだが、独学だと書いてあることを正しく理解する前に寿命が来る気がすると断念した」

 

「知識欲旺盛なその2人が駄目なら無謀だわ、うん」

 

納得したように頷く。

 

「……それはそれとして、あの娘付いてくとか言い出したらどうするの?」

 

「それはない……と言えないのがな……。抱くこと条件にしたら諦めると思うかね?」

 

私の言葉に少し考える雪蓮。

 

「あの手の人間は目的のためなら貞操くらい安いものってなりそうな気がするのよね……」

 

 

 

 

 

 

――side 陳登

 

「無理ね」

 

「寧ろ中途半端な知識で却って後々検証などに影響が起きるかと。……どちらにしろ私達も1月以内にあの人の後を追い暇を貰う予定なので教えられることはないですね」

 

ティアとプレミアの言葉で崩れ落ちるボク。

 

彼の知り合いならば知っているのでは?と思い、ダメ元で聞いてみた結果が先の言葉だった。

 

「何してるの?」

 

振り向くとそこには母……陳珪がいた。

 

「別に……」

 

「ラインハルトが農業書を持っていると聞き、見せてもらおうとしたところ読み解くのに必要な知識がないと断られ、私達にその知識があるか聞きに来て無いと知り崩れ落ちてるところです」

 

……プレミアに総てバラされて居た堪れない気持ちになるが、足が動かないので顔をうつむける。

 

「……どうしても知りたいの?」

 

「……そこにもっと豊かにする知識があるはずだから」

 

ボクの答えに少し考える素振りを見せてから、母は口を開いた。

 

「勉強一段落したら、一度戻ってくること。その後は好きにしていいわ。あと年に一回以上、徐州にいるなら顔を出して、徐州を離れているなら便りを出すこと。約束できるなら私も掛け合うの手伝ってあげる」

 

「……どういう風の吹き回し?」

 

変なもの食べたかなとボクが首を傾げてると

 

「可愛い子には旅をさせよと言うけど、貴女だと賊に勝てるか怪しいから止めてただけ。あの人なら一度懐に入れた相手は無碍にしないと思ったからよ」

 

「……とりあえずその言い分信じるよ」

 

裏がある気がしてならないのは気の所為……ではない気がする。

 

だけどボクがあの人と交渉してもあしらわれるだけだろう。

 

「代わりに……彼と男女の関係になるのできるかしら?」

 

…………?????

 

「必要ならやるしか無いけど……なんで???」

 

「冷静に考えてみて。武力と財力は有り余るほど持ち合わせてる。偶にうっかりをしてるけど基本頭も切れて多才。そして彼は複数の相手と関係を持ってて、つい昨日には別の陣営である関羽とも関係を持ったわ。……そして懐に入れた相手には甘い……。ならそういう関係になるのが手っ取り早いかなって」

 

理にかなってる。

 

ボクに少しだけ残ってる女としての矜持が「それはどうなの?」と言ってるが、それで彼の持つ進んだ知識が手に入るなら『安い対価』だ。  

 

「――その取引のお手伝い、しましょうか?」

 

声の方を向くと奇妙な体勢でこちらを見ているプレミアとティアが居た。

 

「……何か裏が有りそうなんだけど……」

 

「お互いの利益を考えての提案よ。1人より2人、2人より4人の方が負担は少ないから」

 

負担?

 

「……彼、性豪なのよね。孫策配下の女性たち全員相手でも返り討ちにしてるから」

 

……初耳なんだけど?

 

「あと、夜交渉中に邪魔されないためにも、孫策さんたちに根回しするべきです」

 

それはそう

 

「一応あの人たちと話し合いできるくらいに友好関係を作ったし、そういう相談も何度かしたわ」

 

なるほど?

 

「なら根回しを済ませましょ。……できれば今夜に交渉できるようにしたいわね」

 

……いつの間にか4人でというのが確定してるけど、あの人は拒否しないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

夜の帳も降りた頃、雪蓮がやってきた。

 

かと言っていつものように始めるわけでもなく、何かを待つように宝物庫から漫画(ボーボボ……?宝物庫のチョイスはやはり何かおかしい)を流し読みして理解できない〜とぼやいている。

 

それを理解できるのは極少数なのでなんの問題もないぞ、雪蓮。

 

などと思っていたら、天幕の端から4人の人影が入ってきた。

 

「………そういうことか」

 

私の言葉に雪蓮は舌を出して可愛らしいポーズするが騙されんからな。

 

「……交渉したいけどいい?」

 

私は椅子に深く腰掛け、返事の代わりに向かいの席に座るよう促す。

 

それに頷いて席に付く陳珪、陳登親子にプレミアとティアの姉妹。

 

隣の雪蓮が面白そうにそれを見ている。

 

「……ボクは貴方から貴方の知る農業の知識を知恵を学びたい」

 

「対価は?」

 

「手付金代わりに今夜一晩ここの4人を好きにしていいし、勉強してる間、ボクのこと好きにしていい。それと必要なら文官としての仕事もする」

 

「貞操を投げ捨てても欲しいのかね?」

 

「――勿論」

 

「どうなっても知らんぞ?」

 

「覚悟の上」

 

「ココまで言ってるんだから、無碍にしないの」

 

いつの間にか準備万端な雪蓮の姿、そして4人の姿に私は手加減不要だな、と独り零した……。

 

 

 



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第二十三.五話 その頃寿春では

この話の要約
ゆりねたちの現状ちら見せ。
寿春に袁術(と董卓)襲来。
(主に袁術のせいで)寿春で名代してる屑兄さんのストレスがマッハ
恋、ねね、霞、華雄は邪神ちゃんとゆりねと面識を持つ。
董卓軍の将軍たち、夜更かしした。

それではどうぞ。


――side ゆりね

 

「ゆーりーねー、暇ですの」

 

私が使う部屋にて、近くの地べたで這いずっている邪神ちゃんがこちらを向いてそうこぼしていた。

 

「仕事したら?」

 

「悪魔に労働とかナンセンスですの」

 

わかってないみたいなポーズ取ってきてむかついたが深呼吸。

 

「ミノスはトレーニングついでって瓦礫撤去と建築作業の手伝いしてるし、メデューサはハイドリヒ卿から渡された魔眼殺し*1の耳飾りの費用とアンタの交遊費のために城で経理の手伝いしてる。ついでにセイバーは兵士の鍛錬のアシスタントしてるし、エーリスは屋敷と城の掃除や整理整頓。アーチャーは食料庫ネズミ対策の猫探ししてるわ」

 

「アーチャーのは仕事なんですの??? ……それはそれとしてゆりねとあのブリジットとか言うやつはなにしてるんですの?」

 

「私たちは勉強してるの。何故か言葉が通じてるけど、読み書きには対応してないから。書類仕事やりたいけど、読み書きできないと話にならないでしょう?」

 

私は漢字を知ってて文法が英語と大体同じ*2で漢字の意味もある程度はわかるから、まだ良いけど……。

 

ブリジットは私に負けたくないのか、城に在中してる黒円卓?のお兄さんに聞いたりして猛勉強している。

 

「……でもそれならおかしいですの。昨日ゆりねが街で菓子とか買ってる姿見ましたの。働いてないとお金もらえないはず。……はっ、まさかあの男(ラインハルト)相手に枕営業!?」

 

私は壁に飾ってあった太刀を取り、ためらいなく抜刀し振り下ろした。

 

飛び散る鮮血と邪神/ちゃん*3になった邪神ちゃん。

 

「そんなわけないでしょ。……読み書きの勉強でお小遣い程度の賃金を渡されてるし、習熟度テストで『できる問題』を取りこぼさずに解いたり予習しないと解けない問題解いて点数稼いで想定点数を上回ると追加報酬もらえるのよ。あとは屋敷の管理予算からのこった肉まん数個買えるくらいのお金をブリジットと山分けしてるくらいかしら」

 

「か、管理予算……横領……」

 

息も絶え絶えなのに……。

 

「小狡いこと良く思いつくわね。残念だけど薪や衣服洗濯用の道具類消耗品にエーリスの掃除費用差し引いたら殆さっき言った程度しか予算残らないわよ。普通に働けば私のいまの収入よりたくさん稼げるわよ」

 

「めんどくせー……ですの……」

 

私は手元にあった電卓で日本円換算したそこそこの仕事の日給を入力する。

 

「……日本円換算、2人の仕事は一日でこれ以上の稼いでるわよ?」

 

その金額を頭動かして覗き、驚いて飛び上がる邪神ちゃん。

 

「は!?一週間あればゆりねからもらってた金の1ヶ月分は余裕で稼げますの!?」

 

「そうよ。しかも食費は実質ゼロ円。稼いだお金でハイドリヒ卿と交渉すれば神保町で買えたモノなら大体取引してくれるわよ?」

 

さっきの太刀とかもそうだし。

 

「それを早く言えー! こうしちゃいられない! 金稼いで 最新ゲーム機……! テレビ……! エアコン……!高級ベッド……! 買ってやりますの!」

 

「やる気出すのはいいけど、血の跡広がるのこまるから、再生シてからにして頂戴」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

――side ミノス

 

「さてと、城壁の修繕はコレでおわりかな……ん?」

 

そろそろ昼時かなーって時に、西の方に多数の人影が見えた。

 

「……揚州の後詰め……は昨日ここを経ったから違うな。もしそうだったらにしからくるのはおかしい。……とりあえず報告しないと! 親方!西から軍勢!」

 

ひとまずアタシは城壁の下で指示飛ばしてる親方に軍勢を目撃したことを告げる。

 

「数は! 旗の文字見えるか!」

 

あ、忘れてた。

 

改めて軍勢を見て、旗を探す。

 

こういうとき旗を掲げてないのは賊確定。そうでなくても見かけない旗なら警戒体制に切り替わるからだ。

 

「……旗は袁、董と張、呂に華だ!」

 

「そいつは西の袁術っちゅー州牧様と董卓っちゅう太守様の軍勢のはずだ! 念の為城のお偉いさんにも伝えてやってくれ!」

 

「わかった!」

 

アタシは城壁から飛び降りて屋根伝いに城を目指して駆け出した。

 

 

 

 

――side メデューサ

 

「そろそろ昼食だね。キリがいいところまでできたら休憩に入って」

 

「はい!」

 

黒髪の優しい顔つきのお兄さん*4が声をかけてくれたので私もあとここを添削して……よしっ、休憩しようかな。

 

私が立ち上がると、お兄さんも立ち上がった。

 

いつもドアとか開けてくれるんだよね。

 

そう思いながらドアに近づくと、お兄さんはドアに手をかけて開けようと――

 

「大変だ! 西の州牧袁術と董卓太守?の軍勢がこっちきてるぞ!?」

 

勢いよくドアを開けたミノスが半ば叫ぶようにそう告げた。

 

「おいメデューサ、あの優男のあんちゃんどこだ!?ここの責任者だろ!?」

 

「……今ミノスがドアと壁ではさみ撃ちにしたね」

 

「へ?」

 

私の言葉にミノスはブリキのオモチャみたいな動きでドアを動かして壁を覗き込んだ。

 

「…………どうしよう」

 

「ミノスが勢いよくドア開けたからだよ!」

 

「急いでたんだから仕方ないだろ!」

 

「それでお兄さん気絶させたら意味ないって!」

 

「だ、大丈夫だから……落ち着いて……」

 

お兄さんが苦笑いしながらこちらに歩いてきた。

 

……あれ?無傷?

 

「話は聞いていたから安心して。……しかしハイドリヒ卿の予想が珍しく外れたな……」

 

「?」

 

外れたと言ってるけど、来ることは想定されてた?

 

「ハイドリヒ卿は董卓だけが本命で、袁術と董卓両方来るのは第二の想定だったんだ。――ふたりとも少し早いけど今日は帰って、しばらく屋敷で他の仲間とともに待機してもらってていいかな?」

 

「は、はあ……」

 

「あんちゃん一人で大丈夫なんか?」

 

ミノスの言葉にお兄さんは肩をすくめた。

 

「まあ――黒円卓の胃痛会議に比べたら痛くも痒くもないかな」

 

 

 

 

 

 

 

――side 賈駆

 

袁術の命令で主だった将と共に徐州と青州を占領中の黄巾賊討伐に行くことになったボクたち。

 

途中袁術が治めていた(そして重税課しすぎて黄巾党と連動して反乱起こした)寿春の近くを通るため、袁術が補給(という名タカリ)すると言い出した。こちらも兵の休憩を考え、寿春の街を訪れたのだが……。

 

商人から聞いた話しでは城の周りで反乱軍がやりたい放題やっていたため、荒れ放題になってるという話だったが、路地裏などにも死体は無く、街の中で戦いが起きた後とは思えないくらいキレイで整った街並が広がっていた。

 

「――ようこそ、寿春へ。孫伯符揚州牧名代、カイと申します」

 

そして城へ招かれたのでボクと月(董卓)、袁術と張勲で行くと、黒髪の偉丈夫がボクたちを迎え入れた。

 

「うむ、くるしゅうない」

 

「現在復興中なので滞在する場所を用意するのが精一杯ですが兵士たちを休ませるなら可能な限り手配しますよ」

 

「滞在中の兵士の食事などは」

 

「申し訳ありませんが……物資を支援してる廬江が黄祖に攻撃を受け、ソレに対する反抗軍を出撃させたため、余剰物資があまり無いのです」

 

「『あまり無い』なら少しはあるんじゃろう? その少しで良いんじゃ。譲ってたも」

 

……名代の男の顔が引きつった気がした。

 

「……」

 

月もドン引きしてるんだけど。

 

「(あのお兄さん、青筋立ててない?)」

 

月の小声で額を見ると、端っこに小さい青筋が出ているのに気がついた。

 

よく気がついたわねと現実逃避しかけたが

 

「なんじゃ? 余裕があるんじゃろ? ほれ、はよせんか」

 

「……目録が無いので出立までに準備しますね」

 

作られた笑顔からにじみ出る彼の怒気が無理やりボクを現実に引き戻す。

 

「そういうのは妾たちが来た時点で用意してあるのが普通じゃろうに」

 

やめて袁術!

 

笑顔に見えるけど、あの人のボクたちの見る目までゴミ見るような目になってるから!!!

 

「あの、お嬢様? どうやらこの方お忙しいようなのでこの辺で失礼しましょうか。――駐屯したいのですが期間と場所の方は……」

 

「主だった将用の屋敷がありますのでそちらを将の方々はお使い下さい。兵の方は城の外でお願いします。こちらとしてはあまりおもてなしできないですし、先日孫策様の後詰めが出立しておりますので、急がねば黄巾賊の討伐の戦功一位が袁術殿以外になるやもしれません。――だれかあるか!」

 

さっきより声の色が冷たい。

 

「むう、では明日出立するぞ。七乃、蜂蜜水を用意するのじゃ」

 

「わかりました急いで用意しますね」

 

胃が痛いのは気の所為じゃないわよね……。

 

「この方たちを貴賓用の屋敷へ。――彼が案内しますのでその屋敷をお使いください」

 

パッとしない顔の文官らしき人が先導し、ソレについていく二人。

 

ボクと月は何故か取り残されてしまった。

 

否、何か見えない力で足止めされたみたいだった。

 

「……さて、厄介者も消えたことですし、話し合いをしましょうか」

 

先程までの冷たさの代わりに、ボクたちを品定めするような目を向けて、カインという男がそう告げたのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side 華雄

 

月と詠(賈駆)が袁術たちと共に城に向かったため、私達は街の中を散策していた。

 

知らないうちに恋(呂布)と音々音(陳宮)とはぐれたが、あの二人なら大丈夫だろう。

 

霞も同意見みたいだし。

 

何件か霞が酒屋で酒を買い、私も適当に屋台とやらで焼いていた串肉を数本買った。

 

「なあ(しあ)(張遼)」

 

「なんや? お小遣いならさっき月からもろたのつかってたやん。どっかにおとしたんか?」

 

「違うそうじゃない」

 

私は霞のボケか本気かわからん言葉に首を横に振る。

 

「あそこのアレ、下半身蛇じゃないか?」

 

食べ終えた串で示した先には、台の上に何かを広げ、前にいる観客に見せながらなにやら大仰な語り口をしてる、下半身蛇らしい金髪の上裸な女の姿が視えた。

 

「せやな。なんなら上裸やん」

 

「……あれ退治するべき化外ではないのか?」

 

「いや……ここの兵士らしいヤツが普通に一瞬びっくりしてもなんか納得してそのまま放置しとるし、ええんとちゃう?」

 

なんなら今通りがかったやつは普通に挨拶してたしな。

 

「……ならいいか。しかしなにやって……恋とねねがいるじゃないか」

 

「ほんまや……なんかふたりとも泣いとらへんか?」

 

「――そうして盲目だった王子は、夜が来るたび、きれいな歌声を失った嘘つきの怪物の歌を聞きくため、二人だけの秘密の場所に足を運び、思い出の花束を拍手と共にプレゼントするようになりましたとさ。ご清聴、ありがとうございましたの」

 

蛇女が一礼すると、台の前にあった箱に観客たちが銅銭を投げ始めた。

 

「とても素晴らしい物語だった!」

 

「王子様目が治ってよかったね!」

 

「でも嘘つき姫ちょっとかわいそう」

 

「あれがあのときできる最善だったんやで」

 

観客たちは感想を述べながら、銅銭を箱に投げ入れたら一人また一人と去っていく。

 

二人も銅銭を投げ入れたのか、解散してく観客の中から、こちらにやってきた。

 

「……恋が泣いとる……」

 

「明日は雨か?」

 

始めてみた表情に驚いていると

 

「お前ら恋殿を血も涙もない鬼とでも思ってたのですか!? 怒りのちんきゅーキック!!!」

 

ねねの飛び蹴りをもろに食らってのけぞる。

 

「のわっ!? なんや珍しくて驚いただけやん!」

 

霞もやられたのかねねの言葉に反論する。

 

「しかしそんなに泣ける話だったか?」

 

「お前たちも最後まで見ればわかるのです! おい、そこの蛇女!」

 

ねねの言葉に目を銭模様にしてこぼれ落ちた銭を拾っていた蛇女がこちらを向いて少し怒った様子で口を開いた。

 

「だから蛇女じゃなくて邪神ちゃんですの!」

 

「なんでも良いのです! この二人のためにもう一回紙芝居みせるのですよ!」

 

「えぇ……めんどくさ……なんですの?」

 

恋が邪神ちゃん?とやらの前に来て、巾着を手渡した。

 

「この量の小銭だとなー……えっ、砂金?」

 

「もう一回やるなら、それともう一袋渡す」

 

恋がそういった瞬間、目を金にして邪神ちゃんが飛び跳ね、紙芝居?とやらの台の後ろに移動した。

 

「なにしてるんですの! お前たちのために1日1回だったところ、特別に、と・く・べ・つに2回目やってやるんですからさっさとこっちに来なさい!」

 

「お、おう……」

 

「なんや現金なやっちゃなぁ……」

 

私達はかなり近い場所で紙芝居を見ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

「…………霞」

 

「何もいうな、華雄。――雨が降ってきそうやで」

 

私達がそう会話してる横で、紙芝居をしまってる邪神ちゃんが首を傾げた。

 

「は? 今日は夕方まで晴天でぐえっ!」

 

変な声がしたのでそちらを向くと、赤毛で2つまとめにしてる女が邪神ちゃんの首周りに腕を回しており、邪神ちゃんの首が曲がっては行けない方向に回ってるように見えた。

 

「なっ!?」

 

「なんちゅうことを!」

 

「金にがめつそうでしたけどそんなことするほどでは無いと思うのですよ!」

 

「……」

 

私達4人が身構えたが、

 

「また邪神ちゃんゆりねさんに折檻されてるよ」

 

「おねーさんたち邪神ちゃんが折檻されるところみるの初めて? 大丈夫。左右に両断されても次の日には何食わぬ顔でタカリに来るからあの程度へーきへーき」

 

通りすがりの子供の言葉がとんでもない事実を言っていることに困惑し、武器を下ろした。

 

「……えっと、この砂金はあなた達の?」

 

「……二人にも見てもらいたかった。――2回目の代金で渡した」

 

ゆりねと呼ばれた女の言葉に恋が素直に答えた。

 

「なら返すわ。こいつに金を渡してもろくなことにつかわないから」

 

恋は素直に受け取ったあと、

 

「……紙芝居、また聞ける?」

 

そう訪ねた。

 

「ええ。同じ物語とは限らないけど。――なにかリクエスト……どんな物語の紙芝居が見たいかそこの目安箱に書いて置けば、もしかしたら採用されるかもしれない。それと邪神ちゃん以外がやってるかもしれないから、そこは運次第ってことで」

 

「ん」

 

うなずいた恋に納得したのか、一礼してからゆりねは口を開く。

 

「私は花園ゆりね。ゆりねって呼んで頂戴。――一応ラインハルトって人の食客よ。――コレも一応同じ立場。――もし何かあったら城に連絡して頂戴。――役に立つかはわからないけど、コレに巻き込まれたよしみで、多少は力になるから」

 

「うちは張遼。字は文遠。よろしゅうな、ゆりね」

 

「私は華雄だ。よろしく」

 

「ねねは陳宮。字は公台ですぞ」

 

「恋は呂布、字は奉先」

 

「……え、ええ。よろしく。っと、お客さんが来るってことで屋敷で大人しくしてないとだから……それじゃあ」

 

そう言ってゆりねは邪神ちゃん抱え、反対に紙芝居道具と銅銭入った箱抱えて去っていった。

 

……あの華奢な見た目であれだけ持てるか……できるな。

 

 

 

 

 

 

――side 月

 

貸し与えてもらった屋敷にて。

 

みんなと合流できたから、夕食食べながら何を見てきたか聞いたんだけど……。

 

「紙芝居というのは、子供のものかと思ったが、大人も見てたんだ」

 

華雄さんが珍しく饒舌です。

 

お酒飲んでるのもあったからかな。

 

「それより恋が泣いてるの初めて見たで」

 

霞の言葉を聞いて驚いた。

 

私恋が泣いてるところなんて見たこと無いんだけど……

 

「え、本当なの?」

 

詠ちゃんが疑いの目を向けてるけど、

 

「私も見た」

 

「ねねも見ましたぞ!」

 

「…………」

 

華雄もねねも恋の泣いたところを見たと言って、恋はなんとも言えない顔してる。

 

「紙芝居を見て泣いたんだよね? どんな内容だったの?」

 

私の言葉に霞が待ってましたとばかりに立ち上がった。

 

「それはな、ある広大な森がある国の物語なんやけど――」

 

嘘つき姫と盲目王子という物語をどころどころうろ覚えで4人が交代して語ってくれた。

 

その内容は切なくて、でも優しさもある嘘で、とても幻想的な話だった。

 

話し込んでしまったのか、気がついた頃には夜が終わり始めた頃だった。

 

――明日……というか今日早いけど、聞かなかったら寝れなかっただろうし、仕方ないよね?

 

 

*1
付けてる間、魔眼の効果を封じる装備の総称らしいわ

*2
英語も中国語もS(主語)V(動詞)O(目的語)の順番が基本形。逆に日本語はVとОが逆の文法形態よ。このあたり日本人が英語苦手な要因とも言われてるけど、詳しくは専門家にでも聞くことね

*3
名前の中間あたりに/をいれるのは上半身と下半身分離させられた時に使うスラングらしいわ。知らない人は『とある科学の超電磁砲』の『フレンダ』で調べて頂戴。

*4
カインさんっていう偶に自分のことを屑だと言ってる変わったおにいさん。普段から真面目で優しいし、邪神ちゃんよりよっぽどまともだとおもうんだけどな……



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第二十四話 下邳へと進む道すがら

――side ラインハルト

 

「――つまり品種改良とは突然変異や環境適応による変異種を人為的に選別し、変異種同士、あるいは変異種と変異前の種を交配させることでそれぞれの特性を持つ品種を意図的に生み出そうという技術だ」

 

私は今、馬車の中で農業に関する講義を行っていた。

 

生徒は喜雨と亞莎。オンラインで雷火、穏。賑やかしか冷やかしかわからんが同じくオンラインでシャオの5名だ。

 

「米で例えれば、『たくさん収穫できるが病に強い品種』と『美味しくないが病に強い品種』を交配させ『たくさん収穫でき、病に強い品種』を生み出す。これが品種改良に当たる」

 

『強みを複数持ち合わせた作物になれば農家の負担や悩みの種が減ったり、味が良くなったり、収穫量が増えたりするわけじゃな』

 

「その通り。ただし『改良品種が次の代を生み出せない』場合や、『改良品種な自家受粉したり、再度別の品種と交配させたら親世代より劣化した』場合などがある。これは遺伝子と呼ばれる生物の情報を記録する存在が起因している」

 

『遺伝子……?』

 

「前者については起こり得る状況が特殊な例なので次の機会に説明する。では資料の図8にあるように基本生物は2つで一組の遺伝子を持っている。そのうち優先度により片方の性質だけが表に出ているが、交配したり自家受粉するときに受け継がせる遺伝子はどちらかわからん上、先に言った通り受け取った遺伝子情報で表に出てきやすい性質と出にくい性質があるのだ」

 

『あ、そうか。お父さんお母さんが持ってるけど表に出てない方が両方受け継がれることあるんだね?』

 

「シャオの言う通り。故にその世代で品種改良に成功したように見えたとしても、その子の世代や孫世代に表に出なかった方の形質が出ることもある。故に品種改良の完成を宣言するには数世代以上、『突然変異を除き、自家受粉しても形質が変わらない』ことが証明される必要がある。」

 

「てっきり掛け合せが成功したらそれで終わりかと思ってました……」

 

「だから掛け合せて成功したモノを使っても次の世代で失敗することが多いのか…」

 

亞莎と喜雨(陳登の真名)の言葉に頷く。

 

「ちなみにこの考え方を人間に応用し、優れた才能を親にすれば優れた子供が生まれるという優生学というのがこの遺伝子の発見後に興った。が、それは才能による格付けから人間差別に繋がり、迫害へと過激化した故、人間にこの考えを適応するのは非常に危険だと先に伝えておこう」

 

『無意識に格付けしてしまいそうですからね、妥当かと』

 

「話は変わるが、姓が同じ者同士の婚姻を禁じているのは、生き物……特に人やそれに近い生き物は血筋が近しい者たち同士で子をなすと虚弱体質が生まれやすく、近親婚を繰り返すほどその確率が跳ね上がっていくことを先人が感覚的に知っていたことが理由の1つと言われている」

 

「我々のご先祖様はそういうの何故かはわからないけど、知ってたってことなんですね。……他人と大差ないくらい血と世代が離れててもダメなのは極端な気がしますけど」

 

亞莎が納得しつつも複雑そうな顔をする。

 

「さて、第ニ回の講義『品種改良と遺伝子の基礎知識』はこの辺で一区切りとしよう。質問があれば受け付けるぞ。……無いようだな。……では解散だな」

 

私の言葉とともに講義は終了する。

 

オンライン組が通信を終えると亞莎と喜雨が息を吐く。

 

「雷火様や穏様が翻訳からの独学を断念した理由がよくわかりました……」

 

「作物も生きているから一筋縄ではいかないと思ってたけど、品種改良1つとってもこれだけ深堀りが必要なんだね」

 

なんか仲良くなってる。

 

「お勉強お疲れ様。おやつの胡麻団子用意したよ」

 

イオンが笑顔で大皿の胡麻団子を持ってきた。

 

それを確認した私はテーブル一式を用意する。

 

亞莎が胡麻団子に飛びついて小動物を彷彿させる食べっぷりを横に私も席に付く。

 

「……しかしこの馬車、外見からは想像できないくらい広いね」

 

喜雨が胡麻団子を手に取りつつぽつりとこぼす。

 

「その気になれば拡張もできる」

 

なにしろここはグラズヘイム。

 

文字通り私の城だからな。

 

馬車とはあの扉で繋がってるが、わざわざ言う理由もない。

 

「……本当になんでもできるね。天変地異とか起こせそう」

 

「後先考えなければできるが?」

 

「ゴメンやっぱり止めて」

 

「やる意味が無いからな、やるつもりもない」

 

「……喜雨ちゃんと仲がよろしいようで」

 

ジト目のイオンにすかさず

 

「イオン、あーん」

 

口に胡麻団子を放り込む。

 

「あーん♡……はっ、ほんはほほへはははへはへふはへ」

 

「……食べるか喋るかどちらかにしたほうがいいんじゃない?」

 

喜雨の言葉にイオンは食べる方を選んだ。

 

「……私の機嫌を簡単に取れないと思わないでね!」

 

ちゃんと飲み込んだあと、改めてツンデレみたいなことを言い出した。

 

「あざといです、流石正妻様です」

 

亞莎のジト目に目を逸らすイオン。

 

「それはそれとして、本当に何かやらなくていいの?」

 

喜雨が首を傾げる。

 

「生憎遠征中だからな。コレが城にいるなら文官仕事の1つや2つやらせてるところだが……」

 

「その分残ってる組が大変そうですね……」

 

遠い目をする亞莎。

 

などと会話をしていたら通信が入る。

 

「こちらラインハルト。どうした」

 

『雪蓮よ。……なんかアタシたちの食事だけ露骨に良いものってことで他の陣営の配下が不満持ってるらしいんだけど、なんとかならない?』

 

雪蓮の言葉に少し悩む。

 

「手っ取り早いのは食事毎に招くことだが、解散後に生活水準下げられるのかという問題がある」

 

『……それで因縁つけられて荒れるのはよろしく無いわね』

 

「というか不満の発生源は間違いなく曹操軍の将ではないかね? 私達は不満の原因で劉備軍は愛紗経由で食料供給しているのだから」

 

私が指摘すると

 

『大当たり』

 

と返ってきた。

 

「……雪蓮、曹操軍の隊列に凸する故、委任状認めておいてくれ。あとマイ、梨晏を護衛に連れて行く」

 

『最近出番なかったので待ってました!』

 

『more debanの看板作ったけど無駄になったね……』

 

雪蓮の近くにいたらしい2人の声が聞こえてきた。

 

『書いたから取りに来てついでに2人連れて行って、どうぞ』

 

そういうと雪蓮は通信を終了した。

 

「ということで行ってくる」

 

「「「いってらっしゃい(ませ)」」」

 

3人の言葉を背に馬車を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

――side 華琳

 

進軍中に後方から駆けてきたラインハルト(とその護衛役2人)から夕方に食事を振舞いたいとの申し出が来た。

 

大方栄華か桂花が愚痴って3羽烏が騒いだのをどこからか聞きつけたのが原因でしょうね。

 

……なんでかしら、陳留の留守頼んだ華侖や柳琳たちが元気か心配になってきたわね

 

「華琳様? あの、いかが致しますか?」

 

行軍中なので私の馬に合わせながら桂花が問いかけてきた。

 

「……せっかくのお誘いを無碍にできないわね。人数制限はあるのかしら?」

 

「人数制限はない。が、代わりに何が食べたいか要望をまとめてもらいたい。可能な限り要望に答えたいのでな」

 

彼は少し変わった条件を提示してきた。

 

「分かったわ。なるべく早く伝えるから」

 

そういうと3人のは去っていく。

 

「……ということで、何が欲しいとかあるかしら」

 

「ウチ珍味とか食べたい!」

 

「私は甘いもの食べたいの!」

 

「無茶言うなお前達! そんな要望通るわけ無いだろう! 華琳様申し訳ありません!」

 

真桜(李典)と沙和(于禁)の言葉に顔を青くして凪(楽進)が頭を下げた。

 

「別にいいわよ。あくまで要望を伝えるだけだし。……要望通らなくても文句言わないこと。それで、他に要望は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

「……珍味や甘いものという漠然とした要望から、蕎麦を使った美味しい料理や豚の丸焼きまで色々あるな……」

 

馬車の中(城の中)のキッチンにて、私は渡された要望のまとめを見つつぼやく。

 

「嫌がらせの要望っぽいのそこそこあるね……まあ現代料理やラシェーラの料理知ってるとわりと材料あればなんとかなる微笑ましい要望ばっかりだね」

 

エプロン付けてふんすふんすしてるイオン。 

 

「ラインハルトよ、ここはとことん手の込んだ料理であやつらを驚かせるべきじゃ」

 

趣味の範囲だが料理上手な祭もエプロンを付けて要望を覗き込んでいる。

 

「味見するから美味しいの頼むわね〜」

 

雪蓮は味見専門らしい。

 

やればできそうなものだが……。

 

「では、始めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side 曹操

 

日が暮れ始めたので天幕を張り休息の体制を整えた頃、ラインハルトがやってきた。

 

蓋をした大皿を複数持ち込み、長机の席についた私達の前に並べられていく。

 

「要望されたモノを中心に個別に料理を用意した。詳しくは添えた紙に書いてある故、気になるなら目を通すように」

 

ラインハルトの言葉と共に、侍女?たちが蓋をとって料理が姿を現す。

 

「一応普通料理も用意しているので、取皿で各自でとるといい」

 

真ん中に並んだ皿たちには普通?の炒飯や叉焼や焼売などが山分けできるようにかなりおおめに盛りつけされている。

 

「甘味は食後用に用意している故、満腹になるまで食べぬことをおすすめしよう」

 

その言葉とともに各自が食事を始める。

 

「鴨の肝に茸の1種……サメ?の卵……コレが大秦やその周りの地域の珍味なんか……?」

 

「コレが蕎麦……!? 羹風ですけど騙され……!?」

 

「姉者、本当に食べ切れるのか?」

 

「わからん!一度挑戦したかったんだ!」

 

……わりと混沌としてるわね。

 

私は特に注文してなかったので、中央の見慣れた料理を愉しませてもらった。

 

 

 

 

 

 

 

「ではこれより甘味の時間だ」

 

一段落(春蘭は食べ切れずに力尽きてたけど概ね平和だったわ。……後で残りの肉を干し肉にして春蘭に渡されるみたい)したあと、ラインハルトはそう告げた。

 

そして先程のように私達の前と中心にそれぞれ蓋付きの皿を出してそれを一斉に開けた。

 

「なんやこれ……!」

 

「綺麗なの……」

 

そこに並んでいるのは宝石よりも煌めく果実たちが散りばめられた様々なみたことない(おそらく)甘味たちだった。

 

「これらは性質上、保存が効かん故、此処で余った分はこちらで処理させてもらう。……いずれも渾身の作故、味わってもらいたい」

 

と彼は言っていたが、言い終わる前に皆甘味を食べ始めていた。

 

……律儀に待ってた私の立つ瀬がないんだけど……?

 

「……すまない、少し用事が出来た、後片付けのために雪蓮たちも呼ぶ故、片付けはそっちに頼む」

 

そういって何処かに去っていくラインハルト。

 

……何か起きたのかしら……。

 

 




獣殿がどっかに行った理由は次話に多分わかります。
高評価、感想おまちしてます!


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第二十四.五話 ※なおネタバレ後のことは考えてない模様

「……本当にやるの、これ」
「敵を騙すにゃ味方からって言うだろ?」
「お母様、本当に死にそうだけど???」
「万一をオレも考えた。んでコイツの槍で一回傷を付けた。死ぬほど痛かった」 
「お母様ってやっぱり変わってるわよね……」


――side ラインハルト

 

私は徐州からかなり離れた地点に着地する。

 

そして南に広がる長江を一瞥し、東側で起きている戦いを一瞥する。

 

「……さて、出番だ、カイオーガ!」

 

私は懐から藍色の玉とカイオーガの入ったボールを取り出し、ボールを放り投げる。

 

「ぎゅらりゅるぅぅぅぅ!」

 

姿を表した途端に空は雨雲で満たされ、間もなく雨が降り始める。

 

「さあ、太古の姿を見せてみろ!」

 

私が投擲した藍色の玉を口に含み、カイオーガはそのまま長江に沈む。

 

そして水底が青く光ったかと思えば、ゲンシカイオーガが姿を見せた。

 

そして雨の勢いは増し、嵐のような荒れ模様となっていく。

 

「さて、いくとするか」

 

 

 

 

 

 

――side 蓮華

 

「――お母様! 前に出過ぎです!」

 

飛ぶように船を渡りながら敵陣に突っ込んでいくお母様に向かって叫ぶが悪化していく天気などがその声を阻んだ気がした。

 

「――!」

 

「!!」

 

敵がお母様見つけたのか向こうで怒声上げてるし!

 

「ああもうお母様囲まれてる! 思春! 蒙衝でお母様いる船に突撃掛けて!」

 

「承知!」

 

流石は思春。

 

「そんじゃ、派手にやりますかね」

 

「思春殿、蓮華様の護衛はおまかせを。軍の指揮に集中してくだされ」

 

「……わかった」

 

ネイさんはお母様のあとを追いかけるように船を跳んで渡り、

 

カノンさんは思春のために護衛を買ってくれた。

 

そしてポケモンたちは私の護衛をしている。

 

「……あれ? あの黒円卓の人は?」

 

「姿が見えませんがおそらく……ああ、あそこにいますね」

 

カノンさんが指さした方を向くと、黒い『影』がさながら怪物のように黄祖側の船をいくつか飲み込もうとしているところだった。

 

「っと! 風も強いし、遠くに稲光が見えてるわね……!」

 

「ここに落ちなければ良いですが……」

 

などと話していると

 

「孫堅様!?」

 

物見の兵士の1人が叫ぶ。

 

「どうした!」

 

「――孫堅様、黄祖と相打ち! 双方長江に落ちました!」

 

「なんですって!?」

 

私が先程お母様が飛んでいったほうに駆け出そうとしたが

 

「危ない!」

 

カノンさんに抱きつかれた。

 

とおもったら、大きな揺れが船を襲う。

 

……どうやら波が来てたのをカノンさんは気がついていたのだろう。

 

「――総員! 大波が来るぞ!衝撃に備えろ!!!!」

 

叫ぶように指示を飛ばす思春。

 

カノンさんが慌てて私を近くの帆に巻きつけられた縄を掴ませて私ごと縄を掴む。

 

跳ねるような感覚とともに足が船の甲板から離れたが、すぐに叩きつけられるような衝撃とともに着地?した。

 

着地はウーラオスが抱きかかえてくれたから怪我などはない。

 

「お怪我は?」

 

思春が駆け寄ってきて、無事の確認をしてきた。

 

「大丈夫。それよりお母様を!」

 

「この暗さに荒れ模様では流石に無理かと。河に飛び込ませるのは兵士が無駄死にするだけです」

 

「……!」

 

思春の言葉に私は歯噛みする。

 

「……敵は頭を失い三々五々に撤退していますが、追撃しますか? それとも……撤退しますか?」

 

カノンさんの言葉にハッとした。

 

――お母様が居ない今、私が彼らの長なんだ、と。

 

「……撤退よ。黄祖を倒した以上、これ以上死傷者を増やす意味はないわ。雨も酷くなっているし」

 

「……ご英断です」

 

思春がそう言ってくれたけれど、私の心が晴れるはずもなく……。

 

――偉大な母を失った痛みで、有りもしない傷が傷んだ気がした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はカイオーガを仕舞い、2人の女性?が入った箱を『城』に持ち帰った。

 

「死ぬかもしれんというのに、ここまで派手にやるとはな……」

 

箱の中身を見て呆れを通り越して感心すらする。

 

片方は首が右半分ほど剣で切られている炎蓮。

 

もう片方は心臓を剣で穿たれている黄祖だ。

 

どちらも『影に包まれて姿が正しく視認できない』。

 

マレウスを前呼び出したときに創造がなんか変質していたので調べたのが此処で役に立つとはな……。

 

「カール」

 

『面倒この上ないが、やむを得まい。さっさと済ませよう』

 

私の声に影法師のように朧げだった我が友が応える。

 

そしてカールの治療により、2人の致命傷は治された……。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

パチっと目を覚ました炎蓮は、むくりと起き上がり、私と隣のカール、そして彼女の傍でまだ起きない黄祖を見たあと、再び私を見てニヤつく。

 

「賭けはオレの勝ち。あとは黄祖の『説得』だが……」

 

一糸まとわぬ姿で床に降り立ち、こちらに歩いてくる炎蓮。

 

『獣殿、私は仕事終えたので女神のコレクション眺める時間に戻らせてもらう』

 

瞬間的に逃げ出したカール。

 

「ま、なんとかなるだろ。 ここから出るにもお前の許可必要そうだし」

 

「それはそうだが、何故ジリジリと近寄ってきてる?」

 

わかってるが言葉にしておかねば行けない気がしたので問いかけた。

 

「……死の淵にいたぶん、滾っちまってなぁ。祭食ってるしオレも大丈夫なんだろ?」

 

「虎の相手はちょっと……」

 

「悪いが答えは『はい』一択な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side 蓮華

 

「――というわけなの」

 

夜もすっかり暗くなった中、軍を撤退させている途中。

 

そして緊急性のある事態だと今更気が付き、私は慌てて緊急招集をかけて情報を共有したのだった。

 

『本当に、大殿が……?』

 

『脇腹槍で貫かれても半月で元気になったあの炎蓮様が……?』

 

『……信じられない』

 

『……』

 

祭や孫家古参の面々が困惑する中、雪蓮姉様は無言だった。

 

『思うところ、言いたいことは多いですが、やるべきこと、やらねばならないことがあります』

 

レナルルが申し訳無さそうに口を挟んだ。

 

『そうね。……お母様が居たから大人しくしてた連中や下手に出てた連中、水面下に潜ってた連中が動き出すかもしれないわ』

 

そう言ってからお姉様はとんでもないことを口にした。

 

『うん、決めた。アタシも早いうちに家督蓮華に譲ることにするわ』

 

「え、前言ってたこと本当だったの!?」

 

『そりゃまあ。あ、でも、今すぐ全権ぶん投げるつもりはないのよ? お母様みたいに段階踏む感じで』

 

『官位の方は引き継げるのか?』

 

『財力でぶん殴れば行けるんじゃない? ウチには最強の財源いるし』

 

冥琳が私の抱いていた疑問を代弁し、お姉様が他力本願な返事をしたためコケそうになった。

 

『相変わらず無茶を言う……』

 

『でもできるでしょ?』

 

『暫く内政の仕事やすませてもらうからな』

 

『遠征してるから免除されてるでしょ!』

 

『相変わらず仲よろしいことで』

 

イオンの言葉で2人の漫才が止まる。

 

『……ところでラインハルトの声に混じって水音のような、気になる音がきこえるんじゃが、今何しとるんじゃ?』

 

『少々料理している』

 

『…………とりあえず、家督は蓮華に。権限も追々渡してくから。留守組は揚州と周辺の不穏分子の動きに目を光らせること。あとなんか生きてる気がするけど『下手に行方不明のまま』なのは色々都合が悪いから、お母様の葬儀は早めに行うように。アタシ戻れないし、家督継ぐ意味でも喪主を蓮華お願いね。雷火、仕事増えるけど補佐お願いね』

 

……生きていたら、本当にいいのに。

 

『それじゃ、もう夜も遅いし、解散』

 

お姉様の言葉とともに通信が切断されていく。

 

「……蓮華様」

 

「大丈夫。……ちょっとつかれたから、先に船室で休ませてもらうわね」

 

私はそういって部屋に戻る。

 

「……何故ココにいるの?」

 

部屋には何処から出したのか、おしゃれな椅子に座り本を読んでいたラインハルトが居た。

 

「手紙を預かっている」

 

そういって私に手紙を投げてよこした。

 

「……」

 

『蓮華へ

 

コレ読んでるってことはオレがヘマして、オレの葬儀やれとか雪蓮あたりに言われたんだろうな。

 

まー、雷火いるし夜寝れなくて葬儀中に爆睡しなきゃ好きにすりゃ良い。

 

それより、雪蓮みたいに炎の様な苛烈な戦の才能や、シャオみたいな風のような気まぐれで相手の懐に入り込める人たらしの才能がねえからって凹んでんじゃねえぞ?

 

お前は誰かの背中を押し、人を鼓舞する才能がある。

 

その才能発揮するためにも、信じることと、諦めないことを心に刻んどけ。

 

お前なら大丈夫だ。

 

いつも見てるからな』

 

「……お母様……!」

 

涙が出てくる。

 

溢れて、零れて、止まらない。

 

そんなふうにしていたら、抱きしめられた。

 

最後にお母様に甘えたのって、いつだっけ?

 

お父様がいるなら、こんなふうに抱きしめてくれたのかな……?  

 

そっと私の頭を撫でる手の温もりが、今はとても、嬉しかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

「寝たみたいだな」

 

寝台に眠り、それでも袖の片方を離さぬ蓮華の姿を見て炎蓮が姿を見せながら苦笑する。

 

蓮華の頬には涙の跡が残っているが、あまり気安く顔に触れるのはよろしく無いので見て見ぬふりをしている。

 

「卿の愛情不足では?」

 

「んな理由……たぶん、ないはずだけど……」

 

「片親なのを忘れているな?」

 

「うるせえ、作戦台無しにして蓮華とシャオにお父様呼びさせるぞコラ」

 

「それは困る」

 

「雪蓮は……そういうの悦びそうだからなアイツ。教育に悪いしやめとくか」

 

「ソレが良いと思う」

 

などと会話してると蓮華がモゾモゾと動き、炎蓮が城へと逃げ帰った。

 

「……ラインハルト……?」

 

「戦いの疲れなどあったのだろうな。良く眠ってたぞ」

 

少しして私の服の袖を握ってることに気が付き、慌てて離す蓮華。

 

「あ、その、ごめんなさい!」

 

「構わん。徹夜してもびくともせんからな」

 

「……今夜は一人で寝れそうにない」

 

顔だけ布団から出して不満?を口にする蓮華。

 

「甘寧に襲撃されそうなのだが?」

 

「思春なら分かってくれるはず。……ってまだ思春から真名許されてないの??」

 

首を傾げる蓮華。

 

「『カメムシと節操なしは死ぬほど嫌い』とか言われてな」

 

「声真似上手いわね。……でも仲良くしてもらわないと私困るわ。……親友と、(将来の)旦那様が険悪だと困るもの」

 

「……難しいが、善処する他無いな」

 

「そうね。……ねぇ、一人だとなんだか寒い気がするの。一緒に、寝てくれない?」

 

私の手に手を重ねる蓮華。

 

「……それで済めばいいがな」

 

「……私お姉様の代わりには「卿は卿だろう?」……そうね。私は私、だもんね」

 

少し心が軽くなったのか、表情が明るくなった彼女を見つつ、私は上着だけ椅子に掛けて彼女の布団に潜り込んだ。

 

 

 



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第二十五話 曹操と袁紹(with部下3人)とラインハルト()

「……不思議なものだな。何度も矛を交えた孫家の人間が私に気が付かないとは」
「雪蓮は予め『知ってる』からわかっているが、そうでなければ気がつけぬように魔術……呪いをかけているからな」
「そうか。ところで私は何と名乗れば良い? 真名でも私とわかるだろう」
「そうだな……、黄射と名乗っておけ」



――side ラインハルト

 

『良い知らせと悪い知らせがあるわ。どちらから聞きたい?』

 

下邳郡に入ったので偵察を出撃させて情報収集を開始した翌朝、後の覇王(曹操)から端末に連絡が入った。

 

何処かで聞いたことあるようなセリフだったが深くは突っ込まない。

 

「……いい話から聞かせてもらおう」

 

「下邳攻略に麗羽……袁紹が合流するそうよ」

 

立地的に来れないわけでもないが、北海が本丸なので正直そちらの目を引きつけたり敵の間引きをしててほしかった。

 

「……悪い話は?」

 

「貴方のこと興味あるから紹介しろって先触れでわざわざ連絡してきたわ。……何処で聞きつけたのかしらないけど、顔合わせを避けても顔を合わせても話が拗れるのはほぼほぼ確実。面倒この上ないけど、強く生きて頂戴。あと夕方には合流するって」

 

「…………今天幕の側に居ると言われないだけマシだな」

 

何故そんなことを言ったかといえば、目下にて『掃除』してる愛紗と喜雨がいるから。

 

見られたら絶対面倒なことになるという自信がある。

 

『とりあえず心の準備はしておいて頂戴。それじゃまた』

 

そういうと通信を終了する。

 

「……何方からで?」

 

「曹操からだ」

 

私が複雑そうな顔をしてたのだろうか、愛紗が問いかけてきた。

 

「……あの人ともこういうことを?」

 

「今のところはしておらん」

 

「そのうちする気がします」

 

喜雨の質問に答えたら愛紗がジト目向けてきた。

 

生真面目だった卿は変わったな*1

 

「にしても袁紹か……」

 

「……ぇ゙、来るの? あのうるさいの」

 

硬直する喜雨。

 

「……露骨に敬遠する卿を始めてみた」

 

「日は浅いですが私も」

 

「……五月蝿いし、金で解決しようとするし、何より……部屋で農作に適した土とか研究してたときに通りかかったと思ったら『用もないのに土をいじるのは子供のやることですわよ?』って言われたし……!」

 

「大変だったな」

 

「うん……」

 

私が撫でると喜雨はトロンとした目になり、膝に顎を乗っけてきた。

 

「……そろそろ心配されるのでこれで」

 

それを見ながら名残惜しそうに義姉のところへ戻ると告げる愛紗。

 

「ああ。……問題ないと思うが、気をつけておけ」

 

「? わかりました」

 

首を傾げながら去っていく。

 

すると気力が充実したのか、喜雨が立ち上がって伸びをする。

 

「…………午後はアレが来てもいいように隠れてるからよろしく。一応連絡出来るようにしとくから」

 

「そんなに嫌か……」

 

そういいつつ、私に偶然遭遇したときの甘寧みたいな反応してるので根が深いのだろうと納得することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side 曹操

 

とうとう来てしまった……。

 

予定通り私の陣でもてなして変なことしないか出来る限り目を光らせる予定だけど……。

 

「おーっほっほっほ! 相変わらずちんちくりんですわね、華琳さん!」

 

「相変わらず元気そうで何よりね」

 

無意識?に煽る友人に深呼吸して対応する。

 

「さ、早く案内してくださいな」

 

「……他の軍にわざわざ挨拶しに行くなんて明日は槍でも降るのかしら?」

 

「なに寝言を言っていますの? 美羽さんから聞いた『黄金の獣』とやらを見に行くために決まってるではありませんの。――先触れでも伝えたはずですけど……あ(察し)。……華琳さん、ボケ防止には頭を使うことが大切ですわよ……?」

 

「暗にめんどくさいし借りがある彼の心象悪くしたくないって言ってんのよその胸引きちぎるわよ」

 

「ひっ!?」

 

思わず本音が漏れたと思うと麗羽が後ずさった。

 

「姫、やっぱりアタイたちの誰か使者として挨拶する日取りと日時決めたほうがいいんじゃねえ……?」

 

「そうですよ麗羽様……」

 

「かといって美羽さんから聞いた通りなら気に入らない相手には一言も口きかないって言いますし、誰かに紹介してもらったほうがいいとおもったんですけどね……」

 

「――む? 客人かね?」

 

声のする方を向くと、

 

――ラインハルトが毛先が赤い薄水色の髪と赤い瞳をした見慣れない女性を侍らせてそこに居た。

 

「――」

 

「「「「…………」」」」

 

想定の斜め上を突っ走るような行動に言葉を失う私と彼を見て言葉を失う4人。

 

「いや、あなたも一応客人。ここ私の天幕、アナタ、孫家の人間。足並み揃えてるけど一応他人。理解してる?」

 

「無論だ。――ああ、見張りの兵士は普通に用事があると言ったら通してくれたぞ?」

 

……今見張りしてる兵士クビと思った私は悪くないはず……。

 

色々言いたいことを抑え、飲み込む。

 

「……ちょうどいいところに来たわね。――ほら、麗羽。彼がラインハルトよ」

 

「む。……私はラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。……人に呼ばれるときはたいていラインハルトかハイドリヒ卿と呼ばれている。こっちは私の友人の『黄射』だ」

 

「……」

 

ラインハルトの紹介に無言で頷く黄射。

 

……洛陽に居たとき、みかけたような気がするのは……まあいいわ。

 

「……こっちの一番偉そうなのが袁紹。そっちの若草色の髪の娘が文醜。そっちのおかっぱの娘が顔良。そして若干痴女疑惑がある服とシニヨン*2キャップを左右対象につけてる娘が田豊よ」

 

「……なるほど、よろしく」

 

……田豊の服の下半身*3見て首を傾げていた。

 

……私だけしかおかしいと思ってたわけじゃないみたいで少し安心した。

 

「あのー、何故私だけ痴女疑惑つけられてるんでしょうか……」

 

「……気の所為よ」

 

「えっ、でも「気の所為よ」あっはい」

 

田豊の疑問を封殺してから、ぽーっと彼を見続ける袁紹の尻を抓ってやった。

 

「痛っ!? 何するんですの華琳さん!」

 

「馬鹿みたいにぼーーーーーっとしてたから大丈夫か軽く刺激しただけよ」

 

「華琳さん私は……っ!」

 

こちらに怒鳴ろうとした麗羽はハッとしてラインハルトの方へ顔をゆっくりと向けた。

 

「……ああ、こちらのことは気にする必要はない。――存分に久しぶりの友人とのじゃれ合いを楽しむと良い。私の用事はたいしたことではないのでな」

 

「いや、あの、その……」

 

「……どうやら麗羽、アナタが同じ金色の髪してるし、普段出会わない系の男性だからか普段通りに話せないみたい。――変な噂あるせいで萎縮してるのもあるけど」

 

助け舟出すのめんどくさいけど、何もしなかったらソレはソレで面倒な予感しかしない。

 

彼が自分から来たし、予定がご破産したので半ば自棄の行動である。

 

「それはあまり良くないな。――孫家の一人として名門との伝手を作れるという打算込だが、私で良ければ話し相手になろう」

 

彼が指を鳴らすと私の家具が一部いなくなって、代わりに客室にあるような椅子と長机が現れた。

 

……寝具は地味に貴重なモノ使ってるから絶対に返してもらわないと……。

 

「……あれ、ここには寝具が合ったはずでは」

 

「麗羽。彼は規格外なの。――彼や彼のお気に入り、彼の配下に常識が通じないと思っていたほうが精神的に良いわよ」

 

「……なる……ほど?」

 

首を傾げる麗羽たち。

 

一方彼はそんなの知らないとばかりに長机の長辺の中央側の席に座る。

 

私は諸々考えて短辺の側に、そして麗羽たちはラインハルトの反対側に座った。

 

「では手土産代わりの甘味を提供するとしよう」

 

再び彼が指を鳴らす(というか手袋してるのによく鳴らせるわね……)と、またたく間に机に取り分ける用の皿と三叉の叉子(ふぉーく)、赤みの強くいい香りのするお茶(お茶と原料同じらしいわね……どういう製法で作ったのかしら)が各自の前に並び、中央に複数の甘味が盛られた皿が出現する。

 

「……」

 

「すごい……」

 

「……」

 

「なあコレたべていいのか!?」

 

驚く3人を差し置いて文醜がラインハルトに問いかけた。

 

「――構わんよ。まだ有り余ってるしな。――ただ、甘味の欠点として、あまり食べすぎると太るがな」

 

「ならあたいはよく動いてよく寝てるし大丈夫だな!」

 

そういいながら一人先行して甘味をホイホイととっていき、食べ始めた。

 

……太らないのと寝てるところはあまり関係な……寝る時間が少ないと成長しないとか太りやすいとか聞いたことが……

 

今はそんなコトどうでもいいわね。

 

「麗羽? 食べないなら私がもらうし、私への手土産だから部下に振る舞うけど」

 

「いただきますわ!」

 

麗羽が我に返り、動き出したことで残る二人も動き始める。

 

「なんだこれ、すっげえ美味しいし甘い!」

 

「本当だ……どうやってつくった……あ、そういうの秘密なやつですよね」

 

文醜につられて顔良が聞こうとして、引っ込めた。

 

「材料と作り方についてはまとめた物がある。ほしければ用意しよう。――ただし、材料集めと調理中及び素材の温度管理関連がかなり難しいものばかりだ。それでも構わないなら甘味料理の本を贈呈しよう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

顔良が嬉しそうにお礼を言った。

 

「……随分と手慣れてる感ありますけど……」

 

「来る者拒まず去る者追わずで彼複数人の女と関係持ってるから」

 

田豊の疑問に乗じ、自分からは言わない情報を暴露してやったら、彼はただ頷くだけだった。

 

……思ったより反応が薄かったのが少し悔しかった。

 

「私が知ってるだけでも江東の虎やその娘の上2人、孫家の宿将連中も半分以上コイツの毒牙にやられている。実態は倍以上いると見ていいだろうな」

 

さっきから黙っていた黄射がラインハルトを後ろから刺すような事を言い出した。

 

……やっぱりどっかで見たことがあるような……。

 

「……来る者拒まずと華琳さんがおっしゃってましたが、苦手な人でも受け入れるんですの?」

 

「限度はあるがな。――権力に固執する者、血族の実績を自分の実績のように自慢するのが日常茶飯事の者あたりはお断りすることを真面目に考える」

 

「……」

 

わりと的確に麗羽を殺しに行ってない???

 

「まああとは……即座に拒否とはならんが心象が悪化していくことがある」

 

「……それは一体」

 

「――他者への感謝などが無い人間だな。たとえ『そういう役割であったとしても何かを頼み、やってもらったら感謝をする』。コレができないのを見ると悲しくなる。いや、悲しくなるのは語弊があるな。――人を道具のように扱う相手が果たして私を道具扱いしていないのか? と疑問が鎌首をもたげるようになっていくというだけだ」

 

「まー、たしかにひとことありがとう言われた方が嬉しいよな。あ、この皿に乗ってたのおかわり」

 

文醜がうなずきながらおかわりを要求している。

 

……食べ過ぎじゃない???

 

と思ったが私の部下ではないし、たぶん食べても太らない気がするからそっとしておくことにした。

 

「ひとまずこれでいいかね?」

 

「お、ありがとな!」

 

力関係的にはよろしく無いけど、文醜の偽りない言葉に満足なのか頷いている。

 

「……貴方は……焔のようですわね」

 

「急にどうしたの麗羽。どこか頭でも――あぶなっ!?」

 

こちらを見ずに鎧の篭手外してぶん投げてきたんだけど!?

 

あんなコトできるなんて初めて知ったわよ!?

 

「……ふむ」

 

ラインハルトは続けて、と言わずに先を促した。

 

出来たら篭手投げるなって言ってほしかったのだけど……。

 

「太陽と違い、手に届く。だけれど触れてしまえば貴方に飲み込まれる。遠くで見ている分にはキレイに視える。でも見てるだけでは物足りない。――そう思って近づき、気がつけば抗えない力で捉えられ、飲み込まれる……そんなふうに見えますわ」

 

……そう言えば麗羽は太学*4でも成績一位とかよく取ってたわね。

 

変なところ以外応用が異様に苦手だったけど。

 

「なら、人を、呑み込んでいく危うい私を排除するべきではないのかね?」

 

「理性のみで生きてる存在がいるなら、排除するべきというかもしれません。――しかし、美羽さんから聞き、私が実感した限り、私達が束になろうと傷一つつけられない。ソレに、私ももう『手遅れ』のようなので」

 

「(なぁ斗詩、麗羽様の何が手遅れなんだ?)」

 

「(多分惚れちゃって敵対しようと思えないってことかなって……)」

 

「(はえー……姫がそんなこと言うとは……)」

 

「猪々子さん、後でお話しましょうね?」

 

「うぇっ!?」

 

麗羽の言葉に横でヒソヒソ話してた文醜と顔良。

 

なお文醜だけ怒りの矛先になったらしい。

 

「……卿が何を思っているかはわかった。その上で言うが『来る者拒まず、去るもの追わず』そのあり方で私は基本あり続ける。それだけだ」

 

そういうと彼は机の甘味を追加してから立ち上がる。

 

「一つお節介をしておこう。……卿の強引さは強みでもあるだろう。――だがたまには部下の言葉に耳を傾けると良いかも知れぬな」

 

そしてそのまま去っていく。

 

……なんか、田豊が崇拝するような視線を彼に向け始めたのだけど、そんなに耳傾けてもらえてないのかしら……。

 

あ、黄射が慌てて天幕を出た彼についていった。

 

……あの後ろ姿……劉表の部下に居たような……?

 

「……あれ? 甘味の本……」

 

首を傾げる顔良。

 

そういえば渡すみたいなこと言ってたけど……あ。

 

「貴方の皿の側にあるわよ」

 

「えっ? いつの間に!」

 

「さあ? 私も今気がついたから」

 

私の言葉を横に本を開き、ぱらぱらとめくる顔良。

 

それを左右から覗き見する麗羽たち。

 

顔良が百面相してるあたり、本当に材料確保と温度の管理が難しいのかしら……

 

「……後で私ももらおうかしら」

 

いやその前に、他の軍に麗羽たちと顔合わせさせたり諸々すり合わせするのが先か……。

 

 

 

 

麗羽と彼の最初の顔合わせが思ってたより遥かに穏やかに済んだ分、楽な気持ちで次を考えることが出来、行動できた。

 

……麗羽やその部下が根回しや奔走するべきと桂花に疑問投げかけられて気がついた。

 

が、途中で投げ出せず、結局最後まで奔走したのはここだけの話。

 

……あ、寝具返してもらってない

 

*1
私のせい? そんなはずは……

*2
簡単に言うとお団子状に髪をまとめることを言うわ。ただ最近だとシニヨン用のキャップを飾りでつけてる娘もいるのよね……。もはやそれシニヨンじゃないと思うんだけどここはシニヨンってことで話は止めておきましょう……

*3
下半身が下着と透けている薄い黒の身体の輪郭見える窄袴(ズボン)っぽいものだけなので、下見ると下着が透けて丸見え。閨の桂花でもやったこと無い気がするのよね。……服の丈が短いにも程があるし、なんで誰も指摘しないのかしら……?

*4
=現代の大学



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第二十六話 下邳潜入?調査

――side ラインハルト

 

気がついたら意識が落ちていたのか、女神の居る空間に招かれていた。

 

「あ、溺死とか死んでるわけではないです。少しばかり贈り物があるんで、プレゼントしようかなーって」

 

「神が一人に肩入れしていいのか」

 

「そりゃまあ貴方は私のオモチャ(主人公)なわけですし?少しくらいね?あとあの世界は私がいじりたおしてるので貴方にだけ肩入れしてるかといわれると語弊あります。なのでそこだけ訂正しておきますね」

 

……覇道神として暴れれば多分倒せるだろう。だが――

 

「私を倒したら後が面倒なのでやめといたほうがいいですよ、ほら、貴方の親友から聞かされてません?」

 

「……」

 

私はやる気失くしたので椅子を出してそこに座る。

 

「で、贈り物とは何かね?」

 

「具体的には2つですね。はいこれ、『分身の種*1』と、『アバター SA:Oのエンドコンテンツクリアキリト君』です」

 

その言葉とともに、女神の左右から異なるものが姿を見せた。

 

片方は仙豆よろしく壺に入ったローストされたアーモンドのような種。

 

もう片方はSF作品の培養液の入った筒の中に佇む黒の双剣使いのキリトその人が入っていた。

 

「キリト君アバターは今の身体ほど耐久性ないですが代わりに無意識に縛ってる言葉遣いとかの制約が緩かったり、その場のビルド次第ですけどほぼノータイムで味方の回復行動出来るなどのメリットがありますね。あと受け取ると彼に縁ある人たちが現れるようになるかと」

 

「……」

 

「あ、貴方の望むように『バランス調整』はしますから。劉備の方は益州占領前後、曹操の方は涼州侵攻前後になりますけどね」

 

もちろん貴方自身が先陣切らない前提ですけどと付け加える。

 

「……アバターの使い方は?」

 

「簡単です。宝物庫と同じ感じで使えます。ただ、記憶を同期しっぱなしは貴方でもちょっと負担あると思うので、30分くらい毎にしておきますね」

 

「……実戦投入する前に此処で動かしてみたい」

 

「ほいほい、では早速やってみましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side 雪蓮

 

「下邳の情報が集まらない?」

 

「申し訳ありません。街の中心部、特に城を調べに行ったものが帰ってきておりません」

 

細作衆の長が膝をついて頭を深々と下げている。

 

「……仮にも細作の手練れ連れてきたはず……何かあるわね」

 

こんな時(冥琳居ないし)ラインハルトに意見聞いてみたいと思ったが、何故か割当の天幕でうんともすんとも言わないので(3回ほど絞ってから)放置し、近くの天幕で暇を持て余してたらしいドナドナ(たまにラインハルトがぼやいてる言葉)した亞莎に意見を求める。

 

「おそらく、細作の手練れが防衛網を城の周辺に敷いているのかと。……あるいはラインハルト様と同じ呪いの類を使える相手が私達の太刀打ちできない方法で罠などを配置してるかもしれません」

 

「……前者ならともかく後者なら納得しかないわね。……とりあえず残ってる細作の再編して陣の防衛に切り替えて」

 

「はっ!」

 

短く返事して去っていく細作の長。

 

明命つれてくるべきだったかしら。

 

「すまない、少し意識不明になっていた」

 

そう言いながら現れたラインハルト。

 

「下邳の中心部調べに行った細作が帰ってこないんだけど、魔術や魔法の類で絡め取られてる場合があるわ。……無策で突っ込むのは嫌な予感するから何とかしたいのだけど……」

 

「ちょうどいい。――先程手に入れた力で調べるとするか」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

――side キリト

 

なんというかその、元旦に新品のパンツに変えたような、そんな新鮮さを感じる。

 

それはどうでもいいか。

 

早速認識阻害をした状態で下邳の壁を駆け上り、そのまま街の中、建物の上に着地する。

 

「あちこちで飲んだくれと捕虜への暴行……聞いてた通りだな」

 

眼下に広がる光景に顔をしかめる。

 

「……そして……」

 

城を見る。

 

「黄巾賊が入らないように人よけをしたうえで内部には探知に認識変質に生命吸収か……。サーヴァントならあのキャスターより暗黒面に踏み入れてるし管理者ならやりかねない。……それ以外ならこの術者殺すか改心(物理)させないとやばいな」

 

感想を述べた後、いくつか傀儡を結界に侵入させる。

 

「……うわ、バーサーカーがいる」

 

青地に白の縁取りされた軍服に眼帯を付けた、軍刀二刀流してる若い頃っぽい姿の男に切断されたのを最後に通信が途絶える傀儡の映像見つつ。

 

「どうしたもんかなっと!?」

 

反射的にバク転して距離を取ると座っていた場所に何かが落ちて建物に穴が開く。

 

「こりゃただの細作じゃ、どうしようもないよなっ!」

 

さらに跳躍しながら先程いた場所にナイフを数本投擲。

 

飛び出てきた薄茶色の髪の道士に当たる位置だったが空中で弾いたり回避しやがった。

 

そしてオレを包囲するように道士服の傀儡が現れる。

 

「この……!」

 

近くの1体を踏み台にしてその勢いでソードスキルのスキルチェイン――からのスキルキャンセルで硬直踏み倒しつつ強行突破。

 

そして下から悪寒がしたので下に剣を投擲する。

 

「――!」

 

バーサーカーが剣を弾き、その反動で落下する。

 

「2体1はちときついぞ、早く来いよオリジナル(ラインハルト)!!!」

 

宝物庫が開いて面で剣の雨を降らせバーサーカーを襲撃する。

 

「こちらのほうが丈夫そうだな――!?」

 

剣を弾き、地面に落ちたものを拾い使い心地を試すバーサーカー。

 

その瞬間持ってる剣含め周辺の剣が壊れる幻想(ブロークン・ファンタズム)による爆発をする。

 

黄巾賊も吹っ飛んだ気がしたがソレどころじゃねえ!

 

周囲を取り囲むように札による多面結界が発動して取り囲まれた!

 

「消滅しろ!」

 

結界師の滅かよこれ!

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)で無理やり突破して宝物庫から足場出して上空に逃げる。

 

「……バーサーカーもほぼほぼ無傷、ちとキツいな」

 

「――ならバーサーカーは私が、」

 

「私が左慈を請負おう。卿は于吉を探しつつ城の結界を破壊してくれ」

 

マイとラインハルトが現れて宝物庫から出した足場に着地する。

 

「サシならまだなんとかなるかなっ!」

 

躊躇いなく跳躍して城の真上狙ってダイブ。

 

それより速く2人が着地してそれぞれの相手をし始める。

 

やっぱり上には上がいるもんだな……。

 

ルールブレイカーで結界に傷をつけて発動状態を破壊する。

 

「やっぱり本体を潰さないとダメだなこりゃ」

 

城の中に感じる結界の本体と結界形成用の触媒の存在を感じつつ城の中へ突入した。

 

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

まだ身体のズレがある上スキル熟練度以外の能力がゲームの初期値に限りなく近いことがキリトが悲鳴あげた時点で発覚したので急遽予定変更して駆けつけた。

 

装備とカンで持ちこたえたのだからある意味私より強いかもしれない。

 

「お前は……管理者か……!?」

 

「違うな。あるもの曰く神の玩具(しゅじんこう)だそうだ」

 

この身は悠久を生きし者。

 

ゆえに誰もが我を置き去り先に行く

 

追い縋りたいが追いつけない。

 

才は届かず、生の瞬間が異なる差を埋めたいと願う

 

ゆえに足を引くのだ――水底の魔性

 

波立て遊べよ――

 

Csejte Ungarn Nachtzehrer(拷問城の食人影)

 

太陽の元、最も影が強く色濃く現れて、足引きの呪いとなり、左慈へと襲い掛かる!

 

「これは……! まあいい!ここはもはや用済みだからな!」

 

そういうや否や影も形も消えてなくなる。

 

「マスター!逃げられた!」

 

そう言いながらマイが現れる。

 

「……おそらく北海かあるいは……少なくともここは本命ではないのだろう。念の為キリトの後を追うぞ」

 

「了解!」

 

人払いの結界を構築してから後を追いかけた……。

 

 

 

 

 

 

 

「…………ここか」

 

クリアリングしながら進んできたが地下牢以外人の気配がしない。

 

一箇所触媒潰しそこねたが今潰されたのでラインハルトたちが後詰めにきているのだろう。

 

オレは扉を蹴り飛ばして突入するがそこには――

 

通路の中央で怪しく光る機械。

 

そしてその機械にエネルギーを注いでるらしい管が左右に並ぶ牢屋へと伸びている。

 

「……!」

 

左右に目を向けると、牢には見たことある(記憶違いでなければ斥候で未帰還の者だ)者たちが衣服剥かれ、目が虚ろな状態で腕を後ろで固定されて吊るされていた。

 

腹に機械の管が接続させて、腕には点滴のようなものがされている。

 

「……機械壊すのが先だな!」

 

管そのものに吸い上げ機能などがないのを確認したら、ためらわずに抜剣して本体へ攻撃を叩き込みながら機械の足元の管を切断する。

 

直ぐに変な音立てて機能を停止した。

 

機械の傍の牢屋に目を向けて、そこに居た人物に目を見開く。

 

「……!? アスナ!? スグ! ストレア! ユイ!?」

 

オレの声に彼女たちが目を向けた。

 

「となりに……たぶん、他の……みんな、が……」

 

「喋らなくていいから……!」

 

オレは宝物庫から分身の種をダースで口に放り込む。

 

視界や思考が一瞬大混線したが直ぐに救出作業にとりかかった。

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

「ホロウ・リアリゼーション組のアスナ、ユイ、リーファにシノン。リズベット、シリカ、フィリアにキズメル。アルゴ、アリス、ユウキ、セブンにレイン、クラインにエギル、ユージオとは……大所帯だな」

 

私が遠い目をしてると、衣服などを渡していたマイが袖を引っ張って首を横にふる。

 

「あと斥候の人と、1人キリトたちと違う口から来たっぽい娘もいるから」

 

「……ひとまず城に収容して、撤退後に扱い考えるか。――キリト、済まないが頼んだ」

 

私は城の入口を展開し、雪蓮に情報まとめてメッセージを飛ばしておく。

 

「了解。 皆さん! ここから通路を使っての脱出は黄巾賊など居る関係で困難です! そのため、この穴から別の場所に一時避難し、あの人が再度別の場所に入口開くのでそれまでオレと待機してください! オレが先導しますし、殿にそこのマイさんが居るので安心してください!」

 

キリトの先導に仲間たちはついていくし、細作組は私とマイのことを知ってるためそこまで問題なかったが……。

 

「嫌よ! また変なことされたくない!」

 

金髪碧眼なのに日本人風な割りとスタイルのいい娘*2が拒否をする。

 

マイが宥めてるがイヤイヤ期の子供みたいで手に負えない。

 

「……やむを得まい」

 

私は魔導書をとりだす。

 

「夜露に濡れない砂粒の主人、休息の守護者よ…。かの者に一時の夢と安らぎを」

 

すると娘は眠気で倒れ込むが、マイが受け止めてそのまま連れて行く。

 

端末を見ると

 

『状況把握したわ。下邳の軍団長とかの情報ないのは残念だけど細作保護したのは上出来ね。とりあえず引き上げて頂戴。あとイオン、その星奈ちゃん?のこと知ってるらしいから、一目見させてって』

 

という雪蓮からの連絡が入ってた。

 

どういう繋がりなんだ……?

 

首を傾げながら私は城の上に登り、こけおどし手なげ弾*3を東に放り投げてその音と爆発に野次馬根性で人が集まるのを見てから撤退する。

 

*1
巨乳ファンダジーという作品に(少なくとも無印版には)出ていたアイテム。食べた対象が一定時間分身する

*2
間違って無ければ「僕は友達が少ない」通称「はがない」のメインキャラの1人、柏崎星奈だ。……なんとなく原作開始前のぼっち時代の彼女な気もする。

*3
ドラえもんのひみつ道具。爆発などは本物だが殺傷力0の爆弾。




バーサーカー
真名:キング・ブラッドレイ/ホムンクルス:ラース

ステータス 筋:C+ 耐:C 敏:B++ 魔:E 運:B(自己申告) 宝:B

スキル 狂化:D 憤怒のホムンクルス:A+ 勇猛:A 戦闘続行:B カリスマ:C+ 仕切り直し:C

宝具:最強の眼 ランク:B 対人(自身)宝具
行動予測、桁違いの動体視力を付与し、一定以下の速度且つ『移動可能範囲に攻撃対象範囲外がある場合』自動的に回避する。

武器 アメストリス軍仕様の軍刀。


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第二十七話 徐州攻略を横目に

「でも考え方の変えれば、嫁が増えれば旦那様に白旗上げさせられる可能性ふえるんだよねぇ」
「耐久するなら人数いたほうがサイクル伸びるしまあそうね」
「しかし、彼女たち的にはアバターのキリトの方が良いのでは?」
「沈めちゃえば同じだからへーきだよたぶん」
「……それはそれとして分身の種とやらのお陰で、後ろ倒しの方だいたい何とかなるからそっちの調整の負担かなり減るし、ありがたいわね」
「「「それはそう」」」


――side ラインハルト

 

あのあと私は雪蓮のところで細作たちを開放し、星奈確認の為イオンを拾った。

 

そして後々のことをゆりね嬢たちへ通知するのとSAO組の一時的拠点として紹介するため寿春に向かったのであった。

 

 

「つまり新しく使う屋敷はそこの彼の仲間ばかりで彼女が孤立しそうだから私たちに預けるってことね」

 

「済まないが頼む」

 

「才色兼備だけどちょっとプライド高いしそこそこ短気で友達ほとんど居なくて距離感分かってないけど、悪い子じゃないから……」

 

私とイオンで頭を下げる。

 

「イオンさん、それフォロー……じゃないですよね?」

 

「ソンナコトナイヨー?」

 

「……少し考える時間を」

 

ゆりね嬢はそう言ってから少し悩む素振りを見せる。

 

そして1分後に口を開く。

 

「……私はともかく他がなんていうか反応見ておきたいわ。特に邪神ちゃんあたり『喧嘩するほど仲が良い』か、『不倶戴天の敵』のどっちかに転がる気がするから、そこが特に不安なのよ。集まったら連絡するから、来客用の部屋で待っててくれる?」

 

「分かった」

 

私達は管理人室をあとにする。

 

……キリトからユージオ、クライン、エギルが女性陣と同じ屋敷なのは気まずいと言っていたので一戸建てをそれぞれに用意したと事後報告の連絡が来た。

 

引っ越しの可能性とか伝え忘れてると送り返し、来客用の部屋に3人で待機する。

 

「本当に寧さんなんですね。髪とか目の色違うので最初気が付きませんでした」

 

星奈の言葉にイオンは苦笑する。

 

「今じゃ此方のほうがしっくりきてるけどね。……その、色々大丈夫?」

 

「……まあはい。 帰ってもそこには『私』が既にいて、今を生きているって言われて、実際映像で知らない誰かと雑談してる私を見せられた以上、此処で生きる他ないのは理解できてますから……」

 

「……ところで2人はどういう経緯で知り合ったんだ?」

 

私の言葉に星奈が、ビクッとしてからイオンに目で何かを訴える。

 

「……隠れ家的なお店でアダルトコーナーに学生服姿でこそこそ入っていく姿見かけたからコーナーの中で捕まえて叱ったことがきっかけかな」

 

「……!」

 

星奈のアイコンタクトガン無視でバラしたイオン。

 

星奈の伸ばした手が宛もなく空中を彷徨って自身の膝に戻ったあたり、相当知られたくなかったのだろう。

 

「……あのお店の人趣味でやってるし、万引きじゃなければ特に気にしない人だからよかったけど、制服でアダルトコーナーは流石に問題だと思ったからね」

 

「(本当はダメなんだがな、ソレ。)……その店には、卿もソレ目的で?」

 

「ううん? そのお店、ジャンク品とか売ってて、ゲネロジックマシン開発の素材になりそうなのたまにあるからちょくちょく顔出してたの。っと、それはともかく」

 

イオンが星奈を見る。

 

「……ここだと貴方のお父さん……柏崎さんの後ろ盾は無いからね? 旦那様が一応後見するけどそれ以上は面倒見るつもり無いから」

 

「寧さんもそうなんです?」

 

星奈が問いかけると

 

「私は旦那様の正妻なので。……あ、一応お仕事してるからね?」

 

しれっと私の腕にしがみつくイオン。

 

「……エロゲ仲間としてもう少しその、援助とかは……」

 

「エロゲ仲間になった覚えは無いけど……。んー……衣食住は最低限の文化的生活水準保証してるしこれ以上はねぇ。……旦那様の嫁になるなら正妻として援助はおしまないけど」

 

「しれっと私とキリトの相談無しに話進めようとするな」

 

星奈に対する返しに私はツッコミを入れる。

 

「ちなみに最低限の文化的生活水準とは?」

 

「3食は保証、服はサイズ調整はするけど種類は割りと適当かな。あと部屋は個室で間取りはこんな感じ」

 

この屋敷の個室の間取りの一つを宝物庫から取り出して見せる。

 

「お風呂は無料だけどお城まで足を運ぶか、銭湯みたいにお金払って屋敷の敷地にあるのに入るかだね。他におやつの甘味類や日本語の本にゲーム類、化粧品は『ここのお金』と交換で買えるよ。ただし、転売したらレート跳ね上がるから気をつけてね。……『転売事件*1』の詳細はさっきのゆりねさんから聞いてね」

 

イオンの言葉に思考を巡らせる星奈。

 

「……この人?の嫁になれば」

 

「さっき言ったの基本お金払わなくて良いし、仕事『は』週一くらいで何かしら働けばあとは割りと自由。何なら宝物庫使えるし、都市間移動に旦那様の城の専用通路使えて、メリットはかなり多いよ? 代わりに旦那様との夜求めてルール違反しないようにする自重や、旦那様都合の予定変更もちゃんと受け入れられる柔軟性、旦那様に埋め合わせ要求するときや我慢できないなら他の(ヒト)とすり合わせして一緒にとかする場合の交渉ができないと辛いかなぁ」

 

イオンが確認するように指折り数えしたり、何かのメモがされてる手帳を確認するイオン。

 

「……この人、エロゲとかに出てくるマジカル○ンポ持ち?」

 

「……割りと? 星奈ちゃんならネイちゃんみたいな体格的に最初の痛いとかも多分ないだろうし」

 

「……ちなみにあのゆりねさんとかは」

 

「多分そう遠くないうちに食い散らかされると思うけど、今はまだ違うかな」

 

此処で色々言いたいが言うと後が面倒なので無言を貫く。

 

時には沈黙こそが最善なときもある。

 

「……立候補しようかなーって」

 

「さるもの追わずのスタンスだけど、多分戻れないからもう一度聞くよ? ――覚悟は大丈夫?」

 

「後ろ盾が手に入って寧さんと竿姉妹になれるので大丈夫です!」

 

「……ってことだから面接オッケーならここ仮住所でゆりねさんたち引っ越す時に此方に組み込む方向、そうじゃないなら本拠地住みにしとこうか」

 

「……うむ」

 

私の意思決定の余地はなかったが良し!

 

「……星奈ちゃん見た目はあなた好みだし、性格の方はどうせあなた好みに調教す(しつけ)るだろうから聞かなくてもいいかなーって」

 

「風呂でお仕置き」

 

「はーい♡」

 

「怖いような楽しみのような……複雑!」

 

星奈が生唾飲んでそう零したがそこまでだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

――side キリト

 

『なるほど、そちらに皆さんいるのですね』

 

『といっても私達の記憶抜け落ちてるらしいから、0からの関係だけどね』

 

通信端末でプレミアとティアに連絡取りつつ、みんなにその事を伝える。

 

「……ということだ」

 

「いやキリト君? あなたがあのラインハルトって人の半身なのとかラインハルトって人に正妻いる辺り納得できてないんだけど???」

 

一瞬で間合いを詰めて肩に物凄い力を込めるアスナ。

 

「いやあのあっちが本体で言うなれば前前前世あたりからの先約だから! 首を締めても無理なものは無理だから!」

 

抵抗してるのに勝てないの何でだ!?

 

あ、思考の同期が……え、ステータスそのものがなんのバグでほぼ初期値のまま!?

 

そりゃレベルカンストのアスナに敵わない訳だ(諦めの境地)。

 

「パパはやはり節操なしですね」

 

「ユイ、この場合は認識外からの衝突事故みたいなもんだからどうしようもないかなって」

 

「……これは正妻戦争の勢力図かなり変わるわね」

 

ユイ、ストレア、リズの言葉にラインハルトと共有した胃痛が加速していく。

 

「……なあキリト、一つきいていいか?」

 

「クライン、あんまり胃痛にならないものでひとつ」

 

「……ラインハルトとキリトじゃ、体格的にアレの大きさとか違うと思うんだけどよ、そのあたりどうなんだ?」

 

「胃痛にならない話ってオレ言わなかった!?」

 

『元自称愛人、現ラインハルトとキリトの嫁として代わりに答えますがラインハルトの大きさに合わせられてるみたいです。サイズも大きくなってますし、持久力や弾数に関してはそういう本の竿役以上なのでサシではまず満足どころか準備運動にもならないかと』

 

「ちょ!? プレミアさん?」

 

「え……本当に?」

 

『……ソースはラインハルト本人からだから先ず間違いないわね。……ラインハルトと同じなら、4人がかりでも返り討ち、私達が伸びてる横で余裕そうに1人ジェンガで暇潰して夜過ごしたりするわよ』

 

「」

 

逃げ場が無いのでうなだれるオレ。

 

「……なんつーかもう、レイドボスだな」

 

「……ま、コナかけた責任取って腎虚オチよりはマシじゃねえの?」

 

「……キリト、清算するときがきたって思って諦めようか」

 

野郎3人が優しい目してる!!

 

半ばパニクってると、通信が追加され、ラインハルトとの通信が始まった。

 

『こちらラインハルト。星奈の方は片付いたがそちらはどうだ?』

 

「絶体絶命なので城の入口作ってモガッ」

 

セブンとレインに猿轡噛まされて口を封じられた上、腕を後ろで縛られて動けない。

 

『……問題ないよう「いいえ、問題あります」む……』

 

アスナがラインハルトの言葉を遮った。

 

「キリト君の正妻問題が起きてるので、貴方キリト君を別の存在として扱い、キリト君の正妻を私に認めてもらえませんか?」

 

「それはだめでは?」

 

「横暴だー!」

 

「権力反対!」

 

アスナの言葉に反対する女性陣。

 

あれ、クラインたちが居ない。

 

『割当の家見てくるので終わったら連絡して』という書き置きを壁に貼り付けていなくなってる!?

 

『悪いがその要求は飲めない。彼は私の半身であり、私と彼はほぼ同意義だからな』

 

『逆にいえばラインハルトさんの嫁……実質キリトの嫁となり、下剋上戦をイオンさんに行って正妻の座を勝ち取ればキリトの正妻を名乗ることもできるかと』

 

『まあラインハルトにとっての一番はイオンってのは共通認識になってるから、下剋上戦は形骸化してるし、正妻の地位も名誉称号みたいになってるのよね。ちなみにイオンへの下剋上戦は特殊で、天災でも未だに突破できてないから無謀でもあるけどね』

 

ラインハルトの言葉に安堵したがプレミアとティアがしれっと抜け道を暴露しやがった。

 

ラインハルトも困った顔してるんだけど!?

 

オレも困ってるけどな!!

 

「ちなみに」

 

「それって」

 

「「「誰でも挑戦権あるの?」」」

 

女性陣がなんかアップ始めて怖いです。

 

『ラインハルトの嫁なら「ある」と言えますね。最も、嫁認定でラインハルトと殿堂入りしてるイオンの認可が必要ですけど』

 

オレの許可必要と言われなくてよかった。このままだと絞め殺されそうだったし。

 

「キリト君と貴方は同意義なので、キリト君と結婚した私はあとイオンさんから許可もぎ取ればそのまま下剋上戦できるってことですね?」

 

『……まあ、そうなる……!?』

 

険しい顔してたラインハルトが消えてイオンが姿見せる。

 

『……正妻とか、彼の一番欲しいのはわかるけど、その分大変だよ? 正妻の余裕とか持ってないとだし、突発的な予定変更の調整も役目だから。あと下剋上戦も旦那様が贔屓しまくってるから突破きついし』

 

「……でもキリト君の一番譲りたくないから」

 

アスナの言葉にイオンが肩をすくめると

 

『そこにいるユイちゃん以外希望だよね? 今夜開けとくからキリトと一緒に来ること。旦那様にも一応抱かれること覚悟しておいてね。話はそれからだから。……初回だけど前後からとか中級者以上のプレイの準備しておいてね、あなた』 

 

最後のは意図的に聞かせたのか分からないが、イオンが半ば一方的に告げてラインハルトとの通信が途絶えた。

 

「……なんか正妻サマめちゃくちゃ不機嫌じゃなかった?」

 

「ですね。……アスナの言葉が余程気に障ったか」

 

『おそらく一度に多くの人数増えた上、キリトの方の予定調整も増えたから指数関数的に負担増えたと考えたからかと』

 

『そう言えば順番のほう、キリトの写真とか情報載せてこっちでもいいか確認取ってたし……それもあるかも』

 

「いや、そこはラインハルト……とキリトが調整するべきでは?」

 

フィリアがいうが、プレミアが代わりに応える。

 

『平等と公平は両立しません。そしてキリトとラインハルトの割り振りで偏り感じたら不満貯まるでしょう? それを訴える人ばかりなら良いですが、溜め込む人もいるんですよ。それにアスナみたいにキリトとラインハルトを同一視できるかどうかも人それぞれ。それから、みなさんを分けずに呼んだのはまとめて快楽の底なし沼に叩き込んで皆さんの中で分断を起こさないようにというイオンの配慮かと』

 

『ちなみに一度浸かったら抜け出せないから覚悟しておいてね。ソースは私達。……早く合流したいわ』

 

その言葉に誰かが生唾を飲んだようだがとりあえず猿轡と縄解いてくれない?

 

なんか縄抜けの手順が頭に浮かんだのはラインハルトからのせめてもの支援だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

「どうだった?」

 

「すごく……良かったです。」

 

夕方ニ差し掛かる頃、廬江の私の部屋にて、風呂浴びてスッキリした星奈がイオンに感想聞かれて顔を赤らめている。

 

「でしょ? ……竿姉妹として、これからよろしくね、星奈ちゃん」

 

「はい、イオンさん!」

 

するとどこからともなく鈴の音が聞こえた。

 

「……星奈ちゃんごめんね、これから大人数の『面接』あるから」

 

「寝るときは寿春のゆりねが管理する屋敷の部屋に戻るように」

 

「……ここでねたら?」

 

チラッと何かを期待する目でこちらを見る星奈。

 

バスローブから谷間が見えてる。

 

見せてるのか?

 

「罰として玩具で寸止め半日かな」

 

「お先に失礼!」

 

イオンの低い声で告げられた言葉に星奈は顔青ざめさせ、城の入口を開いて逃げるように去っていった。

 

「……あんまりみんなに嫌われたくないけど、必要だから仕方ないね」

 

そういってイオンは私の後を追いかける。

 

……今の脅しは余分……と思ったが呑み込んで大部屋をめざした。

 

 

部屋に入るとざわついていたのが一瞬で収まる。

 

「……改めまして、イオナサル・ククルル・プリシェールこと、イオンです。よろしくね?」

 

「イオン、卿の威圧はそこらの怪物の比ではないのだから少し抑えろ」

 

「はーい」

 

イオンが一息すると、私にとってはそよ風程度、彼女らにとっては重力倍くらいの圧が潮が引くように収まる。

 

「……さて、キリト」

 

私は分身の種をキリトに「彼女たちの人数分−1*2」纏めて渡す。

 

「……おいおい、壊すつもりかよみんなを……!」

 

「これでも妥協させたほうだからな?……あと、私とてかなり手加減はする。無論卿も手加減するだろう?」

 

「そりゃそうだけど……イオン的にはこれ以上妥協不可か」

 

キリトが口元引きつらせ、アイコンタクトでSAO組になにか伝えていたが私は見て見ぬふりした。

 

「うん。あと、私もアスナちゃんとするから。4Pだけどよろしくね?」

 

「え……?」

 

「返事は聞かないから。――さっ、爛れ切った肉欲の宴を始めよっか」

 

私とキリトが種を飲み込むのを見て、イオンは妖艶に笑ってそう告げた。

 

 

 

なお下邳は誘引計と夜襲と黄巾賊の兵士に扮した細作の偽報の連打により、街はほぼ無傷で奪還できたらしい。

 

――あとは北海を残すのみ。

 

 

 

*1
なんとなく察しの良い読者はわかるだろうが、邪神ちゃんがラインハルトから買った甘味や化粧品をべらぼうな値段で甘味好きな人や化粧品欲しい主婦などに転売して荒稼ぎした事件。そのため現在の邪神ちゃんの飲食物や化粧品、一部を除く娯楽品のレートだけ、他の人の二万倍くらい高い

*2
食べた分増えるので人数分にしたら本体暇になるからね!



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第二十八話 群雄集う(馬家&公孫賛+荊州益州関係者不在)

「やっと追いついた」
「……」
「? お姉様どうしたの?」
「なんでも無いわ。――シャオ、今夜彼戻ってくるはずだから、夜に行ってきなさい。予定は調整するようにイオンたちに掛け合っとくから」
「??? とりあえずやっと許可降りたってことね。了解」
「あと同行させてる二人も一応連れて行ってね」
「えー」


――side ラインハルト

 

一晩しか不在じゃなかったはずなのだが

 

「あ、やっときた」

 

――後詰めで出てきたはずのシャオたちに追いつかれていたらしい。

 

天幕から雪蓮のところに言ったら朝食を皆で食べていた。

 

私は既に済ませていたのでコーヒーだけ用意して飲むことに。

 

「あ、そうだ。――二人の紹介しなきゃ。はい、ふたりとも、自己紹介ね」

 

シャオがそういうと、末席で小さくなってたのと割と堂々としてた褐色肌で雪のように白い髪の姉妹?が顔を上げてこちらを向いた。

 

「えっと、厳白虎……です」

 

「厳輿だ」

 

……とある世界*1のガラシャこと明智珠そっくりなのと

 

艦これ世界の武蔵そっくりなのが名乗り上げた。

 

……色々言いたいがまあやめておこう。

 

「……なるほど、小蓮殿がおっしゃった通り、万不当の猛者が居ますな」

 

「相手にならないから止めよう、ね?」

 

「強い相手と戦うからこそ学べることもある。――まあ今は賊討伐の真っ最中。無用な消耗は避けるべきなのは理解していますのでご安心を」

 

前半は厳白虎に、後半はこちらに告げる厳輿。

 

「(……夜まぐわってるの自重した方がいい?)」

 

「(余裕があるのだからよいのではないか?)」

 

なんかアイコンタクトしてきたので返しておいた。

 

「あと、袁術のところと一緒についてきた董卓軍の人たちなんか調子悪そうだから時間作って様子見てあげてくれない?」

 

「そうなの? わかったわ。ラインハルト連れて早めに交流するから」

 

「あと……董卓からそれとなーく教えてもらったんだけど――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日夕方。

 

私達は袁紹軍の軍議用天幕に集まっていた。

 

昼間にあつまれ?

 

行軍と移動しつつ物資の確認などが合ったので無理だ。(ガチ)

 

「……はい、美羽さん、自己紹介どうぞ」

 

何故かすっごくテンション低い袁紹がチラチラこちらを見つつ顔合わせの司会進行をしている。

 

変なものでも食べたかな(見当違い)

 

「……袁術、字は公路じゃ、こっちが張勲。こっちのが董卓と賈駆じゃ」

 

なんか董卓と賈駆の目が死んでるんだが……早急にケアが必要だな。

 

「私のとこと華琳さんのところは良いとして……孫策さんからお願いしますわ」

 

「ハイハイ。アタシが孫策。字は伯符。――こっちの彼がラインハルト。そして部下の黄蓋と呂蒙よ。」

 

「あ、お主らにあったら言わねばと思うておったことがあるのじゃ」

 

「何かしら、袁術」

 

「――寿春でほとんど物資を得られんかったんじゃがどういうことじゃ?」

 

瞬間的に天幕の温度が数度下がったが、気が付かないのは袁術だけか。

 

「…………あそこアンタの苛政のせいで反乱起こって復興中なの忘れたのかしら????」

 

「復興なぞ3日で終わらせられるじゃろ。それと大義のために使われるのじゃ、民から一食くらい抜いてでも妾たちにもがっ!?「おほほほほ、孫策さん、この話は後で。――劉備さん、紹介お願いしますわ」」

 

袁紹が顔色変えて袁術を抑え込んだ。

 

抵抗してるが体格差とかあるので袁紹が優位である。

 

……雪蓮の血圧が跳ね上がってる感じがするのでそっと尻を突くように触れて気をそらす。

 

ちらっとこちらを見てから落ち着くように促すと深呼吸をする。

 

わかってると返事の代わりにお尻を手に押し付けるのはどうなんだ?

 

「――ということで曹操さん3万、孫策さんの5万ちょっと*2に袁術さんの2万と董卓さんの1万、劉備さんの2千、私の5万で16万2千と少しの大軍に為りましたわ。――北海の敵はおよそ20万と言われてますので、数の差はかなり縮まりましたわね」

 

いつの間にか劉備の紹介は終わってたらしい

 

「あと練度のこと考えれば……まあ互角くらいはできるでしょうね」

 

「せっかくですので、明日にでも交流会を開きたく……私は少し美羽さんとその日お話があるので私達抜きでやってくださいませ」

 

「……私も少しお話あるから袁紹と途中で入れ替わるかもしれないけど、仲良くしてくれるとありがたいわね」

 

曹操が胃痛で苦しんでそうな袁紹に気を利かせている……。

 

それなり以上に仲がいいのは、噛み合わないことも多いがどちらも人とは一線を超えた立場や才能を持ち合わせてるが故だろうか……。

 

「そういうことで行軍の疲労を加味し、明日は進軍を中止して交流の場を設けたいと思いますわ。――それでは解散」

 

 

 

 

 

 

 

――side シャオ

 

「こっちこっち」

 

私は今、厳姉妹とともに夜の陣をこそこそと移動している。

 

目的? 言うまでもないと思うけど夜這いよ。

 

雪蓮お姉様からようやく(ここ重要)、許可が出たのと「なーんか不穏な予感するからあの二人も毒牙にかけておきたいわね」と言われた結果、3人で移動している。

 

……はじめてなんだからもう少し雰囲気とか……って思ったけど、昨日あたりにそんなのへったくれもない事態が起きたらしいし、まだマシかしらね。

 

天幕に入ると、椅子に頬杖ついて目を閉じていた彼が目をゆっくりと開いた。

 

「なにをしに……と聞くのは無粋か」

 

「そういうコト。手土産に……あれ? あの二人が居ない」

 

振り返ると入るまで後ろに居たはずの二人がいなくなってる。

 

「あの二人が居てはゆっくりとできんからな。別の場所で、キリト(わたしの半身)に相手させている」

 

「……てっきり初回から4人でとか思ってた」

 

「それなりの理由がなければ流石にやらんぞ。雪蓮から聞いただろうが昨日のは下手にバラバラに相手すれば揉める理由があり、梨晏のときは雪蓮が業を煮やして巻き込み、まだ半身も裏の手もなかったからな」

 

そう言うと立ち上がって寝台移動してその縁に座り、横に座るように彼は促した。

 

特に嫌がる理由もないし、隣に座る。

 

「少し喉が渇いたのでね。付き合ってくれるかね?」

 

「へ? いいけど……」

 

「何が良い?」

 

「……甘くて温かいものとかある?」

 

「ふむ。チョコケーキを見たと思うがアレと同じ感じの甘い飲み物を用意しよう」

 

彼はそう言って指を鳴らすと近くの机に2つの湯呑が現れた。

 

そしてその片方を渡してきた。

 

器が温かく、手が少し震えていたことに気がつく。

 

「少し熱いのでな、軽く冷まして飲むと良い」

 

「はーい」

 

ふーふーと撥ねないように、でも冷ますように息を吹きかける。

 

彼はソレを見てなんでか微笑ましいものを見るように見ている。

 

……やっぱり姿が幼いからかなぁ……。

 

「……ああ、すまない。――雪蓮も蓮華も卿も……炎蓮も、冷ますときの顔がそっくりでな」

 

そうなんだ。

 

――鏡とかあんまり見ないし、冷ましてるときの顔なんてなおさらだ。

 

雪蓮お姉様も、蓮華お姉様も……お母様も……そっくりなんだ。

 

「……お母様……」

 

生きてる気がするんだけど、どこにいるか見当もつかない。

 

……雪蓮お姉様とか彼は知ってそう(というか死亡偽装とかやるならこの二人が手引しないと成功しない気がする)だけど……。

 

そんな事を思いながら飲んでいると、彼は少し考えるような顔してから口を開いた。

 

「……ゆっくり眠れば、頭の中も整理できるだろう。今日は寝るといい」

 

彼は私の事を案じてくれたけど、首を横に振った。

 

「まだ向き合えてないし、向き合うの怖いから――。今日は寝たくない。――代わりになにも考えられないようにしてほしいな」

 

「……仰せのままに、お姫様」

 

彼との口づけは、珈琲の苦いものと甘い砂糖が混ざった、不思議な味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

「……シャオは眠っているぞ」

 

静かに寝息を立てている少女の頬をそっと撫でてから、天幕の外で夜空を眺める長女に声をかける。

 

「本人主導で仕組んだとは言え、お母様の1件が尾を引いてるわね……。とりあえずシャオがある程度眠れるようにしてくれてありがと」

 

天幕越しに背中合わせで会話する私と雪蓮。

 

「……不眠症か」

 

「知らせの後から半刻くらいで目を覚ますようになってたようね。無自覚で歩き回りも合ったみたいで、明命が添い寝するようにしてたらしいわ。今日は夜這いって明命に伝えて断ったらしいけど」

 

「……雪蓮も寝ると良い。――夜更かしは美容の天敵だぞ?」

 

「妹が心配過ぎて寝れないわよ」

 

「明日の交流どうするんだ」

 

「え?無尽蔵な持久力あるあなたに全権ぶん投げるだけだけど」

 

「えぇ……(困惑)」

 

私が本気で困惑していると

 

「……冗談よ(たぶん)。その様子ならシャオは大丈夫そうね。――じゃ、後よろしく」

 

そう言って彼女は私の天幕から離れた。

 

 

 

 

 

なお翌日調子崩したと言って二度寝かましたため、私が孫策軍代表で交流会に参加することになった。

 

 

 

 

 

 

交流会は軍議と違い、主だった将全員参加(なお雪蓮+袁術+袁紹不在)だ。

 

「……張勲、袁術に張り付いてると思ったけど、違ったわね」

 

いつの間にか華琳(先程乾杯した直後に真名で呼べと言ってきた)が隣におり、こちら小突いて耳を貸せと近づけさせた後に小声でそうこぼした。

 

「雪蓮探してるあたり袁術溺愛の限界超えて胃痛感じてるのだろうな。あと卿がいるからこちらに来ようか悩んでないかアレ」

 

「……先に董卓の方と話しておくわ。――本人も部下たちも粒ぞろいだし」

 

そう言って去っていく。

 

人材蒐集家の癖が出てるぞ覇王様。

 

そんなふうに思っていると、環境慣れしてないネコ並みに恐る恐るこちらに張勲がやってきた。

 

「あのー……本当に孫策さん、体調不良で?」

 

「どちらかというと心労で疲れが出たようだ。――明日には元気になっているだろう」

 

「ソレは良かったです」

 

「――寿春の件はアレ以上つつかなければ、こちらから何か言うつもりはない。雪蓮からもそう言伝を預かっている。――互いの胃を削るのは不毛だろう?」

 

「そうですね。ソレが聞けて何よりです。……何かありましたらまた」

 

言質取れたからかホッとした様子で去っていく張勲。

 

服の裾を軽く引かれたため、振り向くと絵本を持った呂布と陳宮がいた。

 

「……嘘つき姫と盲目王子……あなたが書いた?」

 

「天の国でそれなりにしれた物語だ。私はそれを絵本や紙芝居に落とし込んだにすぎん」

 

呂布の質問を半分否定する。

 

「でも……あなた……が居なかったら、恋、本を読むことなかったと思う。ありがとう」

 

「恋殿が本に興味持つようになったのには感謝してるのです。あと紙芝居、あの蛇女の語り口で聞きたいので他のものもあったら頼んだのですよ」

 

「うむ……時間を見つけて用意しよう」

 

「話はそれだけ……また」

 

そう言うと二人は去っていく。

 

後ろを見ていたがどうやらまだ客人がいるようだな。

 

*1
戦乱プリンセス

*2
実際は7万5千ほどだが、千ほど死傷し、2万4千ほどは小沛復興と下邳復興に割り振られたのでこの数になっている



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第二十九話 董卓軍との交流

「……詠ちゃんもうすこしこのへんごまかさないと」
「月も大概よ。ほら、動かないのっ」
「誤魔化しの化粧、同時進行でやらずに片方ずつやればええんとちゃう?」
「自分後回しの悪い面が変に作用したな」
「……」(絵本を黙読中)
「恋殿なら食べれば大体なんとかなるので」
「「「「いや、多少の傷も食べてる間に治るのは流石におかしいと思う(ぞ)?」」」」



――side ラインハルト

 

呂布と陳宮が去った後、私は後ろを振り向く。

 

そこには寝不足か疲労かその両方か……目にできている隈を化粧で誤魔化している董卓と賈駆が居た。

 

「その……孫策さんは……?」

 

「彼女は別件に心を砕いて居た反動で少し休んでいる。……私が話を聞こう」

 

賈駆に返事すると、董卓が口を開く。

 

「その、寿春の件、止められず……」

 

「その件なら張勲からも聞いた。互いに話を終わりとすることで決着はついている。卿らが気にする必要はない」

 

「しかし……」

 

「……では私の、孫策が抱えている悩みを聞いて欲しい」

 

「……悩み? 解決できるかは……」

 

董卓が困惑しながらそう零したが私は続ける。

 

「先日顔を合わせた娘たちが疲労困憊で倒れそうなのだ。今倒れられるのは敵に利することになる。こちらには落ち着いて眠れる場所と方法はあるのだが、どの様に誘えば不審がられずに来てもらえるだろうか」

 

私の言葉に互いを見合わせる賈駆と董卓。

 

「……えっと……」

 

「……普通に誘えば……?」

 

「変に考えぬ方が良いと。なるほど。私もそう思う」

 

私の言葉に目を丸くする2人。

 

「……!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「はて? 私は一般論を語り、卿らの意見に同意しただけだ」

 

わざと惚けてみせると賈駆が口を開く。

 

「そう言えばボクそちらが安眠して欲しい人たちには仲間がいるって知ってるんだけど、2人はその人たちくらい深刻で、もう2人はそこまでじゃないけど眠りがかなり浅いみたいなのよ。……6人同じ場所で安眠できると思う?」

 

「孫策軍の軍議用天幕が今日は空いてるのでな、そこで準備している。……流石にその調子では倒れかねんのでな、可能なら交流会の後来て欲しい」

 

「分かったわ。月もいいでしょ?」

 

「うん。……改めて、ありがとうございます」

 

「まだ交流会は続く。厳しければ椅子に座るなりして休息を取ることを強く勧めよう。……いや、その様子では交流会途中で倒れかねない。――ふたりとも手の甲を出すと良い」

 

「? こうですか?」

 

「小蓮がなんか不思議な力持ってるって言ってたけど……」

 

ひみつ道具のケロンパス*1を取り出して*2それぞれの手の甲に貼り付ける。

 

「……え?」

 

「身体が、軽くなった……?」

 

少ししてから目を丸くして変化に気がつく二人。

 

「疲れをそれで吸い取った。吸い取った分吐き出させる故返してくれ」

 

「あ、うん」

 

「……本当にすごいわね」

 

「応急処置のようなものだからな。どちらにしても休息は必要だ。……他の4人も連れてくると良い」

 

二人から回収したケロンパスを自分の腕に貼り付けて貯められた疲れを自分が請け負う。

 

……キリトが2枚同時にしてたら目眩おこしたな、コレ。

 

そう思ってると先程去っていった呂布に陳宮、そして張遼と華雄がやってきた。

 

「ホンマなんか……その、疲れ取れたって話」

 

「信じられんが……月たちの顔色からして事実なのだろう」

 

自分の常識と目に見える情報のせめぎ合いしてる(張遼は前者、華雄は後者優勢)二人。

 

「……さっきぶり」

 

呂布が手を振っている。

 

「霞、無いと思ってた蛇女や変な帽子被った2足歩行したり工事作業するネコの群れ*3がいるのですぞ? 疲労を取る不思議な札*4があってもおかしくないかと」

 

「ソレ言われるとなぁ……寿春でだいぶ常識壊れたし*5

 

陳宮の言葉でかなり傾いたな。

 

それはさておき。

 

「論より証拠だ」

 

私はそう言って4人の腕にケロンパスを貼り付ける。

 

「……!」

 

「……マジかぁ」

 

「おお、楽になったのです」

 

「……便利?」

 

4人とも体の変化に目を丸くする。

 

「便利だが、乱用すると身体が持つ本来の回復力を損ねるのでな、次は無いと思ってくれ」

 

「……ありがと」

 

呂布が頭を下げた。

 

「私のお節介故、あまり気にするな。――他の者たちが卿らと交流するために待っている。行くと良い」

 

私がそう言うと、董卓たちは互いを見合わせた後董卓を先頭に一列に並んだ。

 

そして、董卓が耳を貸せとジェスチャーする。

 

何かと思って耳を貸す。

 

「私のことは――月と呼んでください。本当に助かりました」

 

董卓……月がそう耳元でささやくと笑顔を見せてから他の者たちとの輪に入っていく。

 

次に賈駆が同じように耳をかせとジェスチャーするので(ry

 

「ボクの事は詠でいいから。月の疲れなんとかしてくれてありがと。――でも月に手を出したかったらボクに話通さなきゃ許さないから」

 

……卿はアイドルのマネージャーかね?(混乱)

 

頷く他なかったので頷くと満足したように月を追いかける。

 

次は張遼だ。

 

「ウチの真名は(シア)やで。ちゃんと覚えてな。あと二人元気にしてくれてありがとな。ほんま見ててヒヤヒヤしてたんや」

 

そういって肩をぽんと叩いたら彼女は去っていく。

 

次は……華雄か

 

「あいにく預ける真名がないので華雄のままで頼む。――また月たち関係で頼るかもしれない。――その時の対価は私ができる限り払うから……」

 

「……自己犠牲は尊いが、揉めそうなのでもしそうなったときは彼女たちに話を通してから改めてだ」

 

私はそう言って軽く背をたたき、送り出す。

 

そして次は陳宮。体格差的にきつかったので膝ついて耳を傾ける。

 

「ねねの真名、音々音なのです。――ねねと呼んでも良いですぞ。――あとで代金先払いするので新作ができたら一番に送ってください」

 

「ふむ、分かった」

 

私の言葉に満足したのか、同じくらいの背丈である諸葛亮たちのところに突撃するねね。

 

「……恋。こまったら、頼って良い?」

 

「人よりできることは多いが全能でないことを理解した上で頼るなら構わんが」

 

「……ん。もう少し、会話できるようにがんばる」

 

「ふむ……左腕を出してくれ」

 

「?」

 

私は雪蓮たちと同型の端末を手首につける。

 

「…………恋にだけ?」

 

「あまり安売りしたら私の嫁に締め上げられるのでな……」

 

「……大変そう。でも、ありがとう」

 

「使い方はそのうちわかるはずだ。ちょっとやそっとでは壊れんが、わざとぶつけるのはしないように」

 

「ん」

 

頷くと恋は料理があるところに向かって暴食を始めていた。

 

……張飛が恋の大食いみて大食い対決を言い出した。

 

料理とか増やさねばな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side 月

 

……気がついたらとても柔らかなものに包まれている感覚に満たされ、穏やかな聞いたことのない音色がどこからともなく聞こえてくる。

 

そして目を開いたことで、私は眠っていたことを思い出した。

 

竪琴の一種だろうか、人が抱えられない大きさのモノを女性が演奏している。

 

屋根付きの天幕でほのかな明かり以外は無く、夜のような暗さ、楽器の音色にこの寝台の心地よさ。

 

……もう少し、寝てもいいかな。

 

「……」

 

いつの間にか近くに来ていた人の姿……ラインハルトさん……。

 

そっと毛布をかけてくれて……いつの間にか毛布ズレて……かけ直し……あり……がとう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

「忘れてください」

 

「え、なに「忘れてください」う、うむ?」

 

3時間少し寝かせ、緩やかに意識が起きるように天幕に光を入れたりして彼女たちを起床させたのは良かったが、目覚めた直後こちらから顔をそむけて何かをした後、涙目で月が先程の発言をした。

 

……気持ちよさそうに寝ていたが……忘れてほしかったのか……*6

 

「……うむ、元気になって何よりだ。悩みのタネもなんとかなったようだし……なってないのか?」

 

私の言葉に顔を暗くする月と詠。

 

「その……」

 

「人の方の備蓄はなんとかなりそうなんですけど、馬の方が帰り分あるかちょっと怪しくて……」

 

「世代交代してるけど、涼州時代からの馬たちだから愛着それなりにあるのよ。補給できると思ってたんだけど雲行き怪しくて……」

 

「……もし本当にそうなったときはいうと良い。――タダはできんが要相談でなんとかしよう」

 

その言葉に二人がホッとした様子でお礼を言った。

 

……とりあえず彼女たちの悩みのタネはなんとかなったっぽいのでヨシ!(現場猫)

 

 

 

彼女たちを見送るときに寝具をおもにねねからねだられたがこの時代価格を伝えたら全員顔真っ青にして諦めた。

 

……汚した代金払えない?

 

べつにぶった切って中身ばらまいたわけでもないのでいらんいらん。

 

そう言うと彼女たちはホッとした様子で去っていった。

 

 

 

 

*1
疲れてる人に貼ると疲れを吸い取り、その後別の人に貼ると貼った人に疲れを移す道具。ニキュニキュの実のダメージ弾き出し等とやってること割りと同じ

*2
人類が生み出す道具なども宝物庫に収められる関係上、ひみつ道具一通りあるらしいが余り使う気になれない。道具にあまり頼りたがらないドラえもんの気持ちがわかった気がする。

*3
……現場猫だろうな。どこで見かけたんだ?寿春……?

*4
湿布の亜種なんだが……札にみえるか。そうか……

*5
何が合ったんだ???

*6
月だって女の子。気持ちよさのあまりよだれ垂らして爆睡している姿を恩人に、しかも美形の異性に見られたとなれば穏やかにいられるわけではないのだ



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第三十話 決戦! 北海の戦い!

「敵を殲滅したい、ですか……」
「けど味方の人的被害少なく?」
「できれば練度違えば足並み揃わないからある程度役割分担出来るように?」
「いいじゃない。作戦立案、やってやるわよ!」


――side ラインハルト

 

青州に入り、北海郡に辿り着いた。

 

「作戦を説明する」

 

何故私が司会進行してるのか内心で首を傾げつつ、群雄の前で説明を続ける。

 

「今回の作戦は複数の段階による波状作戦となる。第1段は敵の補給物資に兵士を混入、同時に黄巾賊に扮して北海内部に合計一万を侵入させる。ここは懐に潜り込む関係上、かなり危険な役目だが、内部に1番乗りでき、張角の討伐が一番可能な部隊とも言える」

 

黄色い駒がひしめく北海の城郭の中に連合のコマを入れる。

 

「第二段階として侵入した者たちが動きやすくなるよう、敵の目を引き付ける軍。……なるべく派手に、陽動をする陽動部隊だ。陽動といえど殲滅を目標に据えているため、西門から通常の攻城戦を行う」

 

西門に黄巾賊の駒を集め、西門の外に連合軍の駒を配置する。

 

「第三段、潜入部隊が時を見て食料庫の火付け、城門のうち北と南の開門及び内部の撹乱を行う」

 

火のマークの駒を置いて代わりにいくつかの黄巾賊の駒を取り除く。

 

「第四段階として北、南の開門した門より侵入し、潜入部隊と合流後、東門へ黄巾賊が逃げられるようにしつつ、敵を攻撃」

 

北と南に連合軍の駒を置く。

 

「……それ敵に逃げられない?」

 

雪蓮の言葉に頷きつつ続ける。

 

「このままでは逃げられるな。故に最終段階がある。――東門より脱走した敵を騎馬隊による機動力で撹乱、撃破していき、各部隊が担当する場所の敵の減り具合を見て順次掃討に移行する。これが作戦の全体像だ」

 

「1番危険だけど首魁の首を狙える潜入・撹乱部隊。逃げた敵を殲滅する騎馬隊。敵を削り東門へと潜入部隊と共に追い立てる北と南の後詰め部隊。そして陽動の西門攻撃部隊。この4つ、細かく言えば5つに分けるってことね」

 

華琳の言葉に私は頷く。

 

「その通り。……さて、16万2千とすこしの兵力の割り振りの時間だ」

 

潜入部隊 孫策軍千+キリト+梨晏、粋怜、劉備軍千+関羽と孫乾、袁術軍千、曹操軍二千+夏侯姉妹、董卓軍千+華雄、呂布、袁紹軍四千

 

西門攻城部隊 孫策軍約四万+孫策軍潜入部隊と南門後詰め担当以外の面々、袁術軍一万九千、袁術と張勲、袁紹軍五千

 

北門後詰め部隊 袁紹軍四万一千+袁紹武将、劉備軍千+関羽以外の劉備軍武将。

 

南門後詰め 曹操軍二万九千+曹操、曹洪、荀彧、董卓軍四千+董卓、賈駆、孫策軍一万+祭、穏、明命

 

東門追撃部隊 曹操軍騎馬隊四千+三羽烏、董卓軍騎馬隊五千+張遼、陳宮

 

遊撃(劣勢箇所に援護、陽動の援護、掃討戦移行時西門未突破の場合西門破壊等) ラインハルト

 

 

 

「……1人で遊撃という巫山戯た提案はさておき概ねこれで良いかね?」

 

「異議あ「「「「「異議なし!」」」」」……むう……」

 

数の暴力で約1名の意見を封殺する諸侯。

 

……その連携取れるなら作戦も問題あるまいよ……。

 

 

 

 

 

 

――side 黄巾賊

 

「はえー、これ全部飯や金か」

 

日が暮れ始めた頃、北海の南門を門番してるオレたちの所に珍しいモノが来ていた。

 

「おうよ、成金袁紹のとこからかっぱらってきたんだ」

 

荷車を何台も引き連れた優男は自慢げにそう言いやがる。

 

相方の門番は全く疑ってねぇが……。

 

「本当に全部飯と金なんだろうなぁ?」

 

「なら適当に調べりゃいいだろ。だけど全部見るのは骨だぞ?」

 

「わーってるよ」

 

優男の言葉に反発しつつオレは適当な荷車の箱を開ける。

 

「……チッ」

 

嘘なら言いがかりつけてその女に持てそうな顔ボコボコにしてやるのに

 

他にもいくつか開けたがどれも米や銭、いくつかは砂金や宝石もあった。

 

だが変なところは『見つけられなかった』。

 

「……くそっ、さっさと入れ。なんか知らねえけど近くに下邳の同胞を殺しやがった連中がいるらしいからな」

 

「ああ、用心するよ」

 

開門するように指示し、優男と荷車が入るのを見送る。

 

「……にしてもあれだけあっても1月持つか怪しいのは、困ったもんだ」

 

「んだな」

 

とんまな相方と話していると、門の上に詰めてる連中が叫び声を上げた。

 

「おい!西から大量明かりが見える!敵襲だ!お前らも戻れ!こっちにも来るかもしれねえからな!」

 

「敵襲!? 巡回してる連中は何で見つけられなかった……!」

 

オレと相方も門を潜ってから門を閉める。

 

一息付けたとおもったが、ふとおかしいことに気がついた。

 

あれ?何でさっきの優男がこんな――

 

視界がズレて、意識が遠く――。

 

 

 

 

 

 

 

 

――side 雪蓮

 

「後陣の者は篝火を増やせ!我らの数を誤認させるのだ!」

 

「使い切るつもりでジャンジャン設置してくださいねー」

 

篝火を作りながら、進軍していく。

 

日が暮れてきたのもあり、北海の中が大騒ぎになってる気配を感じられる。

 

第二段階は順調ってとこかしらね

 

「前衛! 梯子や弓にて攻撃の準備!敵の眼をこちらに引きつけるのだ!」

 

でもまあ、城門こじ開けて乗っ取ってしまってもいいと思うのよね。

 

 

 

 

 

 

――side 恋

 

「……華雄とお前達は、南門確認したら張角探す。恋はあっちの北門開ける」

 

荷物から這い出して武器を手に取ったあと、兵士や華雄に指示する。

 

騒がしい方が西、ここは南門が近い。――なら北門を恋が開けにいく方がいい。

 

必要な事は伝えた。

 

さっさと行こう。

 

「……?」

 

そちらを向くと屋根伝いに走る黒い男の姿があった。

 

たしか……何だっけ?

 

味方なのはたしか。

 

気配がラインハルトによく似ている。

 

……家族にしては似すぎてる。

 

でも本人にしては少し違う。

 

……気になるけど後回し。

 

黒尽くめの彼を追いかけつつも、通りすがりに賊を薙ぎ払う。

 

……飽きるほど嗅いだ血と鉄の匂いが広がる。

 

早く終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――side 張角

 

「……ほんとうにどうしよう」

 

私達3人、ただの旅芸人をしてたところ、『その歌唱の才能なら天下を取れる』と金持ちの男に唆され、持ち上げられて気がついたら黄巾付けた応援団とそれに便乗した賊徒の首魁にされていた。

 

おまけに唆した男は行方知れず。

 

そして私達を朝敵として討伐する軍が今来ているというのだ。

 

「逃げるのは……無理かな」

 

「無理な気がする」

 

顔が真っ青な地和(ちーほう)ちゃん。

 

「……なにか方法は……?」

 

あんまり頭良くない私達分も頑張って考えてる人和(れんほう)ちゃん。

 

……2人は名前知られてないみたいだし、2人だけでも逃がせないかな……?

 

外が騒がしい。

 

……敵?

 

そう思って居ると扉が蹴破られる。

 

蹴破ったのは黒髪と赤い服をしてる女性と、黒髪黒服でまっくほくろな男性だった。

 

「……こいつらも捕虜でいいのか? 張角を名乗るやつはさっき殺したし」

 

「は?」

 

「え?」

 

「???」

 

え? 張角は私だよね?

 

どういうこと……?

 

「……いいんじゃないか? 念入りに隠されてたし。まあ捕虜以外は根切り*1って命令だから違うと答えたら……」

 

自身の首を親指で横に切る動作をする男。

 

……つまり捕虜と言い張らなきゃ殺されるということだ。

 

……あれ? でもなんでわざわざその事を口に……?

 

「根切りか……気が進まんがそういう話だったな。んで、お前たちはどっちなんだ?」

 

この人が忘れっぽいから釘刺しただけかな。

 

「私は――「「私達は張角に捕虜にされてました!」」」

 

……張角、ワタシ、アレ、チガッタ?

 

「……夏侯惇「春蘭で良いぞ! 華琳様が真名をあずけたしな!」……春蘭がここ怪しいといったんだから彼女たちを保護できた。だから華琳のところに連れてくがいいか?」

 

「……うむむ……」

 

男の言葉に女が少し困ったような、なにか品定めをするような目でこちらを見る。

 

「……役目をしっかりこなしたってオレやラインハルトが一筆書いても「よしすぐ連れて行け!」」

 

……この男の人相方さん?乗せるの上手いなぁ……。

 

男は肩をすくめた後、わたしたちのそばに来た。

 

「――ってことだから君たちを曹操という人のところで保護させてもらう。――くれぐれも君は張角と呼ばれても反応しないように。――二人は彼女の偽名考えてあげて。張華とか良いかもしれない」

 

後半の小声の言葉に私達は目を見開いた。

 

「「「――!?」」」

 

口を開こうとしたがその口を彼は人差し指で触れ、クビを横に振った。

 

「張角は夏侯惇が討伐した。――君たちは張角の慰み物にされていた捕虜だ。同時に『真実』を知るのは――オレと当事者の君たち……あと庇護する人物だけ。それでも前を向き生きるならよし。――真実につぶれて死ぬならそれまでだ」

 

最後だけ、どこか冷たい目で私達を見る男。

 

一度瞳を閉じて再び開いた彼の目に冷たさは無く、普通の目をしていた。

 

「――はい、色々聞きたいことあるだろうけど、ちょっとまっててね」

 

気がついたら天幕の中(外は……北海の中?)に居て、他にも明らかになにかされた後の姿の娘とかが周りに居た。

 

彼は風のようにいなくなり、私達は、何が起きたのかわからず困惑するばかり。

 

少しすると金色の髪の女性?(にしては胸と背丈が……)を連れて彼が戻ってきた。

 

「……それで?」

 

なんか浮気問い詰める奥さんみたいな声してる。

 

「春蘭……真名預けてくれた夏侯惇が張角を討伐したという表向きの討伐成果を提供したからその成果でトントンってことで」

 

男の言葉に大きなため息をつく女性。

 

「だから殲滅と彼が言っていたのね。保護するけどトントンじゃないわ。貸しイチよ」

 

「げ……お、お手柔らかにひとつ……」

 

「わかったから持ち場に戻りなさい。人の天幕に連れてくるんじゃないわよもう」

 

そういって彼を女性は追い払った。

 

そしてこちらを彼女は向く。

 

「ここじゃなんだから別の天幕で話しましょうか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言えば、私が張華へ名前を変え、私達は曹操さんの庇護下に入ることに。

 

歌で人を引き付けることをどこからか(あの黒尽くめの彼だと思う)聞いたのか歌を歌わされ、歌手として兵士や街の慰安を条件にされたのは少し予想外。

 

反乱の原因になったのに同じこと起きないか心配しないのか聞いたら

 

「もしそうなったらせっかくの命が無駄になるだけね」

 

と言われた。

 

……絶対逆らわないようにしなきゃ……。

 

 

 

*1
1人残らず皆殺し




たぶん次かその次でこの章は締めくくり。
しばらく拠点回の予定。
高評価、感想お待ちしています。
それではまた。


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第三十一話 後始末を終えたあとに

「しばらくお別れね」
「(結局真名……預けられませんでしたわ)」
「ほら何してるの、さっさと行くわよ」
「へ? 華琳さん何を?」
「いいから。――そこの3人もついてきなさい」
「え?」
「へ」
「とばっちり!?」


――side ラインハルト

 

北海の戦いの後。

 

私達はささやかな戦勝会を行った。

 

そして各々の領地(劉備軍は燈*1に連絡入れて復興協力を条件に下邳駐在)へ帰還した。

 

北海にて袁紹……麗羽の軍と別れ、下邳にて劉備軍に見送られた。

 

小沛を過ぎたあたりで張角の首(ニセ)を持った曹操軍と道が別れた。

 

寿春にて董卓軍と袁術軍を見送り、予め連絡しておいたゆりねたちの引っ越しと共に廬江へと帰ってきた。

 

 

 

 

 

 

「やーっとついたわ!」

 

「思ったより温暖だね」

 

城の門前にて。

 

馬車から降りて伸びをする雪蓮。

 

そして故郷との気温差に少し驚いている喜雨。

 

「んじゃ、オレはアスナたちやゆりねさんたち連れてくから」

 

別の馬車で御者をするキリトの言葉に頷く。

 

雪蓮もよろしく〜と手を振って見送る。

 

「お姉様」

 

声の方を向くと、蓮華が甘寧(そろそろ真名で呼びたい by獣)を連れて佇んでいた。

 

「おかえりなさい、お姉様。みんな……」

 

「ただいま、蓮華」

 

蓮華の言葉に雪蓮が代表して答えた。

 

その言葉に涙が溢れそうになる蓮華。

 

そのまま雪蓮に抱きついた。

 

「……無事で良かった……」

 

「……大丈夫。簡単には居なくならないから」

 

背中を優しく叩く雪蓮。

 

「大丈夫そうね。……久しぶりに顔合わせたいから、大広間行きながらみんなを招集しましょうか」

 

「分かったわ」

 

雪蓮の言葉に頷き、蓮華が先導する。

 

代替わりしてさほど間もない割には、蓮華も当主としての威厳を纏えるようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

大広間にて。

 

人数がかなり増えてきたなと改めて思う今日このごろ。

 

「――ということで、群雄とツテ作ったり、ラインハルトが女の子増やしたりしたけど、とりあえず黄巾賊討伐は完了。結局中央から軍監*2とか来なかったのよね」

 

「ラインハルトがおらねば完全にタダ働きじゃったろ、アレ」

 

祭が遠い目をする。

 

「「「「「わかる」」」」」

 

遠征組が口を揃えてそう頷いた。

 

そして留守組より……炎蓮の相討ちショックが地味に尾を引いていること、炎蓮死亡による領内で怪しい動きした連中が行方不明になったという報告、廬江以外の領地の不正を見つけて対処が終わった事が伝えられた。

 

「……それじゃ、新しく入ってきた面々含めて改めて紹介しときましょうか」

 

SAO組や聖杯戦争関係のゆりね嬢たちの紹介、厳姉妹の紹介、そして……。

 

「私達の叔母の孫静と黄祖の生き別れの妹の黄射よ」

 

フードで顔を隠していた炎蓮と清藍(セイラン)*3が顔を見せた。

 

「へ?」

 

「うそ……」

 

「炎蓮様と黄祖めの生き写しではないか! というかもし言葉通りなら前者は初耳で後者に至っては何故受け入れた!?」

 

雪蓮の言葉に虚を突かれたのか変な声上げたり困惑隠せない面々がいる中、雷火が怒鳴るように問いかけた。

 

「本格的に語ると数日かかるから端折るけど、アタシが同衾したある夜の夢でお母様に言われたのよ。『生き別れた真名が同じ妹がいるって知ったから教えに来た。代わりになるか知らんが居ないよりマシだろ』って感じで。それで会いに行ったらその2人がいて、夢のこと話したらこれもなにかの縁ってことで仲間入りしたってわけ」

 

約2名きっちり押し殺しているが笑っている。

 

だれとはいわんが。

 

「ってことで孫静こと炎蓮だ。親として姉の代わりにはならんだろうが居ないよりマシだろ。よろしくな」

 

「黄射、真名は清藍。……見知らぬ姉がご迷惑かけたようで……」

 

躾(意味深)ついでに演技叩き込んだだけあり、炎蓮は自然体に、清藍は黄祖のときの雰囲気を残しつつ、何処か違うと思える所作で挨拶をしてみせた。

 

「……思春に手を出したり、変なことしたら首叩き斬るわよ」

 

「顔もまともに見たことがない(嘘はいってない模様)姉が何をやらかしたのか存じ上げませんが、姉のように強者に関心はありますが、手を出すつもりはありません。変なことの基準がわからないので気をつけるつもりではあります」

 

蓮華と清藍のやり取り確認した雪蓮は会話に介入する。

 

「安心して。ラインハルトがしっかりと面倒みるから。なんならイオンも正妻として必要なら折檻する用意もしてるから」

 

「それどうい……あっ(察し)」

 

蓮華は察してしまったようだ。

 

私が神話生物ならSAN値チェック入っただろうな。

 

「ということだからよろしく」

 

「……思うところあるでしょうけど、頑張ってみんな飲み込んで頂戴」

 

蓮華が頭痛そうにしてるがそれはさておき。

 

「遠征組の報告とかは以上? ……なら今度は留守組からよ。――まず、母の葬儀は終わって、一応私が喪に服してるけど……家督とか官職交代次第入れ替わりかしら」

 

「そうね。できればってとこだけど」

 

「次に――長江以南の主要都市で不正が多数摘発されてるからソレに対してこれから本腰入れて詮議*4してくわ。――ラインハルトや文官組は言うまでもないけど、武官組も護衛としてついてもらうことになるからよろしく」

 

蓮華の言葉にえーとか不満の声出たが

 

「……それとも武官組が、雷火の満足する完成度のものを代わりに取り調べて作ってくれるのかしら?」

 

蓮華の言葉で武官の不満言っていた組は黙り込む。

 

「――ってことだからよろしくね。――大丈夫交代制だから武官の人たちは比較的緩いわ」

 

アメとムチしっかりしてるな……って思いつつ、他の連絡がないことを確認して解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ようやく取り替えに耐えられる肺ができたね」

 

束の言葉に私は頷く。

 

『……手術するのね』

 

通信繋げておいた端末から雪蓮が問いかけてきた。

 

「あとは冥琳次第だ」

 

『もちろん、受けるとも……ケホッ、ケホッ』

 

冥琳が答える。

 

症状が出始めたが、余裕はある。

 

「それじゃ、早速やるとしようか――」

 

 

*1
陳珪

*2
いわゆるお目付け役兼見届人

*3
黄祖の真名 独自設定

*4
いわゆる取り調べ




この後しばらく拠点回の予定。拠点回の中で中央から使者が来たりするかもしれませんがしばらく拠点回です(強弁)


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第三十二話 暗躍する?黄金の獣

「……あとはラインハルト様を使者として送り、『やらかして』くだされば完璧です」
「……彼そろそろ怒らない?」
「どっちかというと何も知らされてなくてしょんぼりするかなって」
「既知感よりはマシみたいだけど、これ悪い意味のサプライズでは?」
「……帰ってきたら優しくしてあげよっか」
「「「「賛成」」」」


――side ラインハルト

 

私はレナルルの依頼で漢中の城に使者として訪れていた。

 

「ようこそ、使者様。 歓迎します。面を上げてください」

 

頭を上げるとそこには玉座に座る有明の女王……鹿島そっくりな娘にその隣で微笑む四条貴音そっくりの女性、そして貴音?の反対側にはペコリーヌそっくりの娘がこちらを興味深そうに見ていた。

 

「私は張魯。漢中太守を努めさせていただいています。隣にいるのが母の張範と妹の張衛です」

 

鹿島……張魯がそういって自身と貴音そっくりの女性、ペコリーヌそっくりの娘の紹介をした。

 

「私はラインハルト。揚州牧孫仲謀より『五斗米道の長』と『漢中太守』への手紙を持ってきた」

 

「……拝見しましょう」

 

近くに兵士が来たのでそれに2通の手紙を渡す。

 

それを兵士が持っていき、1つずつ中身に目を通していく。

 

……左右に居る2人も覗き込んでいる。

 

ちなみに中身は『五斗米道を広げるつもりはないか、あるなら揚州、及び漢中―揚州間の長江沿いに展開していくのはどうか。希望するなら手伝いたい』という提案と『劉焉と敵対しているのは知っている。防衛で武具等不足していることも。必要なら用立てたい。代わりに漢中―揚州間の長江沿いに孫家の者で作った商会を出すので輸送などに多少人手を貸して欲しい』という提案だ。

 

「……なるほど」

 

割と読むのが早いのか、直ぐに2通とも読み切る張魯。

 

「……話はわかりました。いずれもそれなりに気の長い話になりますが、私や五斗米道……そして漢中の事にとって良い話には違いありません。両方の件について提案を飲ませてもらいます。……口頭での返事だけでは心もとないと思います。お返事を認めますので、一度客間にてお待ちを」

 

私はその言葉に頷いて拱手し、退出する。

 

 

 

 

 

 

 

外に出て、兵士に案内されるのかと思っていたら、張衛と張範がやってきて2人で両腕を掴み、客間に案内された。

 

そして私の左右に座り、ものすごく甲斐甲斐しく世話をし始める。

 

「……使者一人に随分と待遇が良い気がするのだが」

 

すると2人は微笑む。

 

「孫家の実権握ってる方と仲良くしておけば何かと困ったときなどに助けていただけるかなと」

 

「それに皇帝でさえ食べたこと無い美食の数々を知り、1人で万の軍さえ鎧袖一触と聞きました! それもありますが、純粋に一目惚れですかね」

 

「……素直でよろしい。張魯殿次第だが、使者としての仕事が終わったら、一食振る舞おう」

 

その言葉に張衛がピョンピョン跳ねて喜ぶ。

 

色々零れそうになってるのだが、指摘したら嫌な予感したので目線をそらしてお茶を飲む。

 

「……気に入りましたら側室などにどうですか?」

 

張範の言葉にお茶を吹かなかった私を誰か褒めて欲しい。

 

「……母親としてそれはどうなんだ?」

 

「娘が乗り気なら、背中を押すのも親の務めですから。……たしか手紙には孫家の長の母娘とも関係があるとありましたね。……父の命で契った夫も今は土の下。私も持て余しておりますので娘と一緒にどうですか?」

 

墓穴掘ったな(確信)

 

「……長女だけ仲間外れだがそれは良いのか?」

 

不意打ち連打で思考が狂ったか口からトンチキ発言が飛び出した。

 

訂正しようとしたが後の祭り。

 

「まあ、鹿島にもお情けをいただけるので? ありがたいですわね」

 

……逃げると今後の計画が破綻し、受けるとイオンのふくれっ面が確定である。

 

「……少し揚州と連絡する」

 

私はそう言いながら通信端末で揚州にいる面々に連絡を取る。

 

すると通話開いた途端

 

『歓迎するから、遠慮なく食べちゃっていいよ』

 

とイオンからの回答が飛んできた。

 

「……同調*1経由で見てたか」

 

『うん。ちなみに情報共有は既にしてて、正妻権限で強行採決したから問題ないよ』

 

「……左様か。では……またな」

 

『寄り道せずに帰ってきてね、あなた♪』

 

イオンの言葉で通信が切られた。

 

「……では早速……」

 

手を下半身のほうに伸ばしてきた張範だが

 

「失礼します! 返事のほう認め終えたため、改めて謁見の間に起こしください!」

 

兵士によってそれは阻止された。

 

「……では行きましょうか」

 

私は2人に両腕を掴まれて連行される。

 

ドナドナの歌が流れて来そうだ。

 

 

 

 

 

 

謁見の間にたどり着くと、張衛が誰かに怒られている。

 

「休みを与えると珍しく言ってくださったと思ったら――」

 

そこそこ長い説教なので聞き流していると、張衛がこちらを見る。

 

「都、使者の方がいますからそのへんで……」

 

すると説教していた人物はこちらに目線を向けた。

 

……峰津院都そっくりの娘はこちらを見て茫然としている。

 

「……えっと、手紙の件ですが正式にお受けしますのでこちらどうぞっ!」

 

そういうと張衛は全力でこちらに駆けて半ば叩きつけるように手紙を渡してきた。

 

「あっちょっと!?」

 

「都、独立独歩が理想だけどできるとは限らないのよ」

 

……話がいまいち読めない。

 

「……実はそっちの閻圃、どうも漢中だけで完結させたいと考えているのか、外ならの干渉を毛嫌いしているのです」

 

「内政をほぼほぼ一手に引き受けている有能な娘なんですけどね……」

 

張範と張衛の言葉に張魯も頷く。

 

「……では細かい話は張範殿の閨にて詰めるとしようか」

 

私の言葉に3名は何かを察したのか頷き引っ張るように案内する。

 

後方から待てとの声が聞こえたが、3人が待つわけ無し。

 

張範の閨に飛び込む。

 

それを追いかけるように駆け込む閻圃。

 

そして閉じられる閨の扉。

 

閉じたのは部屋の主とだけ弁明しておく。

 

 

 

 

 

 

 

「……ということで外交は私がやるから、都は引き続き内政をお願いね」

 

「は、はいい……」

 

白濁液が白磁のような肌のあちこちについた状態で都(閻圃)は鹿島(張魯)の言葉に頷く。

 

「……お母様……まだお元気そうですね……」

 

「ふふ、ペコリーヌ。回数重ねればなれるものですから」

 

私を軸に反対側で貴音(張範)とペコリーヌ(張衛。貴音曰く大秦被れた夫が付けたとのこと)が呑気に会話している。

 

……とりあえず漢中とコネ作れて五斗米道を隠れ蓑にする協定など諸々結べたのでヨシ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。この端末もっている人は『お手つき済み』か『ラインハルトさんと水面下で繋がっている』かのどちらかと」

 

翌日、謁見の間にて改めて会話。

 

私の渡した端末を見ながら都はそう口にした。

 

「……もう少し言い方……まあいい。とりあえず契約通り貴音とペコリーヌは連れて行く。……代わりに下級文官、武官として使える者を100ずつおいていく。好きに使うといい」

 

「食べてばかりの穀潰し2人を押し付けてしまった挙げ句、仕事に役立つ者を200も貸していただけるとは……ありがたい限りです」

 

「ちょっと都さん?」

 

「穀潰しはひどいです!」

 

貴音とペコリーヌの横槍にキッとした顔をする。

 

「ペコリーヌは10働いて100食べてるんで結果的に穀潰しです。貴音様は突発的な催事を企画実行をされるので内政の予定が狂ってるので邪魔です」

 

「……私も同意かな~って」

 

「「裏切られた!?」」

 

「……とりあえず近いうちに来ることになるだろう。……寂しければ呼ぶと良い。いつでもとはいかぬが、こちらに足を運ぼう」

 

長引きそうなので話をぶった切って別れの挨拶を告げる。

 

「はい、お待ちしていますね♡」

 

「……デキたら責任は取ってもらいますので」

 

私は内心胃痛に苛まれつつも頷き、ペコリーヌと貴音を連れて廬江へと転移した……。

 

*1
サージュ・コンチェルトの用語。精神的に繋がることで相手の思考を共有したり、視覚聴覚なども共有できる。共有の度合いは双方で調整可能だが、共有する段階になるには深い信頼関係が必要。なおラインハルトはこの時点まで素で同調関連のことを忘れていた



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第二章 拠点にて
拠点にて その6


『復帰の周瑜』
ようやく完治した冥琳のワガママをラインハルトが聞いたりするみたいです。

『寒いとある夜の一幕』
モブキャラ視点。
作中はおでんが恋しい季節のようです。


それではどうぞ。



『復活の周瑜』

 

――side ラインハルト

 

私は治療室にて、冥琳とともにシュピーネの書いたカルテを見つつ、シュピーネの発言を待つ。

 

「……私の所見でも、手術による後遺症や感染症の発症、肺病の再発の兆候は見られません。肺活量と呼吸によるO2及びCO2の割合変化などを見ても、健康と断言します」

 

「ということは、やっと自由に仕事できるのだな?」

 

隣りにいる冥琳の言葉にシュピーネが頷きつつもただし、と付け加える。

 

「書庫等の埃が多い所に行く場合鼻と口をなるべく目の細かい布で覆って仕事したほうが良いでしょう。肺病の原因が淀んだ空気を直に肺に入れることで起きた可能性が高いと私は見ていますからね」

 

なんならハイドリヒ卿からガスマスク借りてくださいと言って、シュピーネは報告完了とばかりにそそくさに去っていった。

 

「……さて、快癒を皆に通知……何故止める、冥琳」

 

私が端末をつかって通知しようとしたら、手を掴まれて止められた。

 

「治療のために色々我慢してきたんだ。今日明日くらい自由にしたい」

 

「……皆に通知しても明日くらいまでは休みにしてもらえるかもだが、気を使われたくはない。だから明後日あたりに完治の通知をして、それから軍師の仕事に徐々に復帰したいと」

 

「良くわかってるじゃないか」

 

私の言葉に頷く冥琳。

 

そして私の手をとり、立ち上がると外へ向かおうと歩き出す。

 

必然的に私はそれに引っ張られる。

 

それを見た彼女は少し悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

 

「『病人のワガママ』だ。今日くらい許してもらいたいが構わんな?」

 

「……『たまには』な。卿が完全に雪蓮側に回ったら誰も雪蓮を止められん故」

 

「そうだな。……とりあえず街に行こう。街灯とやらがつけられたと聞く。ぜひとも見なければな」

 

 

 

 

 

「まだ明るいからなんとも言えんな」

 

朝……と言っても日が出てしばらくしている――の大通りを2人で歩く。

 

時間が時間だから街灯は明かりが消されており、ぱっと見背の高いオブジェにしか見えない。

 

「日が暮れた後にもう一度だ。……付き合ってくれるな?」

 

「予定は開けた。今日明日はお付き合いしようお嬢さん(フロイライン)

 

私の言葉に満足そうにする冥琳。

 

それと共にお腹のなる音がしたので、近くの食堂に2人で向かうことに。

 

 

 

 

朝からやっているだけあり、人はそれなりにいる。

 

メニューを見て注文が決まったので早速店員を呼び寄せる。

 

「何にしやすか?」

 

「彼女は炒飯と水餃子。こっちはラーメンと焼売を」

 

「へいっ!」

 

冥琳の分も注文すると、店員はスタコラサッサと厨房に引っ込む。

 

「……いくつか聞きたいことがある」

 

「答えられるかは保証できんが努力しよう」

 

私の言葉にジト目になる冥琳。

 

「――まずは……今後大陸はどうなる?」

 

「反乱の頻発、権威の失墜、そして現王朝の崩壊は避けられん。その後は不確定だが、いくつかの国に割れるだろう。まあ孫家の育てた苗木を大樹にし、揚州と荊州、交州くらいの領土を持つ国にするくらいはできるだろう」

 

私の言葉に何処か納得したような顔をする。

 

「次に……『孫家にお前の血は何時入る』んだ?」

 

「……雪蓮から聞いてないのか?」

 

「うん?」

 

「……詳しくは雪蓮に聞いてくれ。私からは言えん」

 

「……?」

 

 

 

 

――side イザーク

 

 

「もー、いい加減『外』に出してくださいよ。お兄様!」

 

境界の壁越しに私へ解放を要求する『父上』と『孫策』の娘。

 

「父上とお前の母親の許可無くば出せない。……『ハーレム思想』はともかく、『狂信的父上至上主義』と『父上の貞操を狙う倒錯的背徳(インモラル)脳』である限り、父上には会わせられん。逆レ未遂を私は知ってるからな」

 

「お兄様は私に死ねと!? ひどすぎません!? もう『数百年』会わせてもらえてないのに!」

 

「(あと数万年は放り込んでおくべきか……) また暫くしたら来てやる。 お前の母親を説得するか、世界がその無法を許すことを祈るかはお前のすきにするといいさ」

 

「お兄様の鬼! 悪魔! 孫娘Bカップ*1!」

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

「とりあえず種無しではなさそうなのでひと安心だな」

 

「まあ……そうだな」

 

冥琳の言葉に種無し疑惑かけられていたことにすこし落ち込む。

 

「……あまりつつかれたくないか?」

 

冥琳の言葉に頷くと、何処か面白そうに笑みを浮かべた。

 

「お前にも弱い所の1つや2つあるものなんだな」

 

「色々あるが、宝具や基礎能力の高さなどで誤魔化してるに過ぎん」

 

「なら私も弱い所を見せないと不公平だな」

 

「うむ……うむ?」

 

反射的に頷いたが疑問符を浮かべる。

 

「まずは腹ごしらえ。話はそれからだ」

 

狙ったかのようにやって来た食事により会話は断ち切られ、そこはかとなく嫌な予感を感じつつ、食事を済ませるのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昼間から風呂とは……体内時計壊れそう」

 

「……体内……時計? なんだそれは」

 

浴槽の隣で私の腕枕に頭を預けてる、一糸纏わぬ冥琳が首を傾げる。

 

「生活に合わせて身体が時間毎に身体を自動的に調整する機能がある。それの時間を確認する機能だな。……端末の時計のような機能に近いが、それが実際物理的に存在してるわけではないぞ?」

 

半ば現実逃避する私は雑学を垂れ流している。

 

「ふむ。……体調不良のときや意図的に夜ふかししたりした時は別として、朝昼夕に腹が減り、夜眠くなるのはその体内時計がちゃんと動いてるからというわけか」

 

「その通り。ちなみに人によっては1日あたり最大で前後半刻のズレがある。それは同じ時間に朝日を浴びることでその日のズレを直すことができるぞ」

 

「朝から体操とやらをしているのはそのためでもあるのか」

 

「ああ。卿も参加するかね?」

 

「そうだな……今後子を宿し、産み育てるなら、体力つけねばならんしな」

 

「……ああ、ソウダナ」

 

私が遠い目をしてると、浴室の扉が勢いよく開く。

 

「昼からお風呂入ってるなんて珍し……冥琳!?」

 

「雪蓮か。丁度いい。お前の娘とやらについて聞きたいな」

 

丁度いいと冥琳が話を切り出した。

 

「それより1つラインハルトに言わせて?」

 

「うん? まぁ良いが」

 

ストップされて出鼻くじかれた冥琳をよそに、雪蓮が仁王立ちして告げた。

 

「……冥琳とするなら私呼びなさいよ!」

 

「呼んだが出なかったな」

 

「昨日飲み倒して先程まで寝てたのだろう? ならお前が悪い」

 

「ラインハルト!冥琳がいじめるー!」

 

そういって湯を身体にかけて汚れ落としてから雪蓮が私の上にのしかかってきた。

 

「私を怒るのか私に泣きつくのかどっちかにしてくれ」

 

「ならここで慰めックスしてもらう」

 

胸押し付けて首に手を回しながらそう言う雪蓮。

 

「後始末面倒なんだが?」

 

「だめならあの娘解き放つわよ」

 

「……後始末手伝うこと、あと冥琳にその件をちゃんと説明することが条件だ」

 

「なら問題ないわね。――二人目を狙うのは野暮かしらね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『寒いとある夜の一幕』

 

――side 廬江の警備兵

 

「う~、寒いな」

 

「だなぁ」

 

夜の街の巡回仕事を終えて引き継ぎしたあとの帰り道、相方の言葉に頷く。

 

「どっかで一杯やれたら最高なんだがなぁ」

 

「暫くは難しいだろうなぁ」

 

相方のぼやきにオレは首を横にふる。

 

最近街灯という明かりがつけられたことで真っ暗ではなくなったが、まだまだ夜に営業する店は少なく、夜の後半の時間である今に至っては皆無だ。

 

理由は文官のダチの上司である張昭様曰く「民家が近いと夜遅くまで騒ぐのは揉める原因になる。区画整理を急がねばな」とか言ってたのをダチ経由で聞いたのもある。

 

たしかに民家と商家がごちゃまぜなところが多いのは事実。

 

寝てる間に騒がれたら迷惑なのもわかる。

 

……つまり夜遅くまで開く店が増えるのはもう少し時間がかかるってことだな。

 

そういう事をざっくり伝えると、相方は肩を落とす。

 

「かと言って帰っても……ん?」

 

相方が立ち止まって鼻を動かしはじめた。

 

「どうした?」

 

「いい匂いがする。……こっちだ」

 

そういって相方は帰路から外れた裏通りへ走り出す。

 

オレも思わず追いかけると、間もなく奇妙なモノがある所に辿り着いた。

 

小屋よりも小さい、屋根のある……なんていえばいいかわからんモノに暖簾がかかっており、その下には腰掛ける横長の椅子があるのが見えた。

 

その椅子には2人ほど人が座ってるが、誰かは暖簾の影と椅子から見える姿だけではわからなかった。

 

そしてそこから、嗅いだことのない、いい匂いがするのにも気がつく。

 

「おや、新しい客だ」

 

小屋?の奥からオレたちより背の高い男が姿を見せた。

 

「え? オレたちは……」

 

「今ならいい酒も安くするぞ」

 

と、酒家でもあまり見ない珍しい酒の器を見せる男。

 

「なら一杯だけ……」と相方が吸い寄せられるように小屋?に近づく。

 

「……お、オレも」

 

いい匂いにつられて椅子の方に近づく。

 

「蓮華、甘寧。2人追加故少しずれてくれ」

 

男の言葉に椅子に座ってる2人がズレて俺たちが座りやすいように空間を取ってくれた。

 

「手狭だが、そこに座ってくれ」

 

「へ、へい」

 

オレが真ん中寄り、相方が左端、先程座ってた2人は右寄りにずれた形になり、椅子に座る。

 

「そ、そそそそ孫権様!?」

 

相方の言葉で右を向くと、孫権様と甘寧様がおられた。

 

「……我々打ち首ですかね?」

 

「公的な場ではあり得るかもしれないが、ここではただの客だ。同じ長椅子に座った程度でとやかく言うつもりはない」

 

孫権様の言葉で安心したオレたちは椅子に座り直す。

 

「……酒の名前しかわかんねぇ」

 

相方の言葉にオレは目線を店の中に戻す。

 

オレたちとさっき招き入れた男(たぶん店主)の間に鍋っぽいものがあり、そこにあるさまざまなみたことない料理が湯気を立てて煮込まれている。

 

そして男の背後に酒や食材の名前と値段が書かれた木札が並んでいるが、酒以外、食材の卵くらいしかオレもわからねぇ。

 

「……オレもだな」

 

そういうと孫権様が口を開いた。

 

「私も思春も最初はそうだった。……ライ……大将、おでん5品を私のおごりで2人前、彼らに出してあげて」

 

「おでん単品5品2人前ね、少々お待ちを」

 

大将と呼ばれた男は慣れた手つきで箸などをつかい、2つの器に鍋?の食材を盛り付け、最後に鍋の汁をかけてオレたちの前に出した。

 

「おでん単品5品2人前だ、大根は熱い故気をつけると良い。酒は少し待つと良い」

 

そういって大将は小さな鍋に水を入れ、そこに2つの小さな酒の器を入れて、火にかけた。

 

作法とかわからないオレたちを横に、孫権様たちはちくわ、とか大根とか言ってそれぞれの手元のお椀に渡されている。

 

「おっと、どれから食べるかは自由だ。作法はない。強いて言えば、『残さず食べること』だな」

 

大将の言葉に頷いたあと、白い柔らかそうなものを一口大にして口にする。

 

柔らかな口当たり、そして溶けるように消えていくのと共にあふれる優しくも力強い旨さが舌を通じて全身に広がる。

 

「ソレははんぺん。魚のすり身と山芋のすりおろしを練った練り物ね。出汁を良く吸って上手いでしょ?」

 

「何故卿が胸を張っている? まあいい。っと、この酒は初来店記念のおごりだ。こっちの器に注いで飲むと良い」

 

孫権様の解説のあと、呆れ気味の大将が先程まで小鍋に入れていた酒をオレたちに渡し、小さな盃に注いで飲むようにと言ってきた。

 

言われた通りに飲むと優しい香りとともに、喉を熱い灼けるような熱が通り過ぎ、全身に熱が広がるのを感じた。

 

「……美味い!」

 

「……おでんを肴に、交互に口にすると美味いぞ」

 

ぼそっと甘寧様が助言してくださったので、オレはためらいなく実践する。

 

 

 

 

やめられない止まらない。

 

 

 

 

……はっ!

 

気がつけば酒が空に、盛られたおでんは汁だけ残して空っぽになっていた。

 

「……」

 

横を向くと相方も狐につままれたような顔をしていた。

 

「端から見るとこんな感じだったのね」

 

孫権様が不思議そうな顔でオレたちを見ていた。

 

失礼なことしてないよな?

 

「あ、大丈夫よ。一心不乱にお酒とおでん食べてただけだし」

 

ならいい……のか……?

 

疑心暗鬼になっていると孫権様が問いかけてきた。

 

「最近街灯を設けたけど、夜の巡回やりやすくなった?」

 

答えに困っていると大将が口を開く。

 

「単に巡回経験者の意見が聞きたいだけだ。変に気を使われる方が困る」

 

大将の言葉に口が軽くなってた相方が喋りだした。

 

「街灯あるとこは明るくなりましたし、言うまでもなくやりやすくなりましたねぇ。ただ、まだ大通りしかないんで、破落戸いるような裏通りや小道はまだ油断できねぇし、街灯がつけられたところをもともと狙ってた空き巣連中がその分暗がりに行くようになったんで、トントンですかねぇ」

 

「なるほど。いいことばかりではないか。……参考になった、感謝する」

 

「お役にたてたのなら、何よりです、はい」

 

「お前なにも言ってねぇだろ!」

 

思わずへこへこしたら相方に突っ込まれた。 

 

「では貴重な意見の礼としてこの店ならではの最高の一杯の飲み方を教えよう。飲む酒はこれで代金はこれだが、飲むかね?」

 

先程店主が用意したものより少し安い値段の酒を示す。

 

「おごりの酒より安い酒ですが……ほんとうに最高の一杯なんです?」

 

「騙されたと思って飲んでみたまえ。損はさせんよ」 

 

疑いの目を向けても飄々とされたのでオレたちは注文する。

 

孫権様たちも気になると注文した。

 

おい、孫権様たちにおしえてねぇのかよ、不安になってきたぞ?

 

すると実演とばかりに、大将が手元に先の盃より大きい器を用意し、酒を器の3割位だけ注いだ。

 

「やり方は簡単。酒を3割器に注ぎ、残りの6割に出汁を注ぐ」

 

いつの間にかおいてあった汁の椀から酒の入った器に汁を注ぎ込んだ。

 

「そしてこの七味を二振り。これで完成。簡単だ」

 

そういっててもとの赤い調味料らしいものをふりかけた。

 

それを飲んでみせ、うむ、美味いと満足そうに言い切った。

 

そのあと大将は酒をオレたちに渡し、鍋の汁を先程までおでん食べていた椀に追加した。

 

オレたちは半信半疑で同じように器に3割酒を入れ、汁を6割、てもとの七味と呼ばれた調味料を2度振りかけておそるおそる飲むと……。

 

一瞬にして頭の後やつま先まで広がるような旨みが熱と共に口に流れ込んでくる。

 

これが不味いなら世の中の飯はすべてゴミだ。

 

そう言い切れるくらい、奇跡のような味をしていた。

 

大将に追加をたのみ、オレたちは飲んでは語り、愚痴っては飲みを繰り返した。

 

 

 

 

 

 

気がつくと警備隊の宿舎に相方と肩を組んで立っていた。

 

あの屋台(大将がそういっていた。どうやら移動できるらしい。昼間に見たことねぇし、納得だ)の出来事が夢かと思ったが、少しさみしくなった懐と、赤ら顔で酔う相方の姿が夢でないことを教えてくれた。

 

また行きたい。

 

 

 

 

なお、大将が黄金の獣だと後日の遭遇で気がついて大声あげてしまい、隊長に恥かかせてぶん殴られたが、オレが悪いのか、コレ。

 

*1
熊本先輩、Bカップ先輩の異名を持つ氷室玲愛のこと。イザーク直系の孫娘で、ラインハルトの城の支配権がイザークに次いで高く、イザークが不在なら城を乗っ取れる。何気に黒円卓を同士討ちさせられるキーパーソンだったりする。本作では練炭、マリィ、アホタルらと共に不在のため、登場予定はない



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拠点にて その6.5

――side 愛紗

 

「『――我らが属尽であり、義勇軍を以て賊を討伐の一助をした劉備には益州牧を任ずる。――皇帝を僭称し、黄巾賊の決起を促したとされる劉焉とその配下である張魯を、漢中太守の馬超と共に討伐し、益州に安寧をもたらすことを期待する。しかと励め』……」

 

小沛の城、玉座の間にて。

 

中央からの使者が出ていったあと、渡された書簡の内容を読み返して私達に再度事実を通知する桃香様。

 

「……(ほぼ)根無し草から州牧の出世はすごいよね!」

 

「……中原からはたいぶ遠くなったけど……」 

 

電々と雷々が皆の言葉を代表して告げてくれた。

 

「……劉焉って人と、張魯って人を討伐させるために、取ってつけた勅とかないよね?」

 

桃香様はそう言いつつ、我々の参謀である朱里と雛里に目を向けた。

 

「その点については中央の思惑が読めないのでなんとも……。ただ、劉焉の討伐を我々に期待にしてるのは間違いないかと」

 

「しかしこれにより、大義名分は得られましたし、勅を見る限り討伐の目的は僭称していることなので、地位の返上と帰順させることができれば、現在の益州の国力をそのまま私達の地盤にできるかと」

 

「……ということは交渉で丸く収まれば最善ってことだね」

 

桃香様の言葉に2人は頷く。

 

「しかし、益州とは……大陸の真反対ですな。我々についていくと希望した兵士次第ですが、移動だけで相当な費用になるかと」

 

星(趙雲)がこぼした言葉に私は口を開く。

 

「移動に必要な物資と費用に関しては、後援者が居るので問題はない。使者を迎える直前に『あの方』から寿春経由、挨拶することを条件に制限解除の許可をもらっている」

 

「ラインハルトさんが? ……もらえるものはもらっておかないとかな。それじゃ、私は燈さんに連絡するから、皆は引き継ぎや同行希望者の一覧作成と、各自引っ越しの準備をお願い。来週までには出立するから、よろしくね」

 

「「「「はっ!」」」」

 

 

 

 

――side 翠(馬超)

 

 

「――ふざけるな!」

 

眼の前でいけしゃあしゃあと語る中央の使者に斬りかかろうとして、姉妹と従妹に取り押さえられる。

 

「……はて、馬超殿は涼州にて生まれ育ち、韓遂殿は『お亡くなりになられた馬騰殿と同じく』并州にて生まれた方ですよね?故に『生まれた州の州牧にはできない』という法に基づき、継承は認められません。故に『馬騰殿に次ぐ者』として韓遂殿を州牧にと、皇帝陛下が御指名しました。……勅に逆らうということは反逆の意思アリとなりますが……?」

 

「……!」

 

「お姉様抑えて!」

 

「お母様の遺言思い出して!」

 

歯噛みしながらも『涼州の地に縛られず、自由に生きなさい』という母の言葉を思いだして、藻掻くのを辞めた。

 

「……そして馬超殿には『漢中太守就任』の勅が出ている。漢中太守を僭称する張魯を討伐し、漢中を治めよ。そして劉備という州牧と共に、皇族の背信者となった益州牧僭称者である劉焉を討伐せよとのことだ」

 

使者は書簡を蒲公英(馬岱)に放り渡すとさっさと去っていった。

 

「……アタシだけだし、3人は涼州(ココ)に残って良さそうだぞ」

 

「何巫山戯たこと言ってるの!」

 

「戦と馬以外てんで駄目な姉だけで行かせられるわけないじゃん!」

 

「険悪でもない家族が離れ離れなんて悲しいこと考えないでよね」

 

「……お前達……ありがとう……。それはそれとして誰が戦と馬以外てんで駄目だって?蒲公英?」

 

「そこは感動で聞かなかったことにするのがオトナだよ!やっぱりダメダメだよお姉様!」

 

「なんだとコラ蒲公英! 扱いてやるから練兵場に行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

――side 月(董卓)

 

使者の先触れから、汝南にて袁術への勅と共に私への勅も渡すので遅れずに来るようにと言われたため、私は慌てて袁術さんのいる汝南に向かった。

 

そして使者が来る前に間に合い、使者から勅を受けることになったのだけど……。

 

「――董卓の許昌太守の任を解き、新たに柴桑太守を任ずる」

 

「……はっ」

 

……軌道に乗ってきたところで他所に移されるの、これで何度目だろうか。

 

詠ちゃんが私の落ち込みに気がついて手を握ってくれた。

 

私は詠ちゃんの顔を見て頷く。

 

大丈夫だから、と言葉にしない代わりに。

 

「……袁術には豫州牧をそのまま、司隷校尉と執金吾を命じる」

 

「はっ!」

 

……思わず握った手の力を強くしてしまった。

 

慌てて緩めたあと、詠ちゃんに目で謝る。

 

別に大丈夫と返してきたけど、後でちゃんと言わないとね……。

 

「……以上だ。これにて失礼」

 

言うだけ言って去っていく。

 

私たちも、その場を後にした……。

 

 

 

 

 

「……というわけで、柴桑にお引越しになりました」

 

城の傍の宿に居た霞さんたちと合流して、宿のお部屋で報告。

 

それを聞いた恋ちゃんが何やら左腕の物を触れたりしてるけど……何してるんだろう。

 

「……柴桑、揚州の郡の1つ。なら揚州牧の孫策の所のラインハルトに連絡したほうがいいかなって」

 

「……たしかそれを使えば連絡できたのだったか」

 

華雄さんの言葉に恋ちゃんは頷く。

 

「……あ、返事来た」

 

「なんて送って、なんて返事帰ってきたんや?」

 

「『柴桑太守に月がなったからよろしく』って送ったら『許昌出立日を教えてくれれば、日をまたぐ前に柴桑へ送り届ける』って返ってきた」

 

「……それがホンマなら引っ越し楽やなぁ」

 

「ラインハルト、できないことはいわないから、本当にできると思う」

 

霞さんの言葉に恋ちゃんが首を横に振りながらそう答えた。

 

「とりあえず……州牧の孫策に挨拶するから引っ越しの後に時間取りたいことを伝えておいて」

 

「ん、わかっ…………『州牧は孫策から妹の孫権になった。州牧挨拶とかは、引っ越してから予定調整する』って連絡来た」

 

「……言い忘れただけならいいんだけど、会話聞かれてたのなら恐怖ね」

 

詠ちゃんの言葉に私たちは頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

――side 麗羽

 

「文醜、顔良にそれぞれ幽州と青州の州牧を任ずる」

 

「「謹んでお受け致します」」

 

2人の返事を聞いた使者はさっさと去っていく。

 

「……麗羽樣、これは……」

 

真直さんが口にする前に手で制す。

 

「……私は白蓮さんたちのところに行きますので、二州制圧のための軍の編成と何進様に関する中央への働きかけを続けてください。それと中央に送る細作を増やすように」

 

「……はっ!」

 

……河北四州を治める立場になれましたけど、素直に喜べませんわね……。

 

私はその足で白蓮さんたちがいる部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

――side 華琳

 

「……ここまで来ると病的ね」

 

使者が帰ったあと、私は肩をすくめる。

 

「遠征費用だけ考えればトントン、兵士や騎馬の損失考えれば赤字ですものね。中央は華琳様を恐れすぎですわ」

 

もらった金と遠征にかかった費用を頭の中で弾き出した栄華が顔をしかめた。

 

「まあ、洛陽時代に宦官のかなり立場上の人も規則違反で棒叩きしたのが尾を引いてるんじゃないっすかねぇ」

 

華侖が思い出すように言うと、当時を知る面々が頷く。

 

「……それより今後をどうするか、考えたほうが良いのでは?」

 

風(程昱)の言葉に皆が頷く。

 

「そうね。……今は領内を整備しつつ、他所……河北、河南との交易を支援。その中に表向き商人の細作部隊を紛れ込ませましょう。後は軍備を緩やかに増やしておいて。……このまま平穏無事に済む気がしないから」

 

「「「御意に!」」」

 

 

 



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拠点にて その7

『明命はモフりたい』
明命は猫をモフモフしたくてたまらないようです。

『ということで董卓軍を吸収合併』
勅により柴桑太守になった董卓。
彼女とその部下たちは、超高速お引越しをしたり、州牧と対面して雑談?するようです。

『メイドコッコロのとある一日?』
劉繇(ネロ)の妹分であるコッコロのメイドとしての一日をちょっとだけお見せするようです。


それではどうぞ




『明命はモフりたい』

 

――side ラインハルト

 

「お猫様をもふもふする方法をご存知ありませんか?」

 

東屋で寛いでいると欠乏症起こしてるような顔で明命が問いかけてきた。

 

「……知っているが「方法をどうか教えてくださいできればお手伝いくださいおねがいします!!」う、うむ」

 

食い気味に矢継ぎ早に告げた言葉に私は頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――作戦は簡単。卿は静かにしていればよい。後は私がやる。触って良いというまではさわるなよ?」

 

「……ッ!」

 

無言で頷く明命。

 

まあ口を「言葉を封じる効果を持つバツマーク付きのマスク」で塞がれてるから当然なのだが……。

 

路地裏に二人で進むと、猫のたまり場に遭遇。

 

猫たちは侵入者を警戒する目で見たが、私があるものを取り出すと興味深そうな目に変化する。

 

適当な場所に座り、隣に明命を座らせ、彼女の膝上あたりであるもの――ささみをちらつかせると猫たちが少しずつ寄ってくる。

 

猫が近づくほど明命のテンションが急上昇していくが、私のいいつけを守って動かないようにしている。

 

「……」

 

「――――っ!!!!」

 

匂いを嗅ぐために猫の一匹が明命の膝に手を載せて身体を伸ばした瞬間、明命が逝った。

 

……猫たちはささみに夢中でそれに気が付かなかったのが幸運か。

 

一匹が食いつくと他の数匹もそれにつられて群がり、残りも様子を見ている。

 

私はささみの塊数個を近くに放り投げて集まりすぎないようにしつつ、彼女の膝の上に猫が乗るように誘導したりしていく。

 

明命は完全にヘブン状態になってるようだが、これで死ぬなら本望だろう。

 

「明命、そっとなら触ってもいいぞ」

 

私の言葉に復活し、割れ物を触るようにそっと猫に触れる明命。

 

うまいものを食べられて、暴れたり猫的に不快な高音が出てないからか明命の手を猫たちが避けることはなかった。

 

これでよいのだ。とバカボンのパパみたいなこと思いつつ幸せそうな娘を見届ける。

 

「うなう……」

 

「うなー」

 

声の方を向くと野生の本能失ってるのか私にすりついてくるのが数匹居た。

 

それを適度にいなしつつ気絶と復活を繰り返す明命を見ながらこの時間を楽しむことにした。

 

 

 

 

 

 

「あら、ラインハルトに明命……っ!? ……まさか青姦……!?」

 

ポンコツ化してるせいでうまくまっすぐ歩けない幸せそうな顔をした明命と、それを脇に抱えしてる私を見て蓮華が開口一番に色ボケ発言をかました。

 

やはり中級者向けの薄い本を読ませたり実践したいというワガママをオッケーしないほうがよかっただろうか……。

 

「……猫欠乏症だったので、近くの裏通りにある猫のたまり場で猫を堪能させただけだ」

 

「えへへ……もふもふがたくさんです……」

 

蕩けた顔してる明命と私を交互に見る蓮華。

 

「……まだ意識戻ってきてないっぽいけど大丈夫?」

 

「問題はない。――ああ、それと――」

 

 

 

 

 

side 明命

 

気がついたら自分の部屋にある椅子に座っており、側ではラインハルト様が考える素振りをしながら小蓮様や蓮華様にもたせてるポケモン……とやらの入ったボールを見ていた。

 

……アレ?ここ、私の部屋だよね……?

 

「ららっらラインハルト様!?」

 

「……む、気がついたか」

 

驚いて椅子から転げ落ちる。

 

「なんで私の部屋に?」

 

「……卿が許可出したぞ」

 

そういって端末の音声再生を起動したラインハルト様。

 

『明命、部屋に入るが構わんか?』

 

『えへへ……どうぞどうぞご自由に~』

 

……ハイ、私が許可出してましたね。

 

「……1つ頼まれて欲しいことがある」

 

項垂れていたら、ラインハルト様が真剣な声でそう告げてきた。

 

私はハッとしてそっちを向く。

 

「……な、なんでしょうか……」

 

「……この2匹を卿に預けたい」

 

そういって手元のボールを近くに放り投げるラインハルト様。

 

現れたのは2匹。

 

片方は全身薄紫色で赤い宝石のようなものが額についているお猫様のような姿のポケモン。

 

もう片方は闇夜の様な黒い身体とあちこちにある青い環の模様が入った黒いお猫様のようなポケモン。

 

「エーフィとブラッキーだ」

 

「フィー……?」

 

「ブラッ?」

 

首をかしげてこちらを見る可愛らしい2匹。

 

「……預けていただけるので?」

 

抱きしめたいもふもふしたいという欲望を押さえつけながら問いかけた。

 

「構わん。ただし、2匹は生き物であること、比較的寛容ではあるが限度があることをゆめゆめ忘れぬようにな」

 

そういってラインハルト様は2匹をボールに仕舞い、私に手渡した。

 

「……2匹、お預かりします」

 

私はボールを大切に懐に仕舞う。

 

「……む、急ぎの仕事が来た故失礼する」

 

端末を一瞥したラインハルト様はそういって立ち去った。

 

「……」

 

私は複雑な気持ちを誤魔化すように2匹をボールからだす。

 

2匹とも、首を傾げたあと、私の周りで匂いを嗅いだりし、頭を押し付けるようにしてきた。

 

「……慰めてくれてるの?」

 

「フィー」

 

「ブラッ!」

 

「……ありがとね」

 

撫でると嬉しそうに目を細める2匹。

 

「……ラインハルト様には色々お世話になってるのに、何も返せて無いなぁ……」

 

「――なら、私と一緒に尽くしませんか!」

 

突然の声に振り返る。

 

とそこには――。

 

 

 

 

 

――side ラインハルト

 

「にゃーん」

 

「にゃ……にゃーん……」

 

仕事やその他諸々に巻き込まれ、ようやく自室に戻ったと思ったら、猫耳に猫の尻尾、猫の足の手袋と履物+猫柄下着の亞莎と明命がベッドの上で待っていた。

 

「……」

 

私は普通に靴を脱いでベッドの上に上がり、あぐらをかいた。

 

二匹?は四つん這いで私に近づき、片方は頭を擦り付け、もう片方は……ためらっているな。

 

「ふむ……」

 

普通の猫相手にならやらないが、明命を捕まえて自分の膝の上に乗せる。

 

「はうっ!?」

 

「――大方亞莎の口車に乗せられて引くに引けなくなったのだろう。――無理しなくてもいいのだぞ?」

 

私の言葉に彼女はこちらを向く。

 

耳まで朱に染め、花も恥じらう乙女の顔をしながら言葉を紡いだ。

 

「…………ラインハルト様をお慕いしていますし、亞莎ちゃんみたいにかわいがってもらいたいとおもっていましたので……その……」

 

これ以上言わせるのは無粋だな。

 

私はそっと顎に指を触れて彼女の唇を奪う。

 

「――!!」

 

触れる程度のものだが、今の彼女にはちょうどいいだろう。

 

「卿の想い、しかと受け取った。――今宵は長くなる。またせた分、たんと可愛がらねばな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ということで董卓軍を吸収合併』

 

――side ラインハルト

 

「本当に柴桑に日を跨がずに着いたわね……」

 

詠が遠い目をしながら私の近くでそうぼやいた。

 

先日恋経由で伝えていた引っ越しの日が決まったのでその日(今日)に迎えに行った。

 

荷物を宝物庫に、人は『城』を経由して柴桑へ輸送。

 

引越し屋泣かせの輸送だが、神隠しに近いので多方面から恐れられそう(こなみ)。

 

……近いうちに劉備たちを輸送するが、どれくらい輸送するだろうか……。

 

思考が脱線したので頭を振って説明を始める。

 

「屋敷については6人分確保してある。誰がどこを使うかは任せる。使わぬならこちらで預かる手筈にしてある故、決まったのなら教えて欲しい」

 

「ホンマ至れり尽くせりやな……」

 

「ねねは恋殿と一緒なので1ついらないですぞ」

 

「ボクも月と一緒だから4つでいいわ」

 

「……屋敷をそれぞれ案内する。その後どの屋敷にするか決めると良い」

 

私はひとまず彼女らを案内し、それぞれの屋敷を見て回ることに。

 

 

 

 

 

 

 

特に問題なく内覧し、各自住む屋敷が確定したので荷物を王の財宝で搬入しておいた。

 

そのあと廬江に転移し、孫家の面々と顔合わせすることになったのだが……

 

「……孫家は文官武官共に層が厚いですね」

 

紹介が終わったあと、玉座に座る蓮華を見る月。

 

そして左右に並ぶ面々を見て月が零す。

 

「孫家の力だけじゃないけどね」

 

そういってこちらを見る蓮華。

 

「……ソイツに裏切られたら終わりじゃない?」

 

詠の疑問に、半ば達観した顔になる蓮華。

 

「裏切るもなにも、孫家はほぼほぼ彼と一蓮托生だから……」

 

主だった者もそれに頷く。

 

意味を察した詠は月を庇うように立ち位置を変える。

 

しかし恋が首を振って問題ないと告げる。

 

「……詠。ラインハルトは無理強いしない。……そうじゃなきゃ、思春やゆりねあたりからラインハルトの匂いが無いのはヘンだし」

 

色々言いたいが話が拗れるので静観。

 

「……業腹だが、コイツは自分から手を出す事は稀有だ。それに無理強いはしてこない。……コイツにだけ未だ真名を許してないのにコイツの行動がつけてるお面のような変な顔する程度で済んでいるしな」

 

(´・ω・`)のお面をつけつつ話を聞き流す。

 

何名か吹き出しているが、良いガス抜きになったからヨシ!

 

「……思春の言う通り彼は手籠めとかそういう事はしないわね。……普段何気ないことで無自覚に好感度稼いだり、心弱ってる時にしれっと隣りにいて、その心を満たすように甘く優しい毒を与えていくだけで。……いつの間にか離れられなくなって、溺れていくのよ……」

 

何故か自慢気にとろけた顔で語る蓮華。

 

「……つまりそいつは女を破滅させるヤバい男ってことね?」

 

「破滅の定義次第ですが、そうですかね?でも私達なんだかんだで上手くやってますよ〜?」

 

詠の結論に穏が半分同意しつつ問題ない事を伝える。

 

「……思春殿のように気丈に振る舞っていれば問題ないのだろう?簡単だ」

 

「華雄、それ戦場とかで言ったら一番最初に死ぬやつやで」

 

華雄の言葉にアカン……と言いながら突っ込む霞。

 

「……人間、誰しも何かに依存してる……ラインハルトに依存するのは悪いこと?」

 

その言葉に一同考え込む。

 

「うーん……。……彼に何かあったら道連れの可能性があるのが致命的でしょうけど、『何かあったら』が想像できないからそのあたり気にしても仕方ない分、他に依存するよりは気が楽な気がするわね」

 

「ありがと、雪蓮」

 

雪蓮の言葉に頷く恋。

 

そして私の方に近づくと膝をついた。

 

「……えっと……よろしくお願いします、御主人様?」

 

「……う、うむ。」

 

「恋殿!?」

 

私と恋のやり取りに目を丸くするねね。

 

「……ねね、ラインハルトは……えっと、節操なしかもだけど……ねねにいじわるしてたような男じゃない。大丈夫」

 

「……恋殿を信じますが、御主人様呼びは当面無理なのでよろしくですぞ!」

 

「御主人様呼びを指示した覚えはないので一向に構わん」

 

「それじゃ、顔合わせもしたし、今日は解散ね。……後で端末を彼から受け取ってくれると、連絡しやすくなるからよろしく。それじゃ、解散」

 

 

 

 

――side 月

 

あのあと、柴桑に戻り、城の中を確認したり、引き継ぎ資料に目を通したりした後、それぞれの屋敷に戻った。

 

「……ラインハルトさんすごいよね」

 

「……ボク的に月取られそうで警戒対象なんだけど」

 

以前睡眠不足の時に使わせてもらった寝具と遜色ない素晴らしい寝台にて、詠ちゃんを見ながらお話をしていた。

 

「……詠ちゃんが一番だよ? ……ラインハルトさんはそのうち並ぶかもしれないけど」

 

「……頭では勝てないと分ってても気持ちでは理解したくないのよね……。とりあえず明日から新しい場所での仕事、頑張るしかないわね」

 

「だね。……おやすみ、詠ちゃん……」

 

緊張したりなれないことで知らないうちに疲れていたらしい。

 

眠気に誘われ、夢の中にいつの間にか私は滑り落ちていった……。

 

 

 

 

 

 

 

『メイドコッコロのとある一日?』

 

――side コッコロ

 

メイドの朝はとても早く、卯の刻*1より前に目を覚ますことになります。

 

まずは部屋にあるラインハルト様の肖像画(メイド長にして正妻様であらせられるイオン様より下賜された)を拝み、それからメイドの礼服に着替えます。

 

礼服はスカートの丈等が短く、肌が多く見える礼服一式と、肌の露出の少ない礼服一式があります。

 

季節やその日の温度、あとは夜のお誘い待ちの有無などで礼服や靴下、髪飾り等を組み合わせるようにと言われているので、なれるまで苦労するかもしれません。

 

今日は比較的温かいので、丈の短いモノを着ました。

 

髪飾りは呼ばれても良いという意思表示のため、華をモチーフにしたものをつけました。

 

「……変なところは……ございませんね」

 

姿見の前で確認し、お部屋をあとにします。

 

 

 

 

 

まずはメイド用の待機場所に行き、今日の担当を確認します。

 

一口に担当と言えど、炊事洗濯掃除から、お風呂の管理に書庫の整理、果てには『影の国への同行』など多岐に渡るので、確認を怠ると何をすれば良いのかわからない事になります。

 

「……午前は武術訓練で……午後は……湯番ですか……」

 

武術訓練はメイド次長の方針で『主以外にお手つきされないため、有事の際主の盾となるため』に設けられたものです。

 

……有事の際はラインハルト様が自ら先陣切って事態の沈静化に動くと思うので要らないような気もしますが……。

 

何かの役に立つと思って、しっかり訓練を行いましょう。

 

 

 

 

 

 

 

「……。……?……大丈夫かね?」

 

目を開くと目の前にはラインハルト様が。

 

「きゅっ……だ、大丈夫です」

 

周りを見ると斜め後ろには赤地の湯の暖簾と青地の湯の暖簾。

 

どうやら湯番で誰も来ないと油断していたところをラインハルト様に見られてしまったようです。

 

「……仕事は大切だが、倒れたり仕事中に事故が起きるのは望ましくない。 わかったな?」

 

「……はい……」

 

私の言葉にラインハルト様は頷き、端末で連絡をはじめました。

 

「私だ。すまないが湯番のメイドが不調のようだ。暇番から1人回して欲しい。……あとで救護室に預ける。明日は暇番ゆえ問題ないはずだ」

 

そういって連絡を終えると私を抱き上げられました。

 

……何故??

 

「あの、ラインハルト様??」

 

「何、疲れているのに休まぬ生真面目メイドに少しお仕置きが必要と断じた。故に湯浴みに同行し、湯浴みの手伝いをするように」

 

「……承知いたしました」

 

……棚ぼたという言葉があるといいますが、今の私はまさしくそれのような気がします。

 

 

 

 

 

 

 

「もう少し強くても構わんぞ」

 

「は、はいっ……」

 

浴室にて、私は大きくたくましいラインハルト様の背を現在一生懸命洗っております。

 

……イオン様や胸の大きい方ならそれで洗い、ラインハルト様に喜ばれてるらしいので成長したい反面、ありのままの私を気に入られているとのことなので悩ましいところですね。

 

「……やはり疲れてるようだな」

 

「え? あ、そのっ!?」

 

気がついたら私はラインハルト様の前におり、椅子に座らされていました。

 

「……それだけ疲れてるなら仕方あるまい。……たまには私がメイドを洗うとするか」

 

そういって私の身体をラインハルト様が洗いはじめました。

 

力強くも不思議と痛くないよう加減され、体の隅々まできれいにしていただきました。

 

「……これでよし」

 

そういうと浴槽に身体を預けるラインハルト様。

 

私はその……何度も見たことある場所を見て顔を赤くしてしまい、右往左往してしまいました。

 

「……ふむ」

 

するとラインハルト様は浴槽から手を伸ばし、私を抱き上げると、私を上に乗せるように浴槽に浸からせたのです。

 

「……あの、ラインハルト様?」

 

ある場所に当たるモノを目線だけむけたりしつつ、問いかけるが

 

「皆まで言うな。……これはお仕置きなのだから。……私が満足するまで、頑張るようにな」

 

お仕置きという名目で黙殺された。

 

……申し訳ありませんが、またお仕置きされるために無理をしてしまうかもしれませんね……。

 

 

 

 

 

 

……このあと色々あり、気がついたら翌日になっていましたが、とても詳細を書けそうにありません。

 

何があったかは……ご想像にお任せいたします。

 

 

*1
午前6時前後



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拠点にて その8

『死にゆくもの、受け継がれるもの、生まれいづるもの』
切っ掛けはふとしたこと。雷火も古い知り合いからの手紙とその人への訪問で何かを始めようと思ったようです。


『ときには強引な交流会を』
人が多くなったからこそ、派閥が生まれたりそれらで固まったりする。
けどシャオたちはそれが望ましくないと考えたようで……?




『死にゆくもの、受け継がれるもの、生まれいづるもの』

 

――side ラインハルト

 

「――すまないが、足を借りたい。お主の馬車を借りることはできないだろうか」

 

文官仕事を執務室にてこなしていると、今日は非番のハズの雷火がやってきて、書簡を片手に問いかけてきた。

 

「構わんが、何かあったのか?」

 

「――徐州にいる古い知り合いがな、もう長くはないという手紙を寄越したから会いに行きたい」

 

私の問いかけに複雑そうな顔をしながら雷火は応える。

 

……徐州からの手紙……距離的に……

 

気になったことが頭をよぎるが、雷火の顔を見る限り『終わったあとの訪問になる覚悟』はできているようだった。

 

「……私の同行を飲むなら馬車より早い手段を提供できるが……どうするかね?」

 

雷火は私の言葉に少し迷いの表情を見せた後

 

「儂の言う通りにお主が従うならその提案を飲む」

 

逆に条件をふっかけてきた。

 

「……ならば契約成立だな。――仕事はキリトに任せる。支度が済み次第東屋前に来るといい」

 

私は雷火の提案を了承し、キリトに仕事をぶん投げて東屋へと向かう。

 

途中半ギレのキリトにドロップキック仕掛けられたので回避したりしたが割愛。

 

 

 

 

 

 

 

「場所は?」

 

「徐州彭城国(ほうじょうこく)武原県(ぶげんけん)西1里の寒村だ」

 

「わかった」

 

私は『白き翼』を冠する導力飛行船を呼び出し、彼女を抱えて飛び乗り、艦内へと入る。

 

「お主……おなごというのはそうほいほい抱きしめるものではないのだが???」

 

「乗るための台座などの用意をして登るより手っ取り早いからな」

 

ブリッジにたどり着いた私たち。

 

私は館長席に座り、雷火へ隣の席に座るように指示。

 

そして自動人形たちによる機体制御を見つつ目標地点の座標登録をする。

 

「導力供給開始」

 

「第一から第四、エンジン起動、異常なし」

 

「導力エネルギーの供給、問題なし」

 

「自律式メインシステムの起動確認、サブシステム待機状態へ推移」

 

「艦内の状態を待機状態から通常モードへ切り替え完了」

 

「反重力装置、正常稼働」

 

「火器管制装置、異常なし」

 

「現在地取得完了。目的地座標入力確認。――相対距離計測及び進行ルートの設定完了」

 

「――システム、オールグリーン。出撃可能です」

 

人形たちの言葉を受け、私は口を開く。

 

「アルセイユ――発進!」

 

僅かな揺れと浮遊感こそあったが――外やモニターを見なければ移動してると気が付かぬほど穏やかな上昇と加速で目的地へと出発する。

 

「……空飛ぶ絨毯などを見たことあるが、これは初めてだな」

 

機器や人形たちをみながら感想をこぼす雷火。

 

「ちなみに私以外だと卿がこの船に乗るのは初めてだ」

 

「……各方面から文句言われぬか、ソレ」

 

「たまにはよかろう?」

 

「それもそうか。……ついたら教えてくれ、儂は寝る」

 

「うむ、わかった」

 

すぐに眠れるのは一つの才能というが、雷火にはその才能があるのかもしれない。

 

そう思いつつ、2時間もしない空の旅を頭空にして堪能するのだった……。

 

 

 

 

「……着いたぞ」

 

何度目かの私の言葉に目をこする雷火。

 

「……うおっ!? 年寄りを驚かすでないわっ!」

 

「流石に理不尽だぞ」

 

良い一撃をくらってよろける私。

 

「……本当についたのか?」

 

「無論だ。但し、上空から降りる必要がある。……先程着陸したら住民から鉄の怪物扱いされて攻撃されたのでな」

 

血気盛んな時代だなと思いつつ説明。

 

「……お主はどんな高さから突き落とされようと無傷じゃろうが、儂は無理じゃぞ?」

 

「案ずるな、方法はある」

 

 

 

 

 

私は彼女を抱きかかえ、飛び降りる。

 

「やはり自殺行為……?」

 

私は瞬間的に空間遮断と認識阻害の魔術で私達の周囲を包み、同時に魔術で落下速度を低下させる。

 

「……お主本当になんでもできるな」

 

「何でもではない。人よりできるとは自負しているがな」

 

「……手を離すでないぞ?」

 

「ネイあたりなら喜ぶ故考えるが、卿にやるつもりはない」

 

「……あの小娘なら喜ぶのか……」

 

 

 

 

 

 

 

無事村の近くに着地した私達。

 

何食わぬ顔で村に入る。

 

最初は余所者と警戒されたが、親経由で雷火を知っている若い男がいたため、その警戒は解かれた。

 

その後、古い知り合いの家に行ったが……人の気配は無く、何処か人恋しくなる寒さを感じさせた。

 

「……来ていただいて申し訳ないですが、ここの人なら、手紙出した翌日にはもう……」

 

案内してくれた人の言葉に、険しい顔をしてから、雷火は口を開く。

 

「ということは葬儀も終わってるということじゃな? 墓参りをしたい。……案内を頼む」

 

 

 

 

 

 

「こちらですぁ」

 

村が管理してるらしい共同墓地。

 

その1つを若者は示す。

 

周りのものと変わらない。

 

言われなければ、わからないような、土を盛ってその上に石が置かれた場所を見て、雷火は黙祷を捧げる。

 

死を想え(メメント・モリ)と口にする私も顔も知らぬ相手へ黙祷を捧げた。

 

「……人とはなんと儚いものだろうな」

 

「脆く、儚く、それでいて歪な生き物だな」

 

「……こうしていると、生まれた理由が何なのか、わからなくなる」

 

「卿が縋りたいものが哲学的な答えか、生物的な答えか……その答えを教えたところで卿が自ら掴んだ答えでなければ納得できるとは限らんぞ」

 

「……皆まで言うな。……かつて机を並べた同期共が穏やかな顔をできたのも、己の血を分けた子を産み育てたのがあるのだろうな」

 

雷火の言葉を無言で促す。

 

「……生まれ、生きて、死ぬ。その間に子をなす、後に残るような事を成し遂げる。それをやる理由は……死してなお遺るような何かを遺したいという衝動故か」

 

「そうかもしれんな」

 

「……さて、ラインハルト」

 

こちらを向き、雷火は私に呼びかけた。

 

「何かね?」

 

「生まれてこの方過ぎたるほど真面目に生きてきた。……仕事はともかく、遊びの1つや2つまともにせず死ぬのも惜しくなってきた。……お主なら得意じゃろ? 夜のそういう遊びも含め、儂に教えてくれぬか?」

 

「構わんが……」

 

色々いいのか?とは口にせず。

 

「行き遅れたババアを選ぶもの好きなどお主くらいじゃろ? それになんだかんだでお主なら良いと儂はおもっておるしな」

 

「……まずは粋玲と共に打つ遊びからやることにしよう。いきなり閨は落差で卿が死にかねん」

 

「労ってもらえるのは嬉しいがその言い方は気に入らんぞ」

 

そう言いながら彼女は歩き出す。

 

雷火の目に映る景色が、今までとは少し違うかもしれないと思いながら、私は彼女についていくのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ときには強引な交流会を』

 

――side シャオ

 

今日の午後から明日の昼にかけてラインハルトとキリトが遠征(なお廬江にラインハルトの長男であるイザークが滞在とのこと)してるから、ちょっと普段ならできないことをすることにした。

 

「――ということで、私主催の男子禁制の飲み会をはじめます!」

 

男子禁制の女子会による飲み会!

 

ラインハルトとか黒円卓の男連中やキリトの友人たちは男子会をしてるらしいからそれはそれでヨシ!

 

なお、ブリジットさんは女子会と男子会の幹事及び本人の相談の結果、今回は男子会に混じってもらった。

 

……ココロと身体が噛み合わないって難しい問題ね……。

 

あと配膳とかは、イザークが城の髑髏ってのから女性だった人たち選んで給仕してるし、男子会の方は野郎だった髑髏を使ってるから完全に棲み分けできてるみたい。

 

まあ女子会が城で、男子会が街の一角にある大店だから物理的距離もあるし問題ないとおもうけど……。

 

「あ、一応言っておくけど、席順は変えないように。普段話しない人が話すための席順だから。あと無礼講ってことでここで起きた無礼事や聞いちゃいけない案件は知らない見てない覚えてないってことでよろしくね! それじゃあ、乾杯!」

 

「「「「「乾杯!!!」」」」」

 

みんなが乾杯してるところに私も割り込んで乾杯。

 

私の席は対面に恋さん、その左右に白瑛(厳興)とジュンさん(鎧はSA:Oの女性陣でひっぺがした)、私の左右がストレアに束さん。

 

「おっぱいデカいのばっかりでいじめじゃないのこれ!!」

 

「急にどうしたの?」

 

「……世知辛い、胸囲の格差社会」

 

「大丈夫だって、お姉さんたちがあんなに育ってるんだし、シャオちゃんも問題無いって」

 

束さんは首をかしげ、恋さんはナニかを見て納得したように零し、ストレアが可愛いと私を抱きしめた。

 

「……恋殿が凄まじい勢いで食べてるから、早く取らねば何も食べられんぞ?」

 

「なくなれば注文すればいいので大丈夫かと。……しかし鎧を着てないとどうも違和感が……」

 

新参寄りなので恐る恐るといった雰囲気の白瑛に冷静に指摘しつつ変なことを言い出す……今更か……ジュンさん。

 

ってか、おっぱいに溺れる!

 

藻掻いで脱出。

 

「もう! 窒息死とか洒落にならないから! 気をつけてよね」

 

「はぁい。――っとじゃあシャオちゃんは何食べる?」

 

「どうしょうっかな〜ストレアが選んでよ」

 

「なかなかの無茶振りだね!」

 

ここの席はとりあえず大丈夫そう。

 

……他は大丈夫かな……。

 

 

 

 

 

 

――side 冥琳

 

この席は……真面目な面子が集められたな……。

 

私の左右にカノンと詠、対面にザミエル卿、ザミエル卿の左右にゆりね嬢と鈴音という組み合わせだ。

 

「……にしてもザミエル殿が出席するとは意外ですね。ハイドリヒ卿の命令でなければ基本梃子でも動かないのに」

 

カノンが席の面々が気になっていたことを問いかけてくれたお陰か、皆の視線がザミエル卿に集まる。

 

「……あの酒乱のバカ娘がいなければ適当に理由をつけて辞退させてもらう予定だった」

 

彼女の目線の先では宴会芸をやり始めている金髪碧眼の娘……ベアトリスが居た。

 

「……酒癖悪いの?」

 

ゆりねがちょっと信じられないという顔で問いかけた。

 

「器物破壊が過ぎて出禁になった店は10から先数えていない」

 

「……だから酒飲んでないとか?」

 

詠はザミエル卿の手元を見つつ。

 

「違う。――ハイドリヒ卿不在の今、最高戦力が大隊長である私たちだ。……意図的にやらねば酔えぬ身体であり、マキナとシュライバーが飲んだくれているとは思えんが、酒に酔って守りきれないなど起きてはハイドリヒ卿に顔向けができん」

 

「凄まじくまともな理由!」

 

鈴の言葉に串焼きを摘むザミエル卿。

 

「……副首領と呼ばれてるあの男は?」

 

「しらん。ハイドリヒ卿も自由行動を認めているからな。……気まぐれに現れて何処かに行くような輩だ。当てにできん」

 

真面目に答えつつ、料理を少しづつ摘むザミエル卿。

 

「……大隊長で誰が一番強いの?」

 

詠の質問に険しい顔をするザミエル卿。

 

「……後先考えず、本人も無自覚で封じてる力を使うと仮定するならシュライバーだろう。逃げ場がほぼ無いなら一撃当てれば勝てるマキナ。先の条件をすべて除外するなら私が勝ちを拾いやすい」

 

「ほぼほぼ三竦みとラインハルトから聞いている。『ザミエルの切り札は必中故神速のシュライバーを捕らえられる。しかしマキナは耐久に物を言わせて肉薄し、ザミエルを倒すことが可能。但しマキナは神速のシュライバーを補足することが困難故、消耗戦で競り負けることになる』と」

 

「……恋とかは黒円卓の面々と戦えたりするの?」

 

詠の追加質問に何言ってるんだ?と顔をしかめるザミエル卿。

 

「我々はエイヴィヒカイトという魔人を生み出す術で人から外れている。気という力はたしかに私達に影響を与えられるが、良くて最弱である素のブレンナーあたりに傷を与えるのが精々。倒すなど夢のまた夢と考えたほうが賢明だな」

 

「……恋でもその段階とか、本当にイカれてるわね」

 

「褒め言葉として受け取っておく。それより飲み食いせねば温い酒を冷えた料理という興醒めなモノにせっかくの料理が成り果てるぞ」

 

その言葉に私達は慌てて料理を自分の皿に取り、食事を再開した――。

 

 



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拠点にて その8.5

『劉備、漢中を得る』
劉備はラインハルトの提案で漢中に拠点を移すようです。


『曹操と袁紹と燻る火種』
なにやら曹操と袁紹の間で火種が燻っているようです。


『劉備、漢中を得る』

 

――side 趙雲

 

私は趙雲、字子龍。真名を星という。

 

桃香様たちと共に黄巾賊征伐に参戦し、今は桃香様の将として槍を振るっている。

 

「こっちだ」

 

そして現在、愛紗の提案と桃香様の決断により、ラインハルトという黄金の獣の招聘に応じ、我々は寿春に来ていた。

 

謁見の間の扉が開かれると、そこには孫家の文官武官が勢揃いしていた。

 

……む? たしか黄巾賊征伐の時に董卓軍として参戦していた董卓とその配下もいるのはなぜだろう。

 

「よく来てくれた」

 

たしか孫権だったか……江東の虎と呼ばれし孫文台の次女と聞くが、何故揚州牧の孫策を横に侍らせて孫権が玉座に座る??

 

「知らぬものもいるだろうから名乗らせてもらう。私は孫権、字は仲謀。――中央より認められて家督と州牧を姉の孫策より引き継いだものだ」

 

「そゆことだから、今度から孫家の長とか揚州牧宛は私じゃなくて妹に届くからよろしくね」

 

……寿春に挨拶することを条件にしたのはこれが理由だったのだろうか。

 

……まだなにかあるかもしれんな。

 

「……えっと……私は劉備、字は玄徳です。この度益州牧に任命されたのでそちらに向かうことになりました」

 

「ああ、話は聞いている。……移動やこちらへの挨拶についてはラインハルトの独断だ。……ラインハルト、挨拶も済ませたし話に必要ないものは下げようと思うが残しておきたいものはいるか?」

 

「ペコリーヌと立ち会いとして卿だな」

 

ラインハルトがいけしゃあしゃあというと、孫権が顔をしかめた。

 

「……埋め合わせはしっかりしてもらうから」

 

「無論だ」

 

「では残りは撤収。あとはラインハルトに一任する」

 

そう孫権はいうと頬杖ついて傍観の構えになった。

 

ペコリーヌと呼ばれた娘――私より胸があるな――はラインハルトの隣で腕に抱きついた。

 

……愛紗が嫉妬の視線を向けているがお構い無しのようだ。

 

「さて、卿らの行き先についてだが、――穀倉地帯であり張魯ら五斗米道が治める郡である――漢中だ」

 

「質問いいですか?」

 

朱里は手を上げてそう発言する。

 

「質問を認める」

 

「たしか、馬超さんが赴任してるはずですが、何故張魯さんが治めてるのですか?」

 

「まだ赴任してきていないからだ」

 

「なら漢中はこちらに敵対してるのでは?」

 

雛里が疑問を口にする。

 

「それらを含めこれから説明する」

 

そういうとどこからともなく机と机の大きさとほぼ同じ大きさの地図が現れる。

 

ラインハルトがその傍に向かったので私達もそこに向かう。

 

「まず益州の主な勢力だが、漢中の張魯、永安の張任、そして残る領域の劉焉となっている」

 

張魯と書かれた旗と張任と書かれた旗が漢中と永安に配置される。

 

「ここで注意したいのは永安の勢力。劉焉に一応従うが、荊州への睨みを効かせる事が最優先で、劉焉に敵対しないが、積極的に味方になることもしない。とにかく荊州からの敵を排除することに心血を注いでいる。触らなければ戦うことはほぼ無い」

 

張任の旗の隣に一回り小さい『中立』という旗を建てる。

 

「次に張魯だが……実のところ漢にちゃんと従っているし、収めるものも納めている。まともな統治をするなら喜んで従うことも確認済みだ」

 

「ちょっと込み入った話があるんですよね……」

 

ペコリーヌという娘の言葉にラインハルトもどう話すか悩んでいるようだった。

 

「まず劉焉が赴任早々に私腹肥やすために漢中が納める税率を5倍にするよう命令してきた。それに激怒した漢中は使者を叩き返した。その後漢中で放火人さらい果てには成都から中央への税の輸送だけ襲撃されるという事件が漢中でおき、劉焉から補填しろと要求された」

 

「そのため漢中以南の関を閉鎖して『漢中は危険なため、荊州経由で輸送しましょう』と三行半叩きつけて漢中は漢中で直接中央に税を納めることにした……までは良かったんですが」

 

「中央にツテはなく、とりあえず宮城の役人に依頼したところ9割中抜きされて国庫に収められており、それが数年続いて中央から収めるべき税を納めてないと言われ、今に至るようだ」

 

「ちなみに劉焉は意図的に収入を低く見せて差額を懐に収めたりしてたみたいですが、改ざんが甘く中央から指摘されたようです。それに反発して税を納めてないせいで、益州は反乱してる認定されたみたいです」

 

ラインハルトとペコリーヌの説明に一同が顔を覆った。

 

「……張魯の方は依頼する役人選び間違えたのが運の尽きだな。劉焉の方は論外だ」

 

「なので、劉焉討伐して、法に定められたとおりに税を収める分には漢中は素直に従いますし、劉焉討伐なら協力惜しまないかと」

 

「では各自理解したようなので移動するとしようか」

 

ラインハルトの言葉で一瞬空間が歪んだと思ったら、いつの間にか孫権が玉座から消えていた。

 

……いや、良く見たら謁見の間の装飾などが違うのでここは……。

 

「あら、ラインハルトさん、良くきましたね」

 

近くに見慣れぬ女性がいた。

 

「劉備とその配下だ。彼女が張魯。部下の閻圃とともに漢中の切り盛りと五斗米道の統括をしている」

 

「益州牧就任おめでとうございます。漢中として劉焉の横暴や中央の悪徳役人に頭を悩ませておりました。皆様のお陰で悩みもなんとかなると思うと、気が楽になりますね」

 

「あ、はい。よろしくお願いします!」

 

張魯の言葉に桃香様は返事して握手する。

 

「ラインハルト様からお話は伺っています。お部屋も人数分城2用意しましたし屋敷も用意がありますのであとでご確認ください。あと荷物についてはラインハルト様にここへ出してもらいますのであとで各自使う屋敷をきめたあと回収いだたければと」

 

そういって張魯は食堂へと私達を案内する。

 

 

 

 

 

このあと歓迎の食事をしてるところに馬超が乱入したり和解して桃香様の旗下に妹たちとともにはいったりしたがそのあたりは割愛させてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

『曹操と袁紹と燻る火種』

 

 

――side 華琳

 

私は執務室にて、書簡に乗ってるある報告を見て顔をしかめる。

 

「……黄河にて袁紹軍が商隊を襲撃……今月で6回目ね、この手の報告が上がるの」

 

「なーんかおかしいですよねぇ」

 

書簡を読む手を止めて風(程昱)がそう口にする。

 

「本当に袁紹軍の犯行ならあからさま過ぎますし、誰かがなりすましているなら誰がという疑問が残りますからね」

 

稟(郭嘉)も風の言葉に具体的な箇所の指摘をする。

 

「……袁紹軍の末端まで掌握しきれてない…とかあり得るのでしょうか?」

 

桂花の言葉に私はしっくりこない。

 

「あり得るけど、冀州は麗羽が最初に治め始めたところよ?他の州が掌握できてないなんて考えられないとおもうのだけど」

 

私の言葉に思案する参謀の3人。

 

「……ぐー」

 

「風寝るなっ!」

 

「おおっ、推測する手がかりがなさすぎて意識が遠くなってました」

 

突然船を漕ぎ始めた風とそれに突っ込む稟。

 

相変わらず息が合うわね。

 

「今思ったのですが、袁紹さんって今回の黄巾賊討伐の報酬として部下2人が収牧に任命されたと記憶してます」

 

「……そういえばそうね」

 

「つまり冀州の人員を新しく部下が治める州に割り振って、并州の人員を冀州に引っ張ってきたから起きてる可能性があるってこと?」

 

桂花も頭の切れる娘だから、風の言おうとしたことを察し、言葉にしたようね。

 

「……それでも月に何度も襲撃するようなことやっていれば流石に気がつく……委任してる郡守以上の人間が握りつぶしている?」

 

「可能性は否めないかと」

 

稟が否定しようとしてあり得る可能性に至りそれを仮説として口にすると、風は頷いた。

 

「……細作を使って秘密裏に手紙を送ってみましょう。それと表向きにもしっかり問い合わせるべきね。とりあえず細作の手配と問い合わせの使者の手配を風、おねがいね」

 

「それでは早速行ってきます」

 

私の言葉にすぐさま動き出す風。

 

……中央も異様に静かだし……警戒しておくにこしたことはないわね。

 

 

 




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第二章拠点回終了時点の大陸情勢(+主要キャラの所在)

孫家勢力

揚州

州牧 孫権(蓮華)

刺史 劉繇(ネロ)

最大動員可能兵数 20万(遠征可能 14万)

 

船と長江を利用した交易が多く、中原には劣るが栄えている。

ラインハルトを抱えており文官武官共に充実している。

 

所属メンバー

蓮華、シャオ、雪蓮

冥琳、祭、粋玲、雷火、梨晏、思春、明命、亞莎

炎蓮、清藍

月、詠、恋、ねね、霞、華雄

玉葉(厳白虎、ガワ:戦乱プリンセスのガラシャ)、白瑛(厳興、ガワ:艦これ武蔵)

貴音(張範、張魯、張衛の母)、ペコリーヌ(張衛)

ラインハルト+聖槍十三騎士団黒円卓面々(なお水銀は放浪のため行方不明)

イオン、カノン、ネイ、ネロ、レナルル、マイ=ナツメ(ランサー)

織斑一夏、織斑千冬、篠ノ之束、篠ノ之箒、凰鈴音

SAO組

花園ゆりね、邪神ちゃん、ミノス、メデューサ、ブリジット、柏崎星奈

セイバー、エーリス、アーチャー

コッコロ、ジュン、クリスティーナ、トモ

 

 

 

曹操勢力

兗州

州牧 曹操(華琳)

刺史 (不在)

最大動員可能兵数 19万(遠征可能 〜10万)

中原の豊かな土地と河北河南を繋ぐ要衝を持つ。

人材マニアの曹操によるスカウト&才能ある血族を卓越したカリスマで束ねている。

 

所属メンバー

華琳、春蘭、秋蘭、桂花、季衣(許緒)、流琉(典韋)、

華侖、柳琳(曹純)、栄華、凪(楽進)、真桜(李典)、沙和(于禁)、

風、稟、香風(徐晃)

 

 

劉備勢力

益州(劉焉、劉備で抗争中)

州牧 空席→劉備

刺史 劉焉→空席?

最大動員可能兵数 ???万(漢中兵力:4万)

 

現在益州を掌握中。

武官も文官も粒ぞろい。人数などはキャスターの人海戦術で百人くらいはなんとかなるらしい。

 

所属メンバー

桃香、愛紗、鈴々(張飛)朱里、雛里、

星、電々、雷々、美花(孫乾)、加茂家陰陽師パタリロ(キャスター)、

翠(馬超)、蒲公英(馬岱)、鶸(馬休)、蒼(馬鉄)、鹿島(張魯)

 

 

袁紹勢力

河北四州(冀州、并州、幽州、青州)を治める大勢力。

 

 

中央から黄巾賊討伐に参加した将兵や幽州の将兵を吸収し肥大化したように見えるが練度の低さなどが問題視されたり、幽州の烏桓・黄巾賊の乱戦の後始末に奔走しており、冀州と并州が疎かになっているらしい。

なお何進、盧植、皇甫嵩は征伐失敗の咎で将軍位剥奪の上宮城に出仕禁止を宦官・名門閥が上奏したため、袁紹が預かる形で保護している。

 

所属メンバー

麗羽、猪々子 、斗詩、真直、

何進、盧植、皇甫嵩、公孫瓉

 

 

 

袁術勢力

 

豫州牧と司隸校尉、執金吾を兼任し、中央に最も近い勢力。

名門閥や宦官閥に触らず何太后に接触している模様。

 

所属メンバー

袁術、張勲

 

 

 

劉焉

 

現在劉備と戦争中。主だった将は永安閥のため不利に立たされているらしい

 

所属メンバー

魏延、厳顔、黄忠、

張任

 

 

 

陳珪勢力

徐州牧と刺史不在の為代行して治めている。

徐州を守ってくれる人いないかと探したりしてる。

筆頭候補は曹操勢力。

 

所属メンバー

燈(陳珪)

 

 

左慈勢力

所在不明

所属メンバー

左慈、于吉、バーサーカー

 

 

所在不明(恋姫・サーヴァント)

包(魯粛)、

 

ライダー、アサシン、ルーラー?

 

 



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第三章 崩壊の足音
第三十三話 山越帰順と不穏な大陸情勢


――side ラインハルト

 

比較的平和な日々を過ごしていると、山越からの使者が来たと連絡が入り、城に行くことにした。

 

「――つまり金と引き換えに山越は戦力を出すと」

 

蓮華の言葉に眼下の赤毛の大男――山越の鬼人の異名を持つシグムンド――は頷く。

 

「そうだ」

 

「……山越は一枚岩ではないわよね?」

 

ネロの言葉に男は口元に笑みを浮かべる。

 

「問題ない。――オレに敵対する部族は長、あるいは全員始末した。山越はオレの下で1つの勢力となっている」

 

何人かがヒェッと声をこぼしたが、ネロは短く

 

「……そう」

 

とだけ答える。

 

雪蓮は少し考えるそぶり見せたあと口を開く。

 

「ちなみにどれだけ出せる?」

 

「2万。いくつか部族潰して構わんなら追加で2000ほど出せる」

 

こちらの陣営の全員がこちらに目線を向けた。

 

私に丸投げするつもりらしい。

 

「……現在所持している土地の放棄、山越の民全員の寿春への移住、寿春が敷く法の遵守を条件に寿春の民としての登録及び漢の民と同等の扱い、放棄した土地と同等の金か土地を用意しよう」

 

「ほう? いいのか?」

 

シグムンドの色々含んだ問いかけに私は頷く。

 

「寿春の復興はしているが郡全体でいえばまだまだ復興はできておらん。なんなら廃村状態の土地が6割超えてる県もあるくらいだ。そこに人が入るならそれに越したことはない」

 

寿春を乗っ取られるリスクはあるが、ザミエルとヴァルキュリアあたりをドバルカインにつけておけば問題なし。

 

代わりに揚州の真ん中に居座るようにある山越の支配域を手に入れられ、そこに手をいれることにより、揚州をより発展できる等のメリットがあるので漢の民と同等の権利を出してもお釣りが来るのである。

 

「……良いだろう。そちらの受け入れ体制が整い次第こちらも移住を始めよう」

 

「すぐ始めて構わん。受け入れ体制自体はととのっている。早馬で連絡すれば良い」

 

手を差し出してきたので私も歩み寄り手を取る。

 

「……ふむ……そちらの部下として娘をつけても構わんか?」

 

シグムンドの提案に対し、私が答える前に蓮華が口を挟む。

 

「一応教えておくけど、彼に色仕掛けは通じないわよ?」

 

「ほう?これだけ美女に囲まれていれば目も肥えるか」

 

「違うわよ、ここのほとんど彼の手付きだし手付き全員で相手しても余裕ある体力おばけだから彼を籠絡とかするのは無謀ってこと」

 

それを聞くとシグムンドは余裕そうな顔から困惑の色を滲ませた。

 

「……それでも構わんなら好きにすると良い」

 

私が手を離すと頷いてから

 

「そうさせてもらおう。……今日はこれで失礼しよう。移住の第一陣に併せて此処に娘を送らせてもらう」

 

そういうとシグムンドは踵を返し、去っていった。

 

「……ついでにみんな集まったことだし、明日の定例会議を先取りでやっておきましょうか」

 

「「「「「賛成」」」」」

 

蓮華の問いかけに全員が賛同する。

 

「とりあえず内政の方、どうかしら」

 

「寿春以外はいずれも黄巾賊発生以前の安定した状態ですな。作物の方は収穫も安定しており、試験的に品種改良したモノを取り入れたところでは収穫増の報告をうけておりますぞ」

 

蓮華が話を振り、雷火が答える形で揚州の報告を告げていく。

 

「……不正問題の処理をして多少ごたついたとはいえ、寿春以外は概ね安定してるわね」

 

ホッとした顔をする蓮華。

 

「では次に大陸の情勢の報告をさせていただきます」

 

レナルルがそう告げると皆の纏う雰囲気が引き締まる。

 

外の情勢次第で仕事が増えたりするのもあるからだが。

 

「涼州は馬騰亡き後、韓遂による統治で安定しております。一応馬騰の知己ということで細々と友好関係を持っていますが問題ないでしょうか」

 

「良いんじゃね?馬騰の娘の方は劉備のトコいるらしいし、そっちにも季節の挨拶と贈り物欠かさなきゃ」

 

炎蓮の言葉にレナルルは頷く。

 

「次に益州ですが、州刺史の劉焉が朝敵認定され、劉備が州牧に任命されたたため、益州に入りました。その後、劉備軍に馬騰の長女馬超とその家族が合流し、漢中の張魯を帰順させたとのこと。現在劉備に敵対する勢力を帰順、討伐し、益州統一を行っているようです」

 

「劉備の監視はラインハルトに任せていいわよ。愛人いるしね……?」

 

ジト目を向けてくる蓮華。

 

嫉妬深いのも私は愛してるぞ?

 

アイコンタクトしたら照れ出した蓮華を嗜めるように咳払いするレナルル。

 

「……続いて豫州は引き続き袁術が州牧をしており現状維持。特に変化はありませんが……本人は張勲とともに洛陽にいるようです」

 

「……いないほうが平和だからいいんじゃない?」

 

詠の言葉に旧董卓軍の面々が頷く。

 

「……その洛陽ですが、袁術が皇帝に度々呼ばれおり、名門閥とも宦官閥とも距離をおいているようですね」

 

「……なんかきな臭いから、そのあたりの細作増やしておいて」

 

雪蓮のカンはよく当たる。

 

「かしこまりました」

 

なので提案はすんなり通るのであった。

 

「次は徐州、交州、荊州ですが、特に動きはありません」

 

「交州の爺、そろそろくたばらねぇかなぁ……」

 

炎蓮のボヤきに目線が集まるがレナルルの報告は続く。

 

「最後に兗州及び河北四州です。……ここが一番きな臭いですね。曹操、袁紹配下の軍が頻繁に小競り合いをしたり、互いの州の豪族に暗殺依頼や反乱の教唆をほのめかす手紙などの不穏な火種がばらまかれており、烏桓あたりには曹操の名前で幽州割譲を条件に袁紹討伐を文書でやりとりしてるという噂もあります。……戦闘が起きるのも時間の問題かと」

 

「……曹操陣営は末端の兵士も精鋭だが数は少ない。その上蝗害の予兆を掴んでそちらに兵を割いている。袁紹陣営は兵数こそあれど練度は低い上、青州や幽州の復興に手を回しているから外に目を向ける余裕もなし。外部からの干渉……中央の宦官閥と名門閥の代理戦争かもしれんな」

 

知りうる情報を開示しつつ、あり得る可能性を口にする。

 

「……たしかに曹操の祖父は宦官で、袁紹は名門ですけど……そのためにそれぞれの閥が火種を拵えてると……?」

 

亞莎が困惑した顔をする。

 

「……可能性はある。……蓮華。状況によっては独断専行するが構わんかね?」

 

「だめだと言っても止めないクセに。……どうせ負けそうな方の武将を保護したいとかでしょ? ウチじゃ面倒見ないから、劉備あたりに押し付けなさい」

 

「わかった」

 

妥協案を先に出されたので素直にそれを飲む。

 

「とりあえず、目下は平時の状態で内政に注力ね。文官組はいつもの仕事に加えて山越の寿春移住と移住後の山越支配域の調査よ。武官組はいつもの調練に加えて山越移住の護衛や山越支配域の調査の護衛になると思うから、動けるように最低限の準備しておいて頂戴。 それじゃ、解散」

 

 

 



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