時を失った英雄 in ハイスクールD×D (ksb)
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旧校舎のディアボロス
プロローグ


 初投稿です。皆さんよろしくお願いします。


 もう随分長いこと歩いてきた。

 その切っ掛けは些細なことであった。

 魔界の王ミルドラースを倒してから一年ほどたったある日のこと―――

 

 

 僕はグランバニア城の中庭に“何か”を見つけた。

 何かの歪み、空間の捻じれだろうか?

 自分の記憶の中にあるもので、それは“旅の扉”に一番近い。

 “旅の扉”――― それは遥か遠くの地、時には異世界にさえ渡ることができる古代の装置。

 だが不完全だ。安定もしていない。どこかへ転移することなど到底できないだろう。

 

 

 勿論、皆に相談した。妻に、息子に、娘に、叔父のオジロンに、従妹のドリスに、父の代から仕えてくれているサンチョに……。

 

 

 だが誰も見えない。触れることもできない。認識することさえできないのだ。

 ひょっとすれば悪いものではないか? 僕の不安は日に日に増していった。

 

 

 そして―――

 

 それに触れた。好奇心だった。今思えば愚かなことをしたと思う。

 

 その瞬間世界が反転して……

 

 僕は異世界にいた。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 何故、僕にしかあの“何か”を見ることができなかったのか。

 異世界に渡ってようやく思い至った。

 

 僕の母、マーサには不思議なチカラがあった。

 そのチカラは魔界に通じるモノで、そのチカラがあったために母は僕が赤子の頃に攫われた。

 

 母の一族、エルヘブンの民は神から“門”を司るチカラを与えられていたという。

 エルヘブンの一族の中でも母のチカラは歴代の巫女の中で尤も優れていた。

 僕にはそのチカラは引き継がれていないと思っていたのだが―――

 

 

 どうやら突然目覚めてしまったらしい。

 本来なら誰にも影響を与えないであろうごく小さな空間の歪み、それを見つけ出し“門”としてくぐるチカラ。

 世界を救った今、そんなチカラに目覚めたくもなかったのだが―――

 

 

 

 異世界に渡った後、元来た“歪み”を再び探したのだが周辺には存在しなかった。

 元々小さな“歪み”であったことと、チカラを使って強引に渡ったために消えてしまったのだろう。

 

 

 そうして再び僕の旅は始まった。

 元居た世界に戻るために―――、そして愛する家族と再会する為に―――。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 僕にだけ見える“空間の歪み”

 それを見つけ出すのは困難を極めた。

 

 

 多くの人々と出会い、そして別れた。

 見たこともない魔物と戦い、そして倒した。

 倒した魔物達の中から起き上がり、仲間になった魔物もいた。

 苦しんでいる人々を見つけ、そして救った。

 

 そして、旅の果てに―――

 

 “歪み”を見つけた。

 

 喜びのあまり小躍りした。

 やっと帰れる!! そう思うと歓喜に打ち震えた。

 そして迷うことなく触れた。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 たどり着いたのは別の異世界だった。

 そうと分かった時には絶望した。たぶん妻と一緒に石にされた時と同じくらいかと思う。

 

 だけど、きっとどこかに元の世界に通じる“門”がある―――

 無理矢理心を奮い立たせて前に進む。

 

 

 それからはその繰り返しだった。

 

 

 石にされた時との違い、それはしたいことができるということだった。

 

 目の前に苦しんでいる人がいれば助けることができる。

 助けた人々に感謝されることは純粋に嬉しい。

 

 それに発見の喜びもある。

 全く知らなかった呪文、見たこともない魔物、未知の技術。様々な職業。

 それに、有翼の少年を魔物使いの弟子にしたこともある。

 砂漠の世界、海洋の世界、氷の世界、更には空中大陸の世界などもあった。

 

 そして―――、

 

 

「ようやくこの世界でも“歪み”を見つけることができたか……」

 

 “歪み”を確認しながら呟く。

 

「少々名残惜しいが、この世界ともおさらばか………」

 

 僕は決心すると“門”をくぐった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「違うな」

 

 

 匂いで分かった。文明が発達した世界特有の「淀み」がある。

 

 まあ、我慢できない程ではないな……。少々違和感は覚えるが問題はないだろう。

 

 周辺にある設置物から判断して、文明の発達度合いでいえばかつてバトルGPとやらが行われていた世界と同程度だろうか?

 あの世界のぱそこんとやらを覚えるのには苦労したが……

 

 かつて行ったことのあるムー帝国程ではないだろう。

 

 夕暮れ時、どうやら広場らしい。

 

 平和な世界だといいが……。ん、これは殺気か? かなり高い魔力を感じる……っ!!

 

 

 その先には―――

 

 

 

 漆黒の翼を持つ少女が青年に光の槍を向けていた。

 

 

 

 




砂漠の世界、海洋の世界、氷の世界、更には空中大陸の世界:「ドラゴンクエストモンスターズ2」より。主人公のイル・ルカが旅をする世界。

ムー帝国:漫画「ロトの紋章」より。劇中の一万二千年前に海へと沈んだ超大陸に栄えた国家。高度な文明を誇っており、魔法力を基礎に時間と空間を自由に操って発達した超時空都市。


「有翼の少年を魔物使いの弟子にしたこともある。」は「ドラゴンクエストモンスターズ+」という漫画からです。 途中で打ち切りになりましたが再開しないかなぁ……。


※この小説はドラゴンクエストシリーズと「ハイスクールD×D」のクロスオーバー小説で、主人公は「ドラゴンクエストⅤ」の主人公です。
そのことで注意していただきたいことがあります。DQをプレイされたことがある方なら当然御承知のこととは思いますが、DQの主人公はFFシリーズなどと違い、原則的に はい/いいえ 以外に喋りません。
ですので、この小説の主人公の性格などは作者のイメージが多分に含まれています。
それが皆様の「DQⅤの主人公像」と違うという場合は、どうか御了承願います。


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1話 神器

批判、アドバイス、誤字脱字の指摘などを出来たらお願いします。


 

「こんにちは、それとも こんばんは、の方がいいかな? この時間じゃ……」

 

 

 今にも青年に光の槍を振り降ろさんとしている宙に浮かぶ翼の生えた少女に取り敢えず話しかけてみる。

 理由は二つあった。

 一つには言葉が通じるか試す必要がある。普通に考えれば世界が異なれば言葉も違って当たり前だ(何故か今までの世界では通じたが)。

 二つ目は状況確認だ。この少女は何者か、この青年は何者か、どちらが善で、どちらが悪か。そもそも善も悪もない立場による対立か……。それらのどれかで接し方も変わってくるだろう。

 無論、どういうことであれ殺し合いなど止めさせるが。

 

 

「あら……? 人間が入り込んで来たみたいね。それに、何その格好?

 ま、今は取り込み中なの。申し訳ないけど死んでくれないかしら? 恨むなら運の無い自分を恨んで、っね!」

 

 

 そう言うと、少女は自分に光の槍を投げつけてきた。

 

 ふぅむ……、言葉は通じるみたいだ。

 いや、通じているけど通じない、か……。けどまあ、理性はあるみたいだし何とかなるだろう。

 樫の杖に軽く闘気を込め飛来する槍を往なす。杖によって弾かれた光の槍は後ろの街路樹に直撃した。

 

 

「あらら、ここの公園を整備している方には悪いことをしたかな……。

 それよりも、そんなに怒らないで。ここに降りてきて少しお話しよう?

僕も君も、後ろの彼も色々と誤解してるかも知れないし……」

 

 

 取り敢えず、落ち着かせよう。いや、彼女は冷静なのかもしれないな……。そっちの方が厄介だが……。

 

 

 

「……………へぇ……少しはやるようじゃない。あなたは何者なの?」

 

 

「ああ、申し訳ない。自己紹介がまだだったね。

 僕はリュカだ。本名はもっと長いけどリュカでいい。ただの旅人さ。君は?」

 

 

 無難に自己紹介をし、相手の返答を待つ。だが―――

 

 

「ふぅん……。聞いたこと無いわね。あなたも神器(セイクリット・ギア)持ちなのかしら?」

 

「神器?」        

 

 

 神器、とは一体何なのだろうか。レアアイテムのようなモノなのか……?

 いや、彼女は“あなたも”と言ったな……。この場合もう一人のその神器とやらを持っているのは後ろの彼か。

 

 

「ふぅむ……、申し訳ないけどその神器とやらが何なのか分からないな……」

 

「あら、それもそうね。ただの人間が知ってる訳もないか……」

 

 

 僕の言葉を聞き、黒髪の少女は一人で納得しているようだった。

 全く以って何が起きているのか分からない。

 少なくとも彼女が僕らに害意を持っていることくらいだ。

 

 

「私はね。後ろにいる兵藤一誠くんが危険な神器を持ってるって、上の方々の命令で殺しに来たの。邪魔しないでもらえるかしら?」

 

「では、ヒョウドウ君はその神器とやらを使って悪さをするつもりがあるのかい?」

 

「俺がそんなことする訳がないだろ!! っていうか夕麻ちゃんどうしちゃったんだよ!?

 神器とか訳わかんねぇよ!!」

 

 

 彼の声色、表情、どれをとっても嘘をついているとは思えない。やはり止めるべきなのは彼女の方だ。

 

 

「……と彼は言っているけど、それでも殺す必要があるのかい?」

 

「そんなこと知らないわよ。関係ないわ」

 

「では彼を殺さないでくれるにはどうすればいいんだい?」

 

「そんなことできるわけないでしょう? というよりもあなたも死んでくれないかな?」

 

 

 やれやれ、取り付く島もないな……。一体どうすべきか。

 

 

「死ぬのは勘弁してもらえるかな? 僕には帰らなければならない場所g――「ああ、もういいわ。死になさい」」

 

 

 帰らなくてはいけない場所がある―――そう言い終える前に、彼女は僕の言葉を遮って、猛烈に襲い掛かってきた。

 

 ―――参ったな、出来るだけ穏便に済ませようと思ったんだが……。仕方が無いか。

 

 彼女は次々と光の槍を放ってくる。それをあらゆる攻撃に備え身を固める「大防御」と相手の技によるダメージを転嫁する技「受け流し」で凌ぎ切る。

 そこそこの威力みたいだが何とかなる。

 しかし、防御に徹しても埒が明かない。少し攻撃してみるか―――

 

 

「バギマ」

 

「何の呪文、ソレ? ってキャアアアァァ!!」

 

 

 中級真空呪文の生み出す風の刃を受けて彼女は地面に墜ちる。

 威力は殺したが普通の人間をミンチにするくらいならできる、それくらいの破壊力はあった筈だ。まあ、明らかに人外だし、どう見ても只者じゃないから一発くらいなら死なないだろう。

 魔法の竜巻に絡め捕られた彼女は錐揉みしながら地面に落ちた。

 

 ―――しかし、彼女はふらつきながらも起き上がる。

 

 墜落されたとはいえ耐えきるあたり、やはり彼女も並の存在ではないだろう。

 

 

「君では僕たちを殺すことはできないよ。もうお家に帰りなさい。これ以上手荒なことはしないから」

 

「舐めるな! 人間風情が!! ………………ふん、それでもあなたが言う通り()は殺せないみたいね。私だけ(・・・)じゃ」

 

 

 その言い草に違和感を覚える。

 

 

 『今は』……? まるで近い将来確実に勝てるようになるみたいな言い方だな……。

 それに『私だけじゃ』というのも気になる。近くに彼女の仲間がいるのか?

 彼女は徐に胸の谷間から珠のようなものを取り出す。

 

 

「あの得体の知れないやつに貰ったものに頼るのは癪だけど……、デルパ!!」

 

 

 するとその宝玉から十体もの魔物が溢れ出た!!

 

  黒い鱗を纏った巨体のブラックドラゴンが―――

 

  両腕が大蛇と化した蛇手男が―――

 

  大盾とサーベルを構えたグレンデルが―――

 

  黄金の肉体を持つゴールデンゴーレムが―――

 

  地上に降り立ち鋭い殺気を向けてくる。

 

  他にも 赤い肉体の魔竜ボスガルム。アンバランスなまでに大きな口を持つグレイトマムー。甲殻竜デンタザウルス。

 

 何れも見知った魔物たちだ。だが「元の世界」では見なかった魔物もいる。

 

  見るからに獰猛そうな巨獣はたしかヘルジャッカル―――

 

  異常に発達した両腕を持つ黄金の龍はギガントヒルズ―――

 

  そして桃色の巨鳥は極楽鳥という名前だったか―――

 

 いずれも地上を闊歩する魔物の中ではかなり高位の者たちであると言えよう。

 それらが公園内を埋め尽くした。

 どいつもこいつも眼が血走っている。明らかに正気じゃない。人の肉の味を覚えた連中だ。

 これはちょっと穏便には済みそうもないな……。

 

 

「何だ、コレ……? 一体どうなってやがるんだ?」

 

 

 後ろに目をやるとヒョウドウという青年が震えている。

無理もない。一般人が相手をするのは些か危険な相手ばかりだ。

 

 

「君は後ろに下がってなさい。安全な場所に隠れてるんだよ。いいね」

 

「ちょっ!! アンタはどうするんだよ!? あんなバケモノに勝てるワケないだろ!!」

 

「僕なら大丈夫だよ」

 

「いつまで話してるの? お前達、そいつらを始末しなさい」

 

 

  ギャオオオオオオオォォォォ!!!!

 

 

 魔物たちが一斉に襲い掛かってくる。

 しかし、すでに反撃の準備は整っていた。

 

 

「バギクロス!!」

 

 

 極大真空呪文が押し寄せてきた魔物たちを迎撃する。

 巨大な竜巻が怪物の群れを飲み込み、大気をも切り裂く真空の刃が彼らをズタズタにした。

 

 だが、魔物の中にはバギ系統の魔法に高い耐性を持つ者もいる。

 その内の一体であるゴールデンゴーレムがバギクロスを凌ぎ切り巨大なハルバードを振りかぶった。

 

 

「――ああ、ゴメンね。君達があの珠から出てくる間に準備を済ませてしまったんだ」

 

『バギクロス!!』

 

 

 もう一度呪文が詠唱され、巨大な竜巻が発生する。最初のバギクロスを耐えた魔物たちは二度目のバギクロスによって肉体が切り裂かれながら疑問に思う。 

 何故、極大呪文(バギクロス)を連続発動させることができた?と……、だが答えを得る前に絶命した。 

 

 

 山彦の悟りを開いておいて良かったな……。まあ、無くても何とかなったが) 

 

 

 山彦の悟り―――それを開くと呪文を山彦によって反響させ一度の詠唱で二度の効果が得られる、という技だ。以前、行くことになった異世界で体得した。

 

 公園内には無数の魔物の死骸が散乱することになった。夕麻ちゃんと呼ばれていた少女は驚愕で目を見開いて茫然としている。

 

 

「もう一度言うよ。家に帰りなさい」

 

「……なっ、何やってるのよ!! 早く起きてこの男を殺しなさい!!」

 

 

 ほとんどの魔物たちが生き途絶え、生き残った者も瀕死だというのにそのような指示を飛ばす。

 

 答える者など誰もいないと思ったが、意外にも応じる者がいた。

 

 

「……レイナーレ様……、我々ではこの男を殺すことはできません」

 

 

 答えたのは桃色の巨鳥 極楽鳥だ。二度目のバギクロスを飛んで躱したため助かったらしい。

 

 

「何を言ってるのよ!?」

 

「ですが、一度追い払うことならできます」

 

「だったら早くそうしなさい!! 早く!!」

 

 

 殺すことはできないが追い払うことはできる? 何を言っているんだ……。 ま、まさか!

 極楽鳥の躯が風の魔力を纏う。そして、その嘴が怖れていた呪文を紡ぐ!

 

 

「バシルーラ!!」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 しまった! 油断した!! そういえば以前居たことのある世界ではそんな呪文が使えたんだった。こんなことになるのであればマホカンタを使うべきだった!!

 バシルーラによって吹っ飛ばされながらそのようなことを考えていると地面が見えてきた。

 

 

 ドォォォーーーーーン!!!

 

 

 地面に激突する。だがバシルーラ自体は攻撃呪文ではない。上空から落っこちたがダメージはほとんど無い。

 どこかの森だろうか。しかし、同じ世界の筈だ。

 

 いかん! ヒョウドウくんが危ない!!

 

 歩いて戻ったのでは相当な時間が掛かってしまう。だが同じ世界で一度行ったことのある場所ならこの呪文が使える。

 

 

「ルーラ!!」

 

 

 何もない空間に小さな核が生じ、光が集束すると周辺の景色が渦を巻く。色とりどりの光の粒になって中心の一点に集中した。

 

 やがて世界がぱっと解けた。

 両の足で元の公園の石畳を踏みしめる。

 辺りはすでに暗くなっていた。

 

 

「ヒョウドウくん!!」

 

 

 大きな声で呼びかけてみるが―――

 

 

 

「あら? どなたかしら?」

 

 

 そこにいたのは血濡れで倒れたヒョウドウくんと、紅い髪の少女だった。

 

 

 

 

 




山彦の悟り:DQⅨより。味方1人を呪文詠唱後に同じ呪文をもう1度唱える状態にする特技。『けんじゃの秘伝書』を所持していれば使用可能になる。旧作品に登場する『やまびこのぼうし』とほぼ同じ効果であるが、こちらは数ターン経過すると効果が消えてしまう。

デルパ:漫画「ダイの大冒険」から。『魔法の筒』などからモンスターを呼びだす呪文。
便利ですのでこのシリーズでは乱用します。


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2話 リアス・グレモリー

出来ればアドバイスなどお願いします。


 

「僕の名前はリュカだ。本名はもっと長いけどリュカでいい。ただの旅人さ」

 

 

 目の前に居たのは腰まである深紅の長髪、雪のように白い肌、人間離れした美貌の少女である。

 だが気になったのは彼女の美貌ではない。彼女が人間ではないということだ。

 ただの人外であればかなり見てきている。というより、自分ほど多くの人外に囲まれた人間は少ないのではないか、とさえ思う。

 しかし驚いたのは彼女の持つ魔力だ。かつて世界を支配しようとした魔界の王ミルドラースの支配下であった暗黒の世界。そこに巣くう魔物は地上にいる魔物とは比べ物にならないほどの力を持っている。

 潜在能力では彼女は暗黒の世界の魔物に勝るとも劣らない……いや、まだ足りない。

 暗黒の世界の深淵……神をも超越し、更に進化によって記憶と引き換えに全てを超越した地獄の帝王。彼の住まうかの洞窟。そこで帝王を守護する魔物にも匹敵するかもしれない。

 だが彼女の能力はおそらく荒削りだ。仲間にし、修行し、魔物使いとして彼女の力を引き出せば……。

 いやいやいや、それどころではないな。彼女の正体や目的、この世界の情報を得る方が先決だ。

 

 

 彼女の気配に殺気はない。だがかなり警戒はしているようだ。

 周りを見渡せばあのユウマちゃん……いや、彼女の配下は主のことを「レイナーレ」と呼んでいたか……の召喚した魔物のズタ襤褸になった死骸が散乱している。

 

 

「そんなに警戒しなくてもいいよ。僕は君に危害を加える気はない。

 今度は僕が質問してもいいかな? 君の名前は何と言うんだい?」

 

「リアス・グレモリーよ。ただの旅人さん。

 それと警戒しなくてもいい、と言われてもねぇ……。周りの死骸の山はあなたがやったの?」

 

「ああ、襲われたからね」

 

「それで、どうしてこの魔物達を倒せたのにこの子は殺されたの?

 ……この傷は堕天使によるものだけど」

 

「ふぅむ、それは―――」

 

 

 取り敢えず、自分が異世界から来たこと、黒い翼の少女――レイナーレに、ヒョウドウくんが襲われていたこと、止めようとしたら、自分にも殺意を向けてきたこと、彼女を止めようとしたら、確か『魔法の球』という名前の魔法器具(マジックアイテム)から沢山の魔物を呼び足したこと、その中の一体に強制的に転移させられる魔法を掛けられ遠くの地に飛ばされたこと、そして、慌てて転移魔法で引き返してきたことを説明する。

 

 

「全く僕としたことが、あのレベルの魔物にいいようにあしらわれるとは……。

 クッ、人一人も守り切れず死なせてしまうなんて……。

 ――おや、彼から微弱にだが生命の気配を感じるが……、生きてる!?」

 

 

 今まではすでに殺されてしまったものだと思い込んでいたが、微かな生命力を感じ驚く。

 だがその一方で―――

 

 

「蘇らせたのは君かい? それもただ単に蘇生させただけではないね? 今の彼からは人間のではなく魔族の気配がするんだが……」

 

 

 僕の価値基準では、蘇らせたことは別に問題ではない。僕も、僕の仲間たちも、何度も死に、何度も蘇りながら戦ってきたのだから。

 しかし、死者の蘇生が不可能とされる世界で異世界の魔法を用い、人を蘇らせるのは混乱を招く恐れもある。

 それよりはこの世界の理に基づいて蘇生できるのであれば、そうさせた方が良い。

 だが、彼から発せられるのは人の気配ではなく魔族、もしくは魔物に近いものだ。

 もし、目の前の彼女が何らかの邪術を用いヒョウドウくんを魔物として復活させ、悪用しようとしているのであれば止めるべきなのだろう。

 

 

「説明してもらえるかい? 君が何者で何のために彼を人外として復活させたのか……」

 

 

 そう言い終えると彼女の言葉を待つ。

 

 

「そうねえ。まだまだ聞きたいことはあるんだけど、あなたの疑問にも答えましょうか……。

 私はね……、悪魔なの」

 

 

 返ってきた答えは……まあ、予測の範疇だ。

 

 

「私がその子を蘇らせたのは……その子のポケットの中を見てもらえれば早いわ」

 

 

 言われたので彼の服の中を探ってみる。

 彼女の言わんとしている物はすぐ見つかった。

 これは魔法陣? 小さいが……それなりの力を感じる。彼女はヒョウドウくんにこれで召喚されたのか?

 

 

「そうよ、彼が死に際に願ったの。私の腕の中で死にたいってね。

 でも彼は神器(セイクリッド・ギア)を持っていた。

 だから、蘇らせたの。私の下僕としてね」

 

「下僕、だと……」

 

 

 下僕―――その言葉を聞いた途端、体に悪寒が走った。かつての忌まわしい記憶。

 暗い洞窟、どろりと淀んだ生温かい空気。病んで爛れた人間の体臭。汗と油と血に塗れた服、縺れ絡まり依り紐のようになった髪。重荷を背負いおろおろ歩く生気を失った人々の列。怒声を上げ、鞭を振るう奴隷監督。槍穂を並べ自分達を、まるで家畜を見るような目で監視する衛兵たち。

 終わることのない地獄のような日々。

 

 

「もう一度聞く……。何として蘇らせたと言った……?」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

  リアスside

 

 リアスを困惑していた。召喚されるのを感じ来てみれば学園の後輩が死んでいた。

 それはともかく、彼の死因は堕天使の光だ。

 彼からは神器の力を感じる。おそらくそれを危険因子と判断され殺されたのだろう。

 そして何より周囲に散らばる魔物の死骸だ。どいつも人間界をうろつく魔物ではない。見たこともない種が大半だ。

 

  そして―――

 

 

 目の前に現れた男だ。

 襤褸布の様なものの上に紫紺のマントとターバンを見に付けている。

 凛々しく精悍な面構え、それでいて清楚で気丈な美女のようなあどけなさがある。

 そして何よりその瞳だ。黒曜石のような漆黒。そして人間とは思えぬほどに澄んでいる。

 

 リュカと名乗るこの男は明らかに“普通”じゃない。人間でありながら堕天使を追い詰め、魔物の群れを一人で皆殺しにし、強制転移で遠地に送られたというのにすぐに戻ってきたとは……。

 「自分は異世界人だ」というのは冗談の類かと思ったが、こうなると信憑性を帯びてくる。

 

 彼は自分に何者かと尋ねてくる。そして、どうして一誠くんを蘇らせたのかも―――

 

 

「私はね……、悪魔なの」

 

 

 全く驚いていない。 寧ろ想定通りと言わんばかりだ。

 どうして蘇らせたのか、という問いに対しても一誠くんが持っていた魔法陣を見せたら即座に理解した。

 どうやら魔法に対してかなり造詣が深いらしい。

 

 だが、そこから彼の態度は一変した。

 いや、“表面上”の態度は変わらない。冷静で穏やかだ。

 しかし、“内面”は……

 

 

「もう一度聞く……。何として蘇らせたと言った……?」

 

 

 “下僕”

 

 その言葉だ。

 それを聞いた途端、彼からとてつもない圧力(プレッシャー)が放たれた。

 魔力や、仙術でいうところの気の様なものまで溢れ出している。

 無論、魔力の方は大したものではない。少なくとも兄サーゼクスや他の四大魔王、大王家の者や、大公家の者等に比べればかなり小さい。

 かなり抑えつけての魔力であるが……。例え完全開放しても兄達程ではない、と思いたい。

 

 気の方はかなり異質だ。仙術はあまり詳しくはないが生命に流れる大元の力であるオーラ、チャクラと呼ばれるものを重視し、源流としている。

 悪魔や天使の力とは異なり直接的な破壊力はあまりないはず。

 ところがどうだ、目の前にいる男の気は悪魔すら素手で屠れそうではないか!

 

 

 彼女は理解した。

 理屈でも、であるが、何より直感で―――

 

 この問いにうまく答えなければ―――、私はここで死ぬ。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

「どうしたんだい? 『何として蘇らせたと言ったのか』と聞いたんだが?」

 

 

 再度尋ねる。ひょっとすれば聞き間違いということもありうる。いきなり攻撃するのはまずい。

 

 

「下僕として、と言ったわ」

 

「そうか……。だが、僕と君との間には認識の相違があるのかもしれない。

 僕にとっての『下僕』とは、他者に隷従させられ、仕事を失敗したり、放棄したり、反抗したら懲罰を受け、脱走しようとしたら殺される……そういうものだという認識だ。 この世界では違うのかい?」

 

「概ねその認識であってるわ。でも違うところもある」

 

「何がだい?」

 

「私の下僕たちは”幸福”よ。少なくとも私はそう信じているわ」

 

 

 幸福? 下僕が? 自分の信じる神の為に死ねるのは幸福だから、その神を祭る神殿を建てる為に使い殺しにされる奴隷たちも幸福だ……かの光の教団の信者達がそう話しているのを聞いたことがある。

 強者の傲慢か? しかし、目の前に佇む少女の瞳をじっと見つめる。

 嘘偽りはない。それにかなり聡明だ。弱者の心境を自らの都合のいいものに決めつける程愚かではない。

 

 だが―――

 

 

「悪いが信じられないな。この目で見ない限りは」

 

「……でしょうね。いいわ。私の下僕達のところまで案内してあげる。 それに、あなたのお話ももっと聞きたかったしね」

 

 

 地面に紅い魔法陣が展開する。周辺の景色が歪み、そして―――

 

 

 目の前には大きな建造物があった。

 

 

「ようこそ。駆王学園へ」

 

 

 

 

 

 




魔法の球:漫画「ダイの大冒険」より。「魔法の筒」の強化版。

リュカさんにとって『下僕』、『奴隷』はNGワード。


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3話 オカルト研究部

前回と同じほぼ会話のみの説明回……。
次回は戦闘シーンを入れたいですね。


 

「学校か……」

 

 学校、そう言われても今一つピンと来ない。

 サンタローズではサンチョに偶に読み書きを教わったが六才までだったし、ほとんど何も覚えていない。

 旅の途中、道すがら父パパスからも色々なことを教わった。野営、食料確保の仕方といった旅の心得。

 突くと見せかけては翻し、敵の出足を封ずる方法。かわすついでに、思いがけない角度から攻撃を仕掛ける手管。杖一本で、複数の敵と渡り合う様々な方法。剣と杖をまるで別々の生き物のように扱う技。万が一武器を奪われてしまった場合の、生き残るぎりぎりの戦略―――、それらの今の自分を支える多くの戦訓。

 だが、父から学問を教わったという記憶はない。

 

 字が読めるようになったのは奴隷時代だ。

 その時、同じ班だった老人が昔とある国で学者をしていたらしい。偏屈な老人で初めは煙たがられたが、ヘンリーと共に何度もお願いするうちに数学や文学、歴史や世界の理について等、多くのことを教えてもらったものだ。

 あの老人は無事に解放されたのだろうか……?

 

 

 それにしても広い。

 施設の規模からして元居た世界よりかなり充実している。

 自分の知識にあるここと同じ規模の学習施設といえば、異世界のエルシオン学院くらいだ。

 思えばあの学校は無茶苦茶だった。

 ブーメランの合格試験として山を一周して戻って来るように投げろだの、神獣ハヌマーンを物干し竿で倒せだの、すばやく臆病なはぐれメタルを特技「ラストバッター」で倒せだの……。

 その中でも「デスカイザーを毒針で倒せ」と言われた時は流石に呆れた。

 そんなこんなで一応全ての秘伝書を貰ったが、二度と来るか!! と思ったほどだ。

 しかし、そんなエルシオン学院も別の異世界に来ると懐かしくさえ思える。みんな元気でやっているんだろうか……?

 やはり学校は必要だと思う。無事に元世界に帰ることができたのならグランバニアにも造ろか。でも先生はどうする? ああ……、マーリンかネレウス辺りにお願いしよう。彼らなら十分に博識だし適任だろう。

 

 

 そんなことを考えていると夜間であるにも拘らず一室だけ煌々と光が灯っている部屋に案内される。

 部屋の内装は今までちらりと覗いた教室とは大きく違う。部屋中に魔法陣やら文字やらが飾られており、教室というよりは隠棲した老魔術師が住んでいる家の居間みたいな雰囲気だった。

 

 

「みんな、お客様よ」

 

 

 室内には三人の少年、少女がいた。

 

 

「紹介するわ。私の下僕たちよ」

 

「あらあら。はじめまして、私、姫島朱乃(ひめじまあけの)と申します。どうぞ、以後、お見知りおきを」

 

「……搭城小猫(とうじょうこねこ)

 

木場祐斗(きばゆうと)です」

 

「はじめまして、リュカといいます。ただの旅人です。よろしく」

 

 

 挨拶を済ませると、軽く彼ら三人を観察する。全員なかなかの力の持ち主だ。

 瞳には意志の光が宿り、強引に従属されているという雰囲気ではない。

 それでも一応尋ねてみる。

 

 

「いきなりで申し訳ないけど聞かせてほしい。君達はリアスさんの下僕だそうだけど……、彼女に従っていて幸せかい?」

 

 

 すると、彼らは困惑の表情を浮かべる。

 何故そんな事を聞かれるのか分からない、といった感じだ。

 やがて三人を代表してヒメジマという少女が答えた。

 

 

「部長には非常に良くしてもらっています。何も不満はありません」

 

 

 彼女ははっきりとそう言った。横でリアスがそう答えるように強要している様子はない。彼女の意思でそう答えているように感じた。

 他の二人も同様だ。寧ろリアスに対して敬愛の念すら持っている。

 

 

「ふむ……、申し訳なかったね。リアスさん。疑ってすまなかった」

 

「別に構わないわ。……今度は貴方の話を聞かせてもらいたいわね。まあ掛けてちょうだい」

 

 

 そう言われてソファーに腰掛ける。

 すると、ヒメジマさんが何やら飲み物を持ってきてくれた。

 

 

「粗茶です」

 

「どうも、ありがとう」

 

 

 見たことのない飲み物だが頂かないのは失礼だろう。そう思って飲み干す。

 

 

「おいしいです」

 

「あらあら。ありがとうございます」

 

 

 ヒメジマさんが下がり、僕は正面に座ったリアスを正視する。

 

 

「そうだね。まず、何から話そうか―――」

 

 

 それから、この世界に来るまでの経緯を話した。

 母の才能のこと、それが自分に受け継がれたこと、今まで多くの世界を渡り歩いて来たこと。

 

 半時も話しただろうか、彼女たちは僕の話に聞き入っていた。

 リアスの下僕たちはあまり信じていないようだったが、リアスは信じてくれた様子だった。

 

 

「そう、なかなか大変だったのね……。 で、これからどうするつもりなの?」

 

「今まで通りだ。この世界でも“門”を探す。何としてでも見つけ出して元の世界に帰る」

 

「でも、たぶん大変よ。この広い世界であなた以外に見えないその“歪み”とやらを見つけるのは」

 

「あはは……まあ、そうだね。でもやらなくちゃいけない」

 

 

 そうだ、自分には愛する家族がいる。

 妻が、息子が、娘が、叔父が、従妹が、そして多くの仲間たちが―――

 僕は絶対に帰らなければならないのだ。

 

 

「ところでこちらも聞いて言いかい?」

 

「あら、何をかしら?」

 

「君たちが悪魔と呼ばれる存在だというのは分かった。

 でもそれがどのようなものかを具体的に聞きたい。それにあのレイナーレという少女………。彼女は君たち悪魔とはまた異なる存在だね?

 確か堕天使と言っていたか……、あの娘が一体何なのか知っているのかい?」

 

 

 彼女は明らかに人間ではなかった。リアスたちとも異なる。

 その正体は非常に気になる。

 

 

「そうね……。あのレイナーレというのは堕天使―――元々は神に仕えていた天使だったんだけれど、邪な感情を持っていたため、地獄に堕ちてしまった存在。私たち悪魔の敵ね。

 私たち悪魔は堕天使と太古の昔から争っているわ。冥界―――人間界で言うところの『地獄』の覇権を巡ってね。地獄は悪魔と堕天使の領土で二分割してるの。

 悪魔は人間と契約して代価を貰い、力を蓄える。堕天使は人間を操りながら悪魔を滅ぼそうとする。ここに神の命を受けて悪魔と堕天使を問答無用で倒しに来る天使も含めると三竦み。それを大昔から繰り広げているのよ」

 

「成る程―――」

 

 

 彼女の説明は自分にとって、極めて馴染みの深いものではある。

 ……というのも、僕の元居た世界もそれに近い形式だったからだ。

 世界、と一口に言っても、それはいくつかの層に分かれている場合が多い。

 僕の世界では大きく分けて天界、地上、そして暗黒の魔界。

 そこから更に地上も人界、獣界、妖精界に分かれるのだ。

 

 おそらく彼女の言うところの冥界は、僕の世界の暗黒の魔界に相当するのだろう。

 そして、彼女(レイナーレ)たち堕天使はリアスたちにとってのライバルということになるのだろう。

 何処の世界も世知辛い話である。

 

 

「……ふむ、それともう一つ、レイナーレは興味深いことを言っていた」

 

「興味深いこと?」

 

「……神器(セイクリッド・ギア)

 

 

 僕の言葉を聞いた彼女は少し目を見張ったが、やがてゆっくりと語り出した。

 

 

「……そうね。神器というのはね――――」

 

 

 彼女の説明はこうだった。

 

神器(セイクリット・ギア)―――それは異能力の一つ。

 

 特定の人間の身に宿る、規格外の力。聖書の神が人間に与えたもので歴史上の偉人の多くが神器所有者とされている。

 神器は人間に先天的に宿るものなので人間か人間の血を引く混血しか持たない。

 

 ほとんどは人間社会でのみ機能する程度だが、中には神・魔王・仏を脅かす能力のものも存在し、それらの神器は神滅具―――ロンギヌスと呼称される。

 

 

「……まあ、こんなところかしら」

 

 

 リアスが静かに説明し終えた。

 

 神器、何とも興味深い物だ。神が人間に与えた力とは―――。

 しかし、神はどうしてそんなものを与えたのだろうか?

 

 僕らの世界では 神、マスタードラゴンが勇者に力を与えるという。

 僕らのときはそうではなかったが、伝承では先代天空の勇者がマスタードラゴンによって力を授かり、その時代の世界を脅かす魔を討ったという。

 

 しかし、この世界の神は何故……? 寧ろイッセーくんはそれのせいで死にかけたのだ。

 次々疑問が沸き立ってくる。

 

 

 まあ、今はそんなことを気にしても仕方がないだろう。

 

 

「それと、最後にもう一つだけ。君は『悪魔は人間と契約して代価を貰うことで力を蓄える』と言ったが、代価とは何だい? それは……魂とか、かな?」

 

「今どき、命を代価にするような強い願いを請うような契約者はいないわ。それに『人間の価値は平等じゃない』し……。まあ、お金とか物とかが一般的かしらね」

 

「ふむ……、一応参考までに聞いておくけど『元の世界に帰りたい』という願いを叶えてくれるにはどれくらいの代価がいるんだい?」

 

「無理よ」

 

 

 あっさり断られた。流石に命をくれてやる気はないが、寿命の半分とか、死後の魂とかなら考えたかもしれないのに―――

 

 

「代価の問題じゃないわ。どうやってあなたにしか見えない“門”を探すのを手伝うのよ?

 それに“門”が見つかってもそれがあなたの世界に繋がっているのか分からないじゃない。

 更に言えば仮に運良くあなたの世界に当たっても、どうやって代価を取り立てに行くのよ?」

 

 

 全く以てその通りだ。悪魔を頼りにすることはできないらしい。

 やはり自力で見つけ出す他ない―――

 

 そう思って、僕は立ち上がった。

 

 

「情報、どうもありがとう。僕はもう行くよ」

 

「―――そう、気を付けてね。あなたは堕天使に目を付けられたと思うわ」

 

「あはは、気を付けるよ。――ところで彼、ヒョウドウくんだっけ? 彼はどうなるんだい?」

 

「彼は私の下僕として蘇らせたわ」

 

「偶に様子を見に来てもいいかな?」

 

「……いいわ」

 

 

 自分には彼を不注意で死なせてしまったという負い目がある。

 もし、彼が悪魔として馴染めず苦しむのであれば救う義務がある―――

 そういう思いからの提案を、リアスは一瞬躊躇ったが受け入れてくれた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 リアスとの会合から数日が過ぎた。

 依然としてこの町に留まっている。

 あてどなくこの世界をうろつきまわるのは憚られた。

 

 まず広い。総面積509,949,000km²、国連加盟国数 193か国(国連とはなんだ?と最初は思ったが)

これを虱潰しに探し回るというのは流石に骨が折れる。

 

 それに、これまでの世界ではなんとなく目の前に困ってる人が、放っては置けない人たちがいて、彼ら彼女らを助けて回っていたら、救済し終える頃にふらっと立ち寄った場所にあったりするのだ。

 故に今回『放っては置けない人物』ヒョウドウ イッセーくんのそばに居れば見つかる……様な気がしないでもない。

 

 

 いろんな世界を旅していた為か、この町の雰囲気にも慣れることができた。

 まず問題になったのは服装だ。紫のターバン、マントの格好はこの国では目立つ。

 持っていた装備の大半もやはり浮いてしまうだろう。

 だが、袋を漁っていたらこの町にも馴染めそうな服が出てきた。

 

  E.『おしゃれなバンダナ』

  E.『白いTシャツ』

  E.『ブルージーンズ』

 

 危険な魔物が闊歩する世界なら絶対にしない組み合わせだが、この街には自然に溶け込むことができる。

 

 

 次にお金だが、あらゆる異世界で共通して価値があるものがあることを経験上知っていた。

 

  (きん)だ。

 

 

 ―――とある貴金属店―――

 

 

「あの~、すみませ~ん」

 

「はい、いかがされましたか?」

 

「金を売りたいのですが……」

 

「はい、畏まりました。御品物はどちらでしょうか?」

 

「これなんですが……」

 

「―――ッ!?」

(二十四金の延べ棒!?)

 

「いくらくらいになりますかね?」

 

「少々お待ち下さい!!」

 

 

  ◇

 

 

「まあ、こんなもんか……」

 

 

 かなり分厚い紙の束が詰った封筒を持って、住処である襤褸アパートに帰宅した。

 

 部屋に入り腰掛けると、袋から「くんせい肉」を取り出し、齧りながら思考を巡らせる。

 

 

 

「明日辺り、また学園の様子を見に行ってみるか――――」

 

 

 

 

 




エルシオン学院:ドラクエⅨに登場する施設。エルマニオン雪原の真ん中に鎮座するエリート名門校。ドラクエ本編においてはⅣのイムル以来となる学園施設。

おしゃれなバンダナ:Ⅵ、Ⅶ、Ⅸに登場する装備品。赤地に柄の入った、やや派手な印象のバンダナ。

白いTシャツ:DQⅨで登場した防具の一つ。柄やポイントがないシンプルなTシャツ。誰でも気軽に着ることができる。

ブルージーンズ:DQⅨに登場。ドラクエらしからぬカジュアルな下半身防具。何の変哲もないストレートジーンズだが、守備力はそこそこ高い。


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4話 悪魔の仕事

戦闘シーンまさかの一行。
リュカの説教が長くなりすぎました。


 

「やあ、こんばんは」

 

 

 深夜、駒王学園の校門前で僕は彼―――ヒョウドウ イッセーくんと再会した。

 その気配は以前とは異なり、人間のものではなく魔族……悪魔のものだ。

 

 

「アンタは―――、あの時の!?」

 

「リュカだ。久しぶりだね、イッセーくん」

 

 

 挨拶を済ませると、彼はこれから召喚者の元に行かねばならない、と言ってくる。

 魔法陣で転移するのではないのかと問うが、何でも彼の魔力ではそれができないらしい。

 彼は自転車という乗り物を手で押しながら、僕と並んで夜道を歩きながら話をする。

 

 

「まず、君に謝らねばならない。僕の不注意で君を死なせてしまった。すまない」

 

「いや、リュカさんのせいじゃないッスよ!!

あやまらないでください!!」

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

 

 彼は僕のせいではないと言ってくれたが―――

 しかし、確認しておかなくてはいけないことがある。

 

 

「君の言葉はとてもありがたい。―――だが、僕は君が悪魔になったことに責任を感じている。君はどうなんだい? 

 こんな真夜中に召喚者の呼び掛けに応じたり、リアスさんに従属しなければならなくなったことを不安に感じたり、辛いと思ったりはしてないかい?」

 

「いや……、そんな辛いってことはないッス。部長も優しいですし……。それに―――

 

 それに俺には夢があるッス……」

 

「夢?」

 

 

 それは悪魔としての夢だろうか?

 力か? 地位か? それとも富か?

 

 

「ハーレム王に俺はなる!!」

 

「………………は?」

 

 

 それから、彼に聞かされた話のあらましはこうだ。

 なんでも、彼はおっぱいが好きらしい。

 おっぱいの大きい女性を囲うのが人間であった頃からの夢だったという。

 しかし人間時代はあまりモテず、希望を持てない日々を過ごしていたという。

 ところが悪魔となり状況が一変した。

 リアスの話によれば、純粋な悪魔は過去の戦争で多くが亡くなったという。

 そのため、必然的に下僕を集めるようになった。

 以前の様な軍勢を率いるほどの力も威厳も消失してしまったが、それでも新しい悪魔を増やさなくてはいけなくなった。

 悪魔にも性別はあるから悪魔の男女にも子供は生まれる。

 しかし、悪魔という存在は極端に出生率が低く、自然出生で元の数に戻るには相当な時間がかかってしまう。

 そこで素質がありそうな人間を悪魔に引き込み、堕天使に対応することにしたらしい。

しかしそれでは下僕の力を増やすだけで力のある悪魔を再び存在させることにはならない。

 故に、悪魔は新しい制度を取り入れた。

 力のある転生者―――つまり、人間から悪魔になった者にもチャンスを与えるようになったのだ。

 力さえあれば、転生者にも爵位を与える、と――――

 

 

「つまり!! いっぱい仕事して、爵位もらって、俺だけのハーレムを作るんス!!」

 

「…………ふむ」

 

 

 確かに、リアスの話の筋は通っている。

 悪魔の数を増やす、そのために人間を転生者として引き込み取り立てる―――確かに有効だろう。

 

 だが―――

 

 

「……だが、自分の欲望の為に女性を囲う、というのはあまり感心しないな」

 

「えっ?」

 

「僕が異世界人と言うことは聞いてるね?」

 

「ええ、はい」

 

「僕の元居た世界にラインハットという国がある。その国の昔の王様にライデンブストという人物がいる。

 この人はあまり賢明な王とは言えなくてね。毒を盛られて死んだとき、世継ぎ候補の王子が四十六人もいた。彼らがみな母の栄誉をかけて王位を争ったから、大陸中、すさまじい騒ぎになったんだ。御互いに手を組んだり、裏切ったりして………。

 それから八代は数日ごと王位が入れ替わった。大半が死んで、何人かは家や名を捨て、他国に渡ったり山賊になったりもした」

 

 

 イッセーくんはあまりピンと来ていない様子だったが、構わず話を続ける。

 

 

「それから何代かのちに即位したのがベルギス王だ。彼には二人の子供がいてね。病死した前妻との間にできたのがヘンリー王子、僕の親友だ」

 

「えっ!? 王子様と友達なんスか!?」

 

「もう一人が後妻との間にできたデール王子だ。二人の仲自体は悪くなかったんだが……。

 デールの母、つまりベルギス王の後妻が自分の息子を溺愛してね。まあ、実の母子なんだし当たり前だが……。邪魔になったのがヘンリー王子だ。

 それで人攫いに依頼し、拉致させて、僕もなんだかんだで巻き込まれた……で、いっしょに奴隷をするハメになった」

 

「ええぇぇぇ!!奴隷ですか!!」

 

「それで、一緒に逃げて……ラインハットに戻って政変を裏で操っていた魔物を倒した。

君に話したいのはその後だ」

 

「その後?」

 

「ヘンリーはそのあとマリアという女性と結婚し第一王子のコリンズが産まれた。

 それでデールはどうしたと思う?」

 

「どうしたって……。うーん、分からないッス……」

 

「生涯未婚の誓いを立てたんだ。もう二度と王位をめぐった争いが起きないように……」

 

 

 僕の話を聞いたイッセーくんはなんだかバツが悪そうな顔をしている。

 

 

「別に君の夢を否定するつもりはない。だが複数の女性を囲うというのは当然リスクがある……。

 それに対する覚悟は必要だ。そうじゃなければ君も、女性も、周りも不幸になる……。 おっと、話し込んでしまったみたいだね。時間は大丈夫かい?」

 

「あっ! やばい!! 依頼主に怒られる!!」

 

 

 僕の指摘にイッセーくんが慌てた。彼を諭すのに随分と時間を使ってしまった。イッセーくんに迷惑をかけるのは本意ではない。

 

 

 ああ、ちょうどいい所に駐輪場がある。

 それにもう深夜だし少しくらいはいいだろう―――。

 

 

「イッセーくん。あそこに駐輪場があるだろう? その自転車をそこに止めてくれるかい?」

 

「えっ!? でも自転車じゃないともっと遅れ―――分かりました」

 

 

 イッセーくんも僕が異世界の術を使うつもりだということを察したらしい。

 自転車を駐輪場に止めてくれる。

 

 

「それじゃあ僕に摑まって……トベルーラ!!」

 

「うわああぁぁぁ!!」

 

 

 イッセーくんの持っているスマホなるからくりに標された依頼主の家の方角に向かって飛ぶ。

 夜風が気持ちいい。眼下に夜の街の風景が過ぎ去っていく。

 依頼主の住むというアパートまではあっという間だった。

 

 

「さあ、着いたよ」

 

「うっ……びっくりした……。いきなり飛ぶなんて……。

その前に一言言ってくださいよ~……」

 

 

 

 ◇

 

 

 

『開いてます。どうぞにょ』

 

 

 イッセーくんが呼び鈴を鳴らすと野太い男性の声がした。

 彼と共に部屋の中に入室する。

 

 

「いらっしゃいにょ」

 

 

 そこに居たのは変わった風体の男だった。

 長身に良く鍛え上げられた肉体。

 あらくれ? いや、戦士なのだろうか?

 しかし、それだと格好がおかしい。

 それは、自分の知識の中にあるものの中では魔女の装備『マジカルスカート』の形状に近い。

 だがそれにしては魔力を感じない。

 イミテーションなのだろうか?

 

 

「あ、あの……あ、悪魔を……グレモリーの眷属を召喚されましたか……?」

 

 

 イッセーくんが恐る恐るという感じで尋ねる。

 その気持ちは理解できる。

 この男は並ではない――――

 

 

「そうだにょ。お願いがあって、悪魔さんを呼んだにょ」

 

「ミルたんを魔法少女にして欲しいにょ」

 

 

 魔法少女……? それは「魔法使い」と同じものなのだろうか?

 どうやらこの男は「魔法使い」に転職したいらしい。

 

 

「異世界にでも転移してください」

 

 

 イッセーくんが呆れた様な表情で言うが――――

 

 

「異世界に転移? そんなことが君に可能なのかい!?」

 

 

 異世界への任意での転移―――そんなことが、もし可能ならこれからの苦労を大幅に削減できる―――。

 

 

「リュカさんには言ってないッス!! そこは反応しないでください!!」

 

「それはもう試したにょ」

 

「試したのかよっ!」

 

 

 えっ―――。この男は異世界に転移する術を知っているのか―――?

 

 

「でも無理だったにょ。ミルたんに魔法の力をくれるものはなかったにょ」

 

「いや、ある意味、今の状況が魔法的だけどさ……」

 

「もう、こうなったら宿敵の悪魔さんに頼み込むしかないにょ」

 

 

 悪魔が宿敵―――?

 彼は魔物ハンターなのだろうか。

 

 

「悪魔さんッッ!」

 

 

 とてつもない大音声をあげる。

 建物全体が揺れたような錯覚に陥る。

『おたけび』? 彼は戦士ではなく武闘家か?

 

 

「ミルたんにファンタジーなパワーをくださいにょぉぉぉぉッ!」

 

「いえ、もう十分にファンタジーですよ! 俺が泣きたいくらいだ!」

 

 

 頭の中でこれまでの話を整理する。

 どうやら目の前の男は職業「武闘家」でかなりの実力者。

 しかし、魔物ハンターとして「武闘家」から「魔法使い」に転職する必要がある。

 そのために、イッセーくんを自宅に召喚した―――

 

 

「ミルたん、といったね―――?」

 

「にょ?」

 

「君の熱意は良く伝わった」

 

「ホントかにょ!?」

 

「ああ、君を『魔法使い』に転職させてあげよう―――」

 

 

 そう言って僕は彼に手を翳す―――。

 

 

「ダーマの悟り!!」

 

 

ダーマの悟り―――それはそれを開くことによってダーマ神官と同じ力を得て自身や仲間を転職させるという技。

 

 

「これで君には魔法の力が宿った」

 

「ホントかにょ!?」

 

「ああ、だがただ単に才能を得ただけでは意味はない。――――鍛えて、実践で磨いて、はじめてモノになる」

 

「わかったにょ! 頑張るにょ!!」

 

「ああ、僭越だが僕が色々と教えてあげよう―――」

 

 

 横でイッセーくんが信じられないものを見た! という顔をしているがそれは問題じゃない。

 (ミルたん)純粋(ピュア)だ。

 それは瞳を見ればわかる。

 きっと、人々にとって希望、そんな魔法使いに成長するだろう。

 

 

「それでだが……、君の目指す魔法使いがどんなものかを教えてほしい」

 

「わかったにょ! あなたのことは師匠と呼ぶにょ! じゃあ、三人で『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』を見るにょ。そこから魔法が始まるにょ!」

 

 

 

 ◇

 

 

 彼に見せられたその『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』とやらは実に感動的だった。

 愛、勇気、友情、熱意、努力―――

 そんな古典的なものがいかに重要かひしひしと伝わってくる、そんな内容だった。

 だが、横でイッセーくんがうなだれている。

 

 

「どうしたんだい? イッセーくん」

 

「また、契約が取れなかった……。部長に怒られる……」

 

「だが、彼は僕だけでなく君にも感謝していた。一人の悩める男を救うために奔走する……、立派なことじゃないか」

 

「ア、アハハハ……」

 

 

 夜道を並んで歩きながら彼を慰める。

 確かに結果は残念だったかもしれないが(ミルたん)にとっては有意義な時間だったに違いない。

 

 すると、後ろから誰かが歩いてくる足音がした。

 

 

 殺気――――!

 

 

 後ろに居たのは胸元の開いた赤いボディコンスーツに身を包み、紺色の髪を夜風に靡かせる妙齢の美しい女であった。

 

 

「妙だな……。人違いではなさそうだ。

 足跡を消すよう命じられたのはこのカラワーナだからな。真に妙だ」

 

 

「まさか!!」

 

「何故貴様は生きている!!」

 

「「堕天使!!」」

 

「貴様はあのお方が殺したはず!!」

 

 

 

 そう言うと、その女性は背に漆黒の翼を大きく広げ、僕たちに光の槍を投げつけてきた――――

 

 

 

 

 

 




マジカルスカート:Ⅵで初登場し、以降の作品やリメイク版Ⅲ・Ⅳでも登場している女性用の防具。
魔力を込めた生地で作られた、機能性と見た目の両方にこだわるオシャレな女性冒険者のためのスカート状の法衣。どの作品でも呪文に対する耐性が付加されている。

ダーマの悟り:Ⅸから。


デール王は意外と名君だと思う。
あと、ミルたんはこのからインフレしていきます。


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5話 カラワーナ

やっと戦闘シーンを入れられた……。
といってもまだ初心者なので「もっとこうしたらいい」というアドバイスや「ココがいけない」という御指摘を、出来ればよろしくお願いします。


 

「グレモリー家の紋章!?」

 

 

 突如として投擲された光の槍。それを僕とイッセーくんは飛び退いてかわす。

 すると、イッセーくんの手の平から紅い紋章が浮き出た。

 それを見た堕天使――カラワーナは驚き、更に強い眼差しを向けてきた。

 

 

「くそっ!? また殺されるってのかよ!?」

 

「そうか……。ドーナシークがはぐれと間違えたというのは貴様か……。

 まさか、グレモリー家の眷属になっていたとはな。ならば、ますます生かしてはおけぬ!!」

 

 

 カラワーナは今度こそイッセーくんを始末しようと、次は直接光の槍を突き刺すべく迫ってくる。

 

 

「うわあ!!」

 

 

 イッセーくんは襲い掛かってくるカラワーナを見て祈るように目をつぶる。

 

 彼を死なせるものか!

 

 その姿を見て今度こそ守り切ろう、そう決心してカラワーナの前に進み出た。

 その時――― 

 

 

「力を……、力をくれえぇッ!!」

 

 

 イッセーくんの叫びと共に、彼の腕に深紅の籠手が出現した。

 何だ!? アレが『神器(セイクリッド・ギア)』か?

 それに……何かとてつもない力を感じる!

 

 

「せああああああああぁぁぁぁ!!!」

 

「きゃあああああぁぁ!!」

 

 

 イッセーくんの雄叫びと共に、その小手から緑色の閃光が迸り、今にも槍を突き刺そうとしていたカラワーナを吹き飛ばした。

 服のみ(・・)が千切れ飛び、彼女の豊かな乳房やその他諸々があらわになる。

 しかし、問題はそこではない。彼女の艶やかな肌には傷が一つも付いていない。

 

 彼女を傷つけず、服だけを消し飛ばした? 一体どういうことだ?

 

 

「なっ」

 

 

 イッセーくん自身も自分のしたことに驚いているらしい。

 彼の一撃によって吹き飛ばされたカラワーナも一時茫然としていたが、すぐに自分を取り戻した。

 

 

「セ、神器(セイクリッド・ギア)か!? ここで殺すより前に、まずあのお方にお伝えせねばなるまい!!」

 

 

 イッセーくんの神器について彼女の上司に報告するつもりなのだろう。

 カラワーナはすぐに踵を返し、黒い翼をはためかせて撤退しようとする。

 

 だけど――――

 

 

「待ってくれるかい?」

 

 

 僕が彼女を引きとめる。

 

 

「何だ、貴様は!!」

 

「僕はリュカ。ただの旅人さ」

 

「その旅人がどうしたというのだ!! 邪魔をするな!!」

 

「君と少し話がしたいんだ」

 

 

 どうあっても彼女たち(堕天使)はイッセーくんを始末したいらしいが、何とかしてそれを止めさせたい。

 そのため、話し合いの席が欲しい。しかし―――

 

 

「待てよ……。リュカ? リュカだと……!

 確かそう名乗る男がレイナーレ様を邪魔したそうだな。すると貴様か!!」

 

「たぶん、そうだろうね」

 

「ふん、ならば貴様も死ね!!」

 

 

 なんと、カラワーナが今度は僕に向けて光の槍を投擲してきた。

 はあ……、どうも堕天使は短気でいけないな。

 それに槍術もなんだか一辺倒だ。もう少し工夫をするべきだろう。彼女たちも鍛えれば、かなりのものになると思うんだが……。

 

 

 そんなことを考えながら拳に闘気を込める。

 そして、飛来する槍を弾き飛ばした。

 

 

「!?」

 

「君たちにはかなり素質があるようだけど……。だが、鍛錬が足りないし、戦い方に工夫がない。どうだろう、僕の仲間にならないか? 僕なら君たちに色々と教えてあげれると思うよ」

 

 

 取り敢えずカラワーナを勧誘してみる。仲間にして親密になれば、堕天使たちの内情を知り、彼女らを思い止まらせることができるかもしれない。

 更に言えば、今は敵として相対していることや、イッセーくんの命を狙っていることを抜きにしても彼女(カラワーナ)の素質はなかなかのものだ。それをこのままにして置くのは勿体ない。

 

 しかし、僕の言葉を聞いた彼女は逆上する。

 

 

「人間風情が何を言う!! …………だがレイナーレ様を追い詰めたという実力は本物のようだな……。

 ふん、だがこちらには『協力者』から預かったこいつがある!!」

 

 

 彼女は魔法陣を展開し、そこから何かを取り出した―――

 

 それは一見すると何かの頭に見えた。だがよく見てみれば、それが兜であることが解る。

 ―――色は緑。山羊を摸した角が取り付けられている。そして何も無いはずの眼窩にはいやな輝きを放つ細い横長の瞳孔が一筋ずつ。

 その姿はまるで悪魔の頭―――

 あれの名は……確か「邪神の面」だったか。

 

 

 邪神の面―――それは呪われた装備の一つ。邪教の儀式に使われる祭具であり、それを装備すると邪神の加護により、途轍もない守備力を得られる。

 しかしその反面、異教徒が装備すると強烈な呪いによって錯乱状態となり、他者や自身を傷つけ、最終的には死に至るという―――

 

 実は僕も一つ持っているが、ほとんど使われず袋の肥やしになっている。

 

 

「止めなさい! それは呪われている。装備すれば君自身危険だ!!」

 

「そうでもないさ。これは改良版だ」

 

「何?」

 

「こういうことだ!!」

 

 

 そうこうしている内に、カラワーナは僕の制止を聞かず邪神の面を装備してしまった。

 次の瞬間、彼女から凄まじい魔力と邪気、そして“暗黒闘気”が迸る。

 こ、これは……!

 

 

「フハハハハハハハ!! どうだ!! 魔力のみならず暗黒闘気も纏うことによって攻撃呪文さえ軽減できる!! 更に暗黒闘気の作用によって攻撃力も向上させる!! 

 さあ、人間如きが堕天使に刃向かったことを悔やみながら死ぬがいい!!!」

 

 

 先程までは割と冷静(Cool)な女性という印象だったんだが……。これも『邪神の面』の作用か……?

 しかし、何と言うか……、全裸であの仮面というのもなかなかシュールだな……。

 

 全裸の美女が禍々しい仮面を被り、ハイテンションで馬鹿笑いしているという光景に思わず笑みがこぼれる。

 

 

「何がおかしい!!」

 

「いや、別に何でもないよ。かかっておいで」

 

「どこまでも馬鹿にしおって……。もう許さん!! 細切れにしてくれる!!!」

 

 

 そう叫ぶとカラワーナは飛び上がり、猛然と襲い掛かってきた。

 強力な光力が彼女の手に凝縮され、先程投擲してきた槍の倍以上のものを生み出す。

 

 

「はああああああああああ!!!」

 

「『身かわし脚』!!」

 

 

 彼女の振るう光槍の猛烈なラッシュを、軽やかなステップでかわす。

 そして、「邪神の面」によって得られた防御力を確かめるために、道端に落ちていた石ころを拾い上げ―――

 

 

「『石礫(いしつぶて)』!!」

 

 

 僕は自慢じゃないが肩が強い。ただの石でも鉄板くらいならぶち抜ける。

 投石の歴史は極めて古い。そして数百年前まで、この世界でも普通に兵器として扱われていた。

 投石とはそれ程強力なのだ。

 

 ――だが

 

 

  ニイィ

 

 

 カラワーナは嘲笑する。

 そして―――

 

  ジュウッ

 

 

 石が蒸発した。

 

 

「アハハハハハ!! 石ころ如きではこのカラワーナには傷一つ付けることは出来ん!!」

 

 

 ふむ、『邪神の面』の防御力は伊達ではないか。

 それに暗黒闘気の護りもあるが……まあ、どうにでもなるだろう。

 

 暗黒闘気の障壁を破るには、それを上回る光の闘気をぶつけるのが一番手っ取り早い。

 自らの肉体と魂で、光の闘気を練り上げる。

 

 

「『鎌鼬(かまいたち)』!」

 

 

 光を帯びた風の刃をカラワーナに放つ。

 

 

「ぐわああああああああああ!!」

 

 

 どうやら上手くいったようだな。僕もイッセーくんには負けてはいられない。

 暗黒闘気をぎりぎり破り、彼女の肌に傷を付けない。その絶妙な加減で放った鎌鼬によって、カラワーナは地に墜ちる。

 

 

「ぐぬううぅぅぅっっ……。……殺す……、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!」

 

「むっ!!」

 

 

 どうやら「邪神の面」に魂を飲まれ始めたようだ。装備すれば健全な精神の持ち主であればたちまち錯乱するというシロモノだ。

 記録によれば高位の魔族であれば“呪いの装備”を身に付けても呪いの効果を受けなかったという。

 堕天使である彼女はある程度(・・・・)の耐性があったのだろう。

 だが、完全ではなかった。改良によって呪いを弱めたのだろうが、カラワーナがダメージを受けたことによって呪いが回り始めたらしい。

 

 

「ガアアアアアアアァァァ!!」

 

 

 カラワーナは巨大な槍をぶん回す。僕自身は余裕を持って回避するが、そこにあった電柱がへし折られる。

 パワーはこれまでより明らかに強い。

 だが彼女は肩で息をしている。呪いと先程の鎌鼬でかなりダメージが蓄積しているらしい。

 

 このままじゃ、僕よりも彼女の方がもたないな……。アレしかないか。

 

 

「ピオラ」

 

 

 素早さを上昇させる補助呪文を唱えながら、袋から「神業の手袋」を取り出し装備し、更に再び光の気を高める。

 その光の力を両腕に込め、すっかり錯乱し、光の槍を振り回しているカラワーナに

向けて……

 

 

 

「光の波動!!」

 

 

 光の波動―――聖なる力の波動を巻き起こし様々な状態異常を癒す僧侶の奥義

 

 呪いの装備には共通点がある。それは解呪されると装備がはずれる、ということだ。

 光の波動によって「邪神の面」の呪いが打ち消され、頭部から剥がれ落ちる。

 

  今だ!

 

 

 仮面がはずれて彼女の素顔が露わになったところへ、ピオラによる加速を利用し懐に飛び込む。

 そして―――

 

 

「『盗む』!」

 

 

 カラワーナからはずれた「邪神の面」を、一気に奪い取る。

 しばらくすると、彼女は正気に戻ってきた。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……、貴様………」

 

「君の切り札は回収させてもらった。君の負けだ」

 

 

 邪神の面を奪われたカラワーナは凄まじい殺気を僕に向けてくる。

 だが、体力を消耗しつくしてしまったらしい。息も絶え絶えだ。

 

 

「おとなしくしてくれるかい? 僕も君に手荒な事をするつもりはない」

 

「………そうはいくか!!」

 

 

 彼女はまたしても光の槍を生成すると投擲してきた。

 だが標的は僕ではない。

 

 イッセーくんだ。

 

 

「マジックバリア!!」

 

 

 すかさずイッセーくんに魔力結界を張る魔法を唱える。

 おかげで光の槍を相殺することができた。

 

 しかしその間に――――

 

 

「リュカといったな……。貴様は殺す! 必ずこの手で!!」

 

 

 そう言い残すと、カラワーナは夜陰に紛れ、飛び去って行った――――

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 次の日の夜

 

 

 僕は駒王学園のオカルト研究部の部室にいた。

 それは、一つ思うところがあったからだ。

 

 それはこの世界の召喚の魔法陣だ。

 今までの旅の最中、グランバニアに残してきた魔物達とはずっと離れ離れだ。

 これまでの旅路で様々な転移魔法を身に付けてきた。

 リリルーラ、オクルーラ等々を、だ

 だが、異世界から仲間を呼び集める魔法というのには未だに出会わない。

 

 しかし、この魔法陣を利用すれば……

 

 そう思い立ちリアス・グレモリーに部室内の資料の閲覧をお願いしたら、快く許可してくれた。

 

 そうして部室内のソファーを借り黙々と、この世界の魔術書を読み漁っている。

 

 その側では―――

 

 

「二度と教会に近づいちゃダメよ」

 

 

 リアスがイッセーくんをかなりきつく叱り付けている。

 話を簡単に纏めるとこうだ。

 何でもイッセーくんは今日の昼間に迷子のシスターと出会ったらしい。

 そのシスターと友人になり、彼女が世話になっているという教会に案内したそうだ。

 しかし、教会は悪魔にとっては敵地であり近付くのは本来危険らしい。

 

 

「まあまあ、そんなに言わなくても……、彼も反省しているようだし」

 

「リュカさんは黙っててください」

 

「……はい」

 

 

 イッセーくんをフォローしようとしたら怒られた。

 すると、そこにヒメジマがやって来た。

 

 

「あらあら。お説教は済みました?」

 

「おわっ」

 

 

 急にうしろを取られたイッセーくんが驚く。

 しかし、ヒメジマはニコニコしているが、今日はいつもより表情が硬い。

 リアスもそれに気が付いたらしい。

 

 

「朱乃、どうしたの?」

 

「討伐の依頼が大公から届きました」

 

 

 

 その大公とやらからの依頼内容はこうだ。

 

 

 

 ―――はぐれ悪魔バイサーを討伐せよ―――

 

 

 

 

 




じゃしんのめん:Ⅳに登場する兜の1種。守備力は+200とずば抜けて高いが、本来は邪教の入信の儀式に使われる祭具である為、異教徒が装備すると発狂し呪われる。

ぬすむ:Ⅸから。盗賊の特技で文字通り魔物からアイテムを盗む。種集めでお世話になる……というかコレがないと無理。


般若の面か邪神の面かで迷った。
でも般若の面被ったカラワーナが想像できなかった。


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6話 悪魔の駒

バイサーはアニメと小説のハイブリッドです。

※この回には多分な独自解釈が含まれます。ご注意ください。


 

 はぐれ悪魔―――爵位持ちの悪魔に下僕にしてもらった者が、主を裏切り、または主を殺して主なしとなる事件が極稀に起きる。

 悪魔の力は人間の頃とは比べ物にならないほど強大だ。その力を自分の為に使いたくなる者がいる。それらの者たちが、主のもとを去って、各地で暴れまわる。

 それが「はぐれ悪魔」だ。

 そうした者は、主人、もしくは他の悪魔が消滅させることになっている。

 更に、他の存在にも危険視されていて、天使、堕天使側も「はぐれ悪魔」を見つけ次第殺すようにしている。

 ―――何故なら制約を逃れ、野に放たれた悪魔ほど、怖いものはないらしい。

 

 僕は今、イッセーくん、リアス、キバ、ヒメジマ、トウジョウと共に町外れの廃屋に来いる。僕も同行させて欲しいと願い出たとき、リアスはかなり渋ったが、最終的には許可してくれた。

 毎晩、ここで「はぐれ悪魔」が人間を食らっているという。

 それを討伐するよう、上級悪魔から依頼が届いたらしい。これも悪魔の仕事の一つだそうだ。

 

 この話を聞いたとき疑問に思ったのは、「はぐれ悪魔」となった人間を転生させた爵位持ちの悪魔の存在だ。

 人間を悪魔に変えて下僕とするという行いに、僕は今でも違和感がある。

 確かにリアスは眷属たちを愛している。それに応えて下僕たちも主人に愛を捧げている。短い付き合いだが主従の絆は確かに感じた。

 

 だが、己の下僕が「はぐれ悪魔」に堕ちた上級悪魔たちは、果たして自身の眷属たちを愛していたのだろうか…………

 

 そんなことを考えながら歩いていると、廃屋となった建物が見えてきた。

 

 

「……血の臭い」

 

 

 トウジョウがぼそりと呟く。

 僕も腐敗した死体の臭いを感じる。そして微弱にだが、悪意の篭った魔力も―――

 

 僕はリアスたち一行と共に廃屋内に入った。

 

 

「イッセー? それにリュカさんも」

 

「はいっ、部長」

 

「なんだい?」

 

「あなたたち、チェスは分かる?」

 

「チェスって……、ボードゲームのあれですか?」

 

「ああ、僕の元居た世界にもあったよ……」

 

 

 エルヘブンに移住した伝説の名工が作ったという『モンスターチェス』を、臣下のピピンから献上されたことがある。それは一度も遊ぶこと無く名産品博物館に寄贈してしまったが、無事に元の世界に帰れたら、のんびりと遊んでみるのも悪くない。

 

 

「主の私を(キング)として、女王(クイーン)騎士(ナイト)戦車(ルーク)僧侶(ビショップ)兵士(ポーン)。爵位を持った悪魔はこれらの駒の特性を自分の下僕に与えているの」

 

「駒の特性?」

 

「私たちはこれらを『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』と呼んでいるわ」

 

 

 リアスからの説明を聞いて、僕は何となく冒険者の職業を思い出した。女王はともかく、騎士はバトルマスターあたりだろうか。戦車は戦士、僧侶はそのまんまだ。兵士は……何だろう?

 

 

「何でわざわざそんなことを?」

 

「とにかく今夜は悪魔の戦い方を良く見ておきなさいイッセー、リュカさんも」

 

「あ、はい」

 

「分かったよ」

 

「……来た」

 

 

 僕とイッセーくんが了解するとトウジョウが呟くように告げる。

 暗がりから巨大な怪物が現れた。

 上半身は美しく艶めかしい裸の女性、だが下半身は大型の獣だ。その上、尾は大蛇と来ている。

 尾が蛇というのはウイングタイガーっぽいな……。だが上半身と下半身が違うのはタイガーランスやキマライガーっぽくもある。

 

 

「不味そうな匂いがするわぁ……。でも美味しそうな匂いもするわぁ……。

 甘いのかしら? 苦いのかしら?」

 

「おっぱい!?」

 

 

 イッセーくんが大胆……というか、恥じらいが無いというべきか、何も着けずに乳首も惜しげもなく露わになっている彼女の姿を見て、思わず歓声を上げた。

 

 

「はぐれ悪魔バイサー。主の元を逃げ、己の欲求を満たすためだけに暴れまわるのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを吹き飛ばしてあげる!」

 

「小賢しい小娘だこと。その紅い髪のように、その身を鮮血で染めてあげましょうかぁぁあ?!」

 

 

 バイサーが自身の形の良い豊満な乳房を揉みしだきながら嘲笑する。

 イッセーくんはその淫猥な姿を見ながら鼻の下を伸ばしているが……。

 僕はその乳房に魔力が集中していくのを感じ取った。

 

 

「雑魚ほど洒落の効いたセリフを吐くものね」

 

「こ、これがはぐれ悪魔……。ただの見せたがりお姉さんにしか~……♡ ……げっ!」

 

 

 だが、下半身は巨大な獣だ。それに良く観察すると前足は人間の腕のようで、いささか生き物として歪んでしまっている雰囲気を放っている。

 その部分を見て、おっぱいに興奮していたイッセーくんも冷めたようだ。

 

 

「主を持たず、悪魔の力を無制限に使うと、こういう醜悪な結果となるんだ」

 

 

 キバくんの解説を聞いたイッセーくんは怯えながらも心底残念そうな表情になった。

 

 

「あんなに良いおっぱいなのに……あっ! アレ魔法陣じゃね!!」

 

 

 バイサーが自分で揉みしだいていた乳房の乳頭が隆起し、それを中心に魔法陣が展開される。

 そして――――

 

 乳首から強力な閃光が放たれた!

 

 

 事前に彼女の乳房には何かがあると思っていた僕は余裕を持って避けたが、すっかり見とれていたイッセーくんは反応が遅れる。

 しかし、リアスが咄嗟に押し倒したおかげで、彼も事なきを得た。

 

 ……バイサーの放った閃光が直撃した壁は高熱のためかドロドロに溶けている。

 集束させたギラ程度の火力はあるようだ。

 

 

「確かにバケモノだ……ッ!」

 

「油断はしちゃダメよイッセー。祐斗!」

 

「はい!」

 

「――消えた!!」

 

 

 キバくんがなかなかの速さで吶喊する。その様子を見たイッセーくんが驚嘆した。確かに人間を止めて、まだ一月も経っていない彼の視覚では認識するのは難しいだろう。

 

 

「早すぎて見えないのよ。祐斗の役割は騎士。特性はスピード。そして、その最大の武器は剣」

 

 

 キバくんが何もない空間から魔剣を産み出し、バイサーに斬りかかる。

 バイサーもそれを迎え撃とうと、両腕に血塗られた巨大なランスを構えるが―――

 

 高速の剣技を放つキバくんに、呆気なく手にした槍ごと両腕を斬り落とされた。

 

 

 そこに、小柄なトウジョウが異形のはぐれ悪魔に向かって、一見すると無防備に近づいていく。

 

 

「危ない! 小猫ちゃん!!」

 

 

 バイサーはキバくんに両腕を斬り落とされたことに激昂したのか、それまで美しかった顔立ちも人間離れした醜い怪物の物に変貌した。変化は顔だけに止まらず、獣の胴体の腹部に巨大な口が現れる。

 

 

「ウグウゥゥゥ!! 死ねえええぇぇェェッ!!」

 

 怒れる怪物は胴体の大口で、弾丸のように突っ込んでくるトウジョウを丸呑みした。

 

 

「お、おわっ!!」

 

 

 イッセーくんはその光景を見て驚愕するが、リアスは冷静そのものだ。余程に仲間を信頼しているようだ。

 

 

「大丈夫。子猫は戦車よ。その特性はシンプル。馬鹿げた力と防御力。あの程度ではビクともしないわ」

 

 

 その言葉通り、一度は閉じた口がゆっくりと開かれる。呑み込まれたトウジョウが内側から突っ張り棒の要領で力頼みに開いたらしい。

 服の所々が裂け、肌の一部を露出しているがピンピンしている。傷一つない。

 

 

「……吹っ飛べ」

 

 

 そう囁いたトウジョウがバケモノの口から牙を破壊しつつ飛び出し、盛大に振りかぶって、思い切りバイサーを殴りつけた。

 

 

「ウガアアアアァァァ!!!」

 

 

 バイサーは悲鳴を上げながらぶっ飛び、かなりの勢いでもって近くの石柱に衝突する。

 彼女と激突した柱はそのままへし折られ、バイサーも轟音と共に床に倒れ込んだ。

 

 

「子猫ちゃんには逆らわないようにしよう……」

 

 

 その様を見たイッセーくんはぽつりと呟いた。

 

 

「最後に朱乃ね」

 

「はい、部長。あらあら、どうしようかしら。うふふっ」

 

 

 リアスの呼び掛けに応じた黒髪の少女ヒメジマ アケノはいつもの柔らかい笑みを浮かべながら進み出る。

 

 

「彼女は女王。他の駒の特徴を兼ね備えた無敵の副部長よ」

 

「あらあら。まだ元気みたいですわね? それなら、これはどうでしょうか?」

 

 

 キバくんとトウジョウの攻撃でダメージを負ったバイサーの前に進み出たヒメジマは、天井に向けて魔力が込められた手を翳した。

 

  カッ!  ドドォーーンッ!!

 

 廃屋内に眩く光る雷が凄まじい音を立てながらはぐれ悪魔の肉体に落ちた。

 

 

「ガアアアアァアアアアァ!!?」

 

「あらあら。まだまだ元気そうね?」

 

 

 感電し、苦しそうな悲鳴を上げるバイサー。だが、ヒメジマは雷撃を和らげるどころか逆に強める。顔には快感や愉悦が浮かんでいる。

 

  バリッ バリッ バリッ!!

 

 

「ギャアアアアァァァ!!」

 

「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。雷や氷、炎などの自然現象を魔力で起こす力ね。そして何よりも彼女は究極のSよ」

 

 

 目の前の光景を僕とイッセーくんに解説する紅髪の少女。

 嗜虐性、サディストか……。僕はあまりそういうのは好きじゃないな……。

 

 

「うふふふふふふふ。どこまで私の雷に耐えれるかしらね。ねえ、バケモノさん。

 まだ死んではダメよ? 止めを刺すのは私の主なのですから。オホホホホホホホッ!」

 

 

 

「……止めなさい」

 

 

 

  ピタッ!

 

 

 

 もうバイサーに戦意は無い。にも拘らず攻撃を続ける彼女に、我慢できず攻撃を止めるように言った。

 どうやら……、声に少々怒りが篭ってしまったらしい。

 ヒメジマは嗜虐の悦びに酔った顔から、一気に冷水を掛けられたような表情になった。

 その場は微妙な雰囲気に包まれたが、その空気を変えるようにリアスが言う。

 

 

「そうね……もういいわ。さて……最後に言い残すことはあるかしら」

 

 

「―――殺せ」

 

「そう、なら消し飛びなさい」

 

 

 バイサーの言葉を聞くと、リアスは赤黒い魔力の波を巻き起こしながらバイサーに止めを刺そうとした―――

 

 

 

 

「待ってくれ」

 

「…………どうしたの? リュカさん」

 

「彼女は僕に譲ってくれないか? 僕の仲間にしたい」

 

 

 僕の言葉を聞くと、リアスは戸惑いと呆れが入り混じったような表情をする。

 

 

「何を言い出すのかと思えば……。彼女は大勢の人間を殺めたのよ? どうして生かそうとするの?」

 

「確かにそれは許されないことだ。だけどね、僕には無闇に人間を眷属悪魔にする上級悪魔にも問題があるように思えるんだ」

 

 

 同じ人間から上級悪魔の眷属になった者として、僕はイッセーくんを知っている。

 彼は僕に「悪魔になって、ハーレムを作るという夢ができた」と教えてくれた。

 確かにイッセーくんには夢があり、優しく導いてくれる主君が、頼もしい眷属仲間がいるだろう。だけど、彼女……バイサーはどうなのだろう。彼女の元主人は彼女をどのように扱ったのだろうか?

 ――彼女に夢はあったのだろうか?

 ――彼女に優しい主人はいたのだろうか?

 ――彼女に心許せる仲間はいたのだろうか?

 

 

「人間にしろ魔族にしろ、自身に不相応な力を得られれば驕り昂って、暴走するかもしれない。それなら、与えた力に相応しい人品に育つまで適切に導くべきだ。寧ろ、そうなってからでないと償いに意味はないと思う」

 

 

その爵位持ちの上級悪魔の一人として自分も非難された気がしたのだろう。

どうやらリアスは気分を害したらしい。かなり表情が歪む。

 

 

「でもどうするの? 人間(・・)のあなたに」

 

「何とかなるさ」

 

 

 リアスの声に棘を含んだ問いかけに、何でもないように答える。

 

 

「べホマ」

 

 

 最上級の回復呪文を傷ついたバイサーに施す。

 キバくんに斬り落とされた両腕が、トウジョウにへし折られた胴体の口の牙が、ヒメジマの雷撃による火傷がたちまちのうちに治っていく。

 

 

「初めまして。僕はリュカだ。突然だが君、僕の仲間になってくれないか?」

 

「……何だと?」

 

「言った通りの意味だ。君には僕の友達になって欲しい」

 

「ふ、巫山戯るなッ!!」

 

 

 彼女は癒えた腕で得物のランスを拾うと疾風の如く襲い掛かって来て、僕を串刺しにしようとした。

 

 そのとき、脳裏に昔出会ったある人物との会話が思い浮かんだ。

 

 

 ――― 憎む心ではなく 愛をもって モンスターたちと戦うのじゃ。 その おぬしの心が通じたとき モンスターは むこうから 仲間にしてくれと いってくる じゃろう ―――

 

 

 地獄のような奴隷としての日々。そこから逃れ、最初に訪れた大きな町。巨大なカジノや怪しげな店が並ぶ煌びやかな街の片隅で出会った老人の言葉。

 迫りくる槍を見ながら、僕はそんなことを思い出した。

 

 

  ガシンッッ!!

 

 

 今にも僕に突き刺さろうとしていたランスの穂先を片手で掴み、止める。

 

 そして、静かに語りかけた。

 

 

 

「僕は君を愛している。君と共に歩みたい」

 

 

初めは美しかったが、今ではすっかり醜悪な怪物のモノと化した彼女の顔を真っすぐ見つめながらそう言いつつ、もう片方の空いた拳に愛と魂を込める。

そして、その拳を振りかぶり―――

 

 

「正拳突き!!」

 

 

 殴った、彼女の横っ面を。

 その一撃でバイサーは倒れる。

 

 

 

 そして――――

 

 

 

 

 なんと、バイサーが起き上がり仲間になりたそうにこちらを見ている

 

 

  仲間にしますか?

 

  はい

 

 

 

 

 




記念すべき仲間第1号バイサーさん。

仲間にする描写については賛否が色々あるようですが、こういう方針でやっていこうかと思います。
合わないと感じられた方はどうか御容赦ください。


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7話 はぐれ悪魔祓い

ラブコメ調って思ってたより難しい……(^_^;)
どうか、暖かい目でご覧ください。


 

「……うぅん、朝か……」

 

 

 朝の日差しが僕の顔を直接照らす。何故ならこの部屋には日光を遮るモノが……つまりカーテンが無い。

 それどころか、家具や日用品といった物がほとんど無い。とんでもなく殺風景な部屋だ。

 

 長い間、旅をしてきて食事にも拘らなくなった。

 いや、食事に拘らなくなったのは奴隷時代からだろう。

 何せ、出される食事は干からびたパンと、具の少ない薄いスープ。そして、何の動物のものかも分からないカビの生えた干し肉という生活を十年も過ごしたのだ。

 故に、調理器具の類もない。

 

 寝具もほとんどない。

 旅の最中、野営するのも日常茶飯事だった。国王になってから使ってたふかふかのベッドも妙に落ち着かなかった。

 寧ろ、(むしろ)の方が落ち着く(ギャグではなく)。

 

 この世界での生活と探索の拠点とするために借りた六畳一間の襤褸アパート。

 そこでいつものように目覚めた。

 

 

 否、いつも通りのつもり(・・・)だった――――

 

 

 暖かい。

 

 薄い毛布を一枚羽織っているだけのはずなのに。

 特に右半身のみに温もりを感じる。

 そして、二の腕に何かが乗っている。

 

 それらの違和感が気になり右側を確かめると――――

 

 

 全裸の妖艶な美女が僕の二の腕を枕にして、気持ち良さそうに寝息を立てていた。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

「……バイサー、君にいくつか聞きたいことがある」

 

 

 僕が起きると、その動きを感じ取ったのかバイサーも目を覚ました。

 そこで何故こんなことになっているのか問いただすこととする。

 

 

「まず、君には取り敢えず寝巻きがわりに『布の服』と『布のズボン』を与えた筈だ。

 何故着ていない?」

 

 

 畳の上に無造作に脱ぎ捨てられた寝衣代わりの服を指さす。

 

 

「だってぇ~、寝苦しかったんだもの。そんな怒んないで御主人様ぁ」

 

 

 彼女は僕に甘えた声で許しを請う。とても真剣に謝ってるようには見えない。

 

 

「ふむ……、では何故君は僕の毛布に潜り込んで来たのかな? 君の為に予備の毛布を与えた筈だが……」

 

 

 今度はさっきの服と同じように無造作に置かれた毛布を指さす(僕が使ってる毛布より彼女に与えたやつの方が生地は上等だ)。

 

 

「一人寝が寂しかったのよぉ、いいでしょ? 御主人様ぁ」

 

 

 先程と同じ調子だ。反省の色は無い。

 

 

「それに昨日の晩はあんなに激しく“愛”を教えてくれたじゃない」

 

「ふむ……」

 

 

 

 

 

 昨夜、バイサーが仲間になったとき――――

 

 

 

 

 僕の一撃で再び倒れ伏したバイサーは、起き上がり仲間になりたそうに見つめてくる。

 僕はそれに頷いて答えた。

 

 すると―――

 

 

 異形の怪物と化していた彼女が変化し始めた。

 上半身は現れたときの黒髪の艶めかしくグラマラスな美女。

 下半身も美しい上半身に相応しい女性らしい曲線美にあふれた人型のものとなる。

 熱っぽい上目使いで僕を見つめてくるバイサーをそっと抱き寄せる。

 彼女はそれに抵抗しなかった。

 

 そのまま、驚いているリアスたちの方に振り替える。

 

 

「御覧の通りだ。彼女は僕の仲間になってくれた。もう攻撃しないでくれるね?」

 

「………一体どういうことなのか説明してもらえるかしら?」

 

 

 少し間を置いて、驚愕から立ち直ったリアスが質問をぶつけてくる。

 まあ、予測できたことだ。

 

 

「ふむ……僕がいた世界や、旅をしてきた世界では複数の冒険者がパーティを組むのが普通だった。その冒険者たちはパーティ内でそれぞれの役割を担っていたいた」

 

「それぞれの役割?」

 

「そうだ。君たちの『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』と一緒だよ。僕らは『職業』という呼び方もするけど……。敵を剣や槍で攻撃する戦士。素手や鉤爪で攻撃する武闘家。味方の傷を回復する僧侶。他にも色々ある。その中で僕は『魔物使い』という役割を担っていた」

 

「魔物使い?」

 

「ああ、読んで字の如く“魔物を使役する”職業さ」

 

「その力で洗脳でもしたって言うの?」

 

「それは違うかな。君たちにもそれぞれの役回りが与えられ、その特性に見合った“武器”を持っているだろう? 

 キバくんは速さと剣。トウジョウさんはタフネスとパワー。ヒメジマさんは魔法……。でも、『魔物使い』の“武器”は剣でも力でも魔法でもない……。“愛”だ」

 

「“愛”?」

 

「そうだ。……それを伝えさえすれば『洗脳』なんてことをする必要はない」

 

 

 リアスも他のみんなも明らかに半信半疑だ。だが、僕は自信を持って教える。

 

 

「目を真っすぐ見れば“愛”はきっと伝わる。相手が人間でも動物でも悪魔でもおんなじだよ。怒り、悲しみ、喜び……命は通じ合うものだ。

 もう一度聞くよ。彼女を殺すのは止めてくれるね?」

 

 

 リアスの目を正視し、静かに訊ねる。

 

 

「……分かったわ。でも、きちんと管理しなさい。

 もし、そのはぐれ悪魔がまた人に危害を加えたら……そのときは絶対に殺すわ」

 

「分かったよ」

 

 

 リアスたちに一礼すると僕はバイサーを抱えてその場を後にし、仮住まいのアパートに帰った。

 

 

 

 

 

 現在―――

 

 

「御主人様ってば本当にダ・イ・タ・ンなんだから~♡ 

 あんなに激しく“愛”を告白されたら、女としては頷くしかないじゃないッ♡」

 

 う~ん、なんか様子が変だな……。まあ、プックルと再会した時も添い寝とかしてたし……。

 まあ、いいか。♀のモンスターに好かれることも割とある。主にエンプーサとかから。

 過去に例が無い訳じゃない。たぶん一過性のものだろう。

 そう、強引に納得する。

 

 

「一応確認しておくが、僕の為にもう人は襲わないでくれるね?」

 

「モチロンよぉ。御主人様がいてくれるなら後は何にも要らないわぁ♡」

 

 

 うん、何も問題はないな……。

 僕は心の中で、そう結論付けた。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 その日の夜―――

 

 再び駒王学園の校門前でイッセーくんを待っていた。

 しばらくして、出てきた彼と合流し、彼の召喚者の元に向かう。

 その道中……

 

 

「何だか浮かない顔をしているね? 何かあったのかい?」

 

 

 そうイッセーくんに尋ねた。明らかに元気が無く落ち込んでいる様子だ。

 

 

「えっ、え~と、………何でもないです」

 

「……もしかして“自分が弱い”なんてことを気にしているのかい?」

 

 

 彼がはぐらかそうとしたので、自分の考えをぶつけてみる。

 すると、彼は驚きの表情になった。どうやら図星らしい。

 

 

「ははっ……、お見通しですか……。はい、正直に言うとそのことです」

 

「ふむ………」

 

 

 彼の悩みは共感できるものだった。

 僕の人生でも、“自身の無力さ”を克服することが最大の悩みといえた。

 自分を人質にされ、あれ程強かった父が為す術もなく焼き殺されたとき―――

 母を救うためには勇者の力が必要だというのに、その証たる「天空の剣」が装備できなかったとき―――

 妻が、母と同じく出産した直後に攫われたとき―――

 求めた勇者であった息子に、その勇者という重責を背負わせたとき―――

 一体どれ程力を求めただろう?

 そして、どれ程得られただろう――――?

 

 

「だが、リアスは君を愛している」

 

「えっ?」

 

「無論、今は臣下に対する愛情だ。でも、それだけでも十分なはずだ。

 君という一人の にんげ……悪魔が生きる理由としては」

 

 

 そうだ、「誰かに必要とされる」ということには、強さなど無くてもいいのだ。

 僕が本当に辛かったときも、勇者でもない僕に、大勢の仲間が付いてきてくれた。

 そのことが何よりの励みとなった。

 

 

「君を必要だと思ってくれている人がいる。今はそれで十分―――それでも強くなりたいなら、これから焦らず強さを身に付ければいい」

 

「……はい」

 

 

 そうこうしていると依頼者の家に着いた。そこそこ大きな一軒家だ。

 だが――――

 

 ……玄関が空いている。それに何か嫌な気配がする。

 

 

「イッセーくん。気を付けなさい」

 

「えっ? あっ、はい」

 

 

 開きっぱなしの玄関から、そのまま家の中に入る。

 二階には明かりも点いておらず、生き物の気配もない。

 するのは一階だけだ。

 一室だけ明かりが点いている。

 

 

「……ちわース。グレモリーさまの使い魔ですけど……。

 依頼者の方、いらっしゃいますか?」

 

 

 イッセーくんが恐る恐るといった様子で部屋の中に声をかける。

 だが、返事が無い。

 僕とイッセーくんは部屋の中に入った。

 そこで見たモノは―――

 

 人間の死体だった。

 

 

「ゴホッ!」

 

 

 イッセーくんが顔を青くし嘔吐した。無理もない。その死体はかなり惨たらしいものだった。

 壁に逆さ吊りに打ちつけられており、臓物が零れ落ちている。

 急所を一突き……という感じではないな……。まるで、殺すことを楽しんでいるような感じだ。

 

 

「な、なんだ、これ……」

 

 僕は殺し方から犯人の人となりを推測し、イッセーくんはただただ驚いている。

 そこに声が掛けられた。

 

 

「『悪いことする人はおしおきよー』って、聖なる御方の言葉を借りたのさ♪」

 

 

 振り返るとそこに居たのは、神父姿の白髪の少年だった。

 目鼻立ちはかなり整っているが、あまり美少年という感じではない。

 いや、美少年なのかもしれないが容姿以上に雰囲気に異常性を感じるからそう見えなくなってしまっているように思える。

 

 

「んーんー。これは悪魔くんと……人間なのに悪魔に魅せられちゃったお仲間さんじゃあーりませんかー」

 

 

 僕たちを交互に見比べながら歓声を上げる。

 悪魔と出くわしたというのにかなり嬉しそうな様子だ。

 いや寧ろ、出くわしたから喜んでいるのだろうか。

 しかし、確信する。この少年はやはり異常だ。

 

 

「俺は神父♪ 少年神父〜♪ デビルな輩をぶった斬り〜、ニヒルな俺が嘲笑う〜♪ おまえら、悪魔とその仲間の首を刎ね〜、俺はおまんま貰うのさ〜♪」

 

 

 突然歌い出す少年。やはり情緒不安定なのだろう。

 

 

「僕ちゃんの名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属してる末端でございますデスよ。あ、別に俺が名乗ったからってお前さんたちは名乗らなくていいよ。俺の脳内メモリにお前たちの名前なんざ記憶したくないから、止めてちょ。

 大丈夫だって、すぐに死ねるから! 俺がそうしてあげる。最初は超痛いかも知れないけど、すぐに泣けるほど快感になるから、新たな扉を開こうZE!」

 

 

 どうやら、この少年もかなりの嗜虐性らしい。

 昨日のヒメジマといいこの世界では流行っているのだろうか?

 

 

「おい、お前か? この人を殺したのは?」

 

「YES! YES! 俺が殺っちゃいました♪ だってー、悪魔を呼び出す常習犯みたいだったしー、なら殺すしかなくね?」

 

 

 その答えを聞き、イッセーくんが戦慄する。

 たしかに数日前まで争いとは無縁だった彼にとっては衝撃的な言葉なのだろう。

 だが、時として人間は人間に対して、魔物以上に残忍になることがある。僕は身を持ってそのことを知っていた。

 光の教団で奴隷たちを酷使する者の中にも人間はいたし、かつてカボチ村から魔物の仲間として追い出された時はただただ悲しかった。

 

 

「あんれ〜? 驚いちゃってるのかな? 逃げないのかな?おかしいなぁ、変だなぁ。

 てゆーかさ、悪魔と取引するなんざ人間として最低レベル、クズ街道まっしぐらよ。そんなこともご理解できないもんですかねぇ? 無理? あーそうですかクズの悪魔だからしょうがないですよね」

 

「人間が人間殺すってのはどうなんだよ! お前らが殺すのは悪魔だけなんじゃないのか!」

 

「はぁぁぁ? 何それ? 悪魔の分際で俺に説教? ハハハ、笑える笑える。漫才コンクールで賞取れますですよ、それは。

 いいか? よく聞け、クソ悪魔。悪魔だって人間の欲を糧に生きているじゃねぇか。悪魔に頼るってのは人間として終わった証拠なんですよ。エンドですよエンド!

 だから、俺が殺してあげたのさー。俺、悪魔とそれに魅了された人間をぶっ殺して生活してるんで、お仕事でござんすよ」

 

「あ、悪魔だってここまでのことはしない!」

 

 

 イッセーくんには悪いが、その言葉はちょっと疑問に思う。

 

 

「う~ん……、それは悪魔にも拠るんじゃないかな? バイサーみたいなのもいるし」

 

「ちょっ!? リュカさん!! それはそうかもしれないけど!!」

 

「はぁ~? 何言ってんの? 悪魔はクソですよ。カスのような存在なのですよ? 世間の常識ですよ? 知らないんですか? マジ、赤ん坊から……んや、胎児からやり直したほうがいいって、って人間から転生したっぽい悪魔のお前さんに胎児もクソもないか。むしろ俺がお前を退治(たいじ)! なーんてな! 最高じゃね? 最高じゃね?」

 

 

 少年神父(フリード)は剣の柄の様な物と、筒状の物を取り出す。

 そして剣の柄から光刃が飛び出た。

 ああいう武器は僕も一つ持ってるな……。確か『ライトシャムシール』だっけ?

 しかし、そんなことよりも、あの刀からはレイナーレやカラワーナから感じた、堕天使と同じ力を放っている。彼女たちの仲間なのだろうか……?

 

 

「俺的にはお前らがムカつきMAXなんで、斬ってもいいですか? 撃ってもいいですか? OKなんですね? 了解ッス! 今からお前らの心臓にこの光の刃を突き立てて、このイカした銃でお前たち二人のドタマに必殺必中フォーリンラブしちゃいます!」

 

 

 少年神父が僕とイッセーくんに向かって駆け出してきた。

 そしてそのまま光の刀で薙ぎ払ってくる。

 剣の技量やスピードは若さの割にはそこそこ高い練度と言えるだろう。

 

 しかし、フリードの攻撃はそれだけではなかった。

 筒状の物から光を放ってきたのだ。

 僕は躱せたが、イッセーくんは足に食らった。

 

 

「ぐあぁっ!!」

 

「どうよ! 光の弾丸を放つエクソシスト特製の祓魔弾は! 銃声なんざ発しません。光の弾ですからねぃ。絶頂し(イキ)そうな快感が俺とキミを襲うだろ?」

 

 

 ふむ、あれが『銃』か……実物を見たのは初めてだな。まあ、普通の『銃』ではないみたいだが。

 

 銃のことは聞いていた。以前、旅をした世界にあるベンガーナ王国という国では戦車という兵器があったし、他の世界のガナン帝国にも大砲はあった。

 これ等の世界や、より技術の発達した世界にはおそらくあったのだろうが見たことはなかった。

 

 

「死ね死ね悪魔! ついでに死ね、悪魔のお仲間さん! 塵になって、宙に舞え! 全部、俺様の悦楽のためにぃ!!」

 

 

 少年神父が剣を振り回す。

 僕は躱せるし、そもそも闘気を纏っていれば、当たってもあまり痛くない。

 だが、イッセーくんはかなり厳しい状況だ。

 何でも悪魔にとって光は猛毒らしい。その上、最初に足に祓魔弾を受けたせいで動きがぎこちない。

 

 すぐに助けなくては! そう思ったとき―――

 

 

「やめてください!」

 

 

 部屋の外から少女の声がした。

 現れたのは修道女の装束を身に纏った金髪で小柄な娘だった。

 その娘を見て、イッセーくんは困惑した貌で呟く。

 

 

 

 

 「アーシア……!」

 

 

 

 

 




カボチ村:Ⅴに登場する村。ここの出来事は作中屈指の鬱イベント。


ドラクエで出てくる銃ってマァムの魔弾銃ぐらいでしたよね……?
なんでベンガーナ軍は戦車だけじゃなくて、銃も量産しなかったんだと思う今日この頃。


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8話 融和

 

「アーシア……」

 

 イッセーくんが目の前に現れた修道服姿の少女を見て、そう呟いた。

 確か、彼とリアスが以前話していた迷子になっていたところを案内し、友人になったという少女だ。

 どうやらはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)の仲間だったらしい。

 

 

「おんや、助手のアーシアちゃんじゃあーりませんか。どうしたの? 結界は張り終わったのかなかな?」

 

「――ッ! い、いやぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 アーシアという少女は壁に打ち付けられたこの家の住人の遺体を見て悲鳴を上げた。

 

 

「カワイイ悲鳴ありがとうございます! そっか、アーシアちゃんはこの手の死体は初めてですかねぇ。ならなら、よーく、とくとご覧なさいな。悪魔くんに魅入られたダメ人間さんはそうやって死んでもらうのですよォ」

 

「……そ、そんな……」

 

 

 少女は驚き、目を見開いている。どうやら(フリード)の言う通り、こうした現場に居合わせたのは初めてらしい。

 不意に彼女の目線がイッセーくんを捉える。少女は更に驚愕の表情を浮かべる。

 

 

「……フリード神父……その方たちは……?」

 

「人? 違う違う。そっちの冴えないのはクソの悪魔くんで、隣のはそのお友達の人間失格さんだよ。ハハハ、なにを勘違いしているのかなかな」

 

「―――っ!? イッセーさんが……悪魔……?」

 

 

 そのことは彼女にとって余程ショックだったらしい。アーシアは言葉を詰まらせている。

 

 

「なになに? キミら知り合い? 

 わーお。これは驚き大革命。悪魔とシスターの許されざる恋とかそういうの? マジ? マジ?」

 

 

 さも、面白そうにフリードはイッセーくんとアーシアを見比べながら嘲笑する。

 一方、イッセーくんは苦虫を噛み潰したような表情だ。

 おそらく、悪魔と聖職者という立場の違いを鑑みて、二度と会わないと心に決めていたのだろう。

 

 

「アハハ! 悪魔と人間は相容れません! 悪魔に魅了されたクソ人間とも相容れません! 特に教会関係者と悪魔ってのは仇敵さ! 

 それに俺らは神にすら見放された異端の集まりですぜ? 俺もアーシアたんも堕天使様からのご加護がないと生きていけないハンパものですぞぉ?」

 

 

 少女に向かいフリードがねぶるような目つきで言う。

 だが、ふと疑問に思った。

 堕天使? 神に見放された?

 これらの発言から察するに彼らは正規の聖職者ではないらしい。

 

 

「まあまあ、それはいいとして俺的にはこのクズ男さんたちを斬らないとお仕事完了できないんで、ちょちょいといきますかね。覚悟はOK?」

 

 

 少年神父(フリード)が僕たちに光の剣を向ける。

 僕はどうとでも対処できるがイッセーくんの方は危ない。

 いっその事(フリード)を倒してしまおうか?

 

 ……いや、それは良くない。彼は血に酔っているだけだ。堕天使から与えられた力を振るうことに酔っている。

 僕が今まで仲間にしてきた魔物達の中にも人間に手にかけた者もいるだろう。

 どうして、魔物とは分かり合えて、同じ人間の彼とは分かり合えないと決めつけるのか。

 子供を血の夢から覚まさせるのも大人としての務めだろう。

 

 そう意を決して前に踏み出そうとすると――――

 

 

「………おいおい。マジですかー。アーシアたん、キミ、自分がなにしてるのか分かっているのでしょうかぁ?」

 

 

 アーシアが震えながら僕たちを庇おうとフリードの前に出た。

 

 

「………はい。フリード神父、お願いです。この方々を許して下さい。見逃して下さい。

 もう嫌です。悪魔に魅入られたとか言って、人間を裁いたり悪魔を殺したりなんて、そんなの間違ってます!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!? バカこいてんじゃねぇよ、クソアマが!

悪魔はクソだって、教会で習っただろうがぁ! おまえ、マジで頭にウジでも湧いてんじゃねぇのか!?」

 

 

 少年神父が怒り狂う。―――だが、アーシアは引かない。

 

 

「悪魔にだって、善い人は、優しい人はいます!」

 

「いねぇよ、バァァァァァァァカッ!」

 

「わ、私もこの前まではそう思っていました………。でも、イッセーさん良い人です。悪魔だって分かってもそれは変わりません! 人を殺すなんて許されません! こんなの! こんなの主が許すわけありません!」

 

 

  バキッ!!

 

 

 フリード・セルゼンが銃床で横薙ぎに少女を殴打した。

 

 

「キャッ!」

 

「おい、アーシア!」

 

 

 イッセーくんが思わず駆け出そうとする。

 

 

「……堕天使の姉さんからは君を殺さないように言われてるんですけどねぇ。ちょっとムカつきMAXざんすよ。

 殺さなきゃいいみたないなんで、ちょっとレイプまがいなことまでしていいですかねぇ? それぐらいしないと俺の傷心は癒えそうにないんでヤンすよ。

 ……と、その前にそちらのクズ丸一号とクズ丸二号を殺さないと駄目駄目ですよねぇ」

 

 

 フリードがかなり物騒なことを口走っている。

 今まで黙っていたがそろそろ止めるべきだろう。

 

 

「よしなさい」

 

「あぁん? 何言ってるざんすか? 今更命乞いなんてしないッスよねぇ?」

 

「君と話がしたい」

 

 

 飽く迄も冷静に話し掛ける。

 だが、彼は全く取り合おうとしない。

 

 

「悪魔のお友達のクズ人間が何言ってるんすかー? さっさと俺に斬られて死んでくださーい。てゆうか目障りなんでマジで死ね! 死ねと思っただけで死ねやッ!!」

 

 

 僕の言葉に怒り狂ったのか、真っすぐこちらに向かってきた。

 

 ―――これなら容易い。

 

 

「えい」

 

「ギャッ!!」

 

 

 まず、彼が右手に持っていた光の刃を手刀ではたき落とす。

 そして続けて軽く息を吸う。

 

 

「テメェェェ!!」

 

「コオオオォ」

 

 

 銃を持つ左手に、(ドラゴン)の職業で身に付けた冷たい息を吹きかけた。

 僕の推測が正しければ銃というものはおそらく冷気に弱い。確か、以前居た世界でも大砲が寒冷地で故障し使えなくなったという話を聞いたことがある。

 あの銃は、見るからに精密な構造をしている。どうやら、その推測は当たったらしい。

 

  カチャッ!カチャッ!カチャッ!カチャッ!

 

 

 少年神父が僕に向けて何度も引き金を引く。だが故障してしまったために光の弾が出ることはない。

 

 

「さあ、お話をしよう?」

 

「……な、何なんだ、テメエは……」

 

 

 今まで、頑なにふざけた態度を崩さなかったフリードが恐怖している。

 まあ、分からなくもない。ブレス系の特技を人間が放つのは珍しい。職業システムがかなり発展した世界でないとまず無理だ。

 

 だが、怯える彼に構わず話をする。

 

 

「アーシアさんの言う通りだ。悪魔にも様々な者がいる。君の言う通り人間と相容れない輩もいるだろう。

 だが、ただ『悪魔だから」という理由で殺すのは感心できない」

 

「……は、はぁぁぁぁぁああああっ!? 何言ってるんですかねぇ!? 悪魔に魅入られたクズ人間と話すことなんて、なんにもありませーん」

 

 

 持っていた武器を二つとも失っても、まだその態度を崩そうとはしない。

 なかなか根深いものがあるらしい。

 

 

「話をしないのかい? ……なら握手から始めよう」

 

「なっ!?」

 

 

 そう言って彼の血塗られた手を取り、もう一方の腕でそっと抱き締める。

 

 

「たとえ今、この場で分かり合えなくても、近い将来は理解し合えるかも知れない。……そのときのために分かり合うための努力はするべきだ」

 

 

 言葉に心からの思いを込める。

 自然に彼の手を握る手にも、彼を抱きしめる腕にも力が篭る。

 そうだ。今すぐ分かり合えなくてもいい。カボチ村で村民に魔物の仲間だとして追い出されたときも、時はかかったが結局は分かり合えた。

 今この時でなくてもいい、未来に於ける融和の種を、僕と(フリード)の間に植え

よう―――

 

 

「分かり合えないなんて悲しいじゃないか……。

 ほら、僕も君も同じ暖かい血が流れている。同じように脈打っている。

 ……同じなんだ……、人間も、悪魔も、堕天使も……!」

 

 

 フリードが僕の腕から逃れようと暴れる。

 そろそろいいだろうと思い放してあげると、彼はその場に崩れ落ちた。

 

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

 

 少々強く抱きしめ過ぎたのか、彼は息を切らしている。

 まあ、問題はないだろう。

 

 

「アーシアさんは大丈夫かい?」

 

「……えっ? あ、はい。大丈夫です」

 

 

 僕とフリードのやり取りを見て茫然としていた彼女だが、話しかけると正気に戻った。

 しかし、顔には先程の殴打による痛々しい痣が残っている。

 

 

「ホイミ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「イッセーくんにも」

 

「えっ? あざッス……」

 

 

 二人の傷を癒し終えると少年神父が起き上がる。

 

 

「テメエ……」

 

「今日はもう帰りなさい。だが、もう人殺しはダメだ。二度とするんじゃないよ? いいね?」

 

 

 出来るだけ言葉に力を込めて、フリードにそう告げる。

 

 

「おい、クソ人間……。おまえ絶対殺すから」

 

「今はそれでもいいよ」

 

 

 フリードは顔を引きつらせながらも気丈に宣言する。

 それになんでもないことだ、と言うように応えた。

 すると、(フリード)は懐から何かを取り出す。

 

 

  ビカッ―――!!

 

 

 まぶしい光か!?

 

 周りを見渡すとフリードとアーシアの姿が消えていた。

 

 

「ア、アーシアッ! アーシアッ!!」

 

「まあ、落ち着きなさい。彼は『堕天使の姉さんからは殺さないように言われてる』と言っていた。……命の心配はないだろう」

 

「で、でもっ!」

 

 

 アーシアがいなくなったことにパニックになるイッセーくんを取りあえず落ち着かせる。

 

 

「それにだ―――」

 

「それに?」

 

 

 

「近い将来、必ず彼女たち(堕天使)は僕の元を訪れる。そのときは、きっと分かり合える(愛しあえる)はずだ。

 なんとなくだけど、僕はそう思う」

 

 

 半ば確信を込めてイッセーくんに言った。

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、僕はこのとき知らなかったが、フリードが使ったのはフラッシュバンと呼ばれる物だったらしい。

 そのことを後から教えられて「この世界には便利なものがあるもんだなぁ……」と感心した。

 

 

 




ブレス系:Ⅰの頃から存在するが、人間キャラが使えるようになったのはⅥから。ドラクエの職業システムは凄い(小並感)。

まぶしい光:Ⅴ以降に登場するマヌーサ系特技。MP消費0なのでⅤでは便利。


リュカの弱点:現代兵器 別に威力はどうってことの無いレベルだが急には対処できない。


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9話 決意

最初の修行回。
これからミルたんがインフレしていきます。


 

「メラにょ! メラにょ! メラにょ!」

 

 

 

  町外れの郊外―――

 

 二人の男と一人の女―――いや、一人の男と一人の女、そして一人の漢女が修練に励んでいる。

 漢女は的に向かい手を翳し、何やら呪文を唱えている。

 男は手に棍、女は両手に禍々しい槍を持ち打ち合っている。

 

  ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!!

 

 

「その調子だ!」

 

「ええっ!」

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

 

 フリードがアーシアを連れて逃げ去ったあと、赤い魔法陣が出現しオカルト研究部のみんなが現れた。

 すでに少年神父(フリード)が立ち去ったことを告げると、彼女たちは安心したようだ。

 そこで、僕とイッセーくんは『はぐれ悪魔祓い』について聞かされた。

 御互い思うところはあったが、イッセーくんはリアスたちの魔法陣で部室に帰っていった。

 

 僕は取り敢えず殺された家人をザオリクで蘇らせたあと、メダパニで記憶を消し住処のアパートに戻った。

 

 

 部屋の中で今夜あったことを反芻する。

 

 

 一見すると平和な世界。実際、人間同士での争いはあるが、それは当事者間の争いだ。僕が関与すべきじゃない。

 問題は人と人ならざる者の争い……。それによって人間が人間を殺しているとは……。

 

 

 すでに眠っていたバイサーの寝顔を眺める。

 

 この子にも力を付けさせた方がいいのかもしれないな……。 

 ああ、それと依然魔法を教えてあげると約束したあの(ミルたん)との約束も果たさなくてはならないし……。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 翌朝、目が覚めると、またバイサーが僕の毛布にもぐり込んでいた。

 本当に油断ならない。

 

 僕の仲間になってから、彼女が食事の用意をするようになった。

 はぐれ悪魔時代は生の人間を丸ごと食べていたようだが、彼女の作る料理はかなりイケる。

 まあ、肉料理が出てきたときは何の肉か聞いたが……、普通に渡したお金で買ってきた鶏肉だと言ってた。

 

 食事を終えると、袋からいくつかの防具や武器を取り出した。

 

 

「なあに? コレ?」

 

「君の為にと思ってね……。好きな物を選んでくれるかい?」

 

 

 バイサーは僕の用意した装備品をしげしげと手にとって見て回る。

 

 そして―――

 

 

「コレがいいわ♪」

 

「えっ……、これは……」

 

 

 彼女が手に取ったのは「あぶないビスチェ」だった。

 

 あぶないビスチェ―――女性用装備の一つで過激なデザインの服……というより下着だ。 「あぶない」と言われるだけあり防御力は皆無に等しい。今、無理矢理着せている布の服の方がまだ上だ。

 

 

「それはちょっと……。ならこっちはどうだい?」

 

 

 そう言って「幻魔の法衣」を差し出す。女性でも気軽に着れる上に防御力が高い。オマケに魔法耐性もある。

 

 

「嫌よ、そんな野暮ったい服ぅ……。コレがいいわ」

 

「うーん……、ならこっちの『神秘のビスチェ』はどうだい? デザインが近いし……」

 

 

 今度は青色と金色が基調の神々しいビスチェを見せる。同じビスチェでも「あぶないビスチェ」との間には防御力に雲泥の差がある。

 

 

「コレがいいって言ってるでしょ。それにそのビスチェ、何だか天使っぽいじゃない。悪魔が天使の格好をするなんて嫌よ」

 

「ふむ……」

 

 

 確かに「神秘のビスチェ」には、背に天使を摸したであろう羽が取り付けてある。

 彼女の言い分も尤もなのかもしれない。

 

 

「……まあ、いいだろう。では武器だが……」

 

「武器ならコレとコレね♪」

 

「えっ? 二本?」

 

 

 彼女が手に取ったのは「地獄の魔槍」と「デーモンスピア」である。

 

 地獄の魔槍―――「宝の地図」と呼ばれる地図に標された場所に存在する迷宮。

 その中でも特に強力な魔物がひしめくダンジョンに存在する強大な武具の数々。

 その内の一つである「鬼神の魔槍」を錬金術で極限まで強化したものだ。

 これ一本を作るのに泣くくらい苦労した。

 

 デーモンスピア――――攻撃力では「地獄の魔槍」には劣るが、それにはない特殊な能力がある。

 強力な恨みの魔力が篭っており、時折一撃で敵の魂を吸い取るという。これもかなりの業物だ。

 

 何本もある槍の中でこの二本を選ぶとは……バイサーは意外に武器を見る目はあるのかもしれない。

 だが―――

 

 

「別にこの武器を使うのはいいけど……、二本同時に使うのかい?」

 

「あら、ダメなの?」

 

「……いや、別に駄目という訳ではないが……」

 

 

 槍を二本同時に使うというのはしたことがない。

 何故か右手に武器を一つ、左手に盾というのが当たり前になっていた。

 そういえば、最近行った世界では両手剣や両手杖などの片手では装備できない大きな武器もあったが……。

 そう言えば、出会ったときも彼女は二本のランスを得物としていた。

 まあ、そういうルールがある訳でもないし、彼女の好きにやらせてみるのもいいだろう。

 

 

「うん。じゃあ、それでいいよ。 

 では、早速だけど装備してくれるかい?」

 

「分かったわ。待っててね。御主人様♪」

 

 

 しばらくして――――

 

 

 

「どう? 御主人様♡ 似合うかしら?」

 

「………うん、まあ、似合うけど……」

 

 

 確かに似合う。

 バイサーのスタイルの良さとあぶないビスチェのデザインが良くマッチしている。

 黒いレザーと艶めかしい白い肌のコントラストが蠱惑的だ。

 豊満なバストも豊かなヒップも強調されている。

 禍々しいはずの二本の魔槍も彼女の悪魔的な(悪魔だが)魅力を引き立てている。

 

 ……でも、防御力がなあ……。せめて『きわどい水着』でも勧めるべきだったか……。

 

 そんなことも考えたが、彼女が気に入ってるみたいだし口には出せなかった。

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

 そんなこんなでバイサーの装備を決め、ミルたんに連絡を取った。魔法の修行を受けられると聞くと(ミルたん)は大喜びした。

 そして彼と合流し、そのまま転移呪文(ルーラ)で町外れの郊外に移動した。

 

 

「凄いにょ。こんな魔法もできるようになるのかにょ?」

 

「ああ、勿論だ。でも順番がある。最初はメラ……火の玉を飛ばして敵を攻撃する呪文から始めよう」

 

「わかったにょ!」

 

 

 そう言うと彼は的に向かい一心不乱に呪文(メラ)を唱え始めた。

 

 

「バイサーは僕と稽古だ」

 

「分かったわ♪ 御主人様♡」

 

 

 僕は袋から「物干し竿」を取り出し構える。

 バイサーはその武器(物干し竿)はいくら何でも自分を舐め過ぎだ、と眉根を顰めた。

 だが、あまり強力な武器だと彼女を傷つけてしまう。

 

 

「いくわ!!」

 

 

 僕の武器のチョイスに対する怒気を含んだ攻撃を繰り出してくる。

 

  ガアァァン!!

 

 そこそこ重い。元々悪魔は人間よりも頑強だ。

 それに得物の性能の良さも上乗せされ、かなりの威力だ。

 その攻撃を次々繰り出してくる。

 

 ふむ……。だが、軌道が単純だ。

 見切れば簡単に避けれる。

 

 彼女の攻撃を受け、躱し、弾き、避け、往なす。

 

 そんな攻防が永延と繰り返される。

 二百合も物干し竿と魔槍が合わさっただろうか。徐々にバイサーが息を切らし始めた。

 しかも疲労が溜まってきただけではなく、苛立ちもし始めている。

 

 何故、目の前の男は“物干し竿”で自分の魔槍を受け止めることができるのか―――

 

 答えは闘気を纏わせているからだが、そんなことを彼女が知る由もない。

 闘気を纏わせた武具は強度も威力も増す。 

 しかし、彼女からすれば、明らかに自分が これまで使っていた武器よりも優れた得物を用い全力で放つ攻撃が、ほとんど日用品みたいな物に凌がれている。

 そんな苛立ちからか、一気に勝負を決めようと連続で突きを放ってきた。

 しかし、雑だ。

 

 

「そうじゃない。連打とはこうやるんだ。『氷結乱撃』!!」

 

「キャアアアァァァッ!!」

 

 

 竿に冷気を纏わせ素早く振るう。

 全ての突きが彼女に直撃し吹っ飛ばした。

 凍傷だらけになり地面に倒れ伏した彼女に回復魔法を掛ける。

 

 

「御主人様ってば~……。容赦無さ過ぎぃ……」

 

「ア、アハハ……。ゴメンね」

 

 

 頬を膨らませて抗議するバイサーに謝る。

 

 

「けどね、バイサー。『五月雨突き』なんてのは槍術の中でも比較的高度な技だ。いきなりできるものじゃない。ちゃんと地力を鍛えないとね」

 

「……はぁい」

 

 

 バイサーが怒られた子供のようにしゅんとなる。

 だが悪くはなかった。最初にしては上出来だ。

 

 

「でも君には槍の資質がある。鍛えればかなりのモノになる」

 

「ホント!?」

 

「ああ、本当だ……。けど千里の道も一歩から。まずは……、この職業からにしよう。『ダーマの悟り』!」

 

 

 彼女に手を翳しダーマの悟りを開く。最初に転職させる職業は「戦士」だ。

 彼女の槍の才能をまずは伸ばす。

 それから、彼女は乳頭から閃光を放つ魔法(何で乳首から? と尋ねたら「乳房に見とれた得物を焼き殺すのが楽しかった」という答えが返ってきた)を体得していたことから魔法も得意なのだろう。

 故に 戦士 ⇒ 魔法使い ⇒ 魔法戦士 という流れがベストだろう。

 

 

「これで君には『戦士』の資質が備わった」

 

「ホントぉ!?」

 

「ああ、だがこれからが大変だぞ」

 

「ええ、分かったわ!」

 

 

 彼女は笑顔で頷いた。

 何故、彼女がはぐれ悪魔となったかは知らない。だが、接し方一つでヒト……もとい悪魔は変われるのだ。

 彼女を良い悪魔に育ててみせる! そんな思いを強くした。

 

 

「今日はいっぱい頑張ったから、帰ったらご褒美にイ・イ・コ・トしてね。御主人様ぁ~♡」

 

「……あ、あはは……。ところでミルたんの方はどうなっただろうか―――」

 

 

 

  ふと、目をやった先には―――

 

 

「メラッ!!」

 

 

  ゴオオォォーーッ!!

 

 メラミくらいの火力のメラを放つ漢女(ミルたん)がいた。

 

 

「できたにょ!!」

 

「凄いな……」

 

 

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

  その日の夜

 

 オカルト研究部の部室に言ってみると重苦しい雰囲気が漂っていた。

 部室の中にいたのは三人 イッセーくん、トウジョウ、キバくん だ。

 三人とも何やら決意した、という表情だった。

 

 

「おや、みんなどうしたんだい?」

 

 

「ああ、リュカさん。実は俺たち三人で――――

 

 

  アーシアの救出に向かいます」

 

 

 

 




あぶないビスチェ:Ⅷに登場。

神秘のビスチェ:Ⅶ、Ⅷ、Ⅸに登場。

きわどい水着:Ⅸに登場。

地獄の魔槍:Ⅸに登場。

デーモンスピア:Ⅴ以降とリメイク版Ⅳに登場する。各作品で安定して強い。

物干し竿:Ⅸに登場する棍に分類される武器……というか日用品。

氷結乱撃:Ⅸに登場する棍スキルの特技。棍のメインダメージソースだが属性が付いている為、効きにくい敵もいる。

さみだれ突き:Ⅷ以降に登場する槍の特技。優秀なダメージソース。


Ⅸで最強装備を全部作った私はドMなんだろうか?


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10話 救出

やっと十話……。
批判・アドバイス等をお願いします(切実)

堕天使さんたちに助っ人が付きました。


 

「ふむ……昼間にそんなことがあったのか」

 

 

 オカルト研究部の部室。

 「アーシアを助けに行く」と言うイッセーくんたち。

 何故かと問うとイッセーくんは昼間に起きたことを話し始めた。

 

 今日の午後―――

 

 

 学校を休み、公園で自分を鍛えようとしていたイッセーくん。

 そこで、彼はアーシアと再会したという。

 何でも、彼女は昼休みだったらしい。

 

 そこで、イッセーくんは町を案内することにした。

 ハンバーガーショップ、ゲーセン……

 

 そこで、イッセーくんはアーシアさんから、何故フリードたちの仲間になったのかを聞かされた。

 何でも彼女は『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』という珍しい神器(セイクリッド・ギア)を持っているらしい。

 幼少の頃、死にかけた子犬を救おうと祈りを捧げたら、その子犬の怪我が治った。

 それから、大きな教会に連れて行かれ信者たちを加護と称し癒す日々を送ったという。

 しかしある日、怪我をした男性を見つけそれを癒した。ところがその男は悪魔だったらしい。

 「悪魔を癒す魔女」―――そうレッテルを張られ、彼女は教会を追われた。

 そうして行きついたのが堕天使たちのところであった。

 

 身の上話を終えた彼女に、イッセーくんが 俺と友達になってくれ、と提案したそのときに、レイナーレが現れた。

 彼女はアーシアに 教会に戻れ、と言ったという。

 アーシアは 人を殺すような所には戻りたくない、と抵抗したが、レイナーレは 計画の為にはどうしても貴女が必要だ。どうしても嫌だというのならそこの悪魔(イッセーくん)を殺す、と脅した。

 それでアーシアは抵抗できなくなった。

 

 イッセーくんはアーシアを守ろうとレイナーレに挑んだが、圧倒的な力量差と相性の悪さによって敗北し、アーシアは連れ去られた。

 

 

 昨日も僕たちを庇おうとしたあたり、本当に彼女(アーシア)は優しい娘なのだろう。しかし、レイナーレの言う計画とは何なのだろうか……。

 嫌な予感がする。

 昨晩は「殺すなと言われている」と聞いたから彼女は安全だと思ったが……、ひょっとすればかなり危険なのかもしれない。

 

 

「分かった。僕も行く」

 

「えっ? でも……」

 

「僕なら大丈夫だ。それに、連れて行ってくれるなら弾避けぐらいにはなるだろう?」

 

「……はい、一緒に来てください。お願いします」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 夜の帳が落ちた街。

 以前イッセーくんがアーシアを案内したという教会の前。

 そこからは人と、人ならざる者の気配がする。

 イッセーくんたちも敏感に感じ取っていた。

 

 

「イッセーくん、リュカさん。これ、図面です」

 

 

 キバくんが何やら見せてきた。どうやらこの教会の見取り図らしい。

 

 

「まあ、相手陣地に攻め込むときのセオリーですよね」

 

 

 うっ………!

 

 なかなか手厳しいご意見だ。

 僕は今まで敵の根城となっていたダンジョンの地図をあらかじめ用意したことがなかった。

 そのせいで異世界のロンダルキアへの洞窟ではえらく迷い、あやうく遭難しかけた。

 

 

「聖堂の他に宿舎。怪しいのは聖堂だろうね」

 

「宿舎は無視していいのかい?」

 

 

 キバくんの言葉に思わず反応する。

 僕はどちらかと言うと満遍なく探索する方だ。隅々までダンジョンを探索すると思わぬレアアイテムがあったりする。

 ……まあ、一刻を争うこの事態に、そんな悠長なことも言ってられないが。

 

 

「はい、おそらく。この手の『はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)』の組織は決まって聖堂に細工を施しているんです。聖堂の地下で怪しげな儀式をするために」

 

「どうして?」

 

 

 イッセーくんが尋ねる。

 

 

「今まで敬っていた聖なる場所、そこで神を否定する行為をすることで、自己満足、神への冒涜に酔いしれるんだ。

 愛していたからこそ、捨てられたからこそ、憎悪の意味を込めてわざと聖堂の地下で邪悪な儀式をするんだよ」

 

 

 なかなか難儀な話だ。それにしても、何故それ程信心深い天使や信者が信仰を捨てたのだろう。

 何故彼らを神は、教会は追放したのだろう……。

 

 

「入り口から聖堂まで目と鼻の位置。一気に突っ切れると思う。

 問題は聖堂の中に入り、地下への入り口を探すことと、待ち受けているであろう刺客を倒せるかどうかだね」

 

 

 そう話している内に教会の扉の前に来た。

 おそらく向こうもすでにこちらに気が付いている。

 皆もそう思ったのだろう。

 トウジョウが躊躇わず扉を蹴り飛ばした。

 

 教会内は荒れ果てていた。

 天使や聖女の像は打ち壊され、教会のシンボルである十字架も砕かれていた。

 

 

「こんばんは~! 再会だねぇ! 感動だねぇ!」

 

 

 暗がりから一人の少年が現れた。

 声に聞き憶えがある。

 フリード・セルゼンだ。

 僕を真っすぐ睨みつけている。

 

 

「俺としては二度会う悪魔はいないってことになってんだけどさ! ほら、俺、メチャクチャ強いんで悪魔なんて初見でチョンパしちゃうわけですよ!

 まして、悪魔に魅入られたクソ人間なんて眼中にもなかったんでござんすよ! 一度会ったらその場で解体! 死体にキスしてグッド・バイ! それが俺の生き様でした! でも、お前らが……特にそこのムカつくバンダナが邪魔したから俺のスタンスがハチャメチャ街道一直線、ダメだよねぇ〜。俺の人生設計を壊しちゃダメ〜!

 だからさ! 超イラつくわけで! 死ねと思うわけよ! 

 つーか、死ねよ! このクソ野郎がよぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!」

 

 

 少年神父(フリード)が激昂し、あの光の剣と銃を取り出した。

 

 

「てめぇら、アーシアたんを助けにきたんだろう? ヒャハハハハッ!

 あんな悪魔も助けちゃうビッチな娘を救うなんて悪魔様とそのお友達はなんて心が広いんでしょうか! 

 てか、悪魔に魅入られている時点であのクソシスターは生きる価値無いよね!」

 

「おい! アーシアはどこだ!」

 

「んー、そこの祭壇の下に地下への階段が隠されているのでございます。そこから儀式が行われている祭壇場へ行けますぞ」

 

 

 イッセーくんが聞くとあっさり答えた。

 おそらく、四対一でも勝てる、勝って殺せば問題ないと考えたのだろう。

 しかし、それはいただけない。

 敵の戦力を正確に判断するのは冒険者が生き残る上で必須ともいえる技能だ。

 彼の資質はなかなかだが如何せん経験不足だ。

 少なくとも自分よりも格上の敵と戦った経験はないのだろう。

 

 だが、筋は悪くなかった。その才能を善いことに使えれば……。優れた戦士になれるだろうに……。

 

 

「申し訳ないが、今は急いでいるんだ。いずれ、ゆっくりとお話しようか?」

 

「ハアアアァァァッ!? 何言っt「ラリホー」るんでござんs………zzz」

 

 

 僕のかけた睡眠魔法によって、その場に倒れそうになったのを受け止める。

 そして、そのまま長椅子に寝かせてあげた。

 

 

「え~っと……。リュカさん、今のは……?」

 

「ああ、ラリホーといってね……。簡単な睡眠魔法さ。簡単だが役に立つ。

 祭壇の下に地下への階段があるそうだ。急ごう」

 

「えっ? あ、はい」

 

 

 フリードに言われた場所にはきちんと階段があった。

 嘘はついていなかったらしい。

 

 奥に進むと扉があった。

 この先にレイナーレとアーシアがいる。その上、無数の人間の気配もした。

 

 

  ギイィィィ……

 

 

 扉を開こうと手を伸ばしたが、勝手に開く。

 

 儀式場とやらが見えた。

 部屋中にフリードと同じ光の刃で武装した神父たちが待ち構えていた。

 そして奥にレイナーレとアーシアがいる。アーシアの方は十字架に磔にされていた。

 

 

「いらっしゃい。悪魔の皆さん」

 

「アーシア!!」

 

「感動の対面だけど、遅かったわね。たった今、儀式が終わるところよ」

 

 

 儀式が終わる……、遅かったということか。

 もっと早く何とかしておけば……、後悔の念を感じたが今はそれどころではない。

 

 

「……あぁあ、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「アーシアァ!!」

 

 

 悲鳴を上げるアーシア。

 それを見てイッセーくんが駆け出そうとするがはぐれ悪魔祓いたちが立ちふさがった。

 

 

「邪魔立てなどさせん!」

 

「悪魔どもめ! 消し去ってくれる!」

 

 

 キバくんとトウジョウが前に出て迎え撃とうとするが――――

 

 

「ラリホーマ」

 

 

 はぐれ悪魔祓いたちが一斉に昏倒した。

 それを見たキバくんとトウジョウが目を見張るが、イッセーくんとレイナーレは気にも留めなかった。

 

 

「これよ、これ! これこそが、私が欲していた力! 神器! これさえあれば、私は愛を頂けるの!!」

 

 

 レイナーレの肢体が緑色に輝く。どうやらアーシアの『聖母の微笑』がレイナーレに移ったらしい。

 

 

「ふふふ、アハハハハハ! ついに手に入れた! 至高の力! これで、これで私は至高の堕天使になれる! 私をバカにしてきた者たちを見返すことができるわ!」

 

 

 だが、イッセーくんはそんなことは聞いてはいない。

 必死に虫の息のアーシアに呼びかけている。

 だが、彼女の呼吸は弱々しい。

 

 

「……イ、イッセーさん……」

 

「アーシア、迎えに来たよ……」

 

「………はい」

 

「無駄よ。神器を抜かれた者は死ぬしかないわ。その子、死ぬわよ」

 

 

 レイナーレが冷酷に宣言する。

 別に蘇生呪文(ザオリク)を使えばいいだろう、と思っていたがそれは不味い。

 つまり、蘇生させる前に神器を奪い返さなければならないらしい。

 僕はそんなことを考えていたが、イッセーくんは激怒する。

 

 

 

「――――ッ!! なら、この子の神器を元に戻せ!」

 

「返す訳ないじゃない。コレを手に入れる為に私は上司を騙してまでこの計画を進めてきたのよ? 彼方たちも殺して証拠は一切残さないわ」

 

 

 チカラ、か……。その為にここまでするとは……。

 

 

「初めての、彼女だったんだ……」

 

 

 イッセーくんが静かに言った。

 

 

「ええ。見ていてとても初々しかったわよ。女を知らない男の子はからかい甲斐があったわ」

 

 

 レイナーレの瞳には残酷な喜びがあった。

 殺す前に精神を徹底的にいたぶる、そんな意図が声色から見え隠れしている。

 

 

「大事にしようと思ってたんだ」

 

「ウフフ、私がちょっとでも困った顔をすれば即座に気を使ってくれたよね?

 でも、アレ全部私が仕組んでたのよ。だって慌てふためく彼方の顔、とっても可笑しいんですもの」

 

「俺、夕麻ちゃんが本当に好きで、マジで念入りにプラン考えたよ。絶対いいデートにしようと思ってさ」

 

「アハハハ! そうね、とても王道なデートだったわ。おかげでとってもつまらなかったけどね」

 

 

 レイナーレがイッセーくんを嘲笑する。

 見ていられない光景だ。

 

 

「……夕麻ちゃん」

 

「うふふ、“夕麻”。そう、彼方を夕暮れに殺そうと思ったからその名前にしたの。なかなか素敵でしょう?

 それなのに死にもしないですぐこんな金髪の彼女作っちゃって。ひどいわひどいわ、イッセーくんったら……。またあのクソ面白くもないデートに誘ったのかしら? ああ、でも田舎育ちの小娘には新鮮だったかもね。こんな楽しかったのは生まれて初めてですぅ、とかなんとか言ったんじゃ「――黙れ」ない……の……?」

 

 

 我慢できずに止める。

 少々、諭さなければならない。

 

 

「君はその力を得て『愛を頂ける』と言った…………。君は愛を知っているし、愛することもできる……。なら、どうして他者の愛を踏みにじることができる……? 愛の本質は与えることだ。奪うことじゃない」

 

 

 言葉と眼差しに力と魂を込める。

 この娘がしたことは限りなく愚かだ。

 残虐非道……その一言に尽きる。

 だが、その根底にあるのは愛だ。

 それなら、救う手立てもある。

 

 僕の言葉を聞きレイナーレは震える。

 改心してくれたのかとも一瞬考えたが、僕から漏れ出た魔力と闘気に驚いただけらしい。

 

 

「御高説どうもありがとう。でも、いいのかしら? こんなところでおしゃべりしてて……」

 

「何?」

 

「この子たちの御主人の足止めに私の仲間が向かってるんだけど……。

 仲間たちには『協力者』からの“預かり物”を持たせてるの。メカには詳しくないから分かんないけど……、たぶん、その子たちの御主人、死ぬわよ」

 

「何だって!? リアス部長が!?」

 

 

 後ろで見守っていたキバくんが驚く。

 確かに信じ難い。リアスは今のところ粗削りだが、潜在能力は魔界の魔物級くらいはあるだろう。

 

 だが―――

 

 

 駒王学園の方角からとてつもない力を感じた。

 彼女たち堕天使一党、そしてオカルト研究部のみんなを纏めて殺してもまだお釣りがくる、それくらい圧倒的なものだ。

 ヘタをするとこの街が壊滅するかもしれない。

 

 

「イッセーくん!! キバくん!! トウジョウさん!! この場は任せる! 僕はそっちに向かう!!」

 

「―――えっ!? あ、はい!!」

 

「リレミト!!」

 

 

 脱出呪文によってすぐに教会に出る。

 そして――――

 

 

「ルーラ!!」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

「リアスさん!! ヒメジマさん!!」

 

 

 駒王学園の裏手、旧校舎付近の森。そこは火の海になっていた。

 力の存在を感じる方に辿り着くとすぐさま呼びかける。

 

 すぐに見つかった。

 傷つき地面に倒れ伏している。

 二人とも酷い怪我だ。

 体中に矢が刺さっておりハリネズミのような有り様だ。

 

 そこには彼女たちの他に三人と“一台”がいた。

 一人は赤いボディコンスーツを着た妙齢の女性、カラワーナ。

 もう一人は黒いゴシックロリータのファッションを着こんだ金髪の美少女。

 あとは帽子にトレンチコートを着た壮年の男性。

 彼らは堕天使だ。

 

 その後ろにあるモノは―――――

 

 

  青鈍色に光るボディ――― 

  二本の大剣――― 

  二つの弩弓――― 

  赤いモノアイ―― 

  背にある巨大な大砲―――

 

 以前行った異世界で知ったそのモノの名は……

 

 

 

 

 

   ―――― スーパーキラーマシン ――――

 

 

 




スーパーキラーマシン:ドラゴンクエストモンスターバトルロードⅠが初出。DQⅨやDQMJ2以降のモンスターズシリーズにも登場。


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11話 殺戮兵器

やばい……ミッテルトの口調が分からない。
取り敢えず一人称「うち」、語尾「っす」にしてみたが全然それっぽくならない。

アドバイス、批判、評価を出来たらお願いします。


 

「これは不味いな……!」

 

 レイナーレの話を聞きすぐに駒王学園に引き返すとそこにいたのは三人の堕天使。

 そして殺戮兵器スーパーキラーマシンだ。

 リアスとヒメジマはすでにやられ大怪我をし、地に伏している。

 レイナーレは『協力者』から預かったと言っていたが……。

 “これ”が何なのか理解しているのか……!?

 

 

スーパーキラーマシン―――かつて行ったことのある異世界で戦った強大な機械兵士。

 

 神造の殺戮兵器……いや、一説によれば創造神そのものの一部とさえ云われている。僕がその世界にいたときは、宝の地図のダンジョン深くに封印されていた。もし万が一にも地上に解き放たれてしまったら、人間世界が滅亡するかもしれない。

 

 だが、この機械兵からはオリジナル程の力は感じない。

 配合によって産み出されたものなのか……?

 しかし、純粋な配合で生み出されたモノとは言い難い邪悪さ、歪さを感じる。

 オリジナル程の力は感じない……しかし明らかに堕天使たちよりも強い。

 

 いかにリアスたちが優れた才能を持っていたとしても、こいつは些か荷が重い。

 否、ハッキリ言って逆立ちしても勝てない相手だ。

 

 

「無事かい? ……いや、愚問だったね。生きてるかい?」

 

「……ええ、何とか」

 

 

 リアスが息も絶え絶えながら返事をする。ヒメジマの方も死んではいない。

 二人の状態を確認すると、次にこちらを見下ろす三人の堕天使に話しかけた。

 

 

「やあ、こんばんは。君とは前に会ったね。あとの二人は初めまして」

 

「ふん、やはり来たか」

 

 

 赤いボディコンスーツの女、カラワーナが返事をする。

 

 

「あんたがレイナーレお姉さまの言ってた人間? うちはミッテルットっす♪」

 

「……ドーナシークだ」

 

 

 トレンチコートの男とゴスロリファッションの少女が名乗る。

 

 

「ああ、これはどうもご丁寧に。僕はリュカだ。本当はもっと長いけどリュカでいい。

 突然で申し訳ないが……これはどうしたんだい? レイナーレさんは『協力者』に提供されたって言ってたけど……、それは一体どんな人なのかな?」

 

 

 取り敢えず名乗りを返す。そして最大の疑問をぶつけた。

 どこからこんなモンスターを調達したのか―――

 

 

「詳しくは知らん。神の子を見張る者(グリゴリ)の幹部からの使いと聞いていた。フードをかぶった男だ」

 

「ふむ……」

 

 

 明らかに怪しい。彼女たちの話では、自分たちは上層部を騙してまで行動してるという。

 そのことから彼女たちは組織……「神の子を見張る者」といったか、その中では末端、良くても中級程度だろう。

 この世界の基準で見てもこいつ(スーパーキラーマシン)は怪物だ。

 どう考えてもレイナーレたちに扱えるのものじゃない。

 おそらくは“幹部からの使い”と名乗るフードをかぶった男に利用されてると見るべきだろう。

 

 

「おしゃべりはここまでだ。前に言ったな……、お前は殺すと!

 殺れっ! スーパーキラーマシン!!」

 

「ショブン! ショブン! ショブン!」

 

 

 巨大な破壊兵器が向かってきた。

 

 

 まずは冷静に僕と彼らの戦力を分析する。

 相手は四体。堕天使三人とスーパーキラーマシンが一体だ。

 堕天使たちの力はさほどではない。

 前回戦ったカラワーナも鍛錬不足のためか、あまり強くなかった。

 残りの二人も同程度なら、目を瞑って、更に片手でも倒せる相手だ。

 

 厄介なのはやはりスーパーキラーマシンだ。というよりこいつの他は、申し訳ないがハッキリ言ってオマケレベルだろう。

 無論、オリジナル程強くはない。性能はおそらく半分以下だろうか。

 そのオリジナルとも何度か戦ったことがある。仲間たちと共にではあるがすべて勝った。

 その内一度はズッショという男に言われ全裸で倒したこともある。

 

 今の装備は『おしゃれなバンダナ』、『白いTシャツ』、『ブルージーンズ』。

 決して性能のいい装備ではないが、全裸で戦ったときほど不味い状況ではない。

 

 つまり、戦って負ける要素はない。

 

 自分一人では、だが―――

 

 

  グオォォォン!!

 

 スーパーキラーマシンが大剣を振り降ろしてきた。

 反射的に飛び退いて躱そうとするが、すぐ側にリアスがいる。

 避けると彼女の頭がカチ割られる――ッ!

 

  ガシンッ!!

 

 

 咄嗟に両の掌で殺戮兵器の巨大剣の腹を挟み込む。

 真剣白刃取り――何とか受け止めた。

 やはり、そこそこの重さがある。

 

 

   ウィーーン……

 

   バシュンッ! バシュンッ! バシュンッ! バシュンッ! バシュンッ!  

 

 スーパーキラーマシンの攻撃を防げたのは束の間……。

 今度は弩弓が装備されたアームが上を向き、数多の矢を打ち上げる。

 凄まじい風切り音を響かせながら幾千本もの矢が宙に放たれた。

 そして、その打ち上げられた矢は地球(ほし)の重力に引かれ――――

 

 

 間に合え!

 

 

「スカラ!!」

 

 

 すぐさま殺戮機械(スーパーキラーマシン)から距離を取り、自身に硬化魔法(スカラ)を掛け、リアスとヒメジマに覆いかぶさる。

 

  ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!!

 

 

 直後に矢の雨が降り注いできた。

 硬化魔法と闘気によって矢を弾く。

 

 結果、一本も刺さることは無かったが、ちょっと背中が赤くなったかもしれない。

 

 

 何とかなったか……。だが、やはり二人を庇いながら戦うのは難しい。

 

 これまでの冒険では、こうなった場合さっさと見捨てるという選択肢もあった。

 回復に手間取るより、生き残った味方の防御と攻撃に専念するのだ。

 そして戦闘が終わってから蘇生させればいい。

 非情に聞こえるかもしれないが、強敵と戦う場合……いざという時には採用される戦術だ。

 だが、それは躊躇われる。何故なら聞くところによればこの世界の悪魔、堕天使は死ぬと魂まで消滅するらしい。蘇生呪文(ザオリク)なら或いは……とも思うが効かない可能性もある。

 それを思うと見殺しにするのは論外だ。

 矢の雨は硬化魔法と闘気があればいい。だが、僕の記憶が正しければ、厄介な技があと二つもある。

 

 気を巡らせ、仁王立ちの体勢を取った。それを見て、堕天使たちが僕を嘲笑する。

 

 

「ハハハハッ! 何なんだ、この男はっ! 悪魔を庇おうとはな」

 

「あはははは、おかしな奴っすね~♪」

 

「ククッ、……リュカよ……。確かにお前は強い。だが、そいつらを庇いながら我々に勝てる程ではないぞッ!!」

 

「そう思うかい? ……なら、こうしよう。リアスさんとヒメジマさんを殺さずに君たちを倒せたら……僕の仲間になってくれないか?」

 

 

 僕の提案を聞いた堕天使たちが更に嘲笑った。

 ―――やがて、一同を代表してか、カラワーナが答える。

 

 

「ふふふ、ああ、いいだろう。

 もしお前が勝てたら仲間にでも、愛人にでも、性奴隷にでもなってやる。勝てたらな!!」

 

「約束だよ」

 

「ふんっ! いけっ!! スーパーキラーマシン!! 殺せ!!」

 

 

 殺戮兵器がまた動きだした。

 武器を激しく振り回す。

 通常の振り降ろしより回転の遠心力が加わってる分強力だ。

 敵の斬撃を大防御で受け止める。この技は問題じゃない。

 問題は――

 

 

  キュイィィィン……

 

 背中の大砲が何やら甲高い音を上げ始めている。

 それと共に力と光が集束していくのも感じ取った。

 これは“あの技”の合図だ。

 

 スーパーキラーマシン上半身のみをぐるりと回転させることで、背をこちらに向け―――

 

 

 

  ヴィイイイイイイィィィィィィィッッッッ!!!!!

 

 

 

 ぶっといレーザー砲を撃ってきた!

 “最後の技”に比べれば威力は大したことはない。

 問題はこの攻撃がレーザー……つまり光だということ。

 光―――それは、この世界の悪魔にとって弱点。

 後ろの二人は掠っただけで大ダメージを受けるに違いない。

 

 だが準備はしていた。事前に僕自身の気と大地の気を呼応させておいたのだ。

 

  ドゴオォォン!

 

 

 地面からマグマが噴き出した。

 そこに透かさず肺で冷やしておいた氷の息を吹きかける。

 超高温の溶岩と冷凍ブレスが混じり合い―――

 

 

   水 蒸 気 爆 発 ! !

 

 

 「マグマ」の熱と氷の組み合わせによる必殺技、名を「ヴォルバーン」という。

 発生した蒸気により辺りが真っ白になる。それによってレーザーの威力も半減した。

 

 殺戮機械と堕天使たちは爆発による衝撃波によってダメージを受けたが、意識を刈り取られる程ではなかった。

 

 そして、スーパーキラーマシンは僕が最も恐れていた最強の必殺技を使おうと構える。

 

  バチッ! バチバチバチッ!

 

 片方の大剣が強烈な輝きの雷光を帯びる。

 その剣を大きく振りかぶり――――僕の視界は雷電に覆われた。

 

 

  ギ ガ ス ラ ッ シ ュ ! !

 

 

 本来は魔王を屠る勇者の必殺技。

 魔力と電流と衝撃波が襲い掛かって来る。

 オリジナルではないとはいえ、その威力は決して並ではないだろう。

 闘気をより強力にして全身に纏う。そして、リアスたちに被害が及ばぬように仁王立ち。

 さて、その攻撃力、一体どれ程のものか――――

 

 

「ぬわーーーっっ! ……っと……… ぐっ、………はぁ、……はぁ、……はぁ。……ふぅ」

 

 

 ……かなり痛かった。だが、被弾箇所を覆っていた闘気のおかげか、目立った外傷はないし、骨も折れていないない。

 ふむ、問題なく耐えれたか……、だが、服はボロボロだ。この「白いTシャツ」はもうダメだな……。

 

 Tシャツは無残にも真っ黒焦げのボロ布と化した。勿体ないが家に帰ったら処分するとしよう。

 

 

 

「…………ほう、今の一撃を耐え切るとはな。だが、我らの一斉攻撃に耐えれるかな!!」

 

 

 今が勝機と思ったのだろう。僕とスーパーキラーマシンの戦いを黙って観戦していたカラワーナ、ミッテルト、ドーナシークの三人が一斉に光の槍を投擲してきた。

 

 

  ドゴォーン!

 

 

 彼女らの攻撃の衝撃でもうもうと砂煙が発生する。

 

 

「フッ、口ほどでもない」

 

「そっすね~、そろそろレイナーレお姉さまもあいつらを始末しただろーし、帰りましょっか」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カラワーナとミッテルトが勝利を確信する。

 しかし……

 

 

「いや、帰さないよ。君たちは僕の仲間になってミッチリしごかれるんだから」

 

「―――えっ?」

 

「最後の攻撃もそれ(スーパーキラーマシン)に任せた方が良かったな。まあ、あとギガスラッシュも数発は受けれるが」

 

 

 リュカは平然と立っていた。

 真っ黒焦げのボロ布と化したTシャツの残骸がきれいに吹っ飛び上半身裸となる。

 長年の戦い漬けの日々で無駄な贅肉は一切ない。否、無駄な筋肉も一切ない。

 純粋な戦いの為だけの筋肉のみで構成されている。

 若い肌には歴戦の傷跡が所狭しとあり、奴隷時代の鞭の跡もうっすらと残っている。

 

 カラワーナたちはこのとき悟った。

 絶対に目の前にいる男には勝てない。

 生きた年月は自分たちの方が上でも、戦いの歴史の濃さが天と地ほどに開いて

いる、と―――

 

 

「それに君たちの攻撃で程良く溜まったよ」

 

「い、一体何が溜まったと―――」

 

「『テンション』」

 

 テンション――――魔力や闘気ともまた違う精神エネルギー。それを溜めることで呪文や打撃の威力を高めたり、受けるダメージを減らしたりもできる。

 

 

「そのマシン兵の攻撃を受ける前に、ちょっとある技を使わせてもらってね。『テンションバーン』というんだけど……」

 

 

 テンションバーン――――敵の攻撃を受ければ受けるほどテンションを高められるという技

 

 

「最高潮までには至らなかったが……。まあ、十分だろう。いくよ」 

 

「―――っま、待て!」

 

 

 

 「 爆 裂 拳 ! ! 」

 

 

 闘気を纏った拳をハイテンション状態で解き放つ。

 一発一発が殺戮機械の強固なボディを抉る、砕く、打ち壊す。

 一発一発が凄まじい衝撃波を発生させる。

 元々ヴォルバーンでかなりのダメージを受けていたらしい堕天使たちに耐えられるはずもなかった。

 

 

「きゃああああぁぁぁぁぁっっ!!」

 

「なああああぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

「ぐあああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 

 三人とも吹っ飛ばされ地面に墜ちた。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

「リアスさんも目を覚ましたかい?」

 

 

 回復魔法(べホマ)でリアスとヒメジマの傷を癒し、数分後にヒメジマが、それから数分後にリアスが目を覚ました

 

 

「……リュカさん。……んん……、痛ぅ……。あのロボットと堕天使たちはどうしたの?」

 

「スーパーキラーマシンは倒した。カラワーナとミッテルト……女性の堕天使二人は捕らえた。だが男の方、ドーナシークには逃げられてしまった」

 

 

 リアスが周りを見渡す。確かに僕の言った通り殺戮兵器(スーパーキラーマシン)が粉々に破壊されているのを確認したようだ。

 

 

「そう……、ありがとう、礼を言うわ」

 

「どういたしまして。だが、早くイッセーくんたちの所に戻らなくては―――」

 

「あら、急がなくてもいいわ。だって―――」

 

 

 

 

「イッセーは私の最強の兵士(ポーン)だもの」

 

 

 

        

 




マグマ:DQⅥとDQⅦに登場する特技。消費MP0で、地割れを起こし、地の底からマグマを呼び出す。攻撃範囲は敵全体。1/3の確率で失敗する。また、海上・海中だと確実に失敗する。

ヴォルバーン:DQMBⅡにて必殺技として登場。肩書きは「究極水蒸気爆発」。マグマの杖の「マグマ」と氷属性の技2つを組み合わせると発動。まず巨大な氷の塊を生み出し、その氷をマグマの力で相手に飛ばして敵全員を爆発させる。たまに敵を呪文に弱くすることがある。

テンションバーン:Ⅸより。

爆裂拳:Ⅵ以降に登場する特技。通常の攻撃力のおよそ半分の威力による攻撃を、敵全体にランダムで4回行う。


レーザーの音メッチャ悩んだ……。
それで行き着いたのが

ヴィイイイイイイィィィィィィィッッッッ!!!!!

って……。
さんざん悩んで一番いけない選択をするパターンかもしれない


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12話 凡ミス

 

 教会に戻ってきたが、イッセーくんは大丈夫なのだろうか……?

 

 リアスたちを回復させた後、すぐさま聖堂に向かった。

 だがリアスたちには余裕がある。確かにキバくんとトウジョウは強い。レイナーレより地力は上だ。

 

 イッセーくんには神器(セイクリッド・ギア)がある。

 あれは未知数だ。

 『龍の手』(トウワイス・クリティカル)―――力を倍にできるありふれた神器の一つ……だそうだが、それだけとも思えない。

 

 しかし、如何せん使い手が未熟だ。歴戦の戦士ならバイキルトを掛けただけでもドラゴンを屠れるが、ほとんど一般人に毛が生えただけのイッセーくんではそうはいかないだろう。

 

 だが、リアスには絶対的な信頼を抱いているらしい。

 走るどころか早歩きにもなってない。

 

 そうこうしている内に教会の前に着いた。

 戦闘の音はしていない。どうやら終わったらしい。

 

 さて、立っているのは悪魔たち(イッセーくんたち)か、それとも堕天使(レイナーレ)か―――

 

 

 イッセーくんたちだった。

 

 レイナーレはすでに地面に倒れていて、気を失っている。

 それを、イッセーくん、キバくん、トウジョウの三人が取り囲んでいた。

 三人とも傷を負っているがキバくんとトウジョウはかすり傷程度だ。

 だが、イッセーくんは両足に怪我をしている。

 

 

「……部長、来てたんスか」

 

「ええ、……無事に勝ったようね」

 

「ぶ、部長……それにリュカさんも……。ハハハ、なんとか勝ちました」

 

「フフフ、えらいわ。さすが私の下僕くん」

 

「良くやったと思うよ、イッセーくん。 べホマ」

 

「あっ、あざッス……」

 

 

 ボロボロのイッセーくんが僕とリアスに勝利の報告をする。

 僕はすぐに彼に回復魔法(べホマ)をかけてあげた。

 

 

「あらあら。教会がボロボロですわ。部長、よろしいですか?」

 

「……なんか、ヤバいんですか?」

 

「教会は神――もしくはそれに属する宗教のものだし、今回みたいに堕天使が所有している場合があるでしょ? そのケースだと、私たち悪魔が教会をボロボロにすると、あとで他の刺客から付け狙われることがあるの。恨みと報復よ」

 

 

 なかなかに物騒だ。このことが後に火種になるかもしれないとは。だがそれをリアスは否定する。

 

 

「でも今回それはないでしょうね」

 

「どうしてですか?」

 

「ここは元々捨てられた教会だったわ。そこをとある堕天使たちが自分の私利私欲のために活用しただけだからね……。一応(・・)ね」

 

 

 “一応”――― あんな怪物(スーパーキラーマシン)を持ちこんでいたのだ。

 全く問題ないとは言い切れなかったのだろう。

 だが“一応”大丈夫らしい。

 

 

「ん? ここに寝かせてたはずのあの少年神父(フリード)は……?」

 

 

 ふと目をやると長椅子に寝かせていたフリードが消えている。

 

 

「それが……レイナーレを倒した直後に起きて逃げたんス。リュカさんにこう伝えろって『俺、オマエにフォーリンラブ。必ずぶっ殺す』って……」

 

「そうか……」

 

 

 随分嫌われたものだ。またいずれ出会ったときに和解できることを期待しよう。

 

 一方、リアスは気絶しているレイナーレに目を向けた。

 

 

「朱乃」

 

「はい」

 

 

 リアスの呼び掛けに答えたヒメジマは魔法で水の塊をレイナーレにぶっかける。

 水の魔法とは珍しい。僕が使えるのはコーラルレインとメイルストロムぐらいだ。

 後で教えてもらおうか。

 

 

「ゴホッ! ゴホッ!」

 

「ごきげんよう、堕天使レイナーレ」

 

「……グレモリー一族の娘か……」

 

 

 水にむせて目を覚ましたレイナーレに挨拶するリアス。声も眼差しも底冷えするような冷たさだ。

 一方、レイナーレもリアスを睨みつける。

 

 

「はじめまして、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ。短い間だけでしょうけど、どうかお見知りおきを」

 

「……してやったりと思ってるんでしょうけど、私に同調し、協力してくれる堕天使も居るわ。私が危なくなった時、彼らは私を―――」

 

「残念だけど、彼らは助けには来ないわ」

 

「堕天使カラワーナ、ドーナシーク、ミッテルト。彼女たちは彼が、リュカさんが倒したわ。この羽は彼らの物。同じ堕天使のあなたなら分かるわね?」

 

「いや、まあ、倒したというか捕らえたというか……ドーナシークさんには逃げられたけど……」

 

 

 仲間が倒されたと聞き、絶望したような顔をするレイナーレ。

 しかし、僕が詳細を説明すると安堵の表情を浮かべた。

 結構仲間思いらしい。

 

 

「………赤い龍。この間までこんな紋章はなかったはず……。そう、そういうことなのね。

 イッセーが堕天使に勝てた最大の理由がわかったわ。

 堕天使レイナーレ。この子、兵藤一誠の神器はただの神器じゃないわ。それがあなたの敗因よ」

 

「――――『赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)』、神器のなかでもレア中のレア。篭手に浮かんでいる赤い龍の紋章がその証拠。あなたでも名前くらいは知っているでしょう?」

 

「ブ、ブーステッド・ギア………。『神滅具(ロンギヌス)』のひとつ……。

 一時的にとはいえ、魔王や神すら超える力が得られるという………あの忌まわしき神器がこんな小僧の手に宿っていたというの!?」

 

「言い伝え通りなら、人間界の時間で十秒ごとに持ち主の力を倍にしていくのが『赤龍帝の篭手』の能力。時間が経てば経つほど力は倍になり、いずれは上級悪魔や堕天使の幹部クラスに届くようになる。それに極めれば、神すら屠ることができるそうよ」

 

 

 この世界の歴史についてはまだ詳しないため、その『赤龍帝の篭手』がどれ程凄いのかは分からない。

 しかし、レイナーレの驚き方からして相当なものだということは伺えた。

 

 効果は僕の知識の中で言えばテンションに近い。

 無限にテンションを上げ続けるというのは強力だ。

 “あの特技”が怖いが―――

 

 

「じゃあ、最後のお勤めをしようかしらね」

 

 

 そういうとリアスは手に魔力を込める。

 どうやら、彼女(レイナーレ)を殺すつもりらしい。

 

 

「じょ、冗談じゃないわ!こ、この癒しの力はアザゼルさまとシェムハザさまに―――」

 

「愛のために生きるのもいいわね。でも、あなたはあまりにも薄汚れている。とてもエレガントではないわ。そういうの、私は許せない」

 

「イッセーくん! 私を助けて! この悪魔が私を殺そうとしているの! 私、あなたのことが大好きよ! 愛してる! だから、一緒にこの悪魔を倒しましょう!」

 

 

 このままでは殺される――――そう思ったのだろう。

 それまでの冷酷で大人びた声を、妙にあどけない、可愛らしい声色に変えイッセーくんに命乞いをする。

 推測ではあるが、おそらく彼を誘惑し、恋人になり済ましたときの調子なのだろう。

 

 だが―――

 

 

「グッバイ。俺の恋。部長、もう限界っス……。頼みます……」

 

「……私の可愛い下僕に言い寄るな。消し飛びなさい」

 

 

 イッセーくんは彼女(レイナーレ)の命乞いを受け入れなかった。

 リアスが滅びの魔力をレイナーレに浴びせようと手を翳し―――

 

 

 

 

「止めてくれ」

 

 

 僕が止めた。

 リアスが静止する。

 

 

「この娘は僕に預けてくれないか?」

 

「………何を言うの?」

 

「そうっスよ!! こいつのせいでアーシアが!!」

 

 

 リアスが信じられないという眼差しを向け、イッセーくんは激昂した。

 近しい者が傷つけられたのだ。その反応は当然と言える。

 

 

「……イッセーくん。君の気持ちは痛いほど分かる。

 友人を、恋人を、……そして家族を、傷つけられたら怒り狂い、憎しみを抱くのは当然だ。僕にも身に覚えがある」

 

 

 目の前で嬲り者にされ、炎に焼かれ断末魔を上げる父の姿―――

 今でもくっきりと目に焼き付いている。

 あいつらを、あの魔物達を一体どれ程憎んだか―――

 

 

「だったら!!」

 

「それでも、だ。君には僕と同じにはなって欲しくない。復讐とは虚しく、汚く、暗いものだ。君には似合わない。

 それに、だ―――彼女の行動の原動力になっていたのは愛だ。リアスは“薄汚れた愛”と言ったが、僕はそうは思わない。愛にきれいも汚いもない。僕はそう思う。

 無論、彼女のしたことに弁解の余地はない。他者の愛を踏み付け、アーシアさんの命まで奪った。

 ……だが、僕は彼女を更生させたい」

 

 

 チカラ―――それは恐ろしいものだ。幾らでも欲しくなってしまう。

 自分に勇者の力があれば……! どれほどそう願ったことか。

 偶々自分に勇者として以外の資質があり、

 勇者じゃない僕を認めてくれる人がいたから良かったが―――

 

 彼女にはそうした存在がいないのだろう。

 

 

「でも……!! それじゃアーシアが!!」

 

「………」

 

 

 ふむ……。やってみるしかないか……。

 

 レイナーレに歩み寄り、彼女の胸に手を当てて魂を探る。

 

 

 やはりそうだ。魔術の類で強引に結び付けられている。

 

 神器と所有者の魂は極めて一体に近い。僕はそう考えていた。

 そうじゃなかったら、神器を奪われたとしても命を失うというのはおかしい。

 自分の魂に他者の魂の一部を縫い合わせるなど、かなり無茶な魔術を使ったとしか思えない。

 睨んだ通りだ――――

 

 

「邪なる威力よ、退け マホカトール!」

 

 破邪呪文で魂の縫合を解きほぐす。

 そして―――

 

 宙に淡い緑色の光を放つ物体が現れる。

 無事に『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を摘出することができた。

 それを持ったままアーシアの亡骸の下に向かう。

 

 神器を彼女(アーシア)に戻した。

 

 よし、あとは彼女に蘇生呪文(ザオリク)をかけるだけだ。

 

 

 その時―――

 

 

 

 

 

「よくも……! よくも私の『聖母の微笑』を!!」

 

 

 

 

  グサッ……!

 

 

 

 ―――腹部を見ると光の槍が刺さっていた。

 レイナーレが僕を光の槍で後ろから刺したのだ。

 

 完全に油断していた。

 

 何故なら、普通に考えてありえないのだ。

 僕さえいなければリアスたちは満場一致で彼女(レイナーレ)を殺すだろう。

 

 彼女(レイナーレ)は生きたかった。浅ましくイッセーくんに命乞いしたことからそれは明白だ。

 言ってしまえば彼女の行為は地獄から脱出する為の蜘蛛の糸を自分で引き千切るようなものだ。

 

 故に絶対にあり得ない。そう思っていた。

 

 無論、彼女(レイナーレ)も冷静であればそんなことはしなかっただろう。

 だが彼女は死の恐怖からと、それから解放された安堵から茫然自失となっており、瞬間的に沸き起こった殺意を抑えることができなかったのだ。

 

 

 この場にいた誰もが一瞬、何が起こったのか分からなかった。

 だが、それを理解すると皆一斉に動き出した。

 

 リアスが滅びの魔力を、朱乃が雷を身に纏い、木場が魔剣を作りだし、小猫が長椅子を投げつけようとした。

 

 だが―――

 

 

「イルイル!」

 

 

  スイイィィィィィッ

 

 

「―――きゃあああぁぁぁっっ!!」

 

 

 

 僕の方が早かった。

 リアスたちの攻撃が届く前に、袋から取り出した魔法の筒にレイナーレを封じ込めた。

 

 

「ははは、ちょっと気が緩んでいたかな……」

 

 

  べチャ

 

 何かが落ちる音がした。

 下を見ると、それは自分の肝臓だった。

 

 ふむ………。ここ数年、酒を飲んでいなかったからな……。結構、健康そうな色だ。

 

 床に落ちた自分の内臓を冷静に観察し、拾って腹に空いた穴に押し込める。

 

 

「べホマ」

 

 

 自身の傷を回復させながら考えた。

 どうしてこうなったのか―――?

 いつもならあのくらいはどうとでもできるハズだ。

 普通に躱せるし、彼女の力では闘気を纏うなり、筋肉に力を入れるなりすれば、まず刃が通らない。

 

 単なる油断か? いや、いかに油断していても、あのくらいは反応できる。

 スーパーキラーマシンと戦って疲労してたのか? それも否、あれぐらいの敵と一日に何度も戦ったことがある。

 

 あれこれ考え、ようやっと答えに気付く。

 

 

 

 

 

 

  ―――寝不足だ

 

 

 

 

 自分がいかに強大な魔物を屠れるほど鍛えていようが、所詮人間だということを忘れていた。

 つまり、生活スタイルがイッセーくんたち悪魔と同じになっていたのだ。

 朝は早起きし、昼から夕刻にかけて図書館でこの世界のことを調べたりし、夜はイッセーくんたちと共に過ごす。

 一日二~三時間しか寝ていない。

 戦闘中はアドレナリンの分泌で何とかなるのだろうが、それ以外だと注意力が散漫になっても仕方がないと言える。

 

 参ったな。体調管理は冒険者の基本だろうに……。僕もまだまだ修行が足りないと言わざるを得ない。

 

 長椅子に腰かけ傷を回復させる。傷は大体回復したが、何だかだんだん眠くなってきた。

 

 

「あ~……、ゴメンね。大丈夫だ、問題ない。アーシアさんは――――」

 

 

 アーシアさんは起きてから蘇生させるのでそのままにしておいてくれ、そう言い終わる前に視界が暗転した。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

「……う~ん、ふぁ~……よく寝た……。あれ? ここどこだ?」

 

 

 辺りを見渡す。眠りに落ちた教会ではない。

 オカルト研究部のソファーの上だ。

 

 

「あら、起きたの?」

 

 

 リアスが声をかけてきた。他にも部屋の中にはイッセーくん、キバくん、ヒメジマ、トウジョウがいる。

 

 

「もう午後よ。それにしても凄いわね。体にあんな穴が空いて生きているなんて……。あなた本当に人間?」

 

「は、ははは……」

 

 

 するとそこに金髪の少女が現れた。

 

 

「リュカさんがお目覚めになられたのですか!?」

 

「あ、あれ?」

 

 

 目がおかしくなったのだろうか? アーシアが生きているように見える。

 戸惑っている僕を見てリアスが説明する。

 

 

「アーシアは私の僧侶(ビショップ)として蘇らせたわ。ちょうど駒が余っていたしね」

 

「は? えっ、それって悪魔になるってことじゃ……」

 

「はい……」

 

 

 そう言うと、彼女(アーシア)は恥ずかしそうに悪魔の翼を出した。

 

 

 

 

「えっ?え、えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!!!」

 

 

 

 おそらく生涯で最大の凡ミスである。

 

 

 

 

 




マホカトール:漫画「ダイの大冒険」より。範囲内の邪悪な力を消し去る効果がある。


リュカの弱点 その2:寝不足 それが続くと注意力が散漫になる。ゲーム的に言うと敵に先制されやすくなる。

『聖母の微笑』を引っぺがしたことについてはあんまり深くツッコまないで下さい<m(_ _)m>


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13話 リュカと愉快な仲間たち

やっと「旧校舎のディアボロス」の分が終わった……。
出来たらでいいので 感想、評価をお願いします。<m(_ _)m>


 

「……う~ん……、朝か……」

 

 

 仮住まいの六畳一間の襤褸アパート。

 毎朝恒例となった顔面に直射日光を浴びることでの目覚め。

 

 そしてこれまた恒例となった違和感。

 

 二の腕に掛かる重み―――

 しっとりとした柔肌の感触―――

 お湯の詰まった水風船のような乳房―――

 女性特有の扇情的な甘い香り―――

 

 ……またバイサーか。

 

 

 数日前に仲間にした女悪魔。

 仲間にした次の日から僕に懐き、毎朝、気が付くと同衾している。

 

 バイサーにも困ったな……。ん……?

 

 

 どうにも他に違和感がある。いつもと違う。

 

 一体、何が?

 

 そういえば両方の(・・・)二の腕に重みを感じる。

 それに、体の上(・・・)にも何かが乗っている。

 

 

「うーん……」

 

 

 重たい瞼を開けた。

 そこには―――

 

 

「あっ♪ おっはよー、お兄さま♡」

 

 

 金髪美少女の堕天使ミッテルトの顔があった。

 

 

「んっ……、目が覚めたのか? 御主人……♡」

 

 

 僕の左腕を枕にしていた青髪、妙齢の美女カラワーナが目を覚まし、ハスキーな、それでいて甘い声色で挨拶をしてきた。

 

 

「もうっ、新入りが出しゃばって……、おはよう御主人様♡」

 

 

 右腕を枕にしていたのは黒髪の美女バイサーだ。

 

 

「……どうしてこうなった?」

 

 

 ぽつりと呟いた。

 

 

 

  ◇

 

 

 

「君たちに言いたいことがいくつかある」

 

 

 目の前にいる三人の女性にお話する。

 

 

「僕は君たちの為にわざわざ布団を買った。バイサー……君にも、いつまでも毛布だけじゃ申し訳ないと思っていたからね。それなのにどうして僕の布団に入って来る?」

 

 

 するとカラワーナが答えた。

 

 

「そんなものは決まっている。御主人との約束で“負けたら性〇隷になる”と言ったからな。性〇隷である以上いつでも〇〇〇ができるように同衾するのは当然だ」

 

「カラワーナが余計な約束をしたせいで、ウチまで性〇隷になるハメになったっす……。

でも、お兄さまはかっこいいし、強いし、別に性〇隷でもいいっすけどね~♡」

 

「新入りに負けてらんないわ。御主人様の一番の性〇隷は私よ! だから、一緒に寝るのは当然じゃない」

 

 

 ……はあ?

 何を言ってるのかさっぱり分からない。

 取り敢えず次の質問をする。

 

 

「……え~っと……。じゃあ、次の質問だが……、君たちには寝巻も買い与えた筈だが……、何故着ていない?」

 

 三人の格好を見る。全員全裸だ。

 何もかも丸見えだ。バイサーのは見慣れたし、カラワーナのは以前見た。

 二人とも成熟した女性の色香に溢れている。

 豊満な乳房を隠そうともしない。寧ろ、僕に見せつけるかのようだ。

 ミッテルトの肢体は未成熟なものだ。

 しかし、背徳的な魅力がある。

 

 またもカラワーナが答えた。

 

 

「性〇隷なのだから当然だろう」

 

「そっすよ~。お兄さま♡」

 

「元々こいつらが来る前から裸だったじゃない」 

 

 

 訳が分からない。

 まあ、一つずつ整理していこう。

 

 

「まず、僕は君たちに性〇隷になってほしい何て言ったかい?」

 

「確かに約束したぞ」

 

 

 えっ……

 

 

 

  ――― そう思うかい? ……なら、こうしよう。リアスさんとヒメジマさんを殺さずに君たちを倒せたら……僕の仲間になってくれないか?

 

 

  ――― ふふふ、ああ、いいだろう。もしお前が勝てたら仲間にでも、愛人にでも、性〇隷にでもなってやる。勝てたらな!!

 

 

  ――― 約束だよ。

 

 

「え~っと……、あれは君が勝手に言っただけじゃないのかな?」

 

「ともかく約束は約束だからな。いつでも相手してやるぞ。何なら今でも―――」

 

「遠慮します」

 

「えっ!? ならウチとっすか?」

 

「遠慮します。というかどうしてそうなるの?」

 

「なら私とね? やっとその気になったのね♪ 嬉しいわぁ♡」

 

「遠慮します。というより、そんなつもりはないっていつも言ってるよね?」

 

 

 はぁ~~……。どうしよ、コレ……。

 まあ、ドロヌーバのヌーバや腐った死体のスミスが寝床に入ってきた時に比べればマシか……。

 

 

 かつて、元居た世界のことを思い出す。

 

 ドロヌーバのヌーバ――― 泥に魂が宿り魔物となった仲間モンスター。彼が入ってきたために毛布が泥まみれになった。

 

 腐った死体のスミス――― 屍が蘇り魔物と化した仲間モンスター。彼が入ってきたときは寝台に死臭が染みつき一週間は取れなかった。

 彼らの時も結局は許した。ドロドロだったり、腐ったりしていても彼らの素晴らしさが損なわれる訳ではない。

 相手の欠点を許容する心。それもまた愛だ。

 多少色ボケしててもそれは彼女たちの一部だ。受け入れるのも、また愛か……。

 

 

「まあ、いいや。それよりも朝食にしよう―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 バイサーとカラワーナが調理場で喧嘩している。

 元々堕天使とはぐれ悪魔は、狩るものと狩られるものの関係だ。

 多少仲が悪いのは仕方がない思っていた。

 だが今の状態は理解できない。

 

 

「分かってないわねぇ。御主人様は私の裸エプロンを見てるのよ。アンタは引っ込んでなさいな」

 

「引き下がるは貴様の方だ。御主人が見てるのは私の方だ」

 

 

 二人とも何故か裸に『きぬのエプロン』を装備し、僕がどちらを見ているかで揉めている。

 早く食事ができないかと思い目をやっているのだが……。

 

 やっと、朝食ができた。

 二人の料理はなかなか美味しい。

 

 カラワーナが言うには、堕天使は人間の男性を誘惑し堕落させるのが嗜みらしい。

 男性を手中に納めるには胃袋を掴むのが手っ取り早いと言う。

 

 その為、料理は出来るそうだ。

 ミッテルトは苦手らしいが……。

 

 

 和やかの雰囲気での食事。

 だが、ふとレイナーレの方を見る。

 

 警戒心、怯え、恐怖、怒り。それらが表情からにじみ出ている。

 全く箸が進んでいない。

 

 このままでは、彼女は精神的にもたないな……。と言うより、まだ心から僕を許してはいないらしい。

 

 彼女の計画を妨害したことへの怒り、僕を光の槍で刺したことへの報復に対する恐れ。

 それがまだ心の中に残っている。

 

 よし! 今日の昼は彼女とお話しよう。

 

 

 そう決意した。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

「ギラにょ! ギラにょ! ギラにょ!」

 

 

 街外れの空き地。今日もミルたんを呼び、魔法を教えることにした。

 今日は閃光魔法(ギラ)だ。

 

 そして、バイサー、カラワーナ、ミッテルト、そしてレイナーレも連れてきた。

 

 新しく仲間になったカラワーナとミッテルトの特性を見る。

 

 

「ふむ……」

 

「どうしたんだ、御主人……そんなじっくり見つめて……」

 

「君はいい体つきをしている」

 

「えっ? な、何を急に……♡」

 

 

 僕が褒めるとカラワーナはその整った顔を紅潮させる。

 

 

「ああ、体格がいいし筋肉の配列もいい。鍛えればいい武闘家になれる」

 

 

 そう言って彼女(カラワーナ)を武闘家に転職させた。

 その後の転職プランとしては 武闘家 ⇒ 戦士 ⇒ バトルマスター が最適か。

 

 つづいてミッテルトもじっくりと観察する。

 

 

「な、なな何っすかぁ!?」

 

「君はなかなかに華があるな……。よし」

 

 

 ミッテルトは踊り子に転職させた。

 転職プランは 踊り子 ⇒ 遊び人 ⇒ スーパースター と言う流れがいいだろう。

 

 二人の転職は済んだ。あとは、レイナーレだが……。

 

 

「少し、二人で話そうか……」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 バイサー、カラワーナ、ミッテルトに組み手をさせている。

 そこから少し離れた場所で、僕とレイナーレは向かい合った。

 

 

「さて、君は癒しの力を得るために『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』を奪うために、アーシアさんを殺した。

 今朝、話したかと思うが僕は異世界の人間だ。

 君がヒトを殺してまで手に入れようとした力も努力次第で手に入るものだ。

 君が望むのなら教えてあげよう。どうだい?」

 

「……嫌よ」

 

「どうしてだい?」

 

「人間風情に何が分かると言うの!! 

 私は上を騙し『聖母の微笑』を手に入れた。私は至高の堕天使になれる!

 私をバカにしてきた者たちを見返すことができる! そう思ったのに……あの癒しの力をもってアザゼルさまとシェムハザさまに愛を頂ける……そう思ったのに!!

 あなたはそれを奪った!! 『愛の本質は与えるもの』? 巫山戯るんじゃないわよ!!」

 

 

 ことの善悪を除けば、確かに彼女の愛は強い。覚悟もあった。退路を断った乾坤一擲の行動だったのだろう。

 それを潰されたのだ。恨みは大きい、ということか―――

 

 

「だが、それでは“君”がなくなる」

 

「は?」

 

「『聖母の微笑』を得れば『アザゼルさまとシェムハザさまに愛を頂ける』……。それでは君という人格はその才能の付属品だ。『聖母の微笑』が愛されるのであって、“君自身”じゃない」

 

「………何よ、ソレ…………」

 

 

 僕はレイナーレをそっと抱きしめた。

 そうしながら、かつて元の世界での出来事を思い出す。

 今にも泣きそうに目を腫らした最も愛おしい少年の姿が目に浮かぶ。

 

 

 

 ――― お父さん……ぼくとポピーと、どっちが好きなの? ―――

 

 

 

 かつての過ち。世界中を探し回り、ようやく見つけた勇者だった息子。

 かつて自分が装備できなかった天空の剣を容易く装備し、自身のみでは出来なかった魔界からの母の救出、それを可能たらしめる唯一の希望。

 僕は初め、息子を息子として以上に勇者として見ていた。

 それ故に言われてしまった言葉。

 

 

「……レイナーレ、君は君だ。たった一人のレイナーレだ。

 珍しい『神器(セイクリッド・ギア)』の持ち主でなくてもいい。力など持ってなくてもいい。

 ただ、君がレイナーレであるというだけで、僕は君を愛そう」

 

「……別にアンタに愛されたって………」

 

 

 思いを込めた言葉を語りかける。彼女(レイナーレ)も多少は揺らいだか―――だが彼女は頑なだ。

 

 

「それはそれでいい。君は君であるというだけで僕から愛される。不都合があるのかい?」

 

「それはないけど……」

 

「なら、いいじゃないか……。君がそれでも力が欲しい、そう思うなら僕を利用すればいい。僕は君にできることをしよう。異世界の術も教えよう。君を守ろう。君を大切にする……」

 

 

 レイナーレの目と僕の目が合う。彼女の瞳からは悪意はもうない。もう少しだ―――

 

 

「分かったわ……。あなたの仲間になる」

 

 

 やっと了承してくれた。ようやく胸を張ってこう言える。

 

  レイナーレ が 仲間に なった!

 

 

 彼女(レイナーレ)をより強く抱きしめた――――

 

 

 

 

 どんな異世界でも心は通じ合う。魂は通じ合う。愛は通じ合う。

 腕の中にいる堕天使の少女こそがその証明だ。バイサー、レイナーレ、カラワーナ、ミッテルト……この世界でも新しい仲間が四人も出来た。

 

 ……いや、ミルたんも入れると五人だろうか。ふと目を横にやると――――

 

 

「ギラにょ!」

 

  グアアァァァッ!!

 

 

 ベギラマぐらいの閃光で的を消し炭にするミルたんがいた。

 

 

「できたにょ!」

 

「……物凄いな」

 

 

 

 

 それと次の日から、僕の布団にレイナーレも入って来るようになってしまった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 冥界某所

 

 大戦で滅びた七十二柱のひとつ、冥界の中でも名門とされた最上級悪魔の屋敷。

 かつては栄華を誇ったのであろう豪勢な屋敷は、今や見る影もない。

 大戦終結後も放置されており、まさに荒れ放題。

 冥界の悪魔達も近づかなかった。

 

 

 その館の地下

 そこに三人の男たちがいた。

 一人は帽子にトレンチコートを着た壮年の堕天使、ドーナシークだ。

 (ドーナシーク)はあとの二人に跪いて許しを乞うている。

 

 

「済まぬ! 計画は失敗した! だが最善は尽くしたのだ。どうか、神の子を見張る者(グリゴリ)には口添えを―――」

 

「キィ~ヒッヒッヒィ……なぁ~にが“最善を尽くした”じゃ!

 目的を果たせずして戻ってくるとは……。お前は“道具”ですらない。完全なる“ゴミ”じゃ!!」

 

 

 二人いるうちの小柄なほうが責め立てる。

 すると、もう一方が前に進み出た。

 

 

「ほっほっほっ そのようなことはありませんよ。あなたはゴミ等ではありません。

 私がなんとかしましょう……。どうか(おもて)をおあげください」

 

 

 長身の男がドーナシークの顎に手を添えて顔を上に向かせる。

 

  カハァァァァ

 

 

 男がドーナシークに毒々しい橙色の息を吹きかけた。

 それを浴びると、堕天使は痙攣し動けなくなった。

 

 

「ほっほっほっ もう一度言います。あなたは“ゴミ”などではありません。彼はこのまま邪配合槽か超魔生物の研究室へ……。

 “ゴミ”ではなく“資源”として有効に使わせて戴きましょう。ほっほっほっ」

 

 

 その言葉を聞き、二名の悪魔神官がドーナシークを部屋から運び出した。

 

 

「しかし、使えませんなぁ。ワシらの計画では神器を堕天使に移したうえで回収、それを邪配合、もしくは超魔生物の材料に……。

 そして、スーパーキラーマシンでグレモリー・シトリー両家の後継者を抹殺し戦争再開という一石二鳥を狙ったのですがなぁ……」

 

「あまり欲張ってもいけませんよ。

 そもそも、この計画の目的は『聖母の微笑』の持ち主を人間以外の種族にすることです。人間ではいかに強力な神器を持っていても邪配合・超魔生物、どちらの材料にも適しませんからね。 

 堕天使になるはずだった者が悪魔になっただけ。それでも良しとしましょう」

 

 

 男たちが話していると部屋の中にもう一人の男が入ってきた。

 

 

「グブブブブブ……。今、戻ったぞ………」

 

 

 異様な風体の男だ。ずんぐりとした大柄な体格にフード付きの黒衣を身に纏っている。

 フードの中にはいくつもの眼光。腕はヒトのそれではなく昆虫などの節足動物を思わせる。

 一目で人間でないことが分かる男だ。

 

 

「おや、お戻りになりましたか。首尾はいかがでしたか?」

 

「上々だ。なかなか面白い冥府であった。ハーデスなる神が統治していたな。

 だが、我の秘術を用いれば露見せずに干渉することも可能だ」

 

「ではその方針で。あまり事を荒立てぬよう。今は拙速より巧遅のほうが好ましいでしょう」

 

「うむ……」

 

 

 

 

 

「ほっほっほっ 全ては我が主の為に……」

 

 長身の男の常にうすら笑いを浮かべている口元が、更に吊りあがった。

 

 

 

 

 

 




暗躍する謎の集団。一体何者なんだ……?


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使い魔の森編
14話 使い魔


出てきた以外にも色々と仲間にしています。


 

「おや、奇遇だね」

 

 満月の夜の不気味な森、住まいのアパートがある街から遠く離れたこの地で知人に出会った。

 いや、正確に言えば知悪魔か。男性が二人に女性が三人、いずれも年若い少年少女達だ。

 

 

「リュカさん……こんばんはッス」

 

 

 イッセーくんが僕に挨拶した。

 リアス、ヒメジマ、トウジョウ、キバとも同様に挨拶を交わす。

 

 

「ところでどうしてこんな所にいるんだい?」

 

「使い魔を探しに来たんスよ」

 

「……使い魔?」

 

 

 使い魔は悪魔にとって基本的なもので、主の手伝いから、情報伝達、追跡など、臨機応変に扱える契約した魔物のことらしい。

 僕もたくさんのモンスターを仲間にしてきたが“契約”というのはしたことが無いから実に興味深い。

 

 

「リュカさんはどうしたんスか?」

 

「僕もバイサーに言われたんだよ。ここには色々な魔物がいるから“仲間”にしてくればいい、ってね」

 

 

 彼女(バイサー)にこの世界の魔物の興味がある、と話したらここを紹介されたのだ。

 バイサーには何か思惑があったみたいだが、それが何かは分からなかった。

 

 

「ゲットだぜ!」

 

「きゃっ!」

 

「だ、誰だ!」

 

 

 近くの木の上から突然声がしてきた。声の主は剽悍な風貌の青年だ。

 

 

「俺の名前はマダラタウンのザトゥージ! 使い魔マスターを目指して修行中の悪魔だ!」

 

「ザトゥージさん、例の子たちを連れてきたわ」

 

 

 どうやら、リアスの知り合いらしい。ザトゥージと名乗る青年悪魔はイッセーくんとアーシアを見る。

 

 

「へえ。さえない顔の男子と金髪の美少女さん。OK! 任せてくれ! 俺にかかればどんな使い魔でも即日ゲットだぜ!」

 

「彼は使い魔に関してのプロフェッショナルよ。今日は彼にアドバイスをもらいながら、この森で使い魔を手に入れるの」

 

 

 使い魔のプロフェッショナル……謂わば同業者ということになるのだろうか。

 “魔物使い”と“使い魔マスター”、もし同じものなら是非、この世界の魔物について教示を賜りたいものだ。

 

 

「さて、どんな使い魔がご所望かな? 強いの? 速いの? それとも毒持ちとか?」

 

「いきなり毒持ちとか危険極まりないこと言わないでくださいよ。で、どんなのがオススメですかね?」

 

「俺のオススメはこれだね! 龍王の一角―――『天魔の業龍』ティアマット! 伝説のドラゴンだぜ! 龍王唯一のメスでもある! いまだかつてゲットされたことはないぜ! 

 なんでも魔王並みに強いって話だからな!」

 

 

 彼が示したのはついさっき(・・・・・)倒した巨大な龍だった。

 お友達にはなったが、仲間にはしなかった。

 何故なら、なぜか魔法の筒に入らなかったからだ。

 その代わりにベルの様なものをくれた。

 どこかで見たことがある物に非常に良く似ている。

 

 

「あの、こんな最初からクライマックスな使い魔はいいんで、もっと捕まえやすくて友好的なのいませんかね?」

 

「ハハハ! そうか、ならこれだ! ヒュドラ!」

 

 

 イッセーくんが他のオススメを尋ねる。

 ザトゥージが次に示したのはさっき新しく仲間になった多頭の蛇と同じ種族だ。

 

 

「こいつはスゴいぞ! 猛毒だ! どんな悪魔もこいつの毒には耐えられない! しかも不死身! 主人も毒殺する最悪の魔物だ! な? 有効的だろ?」

 

 

 ああ、確かにその毒は強力だった……キアリーで解毒できたが。

 イッセーくんに譲ってあげようか。

 

 

「いや! そういうんじゃなくて!? そうッスね、かわいい女の子系とか……」

 

 

 ヒュドまる はいらないらしい。

 女の子系? カカロンとかクシャラミなら召喚できるが―――

 

 

「かぁ~、これだから素人はダメなんだぜ! いいか? 使い魔ってのは強くて自身の欠点を補ってナンボだ。それに真の使い魔マスターを目指すなら同じ種類の雄牝を何匹かずつ捕まえる。その中から強いのを選びその二匹を交配させ……」

 

「―――もういい」

 

 

 彼の話を黙って聞いていたが、我慢できなくなり途中で遮る。

 

 

「君の言うことは一面では正しい。僕がこれまで行った世界でも、魔物同士を配合し、より強い魔物を生み出すことが盛んな世界もあった。だが、君は大事なことを忘れているよ」

 

「……大事なこと?」

 

「それは“絆”だ。人と魔物……もとい悪魔と魔物の絆がなければ、どんなに強い使い魔も無意味だ。真の使い魔マスターなら、強い使い魔ではなく好きな使い魔で勝てるよう努力すべきだ」

 

 

 僕の考えを話し終えた。

 すると、ザトゥージは目に涙を浮かべた。

 

 

「……そ、その通りだったぜ……。使い魔マスターを目指して幾年……、そんな大事なことも忘れちまってたとは……、情けないぜ」

 

「しかし君には熱意がある。その熱い心を忘れなければ、いつか真の使い魔マスターになれるさ」

 

 

 

 

 

 

 しばらく歩いて―――

 

 

 そこは不気味な森にあって、神聖な雰囲気が漂う泉に着いた。

 

 

「この泉にはウンディーネという水の精霊が住み着いているんだぜ!」

 

「おお、水の精霊! 名前からして恐らく……未来のハーレム王として側に置きたい、耳かきと称して膝枕させて、そしてそっと手を伸ばし、その神秘に溢れてやまないお、おっぱいを……はぁ……はぁ……!」

 

 

 なにやら、良からぬ妄想をしているらしい。

 そんな邪な思いでは仲間になるものもならない、そう言おうとしたとき―――

 

 

「い、泉が!」

 

 

 泉が輝き始めて―――

 

 

「フゥゥンガアァァァッ!!」

 

 

 現れたのは筋骨隆々とした、女性型の魔物だった。

 

 

「あれがウンディーネだぜ!」

 

「いやいやいや! あれはどう見ても水を浴びに来た格闘家ですから!!」

 

「運がいいぜ、少年! アレはレア度が高い! 打撃に秀でた水の精霊も悪くないぜ!」

 

「悪い! あれじゃ癒し系というより殺し系じゃねえか!」

 

「でもあれは女性型だぜ?」

 

「最も知りたくない事実でした……」

 

 

 何が気に入らないのだろうか?

 すると、もう一体のウンディーネ(こちらも同じくらい体格がいい)が現れた。

 そうして、先にいた個体と戦い始めた。

 

  ガキッ! ゴスッ! ベキッ!

 

 壮絶な肉弾戦だ。

 イッセーくんは完璧に引いている。

 

 死闘の末に先にいた方が敗れた。

 これから彼女はどうなるのだろうか―――自然の摂理とはいえ、何だかやりきれない気持ちになる。

 

 

「イッセーくんは仲間にしないのかい?」

 

「しませんよ!!」

 

「そうか……」

 

 

 そっと、敗れて地に伏したウンディーネに近づく。

 

 

「残念だったね……。ところで、僕の仲間にならないか?」

 

「ナニ? 同情ナドイラン」

 

「同情……。確かにそうだ。僕は君に同情している。住処を追われ、取り戻すために辛く苦しい鍛錬をしなくてはならない、それも一人でだ。

 一人で戦うことの辛さは分かるつもりだ。なら、一人より二人がいい。

 君の苦しみを思うと、僕が辛い。僕を助けると思って、仲間になってくれないか?」

 

「オマエヲ助ケル……。ワカッタ、仲間ニナル」

 

 

 

 ディーネが 仲間に なった!

 

 

 

「今、戻った……。どうしたんだい?」

 

「……イヤ、何でもないッス……」

 

 

 イッセーくんはとんでもないものを見た、という顔をしていた。

 一方、アーシアさんは感動で泣いていた。

 

 

「スゴいです! あんなふうに敗れて傷ついた女の子を救ってあげるなんて尊敬します!」

 

「たいしたことではないよ……。相手を思いやる気持ちがあれば誰にでもできることだ」

 

 

 そう、誰にでもできること―――それなのに実践する人は少ない。

 皆がそうすれば、きっと皆が豊かになる、その筈なのに。

 

 

 

 

 

 

 また、しばらく歩いて――――

 

 

「待て、見ろ!」

 

「ドラゴン!?」

 

「あ、かわいいです!」

 

蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)。蒼い雷撃を使うドラゴンの子供だぜ!」

 

 

 蒼雷龍、何だかどこかで見覚えがある……ああ、さっき仲間にしたスプろうの小さいやつか。

 もしかしたら、スプろうの子供かもしれない。

 

 

「これはかなり上位クラスですね」

 

「私も見るのは初めてだな」

 

「僕も見たのは、さっき仲間にしたやつに続いて二匹目だな」

 

「―――え?」

 

「ゲットするなら今だぜ。成熟したなら手に入れるのは無理だからな」

 

 

 そうなのか。だとするなら、さっきのもまだ子供なのだろう。

 全長は15mぐらいだがまだ成長するのか。

 異世界で仲間にした“あの龍”ぐらいになるのかもしれない。

 

 

「イッセーくんは赤龍帝の力を持ってますし、相性はいいんじゃないかしら?」

 

「成る程、よし!蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)。君に決め―――」

 

 

 イッセーくんがヒメジマの提案を受け、蒼雷龍を仲間にしようとしたとき、急に上から何かが降ってきた。続いて林から蔦が伸びてくる。

 

 

「きゃあああ!!」

 

 

 アーシアが悲鳴を上げた。彼女の全身に緑色のスライム(?)がへばり付いている。

 彼女の側にいたキバくんにも襲い掛かり、目の辺りにへばり付いて彼の視界を遮っている。そういうところを見ると、この魔物たちは意外に賢いのかもしれない。

 

 

「ふ、ふおおおおお!?」

 

「あらあら、はしたないですわ」

 

 

 リアス、ヒメジマ、トウジョウにも緑色の生物が纏わりつき、蔦が巻きついている。

 

 よく見ると三人の衣服が溶け始めている。

 強い酸でも出しているのだろうか?だとしたら三人が危ないが、皮膚が溶けている様子はない。

 

 

「……見ないでください」

 

「ごふっ!?」

 

 

 イッセーくんがトウジョウに殴られた。見ない方がいいらしいが見ないと助けられない。

 どうしたものか――――

 

 

「こいつには名称は特にないが、衣服を融かす特性を持つスライムだ。

 それとただの触手だな。こいつらはよくコンビを組んで獲物を襲うんだ。

 獲物って言ってもスライムは衣類、触手は女性の分泌物目当てで、目立った害はないんだが……」

 

 

 なかなか、珍しい特性だ。先に装備品を破壊するとは……。

 ダンジョンのトラップとして配備し、勇者の防具をダメにする――エビルマウンテンなどにそうした罠がなくて良かったと安心する。

 

 

「珍しいスライムと触手でもないが、森の探索中には迷惑な生き物でね。こういうのは火の魔力で一気に蒸発させるのが一番なんだが……」

 

「部長、俺はこのスライムと触手を使い魔にします! 服を融かす! 女性の分泌物を食べる! 俺の求めていた人材です」

 

 うん、良いんじゃないのかな! スライム族には伸び代がある。鍛えれば意外に強くなるかもしれない。植物系モンスターも状態異常に強く安定性が高い。悪くない選択だ。

 

 それに、僕が初めて“戦闘”で仲間にしたのはスライムのスラりんだ。

 そんなことを思い出してしみじみとした気分になった。

 だが、リアスたちは気に入らなかったらしい。

 

 

「あのね、イッセー。使い魔は悪魔にとって重要なものよ? ちゃんと考えなさい!」

 

「分かりました」

 

 

 返事をしたイッセーくんは考える仕草をした。一瞬だけ。

 

 

「やはり、使い魔にします!」

 

「イッセー、考え込む姿勢になってから三秒も経ってないわよ」

 

「嫌だい! 嫌だい! 俺はこのスライムと触手を使い魔にするんだい。俺の求めていた奴らなんです! こいつらを使って俺は羽ばたきたい! 上を目指していきたい!」

 

 

 そうこうしている内に、三人はスライムと触手を振り払い、リアスは消滅の魔力で、ヒメジマは雷で、トウジョウは素手で攻撃しようとし、イッセーくんが彼女達からスラ太郎と触手丸を庇おうと前に出る。

 

 

「うぅ、スラ太郎ぉぉぉ。触手丸ぅぅぅ! 俺の大切な相棒達は絶対に守ってみせる!!」

 

「あらあら、もう名前までつけているのですね」

 

「……このスライムと触手をここまで渇望する悪魔は初めてだよ。驚くことばかりだ。世界は広いな、グレモリーさん」

 

「ゴメンなさい。この子欲望に正直な子だから、時々暴走するの」

 

 

 

 

「止めなさい」

 

 

 

  ピタッ!

 

 

 僕が宥めると、蔦とスライムが動くのを止めた。

 

 

「よしよし、物分かりのいい子たちだ。お腹が空いていたんだね?」

 

 

 袋から魔物の餌を取り出してそれを与える。触手もスライムも魔物の餌に喜んで食い付く。今がチャンスだ。

 

 

「さあ、イッセーくん。契約を―――」

 

 

「「「ダメよ!!!」」」

 

 

 女性陣の声がハモッた。

 

 因みにアーシアは蒼雷龍の子供を使い魔にし、「ラッセー」と名付けた。

 イッセーくんの収穫はゼロだった。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 それから数分間、何故かリアスから説教を受けた。

 曰く、悪魔にとって大事な使い魔にあんな生き物を勧めるとは何事だ、とか

 少しは空気を読め、とか―――

 

 

「ああ、わかった。スラ太郎と触手丸は僕が引き取る。それでいいんだね」

 

「そんなぁ~、俺のスラ太郎と触手丸ぅ~……」

 

「ゴメンね……でもリアスさんのお願いだから。スラ太郎と触手丸は僕が責任を持って幸せにするよ」

 

 

 

 

 

 翌朝

 

 

「何コレ?」

 

「ああ、新しい仲間で名前は―――」

 

 

 

 

 

「「「「「捨ててこい!!」」」」」

 

 

 アパートが触手とスライムまみれになって皆からすごく叱られた。

 

 

 

「捨てるのは勘弁してくれ! 何とかするから!!」

 

 

 

 僕は袋からとある物を取り出した――――

 

 

 

 

 

 

 それと、バイサーはゴミ出し用の使い魔が欲しかったらしいが、ディーネが手伝うようになって少し楽になったらしい。

 

 

 

 




キアリー:Ⅱ以降に登場する、味方一人の毒、猛毒状態を治療する呪文。

魔物のエサ:Ⅴ、Ⅶ、モンスターズ1、2、テリワン3Dに登場する道具。効果はにおいぶくろ(フィールド)+行動封じ(戦闘中)。戦闘中の場合、地味にゴンズに効く。


ティアマットは私が真性ビビりである為に「この後、原作で出てきたら矛盾するなぁ……」という考えから出せませんでした。


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15話 転身と再会

前回の番外編の続きです。
次回から2巻になります。


 

「きれい……。これはなぁに? 御主人様」

 

 

 僕が袋から取り出した光り輝くハート型の物体。それは“モンスターの心”だ。

 かつて訪れた異世界の一つ―――そこで、発明家の老人から「ハートゲッター」なる品を貰った。何でも、その老人は純粋にモンスターへの好奇心からこの装置を作ったらしい。その正体はモンスター達から“心”を貰える機械だ。

 しかし、懐いたモンスターからのみではあるが。

 

 僕は魔物に懐かれることが多い。

 だが、全ての魔物が仲間になってくれる訳ではない。彼らにも子育てや狩りなどの事情があるのだろう。

 そうしたとき、“心”を置いていってくれるのだ。

 

 やがて袋の中が“心”でいっぱいになった。

 しかし、何に使えばいいのか分からない。せっかく貰った“心”をどうすれば良いのか、全く見当もつかなかった。

 

 それからしばらくして、また別の世界に渡ることとなるのだが……

 その行き着いた世界にあったダーマ神殿の神官をしていた蒼髪の少女にある秘技を教わった。

 それが“転身”である。

 

 転身―――二つのモンスターの心を用い魔物を別の種族に変えてしまうという、まさに秘術

 

 その少女神官の元での血の滲むような研鑽を経て、ようやく会得することができた。

 

 

 

「…………へぇ……」

 

 

 自身に起きた出来事をバイサー、レイナーレ、カラワーナ、ミッテルトに話したが、彼女たちはポカンとしている。

 話が突飛過ぎて、あまり良く理解できなかったらしい。

 

 

「え~っと……、ともかく、だ。今からスラ太郎と触手丸を転身させる。君たちはスラ太郎に服を溶かされたり、触手丸に絡まれたりするのが嫌なんだろう? でも、それは“転身”で無くせることだ」

 

「分かったわ。じゃあ、そうしてちょうだい」

 

 

 レイナーレが一同を代表して答えた。

 僕はスラ太郎と触手丸に向き直る。

 

 

「では、スラ太郎、触手丸。この中から二つずつ選んでくれ」

 

「マッテクレ」

 

「ディーネ……どうしたんだい?」

 

 

 今まで黙って話を聞いていたディーネが間に割り込んで来た。

 

 

「ソレ、ヤルト強クナレルカ?」

 

「う~ん……、たぶん……そうなると思うけど」

 

 

 転身を繰り返すことで、ただのスライムがゴールデンスライムになったとか、ただのドラゴンが神龍になるまで至った、などとも聞き及ぶ。

 

 

「ナラ、オレモシタイ。モット強クナリタイ」

 

「別にいいけど……」

 

 

 ディーネの申し出も受け入れ、いくつもの“心”を並べて見せる。

 やがて、三体とも二つずつ“心”を選んだ。

 

 

 「では、始めるよ」

 

 

 三体の仲間たちに、それぞれが二つずつ選んだ“モンスターの心”を、その魂魄に交わらせる。

 スラ太郎、触手丸、ディーネの肉体が、まばゆい光の渦に溶けていく。

 

 さて、どんなモンスターに転身するのだろうか。

 

 スラ太郎はバブルキングとかがいいな。触手丸はローズバトラーあたりか……。ディーネはグラコスとかのパワー系がふさわしいと思う。

 

 そんなことを考えている内に、三体の肉体が再構成され始めた。

 

 そして―――

 

 

 

 

  スラ太郎 は スラ忍ピンク に転身した!

 

  触手丸 は ローズダンス に転身した!

 

  ディーネ は 水の精霊(Ⅶ) に転身した!

 

 

 

 緑色のスライムは、桃色の忍び装束を身に纏い、エンゼルスライムを摸したヘルメットを被った少女に―――

 

 蔦だけしかなかった魔物は、赤いバラと妖艶な美女が合わさった姿の魔物に―――

 

 筋肉質で大柄なウンディーネは、下半身は魚で、上半身は白磁のような肌を豪奢な衣で覆った神秘的な美女に―――

 

 

「やったよ! 御屋形サマ♪

 人型になれたんだ。 これで、もっといっぱい可愛がってもらえるね♡」

 

「ふむ……。ワタクシも人型に近い魔物になれたようです。これからは女の分泌物ではなく……。殿方の、いえ、主さまの精〇で栄養が摂取できますね♡」

 

「オオ、コノ体ハ……。イママデ、ニガテダッタ魔法モツカエソウダナ。 ソレニ、ツヨクナルタメニ女ハステテタガ、コレナラ雄ト……オマエト子作リデキルナ♡」

 

 

 

 

「……………」

 

「「「どういうことなのかしら……?」」」

 

 一人の悪魔と、三人の堕天使が鬼のような目で睨みつけてくる。

 僕にも何が何だか分からない。

 う~ん……ディーネは分かるんだが……。スラ太郎と触手丸は―――

 

 

「君たち♀だったの?」

 

「「はい♪」」

 

 

 ……き、気付かなかった……。

 でも一応、転身は無事終了だ。レイナーレたちに御伺いを立てることとしよう。

 

 

「ま、まあ……、これで一緒に暮らせるだろう?」

 

「「「―――ちっ」」」

 

 

 ……何でそんなに怒ってるのかな……? ま、いっか……。

 何はともあれ、こうしてスラ太郎、触手丸も無事に受け入れられた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――

 

 

 

 

「いくにょ! メラッ!」

 

「ギャオオオオォォォッ!!」

 

 

 今日もミルたんを呼んでいる。

 メラとギラを使えるようになった彼を実戦形式の戦いで鍛えることにしたのだ。

 対戦相手は先日仲間にした ジュラすけ だ。

 

 バイサーの話では ジュラすけ は地龍の一種で、この世界では恐竜とも言われているらしい。

 僕の知識にある中ではダッシュラン系の魔物に近い。

 育てばかなり大きくなるらしいが、今はそれ程でもない。せいぜい8mぐらいだ。

 

 

 

 

 

 そこから少し離れた場所で――――

 

 

「御主人様は何をしているの?」

 

「ああ、元居た世界に残してきた仲間モンスターたちを呼びだそうかと思ってね……」

 

 

 世界を隔てている壁を乗り越えて、異世界から魔物を召喚するのは難しい。否、不可能と言えるレベルだ。

 だが、僕には母の血が流れている。そしてこの世界で新たに得た知識。様々な異世界を 渡って得た強力なアイテム。

 

 それらを合わせれば―――

 

 

「御屋形サマの御家来衆か~……。どんな方々なんだろ~?」

 

「ワタクシも興味がありますね」

 

「オレモ興味アル。ツヨカッタラ戦イタイ」

 

 

 転身した魔物である彼女たちも興味があるらしい。

 バイサーたちと共に覗きこんでくる。

 

 皆の前で魔法陣を書いていく。

 基調(ベース)はこの世界の悪魔の召喚陣、そして昨日見た使い魔の召喚陣だ。

 それに、異世界で学んだルーンの秘文字を付け足す。

 

 触媒に使うのはルラムーン草、ルーラストーン、時の砂、そして世界を渡ると言う神鳥レティスの羽―――

 

 よし、理論的にはこれで上手くいくはず!

 

 

「来い―――――ッ!」

 

 

 魔法陣を発動させる。

 そして、袋からある物を取り出した。

 

 

  プオォ――――――!!

 

 

 

 バロンの角笛―――遠地から馬車を呼びだす力を持つ魔法のアイテム

 

 それを魔法陣に向けて盛大に吹き鳴らす。

 

 

 

  バアァーーーーーーーーーーーッ!!

 

 

 魔法陣が凄まじい光を放つ。視界が一時的に真っ白になる。

 そして、その閃光が止んだ先には――――

 

 

 

「ピキッ?」

 

「ガロロロロロ……?」

 

「これは一体……」

 

 

 

 青い小さな生き物が―――

 

 赤い鬣が生えた大きな豹が―――

 

 緑色のスライムに騎乗した騎士が―――

 

 

 

「スラりんッ! プックルっ! ピエールっ! やっと……、やっと会えた!!」

 

 

 ―――その姿が目に入った瞬間、僕は堪らず三体を強く抱きしめた。思わず目元が潤む。

 

 

「ピキキー!?」

 

「ガロロロ」

 

「リュカっ!?」

 

 

 自分にとっては元居た世界の仲間たちとの、おそらく数年ぶりの再会であった。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

「そうか……そちらではたったの三週間か……」

 

「“たったの”ではありません! 我々は必死になって探していたのですよ?」

 

 

 ピエールたちから聞かされた話だと元の世界では僕が行方不明になって、まだ三週間しか経っていないらしい。僕の体感ではもう数年は経ったと思っていたが、どうやら世界ごとに時間の流れが異なるようだ。

 

 そういえば、行った異世界の一つに、元の世界の大昔だと考えられる世界があったな……。

 

 エンドール王国―――確か大昔に滅んだという国の名だ。それなのにその世界ではとても栄えていた。

 もしかすれば、元の世界に戻っても何百年も過ぎている可能性もあるようだ。……そこは運次第か。

 

 

「ともかく、無事で何よりです。今は何をされているんです?」

 

 

 ピエールが尋ねてきた。

 

 

「……そうだね。仲間を育成したり人助け……いや、悪魔助けかな? それをしたり……」

 

「仲間とはこの方々ですかな? 初めまして。私はピエールと申します。こちらは、プックルとスラりんです」

 

「ピキキーッ!」

 

「ガルルル」

 

 

 僕の元の世界での仲間たちを見て、スラ太郎、触手丸、ディーネは元気よく挨拶する。

 

 

「初めまして♪ スラ太郎でぇーす」

 

「ワタクシは触手丸です。以後お見知りおきを」

 

「オレハ ディーネ ダ。ヨロシク」

 

 

 一方、バイサー・堕天使たちは――――

 

 

「――――えっ? 何コレ………」

 

「その獣はまだ分かるが、その青色の珍妙なやつは何だ。御主人?」

 

「ちょっと期待ハズレっすよォ~」

 

「そんな奴らを呼びだすのにこんな大掛かりなことをしたワケ?」

 

 

 四人の表情は微妙だ。特にスラりんが気に入らないらしい。

 

 

「いいかい? スライムを笑う者はスライムに泣くよ」

 

 

 そう忠告しても―――

 

 

「何処の異世界の言葉? でも所詮スライムでしょ」

 

 レイナーレが小馬鹿にするように言った。どうやら完全にスラりんを舐め切ってるようだ。

 プックルを除けば最も古い付き合いのスラりんを、ここまで馬鹿にされては少々腹立たしい。

 それに敵を見た目で判断するのはあまり良くない。

 彼女たちには少し灸を据えた方がいいだろう。

 

 

「分かった。だったら腕試しだ。君たち四人でスラりんと戦ってみなさい」

 

「幾らなんでも私たちを馬鹿にし過ぎよ」

 

「レイナーレ様に同意見だ」

 

「ウチもっす」

 

「堕天使と同意見ってのも癪だけど、私も」

 

 

 なかなか乗ってこない。それなら……

 

 

「あぁ……、だったら、もし君たちが勝てたら、僕ができることであれば何でもしてあげよう……。それならどうだい?」

 

「えっ? 何でも!?」

 

「御主人と!?」

 

「何でも!?」

 

「していいの!?」

 

「あ、ああ……」

 

 

 物凄い勢いで食いついてきた。皆、目の色が変わっている

 

 たぶん、異世界の秘術を教えろ、とか言うのだろう……。それなら仮に負けても問題はないが。

 

 

「ああ、それでやるかい?」

 

「ええ、勿論よ!! 御主人様と……ウフフフ♡」

 

 

 バイサーが代表して答えた。

 堕天使三人もやる気を出したらしい。

 

 

 

 

「よろしい、――――では、始め!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ―――五分後

 

 

 

 

 

 悪魔一人と、堕天使三人が地面に倒れ、伸びていた。

 

 思っていた通り、ほとんどスラりんのワンサイドゲームだった。

 堕天使三人娘の光の槍は硬化魔法(スクルト)でかすり傷しか与えることができず、その与えた傷も瞑想で立ちどころに回復され、混乱魔法(メダパニ)で錯乱したミッテルトがレイナーレにパンチをかまし、灼熱の炎でバイサーとカラワーナが黒焦げになった。

 

 

「流石、御屋形サマの家臣! 私も早く追いつきたいですぅ~」

 

「ええ、凄かったですわね」

 

「オレモ、アノグライ強クナリタイ」

 

 

 観戦していたスラ太郎たちが歓声を上げた。

 

 

「いった~。よくもやったわね、ミッテルト!」

 

「ひえ~っ! ゴメンなさい、レイナーレお姉さま!」

 

「……強い、強すぎる……!?」

 

「もうっ、こんなの詐欺じゃない! 御主人様の鬼!悪魔!」

 

 

 敗れた四人は口ぐちに文句を言う。

 

 

「アハハ……何だかゴメンね。でも、(スラりん)も初めからこんなに強かった訳じゃない。寧ろ、君たちよりずっと弱かった」

 

「本当に?」

 

 

 レイナーレが信じられない、といった口ぶりで囁く。

 

 

「ああ、だから君たちが彼と同じだけの研鑽を積めば、今の(スラりん)以上になれる」

 

「リュカ……。分かったわ、やってみる」

 

「ピキキーッ!!」

 

 

 スラりんが怒ったように言う。そう簡単に追いつかれてたまるか、と――――――

 

 

「フフッ……悪かったね。でも、プックル、ピエールにも聞いて欲しい。確かに、君たちは強い。極限まで鍛えられ、種族の限界にまで達している。だが、僕は異世界で色んな術を学んだ。それらを用いれば、君たちをもっと強くできる。また、修行の日々になるけどやってみるかい?」

 

「ピキキーー!?」

 

「ガルッ!?」

 

「本当ですか!? ……勿論、お受けします!」

 

 

 皆の向上心は素晴しい……! 僕も負けてはいられないな。もっと頑張らねば!

 

 ふと目をやると―――

 

 

「ギラにょぉぉぉ!!」

 

「ギャオオオオオ!?」

 

 

 ミルたんがジュラすけをギラで吹っ飛ばしていた。

 

 

「勝ったにょ!」

 

「…………とんでもないな」

 

 

 

 




転身:キャラバンハートの基幹的なシステム。前モンスターズシリーズの配合の代わりとなるもの。

ルラムーン草:Ⅴに登場。ルーラ習得に必要。

ルーラストーン:Ⅹに登場するアイテム。

神鳥レティス:Ⅷに登場。世界を渡る力を持つ神の鳥。元の世界に帰る為なら、こいつを捜せばいいんじゃ……。

バロンの角笛:Ⅳに登場。


キャラバンハートは今にして思うと割と名作だったと思う。
特に馬車隊での戦闘が大勢で戦ってる感が凄かったですね。
3DSでリメイクしないかなぁ……。

Q.この魔法で元の世界に帰れないのですか?
A.帰れません。

Q.どうしてですか?
A.御都合主義  


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戦闘校舎のフェニックス
16話 高貴なる義務


ザ・説明回


   

 

「リアスさんの様子がおかしい?」

 

 

 午後、いつもなら昼寝をする時間帯。

 イッセーくんから電話が掛かってきた。実は最近、スマホなるカラクリを買ったのだ。

 “スマホ”というらしい。これがなかなか便利だ。急に好物の小魚などが食べたくなったときに、買い物中のバイサーにすぐ知らせることができる。実に便利だ。

 

 

 

「ええ、―――その、昨日の晩……」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「リアスに夜這いされた!?」

 

「ええ……まあ、そうッスね………」

 

 

 正直、驚いた。

 勿論、リアスがイッセーくんに好意を持っていることは薄々気づいていたが、こうも急にアプローチをかけるとは思わなかった。

 いや、どうもおかしい。しっくりこない。

 僕の印象では彼女はかなり誇り高い。段階を飛ばして貞操を捨てようというのはリアスらしくない。

 

 

「ふむ……確かにおかしい。分かった。今日、部活に顔を出そう」

 

「あ、あざっす」

 

「リュカ、お出かけですか?」

 

「ああ、ピエール。行ってくるよ」

 

 

 こうして、駒王学園に出かけることにした。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 駒王学園オカルト研究部

 部室内は妙に張り詰めた空気だった。いつもの和気藹藹とした雰囲気じゃない。

 

 

「あらあら。リュカさん、ようこそいらっしゃいました」

 

 

 僕を見ると、まず副部長のヒメジマ・アケノが挨拶してきた。

 そして、いつものオカルト研究部のメンバー以外にもう一人いる。

 メイド服を着た銀髪の女性だ。

 

 

「おや? 初めまして、僕の名前はリュカ。流浪の旅の最中だが、今はこの街に滞在している。君は?」

 

「グレモリー家でメイドをしております、グレイフィアと申します。以後、御見知りおきを」

 

 

 メイド、ね……。

 どうも、おかしい。……何故ならこの女性は、どう見てもリアス達より強いからだ。

 この世界で戦った者の中では、おそらく使い魔の森に住んでいたティアマットに次ぐレベルだ。

 ひょっとすると劣化版スーパーキラーマシンより強いかもしれない。

 それなのに、どうしてメイドなどしているのだろう? 主家の者より強いメイド……ボディガードでも兼ねているのだろうか?

 

 

「それより皆、どうしたん―――」

 

 

 次の瞬間、強い魔力の波動を感じた。何か来る―――!

 

 突如として床から魔法陣が現れた。見たことがない紋章だ。以前目にしたグレモリー家の物ではない。眩い炎がめらめらと巻き起こり、その中から一人の男が現れる。

 

 

「―――フェニックス」

 

 

 その姿を見たキバくんが囁くように言った。この場にいる全員がその男を注視する。

 

 

 

「ふぅ、人間界は久しぶりだ。――愛しのリアス。会いに来たぜ」

 

 

 ……出てきたのは、赤いスーツを着た美青年だ。だが、どこか悪ぶっている雰囲気がある。服の仕立ては良く本来は品の良いモノなのだろうが着崩されている。しかし、だらしないという印象は薄い。何と言うべきか……そう、どこか退廃的な感じだ。しかし、それが良く似合っている。

 彼は気取った感じでリアスに話しかけた。

 

 

「さて、リアス。早速だが、式の会場を下見しに行こう。日取りも決まっているんだ、こういうことは早め早めの方が良いと言うしな」

 

「……放してちょうだい、ライザー」

 

 

 青年が軽い調子でリアスの腕を掴んだ。リアスは冷たく拒絶する。

 

 

「おいアンタ、部長に対して失礼だぞ! つーか、女の子に対してその態度はどうなんだよ!?」

 

 

 イッセーくんが青年に食ってかかった。

 

 

「……ん? リアス、俺のことをこの下僕に話してないのか?」

 

「話す必要がないから話していないだけよ」

 

「兵藤 一誠様。リュカ様。この方はライザー・フェニックス様。純血の上級悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家の御三男。そして、グレモリー家次期当主の婿殿でもあらせられます。……リアスお嬢様とご婚約されておられるのです」

 

 

 “婚約”―――その言葉を耳にしたイッセーくんが愕然とした。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

「いやあ、リアスの『女王(クイーン)』が淹れてくれた紅茶は美味いものだな」

 

「痛み入りますわ」

 

 

 リアスと同じソファに座り、彼女の太股を撫で回しながらヒメジマの淹れた茶の味を褒めるライザー。当のヒメジマの声には何となしに棘があったが……。

 それを見ているイッセーくんは怖い顔をしている。

 

 

「いい加減にしてちょうだい、ライザー! 以前にも言ったはずよ! 私はあなたと結婚なんてしないわ!」

 

 

 リアスが激昂し、ライザーくんの手を払いのけ、立ち上がって宣言する。

 

 

「ああ、前にも聞いたよ。だが、リアス、そういう訳にはいかないだろう? 

 君のところの御家事情は、そんな我儘を言えないくらい、かなり切羽詰っていると思うんだが?」

 

「余計なお世話だわ! 私が次期当主である以上、婿の相手ぐらい自分で決めるつもりよ。父も兄も一族の者も皆急ぎすぎるわ! 当初の話では、私が人間界の大学を出るまでは自由にさせてくれるはずだった!」

 

「その通りだ。君は基本的には自由さ。大学に通ってもいいし、下僕も好きにしたらいい。

 だが、リアスのお父様もサーゼクス様も心配なんだよ。御家断絶が怖いんだ。ただでさえ、先の戦争で純血悪魔が大勢死んだ。戦時を脱したとはいえ、堕天使、神陣営とも拮抗状態。奴らとのくだらない小競り合いで純血悪魔の跡取りが殺されて、不幸にも御家が断絶したなんて話も珍しくはない。

 純血の、上級悪魔の御家同士が結びつくのはこれからの悪魔情勢を思えば当然だ。純血の上級悪魔。その新生児が貴重だってことを、君だって知らないわけじゃないだろう?」

 

 

 ――――種の存続。

 確かに難しい問題だろう。上級悪魔達が自分達の一族を守ろうとするのは理解できる。どんな生き物でも子孫を残そうとするのは当然だ。

 だが、どうやらリアスは全く乗り気ではないらしい。思い切り顔をしかめている。

 

 

「私だってグレモリー家を潰すつもりはないわ。婿養子だって迎え入れるつもりよ」

 

「おお、流石リアス! じゃあ、さっそく俺と―――」

 

「でも、あなたとは結婚しないわ、ライザー。私は私の良いと思った相手と結婚する。

 古い家柄の悪魔にだって、それくらいの権利はあるわ」

 

 

 リアスが柳眉を逆立てきっぱり言い切る。

 それを聞きライザーくんは相当機嫌を悪くしたみたいだ。

 

 

「……俺もな、リアス。名門フェニックス家の看板を背負った悪魔なんだよ。この名前に泥を塗らせるわけにもいかないんだ。

 こんな狭くてボロボロな人間界の建物なんかに来たくなかったしな。というか、俺は人間界が好きじゃない。この世界の炎と風は汚い。炎と風を司る悪魔としては、耐えがたいだよ!」

 

 

 そう言うなり、彼の周りに紅蓮の炎が生じる。

 それもなかなかの火力だ。規模からしてレイナーレ達より間違いなく上だろう。

 

 

「俺は君の下僕を全部燃やし尽くしてでも、リアス……君を冥界に連れ帰るぞ」

 

 

 物騒なことをのたまうライザーくん。険悪な雰囲気が場を支配する。

 そろそろ止めようかと思った、その時―――

 

 

「お嬢様、ライザー様、落ち着いてください。これ以上なされるのでしたら、私も黙って見ているわけにもいかなくなります」

 

 

 グレイフィアさんが進み出た。すっかり冷静さを失っていたライザーくんもリアスさんも落ち着きを取り戻す。

 

 

「……最強の『女王』と称されるあなたにそんなことを言われたら俺も流石に怖いな。

 化け物揃いと噂のサーゼクス様の眷属を敵に回すなんて絶対にしたくないからね」

 

 

 やはり彼女は見立て通り、只者ではなかったらしい。そのグレイフィアさんが静かに提案する。

 

 

「こうなることは、旦那様もサーゼクス様もフェニックス家の方々も重々承知でした。ですので最終手段を取ることにいたします」

 

「最終手段? どういうことグレイフィア」

 

「お嬢様、どうしても御自分の意思を押し通したいとおっしゃるのでしたら、ライザー様とレーティングゲームにて決着をつけられてはいかがでしょうか?」

 

 

レーティングゲーム―――勢力を大きく減退させた悪魔が、転生により強力な眷属を増やし、かつ仲間を減らすことなく実戦経験を詰めるため、現政権で優遇されているゲームであり、実力主義の冥界では、そのゲーム成績が爵位や地位にまで大きく影響する。

爵位持ちの上級悪魔達が、自身「王」と下僕を文字通りチェスの駒として、対戦相手の駒と戦う。基本的に成人した悪魔しか参加することが出来ない。ゲームではおよそあらゆる戦法が認められており、戦闘不能となった駒は強制的に除外されて治療を受けるため、死者は出ないようになっている。

 

 

 確か、そんなようなものだった筈だ。リアス達からそれについて話を聞いたとき、今まで巡ってきた世界にはモンスター同士を戦わせるバトルGPというものがあったが、僕は何となくそれを連想した。

 

 

「そんな簡単な条件があるのなら、もっと早く言って欲しかったわね、グレイフィア。

 いいでしょう、ライザー。レーティングゲームでこの話を終わらせてあげるわ」

 

「調子に乗るなよ、リアス。俺はすでに成熟しているし、公式の試合も何度かやっている。今のところ勝ち星の方が多い。それでもやるかリアス?」

 

「やるわ。ライザー、あなたを消し飛ばしてあげる!」

 

 

 二人とも血の気が多いな。もっと話し合えばいいのに……。

 

 そんなことを思っているとライザーくんがこちらをジロジロと見回してきた。

 そして、どこか小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 

 

「なあ、リアス。まさかここにいる面子が君の下僕なのか?」

 

「そこにいるバンダナの彼は違うわ。人間の友人よ。……だとしたらどうなの?」

 

「これじゃ、話にならないんじゃないか? 『雷の巫女』ぐらいしか俺の可愛い下僕に対抗できそうにないな」

 

 

 そう言って、彼は指をパチンと鳴らす。

 すると魔法陣が出現し、そこから十五人の悪魔達が現れた!

 

 皆、なかなかに面白い。それなりの力を感じる。

 鍛えたらけっこう伸びそうだ。何故か全員♀だが……。

 

 

「と、まぁ、これが俺の可愛い下僕達だ」

 

「……なっ、なっ、何て男だ~~……ッ! おぉう……おぉう……!!」

 

 

 近くから嗚咽が聞こえてきたので横を見ると、何故かイッセーくんが盛大に涙を流していた。

 

 

「おい、リアス……この下僕くん、俺を見て大号泣してるんだが……」

 

「その子の夢はハーレムを作ることなの。きっと、ライザーの下僕達を見て感動したんだと思うわ」

 

「キモいですわ……」

 

「ライザー様ー、このヒト気持ち悪ーい」

 

 

 ピンク色のドレスを着た少女が引き攣った表情でぽつりと呟く。

 他のライザー眷属の娘もドン引きしている。

 

 ゴメン、僕も少し気持ち悪いと思ってしまった……。

 

 すると、ライザーくんが人の悪い顔をした。

 何やらイッセーくんに見せつけるつもりらしい。

 

 

「ユーベルーナ!」

 

「はい、ライザー様……」

 

 

 赤紫の髪に魔道士姿の美女が進み出た。

 その眷属悪魔をライザーは抱き寄せる

 そして―――

 

 ディープキスをし始めた。

 

 ほう! 素晴しい……。確かにライザーくんと眷属達は固い愛情で結ばれ合っている。

 

 だが、甘い。

 僕レベルならエンプーサのキャシーや腐った死体のスミスともあれぐらいイケる。

 スミスの舐め回しで顔中ベトベトになったこともある。

 

 でも、求婚している女性の前ですることではないんじゃないだろうか……?

 僕も結婚してからは自重している。少なくとも妻の前では……。

 

 

「どうだ、お前では、こんなことは一生できまい。下級悪魔くん?」

 

「畜生! だけどお前みたいな女ったらしと部長は不釣合いだ!」

 

「は? おまえ、その女ったらしの俺に憧れているんだろう?」

 

「うっ、うるせぇ! それと部長のことは別だ! そんな調子じゃ、部長と結婚したあとも他の女の子とイチャイチャしまくるんだろう?」

 

「英雄、色を好む。確か、人間界のことわざだよな? いい言葉だ。まあ、これは俺と下僕達とのスキンシップ。お前だってリアスに可愛がってもらっているんだろう?」

 

 

 “英雄、色を好む”、か……伝説の勇者である息子も将来こうなるのだろうか……?

 一刻も早く帰って諭さなければ、改めてそう決意した。

 

 一方、イッセーくんは怒りが頂点に達したらしく『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を取り出し、ライザーくんの前に進み出た。

 

 

「ゲームなんざ必要ねぇさ! 俺がこの場で倒してやらぁっ!」

 

「ミラ、やれ」

 

「はい、ライザー様!」

 

 

 主人の命令を受け、棍使いの少女がイッセーくんに襲い掛かってくる!

 

 

  バシンッ!

 

 

 流石に暴力沙汰は良くないと思い、僕がイッセーくんの前に進み出て、彼女の棍を素手で止めた。

 目を剥いて驚くミラと呼ばれた少女とライザーくん。

 

 

「あはは、イッセーくんもライザーくんも、暴力は良くないよ」

 

「何だ、人間!!」

 

「リュカさん! 何でこんな奴を!!」

 

 

 ライザーくんもイッセーくんも怒りの表情を見せる。

 これは彼らを諌めねばなるまい。二人を諭そうと、努めて冷静に話す。

 

 

「……イッセーくん、君の気持はわかる。君がリアスくんを慕う思いも重々承知している。確かに彼は些か軽薄で、フェニックスという種族であることと、家柄に胡坐をかいている。

 ―――だが、彼にも美点はある。ライザーくんは自分の家の為に誇りを懸けている。それは尊敬すべきことだ」

 

 

 

――― 国王たる者 身内のことよりまず国のことを考えねばならぬはず!

 

     なのにお前は ここに来てしまった。

 

     それだけで十分に死に値するぞ。わっはっはっはっ!

 

     さあ!ふたり仲よく死ぬがよい!                 ―――

 

 

 

 

 ジャミ……妻を攫ったあの忌々しい馬魔。あの魔物の言葉が脳裏を過ぎる。

 父を殺した仇の一人だが、この言葉は正論だ。僕が軽挙妄動し、妻を救いに行ったために、国の者達に多大な迷惑を掛けた。

 

 とくに叔父のオジロン―――本人は“自分は人がいいだけが取り柄の凡庸な男”と言うが、彼こそライザーくんが言うところの“英雄”だ。

 黙々と与えられた職責を全うする。そういう人物には敬意を払うに値する。

 何故なら自分にはできない―――否、してこなかった生き方だからだ。

 

 そういう意味ではライザーくんの生き方は否定できない。

 

 しかし―――

 

 今度はライザーに向き合う。

 

 

「……だが、君の言行にも問題があると、僕は思う」

 

「何だと!?」

 

「貴族が家の為に結婚する―――。これは、言ってしまえば“高貴なる義務”の一つだ。

 家の為に“私”を犠牲にするから皆が傅く……。だが、男性は女性にそうと思わせてはならない―――それは言うなれば“男の器量”だ。君の発言からはそれが感じられない」

 

 

 尤も、僕にはこんな説教をする資格なんてないんだが……。

 それを聞いていたライザーもリアスも渋い顔をする。

 この二人を納得させるには『レーティングゲーム』とやらでケリを付ける他ない。だが、それでもリアスが納得するとは思えない。

 

 それなら―――

 

 

「ライザーくん、グレイフィアさん。僕に提案がある」

 

「何?」

 

「どのような提案でしょうか」

 

「僕自身は見ての通りただの人間だが、僕には悪魔の仲間が何人かいる。その中からリアスさんの不足している駒、僧侶(ビショップ)一つ、騎士(ナイト)一つ、戦車(ルーク)一つの分を彼女に貸したい」

 

「何だって!?」

 

「このゲームはライザーくんがリアスさんの愛を勝ち取るためのゲーム、言うなれば試練だ。試練とは厳しければ厳しいほどその価値を増す。

 ライザーくんが有利なゲームに勝っても、リアスさんは心の中では納得しないだろう。 寧ろ、ライザーくん側が不利になって、初めて試練となりうる」

 

 

 僕の時もそうだった。

 結婚のため、―――実際には天空の盾のためだったが、危険な火山に潜ったり、マーマンだのオクトリーチだのが巣くう滝の洞窟に入って結婚指輪を探し求めたりした。

 

 

「しかし、それではリアスさんに肩入れすることになってしまうな……。

 グレイフィアさん、その『レーティングゲーム』はいつやるんだい?」

 

「十日後を予定しております」

 

 

 十日か……なら――――

 

 

 

 

 

 

 

「よろしい。では、その十日間でライザーくん、リアスさん、両方を僕が鍛えよう!」

 

 

 

 この場にいる僕の言葉を聞いた全員が一人の例外もなく大口を開けて凍り付いた……が、そんなことには構わず説明を続ける。

 

 

「この勝負はリアスさん側を有利にしなければならない。そうでなければ試練にならないからだ。

 しかし、ただ試練を課すだけでもいけない。何故なら僕は部外者だ。悪魔の将来を決める権利など無い。

 それなら、ライザーくんに試練を課すが、それを乗り越えれるようにサポートし、リアス達もより強くなれるようサポートする。それが僕の為すべきことだろう」

 

 

「はあ!?」

 

「何を言っているの、リュカさん!?」

 

「それなら公平(フェア)だ。

 よし、一日目はライザーくん側を鍛えよう。善は急げだ!」

 

「―――えっ!? 何言ってんの、こいつ……」

 

 

 ライザーくんは戸惑っているみたいだが、こうなったら徹底的にやろう。

 そう決心し呪文を連続発動させる。

 

 

「リレミト、ルーラ!」

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 某国 砂漠地帯

 

 一面の砂漠、辺りには一切人影がない。それもそうだ。気温50度の中をほっつき歩く人間はそういない。

 燃えるような日差しが照りつける、まさに修行にはぴったりな環境だ。

 そこにライザーくん達と共に転移してきた。

 

 

「よし! では君達の実力を見よう。掛かってきなさい」

 

「え、えっ? はぁ? 何を言ってるんだ、お前?」

 

 

 どうやら、まだ戸惑っているらしい。

 ここは少々強引だが先制攻撃するとしよう。

 そう、まずは小手調べ―――

 

 

 

 

 「バギマ!」

 

 

 

 




オジロンさんはマジ苦労人。

次回 リュカズ・ブート・キャンプ


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17話 特訓

   

 

「バギマ!」

 

 

 手始めに取り敢えず中級真空呪文(バギマ)を唱えた。小手調べのため故に威力は落としてある。

 真空の刃を帯びた竜巻が、砂煙をあげながらライザーくんたちに襲いかかった。

 手加減したとはいえ聖なる力を帯びた竜巻だ。そこそこのダメージを受けたライザーくんは怒る。

 

 

「キ、キサマァァァッ!! 人間が付け上がりやがって! ミラ、やれ!!」

 

「は、はい! ライザー様!!」

 

 

 先程イッセーくんを攻撃しようとした棍使いの少女が襲い掛かってきた。

 黒髪に和服姿が良く似合い、動きにしなやかさがある。

 そんな彼女があっという間に間合いを詰め、イッセーくんに打ちかかったときより数段鋭い突きを放ってくる。

 

 その突きを軽く往なして、カウンターの回し蹴りを放った。

 

  ブンッ! 

 

 

「ギャッ!」

 

 

 回し蹴りをミラという少女の腹へモロに入れた。闘気を用いず力も加減もしたが、それで彼女は気を失った。悪魔にしては少々脆いと言わざるを得ない。

 

 

「悪くない腕だった。鍛えればもっと伸びるな……。

 だが、ライザーくん。君の指示は良くないぞ。戦力の逐次投入は愚策だ。相手は一人、なら一斉に掛かるべきだと思うんだが……」

 

 

 僕の言葉に更に怒りを募らせるライザーくん。

 眷属悪魔達に向かって青筋を立てて叫ぶ。

 

 

兵士(ポーン)達、プロモーションだ! 上級悪魔を怒らせたらどうなるか、この人間に教えてやれ!!」

 

「はい!」

 

 

 体操服姿の双子らしき娘達、踊り子の様な姿の少女、メイド、猫耳が生えた種族の娘。

多様な見た目のいずれも可愛らしい少女達が怖い顔をして進み出る。

 

 

プロモーション――― 敵地において、他の駒の特性を得る兵士の能力。特に、最強の駒である女王(クイーン)になれば戦局が変わるほど強力らしい。

 

 

 つまり、事実上の女王七体。

 それが一斉に向かってきた。

 

 

「ふむ! そうだ、悪くない判断だ!! だが―――」

 

 

  真 空 波 ! !

 

 

 “真空波”―――それは格闘の上級技の一つ。真空の刃の渦で大勢の敵を一網打尽にする。

 体全体で風の刃を生み出し、周辺にあるサボテンだの岩だのをすべて破壊しながら向かって行く。

 そして、その真空の波がライザーくんの兵士達全員を飲み込んだ。

 

 

「キャアアアアアァァァッ!!」

 

 

 強烈な風の渦の中で錐揉みにされ、向かってきたライザーの兵士は全滅した。

 

 

「もう少し攻め方に工夫が欲しかったな」

 

 

「グッ……! イザベラ、カーラマイン! いけ!」

 

「ウオオオオッ!!!」

 

 

 仮面を被った女が素手で殴りかかり、鉢巻きに鎧を纏った女戦士が剣で斬りかかって来る。

 どちらもなかなかの腕前だ。

 

 イザベラは女性にしては背が高く、徒手空拳で戦うスタイルらしい。体捌きがいい。

カーラマインは魔法剣が得意みたいだ。剣が炎を帯びている。それなりの火力がある。

 

 しかし―――

 

 

「いいかい? 敵だけを見ちゃダメだ。周りを―――戦場も見るんだ」

 

 

  ザッ!!

 

 地面を蹴った。駆け出したという意味合いではなく文字通りに。

 当然、砂漠の大地でそれを行えば―――

 

 

「うっ……目に砂が……っ! 姑息な真似をッ!!」

 

 

 巻き上げられた砂埃がイザベラとカーラマインの瞳を直撃する。

熟練の冒険者であればすぐに目をそらし回避するが、彼女達に砂漠戦の経験はないらしい。

 簡単に目を潰せた。

 

  ビシッ バシンッ

 

 視力に頼ることができない二人に手刀を振り降ろし、気絶させることができた。

 

 

「シーリス! 雪蘭! 美南風! もう構わん! 殺してしまえ!」

 

騎士(ナイト)戦車(ルーク)を全線に出すのは当然だが、僧侶(ビショップ)を前に出すのはいただけないよ? 自棄にならず……もっと冷静に」

 

 

 冷静さを失って叫ぶライザーに、僕は苦言を呈する。

 だが、よっぽど腹に据えかねたのか、彼は聞く耳を持たない。

 しかし、無茶苦茶な指示にも拘わらず、(ライザー)の忠実な下僕達は健気に向かって来た。

 

 

 シーリスは黒髪をポニーテールにした女剣士。先程のカーラマインとは異なり大振りな剛剣を構え突撃してくる。

 雪蘭は青い武闘家の服をきた少女。拳に炎を纏っている。魔炎気の類だろうか?

 美南風は十二単を着た黒髪の女性……、動きづらくないのか少々気になる。両手を翳し魔法を放とうとしている。

 

 

 まあ、受けてみるか……。

 

 避けるだけでは実力が見れない。軽く闘気を纏い防御の姿勢を取る。

 

 シーリスの剣が―――

 雪蘭の拳が―――

 美南風の魔力弾が―――

 

 暴風雨のように一斉に降り注いできた。

 

  ドガアァァン!!

 

 それらの攻撃による衝撃で大きな砂煙が立った。

 

 

「フンッ! ざまあみろ」

 

 

 ライザーくんが勝ち誇った声で嘲笑する。どうやら僕が倒れたと思ったらしい。

 

 

 

 

「ムーンサルトッ!」

 

 

 空高くに跳躍し、砂煙から飛び出す。

 三人の少女の攻撃を回避し、そして、そのままの勢いで独楽のように回転。速度をつけて―――

 

   グワンッ バシッ! バシッ! バシッ!

 

 落下時の重力と回転の遠心力が加わった蹴りで三人とも吹っ飛ばした。

 更に、そのついでに―――

 

 

「ラリホー!」

 

「えっ? ……zzz」

 

 

  ドサッ

 

 

 戦闘要員じゃなさそうだったピンクのドレスを着た少女を、仲間が瞬く間にやられたことに驚いている隙を突き睡眠魔法(ラリホー)で昏倒させる。

 

 

「ユーベルーナ! 分かっているな!!」

 

「はい! おまかせを!」

 

 

 最後に残った眷属悪魔として女王らしき魔道士装束を纏った紫色の髪の堂々たる美女が進み出た。確かライザーくんとディープキスしてたやつだ。

 

 

「はあっ!!」

 

 

  ボオォン!!

 

 杖を構え一瞬で魔法陣を展開し、なかなか強力な爆撃魔法を放ってきた。

 イオラくらいの威力はある。

 

 爆破によって、またしても砂煙がもうもうと発生する―――

 

 

「……やったか?」

 

「やってないよ、メラミ!」

 

 

 後ろに飛んで威力を殺し、受け身を取ったためダメージはほとんどない。

 ライザーくんの呟くような問いに応え、ユーベルーナに向けてメラミを撃った。

 それが彼女(ユーベルーナ)に直撃する。

 

 

「ギャアアアアアァァァッ!!」

 

「ユーベルーナ! この畜生がぁァッ!!」

 

 

 最後の腹心がやられ、ついにライザーくんが出てきた。

 

 

「絶対に許さんぞ……。人間」

 

「えぇ……そんな怒んなくても……。火力を加減したから死んでないよ?」

 

 

 当然である。特訓でヒト……もとい悪魔を殺すほどトチ狂ってはいない。

 だがその言葉は逆効果だったらしい。

 

 

「加減だと……! 人間が、このライザー・フェニックスに対して……許さん!!」

 

 

 彼が全身に火を纏う。

 なかなかの火力だ。“激しい炎”に匹敵する、いや超えるかもしれない。

 対抗する為に大きく息を吸う。

 

 

「死ねえェェェッ!!!」

 

 

 ビュウオオオオォォォォッ

 

 

 僕は全身を震わせ凍える吹雪を吐いた。

 ドラゴンの職業で身に付けた冷凍ブレス―――

 灼熱の砂漠も、そこだけ極地並の極寒地帯と化す。

 

 ガチッ ピキピキッ……

 

 

「なっ……何だと……! 俺が凍る!?」

 

 

 ライザーくんも炎を纏い抵抗しようとしたが……火の鳥(フェニックス)があっという間に氷漬けになった。

 

 

 

 周りを見渡せばライザーの眷属たちが全員倒れている。

 だが、みんな筋がいい。伸び代がある。

 

 

 「これはいい特訓になりそうだ」

 

 

 ぽつりと呟いた。

 

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 

「さて、……ってどうしたんだい?」

 

 

 全員を極大回復呪文(べホマズン)で回復させたあと、彼女たちは一人、また一人と目を覚ました。

 彼女らは僕の前に座らせる。

 だが、最後に目を覚ましたライザーくんは震えている。

 どうやら、少しやり過ぎたらしい。

 

 

「うぅんと……、怖がらなくてもいいんだよ?」

 

「べ、別に怖がってなんかいないッ!!」

 

「そうか……」

 

 

 強がりが言えるだけでも根性が据わっている。

 それはそれで立派なことだ。

 

 

「さて、先程スマホで連絡した。グレイフィアさんが僕の提案を了承してくれた」

 

 

 先程はノリで飛び出してしまったが、後々考えると許可も何も取っていない。

 それで連絡したのだ。因みにこの砂漠は圏外だったので日本に一度戻り、おやつのアイスを買った。あとで皆と一緒に食べよう。

 ついでに、リアスさんたちの特訓も始めるように手配した。

 ピエールが物凄く張り切っていたから大丈夫だろう。この世界で仲間にした者達もいるし……。

 

 

「そして、これからの修行のプランなんだが―――「おい」……ん、何だい?」

 

 

 ライザーくんに途中で遮られた。

 

 

「何のつもりなんだ? お前。これは悪魔の問題だ。人間のあんたが関わっても何の得にもならないだろう? 一体どうしてこんなことをする」

 

「勿論、君とリアスさんのためだ」

 

 

 迷わず答える。

 

 

「いいかい? レーティングゲームの勝敗は飽く迄“手段”だ。“目的”じゃない。

 仮に君がリアスさんに負けたとしても、彼女が君の奮戦を認め、自分のことを愛してくれていると認めてくれるのなら、敗北しても何の問題もない。

 ―――しかし、逆も言える。君が勝っても彼女が認めなければ、たとえ結婚できても、その結婚には“愛”がない。それは不幸だ。君にとっても、リアスさんにとっても……違うかい?」

 

 

 ライザーくんは心では納得できない様子だったが、頭では理解は出来たらしい。

 渋々頷いた。

 

 

「僕とリアスさんは短い付き合いだが、彼女の優しさは良く分かっている。僕はリアスさんに幸せになってもらいたい。―――そして君もだ」

 

 

 ライザーくんの眷属悪魔達を見まわす。

 

 

「君はこんなに大勢の眷属たちに慕われている。なら君には出来る筈だ。 

 これさえ乗り切れれば、きっと彼女(リアス)も認めてくれる……そんな試練を用意する。その試練を乗り越えれるように君達を鍛え上げる。ついて来てくれるね?」

 

「ああ、分かった……」

 

 

 ライザーくんもようやく了承してくれた。

 

 

「よろしい! では各々に相応しいコーチを付けよう」

 

 

 まずは兵士を見る。

 棒術使いのミラにはキラースコップのラモッチを宛てがう。

 他の子たちは基礎体力だ。プリズニャンのプリズンとブラウニーのブラウンに担当させる。

 

 次は騎士のカーラマインとシーリスだ。

 カーラマインにシュプリンガーのリンガーを、シーリスにはソルジャーブルのブルートが付く。

 テクニックタイプとパワータイプの違いを考慮した人選ならぬ魔物選だ。

 

 戦車の二人はアンクルホーンのアンクル、ゴーレムのゴレムスに任せる。

この二人は僕の魔物の中でも強者だ。存分にやってくれるだろう。

 

 僧侶の二人もタイプが違う。そもそも、レイヴェルは戦闘要員じゃない。

だが、僕の見立てでは回復呪文の才能がある。よって担当はホイミンだ。

美南風は攻撃よりなので魔法使いのマーリンが付いた。

 

 女王ユーベルーナ。何でも『爆弾王妃(ボム・クイーン)』なる二つ名があるらしい。

 確かに彼女の爆撃魔法は素晴しかった。

 よって得意分野を伸ばす。ミニデーモンのミニモンに任せる。

 

 最後にライザーくんだが……炎を伸ばすには寧ろ逆の力、即ち冷気を操る魔物の方がいいのではないか?そう考えた。

 その考えに従い、イエティのイエッタ、ブリザードマンのヒエール、ホークブリザードのブリードの三体を付けた。十日後までには倍の火力を身に付けれるだろう。

 

 

「彼らは皆、僕の大切な仲間たちだ。実力は僕が保証する。彼らに従えば十日でも見違えるほど強くなれるだろう」

 

「クソッ、こうなりゃヤケだ! やってやるよ!!」

 

「ああ、その意気だ」

 

 

 こうして、ライザーくんにとって生涯で最も苦しい修行の日々が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――

 

 

  日本

 

 

 スマホで連絡し、リアスさん達の修行場所に向かう。

 森の奥らしい。それらしい建物が見えてきた。

 

 僕の仲間たちも一緒に修行している……きっと効果は倍増してるだろう。

 

 

 ドゴオオオオン!!

 

 凄い音がした。

 六人の若い男女が全力で走ってきた。

 

 

 「「「「「「早くアレを止めて!!!!」」」」」」

 

 

 リアスたちが僕に叫び、呼び掛けた。

 

 

 

  後ろを見てみると―――

 

 

 

 蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)朱炎龍(フレイム・ドラゴン)、ヒュドラ、地龍、ミノタウロス、なんかデカい怪鳥、スライムナイト

 そして、魔法少女っぽい漢に追われていた。

 

 

「メラッ!メラッ!メラッ! 待つにょ! 戦わないと修行にならないにょ!」

 

 

 

 

 




ムーンサルト:Ⅵ~Ⅷ、PS・DS版Ⅳに登場する特技。空高く跳び上がり、回転しつつ敵全体に体当たりをして着地するというド派手な技。


ライザーの眷属多過ギィ!


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18話 それぞれの修行

リュカが転職で身に付けた禁断の奥義が炸裂する。
そんな修行回です。


  

 

「あ、あはは……、ごめんごめん」

 

「“ごめんごめん”じゃないでしょうッ!!」

 

 

 日本の森の奥深く、グレモリー家の別荘があるという場所に転移した。

 そこで見たのは仲間モンスター(約一名は一応人間)に追いかけられているオカルト研究部のメンバーだった。

 僕が仲間達を制止するとリアス達が食って掛かってきた。

 

 

「大体、何でライザー達も鍛えるのよ! 色々とおかしいでしょう!」

 

「ふむ……」

 

 

 確かに彼女達からすれば、敵であるライザーくん達の特訓も請け負った僕に対して複雑な感情があるのかもしれない。

 そのことについて説明はすべきだろう。

 

 

「リアスさん、君の気持ちは理解している。女性なら地位や家柄を抜きにして、自分の認める相手と結婚したいと思うのは当然だ。

 まして(ライザー)は不誠実な面が目立っている。その結婚したくないという思いは強いだろう……。

 だが自分の家のために勤めを果たそうとすることは立派なことだ。そうだろう?」

 

「まあ、そうだけど……」

 

「なら、君はライザーくんの思いを見定めることはすべきじゃないのかい? 

 僕は君達二人に納得して、少しでも幸せになってもらいたいんだ」

 

 

 僕の思いの丈をぶつける。リアスさんも渋々頷く。

 一方、イッセーくんは殺気だって睨んでくる。他のみんなも敵意の篭った眼差しを向けてくる。

 

 

「イッセーくん……それにみんなも。君達の主君に対する愛情は知っている。僕は君達にも応援している。僕に着いて来てくれるのなら、君達の大事な部長を守り通すだけの力を与えてみせよう。いいかい?」

 

 

 僕の言葉を聞き皆が呆れたような顔をした。

 一拍置いて、キバくんが困った表情で答えた。

 

 

「何と言いますか……、リュカさんは人がいいですね。分かりました。付き合います」

 

「……ありがとう」

 

 

 キバくんの言葉に感謝の意を述べた。

 

 

 

 

 

「さて……、まず僕が派遣する魔物についてだが、あまり当てにはしないで欲しい。君達は自分達のみの力でリアスさんを守り切る、そう思って特訓に取り組んで欲しい」

 

 

「もちろんッス!」

 

「そうね……私たちグレモリー家の者だけで勝つ、そのつもりで勝負を受けたんだもの。当然よ」

 

 

 イッセーくんとリアスが答えた。

 瞳から強い覚悟が窺える。素晴しいことだ。

 

 

「うむ。ではまず今日一日、君達がどのような特訓をするのか見学させてもらおう」

 

 

 

 

 

  レッスン1 キバくんとイッセーくんの剣術修行

 

 

「よっ はっ」

 

「おりゃ! おりゃああああっ!」

 

 

 イッセーくんとキバくんが木刀で打ち合っている。

 

 イッセーくんの方は力任せで振り回しているだけだ。

 剣術とすら呼べない。

 

 キバくんのは筋がいい。

 あれなら結構早く上達するだろう。

 そう思い、袋から父の愛刀を取り出した。

 そして、トベルーラで岩場に行き大きな岩を調達する。

 

 転移魔法(ルーラ)で戻ってきた頃には、イッセーくんの木刀はキバくんにはたき落されていた。

 

 

「そうじゃないよ。剣の動きを見るだけじゃなくて、視野を広げて相手と周囲も見るんだ」

 

「その通りだよ、イッセーくん。……ところでキバくん。その木刀でこの岩を斬ってもらえるかい?」

 

「えっ?」

 

 

 キバくんは戸惑う。確かに彼の実力なら、名刀を用いればこの岩を斬るくらいならできるだろう。

 だが、木刀では些か厳しいようだ。

 

 

「なら、こうしよう――――」

 

 

 ビュバッ!

 

 

 キバくんに問答無用で斬りかかった。無論、今の彼でもギリギリ反応できるくらいの速さに落としてある。

 キバくんが咄嗟に躱す。

 

 

「何を!? クッ……!」

 

 

 キバくんが木刀を投げ捨て構える。

 すると何もない空間から一振りの剣が現れた。

 

 あれが魔剣創造(ソード・バース)か……、なかなか面白いな。

 

魔剣創造(ソード・バース)――――あらゆる属性の魔剣を創造できる神器(セイクリッド・ギア)

 

 その存在を聞き、純粋に羨ましいと思った神器。

 冒険の最も大きい支出は武器・防具の買い替えだ。お下がりや、異世界では錬金を駆使して費用を抑えるのに必死だった。

 その苦労がなくなるのであれば何とも素晴しい神器だ。創造した剣の強度はオリジナルの魔剣に及ばないらしいが……。

 

 

「はあああああっ!!!」

 

 

 キバくんが創った剣を構え向かってきた。

 甲高い金属音を鳴り響かせながら何百合と打ち合う。

 

 へえ……、魔力の膜で刀身を覆い剣の強度を増しているのか……。闘気を纏わせれば同じことができるが魔力でやるのは面白い。今度真似してみるか。

 

 そんなことを考えながらキバくんと打ち合う。

 五分は過ぎただろうか―――

 彼の動きが鈍ってきた。

 キバくんは全力だ。フルパワーでの戦いは体力を短時間で消耗させる。

 キバくんの足が震えだしている。そろそろいいだろう。

 

 ガキンッ!

 

 キバくんの魔剣を吹っ飛ばした。同時に彼自身も力尽き、後ろにぶっ倒れる。

 

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 

「じゃあ、あの岩を斬ってみようか」

 

「えええっ!?」

 

 

 倒れたキバくんに拾った木刀を握らせ、その光景を見ていたイッセーくんが驚嘆した。

 そんなことには構わず無理矢理起こして、岩の前に立たせる。

 

 

「さあ、やってごらん」

 

「はぁ……、はぁ……、はぁ……。せやっ!」

 

 

 キバくんが岩に木刀を振り降ろした。

 

  パキンッ

 

 岩が真っ二つになった。

 

 

「わ、割れたっ!? 木刀で!?」

 

「フフッ、不思議かい? 理屈は単純だよ。人間……君は悪魔だが、疲れているときは一番楽な動作をしようとするものなんだ。

 つまり、それが一番自然な動きということになる。君ほどの才能があれば、たとえ木刀でもこのぐらいの岩を割るくらいの力はあった……ということさ」

 

「はは……、リュカさんは凄いですね……」

 

 

  バタン

 

 キバくんが倒れた。疲労によるものだろう。側で見ていたイッセーくんが目を丸くした。

 

 

「大丈夫、気絶しているだけだ。別荘に戻ろう……。そこでヒメジマから魔法の特訓を受けるのだろう?」

 

「――――えっ?あ、はい!」

 

 

 

 

 

 

  レッスン2 ヒメジマとイッセーくんの魔力修行

 

 

 

「えっ!? 違うの?」

 

「……えぇ……、そうなりますわね……」

 

 

 魔法は割と得意だ。これならより皆の特訓の手助けがしやすい、そう意気込んでいた。

 そこで、意気揚々と魔法の使い方をレクチャーしようとしたらヒメジマの口から衝撃の言葉が発せられた。

 

 

 ――― 曰く、魔法と魔力は違う、と。

 

 

 愕然とした。何がどう違うのか分からないため詳しい説明を求める。

 ヒメジマの説明ではこうだ。

 

 魔力とは悪魔“特有”のモノらしく人間は持ってないそうだ。

 魔法とは、その悪魔の力を解析し人間でも扱えるようにしたモノらしい。

 

 僕の認識では魔力を用いて魔法を使う、と思っていたのだが、この世界ではそうではないらしい。

 要するに魔力による攻撃は、僕の知識では“僕らの世界の魔力”を使った“体技”に近いのかもしれない。

 その内いくつかは普通に使えるのだが、“魔力は悪魔の力”という発言が矛盾する。

 僕は人間なんだろうか? この世界では悪魔に分類されるのか? 

 そんな疑問が湧き起ってきたが今は問題ではない。

 

 拙い……。“魔法”と“魔力”が違うなんて初めて知った……。それなのに『大事な部長を守り通すだけの力を与えてみせよう』なんて大見栄を切ってしまった。どうしたものか……。

 

 焦る。ここ最近で一番焦る。その感情が表情に出てしまったらしい。

 ヒメジマとイッセーくんが何とも言えない表情でこちらを見てくる。

 

 正直に言おうか。この世界で言うところの“魔力”の扱い方なんて知らないって。いや、でも僕達の世界の“魔力”とこの世界の“魔力”の性質は似ている部分もある。グランドクロスとかなら使える。そこからなんとかアドバイスを捻り出そうか……。う~ん………。

 

 

「あの………、そこまで深刻そうな顔をされなくても……、私はリュカさんの世界の魔法に興味がありますわ。教えてくださいますか?」

 

「本当か!?」

 

 

 危うく絶望しかけたところにヒメジマが助け舟を出してくれた。サディストなどと言われているが本当は良い子なのだろう……。

 僕の中でヒメジマ アケノの好感度が上がった。

 

 

 

 

 

 

 レッスン3 トウジョウとイッセーくんの組み手

 

 

「ぬがあああああ」

 

「……弱っ」

 

 

 イッセーくんがトウジョウのパンチをもろに受け吹っ飛ばされ木に激突した。

 やはり、この子の怪力には目を見張るものがある。

 

 

「……打撃は体の中心線を狙って、的確かつ抉り込むように打つんです」

 

 

 なかなか的確なアドバイスだ。それに打撃のみならず寝技や関節技、敏捷性も優れている。

 だが―――

 

 

「君には欠点があるな」

 

「……何ですか?」

 

「それを分かってもらうには僕と立ち合った方がいいな。お願いできるかい?」

 

「……こちらこそ」

 

 

 こうして、僕とトウジョウで立ち合うことになった。

 御互いにジリジリと間合いを詰める。

 

 トウジョウが動いた。

 

 凄まじい速さで懐に飛び込みストレートパンチを放ってくる。

 

 ちょっと後ろに下がって僅かに顎を引き、寸前で躱した。

 

 彼女は間髪をいれずにローキックをかましてくる。

 

 ほんのちょっと後ろに下がって、これも躱した。

 

 トウジョウが寝技をかけようと飛びかかってきた。

 

 トウジョウが触れる前に僕が彼女をハイキックで吹っ飛ばした。

 

  バアァン!

 

 

 先程のイッセーくんと同じく木に激突した彼女に話しかける。

 

 

「これで分かったかい? 君の弱点が……」

 

「……分かりません」

 

「そうか、ならはっきり言おう。君の欠点は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 手足が短い」

 

 

 

 

 

 

「…………………グスッ」

 

「ちょっとリュカさん!!」

 

 

 ……少し、言い方が不味かったかな……。

 

 トウジョウが涙目になり、イッセーくんは物凄く批判的な顔を向けてくる。

 何とか分かってもらうべく言葉を尽くすこととしよう。

 

 

「え~っと……ゴメンね。でもそれは大事なことだ。近接戦で相手の間合いを読むのは基本中の基本だ。

 君は持ち前の敏捷さで素早く相手の懐に飛び込み、それを補ってきたのだろう。だが、同じくらいの敏捷さでリーチがより長い相手では、接近戦において負けが確定したも同然だ」

 

 

 僕の言葉を聞きトウジョウがしゅんとなる。自覚があったらしい。

 

 

「それに君の戦い方はきれいすぎる。先程のイッセーくんへの助言然り、君はまるで格闘技の御手本だ。

 だが、それは良いことばかりではない。ときには“泥臭く汚い”技も使わなければならない」

 

「……“泥臭く汚い”技?」

 

「実践してみせよう。イッセーくん、相手をお願いできるかい?」

 

「えっ? あ、はい!」

 

 

 今度はイッセーくんと向き合う。

 彼が拳を握りしめ向かってくる。

 

 イッセーくんの打撃はほとんどテレフォンパンチだ。それはそれで、あとでゆっくり指導しよう。だが今はそのことではない。

 

 彼のパンチを躱し、イッセーくんの顔面に顔を近づけ――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロ………………

 

 

 

 イッセーくんの顔中を舐め回した。しかし、ただの“舐め回し”ではない。

 

 百烈舐め―――“舐め回し”の強化版であり、超絶な舌技で敵をひるませ、更に相手の守備を崩すという技

 

 イッセーくんがショックのあまりフリーズしているところに正拳突きを叩きこんだ。

 彼は簡単に気絶し大の字に倒れた……尤も、気絶したのは正拳突きを浴びせる前だったが。

 

 

「今の技の名は『百烈舐め』。それを見た感想は?」

 

「…………………」

 

 

 どうやらトウジョウもショックを受けてるらしい。半ば茫然としている。

 

 

「あんまり“きれいな技”ではないだろう? でも意外と役に立つ。相手の意表を付けるからね――――

 僕は君に『手足が短い』と言った。でも僕自身それ程でもない。……まあ、人間の中では割と背は高い方ではあるが、ギガンテスだのグレイトドラゴンだのと比べたら君とほとんど変らない」

 

「……慰めになってません」

 

 

 トウジョウの厳しいツッコミが入る。ショックから立ち直ったらしい。

 

 

「あ、あはは……。まあ、とにかく“自分の欠点”を見つめるというのは大事だ。そしてその上で“泥臭く”勝ちにいく技を身に付けることが重要だ。というわけで、いきなり『百烈舐め』は難しいから初歩の『舐め回し』を――――」

 

「やりません」

 

「えっ? 僕の話聞いてた?」

 

「……聞いてましたし、自分の欠点を見つめることは大事だと思いました。でも、今の技はやりません」

 

 

 説得しようとしたが、彼女の意志は固かった。

 

 

 

 

 

 

 レッスン4 リアスとイッセーくんの筋トレ

 

 もっと効率的に筋トレができるようにイッセーくんにヘビーメタルを99個持たせたら、彼は動けなくなった。

 リアスさんに怒られた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

「今日一日君達の特訓を見させてもらった。結論を言おう。今のままではライザーくんには勝てない」

 

 

 修行を終え、ぐったりしているオカルト研究部の面々にいった。

 なんか僕に呆れてるような、怒ってるような、感謝しているような複雑な表情を向けてくるが気にしないでおこう。

 

 

「今の君達に欠けているもの、それは“実戦経験”だ」

 

「“実戦経験”?」

 

「そうだ。聞くところによればライザーくんは何度もレーティングゲームとやらをしているそうじゃないか。その差は君達が思っている以上に大きい」

 

「…………」

 

 

 皆が押し黙る。どうやらそのことは自分達でも考えていたらしい。

 

 

「そこで僕が提案する修行の内容はこれだ――――」

 

 

 

 

 

  ――――模擬レーティングゲーム。

 

 

 




グランドクロス:DQⅥで初登場した攻撃特技。祈りを込めて十字を切ることで、敵を聖なる真空の刃が切り裂き、バギ属性ダメージを与える。また、十字ということでゾンビ系の敵に対してはダメージが増加する。

なめまわし:敵を舌で舐めまわし、鳥肌を立たせて1ターン休み状態にする。DQⅥなどでは転職で覚える。バーバラやミレーユも覚える。

ひゃくれつなめ:なめまわしの強化版。初出はDQⅥ。なめまわし同様、敵1体を1ターン身震いさせて行動不能にし、更に守備力を激減させる。

ヘビーメタル:DQⅨ・Ⅹに登場するアイテム。錬金素材の一種で、やたらに重い謎の金属。


ひゃくれつなめは意外と使える。マジで。


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19話 模擬戦

 

「模擬レーティングゲーム?」

 

「そうだ」

 

 

 初日の修行を終え、夕食の席で僕の提案を皆に聞かせる。

 

 

「ライザーくんは既に公式の試合を何度も経験している。その差を埋めるには実戦経験を積むしかない。

 百聞は一見に如かず、百見は一行に如かず―――という。ともかく、一度やってみた方がいい」

 

「でも、あなたは人間よ? 『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』なんて持っていないでしょう。もしかしてお仲間に眷属の代理をしてもらうの?」

 

「そうなるね」

 

 

 リアスの疑問に答える。

 

 

「僕が(キング)で、兵士(ポーン)八体、騎士(ナイト)二体、僧侶(ビショップ)二体、戦車(ルーク)二体、女王(クイーン)一体の十六人で相手をする。 無論、君達に合わせてもいいがライザーくんとの戦いを想定するならこの方がいいだろう。それでいいね?」

 

「……いいわ、ライザーとの戦いの前哨戦よ。叩き潰してあげるわ」

 

「ちょっと部長!? それは無茶ッスよ!」

 

 

 リアスの返答を、イッセーくんが止める。

 どうやら昼間のアレ(百烈舐め)がトラウマになってるらしい。

 それが原因で怖がられてしまった。もうやらない、とは言ったが……。

 リアスは乗り気だ。些か張り切り過ぎているきらいがある。おそらくライザーくんとの戦いを意識し過ぎているのだろう。戦意が高いのは結構だが空回りしなければいいのだけれど……。

 

 

「部長……、それは無理だと思いますわ」

 

「リアス部長、僕もイッセーくんと同意見です」

 

「……無理」

 

 

 ヒメジマ、キバくん、トウジョウも反対する。

 彼女達も少々厳しく扱き過ぎたようだ。僕に対して恐れを抱いているらしい。

 あとでゆっくりお話しよう。

 

 

「あ、あはは……加減するから大丈夫だよ。最近仲間にした子達を中心に選ぶから」

 

 

 いきなりヘルバトラーだのグレイトドラゴンだのをぶつけるつもりはない。

 それに僕の仲間達の実力も高めるという狙いもある。

 

 

「ライザーくんの眷属は十五人。本人も含めれば十六人だ。大勢と戦う経験をしておけば必ず役に立つ……。

 相手は君達の実力に見合った者を用意する」

 

「でも、レーティングゲームは王……つまり、あなたを倒せなければこちらの勝ちにはなりません。僕達の実力ではそれは無理なんじゃ……」

 

 

 キバくんが苦言を呈する。確かに今の彼らが束になって掛かってきても相手にならない。

 おそらく片手でも倒せる。

 

 

「それなら問題ない。君達へのハンデとして僕はこれを装備する」

 

 

 そう言って『諸刃の剣』、『破滅の盾』、『死神の首飾り』、『ドクロの指輪』、『悪魔のタトゥー』を袋から取り出す。

 

 

「……なんか禍々しいわね。一体何なの?」

 

「これらの品々には呪いが掛かっている。ちょっと装備してごらん?」

 

 

 そう言ってリアスに『ドクロの指輪』を嵌めさせた。

 すると、彼女は金縛りに遭いピクリとも動かなくなった。

 

 

「……とまあ、こんなふうに、偶に動けなくなったりする」

 

 

ドクロの指輪―――装備すると時折金縛りになり、動けなくなるという呪われたアイテム

 

 他の品々も同様に、装備者にとって負の効果がある。

 

 

「……さっ……さ……と……は……ず……し……な……さ……い……よ……!」

 

「ああ……! ごめん、忘れてた」

 

 

 そう言って解呪呪文(シャナク)を唱えた。

 ドクロの指輪が外れて、リアスは動けるようになる。

 

 

「リュカさん、後で少しお話しましょう?」

 

「あはは……まあ、とにかくだ。これらを全て装備すれば、君達と互角になるだろう。次は僕の仲間だ」

 

 

 何故か怖い印象を受ける笑顔を向けてくるリアスさんを無視し、今度は召喚の魔法陣を発動した。

 出したのは――――

 

 

 バイサー、レイナーレ、カラワーナ、ミッテルト、ディーネ、スラ太郎、触手丸、スラりん、プックル、ピエール、エビルアップルのアプール、爆弾ベビーのニトロ、お化けキノコのマッシュ、腐った死体のスミス、―――そしてミルたん

 

 この十五体だ。

 

 

 グレモリー眷属と因縁のある堕天使三人とはぐれ悪魔バイサーが憎しみのたっぷり篭った眼差しを向け、リアス達もそれに返す。

 

 

「久しぶりね、小娘」

 

「何でこいつらを……!?」

 

「ああ、ちょうど君達の実力に見合っているかと思ってね」

 

 

 その言葉にリアス達が目を吊り上げる。それもそうだろう。彼女ら(バイサーたち)はついこの間まではオカルト研究部の皆に比べれば遥かに弱かったのだ。

 それを“自分達の実力に見合っている”と言われれば怒るのも当然と言えよう。

 

 

「ああ……、あの後、徹底的に鍛えてね。結構強くなったんだ」

 

「リュカさんが……!」

 

 

 リアス達が、今度は彼女達(バイサーら)がどのぐらい強くなったのか、と警戒の目を向ける。

 それは良いことだ。過去に一度勝った相手のことは、心の奥底で「どうせこの程度だろう」と決めてかかってしまう。そうならないように油断することなく冷静に相手を観察するのは素晴しい。

 

 

 

 

 

 だが、イッセーくんは――――

 

 

「人魚!? 忍者娘!? 植物モンスター娘!? リュカさんはこんな娘たちまで仲間にしていたなんて……羨まし過ぎる!!」

 

「その娘達はスラ太郎と触手丸とディーネだけど」

 

「えっ?」

 

 

 イッセーくんが驚愕で目を見開いた。

 

 う~ん……、あれほど仲間に欲しがったスラ太郎と触手丸を見抜けないとは……(イッセーくん)には観察眼を養ってもらわねば。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――

 

 

 

  翌朝

 

 

 グレモリー家の別荘近くの森で、僕とリアス達は模擬レーティングゲームを始めた。

 数に勝る相手と戦うには速攻で攻め切らねばならない。そうでないと守勢に回れば耐え切れないからだ。

 

 本陣を離れ、仲間達とオカルト研究部の皆との戦いを見物することにした。

 見つかっては訓練にならないのでレムオルで姿を隠す。

 

 仲間達に待ち伏せさせた戦術上の重要拠点である林を見張っていると――――

 

 イッセーくんとトウジョウがやって来た。

 

 

 

 

 

  一誠side

 

 

「リュカさんとの模擬戦か……。行くよ、小猫ちゃん!!」

 

「……はい」

 

 

 俺と小猫ちゃんは部長の指示でバトルフィールドの中間に位置する林まで来ていた。

 何でも、リュカさんの本陣に通じる重要拠点らしい。

 

 そこで、部長から秘策が与えられたが―――

 

 

「正直、勝てる気がしないんだよな~……」

 

「……私もです」

 

 

 昨日の修行は酷かった。リュカさんはとんでもなく強かった。

 俺が絶対に勝てないと思った木場を叩きのめして、異世界の魔法で朱乃さんをふっ飛ばし、俺に小さい女の子にボコボコにされるというトラウマを植え付けた小猫ちゃんを「手足が短い」と斬って捨てた。

 

 それに、リュカさんの仲間達だ。

 昨日の事件は人生で五本の指に入るくらいのトラウマになった。

 ほとんど怪獣みたいなドラゴンが二匹、一匹はアーシアのラッセーとおなじ蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)だが15mはある成龍(確か成龍って捕まえられないんじゃなかったっけ?)。

 もう一匹はどデカい火の玉を吐く赤いドラゴン。朱炎龍(フレイム・ドラゴン)というらしい。

 その上、ザトゥージに見せられた有効的(・・・)な怪物ヒュドラ。

 牛頭のおっかないミノタウロスもいたな……。

 その上ミルたんって……、魔法を教えてるとは聞いてたけど、本当に使えるようになってたとは……。

 

 

 でも、昨日見せられた模擬レーティングゲームの仲間はそれ程強そうじゃなかった。

 一つ目のリンゴに、手足の生えた茸。棘の生えたピンク色の生き物。青いゼリーみたいなやつ。

 あの辺は俺でもどうにかできる―――と思いたい。

 でも、赤い(たてがみ)の生えた競走馬と同じぐらいのでっかい豹は強そうだったなあ……。

 それに、初日に木場を叩きのめした緑色のスライムに乗ったヘンテコな騎士……。

 

 だが、そいつらも問題じゃない。

 何だよアレ!? あんなエロそうなお姉さんが、あのバイサー!? 堕天使三人もリュカさんにべったりだったし……。元カノが他の男と……、と思うと複雑な気分になった。

 

 それに何だよ“転身”って!? 何で筋肉だらけのプロレスラーみたいだったディーネちゃんがあんな美女の人魚になってんだよ!? そんでスラ太郎と触手丸が実は♀……。

 

 もう何でもアリだな! うらやましいぞ、ちくしょう!

 でも、リュカさんの場合、他のバケモノともいちゃいちゃしてるんだよな……、ヒュドまるとキスとかできないから全然うらやましくないぞ、こんちくしょう!

 

 

「……イッセー先輩、アレ」

 

「ん? ゲッ」

 

 

 小猫ちゃんに話しかけられ周りを見てみると完全に包囲されていた。

 あのデカイ豹。一つ目のリンゴ。手足の生えた茸。棘の生えたピンク色の生き物。

 そして――――

 

 

「久しぶりにょ」

 

「ミルたん……」

 

 

 どうしてここにいるんだ……。

 心の底からそう思った。

 

 

「じゃあ、勝負にょ。師匠から『実戦に勝る鍛錬なし』って言われてるにょ。いっぱい戦って、もっと強い魔法少女になるにょ!」

 

 

 うん、前向きだ。イヤになるくらい前向きだ。何で俺の周りにはこんなんしかいないんだ。

 すると、小猫ちゃんが前に出た。

 

 

「……あなたの相手は私。リュカさんに『戦ってみなさい』って言われてる」

 

 

 ミルたんvs小猫ちゃん……。どんな組み合わせを実現させようとしてんだよ、リュカさん!!

 すると、俺の相手は――――

 

 

「ガロロロロ!」

 

「ですよねー……」

 

 

 キラーパンサーのプックル―――そう聞かされた。キラーパンサーってどんな魔物なんですか? そう尋ねたら、異世界では『地獄の殺し屋』という異名で恐れられてると聞かされた。

 うん、恐い。スッゲー恐い。何だよあいつの牙、三十センチぐらいあるんじゃないか?

 リュカさんに聞かされた話によれば、プックルは最初に仲間にした魔物で本来滅茶苦茶強いらしい。

 だが、リュカさんと同じく『呪いの装備』で制限をかけているそうだ。

 つーか、そんなことするくらいならもっと弱そうなのにしてくださいよ……。

 

 そんなことを考えていると――――

 

 

「グオオオオウッ!!」

 

 凄まじい早さで間合いを詰め、剃刀みたいなカギ爪で引っ掻いてきた。

 咄嗟に飛び退く。

 

  ガリッッ

 

 後ろの木に深い引っかき傷ができた。

 

  ゾッ……!

 

 その傷の溝の深さ、そして鋭さを見て鳥肌が立った。うん、死ぬな。アレ受けたら。

 横では―――

 

 

「……えい」

 

 

 小猫ちゃんが拳を繰り出す。

 

 

「なかなか強い悪魔さんにょ。ギラ!」

 

 

 ミルたんが手から眩い閃光を繰り出す。

 凄まじい激闘が始まってた。

 

 

「……やばいな、アレ」

 

 

  ボトッ

 

 

 小猫ちゃんとミルたんの激闘に目を奪われていると、目の前に赤い何かが落ちた。

 

 

 エビルアップルのアプール―――確かそんな名前だ。

 

 次の瞬間、体に鋭い痛みが走った。一つ目リンゴが俺の足に噛み付いてきやがった!

 何とか振り払うと―――

 

 

「何だ、コレ―――」

 

 

 急に体が痺れてきた。更にお化けキノコが桃色の吐息を吹きかけてくる。

 その吐息を浴びると、今度は物凄い眠気が……。

 

 俺はそのまま抵抗さえできず、やがて意識が暗転して――――

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

「目を覚ましたのね、イッセー……」

 

 

 目が覚めると部長がいた。ちょうど真上に顔がある。落ち込んでいる顔だ。

 どうやら、部長に膝枕してもらってるらしい。

 

 

「どうなったんスか……、部長……」

 

 

 答えは予想できるが一応尋ねる。すると、思った通りの答えが返ってきた。

 

 

 

 

「――――模擬レーティングゲームには負けたわ」

 

 

 

 

 

 




諸刃の剣、破滅の盾、死神の首飾り、ドクロの指輪、悪魔のタトゥー:DQシリーズでおなじみの呪われた装備の数々。それぞれ耐性が下がったり、行動ができなくなったり…と効果の違う呪いがかかる。

エビルアップルのアプール、爆弾ベビーのニトロ、お化けキノコのマッシュ:DQⅤ序盤で仲間になるモンスター。『序盤三強』の異名を取る。

レムオル:姿を消すことができるという、非常に独特の効果を持った呪文。現在までのところ、本編シリーズではⅢのみにしか登場していない。


レムオルかステルスで迷いました……。
つーか、どっちでもいいか(適当)


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20話 学び

リュカの説教二割増。そんな修行回後篇です。
次回からやっとライザー戦です。


   

 

「終わったか……」

 

 

 リアスが地面に倒れたのを見て、ぽつりと呟いた。

 

 オカルト研究部の面々の戦いぶりはなかなかのものだった。

 その年齢でここまでの力を持てたのか、と感心する。単純な才能という意味では僕より上かもしれない。

 

 しかし、未熟だ。

 

 真っ先に脱落したのはイッセーくんである。

 彼はプックルの一撃を避けるまでは良かったが、トウジョウとミルたんの戦いに気を取られ、アプールの「マヒ攻撃」とマッシュの「甘い息」で倒れた。

 

 次はトウジョウだ。彼女とミルたんの戦いはかなり拮抗した、いい戦いだった。

 だが、ミルたんがいつのまにか会得していた中級火炎呪文「メラミ」で決着が付いた。

 やはり、(ミルたん)の才能は素晴しい。数週間でここまでできるようになるとは……。

 トウジョウの全体的に白っぽい装いが、火炎に包まれて一瞬で真っ黒になった。

 

 そこにヒメジマがやってきた。

 どうやら双方にとって重要拠点であるはずの林を雷撃で吹き飛ばし、一気にいくつもの駒を撃破(テイク)する算段だったらしい。

 悪くない手だ。戦力の不足を補うには最善の手だろう。

 しかしながら読んでいた。制空権を確保して爆撃で一掃する。魔界で煉獄鳥に散々やられた手だ。

 そこで、ミッテルトに頼んで「不思議な踊り」で魔力を奪わせてもらった。

彼女(ミッテルト)を踊り子にしたのは正解だった。「不思議な踊り」には三段階あるがすでに三段階目に及んでいる。即ち、最も強力なやつだ。

 更にピエールがマホトラで援護し、スミスが「誘う踊り」で足止めする。

 魔力が尽きてしまえば「雷の巫女」も形無しだ。あっというまに取り囲んで袋叩きにできた。

 

 キバくんは罠を張り巡らせていた。

 これで僕の仲間達を受け止め、各個撃破を計ったのだろう。

 しかし、罠で僕達を止めれるはずもない。何せ、元の世界や異世界で腐るほど罠を踏み破ってきた。

 火を噴く竜の像だの、動く床だの、落とし穴だの……。

 スラりんのトラマナで容易く突破できた。

 バイサーとキバくんの一騎打ちはなかなかの名勝負だった。

 単純な技の精度や早さではキバくんが上、パワーと武器の性能ではバイサーが上だ。

 勝敗を分けたのは僕の下での修業した期間の長さだろう。

 バイサーにはすでに地雷閃を体得させていた。

 キバくんも大地斬を完璧にマスターしていたなら、勝負の行く末は分からなかったかもしれないが――――

 

 他の全ての部員を倒してから、リアスとアーシアと戦った。

 やはり彼女(リアス)の資質は大変優れている。呪いの装備を身に付けているせいもあるが、割と手間取った。

 彼女が滅びの魔力を放った瞬間に金縛りになり、左手の小指が消滅した。

 そのあとすぐに、レイナーレがホイミをかけて治してくれた。

 彼女(レイナーレ)も成長している。そう思うと感動して目が潤んでしまった。

 そうこうしている内に、カラワーナとディーネが倒してしまった。

 二人とも武闘家に転職させている。二人の放った鎌鼬を受けてリアスも墜ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

「さて―――、最初の模擬レーティングゲームはまずまずだった」

 

 

 別荘に戻って意気消沈しているオカルト研究部の皆にそう言った。

 

 

「まずはイッセーくん。プックルの初撃を避けたのは素晴しかった」

 

「えっ……あ、はい……。あざッス」

 

「だが君はプックルばかりに意識が集中していた。そのせいでアプールやマッシュの接近に気付くことができなかった。

 次からはもっと周りに目を向けれるようにしないとね」

 

「はい……」

 

 

 僕の注意点を聞き、イッセーくんは更に落ち込んだ。

 

 

「次はトウジョウさんだが……、あのミルたん相手によく戦った。だが(ミルたん)の方が君より一枚上手だった。君ももっと精進しないとね。

 それに、こういう時こそ“泥臭く勝ちにいく技”が重要だ。百烈舐めが嫌なら ぱふぱ……いや、何でもない」

 

「…………」

 

 

 トウジョウにもアドバイスを送る。もう一つ思いついた意表を突く特技を提案しようかと思ったが、彼女の目を見てすぐに止めた。

 

 

「ヒメジマさんは無警戒過ぎたね。もっと魔力を上手く活用できるよう精神力を鍛えよう」

 

「……分かりましたわ」

 

 

 ヒメジマは俯いている。抵抗らしい抵抗もできず敗れたことを恥じているらしい。

確かに今回はほとんど活躍できなかった。しかし、次回からはミッテルトの「不思議な踊り」にも対応できるハズだ。

 

 

「キバくんは昨日の特訓の成果が出ていた。得物の性能で上回るバイサー相手に非常に善戦したと言える。君の課題である“パワー不足”も改善できるようにしていこう」

 

「頑張ります」

 

 

 彼の戦いぶりはなかなかのものだった。まだ若いのに大したものだ。

 最後に紅髪の少女に向き直る。

 

 

 

「リアスさんの戦いぶりは良かったよ。僕も指を失った。磨けばさらに光るだろう……どうしたんだい?」

 

「…………どうしたらいいのよ」

 

 

 

 リアスが呟いた。

 彼女の表情は何とも複雑なものだった。

 悲壮、怒り、羨望、焦り……

 

 それらの感情から沸き立つ問い掛け――――。

 

 

「どうすればあんなに強くなれるの!? 人間のあなたがどうして!? どうすればあなたに……ライザーに勝てるの!?」

 

「……君の才能は素晴しい。だが、どれ程の才能を持ってしても上手くゆかぬことはある」

 

 

 どうやら負かしたことで、彼女の心を折ってしまったらしい。

 その痛々しい姿が、かつて異世界で弟子にした少年と重なる。

 自身の優秀さ故に、あまり経験したことのない敗北。要するに負けることに免疫がないのだ。

 

 彼女を諭すためにゆっくりと語りかける。

 

 

「リアス、焦る事はない。君は今日“敗北”を学んだじゃないか」

 

 

 言葉の一つ一つに思いを乗せる。

 

 

「そして今も学んでいる。苦悩、挫折、失敗 君の身の奥から湧き上がる僕への問い掛け……。そのすべてが価値ある学び。掛け替えのない“君の時間”だ」

 

 

 リアスの瞳を真っすぐ見つめる。

 僕自身の人生を思い返しながら、静かに教え導く。

 

 

「良い思いをする事。思い通りになる事。そればかりが正解とは限らない。真の幸福は“君の時間”の中にあるんだ。それが学ぶという事。それが生きると言う事――――」

 

 

 今度はリアスのみならずオカルト研究部の皆に話しかける。

 

 

「人生とは挫折の連続だ。でも、その“挫折”にこそ、大きな意味がある。今日は皆良くやった。明日からはもっと厳しいぞ」

 

「「「はい!」」」

 

 

 そうだ……、もっと傷付きなさい。もっと挫折しなさい。もっと失敗しなさい。

 それらがまだ許されるうちに……。そこからもっと多くを学ぶんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから―――

 

 

 ライザーくんとリアス達の両方を、毎日行き来し様子を見る。

 双方ともに訓練の成果が見られ始めた。

 

 ライザーくんとその眷属達は日増しに精悍な顔付きになってきた。

 砂漠の過酷さは色々あるが、最も大きいのは朝晩の寒暖差だ。昼は真夏のように熱く、朝晩は真冬のように寒い。

 十日間砂漠から出さないつもりだ。当然、その過酷な環境に適応する為に精神力が鍛えられる。

 コーチ役の魔物達からの特訓も厳しくするように言い付けている。

 ライザーくんは数時間おきに氷漬けにされ、ユーベルーナはミニモンの極大爆撃呪文(イオナズン)で吹き飛ばされる。シーリスとカーラマインはリンガー&ブルートにメッタ打ちにされ、雪蘭とイザベラはアンクルに打ち叩かれ、ゴレムスに踏み潰された。僧侶(ビショップ)の二人もそれぞれのコーチに徹底的に扱かれている。兵士(ポーン)達はプリズンとブラウンに追い回されていた。

 

 その特訓に少しずつ順応していく様は実に頼もしい。

 将来、冥界を背負って立つ者達になるだろう。

 

 

 

 

 リアス達もかなりの成長度合いだ。

 そのあとも模擬レーティングゲームを続けた。五回目までは僕の仲間達のパーフェクト ゲームだったが、六回目で初めてニトロが撃破された。その後も続けていくうちにニトロ、マッシュ、そしてアプールまで取れるようになった。

 

 皆、僕のアドバイスを受け入れ真剣に取り組んでいる。

 そればかりか、イッセーくんは夜な夜なアーシアと何やら特訓をしている。

 こっそり、覗いてみると魔力を用いアーシアの服を剥ぎ取る特訓のようだ。

 なかなか面白い発想だ。装備を剥ぎ取る魔法……というのには出会ったことが無かった。

 これを体得すれば重装備の魔物……シールドヒッポだのリザードマンだのとの戦いも有利になるかもしれない。

 そう思い僕も訓練を始めた。相手を頼んだのは夜に強い悪魔のバイサーだ。

 山ほど持ってる「布の服」を着せ数日訓練し、ようやく使えるようになった。『装備破壊(アーマー・ブレイク)』と名付けよう。

 

 

 

 

 

  その一方で―――

 

 

「少しいいかい?アーシアさん」

 

「は、はい、何でしょう?」

 

 

 僕はアーシアさんに声をかけた。

 

 

「君とマンツーマンで特訓がしたい」

 

「私とですか!?」

 

「ああ」

 

 

 僕の提案を聞き、彼女(アーシア)は驚いた。戸惑った表情をしている。

 

 

「あのう……、ご提案は嬉しいのですが……、私なんかと特訓するぐらいなら他の皆さんとされた方がよろしいのではありませんか?」

 

「君でなければダメだ」

 

 

 キッパリ言う。

 

 

「―――それは一体どうして……」

 

 

 

「僕の考えでは―――ライザーくんを倒せるのは君だけだ」

 

 

 そう言って僕はアーシアにあることを教え始めた――――

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 決戦当日

 

 

 

 

 駒王学園生徒会室。

 そこには二人の少女がいた。

 

 

「お初にお目にかかります。ソーナ・シトリーと申します。この駒王学園では支取蒼那という名前で生徒会長を務めております」

 

「副会長の真羅 椿姫です」

 

「初めまして、僕はリュカだ。よろしく」

 

 

 お互いに軽く挨拶を交わす。

 何でもこの少女がライザーくんとリアスのレーティングゲームの中継係を務めるらしい。

 シトリー家というのも悪魔の中では名門なんだそうだ。

 

 

「何でもリアスとライザーの双方を鍛えたんだとか……。変わったことをされますね」

 

「ははは、まあ、そうかもしれないね。でも、これでお互いにわだかまりなく戦える、そう言えるまで鍛え上げた」

 

「そのようですね……。二人もその眷属達も見違えたようです。これは追いかけるのが大変そうですね」

 

「おや、君も修行するのかい? そのときは付き合うが……」

 

「考えておきます」

 

「始まるようですよ」

 

 

 僕とソーナが話をしているとシンラが告げた。

 リアス、ライザーくん 双方の意地とプライドと将来をかけた戦いが始まった。

 

 

 さあ行け、みんな。全力でぶつかり合いなさい。――――僕の仲間達も行きなさい!

 

 駒王学園を摸したバトルフィールドに、僕が選んだ三匹の魔物を送る。

 

 

 その三匹とは――――

 

 

 

 




マヒ攻撃:DQⅢで初登場し、それから常連となった状態異常付加攻撃。通常攻撃のダメージを敵に与えると共に麻痺状態にする。

甘い息:DQⅡ以降に登場する特技。敵1グループに対し、甘い匂いの息を吐き掛け、眠り状態にする。敵に使われるとイヤな技。

不思議な踊り:DQⅡ以降毎回登場する特技。相手1体のMPを減少させる。作品ごとに微妙な違いがあり初出のⅡが強力。効果によって1~3のランクに分けられる場合もある。


ふしぎなおどり が強すぎた気がする。
そこはツッコまないでください(^_^;)


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21話 決戦の始まり

派遣モンスターは色々考えましたが感想を書いてくださった方の中にも予想されてたやつになりました。

たまには王道もいいか……。


  

 

「「「キキーーーッッ!!」」」

 

 

「………………」

 

 

 一誠達、オカルト研究部の面々は駒王学園の自分達の部室で待機していた。やがて、時間となり転移魔法でレーティングゲームの会場に移動する。

 

 だが、着いたのは今まで自分達のいた部屋と寸分違わぬ内装の部屋。経験の浅い一誠は思わず転移が失敗したのかと思う。

 だが、良く見ると先程とは違う点が一つあった。変わった生き物が三匹、部室にいるのだ。

 黒い小さな体に蝙蝠の羽、つぶらな瞳に小さな牙を持つ不思議な生き物だ。

 

 すると、そのうちの一匹が口を開き話しかけてきた。

 

 

「キキキッ、オレはドラキーのドラきちにゃ。んで、こいつらはラッキーとヨッキーにゃ」

 

「「キキッ」」

 

 

 ドラきちと名乗るリーダーらしき魔物が仲間を紹介する。

 それに答え他の二体も挨拶(?)してきた。

 

 

「今日はお前らのために助っ人としてやって来たにゃ。まあ、頼むにゃ」

 

「……………」

 

 

 三匹のドラキー達を見たオカルト研究部の面々の反応は微妙なものだった。

 リュカからの援軍。どんな魔物が来るのかとかなり期待していた。

 そこに現れたのは蝙蝠っぽい小さな魔物が三匹。正直、肩透かしを食らった気がする。

 それでも無視するのは礼儀に失すると思い、リアスが挨拶した。

 

 

「来てもらってありがとう。私がリアス・グレモリー。今日はよろしくね。ドラきちさん、ラッキーさん、ヨッキーさん」

 

「そうかにゃ。じゃあ、オレ達はさっさと出撃するにゃ。それじゃ行くz「えっ!? ちょっと待ちなさい」……何かにゃ?」

 

 

 挨拶を済ませるなり早々、窓から出て行こうとする黒い三匹。

 それをリアスが引きとめた。

 

 

「もっと作戦とか……色々あるでしょう?」

 

「う~ん……リュカとだったらまだしも、今日会ったばっかりのやつと作戦も連携も無理だにゃ」

 

「「キキ」」

 

 

 リアスからの提案。

 だが、ドラきちが難色を示し、他の二匹も頷く。

 リアスは軽くため息を漏らすと、ポケットからある物を取り出した。

 

 

「だったら、せめてこれを持って行きなさい」

 

「にゃ?」

 

 

 リアスがドラきち達に渡した物。それはイヤホンタイプの通信機だった。

 彼女は吸血ドラキー達の耳に取り付ける。

 

 

「じゃあ、今度こそ出撃にゃー。行くぞー、お前達」

 

「「キキーー」」

 

 

 そうして、三匹の黒い魔物達は窓から飛び去って行った。

 

 

 

 残ったオカルト研究部の面々にリアスが向き直る。

 

 

「では、みんなの配置を説明するわ――――」

 

 

 

 

 話し合いの末に、大体の配置は纏まった。

 まずは、本陣付近の森に小猫と木場、朱乃は周辺に霧と幻術の魔法をかける。

 それが終わるまで一誠とアーシアはリアスと共に待機だ。

 

 話を終えると木場、小猫、朱乃は退室した。

 

 

 絶対に勝つ……! 俺が部長を守って見せる!

 

 一誠は三人が出て行った部室で、新たに決意する。

 それまでの修行を回想する。

 

 これまでの模擬レーティングゲームで自分は散々だった。

 一回目は一つ目リンゴと人面茸に―――

 二回目は腐った死体に舐め回され気絶し―――

 三回目はミッテルトの「誘う踊り」で模擬戦が終わるまでずっとポールダンスを踊ってた―――

 

 四回目以降もロクに活躍できないままこの日を迎えてしまった。

 

 二日前に部長から赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の使用を許可され、以前よりはるかに多くの倍化に耐えられる肉体になっていたことが分かったが、リュカさんに頼んで手合わせしてもらったら、「巴投げ」で百メートル以上もブン投げられた。

 

 俺は弱い。

 

 そのとき改めて自覚した。

 リュカさんは「焦らずとも自然と強さは身に付く」と言ってたが――――

 

 違う……! 強さが必要なのは“今”なんだ!!

 

 

 今、強くならなければ――――そうしなければ部長はあの種蒔き焼き鳥野郎と結婚しなければならなくなってしまう。

 リュカさんは“家の為に自分を犠牲にできるのは立派なこと”と言ってたけど、そんなことはどうだっていい。

 部長は修行の日々の中でこう言ってた。

 

 ――― 私を、ただのリアスとして愛してくれるヒトといっしょになりたいの。

 

 それが私の小さな夢だと言った。なら、その夢を守ってみせる。

 部長の言葉を聞いてから、勝ちたいという思いが更に強まった。

 その気持ちに反応したのだろうか。また、あいつの夢を見た。俺の神器(セイクリッド・ギア)に宿るという、あの赤い龍……。

 

 

 『犠牲を払うだけの価値を与えてやるさ――――』

 

 

 犠牲を払うだけの価値―――それがどんなものかは分からない。だがこれだけは言える。

 

 あいつ(ライザー)に勝つ!! その為なら何だってくれてやる!!

 

 

「……イッセー?」

 

「えっ? あ、はい、部長! 何ッスか?」

 

 

 一誠は我に返った。どうやらずっとリアスが話しかけてきてたみたいだという事に気付く

 

 

「イッセー、こっちにいらっしゃい」

 

 

 そう言ってリアスは自分の膝を指した――――

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 その頃―――

 

 

「ここから先は通しませんわ!!」

 

 

 ピンク色の服を着た少女が超高速で滑空する黒い三匹の彗星の進路を塞いだ。

 

 

「ん~と、……何てったっけ?」

 

「キキッ」

 

「そ~か、レイヴェルって言うのかにゃ。ヨッキーは物覚えがいいにゃ」

 

 

 目の前にいる少女の名前が思い出せなかったが、同僚が教えてくれた。

 (ヨッキー)の記憶力にドラきちは舌を巻いた。

 

 

「んなっ!? 覚えてませんでしたの!? 失礼な蝙蝠ですわ!! ………ですが、師匠が用意した私達への試練。ふざけた(なり)の魔物でも油断はなりませんわね」

 

 

 レイヴェルは師匠……リュカの用意する魔物の見かけに騙されるとエラい目に会う、このことをこの十日間で身に染みるほど熟知していた。

 自分に宛がわれたコーチ役の魔物―――そいつはさながら“黄色い触手の生えた宙に浮くクラゲ”だ。

 これまでの自分であれば歯牙にも掛けないような見た目の生き物……だが、そいつは自分達の理解の及ばない魔術で立ちどころに傷を癒す力を持っていた。

 あと、兵士(ポーン)達に付いていた青い縞柄でおかしな顔の猫は想像を絶する氷の魔術を使い、お兄さまの兵士達を追い回していた。

 

 故に、この蝙蝠達も絶対に只者ではない。レイヴェルは確信する。

 

 

「カーラマイン! シーリス! イザベラ! 美南風! ニィ! リィ! 一切の手加減、出し惜しみは禁じますわ! 全力で討ち取りなさい!」

 

 

 レイヴェルの呼び掛けに応じ、ライザーの配下達が集まる。

 その中から代表してカーラマインが答えた。

 

 

「勿論です。我々もあの地獄の日々が体に刻み込まれております。大師匠(リュカ)の御家来衆であり師匠(リンガー)の同僚でもあらせられるこの方々に全力以外の何をぶつけられましょう」

 

 

 他のライザー配下もレイヴェルと同じ心境だったらしい。

 全員が三匹の蝙蝠達に鋭い眼光を向ける。

 だが、ドラきち達は余裕綽々だ。

 

 

「ま、気張らずに掛かって来るにゃ」

 

「言われずともそうするッ! 行くぞッ!!」

 

「「「ウオオオオオオッッ!!!」」」

 

 

 ライザー・フェニックスの眷属悪魔達は自分達の誇りを懸け、喊声を上げながら吶喊していった。

 

 

「散開!」

 

「「キキ――ッ」」

 

 

 それを見たドラキー達は慣れた様子でバラバラに散らばった。

 そして、持ち前の敏捷さと、その小さな体格から来る小回りを生かし、ライザー配下の攻撃を回避する。

 

 カーラマイン達の必死の攻撃は悉く空を切った。

 

 

「くぅッ! 何故当たらん!」

 

「そりゃ身のこなしが違うにゃ~」

 

 

 イザベラの叫びを聞き、ドラきちがあっさり答える。

 元々の素早さに大きな開きがある上に、ドラキーという種族は身かわしが得意だ。

 彼女達(イザベラら)が拳を、剣を、爪を、魔力を幾ら振るってもほとんど掠りもしない。

 しかし、遂に――――

 

 

「ギッ!? キキ~……」

 

「ラッキー!?」

 

 

 遂に三匹いる吸血蝙蝠の内の一匹に、カーラマインの「火炎斬り」が届いた。少々浅かったが、それでもそこそこのダメージを与えた。

 

 

「やったぞ!」

 

「ふぅ~む……ちょっと遊び過ぎたかにゃ。ヨッキー!」

 

「キーー!」

 

 ドラきちの呼ぶかけにヨッキーが答え、カーラマイン達の隙間を縫うように飛び、あっという間にラッキーに近づく。

 

 そして―――

 

 

「べホイミ!」

 

「なっ!?」

 

 

 レイヴェルは驚いた。少し遅れて他のライザー・フェニックスの眷属悪魔達も驚く。

 ラッキーの傷があっという間に癒えたのだ。

 

 

「あ~、そうそう。オレ達にも役割分担がある事を言い忘れてたにゃ。オレ―――ドラきちは武闘家……この世界では戦車(ルーク)って駒の役回りだそうだにゃ。ラッキーは戦士―――こっちでは騎士(ナイト)、ヨッキーは僧侶……僧侶は僧侶(ビショップ)のまんまだにゃー。

 ややこしいのはオレ達の世界だと戦士の方が遅くて頑丈、武闘家の方が早くて脆いにゃ。だから、武闘家のオレの方が早くて、戦士のラッキーが一番遅いにゃ」

 

 

 同じ見た目の魔物なのに保有する能力が違うのか……!

 戦慄するライザー配下達。

 だが、レイヴェルが素早く精神を再建する。

 

 

「御忠告どうもありがとう。ですが、余裕ぶっこき過ぎですわ。 

 みんな! そいつ―――ヨッキーを狙いなさい!」

 

 

 レイヴェルの命令、それは戦闘の初歩。

 『回復役から潰せ』である。

 単純だが、これをしないと次から次へと回復され際限のない戦いをしなければならなくなる。

 しかし、これはあまりにも単純過ぎた。

 

 

「え~い、シャッフル~~~♪」

 

「なああぁっ!?」

 

 

 ドラキー達が一か所に集まり高速回転する。さながら黒い竜巻だ。

 ―――そして散開。あっという間にどいつがヨッキー(僧侶)なのか分からなくなった。

 

 そして蝙蝠達は一気に畳み掛ける。

 

 

「さ~、今度はこっちのばんだにゃ!」

 

 

 

 

 「「「 ド ラ ゴ ラ ム ! !」」」

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 ドラキー達とライザー・フェニックスの眷属悪魔達との激闘が行われている頃

 

 

 一誠は夢見心地だった。

 何故なら大好きなリアスに膝枕をしてもらっているからだ。

 一誠はリアスの滑らかな肌の感触、太股の柔らかさに酔いしれる。

 

 一方、リアスには真面目な目的があった。

 

 

「……あなたに施した封印を少しだけ解くわ」

 

「え? 封印?」

 

「覚えてる? あなたを下僕に転生する時、『兵士』の駒、八つ全てを使ったって話を……」

 

「はい」

 

「その時、イッセーの力は悪魔として未成熟すぎたから、『兵士』の力に制限をかけたの。ただの人間から転生したばかりのあなたでは、八個の『兵士』の力に耐えられなかった。

 単純な話、朱乃に次ぐ強力な力となるのだから、余程の力をつけないとイッセーの方が壊れてしまう。だから、何段階かに分けて封印をかけたのよ。それを今少しだけ解放させたの」

 

 

 一誠は急に力が漲ってくるのを感じ取った。

 

 

「今回のブーステッド・ギアと『兵士』の力に対応する為のもの……にしようと思ったんだけどリュカさんはやり過ぎたみたいね……。でも、まだまだ足りない部分もあるけど」

 

 

 リュカのハードなトレーニングは流石のリアスも想定外だったらしい。とゆうより、修行で蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)だのヒュドラだのを持ち込む人間がいるという事を予想できるものはそんなにいないであろう。

 

 

「いい、イッセー? 相手が女の子でも倒すのよ? 手加減しちゃダメ。あちらは手加減なんてしないのだから」

 

「わ、分かりました」

 

「そういい子ね。『プロモーション』は『女王(クイーン)』になること。最強の力を持つ『女王』になれば戦況も変わるわ」

 

 

 男の自分が『女王』に……。一誠は違和感を覚えた。それを言うと「駒の役割だから気にするな」と言われた。

 

 

「部長! 俺、絶対に部長を勝たせてみせます!」

 

 

 

 

「ええ、期待しているわ。私のかわいいイッセー……この十日間で私もあの人から多くを学んだわ。

 きっと勝ってみせる――――」

 

 

 




さそうおどり:DQⅤから登場した1ターン休み系の特技のひとつ。特殊な振り付けで踊り、相手も一緒に踊らせる。

ともえなげ:DQⅥとⅦに登場する特技で、どちらの作品においても武闘家職に就くことで習得可能。敵一体を投げ飛ばして戦闘から離脱させるザキ系の特技。

ドラゴラム:DQⅢ~DQⅦに登場する呪文。その効果は……


ドラきちの「~にゃ」口調は小説版からです。
って黒歌と被ってるやん!!


ドラキーは悪魔系ではなく鳥系だ!! と仰る方に一言

 どっちでもええやん(適当)


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22話 中盤戦

   

 

「ギャオオオオオッッ!! 食べちゃうぞだにゃぁぁぁっ!!」

 

「なっ!!」

 

 

 突如として現れた三体の黒い(ドラゴン)

 堅牢な鱗、巨大な翼、凶暴そうな頭部。刀剣のように鋭い爪。何処をどう見ても竜だ。

 それを目撃したライザーの眷属悪魔達は驚きのあまり絶句した。

 

 彼女達の様子を見まわした竜の一頭が得意げにフシュフシュと鼻息を漏らしながら説明する。

 

 

「オレ達が使ったのは火竜変化呪文ドラゴラムだにゃ~。これがお前達に用意した試練にゃ。さー、掛かってくるにゃ!!」

 

 

 そう告げるなり、三頭の黒竜が一斉にライザー眷属に襲い掛かった。

 ドラゴン達が同時に激しい炎を浴びせかける。

 

  ゴアアアアアアアアァァァ!!

 

 凄まじい熱と光の奔流。三頭の竜が放つ火炎はレイヴェル達の想像を遥かに上回るものだった。

 一瞬でグラウンドは焦土と化す。

 

 

 だが―――

 

 十二単を着た女悪魔、美南風が両手を翳し、結界を展開した。

 防御光幕呪文フバーハ……もどきである。

 

 この十日間で彼女(美南風)は魔法使いマーリンに徹底的に仕込まれた。

 彼女は未熟であったものの、師の特訓により、以前に比べ呪術の幅が大きく広がっていたのだ。

 だが、所詮はもどきである。不完全な防御光幕呪文(フバーハ)では完璧に炎を遮断できなかった。

 それでも仲間達を守ろうとした彼女は――――

 

 

「「「美南風!!」」」

 

 

 仲間達の呼び声も届かず、黒焦げになった彼女はぱたりと地に倒れた。

 

 

「ライザー・フェニックス様の『僧侶(ビショップ)』、一名戦闘不能」

 

 

 バトルフィールドにアナウンスが虚しく響いた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「「バ~ラバラ♪バ~ラバラ♪バ~ラバラ♪バ~ラバラ♪」」

 

 

 レイヴェル達とドラゴン軍団が激突している頃、一誠と小猫は体育館でライザー眷属達と戦っていた。

 相手は雪蘭、ミラ、イルとネルの双子である。

 

 小猫と雪蘭は『戦車(ルーク)』同士で、一誠は三人の『兵士(ポーン)』を相手取って戦闘を繰り広げている。

 

 小猫は雪蘭と互角に戦っていたが、一誠の方はチェーンソーを持った体操着姿の双子に 追い回されるという、一見すると一方的な展開になっていた。

 

 

「ネル~。修行の成果見せようよ♪」

 

「そうだね、イル♪」

 

 

 笑みを浮かべた双子が一気に加速する。チェーンソーを振りかざし、そして――――

 

 

「「兜割り!」」

 

 

 チェーンソーを物凄いパワーで振り降ろす。

 

  ガアアァァァン!!

 

 体育館の床がぶった切られた。

 

兜割り―――斧の技の一つ。ダメージを与えるのみではなく、相手の甲殻や鎧などを破壊し、守備力を下げる

 

 直撃すれば再起不能(リタイア)を避けれたとしても、戦闘続行は難しくなる特技。

 だが、一誠は辛うじてかわせた。

 

 しかし、間髪入れず、もう一人の兵士が襲い掛かる。

 

 

「薙ぎ払い!」

 

「グアッ!」

 

 

 ガツンッ! ミラの棍が一誠の顎に直撃した。

 凄まじい痛みが走り、脳が揺れて視界にもやがかかる。

 だが、一誠は気合で持ち堪えた。

 

 

「「へへ~ん。大師匠(リュカ)からすっごい鍛えられたんだから!」」

 

「そういうことだ、リアス・グレモリーの兵士! お前達に勝ち目はない!」

 

 

 勝ち誇った表情をするイル&ネルとミラ――――

 しかし、時間は稼げた。

 

 

『Explosion!!』

 

 

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の緑色の宝玉が輝く。

 これで一定時間パワーアップできる。一誠が駆け出す。

 

 素早くミラ達の懐に飛び込む、彼女達が棍を、チェーンソーを繰り出してくるが体を捻ってかわし、三人の体に素早くタッチする。

 

 そして―――

 

 

「くらえ! 俺の新必殺技!洋服崩壊(ドレス・ブレイク)ッ!」

 

「「「イ、イヤァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」

 

 

 ミラ、イル、ネルの服が弾け飛んだ。三人娘は生まれたままの姿となる。

 

 

「アハハハハハ! どうだ、見たか! これが俺の技だ! その名も『洋服崩壊』! 俺は脳内で女の子の服を消し飛ばすイメージだけを延々と、延々と妄想し続けたんだよ! 魔力の才能を、全て女の子を裸にする為だけに使ったんだ!」

 

 

 一誠が鼻の下を伸ばしながら、胸を張って得意げに説明した。

 

 

「最低!女の敵!」

 

「ケダモノ!性欲の権化!」

 

 

 イル&ネルが猛烈に非難してくるが一誠は気にせず彼女達の裸体を観察する。

 しかし―――

 

 

「……見損ないました」

 

 

 味方のはずの小猫からも軽蔑の眼差しを向けられる。流石の一誠もこれにはたじろぐ。

 

 

「いや、でもリュカさんも“泥臭く汚い”技が大事って……」

 

「……リュカさんのも大概ですが先輩のはもっと酷いです」

 

 

 すると、リアスから通信があった。例の作戦を決行するらしい。

 一誠と小猫は体育館から走り去ろうとする。

 

 

「逃げる気!? ここは重要拠点なのに!」

 

 

 雪蘭が追おうとするが、小猫に足をやられたため追いかけることができない。

 

 一誠達が体育館から出ると―――

 

 

  ドオオォォォン!

 

 上空で待機していた朱乃が雷で体育館ごと、中にいたライザーの眷属達を撃破した。

 

 

「やったね、小猫ちゃん」

 

 

 一誠が小猫の肩を叩こうとするが、彼女がそれを拒絶する。

 

 

「……触れないで下さい……」

 

「ハハハ、大丈夫だよ。俺、味方には使わないから」

 

「……それでも最低な技です」

 

 

 どうやら本格的に嫌われたらしい。小猫がジト目で睨みつけてくるが、それでも作戦は最高に決まった。

 しかし、今の雷撃で朱乃の魔力がかなり消耗したらしい。それを回復するまで時間を稼がなくては、一誠がそう思ったとき……

 

 小猫の立っていた場所が、爆発した。

 

 

 

「小猫ちゃん!」

 

 

 

 一誠が慌てて振り向く。

 しかし、彼女は無傷だった。服はかなりボロボロになっているが目立った外傷はない。

 

 

 空を見上げると魔道士姿の女性、ライザーの女王(クイーン)ユーベルーナがいた。

 

 

「……あら、完璧なタイミングで爆破したかと思ったのだけれど……」

 

 

 確かに不可思議だろう。ユーベルーナの言う通り完璧なタイミングでの不意打ちだった。

 しかし、小猫には受け身が取れたらしい。

 

 

「……リュカさんから『敵を仕留めた直後が一番油断する。数に勝るライザーくん達なら、必ずそこを狙う』と忠告されてましたから」

 

「まあ、リュカ様ならそう言うでしょうね……。本当にあのお方は我々とあなた達、どちらを勝たせたいのかしら……? “どっちも応援する”というのが真実なのでしょうけど」

 

 

 ユーベルーナが嘆息する。一誠も小猫もなんとなく同情した。

 

 

「ですが私もあの方から助言を受けてるのよ。『イッセーくんは土壇場で力を発揮するタイプだ。勝ちに行くなら序盤で潰してしまいなさい』ってね」

 

「えっ!? ちょ、リュカさん何言ってんの!!!」

 

 

 ライザーの女王の言葉を聞いて一誠が驚き、顔を青くした。

 一方、ユーベルーナは杖をしまい、両手に爆撃の魔力を纏わせる。

 

 

「正直、私自身はあなたをそこまで警戒してないけど……。リュカ様の言葉だもの、たぶんその通りなのでしょうね。だから、この十日間で会得した私の最強の奥義で三人まとめて葬ってあげる」

 

 

 朱乃がこちらに向かってきてる。その彼女も含めて撃破(テイク)できる自信があるらしい。

 

 

「ええええええええっ!! ちょ、待って!!」

 

 

 ユーベルーナが両手の魔力を合体、集束させて何やらヤバそうな魔法を発動させようとする。

 それを見て一誠は絶叫するが―――

 

 

『ユーベルーナ! あなたも手伝いなさい!』

 

 

 ライザー側の通信機から少女の声がする。救援を求める声だ。かなり切迫した状況らしい。

 

 

「チィィィッ! ならば!」

 

 

 ユーベルーナは発動させようとしていた魔法を中断し、地面に魔力の塊を叩きつける。

 

  ズドォォォン!!

 

 凄まじい砂煙が生じた。

 一誠、小猫、朱乃の三人は思わず目をつむる。

 

 

 視界が晴れたときには、すでにユーベルーナはいなくなっていた。

 

 

「……逃げられた!」

 

「イッセーくん! 小猫ちゃん! 朱乃さん!」

 

 

 そこに木場が駆け寄ってきた。

 

 

「木場! そっちはどうだ?」

 

「兵士を三人片づけたよ……。それよりライザー・フェニックスの女王がグラウンドの方に向かったみたいだけど……」

 

「どうやら、ドラきちさん達がかなり頑張ってくれてるみたいですわ」

 

「あいつらが……」

 

 

 通信機から聞こえた声の印象から、かなり追いつめられているらしい。それを悟った一誠は、改めてリュカの魔物はヤバいということを思い知った。

 

 

「それより僕達も行こう。ドラきち達と連動して一気に撃破する敵をチャンスだ」

 

「そうですわね」

 

「……同意見です」

 

「そッスね。勝ちましょう!!」

 

 

 木場の提案を皆が了承する。

 こうして、一誠、木場、小猫、朱乃の四人はドラキー達とライザーの眷属達が激闘を繰り広げているであろうグラウンドに向かった。

 

 そこで彼らはまたも驚愕することになる。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 ライザー眷属にとって今や窮地であった。

 鉄よりも固い竜の鱗はイザベラの拳も、レイヴェルの魔力弾も通らず、簡単に弾く。

 ドラキー達は、こちらの攻撃など一切気にせず、巨大な腕を振り降ろし、火を吹き、尾で薙ぎ払う。

 それはまさに大師匠の用意した試練と呼ぶにふさわしいシロモノだ。

 

 絶体絶命の状況に、ライザー眷属達は追い詰められる。

 しかし、一人が皆に呼び掛ける。

 

 

「私に一つ案があります」

 

「何、シーリス?」

 

「私がやつらを倒します。ですが、力を溜めなくてはなりません。その為の時間を稼いでください」

 

「分かったわ!」

 

 

 大剣を持った騎士(ナイト)シーリスが提案し、レイヴェルが承諾する。

 それを聞いた他の眷属達も一斉に動く。

 

 ユーベルーナが爆撃魔法を放つ―――

 イザベラが殴る―――

 カーラマインが斬る―――

 レイヴェルが魔力弾を放つ―――

 ニィとリィが引っ掻く―――

 

 どれもこれも一切意味を為さない。

 そればかりか、カーラマインの剣は折れ、イザベラは拳を痛め、ニィとリィの爪が欠けた。

 

 

「にゃ~~~! 効かないにゃ!! それっ! お返しにゃ!!」

 

 

 ドラきちが鋭い爪を振り降ろす。

 それが二人の猫耳の生えた少女に直撃した。

 

 

「ぎゃああっ!」

 

「に゛ゃあっ!」

 

 

 ニィとリィが叩き潰された。そのまま光の中に消える。リタイアになったらしい。

 

 そのとき、シーリスが叫ぶ。

 

 

「もういい! 下がれ!!」

 

 

 進み出た彼女(シーリス)は闘気のオーラを纏っていた。

 そして大剣を大上段に構え―――

 

 

「ドラゴン斬り!!」

 

 

 ドガアアアァァァン!

 

 

 轟音と共に黒竜の一匹の鱗を叩き割った。血が一気に噴き出す。

 

 ドラゴン斬り―――竜族の魔物に大きなダメージを与える剣技。

 

 しかし、それだけでは火竜変化し、成長の極地に達したドラキーに傷を与えることはできなかっただろう。

 ダメージを与えることができた理由はシーリスが“きあいため”をしてたことだ。

 彼女(シーリス)のコーチ役だったブルートは“きあいため”と“バイキルト”を合わせ、一撃で敵を粉砕する戦闘方法を得意とする。

 それを学んでいたシーリスも“きあいため”を会得していた。

 そこで“きあいため”と“ドラゴン斬り”を組み合わせることを思いついた。

 竜殺しの力と、闘気を溜めての一撃の複合攻撃により、ドラゴンの堅牢な鱗を砕いたのだ。

 

 

「ギギャアアアッ!!」

 

「ラッキー!?」

 

 

 どうやら負傷したのはラッキーだったらしい。そもそも、ドラキーは機動力を武器とする種族で、反面に防御面で脆い。戦士職ではその長所を殺し、短所も補い切れない。ドラキーにとっては最も不向きな職種といえる。

 

 

「にゃ~~……。しょうがにゃい。いったん解除するにゃ」

 

「キキーーッ!」

 

 

 三体が一斉に火竜変化呪文(ドラゴラム)を解除する。一瞬にして巨大な竜が小さな蝙蝠に戻る。

 そして、ヨッキーが負傷したラッキーに近づくが―――

 

 

「させん!!」

 

 

 ライザー配下も黙って回復などはさせない。

 ユーベルーナが妨害の爆撃魔法を放とうとした。

 

 

「させないのはこっちにゃ。ラリホー!」

 

「うっ……」

 

 

 ドラきちが唱えたのは睡眠魔法(ラリホー)である。

 ユーベルーナ達は精神を集中させて意識を保つ。

 だが、一瞬の隙ができた。そして一瞬で事足りた。

 

 

「べホイミ!」

 

「……キキーーッッ!!」

 

 

 あっという間にラッキーの傷が癒えた。

 

 

「少々油断したにゃ~……。加減(・・)して戦うのも楽じゃにゃいにゃー。これならどうにゃ!!」

 

 

 ため息混じりにぼやいたドラきち。しかし、すぐさま心を切り替え、攻撃に移るあたり彼ら(ドラきち達)もやはり歴戦の武人である。

 そんな彼らが次に取った行動。それは全力の一撃を放ち疲弊したシーリスに突撃することであった。

 そして―――

 

 

「吸血究極連携ブラッディファング!!」

 

 

 三体のドラキーが連携し、シーリスに噛み付く。そして、凄まじい早さで血を吸い取った。

 一度に大量の血液を失った彼女(シーリス)はその場に崩れ落ち、光に消える。

 

 

「シーリス!」

 

 

 レイヴェルが叫ぶ。『犠牲(サクリファイス)』を戦略の根幹に据えるライザー眷属にしてみれば味方が撃破(キャプチャー)されるのは当然であるが、渾身の一撃を放った直後である。思わずシーリスに目が向く。

 

 一方、ドラキー達は奪った血液をテンションに転換し―――

 

 

「真空波!!」

 

「キキーーッ(体当たり)!!」

 

「バギマ!!」

 

 

 それぞれの吸血蝙蝠が、それぞれの職種で得意とする技を一斉に放った。

 一瞬、ほんの一瞬であるが油断したライザー・フェニックスの眷属悪魔達は、その攻撃を受け身も取れずに受けた―――

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「凄いものですね……。失礼ですがパッと見た感じではそんなに強そうではなかったのですが……」

 

 

 

  生徒会室

 

 

 僕はソーナ達と、決戦の行方をモニター越しに見守っていた。

 

 

「ドラきち達の事かい? 彼らは歴戦の勇士だからね。寧ろ、この短期間にあれだけ成長してみせたリアスさん達とライザーくん達に驚いているよ」

 

 

 自分の教えを受け、皆成長している。まるで息子に剣術を教え、それを彼が見事に体得してみせたときと同じくらいの感動だ。

 

 しかし、洋服崩壊とは面白い。女性用装備は男性用の装備と比べ、防御力は劣るが特殊な耐性を持つものが多い。

 

 それらを踏まえると――――例えば天使のレオタードを身に纏った一団に襲われたとき、それ(洋服崩壊)を使い、ザラキーマで一掃する、という使い方があるかもしれない。

 まあ、“天使のレオタードを身に纏った一団に襲われる”なんてことは滅多にないが……。

 

 

 そんなことを考えながらモニターを見ていると――――

 

  ザッ……ザザッ……ザァーーーーーー

 

 映像にノイズが混じり始めた。

 

 

「おや? これはどうしたんだい?」

 

「変ですね……。遠隔透視の魔術に異常が発生したのでしょうか……?」

 

「ふむ………」

 

 

 何か良くないことの前兆でなければいいが…………。

 

 僕はそう思った――――――

 

 

 

 




かぶとわり:DQⅧ以降、DQMJ以降のモンスターズシリーズに登場する特技。敵1体に通常攻撃と同等のダメージを与え、同時に相手の守備力を下げる効果がある。
特にⅧではヤンガスがオノスキルのSPを6まで上げると習得でき、ジャンプして空中回転しながらオノを敵1体の頭に叩きつける。消費MP0で通常攻撃+7~10ターンの間、守備力を元の値の半分まで下げることがある…という優秀な技。

きあいため:DQⅣ~Ⅶに登場する特技。大きく息を吸い込んで気合をため、次のターンに物理攻撃の与ダメージを約2倍にする。「ちからため」と違い攻撃が必中になる。

ブラッディファング:DQMBより。必殺技の一つ。肩書きは「吸血究極連携」。牙を使う技を3つ選ぶと発動する。3匹が順に噛みつき、更に巨大な牙が敵全員にダメージを与え、相手の気力を奪って味方全員のテンションを上げる。



第三者視点って難しい(T_T)
慣れないことはしたくないなぁ……。


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23話 力と優しさ

  

 

「リアス! 悪いがこちらから出向いてきたぞ!」

 

 

 吸血ドラキー三匹とライザー配下の眷属悪魔達の激闘が行われているグラウンドから離れた場所。

 朱乃に破壊された体育館跡地に三人の悪魔がいた。

 ライザー、リアス、アーシアである。

 

 ライザーは自分の本陣である新校舎からリュカの試練たる魔物達と、自分の下僕達の戦いを見ていた。

 その三匹は自分の予想を上回るほど強かったが、また同時に確信する。

 

 自分達も強くなっている、と―――

 

 十日前の配下達ならあっというまに全滅していただろう難敵に、美南風は身を挺しながらも仲間を守り通し、シーリスはその内一体をあと少しでリタイアになるまで追い込んだ。あとの残った眷属達でも、もう少しなら時を稼げるはずだ、そう考えた。

 

 レーティングゲームは相手を全滅させる必要はない。

 敵の(キング)さえ取れればいいのだ。

 今の自分たちでは、あの怪物蝙蝠を倒す力はないだろう。

 だが、皆が時間を稼いでるうちに敵の王―――リアスを取るのだ。

 しかし、他の連中(オカルト研究部)に気付かれると厄介だ。

 故に、新校舎の裏手からこっそり抜け出した―――。

 

 

 一方、リアスも同様の考えだった。

 

 ―――君達は自分達のみの力でリアスさんを守り切る、そう思って特訓に取り組んで欲しい。

 

 修行の前にリュカから言われた言葉。

 確かにこのまま持久戦に持ち込めば勝利は固い。それだけ彼ら(ドラキー達)の力は強大だ。

 ひょっとすれば一体一体が上級悪魔に届くかもしれない。

 

 ―――しかし、それでは胸を張ってライザーに勝ったと言えるだろうか……?

 

 そう思ってしまった。無論、愚かな考えだ。そんなことは誰よりも自分が分かっている。

 だが、この日の為にリュカの指導の下、自らの技に磨きを懸けてきたのだ。

 それは助っ人の影に隠れて勝利を拾う為ではない。

 故に、本陣から抜け出し敵陣に赴く。

 

 

 そしてその道中、二人は鉢合わせした。

 レーティングゲームのバトルフィールド。その丁度真ん中、センターポジション。

 その空間が人工的(悪魔工的に?)造られたことを示す白い空の下、両チームの大将が向かい合った。

 

 

「リアス……悪いが最初から全力でやらせてもらうぞ。俺の眷属達でもそう長くは持ち堪えられないみたいなんでな」

 

「いいわ。元々このゲームはグレモリー家とフェニックス家の問題。私たちで決着を付けましょう!」

 

「行くぞッ! リアス!!」

 

 

 ライザーは猛火を巻き上げ、自分の婚約者に向かっていった。

 リアスも滅びの魔力を展開する。迎撃する構えだ。

 

 ライザーが炎を纏った拳を繰り出す。だが、その拳は腕ごと消えていた。リアスが消滅させたのだ。

 しかし、そんなことは想定の範囲だ。

 瞬時に、背に業火の翼を出現させる。その翼から炎の塊を放った。

 

 

 

「きゃあああっ!!」

 

 

 リアスはライザーの炎に焼かれ、大火傷を負った。以前のライザーの炎であれば滅びの魔力で防げる自信があった。だが、これまでの(ライザー)の比ではない。魔力で身を守ろうとしたが、それすら貫通して自分の身を焼かれた。

 あるいは、仮にも婚約者である自分には加減してくれるかもしれないという甘えがあったか―――

 そんなことを考え、リアスは自嘲的な気分になった。

 だが、すぐに精神を立て直す。

 

 

「アーシア!」

 

「はい、部長さん!」

 

 

 リアスの呼び掛けにアーシアが答え、すぐに『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』で主の傷を癒す。

 

 

「させんっ!!」

 

 

 ライザーはそうはさせないと言わんばかりに追撃の業火を放った。

 以前の彼であれば余裕たっぷりに回復する猶予を与えていたかもしれないが、今はそうではない。

 一切の加減はしない。フェニックス家の為に、リアスに認められる為に、そして何より自分の為に全力の攻撃を放ち続ける。

 

 

「くうううぅぅぅっ!」

 

 

 フェニックスの業火を、滅びの魔力を障壁として展開することでリアスは耐え忍ぶ。

 もうすぐ、最初の攻撃で受けた火傷が完治する。それから反撃に転じなければ――――

 

 だが、そんな思いとは裏腹に徐々にライザーの炎の方がリアスの滅びの魔力を上回り始めた。

 

 マズい、受け切れない―――

 

 咄嗟にアーシアを抱きかかえ横っ飛びにかわす。

 ついさっき場所が灼熱に包まれた。そこらにあった体育館の残骸が燃えカスとなる。

 

 

「この十日間で強くなったのはお前だけじゃないぞ、リアス!」

 

「……そのようね」

 

 

 リアスにとって認めたくはないが、明らかにライザーは強くなっていた。

 その火力は勿論だが、何より精神面で甘さがない。配下が、そう長くは持ち堪えられないことをきちんと認識していて、クレバーに勝ちに来ている。

 悔しいが、このままじゃ不味い。

 

 やはり、最低でも自分の眷属達とは合流してからにすべきだったか。

 

 自身の軽挙さを呪ったが、今はそれどころではない。

 冷静に今すべきことを考えるのだ。

 

 

(……ここは一旦、逃げるべきね。イッセー達と合流して……)

 

「おっと、逃げようだなんて思ってないよな……。たしかに師匠(リュカ)からは『戦略的撤退は間違いではない』と言われてるだろう。

 だが、同時に『しかし、逃げ切れる敵かどうかを見極める必要がある。下手に相手に背を向けると、逃げ切れなかったときに窮地に立たされる』とも教えられてるはずだ」

 

 

 どうやらライザーも私と全く同じことを教えられたようだ。

 あの人(リュカ)はどこまでも公平らしい。付き合った期間は私の方が長いんだし、もう少し贔屓してくれてもいいじゃない―――内心リアスはリュカに毒づいた。

 

 ライザーからは逃げられない。ここは決死の覚悟で向かっていく必要がある。

 そう結論に至る。

 

 今、自分にやれる最高の技を放つ為に、魔力を練り上げる。

 

 

「フン、リアス、お前は俺のモノになってもらう。そのために全力で叩き潰す!!」

 

 

 ライザーもまた、魔力を集中する。炎の翼が数倍に大きくなる。

 その様は、まるで炎で出来た巨鳥だ。辺り一帯を焼き尽くしても尚、お釣りがくるほどの業火を身に纏う。

 

 リアスとライザーの視線が交わる。お互いがお互いに対して、極限まで集中する。

 それこそ一挙一動に至るまで、婚約者同士の二人が、今までこれ程に互いを観察したことが無いほどに。

 

 そのとき―――

 

 

「マホイミ!」

 

 

 物陰に隠れていたアーシアがライザーに向けて、両手を翳し魔法を唱えた。

 一体どんな魔法か―――ライザーが身構える。

 しかし、待てども何の痛みもこない。

 失敗したのか? そう思ったとき――――

 

 

「ハアアアァァァッ!!」

 

 

 リアスが叫びと共に赤黒い滅びの魔力を放った。今までの物の比ではない。触れるものを片っ端から消滅させてライザーに向かっていく。

 

 あれをまともに受けるには不味い。(ライザー)のこの十日間で鍛えられた感性が迅速に危機を伝える。

 そのおかげもあって、素早く飛び退くことができた。だが、片腕が滅びの魔力に飲まれ、消滅する。

 その魔力の塊はそのまま通過し、体育館の残骸の半分以上を消滅させた。

 

 しかし、今の一撃にはリアスの持つ魔力の大半が注ぎ込まれていたらしい。

 リアスは立っているのが精一杯のようだ。

 

(今の一撃がリアスの切り札だったようだな! 腕の一本ぐらいならすぐに再生できる! これで勝った!!)

 

 

 ライザーが勝利を確信する。

 

 だが―――

 

 

 彼の腕は再生が始まらない。寧ろ消滅した個所から徐々に肉体が崩れていく。

 

 

「なっ、何なんだ、これは!?」

 

「それはリュカさんから教えてもらった過剰回復呪文マホイミの効果です!」

 

 

 瓦礫の影に隠れていたアーシアが必死な面持ちで前に進み出て言った。

 

 

 

 

 

 修行四日目

 

 

 

「私だけがライザーさんを倒せる、ですか……?」

 

「ああ、そうだ」

 

 

 リュカがアーシアにそう言った。アーシアは驚く。

 

 

「でも、私の神器(セイクリッド・ギア)は皆さんの回復の為の物ですし……」

 

「そうだ、その回復だ」

 

 

 リュカがアーシアに説明する。

 

 

「ライザーくん……フェニックスが不死と云われるのは、その回復力が所以だ。その力を封じるか、或いは逆に利用するのが一番手っ取り早い倒し方だ」

 

 

 そう言うと、リュカは近くの木に近づいた。

 

 

「見ててごらん……。マホイミ!」

 

 

 リュカが何やら呪文を唱える。すると木はボロボロと崩れていった。

 

 

「今、僕が何をしたのかわかるかい?」

 

「ええっと……、なんでしょう?」

 

「答えは“回復”させた。君は植物の世話をしたことがあるかい? 植物に水やりをし過ぎると逆に枯れてしまう。生き物にとって過剰な回復は反って毒になる」

 

「なんだか怖いですね……」

 

 

 アーシアが怯えたように言う。

 

 

「ああ、そうだ。この怖さを理解できる者でなければこの魔法は教えられない。フェニックスの武器は“回復力”。しかしその“回復”こそが弱点だ。僕の見立てでは、君は完全にこの呪文をマスターできるわけではないが“もどき”ならできる。その神器があれば……」

 

「でも……、やっぱり癒しの力でヒトを傷つけるのには抵抗があります……」

 

 

 それでも躊躇うアーシア。しかし、リュカはゆっくりと微笑みながら優しく諭す。

 

 

「君は本当に優しい子だ……。でもね、愛や優しさだけでは必ずしも他人を守り切れない時もある。正義なき力が無力であるのと同時に、力なき正義もまた無力だ。要は使い方だ。

 大丈夫! 君が使う限り、その神器は決して正義なき力にはならない。僕が保証する」

 

「リュカさん……」

 

 

 こうして、アーシアの修行が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅうううぅぅぅ……」

 

 

 地に倒れたライザーは呻き声を上げ、崩れていく腕の断面を抑える。

 誰がどう見ても戦う力は残っていない。

 片腕を失い、マホイミで再生力も封じられた。

 だが、彼は諦めない。気力で持って強引に立ち上がる。

 

 

「まだだ……、まだ負けてはいない!!」

 

 

 今一度、炎の翼を生成しようとする。

 

  ゴオオオオオオオ

 

 ライザーの執念によって、再び巨大な業火が巻き起こった。

 (ライザー)の鋭い眼光を向けられ、優勢なはずのリアス達がたじろぐ。

 

 

 

「さあ、今度こそ決着を―――」

 

 

 二人の強い眼差しが交錯する。

 ライザーとリアス、己が運命を懸けた二人の若い悪魔が、その最後の力を振り絞って激突しようとした

 

 

 次の瞬間――――

 

 

 

 それは突然に、何の前触れもなく起こった。

 駒王学園を摸したバトルフィールドの全域が真っ暗になったのだ。

 夜になったのか? 否、違う。この空間は人工的に造られたものだ。夜になるはずがない。

 つい先程まで空は真っ白だったではないか。それがどうして――――

 

 

 リアスとライザーが不可思議に思っているとき、彼らの上空が急激に凍りついた。

 

 

 

 「「「「 マ ヒ ャ ド !!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃―――

 

 

 

「お~、来たのかにゃ」

 

 

 ライザー・フェニックスの眷属達を撃破したドラきち達が、ポカンとしているオカルト研究部の面々に話しかけた。

 

 

「……え~と、御三方はドラゴンなのでしょうか?」

 

「んにゃ、違うにゃ。今のは火竜変化呪文(ドラゴラム)の効果にゃ」

 

 

 やけに畏まって尋ねてくる一誠に、ドラきちがのんびりと答えた。

 

 

「しかし、こいつらもなかなかだったにゃ。まさか、オレ達の鱗を割かれるとは思わなかったにゃ」

 

「キーー」

 

 

 シーリスがラッキーを負傷させたのが意外だったらしい。ドラきちが感心したように言い、ラッキーも頷いた。

 

 

 

「さ~てと、何て言ったかにゃ……、あ、そうそう、ライザーにゃ。そいつを倒しに行くにゃ……。ん、あれ?」

 

 

 早速、敵の王を取りに行こうとするが、ドラきちが不思議そうに周りを見渡した。

 

 

「うぅ…………」

 

 

 カーラマインが苦しそうに呻いた。同様にイザベラ、ユーベルーナ、そしてレイヴェルも重傷だ。

 

 

「あれ~……。どうなってるにゃ?」

 

 

 レーティングゲームでは、再起不能になった者はリタイヤとなってバトルフィールドから強制転移される。

 転移先は医療設備が整った所で、レーティングゲームで大ダメージを受けても問題ないのはそれが理由だ。

 ところが、四人とも明らかに戦闘不能のはずなのに転送されない。

 

 

「なんかの事故なのでしょうか……?」

 

「これは不味いですわね……」

 

 

 木場と朱乃が負傷したライザー眷属を見て呟く。

 戦闘中は余裕綽々だったドラきちが、冷や汗をかいて焦る。

 

 

「ま、まままま不味いにゃ! 強制転移されるから大丈夫だと思って思いっ切りやっちゃったにゃ!

ど、ど、どうしよ~!!」

 

「……落ち着いてください」

 

 

 焦りまくるドラきち達を小猫がたしなめる。

 

 すると空が暗くなった。

 

 

「わひゃ~~~!! 何にゃ!? 何事にゃ!?」

 

 

 突然の事態にドラきちが驚きまくる。一誠達はさっきのドラゴン三匹が暴れてる方が驚きであったため、それ程でもないがやはり驚いていた。

 

 

 ズシィッ! ズシィッ! ズシィッ! …………

 

 

 そこに足音が聞こえてきた。その音の主の重量を感じさせる、低く重厚な足音。

 

 やがて暗がりから何かが現れた。明らかに尋常ではないモノ。

 

 人型ではあるが決して人ではない。

 巨人を思わせる大きな体躯。金色の強固な外殻。巨大な尾。両手の甲から突き出る爪のような骨。巨大な角に、自らの威信を示すが如き豪壮な髭―――

 

 

 それが何であるかドラきち達には分からなかった。

 故に尋ねる。

 

 

「お前は一体何者にゃ?」

 

 

 

 

「我に呼ぶ名などは無い。生贄を食らい人の願いを叶える魔神よ……。

そやつだな、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の持ち主とやらは――――」

 

 

 

 

 

 

 




マホイミ:漫画「ダイの大冒険」より。回復呪文ホイミの効果を極限にまで高めて、過剰な回復エネルギーを送り込むというもの。花に水をやりすぎると枯れるように、相手を過剰なまでに回復させて生体組織を破壊するという恐るべき攻撃呪文。


戦闘校舎のフェニックス編 BOSS いにしえの魔神:Ⅸのボス


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24話 乱入者

あれ? これってリュカが主人公だったような……
なんかドラきちの方が主人公っぽくなってしまいました。


  

 

「ヒトの願いを叶える魔神だとにゃ……?」

 

 

 ライザー・フェニックスとリアス・グレモリーの結婚が懸ったレーティングゲームのバトルフィールド。

 ゲームの終盤において、乱入する者が現れた。

 それは巨躯を誇る人外の存在。

 

 ドラきち達は知らぬことだが、彼は異世界において“いにしえの魔神”と呼ばれた者である。

 その力は絶大で、かつてその世界で覇を唱えた魔帝国ガナンの侵攻を阻むことができた程だ。

 

 しかし、その対価となる生贄は大きい。

 彼を召喚したセントシュタイン王国の王はあるモノ(・・・・)を捧げた。

 かの王が生涯秘匿にするほどのモノだった。

 

 隣国ルディアノそのものである。

 城も、国土も、そして民も、すべてが灰燼に帰した―――。

 

 

 そんな存在が突如として現れた。

 ドラきちは、すぐにこの魔が思い上がった三下ではないことを見抜いた。

 

 

「あらあら、何のつもりでいらっしゃられたのかは存じませんが、このゲームは魔王サーゼクス・ルシファー様がご観覧されいているのですよ。あまり、無茶をされてはなりませんわ」

 

 

 魔王サーゼクス・ルシファー―――リアス・グレモリーの兄にして現四大魔王の一人。その力は四大魔王の中でも強く、冥界の超越者の一人と目される。

 

 朱乃が穏やかに忠告する。だが、その穏やかさは表面的なものだ。彼女の声には強い警戒感が滲み出ている。

 そんな朱乃の言葉を、魔神は鼻で笑った。

 

 

「フンッ、この異界で君臨するという魔王の一角か……。例え、その者が現れたとしても我ならば問題はない。ただ、打ち倒すのみだ。

 だが、そなたの心配など杞憂に過ぎぬわ。我の召喚主がこの異空間を結界で覆っている。その証拠に……ホレ、そこの地に倒れている者達が転移されぬであろう」

 

 

 魔神は手の甲から生えた極太の針の様な骨で、傷ついたライザーの眷属達を指し示した。

 

 

「この異空間は今や完全に断絶されている。ここで我が何をしても誰も……そなたの言う魔王ですらも何が起こっているのか認識できぬ」

 

「……で、何しに来たにゃ?」

 

 

 ドラきちが冷たい声で尋ねた。

 

 

「召喚者からは神器(セイクリッド・ギア)の所持者を確保し、またある物(・・・)を採集して来いと言われている。まあ、そなたらには関係のないことだ……。 その召喚者の描いた筋書きでは、このバトルフィールドを維持するシステムに異常が発生し、戦闘不能になった者の転移ができず、激戦の末に全員が傷つき全滅……。

 少々都合が良すぎるが、痕跡さえ残さなければそう納得せざるを得ない。何せ今、向こうは何も見えていないのだからな」

 

「要するに“死人に口無し”……神器所持者以外を全員殺すというのですか?」

 

 

 魔神の話を聞き、木場がまとめた。魔神が頷く。

 

 

「そうだ」

 

「ふざけんな! そんなことさせるかよ!!」

 

 

 一誠が激昂する。その叫びを聞いても魔神は全く意に介さない。まるで、纏わり付いてくる煩い蚊でも見たような目を向ける。

 

 

「造作もない」

 

 

 そう嘯いた魔神は軽く息を吸い込み――――

 

  コォォォォォーーーッ

 

 輝く光の炎を吐いてきた。

 ただの炎ではない。光の力を持つ超常の業火だ。

 本来の威力であれば、直撃すれば悪魔の一誠は即時消滅するであろう。

 神器所持者を回収する任を帯びているため加減はされているが、直撃すれば(一誠)の体の半分は消滅するブレスが届く寸前――――

 

 ラッキーが 一誠 をかばった!

 

 

「ギギィィィッ!」

 

「ラッキーさん!?」

 

 

 小さな吸血蝙蝠に身を挺して庇われた一誠が驚愕する。

 

 

「お前達は邪魔にゃ! そいつら(ライザーの眷属達)を連れて、ライザーとリアスに合流するにゃ!!」

 

 

 ドラきちが叫んだ。これまでの瓢々とした態度からは考えられない真剣な声だ。

 その間にヨッキーがラッキーに近づき治療を施す。

 

 

「でも、ドラきちさん!?」

 

「四の五の言うにゃ! 死にたいのかにゃ!?」

 

 

 それでも留まろうとする一誠に、ドラきちが一喝する。

 歴戦の彼からしても、この敵はヤバい。足手纏いがいたら勝てないと判断するには十分すぎる程にだ。

 

 

「……わかりました。スンマセンッ!」

 

 

 一誠は謝るとレイヴェルを担いで駆け出した。

 同じように木場がカーラマインを、小猫がユーベルーナとイザベラを担ぎ逃げ出す。

 姫島は空を飛び、彼らを先導する。

 

 グラウンドには三匹のドラキーと魔神が残った。

 その場には不気味な静寂が響く。その沈黙を破ったのは魔神の方だ。

 

 

「ふん、足手纏いを逃がしたか。悪くない判断だが大した時間稼ぎにもならんぞ」

 

「それはどうかにゃ?」

 

「まさかとは思うが、この我に勝つつもりなのか? そなたが脆弱な種族でありながら成長の極地に達した歴戦の兵であるということは分かる。だが、所詮ドラキーはドラキーだ。我には及ばぬ」

 

 

 魔神が嘲笑するかのように言う。だが、吸血蝙蝠のリーダー格は不敵に笑った。

 

 

「そうでもないにゃ。アンタも能書きをだらだら話に来たわけでもあるまいにゃ。

 …………やるにゃ」

 

 

 ドラきちが他の二匹に目配せをした。三匹は一斉に闘気の輝きを身に纏い、それを同調させる。

 

 そして―――

 

 

 

 な…なんと ドラきちたちが……!?

 

 

 合体して グレートドラキーこと グレドラになった!

 

 

 

 三匹が密着したかと思えば、煙が発生し、その中から巨大なドラキーが現れた。

 ただ単に大きいだけではない。強大な紫色の闘気と魔力のオーラを身に纏っている。

 先程の小さな蝙蝠達とはまるで別物だ。

 それを見た魔神は嗤う。

 

 

「フハハハハハハ! 確かに想像以上にやるようだな。だが、そのレベルではまだ我には及ばぬ!!」

 

『いくにゃっ!!』

 

 

 異界の魔神と合体ドラキーが激突した。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 体育館跡地

 

 

「大丈夫か? リアス……」

 

 

 リアスとアーシアとライザーは激戦の最中に、何者かからの攻撃を受けた。

 

 マヒャド―――冷凍呪文の中では高位のものだ。

 これを受ければリアスもアーシアも氷漬けになっていただろう。

 しかし、そうはならなかった。ライザーが彼女達を撃破する為に放とうとした最後の業火を、リアス達に向けてではなく、降り注いでくる氷塊に向けて撃ったからだ。

 

  ドサッ

 

 これでライザーは最後の力を出し切ったのか気絶した。

 

 

「ライザー! しっかりして!」

 

 

 思わずリアスが駆け寄る。

 

 

「部長! 大丈夫ッスか!?」

 

 

 すると、そこに駆け寄ってくる者達がいた。

 一誠、木場、小猫、朱乃、そして彼らに担がれているのはユーベルーナ、イザベラ、レイヴェル、カーラマインだ。

 

 

「皆! これは一体――――」

 

「あら、この状況でおしゃべりしている余裕があるの?」

 

 

 オカルト研究部の面々が周りを見渡すと、すでに周囲は完全に包囲されていた。

 その者達は皆悪魔のようだ。それも女性ばかりだ。

 全員青い肌をし、蝙蝠の様な翼が生え、似た形状の胸元も空いた扇情的なドレスを着ている。

 

 その代表らしき女悪魔が進み出た。青髪に赤い瞳の美女だ。

 

 

「主様が取り逃がすなんて、どういうつもりなのかしら? まあ、いいわ。さっさとお仕事しちゃいましょ」

 

 

 そう言うなり、この女悪魔の瞳が 妖しく輝いた!

 

 

「……ぐっ! どうなってやがる……! 体が動かねぇ!!」

 

 

 女悪魔の瞳から光が降り注ぐ――――

 その怪光線を浴びた一誠達は指一本動かせなくなった。

 オカルト研究部の部員たちが必死に足掻く……だが、まるで意味をなさない。

 

 

「アハハハハハッ! 無駄よ。私はイシュダル。この私の呪いを受けては動くことなどできないわ」

 

 

 女悪魔イシュダルが嘲笑した。

 そのまま彼女は一誠に近づき、彼が肩に担いでいたレイヴェルを抱き上げた。

 そして―――

 

  バシンッ

 

 イシュダルがレイヴェルをはたき、叩き起こした。

 

 

「――――ッ!」

 

「目が覚めた? アンタ達、そのお嬢さんを抑えときなさい」

 

 

 イシュダルが配下の女悪魔―――ヘルヴィーナスに命ずる。

 二人のヘルヴィーナスが進み出てレイヴェルを羽交い絞めにした。

 イシュダルが長く鋭いナイフを取り出し、ねぶるような眼差しを不死鳥の少女に向ける。

 

 

「御嬢さんはフェニックス……不死なんですってね。羨ましいわぁ……。なら、これくらい問題ないわよねぇ!」

 

 

 イシュダルのナイフが黒い輝きを放つ。

 暗黒闘気を纏わせたのだ。それはさながら毒蛇のキバのように見えた。

 そのナイフを見せつけるように振り上げ―――

 それをそのままレイヴェルの腕に突き刺した。

 

 

「キャアアアァァァッ!!」

 

「……レイヴェル様!」

 

「おい、何やってる! やめろッ!!」

 

 

 レイヴェルが痛みのあまり劈くような悲鳴を上げる。その叫び声を聞きユーベルーナ達が目を覚まし、一誠が制止しようとした。

 その様を睥睨したイシュダルが嘲笑う。

 

 

「ククク、アンタ達も馬鹿ねえ。私の呪いが掛かっているのに、動ける訳ないじゃない。そこでおとなしくしてなさいな」

 

 

「……レ……イ……ヴェル……」

 

 

 妹の悲鳴を聞き、気絶していたライザーが目を覚ました。

 満身創痍でありながら家族のために必死で起き上がろうとする青年を目に止めた妖魔は、小馬鹿にした表情でその様子を観察する。

 

 

「……ふぅーん、なかなかアンタもしぶといわね。

 あ、そっか、アンタを使った方が手っ取り早いか……」

 

 

 しばらく不死鳥の青年を眺めていたイシュダルであったが、何やら思い付いたらしい。

 そう言うと、イシュダルはライザーにゆったりと近づき……、彼の妹にしたようにライザーにもおぞましい輝きを帯びた凶器を深々と突き立てた。

 

 

「グアアアアァァッ!」

 

「お、お兄さまァァアアッ!!」

 

 

 兄の絶叫を聞き、レイヴェルが更に悲鳴を上げた。彼女の頬をつたって一筋の涙が落ちる。

 彼女を羽交い絞めにしていたヘルヴィーナスがクリスタルの小瓶を取り出し、その涙を受け止めた。

 それを見たイシュダルが満足そうに頷いく。

 

 

「……フェニックスの涙は採集できたわね。さて、あとは神器の持ち主を回収して……ああ、その前に用済みになった焼き鳥二羽と、その下僕を始末しましょ」

 

 

 イシュダルのナイフにこれまでの比ではない暗黒闘気が宿る。

 ライザー達を殺すつもりだ。

 

 イシュダルがレイヴェルに向かってナイフを振りかざす―――

 

 

「止めろおおぉぉぉぉぉッッ!! ブーステッド・ギアッ!!」

 

『Boost!!』  

 

「アーッハハハハッ! だから、無駄だっていってるでしょうに」

 

 

一誠が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出現させ倍化を始める。

 

 

『Boost!! Boost!! Boost!! Boost!! Boost!! Boost!! Boost!! Boost!!』

 

「うおおおおおおおおっっ!!!」

 

 

 イシュダルが哄笑しても倍化を止めない。一誠が咆哮する。

 

 

『Explosion!!』

 

「どおおぉりゃあああぁぁぁっっ!!」

 

 

 一誠が限界まで倍化し、雄叫びを上げる。

 そして――――

 

  バリィーンッ!!

 

 

「なっ!?」

 

 

 イシュダルの呪いを打ち破った。

 そして、そのまま――――

 

 

「木場ァァァァァッ!!」

 

魔剣創造(ソード・バース)!!」

 

 

 木場が自身の神器である魔剣創造を発動させた。

 そして地面に手のひらを向ける。

 すると、地から無数の魔剣が勢い良く飛び出してきた。様々な形状、様々な刀身の魔剣だ。

 

 

「チッ――――」

 

 イシュダルは飛びのいてそれをかわした。

 ヘルヴィーナス達も同様に回避する。

 

 

「なかなか面白い技だったけど、そんな子供騙しで私達が―――」

 

『Dragon booster second Liberation!!』

 

 

 赤龍帝の籠手から聞いたこともない言葉が発せられる。それに合わせ神器の形状が変化し、一誠の脳内に新しい情報が送り込まれる。

 

 

「これが新しい『赤龍帝の籠手』からの贈り物だ!!」

 

『Transfer!!』

 

 

 変化した赤龍帝の籠手を一誠は地面に叩き付けた。

 

 すると、より大きな、より大量の魔剣が地面から湧き出した!!

 

 

「グアッ!!」

 

 

 イシュダルもヘルヴィーナス達も避け切れず直撃する。突きささる。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……、やったか?」

 

 

 力を使い果たした一誠が呟いた。皆が希望的に辺りを見回す。

 

 

 

 

「やってないわよ」

 

 

 イシュダルが青い血を流しながらムクリと立ちあがった。

 ヘルヴィーナス達も同様に起き上がる。中には急所に当たり、大ダメージを受けた者もいるが皆健在だ。

 

 

「フフフフフ……やってくれたじゃない。いいわ、私達の氷結呪文(マヒャド)で殲滅してあげる。

 もう、命令も知ったことじゃないわ。死ねえええぃッ!」

 

 

 イシュダル達が一斉に氷結呪文を唱え始める。これを受ければ全滅は免れないだろう。

 リアスが滅びの魔力で、朱乃が雷で攻撃しようとするが間に合わない。

 万事休すか―――

 

 

 

 

 

 そのとき―――

 

 

 

 

 

 

 

「僕の愛しい弟子達に何をしてるんだい?」

 

 

 

 少し離れた場所から声が聞こえてきた。

 

 声が発せられた場所には、いつもの穏やかな雰囲気とは違う、冷静ながらもひどく冷たい表情を浮かべたリュカがいた――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




グレートドラキー:Ⅷとモンスターバトルロードシリーズに登場するモンスター。ドラキー達が合体することで誕生する巨大なドラキー。

妖女イシュダル:Ⅸの序盤のボスモンスターで、ルディアノ城で戦うことになる美女の姿をした悪魔のモンスター。いにしえの魔神の配下でヤンデレ気質。

ヘルヴィーナス:Ⅸに登場するモンスター。妖女イシュダルの色違い。無実の罪によって処刑された娘が、いにしえの魔神に魂を売ることで転生した女性型モンスター。殺戮を繰り返して返り血を浴びれば浴びるほど、自分の美しさに磨きがかかると信じ込んでいる。


ゲームだとイシュダルよりヘルヴィーナスの方が強いですが
この小説だと イシュダル>ヘルヴィーナス です。

違和感を覚えられた方には申し訳ありません。


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25話 克服

  

 

「僕の愛しい弟子達に何をしたんだい?」

 

 

 リアス・グレモリーとライザー・フェニックスのレーティングゲームに突如として乱入してきた“いにしえの魔神”とその配下達。

 妖女イシュダルとヘルヴィーナスがリアス達を始末しようとした、正にその時―――

 一人の男が現れ声を掛けた。リュカである。その声色はゾッとするモノがあった。

 

 穏やかな怒り―――

 

 

 一言で言い表せばそんなものか。しかし、それが向けられているイシュダル達は恐れおののく。

 だが彼女も“いにしえの魔神”の副官たる女悪魔だ。目の前にいるのは所詮人間、そう考え精神を立て直す。

 

 

「何って言われてもね……。たった今始末するところよ。邪魔しないで貰えるかしら」

 

「邪魔するに決ってるだろう? 彼らは僕の愛弟子だ。殺すなんてことは僕が許さない」

 

 

 リュカの眼差しに剣呑さが増した。その言葉には逆らい難い力が帯びている。イシュダルはこの男(リュカ)が凡そ常人でないことをはっきりと認識した。

 しかし、内心焦りながらもその感情を押し殺し、冷静に相手と自分達の戦力差を分析しようとする。

 味方はヘルヴィーナスが三十一体、自分が一人。敵は不死鳥兄妹にその眷属が四人、リアス・グレモリーと五人の眷属。そして目の前の男。しかし相手の内、ライザー達はほぼ戦闘不能。魔王の妹とその配下は自分達の相手にはなるまい。

 そう考えれば、脅威となり得るのはこいつ(リュカ)だけだ―――

 

 

「許さないですって……。この数のヘルヴィーナスに何ができるというのかしら? お前達、この男を殺しなさい!!」

 

 

「「「マヒャド!!!」」」

 

 

 

 周囲の空間が瞬く間に氷結する。30体ものヘルヴィーナスが放つ高位氷結呪文の威力は絶大だ。

 冷気が荒れ狂い、あらゆるものが凍り付く。常人は勿論のこと、いかなる上級悪魔であっても、血液は勿論、骨の髄まで凍り、粉々に砕け散って粉末と化すであろう。

 

 だが―――

 

 

「マホカンタ!」

 

 

「「「ギ、ギャアアアアアアァァァァァアアアッッッ!!!」」」

 

 

 魔鏡反射呪文マホカンタ―――あらゆる魔法を反射させ、撥ね返す呪文。この魔法は世界ごとに微妙な違いがあり、味方からの有効な魔法も跳ね返してしまう世界が多い。リュカが元居た世界でもそうだった。

 しかし、味方からの呪文は例外にできる世界もあった。そこでその世界で覚え直し改善した。

 

 マホカンタによって撥ね返された氷結呪文(マヒャド)の嵐はそのままヘルヴィーナス達に直撃する。

 ヘルヴィーナスという種族はいにしえの魔神によって産み出された高位魔族だ。その上、氷結系呪文・特技に耐性を持っている。

 しかし、どんなに悪魔として高い能力を持っていようが、冷気に耐性があろうが自分達の一斉発射が仇となった。

 その場には三十体もの見目麗しい女悪魔の氷の彫像が並び立つこととなった。

 

 

「お前達ッ!? チイィィィッ!!」

 

 

 部下がやられたのを見て、舌打ちしたイシュダルは目を怪しく光らせる。その光線はリュカにも降り注がれる。

 その瞬間、リュカの体が動かなくなる。

 

 

「むっ……!」

 

「もらったっ! 『タナトスハント』!!」

 

 

 妖女が会心の笑みを浮かべる。勝利を確信した、という表情だ。凄まじい早さでリュカに接近しナイフを振り翳す。

 イシュダルの短剣から不気味に輝く三本の鞭が生み出され、彼女はリュカにそれを叩きつけた。

 

 魔女の眼差し―――敵全体にダメージを与え、麻痺状態にもする体技。

 

 タナトスハント―――相手が毒や麻痺などの状態異常に犯されているときに大ダメージを与える技。

 

 イシュダルにとってこの二つの特技は必殺技だ。これまで多く敵を『魔女の眼差しで』で麻痺させ動けなくし『タナトスハント』で止めを刺す、というコンボで仕留めてきた。

 

 

 彼女にとってこの組み合わせは黄金パターン。最初に麻痺させた時点で勝利したも同然だ。

 本当に(・・・)麻痺させることができていたのであれば……

 

 

「なんちゃって!」

 

 

 喉を切り裂こうと不用意に接近した彼女に、リュカは体を捻ってタナトスハントをかわしつつカウンターの回し蹴りを放った。リュカの凶器ともいうべき脚がイシュダルの顎にクリーンヒットする。

 

 

「悪いね。僕は以前にある魔物(・・・・)から麻痺で散々やられた、という経験があるんだ。その時から麻痺対策だけは決して怠らないようにしている」

 

 

 そう言うとリュカは右手の中指にはめられた指輪を翳して見せた。

 丸く乳白色の、まるで月の様な輝きを放つ石が嵌め込まれた指輪だ。

 

 満月のリング―――麻痺を防ぐ力を持つという指輪

 

 つまり、リュカは麻痺などしておらず、動けなくなったフリをして、こちらが無警戒に接近するように仕向けたのだ。

 そうだと理解したイシュダルは激昂する。

 

 

「キ、キサマァァァッ!! 人間の分際で舐めたことを……、私の呪いで未来永劫縛り付け、地獄の苦しみを味わわせてやる!!」

 

 

 そう吐き捨てるとイシュダルは、再び両目に魔力を集中させる。彼女の紅い瞳が不気味な光を帯び始め―――

 

 

  カアアアァァァッ!

 

 

 呪いの光線が放たれた。リュカは袋から剣を取り出しその怪光線を受け止める。

 忌々しい敵が沈黙したと思い、イシュダルが目をやると………

 

 全く呪いを受け付けていないリュカがいた。

 

 

「……な、何だとアンタは本当に人間なの……?」

 

 

 人間が自分の呪いを受けて無事なはずがない。そう思って生きてきた彼女は震えながらリュカに訊ねる。

 あり得ない、絶対にあり得ない。イシュダルの心は目の前の男に対する恐怖で塗り固められていく。

 

 

「勿論そうだ。……しかし、僕を注意深く観察していれば呪いが効かないことは分かったはずだ」

 

 

 そう言われ、イシュダルはリュカが手に握る剣を見た。

 無数の骸骨を寄せ集めて造られた、切っ先が斧のようなおどろおどろしい見た目の剣だ。

 

 あれの名はたしか―――

 

 破壊の剣。強大な攻撃力と敵の急所を破壊し大ダメージを与える効果がある半面、強力な呪いが掛かっているというシロモノ。

 

 

「いいかい? 強力な呪いにはそれより弱い呪いを打ち消してしまうという性質がある……。要するに『破壊の剣』の呪いで以って君の呪いを打ち消させてもらった」

 

 

 イシュダルはその言葉を心の中で反芻し、こう思う。

 

 ―――あり得ない。

 

 いや、“強力な呪いにはそれより弱い呪いを打ち消してしまうという性質がある”というのは理解できる。

 自分達のいた世界とは異なる世界の話にこういうものがある。

ある城に“かつて世界を闇で覆おうとした暗黒の神の魂を封印した杖”があった。とある 魔術師がその杖に乗っ取られ、城に呪いをかけた。城内にいた人々は悉く呪われ肉体が茨と化したが、一人だけ助かった。

 調べてみると、その者は赤子の頃に竜神族の王に呪いをかけられていたという。

 

 問題は“自分のかけた呪い以上の呪い”がかかった状態で平然としていることだ。それは絶対にあり得ない。

 

 するとリュカは、まるでイシュダルの考えを読んでいるかのように話した。

 

 

「僕は以前、極めて強力な呪いをかけられた。肉体が石と化し、八年のあいだ身動き一つ取れなかった……」

 

 

 リュカはこれまでの人生を心の中で思い返す。

 自分にとって生涯で一、二を争うほど辛い期間である(奴隷であった頃とどちらが辛いかは判断しかねるが)。

 

 

「人生で大切なのは、『いかに失敗から多くを学ぶか』だ。君の……君達の敗因はあまりにも“学び”が足りなかったことだ。僕は呪いを克服する為に“幻魔剣”という技術を学んでいる」

 

「“幻魔剣”!?」

 

 

 かつて行った世界。そこで出会ったフルカスという男から学んだのだ。

 幻魔剣――――武具にかけられた呪いを制御し、呪力に変えるという技法。

 その最大の効果は、それら呪われた武器で付けた傷はしばらくの間は回復させることができないというものだが………正直、そっちはどうでも良かった。

 その技法を学んだ理由は“呪いの制御”にある。強力な呪われたアイテムの呪いを制御下に置く。

 そうして敵の呪いを、より強力な呪いで打ち消すのだ。

 全てはあの苦しみを二度と味わわないために……、家族と引き裂かれぬために……。

 

 

「君はあまりにも自分の才能を過信しすぎた。故にワンパターンな戦い方しかできず、相手の手にこうも翻弄される……。

 そして! 他者の命を弄び、粗末に扱い、その果てに奪おうとした!! これも自身の才能を過信し過ぎたことが原因だ!!僕は今からそれを正す!!!」

 

 

 破壊の剣に渾身の“愛”と“魂”を込める。

 そして大きく振りかぶり―――

 

 

「 さ み だ れ 斬 り !!!」

 

 

  ズガアアァァァァッッッンン!!!

 

 破壊の剣を振り回す。空気が唸り、軋み、剣圧によって衝撃波を発生させる。

 その衝撃波によってイシュダルが盛大に吹っ飛ばされる。

 彼女はそのまますっ飛んでいき、校舎の壁に衝突し、壁に巨大なクレーターを造った。

 

 

「ぐふっ!」

 

 

 イシュダルはズルズルと校舎の壁からずり落ち、そのまま気絶した。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

  グラウンド

 

 

 

 そこでは“いにしえに魔神”とグレートドラキーの死闘が繰り広げられていた。

 魔神が手の甲から生えた極太の針で巨大蝙蝠を突き刺す。合体ドラキーは魔神に鋭い牙で以て咬み付く。

 グレドラと魔神の双方が大きく息を吸う。魔神が光の炎を、グレドラがグレイトフルブリザードを吐く。

 凄まじい炎と極寒の冷気がぶつかり、混じり合い――――

 

  ドガアァァン!!

 

 空気が圧縮し、膨張し、それらを繰り返し爆風が発生する。

双方が爆発の衝撃を受ける。グレドラがより激しく羽をはためかせ、魔神が尾を地面に突き立て、脚を地にめり込ませて衝撃に耐える。

 

 その最中、“いにしえの魔神”がグレドラに向け呪文を唱える。

 

 

「ルカナン!」

 

『へっ!? うにゃあぁぁぁぁぁ!!』

 

 

 突如として守備力低下の呪文をかけられたグレドラが衝撃に耐えられず吹っ飛ぶ。

 それを見ていた魔神が「今こそ好機」と言わんばかりに畳み掛ける。

 

 

「バイキルト!」

 

 

 魔神が攻撃力を倍増させる呪文を唱え、巨大な針状の骨を振りかぶる。

 

 

『グハァッ!!』

 

 

 その攻撃が合体ドラキーに直撃する。しかし、闘気で防御した。とはいえルカナンで守備力を下げられていたのだ。結構なダメージを受ける。

 

 

 

『あ~、痛かったにゃ……』

 

「フンッ、貴様もなかなか強かったが、どうやらここまでのようだな」

 

 

 魔神が勝ち誇る。敵の能力を下げたり、自身の能力を引き上げたりする補助呪文のレパートリーはまだある。

 戦力が拮抗している状態ではそれらが使える方が大分有利なのだ。

 そう思えば、魔神の考えもあながち間違いではない。

 

 

 

 ―――しかし、そこに一人に男が現れた。

 

 

 イシュダル達を倒し、グレドラの救援に来た男。リュカである。

 リュカはのほほんとした口調でグレドラに話しかけた。

 

 

「かなり、苦戦しているみたいだね。手伝うかい?」

 

『よろしく頼むにゃ』

 

 

 リュカはまるで家事の手伝いでも申し出るような口振りで尋ね、グレドラも依頼する。

 一方、現れたのが人間であるという事を知り、魔神が嘲笑した。

 

 

「人間風情が一人増えたところで何ができる?」

 

「さあ、結構色々できるかと思うが……」

 

 

 

 魔神の言葉に、リュカはまるで茶化すかのように答えた――――

 

 

 

 

 




魔女の眼差し:Ⅸより。敵専用の技。

タナトスハント:Ⅸより。毒・猛毒・マヒ状態の敵1体には通常攻撃の1.5倍のダメージを与えることができる。

より強力な呪いによる呪いの打ち消し:DQⅧから。

幻魔剣:漫画「ロトの紋章」から。剣王キラの代名詞。

さみだれ斬り:名前が「さみだれけん」と変わったりする。ややこしいのでこの作品では「さみだれ斬り」で統一。


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26話 魔神

やっべ、D×Dキャラほとんど出てねえ……。
クロスオーバー物としては致命的なんじゃないだろうか?

その点は今回だけお見逃しください<m(_ _)m>


   

 

「よいしょっと……、案外簡単に入り込めたな」

 

 

 外部から孤立したレーティングゲーム用の異空間。

 突然の異変にソーナ・シトリーは表面上の冷静さを崩さないよう努力していたが、内心では相当焦っているようだった。それだけ、親友であるリアスへの思いが強かったのだろう。審判役のグレイフィアさんに連絡を取ったり、各方面に引っ切り無しに更新したりしていた。

 しかし、グレイフィアさん達も何が原因なのかさっぱり分からないらしい。

 

 そこで思い切って、僕も断絶したバトルフィールドに向かう事にした。

 異世界間を行き来する要領で、空間の“歪み”を見つけ、するりと抜けて中に入る。

 そこには戦いの臭いが充満していた。リアス達以外にも大勢いの気配がする。中にはそこそこ……いや、かなりの大物もいるようだ。

 まず、気配が集中している駒王学園でいうところの体育館の辺りに行く。

 そこには沢山の女悪魔―――たしかヘルヴィーナスという種族だったか……そいつらがたむろしており、その中央にイッセーくん達とライザーくん達がいた。

 

 愛弟子達を嬲り者にしていたヘルヴィーナス達を倒し、ドラきち達が引き止めているという“大物”のいる場所に向かう。

 

 荒れ果てたグラウンドで、吸血蝙蝠は合体しグレートドラキーとなって、黄金色に輝く巨躯を誇る魔神と対峙していた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 指先から光の波動を迸らせ、グレートドラキーの能力低下を解除する。

 続けてべホマをかけ、(グレドラ)の傷を癒す。暗黒闘気のためか、回復の速度がが遅い。

 それでも光の波動の効果と込める魔力を強めたことの御蔭で、何とか治すことができた。

 

 

「大丈夫かい?」

 

『問題ないにゃ』

 

 

 グレドラを気遣って尋ねる。それに対しグレドラはハッキリとした声でそう答えた。

 彼ら(・・)の返答を聞きホッと安堵する。

 ドラキー達の実力には微塵も疑ってはいなかったが、回復役のヨッキーは転職して日が浅い。

 この敵に対し、中級回復呪文(べホイミ)では厳しいだろう。

 

 周りの状況を確認する。ここは異空間、校舎を始めとする建造物の類は壊してしまっても問題無し。リアス達、ライザーくん達双方はこの場から離れさせた。彼らにも気遣う心配はないだろう。

 

 よって言えることは――――

 

 

「少々本気を出しても問題はないな」

 

 

「フハハハハハハハッ! 何の冗談だ? 人間如きに我を止めることなど出来ぬ! 我を畏れよ! 逃げ惑えっ!」

 

 

 僕の呟きを聞き、魔神が哄笑する。どうやら徹底的に人間を下に見る気質らしい。まあ、そうなっても仕方がないだけの力は備えているらしいが、そうであれば尚のこと性質が悪い。

 

 

 

「逃げてもどうせ回り込むくせに……。かかっておいで」

 

「人間風情が……我を舐めるなあぁぁぁあっ!!」

 

 

 魔神がいきり立って襲い掛かって来た。巨大な腕でから生えた極太の針で以って突き刺そうとしてくる。それも、魔力と暗黒闘気で威力を相当強化しているようだ。針の先端が空を突っ切り、僕の頭を貫こうと向かってくる。

 

 僕は魔神を迎え撃つために、袋から異様な輝きを帯び七枚の刃を連ね扇とした武具を取り出した。

 

 その名を、最終扇(さいしゅうおうぎ)という――――

 

 少々ダジャレっぽい名前だが、その性能は凄まじい。ハッキリ言って最強武器候補の一つだ。

 

 

「『風姿花伝(ふうしかでん)』!!」

 

「なあっ!?」

 

 

 まずは、小手調べだ。扇を高速で煽ぎ、空気の層を生み出す。そこに魔力で蜃気楼を生み出し自身の姿を投影する。

魔神が手の甲から生えた鋭い骨で貫いたのは僕の分身で、僕自身は無傷だ。

―――この技を『風姿花伝』という。

 

 

「小賢しい技を……ッ! なら貴様は後回しだ! 先にその大蝙蝠から殺してやろう!!」

 

 

 狙いを僕からグレドラに移す。そうはさせるものか。

 

 

「『花吹雪(はなふぶき)』!」

 

 

 魔力で以って花弁を生み出し、扇で以って巻き上げる。巻き上げられた花弁が敵の視界を遮り、味方を守る。

 魔神はがむしゃらに針を振るうが、悉く当たらない。どんなに巨大になろうとグレドラは元々身かわしが得意なドラキーなのだ。それに加え『花吹雪』の効果を得ているグレドラに、あんな雑な攻撃が当たるはずもない。そうこうしている内に合体ドラキーが距離を取り、突進の構えを取る。

 

 

『どりゃーーー!!』

 

「ぐわっ!!」

 

 

 グレドラが魔神に体当たりをかました。ただのグレドラの攻撃力だけでも凄まじいのに、助走をつけ、闘気を纏わせての一撃だ。いかに“いにしえの魔神”と云えどこれには耐え切れない。盛大に吹っ飛び後ろの木々に激突する。十数本の木がバキバキと音を立てへし折られ、もうもうと砂煙が立った。

 

 

『やったかにゃ?』

 

「いや、まだだ……」

 

 

 僕がそう言い終わらないうちに魔神が起き上がった。相当なダメージは受けたようだが、倒せるほどではない。

 

 魔神は大きく息を吸った。また『光の炎』を吐くつもりらしい。

 だが、その技に対する準備は出来ている―――というより、“その技への備え”が武器に“扇”を選んだ理由だ。

 

  カアアアァァァァァッ

 

 “いにしえの魔神”が、やはり『光の炎』を吐いてきた。悪魔を瞬く間に消滅させ、常人であれば一瞬で灰になる、それ程の猛火が迫ってくる。ジリジリとした熱気を肌で感じる。

 それを、限界まで引き付けたうえで、扇を振るった。

 

 

「『吐息返し』!」

 

 

 僕の扇が風の障壁を生み出す。風のバリアが魔神の『光の炎』を弾き返す。その炎は吐きだした張本人に向かっていき―――魔神は自分で放った炎に身を焼かれることとなった。

 

 

「グオオオォォォォッ!」

 

 

 魔神の巨躯が輝く炎によって包まれる。だが、所詮は魔神本人が吐き出したモノだ。彼を焼き殺す威力はなかった。

 だが、一瞬の隙が生まれる。

 僕が扇で以っていくつもの風の刃を生み出し、それを舞い踊りながら撃ち出す。

 ――その技の名を『(おうぎ)(まい)』。

 まんまのネーミングだが、強力な技だ。今こそ好機、一気に攻めかかる!

 

  シュバババババッ!!

 

 

 

「グ、ググギ……、グハアアァァァッ」

 

 

 僕の『扇の舞』によって打ち据えられた魔神の大きな肉体が空中高く放り上げられる。

 ズタボロになった魔神が吹っ飛ばされながら驚愕した。僕達にとっては相手が完全に無防備な今が最大の チャンスだ。

 

 

「グラドラ、今だ!!」

 

『分かったにゃ!!』

 

 

 僕の呼び掛けに応じたグレートドラキーが莫大な魔力を集中させる。グレドラの腹部がぷくっっと膨らみ、黄色く光輝いた。

 僕は直後に訪れるであろう衝撃に備える。

 

 

 

「 ビ ッ グ バ ン ! ! !」

 

 

 グレドラが腹に溜めた魔力と闘気を一気に撃ち出した。

 合体ドラキーが放つ究極の奥義が強大な魔神相手に炸裂する。

 その有様はたった一言でしか言い表せない。

 

 

   大 爆 発

 

 

 自分の知る爆発系の呪文・特技のなかでも最大クラス。

 地表にいる僕は闘気と魔力を最大限活用し、『大防御』する。それでもその衝撃は凄まじい。

 校舎裏の木々も、学園の建造物も根こそぎ吹っ飛んでいく。

 凄まじい轟音が鳴り響き、頭の中で反響する。

 宇宙開闢の大爆発の光が網膜を焼き尽くさんばかりに放射される。

 

 やがて、爆音が止み―――

 

 

  どしゃっ

 

 

 上空から黒焦げになった魔神が落ちて来た。

 

 

「……グレドラ~……、ちょっとやり過ぎじゃないか? もう少し加減しても……」

 

『う~ん……。少しやり過ぎたかもしれんにゃ~』

 

 

 すっかり更地となった駒王学園を摸したバトルフィールドを見渡す。

 

 ああ、レプリカで良かったな……。本物だったらこう遠慮せずに戦うことはできなかった。

 

 そんなことを考えていると―――

 

 

「ガアアアアアァァァッ!!! まだだァァァッ!!!!」

 

 

 魔神が凄まじい雄叫びを上げ起き上がった。

 どうやら古《いにしえ》より存在する魔神、即ち“神”の一柱としての誇り、執念によるものらしい。

 敵ながらなかなかアッパレな奴だ。

 

 しかし、用意はある。

 

 

「……君は運が無かったな」

 

「何ィ!?」

 

「ほんの数日前の僕であれば、ひょっとすれば負けたかもしれない。だが、僕も現在進行形で学んでいる。先日“あること”を学び、今日はそれをしている。君と僕の戦いの勝敗はそこで決していると言っていい」

 

 

 僕の言葉に魔神がたじろぐ。しかし、同時に好奇心を抱いたらしい。恐ろしい程殺気が篭った声色で僕に詰問してくる。

 

 

「何だ、それは……。言ってみろ、その“学んだもの”とやらを!!」

 

 

「ああ……その学んだことと言うのはね――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昼寝だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その場に長い沈黙が訪れる。どうやら戸惑っているらしいので僕が説明する。

 

 

「つい先日のことだが、寝不足で不覚を取ってね……。それ以来、昼寝をするようにしている」

 

「………………何?」

 

 

「僕は君がビッグバンを受けて、倒れたときも油断しなかった。それは僕にとって大きな進歩だ。

 国王だったときは、いつもこれぐらいの時間帯には寝てたし……、冒険の最中もなるべく夜は宿屋で眠るようにしていた。何せ、夜の方が昼より出現する魔物が強いからね。賢明な冒険者は危険な夜ではなく昼に行動する。

 しかし、昼寝することによって深夜でも集中力が保たれた。故に、つい先程準備ができたんだ」

 

 

「……何の準備ができたと言うのだ……!?」

 

 

 僕の中で準備ができたもの――――それは“必殺技”。

 

 数ある技の中でもかなり異質なものだ。それに必要とされるのは“魔力”でも“闘気”でも“テンション”でもない。

 敢えていうなれば“潜在能力”とでも呼称すべきか。

 その“潜在能力”は常に発揮されるものではない。戦いの最中、唐突に“開放する”ものだ。

 

 そして、今の戦いで“潜在能力”を“開放”できたのには理由がある。

 僕の手に握られる武具――― “最終扇” だ。

 この扇の最大の能力は、その威力ではない。この扇には“潜在能力を開放しやすくする”という効果がある。

 

 僕は色々な世界で様々な職業をマスターしてきた。故に、様々な必殺技が扱える。

 この状況であればこの技がいいだろう。

 

 ある技を思い定め、魔神に歩み寄る。

 

 

「ま、待て! 一体何をすると―――」

 

「すぐに分かる。歯を食いしばりなさい」

 

 

 そう言うと、拳に力を込めて腕を大きく振りかぶる。そして―――

 

 

 

 

 

「 会 心 必 中 !!!」

 

 

 

 

 

 

 いにしえの魔神 に 会心の一撃!

 

 

 

 

 その名の如く、本来稀にしか入らない“会心の一撃”を確実に叩き出す技。

 魔神は咄嗟に暗黒闘気を全開にし、防ごうとしたらしいが、それすらも貫通した。

 

 

「我が……! この我が人間に敗れるなどあり得ぬ……! ウガアァァァッ!!!」

 

 

 断末魔の叫びを上げる魔神。やがて彼の黄金色の外殻にひびが入り、そのまま肉体が四散した。

 

 

 いにしえの魔神 を 倒した!

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

「ふむ、なかなかの強敵だったな」

 

 

 先程までとは打って変わり、静寂に包まれたグラウンド。

 たった今倒した強敵との戦いを心の中で反芻させる。何とも言えない感慨深い思いに身を委ねた。

“いにしえの魔神”……恐ろしい魔物だった。彼は何者かに召喚されたと言っていたが……一体誰が使役していたのだろうか?

 

 そんなことを考えていると―――

 

  パチパチパチパチ……

 

 後ろから拍手が聞こえてきた。

 振り返ると紅の髪の仰々しい衣装を身に纏う水際立った美男が佇んでいた。僕に穏やかな笑顔を向けてくる。

 

 

「いやぁ、なかなか見事だったよ」

 

 

 彼の表情からは敵意は感じない。何の裏もなく素直に称賛してくる。だが、この青年……だろうか? はおそらく凄く強い。内包する強力な魔力をひしひしと感じる。

 

 

「ええと、どういたしまして。僕の名はリュカだ。君は―――?」

 

 

 

「ああ、すまなかった。挨拶が遅れたね……。私はサーゼクス・ルシファー。魔王をしている者だ」

 

 

 

 

 

 




さいしゅうおうぎ:Ⅸに登場する最強装備の一つ。必殺ゲージが貯まりやすくなる効果がある。

風姿花伝:Ⅸの特技。扇スキルの技。効果はMJなどの「まもりのきり」に近い。

花吹雪:Ⅸの特技。扇スキルの技。効果は「マヌーサ」に近い。

吐息がえし:Ⅸの特技。扇スキルの技。効果はⅥとⅦに登場した「おいかぜ」に近い。

扇の舞:Ⅸの特技。扇スキルの技。扇のメインダメージソースとなる。

ビッグバン:Ⅵから登場した特技。大爆発を引き起こして敵全体を攻撃する特技。威力も極めて高い。

会心必中:DQⅨに登場。戦士の必殺技。相手のみかわしや盾ガードを無視して、必ず会心の一撃を与える。


必殺技の解釈、リュカの職業などについてはあんまり深くツッコまないで下さい。
オナシャス!!



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27話 リュカと頼もしい仲間たち

2巻終了……。
誤字脱字の指摘、批判、アドバイス、感想、評価 等 どうかお願いします<m(_ _)m>


  

 

「魔王……だと……?」

 

 

“いにしえの魔神”を倒した僕とグレドラの前に突如として現れた青年。

 彼はサーゼクス・ルシファーと名乗り、自身を“魔王”と呼んだ。

 

“魔王”――― その単語を聞いた途端、全身の筋肉が強張る。汗が吹き出す。

 

 元居た世界での出来事。かの大魔王との因縁、宿命、そして激闘が鮮明に思い出される。

 自らを“魔界の王”、“魔界の神”、“王の中の王”と称する、あの強大な魔の王。神の敵対者にして超越者。

 

 今、目の前にいるこの青年は“奴”と同質の者なのか―――?

 

 そう考えると、久しく忘れていた戦闘の緊張感と昂揚がふつふつと蘇ってくる。

 僕自身の意志とは関係なく、歴戦を潜り抜けてきた肉体が自然と臨戦態勢に入る。

 

 

 ―――だが

 

 

 今、目の前にいる彼からは何らの敵意も感じない……。相手が“魔王である”というだけで戦いを挑むという事はあってはならない。寧ろ、彼とも親交を持ち、理解を深め、友達になれるよう努力すべきではないだろうか……。

 

 肉体の反応を強引に理性で打ち消す。僕も彼……サーゼクスくんに合わせて笑顔を浮かべる。

 

 

「ああ……、サーゼクスくんというのか……。たしかリアスさんのお兄さんだったね。彼女達は無事かい?」

 

「ああ、リアスは無事に避難できた。妹とその眷属達、それにライザーくん達も怪我はない。彼らを助けてくれて本当にありがとう」

 

 

 彼の言葉を聞き、胸をなで下す。イシュダル達との戦闘で受けたダメージは応急手当てで回復させたが、如何せんグレドラのビッグバンが強力過ぎた。

 アレに巻き込まれては、いかに産まれ持った才能に優れるリアス達といえどもひとたまりもあるまい。

 

 グラウンドからできるだけ遠くに離れるようにお願いしたが……言う通りにしてくれたようだ。

 

 

「ふむ、彼女もライザーくん達も大切な愛弟子だ。助けるのは当然のこと、礼には及ばないよ」

 

「そうか……。我ら悪魔の習わしではきちんとした対価を払わねばならないが……、貴方は人間のようだ。とは言えそれではいけない。いずれ御礼はする」

 

 

 どうやらサーゼクスくんはかなり礼儀正しい魔王らしい。けっこう義理固い。

 本当に礼などいらないのだが、それでもいつかは払うというあたり、なかなかの好青年だ。

 

 

「それより、こうなった場合レーティングゲームはどうなるんだい? 延期かな?」

 

「そうだな……。明日、フェニックス家で披露宴のパーティーをする予定だったんだ。ライザーくんの御両親は彼が勝つと決めて掛かっていたからね。そこで何らかのゲームをして決めようかと思う」

 

 

 そう話すサーゼクスくんの表情は複雑だ。妹の幸せを願う気持ちと、魔王として冥界の皆を導く責務との間でかなり苦慮しての決断であろうことが窺える。

 

 ゲームで妹の結婚を決めるというのもどうかと思うが、とやかく言うことでもないだろう。

 

 

「リアスさんもライザーくんも、この十日間で大きく成長している。どちらが勝っても、きっと良い結末となるだろう」

 

「そう言ってもらえると助かる」

 

 

 サーゼクスくん表情が和らいだ。そして、僕の方を真っ直ぐ見詰める。

 

 

「ところで、……失礼だが貴方は何者だ? 先程の怪物……あれは相当な力を持っていた。それを、そこの―――」

 

「グレドラだ」

 

『キキーーー』

 

「グレドラくん……でいいのかな? ―――の二人で倒してしまうとは……。異世界の人間は、皆これほど強いのかい?」

 

 

 僕と合体ドラキーを見比べながら尋ねてくる。

 さて、何と答えるべきか――――

 

 

「まあ、色々とあったからね……。僕はかなり鍛えられてる方だと思うよ」

 

「ふふっ、そうか……、またいずれ、ゆっくりと貴方の世界について聞かせてもらえるかい?」

 

「ああ、いいとも―――」

 

 

 こうして、サーゼクスくんと共に荒れ果てたバトルフィールドから脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 後日

 

 

 

 

「ヒャドにょ! ヒャドにょ! ヒャドにょ!」

 

 

 日本から遠く離れた異国の森にて、僕と多くの仲間達は修行に来ていた。

 ミルたんは初級冷凍呪文ヒャドの練習中だ。的に向かって手を翳し、必死に唱えている。

 

 ライザーくんの眷属達も、彼女達の中で『地獄の十日間』と呼ばれているあの日々を共にした、それぞれのコーチ役の魔物達と共に訓練している。

 

 僕はその様子を眺めながら、少し離れた場所で腰を掛け、ほうじ茶を飲んでいた。

 横にはライザーくんもいる。

 

 

「負けた、か……」

 

「…………………」

 

 

 僕がそう呟いた。ライザーくんは黙ったまま項垂れている。

 

 レーティングゲームの翌日、結婚の披露宴パーティーにて、ライザーくんとイッセーくんの決闘が執り行われた。

 結果はイッセーくんの勝利。ライザーくんとリアスさんの縁談は破談となった。

 その決闘の最中、イッセーくんは『禁手(バランス・ブレイカー)』とやらに一時的なものではあるが至り、全身に赤い鎧を身に纏って、ライザーくんを圧倒したらしい。

 

 やはり、イッセーくんには底知れない可能性があるようだ。彼の成長は素直に嬉しい。

 だが―――

 

 

「リアス……、畜生……、畜生……、畜生……」

 

 

 当然のことだが、ライザーくんの方はかなり悔しがっている。あれだけ誇りにしていた家名に自ら泥を塗ってしまい、婚約者までも奪われた。

 彼の人生で味わったことのないとても大きな挫折であろう。

 

 

「でも、君はますます成長した」

 

「……えっ?」

 

 

 僕の言葉を聞き、ライザーくんが顔を上げた。

 

 

「数週間前の君は『上級悪魔たるもの、泥臭い努力などせず才覚のみで十分だ』と言わんばかりだった。

 しかし、あの特訓の日々で君は“努力”を知った。

 そして、この敗北で君は“その努力を皆がしている”ということを知った」

 

「“皆が努力をしている”?」

 

「アレを見なさい」

 

 

 そう言って指を差す。その先には――――――

 

 ミニモンと極大爆撃呪文(イオナズン)をぶつけ合うユーベルーナがいた。

 リンガー&ブルートのコンビと切り結ぶカーラマインとシーリスがいた。

 ゴレムスとアンクルに殴り飛ばされながらも懸命に立ち向かうイザベラと雪蘭がいた。

 マーリンから魔術の講義を聞く美南風がいた。

 ラモッチと互いの棍で突き合い、往なし合い、ぶつけ合うミラがいた。

 ブラウンとプリズンに必死に立ち向かう兵士(ポーン)達がいた。

 そして、ホイミンと共に皆の傷を癒して回るレイヴェルがいた。

 

 

「……どうだい? 今までは彼女達の努力を軽く見ていたんじゃないのかな? 上級悪魔である自分は修行なんかせずとも強く、下級悪魔である彼女達は努力して当然……君はそう思ってた。

 しかし、いざ自分が『努力せざるを得ない状況』に追い込まれてみたら、どうなった?

 ………ライザーくん、最も大事なことを教えてあげよう。

 彼女達はね……、“君のために(・・・・・)努力している”んだ」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、ライザーくんがハッと息を飲み、虚ろだった瞳に意思の光が戻った。

 

 

「努力するというのは君が体験した通り、辛く苦しい、とても大変なことだ。

 君を倒したイッセーくんも、リアスさんやオカルト研究部の皆の為に努力しているのだろう……。

 しかし、君の眷属達は君のために(・・・・・)努力している。

 ――――それは君を“愛している”からに他ならない」

 

 

 ライザーくんにとって、今まで気付くこともなかった“他者の努力”。

 そして、下僕達の努力の理由は“自分への愛”。ライザーくんにはとっての最も価値ある“学び”のはずだ。

 

 

「人にも悪魔にも“愛”がある。他者の愛がある事を知る。その“愛”に報いるために努力する。

 だから、皆、強くなれるんだ――――」

 

「師匠………」

 

 

 ライザーくんはもう大丈夫だろう。彼には頼もしい仲間達がいる。ライザーくんと眷属悪魔達の強い絆があればきっと多くの困難に打ち勝てる。

 いずれ、リアスさん以外に良い女性(ひと)が見つかるはず。

 

 そんなことを考えていると――――

 

 

 

 

 

 

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!!!

 

 

 なんか物凄い沢山の悪魔達が駆け寄って来た。

 

 

「ふおっ!? ぶわっぷ……」

 

 

 顔面に大きく柔らかい何かが押し付けられた。

 顔のみならず全身隈なく、同様の柔らかな物体が押し当てられる。

 

 

「分かったわ、御主人様♡ アナタの為にいっぱいガンバルからもっと可愛がって~~♡」

 

「……ちょっ……息が……できない……死ぬ……」

 

 

 バイサーか? カラワーナか? それともレイナーレか? ミッテルトは……無いな。

 

 そんなことを思いながら、なんとか引っぺがした。

 そして相手の顔を見上げる。

 そこにいたのは―――

 

 

 

 

 

 

 

  イシュダルだった。

 

 

 

 

 

 

 周りに纏わりついているのは、あのとき倒したヘルヴィーナス達だ。

 僕の全身に乳房を押し付けてくる。

 

 ああ、そう言えばあのあと仲間にしたんだった。一気に大所帯になったな~……。まあ、いいか。

 

 

 

「なにしてるの、御主人様……?」

 

「“君がたった一人のレイナーレだから愛する”って話はどうなったのかしら、リュカ?」

 

「第一の性〇隷である私を差し置いて……」

 

「そりゃないっすよ~、お兄さま……」

 

「ソンナ奴ラヨリ俺ト子作リヲ……」

 

「ワタクシに養分を……」

 

「御屋形サマの相手はあたしが~……」

 

 

 この世界で仲間にした堕天使やはぐれ悪魔、転身させた者達もやって来た。しかも、全員が危険な目線を向けてくる。堕天使三人とはぐれ悪魔に至っては、黒いオーラみたいなモノを纏っている。

 

 これは不味いな……、どうやって落ち着かせようか。というよりなんで怒ってるんだ?

 

 

 

 あれこれと打開策を考えていたが、しかし全て無駄となった。

 このとき、突然想定外のことが起こったからだ。

 

 

「「「きゃああああああっ!?」」」

 

 

 バイサー、レイナーレ、カラワーナ、ミッテルトが一瞬で凍り漬けになった。

 

 それらの事態を引き起こした魔法が放たれた方角を見てみると――――

 

 

「ヒャド! ヒャド! ヒャド!」

 

 

 氷結呪文を乱射し、辺り一面を凍らせていくミルたんがいた。

 

 

「……えげつないな」

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

  冥界某所 ある廃屋の地下室

 

 

 

 薄暗い部屋の中に三人男達がいた。その内の一人、外套を羽織った長身の男は部屋の壁一面に並べられた棚から形容しがたい生物のホルマリン漬けだの、普通の人間であれば見ただけで嘔吐しそうなおぞましい物体だのを取り出し、机の上にある小さな鍋に加えて調合していた。

 

 

 残る二人、小柄な老人と異様な風体のずんぐりした男はその様子を見ている。

 

 薬を調合している長身の男はローブからクリスタルの小瓶を取り出す。

 それは、女魔族が採集したレイヴェルの涙だった。それを見た小柄なほうの男が口を開く。

 

 

「キィッヒッヒッヒ……。しかし、貴公も随分面倒なことをなされますな~……。フェニックスの涙なんぞ、金さえ払えば普通に買えますのに……」

 

 

 老人が床に目をやる。そこには一体のヘルヴィーナスの死体が転がっている。喉を掻き切られたのか、大量の血が床に溢れて、古びた絨毯を赤く染めていた。

 老人にとって女悪魔が死んでいることはどうでもよかったが、金で買える物をわざわざこんな真似をして手に入れる意味が分からなかった。

 

 それに追従するかのように、ずんぐりした男の方も長身の男に尋ねる。

 

 

「グブブブブブ……。我も同意見だ。そもそも、そんな薬など使わずとも、我の秘術を用い蘇らせればよいはず………」

 

 

 それらの問いに長身の男が作業を続けながら答える。

 

 

「ほっほっほっ まあ、御二人の疑問も御尤も……。しかし、今回は“蘇らせた死体”で代用はできないのですよ。無論、死体にも過剰回復が効かないというメリットはありますが、反対に闘気を自分で生み出せないというデメリットもあります。雑兵であればゾンビでも問題はありませんが、今回は駄目です。

 それと、私も市販で買えるフェニックスの涙は試しましたが上手くいきませんでした。どうやら、生成の過程で鮮度の落ちた物しか市場に出回らないようです。まあ、本来の使用目的なら多少の鮮度の低下は問題にはならないのでしょうが……」

 

 

 長身の男は説明しながらも調合を続ける。

 暗黒大樹の葉、パデキアの根、ユニコーンの血液……、そしてフェニックスの涙。

 それらを混ぜ合わせ、男が不気味な声色で呪文を唱えると、やがて漆黒の調合物が出来上がる。

 

 

「ほっほっほっ、できました。さあ、行きましょう」

 

 

 男達は部屋から出ると階段を降り、更に地下にある扉の前に辿り着く。

 

  ギィィィィ……

 

 扉が開く。中から冷たい空気が溢れだす。

 部屋の中は冷凍室だった。

 その室内には、この世界の天使、堕天使、悪魔、様々な魔物、果ては小型ではあるがドラゴンまで、氷漬けの状態で保存されていた。

 

 そして、その中央には一際目立つ何か(・・)があった。

 

 長身の男はその何か(・・)に調合した黒い液体を振りかける。

 

  ジュゥゥゥ……

 

 焼けるような音を立て、液体が何か(・・)の表面にしみ込んでいく。

 

 すると、何か(・・)はピクリと動いた。虚ろだった眼窩にぼうっ……と鈍い光が灯る。

 

 

 

「ほっほっほっ 次はこれを使います。これまでとは比べ物にならないほど大掛かりな作戦になりますので、貴方に直接出向いて欲しいのですが――――」

 

 

 

 

「よろしいですね? ザボエラ殿……」

 

 

 指名された小柄な老人の眼光が鋭く光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




暗黒大樹の葉:Ⅷに登場。闇の世界にある巨木の葉。魔犬レオパルドを追いかけるのに必要。

パデキアの根:Ⅳに登場。病に倒れたクリフトの治療に必要なアイテム。


遂に謎の男達の内一人の正体が判明!!

……ってコイツら話し方に特徴あり過ぎて正体隠せてなかったような気がしないでもない。


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番外編
28話 キメラ


3巻の前に番外編です。
もう一話くらいあります。


  

 

「……おや、奇遇だね」

 

 

 真夜中、駒王学園の近くの森。

 

 人気のない場所で偶然、知人(知悪魔?)と出会った。イッセーくん達、駒王学園オカルト研究部の皆だ。

 

 

「こんばんは、イッセーくん。それに皆も」

 

「あ、こんばんはッス。リュカさん……」

 

 

 イッセーくんが僕の挨拶に返事をし、それに続き他の皆も僕に挨拶してくれる。

 リアスは怪訝な顔をしているが……まあ、無理もない。こんな所に一人でいれば当然だろう。

 案の定、そのことについて質問してきた。

 

 

「それで、どうしてこんな所にいるのかしら?」

 

「ああ、それはね――――」

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

  数日前の昼間

 

 

 

「ああ、なかなか面白そうな本が借りられたな。帰りにアイスでも買っていくか……」

 

 

 図書館から住処のアパートへの帰り道。

 そんなことを考えながら、のんびり歩いていた。ここ最近、同居人が一気に増えた。イ シュダルとヘルヴィーナス達だ。そのことに元から一緒に住んでいたレイナーレ達は猛烈に反対した。そもそも現在借りている六畳一間のアパートは現状でも相当狭い。その上に三十一人も追加で住めるはずもないし、そもそも入る事さえできない。

 

 そればかりはどうしようもない。僕も散々悩んだ末に諦めかけ、もう少し広い部屋に引っ越そうかと思った。

 

 しかし、その問題をイシュダルが解決してくれたのだ。

 何でも、彼女は以前居た世界で、自分好みの美男子・レオコーンを数百年ものあいだ異空間に軟禁した実績(?)があるそうだ。つまり空間操作の魔術に造詣が深い、ということだ。

 

 彼女の魔術で六畳の部屋が、あっという間に三十畳ぐらいの広さになった。

 それでレイナーレ達も納得してくれた。かなり渋々ではあったが……。

 

 

 そんなこともあって、今ではかなりの人数と暮らしている。

 アイスもたくさん買わねばならないだろう。そう思いスーパーに立ち寄ろうとしたとき、駒王学園の制服を着た女生徒とすれ違った。

 その女生徒からは、なにやら違和感を覚える。一体何が原因なのだろうか?

 そんなことを考えていると――――

 

  フラッ……

 

 その少女が急にふらつき、倒れかけた。僕が慌てて駆け寄り、受け止める。

 

 

「大丈夫かい?」

 

「……ええ、ありがとうござ……」

 

 

 彼女は僕に対してお礼を言いかけたが、その途中で気絶した。

 

 

 そのあと、家に連れて帰り介抱してあげた。

 目が覚めた彼女の話では駒王学園の女生徒で、同様の症状で倒れる者が多発しているという。

 学内では病気か貧血と思われているらしい。

 

 しかし、僕にはその症状が単なる病気や貧血とは思えない。何故なら彼女からは微弱にだが魔術の残梓をかんじたからだ。

 

 それからしばらくの間、駒王学園の周りでそのことを調べた。彼女と同じ魔力の残梓を感じる女生徒が数人見つかった。その娘達に話しかけ、彼女達の魔力の波動から、どうにか怪しい場所を突き止めたのだ。

 

 それがこの森だ。

 

 

 

 

「―――というわけさ」

 

「……ふーん……」

 

 

 リアス達にこれまでの経緯を話し終えた。彼女達の表情はどこか白々しい。

 

 

「……リュカさんだったのね。学園で噂になってたイケメンナンパ男って………」

 

 

 リアスがぽつりと呟いた。どうやら僕のことが噂になっていたらしい。

 今にして思えば僕が声をかけた女生徒は、皆駒王学園の生徒だった。そうなっても無理はないと言える。

 

 

「ところで君達はどうしてここに来たんだい?」

 

「ああ、それは――――」

 

 

 リアスの話はこうだ。

 

 昨日の晩のことだ。彼女達オカルト研究部のみんなにはぐれ悪魔の討伐命令が下った。

 その悪魔自体は難なく捕まったらしいが、そのあとグレイフィアさんから新たなる情報がもたらされたそうだ。

 そのはぐれ悪魔は魔物錬金術師で、冥界の食獣植物とドラゴンのキメラを創造し、それを地上に放ったという。そのキメラがいると思われる場所がこの先にあるそうだ。

 

 

 

「ふむ……、どうやらそのキメラと、魔力の痕跡のある女生徒は関係があるみたいだね。

 よろしい! 僕も同行しよう。いいね?」

 

「……わかったわ」

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 しばらくオカルト研究部の皆と夜の森を歩いた。といっても、この世界にはほとんど危険な魔物もいない。

 散歩気分で歩いていくと、やがて少し開けた場所に来たその中央には―――

 

 

「植物の魔物、ですか?」

 

 

 そこにいたのは、大きな薔薇のような生き物だ。そこらの木々よりずっと大きい。

 その姿を見たアーシアの呟きをリアスが否定する。

 

 

「いいえ、これは……」

 

「ドラゴン!」

 

 

 体のてっぺんから生えた薔薇の蕾が開く、そこから現れたのは巨大な竜の頭だ。

 黄色い鱗に鋭い牙、だが粘液でヌルヌルしている。そこは合成生物(キメラ)故だろう。

 

 ふむ……、この世界のキメラはどんなモノなのだろうかと思っていたが……。しかし、植物型とは解せないな。見るからに重鈍そうで移動には不向きだ。それとも戦闘以外の目的で造られたのだろうか……。

 そのドラゴンと植物のキメラを冷静に観察するが、自分の仲間や今まで倒した者に比べると明らかにおかしい部分がある。どうにも解せない。

 

 

「グレイフィア様が仰っていたのは、これのようですわね」

 

「手間が省けたわね。……ッ!? 隠れて、誰か来るわ!」

 

 

 リアスが皆に呼び掛ける。たしかに人の気配がゆっくりと近づいて来た。木々の間から現れたのは……寝間着姿の二人の少女である。目からは光彩が失せ、まるで夢遊病のようにフラフラとキメラに近づいていった。

 

 

「あれは……うちのクラスの片瀬と村山じゃねえか」

 

「知り合いかい?」

 

「ええ、クラスメイトです。あいつら一体どうして……」

 

 

 二人の少女が合成獣の下に辿り着いた。すると、キメラから触手が伸びてきて、二人の胸部に張り付いた。その触手が蠢き、二人から何やら吸い出しているらしい。

 

 

「う、動いてますけど……」

 

「精気を吸い取っているようですわ……」

 

「アイツっ……!」

 

「待ちなさい、イッセーくん……」

 

 

 イッセーくんが咄嗟に前に出ようとするが、僕が止めた。

 

 

「でも、リュカさん!」

 

「これまでの事例からみても、命まで奪う訳ではなさそうだ。もう少し様子を見よう?」

 

 

 リアス達も僕と同意見だったらしい。イッセーくんは渋々といった感じだが、しばらく観察することになった。どうやらキメラはカタセとムラヤマから精気を吸い取ってるらしい。

 彼女達の様子から推察すると、僕がこれまで声をかけた女生徒達と同じく、魔力をかけられているということが窺える。その魔術は彼女達女生徒を誘き寄せるための物のようだ。催眠の魔力で獲物となる少女を自らの足で、自分の下にやって来させる。あの合成獣はなかなか賢いらしい。

 おそらく、病気で倒れたとされる女生徒達はこのキメラによって精気を吸われたのだろう。

 

 それからまたしばらくすると、彼女達から触手が離れ、カタセとムラヤマは元来た道を戻っていった。

 それを見届けるとリアス達が進み出た。皆、あのキメラを戦って倒すつもりらしい。

 

 

「何にしても―――私達にバレてしまったのが、運の尽きね!」

 

「ちょっと待って、僕が――――」

 

『ギャァア? ギャオオオオオッッ!!』

 

 

 リアスが攻撃しようと滅びの魔力を練り上げる。その敵意を感じ取ったのだろう。竜頭のキメラがけたたましい声で咆哮する。その声で僕の制止が掻き消された。

 

 体から生えた何本もの触手を、一斉に彼女達に叩きつけてくる。

 

 

「油断しないで! 攻撃開始よ!」

 

「はい、部長」

 

「……ぶっ飛ばします」

 

「学園の平和を乱すものは倒さないとね!」

 

「よっしゃあ! 行くぜ、ブーステッド・ギア!」

『Boost!』

 

 

リアスが滅びの魔力を放ち、ヒメジマが雷を降らせる。トウジョウが怪力で蔦を引き千切り、キバくんが魔剣で触手を切り裂く。イッセーくんも赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)で能力の倍化を始めた。

 

しかし、オカルト研究部の皆の攻撃は効き目が薄い。というよりあのキメラの回復力は非常に高い。この合成生物を造ったはぐれ悪魔は相当優れた錬金術師なのだろう。

 

 

「これじゃキリがない!」

 

「再生力が攻撃を上回っているわ。本来以上の能力を引き出されているのよ。人間界の空気と土、そしてこの学園の生徒の生気が、余程合っていたようね」

 

 

それらの要素も含めてこの地をセレクトしたのであれば、やはり素晴しい。このキメラを造るのに懸けた熱意が窺えるというものだ。

 

 

「イッセーくん、このキメラを造ったはぐれ悪魔はどんな人物だったんだい? なかなか見所のある人物だと見受けるが―――」

 

「リュカさん! 感心してないで助けてくださいよ!」

 

 

 そんなことを話しているとリアス、ヒメジマ、アーシア、トウジョウが触手に摑まった。

 全身に巻きつかれ、持ち上げられる。

 

 

「きゃあ! な、何なのよ、コレ!?」

 

「あらあら、エッチな触手ですわねぇ」

 

「……また、この展開」

 

「これじゃあ、迂闊に攻撃できない!」

 

 

 彼女達を盾にし、身を庇うキメラ。それによって攻めあぐねるキバくん。

 やはり、かなり知能が高い。しかし、それにしてもリアス達の迂闊さには呆れる。

 

 

「あらあら、困りましたわねぇ」

 

「……ヌルヌルで気持ち悪いです」

 

「はうぅぅぅ……、ヌルヌルが服を……」

 

「このヌルヌルというか……、ヌメヌメというか……服を溶かすようだわ!」

 

 

 リアス達の制服が溶かされている。蔦から染み出る粘液の仕業らしい。それにしても、この前のスラ太郎といい、この世界では服を溶かすのが流行っているのだろうか?

 

 

「部長の魔力で弾くことはできないんですか!?」

 

「駄目! 滅びの魔力がうまく発動できない!」

 

「こちらも雷撃が作り出せませんわぁ」

 

「小猫! あなたの力でも引き剥がせないの!?」

 

「……ヌルヌルが滑って」

 

「くぅっ、このままだと皆全裸になっちまうぜ……ハァ……ハァ……これは何とも大変なことだ!」

 

 

 彼女達の身に纏う駒王学園の制服が溶けていき、彼女達の柔肌が露わになる。

 しかし、そんなことはどうでもいい。問題はこのキメラの触手は“行動封じ”としての完成度か極めて高いことだ。

 

 行動封じ―――状態異常の一つ。状態異常の中でもその種類は多岐にわたり、最も戦闘で警戒せねばならない技の一つ。

 

 それを護衛技と覚えさせるあたり、このキメラを生み出した錬金術師といい、キメラ自身といい、技術・戦闘知識が非常に優れている。

 

 それに引き換え――――――

 

 

「申し訳ないが、正直言って失望したよ。リアスさん……」

 

「こんなときに何言ってるのよ!?」

 

「こんなときだからだ。君達にはあれだけ“敵の行動を封じる技には気を付けろ”と言ったじゃないか。

確かに君達の才能は素晴しい。だからこそ、“弱者の創意工夫”には気を付けろと――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――というわけで……」

 

「お願いだから、今説教するのは勘弁して!!」

 

 

 リアスが叫んだ。触手攻めを受けながらの説教はかなり堪えたのだろう。リアスもヒメジマも皆、若干涙目になってる。しかし、辛くないと意味がない。

 一度目の失敗はいい。問題は二度目以降だ。僕の知る限り彼女達がこういう目に会うのは二回目だ。

 スラ太郎&触手丸のときといい、相手が弱い ⇒ 油断する ⇒ 触手に絡み付かれる というのが多すぎる。これを期に少しは反省してもらいたい。

 

 そうこうしてると、アーシアとトウジョウに絡み付いていた蔦がほどけ、二人が地面に落下する。

 アーシアはイッセーくんが受け止め、トウジョウは自分で華麗に着地した。

 

 

「どうして小猫とアーシアだけを解放したの!? あぁん!」

 

 

 二人だけが解き放たれたことにリアスが驚く。すると、触手がリアスとヒメジマの乳頭に張り付き精気を吸い取り始めた。

 

 

「む、胸だけを、執拗に攻めてきますわ。恐らく……ここから精気を、吸い取って……ぁあん!」

 

「い、いやらしい動きね……ぁ、イヤ!」

 

「何て素晴らし……いや、いやらし……いやいや、何て恐ろしい攻撃なんだ! 女性のおっぱいに張り付いて、精気を吸い出すだなんて!」

 

 

 確かに怖い。敵の行動を封じつつ精気まで奪えるとは……。異世界で戦った茨ドラゴンという魔物も近い技を使い『行動封じ』はしてきたが、体力を奪うなどという事はしなかった。

 やはりかなり強い。是非、仲間にしたい。

 

 

「でも、どうして胸を……?」

 

 

 確かに……それは真っ当な疑問だ。

 

 キバくんの呟きに心の中で同意する。それは僕も分からない。

 すると、イッセーくんが確信めいた声色でこう言い切った。

 

 

「分かりきったことを言うな! 俺だって部長と朱乃さんの胸に吸い付いて精気を吸いたいわ!!」

 

「怪物に共感しないでください!」

 

「それは違うんじゃないかな……」

 

 アーシアがツッコみ、僕が疑問を投げかける。

 イッセーくんの答えを聞き、魔物は大きく形状の異なる者同士でも配合できないこともない、ということを思い出したが、キメラにとってアレは食事であって発情しているわけではないということから否定する。

 

 

「共感ではない! 俺は今、猛烈に嫉妬しているのだ! おのれキメラァァァ!!」

 

「ちっとも駄目ですぅ!」

 

 

 イッセーくんが嫉妬の炎に燃え盛り、アーシアがツッコむ。そういえば旅芸人の技に『ツッコミ』というものがあった。眠りから起こしたり、混乱を解いたりできる便利な技だ。今度、アーシアに教えてあげよう。

 

 

「あっ! そう言えば、体調不良を訴えていたのは、胸の大きな女性ばかりだった」

 

「そうか! つまり、こいつの獲物は巨乳限定!」

 

 

 キバくんの気付きにイッセーくんもハッとなる。しかし、巨乳限定か……。今、家にいる者達には胸の豊かな者が多い。バイサー、レイナーレ、カラワーナ、イシュダル………  ミッテルト以外なら大丈夫だ。餌には困らないだろう。

 

 一方、リアス達は乳頭から精気を吸われ悶えている。だが、苦しんでいるようではない。それに死にもしないのは実証済みだ。キメラが満腹になるまで放っておこう――――

 

 そう考え傍観していると、宙吊りにされたリアスの前にグレイフィアの姿が映し出された。

 どうやら立体映像のようだ。

 

 

『上級悪魔の淑女たる者が、そのような卑猥な声を漏らしてはいけません』

 

 

 グレイフィアはリアスがはしたない嬌声を上げていることを冷静に窘める。しかし、諌めるべきなのはそのことではなく、油断して縛り付かれたことの方だろう。どうやら彼女も若干ずれてるらしい。

 

 

「グ、グレイフィア! そんなことより、何か新しい情報を……いやあっ!」

 

『はい。例のキメラは、胸の大きな女性から精気を吸う習性が………』

 

「分かってるわよ! 今、まさにそうされてる、ところ……はあん!」

 

『更にもう一つ、特殊な能力を付与されているようでして。このキメラが実らせた実を口にすると、どんな小さな胸の女性でも、たちまち豊かなサイズになるそうです』

 

 

 は?

 

 

『はぐれ悪魔曰く……

 

 

『世の女性が巨乳になれば、女性の心は豊かになり、男性も夢を持って羽ばたける! 貧乳は罪であり、残酷だっ!! 世界を巨乳に!! 乳・エ―――ンド・ピ――――ス!!!』

 

 

……と』

 

 

 ふぅむ……『女性の心は豊かになり、男性も夢を持って羽ばたける』か……。

 

 どうやら、そのはぐれ悪魔なりに世界を憂いての行動だったらしい。方法は少々偏ってはいるが、その心意気は素晴しい。“世界の為に何かを行動する”。それは内容の如何に関わりなく難しいものだ―――。

 

 僕の横でイッセーくんが感動の涙を流している。どうやら、僕と同じ思いだったらしい。

 

 

「乳・アンド・ピース……。

 な、……何て壮大な夢なんだ! こんな素敵な野望の実現があっただなんて! おっぱいのサイズに悩む女性の為に生み出された究極の生物! それに故にあの悪魔は部長のおっぱいをガン見し、従える蟲も朱乃さんのおっぱいを! 胸にそこまでの執着があったからこその行動理念! 主を裏切ってまでの夢の実現! 感服するぜッッ!!」

 

 

 イッセーくんにとって、はぐれ悪魔のとった方法も大いに共感できる物のようだ。イッセーくんの様な男がいる以上、その錬金術師もあながち間違っていないのかもしれない。

 

  ドゴォ……

 

 後ろから強い気配がした。

 

 

 

「……貧乳は罪、……貧乳は残酷、…………ぶっ潰す」

 

「あうぅ……、どうせ私は部長さんや朱乃さんみたいなおっぱいはありません……」

 

 

 トウジョウが大木を持ち上げキメラに投げつけようとし、アーシアがいじけて項垂れていた。

 一方、キバくんはリアス達を助けようとキメラに向かって行こうとする。

 

 

「部長達は僕がっ!」

 

「待つんだ、イケメン!」

 

 

 そう叫ぶと、イッセーくんはキバくんより前に進み出て、真剣極まりない面持ちでリアスに直談判していた。

 

 

「部長! このキメラを見逃してください! こいつは、全男性の夢を実現できる最高のキメラだと思うんです!!」

 

「な、何言ってるの!? もう! こんなときにイッセーのエッチなスイッチが入るだなんて!」

 

 

 流石のリアスも戸惑っている。まあ、いいか…………。

 

 

「あらあら、困りましたわねぇ」

 

「こいつがいれば、貧乳の女性たちの悩みが解決するんです!

 そして、はぐれ悪魔が言うように、そのおっぱいを見て、男性も立ち上がれる、ってお前、人が必死で擁護してやってるってのに!」

 

 

 話しているイッセーくんの頭をキメラがビシバシ叩き、イッセーくんがそれに文句を言う。

 

 そりゃそうだ……。そんな邪念まみれじゃ懐く魔物も懐かないよ、イッセーくん。

 

 

「……どいてください。そのキメラは私の敵です」

 

 

 トウジョウが合成生物を倒そうと進み出る。普段、あまり顔に表情を出さない彼女が怒り狂ってる。それを見たイッセーくんは必死の形相で言い募る。

 

 

「見るんだ、小猫ちゃん! あの実を食べれば、小猫ちゃんもたちまち巨乳に――――」

 

 

 イッセーくんが乳房のような形状の果実を指さす。だが次の瞬間、キバくんが魔剣で果実とリアス達を縛っていた触手を切り裂いた。

 

 

「テメェ、木場ぁぁぁぁ!! 何てことしてやがるんだぁぁぁアアッ!」

 

「全く、イッセーにも困ったものね……。それにリュカさんにも……」

 

 

 リアスが怒った表情で僕とイッセーくんを睥睨する。どうやら触手に縛られてるときに説教したことが、かなり恨まれているらしい。

 

 

「ぶ、部長! これは世の女性達の希望と未来を……」

 

「ウソは良くないよ。君が考えていたのは、女性が巨乳になる事だけだろう?」

 

「ちょっ、リュカさん!?」

 

 

 (イッセーくん)の言い訳を一言で喝破する。その一方、リアスは僕に構うことなくイッセーくんにこう告げた。

 

 

「いいからお聞きなさい! イッセー、あのキメラを倒したら……私と朱乃の胸を一晩中好きにしていいわ!」

 

「なっ……!」

 

 

 イッセーくんが地面に倒れ込み、頭を押さえながら思い悩む。どうやら相当迷っているらしい。

 とはいえ、どちらを取るかは明白だろう。世界中全ての女性を“ある一面で”のみではあるが救済できるのだ。

 当然、“キメラ助命”を――――

 

 

 

「はい、目の前のおっぱいには敵いません。「……は?」

 ……届かぬおっぱいよりも、届くおっぱい! 今から俺はお前を倒すぜ、キメラ野郎!!」

 

 

 えーーーー………。

 

 

「イッセーさん……」

 

 

 僕は心の中で呆れ、あの優しいアーシアまで冷たい眼差しをイッセーくんに向けている。

 

 

「イッセー、私に力を貸して頂戴!」

 

 

 茫然としている僕達をよそに、イッセーくんにリアスが命じる。それに(イッセーくん)が応じる。

 

 

「任せてください!」

 

 

 赤龍帝の籠手が輝く。キメラが放つ粘液と触手を掻い潜り、躱して力を倍化する。

そして―――

 

 

「Transfer!!」

 

「確かに、一部の女性の悩みは解決できる力なのでしょう。けれど、その為に犠牲者を出すわけにはいかないわ。消えなさい!!」

 

 

 イッセーくんの力の譲渡を受け、リアスの体と周囲が禍々しい赤黒い輝きで覆われる。

彼女(リアス)が倍化する力で強化された滅びの魔力をキメラに向けて放とうとする。

 しかし、その莫大な魔力が解き放たれた瞬間。僕は飛び出す。

 

 

「『大防御』!」

 

 

 闘気のオーラを身に纏い、リアスの攻撃を打ち消す。なかなかの衝撃だが何とか防げた。

 

 

「ちょっと、リュカさん!?」

 

「この子は僕が引き取ろう」

 

 

 これまでタイミングを逃していたが、やっと言えた。

 

 

 

 

 

 その後はまあまあ大変だった。トウジョウに

 

「君は確かに貧乳だ。だが、そんなことは問題ではない。大切なのは心だ。例え体型が小学生みたいであっても、君の心が、魂が大人なら、君は立派なレディーだ」

 

 ―――と言ったらぶん殴られた。あと、触手攻めの真っ最中に説教したのが余程腹に据えかねたのだろう。

 今度は逆に、僕がリアスから説教されるハメになった。

 

 だが、必死に謝ったら バラじろう を貰えることになった。

 やはり何事も誠意が一番大切だと、改めて実感できた。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 自宅 アパート

 

 

 

「―――という訳で、今度一緒に暮らすこととなった バラじろう だ。皆、仲よくしてやってくれ」

 

「「「………………」」」

 

 

 同棲しているレイナーレ達にバラじろうを紹介する。

 全員、呆れたような目を向けてくる。

 

 

「……ふっ、アハハハハハッ、リュカってば、しょうがないわね~」

 

 

 しばらく、冷たい沈黙が続いたが、レイナーレが引きつった笑い声を上げた。

 それに続き他の皆も同様に笑いかけてくる。

 

 

「まあ、御主人様だもの。仕方ないわぁ」

 

「そうだな、御主人だからな」

 

「お兄さまっすもんね」

 

 

 どうやら彼女達も理解してくれたらしい。ありがたい、本当にありがたい。

 

 

「そこでなんだが、君達に御願いがある」

 

「お願い?」

 

「そうだ。この子の餌やりだ」

 

 

 この(バラじろう)を仲間にする上で避けられないことなので話しておこう。

 

 

「分かったわ。何をあげればいいの?」

 

 

 レイナーレが皆を代表して尋ねてくる。

 

 

 

「君達のおっぱいだ」

 

 

「……………は?」

 

 

「君達のおっぱいだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「 捨 て て こ い ! ! !」」」」

 

 

 

 ちなみに、ミッテルトに「君は小さいからいいよ」と言ったら光の槍で刺された。結構 痛かった。

 

 

 

 




バラじろうって微妙な名前だと思いましたが、他に妙案が浮かばなかった。
どなたかいい名前を……って、もうやっちゃったから無理か。


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29話 古代の呪術師

おふざけ&触手回
そんな29話です。


  

 

「これはグレモリーさん」

 

「御機嫌よう、教授…………何で貴方までいるの? リュカさん……」

 

「そんなに嫌がらなくても……」

 

 

 深夜の博物館、そこでまたしても知人(知悪魔?)に出会った。オカルト研究部の皆だ。どうやら僕と彼らの間にはつくづく縁があるようだ。

 

 僕の顔を見るなり、リアスが凄く嫌そうな顔をした。どうやら前回の触手攻めの最中に説教をしたことを、未だに根に持ってるらしい。僕は僕なりに彼女達を思ってそうしたのだが………、まあ、嫌われることを恐れては若者の育成などできない。これからも心を鬼にして、嫌われていこう、そう思う。

 

 

「昼間に偶々この博物館に来たんだよ。そこで―――」

 

 

 最近は割と暇なので、仲間達の育成や、この世界の探索に時間を費やしている。バイサーやレイナーレにも同行してもらい、世界中様々なところに行った。

 その一方で、図書館や博物館なども良く利用している。そして、今日偶々来たのがここだ。

 

 展示室を一通り見て回ったあと帰宅しようかと思ったとき、奥の部屋から何やら強い魔力を感じ取った。それも、あまり良くない類の―――

 そこで近くにいた壮年の男性にそのことを尋ねた。するとその男性はかなり驚いた。ニシウラと名乗るその男性は、古代史を研究する教授で、この先の部屋には危険な出土品があると言う。

 

 危険な出土品――――明らかに(ニシウラ)の手にはあまる代物だろう。そこで、自分はそういう手合の物には慣れている、だから見せてほしい、と話した。

 ニシウラは少々躊躇ったが「これから悪魔を召喚し調査する故それに立ち会ってもいい」と許可してくれた。

 

 

「―――というわけさ」

 

「へぇ~……」

 

 

 僕の話を聞いたオカルト研究部の皆は未だに戸惑ってはいるものの、一応納得した様子してくれたみたいだ。

 

 だが、僕にも気になる事がある。

 

 

「ところで、君達はどうして皆でここに来たんだい? 普段は、一人ずつ仕事をしているはずだが……」

 

「イッセーが他の皆の仕事ぶりを見学したいって言ったのよ。今夜は私の仕事場を見学する為に皆と一緒に来たの」

 

「ふむ」

 

 

 確かに納得できる理由だ。(イッセーくん)とアーシアさんは悪魔になって日が浅い。他の悪魔の仕事がどういうものか見てみたい、というのは当然と言えるだろう。

 

 

「せっかくの機会だ。僕もリアスさんの働きぶりを見させてもらうよ」

 

「……まあ、いいわ」

 

 

 リアスは渋々了承してくれた。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

「何だ、アレ?」

 

「古代の石棺の様だけど……」

 

 

 ニシウラに案内された部屋に安置してあったのは、黒地に豪華な宝飾が為された長方形の物体、石棺である。

 それからは明らかに危険な呪術の臭いがする。リアスを呼んだのも頷けるというものだ。

 

 

「ある遺跡から出土したもので、貴重な歴史的遺産なのですが……」

 

「うぅ……なんだか寒気がします……」

 

「確かに、棺からオーラが漏れているわ。それも、あまり良くない類の」

 

 

 ニシウラが皆に説明し、アーシアが怯えてイッセーくんに縋りつく。リアスが石棺を見た感想を呟く。

 僕もリアスに同意見だ。これは危険だ。

 

 

「やはり! 実はこれに関わっていた者達が、謎の病に倒れたり、不可解な事故にあったりなど、不幸になるケースが続出しておりまして!」

 

「あらあら。それは―――」

 

「……棺の呪いかも」

 

「ひぃ! 怖いですぅ!!」

 

 

 アーシアが恐がり悲鳴を上げる。他の皆も警戒の色を強める。

 

呪い―――ここ最近何かと縁がある。だが、恐れてばかりでは何も始まらない。勿論、恐れは危険を察知する意味でとても大切だが、それ以上に大事なのは“恐れを適切に克服する知識と準備と心構え”だ。

 

 

「アーシアさん、呪いにそんなに怯えることもないよ。それ(呪い)は努力次第で克服できる物だ。何なら今度『幻魔剣』をみんなに―――」

 

「いや、アレを身に付けるのは流石に―――」

 

 

 イシュダルとの戦いで使った秘剣を全員に勧める。あの技術はかなり便利だ。特に、キバくん辺りが身に付ければ相当な戦力になるだろう。

 

 だが僕の言葉を聞いた皆の反応は微妙だった。キバくん、イッセーくん、ヒメジマ、アーシアは呆れたような、困ったような、戸惑っているような複雑な表情を向けてくる。

 

 

「お・ね・が・い ですからリュカさんは黙ってて頂戴」

 

「……あ、はい」

 

 

 リアスに物凄い笑顔で言われた。その威圧感に耐えかね、堪らず答えてしまう。

 

 

「あの象形文字なのですが……」

 

 ニシウラ教授が石棺の文字を示した。異世界で行ったイシス国のピラミッドで見た文字に近い。流石に何て書いてあるのかはさっぱりだが………。

 

 

「丸い円が二つあって、まるでおっぱいみたいだな……って何考えてんだ、俺は! 象形文字にまでエロスを求めてどうするよ!」

 

 

 イッセーくんが感想を漏らす。本当に彼はそういうのが好きだな……。おっぱいか……。まあ、言われてみればそう見えなくもないが、石棺にどうしておっぱいが?

 もしそうだとすると、この棺の主は相当の好き者、イッセーくんみたいな人格の持ち主か……。

 

 

「ここにはこう書かれています。『我が眠りをさますのは、美しき乳の豊かな魔なる女性のみ』と……。要約しますと、『私はおっぱいの大きい悪魔の美女に起こされたい』と!!」

 

「要約し過ぎだろ! ……でも、“おっぱいの大きい悪魔の美女に起こしてほしい”って気持ちは分かるけど!」

 

「分かるんだ……」

 

 

 キバくんが溜息混じりにツッコむ。女性型モンスターも多く仲間にしている魔物使いとして諭した方がいいだろう。

 

 

「あんまり良いものじゃないよ。毎朝、窒息しかけるからね」

 

「されてるんスか!!」

 

「ああ、ここ最近は……。でも、偶にヒュドまるに起こしてもらう事もある。寝ぼけた彼に危うく丸呑みにされるところだった」

 

「「「……………」」」

 

 

 仮に完全に馴らしたとしても、体格が人間より大きな魔物相手ではそれなりの危険が伴う。彼ら(魔物たち)に全く敵意が無くても、ドラゴンマッドだのギガンテスだのにじゃれつかれたら素人では怪我くらいはする。

 バイサーやカラワーナが寝床に潜り込んできて抱きつかれ、胸で顔を覆われ息ができなくなったことが何度かあったし、スプろうの雷撃で黒焦げになったり、ジュラすけに噛まれたり、バラじろうに粘液塗れにされたこともあった。

 今のイッセーくんでは、僕と同じ生活はフィジカル面で無理だろう。

 

 

「ちなみに今まで呪われたのは皆むさい中年男性ばかりでした」

 

「おっさんに起こされるのは論外ってわけか……。これも分かるな」

 

「いいかい、イッセーくん。おっさんにもいい人は沢山いるよ。サンチョとか――――」

 

 

 イッセーくんのおっさんを侮蔑した発言を窘める。おっさんは素晴しい生き物だ。義理人情に厚く、一度友情を結べば我が身を省みずに助けに来てくれる。その“おっさんの絆”を極限に高めることで発動する奥義も存在するくらいだ。

 

 これは小一時間ほどおっさんについて語らなければなるまい。そう思ったが……

 

 

「早速、調べてみますわ」

 

 

 リアスに遮られた。彼女が石棺に近づいて何やら調べ始める。無視されたことがちょっと悲しい。

 だが、今のはたしかに僕が悪い。少々脱線し過ぎだ。ここは自重しよう………。

 

「な、何!?」

 

 

 物思いに耽っていると状況に変化が生じた。石棺が禍々しく輝きだしたのだ。どうやら、原因はイッセーくんが言うところの“おっぱいみたいな象形文字”にリアスの胸が触れたことらしい。

 

 石棺の蓋が少しずつずれ、ずるずると開いていく。

 

 

「おお! やはり、悪魔の女性によって棺は開かれるのか!」

 

「ど、どうなってるんだ!?」

 

 

 ニシウラ教授が自説の正しさを証明できたことに感嘆の声を、イッセーくんが驚愕の声を上げた。

 

 

「マミー? それともラザマナスか?」

 

「ミ、ミイラ!」

 

 

 身に纏う魔力からして、単なるミイラ男よりは高位だと思われるが……。

 そう思い遠巻きに観察しているとイッセーくんが不用意に前に見た。

 

 

「イッセーくん、気を付けなさい!」

 

 

 僕の言葉を聞き、(イッセーくん)は石棺から飛び退こうとする。

 

 だが遅かった。ミイラから黒い靄が噴出し、イッセーくんに纏わり付き、みるみるうちに彼の体に入り込んだ。

 

 

「我を目覚めさせたのは誰かーあぁ?」

 

 

 イッセーくん……じゃない? 死霊に取り憑かれたか!?

 

 魔力やオーラを探るまでもない。イッセーくんから放たれた声や、口調からして完全に別人だ。

 リアス達オカルト研究部の皆もそのことに気が付いたようだ。

 

 

「貴方を目覚めさせたのは私よ」

 

「ほーう!」

 

 

 ミイラから飛び出た魂に取り憑かれたイッセーくんがリアスの全身を舐めるように観察する。

 

 

「御機嫌よう、ミイラ男さん」

 

「ふっ! 我はウナスなり! 高貴なる神官にして、呪術を執り行う者である! 我を目覚めさせてくれた事、礼を言わねばなるまい!」

 

 

 リアスの名乗りを聞き、ミイラの怨霊も高らかに名乗りを上げる。ウナスという名らしい。

 呪術師……。僕の見立てではワイトキングに近い存在かもしれない。

 

 ワイトキング―――自らゾンビ化することで、元々高い魔力と知力を更に高めた高位のゾンビ系モンスター

 

 だが、この者は完全にそうではない。とすると、ワイトキングの成り損ないということか。

 

 

「意識を飛ばして、私の可愛い眷属の身体を乗っ取るだなんて、いい度胸ね。今すぐそこから立ち去りなさい!」

 

「その願いは承諾しかねーる!」

 

 

 リアスの啖呵を、ウナスは笑って流す。確かに立場的には彼の方が上かもしれない。何せ、彼女の大切な眷属の肉体を握っているのだ。

 

 

「何ですって!?」

 

「この呪われし肉体に再度戻る事で、我が魂の安息を保つ事ができようか? いや、保てはせぬ!」

 

 

 確かにそうだろう。どうやら一筋縄ではいかない相手の様だ。

 

 

「うふふ、でも呪術師が呪いを受けるだなんて、ちょっと情けないですわ」

 

「黙れ! 我は呪術師として、更なる高みを目指そうと、高位の悪魔を呼ぼうとしただけだ!」

 

 

 ヒメジマの嘲笑に、ウナスが怒りの声を上げる。まあ、より優れた魔術師になろうとする向上心は買うが……。

 

 

「高位の悪魔? 一体誰を?」

 

「ククッ、聞いて驚くがいい! 大公アガレスの縁者の女悪魔であーる!」

 

「大公といえば魔王・大王に次ぐ家柄ですわ」

 

 

 ふーむ、大公か……。僕らの世界ではどの位のやつなんだ? 魔王はミルドラースで、大王はゲマかイブール……。とすると大公といえばジャミかゴンズくらいかな? そのまた縁者……。ダークシャーマンとかだろうか……?

 

 

「だが、交渉どころか、我はその悪魔に、肉体と共に呪術の大半を封じられてしまった! 故に我は、永い眠りにつくしかなかったのであーる!」

 

「逆に呪いを!」

 

「何故そんなことになったのかしら」

 

 

 キバくんとリアスが疑問の声を上げる。

 

 

「この呪いが解かれない限り、我がこの肉体を返すことはありえぬ!」

 

「まあいいわ。こちらも、私の大事な眷属の身体を奪われるわけにはいかないの。呪術師ウナス、あなたの呪いを私が解いてあげる!」

 

「ああ、いいんじゃないかな。何千年も呪われっぱなしというのも辛いだろうし……。僕は男だから無理だけど」

 

 

 かなり無責任な言い回しだが、こればかりはどうしようもない。リアス達に頼るしかない。

 

 

「ふん、汝も相応の力を有した悪魔だと見受けられる。ならば、頼らせてもらおうか。紅い髪の女人よ!」

 

「それで、何をすればいいのかしら?」

 

「我にかけられた呪いは三つ。それらを解くには悪魔、それも美女の力が必要なのだ。まず一つ目は……この衣装を身に付け、我の前で舞い踊るのだ!」

 

 

 ウナスイッセーくんがゴソゴソと棺から何かを取り出す。

それは露出の激しい踊り子の服だった。

 

 へえ、この世界の『踊り子の服』は始めて見たな……。しかし、今まで見てきた世界のやつより、更に布の面積が少ない。あれならモンバーバラの“褌ビキニ”の方がまだ防御力がありそうだ。

 

 

「ふぅ、わかったわ。それを着て踊ればいいのね?」

 

 

 その褌ビキニ亜種を受け取ったリアスは一旦退室する。

 

 数分後――――

 ウナスから渡された衣装を身に纏ったリアスが戻って来た。実に似合っている。スタイルではモンバーバラやポートセルミで見物した踊り子たちと同格くらいか……。いや、モンバーバラのナンバーワン、名はマー……何と言ったかは忘れたが、あの娘の方が若干上か……。

 

 彼女は僕達の前に立つと舞を踊り始めた。

 かなり堂に入ったものだ。踊りの種類としてはグビアナで見たベリーダンスに近い。

 どうやら、彼女(リアス)にはダンスの資質もあるようだ。これは予想外だ。今度、徹底的に仕込むのもいいかもしれない。

 

 一方、リアスに踊るよう要求した魔術師に乗っ取られたイッセーくんは鼻を伸ばして、 リアスに釘付けになってる。どうやら、彼女の扇情的な舞に見惚れているらしい。

 見惚れる―――実はこれは結構凄いことだ。以前行った異世界には“魔物を釘付けにする程のお色気を誇る魔女”がいたらしい。

 

 天は彼女に二物も三物も与えたな……。『踊り』、『お色気』。この二つは完全に盲点だった……。でも、『踊り』はともかく『お色気』は僕じゃどうにもできないな。『お色気』を極めた仲間なんてのもいないし……。

 

 

「……部長にヘンな技を教えるのは止めてください」

 

 

 リアスを見ながら物思いに耽っていると、トウジョウがジト目で機先を制してきた。

 

 それにしても、何故わかった!?

 

 

「す、素晴らしい!」

 

 

 イッセーくんの体を乗っ取っていたウナスが鼻の下を伸ばしながら称賛し、その様子を横からトウジョウが白い目で見ている。おそらく、ウナスがいやらしい目的でリアスに舞を踊らせたのではないかと疑っているのだろう。

 

 だが―――

 

 石棺の蓋の裏に刻まれた、三つの三角形の様な紋章の一つが消失した。

 

 

「ふん、アガレスの呪いが、一つ砕けたようだ!」

 

「でもまだ、あと二つありますわ」

 

「次の呪いは、悪魔の女性の口付けであーる! そこの小さき女人、先程から我に向け熱き視線を送っておったな」

 

 

 ウナスがトウジョウに顔を向ける。しかし、熱き……というのは疑わしい。寧ろ、“百烈舐め”を教えようとしたときと同じくらいに冷めてる感じがするが……。

 

 

「……貴方の視線がエッチなのか、それとも憑依されてるイッセー先輩の視線がエッチなのか、観察していただけです」

 

「いや、違う! 我は感じた、その熱き視線を! なればこそ、次なる解呪は貴殿に任じよう! さあ、我にその視線が如く、熱き口付けを!」

 

 

 どうやら(ウナス)は結構思い込みが激しい性格の様だ。唇を突き出しながらトウジョウに迫る。そんなことをすればどうなるかくらい僕でも予想できる。

 

  ドゴッ

 

 

「……来ないでください」

 

 

 ウナスイッセーがトウジョウにぶん殴られた。彼女(トウジョウ)の怪力から繰り出されるパンチの衝撃で耐性を崩すウナス。

 

 

「イッセーさん!」

 

 

 アーシアがイッセーくんを支えようと前に出るが慌て得てた為に躓き―――

 (イッセーくん)に覆いかぶさる体勢となり、はずみでイッセーくんの頬にキスをした。

 

 棺の蓋の裏にある紋章がまた一つ消える。

 

 

「とにかく、二つ目もクリアできたようね」

 

「最後の呪いは、最高難度の呪い! それは……胸の豊かな女性に、ぱふぱふしてもらうことであーる!」

 

 

ぱふぱふ―――ああ、あの女性の胸の谷間でああする……。最近、割と受ける機会が多いあれか。

イシュダルがいればいいのだが、残念だがこの場にはいない。

 

どうやら、ウナスのターゲットはヒメジマらしい。徐々ににじり寄っていく。

 

 

「あらあら、困りましたわねぇ」

 

 

ヒメジマもあまり嫌がってはいない。おそらくイッセーくんを救うためならば身を切る覚悟ができているということなのだろう。それに、元々イッセーくんのことを可愛がっていたみたいだし、満更でもないのかもしれない。

 

しかし、ウナスイッセーは途中で金縛りにあったかのように動かなくなる。どうやら肉体の内部で、イッセーくんとウナスが主導権争いをし、イッセーくんがウナスを止めようとしているらしい。

 

 その様子がしばらく続く。……このままでは埒が明かない。それにもう封印の紋章はあと一つだ。多分、もう僕でも破れるだろう。

 そう思い、精神を集中させ光の力を指先に集中する。

 そして、その指をウナスに取り憑かれたイッセーくんに向け―――

 

 

「面倒だからもういいや、『光の波動』!」

 

『少年よ! あの乳が我を―――って何だ!? ちょっと待て、乳を―――』

 

 僕の指先から迸る光の波動がウナスにかけられた呪いを打ち消す。

 イッセーくんの肉体から黒い靄が湧き出し、棺の中に戻っていく。

 

 

「……邪なオーラが強まりました」

 

 

 トウジョウが警告するかのように告げる。

 

 

 そして―――

 

 棺から不気味な閃光が溢れ出し、強烈な衝撃波が発生する。

 全員が部屋の保管室の外に弾き出される。

 

 

 もうもうと舞う埃の中から高笑いが聞こえてきた。やがて一人の男が姿を現す。

 

 

「ふわーはっはっはっ! 我の名は偉大なる呪術師ウナス! ここに復活せり……。

 大儀であった、悪魔の諸君! あのアーガレスの女め……積年の呪いが解かれた今! 必ずや復讐を遂げん!

 そして、そこの男! 貴様のせいで揉み損なった乳の恨み! 今、晴らさん!!」

 

 

 出てきたのは、褐色の肌の全身に包帯を巻き、錫杖を持った貧相な風貌の男である。

 

 

「クソッ! アイツは初めから自分を復活させるために俺達を利用していたんです! つーか、朱乃さんにぱふぱふしてもらいたかった……」

 

 

 何故か、ウナスとイッセーくんが僕に恨みがましい眼差しを向けてくる。

 えーー……。僕が呪いを解いてあげたんだよね……? なんで怒ってるのかな~……?

 

 

「こんな事だろうと思ったわ。聞いてもいいかしら。どうして呪いをかけられたの?」

 

 

 リアスがウナスに尋ねる。それは僕も気になった。

 

 

「……呼び出した悪魔の女性が、飛び切り美しかった故、思わず願いを伝えたのだ。

 求婚……いや、我が奴隷と化せ! とな」

 

 

 ウナスの回答を聞き、リアスが困ったように(ウナス)に教える。

 

 

「流石にそれは……、大公の縁者クラスなら、願いにはそれ相応の報酬が必要なのよ。怒りを買って当然だわ」

 

「ええい、黙れ! 手始めに貴様から倒してくれるわ!」

 

 

 彼女の言葉を聞き、逆上するウナス。それを見たリアスはニシウラ教授に確認を取る。

 

 

「まったく……教授、このミイラ男は危険ですわ。消し去っても構いませんか?」

 

「大変もったいないのですが、止むを得ませんな。でも、できれば棺だけでも残していただけると……」

 

 

 いつの間にかも石柱の影に隠れたニシウラが残念そうに答えた。

 

 

「分かりました。棺だけ残して、後は消えてもらいましょうか」

 

 

 リアスが堂々と宣言した。しかし、彼女達の様子を見ると猛烈に悪い予感がする。

 ま~た、油断してる……。これじゃこの前の二の舞になりそうだな……。

 

 

「ふん。その傲慢な物言いが、あのときの女悪魔を思い出すわ! ぬるあああっ!」

 

 

 ウナスが声を上げると彼の全身に巻き付いてた包帯が、まるで蛇のように動きだし、リアス、ヒメジマ、アーシア、トウジョウの四人をグルグル巻きにした。

 

 

「……またこのパターン」

 

 

 トウジョウが呟く。

 

 というより、君もそう思うなら躱して欲しいんだが……。

 

 イッセーくんとキバくんがリアス達を助けようとするが、ウナスが叫んだ。

 

 

「動くな! 動くと女達を絞め殺ーす!

 この包帯は、私が長年、念を込めて作った特別製。ちょっとやそっとでは外れないのであーる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……君達……」

 

 

「リ、リュカさん……」

 

 

 ウナスに対しては、一片の恐れなど抱いてないであろうオカルト研究部の皆の表情から余裕が消えた。

 どうやら、声にかなりの怒りが漏れ出てしまったらしい。皆、相当怖がっている。

 だがそんなことには構っていられない。

 

 

「ええと……、何回同じことを言わせれば気が済むのかな……。あれ程―――――――」

 

「ちょっと待って! 自分たちで何とかできるから! イッセー! アレを使いなさい!」

 

「は、はい、部長!」

 

 

 僕の表情を見て、リアスが慌てて叫び、イッセーくんもすぐさま答える。

 

 

「な、何をするつもりだ!?」

 

 ウナスの叫びを無視したイッセーくんがジャンプし、吊るし上げられているオカルト研究部女子達に手早く触れて回る。

 そして指を鳴らし、技名を唱える。

 

 

洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!!」

 

 

 オカルト研究部女子の服が包帯ごと(・・・・)弾け飛んだ。

 

 ほう……、こんな使い方もあったとは……。思わず感心してしまった。

 

 

「眼福です! 全員の裸を脳内保存! ありがたやありがたや……」

 

「……見ないでください」

 

 

 全員の裸を目に焼き付けようと、まじまじと観察していたイッセーくんだが、トウジョウに踏み付けられた。

 

 

 

「こ、これは……何と素晴らしき技かな! 我は感動したぞ、悪魔の少年よ!」

 

 

 確かに『洋服崩壊』は使い方に幅がある。様々な応用の仕方があるだろう。

 だが、(ウナス)も周りに気を配るべきだ。切り札を失い、すっかり無防備になったというのにリアスとヒメジマの接近を許してしまっている。

 

 ウナスに接近したリアスが赤黒い滅びの魔力を練りながら、高らかに宣言する。

 

 

「悪魔の女性に淫らなことをしようとする不逞の輩。その罪、万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、貴方を吹き飛ばしてあげる!」

 

「ま、待て!」

 

「あらあら、折角永い眠りから目覚めたのに……、悪い子はお仕置きですわ」

 

 

 ヒメジマも魔力で雷を発生させる。どうやら、ヒメジマもリアスと一緒に同時攻撃し、ウナスを消滅するつもりらしい。

 僕は袋から“グリンガムの鞭”を取り出した。

 

 

「そこまでだ。『痺れ打ち』」

 

 

 リアス、ヒメジマ、ウナスの三人を纏めて打ち据えた。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 

 

 後日 いつもの郊外

 

 

 

「ちょっと、これは……あ、あぁん!」

 

「あらあら、これは酷過ぎですわ、はぅ……」

 

「リュカさん、許してください~、あう!」

 

「……リュカさん、あとでひどいですよ。んっ」

 

 

 放課後に、オカルト研究部女子達を半ば拉致するかのようにここに連れて来た。

 そこで待機させていた魔物達に一斉に襲わせる。

 その魔物達というのは バラじろう ホイミスライムのホイミン、スラッポ、ふくちん べホマスライムのべホマン、べホック、オカピ― しびれくらげのしびれん、くらげん、まゆたん プチアーノンのプチノン オクトセントリーのリー である。

 

 現在、彼女達は彼らの触手に徹底的に巻き付かれ、絡み付かれている。

 

 

「これは君達の為だ。これを克服できなければ君達は決して優れた悪魔にはなれない。

 故に――――

 

 

  触 手 倍 プ ッ シ ュ だ !!」

 

 

 

 

 

「「「 そ 、 そ ん な ー ー ー ! ! 」」」

 

 

 

 

 

 ちなみに、いつも通りウナスくんを自宅アパートに連れて帰り、皆に紹介した。これまたいつも通り「捨ててこい」と言われたので必死に頼み込んだが、今回は絶対にダメと皆が口を揃えて言う。

 その理由を尋ねてみると、女性陣の見解は完全に一致した。

 

 

 曰く『生理的に受け付けない』

 

 

 そこで、ウナスくんはミルたんに預けることにした。ミルたんは二つ返事で快く了承してくれたので、お礼に『オーロラの杖』をあげた。

 ウナスくんは死ぬほど嫌がってた。

 

 

 




マミー:DQⅡ・Ⅲ・Ⅷ・Ⅸ・Ⅹに登場するモンスター。ミイラおとこの上位種族。

ラザマナス:DQM2で初登場したモンスター。頭と胴体が分離しており、両手で頭を支えている骸骨。DQM1(PS版)・DQM2においてゾンビ系の最強ランクのモンスター。

踊り子の服:DQⅣ以降の作品に登場する体装備。酒場で働く踊り子たちのために作られた、魅惑的なステージ衣装。

グビアナ城:グビアナ砂漠一帯を治める城。美しき女王ユリシスが治めている。城下町にはダンスホールがあり、夜になるとここで踊り子たちが華麗な舞いを披露している。

モンバーバラ:DQⅣに登場する街。大きな劇場があり、主人公の仲間となる踊り子のマーニャが働いている。

ポートセルミ:DQⅤに登場する港町。かなり大きな宿屋があり、ステージでは夜になると踊り子が踊っている。

お色気:Ⅷに登場するゼシカの固有スキル。戦闘中に敵が見とれる能力を身につける他にハッスルダンスなども覚える。

ぱふぱふ:単語としてはシリーズ皆勤。特技としてはⅥ以降。ドラクエでは迂闊に受けてはいけない。何故ならⅨとかだと羊のしr……まあ、自分の目で確かめてください。

光の波動:モンスターズシリーズから登場した特技。味方全員のあらゆる状態異常を回復する。

グリンガムの鞭:DQⅤ以降の本編、リメイク版DQⅢとDQⅣ、ジョーカー、少年ヤンガスに登場する武器。先端に刃の付いた3本のムチがひとつになったデザインが特徴的なムチ。

痺れ打ち:DQⅧより。ムチスキルで習得できる特技。ダメージや範囲は通常攻撃と同じだが、麻痺の追加効果が付与される。

オーロラの杖:DQⅨに登場。杖系武器の一種。杖の部類では最強の攻撃力を持ち、道具として使用すると「いてつくはどう」の効果がある。入手方法は錬金のみ。


プチアーノンのプチノン、オクトセントリーのリー どちらもⅧのスカモンです。


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月光校庭のエクスカリバー
30話 綻び


3巻突入!




  

 

「いくわよ、リュカァッ!!」

 

 

 

  人里離れた深い森

 

 三人の堕天使が光の槍を振り翳し、僕に急降下してくる。落下の重さも加えた一撃。しかも、そのうち一人の妙齢の女堕天使は、闘気を身に纏い攻撃を強化している。常人が受ければ、確実にミンチと化すだろう。

 

 あとほんの一刹那の後にそれが我が身に届く―――

 

 

「『天地の構え』!」

 

 

 得物の『物干し竿』を斜めに構え、目を見開き襲来する堕天使達を視界に捉えた。そして闘気を極限まで溜める。

 槍の先端が自分に突き刺さろうとする、正にその瞬間に物干し竿を動かす。

 溜めた闘気を解放し、三人の攻撃を同時に(・・・)防ぎ、三人を同時に(・・・)竿で打ち据えた。

 

 竿で叩きのめされた堕天使達は後ろに吹っ飛び、全員が木に激突した。

 

 

「はああああああっっ!!」

 

 

 すると後ろの方から、あからさまに情欲をそそる出で立ちに、両手に魔槍を持った女悪魔が突っ込んで来た。

 かなり、強力な闘気と魔力を武器に纏わせている。その一撃は地を抉り、大岩をも穿つに違いない。

 

 

「『五月雨突き』!!」

 

「『氷結乱撃』!!」

 

 

 美しい顔に必死の形相を浮かべた女悪魔と、それを迎え撃つ僕が互いに連打を放つ。『物干し竿』と魔槍が幾度もぶつかり合う。

 

  ピキッ

 

 

 ほう……! 僕の振るう武器にヒビを入れるか!

 

 

 魔槍とぶつかり合うたびに、棍の先端部に亀裂が生じる。闘気を纏わせることで強度が増しているが、得物の性能差と、相対している者も闘気と魔力を槍に帯びさせていることで、均衡が破られたのだろう。

 だが――――

 

 

「手緩い!」

 

 

 そう叫び、更に強い闘気を放ち、棍に纏わせ、一気に薙ぎ払う。

 女悪魔は魔槍をクロスさせ防御するが、彼女の防御を貫いて近くにあった岩に叩き付けた。

 

 しかし、『物干し竿』は パァーン と軽い音を立てて弾け飛ぶ。

 

 そろそろ、武器としては寿命だったし、僕の闘気が強過ぎた為に耐えきれなかったのだろう。武具としては引退させ、アロンアルファで修復した後に、本来の用途である“洗濯物を干すための道具”として活用しよう。

 

  ポツッ ポツッ……

 

 

 ……雨か……?

 

 

 肌に数滴の雨粒が降り落ちた。一滴、二滴、そしてすぐに豪雨となる。いや、幾らなんでもおかしい。

 にわか雨でも、もう少しゆっくり降り始めるハズだ。これは自然のモノではない。そう思った瞬間――――

 

  ブワンッ ブワンッ

 

 二本の長く、太い蔓が叩き付けられてきた。これを飛び退いて躱す。すると、近くの樹木の陰から、桃色の忍び装束を纏った少女が懐に飛び込んで来た。

 

 

「もらったよ。御屋形サマ♪」

 

 

 彼女が手に握るクナイが、僕の体を切り裂こうと迫ってくる。

 

 

「良い不意打ちだ。けど甘い!!」

 

 

 スラ太郎の斬撃を、身を捻って躱し、彼女の顔に僕の顔を近づけ――――

 

ベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロ…………

 

 

 僕の百烈舐めが炸裂する。この忍者娘は顔の上半分をバイザーで覆っているが、強引に下の方から舌を突っ込み、顔面を舐め回した。

 

 

「うひゃっ!? 何するんですかぁ~っ!?」

 

「当て身」

 

「うぐッ……」

 

 

 百烈舐めで怯んだ(だけではなく赤面もしている)少女に手刀を振り降ろして気絶させる。そして、そのまま濃密な気配のする方向に放り投げた。

 

 

「―――ヌッ!? 良クココダトワカッタナ……?」

 

 

 急に仲間を投げつけられ、若干戸惑ったふうではあったが、即座に冷静さを取り戻した水の精霊が姿を現した。

 

 

「君の気配は強いからね。レムオルで姿を消してもすぐ分かったよ」

 

「セッカク苦労シテ覚エタンダガナ……。マアイイ。イクゾ!!」

 

 

 神秘的な美貌の人魚が、似つかわしくない闘志に漲った表情でこちらに向かって来た。

 

 

「『正拳突き』!!」

 

「同じく!」

 

 

 僕と水の精霊、双方が真っ直ぐに拳を突き出す。闘気と闘気。力と力。拳と拳が真っ向からぶつかり合い―――――― 

 

 

「グアアアッッ!」

 

 

  ベキッ グシャアァ……!

 

 

 腕が折れる音が響く。

 

 

 水の精霊の腕が折れる音が、だ。

 彼女は苦悶の表情を浮かべ、そのまま気絶し倒れた。

 人魚のような姿の美女が地に伏すと、先程まで降っていた雨がぱったりと止む。そのとき、周りから強い魔力を感じた。

 

 

 ―――殺気ッ!

 

 

「「「マヒャド」」」

 

 

 高位凍結呪文が周囲から一斉に放たれる。完全に包囲されている為、おそらく避けることは出来まい。

 それならば、と思い、魔鏡反射呪文(マホカンタ)を詠唱しようと呪文を紡ぐが―――。

 

 

「マホカン――――」

 

「マホトーン!!」

 

 

 これは、呪文封じとは考えたな!

 

 

 岩陰から、女の鋭い声で魔封じの呪文(マホトーン)が飛んでくる。

 その呪文をまともに受けてしまった。

 

 それ(魔封じ)を解除する時間はない。そこで格闘の技の一つ『心頭滅却』を使う。

 極限まで意思の力を強めることで、熱や冷気への耐性を高める。

 

 

 その直後に全身を凍り付かせて余りある冷気が押し寄せて来た。精神を集中させ耐える。ひたすら耐える。

 やがて、その凄まじい冷気も止む。

 

 どうやら、凌ぎ切ったかな……?

 

 

「かかったわね、御主人様!!」

 

「えっ?」

 

 

 そう言われて辺りを見回してみる。しばらくして、漸く彼女が言わんとしていることが理解できた。

 足が凍り付いていて動けそうもない。先程の水の精霊が降らせた雨は、この為の準備だったのだろう。

 

 

「ハハッ、なかなかに用意周到だね。これは良い手だ」

 

「余裕でいられるのも今のうちよ! 一斉に掛かりなさい!!」

 

 

 青髪の女悪魔の号令で、金髪の女悪魔達が一斉に襲い掛かってくる。

 この状態では動こうにも動けない。それなら――――

 

 地脈と自分の気を呼応させ、大地の熱気を爆発的な早さで地表に噴出させる。 

 

 

「『マグマ』!」

 

 

 地面から溶岩を湧き出させた。その凄まじい高熱で以って脚を覆っている氷を溶かす。

 更に、それだけに止まらず、冷気と熱で水蒸気を発生させる。辺りを白い湯気が包む。

 蒼髪に赤眼の女悪魔が困惑した表情で、僕を見失しない辺りを見渡す。

 

 

「クッ! ……い、いない! 一体どこに!?」

 

「上だよ。グランドクロス!!」

 

「なっ!? ギャアアアァァァッッ!!!」

 

 

 光の闘気を集約し、両手で十字を切る。前方に巨大な真空の刃が出現する。

 聖なる風と閃光の十字架が、イシュダルとヘルヴィーナス達を周辺の地形ごと薙ぎ払った。枯れ葉の如く吹き飛ばされた彼女達は、纏めて戦闘不能になった。

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「いや~、良かった。実に良かったよ!」

 

 

 訓練を終え、仲間達に向かって素直な感想を述べる。

 

 

「君達も随分成長したよ。堕天使の三人は光の力がかなり強まったし、バイサーもパワー、技術、魔力、闘気、いずれもが相当伸びた。ひょっとすれば、もう中級から上級悪魔の間くらいにはなったんじゃないのかな?」

 

 

 僕の見解に、それを聞いたレイナーレ、カラワーナ、ミッテルト、バイサーが赤面する。

 

 

「それにスラ太郎達も、イシュダル達も、戦い方に創意工夫が見られた。それは大きな進歩だ!」

 

 

 転身したモンスター達も、(いにしえ)の魔神の配下だった者達も手放しで誉めたたえる。実際、彼女達も大したものだ。僕抜きでも、リアス達に勝てるかもしれない。

 いや、イッセーくんの『禁手(バランス・ブレイカー)』とやらだけはこの目では見ていない。それを加味すれば分からないか。

 

 まあ、いずれにせよ彼女達は強くなった。出会った頃とは比べ物にならないほど

に――――

 

 

「ところで、あっちはどうなったんだろうか――――?」

 

 

 

 少し離れた場所に目をやる。

 

 そこでは、元居た世界で仲間にした者を中心に、モンスター達が訓練していた。

 

 

 

 

 

「空裂斬!!」

 

「ドルモーア!!」

 

「ミラクルソード!!」

 

「ガオオオオオオッッ(煉獄火炎)!!」

 

「雷光一閃突き!!」

 

「ライトニングデス!!」

 

「ゴアアアアアアッッ(荒れ狂う稲妻)!!」

 

五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)!!」

 

「双竜打ち!!」

 

「タイガークロー!!」

 

「クルオオオオオッッ(猛毒の霧)!!」

 

「ジバルンバ!!」

 

「べタン!!」

 

「超パワフルスロー!!」

 

「メダパニーマ!!」

 

「蒼天魔斬!!」

 

「超はやぶさ斬り!!」

 

 

 スライム族、巨大な竜、多頭の大蛇、多種多様な獣人族や悪魔、物に魂が宿った様な魔物などが入り乱れて、僕が異世界で学んだ技を試し合い、ぶつけ合っていた。

 

 うん……、皆、頑張ってるな……。おや?

 

 

「ヒィィィィィト・ミルキィィィィィ・スパァァイラルゥゥゥ・ボムァァァァァッ!!!!」

 

 

 その中に、全身傷だらけになりながらも拳にメラ系統の魔力を纏わせ、大きな戦斧を持つ大柄な怪人・エミリネーターのエミリーを殴り飛ばすミルたんがいた。

 

 

「素晴しい!! まだメラ、メラミ、ギラ、ヒャドしか覚えていないというのに僕の仲間達に混じって戦うなんて!! 

 君にも一度挫折を知ってもらおうかと思い、この訓練に放り込んだが………、魔法のみでは敵わない、筋力・体術のみでも敵わないということを知り、咄嗟に魔法と打撃を組み合わせた技を編み出すなんて、なんと途轍もない発想力!! 臨機応変さ!! やはり、(ミルたん)は逸材だった!!!」

 

 

「「「「…………………………」」」」

 

 

 僕は夢中になって叫び、絶賛するが、後ろにいる女悪魔・女堕天使達が、どこか冷めた眼差しで僕を見つめていたことに後になって気付いた。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

  夜 オカルト研究部部室

 

 

「……とまあ、昼にこんなことがあってね。本当にミルたんの成長ぶりには驚かされる………。あれ、皆どうしたんだい?」

 

「……いえ、何も」

 

 

 ヒメジマの淹れてくれた緑茶を頂きながら、日中の出来事を話した。オカルト研究部の皆は困っているような、悔しがっているような、複雑な表情を浮かべている。特にイッセーくんとリアスが顕著だ。

 

 

「―――ところで、聞いたよ。何でも学園の球技大会で優勝したんだってね。おめでとう」

 

 

 何だか怪しい雰囲気になって来たので、僕が別の話題をふる。それに、ヒメジマが乗っかってくれた。

 

 

「あらあら。ありがとうございます。ですけど……飽く迄、学園内でのことですから、あまり大したことではありませんわ」

 

「謙遜はいらないよ。どんなことでも一番になる事は良いことだ。無論、勝つことだけに執着しすぎるのも良くないが、君達の勝利にはオカルト研究部内の“強い結束”があったことだろう。

 全員が一つの目標に向かって努力する。素晴しいことじゃないか……。おや?」

 

 

 僕の言葉を聞くと、その場の空気がまるで『凍える吹雪』を撒き散らされたかのように冷えた。

 僕がまた変なことを言ったのかとも思ったが、全員の視線が、無意識に一人に集中する。キバくんに向かって―――だ。キバくん当人も難しい顔をしている。

 

 

「皆、一体どうしたん――――」

 

 

 しかし、僕が言葉を紡ぎ終える前に、床に魔法陣が出現した。その中から銀髪のメイド・グレイフィアが現れる。だが、本人ではない。立体映像だ。半透明のグレイフィアが無表情のまま話し始めた。

 

 

『御嬢様。緊急のはぐれ悪魔の討伐命令が下りました』

 

「そう……、悪いけどそういうことだから、ね。急がないといけないの」

 

 

 リアスが部長の座る席から立ち上がり、皆も真面目な表情に変わる。だが、キバくんだけが今までの顔付きと変わらない。どこか気の抜けた面構えだ。

 

 

「ああ、僕も付いて行くよ」

 

 

 ひょっとすれば、僕なら分かり合えるはぐれ悪魔かもしれない。それなら一緒に行った方がいいだろう。何よりキバくんが心配だ。

 

 

 

 こうして、オカルト研究部の皆と共にはぐれ悪魔の討伐に向かう事になった――――

 

 

 




空裂斬:漫画「ダイの大冒険」に登場した剣技。後にモンスターズシリーズでも採用された。勇者アバンが完成させたアバン流殺法の一種「アバン流刀殺法」の一つで、心の眼で敵の弱点や本体を捉え、光の闘気を込めてこれを切り裂く「空の技」。

ドルモーア:ドルマ系の上位呪文。DQMJが初出。その後Ⅸにも登場している。

ミラクルソード:3DS版Ⅶ、Ⅷ、Ⅸに登場した特技。初出はⅧ。通常より大きなダメージを与え、そのダメージ量に応じ自身を回復させる。

煉獄火炎:ⅦとⅨに登場した「しゃくねつ」を上回る火炎ブレスの最強技。威力は絶大。

雷光一閃突き:Ⅷに登場。敵1体に魔人の如く斬り掛かり当たれば会心の一撃と同等のダメージを与える「魔人斬り」の槍版である「一閃突き」を更に強化したもの。メタル狩りの御供。

ライトニングデス:Ⅷの短剣スキルを100ポイントまで上げると、敵1体に通常攻撃と同等のダメージを与え、更に一定確率で即死させる攻撃である「アサシンアタック」がこれに進化する。攻撃の際のダメージと即死確率が上がっている。

荒れ狂う稲妻:Ⅸに登場する敵専用の特技。荒れ狂う稲妻を呼び寄せ、敵全体を攻撃し、敵全体に雷・爆発属性のダメージを与える。「いなずま」や「はげしいいなずま」の更に上に位置する稲妻系の技。

フィンガー・フレア・ボムズ:漢字表記では「五指爆炎弾」。漫画「ダイの大冒険」に登場するメラゾーマの応用技。五本の指のそれぞれにメラゾーマを発生させて一斉に放つ、氷炎将軍フレイザードの必殺技。

双竜打ち:Ⅷから登場した鞭の特技。 通常よりも威力の高い攻撃を、ランダムな対象に2回行う。Ⅶの「つるぎのまい」に並ぶバランスブレイカー。

タイガークロー:DQⅨで初登場した特技の一つ。両腕を大きく振りかざし、1回で2回攻撃をする「はやぶさ斬り」の爪バージョン。Ⅹの初期は異常な強さを誇り問題となった。

猛毒の霧:Ⅴより登場した特技。敵1体を猛毒に陥れることができる。

ジバルンバ:イルルカ3Dから新しく登場したジバリア系最高位攻撃呪文。

べタン:元々は「ダイの大冒険」に登場するオリジナル呪文だったが、後にDQMJ2へと逆輸入された。 ダイ大では漢字で書くと「重圧呪文」。狙った敵を中心に地上に円形の超重力場を作り出し、円内の敵を瞬時に圧殺する呪文。

超パワフルスロー:Ⅷに登場する特技。通常だとブーメランによる攻撃は右に行くにつれて徐々に威力が落ちるが、MPを消費する代わりに全ての敵に均等なダメージを与えることができる「パワフルスロー」から進化する。与えるダメージが0.8倍から1.2倍になり、更に2体目以降の敵にも与えるダメージが落ちないのでかなり強力。

メダパニーマ:Ⅷ以降に登場する呪文。 その名の通りメダパニの上位版で、敵全体を混乱させる。ちなみに、本編では「メダパニーマ」、モンスターズでは「メダパーニャ」を通している。本作ではなんとなくこっち。

蒼天魔斬:ⅧとⅨに登場。斧で地面を削り、蒼い髑髏のようななオーラを出して敵にぶつけて攻撃。 通常の1.3倍のダメージを敵1体に与え、たまに麻痺させる効果がある。

超はやぶさ斬り:Ⅹに登場。闘気を溜め、超神速の4回攻撃を繰り出す単体技。その名の通りはやぶさ斬りの上位技。


ヤバい……。ミルたんのインフレに歯止めが掛からなくなってきた。まだ3巻だぞ……。


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31話 大蜘蛛

このはぐれ悪魔はアニメオリジナルのやつです。
3期でもアニメのみのはぐれ悪魔って出るんでしょうか?


  

 

「この廃工場か……この中に?」

 

 

 深夜、寂れた工業地域の一角。そこに問題の廃工場があった。門は片側の扉が外れ、残ったもう一方の扉も鉄製の格子戸も拉げている。その奥にある建物も、設備は錆付き、窓ガラスは一枚残らず割れ、外壁には蔓が伸びている。いかにも人がより付かない場所だ。

 

 

「……間違いなく、はぐれ悪魔の臭いです」

 

 

 トウジョウがそう呟いた。確かに僕も何かの気配を感じる。それも、ヒトに対してあまり友好的ではない何か(・・)だ。

 

 

「今晩中に倒すように、ということですわ」

 

 

 ヒメジマがそう続けた。緊急の討伐命令が下るというのは、ただの討伐命令が下ったはぐれ悪魔よりも危険性が高いという事か―――。

 

 そのことを察し、僕も気を引き締める。リアスが好戦的に目を輝かせて皆に命じる。

 

 

「それだけ危険な存在ってことね。中で戦うのは不利だわ。アーシアは後方待機」

 

「……あっ、はい!」

 

「朱乃と私は外で待ち構えるから、小猫と祐斗とイッセーで敵を誘き出してちょうだい」

 

「はい、部長」

 

「……はい」

 

「了解! ブーステッド・ギアッ!」

 

 

 リアスの指示を聞き、アーシア、ヒメジマ、トウジョウが答える。

 イッセーくんは神器(セイクリッド・ギア)を起動させる。彼の掛け声と共に、腕に赤い籠手が現れた。

 

 しかし、キバくんは気の抜けた顔だ。いつもの彼らしくない。

 

 

「祐斗?」

 

「……あ、解りました」

 

 

 リアスに再び呼び掛けられ、キバくんが返事をする。だがその声も明らかに緊張感に欠けるものだ。

 やはり彼のことは心配だ。

 

 しかし、そんなことよりも――――

 

 

「あの~……僕は?」

 

 

 リアスは僕のことを丸っきり無視している。

 やはり、『もう服は溶かさせない! 地獄の触手克服大特訓 スペシャルコース』を受講させたことを引き摺っているのだろうか。

 しかし、彼女の答えは違った。

 

 

「リュカさんはここで私達と待機してちょうだい」

 

「どうして?」

 

「緊急の討伐命令が下る、ということは、はぐれ悪魔化してからもう随分時間が経っているということよ。

 悪魔はね、はぐれ悪魔化して時間がたった者の方が凶暴化している者が多いの。バイサーのときは“愛”で何とかなったのかもしれないけど、完全に理性をなくした相手にそれが通じるとは思えないわ」

 

 

 リアスが真剣な表情で僕を見つめ、説明してくれる。

 理性を無くした はぐれ悪魔―――どんなものか想像もつかないが、そんなことで引くわけにもいかない。

 

 

「心配しないで欲しい。君の言いたいことは分かった。でも、僕は自分の力を過信して他者を危険に晒すようなことはしない。信じてくれ」

 

 

 リアスの青い瞳を真っ直ぐに見詰め、誠心誠意を込めてお願いする。

 その思いは通じたらしい。

 

 

「……分かったわ。私の可愛い下僕達を頼みます」

 

 

 話はついた。僕もイッセーくん、キバくん、トウジョウと共に工場内に潜入することとなった。

 イッセーくんが張り切って、皆に声を掛ける。

 

 

「じゃあ、行くか! 木場、小猫ちゃん、リュカさん!」

 

「……はい」

 

「ああ」

 

「うん、行こうか」

 

 

 こうして、廃工場の門を潜った。錆付いた扉の前に進む。

 イッセーくんが強敵と戦えることへの昂揚感からだろうか、妙に明るい声で一人言のように話す。

 

 

「どんなやつかな。またバケモノみたいなやつだったら―――」

 

「……えい」

 

 

  バァァン!

 

 イッセーくんの言葉を遮り、トウジョウが拳で錆付いた扉を吹っ飛ばす。気を抜いていたイッセーくんは少し驚いたようだった。

 

 

「やっぱ、いきなりですか……」

 

「……行きますよ」

 

 

 トウジョウを先頭に、皆で廃工場内に入る。中は放置された機材だのが壁際に打ち捨てられたいたが、それでも閑散としていた。それでも窓から月明かりが入ってくるためか、割と見通しは良い。

 

 しばらく進み、イッセーくんが辺りを見渡す。

 

 

「何も見当たらないような……あ、小猫ちゃん」

 

 

 トウジョウが突然立ち止まった。いつになく真剣な表情で呟く。

 

 

「……来ました」

 

 

 巨大なパイプの裏から出て来たのは、薄い水色の髪をした儚げな印象を与える美女だった。フラフラと僕達の前に出てくると、突然変化した。一瞬にして、目が巨大になり吊りあがり、口が裂けたように開き何本もの長い牙を覗かせる。角が生え、腕も更に二本生え、脚も二本生える。

 その様は、まるでヒトと蜘蛛が合わさったかのような、醜く歪な異形のモノだ。

 

 

「えっ!? わっ! やっぱバケモノか!!」

『Boost!!』

 

 

 イッセーくんが驚くが、すぐに落ち着きを取り戻し赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)で能力の倍化を始める。美女を見て鼻を伸ばさなかったため速く対応できたのだろう。……すぐに変化し始めたため伸ばす暇が無かったのかもしれないが。

 或いはバイサーで免疫が付いたのか、彼もまた成長しているのだ。

 

 蜘蛛のようなはぐれ悪魔は壁を伝い、天井を伝い移動する。かなりの機動力だ。バイサーには悪いが、出会った当初の彼女(バイサー)であれば、このはぐれ悪魔の方が強いだろう。

 

 

「……祐斗先輩、お願いします。―――祐斗先輩!」

 

 

 トウジョウがキバくんに呼び掛ける。だが、キバくんは戦いの最中だと言うのに下を向き、まるで聞いていなかった。普段から無口なあのトウジョウが珍しく声を荒げる。

 

 

「ご、ごめん」

 

 

 キバくんが謝るがはぐれ悪魔はそんなことにはお構いなしだ。腹部後端にある糸疣(しゆう)から高速で糸を放出する。その射線上にいたのはトウジョウだ。彼女のいつもの反射神経なら躱せないこともないだろうが、今はキバくんに意識が向いている。

 はぐれ悪魔の攻撃に気付いたのは、すでに攻撃が放たれた後だった。

 

 僕が咄嗟に前に出る。

 

 

 トウジョウ を かばった!

 

  ジュウゥゥゥ!!

 

 

「ぐうっ」

 

 

 はぐれ悪魔の糸攻撃を体の前面で受けた。どうやらこの糸には強い酸が含まれていたらしい。闘気でガードしたので大事には至らないだろうが、ちょっと肌が爛れた。まあまあ痛い。

 

 

「野郎ッ!」

『Boost!!』

 

 

 僕が攻撃を受けたのを見たイッセーくんが叫び、更に能力を倍化させる。

 

 

『Explosion!!』

 

 

 イッセーくんが力の倍化を止める。彼の体力ならもっと強化できたはずなのに、である。おそらく、僕が負傷したのを見て、勝負を焦った為だろう。

 

 

「ドラゴンショット!」

 

 

 吼えるような掛け声と共に、(イッセーくん)が赤い魔力の塊をはぐれ悪魔に向かって撃ち出した。

 

  パシッ

 

 しかし、直撃したものの、強靭な脚によってあっさり弾かれる。やはり倍化が足りなかったのだろう。それでもそこそこの威力はあったはずだ。このはぐれ悪魔はそこそこ強いと思っていたが、認識が甘かったらしい。

 

 

「やっぱりパワーアップが足りないか……って、何、ボーっとしてんだ、イケメン!!」

 

 

 イッセーくんがキバくんに呼び掛ける。こんなときでも(キバくん)は心此処に在らずだ。本当に様子がおかしい。

 

 

「キバくん!」

 

「はあああああっ!!」

 

 

 僕とイッセーくんの呼び掛けで、ようやく正気に戻ったのだろう。はぐれ悪魔に飛び掛かり、片腕を切り落とす。

 

 しかし―――

 

 キバくんは着地に失敗し、床に落ちてた古ぼけたパイプに躓きバランスを崩した。

 

 理性はなくとも本能によるものか、そのことを大蜘蛛のはぐれ悪魔は見逃さなかった。

倒れたキバくんに馬乗りになった。巨大な口で少年の頭を食い千切ろうとする。

 

 

「木場ぁぁっ!!」

 

 

 このままではキバくんの命が危ない。しかし、はぐれ悪魔の敵意は完全に(キバくん)に向いていている。

 今がチャンスだ。素早く気を練り上げ、はぐれ悪魔とキバくんの間に割って入り―――

 

 

「『魔物馴らし』!」

 

 

 魂と闘気、そして愛を込めた掌底打ちを怪物の顔面に叩きこむ。その衝撃で大蜘蛛は後ろに吹っ飛び、コンクリートの壁に激突した。

 

 

「大丈夫かい、キバくん!」

 

「……ええ、何とか……ありがとうございます」

 

 

 キバくんの体を見回すが、どこにも外傷はない。どうやら無事の様だ。

 

 

 一方、壁に叩き付けられた はぐれ悪魔はゆらりと起き上がった。

 それを見て イッセーくんとトウジョウが身構える。

 

 

「ガアア……、ウガアアアアアァァァッッ!!」

 

 

 はぐれ悪魔が雄叫びを上げ、七本の脚で床を這い、猛スピードで突撃して来た。

 

 

「来るぞ、小猫ちゃん!」

 

「……はい!」

 

 

 はぐれ悪魔が僕達の眼前に差し迫る―――

 

 

 

 

 

 

 「あ~~~う~~~~♡」

 

 

 はぐれ悪魔が僕の胸に飛び込んで来た。さっきまでの異形の大蜘蛛ではなく、最初の儚げな裸体の美女に戻っている。彼女は僕の体に頬擦りしてくる。

 

 

「ああ、もう大丈夫だ。先程の『魔物馴らし』が効いたみたいだ」

 

 

 イッセーくん達は、もう危険が去ったことを知り安心したようだ。

 僕達に生温かい眼差しを送ってくる。

 

 

「君は何ていう名前だい?」

 

「う~~?」

 

 

 取り敢えず名を尋ねてみるが、彼女は不思議そうな表情をする。どうやら質問の意味が分かっていないらしい。肉体的には成熟した女性の様だが、そのリアクションはまるで赤子みたいだ。

 そういえばリアスは“はぐれ悪魔と化して時間が経ち過ぎると理性を失う”と言っていた。おそらくその影響だろう。

 

 

「ふむ……、困ったな。名前が分からないか……。では君の名前は『クモりん』にしよう。今日から君はクモりんだ」

 

「う~~♪ クモりん♪ クモりん♪」

 

 

 彼女(クモりん)が嬉しそうに自分の名前を連呼する。何とも微笑ましい。

 

 

「そういう訳だから、この子は今日からクモりんだ。皆、よろしく頼むよ」

 

「……は、ははは。流石リュカさんッスね~……」

 

 

 僕がクモりんを皆に紹介する。イッセーくんが乾いた笑い声を上げる。おそらく“つい数分前まで戦っていた相手と和解する”ということにまだ慣れていないのだろう。

 

 トウジョウの方は何故かジト目で睨みつけてくる。何か思うところがあるらしい。

 

 

「……いやらしいです」

 

「は? いやらしい?」

 

 

 一瞬、何を言われているのか解らなかったが、改めてクモりんを見てその理由が分かった。彼女(クモりん)はものの見事に全裸だ。精神が赤子レベルなので何らの恥じらいもない。美しく整った形のバストや、ハート型のヒップ。色白なきめ細かい肌が余す所なく全て丸見えだ。

 そう考えると、イッセーくんの教育上よろしくない。

 

 

「そうか……。じゃあ―――」

 

 

 腰に掛けた袋から、適当な服を何着か見繕う。

 

 

「この『サマードレス』なんかどうだろうか? この世界でもあんまり目立たないし、意外に守備力がある」

 

 

 しかし、クモりんは首を横に振る。どうやらあまり気に入らなかったらしい。すると彼女は床に置いた装備の中から、ある服を選んだ。

 

 

「う~~♪」

 

「いや、それは駄目だ」

 

 

 彼女が選んだのは『踊り子の服(Ⅴ)』だった。

踊り子の服(Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ)―――俗称『ふんどしビキニ』。女性用装備の中でも、最も過激なデザインで、最も守備力が低い物の一つである。とてもこの世界の街を闊歩できる物ではない。

 

 

「ならせめてこっちの『踊り子の服(Ⅷ、Ⅸ)』に―――」

 

 

 そう言って、別世界の踊り子の服を見せる。こっちのはスカートが付いている分露出度が低い。それでも十分際どいが………。

 

 

「うー! やっ!」

 

 

 クモりんが拒絶する。どうやらかなり『ふんどしビキニ』が気に入ったらしい。僕では彼女に無理矢理に別の服を着せることは出来ないようだ。赤ん坊の息子と娘の世話をしていれば出来たかもしれないが……。

 僕には赤ん坊の面倒をみた経験が無かった。

 

 

「まあ、いいか……それで……」

 

 

 結局、僕が折れて彼女は『踊り子の服(Ⅴ)』を装備することになった。

 踊り子の服はクモりんにとても良く似合っている。守備力は低いが――――

 

 

「ああ、待たせたね。トウジョウさん、これなら問題はないだろう?」

 

 

 まあ、多少の問題はあるかもしれないが、飽く迄“多少”だ。真っ裸じゃないし、警察の御厄介になることも……多分ないだろう。

 

 そう思い、トウジョウに確認を取っているとクモりんが抱きついてきた。

 

 

「う~~~♡」

 

  ペロペロペロペロ……

 

 クモりんが僕の顔を舐め回してきた。たぶん、犬や猫が飼い主を舐めるのと同じ、親愛の証しなのだろう。

 そう思った僕は彼女の頭を撫でてあげる。クモりんは目を細め、嬉しそうにする。

 

 

 

「……いやらしいです。リュカさんが」

 

 

 

「えっ!? 僕が!?」

 

 

 

 

 トウジョウの無情なツッコミに、僕の心はえらく傷付いた。

 

 

 

 




まものならし:DQⅦ、DQMBに登場する特技。Ⅶでは「魔物ハンター」の職業で習得する技。1グループが対象で、魔物を馴れさせて、モンスターパークへ送りやすくする。モンスターパーク完成の為には必須となる特技。
DQMBではドラゴンの杖でぶん殴って、敵1体をなだめて行動不能にさせる。何故か魔物ではない人間にまで効いてしまう。今回のイメージはこっち。


ドラクエの仲間って“~りん”のやつが多いですよね。


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32話 聖剣

 

 

  パァッン!

 

 

「少しは目が覚めたかしら。

 リュカさんがいなければ、誰かが危なかったかも知れないのよ!」

 

 

 寂れた廃工場に乾いた音が鳴り響いた。リアスがキバくんに平手打ちをしたのだ。彼女は相当怒っている。不注意で仲間を危険に晒したことを考えれば当然と言えるだろう。

 しかし、同時に心配もしているようだ。表情にも声色にもキバくんへの配慮が見られる。

 そんな主従のやり取りを、新しく仲間になったクモりんを一旦『魔法の筒』にしまいながら観察する。

 

 

「すみませんでした」

 

 

 キバくんがリアスに謝罪する。しかし、その言葉には誠意が感じられない。どこか投げやりな感じがした。

 

 

「一体どうしたの? 貴方らしくもない……」

 

「調子が悪かっただけです。今日はこれで失礼します」

 

「祐斗………」

 

 

 (キバくん)はそうとだけ言うと、一礼し去って行く。リアスはキバくんの背を憂慮する表情で見送った。

 そんなキバくんをイッセーくんが追いかける。

 僕もイッセーくんの跡を追うことにした。

 

 

 

「木場っ! どうしたんだよ? お前マジで変だぞ、部長にあんな態度だなんて……」

 

「君には関係ない」

 

 

 イッセーくんの言葉を、キバくんはまるで意に介さない。やはりいつもの彼らしくない。

 

 

「心配してんだろうが!」

 

「心配? 誰が誰をだい? 悪魔は本来、利己的なものだろう?」

 

「お前、何言って……?」

 

「まあ、今日は僕が悪かったと思うよ。それじゃ……」

 

 

 キバくんが僕達に背を向ける。いつもは誠実で仲間思いな彼が………。いや、寧ろ“仲間思い”であるが故に他者を巻き込みたくないのかもしれない。自分一人で向き合わねばならない……そんな問題を抱えているのだろうか。

 

 

「待てよ! もし、悩みとかあるなら話してくれ! 俺達、仲間だろ!」

 

「仲間……か……。一誠君、君は熱いね」

 

 

 キバくんがイッセーくんに向き直り、突き放すように言い放つ。

 

 

「僕はね……、基本的なことを思い出したんだよ」

 

「基本的なこと……?」

 

「生きる意味……つまり、僕が何のために戦っているかってことさ」

 

 

 “生きる意味”とは――― 彼にとっては極めて重大、いや、彼という人格を形成する一端とも言えることらしい。

 

 

「そりゃ……部長のためだろ?」

 

 

 イッセーくんが何の迷いもなく答える。(イッセーくん)にとってはそうらしい。まあ、命の恩人だし、惚れている女性のため、というのは不自然ではない。だが、一人の為というのはちょっといただけない。あとでじっくり話し合うとしようか―――

 

 そんなことを考えていると、キバくんが強い決意を宿した顔で、冷徹に宣言した。

 

 

「違うよ。僕は“復讐”のために生きてる。聖剣エクスカリバー、それを破壊するのが僕の生きる意味だ」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「キバくん、僕が力になろう」

 

 

 イッセーくんに“復讐こそ、自分が生きる意味”と宣言したキバくん。僕はそんな彼を追いかけ、人気のない街路で追いつき話しかけた。追い掛けている内に雨がぽつりぽつりと降り始め、今やドシャ降りとなったがそんなことは気にしていられない。今はキバくんと話す方が先決だ。

 

 

「……リュカさんには関係の無いことです」

 

「いや、関係ならある」

 

 

キバくんの拒絶の言葉を否定する。

 

 

「僕は君の友達だ」

 

「……友達?」

 

「そうだ。短い付き合いではあるが、僕は君を友人、仲間、愛弟子、家族……そう思っている。

 君の過去については知らないが、“今の”君ならば良く知っている。君は傷付き、今にも倒れてしまいそうだ。そんな君を助けたい」

 

 

 『僕は“復讐”のために生きてる』――― 彼はそう言った。無論、その気持ちは分かる。攫われたヘンリーを助けに行った古代の遺跡。そこで自分を人質にされ、抵抗もできず無残に殺された父の姿。今でも目に焼き付いていて、偶に夢に見る光景。父に手を下したあの三体の魔物(・・・・・・・)に対しては、今でも憎しみを拭い去ることができない。

 

 (キバくん)の目は、そんなかつての自分を思わせる。復讐に捕らわれ、それしか考えられない。

 しかし、自分はそこから抜け出した。僕の周りには大勢の仲間達が、家族がいた。プックルが、ピエールが、スラりんが、妻が、息子が、娘が――――

 

 しかし、今のキバくんの瞳には、おそらく仲間達が映らないのだろう。

 

 

「それこそ、余計なお世話ですよ。リュカさ―――」

 

  ガバッ

 

 キバくんを抱きしめた。

 

 

「そんな悲しいことは言わないでくれ……。僕は君が大好きだ……。君も、イッセーくんも、リアスさんも、トウジョウさんも、ヒメジマさんも、アーシアさんも……。僕にとってかけがいのない大切な“仲間”だ」

 

 

 (キバくん)の体温を感じる。そして、抱きしめてみて改めて実感する。彼はまだ子供なのだ。どんなに修練を積んでも、肉体そのものは未発達で、大人の物に比べずっと華奢だ。特に、彼の首――――うなじを見れば良く分かる。滑らかで、か細いそれは、かつて同じように抱きしめた息子のそれと同じもの。

 強く抱きしめれば、そのまま壊れてしまいそうなほどに脆く繊細な体だ―――

 

 こんな子供が、今までどれ程の辛い目に合って来たのか。それを思うと彼を抱きしめる腕にも力が篭る。

 

 

「キバくん……。僕を頼ってくれるね?」

 

「……僕は―――」

 

 

 

 

 そのとき突然、悲鳴が聞こえてきた。

 

 

 

「あぁ……た、助けて! ワアァァアアッ!!」

 

 

 道角から、丸眼鏡を掛けた壮年の男性が転がるように飛び出してきた。そして、そのまま倒れる。背には酷い傷があり、倒れた直後に事切れた。

 

 

「……神父?」

 

 

 僕から離れたキバくんが確かめる。どうやら、教会に所属する人物らしい。

 すると、殺された神父に続き、もう一人の男が現れる。見覚えのある人物だ。

 

 

「やーやー♪ やっほ~! おっ(ひっさ)だね~ん♪」

 

 

 現れたのは、やや正気ではない感じのする神父服を着た白髪の青年。

 

 

「誰かと思ったら~♪ クソ悪魔のクソ色男君とあの忌々しいバンダナクソ野郎じゃあーりませんか~♪」

 

「おや、君は確か………フリードくん、だったかな?」

 

「“かな”って何だよ! この悪魔に魅入られたクソ人間の分際で、この俺を忘れてたのかよ!? 酷いザンス!!」

 

 

 以前会ったはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)の少年だ。手には前は持ってなかった仰々しい大剣が握られている。どうやら、その剣でこの男性を斬ったらしい。

 

 

「……まだこの町に潜伏していたのか」

 

「素晴し~い再会劇に! あたしゃ涙ちょちょ切れまくりっスよ! んっふっふっふ~」

 

 

 相変わらず(フリード)は何と言うか……愉快な感じらしい。

 しかし、あれだけ無闇な殺生は駄目だと言ったのに、まだ人を殺しているとは良くない。少し話が必要らしい。

 そう思って、少年神父(フリード)に声を掛けようとしたが、先にキバくんが進み出た。

 

 

「リュカさんには悪いですけど、生憎、今日の僕は機嫌が悪くてね」

 

「ヒャハハハハハ! それはまた都合が良いねェ! 調度オレっちも! 神父狩りに飽きたところでさ~♪」

 

 

 キバくんのドスの利いた言葉をフリードは笑い飛ばし、手に持つ大剣を掲げた。その剣を見たキバくんが目を見張った。

 

 

「ッ!? その輝き、オーラ……まさか!?」

 

「バッチ・グー! ナイス・タイミ~ン♪」

 

 

 どうやら“あの剣”を知ってるらしい。(キバくん)の表情が憎しみで激しく歪み、全身の筋肉が強張り、怒りのあまり痙攣までしている。

 

 

「以前のお返しついでに試させてくんね~かなァ? どっちが強いかァ! お前とそのクソ魔剣とォ! この聖剣! エークスカ~リバ~♪ とさァア! 

 そんでもって腐れバンダナは今すぐ死ね! 僕チンに細切れにされて苦しみ悶えながら死ね!!」

 

「……リュカさんは手を出さないでください」

 

 

キバくんが僕を横眼で見ながら、そう頼んでくる。

 

 

「いや、しかし―――」

 

 

 キバくんは『聖剣エクスカリバー、それを破壊するのが僕の生きる意味だ』と言っていた。察するに、あの剣がそうらしい。

 だが、危険だ。あの剣からは何やら恐ろしい力を感じる。僕にとってはそれ程ではないが、おそらく特定の種族に対して効果を発揮する類の―――はっきり言えば、多分、魔に属する者に威力を発揮する武具だと思われる。

 キバくんには相性が悪い、というより最悪だ。

 

 

「なぁに舐めてるんでしょうかね~~……。んっふっふ~……。死ねってんダ!!」

 

 

 フリードがキバくんに斬りかかった。先程の(キバくん)の言葉がカンに障ったらしい。まずはキバくんから殺すつもりのようだ。

 

 

 キバくんも魔剣を創り出し、フリードの聖剣を受け止め、刀身と刀身の間から火花を生じさせ鍔競り合う。

 

 

「くっ……!」

 

「売りの端正な顔立ちが歪みまくってすぜ。この聖剣エクスカリバーの餌食に相応しいキャラに……合わせてキッタ~~ッ!?」

 

「ほざくな!!」

 

「アァン!!」

 

 

 聖剣から迸る光の様なオーラに射竦められていたようだが、自らを気合で奮い立たせたのだろう。キバくんが一喝し、力ずくでフリードを吹っ飛ばした。

 

 

「イケメンとは思えない下品な口振りだぁ。ナ~ンツッテ!!」

 

「『光喰剣(ホーリー・イレイザー)』!!」

 

 

 キバくんが魔剣を振りかぶる。魔剣の刀身から影の様な物が溢れだした。やがてその闇は刃を覆い尽くす。

 キバくんが叫ぶ。すると、その闇が触手の様に伸びていき、少年神父のエクスカリバーとやらに巻き付いた。

 

 光喰剣(ホーリー・イレイザー)―――以前に(キバくん)から聞かされていた魔剣創造(ソード・バース)で作り出せる魔剣の一つ。堕天使などの光の力を打ち消す能力を持つ剣。

 

 あの聖剣は見るからに光の力を持っている。それを打ち消そうという発想自体は間違っていない。

 だが、相手が悪かった。

 

 はぐれ悪魔祓いの振るう聖剣は、光喰剣の侵食を、まるで凪の様に受け止めて打ち消した。

 

 

「ああ、それ無駄ッスから。ザンネ~ン! ぷぷぷぷぷ!」

 

 

 フリードが嘲笑う。だが、キバくんの闘志は些かも衰えていない。エクスカリバーを真っ直ぐに見据え啖呵を切る。

 

 

「試しただけさ。その剣が本物かどうかをね。これで心置きなく、剣諸とも八つ裂きにできるわけだ!」

 

「Oh~!!」

 

 

 今度はキバくんが斬りかかった。キバくんとフリードが激しく切り結ぶ。二人ともパワーよりもスピード重視の為か、御互いの剣が凄まじい早さで交錯している。常人であれば目で捉えることもできないだろう。

 一本の剣が残像で何本も見える為に、さながら二体の骸骨剣士が戦っているように見えるはずだ。

 二人とも若いのにすでに達人の域に達している。磨けば『剣聖』や『剣神』と呼ばれるのも不可能ではない。

 

 だが、拮抗した戦況もいずれは崩れる。崩したのはフリードだ。このはぐれ悪魔祓いは僕の愛弟子の隙を突き、二の腕の辺りに傷を付けた。しかしキバくんも然る者で、危機を察知し素早く飛び退いたので傷は極めて浅い。それこそ掠り傷程度だ。

 だが―――

 

 キバくんはその場に崩れ落ちた。

 

 

「言ってなかったっけ~ん? この聖剣はァ、クソ悪魔キラー用の剣なんだよ~!?」

 

「やはり、そうか……」

 

 

 僕の元居た世界にも、旅した異世界にも、そういう類の武器はある。竜族に多大なダメージを与えるドラゴンキラー。マシン系の魔物を撃ち砕くドリルナックル等がそうだ。

やはり、アレは“悪魔系に有効”という効果を持っているらしい。

 

 キバくんの受けた傷から、黒い魔力の様なものが漏れ出ている。おそらくアレこそが(キバくん)の生命力その物なのだ。

 

 しかし、キバくんは自身の命が傷から垂れ流しになっているにも拘らず、憎悪に満ちた目で叫ぶ。

 

 

「忘れたことも無いッ!!」

 

 

 倒れていたキバくんが、油断していたフリードの不意を打ち、脚を払った。少年神父は転倒し、水溜りに尻もちをつく。

 

 

「ギャン! (きった)ねー!」

 

「悪魔らしいだろう!!」

 

 

 フリードの罵声を、キバくんが一蹴する。

 しかし、このはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)の練度もかなりのもので、素早く立ちあがり、体制を立て直しつつキバくんに斬り付けた。キバくんもそれを受け止め斬り返そうとするがフリードが距離を取る。

 しかし、あの少年神父は不気味だ。折角の好機を潰されたというのに、フリードには余裕がある。

 

 

「あんたもなかなかやりますねぇ……。これはコッチも切り札使わなきゃダメみたいじゃね?」

 

「“切り札”? 聖剣以上の切り札などあるものか! ハッタリを抜かすな!!」

 

 

 フリードの呟くような言葉に、激昂するキバくん。確かにアレ(エクスカリバー)以上の武具はそうない。

 僕の袋には沢山あるが――――。

 

 だが、フリードはそんなキバくんをせせら笑うと、腕を前に突き出す。

 すると、(フリード)の手に禍々しい形状の杯が出現した。その器からはもうもうと煙が立ち昇っている。

 

 それを見た瞬間、体中に悪寒が走った。あの杯はマズい。

 

 

「フリードくん。それを飲んではいけない!」

 

「はぁ~? 何スか、この俺に説教っすか? 悪魔に魅入られたクソ人間の分際で? 俺がテメェの言う事聞くワケがないっしょ!! 

じゃ、クソ悪魔とクソ人間の死を祝してカンパ~イ♪」

 

 

 僕の制止を聞き入れず、フリードはその杯の中身を一気に飲み干した。

 その直後―――、彼の肉体から凄まじい威圧感が放たれる。その威圧感の正体はすぐに分かった。

 

  暗黒闘気だ。

 

 この世界にも闘気を使った戦闘術の体系はあるそうだが、それは急に扱えるようなものではないらしい。にも拘らず、今の今まで闘気なんて使ってこなかったフリードが、闘気を体から放つという異常事態に些か混乱する。

 

 変化はそれだけに留まらない。彼の白髪が黒く変化し始めた。更に顔に模様のような痣が浮かび上がる。

 

 それらは暗黒闘気の作用によるものか―――

 

 

「キャハハハハハハハッッ!! アヒヒヒッッ! フヒャヒャヒャッッ!! 

こりゃあ良い……。サイッコーじゃね!? 体からパゥワーが溢れるぅ。ヒャヒャヒャヒャヒャ!! 

あの胡散臭えジジイに、この“暗黒闘気”を液化させたモンを渡されたときは、絶対飲んでやらねえ、と思ったけど蓋を開けたらビックリ! 俺様超パワーアップ!? ヒヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 

 どうやら精神があまり良くない方向に昂揚しているらしい。元々こういう気質だったかもしれないが、それが益々高まったようだ。

 

 

「キバくん……。悪いけど、手……出させてもらうよ?」

 

 

 そう言ってキバくんの前に進み出る。

 

 

「おっ!? やっと真打ち登場ってk「ラリホー」aあぁ? …………」

 

 

 彼が盛んに捲し立てている最中に睡眠魔法(ラリホー)を唱えた。しかも前回、彼に掛けたときより数段強い魔力を込めた。そのまま、(フリード)も倒れるかと思ったが―――

 

 

「う~~ん……眠く――――ならねえから!! ヴァーーーカ!! 

あのジジイから状態異常対策としてコイツを貰ってまーす♪

 つーか、人が話してる最中に睡眠魔法を掛けちゃダメって親から教わらなかったの? マジでこいつの親の顔、見てみたい! そしてぶち殺したい!!」

 

 

 そんなことを言い募りながら、彼は自身の指にはめられた物を見せびらかしてくる。

朱色に輝く三つの輪が一つに重なっているデザインが特徴的な魔法の指輪――――

 

  スーパーリングである。

 

 スーパーリング――― あらゆる状態異常から身を守るとされる至高の指輪。耐性強化のための装飾品としては最高位の物

 

 暗黒闘気による身体能力と攻撃の威力の向上。スーパーリングによる状態以上に対する耐性の補強。

 これらのことを考えた“ジジイ”とやらは、かなり頭がキレる人物らしい。

 敵対している者達の中に危険な知恵者がいることを理解する。

 

 

 あの暗黒闘気を(フリード)から取り除くには、相当強い光の闘気をぶつけなければ……よし!

 

 

 僕が身構える。悪の気のみを断ち切り、フリードをそれから解放する為に。

 しかし――――

 

 少年神父の肩に小さな魔法陣が展開された。どうやら連絡用の物らしい。

 

 

「ああ!? 何だよ、こんな時に……。クソッ! めっちゃザンネンなんすけどォ、お呼びが掛かっちゃったわ~~。て~ことで、はい、ちゃらば!!」

 

 

 フリードがポケットから何かを取り出す。どうやら以前使ったフラッシュバンのようだ。同じ手が二度通じると思われるとは舐められたものだ。すぐに目を逸らし身構えるが、一向に爆発が起きない。

 

 

「あれ?」

 

 

  カランッ カラカラ………

 

 

 フラッシュバン……じゃない? ただの金属の筒か? 一体どうして………?

 

 

 

 

 

 フリード は キメラの翼 を つかった!

 

 

 

 道路に投げられた只の筒を警戒している内に、フリードはキメラの翼で飛んで行った。

 どうやら、フラッシュバンと思わせて、キメラの翼で退避するという策だったらしい。

 

 

「あちゃ~~……」

 

 

 僕は独り言のように嘆息した。

 

 

 




『剣聖』『剣神』:いずれも剣スキルを高めたときに得られる称号。『剣神』はⅧ・Ⅸ。『剣聖』はⅨ。

スーパーリング:Ⅷ、Ⅸに登場する装飾品。多くの状態異常に対しての高い耐性を付与してくれる指輪。3つのリングが合わさったようなデザインをしており、その形状通り3種類の指輪を使って完成する。

キメラのつばさ:本編シリーズではDQ1から皆勤となるアイテム。外伝作品での出番も多い。基本的に「ルーラ」と同じく、使うと一瞬で街や城に移動できる。


タグに何か足そうかと思っているのですが、良いタグが思い浮かびません……(ーー゛)


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33話 教会からの使者

説明回です。


 

 

昼過ぎ 自宅アパート

 

 

 

「―――そのようなことが……」

 

 

 午後、学校の授業が終わった頃を見計らい、イッセーくんに連絡を取った。

 やはり、キバくんの態度はおかしなままらしい。あの少年神父(フリード)の襲撃の後、キバくんは早足で帰宅した。僕はその後、殺された神父に蘇生呪文(ザオリク)を施し、この街から出るように言った。

 

 しかし妙だ。この世界については調べたが、キメラの翼なんて物は見たことが無い。加えてスーパーリングなど更に珍しい。錬金術に相当長けた者でなければ創り出すことは不可能であろう。

 それに“あの杯”―――液化した暗黒闘気。この世界における仙術でも闘気を扱うそうだが、『闘気の液化』なんてことはまず無理だ。それにあのゴブレットからは妖気の様なモノまで感じた。

 つまり、何らかの方法で生物から暗黒闘気を取り出し、妖術の類で液化した―――?

 

 いずれにせよ、この世界の技術ではない可能性が強い。以前戦ったスーパーキラーマシンもそうだ。あの殺戮機械(スーパーキラーマシン)はこの世界には無いものだとリアスは言っていた。

 それに加え、レーティングゲームに介入してきたいにしえの魔神……。数日後にグレイフィアさんに連絡を取ってもらったが、あの魔神を召喚して送り込み、バトルフィールドを結界で隔離した者の足取りは掴めなかったという。

 

 それらの事柄から推察するに、自分以外に異世界からの来訪者がいる、ということなのだろうか?

 

 

 いずれにせよ、今問題なのはキバくんだ。そこでイッセーくんから 何か知っていないか? と尋ねた。

 すると返答があった。なんでも(イッセーくん)も昨日リアスから聞かされたばかりらしい。

 

 

 キバ ユウト―――何でも彼は『聖剣計画』なるものの被験者だったという。

 

 神の領域にまで達した者が魔術、錬金術などを用いて作り上げた聖なる武器、それを聖剣という。しかし聖剣は先天的に扱える者が限られる。キリスト教内で聖剣エクスカリバーを扱える者を人工的に育てる計画が存在した。それが『聖剣計画』だ。聖剣は対悪魔にとって最大の武器。悪魔が聖剣に触れたらたちまちその身を焦がす。悪魔を斬ることができようものなら抵抗する術も与えず消滅させることができる。神を信仰し、悪魔を敵視する使徒にとっては究極ともいえる武器といえよう。

 

 因みに、他にもアスカロンやデュランダル。日本では天叢雲剣(あめのむらくも)等、他にも聖剣は色々あるそうだ。

 

 キバくんはエクスカリバーと適応するため、人為的に養成を受けた者の一人だったらしい。

 

 ところが聖剣にキバくんは適応できなかった。それどころか被験者達は、誰一人として聖剣に適応しなかった。それを知った教会関係者は、キバくん達を『不良品』と決めつけて“処分”に至った。

 

 つまり被験者達は全員殺された。たった一人、キバくんを除いて。

 

 キバくんがリアスによって悪魔に転生させたとき、彼は瀕死のなかでも強烈な復讐を誓っていたそうだ。

 キバくんは忘れられなかったのだろう。聖剣を、聖剣に関わった者達を、教会の者達を―――

 

 

 

「……しかし、どうして突然ぶり返したんだい? つい先日までは皆と普通に接していたが……」

 

「ああ、それは俺のうちでアルバムを見たからだと思います」

 

「アルバム?」

 

「幼稚園時代の近所の友達――――昔、親の仕事の都合で海外に行っちゃったんですけど……。その子といっしょに撮った写真の中に聖剣が写ってて……」

 

「成る程……」

 

 

 あの夜、フリードに対して向けた憎しみの表情。その裏にはそのような事情があったのかと思うと、陰鬱な、それでいて憤懣遣る方無い気持ちになった。

 

 キバくんの気持ちは痛いほど良く分かる。人は時として魔物以上に残酷だ。僕も奴隷時代に大勢の仲間が使い殺しにされるのを見た。鞭打たれ、肌に隙間が無いほどの傷を負い、それが膿んで苦しみながら死んでいった者。奴隷監督に逆らい、槍で突き殺された者。作業場の落盤事故で犠牲になった者……。

 

 仲間の仇を討つのに夢中になるのも無理はないと言える。その傷は深く、一朝一夕では癒せるものではない。

 だが、今を生きる仲間を蔑ろにするのはいけない。

 明日にでも今晩にでも駒王学園に赴き、じっくりと話さなければなるまい。

 

 

「……ふむ、分かった。今日オカルト研究部の方に顔を出したいんだが……いいかな? 

 他にも皆に話さなければならないことがあるし……」

 

「それが……、今日は教会の関係者との会談があるんですよ」

 

「教会の関係者と?」

 

 

 それはまた妙な話だ。教会と悪魔は対立していたはず。それなのにその両者が会談するというのは余程のことがあったと見える。ひょっとすればフリードに殺された神父が関係しているのかもしれない。

 

 

「承知した。僕の話したい事と、その教会の関係者の話は関連があるかもしれない。僕も同席していいかい?」

 

「分かりました。部長に言っておきます……」

 

「ふむ……」

 

 

 電話を切り、身支度をする。

 これまでの装備は 『白いTシャツ』『おしゃれなバンダナ』『ブルージーンズ』だったが、ここ数カ月の間にスーパーキラーマシンだの(いにしえ)の魔神だのと戦うハメになった。無論、問題なく勝利したが、もう少し良い装備を身に付けた方がいいかもしれない。

 そこで袋からいくつかの装備を取り出した。

 

  E.『幻魔の法衣』

  E.『疾風のバンダナ』

  E.『ライトシャムシール』

 

 壁に『ミラーシールド』を立て掛けて、自身のコーディネートを観察する。

 

 ふむ、問題ない。

 

 『幻魔の法衣』は黒を基調とした服で、魔法使いなどが着る『魔法の法衣』を『幻魔石』という物質で強化した物。

 その性能は高く、単純な防御力のみならず魔法耐性も高い。それにパッと見た感じでは高級感のあるコートだ。この世界でも不自然ではあるまい。

 

 『疾風のバンダナ』はアニマル柄のバンダナで、これまでの『おしゃれなバンダナ』よりも守備力、回復魔力、いずれも上だ。更に素早さを上げる効果もある優れモノだ。

 

 『ライトシャムシール』は一見すると柄しかない風変わりな剣だが、戦闘時になると光の刃が出てくる。これならお巡りさんに職質を受けても、「ただの装飾品です」と押し通せる。銃刀法違反で逮捕されたりはないだろう。

 

 支度を終え玄関から出ようとすると、後ろから声を掛けられた。

 

 

「あら、出かけるの?」

 

 

 黒髪のはぐれ悪魔バイサーだ。ここ最近はレイナーレ達やイシュダル達と何やら研究を始めたらしく、マーリンやネーレウスのネレウスやウインドマージのメルビー達と共に、この世界や異世界の魔術を調べている。

 何でも自分達で魔術結社を作ろうという話になっているらしい。魔術結社とは魔法使いや魔女が新たな魔法を研究する組織で、この世界には現在、黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)薔薇十字団(ローゼン・クロイツァー)灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)魔女の夜(ヘクセン・ナハト)等がある。

 マーリンの話では、この世界における魔法とは悪魔の魔力を独自に解析し、人間でも扱えるようにしたものだそうだ。しかしながら、その体系は多岐に渡り独自の発展を遂げ、すでに悪魔ですら扱えないものまであるという。バイサーやレイナーレ達は魔術についてあまり詳しくないそうだが、彼女達の魔力や光力を研究するために協力するつもりらしい。

 因みに、僕に団体名を決めて欲しいと言われたので『ムチムチむち打ち団』と言ったら、全員に猛反発された。結局、組織名は保留になった。

 

 

「ああ、そうだ」

 

「それなら、うちらも行きたいっす! お兄さま~」

 

「私も同行させて欲しいぞ。御主人!」

 

 

 駆け寄って来たのはミッテルトだ。続いてカラワーナも近づいてくる。皆で共同生活になってからは、あまり構って上げられなかったからだろうか、二人とも寂しげな目で見つめてくる。思わず「一緒に行こう」と言いそうになったが心を鬼にすることにした。

 

 

「ダメだ。何でも教会の関係者が来るらしい。堕天使の君達は危険だ」

 

「そんな~……。ま、それなら仕方がないっす………」

 

「けど、今度は一緒に遊びに行こう? 海なんてどうだい?」

 

「海っすか! 行くっす! 嬉し~~♡」

 

「ああ、御主人と海に……か……。勿論、行くぞ♡」

 

 

 二人は機嫌が良くなった。やはり仲間とのコミュニケーションは大事だ。まして、こんな窮屈なタコ部屋みたいなところでの生活を強いている。ストレス発散に出かけるのも良いかもしれない。

 だが、後ろから――――

 

 

「「「「…………………………」」」」」

 

 

 他の皆が鬼の様な形相で睨んできた。これは不味い。

 

 

「勿論、全員で―――ね?」

 

 

 そう言うと、逃げるようにアパートから出た。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

  夕刻 オカルト研究部部室

 

 

 

「会談を受けていただき感謝する。私はゼノヴィア」

 

紫藤(しどう)イリナよ♪」

 

 

 僕が到着したときには、すでに教会からの使者とやらが来ていて、リアスと向かい合い、会談を始めていた。イッセーくん達はリアスの後ろに控えている。

その二人の使者は、どちらもイッセーくん達と同世代くらいの少女で、御揃いの白い外套を羽織っている。片方は青髪に緑のメッシュを入れた目つきの鋭い少女。もう片方の娘は栗毛のツインテールで、天真爛漫な印象を受ける。

 後れて入室してきた僕に、二人の少女が怪訝な顔を向けて来た。

 

 

「ああ、すまないね。構わずに続けてくれ」

 

 

 僕の謝罪の言葉を聞くと、リアスが話を再開する。僕はイッセーくん達の側に行った。

 

 

「神の信徒が悪魔に会いたいだなんて、どういうことかしら?」

 

 

 確かに真っ当な疑問だと僕も思う。それに青い髪に緑のメッシュを入れた少女が答えた。

 

 

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管、管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」

 

「う、奪われた!?」

 

 

 ほう………エクスカリバーとはこの世界における『天空の剣』の様な物のはず。それが盗まれたとあれば一大事だ。尤もその聖剣(エクスカリバー)は何本もあるらしいが……。となると市販の剣のいいやつ、『吹雪の剣』くらいの品なのだろうか?

 

 イッセーくんも疑問に思ったらしい。戸惑った表情をしている。そんな僕とイッセーくんを見かねたのだろう。リアスが申し出た。

 

「聖剣エクスカリバーそのものは現存していないわ。ゴメンなさいね。私の下僕に悪魔に成り立ての子がいるし、異世界から来られた方もいるから、エクスカリバーの説明込みで話を進めてもいいかしら?」

 

「「異世界!?」」

 

 

 二人の少女は結構驚いたらしい。冷静そうな青髪の子も、明るい雰囲気の栗毛の子も口をあんぐりと開けている。無理もない。この世界では異世界の存在が確認されていないのだから。

 

 しばらくして、ようやく気を取り直したのか、それともあまり考えないことにしたのか、栗毛の子―――シドーと名乗った娘が話を再開し始めた。

 

 

「イッセーくん、それと―――「ああ、僕はリュカだ」リュカさんね。……エクスカリバーは先の大戦で折れたの」

 

 

 折れた? 聖剣が? どうやらエクスカリバーとやらは天空の剣と比べるとちょっと格が落ちるのかもしれないな……。あの至宝(てんくうのつるぎ)が折れるところは想像できない。

 それとも、天空の剣が折れるほど、その大戦は激しかったのだろうか。

 

 

「今はこのような姿さ。これがエクスカリバーだ―――」

 

 青髪の少女―――ゼノヴィアが傍らに置いていた布に包まれていた物をテーブルに乗せ、包装を剥がした。

 中から大振りな剣が現れる。かなり大きくごつごつとした印象を受ける剣だ。斬馬刀というやつだろうか。

 

 ふと横に目をやるとイッセーくんが震えていた。人間の僕はそれ程でもないが、悪魔の(イッセーくん)は相当なプレッシャーを感じるらしい。その怯え方から察するに、やはり悪魔にとっては危険極まりない逸品なのだろう。

 

 

「大昔の戦争で四散したエクスカリバー。折れた刃の破片を拾い集め、錬金術によって新たな姿となったのさ。そのとき、七本に分けて作られた。これはその内の一つで私が預けられた物。

 名は『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』。カトリックが管理している」

 

 

 七つ……。つまり、威力も七分の一という事になるのだろうか。そんなに大したことが無いという感じがするのも、そうだとするなら納得がいく。

 

 一方、シドーも自身の得物を披露しようとしていた。なにやら紐状のものが蠢いている。それは僕達の目の前で姿を変え、片刃の剣になった。

 

 

「私の方は『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。こんな風にカタチを自由自在にできるから、持ち運びにすっごく便利なんだから。

 このようにエクスカリバーはそれぞれ特殊な力を有しているの。こちらはプロテスタント側が管理しているわ」

 

 

 シドーが自慢げに言った。まるで新しく買ってもらったおもちゃを説明するみたいな口調だ。

 しかし、本来敵である悪魔の前で言ってもいいことなのだろうか? 

 ゼノヴィアもそう思ったのだろう。渋い顔でシドーを窘める。

 

 

「イリナ………わざわざ悪魔にエクスカリバーの能力を喋る必要もないだろう?」

 

「あら、ゼノヴィア。いくら悪魔だからといっても信頼関係を築かなければ、この場ではしょうがないでしょう? 

 それに私の剣は能力を知られたからといって、この悪魔の皆さんに(おく)れを取ることなんてないわ」

 

 

 どうやら、シドーにはリアス達と戦っても絶対に勝てるという自信があるらしい。しかし、それはないだろう。近接戦では不利かもしれないが、遠距離ならヒメジマとリアスがいるオカルト研究部の皆のほうが有利だ。

 

 リアス達とゼノヴィア達の戦力を分析していると、後ろから凄まじい殺気を感じた。キバくんだ。

 今までの彼からは想像もつかないほど恐い表情を浮かべている。今にも飛び掛かりそうだ。

 

 (キバくん)の様子を気にしつつも、リアスがゼノヴィア達に尋ねる。

 

 

「………それで、奪われたエクスカリバーがどうしてこんな極東の国にある地方都市に関係あるのかしら?」

 

「カトリック教会の本部に残っているのは私のモノを含めて二本だった。プロテスタントのもとにも二本。正教会にも二本。残る一本は神、悪魔、堕天使の三つ巴戦争の折に行方不明。そのうち、各陣営にあるエクスカリバーが一本ずつ奪われた。奪った連中は日本に逃れ、この地に持ち込んだという話だ」

 

 

 リアスは額に手を当てて、溜息を吐いた。まあ、気持ちは分かる。

 

 

「私の縄張りは愉快な出来事が豊富ね。それでエクスカリバーを奪ったのは?」

 

「『神の子を見張る者(グリゴリ)』だ」

 

 

 『神の子を見張る者』……レイナーレ達の仲間か。この娘達に堕天使と同居してると言ったらどうなるんだろうか? 

 まあ、今は言わない方がいいか。

 

 

「堕天使の組織に聖剣を奪われたの? 失態どころではないわね。でも、確かに奪うとしたら堕天使ぐらいなものかしら。高位の悪魔にとって聖剣は興味の薄い物だもの」

 

「奪った主な連中は把握している。グリゴリの幹部、コカビエル」

 

「コカビエル……古の戦いから生き残る堕天使の幹部……。聖書にも記された者の名前が出されるとはね」

 

 

 また知らない名前が出て来た。しかし、話し振りから察するに結構な大物らしい。『神の子を見張る者』の幹部ということはレイナーレ達の知り合いなのだろうか。

 だとすると一度挨拶した方がいいのかもしれない。きちんと『神の子を見張る者』とやらのお偉いさんに独断で動いたことを謝らせた方が、彼女達も肩身の狭い思いをせずに済むようになるだろう。

 

 

「先日からこの町に神父―――エクソシストを秘密裏に潜り込ませていたんだが、悉く始末されている……がその内の何人かが生き返って戻って来た。その者達の言い分では『自分は一度死んだが、謎の聖人によって救われた』とか言っていたな……」

 

「「「………………」」」

 

「えっ? 何で皆して僕を見るの?」

 

 

 多分、僕だけど………。

 ここ最近、夜中に魔力……というより光力を感じることが多くなった。そこでその場に行ってみると人が死んでいるのだ。死んで間もない者であるため、見て見ぬフリもできず片っ端から生き返らせた。

 あまり大っぴらにこの世界に干渉するつもりはないため噂になるのは避けたい。今度からはちゃんと記憶を消すことにしよう。

 

 

「で? 私達にどうして欲しいワケ?」

 

「私達の依頼―――いや、注文とは私達と堕天使のエクスカリバー争奪戦に、この町に巣くう悪魔が一切介入してこないこと。―――つまり、そちらに今回の事件に関わるな、と言いにきた」

 

 

 その言葉を聞き、リアスの瞳に冷たいものが宿った。

 どうやら彼女達(ゼノヴィアたち)の言葉はリアスのプライドを大きく傷つけたようだ。

 

 

「随分な物言いね? 私達が堕天使と組んで、聖剣をどうにかするとでも?」

 

「上の方々は悪魔と堕天使を信用していない。聖剣を神側から取り払うことができれば悪魔も万々歳だろう? 堕天使共と同様に利益がある。それ故、手を組んでもおかしくない。

 だから、先に牽制球を放つ。―――堕天使コカビエルと手を組めば、我々は貴方達を完全に消滅させる。たとえ、そちらが魔王の妹でもだ。―――と、私達の上司より」

 

「……私が魔王の妹だと知っているということは、貴方達も相当上に通じている者のようね。

 ならば、言わせてもらうわ。私は堕天使などと手を組まない。絶対によ。グレモリーの名にかけて。魔王の顔に泥を塗るような真似はしない!」

 

 

 リアスが声を荒げる。やはり相当怒っているらしい。だが、ゼノヴィアは上級悪魔の怒りに臆することもなく不敵に笑った。

 

 

「ふふ……。それが聞けただけでもいいさ。魔王の妹がそこまで馬鹿だとは思っていない。一応、この町にコカビエルがエクスカリバーを三本持って潜んでいることをそちらに伝えておかねば何か起こったときに、私だけでなく教会本部も様々なものに恨まれる。

 故に、協力は仰がない。そちらも神側と一時的にでも手を組んだら、三竦みの様子に影響を与えるだろう。特に魔王の妹ならば尚更だ」

 

 

 ゼノヴィアの説明を聞き、リアスが落ち着きを取り戻した。若いながらもしっかりしたものだと感心する。彼女(リアス)は気を取り直し、静かな口調で尋ねる。

 

 

「ところで、正教会からの派遣は?」

 

「奴らは今回の話を保留した。仮に私とイリナが奪還に失敗した場合を想定して、最後の一つを死守するつもりなのだろうさ」

 

「では、二人だけで? 二人だけで堕天使の幹部からエクスカリバーを奪還するの? 無謀ね。死に行くつもり?」

 

「そうよ」

 

 

 リアスの言葉から推し量ると、コカビエルとやらは、やはり相当強いらしい。どのぐらいの強者なのだろうか?

 以前に会ったティアマットくらいか? それともグレイフィアくらいか、サーゼクスくらいか……。スーパーキラーマシンとか古の魔神ぐらいなら僕一人でも何とかなるが―――

 

 

「私もイリナと同意見だが、できるだけ死にたくはないな」

 

「ほう……。君達はメガンテでも覚えているのかい?」

 

「メガンテ……? 何だ、それは?」

 

 

 自己犠牲覚悟ということはそれくらい使えるという事だろうと思い尋ねたのだが……。そう言えばこの世界にメガンテは無いという事を思い出した。

 しかし、それに準ずる自爆魔法があるのかもしれない、とは思うが。

 

 

「死ぬ覚悟でこの日本に来たというの? 相変わらず、貴方達の信仰は常軌を逸しているのね」

 

「我々の信仰をバカにしないでちょうだい、リアス・グレモリー。ね、ゼノヴィア」

 

「まあね。それに教会は堕天使に利用されるぐらいなら、エクスカリバーが全て消滅してもかまわないと決定した。

 私達の役目は最低でもエクスカリバーを堕天使の手からなくすことだ。その為なら、私達は死んでもいい。エクスカリバーに対抗できるのはエクスカリバーだけだよ」

 

 

 彼女達は何処までも信仰に殉ずるつもりらしい。その覚悟は半端ではないらしい。

 それはそうと心配だ。ゼノヴィア達を思い、出来る限り優しく尋ねる。

 

 

「……たった二人だけで、それは可能なのかい?」

 

「ああ、無論、ただで死ぬつもりはない」

 

 

 僕の問いに素っ気なく答えると、ゼノヴィアが立ち上がる。

 

 

「それでは、そろそろ御暇させてもらおうかな。イリナ、帰るぞ」

 

「そう、お茶は飲んでいかないの? お菓子ぐらい振舞わせてもらうわ」

 

「いらない」

 

 

 リアスの誘いをゼノヴィアが手を振って断った。

 

 

「ゴメンなさいね。それでは」

 

 

 シドーもゼノヴィアに続いて席から立つ。そのまま部室から出て行こうとした。

 しかし、それは不味い。その前に彼女達に伝えなければならないことがある。そこで僕がゼノヴィア達を引き止めようとしたとき――――

 

 

 

「―――兵藤一誠の家を訪ねた時、もしやと思ったが……まさかアーシア・アルジェントか? まさかこんな地で“魔女”に会おうとはな」

 

 

 二人の視線が、ふとアーシアを捕らえた。

 

 

「貴方が魔女になったという元聖女さん? 堕天使や悪魔をも癒す能力を持っていたせいで追放されたとは聞いていたけど悪魔になっていたとは思わなかったわ」

 

「あ、あのっ……私は……」

 

 

 口籠るアーシア。二人に言い寄られ、対応に困っているらしい。

 

 

「大丈夫よ。貴方のことは上には伝えないから安心して。『聖女』アーシアの周囲にいた人達が貴方の現状を知ったら相当ショックを受けるでしょうからね」

 

 

 シドーの言葉を聞き、アーシアは複雑な表情を浮かべる。シドーは純粋にアーシアを気遣っているらしいが……。言い方が他には無かったのだろうか、と思わなくもない。

 

 

「しかし聖女と呼ばれていた者が悪魔とはな。堕ちれば堕ちるものだ。

 …………しかし、お前はまだ我等の神を信じているのか?」

 

「ゼノヴィア、彼女は悪魔になったのよ?」

 

 

 ゼノヴィアの言葉に、シドーが呆れた様子で口にする。

 

 

「いや、背信行為をする輩でも、罪の意識を感じながら信仰心を忘れられない者がいる。その子からはそういう匂いが感じられる」

 

 

 青髪の少女が目を細めながら言い、栗毛のツインテールは興味深そうにアーシアの顔を覗き込む。

 

 

「そうなの? ねえ、アーシアさんは主を信じているの? 悪魔の身に堕ちてまで?」

 

「……捨て切れないだけです…。ずっと……信じてきたのですから……」

 

 

 シドーの問い掛けに、アーシアは俯きながら消えそうな声で答えた。

 

 その言葉を聞いたゼノヴィアが布に包まれた『破壊の聖剣』を取り出しながら酷薄に告げる。

 

 

「ならば、今すぐ私達に斬られるといい。神の名の下に断罪してやる。君が罪深くとも、我等の神は救いの手を差し伸べて下さるはずだ」

 

 

 何だか一気に剣呑な空気になった。ゼノヴィアの目は本気だ。断じて冗談の類ではない。無論、そんなことは座視できない。そこで僕が間に割って入ろうとすると―――

 

 先にイッセーくんがゼノヴィアに食って掛かった。

 

 

「アーシアを魔女と言ったな!?」

 

「少なくとも、今は魔女と呼ばれる存在であると思うが?」

 

 

 イッセーくんが奥歯を噛みぎりぎり鳴らす。思えば彼は教会に対して怒りを抱いていても不思議ではない。フリード、レイナーレ、それを考えれば堕天使・天使陣営に全く良い印象を持っていないのが当然だと言える。

 

 

「巫山戯んな! 自分達で勝手に聖女に祀り上げといて……、アーシアはずっと一人ぼっちだったんだぞッ!!」

 

「聖女は神からの愛のみで生きていける。愛情や友情を求めるなど、元より聖女の資格など無かったのだ」

 

 

 聖女……ね。思い返してみても、彼女の言う“神からの愛のみで生きていける聖女”とやらには僕も会ったことが無い。結構な数の異世界を渡って来たが探索が足りなかったのだろうか。

 強いて言えば異世界で『赤き珠の聖女』とやらの話を聞いたが、その内容からしても“神からの愛だけ”で生きていけるとは思えない。大勢の仲間たちに支えられてこそ輝く女性(ひと)だったらしい。

 

 一方、イッセーくんはますますヒートアップしていた。

 

 

「何が信仰だ…、神様だッ! アーシアの優しさを理解出来ない連中なんか、みんなバカ野郎だッ! 

 その神様はアーシアがピンチだったときに何もしてくれなかったじゃないかッ!」

 

「神は愛してくれていた。何も起こらなかったとすれば、彼女の信仰が足りなかったか、もしくは偽りだっただけだ」

 

「いや、そうとも限らないんじゃないかな。トロッコで同じところをぐるぐる回ってて、忙しくて気付かなかったとか……」

 

「……リュカさん。冗談を言っていい時と、ダメな時があります」

 

 

 イッセーくんとゼノヴィアのやり取りに口を挟んだら、トウジョウに怒られた。

 一応、実話に基づく真面目な意見だったんだが……。

 

 

「……君はアーシア・アルジェントの何だ?」

 

「家族だ! 友達だッ!! 仲間だ!! お前等がアーシアに手を出すのならッ! 俺はお前等全員、敵に回しても戦うぜッ!!」

 

 

 イッセーくんが吠えるように宣言した。それを聞きゼノヴィアが薄く嗤いながら聖剣を布から取り出した。

 

 

「……ほう? それは私達教会全てへの挑戦か? 一介の悪魔が大口を叩くね……」

 

「いい加減にしなさい」

 

 

今度はさっきよりも大きな声な、そして彼女達を諌める気持ちを込めて話しかける。

 

 

「……イッセーくん。それにアーシアさんも……少し、僕の昔話を聞いてくれ………」

 

 

 彼ら彼女らを諭すには調度良い話がある。それを語ることとしよう――――

 

 

 

「僕はまだ赤子の頃に母親を攫われた。それから父は僕を連れて母を探す旅をしたんだ。だが、ある事件に巻き込まれて父は僕の目の前で殺された。親を失った僕は友人のヘンリーと共に奴隷にされた。そこで働かされたのが『光の教団』という宗教団体の神殿だ。

 

 その教団は“いずれ世界は滅びる。生き残るのは教祖様の光の下にある信者だけだ”と言い、勢力を拡大していた。その神殿では僕ら以外にも沢山の奴隷達が働かされていた。

 そこで大勢が使い殺しにされた。だが、僕とヘンリーは生き抜いた…………」

 

 

 そこで、一旦言葉を切る。目を閉じ思い起こせば今でもハッキリと目に浮かぶ長く苦しい時代。生き残れたのは偏に彼……、ヘンリーのおかげだった。

 まさしく親友、心の友。僕が今こうして異世界を漂流しているとき、彼はどうしているのだろうか―――。きっと心配してくれているに違いない。

 

 いけない、少々思い出に耽ってしまった。話を再開することとしよう。

 

 

「ある日、新人のマリアという奴隷がやって来た。

 彼女は元教団の信者だったのだが、教祖の大事な皿を割ってしまってね。それで奴隷にされたんだ。彼女は初日にヘマをしてね。奴隷監督の足に大岩を落としてしまった。

 彼女は鞭で打たれ、乱暴されそうになった。僕もヘンリーも見ていられなくてね……。その監督官を叩きのめした。それで三人揃って懲罰房行きになった。その時ばかりはもうダメかと思ったね……。

 

 だが、僕らは助かった。救ってくれたのはマリアの兄ヨシュアだ。彼もまた妹と同じく教団の信者だったんだが、妹が奴隷にされたとあって狼狽していた。そんなときにマリアが乱暴されかけ、それを僕とヘンリーが助けたと知って、僕らを逃がそうと思ったらしい。そこで彼は死体を捨てる為の樽に僕たち三人を押し込め、海に投げた―――」

 

 

 イッセーくん達もゼノヴィア達も真面目な表情で僕の過去の出来事に耳を傾けている。

 

 

「その後、紆余曲折を経て、教団と戦い、その教祖を倒した。だが、思ったのだ。

 “案外、普通だ”と……。

 

 僕はそれまで『光の教団』はとんでもない邪教で……実際、邪教だが……、その信者も邪悪な者達かと思っていた。しかし、それは間違っていた。彼らのほとんどは“普通の人”だったんだ。農夫、工夫、職人……。生来の悪党などいなかった」

 

 

 イッセーくんとアーシアの肩に手を添える。

 

 

「彼らの多くは後悔していたよ。故郷に残した家族を思ったり、これまで奴隷達にした残酷な仕打ちを反省したり……。そんな彼らに怒りをぶつけることに一体何の意味があるだろう?」

 

 

 そうして、今度はゼノヴィア達に向き直る。年端もいかない少女達の姿が、あの鰐頭の怪物と化した男と重なる。

 

 

「イッセーくん……確かに今のゼノヴィアさんの言行はあまり気分の良いものではなかった。身勝手で、残酷で、愚かで……。

 だが、彼女に怒りをぶつけて何になるだろう? 僕は寧ろ“怒る”べきではなく“哀れむ”べきかと思う。純粋な信仰心を煽られ、おだてられ、死地に赴かされる……本当に哀れじゃないか」

 

 

 改めて、イッセーくんの方に振り向き、諭す。

 

 

「彼女達は哀れな狂信者だ。言うなれば“信仰の犠牲者”だ。それに怒りをぶつけても何にもならないよ。寧ろ、応援してあげるべきだ。

 

 そういう訳だから、僕は君達に協力を―――うぇ!?」

 

 

 改めて振り返ると、僕の喉元に破壊の聖剣が突き付けられた。

 ゼノヴィアが憤怒の表情を浮かべている。血管が浮き出し、歯をむき出し、明らかにヤバい顔だ。

 

 

「私達の信仰を侮辱する気か……?」

 

 

 

 どうやら僕の全力のフォローは、盛大に裏目に出たらしい。

 

 

 

 

 




幻魔の法衣:DQⅨで登場した防具の一つ。異世界の住人、幻魔の強大な力が宿った黒い法衣。『精霊の法衣』を上回る性能を誇っている。

疾風のバンダナ:SFC版DQⅢから登場した装備品。DQⅦまでは装飾品、DQⅧとDQⅨでは頭部用防具として登場している。魔力の篭ったアニマル柄の魔法のバンダナで、疾風を呼ぶとも言われている。虎のようなイカしたデザインが格好いいだけでなく、生地の裏側には動作が俊敏になるルーンの紋様が織り込んである。風の魔力が込められているため、頭に巻くと疾風のように素早く動けるようになる。

ライトシャムシール:DQⅧに登場する武器。刀身が光で形成されたシャムシール。通常時は柄のみで、戦闘時に光る刀身が現れる。

ミラ―シールド:DQⅣやDQⅧなどに登場する盾。細かい違いはあるが、総じて呪文もしくは弾を跳ね返す効果を持っている。

吹雪の剣:DQⅢから登場した武器。吹雪の剣。Ⅴ以降、仕様は若干異なるが、Ⅴが最も活躍する作品。通常攻撃時、対象のヒャド系耐性が無耐性で1.5倍、弱耐性で1.4倍、強耐性で1.15倍、無効で1倍のダメージを与える効果を持つ。

メガンテ:DQⅡ以降に登場する自己犠牲呪文。神話では、神々が人間に善なる心を与えるため使ったらしい。全体攻撃呪文の一つで、使うと使用者が死亡する代わりに、Ⅱでは相手を必ず全滅させ、DQⅢ以降は即死させるか瀕死にする


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34話 捨て身の技

リュカにとって最大の試練が訪れる。そんな34話です。
てゆうか、説教が多過ぎる。次回から減らそう。


  

 

「あれ? どうしてこうなった?」

 

 

 夕刻、旧校舎近くの球技大会練習場。教会からの使者二人とオカルト研究部の皆に半ば強引に連れてこられた。ゼノヴィア、シドーは殺気立ち、僕を睨みつけてくる。二人は白い外套を脱ぎ去り、黒い戦闘服姿になっていた。どうやら防御力より機能性を重視した装備の様だ。

 一方、キバくんも魔剣創造(ソード・バース)で作り出した剣を握り、二人の少女をねめつけていた。

 

 

「……あー……。これはどういうことだい?」

 

 

 取り敢えず、おずおずと周りの皆に話しかけてみる。すると、ゼノヴィアが大いに怒りを含んだ声で答えた。

 

 

「……我々が哀れだと? どの口がそんなことをほざく!」

 

「そうよっ! 私達が“信仰の犠牲者”だなんて、これ以上ない侮辱よ!」

 

 

 二人ともカンカンだ。そういうつもりで言ったのではなかったのだが……。確かにそう考えれば、些か失礼ではあった。完全に僕に非のある事だ。

 そこで、教会からの使者達に深々と頭を下げた。

 

 

「ごめんなさい」

 

「「へっ!?」」

 

 

 僕が素直に謝ったことに面を食らったらしく、二人ともポカンとしている。

 そんな二人に、謝意を込め弁明する。

 

 

「僕は君達を侮辱しようだとか、そんなつもりはなかった。ただ、純粋に二人を心配しているんだ」

 

 

 困惑している二人に対し、更に言葉を重ねて説明する。

 

 

「僕は異世界から来た人間だ。故にこの世界のことは疎い。君達の信じる宗教の教義が、一体どんなものかも知らない。ただ、君達の言行が『光の教団』と重なってしまった……。だが、分かりもしない物のことを批判するのは良くないことだ。申し訳ない」

 

 

 ゼノヴィアは鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をしている。どうやら、振り上げた拳の落とし所が無くなってしまったようだ。まだ僕への怒りが燻っているみたいだが、素直に頭を下げる相手を攻撃するほど短絡的ではないらしい。そこで、考えていたことを提案してみることにする。

 

 

「僕はね……。君達の力になりたいんだ。君らやリアス達の反応を見ると、そのコカビエルとやらは相当強いのだろう? それなら少しでも助力する者がいても不都合はないはずだ」

 

 

 その言葉を聞き、キバくんが表情を変える。憎しみと焦りが滲み出ている。

 

 

「リュカさんッ! 僕は―――」

 

 

 キバくんが復讐の決意を言い募ろうとしたのを、僕が手で制した。

 

 

「キバくん……僕もリアスさんから聞いた。君の過去の出来事を、だ。僕は君の気持は痛いほど良く解るつもりだ。決して嘘じゃない」

 

 

 (キバくん)は反論しようとしたみたいだが、僕の昔話を聞いたためか、僕を睨みつけ押し黙った。

 

 

「誤解しないで欲しいのは、僕も“復讐”を全否定するわけじゃない、ということだ。“復讐”は愛情と理性を持つ生き物の持つ本能とも言うべきものだ。

 君のその強い憎しみは死んでいった仲間達への強い愛情の深さの裏返し……。それをどうして否定できるだろう?」

 

 

 そこで一旦言葉を切り、周りを見渡す。そこには僕とキバくんのやり取りを、固唾を飲んで見守るオカルト研究部の皆がいた。

 

 

「僕が思うに復讐とは二つある。一つには復讐に完全に捕われ、それ以外のモノが見えなくなってしまう物。もう一つは自身にとっての一つの節目としての復讐だ。後者はともかく、前者は周りを不幸にしてしまうよ?」

 

 

「だけど僕はあの聖剣を、どうしても折らなければならない! 無念のうちに殺された同志のためにも!!」

 

「そうか……」

 

 

 キバくんの意志は固いようだ。どうやらそう容易くは説得できないらしい。軽くため息をつくと、キバくんに言った。

 

 

「では、仕方がないか。あー、ゼノヴィアさん、シドーさん。僕との私的な決闘という話だったけど、キバくんも混ぜても良いかい? ついでにイッセーくんも」

 

「ついで!? つーか、何で俺も!?」

 

 

 急に話を振られたイッセーくんが驚く。どうやら油断していたらしい。

 

 

「元々、喧嘩を吹っ掛けたのは君じゃないか。なら君も戦うのが筋だろう?

 よし、ではイッセーくんとキバくんが負けたら、僕がゼノヴィアさんとシドーさんの相手をしよう。君達の戦いを見た方がアドバイスもしやすいだろうし……」

 

 

 そう言って、後ろにいるリアス達のところに下がる。愛弟子達の戦いぶりを見学させてもらおう。

 当の二人は対照的だ。キバくんは殺気が漲っておりやる気十分。一方、イッセーくんはあまり乗り気ではないらしい。おそらく、ゼノヴィアに言いたいことを言ってスッキリし、それで満足していたのだろう。

 

 教会組の方は突如対戦相手が変わったことを若干戸惑っている風ではあったが、すぐに気を取り直した。元々グレモリー眷属の力に興味があったのだろう。

 

 こうして イッセーくん&キバくん vs ゼノヴィアさん&シドーさん の模擬戦が始まった。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 イッセーくん達とゼノヴィアさん達の試合。結果は教会組の勝利だった。イッセーくんはシドーの服を剥ぎ取ることに執着し、まるで戦うことに集中していなかった。

……というより、あの服を剥ぎ取ってどうするんだ? どう見ても守備力が高い様には見えない。おそらく「危ないビスチェ」と同程度ぐらいのシロモノだ。+1が+0になってもそんな変わるまいに……。

 

 キバくんの方も酷かった。復讐に逸るあまり破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)に力勝負を挑む始末だ。大地斬が使えたなら分からなかったが……。冷静さを失い、まるでそこまで至れなかったらしい。

 

 しかしながら、ゼノヴィア・シドーの二人は大したものだ。より深く彼女達を知るために前に進み出る。

 

 

「ふむ! なかなかやるね! イッセーくん達も、結構鍛えたんだがそれを打ち破るとは実に良い! 宜しい。では次は僕が相手をしよう」

 

 

 懐から金と宝玉で出来た柄を取り出す。それを起動させ光刃を出現させた。

 

 

「ふん、エクソシストが使う光の剣か。そんな物でこの破壊の聖剣と戦う気か?」

 

「うーん、堕天使達の力とは違うんだが……。まあ、いいや。かかっておいで」

 

 

 ライトシャムシールを軽く揺らし、ワザと隙を作ってゼノヴィア達を誘う。

すると、青髪の少女が突っ込んできた。大剣を振りかぶる。

 

 

「舐めた口を……! 必ず後悔させてやる。せやぁっ!!」

 

 

 ガシンッ

 

 

 破壊の聖剣を光刃で受け止めた。やはり、かなりの剣圧だ。ランドインパクトもどきを打てるだけのことはある。

 一方、ゼノヴィアも自身の渾身の一撃が簡単に受け止められたことに驚愕していた。

 

 

「くっ! 貴様ァッ! はっ!」

 

 

 ゼノヴィアが飛び退き、一旦距離を取ると今度は連撃を放ってきた。こんな大剣を容易に振り回せるあたり、かなりの研鑚を積んで来たのだろう。だが――――

 

 

「若いね。経験が足りないし技術も足りない」

 

「クソッ! 私の攻撃を片手で(・・・)凌ぎ切るだと……!」

 

 

 そう言われれば先程から右手しか使ってなかった。しかし、それは油断して訳でも彼女(ゼノヴィア)を軽んじているわけでもない。というのも普段は左手には盾を装備しているからだ。

 この世界の街で盾を装備してうろつくのは目立つ。お巡りさんがすぐに飛んできて職質だ。故に左手が手持無沙汰になってしまった。

 

 だが、そんな状態もすぐに終わった。もう一方の少女(シドー)が斬りかかってきたからだ。

 

 

「私を無視しないでよね!」

 

「おお!?」

 

 

 彼女の聖剣は『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。その能力は変幻自在に形状を変えれるということ。シドーは聖剣の刀身を伸ばし、鞭の如くしならせ袈裟斬りにしようとしてきた。

 そこで初めて左手も用い、まずゼノヴィアを弾き飛ばし、そのまま返し刃でシドーの攻撃を受け止める。刃が蛇のように動き、軌道が読み辛かったが、相手(シドー)の殺気を辿れば簡単だった。

 鍔迫り合いになったのを、体を捻り、彼女(シドー)に回し蹴りを放って横薙ぎに吹っ飛ばした。

 

 

「二人掛かりとはいえ、僕に両腕を使わせるとは……。ふむ、君達の技量はおおよそ把握できた。君達に必要なモノも見えたよ」

 

「何……!?」

 

 

 これまでの彼女達の戦い方や力量から適切なアドバイスを与えることにする。そこで、後ろで治療を受けているキバくんにも告げる。

 

 

「ゼノヴィアさんやシドーさんは勿論だが、このことはキバくんにも言える。君らに欠落するのは『格上の敵と戦ったときに刺し違える技術(・・)』だ」

 

 

 キバくんもゼノヴィアも今一つピンとこなかったらしい。呆けた表情をしている。

 

 

「いいかい? 長く戦いに身を置いていると、“どう考えても地力が上の敵”と戦う場面が必ず出てくる。今の君達がまさしくそれだ。キバくんとゼノヴィアさんじゃ素の力ではともかく相性面でゼノヴィアさんの方が有利だ。また、僕とゼノヴィアさん達とじゃ力量に差があり過ぎる。どちらも普通に戦ったのでは勝ち目は薄いだろう。

 そこで重要になるのは“刺し違える技術”だ。戦いの素人はこういうときに“精神”を前面に出すがそうじゃない。“精神”も大事ではあるがそれだけでは破れかぶれだ。ただの自殺に等しい。

 そうではなく“捨て身である程度の実力差をカバーする技”も身に付けておくべきだ」

 

 

 そう言い終えるとライトシャムシールを地面に突き立てる。これで僕は何も持っていない。完全に丸腰だ。

 更にそれだけではなく身に纏う闘気を消した。完全に零に……である。

 

 

「実演してみせよう。掛かってきなさい」

 

 

 ゼノヴィアとシドーに言い放った。二人はそれを聞き気色ばむ。

 

 

「ほう、どこまでも舐め腐って……。人間相手に気が引けるが、ここまでコケにされては引き下がれん。腕の一本くらい覚悟してもらおうか!!」

 

「ええ! 私のエクスカリバーでこの罪深い異世界人を裁いてあげるわ! アーメン!」

 

 

 二人が同人に踊りかかってくる。同時攻撃で僕を倒す算段らしい。敵の戦力が分からない以上、自分達に可能な最大の攻撃を仕掛けるのは間違ってはいない。惜しむらくはゼノヴィアだ。彼女は更にもう一つくらい隠し玉を持ってそうな気がしたんだが………。

 それを出し惜しみしたのは些かマイナスだ。

 

 エクソシストコンビが吶喊してくる。しかし避けようともせず、極限まで意識を集中し二人を観察する。単なる動きのみならず彼女達の精神・意識のありよう、気の巡らせ方、それぞれの最も弱い急所を探る。

 

 

「ぐふっ!」

 

 

 破壊の聖剣と擬態の聖剣が直撃した。ゼノヴィアの剣が放つ衝撃が全身を揺さぶり、シドーの刀によって左肩に鋭い痛みが走った。

 

 ―――だが、見えた。

 

 

「そこだっ! 火炎斬り! 真空斬り!!」

 

「ぐわっ!」

 

「うぎゃあっ!」

 

 

 地面に突き刺したライトシャムシールを手早く引き抜くと、それまで無にしていた闘気を体内で爆発させた。彼女達から見つけ出した攻撃直後の“点”の如きスキを的確に、それでいてある程度(・・・・)の力と闘気を込めて突いた。ゼノヴィアを火炎斬りで打ちのめし、シドーは真空斬りで吹き飛ばした。

 

 二閃の斬撃で二人の少女の戦闘能力を奪い去ることができた。

 

 

「……これが異界の勇者が編み出した奥義『無刀陣』だ」

 

 

 べホマラーを唱え、自分と彼女達の傷を癒しながら、皆に説明する。

 

 

「武器をあえて手放して自身を無の状態にし、闘志を切り離した状態で敵の攻撃をあえて受けることで敵の隙を見つけて、そこに必殺の一撃を叩き込む捨て身のカウンター技だよ。

 強力な大技を繰り出した直後にこそ最大のスキが生じることを利用した静の技さ。伝え聞いた話では、異界の勇者はこの技で魔王を倒したそうだ」

 

 

 キバくん、ゼノヴィア、シドーに向けてゆっくりと語りかける。

 

 

「君達はそれぞれ、自身の力量より上の敵と対峙しようとしている。それならこうした技に一つくらい覚えておくべきだ。―――だが、キバくん。アレを見なさい」

 

 

 そう言って(キバくん)にあるモノを示す。それは事の成り行きを黙って見守っていたリアスの顔だ。今の彼女は怒りと物案じる気持ちが入り混じった複雑な表情を浮かべている。

 

 

「どうして彼女(リアス)が怒っているのか分かるかい? 

 それは僕が君に“こんな危険な技”を教えたからだ。

 現実的に今の君の実力で全ての聖剣を折ろうと思ったら、今ぐらいの捨て身技がなければ到底無理だ。

 だが、この技を体得することをリアスさんは決して快く思わないだろう……。君は主君にあんな顔をさせるつもりなのかい……? あまり主人を悲しませるものじゃない。

 それは君達も一緒だよ、ゼノヴィアさん、シドーさん……ってアレ?」

 

 

 地に伏していた教会組に目をやったが―――二人とも僕の話を聞いていない。言葉がまるで耳に入らない様子だった。地面に落ちているある物を一身に見詰めている。それは―――

 

 

 

  真っ二つに折れた破壊の聖剣だった。

 

 

 

 

「あら」

 

 

 

 

 一瞬で全身から冷や汗が吹き出してきた。先程の火炎斬りでへし折ってしまったらしい。

 

 マズい! マズい! マズい! マズい! 力の加減を誤った! これはいかん!

 

 内心は滅茶苦茶慌ててるが何とか表面的には冷静さを装うことができた。動揺で声が裏返らないように慎重に発言する。

 

 

「大丈夫だ。問題ない。……まだ、コイツの余りがある」

 

 

 袋から青色のゼリーの塊を取り出す。

 

ねばねばゼリー ―――ジェリーマンが落とす珍しいアイテム。非常に粘着性が強く武具の修復などに使われる。

 

 それを使い破壊の聖剣の修復を試みる。折れた大剣を拾い、壊れた個所にゼリーを塗りたくり、くっつけた。うん、完璧だ。

 

 

「ほら、ゼノヴィアさん! 完全に元通りだ!」

 

 

 そう言って問題がないことをアピールするために振り回した。一振りするごとに衝撃波が発生し周りの草木を薙ぐ。威力は先程と変わらない。そう変わらな――――

 

 

  ぺきん

 

 

「あ」

 

 

 振り回していたら、再び折れた。ゼノヴィアとシドーが茫然自失とした表情で僕を見ている。しかし、今はショックで物が言えないだけだ。正気に戻れば悪鬼の如く襲い掛かってくるに違いあるまい。これはヤバい。久しく忘れていた恐怖が五臓六腑を駆け巡る。

 

 両手をひらひらさせながらゼノヴィアさんに、そしてなにより自分自身に言い聞かせるように言う。

 

 

「大丈夫。まだ慌てるような時間じゃない。僕にはまだこれがある」

 

 

 今度、袋から取り出したのは金色に輝く豪華な釜だ。その名を『錬金釜』という。

 

錬金釜――― その名の通り、錬金術で様々なアイテムを生み出すアイテム。異世界を旅する途中にポーカーでボロ勝ちした際、相手の手持ちのGが少なく負け分が払えないと言われたので代わりに貰った。

 

 その後、様々な異世界に渡り散々使い尽くしたのがコレだ。今や僕にとって相棒ともいえる物だ。無論プックル達には及ばないが。

 

 取り敢えず、折れた破壊の聖剣を釜の中に放り込む。

 

 ……考えろ………。考えるんだ……!

 僕は『錬金レシピ王』、『究極錬金術師』、『万物の創世者』などの称号を持つ男!

 自分のフィーリングを信じるんだ。……コレとコレだ!

 

 袋の中から直感で選び出した物―――メタルキングの剣と進化の秘石を釜に入る。

 

 

「頼む……。神様……!」

 

 

 ルビスに祈っているのか、マスタードラゴンに祈っているのか、それとも女神セレシアに祈っているのか今一つ分からないが、今までにないほど神頼みしつつ釜に蓋をした。

 

 組み合わせが悪く、失敗の場合はこの時点で材料が吐き出される。だが―――コトコト軽快な音を立てながら錬金が始まった。

 

 勝った! これで九割九分九厘成功だ! 破壊の聖剣を直せる!

 

 

 半ば確信し、安堵する。これで良い。ほっと一息つく。

 

 

「これは一体どういうことなのかしら? リュカさん―――」

 

 

 僕が色々慌てていた様子を見てリアスが尋ねて来た。他のオカルト研究部の皆も困惑した表情だ。特にキバくんは死んだ魚の様な目をしている。

 そこで、心に余裕ができたので錬金釜についてレクチャーすることにした。

 

 

 

 

「へぇ~……」

 

「あらあら、それは便利ですわね」

 

「つーか、リュカさんが折ってどうするんですか……。そんで直そうって……」

 

「それは言うな」

 

「は、はい!?」

 

 

 皆が口々に感想を述べる中、イッセーくんが余計なことを言ったので窘めた。そうこうしている内に チーン と鐘の音がした。無事に錬金が成功した合図だ。

 

 

「ともあれ、これで無事に破壊の聖剣が修復できたはずだ」

 

 

 

 釜の蓋を開け、出来上がった物を取り出す。現れたのは―――

 

 

  なんと エクスカリバーが できた!

 

 

 

 破壊の聖剣とは比べ物にならないほど燦々と光輝く、至高にして真の聖剣がこの世界に再誕した。

 

 

 

 

 「わーお」

 

 

 

 




火炎斬り:DQⅥ~Ⅸやモンスターズシリーズに登場する特技。剣に炎の力を宿らせて、敵1体に斬りかかる。

真空斬り:DQⅥにて登場し、DQⅦ以降にも存在する特技。竜巻の力を剣に宿し、敵1体に斬りかかる。

無刀陣:漫画「ダイの大冒険」に登場するアバン流究極奥義。アバンがハドラーとの最終決戦の時に身に付けた技。自ら武器を手放し、更に闘気を無にして、敢えて敵の攻撃を受けることで隙を見つけて再び武器を取りカウンター攻撃を行う捨て身の一撃。

『錬金レシピ王』、『究極錬金術師』、『万物の創世者』:Ⅸの称号。


錬金釜を入手した経緯についてはツッコまないでください。

エクスカリバー 攻撃力145(Ⅸ基準で) 悪魔系モンスターに大ダメージ あと色々特殊効果があってスゲー強い たぶん折れない(・・・・)


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35話 作戦開始

ドラゴンクエストヒーローズにビアンカとフローラが出るらしいですね。デボラェ…。


  

 

「あ、言い忘れてた……」

 

 

 夕暮れ時の帰り道。今日一日あったことを反芻していると、重大な過ちをしていることに気付いた。

 あの後、姿が変わり性能もアップしたが、すっかり変わり果てた『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』をゼノヴィアに押し付け、半ば逃げるように立ち去った。色々と問題が山積みになってはいたがそれらは後回しだ。後日、時間を取ってきちんと詫びねばなるまい。

 

 しかし、それよりも切迫した問題がある。暗黒闘気を纏ったフリードの存在だ。誤って『破壊の聖剣』を折ってしまったことで気が動転してしまい、自分の他にも異世界から着た者がいるかもしれないということを言い忘れてしまった……。

 

 

「……ま、いいか」

 

 

 今日は流石に疲れた。彼女達(ゼノヴィアたち)の大切な剣を壊したときは本当に肝が冷えた。肉体的な疲労より精神的な物の方が大きかった。今晩はゆっくり眠りたい。

 

 それにしても……。この世界における悪魔・堕天使・天使の対立は思っていたより深刻なようだ。聖剣を堕天使側が奪い、それを破壊してでも使わせまいとする教会……。

 無論、力ずくでもある程度であれば何とかなる。仲間達の協力もあれば強引に争いを止めれなくもない(少なくとも自分が関わった者の力量から鑑みれば)。しかし、この世界に来てもう数カ月になるが、依然としてこの世界の歴史には疎いと言わざるをえまい。

 この世界の出来事はこの世界の住人にできるだけ解決させたいという思いもある。それでも、目の前にいる苦しんでいる人々は助けたい。

 

……はぁ、自分でもつくづく自己矛盾が嫌になるな。

 

 

 軽く自嘲した気分になるが、そんなことを言っても何も始まるまい。取り敢えず今は家に帰り、コカビエルとやらについてレイナーレ達に尋ねてみよう。そう考え歩く速度を速めた。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

「あら、おかえりなさい」

 

 

 自宅アパートに帰ってくると、レイナーレが出迎えてくれた。何故か彼女は

 

  E.「ヘッドドレス」

  E.「メイド服」

 

 という出で立ちだった。良く似合っている。というより元々かなりの美少女なのだ。何を着ても大抵は似合う。

 何故、女中の格好などしているのか? ふと、そう疑問に思ったが、すぐに答えは分かった。テーブルには沢山の料理が並んでいる。今夜は彼女の当番らしい。

 

 でも、どうして態々メイド服を……?

 

 

 そんなことをまた疑問に感じたが、取り敢えず席に着いた。他の皆もすでに席に着いている。

 

 

「いただきます」

 

 

 メニューはどうやら和食らしい。この国の郷土料理で彼女(レイナーレ)のお気に入りだと言っていた。

 僕も嫌いではない。レイナーレの作った焼き魚を口に運ぶ。

 

 

「どう? 美味しい?」

 

 

レイナーレが心配そうに上目使いで尋ねてくる。

 

 

「ああ、美味しいよ」

 

「ホント!?」

 

 

 絶妙な塩加減だ。ふっくらと焼き上げられており大変美味しい。旅の最中は宿屋に泊まった時以外、海辺で釣り上げた魚を下ごしらえもせず熱した油に放り込んだものや、保存食の干し肉、更に魔物の餌など、ロクな物を食べていない。

 グランバニアでは友人のコックのグレンが手の込んだ物を作ってくれたし、幼少の頃はサンチョもいた。ここ最近はカラワーナとバイサーが調理してくれる。

 だが、レイナーレの料理はどこか違う。何故か懐かしい感じがするのだ。それは何故

か――――

 

 しばらく黙考したのち、やっと思い出した。

 

 ―――妻の味だ……。

 

 

 彼女(レイナーレ)の料理――――材料も様式も全く異なるものだが、どこか妻の手料理に似ている。結婚してからは毎日のように食べていた物が、つい先程までその味を思い出せなかった。郷愁に駆られ、つい目元が潤む。

 

 

「えっ!? 泣くほど美味しかったの!?」

 

「……ああ、……ああ! レイナ―レ……。ありがとう。本当にありがとう……!」

 

「そ、そこまで言うなら毎日作ってあげてもいいわよ……?」

 

「……ああ、頼む」

 

 

 それから少しの間、長く離れた故郷に思いを馳せ、妻との……家族との思い出に浸った。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 夕食後、しばらくして

 

 

「レイナーレ、ミッテルト、カラワーナ。君達に聞きたいことがある」

 

「一体何かしら? リュカ……」

 

 

 この世界で仲間にした堕天使三人とちゃぶ台を挟んで向き合う。そして、ゆっくりと問い掛けた。

 

 

「“コカビエル”と言う者についてだ」

 

「コカビエル様について? どうしてそんなことを……。そうね――――」

 

 

 三人の解説はこうだ。

 コカビエル―――堕天使の幹部。この世界の『聖書』に記されているほどの大物で、過去の大戦を生き延びた強者らしい。更には『神の子を見張る者(グリゴリ)』の中では強硬派で、総督のアザゼルや副総督のシェムハザと対立している不満分子の筆頭だという。

 

 

「……ふむ、だとすると今回のことは『神の子を見張る者』の総意ではない、ということかい?」

 

「……そうね。アザゼル様は『二度目の戦争はない』と宣言されたそうだし……。多分コカビエル様の独断ね」

 

「そうか……」

 

 

 戦争狂。確かにそういう輩もいるだろう。自分達の世界ではかつてラインハットがニセ太后によって支配されていた時代にそういう手合いの者を何人か見かけている。大方は血に酔った者達で、あまり見ていて気持ちの良いものではなかったのを記憶している。

 

 何にせよ話し合いで解決するのがいい。できるだけ丸く収まるよう頑張ってみるか……。

 

 

 改めてこの世界の根深い問題について考えさせられることとなった。

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 

 

  翌日 昼

 

 

 

「もうッ、御主人様ったら『君が心配だ。今日はどうあっても着いて行く』だなんてどうしたのよ? でも、それはそれで嬉しいけど~♡」

 

 

 商店街の大通り。いつも通り買い出しに出かけるというバイサーに同行を申し出た。何せ昨日の今日だ。フリードやゼノヴィア達にうっかり出くわしでもしないかと思ったのだ。

 彼女(バイサー)は初めこそ訝しんだが、最後は快く了承してくれた。歩きながらも強引に腕を組んできて、僕に擦り寄ってくる。

 

 

「ねえ! そこのカップルの御二人さん! 今日は牛肉が安いよ!」

 

「「カップル!?」」

 

 

 肉屋の御主人に声を掛けられた。どうやら僕とバイサーを恋人同士だと勘違いしたらしい。特売品の牛肉を勧めてくる。

 すると、バイサーが悪乗りしだした

 

 

「あら、そうね。今日はハンバーグにでもする? ダーリン♡」

 

「……は、はは……。そうだね」

 

 

 そんなくだらないやり取りをしていると、横から何やら声が聞こえて来た。ふと目をやると人だかりができている。どうやら物乞いらしい。

 

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

 

「どうか、天の父に代わって哀れな私たちにお慈悲をぉぉぉぉっ!」

 

 

 二人の姿を見た途端、頭を抱えた。白い外套を羽織った二人の女性―――ゼノヴィアとシドーだ。

 

 

「何てことだ! これが超先進国であり経済大国日本の現実か。これだから信仰の匂いもしない国は嫌なんだ!」

 

「毒づかないで、ゼノヴィア。路銀の尽きた私たちはこうやって、異教徒どもの慈悲なしでは食事も摂れないのよ? ああ、パン一つさえ買えない私達……!」

 

 

 どうやら路銀が尽きたらしい。それで物乞いの真似事をしているようだ。しかし、教会はちゃんとした資金を与えなかったのだろうか? まあ、異世界にはたった50Gしか持たせてもらえず旅に送りだされた勇者もいるようだし、不思議ではないが……。

 そんなことを考えていると、すぐに答えが出た。

 

 

「ふん。元はといえば、お前が詐欺まがいのその変な絵画を購入するからだ」

 

「何を言うの! この絵には尊い聖なる御方が描かれているのよ! 展示会の関係者もそんな事を言っていたわ!」

 

「では、これが誰なのか解るか? 私には誰一人脳裏に浮かばない」

 

「え~とっ……ペトロ様?」

 

 

 彼女達の横に何やら絵が置いてある。素人目から見ても下手だと分かる肖像画だ。折角の路銀をこんな物の為に使うとは……。

 どうやらシドーが衝動買いした物らしい。ハッキリ言って冒険者としては完全に落第点だ。冒険者の鉄則の一つが「無駄な買い物はしない」だ。僕もサラボナで破邪の剣を思わず購入したが、父の残してくれたパパスの剣とキレ味において大して変わらなかった。それより防具に回し、まどろみの剣まで粘ればよかったと後悔するハメになってしまった。

 

 

「……そうね。それじゃ、異教徒を脅してお金をもらう? 

 主も異教徒相手なら許してくれそうなの」

 

「おい!」

 

「あ、貴方は!?」

 

 

 シドーの何気ない物騒な発言につい前に出る。心の中で『お前も人の家の樽だの壺だのを勝手に壊してただろ!』という声が聞こえたが、今は気にしないでおこう。

 それより、今は彼女達への説諭が先だ。

 

 

「いいかい? 強盗だの物盗りだのは信徒として以前に人として―――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――ということで………、あれ?」

 

 

 見ると、教会の使者達は地面に倒れていた。どうやら、空腹のあまりグロッキーしたらしい。どうやら説教が長くなり過ぎたようだ。

 

 

「何してるんスか……? リュカさん」

 

 

 後ろから話掛けられた。若干戸惑っている声だ。振り返ってみるとイッセーくん、トウジョウ、それとソーナの眷属のサジくんだった。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

「美味い……。イリナ! この国の食事は美味いぞ!」

 

「これよこれ! ファミレスのセットメニューこそ私のソウルフード!」

 

「物凄い食べっぷり……」

 

「よっぽど腹減ってたんだな……」

 

 

 近くのファミリーレストラン。そこにイッセーくん達とゼノヴィア達といっしょに入ることになった。何でもイッセーくん達がゼノヴィアさん達に用があったらしい。

 注文した料理が届くと、彼女達は物凄い勢いでたいらげていく。その様にイッセーくん達は少し引いている。

 

それらを食べ終えると、今度は嘆きだした。彼女達は少々感情の起伏が激しいらしい。

 

 

「なんということだ……。信仰のためとはいえ、悪魔に救われるとは世も末だ……」

 

「私達は悪魔に魂を売ってしまったのよ……!」

 

「奢ってもらっといてそれかよ!?」

 

 

 イッセーくんが堪らずツッコむ。まあ、その気持ちは分からなくもない。

 

 

「僕が出そうか?」

 

「い、いえ……。そこまで世話になるのも悪いんで……」

 

 

 僕がイッセーくんに申し出たが、彼に断られた。

 するとゼノヴィア達は、今度は祈り出す。何とも面白い娘達だ。

 

 

「主よ! この心優しき悪魔達に御慈悲を!」

 

「痛たたた……!? 神の御慈悲なんかいらねーよ!」

 

「ぐあああぁぁぁっ!」

 

「っ……!?」

 

「あぁん……。痛いわ、御主人様~~」

 

 

 彼女達の祈りを受け、イッセーくん達が苦しみ出す。僕の横に座っているバイサーも同様だ。痛みを和らげるように頭を撫でてやる。

 

 

「あらごめんなさい。つい癖で」

 

 

 シドーがあっさり言う。この娘は結構天然らしい。場の空気を切り替えるようにゼノヴィアがイッセーくんに問う。

 

 

「で? 私達に接触した理由は?」

 

「エクスカリバーの破壊に協力したい!」

 

「何……?」

 

 

 イッセーくんの返答に、ゼノヴィアは軽く驚いたのか、目を細めた。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

「……話は分かった。一本くらいなら任せてもいい」

 

「っ……しゃあっ!」

 

「くぅ……! あっさり断ってくれると思ったのにぃ!」

 

 

 イッセーくんの説明を聞き、あっさりゼノヴィアが了承する。その答えを聞いたイッセーくんは小さく歓声を上げたが、反対にサジくんは項垂れた。どうやら(サジくん)はあまり乗り気ではなかったらしい。

 

 一方、ゼノヴィアとシドーは内輪で揉めている。

 

 

「向こうは堕天使の幹部『コカビエル』が控えている。正直、私達だけで聖剣三本を回収するのは辛い」

 

「それは分かるわ! けれど!」

 

「無事帰れる確率は三割程度だ」

 

「それでも高い確率だと覚悟を決めて、私達はやって来たハズよ!」

 

「ああ。私達は端から、自己犠牲覚悟で上から送り出されて来たからな」

 

「……それこそ、信徒の本懐じゃないの」

 

 

 双眸に決意を秘め、シドーがゼノヴィアに話す。だが告げねばならないことがある。

 

 

「……あー、二人には悪いが、君達だけだと無事に帰れる確率は三割を切ると思うよ」

 

「何!?」

 

 

 そこで、少年神父(フリード)の変貌について語る。暗黒闘気――――この世界における仙術のようなものを身に付け、状態異常に対する強力な耐性を与える魔のリングを所持していることを告げた。

 

 

「あと、これは憶測だが……、どうもここ最近起きている出来事……『スーパーキラーマシン』、『古の魔神』とフリード達には関わりがあるような気がする。

 言っておくが、あの『魔神』クラスが出てくれば、その『聖剣』でも太刀打ちできない。僕の助けは必須かと思うよ」

 

「………分かった。俄かには信じられない話だが、エクスカリバーを復活させたことも貴方が『異世界人だから』と言われれば納得できなくもない。貴方の助力を願おう」

 

 

 こうして急造チーム『エクスカリバーこわし隊』(僕命名)が結成されることとなった。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 場所を変え、始めてイッセーくんと出会った広場 そこでキバくんと待ち合わせし会合する。そこでイッセーくんとゼノヴィアの取引の内容をキバくんに告げた。

 

 

「……成る程。でも正直、エクスカリバー使いに破壊を承認されるのは遺憾だね」

 

「随分な物言いだね? 君はグレモリー眷属を離れたそうじゃないか。“はぐれ悪魔”と見做して、ここで斬り捨ててもいいんだぞ」

 

「えっ? それは僕に対して喧嘩を売っているのかい? バイサー達に手を出そうと言うなら、またその聖剣をへし折るが……」

 

 

 傍らにいるバイサーを抱き寄せ、ゼノヴィアに告げる。すると彼女は飛び退いた。

 

 

「いやいやいやいや! 貴方に対しては言っていない!」

 

「あん♡ もう、御主人様ってば何処を……」

 

 

 反射的に抱き寄せた為、少々不味い所に触れてしまった。バイサーが甘い吐息を洩らすが、トウジョウが白い目で見ているのでそっと離れる。

 

 そんな僕達を無視したシドーがキバくんに語りかける。

 

 

「やはり、『聖剣計画』のことで恨みを持っているのね? エクスカリバーと教会に?」

 

「でもね、木場くん。あの計画のおかげで聖剣使いの研究は飛躍的に伸びたわ。だからこそ、私やゼノヴィアみたいに聖剣と呼応できる使い手が誕生したの」

 

「だが、計画失敗と断じて被験者のほぼ全員を始末するのが許されると思っているのか?」

 

 

シドーの言葉にキバくんは更に憎しみを強めているらしい。それにしてもシドーの言葉だ。どんなに失礼だと分かっていても、やはり彼女達の姿は『光の教団』と重なる。

 

 

 

 ――― 誰かが教える必要があった。神ではなく魔王に仕える心構えを。誰かが救う要があった。神なき世界に生きる人々を! 

 私は努力した! だが、私は己が力の限界を知る誠実な男だ。だから、私はマーサを求めた。彼女の大いなる力を……ああ、けして私自身の為にではない。人々の為に欲したのだ。 

 例え、結果として、この手が血赤に染まろうとも……故郷の人々を裏切り、我が神を奉じぬ奴隷達を、多く死に至らしめることになるとしても………私は、私の定めを為さなければならなかった!

 大いなる天数の前には、たかが人間一匹、逆らうことなどできはしない!                

 

 

 かの男の言葉。あの血塗られた悲劇の大元凶。彼は自分を「誠実だ」と言った。確かにそれは真実なのだろう。奴は決して生来の悪ではなかった。それなのに多くの者を死に至らしめ、数多の不幸を産んだ。

 シドー達があの男を見れば、一体どう思うだろう? あの男がこの世界を見れば一体どう思うだろう?

 

 

「……君が聖剣計画を憎む気持ちは、理解出来るつもりだ。あの事件は、私達の間でも最大級に嫌悪されている。だから計画の責任者は異端の烙印を捺され、追放された」

 

「『バルパー・ガリレイ』、皆殺しの大司教と呼ばれた男よ」

 

「……バルパー……。その男が、僕の同志を……」

 

 

 バルパー・ガリレイ……一体どんな男なのだろう。やはり、あの喪神者と同じく、何らかの志があってのことなのだろうか。

 

 

「手先にはぐれ神父を使っていたと言ったろう? 教会から追放された者同士が結託するのは珍しくない。今回の件に、バルパーが関わっている可能性は高いな」

 

「……それを聞いて、僕が協力しない理由は無くなったよ」

 

 

 漸くキバくんも観念したらしい。イッセーくんが喜びの表情を浮かべ、サジくんの肩を叩く。

 

 

「ふぅ、良かったなー。おい!」

 

「良かった、じゃねー! 斬り殺されるどころか、悪魔と神側の争いに発展したっておかしくなかったんだぞ!」

 

「一誠君、君達は手を引いてくれ。この件は僕の個人的な憎しみ。復讐なんだ。君達を巻き込むワケには……」

 

「俺達眷属だろ! 仲間だろ! 違うのかよ!」

 

「……違わないよ。でも……」

 

「大事な仲間をはぐれになんてさせられるか! 俺だけじゃねえ! 部長だって悲しむぞ! それで良いのか!」

 

 

 リアスのことをイッセーくんが口にした瞬間、キバくんの憎しみに満ちた表情が揺らいだ。

 そして、静かに話し始める。

 

 

「っ……リアス部長…………そう、あの人と初めて出会ったのは、聖剣計画がきっかけだった……。

 来る日も来る日も実験の毎日だった……。自由を奪われ、人間としてさえ扱われていなかった……。それでも皆、神の選ばれた者だと信じ、いつか特別な存在になれると希望を持って、必死で耐えてたんだ……」

 

 

 少年の顔に苦しみが浮かぶ。

 

 

「でも、一人として聖剣に適応出来なかった。実験は失敗だったんだ。すぐに僕達は“処分”された。計画の全てを隠匿するためにね。

 彼らは『アーメン』と言いながら毒ガスを撒いたのさ。血反吐を吐きながら…床でもがき苦しみながら……、それでも僕達は神に救いを求めた……。

 僕一人がその場から逃げだすことができたが、瀕死の状態で、力尽きかけた。そんな時だ。部長に出会ったのは……」

 

 

 イッセーくんも他の皆も沈痛な面持ちだ。痛いほどの静寂の中、キバくんの声だけが響く。

 

 

「眷属として、僕を迎えてくれた部長には、心から感謝しているよ。でも、僕は同志達のおかげで、あそこから逃げ出せた。

 だからこそ、彼等の恨みを魔剣に込めて、エクスカリバーを破壊しなくちゃならない。これは、一人だけ生き延びた僕の、唯一の贖罪であり、義務なんだ」

 

「…………」

 

 

 思わず言葉を失うほど凄惨な過去だ。仲間が、同胞が無残に殺される。経験があるだけに彼の気持ちは痛いほど良く分かった。それはサジくんも同じだったらしい。

 

 

「うぉぉおおお! 木場ァ! お前にそんな辛い過去があったなんて!

こうなったら部長の御仕置きがなんだ! 兵頭! 俺も全面的に協力させてもらうぜ!!」

 

「……そ、そうかー。サンキュー」

 

 

 号泣しながらイッセーくんの手を取り、そう宣言するサジくん。どうやら彼は仲間思いの熱い男だったらしい。

 

 

「……私もお手伝いします」

 

 

 ふとキバくんの方に目を向けると、トウジョウが彼の袖を引っ張っていた。

 

 

「小猫ちゃん…?」

 

「……祐斗先輩が居なくなるのは寂しいです」

 

 

 そう言うトウジョウの顔を見たとき、ちょっとだけ驚いた。普段は無表情な彼女が寂しげな表情を浮かべている。

 平常時のトウジョウは決してみせない顔だ。

 

 

「っ……参ったな。小猫ちゃんにまで、そんなこと言われたら……僕一人で無茶なんて、出来るハズないじゃないか……」

 

「じゃあ!」

 

「本当の敵も分かったことだし、皆の厚意に甘えさせてもらうよ!」

 

 

 これまで、ずっと暗い顔だったキバくんの表情が、やっと少し和らいだ。ホッと一安心するのと同時に一抹の寂しさも覚える。キバくんも僕に対して、ある程度の親愛と友情を抱いてくれてはいるようだが、同じリアスの眷属同士の結びつきには及ばない。

 だが、それは羨むべきものじゃない。寧ろ、今は嬉しむべきだ。憎しみと怒りに凍り付いた彼の心がやっと溶けだしたのだ。僕も前に進み出る。

 

 

「ああ! 僕も全力(・・)で協力しよう」

 

 

 キバくん達に向け、高らかに宣言した。

 そうだ……。これ程の苦難を背負い、それでも尚、己の責務を果たそうとするキバくん。そんな彼を支えるオカルト研究部の仲間達。果ては本来無関係で教会の協力を得ることに消極的であったサジくんも全面的な援助を申し出ている。

 この状況でどうして出し惜しみなどできようか。これまでの僕はある程度は協力しつつも、どこか積極性に欠けていた。それは“異世界の問題は、出来るだけその世界の人間に解決させたい”という思いからだ。

 無論、今もそう思うが、これ程の決意・友情・勇気を見せられて、ほんの僅かな協力に留めおくことなど僕にはできない。

 

 そこで、一つの提案をしてみる。

 

 

「僕に考えがある」

 

 

 皆が僕を一斉に見た。どんな計画を提示するのかと、興味深そうな目を向ける。

 

 

「この街はそこそこ広い。そこから堕天使達を探し出すのは大変だろう? だから囮を使う」

 

「囮? 一体誰をですか?」

 

 

 イッセーくんが不思議そうな顔で尋ねて来た。それは尤もな疑問だ。

 

 

「悪魔だよ。彼ら(はぐれ悪魔祓い)は悪魔に対して強い軽蔑の念を持っているからね。だから町中に悪魔を放つ」

 

 

 その言葉を聞くと、ゼノヴィアが半ば呆れたように苦言を呈してきた。

 

 

「悪魔を放つ、だと……? 連中が聖剣を持っていることを忘れたのか? その悪魔程度では瞬く間にやられて終わりだぞ」

 

 

 ゼノヴィアが指差したのは、僕の傍らにいるバイサーだ。バイサーは僕にしだれかかったままゼノヴィアにイーッだ! という顔をする。

 確かに、出会った頃の彼女(バイサー)では、一撃で斬り伏されて終いになっていたであろう。だが、彼女の腕前はここ最近で大きく伸びている。一対一ではゼノヴィアもイリナも敵わないはずだ。それを見抜けぬあたり、彼女達もまだまだ未熟だ。

 だが、あの妖術で暗黒闘気を付与された少年神父相手では苦戦は免れまい。大切な仲間の彼女を、そんな危険な目には合わせられない。

 

 

「ああそうだ。だが、僕の仲間は他にもいる。聖剣などものともしない精鋭を用意するさ……」

 

 

 そう言って親指と人差し指で輪を作り、唇に宛がった。

 

 

  ピィーーーーーーーー……

 

 

 甲高く、大きな音が辺り一帯に響き渡った。僕の口笛が周りで反響する。

 

  しばらくして―――

 

 

 広場の地面に夥しい数の魔法陣が展開した。さながら地面が巨大な魔法陣と化したようだ。それが煌々と光り出し、そこから何体もの悪魔が出現する。

 

 

  紫色の大柄な肉体に三つ又の槍を構えたアークデーモン ―――

 

  赤い肌の筋骨隆々とした上半身に山羊の下半身を持つアンクルホーン ―――

 

  橙色の肌に赤い双眸のエリート戦士 ライオネック ―――

 

  山羊の頭を持つ合成悪魔 メッサーラ ―――

 

  猪の頭に大槍を携えた獣人 オークキング ―――

 

  桃色の皮膚に嘴を有する鳥人悪魔 ホークマン ―――

 

  魔人の金槌を装備した単眼の巨人 ギガンテス ―――

 

  大地を這う赤い悪魔 レッサーデーモン ―――

 

  苔色のトロル族の頭目 ボストロール ―――

 

  そして、アンクルホーンを青紫色にして、更に一回りほど大きくした肉体に

  強大な魔力のオーラを纏った地獄の闘士 ヘルバトラー ―――

 

 

 いずれも僕の仲間達の中でも特に強力な者達。最高の精鋭と言えるだろう。どんなに相性の悪い武器でも力押しで何とかなるはずだ。そんな彼らに呼び掛ける。

 

 

「今、この街で“はぐれ悪魔祓い”と“コカビエル”なる者が跋扈している。そいつらはエクスカリバーという武器を携えている。それはここにいるキバくんにとって仲間の仇ともいえるシロモノだ」

 

 

 そこまで言うと、若干引いてるキバくんの肩をつかみ強引に仲間達の前に立たせた。

そうして仲間の悪魔軍団に対して命令を下す。

 

 

(キバくん)は僕の大切な友達……いや、仲間だ。君達と同じくらい愛おしく思っている。だが彼は自身の手で聖剣(エクスカリバー)を折ることを望んでいる……。

 故に、君達はエクスカリバーを折らず(・・・)、また、はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)殺さず(・・・)連れて来て欲しい。あと、以前に教えた人払いの結界を掛けて、一般の方にはくれぐれもご迷惑を掛けないこと。分かったね」

 

 

「「「ウオーーーーッッ!!」」」

 

 

 僕の下命に悪魔達は一斉に頷く。これでいい。彼らの実力なら例えエクスカリバーだろうと決して後れは取らない。誰か一人に引っ掛かってくれれば僕らがそこに一斉に駆けつけ袋叩きにできる。正に一切の隙が無い万全の布陣だ。

 

 

  ドドドドドドドドドドドドド……

 

 

 悪魔軍団は雪崩を打って街に駆け出した。そうして後ろにいるイッセーくん達、ゼノヴィア達の方に振り返る。

 

 

「どうだい? これなら数時間でフリードくんも見つか―――」

 

 

 

 

 

 

 「「「 す ぐ に 止 め て ! !」」」

 

 

 




ヘッドドレス:DQⅨより。メイドさんには欠かせないリボンとフリルをたっぷり使った頭飾り。

メイド服:DQⅨに登場する防具。フリル付きのエプロンドレスだが、実は男性でも(・・・・)装備可能。


ドラクエネタを挟まないとクロスの意味が無い。けどネタが思い付かず投稿期間が開く。

それでやっと思い付いたネタがコレ……。この調子でネタにネタを重ねていったら収集が着かなくなりそうです……。


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36話 進撃のギガンテス

リアスと朱乃の受難回。あともう一人とばっちりを受けます。


  

 

 夕刻、オカルト研究部部室

 

 

「はぁ……」

 

 

 紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)、リアス・グレモリーは部長の椅子に深く腰を掛け、盛大に溜息を付く。

 ここ最近の出来事は彼女の手に余ることばかりだった。異世界からの来訪者リュカとの会合。未知の殺戮兵器との戦闘。ライザー・フェニックスとの婚約をかけたレーティングゲーム。それに襲撃をかけてきた古の魔神と配下達……。

 いずれにせよ前代未聞の出来事。冥界を揺るがしかねない大事件ばかりだ。それを解決してくれたリュカという男……。

 彼を一言で評するのなら“度を超えたお人好し”だ。自分達は無論、ライザー達、果ては“はぐれ悪魔”まで救おうとする。それは彼の過去に起因するものだろう。先日、教会からの使者がやって来たときに聞かされた“昔話”。その内容は凄惨を極めるものであった。母親を攫われ、父親を目の前で殺され、奴隷にされる。祐斗の過去に引けを取らないほど悲惨だ。それでも尚、元凶たる「光の教団」の信者達を“普通の人々”と言い切るあたり、“優し過ぎる”というのもまた問題だとリアスは思う。

 それに、その強さだ。リュカ本人も然ることながら、配下の者達も常軌を逸している。あのドラキーという魔物……ライザー眷属を一蹴するあたり、上級悪魔と同等の力があると考えた方が自然だ。いや、兄の話では合体した状態「グレートドラキー」は最上級悪魔にも匹敵するという。

 

 

「はぁ……」

 

 

 もう一度、先程よりも大きな溜息を付いた。

 

 

「ただいま戻りましたわ。部長」

 

「あら、朱乃……」

 

 

 入室してきたのは艶やかな黒髪をポニーテールにした大和撫子という言葉がピッタリ似合う美少女、副部長の姫島朱乃だった。

 

 

「朱乃、首尾はどう?」

 

「教会からいらした御二人はリュカさんとイッセーくん達、それに生徒会の匙くんと合流しましたわ」

 

「イッセー達と!?」

 

 

 教会からの使者達には「干渉するな」と依頼されたが、そうは言われても自分の管轄する街だ。

 何もしない訳にはいかない。そこで朱乃に命じて、動向を探らせていたのだ。そして、それは正解だった。

 

 

「どうしてイッセー達と合流したのよ!?」

 

「さあ、おそらく祐斗くんのために聖剣の破壊に協力を申し出るためかと……」

 

「はぁ……」

 

 

 またしてもトラブルだ。いや、イッセーのことはある程度は予想できた。問題はリュカである。彼の力は未知数だ。はっきり言ってこの世界の常識では推し量れない。

 あの『錬金釜』とやらで、エクスカリバーを修復したのには心底驚いた。というよりその直後は驚き過ぎて何が起きているのかが全く分からなかった。それはおそらく、持ち主のゼノヴィアも同じだろう。これは本来大事件のはずだ。三大勢力の均衡を壊しかねない。だが、誰も騒がないのは、あまりにも現実味が無いからだ。しかし、いずれこの事は広まる。そうなれば一体どうなるのか分からない。

 そんなことを延々と考えていると、リアスは気が滅入って来たのか、またも溜息を付いた。

 

 

「リアス……リュカさんのこと?」

 

 

 朱乃が問題の人物の名を上げてきた。それに自分のことを呼び捨てで聞いてくる。こういう時は部長と部員の関係ではなく、親友として心配しているのだという意思表示だ。ここは敢えて咎めず質問の答えとして肯定の意思を示す。

 

 

「まあ、そうね……。そうなるわ」

 

 

 その答えを聞くと、朱乃は朗らかに言った。

 

 

「あの方を心配しても仕方がないでしょう。リュカさんはとてもいい人よ?」

 

「そんなこと分かってるわよ……」

 

 

 朱乃の言葉にいじけたように返すリアス。そうだ。分かっているのだ。リュカはとてもいい人だ。強くて優しい。だが、けして思慮が浅いわけではないのだが、行動が突飛過ぎる。いや、突飛と言うより人生観に相違があり過ぎるのかもしれない。

 尤も、他の三大勢力、天使・堕天使陣営に目を付けられてもあの人なら何とでもできそうだ。悩むだけ無駄というものだろう。 

 それにあの人には自身も朱乃も命を救われた。その後も少なからず世話になっている。借りた恩義はいずれ返さねばなるまい。

 

 

「そうね。悩んでも仕方がないし……、私達も私達がすべきことをしましょう。

 それじゃ朱乃、イッセー達の所に行くわよ――――」

 

 

 

 

  ズシィィンッ……! ズシィィンッ……! ズシィィンッ……! ズシィィンッ……! 

 

 

 

 彼女達が仲間の救援に駆け付けようとしたそのとき、旧校舎が、大地が振動した。照明器具が、カーテンが、窓ガラスが、ガタガタ震え、冷えた飲み残しの紅茶が入ったティーカップが机からずり落ちガチャンと割れる。

 二人は始め、ただの、普通の地震かと思った。だが、それは違う、とすぐに理解する。何故なら小さな揺れが一定間隔にドォン……ドォン……と短い周期で訪れるのだ。自然の地震ではこんなふうな揺れ方はしまい。

 

 

「大きな生き物の足音……ですわね」

 

「朱乃の言う通りね。それもこっちに近づいてくるわ!」

 

 

 そうだ、そうとしか思えない。朱乃の言葉を聞いたリアスも同意し、悪魔の翼を広げ二人一緒に窓から飛び出す。

 

 そして見た。

 

 

 

 

 

「何アレ……巨人!?」

 

 

 

 

 

 

 そこにいたのは単眼の巨人だった。全長はおよそ15m。肌は青く、全身が筋肉で覆われており非常にガッシリとしている。右手には巨大で禍々しい金槌が握られており、左手には緑と金に輝く壁の様な盾が取り付けられている。禿げ頭の天辺には一本の鋭い角が生えており、首も太く、大きな口はあらゆるものを丸呑みにしてしまいそうだ。

 

 

 

「ゴアアァァァ……?」

 

 

 どんよりとした眼で自分達を睨め回す巨人。リアスはそのとき蛇に睨まれた蛙の気分というものを理解した。全身が震え、何もできない。この巨人(バケモノ)が襲い掛かってきたらまず以って生き残れない。そう生き物としての直感的に理解する。

 だが、巨人の目線が自分から逸れた。巨人は眼差しを朱乃の方に向ける。

 

 

「ゴオオオオ」

 

 

 巨人の反応はリアスのときとは違った。左腕の盾を一旦投げ捨て、まるで虫でも捕らえるような様子で朱乃を鷲掴みにしようとする。常に冷静で余裕を見せる彼女(朱乃)の顔に恐怖が浮かぶ。

 

 

「きゃあっ!!」

 

「朱乃!?」

 

 

 このままでは朱乃が巨人に捕らえられてしまう! そう思った途端、リアスの中で恐怖より怒りが上回った。素早く滅びの魔力を練り上げ巨人に向け叩きつける!

 

 

「食らいなさいッ!!」

 

 

 今、リアスの撃てる全身全霊の一撃を青い巨人に放つ。赤黒いオーラを身に纏い、待てる魔力の全てを注ぎこんだ。

 

 

(やれるッ! 体格差が何よ! 私はリアス・グレモリー。赤龍帝 兵藤一誠の主よ! これ以上無様は晒せない!)

 

 

 思えばライザー戦は屈辱であった。(ライザー)がリュカの特訓十日で異常に強くなったとはいえ、それはこちらも同じ条件だ。あのレーティングゲームで終始優勢だったのは助っ人のドラキー達のおかげだった。その後のイッセーとライザーの決闘でイッセーが勝ったからいいものの、自分は何もできていない。

 それなら、今この場で眷属一人(朱乃ひとり)を守れなくて何が主人だ! 何がグレモリー家次期当主だ! その思いからリアスは限界以上の魔力を引き出し、単眼の巨人にぶつける。リアスの腕から最大出力の滅びの魔力が放たれる!

 

 

  ドガアアァァァァアアアンッッ!!

 

 

 放たれた魔力が空気を振動させ巨人に向かって行き、直撃して強烈な衝撃波を生み出す。魔力の塊を撃ち出した張本人であるリアスも衝撃を受け、後ろに吹き飛ばされる。だが、地面に叩きつけられる前に空中でとんぼ返りし滞空し続けることができた。

 

 

「リアス!」

 

「朱乃! 怪我はない?」

 

「ええ……」

 

 

 先程の衝撃波でもうもうと砂煙が立ち込めている。しかし、あれ程の一撃を受けたのだ。あの巨人も流石に無事では済まないだろう。おそらく絶命しているはずだ。

 それにしても、一体なんだったのだろうか? 堕天使の手先か? だとすれば不味いどころではない。至急、兄のサーゼクスに連絡し、対処しなければならないレベルだ。それ程のプレッシャーを確かに感じた。

 そんなことを考えていると、土煙が徐々に晴れてきた。そこには絶命し、大の字に倒れた巨人の屍が――――

 

 

 

 

 

  無かった。

 

 

 

 

 そして、視界が真っ暗になる。

 巨人の死骸が無かったことに当惑し、一瞬のあいだ茫然自失となったリアスは、辺りが急に暗くなったことに気付いた。

 何故? どうして? そんな疑問が一瞬の内に湧き上がるが、ほんの僅かの差ではあったが先に立ち直った朱乃が叫んだ。

  

 

「上よ! リアス!」

 

「えっ?」

 

 

 

「ゴアアアアアァァァアアッッ!!」

 

 

 巨人の咆哮。それは二人の少女を絶望の淵に叩き落とすには十分だった。単眼の巨人は無傷だった。それどころか、発生した砂煙を利用し、二人に気付かれず真上に跳躍したのだ。その巨体からは想像もつかないが、この怪物(モンスター)の恐ろしさはこの敏捷性だ。強大な腕力(パワー)敏捷性(スピード)を併せ持つ巨人、それがコイツだとリアスと朱乃はこのとき悟った。

 青い怪物が超弩級の金槌を振りかぶって――――

 

  

  ドゴゴゴゴゴゴオオオオォォォォンンッッ!!!

 

 

 リアスと朱乃がそれを躱せたのは奇跡と言えよう。二人ともほとんど無意識だった。彼女達の自身に宿る生存本能がそうさせたのだろう。二人は飛び退き、傷一つ負う事はなかった。

 だが、リアス達が見た光景は驚愕に値するモノだった。

 大地が割れていた。地面が抉られクレーターが出来ていた。しかし、クレーター自体はつい先日も見ている。ゼノヴィアが『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』で同様のことをしていた。 

 だが規模が違う。十数倍の大きさの穴が、地表にぽっかりと空いている。その一撃の余波で旧校舎の一部が倒壊していた。

 二人は時同じく、全く同じ結論に至った。

 

 コイツには勝てない。

 

 だが、どうやって逃げようか? この巨人が見た目に反して驚くほどの敏捷性を持つという事は先程の一撃で理解できた。普通に逃げたのでは簡単に回り込まれてしまう。一体どうすれば?

 

 

 その答えを思い付いたのは朱乃の方だった。何故なら対ライザー戦の前に散々教え込まされたからだ。

 

 

 

 

 

 

 修行七目 模擬レーティングゲームの最中

 

 

 

「追い詰めましたわ。リュカさん!」

 

 模擬レーティングゲーム五回戦 部員の皆のアシストによってやっとリュカに接近することができた。これは今までにはない絶好の好機だ。相手は呪いの装備でロクに身動きが取れない。これならばやれる――――

 

 

「Ahaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaahhh!!!!!!」

 

 

 リュカがとてつもない雄叫びを上げた。 朱乃は腰を抜かし、地面に倒れた。

 

 リュカ は 逃げ出した!

 

 

 

 

 

 再度接近。今度こそ逃がさない―――

 

 

「よっ♪ はっ♪ よっ♪」

 

 

 リュカはステテコパンツを取り出し 踊り出した。 朱乃は腰を抜かし尻餅を着いた。

 

 リュカ は 逃げ出した!

 

 

 

 

 

 三度目の正直。リュカの陣地に誘い込まれたのだろう。周りからは(リュカ)の仲間の気配があちこちからする。おそらくこれがラストチャンスだ。

 

 

「えいっ」

 

 

 リュカは 砂を手に掬い 朱乃の顔に叩き付けた! 

 

 リュカ は 逃げ出した!

 

 

「ま、待ちなさ―――」

 

 

 レイナーレ ミッテルト カラワーナが現れた!

 

 レイナーレの攻撃!

 ミッテルトの攻撃!

 カラワーナの攻撃!

 

 朱乃 は 負けてしまった……。

 

 

 

 

 

 

 朱乃がリュカから学んだこと。それは「逃げる時こそ知恵を凝らし、あらゆる手段を用いるべきだ」というものだ。彼女はこれまで培ってきたあらゆる経験を元に、目の前にいる巨人の弱点を探る。どんなに頑強な怪物と云えど所詮は生き物。きっと急所はあるはずだ―――。

 

 

「雷よ! ハアァァァッ!!」

 

 

 魔力を用い、雷撃を放つ。狙ったのは大きく、一際目立ち、この巨人の異様さを一層際立たせているもの。

 

 ―――目だ。

 

 

「グギャアアアア!」

 

 

 朱乃の雷は見事に巨人の単眼に命中した。 

 

 会心の一撃!

 

 強靭な肉体を持つこの巨人にとって、唯一と言ってもいい弱点―――それが目だ。顔の半分の面積を占めるそれは最も無防備だ。そこに朱乃の最大出力の雷を受けては、然しもの巨人と云えどダメージは受ける。痛みのあまり悲鳴を上げ、膝を付いた。

 

 そこで朱乃がすかさず叫ぶ。

 

 

「リアス! 逃げるわよ!」

 

「え、ええ!」

 

 

 朱乃の呼び掛けに答えるリアス。これは好機だ。今のうちに撤退しソーナ達、イッセー達と合流。その上で対処すればいい。イッセーの赤龍帝の力を譲渡してもらえば何とかなるかもしれない。

 一瞬の間にそこまで考えたリアスだが、次の瞬間、更なる恐怖が眼前に広がっていた。

 

 

 

 

「グアアアアァァァ?」

 

「ゴオオオオオオァ?」

 

 

 巨人が増えていた。更に二体。自分達の退路を塞ぐように立っている。先程の奴と同じく、どんよりとした眼でこちらを観察している。そして、後ろの巨人もムクリと立ち上がった。

 巨大な怪物に三方から囲まれている。それも相手はただデカいだけではないは実証されてしまっている。リアスと朱乃は今度こそ死を覚悟し、目を閉じた―――。

 

 

 

「ギーガ! ジャイン! たけし! 一体何をしているのです!」

 

 

 どこからともなく誰かを叱責する声が聞こえてきた。

 彼女達は恐る恐る目を開ける。声のする方向から現れたのは謎の悪魔だった。3m近い巨躯に青い肌、紫色の頭髪と髭。金色の大角。下半身は獣の様で足には蹄がある。それだけなら恐ろしげな風貌だが上にはタキシード着込み、目にはモノクルを付けている。さながら怪物の執事だ。

 

 しかし、この悪魔が強い力を秘めていることはすぐに分かった。何故なら巨人達が怯えているからだ。察するに先程のギーガ、ジャイン、たけし とはこの巨人達の名前だろう。

 

 

「失礼いたしました。御嬢様方。怪我はありませんか?」

 

「え、ええ……」

 

 

 リアスと朱乃は面を食らう。てっきり新手の敵か思えば、やたら慇懃に話しかけられ、心配までされた。

 戸惑う二人に対し、執事姿の悪魔は野太いが、落ち着きのある声で挨拶をする。

 

 

「私はリュカ様に御仕えする執事。ヘルバトラーのバトラーと申します。以後お見知りおきを」 

 

「リュカ!?」

 

 

 知人の名前を聞き、驚愕するリアス。

 

 

「はい。そしてこの者達もリュカ様に仕える魔物達でギガンテスのギーガ、ジャイン、たけし と申します」

 

 

 バトラーに促され、三体の巨人が頭を下げる。

 

 

「で? リュカさんの魔物がどうして私達を襲ったの?」

 

「ふぅむ、どうしてでしょうか……? この者達(ギガンテスたち)はけして知能の高い魔物ではありません。しかし、敵味方の識別くらいはしっかり出来るはずなのですが……」

 

 

 リアスの白い目で尋ねたのを、バトラーが不思議そうな顔で答える。すると、最初に現れた巨人がおずおずと朱乃を指さした。

 

 

「ギーガ。この方がどうしたというのです? ……ああ、成る程……」

 

 

 バトラーが何故か納得の表情を浮かべた。

 

 

「現在、我々は主人の命により、教会から聖剣を奪ったはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)と、堕天使幹部コカビエルを捜索しております。

 しかしながら、我々はコカビエルの人相書きなど持っておりません。

 ギーガは『歩いていたら建物から堕天使っぽい(・・・・・・)やつが出てきたので、取り敢えず捕まえて話を聞こうと思った』と申しております」

 

 

 バトラーの話を聞き、朱乃の表情が歪んだ。本当は全く違う理由によるものだが、バトラーは勘違いで捕らわれそうになったことへの怒りによるものだと考え、陳謝した。

 

 

「私どもの不手際で、大変な御迷惑をお掛けしてしまいました。申し訳ございません」

 

 

 すると、リアスと朱乃は物凄くにこやかな笑顔で鷹揚に答えた。

 

 

「頭を上げてちょうだい。貴方は悪くないわ。―――悪いのは……

 

 

 

   ア イ ツ  (リュカ)  よ 」

 

 

 

 

 

 「「うふふふふふふふふふ……」」

 

 

 今度会ったら絶対にとっちめてやる。その思いによって、ますます主従の絆を強めたリアスと朱乃であった。

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

  その頃

 

 

 就業時間が終わり、人気のない港。

 そこは今、正に激戦が繰り広げられている修羅場と化していた。戦っているのは堕天使の男と四体のモンスター。

 

 怪物(モンスター)達の構成は―――

 

 猪頭のオークキング オークス

 巨人ボストロール  トビー

 鳥人ホークマン   ホーくん

 山羊頭メッサーラ  サーラ

 

 ……だ。いずれも一騎当千の古兵ばかり。

 

 相対する堕天使も明らかに尋常ではない男だった。十二枚(・・・)の黒翼を持ち、レイナーレ達とは比較にならない程の極大な光の槍を神速の速さで振るう。

 

 魔物達の指揮官であるオークスは己の血肉が沸き立つのを感じた。これ程の強敵は久方ぶりだ。主人が行方不明になってから三週間、突然、異世界に呼び出された。そこで主と再会したのだが、元々強かった主は更に強くなっていた。

 無論即刻手合わせを願った。結果は惨敗。端から力の差があったのだから当然のことだ。当然、異界の技の教授を請う。主は二つ返事で了承してくれた。

 その後は同様に別世界の特技を会得したいという魔物達と共に、御互いに対してそれを試し合った。

 だが、それでは満たされない。何故なら互いに命までは取らないという暗黙の了解があったからだ。

 ―――それでは実戦とは呼べない。

 

 

(我、今死地にあり!)

 

 

 自分が渾身の雷光一閃突きを放つ。男が飛び退き、頭髪の数本を散らしたが顔面を貫くには至らなかった。

 ホーくんが刃に猛烈な旋風を纏わせ風神斬りを仕掛ける。だが、男の胴を寸断する前に対応され、光の槍で受け止められた。

 サーラが剣の舞を踊る。目にも止まらぬ超高速の連撃。それを堕天使は十二枚の翼で以って迎え撃った。剣と羽が交錯する。何枚かの羽根を散らせたが、結局は凌がれた。

  

 しかし隙は作れた。男の意識は自分達に向けられた。堕天使の背後から巨体のトロル族が姿を現す。

 

 

「やれぃ! トビー!!」

 

「グオオオオオッッ!!」

 

 

 

  デ ビ ル ク ラ ッ シ ュ ! !

 

 

 盛大に振りかぶったギガクラッシャーを十二枚の翼を持つ堕天使に打ち当てる。ボストロールの腕力は伊達ではない。男はそのまま吹っ飛んで行き、港の倉庫に叩き付けられた。

 

 

「……やったか?」

 

 

 

 オークスがぽつりと呟く。しかし、その答えは真上(・・)から帰って来た。

 

 

 

 

 

 

「やってねえよ!!!」

 

 

 その声と共に夥しい数の光の槍が降り注いできた。それはまるで光の雨。港の施設を片っ端から吹き飛ばしつつ、オークス達をも飲み込んだ。

 

 

「……げっ! 今のでも生きてんのかよ。……参ったね。こんなのと出くわすなら『堕天龍の閃光槍』(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)でも持ってくりゃ良かったぜ」

 

 

 男は平然と立ち上がる魔物達を見て嘯いた。その言葉にオークスが笑いながら返す。

 

 

「ガッハッハッ! まだ切り札があるのか? 流石はこの世界の者共の中でもトップクラスと言われるだけはあるのう? なあ、堕天使コカビエルよ!」

 

 

「…………へっ?」

 

 

「だが、互いに万全ではないのは同じ。条件は五分と五分! さあ、存分に死合おうぞ、コカビエル!!!」

 

「ち、ちょっと待て! それ人違い! いや堕天使違いだって! 俺はアザゼル! コカビエルじゃなくてアザゼルだ!!」

 

 

 

 

 その後、何やらかんやら色々あって誤解は解けた。オークス達は土下座することとなった。

 

 

 

 

 




雄叫び:DQⅣ以降常連となった、大声を上げて1ターン行動不能にする特技。

ステテコダンス:DQⅦ、DQⅧなどに登場。ステテコパンツを両手に持って踊りを披露し、対象を1ターン休み状態にする特技。

風神斬り:DQMJから登場。真空斬りの強化版特技。

剣の舞:DQⅦ、DQⅩ、DQMJ2プロフェッショナルに登場する特技。PS版DQⅦでの圧倒的な性能で有名。

デビルクラッシュ:DQⅧより。打撃スキルを100にした時に「ドラムクラッシュ」から進化して習得できる特技。消費MPは5。物質系だけでなく、悪魔系の敵にも与えるダメージが増え、悪魔系の敵に対しては、通常の2倍のダメージになる。


ドラゴンクエストヒーローズのプロモーションビデオを見て「ギガンテスってこんなにデカかったんだ!」と感動しました。

あと評価を付けてくださる方から「擬音語が駄目」とよく言われる。でも、使わないとなんかしっくりこないんですよね……。

「擬音語多用」とでも警告タグを付ければいいのでしょうか……。


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37話 魔界のエリート

※注意 今回の話はとある魔物が悲惨な目に会います。

「ライ〇ネックは俺の嫁!」という方はご注意を。


  

 

夕刻過ぎ 自宅アパートにて

 

 

「もしもし……。うん……。ああ、それじゃよろしく…………フリードくんが見つかったよ」

 

 

 仲間からの連絡があったので、それをちゃぶ台を囲み、座布団に座っているイッセーくん、キバくん、トウジョウとゼノヴィア、シドーに告げた。皆、真剣な面持ちで頷く。

 

 

「こうも早く見つけ出すとはな……。リュカ殿の配下は優秀なようだ。それにしても……」

 

 

 ゼノヴィアが僕の仲間達を称賛してくれたが、決して警戒を解こうとしない。硬い面持ちで周囲を見渡している。

 ずっと外で待機させるのも可哀そうに思い、自宅に招き夕食を御馳走したのだが、部屋に入ってから、そして食事の最中もずっとこんな感じだ。

 ゼノヴィアとシドーは神経質に思えるほど用心しているが、イッセーくん達の方は驚きと呆れが入り混じった様な顔をしている。

 どうやら部屋の広さを魔法で拡張していることが驚きだったらしい。始めは六畳ほどの広さだったが、今は学校の体育館くらいに拡張されている。

 

 

「―――ああ、イシュダルがそういったことが得意みたいでね。まだ、僕の魔物を全部呼び出すには全然足りないんだけど……。これ以上広げるのは流石に不味いみたいでね……」

 

 

 空間拡張にも限界はあるらしく、広げ過ぎるのもあまり良くないそうだ。

 今、一緒に住んでいるのはこの世界で仲間にした堕天使、はぐれ悪魔、イシュダル達、転身モンスター達、ピエールやスラりん、ゲレゲレといった古株の仲間モンスター達が中心だ。偶にローテーションで他の魔物とアパートで過ごすこともあるが、増やし過ぎるのも色々と問題がある。

 一度、腐った死体のスミス、ロバート、マサールらを呼んだらレイナーレ達がいやぁな顔をしていた。確かに彼らが室内にいると臭いが篭る。それに蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)のスプろうとマッドドラゴンのマッドが大喧嘩したりもした。

 どんなに広い部屋であっても大型の竜を何体も召喚するのはやめた方がいいということを身に染みて理解した。

 

 

「イヤ……、部屋についてじゃなくて……。中にいる連中が、というか……」

 

 

 そう言って、イッセーくんが目を遣る。視線の先にはレイナーレ達がいた。

 その意味は簡単に推察できる。

 

 

「彼女達はこの一件とは関係ない。レイナーレもミッテルトもカラワーナも僕の大切な仲間だ。手出しは一切許さないよ……。

 それに彼女達は『神の子を見張るもの(グリゴリ)』では総督のアザゼルを支持していた。そのアザゼルは穏健派で『二度目の戦争はない』と宣言しているそうだ」

 

 

 疑いの目を向けるオカルト研究部の面々と教会からの使者二人にそう教える。

 しかし、イッセーくんは羨ましがっているような、悔しがっているような、怒っているような、何とも奇妙な態度で堕天使三人娘だけではなくディーネ達やクモりん、イシュダル達を見渡し、何故か泣き始めた。

 

 

「そんなんじゃありませんよ! ……うう……、リュカさんは凄い人だとは思ってたけど、こんなハーレムを築き上げてただなんて……うおおおおおおんッ! うえええええええんッ!」

 

「いや、ハーレムとかじゃなくて仲間なんだがえているよう……って、トウジョウさんはどうして僕を睨むの?」

 

「……いえ、別に」

 

 

 トウジョウがブリザードマンの凍える吹雪並に冷たい視線を向けてきている。年頃の少女は難しい。何を考えているのかさっぱり分からない。いずれ僕の娘もこうなるのだろうか……。

 取り敢えず話を戻そう、と思って現状をイッセーくん達に説明することにした。

 

 

「ま、まあ……、今、フリードくんと僕の仲間が交戦中らしい。急いで向かおう」

 

 

 そう言いつつ席を立つ。するとゼノヴィアが訝しげに尋ねてきた。

 

 

「ほう……、その仲間とは一体どんな魔物だ? 奴らの奪った聖剣に対抗できるというからにはかなりの手練れだと察するが……」

 

「名前はライオウ。雷の魔法に長けた上級悪魔だ。“魔界のエリート”とも言われている」

 

 

 『上級悪魔』という単語を聞いた途端、オカルト研究部の皆が目を見開いた。

 一瞬、どうしてかと不思議に思ったが、そういえば『上級悪魔』といっても僕らの世界とこの世界では基準が色々と違うのだということに気付いた。

 ライオネックという種は大魔王の居城“エビルマウンテン”に生息する魔族で、僕らの基準では十分に『上級悪魔』といえる。

 だが、この世界では「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」だのレーティングゲームだの、色々あって『上級悪魔』の定義が分からない。

 そう考えてみると、僕の仲間達はこの世界でどのくらいランクに振り分けられるのか気になる所だが……。

 

 

「とは言っても、この世界と僕達の世界では『上級悪魔』の基準が違うからね……。この世界では下級か中級かもしれないし……。

 そんなことよりも急ごう。幸い、その場所には転移魔法(ルーラ)で行ける」 

 

「えっ? どこッスか?」

 

 

 イッセーくんがきょとんとした顔で尋ねてくる。以前、彼にはルーラは「一度行ったことのある場所しか転移できない」と教えたことがある。

 そこで僕は、僕の傍らに侍る女悪魔を見ながら答えた。

 

 

「ここにいるバイサーと初めて会った場所だよ。あの廃屋さ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

「――よっと……、着いたみたいだね。ライオウは上手くやっているだろうか………?」

 

 

 グレモリー眷属の皆と教会からの使者二人を連れて、あの廃屋の近くにある林に転移してきた。

 すると、近くから戦闘音が聞こえてくる。どうやら激しく戦っているらしい。

 ライオウの実力には全幅の信頼を置いている。いかに相手が聖剣を保持している凄腕の悪魔祓い(エクソシスト)とはいえど、決して後れは取らないはず―――

 

 

 

 

「フハハハハハハハッ! どうした!? こんなものか人間よ!」

 

 

 聞き覚えのある、まるで高慢さが滲み出ているかのような声が聞こえてきた。

 ………うん。(ライオウ)は無事らしい。上手く戦っているようだ。

 

 でも、その台詞ってこっちが悪者の様な……、まあいいか。

 

 

「クッ……、このクソ悪魔が!」

 

 

 フリードくんの声も聞こえてきた。いつもの巫山戯た調子ではなく真剣な感じなのが何とも………。

 イッセーくん達も、あの少年神父(フリード)の普段の口調を知ってるために、口をあんぐりと開けている。

 

 

「クハハハハハ! 拍子抜けだな。この程度で我に襲い掛かってくるとは……。これが聖剣使いとは、何ともつまらん!」

 

 

 少し歩いた先で一体の悪魔が哄笑していた。橙色の肌に双角、長身で筋肉質。背には蝙蝠の様な大きな羽あり、簡素な鎧を纏っている。仲間モンスターのライオウだ。彼は超高速で剣を振るい対峙する相手を追い詰める。

 ライオウと戦っている相手は白かった頭髪が漆黒に変質したはぐれ悪魔祓いのフリード・セルゼンだ。いつもは常軌を逸した表情をしている彼が、怒り狂ってはいるものの、いたって真面目な面持ちで聖剣を振るい、ライオウの斬撃を防いでいる。

 

 

「調子に乗るんじゃねえ! すぐにその首を刎ねてやるぜ!」

 

 

 ライオウが握るのは「奇跡の剣・改」。敵の生命力を吸い取って自身のモノに変える強力な魔法の剣である「奇跡の剣」、それに錬金術で更なる祝福を付与した最高位の武具だ。

 どうやら武具の性能は、フリードの聖剣と比べても決して劣っていなかったらしい。

 

 

「フン! これだけの力量差があるのだ。貴様は口ではなく手を動かすべきなのではないか?」

 

 

 ……うーん………ライオウは調子に乗りやすいところがあるからな……。それが珠に瑕なんだよなぁ……。

 

 ライオウは余裕綽々だ。それもそうだろう。暗黒の世界の最深部。複雑に入り組み、メカバーンだのマヌハーンだのといった強力な魔物が跋扈する、かの洞窟で出会ったのだ。地上の魔物とは潜在能力が違う。

 

 だが、それだけ慢心しやすい。自身を「魔界のエリート」と呼んで憚らない彼だが、自信家であるが故に油断することが多い。

 そして今も、フリードが何やら腕に暗黒闘気を集中させ、怖そうな技を使おうとしていることに気が付いていない。

 

 

「舐めてんじゃねえよッ! 『闘魔傀儡掌(とうまくぐつしょう)』!!」

 

 

 フリードがライオウに向けて手を翳すと、指先から糸状の暗黒闘気が放出された。それがライオウに捲きつき、肉体の自由を奪ってしまった。

 エリート戦士はもがくが、動くことができなくなってしまったらしい。

 

 

「ぬっ!?」

 

 

 闘魔傀儡掌とはどうやら掌から放つ暗黒闘気の糸で相手を束縛する技のようだ。こんな技も身に付けているとはフリードくんもなかなか大したものだ。

 ライオウも、相手を注意深く観察していれば避けれたはずなのだが……。

 まあ、どんな魔物にも人間にも欠点はあるということか。

 

 

「ひゃはははははっ! これがパゥワーアップしたオレっちの新必殺技『闘魔傀儡掌』だよん! 侮っていた人間にぃ、体の自由を奪われるのってどんな気持ち? ねえねえ、今どんな気持ち?」

 

 

 今まで劣勢を強いられてきたフリードがここぞとばかりにライオウを挑発する。実に楽しそうだ。

 一方、ライオウは血管を浮き出させて歯軋りしている。プライドが相当傷ついたらしい。

 

 

「クッ………、フッフッフッフッフッ!! ここまでコケにされるとはな………。

 まあ、いい。主からは『生け捕りにせよ』と言われているが、生きてさえ(・・・・・)いれば多少のことは問題あるまい。なまじ強い自分を恨め」

 

「ハァッ!? 何言ってくれちゃってんスかぁ? 

 この『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピットリイ)』でぶっ殺してやんよ!!」

 

 

 フリードが七分割されたエクスカリバーの内の一つを大上段に振りかぶった。

―――だが、彼もまた過ちを犯している。ライオウはあんなもの(闘魔傀儡掌)でいつまでも抑えられる悪魔ではない。

 

 

「かあっ!」

 

 

 ライオウが吠える。短いが、上級悪魔が有する凄みのある声でだ。

 彼の肉体から眩い光が迸る。光の闘気によるものだ。その輝きは強烈で、辺りはすっかり暗くなってしまっているというのに、この場だけ昼と見紛う程に輝いている。

 

 強烈な光の闘気によって、ライオウに纏わり付いていた紐状の暗黒闘気は焼き切られ消滅し、悪魔は体の自由を取り戻す。

 勝利を確信し、今にもトドメを刺そうとしていたフリードが驚愕し、喚き散らす。

 

 

「な、何だよ、コレ!? 悪魔が光ってどういうことだよ!! ありえねえだろ色々と!!!」

 

 

 確かに(フリード)の疑問は尤もと言える。この世界の悪魔にとって光は猛毒。それは天使・堕天使・悪魔、いずれに与する者にしても常識中の常識だ。

 しかし、ライオウはそんな固定観念に捕らわれている少年神父を嘲笑った。

 

 

「フッフッフッフッフッ! 知らんな、そんな理屈。

 他の凡百の悪魔はどうか分からんが我にはその法則は当て嵌まらない。何故なら――― 

 

 

 

 

 我がエリートだからだ!! 」

 

 

 

 

 

「「「……………」」」

 

 

 イッセーくん達も、フリードも思わず言葉を失った。まあ、予想はできたが……。これは酷い。あとで(ライオウ)とはお話し(せっきょう)しなくてはなるまい。皆が呆れている中でもライオウは構わずに続ける。

 

 

「フハハハハハ! 冥土の土産に見せてやろう。我の最強呪文を。

 そして知るがいい! 我が魔界のエリートと呼ばれる所以を!!」

 

 

 ライオウが高らかにそう告げ、両手を天に掲げた。彼の全身から魔力の波動が溢れ出し、辺りを覆おう。

 

 

「ち、ちょっと待って! その呪文(・・・・)はマズい! フリードくんが死んじゃう!」

 

 

 僕が流石に止めに入る。あの魔法が直撃すればフリードくんが死ぬ。そうなるとキバくんが色々とヤバい。

 と言うより、すでにかなり危ない。目から完全に輝きが失せている。

 僕の必死の訴えかけが、ライオウの耳に届いたのか、彼がこちらに振り向いた。だが―――

 

 

「おお! 我が主、ちょうど良いところに来てくれた! このエリート悪魔ライオウが無礼千万な小僧を打ち倒す様を御覧入れよう!」

 

 

 駄目だ。聞いてない。普段は良い奴なんだが偶にこういう事がある。

 その“打ち倒す”というのが不味いんだが……。

 

 

 

「ハァァァァッ、極大雷撃呪文――――」

 

 

 

 

   ギ ガ デ イ ン

 

 

 ライオウの呪文が辺りに響き渡ったその瞬間―――

 

 天が嘶く。

 

 空気が震える。

 

 強大な魔力の奔流。

 

 空で雲が蠢く。夜空よりも黒々とした雷雲が集束し、雷光で光り輝く。傍目から見ただけでも、あの雲の中に莫大なエネルギーの雷が内包されていることが分かる。

 

 そして、大黒柱の如き太さの稲妻が、幾本も地表に降り注いだ。

 

 

 

 

 だが、(ライオウ)にとっても僕にとっても予想外の出来事が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――マホカンタ!」

 

 

 

 

 廃屋の中からしわがれた声でそう唱えられるのが聞こえた。

 

 

「ぎゃあああああああああああっ!!!」

 

 

 悲鳴を上げて、倒れたのはフリードではない。ライオウだ。

 

 あの刹那、雷撃が少年神父に届く直前。

 堕天使達の住処になってるという廃墟から魔法反射鏡呪文(マホカンタ)が詠唱された。それにより極大雷撃呪文が撥ね返されたのだ。稲妻はフリードを焼かずライオウを焼いた。

 倒れ伏したライオウの姿は酷いものだ。真っ黒に焦げ、その姿はまるで同系統の悪魔であるシャドーサタン。エリートであることを証明しようとして下位種の形姿になるとは………。

 辛うじて死んではないようだが戦闘続行は不可能だろう。

 

 

 そこに、先程マホカンタを唱えたであろう人物が、廃屋から姿を現す。

 

 二人組の男だ。一人は肥満体で眼鏡を掛けた初老の男性。もう一人は子供ほどの背丈しかない髭を蓄えた老人。二人ともこの世界の神父の格好をしているが、肥えた初老の方が若干豪華だ。おそらく彼の方が階級は上なのだろう。

 

 だが、そのことに違和感を覚える。何故なら小柄な老人の方が明らかに普通(・・)じゃない。何となく妖気の様なものをひしひしと感じる。そんな男だ。

 

 

「……バルパーとラエボザのじいさんか」

 

 

 フリードがぽつりと老人達の名を呼んだ。

 

 

「……バルパー・ガリレイッ!」

 

「いかにも」

 

 

 キバくんが丸眼鏡の老人を憎しみが漲った瞳で睨みつけ、相手もそれに堂々と返した。

 その横で妖怪じみた雰囲気の老人神父が妖しく笑った。

 

 

 

 

 

 




奇跡の剣:DQⅣ以降の本編や、外伝作品にも登場する武器。敵にダメージを与えつつ、自分のHPが回復するという追加効果を持つ神の祝福を受けた魔法の剣。

奇跡の剣・改:DQⅧより。名前の通り奇跡の剣を強化した武器。

闘魔傀儡掌:漫画「ダイの大冒険」に登場するミストバーンの得意技。魔剣戦士時代のヒュンケルも使用。『とうまくぐつしょう』と読む。暗黒闘気を糸のように放ち、相手を操り人形の様に縛り付けて行動不能にする。この技から自力で抜けることは非常に困難であり、他の技を追撃として放つことで敵にトドメを刺す。また、暗黒闘気を高めることで、相手を引きちぎるほどの痛みを与えるなど、ダメージを与えることにも使用できる。

魔界のエリート:攻略本「ドラゴンクエストⅤのあるきかた」にてライオネックに与えられた称号。
……だが、加入時期の遅さと成長限界の低さによって、魔界のエリート(笑)扱いされることもしばしば。


何で「魔界のエリート(笑)」が定着しちゃったんでしょうね……?
まあ、助長させてる作者が言えたモノではありませんが。

ライオネックさん、お許し下さい!(チャー研)


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38話 謎の司教

ネタが思い浮かばない。
   ↓
何を血迷ったのか活動報告でアンケートを取ろうとする。
   ↓
案の定、回答が得られず心が折れかける。

アカン、もっとコツコツ堅実にやろう……。


 

 

 捜索していたはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)フリード・セルゼンを見つけ出したという連絡を受けた僕とオカルト研究部の皆と教会からの使者達。

 その場所に着いてみると、仲間の悪魔戦士ライオウとフリードが激しい剣戟を繰り広げていた。ライオウは技量では勝っているものの、慢心と少年神父が新たに得た暗黒闘気を用いた技『闘魔傀儡掌』により若干の苦戦を強いられる。

 だが、そこは上級悪魔。強力な光の闘気でもってフリード・セルゼンの『闘魔傀儡掌』を引き剥がす。そして、トドメに極大雷撃呪文ギガデインを放とうとした。

 しかし―――

 廃屋の中から魔法反射鏡呪文マホカンタが唱えられた。これによりギガデインはライオウに跳ね返り、彼は戦闘不能になってしまう。

 廃屋から現れたのは二人の神父姿の男。一人は小太りの初老。二人目は子供の様な背丈の老人。

 小太りの男の方はフリードから『バルパー』と呼ばれた。

 それは、かつてキバくんの同胞を無残に死に追いやった「聖剣計画」の立案者の名だった―――

 

 

 

 

「バルパァァァッ!!」

 

 

 “バルパー”。その名を聞くとキバくんの表情が一変した。ついさっきまではフリードとライオウの戦いに呆気を取られ、半ば茫然とした顔であったが、今や憎しみに歪み、怒りに満ちた表情だ。

 キバくんは仇の名を吠えるように叫ぶと、神器(セイクリッド・ギア)で魔剣を生み出し、猛然と斬りかかった―――。

 

 

  ガアッン!!!

 

 

 しかし、止められた。先程まで魔界のエリート・ライオウと渡り合っていたはぐれ悪魔祓い、フリード・セルゼンだ。

 

 

 

「クソ悪魔共が何人来ようと~、このエクスカリバーちゃんの相手には……なりませんぜッ!」

 

「ッ!?」

 

 

 二人が激しく切り結ぶ。両者の刃の間に火花が飛び散り、剣が交わるたびに轟音が鳴り響く。

 しかし妙だ。何が妙かと言えば、「フリードは人間」のはずだ。なのに異常に“速い”。

 勿論、人間と云えど鍛えれば悪魔をも凌ぐのは当然、寧ろ実践してきた身だ。(フリード)が真っ当な修行を経て強くなったとするならば、何も問題はないだろう。

 だが、今の彼からは“速さ”以外が見受けられない。無論、技術的な面もそこそこ高いが、それだけでは理屈に合わない。

 まるで『はぐれメタル』のように速さだけが異様に優れているような歪さ、不自然さを感じる。

 もし、人の身であれぐらいの速さを得れるだけの修行を積んだのだとしたら、速さのみではなく、もっと筋力や技術も身に付いているはずだ。

 

 そうした疑問は、次の彼の台詞で氷解した。

 

 

「これが天閃の聖剣、人呼んで、エクスカリバー・ラピッドリィ! 

 俺呼んで、ちょっぱやの剣!!」

 

 

 ほう……! つまり、あれは『星降る腕輪』のような機能も兼ね備えているということか……。そいつはまた凄い武器だ。差詰め『疾風のレイピア』の強化版か。

 

 

「同じ速度で動いてるってことか……。これじゃ騎士(ナイト)のスピードを封じられたも同然だ」

 

「……かなりマズイです」

 

 

 トウジョウが顔をしかめ、呟いた。確かに彼女の言うとおりだ。

 キバくんの持ち味はスピードだ。しかし、相手も同程度に速く、パワーで劣っている場合、(キバくん)の長所が相殺されてしまう。

 

 

「ハーーンッ、待ってろよ~! 外野もまとめてブッ殺してやるからさッ!」

 

 

 勝利を確信したのか、フリードがこちらを向き嘲笑してきた。

 一方、イッセーくんは必死に高速で動きまわるキバくんを目で追っている。

 良く見ると『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』で力を倍化させ、それをキバくんに譲渡しようとしているらしい。

 だが、イッセーくんにとってはキバくん達が速過ぎ、上手く狙いが定まらないらしい。

 

 

「クソッ! なんとか奴の足を止められりゃ木場に力を譲渡してやれるのに……」

 

 

 僕も動こうかと思ったが、目の前でフリードとキバくんの戦いを観戦している神父の片割れ……名はラエボザといったか……。この老神父から目を離せない。

 無論、フリード、バルパー、ラエボザの三人を一人ずつ倒すことは容易いだろう。しかし、フリードと加減しながら戦いつつ、それでいてラエボザという男を放置するのは危険すぎる。あの老人は例えるのであれば爆弾……、否、猛毒だ。

 僕一人ならばともかく皆まで危険に晒すようなことは出来ないし、何よりキバくんの決戦に水を指すようなことも控えたい。

 

 そう思い悩んでいると、これまで傍観していたサジくんが進み出た。

何やら彼に考えがあるらしい。

 

 

「兵藤、足を止めればいいんだな? ―――ラインよ!」

 

「えぇっ!? 匙……お前!?」

 

 

 進み出たサジくんの手の甲には黒い蜥蜴のような物が装備されている。彼はその籠手らしき物体をフリードに目掛けて振りかざした。

 

 

「いけっ、ラインッ!!」

 

「おッ!?」

 

 

 黒い蜥蜴の口から触手のような舌が飛び出し、フリードの片足にグルグルと巻き付いた。

 サジくんが得意げに叫ぶ。

 

 

「見たか! 俺の神器、『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』だ!!」

 

「お前も神器を!? やるじゃねーか!」

 

「クソ! クソッ! クソォッ! この神器もドラゴン系かよ!?」

 

 

 少年神父が『黒い龍脈』の触手を何度も斬り付け、必死に逃れようとする。

 だが、上手くいかないようだ。シドーとイッセーくんの戦いの時もそうだったが、ドラゴン系の神器に聖剣は効き目が薄いらしい。

 どうやらサジくんの神器は相手の動きを封じる類のモノのようだ。

 すると、横から悲鳴が聞こえてきた。トウジョウがイッセーくんを高々と持ち上げている。

 

 

「ぬわぁぁああっ!?」

 

「……いきますよ」

 

 

 困惑しているイッセーくんには一切構わず、トウジョウは大きく振りかぶり(イッセーくん)をキバくんに向けて放り投げた。

 どうやらイッセーくんも、何故トウジョウが自分を投げたのかを察したらしい。確信を込めた声でキバくんに呼び掛ける。

 

 

「木場ァァアアア!!」

 

「一誠くん!」

 

『Transfer!』

 

 

 『赤龍帝の籠手』が煌々と輝く。事前に倍化した力を、フリードがサジくんの『黒い龍脈』で動けなくなった隙にキバくんに譲渡らしい。

 キバくんの魔力が目に見えて増大する。

 

 

「ドラゴンの力! 確かに送ったぞ!」

 

「受け取ってしまったものは仕方ないな……。

 ありがたく使わせてもらうよ! 魔剣創造(ソード・バース)!」

 

 

 キバくんが魔剣を振り翳し、叫ぶ。すると地面からライザー戦の時に匹敵するほどの大量の魔剣が飛び出し、フリードを串刺しにしようとする。

 それに対し少年神父(フリード)は『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』を振り回し、周囲の魔剣を薙ぎ、砕いて身を守る。

 

 だが、そんな抵抗も長続きしないだろう。今、彼の片足はサジくんの触手で封じられている。

 動きに制限が掛かっているため、カバーしきれていない。

 もはや彼もこれまでか、僕がそう思った時。フリードの窮地を見かねたバルパーが口を開いた。

 

 

「『魔剣創造』か。使い手の技量しだいでは無敵の力を発揮する神器……。

 フリード、まだ聖剣の使い方が十分ではないようだな? ふむ……、身体に流れる因子を刀身に込めろ。それでその蜥蜴の舌を斬るのだ!」

 

「流れる因子を……刀身にね!」

 

「気を付けろ! ヤバいぞッ!!」

 

 

 因子……? バルパーのいう因子とは一体何なのだろうか。

 自分にはない新しい情報を訝しみながらも、見極めようとフリードを注視する。

 一方、イッセーくん達も警戒したらしい。慌ててサジくんに注意を呼び掛けた。

 だが一歩遅かったようだ。

 はぐれ悪魔祓いの体から尋常ではないオーラが発せられる。

 

 

「おお! オッホォォオオオ!!」

 

 

 フリードが奇声を上げ、ラインに大上段の構えから斬り付ける。

 

 一刀両断!

 

 あれ程手間取っていたサジくんのラインがいとも簡単に寸断され、フリードは自由になった。

 

 

「ナ~ルホド♪ 聖なる因子を有効活用すりゃ、さらにパワーアップってか! それじゃあ……♪

 俺様の、剣の餌食になってもらいやすかァァァねッ!」

 

 

 “聖なる因子”……。それが聖剣を扱う上ではそういうモノが必要らしい。

 そうなると『天空の剣』を装備できなかった僕にはその“聖なる因子”が無かったからなのか……? という疑問が湧き出してきた。

 しかし、自分には『王者のマント』や『光の盾』といった防具が装備できる。それらは僕にしか身に纏う事が出来ない特別なシロモノだ。

 それらの装備は“聖なる因子”とは関係が無いのだろうか?

 

 そんなことをつい一瞬考えたが周りの皆は待ってくれない。そうこうしている内にフリードが『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』をぶん回し、キバくんを叩き斬ろうとする。

 

 

「死ねェェェェェイッ!!」

 

 

  ガキィン!!

 

 

 絶叫と共に振り降ろされた聖剣が今にもキバくんに届きそうになった時、横から進み出てフリードの凶刃を、それより遥かに神々しく輝く聖剣で以って受け止める者がいた―――。

 

 

「………あり?」

 

 

 フリードの『天閃の聖剣』を防いだ人物。それはエクスカリバーを携えたゼノヴィアであった。

 彼女は少年神父を睨みつけながら朗々とした声で宣告する―――。

 

 

「叛逆の徒、フリード・セルゼン、パルパー・ガリレイ! 神の名の下、断罪してくれる!!」

 

「ハッ! 俺様の前で! その憎ったらしい名前を出すんじゃねー、このビッチが!」

 

 

 ゼノヴィアの言葉に対し、憎しみの表情で口汚く罵るフリード。やはり、この世界で教会とそれと敵対する者達の溝は深い、そのことを改めて思い知らされる光景だ。

 

 

「ダァァアアアアッ!!」

 

 

 咆哮と共にエクスカリバーを斬り降ろすゼノヴィア―――。

 

 

「うっほほ~!?」

 

 

 半笑いでそれを躱すフリード。

 

 技に関しては互角くらいであろうか。しかし、暗黒闘気で強化している分、臂力においてはフリードの方が強い。得物の性能では僕がついうっかり強化してしまったため完全にゼノヴィアが上だ。

 臂力のフリードか、得物のゼノヴィアか―――。

 御互いが一歩も引かず斬り結ぶ激しい剣戟の応酬。

 しかし、少しずつ片方が優勢になって来た。

 

 ゼノヴィアが斬り込む―――。

 

 フリードがそれを受け止め斬り返す。

 

 フリードが少女を唐竹割りにしようと『天閃の聖剣』を振り降ろす―――。

 

 ゼノヴィアは受け止めきれず、フリードに押し込まれる。

 

 ちょっとずつではあるが、ゼノヴィアの一手に対しフリードがより厳しい一手を返すようになってきている。

 それもそうだろう。どんなに得物が優れていても扱い切れなければ意味が無い。

 彼女(ゼノヴィア)はまだエクスカリバーの本来の性能を引き出せていない。と言うより寧ろ“エクスカリバーによって振り回されている”という印象すら持ってしまう。

 

 そんな彼女の聖剣を、何やら不可思議な物を見るような表情で見つめる男がいた。バルパーだ。

 

 

「ん? 何だ、その聖剣は……? 

 資料によればその女の武具は『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』のはずだ。

しかし、形状が異なる……。一体どうなっているのだ?

 まあ、いい……。

 フリード、お前の任務は潜入してきた教会の者を消すことだ。まして、聖剣を持った者が2人も現れては分が悪い。ここは引くぞ」

 

 

 どうやらバルパーは一旦逃げることにしたらしい。その判断は概ね賢明だ。

 戦力ではおそらく僕達の方が上回っている。それなら一度逃げて体制を整えるほうが賢いというものだ。

 フリードも彼の命に応じ、懐から何かを取り出そうとする。

 

 

「ガッテン承知の介! はい、ちゃらば♪

 ……あれ?」

 

 

 フリードが懐を何度も探る。マントの内ポケットに入っていた(・・)物を必死になって探す。

 だが彼の努力は無駄なものだ。何故なら―――。

 

 

「探し物はこれかい?」

 

「!!??」

 

 フリードが驚愕の表情を浮かべる。その様子を見て思わずニヤッとしてしまった。

 何故なら―――

 

 僕の足元にはフラッシュバン、煙玉、キメラの翼、まだら蜘蛛糸、毒蛾の粉etc……が散乱しているのだ。

 それを見たフリードが驚く。

 

 

「な、なんでテメェがッ!!」

 

「君にはいつもアイテムを使われて逃げられるからね……。隙を見て盗ませてもらったよ」

 

 

 そう言って右手に持っている物を掲げて見せる。見た目はただの古ぼけた巻き物だ。

 

 

「これは“盗賊の秘伝書”というんだ。この書には様々な盗賊の秘術が記されていてね。

 君がゼノヴィアと戦っている間に盗み出せるタイミングを見計らっていたのさ」

 

 

 それを聞いたイッセーくん達は驚いた様子であったが別段大したことではない。

 錬金に必要な“夜の(とばり)”や“光の石”を魔物から散々盗み出してきたのだ。スターキメラから“星のカケラ”を奪うのに比べたら人間のフリードくんから逃走用のアイテムを奪うなど爆弾ベビーの手を捻るよりも容易い。

 

 

「さあ、今日こそはおとなしく捕まってもらうよ。そこにいる御二人さんもね」

 

「ぐ、ぐぬぬ……テメェ……!」

 

 

 フリードがまるで親の仇でも見るか様な目で僕を睨み付けてくる。

 一方、二人の老神父は異なる反応をする。バルパーの方は半ば唖然とした表情だ。おそらく高速で動き回っていた少年神父の懐から、相手に気取られずに道具を盗み出せたことを未だに信じ切れないのだろう。

 だが、ラエボザはそうではない。驚きつつもこちらを推し量るような鋭い眼光を向けてくる。どうやら僕に好奇心を持ったらしい。

 

 そのラエボザが口を開いた―――。

 

 

「生憎、こんな所で捕まる気は無いのでな。キィッヒッヒッヒッ……。

逃げさせてもらうぞ」

 

 

 ラエボザがしわがれた声で背筋が凍るようなゾッとする笑みを浮かべつつ堂々と宣言する。

 まるで以って余裕綽々な態度だ。

 

 

「ふぅむ……。この状況を脱することができるとは……、一体どんな手を隠しているのかな?」

 

 

 少しでも妙な真似をしようものなら即座に飛び掛かれるよう身構えつつ、老神父に尋ねる。

 ラエボザの目がギラリと光った。

 小柄な老人の口からおぞましい呪詛が紡がれる――――

 

 

「身体を駆けめぐる血よ、沸騰しろ。心臓よ、裂けよ。その身の内にある体液は凍り付け……―――」

 

 

 その詠唱の第一節が耳に入った途端、凄まじい危機を感じた。

 数多の戦場を駆け巡って来た経験が、知識が、肉体が、これから起こるであろう恐ろしい事への警鐘を鳴らす。

 

 

「皆、引けッ!!」

 

 

「遅いっ! ザラキ!!」

 

 

ザラキ、別称『死の言葉』―――― 古い書物には『死の呪文』とも記されている。この呪文を唱えると、相手の体内の血液を一瞬にして凝固させる。そうなってはどんな生き物でも生き続けることは不可能だ。これを受けた者は恐怖で身の軋むような言霊に襲われ、精神力で耐えきらなければ死に至る。

 

 全身を死への恐怖が駆け巡る。呪詛が耳孔で反響し頭の中で鳴り響く。血が血管を暴れ狂い、内臓が凍りついたかのように冷えていく。このままでは――――

 

 気をしっかり保て!

 

 ……そうだ。この呪文は精神力で耐え切れるものだ。死への恐怖こそが己を殺す。

 それに高々ザラキ一つが何だというのだ。自分はこれまでの旅で何十回もこの呪文を掛けられている。堪え切れずに死んだのも一度や二度ではない。

 

 死の一体何が怖いのか―――?

 

「ハアッ!!」

 

 

 精神を集中し自らに一喝する。

 すると、少しずつ落ち着いてきた。氾濫した河川の様に血管を流れていた血液は元の穏やかな速さとなり、凍り付いたのではないかと思えるほど冷たくなっていた臓腑は本来の暖かさを取り戻す。

 

 しかし、落ち着いてはいられない。練達の冒険者である自分でさえこの様なのだ。周りの皆は……―――

 

 

「ぐわああああああっ!」

 

「くうううぅぅぅぅっ!」

 

「ぎゃあああぁぁぁっ!」

 

「……うぅぅ………っ!」

 

 

 やはり、そうだ。全員が恐怖してしまい精神が負け始めている。このままでは僕を除き全滅してしまうだろう。

 何とかしなければ! そう思った時―――

 

 

「ぐああああああっ!うっ……、うおおおおおおおっ!!」

 

 

 ゼノヴィアが自身の怖れを振り払うかのように吠え、エクスカリバーを頭上に掲げた。

 次の瞬間、聖剣の刀身が輝き始めた。始めは見間違いかとも思ったがそうではないようだ。その光はみるみる大きくなっていく。その光は『死の言葉』に苦しむイッセーくん達全員を包み込んだ。

 な、何なんだ、この光は……! ザラキを打ち消している……。持ち主の思いに反応したのか? では、これがエクスカリバーの真の力だというのか!?

 

 やがて、皆を覆っていた光は消えた。イッセーくん達は若干疲弊したふうではあったが、全員息があった。

 

 

「無事かい?!」

 

「あ、ええ、何とか大丈夫です。リュカさん……」

 

  

 僕の呼び掛けにイッセーくんは青い顔で応じる。

 しかし―――

 すでに、この場にバルパー、フリード、ラエボザの三人はいなかった。そのことに気付いたゼノヴィアが血相を変えてシドーに呼びかける。

 

 

「くっ、追うぞイリナ!」

 

 

 ゼノヴィアが止める暇もなく真っ先に駆け出す。それにシドー、キバくんが続いて行った。

 少々面を食らってしまい対応が遅れた。たった今、殺されかけたというのに……。

 ゼノヴィア達は信仰熱心すぎるのが考えものだ。キバくんも復讐するならもっと冷静になるべきだろうに……。

 イッセーくんも困惑しているらしく、必死に呼びかけている。

 

 

「おーい!? 待ってくれ木場ぁぁああ!……ったく! 何なんだよ、どいつもこいつも!」

 

「うーん、仇打ちに夢中なんだろうね……。これでは少々困ってしまうな」

 

 僕も取り敢えず感想を述べる。彼らの振る舞いは集団での協調性という意味ではあまりよろしくない。

 しかし、ある意味ではああいう方が健全なのかもしれない。

 如何せん僕自身の青春は丁度奴隷時代のため、あまり感情を表に出せなかった。出すと鞭で打たれた。

 ああして感情のままに振舞うのも若者らしいのだろう。 

 

 そんなことを考えていると後ろから女性の声がした。

 

 

「……ええ、本当に。

 全く、困ったものね」

 

 

 現れたのは四人の少女。いずれも見知った顔だ。

 

 

「部長!?」

 

「おや、こんばんは。リアスさん、ソーナさん、ヒメジマさんにシンラさんも」

 

「あら、こんばんは……、じゃなくて! これはどういうことなのかしら? イッセー? リュカさん?」

 

 

 取り敢えず挨拶してみたが、あまり機嫌が良くないようだ。一体どうしてなのだろうか?

 そんなことを疑問に思っていると横でソーナがサジくんに何やら詰問している。

 

 

「説明してもらえますね? 匙?」

 

「か、会長……っ!」

 

 

 どうやら、かなり責められているらしい。

 しかし、サジくんはイッセーくんに無理矢理連れてこられただけだ。ここは身を挺してでも庇うべきだろう。

 

 

「待ってくれ、ソーナさん。彼は悪くない―――」

 

 

 

 

 その後、駒王学園での出来事を聞かされた。何でもギーガ達が大変な迷惑を掛けてしまったらしい。

 その事も含め、今回の一件も全責任は僕にある、とリアスとソーナに説明し、リアスがイッセーくんを折檻する尻叩き1,000回、ソーナがサジくんを折檻する尻叩き1,000回、リアスと学園の修繕に手を貸したソーナが僕に尻叩きを1,000回ずつ、合わせて4,000回尻を叩かれることになった。

 

 僕は奴隷時代に体罰を受けるのが日常茶飯事だったためどうってことは無かったが、逆にリアスとソーナが僕の尻が硬過ぎて腱鞘炎になり、気遣ってべホイミをかけてあげたら二人から凄く微妙な顔をされた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

  翌日

 

 

 午後のオカルト研究部の部室に行ってみると何やら慌ただしい。話を聞いてみると、郊外の道端に負傷したシドーが倒れているのをリアスの使い魔が発見したのだという。僕の仲間達も引き続き探索していているにも拘らず先にシドーを発見できる辺り、リアスの使い魔は優秀らしい。

 イッセーくん達は今からシドーを救護しに行くと言うので僕も同行することにした。 

 

 

「っ!? イリナ!!」

 

 

 現場に行ってみるとすぐにシドーは見つかった。イッセーくんが真っ先に駆け寄る。今は教会と悪魔、対立する者同士ではあるが幼馴染同士思うところがあったのだろう。僕もシドーの傷の具合を確認する。

 

 

「これは……」

 

「誰がこんな……!?」

 

「う、ぐっ……」

 

 

 苦悶の表情を浮かべるシドー。確かにかなり酷い。黒い戦闘服が所々破け、なかなか凄惨な有り様だ。

 だが、命に別状があるレベルではない。べホマでもかけておけばどうにかなるだろう。

 

 

「イリナ……何があった!? 木場とゼノヴィアは!?」

 

「うぅ……、二人は……逃げたわ……。私だけ…逃げ…遅れ、て……」

 

 

 他の二人(キバくんとゼノヴィア)は無事らしい。その事は一先ず安心した。

 

 

「“アイツ”の力……、ハンパじゃない……」

 

「アイツ……?」

 

「気を、付け……て……」

 

「イリナ!?」

 

 

 “アイツ”とやらを警戒するよう忠告すると、シドーは気絶した。

 それにしても“アイツ”とは誰の事であろうか。普通に考えるのであれば昨日の老神父ラエボザかと思うが、あの司教はどう考えても近接戦は強くない。魔術と小手先の戦術で戦うタイプだ。

 彼女の傷は明らかに高い戦闘力を持つ者と戦ったことによるモノであろう。

 

 

「会長……!?」

 

 

 するとその場にソーナとシトリー眷属の者達がやって来た。

 

 

「来てくれたのね蒼那!」

 

「連絡をもらって来ないワケにもいかないでしょう。……ダメージが大きそうですね」

 

「はい……。聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)は消耗した体力までは回復出来ませんので……」

 

「……私の家なら治療設備があります。椿姫!」

 

「いや、僕がべホマかけるよ」

 

 

 手早く上級回復魔法をかける。ほとんど一瞬でシドーの負傷箇所を癒すことができた。

 それでも、やはり疲れていたのか彼女(シドー)は穏やかに寝息を立てている。

 とは言えこれで安心だ。あとはそこにいる(・・・・・)下手人から話を聞くとしよう。

 

 

「そこにいるんだろう? フリードくん。説明してもらえるかな」

 

「チッ! 気付いてやがったか……。驚かそうと思ってたのに、あ~、ツマンネ!

 やあ!やあ!やあ! 餌を嗅ぎつけて来ましたね~! 御機嫌麗しゅう♪ クソ悪魔共とクソ人間!」

 

 

 近くの木の陰からフリードが出てきた。そして彼の言葉からシドーが自分達を誘き寄せるための餌だと知ることができたが……。

 罠にしては些か手緩い。一体何のつもりだろうか。

 

 

「おやおやこれは~♪ クソ悪魔に寝返ったアーシアちゃ~ん♪ クソ悪魔ライフ、満喫しちゃってる~ん?」

 

「テメェ! もしアーシアに手を出したら!」

 

 

 寝返ったというのは少し身勝手な物言いだと呆れるが……。イッセーくんも短気だ。もう少し話を聞くべきだろう。

 

 

「あーたたた!? ちょい待ち、ちょい待ち! そっちの赤毛のお嬢さんにお話があるんだって……」

 

「……話?」

 

 

 フリードがここにリアスを誘き寄せたのは、やはり話をするためであったらしい。

 しかし、話をしたければ電話でもメールでも伝書クルック―でも良かったんじゃ……。

 そんなどうでもいい事を思い浮かべていたが、なかなかの力の波動を感じたので気を引き締める。

 

 

「あぁ、ウチのボスがさ!!」

 

 

 上を見上げてみると、そこには一人の堕天使がいた。それも只者ではない。十枚もの翼を持つ男だ。

 

 

「……堕天使」

 

「それも翼が十枚、幹部クラスですわ」

 

 

 ヒメジマの言葉はなかなか興味深い。堕天使は翼が増えると位階が高くなる、と言うことだろうか。

 という事はレイナーレ達も鍛えまくれば翼が増えるのか?

 次の彼女達の目標ができた。

 

 

「……初めましてかな? グレモリー家の娘。我が名はコカビエル」

 

「……御機嫌よう、堕ちた天使の幹部さん。私はリアス・グレモリー、どうぞお見知りおきを」

 

 

 リアスが飽く迄優雅に挨拶する。魔王の妹、次期グレモリー家当主としての誇りからだろう。

 それにコカビエルも皮肉交じりに応える。

 

 

「紅髪が麗しいものだな。紅髪の魔王サーゼクス、お前の兄にそっくりだ、忌々しくて反吐が出そうだよ」

 

「それで? 私との接触は何が目的なのかしら? 幹部さんが直々にお目見えするなんて」

 

「お前の根城である駒王学園を中心に、この街で暴れさせてもらおうと思ってな」

 

「私達の学園を!?」

 

 

 これはまたなんと言うか……。事前に申告するだけ礼儀正しいと見るべきか。

 

 

「そうすれば嫌でもサーゼクスは出てこざるを得ないだろう?」

 

「そんなことをすれば、神と堕天使、悪魔との戦争が再び勃発するわよ!」

 

「フッフッフ…! エクスカリバーでも奪えばミカエルが仕掛けてくるかと思ったのだが……、

 寄越したのは雑魚のエクソシストと聖剣使いがたったの二匹だ。つまらん……あまりにもつまらん!」

 

 

 要するに確信犯だったということだろう。確かに彼ほどの力があれば持て余してしまうのも無理はないのかもしれない。

 

 

「では目的は最初から戦争を起こすことだと?」

 

 

 リアスが信じられないといった表情でコカビエルに問う。

 答えは是であった。

 

 

「そうだ……、そうだともッ! 俺は三つ巴の戦争が終わってから退屈で退屈で仕方がなかった! アザゼルもシェムハザも、次の戦争には消極的でな! 堕天使、神、悪魔は、ギリギリの所で均衡を保っているだけだ。 

 ならば……、この手で戦争を引き起こしてやればいい!」

 

「完全な戦争狂ね」

 

「だから! 今度は貴様等悪魔に仕掛けさせてもらう!」

 

 

 そう言って堕天使の幹部は二人の少女に大仰な口振りでこの地を選んだ理由を述べる。

 

 

「ルシファーの妹、リアス・グレモリー。そしてレヴィアタンの妹、ソーナ・シトリー!

 それらの通う学び舎なら、さぞや魔力の波動も立ち込め、混沌が楽しめるだろう! 戦場としては申し分あるまい!」

 

「無茶苦茶だ!」

 

「コイツ……、マジで頭がイカれてやがる!」

 

 

 サジくんとイッセーくんが思わず口にする。彼らでは到底理解できないだろう。

 一方、フリードは嬉しそうにケタケタ笑いながら纏うマントを広げようとする。

 

 

「ギャハハハハ…! ウチのボス! このイカれ具合が素敵で最高でしょー! 

 俺もついつい張り切っちゃうワケさ。こ~んなご褒美まで、戴いちゃうしさ~♪」

 

「……エクスカリバー……!?」

 

「もしかして……、アイツの持ってるの、全部!?」

 

 

 少年神父のマントの中にあったのは四本もの聖剣(エクスカリバー)であった。一本一本から確かな聖なる力を感じ取れる。

 

 

「……そのようですわね」

 

「無論、勿論、全部使えるハイパー状態なんざます! 俺って最強~♪ 

 あぁ~、この擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)も! ツインテールのお姉さんからゲットさせていただきましたんで!」

 

 

 フリードが聖剣自慢を終えると、コカビエルが高々と告げた。

 

 

「戦争をしよう。魔王サーゼクス・ルシファーの妹、リアス・グレモリーよ!」

 

 

 それは古の堕天使からの冥界の次代を担う若き悪魔達に対する宣戦布告であった。

 

 

 

 




まだら蜘蛛糸:DQⅢなどに登場する道具。大蜘蛛の巣から採れる糸。絡みついた相手の動きを阻害し、素早さを下げたり(Ⅲ、Ⅸなど)、行動不能にしたり(Ⅶ)する効果がある。
 
毒蛾の粉:DQⅢ、DQⅦ、DQⅨ、DQⅩに登場する道具。毒蛾から採取される燐粉。戦闘中に使うと、ⅢとⅦでは敵1体を混乱、ⅨとⅩでは麻痺させることができる。
 
盗賊の秘伝書:DQⅨに登場する秘伝書の一つ。戦いで、より多くの戦利品を得るための極意が書かれた書。盗賊の道を極めた者だけがこれを読むことが可能になる。これを所持している味方は、たまに魔物のアイテムを自動的に盗むことができるようになる。

ザラキ:DQⅡ以降に登場する呪文。敵1グループに「死の言葉」を浴びせて即死させる死の呪文。作中の詠唱は「ENIX ORIGINAL GAME BOOK DRAGON QUEST Ⅱ 悪霊の神々」より。


後半、急速にドラクエ分が減った……。
次回以降は頑張ります……。


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39話 ケルベロス

今更になってタイトルが分かりづらいのではないかと思い始めるというダメっぷり。
“時を失った英雄”は一応「ドラゴンクエストモンスターズ+」という漫画からなのですが……。


  

 

 夕闇はどんどん夜の暗さに変わる。街はこれから始まるであろう激戦を予期させるようなどんよりとした空だ。

 駒王学園の校門前にはキバくんを除くリアス達オカルト研究部のメンバー、ソーナ達生徒会の皆だ。

 学園の周りにはオパールの様な光沢を帯びた乳白色の結界が張られている。それを展開しているのはソーナ達である。

 

 

「リアス先輩、リュカさん。学園を大きな結界で覆っています。これで余程のことがない限りは外に被害は出ません」

 

 

 サジくんが僕とリアスに説明してくれた。確かにあれだけの力を持つ堕天使が無秩序に暴れまわったら大変なことになるだろう。

しかし、今まで様々な場面で戦ってきて、被害を抑えるために結界を張るという発想に至る事が無かった。ニセ太后だのブオーンだのとの戦闘でも全く思い付かなかったのだ。

 十代の若者に配慮で劣るとは……、少し反省すべきだろう。

 

 

「これは最小限に押さえるためのものです。正直言って、コカビエルが本気を出せば、学園だけでなく、この地方都市そのものが崩壊します。

 更に言うなら、すでにその準備に入っている様子なのです。校庭で力を解放しつつあるコカビエルの姿を私の下僕が捉えました。

 攻撃を少しでも抑えるために私の眷属はそれぞれの配置について、結界を張り続けてます。

 出来るだけ結界は維持しますが、学園の崩壊は免れないかもしれません。耐え難いことですが……」

 

 

 イッセーくん達が一層険しい顔をする。自分達の通う学校が破壊される可能性が強いというのは耐え難い事だったのだろう。リアスが代表して決意を口にする。

 

 

「……そんなことはさせないわよ。ありがとう、ソーナ。あとは私達がなんとかするわ」

 

「リアス、相手は桁違いの化け物ですよ? 

 確実に負けるわ。今からでも遅くないわ、あなたのお兄様へ―――」

 

「あなただって、お姉様を呼ばなかったじゃない!」

 

 

 ソーナの提案をリアスが拒否する。彼女の心情を慮れば不思議はないのかもしれない。

 リアスはこの街の管理者としてのプライドが強い。実の兄とはいえ他者の助けを素直に受け入れられないのだろう。

 確かに気持ちは分かるがこの状況では少々浅はかではないか、と思わなくもないが……。

 そんなことを考えているとイッセーくんがおずおずと尋ねてきた。

 

 

「えーっと……、別に魔王様を呼ばなくてもリュカさんがいれば何とかなるんじゃ……」

 

 

 その言葉を聞き、周りの皆が一斉に僕に目を向ける。

 僕のコカビエルに対する見解を知りたいらしい。それを踏まえ自身の考察を述べることにする。

 

 

「そうだねぇ、コカビエルだけなら僕と皆が力を合わせれば倒せるかと思うよ」

 

 

 ソーナ達が驚いた顔になった。この世界におけるトップクラスの実力者にあっさりと“勝てる”等と言えば驚きもするだろう。

 しかし、僕は苦々しい思いでこう続ける。

 

 

「……ただ、僕からすればコカビエルよりも、あのラエボザという神父の方が気がかりだ。

 あれは必ず何か仕掛けてくる。それも失敗してしまったときのために二重三重に対処を用意している、そういうタイプだ」

 

 

 先日出会った謎の司教―――小柄な体躯、老獪で残忍な眼光を放つ男。

 彼の放った呪文は正に驚きであった。“死の呪文・ザラキ”―――聞いた者を死に追いやる呪詛。まさかこの世界で受けることになるとは思わなかったのだ。

 調べてみたら、この呪文はこの世界にも冥界にも存在しないという。

 その事を踏まえると、僕と同じ異世界の者である可能性が強い。ひょっとしたらスーパーキラーマシンやいにしえの魔神と関わりがあるのかもしれない。

 

 

「だから、絶対に用心するべきだ。僕もサーゼクスくんを呼んだ方がいいと思う。それにソーナさんのお姉さんも……」

  

 

 僕の勧めにソーナは首を振った。

 

 

「私の所は……。リアスの、あなたのお兄様は、あなたを愛しておられるしょう。サーゼクス様なら必ず動いてくれるハズです。ですから……」

 

「っ……」

 

 

 ソーナが憂いを含んだ声色で姉を呼びだす事を拒絶する。何やらシトリー家では家族間に問題があるようだ。出来る事なら力になってあげたいが……。今はそれどころではないだろう。

 一方、リアスは不機嫌だ。了承しかねる、そう言いたげな表情だ。

 

 そこに、ヒメジマが予想外の事を言い出した。

 

 

「サーゼクス様には、私の方から打診しておきましたわ」

 

 

 その言葉を聞きリアスが目を剥く。

 

 

「朱乃!? あなた何を勝手に!」

 

「リアス、あなたがサーゼクス様にご迷惑をおかけしたくないのは分かる。けれど相手は堕天使の幹部。

 それに加えてリュカさんが警戒するほどの相手もいるのよ。あなた個人で解決するレベルを超えているわ」

 

「っ……」

 

「……魔王様の力を借りましょう」

 

 

 ヒメジマがリアスに厳しく告げた。普段はオカルト研究部の部長であり自身の主でもある彼女を常に立てるが、緊急時はきちんと苦言を呈する。No.2のポジションにある者としての非常に好ましい振る舞いにかなり感心した。

 

 

「……はぁ」

 

「サーゼクス様の軍勢はおよそ一時間程度で到着する予定ですわ」

 

「まったく、あなたには敵わないわ……。一時間ね」

 

 

 リアスも漸く納得したようだ。感情では兄に頼る事をよしとしなかったものの理性で動けるあたり、彼女も人の上に立つ者としての資質は十分にあるということだろう。

 

 

「イッセー、あなたにはサポートに徹してもらうわ。高めた力をギフトの能力でみんなに譲渡してほしいの」

 

「成る程! 了解です!」

 

 

 前回のフェニックス戦で新たに身に付けたという『譲渡』。確かにイッセーくん自らが戦うより自力で勝るリアスやヒメジマのパワーアップに使った方が良いかもしれない。

 僕も『不思議なタンバリン』で援護でもしようか………。

 

 

「リュカさんは前衛をお願いするわ。皆を守ってちょうだい」

 

「えっ……ああ、分かったよ」

 

 

 うーん……、タンバリンは次回以降に持ち越しか。まあ、頑丈さでは僕の方がリアスたちよりも上だろうし、そっちの方が向いているかもしれない。それでいいだろう。

 

 

「ライザーとの一戦とは違って、命をかけた戦いになるでしょう。でも、私達に死ぬことは許されないの! 

 可愛い私の下僕達、みんなで生きて帰って、この学園に通いましょう!」

 

「「「「はい!!」」」」

 

 

 紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)が号令を掛け、眷属達が力強く答える。

 主従の姿には、すでに歴戦の王者と、それに付き従う忠勇なる家臣達の風格が備わっている。魔王の妹というのも伊達ではない。

 

 ……僕も街中に散らばっている仲間達に連絡を掛けておくか。

 

 こうして僕とオカルト研究部のみんなは古の堕天使が待ち構える学園へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 みんなと一緒に真正面の校門から堂々と敷地へと入る。

 そこには奇怪な光景が広がっていた。

 結界の魔力によって妙な色合いの光の揺らぎを帯びた空の下、広い校庭の真ん中に四本の聖剣が神々しく輝きながら浮かんでいる。その下には運動場の地面に巨大で複雑な魔法陣が書き込まれている。

 

 そして、その中央に初老の神父―――バルパー・ガリレイがいた。

 

 

「あれは一体……?」

 

「四本のエクスカリバーを一つにするのさ。あの男の念願らしくてな」

 

 

 イッセーくんの呟きに答える者がいた。

 コカビエルだ。上空に浮かぶ豪奢な椅子に足を組み腰掛けている。その姿は何とも様になっていた。

 

 

「それでバルパー、あとどれぐらいでエクスカリバーは統合できる?」

 

「三分も掛からんよ、コカビエル」

 

「そうか。では、そのまま続けろ」

 

 

 老神父から作業の進捗状況を確認したコカビエルは、今度はこちらを見下ろしてきた。

 そして、リアスに尋ねる。

 

 

「サーゼクスは来るのか? それともセラフォルーか?」

 

「お兄様とレヴィアタン様の代わりに私達が―――」

 

 

 リアスの言葉をおとなしく聞いていたコカビエルであったが、途中から双眸が剣呑な光を帯びた。

 

 悠久の時を生きる堕天使が軽く手を振り降ろした。

 

  ドガアアァァァッッンン!!!

 

 近くにあった体育館が、一瞬にして瓦礫と化した。おそらく自身の不機嫌さと強大な力を示すためにそうしたのだろう。

 

 

「つまらん。全く以ってつまらん。まあいい。余興にはなるだろう」

 

 

 成る程、確かに強い。今の時点ではカラワーナ達とは比べ物にならないだろうということは一目で分かった。

 しかし、同時に喜ばしいことでもある。

 悪魔が下級悪魔から成長し中級、上級悪魔へとクラスチェンジする事は聞いていた。

 堕天使も修行次第ではこれくらいにはなれるということなのだろう。

 

 まあ、レイナーレ達には今のうちに「どんなに強くなっても周りにある建物を無闇に壊さないように」と言っておくか。一々直すのが大変そうだし。

 

 その一方で、イッセーくんは何やら武者震いしている。その腕に宿る赤龍帝ドライグと何やら会話しているようだ。

 

 

『ビビってるのか、相棒?』

 

「あんなデケェ光の槍、見たことねぇぞ! 次元が違うじゃねーか!!」

 

『あぁ次元が違うさ。アイツは過去の魔王達と神を相手に戦い、生き残った男だからな』

 

「そんな奴に勝てるのか!?」

 

『いざとなったら、お前の身体の大半をドラゴンにしてでも勝たせてやるさ』

 

 

 半永久ドラゴラムか……。そう考えると意外に悪くないかもしれない。妻からはどやされるだろうが。

 イッセーくんもそう思ったのだろうか。腹を括ったらしい。コカビエルを強く睨みつける。

 

 

「大半、ね。そういうレベルってことかよ!」

 

「折角来てくれたんだ。俺のペットと遊んでもらおうか」

 

 

 半笑いのコカビエルがパチンと指を鳴らす。すると、暗がりから大きな生き物が近づいてくる気配がした。

 現れたのは二匹の9~10mぐらいある犬っぽい魔物だった。大型の肉食獣の特徴として脚が非常に発達していて、そこから鋭い爪が生えている。あれに引っ掻かれたらけっこう痛そうだ。

 赤い目に、ギラギラ光る牙。口からは炎が漏れ出ている。

 そして何より頭が三つ(・・・・)あった。

 

 ふぅむ、首が三つというのは珍しいな。戦った事は無いが、竜皇帝バルグディスなるドラゴンが三つ首だというのは聞いた事がある。

 しかし、首の数と大きさを除けば『地獄の番犬』や『ケルベロス』に近いかな……。

 

“地獄の番犬”、“ケルベロス”―――共に異世界で遭遇した魔物。その姿は大きめの犬に近いが頭が二つという特徴がある。その両の首で素早く何度も噛みついてくるなかなか手強い敵だった。

 

 しかし、その大きさは精々4~5m。首は三つではなく二つだ。

 

 

「う~ん、何ていう魔物かな。地獄の番犬でもないしケルベロスでもないしなぁ……」

 

「いえ、ケルベロスで合ってるわよ!?」

 

「冥界の門に生息する地獄の番犬ですわ!」

 

 

 僕の呟きを聞いたリアスとヒメジマが教えてくれる。

 

 ふ~ん……。ああ、そういえば前にもこういう事があったっけ……。

 

 魔物の姿や特徴、名前には世界ごとに微妙な食い違いがある。

 例えば、“大魔道”という魔物は世界によって大きく異なる外見をしており、ローブに杖を携えた者や、大柄で胸当てと肩鎧を装備した者。小さなドラゴンを引き連れた者などがいた。

 

 そういえば古文書で呼んだがジパングの“やまたのおろち”って何で『やまた』なんだ?

 この世界にも『八岐大蛇』は居たそうだが、首が八つあったそうだし……。

 ジパングの伝承では首は五つなんだよなぁ……。だったら『五岐大蛇』じゃないか。

 それにヒュドラも、この世界では首は九つだし……。

 ひょっとしたらあの世界の奴は足も含めるのか? それならヒドラが九岐というのは合うな。

 でも、肝心のやまたのおろちは一岐分多くなるぞ……?

 

 

 そんな益体もない事を考えてしまう。そうこうしていると―――

 

 

「「「GYAOOOOOOOOOOOOOOOHH!!!!!」」」

 

「うおッ!!」

 

 

 三つの首が同時に咆哮し、かなり吃驚した。

 そんな僕を尻目に、リアス達は決死の面持ちでケルベロス達に向かって行く。

 

 

「人間界に持ち込むなんて……行くわよ! 小猫! 朱乃! リュカさん! 

 イッセーは手筈通り力を高めてちょうだい!」

 

「「はい、部長!」」

 

「いくぜ! ブーステッド・ギアァァッ!!」

 

 

 事前の打ち合わせの通りにリアス、ヒメジマ、トウジョウが迎え撃ち、その間にイッセーくんが力を倍化させ譲渡する構えだ。

 戦術としては正しい。しかし、(イッセーくん)神器(セイクリッド・ギア)の性質上、時間が掛かるのが難点だ。次からはそこら辺は改善していくように言い含めるとしよう。

 

 僕の方も皆に守備呪文(スカラ)でもかけた後に前に出るか……。ん?

 

 今まさにリアス達に向け補助呪文を掛けようとしていたとき、状況に変化があった。

 オカルト研究部の皆に向け“激しい炎”を吐こうとしていた二頭のケルベロスが、ふとこちらを見てきたのだ。

 殺意に満ちた十二の瞳と視線が交差する。

 

  次の瞬間―――

 

 

「「「GUOOOOOOOOOOOHH!!! 」」」 「「「GAAAAAAAAAAAAHH!!!」」」

 

 

 一頭につき三つずつ。計六つもの巨大な口から僕に向けて“激しい炎”が吐き出された。

 

 

「バギマ!」

 

 

 半ば条件反射的に中級真空呪文を唱える。それによって生じた風の障壁によって焔を遮断され、この身を焼く事はなかった。

 自慢の炎を防がれた事に一瞬だけ茫然自失となった三頭犬達だが、今度は直接に僕の頭を噛み砕くべく吶喊してくる。

 黒い猛犬が口から泡と炎を吹き、放たれた矢の如く向かってくる。

 その姿を見て、何故か場違いのこと思い出した。

 

 何だか懐かしいな、彼女(・・)との出会いも確かこんな感じだったか……。

 

 自分の元居た世界。西方の大きな街サラボナ。大富豪ルドマンが街の半分近くを所有する商業都市。

 そこで一人の女性と出会った。美しい蒼い髪の白い薔薇の様な(ひと)

 

 あの時もリリアンがこんなふうに向かって来たんだっけ……。まあ、いいか。

 

 遠い異世界に渡って来た。にも拘らず自分は今もまた良く似た風景を目にしている。

 その不可思議な因果に思うところがあった。

 故に、二頭のケルベロスに向け手を差し伸べる。

 

 

「怖がらなくてもいい。さあ、おいで―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「キャンッ、キャンッ、キャンッ!!」」」 「「「ガウ~、ゴロゴロゴロ……」」」

 

「ははは、くすぐったいよ。よしよし、いい子だから―――」

 

「「「「……………………」」」」

 

 

 三頭犬達がじゃれ付いてくる。体が大きいものだから舌まで大きい。それが六枚もだ。ケルベロス達が僕に親愛の情を込めて顔をペロペロ舐めてくれる。

 おかげで顔中ベトベトになってしまった。だが、そんなことはどうでもいい。

 まだ二頭とも前脚を肩に掛け、顔のみならず腕だの耳だのも舐め回しているが、顔を上げ上空にいるコカビエルを仰ぎ見る。

 コカビエルは―――というより他のリアス達も含めてだが、目をまあるく見開いて口をあんぐり開けていた。

 そんな彼に尋ねる。

 

 

「ねえ、コカビエルくん。この子たちの名前は?」

 

「…………何者だ、お前は」

 

 

 今や魔王の妹とその眷属など一切眼中になく、彼は僕だけを錐のような鋭い目で見ていた。

 

 

 




リリアン:Ⅴに登場。フローラの飼い犬の名。


ドラクエⅢが発売されてから何年も経つのに未だ解き明かされないやまたのおろちの謎。
どう考えても“ごまた”やん!!


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40話 禁手

やっとこさ40話。
これからも頑張ります。


   

 

「何者か……かい?

 ふーむ、僕はリュカ。ただの旅人さ。リアスさん達の友人だ」

 

 

 ケルベロス達を手懐けた僕に対し、警戒感を露わにするコカビエル。

 彼の問いに対し、出来得るだけ真摯に答える。

 

 

「彼女達とはひょんなことから知り合ってね。今はこの近くのアパートに住んでるんだ。

 それから―――」

 

「そんな事はどうでもいいッ!」

 

 

 コカビエルに怒鳴られた。どうやら彼の望む答えではなかったようだ。

 しかし、『お前は何者だ?』という問いは些か抽象的すぎて答えづらい。

 

 

「そうだねぇ……。ケルベロスくん達を手懐ける事が出来たのは僕が“魔物使い”だからかな?

 いや、それを抜きにしても自慢じゃないが昔から犬には懐かれるんだ。僕から犬好みの臭いがするんじゃないのかな」

 

 

 (コカビエル)に納得してもらうために持論を述べてみる。

 魔物や動物からは懐かれやすい体質だが、犬からは特にだ。飼い主以外には懐かなかったリリアンとも友になれた。

 否、猫からも懐かれる。何せ最初の仲間モンスターたるプックルも猫だ。

 犬と猫、どちらにより好かれるか―――。正直、かなり微妙な差だ。

 

 

「うーん。僕は猫からも懐かれるんだが、犬も猫も両方好きなんだ。よく『貴方は犬派? それとも猫派?』なんて質問をされるが、僕はどちらも好きでね……。

 君はどうなんだい? ああ、いや……こうして二頭も大型犬を飼ってるんだ。言うまでもなく犬派なんだろうね」

 

 

 そう言いつつ、二頭いる三頭犬の三つある首の、それぞれその内一つの喉を掻いてやると、二匹とも三つ全ての頭の目が気持ち良さそうに細くなる。その様子は実に可愛らしい。

 

 

「で? この子達の名前は何て言うんだい?」

 

 

 宙に浮かぶ玉座に座るコカビエルを見上げながら、先程と同じ質問をする。

 しかし、古の堕天使はその問いには答えず、驚きの表情から、今度は何とも愉快だ、と言わんばかりの表情になった。

 

 

「ククク、アーハッハッハッ! リアス・グレモリー! 貴様の“友人”とは、何とも面白い男ではないか!

 サーゼクスが来ないと聞いてガッカリしたが、これは思ったより楽しめそうだ」

 

 

 その言葉を聞き、リアスは実に渋い顔をする。

 どうやら、僕はコカビエルに気に入られたらしい。

 この街の管理者たる彼女からすれば、自分達より僕の方が気を引くという言葉が気に食わないらしい。

 しかし、その一方でコカビエルに同意する部分もある、といった顔付きだ。

 

 

「そうね、この人は面白いわよ。色んな意味で」

 

「あらあら。そうですわね。リュカさんは……」

 

「……優しい人です。ぶっ飛んでますが」

 

「そうッスよね~……」

 

 

 オカルト研究部の皆も思うところがあるようだ。

 まあ、今は気にしないでおこう。あとでゆっくり尋ねればいい。

 

 

「まあ、ともかくだ。この街を破壊するのはやめてもらえないだろうか?」

 

「何?」

 

 

 気を取り直し本題に入る。

 僕の言葉を聞いたコカビエルは怪訝な、それでいて好奇心を引かれたような顔をする。

 

 

「君は力を振るいたいのだろう?

 それなら僕が相手になるよ」

 

「人間風情が何を言うかと思えば―――」

 

「人間風情でも君みたいな者はいるさ。

 強い力を持ち、尚且つその力を持て余してしまう。

 そういう者はヒト、天使、堕天使、悪魔、ドラゴン、魔物……種族を問わずに存在する。

 そうした欲求に答えてあげるのも、また“愛”なのだろう」

 

 

 人も魔物も堕天使も、相手を自分と同じ尺度で見てしまう。

 それでいて周りから自身が顧みられることが無いと、周囲に鬱屈とした感情を持つことになる。

 今の彼は正にそれなのだろう。

 現在、『神の子を見張る者(グリゴリ)』は総督アザゼルを始めとして停戦派が主流だ。彼の様な戦争再開派はほとんどおらず、不満が貯まっているに違いない。

 

 

「君は“戦争”がしたい。なら、相手は誰でもいいのだろう?

 では僕が相手になろう。それで不満が解消できたのなら、おとなしく冥界に帰ってくれないだろうか」

 

 

 僕の提案を聞いたコカビエルは鼻を鳴らした。

 

 

「フン、人間風情があまり調子に乗るな。それに―――」

 

 

 次の瞬間、強烈な殺意を感じた。

 

 

「ケルベロスはもう一匹いるぞ」

 

 

 僕らの背後から小山のような大きさの三頭犬が飛び掛かって来た。

 だが、その魔物の目標は僕ではない。リアス達だ。

 

 ―――しまった。

 

 自分に向けられた殺気にはかなり敏感だが、他者に向けられた者はそう簡単には気が付けない。

 どんなに熟練の冒険者であっても“身構える前に襲いかかって”こられたり、“いきなり襲い掛かって”こられたりすると対処できないのだ。

 

 

「リアス! ヒメジマ! 避けろ!」

 

 

 

 追加で現れた三匹目のケルベロスがリアスとヒメジマに差し迫る。

 僕が警告のために大声で叫んだが、彼女達の回避は間に合わない!

 

 だが、そこへ――――

 

 

「ハァァァァアアアアッッ!!」

 

 

 ズッガァァァアンッッッ!!!

 

 

 一閃!

 

 黄金に輝く剣を持った黒い人影が校舎の上から飛び降りてきて、その勢いのまま聖剣を振り降ろし、魔犬の首の一つを落とした。

 

 

「ゼノヴィアッ!」

 

「待たせたな!」

 

 

 現れたのはエクスカリバーを携えた教会からの使者ゼノヴィアだ。

 しかし、やって来たのは彼女だけではなかった。

 

 

「『魔剣創造(ソード・バース)』!!」

 

 

 三つある内の一つの頭が無くなったのにも拘らず、残る二つの首の大口から“激しい炎”を噴こうとするケルベロスがいる地面から大量の魔剣が生え、三頭犬を串刺しにする。

 

 

「木場っ!」

 

 

 木陰からキバくんが現れた。どうやら来ていたらしい。

 

 

「部長! 朱乃さん! 今のうちに止めを!」

 

 

 『魔剣創造』によって三頭犬を地面に磔にしたキバくんがリアスとヒメジマに呼び掛けた。

 それに応え、悪魔の少女達が宙を駆ける。

 

 

「はぁぁあああっ!」

 

「天雷よ! 鳴り響け!」

 

 

 二人がそれぞれ得意とする雷と滅びの魔力を最大出力で、深手を負ったケルベロスに放つ。

 

 

「ああっ……! ちょっと待ってよ、二人とも!」

 

「……少しは自重して下さい」

 

 

 折角、もう一匹いたのに黒焦げになっていく三頭犬の姿を見せつけられ僕が堪らず叫ぶ………だが、トウジョウに冷たくツッコまれた。

 

 仲間に出来たケルベロス達に目を向けると二頭とも計六つの目が全て痛々しい悲しげな目をしている。

 申し訳なさに胸が締め付けられる。

 

 

「ゴメンよ……! 君らの仲間を守ってやれなかった……!」

 

「「「クゥ~~~ン」」」 「「「バウ……」」」

 

「いやいや、それは悲しむポイントですかっ!?」

 

 

 僕とケルベロス達が悲しみを分かち合っていると今度はイッセーくんにツッコまれた。

 喪われた命を惜しみ、悲しみ、弔おうとする……それはそんなにおかしいのだろうか?

 

 ……と、一瞬考えはしたが、一応、彼らオカルト研究部にとってこのケルベロス達は残念ながら敵と言わざるを得ない存在だ。

 “愛”を以って戦い、命を奪わず勝利する……そして、互いに理解し合い誼を結ぶ。

 それは“愛”の行きつく先、言うなれば境地だ。

 無論、全ての敵とそのようにできれば越したことはないが、忸怩たる思いではあるがそうはいかない。

 この僕でさえそうなのだ。これまでの冒険で数え切れないほどの魔物を屠っている。

 より若い彼女達にどうしてそれを求められようか。

 

 全てを救おう等というのは傲慢だ。

 しかし、より多くを救おうと思うのであればより強くあらねば―――!

 そして、より深く、より強く愛さなければ―――!

 

 ……いや、それではただの押し付けだ。あまり一方的すぎるのもいただけない……。

 やはり“愛”とは奥深いものだ。それを彼ら(オカルト研究部)の皆に伝え、導く事が出来れば―――

 僕もまだまだ未熟だ。精進せねば……。

 

 僕が改めて、そう決意していると若人達に動きがあった。

 事前の打ち合わせ通りに赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)で力を増幅し、それをリアスに譲渡したのだ。

 それを紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)は滅びの魔力とし、コカビエルに叩き付ける。

 

 

「喰らいなさいッ!!」

 

 

 リアスが吠え、赤黒い魔力が奔流となって太古の堕天使に襲い掛かる。

 

 ―――しかし……

 

 

「フン! 赤龍帝の力があれば、ここまで力が引き上がるのか、面白い! これは酷く面白いぞ!!」

 

 

 コカビエルはリアスの魔力を片手で受け止め、往なし、逸らし切った。

 五対十枚の羽を持つ堕天使は悠然と佇んでいる。 

 その光景に魔王の妹とその眷属達は絶句した。

 

 その一方で、僕達の戦いを余所に黙々と自身の作業に徹していた男がいる。

 

 ―――バルパー・ガリレイだ。

 

 

「……完成だ!」

 

 

 バルパーが呟いた。どうやら儀式が終了してしまったらしい。

 宙に浮かぶ四本のエクスカリバーが強く輝き、光と共に集束していく。

 四振りの聖剣は一つの剣となる。

 

 

「ふはははっ! これでついに……!」

 

 

 自分の前に現れた聖剣の、神々しさと禍々しさを併せ持つその姿を見た老神父が狂喜の声を上げる。

 

 

「更に聖剣が一つに統合される際に生じる力を利用することで、下の術式も完成した。

 あと20分もしないうちにこの街は崩壊する」

 

 

 ふむ……まあ、これだけの魔力が篭った魔法陣だ。それぐらいの火力は出るだろう。

 

 差し詰めこの世界におけるマダンテのようなモノだ。

 暴走した魔力が全てを薙ぎ払うであろうことは容易に想像がつく。

 些か不味い状況だ。僕が闘気を全開にして封じ込めても防ぎ切れないかもしれない。相当なダメージを覚悟する必要がある。

 

 

「防ぎたければ、この俺を倒すしかないぞ。どうする? リアス・グレモリー!」

 

「知れたことッ!!」

 

 

 コカビエルの恫喝に怯むどころか向かって行く勇気を見せるリアス・グレモリー。その姿は実に雄々しく美しい。

 だが、この堕天使の前では、それはあまりにも儚い―――。

 

 

「破ッ!!」

 

 

 リアスが更に滅びの魔力を放つ。だが……

 

 

「フンッ! 馬鹿めっ!」

 

 呆気なく弾かれた。

 そしてその際に生じた衝撃波で彼女は吹っ飛ばされる。

 

 

「部長ッ!!」

 

 

 イッセーくんが慌ててリアスの方に向かおうとするが、彼女は(・・・)空中で体制を立て直した。

 だがもう一人はそうはいかなかった。吹き飛ばされたのはリアス一人ではなかったのだ。

 

 

「きゃぁぁああああ!?!!?」

 

「朱乃さぁぁぁアアンッ!!」

 

 

 ヒメジマもリアスに続きコカビエルに攻撃を仕掛けようとしていた。

 だが、リアスの攻撃をはじいた余波で吹っ飛ばされてしまい、地面に叩き付けられかけている―――

 

 

「ピオラ!」

 

 

 僕自身は離れた場所にいるため間に合わない。

 そこで一番近くにいたイッセーくんに加速魔法(ピオラ)を掛け援護した。

 

 僕の魔法の助力を得てイッセーくんが駆け出す。

 

 

  ガバッ!

 

 イッセーくんが何とかヒメジマを受け止めた。

 

 

「っ……イッセーくん!?」

 

「大丈夫ですか! 朱乃さん!」

 

「ごめんなさいね……。折角イッセーくんが……」

 

「そんなこと、どうだっていいんスよ!」

 

 

 危うく自分が地面に衝突しペチャンコになりかけたのに、ヒメジマは(イッセー)が作ったチャンスを潰してしまった事を悔いる。

 実に健気な娘だ。その様が何となく親友の妻を思い出させた。きっと彼女も良い奥さんになるだろう。

 嗜虐的なところを除けばだが―――

 

 

「テメェよくも朱乃さんをッ! 絶対に許さねェ!!」

 

「……やっぱり、男の子ですね」

 

 

 コカビエルに向かってイッセーくんが吠える。

 そして、その様子をヒメジマが熱っぽく見詰めてる。

 う~~ん……ヒメジマがイッセーくんに対して好意を抱いている事は何となく察していたが……。

 イッセーくんは大丈夫なんだろうか? 正直、電気系の魔物は素人にはキツい。痺れ海月のしびれんやメガザルロックのメガーザが痺れ攻撃だの稲妻だのを寝惚けて撃ってきたとき、初めのうちは感電死するかと思った。

 今のイッセーくんではフィジカル的にヒメジマの相手は些か荷が重いと思ってしまう。

 まあ、余計な心配かもしれないが……。

 

 いや、今はそんな心配をしている場面ではないが。

 

 

 すると、今度はキバくんが前に進み出た。

 その眼には強い決意が秘められている。いよいよ長年の宿願を果たす気らしい。

 ゆっくりとバルパーに歩み寄り、口を開く。 

 

 

「バルパー・ガリレイ、僕は聖剣計画の生き残り……いや、正確には貴方に殺された身だ」

 

「ん?」

 

 

 糾弾されたバルパーがキバくんを正視する。

 そして、キバくんは言い募る。

 しかし、上空から不穏な空気を感じた―――

 

 

「悪魔に転生したことで、こうして生き永らえている。僕は死ぬワケにはいかなかったから! 死んでいった者達の仇を討つためにッ!!」

 

 

 ブゥン―――!

 

 

「危ない! 祐斗!!」

 

 

 バルパーに詰め寄るキバくん。

 そこにコカビエルが光の槍―――先程、体育館を吹き飛ばした物に比べれば小振りだがレイナーレ達のより遥かに長大なものを投げつける。

 リアスが叫んで警告することで、キバくんも辛うじて避けたみたいだが、衝撃で体を地面に叩き付けられた。

 

 

「ぐはっ!」

 

「直撃は避けたみたいだな。フン、すばしっこい奴だ。フリード!」

 

「ハイな、ボス♪」

 

 

 コカビエルが下にいた者に呼び掛ける。

 出て来たのは暗黒闘気によって髪の色が白銀から漆黒に変質したはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)フリード・セルゼンだ。相変わらず口元に正気を失ったような笑みが張り付いている。

 獲物を見るような目つきでキバくんやリアス達を睥睨した。

 

 

「最後の余興だ。四本の力を得たエクスカリバーで、コイツ等をまとめて始末してみせろ」

 

「へへーい! 超素敵仕様になったエクスなカリバーちゃ~ん♪ 確かに拝領しましたでござますん!

 さァて~、誰から殺っちゃいましょ~かね~♪

 ……ってそんなモン、そこのイカれたバンダナ男から決ってるじゃん! 僕ちん、うっかり~~♪」

 

 

 ……う、う~~ん……どうやら、僕はフリードくんに完全に嫌われてしまったらしい。

 別に嫌われるような事をした憶えはないのだが……。

 

 人の心とは複雑なものだ。本人は良い事をしたと思っていても相手からすれば嫌なことだったというのは良くある話だ。

 彼と分かり合うにはもっと時間を掛けゆっくり話し合わなければならないだろう。

 

 一方、地面に叩き付けられたキバくんは、かなりのダメージを受けながらも気力で以ってゆっくりと立ち上がった。

 そんなキバくんをバルパーはジッと観察していたが、何を思ったのかキバくんに薄ら笑いを浮かべつつ話しかけてくる。

 

 

「ぐっ……はぁ、はぁ……くっ……!」

 

「被験者が一人脱走したままと聞いていたが、卑しくも悪魔に堕ちておったか」

 

 

 自身の所業は棚に上げバルパーはキバくんを侮蔑する。

 何と言うか……こう言った言葉を聞くと僕と彼らの間には善悪のあり様に大きな価値観の隔たりがあるようだ。

 その相違を埋めていくのはかなり骨だろう。

 

 

「しかし、なかなか数奇な運命を感じるぞ。こんな極東の国で出会うとは。

 それに君らには感謝している。おかげで計画は完成したのだからな」

 

「完成……!?」

 

「―――私は聖剣が大好きでね。

 幼少の頃、エクスカリバーの伝記を読み、心を躍らせたものだ……。

 それ故に、大人となり自分がエクスカリバーを扱う才能が無いと知ったときの絶望感といったらなかった」

 

 

 そこで一旦、話を切るバルパー。

 確かにその思いには共感できる。

 親友のヘンリーと共に潜ったサンタローズの洞窟。そこで自分では「天空の剣」を扱えないと知ったときの絶望は相当堪えた。

 このバルパーという老人も似たような思いをしたのだろう。

 

 

「それからというもの、私はエクスカリバーの使い手を人工的に生み出す研究に没頭した。

 それでようやく聖剣の担い手となるべき者はとある『因子』を持っていることが分かったのだ。

 故に、その因子を持つ君達を、適性者として集めさせた。

 

 ―――だが、君ら適性者の持つ『因子』は、聖剣を扱えるまでの数値を示さなかった!

 そこで一つの結論に至った。

 『被験者から因子だけを抜き出せばよい』!

 そして結晶化することに成功したのだ! これはあの時の因子を結晶化した物だ!」

 

「っ!!」

 

 

 老神父が懐から青い結晶を取り出した。

 それを皆が食い入るように見つめる。

 

 

「これが最後の一つになってしまったがね」

 

「グヘヘヒハハハハ!! 俺以外の奴等は途中で身体が因子についていかなくて死んじまったんだって♪

 そう考えると、やっぱ俺ってつくづくスペシャル仕様ザンスねー!!」

 

 

 フリードが悦に入って哄笑する。

 その姿を見ながら薄ら寒いものを感じた。

 

 “人工的に聖剣使いを産み出す”か……。

 

 あの時はそんなこと、考えもしなかったが……もし、それが可能だったら、僕はどうしていただろうか。

 

 人工的に勇者を生み出す。その考えのなんと恐ろしく、なんと蠱惑的なことか―――

 

 だが、そんなことは在ってはならない。

 

 勇者とは自身の意志によってなるものだ……とは言い切れない。

 だが、そうあるべきだと信じたい。

 息子に“天空の血を引く者”として勇者の重責を負わせた僕が言える事柄ではない。

 ―――だが、人工的に適性者を造るなど在ってはならない。まして他者の犠牲の上になど言語道断だ。

 

 また、何かに気付いたような反応を見せた者がいる。ゼノヴィアだ。

 

 

「あれは……聖剣使いが祝福を受ける時、あのようなモノを身体に入れられるが……。

 因子の不足分を、補っていたという訳か……」

 

 

 どうやら彼女には見覚えがあるらしい。

 しかし、ということは――――

 

 

「偽善者共めが! 私を異端として排除しておきながら、厚かましく私の研究だけは利用しおって! 

 どうせあのミカエルのことだ、被験者から因子を抜き出しても殺していないだろうが、な。その点だけ(・・)は私よりも人道的かもしれん」

 

 そんな計画の産物を利用するって―――。

 

『お優しいイブール様は、生贄共を屠る様を見たくないげる、弱気な事をおっしゃるげる……。

 ……あの方は、俺と違って、人間の肉を旨いと思わないらしいでげる……おかげで、好きなだけ喰えるげる!あはあは、喰って長生きできるげる!』

 

 バルパーの言葉を聞き、何故か光の教団で母マーサに化けていた魔物の事を思い出す。

 教会の指導者であろうミカエルとやらが何となくラマダっぽい奴に思えた。

 身内のおぞましい所業を自らの利益のために利用する。ただその構図が少し似ているというだけであるが……。

  

 

「僕等も殺す必要はなかったはずだ! どうしてッ!?」

 

「お前等は極秘計画の実験材料に過ぎん! 用済みになれば廃棄するしかなかろう」

 

 

 ……酷い。何と惨たらしい。

 光の教団の信者だった親友の妻マリアも同じような目に会ったことがある。奴隷を過酷に扱う教団のやり方に疑問を持った彼女を信者仲間のロリーが教祖の所持する皿を割ったという罪を着せ奴隷にしたのだ。

 秘密を握った者の口封じをする……イヤな共通点だ。尤も殺してしまうのと奴隷にすることのどちらがより酷いのか分からないが。

 あまりの非道さに、皆一様に言葉を失う。

 

 

「僕達は……主のためと信じて、ずっと耐えてきた……。

 それを……それをッ……実験材料……? 廃棄……!?」

 

「欲しければくれてやる! 最早さらに完成度の高めたモノを量産出来る段階まできているのでな」

 

 

 やり場のない怒りに、悲しみに、憎しみに悶え苦しんでいるキバくんに向かって、バルパーは因子の結晶を投げ捨てた。

 

 それを拾ったキバくんは哀しそうに、愛おしげに、懐かしそうにそれを握りしめる。

 

 

「皆……」

 

「許せねェッ! ジジイ、テメェェエエッ!!」

 

 

 イッセーくんが涙を流しながら激高する。仲間の思いを踏みにじるかのような振る舞いに忍耐の限界に達したようだ。

 

 

「バルパー・ガリレイ……あなたは、自分の研究、欲望のために……どれだけの命を弄んだ……?」

 

 

 キバくんが静かな口調で語り出した。これまでの怒りで冷静さを欠いたものではない。

 何かを悟ったらしい。

 

 

  そのときだ―――

 

 キバくんの握りしめる因子の結晶から強い力を感じた。

 その力はバルパーがまるではがねの剣を造るために集められた鉄鉱石の如く扱われたにも拘らず、そのような無機質さは一切なく、寧ろ強烈な遺志と慈悲を感じさせるものだ。

 

 それらは、やがてキバくんの周りに集まって行き、青白く輝く人のような形をとった。

 

 

「これは……?」

 

「……人……?」

 

「あぁ、そんな風に見えるな……」

 

 

 現れた人の影のようなものは皆若い。幼い少年少女達だ。

 無論、キバくんを除けば誰もその者達の顔など知らないだろうが、誰も何も言わずとも全員理解した。

 あの子達がバルパーの聖剣計画の犠牲者達だ。

 

 

「おそらく、この戦場に漂う様々な力、そして、祐斗君の心の震えが、結晶から魂を解き放ったのですわ」

 

 

 ヒメジマの解説が解説するが、詳しい事はわからない。

 だが、そんなことはどうだっていい。

 大事なことは、自分一人が助かったことをずっと悔やんできたキバくんが、やっと死者達の本当の思いを知れるということだ。

 

 彼の同胞達は、穏やかな眼差しでキバくんに語りかけている。

 

 

「……僕は、ずっと、ずっと思っていたんだ……。僕が……僕だけが生きていて良いのかって。

 僕よりも夢を持った子がいた。僕よりも生きたかった子がいた……。

 僕だけが……平和な暮らしを過ごしていいのかって……」

 

 

『大丈夫―――』

 

『皆集まれば―――』

 

『受け入れて、僕達を―――』

 

『怖くない。たとえ神がいなくても―――』

 

『神様が見てなくても―――』

 

『僕達の心は、いつだって―――』

 

「っ………一つ……!」

 

 

 キバくんが強い意志の篭った眼差しで前を向く。

 その姿を見てイッセーくんが呟く。

 

 

「なんだ……、涙が……止まらねぇ……っ!」

 

 

 同じリアスの眷属として、友として、仲間として、漸くキバくんが同胞達の思いを知り、そして前を向いたのだ。

 我が事のように嬉しいのだろう。僕も全く同じ思いだ。

 過去を断ち切る、それがどれほど難しい事か、それは我が身に刻み込まれている。

 それを彼はやってのけたのだ。あんなに若いのに――――。

 

 だが、変化はそれだけではない。何やら強い力の高まりを感じる。

 まるでキバくんの意志が、彼の仲間達の思いが、そのまま形となっていくような―――

 

 そのことに気付いたのか、神器(セイクリッド・ギア)に封印された赤龍帝ドライグが自身の宿主に話しかけている。

 

 

『あの騎士(ナイト)は“至った”。所有者の想いが、願いが、この世界に漂う流れに逆らおうと、激的な転じ方をした時、神器は至る。

 

 

 それこそが、禁手(バランス・ブレイカー)だ』

 

 




この辺りって地味に「ハイスクールD×D」の二次創作では鬼門だと思う。

①主人公が首突っ込む→出しゃばりな感じがする
②ばっさりカット→D×Dに対する愛(特に木場きゅんへの)がないと思われる
③原作の展開のまんま→手抜きだと思われる

散々悩んで③にしました。いかがでしたでしょうか……


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41話 双覇の聖魔剣

タグを変えようか悩んでる真っ最中。
「ドラゴンクエスト」、ドラクエ」、「DQ」ってくどくないかと思ってみたり……。
でも、こうしないとドラクエのクロスオーバーだって分かりづらい気がする。


 

 

 禁手(バランス・ブレイカー)……。

 以前、ライザーくんとの戦いでイッセーくんが一時的に至ったという境地―――。

 赤龍帝ドライグの言葉が正しければ、今、キバくんはそこに辿り着こうとしている。

 

 

「同志達は、僕に復讐を願ってなんかいなかった。願ってなかったんだ……。

 でも、僕は目の前の邪悪を打ち倒さなければならない」

 

 

 復讐としてではなく、悪を討つために戦う……それがキバくんの決断らしい。

 彼が過去を断ち切り、やっと前を向いてくれたことは純粋に嬉しい。

 

 

「第二、第三の僕達を……産み出さないために!」

 

「くっ、フリィィィドォォオオオッ!!」

 

「はいなァァアアアッ!!」

 

 

 様子の変わったキバくんを警戒し、バルパー・ガリレイが後ずさる。

 代わりにフリード・セルゼンが前に出た。

 

 

「フン、愚か者めが! 素直に廃棄されておけばよいものを!」

 

 

 素直に廃棄処分されても死ぬだけでは……と、一瞬思ったが悪魔になって死ぬと完全に消滅してしまうんだった。

 そう思えばバルパーの言う事も一理あるのか……?

 

 まあ、この老人(バルパー)のことだ。そんなこと考えもしてないだろうが。

 

 

「木場ァァァアアッ! フリードの野郎とォ! エクスカリバーをぶっ叩けェッ! アイツ等の想いと魂を無駄にすんなァァァアッッ!!」

 

「一誠くん……!」

 

 

 イッセーくんが声を張り上げ、精一杯のエールを送った。

 

 

「やりなさい、祐斗! あなたはこのリアス・グレモリーの眷属。私の騎士(ナイト)は、エクスカリバー如きに負けはしないわ!」

 

 

 リアスが―――

 

 

「祐斗君、信じてますわよ!」

 

 

 ヒメジマが―――

 

 

「……ファイトです!」

 

 

 トウジョウが―――

 

 

「木場さん……!」

 

 

 アーシアが―――

 

 

「頑張るんだよ!」

 

 

 僕もキバくんを勇気づける。

 

 

「皆……リュカさん……!」

 

「はァ~ア~! なァに感動シーン作っちゃってんスか~? 

 あ~も~聞くだけでお肌がカサついちゃうー!

 もー、限界~! あーも~、とっととテメェ等斬り刻んでぇ♪

 気分爽快になりましょうかねェェェ!!」

 

 

 僕達の様子を見て苛立ちを募らせたのか暗黒闘気を一層激しく身に纏うはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)

 闘気が黒いオーラと化して全身から湧き出している。

 そんな様子を一瞥したキバくんが精神を集中した様子で言葉を紡ぐ。

 

 

「……僕は剣になる。

 僕の魂と融合した同志達よ、一緒に超えよう……。

 あの時果たせなかった想いを、願いを、今! 部長と、そして仲間達の剣となるッ!

 魔剣創造(ソード・バース)ッ!!」

 

 

 彼が手を掲げるとそこに一振りの長剣が現れた。

 白と黒のセパレート。陰と陽を合わせたような剣だ。

 

 これは…………

 

 

双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)、聖と魔を有する剣の力……、受け止めるといいッ!!」

 

「聖魔融合の剣ですって!?」

 

「そうか……! あれがっ!!」

 

「俺の中のドラゴンが、教えてくれたんです! 木場が“至った”って! 

 アレが木場の禁手、バランス・ブレイカーなんだ!」

 

「聖魔剣だと!? 有り得ない! 

 反発する二つの要素が交じり合うことなど、そんなこと、ある筈が無いのだッ!」

 

 

 確かにバルパーの言葉は正しい。対極の概念を混ぜ合わせても、互いに打ち消し合うだけだ。

 

 しかし、何事にも例外はある。プラスのエネルギーとマイナスのエネルギーを融合させた極大消滅呪文(メドローア)等がそうだ。だだ、そうした呪文・特技は生まれ持った資質、天賦の才能を必要とする。

 キバくんの“才能”と“思い”、その二つが合わさることで発現した新たな力なのだろうか。

 

 

「リアス・グレモリーの騎士、まだ共同戦線は生きているか?」

 

「だと思いたいね」

 

 

 双覇の聖魔剣を携えたキバくんにエクスカリバーを握りしめたゼノヴィアが歩み寄り、真剣な表情で問い掛ける。

 

 

「ならば共に破壊しよう。あのエクスカリバーを」

 

「……いいのかい?」

 

「最悪、私は聖剣エクスカリバーの核だけを回収できればいい。

 最早、アレは聖剣であって聖剣ではない。異形の剣だ」

 

 

 フリードの持つエクスカリバーを厳しい目で睨み付けるゼノヴィア。

 異形の剣―――彼女はあの聖剣をそう断じる。

 ただ興味深いことも口にした。『核を回収できればいい』とは―――

 異界の伝説の鍛冶師が造る武具はたとえ損傷しても自動修復したという。

 あのエクスカリバーも核を持ち、破壊されても核が残れば復元できるということか。

 

 

「ククク、勇ましい事だな。だが、所詮、貴様が持つのは破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)。七分割された聖剣の一つに過ぎぬ! 

 四つを統合した私のエクスカリバーに敵う筈がない!」

 

 バルパーがキバくんの双覇の聖魔剣に若干戸惑いつつも、ゼノヴィアの方を見て嘲笑する。

 

 うん……まあ……、僕は修復しただけ……だよね?

前のヤツ(エクスカリバー・デストラクション)よりも強そうなのは気のせいだろう……。うん、気のせい気のせい。

 

 錬金釜で以前よりパワーアップしたっぽいことから軽く目を背ける。

 だが………

 

 

「残念だったな、バルパー。これは真の聖剣だ。

 よく分からないが、そこにいるリュカ殿のおかげで本来のエクスカリバーの力を得たのだ」

 

「え、ちょ」

 

 

 僕の現実逃避をゼノヴィアは木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

 そんな様子を、キバくんは何故か白い目で見ていた。

 

 

「フン! 出鱈目を言うな! 殺れ、フリード!!」

 

「ソレが本物のエクスカリバーだろ~が、ニセモンだろ~が……、

 暗黒闘気のおかげで超ハイテンションの俺様には関係ないザンス!

 まとめて死ねやぁぁぁああああっっ!!!」

 

 

 全身に漆黒のオーラを纏わせたフリードが猛烈な速さで吶喊してくる。

 以前とは比べ物にならないスピードだ。暗黒闘気が体に馴染んできているのだろう。

 その勢いのまま聖剣を振りかぶった。

 

 

「ダークマッシャーァァァアアッ!!!」

 

 

 聖剣が紫電を帯び、キバくんに向かう。

 地獄の雷を刀身に纏わせ相手を切る上位剣技の一つ『ダークマッシャー』だ。

 

 直撃すれば一溜まりもない必殺の魔剣が襲い掛かる。

 

 だが―――

 

 ミス! フリードの攻撃は当たらなかった!

 

 

「君の殺意は分かりやすい。どんなに速くても来ると分かっていれば対処できる!」

 

 

 相手(フリード)の動きを読んだのだろう。僅かな動きだけで、キバくんはあっさり避けた。

 修練によるものか、はたまた禁手に至って精神的に一皮剥けたのか。それとも両方か。

 

 しかし、一方で漆黒の少年神父は渾身の一撃を躱されたことにますますヒートアップする。

 

 

「ザケンじゃねえぞぉぉおおっっ!!! クソ悪魔の! 分際で! 俺の! 攻撃を! 躱すなッ!!

 『闘魔滅砕陣(とうまめつさいじん)』!!!」

 

 

 フリードが拳を振り上げる。

 すると、たちまち彼の全身を覆う暗黒闘気がより強まり凝縮され、さながら蜘蛛の巣のような紋様を描きつつ、闘気の奔流となって地を這い、キバくんとゼノヴィアを絡め取った。

 

 

「くぅぅぅううう!」

 

「がぁぁぁあああ!」

 

 

 まるで、その場だけ重力が増したかのように、キバくんとゼノヴィアが身動きを取れなくなってしまった。

 しかも、暗黒闘気の糸に纏わりつかれ、全身を締め上げられているかのように踠き苦しんでいる。

 

 

「ギャッハハハハッ! 僕ちゃん必殺の『闘魔滅砕陣』はどうよ!

 緊迫プレイの真っ最中じゃ御自慢のスピードは活かせないよね~……。じゃあ、死ね!」

 

 

 フリードのエクスカリバーが鞭の如くうねり、それを少年神父が横に薙ぎ払う。

 これは『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』の能力だ。

 ……あの聖剣は統合されたエクスカリバーの能力が扱えるのか?

 そうだとすれば、あと三つも特殊能力があるということになる。

 

 このままでは胴体を両断される! ――そう思ったのだろう。ゼノヴィアがエクスカリバーを掲げ、咆哮した。

 

 

「ぬぅぅうううう! エクスカリバー! お前が真の聖剣だというのなら、私の思いに応えてくれ!!」 

 

 

  カッ!

 

 

 ――剣が彼女の想いに応えたのか。次の刹那、黄金の如き眩い光が辺り一面を覆う。

 

 

「屈め!」

 

 

 二人の命を一撃で奪い取ったであろう魔剣の一薙ぎは、すんでのところで躱され、虚しく空を斬った。

 エクスカリバーの輝きによって闘魔滅殺陣から逃れることができたのだ。零コンマ一秒遅れていたら彼女達の身体は上半身と下半身に分かたれていただろう。

 

 だが、変化はそれだけでなかった―――

 

 

「クソ共がァッ! だが、何をしたって無駄なんだよ!

 『闘魔滅殺陣』!」

 

 

 再び拳を振り上げるフリード……

 

 

 しかし 何も 起きなかった

 

 

「あり?

『闘魔滅砕陣』! 『闘魔滅砕陣』! 『闘魔滅砕陣』! 『闘魔滅砕陣』ッ!!」

 

 

 フリードは何度も拳を振り上げ同じ技を発動させようと試みる。

 敵であるキバくんも見かねたのか彼に教えてやった。

 

 

「それこそ無駄みたいだよ。今の自分の姿を見たらどうだい?」

 

「はあ? 何を言って……そんなの超イカした漆黒の僕チンに決ってるじゃ……、

 

 うぇぇぇえええええっ?!」

 

 

 キバくんに指摘されたフリードは、近くの校舎の窓に映った自身の姿を見て口をポカンと開き目を丸くした。

 髪の色が黒暗淵の漆黒から元の銀髪に戻っている。目元の赤い痣も消えていた。

 

 つまり、身に纏っていた暗黒闘気が消えたのだ。

 

 

「え? え? えぇぇぇえええええっ!?

 何で元に戻んだよ! 時間切れ!? ガス欠!? それとも今ので消えちゃった!?

 そんな制限あるなら事前に言えよ、あのジジイィィッ!!」

 

 

 暗黒闘気の効果が消えたことに戸惑う少年神父。

 彼の力は、“胡散臭えジジイ”なる人物に渡された『液化した暗黒闘気』を飲むことで身に付けたもの……つまり、彼自身の能力ではない。一種のドーピングだ。その効果をエクスカリバーが剥ぎ取ったのだろう。流石は“この世界が誇る聖剣”といったところか。

 

 だが、そんな彼に構わずキバくんが斬りかかる。

 

 

「チィィィィイイッ! ならこれで……」

 

 

 フリードが何やら聖剣の特殊能力を発動させる。すると聖剣の剣先が消失した。 

 だが、剣の気配が消えたわけじゃない。確かにそこに剣が存在するという感覚がある。

 つまり、刀身を透明にする能力だろう。

 ゼノヴィア達が言っていた盗まれた聖剣(エクスカリバー)の一つ、『透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)』のものだろう。

 確かに、近接戦において得物の姿を悟らせないというのは強力な能力と言える。

 

 しかし、(フリード)は墓穴を掘った。極めて単純なミスを犯している。

 キバくんの先程の言葉を忘れてしまっているらしい。

 

 

「さっき言ったよ。君の殺気は分かりやすいって」

 

 

 そう、フリードのあまりに強い殺意が乗せられているためか、彼の剣撃は非常に読みやすい。

 キバくん程の使い手なら目隠ししてでも平気だろう。

 

 フリードの見えないハズ(・・)のエクスカリバーと、キバくんの双覇の聖魔剣が何度も撃ち合わされる。

 

 やがて、ピシッ……ピシッ……と何かが壊れる音が響いてくる。

 その音はどんどん大きくなっていく。

 

 

 

  ピシッ、ピシッ、ピシッ……

 

 

 

「そんな剣でッ! 僕達の想いは断てないッ!!」

 

 

 

 

 

  バキンッ!!

 

 

 

 

「折れたァァァァアアッ!?!?」

 

 

 折れたのはフリード・セルゼンの聖剣の方だった。

 まるで宝石が砕け散るように、粉々に四散して破片が辺りに飛び散った。

 

 

「マジ、ですか……!? この俺様がっ……クソ悪魔如きに……?!

 暗黒パゥワーで超グレードアップした俺様が?!

 ッフザけr―――ッ!?」

 

 

 エクスカリバーを打ち砕く際に、キバくんが神速の速さでフリードにも一撃入れていたのだろう。

 哀れな狂人は吃驚した表情のまま仰向けに倒れ、そのまま気絶した。

 

 

「―――みんな、見ていてくれたかい……? 僕の力はエクスカリバーを超えたよ!!」

 

「何ということだ……。聖と魔の融合など理論上、不可能な筈……!?」

 

 

 キバくんはやり遂げた表情で天を仰ぎ亡き同胞達に報告するかのように囁いている。

 どうやら彼の中で一つのけじめがついたようだ。

 翻って皆殺しの大司教バルパー・ガリレイは何やら譫言のように呟き、思案している。

 

 

「バルパー・ガリレイ! 覚悟を決めてもらおう!」

 

 

 キバくんが長きに渡る因縁に決着を付けるべく老神父の前に進み出た。

 だが、バルパーはそんな言葉など聞いてはいない。

 夢中で何かを考えていた彼は出し抜けに叫んだ。

 

 

「そうか、分かったぞ! 聖と魔、それを司るバランスが大きく崩れているなら説明は付く!

 つまり! 魔王だけではなく神もッ―――!?」

 

 

 バルパーは何か途轍もない事に思考が至ったらしい。

 その事を口にしようとしたのだろう。

 しかし、次の瞬間、彼の背から心臓を光の槍を貫いていた。

 まさか、仲間同士であるのに攻撃するとは僕も夢にも思わなかった。

 心から沸き立つ怒りを感じながら、バルパーを殺した者へ目を向ける。

 

 

「仲間同士で殺し合うとは穏やかじゃないね? コカビエル」

 

「元々、戦争をしようと思えば一人でも出来たんだ。どうということはない。

 まあ、確かにそいつは―――、バルパーは優秀だったよ。その事(・・・)に気付けたのも、その優秀さ故だろう。

 ま、利用されてくれて協力を感謝するさ、フフフ、あっはっはっはっ!」

 

 

 コカビエルが哄笑を上げる。

 その姿は傲慢さを絵に描いたようなものだ。

 “人間など取るに足らない”。そう考えている事が滲み出ている。

 確かにそうなのだろう。彼、コカビエル程の力を有しているのであればそう考えるのも不思議はない、寧ろ自然だ、とも言える。

 

 これは戦うにしても、引いてもらうにしても、諌めるにしても、解り合うにしても難儀するな……。

 

 コカビエルを見上げながらそう考えていた。

 

 

 

 しかし、次の瞬間―――

 

 

 

 僕にとって予想外の事が起こる。否、リアス達やコカビエルにさえ予期し得ぬ事が起きた。

 

 

 

 

 

 

 ドォォォオオンッッ!!

 

 

 「――――ッ?!!」

 

 

 地中から何か、形容し難い奇怪なものが現れた。

 巨大な骨でできた格子――?に、粘膜に覆われた皮膚で構成された円形の牢屋のような物だ。

 それは、まるで噴き出すような勢いで地面から飛び出し、太古から存在する堕天使を瞬く間に囲み、覆い、包み、捕らえ、閉じ込めてしまった。

 

 

「キ~~~ヒッヒッヒッ!!

 こちらこそ協力を感謝します。コカビエル殿!

 これで我らも大いに助かる!」

 

 

 甲高く下卑た笑い声と共に校舎の陰から一人の男が出て来た。

 長身で三白眼、顔に薄ら笑いを浮かべた若い男、だがそれは明らかに人間ではない、いや、悪魔でも堕天使でもない。

 

 

「……魔族」

 

 

 僕がぽつりと呟く。

 すると、男はそれに答えるかのように高らかに名乗った。

 

 

「我が名はザムザ! 妖魔司教ザボエラが一子だ。

 我らが新たなる主のため、聖剣の核、神器(セイクリッド・ギア)持ち、そして堕天使コカビエルをもらい受けに来た!!」

 

 

 そう宣言した男は宙に浮き上がり、懐から何やら玉のような物を両手にいくつか取り出した。

 それは以前レイナーレが持っていた物……“魔法の珠”だった。

 

 

「出でよ、怪物(モンスター)共! デルパァ~ッ!!」

 

 

 “魔法の珠”をバラ撒きながら解放の呪文を唱えるザムザ。

 一瞬の後、辺りを見回してみるとそこにいたのは、見るからに凶悪な魔物の軍勢であった。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 その頃、リュカのアパートでは……

 

 

「コカビエル様が街を破壊!? 

 それ、本当なの!?」

 

 

 ちゃぶ台を囲む人外のうち一人が驚嘆し、思わず立ち上がった。黒髪の見目麗しい堕天使の少女レイナーレだ。

 

 

「ええ、そのようです。何でも魔王の妹のいる学び屋を破壊すればサーゼクス殿も動かざるをえない、とのことで……」

 

 

 そのように返しているのは紫色の肌に獣の下半身の大悪魔、ヘルバトラーのバトラーだ。

 彼はその外見に似つかわしくない慇懃な口調でレイナーレ達に説明する。

 

 

「主からの報告によれば他にもエクスカリバーなる聖剣を奪ったフリード・セルゼンとかいうはぐれ悪魔祓いとラエボザなる神父もいっしょだとか……」

 

「フリード……!」

 

 

 当然、その男と堕天使達は知り合いだ。つい数か月前まで同じ『神の子を見張る者(グリゴリ)』に所属していたのだ。

 

 

「こうしてはいられないわ!

 すぐに駒王学園に行くわよ!」

 

 

 黒髪の堕天使はそのまま玄関から出て行こうとする。

 しかし、止める者がいた。

 ゴスロリファッションに金髪の堕天使娘のミッテルトだ。

 

 

「ちょっと待つッスよ! レイナーレお姉さま、相手はあのコカビエル様っス!

 ウチらが行ったってどうにもならないっス!」

 

 

 だが、レイナーレは首を振った。

 

 

「いいえ、コカビエル様よりも……そのラエボザって名前に覚えがあるわ。

 前に『計画の助けに……』って魔法の球を渡してきたのがそいつよ」

 

 

 その言葉を聞いた他の堕天使達が息を飲む。

 リュカから自分達が渡された魔法の珠とスーパーキラーマシンは自分達が考えていたよりも遥かに危険なシロモノである、と聞かされていたのだ。

 

 

「その事はすぐに知らせなくちゃ!

 それにコカビエル様はアザゼル様と対立していたはず。

 あの連中が利用しようとしても不思議はないわ」

 

 

 もし、あの得体の知れない者達に堕天使陣営……それも幹部格が利用されたとなったら、堕天使全体が苦境に立たされることになる。

 それは何としても阻止しなければならなかった。

 

 

「ふむ……だが、今、駒王学園に行けばコカビエル様と対立することになりかねんぞ。勝算はあるのか?」

 

 

 そう発言したのは赤いボディコンスーツを着た妙齢の美女カラワーナだ。

 その問いにレイナーレはあっけなく答える。

 

 

「全然。あれから随分修行したけど全く勝てる気がしないわ。

 まあ、ただ……」

 

 

 一旦言葉を切ったレイナーレは確信を込めてこう続けた。

 

 

「リュカがコカビエル様に負けることはもっとありえないわね。

 だって――――

 

 

 

 

 

 私の主さまだもの……♡」

 

 

 

「ち、ちょっと何言ってるんすか! ウチのお兄さまっス!」

 

「私の御主人だ!」

 

「新入りの小娘が! 私の御主人様だ!」

 

「アタシの御屋形サマです!」

 

「ディアナノオトコダ!」

 

「ワタクシの栄養源ですわ」

 

「私の契約者よ!」

 

「ピキキー!」

 

「キュルルルン!」

 

「ガルルル!」

 

「チューチュー!」

 

「ブルルルッ!」

 

「ビビビビッ!」

 

「プシューッ!」

 

「ワシんじゃワシんじゃ!」

 

「グワオオウッ!」

 

「ピルルルッ!」

 

「ぐはあ~~っ!」

 

「げへげへへ!」

 

「シャララ~ッ!」

 

「ガブッ! ガブッ!」

 

「ぶふ~っ!」

 

「シャキーン! シャキーン! ピガガガ…………

 

 

 

 唐突に惚気たレイナーレに、周りにいた魔物達が一斉にツッコむこととなった。

 

 




メドローア:漫画「ダイの大冒険」が初出の呪文。両手にそれぞれメラ系とヒャド系のエネルギーを別々に作り出し、それを合体させてスパークさせる事で、あらゆる物質を消滅させるエネルギーを生み出す。それを弓矢のように引き絞って撃ち出し消滅させる魔法。その後、モンスターズシリーズにも登場した。

闘魔滅砕陣:漫画「ダイの大冒険」に登場するミストバーンの大技。「闘魔傀儡掌」の上位技で、暗黒闘気を地面へ蜘蛛の巣のように張り巡らせ、周りの敵全員を縛り付けて動けなくする。闘魔傀儡掌と同様に暗黒闘気の威力を強めることで、相手に引きちぎるほどの激痛を与えることも可能。
 

1話の伏線をやっと回収。
え? 後付けだって?
そ、そんなわけないですよ……(汗)


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42話 計画

DQHで驚いたこと ルドマン登場

それにしてもデボラェ……。ビアンカとフローラの微妙にギスギスした感じが最高でした。


 

「妖魔学士ザムザ、ですって……? 聞いたことがないわ! 貴方は何者なの!?」

 

 状況がつい先程と一変してしまった真夜中の駒王学園。

 キバくんが宿縁の対象たるエクスカリバーの破壊に成功し、安堵したのも束の間、

 今度は突如として現れた謎の人物―――ザムザの奇怪な生きた牢獄によって敵である堕天使幹部コカビエルが捕らわれてしまった。

 

 更にこの男が展開した『魔法の球』から現れた怪物(モンスター)の群れに僕達は包囲されてしまったようだ。

 

 ひょっとすればコカビエルが感知していない厄介事が起きてしまうのではないかとも薄々感づいていたが……。

 思っていた以上に大きな事態だ。

 

 そんな中、紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)リアス・グレモリーはこんな異常な状況下にも拘らず、気丈にも得体の知れない介入者に鋭い誰何の声を上げて見せた。

 

 

「何者か、だと? キヒヒッ、たった今名乗ったばかりではないか。

 それに……死に逝く者と実験動物(モルモット)に説明など不要だろう?」

 

実験動物(モルモット)ですって!?」

 

 

 男の言葉にリアスが気色ばむ。ザムザは得意気に続ける。

 

 

「そうだ。貴様らは実験動物……いや、コカビエルでさえそうだ。

 ……というのも、今回の計画を嗾けたのは我々だ」

 

「何ですって!?」

 

 

 リアスが、他のオカルト研究部の部員達が目を剥いて驚く。

 なかなか驚愕すべき真実なのだろうが、僕は何となくそうだとは思っていた。

 

 

「クヒヒッ、シナリオはこうだ。神の子を見張る者(グリゴリ)の不満分子である堕天使コカビエルは、教会の異端バルパー・ガリレイと結託。エクスカリバーを教会から強奪する。

 その後、魔王の妹が治めるこの街で聖剣合体の儀式を取り行うも、術式の不備と貴様らの妨害により大爆発、街ごと吹き飛び跡形もなく消滅した……ように見せかけるというワケだ。

 死体も残らんから誰も怪しまないだろう? しかし、実際には神器(セイクリッド・ギア)持ちと聖剣の核、そしてコカビエル自身は我々が回収するという寸法だ」

 

 ザムザの説明を聞いた皆は呆気にとられる。僕もかなり驚いた。

 実に手間の掛かった壮大な計画だ。

 確かに、堕天使の幹部を気取られずに拉致しようと思えば、それぐらいのことをしなければ難しいだろうが……。

 実際にここまで上手くやっているのだから、彼らの手腕は恐ろしいモノだと言える。

 

 僕はそんなことを考えていたが、彼らの事情など一切構わずに激怒し、叫ぶ者がいた。

 ―――イッセーくんだ。

 

 

「……ふ、ふ、フザけるなぁぁぁああああッッッ!!!

 実験動物っ!? 計画っ!? そんなモノのためにこの街を破壊しようってのかよ!?

 巫山戯んじゃねぇぞッ! 俺が、俺達がそんなことさせるかよ!!」

 

 

 イッセーくんの激しい啖呵を浴びせられたザムザが彼に目を向ける。

 そのまなざしは嫌悪と苛立ちに満ちたものだった。

 

 

「チッ、実験動物の分際で偉そうに吠えるんじゃあない! 元はただの人間……つまりゴミクズに、偶々神器が付いていただけの存在にも拘わらず、偉大なる魔族の実験に貢献できるというだけで感謝してほしいものだ。

 しかし、貴様は興味深いぞヒョウドウ イッセー……その神器の性質は然る事ながら、肉体の一部を(ドラゴン)に出来るとはな。

 そいつを研究すれば大量生産できるかもしれん。ドラゴンと魔族のハイブリッド……。

 貴様のようなバケモノをな! キィ~~~ヒッヒッヒッヒィッ!!」

 

「んなっ!?」

 

 

 バケモノ……。突然そう言われたことに、流石のイッセーくんも言葉を失ってしまう。

 それもそうだろう。彼はつい数ヶ月前まで普通に暮らしていたただの少年だ。

 それがほんの僅かの期間の間に悪魔となり、さらには自分の片腕をドラゴンのモノにまでした。

 その苦痛は相当なものだったろう。

 

 呆然と立ち尽くすイッセーくん。そんな彼の前にリアスが庇うかように進み出た。

 

 

「勝手なことを言わないでちょうだい。私の可愛い下僕を侮辱するなんて絶対に許さない。万死に値するわ」

 

「部長……」

 

 

 主の言葉を聞いて、目元を潤ませるイッセーくん。

 それにしてもリアスには人の上に立つ者として天性の物があるようだ。

 僕自身、帝王学など学んでいない。今こうしている間も国を空け民に迷惑を掛けている。王としては二流三流の人間だ。

 一方、彼女は生まれ持った資質があるのだろう。例え技量が未熟であっても、すでに皆の精神的な支柱になっている。

 

 

「フン、家柄だけが取り柄の小娘がッ! 貴様も邪配合の材料にしてくれる。掛かれッ!!」

 

『『『『グアアオオオウウウぅゥゥゥウウウッッ!!』』』』

 

 

 彼女の言に怒りを多少の怒りを覚えたのか、青筋を立てたザムザの号令の元に魔物達が一斉に動き出す。

 ある者は体育館の跡地から、ある者は朝礼台の影から、ある者は花壇を踏み潰しながら、辺り一面からわらわらと出してくる異形共の軍勢。

 だが、その彼らに甚だ奇妙な違和感を覚えた。

 

 ――― 一体彼らは何なんだ? 生命力を感じない?

 

 まるで見えない御者に鞭打たれる馬の如く、一心不乱に向かってくる魔物達。

 

 しかし、彼らは生きていない(・・・・・・)のだ。

 

 いや、そのこと自体は珍しくない。腐った死体にリビングデッド、死神兵にワイトキング。

 ゾンビ系のモンスターなど沢山いる。仲間モンスターのスミスなんかもそうだ。

 

 だが、彼らは違う。

 

 極めて繊細な違いではあるが確かに感じる。

 そう、彼らは自身の意志ではない何者かによって強引に(・・・)動かされている。

 自らの生に対する未練や、生前に抱いた怨念によって動いているのではない。

 激痛に追い立てられているが如き彼らの表情がそれを物語っている。

 

 

「これは酷いな……」

 

「ぼーっとしてないで来るわよ、リュカっ!」

 

 

 リアスに怒鳴られた。

 確かに彼女の言う通りだ。今はそれどころではない。

 不気味なアンデッド軍団がもうすぐ目の前に来ていた。

 

 

『……ギアアアアアッ……!』

 

『……イタイ……、イタイ……、イタイ……』

 

『殺してくれぇぇぇ……!』

 

 

 悲鳴を上げながら吶喊してくる生ける亡者の群れ。

 ある者は剥き出しの脳みそをぶちまけながら、ある者は露出した臓物を引き摺りながら、ある者は腐り切った皮膚を痛みの余り掻き毟りながら、それでも構わず突っ込んで来る。

 

 

「ぐっ……! 何なんだよ、コイツら!! ブーステッド・ギアァッ!!!」

『Boost!!』

 

 

 襲い掛かってくる魔物達に若干怯みつつも、イッセーくんが自分の神器を用い、力の倍化を始める。

 その傍らでリアス達も応戦を始めた。

 

 

「随分と悪趣味ねッ! ハァァァッ!」

 

「いきますわ! 雷鳴よ!!」

 

 

 リアスのあらゆる物を消滅させる魔力の波動が、ヒメジマの眩いばかりの雷が亡者どもを轟音と共に薙ぎ払う。

 

 しかし……

 

 

『ガアアアアアアッ!』

 

 

「なっ!?」

 

 

 魔物軍団は一切怯まなかった。否、激痛で怯む余裕すらないといった具合だ。

 彼女達の攻撃で倒れた同胞達の躯に乗り上げ、踏み潰し、何かに取り憑かれるの如く狂気の前進を続ける。

 彼らの前衛の切っ先が、今まさにリアス・グレモリーとその眷属達に届かんした。

 

 

「応戦して、祐斗! 小猫!」

 

「分かりました、部長!」

 

「……はい!」

 

 

 紅い髪の少女は尚もめげず、自分の可愛い眷属達を叱咤してみせた。

 つい先程、自身の宿命に区切りを付けたキバくんと、小柄ながらもタフネスとパワーを兼ね備えたトウジョウが僕の側を抜けて、前線に躍り出る。

 

 

「たああああっ!!」

 

 

 キバくんの超高速で剣を振るう。皮がずる剥けになり肉が露出したキラーエイプやダンビラムーチョが彼の聖魔剣によって立ち所に肉塊と化す。右から襲い来るブルデビルを瞬く間に袈裟斬りにし、返し刀でリカントマムルを斬って捨てた。

 どうやら、キバくんは戦闘面でも一皮剥けたらしい。全く、敵を寄せ付けていない。

 

 

「……えい!」

 

 

 トウジョウもその小さな拳を振るい、攻め寄せて来る魔物軍団に対してかなり善戦している。

 腐って鱗の剥げ落ちた竜戦士にアッパーを食らわし昏倒させ、鋭い正拳突きを放ち頑強な肋骨が露わとなってしまっているトドマンを、その骨がへし折れるほど強く殴り飛ばした。

 

 

『グギャァァァ……』

 

 

 二人の奮戦のおかげか、少しずつ圧力が弱まりつつある。グラウンド中が魔物達の死骸によって埋め尽くされた。

 これで人心地付けただろうか? いや、彼らの妙な違和感の正体がつかめない。絶対に何かがある。

 僕がそう思案に耽っていると、奇妙な光景が目に映った。

 

 

『グアア……!』

 

 

 地に敷き詰められているバラバラになった魔物軍団の骸がピクリと動いた(・・・)のだ。

 

 

「な、何なんだよ、コレ……」

 

 

 むくり……むくり……と五体満足な魔物共は次々に起き上がり、四肢のいずれかを欠損した者は這うように、なおもこちらに向かってくる。

 改めて敵の異質さを再確認する。どんなにゾンビ系モンスターでもコレはおかしい。おかし過ぎる。やはり、何者かに操作されていると見ていいだろう。彼らには死すらも許されないのか……。一体、誰がこんな真似を……?

 

 

「キ~~~ヒッヒッヒッ! 流石は冥王殿の秘術だけはある!

 さあ、殺れッ! ゾンビ共!!」

 

 

 僕らが追い詰められていると判断したのであろうザムザが下卑た高笑いと共に、屍達に発破を掛ける。

 その様子を見たオカルト研究部の面々には先程までの活気がない。イッセーくんも、リアスも、ヒメジマも冷や汗を流している。アーシアは恐怖を押し殺すのにやっとのようだ。

 皆、敵のあまりのおぞましさに飲まれてしまっている。そう思う僕も相手の異常さに些かの戦慄を覚える。

 

 

「クッ、ならばエクスカリバーで……、ハァァァアアアッ!!」

 

 

 裂帛の気合と共にゼノヴィアが斬り込み聖剣を振るう。

 数体のゾンビモンスターが薙ぎ払われる。

 

 その直後、変化が起きる。

 倒された魔物から黒い瘴気のようなものが漏れ出て、聖剣の輝きによって掻き消された!

 あれ程、しつこく食らいついてきた亡者が動きを止める。

 

 そうか、打撃や斬撃の効き目が薄いのであれば……!

 

 

「皆、ケルぼうにケルやんも、下がってなさい」

 

 

 僕の言葉に皆が一斉にこちらを振り向く。

 

 

「えーっと……、こんな場面で聞くことじゃないッスけど……、ケルぼうとケルやんって?」

 

「ああ、この子達(ケルベロス)の名前だ。便宜上の、だけど。コカビエルからは聞き損ねたしね」

 

「はあ……」

 

 

 イッセーくんの疑問に対する僕の答えを聞き、面白かったのか皆の顔に笑みが戻る。

 しかし、リアスは真剣な表情で尋ねてくる。

 

 

「下がれって……、あいつらをどうにかする作戦があるの?」

 

「ああ」

 

 

 僕は頷くと、イッセーくんの方に向き直った。

 

 

「イッセーくん、君の力を貸してくれ。僕に溜めた力を譲渡してほしい」

 

「俺の力を……リュカさんに?」

 

「そうだ。チマチマ戦っていては限が無い。だから一気にやる」

 

 

 そういって亡者共の前に進み出た。自らの力のみでもやれないこともないが、如何せん数が多い。それに、いたずらに長引かせても彼らの苦痛が増すばかりであろう。

 更に言えばイッセーくんの『譲渡』も身を持って体験しておきたい。

 

 

「分かりました。それじゃ……っ! いっけぇぇぇええエエッッ!!!」

『Transfer!!』

 

 

 後ろに立つイッセーくんの『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』が眩く輝いた。

 その光と共に全身に力が漲ってくるのを感じる。

 

 

「ほほう! こいつはなかなかのものだ。『不思議なタンバリン』も顔負けじゃないか……!

 それじゃ……一気にやらせてもらうよ!!」

 

 

 僕は 祈りを込めて 手で十字を切った!

 

 

「グ ラ ン ド ク ロ ス !!」

 

 

 聖なる力を帯びた真空の刃が巨大な十字架となって 魔物達を襲う!

 

『『『ぐわあああああっっ!!』』』

 

 

 聖なる光と烈風で亡者達を薙ぎ払う。

 自分でもこの威力には驚きだ。以前、レイナーレ達との特訓の際に放ったのとは段違いじゃないか。

 やはり、イッセーくんの能力は素晴しい。この力によってとれる戦術の幅は広い。チーム戦においては様々な戦い方が可能となるだろう。

 

 推測通りゾンビ達は聖なる力には弱かったようだ。冥王とやらの呪縛が解けたのか、バラバラになっても動き続けた生ける屍共は沈黙し、ただの屍に戻ったようだ。

 校庭には魔物の腐食した死骸が四散している。動いているのはオカルト研究部の皆とゼノヴィアと僕、そして生体牢獄(バイオプリズン)の上に立つザムザだけ―――

 

 そのザムザは薄ら笑いを浮かべている。一切、余裕が崩れていない。

 

 

「あとはテメェだけだ。覚悟しやがれ!」

 

「ヒヒッ……、さあて、そいつはどうかな?」

 

 

 凄むイッセーくんに対しても不敵な笑みを浮かべる魔族の男。

 しかし、彼の言葉はどういう意味なのか………? まだ、仲間がいるということか?

 

 その時―――

 

 

 

  ガ シ ン ッ … … … !!

 

 

 次の瞬間、強烈なプレッシャーを感じた。僕も含め、その場にいる全員がその方向を向く。

 

 

「な、何だ、アレ!?」

 

 

 巨大なナニカが校舎の陰から現れた。

 

 

「デ、デカいドクロの巨人………!?」

 

 

 イッセーくんのセリフがその者の姿を端的ではあるが的確に形容している。

 「デカい髑髏の巨人」……。確かにそうではあるが、そんな可愛げのあるものじゃない。

 

 

『ガアアァァァ……、ここは……何処だ……。余をたばかりし者は誰ぞ………!』

 

 

 野太い威厳のある声色。虚ろな三つの眼窩には鋭く赤い眼光。蓬髪に豪壮な髭。

 

 

『何処だぁぁぁああっっ!! 何処にいる!!』

 

 

 背中から生えるヒトにはあり得ないドラゴンの翼……それも白骨化したものだが、それがこのモノ怒りを表すかのように激しく、重く羽撃つ。

 

 

『貴様らか……! この余を、暗黒皇帝ガナサダイを愚弄したのは……、

 

 万 死 に 値 す る !!』

 

 

 そいつは僕らに鋭利な目線を向ける。

 右手には柱ほどもある長槍、左手には大盾。荘厳ながらもどこか禍々しさを感じさせる冠。そして三つ又の巨大で尖鋭な尾。

 

 

 

 かつて異世界において世界征服を掲げ数多の国々を蹂躙する軍事国家があった。

 

 その国の名は『魔帝国ガナン』。

 

 そして、その国を一代で強国へと導いた支配者――― 暗黒皇帝ガナサダイが駒王学園に現れた。

 

 

 




生体牢獄:漫画「ダイの大冒険」に登場する仕掛けの一つ。『バイオプリズン』と読む。ザムザが超魔生物の実験体として、ロモス武術大会のベスト8を捕えるために使用した生きた檻。8ヶ所から骨組みとなる支柱が生えると同時に生体膜が一挙に包み込み、支柱が頂点に結集するとドーム状になり敵を一網打尽にする。打撃、斬撃、魔法も通じない強固な檻になっている。また、時間が経過すると痺れガスを充満させて、捕らえた相手を行動不能にしてしまう。

キラーエイプ:DQⅢ、モンスターズに登場する猿系モンスターの1種。

ダンビラムーチョ:DQⅦ・Ⅷ、モンスターズに登場する怪人系モンスター。

ブルデビル:DQⅣに登場するアンクルホーンの上位種。外見はⅤ以降のアンクルホーンとほぼいっしょ。

リカントマムル:DQⅠ・Ⅸに登場するモンスター。リカントの上位種、キラーリカントの下位種で、茶色の毛皮を持つ獣人。

竜戦士:DQⅤに登場するモンスター。赤い皮膚に金色の武具を装備した竜人族の戦士。

トドマン:DQⅣやDQM2に登場するいかつくて黄色いトドの獣人モンスター。


何だかエクスカリバー編が異常に長くなってきた……。しかし、まだまだ続きます。

それと楽しみにしていたハイスクールD×Dにバランが転生するのが消えてた。悲しい。


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43話 降臨

3巻が思ったより長くなってきましたが、あと2~3話で終わらせられそうです。


 

 

『ガァァァアアアッッ!! ゴォォァアアアッッ!!』

 

「な、何だよ コイツ……」

 

 

 異様な白骨の巨体をくねらせ、差し迫ってくる暗黒皇帝ガナサダイ。

 善悪はともかくとして、世界を席巻した比類なき大英傑、覇者であることは死して魔物と化した今でも変わりない。

 その凄まじい覇気にイッセーくんは立ち竦む。リアスとヒメジマは先程より更に厳しい表情になり、トウジョウは一見するといつもと変わりない無表情ながらも顔色が蒼白だ。ゼノヴィアとキバくんは冷や汗を掻いている。アーシアに至っては新たなる敵のおぞましさに恐怖し小刻みに震えている……。

 

 異形の皇帝は猛烈な勢いで突撃して来て、そのまま長槍を振り上げた。

 

 

「来るぞ!」

 

「え、ええ!」

 

 

 僕の叱咤に何とか反応するリアス。

 その一方で、魔帝の手に握られる大槍には強大な闘気が集中していく。

 あれが途轍もない力を持っていることは簡単に想像がつく。

 そして、それが大気を薙ぎ払いつつ爆発的な威力を以って僕達に叩き付けられた―――

 

 

『 大 地 斬 !!』

 

 

 ズ ッ バ ア ア ア ア ア ア ア ン ン ッ ッ ッ !!!

 

 

 ガナサダイの一刀を受けたグラウンドは裂けた。比喩ではなく文字通りの意味で、だ。

 地面が抉られ、校庭の端から端までを一直線に走る地割れが生じたのだ。

 凄まじい轟音のせいで些か耳鳴りがするが、長年の苦難から培われた精神力で鳴り止ませる。

 

 

「君達は無事かい?」

 

「ええ、まあ、何とか……」

 

 

 僕の問い掛けにイッセーくんが答えた。彼らは無事だ。

 というのも、僕が異形の怪物の一撃を横っ飛びに躱し、その際ついでに全員を突き飛ばしたからだ。

 そのおかげで彼らは傷一つない。若者達を守れたことに一先ず安堵する。頑丈だけが取り柄のような僕はともかく、彼ら彼女らが今の攻撃を受けていれば細切れのミンチになっていただろう。ザオリクで蘇生させることもできなくはないかもしれないが、まだこの世界の悪魔では試していない。

 ひょっとすれば効かないかもしれないし、なるべく危ない橋は渡らない方がいい。

 

 

『思い知ったかネズミ共、余に楯突く愚者共め……!

 その罪、今此処で贖わせてくれる!』

 

 

 皇帝はなおも怒り狂い怒号を発し、鋭い視線で睨みつけてきた。それにしても何故 先程から怒っている……? 僕らは初対面の筈だが……。

 そう思い、よく相手を観察してみると、何やらガナサダイの白骨化した手首に手枷のような物が嵌められているのが見えた。

 

 

「キヒヒッ! そらそら、もっと怒り狂え ガナサダイ! それ!」

 

 

 生体牢獄(バイオ・プリズン)の上に立つ妖魔学士ザムザが下卑た笑いと共に右腕を皇帝に振り翳した。

 

 すると―――

 

 

 

  バチ バチ バチ バチ !!

 

 

『ぐぬぅぅぅううううっ……!!』

 

 

 手枷から紫電が迸り、怪物の劈くような絶叫が駒王学園に響き渡った。

 

 どうやらザムザは暗黒皇帝を魔法の拘束具による苦痛で制御しているようだ。ガナサダイも痛みの余り錯乱し、敵味方を識別できないでいるようだ。

 だが、ここで疑問に思う事がある。

 

 しかし、何故なんだ……。どうしてこの魔物だけ手枷で操っている―――?

 

 これまで魔法の珠から繰り出してきた亡者共は一切拘束具を付けずとも操られていた。

 それにも拘らずこの皇帝はそうではない。態々拷問器具にも等しい手枷で使役されている……。

 

 確かに些か気になるが……今はそれどころではない!

 

 

「全く、コカビエルとの戦いかと思ったらこんなバケモノと戦うハメになるなんて……!

 まあ、泣き言を言っても仕方が無いわ。私達の学園を守り抜くわよ!

 いくわよ、朱乃! 祐斗! 小猫!

 イッセーはもう一度力を溜めて!」

 

「「「「はいっ!!」」」」

 

 

 リアスが再び皆を叱咤激励する。それに応じたオカルト研究部の皆が応じ果敢に攻め込んでいく。

 

 

「天雷よ、鳴り響け!!」

 

「『魔剣創造(ソード・バース)』!!」

 

 

 ヒメジマが雷の魔力を放ち、キバくんがその神器(セイクリッド・ギア)で聖魔剣を生み出す。

 量、質 ともに今までの彼らのレベルからすれば最高の物。これまで見て来たこの世界の者達のなかでもそれなりに上位であろう。

 激しい雷撃と聖魔剣の豪雨が奇怪な容貌の恐帝に降り注ぐ。

 

 

『ふん! その程度か!』

 

 

 しかしガナサダイも然る者、右手に持つ魔槍で以ってキバくんの剣の雨を一薙ぎのもとで打ち払い、ヒメジマの雷撃を左腕の大盾で弾き防いだ。

 その動きは極めて敏捷で、その巨体の持つイメージからは大きく外れる。流石は世界を征服しかけた武人と言えようか。

 

 

 

『小うるさいネズミ共め……! ぬん!』

 

 

 ガナサダイの巨躯から彼の憤怒を表すが如く猛烈な勢いで闘気が噴き出す。

 それは周辺に滞留し、やがて大気流を巻き起こす。

 

 

『塵と化すがよい――― ト ル ネ ー ド !』

 

 

 

 暗黒皇帝の次なる技。それは真空系体技の奥義『トルネード』だ。その技名の通り大竜巻を発生させ相手を切り刻む。圧倒的なまでの闘気流が駒王学園を襲った。

 

 これは……、皆が危ない!

 

 本能的に理解する。この大技を受けたらグレモリー眷属の皆はただでは済まない。良くて瀕死、悪ければ全滅だ。

 ここは取り敢えず『仁王立ち』で全員を庇い切るほかない。

 恐帝の前に進み出て、両手両足を広げ闘気を身に纏う。

 

 

 そして、全身に衝撃と痛みが襲い掛かってきた―――。

 

 

 

「ぬわーーーーっっ!!」

 

 

  バ ァ ァ ァ ン ッ !

 

 

「リュ、リュカさぁぁぁあああんッッ!!」

 

 

 

 流石にあの威力のトルネードを一人で受け切るのは難しい。風圧によって盛大に吹っ飛ばされ、そのまま校舎に叩き付けられた。

 最近は誰かを護りながらの戦闘が多いが、今回の(ガナサダイ)は別格だ。些か油断した……。

 まさか、あの技を……『パラディンガード』が必要なレベルの敵と遭遇するとは思ってもみなかった。

 今度からはいつでも精神力を高め『パラディンガード』を使えるようにしておかなければ拙いかもしれない。

 とは言え『パラディンガード』を使うには『必殺扇』か『魔法戦士の証』がないと今一つ安定しない。

 それに―――。

 

 

『カァァアア――――ッッ!!』

 

 

 ガナサダイが続けざまに吐き出す『激しい炎』が眼前に迫る。

 瓦礫の山の中から飛び上がるように抜け出し、幻魔の法衣の懐から黄金の柄を取り出し瞬時に起動、そのままライトシャムシールの光刃を振るう。

 

 

「海 波 斬 !!」

 

 

 業火を光刃で以って斬り払う。異世界で会得した剣技『海波斬』だ。炎や水などの形の無い物を斬るのに特化している。それによって暗黒皇帝の大炎を防ぎ切ることは出来た。

 だが……

 

 必殺技を発動させる余裕が無い!

 

 現状では装備を換装するタイミングが無いのだ。この敵を前に悠長に道具袋を広げることなどどうして出来ようか?

 何せ袋の中にはこれまで放浪した異世界で収集したアイテムが山のように詰まっている。その中から『必殺扇』と『魔法戦士の証』を取り出すにはそれなりの時間が掛かる。

 

 前回、(いにしえ)の魔人と戦ったときはグレドラがいてくれたからなあ……。

 このままだとジリ貧だ。幸いイッセーくんがしてくれた強化の効果がまだ残っている。

 ここは一気に攻めるか――――!!

 

 

「せやぁぁあああっっ!!」

 

『ぬっ!?』

 

 

 加速をつけてガナサダイの頭上に一気に跳躍する。大技を放つために大上段に構え光刃を振り降ろす―――

 

 

「超 は や ぶ さ 斬 り !!」

 

「ぐ、ぬぉぉおおおおっ!!」

 

 

 超はやぶさ斬り――― 闘気を溜め、超神速の四回攻撃を繰り出す、その名の通りはやぶさ斬りの上位技 だ。

 

 これは流石に効いた。骨のみで構成される覇王の玉体のうち 頭蓋骨、肋骨、上腕骨……かなりの部位を損傷させ、更にその一部を砕いた。相当なダメージだ。

 

 

『お、おのれぇぇええええ!!!』

 

 

 一気に形勢が不利になったガナサダイは左腕の城門の扉程もある大盾を投げ捨てた。

 一体何のためにそんなことを……? その疑問は次の瞬間には解消された。

 空いた左手の指先に魔力が集束していくのを感じる。それもただの魔力ではない。

 まるで、ありとあらゆる物、この世の全てが凍り付くかのような……強烈な冷気を感じずにはいられない。

 

 ―――あの技だ。そうに決っている。

 

 

『凍 て つ く 波 動 !!』

 

 

 暗黒皇帝ガナサダイ の 指先から凍てつく波動が 迸る!!

 

 やはり来たか!

 これだけは何度受けようがどうにも慣れない。

 周辺の大気が一気に凍り付くかのような錯覚を覚える、覚えさせるあの技が我が身を襲う。

 

 凍てつく波動――― 主に魔王や高位の魔物が使用する特技で、対象に掛かっている補助魔法やら、果ては高めたテンションに至るまで打ち消す効果がある。

 

 イッセーくんに譲渡してもらった倍化の力が急速に失われていくのを感じ取った。

 

 

「イ、イッセー!?」

 

「何で、何でなんだよ チクショーッ!

 倍化が……倍化が解けた……!?」

 

 

 背後でイッセーくん達のうろたえる声が聞こえる。

 

 やっぱり、そうか……。イッセーくんの能力を聞いたとき、便利だなぁ、と感心はしたが同時に懸念も抱いた。

 つまるところ、異能力を打ち消す技と極端に相性が悪いのだ。

 この世界には『凍てつく波動』という技は無いそうだが、似たような技や能力はあるかもしれない。

 そういう相手と戦う際は苦戦を免れない。やはり異能に頼り切りになるのではなく地力を鍛える他ないということか……。

 

 

「慌てないで イッセーくん、みんな。アレは『凍てつく波動』。異能力を打ち消す技だ」

 

「い、『凍てつく波動』?! そんな技があるってのかよ……」

 

「ま、何とかなるだろう」

 

 

 大槍を構えるガナサダイに向き合いながらそう言い切る……、だが一体どうしたものか? 無論、一対一で装備が万全なら倒せない程ではない。だが、この状況で彼に集中してしまうとザムザが何をするか分からない。それに未だ姿を見せないラエボザの存在も気掛かりだ。

 

 

「さ~~て……、ん?」

 

 

 ザムザを警戒しつつ、少しずつ確実にガナサダイを切り崩すべく取り掛かろうとした、その瞬間。

 背後からいくつかの気を感じた。猛スピードで接近してくるのが分かる。

 

 

 

極 大 雷 撃 呪 文 (ギガデイン)!!」

 

 

  ド ゴ ォ ォ ォ オ オ オ ン ッ ッ !!!

 

 

 

『ギャオオオオオオッッ!!!』

 

 

 目の前が真っ白になる程の眩い光と、鼓膜が破れるのではないかと思うぐらいの轟音と共に、ガナサダイに巨大な稲妻が降り注いだ。

 

 

極 大 爆 裂 呪 文 (イオナズン)!!」 

 

 

 間髪を入れず野太い声で追撃の魔法が唱えられる。

 暗黒皇帝の眼前の空間に一点の光が走り、みるみるうちに膨れ上がって大爆発した。

 

 

『グォォオオオオオオッ!!!』

 

 

 

 びょうびょうと凄まじい風が吹き抜ける。そんな中、二人の大柄な悪魔が近づいて来た。

 

 

「我が主よ、無事か?」

 

「御怪我はありませんか?」

 

 

 現れたのは紫色の肌を持つ地獄の戦士兼執事のバトラー、そして魔界のエリート ライオウだ。

 

 

「フッフッフ、どうやら俺の勝ちのようだな、バトラーよ。どう見ても俺のギガデインの与えたダメージの方がデカい」

 

「下らぬことを……今すぐ減らず口を閉じなければ、今ここで捻り潰しますよ?」

 

 

 ついて早々、何やら口喧嘩を始める二人。取り敢えず止めようかと思ったが止めた。この悪魔達は眼前の敵を放置して本気で争うほどバカじゃない。

 それに救援に駆けつけてくれたのは彼らだけではないようだ。

 

 

「ウチらも助けに来たッスよ~~~♪ え~~~い!」

 

 

 上空からゴスロリ姿の堕天使娘 ミッテルトが現れ、その手に持つ星型のタンバリンを鳴らす。その小気味良い音色を聞いていると、何やら全身に力が漲ってくるのを感じた。

 

 あ、『不思議なタンバリン』はミッテルトに持たせてたんだった。忘れてた……。

 

 

「私達もいるわよ、リュカッ!」

 

 

 更に校庭に降り立ったのはレイナーレとカラワーナだ。

 

 

「ありがとう、よく来てくれたね。でも、他の皆は?」

 

「この街中に、何かゾンビみたいな魔物が現れたんですって。バイサー達はそっちに行ったわ」

 

「何ですって!? それで街は大丈夫なの!?」

 

 僕とレイナーレの会話にリアスが物凄い勢いで割り込んで来た。まあ、自分の管理する街のことだ。当然だろう。

 リアスの勢いに些か面を食らったレイナーレだが、少し顔をしかめつつも答える。

 

 

「え、ええ……。特に被害は出てないわよ。何でも魔物達は何かを待ち構えているみたいだって、ピエールが言っててわ」

 

 

 何かを待ち構えている……。詰まる所、時間稼ぎ、サーゼクスくんが到着したときのための足止めのためだろう。 実に念が入っている。しかし、それなら街の住人には被害は出にくいはずだ。一先ず安堵する。

 

 

「よし! なら今が攻め時だ。また『凍てつく波動』でテンションを打ち消される前にやっつけよう!」 

 

 

 そう叫び、バトラーとライオウの極大魔法に怯んでいる暗黒皇帝ガナサダイに向かってく。

 それに皆が続いた。

 

 

  僕のライトシャムシールが―――

 

  キバくんの聖魔剣が―――

 

  ゼノヴィアのエクスカリバーが―――

 

  リアスの滅びの魔力が―――

 

  ヒメジマの雷撃が―――

 

  トウジョウの拳が―――

 

  バトラーの地獄のサーベルが―――

 

  ライオウの奇跡の剣が―――

 

  レイナーレとカラワーナの光の槍が―――

 

 暗黒皇帝の巨躯に殺到した。

 

 

『グ ッ ギ ャ ガ ァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ッ ッ ッ !!!!!!!』

 

 

 

 

 ズタズタになったガナサダイが凄まじい絶叫を上げる。

 ドッシィィィンと重たい音を立てて、恐帝の体は学校のグラウンドに崩れ落ちた。

 

 

「や、やったわ!」

 

 

 リアス達の表情に喜びが浮かぶ。そして今度こそザムザの表情に焦りが見えた。

 

 

「な、な、何をやっている!? 動け ガナサダイ!!」

 

 

 妖魔学士は皇帝の手枷に魔力を送り、痛みで操ろうとするがガナサダイはぴくぴく反応するのが精いっぱいで起き上がることもできない。

 

 その様子を見て誰もが僕達の勝利を確信した。だが―――

 

 

 

「もうよい。ザムザよ」

 

「ち、父上―――」

 

 

 そこに現れたのは小柄な老神父、ラエボザだ。宙に浮かび、こちらを見定めるように見下ろしている。

 

 

「計画を変更するぞ。本来なら邪魔者を一掃してからの筈であったが……今、此処で始める」

 

「こ、此処でですか!? わ、解りました……!」

 

 

 即座に了承したザムザは父の元まで飛翔呪文で飛び上がる。そして……

 

 

「発動せよ、邪配合!」

 

 

 ザムザが何かを発動させた。

 すると、コカビエルが捕らえられていた生体牢獄(バイオ・プリズン)がぶくぶくと膨れ上がり、そのパーツを周囲にぶちまけながら内部から破裂した。

 

 

「ッ!?!?」

 

 

 生体牢獄の骨やら粘膜やら体液を全身に浴びせられながら、前を見た。

 

 そこにあったのは―――

 

 

 

 

 宙に浮かぶ、まあるく赤黒い球体だった。

 

 

  ゾクリ……!

 

 

 それが目に入った瞬間、肌が粟立った。こんな悪寒を感じるのは久しぶりだ。

 それに、その球体――― 胎動する黒い太陽からは、ある意味ではコカビエルをも凌ぐ魔力を感じる。

 そいつが強烈に光り始め、濃密な瘴気が漏れ出す。

 

 

 

 

  キ・ヒ・ヒ……

 

  配合なんて面倒臭~~い♪

 

 

 

 老神父が息子によく似た下卑た笑みと共に歌を口ずさみ始める。

 黒太陽から放出される闇が、やがて蔦の様に伸びていき、地に倒れ伏す暗黒皇帝ガナサダイに絡み付いた。

 

 

 

  成長なんて意味が無イ~~♪

 

  おつかいなんて馬鹿らしい~~♪

 

 

 

 ……ずる……ずる……と、暗黒皇帝の巨躯が引き摺られ、球体に引き寄せられていく。どうやら、あの珠は皇帝を取り込むつもりのようだ。

 

 

 

  欲しい力はお気軽にィ~~♪

 

  欲しい魔物(モンスター)はお気軽にィ~~♪

 

 

 

「止めろ!」

 

 

 この儀式を成功させてはならない。僕の直感がそう叫んでいる。ライトシャムシールを起動させ、黒い太陽に斬りつけようとするが―――

 

 

「邪魔はさせん! メラゾーマ!!」

 

 

 ザムザが火炎呪文を唱えてきた。咄嗟に躱したが、もう間に合いそうにない。

 今にも太陽に触れんとしているガナサダイは此処に至って我に返り、本能的に危機を察してか右手に持つ槍を地面に突き立てて、これ以上は引き寄せ得られまいとするが……

 

 

 

  それが 今風 合理的かつ 現代流~~♪

 

 

 

『グ、グギャオオオオオオオオッ!!!???

 ……た……助け………ぐぬぅぅぅうううううッッ!!!!!!』

 

 

 ガナサダイの絶叫にも等しい悲鳴が真夜中の駒王学園に響き渡った。

 その光景はまさしく地獄だ。得体の知れない嫌悪感を強く感じる。

 “生命(いのち)に対する冒涜”。 今、眼前で行われているのはソレだ。

 この儀式は生き物の尊厳に唾を吐きかけるが如きモノであると、五感が僕に告げている。

 

 

『お、おのれ……』

 

 長槍を地面に突き刺し、必死に抵抗していたガナサダイも最後に怨嗟の声を上げ黒太陽に吸収された。

 すると、漆黒の太陽はより一際 禍々しく輝く。

 

 

  これがワシらの…… 邪配合♪

 

 

 妖怪じみた老司教が口ずさむ忌まわしい歌の最後の一節が唱えられる。

 すると刹那の静寂が訪れた。

 

 そして―――

 

 

 ガナサダイを取り込んだ黒く輝く小さな太陽に亀裂が生じ、やがてパリンッ……と乾いた音を立てて割れ、崩れていく。

 

 そして、その場所にはコカビエルでもなく、またガナサダイでもない者が佇んでいた。

 

 

「今度は一体何なんだよ……」

 

「アイツ……尋常じゃないわね……」

 

 

 その姿を見たイッセーくんが呻き声の様に呟き、リアスが譫言のように洩らす。この場にいる僕も含めた全員がそいつに目を奪われた。

 

 くすんだ緑色の肌と左右両翼に描かれた大きな目玉。黒曜石のような質感の角。悪魔よりもなお悪魔的な容貌。

 

 赤く輝く双眸が辺りを睥睨する。そしてそいつは呟いた――――

 

 

「ここは………? 私は………? いや、そんなことはどうでもいい。

 詳しくは分からぬが、この私に……『堕天使エルギオス』という存在に刻み込まれている記憶……。

 私は始めるべきなのだ。 そう――――

 

  世 界 の 終 わ り を!」

 

 

 

 暗黒皇帝ガナサダイが世界を席巻したのと同じ世界。その世界において一人の守護天使に悲劇が起きた。

 その天使は絶望と憎悪を募らせ堕天し、やがて全てを呪った。

 

 しかし、堕天使は自身の孫弟子の手によってその道を阻まれ、やがて天へと昇った。

 

 

 だが――― 今、この時、暗躍する闇の手の者によって彼は再誕する。

 他でもない彼を絶望の淵へと追い落とした元凶である皇帝と、戦争の再開を望む異界の堕天使を血肉にして――――

 

 

 ついに駒王学園の地に『堕天使エルギオス』が降臨した―――

 

 

 

 

 




大地斬:漫画「ダイの大冒険」に登場した剣技。後にモンスターズシリーズでも採用されている。勇者アバンが完成させたアバン流殺法の一種「アバン流刀殺法」の一つ。剣を一気に振り下ろし、堅固な守備力を持つ敵を力で叩き斬る「地の技」。

トルネード:DQMJ2、DQMJ2P、テリワン3D、イルルカ3Dに登場。DQMJ2で初登場した「しんくうは」の強化技。

海破斬:漫画「ダイの大冒険」に登場した剣技。後にモンスターズシリーズでも採用されている。勇者アバンが完成させたアバン流殺法の一種「アバン流刀殺法」の一つ。水や炎などの不定形な存在をスピードで斬り裂く「海の技」。

凍てつく波動:DQⅢ以降に登場する特技。敵全体にかかっている、全ての補助呪文やテンションによる効果を消し去る。つまり、補助呪文などで何も強化していない、戦闘開始時の状態に戻す効果を持つ。

堕天使エルギオス:「ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人」ラスボス。


本作オリジナル邪配合レシピ 堕天使コカビエル × 暗黒皇帝ガナサダイ → 堕天使エルギオス

ガナサダイが使用した「大地斬」、「トルネード」はDQMJ2Pなどのスキル「暗黒皇帝ガナサダイ」からです。


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44話 決戦の時 1

最近、ネットで調べていたら「小説版だとリュカは46歳で病死する」と書いてあって凄い驚きました(・。・;

そこで読み直してみましたがそのような記述はありません。ですが、〈本書は一九九三年九月に発行された『小説ドラゴンクエストⅤ天空の花嫁3』を加筆修正したものです〉と書いてある。

つまり、加筆前のはそうなのでしょうか? 確かめようにも近所の本屋にもBOOK OFFにもない。

密林で買おうか迷ってます(^_^;)


  

 

「キ~~~~ヒッヒッヒッヒィィィ~~~ッッッッ!!

 大、大、大成功じゃあッッ!! これで何もかも上手くいった! ワシの洋々たる未来は約束されたも同然じゃ!!」

 

 

 狂喜し、辺りにいる者に一切憚ることなく哄笑するラエボザ。まるで一生分の幸福が一刹那に訪れたかのようだ。

 その横でザムザは若干怯んでいるかのような顔をしている。その目線の先には未だに微動だにしない、自らを『堕天使エルギオス』と名乗った者の姿があった。

 

 

「ち、父上……本当に大丈夫なのでしょうか? こやつの制御は……」

 

「な~にを言っておる ザムザよっ! ワシの計算に狂いは無い! それにあの男(・・・)からの預り物もあるからのう!」

 

 

 ―――そう言うなり老神父は懐から何かを取り出す。それは大きな黒真珠のようにも水晶玉のようにもに見えた。

 そいつをコカビエルとガナサダイであった者に向け、高々と掲げる。

 

 

「そら、『魔砲珠』よッ!」

 

 

 老人が叫ぶ。すると、珠から真っ黒い瘴気のような霧が溢れ出し緑色の堕天使に纏わり付いた。

 そのドス黒い霧はみるみるうちに堕天使の身体へ吸収されていく。

 

 

「キヒヒッ! 我が名は妖魔司教ザボエラ、貴様の新しい御主人様じゃッ! さあ、ワシに従えッ!!」

 

 

 耳障りな甲高い声で命令するラエボザ―――真の名は『妖魔司教ザボエラ』というらしいが。

 それに対し、堕天使は全く気にする素振りは無い。自分の両手をしげしげと眺めている。指の関節を折ったり伸ばしたり……どうやら動作の確認をしているらしい。

 

 だが―――

 

 

 

 

  ブワァアンッ!!

 

 

 

「ぎょ、ぎょええええ~~~~ッッ!!!」

 

 

 旋風、そして悲鳴とともに吹き飛ばされる魔族の父子。

 

 突然の出来事であった。……一薙ぎ、僅か一薙ぎである。

 全く、力が篭らぬ……少なくとも傍目からはそう見える動きであった。

 ザボエラ親子に向けて右腕を無造作に振り降ろしただけである。

 それだけでザボエラは朝礼台に、ザムザは植木に叩き付けられた。

 だが、確かに感じた。今の一撃には相当な闘気……それも暗黒闘気に近いモノが篭められていたのだ。

 闘気と風圧のみで薙いた……。それも準備運動レベルの動きでだ。

 

 どう見ても只者じゃない。コカビエルやガナサダイとは比べようもない強大な力を持つ存在だと容易く理解できる。

 

 その一方、自身を産み出したのであろう父子を薙ぎ倒したことなど気にも留めず、肉体の状況確認を済ませた異形の存在は再び俯き、何やら考え込み始めた。

 

 そんな中、意を決した表情で紅髪の少女が前に進み出る。

 

 

 

「……それで……一体これはどうなっているのかしら?

 あなたはコカビエル……よね? それともさっきの暗黒皇帝ガナサダイとか言う奴かしら?」

 

 

 この異常な状況下においても顔色が蒼白になりながらも気丈に振舞おうとするリアス・グレモリー。だが、その努力はあまり実っているとは言えない。何故なら声が明らかに震えているからだ。彼女が無理をしていることはあまりにも見え透いていた。

 

 そんなリアスの必死の問い掛けに対して、目の前にいる異形の堕天使はまるで気にも留めず、怨念と怨嗟が滲み出たかのような声色でぽつりぽつりと呟いている。

 

 

「……罪。

 存在そのモノが……罪なのだ」

 

「え?」

 

 

 眼前のリアスという存在に全く関心を払わず、尚も独白を続ける堕天使。

 その唇から紡がれる憎悪に満ちた言葉が一つ、また一つと積み重なるごとに彼から放たれるプレッシャーは急速に増大していく。今や、その重圧はかつて相対したかの大魔王には届かぬものの、けして軽視することのできない強烈なものとなっている。

 

 

「存在すること自体が罪……。

 人間とはそういうものだ。

 人間を守ろうとするセレシア。滅ぼそうとしながらも放置したグランゼニスも同罪……。

 罪は裁かれねば……。誰もやらぬというのであればこの私が手を下そう……」

 

 

 譫言のように、囁くかのように話し続ける堕天使。

 だが、その言葉の中に気になる単語があった。セレシア……? グランゼニス……? いずれもこことは異なる世界で聞いた名だ。この世界の者ではない。確か、ゼノヴィア達の信仰する『聖書の神』は違う名前の筈だ。

 

 僕はそんなことを思案していたが、しかしそんな悠長なことをしている場合ではない。

 そいつは急に振りかぶり、強烈な目線でこちらを見据えた。そして咆哮する。

 

 

「我が名はエルギオス。かつて大いなる天使と呼ばれし者!」

 

 

  ぞわっ…………!

 

 

 その憎しみに満ちた激しい視線に曝された瞬間、全身の体毛が逆立つのを感じた。

 彼の憎悪の対象たる人間の一人としてなかなかの恐怖を覚えざるを得ない。ここまでのは本当に久方ぶりだ。

 

 異形の堕天使―――エルギオスの眼差しはリアス・グレモリーへと向けられる。

 幾筋もの冷や汗が頬を伝う彼女に鋭い詰問の声が飛んだ。

 

 

「問おう 悪魔の小娘よ。お前は人間に守る価値があると思っているのか?」

 

「何よ 突然に……。この街にいる者を守るのは上級悪魔グレモリー家の者としての当然の義務だわ……!」

 

 

 唐突なエルギオスの問い掛けに怯みながらも毅然とした態度で答えるリアス。

 

 

「ならば黙って我が手に掛かれ! 神も人も、我に逆らう悪魔も 全て皆、滅びるがいい!!!」

 

「ッ!?」

 

 

 明確な拒否、そう意思表示するリアスの返答。それを聞いた途端、エルギオスの放つ重圧が爆発的に増えた―――。

 目の前の男が膨大な魔力を内包する存在だという事は全身でひしひしと感じ取れる。

 

「どうしたというんですか、コカビエル様!?」

 

「下がるんだ、レイナーレ!

 彼はもう“コカビエル”ではない!!」

 

「そうは言っても……」

 

「ウチらの上司ッス! 何とかして止めましょう レイナーレお姉さま!!」

 

「……え、ええっ!」

 

 

 健気にも堕天使三人娘は変質し、もはや見た目からは堕天使であると到底見えず、寧ろ悪魔に近い姿と化した元上役に立ち向かおうとする。

 おそらく、同じ堕天使の自分達であれば、エルギオスも何らかのリアクションを取るのかもしれないと思ったのだろう。

 だが、それはあまりにも楽観的すぎる……!

 

 

「三人とも止めるんだ! 無茶をするな――――」

 

 

 吶喊していく三人を必死に呼びとめようとするが………

 

 

 

 

 

   ギ ラ リ……!

 

 

 

  レイナーレの 身体は 動かなくなった!

  カラワーナの 身体は 動かなくなった!

  ミッテルトの 身体は 動かなくなった!

 

 

 

 何と……レイナーレ、カラワーナ、ミッテルトの三人を一睨みで止めてしまった。

 彼女達はまるで石像になったかのように動けなくなっている。微動だにしない。

 そこまで三人と隔絶した力の差があるということか……。それとも―――

 

 

「上位の天使には逆らえぬ天の(ことわり)か。……貴様らとは戦う価値もない」

 

 

  ブワァンッ!

 

 再び、右腕を振るエルギオス。それだけでレイナーレ達は弾き飛ばされ、地面に打ち据えられた。

 どうやら、そのまま気絶してしまったようだ。起き上がる気配が無い。

 

 それにしても『天の理』か……。そんなものは聞いたことが無い。レイナーレ達からもリアス達からもだ。

 推察するに、このエルギオスがいた世界の(モノ)だろう。そいつを別世界であるここで適用させたというのか。

 そんなことは可能なのか? それともこの者エルギオスがそれ程までに強大であるということなのだろうか?

 

 

「……300年もの長き間…… 天使としての尊厳を奪われ捕らわれ続けた私の憎しみがどれ程のものか、お前達には想像も出来まい。

 しかし、その憎悪が私に力を与えたのだ。今や私の存在は神をも超越した。

 今こそ神に成り変わり、この私が至高の玉座に着こう……」

 

「一体、何言ってやがんだ、コイツ……!?」

 

 

 イッセーくんが引きつった表情で戸惑いの声を上げた。

 他のオカルト研究部の皆とゼノヴィアも恐怖と困惑が入り乱れた顔をしている。

 無理もない。僕でさえ状況を完璧に読み取るのは不可能だ。

 しかし、たとえそうであっても僕なりの推論を皆に述べるべきだろう。若人達を少しでも落ち着けるために……。

 

 

「……そうだな。僕は様々な異世界を巡り回って来たが『邪配合』という言葉は初めて聞く。

 だが、『配合』という言葉なら何度も聞いた」

 

 

配合―――― モンスター同士の結婚のようなもの。モンスターバトルが盛んな世界におけるM・M(モンスター・マスター)達のモンスターの強化手段。 ♂と♀のモンスターがそれぞれ一匹ずつ必要で、配合を行った二匹はいなくなってしまう。ただし、両親から特技などを受け継いでより強くなった子供が生まれてくる。子供の種族は両親で決まる。ただし、同じ組み合わせでも条件によっては違うモンスターとなることもあるという……

 

 

「―――要するに魔物と魔物を交配して新しい魔物を産み出すワケだ。

 しかし、『邪配合』はそうではなく、寧ろ“合体”に近い」

 

「合体ッ!?」

 

「そうだ」

 

 

 つまり、今 目の前にいるのはコカビエルとガナサダイを合体させたナニか、ということになる。

 その何かとは―――

 

 

「彼は自身を『堕天使エルギオス』と名乗った。この名も聞いたことが無い。しかし、彼が先程 発した『グランゼニス』『セレシア』。この二つは耳にしたことがある。どちらも此処とは異なる世界の神々の名だ」

 

 

 ふと、後ろを振り返ると、ゼノヴィアとアーシアが驚きに目を見開いている。相当なショックを受けているようだ

 彼女達の信仰する宗教では神は唯一神である『聖書の神』のみ……、確かそうなっていたはずだ。異世界にも神を名乗る存在がいることが驚きなのだろう。

 

 

「だけど『堕天使エルギオス』という名前も不思議な感じがするんだ……。

 何となくだけど、その言葉の響きに……どう言えばいいのかな? そう、強力な“言霊”が宿っている気がする。

 おそらく、『堕天使エルギオス』とは、『グランゼニス』『セレシア』が治める世界で極めて強大な存在だったのではないだろうか。

 そして、そいつをコカビエルとガナサダイを素材にして再現した……」

 

 

 オカルト研究部の皆は僕の言葉にしんしんと聞き入っているようだ。『堕天使エルギオス』らしき者も、真っ赤に光る(まなこ)でギロギロと此方を睨め回している。

 もうすぐだ、もうすぐ語り終える……。

 

 

「だが、目の前にいるのはあくまで複製品。『エルギオス』本人じゃない。もし、本人だとしたらこんなモノじゃないはずだ。

 たぶん、『堕天使エルギオス』という存在のあまりの大きさに、複製体が引き摺られてしまってる(・・・・・・・・・・・)んじゃないのかな? だから、コカビエルやガナサダイのとは全く違う……『堕天使エルギオス』の不完全な人格となっている。僕はそう思うよ」

 

 

 皆に注目が集まる中、僕は自分の推論を締めくくった。

 僕の話を聞き終えたエルギオス≒が口を開く。

 

 

「……つまり、私がニセモノだと? フ、フフフ……、ヒヒッ……ヒィィァァアアッハッハッハッハァァァアアアアッッ!!!!

 愚かなる人間め、この身から無尽に沸き立つ怒りが、憎しみが、擬い物であると!?

 

 ……許さぬ、許さぬぞ。……許さんぞォォオッッ!!!」

 

 

 堕天使が絶叫した。 

 鼓膜が破れるのではないかと思えるほどの大音声が駒王学園に轟く。

 

 僕の言葉がエルギオス≒の逆鱗に触れたようだ。しかし、これは思わぬ僥倖だろう。

 何故なら彼の怒りが自分に向いた。イッセーくん達が狙われ難くなる―――!

 

 

「ガァァァアアアッッ!!!」

 

 

 怒声を上げ、物凄い速さで接近してくる堕天使の両の拳がぼやけ、霞み、見えなくなる。

 ……否、目で追えぬほどの連撃、『超高速連打』だ!

 

 

「『爆裂拳』!」

 

 

 堕天使の剛拳を迎え撃つべく、僕も格闘の奥義の一つ『爆裂拳』を放つ。

 連打 対 連打。堕天使の拳と僕の拳が何度も撃ち合わされ、一合一合、空気が破裂するような音が鳴り響く。

 聞くだけでも痛みそうな音だが実際にかなり痛い。これを数刻 続けたら拳が砕けてしまいそうだ。

 

 

「せいっ!!」

 

「ゴガッ!!」

 

 

 それでも何とか競り勝った。僕のパンチが一発 エルギオス≒の頬を打ち抜いた。

 それによって彼を後方に吹っ飛ばしたが、それでも異形の堕天使は空中で体制を立て直し、宙返りしつつその場に滞空した。

 

 

「そう簡単には負けないよ」

 

「フンッ! 人間が!!」

 

 

 益々憎々しげな眼差しを向けてくるエルギオス。

 

 次に彼は禍々しい模様の翼を大きく広げ、全身から恐ろしい魔の波動を放出し始めた。

 暗黒の力によって空間は歪曲され、地上に地獄が具現化し始める―――

 

 

「消えうせるがいいッ!

  ジ ゴ ス パ ー ク !!」

 

 

  堕天使エルギオス は 地獄から 雷を呼び寄せた!

 

 大地に異空間へのゲートが形成され、そこから真っ黒い雷撃が迸る。その雷火が辺り一面を薙ぎ払いながら向かってくる―――!

 

 

「ライオウ! バトラー! 『マジックバリア』だ!」

 

「「はッ!」」

 

 

 僕とライオウとバトラーの三人で魔法の障壁を張る。一枚一枚が脆弱な膜であっても三枚あればなんとかなる……と思いたい。

 

 表面が虹色に揺らめく魔法の壁が用意された、その次の刹那、途轍もない雷鳴が轟わたった!

 

 ド ッ ッ ッ ゴ ォ ォ ォ ォ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ ン ン ッ ッ ッ !!!!!

 

 

 それと共に打ちつけるかのような衝撃が五体に襲来する。

 凄まじい衝撃と熱。しかし、何とか全員持ち堪えることができた。

 

 雷が止み、寸毫ほどの静寂が訪れる。

 だが、堕天使のいる上空を見上げてみると―――

 

 

 

「……トドメだ。『シャイニングボウ』」

 

 

 そこには『ジゴスパーク』よりも更に憂虞すべき光景が広がっていた。

 駒王学園の上空には、無尽の光の矢が展開され漂っていたのだ。点ではなく面、さながら天に輝く星々を凝縮したかのような神々しくも、どこか禍々しい印象を受ける情景。

 

 

 エルギオス≒が腕を振り降ろすと、一斉に箭が解き放たれた。それはまさしく光の雨。膨大な数の箭がグラウンドに降り注いできたのだ。

 

 

「これで終わりだ。罪深き人間と愚かなる悪魔共よ―――!」

 

 

 

 




魔砲珠:???

邪配合:漫画「ドラゴンクエストモンスターズ+」より。ベースとなるモンスターに別なモンスターを吸収合体させる技術。

創造神グランゼニス:DQⅨに登場。神の国に居を構える、全知全能だという偉大な神。名前から察せられるとおり、DQⅨの世界のすべてを創造した最高神。

女神セレシア:創造神グランゼニスの娘である女神。基本的に主人公の味方で慈悲深い女神様なのだが、主人公ばかりに大変なことを押しつけて実質選択の余地がない過酷な運命を迫ったりする。サンディの話では今は美白だが昔はガン黒だったらしい。

ジゴスパーク:DQⅥ以降などに登場する特技。地獄の雷を呼び出し、敵全体を攻撃する。敵全体に250前後のダメージを与える最強クラスの特技。


なんか長くなってしまったので初めて前後編に分けます。
後編は近日あげます。


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45話 決戦の時 2

しっかし、本当に46歳で病死するのだとしたらこんな所でリュカに油売らせていいのか、という葛藤を覚え始めました。
さっさと返して家族サービスさせるべきでは……(^_^;)


 

「持ち堪えろ、踏ん張るんだ!」

 

 

 ライオウ達を激励し、展開しているマジックバリアにより一層の魔力を込める。 

 これで破られたら、僕らもリアス達も数十本の矢を受け串刺しだ。僕達はともかく、悪魔のリアスとその眷属達は一堪りもない。おそらく全員 棺桶送りだ。だから、何としてでも凌ぎ切らなくてはならない。

 

 だが、そんな思いとは裏腹に、がんがん音が鳴り響き、ぶすぶすとマジックバリアに光の箭が突き刺さっていく。

 一枚目が乾いた音と共に破壊され、そのまた数十秒後に二枚目が破られる。三枚目も、もうあと数秒も持つまい。

 

 だが、相手の箭ももうすぐ尽きる。ここは―――。

 

 

 

 パ リ ン !!

 

 ついに最後の魔法障壁が粉々に砕け散った。障害を突破した矢が次々に此方へ降って来る。

 光の雨を注視しつつ、ライトシャムシールを起動させ……

 

 

「『海波斬』!」

 

 

 マジックバリアが破られるのと同時に跳躍し、海波斬で光の矢を斬り払う。

 ほとんどの箭は消失した。

 

 だが―――

 

 

「そっちにいったよ! 躱して、リアス!!」

 

 

 やはり打ち漏らした。九割以上は防げたが、それでもまだ結構な数の矢が残っている。

 機動力に優れ、躱すことができるであろう騎士(ナイト)のキバくんならともかく、他の皆は拙い!

 

 

『Transfer!!』

「いったッスよ、部長ッ!」

 

 

「ええ、イッセー! はあああああアアッッ!!」

 

 

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)によって強化されたリアスの滅びの魔力が残りの弓矢を掃海した。

 どうやら、僕らがマジックバリアで守っている間にイッセーくんが再び倍化をしていたようだ。いつまでも守られるだけの存在ではないということだろう。

 彼らもまた日々成長しているというわけだ。その姿が息子と娘に重なり、ちょっと泣けてきた。歳を食うと涙もろくなっていけない。

 

 

 一方、エルギオス≒は必殺の特技である『シャイニングボウ』を凌がれたことで、一時、自失茫然としていたが、やがて、最後に決め手となった滅びの魔力を放ったリアス・グレモリーに、その赤い憎悪に満ちた眼差しを向けた。

 

 

「…………罪。

 存在そのモノが……罪なのだ。神の創りしこの世界はありとあらゆる罪で溢れている。

 全ての罪に裁きを下そうというのであれば、もはや世界を滅ぼす以外にない。

 紅髪の悪魔の少女よ。お前は飽く迄 私を阻むつもりか!?」

 

「……何度も同じことを言わせないでちょうだい。私達の街を、私達の学園を、これ以上 好きにはさせないわ!」

 

 

 憤怒の表情を浮かべ詰め寄る堕天使に対し、怯みつつも飽く迄 気丈に振舞う紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)

 その後ろ姿を見るグレモリー眷属の面々も、エルギオス≒のこれまでの敵と隔絶した力に絶望しかけていたようだが、次第に活力を取り戻した。

 

 

「……愚かなことだ。貴様如きでは我が敵にはなるまい。身の程を知るがいい!」

 

 

 これはいけない!

 エルギオス≒の怒りの矛先がリアスに向いた。

 絶望の堕天使は大地を蹴り跳躍、そして翼をはためかせ急上昇し結界の天井ギリギリまで昇る。そこで止まると凄まじい速さで急降下してきた。

 巨大な暗黒闘気を身に纏うその姿はさながら黒い隕石。

 最大級の悪意が悪魔の少女に向かう。

 

 

「部長ォォォォオオオオオッッ!!!!」

『Explosion!!』

 

 

 主の危機に咄嗟に飛び出すイッセーくん。先程、リアスに譲渡したばかりだが、もう倍化を済ませたらしい。

 ……いや、かなり無理をしているようだ。すでに三回も譲渡を使用している。

 すでにイッセーくんは疲労の極地だろう。しかし、目をらんらんと輝かせてエルギオス≒に向かって行く。

 主人への忠誠心か、それとも恋心によるものか、いずれにせよ素晴しい。素晴しいが……

 

 

「少し向こう見ずに過ぎるな……。バトラー! 援護を!」

 

「了解いたしました。しかし、参りましたね。補助呪文の類ではどうにも出来ませんし……。

 仕方ありません。グレモリー眷属の皆様は耳を塞いでおいてください」

 

 

 青紫の獣人型悪魔の忠告を聞いたリアス達は困惑しつつも耳に手を当て塞ぐ。

 その様子を確認したバトラーに極めて強大な魔力が集まり出す。

 

 

「 究 極 爆 裂 呪 文 ―――

 

   イ オ グ ラ ン デ   」

 

 

 その言霊が吐き出されると共に、駒王学園上空の大気が一瞬にして歪み、瞬く間に集束していく。

 そして、地獄の戦士の最強呪文が炸裂した。

 まるで大地が崩壊するのではないかという錯覚を抱いてしまうほどの圧倒的な衝撃が全身に襲い掛かる。

 正に想像を絶する大爆発。

 

 

 

「グ、グヌウウ………!」

 

「今だ、イッセーくんッ!」

 

「ウオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 猛烈な爆風に煽られ、突進の勢いが衰えたエルギオス≒にイッセーくんが赤龍帝の籠手を装備した右腕を振りかぶる。

 

 

  バギィィィィイイイッッ!!

 

  会心の一撃!

 

 

 イッセーくんの今 出すことができる全力が込められた拳は絶望の堕天使の左頬を見事に貫いた。エルギオス≒の吶喊は完全に殺す事が出来た。

 ……だが、まだだ。バトラーの究極爆裂呪文(イオグランデ)によりかなりのダメージを与えたが、エルギオス≒を沈黙させるには至っていない。

 

 逆に間合いを詰め過ぎたイッセーくんに対し、堕天使の無慈悲な手刀が襲い掛かった。

 その一撃はイッセーくんをふっ飛ばし、運動部の用具をしまう物置に叩き付けられる。

 

 それでもイッセーくんはよろめきながらも起き上がった。

 

 

「ぬぅ……。脆弱な下級悪魔め。何故、私に逆らう?

 力の差を理解できないのか?」

 

「そんなもの……、 知るかよ……。

 俺はなぁ……、俺は、ハーレム王になるんだよ!!

 俺の街を、俺の仲間を、そして俺の部長のおっぱいを傷つける奴は絶対許さねえっ!!

 お前の良く分かんねえ勝手な理屈で世界が滅ぼされてたまるかよ!!

 邪配合? 人間の罪? そんなもの知るかよ!!!

 お前は俺の大切な(ひと)と、そのおっぱいを傷つけようとした。俺がお前を倒すのはそれだけで十分だ!!!!」

 

 

「は?」

 

 

 

 ……? …………おっぱい?

 

 え? え?? どうしておっぱいが此処で出てくるんだ?

 ……う、うーん。 彼のこういう部分が良く分からないんだよな……。

 おっぱいか……。まあ、僕も嫌いじゃない。寧ろ、好きだと言ってもいい。だが、ここまでは……。

 いや、そうでもないか。ポートセルミにある『グレイトドラゴンと踊る宝石亭』で、二階から踊り子達の胸を覗いている男がいた。

 その男に「場所を譲ってやる」と言われ「はい」と答えたら、それを見ていた妻にキレられた。あの時ほど妻が激怒したこともまずない。

 まあ、それよりもその覗きスポットが世襲制であることに驚いたが……。

 

 まあ、どの世界もおっぱいが好きな男はいるということなのだろう。

 それにしても彼はとても面白い。あの張り詰めた空気があっという間に弛緩した。グレモリー眷属達も晴れ晴れとした顔付きだ。

 イッセーくんのようなタイプの人間は名の知れた勇者達のパーティの中に必ず一人はいると言っていい。

 チーム全体のムードメーカーになる存在だ。

 僕達のパーティでは城の兵士にピピンがその役割を担っていた。自国の王が目の前に入るにも拘らず、自分の城を持つ野心を語るなど、本当にユニークな青年だった……。

 それだけリアス達にとっても重要な人材と成りうるだろう。

 

 僕も何だか気が楽になってきた。

 改めてエルギオス≒に向き合うこととしよう。

 

 

「君がどうして それほど人間を憎んでいるのか、僕は知らない。

 確かに君の言う通り、人間には醜いところがある―――」

 

 

 思い出されるのはカボチ村での一件だ。村の畑を荒らす魔物を退治して欲しいと言われ、その魔物が住むという巣に赴いた。そこで出会ったのが生き別れになっていたプックルだ。プックルを仲間にし、もう安心だという事を知らせようと村に戻ったが……、僕は魔物と……プックルとグルだと言われ、村を追われた。

 あのときはとても……、とても悲しかった。

 

 

「だが、他の生き物は違うと どうして言えるのだろうか……? 他の生き物……悪魔、天使、堕天使、魔物、どの種族も自身の脅威となる者は取り除こうとすることはある。

 それに人間には良い部分も……美しい部分もたくさんある」 

 

 

 数年後、カボチ村に戻ったときだ。昔はヨソモノには厳しい視線が向けられていたが、今ではそうではない。

 明るく、開放的な村となっていた。

 人間は反省し、変わる事も出来るのだ。

 

 

「人間も悪魔もドラゴンも堕天使も……、それほど大きな差は無い。

 大事なのは『愛』だ。

 それに……、憎しみとは『愛』の裏返し。君も人間を愛し、愛されることを望んでいた……そうじゃないのかい?」

 

 

 そうだ。彼は……少なくとも、オリジナルのエルギオスはきっと愛を欲していたはずだ。

 僕の推測はおそらく間違ってはいない。そう確信させるものが 彼の振る舞い、そして彼の慟哭の内にあった。

 

 エルギオス≒は僕の言葉を聞き、呆気にとられたかのように しばらく茫然自失としていたが、やがて、顔を歪め哄笑し出した。

 

 

「クックック……。愉快、実に愉快だ。人間への憎悪によって堕天使となった私の前に立ちはだかるのが、悪魔でありながら人間を守ろうとする小娘、女の乳を欲さんが為に命を張るドラゴン、悪魔も(ドラゴン)も堕天使も問わずに愛を注ぐなどと戯言をぬかす愚昧なる人間とはな……」

 

『グッ……、女の乳を欲するドラゴン、だと………!?』

 

「ど、どうしたんだ ドライグ!?」

 

 

 何やらイッセーくんの神器(セイクリッド・ギア)に宿るドライグが精神的ダメージを負ったらしいが、今は気にしないでおこう。

 

 

「だが、どのような耳あたりの良い言葉を弄そうとも、我が憎しみは消えるモノではないッ!

 その憎悪の激しさを、絶望の深さを……思い知らせてくれるッ!!!」

 

 

 再び 怒りと憎しみのオーラを撒き散らし、向かってくるエルギオス≒。

 しかし、それに相対するリアス達の表情に怖れの色は無い。

 

 

「私達はまだ負けていないわ! イッセーとリュカさんに続くわよ! みんなっ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

 グレモリー眷属が一斉に動き出す。

 まずは戦車(ルーク)のトウジョウが持ち前のパワーを生かした打撃を見舞おうと、猫の如き敏捷性でもって接近するが、蹴撃を放つ前に簡単に足首を掴まれ、そのままぶん投げられる。その先にいたのはヒメジマだ。砲弾の如き亜音速の速さで打ち当てられ、二人ともすっ飛んで学舎に衝突する。

 

 

「小猫ちゃん! 朱乃さん! ……くっ、聖魔剣よ!

 ハァァァァアアッッ!!」

 

 

 あっという間に蹴散らされた二人を一瞬 気に止めたものの、キバくんが騎士の速さで以って斬りかかる。

 絶望の堕天使は光で剣を形成し迎え撃った。しかし、その剣戟はほとんど一瞬で終わる。

 キバくんの聖魔剣を一撃で粉砕したエルギオス≒は、そのまま返し刃で彼を袈裟斬りにしたのだ。

 その剣圧で以ってキバくんが叩き返され、そのまま倒れた。

 

 急いで駆け寄るが……。酷い傷だ。しかし、辛うじて致命傷ではない。彼は斬られる瞬間、咄嗟に飛び退いていた。だからだろう。

 

 

「べホマ!」

 

 

 回復魔法を掛けてみるが……治りが遅い。暗黒闘気の為か!

 暗黒闘気には回復魔法の効き目を遅らせる作用がある。それが原因だ。

 ……これは参った。治せない事もないだろうが時間が掛かり過ぎる。僕が戦線を離れればライオウとバトラーの負担が増える。

 まあ、あの二人なら何とか出来そうな気もするが、危ない橋は渡らない方がいい。

 

 すると、そこに―――

 

 

「私が治します!」

 

「アーシア!」

 

 

 現れたのは金髪の少女 アーシアだ。

 そうか、彼女の『女神の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』なら……!

 

「頼めるかい?」

 

「はい! 皆さんのお役に立いたいんです!」

 

 

 彼女は倒れ伏すキバくんの元に近づくと、跪き、一心に祈り始める。

 すると、少しずつ暗黒闘気が抜けてきた。そのおかげで僕の回復魔法の効きがずっと速くなる。

 

 

「ううっ……」

 

「大丈夫かい、キバくん?」

 

「ええ」

 

 

 傷はあっという間に治った。だが、休んでいればいいのにキバくんはふらつきながら強引に立ち上がる。

 たぶん、止めても聞かないだろう。彼らの力を上手く活用するにはどうすればいいか……

 

 

 

 

「爆煉斬り!!」

 

「雷神斬り!!」

 

 

 その一方で、まだ戦いは続いている。今はライオウとバトラーがそれぞれ“爆煉斬り”と“雷神斬り”で、エルギオス≒の腕を一本ずつ斬り落とした。流石は僕の最も頼りにする魔物達だ。

 

 しかし、絶望の堕天使は怯まない。大きく息を吸い込み、全身を震わせ『絶対零度』を吐き出した。

 

 

「ぬぅっ!」

 

「魔界のエリートのこの俺がーーーーっっ!!」

 

 

 前衛を務めていた大悪魔達を直撃する冷凍ブレス。その威力は凄まじいものだった。

 まさしく極寒地獄。冷凍ブレス系最高位の技だけはある。以前、旅した氷の世界やオークニス地方を思い出す程だ。

 そのブレスをもろの受け、二人とも氷の彫像と化してしまった。

 二人とも冷気に耐性がある。しかも、ライオウはかなり強いのだ。たぶん、一時的に凍りついてしまっただけでダメージはそこまででもないと思うが……。

 

 ともかく、二人とも一時的に戦闘不能だ。

 そこでキバくんと共に前に出る。

 

 

「いいかい、一人一人じゃ駄目だ。僕と君とゼノヴィアでやる。僕に君の力を委ねてくれ。いいね?」

 

「はい……!」

 

 

 僕の問い掛けに、決意の篭った表情で頷くキバくん。

 ゼノヴィアにも目配せをする。

 

 

「ぐっ……! 人間がァァァアアアアッッ!!!」

 

 

 両腕を失った堕天使が吠える。すると、切断されたされた諸腕の付け根が隆起し、瞬く間に復元してみせた。なんとも恐ろしい回復力だ。

 だが、そんなことにはお構いなしに、真ん中に僕、右にゼノヴィア、左にキバくんの陣形で攻めかかる。

 

 一気に体内の闘気を爆発させ、僕だけではなく、キバくん、ゼノヴィアの二人を包むように闘気で覆い、纏め上げる。

 

 

 僕がリードすることによってキバくんの双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)とゼノヴィアのエクスカリバー、そして僕自身のライトシャムシールの切っ先が一つに交わり、一振りの光の剣と化す。

 

 

「「「ト リ プ ル ソ ー ド !!!」」

 

 

 

「ぐぎゃああああああああッッッ!!!」

 

 

 堕天使が今度こそ甲高い悲鳴を挙げる。三本の剣は邪悪な秘術によって造られたエルギオス≒の肉体を引き裂いて見せたのだ。

 

 

「「やった!」」

 

「いや、まだだ!」

 

 

 キバくんとゼノヴィアが喜色を浮かべたが、僕がそれを制した。

 

 確かに大ダメージを与えることには成功した。今度はなかなか回復しない。おそらく(エルギオス≒)の回復力を上回るダメージを与えることに成功したおかげで、肉体の再生が始まらないのだろう。

 

 しかし、それにしても様子がおかしい。戦意と憎悪で彩られていた彼が、心ここに在らず、当惑の海に沈んだかのようだ。

 

 堕天使は、自らの体に出来た大きな傷をまるで信じられないモノでも見るかのように見詰めている。

 

 

 

「ググッ……。何故だ。神をも殺した私が……どうして押される? 何故、この私が傷を負う?」

 

 

 エルギオスは何かに憑かれたかのようにぶつぶつと囁きだした。何やら錯乱し、記憶が混濁しているようだ。一つの肉体で二つの記憶(たましい)がぶつかり合っているかのように……

 その様子は非常に不気味だ。空恐ろしいモノを感じる……。

 

 

「神? 私が殺した……? 違う……、もう死んでいるのではなかったか?」

 

 

 ふと、気付いた。前の呟きとは内容が異なっている。

 彼は先程『しかし、その憎悪が私に力を与えたのだ。今や私の存在は神をも超越した。今こそ神に成り変わり、この私が至高の玉座に着こう……』と言った。

 それなのに、今の言い方では“神はすでに自分が倒した”と言っているのと同じではないか? 「これから倒そう」と言っていたのに「すでに倒した」?

 ……一体何が起きているんだ?

 

 

「どの神のことだ……? グランゼニス………いや、違う。『聖書の神』だ」

 

 

 また新しい名前が出てきた。今度はこの世界で信仰される『聖書の神』――――

 その事を口に出すという事はコカビエルの記憶が混ざり出したということか……。

 おそらく、この異形の堕天使の中で『堕天使エルギオスの記憶』と『堕天使コカビエルの記憶』がせめぎ合っているのだろう。

 

 

「グランゼニスは殺した……。『聖書の神』はどうなった………」

 

 

 エルギオス≒ は 何かを 思い出そうとしている!

 

 尚も自問自答を繰り返す。その姿はどこか猟奇的ですらあった。

 それにしても神――― グランゼニスを殺したとは……。穏やかじゃないな……。

 

 僕がそんなことを考えていたとき、唐突にエルギオス≒が顔を上げた。どこか狂気すら感じる表情だ。

 そして、とんでもないことを叫んだ――――

 

 

 

 

 

 

「クククッ……! ああ、そうか。そうだった! 思い出した……!」

 

 

 

 

 

 ―― この世界の神は……『聖書の神』は死んでる……! 以前の大戦の際に魔王と共に死んだのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばしの静寂……最初にそれを破ったのはリアス・グレモリーだった。

 

 

 

 

「どういうこと!? そんな戯言、冗談でも言わないでちょうだい!」

 

 

 彼女の悲鳴にも近い詰問の声が荒れ果てた駒王学園に響いた。

 そんな彼女をエルギオス≒……いや、彼の中に組み込まれたコカビエルだろうか? は、明らかに嘲笑っている。

 

 

「いや、戯言ではない……。私の……コカビエルの記憶にはっきりと残っている。

 お前達は知らなくて当然だ。『聖書の神』が死んだなどと 一体誰に言える?

 人間は神がいなくては心の均衡と定めた法も機能しない不完全な者の集まりだぞ?

 我ら堕天使、悪魔さえも下々にそれらを教える訳にはいかなかった。どこから神が死んだと漏れるか分かったものじゃない。三大勢力でもこの真相を知っているのはトップと一部の者達だけだ……」

 

 

  僕を除く全員が途轍もないショックを受けている……。この世界に生きる者にとってはこれ以上の事は無いほどの最重要事項なのであろう。

 特にゼノヴィア、キバくん、アーシアの三人はこの世の終わりに直面したかのような形相だ。

 

 

「戦後残されたのは、神を失った天使、魔王全員と上級悪魔の大半を失った悪魔、幹部以外のほとんどを失った堕天使。もはや、疲弊状態どころじゃなかった。

 どこの勢力も人間に頼らねば種の存続ができない程に落ちぶれたのだ。

 特に天使と堕天使は人間と交わらねば種を残せない。堕天使は天使が堕ちれば数は増えるが、純粋な天使は神を失った今では増えることなどできない。悪魔も純血種が稀少だろう?」

 

「……嘘だ。………嘘だ」

 

 

 後方から動揺しかすれた声がした。振り返ってみると青い髪にメッシュを入れた少女ゼノヴィアだ。

 脱力し項垂れている。ひょっとすればガナサダイが現れたときよりも蒼白だ。

 

 僕はあまりこの世界の宗教には詳しくない。だが、彼女の嘆きようを見ればエルギオス≒の言葉の重要さはイヤでも察しが付く。

 おそらく、僕達の世界では「マスタードラゴンが死んだ」くらいの事だろうか。

 確かに大事だ。天空のベルが使えずセントべレス山へ行けない……ぐらいしか実害が思い付かないが、他にも色々と問題が起きるだろう、多分。

 

 

「正直に言えば、もう大きな戦争など故意にでも起こさない限り再び起きない。それだけ、どこの勢力も先の戦争で泣きを見た。御互いが争い合う大元である神と魔王が死んだ以上、戦争継続は無意味だと判断しおったのだ。

 アザゼルの奴も戦争で部下を大半亡くしたせいか『二度目の戦争はない』と宣言する始末だ!

 耐え難い! 耐え難いんだよ! 一度振り上げた拳を収めるだと!? 巫山戯るなッ!

 あのまま継続すれば、俺達が勝てたかもしれないのだ! それを(アザゼル)はッ!

 人間の神器所有者を招き入れねば生きていけぬ堕天使共に何の価値がある!?」

 

 

 どうやら、増々コカビエルの人格と記憶が表面に出てきたようだ。

 これが邪配合の欠点かもしれない。異なる魂を強引に繋ぎ合わせる為に安定しないのだ。人格、記憶、魂、それらの歪なパッチワーク。

 生命(いのち)への冒涜。最悪の涜神。

 

 だが、この世界に生きる者達にとってはそれどころではなかった。

 特に、信心に厚く、敬虔な信者だったアーシア・アルジェントは消え去りそうな声で囁く。

 

 

「……主が……死んでいる? ……そんな……、では主の愛は……?」

 

「……そうだ。神の守護、愛なぞ無くて当然なのだ。神はすでにいないのだからな。

 ミカエルは良くやっている……。聖書の神の代わりをして天使と人間をまとめているのだからな。

 まあ、神が使用していた『システム』が機能していれば、神への祈りも祝福も悪魔祓い(エクソシスト)もある程度動作はする。 ―――ただ、(聖書の神)がいるころに比べ、見捨てられる信徒の数が格段に増えたがな。

 そこの聖魔剣の小童が聖魔剣を創り出せたのも神と魔王のバランスが崩れているからだ。

 本来なら、聖と魔は混じり合わない。聖と魔のパワーバランスを司る神と魔王がいなくなれば、様々な所で特異な現象も起きる」

 

 

 ふぅむ……、キバくんの聖魔剣も『聖書の神』とやらがいないから成立したという訳か……。

 という事はマスタードラゴンがいなくなればデイン系呪文とドルマ系呪文が混じったりするのだろうか?

 あるいはこの世界でなら……いかん、いかん、不謹慎に過ぎる。

 

 皆の動揺を気にも留めず、エルギオス≒は天に その兇猛なる拳を突き上げる。

 

 

「私は今一度 戦争を始める。これを機に! お前達の首を土産に! 俺だけでもあの時の続きをしてやる! 我ら堕天使が最強だと、サーゼクスにもミカエルにも見せ付けてやるのだ!」

 

 

 人格がコカビエルとエルギオスが入り混じり不安定なものとなっていたが、ついにコカビエルが競り勝ったらしい。

 怨敵への再戦を高々と宣言する。

 

 邪配合の素材とされても尚、消えることのない戦意、妄執。

 やはりこの世界の神話に名を刻む傑物であったということだろう。

 その底抜けの執念深さに皆が恐怖している。

 

 

 そのときだった―――

 

 

「……ザボエラの奴は失敗したか。それにしても随分な大言を吐くではないか、失敗作め」

 

 

 誰もいないはずの場所だった。少なくともつい先程までは……。

 そこに一人の男が佇んでいた。

 

 灰色のローブに身を包んだ幽鬼のような男だ。

 伸びっぱなしの髪が、夜風をはらんでふわりと靡く。するとその冷たく冴えた瞳と、浅黒い肌が顕わになった。

 痩せぎすな頬、高い鼻、薄く引き締められた唇。毒持つ花の美のような、一種、殺気だって研ぎ澄まされた容貌。

 

 そして、その男の顔には見覚えがあった。

 

 

「イブール……!」

 

 

「久しいな、マーサの息子よ」

 

 

 




シャイニングボウ:DQⅧなどに登場する弓の特技。敵全体に光の矢が降り注ぎ、ダメージを与える。

イオグランデ:DQMJで初登場し、攻撃呪文の系統がそれと同じになったDQⅨでも登場する呪文。イオナズンを上回るイオ系最強呪文。

爆煉斬り:「れっぱ斬り」の上位特技に当たる剣技。DQMJで「ばくれんざん」という名前だった。イオ、ベタンの複合属性の斬撃を放ち、敵に通常打撃の1.2倍のダメージを与える。

雷神斬り:DQMJシリーズ及びテリワン3Dに登場する技。「いなずまぎり」の上位特技に当たる剣技。雷神の力が宿した一撃を放ち、敵に通常打撃の1.2倍のダメージを与える。

絶対零度:「かがやくいき」の上位特技として登場した冷凍ブレス系特技。DQMB2Lで真エルギオスも使用する。「こごえるふぶき」の強化版で、物理行動不能効果が付加されている。


実のところライオネックは冷気への耐性がかなりあります。
しかし何故、凍ったのかと言えば……

展開の為です(笑)


ライオウ「ジーーーーーー・・・・・・」

作者「ス、スイマセンッ!!!」


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46話 大教祖と白龍皇

イブールの設定は小説版に近い感じにしています。
ゲーム版しかご存じない方には違和感があると思いますがご了承ください。


 

 

 たった一晩の間に、フリード・セルゼン、暗黒皇帝ガナサダイ、堕天使エルギオス≒……いずれも恐ろしい強敵(フリードはキバくんにとって)との連戦が行われた駒王学園の敷地。そこは激戦の爪後で荒れ果て、校舎は今や半ば瓦礫と化していた。

 

 だが、それ程の損害を被って 漸くエルギオス≒を追い詰めた……そう思ったときだった。

 校庭の片隅、横倒しになった朝礼台の傍に一人、男が佇んでいる。

 その男は、まるでこれまでの戦いから生じた瘴気と、学園を覆う結界の外に広がっているであろう闇夜を凝縮し、抽出し、ヒトの姿にしたかのような男だった。

 肌は青黒く、身に纏うローブは垢じみて、薄汚れている。おそらく、この男にとって外見など取るに足らないモノなのだろう。整えさえすれば相当な美男に見えるに違いない。

 しかし、その蓬髪には白い物が混じり、骨ばった体躯に疲労と倦怠感を滲ませていた。

 その姿は老人のように見え、同時に経験の浅い若者のような青さも感じられる、異様な存在感を放っている。

 

 男は底の知れない力を宿す、錐の如き鋭い視線を僕に向けていた。

 その眼差しからは殺気も戦意も感じ取れない。ただ……そう、ただじっとこちらを見ている。男の顔に浮かぶのはほんの少しの驚き、そして懐かしさ―――であろうか?

 自分では分からないが、多分 僕の顔にも同じ物が浮かんでいる筈だ。

 

 大教祖イブール……この男と異世界で再会することとなるとは、まさに夢にも、ほんの僅か一寸たりとも思わなかった。

 

 かつて、僕のいた世界で邪教『光の教団』を率いた男。それが彼だ。僕を含む、大勢の人間を奴隷に貶め、酷使し、死に至らせた元凶……いや、元凶はかの大魔王か。しかし、人間界の魔王軍の中では最高位に君臨していた者だ。僕にとっては宿敵と言ってもいい。

 その正体は母の同郷の出身者。エルヘブンでは『イーブ』という名前だったらしい。母の幼馴染で、ライバルで、そして母マーサに恋心を抱いていた……。

 

 しかし、この男がここにいる筈がない。いる訳が無いのだ。

 

 セントべレス山頂上、『光の教団』大神殿の大決戦にて、この男は壮絶な最期を遂げている……。否、僕が殺した。

 それがどうして現世に、それも異世界にいるのだろうか……。

 何かあり得ない事が起きている。

 

 僕とイブールはしばらくお互いを見つめ合っていたが、イブールが先に目を逸らした。その先には治癒不能な傷がパックリとでき瀕死の堕天使エルギオス≒に向けられている。

 その視線に窮地に追い込まれた堕天使が反応する。

 

 

「ガァァァアアアッッ!! メラゾーマ!!」

 

 

 エルギオスが満身の力を込め高位火炎魔法を放つ。古の堕天使の膨大な力が込められた一撃だ。その火力は並の術者が唱えた者とは比較にならない。

 地獄の業火の如き火焔の玉がジリジリと辺り一面を焦がしながら黒衣の男に差し迫る。

 だが……

 

 

「――マホカンタ」

 

 

「――――ッ!?」

 

 

 イブールのあまりにも敏速な魔鏡反射呪文(マホカンタ)によって撥ね返されたメラゾーマが堕天使に向かって行く。

 そして、それは轟音と共にエルギオス≒に直撃した。

 

 

「ギャアアアアアアッッッ!!!」

 

 

 業火に焼かれ絶叫する異形の堕天使。劈くような悲鳴にオカルト研究部の皆は思わず耳を塞いでしまう。

 一方、イブールはそんなことには囚われず次の行動を起こしていた。何と両手に高度な魔法……あれは転移魔法(ルーラ)か? を展開していた。そして、その両の掌を重ね合わせる。

 

 

「右手からルーラ、左手からルーラ……、合体魔法オクルーラ!」

 

 

 

  フッ……!

 

 

 消えた。

 傷つき、瀕死であった堕天使エルギオス≒が目の前から一瞬でいなくなった。

 “合体魔法”……聞いた事がある。異世界の賢王が使ったとされる大魔法。単体でも強力な魔法を組み合わせ発動させる大魔術……。

 この男の実力は自分が一番良く分かっているつもりだった。何せ母を攫った者達の頭目として長年追いかけ、そして自分達の手で倒したのだから。そのときの死闘の際も、イブールの、大教祖として長きにわたるであろう研鑽の粋をたっぷりと味わわされたのだ。

 

 ……更に腕を上げたか……厄介な。

 

 

「イブール、お前に聞きたい事は山ほどある。何故 此処に……この世界にいる? 此処で何をしている……? 答えろ!!」

 

「……答える義務は無い……が、そうだな、此処に来たのはエルギオス≒とザボエラの回収の為だ。

 この世界にいる理由は……自分でも良く分からん。まあ、我が主に御仕えする事はどの世界においても変わらん」

 

「我が主……だと……?」

 

 

 それは――あいつ(大魔王)か、あいつの事か! しかし、かの者もすでに滅びた。それがどうしてこの世界にいる?

 色々と余計に分からなくなった。

 

 此方が困惑していると、黒衣の大教祖はくるりと背を向けた。

 そのままひたひたと歩いて行き、近くに転がっていたザボエラ親子の襟を掴むと、乱暴に担ぎ上げる。

 そして、全身に魔力を纏わせ始めた。ルーラで去るつもりだ。

 

 

「ま、待ちやがれッ!! ドラゴンショットォォォオオオッッッ!!!」

 

 

 このままでは逃げられると思ったのだろう。

 イッセーくんが赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)から赤い闘気弾を打ち出した。

 イブールは此方に背を向けていたが、イッセーくんの叫びに振り向き、自身に迫って来る闘気弾を一瞥した。

 

 

  ジュッ……!

 

 

 イッセーくんのドラゴンショットは一瞬で掻き消された。まるで蒸発したかのように。

 

 これは……以前、何処かで……?

 

 その様子を見たイブールはイッセーくんを嘲笑するかのように小さく笑ったが、そのままルーラを発動させ消え去った。

 

 

「…………」

 

 

 辺りを沈黙が支配する。当初の目的であるコカビエルは撃退した。だが、その後に起きたことがあまりにも大き過ぎた。フリードの暗黒闘気、ザムザ・ザボエラ親子、暗黒皇帝ガナサダイ、堕天使エルギオス≒、そして大教祖イブール……。いずれもこの世界にはいるはずの無い異物。明らかなイレギュラーだ。一体、どうしたものか……。

 

 

「ま、まあ、コカビエルはいなくなったんだし、良しとしましょうよ、部長!」

 

「そうね……、そうも言ってられないけど、今は良いわ」

 

 

 無理に明るく振舞おうとするイッセーくんに対し、溜息混じりに答えるリアス。

 彼女の気持ちも分かる。これだけの事があったのだ。色々思うところがあるのだろう。

 取り敢えず彼女の兄サーゼクスに相談すべきだ。これからの対処を考えねばなるまい。

 

 

「そうだね、これからの事はまたじっくりと考えればいい。お兄さんにも相談してみなさい」

 

「お兄様に……そうね」

 

「ああ、彼ら……イブール達は些か君の手には余るだろ……ん? ―――ッ!!」

 

 

 

 

 次の瞬間、結界の上、駒王学園の上空からなかなかに強烈な力を感じた。

 他の皆も感じたらしい。青ざめた表情で結界に覆われた夜空を見上げる。

 

 結構な存在感、以前 会ったサーゼクスくんはコカビエルよりは上……。また、手強そうなのが来たか。今日はもう勘弁して欲しいが……。

 

  カッ!!

 

 

 空から一本の光線が一本、結界を貫通し、真っ直ぐ大地に降り注いできた。

 ソーナ達が懸命に支えてきたであろう結界が音を立てて崩れていく―――。……と言うより、今まで無事だった事の方が凄い。あとで生徒会の皆にお礼を言わねば……。

 

 そんなことを考えていると、白い姿の何かが、空から降ってきて、駒王学園の地に降り立った。

 

 

「………」

 

 

 その男の姿をじっくりと観察してみる。全身を纏うのは目が眩むような白の全身鎧(プレートアーマー)

 所々に光輝く宝石があしらわれている。それも、ただの宝石ではなく、かなりの魔力を内包しているのがひしひしと感じ取ることができる。

 そして背には八枚の光の羽根。鎧の力の大本はそれらしく、神々しいオーラのような物を纏っている気がする。

 その姿は、何処か……何処か(ドラゴン)を思わせた。鎧の形状に似通っている特徴が見受けられる。

 

 

「……『白い龍(バニシング・ドラゴン)』!!」

 

 

 リアスが叫んだ。

 ふーむ……。またもや知らない名前だ。彼女が知っているという事はこの世界の存在……しかも、彼女の驚きようから察するに、この世界ではかなりの大物ということだろうか。

 次から次へと……、僕もちょっと疲れてしまった。今日は厄日だ。

 まずは彼について尋ねてみることとしよう。全てはそこからだ。

 

 

「あー……、こんばんわ。初めまして。僕はリュカと言います。ただの旅人さ。いきなりで失礼だが……『白い龍』ってなんだい? 誰か教えてくれないかな?」

 

 

 敵意を抱かせないように笑顔を浮かべ、出来るだけ好意的に聞いてみる。

 すると彼ではなく、後ろのリアスが慌てて前に出てきた。

 

 

「もうっ! リュカさんってば、こんなときまで……、いい? 『白い龍(バニシング・ドラゴン)』ってのはね―――」

 

 

 リアスが僕に説明をしてくれた。彼女の話をまとめるとこうだ。

 

 神と天使、堕天使、悪魔、この三者が戦争をしていた頃の話―――― このとき、妖精、精霊、西洋の魔物、東洋の妖怪、人間……様々な勢力がそれぞれの勢力に力を貸した。しかし、一種だけどの勢力にも与しなかった種族が存在した。ドラゴンだ。

 

 彼らはいずれも力の塊で、自由気ままで我儘だった。中には悪魔になったり、神に味方したりした者もいたが、大半は戦争など知らんぷりして好き勝手に生きていた。

 ところが、三大勢力が戦争をしている最中、大喧嘩を始めた豪胆な二頭のドラゴンがいた。それが赤龍帝ドライグと白龍皇アルビオンだ。

 その二頭はこの世界に存在するドラゴンの中でも最強クラスで、なんと神や魔王に匹敵する程の力を持っていた。その二匹のドラゴンは戦争なんて知るものかと、天使・神、悪魔、堕天使の三陣営を一切問わず、片っ端からぶっ飛ばしつつ二匹だけの決闘をし始めたのだ。

 三者にとってこれ程 邪魔な存在も無かった。何故なら真剣にこの世界の覇権を廻り戦っていたというのに、そんなものはお構いなしに戦場を乱しに乱したからだ。

 一方、それ程の大喧嘩をしているにも関わらず、その二頭は戦いの方に熱中してしまい、喧嘩を始めた理由などすぐに忘れてしまったようだが……。

 そのことが三大勢力の怒りに火を注いでしまった。「このままでは戦争どころではない。先に協力してこのドラゴン達を倒そう!」と、今まで相容れることのなかった三者を協力させる事態にまでなった。

 そのことが二匹の(ドラゴン)の逆鱗に触れたようだが……、そりゃ完全に逆切れだろうに……。

 

 結局、二匹は三大勢力の手によって幾重にも切り刻まれ、その魂を神器(セイクリッド・ギア)に封じ込まれた。二頭は人間を媒介にして、お互い何度も出会い、何度も戦いをするようになってしまった。

 毎回、どちらかが勝ち、どちらかが死ぬ。偶に片方が早死にしで出会わない事もあるが大抵は出会う。

 それを幾百幾千年も繰り返してきた――――。

 

 

 何ともスケールの大きい話だ……。ハッキリ言って大き過ぎてついていけない。

 強引に僕の世界に当て嵌めるのであれば『マスタードラゴンとミルドラースが真剣に争っているのに無理矢理 割って入って、勝手に喧嘩を始める』ようなモノだ。

 そんなことができる奴はまずいない……。いや、いることはいる。地獄の帝王エスタークだ。かの帝王であれば――――

 

 

『我が名はマスタードラゴン!天より世界の全てを見通す竜の神なり!!』

 

『私が魔界の王にして 王の中の王 ミルドラース! 気が遠くなる程の時をかけ、今や私の存在は神をも超えた!!』

 

『グゴゴゴ……そんなことはどうでもいい。昼寝の邪魔だ。グゴゴゴ……』

 

『『!?!?!?』』

 

 

 う~~ん……考えてみたがなかなかシュールな光景だ。

 それよりも、真剣にマスタードラゴンが戦うというのを想像できない。

 

 

「それで、その白龍皇がどうしてここへ?」

 

 

 僕が改めて白銀の全身鎧に身を包む男に声をかける。すると、彼は話し始めた。

 

 

「堕天使総督アザゼルの依頼でね。コカビエルとフリード、バルパーを回収に来た。それで彼らは何処にいる?」

 

「ああ、バルパーは死んだ。フリードくんはそこで倒れている。コカビエルは……先客がいてね。そいつに連れて行かれた」

 

「先客だと?」

 

 

 白龍皇が訝しげな声で尋ねてくる。だが、そんなことはお構いなしにリアスが食って掛かってる。

 

 

「アザゼルですって? 一体どういう事!?」

 

「ん? ああ、そうだな……今回の一件は堕天使の総意ではない。俺は彼に事態の収拾も頼まれていた」

 

「なら、もっと早くに来なさいよ! こっちは大変だったのよ!!」

 

 

 激昂する紅髪の少女。うん、怒るのも当然だ。彼女がどれ程の心労を心に受けたか……。ことは彼女自身とその眷属達に留まらず悪魔陣営全体に関わる問題だったのだ。

 それに対し、白龍皇は戸惑いながら釈明する。

 

 

「俺ももっと早くに来たかったのだが……。

 街の上空になかなかの強者が居てな、灼熱の炎を吐き出す黄金の巨竜と三つ又の矛を持つ牛のような顔に紫色のブツブツした身体の悪魔の二人組だった……。

 良い勝負だったが時間が無い事を思い出して、何とか出し抜いたのだ」

 

 

 そう言う彼の声は疲労の色を帯びていた。その身に纏う竜の鎧も所々焼け焦げている。

 

 それってアクデンとシーザーじゃ……、そう思ったが今は黙っておこう。

 

 

「ともかくフリードは此方で処罰する。ではな……」

 

 

 そう言うと、彼は倒れているはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)を担ぎ上げると、そのまま空に飛び立とうとする。

 だが、イッセーくんの腕に装備されている赤龍帝の籠手の宝玉が光り出し、そこから声が響いて来た。

 

 

『無視か、白いの』

 

 

 それに応えるかのように白龍皇の鎧の宝玉からも声がした。

 

 

『起きていたか、赤いの』

 

 

 どうやらドライグとアルビオン、二人で会話しているようだ。その声色からは憎しみのような物は感じられない。まるで旧友とでも再会したかのような感じだ。だが、どこか闘志のような物が滲み出ている、そんな声だ。

 

 

『折角 出会ったのにこの状況では……な』

 

『いいさ、いずれ戦う運命だ。こういうこともある』

 

『しかし、白いの。以前のように敵意が伝わってこないが?』

 

『赤いの、そちらも敵意が段違いに低いじゃないか』

 

『お互い、戦い以外の興味対象があるということか』

 

 

 興味の対象……。それは御互いの宿主だろう。確かにおっぱいの為に命を懸けるイッセーくんような存在は珍しい……。

 僕はそう思ったがオカルト研究部の皆の視線は僕に集中していた。何故だろう?

 

 

『そういうことだ。こちらはしばらく独自に楽しませてもらうよ。偶には悪くないだろう……? また会おう、ドライグ』

 

『それもまた一興か。じゃあな、アルビオン』

 

 

 宝玉の輝きが消えた。二頭の会話が終わったようだ。 

 白龍皇は今度こそ立ち去ろうと背を向ける。しかし、何かを思い至ったのか此方に振り向いた。

 

 

「ではな、強くなれよ、俺の宿敵くん……。それと、そっちの……リュカと言ったか、あんたともいずれ戦ってみたいものだ」

 

 

 そう言い終えると、今夜 最後の来訪者も去っていった。

 

 漸く、僕とオカルト研究部の皆にとって長い一日が終わった…………。

 

 

 

「ああ、リュカさん、貴方にも手伝ってもらうわよ。―――コレ」

 

 

 リアスが何かを指さす。それは駒王学園の校舎……だったものだ。

 辺り一面、クレーターだの瓦礫だのが散見している。明日は平日。朝までに校舎を何とかしなくてはならないようだ。

 

 

「はは……、頑張るよ」

 

 

 どうやら、長い一日はもう少し続きそうだ。

 

 

 

 

 




オクルーラ:漫画「ロトの紋章」に登場するルーラ同士を組み合わせた合体呪文。対象の人物を使用者の指定した場所に送り届ける。

合体魔法:漫画「ロトの紋章」に登場する魔法。左右の手から2つの呪文を同時に繰り出し合体させた、強力な魔法を発動させる。その効力は二つの魔法の特性を兼ね備えたものや、同じ呪文の効力を倍加させたものなど様々。


低評価を下さる方の共通する評価理由に「戦闘シーンの地の文が少ない」というのがあります。3巻は1巻、2巻に比べ結構増やしたつもりですが……。いかがだったでしょうか……?

できればでいいですので感想、御意見、お待ちしております<m(_ _)m>



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47話 ザボエラと暗躍する仲間たち

やっと3巻が終わりましたーー!
長かった、本当に長かった!!


……それはそうと、まだ三巻なのに最終話のタイトルのネタが無くなりかけている。
〇〇な仲間たちってそんなにパターンがないんですね。


 

 

 堕天使コカビエル襲撃事件から数日がたった。

 

 僕は自宅アパートでのんびりと過ごしている。

 結局の所 僕は部外者であるわけだし、この街の管理はリアスの仕事だ。

 しかし、あれからも一悶着あった。まずは駒王学園の修理だ。あの夜はほとんど徹夜での作業だった。僕達の手だけでは足りず、街の警備に当たらせていたギーガ達も動員して、なんとか間に合わせた。

 

 

 そのあともいくつかの騒動が起きる。

 まずはゼノヴィアが教会から追い出された。何でも神の不在を知られた以上、いられては不都合らしい。

 そのようなことで信者の切り捨てを行うとは……。教会側にも何か理由があるのかもしれないが、けして気持ちの良いモノじゃない。

 いくつもの世界を渡ってきたから解ることだが、一概に神と言ってもいくつかのパターンがある。人間に対し好意的で、積極的に守護してくれる者。そして、守護も一応してくれるがどちらかというと厳格な裁定者としての側面が強い者の二種類だ。僕の世界の神であるマスタードラゴンもどちらかというと後者だろう。何でも伝説では先代「天空の勇者」の父親を殺したとも云われている。

 この世界の神はすでに死んだそうだが、その神もまた後者なのだろう。

 そして後継者たるミカエルとやらもその精神を引き継いでいる……。

 

 まあ、それはともかくゼノヴィアの事だが……追放された事も驚いたが、もっと驚いたのはリアスの眷属になったことだ。

 彼女曰く「神がすでに死んで、居なくなった以上、私の人生は破綻した」そうだ。

 それにしても極端から極端へ走り過ぎだろう。僕が彼女と似た状況に置かれたとしても……そう、仮にマスタードラゴンが死んだとしても、悪魔になろうとは思わない。

 良く分からないが、恐らくそういう性格なのだろう。何でもキバくんとアーシアとも和解したらしい。

 後々しこりになるのではないかと心配していたが、そうはならず安心した。根は素直で良い子なのだろう。

 

 

 それでこっちはと言えば―――

 

 

 

 

「手が痛~~い、ねえ、お兄さま、アーンして♡」

 

「ちょっと、ミッテルト! 何、御主人様に甘えてんのよ!

 リュカ~~、こっちにもちょうだい♡」

 

「……ハハ……、はいはい」

 

 

 今、僕はレイナーレ、カラワーナ、ミッテルトの看病をしている。三人ともエルギオス≒の一撃を受けた。その攻撃には膨大な暗黒闘気が篭められていたのだ。暗黒闘気は回復魔法を阻害する作用がある。

 そこで、アーシアに協力してもらい治療はしたが……三人とも、まだ本調子ではないようだ。

 

 傷は完全に癒えている筈だが……。

 

 

「フッフッフ……。何と脆弱な堕天使共だ。ッゴッホゴホゴホッ…!!

 魔界のエリートたる私はこの通り、完全に元どお………ブェェエエックションッ!!!」

 

 

 こっちの様子を見ていたライオウが何やら尊大な態度で話しかけてきたかと思ったら盛大に咳込み、くしゃみした。

 ……どうやら風邪を引いたらしい。

 彼の言う通り、身体的ダメージは快癒したがエルギオス≒の『絶対零度』で体を冷やしてしまったようだ。

 呪文耐性と風邪への免疫は別モノということか……。

 

 どう見てもライオウの方が看病を必要としていると思うんだが……。

 

 

「寝てなくていいのかい?」

 

「何を言うか、我が主! これくらい何て事は……エックションッッ!!」

 

 

 まあ、いいか……。

 ライオウ達は本当に良くやってくれた。他の皆もだ。おかげで学園の外では全く被害が出ていない。

 相当な数のゾンビモンスターが街中を徘徊していたにも関わらずだ。

 

 ……あれ?

 そういえば何体かの姿が見当たらない。

 ここ最近そうだ。あれ以来、偶に何匹かいなくなるんだが……。

 

 

「……オークス達、一体何処に行ったんだ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街中の高級マンションの一室

 

 

 

 

「イエェェ~~~~イッ♪

 一番、ホークマンのホー、アゲアゲダンス踊りまーーす!!」

 

「いいぞ、やれやれ!」

 

 

 品のある高級な調度品に溢れた室内は濃密な酒気に満ちている。現在、部屋の中では三体の魔物と一人の男が酒盛りをしていた。

 三体の魔物とは猪頭のオークス、鳥人ホークマン、赤肌のサーラである。

 

 

「ガッハッハッ!! いや~、悪いですな、アザゼル殿。こうも毎日、酒宴に招いてもらって」

 

「ハハハハハッ! 気にする事はねぇよ。こっちも暇だったんだ。良い相手が出来て良かったぜ」

 

 

 オークスが豪快に酒を呷りながら礼を言い、浴衣姿のアザゼルが笑いながら断る。

 

 

「それにしてもこの世界の酒は旨い! 以前、主に少しだけ飲ませてもらったルラフェンの地酒にも勝るとも劣らぬわい。ガッハッハッ!!」

 

「ルラフェンの地酒? そいつはお前さんの世界の酒かい?」

 

「おう、『人生のオマケ』という銘柄だ。“これを飲んでいる時以外の人生はオマケに思える”というのが名前の由来らしいぞ!」

 

「へぇ~~、そいつは飲んでみたいね」

 

 

 アザゼルとオークスが酒を飲みながら雑談を交わし、ホーくんがリズムに乗りながら軽快に踊る。その脇でサーラが楽しげに手拍子を打っている。

 そこに一人の男が入ってきた。若々しい装いの鋭い目つきの銀髪の美青年である。

 

 

「おう、ヴァ―リ! お前も飲め!」

 

「……アザゼル」

 

 

 部屋の惨状を見回してヴァ―リと呼ばれた青年が呆れた顔をする。

 それもそうだろう。部屋中に日本酒、ワイン、ウイスキーなど種類を問わず飲み散らかされた空き瓶があちこちに転がり、ついさっき遊ばれたのであろうゲーム機とゲームソフトがいくつも散乱していた。

 

 

「少しは片づけろ、アザゼル」

 

「……分かった分かった。ところでお前は今までどこに行ってたんだ?」

 

 

 苦言を呈する銀髪の美青年に、ごまかすように受け答えする堕天使の男。

 その問いに顔をしかめつつもヴァ―リが答える。

 

 

「あの夜に遭遇した黄金のドラゴンと牛頭の悪魔を探している」

 

「あ~、お前と互角に戦ったとかいう奴か? そんなのが街中をうろついてるもんかねぇ?」

 

「黄金のドラゴンと牛頭の悪魔? シーザーとアクデンのことか?」

 

「……って知り合いかよ!!」

 

 

 アザゼルとヴァ―リの会話にオークスが大声で割って入り、それにアザゼルが盛大にツッコんだ。

 

 

「おう、儂と同じ勇者の父親にして伝説の魔物使いたるリュカに仕える者だ!」

 

「……へぇ~、ところでさ――――」

 

 

  アザゼルの瞳がいたずらっぽくキラリと光った。

 

 

 

「今度、この世界の天使と堕天使と悪魔で会談をするんだが、お前達の主にも来てくれって伝えてくれねえか?」

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 冥界の廃屋――― そこは悪魔・堕天使両陣営はおろか魔獣でさえも立ち入ることのない荒れ地にあった。

 その屋敷の一室に巨大な水槽が設置されている。その水槽の前に二人の男がいた。

 一人は小柄な魔族の老人、ザボエラだ。

 

 その顔は緊張に引き攣っている。理由は目の前にある水槽の中身だ。

 それを見つめる、もう一人の長身の男が言葉を発した。

 

「ほっほっほっ。……肉体の損傷個所は数十、超魔生物としての回復力の限界を超え、復元は絶望的……ですか。

 前回の作戦で鮮度の良い不死鳥の涙を態々入手させ、地獄を通じ異世界からオリジナルの暗黒皇帝ガナサダイの死体を取り寄せ、それを蘇生させて……ね」

 

「…………」

 

 

 そう、水槽の中にいるのは、痛々しく傷付いた姿でプカプカと漂うエルギオス≒だ。

 水槽の中に満ちているのはただの水ではなく蘇生液と呼ばれる薬品。

 だが治癒は遅々として進んでいない。ただ漂っているだけだ。

 

 

 

「邪配合完了次第、さっさと制御下に置き撤収する手筈だったと思いますが……これはどういうことでしょうか?」

 

「そのことですがのう、ワシの作戦には不備は無かったのですじゃ……。

 あの男から受け取った『魔砲珠』が欠陥品だったのですわ」

 

 

 ザボエラの打った手は責任転嫁だ。確かに制御用に用意した『魔砲珠』は全く機能しなかった。

 しかし、その言葉に対するローブの男の反応は芳しいものではなかった。

 

 

「……? 何を言っているのですか? 『魔砲珠』が未完成である事は御存じであったと思いますが」

 

「……へ?」

 

 

 ローブの男の返答は予想外だったのだろう。ザボエラが間の抜けた声を上げる。

 

 

「あの方から貴殿に伝言があったかと思いますよ。机の上に書き置きがあったでしょう。

 

 ……ぬん!」

 

 

 男の手から紫色の瘴気が溢れだす。そこから何も無いはずの空間に一枚の紙切れが出現した。

 その紙にはザボエラも見覚えがある。確かに自分の机に置いてあった物だ。

 ローブの男がその手紙を老人に手渡しする。そこには送り主の知性を象徴するかのような流麗な筆致で長々とした文章が書かれている。

 ……だが、内容は九割以上がどうでも良い雑談だ。そう九割は―――

 

 

 

 

 

 

 親愛なるザボエラくんへ

 

 にゃはははは! やあ、最近 調子はどうだい? 僕はバッチり元気さ!

 それにしてもこの世界は面白いね! 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)にレーティングゲーム、神器(セイ クリッド・ギア)なんてモノもある。すっごく興味があるよ。

 特に神器の中でも『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』ってのはとっても面白そうだ!

 なんたって僕の大好きなモンスターが創り放題らしいじゃないか! それの持ち主はまだ見つかってないそうだけど早く会えないかなあ?

 出来れば、その神器は譲って欲しいんだけど無理かなあ。

 それに『悪魔の駒』を作った、え~っと、何て言ったっけ? ア何とか・ベルゼブブくんにも会ってみたいよ。

 この世界の技術はホント~に興味深いからね。

 ああ、それはそうと、あのね…………僕のお気に入りのブラックドラゴンのブラっちーがね………………………、

 でね…………が………………………可愛くてね…………たまらん………くう………………。

 …………更に…………もう………凄過ぎ……………で……………………。

 そう思うか…………どうして………………好き…………………はー!

 …………………抱きしめて…………寝るときも………………でしょ………………………………。

 素晴し…………! ……美し……………………………。

 ……ありゃ! もうこんな文量か! ちょっと書き過ぎちゃったね。

 そんじゃ、よろしく頼むよ~。

 

                                           

                                    Kより

 

 

 

 

 P.S. ああ、そうそう制御用の新型魔砲珠なんだけど、未完成だから気をつけてねん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……えっ、えっ、えーーーーーーッッ!! い、いや、これは違うんじゃッ!!!」

 

 

 改めて書き置きの内容に目を通したザボエラは吃驚した。作戦の遂行で忙しかったせいで追伸の部分は読んでいなかったからだ。……というより、ザボエラにとってほとんどが下らない戯言であった為に最初の三行で読む気が失せてしまった。

 失態を犯し罰せられるのではないかという焦燥感と「なんで一番大事なことを最後に、それも追伸の部分に書くんだ!」という怒りが同時に、強烈に込み上げてくる。

 

 目の前にいる男のフードの奥にある黄色い(まなこ)がギラギラと光る。この男の辞書には容赦だの情けだのという言葉が全く書かれていない、というよりも知った上で相手を嬲る事を至上の喜びとする外道だということは身に染みて良く分かっているザボエラだ。

 非情さと残酷さにおいては自分を一回り、いや二回りは上回るだろう。

 汗が噴き出す。この窮地から逃れるために『悪魔の頭脳』と称された悪知恵をフル回転させる……が、何も打開策が思い浮かばない。

 

 男の手に握られる大鎌が自分の首を刎ねるビジョンがハッキリと目に浮かぶ。

 往生際の悪さにおいては傑出した才能を持つ彼も これはもうダメだ、そう思いかけた―――

 

 

 

 だが、ローブの男の視線はザボエラから不意に外れた。

 

 

「ほっほっほっ……まあ、いいでしょう」

 

 

 そう言うと蘇生液にエルギオス≒が浮かぶ水槽の表面を、まるで蜘蛛のような長い指で撫でながら囁くように話し始めた。

 

 

「我々が必要とするのはエルギオス≒の“強さ”ではありません。彼がいた世界の“天の(ことわり)”の再現です……」

 

 

 “天の(ことわり)”――― その言葉を聞いたザボエラの頭に浮かんだのは、異形の堕天使に打ち据えられ、朦朧とする意識の中で見た光景だ。

 

 三人の堕天使の女が吶喊していくも、エルギオスの一睨みで、まるで金縛りにあったかのように動けなくなり、為す術もなく叩きのめされる姿………。

 

 

「……かつてオリジナルの堕天使エルギオスがいた世界。その世界にはとある規則(ルール)がありました。

 それは『天使・堕天使は実際の実力の如何に関わらず位階が上の者に逆らう事が出来ない』というものです」

 

 

 位階、それは産まれ持った天使としての位。その掟は厳格で、例え戦闘力が高くても位階が低ければ適用されてしまう。

 本物のエルギオスの野望を阻んだ勇者は元天使であったが、天使としては位階が低かった為に“天の理”からは逃れられず、一度は戦うことも出来ず退けられてしまう。そこで彼は自ら天使である事を捨て人間となりエルギオスを倒したのだ。

 

 

「別にただのエルギオス≒を造るだけであれば態々このような面倒なことはしませんでした。

 何故こうしたのかと言えば、この世界の堕天使であるコカビエルの“因子”が必要だったからです」

 

 

 この言葉を聞いた瞬間、ザボエラの脳裏に電流が走った。

 ずっと疑問には思っていたのだ。ただの『堕天使エルギオス≒』を造る為であればコカビエルを使う必要などない。他に材料となり得る者を他から調達すれば良い。それは暗黒皇帝ガナサダイにしてもそうだ。オリジナルを蘇らせて使うなど面倒以外の何物でもなかった。

 何故、悪魔・堕天使陣営を敵に回す危険を冒してまでコカビエルの使用に固執したのか?

 それが今になって漸く、この男が何をしようとしていたのか理解したからだ。

 

 

「この世界において高位の堕天使であるコカビエルの因子を取り込ませれば、この世界の天使、堕天使にも“天の理”が適用されます。

 コカビエルよりも高位の者などそう多くはありません。精々天使陣営では天使長ミカエルを始めとするセラフの面々。堕天使陣営であれば『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部達程度でしょう。

 我々は戦わずに天使、堕天使陣営を制圧することが可能でした」

 

 

 男の話に妖魔司教は戦慄した。正に深謀遠慮、狡猾で恐ろしい計画だった。

 この世界の三大勢力のうち二角が、全く無警戒の内に落ちかけていたのだ。

 オリジナルガナサダイを使ったのもそのためだろう。かの皇帝は一度死んだあと、エルギオスの手で蘇生し怪物となった。つまり、その死体にはオリジナルエルギオスの力の残梓が残っているということだ。

 それを用いることで“天の理”を再現しようとした……。

 となると残るは悪魔陣営だけである。それも大したものではないであろう。人間に頼らねば存続すら危うい者達が一体どれ程のモノか。天使・堕天使陣営を掌握すれば赤子の手を捻るが如く、簡単に征服できたに違いあるまい。

 真に恐ろしいのは、此処まで三大勢力にほとんど警戒されず進めてきたということだ。

 冥界の僻地に雌伏し謀略を巡らせ続けているが、天界首脳部、『神の子を見張る者』、四大魔王、いずれも自分達の実態に迫った者がいない。どの場合も巧妙に疑いの目を逸らし、隠しおおせている。

 

 最近になりやや失敗が重なってきたが、それでも問題は生じていない。

 スーパーキラーマシンは『神の子を見張る者』、古の魔人は旧魔王勢力、今回の一件は近年になり目立ち始めた例のテロ集団……と、それぞれの陣営に偽りの情報を流し、別の者を容疑者に仕立て上げることで目を眩ませているからだ。

 

 

「ほっほっほっ……、それでも、一応はエルギオス≒を回収できました。

 ザボエラ殿、貴方はこれから“天の理”だけでも抜き取ってください。それさえ確保できればあとは不要です。

 貴方の超魔生物の技術を応用すれば可能ですね?」

 

 

 エルギオス≒の天の理以外は不要と言い捨てるローブの男。この堕天使は……少なくともこれのオリジナルは神殺しの怪物だ。模造品とはいえそれ程の大戦力なのだが、それすらも必要ないとは……。

 どれ程優れた者であっても目的を為す為にいらないと見ればさっさと見切りを付ける、正しい判断ではあろう。

 確かに超魔生物の技術の真髄とは『複数の生物から長所のみを取り出し繋ぎ合せる』ことにある。

 この堕天使から天の理だけを抽出するのもおそらく不可能ではない筈だ。

 

 

「分かりました。勿論できますじゃ。キッヒッヒッヒッ……」

 

 

 おもねるような口調で承知する老魔族。その冷や汗をかく皺くちゃの顔から警戒の色は消えない。

 何故なら長身の悪魔の言外の意図を察したからだ。

 

 “これが最後だ。次は無い”

 

 この挽回の機会をふいにすれば自分は必ず処断される―――

 そうならない為には何としてでも成功させねばなるまい。

 

 一方、ザボエラの覚悟など気にも留めず、長身の男は思案の表情を浮かべていた。

 そして、しばらくすると独り言のように静かに、それでいて残忍な喜びが篭った声色で呟く。

 

 

 

「……それにしても あの彼が………ほっほっほっ、これはまた―――

 

 

 

  楽しめそうですねぇ、ほっほっほっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男達が陰惨な策謀を張り巡らせている廃屋の、更にその地下室。大量の本棚が所狭しと並べられた書斎のような雰囲気の一室。

 

 そこに一人の初老の男性が立っていた。品の良い学者のような服装、アシンメトリーに整えられた紺色の髪。

 丸眼鏡をかけた顔立ちは実に知性に溢れている。まるで皺の一本一本に蓄積してきた知識が宿っているような、そんな雰囲気を漂わせていた。

 だが――――

 

 

 

 

 

  「にゃはっ♪」

 

 

 

 

 老人の口から出てきたのは、その知的な佇まいからは懸け離れた印象のおどけた、そして若干ではあるが、どこか狂気を含んだ笑い声であった。

 

 

 

 

「にゃははははははははっ!!!

 いや~~~、この世界は本当に面白いねえ。

 『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』、『停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』。

 そして『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』!

 この世界には興味深いモノがあり過ぎて困っちゃうよ。

 

 でも、これだけあれば創れるかもしれない………」

 

 

 

 

 

 

 

  ―――― モンスターの楽園(ラクエン)を! ――――

 

 

 

 

 

 




アゲアゲダンス:DQⅨに登場する敵専用の特技。味方のテンションを“アゲ”る踊り。このダンスでテンションアップした敵からダメージを受けるとかなり危険。


一応、色々と伏線を引いてあって、それを結構回収しました。
まとめてみると……


謎の男達の目的
天の理(DQ9)を使って天使・堕天使陣営を戦わずに征服。
その為、2巻でレーティングゲームを襲撃し新鮮な不死鳥の涙を入手。
更に、取り寄せたオリジナルのガナサダイの死体を蘇生させる(27話)。
コカビエルを捕らえて“この世界の高位の堕天使”として邪配合に使う。

                            ……って感じです。


御意見・御感想 お願いします<m(_ _)m>

それと新しく出てきた某会長のイニシャルってKでいいですよね? Cかもしれないし……、判らん(~_~;)


6/10追記
活動報告にて「シーザーとアクデンがヴァ―リと互角というのはどうか」という貴重な御意見をいただきました。本当にありがとうございます。
一応、釈明をさせていただきますとヴァ―リは覇龍を使っておりません。その上での互角です。




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停止教室のヴァンパイア
48話 ゼノヴィアとタマゴ


やっと4巻です。ここまでお読みいただいた読者の皆様、本当にありがとうございます。
これからもどうか「時を失った英雄 in ハイスクールD×D」をよろしくお願いします。






 

 夏―――

 

 抜けるような青い空、入道雲、燦々と降り注ぐ太陽の暖かな光。

 この世界は僕のいた世界に比べ文明が発達しているが、それでも自然が沢山ある。木々が、草が陽の光を一身に浴び、すくすくと育ち、様々な場所で生命に溢れている。

 

 そんな季節の昼下がり。僕は屋外、水の張っていないプールの中にいる。

 デッキブラシを握り、丁寧に床を擦っていく。地道な作業だ。だけど、嫌いじゃない。

 

 

「ふう……」

 

 

 炎天下での仕事だ。激しく動いていなくても、じんわりと汗をかく。

 だが、そんなときの微かな風が実に心地よい。とっても爽やかだ。

 

 そこに体操着姿のバイサーがやって来て、僕に声をかける。

 

 

「御主人様ー、終わりましたか? お茶が入りましたよー」

 

「ああ、だいたい終わった。今、行くよ」

 

 

 僕の返事を聞いた周りにいる者達も顔を上げた。紅髪の少女が自分の眷属悪魔達にむかって呼びかける。

 

 

「ええ、そうね。皆も休憩にしましょう?」

 

「分かりました、部長!」

 

 

 僕達は今、駒王学園のプールの清掃をしている。

 何でも、一年おきの大掃除だそうだ。それだけに大変に汚れていたが、全員で頑張ったおかげか、何とかきれいになってきた。

 しかし、一人、不満げな表情な者がいる。黒髪の堕天使の少女……レイナーレだ。

 

 

「……にしても、どうして私達が手伝わなくちゃいけないのよ、リアス・グレモリー」

 

「あーら、貴方達の御主人様は快く了解してくれたじゃない」

 

「…………チッ」

 

 

 レイナーレの渋い顔を見ると心苦しいが……。

 別にいいだろう。プールの清掃を手伝えば僕達も泳がせてくれると言ってたし、彼女も納得してくれるはずだ。

 

 

 

 それからしばらくして―――

 

 

「さぁ! 思う存分泳ぎましょう。……イッセー! リュカさん!」

 

「ハイッ!」

 

 

 大変だったプールの掃除がようやく終わった。綺麗になったプールにヒメジマが魔力で水を並々と張る。

 僕の仲間の魔物達……と言っても限られたスペースであるため、あまり大型の魔物は連れてこれなかったが、彼らもとても嬉しそうだ。僕達の世界では珍しい人工物に目をらんらんと輝かせている。

 

 一方、リアスは着用している水着をイッセーくんに披露していた。

 

 

「私の水着、どうかしら?」

 

「最高ですッ!この上なくッ!!」

 

「うん、僕も似合うと思うよ。守備力が低そうだけど」

 

 

 イッセーくんが鼻の下を伸ばし、興奮した様子で答えた。

 確かに、彼女の容姿は大変優れている。同じ年代の少女と比べスタイルが抜群に良い。家臣のピピンだったらイッセーくんと同じく熱狂するだろう。

 そんな彼女が着ているのだ。とっても良く似合う。白いビキニは彼女の紅髪に良く映える。

 ただ、まあ防御面では脆弱極まりないが……。

 

 

「イッセーさ~ん! 私も着替えてきました~♪」

 

「おお! アーシア可愛いぞ~! お兄さんご機嫌だ~!」

 

「うん、僕も似合うと思うよ。守備力が低そうだけど」

 

 

 アーシアが来ているのは確か“スクール水着”というものだ。これもまた実に愛らしい。シンプルなデザインだがそれが却って彼女らしいとも言える。

 ……とは言えこれも防御力が低そうだ。先程のリアスの水着よりは布の面積が大きいが、それでも「あぶない水着」と「布の服」程の違いもないだろう。

 

 

「ふふっ♪ 小猫ちゃんも正にマスコットって感じで、愛くるしさ全開だな!」

 

「…………卑猥な目付きで見られないのは、それはそれって感じで、ちょっと複雑です……」

 

「うん、僕も似合うと思うよ。守備力が低そうだけど」

 

 

「「「…………」」」

 

「……あれ? 皆、どうしたんだい?」

 

 

 先程から雰囲気が悪い。どうもオカルト研究部女子の皆から敵意のようなモノを感じる。

 

 

「さっきから一体何なの? 守備力守備力って……」

 

 

 ……え。

 

 

「守備力が低くそうだな~って思ったんだけど……」

 

「リュカさん……。あのね、他の世界じゃどうか知らないけど、この世界では水着に守備力なんか求めないわ。そもそも守備力が高い水着ってなによ!?」

 

「ああ、それなら―――」

 

「おまたせ~~、御主人様♡」

 

 

 そこにバイサー、レイナーレ、カラワーナ、ミッテルト、イシュダル、クモりん、スラ太郎、触手丸、ディーネがやってきた。全員、紐無し・ベアトップタイプのビキニを着ている。リアスの水着にも勝るとも劣らない過激なデザインだ。

 イッセーくんが盛大に歓声を上げる。

 

 

「おおお~~ッ!!」

 

「……あれが“守備力の高い水着”? そうは思えないんだけど……」

 

 

 リアス達オカルト研究部女子が厳しい目を向けた。所謂ジト目というやつだ。

 それならば、と思って、先にプールでパチャパチャと遊んでいた小さなドラゴンに声をかける。

 

 

「コドラン、頼めるかい?」

 

「キュ~~? キューー!」

 

 

 小さな竜族のドラゴンキッズ・コドランがバイサー達に向かって行き―――

 

 火炎の息 を はいた!

 

 

「わ~~っ! 何をするんスか!!…………って全然熱くないッス」

 

 

 ミッテルトが驚き声を上げたが、自分の体を確認してみても火傷の一つもない。

 それもそうだ。

 

 

「彼女達に着せているのは『きわどい水着』。炎・雷に対して強い耐性があって、ちょっとした鎧並に守備力があるんだ」

 

「へ~~……」

 

 

 僕の説明を聞いた紅髪の少女はほとほと呆れ果てたという顔をしたが、気を取り直したのだろう。輝くような明るい笑顔で宣言した。

 

 

「まあ、いいわ。リュカさんも今まで色々御世話になったしね。

 皆! 思いっ切り泳ぐわよ!」

 

「「「お~~ッ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「気持ちいいね。コドラン」

 

「キュー」

 

 

 僕は連れてきた魔物達と一緒にプールで泳いでいる。

 全員、実に楽しそうだ。今日、呼んでくれたリアスには本当に感謝してもしきれない。

 

 他の皆はといえば、キバくんはクロールでプールを何度も往復している。なかなか上手だ。

 トウジョウは泳ぎが下手らしく僕の仲間の中で最高のスイマー……ネーレウスのネレウスに特訓を付けてもらっている。

 

 

「そうではない! 腕の角度はこう! 水を掻くように進むんじゃ!!」

 

「……にゃあ」

 

 普段の落ち着いた彼からは想像できないほどの大声での叱咤激励だ。

 猛烈なスピードでネレウスがプールを往復している。キバくんの1.5倍から2倍のスピードだ。全然、トウジョウが着いていけてない。

 元が海暮らしだからな……。巻貝を被った皺くちゃの老人が水中で高速移動する様はどことなくシュールだ。

 

 

 

 

 ―――そのときプールサイドから轟音がした。

 

 

 何が起こったのだろうか?

 様子を窺うと、リアスとヒメジマが胸をはだけさせて、何やら争っている。

 それも、だだのじゃれ合いではない。互いに魔力まで用い、折角、綺麗にしたプールを破壊している。

 

 雷と滅びの魔力が激突し、凄まじい爆音が鳴り響く。

 そして、その音に負けないぐらいの大声で、リアスとヒメジマが罵り合っていた。 

 

 

「イッセーはあげないわ。―――卑しい雷の巫女さん」

 

「可愛がるぐらいいいじゃないの。―――紅髪の処女姫様」

 

「あなただって処女じゃないの!」

 

「あら、そんなこと言うなら今すぐイッセーくんに処女を奪ってもらうわ」

 

「ダメよ! イッセーは私の処女がいいと言ったの!!」

 

「だいたい、朱乃は男が嫌いだったはずでしょう! どうしてよりによってイッセーにだけ興味を注ぐのよ!!」

 

「そういうリアスも男なんて興味ない、全部一緒に見えるなんて言ってたわ!」

 

「イッセーは特別なの! 可愛いのよ!!」

 

「私だってイッセーくんは可愛いわよ! やっとそう思える男の子に出会えたのだから、ちょっとくらいイッセーくんを通じて男を知ってもいいじゃないの!!」

 

 

 

 

 ――何と言うか……。喧嘩の激しさも然る事ながら口論の内容も酷い。

 まあ、二人とも本当に互いが憎くてやり合っている訳ではなさそうだ。僕の周りで言えば、バイサーとカラワーナが喧嘩するようなものだろう。

 

 ……とは言え、そろそろ止めた方がいい。

 プールから上がって二人に近づく。そして―――

 

 

 

「Aaaaaaaaaaaaaaaaahhh!!!」

 

 

 僕 は おたけびを あげた!

リアス は すくみあがった! ヒメジマ は すくみあがった!

 

 

 やはり、暴力は良くない。

 一時的に怯んで動きが止まった二人を落ち着けるべく、出来得る限りゆったりとした口調で話しかけた。

 

 

「…………二人とも、水練は真面目にやった方が良い」

 

「リュ、リュカさん……?」

 

 

 彼女らの実に楽しそうな振る舞いに水を差すのはかなり気が引けたが、そうであっても言うべきだろう。

 

 

「僕の経験則なんだけどね。

 ほら、以前に奴隷だったことがあるって話しただろう? そこから逃げ出すのに三人まとめて樽に詰められて海に放り出されたって」

 

 

 僕の言葉を聞いたオカルト研究部の皆の表情が引き攣った。僕の体験談は彼らにとっては些か重い……いや、重過ぎる話だという事は重々承知しているが、それでも話すべきだろう。

 

 

「想像してごらん。真っ暗な樽の中に鮨詰め状態で数日間だ。それも大海原のド真ん中で……。

 元々あの樽は死体を流す為の物だ。生きた人間を流せるようには出来ていない」

 

 

 そう、そうなのだ。死者と違い生きている人間は食事も、排泄も、呼吸もする。狭い樽の中ではそれも一苦労だった。それに―――

 

 

「更に僕らの世界には大型の魔物が海に居てね、“しんかいりゅう”とか“グロンデプス”っていうんだけど……。こっちの世界で言えば……そう、大昔の首長竜みたいな感じの奴かな。

 樽の中じゃ、そいつらに襲われたら一巻の終わりだ。なんせ身動きが取れないからね」

 

 

 リアスもヒメジマもより一層蒼褪める。

 どうにも肝を冷やさせ過ぎたようだ。そろそろ勘弁してあげるとしようか。

 

 

「君達は実に幸運だ。何と言っても学校に水練場がある! いくらでも練習し放題だ。しんかいりゅうに襲われても泳いで逃げられるようになるまで特訓すればいいんだからね」

 

「「「…………」」」

 

 

 束の間の静寂……そして―――

 

 

 ダダダダダッ!  ド ッ パ ァ ァ ア ア ン!

 

 

 リアス、ヒメジマの二人はプールに駆け寄り飛び込むと、一心不乱に泳ぎ始めた。

 

 ほほう……、二人ともなかなかのスピードだ。これなら例え海上で大王イカやギャオースに襲われても逃げ切れるだろう……。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「眷属悪魔の可愛がり方は……俺の想像を超えています……」

 

 

 一方、イッセーくんが少し離れたところで心底疲れたという雰囲気でぼやいていた。

 何と言うか……、あれだけ「俺はハーレム王になる」と言っていた割には全く余裕が無い。

 複数の女性を囲えば内部で対立することもあるだろうに……。

 それを上手く捌けないようではハーレムなど夢のまた夢だ。

 僕なんか一人の女性すら守れず出産直後に攫われた。

 ハーレムを目指すのであれば全員を安心させる器量は必要不可欠だと思う。

 

 そんなイッセーくんに近づき、声をかける者がいた。

 青い髪にメッシュを入れた少女―――ゼノヴィアだ。

 

 

「何をしているんだ?」

 

「ゼノヴィア? 今まで何やってたんだよ?」

 

「初めての水着だから、着るのに時間が掛かった。似合うかな?」

 

「あ、ああ、似合うと思うぜ。それにしても初めてって? いや、まぁ教会出身だからか?」

 

 

 自身の水着姿を披露するし感想を尋ねるゼノヴィア。確かにイッセーくんの言う通り良く似合っている。

 これもまた守備力が低そうだが……。そのことを言うとこの世界の女性は気分を悪くするみたいだし、口に出すのは止めておこうか。

 

 

「私自身、こういった娯楽に興味が無くてね……。実は着替えた後、少し考え事をしていたんだ」

 

「考え事?」

 

「……兵藤一誠、折り入って君に話があるんだが……」

 

「イッセーでいいよ。で、話って?」

 

 

 そう言って神妙な面持ちで語り始めるゼノヴィア。どうやらイッセーくんに相談があるらしい。

 一体どんなことであろうか?

 …………いかん、いかん。つい、ぼんやりと聞き入ってしまっていたが、このままでは盗み聞きだ。

 彼女が話したいのは飽く迄イッセーくんだ。ここは聞かなかったことにしてサッと引き下がることとするか……。

 

 

「―――ではイッセー、改めて言うが……

 

 私と子供を作らないか?」

 

 

 ………………は?

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 脱衣所側の用具室

 

 ビート板だのコースロープだのが散乱している室内に、ゼノヴィアがイッセーくんを引き摺って行き、そのまま力任せに押し倒した。

 

 

「ぐへっ!?」

 

「聞こえなかったのか、イッセー? 私と子作りをしよう」

 

 

 いかん……、盗み聞きはいけないことと分かりつつも、ついつい着いて来てしまった。

 まるで、盗人の様に外の壁に張り付き、中の様子を探っている。

 こんな真似は良くない、良くないが……。

 

 それにしても、何の前触れもなく「子供を作ろう」だ。これは誰であっても気になる。ならない筈がない。

 それに、いざそういうことになったら注意するのが大人としての義務だろう。止めない訳にはいかない。

 だが、ゼノヴィアがこんなことを言い始めるのには何か理由がある筈だ。止めるのはそれを聞いてからでもいい。

 全く、我ながら情けない。僕もいい歳だろうに十代の少年少女の話を盗み聞きとは……。

 

 

「以前は神に仕えて奉仕するという夢や生き甲斐があった。だが今はそういったモノがない。そこでリアス部長にその事を尋ねたら……

 

『悪魔は欲を持ち、欲を叶え、欲を与え、欲を望むモノ。好きに生きてみなさい』―――と」

 

「えぇぇ…………」

 

 

 リアスの言い分は、そりゃまた悪魔らしいというものだ。

 しかし、どうしてそれが“子供を作る”という話になるのだろうか?

 

 

「そこで私は女らしい新たな目標、夢を持つことにしたのさ。子供を産もうとね」

 

「いやいやいやいや……」

 

 

 ふむ……。確かに彼女の言う通りだ。子供を産み、育てる。女性の喜びの一つだろう。

 僕も 三人目を早く……と妻にせがまれていた。元の世界に帰ったら帰ったで大変そうではある。

 

 その一方で、ゼノヴィアは至って真面目な表情で朗々と語り続ける。

 

 

「コカビエルとの戦いを見て思ったんだ。君の潜在的な力は評価に値する。その上、ドラゴンのオーラを身に付けている。子供を作る以上、そういった特殊な、そして強い遺伝子を望みたい。

 『神器(セイクリッド・ギア)』は遺伝するモノではないが、君のドラゴンのオーラは引き継がれるかもしれないだろう?」

 

「そ、そんなこと力説されてもっ!?」

 

 

 ゼノヴィアの力強い演説を聞いたイッセーくんが戸惑いの声を上げる。

 それにしても、彼女の言い分は身も蓋もないというか何と言うか……。

 

 いや、僕に彼女を責める資格など無いのかもしれない。

 僕の妻がそうだ。結婚の直前、義父から“娘は実の子ではない”と言われた。その昔、翼の生えた美しい女性……おそらく天空人と思われる女性が倒れていた。急いで駆け寄ってみると、その女性はすでに事切れていたそうだ。そして、その腕の中から拾い上げたのが娘だと……。

 僕は彼女をたった一人の彼女であるから愛し、妻にと望んだ。だが、彼女はそう思ってくれたのだろうか?

 僕が 自分を貴重な種馬のように考えたから選んだ、とでも思ったのではないだろうか?

 

 否、そんなことはないだろう。僕と彼女の愛は本物だ。それだけは、決して間違っていない。

 

 だが、ほんの少し、僅かにでもそう思われていたとしたら―――

 

 それに、“子供を作る以上、そういった特殊な、そして強い遺伝子を望みたい”というのも引っ掛かる。もし仮に、ゼノヴィアとイッセーくんがまぐわって、彼女の望む所の『特殊な、強い遺伝子を持つ子』が産まれてきたとしよう。果たしてそのことが、その子は幸せだと言えるのだろうか……?

 

 またしても、人のことをとやかく言える事柄じゃない。僕の息子は世界を救った伝説の勇者だ。

 天空の血を引く妻に、伝説の勇者の息子。そのせいで彼らが味わった苦難を思えば……。

 

 しかし、これも傲慢な悩みなのかもしれない。自身の子が優秀であることを望まない親などいない。ゼノヴィアの言い分の尤もなのだろう。

 

 

「ここで二人っきりになれたのは好機だ。きっと神のお導k―――あうっ!?

 ……とにかく、早速試してみようじゃないか!」

 

 

 彼女はそう宣言するとイッセーくんににじり寄り、更に言い募る。

 

 

「抱いてくれ!」

 

「えぇっ!?」

 

 

 おいおいおい……、これは流石にマズい。そろそろ止めに入ろうか……。

 でも、何と言おうか?

 ふぅむ……、これは難問だ。

 

 そこに―――

 

 

「何しているの? リュカさん」

 

「へっ!?」

 

 

 後ろから突然声をかけられた。用具室でのやり取りに集中していたせいで第三者の接近に全く気が付かなかった。急な出来事に心臓が跳ね上がる。

 

 そんなことは露知らず、用具室の中にいるゼノヴィアはイッセーくんに更に迫る。

 

 

「残念なことに私は男性経験が無い。性知識の豊富そうな君に合わせよう」

 

「おぉぉぉおおい!?」

 

「子作りの過程をちゃんとしてくれれば、好きにしてくれて構わない」

 

 

 会話の内容が聞こえたのだろう。あとからやってきた少女達―――リアス、ヒメジマ、トウジョウ、アーシアの雰囲気が一変した。

 

 僕の前を通り過ぎて扉の前にツカツカと歩み寄り、ドアをバタンと開けた。

 

 

「イッセー……、これはどういうこと?」

 

「だぁぁあああああッ!?!?」

 

 

 突然、入ってきた主の只ならぬ雰囲気を察したのだろう。イッセーくんが盛大に悲鳴を上げる。

 無理もない。もし、妻があんな表情で迫ってきたら僕も尻尾を巻いて逃げるよ……。

 そんな彼に、更に追い打ちをかける者達がいた。

 

 

「あらあら、ズルいわゼノヴィアちゃんたら。イッセーくんの貞操は私が貰う予定ですのよ?」

 

「イッセーさんヒドイです~! 私だって言ってくれたら……!」

 

「……油断も隙も無い」

 

 

 ヒメジマがいつものおしとやかな口調でありながら何処か冷たい目で、アーシアは涙目で、トウジョウはジト目で睨み付ける。こりゃまた、おっかない。女性はこういうときが怖い。

 だが、ゼノヴィアは一切 意に介さない。

 

 

「どうしたイッセー? さぁ子供を作ろう」

 

「馬鹿! お前?! この状況分かってんのかァ!? ちったぁ空気ってモンをあばばばば……」

 

「全く……、どうしてイッセーはそんなにエッチなのかしら……」

 

 

 ゼノヴィアが空気の読めない発言を繰り返しイッセーくんが必死で止める。そんな彼らをリアスが冷ややかな目で見降ろした。

 いや、聞いていたが迫っていたのはゼノヴィアの方だ。まあ、イッセーくんも満更ではなさそうだったが……。

 

 

「いや、違うんだ。イッセーはただ、私と子作りをしようと……」

 

「のわぁぁぁあああ!?」

 

 

 教会出身の少女が全然フォローになっていないフォローを入れ、周りがより一層に剣呑な雰囲気になる。

 

 まあ、ここは年長者として何か言うべきだろう。見て見ぬふりはできまい。さて、何と諭そうか……。

 前に進み出て、僕がゼノヴィアと向き合う―――

 

 

「…………いいかい? 君の言っていることも良く分かる。確かに信仰の対象を喪失した悲しみは大きなものだろう……。だけど、子供を育てるのは本当に大変なことなんだよ?

 僕は幼い頃、母が側にいなかった。父は僕を赤子の僕を連れて旅をしていたが、本当に苦労していたと思う」

 

 

 ゼノヴィアを諭そうと、僕の身に、そして周りの人々に起きたことを語る。

 父とサンチョには本当に感謝している。もし、旅に連れて行ってくれなければ僕は父親の顔を知らない子供になっていた。そのことを想像すると背筋が寒くなる。

 

 

「ゼノヴィア、急ぐことはない。ゆっくりと目の前にあることを一つ一つ乗り越えていけば結果は自ずとついてくる。それでこそ、母になる準備ができるというものだ」

 

「しかし……」

 

 

 僕の言葉を聞き渋い顔をするゼノヴィア。一面の正しさを認めつつも納得しかねているようだ。

 

 そのとき、ふと面白いことが頭に浮かんだ。

 これならば彼女も喜んでくれるだろう。

 

 

「……そうだ、子育ての練習をしよう!」

 

「練習?」

 

 

 そう言って、いつも持っている袋から、一本の木が生えた鉢植えと大きなタマゴを取り出した。

 それをゼノヴィアに渡す。

 

 

「それは『モンスターのタマゴ』だ。以前、“ピピッ島”という不思議な島で購入してね。

 で、そっちのは『世界樹の苗木』。それらを一緒に置いておくとタマゴが世界樹の生命力を受けて、やがて孵化する」

 

 

 ゼノヴィアが興味深げに両方を観察する。

 

 

「千里の道も一歩から。先ずは魔物の育成から始めてみなさい。そうすればどんな種族の子であれ、親となることの大変さは分かるさ」

 

 

 僕の言葉にリアスも頷いた。

 

 

「そうね。確かに『悪魔は欲を持ち、欲を叶え、欲を与え、欲を望むモノ』とは言ったけど物事には順序があるわ。リュカさんの言う通り、まずはそこから始めてみなさい。

 それに、産まれてきた子を使い魔にする事もできそうだしね」

 

 

 

 こうして、波乱に富んだ一日が終わった。ゼノヴィアもより良い道が開けることを願って……。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日―――

 

 

 

 さーて、今日は何をしようか。取り敢えずアフリカ、南アメリカはざっくりと見て回ったし、ヨーロッパとやらに行ってみようか。

 リアスの話だと『アースガルズ』の神々だの、ヴァンパイアの王国だのがあるらしい。実に楽しみだ。

 

 そのようなことを考えていると、自分のスマホが激しく鳴っていることに気付いた。

 

 

「もしm―――」

 

『す ぐ に 来 て !!』

 

 

 ブツッ ツー ツー

 

 

「んー……? 何か問題かな」

 

 

 出た途端、叫ぶように言われ、すぐに切られてしまった。声の主はリアスだ。それにしてもなんだろう? 何かのトラブルだろうか。

 まあ、取り敢えず行ってみるか―――

 

 

 

 

 

 

 

 数分後 ゼノヴィアのアパート……だった場所

 

 

 

 

 

『GYAOOOOOOOOOHH!!!』

 

「「「…………」」」

 

 

 あちゃー……、これはやっちゃったかな……。

 

 目の前の光景を見ない為に手で覆い隠したくなった。

 倒壊した建物の上で白銀に輝く小山の如き大きさのドラゴンが怒り狂って暴れている。

 

 そういえばあの卵からは“はくりゅうおう”も産まれるんだった。しかも、どういう訳かタマゴより大きい姿で産まれてくる。魔物の生態には色々と謎が多いが、その最たるものだ。

 

 

 その竜に懸命に呼び掛ける少女がいた。ゼノヴィアである。

 

 

 

「よーしよし、良い子だから泣くんじゃない! どうしたんだ? ミルクか? それともおしめか!?」

 

 

 

 

 

 

 




きわどい水着:Ⅸに登場。いけない水着の上位互換で、Ⅸにおける水着の最上位。守備力はあまり無さそうに見えるが何と上下合わせて64。特に上はドラゴンメイルよりも守備力が高い。しかも、炎・雷属性ダメージを軽減。

世界樹の苗木:リメイク版Ⅴに登場。天空城の名産品で、天空人により大切に育てられてきた世界樹の苗木。聖なる水差しを使うといきいきと育つようになる。 夜に聖なる水差しを使うことによって、1日に1枚だけ世界樹の葉を落とすようになるため、名産品の中では実用的。

モンスターのタマゴ:モンスターズシリーズには昔からあるアイテムだが、今回のはジョーカー2プロフェッショナル版より。ブランパレスにある不思議な木の側に置くことで孵化するという点で、上記アイテムと組み合わせられると思い、コレにしました。
狙いのモンスターが産まれないと精神的にかなりツラい。

はくりゅうおう:DQMJ以降のDQMシリーズに登場するドラゴン系のモンスター。姿はⅧの裏ボスである竜神王の色違い。


はくりゅうおう ですが、無印ジョーカーではマスタードラゴンと同じ存在とされていますが、この作品では別物とさせていただきます。

……というか名前は何にしよう。~~りん、~~すけ、~~まる、~~じろう、~~たろう、~~やん、~~ぼう は出しちゃいましたからなかなか思い付きません(^_^;)
ドラクエっぽいデフォってあと何がありましたっけ?


それと、これからについて活動報告にてアンケートを取ろうかと思います。出来たら構いませんので是非ご参加ください。


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49話 堕天使の日常

※ お知らせ
前回のアンケートの結果、ルビは一話に付き一回でいいということで、そのようにしました!
それと、ドラクエ用語が分かり難いのではないかと思い、各話の後書きに、その回に登場したドラクエ用語の解説を入れました。「この特技・アイテムが分からなかった」という方は、是非、見直してみてください。





  

 

 レイナーレside

 

 

「やあ、久しぶりだね」

 

「ああ、あのレーティングゲーム以来か……」

 

 

 暖かな昼下がり。みんなと一緒に暮らすアパート。

 今、私の目の前で、紅髪と黒髪の美男子が朗らかに言葉を交わしている。

 果たして二人のうち、どちらの容姿が上かしら? 本当に甲乙付け難い。

 華があるのは紅髪の方だろう。すれ違えば思わず見返してしまう大きな存在感を放っている。

 黒髪の方は幾分かおとなしい風貌だ。けれど明らかに普通じゃない。

 凛々しさと清浄さ、快活さと落ち着きという、本来なら相反しそうモノが同居している、不思議な雰囲気の持ち主だ。

 そして何よりその瞳、ただの単に美しいだけではない。

 まるで吸い込まれるかのような黒曜石の輝き―――

 

 そんな二人の談笑。両者を見比べて見ても、緊張感や敵意は無い。全く以って穏やかなもの……。

 

 

「それにしても変わった家だ。魔術で面積は広げられているようだが、たった一間では色々と不便じゃないかい?」

 

「う~ん……どうだろうね。『住めば都』というし」

 

 

 魔王サーゼクス・ルシファーの問い掛けに、御主人様―――リュカはやんわりと答えた。

 今、二人はイシュダルの空間操作で広げられた元は六畳一間のアパートで、ちゃぶ台を挟んで向かい合って座っている。

 その周囲をリュカの“仲間”達が取り巻く。私もその一人だ。

 

 それにしても、どうしてこうなったのかしら……?

 

 私――レイナーレは元々ただの中級堕天使に過ぎなかった。 

 男を誘惑し堕落させ、上の命令で世界にとっての害悪となり得る神器(セイクリッド・ギア)所有者を始末する。ただそれだけの存在。

 上の連中は私達を見下し、それに耐えかねて暴走した。

 同志を募り、教会を追われた『聖女』アーシア・アルジェントを騙して『聖女の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』を奪おうとした。

 ……でも、失敗した。目の前にいる男のせいで。

 

 リュカ、私の新しい主。

 初めてあの広場で出会ったとき、私はこの男を殺そうとした。

 だが、出来なかった。

 その理由は単純だ。強過ぎたのだ。出鱈目なほどに。

 

 私レベルの堕天使では相対したことのない強者。おそらくSS級はぐれ悪魔以上。

 怪しげな協力者から貸し与えられた、見たこともない魔物達を瞬く間に屠ってみせた魔法に、数々の人間離れした特技。

 

 だけど、私は愚かだった。ただの人間に過ぎない彼が堕天使の私に勝てる筈がないと、そう思い込んでしまった。

 たぶん目が曇っていたんでしょうね。

 結局、カラワーナに預けた最高戦力のスーパーキラーマシンもリュカに倒された。

 

 私自身も兵藤一誠にやられ、リアス・グレモリー達によって追い詰められた。

 あのときはもうダメかと思ったわ。でも、助かった。助けられた。

 私の計画を破綻させた、他ならないリュカによって……

 

 

 ――……レイナーレ、君は君だ……。たった一人のレイナーレだ。

  珍しい『神器』の持ち主でなくてもいい……。

  力など持ってなくてもいい。

  ただ、君がレイナーレであるというだけで、僕は君を愛そう

 

 リュカのあのときの言葉は今でも忘れられない。

 これまで散々馬鹿にされてきた、この私を愛してくれている。

 その言葉を聞いたとき確信した。もう私はこの人とは離れられない。側にいたいと……。

 

 同志のカラワーナ、ミッテルトも同じ気持ちだったようだ。

 今では三人揃って御主人様と同居している。他に余計なヤツらも大勢いるが―――

 

 

「でも、こんなに大勢いたら少し窮屈じゃないかい? 君には妹も世話になっているし、住む場所ならこちらで手配してもいいよ」

 

「そこまでしてもらうのも気が引けるなぁ……」

 

「いいではないか、御主人! 魔界のエリートたる私に相応しい邸宅を建ててもらうとしよう!」

 

 

 リュカと魔王の会話に割り込んだのは橙色の肌をした長身の悪魔だ。……お邪魔虫共め。

 彼が元居た世界で仲間だったという魔物達の一人、ライオウ。高慢な男だけど実力はあるのよね……高慢過ぎてうざったいが。

 

 

「あはは……でも、確かにそうだ。ここのアパートほど強力な存在が密集してる場所はないだろうね。

 リアスからは聞いていたが、はぐれ悪魔や堕天使ともいっしょとは……」

 

 

 そう口にするサーゼクス・ルシファーは私達の方を睥睨してくる。こっちを見るな!

 冗談じゃないわ。魔王と同じ部屋にいるだなんて、まな板の上の鯉の気分よ。

 それに、御主人様の飼ってるはぐれ悪魔……バイサーとクモりんも顔が真っ青だし……。

 「魔王なんてさっさと追い出しなさいよ!」と言いたくても言い出せない自分がもどかしい。

 

 

「まあ、引っ越すにしても今すぐというわけにもいかないしね。考えてみるよ。

 ところで、今日は何をしに来たんだい?」

 

「ああ、そうだったね。実は―――」

 

 

 紅髪の魔王がようやく本題を話し始めた。本当に“ようやく”だ。一体どれだけ話し込んでいたんだか……。

 この男が尋ねてきたのは数時間前だ。玄関を開けたとき、笑顔の魔王が立っているのを目にした瞬間 卒倒しそうになった。「神の子を見張る者(グリゴリ)」にいた頃なら尻尾巻いて逃げるわね。

 それに対して、まるで旧友と再会したかのように応対し始めたリュカ……。その光景にも驚愕した。

 そりゃあ、リュカはバケモノじみて強いわよ。そんなのは私が一番良く分かっている。 

 でも、それにしたって……。

 

 そんなこんなで現在だ。全く、世の中どうなってるのかしら。

 

 

「へぇ~、駒王学園で三大勢力の会談するのかい? いいんじゃないのかな。争いより話し合いの方がよっぽど建設的だ」

 

「そう言ってもらえて助かるよ」

 

 

 三大勢力の会談―――確かリアス・グレモリーも言ってたわね。コカビエル様があれだけのことをして、あんなことになった以上、何らかの話し合いが行われるとは思っていたけど、この街で開催されることになるとは驚いたわ。

 でも、それがリュカと何か関係あるのかしら?

 

 

「それで、その場に君も出席して欲しいんだ」

 

「僕も……? いや、それはおかしいだろう。僕は異世界人で部外者だ。君達の問題に、そこまで関わる訳にはいかないだろう」

 

 

 リュカが困惑した表情を浮かべる。いつもそうだ。どうかしてるんじゃないかってぐらいのお人好しのクセに、「この世界の問題はこの世界の住人が解決するべきだ」ってスタンスで居ようとする。でも、結局は見過ごせなくて、ついつい手を貸してしまう、そんな人だ。

 あまり乗り気じゃないリュカに、サーゼクス・ルシファーが説明した。

 

 

「確かにその通りだ。けど、リアスの話ではコカビエルの一件に介入した謎の集団に君の知り合いがいたそうじゃないか」

 

「……イブール」 

 

 

 リュカの表情に影が濃くなった。

 あの夜、駒王学園に乱入したという謎の男。私達は気絶していたせいであまり覚えていない。

 けど、学園のプールに遊びに行った時に、グレモリーに質問責めにあった。

 あれ以来、リュカは時々上の空になり、何かを考え込んでいる。

 気になって尋ねてみたものの、ハッキリとした答えは得られていない。

 

 

「サーゼクスくんの言う通りだね。そのことについては説明した方がいいだろう。

 分かった、行こう」

 

「助かる」

 

 

 リュカの返事を聞き、顔をほころばせる魔王サーゼクス。

 そこに―――

 

 

「失礼します。サーゼクス様、リュカ様」

 

 

 畳の上に魔法陣が現れ、そこからメイド服を身に纏った銀髪の女性が現れた。

 誰かに教えられるまでもない。「銀髪の殲滅女王」グレイフィア・ルキフグス―――魔王サーゼクス・ルシファーの女王(クイーン)だ。

 かつて、セラフォルー・レヴィアタンと最強の女性悪魔の称号を懸けて争ったという冥界の大物。そんなのがまたしてもこのオンボロアパートにやってきた。

 ……もう勘弁してよ。

 

 

「やあ、グレイフィアさん。久しぶりだね。元気にしてたかい?」

 

「はい、御蔭様で」

 

 

 やっぱり、リュカはこちらとも知り合いらしい。そう言えば、リアス・グレモリーの結婚騒動のときに「とっても強そうなメイドさんに会ったんだが、この世界じゃ家政婦がボディーガードも兼業してるのかい?」などというトンチンカンな質問をしてきたが、この悪魔(ヒト)のことだったのねと、今更ながらに納得したわ。

 

 

「それにしても―――」

 

 

  ドキッ……!

 

 一瞬、グレイフィアと目が合った。その瞬間、心臓を握り潰されるかのようなプレッシャーを感じた……!

 というよりも、魔王と同じ部屋で過ごすというありえないシチュエーションに置かれてたから今まで感覚が麻痺してたようね。

 サーゼクス・ルシファーはまるで敵意など無い穏やかな目をしてるけど、この女はほんの刹那ではあるが、明らかな殺気を放った……!

 

 

『グオオオオゥ?』

 

 

 すると、私の後ろから野太く重厚な、魔獣の声が響く。

 振り返ると、そこにいたのはさっきまで寝ていたのに、少しだけ警戒心を刺激され、顔を上げた黄金の巨竜、グレイトドラゴンのシーザーだった。

 

 

「あら、申し訳ございません。起こしてしまいましたか?」

 

『グゥゥウウ……』

 

 

 どうやら、この女が敵意を向けたのはこの魔物だったようね……。

 まあ、それも仕方がない。私だって最初は恐かったもの。慣れって恐ろしいわ。

 

 

「それにしてもドラゴンを室内で飼うとは……、些か狭苦しいのでは?」

 

「……ああ、それもそうだね。やっぱり引っ越そうか―――」

 

 

 また、リュカは引っ越しの話をしてるし……、そういう問題じゃないでしょ!

 私の内心のツッコミなど露知らず、魔王が何かを思い出したのか、リュカに付け加えるように依頼する。

 

 

「それと、君に会わせたい人物がいるんだ。明日の午後ニ時頃、駒王学園に来てくれるかい?」

 

「ふむ……でも、その時間帯は授業中じゃないか」

 

「いや、明日は授業参観でね。父兄ということにすれば学内に入れる、

 実を言うと私も妹の授業を見に……「ゴホンッ」来たというのもあるが、会談の会場の下見が主目的だ、うん」

 

 

 嬉々として妹の話をし出すサーゼクス。それをグレイフィアが咳払いで改めさせる。

 どうやら、この女は主君を尻に敷いてるみたいね。

 

 

「いいよ、どうせ暇だし」

 

「ありがとう、恩に着るよ」

 

 

 魔王の言葉に簡単に折れるリュカ。本当に人が好い。断ればいいのに……。

 そのとき、部屋の外からカツカツと階段を上る音が聞こえてきた。

 

 

「おや、オークス達が帰ってきたか……」

 

 

 リュカが呟く。

 オークキングのオークス―――御主人様配下の魔物の一体で、冷気魔法と回復魔法、神業に近い槍術を操る獣人。仲の良い魔物連中を引き連れて、ここ最近 街に繰り出している。

 あんな、バケモノが街中をうろついていたら目立つだろうと言ったら、リュカは「彼らは“ステルス”を体得したからね」と言ったわ。

 

ステルス―――気配を遮断し、敵に発見されなくなる技。

 

 オークスが目の前でステルスを使うのを見せてもらったが、まるで魔法の様に姿がかき消えた。

 まあ、ただの町人Aが見抜けないだろうってのは確かね。

 

 そんなことを考えていると、件の足音はどんどん近付いていてくる。

 そして―――

 

 

  ピンポーン……

 

 チャイムが鳴った。

 

 

「あれ? オークス達は合鍵を持ってるから呼び鈴なんて鳴らさないよね……。

 来客かなぁ、レイナーレ、すまないけど出てくれるかい?」

 

「え、ええ……」

 

 

 リュカに呼び掛けられ、立ち上がって扉の前に行く。

 そして、ドアを開ける。

 

 そこにいたのは、悪そうな雰囲気のイケメンだった。

 ……あれ? なんか既視感があるような、ないような…………。

 

 

「……え、えーーっと……、どなたかしら……?」

 

 

 

「おいおい、堕天使のくせに自分達の頭が分からないのかよ―――」

 

 

 は? は? ナニヲイッテルノ、コノヒト? 私が言葉の意味を理解できず戸惑っていると、男の背に私のものとは比べ物にならない程 薄暗く、常闇のような漆黒の翼が十二枚現れた。

 

 

「俺がアザゼルだ、堕天使の総督をしている」

 

「……ア、ア、アザ……ゼル……様……? あばばばばばば……――――」

 

 

 その言葉を聞いたとき、私の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、う~~ん……」

 

 

 目を覚ますと、私は布団に寝かされていた。窓の外を見るとすでに夕暮だ。しばらく気を失っていたらしい。

 見渡すと、すぐ側にリュカがいた。それ以外にもミッテルト、カラワーナが私の周りで固まっている。

 

 

「大丈夫? 無理をさせてゴメンね。レイナーレ」

 

 

 起き上がった私とリュカの目と目が合う。

 彼の表情には、私を心配する感情に溢れ出ていた。

 これっぽっちの打算や嘘偽りのない純粋な愛情に満ち満ちている。

 

 

「アザゼルくんなら帰ったよ。『ウチの者をよろしく頼む』って言ってた」

 

「そう……」

 

 

 リュカの言葉に少しホッとする。

 私達は上を騙して勝手にことを起こした。断罪されても不思議はない……というよりそうなって当然だったはず。

 多分、アザゼル様もリュカに遠慮したんでしょうね……。

 そう、考えた途端、何だか今まで抑えていた気持ちが込み上げてきた―――

 

 

「……それにしても、アンタもモノ好きよね。私みたいな“お荷物”を抱え込むんだから」

 

「“お荷物”?」

 

 

 私の言葉を聞いても、彼は何を言っているのか分からない、と言いたげな顔だ。

 

 

「……だって、そうでしょ!? 私は『神の子を見張る者』の規範を乱した罪人よ! その上、グレモリーからも睨まれている。

 私なんか、いない方が好都合じゃない!!」

 

 

 愚かしいことだとは分かっていても、ついヒートアップしてしまう。自分を抑えることができない。

 

 だが、彼は―――

 

 

 

 

 

「君が無事で良かったよ」

 

 

 

「え?」

 

 

 

 彼の表情は何も揺らがない。

 リュカは静かに私の手を取り、彼の胸に当てる。

 

 

 

「本当の気持ち。僕は何も我慢していない」

 

 

 彼の温もりが、私の手に伝わって来る。

 

 

「こうすれば、わかるだろう? 君が僕にとって、どんなに大切な存在かって」

 

「リュカ……」

 

 

 彼は私を抱きしめた。

 そのとき、改めて理解した。「ただ、君がレイナーレであるというだけで、僕は君を愛そう」という言葉の意味を―――

 

 

 そこに……

 

 

「ねえ、お兄さま。ウチらもそういうことしちゃダメなの?」

 

 

 ミッテルトが心底うらやましそうにこっちを見てる。……ってか、空気読みなさいよ!

 折角、いい雰囲気だってのに!

 

 

「―――何を言ってるんだい? 勿論いいさ!」

 

 

 おぃぃぃいいいい! 何、いい笑顔で言ってくれてんのよ、リュカァァアアッ!!

 

 

「「「「わ~~~~~~いっ♪」」」」

 

 

 しかも、一斉に来やがった!

 ミッテルト、カラワーナ、バイサー、クモりん、スラ太郎、触手丸、ディーネ、イシュダル、ヘルヴィーナス共、ジュラすけ、ヒュドまる、スプろう、プックル……その他、名前を上げてたらキリが無いほど沢山の連中が自分達の主人に突撃する。

 

 当のリュカは―――

 

 

 

 

「かかって こいやぁぁぁぁっ!」

 

 

 

 すべて受け止めます! と言わんばかりに仁王立ちし、魔物達の方に向かって行った。

 

 

 

 

「どうしてこうなんのよ!!」

 

 

 

 




ステルス:DQⅨ 、DS版DQMシリーズなどに登場した特技。敵に見つからずに移動することができる効果を持つ。以前のトヘロスのようなもの。


最近あった出来事 初めて0評価を付けられてゲロ吐きそうになるくらい落ち込む。
「作者は豆腐メンタル」とでもタグを増やそうか悩む今日この頃。


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50話 魔王少女

何とか50話です! ここまで読んでくださった読者の皆様。本当にありがとうございます。


  

 

授業参観―――学校で行われている授業の一環で、生徒の保護者が教室に入り、生徒が授業を受ける様子を見ることができる。ほとんどの学校では学校行事の一つとして年に数回程度実施しており、自分の子供のクラス以外の授業はもちろん、授業以外の休み時間、給食、掃除、下校指導等も参観できるところも存在する。

 

 

 まあ、僕のいた世界にはあまり馴染みのない風習だ。……と言うか、僕自身学校に通ったことがないし、ティミーもポピーも行っていない。城の学者や仲間の魔法使いマーリンから授業を受けているからだ。

 

 僕もグランバニアに帰ったら一度 二人の勉強を見てみようか……。

 いや、ティミーはともかくポピーは駄目だ。娘は五つで帆船の設計図を書き上げる天才だった。

 彼女に偉そうにものを教えようとしたら、逆に僕が教わるハメになる。それは父親としての威厳に関わるしなあ……。

 

 

 駒王学園は沢山の人々に溢れかえっている。皆 生徒達の親御さん方だろう。ほとんどの人が楽しげな表情をしている。息子さんや娘さんの普段の頑張りを見ようと心待ちにしているのだろう。

 

 学園内を見て回っていると、二人の男性が近寄ってきた。二人とも目が覚めるような紅髪――― 一人は魔王 サーゼクス・ルシファーだ。

 

 

「やあ、来てくれたんだね」

 

「こんにちは、サーゼクスくん」

 

 

 僕と紅髪の魔王が挨拶を交わす。彼は続けて隣にいる男性を紹介してきた。リアスやサーゼクスと同じ鮮やかな紅色の髪という時点で薄々が察しは付くが……。

 

 

「こちらにいるのは私とリアスの父だ」

 

「どうも、リアスとサーゼクスの父です。娘がいつもお世話に」

 

「いえいえ、異世界に来て右も左も分からず困り果てていた僕の面倒を見てくれたのが彼女です。世話になっているのはこちらの方ですよ―――」

 

 

 自己紹介のあと、しばらくは穏やかな雑談が続いた。グレモリー卿はなかなか気さくな人柄のようだ。短いやり取りの中からも娘や息子への深い愛情が窺える。僕も子供がいる身として何となく親近感を覚えた。

 

 

「ああ、ところで僕に会わせたい人物って一体誰なんだい?」

 

「そうだった。彼女の名前はセラフォルー・レヴィアタン。私と同じ四大魔王の一人だ」

 

 

 サーゼクスが答える。

 

 セラフォルー・レヴィアタン―――確かソーナ・シトリーの姉だったか。前回のコカビエル襲撃事件の際、コカビエルが口に出した名だ。リアスが兄のサーゼクスに救援を求めたにも拘わらず、ソーナは姉を呼ばなかった。

 姉妹の間にしこりでもあるのだろうか。それが今日の授業参観に来る……。

 

 

「しかし、どうして会わせたいのかい?」

 

「彼女は外交担当だからね。君は言ってしまえばどの陣営にも属さない独自の勢力だから、会談の前に顔合わせをしておこうと思ったんだ」

 

 

 僕は独自の勢力ねえ……。勢力なんて大仰な言い方をされると困るが、確かにどの陣営にも属していない。

 セラフォルーが外交担当ということは所謂『根回し』というやつだろうか。

 

 

「ま、それも授業参観が終わってからだね。私達はリーアたんのところに行かなければならないのでこれで失礼させてもらうよ。また後でね」

 

 

 ……ん? リーアたん?

 謎の言葉を残し、紅髪の悪魔親子は去って行った。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 それから、しばらくの間は各クラスの公開授業をのんびりと覗いて回った。

 数学だの理科だの国語だの、様々な科目の講義が行われている。そんな中で一番変わっていたのがイッセーくんのクラスだった。

 何やら紙粘土で工作をしているようで、イッセーくんの作品に他の生徒が群がっていた。彼は美術の才能があるのだろうか? 僕はあまりそういったものには縁がない。

 

 そんなことを考えながら歩いていると―――

 

 

「あ、リュカさん!」

 

 

 後ろから声を掛けられた。振り返ると、そこにはイッセーくん、リアス、アーシア、ヒメジマの四人がいた。声を掛けてきたのはイッセーくんだ。どうやら授業が終わったので、そこにある自販機で飲み物を買い、休憩していたらしい。

 

 

「やあ、こんにちは。それにしてもさっきの授業は凄かったね。人だかりが出来ててよく見えなかったんだが、どんな物を作ったんだい?」

 

「え、え~~っと……、こいつです」

 

 

 彼の手にあったのはリアスの模型。なかなかに素晴しい出来だ。友人のヘンリーから結婚式の引き出物としてもらった『記念オルゴール』の上に乗ってる新郎新婦の人形に勝るとも劣らない。

 

 

「これは大したものだ」

 

「いや~~、へへへ」 

 

 

 僕が褒めるとイッセーくんが照れ笑いを浮かべた。しかし、少し疑問に思ったことがあるので尋ねてみる。

 

 

「でもこれ、全裸だけど、どうしたんだい? 想像で作ったの?」

 

「そ、それは!?」

 

 

 僕の質問にイッセーくんがたじろぐ。そこにヒメジマが割り込んで来た。

 

 

「あらあら。イッセーくんってば毎日 部長のお体を見て触ってるのですわね。だから作れたのですわ」

 

「ちょっと朱乃!」

 

 

 とんでもないことを言い出したヒメジマを止めるリアス。だが、当のヒメジマは意に返さない。

 

 

「今度 私も作ってもらおうかしら?」

 

「ッ!? そ、それは、ヌードという?!」

 

「もちろん脱ぎますわ。お触りもアリで♪」

 

「お触りッ! マジですか、朱乃さんッ!?」

 

 

 歓喜の表情を浮かべる赤龍帝。しかし、当然―――

 

 

「ダメよ!」

 

「ダメです!」

 

 

 案の定、リアスとアーシアに止められた。それは当然だ。ヒメジマも分かってからかっているのだろう。

 しかし、イッセーくんの才能は凄い。僕が女性の体を見て触ったとしても、ここまで再現するのは無理だ。

 妻の体は子供が二人くらい出来るほど見もしたし、触りもしたが、今ここで紙粘土を与えられても再現は出来ない。精々どぐうせんしの出来損ないみたいな造形にしかなるまい。

 

 そんなことを考えていると―――

 

 

「魔女っ娘の撮影会だとっ!」

 

「これは! 元写真部としてレンズを通して余すことなく記録せねば!!」

 

 

 イッセーくんのクラスメイトの……確かマツダくんにモトハマくんだったか、その二人が廊下を猛烈な勢いで走って行った。

 そこにもう一人の男子生徒がやって来た。金髪の美少年、キバくんだ。

 

 

「祐斗、何事なの?」

 

「リアス部長。何やら魔女っ娘の撮影会をしているそうですので行ってみようかと」

 

 

 キバくんが廊下の先を指差した。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 廊下の先にあったのは体育館だった。壇上の上にいる少女を無数の男子生徒が取り囲み、カメラを手に取って一心不乱に撮影している。

 

 中心にいる少女は人間でいえば十代後半ぐらいか。可愛らしい服装……そう、弟子のミルたんと同じ格好をしている。「ミルキースパイラル7オルタナティヴ」とやらの衣装だったか。

 尤も、ミルたんが着るのと目の前にいる少女のとでは大分(おもむき)の異なる印象を受ける。(ミルたん)の場合だとサイズが合っていないためか、ピチピチで風変りな感じがする。

 一方、この少女はどちらかというと小柄で、可愛らしい。以前、見せてもらったアニメの主人公にはこちらの方が近い。

 でも、この娘も小柄ではあるけど、出るべき所は出ている女性らしい体型だ。やはり、アレは十代前半が着るべき装束だろう。

 

 

「ミルたんに近い感性の持ち主……かな」

 

「リュカさん、美少女と漢女を一緒にしないでください」

 

 

 僕の言葉をイッセーくんが引き攣った顔で否定した。

 そこに生徒会のサジくんが駆け込んで来て、群がっている男子生徒を追い払う。

 

 

「ほらほら、解散解散! 今日は公開授業の日なんだぜ! こんなところで騒ぎを起こすな!」

 

 

 サジくんの宣告に、男子生徒達は強烈に抗議したが、やがて、渋々ながらも従い、立ち去っていく。

 そして、仕事熱心な彼は、元凶たる魔法少女の仮装をした少女に向き直った。

 

 

「あんたもそんな格好をしないでくれ……って、もしかして御家族の方ですか? そうだとしても、その場のTPOってもんがあるでしょう。困りますよ!」

 

「えー! だって、この格好が私の正装だもん☆

 

 みるみるみるみる スパイラル~~♪」

 

 

  キラッ☆

 

 

 

 …………これは……。少女がサジくんの言葉にまるで耳を貸さずに華麗にポージングを決めた。何とも形容しがたい人物だ。やはり、ミルたんに近いモノを感じる。

 そればかりか、何やら強大な魔力の片鱗のようなものまで感じた。

 まさか、本物の魔法少女か―――?

 

 そこに―――

 

 

「何事ですか? サジ、問題は簡潔に解決しなさいといつも言って―――」

 

「ソーナちゃん! 見つけた☆」

 

 

 現れた駒王学園生徒会長ソーナ・シトリー。彼女の姿を見た途端、謎の魔法少女の表情がより一層明るくなった。

 そこにサーゼクスとグレモリー卿もやって来た。そして魔法少女に話しかける。

 

 

「ああ、セラフォルー。ここにいたのか。捜したぞ」

 

 

 ……ん? セラフォルー? 何処かで聞いた名だが……。

 同様の疑問をイッセーくんも抱いたらしい。怪訝な顔をする。

 僕達の疑問にリアスが答えた。

 

 

「この方は現四大魔王の御一人、セラフォルー・レヴィアタン様。そしてソーナのお姉様よ」

 

「えええええええええええええええええええええええッッ!!?」

 

 

 

 ………魔王、ね。

 

 イッセーくんが驚愕のあまり絶叫したが、全く耳に入らない。

 気が付いたら呻き声を上げて片膝を床についていた。

 

 

「……う、う~~~ん」

 

「ど、どうしたんスか、リュカさん!」

 

「いや、ちょっとカルチャーショックがね……」

 

 

 いやいやいや、この娘が魔王というのはちょっとありえないだろう。

 魔王、魔王ね。あははははははは……

 

 どうやら僕は“魔王”というものにこだわりがあるらしい。それもそうだ。僕の半生は魔王と戦いの為に費やされたと言っても過言ではない。

 サーゼクスくんはまだ分かる。オンボロアパートに訪ねて来たり、妹の授業参観に夢中になったりしていても、魔王の装束に身を包んだ姿は威厳に溢れていた。

 しかし、この少女は―――

 

 そりゃ世界が違えば魔王の在り様も異なるという事は分からなくもない。

 でも、それにしたって……。

 

 もし、僕の元いた世界を侵食した かの魔王が―――

 

『ついにここまで来たのね☆ 伝説の勇者とその一族のみんな! 私が誰なのか勇者ちゃん達はもう分かってるわよね☆ 魔界の王にして王の中の王 ミルドラースとは私のことよ☆

とぉ~~っても長い時間をかけて私の存在はすでに神をも超えたの! もはや世界は私の手の中にあるわ☆ 私の下僕ちゃん達があれこれと頑張ってくれていたみたいだけど……。あんなことはそもそも必要のない下らない努力にすぎなかったのよねん♡ 何故なら私は運命に選ばれた者、勇者も神をも超える存在だったの……。さあかかって来なさい。私が魔界の王たる所以を見せてあげるわ☆』

 

 とか―――

 

『流石ね☆ 伝説の勇者とその一族のみんな! でも不幸なことね……。なまじ強いばかりに、私の本当の恐ろしさを見ることになっちゃうことになるなんて……。もう、こうなったら思いっ切り泣かせちゃうんだから! その苦しむ姿が私への何よりの捧げモノなのよ☆ 勇者なんておかしな血筋を私が今ここで断ち切ってあげちゃうんだから!!』

 

 

 ……って言ってきたら、さぞかし微妙な気分になったことだろう。

 幾千幾万の魔物がひしめくエビルマウンテンの最深部で待ち受けるピンク色の可愛らしい魔法少女―――

 まあ、それはそれで面白かったかもしれないが……。

 

 ともかく、僕の勝手な思い込みを押し付けるのはよろしくない……。うん、よろしくない。

 

 

 

「セラフォルー様、お久しぶりです」

 

「あら、リアスちゃん! おひさ~☆ 元気にしてましたかぁ?」

 

「は、はい。おかげさまで。今日はソーナの授業参観に?」

 

「うんっ☆ でも、ソーナちゃんったら酷いのよ、今日のこと黙ってたんだからー! もう、お姉ちゃん、ショックで天界に攻め込もうとしちゃったんだから☆」

 

 

 冗談なのか巫山戯けているのか本気なのか……、何だかとても物騒なことを言っている。止めるべきなのだろうか。

 というより、彼女は四大魔王の中では外交担当ではなかったかな? こんな調子で大丈夫なのか心配なんだが……。

 

 

「ん? リアスちゃん、あの子が噂のドライグ君?」

 

「はい。イッセー、御挨拶なさい」

 

「初めまして、兵藤一誠です! リアス・グレモリー様の兵士(ポーン)をやってます!」

 

「初めまして、魔王のセラフォルー・レヴィアタンです☆ レヴィアたんって呼んでね♡」

 

 

 イッセーくんとセラフォルーが自己紹介をし合っている。イッセーくんは緊張しているふうだが、魔王の少女はノリノリだ。僕のイメージする魔王の重厚感とは程遠い。

 

 

「それで、こちらの方は?」

 

 

 魔王の両目が僕を捉えた。僕もきちんと自己紹介しておこうか。

 

 

「僕はリュカだ。異世界から来た旅人だよ」

 

「へぇ~~☆ あなたが……」

 

 

 興味深げに僕を観察する魔王セラフォルー・レヴィアタン。どうやら僕の力を見定めているらしい。

 そこにサーゼクスが入って来た。

 

 

「私が呼んだんだ。会談の前に顔合わせをしておこうかと思ってね」

 

「これは、セラフォルー殿。何と言うか、実に奇抜な衣装ですな。魔王としては少々如何なものかと……」

 

「あら、おじさま☆ ご存じないのですか? 今のこの国ではこれが流行(はや)りですのよ?」

 

「ほう、そうなのですか! これは私が無知だったようだ」

 

「ハハハッ、父上。信じてはなりませんよ」

 

 

 グレモリー卿、サーゼクス・ルシファー、セラフォルー・レヴィアタンの談笑。

 魔王と冥界の重鎮の会話とは思えない程軽い。

 いや、ひょっとすれば あの魔界の王も裏ではこんな感じだったのだろうか?

 

 

「ソーナちゃん、どうしたの? お顔が真っ赤ですよ? せっかくお姉様である私との再会なのだから、も~~っと喜んでくれてもいいと思うのよ?

『お姉様!』『ソーたん!』って抱き合いながら百合百合な展開でもいいと思うの~、お姉ちゃんは!」

 

 

 ソーナに無邪気に言い募るセラフォルー。どうやら妹への愛情は本物みたいだ。それも、極めて深い。しかし、『百合百合』とは何だろう? 何らかの儀式だろうか。

 

 

「……お、お姉様。私はここの生徒会長を任されているのです……。

いくら、身内だとしてもお姉様の行動は、あまりに……。そのような格好は容認できません!」

 

 

 必死に苦言を呈するソーナ。だが、魔王レヴィアタンにはまるで通じない。

 

 

「そんなソーナちゃん! ソーナちゃんにそんな事を言われたらお姉ちゃん悲しい! お姉ちゃんが魔法少女に憧れているって、ソーナちゃん知っているじゃない!

キラめくステッキで天使、堕天使をまとめて抹殺なんだから☆」

 

「お姉様、ご自重ください。魔王であるお姉様にキラめかれたら小国が数分で滅びます!」

 

 

 天使堕天使をまとめて抹殺……って、これから和平を結ぶってときにそんなこと言っていいの?

 う、う~~ん……、本当にこの魔王(ひと)大丈夫かな。というより、思考が魔王よりも破壊神の方に近い気がするんだが……。

 イッセーくんはサジくんに何かを尋ねている。

 

 

「おい匙、コカビエルが襲ってきた時、会長はお姉さんを呼ばなかったけど、仲が悪いからってワケじゃないよな?」

 

「逆だ、逆。セラフォルー様が、会長を溺愛しすぎているから、呼ぶと逆に収拾がつかなくなるってさ。

妹が堕天使に穢されるとか言って、即戦争になってたかもしれん」

 

 

 ああ、成る程。サジくんの説明を聞いて安堵した。姉妹の仲が悪い訳ではないらしい。

 

 

「うぅ……! もう耐えられません!」

 

 

 ソーナは叫ぶと、後ろを向き逃げ出そうとした。羞恥からだろうか? 彼女の気持ちも分からなくもないが、やはり姉は大切にして欲しい。多少素行に問題があったとしても肉親であることには変わりない。

 

 

 ソーナは 逃げ出した! しかし リュカに 回り込まれて しまった!

 

 

「なっ!?」

 

「知らなかったのかい? 魔物使いからは逃げられない」

 

「何なんですかそれは!!?」

 

 

 魔王の妹が驚愕する。どうやら、僕の動きを認識できなかったらしい。『星降る腕輪』の御蔭かな。

 取り敢えず、彼女の肩を掴むとセラフォルーの前に差し出す。

 

 

「逃げることはないだろう? どんな姿でも彼女は君の姉だ。君の愛すべき家族じゃないか」

 

「ちょ、ちょっとリュカさんっ!?」

 

「ありがとっ、リュカちゃんっていい人ね☆ ソーたぁぁぁぁぁんっ!!」

 

 

 セラフォルーがソーナに抱きついた。その姿は本当に微笑ましい。悪魔であっても魔王であっても姉妹の愛は変わらない。

 僕には兄弟がいない。彼女達のやり取りが本当に羨ましい。でも、ソーナはと言えば―――

 

 

 

「恨みますよ! リュカさぁぁぁぁぁんっっ!!」

 

 

 姉に抱擁されながら、恨みがましい目で僕を睨みつけ、他方、すっかり蚊帳の外のイッセーくん達は生温かい目で僕を見ていた。

 

 

 

 




記念オルゴール:リメイク版DQⅤに登場。ラインハットの名産品。ヘンリーとマリアの結婚後にラインハットのヘンリーを訪ねると貰える。ヘンリーとマリアの結婚式の記念品であり、オルゴールの上に大きな二人の人形が付いていて、オルゴールを鳴らすとその人形も動くというカラクリ仕掛けのオルゴール。

どぐうせんし:DQⅣ、Ⅴに登場する土偶型モンスター。Ⅳでは限定的にシンボルエンカウントが採用された珍しい敵。ザラキ、ラリホーマを連発する厄介なヤツ。
ⅤではⅣから大幅に弱体化し、序盤の古代の遺跡やサンタローズの洞窟などに出現する。打撃の他、スカラで守備力を上げてしまうことがある。


また、活動報告にてアンケートを取りたいと思います。出来ればでいいですので是非 ご協力お願いします。


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51話 もう一人の僧侶

ドラクエ漫画の金字塔といえば「ダイの大冒険」と「ロトの紋章」ですね!
その中でも「ロト紋」は続編の「紋章を継ぐ者達へ」が現在も続いております。
カムイワールドは作品の間に繋がりがあって面白くもありますが、二次創作をやってると「マジで!?」と思うようなことがあります。
この作品ではカムイ版の設定をほんの少しですが使用してます。ですが、全面的に使ってるワケではありません。


※ぶっちゃけ 御 都 合 主 義 です。



 

 

 授業参観が終わり、生徒も、その家族もすっかりまばらになった駒王学園。閑散とした校内で、何やら僕に用があったらしい魔王サーゼクス・ルシファーが、改めて話し掛けてきた。

 

 

「……封印されたリアスの眷属?」

 

「ああ、そうだ」

 

 

 神妙な顔で頷く魔王。彼はゆっくりと話し始めた。

 

 

「一人の上級悪魔が持つ悪魔の駒(イーヴィル・ピース)は全部で十五。女王(クイーン)が一つ。騎士(ナイト)僧侶(ビショップ)戦車(ルーク)が二つずつ。そして、兵士(ポーン)が八つだ。

 リアスはアーシア・アルジェントの他に、すでに僧侶の眷属を持っている」

 

 

 それは初耳だ。しかし、どうして封印されているのか……その理由が分からない。

 

 

「彼は非常に強力な神器(セイクリッド・ギア)を持っていてね。それを彼自身の能力では持て余してしまうんだ。だから、私が封印するように命じた」

 

「君が……?」

 

 

 またしても神器か……。サーゼクスの話を聞いてやるせない気分になった。

 この世界はどうなっているのだろうか。神器とは一体何なのか、どうして与えられるのか。

 イッセーくんの件も然り、力の無い者がなんの脈絡もなく神器を与えられ、それによって理不尽に迫害されている。

 

 

「リアスから聞いた。君は他者を虐げたり、無理矢理従属させたりすることが嫌いだそうだね?」

 

「ああ」

 

 

 当然だ。そんなことはあってはならないだろう。少なくとも僕の価値観ではそうだ。

 

 

「彼を封印するように命じたのは私だ。理由は先程述べた通りさ。そのことについてなんだが、私に対して怒りを抱くのはいい。だが、どうか妹のことは悪く思わないでくれないだろうか。

 リアス自身はその僧侶のことも、他の眷属と同様に大切な下僕と思っている。決して無碍に扱っている訳じゃない」

 

 

 真剣な眼差しで僕を見つめてくる魔王。確かに彼の言う通り、リアス・グレモリーは自身の眷属を非常に大切に扱う。そのことは短い付き合いであっても良く分かる。

 それにこの世界の物事にあまり首を突っ込むのも憚られる。異世界なのだから価値基準が違うのも当然だ。今まで散々引っかき回してきた僕が思うことではないのかもしれないが……。

 

 

「……ああ、分かった。それで、僕に何をして欲しいのかい?」

 

「君には妹達を見守って欲しいんだ。というのもライザー・フェニックスとコカビエルの一件でリアス達も力を付けてきているからね。その僧侶の封印を解こうと思っている。そこに立ち会って欲しい―――」

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

「そう、お兄様が……」

 

 

 翌日の放課後、旧校舎に赴き、リアス達に事情を話した。彼女達の方も、今まさにもう一人の僧侶の封印を解こうとしていたようだ。皆、この世界の文字で『KEEP OUT!!』と書かれた黄と黒のテープが幾重にも張られた部屋の前にいる。

 その眷属と面識がないであろうイッセーくん達は不安が半分、期待が半分といった表情だ。

 

 

「それにしても、どんな奴っスかね……?」

 

「何でも強力な神器を宿してるそうだ。サーゼクスくんが言ってた」

 

「ええ」

 

 

 イッセーくんが疑問を口にしたので、僕が答えると、リアスが頷き、肯定した。

 

 

「……でも、一切出入りを禁じている訳じゃないわ。深夜は封印の術も解けるから、旧校舎内限定で部屋の外に出ていいことになってるの。でも、中に居る子自身がそれを拒否してる」

 

「要するに引きこもり?」

 

 

 リアスの顔付きに影が濃くなる。どうやら、彼女も現状を憂いているようだ。

 本人が自分の意志で引きこっているのでは一概にリアスを責められない。

 さて……、引きこもりの相手などしたことがないし、一体どうしたものか……いや、引きこもってたわけじゃないが、昔のヘンリーみたいなものなのだろうか? 父は相当手を焼いてたが……。

 

 

「ですけど、私達グレモリー眷属の中では、この子が一番の稼ぎ頭なんですのよ。パソコンを介して、特殊な契約を行っているの。人間の中には私達(悪魔)と直接会いたくないという方もいるのですわ」

 

 

 ヒメジマが補足してくれた。なるほど、仕事をする意欲はあるということか。ヒト嫌いということかな?

 僕がそう考えていると、リアスが黄と黒のテープを魔力で消し去っていく。

 

 

「封印が解けます」

 

 

 テープが完全に消え去り、扉が現れた。

 

 

「さてと……、扉を開けるわ」

 

 

 ぎいい、と重たげな音を立てて扉が開かれる。すると――――

 

 

 

 

「キャァァァァァアアアアアアアッッ!!」

 

 

 むっ!?

 部屋の中から『はげしいおたけび』並の大音声の悲鳴が発せられ、僕の鼓膜を直撃した。

 

 

 「な、なんだぁッ!?」

 

 

 イッセーくんやアーシアも驚いているが、流石にゼノヴィアは肝が据わっている。ほとんど動じていない。キバくんとトウジョウは訳知り顔だ。キバくんは苦笑を、トウジョウは呆れを顔に浮かべている。

 

 戸惑っている僕やイッセーくんには目もくれず、リアスとヒメジマが部屋の中に入って行った。

 

 

『ご機嫌よう。元気そうで良かったわ』

 

『な、何事なんですかぁ!?』

 

『封印が解けたのですわ。さぁ、私達と一緒に』

 

『イヤですぅ! ここがいいですぅ! 外怖いぃぃぃぃ……』

 

 

 部屋の住人と思しき人物とリアス達のやり取りが聞こえてくる。予想通り苦戦しているみたいだ。

 そこで、僕達も開かずの間に足を踏み入れた。

 

 部屋の中は思っていたより可愛らしい感じだ。

 カーテンが閉ざされ、薄暗いことを除けば、ピンク色の絨毯やたくさんのぬいぐるみなどが女の子っぽい。

 

 ただ、目の前にある、僕にとっては馴染み深いが、明らかに部屋の内装と合っていない物―――そう、棺桶を除けばだが……。

 

 そして、その棺桶の中に、死んでもいないのに佇んでいる者がいた。

 年頃はやはりトウジョウと同じくらいか、華奢で小柄。色白の肌に端正な人形のように顔立ち。赤い瞳にサラサラの金髪という美少女っぽい美少年がいた。

 

 しかし、単に容貌が中性的というだけではなく、制服が女子の物……。サーゼクスくんは「彼」と言っていた。

 ……ということは、オカマか旅芸人(旅芸人の職を極めたときにダーマ神官から貰える『旅芸人の証』の効力で男性でも女性用の衣服が装備できることから)だろうか。

 

 

「うおおっ! 女の子! しかもアーシアに続く金髪美少女ォ! ビショップは金髪尽くしってことっスか!!」

 

 

 隣のイッセーくんが彼の姿を見て盛大に感性を上げた。

 おや、彼はもう一人の僧侶が男だと聞いていないのだろうか。

 

 

「えっ? サーゼクスくんは『彼』って言ってたけど」

 

「……えっ、リュカさん、今なんと…………?」

 

「いや、だからサーゼクスくんが話の中で『 (かれ) を封印するように命じたのは私だ』って言ってた」

 

 

 イッセーくんが顔中をピクピクさせながら僕を見ていたが、やがて、縋るような顔でリアスの方を向いた。

 彼女は心底呆れたような表情で言った―――

 

 

「ええ、リュカさんの言った通り。……見た目は女の子だけれど、この子は紛れも無く男の子」

 

「「えええええええええっ!?!?」」

 

「うふふふ。女装の趣味があるのですわ」

 

 

 イッセーくんとアーシアが驚きのあまり腰を抜かした。

 紅髪の少女は愛おしげに少年を抱きしめ、僕達に紹介した。

 

 

「この子はギャスパー・ヴラディ。私の眷属、もう一人の僧侶。

 一応、駒王学園の一年生で、転生前は人間とヴァンパイアのハーフよ」

 

「吸血鬼って……コイツが!?」

 

「バンパイア……? ああ、あの『こうもり男』の亜種か」

 

 

 その言葉を発した瞬間、周りの皆が物凄くコワい顔で睨みつけてきた。

 

 

「……あのね、リュカさん? 貴方にとってはどうか分かりませんけど、我々の世界でヴァンパイアはとっても強力な存在なのよ? 間違っても他のヴァンパイアの前で『こうもり男』呼ばわりは止めてくださいね」

 

「……はい」

 

 

 リアスのやけに迫力のある笑顔に、素直に頷いてしまった。

 そう、魔物の姿と名前には世界ごとに隔たりがあることがある。ケルベロスが二つ首か三つ首かとか。ヒュドラや やまたのおろちの首の数とか。これからは不用意な発言は慎むべきだろう。

 

 一方、イッセーくんは「承服しかねるッ!」と言わんばかりに嘆いていた。

 

 

「……マジか!? こんな残酷な話があって良いものか~ッ!? 完全な美少女姿だってのに、チ〇コ付いてるとは……!」

 

「でも、よく似合ってますよ?」

 

「うん、アーシアの言う通りだ。別に男の子でもいいんじゃないかな?」

 

「良くないっスよ!! その分ショックがデカいんですって!!!

 引きこもりなのに女装癖かよ! 誰に見せるってんだァ!!」

 

 

 イッセーくんが語気を荒げて詰問する。確かにそれは疑問だ。

 

 

「だ、だ、だって、この格好の方が可愛いもん……」

 

 

 なるほど、彼は可愛い装備がいいのか。なら今度『天使のレオタード』でも譲ってあげようか? 同じ可愛い装備でも、ただの制服より、守備力と耐性があった方が良いだろうし。

 

 

「…………」

 

 

 いや、止めておこう。トウジョウがこっちを無言で睨みつけて来ている。

 この娘はどんどん鋭くなるな……。

 

 

「『もん』とか言うな! 『もん』とかァ!!

 う、うぅ……、一瞬だがアーシアとお前の金髪美少女Wビショップを夢見たんだぞ!」

 

「……人の夢と書いて、儚い」

 

「いや、君達は悪魔なんだからそれは変じゃないかな? ヒトの夢ではないだろう」

 

「小猫ちゃん、それ洒落になってないッ! あと、リュカさんのはもっと洒落になってないッ!!」

 

 

 僕とイッセーくんとトウジョウが無駄話をしている間も、リアスは懸命に自身の眷属と接していた。

 

 

「ギャスパー、お願いだから外に出ましょう? ね?」

 

「嫌ですぅぅぅ!」

 

 

 断固拒否するギャスパー。そんな彼に業を煮やしたイッセーくんがズカズカと近づいた。

 そして、怯える少年の腕を強引に掴む。

 

 

「ほら、部長が言ってるんだからさ」

 

「ヒッ!?」

 

 

 イッセーくんも悪気はないのだろうが、やや乱暴に棺桶からギャスパーを引き摺り出そうとした。

 

 その瞬間、言いようのない恐怖が全身を貫いた――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……消えた。

 

 

 一瞬でだ。確かに目の前にいた筈の吸血鬼の少年が消えている。

 辺りを見渡すとすぐに見つかった。部屋の隅で震えている。

 だが、ほんのわずかの間も眼を離していなかったのだ。一体どうやって―――?

 

 

「………あれ?」

 

「うぅぅ……、怒らないで怒らないで、ぶたないでくださいぃぃぃぃ……ッ!」

 

「おかしいです……、今、一瞬……?」

 

「何かされたのは確かだね」

 

 

 どうやらイッセーくん達も同様の現象を体感したらしい。口々に疑問を言う。

 それに答えたのはヒメジマだ。

 

 

「フォービトゥン・バロール・ビュー、停止世界の邪眼と呼ばれる、その子の持つ神器ですわ。興奮すると、視界に映した全ての物体を一定時間、停止させることが出来るのです。

 ギャスパーくんは、この力を制御出来ないため、魔王サーゼクス様の命でここに封じられていたのですわ」

 

 

 これはまた凄いな……。僕も完全に虚を突かれた。

 もし、ギャスパー・ヴラディが敵であったとしたら相当危なかっただろう。正直、彼を侮っていたのかもしれない。

 どんなに鍛えても、僕は結局人間なのだ。要するに状態異常への耐性は上げられない。そこを突かれたということか。

 真剣に彼と殺し合いをするのであれば、もう少し遣り様はあったかもしれないが……。

 

 

「その上、無意識に能力が高まっていくみたいで、禁手(バランスブレイカー)に至る可能性もあるのよ」

 

「バ、バランスブレイカー?」

 

 

 無意識に力が高まる……か。今でも制御できないのにこれ以上強くなる。認めたくはないがサーゼクスくんの判断も一理あるということか。

 でも、やはり認めたくはない。理性ではなく感情で、だ。

 何が何でも救ってあげたい。

 

 

「うぅ……、僕の話なんかしてほしくないのにっ……、目立ちたくないですぅぅぅぅぅ」

 

 

 今度は部屋の端で段ボールに隠れている。その姿は痛々しい。

 

 

「またこんな所に隠れやがって!」

 

「ふぇぇ!? 僕はこの箱の中で十分ですぅぅぅ! 箱入り息子ってことで許してくださいぃぃぃぃっ!

 僕に外の世界なんて無理なんだぁぁぁぁぁっ! どうせ、僕が出てっても迷惑を掛けるだけだよぉぉぉぉっ!!」

 

 

 ギャスパーの悲痛な叫びが部屋中に木霊する。

 

 

「ふぅむ……」

 

 

 何となく事情は察した。この子は自分の力を恐れているのだ。故に制御出来ずに振り回される。

 そんなギャスパーに必要なもの―――それは“勇気”だ。

 自らの力を恐れない勇気。自分自身を正視する勇気――――

 

 だが、それをどうやって与えればいい?

 彼の力は“時間”。人智が及ばぬモノの代表格と言ってもいい。

 それを制御する―――。

 

 今まで意識したことがなかったが、一応、僕にも時間を操れないこともないのだ。

 ある呪文を用いて―――

 

 そう、パルプンテ だ。

 

 パルプンテ―――失われた古代呪文の一つ。謎の呪文、正体不明の呪文であり、その効果は使う都度に変わる。しかし、その多くが他の呪文よりも強力であり、唱えれば戦況が良い方にも悪い方にも転がり得る。言ってしまえばギャンブル呪文だ。

 

 その内の一つに「相手の時間を停止させる」という効果が確かに存在する。

 そして、僕は何度かその効果で時間を操っている。

 

 

「でも、どの効果が現れるかなんて完全に運だしなぁ……」

 

 

 それがネック。唱えるごとに効果が違う。「時を止める」と言って“とてつもなく恐ろしい存在”を呼び出したり、流星を降らせたり、“笑う魔神”を召喚したりしてたら、勇気を示すどころではない。

 

 あと、“時間”と言われて思い付くものがあるとすれば二つ。

 一つは『凍れる時間(とき)の秘法』。異世界の大魔王が使ったとされる秘術だが、これも却下だ。何せ大魔王級の魔力がいるし皆既日食を利用するそうだから数百年に一度しか使えない。人間の僕には無理だ。

 二つ目は『時の砂』。これは呪文や特技ではなくアイテム。効果は一定時間を巻き戻すというもの。しかし、効果が異なるし、ただの道具だから当てにはならない。

 

 

 時間…………、呪文…………、『時の砂』…………。それらの言葉が頭の中でグルグル回る。

 

 何か、彼……ギャスパーに示せるものはないだろうか。

 なかなか答えは出ない。まるで頭の中に靄がかかってるかのようだ。

 

 しかし、必死に考えを巡らせていると、頭の中の霞から、巨大な塔が姿を現した。

 

 その塔の近くに一人の男が立っている。

 

 

「そうか、あれだ。あの呪文だッ!!」

 

「―――ッ!? リュカさん、どうしたんスか!??」

 

 

 突然大声を上げたせいで、皆を吃驚させてしまったらしい。

 

 だが、答えは得た。ギャスパーに勇気を与える方法を。

 

 

「僕があの呪文を会得する。その様子を見せればいい。そう――――――」

 

 

 

  時の砂の魔法 ストップ・ザ・ワールド

 

 

 

 

 




バンパイア:DQⅢなどに登場する、見た目どおりの吸血鬼のモンスター。多くのRPGにおいて、バンパイアは上位のアンデッドで強敵というイメージがあるが、ドラクエのバンパイアはそうでもなく、序盤から中盤に登場することが多い。

こうもり男:DQⅢに登場するモンスターで、同種属にはバンパイア、バーナバスがおり系統最下種。ロマリア地方とカザーブ地方の夜間のフィールド、そしてシャンパーニの塔に出現する。マホトーンが得意呪文。

凍れる時の秘法:漫画「ダイの大冒険」に登場する特殊な魔法の一つ。相手の時間を停止させ、封印してしまう高度な秘術。『数百年置きに起こる皆既日食の時』にのみ使用可能。この秘術を掛けられたもの(生物・非生物問わず)は時間そのものを『凍結』、つまり時から切り離すことにより変化や破壊、生命活動そのものを 次の皆既日食の時まで『停止』させる事が出来る。
 
ストップ・ザ・ワールド:???


ドラクエで「時間を止める」って技があんまり無い……。FFだと「ストップ」があるんですけどね。



また、活動報告で新しくアンケートを取りたいと思います。少しでも読者の皆様に読みやすい作品にしたいと思いますので、お時間のある方は是非 ご協力ください。
また、今までのアンケートも締め切りとかは決めてませんので、ずっと受け付けております。
よろしくお願いします<m(_ _)m>


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52話 ストップ・ザ・ワールド

何だかんだでドラクエで一番チートなのは「ロト紋」のカダル様だと思う。



 

 

 時を止める魔法。それは以前、異世界の賢者から教わるも、あまりの難易度に会得することが出来なかった魔法だ。

 「蜃気楼の塔」という巨大な建造物で出会った彼と、僕はいくらかの時を一緒に過ごし、互いの持つ情報を交換し合った。

 その賢人は世界のバランスが善と悪の対立によって崩れたとき、蔓延った魔のものに対抗すべく現れた勇者を導く為に何千年何万年もの間、転生を繰り返してきた男だった。

 塔の賢者――べゼルの扱う魔法の中で最も特異で、一番高度なもの、それが“時”に関する魔術。

 

 その中の一つこそ 時の砂の呪文 ストップ・ザ・ワールド だ。

 

 

「―――ぐはっっ!!」

 

 

 襲い来る痛みに耐えかね、口から声が漏れてしまった。一発一発の威力はイオラ程度だが、それを何十度も繰り返していると流石に堪える。

 自分で流した血だまりに反射した己の姿を冷静に観察するが、なかなかに酷い。

 皮膚が裂け、血が流れ出している。あちこちに石のかけらが刺さり、些か痛々しい。

 痛みには慣れているから僕は問題ないが、こっちを脅えながら見ているオカルト研究部の面々にとってはキツいのかも知れない。それはちょっと計算外だったか……。

 

 僕が考案したギャスパーくんの修業内容。それはまず、僕が時間を制御してみせ、それを手本にしてもらうというものだ。

 この世界の昔の偉い人の格言に「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」というのがあるそうだがなかなか含蓄のある言葉だと思う。

 まずは“やってみせる”べきだ。誰もできないことをやれと言われてもギャスパーくんも困惑するだけだろう。

 

 

「―――にしてもコレはやりすぎっスよ。つーか、何でこんな危ない方法でやるんスか?」

 

 

 イッセーくんが蒼褪め、困惑した顔でそう言った。

 

 ギャスパーくんの紹介を受けたあと、僕は彼に見せたいモノがある、と言ってギャスパーくん、イッセーくん、トウジョウ、アーシアを連れて、旧校舎の中庭に来た。

 そして、異世界に時を止める魔法があることを伝え、今からそれを習得するところを見せたいと言った。

 

 確かに僕用に考案した修行内容はちょっとハードだと思う。爆弾石―――衝撃を加えると爆発する性質を持つ石 をトウジョウに思い切り投げつけてもらい、それを僕が時間を止めて防ぐ。

 少々乱暴な鍛錬となったのは、出来るだけ早く目に見える成果を上げたかったからだ。それに実戦を想定すればこれくらいじゃないの危機感がないと意味がない。

 やがて、爆音を聞いて、一体何事か! と思って駆けつけて来た生徒会のサジくんも見物に加わった。

 だが、オカルト研究部やサジくんからすれば僕の修行方法は少しドラスティック過ぎたようだ。

 

 

「ははは……、だけど何となく出来そうな気がするよ。何となく、だけどね……」

 

 

 そうだ。もう少しでコツが掴めそうなのだ。

 そもそも、僕と時間魔法の親和性はそれほど悪くない。パルプンテを用いれば完全な運頼みではあるが、今現在でも一応の時間停止ができるのだ。

 あとはこれを確実に発動できるようにすればいい。その為の呪文も知ってるし、賢者の職も極めているから問題ない。

 

 

「“ただの人間が0からでも時間停止と、それの制御ができる”……。それならギャスパーくんも怖がることはない。そうじゃないか」 

 

 

 木の陰から脅えながらこちらを窺う少年に目をやる。

 

 

「いや~、異世界人のリュカさんが時間を止めれても今更驚かないっつうか何て言うか……う~~ん」

 

 

 イッセーくんが遠慮しがちに苦言を呈する。

 彼の言う事も一理あるだろう。世界が異なれば常識も異なる。しかし、指針となるべきものがあるのと無いのとでは大きく違う。

 

 

「まあ、世界が違っても人間は人間だ。時間を自在に操れる人間がいる世界なんて……多分そんなにないよ」

 

「“多分”ッスか!?」

 

 

 イッセーくんのツッコミは取り敢えず無視して、トウジョウに目配せをする。

 

 

「じゃあ、次のを頼むよ」

 

「……まだ、やるんですか。もう、やめませんか?」

 

 

 少女は躊躇う。どうやら、気を使われてるらしい。元々トウジョウは敵には容赦しないが根は優しい娘だ。ヒトを傷つけるのには忸怩たるものがあるのだろう。それに罪悪感か。彼女には悪いことをしているみたいだ。

 

 

「ああ、思いっ切りやってくれ。見た目ほど大したことはないから」

 

「……では」

 

 

 頷いたトウジョウは振りかぶり、豪速球を投げ付けてきた。

 唸りを上げ、爆弾石が猛烈なスピードで差し迫って来る。

 

 それを目にやりつつ、呪文を構築し、展開する―――

 

 

「ストップ・ザ・ワールド!!」

 

 

 

  ド カ ン ッ !!

 

 

 しかし、その直後に爆弾石が僕の体に直撃した。

 

 

「ぐはっ!!」

 

 

 痛い。慣れた痛みではあるがやはり痛い。闘気を身に纏えば相当な威力を軽減できるが、魔法の構築に集中するため防げない。

 体中から肉が焼き焦げるにおいがするがべホマで回復しつつ前を向く。

 

 今回も失敗ではあった。―――だが、手応えがあった。ほんの僅かではあったが確かに感じた。

 異世界でべゼルに見せてもらったときの感覚が、パルプンテで偶然 時を止めたときの感覚が、そして今日ギャスパーくんが僕らを怖がり、逃れようとして時間を止めたときの感覚が確かにあった。

 

 

「今のは……」

 

 

 吸血鬼の少年が僕を見る。どうやら彼も感じたらしい。

 

 

「もう一度だ。もう一度頼む」

 

「……イヤです」

 

 

 トウジョウが首を振る。彼女もこれ以上一方的に他者を傷つけるのは限界らしい。けれど、僕は断言する。

 

 

「次が最後だ。次は絶対止める」

 

 

 小柄な戦車(ルーク)が目を瞠った。僕がそう言い切ったことに驚いたらしい。

 

 そして、構える。

 

 

「……いきます!」

 

 

 爆弾石が飛んでくる。空気の壁を突き破りながら。

 

 そんなことは意に排し、時の砂の魔法を組み上げる。

 

 どんな呪文、どんな技術も成功させる秘訣はたった一つだ。

 

 ――“自分にはそれが可能だと信じる”ということ。――

 

 魔物を仲間にするのだってそうだ。たとえ相手が腐乱した死体であろうが、黄金の巨竜であろうが、血の通わぬ殺戮兵器だろうが、真の愛情を注げば通じ合える。そう思う事が魔物使いのコツではないか。

 

 そうだ。僕は時間が止められる。

 

 

 

「 ス ト ッ プ ・ ザ ・ ワ ー ル ド !!!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――その瞬間、あらゆるものが静止した。

 

 風に棚引く木の葉も、砂埃も、そして、イッセーくんもアーシアもゼノヴィアもトウジョウもサジくんも。

 例外は二人……僕と、そしてギャスパーくんだけだ。

 ニ十回目の挑戦で漸く成功できた。

 

 

「ほ、本当に止まった……!」

 

 

 少年が驚く。どうやら、僕が時間を止めれるとは思っていなかったらしい。

 

 宙に浮かんでいる爆弾石を回収しつつ、彼に向き直る。

 

 

「―――これで分かっただろう? 神器なんてあっても無くてもいいんだ」

 

「……え?」

 

 

 戸惑う少年に近づき、その肩をそっと掴む。

 

 

「大事なのは“心”なんだ。君はこう言ったね? 『僕に外の世界なんて無理なんだ。どうせ、僕が出てっても迷惑を掛けるだけだ』ってね」

 

「……はい」

 

「君が神器を制御できないのは、君自身がその力を怖れているからだ。だけど、そんな必要はない。

 僕はただの人間だ。そのただの人間の僕がどうして時間を止めれたのか分かるかい?」

 

「え……」

 

「それは君のおかげなんだ。僕は君を助けたいと思った。少しでも“勇気”を与えられたら、そう願った。その気持ちが力になった……。

 君にもそういう人はいるだろう。そう、君の周りにこんなに沢山の仲間達がいるじゃないか」

 

 

 ギャスパーくんの表情は依然として曇っている。僕の言葉を理解は出来ても、どうしても怖れを克服できないのだ。

 でも、やり方は示したんだ。あとは、ゆっくりと進んでいけばいい。リアスやグレモリー眷属達が支えてくれる。

 

 

 ギャスパーくんが救われることをイッセーくん達に託そう、そう思ったときだ。今この瞬間において、起こり得ないことが起こった。

 

 ザッザッザッザ……

 

 何かが近づいてくる気配がしたのだ。

 どういうことだろう。今は時間が止まっている(・・・・・・・・・)はずなのに。

 現れた人物の顔には見覚えがあった。

 

 

「おいおいおい、一体何がどうなってんだ? こりゃ」

 

「ああ、こんばんは。アザゼルくん」

 

 

 現れたのは浴衣姿の中年の美男―――堕天使総督アザゼルだった。

 彼は困惑しているらしい。

 

 

「こんばんは、じゃねえよ。コレ、アンタの仕業か? 取り敢えず解除しろよ」

 

「ああ、そうだったね」

 

 

 彼の指摘を受けて呪文を解く。すると世界に色が戻り、周りにいたイッセーくん達が一斉に動き出した。

 

 

「ア、アンタは―――ッ!?」

 

「お? ああ、いたのか悪魔君。いや赤龍帝、元気そうだな」

 

「アザゼル……! 何で急にッ!!?」

 

 

 イッセーくんが盛大に驚き、慌てて赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を起動した。

 しかし、察するに二人は顔見知りらしい。

 

 

「アザゼルくんと知り合いなのかい?」

 

「そうッス。コイツは自分の正体を隠して何度か俺を召喚したんあるスよ!!……ってリュカさんも知り合い何すか!?」

 

「まあ、そうだね。前にウチに来たことがある」

 

 

 そのときは先客の魔王に気を使ったのか、軽い挨拶をし合っただけで、すぐに帰ってしまったが。

 

 一方、他のオカルト研究部の面々も戦闘態勢を取る。

 それも仕方がないだろう。堕天使と悪魔は敵対している。だが、アザゼルはほとんど(・・・・)こちらに敵意を向けていない。

 ハッキリ言えば歯牙にも掛けていない。……僕だけを除いて。

 

 

「おいおい、やる気はねぇよ。第一、お前等が束になっても傷一つ付けられんぞ? いくら下級悪魔だってそれくらい分かるだろう?

 ……だが、そっちの異世界人の兄ちゃんとは戦いたくはないがね。

 結界・空間断絶の無力化に魔物の使役。おまけに時間停止とは……、全く……未知数過ぎてイヤになるな」

 

 

 僕に向けて興味深げな視線を投げ掛けてくるアザゼル。僕なんてそこまで面白いものでもないと思うんだが……まあ、いいか。

 

 

「んで、お前さんは一体何をやってるんだ?」

 

「ああ、ここにいるギャスパー・ウラディくんに“勇気”を与えようかと思ってね」

 

「はあ?」

 

 

 怪訝な顔をしたアザゼルにギャスパーくんのこと、停止世界の邪眼という神器のこと、異世界で聞きかじった時の砂の魔法のことを一通り説明していった。

 僕の話を黙って聞いてたアザゼルは最初こそ神妙な顔付きだったが、次第に呆れたような表情に変わっていった。

 

 

「そりゃあ、神器は持ち主の想いに反応するモンだ。だから別に『勇気を与えよう!』ってのは間違いじゃない。間違いじゃあないがねぇ……」

 

 

 顎鬚を撫でながらそのようにぼやくアザゼル。

 そう言えば以前レイナーレがアザゼルの為に『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』を欲していたが、彼は神器に興味があるのだろうか。

 

 

「結構詳しそうだね」

 

「ん? ああ、自慢じゃないがこの世界で神器に関しちゃ俺より詳しい奴なんていないだろうぜ。

 元々『神の子を見張る者(グリゴリ)』には学者肌の奴の方が多い。コカビエルみたいな戦争バカの方が珍しいんだ」

 

 

 なるほど、確かに学問の探究者達の中にあんなの(コカビエル)がポツンといたら孤立するだろう。その結果が前回の騒動という訳か。

 僕が一人で納得していると、アザゼルはサジくんに目を向けた。性格には彼の腕にある黒い神器に、だ。

 

 

「停止世界の邪眼、このタイプの神器は、持ち主のキャパシティが足りないと危険極まりない。それは黒い龍脈(アブソーブション・ライン)だな? 訓練ならそいつをヴァンパイアに接続して、余分なパワーを吸い取りつつ発動させるといい。暴走も少なくて済む」

 

「ッ!? 力を……吸い取る?」

 

 

 サジくんが驚く。この神器の本来の用途は、行動封じだけでなくマホトラも……、ということか。

 

 

「何だ、知らなかったのか? ったく、最近の神器所持者は自分の力を知ろうともしない。 そいつは五大龍王の一角、黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)ヴリトラの力を宿している。物体に接触し、その力を散らせる能力がある。短時間なら他のモノに接続させることも可能だ」

 

 

 なかなか詳しい説明だ。やけに親切だ。アザゼルは存外にいいヒトなのかもしれない。

 

 

「あぁそうだ、もっと手っ取り早い方法があるぞ、赤龍帝の血を飲むことだ。ヴァンパイアには血を飲ませるのが一番だしな。ま、後は自分達でやってみろ。

 ……それと、聖魔剣使いはいるか? 本当はそいつを見たくて来たんだが……」

 

 

 ギャスパーくんに更なるアドバイスをしつつ、不意に思い出したかのように尋ねてきた。

 

 

「キバくんならいないよ。サーゼクスくんの呼び出しだってさ」

 

「なんだ、聖魔剣使いはいねぇのかよ。……ま、別にいいか。じゃあな」

 

「―――待てよ!」

 

 

 僕の返答にかなり落胆した様子のアザゼルは、後ろを向き立ち去ろうとしたが、イッセーくんが呼び止めた。

 

 

「何で正体を隠して俺に接触してきた!?」

 

 

 イッセーくんが問い詰める。アザゼルと会ったのはまだ二回目だが、彼の人柄は何となく分かったと思う。

 多分、ただの趣味じゃないかな。

 

 

「……それは、俺の趣味だ」

 

 

 あ、当たった。

 

 それだけ言うと、堕天使総督はゆっくりと立ち去っていった。

 

 

 

 いずれにせよ、僕がギャスパーくんにしてあげられるのはここまでだろう。

 あとはアザゼルくんも言ったが「自分達でやる」しかない。

 

 僕もギャスパーくんとオカルト研究部の皆を信じて立ち去ることにした――――。

 

 

 そして数日後、ついに行われた「駒王会談」で事件は起こる。

 

 

 

 

 




ストップ・ザ・ワールド:漫画「DQⅦ」に登場する呪文。賢者ベゼルが使用。「時の砂の呪文」の名を冠し、その名前のとおりに使用者以外の時間を凍結する。

蜃気楼の塔:漫画「ロト紋」・「DQⅦ」に登場。ロト紋では賢者カダルが住まう魔法の塔。蜃気楼のように現れたり消えたりし、 内部には書庫や菜園などの他に、平原や湖すらも存在する。アルスやキラ、ポロンの両親がこの塔の中で修行を行った。
漫画版「DQⅦ」でも登場し、賢者ベゼルの住処となっている。グリンフレークをグレンが解放した後に、アルス達の前に姿を現した。

ばくだんいし:DQⅤ、Ⅸ、DQMJ2、DQMJ2P 、テリワン3D、イルルカ3Dに登場するアイテム。『ばくだんいわ』が残していった破片。


カダルは「賢者の力を受け継いだとき、その者は子供を作る能力を失ってしまった」という設定がありますが、別の場所でカムイ先生が「カダルは実はナルシストだから自分と似た人間に転生したかったんです。そう言う理由から結婚もしなかったと」とも発言されています。
…………ど っ ち や ね ん !!

この小説では様々なところから面白そうな設定を引っ張ってきてますし、「ロト紋」基準の賢者の力を引き継いだわけでもないですので、リュカに子供が出来なくなるという事はないです。

(細かいことは) 気 に す る な !(チャー研)


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53話 会談

3DS版DQⅧで一番驚いたこと まさかの帝王様御出張 


  

 

 深夜 駒王学園新校舎・会議室

  

 いよいよ三勢力の今後を決める会談が行われる日がやってきた。ついでに先日の襲撃事件を起こし、暗躍する謎の一団に攫われたコカビエルについても話し合われるという。

 各勢力の代表者が円卓に座っている。悪魔側からは紅髪の魔王サーゼクス・ルシファーと、今日は授業参観の地とは違い、落ち着いた服装のセラフォルー・レヴィアタン。堕天使からは神の子を見張る者(グリゴリ)総督アザゼルと銀髪の青年。天使からは一二枚もの太陽を溶かしこんだような黄金の翼を持つ美青年、そして以前コカビエル騒動のときに使者としてやって来たシドー・イリナだ。

 

 いずれもこの世界で大きな影響力を持つ大物ばかり。その中にポツンと異世界人の僕が居るのは、正直心細い。そこに天界の代表者が話しかけてきた。

 

 

「初めまして、異世界からの御客人。私はミカエル、天使の長をしております。お会いできて光栄ですよ」

 

 

 ミカエル―――聞いたことがある。熾天使(セラフ)の一人。アーシア・アルジェントやゼノヴィアを教会から追放した張本人、か。

 

 確かに思うところはあるが、それはこの世界の問題だ。神器(セイクリッド・ギア)、天のシステム……どれも僕が強引に解決することができない。それならばこの世界の住人が立ち向かわなければならないだろう。

 

 

「ああ、どうも初めまして、僕はリュカです」

 

 

 大天使が穏やかに自己紹介して来たので、僕も如才無く答えた。

 

 

「昨日、前以って赤龍帝と打ち合わせしたときに貴方のお話を伺いました。ここにいるイリナも御世話になったそうで、その節は本当にありがとうございます」

 

「いえいえ、こちらこそ御迷惑を……、如何せんこちらの世界の事情には疎いもので―――」

 

 

 御互いに当たり障りのないことを話す。そんな会話の間に割り込んで来たのはアザゼルだった。

 

 

「全く……、そう思うなら少しは自重してくれねぇか? ウチの白龍皇がお前さんトコの牛頭と金色のドラゴンに御執心で困ってるんだがね」

 

 

 (いにしえ)の堕天使が茶化すようにのたまう。確か、コカビエルを処理すべく学園に向かってる途中でアクデンとシーザーの二匹に足止めを食らったとか、前にアパートに来た時そんなことを言ってたな……。

 

 

「そのことは申し訳ない。何分、街中に何か不穏な気を感じたし、彼らの援軍が来るのではないかと思ったんだ。いずれは その迷惑を掛けたという白龍皇さんにきちんと謝りたい」

 

「―――だとさ、白龍皇さん(・・・・・)?」

 

 

 僕がそう言うと、アザゼルは後ろで壁に寄り掛かっている銀髪の青年に声を掛けた。

 “白龍皇さん”―――?

 アザゼルは彼を白龍皇と言った。という事は、この青年があの夜、白銀の甲冑を身に纏い現れた男か。

 非常に整った端正な顔立ちに、少しくらい色の銀髪の美男子。だが、少し険のある印象を受ける。

 

 

「別に謝ってもらう必要はない。それより、その二体ともう一度 戦いたいのだが……」

 

 

 アザゼルが白龍皇だという少年が、まるで睨みつけるかのような眼差しと共に要求してきた。彼の雰囲気からは怒りは感じない。本当に怒ってないらしい。感じるのは恐ろしいまでに純粋な戦意だ。

 どうやら、彼も生粋のバトルマニアのようだ。コカビエルといい、この世界にはそういう人が多いのか……?

 

 

「ああ、別にいいよ。今度二人に言っておくさ、白龍皇くん」

 

「……ヴァーリだ、ヴァ―リでいい」

 

 

 ヴァーリ――それが彼の名前か。うん、いい名前じゃないか。

 

 

「分かったよ、ヴァーリくん。近いうちに手合わせするようにするさ」

 

 

 青年に請け合う。

 それにしてもシーザーとアクデンを相手にしても大丈夫とは大したものだ。二体とも僕の仲間モンスターの中ではトップクラスの実力者。かの地獄の帝王との戦いにおいても活躍したほどだというのに。

 もし、イッセーくんがあの二体と戦えば一分と経たずに消し炭だろう。それだけヴァーリくんの方が遥かに高い実力を持っているということが分かる。

 

 

「失礼します」

 

 

 そこにリアスがオカルト研究部の面々を、ソーナが副会長のシンラ・ツバキを引き連れて入室して来た。ついに会談が始まるようだ。

 

 まず、最初に口を開いたのはサーゼクスくんだった。

 

 

「私の妹と、その眷属達だ。先日のコカビエル襲撃事件と、それに便乗した謎の一団との戦いで彼女達が頑張ってくれた」

 

「報告は受けています。改めてお礼を申し上げます」

 

「悪かったな、俺のところのコカビエルが原因で迷惑をかけた」

 

 

 紅髪の魔王の紹介を受けたリアス達に対し、ミカエルが礼を言い、アザゼルが平謝りをした。

 堕天使総督の悪びれない態度に、イッセーくんはムッとしたらしく顔をしかめたが、サーゼクスくんは構わず続ける。

 

 

「全員が揃ったところで会談の前提条件を一つ。ここにいる者逹は、最重要禁則事項である『この世界の聖書に記された神の不在』を認知している」

 

 

 わざわざ『この世界の』という部分を強調してくれたのは僕が話を理解しやすいように、というサーゼクスくんなりの配慮だろう。ありがたいことだ。

 

 

「―――では、それを認知しているとして、話を進める。ではリアス、先日の襲撃事件について話してもらおうか」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「―――以上が、リアス・グレモリーとその眷属悪魔、そして異世界からの来訪者であるリュカ氏が関与した事件の顛末です」

 

「私、ソーナ・シトリーも彼女の報告に偽りが無いことを証言いたします」

 

「御苦労、座ってくれたまえ」

 

「ありがとう、リアスちゃん、ソーナちゃん☆」

 

「さて、アザゼル。今の報告を受けて、堕天使総督の意見を聞きたいのだが……」

 

 

 リアス達の報告を受け、サーゼクスがアザゼルに目を向ける。

 堕天使総督は不敵な笑みを浮かべつつも、目だけは真剣な面持ちで答える。

 

 

「先日の事件は我が堕天使中枢組織『神の子を見張る者』の幹部コカビエルが、他の幹部及び総督の俺に黙って、戦争の再開を目的として、単独で起こしたことが発端だ。要するに不満分子だったってことだな。まー、そこら辺はお前さん等も“色々”あるらしいじゃねえか?」

 

 

 アザゼルはそこで言葉を一旦区切ると、意味ありげな眼差しをサーゼクスとセラフォルーに向けた。

 二人は思うところがあったのだろうか、ほんの少したじろいだが、アザゼルは構わず続ける。

 

 

「奴の処理をウチの白龍皇に依頼したが、間に合わなかったのもこちらの不手際だ。

その後に介入してきた一団も『神の子を見張る者』とは何の関係も無い。その辺りの説明はこの間転送した資料に全て書いてあっただろう? それが俺の知ってる事の全てだよ」

 

「ふむ……、確かにリアスさん達の証言によれば邪配合とやらで変貌し、自我を失ったコカビエルは、ダメージを受けた際、再びコカビエルの人格が表層化し、貴方のことを散々に罵ったそうですね? それならば説明としては最低の部類ですが――貴方個人が我々と事を起こしたくないという話はおそらく本当なのでしょう」

 

 

 アザゼルの話しを聞き、ミカエルも同意した。まあ、僕もアザゼルについてはレイナーレから聞いている。彼が言っていることは真実だろう。

 

 

「ああ、俺は戦争に興味なんてないさ。というか前大戦のときも一番に手を引いたのは俺ら堕天使じゃねえか」

 

「……アザゼル、一つ訊きたいのだが、どうしてここ数十年神器の所有者を集めている? 最初は人間達を集めて戦力の増強を図っているのかと思っていた。その力で、天界か我々に戦争を仕掛けるのではないかとも予想していたのだが……」

 

「そう、何時まで経っても貴方は戦争を仕掛けてはこなかった。特に白龍皇を手に入れたと聞いた時には、かなりの警戒心を抱いたものです」

 

「神器の研究のためさ。何なら、一部研究資料もお前達に送ろうか?……って研究していたとしても、それで戦争なんざ仕掛けねぇよ。今更興味なんて無いからな。俺は今の世界に十分満足している。部下に『人間界の政治にまで手を出すな』と強く言い渡しているぐらいだぜ? 宗教にも介入するつもりはねぇし、悪魔の業界にも影響を及ぼせるつもりはねぇ。―――ったく、俺の信用は三竦みの中でも最低かよ」

 

「それはそうだ」

 

「そうですね」

 

「その通りね☆」

 

 

 アザゼルのぼやきにサーゼクス、セラフォルー、ミカエルが一斉に答えた。

 そんなに彼は信頼がないのか。何だかプサンみたいな人だ。

 

 

「チッ……、神や先代ルシファーよりもマシかと思ったが、お前らもお前らで面倒臭い奴らだ。こそこそ研究するのもこれ以上性に合わねぇか。

 ―――なら、とっとと和平を結んじまおうぜ。元々そのつもりで会談を開いたんだろう? 天使陣営も悪魔陣営もよ?」

 

 

 舌打ちしたアザゼルが、急に本題を切り出した。それに天使長が意表を突かれたのか一瞬戸惑ったものの、やがて微笑みながら応じる。

 

 

「ええ、私も悪魔側とグリゴリに和平を持ち掛ける予定でした。このまま三竦みの関係を続けていても、この世界の害となる。天使の長である私が言うのも何ですが……戦争の大本である神と魔王は消滅したのです。

 ……失ったものは大きい。けれど、いなくなってしまったものを何時までも求めても仕方がありません。神の子羊達をこれからも見守って先導していくのが、一番大事なことだと私達熾天使の意見も一致しています」

 

「おいおい、今の発言は堕ちるぜ? ……と思ったが、システムはお前が受け継いだんだったな。いい世界になったもんだ。俺らが堕ちた頃とはまるで違う」

 

 

 僕は前のこの世界を知らないから、彼らの会話の含蓄については良く分からないが、アザゼルの言う通り、かなりの変化があった事は間違いないのだろう。

 サーゼクスも言葉を噛み締めるかのように話す。

 

 

「我ら悪魔も、魔王がなくとも種を存続するために先に進まねばならない。戦争は我らも望むべきものではない。―――また戦争が起きれば、悪魔は必ず滅ぶ」

 

 

 その言葉にアザゼルも頷いた。

 

 

「そう、次の戦争をすれば、三竦みは今度こそ共倒れだ。そして、人間界にも影響を大きく及ぼし世界は終わる。俺らは戦争をもう起こせない。

 それに、だ。コカビエルの野郎を攫いやがった連中みたいなのが陰で動いている。三大勢力が争えば奴らに利するだけだ。

 ……お前らは、この神がいない世界は間違いだと思うか? 神がいない世界は衰退すると思うか? 残念ながらそうじゃなかった。俺もお前達も今こうやって生きている」

 

 

 先程までの飄々とした雰囲気から打って変わって、真剣な表情で皆を見渡す。そして断言する。

 

 

「―――神がいなくても世界は回るのさ」

 

 

 堕天使の言葉が、すぅっと耳に入っていった。

 何とも言えない気分だ。その台詞はとても軽やかで、それと同時に深い。

 この世界に生きる者の実感が込められた、不思議な説得力を感じさせる言葉だった。

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 それからしばらくは事務的なやり取りが続いた。各陣営の戦力、勢力図などが話し合われたが、それらは概ね平和裏に進んでいる。いつの時代、どの世界もこういったことの方が大変だ。

 

 話が大方纏まったのだろうか、魔王二人、堕天使総督、天使長四人が一息ついた。

 そして、アザゼルが僕の方に目を向ける。

 

 

「……おっと、長いこと放っておいて悪かったな、異世界からの旅人さん」

 

「ん、ああ、気にしないでいいよ」

 

 

 急に話を振られて吃驚した。随分と蚊帳の外だったのでぼーっとしていた。

 

 

「いや、そうもいかない。アンタを呼んだのはこっちだ。何と言っても 今まで空想の産物に過ぎなかった別の世界から来たって言うんだからな」

 

 

 アザゼルがそう言いながら好奇心に満ちた視線をぶつけてくる。それはサーゼクスもミカエルも同様だ。

 

 

「最初、アンタの話を聞いたとき、正直に言えば『よっぽど強力な神器を持った頭のおかしな奴』ぐらいの認識だったさ。だが、リアス・グレモリーとライザー・フェニックスのレーティングゲーム、そして前回の襲撃事件の報告を受けて気が変わった。それにアンタの使う呪文は 北欧魔術、ドルイド魔術、精霊魔法、東方の呪術、方術……どの体系にも属していない」

 

 

 まあ、そうだろう。この世界の魔術についてバイサーから聞いたがチンプンカンプンだった。いずれゆっくりと研究してみたいものだ。

 

 

「……で、お前さんは一体何だ? それに、謎の介入者……イブールという名だそうだが、そいつとは一体どういう関係なんだ?」

 

 

「イブール……、そうだね、僕は彼について話す為に呼ばれたんだった―――」

 

 

 僕は同じ卓を囲む四人を見渡す。全員真剣な表情だ。

 

 

「まず、何から話そうか。そうだね……僕の世界にも“魔王”と呼ばれる存在が居たんだよ」

 

「リュカちゃんの世界にも?」

 

 

 聞き返して来たセラフォルーに頷く。

 

 

「ああ、僕の話の全てはその存在から始まるんだが……まず、僕の世界の“魔王”はこの世界の“魔王”の定義とは少々異なる。ここでは“悪魔族の長”という意味合いだろうけど、僕の世界では魔の者全体の王だ。竜、悪霊、魔獣、死人……様々な者達が配下にいた」

 

 

 四人とも僕の言葉に、ほんの少し目を見張る。特に「竜」といった瞬間だ。それだけこの世界では特別なのだろう。僕の世界では単なるモンスターの一種に過ぎなかったが……。

 

 

「この世界では悪魔、天使、堕天使、いずれも人間に依存している。だが、僕の世界ではそうじゃない。魔王は人間に依存するどころか、全世界を支配する力を持っていた。だから、そいつは地上……人間界に侵略してきた」

 

 

 以前、リアスが言っていた。『悪魔は人間の欲を糧とし、力を蓄える』と。それにライザーくんは 今や純血の悪魔は貴重であり、人間からの転生悪魔を取り入れざるをえない、とも言っていた。

 つまり、悪魔も、天使も、堕天使も人間に依存しているという訳だ。

 だが僕の世界の大魔王はそんなことはお構いなしだった。

 

 

「暗黒の魔界から侵攻してきた魔王の軍勢の司令官、それがイブールだ。地上の怪物の中では最強、魔王軍全体ではナンバー3。この世界で言えば……大公アガレス、かな? それとも魔王が四人いるわけだし、君達四大魔王の力関係が分からないから何とも言えないが、ひょっとすれば三番目に強い魔王に当たるのかもしれないね。―――それが奴さ」

 

「少なくともアガレスと同格……か」

 

 

 サーゼクスが厳しい顔をする。

 

 

「そのアガレスさんとも会ったことがないから分からないけど、立場的に言えば、ね。

 そして、僕と仲間達はその魔王軍との戦いの中でイブールも倒した」

 

「君達は自身の世界でそんな連中と戦っていたのか」

 

「そうだよ」

 

 

 サーゼクスくんが訊いて来たので肯定する。

 目を閉じれば今でもハッキリと見える激闘の日々。その末に辿り着いた地上世界での決戦の地“大神殿”―――そこでイブールとは相見えたのだ。

 

 

「しかし、不思議だ……。奴は確かに死んだはずなのに。まさか、異世界で再会するとは思わなかったよ」

 

「そりゃ俺らのセリフだぜ。アンタが異世界から来たってだけでも信じられねぇのに、その死んだ知り合いが生き返って、俺の悪友(ダチ)を攫いやがった……なんて冗談にしても笑えねえぞ?」

 

「まあ、そうだろうね」

 

 

 アザゼルが失笑する。この世界の常識から言えば到底あり得ないことが起きたのだ。愚痴の一つも言いたくなるだろう。

 

 

「しかし、まあ、“備えあれば憂いなし”ってのは至言だね。そんな物騒な奴が徘徊してるってんなら神器使いを集めておいて正解だったってワケだ」

 

「アザゼル、疑問なのだが どうして神器を集めていた? 我々とは敵対するつもりはなかったのだろう?」

 

 

 言われてみれば気になる。単に研究の為というには度が過ぎている。

 

 

「自衛の為さ。いざってときにはやっぱり力は必要だからな。……って、別にお前達相手に備えているワケじゃないぞ。別の……そう、別の二つ(・・)の存在に対抗する為さ」

 

「“二つ”―――?」

 

 

 アザゼルの言葉にサーゼクスが首をかしげる。

 

 

「ああ、今この世界には二つの極めて危険な組織がある。その全容は謎に包まれちゃいるが、二つとも組織名だけは判明した。

 

 その内の一つは『禍の団(カオス・ブリゲード)』」

 

「……カオス、ブリゲード?」

 

 

 サーゼクスくんもミカエルも眉根をひそめる。どうやら二人とも知らないらしい。当然、僕も聞いたことがない。アザゼルが説明する。

 

 

「三大勢力の不平分子が集まったテロ組織だ。組織の背景が見えてきたのはつい最近だが、不穏な連中は副総督のシェムハザがマークしていたのさ。目的は破壊と混沌。現状の体制の打破だ。サーゼクス、その中には……旧魔王派の連中も与してるらしいぜ」

 

 

 旧魔王派―――確か、サーゼクスくん達の前任の魔王達の末裔と支持者、だったか。

 サーゼクスとセラフォルーの表情が厳しくなる。自分達悪魔陣営の不和を言及されたのだから仕方がない。

 だが、アザゼルは二つ(・・)と言った。……もう一つの存在が気になる。

 ミカエルも同じだったのだろう。故に尋ねた。

 

 

「それで、もう一つ脅威とは……?」

 

「もう一つの方は、更に情報が少ない。何せ分かっているのは組織名だけだ。その名前は―――」

 

 

 アザゼルがゆっくりと答える。彼の口から発せられたのは、僕にとっては驚くべきもので、そして馴染み深いものだった……。

 

 

 

 

「――――『光の教団』」

 

 

 

 



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54話 二つの脅威

  

 

「光の教団だと……!」

 

 

 堕天使総督アザゼルの口から発せられたその言葉を聞いた途端、まるで雷に打たれたかのような錯覚に襲われた。

 まさかこの世界でその名を聞くとは……。信じがたい、信じたくない。

 ――いや、あのコカビエル襲撃事件の夜に、死んだはずのイブールと再会したそのときから、きっと心のどこかで予測していたのかもしれない。

 だが、愚かにも無意識にその予測から目を背けていたようだ。

 僕の狼狽振りが周りにいるサーゼクス達に伝わったのだろう。全員の目線が集中した。

 

 

「……ほーう、その様子じゃ心当たりがあるんだな。『光の教団』の名前に?」

 

 

 アザゼルが口の端に笑みを浮かべながら訊いてきた。でも、その目は一切笑っていない。

 それにミカエルも便乗する。

 

 

「私も興味があります。以前、ここにいるイリナにその組織について、話してくださったそうですね?」

 

 

 大天使が側にいる従者に目をやった。どうやら教会の使者として訪れた彼女達とオカルト研究部の皆に話して聞かせた僕の体験談の内容がミカエルにも伝わっていたようだ。

 そして、それはリアスの兄・サーゼクスも同様らしい。

 

 

「確か、君と友人を奴隷に貶めた邪教団だそうだな」

 

「ええ、その団体は一体どのような者達なのですか?」

 

 

 魔王と天使長の問い掛け。これは説明する義務があるだろう。

 

 

「そうだね……『光の教団』はかつて僕達の世界に存在した新興宗教団体さ。以前、リアス達にも話したが、彼らは世界の終焉を唱え、それから免れる事が出来るのは教団の信者のみだと言った。

―――もっとも、彼らの信仰する『魔界の神』というのが世界の混沌の元凶たる大魔王だったんだけどね。要するに魔界の出先機関だったわけだ」

 

「いわゆるマッチポンプってやつだな」

 

 

 アザゼルの簡潔なまとめに対して頷く。

 言ってしまえばそれだけのことだが、教団の行いによって何千何万もの人々が人生を狂わされたのだ。

 

 

「そして、先ほど話した大教祖イブールが教団のトップだ。同じ名の組織が、縁もゆかりもないであろうこの世界で暗躍していて、死んだはずの教祖も現れた……となれば答えは一つしかない」

 

「貴方の世界に存在した『光の教団』が復活した……ということですか」

 

「うん、信じたくはなかったんだけどね」

 

「チッ、面倒くせえな……。禍の団(カオス・ブリゲード)だけでも面倒くさいのに異世界の邪教団までこの世界で暗躍してるってか? 全く災難だな」

 

 

 僕の言葉にアザゼルが嘆息した。その様子に僕も同情する。

 

 

「問題は禍の団と光の教団が連携することです。この世界の不満分子と異世界の危険因子が手を結んだ場合、その危険性は倍増するでしょう」

 

「それはそうだろうね。でも、あの連中が他の者達と手を組むとも思えないし……」

 

 

 ミカエルが懸念を述べたが、判断材料が無いので何とも言えない。この世界の脅威の度合いが分からないから何とも言えないが、確かに厄介かもしれない。

 しかし、情報が無い以上は議論が行き詰り、全員が押し黙る。そこをサーゼクスが仕切り直した。

 

 

「……とは言っても、今の段階では情報もないし、推測するしかあるまい。それよりも存在がハッキリとしている敵対勢力への対処について論じるべきだろう」

 

「禍の団への対策……ねぇ」

 

「アザゼル、君は旧魔王派が関与していると言うが、他にはどういう者達がいるのだ? それに、その組織の頭目は誰だ?」

 

「頭目はまだ分からん。だが、構成員には魔術師が多数、神器(セイクリッド・ギア)所持者も大勢いるってハナシだ」

 

 

 アザゼルの説明を聞き、疑問に思ったことを口にする。

 

 

「どうして魔術師と神器所持者が危険分子に?」

 

「そうだねぇ……。多分、魔術師達が禍の団に与するのは……そっちの魔王さんの御趣味が原因じゃねえか?」

 

「どういう意味よ! 失礼しちゃうわ☆」

 

 

 堕天使総督が魔王レヴィアタンに意味ありげな視線を向ける。意味がよく分からなかったので周りを見渡すと皆が困ったような顔をしていた。

 サーゼクスが苦笑を浮かべながら解説する。

 

 

「ああ……、セラフォルーの趣味はあんまり本職の魔術師達からは受けが良くないんだ。『魔術というモノに対して誤解を招く』ってね」

 

「それは何と言うか……」

 

 

 確かに彼女の格好は少々子供っぽい感じがする。僕の娘が着る分には大丈夫でも、妻が着るのはちょっと…………くらいのシロモノだ。しかし、そんなことで危険な組織に入って魔王に反逆することもあるまいに。

 一方のセラフォルーはプンスカ怒っている。

 

 

「もう☆ 私が魔法少女に憧れててもいいじゃない! フン」

 

「まあ、魔術師共にもそれ以外に理由はあるだろうさ……。そんでもって神器所持者の方は……これまた色々ある。自身の神器を制御しきれず社会に馴染めなかった連中が危険思想に染まったり、制御できても才能に溺れたり、とかな」

 

 

 そう言ってアザゼルはイッセーくんの方に目を向けた。

 

 

「特に厄介なのは神滅具(ロンギヌス)の持ち主……それも自分の力を制御できないような未熟者がそうなることだ。神を殺し得るほどの力を持つ奴がテロリストにでもなったら、それこそ世界の均衡を崩しかねない」

 

「俺がそうなるってのかよッ!?」

 

 

 その発言にイッセーくんが激昂した。彼だけじゃない。周りにいるオカルト研究部のメンバー全員がアザゼルを睨みつけている。

 その気持ちは良く分かる。大切な仲間が個人の人格を無視して理不尽に殺された。怒りを抱くには十分すぎる理由だろう。

 しかし、何とも救われない話だ。神の遺産が世界の均衡を崩しかねないと危惧した堕天使が、何も知らない少年少女の命を狩って回っていたとは……。

 

 

「ま、そういう危険性があったから神器所持者を集めたり排除したりしてたワケだ。別に今のお前さんがそんなつもりは無いってことは解ってはいるが、レイナーレの奴が殺した時点じゃ知り様がねえからな。悪かったとは思っちゃいるさ」

 

「よくも抜け抜けとッ!」

 

 

 ますますヒートアップするイッセーくん……それにしてもアザゼルはもう少し言い方を変えられない考えられないものだろうか。命を奪っておいてちょっと軽過ぎはしないかな。

 僕が少々不快に思っていることが伝わったのだろうか、堕天使の総督は肩をすくめた。

 

 

「そう怒るなって、異世界の旅人さん。わかっちゃいるさ、いずれ償いはする。俺にしかできないことでな。赤龍帝もそれでいいだろ?」

 

「……くっ!」

 

「そのことについては我々にも責任があります。神が死んでしまったことが原因で、以前のように適切な神器所持者の管理をすることはできません。それが原因でいくつかの不幸が起きていることも事実です。そこにいるアーシア・アルジェントの『聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』なども正しくそうです。『システム』の維持のために彼女を追放せざるを得ませんでした」

 

「『システム』……?」

 

 

 ミカエルの口からまた新しいワードが出て来た。『システム』とは一体何なのだろうか。

 テーブルを囲う三大勢力の長達は知っているようだが、それ以外の皆はよく分からないらしい。

 

 

「……神が消滅した後、『システム』だけが残りました。加護と慈悲と奇跡を司る“力”と言い換えても良いでしょう。それは神が行っていた奇跡などを起こすためのもの。神は自身で造ったこの『システム』を用いることで地上に奇跡の恩恵を与えていたのです。悪魔祓いや十字架などの聖具にもたらす効果などですね」

 

 

 大天使は説明しながらアーシアとイッセーくんの方を向いた。

 

 

「今は私を中心に『熾天使(セラフ)』の皆で、かろうじて機動させている状態です。故に、システムに悪影響を及ぼす者は遠ざける必要がありました」

 

「アーシアが、悪魔や堕天使も回復出来る力を持っていたからですか?」

 

「……信者の信仰は、我等天界に住まう者の源。信仰に悪影響を与える要素は、極力排除しなければ、システムの維持が出来ません。『聖母の微笑み』の場合、信徒の中に『悪魔と堕天使を回復できる神器』が存在することで信仰に疑問を持つ者が現れます。故に『システム』に影響を及ぼす禁止神器としているのです」

 

「だから、アーシアを追放したんですか?」

 

「はい。ですから、そのことはずっと謝りたかったのです。それに――ゼノヴィア、貴方もです。貴方を失うのは大変な痛手でしたが、我々一部の上位天使以外で神の不在を知った者が『システム』に直結した場所に近づくと大きな影響が出ることは免れません。ですから、貴方も異端とする他に無かった」

 

 

 ミカエルが沈痛な面持ちで述懐する。それを聞いたアーシアとゼノヴィアの二人は、むしろ恐縮しているようだ。

 

 

「誰よりも深く神を信仰していた貴方達を裏切ることとなってしまった。――本当に申し訳ありません」

 

 

 そう言うと、ミカエルは悪魔となった二人の元信者に頭を下げた。天使長の地位にありながら、過ちを認め、頭を下げれるのだから(ミカエル)は僕が思っていたよりも慈しみ深いのだろう。

 謝られた二人は、困惑しながらも笑いながら首を横に振った。

 

 

「どうか頭をお上げください、ミカエル様。長年教会に育てられた身、多少の後悔もありましたが……こんなことを言うのは他の信徒達に、申し訳ありませんが、今は悪魔としての、この生活に満足しております」

 

「ミカエル様、私も今、幸せだと感じております。イッセーさんや部長さん、オカルト研究部の皆さんやリュカさん……そんな大切なヒト達がたくさん出来ました」

 

「……貴女方の寛大な御心に、感謝します。それと、ゼノヴィア、貴方にはこれを―――」

 

 

 そう言うと、ミカエルは何もない宙から一振りの輝く宝剣を取り出した。だが、その剣にはどこか見覚えのある――ああ、僕がついうっかり壊しちゃって、錬金釜で直した

元『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』……現・エクスカリバー(仮)か。

 

 

「あの後、貴女が教会にこれを置いて行きましたが、これは貴方に差し上げます。三大勢力和平を記念しての贈り物として、そして貴方への謝意の証しとして、です」

 

「あ、ありがとうございます、ミカエル様!」

 

 

 ゼノヴィアが聖剣を恭しく受け取る。まあ、あの手の“持ち主を選ぶ系の武具”はちゃんとした使い手が持ってないと『宝の持ち腐れ』になりかねないし、好判断と言うべきかな。

 ミカエルは、続けてイッセーくんの前に進み出た。そして、再びもう一振りの宝剣を取り出す。

 

 

「これは龍殺しの聖剣『アスカロン』です。実は、これも赤龍帝殿、貴方に授けようと思いましてね」

 

「りゅ、龍殺しって……これを俺に、ですか?」

 

 

 アスカロン――か。見た目はなかなか立派な剣だ。それにこの気配(かんじ)、ドラゴンキラーやドラゴンスレイヤーと同じ、竜種への特効武器だろうか。何でまた、それを(イッセーくん)に?

 

 

「はい。『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』に同化させると言った方が正しいでしょうか。歴代の中でも最弱の宿主と噂の貴方にとって、良い補助武器になるのではないかと思いまして」

 

「最弱……これでも色々努力してるんですけどね……、いえ、認めますけど」

 

 

 ミカエルのストレートな物言いに鼻白むイッセーくん。だが、大天使は構うことなく進める。

 

 

「実は我々三陣営の間で、贈り物をし合うこととなったのです。我々はすでに例の聖魔剣を頂きましたし―――」

 

 

 そう言いつつ、後ろで控えていたキバくんに目を向けるミカエル。すると、この会談の前にも三大勢力間で擦り合わせが行われていたということか。

 

 

「私とサーゼクス殿とアザゼルの三人で、この聖剣に特殊な術式を施してあります。ですので、悪魔の貴方でも問題なく触れますよ。さあ……」

 

『相棒、「赤龍帝の籠手」に意識を集中するんだ。波動を聖剣に合わせろ』

 

「お、おう……」

 

 

 天使長と「赤龍帝の籠手」に宿るドライグがイッセーくんに促す。イッセーくんが神器を展開し、恐る恐る触れると、アスカロンは光の粒子となり赤龍帝の籠手に吸い込まれていった。無事に譲渡が完了したらしい。

 聖剣であり、竜殺しであるアスカロンを、悪魔であり竜を宿すイッセーくんが拒絶反応もなく取り込めたことに安堵する。

 

 

「どうやら上手くいったようだな。これで俺ら三大勢力も目出度く講和成立…………っと、そうだ、忘れるとこだった。その前に俺達以外の世界に影響を及ぼしそうな奴らの意見を訊いとこうか、無敵のドラゴン様達?」

 

 

 一連のやり取りを見物していた堕天使総督アザゼルが、ヴァーリくんとイッセーくんを交互に見回しながら口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 新校舎で会談が行われているのと同時刻―――

 

 オカルト研究部の部室がある旧校舎に向かう一団があった。

 

 

「げるげる、げはははは! 不用心な奴らでげる。一番御守が必要な危険物にロクな監視を付けてないとは、間抜けとしか言いようがないでげる。それではお前達、手筈通りにやるでげる」

 

「「はっ!」」

 

 

 先頭に立った大柄な男のたった一つしかない大きな目玉が、ぎらりと残忍な光を放った。

 

 

 

 

 




ドラゴンキラー:DQⅡが初出。それ以降ナンバリング作品では皆勤など、シリーズではおなじみの武器。その名の通りドラゴン系の魔物に対して大きいダメージを与える効果を持つことが多い。昔は刃と手甲が一体化した、インドのジャマダハルみたいな形状だったが、Ⅷ以降は普通の剣に近くなった。

ドラゴンスレイヤー:ⅧとⅨに登場する剣系武器の一種で、「ドラゴンキラー」の強化版。


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55話 襲撃

   

 

「三竦みの外側に居ながら世界を動かすほど力を持っている、赤龍帝、白龍皇、お前らの考えを聞いときたい。なあに、前対戦が休戦状態になったのはお前らの神器(セイクリッド・ギア)に宿っている二天龍が原因だからな」

 

 

 堕天使総督アザゼルが会議を仕切り直して、二人の青年……イッセーくん・ヴァーリくんを見据えた。

 

 

「まずはヴァーリ、お前がこの世界をどうしたい?」

 

「俺は、強い奴と戦えればいいさ」

 

「へっ、戦争しなくたって強い奴はごまんさ。そこにいる異世界人とかな」

 

「……フッ、だろうな」

 

 

 どうやら、僕とヴァーリくんが戦うのはすでに既定のことらしい。まあ、別に構わないが……。

 

 

「じゃあ、赤龍帝、お前はどうだ?」

 

「えぇっと……、『いきなり世界をどうしたいか』なんて、小難しいこと振られても……」

 

 

 アザゼルの問いにイッセーくんは困惑する。それは無理もないだろう。彼はつい数か月前までただの学生だったのだ。

 そんな彼に向けて、アザゼルは人の悪い笑みを浮かべながらとんでもないことを言い始める。

 

 

「では、恐ろしいほど噛み砕いて説明してやろう。

 ――兵藤一誠、俺等が戦争してたら……リアス・グレモリーは抱けないぞ」

 

「…………うぇッ?!」

 

「なっ!?」

 

 

 イッセーくんだけでなく、後ろに控えてたリアスまで狼狽えた。

 

 

「だが、和平を結べば、その後大事になるのは、種の繁栄と存続だ」

 

「種の………繁栄ッ!!」

 

「おうよ! 毎日リアス・グレモリーと子作りに励めるかもしれん」

 

「っ――――なんてことを?!」

 

 

 …………これはまた……、とんでもない理論だ。

 いや、しかし平和になれば子供を作るというのは人間にも言えることだ。けれど、この二人はそんな関係だったのだろうか?

 前回のライザーくんとの決闘騒動の後からかなり親密になった様子だったし、お互いに好意は持っているのだろうけど、“平和になったら子作りする”というにはまだまだだと思うんだが……。

 

 

「和平なら毎日子作り、戦争なら子作りなし。どうだ? 分かりやすいだろ?」

 

 

 リアスは赤面しているが、イッセーくんはお構いなしだ。

 

 

『毎日、毎日子作り………部長と!? そうか! 平和なら、部長とエッチ出来るのかッ!

……いや? 俺ってそういう立場だっけ?? でも平和が続けば! いつかその可能性だってェェェ!!』

―――そう思っていることが、この場にいる全員にモロバレの表情でイッセーくんが叫んだ。

 

 

 

「和平でお願いしまぁぁぁす! 平和が一番ですッ!! 部長とエッチしたいですッ!!!」

 

 

 ……いや~……、イッセーくんは凄いな……。僕じゃとてもダンカンさんやみんなの前で『ビアンカとエッチしたいですッ!!』なんて言えないもん。

 

 

「……イッセーくん、サーゼクス様がおられるんだよ?」

 

「あ」

 

「ふふふふ……」

 

 

 ……そして、この魔王殿もかなりの大物だ。“妹とエッチしたい”と眼前で宣言されても笑っている。

 もし、ルドマンさんが目の前で『フローラとエッチしたいですッ!!』宣言を耳にすれば、大富豪ルドマン家の総力を挙げて発言者を抹殺しようとするだろう。

 

 

「もう、あなたって人は……!」

 

「あらあら、うふふ」

 

 

 一方、目の前で『エッチしたい』と言われたリアスも、プール開きの際にイッセーくんを散々誘惑していたヒメジマもさほど悪くは思っていないらしい。

 この辺りの関係性は良く分からない。リアスもヒメジマもイッセーくんのことが好きだとすれば、二人は恋敵ということになる。だがイッセーくんのリアスに対する欲望が前面に出過ぎた告白を聞かされたヒメジマが笑っているというのは不思議だ。本当に異世界の事情は複雑怪奇だ……。

 

 興奮のあまり、自分がとんでもないことを口走っていることに気が付いたイッセーくんが仕切り直す。

 

 

「……ゴホン! ……っと、とにかく! 俺の力は、リアス様と仲間達のためにしか使いませんッ! これは絶対です!『禍の団(カオス・ブリゲード)』だろうが『光の教団』だろうが、オカ研のみんなを危険に晒す奴らなら、俺、まだまだ弱いですけど、体張って守っていきたいって――――」

 

 

 イッセーくんがたどたどしくも一所懸命に胸の内に秘めた決意を述べているなか、突然、本当に突然に、恐ろしい感覚にとらわれた。

 これは―――この場にいないリアス・グレモリーのもう一人の僧侶(ビショップ)、ギャスパー・ウラディ

が時間を止めたときの感覚だ……。

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、赤龍帝の復活だ」

 

「な、何があったんスか?」

 

 突如、時間が停止した会議室の中で、イッセーくんが動き出した。それを見たアザゼルが皆に知らせ、イッセーくんは戸惑った様子で辺りを見回した。

 イッセーくんの質問に対するアザゼルの答えはたった一言だった。

 

 

「テロだよ」

 

「テ、テロォォォォォォッ!?」

 

 

 テロ――― まさか、今日のこの会談を狙ってくるとは僕も思わなかった。何故ならここを襲うということは魔王、堕天使総督、天使長の三人を相手にするということだ。つまり、襲撃者達には相当な自信があるのだろうか。

 

 今、室内にいる者は、時間が静止してしまい動けなくなった者とそうでない者に分かれる。分かれた理由をリアス・グレモリーが推察する。

 

 

「サーゼクス様とセラフォルー様、それとグレイフィアにアザゼルとミカエル……各勢力のトップは問題なく時間停止を無効化できるようね。イッセーと白龍皇はドラゴンの力。ゼノヴィアと祐斗は聖剣が力を防いだのかしら。私が大丈夫なのは、多分イッセーのおかげね。

……リュカさんは動けているのは……考えるだけ無駄ね」

 

「え、なんで?」

 

 

 なんかリアスの僕に対する扱いがだんだん雑になって来てないか? いや、別に構わないのだが……。

 嫌われるようなことをしたかな……。そんなことを考えていると窓の外から眩い閃光が目に飛び込んできた。

 良く見るとローブを身に纏った者達が次々と上空に描かれた巨大な魔法陣から転移してきて、校舎へギラのような魔法で攻撃を仕掛けているのが見えた。

 

 

「なんだ、あの連中!?」

 

「あれは魔術師ね☆ まったく! 魔女っ娘の私を差し置いて失礼なのよ!」

 

「しかし、この力は……?」

 

「おそらくは、あのハーフヴァンパイアの小僧を強制的に禁手(バランス・ブレイカー)状態にしたんだろう。なるほどな、連中は俺達が会談している隙を狙って新校舎にいたギャスパーを確保、俺とミカエルとサーゼクスがこの後者の周りに張っている結界を逆に利用し、外の魔術師共に足止めさせて行動を封じる。そして、小僧の神器の出力を挙げて俺達全員の動きを停止させ、一網打尽にする……ってとこか。

敵さんもなかなかやるな。グレモリー眷属を利用するとは……。停止能力を持つ者は、滅多に存在しない」

 

 

「そうも言えないんじゃないのかい? つい、この間だが僕も時間停止が使えるようになったし」

 

「リュカさんは例外中の例外ですッ!」

 

 

 僕も意見を述べたが思いっ切りイッセーくんにツッコまれた。

 

 

「部長、ギャスパーが! それに小猫ちゃんも!!」

 

「私の眷属がテロリストに利用されるなんて、これほどの侮辱はないわ!」

 

 

 リアスが屈辱に顔を歪める。だが、そうこうしている間にも学園上空の魔法陣から次々と魔術師達がやって来る。

 

 

「……転移魔術? この結界にゲートを繋げている者がいるようですね」

 

「逆に、こちらの転移用魔法陣は完全に封じられています。リュカ殿、貴方の世界の魔法はどうです?」

 

「うぅんとね……、ルーラ!」

 

 

 ミカエルが尋ねてくる。なので念を込め、試してみたが―――

 

 僕は ルーラ を唱えた!

 しかし 不思議なチカラで かきけされた!

 

 …………これは不味いな。転移魔法(ルーラ)を唱えてみたが、打ち消されてしまった。

 僕は母マーサの血が覚醒したこともあって、結界だの世界の壁だのには結構強い方なのだが……。

 その僕を封じ込めることができる相手が、敵の中にいると言うことだろうか?

 ――やはり、『光の教団』が?

 

 

「どうやら無理みたいだね」

 

「そうですか……」

 

「やられたな」

 

「このタイミングといい、リアス・グレモリーの眷属を逆利用する戦術といい……この中に裏切り者でもいるのかねえ」

 

 

 アザゼルが軽口を叩くが、この状況では冗談に聞こえない。一体誰なのだろうか……?

 

 

「このままじっとしているワケにもいくまい。ギャスパーくんの力がこれ以上増大すれば、本当に我等とて……」

 

「サーゼクス様達まで? アイツにそこまでの力が!?」

 

「彼は変異の駒(ミューテーション・ピース)だからね」

 

「様々な特異現象を起こす駒のことよ。ギャスパーに使用した僧侶の駒だけは、本来複数の駒が必要な転生体を一つの駒で済ませてしまう変異の駒だったの」

 

「アイツ! そんなに凄かったのか!」

 

 

 リアスの説明を聞いて、イッセーくんが驚く。僕も初耳だ。『悪魔の駒』というものは、どうやら相当奥が深いらしい。

 

 

「あの子の潜在能力は計り知れないわ。だから封印されていたの」

 

「とにかくハーフヴァンパイアの小僧をなんとかしねえと、危なっかしくて反撃も出来ねえぞ。俺達は結界の維持のためにここから離れられねえし、この新校舎から旧校舎までには大勢いる魔術師共の相手をしなきゃならん」

 

「お兄様、旧校舎に未使用の戦車(ルーク)の駒が保管してあります」

 

「……ふうむ、入城(キャスリング)か」

 

 

 また、『悪魔の駒』の話か……。ちょっと、機能が多すぎない? と思わず感じてしまうが、今はとりあえず彼らの説明を聞こう。

 

 

「きゃ、きゃすりんぐ?」

 

「戦車と(キング)を一手に入れ替える、チェスにおける特殊なルールさ。アジュカが『悪魔の駒』においても、この機能を再現してね」

 

 

 サーゼクスの説明を聞いて、たしかどこかの異世界の魔王がオリハルコンのチェスの駒に命を吹き込んだときも、この機能を取り入れたと、どっかの文献で読んだことを思い出した。

 その魔王といい、この世界のアジュカという魔王といい、魔王はチェスにこだわるという習性でもあるのだろうか……?

 

 

「だが、リアス一人を送り込むのは……」

 

「ギャスパーは私の眷属です! 私が責任を持って、奪い返してきます!」

 

 

 躊躇う兄に、つっぱねる妹。そこにメイド長のグレイフィアが前に出た。

 

 

「サーゼクス様の魔力をお借りできれば、もう一方まで転移は可能かと」

 

「なら、俺に行かせてください! 俺が部長を守ります!」

 

「……!」

 

 

 僕も名乗り出ようかと思ったが、それより前にイッセーくんが進み出た。その彼をサーゼクスが厳しい眼差しで見据える。

 

 

「…………君に任せよう」

 

「はい!」

 

 

 紅髪の魔王は少しの間だけ考え込んだようだが、結局は認めた。

 そこに、皆の話し合いを静観していたヴァーリが割り込む。

 

 

「テロリストごとハーフヴァンパイアを消し飛ばす方が簡単じゃないか? 俺がやってもいいぞ」

 

「テメェ!!」

 

「冗談でも言ってはいけないことがあると思うよ」

 

「少しは空気読めよ、ヴァーリ。和平を結ぼうって時だぜ? アンタも落ち着いてくれ。バカみたいな殺気を放つのは止めてくれよ」

 

 

 ん? ちょっと怒りが表情に出てしまったのか。まあ、僕如きの殺気で怯むような青年ではない。反省した様子もなく続ける。

 

 

「じっとしてるのは性に合わんのでね」

 

「なら、外で敵を撹乱してくれ。白龍皇が出れば、奴らも少しは乱れるはずだ」

 

「……フッ、了解」

 

 

 アザゼルの命に従い、早速ヴァーリくんが窓から飛び出していった。

 そして、白銀に煌めく翼を展開する。

 

 

禁手(バランス・ブレイク)ッ!!」

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!』

 

 

 ―――そして瞬く間に全身鎧(フルプレート・アーマー)を纏うと、なかなかの猛スピードで魔術師軍団に向かっていく。

 その直後、上空で光が瞬いたかと思うと、数十人の魔術師がまとめて薙ぎ払われた。

 

 

「あんな簡単に!? 俺なんか、左腕を対価にして、それもテン・カウントしか出来なかったんだぜ!? それに強ぇ! 無茶苦茶強いじゃねえかッ!!」

 

「まあ、そうだけど、焦ることはないんじゃないのかな。ゆっくり君は地力を付けていけばいいさ。でも、まずはギャスパーくんを助けることに専念すればいいと思うよ」

 

 

 僕のごくありきたりなアドバイスを受けて、イッセーくんは瞳に闘志を燃やす。

 

 

「そうッスね! ……部長! 必ずギャスパーを取り戻しましょう!!」

 

「あー、ちょっと待ちな。コイツを持っていけ。その腕輪が“対価の代わり”になってくれるはずだ」

 

 

 イッセーくんを呼びとめたアザゼルが懐から二つの腕輪を取り出した。それにしても対価の代わりとは―――『メガザルの腕輪』の亜種だろうか。

 

 

「対価? ……禁手になれるってことか!?」

 

「最後の手段にしておけよ? 体力の消費までは調整出来んからな」

 

「っ……分かってるさ、一度それで失敗しかけてる」

 

「もう一つはハーフヴァンパイアに付けろ。暴走を抑える効果がある。いいか? よく覚えておけ、今までは運良く勝てたが、お前は人間に毛が生えた程度の悪魔だ。力を飼いならせなけりゃ、いずれ死ぬぞ? お前自身が神器の弱点なんだからな」

 

「リアスを頼んだぞ、一誠くん」

 

「はい!!」

 

 

 魔王に妹を託された青年は魔法陣の中に消えた。

 

 

「う~ん……、ちょっと心配だね。やっぱり僕が付いて行った方が良かったかな」

 

「いえ、それには及ばないさ。私の妹はきっと上手くやるだろう。それに赤龍帝も付いている。……さて、私達はリアス達がギャスパーくんを確保出来たら、反撃に移ろう」

 

 

 僕の呟きに、サーゼクスは確信を込めて否定した。それだけ妹とその眷属を信頼しているという証だろう。

 

 

「いや、それには及ばないかもしれないぜ。しばらくここで籠城してれば、敵の親玉が痺れを切らして出てくるかもしれん」

 

 

 アザゼルはそう言うが、ここまで手の込んだことをしておいて、それは堪え性が無さ過ぎるのでは―――

 

 

「サーゼクス様!」

 

 

 次の瞬間、室内の魔力の乱れを感じ取ったグレイフィアが、一早く主人に知らせた。

 彼女の目線の先には何やら魔法陣が展開されている……って、噂をすればさっそくか。

 

 このまま時間を稼ぎさえすれば、三大勢力トップを一網打尽にできたのに……どうやら、合理的な計算より、ここにいる皆に対する敵愾心が勝ったということだろうか?

 

 

 

「っ!? この魔法陣はレヴィアタンの、まさか……?!」

 

 

 どうやら、サーゼクスはこの魔法陣に見覚えがあったらしい。

 やがて、そこから一人の女性が現れる。

 褐色の肌に眼鏡をかけた女魔族だ。

 

 

「御機嫌よう、現魔王、サーゼクス殿、セラフォルー殿」

 

「あ、貴方がどうしてここに!?」

 

「先代レヴィアタンの血を引く者、カテレア・レヴィアタン!」

 

 

 魔王にカテレア・レヴィアタンと呼ばれた女は杖を掲げ――――

 

 

「世界に破壊と混沌を!」

 

 

 

 彼女の叫びと共に、駒王学園会議室は破壊の光に満ちた。

 

 

 

 

 

 

 




メガザルの腕輪:DQⅥで初出、後にリメイク版DQⅣなどにも登場する装飾品。装備したキャラが死亡するとMP消費なしでメガザルが発動するという便利なモノ。貴重品の上に消耗品。
作者はもったいなくて一度も使ったことが無い。


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56話 刺客

 

 突然、目の前に現れた女悪魔の放った爆撃。それは新校舎の会議室を瓦礫の山に変えた。

 僕は咄嗟に防御魔法(スカラ)を使って事無きを得る。時間を止められて無防備になっていたアーシア、ヒメジマ、ソーナ、シンラ達をサーゼクスとセラフォルーが、他の動けた者達、キバくん、ゼノヴィア、シドーをミカエルとアザゼルが障壁を張って守った。

 

 

「三大勢力のトップが共同で防御結界とはね……、ふふっ、なんと見苦しい!」

 

 

 爆発の余波でもうもうと土埃が立つ。

 ……それがだんだん晴れていくと、前方から女の嘲笑が聞こえてきた。

 

 

「……どういうつもりだ、先代レヴィアタンの末裔―――カテレア・レヴィアタン?」

 

「いわゆるクーデターですよ。今夜の会談の、正に逆の考えに至っただけです、サーゼクス・ルシファー。神と魔王が居ないのならば、この世界を変革すべきだと」

 

 

 サーゼクスの問い掛けに、そう嘯いたのは強力な魔力を放つ、褐色の肌を大胆なスリットの入った服で包んだ、蟲惑的な美女であった。

 カテレア・レヴィアタン―――そう呼ばれた女悪魔は敵意に満ちた眼差しを僕達に向けてくる。

 

 

「カテレアちゃんやめて! どうしてこんな!?」

 

「セラフォルー……、正当な魔王の後継者たる私から、レヴィアタンの座を奪っておいて、よくもぬけぬけと!」

 

「わ、私は……」

 

 

 セラフォルーの叫びに、カテレアは憎々しげな眼差しで返した。

 

 

「安心なさい、今日この場で貴方を殺して、私が魔王レヴィアタンを名乗ります」

 

 

 カテレアの宣言にセラフォルーが顔を歪める。

 どうやら二人は因縁浅からぬ関係……というかカテレアの方が一方的にセラフォルーを憎んでいるようだ。

 それも当然なのだろうか。彼女は自分自身が“魔王レヴィアタン”に相応しいと思い込んでいるらしい。

 そして、その座を奪ったセラフォルーが許せない、か……。

 

 彼女の気持ちも分からなくはない。まったく逆の称号に関してのことだが、僕にも経験がある。

 

 まだヘンリーと旅をしていた時代……魔界に囚われた母を救うためにどうしても“天空の勇者”が必要だった。サンタローズの洞窟で天空の剣を手にしたとき、『もしや、自分こそが伝説の勇者なのでは……』と全く期待しなかったと言えば嘘になる。

 でも、その束の間の願望は天空の剣の柄に触れた瞬間、木っ端微塵に叩き壊された。

 

 『 お ま え で は な い 』

 

 剣によってハッキリと、そう教えられたのだ。

 そのときの悔しさ、悲しさ、やるせなさは今でも脳裏に焼き付いている。

 『選ばれなかった者』の苦しみだ。

 “勇者”になれなかった僕と、“魔王”になれなかった彼女(カテレア)……本当によく似ている。

 

 だが、真の勇者たる息子と出会い、接していく中で気付いた。

 選ばれた者には選ばれたの者の苦しみがあるという事実に……。

 世界を救う勇者であることへの責任―――その重さは我が子の小さな体を圧し潰してしまいかねないほどに大きいものだったと僕は思う。

 だけど、ティミーは耐えた。耐えることができた。耐えられるが故に勇者だった。

 

 果たして、そのことを理解できないでいる彼女は、魔王の重責に耐えられるのだろうか――――?

 

 

「聞いたことがあります。前大戦で旧魔王が滅び、新たな魔王を立て、戦争を終わらせようとしたときに徹底抗戦を唱えたのが、旧魔王の血をひく者達だったんです。すでに戦力が枯渇していた戦後の悪魔達は、最後の力で強硬派の旧魔王軍の一門すべてを冥界の隅に追いやったんだとか……。

 その後、今の四大魔王様達が種の存続を旨に新政権を樹立したんだそうです」

 

 

 キバくんが僕に説明をしてくれる。…………なんと言うか、本当に僕のイメージする魔王像と違う。唯一絶対の魔の支配者ではなく血筋、情勢に左右される存在だとは……。

 一方、悪魔達のやり取りを眺めていたアザゼルは、苦笑しながら肩をすくめた。

 

 

「やれやれ、新旧魔王派の争いに巻き込まれたのかと思ったら、お前達の狙いは、この世界そのものというワケか」

 

「ええ、アザゼル。神と魔王の死を取り繕うだけの世界、この腐敗した世界を私達の手で再構築し、変革するのです!」

 

 

 カテレアの言葉にサーゼクスもセラフォルーもミカエルも表情が曇る。

 しかし、堕天使総督は違った―――

 

  

「ククククッ……、フハハハハ」

 

「……アザゼル、何が可笑しいのです!」

 

 

 アザゼルの哄笑を、女悪魔が鋭い声で咎めた。アザゼルは悪童のような笑みを浮かべながら答える。

 

 

「ククク……、腐敗? 変革? 陳腐だな、おい? そういう台詞はいの一番に死ぬ敵役の台詞だぞ?」

 

「私を愚弄するか!!」

 

「それに、だ。大体、お前達は今、この世界で何が起きているのかわからないのか?

 これまではただの空想の産物でしかなかった異世界の存在が立証され、そこから明確な脅威が迫ってるんだぞ?

 だと言うのに、お前達旧魔王派はその連中とつるもうってのか? 自分達が世界を牛耳るために? 呆れてものも言えんな。到底魔王の器じゃない」

 

 

 アザゼルが冷たく言い捨てた。カテレアの表情が憤怒に染まる。

 しかし、アザゼルの言い分が全面的に正しいだろう。異常事態に内輪揉めをするなんて愚の骨頂だ。

 それに――――

 

 

「…………僕も君は魔王に相応しくないと思うなあ……」

 

「――――ッ!」

 

 

 ……つい、思っていたことが口から洩れてしまった。ボソッとした一人言だったのだが、耳聡く聞かれてしまったらしい。次の瞬間、カテレアが、まるでオーガキングのようなおっかない目で睨みつけてきた。

 

 

「異世界からやって来たばかりの……それも“ただの人間”に何が分かると言うのです?」

 

 

 おやおや、かなり御怒りの御様子だ。わざわざ“ただの人間”という部分を強調しての言葉。どうやら癇に障ったらしい。う~~ん、何と説明したものか……。

 

 

「……いや、別に大したことじゃないんだけどね。僕は異世界から来たんだし、当然の事だけどこの世界のヒトとは価値観が違う。だから、“魔王”って称号を持つ者の定義が異なる訳で―――」

 

 

 そのように前置きした上で……

 

 

「君、心臓が一個しかないだろう?」

 

「「「―――は?」」」

 

 

「僕の元居た世界にも魔王はいたし、渡り歩いて来た世界の伝承にも魔王と呼ばれるの者は登場するんだが……。そうだねえ、僕の知っている“魔王”と呼ばれる者は心臓を二つ持ってる場合が多い。更にその上の“大魔王”となると三つになる」

 

「「「…………」」」

 

「だから、魔王を倒そうと思えば二つの心臓を潰さなきゃならないんだけど、そのことを知らない勇者が心臓一つを破壊したことで勝ったつもりになって、魔王に『あいにく私の心臓は左右に一つずつあるのだ』と言われるのは、様式美みたいなものだね」

 

 

 僕の説明を聞いたサーゼクスとセラフォルーは引き攣った笑みを浮かべていた。

 そう言えば彼らも心臓が一つしかない。この世界でこの条件に意味は無いのかもしれない。

 

 

「……ハハッ、君のところの魔王は大変そうだね。他にも条件みたいなものはあるのかい?」

 

「んー……。そうだな、戦闘関連で心臓の数以外だと、高位呪文を覚えてるとか、強力な火炎か冷気を口から吐けるとか、一つの動作で二回攻撃できるとかだよ。

あと他に何か一芸を身に付けてる場合も多い。睨みつけただけで相手を強制的に眠らせるとか、相手の防御を無視した火炎や冷気を放てるとか、瞑想で肉体をバラバラにされても再生できるとか……大魔王クラスになると神さえも石にしてしまう呪いとか、人間の夢を具現化して一つの世界を創造するとかだね」

 

 

 サーゼクスの疑問に答えていく。その途中で疑問に思ったことがあったので、今度は僕が彼らに質問した。

 

 

「そういえば、君とセラフォルーは何かあるのかい? 雄叫びで敵の体を凍りつかせるとか……」

 

「いや、それは無理だし、心臓は一つだし、火炎も冷気も吐けないが……。我々悪魔の扱う魔力はかなり応用が利くし、わざわざ口から火炎を吐こうとは思わないよ」

 

 

 そういえばそうである。サーゼクスくんやリアスの滅びの魔力といい、ヒメジマの雷といい、それは飽く迄『魔力』の応用であり、呪文やブレス攻撃ではない。僕らの世界の基準で分類すれば『魔力を消費する体技』であろうか。

 そうなると、リアス達は『イオナズン』や『メラゾーマ』などよりも『火炎龍』や『ジゴスパーク』の方が適性があるのかもしれない。

 

 

「ふぅむ……、なかなか興味深いね。でも、やっぱり『激しい炎』くらいは覚えておいた方がいいよ? 『灼熱』とか『輝く息』は大変だけど『激しい炎』とか『凍える吹雪』ぐらいだったら君達ほどの潜在能力があればあっという間に習得できるだろうし……」

 

 

 サーゼクスくん達に勧めてみるが、どうも乗り気じゃない様子だ。まあ、別にいいだろう。この世界の魔王事情は良く分からないし。

 

 

「余所見を―――するなッ!!」

 

 僕とサーゼクスが無駄話をしていたことに痺れを切らしたのか、魔王に成り損ねた女悪魔が、魔力の弾を無数に放ってきた。

 

 

「―――はあああぁぁっ!」

 

 

 僕は 激しい炎を 吐いた!

 

 超高速で迫って来る魔力弾を炎が薙ぎ払う。全ての光弾を相殺し、打ち消す。

 咄嗟の判断であったが、我ながら上手くいった。僕もオカ研のみんなも全員無傷だ。

 

 

「……ナルホドね。確かに便利だな。おい、サーゼクス、セラフォルー、習ったらどうだ?」

 

「「…………」」

 

 

 アザゼルが茶化すような口振りで褒めてくれた。話を振られた両魔王は困惑気味だが……

 しかし、カテレアが言う通り、今は話をしている場合じゃない。襲撃者の頭目に改めて向き直る。

 

 

「ともかくだ。少なくとも今の君の力ではサーゼクスにもセラフォルーにも及ばない。“この世は力こそ全て”、なんて言うつもりはないけど、でも、魔族……いや、悪魔の中では大切なことなんだろう? なら、もう少し力をつけて、その上で話し合ってみるべきじゃないのかい?」

 

 

 僕に今言える精一杯の言葉。

 しかし、カテレアには通じなかった。否、そればかりか彼女の逆鱗に触れたらしい。

 僕のことなど路傍の石程度にしか思っていなかった彼女の表情が一変する。まるで、巨大な海魔に睨み付けられるような……背筋が凍るようなものを感じた。

 

 

「………気が、変わりました」

 

 

 カテレアはそう呟いた。そして、先程の爆発で破壊され崩落した壁が積み重なった瓦礫の山の影を見遣る。

 

 ――――ッ!

 

 彼女につられて、僕もその場所を見た。

 

 何かいる。

 

 何か、とても恐ろしいものが、だ。これまで僕や三大勢力のトップに、一切気取られないほど完璧に隠蔽していた者。

 おそらく先程からずっと潜んで、こちらを窺っていた何者かが、そこにいる。

 

 

「私が三大勢力のトップを抹殺し、有象無象の相手を貴方に任せるつもりでしたが……、私がこの男を殺します。

 その間の時間稼ぎは任せましたよ――――」

 

 

 カテレアの視線の先にある空間が歪み、そこから絢爛豪華でありながらそこかしこが薄汚れた儀式装束に身を包む、一人の男が現れた。

 

 

 

「大教祖イブール」

 

 

 

 故郷から遠く離れた異世界の地にて、僕は宿敵と二度目の会合を果たす――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――

 

 

  イッセーside

 

 

 

「待ってろよ、ギャスパー、小猫ちゃん! 今行くからな!」

 

 

 俺とリアス部長は魔法陣を通じて、無事に旧校舎のオカ研の部室に転移してこられた。

 さっそく、部屋の中を見渡すと、小猫ちゃんとギャスパーが壁に貼り付けられ、捕まっている! 許せねえ! 

 

 拘束されている二人の前にいるのは数人のローブを来た魔術師達だった。中心にいる男以外は全員若い女……つまり魔女か!

 ―――って、今はそんなことはどうでもいいんだよ、しっかりしろ! 俺!

 

 

「部長! イッセー先輩! 来ちゃダメですぅぅぅ!!」

 

「ほう……、この建物にはイブール様が転移封じの結界を張って下さられたはずでげるが……一体、どういう仕組みでここまで来たでげる?」

 

「生憎だけど、その質問に答える義務はないわ。ギャスパーと小猫を放しなさい!」

 

 

 リーダー格っぽい男が耳障りな声で話しかけてきたので、部長が毅然とした態度で応える。

 すると、今までフードで隠れていた、大きな、そして一つっきりの目玉がぎらりと光った。

 

 げるげる、げははははは……

 

 人並みの身長だった男が、哄笑と共に、ぶくぶく膨れ上がり、着ていた服がビリビリ破ける。

 そこにいたのは瘤みたいにハゲた頭、一本の角、紫色の肌、一つ目の醜い顔をした巨大なバケモノだった。 こんなヤツ、絶対にこの世界の悪魔じゃない! 異世界の連中か!

 

 

「げるげる、げはげは! それこそ出来ん相談でげる……。この世界では希少種だという猫哨に『停止世界の邪眼( フォービトゥン・バロール・ビュー)』の所持者……是が非にでも回収するように仰せつかっているでげる!

 

 ―――すぅっ、……げがはああああっっ!!」

 

 

 怪物が激しい炎を吐いてきた! ヤバい、このままじゃ丸焦げだ! そう考えた次の瞬間、赤黒い魔力が俺の隣から放たれた―――

 

 

「はあああっ!」

 

 

 ナイスです、部長! 部長の滅びの魔力が奴の吐く炎を打ち消した! しかし―――

 

 

「げるげる、甘い! べ ギ ラ ゴ ン !!」

 

 

 怪物が間髪入れずに両手を掲げると、その手から光が迸り、頭上に灼熱のアーチが出現した。それを俺達に向けると目が眩むほどの光と、触れてもいないのに肌が焼けるほどの熱が一気に押し寄せてくる―――!

 

 

「部長ォォォオオオッッ!!」 

 

「――――ッ!?」

 

 

 咄嗟に飛び出して部長を抱きかかえると、横っ飛びに躱す! ほんの僅かの時差も無く、超高熱のレーザーが俺の背中を掠めて通過した。

 

 

「ぐああああっ!?」

 

「イッセー!?」

 

 

 熱い! 熱い熱い熱い熱い熱い! 背中がメチャクチャ熱い! この熱に比べたら前に戦ったライザーの炎なんて銭湯のサウナみたいなもんだぜ! 背中をごっそり削ぎ落とされたかと錯覚するほど熱い!!

 痛みのあまりに倒れ込み、床をのた打ち回る。

 

「イッセー!? しっかりして!」

 

「……大丈夫ッス、部長……」

 

 

 部長が心配そうな表情で俺の顔を覗き込んできた。それに何とか答えて立ち上がり、怪物を見る。

 

 

「貴方は一体何者なの!? 答えなさい!!」

 

「我が名は神官ラマダ! 『光の教団』の最高幹部でげる! お前達も三大勢力も旧魔王派も全部、ただの踏み台げる!

 

 偉大なるイブール様の作りだす新たなる秩序の礎になることを誇りに思うがいいでげる!!」

 

 

 




心臓の数に関してはダイ大からです。
ハドラー ⇒ 二個 バーン様 ⇒ 三個


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57話 戦火を交えて1

大変おまたせしました。申し訳ございません。


   

 

 

木場祐斗side

 

 

 

 駒王学園は戦いの喧騒に包まれていた。僕――木場悠斗は、地上に降りてきた『禍の団(カオス・ブリゲード)』の魔術師達を、時間が停止している中でも動けるゼノヴィア、藤堂イリナと共に迎撃していた。

 戦いは一進一退、僕もかなりの数を斬り倒したが、いかんせん相手が多すぎる。数人の魔術師に取り囲まれ、戦況はやや膠着状態になっていた。

 

 そんな、血飛沫やら悲鳴やらが飛び交う戦闘から切り離されたかのように、学園の中庭で、二人の男が向かい合っている。そのうちの一人が、後ろに控えている方々に呼びかけた。

 

 

「……俺がやる。いいな? サーゼクス、ミカエル」

 

 

 眼前にいる異世界からの侵入者に対して、真っ先に名乗りを上げたのは常闇色の翼を持つ男―――堕天使総督アザゼルだった。

 不敵な笑みを浮かべつつ、アザゼルは前魔王の末裔カテレア・レヴィアタンから“大教祖イブール”と呼ばれた人物に話し掛ける。

 

「で、お前さん達は一体何が目的で禍の団に協力しているんだ?」

 

「……貴様らが知る必要は無いが……そうだな、我らの目的と利害が一致したからだ」

 

 

 アザゼルの問い掛けに対し、あまり関心を示さず曖昧な言葉で返すイブール。……利害の一致、つまり、彼ら(光の教団)もこの世界に混乱をもたらしたい、という事だろうか?

 アザゼルも同じことに思い至ったのか、苦笑を浮かべる。

 

「ま、異世界からの侵略者にとっては、そのほうが都合がいいわな。でも、言っとくが、俺らは強いぞ? ――――あまり、この世界を舐めるんじゃねえよ」

 

 

 ゾクッ……!

 

 これまでは、飄々とした態度を崩さなかったアザゼルから、凄まじいオーラが発せられた。堕天使総督が本気になった、ということだろうか? 僕に向けられた殺気ではないというのに、肌が粟立つ。

 

 しかし、彼と直接相対する男の返答は極めてそっけないものだった。

 

 

「結構。私はただ、“我が神”に奉仕するのみ」

 

 

 そして、その言葉とともに、男の周辺に暗黒が激しく渦巻き、稲光が轟わたり……黒闇の中から魔獣が現れた!

 

 ――イブールが怪物(モンスター)に変身した。

 人間の時でさえ底知れぬ力を感じさせていたが、その肉体に押し込められていた膨大な魔が、一気に噴き出したかのようだ!

 ワニの頭、黄色い(まなこ)、儀式装束から露出した肌は頑強な鱗によって覆われている、ヒトとドラゴンを掛け合わせたかような恐ろしい異形の魔人!

 

 

「それがアンタの本性ってワケか。人間のときの方が見た目は良いんだがな……。強けりゃ姿形にはこだわらないクチか?」

 

「来るがいい。異界の墜ちたる天使共の長よ。その力、この大教祖が見定めてやろう!」

 

 

 宣戦布告がなされた次の瞬間―――周囲が凍る。イブールの、もはや人間とは思えぬギラギラした歯がずらりと並ぶ大口から「輝く息」が噴き出した!

 空気中の水分が凝固した幾億もの氷の刃が、吹き荒れる奔流に乗ってアザゼルに襲い掛かった!

 

 

「ふん、リュカのやつが言う通り、確かにブレス攻撃ってのは便利だな、だが――ッ!」

 

 

 アザゼルが自分の身長を遥かに超える光の槍を生み出し――― 一閃ッ!

 騎士(ナイト)の僕でさえ目で追えない速さで振り抜き、目前に迫っていた冷凍地獄を、真っ二つに切り裂いて霧散させた!

 

 

「ほう、“海破斬もどき”か。ならば、これはどうかな? イオナズン!」

 

 

 続け様に放たれたのは極大爆撃呪文イオナズン! リュカさんの使役する魔物の中でも高位の者が扱う強力な攻撃呪文! 校舎の残骸を巻き上げつつ、魔力の爆風が吹き抜ける!!

 

 

「チッ!」

 

 

 大爆発に晒されたアザゼルは十二枚の翼を操り、何とか体勢を保った。

 あれ程の爆撃を受ければ、たとえ耐えたとしても並の者なら隙ができるだろう。でも、そこは古の堕天使だ。驚くべきことに、そのままの体制から反撃に移る。

 一瞬の間にアザゼルの周囲、空高くに展開される膨大な量の光槍。それを釣瓶打ちに放ちながら、間断なく異形の怪物を攻め立てる!

 

 

「ぬッ―――!?」

 

 

 爆撃呪文の弾幕を貫き、殺到してくる槍の群れ。ほんの僅かの間も無く、幾百もの光がイブールに降り注いだ。

 

 轟音が鳴り響き、土煙と爆風が巻き起こる!

 

 離れた場所にいる僕達でさえ衝撃で吹き飛びそうなほどの大破壊。堕天使総督アザゼル……やはり僕達とは比べ物にならないバケモノだ。

 相対する異世界の魔人であっても、今のは一溜まりもないだろう…………この場にいる者は全員、そう思ったに違いない。

 

 しかし――――

 

 

「くっくっくっ……、確かに“魔王”と張り合っているというだけはあるな。流石に効いたぞ」

 

 

 立っている……! あれだけの攻撃が直撃したというのに! 平然と哄笑している!

 

 よく見れば、着ている儀式装束の所々は破け、全身を覆う鱗は数か所が剥がれ墜ち、あるいは多少の傷がついているかもしれないが……、しかし、ほとんど無傷と言っていいレベルの傷だ。

 

 これは……―――そうか、暗黒闘気かッ!?

 

 

「……確か、報告にあったな。異世界の“仙術もどき”か。それに魔法も重ね掛けしてるのか?」

 

「その『仙術』とやらを詳しく知らぬが、おそらくはそれであっていよう……もどき(・・・)とはいささか無礼ではあるが、な」

 

 

 仙術は気、つまり生命に流れる大元の力であるオーラ、チャクラと呼ばれるものを重視し、源流とするもの。悪魔の魔力や天使の光力とは別の力で、直接的な破壊力は低いが、生物の内に秘めた未知の部分を用い気……オーラの流れを読むことで対象の動きを把握したり予知したりできる。他にも肉体の内外強化や生命の流れ……治癒や成長を操作したり、相手の気を乱し、断つことでダメージを与えたりするなど、かなり多彩だ。

 

 リュカさんの話によれば異世界にも近いものがある。それが闘気だ。以前、修行の最中に少しだけ見せてもらったが、その性質はやはり仙術に近い。だが、闘気にもいくつか種類があり、その中にはリュカさんにも扱えないものがある。―――その一つが『暗黒闘気』だ。

 

暗黒闘気―――怒りや憎しみを源とする悪の気。その特徴は三つ。通常の闘気よりも更に暴力的なまでの破壊力。屍などの命なき者を操る操作力。そして、敵が立ち直るのを決して許さぬ回復阻害力……だ。

 

 以前に戦ったドーピングによりにわか仕込みの暗黒闘気を身に付けたフリード・セルゼンとは桁が違う。周囲の空間が歪んで見えるほどの暗黒によって覆われたその姿はさながら悪鬼羅刹そのもの。

 

 

「しかし、この私が暗黒闘気の上に重ねて守備呪文(スカラ)まで使用せざるを得ないとは……堕天使というのは所詮“地に落ちた天空人のなれの果て”程度に考えていたが、その認識は改めねばなるまい」

 

 

 堕天使総督を見据えながら、呟くように話すイブール。異世界の単語の意味が分からないから判断が付かないが、ニュアンスからしてこの堕天使総督すら、過小評価していたらしい。

 それは改めたようだが……異世界の軍勢、その力の底は窺い知ることができない。

 

 アザゼルもそう思いはしたのだろう。しかし、堕天使の長は不敵な態度を崩さなかった。

 

 

「フン、その“天空人”というのがどんなモンなのか知らねえから何ともコメントしづらいが、お前一人にかまけている暇は無いんでな。さっさと終わらせてもらおうか」

 

 

 そう言うと、いたずらっぽい笑みを浮かべたアザゼルが、懐から短剣らしきものを取り出した。

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

リュカside

 

 

 

「う~ん、困ったなぁ……」

 

 

 駒王学園の中庭――ここでテロ組織『禍の団』・旧魔王派幹部、カテレア・レヴィアタンと対峙しながら、僕は途方に暮れていた。

 

 どうにかして彼女と和解したいのだが、その糸口がつかめない。

 彼女は自分が魔王レヴィアタンに選ばれなかったことを、相当深く根に持っている。つい先程、出会ったばかりの僕が、どんなに「魔王でなくてもいい」と言ったとしても、「魔王じゃない君も愛そう」と伝えたとしても、カテレア・レヴィアタンがそれを受け入れてくれるとは到底思えない。

 こういうときには、いつもなら「霜降り肉」か「星降りのオーブ」でも使うんだが……どうも、この世界の魔物は勝手が違うんだよなぁ……。仮に「霜降り肉」でも与えようものなら、却って火に油を注ぎそうだ。

 

 

「どこを見ているのですッ!!」

 

「―――おおっと!?」

 

 

 ぼんやり考え事をしていたら、カテレアが強烈な魔力弾を飛ばしてきたので慌てて避ける。

 元居た場所には巨大なクレーターが出来き、他に逸れた魔力弾がサーゼクス達の張る結界に直撃して、外界と遮断された空間が揺さ振られる。

 確かに、戦いの最中に余所見は良くない。そもそも、魔物を仲間にするには、自身の力を示さなければならない。彼女を仲間にしたければ、まずは僕の力を認めてもらう努力をすべきだろう。

 そう思い立ち、全身、指先から髪の毛に至るまで闘気をみなぎらせ、身構える。

 

 

「それじゃあ、せいっ!」

 

「――――ッ!!」

 

 

 とりあえず牽制に放った『真空波』でもって、空中にいるカテレアを吹き飛ばし、撃墜する。

 そしてそのまま一気に距離を詰め、彼女の懐に飛び込む。

 

 

「えい!」

 

 

 軽い掛け声とともに繰り出したのは格闘の基本技の一つ「正拳突き」。

 取り敢えず、それなりの威力は持たせたが……

 

 

「ハァッ!!」

 

 

 カテレアの周囲があっという間に魔力の防御壁によって覆われる。大鐘を鳴らすかのような甲高い轟音が鳴り響き、数枚の結界を貫いたが、彼女の肢体に届く前に僕の拳は止まってしまった。

 

 

「ほう、やるね」

 

 

 この世界の悪魔の魔力は応用が利く。サーゼクスくんが言っていたとおりだ。攻撃から防御まで自由自在。

 僕の正拳突きを止めるとは……やはり少々侮りすぎたかな……?

 

 

「は、はははははッ! 無様ですね人間! 真の魔王の血を引くこの私を、素手で制そうなど、思い上がりも甚だしい!!」

 

「それもそうだね―――よぉし!」

 

 

 確かに彼女とは分かりあいたい、理解しあいたい、愛しあいたい。でも、勝負は勝負だ。

 まずは、早く決着をつけよう。それに彼女の言うように素手で戦うのも失礼だし、僕も久々にあの装備(・・・・)を使ってみようか。

 

 

 そう思って、僕は袋から『最強の武器』を取り出した――――

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

兵藤一誠side

 

 

 

「……つ、強ええ……」

 

 

 俺――兵藤 一誠と部長は苦戦の真っただ中にいた。

 異世界からの侵略者「光の教団」の神官ラマダ……今まで戦った奴らの中でもかなり上の力を持っていやがる。

 巨大なトゲつきの棍棒を軽々と振り回し、口からは火炎を吹き、更には上級魔法まで扱える怪物だ!

 

 

「カアアアア――――ッ!!」

 

「はぁぁぁああッ!!」

 

 

 またしてもラマダが吐き出した激しい炎を、部長が滅びの魔力で相殺する! だけど、もうそろそろ限界だ。

 部長も呼吸が荒くなり、額に玉のような汗をかいている……! 何とか状況を変える手を考えないと……!!

 

 俺が必死に頭を使っているとき、ラマダの後方からか細い声が聞こえてきた……ギャスパーだ。

 

 

「部長……僕を殺して、逃げて下さい……!」

 

「お前、何言ってんだッ!!」

 

 

 ギャスパーが目に涙を浮かべながら、俺達に訴えかけてくる。

 

 

「僕なんか死んだ方が良いんです……。臆病者で、役立たずで、それどころか、こんなチカラのせいで、また……迷惑を……! 僕なんかのせいでリアス部長とイッセー先輩が傷つくのはイヤです……! お願いだから、僕を殺して、逃げてください……!!」

 

「馬鹿な事を言わないで! 私は貴方を絶対助けるわ。それに、貴方を眷属にしたとき、言ったはずよ」

 

「…………え?」

 

 

 敵に捕らわれ、会談を襲撃する道具として、俺達を誘き寄せるための餌として利用されたと思っているのだろう。心を閉ざそうとするギャスパーに、リアス部長は優しく微笑む。

 

 

「『私のために生きなさい。同時に、自分が満足出来る生き方を見つけなさい』……貴方は私の下僕で、眷属。私は決して貴方を見捨てない」

 

 

 部長は強い決心の篭った表情で、そう言った。

 

 部長…………部長は本当に俺達眷属を大切にしてくれる。下僕を思う気持ちは、きっと、あのリュカさんにだって負けてないぜ!…………いや、リュカさんの場合は特別だからなぁ、何と言うか、ベクトルが違うと言うべきか……。

 それでも、部長と俺達眷属の絆は強いんだ! ギャスパーも、きっと分かってくれる!

 だけど、そんな場面に割り込んできやがった奴がいた。ラマダの野郎だ。コイツ、にやにや嘲笑(わら)ってやがる!

 

 

「げは、げは、げははは! 下僕の言っていることの方が正しいというのに、このバカ娘は何を言っているでげる?

 勝ち目が無いのなら、早く次善の策に切り替えた方が利口でげる。このヴァンパイアの小僧が言う通りにさっさと殺してやって神器(セイクリッド・ギア)の暴走を止め、逃げてしまうのが一番賢いでげる。もっとも、このラマダから逃げられると思う事自体がバカでげるがな。げはははははははっ!」

 

 

 こ、この野郎! 部長の気持ちを無視して……! 許せねえ!

 部長もそう思ったのだろう。敢然とした表情で進み出た。

 

 

「おあいにくさま、私は私の下僕を大切にするの。誰に何と言われたとしてもね!」

 

 

 そう、啖呵を切った部長は、ラマダの野郎を無視してギャスパーに語りかける。

 

 

「ギャスパー、私にいっぱい迷惑を掛けてちょうだい」

 

「……え?」

 

 

 戸惑うギャスパーに語りかける部長の声は、どこまでも優しさに満ちていた。

 

 

「私は、何度も何度も貴方を叱ってあげる。慰めてあげる。絶対に貴方を放さないわ!」

 

「部長、部長………僕はッ!!」

 

 

 目に涙を浮かべるギャスパー。でも、今までの涙とは違う! 悲しくて泣いてるんじゃない。悔しくて泣いてるんじゃない。部長の優しさが、『愛』が伝わったんだ!

 

 それなら、俺も先輩としてもう一つ大切なモノを――『勇気』を伝えなくちゃな!!

 

 

「ギャスパァァアアアア!! 逃げるな! 恐れるな! 泣き出すな! 俺も! 部長も! 朱乃さんも! アーシアも! 木場も! 小猫ちゃんも! ゼノヴィアも! みんな仲間だッ!! 絶対にお前を見捨てねェ!!」

 

 魂を込めて、全身全霊で叫ぶ! それと、俺が伝説のドラゴンを宿してるっていうなら、もう一つプレゼントを送ってやる!

 

「アスカロォォォオオオンッ!!!」

 

 

 赤龍帝の籠手から、燦然と輝く聖剣が現れた――――!

 

 

 

 

 

 



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