進撃する綾小路 (もと将軍)
しおりを挟む

転生

初投稿です!
文才などありません。理系です。
綾小路清隆がどっかの漫画の世界に行くというクロスオーバーが好きでしたが、読み尽くしてしまいました。なので、自分で書くことにしました。
よろしくお願いします


「清隆!!私達Aクラスで卒業よ!

さっすが、私の清隆ね!信じていたわ」

と、恵はハイテンションで駆け寄ってきた。そう、オレたちは坂柳率いるAクラスを下し、オレたちがAクラスとして卒業することになった。周りのクラスメイトも恵と同じようにAクラスで卒業できることに喜び勇んでいる。しかし、オレは逆に心が冷めていくのが分かる。オレに敗北を教えてくれる、開放してくれる、そんな存在は現れなかった。

オレはこれから、ホワイトルームに帰ることになる。自由と言うものは与えられないだろう。いや、この高度育成高等学校も所詮、鳥かごに過ぎなかったのだろう。オレは自由、平等を知るためにこの学校に来たが、どちらも経験をすることはできなかった。

さて、帰る前に一つやらなければならないことがある。

 

「ねぇ~、清隆!外出たらどこへ行く?どこ行きたい?」

と、満面の笑顔で聞いてきた。

 

「恵…」

 

「ん、なに?」

 

「別れよう」

オレはそう淡白に答えるが恵は、

 

「え…今なんて言ったの?」

そう聞き返す。周りにいたクラスメイトも一気に静まり返る。みんながいる前で申し訳ないと思うが、なにしろオレには時間もなければ心に余裕が無かった。もう全てがどうでもよくなっていたからだ。

 

「別れようと言ったんだ」

 

「なんで?ねぇ…なんでよ、私なにかした?最後の特別試験だって、清隆の指示を完璧にこなしたじゃん」

恵は、オレの手を掴み縋るように聞いてきた。周りの奴らも唖然としている。

 

「あぁ…そうだな、お前は確かにオレの指示通り動いてくれた。恵にはなんの文句もない、それどころか、感謝している。」

 

「じゃあ、なんでよ!!」

 

「オレは、お前を好きだと思ったことはない。

お前も知っているはずだ。オレは、すべての人間を道具としてしか見ていない。道具がどうなろうと関係ない、最後に俺が勝ってさえいればそれでいい。

恵、お前は俺の道具として良く役に立ってくれた。お前の使い道はもうない、故にこのまま付き合う必要もないだろう」

俺はたんたんと答える。

 

「なによそれ…清隆が人を道具としてしか見ていなかったのは、知ってたよ。でも春休みのとき、清隆から告白してきたよね?あの後も「好きだ」って言ってくれてたでしょ?あれは全て嘘だったわけ!?」

だんだんと口調が荒くなっていく、しかし、俺の心はなにも動かない。

 

「あぁ嘘だ、お前という駒を動かすためにしたまでのこと。」

 

「…」

絶望し、黙ってしまった恵に最後の言葉をかける

 

「なぁ、お前はオレのことを何も知らないだろう。オレはお前に過去のことを聞かれても、ずっと秘密にしていたはずだ。なぜ、そんなやつのことを信用できる?」

 

「じゃあな、恵

 さよならだ。」

オレはそういい、恵から背中を向け歩き出す。

 

「いやぁぁぁあ、清隆!!行かないでぇええ!」

泣き喚く、恵。最後学年末試験、最も貢献した人物がそんな事を言うとは思ってもいなかったクラスメイトは、今だ理解できず、呆然としていた。

恵の言葉は、随分と前に同じことを聞いた気がする。結局オレはあのときから何も成長できてないのだろう。目を見張る成長を遂げた、龍園、一ノ瀬、そして歴代最高と言われる兄を超えた堀北。オレは本当に羨ましく思った。  

 

すぐに頭をクリアにし、次のことを考える。

・ホワイトルームから逃げ出す

・父親を貶めるために動く

等を考え始める。だが、どうにも上手く頭が回らない。

生まれて初めて感じるこの虚無感はなんだろうか。

自由になりたい、開放されたいと考えながら歩いているといつの間にか、よく茶柱先生に呼び出されていた屋上に来ていた。考えることが疲れたオレは、考えることを辞めた。もういいだろうどこへ行っても自由にはありつけない、考えるのを辞め本能に身を任せた。フェンスをまたぎそのまま身を投げ出す。走馬灯を見たが、どれもどうでもいい記憶だ。身体に激痛が走る。周りから叫び声が聞こえるが、それもどうでもいいこと。

オレは自由になりたかったと思いながら目を閉じた。

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

目を覚ますと、見知らぬ天井だった。

 

(は??オレは死んたはず)

俺は何がなんだか分からず。起き上がろうとしても起き上がれなかった。

「あぅ~あぅ~」

声を出そうとしたが、上手く話せない手足を動かしたとき、自分の手足が赤子サイズになっているのを見て、人生で初めて驚き、声を出した。

 

「あぎゃー!?」

 

少し声が大きかったからだろうか、声を聞きつけて足音が近づいてきた。

 

「あら?キヨ起きた?」

そう言って近づいてきたのは、ヨーロッパ系の二十代の美女であった。まあ、日本人からしたら、ヨーロッパの人は誰でもきれいに見えるんだが…

 

そして、オレを抱えて頭をなでてきた。

なんとも言えない気持ちになった。こんなことをしてもらったことはなかったからだ。そうこうしてるうちに、なんとなく現状を把握した。俺はラノベとかでよくある、転生というものをしたのだろうまさか、そんなことが本当にあるとは思わなかったが…

 

ん??てことは、オレは、つまり…

自由を手に入れたということか!

思いの外、簡単に自由を手に入れらた。

 

それから、一ヶ月程すぎ、言語が良くわかってきた。そして、どうやらオレの名前は

   キヨン・ジェイルーン

          というらしい。

親からはキヨと呼ばれている。

 

それからまた時が流れ、1歳になったとき初めて家の外に出た。その時、目にしたのは、壁だった。青空は見える。だが、目の前にあるのは高い壁。50メートルくらいあるだろうか。

 

「おかあさん、あのかべ、なに?」

おれはまだ子供っぽく話している。

 

「あれはね、巨人から私達を守ってくれるんだよ」

 

ん??はい?巨人?

 

「きょじん?」

 

「そうなの、あの壁の向こうには人間を食べる巨人が沢山居るんだよ」

 

え、理解が追いつかないと言うより、理解したくない。

 

「なんで、巨人はいるの??」

 

「さぁ、わからないわ

だからね、絶対に壁の外には、出たらだめだよ」」

 

オレは正直なところ、巨人の存在には驚いたがそれ以上に、先程の言葉が頭から離れない。

[絶対に壁の外には、出たら駄目]

オレは、急激に心が冷めていく。

この世界に転生し、初めて家族の暖かさを少しずつ理解した。オレの心は、少しずつ自由へと開放されつつあったはず。たが、たったさっきの言葉で前世の考えかたに引き戻されてしまった。

結局俺は転生しても自由を得られない…

 

それからまた時が流れ二歳になった頃、オレは一人の少年と出会った。

 




ぜひ、続きもよろしく!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エレンとミカサとの出会い

今回は短いのかな?
誰か教えてください



オレは母親に抱っこされ、家の周りを散歩している。

父は仕事へ、母は家事をしている。一般家庭で、家事の合間に外へ散歩をしてくれる。家の中にある本は全て読んでしまったため、退屈で仕方ない、散歩してくれるのは本当にありがたいと思う。と、そこへ、俺と同じように母親にかかえられ散歩している、親子とばったり出くわした。

 

「あら、イェーガーさん

  おはよう」

と母が挨拶をする。

 

「あら、ジルさん

おはよう」

とイェーガーさんと呼ばれた女性が返す。

母とイェーガーさんは、そこからベチャクチャと、女子による女子のための弾丸トークを始めた。俺は聞くだけ無駄だと判断し聞くのは辞めた。そして、抱えられた者同士で、目があう。無言のまま数秒がたった。気まずく感じた俺は声をかけることにした。

 

「俺は、キヨン・ジェイルーンだ。

君は?」

 

「えれん・いぇーがー」

 

「そうか、エレンよろしくな」

おれは精一杯、元気に声をだした。

 

これが、オレとエレンの初対面である。

オレとエレンの会話はそれだけだった。

まだお互い2歳になったばっかだし、そんなものだろう。

そして、そのまま帰宅したがエレンと俺の家は隣だった。まさか、今まで気付かなかったとは…

 

それから、俺とエレンは良く遊ぶようになった。いや、遊ぶというよりは面倒を見てやってる感じだったが…まあ何にしろ仲良くはなった。相手が2歳児だからだろうだろうか、駒だとか使えるとか考えずに、共に過ごすことができた。居心地は悪くないな。

外で遊んだり家の中で遊んだり、求めていた平穏な暮らしができた。それでも、前世で日課だった体づくりはやっていた。なにか起きた時に対応できるようにはしとかないとな。

そんな日々をおくり、オレたちは九歳になったとき、エレンがある事件を起こした。

その日は、オレとカルラとオレの母でエレンの家に滞在し、オレの父はアッカーマン家に用事があり、出向いていた。

そして、エレンとエレンの父もアッカーマン家に用事があったため出向いていた。オレがエレン達についいていかなかったのは、エレンの父と上手く距離感を掴めなかったからだ。決して、嫌いだとか苦手とかではないのだが、初めて会った時からよく訝し気な表情をされ、距離を縮めにくかった。みんながいるときには普通に話せるのだが…

そして、エレンはミカサを連れて帰ってきたが、ミカサの両親とオレの父がいなかったので、カルラが

 

「ミカサ、あなたのお母さんたちはどうしたの?」

 

と聞くが

 

「…」

 

ミカサは黙って、ただ俯いていた。

 

代わりにエレンの父が話してくれた。

ミカサの両親とオレの父が盗賊に襲撃され亡くなっていて、ミカサだけ生かされていたこと。そのミカサをエレンが一人で助けたことを話してくれた。

それを聞いた母は、一気に顔を悪くし、膝から崩れ落ち嗚咽していた。オレもあの前世とは間反対で優しい父が亡くなったことには悲しく思ったが、泣くことはできなかった。なので、すぐに母を慰めることにした。

カルラはというと、エレンに一人でそんな危ないことに起こりつつもミカサを助けたことには「よくやった」と、褒めていた。

エレン曰く、「人と似ている有害な獣を駆除した」とのことだった。

オレは

「わざわざ危険を冒してまで、敵を討ってくれてありがとう」と、感謝をした。

 

その後、少し親同士で話し合いミカサはもちろんのこと、オレと母もエレンと一緒に暮らすことになった。理由は、母は専業主婦で稼ぎ手がなかったからである。

一緒に暮らすと言っても、家が隣なので寝るときは別々であり、子供の面倒を母二人で見て、エレンの父が稼ぎ手になるということだった。

オレにはエレンとミカサ、二人の家族ができた。だが、オレの平穏な生活は崩れてしまった。なぜならミカサはエレンへの思いが強すぎてエレンとミカサが街で暴れその対応をオレがすることになる。以前ならエレンだけだったので、なんとかなっていたが、化け物のようなミカサは止めれない。

結局、オレはエレンに振り回され、それをミカサが更に悪化させ、オレが怒られる日々を過ごす。これがオレ達の日常である。




書き間違いがないか、確認をするのですがなんとも恥ずかしい。自分の文章が下手過ぎるからだろうか?たすけて~


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

化け物の失笑

 

その日は

エレン、ミカサ、オレの三人で薪拾いをしていた。正確には、オレとミカサの二人でだ。エレンは一人、木の下で爆睡をしていやがる。これも全てはミカサのせいである、ミカサがエレンを甘やかしエレンの分まで自分が拾うからエレンはよくさぼるようになっていた。

以前、「エレンが寝るならオレも寝てていいか?」と聞いたら、拳骨ついでに「あんたはダメ」と言われた...差別だ。

まあ、そんなこんなでオレは、どこかの腰巾着野郎とは違い、サボらずに薪を拾い集めミカサと二人で三人分の薪を拾い集めたのだった。

 

「エレン!!起きて、もう帰らないと日が暮れる」

 

「?...あれ?ミカサ...お前、髪伸びてないか?」

 

とエレンが意味の分からないことをほざいていた。先ほどから口が悪いのは、エレンにムカついているからだ。

 

「...そんなに寝ぼけるまで、熟睡していたの?」

 

「イヤッ...なんか...すっげー長い夢を見ていた気がするんだけど...何だったっけ、思い出せねぇな」

 

オレとミカサは振り向きエレンの顔を見て、驚いた。

 

「エレン?どうして泣いているの?」

 

「え...?」

 

「泣けば許してもらえると思うなよ?腰巾着野郎」

 

「いてっ」

 

最後のほうは、聞こえないように小さめで言ったのに、化け物ミカサは聞こえていたようで、拳骨を食らった。

 

845

 

薪を広い腰巾着を起こした俺たちは家に帰宅していた。

 

「言うなよ...誰にもオレが泣いていたとか」

 

と、エレンは顔を赤くしていた。

 

「言わない、でも、理由もなく、涙が出るなんて、一度おじさんに診てもらったら?」

 

「馬鹿言え!親父に言えるか、こんなこと」

 

「何泣いてんだ、エレン?」

 

と、声をかけてきたのは、王家公認のサボり部隊所属ハンネスだった。

 

「ハ...ハンネスさん」

 

「ミカサとキヨンに怒られてのか?」

 

ミカサに怒られたのは、オレなのだが...

 

「は!?なんでオレが泣くんだよ!...って、酒くさ!?」

 

傍で三人の兵士が飲んだくれていた。

 

「また飲んでる」

 

「お前らも一緒にどうだ?」

 

「イヤ...あの...仕事は?」

 

「おう!今日は門兵だ!」

 

「一日中ここにいるわけだから、やがて腹が減り喉が渇く飲み物の中にたまたま、酒が混じっていたことは、ささいな問題にすぎる」

 

正真正銘の屑だな

 

「そんなんで、イザって時に戦えんの?」

 

「...イザってときってなんだよ?」

 

と、こともなさげに答えるハンネスと三人のモブたち、こいつらまじかよ...

 

「何言ってんだよ!決まってんだろ?ヤツらが壁を壊して!!町に入ってきた時だよ!!」

 

「ハハハ、元気いいな、医者のせがれ!!」

 

「ヤツらが、壁を壊すことがあったら、そうしっかりやるさ」

 

「で...でも!そーやって安心している時が危ないって父さんが言ってたんだ!!」

 

「まあ...確かにそうかもな、街の恩人のイェーガー先生には頭が上がらねぇんだけど...でもなぁ、兵士になれば壁の補強作業とかで壁の外をうろつくヤツらを見かける機会があるんだが...ヤツらにこの50メートルのどうこうできるとは思えねぇんだ」

 

「じゃあ、そもそもヤツらと戦う覚悟なんかねぇんだな!!」

 

「ねぇな!」

 

まじかよ…言い切りやがったぞ…

 

「なっ...なんだよ!もう[駐屯兵団]なんて名乗るのやめて[壁工事団]にしろよ」

 

「それもわるくねぇな!しかしなエレン...兵士が活躍するってことはそれこそ最悪の時だ…オレたちが役立たずのただ飯食らいって馬鹿にされている時のほうが、みんな平和に暮らせているんだぞ?」

 

「…!!」

 

黙ってしまうエレン

オレ自身も少しだけイラついたので、今回はエレンの肩を持とう

 

「ハンネスさん」

 

「ん、どうした?」

 

今まで黙っていたオレが、急に話すことでこの場にいる全員がこちらを見た。

 

「確かにハンネスさんが言った通り、兵士が活躍するときは最悪のときでしょう。しかし、だからと言って飲んだくれていて言い訳ではないはずです。あんたらは先ほど、「この壁をどうこうできるとは思えない」と仰っておりましたよね?それは100%、確実と言ううわけではないのにどうしてそういいきれるのですか?100年間大丈夫だっただけで、それだけで確信を持てるなんてあんたらはずいぶんとおめでたい頭をもっているんですね」

 

オレはハンネスよりも傍らのモブ兵士に向かって言い放った。

オレの言葉にハンネスさんも顔を顰める。だが、ハンネスさんよりも先にモブたちが反論してきた。

 

「ガキが偉そうに言ってんじゃねぇ!ヤツらがこの壁をどうこうできるかはな、実際働いてる俺たちのほうが分かってんだよ。ガキは黙って母ちゃんの手伝いでもしてな!!」

 

酒を飲んでいるからだろうか、このモブは先ほどのオレの言葉を理解できていない。

 

「はぁ...馬鹿だな...あんたさっきオレが言ったことを理解できていないな、酒なんか飲んでるからだろ。経験がどうこう言ってるのではない。なんの確証もないのに酒を飲んで、万が一の時どうするのかと言っている」

 

「あんたら、何か勘違いしているようだから教えてやる。確証を持つと言うことは、まず相手のことを理解するところから始めなければならない、相手のことを何も知らないのに、確証も何もないだろう」

 

「っ...」

 

言い返せない飲んだくれたちに、さらに煽るように言葉を続ける。

 

「あんたらが、そうやって飲んでいる金は街の人のお金で飲めている。この狭い壁の中で暮らしているんだ貧しく、今日を生きるので精一杯の人も多いだろう。これでもし、ヤツらが攻めてきた時街の人を守れなっかたら、誰がお前らを擁護できるんだろうな。

相手があんな化け物なんだ、まじめに働いているのなら奴らに負けても、少しは擁護してくれる人もいるだろうが、今のあんたらを見る限り誰も擁護なんてしてくれないだろうな。せいぜい逃げる町の人達の囮となって、奴らの餌になってくれ」

 

「あぁ!!そうだぞ!!そこの子供の言うとおりだぜ!!お前たちは俺たちの税金を貪って生きているんだからな、せいぜい俺たちを逃がす囮にはなれよ!!」

 

オレの演説?のようなものを聞いていた町の人たちが、オレの言葉に便乗した。すっかりアウェーになったハンネスさんたちのモブの一人が、[バンッッッ!!]と机をたたいて何やら叫びながらこちらに近づいてきた。

 

「うるせぇぇ!!俺達が大丈夫だって言ってんだから、大丈夫なんだよ!!」

 

やはり馬鹿なんだな、いや、酒を飲んでいる時点で馬鹿なのは分かっていたことだ。

 

「なんだよ!正論言われてキレるとか兵士とは思えないな!」

 

とオレとモブの間に入ってきたエレン。なぜ、弱いお前が煽る...エレンにつられてミカサも入ってきたが、オレは二人の肩に手を置き、後ろに行くよう引っ張る。

 

「お、おいっ!!大丈夫なのかよ!」

 

「大丈夫だ、こんな馬鹿に負けるほど弱くない。」

 

その言葉にモブは当然激怒し、掴みかかろうとしてきた。周囲の人達も止めるべきだと判断し、こちらに近付いてきた。だが、オレは掴みかかろうとしてきた手を躱し、相手の懐に入り柔道の背負い投げの要領で相手を投げ飛ばし、ちょうどいい高さにきた相手の頭を掴み、拾ってきた薪を一本取り出し、とがっている部分を相手の目に近付ける。

 

「ひっっ...!」

 

モブの顔は一気に恐怖に染まり、周囲の人達も何が起きたのか理解できず、足を止めて唖然としていた。

 

「オレのような小さいやつに負け、ビビっている奴が街を守る何てこと不可能だな」

 

ストレス発散の目的で殴ろうと思っていたが、これ以上一緒にいると逆にストレスが溜まりそうだ。

 

「もういい行くぞ、エレン、ミカサ」

 

「お、おう」

 

「うん...」

 

帰ろうとしたその時[[[カンカンカンカンカンカン]]]と鐘が鳴った。この音は...

 

「調査兵団が帰ってきた。正面の門が開くぞ!!」

 

「・・・・英雄の凱旋だ・・・・!!」

 

「行くぞ!ミカサ、キヨン」

 

「これだけしか帰ってきてないのか...」

 

「100人以上で調査に向かって20人もいないぞ...みんな食われちまったのか」

 

街の人がまばらにそう呟き、重々しい空気になった。

 

「ブラウン!!ブラウン!!あの...息子がブラウンが見当たらないんですが...息子は...どこでしょうか...!?」

 

母親が団長に縋り付きながら、聞いていた。

 

「…!!ブラウンの母親だ...持ってこい」

 

「え…?」

 

そう言って部下から母親に渡されたのは、明らかに人のサイズではなく、汚れた布に巻かれていた。母親は理解できず布を捲ると、腕一本だけが出てきた。それでも母親は理解できなかった。いや、理解したくなかったのだろう、怪訝な面持ちで団長に目を向ける

 

「...それだけしか、取り返せませんでした。」

 

ようやく意味を理解し、泣き崩れる母親、周りの空気ももっと悪くなる。

 

「…うぅ...うぁ...うぁぁぁあああぁうぁぁぁああ...うぅ...でも息子は役に立てたのですよね...」

 

考えれば分かることを…愚かだな...調査兵団にとって仲間が死ぬことはとても悲しいことではあるが、成果のために死ぬ覚悟持っている奴らだ。例え、仲間が死んでいようと成果を得られれば、もう少し明るい雰囲気だろう。

 

「もちろん...!イヤ…今日の調査で我々は…今日も…!!何の成果も得られませんでした!!私が無能なばかりに、ただいたずらに兵士を死なせ…!!ヤツらの正体を…!!突き止めることができませんでした!!」

 

団長と母親は膝から泣き崩れた。場の空気が悪く、周囲の人が逃げるように退散しだしたころ、オレ達も帰宅することにした。

 

「エレン…調査兵団に入りたいって気持ちは変わった?」

 

「…!!」

 

オレ達の前ではいつも調査兵団に入りたいと言っていたエレンだったが、今日のあの様子を見て何も言い返せないようだ。

すると、ミカサはこちらに向いて

 

「キヨン、私はあなたが強いこと今まで知らなかった。隠していたことは置いておくとして…ねぇ…あなたも調査兵団に入りたいの?」

 

「えっ!?本当か⁉キヨン?」

 

ミカサの突然の質問にエレンは少し嬉しそうに聞いてきた。

 

「…どうしてそう思ったんだ?」

 

逆に問いかけてみた

 

「キヨンはアルミンが殴られているのを見ても私とエレンの後ろに隠れているだけで、いつも何もしていなかった。今回も特段あなたが会話に割り込む必要なんてなっかたはず、況してや街のみんなが見ている前であの馬鹿を投げ飛ばす必要はなかった…違う?」

 

「...」

 

「それに、キヨンは外の世界について話すとき、若干楽しそうに見えるから」

 

「そうか?キヨンはいつも無表情だからなオレはわかんなかった。」

 

ミカサの言葉にエレンが割り込む

 

「あなたは黙っていて」

 

ミカサに注意されれば黙るしかない

 

「あまりそう言ったことは、考えていないな…

オレは、平穏に暮らせたらそれでいいからな」

 

のらりくらりと返す

 

「本当に?あなたのことは表情が変わらないし、喧嘩の強さも隠していたしよく分からない…」

 

「何か気分を悪くしたなら謝る。喧嘩のことは、まぁミカサが居るから大丈夫だと思っていたし、今回前へ出て行ったのはミカサにこき使われていたストレスとあの飲んだくれたちの言ってることに腹が立ったんだ」

 

「まぁ…いい、私としてはあなた達には危険なことはしてほしくない…ただ、それだけだから」

 

「そうか…」

 

そんな話をしていたら、家に着いた。

 

「「「ただいま」」」

 

「おかえりなさい、おそかったわね」

 

「イヤ…まぁ色々あって…」

 

家にはエレンの両親とオレの母がいた

出されたご飯を食べ少し落ち着いたところで、ミカサがいきなり話をぶっこんで来た。

 

「エレンが調査兵団に入りたいって…」

 

その話を聞いたカルラは血相を変えてエレンの肩を掴む。オレの母も表情を悪くする。

 

「何を考えてるの⁉壁の外に出た人類がどれだけ死んだのか分かってるの?」

 

「分かってるよ」

 

カルラの怒鳴り声にエレンは反抗する。そんな中、ミカサのいきなりのカミングアウトにも表情を崩さなかった、おじさんがエレンに質問した。

 

「エレン…どうして外に出たいんだ?」

 

「知りたいんだ!!外の世界がどうなっているのか、何も知らずに一生壁の中で過ごすなんて嫌だ!!」

 

「…そうか…船の時間だそろそろ行くよ」

 

「ちょっと!!あなた、エレンを説得してよ!」

 

「カルラ…人間の探求心とは誰かに言われて、抑えられるものではないよ」

 

「エレン…帰ったら…ずっと秘密にしていた地下室を見せてやろう」

 

こいつどこ見て話してんだ⁇何もない所を見ながら話すおじさん。おじさんはたまに、変なとこ見て話す時があるんだよな...

 

「ほ…本当!?」

 

そして、おじさんは出て行った。

 

「エレン…駄目だからね、調査兵団なんて馬鹿な真似」

 

「は⁉馬鹿だって⁉オレには家畜でも平気でいられる人間の方がよっぽどマヌケに見えるね!」

 

エレンはそう啖呵を切って家から出て行った。

 

「…エレン」

 

カルラ、ミカサは心配しオロオロしている。

 

「ミカサ、キヨン、あの子はだいぶ危なっかしいから…困ったときは三人で助け合うんだよ」

 

「うん!」

 

「わかった」

 

ミカサに続いてそう答えたが、ミカサにジト目で睨まれた。あんたもエレンと仲間でしょとか思われてるんだろうか…

そして、ミカサと二人でエレンを追いかけに行くため家を出ていくが、オレは一人で別のとこに向かった。

少し走ると目的の人物が見えてきた。

 

「おじさん、船はそっちじゃないだろ?」

 

オレが追いかけていた人物は先ほど「船の時間だ」と言い残してさっていたおじさんだ。

 

「キヨンか…どうしてここに?」

 

「それはこちらのセリフだけど…まぁいいか、なぁ、あんたに聞いておきたいことがあるんだけど」

 

「…なんだい、今じゃなきゃ駄目かな?」

 

「あぁ、あんた家に居た時からずっと様子がおかしかったからな。今、聞いて起きたい」

 

「っ…驚いた、上手く隠していたつもりだったんだけどね。カルラにも何も言われなっかたのに…」

 

「オレはそういうことを見破るのは得意だからな。だが、あんたたまにどこかを凝視して話すだろ?その時の顔は、結構表情にでてるぞ?」

 

「っ…」

 

「まぁそんなことはいい…本当に聞きたいのはこっちだ。あんた、巨人の正体を知っているんじゃないのか?」

 

少し威圧感を出し、真剣な話をしているのだと思わせた。

聞きたいことは、まだまだあったが今回はこの質問にした。

 

「ほ…本当に驚いたよ…君は…一体何者なんだい…?いつもの君とは別人に見えるよ...」

 

 

「巨人に関して疑問を抱いたのは、歴史書を読んだ時だ。本来は客観的な言い方をするはずの歴史書が、『今から107年前我々以外の人類は皆、巨人に食い尽くされた』と断定している。なぜ、外の世界を碌に歩けもしないのに、断定できるんだ?調査兵団でさえ、遠征に行くたびにズタボロになって帰ってくる。こうなれば、誰がどう見ても明らかに怪しく思う。そして、あんただ、エレンが調査兵団に入りたいと言っても表情一つ変えないし、それを止めようともしない。極めつけに、エレンの覚悟見るや否や「地下室を見せてやる」と言っていたな。

そこに巨人の正体を知れる物があるのかは知らないが、巨人に関することがあるんじゃないか?」

 

「…悪いね…今、話すことはできないんだ。だが、いつか分かる日が来る」

 

「…」

 

「キヨン…頼む…エレンを止めてくれ…そして、助けてやってくれ…」

 

そう言葉を捻りだした。顔色が悪く、今にも倒れてしまいそうだった。まるで、最後のお別れのような言い方だ。

 

「では、そろそろ…いくよ…用事があるのは本当だ」

 

と。言って去っていった。

それにしても、これからなにか起きると暗示しているかのようだった。助けてやってくれは、まだ分かるが止めてくれとはどういうことなのだろうか…

オレはそのことを考えながら、街を散歩していた。いつのまにか夕暮れ時になっていた。街は賑わっていて、いつもと何も変わらない。しかし、なぜか異様な静けさを感じていたその時だった。

 

[[[パァァァゴォォォオオオオン]]]

 

門のある壁の真上で、突如丸い雷のようなものが発生し、地震の如く地面が揺れ、その拍子に何人かの人は転倒していた。

皆なにが起こっているのか理解できていないようだったが、一人の人が壁の方向を指していたのを見てそれにつられるように、全員が壁の方を見た。

 

「キヨン!!お…おい…何が見えるんだよ⁉」

 

と、ミカサ、アルミン、エレンがこちらへやってきた。オレは壁の方を指さした。壁の方では煙が出ているだけで、未だに何が起こったかは分からなかった。

だが、その直後何が起きたのか理解できた。50メートルの壁から人間の何倍もある手が出てきたのだ。

 

「そんな…」

 

それだけで、街の人たちも理解したのだろう。逃げ始める人もちらほらいる。

 

「あの...壁は...50メートル...だぞ」

 

アルミンがそう言い

 

「あ…ヤツだ…巨人だ」

 

エレンはそう言う

 

「駐屯兵団の活躍の時が来たようだ。」

 

オレはそう冷静に言う

だが、オレの言葉は誰にも届いてないようで、全員が壁のほう凝視していた

 

そして、超大型巨人が筋肉ムキムキの顔を出したかと思えば、門を破壊した。

 

その日人類は思い出しただろう

ヤツらに支配されていた恐怖を…

鳥かごの中に囚われていた屈辱を…

 

だが、オレはこう思っていた...

家族の...友達の暖かさを実感し、平穏に暮らせていたことに不満はなかったが、自由には程遠い生活をしていたことに不満はあった。今回の超大型巨人が門を破壊したことで、壁の中に住む全ての民が『壁の中は決して安全ではない』と理解したことだろう。

逃げるだけでは、駄目だと理解したはずだ。

今後、エレンやミカサ、アルミン、親たちが生きていけるかはわからない。この人たちは少しばかし人の暖かみを教えてくれた、大切な人たちだ。だが、今のオレでは守ることができない。自分でさえ、生きていられるかわからない。

その点に関しては、不安だ。

だが…

 

なんて、素晴らしいんだ

 

そう感じずにはいられない

戦わなければ、勝てない。

戦わなければ、生きていけない。

そして...

戦わなければ、自由を得られない。

壁の中に住む人たちが、その意思を今日持つことになった。

ようやく、自由への一歩が踏み出せたわけだ。

オレは今どんな顔をしているのだろうか...

分からない

自由の道が、楽しみで笑っているのだろうか

不安でいっぱいで、絶望した表情をしているのだろうか

今回は表情が動いてるのかもしれない

だが、そんなことはどうでもいい

 

今…この時だけは…

 

巨人に…

 

感謝を

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

side

短いですが…



 

side

エレン 

キヨンは物心ついたときから一緒にいた気の許せる奴だった。

親から聞いた話では、2.3歳の時は遊んでいると言うよりは面倒を見て貰っているようだったと聞かされた。

まぁ無表情で何考えているか、分からんけど、頼りになるやつだった。

そして今日、いつも酒飲んでサボっている兵士を倒したときは、少しだけすこ~しだけキヨンにびびってしまった。

いつものキヨンとは、雰囲気が違っていて少し殺気を感じた。周りの奴らも唖然としてその場に留まり、横にいたミカサでさえ少し怖気づいていた気がした。

そんなこともあり、帰り道にミカサがキヨンに「あなたも調査兵団に入りたいの?」と聞いたときは嬉しくなった。オレの周りでは、調査兵団になりたいと言う奴はいないし、それどころかそんなことを言えば馬鹿にされるだけだった。だからこそ、こんな近くに志を一緒に歩んでいける仲間がいたことはオレにとっては、朗報だった。

それから、しばらくしてミカサとアルミンと駄弁っていたら[[[パァァァゴォォォオオオオン]]]と、とてつもなくでかい音が鳴り、オレたちは腰かけていたところから転げ落ちてしまった。何が起きたか分からず、三人で街場の方へ走り出すとそこにはキヨンがいた。

キヨンは壁の方へ指さし、その指した方へ目をやると壁の向こう側から大きな煙が上がっていた。その直後に、壁に手をつき顔を出すヤツが現れた。周囲は騒然としていたが、オレはそこから目が離せなかった。ここから、オレの人生が大きく変わっていくのだろうと、ただ、なんとなくそう思った。

 

ミカサ

エレンが助けてくれて、おじさんとエレンと一緒にエレンの家に帰ると、そこには無機質な目をした自分と同じくらいの少年がいた。

その少年は私の両親と一緒にいた男の人の息子さんだった。父親の訃報を聞かされた時は、顔を俯かせていたが泣いている様子ではなかった。そして、横で泣き崩れている母を慰めている。

それからは、エレンとキヨンは私の家族になり、よく三人で過ごすようになった。外で遊ぶときはアルミンともよく遊ぶ。連れ去られたときは、こんな夢みたいな日々を過ごせるとは思えなかった。私はこの日常を大切にしたいと思うようになっていた。

私は、よくエレンを特別扱いするが、ほかの二人を特別に扱うことはない。気の許せる友達ではあるんだけど…エレンは私より前から一緒にいるキヨンによく相談を持ち掛ける。落ち着いていて頼れるからだろうか…それが羨ましくてキヨンの真似してどんな時も冷静でいるようにしている。それでも、相談するのは、キヨンだからムカついて生意気なキヨンによく拳骨を食らわせる。キヨンには悪いけれど、無表情のキヨンの顔が少し変わるのが、なんだか優越感に浸れて嬉しい。だから、これだけは辞められない…

そして、今日キヨンがとても強いことを知った。私は皆よりも強いという自負があったが、キヨンに勝てるかはわからない…今日、初めてキヨンの本性を垣間見た気がした。無機質な瞳に闇が広がっている感じがして、怖かった。

こんな人、大人でも見たことがなかった。そしてなぜここで、本性を出したのか気になった。もしかして、エレンと同じ調査兵団だろうか…なんの確証もない、ただの勘だけど嫌なことはよく当たる。そう考えれば考えるほど、それが正しいのではないかと思いこんでしまう。

怖く感じても、大切な家族である。そんな家族が危険な場所に行って欲しくない。そんな気持ちで、キヨンに問うのだった。

 

アルミン

キヨンは、よく外で遊ぶ友達だ。知り合ったばかりのころは女だと思われていたようで、川で服を脱いだ時とても驚かれた。結構ショックだった…キヨンは常に落ち着いていて表情が変わらない、とても頼れる人だけどたまに抜けている。

でも、落ち着いて物事を判断でき、その知識の豊富さには目を見張るところがある。そんなキヨンを尊敬し僕も以前よりも本をよく読むようになった。

だが…今日門が破壊された。周囲は騒然とし、エレン、ミカサも平常心でない。僕はその衝撃から碌に立っていられなかったし恐怖であまり周りを見られなかったけど、キヨンが笑っているような気がしたのは気のせいだろうか…

 

エレンの父

キヨン…ただただ不気味な存在だ

一体…誰だろうか、進撃の巨人の力で未来を見てもエレンたちと関わっていないため、キヨンのことを知ることができなかった。

若しくは未来のエレンがキヨンに対しての記憶を見せてくれてないのだろうか…?だとしたらなぜ…

そして今日改めてその不気味さを感じさせられた。巨人の正体に感づいているようだった。本当に一体何者だろうか…エレンを止めてくれる存在であってほしい、そんな思いから、目の前のまだ小さい子供に縋るようにお願いしてしまった。

この子の存在が良い未来へといきますようにと、ただお願いするしかできない自分に腹を立てながら、力なく一歩を踏み出した。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

今すべきこと

人類が住んでいるところは、三つの壁で覆われている。一番外側からウォール・マリア、ウォール・ローゼ、ウォール・シーナであり、オレが住んでいる場所は一番外のウォール・マリアから飛び出しているシガンシナ区である。

そしてその日、門は突如現れた超大型巨人によって破壊された。

100年無事だったオレの街は今から巨人に埋めつくされる。

だから、逃げなければならない。

あんな化け物に真っ向から勝てないのだから…

街の人達は、一斉に我さきへと走り出した。ウォール・マリアへと…

しかし、エレンは逃げなっかた。そしてオレもだ。

 

「逃げるぞ!!三人とも!!」

 

アルミンが叫びながら、マリアの方へ駆け出す。しかし、オレとエレンは、逆の方へ走り出した。

 

「エレン!キヨン⁉」

 

「壁の破片が飛んでった先に家が!!母さんが!!」

 

それを聞いてか、ミカサもオレたちの後に続くが、アルミンは怖気ついてこちらにはこれないようだった。後ろで何か叫んでいたが、もうオレ達には聞こえない。

オレ達三人はただ全力で走る。家の方へと…

そして、次の曲がり角を曲がれば、家がある。大丈夫であってほしかったが、現実は非情である。門の破片が家に直撃していた。

エレンは一気に顔が蒼白になり、残り数メートルの距離を全力で走った。

そこには、エレンの母が下敷きになっていた。オレは母を探すため家の周りから中を調べ始めた。そして、母を見つけたが、家の瓦礫で腹を貫かれていて、もうすでに遅かった。

オレは母を諦め、苦戦しているエレンの方へ行く。

 

「お前の母さんは⁉」

 

「…」

 

と聞いてきたが、オレは何も言わなかった。

カルラの上に載っている瓦礫をどうにかできないかと、梃子の原理を利用したりしたがどうにもならなかった。駄目だ完全に瓦礫と瓦礫が絡まっていて、人間の力では動かない。

そんなオレの様子を見て、エレン、ミカサは察したようで何も言わず、カルラの救出に専念した。

そこへ、一匹のにやけ顔の巨人が近づいてきた。

 

「母さんの足は瓦礫に潰されてここから出られたとしても走れない…わかるだろ?」

 

「オレが担いで走るよ!」

 

「どうしていつも母さんの言うこと聞かないの!最後くらい言うこと聞いてよ!!キヨン!!ミカサ!!」

 

オレたちの名前を呼ぶ、エレンを説得しろということだろう

だが、

 

「ヤダ…」

 

と、いつもは従順なミカサだが、今回は言うことを聞かなかった。

オレは助けるのは不可能だと判断したが説得できるわけないと思い、周囲をみる。

そこへ、知っている顔が空を飛び回っているのが見えた。その人物に向かって、石を投げ自分はここにいると主張した。それに気づきこちらへやってきた。

 

「おい!キヨン、何してんだ⁉」

 

「応援を呼んだ」

 

そこにやってきたのは、ハンネスだった。

正直全く頼りにならない。

巨人に勝てるとも思えない。

カルラを救出できたとしても、オレたちが置いてけぼりになる。だから、カルラのことはもう諦めている。

この人に求めるのは、オレたちを無理やりでも、逃がすことと、そのアンカーを飛ばして壁に刺しガスで飛び回る立体起動装置を使用して巨人とどう戦うのかを少しでも見せてもらえれば良いと思った。

 

「ハンネスさん!!」

 

エレン達は兵士が来たことで、少しほっとしている

 

「駄目よ!子供を連れて逃げて!」

 

「見くびってもらっちゃ困るぜカルラ!オレはこの巨人をぶっ殺してきっちり四人とも助ける」

 

そうかっこよく飛び出していくハンネスだったが

 

「恩人の家族を救ってようやく恩返しを…」

 

と、言葉だけでなく、行動もとまっていた。巨人の顔を見て恐怖しているのだろう。本当に役に立たないな…

 

「もういい…ハンネス、オレたちを逃がせ」

 

オレがそういうと

 

「はぁ⁉何言ってやがんだ!」

 

エレンは驚愕し、オレに怒鳴ったが

 

「あいつが巨人を倒すことなど不可能だ、カルラさんを助け出すことはできない。

ならもう逃げるしかない」

 

「キヨン…ありがとう」

 

オレはそう淡々と答え、カルラは泣きながらお礼を言う

 

「カルラさん…今までお世話になりました。さようなら」

 

「えぇ…さようなら…エレンとミカサをお願いね」

 

そして、ハンネスは三人を抱えて逃げ出した。オレたちはカルラの最期をハンネスに抱えられながら見届ける。オレたちがどうやってもどけられなかった瓦礫をあっさりとどけ、カルラを持ち上げそのままカルラの身体をかみ砕いた。

あたりには血しぶきが舞い上がった。

隣のエレンは絶望し、ミカサは顔を背けている。

それから、少しして落ち着いたエレンがハンネスの頭を殴った。

 

「いっ…!」

 

「エレン?何を…」

 

「もう少しで母さんを助けられたのに!!」

 

「余計な事すんじゃねぇ」

 

そうさらに殴ろうとしたエレンだったが、ハンネスに地面に投げ飛ばされた

 

「お前の母さんを助けられなかったのは…お前に力がなかったからだ…」

 

そう言われ、エレンはぶち切れハンネスに右ストレートを叩き込もうとするが、軽々ハンネスに止められる

 

「オレが…巨人に立ち向かわなかったのは…オレに勇気がなかったからだ…」

 

そうハンネスは慨嘆な表情で言った

 

「すまない」

 

そういわれてエレンは何も言い返せず、ただ泣いていた

 

「また…これか…」

 

オレ達三人はぎゅうぎゅう詰めの船に乗せられた

 

「これ以上は危険だ!!閉門しろ」

 

「何言ってんだ

まだ大勢の人が残ってんだろうが」

 

兵士たちが何やら言い合いしているその時だった。

全身を鎧のようなものでまとった巨人が門を壊した。その門はウォール・マリアのである。これで人類はウォール・ローゼまで後退させられたことになる

しかし、鎧をまとったあの巨人、そして超大型巨人は異様だった、他の巨人とは根本が違う、それはどちらも門を破壊しただけ、人を直接食うことをしない…まるで知性があるようだ…

船は出発し、乗れていない人たちは飛び乗ってきたが、殆どのものが川へ落ちた。

 

横に座っているエレンは涙を流し色々と後悔しているようだ。大方、最後の最後まで喧嘩しかできなかったことだろう

エレンは覚悟を決め息荒く立ち上がった

 

「フーーッ、フーーッ…駆逐してやる!!フーーッ、フーーッ…この世から…一匹残らず!!」

 

なんともすごい覚悟だった。隣でミカサ、近くにいたアルミンはエレンのその様子を見て戦慄していた

 

そして、逃げた先でオレたちは配膳を貰ってその日を過ごしていた。船で逃げた人たちは皆、食糧庫で過ごしていた。

その日の夜は非常に疲れていた。本当に最悪の日だったが、まだ終わっていなかった。

エレンが夜、おじさんに連れていかれるのを見た。オレはこっそり後をつけたが真夜中の森の中を明かりなしでついていくことが困難であり、見失ってしまった。諦めようとしたその時だった。森の中で丸い雷が光った

[パァァァゴォォォオオオオン]

あれは、超大型巨人が出現したときと同じ…

その時、近くにいた兵士がその光の方へかけていった。

どこかで見たことがある兵士だった。

巨人だったら、オレがいても役には立たないため諦めて帰ることにした。

倉庫に戻り眠りにつこうとしたとき、さっきの兵士がエレンを連れて来た。エレンは眠っており、おじさんの姿はなかったが、代わりにあるカギを首にかけていた。

あの鍵は、おじさんが秘密にしていたカギだ。おじさんはどこへ…

そして、あの兵士は団長だったな…

よくわからないことが多いが、とりあえず思考を巡らした。

 

・なぜ、エレン達を追いかけて行ったところで超大型巨人が出現した雷が光ったのか

・なぜ、おじさんではなく団長が連れて来たか

・あの異様な知性を持つ巨人はいったい…

・おじさんがなぜ鍵を託したのか

 

一つ目と二つ目はあの団長に聞けば分かる気がする。もし人間が巨人になれるなら…あの光が巨人になるときに現れるのであれば、エレン若しくはおじさんが巨人と言うことになるな…おじさんは前から怪しく、巨人のことについて知っていたようだ。うん…おじさんが巨人と断定してもいいかもいれない。なら…エレンはどうだ?エレンはそうは見えなかった。しかし、おじさんが巨人だと仮定し、エレンを連れていった先で丸い雷が光った。無関係と考えるほうが難しい。明日色々と動くか…

 

翌日

 

「エレン?大丈夫…?うなされてた」

 

「父さんと会ってた気がする…」

 

「まさか、夢だよ」

 

「そうかな…」

 

「行こう…食料の配給があるって」

 

オレたちは食料を貰いに行く。その前に昨日気になってたことを聞いとくことにした

 

「なぁエレン昨日夜どこかに行ってなかったか?」

 

オレの質問に二人は

 

「「え??」」

 

と、同じ反応をした。いつも野良猫のように鋭いミカサも昨日は疲れていてぐっすりだった

 

「そうなの…?エレン?」

 

「えっ…いや、なんか父さんとあってた気はするんだけど…」

 

「それ、さっきも言ってた」

 

「なぁエレンが首にかけてる鍵っておじさんの地下室の鍵だろ?昨日までは持っていなかったのに、なんで今あるんだ?」

 

「ッ…なんだったっけ…よく思い出せない…思い出せねぇのに…頭が…破裂しそうだ…」

 

頭を押さえて蹲るエレンに対して

 

「エレン!!大丈夫?」

 

ミカサが駆け寄る

なるほど、記憶の障害か…やっぱりあの夜何かあったんだな。肝心なことは分からないが少しは進んだな。

次は、団長を探そう

そして、ひと悶着あったが、配給を貰うことができた。その後はオレは団長を探すため街場をうろつきながら情報を集めた。どうやら、あの人はもう団長ではないらしい。

 

 

翌年

元団長を見つけた。

普段はこの街にいないので、たまにの巡回の時にしか現れない

 

「少しよろしいですか?」

 

「なんだ?」

 

オレが尋ねると、普通に返事をしてくれた。

 

「去年のウォール・マリアの巨人が侵入した事件のあと、オレ達は食料庫で過ごしていました。オレの横にはオレと同じくらいの少年がいたんですが、その子をあなたが森から抱えてくるのを見ていたのですが、その理由を知りたくてあなたを探しておりました」

 

単刀直入に聞くことにした。この元団長はあまりすぐれた人物でないのは分かっている。それは、あの時見ていたからな…単刀直入に聞くことで動揺を見せると思った。

案の定、目を見開いて少し固まっていた

 

「…あぁ…そのことか…エレン・イェーガーという少年だろう…エレンの父とは親しかったからな」

 

これには少し驚いた。まさか、おじさんが元団長と知りあいだったとはな

 

「そうでしたか、ですが今はなぜエレンをあなたが森の中から運んで来たのかを知りたいのです。連れて行った父ではなく…あなたがね」

 

オレは話を逸らさせないためにもう一度同じことを聞き、少し突っ込んだ質問をした。

 

「っ…そのことを知っていたとは、だが、すまない…

わたしも分からないのだ。

森の中へ入る前は親子で入っていくのを見て声を掛けたのだが、「関わらないでほしい」と突っぱねられてしまった。

そして、森の中で光が見えたので入ってみると、エレンが一人で気を失っていた」

 

「エレン一人でですか?」

 

「あぁ、そうだ、それで私が倉庫まで連れて行ったんだ。

もう、いいかな?」

 

「えぇ、ありがとうございます」

 

想像以上の収穫だった。その時の雰囲気までもがなんとなくで理解できた。

つまり、エレンの父が何かをしたことは間違いない

オレは歩きながら考える。

巨人の正体が人間だと考えれば、すべてのことに辻褄があう

だが、そうなると敵の強大さに絶望とも感じる。

ここでオレはまだ、確証は得られないが、一つそう結論付けて行動することにした。

 

【エレンは巨人になった】

 

となれば、あの二匹の巨人はエレンやおじさんと同じように巨人になれるのだろう

ということは、この壁の中に紛れて生活をしているのだろうか…それとも帰ったのか

とりあえず、オレのすることは決まった。エレンを鍛え上げ、ヤツらに対抗できるようにしなければ、駄目だな。

 

その次の日

大量の避難民を賄えなく、ウォール・マリア奪還のため、避難民から25万人が駆り出された。つまり死んでくださいと遠回しに言っているようなものだ。その中には、アルミンの祖父も入っていた。

アルミンはその夜ずっと泣いていた。

 

「全部…あいつらのせいだ…あいつらさえ叩き潰せばオレたちの居場所だって取り戻せる!アルミン…オレは来年訓練兵に志願する」

 

エレンの言葉にミカサはため息をつく

 

「僕も…僕も…!!」

 

「分かった!」

 

「私も行こう…」

 

「え…?ミカサはいいんだぞ?生き延びることが大事って言っていただろう!」

 

「だから…あなたを死なせないために行く…キヨンもよ…エレンを守って」

 

まじかよ…こいつエレンのためなら悪魔にだってなりそうだ

 

「…分かった」

 

少し嫌な雰囲気を出し、答えると

 

「キヨンはどうせ調査兵団に入るつもりだったんでしょ…」

 

「まぁ…はい…」

 

素直に認めておくことにした

 

「分かった!なら…四人で!!」

 

「エレン、兵士になるのなら当然強くなくてはならない、奴らを駆逐するというその信念は素直に尊敬する。だが、今のお前はただの無鉄砲な馬鹿だ。

今から入団までかなり時間がある。この時間を無駄にすることはダメだろう、オレが稽古をつけてやる」

 

「なんだ?キヨンらしくないな、でも…その案…乗った!!」

 

「なら、さっそくやるか

まずは、何をするべきか理解するために実践形式でやるぞ…?かかってこい」

 

「しゃぁぁああ」

 

といいながら、お得意の右ストレートで殴りかかってきたが、左足を軸に身体を回転し躱す。そのまま右手を掴み後ろへ右手を回す、背中を押して地面に叩きつける。

 

「カハッ…」

 

受け身も取れなかったエレンはかなりの衝撃に苦しそうだ

それを見たミカサが黙っているはずもなく、襲い掛かってきた

 

「エレン!!」

 

ミカサの身体能力は、はっきり言って化け物じみている。だが、技もフェイントもない動きなど対処は簡単だ。

掴みかかってくる手を躱し一本背負いの要領で投げとばす。

 

「うッ…」

 

「嘘だろ…ミカサまで…」

 

「エレン、今おれがやったことはかなり実践で使える技だ。相手が自分より大きかったり、スピードが速くても使える

お前には、これからいろんな技を叩き込む。身体で覚えろ」

 

「だがよ!オレは巨人と戦うんだ!人間相手の技バッカ習ってもどうしようもないじゃないか」

 

「身体の動かし方は、いろんなとこで応用が利く。習っておいてそんはない…それに、お前は必ず役に立つ日がくる」

 

「…?あ、あぁ…まぁ…よくわかんねぇが、わかった」

 

「キヨンって強かったんだね…ハハハ」

 

と、アルミンが言う

 

「そう言えば、アルミンはあの時いなかったもんな、キヨンは駐屯兵団の一人の兵士を再起不能にしたんだぜ!」

 

とエレンが超話を盛りやがった

 

「え…再起不能って…なんで」

 

「いや、再起不能なんてしていない。というか、傷一つつけてない」

 

「なに言ってやがんだ⁉あのおっさんビビり倒して、精神的にもうやっていけないだろう」

 

「うん、あれは、精神を完全破壊していた」

 

「キヨン…」

 

三人の口撃になにも言い返せなかった…

 

「キヨン!!僕は頭で戦いたいんだ!なにかいい方法はないかな」

 

「それなら、そうだな…チェスなんかどうだ?」

 

「そんなんでいいの?」

 

「頭で戦うと言うことは、回転の速さ、柔軟さ、常に落ち着いて行動できなければならない。

まずは、頭を使う遊びなんかから始めればいいと思う」

 

「分かった!」

 

こうして、三人の修業は始まった。

 




読んで頂きありがとうございます。まだ、投稿の仕方なども余り理解出来ていませんので、おかしいところがあれば教えてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

迷える子羊






翌年

 

「貴様は何者だ⁉」

 

と、教官の声が響く

声を掛けられたものは、右手の拳を握り締め、心臓にあてる。

そして、声を大にする

 

「ハッ!!トロスト区出身、トーマス・ワグナーです!!」

 

「声が小さい!!」

 

それでも小さいのかよ…

オレには無理だな…

 

「ハッ!!!トロスト区出身!!!トーマス・ワグナーです!!!」

 

もっと大きな声になるが、

 

「聞こえん!!!練習してこい!!」

 

まじかよ…

オレたちは訓令兵になり、今日は入団式?のようなものをしている。

だが、オレやエレンなどは何もしなかった。通過儀礼だろうか。

2年前の地獄を見てきたものには必要ないみたいだ。

続いて、5列目

 

「コニー・スプリンガー!!ウォール・ローゼ、南区ラガコ村出身です!」

 

馬鹿が現れた…全員が右手でやっていただろう…左手で右胸を押さえる

 

「逆だ!コニー・スプリンガー!最初に教えたはずだ!この敬礼は、公に心臓を捧げる決意を示すものだと…貴様の心臓は右にあるのか…コニー?」

 

と、顔を掴まれ持ち上げられている

だが…そこへ、本物の馬鹿が登場した

 

「サクッ」

 

なんと、この場で芋を食い始めた

 

「おい…貴様、何をやっている?」

 

それが誰に言っているのか理解できていなかったのだろう。周りをキョロキョロしながら芋を食い続ける

さすがの教官も動揺を隠せていない

 

「貴様だ!貴様に言っているんだ!何者なんだ貴様は!」

 

「ウォール・ローゼ南区、ダーパー村出身!サシャ・ブラウスです!」

 

と、芋を飲み込みながら、名乗った

 

「貴様が右手に持っているのはなんだ?」

 

「ふかした芋です!調理場に頃合いのものがあったので…つい!」

 

盗んだのかよ…

 

「盗んだのか…なぜだ…なぜ今芋を食べた?」

 

「冷めてしまっては、もともこないので…」

 

「分からないな…なぜ貴様は芋を食べた?」

 

「それは…何故人は芋を食べるのかと言う話でしょうか?」

 

周りが唖然としている。教官も同じだ

芋女は、なにかまずいと思ったのか「あっ」と言い

芋を三分の一ほどちぎり、舌打ちをしながら教官に渡す。

 

「半分どうぞ…」

 

「はん…ぶん⁇」

 

「死ぬまで走れ」

 

芋女は、今にも泣きそうになったが…

 

「あと、飯抜きだ」

 

と、言われさっきより悲壮な顔をした

 

そんなこんなで入団式は終わった。オレは立ってただけだ

 

 

みんなでご飯を食べていた

 

「だから…見たことあるって」

 

エレンはみんなから質問を受けていた

 

「超大型巨人は?」

 

「鎧の巨人は?」

 

「なら、普通の巨人は?」

 

と聞かれ、カルラを食べられたことを思い出したのか、食べる手が止まった

 

「みんな!もう質問はよそう…思いだいしたくないこともあるだろ」

 

「いや!違うぞ!巨人なんて実際たいしたことねぇ!オレたちが立体起動装置を使いこなせたらたいしたことねぇ。

オレは調査兵団に入って巨人を駆逐する!」

 

エレンはそう息巻いていた

 

「おいおいおい、正気か?お前、調査兵団に入るって言ったのか?」

 

と、割り込んで来たのはジャンと言う男だ

 

「そう言うお前は憲兵団に入りたいって言っていたか」

 

「オレは心底おびえながらも勇敢気取っているヤツよりかはよっぽど、爽やかだと思うがな」

 

エレンは、一瞬腹を立てたがすぐに深呼吸をし冷静になる

オレたちの修業でまず、冷静に判断できるようにと訓練したことがさっそく活きたな

 

「まぁそこはなんとでも言ってくれ。オレはオレのやるべきことをやるだけだ」

 

「おぉ~クールだ」

 

なんて、周りから言われている

 

[[カンカンカン]]

 

就寝の時間だ。

 

「まぁ悪かったよ、別にあんたの考えを否定したい訳ではないんだ」

 

そう言って、固い握手をし和解してその場は解散した

 

その後、ジャンの前を歩くミカサにジャンは見惚れてミカサの後を追った

が、そこでエレンとミカサが仲良く話しているところを目撃してしまったジャンは、近くを通ったジャガイモ頭のコニーの服にさっき握手した右手を拭った。

 

「なに、拭ったんだ!お前!」

 

「人との信頼だ」

 

ジャンは絶望した顔でそう言った

 

その後、オレは未だ走り続けているサシャを見ていた。あの馬鹿は案外使えそうだど思考を巡らせる。

考え事をしていたら、サシャが帰ってきて地面に倒れた。そこへ、美少女がパンを持って近づいて行った。直後、パンの香りに気づいたサシャは美少女のパンを奪い取った。

まるで、猛獣だな。

 

「これは…パン!!」

 

「それだけしかないけど…とっておいたの…でも…まず先に水を飲まないと」

 

「ハッ…神様ですか⁉」

 

「え…ちょっ…」

 

「かぁぁぁぁぁあああみぃぃぃぃぃいいいい!!!!!!!!」

 

サシャは美少女に抱き着き発狂していた。

 

「おい…何やってんだ、お前ら」

 

今度はあまり可愛くない女が来た。サシャは近づいてきた女にパンを取られるのかと思ったのか、パンを急いでたいらげ、眠ってしまった。

 

「えっと…この子はずっと走りっぱなしで…」

 

と、美少女はそう返すが、なんだろうかこの子は前世の櫛田のように善人ぶっている気がする…もっともあそこまで性格が悪く見えないが…

 

「お前、いいことしようとしているだろう?それは、芋女のためにやったのか?お前の得たものはその労力に見合ったか?」

 

「…」

 

「まぁ…いい」

 

「とりあえず、こいつをベットまで運ぶぞ」

 

「あなたもいいことをするの?」

 

「こいつに貸しを作って恩に着せるためだ…こいつの馬鹿さには期待できる」

 

そこで、オレも出ていくことにして

 

「気が合うな、オレも手伝おう」

 

「あ?なんだお前」

 

「オレはキヨンと言う。

オレもこいつの馬鹿さは利用できると考えていた」

 

「ほう、なら手伝え

私は、ユミルだ」

 

「よろしく頼む、そっちは?」

 

「私はクリスタ…よろしく…」

 

そして、サシャをベットまで運んだ。その間、クリスタとも話していたがやっぱり自分を偽っている気がした。

 

翌日

「まずは、貴様らの適正を見る。これができん奴は囮にも使えん!開拓地に移ってもらう」

 

訓練場に教官の声が響き渡る

ここで、立体起動装置を扱うためのバランス感覚を養う訓練をする。しかし、こんな簡単なことに訓練が必要と思えなかった。腰にサイドから二本のロープをつなぎ空中でバランスを保つだけ。

ミカサはもちろんのこと、アルミン、コニー、サシャも簡単にできていた。だが…そんな中、逆さになって地面に頭をぶつけているやつがいた。そいつはオレがもっとも付き合いの長いやつだ…エレンだ…

まじかよ…

 

「あれ…」

 

エレンは訳も分からないという顔だ。周りからは嘲笑われている。そんな何回も頭をぶつけているエレンを見て…ん…?

みんながエレンに注目している隙を見つけて、ある男に声を掛けた

 

「お久しぶりですね…教官」

 

「お前か…久しぶりだな」

 

「覚えていてくれたんですね、教官…エレンの装備が壊れているように見えますが、教官は何もしりませんか?」

 

教官は少し動揺していたが、すぐにエレンの元に行かないあたり、教官がやったのだろう

エレンのことは以前から知っていたから、兵士にはなってほしくなかったのだろうか?

 

「お前の雰囲気は独特だからな、忘れられないさ。まぁ、後で確認する」

 

と言ってエレンのもとに行きカツをいれた

その夜

オレ、エレン、ミカサ、アルミンで話し合っていた。

 

「気にしても仕方ないよ…明日できるようになればいいから」

 

「なさけねぇ…こんなんじゃ、ヤツらを根絶やしにすることなんか…」

 

「もう…そんなこと目指すべきじゃない」

 

と、ミカサはエレンに諦めるべきだと諭すがエレンがそれを認めるはずもなく

 

「なんだって…」

 

「兵士を目指すべきじゃないと言っている」

 

が、オレは装備の故障だと知っている。だから、無意味な会話をするほど、時間を無駄に使いたくない

なにか。言いかけようとしているエレンだが、その前にオレが割り込んだ

 

「エレン、焦ったときはまず深呼吸だ。冷静になるのが先だと言ったことを忘れたか?その次は現状の把握だ。

今のお前は焦っているだけで何も理解できていない。初めての体験だから分からないかもしれないが、周りをよく観察したら分かることだ。」

 

それだけを言い残して、オレは去った

 

翌日

ミカサがこちらに近づいてきた。

 

「キヨン…あなた何か知っているようだったけど、なんで教えてあげないの」

 

「いつもオレたちが一緒にいるわけではない。一人で戦わなければならない時が来る。

そんな時、考える力がなければ生きてはいけない」

 

「そう…」

 

「まぁ今回は、少しヒントを出した。あとはエレンしだいだ」

 

そして、緊張した面持ちのエレンが装備を付け、

 

「よろしく、お願いします」

 

と、エレンの挑戦が始まった。

一次的にバランスを維持していたエレンがなにかに疑問を覚えた

 

「あの…教官…ベルトの金具に違和感があるのですが…」

 

教官はかなり驚いていた

 

「おい…降ろせ」

 

エレンは降ろされ、教官が装備の確認をする

 

「本当だ…壊れているな…代わりを渡せ」

 

しらじらしい…しかし、よく気づいたなこれも成長か

周りは、驚愕していた。それも当然だろう、なんせ壊れた装備で一時とはいえバランスを保っていたのだから

その後、エレンは交換した装備で再度挑戦し、余裕でクリアした

 

「やった、これで…オレも…」

 

エレンは心底嬉しそうだ

 

「これが、キヨンが言ってたこと?」

 

ミカサがそう聞いてきた

 

「あぁそうだ、よく気づいたな…エレン」

 

「それは、こちらのセリフだ…なんでお前が気づいたんだよ」

 

と、今度はエレンがこちらに近づきながら言ってきた

 

「言っただろ、まわりを冷静に判断すれば分かると」

 

「どんな観察眼だ…お前ほんとハイスペックだよな」

 

「そんなことはない、できないことはある」

 

「はいはい…」

 

オレは夜、また世話焼きをしているクリスタを見かけ声を掛けた

 

「なぁクリスタ、辛くないか?そんな生き方?」

 

「なによ、別に…私がそうしたいと思ってしてるだけだよ」

 

クリスタは目を逸らしてそう言う

 

「そう言う立派なセリフを言うなら、ちゃんと目を見て話せ

嘘がバレバレだ」

 

「っ…」

 

「なんで、わざわざ疲れることをするんだ?」

 

「…あなたには、関係のない話よ…それに誰かを助けることが嫌だと言うわけではない」

 

「…?よく分からないな…昔の友達で人に自分を隠して善意を振舞っていた奴がいてな、そいつは結局、自分自身で壊れてしまった。そいつのようにならないか心配だった。

気を悪くしたなら謝る。」

 

「そう…ありがとう…ねぇあなたはどうして兵士に志願したの?」

 

突然クリスタからそう質問された。なにか悩んでいるのだろうか。

 

「そうだな…オレは自由が欲しい。そのためならなんだってやるさ」

 

「そう…目標があるんだね、羨ましい…」

 

最後の方は耳を澄まさなければ聞き逃してしまいそうなほど、小さく弱々しかった。

 

「なにか、悩みがあるなら聞くぞ?聞くだけならオレでもできる」

 

「…大丈夫…大丈夫だから」

 

そう言い、就寝室に行った。

だが、その次の日もまたその次の日も同じようなことを繰り返すクリスタ。

その偽った笑顔が、どんどんぎこちなくなっていくのを見て少し心配になった。

そこで、オレはクリスタと仲のいいやつに声を掛けることにした

 

「ユミル、ちょっといいか」

 

「ん?なんだお前か…どうした?」

 

「クリスタと仲いいよな?あいつ大丈夫か?」

 

「なんだ、お前…クリスタのこといっちょ前に心配してんのか?わたしのクリスタによっ!」

 

お前の…?

 

「は?まぁ心配はしているが好きとかは関係ないぞ」

 

「ふーん…だが、悪いな私も元気ない理由を聞いても教えてくれないんだ」

 

「そうか」

 

ユミルにも話してないと言ううことは中々にシビアなことか

 

「まぁいいか、じゃあな」

 

「まぁ待てよ」

 

帰ろうとしたが、引き留められた

 

「なんでそこまであいつを心配する?可愛いからか?」

 

「…可愛いは関係ない…昔馴染みだったやつとかぶってな、そいつと同じようにならないかと思っただけだ」

 

「どんな奴だったんだ」

 

「人前では仮面をかぶった奴だった。そして、誰にでも優しく接していた。」

 

「なるほどな、その誰にでも優しくは確かにかぶっているな。

理由が聞けて安心した。もいっていいぞ」

 

鬼龍院みたいに自由な奴だ

そう思いながら帰ることにした。

それから、なにか気が合うと思われたのか、よく絡むようになった。ユミルの近くで話すようになってから気づいたが、ユミルのクリスタの絡みはほぼいじめだな。

 

次の日から過酷な訓練が始まった。訓練兵にとってはかなりハードで脱落するものも少なくはなかった。

オレにとっては前世のホワイトルームのほうが断然しんどかったし、効率がいい訓練をしていたと思う。なので、無駄なことをよくさせるなと思っていた。

しかし、ホワイトルームと決定的に違うのは、同じ訓練を受けているものは一緒に切磋琢磨していく仲間だと言うこと。

それは、訓練兵を作るというのであれば、よくない行為だと感じたが、訓令兵を成長させると言う意味ならいいことなのかもしれない…

オレにはどちらが正しいか、今はまだ判断できない…

そんな日々を過ごす内に無口なオレでも色んな人と話すようになった。エレン達と今でもよく一緒にいるが、クリスタやユミル、無口同士で会話はあまりないがアニとも一緒にいることがある。あと、だるがらみをしてくる馬鹿二人もだ…

 

そして、月日が流れ…

雪山の訓練が始まった。

キャンプ場にいくというシンプルな訓練

だが…積雪の中、山を越えるのは死にに行くも同然だ。

しかも、前世のような電池付きのコートやカイロなんかもない

暖かいコートを着てはいるが、指の感覚がなくなってきた。

そんな中、自分の体調管理もできていないダズが後方で倒れた。それを皆気付かなかったが一人だけそのことに気づき、ダズの方へ近づいて行った。

その人物はクリスタだった。

クリスタが後ろのほうに行ったのを気付いたのか、ユミルもそちらに向かった。

オレもそちらに向かうことにした。

結果的に、ほんの数距離離れるだけで、前を歩くもの達は見えなくなった。

取り残されたオレたちは、ダズを布でぐるぐる巻きにして交代で引っ張っていた。と言っても、クリスタが引っ張ていた。手伝わなかったのにはちゃんと理由があって、決してダメ男とかではない…ない

 

「クリスタ!なぁ…クリスタって…もう諦めろって」

 

ユミルは必死に引っ張るクリスタに向かってそう言った。

正直、オレもそう思う

 

「嫌だ…」

 

「ダズならすでに虫の息だ…自分の体調も把握できねぇ奴が、評価欲しさに来ちゃいけねぇ訓練を受けちまった。こいつの実力はここまでだったんだよ。キヨンからも何か言ってやれよ」

 

ユミルはオレに振ってきた。

 

「まぁ、正直に言えばオレもユミルの意見に賛成だな。ここで助けられたとしても、こいつの実力ならすぐに死ぬだろう」

 

オレはそう正直に話した。こうすることで、クリスタの真意を探れると思ったからだ。

 

「お、いいこと言うじゃないか!ほら見ろ、クリスタ!!いつも冷静沈着だけが取り柄のキヨン様がそういってんだぜ。諦めるしかねぇんだよ」

 

こいつシンプルにオレをディスりやがった。結構力はひけらかしているから、もっといいところあるはずなのにな…

 

「なんで、二人ともそんなこと言うのよ!二人とも先に行ってていいよ?私は必ずダズとともにたどり着くから…先行ってて」

 

そう言い、一人で歩きだした。

そんな、クリスタにオレは問いかける

 

「「なぁ何でオレ達(私達)に助けを求めないんだ」」

 

オレとユミルの質問が被った

 

「なんだキヨン、やっぱりお前とは気が合うな!」

 

「そうみたいだな」

 

クリスタは立ち止まり振り返った。

平静を装うとしていたクリスタだが、少し目を見開いていた。

オレはユミルを見てどうぞと、目で語った。それを理解したユミルはクリスタに近づき話始める

 

「お前さぁ、やっぱダズを助ける気ねぇだろ?」

 

クリスタは固まったまま、動かない。

 

「さっきお前…危ないって言ったが…このままじゃ自分も死ぬって自覚があるんだよな?お前このまま死ぬつもりだったんだろ?なぁ、そんで私に女神クリスタ様の伝説を託そうとしたんだろ?イヤこれは考えすぎか」

 

ユミルは脅し口調で、話す

クリスタの今の顔を見ると、前世で櫛田が追い詰められたときの表情にそっくりだ。

そして、ユミルの断罪は終わらない。

 

「ダメだろ…クリスタは良い子なんだから、この男が助かるためにはどうするべきか…私やキヨンに聞いたりする姿勢を一旦は見せとかないと…なぁ…自分が文字通り死ぬほどいい人だと思われたいからって人を巻き添えにしちゃあ…そりゃ悪い子だろ?」

 

止まらないユミルにクリスタが胸倉を掴みながら

 

「違う…私は…そんなこと…」

 

そう言いかけたが、手を下ろし項垂れてしまった。

そんなクリスタにユミルが今度は優しく質問した

 

「お前だろ?家から追い出された妾の子ってのは…」

 

「なんで…それを…」

 

ユミルはオレの方を向き、

 

「キヨン…私はお前を信じるぞ。だから誰にも話すな」

 

そう言って、真っすぐにオレの目を見た。これは裏切れないな…

 

「安心しろ、オレは口は堅い方だ」

 

「たまたま耳にしただけだ…内地のとある教会で生活のために金品を借りて回ってた時にな」

 

ユミルはその時のことを思い出しながら話し始めた。

 

「物騒な話だな…偉いとこの跡取りの位置にお前がいた…血は直系だが不貞の子に不相応だのでもめた挙句…いっそ殺しちまえばすべて解決すると話は転んだが…せめて名を偽って慎ましく生きるなら見逃してやろうと…そうやって訓令兵に追いやられた少女がいるって…安心しろ…誰にもこの話をしてないしこの情報を売ったりしない」

 

「じゃあ…私を探すために訓令兵まで来たの?そうだとしたらなんで?」

 

「さぁ?似てたからかもな…」

 

ユミルが?とてもじゃないがユミルは良いとこのお嬢様には見えないな…

 

「お前、失礼なこと考えたな?」

 

なんでばれる…

 

「…いいえ、考えておりません」

 

オレとユミルの会話を無視し、クリスタはユミルに問いかける

 

「私とユミルの生い立ちが?」

 

「まぁ大体な…」

 

「それだけで兵士に?」

 

「さぁ…よくわからん」

 

「私と…友達になりたかったの?」

 

クリスタは少し口角を上げて聞いた。同じ環境で生きる者同士で通じ合いたかったのだろうか…

 

「は?違うね。それは無い」

 

少し戸惑ったがユミルはそうはっきりと答えた。

 

「まずな、お前と私は対等じゃないんだよ!偶然にも第二の人生を得ることができてな、私は生まれ変わった!だが、その際に元の名前を偽ったりはしてない!ユミルとして生まれたことを否定したら負けなんだよ!私はこの名前のままでイカした人生を送ってやる、それが私の人生の復讐なんだよ!!生まれ持った運命なんてねぇんだと立証してやる!!それに比べてお前は何だ⁉自殺して完全に屈服してまで…お前を邪魔者扱いした奴らを喜ばせたかったのか⁉なんでその殺意が自分に向くんだよ⁉その気合がありゃ自分の運命だって変えられるんじゃないのか⁉」

 

ユミルの嘘偽りのない言葉、その言葉はクリスタだけではなくオレの心にも深く響いた

オレは、ただ嫌になって自殺してしまったからな…

 

「できないよ、今だって…ここから四人で助かる道はないんでしょ…」

 

「ある」

 

そう言い切るユミルだが、オレの方をチラッと見た。

オレが邪魔なのか?だが、オレはユミルと少し話をしたかったため、クリスタに近づき首を手刃で叩き気絶させた

 

「おい…何やってんだ」

 

「ユミル…お前に聞いておきたいことがある。お前、いつも一人でいるときにたまにメモを取っていたが、あれはこの壁の中で使っている文字じゃないよな?それにさっきの会話から考えれば、誰でも疑問に思うことだが、お前どこから来たんだ?」

 

ユミルは驚愕していた。

まさかメモを見られていたとは思わなかったんだろう。

いつもひけらかす性格のユミルがメモを取るときだけ、様子がおかしかったからな。

 

「…」

 

ユミルは答えず、どう言えばいいか考えていた。

オレはユミルの返事を待たずに問いかける

 

「ユミル…単刀直入に聞こう、お前は敵か?いや、壁を破壊した巨人…若しくは、その協力者か?」

 

オレは全力で威圧を込めてユミルを見る。

ユミルは後ずさりながら答えた

 

「ッ…なんだお前…本当にキヨンか?あぁ、そうだな、お前とクリスタなら話してもいいか…私は確かに巨人だ。だが、壁を壊した巨人でもなければ、仲間でもない」

 

ユミルは、はっきりと答える。

 

「そうか、ならいい」

 

オレはそういい、威圧するのを辞めた

 

「なんだ…すぐに信用するんだな?」

 

「まぁ、お前のことは前から怪しく思っていたが、壁を破壊した奴らとは違うと思っていた。奴らは、複数人できているし、お前を尾行してもクリスタ以外と話しているのをみていないからな」

 

「は?尾行していやがったのかよ」

 

「あぁ悪いな、でもそれでお前の疑いは晴れた。さっきまでは確証を持てていなかった。だから、試させてもらった。」

 

「まぁいい、と言うか巨人になれる人間がいるこを知っていたのか?」

 

「あぁ、推測だったがユミルの証言で、オレの考えは正しかったと証明できた。あと、少しわかったこともある」

 

「なにが?お前本当に何者なんだ?お前のそのような目をした奴を見たことがねぇ」

 

「まぁ、信じると言ってくれたからな、話してもいいがそれは今じゃなくてもいいだろ、巨人になってオレたちを下まで運べるか?もうすぐクリスタは起きるぞ?」

 

「あぁできないことはないが、降りた衝撃でクリスタは起きるかもな…クリスタなら教えても構わないが…イヤ、まだやめておこう。お前ならクリスタ運んで来れるだろ?そういや体力化け物だったしな」

 

「化け物は言い過ぎだ。なら、ダズは頼んだぞ」

 

「あぁ、分かった…」

 

そう言ったユミルは傷を作り巨人となりダズを担ぎ、下へ降りて行った。以外にユミルの巨人は小さかったな…それに巨人になるのは傷をつけることが条件なのか…

オレはリュックを背負っているため、クリスタをお姫様抱っこで持ち上げ、歩き出した。

数分でクリスタは起きた。

 

「んっ…えっ…?」

 

状況を理解できていないようだ。

 

「起きたか、ユミルはダズを連れて先に行ったぞ…」

 

「どうやって?あ…もう大丈夫だよ、ありがとう」

 

クリスタは降りて一緒に歩き出した

言い訳が思いつかなかったので

 

「それは、後で聞いてみればいい、吹雪ですぐ見えなくなった」

 

無理があるが、全てユミルに託す。まぁ実際ユミルのことだし、いいだろう…

 

「?…そう」

 

雑談をしながら歩くこと一時間、目的地までもう少し休憩をとることにした。

 

「なぁクリスタ…話してみたらどうだ?」

 

「…何を?」

 

「決まっているだろう…お前自身のことだ。お前は過去にどのようなことをされたんだ?ずっと不安だったんだろう?まだ幼い少女が一人で抱え込んで、こんないつ死ぬか分からないところに放りだされたんだからな。」

 

「…」

 

「オレはお前のことを多少なりと知ってしまったんだ。お前は自分のことを話すのが苦手なのだろう。他人は救えても自分を救えない。そんなタイプだ。だからオレはここにいる」

 

「…」

 

本当は吐き出したいのだろう。

 

「どうするクリスタ。今がお前の正念場だぞ?

お前は人のことを考えすぎだな…少しくらい仲間に迷惑をかけてもいいんじゃないか?」

 

偽善者であろうと裏では悪人と言うこともなく、ただ単に他人に自分の進む道を決められただけなのだ。

 

「…でも、これは私のお家の問題なの…関わればきっと消されてしまう…」

 

「かまわない、お前が望むならお前の関わる全ての奴を排除しよう」

 

そう言い切った。クリスタは驚き、初めてオレと目を合わし…固まった…

 

「闇を持つものは惹かれあう。そして、より強い側が相手を包み込んでいく。お前の家庭の事情をオレは知らないが、オレの方がまだまだ深い。お前の闇を背負うくらいどうってことない。」

 

「な…なんなのあなたは」

 

「約束してやれることが一つある。お前を今後守ってやることだ。だから、安心して話せばいい」

 

そうクリスタの目を見ながら宣言した。

ようやくオレの目から解放されたクリスタは小さく息を吐き、語り始めた

 

「…分かった。私はウォール・シーナ北部の小さな牧場で生まれたの。そこは、貴族家・レイス卿の領地内にある牧場で、物心ついた時から手伝いをしていた。母はいつも本を読んでいて家の仕事をしている姿を見たことは無かった。夜になると誰かが馬車で迎えに来て派手にに着飾った母を載せて街に行ってたから、家業とは別の収入があるようだった。私にとって、それがいつもの生活だった。でも、字の読み書きを覚え母の真似事で本を読みだしたとき、私は自分が孤独なのを知った。どの本にも母は子供に関心を示し、話しかけたり抱いたり叱ったりするものとして書かれていたから…また、他の子どもは近所を自由に歩いたり、同じ年ごろの子供同士で遊んだりしていることにも気が付いた。私にとっては、子供たちは石を投げてくる危ない生き物だったから、言われなくても私が牧場の敷地の外へ出ることは無かった。ある日、私は好奇心から母に抱き着いてみた。母がどんな反応をするのか興味がでたから…そしたら母は私の顔を鷲掴み、ぶん投げたの。それでも、母が私に何かしたことは、初めてだったからそれが嬉しくかった。しかし、母は「こいつを殺す勇気が、私にあれば…」とそう私に発した。それが、母の最初の言葉だった。それ以来、母は家をでて、他の場所で暮らし始めた。ようやく私にも理解ができた。祖父や祖母からもこの牧場で働く人もこの土地に暮らす人、その全ての人間から私が生きていることを快く思われていなかった。一体私が何をしたのか、なぜそんなことになったのか、聞ける相手はいなかった。この土地が私の世界そのものだったから…動物だけが友達で、一日の殆どは牧場の仕事でしたが私が孤独を忘れられる時間でもあった。そして壁が壊されたあの日の夜、私は初めて父と出会った。その男性はロッド・レイス、そして私の父親と名乗った。この土地を収める領主の名前だったの。その後ろには数年ぶりの母の姿もあった。父はこれから私と過ごすぞと声を掛け三人で外へ出ることになった。その時、母が悲鳴を上げた。気付けば、多くの大人に囲まれていた。そして、一人の男性が母の首に刃物をあて「困りますなレイス卿、このようなマネはご容赦いただきたい。ウォール・マリアが破られたことで不安に襲われましたか…」と言った。私は咄嗟に「母さん!」と言ったが母は「違う、私はこの子の母ではありません」と言い放った。それを男性が父に確認をし、父は「この二人は私となんの関係もない」と言った。男性は「やはりそうでしたか、お前は存在しなかった」と言い、母の首を切り裂いた。母は切り裂かれる前に「お前さえ生まなければ…」と後悔の念を抱えながら死んでいった。私も殺されそうになる直前で父はある提案をした「君の名は。クリスタ・レンズだ」その名を名乗り、遠くの地で慎ましく生きるのなら見逃してやると言う意味だった。それで私は今ここにいるの…」

 

「ねぇ…私はやっぱり生きていちゃダメなんじゃないかな…」

 

消えてしまいそうな声でオレに問いかける。ずっと不安だったんだろう。ならば、オレも本音でかたろう。今回は本音で語ることが有効的である。

 

「そんなことは無い。何一つとして、お前が死ぬ理由はない。なぁ…クリスタ…お前はその狭い敷地の中で生きていたから分からないかもしれないが、全ての人間に好かれることなど、まず不可能だぞ。自分のことを認めてくれる人達と関わりをもつべきだ」

 

「そんなこと…だれが」

 

「クリスタ、人はな余裕を持っていないとき、全く周りが見えなくなる。そして、誰も信用できなくなり完全に孤立していく。そうなったときは、引き返すのにかなりの時間がかかる。だが、お前はまだ間に合う。お前は今オレに自分の過去を話すことができた。人を頼ると言う行為ができたんだ。そして、お前にはユミルがいて、オレがいる。それにお前がこれまで助けてきた奴らはお前のことを信じ仲間だと思っているはずだ。オレたちは誰一人として、お前に死んでほしいなんて思っていない。」

 

そう言うと、クリスタは避けていた目をこちらに向けた。本気で言っているのかを確認したかったんだろう。生憎と、そのような心理戦でおれは崩せないし、今回は紛れもなく本心だ。

 

「…うっ…」

 

涙が溢れ出すが必死でこらえようとするクリスタに

 

「泣きたいときは泣いていいんだ。約束しただろう。お前のことは必ず守ってやると。お前を縛るものはもう何もない。感情を偽る必要はない。お前は笑うことも、怒ることも自由だ…だから今は泣きたいだけ泣けばいい」

 

「うぅぅぅああああああん」

 

クリスタは、オレの服を握り締めオレの胸で泣き始めた。オレは何も言わず、腰に手をまわし背中をさすった。

とここで重要なことを思い出いした。小休憩のはずが、かなりの時間休んでしまっていた。

ユミルは確実に心配しているだろうな…泣き出したクリスタに「よし、行くか!」なんてことは言えず、どうしたものかと思考を巡らせていた。その時、オレたちの方へ灯かりが近づいてきた。真っすぐオレたちの方に来る。クリスタの鳴き声で気付いたのだろうか…

 

「「「お~い、クリスタ!キヨン!」」」

 

と叫んでいる。間違いなくエレン達だ。どうしよう…この状況を見られたくない…この寒空の中、若い男女が抱き合っていて女の方は号泣している。なんて、言い訳しようか…

クリスタは自らの声で周りの音が聞こえないようだった。あぁ…これは…終わったな

オレは大人しくその時が来るまで待つことにした。

 

「あ!いた!クリスタ!キヨ…ン?」

 

「え⁉ほんとか!お前ら心配したんだ…」

 

「おっ…」

 

最初にオレたちを見つけたのは、サシャだった。さすが型破りの勘の良さを持っているな。しかし、オレ達の状況を見て理解できず固まった。続いて来たのはエレンだが、エレンもまたオレ達を見て固まる。その次もまたその次も同じ反応だ。だが、ライナーだけは以上に怖いな。いつもの優しいライナーはどこへ行った。

オレ達の捜索に来たのは、エレン、ミカサ、アルミン、ジャン、コニー、サシャ、ライナー、ベルトルト、ユミル、マルコ、アニの11人で来ていたが全員が固まったことにより、謎の静けさができた。オレもクリスタの背中をさするのを辞めてしまっていた。すると、クリスタがこの奇妙な雰囲気に気付いたのか、顔を上げ目を擦りながら、後ろを振り向きクリスタも固まった。どうしようか、これは…と数秒固まったクリスタが真っ先に飛び上がりオレからものすごい勢いで離れた。

 

「あっ…これは…その…違うの!…違うの!!」

 

と言って、顔を赤くしながらユミルの後ろに隠れた。さてと、ここはオレの正念場だ。頑張れ…最高傑作。頑張れ…5秒後のオレ

 

「ん~よし。帰るか」

 

オレはすくっと何事もなく立ち上がり帰ることを促した。

そしてオレはみんなの間を抜けようとしたが、一斉に肩や背中を掴まれた。ミカサだけは首を掴んでいる。こいつ殺しに来てやがる。誰もなにも言わないしこちらを誰も見ない。

 

「…なんでしょうか?」

 

「どうする?ジャン」

 

と、エレンが

 

「どうしようか、エレン」

 

と、ジャンが…こいつら仲悪かったよな?

 

「イヤ…ここは、どうしてやろうか?だろ、みんな?」

 

と、ライナーが…こいつが一番怖い

 

「あんた根暗の癖にやることやってんだ…」

 

と、仲のいいはずのアニが軽蔑の目を向ける

 

「はい…そうですよね、私たちはこの吹雪の中、命がけで二人の捜索をしたはずですよね。なぜ…二人は外でおっぱじめようとしているのですか?これは、二人の食事を後で徴収しなければなりませんね」

 

と、馬鹿の片割れ…

 

「いや、待て、違うぞ。何も…「黙りなさい」…はい」

 

とミカサが…どうやらオレは反論すらできないらしい

 

「まぁ…とりあえず、一度帰ろう。先輩たちが心配する」

 

おぉ神アルミンが現れた。お前のことはこれからなんでも聞こう

 

「帰ってから縛り上げたら、もう逃げ場はないんだから」

 

堕天使アルミンが現れた。お前のことは顔も見たくない…

 

「そうだな、一先ず帰るか」

 

エレンがそう締めくくって帰ることにした。

 

 




休みが終わったので、毎日は不可能になりましたが、頑張って投稿していきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

〇.5話

今回は結構短めです

いつも誤字報告してくださる方ありがとうございます。
今回も誤字報告お願い致します




帰宅中…

みんなは前で、オレとクリスタの今後について話している。随分と賑やかである…その後ろで、オレが一人で歩いていると、ユミルとクリスタがやってきた。

クリスタは、申し訳なさそうに、されど若干の苦笑いを混ぜて謝ってきた。今までのクリスタとはどこか雰囲気が違う。どうやら、もう大丈夫なようだ。

 

「ごめんね、私のせいでみんなから怒られちゃったね…」

 

「はぁ全くだ。オレは悪くないと言うのに…クリスタ一人で受けてくれてもいいんだぞ?」

 

「冗談を言うなら、もう少し表情を変えたらどうだ?冗談言ってるようにはみえねぇな」

 

「悪いな、これでも精一杯頑張っているんだ」

 

「あははは…ねぇ…二人とも」

 

「「ん?」」

 

「私の本名は、ヒストリア・レイスと言うの」

 

「そうか、いつか本名で名乗れる日が来たらいいな」

 

「うん…私は一人じゃなかったんだね…よかった…」

 

心底ホッとした顔つきのヒストリア

 

「当たり前だ…私と言う人がいながら…全く」

 

「そうだな、今回も11人の奴らが命がけでお前を捜索しに来たんだ。誰もがお前を必要としていると言うことだろう」

 

「…うん…そうだね…ありがとう」

 

そんなことを話していると目的地に着いた。

そして、教官たちにド叱られえたが、オレとヒストリア以外はもっと怒られた。どうやら無許可で出てきたらしい。

やめてくれ…エレン達を怒らないでくれ、怒れば起こるほど奴らの仕打ちが酷くなるんだ。

ようやく教官たちから解放されオレ達は休憩所に向かった。

 

「よし、どうしてくれようか。このくそごみ野郎」

 

ライナーが息巻いている。

ミカサに掴まれたオレはもう逃げることなんて不可能だ…従うか…

ミカサは二つ並べられた椅子の片方にオレを座らせ、ロープでぐるぐる巻きにした。そのついでにオレはミカサから拳骨を食らうことになった。

 

「いてっ」

 

「表情が変わってないじゃない、痛くなかったのかしら?キヨン?」

 

ミカサは詰まんなさそうにオレに問う。いやものすごく痛い

 

「痛いに決まっているだろう。馬鹿になったらどうしてくれるんだ?」

 

そう答えるが、ミカサは無視し空いている椅子に手を置き、ヒストリアに目を向ける。ヒストリアは意味を理解したのか、ものすごい勢いで座った。

 

「さて…尋問を始めま「集まれ!訓令兵!」」

 

神の声が聞こえた。みんなは舌打ちをしながらもロープをほどいてくれた。

 

「え〜もう休憩おわりですか!?」

 

「訓練ではない。先程のことでの話だ。ダズを呼べ」

 

そんなこんなで、オレは助かった。

訓練が終わった夜、オレはヒストリアの元に赴いた。

 

「クリスタ、少しいいか?」

 

「ん?どうしたの?」

 

「クリスタのことだが、まだみんなには秘密にしておこう。もちろん名前もな…もう少し整理する時間と情報がいる。」

 

「…うん、分かった。」

 

「一つ聞いておきたいのだが、クリスタは父親をどう思っている?さっきの話だけを聞けば、クリスタを助けようとしていたと聞こえるが…悪いがオレには、父親がクリスタを利用しようとしているようにしか思えない。」

 

「どうしてよ…?」

 

助けてくれた父親を疑われるのは嫌だったか、顔を顰めた。

 

「オレは話を聞いてからここに来るまでに考えを整理していた。何の根拠もなく言っているわけではない。

まず、歴史書のことから王、若しくはそれに近い人物が巨人の秘密を隠している。

また、壁が破壊されたその日の夜にクリスタを迎えに行ったことについてだが、クリスタがいた地域はウォール・シーナだ。これ以上どこに逃げるところがあると言うのだ?

まだ、情報が少なすぎるから判断できないが、疑うべきだろう。」

 

「王家が、巨人のことを知っているってこと?だとしたら、なぜそれを周知させないの?調査兵団はそれを知るために外へ出てるというのに」

 

「なぜ、黙っているのかはまだ分からない。だが、歴史書と言うのは、断定しないものだ。現にその事以外は、かもしれないと客観的に書かれている。」

 

「それだけで?」

 

「それだけではないが、まだ話せない。言っただろう、情報が少なすぎると…今回クリスタにこのことを話したのは、オレがお前を守ると約束したからな。今後お前の父が接触してくる可能性がある。その時、お前がどう行動するか予想することが難しかったから、布石を打って置くことにしただけだ」

 

「そう…分かった。気を付けるわ…

ところで、みんなにはなんて言えばいいかな…?雪山でのこと」

 

「…」

 

そうだな、本当になんて話そうか…

とりあえずは、[一度クリスタとも離れ離れになり、クリスタが一度危機的状況になっていたところをオレが見つけた…]で、一時は凌げるか。サシャに飯を渡しながら話せば、後はあの馬鹿がなんとかするだろう

オレはクリスタにそう伝え、みんなで集まったときに実行した。案の定、サシャが全く関係のない話をしだしたりして、なんなく逃れることに成功した。

 

その後、オレは一人で夜風に当たっていた。

今回は、本当にらしくないことをした。ヒストリアを守ると言う約束…確実に大きな勢力が動いているだろう。今は巨人との戦いもある。いつ、また超大型巨人が出現してもおかしくない。それなのにクリスタとの約束は自分の足に枷を嵌めるようなもの。前世のオレならもっと見極めたはずだ。エレン達と長くいすぎたからだろうか。これは甘さなのか…優しさなのか…そしてこれは、成長なのか退化なのか…

何にしてもオレも少しずつ変わり始めている。そんなことを考えながら、夜の風に吹かれていた。

 

 

 

sideヒストリア

 私は、今日ここに来て良かったと思った。初めて人に自分のことを話した。私の家庭は表での領主よりも大きな勢力が後ろにいると思う。なのに、キヨンの瞳に魅かれて全て知っていることを話してしまった。瞳を見た。イヤ…見てしまっただけで安心ししてしまった。多分、他の人なら恐怖に感じるかもしれないが、私には心地よかった。若干の不安はあるけれど、キヨンにを信じることにした。キヨンは一体どのような人生を送れば、あの目ができるのだろうか…一体何者なのか…少しでも時間ができればそのことを考えてしまう…

 

そして、今日は人前で子供のように泣いてしまった。でも、気持ちがすっきりした。前より落ち着いて周りを見えるようになったからか、みんなの視線や表情がよく分かる。本当にキヨンの言う通りだ。自分に余裕が無かったのだろう。これも結局キヨンのおかげだ…って…また考えてた…一度頭を振り頭の中をクリアにする。

私は仲間を見ながら、生まれてきても良かったんだと感じ、一筋の涙が零れた。そして、一息吐き目を閉じて目を開ける。

なんだろう…この感覚は…心が落ち着き視野が広くなったのだろうか、イヤ…少し違う。今までと見えている景色が変わったとでも言えばいいのだろうか…視点が違う。見え方が違う。そう言えば、ユミルも私と同じで過去に色々とあったみたいだ。私と似ているとはどういうことだろう…ユミルのお家も貴族家なんだろうか…見えないな…今はまだ分からない。でも、寄り添って行こう。今私にできることを…やるべきことやるんだ。私はそう決意し、明日の朝の訓練に備えるべく寝床に着いた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誘導

 

オレたちは訓練兵をしている。その訓練は過酷で訓練が終われば死んだように寝る奴らばかりだ。だが、オレはこの程度の訓練でへこたれはしない。

だが、日に日に疲れがたまってきていた。なぜなら、日が昇っている間は訓練をし夜は誰かの尾行をしている。

初めはユミル、次にクリスタ、ライナー、ベルトルト、他にも怪しそうな奴をつけていた。

それは、この訓練兵の中に壁を破壊した巨人が潜んでいる可能性があったからだ。

 

「キヨン…大丈夫?」

 

そうヒストリアが心配し、声を掛けてくれた

 

「ん?なにが?」

 

一応とぼけてみた

 

「顔色が悪いような気がして...」

 

「そいつはいつもそんなだぜ…キヨン、お前クリスタに心配されたいからって顔色を悪くしてんだろ?」

 

ライナーが厳つい顔をして割り込んで来た。嫉妬しているのが丸分かりだ。

 

「あぁ、少し寝不足だ。早いがもう寝ることにする…おやすみ」

 

「えぇ…おやすみなさい」

 

ヒストリアは少し物寂しさを出しながら言った

 

「おう…おやすみ、永遠にな!」

 

こいつは死刑決定だ

 

「そんなことよりクリスタ…ご飯食べながら話でもしようぜ」

 

「えぇ…でも、もう食べちゃったし...」

 

なんて会話が聞こえたがオレは食堂出て、本日のターゲットを尾行することにした。その人物はアニだ…アニは最も怪しかった人物であったため常にユミルにアニの動向を遠くで見て貰っていた。

そして、オレは他の怪しい人物の監視を終えたので、本格的にアニを監視することにした。それから四日目が経過した日、アニはある一人の男を尾行していた。

しかし、その男の方が一枚上手であり、尾行に気付かれた。

 

「よう嬢ちゃん…こんなジジイを尾け回すとは…」

 

と何やら話しているが、近付きすぎると気付かれる可能性があったので、会話は余り聞き取れなかった。

と、突如アニが男の顔を目掛けて蹴りを入れるが、男はそれを避けた。アニはその隙に全力で走り出した。アニが逃げきることに成功したことを確認し、オレも帰ることにした

 

帰宅後

皆が寝ていることを確認し、ある男に近付いた。この男の息の根を止めるために…

 

 

 

 

 

 

そして、翌朝

 

「おい!起きろライナー!お前が一番最後だぞ!」

 

「ライナー!お前のせいで教官に怒られるぞ!!」

 

「ライナー起きて…」

 

と、男子も女子も全員で起こしていた。ライナーとベルトルトはいつも朝が弱い

そして、今日はライナーが遅かった

 

「ん…あぁ…す!すまねぇ!!完全に寝過ごした!」

 

と、慌てて飛び起きた

 

「「「「「「…………………」」」」」」

 

全員の目がある一点に目が行く

 

「ん?なんだ??……………ふぁ⁉なんだこれは!えっ…ちがっ!」

 

自分でも信じられないと言った顔をしていやがる

 

「ライナー…お前…」

 

と、ジャンが哀れな顔しながらライナーを見る

 

「あぁ…それはいくら何でも…」

 

と、いつもべったりのベルトルトも引いている

 

「あぁ…さすがにオレでもしねぇぞ」

 

と、コニーが言う

 

「ライナー…後ろを向いて…」

 

と、いつも無表情のミカサが…

オレが昨日帰ってきてからやったことは単純である。ライナーの股間周りにたっぷりと水をかけておいた。若干黄色にして…

これが、最高傑作としての人間の葬り方である。実際に殺すなんてもったいない…人に恥をさらしてこそ人としての尊厳は死ぬ

ライナーは今日自らの身体をもってして、それを証明してくれた。

男だけならまだ良かっただろう...女でも、ミカサやユミル、サシャならまだ良かっただろう

だが、ここにはアニがいて、ヒストリアがいる。ライナーがヒストリアに惚れていることは火を見るより明らかだあった。その好意を寄せている女性の前で、お漏らしは堪えるな...

見ろ!隣にいるヒストリアの顔を…

さて…止めに入ろう。

 

「クリスタ…そんな顔をしてやらなくても…誰でもミスはあるぞ…」

 

オレがヒストリアに振ったことで、ライナーは肩をビクッと震わせ、錆びたロボットのように顔だけで振り向き、ヒストリアを見る

 

「えっ...あ…ごめんね?ライナー…」

 

計算通りだ、素晴らしいぞヒストリア...やはり使える

その謝罪は、ライナーに止めを刺すも同然

その言葉を聞いたライナーは、一気に顔を青ざめて灰のように散っていった

 

「ぷっ...ひゃっひゃっひゃっひゃっ」

 

と、固まっていたサシャが笑いだす。さすがは馬鹿...使える

それにつられて皆が笑いだす。

 

「ライナー!!お前!最高っだ!」

 

「ちょっ!みんな!やめようよ!」

 

ヒストリアは止めようとするが、その言葉でライナーは完全に心が折られただろう。オレは満足しこの部屋から出ていこうとしたが、顎と頭が反転した人物がやってきた。

 

「お前ら…何をやっている…減点だな…」

 

その言葉で、この場は一気に静まり返った。今回悪いのはライナーであり、みんなは関係ない。そしてオレも関係ない。兵士は連帯責任!とかよく言われるが、十代の...世間では大人扱いされる歳の奴がオネショをして、それを連帯責任なんて溜まったもんじゃない…

断じて、オレらには関係ないはずだ。だから、ライナーには悪いが、もう一度止めは刺させてもらう。安心しろ...今度の介錯はオレがする

 

「教官…あれを見てやってください。ライナー兵士たるもの自分の失敗と向き合わなければならない...ましてや、今回は自分の責任だろう。立って、振り向け」

 

ライナーは絶望し数秒固まったが、ふらふらと立ち上がり、こちらを向いた

それを見た教官は、一瞬口角が上がったが手で口を隠し

 

「ぷ...はぁ…ライナー…お前の評価を改めなければならないな…」

 

その言葉を最後にライナーは完全に停止した

オレたちはライナーを置いて訓練に励んだ。久しぶりにストレス発散ができて今日の訓練は今までよりも良い動きができた。

 

訓練中オレは考えていた。

 

アニが一人の男を尾行するために王都まで言った理由

 

この壁の中で二つの勢力、若しくはもっと多くの勢力があり、アニがその一つの勢力で尾行を命じられたから...

それともやはり、壁の外から来て何かを探っているのか…

 

壁の中での勢力なんて小耳にも挟んだことがない…強いて言えば、変な宗教団体くらいだ

なら、壁の外から来たと考える方が正しいか…

 

訓練中も訓練が終わってからも、抜け殻のようにぼーっとしているアニにオレは水を持って近づいていく

人は睡眠が取れていないと判断力が落ちる。それに加え、ストレスもピークを迎えそうだ。

 

「大丈夫か?アニ...」

 

「ん?あぁ…ありがとう」

 

アニは水を受け取ってお礼を言った。

 

「寝不足か?」

 

「それは…あんたもでしょ?」

 

「あぁ…実は最近、碌に休みもなく訓練ばっかしているからストレスが溜まってな、そのせいか寝つきが悪い」

 

「へぇ…あんたでもストレス溜まるもんなんだね」

 

オレの言葉に少し安心したようだ。

 

「どう言う意味だ…?」

 

「だって、あんた感情抜き取られたような性格してるから」

 

「感情はある…表情に出にくいだけだ。上手く行かないことが続くと誰だってストレスは溜まる。

ライナーたちを見ていると羨ましいと思うと同時に少し腹立たしい」

 

オレの言葉にアニは少し笑みを浮かべている。分かりにくいが…普段落ち着いていても、まだ年ごろの少女だ。同じことを思っている人がいると安心するんだろう

 

「それで、あんな悪戯をしたと?イヤ…あなたなりの死刑ってやつ?あいつ、クリスタクリスタってうるさいからね、キヨンに嫉妬して絡んでたっけ」

 

「気付かれていたか…まぁおかげでかなりストレスを発散できた」

 

「そうね…いい気味」

 

「それで、何か思い悩んでいるのか?」

 

「まぁ…あんたと同じよ…上手くいかないことばかりね」

 

「そうか…聞くだけならできるが?」

 

「ライナーとベルトルトにムカついてね…」

 

ほぅ…

 

「なんであいつらに?」

 

「なんで私だけ…イヤ…何でもない」

 

まずったと思ったのか、途中で会話を止めた。

 

「ん?ライナーにストレスを抱くのは仕方ないと思うが?」

 

「それは…あんたの話でしょ」

 

と、小さい声で突っ込む。なら…この先三人で密会をする可能性があるな...その時を待つか。それが知れただけ良しとしよう

 

「なぁ…ちょっと付いてきてくれないか?」

 

「どこへ?」

 

「たまにストレスが溜まったら行くところがあるんだ」

 

「なら、行く」

 

そう言って、向かったところは、湖が月の光で綺麗に見える場所だ。

 

「綺麗だろ?ここで思い切り叫ぶと、ちょっとはストレスが発散できる」

 

「確かに綺麗だね…えっ叫ぶの?あんたが?」

 

アニが驚いている…珍しいな

 

「あぁ…叫んでみたらどうだ?」

 

「…じゃあ、先にあんたが叫んでみてよ」

 

「...オレが?」

 

まぁですよね…

 

「分かった…」

 

「あ~~~~~。よし、次はアニの番だ」

 

「…え?声量の欠片も出てなかったけど?」

 

「やったことに変わりはないだろ?」

 

「…」

 

ジトっとした目で睨まれるが、無視する

 

「次はアニの番だ」

 

「分かった」

 

アニは深く息を吸い叫んだ

 

「わーーーーーー」

 

アニにしては結構大きい声がでたな...

 

「ふぅ...案外スッキリした。また来ようかな」

 

「ああ、いいんじゃないか?」

 

それからしばらく星空を眺めてから帰った。

 

その次の日の夜オレは密会を聞いた。

 

「あんた達が遊び疲れてぐっすり眠るころ、私は王都のドブの中を這いまわった。黒いコートの男は他の連中と違う、実力者だ。危うく捕まりかけた。顔を見られたかも知れない。中央憲兵に入ったところであいつがいたんじゃ無理」

 

「そうか…」

 

「私たちが今まで集めた壁の情報を持ってマーレに帰ろう。あれから、もう5年が経とうとしている…どんな情報でも歓迎してくれるよ」

 

「本当にそう思っているのか?」

 

「じゃあ何?他にどうしろっての?」

 

「ウォール・ローゼを破壊する『不戦の契り』があるにしろ無いにしろ、『始祖の巨人』を炙り出す手段はもう他にないだろう...オレ達訓練兵のトロスト区滞在期間中に調査兵団が壁外調査で出払う日だ。壁内は混乱を極めオレ達訓練兵も現場に駆り出される

そこでオレ達が姿を消し死体が見つからなくても誰も生きてるなんて思わない。

その後王都になだれ込むなりして、王の動きに合わせて動きやすい位置に就くんだ」

 

「あんたらの大事な友達は大勢死ぬね…キヨ…全員死ぬかもね」

 

その言葉を聞いたライナーはアニに近付いて行き、目の前まで移動した

 

「キヨンって言いかけたか?アニ...最近あいつと良く一緒にいるよな?」

 

「え?」

 

先ほどから何も話していなかったベルトルトが反応した

 

「別に…」

 

「何度も言っているだろう...奴らは友達じゃない...エルディアの悪魔だ。」

 

「吐きそう、それ以上顔を近づけないでくれる?」

 

「...疲れたろ、いつもお前ばかり負担をかけてすまないと思っている。今日はこの辺にしておこう」

 

オレはそこで帰ることにした。

オレは食堂でパンと水を持って座席を確保し一人で食べ始める。

重大なことを聞いてしまった。

 

「キヨぽ~ん!ご飯を恵んでください!」

 

馬鹿が現れた。オレはいつも馬鹿からはキヨポン呼びをされる…

オレは、少し千切って渡した。

 

「サシャ...これで内密に頼みたいことがある。内容は一週間後に話す」

 

「分かりました!!なんでも言ってください!!」

 

内容も聞かないまま。オレと約束をし、目の前で食べ始めた。

そんなサシャを放置し、再度考える

 

[始祖の巨人][付箋の契]とはなんだ?

 

アニは[マーレへ帰ろう]と言った。アニたちの国の名か

 

ライナーは[エルディアの悪魔だ]とオレたちのことをそう呼んだ

 

つまりオレだけが寝返ることは不可能...

 

そして、何より聞き逃せないのが、調査兵団が出払う日にトロスト区を襲撃か...

 

ここでの勝利条件を考える

優秀な仲間が生き残ることだな...オレの同期はなかなかの粒ぞろいだ。上位以外にも優秀な奴らは多い。だが、性格的に問題のある奴らばかりでまとまりがない。

ここは…成長の機会では?

巨人との戦闘は壁外に出ればいくらでもできるが、憲兵や駐屯兵団に行くと成長どころか退化するだろう。

だが、ここで巨人と戦闘をし生き残れると言う、希望的観測はするべきではない。

しかし、オレは巨人を駆逐し自由を得る目標がある

オレの勝利のためならある程度の犠牲は仕方ない。

そう、マルコやジャン、コニー、サシャ、ヒストリア、ユミル、エレン、ミカサ、アルミンが生き残り調査兵団にさえ入ればなんの問題もない

今回の襲撃で精神が不安定になる。当然だ。しかし、そんな時ほど漬け込みやすい。その時に調査兵団に誘導する。

しかし、さすがに全員を見て守れはしない..調査兵団..やはり必要になるか。

 

どうするか..

アニたちの存在を

あいつらは壁を壊してくれた、大切な存在。だからと言って、相対したとき容赦はしないが…オレが密告して、あいつらが捕まり死刑になれば外の世界のことは何も聞けない。つまり、勝負を捨てるようなもの…オレは取り合えず、アニたちのことは報告しないことにした。

 

そして、六日後…休みの日に調査兵団の団長の元に赴いた。訓練所から抜け出したのだ。だが、会いに行ったわけではなく、どのような人物なのかを確認をしに行っただけだ。思いのほか団長は簡単に見つかった。あの人は…以前ズタボロで帰ってきた調査兵団にいた人だ。あの人が調査兵団になったのか…あの人なら大丈夫だな、あの人がオレと同じ考えを持っていることを一度聞いた事がある。なによりも、あの人の雰囲気だ。憲兵のゴミ兵とは格が違う…

そこからは少し王都を見て回り帰ることにした。

 

帰ってきたオレは、手紙を書きサシャに渡し誰にも見つからないようにと忠告をし、調査兵団団長に渡すように言った

オレが行かなかったのは、団長の近くに行くのが二回目になることと、こう言った事ではサシャが最も優れていた。何せ、厨房に何度も侵入し盗んでくるからな…

 

 

調査兵団への手紙

 

三ヶ月後の壁外調査で調査兵団が出払ったとき、トロスト区、カラネス区、ユトピア区、クロルバ区のいずれかの門扉を超大型巨人が破壊するとの情報が入った。敵は内に潜んでいる。この情報は極秘事項だ。他の団にも話さないように

 

 

 

 

オレはそれだけを伝えた

トロスト区だけにすれば、調査兵団の全てが集まる…そうなれば、成長も何もできない。ギリギリで守りつつ成長させる。絶対ではないが、この絶望的な状況では多少の賭けは必要になる。

他の団を呼ばない理由は、後でこの手紙の捜索が開始されれば面倒だ。あの調査兵団団長なら大丈夫だ、信用できる。

 

オレは若干、この危機的状況に旨を高鳴らせていた。

ようやく、自由への一歩を踏み出せるのだから…

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エレンの夢

ほぼ原作通りです。


 

 

入団から2年

 

「走れ!!このノロマども!!」

 

雨が降る中、私は声を張り上げる。訓令兵に森の中を装備を背負って走らせていた。本日の訓練である

 

「どうした?アルレルト遅れているぞ」

 

後方でアルレルトを叱咤する。

 

「貴様には重いか、貴様だけ装備を外すか?これが本番なら貴様はここで巨人の餌だ!」

 

我ながらいつもきつい言葉を掛けなければいけないことに嫌気がさす。しかし、本番では、気を張っていたとしても一瞬で命を落とす。この程度、着いてこれなければすぐに命を落とすだろう。ならば、兵士など辞めて田舎へ帰るべきだ。

私は私のような後悔ばかりする人を増やしたくない。そのためなら訓練兵に嫌われたってかまわない

 

「くそ!」

 

アルレルトの方へライナーが向かった。

 

「貸せ!このままじゃ脱落組だぞ!今日の訓練は採点されてる」

 

「そんなことしたら、ライナーまで減点されるよ」

 

「ばれねぇように尽くす!オレの気が変わらねぇうちにな!」

 

ライナー・ブラウン…屈強な体格と精神力を併せ持ち、仲間からの信頼も厚い。

 

「お荷物なんて死んでもごめんだ」

 

そう言ってライナーから自分の荷物を奪い担ぐ

 

アルミン・アルレルト…体力面で劣るものの、座学で非凡な発想を見せる。

 

場所は変わり立体起動装置の訓練へ

三人の訓令兵が、疑似巨人のうなじを削ぐ。

 

アニ・レオンハート…斬撃に非の打ちどころはないが、連帯性に難があり孤立気味。だが、気が合うものとの連携はできる

 

ベルトルト・フーバー…潜在能力は高いが、積極性に欠ける

 

ジャン・キルシュタイン…立体起動はトップクラス、だが、抜き身すぎる性格が軋轢を生みやすい

 

ジャンは別の位置に移動し、巨人を探しに行く

 

「見つけた!」

 

「ありがとよ!ジャン!」

 

「いやったー」

 

サシャ・ブラウス…型破りな勘の良さがあるが、それゆえに組織行動には向かない

 

コニー・スプリンガー…小回りの利く動きが得意、しかし頭の回転がやや鈍い

 

続いて二人が巨人に向けて飛んでいく

 

「やっぱり、まだミカサより浅い」

 

ミカサ・アッカーマン…あらゆる科目を完全にこなす。歴代でも類のない逸材と評価は妥当

 

エレン・イェーガー…目立った特技は無いが、他ならぬ努力で成績を伸ばした。そして、人一倍強い目的意識を持つ

 

最後に一人の男が巨人に突っ込む

 

キヨン・ジェイルーン…一度見たもの、体験したことは全て完璧にこなす洞察力を持つ。また、頭の回転の速さは常人とは比較にならない。そして、特定の人物からは頼りにされている。

 

これで、採点は終了だ

 

 

「うぉぉぉおおおおお」

 

ライナーがエレンに向かって木のナイフを持ちながら突進をする

エレンはその突進力をいかし、ライナーを投げ飛ばす。

オレはヒストリアと組みながら、横目でエレン達を見ていた。

 

「エレン…お前強いな、誰からか教わったのか」

 

「あぁキヨンにな」

 

「あぁなるほどな、と言うかキヨンはまじでどうやってあんなに強くなったんだ?」

 

「さあな、二歳のころから一緒にいるのによく分からんやつだよ」

 

「そうか…おい、それより見ろよ…あれ」

 

「また、教官にばれないようにサボってるな」

 

「教官の頭突きは嫌か?それ以上、背を縮めたくなかったらここに来た時を思い出してまじめにやるんだな」

 

と、ライナーはアニに近付いていき、なぜか煽り始めた

 

「おい、なんだよ…その言い草」

 

あいつ…死にたいのか?アニは怒ると怖いぞ…あ、やっぱ怒っていやがる。

 

「そら、始めるぞ!エレン!」

 

「えっオレ?」

 

アニとエレンの対決が始まった。アニは独特の構えをする…あれは、ムエタイか?

エレンがまず仕掛けるが、アニはエレンの左脚に向かって右足で蹴りを入れる。エレンは右足を軸に左足を下げ、アニの攻撃を避けながら右足で軽いステップとともにアニに近づき、ジャブをいれる。だが、それもアニの高く上げた腕でガードされる。

さすが、ムエタイのディフェンス力は高いだけあるな。そして、その近くなった距離を利用し、アニは首相撲でエレンを投げ飛ばした。そのままエレンの首元に木のナイフを突きつける

 

「うっ…」

 

「あんた強いんだね…つい本気でやってしまったよ」

 

「それはこちらのセリフなんだがな…誰からか教わったのか?」

 

「お父さんに…」

 

「親父さんがこの技術を…」

 

「どうでもいい、こんなことやったって意味なんかないよ」

 

「この訓練のことか?」

 

「対人格闘術なんか点数にならない、普通はああやって流すのさ…憲兵団に入って内地へ行けるのは、上位10人だけだからね。真面目にやってるのはあんたらのような馬鹿正直な奴らか、単なる馬鹿か」

 

アニは周りを見ながら話す。確かに真面目にやってるのはオレたちくらいだ。

サシャとコニーに至っては、本気でふざけあっている。そこへ、教官が近付いていき二人を縛り上げる

 

「まずい!教官だ!!」

 

「なぜか、この世界では巨人に対抗する力を高めたほど巨人から離れられる。どうしてだと思う?」

 

「さぁ、どうしてだろうな?」

 

「それが、人の本質だからでは?とにかく、私はこのくだらない世界で兵士ごっこを興じられるほど馬鹿になれない」

 

そう言って、去っていった

 

「お前は戦士にとことん向かないようだな」

 

ライナーの一言でオレは敵であるはずなのに、一瞬ヒヤッとした。こいつら…隠す気あるのか?

 

訓練が終わり、食堂に移った

 

「一瞬だけ強めに吹かせばいい。そうやって慣性を利用したほうがガスの消費は少なくて済む」

 

「簡単に言ってくれるよ…」

 

「まぁ誰にでもできるわけじゃあないからな」

 

と、ジャンはミカサを見ながら話す。幼稚だな…

 

「覚えておいて損はないぜ、憲兵団に入りたいならな」

 

「あぁ、王の近くでの仕事なんてこんな光栄なことはない」

 

「おいマルコ!!お利口ぶらないで言えよ、本音を!憲兵団に入るのは、内地での安全で快適な暮らしが待っているからだろうが…」

 

「そんな!少なくとも僕は…」

 

「内地が快適?ここだって五年前までは内地だったんだぞ」

 

さっきから妙に静かだったエレンが突如割り込んだ。昼間の訓練のことでなにか思うところがあったのだろう…

 

「なにが言いてぇ?」

 

「ジャン…内地に行かなくてもお前の脳内は『快適』だと思うぞ?」

 

エレンは壁を破壊された日(修行を開始した日)から、あらゆる面で成長したが、一番成長したのは煽り能力だと思う。特に汚い言葉をよく覚えた

 

「ぷっ…」

 

エレンの一言で周りから嘲笑われたジャンは、当然怒りエレンと喧嘩になる

エレンとジャンはお互いが胸倉を掴みあったが、すぐにミカサに止められエレンは引き下がる

しかし、ミカサに対して恋心を抱いているジャンは、嫉妬し怒鳴り散らした。

 

「ふっざけんなよ!てめぇ!」

 

「あぁ⁉離せよ!服が破けちまうだろうが!!」

 

「服なんてどうでもいいだろうが、羨ましい!!」

 

「はぁ?何言ってやがんだ?」

 

そこでエレンは自分が感情的になっていたことが分かったんだろう。掴まれていた手を掴み、足払いでジャンを倒した。

 

「あぁ?何しやがったてめぇ!」

 

「格闘術は得意なんだよ。楽して感情任せに生きるのが現実だって?お前、それでも兵士かよ?」

 

押し黙るジャン…しかし、倒れた音が大きかったのか[ガチャ]と、扉が開いた。

 

「今しがた、大きな音が聞こえたが…誰か説明してもらおうか?」

 

現れたのは、頭と顎が反転した人物…教官だ

エレンとジャンは黙り込みそれぞれの席に戻った

助け船を出しても構わなかったが、今回は感情的になったエレンが悪いな

そう思っていたが、ミカサが助け船を出した。

 

「サシャが放屁した音です」

 

イヤ…あの音が放屁なわけないだろう…もっと上手い誤魔化し方もあったはずだ…

 

「なっ…」

 

サシャは自分に火の粉が降りかかり、驚愕していた。

 

「また、お前か…少しは慎みを覚えろ…」

 

まじかよ…それで良いのか…改めてサシャの都合の良さを理解した

周りは笑いを堪えきれていない。変顔祭りになっている。サシャはミカサに詰め寄ったが、パンを与えられたことにより、すっかり機嫌は直ったようだ。

 

その後の訓練はジャンも対人格闘術に真剣に取り組んでいた。

 

そして、訓練生218名が卒業に漕ぎ着けた。

 

「心臓を捧げよ!!!!!!!!」

 

「「「「「「「「 はっ!!!!!!!! 」」」」」」」」

 

「本日、諸君らは『訓練兵』を卒業する…その中で最も訓練成績が良かった上位10名を発表する。呼ばれたものは前へ

 

同率主席 キヨン・ジェイルーン

     ミカサ・アッカーマン

 

3番   ライナーブラウン

 

4番   ベルトルト・フーバー

 

5番   アニ・レオンハート

 

6番   エレン・イェーガー

 

7番  ジャン・キルシュタイン 

 

8番   マルコ・ポット

 

9番   コニー・スプリンガー

   

10番  サシャ・ブラウス

 

   

 

以上10名」

 

「本日をもって訓練兵を卒業する諸君らには、3つの選択肢がある

 

壁の強化に努め各街を守る『駐屯兵団』

 

犠牲を覚悟して壁外の巨人領域に挑む『調査兵団』

 

王の元で民を統制し秩序を守る『憲兵団』

 

無論、新兵から憲兵団に入団できるのは、成績上位10名だけだ

 

後日、配属兵科を問う

本日は、これにて第104期『訓令兵団』解散式を終える...以上!」

 

オレとミカサは主席だったか...全科目満点なら同率は当然か…

 

「すごいじゃない!主席って!」

 

この訓練兵期間でかなり明るくなったな

 

「たまたまだ」

 

「またまた~」

 

「それは私らのような上位10名に入れなかった者からすれば嫌味にしか聞こえないが?」

 

「…主席取れて良かったです。」

 

こういう時、なんて言えばいいのか、まだ分からない

 

「それで?前から言ってたように調査兵団にするのか?」

 

「ああ」

 

「もったいねぇなぁ…私なら絶対、憲兵に行くのに…」

 

「調査兵団になるために兵士を志願したんだ。二人は?」

 

ヒストリアはオレの近くにいる約束をしているため、調査兵団だろうが一応聞いておく

 

「まぁ…私も調査兵団かな…壁が壊されてからどこも危険だしよ。キヨンがいるところの方が安全だろ?」

 

「そんなことは無いと思うが…」

 

「そうだよ!ユミル!キヨンに任せてばっかりじゃ駄目だよ!あ、私も調査兵団にする」

 

ヒストリアとユミルはかなり仲良くなったみたいだな。

 

「そうか…生きていられるといいな」

 

「そうだね…」

 

「キヨン様が守ってくださるだろ」

 

「まだ言うか…」

 

「勝てるわけない!」

 

突如、大きな声が響き渡り、その場にいた訓練兵がみなその方向を向いた。そこでは、エレンを中心に集まっていた。声を張り上げたのはトーマスだった

 

「お前だって知ってるよな…今まで何万人食われたか...人口の2割以上を失って答えは出たんだ。人類は…巨人に勝てない」

 

「それで…勝てないと思うから諦めるのか?確かに、ここまで人類は敗北してきた。それは巨人に対して無知だったからだ。巨人に対して物量戦は意味がない。負けはしたが、戦いで得た情報は確実に次の希望に繋がる!オレたちは何十万の犠牲で得た戦術の発達を放棄して大人しく巨人の餌になるのか?冗談だろ⁉オレは!巨人を1匹残らず駆逐して狭い壁の中から出る!それがオレの夢だ!人類はまだ本当に敗北したわけじゃない!!」

 

エレンは涙を少し浮かべながらそう言った。言い終わると、外へ出ていき、それをミカサやアルミンが追いかけて行った。

 

「お前は行かなくてもいいのか?」

 

と、ユミルが聞いてくる。

 

「ああ、大丈夫だろ」

 

エレン…たまには良いことを言う。本心からの言葉に皆の心に響いたようだ。嬉しい誤算とはこのことだな…

 

 

 

そして、壁が破壊される日…当日

 

オレたちは壁の上にある大砲などの掃除するため、街を歩いていた

 

さすが、団長だな…町の人たちは、何も知らない…知らせていないと言うことだ。それは、つまりここの街の人を見殺しにしても巨人の謎を暴くと言ううこと…やはり、オレと似た考えをしている。

調査兵団の人たちはコートを被り、裏道をひっそりとその時を待っている。壁には調査兵団は見当たらない。

 

「しっかし、最前線の街だってのに人が増えたよな…」

 

エレンが、街の人たちを見て言う。

 

「もう5年も何も無いんだもん」

 

そう…人間と言う生き物は、すぐに慣れ油断をする生き物だ

 

「数年前の雰囲気のままとはいかないでしょ」

 

「この5年間で壁もずいぶん強固になったしね!もう大型巨人なんて来ないんじゃないかな」

 

どうして、こいつらはすぐに希望的観測に持っていくんだ…しかし、この馬鹿夫婦はそれなりに優秀であり、余裕ができれば次に助けるべきはこの夫婦だ。この夫婦は場の雰囲気を明るくする。

 

「何、腑抜けたこと言ってんだ!!馬鹿夫婦!!そんなことじゃ」

 

と、エレンが叱咤するが

 

「そ、そんな夫婦だなんて…」

 

「お似合い夫婦だなんて…気が早いよ、エレン!」

 

エレンはその二人の反応にイラッとしていた。

 

「諦めろ、エレン、こいつらには何を言っても無駄だ。二人とも巨人が来たときは切り替えろよ」

 

「「もちろんだよ!!あ…ハモっちゃった」」

 

照れくさそうに言う夫婦にイラッとしたが、心を落ち着かせる

 

「お前らな!!」

 

 

 

オレは壁の上へ行き、下を見る何やら下でこそこそしている奴らがいるな

 

「はぁ…調査兵団にするって?コニーお前9番だろ⁉前は憲兵団に入るって…」

 

「憲兵が良いに決まってるだろ…けどよ…」

 

頬をかきながらコニーが言う

 

「そう照れるなよ。やるべきことは分かっていても踏ん切りがつかないこともあるさ」

 

そう言うのは、トーマス

 

「それにオレも…「あのぅ…皆さん…」」

 

サシャが割り込むが、こいつ…手に何を持っていやがる

 

「上官の食料庫からお肉を盗ってきました。」

 

「サシャ...お前独房にぶち込まれたいのか…?」

 

まじかよ…

 

「お前…本当に馬鹿なんだな」

 

「馬鹿って怖えぇ」

 

「後でみんなで分けましょうスライスしてパンに挟んで…むふふふふふ」

 

「戻してこい」

 

「そーだよ、土地が減ってから肉なんてすっごく貴重になったんだから」

 

そうだ…オレを巻き込むな

 

「大丈夫ですよ…土地を奪還すれば、また牛も羊も増えますから」

 

「え?」

 

エレンが素っ頓狂な顔をする

 

「ウォール・マリアを奪還する前祝いに頂こうってわけか」

 

「食ったからには、腹くくるしかないもんな」

 

「オレもその肉食う!!」

 

「私も食べるんだから!取っておいてよ!」

 

口々にそう言う。調査兵団になって巨人と戦うことへの決意表明だろう。実に結構なことだ

だがな、その肉を食うと言う問題行動にオレを巻き込むな

 

エレンの手が震えている。そして、顔を上げた。その顔はやってやると言う意気込みがあふれ出ていたが…

 

その時

 

超大型巨人が爆音と共にエレンの真後ろに現れた

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

訓練兵の活躍

原作の綾小路ではしなさそうな指揮役を書いてみました


 

 

オレがいた場所は、トロスト区である。

それは、一瞬だった。

超大型巨人が現れた瞬間、爆風でオレたちは飛ばされた。

立体起動で持ち直し、壁に張り付き下を見ると、門が破壊されていた。これにより、調査兵団が動き出すが、まだこちらに来るまでに少しの時間がかかる。しかし、トロスト区は一番破壊される可能性があったはずなのに、リヴァイ兵長の姿が見えない...

手紙の差出人を探っているのだろうか…すぐに対応すれば、そいつが怪しいと思われるな…

それとも、あの手紙が敵側の作戦だと考え、敵側による戦力分析だと捉えたか…

団長は部下数人を連れて、こちらの様子をジッと見ている。

調査兵団団長となら、対面してもいいのだが…このトロスト区襲撃事件の間はなるべく会わないほうがいいか…

 

「固定砲整備4班!!戦闘準備!!目標!目の前!!超大型巨人!!」

 

エレンが真っ先に動き出す。

 

「これはチャンスだ!絶対に逃がすな!!壁を壊せるのはこいつだけだ!!」

 

と、言って壁の上へ立体起動で飛んでいく

 

「…よう...5年ぶりだな…」

 

先に仕掛けたのは超大型

壁の上を手で払う。エレンではなく、固定砲を狙ったか...厄介だな

エレンは躱し超大型の背後に移動する。オレもエレンが殺ったと思ったが、次の瞬間蒸気により辺り一帯が見えなくなった。しばらく蒸気が滞り、それが晴れると目の前には驚いているエレンがいた。

オレはすぐに下を見るがもう誰もいなかった。アニかライナー若しくは自分の立体起動で逃げたか...あの超大型だけはかなり厄介だな

 

「エレン!お前が倒しちまったのか?」

 

「違う!5年前と同じだ…こいつは突然現れて突然消えた」

 

「すまん、逃がした」

 

「おい!そんなこと言ってる場合か!もう壁は壊されちまったんだ!早く塞がないと、また巨人達が入ってくるぞ!!」

 

「訓練兵!!超大型巨人出現時の作戦はすでに開始している!ただちに、お前らの持ち場につけ!!」

 

「ヤツと接触したものがいれば本部に報告しろ!なっ!調査兵団がいるだと!?」

 

と、駐屯兵団が支持をする。調査兵団がいることに驚いている。

調査兵団は次々に押し寄せてくる巨人を数人で一体を倒していく。さすがだな...新兵や駐屯兵団の動きとまるで違う。しかし、これだけの人数では抑えられないだろう…ここでオレは違和感を抱いた。この巨人の数はおかしい…超大型が巨人を引き寄せているのか…それとも、他の巨人が引き連れて来たのか…

まぁなんにせよ、戦い方や巨人の動きを見れたので良しとしよう。普通の巨人ならオレやミカサは今すぐにでも大丈夫だな、他の奴らも調査兵団のように戦えば倒せる。しかし、巨人の恐ろしさは数だな...分散させればいいか

 

オレたちは立体起動を使用し急いで本部へ戻った。

 

「所持する財産は最小限に!」

 

「落ち着いて避難してください!」

 

この騒然とした町の中で、兵士の声が際立って聞こえる

 

オレ達新兵と駐屯兵団は本部の前で集められた。

 

「現在、調査兵団の少数と駐屯兵団のみによって…壁の修復と迎撃の準備が進行している!お前たち訓練兵も卒業演習を合格した立派な兵士だ!今回の作戦でも活躍を期待する!!」

 

「それでは訓練通りに各班ごと通路に分かれ駐屯兵団の指揮の下、補給支援・情報伝達・巨人の掃討などを行ってもらう。

 

前衛部を駐屯兵団と調査兵団

中衛部を我々率いる訓練兵団

後衛部を駐屯兵団の精鋭部隊

 

我々はタダメシのツケを払うべく住民の避難が完全に完了するまで、このウォール・ローゼを死守せねばならない

なお、承知しているだろうが敵前逃亡は死罪に値する。みな、心して命を捧げよ

 

解散!!」

 

「ハッ!!!!」

 

「なんで!今日なんだ!明日から内地に行けたっつーのに!!」

 

ジャンが嘆く

しかし、これはジャンだけではない。周りの兵士全員だ

中には、嘔吐している者までいる…こいつらを囮にするか…それでもまだ、死なすのは惜しいか…

 

「戦闘が混乱してきたら私のところに来て」

 

そう持ち出したのはミカサ

 

「は⁉何言ってんだ⁉オレとお前は別々の班だろ⁉」

 

それを当然のごとくエレンは否定する

 

「混乱した状況下では筋書き通りには行かない、私はあなたを守る!!」

 

「お前さっきから何を「ミカサ訓練兵!キヨン訓練兵!」」

 

エレンの言葉を遮り、駐屯兵団の分隊長が割り込んだ

 

「ミカサ訓練兵は特別に後衛部隊だ。キヨン訓練兵は中衛部に着き次第、訓練兵の指揮を取れ!

ミカサ訓練兵は付いてこい」

 

「私の腕では足手まといです!!」

 

「お前の判断を聞いているのではない。非難が遅れている今は住民の近くに多くの精鋭が必要だ!」

 

「しかし!」

 

「おい!いい加減にしろ!」

 

エレンはミカサに頭突きをしながら叱咤する

 

「いい加減にしろ!人類滅亡の危機だぞ!なにテメェの勝手な都合を押し付けてんだ!」

 

そう言われ、ミカサはしぶしぶ了承する

 

「悪かった!私が冷静じゃなかった…」

 

「でも…頼みがある…一つだけ…どうか…死なないで。キヨン…エレンをお願い…」

 

オレの心配はしてくれないんだな…一度エレンを死んだことにして、ミカサの成長を促したいが…ミカサの精神が崩壊して死なれるのが最も困るな…

 

「おい、キヨン!オレらの班は集まった。行くぞ!」

 

エレンが訓練兵を集めてきた。オレの班は6人であり、最初に移動を開始し中衛部に着く。最も危険な班だ。

 

「待て、今から隊列を組む。」

 

「隊列?急がねぇとやばいだろ!」

 

「急いで行って全滅になったら笑えないぞ、緊急事態のときこそ冷静にといつも言っているだろう」

 

「そ...そうだな」

 

「先頭はオレ、オレの右後ろにトーマス、左後ろにミリウスだお前たちは左右を警戒しろ。その後ろは、ミーナ、アルミン、エレンだ。アルミンはオレが出せない時、後ろから指示を出せ。エレンはアルミンを必ず死守しろ」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

「34班!!前進!!」

 

オレたちは中衛部まで前進する

立体起動で空中を移動したり、屋根の上を走ったりして移動していく。

少し進んでから

 

「止まれ、奇行種だ」

 

オレは一声かけ止まった。

その瞬間、8メートル級の巨人がこちらに飛び込んで来た。オレはそいつに向かって飛び背後に回り込んでうなじを削ぐ。

 

「お、おお、さすがキヨンだ…」

 

「気を抜くな」

 

「わ…悪い…」

 

「今のが巨人を殺す要領だ。一人でできなくても三人、四人ならできるだろう。覚えておいてくれ」

 

巨人を一体倒すのに、30人いると聞いたが、建物に囲まれたこの場では、作戦を建てられれば3.4人でも問題ないな

 

「は…はい。できるかな…」

 

弱音を吐くヤツがいるが今はまだ仕方ない...まだこの場の雰囲気に慣れていないだろうからな

 

「今は見ているだけでいい...だが、警戒だけはしてくれ…もう少しだ、行くぞ」

 

オレは次々に襲い掛かってくる巨人を、見本を見せるように一番安全な方法で倒しながら、中衛部まで進む

オレの巨人の倒し方はフェイント...要は誘導である。本能で突っ込んでくる巨人は罠に嵌りやすい

 

 

▽▽▽

 

 

キヨンが次々に倒していくのを僕らはただ、後ろで見ていた。もちろん全員、周囲を警戒している。

 

「しっかし、すごいな...キヨンは」

 

エレンが後ろからそう言った。

 

「うん…確かにすごい...だけど、あれはキヨンやミカサしかできないからね?キヨンは4人で倒す方法を僕らに教えてくれてるんだよ。間違っても、一人で真似しようとしては駄目だからね…」

 

「わ…分かってるよ!それくらい…」

 

エレンも分かってはいるんだろう…でも、あの戦い方に憧れてしまうんだろう。エレンは全ての巨人を駆逐する目標があるから、あの強さに憧れずにはいられないんだ。

 

「でも…!本当にすごいよ!さすが主席だよね!」

 

「あぁ良い班に来たと思っている」

 

「だな!技術を盗んでおかないと!」

 

ニーナやトーマス、ミリウスも同じことを言う。

 

「うん!そうだね…」

 

キヨンはこの先、訓練兵全体の指揮に入る。僕たちを今すぐにでも成長させる必要があると思っているんだろう。本当に尊敬できる友人だ。

キヨンが巨人をなぎ倒して行き、僕たちは誰一人欠けることなく中衛部まで来れた。一呼吸つき、キヨンが僕らに指示をだす。

 

「ふぅ...見ていたか?まだ、他の班は来ていない。オレが見ているから、四人で倒してきてくれないか?」

 

「え…オレ達だけで?」

 

ミリウスが困惑するが、キヨンは変わらず

 

「ああ、危険だと判断したらオレが助ける。初めての巨人狩りなんだ。オレが必ずお前らを守る。アルミン…策は?」

 

「巨人狩りって…戦闘だよ…」

 

ミリウスが突っ込む

 

おじいちゃんが死んだあの日…僕はあの日からキヨンと共に様々な巨人への策を話し合っていた。そして、いつも冷静にいるように心掛けた。

今だって冷静に状況を分析できている。なら、答えは当然...

 

「もちろんだ!みんな!僕に任せてほしい!」

 

「分かった!頼んだぞ!アルミン!」

 

エレンは即答してくれた。他のみんなも首を縦に振る

 

「ありがとう!作戦はこうだ!」

 

僕はシンプルで安全に倒せる策を出し、みんなは持ち場に着く

 

 

▽▽▽

 

 

アルミンの策を聞き終えたみんなは持ち場に着いた。

シンプルな策であり、本能で動く巨人には効果的な良い策だ。

 

まず、最も立体起動に優れているエレンが巨人を誘導する。その際、エレンは地面すれすれを移動する。巨人の目線は下へ行き、前を見れていない。

そして、道の上にある渡り廊下をエレンが潜ると巨人は渡り廊下に激突する。そこへ、すぐ近くで待ちかまえていたミリウスがうなじを削ぐ。巨人はあっけなく倒れた。

他の二人は、見張りと仕留めそこなった時の予備だ。

 

「やったな!アルミン!!」

 

「ああ、僕らで巨人を倒せた!」

 

「危なげなく倒せたな、この調子で後2体倒しておこう」

 

「おう!!」

 

「うん!」

 

と、後の二体もオレが手助けすることなく倒した。

 

「いいんじゃないか?」

 

「うん!みんな!本当にいい感じだ!」

 

「ああ!やったぞ!討伐数1だ!」

 

トーマスが喜ぶ

 

「うん!私も討伐数1!」

 

「オレだけ0なんだが...」

 

「だが、エレンの活躍無く討伐はできなかった。なあみんな?」

 

オレはみんなに問いかける

 

「当たり前だ!」

 

「そうよ!エレンが居なかったら私たち討伐どころか食い殺されてたかもね…」

 

「エレン…補助もなかなか良い仕事だろ?」

 

「…そうだな、案外いいかもな」

 

「オレは今から中衛部の周りを見てくる。他の班の奴らの支持も出さないといけないからな…みんなはさっきのように巨人を一体ずつ倒してほしい。これからこの班はアルミンが指揮を取れ。」

 

「分かった…みんな、やるぞ!!」

 

緊張も大分ほぐれ、少しは自信が付いたな…

オレは他の班を見に行くことにした。まずは、ヒストリアとユミル、コニーの班がオレたちのすぐ後ろにいるはずだ。

この班は特に心配していなかった。訓練兵時代、上位の奴らで占めている班であり、オレたちのすぐ後ろなため巨人と出くわしていない可能性だってある。

案の定、この班は無傷であった。

 

「あ!キヨン!」

 

真っ先に気付きこちらに来たのはヒストリアだ

 

「クリスタ、無事だったか?」

 

「うん!巨人とは遭遇していないから…そっちはどうだったの?」

 

「こちらは、巨人を見つけ次第、倒している。犠牲はでていない」

 

「ほう…さすがキヨン様だ!この調子ですべての巨人を倒してきてほしいところだな!」

 

「そうか!それは良かったな」

 

「本当に良かった」

 

ユミルはさすがと言うべきか…すぐ調子の良いことを言う

 

「オレは今訓練兵の指揮を任されている。今からお前たちに指示をする」

 

「「「「「分かった」」」」」

 

「お前らの班は前へ進み、エレン達と合流して、巨人を倒してほしい。無理はしなくて良い…集団で来るならば逃げて構わない。基本的にアルミンの指示に従ってくれ」

 

そう言って別れた。ヒストリアを見ていなくても良いのはユミルが付いているからだ。

 

オレは次の班を見るべく空を駆け巡る。 他の班は横に進行する班もあったため、壊滅的なところもあった。中には全員が既に食いちぎられ、半身だけしか残っていないところもある

一人になり、絶望し声を掛けても反応しないやつもいた。そいつらを構っている時間は無いためオレは他の班に移動する

 

次の班も絶望的だな…

馬鹿夫婦がいる班だ。

間に合うか…

馬鹿夫婦以外は全滅であり、フランがハンナを救い自分が犠牲になろうとしていた。

オレは先に刃を巨人の目に投げた

 

『おおぅぅぅああヴぁあああ』

 

巨人が叫ぶ

オレはその隙に地面を蹴ると同時にガスを強く吹く。一瞬にしてトップスピードに入り巨人に接近しうなじを削ぐ。

なるほど、この使い方は消費を抑えられるな

 

「キヨン!!!!」

 

ハンナが泣きながらこちらにやってくる。フランの方は固まったままだ

 

「キヨン!ありがとう!」

 

「ああ、だが、すぐに警戒しろ。近くに巨人はいるかも知れない。」

 

「あ…そうだね、わかった。それにしても…さっきの立体機動凄かったね…」

 

「まあ、オレも始めてやったからな、上手くいって良かった。それよりも大丈夫か?フラン」

 

固まっていたフランがようやく動き出した

 

「あ…ああ、もう駄目かと思った。ありがとう」

 

「大丈夫ならいい…お前ら二人は、本部に行って補給班の確認だ。多分その近くにジャンやアニたちがいる。その班と合流してほしい」

 

「「了解!!」」

 

オレは、馬鹿夫婦に指示を出してから、エレン達の方へ戻ることにした。

 

「エレン無事か?」

 

「キヨンか…無事だが、巨人がひっきりなしに来やがる」

 

「巨人の数が多いのか…それでも調査兵団の精鋭もいたからな…そう簡単に崩れるとは思えないが…アルミンは?」

 

「あっちでアルミンとミリウスで前衛の先輩方の報告を聞いているよ」

 

「なるほど」

 

顔面蒼白な顔をした先輩兵士が報告をしていた。

報告を聞いたアルミンがこちらにやってきた。

 

「キヨン…戻って来ていたのか…先輩から報告を受けた」

 

「どうだった?」

 

「どうやら…前衛はほぼ壊滅らしい…」

 

「調査兵団もか?」

 

「うん…報告によると怖気づいた駐屯兵団の下っ端が調査兵団を囮にしたりして、自分の身を守ったから、崩れてしまったようだ...」

 

「そんな!!何をやってるんだ!普段威張り散らしてるくせに!」

 

エレンは怒り立ち上がった

このままでは、不味いな…持久戦はこちらが圧倒的に不利だ…ガスの補給所の方もまだ確認を取れていない

エレンを巨人にさせて戦わせるか、リヴァイ兵長を呼ぶか…どちらもリスクがあるな

エレンはまだ一度も自分の意志で巨人になっていない…絶対になれるとは限らない

リヴァイ兵長は一度見たことがあるだけだ。一目見ただけだが、強いと分かるほどの実力を持っている。だが、リヴァイ兵長が現在どこにいるのか不明である。その呼び出すカギとなる人物は前衛にいたが、今生きているのか分からない。

と、そこへ5人ほどがこちらにやってきた。

前衛からやってきたので先輩だな…全員が立ち上がって先輩を迎え敬礼をする

 

「やぁ!すまないね、君たち!私は調査兵団の分隊長をしている。ハンジ・ゾエだ!よろしく」

 

元気な挨拶だな、この状況で…

 

「「「「あ、はい…」」」」

 

皆も同じことを思ったようだ。そして、皆の目は一人の男に向く。

 

「ああ、すまない、私は調査兵団団長のエルヴィン・スミスだ。我々だけでは手に負えないと判断し、一度撤退をしようとしていたんだが、まさか訓令兵が中衛部で止めてくれていたとはね…驚いた」

 

「光栄です。しかし、全てを止めきれずかなりの数を後ろに行かせてしまいました。」

 

アルミンが返す

オレたちはこの中衛部の最前線の真ん中辺りを守っていた。ここは巨人が最も通り抜けてくる場所だ。端の方は、駐屯兵団の残党と訓練兵が派遣されたが、オレが行く頃には全滅していた。なので、端のほうからは巨人が素通りしている。

 

「それは仕方ないだろう!よくこんなにも生き残れたもんだ。しかし、一体どれくらいの数が入ってくるんだろうね」

 

「そうですね…分かりません」

 

今度はオレが返す

オレはエルヴィン団長の方へ向き直った

 

「エルヴィン団長…」

 

「ん?何だ?」

 

「…ありがとうございます」

 

それだけを言う。エルヴィン団長は一瞬目を細めたが、にやりと笑った。ハンジは少し警戒したが、後ろの人達やエレン達は頭の上に?マークを出している

エルヴィン団長は何も言わず、腰に差していた拳銃のようなもので上に打つと、緑の煙が上がる。これが信号弾か

この合図でリヴァイ兵長や調査兵団が動き出すんだろう。これで、前衛は一安心だな…やはり、敵側による威力偵察を警戒したか…この団長も壁の外で人類が滅亡したと言うことに疑問を抱いている…

 

「ここは我々に任せて、君たちはガスの補給に向かうと良い」

 

「「「「「ハッ!!調査兵団の健闘を祈ります!」」」」」

 

「ああ、それから…君は…?」

 

「キヨン・ジェイルーンです」

 

エルヴィン団長に聞かれたため、オレは敬礼をしながら答えた

 

「そうか、覚えておこう」

 

オレ達はヒストリア達を回収しながら本部へ帰った。

横側の壁の上から調査兵団が雪崩れ込んで来るのが見えた。どうやら、前衛と中衛は任せても良いみたいだ。

本部についたオレ達が目にしたものは酷いもので、建物が巨人に囲まれていた。その周りで、ジャン達が青ざめている。アニたちは少し離れたところにいるな…しかし、班が同じとは言えマルコが近すぎる。この壁の中で特に何もしないと思うんだが…

 

「やっと撤退命令が出たってのに…ガス切れで、オレ達は壁を登れねぇ…そんで死ぬんだろうな全員…あの腰抜け共のせいで…戦意喪失したんだと…気持ちは分かるけどよ」

 

「オレ達への補給任務を放棄して本部に籠城は無ぇだろ…案の定、巨人が群がってガスを補給しに行けねぇ…」

 

ジャンはうだうだと嘆き続けている。

 

「だから!一か八かあそこに群がる巨人をやるしかねぇだろ⁉オレらがここでウダウダやってても同じだ!ここにも巨人が集まる!!いたずらに逃げ続けてもオレ達の残り少ないガスを使い果たすだけだ!機動力を完全に失えば本当に終わりだぞ!」

 

「珍しく頭を使ったな…コニーだが…今のオレ達の兵力でそれができるのか?前衛の先輩方はほぼ全滅だ...残されたオレ達、訓練兵の誰にそんな決死作戦の指揮が取れる?まあ…指揮ができたところでオレらじゃ巨人たちをどうにもできない…おそらく中には3~4m級が入ってるぜ?当然そんな中での作業は不可能だ」

 

ジャンがそう言い切る。オレはここに近付いてくる、一人の兵士に気付き今回の策を決めた。

 

「大丈夫だ、ジャン...オレは今訓練兵の指揮を任されている。そして、オレ達の班は誰一人欠けることなく巨人を倒してきた。策はある」

 

「おいおい...本気か?お前がいくら強かろうと、あの数はきついだろ…」

 

「当たり前だ。オレとミカサで左右から仕掛ける。ある程度反応したらオレたちは、囮になりつつ逃げまわる。『三人一組』になりバラバラになった巨人たちはお前らが倒せ。」

 

「おい…それじゃあ、お前が逃げている間誰が指揮をするんだ?」

 

「お前だ...ジャン」

 

「は?」

 

「聞こえなかったか?お前だよ、ジャン...」

 

オレは固まったまま動かないジャンを一度無視し,アルミンに向き直る

 

「アルミン...お前はもう片方の指揮を取れ」

 

「分かった!」

 

「危なかったら、すぐに撤退だ」

 

「ああ!」

 

オレが指示を出している間に先ほどこちらに向かってきていた兵士…ミカサが来た

 

「エレン!無事で良かった!あと、キヨンも」

 

こいつ…もういい…

 

「あ…ああ、ミカサも無事だったか…」

 

ミカサに手を掴まれたエレンはそう返した

 

「それで、今どう言う状況?」

 

オレはミカサに策を伝えた。二つ返事で了承してくれた

 

「ジャン...もういいか?」

 

「なぜ、オレが指揮役なんだよ」

 

その答えはマルコが言った。

 

「怒らずに聞いてほしいんだけど、ジャンは強い人ではないから弱い人の気持ちがよく理解できる。」

 

「なんだそりゃ」

 

「それでいて現状を正しく認識することにたけているから、今何をするべきかが明確に分かるだろ?まあ...僕もそうだし大半の人間は弱いと言えるけどさ…それと同じ目線から放たれた指示ならどんな困難であっても切実に届くと思うんだ」

 

「今...何をすべきか...か」

 

「そう言うことだ、できるな?ジャン」

 

オレとミカサが囮になるより、二人であの巨人を皆殺しにすることの方が正直なところ楽であり誰も死なない。しかし、今後、ジャンやサシャの成長なく敵と善戦できるかと考えれば、不可能に近い

 

「ああ!やってやる!」

 

気合の入った良い顔をしている

オレは少し声を張る

 

「決まりだな。ここで巨人を多く倒した奴にはサシャから肉を貰える。倒して生き残れ」

 

はぁ…いやだ...やはり、オレはこう言う士気をあげるのに向いていない

 

「「「「「「「「「「ううううおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」」」」」」」」

 

オレの言葉に全員の指揮が高まった

 

「ヒィィ~~~~~~~~~~~」

 

一人を除く…

そして、オレとミカサが動く

 

オレは先ほど発見した地面を蹴ると同時にガスを噴出する方法で移動を開始する。やはりこの方が燃費がいいな

あっという間に、巨人の群れに近付き何体か倒していく。オレに気付いた巨人たちは一斉にオレに向かってくる。オレは一本道を移動し行き止まりで右に曲がった。そこで、反対方向に移動する兵士が一人...エレンだ。そのエレンにつられてエレンの方にも2体ついて行った。

オレの方はまだ6体いるためさっきと同じ方法で巨人を誘導していく。最後の巨人を他の班に任せた後、本部に戻ることにした。

 

 

▽▽▽

 

 

キヨンがみんなの指揮を高め、ミカサと二人で飛び出した。

 

「なんだ!?今のは!?」

 

キヨンのいきなりのトップスピードにより、その場にいた全員が驚愕していた。ミカサは最初こそ出遅れていたが、キヨンの動きを真似てスピードを上げていった。

全く...嫌になるね…この壁の中の兵士は、時折ずば抜けた強さを持つ者がいる。私はこんな奴らを敵に回してしまったんだと今更ながらに思った。

そして、ここに来る前は悪魔だなんだと聞かされ、ライナーたちは始祖を奪還するだ何だと言っていたが、私はそこまで興味が無かった。情報を集めすぐに故郷に帰りたかった...お義父さんに会うために…それだけだった。しかし、今はどうだろう…訓練兵になってから度々思う…この人たちは本当に悪魔だろうか…そうは見えない…初めて気の許せる仲間もできた。エルディア人だ…でもそれが、何…?

私はもう壁の中の人達と戦いたくない…でも、自分がしたことは取り消せない..

私はどうしたらいいのか分からない...

 

 

▽▽▽

 

 

オレは巨人を他の兵士に預けたあと、全体の見回りをした。今のところ計画通りに行っている。ここまでくれば、エレンを巨人にせずに終わりたいところだ。

しかし、計画とは思うように行かないものだ…

 

アルミンが顔面蒼白な顔で報告をしにきた。

 

「キヨン!!」

 

「どうした?」

 

「エレンが巨人に喰われた!!」

 

「なに…?」

 

「巨人を倒すことは順調だったんだ...だが、逃げ遅れて隠れていた子供が巨人に見つかり喰われそうになっていたところ、エレンが助け出したんだけど…エレンがそのまま…」

 

「その巨人は?」

 

「エレンを失った僕たちでは倒すことは危険だと判断して何もできていない…ミリウスが子供を避難場所まで運んでいる」

 

「いや...それで良い、取り合えず...その巨人のところに案内してくれ」

 

「え…どうして?」

 

「まぁ…エレンの敵くらいはとってやらないとな」

 

「あ…ああ、こっちだ」

 

オレたちはエレンを喰った巨人の元に向かったが…その巨人は異様な身体の破け方をして、消滅しかけていた。

 

「な…なんだ…あれは」

 

「…アルミン…本部に一旦戻るぞ、ガスもそろそろやばい…」

 

戻ろうとしたとき、ミカサがこちらにやってきてしまった…

 

「アルミン、キヨン…エレンはどこ?」

 

その言葉にアルミンは悲壮な顔をし、涙ぐんだ顔でミカサを見る。その顔を見たミカサは理解したのだろう…一気に顔が暗くなる。

 

「キヨン…!なんであなたがいながら!」

 

と、オレの胸倉を掴む

 

「ミカサ!キヨンは関係ないんだ!僕が今呼んだんだ」

 

「あ…ごめんな…さい」

 

「かまわない…取り合えず本部に戻ろう」

 

オレはそう言い、先に立体起動で移動するが、後ろから物凄い勢いでミカサがオレを抜いていく…分かりやすく動揺しているな

 

「アルミン...お前は先に本部に戻りみんなをまとめていてくれ」

 

「ああ、分かった…キヨンは?」

 

まだかなり落ち込んでいるな

 

「オレはミカサに着く

アルミン…エレンが死んで悲しいのは分かる。だが、今はやるべきことをしろ。でなければ、次々に仲間が死んでいくぞ。」

 

「っ…そうだね…うん…その通りだ。ミカサは頼んだぞ」

 

「ああ」

 

オレはスピードを上げ、前でガスが切れ落ちていくミカサを受け止める

 

「キヨン……」

 

「ミカサ…お前らしくないな」

 

「まただ…また…これだ…家族を失った…残酷な世界だ…いい人生だった」

 

そんなミカサをオレは優しく抱きしめる

 

「ミカサ…お前はオレに二人の家族を失わせる気か?」

 

オレとミカサの目が合う

 

「…あ」

 

「お前にはエレンしか見えていないのか?オレも家族だったはずだ…友達のアルミンも置いていくのか?」

 

ミカサに問う。

 

「お前が死ねば…大好きなエレンを思い出すこともできないな…」

 

「っ…」

 

ミカサの目に生気が蘇る

 

「ごめんなさい…私はもう諦めない!なんとしてでも生きる!」

 

「ああ、そうだな」

 

巨人が前からと後ろから来た…挟まれたか…いや、あの巨人の容姿は…

 

オレはミカサを担いで屋根の上にあがる

 

「キヨン…私にかまわなくていい…私はもう大丈夫」

 

「いや…あの巨人なんだが…」

 

「え?」

 

その瞬間、一体の巨人が駆け出しもう一体の巨人を殴り倒した。そして、何度も何度も首を踏み潰す

 

「い…一体なにが…」

 

立ち直れたミカサならもう教えても大丈夫だろう…

 

「ミカサ…あの巨人はエレンだ」

 

「え…?ど…どう言うこと?」

 

「エレンはマリアの壁が破壊された日、巨人になったはずだ」

 

「な…何をいってるの?エレンが巨人?人が巨人になるの?」

 

「詳しい話は後だ。取り合えず、あの巨人はエレンであり、エレンは生きている」

 

「え…なら…なんで先に言ってくれなかったの?」

 

聞かないでくれるとありがたいんだが…

 

「…まあ...なんだ…お前が成長できるいい機会だと思ってぐっ」

 

腹に一発

 

「キヨン…エレンを使って私を騙すなんて家族に対してするべきことじゃないんじゃないかしら…」

 

やばい…まじで怒っている…そりゃそうだ

 

「ごもっともです...すいませんでした」

 

「そのことは後でいい…後で覚悟していて」

 

 

もういっそのこと今死んだ方が楽かもしれん…

 

「ちゃんと生きてて」

 

「あ…はい」

 

先回りされた

 

「まぁ早く戻るぞ」

 

「分かった」

 

オレはミカサを抱えて本部に戻った。まだ本部には巨人がいたが、中に入れるほどには減っていた

 

「キヨン!ミカサ!無事だったか!!」

 

アルミンが気付き、こちらに向かってきた。それに気付いたみんなもこちらに来た

 

「ああ...大丈夫だ。これで全部か?」

 

「ああ、そうなんだ...でも半分以上は生き残れた」

 

「十分だな...取り合えず、下から入るのは危険だな...窓から入るか」

 

「分かった」

 

「だが、それじゃ...何人か死ぬぞ」

 

ジャンがそう言う

 

「下から入れば立体起動を使うことは難しい...窓から入るより死ぬだろうな」

 

「っ…」

 

「やるしかないだろう…ジャン」

 

「ああ!全員、今だ!!窓から突っ込め!!」

 

「「「「「「「「おおおおおお!!!!!」」」」」」」」」

 

オレたちは一斉に窓から入り込む

何人か巨人に捕まれ喰われた

 

「オレの合図で何人死んだ?」

 

ジャンは頭を抱え嘆いていたが、ふと、横を見るとジャンは隠れていた補給班の奴を見つけた

 

「お…お前ら…補給班の奴らだよな!?」

 

「ああ…」

 

ジャンはそいつらを投げ飛ばし、ぶん殴った

 

「こいつらだ!オレ達を見捨てやがったのは!!てめぇらのせいで余計に人が死んだんだぞ!」

 

「補給所に巨人が入ってきたの!!どうしようもなかったの!」

 

「それを何とかするのがお前らの仕事だろうが!」

 

「伏せろ!!」

 

『ドォゴォォオオン』

 

その時、建物に穴が開いた。その穴から二体の巨人が顔を覗かせていた。

 

「きゃぁーーー!!」

 

「うわぁぁああああ!」

 

兵士たちが次々に叫ぶ

だが、二体の巨人が吹っ飛んだ

 

「なに!?」

 

皆は何が起きたのか理解できていない。

巨人になったエレンが来たのだ。ミカサがこちらを向く。どう説明するのか...と言うことだろう

 

「あいつは、巨人しか襲わない奇行種だ。オレたちは襲わないから安心しろ。」

 

「なぜ、そんなことが言える?」

 

ライナーがオレに問うた

 

「さっき、ミカサがガスを切らしたときにあの巨人に助けられたんだ。オレ達には一切の反応を示さなかった」

 

「何だって!そんなことありえるのか!?」

 

「これが事実だ。それ以上でもそれ以下でもない。今は補給のことを考えるべきだ

 

「そうだな…」

 

「アルミン…策はあるか?」

 

「そうだな...こんなのはどうかな」

 

アルミンが策について話し始めた

 

「ああ...いいんじゃないか?」

 

「ジャン、銃を探してきてくれ」

 

「ああ、分かったよ」

 

策はこうだ。

十数人程が乗ったリフトで下におり巨人を引き付ける。リフトに乗った人たちが下でウロウロしている7体の巨人の目を狙って発砲する。その次に天井に隠れていた7人が巨人の急所に切りかかる

オレは、切りそこなったときの予備だ

 

「あったぞ!」

 

ジャンが銃を持ってきた

天井に隠れる奴らが配置に着き、オレたちはリフトに乗る。

みんな緊張した面持ちである

 

リフトが下り、巨人がオレ達に反応しこちらを向く

 

「ヒィ!!」

 

「待て!用意...」

 

ギリギリまで引き付け

 

「撃て!!」

 

一斉に発砲した。よし…すべての巨人の目をつぶした

隠れていた奴らが一斉に動き出し、巨人を倒していくが、二人…コニーとサシャだ。失敗したか…

 

「キヨン!」

 

オレはサシャの方へ行き切り倒す。

コニーの方は何もしない。

なぜなら…

 

「すまねぇな…」

 

「どうも…」

 

「さすがだな…アニ、やはり、お前がいてくれて助かった。ありがとう」

 

アニがコニーを助けていた。

 

「ど…どうも」

 

頬をかきながらアニは返事をした。

オレはアニの表情や仕草をよく観察し…

頃合いだな…

その時を待つことにした。

 

オレたちはすぐに外へ出て、屋根の上にあがる。

 

「共食い…?」

 

オレ達が見た光景は巨人がエレンを食べようとしているところだ

ミカサが助けに行こうとするが、オレはそれを止める

 

「なんで…?」

 

「オレ達がエレンのことを知っていたことはバレたくない」

 

「なら…どうするの!」

 

次の瞬間、エレンは最後の力を振り絞り周りの奴らを蹴散らした

その光景に皆、唖然としている

 

「さすがに…力尽きたみたいだな」

 

「もういいだろ…あんな化け物が味方なわけねぇ、巨人は巨人なんだ」

 

しかし、うなじ部分から蒸気を発し、出てくる一人の男が現れその場にいる全員が目を離せなかった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アニ・レオンハート

よろしくです。


 

巨人の身体から出てくるエレンに真っ先に向かったのは、ミカサだ。エレンが生きていると言うことを聞いても心配だったのだろう…

エレンを抱き、大泣きしている。アルミンも寄って行き、エレンの手を握り、涙を流した。

 

「これをエレンがやったってのか…?」

 

ジャンが何体も倒れ消滅し始めている巨人を見て言った

オレたちは一度本部に帰ろうとしたが、先程のことを見ていた先輩が駐屯兵団の隊長に連絡したため、応援が来てしまった

そのため、銃を構えた兵士がオレ達を取り囲み、何やら騒いでいる

 

「その男を今すぐ殺せ!!」

 

「巨人からでてきたらしいじゃないか!」

 

「危険だ!殺せ!!」

 

その言葉にミカサが前に立つ。

ただ近くで見ていたジャン達は先輩に守秘義務を課せられ本部に戻らされた。

先輩達は物凄く怯えた表情で捲し立てる

オレらが答える隙がないな…

そこで、エレンが起きた

 

「殺シテヤル…」

 

全く...何てタイミングで何てことを言うんだ

 

「おい…聞いたか」

 

「殺してやるって言ったんだ…」

 

「アイツはオレ達を食い殺す気だ」

 

エレンの表情から察するに、記憶がないのか…

 

「イェーガー訓練兵!意識が戻ったようだな!今、貴様らがやっている行為は人類に対する反逆行為だ!!貴様らの命の処遇をとわせてもらう!!下手に誤魔化したりそこから動こうとした場合はそこに榴弾をぶち込む!躊躇うつもりも無い!率直に問う、貴様の正体は何だ?人か?巨人か?」

 

そう喚き立てたのは、駐屯兵団の隊長だ。こんな怯えた人が隊長とは…

 

「し…質問の意味が分かりません!」

 

エレンは理解できず、正直に答えるが、当然…

 

「シラを切る気か⁉化け物め!!もう一度やってみろ!!貴様を粉々にしてやる!!一瞬だ!!正体を現す暇など与えん!!大勢の者が見たんだ!!お前が巨人の体内から姿を現した瞬間をな!!分かったか⁉これ以上貴様相手に兵力も時間も割くわけにはいかん!」

 

「今なら簡単です!!」

 

「奴が人に化けてる内にバラしちまえば!」

 

隊長の言葉に兵士が促す。兵士に後押しされ、隊長は手を挙げようとした。しかし、ミカサが一歩前に出れば静まり返る

 

「私の特技は肉を…削ぎ落すことです。必要に迫られればいつでも披露します。私の特技を体験したい方がいれば…どうぞ一番先に近付いて来てください」

 

「隊長…ミカサ・アッカーマンは私達精鋭と共に後衛に就きました。彼女の動きは並の兵士100と等価です。そして、横にいるのが例の...キヨン・ジェイルーンです。彼の活躍により訓令兵の半分以上が生き残ることができました。そして、彼自身の強さもミカサ・アッカーマンと同レベルです。失えば、人類にとっての大損害です」

 

そのような会話が聞こえた

 

「ミカサ…人と戦ってどうするんだ?話し合うんだよ!誰にも…なんにも状況が分からないから恐怖だけが伝染してるんだ…そうだ、キヨン!何か策は無いのか?」

 

「あるぞ…アルミンに任せることになるが」

 

「え…?」

 

「アルミンがここでエレンを脅威じゃないと駐屯兵団に説得する。オレやミカサ、エレンの言葉では誰の心にも響かない…駐屯兵団を説得できるのはアルミンだけだ」

 

オレはそう言ってすべてをアルミンに託す。オレ達3人ともがアルミンに力強く頷いた。

アルミンは、決心し立体起動を外した

 

「必ず説得してみせる!!」

 

そう言って、前へ出る

 

「貴様!そこで止まれ!」

 

「彼は人類の敵ではありません。私達は知り得た情報をすべて開示する意思があります!!」

 

「命乞いに貸す耳は無い!ヤツが巨人ではないと言うのなら証拠を出せ!!それができなければ危険を排除するまでだ!!」

 

「証拠は必要ありません!」

 

「そもそも我々が彼をどう認識するかは問題ではないのです!」

 

「何だと⁉」

 

「大勢の者が見たと聞きました!ならば彼と巨人が戦う姿も見たはずです!!つまり巨人は彼のことを我々と同じ捕食対象として認識しました!!我々がいくら知恵を絞ろうともこの事実だけは動きません!」

 

周囲の兵士もそのことに気付き、場の空気が変わり始めた。

 

「確かにそうだ…」

 

だが…

 

「迎撃態勢をとれ!!ヤツらの巧妙な罠に惑わされるな!!ヤツらの行動は常に我々の理解を超える!!人間に化けることも可能というわけだ!!これ以上ヤツらの好きにさせてはならん!」

 

アルミンが後ろを向き助けを求める。だが、オレたちは目で[大丈夫だと]と語る

 

「私は、とうに人類復興の為なら心臓を捧げると誓った兵士!!その信念に従った末に命が果てるのなら本望!!彼の持つ巨人の力と残存する兵力が組み合わされば!!この街の奪還も不可能ではありません!人類の栄光を願い!!これから死に行くせめてもの間に!!彼の戦術価値を説きます!!」

 

すごいな…アルミンは…素直に感心した

しかし、考えることを放棄した男にはこの言葉すら聞こえなかったようだ。腕を上げる。

 

「これは何かあったのか?」

 

現れたのは、調査兵団団長、エルヴィン・スミス

 

「エルヴィン団長…これは…」

 

隊長がしどろもどろ答えようとする。しかし、代わりに後ろにいた兵士が状況を説明した

それを聞いたエルヴィン団長は

 

「駐屯兵団…この訓練兵たちを借りたいのですがよろしいですか?」

 

了承を得た団長はこちらに向き直り

 

「話は聞いた 君たちは私について来てくれ」

 

「わ…分かりました!」

 

「ワシもその話を聞いても良いかな?」

 

遅れて現れたのはピクシス指令だ。

 

「ピクシス指令!!」

 

「今着いたところだが、状況は早馬でつたわっておる。お前は増援の指揮に就け」

 

と、隊長に指示をする。

 

「かまいません」

 

エルヴィン団長が了承したことで、団長達は移動し始めた。

 

「アルミン…オレは少し確認したいことがあるから本部に戻る。そっちは頼んだぞ」

 

「え…⁉わ…分かった」

 

そう言って、アルミン達とオレは別れた

オレが本部に帰ると、訓練兵が詰め寄ってきた。主に先ほどエレンのことを見ていた奴らだった。

 

「エレンはどうなった?」

 

こいつら…守秘義務はどこいった…

 

「エレン達は調査兵団団長達と話をしている…オレは訓練兵の指揮を任されているから抜けてきた」

 

尤もらしいことを言って誤魔化しておく。

 

「ユミル…あいつらはまだ何も動いてないか?」

 

オレはユミルに近付き、頼んでいたことを聞いた

 

「ああ…特に変わりはないな…三人で動いているところをまだ見てねぇ」

 

「そうか…なら、いいんだ」

 

「あいつらが何なんだよ…偶に他の奴らも見張れと言うが…」

 

「それは、この戦いが終わってからだ」

 

「ああ、そうかよ...分かったよ」

 

「キヨン…?何の話をしてるの?」

 

ヒストリアもこちらに来た。

 

「クリスタにも後で話す...今は話せない」

 

「うん…分かった…」

 

自分のことを頼ってくれないのか、と思ったのだろう。ショックが見て取れた。

 

「クリスタ…今はまだ戦いは終わっていない。他の事に気を散らして死ぬなんて事はやめてくれよ…お前はオレ達にとって掛け替えのない存在だからな」

 

そう言うと、急激に顔が赤くなった

 

「あ…う…うん」

 

「なんだ…?こんなとこで大胆に告白するんじゃねぇよ」

 

「オレ達って言っただろう…」

 

「良かったなぁ…クリスタぁ!」

 

固まったヒストリアに更なる追い打ちをかける

 

「おい…話を聞け」

 

「キヨン様風の愛の告白だな…こりゃ」

 

もういいです…

 

この場には訓練兵が揃っている。かなり巨人に喰われたが、半分以上が残った。しかし、巨人が人を喰うところを初めて見た訓練兵は皆、青ざめている。

巨人を順調に倒していった、コニーやミリウス、ニーナでさえ表情が暗い。馬鹿夫婦も今は静かだ。

オレはまず…ニーナに近付いて行き声を掛けた

 

「ニーナ…大丈夫か?」

 

「う…うん、仲間がどんどん食べられているのを、見ていることしか出来なかったから…エレン達と何体かは倒したのに、一人では足が竦んじゃった」

 

「それは仕方ないだろう...一人で戦える相手ではないだろう...」

 

「でもキヨンは…」

 

「人と比べるな…自分のやるべきことをやって、生き残れたらいい。」

 

「うぅ…でも仲間が…」

 

「それは、もう…どうにもならないことだ…なら、今できることを考えて一人でも多くの仲間を失わないようにするべきじゃないか?

過去ばかり振り返っていても何も始まらないぞ」

 

「ぐすっ…うん、そうだね」

 

「分かったら、みんなと話してこい…あの雰囲気では次の戦いに生き残れないだろう」

 

「分かった」

 

そう短く答え前へ進んでいく。

続いて、オレはこちらをチラチラ見ている相手に向かった

 

「アニ…お前も無事だったか」

 

「なんとかね…キヨンもケガは?」

 

「大丈夫だ」

 

「随分と落ち込んでいるように見えるが、大丈夫か?」

 

「…仲間が死んでるからね」

 

「そうか…まあケガがないならいい…なあ、アニ…」

 

「なに…?」

 

「生き残っていたら…またあの夜景を見に行こう」

 

オレは真っすぐアニの目を見て話した

 

「う……うん、そうだね…」

 

オレはそう伝えて移動しようとしたが…

 

「参謀を呼ぼう!!作戦を立てようぞ!!」

 

と、壁の上からピクシスが参謀を呼んだことにより

 

「トロスト区奪還作戦だと⁉」

 

「嘘だろ⁉扉に穴を塞ぐ技術なんかないのに?」

 

周りが騒然としだした。

 

「また…あの地獄に?…いやだ!!死にたくねぇ!!家族に会わせてくれ!!」

 

「ダズ!!声が大きいぞ!!」

 

マルコが必死でダズを止める

ダズ…まだ生きてたか...

 

「そこのお前!!聞こえたぞ!!任務を放棄する気か⁉お前…」

 

先輩兵団に見つかった…

 

「ええ、そうです!!この無意味な集団自殺には何の価値も成果もありません」

 

ダズは先輩に楯突いた

 

「お前…人類を…規律を何だと思っている…私にはこの場で死刑を下す権限があるのだぞ」

 

「…いいですよ…巨人に食い殺されるより100倍いい…」

 

この会話を聞いた周りも徐々に飲まれていく。その空気を打ち破るかのように

 

「ちゅうもーーーーーーーーーーーーーーく!!!!!!!!」

 

壁の上からピクシス指令の叫ぶ声がここまで良く聞こえた

 

「これよりトロスト区奪還作戦について説明する!!この作戦の成功目標は破壊された扉の穴を塞ぐことである!!」

 

周りが慌ただしくなるがピクシスは話を続ける

 

「穴を塞ぐ手段じゃが、まず彼から紹介しよう!訓練兵所属エレン・イェーガーじゃ」

 

エレンはピクシスの隣で敬礼をして待機している

訓練兵の同期はエレンの存在に驚いていた

 

「彼は我々が極秘に研究してきた巨人化生体実験の成功者である!!

彼は巨人の身体を精製し意のままに操ることが可能である!!

巨人と化した彼は前門付近にある例の大岩を持ち上げ、破壊された扉まで運び穴を塞ぐ!!」

 

「諸君らの任務は彼を他の巨人から守ることである」

 

しかし、この場にいる兵士は先ほどの戦闘ですでに絶望しきっているため、任務を放棄して逃げていく。それを止めるため、隊長達が刃を抜き、斬りかかろうとするが…

 

「ワシが命ずる!!今この場から去る者の罪を免除する!!一度巨人の恐怖に屈服した者は二度と巨人に立ち向かえん!巨人の恐ろしさを知ったものはここから去るがいい!そして、その巨人の恐ろしさを自分の親や兄弟、愛する者にも味わわせたいものも!!ここから去るがいい!!」

 

その言葉を聞き皆一様に戻ってきた。そしてピクシスの激励はまだ続き

 

「我々はこれより奥の壁で死んではならん!!どうかここでーーーーここで死んでくれ!!!」

 

その言葉を最後に皆が配置につく。オレたちは壁の上に待機をし、巨人をおびき寄せることが目的である

 

しかし...作戦が開始され、数分が経って、赤の信煙弾が送られてきた。つまり、失敗したと言うことだ

それを見たアルミンは飛び出していった。オレは付いて行かず、三人から目を離さなかった。

オレ達の近くにいた巨人は、エレンが出現したからかエレンの方へ流れて行った。

作戦失敗の合図が送られてきても撤退の合図は送られてきていない…つまり、巨人を止めろと言うことだな

 

「撤退の合図は送られてきていない!!巨人を止めるんだ!!」

 

と、そう言って真っ先に飛び出すマルコ。

 

「全員続け!!エレンを死守するんだ!!」

 

それにジャンが続く。その後にコニー、サシャ、ヒストリアなどオレ達訓練兵が続き、駐屯兵団が後からついて来た

皆、巨人目掛けて飛んでいくが、主に後からついて来た駐屯兵団が捕まり食べられている。そして、訓練兵も次々に食われる。巨人に怯え、恐怖し足が竦んだものほど食われていく。

マルコやコニー、ヒストリアなどが班を組み、巨人を倒していくのを確認しオレはこの場を離れる。

 

 

 

 

「あれで穴を塞ぐなんて…無茶な作戦だ…エレンが食われるかもしれない。もしそうなれば何も分からないままだ」

 

「あぁ…いざとなったら俺の巨人で何とかするしか無さそうだ」

 

「でも…作戦が成功したらせっかく空けた穴が塞がれてしまう」

 

「構わねぇさ…俺達がこの5年間ずっと探してた手掛かりをようやく見つけることができた」

 

『ガッシャーーーーーン!』

 

「「っ⁉」」

 

「っ…しくったな...少し油断してしまったようだ」

 

「キヨンか…おい…大丈夫か?肩から血が出てるぞ」

 

「ああ、まあ大丈夫だ」

 

「そうか…らしくねぇな…お前がケガをするなんて」

 

「オレも人間だ。失敗だってするさ…ところで、二人とも…「せっかく空けた穴」って言わなかったか…?」

 

「...キヨン…気のせいだろ…そんな話はしてねぇぞ…」

 

二人とも神妙な面持ちだ

 

「そうか…まぁ巨人との戦闘中だったからな聞き間違いをしてしまったんだろう。

そんな事よりも二人とも巨人が一体迫ってきている。行くぞ。」

 

オレは立体起動で飛び出す…

すると空からライナーが降ってきた。そして、そのままタックルをし、屋根に叩きつけられる

 

「おい…ライナー何を…?」

 

「キヨン…お前だけは駄目だ…ダメなんだよ。ベルトルト!手伝え!」

 

そこへ、もう一人の兵士が来た

 

「アニ…」

 

「どう言うこと…?」

 

「俺達の会話を聞かれた。もう生かしておけない」

 

「ふざけるな!!くそ野郎!」

 

「ライナー巨人だ!こっちに来る!」

 

ベルトルトが後ろから注意喚起をする

 

「アニ!!キヨンの立体起動装置を外せ!!キヨンがケガをして弱っている今しかないんだよ!!」

 

「な…何で私が…!」

 

「いいや…お前がやれ!!お前さっきコニーを命張って助けてたよな⁉最近ではキヨンとも仲良いよな?この悪の民族に情が移っちまったからか⁉違うってんなら今ここで証明してみせろよ!!お前と!!お前の帰りを待つ親父が!!穢れた民族と違うって言ううんなら!!今すぐ証明しろ!!」

 

「う…」

 

一度アニはオレの立体起動を外そうと試みたが…

 

「で…できない…私はキヨンを殺したくない…壁の中の人達が悪魔だと思えない…」

 

「お前!何言ってんのか分かってんだよな⁉ああ⁉」

 

「分かってる...祖国を裏切ることになってもキヨンが死ぬのは...嫌だ!」

 

「良く言えたな…アニ」

 

「「「え?」」」

 

オレはライナーの拘束を解き殴り蹴って、屋根の上から落とした。そして、アニを抱えて少し離れた屋根の上に移動する。

三人とも驚き呆然としていたが、ライナーとベルトルトに近付く巨人に気付き、ハッと我に返り近くの屋根にあがった。巨人はオレの方に来たため、すぐにうなじを削ぎ倒した。

 

「どういうことだ…キヨン…お前ケガを…!」

 

「ああ、これか?これはそこら中に転がっている兵士の死体の血を塗り付けただけだ」

 

「は?」

 

「オレはお前たちの密会を聞いて今日トロスト区の壁が破壊されることを知っていた」

 

「なら…なぜ、俺達のことを話さなかった…」

 

「お前たちの密会を聞いたとき、アニはそれを否定するような事を言っていた。オレ自身…お前たちが敵とは言え、2年ほど苦楽を共にした仲間だ。殺したいとは思わない。お前たちのことを言えば、アニは捕まるか殺されることになるからな…」

 

「アニのために住民が死んでもいいと…」

 

「今後のことを考えるとな…アニは必要なんだ。人類は滅びてなんかないんだろ?」

 

「っ…!?そこまで、掴んでやがったか…

ベルトルト…今ここでやるぞ!」

 

「ダメだ!ライナー!こんなところで巨人化しても調査兵団もいる!僕が巨人になれば、ライナーもアニも巻き込んでしまう!今は逃げたほうが良い!アニも…頼む!一緒に帰ろう!!」

 

そうベルトルトはアニを必死で説得するが、アニは俯いて何も言わず、動かない。

 

「なぁ…ライナー…お前もオレらのことを悪魔だと見れてないんじゃないか?」

 

「あぁ!?んなわけねぇだろ!?」

 

「お前たちがここに来たときは10歳くらいだろう…そんな子供が戦士としてここに潜入するなんて、狂っているとしか思えない。

お前たちのそのオレたちに向ける[エルディアの悪魔]と言う強い憎しみは、殆どそちら側の洗脳のようなものだ。ここに来て、その事に疑問を持ち始めている。そうだろう?今もまだクリスタのことを想っているもんな…悪魔に恋心など抱かないだろう…」

 

「ち…ちが…俺は戦士として、ここに来ている!それが俺の役目だ!おい!アニ!!お前も戦士としての役目を果たせ!!」

 

「……わ…私は…戦士になりそこねた…だから行けない…」

 

「アニ、お前がそう思うのならオレと一緒にいるといい…オレが必ずお前を守る。」

 

「っ…クソがぁ!行くぞ!ベルトルト!!」

 

「あ、ああ…アニ…」

 

ベルトルトは最後までアニを気にしていたが、ライナーと共に横側の壁から外へ向かった。オレは追わずに下を向き涙を流すアニに声をかける。

 

「アニ…お前がここにいる選択をしてくれて良かった。お前のことはオレが守る。お前が父親に会いたいのなら、オレが送り届ける。」

 

「何で…そこまでする?私を騙してたのに…」

 

「お前を仲間だと思っているからだ。後…騙してたのはお互い様だろ?」

 

「そうね…」

 

「さて…アニ…泣き止んだら、ここを移動しよう。これが終わったら、聞きたいことが山程あるしな…」

 

「本当にいいの?私はこの壁の中にいる人類を殺してきたのに…そんな私を信用できる?」

 

真っ赤に腫れ上がった目でこちらを見る。

 

「できる。オレは信用できないやつを側におかない」

 

オレはそう断言し、アニの目を見返す。

 

「いつものキヨンと違うように見える…そっちが本性?」

 

「さあな…まあ今はやるべきことをやるか…」

 

と、思ったが…

緑の信煙弾が上がり、人類初の勝利となった。

 

「取り敢えず…これからどうすればいい?」

 

「そうだな…アニには調査兵団団長に会ってもらう。」

 

「は!?なんで…」

 

「その方が後々、動きやすくなる。それに安心していい…住民の避難より、巨人の正体を掴むことを優先した人だ。お前のことを話せば理解してくれる。監視は着くかもしれんが…」

 

「まぁ…それは仕方ないね…でも、それ以外の人達には…」

 

「そのためにオレがいる。例え相手がリヴァイ兵長だろうと守るさ…」

 

「…ありがとう」

 

オレ達は本部に帰ることにした。

そこでは、生き残った奴らが集まっていた

 

「キヨン!無事だったか!なあ…ライナーとベルトルトがまだ帰ってきていないんだ!知らないか?」

 

コニーが焦りながら言う

 

「なに!?まさか…食われたのか?」

 

それに反応したジャンも心配する

 

「…分からない…まだ待とう」

 

「あ、ああ」

 

ヒストリアやユミル、マルコ、ニーナ、ミリウス達の生存を確認した。その後、全員で生存確認を行い、先輩に一先ず解散していいと言われたオレたちは宿に帰った。

ミカサとアルミン…特にミカサはかなり不機嫌な様子で帰ってきた。

エレンが調査兵団団長の元に預かられたらしい…

 

「キヨン…あなたどこで何をしていたの!?あなたがいれば、もっと助かったはずだし、あの後エレンが連れて行かれることはなかった。あなたは家族なのにーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

と、普段あまり話さないミカサだが、オレに延々と八つ当たりをしてくる。もう煩くて仕方ない…

 

「…」

 

「…」

 

オレはアルミンに目で助けを求め、アルミンは目で拒否する。

それにしても皆の表情が暗いな…

その後、オレたちは遺体を燃やすため、外に出て広場に集まり、火葬場を皆で囲んでいた。

 

「なぁ…やっぱり、ライナーとベルトルトも死んだのかな…」

 

コニーが泣きながら聞いてくる

 

「さあな…だが、今回お前は生き残れた。なら、死んだ者の為にも自分にできることをやるだけだ。お前は天才だからできるよな?コニー」

 

「うぐ…ぐす…当たり前だろ。やってやるさ」

 

コニーは泣き止み、そう決意した

 

「ジャン…お前はどうするんだ?」

 

「そうだな...オレは…決めた…決めたぞ!!オレは調査兵団になる!!」

 

ジャンのその震えた声は周りの訓練兵にもよく聞こえた。

 

「そうか…なら…先ずはウォール・マリアを奪還しないとな…」

 

「ああ!やってやるさ」

 

「サシャ…お前はいつもオレに借りがあるよな?お前は調査兵団な」

 

「え…え~…い…いえ!きよぽんに言われなくても…私は自分で調査兵団になってましたよ!!」

 

「そうか…」

 

火が消えるのを見続けた後、宿に帰り疲れていたがアニと夜遅くまで話をした。

 

次の日…オレ、ミカサ、アルミンの三人は審議所に呼び出された。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Hyugge

よろしくです


 

オレ達3人は審議所に入り、最前列で待機をすることになった。

 

その後に憲兵団がオレ達の対面に並んだ。続いて、調査兵団団長とその部下たちが入り、オレ達と近い位置で待機する

 

その時、リヴァイ兵長と目が合った。そのまま数秒ほど視線が合っていたが、そこへエレンが入ってきたことによりその時間は終わった。

エレンは中央で跪き、両手を後ろで固定された。

 

そこへ、一人の老人が入ってきて、法壇に座った

この人が、3つの兵団のトップ…ダリス・ザックレー総統

 

「さぁ…始めようか。エレン・イェーガー君だね?君は公のために命を捧げると誓った兵士である…違わないかい?」

 

「はい…」

 

「異例の事態だ。通常の法が適用されない兵法会議とする。決定権は全て私に委ねられている…君の生死も…今一度改めさせていただく。異論はあるかね?」

 

「ありません!」

 

エレンは一度目を閉じ覚悟を決めてから言った。

 

こうして、審議は始まっていった。

 

「今回決めるのは君の動向をどちらの兵団に委ねるかだ。その兵団次第で君の処遇も決定する。

憲兵団か調査兵団か…」

 

「では憲兵団より案を聞かせてくれ」

 

「憲兵団師団長、ナイル・ドークより提案させていただきます。我々は、エレンの人体を徹底的に調べ上げた後、速やかに処分すべきと考えております。」

 

そこからもナイルの話は長々と続いた。内容はエレンを否定する王族とエレンを英雄視する民衆による紛争が起きかねないので、殺しておくべきだと言うことだ。

そんな中、割り込む奴が現れた

 

「そんな必要はない、ヤツは神の英知である壁を欺き侵入した害虫だ。今すぐに殺すべきだ」

 

確か5年前から急に支持を集めた宗教の…

 

「ニック司祭殿…静粛に願います。次は調査兵団の案を伺おう」

 

「はい、調査兵団13代団長エルヴィン・スミスより提案させていただきます。我々調査兵団はエレンを正式な団員として迎え入れ巨人の力を利用しウォール・マリアを奪還します。以上です」

 

「ん?もういいのか?」

 

「はい、彼の力を借りればウォール・マリアは奪還できます。何を優先すべきかは明確だと思われます」

 

「ちなみに今後の壁外調査はどこから出発するんだ?ピクシス、トロスト区の壁は完全に封鎖してしまったのだろ?」

 

「ああ…もう二度と開閉できんじゃろう」

 

「東のカラネス区からの出発を希望します」

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

と、貴族の奴らが扉を完全封鎖するように言ったり、ニック司祭がその事に怒り喚いたりとし、無駄な時間が流れる

 

「話を進めよう。エレン…君に質問がある。調査兵団への入団を希望しているようだが…君はこれまで通り兵士として人類に貢献し巨人の力を行使できるのか?」

 

「は…はい、できます!」

 

エレンはそう断言した

 

「ほう…!今回の奪還作戦の報告書にはこう書いてある。巨人化の直後…ミカサ・アッカーマンめがけて3度拳を振りぬいたと…」

 

エレンはそれを聞き、ミカサの方を見る。そんなことがあったのか...それにしてもエレンはそのことを覚えてないようだな

 

「ミカサ・アッカーマンは?」

 

「はい…私です」

 

「エレンが襲い掛かったのは事実か?」

 

ミカサはどう言うべきか悩んだ末、正直に答えた

 

「はい…事実です。しかし、それ以前に私は2度巨人化したエレンに命を救われました」

 

さすが、ミカサだな...

 

「これらの事実も考慮していただきたいと思います」

 

「お待ちください。今の証言にはかなり個人的感情が含まれていると思われます。幼い頃にミカサ・アッカーマンは両親を、キヨン・ジェイルーンは父親を亡くしイェーガーの家に引き取られたと言う事情があります。また、驚くべきことに、ミカサ・アッカーマンとエレン・イェーガーは当時9歳にして強盗である三人の大人を刺殺している。その動機内容は正当防衛として一部理解できる部分もありますが、根本的な人間性に疑問を感じます。」

 

その言葉に周囲の人たちは騒ぎ出す。

そして、その牙はオレにまで向いた

 

「あいつらもだ!人間かどうか疑わしいぞ!」

 

と。止まらない貴族たち

 

『トン!!トン!!』

 

「静粛に!!キヨン・ジェイルーンは?」

 

「はい」

 

「君から何か言うことは?」

 

「エレンを殺したいのなら、好きにすると言い」

 

「は⁉何を言って...」

 

真っ先に反論したのはミカサだったが、アルミンに止められていた

 

「それは…どうしてかね?家族なんだろう?」

 

「はい、そうです。

トロスト区襲撃時、エレンは一度巨人に食われたと報告を受けました。その時に、片手は食い千切られたと聞いております。ですが、今はどうでしょう…エレンは五体満足であり、巨人の腹から出てきています。先ほどエレンの人体を解体した後に処分するべきだと仰っていたと思いますが…本当にエレンを殺せるのですか?傷をつけた瞬間巨人になれば、解体する人の命はありませんね。そして、エレンが暴れだしたら誰が止めるのでしょうか?」

 

「っ…」

 

オレがそう言うとさらにエレンを化け物のように見る目が強くなった

 

「エレンがいればウォール・マリアを奪還することは可能かもしれません。先ほど、憲兵団師団長が仰っていた内乱も回避できると思いますが?

また、今後超大型巨人が出現し巨人が攻めてくるのならエレンなしでは戦えません。あなた方で巨人を倒せますか?」

 

オレはそう言い、エレンに目をやる

オレの言葉にエレンが続く

 

「あなた方は巨人を見たことも無いクセに何がそんなに怖いのですか?力を持っている人が戦わなくてどうするんですか、生きるために戦うのが怖いって言うなら力を貸してくださいよ。この…腰抜け共め!」

 

だんだんとエレンの言葉が強くなっていく

 

「いいから黙って!!全部オレに投資しろ!!!」

 

エレンは声を荒げて言った

周りは静まり返り、皆一様に怯えている

その静けさを破るように、『ゴスッ』っと鈍い音が響いた。

リヴァイ兵長がエレンの頬を思い切り蹴った。エレンの歯が吹き飛んでいく。それを、ハンジさんが大切そうにハンカチで包んでポケットにしまった…他人の歯を広い嬉しそうな表情をする辺り彼女は、どうやら奇行種らしい…

その後も何度もエレンを殴り蹴る。

それを見たミカサは止めようとしたが、またアルミンに止められた

エレンの顔はもう血だらけだ

 

「これは持論だが躾に一番効くのは痛みだと思う。今お前に一番必要なのは言葉による教育ではなく、教訓だ。しゃがんでるから丁度蹴りやすいしな」

 

その後も何度も蹴る。エレンが睨みつけても蹴り続けた。

それにしても…やはり、リヴァイは化け物だな…本気で戦っても勝てるかは分からない…いや...良くて引き分けかもな…

 

「待て、リヴァイ」

 

止めたのは、ナイルだ

 

「何だ」

 

「恨みを買ってこいつが巨人化したらどうする

 

「…何言ってる。さっきそこの根暗野郎が言っただろう」

 

ここでオレがさっき言ったことを思い出したようだ。

だが…誰が根暗だ…このドチビが...

 

「こいつは巨人化した時、力尽きるまでに20体の巨人を殺したらしい。敵だとするなら知恵がある分、厄介かもしれん。だとしても俺の敵じゃないが…お前らはどうする?」

 

「総統…ご提案があります。エレンの巨人の力は不確定な要素を多分に含んでおり、その危険は常に潜んでいます。そこでエレンが我々の管理下に置かれた暁には、その対策としてリヴァイ兵士長に行動を共にしてもらいます」

 

「ほう…できるのかリヴァイ?」

 

「殺すことに関しては間違いなく...問題はむしろその中間が無いことにある...」

 

リヴァイとミカサが睨み合っている…こわ

 

「決まりだな…エレン・イェーガーは調査兵団に託す」

 

ここで、審議は終わった。

 

帰宅中…

 

「キヨン!冗談でもあんなこと言わないで!」

 

ミカサが鬼の形相で迫ってきた

 

「あれは、調査兵団が動きやすいように舞台を整えただけだ」

 

「それでも、家族としてーーーーーーーーーーーーーー」

 

ああ...また始まった

さっきから後ろで一人静かに歩いている金髪...助けろよ...こちらを一切見ようともしない

 

「ま…まあ…良かったな…エレンが救われて」

 

「まだ...完全じゃない…それに...あのチビはやりすぎた。」

 

こいつ…リヴァイのことを言っているのか

 

「まあまあ!一先ずは喜ぼうよ!」

 

ようやく、入ってきたか金髪...オレはアルミンと不機嫌なミカサを連れて宿に帰ることにした

 

その日の夜、オレの元に一通の手紙が届いた。

エルヴィン団長からだった。

内容は…

話がしたい

明日の朝、我々の元に来てほしいとのことだった。

 

オレはミカサ、アルミン、アニを連れて出向くことにした。

 

 

▽▽▽

 

 

審議を乗り越えたオレは、エルヴィン団長の仕事部屋に来ていた。

 

「すまなかった…しかし、君の偽りのない本心を総統や有力者に伝えることができた。」

 

「はい…」

 

エルヴィン団長の素直な謝罪にそう答えるしかなかった

 

「効果的なタイミングで用意したカードを切れたのも、その痛みの甲斐あってのものだ。君に敬意を…エレン、これからもよろしくな」

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

「しかし、話を持って行ったのは彼か…やはり…」

 

話を持って行った?キヨンのことか…?

と、リヴァイ兵長が『ドガッ』と、オレの横に横暴に座った

 

「なぁエレン…俺を憎んでいるか?」

 

正直かなり怖えぇ..

 

「い…いえ、必要な演出として理解してます」

 

と、そう答えるしかない

 

「おい…まだ話は終わっていない…」

 

「は…はい」

 

「お前…あの審議場にいた根暗野郎と本当に馴染みなのか?」

 

「え…あ、キヨンのことですか?あいつなら、二歳のころからの付き合いです。物心ついた時には一緒にいたので、気を許せるやつですよ」

 

しかし...なぜ、みんなキヨンのことを?

 

「…そうか」

 

リヴァイ兵長はそれだけ返した

 

「あの...キヨンが何か?」

 

リヴァイ兵長はこちらを軽く見て答えてくれた

 

「…お前…よくあんな化け物と一緒に過ごせていたな…何も感じなかったのか?」

 

え…?キヨンが化け物?

 

「え?リヴァイ、化け物って?」

 

そう聞いたのはハンジさんだったが、リヴァイ兵長の言葉に全員が反応した

 

「雰囲気だがな…地下街にいた頃も少しの間一緒に過ごした奴も、あんな目をした奴を俺は見たことがねぇ…エレンと一緒に育ったのなら、普通の家庭で育ったんだろ?それであんな奴が育つとはな…」

 

キヨンのイメージがどんどん崩れていくんだが…

 

「危険だってこと?あの子が?でも、あの子の活躍で訓練兵は半分以上が生き残れたよ?」

 

「あぁ…敵なら危険だろうがな…味方なら調査兵団に何としてでも入れるべきだろうな」

 

「リヴァイがそこまで言うってことは、本当にすごいんだろうね…実際リヴァイより強いんじゃない?」

 

「さあな…それはやってみないと分からないが…一番戦いたくない相手であることは間違いないな…エルヴィン…根暗野郎があいつなんじゃねぇのか?」

 

「…ああ...そうだ。彼には明日の朝、話をする。聞きたいのならここに来ても構わない」

 

あいつ?一体何の話だ?キヨン…お前何をしたんだ?

 

「ところで、エレン!口の中を見せてよ」

 

オレは言われるがまま口を開いた

 

「…え?もう歯が生えてる」

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「行くか」

 

オレは三人を連れ、エルヴィン団長の元へ向かった。

 

その途中で

 

「キヨン…本当に何をやらかしたの?」

 

と、アルミンがまた聞いて来た。昨日の夜からずっとこの調子だ

 

「行けば分かる」

 

「キヨン…トロスト区襲撃でエレンが壁を塞ぐ前、私とアルミンとエレンで作戦を考えるときに壁の上へ行ったの覚えてる?」

 

「ああ...覚えているが…?」

 

「あの時、エルヴィン団長にキヨンの動向を深く聞かれた...何かしたからでしょ…」

 

「まぁ…行けば分かります...」

 

これは…帰り道またうるさくなるな

 

オレ達はいつも通りの会話をするがアニは少し緊張しているようだ。

 

「アニ…大丈夫か?」

 

「…うん…大丈夫」

 

まあこればかりは仕方ないか…

そこからも雑談をしながら街中を歩きエルヴィン団長の下へ向かった。

扉をノックし、

入ると、中には、リヴァイ、ハンジ、ミケ、エレンがいた。

 

「やぁ待っていたよ…掛けてくれ」

 

「はい…失礼します。」

 

全員が座り、眼の前に飲み物が注がれる。一呼吸をついてからエルヴィンが話を始めた。

 

「それでは、始めさせてもらうが、私の方からここにキヨンを呼んだ理由を説明させてもらう。知らない人もいるだろうからな」

 

オレたちは黙って頷く

 

「今回のトロスト区襲撃では、本来我々調査兵団は壁外調査に出向いており、この襲撃には間に合わなかった。

だが、実際は襲撃されたすぐに対応することができた。それはキヨンが我々にその事を教えてくれたからだ。」

 

主にオレの同期が驚いている。

 

「は!?キヨンが!?なんで?いや…なんで、それをオレらに言わなかったんだ!!」

 

「まあ、落ち着け…エレン

話は最後まで聞け」

 

「だが、我々もすぐには全兵を出動できなかった。私のもとに届いた一通の手紙では、これが敵側による威力偵察の可能性があったからだ。その後に、これがキヨンから送られてきたものだと知り、私は全兵を出動した。

キヨン…私たちに教えてくれないか?君の知っていることを」

 

「構いませんよ…元々そのためにここに来ましたから」

 

「ありがとう…感謝する。では、一番知りたいところから…何故襲撃のことを知ったんだ?」

 

「敵がオレたち訓練兵にいたからです。オレはその敵を監視し、その密会でその事を知りました。」

 

「は!?オレたち訓練兵の中に…?誰が…」

 

エレンは最初こそ、声が大きかったが、段々と小さくなっていった。

 

「それを教えてくれるのかな?」

 

「それは嫌です」

 

オレがキッパリと断ると嫌な空気になった。エレンだけでなく、ミカサまでオレに突っかかってきた。

しかし、エルヴィン団長が手で制し、オレに問う

 

「それは何故だ?」

 

「敵の一人をこちらに寝返らせました。オレはそいつを信用していますが、ここにいる全員が信用できるとは思えないからです。」

 

「なるほど…この短い間に色々と動いていたんだね…」

 

ハンジが入ってきてオレを褒める

 

「だけどさ、我々だって常に仲間が死んでいるんだ…一回の壁外調査でも何百と死ぬときもある…たった少しの情報を求めてね…頼むよ…!教えてくれないか⁉私はその人物に一切の悪感情を抱かないと誓うよ」

 

オレの目を見て話す。

 

「しかし、ハンジさんだ「いや…ここにいる全員同じ思いだ。我々はその情報を手に入れられるのなら、君の言うことをある程度は聞く」」

 

ある程度か…だが…まあこの程度は聞くと言うことだろう

 

オレはエレン達に目をやる。エレンはしぶしぶだったが、二人は素直に受け入れた。

 

「分かりました」

 

オレのその言葉に皆が安堵した。リヴァイだけは鋭い目で見てくるが…

 

「ここにいるアニですよ…」

 

全員が驚愕していた。それもそうだろう…まさか、ここに連れてきているとは思っていなかっただろう。

オレは一番警戒しているリヴァイ兵長の指がピクッと動いたのを見逃さなかった。目をやると視線を逸らした。

居た堪れない気持ちになったアニは俯き、腕が震えていた

 

「は?アニが…?おい!?アニ!」

 

「え…まさか、アニが…?」

 

「…」

 

そう、エレンやアルミン、ミカサは反応したが、

 

「ハッ…これは驚いた…まさかここに連れてきているとは…端から教えるつもりだったのか…」

 

「ええ…まあ…団長に話せば今後動きやすくなると思いまして」

 

「ほぅ…まあ先ずは話を聞こう」

 

若干1名は話を聞けるどころじゃなく興奮しているが…話をつづける

 

「ここからは、オレが見てきた事を話していいですか?」

 

「ああ、頼む」

 

「オレは生まれて2歳の頃、エレンと出会いました。その時に、エレンの父親…おじさんと呼ばせてもらいますが、おじさんともそこで会いました。ですが、初対面なのに訝しげな顔をされたのを覚えてます。そこからおじさんとは余り上手く話せていませんでした。そして、シガンシナ区の門扉が破壊される朝、オレ達は朝食を皆で取っていました。その時にミカサが[エレンが調査兵団になりたい]と言い、エレンは母親に強く反対されていました。

しかし、おじさんは違いました。何も驚くこと無く、エレンに何故調査兵団にならないのかと聞いたのです。そして、その理由を聞いた後、エレンを止めることをせずに、こう言いました。[エレン…帰ったらずっと秘密にしていた地下室を見せてやろう]と」

 

「ほう…」

 

地下室の事はもう知っているだろう…

しかし、団長も少し引っ掛かるところがあるだ。

 

「そのことを言った際、おじさんはあるところを凝視していました。おじさんは、偶に何も無いところを凝視して話してました。おじさんは別段、人と話すことを苦手としておりませんし、家族なので目を逸らして話す理由もありません。また、その凝視しているときの顔は、何かに憑かれているような顔になっているときもありました。

オレは一人で、おじさんを追いかけ問いかけました。さっきは何処を見ていたのか、巨人の正体を知っているのか…

を質問したのですが…それはまだ教えられないと言われ、教えてくれませんでした。

その日の夕方にウォールマリアが陥落し、オレ達はウォールローゼの食料庫に避難をしました。その日の夜、足音が聴こえ、目を覚まし辺りを見渡すと、おじさんがエレンを森の中へ連れていく所を目撃し、付いて行きました。森の中で、松明もなかったので、追跡は不可能だと思い帰ろうとしたのですが、その時、森の中で丸い雷のような光が発生しました。オレは向かおうと思ったがのですが、一人の兵士が向かって行くのが見えたので、オレは帰えることにしました。その後、エレンを連れてきたのはおじさんではなく、兵士でした。その兵士は、元調査兵団団長であり、訓練所の教官をしている。キース・シャーディスです。」

 

「「「あの人が!?」」」

 

皆が驚愕していた。

 

「ああ…オレは教官にその事を聞きました。しかし、[私にも分からない…エレンが森の中で一人で寝ていた]と言ってました。

その時に、オレはある仮定を立てたのです。エレンは巨人になったと…そう仮定すれば、あらゆることが繋がります。歴史書のことも…」

 

オレがそう言うとエルヴィンもピクッと肩が反応した

 

「いや!いやいやいや!!キヨン!お前…なんでそんなことをオレに黙っていたんだ⁉トロスト区のことだって、住民を助けられたんじゃないのか?」

 

「お前におじさんが巨人であり、今はお前が巨人だと言って、お前は素直にそれを受け入れられたか?お前は巨人を、あれだけ恨んでいたから、到底受け入れられなかっただろ?だったら、お前が自然と巨人になる方がベストだった。本当はもう少し後にするつもりだったが…」

 

「っ…」

 

「もういいか?トロスト区のことは後で話す。

そして、翌年オレたちは訓練兵になりました。オレは、壁を破壊した巨人はエレンと同じことができるのだと思い、もしかしたらこのオレ達の代に入ってきているかもしれないと思い、怪しい奴を片っ端から監視していきました。

そこで、見つけたのがアニです。

アニはウォールシーナへ行き、壁をよじ登り王都に侵入していました。オレはそこで追跡を諦めましたが、アニを監視すれば、色々と分かると思い監視し続けると、アニとその仲間が密会をしているのを見たのです。その人物は、ライナー・ブラウン、ベルトルト・フーバーです。この二人は、アニをこちらに引き込む時に決別し、二人は逃げましたが、あいつらがいるのはカラネス区かと...それかもう少し北へ移動しているかもしれません。

これが、オレが見てきたものです。」

 

「あいつらが…!?」

 

エレンは悲壮な顔で呟く

 

「なるほど…」

 

「アニたちは10歳くらいの時にここに来ています。普通では、その年で何かを任され任務をこなすのは不可能です。そして、密会を聞いた時、ライナーはオレたち壁の中の人たちのことを[エルディアの悪魔]と言い、強い憎しみを感じました。10歳くらいの子供がどうすれば、そこまでの感情を持てるのか…それは洗脳でしょう…」

 

「え…ちょっと待ってよ…と言うことは…まさか!?」

 

「え、何が…?」

 

エレン以外は気付いたようだ

 

「人類は滅びていないと…」

 

「え!?ですが…!」

 

「…歴史書から鑑みるに王家が巨人のことを秘密にしていると言うことだ。あの書き方は不自然だ。」

 

「は!?そんなこと…」

 

「アニ…話せるか?」

 

「分かった…

私達はマーレと言う国から来ました。マーレはこの島のことをパラディ島と呼んでます。

私達の任務は、[始祖の巨人]を奪還すること。始祖の巨人とは…全ての巨人を操ることができます。その後は、パラディ島にある莫大な資源をマーレのものにするため…

マーレには…マーレ人とエルディア人がいます…

私達はエルディア人…壁の中にいる人達もエルディア人です。

エルディア人は過去に世界を恐怖に陥れた存在で、今も[始祖の巨人]がある限り、その脅威は変わらない…マーレにいるエルディア人はマーレの収容区にいて、過去の償いをしています。

そして、壁内人類は我々を見捨てた[エルディアの悪魔]と呼ばれ、いつこちらに攻めてくるか分からない、マーレ国がエルディア人に解放されるのは、壁内人類を絶滅する事でしか解決しない…」

 

「何と言うか…とんでもない話だね。」

 

「巨人になることが出来るのはエルディア人だけですから、マーレ人からすれば怖く見えるのです…私達も…マーレにいた時は壁内人類を恐怖の象徴と呼び、マーレにいるエルディア人は迫害を受けてきました。なので…ライナーは酷く壁内人類を憎み…ここに来ました…ですが、ここに潜入してから、悪魔が…本当にいるのか…分からなくて………」

 

少し、嗚咽を漏らしながら言うアニ。

それが、伝わったのか

 

「そうか…教えてくれてありがとう。だけど、今は取り敢えず…考える時間がほしいな…」

 

ハンジがそう言うと

 

「ああ、そうだな…だが、始祖の巨人とは…エレンのことなのかい?」

 

エルヴィンがそう聞いた。

 

「確証は無い…ただ可能性があった…王家がそれを所持しているものだと思っていたので、シーナに何回か侵入しました。後...壁の秘密を知っているのはウォール卿です」

 

「ええ⁉ウォール卿が⁉いや...今日はもう止そう...」

 

ハンジが頭を抱えそう言った。オレはそこにヒストリアが関わっていることを知っているが、今はヒストリアのことを言わないように指示を出していた

 

「分かった…今日の所は帰ってもらって構わない。先程ハンジが言ったように、時間がほしい。アニのことはキヨンに頼んでもいいのかい?」

 

「はい、アニには憲兵団に入り内部の情報を流してもらいます」

 

「そうか…」 

 

「エルヴィン団長…全ての話をアニに任せず、オレの見てきたことを話したのは、この戦争ではエレンの父親が鍵を握っていると思っているからです。エレンの地下室なのか、エレン自身なのかは分かりませんが…」

 

「ああ...大丈夫だ、その辺りは分かっている。行くしかないだろう」

 

どうやら、考えは伝わっていた様でなによりだ。

と、ここでずっと黙っていた人が口を開いた。

 

「おい…根暗野郎…お前の目的を言え…俺にとっては、洗脳教育を施すマーレや巨人になるエルディア人よりもお前の方が危険な存在なんだよ」

 

「根暗って…それに危険とは、失礼ですね…

オレはただ自由がほしい。この狭い壁の中では、自由を得られない…何者にも縛られることのない生活を送りたいだけです。」

 

「…なら、今回のトロスト区襲撃…何が目的だった。わざわざ、調査兵団を4箇所に分断させる意味も分からねぇな…」

 

「この先、戦うのは巨人だけではない。人間とも戦わなければならい。圧倒的に数で不利だったからな…兵士の成長が必要だった。その為にも、調査兵団が揃っていれば、訓練兵の出る幕がない。そして、アニをこちらに引き入れる為にもあの襲撃は色々と利用価値があった。」

 

「利用価値か…いかれた野郎だ…戦争の準備ってことか」

 

「戦争って…僕達はただすれ違っているだけじゃないか!アニのように…僕たちが危険じゃ無い事を知ってもらえば、分かりあえるだろ!?」

 

「アルミン…いきなり話し合いで解決することなど不可能だ。人は自分の信じたいように信じて行動する。況してや、オレ等が脅威じゃないと言っても信じて貰えるはずがない、アニが故郷に帰って言ったってエルディア人であることに変わりはない…戦争とは…話し合いをするための前段階だ。ここまで、齟齬をきたしていれば、話し合いのみでの解決はできない」

 

「まあいい…お前の考えは良くわかった。犠牲は少なくしてほしいところだがな」

 

「それは当然ですよ。オレだって好き好んで仲間や住民を見す見す死なせているわけではありませんから」

 

「だと良いがな」

 

「ふぅ…まぁ!一先ず解散しよっか」

 

ハンジが総締めくくり解散することになった。

 

 

 

帰り道は、気まずさの塊であった。

 

「「「「…」」」」

 

誰も話さない…距離も少し遠い…

それを打ち破ったのは、アルミン

 

「キヨンは…僕達を信じてないの?」

 

「ん?信じてはいるぞ」

 

「僕らに相談くらいしてくれても良かったんじゃないか?」

 

「お前達なら、住民を優先してライナー達を止めに行くだろ…

オレはお前達のことを信じているからこそ、話さなかっただけだ。」

 

「…」

 

「でも…キヨンは私達を頼らない…」

 

「それは違うな。直接は言わないかが、いつだってオレはお前らを頼っているだろ?特にアルミンにはこないだもを頼ったばかりだ」

 

こないだの事とは、エレンを敵では無いと証明してくれた時のことだ

 

「そう…でも、これからはもう少し直接言ってもらいたいんだけど…」

 

「そうだな…悪かった」

 

「それで…アニは」

 

「謝っても済むことじゃ無い事は分かってる。償いのしようもないし、今何をすれば良いのかもよく…分からない

でも…あんた達と戦いたくないと言う気持ちは本当…」

 

「そうか…それは良かったよ…僕らもアニ達と戦いたくはないから…」

 

「今は、時間をかけて信用を取り戻すしかないな」

 

「うん…」

 

オレ達が宿に帰ると皆が集まっていた。そこには、明後日の夜に兵団を決めるとのことだ。明日は休みを貰えた。

皆それについて、日が暮れるまで話し合った。

 

そして、その日の夜、オレ、ミカサ、アルミン、ジャン、サシャ、コニー、ヒストリア、ユミル、マルコ、トーマス、ミーナ、ミリウス、アニの13人でフード付きの黒いコートを着て、宿を抜け出した。壁の下まで走り、立体機動を使用し、一気に壁の上にあがった。

そして、また走る。

オレたちはトロスト区の破壊され、大岩で埋めた所で止まった。

ここは、超大型巨人が手を払い、固定砲を全て破壊した所だ。

 

オレたちはここに、あるものを探しに来た。

 

それはオレたち訓練兵に取っては希望である。

 

隈なく、あるものを探す。

そして…

 

「あ!!!ありましたよ!ここです!」

 

「見つけたか!」

 

全員でサシャの周りに集まった。

そして、その箱の中を開けて中身の無事を確認した。

 

「無事だ!」

 

「き…奇跡だ!」

 

「本当に生きてて良かった!!」

 

無事を確認出来たことで、ハシャギ出した。

近くにあった、廃材に火をつける。そして、持参したコップに飲み物を淹れ、日を囲むように座った。

オレが代表して人数分、等しく分ける

オレたちが探していたもの…それは、サシャが教官から盗んできた【肉】だ。

金串で肉を刺し、火で炙る。

良い感じに焼けたら皆に配っていく。

もちろん…サシャは最後だ。

 

「えー、それではトロスト区襲撃を無事に生き残り、多くの巨人を倒した我らに乾杯」

 

初めてやった…こんなんでいいのか?

 

「「「「「「「「「「「「

    かんぱーーーーい!!!!!!

」」」」」」」」」」」」

 

一斉に肉に齧り付く

配られた肉は一口で食べ切れるほど少ない。しかし、オレたちにとっては夢のような食材…

この地獄を生き残り仲間の死を目の当たりにし、辛く悲しんだ。

しかし、

肉とは、そんなことを忘れさせてくれる…皆の表情に一切の悲しみの表情がない。

 

オレたちが明日、選択することは死地に飛び込むようなもの。

 

オレたちが生き残れるかなど誰にも分からない

 

皆、不安だろう…

 

だが、今だけは…楽しむ。楽しむことのできる時間を決して無駄にしたりはしない。

 

皆、終始笑顔であった。ミカサやアルミン、ヒストリアにユミルまでも笑っている。そして、ぎこちなくではあるもののアニも笑っている

 

オレは、この皆の笑顔を守りたいと思っているのだろうか…

マーレとの戦争が終わり、壁の外へ自由にいけるようになったとき、オレはここにいる皆とまだ一緒にいたいと思うのか…

 

ここにいることは、決して悪くないと感じる。それどころか、居心地が良いとさえ思っている。

 

この一緒に居て、居心地の良さを感じることを中間と呼ぶのだろうか…

 

オレは新たな感情が芽生えたことに、楽しさを感じていた。

 

 

「ねぇ…キヨン」

 

俺の隣に来て座ったのはミカサだった

 

「なんだ?」

 

「楽しいと思ってる?」

 

「ああ…思ってる」

 

「なら、もっと笑って。もっと感情を出して」

 

「そう言うのは苦手なんだ。それにミカサも人のこと言えないだろ?」

 

「私は笑うときは笑ってる」

 

「…まだ…不満だったのか?」

 

「当たり前…頼ってほしいとは思うもの」

 

「十分に頼ってると言っただろう」

 

「そうは思えないけど…」

 

「それを言うならミカサからも余り頼られたことはないと思うが?」

 

「…そうかもね…なら頼ることにする」

 

「ああ…そうしてくれ」

 

「ねぇ…キヨン…さっそくなんだけど…」

 

ミカサは姿勢を正して、真面目な顔をする

 

「ん?」

 

オレもつられて、姿勢を正す

 

「今すぐエレンをここに連れてきて」

 

ブヂッと音がした。そうだ…深呼吸深呼吸…オレは心を落ちつかせ、ミカサを見ると…おっ

 

「フッ…」

 

と、ミカサはいい笑顔で鼻で笑い、立ち去っていった。

ミカサが笑う所は何回も見たことがある…だが…先程の笑顔は…初めて見たな…

何がしたかったのかは分からなかったが…

 

オレたちは満足するまで、他愛もない話で盛り上がり、この時間を謳歌した。

それからは、疲れて寝てしまった奴らを起きているやつで宿まで運んだ。ヒストリアはオレが抱えて行った。

 

帰ってから、一人の少女と夜が明けるまで話をし、次の日の昼まで寝ていた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

◯.5

原作には無いところを妄想の赴くままに書いてます。


 

 

オレたちは、久しぶりの休暇を貰えた。

多くの仲間が巨人に食われ死んでいった。落ち込み悲しんでいたオレたちだが、久し振りの休暇であったため、皆ソワソワしている。

 

「な…なあ!どこへ行く!?ナニする!?ほんとに何すればいいんだ!?」

 

と、コニーが

 

「むふふふふふ、馬鹿ですね…コニー

そんなもの決まっているじゃないですか!美味しいものを食べて食べて、食べまくるしかないですよ!」

 

と、馬鹿まるだしのサシャ

 

「キヨポン!!行きましょう!」

 

「いや!キヨポンはオレが連れてくぜ!!」

 

と、なぜかオレを誘う馬鹿二人…

 

「なんで、オレなんだよ…」

 

そこへ、一人の少女がくる

 

「キヨン…一緒に街を回ろう!」

 

「あ…ああ、まあ良いが、この二人もいるぞ?」

 

「…ふ~ん」

 

「お、サシャ!あっちでなんかいい匂いが…!」

 

「そ、そそそそうですね!行きましょう」

 

ヒストリアの威圧に二人は尻尾を巻いて逃げた。

 

「行こう!」

 

「ああ…そうだな…」

 

オレたちは二人で街をプラプラとしていた。ヒストリアは目をキラキラさせて、色んな店を見ている

 

「クリスタ…こう言うのは初めてか?」

 

「え…あ…うん…ごめん…はしゃいじゃって」

 

「いや、謝る必要はない。今日は思う存分に楽しむといいさ」

 

「うん!ありがとう。あ、あの店見たい」

 

前世のような見ていて面白いものはない…だが、偶にの休みに仲間と街を歩くのは悪くないな…

 

「ねぇ…あれ…あの店にいる人」

 

「あれは…ジャンか?」

 

「隣りにいるのは…お母さん?」

 

「そうみたいだな…行ってみるか?」

 

「ううん、止めとこう。家族の時間は必要だよ…」

 

「そうだな…悪いことを言ったな」

 

「大丈夫だよ!今はユミルにキヨンがいるから…

絶対いなくならないでね?」

 

「ああ、約束したからな。お前を守るって」

 

オレはヒストリアの目を見て言う。ヒストリアは満足したのか、嬉しそうに頷いた。

 

「守ってくれなくても、一緒にいてくれたらいいよ…」

 

小さい声だったので、何を言っているのかは余り聞こえなかった。

 

「ジャンボ!今日の私は調子がいいんだよ!ほら、次の店行くよ!」

 

と、母親の声がよく聞こえ、ヒストリアは小さく笑った。

 

「ふ…ジャンボって…でも、体の調子悪いのかな?」

 

「そうみたいだな…まあ…病気のことをオレらができることはない…祈ることしかできないな」

 

「うん…そうだね」

 

そこからも、オレたちは街を逍遥してから河原の近くの草原に腰掛けた。

しばらく無言で川を眺めていたが、ヒストリアから話しかけてきた。

 

「ねぇ、キヨン…ちょっと聞いても良い?」

 

「何だ?」

 

「キヨンはどこで、そんな力をつけたの?」

 

「力?それならミカサだってそうだろ?」

 

「違うよ!!あなたの雰囲気や目は明らかに異質…普通の暮らしをして、そんな風になるなのはおかしいよ!」

 

「酷い言い方だな」

 

「ごめん…だって、気になるんだもん…キヨンは何も教えてくれないし、表情が変わらないから聞くしか無いでしょ?」

 

「 そう言うヒストリアは、よく笑うようになったな」

 

「ヒ…は、話を逸らさないで!キヨンは私に教えてくれないの?」

 

「…そうだな、全てが終われば話てもいい」

 

「それまで、待たなければ駄目なの?いつ死ぬか分からないのに…」

 

「オレにも心の整理が必要なこともある。それにオレ自身まだ理解出来ていないこともあるからな。

後、お前は死なないさ…オレとユミルがついてるからな」

 

「守られてばっかりだね…私は……

でも、今のキヨンは人間らしかったよ。意外な一面を見ちゃった」

 

「ヒストリア…オレからも質問する。」

 

「なに?」

 

「親と会いたいか?」

 

「…分からない。キヨンに言われてから考えた…キヨンの言う通りだと思う自分とそんなことはないハズだと思う自分がいる…後者は、多分…自分がそう信じたいだけ…」

 

「そうか…今こんなことを話すことは申し訳ないが、ヒストリアの父が、この壁の謎を握っているのは既に確信している。今後、王家とも戦うことになるだろう…

ヒストリアの父とは敵対関係になる。その時にヒストリアはどうする?」

 

「……」

 

ヒストリアは俯き考えている。

オレは、ヒストリアの言葉を待つことにした。

 

「一度暗い話を…ううん…その時はその時だ!親を失ってるのはキヨンもユミルも一緒!私だけわがままを通すわけにはいかないよ!」

 

「そうか、答えてくれてありがとう」

 

少し迷いを見せたヒストリアだったが、その後、覚悟を決めた。

なら、オレは何も気にしない。

これで、何も気にすることなく行動することができる。

 

「そろそろ帰ろうか、日が暮れる」

 

「今日はありがとね!楽しかった」

 

「また来よう」

 

 

帰ってから、みんなに根掘り葉掘り聞かれた。

そして、その日の夜にずっとこちらを凝視していた人物と落ち合った。

 

「何かあったか?」

 

「いや…別に…本当に私を守る気あるのかなと思ってさ」

 

「あるぞ」

 

ここにアニの敵はいないと思うが…

 

そう…短く返す。

 

「ねぇ…あの場所に行きたい...行こうって言ったよね?」

 

「え…今からか?かなり遠いぞ…?」

 

「馬で走れば、問題ない」

 

「夜に出発するのは危険だが…大丈夫か?」

 

「うん」

 

かなり堅い意志のようだ

 

「なら…行くか」

 

オレたちは夜の森を馬で走った。

行く場所は、訓練兵のときに見た湖。

アニに取って、思い出の場所なんだろうな…オレもだが…

 

「見てよ、訓練所…明かりついてる」

 

「まあ…次の訓練兵がいるからな」

 

オレたちは目的の場所に着き、木をかき分けながら進む。そして、湖が見える場所に着き、切株に腰を下ろす。

しばらく無言の時間があったが、アニが話し始めた。

 

「あの頃は…本当に…辛かった」

 

「…」

 

オレは何も言わず、目だけを向ける

 

「あんたが居なければ…ほんと…どうなってたことか…逆にあんたが居なければ、そんなことを考えずに戦士としての責務を全うしていたかもね」

 

自嘲気味に話すアニの言葉を否定する。

 

「そんな事はない。アニは根が優しいからな…オレが居なくとも考えを改めていたさ」

 

オレはそう言ったが

 

「それはない!…私はあんたがいたから…」

 

いつもより強い口調になったが、そこまで言って止まった。

オレは何も言わずアニが座っている横に腰を下ろし、肩に手を回しこちらに寄せる。肩を寄せ合うと、アニの呼吸がよく聞こえる。

オレたちは黙ってこの鏡花水月のような景色を見続けた。

オレは、このキレイな星空と月明かりに照らされた湖を見ることが好きなんだと感じた。

アニもきっとそう感じているのだろう。

 

湖を見るその目は微かに揺れ、いつもよりもキレイな目へと化している。

 

「そろそろ帰らないとな…最後にあれ…やっとくか?」

 

「ふ…そうだね…」

 

アニはオレの前に出て、大きく息を吸い

 

「あーーーーーーーーーーーー!!」

 

前回よりも大きな声を出す。

 

「 どうだ?」

 

「ふぅ…帰ろっか」

 

叫んだ感想は無いものの、その顔は曇りのない顔になっている。

 

「なあ、アニ…今後もオレたちは戦わなければならない。生き残るために、自由を取り戻すために…」

 

「…」

 

アニは黙ってオレの次の言葉を待つ

 

「何度も戦うことになるかもしれない…その度に何人もの仲間を失う。だが…オレたちは必ず生き延びよう。そして、戦いが終わるたびに、この景色を見に来よう」

 

アニは右目から一筋の涙を零しながら、頷いた。

 

「うん」

 

そして、オレたちは帰った。

宿に帰ると、さすがに明かりが消えていた。

オレは静かに扉を開いて…

と、その時に一斉に蝋燭の灯が着く。

 

Oh と my と god

 

なぜ、皆起きていやがる…

オレ達の脱獄は完璧だったはずだ

 

「キヨン…あなた…」

 

「お前と言う奴は、本当にどうしよもねぇな!」

 

「「「「キヨン…」」」」」

 

全員の視線がオレに刺さる

オレが言い出した事じゃないのに…

皆は口々にオレを責め立てるがそこで止まる。

なぜらなら…

氷のように冷たい瞳をした少女がいるからだ。

誰も発せない。その少女が言葉を発するまで…

 

「ぷっひゃひゃひゃひゃ!さすがキヨン様だ!!次々に女を侍らせる」

 

この場で、唯一ふざけられる人物ユミルだが…今回は不味いぞ…

 

「ユミル…次々って?」

 

ヒストリアが聞く。

不味いと思ったのか…この場を離れようとする一人の少女

 

「今日の昼はクリスタ、夜はアニ…昨日の夜はミーナだったな!」

 

待て、それもミーナからで…しかも、なぜこいつがそれを…?気配は感じなかったが…

 

「しっかり、サシャから聞いたからな」

 

ああ…そう言うことか…この女は意外にも隠密に長けている。オレたちがいないのもこいつが気づいたんだな

ミーナは逃げ切れず、捕まってしまった。

 

「本当に何もしていないんだが…」

 

「そうよ!何にもしてない!話をしていただけよ!」

 

オレとニーナで反論をするが、これで止められるわけ無い

 

「キヨン…あなたには、お仕置きが必要だと思うの

そう言えば...以前、エレンを使って私を騙したことあったわね?」

 

「いや…あれは、お前のために」

 

駄目だこれは…何を言っても皆の目が冷たくなって行く。

 

しかし、この状況を打破する奴が現れた。

 

「お前よぉ!ホントに女を何人も侍らせやがって!クソ羨ましい!!」

 

「うるさいぞ…ジャンボ。」

 

「「「「ジャンボ…?」」」」

 

「なっ…」

 

「今日の昼にな、店に入ったらジャンと母親がいたんだ。そこでな、母親からジャンボ!って言われていたんだよ。

ジャンボはいつも憎まれ口叩くが母親には甘いやつだったんだな…ジャンボ」

 

「ほほぅ…ジャン…いや…ジャンボ色々聞こうじゃないか?」

 

「お…おい!今はオレじゃなく…あれ…キヨンは?」

 

オレはこの隙に逃げ出していた。明日は兵団を決める日でもあるからな、早く寝よう。しかし…腕を掴まれた。

 

「キヨン…話を聞かせてくれるよね?」

 

「今日は、寝たほうがいいんじゃ…はい」

 

こうして長い長い夜が始まった。

 

 

 

 

おまけ

 

一日前…

 

キヨンたちが部屋を出て行き、部屋の中は静まり返っていた。そんな空気を打ち破ったのは、ハンジさんだった

 

「まさか...こんなことになっていたとは…彼は一体何者なんだ?たった一人でここまで調べるなんて…」

 

「ああ…本当にすごいな…先のトロスト区襲撃は完全に彼の掌の上だったな」

 

「しかし…あーーもう!すごいことになったよ⁉人類が滅びてないって⁉敵の一人をこちらにつけたって⁉どうなってんの??」

 

さっきまでは抑えていたハンジさんだったが、遂に爆発した

 

「落ち着けハンジ…おい、エレン...何一人でしょぼくれてんだ?」

 

「あ…いえ…オレ…キヨンのこと何も知らなかったんだと思いまして…」

 

「まぁ…知らなかったのかもしれないけど、随分と君たちを頼りにしているんだと思ったよ?」

 

落ち着きを取り戻したハンジさんがそう言ってくれた

 

「え…頼りに…ですか?」

 

「うん!彼はかなり先を見て行動してる…その先の未来に君たちが必要だから、君たちの成長を最優先したんだろう。なっ!頼りにされてるだろ?」

 

「あ…はい…そうですね」

 

まだ、不満はあるが...今回はそれで許してやろう...

 

「それで…どうするんだ?エルヴィン」

 

「今後どう行動するかは明日考える。今は先ほど得た情報を分析していく」

 

エルヴィン団長がそう言い、みんなで話し合っていく

 

 

▽▽▽

 

 

トロスト区襲撃後のアニとの会話

 

 

オレはアニの話を聞いていた。アニは途中、つまりつまりになりながらも全てを話してくれた

 

「なるほど…お前たちがここへ来た理由はよく分かった。だが、今知りたいことは他にある。ライナー達はマーレに帰ったと思うか?」

 

「いや…帰ってないと思う。迎えの船は望月の日に来る。ここから、急いで移動したとしても間に合わない。ライナーやベルトルトの巨人は移動には向かない…ウォール・マリアの壁まで行くことすらできていないかも知れない…それに、始祖の巨人を回収できていない上に、エレンが始祖の巨人とも限らない。ライナーが何の成果も得られていないのに、帰るはずがない...マリアかローゼの中にいる可能性は高いと思う...と、言うか...あんたもそう考えたからあの時追いかけなかったんでしょ?」

 

「ああ...まぁ、一応確認だ。

そう言えば...クリスタが始祖と何か関係があるんだったな?」

 

「うん…でも…私もまだ分からないことが多い」

 

「それは仕方ない…アニは憲兵団に入って情報をこちらに流してほしい」

 

「だけど...あの男が…」

 

「中央憲兵だろ?そこまで行かなくていい」

 

「…分かった」

 

「無理はしなくて良いからな?憲兵に行くのはアニだけだからな…無理に憲兵に行く必要もない」

 

実際、憲兵に行こうと、調査兵団に行こうとどちらでも良い

 

「…大丈夫…憲兵に行くよ」

 

「そうか…なら頼む。

今日はもう寝よう...疲れただろう」

 

オレはそう言って、立ち上がり帰ろうとしたが、アニが引き留める

 

「もう少しだけ…良い?…寝れ無さそう」

 

「…分かった。」

 

オレはもう一度アニの隣に座り、雑談をしていた。

しばらくしてから、話すことがなくなり無言になったが、アニはここから動こうとしなかった。

 

ふと、横を見ると...アニは眠っていたので、オレはアニを担いで宿に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

前進せよ!!

現在もう一つ作品を書いてます。
ハイキューやゆるキャン△なのですが、そのときの綾小路の名前を清田綾隆にしております。
たまに間違えて綾隆で書いてしまうことがあります。



設定

ウォール・マリアかローゼまでは100㎞ある。
カラネス区からだと…100km+α
巨大樹の森がどれほどの規模かは分かりませんが、森のウォール・マリア側からだと、壁まで60kmほど。
馬の巡航速度(調査兵団の馬は有能らしい)
現代の訓練された馬の場合…巡航速度で時速20km。一日30分が限界。
調査兵団の馬は継続して1時間走れることにしておきます。時速30km。一日60km弱走る。
 馬は付いていくだけならどこまでても付いていけると聞いたことがありますが、そこら辺は良く分かりませんのでご容赦を…
本来、一日馬が移動できる距離は巡航速度で30㎞、常歩で50㎞ほどです。
壁外を常歩な訳が無いので、巡航速度で行くことになるでしょう。
また、巨人と遭遇した時避けながら進むことになりますので、何日かに分けてウォール・マリアを目指すことにします。

勝手に設定つけさせて頂きました。
馬の事は全く知りません。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

「今日は新兵勧誘式か…心配だ」

 

「果たして調査兵団に入団する酔狂な新兵がどれほどいるのか…」

 

「なぁエレン…お前の同期にウチを志願する奴はいるのか?」

 

オレは今、リヴァイ兵長率いる特別作戦班に所属している。

オレが入ったことにより、計6名の部隊。

その内の二人が馬の世話をしているオレに話しかけて来た。

 

エルド・ジン…討伐14体・討伐補佐32体

グンタ・シュルツ…討伐7体・討伐補佐40体

 

二人とも紛れもない精鋭たちだが、ミカサやキヨンが身近にいるからか、あまり凄いと思わない…

オレも既に2体ほどは倒したし…

他の皆も5.6体は倒していた。

もしかしたら、キヨンの言う通り本当に今期の新兵は凄い奴らなのかも知れない...

 

「いますよ。

凄い奴も入ってくると思います。

志願する人は結構多かったはずです。」

 

「本当か⁉」

 

「あんな事があったのに良く入って来ようと思うな…」

 

「それは…皆が何体か巨人を倒したからだと思います。」

 

「訓練兵なのに巨人を倒したの??」

 

「ペトラ…本気にすんなよ。どうせ、死にかけだった巨人を倒したぐらいだろう。

お前らのような小便臭いガキが調子に乗ってんじゃねぇぞ」

 

話に入って来たのは…

最近髪型を変えたらしい…オルオ・ボサド...討伐39体・討伐補佐9体

もう一人は、ペトラ・ラル…討伐10体・討伐補佐48体

それにしても、ペトラさん…明るい髪か…思えば、クリスタもアニも金髪。

盗み聞きをしただけだが、訓練兵時代…女子がキヨンのことをカッコいいって言っていたな…

そいつらも明るい髪だった。

ペトラさんも餌食にならなければいいけど…

 

「いえ…20体以上倒しているやつもいましたし、オレも2体の討伐と10体以上の討伐補佐をやりました。」

 

「はっ…またそうやってガキはすぐ嘘を…」

 

「それは、心強いな...調査兵団もしばらく安泰だな」

 

「へぇ~すごい子が入ってくるのね!」

 

とても強い奴が調査兵団に入ってくることを知り、先輩達は喜んでいる。

 

「危険な奴の間違いだろうが…」

 

だが、どういう奴が入ってくるのか知っているしリヴァイ兵長は素直に喜べないのだろう。

 

「「「「「おはようございます!!リヴァイ兵長!!」」」」」

 

馬に乗って現れたリヴァイ兵長に皆が敬礼する。

 

「兵長!危険な奴とは?」

 

「ああ...トロスト区襲撃を利用したやつだ。」

 

「「「「!?」」」」

 

「どういうことですか⁉」

 

「まぁ…話は後だ。

取り合えず、移動するぞ。」

 

「「「「はい!!」」」」

 

やっぱり、まだ要注意人物なんだな…キヨンは。

色んな意味で…

 

 

▽▽▽

 

 

ヒストリアに夜遅くまで尋問をされていたため、起きると昼前であった。

朝昼兼用のご飯を食べるために食堂に赴くと、全員が集まって話していた。しかし、皆の顔は辛気臭く、そこかしこで言い争っていた。

話の内容は聞かなくても分かる。調査兵団か駐屯兵団…どちらに入るかだろう。

訓練兵10名のみが憲兵団に入れるが、その6名は調査兵団に入ることになる。また、上位10名に外れた者でも上位陣の殆どが調査兵団と言うこともあり、未だに迷っている奴らが多い。

オレはそんな言い争いには興味が無かったため、パンとシチューを貰ってから離れた位置に座り、1人で食べることにした。

 

「キヨポ~~ン!!パンを恵んでください!!」

 

声だけでもう誰かが分かる。

振り向くこともせずに、それを拒否することにした。

 

「サシャ…昨日お前がオレを売ったから、オレは昨日の夜眠ることができなかったんだが?」

 

「ギくッ…!!いや...その...あれは、その~だって!パンをくれるってユミルが…ハッ…!!」

 

「お前な...今までオレがどれだけ、お前にパンを恵んでやったと…」

 

「ごめんなさい!!!もうな~んでもしますから、また恵んでください!!」

 

「仕方ないな…ほら」

 

1/4くらいに千切って渡すと泣いて喜び、隣で食べ始めた。

 

「それにしても、皆何の話をしてるんだ?」

 

一応聞いておく事にした。

トロスト区で生き残った訓練兵は140名…そのうちの何人が調査兵団になるのか…そこは気になる。

 

「あ~調査兵団か駐屯兵団かで言い争ってますよ」

 

「どんな感じだ?」

 

「ん~調査兵団の方が若干多いって所ですかね」

 

「へぇ、意外だな」

 

「ですね、エレンの演説があったのと、キヨンの存在があるからですよ」

 

「オレの?」

 

「はい!キヨンの作戦で動いた人は、皆生きてますからね。

皆は結局安全なところが良いんですよ」

 

「それはそうだろうな」

 

考えることを放棄して、オレに判断を委ねようとした奴らか…簡単に囮に使えそうだな。

 

「私はもう調査兵団と決めて...ハッ!憲兵団に入れば、肉食べ放題なのでは⁉」

 

「もし、お前が憲兵団入ったら、憲兵団を壁外に連れて行き囮にするからな」

 

「じょ...冗談ですよ。もう!キヨポンったら!」

 

と、バシッとオレの肩を叩く。

 

「よっ!キヨポン、サシャ」

 

「あ、コニーおはようございます。それから皆さんも」

 

「おう...お前ら覚悟はできたのか?」

 

「ジャン...あの肉を食べた日に誓ったはずですよ」

 

「…そうか」

 

「どこにいても危険な以上、敵を倒すしかないだろうな」

 

「そうだな…巨人を皆殺して、自由を手に入れる!」

 

コニーはかなり成長したな。

以前なら、誰かの意見でコロコロ変えていたのにな。

 

「おはよう!皆!」

 

「うぃ〜す」

 

「クリスタにユミル!」

 

「おはよう~」

 

二人はいつも通りだな。

ヒストリアはサシャとは反対側の俺の横に座って、パンとシチューを食べ始めた。

ユミルはその反対に座る。何だか…オレの周りに集まりだしたな…前世ではどれだけ頑張ってもボッチだったが…

 

「よく眠れた?キヨン」

 

「ああ…おかげさまでな」

 

「それは良かったわ。

これからは、い〜っぱい夜遅くまで話せるね!」

 

「…勘弁してくれ」

 

「ふふ…ヤダよ」

 

「お前らホント仲いいな」

 

「あのな……はぁ、「キヨンもクリスタにゃ敵わねぇな!」」

 

「キヨンが絡むとクリスタは怖いですからね」

 

サシャがそう言った。相変わらず、何も考えずに話すんだな…

ヒストリアは無言でサシャを睨んだ。

 

「ヒィッ...」

 

オレの後ろに隠れるなよ...

 

「お前らはいつも通りなんだな...ビビってる俺らがあほらしいな」

 

「ミリウス…私達も怖いですよ。だからこそ、いつも通りに振舞っているんです」

 

サシャがそう返すが、全くそうは見えない。

 

「お前は間違いなく、素だろ」

 

ジャンも同じことを思っていたらしく突っ込んだ。

 

「俺もミーナやマルコも朝からこの食堂にいたから、皆の言い争いを聞くとな...ちょっとビビるんだよ」

 

「あれ、トーマスは?」

 

「あいつはまだあっちにいるよ」

 

それにしても後4時間はある。

どうやって時間を潰すか…

 

「キヨン、起きていたんだね」

 

と、ここへアルミンとミカサ、アニが近付いて来た。

ミカサはオレとサシャの間を無理やり抉じ開け、長椅子に座った。

 

「お前…もっと広いところ行けよ」

 

サシャは押しのけられるついでにパンを口に放り込まれ、ご満悦そうな顔をしている。

 

「ダメなの…?キヨンは一人でいるとすぐに悪さするから」

 

「……別に悪さはしていない」

 

「よく言うぜ、お前の女への手癖の悪さときたら...」

 

ミカサが言ってるのは決してそっちの話ではない。

 

「うるさいぞ、ジャンボ。またその話をするのか?」

 

「っ…てめっ」

 

「そうだったぜ、ジャンボ。よくその話を聞かせてもらわないとな」

 

女の事となるとオレに当たりが強くなるジャンを軽くあしらいつつ、逆方向から視線が鋭くなったヒストリアをあやす。

 

「なぁミカサ、お前オレに何か恨みでもあるのか?」

 

「……」

 

ミカサは答えず、黙ってシチューを食べ始めた。

 

「ミカサはエレンが居ないし、キヨンも相手してくれないから寂しいんだよ」

 

と、アルミンが代わりに教えてくれた。

 

「オレはエレンの代わりか…」

 

「キヨンにエレンの代わりは務まらない。」

 

そうですか…

ミカサもまだ10代少女である。色々と悩みはあるんだろう…また、聞いてやらないとな。

どうせ、エレンのことだろうが…

 

「ところでさ、エレンは大丈夫なのかな?」

 

アルミンがオレ達にしか聞こえないくらいで聞いて来た。

 

「リヴァイ兵長の下で訓練に励んでんだろ?

アニに教科書作ってもらったんだし、大丈夫だろ」

 

「そうじゃないよ。

精神的にさ...今まで壁を破壊した巨人を憎んで来ただろ?

それが目の前にいた挙句、外の世界は滅びてなくて敵だらけだったじゃないか…

つまり外へ出ても自由が無い…」

 

「そうだな…今はまだ自分の中で整理できてないから保てているが、少し時間が立てば色々とやばいのかもな」

 

「なら!どうしてそれを分かってて放っておくの!?」

 

ミカサは胸倉を掴んで、迫って来た。

周りにいた奴らは何事かとこちらを見るが、ミカサがオレに怒ることは日常的なことなので無視して自分たちの事をしだした。

ありがたいが、助けてほしくもある。

 

「そのためにミカサが居るんだろ?

エレンが危険だと思ったら、寄り添えばいい」

 

「…でも今は、一緒に居られないじゃない」

 

「……調査兵団に入ったら、一緒にいられるように団長に交渉してやる」

 

「そう」

 

口角が上がったミカサを見て一安心する。

その後、皆で食堂で言い争っている奴らを見ながら時間を潰した。

 

 

夕方…

 

「訓練兵団整列!壇上正面に倣え!」

 

先輩兵士の張り上げた声が食堂に響く。

オレ達訓練兵140名は壇上前に整列する。

そして、エルヴィン団長が壇上に立ち演説を始める。

 

「私は調査兵団団長、エルヴィン・スミス。

調査兵団の活動方針を王に託された立場にある。

所属兵団を選択する本日、私が諸君らに話すのは、やはり調査兵団の勧誘に他ならない。

 今回の巨人の襲撃により諸君らは壁外調査並の経験を強いられた。

聞けば、訓練兵だけで何体もの巨人を討伐したらしいではないか。かつて例がないことだろう。

そして、今回の襲撃でこれまでに無いほど人類の勝利へと前進した。

それは、周知のとおりエレン・イェーガーの存在だ。

彼と諸君らの活躍で巨人の進行は阻止され、我々は巨人の正体に辿り着く術を獲得した。

彼に関しては、まだここで話せることは少ない。だが、間違いなく我々の味方であり、彼の命がけの働きがそれを証明している。

そして、彼の生家があるシガンシナ区の地下室には彼も知らない巨人の謎があるとされている。

我々はその地下室に辿り着きさえすれば、この100年に亘る巨人の支配から脱却できる手掛かりを掴めるだろう。

……

しかし、調査兵団は壁外調査で毎回多数の死者がでることによって慢性的に人員が不足している。

だが、それを超えた者が生存率の高い優秀な兵士へとなってゆく。

この惨状を知ったうえで自分の命を賭してでもやると言う者はこの場に残ってくれ。

以上だ。

他の兵団の志願者は解散したまえ」

 

エルヴィン団長が話し終えると、

一人また一人とこの場を去って行った。

しかし、出て行く人は思ったより少なかった。

 

50名ほど…

 

エルヴィン団長の演説は、詐欺のようなものだ。

若干の危険さを話しつつ、ウォール・マリア奪還、巨人の謎と言う餌で釣る。

その人類の望みを自分たちが解決するという栄誉は、青少年の本能に呼びかける。

余程、ウォール・マリア奪還に飢えているようだ。

いや...

 

「君たちは死ねと言われたら死ねるのか?」

 

エルヴィン団長は残った訓練兵に問いかける。

 

「死にたくありません!」

 

訓練兵の一人が震えながらも否定する。

 

「皆…いい表情だ。

では今!ここに居るものを新たな調査兵団として迎え入れる!

これが本物の敬礼だ!

心臓を捧げよ!!!」

 

「「「「「ハッ!!!」」」」」

 

皆が右手を握り締め、心臓に当てて敬礼する。

90名ほどが残ったが、怖いものは怖いのだろう。

中には泣いている者もいた。

 

「第104期調査兵団は敬礼をしている総勢94名だな。

よく恐怖に耐えてくれた…君達は勇敢な兵士だ。

心より尊敬する」

 

式は終了し、ここで解散となった。

 

「エルヴィン団長は皆を囮に使うのだろうか…」

 

アルミンがオレにそう言った。

 

「どうだろうな…兵士をどう使うかは置いておくとして、ウォール・マリア奪還に人員が必要なのは分かり切ったことだ。」

 

「キヨンはどう動くつもりなの?」

 

「そうだな…次の壁外調査の目的は拠点作りだろう。

それが第一優先だな。」

 

「それだけ?」

 

ミカサが訝しげな顔で聞いてくる。

 

「…それはまた後で話す。エルヴィン団長にも呼び出されているからな」

 

「…分かった」

 

夜…しばらく会う事のできないアニと会うために宿を抜け出し、人通りの少ない所で落ち合った。

夜遅くまで雑談したり頼み事をしてから別れた。

 

 

▽▽▽

 

 

「旧調査兵団本部。

古城を改装した施設ってだけあって…趣とやらだけは一人前だが…」

 

キヨンたちが兵団を決めている頃、オレは自分が寝泊まりをする場所へ馬で移動していた。

オレにつらつらと喋りかけてくるオルオさんだったが、すぐに舌を噛んで黙ってくれた。

その後、ペトラさんに注意されていたのを横目に見ながら、馬の世話をする。

 

「久しく使われていなかったので少々荒れていますね」

 

「それは重大な問題だ...早急に取り掛かるぞ」

 

リヴァイ兵長は重度の潔癖症だと聞いたことがある。

リヴァイ兵長の命令で皆が掃除を始めた。

皆、機敏な動きで次々に何室もある部屋の掃除が終わっていく。

オレも急いで掃除をするが、何度もリヴァイ兵長にダメ出しを喰らった。

その度に、ペトラさんが慰めに来て、一緒に掃除をしてくれた。

この人は本当に良い人だ…キヨンの餌食にならないことを祈る。

全ての部屋の掃除を終わらし、夜に皆で夕食を食べる。

 

「我々への待機命令はあと数日は続くだろうが、30日後には大規模な壁外遠征を考えていると聞いた。

それも今期卒業の新兵を早々にまじえると」

 

「エルド...そりゃ本当か?」

 

「ずいぶん急な話じゃないか」

 

「ガキどもはすっかり腰を抜かしただろうな」

 

「本当ですか、兵長?」

 

「作戦立案は俺の担当じゃない。

奴の事だ...俺達よりずっと多くのことを考えてるだろう。

…あいつの差し金かも知れねぇが」

 

「「「あいつ??」」」

 

「そう言えば、昼も危険な奴とか言ってましたよね?」

 

「ああ…」

 

リヴァイ兵長がこちらを見る。

オレが話せってことだ。

 

「そいつはオレの幼馴染で、トロスト区襲撃を事前に知り、調査兵団団長だけに伝えたやつです」

 

「「「「    ⁉    」」」」

 

「それ本当なの!?エレン」

 

「はい…」

 

「 ど、どうやって…!?」

 

「あの時、急に壁外調査が無くなったのはそう言うことだったのか…」

 

「調査兵団でも話題に上がっていたな」

 

「ああ…皆意味も分からず、トロスト区周辺で待機していたもんだ」

 

「それで、その襲撃を利用したってのはなぜ??」

 

「訓練兵の成長だそうです…」

 

「はぁ⁉それだけで、住民を巻き込んだのか⁉」

 

「あ、理由はちゃんと聞きましたし、納得をせざるを得ないものでした。」

 

「理由ぅぅ?」

 

オルオさんは顔を顰めながら聞いてくる。

皆もあまり良い顔はしていない。

 

「それは…」

 

「理由を聞くか聞かないかは、エルヴィンの指示を仰ごう」

 

壁外の事を話すべきか迷っていると、リヴァイ兵長が割り込んで今は言わないべぎと判断した。

 

「「「…」」」

 

皆はかなり不満そうだ…だが、それも当然の反応だろう。

オレも理由には納得をしたが、やはり住民の命は助けたい。

 

「なんっすか、そいつは…俺が一度洗礼を…」

 

「止めておけ…オルオ。死にたいのか」

 

「ちょ…リヴァイ兵長!そんな新兵如きに俺が…」

 

「奴自身20体以上の巨人を殺したと聞いた。

そして、奴の指示で訓練兵の半分以上が生き残ったともな…」

 

「うっ…」

 

「そんな子がいるんですか!?」

 

「ああ…俺も奴と対面して敵対関係にはならねえ方が良いと判断した。」

 

「リヴァイ兵長…そんな…」

 

「不満はあるだろうがな…そいつはかなり先を見て行動している。

ひょっとしたら、エルヴィン以上かもな…

理由がどうあれ人類の為に戦っている以上…敵対する方が馬鹿な話だ。」

 

リヴァイ兵長にそう言われるキヨンを少し羨ましく思うと同時に、同じ化け物として扱われていることに少しの嬉しさを感じた。

そこからは地獄だった。

ハンジさんが入ってきて夜な夜な、話を聞かされた。

全て知っていることを延々と話して、気付けば朝を迎えていた。その日の訓練は最悪で、何度もリヴァイ兵長に蹴られた。

 

 

▽▽▽

 

 

翌日からは実践よりも長距離索敵陣形を頭に叩き込むことが主だった。

なので、オレにとっては何度も同じことを繰り返し聞かされ、ただただ眠たい時間が続いた。

しかし、皆がこの策を理解したころ。

先輩兵士が言った言葉に皆が驚愕した。

 

「一回目の壁外調査で目指す場所は、巨大樹の森だが最も問題となることがある。それは超大型巨人と鎧の巨人の存在だ。

エルヴィン団長曰く攻めて来る可能性が高いと聞いている。」

 

「それは、何故分かるのでしょうか?」

 

一番前で受けていたマルコがそう聞いた。因みにオレは一番後ろで、右横にヒストリアが左側にはコニーが座っている。

 

「今から話すことは決して外部に漏らしてはいけない。憲兵団や駐屯兵団にもだ。」

 

そう先輩が言うと皆の表情が先程よりも真剣な顔つきになった。聞く準備が出来たと理解したのか先輩は話し始めた。

 

「理由は、その正体を我々は知ることができ、何のために扉を破壊しているのかを知ったからだとお聞きした。

その正体は、ライナー・ブラウンとベルトルト・フーバーだ。

この二人の目的は、エレン・イェーガーだ。」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

「な…なぁ…キヨポン…嘘だよな?」

 

「こんなとこで嘘をつく理由はないだろう」

 

「……いや…でも、意味分かんねぇよ」

 

「おい、話を続けるぞ」

 

「「「「「「「……」」」」」」」

 

皆はその後の話を聞けていたのか分からないくらいに動揺していた。

 

「そのライナー・ブラウンとベルトルト・フーバーはお前たちと同じ訓練兵だったんだってな…

しかし、相手は容赦せずエレンを奪いに来るだろう。

その時、お前たちは兵士として、役目を果たせよ…」

 

「「「「「っ…」」」」」

 

またも先輩からの容赦ない言葉を突き付けられ、更に表情が強張っていた。

 

訓練が終わり、食堂にて皆で食卓を囲む。

オレの周りには、いつもいる面子が集まっていた。

ライナーとベルトルトとは仲が良かっただけにこいつらは、かなり引きずっているようだ。

食がなかなか進まず、オレら以外の新兵は皆戻ってしまった。

サシャでさえ、まだ食べ終わっていない。

オレやヒストリアなど知っていた奴らはいつも通りだったが、皆の様子を見て食べるスピードを合わせていた。

 

「なぁ…キヨンは知っていたのかよ…?」

 

この静まり返った食堂でジャンがオレに聞いてくる。

 

「何で、オレに聞く?」

 

「キヨンは余り驚いてなかっただろ。

まぁそれはいつも通りだが…キヨンなら知ってたんじゃねぇかとおもってな…」

 

こいつ、わざわざ後ろのオレを見たのか…

まあ視線は気付いていたが…何故オレを見るんだ…

 

「まぁ、そうだな…オレがエルヴィン団長に教えたことだ」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

「何でそれをオレらに教えなかった…!?」

 

「知ってどうしたんだ?」

 

「は…?」

 

「お前らのようなお人好しが、そのことを知れば、間違いなく説得に行くだろう。それか、必ず表情に出して相手に悟らせるだけだ。

お前らでは、あいつらを止められないし、殺すことなど不可能だ。

今だって、敵だと知りながらもまだ仲間だと思っているんだろう?」

 

「「「……」」」

 

オレがそう言うと皆は黙って俯く。

図星のようだ。

 

「だが、安心しろ…もう一人はこちら側に引き込むことができた。そいつとは、ただ話し合いをしただけだ。

あいつらも決して、話し合いが通じない相手ではない。」

 

「「「「はぁ!?」」」」

 

「おい、誰だよ…その引き込んだってやつは…」

 

「それはまた落ち着いたら話そう。

それより、お前らは今度の壁外調査をどうするんだ?

あいつらは邪魔しに来るだろうが、お前らはあいつらと戦えるのか?」

 

オレはそう皆に聞く。

まだ心の整理が出来ていないため、答えられないと思っていたが…

 

「…当たり前だろ…先ずは話を聞かないとダメだろうが…」

 

「ああ、そうだぜ…ジャン。

あいつらに会ってちゃんと話を聞かねぇとな」

 

どうやら、戦うことになっても行くようだ。

まぁ行かない選択肢は無いだろうが…皆が気持ちの整理ができたようで良かった。

 

 

 

三日後、オレはエルヴィン団長達と共にキース・シャーディスの下へ訪れるため呼び出されていた。知っておいて貰わないと困る奴らを連れて宿を出る。

 

「何だか…ちょっと緊張する…」 

 

アルミンがそう言う。アルミンは団長達と会うのは初めてではないのだが、緊張するものなのだろうか…?

オレには分からないものだな。

 

「そうだな、サシャは既に顔が青いな…大丈夫か?」

 

「サシャは教官に何度も頭突きを喰らっていたからな!」

 

「そ、それはコニーだってそうでしょ!」

 

そんなくだらない言い合いを聞きながら、エルヴィン団長の元へ移動する。目的地に着くと人数が多いため、いつもよりも大きい部屋だった。

大部屋に入ると教官と目が合う。だが、特に何かを話すこともないため目を逸らし席に座る。

後は、エレン達だけか…

 

「お待たせしました」

 

「「「「し、失礼します!!」」」

 

「104期調査兵!サシャ・ブラウスです!」

 

「同じく104期調査兵!ジャン・キルシュタインです!」

 

皆は敬礼をしながら1人ずつ挨拶していく。

 

「どうも」

 

オレがそれだけ言って席に着くと皆は驚愕し何も言わずこちらを睨んだ。

 

「ああ、よく来てくれた。リヴァイが来るまで雑談でもしていようか…」

 

「は…はい」

 

「え?サシャだったっけ?席に座ってくれて構わないよ?」

 

「ああ、そうだぞ…ブラウス」

 

「いえ!!私奴はここで結構です!」

 

「確かにお前はよく教官室に呼び出されてはよく絞られてたな…

だが、今日は話し合いだ。

長くなるだろうから座って構わない」

 

「は…はい…シシシし失礼しますぅ〜。」

 

サシャは襲る襲るオレの隣に椅子を持ってきて座った。

こいつらは、よく隠れるためにオレの隣に来る。

しかし、オレの隣を確保していたヒストリアとの間に割り込んだため、もの凄く睨まれていた。

だが、今回はヒストリアの視線にも気づかないくらいに怯えているため構わずオレの隣に居続けた。

帰ったら、終わったな…

 

「なになに?サシャはよく怒られてたの?」

 

興味深々で、ハンジさんが聞いて来た。

 

「入団式の日に皆が整列している中、芋を食い始めて初日から死ぬほど走らされていたんですよ。

次の日もその次の日も毎日馬鹿やって走らされてました」

 

ジャンがそう言った。

 

「ぷっあはははは!何それ!!超面白いんだけど!」

 

エルヴィン団長でさえ、口を半開きにして理解できない顔をしている中、ハンジさんだけがサシャの奇行に笑っていた。

やはり、奇行種同士…分かり合えるところがあるのだろうか?

この二人が、組み合わさったら誰が止められるのだろうか…オレには無理だ。

サシャは訓練兵時代のことを思い出し、笑われているのに耐えられなくなったのか、手で顔を隠している。

そんなサシャを見て、優しい先輩がハンジさんを止めようと動いた。

 

「分隊長!!貴女に人の心はありますか!?」

 

この人はハンジさんとの付き合いも長いハズ…

なのに、こんなにも根気強くハンジさんに突っ込める人はいないだろう…この人しか止められる人はいない。

この人は絶対に死なせては駄目だな。

オレがそんなくだらない事を考えているとリヴァイ班が到着した。

 

「すまねぇな。待たせてしまって」

 

リヴァイ兵長が入って来て、班の人達も続いて入って来た。エレンは最後に入ってきてリヴァイ兵長の横に座った。

 初対面だったため一人ひとり自己紹介をしていった。オレが挨拶するとリヴァイ班には何故だか、かなり睨まれた。

まぁ…無視しておこう。

全員の顔と名前が一致した後、エルヴィン団長がキースに知っていることを話してほしいと懇願すると割とあっさりと話してくれた。

 

「……それが私の知る全てだ」

 

話を聞き終えると、皆はポカンとした顔だった。

 

「…それだけですか?」

 

エレンがそう言う。

無理もない…本当に聞く価値もないことを聞かされた。

 

「あなたほどの経験豊富な調査兵がこの訓練所に退いた本当の理由が分かりました。

成果を上げられずに死んでいった部下への贖罪ではなく……他の者に対する負い目や劣等感、自分が特別じゃないとかどうとか言った…そんな幼稚な理由で現実から逃げてここにいる」

 

さっきまでのフザけた雰囲気のハンジさんはもうどこにも居なかった。

若干の怒りの表情を露わにしながら、キースに言った。

 

「……よせ、ハンジ」

 

リヴァイ兵長が止めるが、ハンジさんは止まらない。

 

「この情報が役に立つか立たないかをあんたが決めなくていいんだ。

あんたの劣等感なんかと比べるなよ。

個を捨て公に心臓を捧げるとはそう言うことだろ?」

 

「確かに今まで黙っていた理由はよく分かりませんが、分かったこともありますよ」

 

オレがそう切り込むことにより皆はオレの方を向く。

 

「?…分かったこと」

 

「おじさんが壁の外から来た事が確定したではないですか。」

 

「おい……壁の外って何だ?」

 

リヴァイ班の一人の男…オルオが聞いてきた。

ここには知らない者もいるため、知っている情報をエルヴィン団長が話した。

知らなかった者は驚愕していたが、アニの事もついでに教えておいた。 

 

「人類が滅びてないだって…!?」

 

「そんな……アニが…」

 

「ああ…だが、アニはもう仲間だからな?」

 

「……っ」

 

まぁ整理するのに時間を要するだろうが、こいつらなら分かり合えるようになるだろう。

放心している奴らを置いておいて、オレは話を進める。

 

「エレンの家にはアニでさえ知らないことがあるハズです。

行って確かめないといけません」

 

「ああ、その通りだな」

 

「しかし、ウォール・マリアは奪還しません」

 

「「「「え⁉」」」」

 

皆は驚き、理解できない顔をしている。

 

「それは、どうしてだ?」

 

「今後、壁内人類が戦う相手は想像を絶するほどの大国です。

そんな国と戦争をするのに、壁の中で派閥があっては戦う事すら出来ません。

戦争が始まる前にやることは王政を打倒することです。そのためには調査兵団の力だけでは、不可能です。

ウォール・マリアを奪還しないという事は、住民はウォール・ローゼと言う狭い壁の中で暮らすことになる。

対して、シーナに住む貴族たちは5年前と変わらない暮らしを続けています。

確実に住民は、不満が溜まっていきます。

しかし、ウォール・マリアを奪還してしまえば、不満は解消されてしまいます。

それでは困るんです。」

 

「住民を使うってことか…」

 

オレがそう言うと、意外にも心優しいリヴァイ兵長が顔を顰めながら言ってきた。

 

「否定はしません」

 

オレはそう言い切った。

 

「ですが、内乱だからと言って必ずしも多くの死人がでるわけではないですよ」

 

「ほぅ…それはどうするんだ?」

 

「さぁ…まだ考えておりませんね…ウォール・マリアを奪還する準備が整ってから考えればいいんじゃないですか?」

 

「お前!!リヴァイ兵長に向かって!!なめてんのか⁉」

 

オレが適当に返すと、オルオが叫びながらこっちに近付いてくる。

 

「っ……」

 

オレがオルオを見るとこちらに来るのを躊躇い止まった。

 

「よせ…オルオ。

何も俺らに損なことを言われている訳ではない」

 

リヴァイ兵長に止められ、不承不承ながら席に戻った。

 

「つまり、王政を打倒した後にウォール・マリアを奪還すると言うことかな?」

 

エルヴィン団長がそう纏めてくれたので、それ以上不満の声は上がらなかった。

 

「そう言う事です。

そして、ウォール・マリア奪還が着実に進んでいることを住民に知って貰うことが重要です」

 

「結局は壁外に行かなければならないという事だな。

なら、今考えることは目先の巨大樹の森へ拠点を作ることだ。」

 

それからも話は続いたが、重要なことを話し終わったところで帰ることになった。

 

 

 

「お前よぉ……少しオレらに隠しすぎなんじゃないか?」

 

帰り道…無言で歩いていたオレたちだったが、ジャンがその静寂な時間を破ってオレにそう言った。

 

「お前たちに教えない方が動きやすいこともあるんだ」

 

「それはそうかも知れないが…後から知らされると、あんまり良くは思わないぜ……」

 

「それは最もな意見だな。

今後はなるべく話すことにしよう」

 

「噓つき…そう言っていつも教えてくれないくせに…」

 

来たか…ミカサ

こいつはいつもこう言うときだけ入ってきやがる。

 

「それより、キヨン……」

 

「なんだ?」

 

「エレンの元にいられるように交渉してくれるんじゃなかったの?」

 

ん……?

そう言えば、そんな事言ったな…オレにはどうでも良いことだったので適当に言ってしまった。

答えずにいるとオレの腕を掴み握る力がみるみる強くなっていく。

 

「ま…待て、何もすぐに交渉すると言ったわけではないぞ」

 

「ほら…すぐ嘘をつく。

キヨンの悪い癖」

 

やはり、信用度無いな…

 

「まったく…お前は…」

 

「ホント…どうしようもないですね…キヨポンは」

 

サシャにだけは言われたくなかった…

その後訓練に参加し、また頭に叩き込む時間が始まった。

 

 

▽▽▽

 

 

キヨンたちが帰り、席の対面に座っていたハンジさんが伸びをしている。

 

「……」

 

オレの隣では話の中盤からずっと俯いている人がいる。

キヨンに睨まれてから、ずっとこの調子だ。

そんな、オルオさんにリヴァイ兵長が話しかける。

 

「オルオ、お前も奴の異質さを感じ取れただろう」

 

「……はい」

 

いつも五月蝿い人だが、今日は静かだ。

そんなにもキヨンに睨まれたたことに恐怖したのだろうか…

 

「ですが、兵長となんだかんだ気が合いそうですよね」

 

ペトラさんがにこやかに言った。

 

「俺とあいつがか…?」

 

「はい、何となくですけど…オルオを睨んだときの雰囲気は兵長との対人訓練をしている時を彷彿とさせました。」

 

「ああ…私にもその雰囲気とやらが、ようやく分かったよ」

 

エルヴィン団長もそう感想を述べた。

オレがあの雰囲気のキヨンを見たのは、飲んだくれの駐屯兵団の人生を終わらしたときだったか…

 

「…そうか、だがエルヴィン…どうするんだ?」

 

「どうするとは?」

 

「奴の事だ…王政を打倒する手段を考えていないわけが無いだろう」

 

「ああ…それはそれで考えておく。

だが、今は目の前の事をやらないとな」

 

エルヴィン団長が今やるべき事を伝えると、皆は頷いた。少し間が空いたところで、ずっと黙っていた教官が口を開いた。

 

「グリシャはこう言っていた。

この先…絶望的な状況に陥ったとき、その状況を一変させることができるのは彼なのかも知れないと…」

 

「え?それはどう言う…」

 

「分からない…

彼は…特別なんだろう…だから、変えられるんだろう」

 

「まだ、そんなことを…」

 

ハンジさんが怒気を込めて言ったが、リヴァイ兵長に止められ、そこで解散となった。

 

 

▽▽▽

 

 

 

そして、一か月後……

 

オレ達訓練兵94名を含む調査兵団265名の大部隊がカラネス区に集まった。

 

「調査兵団団長!!まもなくです!!」

 

「付近の巨人はあらかた遠ざけた!!開門30秒前!!」

 

壁の上で駐屯兵団が合図をする。

 

「いよいよだ!!これより人類はまた1歩前進する!!お前達の訓練の成果を見せてくれ!!」

 

「「「「「「オオオオオオオオオ」」」」」」

 

エルヴィン団長の鼓舞で皆の士気が高まる。

 

「開門始め!!第57回壁外調査を開始する!前進せよ!!」

 

一斉に前進する。

ウォール・ローゼの壁を潜り、破壊され穴が開いた家の横を駆けていく。

200匹ほどの馬の足音により隣で叫んでいる兵士の声は聞こえない。

住宅街を抜け、壮大な草原に入っていく。

ここで、長距離索敵陣形を取るため兵士が次々と広がっていった。

先程まで狭かった視野が広くなり、肌を撫でる風が心地良い。

 

 

ようやくだ…

5年前壁が破壊されたあの日から、ようやく前進できる。

 

 

オレは一度死んで生まれ変わった。

しかし、根本的な考えは変わっていない。

 

最後にオレが勝ってさえいればそれでいい。

 

その気持ちは変わっていない。

だが、オレの勝利条件が変わり始めている。

オレは訓練兵時代までは、敵を全て葬り去れば良いと思っていた。その過程で、エレンやミカサが死んでしまっても仕方がないと思っていた。

勝つための代償は必要だからだ。

しかし、今は違うと感じている。こないだ感じた居心地の良さは失いたくないと思った。

そのためには、皆を失うわけにはいかない。

 

オレはまた、計算をやり直す。

 

頭の中で計算を繰り返す。

 

幾つもの策を考え計算を繰り返す。

 

 

繰り返す繰り返す。

 

何度も計算を繰り返す。

 

失わないために、前へ進むために…

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

操作された運命 壱

遅くなりました。

宜しくお願いします。


操作された者の独白 壱

 

『私はただ、羨ましかっただけなのだ。

エルヴィン団長のように皆を指揮する姿に…リヴァイ兵長のように巨人を倒す姿に…憧れた。

だから…頑張ったのだ…上を目指して頑張ったのだ。

しかし…私は臆病だった。

どれだけ勉学に励み知識をつけ、立体機動の練習も人より何倍もしたが…実践になれば、私の身体は思うように動かなかった…そして、兵団を逃げるように移った。

だが…そこでも私は上を目指してしまった。

その結果、臆病なのに人の上に立つ無能が出来上がってしまった…

隊長にまで上り詰めた私だったが、そこで止まらなければならなかったんだろう…更に上へなんて考えてはいけなかったんだ…

なぜなら、無能はいつだって言いように扱われ捨てられる運命にある。

せめて…私のこの臆病な性格を悟られないように努めていれば…

 

私は…私はまだ生きていられたのだろう…

 

あの化け物に悟られてしまった私は、その操作された運命を辿ることになるのだろう…

 

私は馬鹿ではない。

無能でも…ここまで成り上がったのだ。努力した。人との付き合いをごまの擦り方も学んだ。

色んな人を見てきた。

だから…分かる。

 

あいつだ…あのトロスト区襲撃時…エレン・イェーガーを追い詰めたとき…!1人だけ後ろでただ見ていた…その状況を楽しんでいた…あいつだ…!!

 

キヨン・ジェイルーン………』

 

 

 

望月まで10日となった頃…

調査兵団は今、エルヴィン団長の考案した長距離索敵陣形で巨大樹の森へ向けて移動していた。

 

 

オレの前方では、赤い煙弾が上がる。巨人がいた合図だ。オレはそれを確認した後、赤い煙弾を上に撃った。

暫くしてから、前方より左斜め前に緑の煙弾が上がった。進路変更をするための合図。馬を左斜め前へ向きを変える。巨人を見つけては避けてを繰り返し、壁外を進んで行く。

 

そうして、巨人と戦う事もなく巨大樹の森へ辿り着いた。

ここで、三班に分かれて移動する。

一つはオレやエレン、ミカサがいる班。この班は巨大樹の森の中を進み奥まで目指す。

オレ達の班は森の中に潜む巨人を見つけ次第、巨人を倒して進まなくてはならない。そのためここで少なくはない犠牲は出てしまう。

だが、この森の中にはかなりの巨人が潜んでおり、次の作戦のためにも今のうちに倒しておかなければならない。

そのため、この班は調査兵団の中でも精鋭で組まれている。

後の二班は巨大樹の森の両側から回り、これも奥の方でテント地を作る。

 

オレは巨人を見つけては倒しを繰り返して森の中を進んでいく。

そして、目的のポイントにまで来たところで、テントを一度降ろす。このテントは意外にも重かったため、降ろしたときの解放感が気持ちよく感じた。

 

オレは特に何もすることなくボーッとしていた。

この班にはエレンやミカサは居るが、一緒に居るわけではないため、話す相手が居ない。

ここの所、自然と周りに人が集まってきていたため、一人の時間が欲しい…なんて考えていたが、一人になったらなったで、意外にも物寂しく感じた。そんな感情がオレにとっては、少し可笑しく面白かった。

 

皆が建て終えるころには、日が沈みかけていた。そして、オレやエレン、ミカサの少数で更に奥へ進んでテントを張る。

張り終えて小休憩していると…

 

『パドォォオン!!』

 

突如、西の方から丸い雷が光った。

...この音は巨人になった音か…ライナーだろうな。

オレは作戦通りにリヴァイ兵長の下に向かった。

しかし、それだけでは無かった。

 

『パドォオン!!』

 

オレがリヴァイ兵長の下に移動していると、また雷の落ちる音が聞こえた。それもまた、西から。

...エレンはオレと同じ更に奥に進んだ位置にリヴァイ兵長と共にいる筈だ。

だから、エレンではない。

 

この森は80メートルの高さがある。

例えベルトルトが巨人になったとしても見えることはない。だが、ベルトルトが巨人化した時はかなりの爆風が起こると聞いているため、ベルトルトではないだろう。

なら…おそらくはユミルだな…ヒストリアに何かあったのか…

今回はリヴァイ班がヒストリアの護衛に就くと言うことで、安心していたが…やはり、ライナーの鎧の巨人には兵士では無理だったか…ユミルが巨人化するということは、ヒストリアが連れ去られたと言うことだろう…

これは…急いだ方がいいな。

 

そして、また直ぐに

 

『パッッドォォォォォオオオオン!!!!』

 

今回はオレの後ろ…南からだ。この突風はベルトルトだな。

……やはり...あいつらは過酷な訓練を受けたとはいえ、精神的にまだまだ未熟だな。

どうやら...そっちは上手くいったようだ。

オレは一先ずリヴァイ兵長の下まで来ていた。

 

「リヴァイ兵長、作戦通りベルトルトは任せてもいいですか?」

 

「ああ...あいつらの事は頼んだぞ」

 

あいつらと言うのはヒストリアの護衛に付いているリヴァイ班の事だ。

オレも本来はリヴァイ兵長達と共にベルトルトの相手をするつもりだったが、西で何かあったためそちらに移動することとなった。

 

「はい」

 

オレは西へ向かって移動を開始した。

リヴァイ班にユミルも居て、一応コニーも西に居たが、それでもヒストリアが奪われたのか…

ライナーのことを少し見誤っていたのかもしれない。

少し急ぐか…

 

 

 

▽▽▽

 

壁外調査2週間前。

 

オレ達新兵は壁外調査まで、訓練よりも作戦を頭に叩き込んでいた。

そして、今日も今日とて先輩兵士が教鞭を握り、でかい声で壁外での説明をしている。

今は巨大樹の森での事についてだ。

 

「今回の壁外調査で最も問題となるのは、鎧の巨人と超大型巨人だ。」

 

先輩がその二体の巨人の名前を出すと、オレの周りの奴等の顔つきが変わった。

まだ、こいつらには受け入れたく無い事実だろう。

 

「今回、巨大樹の森を目指すのも奴らが仕掛けてくる前提で作戦が組まれている。

鎧の巨人の対処も難しいが、問題なのは超大型巨人だ。

奴は出現するだけで、爆風を起こし一つの街を破壊してしまうほど厄介な存在だ。

それを対処するために真ん中のキャンプ地から、更に奥へ移動し離れた位置に第四の拠点を作る。」

 

「それでは、その三つの拠点のどれかが囮になるという事ですか⁉」

 

対ベルトルトの策を聞いて、マルコが先輩に質問をする。

 

「そうだ。

だが、そもそも一人一人がテントを張る間隔はかなり広い。

そして、超大型巨人…ベルトルト・フーバーを見つけ次第。一斉に全方位にバラバラになって、逃げろとの指示を受けている。

奴らは、日没間近にエレンを回収した後、逃げるつもりだ。

だから、奴らは時間をかなり気にしているはず…時間を稼いでいれば、エレンを探すために焦って巨人化するかも知れん...」

 

そう説明する先輩兵士だったが、ジャンが疑問に思ったのかオレに聞いてくる。

 

「本当にそんなんで、巨人になるか?俺ならもっと静かに近寄って奪うがな」

 

「そのために、真ん中に残る兵士はフードを深く被ることになるだろう。

静かに近付けるかは、ベルトルト次第だがそう簡単に近寄れるとは思えない。

なら、ベルトルトは巨人化して辺り一面を吹き飛ばしてしまえば、探しやすくはなる。

テントを張る高さも丁度ベルトルトが巨人化したくらいの高さだしな。」

 

「だがよ。エレンが死んでしまったら、元も子もねえだろ」

 

「それくらいでは死なないんだろう。

巨人化できる奴らのしぶとさは凄まじいからな。

特にエレンは巨人関係なく、ゴキブリ並みのしぶとぅう!」

 

オレが頬杖をつきながら、ジャンに説明しているとミカサに脇腹を殴られた。

そうだった。いつも隣にはヒストリアが居るせいで今日は、ミカサが横に居ることを忘れていた。

 

「キヨン」

 

「はい、すいません」

 

「ま…まぁそう言うことか。納得したぜ」

 

ジャンとの会話を終え前を向く。

まだ先輩の話は続いていた。

 

「と言う訳で…

巨人化させてしまえば、こちらのもんだ。

最も...犠牲がゼロと言うわけにはいかないだろう…だが、俺たちは兵士で責務を果たさなければならない。

死ぬ覚悟はもうできているのだろう?」

 

そう言われてしまえば首を縦にふることしかできない。

 

 

▽▽▽

 

 

まさか…ライナーが立体機動を持っていやがるとはな…誰かが、殺られたってのか…?

 

突如現れたライナーに立体機動で、間近くまで一瞬で迫まれ、巨人化しヒストリアを奪われた。

リヴァイ班が救助に向かうも兵士の刃は通らないため、ライナーは無視して逃げていった。

 

だがな…私も…ヒストリアを奪われることだけは許せねえんだよ。

それだけは駄目だ。

そう思うやいなや、巨人化しライナーに飛びついていた。

 

私が巨人化することにより周りにいた奴らも驚いて固まっている。

リヴァイ班も一度ライナーから離れ、木の上まで退いていた。

だが、一番驚いていたのはライナーだ。

こちらを見て、停止する。

まぁ…当然だろうな…この巨人は5年以上前にお前の仲間を食べたやつだからな…

ライナーは逃げるのを止めてこちらに向かってきた。

キヨンが言っていたのはこう言う所だろうな。戦士として訓練されたが、心はまだ未熟。感情を優先し任務に支障を出す。

 

ライナーの攻撃を躱して、顔を引っ掻く。

 

ちっ…兵士の刃が聞かないのはまだ分かる。

だが、私の爪も全然効かねぇとはな…まさか…ここまで硬いとは思わなかった。

アニから聞いてはいたが、想像以上だ。

なら、膝裏だ。

タイミングを計らい、躱して膝裏を引っ掻くと、ライナーは崩れた。

少し手が緩くなったのを見逃さず、手を抉じ開けヒストリアを救出することに成功した。

一度木の上にヒストリアを寝かせて、コニーの方を見ると怯えながらも近付いてきた。

コニーにヒストリアを任せて、私はライナーの方へ向き直り臨戦態勢を取る。

 

っ…!?速いっ…!?

 

全力でこっちに向かって走ってきた。

私の方がスピードはあったが…そのさっきまでのスピードの違いに思わず固まってしまった。そうか…ヒストリアを気にする必要が無いから全力を出せるのか…!

 

ゴフッ…

 

腹の底から出てきた。

ライナーのタックルをもろに喰らってしまい、気が付けば数十メートル吹き飛ばされていた。

そして、私を先に倒すべきだと判断したのか、またしても私に向かって突撃してくる。

余りのその威力に身体が動かねぇ…

そのままタックルをされ、地面に押さえつけられて何度も殴られた。

ヤバイな…朦朧としてきちまった。

 

「今だ!かかれ!」

 

「ああ!!」

 

ようやくリヴァイ班が動き出した。ったく…おっせぇよ…

それでも、やはり…兵士の刃では勝てない…

鎧の隙間を狙って切ろうにも、ライナーが動けば狙いはズレてしまう。

私もライナーの力に抵抗できねぇ。

 

「ぶぅっ…!」

 

「グンタぁぁああ!!」

 

ライナーが動きながら兵士が飛んでくるタイミングで、蚊を払うように腕を振ると、リヴァイ班の1人にもろに直撃してしまった。

リヴァイ班が一度退いた隙に何度も殴られ続け、抵抗する力はなくなり意識が遠くなっていく。

…ヒストリアが何か叫んでいる…さっきまで気絶してたのに…元気だな…

 

私の意識はそこで途絶えた。

 

 

▽▽▽

 

 

くそっ…!

オレがあの時…殺していれば!

ライナーが巨人になる前に刺せていれば何か変わっていたかもしれないのに…躊躇ってしまった。

ユミルまで倒された…

キヨンに言われていたのに…

 

あっ…!

うなじを食いちぎられている…ライナーの野郎…ユミルを食べやがった…!

 

「ユミル〜!!」

 

起きたクリスタが、ユミルを助けようと飛び出そうとするのをオレが止める。

 

「コニー!どうして止めるの!?」

 

「落ち着け!クリスタ!あれはオレ等では無理だ!ユミルはもう食われちまったんだ!」

 

「そんなのまだ分からないよ!絶対口の中にいる!」

 

その時、ライナーの目に刃が突き刺さった。

リヴァイ班の皆だ。

…そうだ、1人欠けたってまだリヴァイ班はいる。

オレも一緒に戦えば…!

 

「おい!坊主…!お前は下がってろ!連携を取ったことのない奴ならまだいない方がマシだ!」

 

「よくも…!グンタを!」

 

リヴァイ班の3人で一斉に斬りかかる。

筋肉が見えている部分を削いでいくも…致命傷は与えられていない…しかも、削いでもすぐに修復してやがる。

ライナーが1人めがけて突進して、一人の兵士を木ではさみ潰した。

 

一瞬だった。

 

殺したと同時に一気にこちらに向かって走ってくる。

 

「クリスタ!!逃げろ!」

 

「っ…!」

 

 また奪われてしまった…

オレがクリスタを抱えて逃げようと動こうとしたが、間に合わなかった。

ライナーは森の外へ向かって走っていく。

逃がすものかと、オレは追いかける。

だが、そんなオレを一気に追い越して、茶髪の女の先輩がライナーに斬りかかった。

だけど、やっぱり兵士では駄目か!

ライナーに簡単に手で払われ、態勢を崩した所へライナーが女先輩を蹴る。

 

…?空を切った!?

 

「キヨン!!」

 

思わず声が出ていた。

キョンに気付いたライナーは慌てて逃げ出すが、キヨンがそれを許すはずもない。

 

▽▽▽

 

「大丈夫ですか?」

 

オレはかなり飛ばして立体機動でここまで来たため、ガスの余力はあまりない。

一先ず救出したペトラさんの無事を確認する。

 

「あ…う、うん。ありがとう」

 

「木の上に避難していてください。」

 

ゼロからMAXへ。

離れていくライナーだが…一瞬で追いつく。

走っている最中で、タイミングを合わせづらいが、構わず飛び込む。

先ずは膝裏を削ぐ。

態勢が崩れたライナーだが、右腕を庇うようにコケた。なるほど、右腕にクリスタがいるのか。

右腕の前腕筋群の見えている部分を切り刻んでいくと、手が緩みヒストリアがこぼれ落ちた。

オレは、ヒストリアが地面に落ちる前に助け木の上に着地した。

 

「っ…ん…?キヨン…?」

 

「遅くなって悪かったな。」

 

「キヨン!ユミルが!ライナーの口の中いるの!」

 

不味いな…

何とか、ガスが持ってくれれば良いが。

 

「…分かった。コニーと共に下がっていてくれ、ユミルを奪い返したらやることは分かっているな?」

 

「うん!お願い…!」

 

オレはもう一度ライナーへ目掛けて飛ぶ。

目も足も修復されてるか…

なら、また何度も斬れば良い。

修復すればするほどオレに斬られる回数が多くなるだけだ。

 

巨人のように大きくなることは決して利点ばかりではない。的が大きくなるため、オレにとっては寧ろやりやすい。人体の構造を理解していれば、割と簡単に倒すこともできる。

 

だが…ライナーのような急所に刃が通らなければ倒すことは不可能だ。

 

立ち上がろうとする脚を斬り、目に刃を突き刺す。一度目玉の上と瞼の隙間に刃を通しグリグリしたが特に変化はなかった。実験失敗か…

 

膝裏を削がれ、立っていられなくなったライナーは、座ったまま右腕で殴ってきた。

振りかざしてくる右腕を避けながら、見えている筋肉の部分を削いでいく。そして、脇の部分を削いでいき、抵抗する力がなくなったところで、最後に口の筋肉を削ぐ。

すると、口が開きユミルが出てきた。

 

うわっ…汚…くさ…

 

だが…そんなことを考えてる余裕はないため抱えて逃げる。

もうガスが尽きたか…だが、何とか間に合った。

ヒストリアにガスを交換してもらい、オレがヒストリアを担ぐ。ユミルはコニーに担いでもらった。

決して臭いからではない…そう。汚いからではないのだ。

 

オレたちは全員でこの場を離れる。

ライナーは後ろからしつこく追いかけてくる。

ライナーの方がエレンよりもゴキブリみたいだな。

 

作戦通り、オレは上に緑の煙弾を打った。

すると、超大型がいる方向から巨人化する時の音が聞こえてきた。更に巨人化したやつの声も。

 

『パッドォォオン!!』

 

「ウォオオオオオオ」

 

ライナーはそれに気付いたのか分からないが構わず付いてくる。

余程焦っているのだろうな。

 

この状態を保ちながら移動をし続けること2分。

オレたちは一斉に所持している全ての信煙弾をライナーの目辺りを目掛けて撃った。

ライナーは突然の出来事に停止する。

オレ達は一斉にこの場を離れ、全力で自分が生きる為に立体機動で逃げる。

 

何から逃げているのか…それは…

上から倒れてくる超大型巨人からだ。

そして、煙で周りが見えないライナーは超大型巨人の下敷きとなった。

 

その瞬間、周囲には激しい突風が吹き荒れた。

遠くまで逃げた筈だが、それでもここまで突風が押し寄せてきた。

その時、意識を取り戻したユミルがもう一度巨人なり、オレたちをその突風から守ってくれた。

 

 

▽▽▽

 

 

「緑の煙弾を確認!」

 

作戦が成功した合図。

流石はリヴァイ班だ!リヴァイ兵長がいなくても強い!

いや…もしかしたらキヨンのお陰か…

しっかし…良く考えてるもんだな…と、オレは感心していた。

この策を考えたのはキヨンとエルヴィン団長によるものらしい。

この信煙弾だって、森の中で上に撃っても離れたところからでは見えない。だが、超大型が出現した衝撃で辺の木は吹っ飛んだ。その結果、上空を確認することが出来るようになり、離れた場所の信煙弾を確認することができた。

それを、事前に考えつくのも凄いな…

 

オレはそんな事を考えながら巨人化する。

オレが巨人化したことにより、ベルトルトはオレの方に向かってきた。

オレは木から木へと跳んで移りベルトルトから逃げる。

だが、ベルトルトの一歩がでかいため直ぐに追いつかれた。

 

だが…それが作戦だがなぁ!

 

オレは巨人から抜け出し、立体機動に移る。

そして、ベルトルトの後ろに移動する。

当然ベルトルトはオレの方を向き、腕を伸ばしてオレを捕まえようとしてくる。

 

その瞬間、地面で待ち構えていたリヴァイ兵長達が動き出す。

 

「やるぞ!」

 

「「「「了解」」」」

 

ミカサとリヴァイ兵長、ミケ分隊長達精鋭中の精鋭で超大型巨人の脚を削ぐと狙った方向へ背中から倒れていった。

 

キヨンが言うにはここでは捕らえる、若しくは倒す必要はまだないと言っていたが、オレはここで捕らえておきたい。

あいつらとちゃんと話がしたい。

 

 

▽▽▽

 

 

オレの隣にはいつの間にか東の班の奴らも応援に来ていた。とは言っても、ジャンやサシャだけだったが…

爆風により辺は砂埃で見えなかった場所が晴れていく。

 

「まじかよ…」

 

「元気ピンピンじゃねぇか!!」

 

「流石に…これで倒れないとは厄介だな…」

 

「どうするんだ?キヨン」

 

「お前らはここにいろ。戦闘になることはない」

 

オレはライナーの近くまで移動する。

ライナーは巨人からでて来て、ベルトルトを引っ張り出すのに必死になっていた。

やはり、巨人になれる人間でもあの高さから後頭部に衝撃を与えれば行動不能になるんだな。

 

そんなライナーにオレは話しかける。

 

「なあライナー…始祖ってなんだ?壁の中にあと何体の巨人がいるんだ??」

 

「ああ!?何言ってやがる!アニにもう聞いてんだろうが!!」

 

ライナーは怒りを露わにしながら叫ぶ。

 

「残念ながら、アニはそう言った事を教えてくれないんだ…アニはオレ達と戦いたくないと言うだけで、裏切った訳では無いようだ。お前が教えてくれたらアニを返してやっても良い。」

 

「それをオレらが信じるとでも!?」

 

「これは事実だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「俺等にはもう関係ないことだ。

アニは裏切ったんだ。

だが…お前たちに教えてないことを知れて良かったよ。」

 

「そうか…なら、巨人になった奴を殺す方法くらい教えてくれ。できればそれを移す方法をな。情報を吐かない敵など邪魔でしかないだろう?」

 

「っ……」

 

やはり、甘いな…まだ、アニの事を諦めていないんだろう。

 

「それも駄目なのか?」

 

「てめえ!?お前らと戦いたくないためにアニは俺達を裏切ったんだぞ!?人の心ってもんがねぇのか!?」

 

「敵であることには変わらないだろう。

オレは生憎と簡単に人を信用できる人間ではない。

情報をくれるのなら、すぐにアニを殺しておくぞ?お前らも裏切り者は邪魔だろうからな」

 

「テメェ…!この悪魔がぁ…!」

 

「お前らに何と思われようがどうでもいいな。

アニは本当に要らないんだな…?」

 

「っ…!」

 

ライナーはそれ以上何かを言ってくることはなく、気絶しているベルトルトを巨人から出して、逃げていった。

後2つ3つ目の策に移行しないと行けないかと思っていたが、案外すんなり行ったな…

 

今はあいつらを寝返らせることはオレには出来ないし、捕らえて閉じ込めておく場所など無いからな。

かと言って、マーレに帰られるのは最も困る。

これなら、アニを奪い返そうとここに残るだろう。

これが今できる最大限だ。

 

これで…今回の壁外調査での戦闘は終わりだな。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

操作された運命 弐

宜しくです


 

操作された者の独白 弐

 

『俺達はどうすれば良いんだ。

キヨン…お前は本当に最初から気に入らねぇ奴だった。 

あいつだけは信用しては駄目だった。

…………

……

…疲れたな…

……

…………

一体…いつから休みがねぇんだ…?

…………

くそっ…思い出したくねえ事を思い出しちまった。

ダズは……何て言ってたか…確か…

人類の敵が!

だったか…?

何言ってやがんだよ…ほんっとにどいつもこいつも適当なことを言いやがって…

俺達がどれだけ働いたと思っているんだ…?

なぁ…ベルトルト…お前は気絶するまで戦ったってのに…誰も褒めてくれねぇじゃねぇか。 

そう言えば…クリスタは無事なのか?

巨人の手の中にすっぽり収まってしまっていたじゃねぇか…

苦しそうで可愛そうだった…

本当にいい奴で可愛いんだよな。

お漏らししちまってクリスタに見られたときは死んでしまおうかと思ったが、クリスタはその後も普通に話しかけてくれた。

ありゃあ絶対気があるよな…

わりぃなキヨン…クリスタは俺の方が良い見てぇだ。

………

………………

………あれ…この立体機動装置は…あぁ!はっ…ぁあ!はぁっ………

 

そうだった…俺がダズを…

もう引き返せねえんだ。

俺は戦士として責務を果たすだけだ。

だが…どうすれば良い…

そうだ、アニはまだ裏切って無かったんだったか…?

いや…あれはキヨンが言ったことだ。

後ろにいた皆はキヨンの発言に驚いていた…やはりキヨンが適当に言ってただけか…?

いや…あいつはトロスト区襲撃を皆に話していなかった。

分からねぇ…

もう望月には間に合わん。

なら…少しでも情報を集めて、アニも奪い返す。

ベルトルトのためにも…なぁ』

 

 

 

 

 

 

ライナーが逃げていったのを確認し、オレはコニーやジャンの下に戻ると皆が詰め寄ってきた。

 

「キ…キヨン…お前アニを殺すつもりだったのか…!?」

 

ん…?まさかこいつらまで信じてたのか…?

コニーやサシャは分かるがジャン…お前まで…

ヒストリアは分かっているようで安心した。

 

「そんな訳がないだろう。」

 

「い、いいやお前のことだがら分からねぇぜ」

 

だが、ジャンは信じてくれない。

一体…オレのどこに信じられない要素があるのか…

 

「はぁ。あのな、アニにはもう全ての情報を貰っている。だがら、ライナーやベルトルトの弱点を知っているし、敵国の事も知っているんだ。」

 

「お…そ、そうか…良かったぜ!さすがキヨポンだな!」

 

「ええ、ええ!流石は私のキヨポンです!」

 

オレがそう説明すると納得したのか、二人はいつも通りになった。

サシャ…後ろにヒストリアが居ることを分かっているのか…?

 

「あっ…げっ…ヒィィィ」

 

今気づいたのか…それでまたオレの後ろに隠れるな…

 

「だが…何であんなこと言ったんだ?」

 

「ああ…あれはライナー達に敵国に帰られるよりは、アニを取り返そうとしてくれる方が良いだろう。

お前らとしてもまた話せる機会があった方が良いだろうしな。」

 

「さっすが!キヨポンです〜私達の事も考えてくれてるなんて!!」

 

「 やっぱりお前は良いやつだな!」

 

この馬鹿二人は楽で良いな。

ここにミカサやアルミンが居なくて良かった。

ジャンは訝しげに見てきたが何かを言って来ることはなかった。

ユミルはまた力尽きて倒れてしまった為、ヒストリアに任せて、オレとリヴァイ班の人達でエルヴィン団長の下へ向かった。

 

そこには、リヴァイ兵長とハンジさん達が集まっており会議が開かれていた。あと、ミカサも何食わぬ顔をしてエレンの横に居た。

普通の人なら躊躇するような場所へオレは構わず入って行く。

 

「どうだった…?」  

 

オレが入っていくと真っ先に気付いたリヴァイ兵長がそう聞いてきた。

 

「すみません。逃がしてしまいました。」

 

「そうか…だが、マーレに帰ることは防げたんだろう?」

 

「それは大丈夫かと…

それと…すいません。リヴァイ班の2人が…」

 

「誰だ…?」

 

オレがそこまで言うと、察したのかそう聞いてくる。俺の後ろには2人のリヴァイ班がいて俯いている。それを見て理解したのかリヴァイ兵長は二人にこう言う。

 

「………ペトラ、オルオ…切り替えろよ。」

 

「…はい」

 

「すいません…」

 

それでも流石と言うべきか、仲間の死を目の当たりにしてもリヴァイ兵長にそう言われただけで、もう立ち直っているように見える。

余程リヴァイ兵長を頼りにし尊敬しているのか…それとも、仲間の死を見るのは至極当然のことなのか…まぁ両方だろうな…  

 

日が完全に沈み、巨人の活動も無いので壁外でもそこまで緊張感はない。

現在、オレはリヴァイ兵長達と共にいる。まだ会議が続いたからだ。その会議が今ようやく終わり、エルヴィン団長とハンジさんがユミルの下へ向かった。そろそろユミルも起きる頃か…オレも後で向かわないとな…

 

ライナー達は近場にいるかもしれないが、まだ行動不能なベルトルトがいるため今は仕掛けてこないだろう。そして、偽の情報で混乱もさせた。

 

「た…助かった。ありがとな…」

 

オルオが不承不承ながらもお礼を言ってきた。

余程オレはこの人に嫌われているらしい。

 

「キヨンって呼ばせてもらうね!助けてくれてありがとう!後少しでも遅れていたら私は死んでたよ。」

 

対して、このペトラと言う人は距離が近いな…

凄く感謝されているのが分かる。

 

「いえ…結局二人は死なせてしまいましたし、オレは兵士としての責務を果たしただけですので、お礼は結構ですよ」

 

「 あははは…聞いていた通りの人なんだね!」

 

「…?」

 

「あぁ…ごめんね。

キヨンのことはこっちでも結構話が上がっていてね…エレンからよくキヨンのことを教えてもらってたの」

 

「そうなんてすか…」

 

「ああ…キヨン、オレに感謝しろよ!

オレがキヨンを褒め称えておいたおかげで、お前は危険人物から有能人物へ成り代わったんだからな!」

 

エレンが急に立ち上がって息を粗くしながら言ってきた。

 

「そんなに褒めてたっけ?」

 

ペトラさんが可愛く首を傾けながら言う。

やはり嘘か。

 

「ほ、褒めてましたよ!」

 

「すぐバレる嘘は自分の身を滅ぼすぞ」

 

「それはキヨンもよ」

 

ミカサにジトッとした目で睨まれた。

ミカサはエレンに甘いくせにオレには厳しい。

家族のはずなんだが…

 

「エレンと一緒に居られるようにオレが進言してきたから、今お前はエレンと一緒に居られるんじゃないのか?」

 

「……」

 

そっぽ向かれた。都合が悪くなるとすぐこれだ…

 

「それよりもキヨン…お前、ペトラさんにまで手を出すなよ…?」

 

「手を…?どういう事だ?」

 

「お前な…いつもキヨンは女を引っ掛け回しているだろう。」

 

心外だな…

 

「そんな事は一度もしていない」

 

「へぇ~そうなんだ、キヨン…」

 

さっきまで、にこやかにしていたペトラさんが急に真顔になり、そのさっきまでとは異なる雰囲気に思わず怖いと思ってしまった。

 

「い、いえ…ですから、していないと…」

 

「敵が多そうね」

 

アカン…

全く聞く耳を持ってくれない。

一切こちらの話は受け付けてくれないようだ。

そして、ペトラさんは不気味な笑みを浮かべていた。

 

「ペトラさん…」

 

おい…何故…エレンがそんな顔する…

分からんぞ…だが…分かることはある。

オレは密かに立ち上がり逃げる準備をする。

 

「エッエレン…?ど、どうしたの…?はっ…!ぐっぬぬ」

 

ミカサが反応した。何故オレを見る…

オレは危険を感じ、この場を離れることにした。

 

「キヨン!!」

 

ミカサが叫んでいるのを無視して外に出る。

ペトラさんの下を逃げるように離れたあと、ユミルの下へ移動する。

真っ暗で立体機動で移動するのはかなり危険だったが、木々の隙間から漏れる月明かりと松明を頼りに移動する。

 

ユミルのテントに行くとハンジさんとエルヴィン団長がまだユミルの側にいた。

ユミルはまだ寝ており、その傍らでヒストリアが座ってユミルが起きるのを待っていた。

 

「キヨン!!」

 

オレに気付いたヒストリアがライナーのタックルのように抱き着いてきた。

2回も巨人の手に掴まり、自分のために何人もの仲間が死んでいったから色々と不安だったんだろう…

だが…エルヴィン団長達が見ているところでは控えてほしい所だ。

 

「悪い…遅くなったな」

 

「ううん…助けてくれてありがとう。ユミルのことも」

 

ヒストリアはオレにお礼を言ったあと、抱きついたまま顔をグリグリとオレの胸に押し付けてきた。

そこで、見ていられなくなったハンジさんが口を開く。

 

「あぁ〜…そのぉ〜ここではぁ〜…おっぱじめないでくれよ…な!」

 

「分隊長!!貴女じゃないんですから!」

 

流石はモーブリットさん…生きていてくれてありがとうございます。

 

「ユミルの事は調査兵団でも一部の者しか知らない。隠し通すことは可能だろう。」

 

エルヴィン団長がそう言う。

有り難い事に他の団には隠してくれるみたいた。

 

「そうして頂けるとありがたいです。」

 

「今日のところはもう良い。起きたら明日私の下へ来るように伝えてくれ」

 

「はい」

 

と、エルヴィン団長が立ち上がり出ていく。

 

「くれぐれも…ここでは…「分隊長!!」…そ、そうか」

 

続いて2人が出ていってくれた。

さっきから黙ってオレにしがみついているヒストリアに声を掛ける。

 

「大丈夫か?」

 

「うん…もう駄目かと思った。」

 

「ユミルが守ってくれたんだってな」

 

やはり、怖かったのだろう。

ヒストリアは震えていた。その震えはオレの身体に伝わってくる。

 

「うん…でもユミルだけじゃない…色んな人が守ってくれた。でも…そのせいで何人も死んだ…

ユミルもこんな事に…

何でなの…?

私はただ生まれてきただけなのに…

何も知らないのに…」

 

オレを抱きしめる力が更に強くなる。 

オレもヒストリアを安心させる為に少し強めに抱きしめる。

 

「ヒストリアが何者なのかはオレも知らない。

だがな…オレにはそんなことはどうでも良い事だ。

それに言っただろう…お前の家のことはオレが何とかする。

だから、お前はそんな事は考えなくていい。

お前はただ…」

 

「いつものように居ろって言うの!?

やだよ!

守られてばっかは嫌だ…!

キヨン…私はそんなに頼りない人…??

私だってできるんだよ…私を皆みたいに使っても良いんだよ…?」

 

悪いが既に十分使わせてもらっている。

そして、これからも…

 

「そうか…だがな、オレとしてはお前が死なれるのが一番困る」

 

「??どうして…」

 

「さぁな…だがまぁ…お前がそう思うなら今後は行動してもらうとする。」

 

「うん!!」

 

オレがそう言うと、ヒストリアは今日一の笑顔で頷いた。

と、ここでユミルが起きた。

 

「.…お前ら…うるせぇよ。人が寝てる傍でいちゃつくんじゃねぇよ」

 

「あ!ユミル!」

 

「…ここは…私のテントか…」

 

「覚えてる?ライナーと戦ったことを…」

 

「…ああ、確か負けたはずだったが…そうか…キヨンが助けてくれたのか…

悪いな…結局お前に頼ってしまった…」

 

「構わない。それより調子はどうだ?」

 

「最悪だな…ホントに…さいっあくだ」

 

「そうか…だが、もう仕掛けてくることはない。

今日はゆっくり休めばいいさ。」

 

ヒストリアとユミルの無事も確認できたので自分のテントに帰ろうと立ち上がったのだが…

ユミルに腕を掴まれた。

どう見てもこの握る力は、憔悴しているやつのそれではない。  

 

「何だ…もう行っちまうのか?

こっちは、さっき死にかけたか弱い少女だぞ…?

お前には人の心ってもんがねぇのか?」

 

「…分かった」

 

何だか…物凄く責められてしまった。

どこに居ても今日は女が怖い日だな…

ここはもう大人しく従っておくしかないようだ…

せっかく…ゆっくりと休めると思っていたんだが…残念だ…

 

ヒストリアはオレに身体を預けてきたので、ヒストリアを左手で抱き、右手でユミルの左手を握る。

二人とも安心したのか、すぐに寝てしまった。

空を見ようにも木々に囲まれたこの場所では見ることもできず、寝ようにもこんな態勢で寝ることのできないオレは長い長い夜を過ごすことになってしまった。

 

 

 

 

翌日

 

 

 

 

 

急ピッチで樹の上に小屋が建てられていく。

調査兵団は壁外へ遠征に行くこともあり、こういった戦闘に関係ないこともできる。

 

荷物(テント等)を置いておく小屋。

食料を保管しておく小屋などを建てていく。

オレがするべきことは、建てている兵士に近付こうとする巨人を排除する役目だ。

巨人を倒し木を飛び回っていると…

 

「うそだろ…」

 

オレはある人物を見て驚愕して固まってしまった。

リヴァイ兵長が巨人を倒さず、小屋を建てていたのだ。しかも、信じられないほどの速度で…

 

役不足なんじゃないだろうか…?

 

リヴァイ兵長と言う男は巨人を倒す為に存在するような男だ。

それを眼の前に迫りくる巨人をガン無視し小屋を建てていた。

確かに、綺麗好きで手先が器用とは聞いていたが…

 

お前は巨人を倒せよ…

 

と心のなかで突っ込んでしまった。

だが、リヴァイ兵長の働きにより工期よりも早く建てることができたみたいだ。

その結果予定では10日間になる筈だったが、七日目にして帰ることになった。

 

20人ほどがここに残り、1ヶ月近く過ごすことになるらしい。

巨人をかなり倒したし、60メートル程の高さに小屋を建てた為安全ではあるが、既に木登りを学び始めている巨人も何体か確認されている。

危険ではあったが、ここにライナーやベルトルトが住み着かないようにするためにも必要な事らしい。

そんな訳で、265名でここまできた調査兵団だったが、帰りは200名前後の人数になった。

犠牲は40名程と壁外調査にしては少ない方だった。新兵からは20名程の犠牲が出た。

だが…よくベルトルトの爆風からこれだけ生き延びたものだ。

ここで、これだけの犠牲で済んだことは後ほど活きてくる。

 

 

▽▽▽

 

 

「今回僕は、全く出番無かったんだけど…」

 

「あぁ?良い事じゃねぇか!」

 

僕達、東の半は主に新兵で固められていた。

僕はその班の指揮役であったが、特に何もすることは無かった。

クリスタを西へ配置し、最も狙われるエレンを中央に配置した。エレンだけ狙われれば、なお楽だったんだけど…やっぱりクリスタも狙われたみたいだ。

理由はキヨンがクリスタの家が関係しているとか言っていたけど…それはキヨンも良く分かっていないらしい。

いや…絶対知ってるよね…?

そのクリスタが狙われたため、東から数人の応援を出したけど、何もすることなく帰ってきた。

 

「そうですよ!

私達が全員出動となれば最悪の事態何ですから!

それに、今回はもう作戦成功でしょう!帰ったらお肉が待ってるかもぉぉぉおおお!!!ウヒョーー!」

 

「サシャ…ウォール・マリアを奪還しなければ、そもそも肉が無いよ。

食べられるのは、お偉い人か憲兵団くらいだよ」

 

浮かれてハシャギ出すサシャに現実を突きつける。

 

「まじかよぉぉ…」

 

一気にテンションが急降下し膝から崩ちてしまったサシャを見ながら僕は考える。

そうだ…ウォール・マリアを奪還しなければ何の意味もない。今回の作戦もウォール・マリアを奪還するための準備だ。

そして、キヨンは言った。

王政を打倒するまでウォール・マリアは奪還しないと…あのキヨンが王政打倒の策を考えて居ない筈がない…

本当に帰ってから考えるのだろうか…

いや…もしかしてもう…

 

 

▽▽▽

 

 

巨人になってしまい皆にバレてしまったユミルは自分の人生を話した。

オレたちよりも長く生きているユミルだが…オレと同じまだまだ何も知らない少女何だと感じた。

ユミルの処遇は殆どエレンと同様だった。

だが、壁の中では憲兵にバレないように努めなければならないため一般的な兵士として扱われることになった。

 

その後、調査兵団は帰路につく。

行きと同じようにして、長距離索敵陣形を展開して馬を走らせる。

そして、壁に近づくにつれて兵士が真ん中に向かって行く。

 

「よう!キヨン何か久しぶりじゃねぇか!」

 

ジャンか…6日振りか…ライナー達と戦闘があって以来会っていなかった。

 

「まだ、壁にはついてないぞ…」

 

「かってぇ事を…おっ…皆も生きていたようだな」

 

ジャンは遠くからこちらに向かってくる皆を見て一安心したようだ。

 

「そうみたいだな…だが、今回は樹の上によじ登ってきた巨人を倒すだけだったろ?」

 

殆ど的だった巨人のうなじを削ぐ作業だった。

 

「それでもビビるもんはビビるんだよ。

実際、トロスト区で何体か倒したことのあるオレやサシャでもビビっちまったからな」

 

「そう言うものなのか…?」

 

「当たりメェだろ。ったく…それに新兵には初めて倒す奴だっていんだ。

と言うか…初戦でビビらねぇお前らが異常なんだよ。エレンと言いミカサと言いなぁ。

お前もあいつらと同じ育ちなんだろ?

何か特訓とかしてたのか?」

 

「いや?特に何もしてなかったぞ…そういうのは覚悟なんじゃないか?

オレたちはウォール・マリアを破壊された現場に居たからな…」

 

「それだけとは思えねぇけどな」

 

まぁ実際アルミンは怯えてたしな…

ジャンはそれだけでは信じられないらしい。

丁度いいか…

 

「……オレは…オレが勝っているなら人類が滅亡しようとどうでもいい」

 

「は…?」

 

オレが本音で語ると理解できないと言った声を漏らした。

 

「お、お前…何言ってんだ…?」

 

「それがオレの本心だ。

オレは自由を得るためなら何だってする。

それと、オレが守りたいと思ったものを守ることができればオレはそれで良い。

その為なら人類が滅んでも構わない。

だが…今回は人類が味方である必要があるから人類のために心臓を捧げているだけだ。

エレンも大体同じだ。自由を得るためなら何だってする。

何かを捨てても自分にとって大切なことを理解しているかで大きく変わってくるのかもな」

 

「はっ…まぁ理解はできたが…それは普通じゃねぇだろ。オレにはそんな考えは一生できねぇよ」

 

普通か…それはそうだろうな。

だが…オレはその普通と言うカテゴライズには含まれない。

 

「ああ…その方が良い。

お前はオレのようにはなるな」

 

ジャンは最も人間らしく皆を引っ張って行って貰わないといけないしな。

 

「何でだよ?」

 

「…さぁな。そろそろ着くぞ。」

 

「おい…何でだよ。

少しは教えといてくれねぇとな…人類滅亡してもどうでもいいとか言う奴と一緒にいると恐怖しちまうんだがなぁ?」

 

「はぁ。安心しろ。

オレが守りたいと思っているのはお前達同期だ。

人類を滅ぼしてでもお前らは守る。」

 

「うぉぉおぅおうおおおまっお前良くそんな恥ずかしい事を真顔で言えるな!

こっちが恥ずかしくなるわ!」

 

急に顔がトマトになったジャン。

驚きすぎて馬からも落ちそうになっていた。

 

「そうか…悪い。

どう言えば良いのかはオレも良く分からないんだ。」

 

「何だ…お前…いきなり人間らしさを出してきやがって…

って、まぁたお前のペースに載せられる所だったぜ。

お前のようにはなりてぇとは端から思ってねぇよ。俺はただ…ミカサやお前のように冷静に戦えるようになりたかっただけだ。まっ…聞いてみりゃ俺には不可能な事だったが…

あの死に急ぎ野郎見てぇに突撃するよりかは、ビビって死なねぇようにする方がマシだな…」

 

「そうだな。その通りだと思うぞ。」

 

「お~い!キヨン!ジャン!」

 

ヒストリアが笑顔で手を振りながら近付いて来た。後ろからも兵士が三列になるように集まり並んで馬を走らせていく。

 

「クリスタも無事だったか!おっ…!ミカサもいるじゃねぇか」

 

「どうも…」

 

「お…おい…どうしたんだよ…すげぇ隈ができてんぞ?」

 

「キヨン…後で話がある」

 

「お前…また何かやらかしたのか?」

 

「いや…今回は本当にオレの責任ではない。

ミカサ…それはもう片付いたことだろう」

 

ミカサはどうやらまだ立ち直れていないみたいだ。どうせ勘違いだろうに…しかもそれをオレの責任にしやがって…

その調子で良く無事に任務を果たしたな…

 

「まぁまぁミカサも生きて帰ってきたことを喜ぼうよ。

作戦成功だよ?

人類がまた一歩前進したんだよ!

これは快挙なんだからさ!」

 

ヒストリアがミカサを励ます。

 

「……そうね…でもキヨン…先輩にまで手を出したら駄目」

 

こいつ…

何故今それを言う…

ヤバイ…ヒストリアの顔が一瞬にして暗くなった。そして、後ろを向いていたヒストリアだったが、ゆっっっくりとオレの方を見る。

 

「クリスタ…喜ぶんだろう?無事に帰ってこれたことに」

 

「キヨンはここから無事に帰れるつもりでいるの?」

 

いや…ヒストリアが言ったんだよ…

当たり前だろ…後一分もしない内に壁に着く。

周りにはもう巨人の姿は一切見当たらない。

逆にどうして帰れなくなるのか分からないな。

 

「クリスタがそう言ったんだろ?」

 

「それはさっきまでの話だよ。

まだ少しあるから」

 

本当に何が起きると言うのだ…

 

「クリスタ…本当に何もしていない。

クリスタを護衛してくれてた人がいただろ?その人をオレが助けたんだ。それでお礼を言われただけなんだ。

それをミカサが勘違いしただけだ。」

 

「ふーん…そう…まぁ今はそれで満足する。」

 

口先を尖らせて言った。

不満はあるようだが、納得してくれたみたいだ。

 

 

 

着いたか…

 

 

『カンカンカン』

 

鐘のなる音が聞こえ門が開く。

調査兵団は続々と壁の中へ入って行く。

最後尾が入った所で、門が閉まる。

………

カラネス区の中は静かだった。

 

いつもなら出迎えに来る住民が殆ど居ない。

 

老人や子供だけだった。

 

その異様な光景に調査兵団の皆がざわつき始めた。

 

すると、駐屯兵団の女兵士が駆け寄ってきた。

 

「調査兵団団長!!エルヴィン・スミスへ報告します!!

 

ウォール・シーナが………!!!

 

突破されました!!」

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

操作された運命 参

宜しくです。

ちょっと…就活行ってきます!


「ウォール・シーナが突破されました!!」

 

その報告に調査兵団の全員が驚愕し、怪訝な面持ちをしていた。  

それも当然だ。

ウォール・ローゼではなくシーナだ。

当然驚くだろう。

 

「……言いたい事があるなら聞くぞ?」

 

後ろからの視線が痛かった。

主にミカサだが…

 

「キヨンがしたことなの…?」

 

ミカサがそう聞いてくる。

 

「そうだ」

 

「なっ…!また…何で言わないの!」

 

そう聞いた途端、更に機嫌が悪くなった。

 

「何故話さなければならい」

 

「キヨンは前に[これからは話すようにする]って言ったでしょ?」

 

「だから何だ?

話すとは言ったが、今回はミカサ達に何かをしてもらうつもりはなかった。

今回のことは、オレが原因を作ったが、オレも特に何かをした訳では無い。

そんな事をいちいち話す必要はないだろう」

 

「……」

 

かなり不貞腐れてるな…

隈が酷い為いつもよりも顔が怖い。

…良い感じに精神的にきてるな。

 

 

前から兵士を掻き分けてリヴァイ兵長とハンジさんがオレの方に近づいて来た。

 

「おい…どうせお前の仕業だろ…来い」

 

女の兵士に事情を聞いたのだろう。

巨人が扉を破壊したのではなく、住民による王政への反乱だと知り、オレが関係していると思い行ったのだろう。

周りから見られる中、先頭まで歩いていく。

ジャンやヒストリアも付いてきた。ミカサは当然のように。

先頭に行くと、エルヴィン団長やエレン、何故かアルミンも居た。 

そして、エルヴィン団長がオレに問いかける。

 

「先ず聞いておきたい事は…これは巨人が入ってきたのか…?」

 

その事は、さっきの女兵士に聞いただろうに…

 

「違います。住民でしょう」

 

「そうか」

 

オレから確認を取ったエルヴィン団長は、今回の件は巨人によるものではないことを調査兵団全兵に知らせ、一時帰宅を命じた。

オレたちが居るのは、東に位置するカラネス区。

破壊された門とは距離があり、馬で走ったとしても、もうすぐ日が暮れるため今から向かうのは不可能だった。

 

「一先ずは…これに乗って宿に向う。

乗ってから話そう」

 

エルヴィン団長が馬車…と言っても屋根が無い荷台のような物だったが…それに乗り、そこにオレも乗るように指示した。

オレが乗るとリヴァイ兵長とハンジさんが続いて乗り馬を出した。

その周りを皆が付いてくる。

何を聞かれるかはもう分かっていたのでこちらから話し始める。

 

「最初に言っておきます。

オレもどうなっているのかは分かりません。」

 

「は…?お前がやったことじゃねぇのか?」

 

真っ先にリヴァイ兵長が聞いてくる。

 

「確かに原因はオレです。」

 

オレがそう答えると、今度はエルヴィン団長が聞いてくる。

 

「なら…君は今回何をしたんだ?」

 

「オレがしたことは2通の手紙を書いただけです。」

 

皆の頭の上に?マークが浮かび上がる。無理もない。それだけでは分からないだろう。

 

「手紙…?」

 

「はい。

一つは中央第一憲兵に、もう一つは駐屯兵団のキッツ隊長です。」

 

「中央第一憲兵…!?えっ何でそんなとこに!?」

 

ハンジさんがそう慌てながら聞いてくる。

アニに聞いた情報から中央第一憲兵にしただけだ。それはハンジさんも少しは聞いているはずだったが…

 

「キッツって…?」

 

「ほら…あれだよ、トロスト区で僕ら四人に大砲を放とうとした隊長」

 

エレンは誰だ?と首を傾げ、アルミンが教える。

自分を殺そうとしたやつを忘れるか?普通…

 

「ああ…あの人か…でも、何でだ?」

 

「あの人は欲深いからな。

繊細であり、いつも怯えているが隊長まで上り詰めている。

だからこそ、今回のことには持って来いだった。」

 

オレがそう説明すると、エレンはほぉ~んと頷いた。分かってないな…

 

「今回…最優先事項は、王政がどう行動するのかの下調べの為だったのですが…上手いこと事が進んでしまったようですね」

 

「おい…その手紙の内容は何だ」

 

リヴァイ兵長が、早く話せと促してくる。

 

「中央第一憲兵には…調査兵団が壁外調査に出動する日にトロスト区のとある場所で、重要事項をお前に話す。と、その他にもこの壁の中から逃げる…や、秘密と書いて置きました。」

 

「それで…駐屯兵団は?」

 

「駐屯兵団隊長には、トロスト区で巨人の内通者が通るとの情報がある…と書きました。」

 

オレはそう言ったが皆は理解できていない。

コニーとサシャは、それでどうなるんだ?と、お互いが聞き合っている。この2人で話が進むとは思えない。

 

「それだけか…?」

 

「はい」

 

「それで…どうなるんだ…?」

 

「そうですね…可能性から鑑みるに…」

 

オレは皆に壁内で起きたであろう事を話すことにした。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

壁外調査で出動する日

 

トロスト区は巨人によって破壊された街である。

トロスト区内にある家は所々、大小の穴が空き、屋根が無い家が多数存在する。

そして、日中だと言うのに活気が無い。人通りも全く無い。

そんな廃れた街の中に1人の兵士が佇んでいる。

その兵士の着ている服には、背中に盾に2つの薔薇の紋章が大きく縫われている。駐屯兵団の紋章だ。

その兵士は若干笑みを浮かべ、誰かが来るのを待ち侘びていた。

 

『ジャリッ…ザッ…』

 

足音がした方向を駐屯兵団は見た。

ようやく来たか。待ちに待った昇格の時だ。そんな悦に入った表情が溢れ出ていた。

だが、振り返り現れた人達を見て、先程までの気味の悪い笑顔がまたたく間に消え失せた。

 

「ちゅ…中央第一憲兵…!?な…何故ここに…?」

 

その1人の駐屯兵団に2人の兵士が近付いていく。その2人は盾にユニコーンの紋章…憲兵団だ。

男は駐屯兵団で隊長を努めているが、現れた2人は階級の格が違う。

駐屯兵団は小刻みに身体が震えている。恐怖している。怯えている。

これこそがこの男の本質だ。

 

「何故ってなぁ…それはこちらのセリフだぞ?まさかお前だったとはな…キッツ。」

 

二人のうちの1人の憲兵団がニヤニヤしながら言う。

 

「まさか…中央第一憲兵が…!?と言う事は王家も…!?」

 

最も王家に近い存在の中央第一憲兵がここにいるのだから、王家が関係していると思うのは当然のことである。

 

「ほぅ…なかなか掴んでるようだな…誰にそれを教えてもらったのか吐いてもらおうか…」

 

「わ…私は…公の為にしただけです…!人類の為に…!」

 

近付いてくる憲兵団に後退りながらそう言う。

 

「それでもなぁ知ってはいけないことを知っちまったからな…誰に教えてもらったか吐いてくれたら…見逃してやるよ」

 

う…嘘だ…私にも…偶に聞こえてくる。黒い噂は…私はどうすれば良いんだ…?

わ、私は何も間違っていなかったはずだ。  

 

銃を突きつけられたキッツは鼓動が早くなり、汗がにじり出る。

 

「おい!さっさと行くぞ…!」

 

「い…行かない!私は行かないぞ!」

 

「あぁ…!?王政に逆らおうってのか?」

 

「私は人類のためにしただけだ!何も悪さなどしていない!あなた達のほうが人類の敵だろうが!」

 

緊張が限界に達し、喚き出すキッツ。

 

「あぁ?この狭い壁の中には知るだけで罪になることもあるんだ…お前はそれを知っちまった。それが罪だ。」

 

「貴方達にとって都合の悪いことを知られただけだろうが…

何故人類の敵になるんだ…!」

 

「これも全ては壁内の平和のためだ」

 

「人類を脅かしておいて!何が平和だ!!」

 

「あ?何言ってやがんだ、テメェ!」

 

「今だって!人類の進展になることを知ったものを殺そうとしているではないか!

そ…そうか!分かったぞ!!

王は偽物なんだな!?

だから!人類を絶滅させようとしているんだろ!」

 

「お前!それ以上口を開くな!」

 

「まぁ待てよ…サネス。こんな廃家だ。」

 

1人の憲兵団が本気で撃とうとしたが、もう一人の憲兵団がニヤニヤしながらそれを止める。

 

「お前な…」

 

「キッツ…それがどうした?それでも我々が人類の平和を守り続けてやったんだろうが、それの何がいけない?」

 

「ふざけるな!!我々の王は巨人から人類を守るために壁を作って100年の平和を実現させた人だ!!断じて、貴様らのような偽物ではない!!本物の王を何処へやった!?」

 

「何も知らん奴が、囀るな。

俺達はな…」

 

キッツの物言いに段々と腹が立ってきた中央第一憲兵。

だが、キッツにはもう誰の意見も入ってこない。

 

「えぇい!黙れ!!貴様らのような巨人に味方をする人類の敵は私が葬ってやるわ!!」

 

そう言って、キッツは中央第一憲兵に銃口を向ける。

 

「ちっ…おい、サネス!」

 

「ああ…仕方ないな」

 

二人とも銃を構えてキッツに向けて発砲する。

キッツは腰が引けていたため銃弾が腕に当たっただけだった。

 

「ヒィィィ…!!く、くっそぉ…部下は何処へ…」

 

腕から、ドクドクと血がでてくるのを、手で押さえながら助けを求める。

 

「隊長!こっちです!」

 

そこへ、キッツの部下が隊長の逃げ道を確保し、キッツを案内する。

 

「あ…ああ!!」

 

「逃がすわけねぇだろうが…!」

 

足を撃ち抜かれ、キッツはその場に倒れる。

部下は我先へと逃げていった。

 

「お前はあいつを追え!!」

 

「分かった!」

 

サネスはもう一人の中央憲兵に逃げていったキッツの部下を追うように指示を出す。

 

「ちっ…手間取らせやがって…お前がさっさとはいておれば…」

 

「な…何故…お前達はトロスト区を破壊したのだ…?」

 

苦渋な顔をしながら、最後の方を振り絞りキッツは聞いた。

 

「はぁ?何言ってんだ…?破壊したのは巨人だろうが」

 

「何を今さら…!お前達が巨人か巨人の仲間なんだろうが!」

 

「…お、お前…さっきから何を…?俺たちはお前が知ってはならん事を知ったから消しに来ただけだ…」

 

「それが…お前達の正体が巨人だったからだろう…?」

 

落ち着き始めた二人。

お互いが少し意見が食い違っていることに今、ようやく気付いた。

 

「俺達が巨人なわけがないだろう…」

 

「ど…どういう事だ…何を言ってるんだ」

 

「キッツ…お前が言っただろうが…王家は偽物だと…」

 

「それは…私が…今気付いたことだ…だが…それを認めたってことは、やはり王家は偽物だったんだな!?」

 

「なっ…!何だと…!?何がどうなっていやがる…!?

お前…!お前が手紙を書いたやつだろう…!?

その手紙を俺達が回収して…」

 

「手紙…?書いてない…私も手紙でここに巨人の内通者が通る情報だけを…」

 

「だ…一体誰が…こんな事を!?く…くそっ…だが、知ってしまったお前は結局殺さねばならん…!」

 

「まっ…待ってくれ…!」

 

『パッァアンッ!!』

 

止めの一発を撃った。

 

「ガハッ……あぁ……」

 

キッツは逃げようとしたが、その脚では逃げることが出来ず、銃弾を食らってしまった。

仰向けに倒れたキッツは、何かを悟った目で空を眺め、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

 

「中央憲兵が人を殺したぁぁぁあああ!!!

王家は偽物だぁぁぁああ!!!」

 

「中央憲兵が人を殺したぞぉぉぉおお!!!

王家が偽物だと、中央憲兵が吐いたぞ!!」

 

近くの家のベランダから見ていた人が居た。

二人で街を叫びながら駆け抜ける。

そして…

 

「本当だ…!!中央憲兵が駐屯兵団の隊長を殺した!!私も王家が偽物だと聞いたぞぉお!」

 

「なっ…何故ここに民間人が…!?」

 

訳が分からないなといった顔のサネス。

そもそも住民たちは、何故今まで出てこなかったのか…

 

「ここを廃村だと思ったか?だが、俺たちはこうなった所でもまだ過ごしてんだよ」

 

「私の家族にはね!調査兵団やってた馬鹿息子がいたのよ!少しの情報をつかめないまま、死んじゃった!あんた達が隠してたから!あんた達が殺したようなものでしょ…!!!」

 

「ああ!俺の息子もだ!」

 

「私の娘もよ!」

 

「僕のお兄ちゃんだって!」

 

ここに住んでるよりも明らかに多い人数が、そして調査兵団に入って殉職した者の家族が、一部始終を目撃していた。

そして、先程逃げていった駐屯兵団を追いかける中央憲兵を見た街の人達は駆け巡る噂を信じていった。

 

ウォール・ローゼ、そしてウォール・シーナの少数の貴族に、王家が偽物だと言うことが一日もせずに伝わっていった。

 

それを聞いた、ピクシス司令、ザックレー総統までもが動き出した。

 

「ピクシス司令!どうなされるのですか…?」

 

「部下が殺されたらしい。

ワシが出ないわけにはいかんだろう…

お前は今すぐカラネス区で調査兵団が返ってくるのを待て。」

 

「わ、分かりました。」

 

 

▽▽▽

 

 

「どう言った事を目撃したのかは知りませんが…住民が中央第一憲兵と王家の闇を知ったのでしょう。」

 

オレ推測を皆に聞かせた。

皆は、まじか…といった顔をしてどこか呆れているように見える。

王政、中央憲兵が普段からそのような行動をしているから、今回の事を招いてしまった。ただ、それだけのことだ。

 

「たった…2つの手紙でそんな事が…」

 

ハンジさんは頭を抱えている。

 

「これはあくまでオレの想像です。

後程、手紙を渡してくれた本人に聞くしかありません」

 

「それは誰に頼んだんだ?」

 

ジャンがそう聞いてきた。

 

「馬鹿夫婦だ。

中央第一憲兵にはアニだが…」

 

「「「馬鹿夫婦…」」」

 

馬鹿夫婦は他人を自分達のペースに乗せるのが上手い。いや…あれは天然か…

エレンでさえ、あいつらのペースには突っ込む気力を奪われていく。

オレもあいつらのペースに乗せられそうになったことがよくある。

住民が馬鹿夫婦のペースに乗せられ、そのまま馬鹿夫婦のお願いを聞いてくれたのかもしれない。

 

「えっ…誰?」

 

知らないハンジさんは首を傾げて聞いてくる。

 

「オレたちの同期で、駐屯兵団にオレが入るように言いました。」

 

「そんな前から今回の事を考えてたの?」

 

ミカサがそう聞いてくる。

 

「ああ」

 

「っ……そう…」

 

オレとの視線を逸らして、俯く。

どうやらまた、ストレスを与えてしまったようだ。

 

「一先ず、エルミハ区まで行かないと分からないと…」

 

エルヴィン団長がそう呟いた。

どうやら、報告しに来た駐屯兵団の女兵士は、余り詳しい事は知らなかったようだ。

 

「はい」

 

「そうか、分かった。」

 

「あぁ〜…そう言う事はもっと早く言ってね…?」

 

と、ハンジさんがオレに不満を言う。

 

「ハンジ…俺もこいつも人を簡単に信用したりしない。

情報が漏れるかもしれないなら、話さないのは当然のことだ。

俺達はまだ…数回しか顔を合わせていない仲だからな」

 

なんと…リヴァイ兵長がフォローしてくれた。

有り難い事だ。

 

「そ…そうか。なら、これからは信頼関係を作っていかないとね。」

 

「ええ、そうですね」

 

オレもそう返しておく。

 

もう日が暮れたため、宿に帰る事になった。

オレ達同期は皆で食堂に行くことにした。

 

「てめぇ…まぁた1人でやってやがったな…」

 

ジャンがオレを責め立てる。

それに答えたのはオレではなく、アルミンだった。

 

「仕方ないよ…僕達は僕達のやるべき事をやらなければならなかったんだ。

キヨンも今回は上手く事が進んだだけって言ってただろ?

そんな事を僕達に言って無駄なことを考えさせないようにしてくれてたんだよ。」

 

今日はやけに誰かがフォローしてくれるな…

有り難い。

 

「はっ…本当にこいつがそんな俺達のことを……あぁ…何でもない。」

 

ジャンはオレが言ったことを思いだし、途中で言い留まった。その顔は少し赤くなっていた。

 

「まぁ今日くらいそんな事考えずにいようぜ!

反乱は起きてるみたいだけどよ。俺達は生きて帰ってきたんだ!

それを喜ばないとな!」

 

「何だ、コニー珍しく良いこと言うじゃねぇか!」

 

「そうですね!そうですね!ここはパーッと行きましょう!

そうだ!ここに丁度カードがありますので、ゲームでパンを賭けましょう!!

むふふふふ」

 

「おう!良いぜ!」

 

と、皆はそれに乗ってゲーム。賭けをすることにした。オレもそれに乗ることにした。

 

「ああ…偶にはそう言うのもありだな」

 

「デュフフフっ…キヨンの負けっ面が拝めそうですねぇ〜…」

 

「ああ!俺等にこのゲームを挑むとは自殺行為だぜ、キヨン!」

 

「地獄の訓練兵時代の唯一の娯楽だったこのゲームで負けることは許されん。

俺の素晴らしき技術を見るが良い」

 

と、サシャやコニー、そしてジャンも余裕を見せている。

ゲームはブラックジャックのようなものだ。

こいつらが訓練兵時代、それに熱中していたのは知っている。

こいつらはイカサマ技術を極めていた。

だが…残念だったな…

イカサマでくるならオレも全力でイカサマをしよう。

 

「な…何故だ…俺達の地獄の訓練が…」

 

「地獄の訓練は兵士になるための訓練だろう。」

 

「そんな馬鹿な!!わわわ私のパンがぁああ!!」

 

「パンは貰っていくからな」

 

「おおおおお前!!イカサマしただろう!!」

 

「当たり前だ。

お前達がイカサマしてるからオレもしたんだ。

見破れなかったやつが悪い」

 

「くっ…!くそっ…!!くそぉぉお」

 

と、言ってコニー達は走って寝床に向かっていった。コニー…ヒストリアを奪われたときよりも悔しがってないか…?

 

「大人げねぇなキヨンは…私もそろそろ寝る」

 

「うん、おやすみ!ユミル」

 

「ああ」

 

ユミルに続き皆も続々と寝床に向かった。

残ったのはオレとヒストリアだけだった。

ヒストリアには、オレの考えていることを話すために、残ってもらうように言っていた。

まだ仮説の段階だが、今回の事でより一層確信に近付いた。

その事をヒストリアに話し、もしそれが真実であっても受け入れる心を持っておいてもらうためだ。

 

「ヒストリア…これはまだ確証は持てていない話何だが…」

 

「…うん」

 

「お前が本物の王家なんじゃないだろうか」

 

「……えっ…?私が…?」

 

目を見開き、驚愕している。

少し落ち着いたのを確認し、オレはその理由を話す。

 

「ああ…

一つはライナー達がヒストリアを狙ったこと。これはアニに聞いたが、ヒストリアは壁の情報を知る重要人物だと言う事。

もう一つは、ヒストリアが貴族家を追い出された日。

そして最後に現在の王家が偽物だと確定した。

さっきも言ったが、まだ確証は得られていない。

だが…もし今後、ヒストリアを攫いに来たときは、ヒストリアが王家だったことが確実になる。」

 

「そっ…そんな…私が…」

 

当然の反応だろう。

誰しもが、行きなりお前が本物の王家だと言われ、それをすんなり受け入れられるわけがない。

 

「お前は女王になりたいか?」

 

「それは…嫌だ、私には到底できそうにない…」

 

だろうな。

 

「そうか。ならやらなければいい」

 

「ねぇ…女王になって欲しい…?そしたら色々と楽に…なるの?」

 

ヒストリアは自分を使って欲しいと言っていた。

オレがそうだと、言えば女王になりそうだ。

だが…

 

「……そんな事は無い。

お前がやりたくないならやらなくて構わない。

だが…例え女王にならなくても本物の王家だと言う事に変わりはない。

だから、お前には死地に立つようなことは余りしてほしくない。」

 

オレは一先ずそう言っておくことにした。

 

「そ、そう…

でも、私はキヨンと一緒に居られれば良いのだけど…」

 

安全よりもオレと一緒に居るほうが良いと言うヒストリア。

 

「……そうか。そうヒストリアが判断したなら、オレは何も言わない。

今日はもう寝よう。疲れただろ?」

 

オレはやるべきことがまだある。

そのため、ヒストリアにもう寝るように促すことしにした。だが、ヒストリアはオレの腕を掴んで引き止める。

 

「も…もう少しだけ話していたいのだけど…」

 

「…悪い、少し行かなければならないところがあるんだ。」

 

オレがそう言うと死んだ魚のような目でオレを見てきた。

 

「どこに…?」

 

「それは…」

 

「もしかしてアニ?それとも帰って来る時言ってた先輩?」

 

オレは普通に言おうとしたのだが、ヒストリの追撃は止まらず、話すことをさせてくれなかった。

 

「いや…違う。

ミカサだ。

ミカサもミカサでストレスを溜めているから、家族として話を聞きにいかないと駄目だろう。

さっき、食堂に居た時も一言も話していなかっただろう?」

 

この世界ではプロポーズをすることはあるが、告白の文化がない。

そのため何度もデートを重ねた後、いつの間にか恋人になっている…と、母親から聞いたことがある。

オレはヒストリアとは恋人では無いと思っているが…もしかしたら、ヒストリアは既に恋人だと思っているのかもしれない。

 

「ミカサはいつも余り喋らないけど…

でも…」

 

そう言い淀むヒストリアに尋ねる。

 

「…心配か…?」

 

「うっ…だって…私は…私はね。

初めてなんだよ…?私を理解してくれる人なんて居なかった…皆と壁を作って距離を取っていた。それはとても…寂しくて……怖かった。

でもキヨンはそんな壁を強引に壊して私を理解してくれた。」

 

ヒストリアは自分の想いを話す。

オレは黙って続きを待つ。

 

「そんな人は絶対に今後出会えない…

私は…キヨンを失うのが怖い…

離れていかれるのが…怖いんだもん…」

 

ヒストリアは微かに震えている。

そして、その震えは大きくなっていった。

 

「ミカサは大丈夫だって分かってるよ。

でも……キヨンは…色んな人に人気だから…

心配になるんだよ…」

 

俯きながら話すヒストリア。

 

オレはヒストリアの顎を掴み、こちらを見るように顎を上げる。

そして、ヒストリアの唇にオレの唇を当てる。

ヒストリアは初め、視線を何処かに逸らしており、こちらを見ていなかったが、オレがヒストリアの唇を奪ったことにより、ゆっくりとオレに目を向ける。

まだ、何をされたのか理解できていないようだった。

だが…数秒も経てば理解する。

 

自分の右手をゆっくりと唇に持っていき、唇を擦ってから、キスをされたことに気付いた。

 

「へ…えっ…キス…?」

 

すると、みるみる顔が赤くなっていく。

 

「ふぇっ!?ななな何で!?えっ…!私…初めて…」

 

「オレも初めてだ」

 

「うぇええ!?」

 

驚き、あたふたしているヒストリアを優しく抱きしめ耳元で言う。

 

「信じてもらえるか?」

 

「うっ…!うん…」

 

一瞬ビクッとしてから何度か首を縦に振る。

 

「だったら今日はもう寝るぞ」

 

「わ…わかっ…った」

 

オレはヒストリアから離れたが、まだヒストリアはオレの顔を見てボーっとしている。

顔はほんのり赤くなっている。

 

「ヒストリア?」

 

そんなヒストリアにオレが名前を呼ぶと…

 

「うっ!うん!おやすみ!!」

 

と、そう言って足早に去っていった。

やはり、こう言う時は言葉で安心させるより行動するものだな。

オレはその背中を見送った後に歩き出す。

ミカサはもう寝てしまっただろうか?

それでも一応行くだけ行ってみるか…

ミカサの部屋まで行き、ノックする。

 

「はい」

 

良かった。まだ起きていたか…

 

「オレだ」

 

「入って」

 

ミカサの部屋に入る。

ミカサはベットの上で体育座りをして自分の膝に顔を埋めていた。

相当溜まっているようだ。

扉を閉めてから話しかける。

 

「ストレスが溜まっているようだな」

 

「キヨンのせいでしょ」

 

「今回は何もしてないだろ?

エレンの隣にも居られるようになっただろう。」

 

それはミカサも分かっているのだろう。

それ以上何かを言ってくることはなかった。

オレはベットに腰掛けてから言う。

 

「お前が悩んでいることを全部吐き出してみろ」

 

「……エレンはペトラさんのことが好きなのかな…?」

 

またエレンか…

 

「そんな訳がないだろう。

ミカサの勘違いだと何度も言った筈だ」

 

「分からないでしょ…エレンがどう思ってるのかなんて…」

 

「分かるさ。

どれだけ長い事一緒にいると思っているんだ?

時間だけならミカサよりも長い」

 

「…じゃあ何であんな反応したの?」

 

「ペトラさんがオレに対して気があることに残念に思ったんだろう。

気配りのできる良い人だからな」

 

「なら…エレンがペトラさんを好きになってるかも知れないじゃない…」

 

「そんな事は無いと思うがな…

そんなに気になるなら、明日エレンに聞けば良いだろう。」

 

「っ……」

 

聞きに行きたくないのだろう。

だがらこそ今悩んでいる。

 

「悩みはそれだけか?」

 

「……」

 

それだけでは無いことは見れば分かる。

そして、その悩みがオレに対してなのも…

 

「キヨンは…私のことをどう…思ってる…の?」

 

ミカサに似つかわしくない震えた声で聞いてくる。

オレがミカサに頼ることをしなかった事が少しずつ溜まっていき、エレンのことも重なり今一気に限界が来たという感じか…

 

「どう…とは?」

 

「決まってるでしょ…家族と思ってくれてるの…?

……

キヨンは…私に何も話してくれないし…最近は一緒にいることも少ないから…遠くに離れていってる気がする…私だけ…いつも1人でいる。」

 

不安の余り返事を聞かず、1人で話し出す。

15歳の少女には、寂しかったのだろう。

アルミンとは、よく一緒にいた気がするが…

そう孤独だと感じてしまえば、人間というのは更に自分を孤独にさせるものだったな…

返答を待てないミカサは更に聞いてくる。

 

「どうなの…?本当は…もう私のことなんて…どうでも…へっ…?」

 

オレはミカサを軽く突き飛ばした。

ベットに仰向けで倒れるミカサ。

普段なら抵抗できただろうが、精神的な面でダメージを負っているミカサは反応できず、そのままベットに倒れた。

オレはベットに膝を乗せミカサに覆い被る。

左手でミカサの右手を押さえ付け、右手でミカサの顔に乗っている髪を払う。

ミカサはギョッとし、オレの右手を左手で掴んだ。だがオレがそのまま頬に右手を添えると、段々と落ち着き右手を掴む力が弱くなっていった。

それと同時にミカサの右手も力が弱まったので左手を開き開放する。

ミカサと目が合う。

そのまま暫く見つめ合った。

 

「ミカサ」

 

オレが名前を呼ぶと、ミカサはドキッとして固まる。

オレの言葉の続きを黙って待つ。

緊張しているのがこちらに伝わってくる。

 

「オレはお前が好きだ」

 

「ふぇっ…?」

 

目を見開き、素っ頓狂な声を漏らす。

本当にミカサらしくない。

目を逸らさせはせず、沈黙の時間がまた流れる。

 

「お前はオレの大切な存在だ。

だから、お前をどうでもいいとは思ったことがない。」

 

何か反論しかけたミカサだったが、オレはそれを許さない。

ミカサの頬に添えていた右手の親指を唇に乗せ、開こうとした口を止める。

そして、ミカサの背中に手を回しオレの胸に寄せ、強めに抱きしめる。

そのままベットに横たわる。

 

「今日はもう寝ろ。

オレもここで一緒に寝る」

 

「っ…勝手すぎ…」

 

オレの胸の中で、そう言ったが嫌がる素振りは見せなかった。

オレはミカサの背中をトントンと優しく叩く。

すると、安心したのかすぐに寝てしまった。

オレが2歳くらいの時、母親に優しく叩かれたのを覚えている。確かに心地よく感じた。

 

ミカサはエレンへの想いが強すぎる。

それで良いときもあるかもしれないが、それで判断を誤るときも必ずある。

そうならないためにも、エレンへの依存を解消させなければならない。

まぁ好きであることには構わないんだが。

 

その後…オレも疲れていたため、直ぐに眠ってしまった。

 

 

 

…あだだだ。

数時間が経ち眠りに就いていたが、急にミカサの抱きつく力が強くなり、目を覚ます。

 

「な…何だ?」

 

「………寝たら落ち着いた。

嘘でしょ…好きといったこと…」

 

いででで…

 

「あ、あの…大切な存在であることは本当だ。

だから、離してくれ」

 

ほっ…抱きつく力が弱まった。

 

「別に好きと言う必要はなかったでしょ」

 

「…まぁ…普段見られないミカサの顔を見たかったんだぐっずいません」

 

また、抱きつく力が強くなった。

ヤバイ本当に何本かアバラが折れそうだ。

 

「別に…もういい……でも…偶には一緒に居て…」

 

「ああ…そうだな。オレもお前を放ったらかしにして悪かったな」

 

そう言いながら、ミカサの頭を撫でるとオレの胸の中で小さく頷いた。

 

「うん…」

 

そう言ってまた抱きしめる力が強くなったが、痛くはなかった。

ミカサはまたすぐに眠りについた。

もう大丈夫そうだ。

これからのミカサの成長に期待できる。

 

 

 

▽▽▽

 

 

ドクンッ…ドクンッ…と、とごか懐かしく安心する音が聞こえる。

私はゆっくりと目を開けた。

目を開けたのに暗かった。だけど、温かい何かに自分が包まれているのが分かった。

段々と寝る前の事を思い出す。

と、同時にその温かく居心地の良い場所から少し顔を離す。

 

あぁ……

 

寝ぼけていて、まだ視界がボヤけてる。

でも…自分の眼の前に寝ているのは、間違いなくキヨンだ。

うん…間違いない。

そして、完全に寝る前のことを思い出した。

 

ホントに嫌だ。

 

見透かしたような行動…

急に押し倒され、好きだと言われる。

こんなにも心臓が煩かったのは初めてだ。

エレンじゃないのに…

 

どうして…昨日はあんなにも心に余裕が無かったんだろう…

どうして…今はこんなにも落ち着いているのだろう…

 

でも、今落ち着いていられるのは……キヨンのお蔭だ。

 

気に入らない…

 

何でこうもキヨンの思うがままにされているのか…

そして、何故そう私のベットで私の隣で爆睡できるの…

………昨日好きと言ったこと…

嘘だ。

昨日は色々と悩んでいたから分からなかったけど…今は分かる。

キヨンもすぐバレると分かっていながらそんな事を言ったんだろう…

本当なら…最低な行為なのに…何故か腹が立た無い。

いや…少し腹が立っている。

私がドキドキしたならキヨンも少しはするべきだ。

 

抵抗するべきなのに、抵抗せず顔をキヨンの胸に押し付けられて、心地の良い音と共に寝てしまった。

まだ…外は暗い。

窓から入ってくる月明かりで、キヨンの寝顔が何とか見れるくらいだ。だから…まだ…寝れる。

もう一度、温かく心地よい場所に戻る。 

 

何でこんなにも落ち着くのだろう。

 

キヨンがモテるのも分かる気がする。

 

……何かムカッとしてきた。

 

それに、キヨンの思い通りに事が進むことにも少し腹が立つ。

キヨンの腰に手を回し力一杯抱きしめる。

私の全力にも耐えてくれる数少ない存在。

そこもキヨンの良いところ。

 

「な…何だ?」

 

キヨンの胸に顔を押し付けているため、顔は見えないけど、声から察するに苦痛な表情をしているのだろう。

起こしたのは良いけど…どうしよう…何て言おう。

 

「………寝たら落ち着いた。

嘘でしょ…好きといったこと…」 

 

取り敢えず、落ち着けたことを伝える。

これでも有り難いと思っている。

多分…感謝していることは伝わらないと思うけど…

それと、文句を言う事にした。

 

「あ、あの…大切な存在であることは本当だ。

だから、離してくれ」

 

その言葉を聞けて、更に安心する。

でも…少しドキッともした。

大切な存在…フッ…

抱きしめる力を弱める。でも、なぜだか寝起きの顔を見せたくない…それに今自分がどんな顔をしているのか分からない。

だから、キヨンの顔を見たりはしない。見たら見られるから。

軽く抱きしめたまま、胸の中に居続ける。

 

「別に好きと言う必要はなかったでしょ」

 

私は悟られないように、また文句を言う。

 

「…まぁ…普段見られないミカサの顔を見たかったんだぐっずいません」

 

ムカッ…

もう一度強く抱きしめると、即座にキヨンは謝った。

 

「別に…もういい……偶には一緒に居て…」

 

最後に本音を言ってもう一度寝る。

 

「ああ…そうだな…オレもお前を放ったらかしにして悪かったな」

 

そう言いながら頭を撫でられる。

また…子供扱い…

 

「うん…」

 

文句を言いたかったけど、この温かさと睡魔が相まって、何も言うことは出来なかった。

キヨンが私の頭を撫で続ける。

心地良い。

朝なんて来なければ良いのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キヨン vs 獣の巨人

まだ就活中ですが、緊張しているのか勉強に手がつきません。


もう一度目を覚ますと、朝日が窓から差し込んでいた。

オレは仰向けで寝ており、オレの右肩にはミカサの手が乗っている。 

そして、オレの肩に頭を寄せ右足はガッチリとミカサの両足で固定されている。

 

クークーと、可愛らしい寝息が聞こえる。

ミカサも寝ていれば可愛い少女だ。

起きれば煩い。

どうせ今日も小言をネチネチと言われる日になるだろう。だが、何故か嫌とは感じない。

それが日常であるからなのかは分からないが。

 

右隣で寝ているミカサの頭を撫でてみる。

 

「んぅ〜っ」

 

と、声を出し寝返りを打つ。

仰向けとなったミカサに今度は顎の下を犬を撫でるように触ってみた。

 

「がぅッ」

 

擽ったかったらか、子犬が鳴いたような声でくしゃみをした。

本当に犬みたいだ。

オレは少し面白くなり、ミカサで遊んでいた。

だが…弄くり回せば…

突如、何の前触れもなく目をパチッと開け目が合った。

オレはミカサの鼻を摘んだまま固まってしまった。

暫く固まっていたが、ミカサに睨まれたので鼻を摘むのを止めた。

 

「おはよう」

 

オレは何もなかったかのように挨拶をする。

 

「おはよう。

私で何してたの?」

 

ミカサも挨拶を返すが…当然聞いてくるよな…

 

「……いや〜…すまん…あぁ…」

 

言い訳を探しミカサが怒らない答えを探し出す。

 

「ミカサが可愛かったから…つい」

 

これなら怒られないだろう。

ヒストリアに怒られた時に偶に使う戦略だ。

 

「っ…!?ふんっ!」

 

「ぐぅっ」

 

真っ赤になったミカサはオレの腹に蹴りを入れた。寝ながら器用なものだ…

結局怒られてしまった。

やはり、十人十色と言うだけあってヒストリアには聞て効いてもミカサには効かないらしい。

対ミカサも考えておかないとな…

 

「起きるか」

 

「………うん」

 

オレは身体を起こしミカサに起きるように促す。

ミカサは寂しそうにしながら身体を起こした。

そんなミカサを見てオレは言う。

 

「また一緒に寝てやる」

 

「えっ…!?

あっ………っ…!?うるさい!」

 

ミカサの顔は一瞬笑顔になったが、すぐに顔を赤らめながら怒りだし蹴ってくる。

 

「あぶなっ…だが、嬉しそうだったじゃないか」

 

少し煽ってみることにした。

 

「もう…!!キヨン!出てって!!」

 

完熟トマトと化したミカサは、オレに思い切り枕を投げてきた。

躱してから枕をミカサに軽く投げて返し颯爽と部屋をでた。

一度オレの部屋に戻り支度をした後、食堂に移動する。

オレが一番乗りか。

いつも通りのメニューであるシチューとパンを貰い、席につき食べ始める。

 

それにしても今日は目覚めが良いな。

ずっと、木の上での生活で、久々のベットが良かったからなのか…はたまたミカサと一緒に寝たことでぐっすりと眠れたからなのか…

……

後者…だろうな。

前のオレでは考えられない事だ。

だからこそ、オレは「また一緒に寝てやる」なんて上から言ったのかもしれない。 

オレが自分自身の変化について考えていると、ミカサが食堂にはいってきた。

 

「おはよう」

 

さっき、おはようの挨拶は交わしたはずだが…

 

「挨拶はもうしただだろ?」

 

「……おはよう」

 

「お、おはよう」

 

朝の事をなかったことにしたかったのか、繰り返し挨拶をされた。

同じ机で食べているのに無言だったので、少し…気不味い…

お互い自ら話す方ではない。

今までも2人でいることも良くあったし、無言の時間も慣れている。

だが……昨日は一緒に寝て、今朝はまるで恋人のようなことをしてしまっていた。

そのため、2人で居るのは…気不味く感じてしまう。

誰か来てくれ…と、思ったが今日に限って皆中々起きてこない。

まだまだ出発まで時間はあるが、それでもいつもは皆これくらいの時間には起きている。

疲れが残っているためまだ起きてこないのか…

 

「皆まだ起きてこないの?」

 

ミカサも同じ事を思っていたのか、目線を逸らしながら聞いてくる。

 

「まぁ疲れているだろうからな無理もない。」

 

そして、また暫く気不味い時間が流れる。

 

「キヨンは…私はどうすれば良いと思う?」

 

皆が来ないと思ったのかまた話しかけられた。

 

「私は…キヨンの傍で少し見ていたい…と思う」

 

「オレの?エレンの横に居なくても良いのか?」

 

「……うん。

何を考えているのか、それを自分で感じ取れるようにする」

 

まだエレンの隣に居たいと思う気持ちはあるようだ。まぁ、エレンに恋心を抱いているのだから、それは仕方のない事だ。

だが、今までのミカサなら何が何でもエレンを優先して、横に居ようとしていた。それを、今、自らエレンの傍を離れて周りを見ようとしている。

 

「そうか。分かった。

ああ…そうだ。

アニは今回のことで憲兵から調査兵団に来る。アニは多分オレの近くに居ることになる。だから、ミカサも………何だよ…?」

 

ミカサに睨まれることは良くあるため、気付いていながらも無視することもできる。

だが、ミカサはただオレの目を見て微動だにしなくなった。

睨まれているのではないことは分かるが、物凄く居心地が悪くい…

 

「別に」

 

ふぅ…逸らしてくれた。

 

「おっす!キヨン、ミカサ!はえ~な!」

 

ようやく来たか…コニー。

 

「「おはよう」」

 

「お前ら2人だけでいるのは何か珍しいな!」

 

「……」

 

コニーがそう言うとミカサは分かりやすく反応し、俯いた。

 

「お前らが遅いだけだ。

オレもミカサもいつも通りに起きただけだぞ」

 

「それもそうだな。

いや~久しぶりのベットでぐっすり眠れたぜ」

 

コニーの能天気さには呆れるが、今回はそれに助かった。

ヒストリアが居れば勘繰られていただろう。

 

その後、皆は続々と起きてきた。

 

「お、おおおおおはよう」

 

ヒストリアがオレに挨拶をする。

オレの前に来るまでは、いつも通りだったがオレの目を見た瞬間に顔がトマトと化した。

そんなヒストリアに皆は首を傾げている。

ユミルはハッハァーンと意味深な声を出して、1人で納得していた。

ヒストリアはオレの隣を確保するのかと思いきや、少し離れたところで食べ始めた。

昨日の接吻の事を気にしているのか?

まだ、そう言う感情は理解できないな。

 

皆酷い寝癖で、とても眠たそうだった。

一時間ほどが経ち、皆は朝食を食べ終え談笑している。 

 

突如、ハンジさんが食堂の扉を勢い良く開けた。

 

「皆!すまないが出発するぞ!大変なことになった!!

ウォール・ローゼが突破されたかもしれない!!」

 

「「「「えっ……!?」」」」

 

皆は一様に驚いているが、次々にオレの方を見る。その目は「お前がやったのだろう…?」と言っているのが分かる。

 

「オレも知らん。

何でもオレがやったと思うな…」

 

オレはそう言い立ち上がり、外へ向かう。

皆もオレに続いて食堂をあとにする。

 

「そう…ならこれはベルトルトがローゼの壁を破壊したと言う事…?」

 

ミカサがオレに聞いてくる。

どうだろうか…

そもそも、ウォール・ローゼのどこかにもよる。

 

「それは分からないな。

一先ずハンジさんに聞かないとな…」

 

「分かった」

 

アニの件もあり、シーナに向かいたかったが仕方ない。

オレたち調査兵団が存在するのは巨人を倒すためだ。

巨人が現れたのならオレたちが出ていかなければならない。

王政のことは住民と駐屯兵団に任せよう。

 

「来たか!

皆揃ったな!今回巨人が出現したのはウォール・ローゼ南方からだそうだ。

我々はその調査に赴く。」

 

ハンジさんが今回オレ達がやるべき事を簡単に説明した。

 

「えっ……」

 

一瞬で顔が強張るコニーとサシャ。

そう言えば、コニーとサシャの出身はウォール・ローゼの南区でトロスト区ともかなり近かったはずだ。

もう手遅れかもしれないな…

それに、南区か…ベルトルト達の可能性も無くはない。だが、今そこを破壊してもトロスト区には巨人が居ないため破壊する意味がない。

なら、西に位置するクロバル区からか?

それこそ、あり得ないが今ここで証明することは出来ないか…

 

「コニー…大丈夫か?」

 

「……」

 

一先ず、顔面蒼白になっているコニーに声を掛けるも反応しない。

 

『ペチン!』

 

「おい…ハゲ、行ってみねぇことには分からねぇだろ?」

 

ユミルはコニーの頭を叩き、そう言ってコニーの心を落ち着かせた。

 

エルヴィン団長指揮の下、班を構成し馬に乗り駆け出す。オレには40名程の部隊を与えられた。

南方に行くのには50キロほどある。着くのは夜になりそうだ。

 

街の中を駆け草原を駆け、暫く移動してから小休憩に入る。

その間、サシャとコニーは落ち着きがなかった。

二人とも自分の村が心配なんだろう…

休憩が終わるとまた走り出す。

日が沈み始めた頃…

 

「左前方より巨人多数接近!!」

 

と、先輩兵士の注意喚起とともに赤の煙弾が上に上がった。

エルヴィン団長が右前方へ緑の煙弾を放ち、進路変更する。

ようやくここまで来たか…

とは言ってもまだ、コニーの村はまだ先だ。

 

「お前達はそのまま進め!ここは我々だけで十分だ!!」

 

そう言ってミケ分隊長とその部下が巨人を倒す為に向かっていった。

オレたちは更に奥へと進みトロスト区へ入るための門を目指す。

暫く走っていたが…

 

「妙だな…」

 

オレがそう言うと、隣に居たアルミン達が食いつく。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや…さっきの集まっていた巨人以外に巨人を見ていないと思ってな」

 

「ああ…確かにそうだ。

穴に近付いているのに、あの巨人達以外見ていない…

これは…どう言うことだ…?

そもそも…扉を破壊したのがベルトルトだとして、トロスト区とローゼの扉を破壊する必要があるのか…?

それなら、もっと早く伝令が届いているはず。

なら…

クロバル区方面から…?それなら、もっと巨人は分散されているはずだ。

そもそも巨人の正体は人間だ。

敵は巨人になることもできる。

なら…キヨン!これはもしかして!!」

 

アルミンが1人で呟きながら答えを導いた。

オレもそう思う。

アニからはベルトルトやライナーが人間を巨人に変える能力を持っていることは聞いていない。

勿論…アニがオレに隠していた可能性もゼロではない。

だがアニ自身、オレに信用してもらわなければここで生きていくことはできない。その上、アニの侵食はもう殆ど完了している。

アニがオレを裏切るのは考えられない。

なら、ここでアニが隠していると言う事もあり得ない。

それにジークと言う男…アニ達の隊長だったか…

そいつがそのような能力を持っており、その男の脊髄液を一滴でも飲めば、巨人にさせられると言っていたな。

そいつは今回の作戦で来ていないと聞いていたが、アニ達の帰りが遅い為に見に来たのかもしれない。

なら、ライナーやベルトルトとはまだ合流していない可能性が高いな…

全員が殺られた可能性を考えて壁内の戦力分析の為に今回巨人にさせたのかもしれない。

だとするなら、ジークと言う男はあの巨人の群れと共にいる。 

 

「アルミン。

お前はエルヴィン団長にその事を伝えてこい。

オレの班は付いてきてくれ。

コニー、サシャ。お前達は故郷を確認したければ残っても構わない。

ヒストリアとユミルもそっちに残れ」

 

オレはそう指示を出し進路変更をする。

オレの予想が正しければ、戦闘になるだろう。

そこへヒストリアを向かわせるわけには行かない。ユミルも戦力になるが、ヒストリアを常に守っておいてもらわなければ困る。

 

「おいおい…良いのかよ!

俺達だけ別行動してよ!」

 

皆は付いてきているものの心配な様子だ。

ジャンが代表して聞いてくる。  

 

「ああ…向かうのはさっき巨人が居た場所。

ミケ分隊長達がかなり危ういだろう…

激しい戦闘になる可能性もある。

覚悟しておけ。」

 

付いてきたオレの班は25名程。

コニーのように故郷が南区の人達は残ることになった。

オレの班には新兵ではない兵士も居る。

その人達はオレのような新兵に指示を受けたためか、かなり嫌な顔をされた。だがそんな人達もオレの言葉を聞くと、瞬く間に気が引き締まり、真剣な顔つきになった。

 

 

▽▽▽

 

 

キヨン達が戻った後、僕は1人で前方に居るエルヴィン団長の下へ向うため速度を上げる。

エルヴィン団長に追いつき報告をする。

 

「エルヴィン団長!報告が!」

 

「どうした?」

 

僕は壁が壊されていないこと、敵の隊長がさっきの巨人の群れに居た可能性があることを伝えた。

 

「そうか、分かった。

だが、応援は出せん。」

 

「そんな…どうしてですか!?」

 

「ウォール・ローゼ西方から南方にかけて駐屯兵団が壁に沿って穴の位置を確認しに来る。

我々はその逆から穴の位置を確認する。

つまり、我々調査兵団と駐屯兵団はいずれ遭逢することになる。

今は王政のことで壁内は混乱おり、我々の動き方で大きく変わるだろう。

そんな時に調査兵団の主力が居なければ何していたんだと言う事になる。

説明すれば良いだけかも知れないが、どう受け取られるかは判断できない。

今は、我々が仕事をちゃんとこなしている事を駐屯兵団に見せる事が優先される。」

 

そう言う事か…

だから、キヨンも25名と言う少数で出ていったんだ。そして、キヨンの名は他の兵団や住民に全く知られていない。

この王政の混乱を企てたのが調査兵団内にいると知られたら面倒事になりかねない。

エルヴィン団長はどちらかを捨てどちらかを取りに行く人だ。

今回は王政のことを重要視したのだろう。

でも…キヨンとミカサが…

 

「アルミン…向こうにはキヨンが居る」

 

「そ、そうですね。

分かりました。

以上で報告を終了します!」

 

「ああ…ご苦労だった」

 

僕は自分の持ち場に戻った。

そうだ…向こうにはキヨンがいる。

そして、ミカサやジャン、マルコ達も…

 

 

▽▽▽

 

 

暫く馬を走らせると、数軒の家が見えてくる。

その周りには巨人が群がっていた。

そして、死体がそこかしこに散らばっているのが遠くからでも分かった。

見慣れているとはいえ、皆は顔を顰めている。

 

そして、前方で左から右へ馬が剛速球で飛ばされていった。

馬が飛んでいった逆方向を見ると、毛むくじゃらの手長ザルのような通常よりも大きい巨人が居た。

あいつが馬を投げ飛ばしたのか…そして、あいつがジークか。

あれはヤバイな…

 

「なんだありゃあ!?」

 

「馬が投げ飛ばされたぞ!?」

 

「しかもめちゃくちゃ速ぇ!あんなの…どうやって避けんだよ…」

 

「あのくそでけぇ巨人が投げたのか…?」

 

皆も同じ事を思っているようで恐怖が顔に滲み出ていた。

 

「やだぁぁああ!!やめてぇぇええ!!!」

 

馬が飛んでいった方から叫び声が聞こえる。

獣の巨人がその叫び声がする方向に向かって行く。

 

「あれは…ミケ分隊長だぞ!!」

 

「そんな…調査兵団でリヴァイ兵長に次ぐ実力者なのに…!?」

 

「全員…あの巨人とミケ分隊長の間に信煙弾を撃て。そして、ミケ分隊長に群がる巨人を倒してくれ。

ミカサ。頼んだぞ?」

 

「うん…キヨンは?」

 

オレがミカサに頼ると嬉しかったのか声が弾んでいた。

 

「オレはあいつを倒す」

 

「…分かった。死なないで…」

 

まさかの発言に思わずミカサの方を見てしまった。まさか…ミカサに心配される日が来るとはな。

 

「ああ…ミカサも油断するなよ」

 

あの獣の巨人とは遠距離で戦っては駄目だ。

近付くためにもオレを煙で隠さなければならない。皆は一斉に信煙弾を撃つ。

赤、緑、黒、黄色の煙が獣の巨人の前に壁のように視界を塞ぐ。

集団でミケ分隊長に向かった皆の足音に気を散らし、オレにはまだ気付いていない。

一気に馬を全速力で走らせる。

景色が変わり、視界が狭まる。

200メートル程の距離を10秒にも満たない速度で走り抜ける。さすがは調査兵団の馬だ。

 

獣は煙を構うこと無く通り抜ける。

有り難いな。

煙が霧散し始め奥が薄っすらと見えるようになる。

獣の巨人は近くにあった岩を砕き、野球のピッチャーの構えを取り、調査兵団へ向けて投げようとしていた。

オレは立体機動に切り替え馬と離れる。

そして、投げようとしていた右手を切り刻んでいく。

おっ…何か切りやすいな。

獣の巨人は右腕を千切りにされ、ようやくオレに気付いたようだ。だが、もう遅い。

ここまで近付ければこちらのもの。

目に刃を押し込み、失明させる。これはもう、常套手段だ。

そのまま身体中を切り刻んでいく。

足を切り、腕を切り、腹を切り裂く。

身体の自由を奪っていく。

そして、背後に周りうなじを削ぎ巨人の体内から引き摺り出すために、切り刻んでいく。

 

「うぅぁぁあああああ!!」

 

元気な男の子ですよぉお!!

 

とでも言えば良いのだろうか? 

出産の瞬間を、見たことはないが恐らくそうなるだろうと思える光景を見た。

元気に出てきたジークの両手両足を切り落とす。

これもアニから教えてもらったことだ。

巨人になれる人間は大きく損傷していたら巨人になれない。

 

「ぐうぁぁああああ」

 

この草原にジークの叫び声が響く。

さて…どうしたものか……こいつを入れておける牢屋などは無い。

エレンのように地下でも問題はないのだが、硬質化が出来るのなら意味がないのかもしれない。

 

「くぅぅ〜〜くそっ…!?いでぇ!いてぇ〜〜よ」

 

「大人しくしていられないか?あそこで死んでいる兵士はそれ以上の苦痛を受けたはずだ」

 

そう言って腹に刃を突き刺し、地面に固定する。

 

「ぐうぁぁあ!!ぐぎゃぁぁあ!!」

 

またも叫び声が響いた。

 

「ここには何人で来た?」

 

「くきゅーガハッ…言うわけねぇだろうが!

お前等ぁ!こいつをやれ!!」

 

巨人に指示を出したのか?

オレは振り返り巨人の群れの方を見るが、もう全ての巨人が倒されていた。

ジークに向き直る。

 

「そうか。なら黙ってろ」

 

ここには丁度いい物が無いため刃でやるしか無いか…

目と瞼の間に刃を差し込みグリグリする。

すると、途端に大人しくなった。

これをしてもどうせ元通りになるんだろが。

ロボトミー手術。

存在してはならない手術。

決して、人に施してはならない手術だ。

本来…精神的な病を患っている人達のために発見された手術だが…上手く行くかどうか、被検体がどのような状態に陥るのか、分からないそんな手術だ。

精神年齢が2才児に戻ってしまったこともあるらしい。

 

「あ~あ~あ!あ~あ!」

 

元気に出てきたジークは元気な2才児になってしまった。

だが、突然ジークは頭を抱えてこう言った。

 

「あっ!グ…グググ…グリ…グリシャ」

 

は…?

聴き逃がせない言葉。

グリシャ?

エレンの父。そしてオレのおじさんの名前。

勿論、同じ名前の可能性も大いにある。

 

「グリシャ・イェーガーか?」

 

「そう………とう…さん……」

 

オレがそう聞くと、頭を押さえながらそう言った。

父さんだと…?おじさんは確かにマーレから来た人だ。

マーレで別の人と子供を作っていても何も不思議なことではない。 

その時…

 

「キヨン!避けて!」

 

「っ…」

 

オレは急いで飛び退く。

突如後ろから顔の長い四足歩行の巨人が口を大きく開けて突っ込んできた。

ちっ…

ジークを持っていかれたか…

あの巨人もまた厄介だ。

馬よりは少し遅いが持久力のある巨人だと言っていたな。追うのは無理か。

やられたな…

 

「悪い、キヨン…俺達が取り逃がしたせいで…あいつ建物の中に隠れて嫌がった…」

 

「ジャン…気付けなかったオレの責任だ。

それより他にはもう居なかったか?」

 

「ああ」

 

タイバー家が所有している戦鎚はどうやら来ていないようだ。

何処かに隠れている可能性も否めないが…

鎧の巨人、超大型巨人、女型の巨人、顎の巨人、獣の巨人、車力の巨人。

全部で9種類の巨人のウチ、エレンを含めると7体の巨人を見ることができた。

後は始祖だけだ。それは何処に居るのか…この壁の中に居るとは聞いているが、エレンとはまだ断定出来ない。

今回2体の巨人が確認できただけ良しとしよう。

 

「普通の巨人は全て倒したのか?」

 

オレは熟考するのを思い止まり、現状の確認をするためジャンに問いかける。

 

「ああ、それは全て倒した。殆どミカサが…」

 

「そうか。」

 

「だが…ミケ分隊長は……」

 

ジャンは悲壮な顔になり、言葉を出そうとする。

そうか、間に合わなかったか…

 

「そうか…

一先ず、もうここには巨人は居ない筈だ。今日はここで一泊することになるだろう」

 

「分かった」

 

オレの馬はさっき全力疾走したばかりだ。

まだ走れる状況ではない。

班員が集まり、お茶を出される。

人数は…二人欠けたか…

それでも、まぁあの巨人の群れから2人だけで済んだのは良い方だろう。

 

「キヨンと言ったか…?すまない。周りの巨人が居なくなり、君があの獣の巨人を倒したのを見て油断してしまった。そのせいで、家の中に潜んでいた巨人を取り逃がしてしまった。

本当に…すまない…」

 

1人の先輩兵士がオレに謝る。

 

「いえ、あれはオレが気付けなかったことによるものです。

責任はオレにあります。

ですが、今回は相手の戦力を知れただけ良かったです。」

 

オレは本音を言って安心させる。

 

「キヨンなら気付けたんじゃなかったの?」

 

ミカサがそう聞いてくる。

まぁ…そうだろうな。普段のオレなら気付けたものだ。

 

「ああ…そうだな。

これはエレンに関係することだ。

帰った後で話す。」

 

「そう…分かった」

 

「ここの家から食料がある分、全部貰おう。」

 

オレがそう提案する。

もう、ここの住民は生きてはいないだろうしな。

 

「え?良いのかよ…そんな勝手なことしてよ」

 

「ああ…責任はオレが取るから心配するな。

何も食べなければ、いざという時役に立たない。」

 

「まぁ…それなら食べるか」

 

「わ、私も食べる!探してくるね!」

 

意外にも食い意地が凄いミーナが、真っ先に家の中へ探しに行った。

それを見た兵士は皆で数軒の家に入り、食料を探した。オレも家の中に入り食料を探す。

パンばかりだな…

まぁ食べられるだけ良いが。

集まって食べ始めると先輩兵士が問い掛けてくる。

 

「戻らなくても良いのか?」

 

「 はい、今さら戻っても大したことはしないでしょう。扉は破壊されてないようですし…」

 

「なに…?何故そんな事が分かる?」

 

1人の兵士がそう聞いてくる。

すると、全員がオレを見てきた。

ミカサはまた何かを隠していたの?と目で訴えてくるが、今回はそう言う訳では無い。

 

「あの獣の巨人の中の人間が普通の巨人に命令しようとしていましたので、あいつがこの近くの町に住んでいる住民を巨人に変えたのでしょう。」

 

「え…この壁の中の人類が巨人に変えられたと言うのか…?」

 

「人間が巨人に…?」

 

先輩兵士がそう言って驚愕している。

そうか。オレとよく一緒にいる新兵にはオレが話していたが、先輩兵士はこの事をエルヴィン団長からも聞いていないのか。

もう話しても大丈夫だろう。

 

「ああ…巨人の正体は人間です。

それは最近判明したことです。」

 

「「「はっ…!?」」」

 

「どう言う事だ?」

 

「詳しくはオレも分かりません。

ですが、ある薬を注入されると巨人になるようです。

そして、エレンや鎧の巨人、そして先程の獣の巨人のような巨人になれる人間を食べれば人間に戻れるみたいです。巨人はそのために人間を食べているだけです。」

 

「まじかよ…」

 

「ええ。なのであの獣の巨人が今回の騒動の主犯なのでしょう。」

 

「……ああ…なるほど、人間を巨人に変えられるなら、わざわざ壁を破壊する必要はないか…」

 

「はい」

 

「エレンも出来るのか?」

 

「いえ、出来ないでしょう。出来るなら超大型や鎧もマーレを破壊する必要は無かったはずです」

 

「そ…そうだな」

 

今回の騒動を先輩達に簡単に話をした。

ついでに、人類が滅亡していないことも伝えておいた。

 

ここで一夜を過ごすため、三人一組になり交代で見張りをする。

オレはミカサとミーナだ。

トーマスやジャン、そしてマルコにまでゴミを見る目で見られてしまったが仕方のない事だ。

 

「ミーナ、ミカサ、オレの順に見張りをするか」

 

「「分かった」」

 

そんな訳でオレ達は焚き火をし、その近くの木であまり深い睡眠を取らないために、凭れ掛かり寝ようと思ったのだが…

 

「おい…ミカサ」

 

ミカサがオレの肩に顔を乗せ、眠りにつこうとしてきた。

今はミーナも居るのだから止めて欲しい。

だが、ミカサは何も言うことなく目を閉じ、寝てしまった。

さすがミカサだ。本能のままに生きてるな。

 

「ミカサもう寝ちゃった?」

 

ミーナが話しかけてきた。

見張りと言っても、巨人はもう居ないためそこまで気を張る必要もない。

 

「ああ」

 

「何か珍しいね。ミカサがキヨンにベッタリなんて」

 

「まあ…またエレンと離れ離れになったからな、もう一人の家族であるオレをエレン代わりにしているのだろう。

……

何か…怒ってるのか…?」

 

「ん?怒ってるように見える?」

 

「…あーいや…見えない」

 

「ねぇ…私達、これからどうなっていくのかな…?」

 

ミーナは話を変え、不安そうに聞いてくる。

これは、今までは巨人を倒すための兵士だったが、これからは人を殺さなければならない事への不安の表れだろう。

オレとしては、巨人を殺すのも人間を殺すのも同じことだ。

だが、普通の考え方ではそれが出来ないのだろう。

 

「やる事は変わらない。

自由を得るために戦う」

 

オレはそう淡泊に言う。

それだけで気持ちが変わることは出来ないだろう。だが、ゆっくりとでもその気持ちを持って貰うことが重要である。

 

「うぅ…心配だなぁ。

私に出来るかな」

 

「すぐにその気持ちを切り替えろとは言っていない。

苦しいときは仲間と分かち合えば良い。

皆も人を殺すことへの免疫は無いだろうからな」

 

「そ、そうだね。

その時はキヨンに頼もうかな」

 

「オレか…」

 

「だめ?」

 

「いや、駄目ではないが、オレより適任はいると思うぞ?」

 

「キヨンは…人を殺すことに躊躇しないし、他人を駒のように扱ったりする」

 

驚いた。

ミーナにはオレの心情を理解しているようだ。

ミーナの話はまだ続く。

 

「でも…ん〜だからこそ、かな…キヨンは人の気持ちを的確に理解してくれるでしょ?

それで、ちゃんと話を聞いてくれる。

女の子は基本的に話を聞いてくれるだけで、気持ちが楽になるものだからね。共感して欲しいんだよ共感をさ。

それをキヨンはしてくれる。

そして、その話がどんなであれ、受け止めてくれるだけの器がある。

だから皆、キヨンを頼るんだよ」

 

そう言ってオレと視線を合わせる。

そして、ミーナはこう続けた。

 

「だからさ…キヨン。

私はキヨンと居られることに満足している。そして、駒として扱われることに不満は無いよ。

だって、その先に自由があるんでしょ?」

 

不思議な感覚だな。

ミーナから特別な視線を受けていることには気付いていた。だが…駒として扱われることは、不満を感じると思っていた。しかし、それは逆だったか…

 

「 ああ。そのつもりだ」

 

ミーナはミカサの逆側に座り、オレの手を握ってもう一度問うてくる。

 

「私達を勝たせてくれるんだよね?」

 

「当然だ」

 

オレはそう返す。

ミーナの目を見て本心で。

 

「ふふっ。なら、これからも一杯私達を使うと良いよ」

 

「分かった」

 

ミーナと出会ったとき、そして訓練兵を卒業するまでは、普通の女の子だと思っていた。

巨人を見たことがなく、周りの意見に流されやすい。そんな何処にでもいる普通の少女だった。

それが今では、自分の意見を言えるようになっている。

オレが見ていない所でも皆は着実に成長している。

良いことだ。

 

「そろそろ、ミカサを起こすか」

 

その後も雑談をし、ミカサの番になったのでミカサを起こす。

オレ寝られなかったな…まぁミカサを起こしたら寝よう。

 

「そうだね。ミカサー!」

 

「んぅ〜?」

 

ミカサは少し寝癖がついていた。

 

「寝癖がついてるぞ。

顔を洗うついでに直してこい」

 

オレがミカサにそう言うと、すぐさまオレに背中を向け駆け足で水場まで走っていった。

 

何だ?

 

「ミカサ…」

 

「どうした?」

 

「ん~ん、私は寝るね!」

 

そう言ってオレの肩に頭を乗せ寝てしまった。

こいつら…

 

ミカサが顔を洗って戻ってくると、オレを見て一瞬睨まれた。

そして、オレの横に座る。

 

「お前、見張りだろ?」

 

「ミーナもこうしてたじゃない」

 

「…」

 

そう言われてしまえば何も言い返せない。

もう寝ようと思ったが、それをミカサは許してくれなかった。

下らない話題で話をして、寝かせまいとお茶を出される。

なるほど…皆が成長している訳では無いようだ。

ミカサはこの我儘なところが完成形なのかもしれない。

 

オレはそう思いながら、この長い夜を過ごした。

 

最後は、一人淋しく。眠たい目を擦りながら。

 

 

 

 

超ショウモナイおまけ

 

 

キヨンの初めての感情

 

その壱『罪悪感』

 

訓練兵の生活が慣れた頃、オレは分析しきれていないことがあった。

それは、サシャの馬鹿さだ。

こいつの行動、知力はまだ分からない。

それは知っておかなければ後々、重大な事件に繋がりかねない。

だから、今、問題行動をしてでもサシャの馬鹿さを理解しなければならない。

 

オレは食堂で1人で、黙々と食べているサシャに声を掛ける。

 

「サシャ…お前に頼みたい事がある」

 

「あ〜いつものですね。なんですか?

今回はパン何個ですかね〜?デュフフフ」

 

気味の悪い笑みを浮かべるサシャに真剣な表情でオレは言う。

 

「今回は重要任務だ。

だから、成功すれば肉を食わせてやる」

 

オレがそう言うと、サシャはパンを食べる手が止まった。そして、ゆっくりとオレの方を見る。

その目は狂気的ではち切れそうな程、目が開かれている。

 

「えっ…え、うっ…え…?そ…そんな馬鹿な…」

 

「本当だ。オレが今までサシャに嘘をついたことは無いだろう?」

 

「え、ええ!そうですね!!!!そそそそそそれでその任務とはぁああ!?」

 

オレの手を握って上下に振りながら聞いてくる。

かなり興奮しているようだ。

 

「一度しか言わないぞ」

 

「はい!!」

 

「今から教官室に行って肉を盗んで、オレにそれを届けてくれ。そしたら、お前には肉をくれてやる」

 

さぁ…どうでる。

 

「わ、わわわわ分かりました!!」

 

そう言って、食堂を出て行った。

まじか、あいつ。

 

そして、その日の夕方。

 

「キヨン!!お届け物です!!」

 

まじか、こいつ。

そして、日が完全に沈んでから、サシャと2人で森の中を歩く。

暫く進むと、湖が見えてきた。

そして、焚き火も出来そうな広場があった。

そこで、肉を焼くため石で囲い、薪に火を点ける。

そして、肉を焼き塩をかける。

サシャの方を見ると涎が垂れていた。

 

「サシャ涎が垂れてるぞ」

 

オレはそう言って、サシャの涎をタオルで拭く。

 

「ありぃがとぅござぁいまぁすぅ。はぁはぁ」

 

お礼を言われてるとは全く思えないな。

焼けた肉を切って、サシャに渡すと直ぐに齧り付いた。

 

「んんんんっめぇ~!!!!」

 

サシャの咆哮はこの綺麗な湖には似合わない。

オレも食べる。

おっ…美味い…久しぶりの肉だからか?

 

「ふふふ。キヨンも食べている時は可愛らしいですね…ふふふ」

 

と、サシャに揶揄われた。

 

「ですが…キヨン…うぅ…ごほっ…うぅ〜あなたと言うお人は……」

 

サシャは急に泣き始めた。

何だ?情緒不安定か?こいつ。

 

「本当に…いえ…やはり…神様ですか!?

肉を分けてくれるなんて…こんな良い人がいて言い訳がありませんよぉお!!

あなた…そんな良い人なら…今後騙されますよぉ。

お気をつけてくださいね〜」

 

号泣しながら、オレにそう言う。

や、止めてくれ。

こいつ…馬鹿すぎる。

未だに気付いていないのか…

その肉はお前が盗んできた物だ。何故分からない…

そして、その涙ながらにオレを褒めたたえるな…

何か初めての感情が心の中を埋め尽くしていた。

 

「あ、ああ。気を付ける」

 

食べ終わったオレ達は宿に戻り、颯爽と寝ることにした。

 

翌日

 

「おい…食料庫から肉が無くなっているが?」

 

怖い顔をした教官が、ドアの隙間から皆にそう聞いてきた。

 

「サシャが盗んだからだと思われます」

 

ミカサが適当にそう言った。

サシャは一気に真っ青になり、声が出ていない。

カクカクとオレの方を見てくる。

オレも裏切るしかない。

 

「サシャが盗んだからだと思われます」

 

「 また、お前か…今日もずっと走ってろ。今日は飯抜きだ」

 

「ひえええぇ〜〜〜!!」

 

悲壮な顔をするサシャを見て、また良くわからない感情が出てきた。

 

あーそう言えば、サシャの分析は…不可。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キヨン vs ケニー・アッカーマン

 太陽が顔を出すと同時に身体に暖かさが染み渡る。

 もうすぐ夏が終わりそうだ。

 夜は何か羽織らないと寒くて寝られない。だが、この夜は特に厚着をせずとも、寒いと感じることは無かった。なぜなら、両側から二人の身体が密着しており、常に温かみを感じていたからだ。

 そんな、ひっついて離れない2人を起こそうと肩を揺らす。

 

「「うぎゅ…」」

 

「もう朝だぞ。起きろ」

 

「ん…」

 

「おはよう…キヨン」

 

「おはよう…ミーナ。

おい、ミカサ。さっさと起きろ」

 

 ミーナはすぐに起きて顔を洗いに行ったが、ミカサはなかなか起きようとしない。

 

 仕方ない…

 

 オレはミカサを抱えて水場まで移動する。

 タオルを見ずに濡らし、ミカサの顔を拭くとようやく目が覚めたようだ。

 

「おはよう。

あ、後は自分でするから」

 

「そうしてくれ」

 

 恥ずかしがるミカサを置いて、オレも自分の支度をする。

 

 

▽▽▽

 

 

憲兵団、新兵の宿。

 

「さむ…」

 

 目が覚める。

 もうすぐ冬か…

 この寒さはどうにも慣れない。 

 ベットから出たくない季節になり、一生布団にくるまっていたい…

 だけど、王都は混乱し憲兵団である私が出て行かないわけにはいかないので、サッと立つ。

 こういうのは直ぐに立たなければ、ずっとベットにいてしまう。

 食堂に向かい、一人で朝食を取る。

 この一人の時間を求めていた。

 私は元々、一人が好きだっし。

 だけど…一人になったら一人なったで…さみしい。

 はあ…全部あいつらのせいだ。

 芋を盗むやつもいれば、馬鹿面と馬鹿のようにケンカしかしないやつらと居たせいで、私はおかしくなった…

 

「はぁ…」

 

 唯一の食事という至福の時間に自然と溜息がでてしまった。

 

「どうしたの?」

 

 ヒッチが私のため息を聞いて、近づいてきた。

 目を丸くし驚いている。

 そんなに私のため息は珍しいのかな…

 

「いや…なんでもない」

 

「あんたらしくないじゃん」

 

「ほっといてよ。疲れが溜まってるだけ」

 

「俺は逆に清々したがな。

腐った憲兵を正すためには、根源から直さなければならない。その根源的な王政が、今!代わるんだからな!

これからの時代に期待が持てるだろ!」

 

 そんな私の心情を理解せず、自分の気持ちを語ったマルロ。

 マルロは王政の悪事を知り、驚きよりも嬉しさが勝っていた。

 まあ…マルロらしいね…

 

「あんたらしいね」

 

 私はそう言い、最後の一口を口に入れ席を立つ。食堂を出て、任務前にブラブラ街の様子を見に行った。

 憲兵団の服を着て、念の為、立体機動装置も装着しておく。

 

 30分程歩いていたと思う。

 

『ザッザッ…』

 

 自分の足音……いや…違う。

 3分。5分。やはり、付けられている。

 

 街道を通っており、殆どの住民がシーナの方へ行っているとはいえ、ちらほらと住民はいる。

 路地裏へ行けば、必ず襲ってくる。

 もし、ここで戦闘になり巨人となれば、 今までの計画が全て無駄となる。だから、当然ここで戦闘は出来ない。

 そして付けられている理由は、手紙の件だと理解した。

 

 …あの黒い長身の男も付けている…?

 そんな気がしてならない。

 一度憲兵の宿に戻るべき…?

 いや…駄目。それでは、周りを巻き込むかもしれない。

 

 不安な気持ちが押し寄せてくるのを抑え、何をするべきかを考える。

 本来なら、キヨンとは昨日落ち合う筈だった。

だけど、ローゼが破壊されたかもしれないとの情報で、調査兵団はそちらに向かわなければならなくなった。

 

 でも、ここで重要なのは、キヨンは既にこの壁の中には帰ってきていること。

 今日このシーナの街に戻ってくるだろうか?

 自分で助けを求めるべき…?

 

 ローゼ南方に行ければ良いけたら良いけど、平原の距離がありすぎる。途中で馬を撃たれたら立体機動で移動できる建物や木がない。

 

 もう少し近い場所…

 そして、キヨンなら見つけてくれる場所。

 

 焦り、思考が不安定となった脳を懸命に働かせ、思い出す。

 

 あの場所しかない。

 

 路地を曲がると同時に立体機動で逃げる。

 馬小屋に移動し、馬を走らせ逃げる。

 後ろからはやはり、付いてきてる。

 三人。やはり、長身の男もいる。

 後ろから、銃声が聞こえる。体勢を低くし、少しでも当たらないようにする。

 

 目的地までが遠く感じる…

 

 調査兵団の馬じゃないため、1時間以上はかかる。

 それでも馬を走らせる。

 全速力で草原を駆け抜ける。

 やがて、馬は疲弊し速度が落ちる。それは相手もだけど、銃弾が当てやすくなってしまった。

 

『パァン!』

 

 馬に命中し、馬がそのままの勢いで倒れていく。

 私も馬から放り出され、地面を転げ回る。

 でもこんなの、慣れっこだ。すぐに立て直し走る。

 運良く倒れた馬が障害物となり相手の馬も巻き込んでくれた。

 走って走って走って走って、ようやく森に入った。

 直ぐに立体機動に切り替えて逃げる。

 相手も同じように走って追いかけてくる。私が立体機動に切り替えたことで、逃がすまいと銃を発砲してきた。

 

『パァン!』

 

 元々殺すつもりは無かったのだろう。急所には当たらなかったものの、腕をかすり血が流れる。

 

「最悪…」

 

 でも、私では巨人化してもあの男には勝てないと分かっている。だから、怪我なんて関係ない…キヨンが来てくれるのを信じて逃げ続ける。

 

 

▽▽▽

 

 

 朝食を取ってから、エルヴィン団長達の帰りを待つために馬に乗って散開する。

 上空に上がった緑の煙弾を確認し、その場に集まる。

 

 その場に移動してから暫くすると、エルヴィン団長達が馬を駈歩でこちらに向かってきていた。

 オレ達も駈歩で馬を走らせ合流する。

 オレだけはエルヴィン団長に報告があるため先頭に居続けた。

 

「今回もご苦労だった。どうだった?」

 

「何処かの村の人間を巨人に変えた主犯と戦闘になりました。

行動不能まで追い込みましたが、別の知性巨人に奪われ逃げられました。」

 

「そうか」

 

 特に驚いた表情を見せない。アルミンに聞いたからだろうが、もう壁が破壊された訳では無いことは理解しているようだ。

 

「ミケ分隊長は間に合いませんでした。」

 

「そうか」

 

 オレの報告を淡白に返す。

 長い付き合いの人が死んだが、悲しそうな表情は一切見せない。

 

「報告は以上です」

 

「分かった。巨人に変えられた村は、ラガコ村の可能性が高い。

そこには身動きの取れない巨人が居た。」

 

「そうですか。オレはこれで。」

 

「ああ」

 

 オレは後ろに下がる。

 コニーを見かけたが、顔が真っ青で覇気が感じられない。

 オレは持ち場に行かず、ヒストリアの所へ移動する。

 

「ヒストリア」

 

「キヨン!良かったぁ〜無事だったんだね!」

 

「ああ。コニーはどうだ?」

 

「コニーは…その、自分の家に巨人が寝そべっていて…それが…お母さんに見えるんだって……」

 

 まさか、さっき聞いた巨人がコニーの親だったとはな。

 

「そうか。それがコニーの親だろうな」

 

「やっぱり、そうだよね…」

 

「ヒストリア、頼みがある。」

 

「ん?なに?」

 

「ユミルとサシャと共にコニーと一緒に居てあげてくれ。

昨日、獣の巨人と戦った。そいつが、ラガコ村の住民を巨人に変えたのだろう。

それが、コニーに知られれば、1人で獣の巨人を殺しに行くかもしれない」

 

「うん…分かった。要は見張りと慰め役ってことね」

 

「そうだ。頼んだぞ」

 

 オレはそうヒストリアに伝えて持ち場に戻る。

 暫く走り続け、エルミハ区の門に到着した。このまま、王都に向うのだろう。

 エルミハ区はシーナに繋がるシガンシナ区やトロスト区のような出っ張った所だ。普段のエルミハ区は、活気が溢れていて賑わっている所だと聞いていたが、人の気配が全く無い。

調査兵団は3列でエルミハ区の中を駆け抜ける。

 すると、シーナに繋がる門付近で人が密集していた。

 住民はシーナへ入っていく人でごった返している。

 住民の手には木の棒や包丁、中には銃を所持している者までいる。

 やがて、住民は調査兵団の馬の足音に気付き、後ろを見る。

 

「調査兵団が帰ってきたぞおおー!」

 

 一人の住民の叫び声で、一斉に後ろを向く。

 

「エルヴィン団長!ウォール・マリア奪還の進捗はどうですか!?」

 

「エルヴィン団長!!王政がずっと壁の秘密を隠していたんですよ!」

 

「私の息子は…あいつら、王政に殺されたも同然です!」

 

「エルヴィン団長!我々も協力します!!共に王政を打倒しましょう!!」

 

 住民は口々に、エルヴィン団長に向けて言う。

 協力してもらえる。そう思っているのだろう。

 エルヴィン団長が手を前に出し、住民を静かにさせる。そして、片腕を空へ突き上げ声を高らかに言う。

 

「ウォール・マリア奪還は目前!

巨大樹の森に拠点を作ることに成功した!

人類はまた一歩前進した!」

 

「「「うぉおおおおお!!!」」」

 

 エルヴィン団長から朗報を聞き、住民の歓声が更に騒がしくなった。

 その住民による歓声はドミノ倒しのように連鎖していく。

 恐らく、王都の前で突撃の準備をしている住民達にも聞こえただろう。

 

「すまない。通してくれるかね」

 

 住民を掻き分けて前に出たのは、ピクシス司令と総統だった。

 

「エルヴィン。帰って来るのを待っておった。

わしらは王政を打倒する。

協力してくれんかの?」

 

 ピクシス司令がエルヴィン団長に協力を願い出た。

 エルヴィン団長とピクシス司令が話し合う中、リヴァイ兵長がオレのところまで歩いてきた。

 

「おい、多数の死者は出ないんじゃ無かったのか?衝突になるぞ」

 

「オレは住民の死人が出ないと言っただけですよ」

 

 そう。駐屯兵団、調査兵団、総統が引き連れる兵士、そして憲兵団。これだけの兵団が動けば、王家と中央憲兵だけでは止められない。

 つまり、住民はもう不要だ。住民はよくやってくれた。住民が行動を起こしたおかげだ。

 このままでは、住民は突撃し死者が多数続出する。

 それを防ぐ為には、ピクシス司令は動かなければならない。

 この人が動けば、総統も動く。

 この2人が動くなら、調査兵団も動かざるを得ない。

 そして、それは憲兵団も同じことだ。

 

「ちっ…」

 

 リヴァイ兵長は舌打ちをして、前に戻って行った。

 もう、ここでオレの役目は無いだろう。だが、やるべき事はまだある。

 

 アニを早く回収しないとな。

 

 何か嫌な予感がする。

 

 当初の計画より、巨大樹の森から早く帰還したが、色々あって予定より少し遅くなってしまった。

 もし、中央憲兵に手紙の件がバレてしまったなら、捕らえようと動くかもしれない。

 巨人になれば勝てる可能性はあるが、そんな事を街中ですれば、今回の事件が白紙になり、最悪の場合、調査兵団が痛手を負う。

 だから、追手が迫ってきているのならアニは逃げるだろう。

 オレは辺りを見渡し、何か手掛かりとなるものを探す。

 壁の上に、憲兵団が立っているのが見えた。

 あれは…新兵か…?

 顔つきからオレと同じ歳くらいだと分かった。

 今、立体機動で移動するのは規則違反だが、仕方ない。

 

 オレは馬を離れ、壁にアンカーを刺し上へ登って行く。

 

 壁の上には2人の憲兵団が居た。驚きながらも、こちらに近づいて来る。

 

「104騎調査兵団のキヨン・ジェイルーンだ。

アニ・レオンハートを知らないか?」

 

 そう聞くと、2人は顔を見合わせ女の方が教えてくれた。

 

「あんた、南方訓練兵?

アニは知ってるけど、どうしたの?」

 

「今、何処にいるか分かるか?」

 

「それが、今朝までは一緒に居たんだけど…急に居なくなっちゃったんだよね…

全く…何処で何してるんだか…」

 

「ああ…でもアニが任務を放棄するなんて考えられないんだよな。

無事だと良いんだが…」

 

 女子に続き、おかっぱ頭の男がそう言った。

 やはり…嫌な予感がする。

 これは、経験則から来るものだ。

 危険だ。何かある。それを直感で捉えた。

 これで、何もなければないでそれで良い。

 だが、何かあった時はもう遅い。

 

「ありがとう。助かった」

 

 オレは壁を飛び降り、立体機動で地面に着く瞬間だけ、ガスを噴射しオレの馬まで移動する。

 

「おい、キヨン。何かあっ…おい!」

 

 オレは馬に乗って走らせる。

 誰かが、オレに声を掛けてきたが、聞いている暇はない。

 エルミハ区をでて、南西へ向う。

 

あの場所しかない。

 

 アニなら、オレに見つけてもらえるようにあの場所に向うだろう。

 そして、そこでならもし巨人化しても、人が離れている今なら大丈夫だ。

 

 襲歩で走らせる。馬には負担をかけるが、仕方ない。

 1時間もかからず到着した。

 

 ここは、訓練兵養成所。

 

 馬から離れ、立体機動で湖の付近まで来た。

 近くで、立体機動の音が聞こえる。

 

「お父さんから逃げるタァどう言うことだぁ?」

 

 男の声も聞こえる。

 お父さん??よく判らないが取り敢えず立体機動で移動し、跡をつける。

 アニは少し怪我をしてるな。追い詰められているように見える。

 追いかける側は、三人だった。

 先頭の男は、明らかに異質だ。この感じ、リヴァイ兵長と同じだ。ナイフを持っており、先程からアニに対して良くわからないことを発している。

 後ろの2人は銃を構えている。

 

 木を蹴ると同時にガスを噴射。

 

 トップスピードで、後ろの2人の首を両断する。

そのまま、男の首を斬ろうとしたが、ナイフで止められた。一度男から離れて木の上に立つ。

 

「あぁ?何だぁ?てめぇは」

 

 男は少し顔を顰めたが、すぐに戻して聞く。

 大方、気配に気付け無かったことに疑問を抱いているのだろう。

 

「こんなところで、少女が極悪非道の中央憲兵に追いかけ回されていたんだ。助けて当然だろう」

 

 アニとは関わりのない人のように振る舞う。

 

「俺達が中央憲兵に見えたか?この盗賊みてぇな服を着てるのによお?」

 

「当然だろう。誰かから逃げなければならない奴は、決まってそう言う服を着るからな」

 

「はっははは!確かにそうだなぁ!」

 

 そう言って、こちらに立体機動で一気に詰めてくるが…

 

「やめといた方が良いと思うぞ?」

 

 オレは全力で威圧する。

 

「っ…はっ…!?まさか、この狭え壁の中にお前見たいなのが居るとはな…

聞くがお前…アッカーマンか?」

 

 男は近くの木に止まり、そう聞いてくる。

 アッカーマン…?ミカサの姓がそうだ。

 

「いや、違う」

 

「なんだ、違えのか!

俺はてっきり、あのチビに息子でも出来たのかと思ったんだがな…

あいつも、もう30は超えているだろうしな」

 

リヴァイ兵長のことか?

 

「アッカーマンってのは何だ?」

 

「それをアッカーマン家じゃねえやつに教えるこたぁねえだろ?なぁ!!」

 

 そう言って、今度こそオレに向かってくる。

 

 オレの刃と男のナイフが衝突する。

 男は隠していたナイフを左手で出しオレに突刺そうと腕を伸ばす。オレもそれは読んでいたため、男の左腕の肘裏を押さえ、右手で男の左手の甲を押す。

 伸ばされた腕が、そのまま相手の顔を目掛けて返っていく。

 

「うぉっ!?あぶねぇ」

 

 男は避けながら、回し蹴りをしてくる。

 

「あぶねっ」

 

 今度はオレがそれを避ける。

 そして、相手の胸辺りに腕から手の先までをピンと伸ばし、脱力した身体を硬化させるように手を拳に変え、男の胸を押す。

 

『ドンッ』

 

 と言う音ともに少し吹っ飛ぶ。

 ちっ…心臓はそれたか。

 だが、ここまではただの探り合い。

 

「ゲホッ…ゲホゲホ…何だ…その武術は?知らねぇ武術だな…」

 

 当然、それを答えたりしない。

 殺す相手に情報を与える必要はない。

 

 ここからは本気だ。

 

 オレも男も立体機動でこの森を飛び回る。

 

 何度も刃とナイフが衝突する。

 

「あぶねっ」

 

 男のナイフが飛んできた。それを躱し、向き直ると突っ込んでくる。それも躱し一度距離を取る。

 だが、男の追撃は終わらなかった。

ナイフや石が次々に飛んでくる。それもかなりの速さで。

 それを避けつつ、余裕が出来ればターンし男に向き直る。

 

ゼロからMAXへ。

 

 刃を受け止められるも、再び木を蹴りトップスピードで空中を移動する。

 だが、相手は相当な手練れだった。

 オレのトップスピードに付いてくる。

 もし、アニが巨人化しても勝てるか分からないだろう。

 エレンなら硬質化出来ない以上勝てないな。

 

「ヒャッホー!!まだまだこれからだろ!?」

 

 そんな陽気な声で迫ってきた。

 こいつを倒すには、これだけでは駄目らしい。

 立体機動で空中を駆けたり、時に木の上や地上で四方山な武術で攻めても、どれも決定打とはならい。

 こいつを倒すには、技術、知略、身体能力、全てを出さなければ勝てない。

 

面白い。

 

 空中を移動していたが、ガスを逆噴射し、一時的に空中に留まる。

 その一瞬で男は一気に詰めてくる。

 だが、目の前の木を蹴ってトップスピードでこの場を離れる。

 そして、今度は男の元にトップスピードで詰める。だが、また空中で留まる。それに合わせてナイフを投げてきた。

 もう一度、近くにある木を蹴って移動しナイフを躱す。

 

 トップスピードで移動し、一瞬何処かで留まる。

 それを繰り返す。

 

 やっていることは単純。

 速度の緩急。

 だが、この緩急が相手からすると、意外にタイミングを合わすことが難しい。

 

 だが、人は適応力が高い。

 

 そして、強い奴は皆、適応力が異常に高い。

 

 それは、戦闘時に発揮される。

 

 だから、今回もこの緩急に直ぐ慣れるのだろう。

 

 慣れなければ、死ぬ。適応しようと神経を尖らせる。

 

 そう。それは本能だ。極限の中で適応力は本領を発揮する。

 適応することへ、全神経を全て使う。

 

 なら。それを利用すれば良いだけだ。

 

 オレが止まる瞬間を狙って男は突っ込んで、ナイフを突き刺すように腕をのばす。

 そこで、止まる筈のオレはそのまま通り抜ける。

 男は少し、驚きオレを目で追った。ほんの一瞬に過ぎない。だが…それで十分だ。

 男はすぐに目線を戻す。

 オレが止まるはずだった場所を。

 

「っ…!?」

 

 そこに置いてきたのはナイフだ。

 男が散々投げていたナイフを逃げ回るときに回収していた。

 そのナイフを空中に置くように捨てた。

 当たっても、少しかすり傷が出来るだけだろう。

 だが、この戦闘中にナイフがいきなり目の前に来れば、誰だって驚く。

 男は躱そうと身を捩る。

 

今だ。

 

 男を串刺しにするために、木を蹴り、トップスピードへ。

 

 だが、態勢を崩しながらもナイフをこちらに向けて突く。

 

「あぁ!?」

 

 オレは空中で少し止まり、刃を投げた。

その刃を弾いたため、完全に態勢が後ろを向いた瞬間を狙って、男に接近する。

 だが、それでもまだ警戒は解かない。

 先ずは脚を斬る。

 

「がぁっ!?」

 

 それでも男はナイフを振りかざしてくる。向けられたナイフを弾き腕を斬ると、男は地面に落ちて行った。

 

「ゴフッッ…」

 

「リヴァイ兵長に何か伝えておこうか?」

 

オレは死にかけの男に問いかける。

 

「ねぇよ………なぁ…俺が悪かった!勘弁してくれよぉ…俺はもうこんなんだから何も出来ねぇだろ?だから、許してくれよお」

 

「悪いな、感情を剥き出しにしたあんたをもっと見ていたいとは思うが、そんな時間も無いんだ」

 

「ごふっ」

 

  胸辺りに刃を突き刺す。

  男の命を刈り取った。その時、何か硬いものに触れた気がした。

 男の胸ポケットを見ると、何やら注射器が入った箱が出てきた。

 何だ?これは…

 一先ず、ここにまだ敵が居ないかを確認する。見渡して気配を探りながら。

 

 居ないな。

 

 ふぅ…と一息つく。

 オレはアニの元へ向う。

 

「遅くなって悪かったな」

 

「い、いや…大丈夫」

 

 顔を背けて、アニは言う。手が少し震えてるな。

 あんな男に追いかけ回されたんだ。無理もない。

 そんなアニに、オレは静かに抱き寄せる。

 

「えっ…ん…っ!?」

 

「怪我は?」

 

「も、もう修復したから」

 

「そうか」

 

 そう言って暫く抱き寄せていた。

 アニの震えが無くなったのを感じ取り、離れる。

 若干頬を赤らめたアニに話しかける。

 

「 この男をミカサかリヴァイ兵長に確認したい。今日はもう、ここを離れよう」

 

「うん…分かった」

 

「アニ、これは何か知ってるか?」

 

 先程見つけた箱をアニに見せると、目を見開き、驚愕していた。

 

「こ、これ…巨人になる…薬」

 

 なるほど。これがそうなのか。

 

「そうか。教えてくれてありがとう」

 

 固まっていたアニの背中をポンと叩き、馬の方へ向う。やはり…四肢を切断しても死体ってのは重いな。

 

「そう言えば、アニの馬は?」

 

「馬を撃たれちゃって…」

 

「そうか。なら…………オレの馬で帰るしかないか」

 

「う…うん」

 

 そんな訳で、オレの馬にアニ、オレ、ケニーの順で乗る。

 また、馬には負担を掛けてしまうな。

 常歩で移動するため、偶にオレかアニが歩いて少しでも馬の負担を減らす。

 途中何度も休憩をいれながら歩く。

 着くのは、朝になるだろう。仕方ないか…

 

「アニ。前に聞いたジークと言う男がこの島に来ている。」

 

「えっ…!?」

 

 驚嘆の声を漏らし、振り向く。

 やはり、アニも知らなかったか。

 

「獣の巨人を戦闘不能に追い込んだが、車力の巨人によって奪われてしまった。

戦槌の巨人は来ていると思うか?」

 

「え…倒したの?ジーク隊長を?」

 

「ああ…この男の方が手強かった」

 

「そう…あ、ピークさんも来ていたんだ。

戦槌の巨人は来ていないと思う。マーレの物じゃないし、前線に出たことはないから」

 

「そうか」

 

「まだ…戦わないといけないんだね…」

 

 アニは自分の得意の武術を使っているときは楽しそうなんだがな。

 格闘技が好きでも殺し合いは嫌いということだろう。

 

「戦争がそんな直ぐに終わったら、今頃全世界は戦争のない平和な暮らしをしているだろう。

辛いのは分かる。

だが、やらなければ戦争を終えることは出来ない」

 

 それはアニも分かっているのだろう。

 だが、分かっていても少しずつ不満は積もっていく。

 

「なあ、アニ。見に行こう。

あの湖だけじゃない。この壁の中にも、パラディ島にも綺麗な景色は数多にあるはずだ。

そして、戦争が終われば世界の色んな景色を見に行こう」

 

「ふっ…景色ばかり」

 

 アニは小さく笑った。

 

「それも自由だろ?」

 

「はははっ。そうだね」

 

 今度は普通に笑った。

 

 そして、夜に差し掛かり、長い夜を前からは温もりを貰い、後ろからは徐々に冷たさを与えられ、移動することとなった。

 

 朝日が昇ると同時に宿へ着いた。

皆も丁度帰ってきたようで、宿の前でばったりと出くわした。

 

「キヨン!!それからアニも!」

 

 ヒストリアが駆け寄ってくる。

 

「もうホントに心配したんですよ。どこかへ行ってしまいますし、朝まで帰ってこないですしで」

 

「うん、ホントに無事で良かった……無事なの?

血が…」

 

 ヒストリアはオレの身体に付着している血を見て心配そうな顔になった。

 ヒストリアの頭に手を乗せ安心させる。

 

「大丈夫だ。これは返り血で怪我はしていない」

 

「そっかぁ良かった。アニも無事?」

 

「うん。大丈夫」

 

 アニは修復したからな。

 

「それよりも、ミカサに聞きたいことがある」

 

「なに?」

 

「この男を知っているか?」

 

 オレは胴体と頭、首だけの男を見せる。

 ミカサは特に嫌な顔せずに答えた。

 

「知らない」

 

「そうか、分かった」

 

「おい…ケニーじゃねえか」

 

 ここで、リヴァイ兵長が割って入ってきた。

 

「知っている人ですか?」

 

「ああ。こいつは 憲兵 を100人以上殺した切り裂きケニーだ。」

 

「ですが、こいつは中央憲兵にいましたが…」

 

「…こいつが何故、中央憲兵にいたのかは知らん。だが、よくこいつを倒したな」

 

「ええ。ギリギリでした。

こいつが老体でなければ負けていたかもしれません。」

 

「そうか。王政の方はもう殆ど終わっている。

死人もこちら側は出ていない。

あとは、本物の王家が何処にいるのか…まだ生きているのかを吐かせるだけだ」

 

リヴァイ兵長が簡単にそちらの状況を教えてくれた。

 

「そうですか」

 

「それまでは、俺達は休みだ」

 

「分かりました。

 リヴァイ兵長。これを内密にエルヴィン団長に届けてくれませんか?」

 

「何だ…これは?」

 

「巨人になる薬をこの男が持っていました。一本しかないので気をつけてください」

 

「これが…?了解した」

 

そう言って、リヴァイ兵長は去っていく。

 

「アニ、一先ず宿へ入ろう。

疲れただろ。少し寝よう。」

 

「うん、分かった」

 

 皆を連れ宿に入り少しだけアニの事で付き合った後、食事も取らぬまま寝床に向かった。

 身体を清めた後、布団に入り目を閉じる。

 

 ふぅ…疲れたな。

 2日間寝ていないからな…

 

 

 この壁の中の件は殆ど終わったが、まだ重要な事が残っている。

 本物の王家。始祖の巨人の行方。

 それが終われば、ライナー達のことだ。

 それで、ようやく一段落が着く。

 

 そのまま眠りについた。

 だから知らなかった。

 食堂では、今、正に戦争が起きていたことに。

 オレは起きてからそれを知ることになる。

 

 




中央憲兵団がいつから新型立体機動を使用していたのか、分からなかったので今回は旧型にしました。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

女子会

 

 調査兵団…新兵の宿。

 

 偶然か必然か。

 まだ昼だと言うのに、食堂には女子だけが揃っていた。男子はもう皆自室に戻っている。

 

 食堂の空気は…重い。その一言に尽きる。

 それはアニ・レオンハートがいるからだ。

 以前から、アニが壁の外から来たことを知っている者は数人いる。だが、知らない者が多数を占めていた。

 アニはキヨンが寝る前に、勇気を振り絞り食堂で皆に壁の外から来たことを話した。

 

 アニが敵ではないと皆は分かっている。

 それは他でもないキヨンがそう言った。

 最も実力のある一人で皆から慕われている男が、アニは仲間だと言った。

 そして、キヨンは皆の前で頭を下げ、アニを許してやってほしいと言った。

 だから、誰もアニを敵だとは思っていない。

 だが…それでもウォール・マリアを破壊した超大型巨人の仲間と言うことが消えることはない。

仲間だと分かっていても許せないのが、人の心である。

 

「謝って済む話ではないことは理解している。

でも…ごめんなさい。」

 

 アニは再び、食堂にいる皆に向けて謝罪の言葉を述べた。

 食堂はシーンとした空気になっている。

 冷たく重い空気が淀んでいた。

 

「皆!アニのことはもう話したでしょ!

仕方ないんだよ!

マーレがしたことは洗脳なんだから!」

 

 アニを庇うようにヒストリアが立ち上がって、皆にそう言った。

 だが、それでも皆はシーンとしている。

 そんな皆を見てユミルが口を開く。

 

「ったく…てめぇら、クリスタにここまで言われても理解でねぇのか?

お前らは王政が作った歴史書を読んで、壁内人類以外は絶滅したと信じ込んでいただろうが。」

 

 その言葉は皆の心に届いただろう。

 今まで、王政の闇を知らなかった。

 王政の言う事が絶対であり、それが真実なんだ

と、誰もがそう信じていた。つまり、一緒のことである。

 

「その通りだよ!

私達はもう分かり合えたんだから、啀み合う必要何て無いんだよ!」

 

 ヒストリアがまた皆にそう言った。

 

「ええ!そうですよ!

私達はもうちゃんとした仲間ですからね!」

 

 と、サシャがそう続くが…

 サシャの右手に持っている物はパンであり、それは先程アニから譲ってもらった物だ。

 だから、サシャに言われても説得力に欠ける。

 だが…

 

「そうね。

もう私達で争う必要はない。」

 

 ミカサがそう言った。

 ミカサに言われれば、誰も反対することは出来ない。

 

「まっ!

皆もまだ思うところはあるだろうけどさ!

これから時間をかければ、訓練兵の時みたいに戻れるよ!」

 

 と、最期にミーナが言う。

 トロスト区襲撃時から少しずつ成長していったミーナは、女子を纏め上げるリーダー的存在となっていた。

 ミカサもサシャもユミルも一人か特定の人物としか居ないため、皆を纏める役ではない。

 ユミルの言葉から始まり、中心人物のミーナにそう言われてしまえば、もう誰も否定的な雰囲気を出したりはしない。

 

 食堂の雰囲気も段々と戻っていき、雑談をし始めた為、ガヤガヤとしている。

 

「そう言えば、アニはどこまで逃げていたの?」

 

 ヒストリアがそうアニに聞く。

 純粋に気になっていた事だ。

 次の日の朝まで帰ってこず、何をしているのかと思えば、死闘を繰り広げていたようだった。

 そして、キヨンはもう眠りに就いてしまい、聞く相手がアニしか居ない。

 

「訓練所まで…」

 

「え?何でそこまで?」

 

「それは………その…キヨンに見つけて貰うために…」

 

 アニはヒストリアが目の前にいる為、何と言おうか迷ったが、そう素直に答えた。アニがそう言うと、食べる手を止めてアニを見る女子が多数。

 

「……何で…?」

 

「…まぁ…ストレスが溜まった時とかにちょっとね…

キヨンに教えてもらった場所だし…偶に一緒に夜景を見に行ってたから」

 

 最後の言葉は小さくボソボソとした声だった。      しかし、恋愛となると地獄耳と化す女子は、この場にいる全員がそれを正確に聞き取った。

 食べる手を止めた女子が追加された。

 キヨンに興味なくとも、異性と夜景を見ると言うのは、年頃の少女にとってはとても羨ましいことだ。

 殆どの女子が面白そうな話に耳を傾ける中、一人ワナワナと震えだす女の子がいた。 

 

「…そう……夜景…ね。

へぇ………そう…良かったねえ。

色々キヨンに使って貰えて」

 

ヒストリアの言葉は何処か言い方に棘があった。

 

「………別に…私自身のためだし。

まぁ…頼って貰えるのは嬉しいけど…ねっ」

 

 アニの言い方は、何処かドヤ顔が伝わってくる。

 

『メキッ』

 

「くっ…頼って…?

へぇ~命懸けの手紙の配達でしょ…

あと…情報を全て吐かされただけでしょ?

そう言うのを『駒』って言うんだよ。

良かったわねぇ〜

『使って』貰えて」

 

 ヒストリアは、駒と使ってと言う部分を強調して言った。

 だが、ヒストリアが気に障るのも無理はない。

未だに、キヨンから頼られることは少いからだ。

 

『メキメキ』

 

「……何?

そっちは、ただ守って貰ってるだけだよね?

子供みたいに扱われて満足?

ホント…羨ましいよ。

甘やかしてもらって…さ」

 

『『バキッ!』』

 

「「ああ?」」

 

 とても、女子とは思えない。二人とも美少女だが、そんな2人から出たとは思えない野太い声が聞こえた。

 そして、先程から何かの音が聞こえていたが、     今、ようやく分かった。

 2人が手に持っていた、木のコップ。

 2人とも握り潰してしまった…

 コップに入っていた水が手に掛かるも、構うこと無く、2人は立ち上がり睨み合う。その視線が交差するところでは、火花が散っていた。

 食堂に居る女子は誰も話さないし、動こうとしない。

 食堂は先程よりも重い重い空気になっていた。

 

「何よ。私だって、頼って貰えるように努力してるの!」

 

「結果に結びついてないね」

 

「あ~そう!よし!やってやる!!行け!ユミル!」

 

 そう言って、アニを指差しして命令する。

 

「何で…私何だよ。

と言うべきだろうが、ここは私がやる。」

 

 いつになくやる気を見せたユミル。

 

「 何?珍しいじゃん。あんたもキヨンに惚れたの?」

 

「…は、はぁ?」

 

 普段なら噛まなかっただろう。

 だが、気が抜けていたのか少し同様してしまったユミル。

 

「ユミル…?貴女もキヨンを狙ってるの?」

 

 グルンッと、ヒストリアはユミルの方を振り返った。

 

「ばっ…そんな訳ねぇだろ!」

 

「…でも…壁外調査のときの夜、ユミル…キヨンに手を繋いで貰ってたから…

あの時は、ただ怖い思いしただけなんだと思ってたけど…」

 

 みるみるヒストリアの顔が暗くなっていく。

 ユミルの顔はみるみる青褪めていく。

 

「ユミル…貴女、精神は60歳なんだから、もう良いじゃない」

 

 ヒストリアがまた無駄な煽りを入れてしまった。

 カッチーンと来てしまったユミル。

 ユミルの顔は青から無へ。色を失くす。

 

「クリスタ…お前とは仲良くやっていけると思っていたんだが…残念だ」

 

「私も残念だよ。

まさかユミルが敵になるなんて…」

 

 ここでも火花が散る。

 一触即発。

 だが、それを止めるべく動いた一人の勇敢な女子がいた。

 

「やめなさい。

そんな事をしても何も生まない」

 

 ミカサの一言に三人がハッとする。

 

「「ごめん…」」

 

「あ~いや…私も熱くなっちまった」

 

「キヨンの事になると、皆さん怖いですね!」

 

「「「うっ…」」」

 

 サシャの言葉は三人の女子に深く突き刺さった。

 

「けど私はキヨンが、私を選ぶことは無いと確信しているし、キヨンと添い遂げたいとは…………………考えてない。」

 

 落ち着きを取り戻したアニがそう言う。

 だが…最後は熟考したようだが。

 

「え?そうなの?」

 

「…うん。だって、キヨンから特別扱い受けてるのはクリスタくらいだしね。

まあ、キヨンと一緒にいるのは気が合うし、一緒に居て落ち着くから…まぁ、その、隙あれば…って感じ…」

 

 アニがそう言い、ヒストリアは全然落ち着けないよ!と突っ込んだが、その後に揉めることは無かった。

 

 

 たが…それはこの三人が…である。

 

「あっ。

そう言えば、ミーナから聞いた話何ですが、キヨンが班を引き連れて獣の巨人を倒しに向かった時、ミカサが珍しくキヨンを心配していたと聞きました。

何か、心境の変化があったのですか?」

 

 サシャがまたしても、いらんことを言った。

 実にサシャらしい。

 カクカクとロボットのような動きでサシャの方を振り返るミカサ。

 サシャの言葉にミカサの動揺を見た女子達は、当然黙っていられる筈もない。

 

「ミカサ何かあったの?」

 

「な、なな何もない」

 

「いや…あったんでしょ」

 

「何も無いって言ってるでしょ…?」

 

 ミカサは怒気を込めてそういった。

 しかし、こう言う時の女は怖いもので…

 睨み合いが始まった。

 

「さぁ!吐け!何をしたのか」

 

 真っ先に動いたのはヒストリア。

 ミカサを掴み逃さない。

 ミカサはそれを引き剥がそうとするが、何故か引き剥がせない。

 

「私も…猛獣に効くのか一度試したかったのよね…」

 

 アニが動き出す。

 その後ろにはユミルとミーナもいる。

 

「ちょっ…本当に何もしてない。

家族として、一緒に寝てくれただけ!」

 

 皆に詰められ、勢い余ってミカサはそう言ってしまった。

 ハッとするミカサ。

 固まる女子達。

 

「いや…だから…私が落ち込んでいたから、一緒に居てくれたの。

家族だし、一緒に寝ることは昔からよくあった」

 

 ミカサはそう皆に説明するが、その言い方は早口だったため、何処か言い訳臭く、寧ろ皆には不信感を与えるものとなった。

 ヒストリア達には不安を与えることになったが、食堂にいる女子達には、面白い話であり、ドキドキしながら、赤くなった頬に手を宛てミカサを見ている。

 

「でも、それは昔の話でエレンも居たんだよね?

今回は2人だよね?」

 

「……家族だから…か、関係ないでしょ」

 

「でも、ミカサはどう思ったの?」

 

 ヒストリアにそう言われ、ミカサは少し顔が赤くなり、反射的にそっぽを向く。

 それを見ていた周りにいる女子達は、キャーと黄色い声を出し食堂に響く。

そんな女子達をヒストリア達が睨み黙らせた。

 

「ちっ違う。

キヨンは家族だから!」

 

「じゃエレンは?」

 

「か…家族…」

 

「ふ~ん……」

 

「も、もう寝よう…離して」

 

 何とか逃げようとするミカサ。

 どうするべきかと考えるヒストリアだが、不満げな表情をしながらもミカサの腕を離し、席に戻った。

 

「そう言えば、何でヒストリアはキヨンのことが好きなの?」

 

 ミーナがヒストリアに聞く。

 それを聞くために、寝床に向かおうとしたミカサも席に戻った。

 

「えっ…」

 

 ヒストリアは理由を言いたくない訳では無い。

 ただ、安易に言っていい内容ではないため、なんて言えば良いか分からず黙ってしまった。

 

「そんなの、雪山の訓練で逸れたときに、キヨンに助けられたからだろ」

 

 ユミルが助け舟を出す。

 

「それで、あの時は大泣きしてキヨンに抱きついていたのですか?」

 

 と、サシャが純粋無垢な表情で、そう言う。

 

「うっ…そう……………ううん。そうじゃない」

 

 ヒストリアは肯定しようとしたが、首を振り否定する。

 言わない方が良いのかもしれない。

 でも、ここまで一緒に過ごしてきた仲間に嘘を付き続けるのも心が傷んだヒストリアは、自分の事を話すことに決めた。

 

「実は…私はシーナで生まれ育ったの。

貴族のような裕福な暮らしではないけど、貧しい暮らしでもなかった」

 

 ヒストリアは過去を話し出す。

 親との関係。

 そして、壁が破壊された日に母を殺され、偽名を与えられ、訓練兵に志願させられたことを、包み隠さず話した。

 

「へぇ〜、本当の名前はヒストリアって言うのね。

じゃあ、王家も潰れたことだし、これからはヒストリアって読んでも良いの?」

 

 ミーナが明るい雰囲気でそう聞く。

 暗い話にはさせない。そんなミーナの計らいをヒストリアは嬉しく思ったのか、笑顔で答える。

 

「うん。

あ、でももう少しクリスタで呼んで欲しい。

キヨンにはまだ、秘密だと言われているから」

 

「ほほぅ。それで?」

 

「??」

 

「いや、そもそもの話の内容は、なんでキヨンに惚れているのか。だよ?」

 

「あ…そ、そうだったね」

 

 ヒストリアは後頭部を掻いてから話す。

 

「それで、その雪山のときにキヨンが、私に過去を話せと言ってきたの。

でも話したらキヨンが消されかねないし、その当時の私は人と関わることが面倒くさいとか思っていた。だから、消されるかもしれないから話せない。と言って断った」

 

「ヒス…クリスタがそんなことを考えていたとは…女子とは、恐ろしい…ね」

 

「ははっそうだね」

 

 真剣な話をしているものの、ときに冗談や笑いが混じり雰囲気が悪いわけではなかった。

 

「でもね、キヨンは…かまわない。ってお前の関わる全てのやつを排除しよう。と言ったの。

言われたときは、何を言っているのか、そんなことできるわけがないと思ったけど、直後キヨンの目を見て…ね。なんでだろう…信用して話してしまった」

 

「おお〜カックイイね。キヨンは」

 

「キヨン以外が言ってもね〜何とも思わないし、寧ろ何カッコつけてんだとか思っちゃうけど」

 

 と、食堂にいる女子が口々に言う。

 

「それで、初めて自分のことを話せたから…安堵したのかな?

お前は一人じゃないって言ってくれたから…抱き着いちゃった」

 

「「「おぉっ」」」

 

 ヒストリアが照れくさそうに言うと、女子はキュンと来たようだ。

 

「それは好きになってしまうよね。

なんか納得したよ。

でも、キヨンは罪な男だよね。ヒストリアにアニ、そしてミカサもかぁ〜」

 

 と、ミーナが自分のことを棚上げして言う。

 

「「「「それはミーナもでしょ」」」」

 

 と、食堂にいる女子全員が突っ込む。

 

「あ、あははは、ぶっちゃけさ…キヨンが好きな人ってどれくらいいるの?」

 

 と笑って胡麻化すミーナだが、敵を確認するためにも食堂にいる女子に問いかける。

 その言葉に顔を背ける女子は…………

 皆の反応を見たヒストリアは、まさかの事実に愕然としていた。キヨンがモテるのは知っていた。しかし、これ程とは想定していなかった。

 口を半開きにしながら、震えているのを見たアニはヒストリアを弄る。

 

「クリスタがもし本物の王家で、それをキヨンが知っていたのなら、あんたも駒ってことだね」

 

「えっ…」

 

 追い打ちをかけるアニ。

 どうやらアニは少し根に持っていたようだ。

 青褪めるヒストリアにニンマリと笑みを浮かべる。

 

「はははっ。冗談」

 

「もーっ!」

 

 その後も主にキヨンの話で盛り上がっていた。

 同じことを何度も繰り返す。

 アニやヒストリアが睨み合い、ミカサが皆から問い詰められ、その度に顔を赤くする。そしてまた掴み合う。

 だが、この場には気まずさは欠片もなかった。

 緊迫した状況から笑いが絶えなない場となった。

 

「私は…別に、キヨン…が、好きーと、言うわけじゃ、ない…し」

 

 一人だけ常時拗ねていたが……

 兎にも角にもアニ・レオンハートがこの場に馴染む事ができた。

 アニが皆の前で謝り、ヒストリアが自分のことを包み隠さずに話したことで、この場に集まる全員と分かり合うことができた。

 皆は気付いていないが、それは紛れもなく素晴らしい事だった。

 戦争。

 啀み合い、何百年と続いた戦争の中、分かり合うことができた。

 たった一人だが、それでもこの何百年間不可能だったことだ。

 

 皆は知らない。

 

 まだ知らない。

 

 この気付かない一歩が戦争を終わらすための最初の一歩となることを、今はまだ……知らない。

 

 たった一人を除いて。

 

 この流れすらも計算にいれていたのかは……本人のみぞ知る。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

人質

多分ですが、今年最期の投稿になります。

多分ですが…


 

「まあ…そのだ。人類に多大なる貢献してくれているキヨンには悪いが、規則は規則なんだ。

立体機動を無許可で使った罪は重い。

 だから、ほんの少しの間だけ、形だけで良いから牢屋に3日ほど入っていてくれ」

 

 ハンジさんにそう言われ、牢屋で謹慎することとなった。

 だが、朝昼晩の3食にトイレには行きたいときに自由に行けるし、ベットもふかふか。

 そして、見張りは無し。

 月明かりが少し見える程度の窓ではあるが、牢屋にしては快適すぎる。

 寧ろ、面倒くさい訓練をしなくて良いので、得をした気分になった。

 

だが…

 

「おまっ…ぷっ。お前!遂に捕まっちまったか!

え?何罪ですか?暴行罪?強要罪?いや、お前なら〜重婚罪とか有り得そうだぜぇ〜」

 

「ふっ世の中そんな甘くないんだぜ!きよぽ〜ん。 

俺のような紳士な男になるんだな!

だっはっはっはっ!」

と、馬鹿面と馬面が煽りに来た。

 牢屋の格子に顔を減り込ませて煽られる。

 正直なところ、マーレよりもこいつらを潰しておくべきだと思う。

 ベットに腰掛けていたが、余りにも腹がたったため立ち上がり牢屋の扉を開ける。

 

「えっ…何で…扉が…?開くのかな??あ、あれ…不味いぞ…顔がぬけねぇ、は、まぁ落ち着けよ、キヨン」

 

「おっと…?お、俺も…落ち着くべきだと思うぞ、キヨポン」

 

 二人とも顔を減り込ませていたため、顔が抜けないようだ。

 

「これはな、形だけなんだ。トイレに行きたい時は自由に行ける。歯を食い縛れよ」

 

「「あぎゃーーー!!」」

 

 二人の尻にタイキックをかましてからトイレに行く。

 泣き声が聞こえてくるが知ったことではない。

 

「ききききききよぽーん!!捕まったってどう言うことですか!?

 私のパンは!?あ、いえ、何か悪いことしたんですか?キヨポンが捕まったら私のパン……じゃなくて、パンが捕まったら、あ、あれ…………取り敢えずパンをください」

 

「ちょっと後ろを向け」

 

「え?あ、はい。

 

あぎゃーーーー!!」

 

 はぁ…全く…ろくな奴がいない。

 

 戻ってきてベットに腰掛ける。

 暇だな…

 あの部屋に居た時は、そんな事を考えたことなんて無かった。命令があるまでは待機。それが基本であった。

 何処か昔に戻った気分だ。

 小一時間ほど一人の時間を過すと、リヴァイ兵長とハンジさんがやってきた。

 

「フッ…似合うな」

 

 聞こえてるからな…ドチビが。

 

「やあ!元気にしてるかな?

 王政側が本物の王家を吐いた。

 いや~なかなか手こずったよ。

 中央憲兵に拷問しても一切吐かなくてね。

 偉そうに踏ん反り返ってた奴らを拷問したらすぐ吐いた。中央憲兵も可哀想だね」

 

「そうですか」

 

「それで…本物の王家はレイス家らしい。

 場所ももう分かっていて、兵も派遣している。

 ま、今日はエルヴィンが居ないから報告だけ。

 それじゃ楽しい時間を過ごしてくれよ」

 

「リヴァイ兵長」

 

 去っていくリヴァイ兵長を呼び止める。

リヴァイ兵長は振り返り立ち止まる。ハンジさんも同じようにこちらを向く。

 

「なんだ?」

 

「リヴァイ兵長の姓って何ですか?」

 

「さあ…知らねぇな」

 

「ケニーと戦ったときに、オレがアッカーマン家

なのか聞かれました。その時に、リヴァイ兵長の息子と勘違いされたのですが…リヴァイ兵長の姓もアッカーマンではないですか?」

 

「アッカーマン…?確かミカサもそうじゃなかったか?」

 

「そうです。アッカーマンと言うのが何なのかは良く分かりませんが、何か特別な家系なのかも知れませんね」

 

「そうかもしれねぇな」

 

 ハンジさんとリヴァイ兵長は去っていく。

 その事で、ミカサと話をしてくれれば良いが。

 それにしても…

 

 レイス家…か。

 

 やはりか。レイス家の生き残りがまだいればいいが、もう既に居なければヒストリアが女王になるな。

 そうなれば、ヒストリアが前線に出ることは今後無くなる。それは有り難いことだ。

 だが、ヒストリアがそれを受け入れてくれるかは別だが。

 

 それは…ヒストリアが決めること…か。

 

 暫く1人で考えを巡らせていると、夕飯の時となった。

 

「キヨポ〜ン。

ご飯を持ってきました!」

 

 オレのご飯をサシャが持ってきてくれた。

 それは良いが…こいつの頬には何が詰まっているのやら。そして、オレのパンが半分になっている理由。問いたださなくても分かるな。

 

「持ってきてくれるのは嬉しいが、パンが半分無くなってるな」

 

「ギクッ!」

 

 急いでパンを飲み込み平然を装うが、喉を詰まらせ咳き込む。

 

「はぁ…」

 

 オレはサシャに水を渡すと一気に飲み干す。

 これをエレンやジャンにされていたら、腹が立っていただろうが、サシャだからか、何も腹が立つことはなかった。

 

「あ、ありがとうございますぅ〜おかげで助かりました」

 

「それより、何で2つ分持ってきたんだ?」

 

「一緒に食べましょうよ!

ご飯は1人で食べるよりも皆で食べるほうが美味しいのですよ!」

 

「……」

 

 全くサシャらしい。

 満面の笑みでそう言われてしまえば何も言えない。

 何とも言えない感情に心を埋め尽くされ、サシャが持ってきてくれた配膳を黙って受け取り、無言で食べ始める。

 一緒に食べると言っても、サシャは食べる時は無言となるため会話はない。

 ただ一緒に居る空間がサシャにとっては良いのだろう。

 その気持ちは最近分かるようになってきた。

 

「ごっちそうさまでしたぁ!」

 

 食べ終わったサシャはバンザイしながら後ろへ倒れベットに寝転がる。

 そんな自由人のお腹はポンポンに膨れ上がっており、優しく撫でてみた。

 

「うぅ〜。エヘヘへキヨポン擽ったいですよ」

 

「そうか、悪い」

 

 そう返したが撫でるのを止めなった。

 サシャが嬉しそうでもあったし、何だか面白かったからだ。

 一度歯磨きやら身体を清めたりするため牢屋を出る。戻ってくると同じようにサシャも戻ってきた。そして、また無言でお腹を撫でる。

 暫くすると、いびきが聞こえてきた。横を見るとサシャは寝ていた。

 全く…どこでも寝られるやつだな。

 オレのベットを陣取られてしまった。仕方ないのでその横でオレも寝る。せっかくベットがあるのに床で寝るのは嫌だし、サシャなら良いだろう。何も起きない。

 

「サシャと何してるの?」

 

 蝋燭の火も消えた暗闇の中から冷たい声が聞こえてくる。それは最早恐怖以外の何物でもなかった。

 

「ヒストリア…」

 

 顔は見えないが声と圧で分かる。

 ギィ〜と言う音とともに牢屋の中へ入ってきた。

 

「何してたの?」

 

「サシャにご飯を持ってきてもらったんだ。

それでサシャがそのまま寝てしまってな」

 

「それで一緒に寝ようとしてたの?」

 

「仕方ないだろ?オレはここから出られないからな」

 

「じゃ私も一緒に寝る」

 

 言うと思った。サシャを連れて行って欲しいところだが、それを言えばまた怒られるだろう。

 

「分かった」

 

 そう言って、オレは一度立ち上がり、ヒストリアを抱きしめベットに寝転がる。 

 急な展開に固まり、耳が赤くなっている。

 この狭いベットに三人で寝るの窮屈だ。

 壁に追いやられたサシャは苦しそうな表情を浮かべている。

 

「ヒストリア。ハンジさんからはもう聞いているか?」

 

「うん。レイス家が本当の王家何だって」

 

「どうしたい?」

 

 率直に聞いてみる。

 

「私が女王になったら、王配になってくれる?」

 

  ん…?んん…??王配…?一瞬理解出来ないでいた。

  いや、女王になればそれが最も大事な仕事か。

 

「いや、それは…無理だ。オレは戦争に行かなければならない。一緒にいられることは少ないだろう」

 

「だったら、私も女王なんかなりたくない」

 

 と、俯き口を尖らせながら拗ねたように言う。

 

「…そうか」

 

「何とかして。これは女王命令よ」

 

 冗談なのか、真剣なのか…

 

「女王にならないのに、女王として命令するのか?」

 

「女王にならなくても本物の王家であることに変わりはない。そう言ったのはキヨンだよ。

何とかしなさい」

 

 覚えていたか…ニッと笑いながら命令をされた。

 

「分かった。だが、死なないように行動してくれよ」

 

「うん!」

 

 そう満面の笑みで頷き、オレを抱きしめる力が強くなった。

 表情がコロコロ変わるな。そんなヒストリアを見ているのは面白い。

 戦争に行けばオレも絶対に生きて帰れる保障はない。それはヒストリアも分かっているのだろう。だが、それを承知の上で一緒に居ることをヒストリアは選んだ。なら、オレはそれを尊重する。

 

 

▽▽▽

 

 

 心臓の音が良く聞こえる。

 人の温もりをこの歳になってようやく知ることが出来た。

 ここから離れたくない。そう思える場所だ。

 

 やっぱり…キヨンが好き。

 

 キヨンは私のことをどう…想って、いる、のだろう…キヨンは…もう、最近…なんかもう、凄いモテてる!

 アニもミーナも他の女子達も…ミカサもなんか、キヨンを見る目が前と違う…でもでもキヨンは私にキ、キキ…スゥしてくれたんだから、他の女に興味なんてないよね…?

 ミカサと寝たと言ったって家族だからだよね…??

 ふと、温もりの場所を離れて仰向けになり、上を見る。すると、横でマヌケな顔をして寝ている女子が目に入った。

 

 サシャ…

 

 サシャはキヨンの家族ではない。なのに、一緒にご飯食べて、当然のように一緒に寝ている。

 それに、サシャは一番キヨンに頼られている。

まっ、駒だけどね!…でも、私にはそんなサシャが羨ましい。

 ……………これでも喰らえ!

 

「んぅ〜〜」

 

 サシャの鼻を摘まんでやったら、苦しそうに顔を顰めていた。私はクスッと笑いキヨンの方を向く。

 

 キヨンは私を守ってくれる。それは素直に嬉しい。

 でも、それだけじゃ何故か駄目な気がする。そう考えると一気に不安になる。キヨンに頼れば頼るほど離れられていきそうで…

 だけど、結局今回もまた頼っちゃった。女王になんてなりたくないし、キヨンとは一緒に居たい。

 それに、他の皆と一緒に居る時間も私にとっては掛け替えのない時間だ。こんな幸せな時間を減らされてなるものか!

 私は私に出来ることをやってキヨンに頼られるようになる。今はまだ、頼ってばかりだけど…そうした方が良いと女の勘が働いた。だから私はまだまだ頑張り続ける。 

 

 もう一度キヨンの胸に顔を埋める。

……

 そうだ…起き上がりキヨンの顔を真正面から見つめる。ゆっくり、近づけ唇を重ねる。

 

「おやすみ。キヨン」

 

 ま、まぁ!おやすみのキスをするのは当然よね。

 横にずれ……そこにはパチクリ目を開いたサシャがこちらを見ていた。サシャと視線が交差し、どちらも微動だにしない。

 

「かっ…か、か、可愛いですね!クリスタは!」

 

サシャにそう言われ、顔が真っ赤になっていくのが分かる。ものすごく熱い。 

 

「今更だな」

 

「ふぇっ!?」

 

 思わず声が漏れる。

 キヨン…!?起きてたの…?

 い、今更!?えへへへへ。

 

「お、起きてたのですか?」

 

「まぁ…な。」

 

 そう言って、キヨンは私の腰に手を回し抱き寄せ、唇を奪われた。

 

「ヒョオ!」

 

 サシャが変な声を出す。

 そして、サシャのおでこにもキスをするキヨン。おでこであろうとそっち要らなくない? 

 

「ヒョエ!?」

 

「おやすみ。二人とも」

 

「お、おやすみ」

 

「お、おやすみなさいぃ…」

 

 ドキドキと心臓が煩い。 

 キヨンの胸に顔を埋め、目を瞑る。

 

「あれ、私何でこんなところで寝てるのでしょうか?」

 

 サシャがまた、何か馬鹿なこと言ってる。

でも、まぁ良いや。今日はこの温もりを堪能しよう。

 

 

▽▽▽

 

 

 目を覚ますと身体のあちこちが痛かった。

 なぜならば、オレは床で寝たからだ。

 サシャの寝相の悪さに端っこにいるオレは床へ押し出される。2、3回目から下で寝ることにした。

 だが、この床は木ではなくレンガでできており、ゴツゴツとしている。そのため、非常に痛い。

 

「あれ…?キヨン……?」

 

 ヒストリアも起きたようだ。

 

「なんだ?」

 

「 えっ、何処に居るの?」

 

「床だ」

 

「な、なんで?」

 

「サシャの寝相の悪さで何度も床に落とされてな、もうベットで寝るのは諦めたんだ」

 

「そ、そっか。それは…何と言うかごめんね」

 

「いや、ヒストリアが謝る必要はない」

 

「まあ取り敢えず、ベットに来てよ。

今はもう死んだように寝てるから大丈夫だよ」

 

「そうさせてもらう」

 

 起き上がりヒストリアの横に寝る。身体の痛さが和らいでいく。ベットとはこんなにも気持ちの良い物だったんだな。また、新たな発見をした。

 オレの肩におでこを当て離れようとしないヒストリアの頭を撫でる。すると、また眠ってしまった。

 暫くするとハンジさんがやってきた。

 

「ちょっと〜ここはそう言う場所じゃないんだけどなぁ〜。

 全く…君たちが初めてだよ。牢屋でお泊りなんて…」

 

「ふげっ!?」

 

「ん…?はっ!?」

 

 二人とも飛び跳ねるように起きた。

 

「おはようございます。何か用ですか?」

 

「ああ…君さ、まぁ〜た我々に何か隠してないか……?」

 

 値踏みするような視線を向けられる。

 大方レイス家のことでだろう。

 王家の誰かがレイス家の生き残りが名前を変えて調査兵団に入ったと口を割ったか。

 オレが答えないでいると、ヒストリアが代わりに答えた。

 

「ハンジさん。それは私のために言わなかっただけです」

 

「君の?君は確か…クリスタだっけ?」

 

「はい…でも、私の本当の…名前はヒストリア・レイスです」

 

「ええっ!?君がレイス家!?」

 

 驚くハンジさん。

 

「で、でも!私は、その…女王になんか、なりたく、なくて…」

 

「あ、ああ…そう言うことか。その事はまた今度話そうか。だが、少しは話を聞かせてくれないか?

レイス家に赴いた兵士が1人も帰ってこないからね」

 

「わ、分かりました」

 

「あの〜私はどうすれば…」

 

 置いてけぼりだったサシャが、恐る恐る手を上げ問う。

 

「お前は何もしなくていい。無関係だ」

 

「では、もう少し寝ましょう」

 

 そう言って横になるサシャだが…

 ヒストリアの無言の圧が飛んでくる。

 

「や、やっぱり私も戻りますぅ〜」

 

 ヒストリアとついでにサシャが、ハンジさん達と共に牢屋を去っていった。先程まで煩かったわけではないが、一人になったことで余計に静かに感じた。

 トイレに行ったり、朝食を食べ歯を磨くなどをして暇な時間を過ごす。

 小さな窓から漏れる光が黄金色となり太陽が沈む頃だと分かった。そんな時に、また人が来る気配を感じた。

 この気配は、複数人だ。エルヴィン団長達か。

 

「やあ。すまない。少し、話をしたくてね」

 

 エルヴィン団長は牢屋の前に椅子を持ってきて座る。

 

「はい。何でしょうか」

 

「私は子供の頃から夢があった」

 

「夢ですか?」

 

「ああ。私は私の父が建てた仮説を証明することが夢だった。

 そして、現在、王政を打倒することに成功し、その夢が叶ったのだよ」

 

 何処か子どものような笑みを浮かべ、そう話すエルヴィン団長。

 

「それで、その夢とは?」

 

「ああ。それは今から107年前、この壁に逃げ込んだ人類は王によって統治しやすいように記憶を改竄された。

これを証明することだった。

そして、今、人類が滅びていないこと。王政の嘘を証明することができた。

まだ記憶を改竄された証明は出来ていないが、殆ど確定的だろう」

 

 記憶を改竄か。そのような事が本当に起こりうるのだろうか。

 オレもその考えに至ったが、あり得ないと考え直ぐにその考えを放棄した。

 だが、それくらい出来なければこの壁の中で人類が生存することなど不可能だろう。

 

「そうですか。それで何故オレにこのような話を?」

 

「さあ…何故だろう…ただの私の勘だ。

話すべきだとそう判断した」

 

 それからは少し雑談と今後を話し合い戻っていった。

 なかなか有益な情報だったな。

 

 

 その日の夕飯は、ミカサが持ってきてくれた。

 ミカサもサシャ同様に一緒に食べるつもりで、わざわざ牢屋の中に入ってきた。

 

「ここで食べなくても良いんだぞ?

食堂には皆がいるだろう」

 

 正直なところ先程のエルヴィン団長の話を整理したい。

 

「……嫌、なの?

サシャは良いくせに…」

 

 まるで子どものように拗ねるミカサ。

 仕方ない。ミカサと雑談しながら、整理していこう。

 

「嫌ではない。ミカサがここで食べたいなら居れば良い。」

 

 多分帰れと言っても、居続けたな…

 返事を聞く前に、ベットに座ってご飯を食べ始めた。

 

「キヨンは…戦争が終わったらどうするの?」

 

「そうだな。色んな場所に行きたいな」

 

「そう…私も行きたい」

 

 オレが行く所に付いてくるつもりだろうか?

 まあ、それは構わないが…

 以前は、エレンへの依存から抜け出せるようにオレにその想いを向けさせたが、今ではオレの方に傾いているのではないだろうか…

 エレンが怒りそうだな。

 一度距離を置くべきだろうか…

 

 いや…違うな。

 

「オレに付いてこなくても良いんだぞ?」

 

 オレがそう言うと、ムスッとし口先を尖らせる。

 

「……やっぱり、私とは居たくないの?」

 

「そうは言っていない。オレとしては戦争が終わってもミカサには横に居てほしいと思う。

ただ、オレ個人の気持ちでお前を縛ってしまわないかと思っただけだ」

 

「……そう」

 

 オレの言葉に頬を赤らめ俯く。

 

「なら……それなら、一緒に居ても良いんでしょ」

 

「ああ。ミカサがそれで良いならな。

オレもそれを願っている」

 

 ご飯を食べ終え身体を清めた後、再び牢屋に戻ってくると、ミカサもまた戻ってきて、ベットに座った。

 今日はヒストリアがハンジさん達に捕まっているため、ここには来ることはないだろう。

 だから、怒られることはないな。

 

「私もお肉食べたい…」

 

「肉か……もしかしてサシャから聞いたのか?」

 

「うん。二日前に」

 

「あーあれは…サシャの馬鹿さを理解するためにしたことなんだが…」

 

「どういうこと?」

 

「サシャに肉をやるから教官室から肉を盗んでこいって命令したんだ。

あいつの馬鹿さは利用できるが、その限度は知っておかなければならないだろう」

 

「それで、サシャは盗んできたの?」

 

「ああ。その肉をサシャに褒美と言って食わせてあげたら感謝されてな… 

結局、あいつの馬鹿さを理解できなかった」

 

「ふっ。サシャらしい。

なら、私も今度サシャにそれをやってみる」

 

 哀れサシャ。 

 お前はまた、飯抜きの日が来るだろうな…

 

 そんな雑談をして時間を潰す。

 そろそろ就寝時間となり、蝋燭の火を消す。

 月の光が小さい窓から入ってくる。その光を頼りにベットに移動する。

 

「じゃ、じゃあそろそろ帰る」

 

 そう言い、ベットから立ち上がろうとしたミカサの腕を掴み止める。

 強めに掴んだことにより、若干バランスを崩した。その隙を見計らい強引にオレの方へ引き寄せる。

 

「え…」

 

 抱きしめ、そのままベットに寝転ぶ。

 ミカサの耳が赤くなっているのが分かる。

 

「一緒に寝たかったんだろう?」

 

「っ…で、でも誰か来るかもしれないから…」

 

「気配で分かるだろう?」

 

「……」

 

「まぁ…ミカサがエレンに対して罪悪感を抱くなら帰ったほうが良いのかも知れないな」

 

 オレがそう言うと、ピクッと肩を震わして少し離れようとした。

 だが、オレはそれを阻止するため抱きしめる力を強める。

 …

 ……

 何も言ってこないミカサの頭を撫でる。

 

「悪い。意地悪を言ったな。」

 

「ううん…」

 

 ミカサの反応からオレとエレンで天秤に掛けてしまっているのが見て取れる。

 今まで決められない。決めたくない。

 そんなことを考えないようにしていたのだろう。

 それをオレが指摘したことで、ミカサの中でこれで良いのかと葛藤し始めたのだろう。

 だが、オレが止めたとは言え、結局ミカサはこの場に居続けた。

 

 それで良い。

 

「明日、早めに帰れば誰にも見つかることはない」

 

「…うん」

 

 優しくミカサの背中を叩く。

 数分でミカサは寝てしまった。

 

 ミーナやヒストリアを始め、皆の成長は順調だ。それはミカサもだ。ミカサがエレンだけを考えずに周りを見ることができるようになったのは良いことだ。

 

 ……だが

 

 これからは、ミカサに対しては成長よりも優先すべきことがある。

 

 この世界には個人で人の力を逸脱した力を持つものがいる。

 エレン達のような力や記憶を改竄する力。

 

 そして、アッカーマン。

 人間の姿で異様な力を誇る一族。

 ケニーはあの老体でオレと渡り合えた。リヴァイ兵長の全力はまだ見たことはないが、相当なものだろう。そして、ミカサの力は昔からよく知っている。

 アッカーマンはこの世界では特別な一族なのかもしれない。

 

 リヴァイ兵長はオレには制御することは不可能だ。

 

 なら……

 

 

 

 ミカサだけでなく、同期はオレにとって大切な仲間であり、戦争が終わった時には、生きていてほしいと思うし、その後も一緒に居られればと思う。

 ヒストリアやエレンにバレれば怒り悲しむだろう。もう今の雰囲気には戻れないかもしれない。

 

 だが、それはそれだ。

 

 エレンには悪いがミカサのオレに対する依存を強めさせてもらう。

 

 ミカサの行動で世界が変わる可能性が少しでもあるのなら、それはもう仕方のないことだろう。

 

 ミカサの消長の手綱はオレが握る。

 

 

▽▽▽

 

 

 目が覚めると、また温かい何かに包まれていた。

 いや…何かではない。もう分かっている。

 

 キヨンに抱きしめられているのだろう。

 前回と違い、落ち着くというよりかは少しドキドキする。

 

 キョンの性格の悪さは、私が一番良くわかってる。だから、キヨンの思うがままにされたりはしない。

 

 ふっ…そうだ。分かってる。

 

 キヨンの思い通りにはさせない。

 

 私が好きなのはエレン。

 キヨンはただの家族。

 

 うん。分かってる。

 

 だから、キヨンがヒストリアやアニと…

 ………

 …

 

 チクッと胸が痛む。それと同時にズキッと頭が痛くなった。

 キヨンの胸に頭を押し付け、痛みを紛らわす。

 キヨンの私を抱きしめる力が強まった。

 そのためか、段々と痛みが和らいでいく。

 

 やめてほしい。

 

 そうやって心地の良い音を聞くたびに、理解させられる。

 考えないようにしても、自然と考えてしまう。

 

 分かってる…

 このチクッとする胸の痛みをもう理解している。

 認めたくない。

 

 けど…

 

 私はキヨンが好き。

 

 でも、エレンも同時に好きだ。

 

 はあ…最低だ、私。

 

 ねぇ…キヨン。

 私はどうすれば良いの?

 

 キヨンの口端を指で上に上げてみる。

 ふっ…キヨンの笑った顔。怖い…

 

 寝てるときならキヨンを思い通りに動かせるのに……

 結局、キヨンの思い通りにされている。

 

 気に入らない………けど、もう良い。

 

 好きだから…

 

 そんなことを思いながら、キヨンの顔で遊ぶ。

 

「何してるんだ?」

 

 ちっ…キヨンがもう起きてしまった。

 思い通りに動かせる時間は終わり。

 

「何も…ただの仕返し」

 

「そうか。もうそろそろ帰ったほうが良いな」

 

「う…うん。じゃあ帰る」

 

 でも、ここから出たくない。

 こんなに温かい場所、一人で寝るときは味わえないから…

 そう思い、ベットから出ないでいるとキヨンは察してくれたのか、優しく抱き寄せてくれた。

 …温かい。

 そして、そのまま持ち上げられ歩くキヨン。 

 お姫様抱っこというものを初めて経験し、少しドキッとした。

 ん…?でも何処へ…

 私は牢屋の外に出され、キヨンは牢屋の中に戻っていった。

 ……

 …

 ムカッ

 そう…そんなにも人に見られたくないってこと…?

 やっぱり、キヨンなんて嫌い…もう嫌い。

 でも…次はいつ寝れるのかな…

 結局…キヨンに感情を揺さぶられてばかりだ。

 

 




良いお年を


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ヒストリア・レイス

大変長らくお待たせしました。

この1話書くだけで、一ヶ月以上も掛かりました。 
何故か執筆が進まなかったんですよね…
これは多分……イップスってやつか!?(烏滸がましい!!)

一ヶ月以上も掛かって書いた作品になりますが、内容は薄いです。原作からあまり変化させられませんでした。
すいません…
次回からは大丈夫なはずです。

話し変わりまして…
最近…伊吹可愛いですよね。
 


 

「やあ、待っていたよ。久しぶりだね。キヨン」

 

 三日間の牢屋生活を終え、外に出ると意外な人物が待ち構えていた。

 ザックレー総統。

 全兵士を纏める人物。王家が失墜した今、最も地位が高い人物だろう。

 

「ああ、はい。お久しぶりです」

 

 総統と最後に会ったのは、審議所だったか。

 まだ最近なのに、随分と前に感じるな。

 

「いや、なに。私はただお礼を言いに来たのだよ」

 

「お礼ですか?」

 

「ああ。君が王家の悪事を民衆にばらしてくれたのだってね?」

 

「……まあ、そうですね。ですが…それでお礼を言いに来ることですか?」

 

「ああ、当然だろう」

 

「分かりませんね。王家の悪事がばれた今、この壁の中の秩序は無いに等しいでしょう。民衆が喚いたとはいえ、何故王家につかなかったのですか?」

 

 壁の秩序を守ることを考えるのであれば、王家を見捨てるのは愚策だ。

 とはいえ、総統が王家についていたとしても、時すでに遅かった。

 あれだけ民衆が喚いていては、抑えたとしても、秩序を維持するのは不可能だったはずだ。

 だが、もし『始祖の巨人』の存在を総統が把握していたなら、話は変わってくる。

 王家につき、反乱を鎮静させた後、記憶を改竄させ壁内の秩序を維持することも可能であっただろう。

 この人にはそれだけの兵士を動かせる力がある。

 そして、この人は自分の立場も更に上へ就けただろう。

 

「なぜ、私が王に銃を向けたのか?」

 

 総統は一呼吸置き、本心を話す準備をする。

 

「……それは、昔っから王政が気に食わなかったからだ」

 

「え…」

 

 まさかの私情かよ。まぁ…それが人の原動力であることは否定しない。

 オレもそうだからな。

 

「むかつくのだよ。偉そうな奴と偉くないのに偉い奴が…いや…もう寧ろ好きだな」

 

 ご自慢のひげを撫でながら、若干笑みを見せながら話す。いや、若干ではないな…

 この世のすべての快楽を表した顔をしている。

 相当、嬉しいのだろう。

 

「思えばずっとこの日を夢見ていたのだ。人生を捧げて奴らの忠実な犬に徹し、この地位に登りつめた。

 クーデターの準備こそが障害の趣味だと言えるだろう。

 君にも見せたかったよ。奴らのほえ面を!

 あれは期待以上だった」

 

 気分が高揚したのか、声が大きくなっていく。

 それに自分も気付いたのか、一度深呼吸をし、腕を組み冷静になる。

 

「つまり、誰かがクーデターをしなくとも、私がくたばる前にいっちょかましてやるつもりだったのだ。

 私は、この革命が人類にとって、良いか悪いかなどには興味が無い。私も大した悪党だろう?」

 

「そうかもしれませんね。しかし、オレは自分が悪党になったつもりはありませんよ」

 

「ふははは。

 そうだったな。君は人類の為に行動したまでだったな!」

 

「はい。これからも人類の為にオレは進み続けます」

 

「ふはは。それでは私は、奴らを恥辱にまみれた姿に出来るように頑張りながら、君の、君たちの頑張りを見ているとしよう」

 

 そこは頑張らなくても良いと思ったが、それがこの人の趣味ならオレは何も言うことは無い。

 オレと総統はそこで別れ、それぞれの道に進んだ。

 

 

 

 調査兵団の拠点に向かうと、ハンジさん達が待機していた。

 同期も一緒にいるな。

 ヒストリアは小さくオレに手を振る。

 

「おっ!来たね!牢屋生活は楽しかったかい?」

 

「楽しくはありませんでしたよ」

 

「そうか、それは残念だ。

早速だが、今すぐにここを出発したい」

 

「それは、どこへ?」

 

「レイス家さ。一通り説明するよ」

 

「はい。お願いします」

 

 オレとハンジさんは馬車に乗り、説明を受けながらレイス家に向かう。

 ハンジさんは紙を皆に見せながら話す。

 

「これはレイス卿領地の調査報告書。その中身は、5年前にレイス家を襲ったある事件の詳細が大半を占めていた。

 これはヒストリアも知らないことだ。レイス家にはね。5人もの子宝に恵まれていた。ヒストリアは隠し子だね。

 まあそれはさておき、長女のフリーダは飾らない性格で誰からも好かれ、よく農地に赴いては、領地の労をねぎらっていた。だから、領民は皆、彼女に好感を持っていた」

 

 これはオレも知らないことだ。

 なら何故、その人たちが王家にならないのか…

 

「しかし、マリアが破壊された日の夜、悲劇は起きた。世間の混乱に乗じた盗賊の襲撃によって、村にある唯一の礼拝堂が襲撃を受け、焼かれた挙句全壊したのだと。

 いつの間に忍び寄られていたのか、村の誰も気付かなかった。

 そしてその夜、礼拝堂では悪いことに、ウォール・マリアの賛辞を受けたレイス家が一家全員で祈りを捧げていた。

 一家の主であるロッド・レイスを除く一族全員が盗賊に惨殺されてしまった」

 

 全てが繋がっていく。

 マリアが破壊される前、おじさんが何処へ行っていたのか。

 訓練兵時代、ヒストリアを嗅ぎまわっていた理由。

 アニやライナー達が王家を探していた件。

 そして、レイス家が本物の王家。

 

 始祖の巨人はやはり…

 

「私が気になったのは、礼拝堂が全壊したところにある。

 礼拝堂は石造りの頑丈なものだった。たまたま盗賊が攻城兵器を持ち合わせていたとしてだ…何故建物なんか破壊する?

 本当に盗賊の仕業で、あれば取るもん取ってさっさと逃げるべきだ。

 そして、その盗賊を見たのは、ロッド・レイスただ一人。

 彼は自らの資産で礼拝堂を立て直したんだって…何故だろう?」

 

「巨人に関することがあるという事か」

 

 リヴァイ兵長が言った。

 

「ああ。それ以外に考えられない...」

 

「その盗賊の正体なら、ある程度の確信を得ました」

 

「「「「え?誰?」」」」

 

「オレとミカサのおじさんであり、エレンの父親です」

 

「はあ⁉親父が⁉なんで!」

 

 エレンがオレに突っかかってくるがオレは無視し、話を続ける。

 

「おじさんは巨人だった。そして、その巨人はエレンに引き継がれた。

そう仮定して聞いてください」

 

「と言うか、それは最早確定的何だろう?」

 

「はい。もう一度それを頭に入れておいて欲しいだけです」

 

「そうか」

 

「まず、レイス家が本物の王家でした。アニ、これで分かるだろう」

 

「……始祖の巨人…?」

 

「そうだ。ライナー達が必死こいて探していた始祖の巨人はレイス家が保有していた。

始祖の巨人はもう知っていると思いますが、全ての巨人を操る。言わば、巨人の王です。

そんな、巨人を保有するレイス家がマリアを破壊されたとき、出てこなかったのは『不戦の契り』があるからみたいですが、そもそも既にレイス家が所有していなかった可能性もあるでしょう」

 

「……確かに…その強盗に襲われたときに、食われていたのかもしれない」

 

「はい。マリアが破壊されたときに出てこなかった理由は、もう今となっては分かりませんが、そう考えれば辻褄は合います」

 

 ついでにオレはもう一つの情報を提供しておく。

 

「それと、獣の巨人と戦闘になり、戦闘不能にまで追い込んだ時、奴はグリシャと呻いていました」

 

「獣が⁉え…グリシャ!?た、偶々じゃないのか?」

 

「いや、名前と獣との関係を聞いた」

 

「そ、そしたら…?」

 

「イェーガーで、獣との関係は父だった」

 

「は、はあ⁉どういうことだよ」

 

「おじさんは外から来た。腹違いの兄なんじゃないか?」

 

「獣が…?」

 

「キヨンが前に言ってたことはこれ?」

 

 ミカサがそう聞いてくる。

 

「ああ。だが今はそれはいい。重要なのは、おじさんが外から来た目的は何だったのかだ。

記憶を無くしていたと、キース教官から聞いたが、おじさんの行動から何か目的があって行動しているのは確かだ」

 

「なるほど…そして、エレンの父がエレンに託したことに意味があるのか…」

 

「はい。おじさんは明らかに巨人に関して詳しい。オレ達の…アニですら知らないことを知っている。何の目的もなく、人を殺すわけが無いし、大人しくエレンに食われたわけではない。」

 

「ああ…その通りだよ」

 

「うん…おじさんが目的なく人を殺したりしない…」

 

 アルミンとミカサが頷く。

 

「始祖の巨人を所持しているレイス家が、ただの盗賊に殺されたというのも納得がいかない。

 しかし、同じ巨人なら可能性はある。能力を使う前に食べてしまったとか…それは分からないが。とにかく、おじさんが始祖を食べ、エレンに託したと考える方が、まだ納得はできる」

 

「つまり、レイス家からエレンの父へ、エレンの父からエレンへと『始祖の巨人』は渡ったと言うことか…」

 

 エルヴィン団長が確認のため簡潔に纏める。そして、こう続ける。

 

「しかしだ…エレンの父が何故、レイス家が所持していると知っていたのか、そして、その日も偶然ではないだろうな……それを知るためには」

 

 その通りだ。

 まだ謎は多い。

 なぜ、おじさんはその協会に始祖がいることを知っていたのか。

 なぜ、ロッド・レイスを除いたのか。

 

 いや…ロッド・レイスが生き残っているから、今、オレ達は壁内の巨人の謎に迫れたのかもしれない。

 もし、そうなら、始祖が記憶を操れたようにエレンの能力は未来を見ているのかもしれない。

 今のところ、エレンは全く見れていないが…

 だが、未来が見えているとすると、色々と辻褄は合う。

 まず、オレはこの世界では異物だ。おじさんとの初対面の時に訝し気な目で見られたことも、未来にオレという存在が見えていなかったから、かもしれない。

 おじさんが「いずれ分かる日が来る」と意味深なことを言っていたこと。

 教会の場所を知っていたこと。

 ロッド・レイスを除いたこと。

 

 だが、まだ確定は出来ないな。

 

「はい。結局行くしかありません」

 

「そうだな…地下室に行かなくてはな…」

 

 そう、結局はウォール・マリアには行かなくてはならない。だが、ロッド・レイスが何かしらの情報を持っていれば、その限りではなくなる。

 

「まあ地下室…ウォール・マリアの方は後で考えよう」

 

 ハンジさんが言った。

 

「それよりも、引き籠もっているロッド・レイスさ」

 

 そう…今は眼の前のことが重要だ。

 

「調査によれば、協会は地下があるらしい。

 そこはなんでも大空洞になっているようだ」

 

「まだ中央憲兵が残ってるってことか…」

 

「そうだろうね…帰ってきたのは一人だけだから」

 

「中に入るのは、リヴァイとキヨン達に任せる。

 私は外で逃げ出さないように見張っておこう」

 

 エルヴィン団長が言った。

 

「エレンとヒストリアもか…?いいのか、エルヴィン?」

 

「ああ、ヒストリアのことを狙っている父親なら、エレンもヒストリアも殺しはしない。必ず、交渉にくる」

 

 リヴァイ兵長の問に答える。

 

「ああ、どうする。推測ではあるけど、エレンをヒストリアに食べさせることだったよね?」

 

 今度はハンジさんが問う。

 

「はい」オレが応える。

 

「それは、勿論拒否する」

 

「はい。ですが、情報が欲しいのですぐに殺してしまうは良くないですね」

 

「わ…私が…その交渉に乗る振りをします」

 

「ヒストリアが…!?おまえ…父ちゃんに見放されてきたんだろ?会いたくねえんじゃ…「コニー。私は大丈夫。いつまでも守られてばかりは駄目だから」」

 

 コニーの言葉を遮り、ヒストリアは力強く言った。

 ヒストリアが自ら囮になると言った。

 確かに父親からすれば、最後の跡取りだ。

 ヒストリアが死ぬことはないだろう。

 だが、エレンがヒストリアに無理矢理、食わされる場合もある。そして、始祖を奪われ、付箋の契りを発動する最悪の可能性もある。しかし…ここで守っていては進めないのも事実。余計なことをすれば、他の誰かが死ぬ可能性だってある。

 なら、ヒストリアに頼むべきか。まあ…最もヒストリアが無理矢理、巨人にさせられる可能性は先ずあり得ない。

 

「ヒストリア。父に無理やり巨人にさせられるかもしれないが、分かってるのか…?」

 

「…わ、わかってるよ…、でもこれが一番手っ取り早くて安全だよ」

 

「そうか…」

 

 確かに、情報を引き出すにはもっとも、効果的だろう。

 団長も頷き、ヒストリアの意見を採用することになった。

 

「なら、こうしよう。

 エレン、ヒストリア、アニ、ユミルの4人で正面から向かう。

 敵は恐らく、麻酔銃を使用する。

 もし、銃だとしてもエレンやヒストリアには当てない。ユミルかアニになるだろう。悪いが2人には囮になってもらうが…」

 

「「構いません」」

 

「麻酔銃で眠らされるのは、エレン、ヒストリア。アニかユミルはどちらかが囮になり、2人は協会から逃げ出す。

 裏からはリヴァイ達に侵入してもらう」

 

 エルヴィン団長から指示を貰った。

 

「エレン、お前が一番近くにいるからな。落ち着いて行動しろ」

 

「ああ。分かってる」

 

 オレ達は教会の前に着いた。オレとリヴァイ兵長、ミカサを含めた10人は裏に回り、エレン、ユミル、ヒストリア、アニの四人は正面から入っていく。

 他の調査兵団は、この町をグルっと囲むように待機している。

 

「上手くいく?」

 

「さあな」

 

「らしくないな、キヨポン。いつもの自信はどこいったんだ?」

 

「相手は記憶を操ってくる。何が起こるのか推測することは難しい。」

 

 オレは話を続ける。

 

「今回の目的は、始祖の巨人について情報を引き出すことと、壁の中の敵対組織を完全に潰すことです」

 

「情報を吐かなければどうするつもりだ」

 

 リヴァイ兵長にそう問われる。

 

「場合によります。記憶で情報を見れるかもしれません。その時は殺してしまっても問題はありません」

 

「情報を…?記憶で?」

 

「始祖は記憶を操れるのなら、記憶を伝達することも可能かもしれません。どういう状況に陥るのかは分かりません。臨機応変に行きましょう」

 

「分かった。エルヴィンからの指示だ。」

 

 リヴァイ兵長は皆に向けてエルヴィン団長の言伝を言う。

 

「ここで死ぬ必要はない。

 まだ獣も残っているからな…死にそうになったら殺せ。

 そして、全員生きて帰って来いとのことだ」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 サシャに斥候を任し、中の状況を探らせる。

 中は、アニの硬質化のようなもので出来ており、硬質化の柱が何本も建っているとのことだった。

 その柱に、数十人の敵が立っている。

 

「入り口は一つしかないのか…」

 

「煙を使おう」

 

 アルミンがそう提案する。

 

「火薬入りの樽を転がし、サシャが火矢で樽を打った瞬間にリヴァイ兵長とキヨン、ミカサが先に突入する。

 その後に僕たちも入って行こう。僕とサシャで信煙弾で煙を作る」

 

「分かった」

 

 アルミンの作戦で進めることになった。

 リヴァイ兵長が扉を蹴り破り、アルミンが樽を投げ入れる。サシャの火矢で樽を打ち、爆発させ煙を出させる。

 オレとミカサ、リヴァイ兵長で敵の中に飛び込む。

 

「敵数35!!手前の天井あたりに固まっている!!作戦続行!!」

 

 リヴァイ兵長が声を張り上げる。

 …っと、なんだこの銃は…一度、距離を取り銃を分析する。

 周りを見渡す。

 リヴァイ兵長はなんなく倒しているな…なるほど、後ろに回れば相手は何も出来ないのか。そして、二発撃てばこちらのものだ。

 

 オレは後ろに回りながら、敵を一人二人と殺していく。

 幸い、あのケニーのようなやつが居なくて良かったな。

 あいつがこの武器を持つと厄介極まりないだろう。

 

 順調に敵を葬っていく。だが、人を殺すのをジャンが一瞬躊躇ったのが見えた。

 

『パァン!!』

 

「キヨン⁉お前っ」

 

 ジャンを手で押す。オレの肩を銃弾が翳めた。体勢を崩したジャンを掴みアルミン達の元へ投げる。

 この程度なら、問題ない。

 

「ジャン…お前死にたいのか?」

 

「わ、悪い」

 

 だが、ジャンだけじゃなく、皆、人を殺すのは初めてだろう。

 これが普通なんだろうな。

 

「キヨン!大丈夫なの…?」

 

「この程度で、何を慌ててるんだ。集中しろ」

 

 心配して来たミカサを咎める。

 

「っ…ごめん…」

 

「え⁉二発共大ハズレだが⁉」

 

 ハンジさんがはしゃぎながら敵に向かっていく。

 

「ミカサ。ハンジさんが危ない。お前が護れ」

 

「っ…」

 

 ミカサは瞬時に察したのか、ハンジさんよりも早く敵に辿り着き首を斬った。

 新しい武器には驚いたが、案外あっさり終わった。

 オレ達はここを去り、中へ進む。

 

「っ…エレッ…」

 

 飛び出しそうになったミカサをオレが抑える。

 すぐにミカサは落ち着き「ごめん」と謝る。

 エレンは手をぐるぐる巻きにされ、上半身裸で拘束されていた。

 ヒストリアは気絶しているようで、男の近くで横になっている。

 あの男がヒストリの父親、ロッド・レイスか。

 

「待たせたな」

 

 後ろから、ユミルが現れた。

 

「ユミル…どうだった?」

 

「計画通りだ。 

 アニが私を庇って麻酔針を喰らってな。

 私がアニを担いで逃げて、団長のとこに預けて来た。

 ヒストリアとエレンは…見たまんまだ」

 

 アニは二本の麻酔針により、復帰に時間がかかるようだ。

 

「そうか」

 

「キヨン…大丈夫なんだろな…?ヒストリアに何かあるのは…ごめんだぜ?」

 

「それは分からない」

 

 オレは正直に言った。

 

「おい…それは「だが…ヒストリアも、もう前とは違う」…そうだな」

 

 ユミルも納得したようで黙る。

 

「うっ…」

 

 暫くして、ヒストリアが目を覚まし、ムクッと起き上がる。

 ロッド・レイスも気付いたようで、近付いて行きヒストリアを抱きしめる。

 突然の出来事にヒストリアは、驚きを隠せていない。

 

「今までのことを許してくれ…お前を守るために、ああするしか無かったんだ。いつだってお前のことを思っていた。こうやって抱きしめることをずっと夢見ていたんだ」

 

 男はそう言い、涙を流していた。

 ヒストリアからも涙が零れていた。

 

「よく言うぜ…聞いてるだけで腹立って来やがった…私がいっちょ…」

 

「おい、ブス!寄せ…」

 

「どけ…ヒストリアも、涙なんか流しやがって…騙されてるんじゃないのか…?」

 

「おいおい、キヨンも何とか言ってやれよ」

 

 コニーがユミルを止め、ジャンがオレに助けを求める。

 

「親の温もりを知ったヒストリアが、感情的になるのは仕方のないことだ。ユミルが止めに行きたいなら行けばいい」

 

「おい…良いのかよ」

 

「ああ」

 

 オレが真っすぐヒストリアを見続けることで、ヒストリアを信頼していると思ったのだろう。

 

「…ったく…危なくなったら、ぜってぇ行くからな」

 

 ユミルはドサッと座り、心を落ち着かせた。

 

 エレンも目を覚まし、「ンヴーッ」と呻いた。

 あいつの迫真の演技なのか、素でやっているのかは分からないが、その必死さにロッド・レイスもこれが作戦かも知れないという考えは消えただろう。

 

「どうした?君はここに来るのは初めてだぞ。だが、見覚えがあっても不思議ではない」

 

 ロッド・レイスはヒストリアを連れ、エレンが拘束されているところまで近付いて行く。

 

「お、お父さん、何をするの?」

 

「あぁ…一つ試したいことがあるんだ。私たちが彼に触れるだけでいい。説明と言っても、彼はここで起きたことの記憶がどこかにある。こうすれば彼は思い出すかもしれない。この場所なら少しのきっかけを与えるだけでもしくは…」

 

 ロッド・レイスとヒストリアは、二人で手をエレンの背中に置く。

 オレ達には何が起こったのか分からなかった。

 だが、何かが起こったのだろう。その証拠に三人の顔が先ほどまでとまるで違う。エレン、ヒストリアは混乱し、ロッド・レイスは平常であった。そしてエレンに言う。

 

「どうだ?思い出したか?父親の罪を」

 

 なるほど、オレの推測は当たっていたようだ。

 なら、なぜおじさんはあの日、ここへ来たのか…

 オレが考えに浸る前に、ヒストリアとロッド・レイスは会話を始めた。

 

「何で…何で今まで忘れてたんだろう…あのお姉さんのことを…私に本を…読み書きを教えてくれた。

 優しくしてくれた…あの人のことを忘れるなんて…」

 

「フリーダと会っていたのか?」

 

 ロッド・レイスは驚き、問う。

 

「?…フリーダ?」

 

 ヒストリアはここに来る前、フリーダの話は聞いたはず…

 これが演技だとしたら良いのだが、もし記憶を失っていたら…不味いな。

 

「その子が長い黒髪の女性であれば…おそらく、彼女はフリーダ・レイス。お前の腹違いの姉だ。

 フリーダはお前を気にかけ時折面倒をみていたようだな。お前の記憶から自分の存在を消していたのは…おそらく、お前を守るためだ。」

 

「…え?」

 

「ここで彼に触れたことをきっかけに、お前の記憶の蓋も開いたらしい」

 

「ねえ…お父さん…フリーダお姉さんは今どこにいるの…?会ってお礼がしたい。お姉さんが居なかったら私…あの時の事、ありがとうって伝えなきゃ」

 

「フリーダはもう…この世にいない…」

 

「え…」

 

「私には五人の子供がいた…しかし、妻もフリーダを含む子供たち全員、五年前ここで彼の父親…グリシャ・イェーガーに殺されたのだ。

 グリシャは巨人の力をも持つ者だった。彼が何者かは分からないが…ここに来た目的は、レイス家が持つある力を奪うこと。

 グリシャが求めるその力とは、フリーダの中に宿る巨人の力だった。

 フリーダの巨人はすべての巨人の頂点に立つ存在…いわば、無敵の力を持つ巨人だった…だが、しかし…それを使いこなすには…まだ経験が足りなかったようだ。

 フリーダはその真価を発揮することなく、グリシャに食われ、力は奪われてしまった…

 その上、彼は…我々一家に襲いかかったレイス家を根絶やしにするためだ。

 子供たちを壁に叩きつけ、踏み潰した。奇しくもその場から生き残ったのは私だけだった」

 

 ヒストリアとロッド・レイスは、話が終わると下に降りていく。

 だが、肝心の事は分からなかったな。

 ロッド・レイスもおじさんが、何故この場を知っているのか、奪った理由は知らないのかもしれない。

 

「おじさんが…」

 

「ミカサ。考えるのは後だ」

 

「分かった…」

 

 ロッド・レイスはカバンから箱を取り出す。あの箱は…

 

「お父さん…それはっ」

 

「いいか?ヒストリア。おかしな話に聞こえるだろうが、フリーダはまだ死んでいないんだ」

 

「え?」

 

「フリーダの記憶はまだ生きている。姉さんに会いたいか?」

 

「うん…会いたい」

 

 叫ぶエレンを見て、ロッド・レイスはまた長々と話す。

 この洞窟が100年前にある巨人によって作られたこと。

 三重の壁もその巨人によってつくられたこと。

 そして、人々の記憶を改竄したこと。

 だが、いくつかの血族は除くようだ。

 100年前の人類の歴史を誰も覚えていない。だが、そのフリーダはその記憶があるようだ。

 

 記憶を受け継いでいるのか…

 

「用は、この状況だ。壁が破壊され人類の多くの命が奪われ、人同士で言い争うこの愚かな状況…それらもフリーダが巨人の力を使えば、何も問題はなかったのだ。この世の巨人を駆逐することもできたであろうな…」

 

「そんなことができるなら…なぜ今こんなことを?」

 

「それは、フリーダから奪われた巨人の力がエレンの中にあるからだ。この力はレイス王家の血を引く者でないと、真の力が発揮されない。彼がその器であり続ける限り、この地獄は続くのだ。

さあ。ヒストリア。この注射を打ちなさい」

 

 ロッド・レイスは優しく言った。

 

「ねえ…お父さん、まって、どうして…姉さんは戦わなかったの?」

 

 刃を抜きそうになったが、思い留まる。

 どうやら、ヒストリアは演技をしていたようだ。

 演技上手いな…

 ヒストリアは問う。

 

 

▽▽▽

 

 

 私は初めてお父さんに抱き着かれ、安心してしまっていた。

 だけど、すぐに我に返った。

 キヨンの温もりの方が暖かいし、お姉さんのことはショックだったけど、私には皆がいる。

 

 情報を吐かせるんだ…

 キヨンたちは何処かで聞いているだろう。

 打ちなさいと促されたけど、まだ聞かなければならないことを聞くことにした。

 

「ねえ…お父さん、まって、どうして…姉さんは戦わなかったの?」

 

 お父さんの顔が一瞬、引き攣る。

 

「お姉さんだけじゃなくてレイス家は人類が巨人に追い詰められてから100年もの間…どうして巨人の脅威を排除して、解放してあげなかったの?すべての巨人を支配する力を持っておきながら…」

 

 私は思い出した。

 昔、私が柵を超えようとしたとき、【柵の外に出るなっていったでしょ!!】姉さんが私を叱った。

 別に怒られたことがどうとかじゃない。だけど、あの時の姉さんは異常だった。人が変わったみたいに…別人で怖かった。

 何かに悩まされている。そんな感じだった…

 

「そうだ。この壁の世界を創った初代レイスの王は全類が巨人に支配される世界を望んだのだ」

 

 お父さんが言った。

 だけど、それは知ってる。知りたいのはその先…

 

「初代王はそれこそが真の平和だと信じている。…なぜかは分からない。世界の記憶を見た者にしか。私も知っている…王の思想を継承した父がどうであったか…

 弟共に人類を巨人から解放することを願い…何度も父に訴えた…何度も。しかし、叶わなかった。理由も決して明かさない。やがて父がその役目を子へと託す時が来た。

 弟は軽傷を買って出る代わりに私にあることを託した。

 どうか祈ってくれと…私は巨人の力を受け継いだ弟の目を見て、その意味を理解した」

 

 お父さんは目を見開き、こう言う。

 

「この世界を創りこの世の理を司る。全知全能にして唯一の存在へと弟はなったのだ。それを何と呼ぶか分かるか?神だ。我々はそれを神と呼ぶ」

 

 くだらない。

 私はそう思ってしまった。

 その後も何か言っていたけど、聞く気には慣れなかった。

 話が終わったのか、無理やり注射を刺そうとしてきた。

 

 私は背負い投げをしてお父さんを叩きつける。

 注射もろとも地面に叩きつけたため割れてしまった。

 

「何が神だ!!都合の言い逃げ道作って、都合よく人を扇動して!!」

 

 私はそう吐き捨てエレンの所へ駆ける。

 すると、皆も来てくれた。

 

▽▽▽

 

 ヒストリアが父親を投げ飛ばした瞬間を見て、皆がおおっと歓声を上げる。

 

「おおっ…やりやがったぞ…」

 

「ユミル、ヒストリアはちゃんと成長していたな」

 

「…っふん、うっせぇよ…」

 

 ぺっと唾を吐くが、その顔は嬉しそうだった。

 オレ達はヒストリアのところまで近付いていく。

 

 エレンはまだ顔色が悪い。余程、嫌な記憶を見たのだろう。

 だが、オレ達はそんなこと関係なしに、拘束を解く。

 

「ケガはないか?」

 

「うん…」

 

 ヒストリアは視線を逸らす。

 

「どうした?」

 

「いや…ちょっと…演技してるの見られてたから…恥ずかしくて…」

 

「なんだ、そんなことか」

 

『ゴォォォォオオオン!!!!!』

 

 雷の音がこの空間に響き渡る。

 突如、目の前にとてつもなく巨大な巨人が形成されてた。

 超大型よりもでかいな…

 注射は地面に落ちて割れたはずだが…舐めたのか?

 

「うっ…」

 

 飛ばされそうになったヒストリアを庇う。

 皆も壁際まで下がり、脱出経路を探るが…見つからない。

 幸い、巨人はオレ達に興味を示していない。

 ただ、巨人が天井を突き破ったため、オレ達に被害が被りそうだ。

 

「ごめん、みんな…オレは役立たずだったんだ…そもそもずっと…最初から、人類の希望なんかじゃなかった。オレの巨人だってキヨンが…」

 

 エレンが一人全てを諦め嘆いている。オレは、気にせずエレンにある液体の入った瓶を渡す。

 

「なんだ…これ、鎧?」

 

 瓶に書かれた文字は鎧と書かれてあった。

 これで、アニと同じようなことが出来るはずだ。

 

「オレはそんな力を欲しいと思ったことはない」

 

「なんだ?悲劇の英雄気取りか…?てめぇ一回だって自分の力一つで何とかできたことあったかよ?」

 

 口々にオレを含め皆が言う。

 

「エレン。何を見たのかは知らないが、どんな後悔があろうと進み続けるだけだろう。死ぬまで」

 

「行ってこいやあああ!」

 

 サシャが叫ぶ。

 

「エレン!」

 

 ミカサもお願いと気持ちを込めて言う。

 ここで何かできるやつはエレンだけだ。

 リヴァイ兵長も何も言わないが、エレンに託すと覚悟を決めている。

 エレンは瓶を口に咥え、泣きながら駆け出す。

 

 これは無理かもしれない…ユミルに渡しておけば良かったと。

 オレはそう思ったが…

 

『パッゴォオオン!!』

 

 エレンが巨人になった。その瞬間から結晶化していく。

 硬質化によって生み出された鉱石のようなもので、天井を支え崩落を防いだ。

 

「と、止まった…?」

 

「ああ、全員無事か?」

 

「はい」

 

 皆の無事を確認した後、脱出班とエレンを救出する班に分かれて行動する。

 

「この世の終わりみたいだね」

 

 辺りを見渡しアルミンがそう言った。

 脱出経路を確保し、オレ達は一度外に出ていた。

 

「この方角は…」

 

「ああ。これは不味いな」

 

 オレとアルミンは、状況を把握しアルミンにエルヴィン団長への報告を頼んだ。

 

「リヴァイ兵長、出口は確保しました。アルミンにはエルヴィン団長への報告を任せました」

 

「分かった」

 

「エレン、お前に助けられたな」

 

「あ、ああ」

 

 寄生虫のように巨人に貼り付いていたエレンを巨人から引き剥がした。

 まだ起きたばかりのエレンに声を掛ける。

 

「あ…エレン、おかげでみんな助かりました!

でも正直言うとあなたが泣き喚きながら気持ち悪い走り方で飛び出したあの瞬間は…もうこれはダメだ。終わりだ終わりだこのおばんげねぇ奴はしゃんとしないや…本当メソメソしてからこんなはハナタレが…と思いましたよ」

 

「サシャ…少し黙ってろ」

 

 確かにそれはオレも思ったが、口には出さない。

 

「ところで…あの巨人は」

 

 サシャに静かにしろと言ったが、黙らず自分の思っていることを口にした。

 

「兵長大変です!早く来てください!!」

 

「そうだな…まずはここを出てからだ」

 

 外に出る。

 1㎞先に匍匐前進している巨人と巨人から吹き出ている蒸気が見える。

 

「あれが…巨人?」

 

「色々変だ。超大型巨人の倍くらいあるし、余程高温なのか…奴が近付いた木々は発火している。何より近くの人間…僕らには興味を示さない…」

 

 エルヴィン団長へ報告に言っていたアルミンが、巨人の生態について説明する。

 

「あの巨人を追うぞ。周囲にはまだ中央憲兵の生き残りがいるかもしれん。警戒しろ」

 

 馬に乗り移動する。

 エレンとハンジさん、それからまだ朦朧としているアニは荷台に乗っている。

 アニは2本の麻酔銃を食らったため、まだ動けないようだ。

 

「なるほど、推測通りのことだね。そして、今、エレンの中に『始祖の巨人』の力がある。だけどレイス家でないと『始祖の巨人』の力は使用できないし、レイス家では『初代王の思想』に支配される…

 初代王いわく真の平和だって?面白いことを考えてるじゃないか」

 

 地下でロッド・レイスが言っていたことをハンジさんが整理する。

 

「オレをあの巨人に食わせれば、ロッド・レイスは人間に戻ります。完全な『始祖の巨人』に戻すことはまだ可能なんです」

 

「そうみてぇだな。人間に戻ったロッド・レイスをロッド・レイスを拘束し、初代王の洗脳を解く。これに成功すりゃ人類が助かる道は見えてくると…そして、お前はそうなる覚悟がは出来ていると言いたいんだな」

 

「…はい」

 

「おい…キヨン。お前はどう考えてるんだ」

 

 何気にリヴァイ兵長から名前で呼ばれたのは初めてだな…

 やっと認めてくれたようだなチビ。

 オレは考えていたことを悟られないように言う。

 

「結論から言いますと、絶対にエレンをロッド・レイスに食わせるのはやめるべきですね。例え、ロッド・レイスに壁の中を蹂躙されても」

 

「ほぅ…」

 

「人間に戻したとして、洗脳を解けるかどうかは賭けでしかありません。解く前に記憶を改竄されて終わりでしょう」

 

「……また、元通りになるだけか」

 

「はい、今度は獣や超大型が同時に攻めてきて、何も知らないオレ達はなすすべなく殺されるだけですね」

 

「そうだよ…破滅的な平和思想の持ち主から『始祖の巨人』を取り上げている今の状態こそが人類にとって千載一隅のチャンスだよ」

 

 ヒストリアが言う。そして、エレンのほうを向く。

 

「あなたのお父さんは初代王から私達人類を救おうとした。それだけの選択を課せられていたから」

 

「父さん…」

 

「エレンをロッド・レイスに食わせない以上…お前の父親を殺すことになる」

 

「分かってる。お別れをしないと…私がとどめを刺す」

 

 ヒストリアの覚悟は本物のようだ。

 

 調査兵団はオルブド区に集まる。

 ロッド・レイスが向かっている場所だからだ。

 住民を避難させないため、駐屯兵団と少々衝突になりかねたが、ハンジさんが状況を説明をすると納得してくれた。

 

「作戦内容を話す」エルヴィン団長が言った。

 皆は何も言わず視線だけを送る。

 

「壁を掴み、起き上がったロッド・レイスの口の中に大量の火薬を投げ入れる」

 

「口の中に火薬をぶち込んであわよくば、うなじ事吹っ飛ばそうってことか?」

 

「そうだ」

 

「確かにあの高熱なら起爆装置がなくても勝手に燃えて爆発するだろう…巨人が都合よく口をアホみてぇに開けといてくれればな」

 

「そうだ…うなじの表面で爆発しても効果は望めない。

 必ず内側から爆発させなければならない。

 そして対象は自重故か顔を引き摺りながら進んでいる。開ける口などないのかもしれない」

 

 シンプルな作戦だが悪くない。

 実行するべく、皆が持ち場に着く。

 まずは全ての大砲を使って駐屯兵団が、ロッド・レイスに向かって発射する。

 だが、命中はしているものの全く効き目がないようだ。

 

「ねえ、キヨン」ヒストリアが話しかけてくる。

 

「どうした?」

 

「私は自由でいたい」

 

「それは調査兵団の誰しもがそう思っている」

 

 オレはそう言ったが、ヒストリアはただ自分の考えを言う。

 

「だから、レイス家として人類の神になんかなりたくない。

 でも…自分なんかいらないなんて言って泣いている人がいたら…そんなことないよって伝えに行きたい。

 それが誰だって!どこにいたって!私は必ず助けに行く!」

 

「良いことなんじゃないか?だが、それをなぜオレに言ったんだ?」

 

「うん?キヨンにも手伝わせてあげようと思って」

 

 良い笑顔でこちらを向いて言った。

 もう誰もヒストリアを縛るやつはいないだろう。代わりにオレが縛られることになりそうだ。

 この不自由な世で、これ以上縛られると、さすがのオレもそろそろ発狂しそうだな…

 

「勘弁してくれ…オレは良い人ではない」

 

「私も良い子にはなれないよ」

 

 笑いながら歩いていった。

 最後まで冗談だよ、とか言ってくれなかったな…オレに拒否権は無いらしい。

 発狂するぞ…??

 

 

 オレとアルミン、ミカサで火薬入りの樽を縛っていると、エレンが壁内にいる小さな子供を見ながら話しだした。

 相変わらずこいつは、仕事をしない奴だな…

 

「この街の子供達は…まるで…あの日のオレ達みたいだな…」

 

「ああ、まさか今日あの壁よりでかい巨人が襲ってくるとは思っていないなら、まさしくあの日の僕達と同じ光景を見ることになるだろうね」

 

「あの頃のお前は無鉄砲な馬鹿だったな。今も馬鹿ではあるが…今は現実を知ってビビっている馬鹿だ」

 

「そんな馬鹿馬鹿言うなよな…」

 

「進むんだろ?お前が敵を駆逐しないと言うなら、今すぐに兵士は辞めるべきだぞ」

 

「……ああ、進む。それしかねぇ…………オレは進み続ける。死んでも死んだ後も……あれ?なんだこの記憶」

 

 首を傾げながらエレンは言った。

 死んだ後も…記憶を受け継ぐからだろうか…?

 

「あっつ…!」

 

 急な風向きの変化に巨人の蒸気が壁の上に当たった。かなりの高温だな…

 そして巨人は、壁の上を掴み立ち上がる。超大型巨人は顔が出るだけだったが、ロッド・レイスは身体の半分が出ている。

 団長の想定通り、口は削られているな…これで作戦を進められる。

 

 オレ達は水を被り、団長の合図を待つ。

 

「エレン!」

 

『パッゴォォオオン!!』

 

「ウォオオオオ!!!」

 

 エレンが巨人となり、「今だ!!攻撃開始!!」と団長が信煙弾を上空に放つ。

 荷台に立体起動をつけ、大量の火薬が入った樽を巨人の手を目掛けて発車させる。

 

 手に当たり爆発した。巨人は体勢を崩し、顔を壁の上にぶつける。

 

「エレン!!」

 

 エレンが走り口の中に火薬入りの樽を放り込む。団長の予想通り口の中で爆発し、肉片が散って行った。

 

「総員!!立体起動でとどめを刺せ!!!」

 

 エルヴィン団長が指示を出し、リヴァイ兵長が真っ先に飛び出す。皆も続いた。

 オレも立体起動で移動したが、皆をただ眺めていた。

 この短期間で本当に成長したな…こいつらは。

 

 ヒストリは四方八方に飛び散っている肉片に見向きもせず、一直線に飛んでいく。

 そして、人ひとり分くらいの肉片を斬りさいた。

 その瞬間爆発して霧散した。

 オレは落ちていくヒストリアをお姫様抱っこの形で救出する。

 

「まさか、本当に倒すとはな」

 

「直感だよ。親子の別れなんだから私がしないと」

 

 地面に着地すると、民衆に囲まれた。

 

「ありがと、キヨン」

 

 そう言って、ヒストリアはオレから離れる。そして、民衆に向かって歩いていく。

 何をするつもりなんだろうか…

 

「私はヒストリア・レイス。この壁の真の王です」

 

 そう言い放った。

 これにはオレも驚いた。

 女王にはなりたくないと言っていたヒストリアがどうしてだろうか……

 その後、オレはヒストリアを回収し調査兵団のもとに戻る。

 

「それで…ヒストリア。本当にやってくれるのか?」

 

「はい。私はこの壁の王として、この国を統治します」

 

「そうか…」

 

 ヒストリアとエルヴィン団長の会話を聞き、皆も驚いていた。

 

「まぁたお前がそうなるように誘導したのか?」

 

「ユミル…お前はオレを何だと思ってるんだ?何もしてないぞ、現にオレも驚いている」

 

「それはそれは、さすがは私のヒストリアだ。あのキヨンを驚かせるとはな!」

 

「あんたでも、驚くことはあるんだね」

 

「アニか…もう大丈夫なのか?」

 

「まあね。十分に寝たから」

 

 

 

 オレ達はヒストリアの戴冠式に出ていた。

 民衆は「ヒストリア女王!!!」や「真の壁の王!!!」だとか騒いでいた。

 ヒストリアとはこれから別行動をとることになるのか。

 まあ、死地に飛び込むことになるから別行動はありがたい。

 

 これが終われば、ライナー達との戦争だ。それが終われば一段落つくだろう。

 ここまで手を出してこないとなると、ライナー達はウォール・マリアで待ち構えているのだろう。

 若しくは帰っているだろうが、それはあまり考えられないな。

 巨人の全戦力を持って手ぶらで帰れば、ライナー達エルディア人は更に迫害を受けることになるかも知れない。

 エルディアのために戦っているあの二人がその選択をするとは考えられない。

 

「ヒストリア…本当に女神になっちまったな」

 

「遠い存在になっちゃったね」

 

「おいおい~キヨン~お前から離れて行っちゃったぞぉ~」

 

「そうだな。あいつは立派になった」

 

 戴冠式を終え、再び皆が集まる。

 

「お疲れ」

 

 ヒストリアにオレは水を渡す。

 

「ありがとう」

 

「頑張れよ」

 

「偶には会いに来てやるからな!」

 

「うん。僕たちはまずウォール・マリア奪還だね」

 

「また争いになるね」

 

「仕方ねえだろ」

 

「俺達は兵士、ヒストリアは王として人々を助けるんだからよ」

 

「主に地下街の子供達だっけ?」

 

「俺達も手伝ってやるよ」

 

「全てが終わりましたら、皆で外の世界を旅行しましょう!」

 

「え?皆、何を言ってるの?」

 

「「「「ん?」」」」

 

 ヒストリアが首を傾げながら言う。それに対し、オレ達も首を傾げる。

 

「私は女王になったけど、自由に行動するよ?」

 

「は?」オレは思わず零す。

 

「名ばかりの王なんて誰もついてこないし。皆を扇動する王の方がついてくるでしょ?」

 

「いや…だが王が危険なところに行くのは…」

 

「でも、キヨンは約束してくれたでしょ?」

 

「んん?」

 

「何とかしてって…女王としての命令したとき分かったって言ったよね?私も皆と居られるように何とかしなさい」

 

「は?いや、戴冠式で王として任命されたお前を危険な場所に連れ出すのはいくら何でも不可能だ」

 

「女王の命令を無視するの?これは死刑ね。うん死刑よ」

 

「おい…」

 

「それに…お父さんを殺すとき、私の我儘を手伝うって言ったじゃない」

 

「あれはお前が勝手に…それに内容はただ人々を助けるためって…」

 

「全てはこの壁の中の民を助けるためよ。戦争で勝たなければ、私たちの国は滅ぶでしよ?

 戦争に行くことはみんなを助けるんだよ!

 私が率先して動くの!

 扇動するの…!」

 

「ぷっひゃっひゃっひゃ!良いじゃねぇか!ヒストリアが行きたいと言うならそれで!私もそれに賛成だ!」

 

「ユミルは以前、ヒストリアを戦地に飛び込ませないようにしていなかったか?」

 

「お前の近くにいる方が安全だろ?」

 

「お前が言ったんだろ?ならやるしかねーわな⁉」

 

「有言実行しなきゃモテね~ぞ~キヨポン!」

 

「キヨポン~嘘つきにはお肉一枚ですね~~」

 

 コニーやサシャ、ジャンがニヤニヤしながらオレに突っかかってくる。

 こいつらはオレの不幸が余程嬉しいようだ。

 この馬鹿達のふてぶてしい顔…なるほど、ザックレー総統が言っていたことが理解できた。

 こいつらの顔を見ていると、殴りたくて仕方ない。改造して民衆に晒してやりたいと思う。

 腹立たしく、脳内でフルボッコにする。

 これはもう…好きだな。

 

「良いでしょ?」

 

 オレはエルヴィン団長の方を向く。「まぁ…………………キヨンが護ると言うなら…………良いだろう」さすがのエルヴィン団長もすぐには了承しなかったが、しぶしぶ了承した。

 はあ…ため息をつきたくなる。

 

 だが……

 

 この無茶苦茶な奴らと居る日常が楽しいと思った。

 

「分かった」

 

 ヒストリアの頭に手を置き了承した。

 

「どうした…?」

 

 固まった皆に聞く。

 再起動した皆の行動はそれぞれだった。

 ヒストリアはオレに抱き着き、ヒストリアに覆いかぶさるように飛びついて来たのはサシャだった。

 ミカサやアニは顔を逸らしていた。

 対して、リヴァイ兵長はオレを見てドン引きしていた。これほど顔を歪ませた兵長を見たことはない。

 

「お、おおお前…笑えるんだな…」

 

「キヨポンが無から変化するのを始めてみたぞ…」

 

「これは…ウォール・マリア奪還以上に価値がある瞬間だな」

 

 そんなにもオレが笑ったことが驚くことだろうか…

 

「キヨンが笑う瞬間を見れて本当に良かった…!!」

 

 ヒストリアにそう言われた。

 なんと言えばいいか分からなかったので、取り合えず頭を撫でておいた。

 

 

▽▽▽

 

 

「あぁ~~やだなぁ」

 

 俺達の戦士長はどうやら酷く心をやられたようだ。

 戦士長が起きたのはここ最近だ。

 ここに来ていたことにもかなりの衝撃だったが、それ以上に幼児化していたことに驚愕した。

 幸い巨人の力で治ったが…幼児化した戦士長の傷を治すのはかなり時間がかかった。

 こんなこと…ここより発展しているマーレでも聞いたことがない症状だ。

 

「すいません…一度帰った方が良かったですか?」

 

「いや…帰ったら俺達は次の戦士たちに継承させられるかもしれない…それにエルディア人への迫害は更に強くなる可能性だってある。帰らずにいてくれて助かったよ」

 

 そんなことはないと思いたいが…マーレだからな…

 

「そ、そうですか…」

 

「だが、次が最後にしよう。

 次で始祖を奪還できなければ…帰ろう」

 

「はい…」

 

 ベルトルトも頷く。

 

「あのもうすぐ調査兵団が来ますが、一人危険なやつが…」

 

「今はまだそのことを言わないでくれ。思い出したくないんだ…」

 

「そ…そうですか」

 

 恐らくキヨンだろう…人類最強と名高いリヴァイ兵長もいるが、実際に戦闘しているところは見たことがない。

 それに…あいつは強さだけじゃねぇ…あいつの恐ろしさは…………はぁ……悪魔が…

 

「それにしても…アニちゃんが裏切ったなんてねえ…予想できなかった」

 

 戦士長の言葉に強く反応したのはベルトルトだった。まだ、諦めがついていないようだ。

 

「すみません…アニは…………殺し合いをしたくないと…言って敵の手に落ちました」

 

「はあ…またあいつが関わってるんだろうな…」

 

「……はい」

 

「可哀そうなアニちゃんだ…まさしくエルディアの悪魔だ」

 

「あいつは危険です。すぐに殺さないと」

 

「分かってるさ…分かってる分かってるんだけどよ~」

 

 握り締める拳を更に強め『グリィィ』と音がする…相当怖いんだろな。

 貧乏ゆすりが止まらない戦士長から目を離し、お茶を堪能する。

 

 俺達の最後の戦いだ。

 必ず勝って始祖を奪還する!!

 あわよくば…クリスタを…

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

奪還を目前に

宜しくです!

今、ちょい詰まってしまって、1話から読み直すついでに編集してます。もうちょいしたら、変わってるはずです。


 

 二か月後。

 調査兵団はウォール・マリア奪還のため、日々厳しい訓練に取り組んでいた。

 と言うのは、嘘である。

 まあ、忙しいが厳しくもなく、キツイ労働というほどでもない。

 地下街からヒストリアが子供を掻っ攫ってきて、牧場に放り込み、牛の面倒を子供に見させている。

 それとウォール・マリア奪還の作戦会議が、調査兵団の最近の仕事だ。

 

 口が悪いのは、あの独裁の女王様により、扱き使われているからだろう。

 ヒストリアが子供達と追いかけっこをしているため、今はこちらを見ていない。

 それを良いことにオレ達は小休憩を取ることにした。

 頑張れ子供達、願わくば一生捕まらないでくれ、と心の中で子供達を応援する。

 

「何か…」

 

「うん」

 

「思ってた女王と違うなぁ…」

 

 ジャンがそう言ってアルミンが同意する。

 オレもそれには同意だ。

 

「王冠を被ったのが2か月前か…今じゃ孤児院の委員長の方が板についてきている」

 

「実質この壁を統治してるのは、兵団だから…お飾りの王政は隠しようがないんだけど…ヒストリアが港で何て言われているか知ってる?」

 

「牛飼いの女神様だろ」

 

 オレも聞いたことはあったため、そう答えた。

 

「うん。親しみを込めてね」

 

「そりゃそうだ。民衆に襲いかかる巨人を葬った英雄がこれだけ慎ましく健気だときてる。いよいよ神様になっちまいやがったな…これじゃトロスト区を塞いだ奴のことなんて誰も覚えてねぇよ!オイ」

 

 ジャンがオレの横にいるエレンを煽るように言った。

 

「そう言えば、そんなこともあったな」

 

 オレはシンプルに忘れていた。

 もう過ぎ去ったことだ。

 

「おまっ…そりゃ可哀想だぜ!せめて俺達くれーわ!こいつの少ない功績を覚えておいてやらないとな!」

 

「おまえ…オレに何か恨みでもあんのか…?え?キヨン…」

 

「そうだな…いつも無鉄砲な馬鹿だからな…世話が焼ける」

 

「そーーーれは…悪いと思ってるが…………お前は…あ~何だ、その~あ~」

 

 エレンはオレの悪いことを探したが特に思い浮かばなかったようだ。

 

「何だ?お前に世話を掛けたことはないだろう」

 

「い~や、あるぞ!オレのお陰でお前はリヴァイ兵長達に悪く思われなかっただろう?」

 

「あれはペトラさんが否定していた気がするが?」

 

「そんなことねえよ!あれはだな…ペトラさんの記憶力が悪いだけで…」

 

「誰が記憶力が衰えたおばさんですって?」

 

 この場にいる四人とも、肩をビクッと震わせる。

 後ろからとてつもない威圧感を出して、声を掛けて来たのはペトラさんだった。

 

「お久しぶりですね。ペトラさん」

 

 鬼の形相をしていたペトラさんはオレを向くと途端に笑顔になり「そうだね!任務じゃなかなか会わなかったしね!」と言って、再び鬼の形相に戻りエレンを睨む。

 

「い、いや…おばさんなんて…」

 

 明らかにエレンはおばさんなんて言ってなかったが、全てはエレンの責任だろう。

 

「エレンはそういう時期でして、いろんな人をおばさん呼びするんですよ」

 

「はぁ⁉誰がそんなこと…ヒッ」

 

「そう…へぇ~一度任務で失態を見せたからって、よくも言ってくれたわね…エレン…」

 

 これ以上ここに居るのは不味い。

 そう感じたオレとジャン、アルミンは静かにここを離れる。

 エレンは今から特別実習だ。

 後ろから、聞こえてはいけない打撃音や悲鳴が耳に届いたが、気にしない気にしない。

 気にしなければ、平和でいられる。

 

 荷物を運んでいると子供たちがオレ達に群がって来た。

 

「しっふぁし…地下街の子達もよくわぁらうようになったものぁな~」

 

「そうだな…元気がありふぅぎぃる」

 

「いいふぁらいだよ」

 

 顔を引っ張られて思うように話せない。

 前からヒストリアが子供達を追いかけてくる。

 

「ふふっキヨンも随分と表情豊かになったね」

 

「これを見てそう思うふぁ?」

 

「思うよ」

 

「そ、そうか…それより、ふぉら、後ろでサボっているやつがいるぞ」

 

「はぁ~~まったく…エレンは」

 

 後ろで倒れ…寝ているエレンを指差す。

 ズンズンと歩いていくヒストリアを見送り、今日のノルマを達成したオレは、一人で食堂に向かった。

 

「なんだ、一人か?」

 

 一人で黙々と食べているユミルの席に食膳を置きユミルの前に座る。

 

「私はいつもこんなだろ?愛しのヒストリアがいねぇしな」

 

「ヒストリアは、あの時から常に成長し続けているな」

 

 オレがそう言うと、ユミルは食べるのを止めて言う。

 

「……何が言いてぇんだ?」

 

「お前も進まないと…と思ってな」

 

「余計なお世話だ」

 

「何が引っ掛かってるんだ?」

 

 再びオレが口を開くと、ユミルは頭を掻き、スプーンをこちらに向け言う。

 

「お前はあれか?エスパーってやつなのか?」

 

 残念ながらオレは普通の人間だ。

 

「そんな訳がないだろう。お前の雰囲気だ」

 

 勿論、雰囲気だけで判断したわけでは無いが。

 

「…はぁ……」

 

 長い溜息をついた後、俯きながら話し出す。

 

「…私はこれで良いのかと思ってな」

 

「何がだ?」

 

「私は…60年間巨人だった」

 

 秘密を告白するように言ったが、それは全員知っている。

 

「知ってるぞ」

 

「60年ずっとだ…!ずっと悪夢を見ているようだった」

 

 それも前に聞いたな。

 

「そうか」

 

「そっけねえな…可哀想だとか思わねぇのか?」

 

 同情を求めるように聞いてくるが、一ミリも同情の心が湧かない。

 

「巨人になったことはないし、それほど長くも生きていない。同情なんて出来ないからな」

 

「そうかよ…まぁ…それを開放してくれたのはライナーの仲間だ。

 敵だが…私はそいつらに感謝してんだよ。

 あんな綺麗な夜空を見たことはねぇ…こんな奴らと馬鹿したこともねえ!十分楽しんだんだ…笑いたきゃ笑えばいい」

 

 段々と声が大になっていく。そんな自分とオレの差に気付き、最後は顔を背けながらに言った。

 

「どこに笑う要素がある。それで続きは?」

 

「……私は…まあ、あいつらに恩を返さないとと思ってな…」

 

「ライナー達の味方になると?

 だとするなら、それは愚かな行為だと思うがな。

 マーレで待ち受けているのは『死』だけだろう」

 

「分かってんだよ!そんなこと…だがな「いいや、分かっていない」」

 

 声を荒げるユミルを制止させるように、被せて声を張った。少しの沈黙のあと、オレは続ける。

 

「恩を返したとしてどうなる?

 お前の巨人を継承した奴はすぐにこの島を目指して侵略してくるだろうな。そしてすぐに死ぬ」

 

「だからなんだよ」

 

 その先の事は、そいつら次第だとユミルは言いたいのだろう。

 

「お前はただ自分が満足したいだけだろう。

 だが…お前の巨人を食った戦士はどう思うだろうな。

 そいつは死ぬことはなかったかもしれない。だが、お前が来たことにより巨人にさせられて特攻し、すぐに死ぬ。

 これほど滑稽なことはない。そいつの人生は悲劇だな。オレから見たら喜劇的で笑劇的だが」

 

 最後に最近会得した笑みを作りながら言った。

 

「……」

 

 コップを握る手が更に強くなる。

 それを一瞥してから、オレは続ける。

 

「例え、お前がマーレで生かされ、戦士となったとしよう。

 マーレが今どこと戦っていると思う…「もう…いい」…この島、パラディ島だぞ?

 お前はオレ達と戦うのか?…「もういいって言ってん…」…その中にはお前が愛して止まないヒストリアもいる。

 今やあいつはこの壁の王だからな。

 殺せば幾万の富と名声が貰える。

 だが…お前に殺せるのか?」

 

「っ…」

 

 一向に止まる気配のないオレに対して、立ち上がり拳を振りかざす。

 オレは片手で止め、話を続ける。

 

「お前があいつらの元へ行って良かったと思う奴は、一人もいない。最初はライナーやベルトルトには感謝されるかもしれないが…すぐに地獄を見ることになる。

 分かっただろ?お前の考えている行動は誰の為にもならない。

 ただ全ての人間を不幸にするだけだ」

 

「……だったら…私はどうすれば」

 

「不満を抱いているのは何もお前だけではない。

 まあ。お前のような長年の苦痛から解放された喜びをオレは知らない。だから、当然お前が恩返ししたいという気持ちもオレには分からない。

 だが、そうやって悩むことができるのは…人間らしいんじゃないか?」

 

「は?人間らしい?」

 

「ああ。お前の長年の苦痛から解放された想いも、恩を返そうとしていた行為も全て巨人という特別な力があるからだろう?」

 

「……」

 

「お前は人間だろうユミル」

 

 ユミルの目を見て話す。

 ユミルは豆鉄砲でも喰らったかのように、一瞬驚いた表情を見せた。

 

「何も精神までも化け物になる必要はない。

 そうやって不満を抱き、思い通りに行かないことに苛立つ。

 それこそが人間だ。

 借り物の力に頼ろうとするな。

 どうしようもない不満があるなら、誰でも良い…相談しろ」

 

「人間か…」

 

 ユミルは落ち着いたのか席に座った。

 

「そうだ。お前もだぞ、アニ」

 

 オレは後ろで聞き耳を立てているアニに言う。

 

「あ、あんた…気付いていたの…?」

 

「当たり前だ」

 

「ふん…精神が化け物みてぇなキヨンに言われてもな、説得力に欠けるがな…」

 

「何を言う…オレは最も一般的な心を身に着けた…「アニもこっちにこいよ」「わかった…」「ホントにこいつは、レディへの言葉遣いがなってねぇんだよ」「キヨンだからね」…聞けよ」

 

 オレは空気になったのだろうか…オレを無視して会話が始まっていた。

 だが、まあユミルが向こうに行かなくて安心した。

 

「つっかれたぁ~あっ早いな三人とも…」

 

「マルコか…お疲れ」

 

「……それは君のほうだ。何があったんだ?」

 

「こいつらに化け物呼びをされてな」

 

「「本当の事だから…ね(な)」」

 

 マルコに同意を求めるような意見を言うのはやめて欲しい。

 

「そ…そうだ…な。

 あ、そう言えば聞いたか?調査兵団に憲兵団や駐屯兵団から編入してくるんだって」

 

「そうなのか?」

 

「なになに?調査兵団が増えるの?」

 

「あぁミーナ。お疲れ」

 

 マルコとミーナを交えて5人で話をすることになった。

 

「そうなんだ。ウォール・マリア奪還目前!集まれ!!っていう張り紙を見たよ」

 

「住民も皆がそれを望んでいて、最近の調査兵団はかなり活気に溢れてるだろ?だから大量に入ってくるって噂だよ」

 

「へ~っていうか…まだ調査兵団って人数多くなかったか?」

 

「うん…でもやっぱり減ってはいるよ?」

 

「確か…総員240名だったか?」

 

「いや、220だったはずだ」

 

 曖昧な表現になるのは仕方ないだろう。巨大樹の森の管理や中央憲兵の生き残りを探すために兵を派遣したりしており、大部隊で行動することは少ないからだ。

 それでもかなり多い。

 

「そんなに居ても必要かねぇ~実戦経験のないあいつらじゃ何も役に立たないだろう…なぁ?キヨン」

 

「オレに聞かれてもな…」

 

「お前なら使い方はもう頭に浮かんでんだろ?」

 

「……そうでもない。だがまあ…捨て駒程度にしか今は思いつかないな…それ以外は邪魔されそうで任務に支障をきたしそうだ」

 

「キヨンらしいな、まさに化け物だ」

 

「いや、悪魔でしょ」

 

「傀儡子のほうが合いそう」

 

「はは、僕もそう思う」

 

「今はって言ったのが聞こえなかったのか?」

 

「キヨンのことは一先ず置いといて」

 

 ミーナが話を進める。都合のいい耳をしているよな…こいつら。

 

「私たちが引っ張って行かないとダメってことだよね?」

 

「そうなるね」

 

「ってことは…もしかしたら班は別になるってこと?」

 

「そうかも…」

 

「それはない」

 

「「「「どうして??」」」」

 

「エルヴィン団長がオレに無い考えを持っているなら別だが、オレと同じようにただ数が欲しいと思っているだけなら、捨て駒に使うんだろう」

 

「え?エルヴィン団長が…?」

 

「あの人はウォール・マリア奪還のためならなんだって出来る人だ。用のない無駄死にはさせないだろうが…相手の戦力分析のための駒なら使いがっては良い」

 

「う……うむ」

 

「だから、今まで通り班は同じだろうな」

 

「それは良かったぜ…」

 

「ふぅ…」

 

 一安心したのか、食事を再開する。

 

 

 中央憲兵との一件が終わって行こう大きく変わったことがある。

 中央憲兵団が秘匿してきた技術は、今回の一件で世に広まった。

 電気の様なエネルギーを使用した技術は民の生活を助けた。このエネルギーはオレも知らなかった。

 そして、ヒストリアとリヴァイ兵長の力により、地下街の孤児も支援により子供たちが太陽の下で暮らせるようになった。まあ…その計画にオレもかなり手伝わされたわけだが…。

 

 エレンとアニの硬質化により、トロスト区にて対巨人用に兵器が開発された。

 これにより、なんのリスクもなく壁に近付く巨人を殺すことが出来た。

 

 まあ、変わった点と言えば…それくらいだ。

 

 

 

 今日も一日の仕事が終わり、オレは寝室に向かった。

 『ガチャ』と扉が開きオレの部屋に入ってきたのはヒストリア。

 色々と突っ込みたいところはある。

 女王がなぜ、兵士の宿にいるんだ。

 一日早ければ、ミカサと寝てたことがバレていたな…

 だが、様子がおかしかったため、とりあえず何をしにきたのか聞くことにした。

 

「どうした?」

 

 オレは灯かりをつける。

 そこに立っていたヒストリアは、顔に青あざを作っていた。

 

「本当にどうしたんだ?」

 

「ユミルと喧嘩した」

 

「ユミルと…?」

 

 ユミルと言われ理解した。オレがユミルに皆に相談しろと言ったからか…

 それで、ヒストリアと話して言い合いになった。

 それにしても…女王の顔をよく殴れたな、あいつ…

 

「そうか…ユミルはなんて言ってたんだ?」

 

「取り合えず…ここに居るって」

 

「それは良かったな」

 

「うん」

 

 オレはヒストリアを抱きしめベットに横たわる。

 

「ユミルが泣いてたよ」

 

「お前に殴られてか?」

 

「キヨンに人間って言われて」

 

 そう言ってオレを抱きしめる力が強くなる。

 

「そうか」

 

「キヨン…いろんな人に好かれるよね。お昼も先輩と話してたよね」

 

「話してただけだぞ」

 

「それが問題なんだよ」

 

 これは冗談だとオレも分かっている。だから突っ込まず、ヒストリアの頭を撫で続けた。

 暫くすると、かわいらしい寝息が聞こえてきたため撫でるのをやめオレも目を閉じる。

 

 

 

とある休日。

 

「よしサシャ。肉をやるから教官室から肉を盗んで来い」

 

 オレはいつものようにサシャに命令する。

 

「ほ、ほほほ本当ですか!?嘘じゃないですよね!?」

 

「お前には一度も嘘を吐いたことは無いだろう?」

 

「確かに…!!」

 

 オレのどこを見れば、そんなに信用できるのだろうか。だが、サシャの分析は完了した。こいつの脳のサイズはダチョウの脳みそ程度しかない。

 

「頼んだぞ」

 

「はい!!」

 

 元気よく駆け出していくサシャ。今日も平和である。

 日が沈み、オレ達は森の中へ入っていく。

 

「いやぁ~ほんとキヨンは優しいですね。ぐへへへへ」

 

 この頼みは何回もしたことがある。

 だが、教官はいつも保存場所を変えない。教官もなんだかんだサシャを気に入っているのかも知れない。

 その後、満腹とまではいかないが、肉を二人で食べた。

 翌日、サシャはまた教官に怒られたらしい。

 あれほど、凹んでいた教官が…。

 なるほど。教官は教官で前を向き始めている。

 

 

 

 ウォール・マリア奪還前夜、オレ達全兵は食堂に集まらされた。

 

「今日は特別な夜だがくれぐれも民間人には悟られないようにしてくれよ。兵士ならば騒ぎすぎぬよう英気を養って見せろ」

 

 サシャとオレは最近食べたばかりだ。だから、肉を見たからと言ってサシャも騒ぎ立ては…

 

「え…?なに?これ…肉?」コニーが言った。

 

「マジかや…うぉおおおおおおおおおお!!」ダメだった。サシャは発狂し肉に齧り付きやがった。

 

 この肉の量は確かに多いからな…

 

「「「「「「うおおおおおおおおお」」」」」」」

 

 皆も叫んだ。

 

「てめぇふざけんじゃねぇぞ芋女!!」

 

「んーんー」

 

「自分がなにしているのかわかってんのか⁉」

 

「やめてくれサシャ…俺…お前を殺したくねぇんだ…」

 

 コニーはサシャの首を絞め落そうとしている。

 だが、サシャは意識がないにも関わらず肉に齧り付いている。

 

「一人で全部食う奴があるか!!」

 

 ジャンがサシャから肉を奪取するが、サシャはジャンの手に齧り付いた。

 

「ああああああ食ってる食ってる食ってる」

 

「サシャ⁉その肉はジャンだ!!分かんなくなっちまったか⁉」

 

「調査兵団は肉も食えなかったのか…?不憫だな」

 

 肉を齧りながら言ったのは……誰だこいつは。

 妙に腹立たしい顔をしやがって…。

 

『バキッ』サシャが気を失いながらもおかっぱを殴った。

 なんだかよく分からないが、よくやったサシャ。

 

 全員でサシャを柱に縛り付け放置する。 

 これで落ち着いて飯が食える。

 

「だからお前はまだ何の経験もねぇんだから後衛だって言ってんだろ?」

 

 ジャンがおかっぱに言う。どうやらこのおかっぱはマルロと言うらしい。

 

「確かに俺はまだ弱いが…だからこそ全線で敵の出方を探るにはうってつけじゃないか?」

 

 何やら、自己犠牲を真剣に語り合っているが…これから死に行く奴の話など何の興味もない。

 オレは肉を持って席を離れる。

 

「んーーんーー」

 

 足をバタつかせてこちらに訴えるように叫んでいるのはサシャ。

 丁度いいな。

 

「ぷっはぁ…ありがとうございます。なんで私がこんなことに…キヨポン、お肉をいただけませんか?」

 

 口だけ解放してやるとサシャは肉を寄越せと言い、口を大きく開いた。

 ここに肉を入れろということだろうか…。

 相変わらずのアホ面でバカ面だ。

 

「仕方ないな…ほら」

 

 オレがサシャの口に肉を運んでやると、勢いよく口を閉める。

 『カン』という音が響く。

 サシャはえ?なぜ?という顔をしてこちらを凝視する。

 

「キ…キヨポン??」

 

 オレは肉を自分の口に持ってきて、漫画のように噛み、引きちぎる。

 それを何度か繰り返すと…

 

「あーーあーー!!!?」

 

「何だ?言葉で言わないと伝わらないぞ?」

 

 そう言ってまた肉を口へ持っていく。

 

「キキキキキキヨポン!あの…肉をください!」

 

「最近…お前を使う事が減って来ているんだ」

 

「え…?」

 

 この世の終わりみたいな顔をしている。

 

「だから、オレもお前に何か良いことをしてあげる必要はないと思ってな」

 

「そっそそそんなことはないでしょう⁉私はまだまだ使えますよ!!!」

 

「ほぅ…使えるか」

 

「当たり前でしょう?ね、ねぇキヨポン??」

 

「さあ、オレに言われてもな」

 

 と、また一口齧る。

 おっと最後の一口になってしまった。

 

「キヨポン⁉くだっさい!肉肉ー!」

 

「これを食べたらオレの言うとおりに動くか?」

 

「もっちろんですよ!」

 

 何度も何度も高速で首を縦に振る。

 

「厳しいことだが、お前にやれるか?」

 

「はい!」

 

「返事が小さい気がするが…」

 

「はい!!!」

 

「まだ小さいな…」

 

「はいい!!!!」

 

「よしならこれを食べたら…」

 

「はいい!!!!」

 

 まだ言い終わってもいないのに返事をするサシャ。

 

「教官を連れ出して来い」

 

 オレは肉をサシャの口元に持っていく。

 

「はいい!!!!」

 

 返事をしながら食べるサシャ。

 相変わらず、美味しそうに食べるな…オレももう一度肉を取に行こう。

 サシャは食べ終え、落ち着きを取り戻してから気付く。

 

「え…きょうかん…??共犯…?きょう、はん…今日の飯…今日のご飯ですか…??」

 

 必死に現実を受け止めないようにするサシャにオレは現実を突きつける。

 

「教官な」

 

「ど、どうしてですか…⁉」

 

「それはお前が知らなくていいことだ」

 

「ま、ままままってくださーーーい!!!!」

 

 サシャの叫びはこの騒がしい食堂の小さな叫びとして消えて行った。

 オレは肉を取ってから夜風を当たるべく外に出ていた。

 暫くして、エレンはアルミンの肩を借りて腹を抑えながら歩いてくる。そこにはミカサもいる。

 

「おうぅ…キヨンもきてたのか」

 

「ああ」

 

「いててて…」

 

「お前はケガをしてもすぐに治るだろ?」

 

 何があったのかは知らないが、そう言っておく。

 

「ひでぇな…」

 

「ウォール・マリアを取り戻して…襲ってくる敵を全部倒したら…また戻れるの?あの時に」

 

 ミカサが言った。

 

「戻すんだよ。でも…もう全部は返ってこねぇ…ツケを払ってもらわねぇとな」

 

「…そう」

 

「それだけじゃないよ…」

 

 アルミンが目を輝かせながら続きを言う。

 

「海だ。商人が一生かけても取りつくせないほどの巨大な塩がある!壁の外にあるのは巨人だけじゃないよ。炎の水、氷の大地、砂の雪原、それを見に行くために調査兵団に入ったんだから」

 

「あ…あぁ。そう…だったな」

 

「キヨン…あなたはどう思ってるの?戻れる…よね」

 

 今度はオレに聞いてくる。

 

「戻れないし、戻る気はない」

 

「どう…して」

 

「オレは進まないと…奪還して終わりじゃない」

 

「キヨンは変わらねぇな。なんでそう強く生きられるんだ?」

 

「この鬱陶しい壁、どこにもいけない不自由さ。

 なんと言い表せばいいだろうか…気持ち悪い…か。

 分からない。

 まだ、はっきりとしないが…その感情がある限りオレは止まらない」

 

 オレもこの感情を何と言い表せば良いのかが分からない。

 

「そうか…」

 

「まずは海を見に行こうよ!」

 

 アルミンが叫び立ち上がる。こいつは聡明でありながらも子供のように無邪気な目をする。

 羨ましいとオレは思う。

 きっと後ろで聞いているリヴァイ兵長もそう思っているだろう。

 

 皆が就寝したころ、オレは外に出て行く。

 

「行くか」

 

「うん」

 

「本当に良いんだな?明日に支障をきたさないか?」

 

「巨大樹の森で一日泊まるからね、大丈夫だよ」

 

「そうか」

 

 オレ達は馬を走らせる。

 寒いな。

 風が痛いと感じる。

 それでも30分ほど走らせ、目的地に着いた。

 

「結局ここに落ち着くんだよね」

 

「だな」

 

 草木をかき分け、森の中に入っていく。

 

「ふぅ…」

 

 息を吐く。寒くても白い息にならないのは空気が澄んでいるからか。

 切り株に腰を下ろす。

 

「叫ばなくて良いのか?」

 

「別にストレスは溜まってないし」

 

「そうか。なら聞こう…ライナー達と戦えるか?」

 

「あんたさ…つくづく思うよ…性格、ほんっと…悪いね」

 

「今更か?」

 

「はあ……前線に私とユミルを置いといて聞く?…やめてほしいよ。戦えるかって?戦うしかないでしょ…」

 

 ユミルやアニがライナー達と戦うとなれば、躊躇する可能性があることを理解しながらも、前線に二人を置いた。

 こいつらが死ぬことは、殆どないだろう。目が取れようが、内臓が飛び出ようが修復する。それはエレンの実験を通して知っている。

 寸前で躊躇するなら、纏めて新武器を放つまで。

 戦闘不能になるかもしれないが、時間が立てば治るからな。

 

「それは悪いな」

 

「いいよ…そんな気持ちの籠っていない謝罪は…」

 

「……」

 

「あんたこそ…私たちが裏切るとは考えなかったの?」

 

「思わないな」

 

「どうして…」

 

「アニの性格からして…自分だけがずっと戦いから顔を背けることは出来ない。

 なら、どちらを選ぶかだ。

 アニの絶対の目標である父に会うことだって…アニ次第だって分かってるんだろう?

 オレは敵となったら容赦はしないからな。アニの父が居なければ全ての人を滅ぼしてるかもしれない」

 

 エルディア人関係なく。壁の外の人間は全て敵として。

 アニは少し顔を引き攣った。

 

「そして、アニ自身がここに居ることを悪いと思っていない。」

 

 これは確かなことだろう。

 アニはうんと頷く。

 

「あとは…お前がオレのことを異性として好感を持っているからだ。 

 これが結構決め手となったんじゃないか?あのトロスト区の時だってそうだったしな」

 

 アニは顔を赤くしてこちらを睨み、恥ずかしそうに言う。

 

「それをあんたが言うな…!」

 

「悪い」

 

「謝らないでよ…!」

 

 そう言われ、オレは黙った。

 

「確かにそれは否定しない。あんたのこと好きな子は結構多いからね…もう隠す気はないし。でも覚えておきなよ、女の子は結構飽き性だから」

 

「それは肝に銘じとく」

 

「まあ…ほんっとその通りだよ。だから私は裏切らない。

 ヒストリアやユミル、ミーナ…皆の成長を見て私も何かやらないとってなってるし…今更裏切るなんてことはしない。

 相手がライナーやベルトルトだろうと…容赦しない」

 

「だろうな」

 

「分かってるくせに聞く理由は?」

 

「なんとなくだ」

 

 それは当然、その意識を強めさせるため。

 言わば責任感だ。

 当事者意識を高めることで責任感は強まる。

 私はこうだとしっかりと理解させておく。

 

「はあ…あと何回ここにくるだろうね」

 

 適当に返したオレに呆れたのか、溜息を吐き、話を変えた。

 

「さあな。来たい時にこればいい」

 

「うん」

 

 会話はそれ以上なく、オレもアニも湖の方を向く。

 

 この冬の終わりの季節。

 夜。月の光に照らされた湖、その色は青色。

 反射した青色の光はアニの目を神秘的に見せていた。

 

 いつかオレもこのような光を自分自身で感じ取りたいものだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ウォール・マリア奪還

すいません…投稿したと思いこんでました。

原作とまんまやんという箇所もあると思いますが、頑張って書きましたので宜しくです。


【ピークの独白】

 

 

『毎日のように繰り返す戦争。

 

 巨人となり多くの人を殺してきた。

 

 私達を道具として使うマーレは嫌いだけど、共に戦った仲間を見捨てるわけにもいかない。

 

 最初は怖くて恐怖した戦争も仲間達のおかげで乗り越えることができた。

 

 そんな仲間達のおかげで次第に戦争に出ることに恐怖をすることは無くなっていった。

 

 だけど、恐怖することがなくなったわけではない。

 

 一つのことに慣れれば、また一つの恐怖が出てくる。

 

 恐怖の種類は様々だから、なくらならいのは仕方ない。

 

 だけど…恐怖とは何も恐怖して終わりじゃない。

 

 恐怖してからが本番なのだ。

 

 恐怖の先には一体、何があるのか…。

 

 それも様々。

 

 死か。

 

 迫害されることか。

 

 仲間を失うことか。

 

 それとも…。

 

 恋をすることもあるかも知れない。

 

 もし、今、それが起きたなら…。

 

 それはこの世で最も最悪な、吊り橋効果だろうね…』

 

 

【作戦開始】

 

 

 

 出発の日。

 調査兵団200名は壁の上に集まっていた。

 

「「「「「うおおおおおおお」」」」」」

「ウォール・マリアを取り返してくれ!!!!」

「全員無事に帰って来てくれよ!!!!」

「ヒストリア女王!!生きて帰ってきてください!!」

「女神ィィィィィイイ!!」

 

 下で住民たちが騒いでいる。この熱量、調査兵団がここまで応援されることは初めてではないだろうか。

 

「うおおおおおおおおお」

 

 エルヴィン団長が住民に応えるように叫ぶ。

 

「ウォール・マリア最終奪還作戦!!開始!!進めぇえええ!!」

「「「「「うおおおおおおおおおお」」」」」」

 

 兵士の士気は上場。

 今日の目的地は巨大樹の森で、明日もこの士気が続けばいいのだが…。

 

 

 

 

 巨大樹の森で一夜を過ごし、夜明け前からウォール・マリア…シガンシナ区に向かう。

 

「エレン震えてるぞ」

 

 目の前で生まれたての小鹿のように腕をプルプルさせ震えているエレンに言う。

 

「はぁ……⁉怖くねぇし!」

「怖いかとは聞いてないが?」

「っ…」

「大丈夫だよ、僕なんかずっと震えが止まんないんだけど、ほら」

 

 アルミンがそう言い、自分の手の震え具合を見せる。

 

「エレンは巨人が怖いと思ったことはある?ふつうは皆怖いんだよ。トロスト区襲撃時、少女を巨人の口の中から救っていたよね?どうしてあんなことができたの?」

「オレは思い出したんだよ。お前の話を聞いて、オレは初めて知ったんだ。オレは不自由なんだって。広い世界の小さなカゴで訳の分かんねえやつらから自由を奪われている。それが分かった時、許せないと思った。

 なんでか知らねえけど、オレは自由を取り戻すためなら力が湧いてくるんだ。

 ありがとな。もう大丈夫だ。多分、来年の今頃、オレ達は海を見ている」

 

 エレンの震えは止まった。

 もう大丈夫だ。と力強く歩みだす。

 

「キヨンは、巨人を怖いとか思ったことないの?」

 

 今度はオレに聞いてくる。

 

「オレに聞く意味あるのか?」

「ただの雑談だよ。今、緊張してても仕方ないしね」

「…怖いと思ったことはないな」

「…どうして⁇」

「利点よりも弱点が多いからな。不便なやつらには同情する」

 

 オレはエレンを見ながら言う。

 

「お前…オレが横にいるのによく言えたな…」

「お前に言ったんだ。力を持ったからと自惚れるな」

「それは…分かってるよ…」

「今回は、お前が鍵だ。前みたいにテンパるなよ?」

「分かってる…よ」

 

 エレンが素晴らしい功績を挙げるのではなく、回収されないことが大切だ。

 

「あっこの辺り見覚えがある」ミカサが言った。「確か、薪を拾いに来たことが」

 

「ふもとが見えたぞ!海道跡がある」

 

 前から兵士の大きな声が聞こえてくる。一度歩みを止め耳を澄ます。

 サーっと川の音が聞こえる。

 

「川の音が聞こえる」

 

「帰ってきたようだな」

 

「ああ、故郷に帰って来たんだ」

 

 夜明けと同時に馬に乗り全速力で移動する。

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 ウォール・マリア奪還作戦の会議が開かれていた。

 

「今作戦を成功させるに当たり、シガンシナ区の扉、内門と外門を封鎖する必要がある」

 

 エルヴィン団長が作戦内容を話しだす。

 外門がシガンシナ区と壁外を繋ぐ門。内門がシガンシナ区とウォール・マリア内を繋ぐ門だ。

 

「まず、外門を封鎖し続いて内門を封鎖する。問題は奴らが何処で待ち構えているかだが…」

 

 オレを見て一度止めるが、それは分からない。全知全能の神ではないからな。

 

「…可能性ですけど…」

 

 口を開いたのはアニだった。

 

「多分…壁の中に居るかも知れません…」

「壁の中?」

「そう…もしかしたらだけどね。壁は巨人でできているし。人が入れるサイズの穴があってもおかしくない」

 

「壁の中にか…」ジャンが言った。

 

「いや、ありえないことじゃないよ」アルミンがジャンやサシャ、コニーに向けて説明する。

 

 ライナー達が何処に潜んでいるのかも重要だが、最も気にするべきことをアニに問う。

 

「アニ、もう一つ教えて欲しい。ライナー達は殺すべきか?幽閉すべきか?」

「……それは、殺すのはお勧めできない」

「なぜだ?」

「巨人になれる人間が死んだ場合、ランダムにエルディア人へと継承されるから…この島で選ばれるかもしれないけどマーレで生まれるかもしれない」

「なるほど…分かった。だが、捕まえて幽閉するとなると難易度が跳ね上がる。死ぬくらいなら殺すべきだな」

「そう…だね」

 

 ライナーや獣なら幽閉することもできるかも知れないが、ベルトルトは不可能だろう。

 一先ず、オレは話を戻すことにした。

 

「壁の中に潜むなら、まずベルトルトはありえませんね」

 

 壁の傍で巨人化してもメリットは殆どない。

 全方位無差別な爆発が超大型の強みだろう。

 

「あと警戒するのは獣の巨人の投擲です。あれは危険です。石ころを手に納まるほど持ちそれを投げただけで、一気に数十人は死にます。それに人一人を上空に投げ飛ばすことも可能でしょう」

「なるほど…ベルトルトを上空に飛ばし上空から超大型か。危険だな」

「まず狙うはベルトルトだ。あいつは殺さなければならない」

「「「「……」」」」

 

 オレがそう言うと同期は顔を引き攣る。

 

「殺さなければ、オレ達の誰かが死ぬぞ?」

「分かってる…」

「ああ…やってやるさ」

「ライナーやベルトルト、獣に車力がいる。馬は下に繋ぐ必要があるが、なるべく地面には下りず、壁の上で敵を探す」

 

 纏めると、外門から内門をエレン、若しくはアニの力で封鎖すると同時に壁の中を探るということになった。

 そして、壁の上から奴らが現れるのを待つことになった。

 大方の流れが決まり昼食を取ることに。午後からも会議は続くが。

 

 

 

 そして現在。

 

 

 

「これより作戦を開始する!!総員立体軌道に移れ!!」

 

 エルヴィン団長の合図とともに一斉に立体起動で移動し、壁の上に上がった。

 全員がフードを被っており、誰がエレンかは分からない。

 また、相手はヒストリも回収するつもりだろう。誰が誰だか判断できない内は、ベルトルトの奇襲は無いと見て良いだろう。

 塞ぐべき門は二つ。その外門をエレンが塞ぐ。

 

 オレ達は立体起動で壁を伝って移動する。ここからは時間との勝負だからだ。

 

「アルミン」

「ああ」

 

 アルミンを置いて、オレはここを離れる。

 壁の上に焦げた跡がある。近くに居るのだろう。

 その件をアルミンに託し、オレ達は進む。そして、門の上に着いた。

 

「行け、エレン」

「おう」

 

 エレンを送り出し、オレは壁の上で待機する。

 

『パッドォン!』

 

 巨人化し、一気に硬質化により壁の穴を塞ぐ。

 ミカサがエレンを回収に行く。エレンを巨人から引きはがし、壁の上に上がって来た。

 今からアルミン達が壁の中を探すことになる。

 

 その間に、オレ達は内門に向かう。

 

「おい、ライナー達は本当にいるのか」リヴァイ兵長が俺に問う。

 

「はい」オレはそう返す。

 

「そうか」リヴァイ兵長は前を向いて走りながらオレ達に言う。

 

「お前ら…戦う覚悟はできてんだろうな…?」

 

「「「はい」」」オレとミカサ、そしてアニが即座に返事をする。

 

「はい」遅れてヒストリア。「はい」「はい…」と更に遅れてジャンやコニー達が続く。

 

「殺せねえなら、今すぐに降りろ」

「「「大丈夫です!!」」」

 

 今度はジャン達が声を大にして言った。

 

「そうか」

「ここだぁああ!!ここに空洞があるぞおお!!」

 

 アルミンの横にいる兵士が叫ぶ。

 ガコッと壁が開き、中にいたライナーが出て来た。そして、その兵士に刃を一突きする。

 

「ちっ」

 

 リヴァイ兵長が真っ先に動いた。

 出て来たライナーを首に一突き、そして胸に刃を突き刺した。

 だが…。

 

「くそっ…これも巨人の力か…あと一歩命を絶てなかった…!!」

 

 殺せなかったのか…アニから聞いていた以上に厄介だな。

 

『パゴォォォン!!』ライナーが巨人化した。

 

「多分神経を身体に集中したんだと思う。最後の手段だよ」

「そうか」

「周囲を見渡せ!他の敵を捕捉し…『『『パゴォォォン!!』』』はっ」

 

 内門を巨人が半円を描くように並び囲んでいた。

 その真ん中には獣の巨人がいる。

 だが、ベルトルトがいない…。

 いや…車力の巨人がいる。

 その背中にはランドセルを背負うかのように荷物を乗せている。あの中にいてもおかしくはない。

 

 獣は野球のピッチャーのような構えを取る。

 その手には大岩。

 

「投石くるぞぉ!伏せろぉお!」

 

 エルヴィン団長が声を張り注意を促す。

 投石は、壁の上に居る調査兵団には当たらず、下の内門を封鎖した。

 馬を移動させられなくなったな。だが手間が省けた。

 

『うおおおおお』

 

 後ろでライナーは動き出した。続いて…。

 

『ダァン!』

 

『『『うぉおおお』』』

 

 獣は地面を叩き、周りにいる巨人を突撃させた。

 

 エルヴィン団長は少し考えたのち、指示を出した。

 半々になって行動する。

 ペトラさんやリヴァイ兵長達、既存の調査兵団100名は馬を護る。その他の兵士やハンジさん達と104期の調査兵団100名は、ライナーと後から来るであろうベルトルトを相手にする。

 

 ライナーは硬質化を手に使用し壁をよじ登ってくる。ここに来るまで時間はあるな。

 

「エルヴィン団長、リヴァイ兵長とアニ」オレは三人を呼ぶ。

 

「どうした?」

「リヴァイ兵長は東へ向かってくれませんか?」

「なぜだ」

「相手は兵站勝負に出てきました。なら、こちらは短期決戦です。

 後ろから予備の兵を突撃させ、オレが西から奇襲を仕掛けます」

 

「なるほど」エルヴィン団長が頷く。

 

「獣は石を投げて兵を殲滅するでしょう。その隙にオレとアニはギリギリまで近付く。そして気付いたところをアニは巨人になってオレを護る」

 

 前回も似たような誘導をした。間違いなくオレを気にしているだろう。

 

「獣はオレを強く警戒するはず。

 前回も兵士を囮に裏をかき倒しました。

 なら、必ず裏を警戒する。オレが近付きオレに注意を削がれたところ、リヴァイ兵長がとどめを刺してください」

「お前が標的になるってか…石を避けられる遮蔽物はアニで良いが、まずそこまで近づけるか?」

 

「問題無い」エルヴィン団長が言う。

 

「そもそも敵は裏から兵士が現れるとは思っていないはずだ。これが第一の奇襲。

 そして、キヨンは周りにいる巨人を殺して近づく。

 これも奇襲となるだろう。

 その後にリヴァイが予備として反対側から近付く」

 

 エルヴィン団長が代わりに説明してくれた。

 

「はい」

「了解した」

「分かりました」

 

 リヴァイ兵長は東へ駆け出す。

 オレとアニは皆の元に戻る途中、壁の下で巨人と戦っている精鋭を見る。

 精鋭なだけあって動きは良いが、全ての巨人が奇行種のようで苦戦を強いられている。かなり犠牲は出そうだ。

 

 ここで壁をよじ登っていたライナーは壁の上に辿り着いた。

 周りを見渡し、状況を確認しているようだ。

 

 オレは急ぎ皆に指示を出す。

 

「オレはアニとリヴァイ兵長と獣を狩る。皆はライナーとベルトルトを頼む。頼んだぞアルミン」

 

 ベルトルトの位置がまだ確認は出来ていないため、何も指示を出せていない。だが、今のアルミンならやれるはずだ。

 

「分かった」

「ヒストリアは無理するなよ?」

「うん」

「まあ、そのために私がいるしな」

 

 ユミルが任せろ、と胸を叩く。らしくないユミルに多少驚きながらも頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

 

 居た…一か所に固まっている。

 俺は戦士長の指示の下、馬を殺すことを任されていた。

 しかし…キヨン、あいつは何処に居やがる。

 あわよくば、キヨンのところにベルトルトを投げつけて、殺す計画だったが…さすがにそう簡単には行かねえか。

 今はフードを被った奴らばかりで分からねえな。

 

 それにしても危なかった…。

 俺は首に刺さっていた刃を抜く。

 これがリヴァイ兵長の実力か…戦闘だけならキヨンよりも厄介かも知れねえな。

 あの時、意識を全身に移すのが一瞬でも遅れていれば、あのまま即死だった。

 しかし、やはりアニは裏切っているのか。

 急に壁の中を探し出したし…いや、若しくはアルミンか…?発想力はあったからな。

 まだアニだと決めつけるのは、違うか。

 

 だが、今はまあ良い。

 長かった俺達の旅もようやくこれで終わる。

 

 はっ…。

 俺は一人の男に目が行く。

 エルヴィン・スミス。調査兵団の団長だ。殺しておくべきか…。

 いや、待て。迷うな、先に殺すのは馬だ。

 

『パァゴォォオン!!』

 

 なっ…!?シガンシナ区内の街中でエレンが巨人に変身した。

 なぜ自分から姿を現した?

 というか、あいつが本当に始祖を持っているのか…?

 

 エレンは俺に背を向けて走り出した。

 まさか南から壁を越えて逃げる気か!?

 奴一人なら馬が無くとも、巨人の力でトロスト区まで逃げられる。

 そうなっては、俺達がここに留まって戦う必要は無くなる。

 ここで調査兵団を壊滅することは出来ても、二か月で硬質化を身に着けて来た奴を再び、壁内に戻すのは不味い。

 

 いや、待て。おかしい。

 本当に逃げるなら、立体起動で東か西の壁をつたった後に巨人化するべきだ。

 なぜ、壁内で巨人化する…。

 

 そうか…奴らの目的は、俺の目標を馬からエレンに移すことか…!?

 

 エルヴィン・スミスはどうした?と言わんばかりに、フードを取った。

 ちっ…考える時間もくれねえってことか。あぁ、イラつくぜ、またキヨンが関わってるんだろうな。

 

 あいつの笑顔を見たことはねえが、あいつの不気味な笑った顔が、脳内で思い浮かんでしまった。

 

 俺は下へ降りる。

 仕方ない。あいつを逃がすよりかはマシだ。

 

 俺がエレンを追いかけると、中央付近で俺を迎え撃つ作戦に出た。

 構えて、対面する。

 巨人の相性的に俺がかなり有利。

 だが、こいつの格闘術は強い。油断ならねえ。

 

 周りにアニかユミルが居るのかも知れねえが、こっちにはベルトルトが居る。強さなど関係ない。

 大丈夫だ。俺は心を落ち着かせ、目の前のエレンだけに集中する。

 

『パキパキパキ』

 

 エレンの拳が硬質化する。より凝縮された硬質化か…これは不味いな。巨人の相性が全く関係ねえぞ。

 

 なら、全力のタックルだ。

 

 エレンは俺を躱す。避けた場所に右ストレートを放つ。だが、それも避けられる。

 構わず突進し、右ストレート。

 やべっ…エレンの右フックが俺の顔に直撃する。

 回転しながら地面を転がる。

 ちっ…いてぇな。

 追い打ちと言わんばかりに、エレンは俺を殴り続ける。俺は腕でガードするが。鎧が剝がれていく。

 

 少しの隙を待つ。そして、手が止まった瞬間を狙って、俺はタックル。エレンは当然躱すが、足を掴む。

 よし。

 力任せに持ち上げる。

 何度も地面に叩きつけ、寝転がったエレンに下段付きを食らわせる。

  

 どうだ…。

 

 ちっ…躱したか。

 もう一度ッ…!?『パァゴォォオン!!』直後、後ろで誰かが巨人化する。アニ…いや、ユミルか!

 だが、ユミルは硬質化は出来ないようだ。

 俺に纏わりついて殴ってくるが、効かねえ。

 だが、エレンが厄介だ。腕を掴み合い、力の勝負。

 っ…ユミルは俺の顔面に張り付いて離れねえ。

 こいつ…!鬱陶しい…!

 

『シュルルルル、シャッ』

 

 この音…立体起動か?兵士が動いたのか。だが、兵士の刃がなんだと言うのだ。

 ユミルの攻撃以上に役に立たねえはずだが…。

 いや、まさかキヨンか!あいつは俺の弱点を悉く突いてくる。

 いや落ち着け。大丈夫だ。音的にあいつの速さじゃねえ。

 俺はもう一度、エレンに向き合おうとしたが、刹那、俺の首に何かが刺さる。

 

 えっ…なにこれ。

 

『ボォォーーン』

 

 爆破ッ。

 はあ?というかこの威力…俺は朦朧とする意識の中、目を開け、微かに見える視野でユミルを見る。

 軽いユミルは吹き飛んでいる。

 あいつら…巻き込んだのか?仲間じゃねえのかよ!

 

 このぉ…悪魔どもが。

 

 だが、また俺の首に鉄の槍が刺さった。

 えっ…待って。

 

『ボォォーーン』

 

 飛びかけた意識。いや…多分数秒は飛んでいただろう。

 

『ブゥオオオオオオオオオオオ!!!』

 

 俺は叫ぶ。最後の手段。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

「なんだ、何で叫んだ?何を呼んだ?」

 

「ベルトルト以外にないだろ!逃げるぞ!!!」

 

 キヨンが言っていた通りだ。

 獣がベルトルトを投げたんだろう。

 

「ああ、総員退避!!!」

 

 僕は上を見る。

 樽が上空高くを飛んでいる。あれか!!間に合うか…。

 

 皆は全速力で、ちりちりになって壁まで移動する。

 それは僕もだ。

 ヒストリアは……よし、一番安全なところに居る。

 

 それにしても、遂にベルトルトが出て来た。

 まだ、完全な攻略方法は見つかっていない。でも、アニのヒントから体力が無いとは聞いている。

 それに懸けるしかない。

 

 だが、なんか様子が変だ。

 

 もう真上まで来ているのに、何で巨人化しないんだろう。

 えっ?上空でベルトルトが出て来た。

 なんでそんなことをする必要がある……?

 

 ベルトルトは樽から出てライナーの元へ近付いて行った。

 ライナーを救いに行ったんだ。この状況でベルトルトは優しいんだね。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

『ブゥオオオオオオオオオオオ!!!』

 

 来た!!

 合図だ!!

 僕が入った樽が軽々と持ち上げられる。

 戦士長は高く高く僕を投げる。

 もの凄い圧力だ。

 どこだ…どこだ?今行く!!ライナーー!!

 

 地面との距離。ここだ、先ずはここらを吹き飛ばす!!

 

 はっ…。

 

 ライナーが跪いているのが見えた。

 僕は思わず、飛び出る。

 立体起動で移動し、ライナーの元へ向かう。

 

「ライナー!ライナー」

 

 生きているのか?

 

「ライナー、はっ…生きてる。これは全身の神経網に意識を移すことに成功したのか?

 でもこれは最後の手段だ。

 まさか、本当にやるなんて。まさか君がここまッ!?」

 

 瞬間、僕は仰け反るが右手が吹き飛ぶ。

 巨人化…!

 待て、ここではライナーが…それにユミルが居るということは直ぐ近くにクリスタがいる可能性が大いにあり得る。

 ダメだ。ここでの巨人化は…。

 

「ちっ…ハズしたか!」

 

 ライナーの下から突如ユミルが出て来た。

 

「ユミルッ…なぜ、どうやって近付いた」

 

「あいつ…本当に容赦ねえことさせんのな。私が半分不死みたいだからって、爆発に巻き込まれても死なねえから、ライナーを盾にして我慢しろってな」

 

 あいつ…キヨンか。またキヨン。一体どれだけ僕らの邪魔をするんだ。

 僕が巨人化しないと読んでいたのではなく、巨人化して吹き飛ばしたあとで、近付いてくることを待っていた…!?

 

「まさしく悪魔の所業だね」

 

 僕は時間を稼ぐ。気付かれない程度にライナーを引きはがす。

 

「あいつはあんなもんだろ。なあベルトルトさんよ」

 

 ユミルも一定の距離を詰めてこようとしない。様子を伺っているようだ。

 

「私に人間だって言っておきながら、前線に持ってきやがって…あとで締めとかねえとな」

 

 笑うユミルだが、目は全く笑っていない。こちらを分析しているのだろう。

 ライナーが生きているのか。僕は巨人化できるのかを。

 なら、今だ…!

 僕はある程度、引きはがしていたライナーを、一気に巨人から引きはがし、この場を去る。

 

「逃げたぞ!!」

 

 ユミルが声を張り上げる。まさか君がここまで皆に協力的になっているとは思わなかったよ。

 たった数か月なのに。

 

 兵士が次々に出てくる。でも、この人たち…主力部隊じゃない…ハンジ分隊長やミカサ達がいない。

 そうか、僕がいつ巨人化してもいいように、主力部隊は離れているのか…。

 

 この雑兵なら死んでも構わないという事か…。

 

 マーレみたいだ。でもこれは仲間にやるべきことじゃないだろ。

 人間の所業じゃない。

 

『ボォーーン!』

 

 な…なんだ、これは。

 この鉄の槍から放たれる爆発はやばい。

 僕は立体起動で逃げる。この指の短さじゃ上手く扱えない…のに!

 

 ごめんね、ライナー。本当に悪いけど、もう少し我慢してくれ。僕がこの一帯を消し去るから。そのために今、深い傷を負う事はできない。

 ライナーを盾にして爆破を回避し、低空飛行で家の隙間を飛び回る。

 途中、家の隙間に調査兵団の目を掻い潜ってライナーを置いて行く。

 取り合えず、ライナーから離れた位置かつ、クリスタとも離れた位置。

 周りを見渡すと、ハンジ分隊長が見えた。

 僕は近付いて行く、ハンジ分隊長は僕から離れるように移動する。

 その間も、鉄の爆発する槍が飛んで来る。

 

 もう…ここが限界か。

 

 僕は巨人になるべく空に高く上がる。

 

 

【吊り橋効果1】

 

 

 

 二日前。

 

 調査兵団がウォール・マリア奪還作戦の前祝にて騒いでいるなか、一人の女兵士はトボトボと歩いていた。

 その顔は悲壮に満ちている。

 泣きそうな顔…というか泣いている。

 前へ進もうとしない足を無理やり進ませる。

 しかし、限界が来たようで膝から崩れ落ちた。

 

「ああ~~~!!!いやだぁああああああ!!!」

 

 突然女兵士は発狂した。遂に精神まで限界が来たようだ。

 この女兵士の名前は、サシャ・ブラウス。

 彼女は今、神よりし授かった使命を全うするべく動いていた。

 

 その神の名は、キヨン・ジェイルーン。

 

 サシャが慕っている同期だ。

 サシャの思考は単純明快。ご飯をくれる人は、皆等しく神なのだ。

 キヨンは訓練兵の時からご飯を分けてくれていた。故にサシャがご飯を分けてくれるキヨンを神と崇めるのは至極当然のことだ。

 そして神の使命を断る事は誰にも出来ない。というか断るという概念がない。

 そのためサシャはどんな使命も熟してきた。

 だがしかし…今回の使命はサシャにとっては困難だった。

 

 キース・シャーディス教官を呼びに行かなければならない。

 キースには先日、肉を盗みこってりと怒られたばかりだった。

 それでもサシャは神の使命を全うするため、歩みを再開する。

 

 そして教官のいる訓練兵養成所につき、教官室に入っていく。その部屋も彼女のトラウマ部屋だろう。

 

「よ…よるおそくに…もうしわけ、ございま、せん」

 

 弱々しいサシャの言葉が小さな部屋に響いた。

 

「なんだ?ん…?サシャか、どうした」

 

「えっと…そのあのそのあのキヨンが読んで来いって…言って…そのあのそのあの」

 

「そうか…分かった」

 

 キースはそれだけで何をさせられるのか理解したのだろう。

 天井を見て、息を吐きサシャを見る。

 

「これで最後だな」

 

 キースは立ち上がる。

 

「サシャ…明日の朝向かうと伝えてくれ」

 

「わ、分かりました!!!」

 

 急いで立ち去ろうとするサシャだが…。

 

「待て」

 

「は、はいぃ!?」

 

「これを…」

 

 キースがサシャに渡したのは紙で包まれた細長い物だった。

 だが、サシャには分かる。

 

「え、これ…を?キヨンにですか?」

 

 サシャは恐る恐る聞く。だが鼻の穴はヒクヒクと動いている。

 それを見たキースはふッと小さく笑う。

 

「お前にだ。ご苦労だったな」

 

「え、あ、ありがとうございます!!!」

 

 サシャはその夜、一人で歩きながら肉を頬張っていた。

 

 翌朝、調査兵団が出発する前、キースはキヨンの元を訪れていた。

 

「教官、特別になるときが来ましたね。やってくれますよね」

 

 キヨンから発された言葉はそれだけだった。

 だが、キースにはそれだけで十分。

 

「ああ」

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 俺達、予備軍はトロスト区の壁を馬ごとリフトで壁を乗り越えた。(※トロスト区の扉は大岩で完全に封鎖されているため)

 長距離索敵陣形を使用し、ウォール・マリア内のど真ん中を突っ切って来た。

 巨人も見た。その巨人は殆ど先輩が倒してくれたが…うっ…。

 そして俺らは持ち場までたどり着き、現在待機中。突撃の合図を今か今かと待つ。

 

「「「「ふぅ~ふぅ~ッ」」」」」

 

 俺らはやる気に満ち溢れていた。死ぬ覚悟もできていた。突撃し、敵を討ち、ウォール・マリアを奪還する。そのためなら笑って死んでやると語り合っていた。

 だが、今はどうだ。

 遠くだが、初めて見る巨人。そして人間を食べる瞬間も見た。

 あんな大岩を投げる獣。

 そして、巨人の叫び、突撃する巨人の足音がここまで響いてくる。

 

 こんな…こんなにも……怖いものなのか。

 

 こう思っているのは俺だけではない。寧ろ俺はまだ落ち着いている方だろう。

 その証拠に、皆の息が荒く、狂気的な顔をしている。顔に止まる虫も気付かないほど怯えている。

 この静かな場に荒々しい息遣いが響く。それが余計に恐怖心を掻き立て伝染していく。

 まさに負の連鎖だ。

 だが、それでも、皆が逃げ出さないのは先輩兵士も少なくないからだ。

 

 それとこの隊の隊長がキース・シャーディスだからだろう。

 

 俺はこの人を知らない。だが、南方訓練兵の奴らがこの人の話をするときは、常に怯えている。

 逃げ出せないし、逃げ出せたとしても、そんな俺らを迎えてくれる場所は存在しないだろう。

 もう……大人しく、突撃するほか無い。

 それを皆も分かっているからこそ、この雰囲気になっている。

 

 これで戦えるのか?

 

 前線で戦う調査兵団は、一体……どんな気持ちで戦えているんだ。

 

「良いか、お前達」

 

 キースが口を開き、俺達に向けて言葉を送る。

 皆は怯えながらも顔を上げる。

 

「私達は兵士だ。ウォール・マリア奪還のために戦う。ただそれだけの為にある」

 

 つまり、その為に死ねと言うのか。いや、分かってる。そんなことは分かってる。

 

「死ぬのは怖いか?」

 

 キースは皆を見渡す、怯えながらも何名かが首を縦に振る。

 

「そうだろうな。当然だ。怖くないと思っているのは、私だけだろう。

 私のように後悔ばかりの人間は怖くない。

 だが、お前らはこれからの若者たちだ。未来がある。希望がある」

 

 確かにこの人からは後悔の色が滲み出ている。だが、その声には力があった。皆もその言葉に耳を傾けたからか震えが少しずつ治まってきた。

 

「お前達は、自分なら出来ると思ってここに来たんだろう。自分が特別だと思ってな」

 

 図星だった。心臓がドキッとして、今、その事に気付いた。

 

「残念だが、お前達は特別でもなんでもない。だが…それがどうした。後世へ繋げ、その意志を。心臓を捧げるのだ」

 

 更に力強くなっていく。

 

「もう一度問う。死ぬのが怖いか?

 なら、帰れば良い。私が話を通してある。疎まないでやってくれとな。

 だが私は帰らない。怖くないからではない。何も出来ない自分をあれほど恨んだことは無い。あの虚無感は…あれこそが死だ。

 私は兵士だ。兵士として特別でありたい。

 死んでも誰かが、その意志を繋いでくれる。進み続ける限り、意志は受け継がれていく。

 私はその意志の元、特別な存在であり続けられる。

 死んでも死んだ後も、私は特別であり続ける」

 

 意志を繋ぐ…。

 

「戦え戦え。進むだけだ。と私の教え子は口癖のように言っていた。

 その言葉は私の心の中で、今も、響き続けている」

 

 ああ、それは聞いた事のあるセリフ。 

 皆も覚えているだろう。

 唇を固く結び、震えを堪えている。

 

「さあ立ち上がれ!戦え!!進め!!意志を繋いでいけ!!」

 

『パッッッドォォォォォオオオオン!!!』

 

 ベルトルト・フーバーが巨人化した音。

 

「緑の信煙弾を確認!!」

 

 緑の信煙弾。合図だ。

 

「進めええええ!!」

 

「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」」」

 

 一斉に馬を走らせ、叫ぶ。

 怖くなんてない。

 俺が死んでもあいつらが、ヒッチが受け継いでくれるから。

 

 戦え!戦え!!と自身を奮い立たせる。

 

 進む限り、俺達は皆生き続ける。

 

 戦え!!

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 お前達は戦わなくていい。

 

 突撃して死んでくれれば、それで良い。

 

 特攻隊の存在は獣を狩るのに必須。

 

 そして、その勇気は受け継がれる。

 

 だが、一番の目的は数の調整にある。

 死ぬことも兵士としての立派な役目。

 

 ダンバー数。

 今は調査兵団だけでなく、壁の中が一つになり、ウォール・マリア奪還という名目があるため、力を合わせていられる。

 だが、それが終われば、勝手に動く連中も出てくるだろう。派閥が幾つも出てくるかも知れない。

 統率の取れない兵団なんて、なんの意味もない。

 この作戦が終了すれば必要のない兵士だ。

 

 今回のこの戦いは数を調整するのに適している。

 手駒はしっかりと管理しておかなければならない。

 100名。調査兵団は100名前後が丁度良い。

 

 調査兵団に編入してきた兵士…所謂新兵を二つの班に分けた。

 一つはオレ達精鋭と共に真っ向から戦う班。

 そして、もう一つが突撃する予備軍。こちらには兵士としての経験数が少ない者達で構成されている。

 流石に新兵のみで固めるのは良くないので、熟練の兵士も数十名を組み込んだ。

 

 ベルトルトが壁を越えてシガンシナ区内に入って行ったのを確認し、数分。

 さて、オレも行くとするか。

 

「アニ行くぞ」

「うん」

 

『パッッッドォォォォォオオオオン!!!』

 

 壁の向こう側で、ベルトルトが巨人化した。

 

「ベルトルトか」

「皆は大丈夫かな…」

「分からない。だが、向こうはあいつらに任せてある。オレ達はこちらに集中するしかないだろう」

「うん」

 

『『『パァン』』』

 

 合図も聞こえ、オレとアニは壁を飛び降り、巨人のうなじを削ぎながら伝って行く。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 

 

『『『パァン』』』

 

 後ろから聞こえる。あれは信煙弾!?

 まだ増援がいたの?

 やられた。向こうもやられてばかりじゃないと言う事ね。

 

 私は少し離れた岩陰に潜み、様子を伺っている。

 あのキヨンとかいう男は見つからなかった。

 まあ、皆フード被ってて先頭のエルヴィン・スミスしか分からなかったけど。

 

 はあ…と私はため息を吐く。

 

 アニが裏切るし、戦士長は幼児化するし…ホントにこの島には本物の悪魔が住んでるのね。

 気を付けないと…。

 

 後ろからの信煙弾に気付き、戦士長は岩を砕き、投げつける。

 それだけで、数十人は吹き飛んで死んでいった。

 

 可哀想だけど、これが戦争。誰も躊躇なんかしたりしない。

 生き延びた兵士たちは、叫びながら信煙弾を放ち、突撃していく。それを目掛けて戦士長は投げる。

 

 って…あれ…!?不味い…また、あの時みたいに、後ろから…しかもあれはキヨン!!

 

 殺すべき…いや、私は隠れておくべきだ。落ち着け…戦士長は気付くはず。

 

 ほら、気付いた。大丈夫。

 戦士長はキヨン目掛けて石を投げる。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 知っているさ。このパターン。

 後ろだろ?

 凄まじい速さで近付いて来ている。

 俺の巨人を伝って移動してきやがった。

 っ…前回の戦いがフラッシュバックする。強烈にこいつから離れようと体が拒否反応を起こす。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 俺は石を投げる。

 

『パァゴォォオン!!』

 

 あっ、アニ…ちゃん。

 そっか、本当にそっちにつくんだね。

 キヨンを護るようにアニちゃんが前に立った。

 腕だけ硬質化し、うなじを護ったか。

 だが、他はボロボロ。顔面はえぐれ、右肩を損傷し、右腕はダランと下がった。

 それでは前に進められないよね?

 その後ろにキヨンがいるんだろう?

 

 俺はもう一発投げる。

 

 それでも、うなじの箇所だけは護ったか。

 だが、もう立ってはいられないようだ。アニちゃんは膝から崩れ、横向きにダンッと倒れる。

 

『パァン!』

 

「「「「うおおおおおおおお!!」」」」」

 

 ちっ…まだ生き延びてる奴がいるのか…。

 しかも、もう…すぐそこまで…俺は慌てて石を投げつける。少し上だったか…あまり当たらず、抜けて来やがった。

 

 っ…!?

 

 き、来た!

 

 キヨン・ジェイルーン!!

 

 低空飛行でアニちゃんから飛び出してくる。

 だが…俺には近づこうとしない。

 ど、どこへ行くつもりだ!

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 戦士長が気付いたのは良いけど…アニが防ぐなんて。

 何で…邪魔をするのよ、そいつは悪魔…。

 

 アニが崩れ倒れる。

 

 後ろに近付いて来ている特攻隊に石を投げるけど…キヨンを気にしているのか、少し上に逸れた。

 キヨンが飛び出る。

 

 でも、戦士長には近づかない。

 

 キヨンが向かう先は、特攻隊。馬が走る隙間を縫って飛んでいる。何を…?

 

 戦士長は一歩、二歩後ろに大きく下がって、石を投げつける。今度は的確に捕らえ、当たった馬は埃の様に舞う。

 凄い速度で移動する兵士が、馬の隙間から見えた。キヨンまだ生きているの…。

 キヨンは舞い上がる馬たちの間隙を縫って、戦士長へ一気に詰め寄る。

 

 そこへ、戦士長が苦し紛れに左で一発、石を投げる。遅いけど、人間に当たれば、大ダメージ。

 

 キヨンに直撃はしなかった…でも掠めた?キヨンは回転し『ドサッ』と落ちて地面を転がる。

 ホッと一息つく。一番の問題点を無力化出来た。

 

 戦士長はとどめを刺すのか、一歩踏み出そうとして、後ろに気付く。

 ギリギリでうなじを手でガードする。

 だけど、それが目的じゃない…目を斬られ視野を閉ざされた。

 あの動き…尋常じゃない。まだあんなのが居るの!?キヨンと同格…それ以上かも知れない。

 何でよ…誰なのよお、もおお。

 切れそうになった緊張の糸をまた強く張る。

 男は直ぐに足に移動し、アキレス腱を削ぎ、戦士長を地面に倒した。

 これはダメ、出て行かないと…

 そして、うなじを削いでいき「うおおおおおおおお」戦士長は外に産まれた。

 戦士長の口から剣を刺し入れ、目を貫いた。どいつもこいつも悪魔ばっかり。

 

「巨人化直後、身体を激しく損傷し、回復に低一杯のウチは巨人化できない。そうだったよな?おい返事しろよ」

 

 戦士長はまだ生かされている!

 今だっ。

 

 私は飛び出す。

 

 兵士を纏めてでも良い。戦士長を助け出すため、大口を開き突っ込む。

 砂埃が舞う中なら、あの男も一瞬、気付くのは遅れる。今しかない。

 砂埃を抜け、大口を開け突進する。

 

「はっ!?」

 

 男はこちらに気付き後ろへ飛ぶ。なんて、反応の速さ…まあ助け出すこと優先!

 

 刹那、外の世界が綺麗に見えた。

 

 身体が動かない。軽い。謎の浮遊感。

 

 目の前は赤い液体が舞っている。

 

 なにこれ、血?

 

 私は視線だけ動かす。

 右を見て、左を見る。肩から先が無い。血が噴き出している。前には巨人?あれ、私の巨人…私の腕がまだくっついたままだ…というか足も。

 

 巨人から出された。そうか…初めから、目的は……私か。

 

 理解したと同時に痛みが襲う。

 

「あっ…うっ…いっっっったぁぁああああい!!いたぁいぃいたいいふぁい」

「目の前に転がっている死体は…もっと痛かっただろうな」

 

 痛くて苦しい。熱い。心臓の音がうるさくて、ジンジンとした痛みもうるさいのに、聞きたくもない声が、はっきりと耳に届いた。

 

「ふぅぅ……はあ゛はあ゛はあ゛はあ゛」

 

 息をするのが苦しい。振り向きたくない。私を持ち上げているのが誰かもう分かっている。なんで生きてる…なんで動ける。

 でも、それでも、自然と首は動き、目線は声のする方に吸い寄せられる。

 

 ゆっくりと視野に入ってくる男。

 お腹辺りがまず見え、胸、顎、鼻へと移動し、最後に目で止まり、双眸を見てしまった。

 

 なに…その……。

 

 怖い。怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい。

 

 無い四肢を必死に動かそうとし、逃げようとする。

 そんな私を軽く前へ放り投げる。

 

 いったあ。

 

「リヴァイ兵長。無事ですか?」

 

 こ、こいつがリヴァイ…人類最強の名は伊達じゃなかった…。

 

「すまねえな、キヨン。こっちは無傷だ。お前、腕が…」

「大したことはありません。折れただけです。それよりもアニを回収しましょう」

 

 キヨンは右腕が変な方向に折れ曲がっていた。一応かすり傷は付けていたんだ。

 

「ああ」

 

 リヴァイが私と戦士長を持ち上げ、アニのところへ移動する。

 戦士長は気絶させられている。私もそうして欲しい。でないと…双眸に吸い寄せられてしまう。

 

「アニ、無事か?」

「うっ…だ、大丈夫…」

 

 キヨンは巨人から剥がし、アニを起こした。

 

「って…腕が…と思ったけど、何となく読めた。またわざと食らった?」

「死体をクッションにしたが、今回は防ぎきれなかった」

「そう…」

 

 キヨンはそう言って『グギッ』と腕を元の位置に戻した。何も表情の変化がない。

 

「心配の言葉は貰えないんだな」

「あんたに必要?」

「必要なときもあるんじゃないか?」

「はいはい」

「アニ!!そいつと関わっちゃ駄目よ!!目を覚まして!」

「あ…ピークさん…そ、その…私はもうこいつらと一緒に居ると決めてるんです」

「そんな危険な奴と居ちゃ駄目!!」

 

 私は醜く足掻く。もうそれしかない。

 

「ピークさん。キヨンは正にエルディアの悪魔だと思います「おい…」が、それでも、私達を受け入れてくれる器があるんです」

 

 嫌だ、聞きたくない。

 

「私は戦争とか争いが好きじゃない。でも、誰かがやらなければ終わらない。私は戦争を終わらしてくれそうな方を選びました」

 

 私は今、どんな顔をしているのだろう。

 マーレの巨人部隊。これだけこちらに有利な状況だったのに、負けた。

 駄目だ。何も道筋が無い。

 

「アニ…あと一仕事頼みたいんだが、動けるか?」

「あんた…人使い荒すぎ」

「悪い」

 

 その後、私は呆然と見ていた。アニが巨人になり、硬質化で牢屋を作った。

 そこへ、私と戦士長は入れられる。

 拘束部屋か…これはすぐには壊せない。

 それにこのケガを修復するのにはかなりの時間が掛かる。

 逃げるのは無理だ。

 

 私は去って行く1人の背中を無気力に眺めていた。

 

 

【決着】

 

 

 

 ベルトルトが巨人化し、街を破壊した。

 そこまで被害は出ていないはずだ。それでも、死人は出た。

 仕方ない。そこは割り切るところだ。と自分に言い聞かせる。

 僕はベルトルトの弱点を探していた。

 ベルトルトを倒すのは至難の業。そんな事は分かり切っている。キヨンもいない。リヴァイ兵長もいないけど、やるしかない。

 僕の指示で、絶え間なく攻撃をしかけるが、突風を出され皆は吹き飛ばされる。それで死人も出る。

 また、ベルトルトは地面に手を伸ばし、家を搔き集める。そして、軽くゴミを投げるかのように撒き散らした。

 前回のように足を攻撃することも不可能だ。

 そして、ベルトルトが向かう先は門の方だろう。

 向こう側へ行き、エルヴィン団長を殺すことが目的か。もう直ぐで壁に到達する。

 落ち着け…と自分に言い聞かせる。

 深呼吸し、相手を分析する。

 

 でも、この圧倒的な風圧に士気が下がっていく。ここには新兵も少なからずいる。

 初めての実践がこの超大型巨人との戦闘だ。

 士気が下がることなんて分かっていたじゃないか。

 

「総員!!突撃せよ!!」

 

 ばっ…。

 壁の上からベルトルトに向かって、声を張り上げながら向かって行ったのは、ヒストリアだった。

 不味い…ヒストリアが死んだら、この壁は終わりだ!何をやってるんだ!

 

 ベルトルトが腕を振り、ヒストリアを攻撃しようとした。だが、停止した。

 何故だ…おかしい。

 熱風も出さない。

 

 そうか…!

 

 ヒストリアが本物の王家と言う事を考慮しているんだ。

 エレンが始祖を持っていたとしても、ヒストリアの血は役に立つ。

 持って帰ることには意味がある。

 始祖という器を殺してしまったら、意味を無くす。

 

「心臓を捧げよ!!」

 

 遠くからでも良く響く声だ。

 

「行くよ!!」

 

 ヒストリアにミーナが続く。ミーナが動けば、同期の女子が動く。女子が動けば、同期の男子は負けてられるか!と続く。

 これだけ動けば、兵全体が動く。

 

「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」

 

 ヒストリアは本物の王家。

 町の人達にも好かれ、オルブド区を実際に救って見せたため、皆からの支持も高い。

 ヒストリアが自ら前に立ち進むため、新兵だけでなく皆の士気が最高潮になった。

 

「アルミン!どうするの!」

「ミカサ達はライナーだ。まだどこかに潜んでるはず」

「「「「「分かった」」」」」」」

 

 ライナーはミカサ達に任せ、僕とエレン、ユミルで超大型巨人を止める。

 僕たちは、一度壁の上に上がり、走って移動する。

 ベルトルトは身体を捻り、調査兵団を振り払おうとしている。

 新兵から次々に振り払われ、落ちていく。

 どうする。今がチャンスだ。

 熱風を出さないと言っても、危険だと判断したら出すだろう…。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 クリスタ……鬱陶しい…!

 

 まさか女王になっていたとは…この数か月でいったい何があったんだ…。

 人間に群がるコバエのような鬱陶しさに苛立ちを隠せなかった。

 それにこのコバエはうなじを狙ってくる。それだけは防がないと。

 

 どうすれば…。

 

 クリスタを殺すわけにはいかない。

 

 でも……このままでは僕が死ぬ。

 

 なら、賭けだ。

 

 頼む、死なないでくれよ。

 

 筋肉を燃焼し、熱風を出す。

 一斉に鬱陶しいコバエは吹き飛んでいく。

 

 クリスタは…?良かった。ユミルが救出していた。

 ふぅ…。

 いや、安心している場合じゃない。

 くっ…次から次へと、またも一斉に群がってくるコバエを一掃する。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「あれは…」

 

 僕はベルトルトの分析を続けていた。

 ベルトルトは熱風で兵士を吹き飛ばしている。でも、一人の兵士がベルトルトの背中にアンカーを固定したまま、ダランッと垂れている。兵士はもう死んでいる。 

 熱風で飛ばされているけど、それでもアンカーは固定されたまま。

 そうか…!

 骨だ。

 骨に刺さっているんだ。

 

 「何でか知らねえけどオレは自由を取り戻すためなら、力が湧いてくるんだ」

 そうだね、エレン。それは僕もだよ。

 この作戦が上手くいけば、僕はもう海を見には行けないな…。

 

 やるしかない。

 

「作戦を思いついた」

「アルミン、本当か!?」

「ああ、上手くいけば、ベルトルトを無力化できる」

 

 僕はエレンに作戦内容を伝える。

 

「分かった」

「おい…それじゃあ、お前が海を見には行けねえな」

 

 ヒストリアを助けに言っていたユミルが、いつの間にか僕の後ろに立っていた。

 

「ユミル…」

「どういう事だ、ユミル!」

「こいつがギリギリで逃げるわけねえだろ。そんくらいお前にも分かってんだろ?」

「アルミン…ここでアルミンが死ぬことだけは間違っている。あなたはキヨンも思いつかない発想をしたりするんだから」

 

 今度はヒストリアまでもがそう言った。

 

「私が兵を突撃させる。これは私の役目だよ」

「それまでの時間稼ぎは私がやる」

「オレもやる。アルミンを死なせるわけはねえだろ。足止めくらいは出来るはずだ」

 

 まずはエレンが立体起動で移動し、ベルトルトの顔まで飛んでいく。

 僕がやろうとしていた役目を代わってくれたのだろう。

 エレンを捕まえようと腕を伸ばすベルトルト。そこへ、うなじを削ぎにユミルが背後に回る。

 ベルトルトは勘づいたのか、二人を吹き飛ばすため熱風を出すが、二人は離れない。

 中々離れない二人にベルトルトは熱風を更に強くする。

 蒸気で二人が見えないけど、あんなとこに居続けたら…二人とも死んでもおかしくない。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「ちゅーーもーーっく!!」

 

 私は壁の上に避難した兵士に声を大にする。

 兵士を突撃させるために何と言えば良いのだろう。

 兵士に喜んで死んで貰うために、私は皆を騙す。

 私には出来る。私は良い子ではないから。

 でも、何て言えば騙せるのか。

 キヨンのようにロジックを組み立てて会話を誘導するのは私には出来ない。

 そもそも、騙す必要はあるのか。

 

 私は私らしく皆を引っ張るのだ。

 

「超大型巨人を仕留める!!

 あいつは消耗戦に弱い、なら連続して突撃するのみ!!

 ここで仕留めなければ、いつ壁の中で巨人化するか分からない!!

 死んでもここで奴を仕留める。

 突撃せよ!!」

 

 私の言葉に全員が立ち上がったわけじゃなかった。

 でも、一人二人と立ち上がり、突撃しに行く。

 それが何度か繰り返された時、ベルトルトは目で見て分かるくらい萎んでいた。

 

「見ろ!超大型が萎んでるぞ!!」

「今だ、かかれーーーっ!!」

「心臓を捧げよ!!」

「「「「おおおおおおお」」」」」」

 

 と次々に向かって行く。

 皆、蒸気の弱いところから突撃しては、その蒸気に耐え切れず、吹き飛ばされ死んでいる。

 エレンとユミルはまだあの中に居るの…?

 

「ヒストリア!やったんだね、ありがとう」

「あんまり乗せられなかったけどね…皆が自分で立ち上がって向かって行ったんだよ」

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 くっそあちぃ…。

 いや、もう…分からなくなってきた…。

 まだか。

 ったく、私らしくないな。

 こんな誰かのために体張って…同じことを繰り返してんじゃねえか…。

 でも、まあ今回は自分を偽ってない。

 後悔はない。

 目も見えず、音も聞こえず、薄れゆく意識の中…急に優しい風がないだ気がした。

 

「よく耐えたなユミル」

 

 懐かしい声が聞こえる。

 

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

「ベルトルトの熱風がどんどん弱くなってきている!」

「うん、でも最後誰があれに近付くの?」

「相当な技術がいる。新兵じゃまず無理。僕がいくしか…」

「アルミンは駄目だよ!熱風も弱いとはいえ、まだ強い。間違えて落っこちたら、死んじゃうよ」

「……うん…でも、君も同じだからね?」

「うん」

 

 あと一歩のとこなのに、踏み出せないのがツライ…。

 精鋭班は馬を死守するために駆り出されいるし、ベルトルトの出現被害で死んだ人も少なくはない。

 

「待たせたな」

 

 そんな時に後ろから神の声が聞こえた。

 

「リヴァイ兵長!!」

「キヨンとアニも!」

 

 よし、この二人が居れば勝てる。僕たちの粘り勝ちだ。

 

「俺がやる。お前らはユミルとエレンを救助しろ」

「「「了解!!」」」

 

 突撃していく兵士が少なくなり、途絶えた瞬間ベルトルトが熱風を弱めた。

 その一瞬で閃光のようにリヴァイ兵長が飛んでいく。そして、一撃でベルトルトを外に引き摺り出した。

 僕とキヨンで二人を救助する。

 

 

【エレン・イェーガー】

 

 

 

 

 ベルトルトを引きずり出してから、一度オレ達は壁の上に上った。

 エルヴィン団長達がここに来るまで、壁の上で待機していろと指示が出ているからだ。

 かなり兵が死んだな。

 新兵の殆どが爆風に飛ばされ、上手く立体起動で回避できず、壁や家に衝突し死亡したか。

 生き残った兵士も負傷している人達は少なくない。

 それでもベルトルトを倒すためには仕方がなかった。

 

 聞けば、ライナーはミカサ達104期に任せたという。

 壁の上から下を眺めていると、『ボーーーン』という音と共に砂埃が舞った。

 その砂埃からライナーらしき人物が飛び出て来たため、この奪還作戦は終了したと言っても良いだろう。

 

 暫くして、ミカサ達は壁の上に来た。

 

「ミカサ!ライナーは?」

 

 アルミンは駆け寄る。ミカサは何も言わずライナーを見せた。

 四肢は欠損し、髪が無く、ライナーだと一目で判別は出来なかった。

 

「それは良かった…あっ、ハンジさんだけなんだね…」

 

 少し安堵したが、ミカサ達と共に現れたハンジさんを見てそう言った。

 

「モーブリッドが…私を井戸に押し込んだんだ」

 

 なんと…モーブリッドさんが。それは残念だ。

 だが、超大型の出現で犠牲が出ることは端から分かっていたことだ。

 仕方ないと割り切るしかないな。

 

「あっ…エレン!それに、こっちはユミルも…」

「お、おい…大丈夫なのか?」

 

 コゲミルとコゲレンとなった二人を見て、二人の元に近付く。

 

「問題ない。蒸気が発生しているし、最初より色が薄くなっている」

「そ、そう…」

 

 ふぅと一息つき、皆は腰を下ろす。

 ヒストリアはオレの横にちょこんと座った。

 

「………私が突撃させたことは必要なかったのかも…」

 

 ヒストリアは不安な表情を露わにし口に出す。

 

「いや、兵を常に突撃させたことで、ベルトルトは熱風を出し続けたんだ。

 出なければ、熱風を止めて手を伸ばすだけでエレンは回収されていたさ」

 

 他にも戦い方はあった。兵士を死なせない方法もあったが、そんな反省は今じゃなくていい。

 

「そう…」

「ああ、そう思い詰める必要は無い。突撃させた者として堂々としていればいい」

「うん…でも」

「あの時、こうしておけば良かった、と後悔する事はよくあることだ。次に活かせ。まだ戦争は終わっていないからな」

 

 常に最善だと思う未来を選択しても、それが正解なのかは終わってみるまで分からないものだ。

 だがヒストリアは行動に移した。自分の選択で多くの命を奪ったのは事実。それでも移さなければベルトルトは倒せなかったし、何よりもここ経験を積めたことは大きい。

 

「うん」

「そう言えば、キヨン…お前達が戦ったのは獣だよな?どうだったんだよ」

 

 ジャンがオレに問う。

 

「ああ、それならアニが作った硬質化の牢屋に閉じ込めてあるぞ。エルヴィン団長に引き継いできた」

「そうか…良かった、逃げられねえよな?」

「四肢は斬り落としたからな」

「車力も?」

「ああ」

「そう」

 

 ミカサ達はそれを聞き安心したようで肩の力を抜いた。

 オレはサシャのケガの具合を見に近付く。特に後遺症が残る程の傷ではないため安心した。

 

 それから暫くして、エルヴィン団長達50名ほどがこちらに近付いて来た。

 

 って…まじかよ……。オレは内心で驚愕していた。

 

「教官……」

「…あぁ……生きてしまってな…」

「それは、あなたが前に進んだ結果でしょう。あなたは特別な人ですね」

 

 戦争では立ち止まった者から死んでいくと聞く。前に進んだ教官が生き伸びたのは、当然のことなのかも知れない。

 

「ふっ……大人相手に上から言うもんじゃないぞ」

「そうですね、すいません」

 

 まあ生きていたのなら何よりだ。

 続いてエルヴィン団長が口を開く。

 

「ご苦労だった」

「ああ、大分…少なくなってしなったな…」

 

 ハンジさんが言った。80名ほどと予想よりも兵が死んでしまった。だが十分だ。再来年入ってくる新兵も合わせれば丁度良いと言えるだろう。

 

「まあ仕方ない。死んだ兵士のおかげでウォール・マリア奪還が出来たんだからな」

 

 フッと笑い、声を高らかにする。

 

「ウォール・マリア奪還作戦、これにて終了とする!!我々の勝ちだ!!」

「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおお」」」」」」」」」」

 

 調査兵団の雄叫びがこのウォール・マリア内に響き渡る。

 この声がローゼまで聞こえてそうだ。

 

 その後、いくつかの班に分かれた。

 

 ライナーを地下深くの牢に入れ、見張る班。

 これにはアニ、マルコやペトラさんが付いて行った。アニの硬質化で更に強化するのだろう。

 

 ウォール・マリア奪還成功を住民に伝える事と負傷者を運ぶ班。

 

 エレンの地下室に向かうのと…ベルトルトの巨人を引き継ぐ班。

 それに真っ先に名乗り出たのはアルミンだった。

 

「僕が継承します。数多くの兵を死なせた責任がありますので」

「アルミン、それを言ったら私が…」

「いや、ヒストリアは駄目だ」

 

 エルヴィン団長はアルミンが食べることについては何も言わなかった。

 まあそれが一番最善の選択だと思っていただろう。

 ベルトルトは放置しておけないため、誰かが引き継ぐほかない。

 半分不死身になるため、死なれたくない者が食べるべきだろう。

 そうなるとオレかリヴァイ兵長、ミカサ、アルミン、エルヴィン団長になる。

 その中のアルミンが自ら名乗り出てくれた。誰も止めはしない。

 

「い、いいかな…キヨン、僕が食べて、君の方が人類にとって有益だと思うけど…」

「朝、言った通りだ。そんな力は欲しくない。寧ろ食べてくれて助かる」

 

 アニの情報だと、エルディア人のみが巨人になれると言う。

 オレは確かにこの地の生まれで血はエルディア人だろう。

 だが、オレはこの世界では異物だ。

 エルディア人なのかどうか確証は得られない。 

 なら、巨人になれるかどうかは分からない。オレが食うべきではないだろう。

 

「そっか、分かった」

 

 アルミンは壁を降り屋根の上に着地した。

 目の前のベルトルトを見て、何か言っているように見えた。

 そして、注射器を取り出し自分の腕に刺した。

 

『パァァドォォオン!!』

 

 アルミンが巨人になりベルトルトを掴む。

 

「いやぁーやめてぇ~!!」

 

 ベルトルトは叫び身体を捩じるが、抵抗は虚しくアルミンの手で口元に運ばれていく。

 ベルトルトは壁の上に居るオレ達に気付いたのか、助けを求める。

 

「みんなーーーったすけてーーーー!!」

 

 104期は皆辛そうだった。

 その声に反応し身体が、ピクッと動いた者も居た。

 オレはただ見ていた。

 

 オレは常に敵として見ていた。

 だが、敵とはいえ3年間、訓練兵として一緒に育ったからか…オレはほんの少し悲しいと思っていたのかも知れない。

 必要のない感情だろうと分かってはいる。嫌な感情だ。

 まあそれでも助けたいとは思わないが。

 

 アルミンがベルトルトを食べ、煙を出し人間の姿に戻ったため、皆はアルミンのもとに向かった。

 オレはこの場でまだ寝ているエレン達を見守る事にした。もうそろそろ治るころだろう。

 

「今回も生き延びれたね、私達」

 

 皆が下に行っている間に話しかけて来てのはミーナ。

 

「そうだな」

「キヨン的には今どれくらい?」

 

 戦争の進捗を聞いて来ているのだろう。

 

「そうだな…ようやく一歩を踏み出せそうだな」

「ええ…一歩…」

「そう落ち込む必要は無い。期間だけで言えば、あと半分だろう」

「一歩を踏み出すことが難しかったってこと?」

「そうだ。何も知らない状況だったしな。アニが居ても分からないことは多かった。まあ、まだ分からないことは多いんだが…」

「そっか…まあ、頑張らないとね」

「そうだな」

 

 アルミンを回収し、皆は上に戻ってくる。

 ヒストリアが異様な圧を出して、オレとミーナの間に座ったのは言うまでもないことか…。

 暫くして、

 

「んぅ~くっ」

 

 エレンが起きた。まだ傷は癒えておらず、蒸気は出ている。

 

「エレン、状況は理解できてるか?」

「あ、あぁキヨンか、えっと状況…ハッベルトルトは!?」

「もう戦争は終わった。ベルトルトはアルミンが継承した。完全勝利だ」

「そ、そうか…ふぅ良かった」

 

 エレンは再びばたっと寝転んだ。空を見て目を閉じゆっくり開けて、何かを言おうとする。

 だが…。

 

「感傷的になってるところ悪いが…さっさと地下室に行ってきてくれ」

 

 オレはそれを制す。

 

「お前な…オレはまだ起きたばかりなんだが…」

「なら、お前を置いて行くから鍵だけ貸せ」

「…分かったよ…行くよ」

 

 エレンはエルヴィン団長達を引き連れて地下室に向かって行った。

 

「キヨンは行かないの?」

 

 残っていたヒストリアが声を掛けてくる。

 

「ああ」

「どうして?」

「まあ腕が折れているからな。立体起動はなるべく使用したくない」

「あ、気付かなかった…大丈夫なの?」

「ああ、手当はもう済んでいる」

「そっか…え、どこ行くの?」

 

 オレは立ち上がり歩き出す。

 地下室に行かなかったのは、腕が折れていたからという理由でもなく、何か理由があったわけでもない。

 歩き出したのも理由は無い。

 ただ自分が生まれ育った街を見下ろして、何かを感じ取りたかったのかも知れない。

 

「はぁ…」

「どうしたの?らしくない」

 

 隣で歩くヒストリアがそう尋ねる。

 

「いや…なんでもない」

 

 うっかりしていたのか、気が抜けていたのか…。

 いや…そうじゃない。

 

 オレは今、自身の考え方が矛盾していることに悩んでいるのだろう。

 そして中途半端な人間になってしまったものだなと嘆いていたのだ。

 

 機械的で相手を道具と見ている割には、若干人の心を取り入れたためか、皆の事を気遣ってしまっている。

 道具として見れなくなっている。

 それは喜ばしいことだが、この戦争中にそんな人の心が居るだろうか…。

 

「キ・ヨ・ン!!見てよ!!」

 

 ヒストリアは夕日を指差す。

 

「キレイ!!それでいいじゃない。何考えてるのか知らないけど、今はそんな難しいことを考える必要なんてないじゃない!」

 

 オレも一度夕日を見る。確かに綺麗だ。いつも見ているが今日は一段と。

 皆で成し遂げたからか…。

 いや…。

 

「そうだな。その通りだな…」

 

 ぶらぶらと散歩してから戻ると、丁度エルヴィン団長達が戻って来ていた。その手には本を3冊所持している。

 ミカサはオレとヒストリアを見るや否や、ふんっとそっぽを向いた。

 

「これより私達も帰還する」

 

 それだけを伝え、オレ達は馬に乗り移動することになった。

 腕を骨折しているため、サシャを運んでいる馬車に一緒に乗せてもらった。

 そこで地下室にあった本を詳しく聞いた。

 

 正直、あまり目新しい情報は無かった。

 殆どアニから聞いていたことだった。

 だが、おじさんが壁の外から来たことは確定した。

 それだけでもかなりの進歩だろう。

 やはり、エレンの能力は…。

 

 

 ウォール・ローゼに帰還した調査兵団は民衆によって造られた凱旋門を通る。

 

「おいおい…なんだよ、この派手な迎え入れ方は」

 

 鬱陶しそうに言うジャンだったが…その顔は嬉しさを隠しきれていなかった。

 慶賀に堪えないのだろう。

 

「っはっはっは!俺も遂には英雄になっちまったか」

 

 コニーも嬉しそうだ。コニーは故郷を巨人に帰られ精神を弱めていたが、順調に回復している。

 というか、もう全く落ち込んでいないように思える。

 

「これで肉が食べ放題!!いぃぃ~やっほぉ~~!!」

 

 起きたサシャはいつも通りだ。

 華々しい門を抜けた調査兵団は一度解散することとなった。

 

 

 次の日の朝。オレはハンジさんとリヴァイ兵長に連れられ歩いていた。

 オレ達は芝生を一層綺麗に引き立てている太陽の光を浴びながら街中を歩いていたが、人通りが少ない路地裏で奇妙な奴を目にした。

 

「名は進撃の巨人」

 

 何やってんだ、こいつは。

 

「何してるの?」

 

 エレンの奇行に同じ奇行種が問う。そしてエレンの真似をしながら続ける。

 

「進撃の巨人…ってやってたよね、今?」

「いえ…」

「えっ!?やってたよね?三人とも今の見たでしょ?」

「えぇ…まあ」

 

 オレの横に居たアルミンは顔を背けながら言う。可哀想なエレン…と顔に書いている。

 

「でも、まあそれは…その」

「ほらぁ!今のは何だったの、エレン」

 

 奇行種の追撃は止まらない。やはり、モーブリットさんが亡くなったのは痛いな。

 

「いえ、別に」

「君の巨人の名前でしょ!?なんで誰もいないのに一人で喋ってたの??」

「もう良いだろ、ハンジ。こいつは15のガキだぞ。誰だってそういう時期はある」

「はあ?何だよ、そう言う時期って?」

「ハンジさん、後で僕が説明しますから」

「ええ?なんでよ、キヨンは何か知ってるかい?」

「さあ…しかし、ハンジさんも同じ奇行種ですから、こいつの奇行くらいは何となく分かるのでは?」

「やだな~奇行種だなんて、照れるじゃないか!!」

 

 助けてモーブリッドさん。

 

「ふぅ…も、何しに来たんですか!?」

「いくぞ、身支度を急げ」

「何をするんです?」

「謁見だ。女王陛下がトロスト区にお越しだ」

 

 ヒストリアは普段、別々に過ごしている。まあ偶に抜け出してくるんだが…。

 ヒストリアや総統、憲兵団を交えて謁見が始まった。

 

 話の内容は、壁内人類がまだ戦争の途中にあることが主な話題だった。

 今までは曖昧な情報が飛び交っていたが、それが確定したということを世間に周知させた。

 多少、混乱はあったものの民衆も少なからず気付いていたため、騒動には発展しなかった。

 

 

 

 ウォール・マリア奪還成功のよる勲章を授与する式典が行われる日。

 調査兵団の精鋭たちが、勲章授与式に並ばされた。

 エルヴィン団長から順に、ヒストリアの差し伸ばされた手の甲に唇を添えていく。

 

 続いてエレンの番。ヒストリアから勲章を授与され、手の甲に唇を添える。

 エレンは微動だにしなくなった。ヒストリアの手を握るその顔は悲壮さを露わしていた。

 

 暫くしてハッとし、ヒストリアの手を放す。ヒストリアは次へ次へと勲章を授与していく。

 式が終わり、解散となるもエレンの表情が浮かない。

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 

 エレンの様子がおかしい。

 それは私だけが思っていることではないはず。

 目の前に立っていたヒストリアも違和感には気付いていた。

 当然、キヨンもエレンを見ていた。

 

「エレン…大丈夫?顔色が悪い」

 

 私はそう聞かずには居られなかった。

 多分、皆も気にしていることだと思う。

 

「あ、ああ…大丈夫だ」

 

 エレンはそう言って歩いていくけど…足取りが不安定で覚束ないようだ。

 とても大丈夫そうには見えない。

 

「一度、水を飲むと良い」

 

 エレンの顔色の悪さを見かねたのか、エルヴィン団長が言った。

 エレンはエルヴィン団長を見て固まった。

 驚愕している…?なぜ…?

 私はキヨンを見る。

 キヨンも目を合わせてくれたけど、首を振り分からないようだ。

 エレンはこの式場を見渡し、唖然としている。

 何に驚いているのか、私には分からなかった。

 

「エレン…?はい、水。まずは飲みなよ」

 

 ペトラさんがそう言ってエレンに水を渡す。

 じっとペトラさんを見て、コップを受け取った。そして一気に飲み干す。

 コップをペトラさんが預かり、エレンは再び歩いて行った。

 外の空気を吸いに行くんだろうか…私も…と思ったところで、エレンを制止させるべく、キヨンがエレンの肩に手を置いた。

 

「エレン」

 

 エレンは振り向くと、懐疑的な表情をする。

 

「え……………だ、だれ…………?」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

何者

 

「エレン…大丈夫?顔色が悪い…」

 

 ミカサが心配してエレンに駆け寄る。

 

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

 そう言うエレンだったが、その顔色は悪く足取りが不安定だった。

 エレンに何か変化があったと考えるのが妥当だろう…ヒストリアは王家の血を引く者。それと接触したことにより、変化があったのかもしれない。

 本当に未来を見ることが出来たとして、その未来はどのようなものだったのか。

 オレと言う異物はその未来では、存在していたのか…もし、オレが見えていないのであれば、その時の世界はどのような未来となっていたのか…。

 それを知ることで、オレがこの世界での立ち位置を知ることになるだろう。

 

「エレン」

 

 オレはエレンの肩に手を置き、一歩を踏み出そうとしたエレンを止める。

 エレンは後ろを振り返ると、大層驚いた顔をしていた。

 

「え……だ、だれ……?」

 

 オレを見て誰か分からないと言った顔をしている。本当に分からないのだろう。

 だが、エレンの皆を見る反応から、記憶を失ったわけではないようだ。

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

 皆は驚愕し固まる。だが暫くしてエレンはオレを思い出したようだ。

 

「……はっはぁはぁはあ。キ、キヨン…な、何で…」

 

 振り向き、肩で荒々しい息をしながらエレンはオレの両肩を掴む。

 エレンの様子を見た限り、見えた未来では、どうやらオレは存在していないようだ。

 

「エレン。オレはお前を信じているぞ」

 

 ボロボロと涙をこぼす。エレンは足に力が入らなくなったのか、へたり込んだ。

 

「どうしたの?エレン?何があったの、キヨン」

「そうですよ。いきなり顔色が悪くなったり、急に泣き出したり…明らかに変ですよ。変はいつもか…ならこれは普通…そもそも普通とは何でしょうか?」

「キヨン…エレンは大丈夫なの?」

 

 皆が詰め寄ってくるが一度無視し、エレンに言う。

 

「お前がどんな未来を見たのか、話してみろ。お前のそのクルミサイズの脳みそで考えても悪い方向にしかならないだろう」

「「「「未来?」」」」

 

 エレンの巨人の名は…進撃の巨人。その巨人はいついかなる時代においても自由を求めて進み続けた。初代王の思想に支配されないことも本で読んだが、それ以外にあるのは明らかだった。

 

「エレン…戦争を終わらせよう」

 

 オレはお前を理解している。そしてオレ達で…と意味を込めてエレンに手を差し伸ばす。

 

「…ああ」

 

 オレの手を握り立ち上がる。

 当然一部始終を見ていた人たちにも話は聞かせなければならない。

 それは構わない。今の現状を皆にも正しく理解しておいてもらう必要はある。

 そこで、オレ達は20名ほどが入る大部屋に集まり話し合いが開始された。

 

「あぁ~それで…どう言う事なんだい?」

 

 ハンジさんが切り出す。エレンはまだ俯いているため、その問いにはオレが応える。

 

「エレンの能力が未来を見ることができる巨人で、先の勲章授与のときにその未来の扉が開いたのでしょう」

「なるほど…?それで、え~っと…」

「あ、はい、そこからはオレが話します。」

 

 エレンは決心し口を開く。

 

「頼むよ」

 

 皆はエレンの話を真剣に聞くため姿勢を正す。

 

「えっと…厳密には全ての未来を見た訳ではありません。オレの能力は…未来の継承者の記憶を見ることができるのです。

 父の過去を見て、その父を経由して未来を見ました」

 

 エレンは弱々しい声で話した。

 

「話が難しいですね、分かりましたか?コニー」

「さっぱりだな」

 

 後ろでコソコソ話している二人は置いておこう。

 

「まぁ私もよく分からないところはあるけど、今はそこが詳しく知りたいわけじゃない。だから話を進めるが、その見た未来ではどうだったの?」

「それが…その…オレが父を誘導し、レイス家を殺させて…いました。それで、始祖を奪ったんです。ここからが未来の話なんですが、地鳴らしを発動し……その…人類の8割を殺しました」

 

 未来のエレンがおじさんを誘導ていたと…。

 過去を改変することも可能なのか。

 一気に周りが騒然となる。

 皆が一様に驚き、声を上げるが話が進まないのでエルヴィン団長が止め、エレンに話を再開させる。

 

「そして、調査兵団がオレを止め、アルミンやミカサ達が世界の英雄となり、戦争が終わったのです。そして巨人の力は消滅しました」

「まさか…そんなことになるのか…エレンを悪役に仕立て私達が英雄になるねぇ…」

 

 ミカサは自分がエレンを殺すことを知って声も出ていない。それはアルミンもだ…。

 だが、まさか未来がそんなことになるとはな。エレンは、よく…ここで話してくれた。エレンがそうせざるを得ない事情があったのだろう。

 だが、それを捨ててオレ達に話した。それはオレの存在が大きく影響していることは間違いなさそうだ。

 絶望的な未来と、今を見比べて今を生きるとエレンは決心した。オレ達と共に生きると。

 

「それで…」エルヴィン団長が口を開く。「何故それを話す気になったんだ?私を見て驚きキヨンを見て泣き崩れた。それは何故だ」

 

 その問いに対し、エレンは一度俯き溜めてから話す。

 

「……本来ならここにいる調査兵団は…もう9人しか存在していなかったからです…」

「「「「「は?」」」」」」

「9人だって…⁉皆死んでんのかよ…おい」

 

 ジャンが言った。

 

「ああ、ヒストリアは女王になっていたから調査兵団ではなかった。あとの皆は…トロスト区襲撃時では殆どの訓練兵が死んだ。調査兵団に入ったのは、確か20人程度だった。

 その後もアニと戦って数多く死んで、ライナーと戦ってまた死んで、ウォール・マリア奪還は成功したものの…オレ、ミカサ、アルミン、ジャン、サシャ、コニー、リヴァイ兵長とハンジさんとあと一人だけだった」

 

「そんな…」

 

 未来というか別の世界では自分は死んでいたのだと知らされ、絶望している兵士も少なくはなかった。

 

「キヨンも…死んでいたの…?」

 

 ヒストリアがそう零した。

 それにピクッと反応し、エレンは言う。

 

「いや…キヨンは………そもそもキヨンだけは……存在していなかった」

 

 全員、驚愕し目を見開いている。

 

「一体…お前は、何なんだ…?生まれてから一緒に育ってきたのに…何でお前だけ見えないんだ?過去も未来も変わっている。まるで、ここが別の世界だ」

 

 エレンはオレに向いて言う。エレンが一緒に生きていくと決めた以上、オレも正直に言った方が良いな。

 オレも仲間だと思い始めてる。今ならこんなオレでも受け入れられるだろう。

 

「さぁ…それはオレが知りたいことだな」

 

 だが、オレは言えなかった。誰かに引き止められた。

 いや、誰かではない。オレにだ。

 うるさい。出てくるな。とオレはオレに言い聞かせる。

 

「…そうか」

 

 あまり信じて貰えてはないが、一先ずオレへの質問は終わった。

 だが、何故オレがこの世界に生まれ落ちたのか、甚だ疑問だ。

 いや…そんなことは何も意味は無いのかも知れない。ただ偶々生まれ落ちただけということもある。

 

「まあ分かった。君が話してくれた理由も。キヨンの存在がこれだけの兵士を存続させたことに変わりはない。これからもよろしく頼むよ」

「はい」

「だけど問題が多いな…」

「一先ず今日は解散だ。私たちも時間が欲しい」

 

 話を聞くだけの時間だったが、一度情報を整理したいのだろう。

 ここで解散となり、オレ達は宿に向かう。その間、誰も話さなかった。

 食堂に向かい、皆で食卓を囲むも静かで食器の音だけが聞こえる。

 皆が死んでいたこと、エレンが虐殺していたこと、そしてオレが気味が悪いのかも知れない。

 

「はいっ!」

 

 静寂を破ったのはサシャだった。

 まさかのサシャがオレにパンをくれた。ほんの一かけらだったが…。

 

「キヨポンはキヨポンです」

 

 そう言いながらオレの口にパンを無理やりねじ込んだ。それを見たミカサとヒストリアはムッとしたが、何も言ってこなかった。というか、なぜヒストリアがここで昼食を取ってるのかは、オレも分からない。

 

「未来とか過去とか良く分かりませんが、今を見ましょう!」

 

 実にサシャらしい考えに安心感を覚える。サシャの言い分に皆はふっと小さな笑みを見せた。

 

「そうだな」

「お前はただ理解できなかっただけだろ」

 

 ジャンがサシャに言う。

 

「ギクッ…さ、さあ何のことでしょう…」

 

 分かりやすく動揺するサシャ。

 

「うんうん!皆、生きててよかった。私は死んでたみたいだけど…」

「だぁから、そんな話はしなくて良いってなったろ」

「あははは、そうだね。ごめんごめん」

 

 昼食を食べ終わり、オレは104期の同期と街をブラブラと歩いている。

 

「なんでエレンは…私達から離れて行ったの?」

 

 ミカサが聞く。ずっと気になっていたのだろう。皆が今を生きると言っても、そう簡単に割り切れるものじゃない。

 特にミカサの場合、ずっとエレンと暮らしていただけに、そこに恋愛感情が無かったとしても衝撃だっただろう。

 

「オレは…キヨンに人類は滅びてないって聞いた時、ガッカリしたんだ。多分、未来でも壁の外で人類は生存していると聞いて同じように思ったんだろう。

 そして許せないって思った。なんでこんな壁の中に閉じ込められなくてはならないんだって…。

 だから、平らにしたかったんだ」

「…」

「壁の向こうには海があって、海の向こうには自由がある、と思っていた。だけど、違った。海の向こうにいるのは敵だった。オレは憎いと思ったんだ」

「憎い?」

 

 オレは思わず、そう聞き返す。

 

「え?あ、ああ…こういうのを憎いって言うだろ?だって…向こうは自由なんだから」

「ああ。そうだな」

「どうかしたの?キヨン」

 

 ミカサが訊いてくる。

 

「いや、何も。ただそういう感情は余り理解できないと思ってな」

「キヨンらしい。いつも無だから」

 

 失礼な…。

 

「オレにも感情はある」

「そう…」

 

 ミカサはオレの言葉を右から左へと聞き流した。

 

「そんな事よりも!!しゅ!く!しょう!かい!!ですよ!!

 ウォール・マリア奪還したんだから、肉を食べましょうよ!前回よりも大きい肉を…ぐへへへへ」

「お前、前回あんま食べてねぇだろうが」

「え、そんな馬鹿な…こ、この私が食いそこねるなど…」

「教官の頭突きで忘れたんじゃねーのか?」

「そういや、教官を呼びに行ったのはサシャだったよな?」

「あ、あ、あ…ああ頭が割れそうですぅ〜!!」

 

 教官は多分、サシャに肉を与えたはずだが、教官というワードがもうトラウマなのだろう。

 

「ま、行くか」

「ハンジさんが用意してくれてるってよ!」

「うおおおおおお!!行っきますよぉ!」

 

 サシャが真っ先に駆け出し、コニーが続いて走り出す。それを見たジャンは「はっガキかよ」と馬鹿にしながらも我慢できなかったのか走って行った。

 その後を皆も追う。アルミンもエレンも走って行った。

 

「行こう」

 

 ミカサがオレの手を引いて、走る様に促す。仕方なくオレも走ってついていく。

 住宅街で芝生の上では無いが、昔、よく4人で走っていたのを思い出した。

 

 

 

 大講堂に集まり、目の前に並べられた肉や肉や肉に皆が目を輝かせていた。

 

「ウォール・マリア奪還成功じゃあ!!!カンパーーーイ!!!」

 

 ハンジさんが叫ぶ。

 前進したと思えば、エレンのことと言い、世界の事など厄介な件が増えた。

 ストレスが溜まっていたのだろうな。

 長い言葉はいらない。短い言葉で快哉を叫んだ。

 

「「「「「「「うおおおおおおおおお!!!カンパーーーイ!!!!!!」」」」」」」

 

「てんめえ芋女!!!!まぁた一人で食ってんじゃねえか!!!」

 

「んう゛~~~!!!」

 

「またサシャがジャンの手を食べてる」

 

 ははは、と笑いながら乱闘を見物しているのはヒストリア。

 

「偶には混ざって来たらどうだ?」

 

「女王に殴り合いをしに行けというの??」

 

「いや、そこまでは言ってないだろ…」

 

 また何か厄介な命令をされるのは勘弁なので、ここは引いておく。

 皆の乱闘が治まる気配がないため、オレは外に出て風に当たることにした。

 

 

 

 

 オレはここに来て変わっただろう。

 それは自分でも良く分かっている。

 変われたことに素直に嬉しいと思う。そして、変化を与えてくれた奴らには…どれだけ感謝していることか。だから、こいつらと居る時間を失いたくないと思っている。

 奪われないために、ライナーや獣を倒した。その結果、壁の中は安泰だ。

 皆も楽しそうにはしゃいでいる。

 オレは心から思っている。この居場所を失わなくて良かったと…。

 

 だが…。

 それでも…オレは……モヤが晴れない。

 この鳥籠のように囲われた不自由な世界が嫌なのだろう。

 

 

 憎い。

 

 

 オレは今まであやふやだった感情を理解した。

 戦争を終わらせるには、エルディア人以外の人間を滅ぼせば良い。

 そうすれば、戦争が今後起こることはないだろう。

 今度はエルディア人同士で戦争が起こる可能性は否めないが…それでもオレ達が生きている間に戦争が起こることはない。

 話し合いで解決したとして、またいつの日か戦争が勃発するのは目に見えている。

 

 オレがこいつらと自由に暮らしていくには、全ての国を滅ぼすことが最も確実だ。

 

 だがそれをするには問題点がある。

 オレがオレ自身が何も思わず人を殺し回れるかだ。できるだろうか…いつか思い留まるのでは無いだろうか…。

 優しさ、人を思う気持ちを手に入れた。

 それは良いことであると思うが…こういった場面では甘さとして出てしまうのでは無いだろうか…不安だな…。

 

「ふぅ…」

 

 らしくもないと思い、一度息を吐く。お腹の中の空気がなくなるまで吐いた。

 

 「キヨンは…キヨンだから…」

 「さっすがキヨポンですぅ〜!!」

 「キヨンは私達を勝たせてくれるんだよね?」

 

 そもそもだ…これを話せば皆といつも通り話すことが出来なくなる可能性が高い。

 戦争を終わらせたとしても、あいつらと居ることが出来なければ、終わらせる意味がない。

 そのようなことをするのは…愚かだ。

 

 

 オレは…キヨン・ジェイルーン。今を生きよう。

 

 

 どちらにしても戦争は続くが、話し合いに持っていけば終わらせることも可能だ。

 オレはそう今後の方針を定め、中に戻ろうと踵を返す。

 

 

 

 

 

 

 「さっすが、私の清隆ね!信じていたわ」

 「お前という駒を動かすためにしたまでのこと。」

 

 

 

 唐突にフラッシュバックした記憶。

 今まで、オレはあいつのことを思い浮かべることなど無かった。

 

 忘れていたわけじゃない。

 

 過去の自分を記憶と共に封印していた。

 

 変われたわけじゃなく…隠していた。

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ。

 

 

 どれだけ変わろうとオレはオレだ。

 

 目的の為なら手段を選ぶ必要はない。

 

 この世は『勝つ』ことが全てだ。

 

 過程は関係ない。

 

 どんな犠牲を払っても構わない。

 

 最後にオレが『勝って』さえいればそれでいい。

 

 憎いなら、外の世界を掃除してしまえば良い。

 

 オレはオレの目的を果たすために、皆を……そして、オレ自身を道具として扱おう。

 

 自由を得る。

 

 そのためなら…エルディア人以外が絶滅しようとどうでもいい。

 

 これから行うことは既に決まっている。

 

 

 

 オレは綾小路清隆。敵国を進撃する。

 

 

 

 生まれたての赤子や、あと数秒で死ぬ老人だろうと関係ない。

 

 どんな小さな小石も見逃さない。

 

 しかし、ここでの暮らしで甘さが混じってしまったのも変わりようのない事実。

 いや…違う。甘さを…優しさを手に入れた。

 この感情を利用しない手はない。

 

 後ろの扉が『ガチャ』と開き、オレに声を掛けてくる。

 

「キヨン…一人で居ないで皆と居ようよ。

 せっかくの祝いなんだからさ!」

 

 ヒストリア・レイス

 

「ああ、そうだな」

「どうしたの?憑き物が落ちたみたいにサッパリして」

「酷い言い方だな。だが、まあ迷いが無くなったからな。気分が良い」

 

 中へ入り、皆の元に歩いていく。

 

「あっ!キヨポーン!聞いてくださいよ!私にだけ肉を食べさせてくれないんですぅ〜」

「それは日頃の行いだ」

「ええ〜そんなァ〜」

「えっ…キヨポンが今、普通に笑ったぞ…」

 

 コニー・スプリンガー

 

「オレも変わり続けているからな」

「らしくねぇじゃねぇか!キヨン。お仲間が生きていたことが嬉しかったのか?え??」

 

 ユミル

 

「まぁそうだな。それは否定しない」

「あんた…顔つき変わったね」

 

 アニ・レオンハート

 

「さっきヒストリアにも言われたな。少し気分が晴れただけだぞ」

「そ、そう…い、いいんじゃない?」

「キヨンは最近、優しくなったよね?」

「まぁ昔から皆を守るために暗躍してただけだよね」

 

 ミーナ・カロライナ

 マルコ・ボット

 

「そういや、オメェ結構前に…安心しろ。オレにとっての…………とか何とか言ってたな。オメェさてはツンデレって奴か!ぷひゃっひゃ」

 

 ジャン・キルシュタイン

 

「ジャンボ…口を閉じてろ」

「て、てめぇ」

「キヨン!まずは海だよ!海を見に行こう!!」

 

 アルミン・アルレルト

 

「お前はそればかりだな」

「ま、まあね…へへ」

「キヨンは…これからどうするの?」

 

 ミカサ・アッカーマン

 

「決まってるだろ?戦争を終わらせるだけだ」

「そ、そう…」

「ミカサ、今はその話は良いだろう?楽しいときは楽しく食べるべきだ」

「そうね。私が悪かった…」

 

 だが、その隣りにいるやつはオレの言葉に反応し、ぼそほぞと呟く。

 

「鬱陶しい壁…海の向こうには自由があって……」

 

 エレン・イェーガー

 

「おい、腰巾着。今はそんな事を考えなくて良いと言っただろう?

 楽しまないと損だぞ」

「お、お前の笑顔ほど、見慣れねえもんはねえな……まあ…そうだな。今は楽しむべきだな…」

「そうです!そうです!!皆、お肉を手に持って〜〜かんぱーーい!!」

「「「「かんぱーーい」」」」

 

 サシャの掛け声に皆が釣られて肉を高らかに上げる。

 

 それをサシャは飛びつき食らう。

 

 笑いが堪えない場。

 

 良いものだ。

 

 オレも笑っているのだろう。

 

 自然と…これは決して作り笑いじゃない。

 

 だからこそ、何も疑われることはない。

 

 それで良い。

 

 全ての人間は道具でしかない。

 

 それらを操るためにオレは新たな教科書の一ページを捲った。

 

 




エレンの過去視や未来視…それから、巨人の力などは全てキヨンには効かない。そう言う設定です。
なので、キヨンが巨人化することもできないし、過去視に映ることもない。故に過去も未来も同じ世界であっても現在を帰ることはできない。なんか言ってて分からなくなってきましたが…とにかく、エレンやユミルからキヨンを見ることはできない、ということ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。