助けて旧神様!(旧題クラインの壺ナウ) (VISP)
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第一話 旅の始まり

久しぶりのSS執筆に興奮が止まらない。
取り敢えず、ネタが尽きるまで走り抜けるつもりです。


 これはとてもとても感動的な、弱い神様が生まれるまでの長い長い物語、その隅っこ。

取るに足りないちっぽけな命が、ずっとずっと足掻き続ける。

 これはそれだけのお話です。

 それでもよろしいのでしたら、是非このゲームキーパーと共に彼の物語を御観賞ください。

                                            」 

 

 

 

 気付けば、見知らぬ土地に転生していた。

 

 いや、マジで何が起こったのか解らん。

 ブラック企業で馬車馬の如く働いて、日付変更後に漸く帰宅して泥の様に眠りについた筈なのに、気付けば知らん場所で寝ていた。

 転生した場所は普通に地球らしかった。

 年代的にはまだ昭和の半ば位か?大量の電化製品がまだ一般家庭に普及し切っていない感じからして。

 まぁ娯楽も少ない時代だし、頑張って勉強して、よい仕事に就くか。

 幸い、こっちの両親も良くしてくれる様だし、計6人の兄妹姉妹との関係も悪くないみたいだしね。

 んでまぁ色々勉強しつつ、人付き合いも欠かさずして、何とか大手企業への内定が決まった頃…

 

 唐突に死にました。

 

 

 

 2じゃなくて3回目

 

 前回の最後だが、うん、無いわ―とは思った。

 と言うか、何が原因だったか本当に解らん。

 家で家族と団欒してたら突然吹っ飛んだんだもん。

 取り敢えず、また勉強しつつ、今度は災害にもテロにも巻き込まれん様な所で暮らそう、と思ってたのだが…。

 

 今度の転生先、生まれた場所の地名が「インスマウス」。

 クトゥルー神話かいッ!?

 

 思わず全力で日本語で突っ込みを入れてしまって怪しまれたが、その後はやっぱり勉強、英語を流暢に話せるようになったのは良かった。

 それに加え運動や格闘技なんかをして身体を鍛え、結局あんまり流行っていないバスの運転手に就職した。

 幸いにも前の時代とは同年代に生まれたため、そこまで科学的知識なんかに差異は無かった。

 現在は1人身だが、何が起こっても良い様に、安い給料で武器やお守りなんかを買って集めている。

 まぁCCDなら兎も角、邪神相手には悪戯にも成りはしないが、生き残るために少しでも努力はしたい。

 最初から邪神眷属共の相手なんて無理、と言うかオレの方が今や退治される側だしね(遠い目)。

 一応言っておくが、ここでの生活は余り問題無かった。

 無論、ダゴン秘密教団だとか、夜に出歩くと軽くSAN値直葬ものの光景が広がってるだとかはあるが、一応自分も深き者共の末裔なので、積極的に狙われる事は殆ど無かったからとも言えるが。

 …ただし、最大の問題は最近自分もインスマウス面になりつつあり、以前までの鳥の行水が見紛う程に長風呂好きになった事だろうか。

 最近夢に水中都市だとか不定形の変身生命達だとかを見てSAN値がガリガリ削れている。

 あれがイハ・ントレイとショゴスだろうか?マジであんなのと戦える方々には頭が下がる。

 

 にしてもこの街、治安悪いのなんのって。

 街中に漂う普通の海辺に比べて不快感を100倍圧縮した様な独特の匂いが常に漂い、少人数の旅行客が消えるなんてはのはしょっちゅうだし、閉鎖されてる筈の工場や廃屋からは半漁人と哀れな被害者のR-18(時々Gも付く)的な音が絶えず聞こえてくる。

 もう一番最初の人生から童貞とは言え、リアル異種姦レイプとか…正直萎えます。

 アレの仲間入りする位なら、生涯童貞でいいです、はい。

 

 んで、30歳になる頃、遂に完全にインスマウス化した。

 幸いにも人格面にはあんまり影響が無かったが、すっかり水中での生活に適応してしまった…。

 最近は悪魔の岩礁の近くを回遊してるが、時折投げ込まれる死体とかは喰わず、もっぱら魚ばかり食べている。

 他の同族は攫ってきた女性を輪姦したり、イアイアと祈ったり、人肉パーティーを開催してるので、余り近くに寄りたくはないのだ。

 が、そうも言ってられない事態になった。

 族長、と言うかローブを着こみ、特徴的な黄金の三重冠や腕輪を付け、魔道書?を持っている司祭がオレンジ色の髪と髭、見事な白いスーツを纏った似非紳士と会話していた。

 

 …………………………………え、まさかのデモベ時空なん此処?

 

 即効で姿を暗ましたオレ悪くねぇ。

 オーケー落ち着けオレ。

 取り敢えず、戦闘に巻き込まれない場所に逃げよう。

 なんでこうなったかは知らんが、それでもいい加減に普通に寿命で死にたい。

 

 幸いにも沿岸部なら陸上でも活動できるので、嘗ての自宅に行って水中銃他、濡れても動く装備を整え、何時でも戦闘出来る様に待つ事数日後、遂に来た。

 マスター・オブ・ネクロロリコンとその魔道書が遂にインスマウスにやってきたのだ。

 んで、何が起こったのかと言うと、結果だけ言えばオレは死んだ。

 

 

 

 4回目

 

 前回の死因はロリコンが召喚した鬼械神による焦熱呪文の余波だった。

 おい被害者の救助はどうした、と言いたい所だが、一度でも犯されると永遠に魂が汚染されるとか言われてるしなぁ…。

 媚薬で狂わされたとは言え、既に孕んでるだろうし、有りっちゃありかね?

 戦った相手がダゴンかハイドラかは知らんが、一つ気になる事があった。

 

 召喚されたの、デモンベインじゃなくね?

 

 というかどう見てもアイオーンでした。

 あの黒くて無骨な姿は見間違い様が無い。

 んじゃ此処、無限螺旋のかなり初期?

 ……取り敢えず、各種言語を勉強しつつ、魔道書を探してみよう。

 何時出れるかは解らないが、何もしないよかマシだろう。

 

 今回は日本人なので語学を中心に勉強して就職して(今までの蓄積のお陰で簡単だった)、住居を人里離れた僻地に移し、語学の研究をしまくって過ごした。

 魔道書?そう簡単に見つかる訳ないじゃん。

 

 んで、空を飛び交う破壊ロボの蹂躙劇とかを眺めつつ死亡。

 成る程、2回目はこれが原因だったか。

 

 

 

 5回目

 

 さて、今回は何に転生したかというと…人間だけど、ドイツの某所(ちょっと大きめの地方都市)出身。

 

 今回はミスカトニック大学を目指して勉強、その傍らで裏通りで魔道書を探す。

 この時代、当然ながらまだまだ闇の匂いが色濃い。

 邪神眷属が実在する世界なのだから当たり前だが、それでも最初の日本では有り得ない程の瘴気だ。

 すると見つけたのが…………妖蛆の秘密:ドイツ語訳改訂版。

 よりにもよって…。

 古本屋で見かけた時、思わずorzとなったオレを誰が責めようか。

 こいつは勿論原典ではなく、その後に出版された殆ど価値の無い写本だ。

 それでも1ページ目をちらっと読むだけで精神が揺さぶられる。

 取り敢えず購入して安アパートに戻ってありったけの御守りとかを装備した後に鉄で装丁された表紙を開き、読み始める事1時間…。

 

 

 発狂して死んだ。

 

 

 6回目

 

 前回で解った事は「どんな下位の魔道書でも舐めてかかると死ぬ」と言う事だ。

 うん、正直舐めてたよ。

 年月経てるから、多少人より頑丈な精神だと思ってたけど、魔道書の前ではんな事は無かった。

 特に妖蛆の秘密はあの存在そのものがR-18Gなティベリウスの本体にもなった代物だ。

 そら初心者を狂死させる位はするだろう。

 

 今回は日本で人間だが、SAN値を削り切られた影響か、精神がやたら不安定だ。

なのであの1時間で見た知識を反芻し、自筆の手稿に書き写す事に専念する。

そしたらなんか手稿に魔力が宿った。

 いやさ、一応マジの邪教崇拝に参加して、そういったものを感知出来る様になったけどさ?

 いきなりこれは無いでしょうと。

 魔力を宿した手稿はやたら物理的にも頑丈になった上に、夜な夜な発光したり、蠅等の虫が寄ってくる様になった。

 お陰で殺虫剤が欠かせない。

 

 今回も破壊ロボの群れに殺された。何時か撃墜してやる。

 

 

 

 7回目

 

 今回はまたインスマウスなんだが……前より身体能力とかが上がってる?

 以前がlv1の雑魚なら、今はlv2位?

 各種スペックが以前の2倍相当。

 原因はどう考えても無限螺旋なんだが……黒白の王以外に有り得るのか?

 普通に無理だと思う。

 ってかそもそも混沌の術式にオレが混入してる事自体が異常だ。

 邪神の箱庭に干渉出来るとか、明らかに人智を超える業。

 あれ?オレもしかして神々同士の戦争に巻き込まれてる?

 

 …………オーケー落ち着け、クールになろう。

 これは魔術を探求しつつ、じっくり調べていくべき事だな。

 今の状態じゃ結論を出すのは無理だ。

 

 結局今回もアイオーンに蹂躙された。

 ちゃんと避難してたんだけど、前回よりも攻撃力が上昇し、それに伴って余波も強化されてたのが原因だ。

 

 

 

 8回目

 

 今回はアーカムシティ周辺。

 前と同様に勉強してミスカトニック大学を目指しつつ、魔道書を探し回る。

 

 んで見つけたのが……ルルイエ異本:英語版。

 

 感じる格は以前の妖蛆の秘密:ドイツ語改訂版よりも大分低いし、ちらっと読んだ感じだと、こっちの方がオレと相性が良い感じだ。

 多分、以前に何度かインスマウスに転生したのが効いているんだと思う。

 迷わず購入し、自宅で読書開始。

 結果としては、発狂する様な事は無かったが、余りにも格が低く、内容も出鱈目が多く、参考になる部分が少ない事が解った。

 まぁ元々リアル深き者共だったオレだ。

 これに記述されてる適当な内容よりも、実体験としてより詳細な知識を持っている身としては実に微妙な気分になった。

 とは言え、現在のド素人のオレが扱い切れる魔術の発動媒体としては申し分ないので愛用する事が決定

 その後はド三流の魔術師としての修行の日々と相成った。

 

 まぁ最後はお定まりの破壊ロボの蹂躙劇でしたが。

 とは言え、何体かは撃破できたので、まるっきり成長していない訳ではないらしい。

 

 

 

 9回目

 

 今回もアーカムシティだったため、即効でルルイエ異本を購入後、遂にミスカトニックに入学した。

 さぁ陰秘学科へ!と思いきや、普通に入学出来る訳も無く、経済学科で勉強しつつ、向こうからのリアクションを待つ事一月。

 ラバン・シュベルズべリィ教授の研究室に呼ばれた。

 

 

 「ふむ、君が新入生の中にいた魔術師かね?」

 「は、はい!」

 

 我ながらガチガチに固まっているが、当然である。

 少なくとも逆十字のクラウディウスより強いガチのホラーハンターを前に、尻込みせずにいられる程、自分はまだまだ強くはない。

 

 「ダディ、この人、水の匂いが濃い。」

 「君は魔道書は何を使っているのだね?」

 「あ、はい。ルルイエ異本の英語訳です。」

 

 迷わず差し出す。

 だって逆らったら邪悪な魔術師認定されかねないんだもん。

 んでパラパラと差し出された魔道書を捲る教授。

 自分はお伴の葉月ちゃんを興味深く眺める。

 何気に至近距離で魔道書の精霊を見るのは初めてだったりする。

 

 「宜しい。君、陰秘学科に転入するつもりはあるかね?」

 「ぜ、是非お願いします!」

 「ちなみに、目的等はあるかね?」

 「自衛です。それが至上命題です。」

 「実感籠ってるね。ガンバ。」

 

 陰秘学科ではかの教授の授業を受ける事が出来た。

 彼の授業で学んだ内容は、各種奉仕種族への対処方法や蜂蜜酒等の霊薬の作成法、邪神から身を守る術の基本等々…。

 実に有意義な時間だった。

 

 今回の最後は何と破壊ロボ相手にかなり無双できた。

 アーカムの民間人が避難するまでの殿を務めていたのだが、やはり無謀だったか…。

 とは言え、足りない魔力と位階を武器と蜂蜜酒で補ってのものなので、イブン・カズイ仕様の弾薬と蜂蜜酒を消耗したと同時に終了。

 それまでに数百近い破壊ロボを撃破したが、まだまだ道程は遠い。

 

 

 

10回目

 

 お股にまだ未使用の相棒がありません。何故か女性です。

 Why!?いや、異種族に比べりゃマシだけどさ!?

 

 …………オーケー落ち着け、クールになろう。

 取り敢えず、インスマウスに生まれるよりはマシと思えるしな、うん。

 

 今回は以前と同じドイツの田舎町。

 つまり、この場所にはアレ、妖蛆の秘密:ドイツ語訳改訂版がある訳でして。

 

 リベンジじゃオラァァァァァァァァァッ!!

 

 結果、辛勝。

 初めて魔術方面での成長を実感できた。

 いやさ、身体能力は転生する毎に強化されて、今や鉄パイプを素手で折り曲げたりできるけどさ?

 魔術方面の強化はそっちに比べて全然なんだもん。

 一回につき20数年で死亡だから、実質的な修行年数は約20年未満だけど、もう通算200歳以上なのに未だに一流所の魔道書は扱えないし、才能ないんかなぁ…。

 

 愚痴はさて置き、順調な滑り出しにさぁいざ行かんミスカトニック!と息まいた所

 

 「あらぁん☆ こりゃまた馴染みの気配がするかと思ったら、なんて可愛いらしい子なんでしょう☆」

 

 ティベリウスに遭遇した。

 アイエエエエエ!?逆十字!?逆十字ナンデ!?

 ってネタやってる場合じゃねぇ!

 でも遭遇した時点で第六感がオワタ警報を出してる。

 うん、今回はここまでかー。

 しかし、全力で抵抗する!

 

 「吸い尽くせスターバンパイア!」

 

 咄嗟に手元にあった妖蛆の秘密を用いて宇宙に住まう不可視の吸血生物を召喚する。

 狙いは足止め、相手は同じ魔道書の原典の持ち主であり、正面から戦った所で、術者と魔道書の双方で勝ち目は無い。

 足止めを置いて逃げに徹する。或いは自爆。

 それがオレに残された選択肢だった。

 

 「アラアラまぁまぁ☆ 悪くは無いけど、甘々ねぇん!」

 

 しかし、そんな浅はかな考えはスターヴァンパイアがより大きな同種の個体に喰われた所で潰えた。

 同時、内臓を張り合わせて作られた触手が迫る。

 何とか結界を構築するも、触手は何の障害にもならないと言わんばかりに突撃し、一瞬の停滞の後に結界を突破した。

 

 「あ、ああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁッ!?」

 「んっふっふっふっふ☆ い~い声で啼いてくれるじゃないのー☆」

 

 ギチギチと触手が身体を締め付ける。

 身体がギシギシと軋みを上げ、肺から空気を押しだされたために思考すら上手く纏まらない。

 クスクスと少女の笑い声の様なスターヴァンパイアの鳴き声が耳元を擽る。

 完全に捉えられていた。

 漸くオレは、出会った瞬間に自爆を選ばなかった事を後悔した。

 

 「ぐ!?あ、がぁ…ッ!?」

 「んん~? よく見たらアナタ、美少女なのねん☆ ボーイッシュだから男の子かと思っちゃったわん☆ しかも量は少ないけど上質な魔力…こりゃ良い拾い物だったねぇ☆」

 

 全身から腐臭を漂わせながらティベリウスがオレの顎を持ち上げる。

 ピエロを模した笑みの仮面からは何の表情も読み取れないが、それでもそのオカマ口調の声から極めて上機嫌である事が解る。

 

 「きっめった☆ アンタは殺さずに私の魔力タンクになってもらうわぁん☆ 光栄に思いなさ~い☆」

 「ふ、ざけ…!」

 「早々、アンタに拒否権は無いから。」

 「ああああッ!?」

 

 身体から何か大事なモノが抜け出ていく感覚。

 それは魔力であり、精力であり、血液である。

 身体に張り付いたスターヴァンパイアを通して、自分の力が目の前のピエロに吸い取られていくの解る。

 魔道書で対抗術式を練ろうにも、術式を構築する傍から干渉され、無効化されていく。

 

 「く、ぅぅ…。」

 「うふふふふふふふふふふふ☆ かーわいい声出しちゃって、そそられるわ~☆ じゃ、じっくり楽しみましょっか☆ 手はじめに…」

 

 この町を滅ぼしちゃいましょうか☆

 

 この日、ドイツから一つの町が地図から消えた。

 

 

 

 それからの事は余り思い出したくは無い。

 来る日も来る日も人間の持つあらゆる尊厳を凌辱される日々。

 それがどの程度の期間だったのか…恐らく20年も経っていないその日々は、しかし200年を経た自分であっても、無限に等しい苦痛の時間だった。

 身体の自由を奪われ、やたら露出の多いサーカス風の衣装を着せられ、あらゆる命令を下された。

 ある時は身体を凌辱されながら、身体を死ぬ一歩手前まで破壊されるも、無理矢理快楽を感じる様にさせられた。

ある時は若男女問わずあらゆる人種の人間を殺させられた。

 ある時は感謝と喜びの声を上げさせながら、触手の海で凌辱された。

 ある時はティベリウスの操る亡者達の苦痛や恐怖、憎悪を一身に浴びせられた。

 ある時は蟲達に満ち溢れた暗闇の密室に長期間放置された。

 ある時はブラックロッジの構成員達に輪姦され、孕まされ、出産した赤子を目の前で殺され、その死肉を無理矢理食わせられた。

 ある時は、ある時は、ある時は……。

 そんな日常を、時に人里で普通に過ごす期間を挟んで、不定期に繰り返される。

 凡そ人間が想像し、人外の力を用いて初めてできる様な所業は凡そ体験させられた。

 お陰で目は完全に死んで、表情筋は働くのを止めた。

 少しでも心を鈍くする事で身を守る事を選んだが、ティベリウス、否、導師はそうしたオレの防衛術を全て抜いてオレの心を蝕み続けた。

 そんな日々を過ごす中、遂に、遂にチャンスが巡ってきた。

 

 「暴食せよ、ベルゼビュート!」

 

 召喚されたベルゼビュートの中、ティベリウスとその本体の妖蛆の秘密と共に私はアイオーンと相対していた。

 ちなみに一人称は矯正されたものだ。

 

 『このゲテモノが!今度こそきっちりあの世に送ってやらぁッ!』

 『気を付けよ九郎!彼奴の事だ、何か仕掛けてくるぞ!』

 

 黒の鬼械神アイオーン。

 こちらとは比較にならない程に強力だが、如何せん術者への負担が大き過ぎる。

 ことスタミナというか不死身っぷりには定評のあるティベリウスと妖蛆の秘密が相手では、ループ初期の彼らでは相手にならないだろう。

 

 「んっふっふっふ~☆ さてどうしてやろうかしらん☆」

 『クッソがぁ…!』

 

 現に戦闘開始から10分と経たぬ内にアイオーンは地に伏していた。

 挑発に乗り、大技を誘発させられた結果だ。

 

 「んじゃリーアちゃん☆ 止め刺しちゃいなさい☆」

 「え……?」

 

 もうまともに働かない表情筋が言われた言葉と到来したチャンスに僅かに動揺する。

 

 「あらん? 何か躊躇う理由でもあるのかしらん? それとも……ま~た蟲蔵の中で過ごしたいのかしら~☆ リーアちゃんもモノ好きねぇ?」

 「いえ。実行します、導師。」

 「そうそう、それで良いのよぅ☆」

 

 一時的に渡されたベルゼビュートの制御権を使用し、ゆっくりと倒れ伏したアイオーンへと歩み寄る。

 腕部に魔力を収束し、何時でも全力の打撃を叩き込める様にする。

 そして、アイオーンの下へ辿りついた時、大きく両腕を振りかぶり……

 

 ベルゼビュートの右腕が、その胸部《・・》へと叩き込まれた

 

 「…ざまぁ見ろ。」

 

 半壊したベルゼビュートのコクピット。

 そこで私は空を見ながら、左半身が潰れた血塗れの身体で嗤った。

 これで漸く今回を終わらせる事が出来る。

 

 「っ、がああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!! よくもやってくれたわね小娘がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 だが、ベルゼビュートの拳の下から、肉塊をのたうち回らせながらティベリウスが這い出てくる。

 だが、それも予想通りだ。

 

 「今まで可愛がってきてやったのに…今日と言う今日は、冗談じゃ済まさねぇぞ小娘ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 「あぁ、私も今回で終わりにするつもりだよ。」

 

 潰れた身体で快心の笑みを浮かべる。

 こいつはこの期に及んでまだ気付いていない。

 この場に誰がいる事を。

 そして、その誰かが邪悪にとっての天敵である事を。

 

 『あぁ、テメェはここで終わりだブラクラ野郎!』

 『バルザイの偃月刀、多重召喚!』

 『超攻性防御結界!』

 

 炎と共に現れた偃月刀が宙を走り、ティベリウスへと殺到、全身に突き刺さり、身動きを封じる。

 

 「馬鹿なあああああああああああああああああああッ!? そんな魔力、一体何処に…まさかッ!?」

 『貴様と同じだ!その娘が我らへと託してくれた!』

 『今まで奪った人達に、あの世で詫びやがれ!!』

 

 ベルゼビュートの左拳、それはアイオーンの胸部へとそっと添えられていた。

 20年以上絞られ、搾取され、貪られ続け、疲弊したこの身で出せる渾身の魔力を伝えるために。

 そして僅かに掌握した亡者達を、アイオーンの「アルハザードのランプ」へとくべるために。

 

 『久遠の虚無へと帰れッ!!』

 

 頼んだぞ、マスター・オブ・ネクロノミコン。

今回初めてまともに会話し、戦闘という形ではあるものの触れ合ったオレ達だが、それでもきっと彼らならやってくれるだろうと思う。

 そして、オレとティベリウス、妖蛆の秘密、数え切れない亡者達は爆炎の中へと消えていった。

 

 ありがとう旧神様(予定)!!

 

 

 

 11回目

 

 ここまで繰り返した事で、少しだけ解った事がある。

 それはオレのループの規則性だ。

 大体は以前と同じく人間の男性へと死ぬ度に転生する。

 しかし、10回に一度程度の確率でそれ以外(人間の女性や各異種族)へと転生する。

 異種族の場合、多分だがオレ自身の魂の格によって転生する種族が決まるのだろう。

 現在のオレはまだまだ未熟者なので、精々が深き者共、その中でも下位の個体にしか転生できないといった所か…。

 何れショゴスの様な強力な存在への転生も可能性としてはあるが、それはまだ置いておこう。

 

 問題なのは、オレがまだまだ邪悪への認識が甘かったという点にある。

 今回のティベリウスとの一件で判明したが、オレという存在が物語へと与える影響は微々たるものだ。

 しかし、常人の精神を持つオレの視点から見ては相当に大きな影響を与える事が出来る。

 しかも、オレ自身も精神にガチのトラウマを植え付けられ、正直戦う所か極初歩的な魔術の行使さえ危うい状態なのだ。

 

 端的に言えば、オレはブルっちまっていたのだ。

 今まで10回も生き死にを繰り返しておきながら、だ。

 散々SAN値直葬ものの知識を身につけておきながら、何を今更という考えもあるが、今までは精神汚染が主で、死ぬ時も基本一撃だった事、そして何よりも遠大すぎる脅威故にそこまで逼迫した危機感を抱かなかった。

 これはこの世界があの無限螺旋かつ、あの混沌の箱庭である事も拍車をかけていた。

 …まぁ怪異が引き起こす事件は世界中で多かれ少なかれ起きてはいるのだが。

 しかし、ティベリウスという本物の外道に与えられた「解り易い絶望と苦痛」は、差し迫った脅威であり、何よりそれを与えられ続けた期間が長過ぎた。

 既に「私」の精神には奴への恐怖が完全に刷り込まれていた。

 それこそ、奴と相対する事すら恐れる程に。

 

 状況は10回目と同じ、ドイツの田舎町で女の子として生まれた。

 ただし、前回の体験のせいで微妙に不安定かつ表情筋が死んでいるため、親からは不気味がられている。

 ちょっと悲しく思いつつ、どうせもう汚れた身だからと関係改善を放棄する。

 幸いにも20年近く原典の妖蛆の秘密と過ごした結果、余り重要ではない殆どの記述は知り得たと言ってもいい。

 その内容にしても既に想像の範囲内だろうから、特に問題は無い。

 取り敢えず暫くは心の傷を癒す事を目標に、妖蛆の秘密以外の魔道書を探す事にする。

 6歳になり、放任(放置とも言う)されているのを利用して町の古本屋を物色し続ける日々を過ごす。

 学校?今更今更。

 

 「やぁお嬢さん(レディ)、御機嫌麗しゅう。」

 

 そんなある日、町の中の喫茶店で休憩していると、唐突に髭面のダンディなおっさんに出会った。

 年齢的には既に老齢に差し掛かりつつあるのだろうが、その身から放たれる覇気が老いてなお衰えを感じさせない。

 と言うかこのどっか見覚えのある人、激しく心当たりがあるんですが…。

 

 「…誰ですか?」

 「おっと、自己紹介が遅れてしまったね。私の名は覇道鋼造、君に会いに来た。」

 「…リーア・ベルマンです。お会いできて光栄です、Mr.覇道。」

 

 やはりかい!と動かない表情筋に感謝しつつ、内心で絶叫を上げる。

 恐らく、前回の経験から私を助けに、そして戦力の確保のために来たのだろう。

 確かに今回はあのブラクラ野郎に狙われる可能性もあるから大助かりなのだが…ぶっちゃけ、自分が目茶苦茶怪しいという自覚はあるのだろうか?

 あ、そう言えばコイツ、宇宙最強のロリコンだったっけ。

 怪しまれるのなんざ問題にもならんか。

 

 「貴方程の人が、私に何の御用でしょうか?」

 「率直に言おう、君の魔術師としての腕を買いたい。」

 

 先程の友好的な気配は鳴りを潜め、戦士としての顔を見せる覇道。

 その気配は流石白の王と言うべきか、逆十字とはまた異なるプレッシャー、カリスマを感じさせた。

 

 「…御冗談を。私程度の小娘の力、貴方程の方に必要だとは思えません。」

 「私は既に老いている。そう遠からぬ未来、何れ邪悪との戦いに敗れ去るだろう。その後に、私に続く者が必要なのだ。」

 

 目の前の老人を霊視する。

 魔力こそ未だ滾っているが、その零体には既に癒え切らぬ傷が無数に存在し、彼の今までの経歴を物語っていた。

 既に敗れた白の王、人類の正の極地へと至る者、マスター・オブ・ネクロノミコン。

 敗れ去ってなお、老いてなお、そして愛する者を失ってなお、不屈の闘志を燃やして戦う漢。

 正直、この話に乗るにはリスクが大き過ぎる。

 しかし、未だループ序盤とは言え覇道財閥に助力を受けられるのは極めて大きい。

 また、覇道鋼造自身の知識、即ちネクロノミコンやデモンベインに関するものを喉から手が出る程に欲しい。

 

 「…了解しました。貴方の申し出を受けましょう、Mr.。」

 

 何より、彼は前の「私」を殺してくれた。

 それしか手段が無いからとは言え、彼らはしっかりと私が一方的に押し付けた汚れ役を引き受けてくれた。

 その恩を忘れない内に返すためにも、私は肯いていた。

 

 「良いのかね?我々が進む道は困難しかない。」

 「しかし、尊い道です。ただ、幾つか条件が。」

 「言ってみたまえ。」

 

 そして、今回のオレは覇道財閥へと身を寄せた。

 覇道が収集している魔道書や魔具の閲覧・使用権(事前申告あり)と今回の両親への手切れ金の支払いだ。

 両親に関してはオレという不確定要素がいて、ティベリウスの標的になるよりも平和に暮らしてほしいので、これ位は構わないだろう。

 魔道書や魔道具は自身の研鑽のためであり、何かしら役立つものがある事を期待している。

数少ない私物を纏め、オレは覇道と共にアーカムへと渡った。

 

 

 

 

 番外編 10回目の裏側

 

 初めてその女性と出会ったのは覇道の屋敷、そして戦闘の中。

 覇道邸を襲撃した逆十字の1人、ティベリウスの従者としてだった。

 

 「んじゃリーアちゃん☆ 止め刺しちゃいなさい☆」

 「え……?」

 

 妖蛆の秘密のドイツ語訳を持ち、父なるイグに関する術式を得意とする。

 無数の蛇を使役し、それらを巧みに指揮しつつ、合間に本命であるスターヴァンパイアによる不可視の攻撃を挟む。

 終始無言で、ティベリウスの触手でややスレンダーな肢体を弄られようとも表情を変えない姿に、本気で動死体か疑った程だった。

 だから、ティベリウスの命令に初めて見るその戸惑いの表情は、実に新鮮だった。

 

 「あらん? 何か躊躇う理由でもあるのかしらん? それとも……ま~た蟲蔵の中で過ごしたいのかしら~☆ リーアちゃんもモノ好きねぇ?」

 「いえ…実行します、導師。」

 「そうそう、それで良いのよぅ☆」

 

 先程よりもややぎこちない動きでベルゼビュートが迫る。

 しかし、既に大破寸前のアイオーンではどうにもならない。

 

 「く、不味いぞ九郎!このままでは嬲り殺しだ!」

 

アルが焦燥と共に告げるが、しかし、出来る事は既に無い。

 なけなしの魔力は既に使い切り、アルハザードのランプも既に使用し、これ以上は確実に魂を燃やし尽くし絶命するだろう。

 

 (クソ!何か、何か手は無いのか!?)

 

 そして、遂に間合いへと入ったベルゼビュートが両腕を振り上げるのを歯を食いしばりながら睨みつけ…

 

 ベルゼビュートの右腕が、その|胸部(・・)へと叩き込まれた

 

 そして、呆然とするオレ達の意識に、魔力と共に何かのビジョンが流れ込んできた。

 

 

 

 『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!』

 『やめてゆるしてもうなにもしないでごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…』

 『あ、があああああああああああああぎぃいいいいいがあああぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――ッ!?!!』

 『わた、しの、あかちゃ』

 

 『あッはッはッはッはッはッは!そうそうそうそうそうそう!そうやって良い声で啼いてよね!ほらほらほらほら!もっとよもっと!』

 

 地獄だった。

 凡そ通常では考えられない様な、あらゆる方法であらゆる場所を彼女は犯し、汚され、凌辱された。

 ある時は身体を凌辱されながら、死ぬ一歩手前まで痛めつけられながら、無理矢理快楽を感じる様にさせられた。

ある時は若男女問わずあらゆる人種の人間を殺させられた。

 ある時は感謝と喜びの声を上げさせながら、触手の海で凌辱された。

 ある時はティベリウスの操る亡者達の苦痛や恐怖、憎悪を一身に浴びせられた。

 ある時は蟲達に満ち溢れた暗闇の密室に長期間放置された。

 ある時はブラックロッジの構成員達に輪姦され、孕まされ、出産した赤子を目の前で殺され、その死肉を無理矢理食わせられた。

 ある時は、ある時は、ある時は……。

 そんな地獄に、彼女は20年に渡って堕とされ続けた。

 

 

 

 それを見て、怒りが湧き上がった。

 それを見て、悲しみが湧き上がった。

 それを見て、戦意が湧き上がった。

 何としても、目の前のこの邪悪を討ち果たさねばならない。

 術者の精神に応じてか、アイオーンの四肢に力が戻る。

 そっと添えられていたベルゼビュートの左腕から、先程のビジョンと共に魔力が譲渡される。

 アルハザードのランプに、嘆き苦しんでいた怨霊達が自らを燃料にするべく飛び込んでいく。

 そして、眼前には右腕を自身の胸部へと叩き込んでいるベルゼビュートの姿があった。

 

 『頼んだぞ、マスター・オブ・ネクロノミコン。』

 

 その言葉を最後に、魔力の譲渡とビジョンが途切れる。

 ベルゼビュートを見れば、そのコクピットからは半身を潰されたリーアと肉塊になってもまだ死なないティベリウスの姿が確認できた。

 

 「アル、行けるなッ!」

 「応とも!」

 

 傍らに座る相棒へと声をかける。

 既にアイオーンの修復は完了し、何時でも戦闘再開が可能だ。

 その相棒の頼もしい姿と見事な手際への感謝と共に、アイオーンを立ち上げる。

 

 『今まで可愛がってきてやったのに…今日と言う今日は、冗談じゃ済まさねぇぞ小娘ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!』

 『あぁ、私も今回で終わりにするつもりだよ。』

 「あぁ、テメェはここで終わりだブラクラ野郎!」

 「バルザイの偃月刀、多重召喚!」

 

 魔力を振り絞り、バルザイの偃月刀8本を同時に召喚する。

 

 「超攻性防御結界!」

 

 8本の偃月刀がベルゼビュートに殺到、その全身に突き刺さり、完全に身動きを封じた。

 

 『馬鹿なあああああああああああああああああああッ!? そんな魔力、一体何処に…まさかッ!?』

 「貴様と同じだ!その娘が我らへと託してくれた!」

 「今まで奪った人達に、あの世で詫びやがれ!!」

 

 半壊し、死に体となったベルゼビュートを見る。

 半身が潰れ、コクピットから抜け出せぬまま今にも死のうと言うのに、リーアはこちらを見て微笑んでいた。

 迷子だった幼子が、漸く親と再会できた時に浮かべる様な、安心し切った笑みを血塗れの顔に浮かべて。

 

 頼んだぞ、マスター・オブ・ネクロノミコン。

 

 「久遠の虚無へと還れ!」

 

 そしてオレは彼女ごと、ベルゼビュートを両断、爆砕した。

 

 「九郎…。」

 

 相棒が気遣わしげにこちらを覗き込んでいる。

 普段は高慢ちきだが、本質的に優しい彼女のこうした気遣いは今の様な時、とてもありがたい。

 

 「なぁアル……あのリーアって子さ、これで良かったのかな?」

 「…あの娘は、最後に自分達ごと妖術師を葬ってくれる事を願っておった。だから、汝が己を責める必要なぞ無いのだぞ。」

 「解ってんだよ…解ってんだけどさ…。」

 

 こんな事は、邪悪との戦いの中では珍しい事ではない。

 今もきっと、世界の何処かで誰かが理不尽に涙している。

 それら全部を救えるなんて思っちゃいないけど、その涙を少しでも減らすためにも、オレ達は負ける訳にはいかない。

 それでも、今だけは彼女のために涙を流し、その冥福を祈ろう。

 

 

 この後、大十次九郎はマスターテリオンに敗れ、19世紀の地球へと転移する。

 彼が来るべき戦いのために覇道鋼造を名乗り、リーアと呼ばれた少女に再会するまで、多くの戦いを経る事となる。

 

 

 

 

 




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第二話 旅の序盤

今回もカオスですw


 続11回目

 

 結果から言うと、今回は極めて有意義だった。

 

 覇道に身を寄せてから、私は保管されている魔道書を読み漁った。

 とは言え、まだまだ下位のものばかりで、生かし切れていなかったのは言うまでも無い。

 その中で比較的マシだったのが、ネクロノミコン英語訳だ。

 ミスカトニックのラテン語訳や機械言語訳に比べれば遥かに格下だが、それでも今の私には十二分に役に立つ。

 何時かラテン語訳を入手するためにも、こいつで練習しておくとしよう。

 …でもしょっちゅう制御ミスってボヤ騒ぎ起こすのは許して下さい。

 

 それ以上に有意義と言えたのは鬼械神デモンベイン、その雛型に触れる事が出来た事だ。

アイオーンを基礎として、それを現実に存在する物質へと置き換え、組み立てていく。

とは言え、原作の最後のループですら武装面の術式が整理されていない事からも、デモンベインが完成を見るのは幾星霜と先の事だろう。

 しかし、その基礎理論に触れる事が出来たのは嬉しい。

 それと覇道二世こと兼定とオーガスタ・エイダ・ダーレス女史と接触が持てた事も大きい。

 特にエイダ女史はデモンベイン作成において大きな役割を果たす他、蒸気機関を用いた動力スーツやアーム付きの機関車等、数々の発明とその特許を持っている。

 しかし、自分の事を学園の子供達と同様に思いっきり構ってきた上に、半ば以上助手扱いされたのは何故だろうか?

 娘の瑠璃共々可愛がられるのはこう、何と言うか、こそばゆい。

 いやさ、一応21世紀で暮らしてたから、基礎的な科学知識はあるし、青写真をかける程度に雑学的知識もあるけどね?

 そこ、兼定、笑ってないで助けろ。

 瑠璃ちゃんや、おねいさんは遊んでる訳ではありませんからね?

 

 こんな感じで、何れ自分が鬼械神を扱えるようになった時に手助けとなりそうな知識を多く吸収した訳だ。

 その後は2人の娘たる瑠璃の姐気分として覇道の秘密施設で研究し、たまにエイダと兼定夫妻の護衛として過ごしてたのだが…

 

 護衛任務中、ティベリウスに襲撃されました。

 

 いや、何とかティベリウスは未熟ながらもクトゥグアの召喚呪文(自爆)で吹き飛ばしたんだが、後は知らん。

 とりま、あの二人が生き延びれば、デモンベインの完成は確実に早まるので良しとしよう。

 

 

 

 12回目

 

 今回は何故か広大な地下空間で目覚めた。

 そして、暗がりに慣れた目が見つけたのはアルビノで両目の退化した白いペンギン。

 いやーな予感がして魔術の行使の要領で「触手」の先に「目」を生やして自身の姿を確認した。

 

 ショゴスだった。

 

 アイエエエエエエエエ!?ショゴス!?ショゴスナンデ!?

 取り敢えず、此処が南極の古の者の遺跡である事が判明した訳だ。

 取り敢えず、各種の遺産を徹底的に研究する事で暇を潰す。

 …ふむ、分子撹乱器は他の生物にもある程度は有効か。

 まぁ普通に攻撃した方が効率は良さそうだが…。

 

 そうこう過ごしていた頃、古の者の生き残りが現れ、攻撃してきたので反撃、後に殲滅。

 はて?こいつら全滅した筈なんだが…。

 

 「ほぅ、ショゴスか。珍しいな。」

 「どうするの、ダディ?」

 「襲ってくる気配は無い様だな…うむ、話してみるとしよう。」

 

 久しぶりっすね、シュベルズべリィ先生。

 

 「テケリ・リ。」(こんにちは。何か御用ですか?)

 「おお、これはご丁寧に。私はラバン・シュリュズべリィと言う。君はショゴスで間違いないかね?」

 「テケリ・リ。」(そうだよ、魔術師殿。此処にはどの様な御用で?)

 「我々ミスカトニック探険隊はこの地に探索のために赴いたのだよ。まぁ古の者と出会ったのは想定外だったがね。」

 「テケリ・リ。」(そう言う事でしたか。探険は別に構いませんが、あちこち老朽化で崩れやすくなっているので注意してくださいね。)

 「ありがとう、助かるよ。所で、君はどうして此処に?他のショゴス達はいないのかね?」

 「テケリ・リ。」(他の生き残り達は眠っているよ。起きているのは私みたいな物好きだけだよ。)

 「そうなのか…君は今後の予定等はあるかね?」

 「テケリ・リ。」(特に無いね。このまま此処で研究する位しか無いよ。)

 

 話はスラスラと進んでいく。

 後ろにいる学生達がSAN値を削られているのに対し、目の前のマッチョな老人は小揺るぎもしない。

 流石はセラエノ断章の著者と言うべきか、恐るべき胆力だ。

 

 「良ければ、我々と同行しないかね?ガイドがいてくれれば、それだけ我々も安心できる。」

 「テケリ・リ。」(良いよ。その代わり、外の話も聞かせてね。)

 

 あ、後方で生徒達が悲鳴を上げた。

 

 

 こんな経緯でオレは南極探検隊がミスカトニック大学帰還後もシュリュズべリィ教授と葉月と行動を共にした。

 役割は2人のサポートで、主に生活面を支えている。

 特に葉月ちゃんはクールな言動からは思いつかない位に好奇心が旺盛なので、料理や家事を教える事を強請られた。

 シュリュズべリィ教授も高齢の上、何時も蜂蜜酒を呑んでいるので、深酒を控え、油ものを少なめにする様に気を付けている。

 

 とまぁ、割と平和な日々を過ごしていたのだが、ある日、クラウディウスから襲撃を受けた。

 丁度他の事件を解決して疲弊していた所もあり、尚且つ同じハスターの魔風を操るため、互いに有効打が出難くく、長期戦になってしまった。

 自身もまた、戦闘補助として参加したのだが蹴散らされ、遂には教授は死亡、葉月ちゃんは捕えられた。

 オレは消し飛ばされる寸前にその情報を持たせた分体をミスカトニック大学へと離脱させ、敢え無くその生涯を閉じた。

 実は今までで一番期間が短い回だった。

 なお、クラウディウスが使っていたのは「黄衣の王」の第一章。

 どう考えてもあのガキの技量では扱えない筈だが…?

 

 

 

 13~14回

 

 この二つの回は特に代わり映えの無い人間(男)で日本生まれだったため、説明は省略。

 普通に下位の魔道書を探し出し、研鑽を積んだだけ。

 13回目は破壊ロボに無双するも力尽きて倒れた。

 14回目は破壊ロボを全滅させるも、カリグラに殺された。

 

 うーむ、水神クタアトが欲しい。

 

 

 

 15回目

 

 今回はアーカムの一般人だったのが、紆余曲折を経て、ブラックロッジの構成員に就職していた。

 な、何を言っているのか(ry

 いや、単に山師だった親父がこさえた借金のせいで、身売りされたというだけなんですけどねー。

 なお、配属先は一応希望通りのドクター・ウェストの所だった。

 一応成績優秀だったオレの下に20人程の構成員がついている。

 と言うか、此処以外がブラック過ぎるので行き場が無いというまだ正常な判断力を有している連中が集まっていると言える。

 

 「げーーーひゃはははははははははッ!!遂に、遂に完成したのである!我輩のスーパーウェスト無敵ロボ28號~今宵の私は血に飢えている~!!これであのにっくきアイオーンをズダボロのスプラックに…!」

 「ドクター、頼まれていた資材を搬入しにきました。」

 「おおう!?漸くであるか!?待ちくたびれたのであ~る!」

 「んで、今回の無敵ロボはどうなんです?」

 「うむ!今回は近接高機動戦闘を主眼として…」

 

 此処でオレはドクターの助手兼構成員のまとめ役として働いている。

 とは言え、その主な役割はドクターが目的を達成し易くするために他の構成員達に命令を出す事だ。

 だってこの人の言ってる事、奇天烈過ぎて理解し辛いし(汗。

 いやさ、その技術に関しては間違いなく天才だけど、コミュ能力に関してはその…ね?

 原作のエルザ女史はよくドクター・ウェストと共同研究なんてやってたもんだと関心する。

 

 今回はドクターの所で最新と言うか異端の科学技術を学べたのが最大の収穫だろう。

 ドクターが逆十字と袂を分かった後は部下達と共に覇道財閥に亡命、その後の対破壊ロボ戦で死亡した。

 いや、今回まともな魔道書が手に入らなかったんだもん。

 後、何気にデモンベインが基礎骨格(まだまだ初期段階だが)だけ出来ていて、戦闘時はアイオーン召喚でそれに肉付けする形で、術者への負担を減らしていた。

 他にも、アイオーン用のマシンガン等の後付け武装とか作っていた。

 流石ドクター、訳解らん程の技術力だ。

 

 

 

 16回目

 

 久々のインスマウスである。

 何故か今回は女だったりする。

 それも普通の深き者共ではなく、ウス異本に出てくる様なエロイ半漁人で。

 …lvアップしてるのが解るのは嬉しいのだが、このエロゲ―仕様のデザインはどうにかならんのかと。

 って此処はエロゲ―時空だったな、うん。

 言い寄ってくる深き者共(♂)が本当にうざい。

 密かにルルイエ異本イタリア語訳を入手。

 以前の英語訳よりも格が上なのか、非常にためになった。

 

 その後、魔術の腕を買われてか、ダゴン秘密教団の司祭に助手として雇われた。

 日々これ魔術の研鑽or儀式と言う感じだったが、水属性との親和性がぐんぐん上がったため、正式に巫女となった。

 なお、拉致されて乱交パーティー入りしてしまった哀れな女性陣に関しては冥福を祈るしかなかった。

 いや、下手に何かすると司祭がね…。

 こいつ、何か私を見る目が危険なんだもん。

 まだ水関係の魔術は未熟だし、これと言った魔道書も無かったし、相手のテリトリーで無双出来る程の実力じゃないしね。

 それにここで下手打つとウェスパシアヌス辺りに目を付けられそうで…。

 結局、今回はアイオーンの焦熱呪文で蒸発した。

 

 

 

 17回目

 

 今回はイギリスで普通の男として生まれたのだが、なんと早々に妖蛆の秘密をゲットしてしまった。

 こりゃアカンと今までの出来事から人里離れた洞窟に身を隠していたのだが…そこで大地の妖蛆に出会った。

 蛇人間、をより蛇に近づけた様な、そんな外見をした者達。

 気性は穏やかとは言えないが、戦闘力が低いのか、それとも魔術師であるこちらを警戒してか、特に手出ししてくる様子は無かった。

 取り敢えず、蛇使役の術を通じて対話を試みた結果、何とか争わずに済んだ。

 …のだが、彼らは大分悪戯好きでもあるので、ちょっと目を放していると荷物を隠そうとしたり、眠っていると巻き付かれたりで存外賑やかな生活だった。

 流石は悪戯妖精の伝承の元となった連中と言える。

 その後、洞窟の直ぐ傍に掘立小屋を作って魔術の研鑽に努めたが、彼らは変わらず自分の所に来ていた。

 何度も遊びも食事も共にしていたので、殆ど友人感覚だったのだが、彼らが発情期の時は結界を作って立て籠もる。

 いやさ、だって彼らの交尾って相手に巻き付いてきつく締め上げるんだよ?

 普通に死ねるからね?

 

 結果、今回は何と老衰で死亡。

初めての経験だった。

 そして祝(二重の意味で)童貞卒業☆

 

 なんだかんだで誘惑に負けてたくさんの子供作って、四六時中乱交状態だったのが遠因かもしれないが、大往生であるとも言える。

 享年78歳。

 

 

 

 18回目

 

 今回は初めて中国に転生したのだが…うん、流石四六時中内戦してたり他国から侵略されてる所は違うわ。

 混沌ぶりがもう凄いのなんの。

 しかも民間の呪術師とかがいるから、普通に呪殺合戦が起こったりする。

 正直、早く余所に転生したい。

 

 ただ、魔道書は入手出来ずとも、漢文等で記された狂人の原稿や地方特有の怪異等の情報はバンバン集まったので、予想よりも色々と捗る結果となった。

 

 最後は破壊ロボから逃走中に、他の魔術師(暗殺専門)に殺された。

 原稿とか集めるのに恨み結構買ったからなぁ…。

 

 

 

 19回目

 

 今回は何とイギリスで蛇人間に転生した。

 あれか、前々回の乱交三昧が影響したのか?

 ともあれ、今回も魔道書を探しつつ、修行三昧の日々。

 しかし、地上に出ようにも周辺は村落すら無く、どう考えても魔道書の入手は絶望的だった。

 そのため、専ら自身の技量を上げるための修行を続けた…のだが、同族及び親戚筋に当たる大地の妖蛆からのアプローチが凄まじい。

 いや、そのね?アプローチかけられても今は修行中だからね?

 頼むから1人にして、ね?

 

 …結局その後、欲望に負けてまーたたくさん子供作りました。

 えぇえぇ、3桁歳でも未だに肉欲に負けましたよ。

 だってしょうがないじゃん!昔からそっち方面のウス異本が大好きなんだからさ!

 

 なお、魔術に関してはショブ=ニグラスの信者達が以前利用していた小神殿を探索した時、何とツァトゥグアに関する「ヨス写本」を入手した。

 このツァトゥグア、来歴は不明だが、地属性の旧支配者であり、割と温厚かつ律儀な神として知られる。

 そのため、どうせだからとヨス写本で学びつつ、小神殿の修復及び清掃を行っていたのだが……唐突に神託が下りた。

 いきなり体験した事の無い神気が周囲に満ち溢れ、同時に魂に直接語りかけてくる超存在の声。

 そして脳裏に映るコウモリの耳と柔毛の肌を持った、太ったヒキガエルに似た姿。

 正直、その時は死んだかと思った程だ。

 その内容と言うのが以下の通り。

 

 (…■■■■■?)訳:誰であるか?

 あばばばばばb…!?も、申し訳ございません、起こしてしまったでしょうか!?

 (■■、■■■■■■■。■■、■■■■■■■■■■。)訳:まぁ、構わんのである。何せ、久しぶりであるからな。

 確かに、残念な事にこの惑星上で御身を奉る者はもう殆どいないでしょうね。

 大半はショブ=ニグラスに流れたそうですし。

 (■■■■。■■■■。)訳:仕方なし。ダルいし。

 そ、そうですか。

 (■■、■■■■■■■■■■。)訳:さて、お前に加護を与えよう。

 よ、宜しいのですか?勿論嬉しくはありますが…。

 (■■、■■■■■■■■■■■。■■、■■■。)訳:うむ、折角起きたのだしな。じゃ、ほ~れ。

 え、ちょ、待、のわあああああああ……ッ!?

 

 こうした紆余曲折を経て、オレは蛇人間及び大地の妖蛆達の信仰するツァトゥグアの神官になったのだった。

 しかも、地属性の魔術全般に対する加護を得た。

 お陰で地下生活の快適ぶりが跳ね上がった。

 その後は順調に子作りし、才能のある蛇人間や大地の妖蛆に儀式の方法等を伝授してから大勢の子供や孫に囲まれて大往生した。

 享年278歳。

 あれ?オレって異種族の時の方が幸せに暮らしてる?

 …考えないでおこう、うん。

 

 

 

 20回目

 

 今回は久しぶりにアーカムで男に生まれた。

 しかも大十次九郎と同学年で。

 ミスカトニック大学に入学後はやはり陰秘学科へ所属、大量の魔道書を読み耽り、魔術の研鑽に励んだ。

 九郎とは幾つか授業が重なっていたので、同じアジア系と言う事で割と簡単に友人となれた。

 よく陰秘学のレポートを見せ合ったり、金が無い時に飯を集られたりした。

 九郎のトラウマとなるウィルバー・ウェイトリィの事件だが、こちらには介入しなかった。

 アレは彼が邪悪の存在を知る為に必要なものだし、探偵業を始める切っ掛けでもある。

 下手に介入して流れを変えるより(その程度は誤差だとしても)、放っておいた方が良いだろう。

 なお、中退後も連絡は取り合い、割とヤバめな物品の捜索依頼なんかを陰秘学科の名で出している。

 そのお陰で、原作よりも多少はマシな状態だった。

 

 しかし、この回で蔵書も殆ど読んでしまった。

 ネクロノミコン:ラテン語訳は今の自分には格が高過ぎる。

 ここいらで研究主体ではなく、実践主体へ切り替えるべきころ合いだろう。

 

 なお、今回の最後は破壊ロボの群れから避難する住民を護衛し、殿役を買った後にウェスパシアヌスのサイクラノーシュに蹴散らされた。

 やっぱり鬼械神が欲しい…。

 

 

 

 11回目 裏側

 

Side 覇道・オーガスタ・エイダ・ダーレス

 

 私とあの子が出会ったのは3年程前の事です。

 デモンベインの建造と学園の運営を行う傍ら、夫である兼定と結婚して瑠璃が生まれ、あの子がジュニアスクールに通い出す前の事でした。

 何と、あのMr.覇道がヨーロッパへの出張から帰ってきた時、銀髪の小さな女の子を連れてきたのです。

 ついうっかり、私ったら「Mr.覇道がいたいけな女の子を連れてきましたーッ!?」と叫んでしまったもので大混乱。

 即効で家族会議(と言う名の尋問)に発展しかけましたが、その女の子を放っておく訳にも行かず、色々とお話しました。

直ぐ近くでは「父さん!あんな小さな子に手を出すとか何を考えてるんだ!?母さんに対して恥ずかしくないのか!」「ちょっと待てぃ!今更あんな子供に欲情する訳が無かろう!?」「まさか、もっと疾しい目的が!?ならボクは息子として貴方を止める!!」「人の話を聞かんか馬鹿息子がぁッ!」とかお二人が熱くなっていましたが、アレもまた殿方同士のコミュニケーションの一つですし、止めるのも無粋でしょうから放っておきます。

 そして話を聞けば、リーアちゃんは銀髪と碧眼、白い肌が綺麗な、でもあんまり顔が動かないとっても可愛い女の子で、Mr.覇道に魔術師として雇われたとの事でした。

 んー、Mr.がこんな子供を積極的に前に出すとは考えにくいですし、多分保護のために連れ帰ってきたのでしょうね。

 才能があっても、こんな小さな子ですし、何処かで踏み外さない様に誰かが見ておかなければならないでしょうし。

 

 「Mr.覇道、あなたー!リーアちゃんは今日から家の子ですよ!!」

 「「「え?」」」

 

 あ、綺麗なクロスカウンター。

 お二人とも、やっぱり親子ですね。

 リーアちゃん、取り敢えず食事にしましょうか、今日は食後にチョコアイスが付きますよ。

 あ、リーアちゃんったらびっくりして固まっています。

 ふふふ、こんな所は年相応なんですね。

 瑠璃ととっても仲良くなってくれそうです。

 

 こんな感じで私はリーアちゃんと出会ったのです。

 けど…

 

 「ダメ!貴方も逃げて!」

 「断る。さようなら、Mrs.エイダ。」

 「行くんだ、エイダッ!」

 「放して!まだリーアちゃんがいるんですよ!?」

 

 どうしてこんな事になってしまったのでしょうか。

 私達は只、久しぶりの休暇を満喫していただけでしたのに…。

 

 ……………

 

 事の始まりは私達夫婦の結婚記念日とリーアちゃんの休みの日が重なった事でした。

 これ幸いに小旅行と言う事で、一か月前にインスマウスに建設された覇道出資のホテル「ギルマンハウス」へ行く事になりました。

 それを聞いたリーアちゃんは少し慌てた様子で一緒に行こうと言ってくれました。

 私は初めてこの子が言った我儘らしい我儘に嬉しくなって、兼定さんを説得して、3人で仲良く旅行に行く事にしました。

 なお、娘の瑠璃ちゃんはMr.覇道と一緒に別の予定があったので、今回は別行動です。

 ちょっと涙目だったから、お土産は奮発してあげましょう。

 鉄道に揺られ、私達3人はその日の内にギルマンハウスに到着、荷物をメイド達に任せ、3人で夏の浜辺を満喫しました。

 リーアちゃんが何か海面に向かって睨みつけていましたが、お魚でもいたのでしょうか?

 その日は三人で美味しい海鮮料理を食べて、3人で川の字になって眠りました。

 次の日は午前は昨日とは違うやや岩場の多い浜辺でカニや小魚を取って過ごし、午後にはホテル内で過ごそうと思っていた所、奴が現れました。

 

 「は~い☆アンチクロスのティベリウスちゃんどぇ~す☆ 早速だけど、アンタ達のお命を頂戴しにきたわん☆」

 

 ピエロの様な衣装を纏い、オカマ口調でしたが、その全身から感じる邪な気配はしっかりと伝わってきます。

 不味い、電動服は持ってきていませんし、Mr.覇道もミスカトニックの方々も此処にはいません。

 最低でも、リーアちゃんは逃さないと…!

 自身を囮にしてでも、大切な「娘」を逃がす。

 

 「召喚、アフーム=ザー。」

 

 そんな私の覚悟は、あっさりと散らされました。

 リーアちゃんが召喚した青白く光る灰色の炎から、凄まじい冷気が放出されます。

 その冷気はティベリウスと名乗った魔術師の使役する蠅を悉く払い、床一面に蠅の死骸が積み上がりました。

 

 「あらぁん☆ 若いのに優秀ね☆ んじゃこれはどうしかしら!」

 

 ピエロの服が内側から盛り上がった瞬間、ボバッ!と濁流の如く無数の触手が飛び出しました。

 目を凝らせば、それらは一本一本が人間の内蔵を寄り合わせた代物である事が解り、吐き気を催させました。

 

 「チッ!」

 

 今度は解り易く、一見普通の炎が幾つも召喚され、まるで蛍か何かの様に触手を狙って飛翔しました。

 炎は触手を焼き、ほんの数秒程度で焼き切っていきます。

 でも、それよりも触手の再生速度が速く、炎はドンドン蹴散らされていきます。

 

 「兼定!」

 「ッ、すまない!」

 

 リーアちゃんの叫びの直後、夫が私を抱えて、その場から離脱しようとします。

 待って、リーアちゃんはどうするんですか!?

 

 「ダメ!貴方も逃げて!」

 「断る。さようなら、Mrs.エイダ。」

 「行くんだ、エイダッ!」

 「放して!まだリーアちゃんがいるんですよ!?」

 

 何としてもこの場に踏み止まらなければならないと思いました。

 リーアちゃんの後ろ姿が私が初めて見た魔術に、邪悪に触れたあの事件で出会ったアズラットの背中にそっくりで、ここで別れたらもう二度と会えない気がしたんです。

 

 「兼定ッ!!」

 「すまない!」

 

 そして夫は私を強引に抱え上げるとこの場を強引に離脱しました。

 背後に敵の魔術師を止めるため、殿役のリーアちゃんを残して。

 

 「Mrs.エイダッ!」

 「リーアちゃんッ!」

 

 こんな事のために、こんな事のために、貴方を連れてきたんじゃない。

 こんな目に合わせるために、貴方を家族に迎えたんじゃない。

 言葉にしたい事が、伝えたい事がたくさんあっても、それを伝えるための時間はもう既に無くて…。

 最後にリーアちゃんは遠くなっていくこちらに、何処か男の子染みた笑みを浮かべて

 

 「    、   。」

 

 もう聞こえない筈のその言葉は、確かに私に伝わった。

 直後、リーアちゃんと魔術師の姿が結界に覆われ、見えなくなった。

 

 「リーアちゃん!」

 「行くんだ!あの子の行為を無駄にする気か!?」

 

 私達は緊急用の地下駐車場へと急ぎました。

 車にはもしもの時の通信機も搭載してあり、一刻も早くアーカムの覇道邸へと連絡する必要があります。

 

 「エイダは通信機を!僕は直ぐに車を出す!」

 「解ったわ!」

 

 この辺りの動きは既に慣れたもので、私達は己の出し得る最速で成すべき事を成します。

 

 『はい、こちら覇道邸。奥方様、如何なさいましたか?』

 「こちらエイダです!現在ブラックロッジによる襲撃を受けています!至急救援を!」

 『な!?解りました!直ぐに大旦那様に連絡します!ですが、大旦那様も先程瑠璃様と外出なされましたし、インスマウスに行くまでは時間がかかります。その間、可能な限り戦闘を避けてくださいませ。』

 「そんな!?今、リーアちゃんが戦っているんですよ!?」

 

 通信の内容に悲鳴染みた叫びが上がります。

 ここぞと言う時にMr.覇道と連絡が取れない、否、恐らくはこの間隙を狙っていたのでしょう。

 

 「ホテルを出るぞ!」

 

 兼定の声と共に、車が地下駐車場から飛び出しました。

 同時、リーアとティベリウスが未だ戦闘中であろうフロアから、光が溢れ出ます。

 

 「伏せてッ!!」

 

 それが自分の声だったのか、夫のものだったのかはもう覚えていません。

 次の瞬間、ギルマンハウスが吹き飛ぶ程の大爆発が起き、私の意識は光の中に消えました。

 

 次に私の意識が戻ったのは三日後、アーカムシティの病院の一室でした。

 直ぐにお医者様が駈けつけてきて、慌ただしくなりましたが、私には全てがどうでもよく感じられました。

 でも、自分も頭に包帯を巻いた夫や険しい顔をした義父、涙目になった娘の姿を見て、私はまだ自分が頑張れる事に気付きました。

 その数日後、リーアちゃんの葬儀が行われました。

 中身の無い棺を埋葬し、葬列に参加した覇道の人達と共に冥福を祈ります。

 私は、まだここで折れる訳にはいきません。

 アズラットも、リーアちゃんも、最後の最後まで諦めずに叩き続けました。

 どんなに怖かったでしょう、どんなに辛かったでしょう、どんなに苦しかったでしょう。

 それを思うと、私は止まる事は出来ません。

 そして、最後にあの子が遺してくれた言葉が耳を離れないのです。

 

 『さよなら、母さん。』

 

 滅多に見せない笑顔と共に言ってくれた、最後の言葉。

 初めて私達を家族として認めてくれた、最初の言葉。

 追い詰められ、今にも命を落とそうと言う状況で、あの子は私達にそんな嬉しい事を言ってくれた。

だからこそ、私はあの子に恥じぬ母で在り続けたい。

 例え今際の際でもあの子に誇れる人間でありたい。

 最後まで戦い抜く、遍く闇を科学の光が照らすまで。

 それを改めてあの子の墓前に誓いました。

 

 でも、今だけで良いですから……ちょっと、泣かせてくださいね、私のもう一人の娘。

 

 

 




エイダの口調が今一つ。
一応軍神強襲も機神胎動も読みなおしたのになぁ…。


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第三話 これでも序盤

まだまだ序盤。だけど物語はどんどん加速。
なお、今回ちょっとオリ設定。


 ちょっと飛んで100回目

 

 いきなり飛んだけど、記念に100回目。

 此処までは今までとあんまり大差なかったので割愛する。

 以前転生した事のあるのは人間(男女)、深き者共(男<女)、ショゴス、蛇人間だったが、ここまでに更に大地の妖蛆(男女)、夜鬼(ナイトゴーント♂)、ショゴス(大。人間へ変身可能)、スターヴァンパイア、ゴブリン(男女)、屍食鬼(男女)への転生を経験した。

 それぞれの種族で、崇拝する神や使用する魔術や特殊能力に関する研究をする事が出来たが、特に収穫があったのが夜鬼だろう。

 夜鬼は様々な旧支配者に仕えるが、特に旧神ノーデンスの奉仕種族であり、あの混沌とその奉仕種族に対して敵対している事でも知られる。

 主な生息地はングラネク山だが、夢の国と現実世界の多くの場所に群れを作って暮らしている。

 そして「大地の神々の秘密」を守って暮らしていると言う。

 

 で、この大地の神々の秘密というのが気になって、自滅覚悟で特に警備が重厚な地域に入ってみた。

 そこはセラエノの図書館を彷彿とさせる未知の言語の石碑群があり、その内容というのが地属性の神格等に関する詳細な記述だった。

 だが、こちらは生憎とツァトゥグアの直接的な加護を持っているため、例え文字が違えど、それにかんする記述は理解できる。

 つまり、そこから解読していく事が出来るのだ。

 嘗てのヨト写本と同様のツァトゥグアとその親族の詳細な記述を皮切りに、ショブ=ニグラス、ウボ=サスラ、アトラック=ナチャ、ゴル=ゴロス、ハン、いった地属性に分類される神格(この分類も人類視点であるので、詳細は異なるだろうが)に関する記述の他、暗黒世界ン=カイ、地下都市ナコタスといった場所の記述も散見される。

 とは言え、詳細を見る時間は無かった。

 この場所に入り込んで既に数時間、周辺には同族であるナイトゴーントが無数に存在し、徐々に距離を詰めてきている。

 しかも、自身は短時間に綿密かつ詳細な記述を見てしまったため、盛大にSAN値が削られている。

 今回は此処までという事だろう。

 

 結果、多数の夜鬼及びグールを相手取って、最後は盛大に自爆した。

 

 

 

 また飛んで121回目

 

 200まで飛ばす予定だったが、今回はマジでヤバい代物に転生したので記述。

 その名も「ティンダロスの猟犬」。

 宇宙の邪悪が凝縮したとされる不浄な存在とも、善悪を超越した存在とも言われる。

 ただ、明確に解っている事は人間の持つ何かを強く渇望し、角ばった時間に存在するという。

 90度以下の鋭角から歪曲した時間(人間の暮らす世界と思われる)に刺激的な悪臭を伴う青黒い煙が噴出、それが凝固する様にして現れる。

 その特性上、一度狙われれば逃げ切る事は不可能であり、逃れるには角度の無い空間に籠るしかない。

 

 これに転生した時、自分は常に飢えていて、何かを探し回っていた。

 最終的には強い光を感じる場所に出現し、何者かとの戦闘を行った後、消滅した。

 はっきり言って二度と転生したくない存在だったが、代わりに猟犬の持つ「90度以下の鋭角からの出現」を直に体験できたので、ある程度術式で再現できる目途が立った事だけは収穫と言える。

 こんな事が残念な事に10回程続き、人間時に研究し続けた甲斐もあり、多少精度を落とせば鋭角からの出現を術式で再現できるようになった。

 

 

 

 またまた飛んで200回目

 

 今回はインスマウスだったのだが……より正確に言えばインスマウスの近海に潜むダゴンに転生していた。

 その能力は高い水の操作能力を始め、霧の雲への変化、配下の深き者共の指揮等、流石は神格持ちであると言える。

 その外観はデモベ世界特有の巨大なフナムシのそれであるが、まるで古生代の生物の様に海中を自在に泳ぎ回る事が出来る。

 サイズは30mから大きい個体で100m級まであり、自分は現在40m級である。

 基本的にインスマウスの様な深き者共の生息地域の近海の他、海上都市ルルイエの近海に生息している。

 なお、流石にハイドラとの交尾は勘弁だった。

 …だと言うのに、格上の個体に無理矢理交尾されたのは屈辱の極みだった。

 

 最後は何故かウェスパシアヌスに召喚され、アイオーンとガチバトル開始。

 何とか海中に引きずり込み、得意のクトゥグアを封じた後、体当たりや海流操作で攻撃したのだが、シャンタクによる自爆覚悟の突進により空中戦に持っていかれ、自由落下中にバルザイの偃月刀により両断された。

 うむ、種族と環境によるものとは言え、荒唐無稽ロボバトルに参加出来たので良しとしよう。

 

 

 

 250回目

 

 現在は人間に転生しているが……最近、ダゴンorハイドラと人間(男女)で転生中。

 こっちも成長してると言うのに、何故か毎度毎度アイオーンと対戦して負けるのか…。

 しかも奴め、最近ニ丁拳銃だけじゃなく、パイルバンカーにまで手を出しやがって…。

 絶対にアレはドクターの仕業だ、うん。

 開幕からの即死攻撃とかワロスwwwワロス……。

 せめてレムリアインパクトをお願いします。

 まだ出来てないけどさ…。

 

 あ、人間の時は最近世界中を回っている。

 あちこちで中位の魔道書を入手しては研究して、魔術の研鑽及び実戦経験を積んでいる。

 いやさ、結構あちこち転生してると、何処でどんな事件が起きるかが大体解るんだよね。

 お陰でシュリュズべリィ先生と葉月、その生徒御一行に会う事も多い。

 研究と実践を繰り返しているので、位階が上がるのが早い早い。

 

 

 

 祝500回目

 

 今回はロンドンで女性として生まれたのだが、時代は未だに19世紀。

 そして私が8歳の頃、新聞でとある記事を目にした。

 「潜水ゴリラ」、まるで潜水服を着たゴリラの様な怪物が夜のロンドンを徘徊しているというゴシップ以下の法螺話。

 つまり機神胎動の時代と言う事だ。

 

 此処で私は、ある実験をしたいと思う。

 これは極めて大きな賭けであるが、しかし、絶対に必要なプロセスであると断言できる。

 この時代、とある存在が一定の場所で長期間過ごしており、容易に接触する事が可能となる数少ない機会だったりする。

 

……………

 

 大英帝国首都ロンドン、その大通りに面するとあるカフェのおいて。

 帽子に眼鏡、小さな鞄を持った可憐な美少女。

 彼女は今、その手に持った新聞を読みながら、青筋をおっ立てていた。

 

 「…誰も彼も誤解してるわね。」

 「そうですねぇ。」

 

 その傍らには褐色の肌に金髪、そしてメイド服の上からでも解る程のメリハリの利いた侍女が侍っていた。

 

 「全くもう!私の活動はそんなんじゃいのに!誰よ、水中ゴリラって言いだしたのは!?」

 「まぁ確かに見た目は水中ゴリラですからねぇ。って、おやぁ?」

 「え、な、きゃっ!」

 

 少女が新聞の記事に関する愚痴を侍女に溢していた時、余りに突然の突風が少女の帽子を空へと飛ばしたのだ。

 今日は快晴であり、スモッグすら晴れているというのに、更に周囲には何の変化もない(・・・・・・・・・・)のに、その突風は見事に少女の帽子だけを遠くに飛ばした。

 

 「いけない!取ってきます!」

 「お気をつけてくださいましねぇ~。」

 

 気の抜けた声で主である筈の少女を、侍女は呑気に見送った。

 

 「さて、どなたでございますかね?」

 

 そして、先程まで誰もいなかった筈の場所に誰かが佇んでいた。

 銀髪碧眼、白磁の肌を持った、確実に将来美女になる事が約束された少女だ。

 否、今は空色のワンピースを纏っているが、着飾れば確実に美少女と今すぐにでも絶賛される事だろう。

 

 「あなたに聞きたい事がある。ニーア、いや」

 

 少女は抱えた大きな古い書を持つ手に力を込めながら、決定的かつ致命的な一言を呟いた。

 

 「ナイア■■■■■■■。」

 「ほう、何を聞きたいのかな、お嬢さん。」

 

 途端、周辺の時間が静止する。

 否、この空間だけが外界と異なる時空に置かれたのだ。

 そして、今此処にいるのは侍女と少女の2人ではない。

 侍女の美貌の代わりに三つの眼が見開かれ、炎を吹き、その声もまた何処か威厳を感じさせる様な壮年の声へと変わり、何よりその気配そのものが明らかに人間のソレではなく、底知れぬ暗黒を思わせるものへと変貌していた。

 

 「玩具(ゲーム)支配者(キーパー)である貴方だからこそ、聞きたい事がある。」

 「ふむ、子猫の様に恐怖しながらも私から目を反らさないその胆力に免じて答えてやるとしよう。何が聞きたい?」

 

 この場の支配者は人の形をしたソレに他ならない。

 少女が恐慌しないのは、彼女がこういったモノにある程度の耐性を持っているからに他ならない。

 しかし、少女が今まで経験してきた数多くの者達の中に置いてもなお、眼前の存在はそれらを圧倒的に超越していた。

 

 「私がこのクラインの壺から抜け出す事は出来る?」

 「不可能だ。」

 

 だから、少女がソレの答えを聞いた時、限界に来ていた少女は先程までの冷静さをかなぐり捨てる様に叫んだ。

 

 「何故だ!?アンタならその程度軽くできる筈だ!」

 「今の私はこのクラインの壺を管理運営するための分霊に過ぎん。私ですら滅びなければ、この壺から逃れる事は出来んよ。まぁ目的を果たせば、この壺は自動的に解除されよう。」

 「それがどれだけ先の話か、アンタは解ってて言ってるだろう!」

 

 それはこの世界が何であるかを知っているが故に、少女は混じりけの無い憎悪と共に召喚した炎の精を異形へ叩き付けた。

 

 「ハハはハハははははハハはハハハハハははははハハハははッ!!精々壊れぬ事を祈っているよ、お嬢さん!存分にこの世界を味わい尽くしてくれまえ!」

 

 異形が燃え上がる。

 しかし、何の痛痒も無いかのように異形は嗤い/笑い/哂い、少女を哀れみという完全な上から目線で見下ろす。

 ソレの哄笑と共に、少女の姿が歪み、空間に溶けていく。

 

 「くそ、待て!」

 「待てませんねぇ。そろそろお嬢様が御戻りになりますので、お帰りくださいな。」

 

 そして、少女の姿が消えた。

 同時に、空間は元の大通りのカフェに戻り、その数秒後にはその手に帽子を握った少女が息を荒くしながら戻ってきた。

 

 「も、もう…!ニアーラったら少しは手伝ってよね…!」

 「お嬢様、適度な運動も健康を保つためにゃ必要なんですよ。」

 

 既に先程までの異常な雰囲気は消えている。

 しかし、テーブルの下に僅かに燻ぶる瘴気の残り香が、確かに此処に邪悪が存在した事を物語っていた。

 

 ………………

 

 結局、混沌との接触は多少の情報を得るだけで終わった。

 まぁ予想通りと言えば予想通りなのだが、それでも期待していなかった訳ではない。

 最高の結果は自分が異物としてこの世界から弾かれる事だったのだが…もっと早めに行動すべきだったか?

 否、あの性悪の事だから、どの道結果は変わらなかっただろう。

 逆に、早急に排除されなかっただけありがたいと思うべきだろう。

 

 今回は今まで通り魔道書を探す事になったのだが…夜、大英帝国博物館前で盛大に大騒ぎする覇道・アズラット・エイダ御一行と若造りと猛獣軍団を見かけた。

 うむ、原作通りで何より。

 

 

 最後は破壊ロボの群れ相手に無双しながら、ダゴンかハイドラの群れに引き潰された。

 と言うか、連中が嬉々として向かって来た様に見えたのは何故に?

 

 

 

 祝1000回目

 

 未だダゴンorハイドラと人間でループしてます。

 流石に飽きてきたので、ダゴン&ハイドラの時は海のあちこちを探険している。

 例えば、海溝等の深海に潜り、誰も手を出していない(例外:ルルイエ)海底に存在する霊脈の結節点に赴き、そこから多量の魔力を摂取する事だ。

 此処は同族であるダゴン達も滅多に寄りつかず、極めて静かだ。

 そのため、魔力を摂取する傍ら、瞑想を行い、体内の魔力を循環させたり、術式や戦闘のシュミレーション等をして過ごしている。

 稀に実際に新技や魔術を試す事もあるが、それ以外は殆ど瞑想している。

 視覚的には本来太陽光が届かない場所だが、流石は神格持ちと言うべきか、その程度は全く問題にならない。

 お陰でこの世界では未だに未発見の筈の数々の深海生物を観察する事が出来た。

 うむ、最初の頃から世界不○議発見や動物○想天外が大好きで人嫌いだった自分には中々快適な環境だった。

 でもね、流石に累計1000年以上は飽きるの…。

 しかも、最近は特に信仰されてもいない、或いは伝承が途絶えた格の低い神性にも転生してたりする。

 内訳は超巨大芋虫とか蜥蜴とか蛇とか蜘蛛とか鰻とか鯨とか他多数…。

 マジで八百万に届くかも知れません…。

 推測だが、こいつらは恐らくガチの八百万の神様、つまり天津神の様な人の求めた人型の神様ではなく、ダゴンやハイドラの様な地球原産の生命体が力を持った連中なのだろう。

 だが、格が低いとはいえ神は神。

 一般人が直視すればSAN値が削れる事は間違いない。

 と言うか、結構夜鬼の大地の神々の秘密で見た有名所を除いた連中にそっくりなのは、恐らく偶然ではないのだろう。

 また、種族固有の特殊能力や生息環境といった情報はガンガン貯まる上に、術式での能力の再現等も見当できるため、決して無駄にはならない。

 …ただ、転生時に交尾の可能性が高い種族だったりするとSAN値が削られるけどね…。

 

 人間の魔術師としては相当に水属性と土属性の親和性が上がっており、水との適性だけなら以前見たカリグラを超えるのではなかろうか?

そう言えば、何時ぞやインスマウスに訪れた時、あそこの秘密教団から勧誘が来た。

 その時は丁寧にお断りしたのだが、何だか拝みまくられた。

 他にも、日本の国津神系神社やアジア方面の原始宗教の神殿なんかに立ち寄ると、ほぼ漏れなく拝まれた。

…生き神扱いされてきたんじゃなかろうか?

 

 とはいえまだまだ弱いので、ダゴン&ハイドラに踏み潰されるか、アイオーンに退治される状態は続行中である。

 一応、破壊ロボには対応できるが、遠距離から飽和射撃をされ続けると詰む。

 

 

 

 大体3万回目

 

 祝☆ダゴン&ハイドラ他低位神格卒業!此処まで長かった!!本当に長かった…ッ!!マヂで長かった…ッ!!

 ってか卒業まで3万年近くとか!

 でも、未だに機神召喚は出来ないの…。

 最終的に自分の転生したダゴン&ハイドラは海サソリの如く鋏と尾を備え、体当たりだけでなく、鋏と尾による近接攻撃と大規模津波級の水の操作を可能としていた。

 そのため、尻尾の先端から高圧水流を出すという疑似荷電粒子砲的な事も出来る。ゾイド的な感じに。

 でも、普通に水を操った方が効率が良いのでやる事は滅多にないネタ技に過ぎない。

 まぁ対空攻撃可能な技を得た他、水の竜巻や豪雨を起こす事でシャンタクの機動性を大いに低下させる事に成功し、対空戦もある程度は可能となっている。

 …でもね、その度にアルハザードのランプが全力稼働して性能が上昇して逆転されるの。

 相当負担がある筈なんだけど、主機関を除いて大分ガワが出来始めたので、平時の負担は減っているのでどっこいどっこいといった所だろうか。

 他の神格でも芋虫→蝶、蛾→モ○ラ、植物→ビ○ランテ、蜥蜴→魚食ってるゴ○ラ、蛇→竜等の様に多種多様な進化と遂げていた。

 そして明らかに各地の宗教関係者に拝まれていた。

 いや十字教とかあの辺りの連中からは邪教扱いされてるけど、多神教の連中からは大概拝まれる存在になってしまったのはマジでどうしろと?

 

 んで、最近は人間形態の際は遂に中位以上の魔道書に手を出し始めた。

 その中で特に顕著なのがネクロノミコン:ラテン語訳だ。

 これはミスカトニック秘密図書館に治められた最高峰の魔道書であり、外道の魔術師であっても追い求める程の一品だ。

 これによりクトゥグアの直接召喚が可能になったため、最低でも火力不足に困る事は無い。

 だが、元々水と土に相性の良い自分では、原作の九郎を始めとしたマスター・オブ・ネクロノミコンの様な威力は出せないし、制御も甘過ぎる。

 

 更に、今度はもっと困った転生先になった。

 気付けば、身体が本でした。

 今度は魔道書の様です。

 

 

 

 約3万2000回目

 

 現在は魔道書と人間(男女)を繰り返し中。

 この際、人間の場合は大体行動が決まっており、近場の魔道書を入手し、それを使って更に強力な魔道書を探す事を繰り返すというものだ。

 そして、遂にネクロノミコン:ラテン語訳を使いこなす事に成功した。

 クトゥグア召喚もかなり板についてきたので、制御もちゃんと出来る様になった。

 それまでの使用法?勿論最後の切り札=自爆技ですとも。

 

 んで、魔道書としての人生なのだが…専ら狂人の手稿として生を受ける。

 魔道書と言ってもピンキリであり、ナコト写本やネクロノミコン等の最上位から取りとめの無い狂人の手稿等の最低位まである。

 今現在はオレという魔道書は未だに格が低く、記述内容も精選されていないので、記述の精度が低いのだ。

 ただし、精選さえ終えれば中位程度は確実だと思われる。

 上級(逆十字らの持つ原典の魔道書並)は未だにまともに読めない身としては遥か彼方であると言える。

 しかし、何故に無生物である魔道書への転生なのだろうか?

 確かに魂と魔力を宿すため、転生自体は可能だろうが、精霊化する程の魔力を得なければ全く意味が無い。

 幸い、1人でいる間は殆ど休眠状態なので退屈はしないのだが…。

 それに、情報を精選するためには作者が、最大スペックを発揮するには契約した術者がそれぞれ必要であり、単体ではどうしようもない。

 つまり、何かオレの知らない抜け道があると言う事か?

 

 なお、魔道書としての最後は馬鹿な主又は作者と共に自滅するか、ホラーハンターに焼き払われるか、破壊ロボに蹂躙されるか、ダゴン&ハイドラに踏まれるかである。

 

 

 

 凡そ4万回目

 

 キリが良いので記録。

 魔道書になった事の利点は、自らの記憶整理が容易くなった事だと思う。

 と言うのも、魔道書という超高性能な魔術式CPUとなる事で、自身の記憶、つまり記述を客観的に見る事が出来、それを通じてうろ覚えだったり、精度の低い個所が容易に発見できるのだ。

 これに人間転生時にその部分に詳しい魔道書を探し、記憶する事で精度を高めていく事が出来る。

 とは言え、魔道書転生時には記述の改訂なんて出来ないので、微妙にもどかしいのだが。

 まぁお陰でループによる成長速度が自覚できる程度にまで高まったので良しとしよう。

 

 これにより、最近では実戦のみはもう十分だと判断し、人間の時に今まで見れなかった高位の書に手を出しまくり、魔道書の時に整理していくというライフスタイルが固まった。

 なお、大体においてはモグリの魔術師で魔道書探し、陰秘学科で実践している。

 最近では陰秘学科に入学後、数か月程度でネクロノミコン:ラテン語訳の所持を許可されるに至っている(無論、素行には気を付けているが)。

 

 とは言え、クトゥグアの召喚は元々得意ではなく、同じ魔力消費ならクトゥルー由来の水の魔術で数倍の規模を破壊可能だ。

 だが、どうしても水場でないと最大威力を出せない水に対し、クトゥグアとその眷属は水場を除けば何処でも活用できる。

 錬度は徐々にとは言え上がっているとは言え、それは水と土程ではなく、激しくもどかしいものだった。

 これを打破するには自身の成長を待たねばならず、相当の回数を経なければならない事が簡単に予想できてしまったため、今から憂鬱になった。

 

 

 

 3万回未満のとある回

 

 ソレは空腹のまま、寝ぼけたままに召喚された。

 それでも、目の前に立つ黒と白の人型が、自身の敵である事だけは明確に認識していた。

 周辺に存在する生命を喰らいながら、急速に醒めていく意識の中、ソレは戦いの開幕を告げる様に咆哮した。

 

 ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイ―――――ッ!!

 

 脱皮を繰り返しながら、両の鋏と尾を振り回し、呼び出された洞窟を破壊する。

 その全身が夜空の下に現れた時には、既に全長は200mに届かんかという程に巨大化していた。

 既に召喚のための祭壇は意味を成さず、制御するための魔道書も回収されて此処には無い。

 後はただ、空腹かつ敵の存在を知った怒れる怪獣がいるだけだった。

 

 「来るぞ、九郎!」

 「おうよ!」

 

 対するは黒と白の人型、鬼械神デモンベイン(完成度40%+動力源と内部構造の多くはアイオーン)が未だ未完成の身で海神へと立ち向かう。

 先手を取ったのは既に戦闘体勢を整えていたデモンベインだった。

 

 「力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ!バルザイの偃月刀!」

 

 素早く召喚を行い、呼び出すは霊験あらたかな刃。

 その刀身が灼熱と化し、周辺の水気を蒸発させながら、ダゴンの甲殻へと振り下ろされる。

 だが

 

 ガギンッ!

 「硬ぇ!?」

 「不味い!下がれ!」

 ギュアアアアアアアアッ!

 

 その一太刀は重厚な外殻によって完全に防がれる。

 寧ろ、渾身の力を込めて振り下ろしたが故に、その後は隙だらけ。

 それを悟ってか、ダゴンは両の鋏でデモンベインを拘束した。

 

 「ぐお!この、放しやがれ!」

 「彼奴め、海に引き込むつもりだぞ!」

 

 アル=アジフの警告と同時、ダゴンがデモンベインを拘束したまま、海へと突進する様に突き進んだ。

 

 「ぐおおお!?」

 

 大質量が叩き込まれた性で荒れ狂う海流に、デモンベインが成す術も無く翻弄される。

 しかし、此処はダゴンにとっては自らのテリトリー。

 海流に束縛される事等なく、寧ろ大空を行く鳥の様にいっそ優雅とも言える程に巧みな泳ぎでデモンベインから距離を取る。

 

 「九郎!シャンタクなら水中でもある程度活動可能だ!」

 「解った!シャンタ…っがぁ!?」

 

 次いで、機動性向上のためにデモンベインが飛行ユニットたるシャンタクを展開しようとするも、それを邪魔する様に海流が激しさを増し、デモンベインの動きを封じた。

 

 「く、この!」

 「ぬぅぅ、流石はクトゥルーの眷属か!」

 

 その致命的な隙を、この邪悪な海神が見逃す筈が無い。

 一度距離を取っていたダゴンが旋回し、猛烈な勢いで突進してくる。

 

 「エルダーサイン!」

 

 咄嗟にアル=アジフが旧神の印を発動させ、その身を守る盾とする。

 

 ギュアアアア!

 

 だが、迫り来るダゴンは途中で更に加速、その甲殻で包まれた巨体の質量を存分に生かし、展開されたエルダーサインへと盛大にブチかました。

 

 「ぐああああああああ!?」

 「きゃあああああああ!?」

 

 その絶大な運動エネルギーを、エルダーサインは一瞬だけ緩める事しか出来ずに弾け飛んだ。

 一撃で幾つかの計器が火を噴き、エラーや警告音を吐き出す。

 だが、敵と零距離である現在はデモンベインにとっても勝機となる。

 

 「こ、の、舟虫野郎があああああああああああああッ!!」

 

 衝撃と苦痛の中、九郎が咆哮と共にバルザイの偃月刀を振り上げる。

 狙いは甲殻と甲殻の隙間、節目だ。

 そこならば、ある程度は刃も通る。

 だが、

 

 ガギン!

 

 (クソ、こんな揺れてちゃ上手く狙えねぇ!)

 ギュアアアッ!

 

 その行動が怒りを買ったのか、ダゴンが更に加速し、デモンベインの機体が海底へと叩きつけられた。

 

 「アル!何かないのか!?」

 「あの機動性に追従するのは不可能だ!何とかして空か陸に上がらねば嬲り殺しだぞ!一応、シャンタクならある程度は動けるが、それとて何処までいけるか…。」

 

 その言葉に、九郎の勘が何かに引っ掛かった。

 

 「アル、…………って出来るか?」

 「む、一か八かだぞ?」

 「ジリ貧からの嬲り殺しよかマシだろ?」

 「解った、サポートは任せよ!」

 

 ダゴンの持つ野生の勘によるものか、はたまたその中にいる者の経験則によるものか、再び海流の動きが強まり、デモンベインを拘束せんとうねり始める。

 

 「行くぞアル!」

 「シャンタク展開!」

 

 デモンベインの背面にまるで書のページが折り重なって出来た翼の様な印象を受ける飛行用ユニット「シャンタク」が現れる。

 そして、刃金の身体が水中を飛ぶ様に自在に機動し、こちらを捕えようとする海流を回避した。

 

 ギュアアォ!

 

 それに対し危機感を抱いたのか、ダゴンが先程以上の加速で以て突進していく。

 それは水中でも機動性を確保したデモンベインを以てしてもなお、回避の難しい一撃だった。

 

 「九郎、来るぞ!」

 「応!」

 

 再び展開されるエルダーサイン。

 しかし、先程と違うのは今度は3重であると言う事だ。

 そこに、ダゴンが突っ込んで切る。

 凄まじい衝撃に一枚目のエルダーサインが弾け飛び、数秒を置いて二枚目も同様の末路を辿る。

 

 「踏ん張れ九郎!」

 「があああああああああああッ!!」

 

 三枚目のエルダーサインに追加で魔力を込める。

 それでも徐々に罅が走り、衝突から10秒も持たずに砕け散る。

 これで突進の衝撃を殺し切る事に成功したものの、ダゴン自体は未だに加速を続けている。

 

 「シャンタク、全力稼働!」

 「お出でませ、お空の旅ってなぁ!」

 ギュアッ!?

 

 だから、此処からは反撃の時間だ。

 ダゴンの甲殻を鷲掴み、シャンタクの推進力が徐々に二つの巨体を持ち上げていく。

 それにダゴン自身が生み出していた推力も加わり、ニ体は徐々に海面近くまで浮上する。

 

 ギュゥアアアアア!!

 

 自身のテリトリーから抜ける事を嫌ったダゴンが抵抗とばかりにもがく。

 しかし、減速したとは言え、既に加速した後では余り意味も無い。

 

 ザッパアアアアアアン!

 

 夜の海に、ニ体の巨体が躍り出る。

 片や水銀の血を流す白黒の機神。

 片や古代の水棲生物染みた姿の海神。

 縺れ合う様にしながら、ニ体は空中でなおも闘争本能のままに戦闘を続行した。

 

 「喰らえぇ!」

 

 デモンベインが至近距離から頭部に内蔵されたバルカン砲を連射する。

 だが、その弾丸が命中した筈のダゴンの甲殻は、まるで霞みか何かの様にその姿を消した。

 

 「何だ!?」

 「いかん、距離を取れ!」

 

 それは霧だった。

 ダゴンの巨体が霧となって宙に溶けていく。

 そして、周辺の気候が瞬く間に悪化し、猛烈な豪雨となって荒れ狂い始める。

 

 「彼奴め!天候操作に霧への変化だと!?どー考えても完全復活しているであろう!?」

 「こんな奴どうやって倒すんだよ!」

 「大火力で一撃で倒すしかあるまい!何とか隙を見出すのだ!」

 

 轟く雷鳴と土砂降りの豪雨が視界と機動を妨げる。

 更に、霧と化したダゴンは海水を水柱へと変じさせ、蛇の様にのたくらせながらデモンベインへと仕向た。

 

 「こんなん当たるかよ!」

 

 だが、水中とは異なり、空はデモンベインに分があった。

 シャンタクを用いた複雑かつ高速の空中機動により、水柱は無為に宙を貫くだけだ。

 だが、近づいた所で霧となったダゴンを撃破する事は出来ない。

 否、

 

 (いや、そもそも近づく必要があんのか(・・・・・・・・・・・・・・・・・)?)

 

 だから、九郎はデモンベインに距離を取らせた。

 一路目指すのは直上、豪雨を降らせる雲に突入し、それを突き抜けんと更に上を目指す。

 

 「く、九郎!?」

 「アル!魔杖展開!」

 「ええい、後で説明せよ!」

 

 雲を貫き、月夜の雲海の上で、デモンベインが眼下を見下ろす。

 その視界は霊視により、雲を貫き、海上に存在する霧となったダゴンを正確に捉えていた。

 その手にはデモンベインそのもよりも更に大きな物体が握られていた。

 魔法使いの杖にして、対霊狙撃砲。

デモンベインの素体となったアイオーン、その最強兵装だ。

 

 「神獣形態!」

 「イア・クトゥグア!!」

 

 呪文と共にフォマルハウトに封じられた旧支配者の一端が召喚される。

獣の形を取った必滅の炎が分厚い雲を貫き、海上の海神へと突撃する。

 それに対し、ダゴンは水柱を眼前に収束させ、防御を固めた。

 だが、怒れる旧支配者にそんなものは障子紙よりもなお薄く、一瞬の停滞も無く突破され、霧となった身体すら轟音と閃光と共に完全に消熱した。

 

 後に残ったのは、雲が吹き散らされた事により現れた月とその光を浴びて夜空を舞う魔を断つ剣だけだった。

 

 

 

 




次はもっとハードな転生先が出ます。


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第四話 ようやく中盤

ルーキーランキング二位

日刊ランキング2~4位




何かの間違いでしょ?(震え声


 多分1億回位だと思う

 

 遂に、遂に、遂に!魔道書の精霊化に成功した!!!

 長かった…実に、長かった。

 苦節数億回、一回が約20年程度とすれば、確実に20億年を超える!

 それだけの年月を転生しながら修行に明け暮れて、その果てに漸くこうして魔道書の精霊にまで至った。

 あぁ、感無量…。

 

 さて、感動は兎も角として、今の自分は確かに強力な魔道書であるが、原作に登場した精霊化した魔道書に比べれば、最下位と言っていいだろう。

 特に同系統であるルルイエ異本に比べ、肝心要のクトゥルーの記述が不足気味だ。

 その分、地属性の神格や名も無き下位の神格に関してはこちらの方が勝るが、流石に神話のタイトルに名を連ねる程の大御所の名を冠するだけあって、向こうの方が強いのだ。

 ただ、今の自分の内容は「ルルイエ異本(クトゥルー半分以下)+水神クタアト+ヨス写本+その他雑多な神格とその生態に関する知識」なので、かなり広範囲に手を出しており、どっちかってーと無名祭祀書に近いと思われる(まだ読んだ事無いけど。)

 しかも、未だに機神召喚の記述を入手していない。

 魔道書として精霊化までしたのに、未だに無理とかワロスwwwワロス……。

 なお、術者との契約に関してなのだが、どうも純度が高くなりすぎたらしく、大抵の魔術師は自分を見ると発狂して契約できていない。

 何度かウェスパシアヌスやカリグラの手元にあり、C計画の資料とされたが、機神召喚の部分が抜けているため、契約する事は無かった。

 

 実は、この頃からもう一つの種族に転生出来る様になった。

 とは言え、これを種族として分類しても良いのかは微妙な所なのだが…。

 その名も「月の子」の落とし子。

 つまり、ウェスパシアヌス主導の暴君ネロを創造するための計画、その被験者の生き残り。

 ライカ・クルセイドとリューガ・クルセイドの同類なのだ。

 ちなみに2人とは血縁関係ではなかった。

 世界各地から攫われるか買われるかで集められた自分達は、あの狂気的なまでに白い施設にてウェスパシアヌスの実験にモルモットとして参加させられた。

 とは言え、こちらは既に数十億年を経た魂を持っている。

 今更この程度の肉体的苦痛でどうこうなる訳もない。

 寧ろ、Cの巫女としての適性が断トツに高かった自分は、ルルイエ異本を用いたクトゥルーとの直接交神等の実験を行われてSAN値が削り切られて死ぬ事が多かった。

 C計画完遂及びマスターテリオンを超えるためとは言え、よくぞここまで弄くり倒せるものだと逆に感心してしまう程の内容、と言えば過酷さが伝わるだろうか。

しかし、被験者側とは言え「月の子」計画に参加できたため、今まで余り手を出してこなかった人体改造系の知識及び今まで手に入っていなかったクトゥルーに関する詳細な知識を得られたのは大きい。

 ちなみに最初の一回は肉体が耐え切れなかったため、ミ=ゴの脳味噌缶詰みたいな状態になってたのはちょっとトラウマである。

 大体十回位狂死したり、衰弱死したが、それ以降は性能こそ低いものの、仮面戦士の1人として新生した。

 ただし、人間の姿に戻れなかったり、変神形態が非人型という問題が続いたが。

 巨体や尾や角、翼なんかはまだマシで、腕が5本とか、下半身が獅子とかどないせいと。

 でも尾と武装の形状から、ギ○ギアの正義まんまな外見(ただし紺色)になっているので割と気に入っている。

 よし、今度から術衣もこれにしよう!(ファンタジーよりメカ派)

 なお、リューガが理性無くして大暴れしてる隙に反対方向から逃げ出すのが脱出時の鉄板である。

 敢えて残った場合はリューガと西博士と割と仲良かったりする。

 

 そして、お楽しみの変神形態であるが…カラーは紺色、全身が他の2人にはない重厚な装甲で覆われており、主な武器も異なる。

剣と砲のメタトロンと拳のサンダルフォンに対し、自分は全身に火器を装備するゼルエルと名付けられた。

なお、武器はメタトロンの様に魔力で編んだものではなく、基本的に完全固定式。

ドクターに新武装の製作を頼む事も多いが、大抵はすぐ壊れる。

 

 後、うっかり他の被験者を助けたり、生き残らせたりすると、ソイツがほぼ確実に橙色でケルヴィエルと名乗って、敵側にいるという謎の現象が起こる。

 …ナイアさんよ、もうちょい他にやり方無かったん?

 戦闘スタイルについては、オレのゼルエルがヘビーアームズばりの弾幕型に対し、ケルヴィムは同じく重装甲だが極めて高い加速力を生かして突っ込んでくる。

 ぶっちゃけ皆大好きアル○アイゼンスタイルである。

 ただ、中の人に関してはオレの方がクール(と言うよりも無感動)で、あっちがおちゃらけ天然系だが。

 

 なお、現在の転生比率は人間:月の子:魔道書が1:2:1程度で推移している。

 性別に関しては一対一、精神面ではほぼ両性と言って良い。

 人間の方は最近は高位魔道書を探してあちこち探索中だ。

 以前、場所の解っているルルイエ異本を取ろうとしたら、いきなり視界が闇に包まれて次回に移行していたので下手に手が出せないのだ。

 というか、邪魔する位ならちょっとは手を貸せよ!

 いい加減機神召喚したいんだよ!

 

 後から考えれば、これがいけなかったんだろーなーと思う。

 

……………………

 

 ゾルン、と何も無い筈の空間から、名伏し難き闇黒が湧き出てくる。

 それは明らかに物理的に有り得ない光景であり、その存在そのものが人類の理性に対する冒涜であり、否定すべき邪悪であった。

 周囲の空間全てを埋め尽くす程に広がった闇黒は徐々に一カ所に纏まっていき、やがて人の形を取っていく。

 それは女の形をしていた。

 白い肌、しなやかな肢体、豊満に膨らんだ胸、男女問わずあらゆる者を魅了する美貌。

 しかし、油断してはならない。

 これは単なる擬態であり、その本質は何者でもない混沌たる闇黒に他ならない。

 

 「呼ばれて飛び出て!あなたの隣に這い寄る混沌☆ナイアちゃんで~す☆」

 「先ずは歳を考えろ、な!」

 

 余りのギャグセリフに思わず突っ込んでしまった。

 つーか、そのセリフは別時空のお前のだろ、パクんな!

 

 「だってさー、迂闊に君クラスの存在が機神召喚とかして介入しちゃうと、九郎君の成長が遅くなる可能性もあるからさー。」

 「あぁ、舞台裏的な事情か…。」

 「まぁその程度問題無いんだけどね。」

 「無いのかよ!?」

 

 あぁもう何なのお前、何のために出てきたん?(困惑

 

 「まぁ用事があるのは本当さ。はい、ボクからのプレゼントだよ。」

 「…おい、これ何処から持ってきた。」

 

 渡されたのは古い書物の一部を適当に纏めたもの。

 しかし、これは魔術に連なる者にとってはその価値は天文学的なものとなるだろう。

 

 「ネクロノミコンの、機神召喚の記述!?」

 「その通り。とは言っても、6割程度しか回収できなかったけどね。」

 

 にんまりと、まるで不思議の国のチェシャ猫の様に嗤う混沌。

 

 「元はマスターテリオンが撃破したアイオーンの残骸から得たものでね。在庫も余り気味だったし、それなら君に託して有効活用してもらうさ。」

 「つまり、ここから自分で構築しろと。」

 「何の手探りも無い状態からよりはマシだろう?君の適性から言ってもイタクァは兎も角、クトゥグアは合わない。それにもう既に何度もアイオーンとの、デモンベインとの戦いを経ている。ある程度は推察もできるだけの知識もある。」

 「……色々複雑だが、取り敢えず礼は言っておく。」

 「ふふふ、是非とも面白可笑しい事になる事を期待しておくよ。」

 

 そう言うや否や、混沌の姿は一瞬で膨張、まるで風船がはち切れるかの様に瘴気を撒き散らして消えていった。

 

 『君もまた、既にこの無限の螺旋に組み込まれている。是非とも最後まで踊り切ってもらいたいね。』

 「言ってろ。だがな、彼らはお前の思惑を喰い破るぞ、邪神。」

 『はははハハははははハハははははハハははははハハははははハハは!!』

 

 宙に邪神の笑い声が響き、そして消えていく。

 後に残ったのは自分の手の中の死した魔道書の断片。

 それだけが、先程の出来事が白昼夢ではないと語っている。

 

 「さて、またぞろ長い時間が必要か…。」

 

……………………

 

 1億と少し回位

 

 遂に 念願の 機神召喚 を 習得した!

 でも見た目がなんかこう、ゴツイ。

 基礎フレーム自体はアイオーンのそれとほぼ共通なため、ちゃんとした人型なんだけど、装甲部分なんかがやたら分厚くずんぐりむっくりした形状になっている。

 アレか、自分が重装甲大火力主義の人だからか!でもオレ、対艦巨砲主義より量産機の方が好きだったりするぞ!

 取り敢えず、人間転生時にでっち上げた機神召喚だけで邪神眷属退治に逝ってきます!

 

 無理でした。

 基礎理論がガタガタで、3分持たずに自壊しました。

 こりゃ最初からやり直しだ…。

 

 

 

 2億回位

 

 機神召喚の難しい事難しい事。

 先ず魔力。人間のままだと獅子の心臓やマナウス神像でもないと無理な位、超絶燃費悪い。

 アイオーンがアルハザードのランプ積んでるのって、多分人間でも鬼械神操るための苦肉の策だったんだろうなぁ…。

 ごめんよ、術者殺しとかwwwワロスwwwとか思ってて…。

 でもまぁ、さんざっぱら人外転生どころか異種姦→妊娠出産のコンボを経験済みとしては今更拘る意味は無いね、うん。

 とは言え、先ずは現状のまま人間で何処までいけるか、色々と試してみよう。

 

 

 2億と5000万回位

 

 結論:やはり自分の力量で人間のままでは限界がある。

 ここ暫くは人間転生時は覇道財閥又は陰秘学科に所属して、対邪神眷属以上に対鬼械神戦闘を行い続けた。

 逆にブラックロッジの場合は対デモンベイン戦闘を行い、向こう側の錬度が上がるよう努めた。

 これが意外と経験値が高く重宝している。

 鬼械神という魔道書の最終奥義をぶつけ合う事は、即ち術者の死力を尽くし合う事に他ならない。

 そうした極限状態での経験が魂の成長に役立つと思われる。

 まぁ後先考えず自滅前提で戦うからこそ、とも思えるが。

 また、覇道側でブラックロッジ連中を相手にする場合、地属性のベルゼビュートと水属性のクラーケンに関しては純粋に技量勝ち出来る上に、防御の薄いロードビヤーキーとかは普通に勝てるようになった。

 ただ、未だに皇餓とサイクラノーシュ、レガシー・オブ・ゴールドには勝てない。

 皇餓は戦いの技量で、サイクラノーシュは4回殺し尽くす前に魔力切れ、レガシー・オブ・ゴールドには火力負けするから。

 とは言え、既に水辺であるなら負けはしない程度の差なのだが。

 

 魔道書の場合は大抵ブラックロッジ側に保管されている。

 やっぱりウェスパシアヌスの研究に重要な資料として扱われている様で、誰とも契約せず、偶に訪れるネロとの会話を除けば、基本的に機神召喚を始めとした術式や記述改訂の試行錯誤程度しかやる事が無い

 

 月の子の場合は基本的に1:1の割合で脱出:残留を決めている。

 覇道側、というかライカと合流した場合、姉妹扱いされる事になる。

 最近は大抵妹なのはこっちの身長が低いからだったりする。

 逆にブラックロッジ側だとリューガとセット扱いされ、結構な確率で懇ろな関係になったりする。

 そりゃまぁ若い年頃の男性が近くに手を出しても碌に抵抗しない美人がいたら盛るわな、うん。

 

 あ、そうそう!1億4000回頃に暴君と出会ったのだが…何か思ってたより弱かった。

 どうやらまだループ始めてから短い様で、恐らくこれから強くなっていくと思われる。

 ただ、邪神に関する愚痴の言い合いが出来る相手が出来たので、ブラックロッジ側に入ったら、基本的に彼女のいる独房の傍に構築した異相空間で過ごしている。

 暴君ネロ、又はエンネアは邪神の謀略に気付き、それを止めようと考え、行動している数少ない者の1人だ。

 だが、未だに弱い彼女だけではどうしようもない上に、どうやったら憎いアン畜生の策略をブチ壊せるのか頭を悩ませている。

 こっちは原作の流れを知る身としては特に大筋に手を出すつもりはないが、それでも彼女と共に愚痴って「邪神をブチ殺し隊」を結成する程度に仲良くなれた。

 

 と言う訳で、サクッと人間止める事にした。

 外見は普段は人間のままで、時と場合によって水属性の半漁人(ウス異本仕様)と地属性のハ虫類人(やっぱりウス異本仕様)になります。

 この影響か、鬼械神も水中戦の方が得意だったりする。

 外見はほぼクシャ○リヤで、ファ○ネルの代わりに先端にクローアームと魔力砲を内蔵した触手がシールド一つに25本格納、スターヴァンパイアの召喚等も合わせると実にラフ○シア的と言える。

 

 

 

 4億回位、かなぁ?

 

 今回、なんとマスターテリオンに挑戦した。

 結果は解り切ってるけど負けた。

 使用した鬼械神は重装甲・大火力をコンセプトに改良したアイオーン・リペア、魔道書は何時もの御手製の奴だ。いい加減名前位考えるべきか…。

 とは言え、ある程度は善戦できたと思う。

 戦闘自体は極短時間だったものの、あのリベルレギスを相手に大破寸前まで持ち込んだのだから。

 こっちはハイパーボリアで消滅させられたけどね!

 相手の胸部装甲毟ってコクピットに生身で突撃して一撃喰らわせてやった。

 とは言え、バルザイの偃月刀が肩口にちょっと食い込んだ所で自爆しただけなんだけどね!

 そもそも世界のバックアップを受けてる存在に身一つで勝とうというのが無理ゲ―過ぎる。

 

 まぁ、現状のままじゃこれ以上の成長は恐らく見込めないだろうし、ここいらでそろそろ完全に人間止める事を検討すべきだろう。

 それに、魔道書の本格的な執筆にも力を入れるべきだろう。

 

 

 

 4億と大体500回位

 

 ちょいと人間止めてたのだが、これはあんまり意味が無かった。

 というのも、人間以外にまで何度も転生していた自分にとって、その状態で得られる知識や使用可能な能力なんかはかなりの割合で網羅しているため、大して利益が無い。

 強いて言えば人間の生理限界や魔力量が向上する位だが、月の子に生まれてしまえばそれこそ問題らしい問題は無くなる。

 つまり、オレの成長はほぼ頭打ちと言える。

 まぁ無限螺旋をこのまま過ごしていくなか、魂の成長は続くのだろうが、これ以上の肉体はマスターテリオンの様な外なる神の直系にでもなるしかないだろう。

 そこで、別の手段として考えられたのが、魔道書の作成だ。

 暴君、白と黒の王。

 この無限螺旋で最上級の実力者達はどれも専用の魔道書と鬼械神を持っている。

 この無限螺旋を生き抜くためには魂を、魔力を、魔術を、心を支えるための外部装置として、魔道書は必要不可欠なのだと思われる。

 これは今までに何度も作成しているのでノウハウはあるし、自分自身で魔道書とは何者であるかを体験している身なので、資料は十二分に過ぎる。

 とは言え、自分で作ったものは記述の純度はまだしも魔力の問題で精霊化した事は無かったので、その点をクリアしさえすれば大丈夫だと思われる。

 

 後、最近遂に月の子の落とし子ではなく成功作、つまり暴君ネロの先行生産型に転生するにまで至った。

 ただ、そのせいで一々拘束されるので、あんまり好きではなかったりする。

 

……………………

 

もうマブダチ所か姉妹と言っても良い私達だけど、普段はちっとも出会う機会が少ない。

 そのため、寛ぐには必ず専用の場所=異相空間を用意しておく。

 

 「と言う訳でネロ、協力して。」

 「良いけどさー、ネロは何をすれば良いの?」

 

 六畳一間の畳部屋に炬燵とみかん、テレビにラジオと揃った部屋で、私は目の前で炬燵でぬくぬくして蕩けている猫娘、もとい暴君ネロに協力を要請していた。

 なお、この空間は夢幻心母の別位相空間内に構築したマイルームだ。

 嘗ての自宅を模した構造となっているが、色々対侵入者向けの術式を備えている。

 

 「無名祭祀書あるでしょ?あれ見せて。」

 「良いけどね、書き終わったらネロにも見せてねー。」

 「了解。何とか今回で書き終えるから待っててね。」

 

 自分はここまでさんざ転生して鍛えてきたのに、外なる神々の知識が一流所に比べるとどうしても今一つだという欠点がある。

 その点、無名祭祀書はその辺りはかなり詳しく網羅しているため、知識の穴埋めには最適な魔道書なのだ。

 

 「君達も大分こなれたねぇ。まぁその方が管理する側としては楽なんだけど。」

 「何時来た混沌出てけ混沌。」

 「加齢臭臭いんだよババァ。」

 「まぁまぁ、別に良いじゃないか。」

 

 何時の間にか炬燵に入っているダイナマイトボディのナイア■■■■■■■は、そのまま置いてあったみかんにまで手を出してくる。

 あ、何気に一番熟してる奴取りやがったこのアマ。

 

 「もー良いけどさ…。所で九郎を誘惑してなくていいの?」

 「それなんだけどねぇ…どうもこの恰好だとドキドキしてくれても最後の一線は越えてくれないのさ。だから今度から幼女体型を目指そうかと。」

 「芸風変えるなよな態々…。」

 「ネロとしては折角の数少ない巨乳枠を捨てるのはもったいないと思うけどなー。」

 

 ダルダルダル…。

 普段は即効で殺し合いかメンチ切りに移行するこの3人だが、今だけは炬燵の魔力に捕らわれているために平穏だ。

 

 「それにしても…。」

 「んあ?」

 

 ふと、混沌がこちらに流し眼を送ってくる。

 今の自分は何時もの美幼女リーアちゃんの姿だ。

 銀髪碧眼に白磁の肌、それに加えて明らかに将来を約束された容姿。

 魔道書の精霊化した姿は大抵これだが、「月の子」計画の産物として生まれた場合も大抵はこの容姿だった。

 恐らく、これが自分にとっての完成された姿という事なのだろうか?

 中身はそこらの神格も裸足で逃げ出す位の混沌ぶりなんだけどねぇ。

 

 「君も良い具合に育ったよねぇ。」

 「何故にしみじみと?まぁ強くなったとは思うけどさ。」

 

 ズズズズ…。

 少し温くなった緑茶を啜った後に、ラジオを付ける。

 ふむ、明日は果物のセールか、買い出しに行くべきかな。

 

 「まーた何考えてるのかな?」

 「ははは、何、暴君ばかり働かせるのも悪いかなって。彼女にもちゃんと役割を振ろうと思ってね。」

 

 む、○○マートで肉全品半額セール?

 これは買いだな、メモメモっと…。

 

 「…余り虐めちゃダメだよ?」

 「なーに、彼女にとっては何時もの事さ。大丈夫大丈夫。」

 

 そこ、聞こえてるからな?

 とんでもない事したら全力で抵抗するかんな?

 

 「ふむ、どうやら取り込み中であったか?」

 「イエス、マスター。しかし、もう終わる様です。」

 「何で来てんの大導師様。」

 

 マジでなんで来てんのこの2人?

 

 「マスター、どうぞ。」

 「うむ。」

 

 そして極自然に炬燵に入るマスターテリオンと、それに素早くお茶を入れるエセルドレーダ。

 違和感ばりばりだけど、その忠犬ぶりは全く違和感がありませんねエセルさん!

 

 「えーと、何故ここに?」

 「うむ、余に手傷を与えた貴公が、今回はこちら側だと知ったのでな。こうして会いに来たのだ。」

 

 誰だ教えた奴、先生怒らないから手を上げなさい。

 

 「「は~い。」」

 

 よし、そこに直りなさい愚妹&邪神。

 纏めてツァトゥグアの捧げものにしてあげるから。

 

 「ボクは別に良いけど、お腹壊すと思うよ。」

 「食当たりするわ!って突っ返されそうだよね。」

 「オーケー。つまり反省するって考えは無いんだね?よーし表に出ろ。」

 

 貴様らは私を怒らせたのだ!

 

 「面白そうだな。では余も参加させてもらうとしよう。」

 「すいません勘弁してください。」

 

 即効で土下座する。

 洒落にならねぇよ!

 

 「もうハイパーボリアは勘弁です。」

 「余としては大十次九郎を除けば、中々の娯楽であったのだがな。」

 「娯楽ならこのマリカーでもやっててください。」

 「こういった娯楽は初めてであるな…。よし、エセルドレーダ、そなたも参加せよ。」

 「イエス、マスター。」

 

 勧めておいてなんだが、シュール過ぎる…。

 なお、各種機器の製造はドクターに依頼しました。

 

 「さて、ボクはこの辺りでお暇するよ。」

 「さよーならー。タンスの角に小指ぶつけろ。」

 「さよならー。寝違えちゃえー。」

 「あははは、ボクにとっては余り意味が無いかな?」

 

 そして去っていく混沌。二度と来るな。

 

 「ふ、記録更新だな。」

 「おめでとうございます、マスター・」

 「「マジでッ!?」」

 

 真面目にやってたの!?

 

……………………

 

 早速魔道書作成に取り掛かる。

 先ずその1、異相空間のハウス内に更に厳重な結界を敷いた部屋を用意する。

その2は材料の確保。

 魔道書のページ及び表紙は自分の皮膚をなめして乾燥させたものを使用。

 生皮膚を剥がすな?この程度の苦痛は慣れたし、痛覚遮断も回復薬の作成も別に日常茶飯事なので問題無し。

 インクはイブン・カズィの粉薬に自分の血液、そしてツァトゥグアの神殿で取れた炭を使用。

 その3は記述内容の選定。

 持っている知識は全部ブッ込む事に決定。水と地属性の神格や邪悪な怪物達の他、無名祭祀書からの外なる神々についてとネクロノミコン:ラテン語版とアル=アジフの機神召喚を改造しまくった記述を採用。

 その4、ゆっくり執筆。

 幾ら慣れてる内容だとしても、ヤバいブツである事には代わりありません。

 一日につき数ページずつ執筆して様子を見ながら進めましょう。

 うっかり魔力とSAN値を削り切られるかもしれません。

 執筆完了まで、凡そ数カ月から数年かかります。

 なお、言語は以前から使用している古代語でいく。

 必要になれば機械言語もいけるが、それはまた別の機会としよう。

 その5、魂と魔力を込める。

 さぁ、執筆が完了した魔道書に魂と魔力を込めて精霊化を促しましょう!

 最終工程ですので、くれぐれも慎重に!

 …と思ったら、既に記述内容の影響か、周辺の魔力を吸いまくってる。

 では魂だが…これは自分の魂を分割して封入します。

 これで獅子の心臓の様な膨大な魔力源が無くとも、人為的な魔道書の精霊化を促せる上、ハリ○タの分霊箱の機能も有します。

 つまり、今後うっかりシャイニングトラペゾヘドロンを喰らおうとも、魔道書と自分、どちらかが無事なら滅ぶ事は無くなるのです。

 最低でもあのクソ邪神が負けた所を「ねぇどんな気持ちwwwねぇねぇあんな自信満々だったのに今どんな気持ちwww」をするまでは死ねないからね!

 

 自分自身の最も根源的なナニかが引き裂かれ、抜け落ち、目の前の書物へと吸い込まれていった。

 こうして、凡そ2年の歳月をかけて、文字通り自分の半身たる魔道書が完成した。

 人皮表紙どころか、全てが人皮製、なおかつインクも血液が混ざっている。

 これにより、自身との繋がりが極めて根強くなるだろう。

 それこそ、世界すら飛び越えて、自分の下へと馳せ参じる事もできる魔道書。

 その未だ名も無い魔道書が机から浮かび上がり、そのページが猛烈な勢いで捲くられ、強烈な魔力を発しながら光輝く。

 産声だ。世界に自分は生まれたのだと示すための産声。

 そして、魔道書の姿が変わった。

 銀髪碧眼、白磁の肌に幼いながらも美と妖艶さを併せ持った美貌の幼女が微笑みながら浮かんでいる。

 

 ………………………

 

 「初めましてお母様…と言うべきかな?」

 「別に適当で構わんだろ。何時も女って訳じゃないしね。」

 「成る程ね。んじゃ、名前でも考えようか。」

 

 瓜二つの容姿で、やや乱暴な言葉使いをしながら、2人はあーだこーだと言い続ける。

 

 「無名祭祀書?」

 「パクリだろそれ。」

 「七賢人?」

 「微妙。」

 「無名の神々?」

 「惜しい感じ。」

 「万神格瓦版(よろずしんかくかわらばん)。」

 「何故和風ッ!?」

 「泥神礼賛(でいしんらいさん)?」

 「愚神礼賛懐かしす。水と土で泥ね。んじゃこれにしよう。」

 「おっけおっけ。精霊としての名前は?」

 「リーアでよくね。被るか?」

 「被るね。」

 「アーリで。双子って事にすりゃ大抵通るでしょ。」

 「んじゃそれで決定。鬼械神は?」

 「普通にクシャトリヤでダメ?」

 「紺色だし、オリジナリティ出したい。」

 「オリジナリティwww。」

 「ミサイルパンチ!」

 「へぶぅ!?殴ったね、親父にもぶたれた事無いのに!」

 「で、何か案ある?」

 「紺色だしねぇ…ワダツミで良くない?」

 「採用。」

 

 こうして、今度は半身と合わせてまだまだ終わりに見えない旅が始まった。

 

 

 

 




 人体実験されり触手強制凌辱(クトゥルーとの交神)とかされた上でこの後、更なる凌辱が主人公を襲うッ!!(宣伝


 なお、活動報告でリクエスト募集。
 日記形式だけでなく、見たいと思った部分(R-18問わず)を御希望くだされば執筆します。
 なお、先着3名様とさせていただきます。
 クロス作品は完結後にしますので、そっちはノーカウントで。


 運営の要請により修正(2014 8・31)


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第五話 遂に終盤

今回は急展開につき、色々と注意。



日間ランキング 1位
日間加点    1位
週間      2位
ルーキー    1位
感想      90


……………ちょっと縄と程良い高さの枝を探してきます。



 10億回位?

 

 最近、デモンベインが漸く完成した。

 いやね、原作の最後の回ですら、武装面の術式が未整理だったからさ。

 どうせならちゃんと完成させようかと思って、久しぶりにエイダ夫人の所で頑張ってきたんだよ。

 既にハード部分は完全に完成し、術式部分も自分がアイオーンを参考に手を入れて、更に地味に素材を最新のものへと換装して、完成度110%程度にまで引き上げた。

 

 今後の改修プランとして、自分が対マスターテリオン戦でやった様に、黄金の蜂蜜酒を使用した燃料式魔力機関とアルハザードのランプ(リミッター付き)を搭載する予定だ。

 シミュレーションでは、重量はやや増すものの、出力が跳ね上がる見通しだ。

 元々銀鍵守護神機関で安定して大出力を出せるのに手を加えたので、嘗て存在したマナウス神像内蔵式程ではないものの、かなり強化される。

 主に主機関が停止又は出力が上がらない場合を始めとした緊急時に作動する様にされており、全てを併用した場合、出力が180%まで高まるし、平時でも出力の安定性が跳ね上がる。

 とは言え、リミッター付きとは言えアイオーン(術者殺し)とアンブロシウス(燃料切れ)それぞれの欠点も引き継いでいるので、痛し痒しだが。

 また、出力伝達系が焼き切れる可能性も出てきたので、こちらも素材開発を促進して、順次交換していく必要があるだろう。

 

 さて、自分の方はと言うと、漸く完成した魔道書「泥神礼賛」の精霊たるアーリと共にブラックロッジと覇道財閥を生き来している。

 転生する時代にもよるが、必ずどちらかに味方して、鬼械神による戦闘を幾度も経験している。

 時折ミスカトニックの陰秘学科に所属し、シュリュズべリィと行動を共にし、邪神眷属の住処を不毛の土地にする事もあるが、概ねそんな日々を過ごしている。

 これは鬼械神の稼働データを収集し、それを反映してはまた稼働データを集める事を繰り返すためのもので、既に成長が頭打ちである自分としては、自分を除いた周囲のものを強化していくしか強くなる事はできない。

 

 実際、ワダツミの成長は順調で、既にほぼ全身に渡って改造が行われている。 

 現在、デザインがクシャトリヤから、何故かアイオーン臭がする盾4枚のクイン・マンサになった。

 なお、サイズはネームレスワンとほぼ同じ=約300mである。

 更にキュ○レイ式ファ○ネルコンテナには大量のスターヴァンパイアを召喚するための呪文が刻印されており、100本の触手と合わせ、数十の不可視の攻撃が相手に襲い掛かる事になる。

 主機関はネームレスワン同様魔術機関エンジンとアイオーン・リペアの複合式を採用しているが、その他にもスターヴァンパイアによる吸血を通した魔力吸収、妖蛆の秘密の記述による周辺からの暴食による回復も可能であり、継戦能力は最も高い鬼械神と言える。

 …なんでそこまで継戦能力高いのかと言うと、アイオーンのアルハザードのランプがトラウマになっているからである。

 もーあんなギャリギャリ削り取られるのはマジで勘弁なのだ。

 なお、同型機というか兄弟機に当たるネームレスワンに対し、攻撃力と最大出力は譲るがそれ以外の面、先程言及した継戦能力と手数、防御力と機動性に関しては上回っている。

 

 ちなみに、これを見たマスターテリオンが「気に入った。戯れようか。」と言って、いきなりリベルレギス召喚からのガチバトルが始まったのはつい数回程前の事。

 夢幻心母所か、アーカムシティまで灰燼に帰する程の機神大戦に、更にデモンベインも参戦。

 「あ、これはあかん」となった所でニャルさんが巻き戻して無かった事にした。

 「暴れるなら他に迷惑のかからない場所にしなさい」と何か禍々しい石碑を抱きながらの説教に全私が泣いた。

 なお、大導師は「これが石抱きというものか」とか言って楽しんでた。化け物め。

 エセルドレーダはおろおろして、我が魔道書はゲラゲラ笑ってやがった。後で同じ目に合わせてやった。

 ザマァwww

 

 

 

 もう数えなくて良いんじゃない?回

 

 

 流石に、飽きてきた…。

 が、何とかデモンベインの改修プランを完遂する事が出来た。

 ドクターを積極的に覇道に亡命させ続けた甲斐があった。

 …おかげで、デモンベインの右腕に結界を角錐状に展開、回転させる事で威力を増すドリルパンチ的なものが追加されてしまったのはどうしようか…?

 その威力たるや、貫通力だけならレムリア・インパクトを超え、完全復活状態のダゴンの甲殻を一撃で貫通した程だった。

 この一件については、流石のニャルも僅かな間だが絶句していた。

 流石ドクター、邪神すら絶句させる程のキ○○イっぷりに痺れるけど憧れないぜ!

 

 なお、マスターテリオンは新武装の威力にちょっと満足げでした。

 

 あ、ネロとアーリは爆笑してました。

 

 

 

 前回から大体4億回位の回

 

 いかん、そろそろ限界かもしれん。

 うっかり邪神相手に同衾しても悦ぶだけで怒らないとか……摩耗がかなり限界まで来ている証拠だ。

 元々生粋の魔人たるマスターテリオンとネロ、そして精神構造の異なる魔道書組と比べると、自分の精神はそう頑丈なものではない。

 否、はっきり言って脆弱だ。

 あっちこっちに転生して、常に未体験の刺激に囲まれていたからこそ、ここまで持ったのだ。

 しかし、現在はネロの姉(先行試作型)か人間(男女)の3パターンのみで、嘗ての様な刺激は随分と少なくなってしまった。

 

 最早是非も無し。

 記憶を消そう。

 

 幸いにも既にアーリという魔道書がいるので、もしもの時のバックアップはそちらに取っておける。

 必要な時はそちらから記憶を取り戻し、肉体も魔力で構成された疑似的なものだけでなく、異相空間にクローンボディを用意しておけば、もしもの時でも全力で戦える。

 以前からプランとして温めておいたが、邪神からしても呆れる位遠くの出来事なんて、今のままでは絶対に到達できない。

 どうせだから魂のレベルにもリミッターを設けて、以前の様にあちこち色々な種族として転生するとしよう。

 幸い、クローンボディの作成自体はウェスパシアヌスから盗み見ているので、施設さえあれば直ぐに作成に入れる。

 バックアップに関しても、検閲を免れるために普段から魔道書に取っておいたから大丈夫だろう。

 

 では、こっちにいるネロにちょっと挨拶してから逝くとしようか。

 

 

 

 …………………………………………………

 

 

 ………………………………

 

 

 ……………

 

 

 ………………………………

 

 

 …………………………………………………

 

 

 

 桁を数えるのが面倒な回

 

 久々に記憶が戻った。

 今回はなんとシスター・ライカの保護する4人目の孤児として教会で暮らしていた。

 元気一杯のジョージとコリン、控えめなアリスン、そして無表情不思議系のリーア。

 これがこの回での孤児達のメンバーだった。

 

 今回は特に何かする訳でもなかったのだが、うっかり猫を追ってネクロノミコンの断片の一つであるロイガー&ツアールに見つかって襲われてしまい、それに対処するために記憶が戻ったらしい。

 なお、既にロイガー&ツアールは撃破され、ページに戻っていた。

 

 「別に起こさなくても貴方で対処できた。」

 「そーは言ってもね、こっちは暇で暇で。のんびりボケボケやってる御主人様にちょっとした刺激をと思ったんだ。」

 「余計なお世話。とっとと戻「リーア、大丈夫か!?」

 

 貧乏探偵&ロリババァ魔道書が到着してしまった。Oh…。

 さらば、のんびりな孤児生活。

 こんにちは、びっくりどっきりな魔導師生活。

 

 その後、この回では孤児としての生活の傍ら、表向き?には九郎とアル=アジフ、アーリに魔術を師事する事となった。

 魔道書との契約はアーリに「以前から狙ってたら、絶好のタイミングを発見したので契約した」という事にした。

 あ、アル=アジフが冷や汗流しながら目を反らしてる。

 九郎の時間のある時は、本人の訓練と共に座学中心で3人から習うのだが、意外と九郎が教えるのが上手い。

 流石は元インテリ枠である。

 

 なお、この回はライカルートであったらしく、2人は何時の間にか恋人関係だったのだが、自分とアーリ、アル=アジフに囲まれているのを見て、九郎が真性のロリコンではないかと疑惑の視線を向けていた。

 

 最後、街を襲うダゴン相手に術衣形態で無双するも、最終的にリベルレギスを駆るサンダルフォンに討ち取られた。

 まぁ外見似てるから、発狂状態じゃ同型と考えるのは仕方ないわな。

 

 

 

 実はカウントされてて現在「京」=10の12乗目回

 

 

 今回は特に危険の無い覇道財閥所属の警備員(男)だったのだが、アーリが無理矢理起こした。

 本人が爆笑していて答えられないのでちょっと「眼」を凝らして見ると……ふぁッ!?

 

 なんと、大十字九郎がハーレム作ってた。

 

 これは何気にびっくりの結果だった。

 あの男は回毎に別の人と付き合う事はあっても、二股かけられるだけの甲斐性も器用さも無いので、こんな事は無いと思っていたのに…。

 どうも、アル=アジフ、ライカ、瑠璃の女性陣が自分の気持ちを打ち明けた後、誰も傷つかない方法として、瑠璃が「ハーレム宣言」をかました。

 無論、九郎は抵抗したが、3人がかりのハニートラップに流された。

結果、九郎はあちこちに国籍を持つ様になり、それぞれ別の国籍で別の女性と結婚していた。

 何気にアル=アジフを除いた2人が妊娠していたので超絶ビックリだった。

 

 

 

 遂に垓=10の20乗回に突入

 

 

 今回も爆笑するアーリを見て、思い出す。

 今回はアーカム在住の一般市民だが。何があったん何と思って探したら、直ぐに解った。

 

 何と、登場人物全員が 性転換 していた。

 

 もしやと思って夢幻心母に突撃したら、マスターテリオンとエセルドレーダ、ネロはそのままだった。

 ナイアは何処かと思ったが、クラインの壺の点検に出たそうな。

 後、マスターテリオンが「ちょっと大十字九郎もとい九清(女)と【交尾】してきた。」とか言ってきたので、ついつい過激な突っ込みをしてしまった。

 夢幻心母を揺れて、ドクターの研究室が崩落したが、まぁ大丈夫だろう。

 

 「何故そんな事をした!言え!」

 「別に特別な事ではない。恋人や親しい者を殺すか、身体を凌辱すると、大十字九郎はより奮起するからな。この方が都合が良いのだ。ちなみに処女だったぞ。」

 「そんな情報いらねぇ!?んで後ろ!後ろでエセルドレーダが血涙流してるだろ!もうちょい気遣ってやれよ!」

 「ふむ、ではエセルドレーダよ。余の膝の上に座れ。」

 「そ、そんな!?畏れ多いですマスター!」

 「よい、許す。」

 「…では、その、失礼して…。」

 

 「あれ?私、久しぶりに会ったのに空気?」

 「マスター、深く考えてると禿げるよ。」

 「そーそー、気にしない気にしない。んじゃ久しぶりにネロと遊ぼーよー。」

 「アーリ、お前が禿げろ。エンネアはありがとう、スマ○ラで良い?」

 

 取り敢えず、カオス過ぎる回でした、うん。

 

 私は見なかったんだ…。

 責任取れー!とか涙目で叫ぶマスター・オブ・ネクロノミコンとか、欲するのならば余を奪ってみせよ!とかのたまう獣とか、マスターは渡さない!とか吠える最古の魔道書とか、そんな荒唐無稽な痴話喧嘩なんて見なかったんだ、うん。

 

 

 

 桁?そんなの関係ねぇ!な回

 

 

 今回も爆笑するアーリに起こされた。

 今回の自分はエルザ女史の歳の離れた妹であり、身寄りが無い所をドクターが拾ったという経緯でブラックロッジに身を寄せていた。

 此処までは何度かあった事なので重要ではない。

 で、何が起こったかと言うと…

 

 破壊ロボの性能が上位鬼械神に迫る程にまで向上していた。

 その性能たるや、タイマンでレガシー・オブ・ゴールドを撃破しかねなかった。

 

 え、マジ何が起こったん?

 詳しく思い出してみると、魔術に適性がある事を知り、独学で研究していた自分がドクターの下に引き取られてからというもの、魔術を科学的に解明できないか色々と試行錯誤したらしい。

 そうして生まれた相当数のオーパーツ染みた各種技術が開発され、破壊ロボに組み込んでは撃破され、開発して組み込んでは撃破され……そんな日々が続いた。

 この当時生まれた技術として、モース硬度13の装甲材とか、完全ジェットエンジンとか、レールガンだとか、量子演算CPUの基礎理論だとか、極めつけが7体合体!最終無敵破壊ロボの図面だとかがあり、カオスの産物が日夜生み出されていた。

 結果、そんな日々の中で無意識の内に自分の持つ鬼械神改修の知識を引き出してしまったらしく、妖蛆の秘密の魔力収奪刻印が刻まれた破壊ロボが完成した。

 既に単純な工業製品としての性能においてはデモンベインに比肩し得る破壊ロボが、遂に魔への抵抗力と攻撃力を備えた結果、ちょっとヤバい位のジョグレス進化を起こしたのだった。

 更に、数度のデモンベインとの戦闘で改良点がはっきりした事で、既に次なる改修が始まっているとか…。

 

 「…今回、大丈夫かな?」

 「良いんでない?どうせマスターテリオンには敵わないんだし。」

 

 最終的にはデモンベインの修復費が平均の倍程度かかっただけで済んだ。

 ……頑張れ覇道財閥!世界の命運は君達にかかっている!(目反らし

 

 

 

 おかしいな?桁の終わりが見えない…回

 

 

 そろそろ終わりが見えてきた。

 今回、デモンベインは本当のギリギリの所まで、リベルレギスを追い込んだ。

 何気に左腕部に内蔵された対装甲破壊兵器「シールドピアース」が大活躍で驚いた。

 また、地力で未だに勝るマスターテリオン相手に、全機関を最大稼働して一時的とは言え圧倒するだけの技量も身に付いていた。

 しかし、後一歩と言う所で、2機は大気圏に突入し、アル=アジフは死んで紀元前へ、大破したデモンベインと大十次九郎は19世紀へとそれぞれ飛ばされた。

 恐らく、遅くてもう10回、速くてもう1回で、この無限螺旋は終わる。

 その時、本当に白の王が、魔を断つ剣が勝てるのか…それはまだ、解らない。

 

 ……………………………

 

 「この劇も間も無く幕引きか…。」

 「本当に長かったよ、ボク達からしてもね。」

 「名残惜しかったりする?」

 「そうだね。でも、終わった後の事を考えると凄くゾクゾクするよ。」

 

 生物が存在しえない筈の宇宙空間で、ニ体の存在が地球を見下ろしている。

 片や無限の螺旋に捕らわれた者、彼或いは彼女、物語の傍観者。

 片や無限の螺旋の管理者、燃える三眼、這い寄る混沌。

 共に女子供の形をしていても、既にその存在は人類の叡智を以てしても計り知れないモノだった。

 

 「さて、偶にはお茶でもどうかなお嬢さん?」

 「どういう風の吹きまわし?」

 「ふふふ、それも含めて色々話そうよ。」

 「…落ち着ける場所でね。」

 「お任せあれ♪」

 

 パチン、と混沌が指を鳴らすと同時、周囲の空間は鬱蒼と生い茂る森の中に設置されたお茶会の会場へと変化していた。

 

 「アリスのお茶会。皮肉のつもり?」

 「私らにとっちゃ、これ程合うお茶会も無いんじゃないでしょうかねぇ?」

 

 アリスのお茶会。またの名をマッドネス・ティーパーティー。

 不思議に国のアリスに登場する、三月ウサギ、帽子屋、眠りネズミが開いている終わらないお茶会の事で、狂気の代名詞としても用いられる。

 何時の間にか、混沌の姿が褐色肌の侍女のそれへと変化し、見事な手つきで紅茶を2人分淹れていた。

 

 「それで、話とは?」

 「君がこの私の壺へ入り、随分と時が経った。そして、最初とは見違える程に君は成長した。」

 

 次に混沌が変化したのは褐色肌の神父。

 地球皇帝アウグスティウス、否、ナイ神父だ。

 

 「白の王、黒の王…人類の正と負の極地が成長する傍らで、君もまた人類の極地の一つとして成長した。言うなれば灰の王、中庸の、混沌の極地として。」

 「そんな自覚は無かったけど…それに、私は振り切れていないからこそ、あの2人には勝てない。」

 「それは相性の様なものだ。それに、あの二人に決して負けぬという点では、君もまた同じ場所に立っていると言えよう。」

 「………………。」

 

 紅茶を飲みながら、思考を加速させていく。

 灰の王、人類の中庸の極地。

 そこから導き出される、この混沌が考えそうな最悪のパターンを導き出そうとする。

 

 「褒めちぎるだけが用?」

 「いや。大事な用があるとも。」

 

 神父の顔が突如湧き出た闇黒へと飲み込まれる。

 そこから炎と共に三つの目が浮かび上がる。

 闇黒の中で燃える三眼。

 見る者全てが畏怖し、恐怖し、絶望する無貌の邪神。

 

 「私は求めていた。このままでは他の私同様、この私も敗れると。最も新しき旧き神の手は、私の予想を遥かに超えていた。次で終わるであろうこの無限螺旋においてもそれは同様。だからこそ、私は奴らの策を潰すため、ある仕掛けを用意した。」

 

 闇が広がる。一切の光を通さぬ闇が、視界全てを覆い尽くしていく。

 鬱蒼と生い茂っていた森からこちらを見つめていた不気味な生物達は残らず逃げ去り、尋常ならざる存在達の気配が濃厚に香り、夜鷹の喧しい声が夜の静寂を引き裂いていく。

 

 「神を殺すのは何時も人間である。それがために私は白の王と黒の王を作り上げた…。だが、それは奴らにとっても同じ。奴らを倒すのは私ではない。人間でなくてはならない。」

 

 余りにも圧倒的な瘴気に、森に住まう全ての生き物が逃げ出していく。

 だが、瞬間的に広まった瘴気に、多くの者は逃げ出す事も敵わず、その場で絶命した。

 

 「私では無理なら、他の誰かに任せれば良い。私は極簡単な結論と共に、君が育つのを今の今まで見守ってきた。」

 「待て。」

 

 その言葉が示す内容に、全身が総毛立った。

 視界が歪み、体温が消失し、地面の感触が消え失せる。

 それは、それはつまり

 

 「そう、君もまた私と同じ。千の無貌たる我の分霊、その落とし仔なのだよ。」

 「出鱈目を言うなッ!!」

 

 魔力が吹き荒れ、無意識に編まれた暴食の魔術が空間を駆け廻る。

 

 「おかしいと思わなかったかね?」

 

 闇黒がまるで幼子を諭すかの様に囁きかける。

 聞いてはいけない聞いてはいけない聞いてはいけない!

 これを聞いてしまっては戻れなくなる!

 そんな本能の警鐘は、しかし、意志から離れた身体によって阻止されてしまう。

 

 「普通の魂では己と全く異なる存在への転生など耐え切れん。でなければ白の王を大十次九郎に限定する必要すらなかった。全く異なる時代と地域で、あちらこちらに転生させても良かったのではないかね?」

 

 「魔術に対しても、自分の予想以上に馴染んだとは思わないかね?しかも、途中で巻き込まれた筈の君が、大十次九郎よりも先に成長限界に至ったのは何故だ?」

 

 「マスターテリオンに、暴君ネロに親しみを感じていたのは何故だ?君と同じ、邪神の血族である彼らに同族意識を抱いていたのではないかね?」

 

 「そして、君がただの人間だった頃。常日頃から父親に会いたいと願っていたのではないかね?母親よりも自らに近く、偉大なる存在である父に。」

 

 まるで猛毒の様に、言葉が染み込んでくる。

 その声が耳朶に届くだけで、脳髄が痺れ、機能を果たさなくなる。

 

 「理解したか? さぁ、我が子よ。父の下へ来るのだ。」

 

 足が独りでに動き出す。

 闇の中の闇へ、黒の中の黒へ、闇黒の中の闇黒へ。

 その深奥で燃え盛る三眼の下へと。

 

 「今こそ、お前の枷を解き放とう。さすれば、お前は人間としての性を持ちながら、しかし、背徳の獣に並ぶ半神として新たに生を受けるのだ。」

 

 ゆっくりと、身体が深奥へと飲み込まれていく。

 何処か暖かに感じる、夜の暗闇に似た所へ。

 ゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと…。

 

 やがて、脳裏に過去の風景が蘇っていく。

 

 目茶苦茶強くなった破壊ロボ。

 TSした大十次九郎。

 ハーレム作った大十次九郎。

 マリカーどころかマリパー全部を新記録で塗り固めたマスターテリオン。

 山盛りのホットケーキを喰い尽くさんとするエンネア。

 

 記憶が更に遡る。

 

 深海を夢幻の様に彷徨いながら生きるダゴン。

 暗い地底で仲間達と肌を暖め合いながら暮らす大地の妖蛆。

 南極の狂気山脈に潜む不定形生命体ショゴス。

 潮臭い海辺で、一心不乱に祈りを捧げる深き者共。

 

 更に更に更に遡る。

 

 そこは平和な場所だった。

 自分が始まった場所だった。

 父はおらず、母と二人っきりの家庭。

 苦労は多かったが、それでも暖かだった。

 

 どれも本当だ。

 本当の自分だ。

 本当に?

 混沌の性を持つボクらは、一度それに変ずればそれの性を得る。

 本当に、これらは真実の君だったのかい?

 

 更に更に更に更に更に更に更に更に更にさらにさらにさらにSARANISARANIsarannnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnn…

 

 そこは七つの太陽があった。

 そこには宮殿があった。

 そこには黄ばんだ粘体があった。

 粘体は一度たりとも同じ形を取らず、常に何かへと変形しながら、触れた物体を無機有機問わずに腐食させながら、何処かへと分裂した個体を送りだしている。

 その一つが星の海を渡り、遠き果ての太陽系の地球へと至り、あるヒトの女の胎へと宿った。

 

 『理解したか?では始めよう。』

 「断る。」

 「イア・クトゥグア!」

 

 暗闇の中で、炎が灯る。

 それは怒りの炎だった。

 怒りの炎が獣の形を取り、闇へと躍りかかった。

 

 『な、にぃぃぃぃッ!?』

 

 混沌が叫ぶ。

 驚愕と憤怒、憎悪を込めて、名状し難き叫びを上げる。

 

 『何故だ!確かに解放は成った!貴様は我が眷属へと堕ちる筈だ!!』

 「幾星霜と放置しておいて、今更父親面をされても困るんだよ。」

 

 混沌の叫びへの返事は、そんなものだった。

 極当たり前の、疎遠な親子の会話。

 

 「それに、昔から決めていたんだ。」

 

 親指の腹を噛みちぎり、その血を大地へと垂らす。

 

 「母さんを苦労させた馬鹿親父を、何時か必ずぶん殴るってなぁッ!イア・ツァトゥグア!!」

 

 信者の呼び声に、地の邪神がその力を貸し与える。

 大地が隆起し、巨大な獣の姿となって、闇黒へと突っ込んでいく。

 

 『は、はハハはハハははははハハはははは!!』

 

 だが、闇黒から出現した膨大な水が津波となって巨獣をただの土くれの如く押し流す。

 

 『貴様もか。貴様も我が思惑を超えていくか。』

 「親は子に超えられるもの。常識だ。」

 『あぁ、そうだとも。だがまだまだ甘い。これでは落第だ。』

 

 途端、リーアの視界が揺れた。

 

 「な、に、を…!」

 『何時ぞやだったか。摩耗したとは言え、私と臥所を共にする等、些か以上に無防備であったのではないかね?』

 

 それが意味する事に、顔から血の気が引いていった。

 

 「ま、さか…!?」

 『君の胎には、既に次なる我が仔が宿っている。君を無くすのは惜しいが、代わりは既にいる。さらばだ、我が仔よ。次はより強く、より従順で、より邪悪な仔が生れよう。』

 

 ボン、と腹が急激に膨張した。

 本来1年近くかけて膨らむ筈が、一瞬でなった事により、腹の皮膚が一気に裂け、鮮血が飛び散る。

 

 「が、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!?!!!??!!!」

 

 絶叫が響き渡る。

 みちみちみちみちみちみちみちみちみち、と音を立てて腹が裂けていく。

 

 『はハハははははハハはハハはははは!!さぁ生まれ出でよ我が子よ!その生誕を祝い、その命を愛そうではないか!はははハハはハハはははは!』

 

 冒涜的なまでに白い手が2本、腹から突き出てきた。

 その手は外気に触れたためか、一瞬だけ戦慄いた後に、突き破った腹を左右に広げた。

 広げられた腹は当たり前の様に引き裂かれた。

 裂け目は腹だけでなく、頭から股下まで達し、母体を一瞬で肉塊へと変貌させた。

 物理法則を超越する形で生まれたのは、未だ幼い少年だった。

 銀の髪に銀の瞳、白磁の肌、そして血に塗れてなお霞まぬ、母親に似た少女と見紛う程の妖艶な美貌。

 ただ人間と異なるのは、その背にそれぞれ一本ずつ猛禽が如き翼と竜が如き翼を備えている事だ。

 

 『さぁ、我が子よ。父の下へ来るのだ。』

 

 何も知らない無垢な幼子は、父を名乗る闇黒へと一歩踏み出す。

 何に抗うべきかを知らぬ無垢なる赤子では、邪神の誘惑を振り切る事は出来ない。

 だから

 

 「させるかよ、このDV親父。」

 

 幼子には必ず保護者が付いている。

 血塗れの赤子の回りを宙から現れた魔道書がページへと解けて舞う。

 やがてページの紙吹雪が一つとなり、少女の姿へと結実する。

 

 「この子の親権は私達が主張する。長年育児放棄した挙句に養育費も払わず、嫁さんを放置したテメェに親たる資格は無い。」

 『ハハはハハ、ならばどうするのかね?』

 「取り敢えずこうする。」

 

 魔道書「泥神礼賛」の精霊、アーリが空間を叩き割る。

 まるで硝子細工の様に砕けた空間の隙間から、1人の少女が降り立つ。

 

 「はい、お母さんですよ。」

 

 予備の身体を用いて、彼女は今一度我が子の前へと降り立った。

 

 「お   ぁ   ん」

 「うん、お母さんだよ。後でたくさんお話しようね。」

 

 身長差も、外見的な年齢の差も殆どない。

 片や血濡れの幼子で、片や全裸の少女であった。

 それでも、確かに2人の間には目に見えぬ絆があった。

 

 『馬鹿な!そんなモノを愛するというのか!?人として生まれた貴様が、母を殺し、魔として生まれ堕ちた者をぉッ!?!』

 「そう言う言葉が出る時点で、貴方に親たる資格は無いんだよ、ナイアルラトホテップ。」

 「そう言う事。んじゃ、そろそろ退散しますか。」

 

 アーリの姿がページへと戻り、今度は親子を包み込む。

 全てのページが結実した時、そこには力と戦の天使の名を持つ戦士の姿と、その腕に抱かれる幼子の姿だった。

 だが、恐ろしき力を持つ父母を前にしても、幼子の母へと伸ばす手には小揺るぎもしなかった。

 

 『この子は渡さない!嘗て母がしてくれた様に、この子は私が育てる!』

 『肩部装甲展開!第一級消滅術式起動!安全リミッタ全解放!』

 『消し飛べ!ガンマ・レイッ!!』

 

 両肩を覆い尽くす程の装甲に隠された砲口から、極太の魔力砲が放たれた。

 

 『愚かな!忌々しき旧神に汚染されたかぁッ!!』

 

 だが、闇黒たる混沌には届かない。

 地上の太陽を思わせる一撃も、邪神の前には無為に散らされる。

 

 『無論、承知している。』

 

 戦士の手には一冊の魔道書が握られていた。

 ネクロノミコン機械言語訳。

 嘗てのループで手にした、精霊化し、しかし力及ばず死した魔道書。

 これを呼び水に、ある存在を呼び寄せる。

 

 『本来閉鎖した筈のクラインの壺だが、管理者権限を持つ者ならそれをある程度無視できる。』

 『させんッ!!』

 

 無論、本来の管理者権限を持つ混沌が名伏し難き声と共に、ゼルエルの権利行使を妨げる。

 だが、ゼルエルが目的を果たすためには、ほんの僅かな時間で十分だった。

 

 『憎悪の空より来たりて、

  正しき怒りを胸に、

  我らは魔を断つ剣を執る!

 

  汝、無垢なる刃 デモンベイン!!』

 

 轟音と共に、ゼルエルのすぐ脇の空間が砕け散った。

 そこから突き出たのは巨大な銃口だ。

 燃える闘志を凝縮したかの様な、黒金に真紅の装飾が刻まれた自動式拳銃クトゥグア

 暴君ネロから九郎へと渡された魔術兵装の一つだが、此処にあるのは彼女達の記憶にあるものより強大で、偉大で、勇猛であった。

 

 『イア・クトゥグア!』

 

 砕け散った空間から、若い男の声が響く。

 同時、クトゥグアの銃口から巨大な銃弾が放たれる。

 炎を纏ったそれは、一瞬で怒れる炎の旧支配者へと姿を変じ、闇黒へと躍りかかった。

 

 『おぉぉぉぉぉのれぇぇぇぇぇぇぇぇい!!最も新しき旧き神、エルダァァァァァァァァァゴッドォォォォォォォォォォォォッ!!』

 『さらばだ混沌!』

 『あーばよとっつぁーん!』

 

 こうして、辛くも母子と魔道書は邪神の魔手から逃れたのだった。

 

 

 

 

 

 「しかし、偉く準備が良かったな。」

 「そりゃね。マスターが何か孕んでるのは気付いてたし。」

 「え?」

 「え?」

 「………。」

 「もしかして、気付いてなかった?」

 「………。」

 「もしかして、さっきのはテンションのまま喋ってた?」

 「………。」

 「この子どうする?」

 「育てる。」

 「まぁそこだけはっきりしてるなら問題ないか。」

 

 

 

 

 




月の子の役割=クトゥルー使役のための巫女。
ネロの役割=↑とマスターテリオンの転生のための母胎

これらの要素から、主人公が月の子に転生する時点で今回の話はプロット立てていた。


昨晩投下する筈が最後で寝落ちしてたので今投稿しました。


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最終回 上 仮面の戦士と少年の目覚め

日間   18位
日間加点  2位
ルーキー  6位
週間    2位
感想   138
UA  37226

どうやらまだ幻覚は続いているらしい。



今回は全体に渡ってシリアス。
シリアルをお求めの方はごめんなさい。


 

 最終回 上  仮面の戦士と少年の目覚め

 

 

 夜のアーカムシティ。

 世界で第4位の魔が跋扈する都市の夜は、極めて物騒である。

 その代表的な例は幾つかある。

 例えば、破壊ロボ。

 大抵は夜に出現するが、稀に昼間にも出現する、秘密結社ブラックロッジの破壊の象徴の一つ。

 例えば、アンチクロス。

 滅多に表に現れる事はないが、それでも死後の安息すら冒涜する彼らの悪行は響き渡っている。

 例えば、マスターテリオン

 こちらはブラックロッジの、アンチクロス達の首領と言う事で、半ば都市伝説的存在だが、その実在を知る者からすれば、その存在は絶望の具現である。

 そしてもう一つ。

 天使の名を持つ、仮面の戦士達である。

 

 夜のアーカムシティの空を、4つの影が飛び交っている。

 眼下にビルや街灯の灯りを見下ろしながら、彼らは時に火花や閃光を撒き散らしながら高速で飛翔する。

 

 『メタトロォォォォンッ!』

 『ぐぅぅぅぅぅぅッ!?』

 

 黒の仮面を被ったサンダルフォンが、その拳で以て白のメタトロンへと肉迫する。

 対するメタトロンは魔力で編んだ剣によって対応する。

 しかし、今日の所はサンダルフォンの方が勢いがあり、劣勢を強いられていた。

 

 『ッ、ぬぅ!!』

 

 そこに、2条の閃光が飛来する。

 ビル程度なら容易く貫通するその一撃に、咄嗟に白黒の2人は互いを蹴り合って離脱する。

 

 『おのれェェ!!』

 『助かる!』

 

 2人の視線の先には、先の一撃を放った者がいた。

 深い紺色の仮面の戦士ゼルエル。

 先の2人に比べ、3m近い体躯、肩部の巨大な砲口、爬虫類染みた尾など、人外の如き姿であるが、その精神、その行動はそれとは正逆のものだ。

 

 『油断するな! ック!?』

 『ボクを無視するのは酷くないかい?』

 

 その紺の戦士に橙の影が襲い掛かった。

 ゼルエルによく似た外観を持つが、しかし決して同じものではない。

 

 『アハははハハ!そんなにあっちが気になるんだ!?』

 

 明るい橙色の仮面、3m近い体躯、肩部後方から覗く巨大なスラスター、爬虫類染みた尾。

 その名もケルヴィエル。

 智天使達の長にしてゼルエルと同一視される天使、その名を持つ最後の仮面の戦士である。

 ケルヴィエルは全身に装着した重厚な装甲を鈍器の様に振りかざし、狂笑と共に突撃する。

 苦痛も恐怖も一切なく、唯只管に愚直に突進する。

 この4人の中で最も堅牢かつ高馬力を持つが故にそれは正しい戦法だが、同時に最も愚かしくもある。

 

 『間抜け。』

 

 それは言ってしまえば力任せのおおぶりの一撃でしかない。

 パワーは劣るが、系譜を同じくする者にとって、それは弱点を晒している様なものだ。

 事実、その身体を砕かんと振り下ろされた拳はあっさりと往なされ、合気の要領であっさりと投げ飛ばされ、ビルの屋上へ叩き付けられた。

 

 『ガァァッ!』

 

 だが、彼らにとってその程度ではダメージ足り得ない。

 そんな事は彼らにとって百も承知。

 

 『魔剣。』

 

 剣状に変形した腕部装甲が光を放ちながら横に一閃。

 直後、ケルヴィエルの胸部装甲が切断された。

 

 『ガハァ!?』

 『寝ていろ。』

 

 倒れ伏したケルヴィエルを尻目に、ゼルエルがメタトロンへ加勢すべく、背面のスラスターを噴かした。

 

 

 

 彼らこそ、アーカムの脅威にして守護者。

 平和を守るために戦うメタトロンとゼルエル。

 その2人を打倒せんと戦うサンダルフォンとケルヴィエル。

 時に破壊ロボも交えながら、季節を問わずに戦うのが最近の彼らの日常だった。

 

 

 ………………………

 

 

 「朝か……。」

 

 むくっと起き上がる。

 うむむ、昨夜の戦闘の疲れがちょっと残ってる感じ。

 

 「おーい、起きたかー?」

 「今起きた。アレクは?」

 「もう起きてさっき着替えた。ご飯食べる所。」

 「んじゃ起きる。」

 「あいよ。コーヒーでいい?」

 「砂糖とミルクありありで。」

 「はーい。」

 

 前回、自らの出自を知り、更に息子まで授かった後、私はミスカトニック大学陰秘学科に保護を願い出た。

 幸い、その当時は原作本編開始の10年程前であり、未だシュリュズべリィ先生も存命の頃だった。

 私自身はその後、陰秘学科に所属して、彼らの仕事を手伝ったのだが、シュリュズべリィ先生を助ける事は出来なかった。

 現在はアーカムを中心にブラックロッジ対策を行っているが、それとて大抵は破壊ロボへの対応であり、他にも奉仕種族の根拠地への攻撃作戦等、出張も多い。

 あれからナイア■■■■■■■■からの介入も無いが、日々準備はしている。

 あんにゃろうの事だから、絶対にド外道戦術を使ってくるに違いないからだ。

 だからこそ、息子の周囲には常に気を付けている。

 羽と原初の記憶を封じたのもその一環だ。

 少なくとも、最低限制御できるようになるまでは続ける予定だ。

 なお、息子にはアレクと名付けた。

 某型月の大王の様に、大らか且つ王道を行く人になって欲しいという願いからだ。

 まぁ、最低限父親に似ないでくれたらよいと思っている。

 

 「おはよう。」

 「おはよー母さん。」

 

 うん、うちの子は天使だ(確信。

 銀髪銀眼に白磁の肌、ちょっと眠そうな垂れ目がキューティクル(死語。

学校でもさぞやモテるに違いない。

 相方のアーリと私から魔術と体術、仕事で知り合った海兵隊の皆さんから戦術その他の手解きも受けているし、スペック面も申し分ない。

 少なくとも私の目の黒い(碧眼だが)内は婿には出さない。

 

「はいコーヒー。」

 「ありがとう。」

 

 しかし、アーリの家事スキルは年々上昇の一途だな。

 いやさ、こんな事になる前から家事は好きだったけど。

 男なのに専業主夫になりたいとか思ってたけどさ。

 

 「では、いただきます。」

 「「いただきます。」」

 

 今日も命に感謝して、目一杯生きましょう。

 

 

 ………………………

 

 

 僕はアレク。アレク・アシュトン。

 リーア母さんの息子で、母さんとアーリ叔母さんとの3人でアーカムに暮らしてる10歳児で、ミスカトニック大学付属のジュニアスクールに通ってる。

 週末の勉強会や訓練なんかは難しいけど、母さん達と一緒だから毎日がとても楽しい。

 学校も最近は友達もたくさん出来たし、勉強も割と簡単で、特に問題は無いかな。

 昔から母さん達は忙しくて滅多に家にいないけど、それでも一杯の愛情を受けてると信じられる。

 ちなみに、家にいない間は近所の教会でお世話になってる。

 アーリ叔母さんは、僕と同じ様な歳に見えるけど、実はうんと年上なんだそうな。

 母さんもそうらしいんだけど、実際の年齢は2人とも知らない。

 「数える意味が無い」んだってさ。

 だから、歳を聞かれた時は「何歳に見えますか?」って逆に聞くんだって。

 よく分かんないや。

 

 「母さん達は今日はお仕事?」

 「今日は午前中だけ大学に顔を出すだけだ。午後は空いてるぞ。」

 「だってさ。急いで帰って転ばないようになー。」

 「はーい!」

 

 今日は家に長くいてくれるみたい。

 帰ってきた時が楽しみ!

 

 

 ………………………

 

 

 「いい加減その口調止めたら?」

 「息子の前では良き母、出来る女でありたいんだ。」

 「ハハッワロスwwwww」

 「オーケー、表に出ろや。」

 

 やれやれ、我が主殿も子煩悩な事で。

 あ、私はアーリ。魔道書「泥神礼賛」の精霊な。

 つっても、純粋な魔道書の精霊じゃなくて、マスターの魂の一部を入れた分霊みたいなもんだ。

 まぁ性能や記述に関しては最高位の魔道書に勝るとも劣らないって自負があるがね。

 ちなみに私は元男性としての意識の割合が多いんで、こんなハスッパな口調だったりする。

 そのせいで以前マスターがヴィ○タのコスプレさせやがった事もあるが、スタイルに関してはまんま幼女だから結構似合ってた。

 

 「んで、午前はなんだっけ?」

 「ミスカトニックで先日の戦闘の報告、及び消耗した装備の申請。」

 「あいあい、んじゃ急ぎますか。」

 

 どうにも先日から怪異による被害が増加傾向にある。

 しかも、それにブラックロッジ絡みの騒ぎまで重なるもんだから、幾ら私らが邪神の系譜にあると言っても疲れが出てきた。

 

 「午後はどうすんの?」

 「偶には私が料理しよう。お前はアレクと一緒に寛いでくれ。」

 「おや珍しい。時間ありゃあの子に構い倒すのに。」

 「お前も偶にはリフレッシュすれば良いさ。」

 

 今こうして会話している間も主殿はせっせと化粧している。

 肉体年齢は20代半ば程度まで成長したとは言え、まともに老化なんざしないんだから化粧なんて必要ない、とは昔のマスターの言。

 しかし、アレクが学校に通うようになってからは、あのシスター・ライカから「いけません!そんな勿体ない!第一、貴方が美人とは言えすっぴんのままで人前に出てアレク君が馬鹿にされたらどう思いますか!化粧する金も無いのかって!」と言われて以来、必死に練習して習得した。

 流石マスター、親馬鹿に過ぎる。

 

 「…何か失礼な事を考えてないか?」

 「そろそろ出ないと遅刻すんぞー。」

 

 何か子持ちになってから妙に勘が冴え渡ってやがる。

 母は強しって事かねぇ?

 

 「置いてくぞ。」

 「おっとっと。んじゃ行きますか。」

 

 身体を魔道書に戻してっと。

 陰秘学科に付くまでは鞄の中。

 意外とこうした狭くて暗い場所って落ち着くよなー。

 

 

 ………………………

 

 

 ミスカトニック構内を1人の女性が歩いていく。

 リーア・アシュトン。

 未だ20代半ば程度の容姿に反し、未婚の一児の母にして、この学校の名物講師である。

 銀髪碧眼に白磁の肌、スレンダーな肢体を持つ、切れ目の美しい女性だ。

 その外見に比例してか、能力に関しては正にできる女の見本と言っても良い。

所属は陰秘学科というオカルト紛いのものなのだが、よく出張に出かけるため、滅多に学内で見かける事は無い。

 極稀に陰秘学科以外の他の学科(例:経済科)でも授業をする事もあり、その時は聴講者が教室内に入り切れない程集まる。

 授業内容も解り易く、質問にも誠実に答えてくれる事もあり、男女問わず絶大な人気を誇る。

 ミスカトニックの男性諸氏からは例えコブ付きでも!と熱心にアピールされる事もあるが、未だ誰も成功した事は無い。

 実年齢にしても「何歳に見える?」と逆に妖しく微笑みながら訊かれるため、その実態は謎に包まれている。

 

 そんな彼女が、実は1人息子を溺愛しているのを知るのは、この学校では陰秘学科特殊資料室の面々と今は亡きラバン・シュリュズべリィ教授のみである。

 

 「……と、報告は以上です。」

 「うむ、今回も御苦労だった。」

 

 秘密図書館付属の事務室にて、リーアはアーミティッジ教授に先日の報告に来ていた。

 

 「やはり怪異は増加傾向か…。」

 「星辰の時が近づいていますから。幸い、他の地域ではそこまで目立った動きはありませんが…。」

 「何れ大きな事が起こると?」

 「既に随分前から予兆はあったかと。」

 

 その度合いに差こそあれ、2人は揃って頭を悩ませる。

 この街を、人類の未来を邪悪の魔手から守る事を命題としている抵抗者である故に、彼らの敵の強大さを思うと不安の種は尽きる事はない。

 

 「取り敢えず、臨機応変にいくしかありませんね。」

 「じゃのう…。」

 

 

 だが、彼らの悩みを余所に、事態は深く静かに進行していた。

 今日この日から、世界の運命は遂に終わりに向けて動き出す。

 

 

 …………………………

 

 

 翌日、アレクは母達が出かけたので、何時も世話になっているシスター・ライカが経営している教会に来ていた。

 彼の年下の友人達3人も此処で世話になっており、昔から顔見知りのお騒がせ2人組に内気な妹分とのじゃれ合いは学校でのそれよりもかなり激しい。

 更に今日は偶に世話になりに来る元エリート現在探偵の貧乏青年が幼女連れで来たため、普段よりもかなり激しいじゃれ合いだった。

 その時までは。

 

 夕暮れの、正に逢魔が刻となる時刻。

 唐突に教会の扉が開いた瞬間

 

 ――――――――世界が凍りついた。

 

 夕日の黄金色が教会を幻想的に染め上げる。

 それと共に甲高い靴音が響く。

 黄金色の光の中から、絶望が足音を立てながら顕れた。

 金髪金眼、神の寵愛を全身に受けた様な、ゾッとする程の凄絶な美貌の少年が、穏やかな笑みを浮かべながら歩いてきた。

 アレクの意識は完全に凍りついていた。

 だが、弛まぬ訓練の成果か、はたまたその出自によるものか、彼の身体は無意識の内に年下の子供達を背後へと庇う。

 その彼を、更にライカが庇う様に前に出る。

 少年がほんの僅かに驚いた様に何事かを漏らしたが、直後に迸った魔力により、ライカは吹き飛ばされ、祭壇に激突した挙句、二転三転した上で床に沈み、子供達が悲鳴を上げる。

 

 「てめぇ…ッ!」

 

 誰もが動けない中で只1人、九郎が前に出た。

 

 「ふむ、奴の仔もいるのか。これはまた楽しみが増えたな。」

 

 黄金の少年が銀の少年たるアレクを見て、愉快そうにその目を細めた。

 その黄金の瞳を見て、アレクは何か自分の内側がざわつく様な感覚を得た。

 魔術の行使による魔力の流動ではなく、もっと根源的で本質的で原初的な何かが囁くのだ。

 目の前のモノと自分はとても近しいモノだ、と。

 

 「僕を、知ってるんですか?」

 「如何にも。余と貴公の母は浅からぬ縁がある。無論、父ともな。」

 

 必死に絞り出した疑問への返答にヒュッ、とアレクの呼吸が止まる。

 母は絶対に父親の事は話す事はなかった。

 幾つかの厳重な約束と共に、それが触れてはならない事だと、少年の短い人生経験なりに悟っていたからだ。

 しかし、目の前に突然現れた父への繋がりは、興味本位で近づくのは余りに危険な存在だった。

 

 「まぁ良い。積もる話もあるが、今は貴公よりも優先すべき事がある。」

 

 向けられたその眼には、既にアレクの事は映っていなかった。

 

 「初めまして、になるかな? 大十字九郎。」

 

 こうして、背徳の獣と魔導探偵はこの世「回」における初めての邂逅を遂げた。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、教会であった出来事については、概ね正史通りであったため、詳しくは語らない。

 だが、1人の少年の中に芽生えた疑念に、闇黒の中で燃える三眼のみが名状し難き笑い声をあげた。

 

 

 

 

 




息子アレクは生まれた当初の記憶は背中の羽と共に封印中。
故に能力はあくまで人間基準の才能ある方。
才能ある分野は土、ない分野は炎(特にクトゥグア)。



マステリ「(ゲームの話とか甥っ子の事とか)積もる話もあるが…。」

天上天下唯我独尊フリーダム。これぞ私のマステリ様w
でも役者でもあるので場の空気を読むのは得意。


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最終回 中  親仔と約束

 今回、主人公のヒロイン度がアップします。
 あ、シリアルはありますよ。


 
 後、一時運営からメッセージ貰って閲覧できなくなっていた事をお詫びします。
 以前やった感想欄でリクエストが規約違反だったとの事です。
 
 なお、現在リクエストは活動報告に移っていますので、よければご利用ください。





 最終回 中  親仔と約束

 

 

 「母さん…僕の父さんって誰?」

 

 遂にと言うべきか、やっとと言うべきか、アレクかた父親の事を尋ねられた。

 これで2回目の事なのだが、前回は色々約束事をして有耶無耶にしてしまったので、今回ばかりはちゃんと話さなければならない。

 

 (しゃーないさ。シュリュズべリィ先生がやられた直後で苛立ってんだしさ。)

 

 とは言え、今まで対話を怠っていた事は事実だ。

 ここいらで話せる事は話さなければならない。

 無論、あの野郎からの検閲にかからない程度にだが。

 

 「そうだな…先ずは何が聞きたい?」

 「先日、あのマスターテリオンに、母さんとは知り合いだって言われた。」

 「アイツか…。」

 

 あの廃ゲーマーめ、余計な事を…。

 否、これも混沌からのオーダーか?

 

 「薄々気づいていると思うが、私はブラックロッジを始め、地球上に存在する邪神眷属共と戦っている。マスターテリオンとはそっち関係で知り合った。」

 「じゃぁ、父さんは?」

 

 やはりそこが気になるか…。

 自分の顔が歪むのが解る。

 だが、此処は反らしてはいけない。

 正面から受け止めなければならない。

 

 「お前の…あー、遺伝子上の父親は、マスターテリオンよりも更に邪悪な存在だ。」

 「…アレ以上のがいるの?」

 「いるんだ。」

 

 言いたい事は良く解る。

 私も初めてマスターテリオンを見た時は心臓が一瞬止まったしね。

 

 「世の中には、本当に邪悪な存在というものがあるんだ。アレは正にその典型だ。」

 「でも、お母さんはその人とその…/////。」

 

 あー、うん、御年頃だからね。

 そーゆーのも気になっちゃうよね。

 顔真っ赤にしちゃってかーわいー…っとゲフンゲフン!

 

 「まぁ、うん。子供が出来る事はしたよ。とは言え、あの頃は色々と荒んでたからな。私も隙を突かれた。」

 「あの頃っておめー、色々やらかしてたよなー。」

 

 プギャーwwwと指さして笑うアーリに無言でハイキック。

 避けられた、くそう。

 

 「取り敢えず、以前の約束は覚えているな?」

 「え、う、うん。」

 「なら良いさ。危ない事は出来るだけしてくれるなよ?」

 「でも必要なら踏み込め。その時は躊躇うなよ。」

 「はい!」

 「よろしい。では夕飯にするとしよう。」

 

 後にして思えば、この日が最後の平和の日だったんだよなぁ…。

 

 

 ………………………………

 

 

 遂にブラックロッジが、マスターテリオンが動いた。

 前回の様な戯れではなく、この回を終わりへと動かすための一手。

 先日の3体の鬼械神の戦闘の余波により、ボロボロとなっていたアーカムシティに追い打ちをかける様に大量の無人式の破壊ロボが飛来した。

 

 『ガンマレイ!』

 

 ビルの上から発射された二条の砲撃がそのまま横薙ぎに照射される。

 それにより、一瞬の内に大量の破壊ロボが撃破されるが、余りに迫り来る物量相手では焼け石に水でしかない。

 それでも充填が完了次第、順次発射して数を減らすが、犠牲者の数は増え続ける一方だった。

 幸い、有事の際の避難誘導は機能しているので、そう遠くない内に避難は完了するだろう。

 

 『ゼルエェェェェェェルッ!』

 『ぬぅぅ!?』

 

 が、それもこのまま順調に推移すれば、という注釈が付く。

 飛来したケルヴィエルの攻撃に、砲撃を中止せざるを得なかった。

 遠くではメタトロンもまたサンダルフォンとの戦闘を開始し、破壊ロボの撃破が止まる。

 

 『邪魔だァァァァァァ!!』

 『がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 彼女が此処にいると言う事は、今、教会の子供達は避難が完了したのだろう。

 が、この状況下であの混沌が何もしない筈が無い。

 だからこそ、一刻も早くこの敵を撃退する必要があった。

 

 『シィッ!』

 『っく!』

 

 だが、ゼルエルの、リーアの中では第六感が警鐘を鳴らしていた。

 目の前の者を殺してはならない、と。

 同時に、即座に抹殺すべきだ、とも。

 

 『ガぁ!』

 

 何時もの大振りの一撃を反らし、流し、弾く。

 隙を見つけては時折カウンターを挟み、ダメージを蓄積させる。

 10分程それを繰り返すだけで、何時も通りケルヴィエルは戦闘続行が不可能となった。

 

 『ちっ、時間を喰った。』

 

 背を向けて索敵及び戦況把握を行いながら離脱の準備を始める。

 ゼルエルの中では何時も通りの事だった。

 だが、ケルヴィエルにとっては違った。

 

 

 ………………………………

 

 

 声が聞こえるのだ。

 闇黒の中から、何者かの声が。

 

 ≪おやおや、やはり君じゃダメだったか。まぁそんなものだろうね。≫

 ≪君ではやはり彼女の■には成れないという事だね。≫

 

 黙れ。

 

 ≪うん、まだ意識があるのかい?≫

 

 僕はあの人の■だ。僕こそが、僕だけが、あの人の■なんだ。

 

 ≪なら証明してみせなよ。このままじゃ彼女は去るよ、何時も通りに。誰かのために、息子のために。君の為じゃなくね。≫

 

 煩い黙れ。

 そんなもの、出来ればとっくにやっている。

 

 ≪なんだ、やる気は十分じゃないか。なら、少し位手を貸してあげよう。何、君が頑張ってくれるなら、ボクとしても楽だしね。期待してるよ。≫

 

 

 ………………………………

 

 

 殺気を感じ、瞬時に背後に向き直る。

 破損した筈の装甲もそのままに、戦闘能力を喪失した筈のケルヴィエルが立ちあがっていた。

 

 『敵魔力の上昇を確認。ヤバいぞ。』

 『解った。一撃でケリを付ける。』

 

 瞬時に肩部装甲を展開、チャージを開始する。

 ガンマレイの最大出力照射。

 軽く山位消し飛ぶ威力の一撃だが、全力で警鐘を鳴らす第六感に従い、躊躇いなく使用する。

 

 『ガンマ…』

 『…ぜ…。』

 

 チャージ終了の一拍前、ケルヴィエルが装甲の隙間から魔力光を噴き出しながら突貫した。

 

 『…何故…!』

 『レイッ!!』

 

 ガンマレイが照射される。

 山をも消し飛ばす一撃は確実にケルヴィエルを消滅させる。

 

 『何故だッ!!』

 

 だが、それは何時もの彼女ならの話。

 今のケルヴィエルには当て嵌まらない。

 展開した装甲から極めて強固な防御陣が展開、山すら消し飛ばす一撃に耐えながら突進を続行する。

 

 『ぬぅッ!?』

 

 ゼルエルに此処に来て始めて焦りらしい焦りが見えた。

 第六感が益々矛盾した感覚を叫ぶ中、それを理性で抑えつけながら、収束率を向上させる事で、その防御を貫こうとする

 

 『何故だッ!母さんッ!!』

 

 瞬間に、照射を強制カットした。

 強引な停止に余剰エネルギーが術衣を、身体を焼きながら稲妻の様に駆け巡る。

 

 『馬鹿野郎!?』

 

 主が悲鳴すら漏らせない程の激痛に晒された事で、魔道書が強制的に防御陣と回復魔術を展開する。

 だが、暴走状態と言っても過言ではないケルヴィエルに、その程度の対応策では足りな過ぎる。

 

 『何故、僕を捨てたぁぁッ!!』

 

 遂に接敵したケルヴィエルが、その拳を瀕死のゼルエルの胴体へと突き込んだ。

 鮮血が飛び散った。

 

 

 …………………………

 

 

 ケルヴィエルの、彼女の一番古い記憶は病的なまでに白い部屋だった。

 その部屋には自分以外おらず、時折、点灯するテレビが一台置いてあるだけだった。

 そのテレビが映すのは、よくあるホームドラマだった。

 父がいて、母がいて、子供がいて、仲良く3人で暮らしている。

 時折、その内の誰かが欠けているものもあれば、子供がたくさんいたり、更に祖父母もいる。

 何時もホームドラマには2人以上の家族がいた。

 けれどある日、唐突に1人だけになった。

 白い部屋に座るガリガリに痩せ細った少女。

 それは自分だった。

 動かず、どんどん痩せ細り、遂には倒れ、衰弱死していく様が何度も流れていく。

 気が狂うかと思った。

 何故こんなものを見せるのか、何時かこれが実現してしまうのではないか、恐怖と狂気の狭間で泣き叫んだ。

 

 ≪それは君が1人だからだよ。≫

 

 叫びに答える声と共に、テレビの内容が変わった。

 母1人に子1人、それを囲む多くの家族ではない多くの人々。

 初めて見るその母子は、自分の容姿とよく似ていた。

 

 ≪酷いねぇあの2人は。君がここで1人だけで苦しんでるのに、2人だけであんなに幸せそうだ。≫

 

 声が響く。

 

 ≪ねぇ、羨ましくないかい? あの母親の愛情は、君にも与えられる筈のものだった。あの子供の幸福は、君にも与えられる筈だった。どうして君だけ、なんて思わないかい?≫

 

 声が響く。

 

 ≪なら自分のものにしてしまおう。自分と共にいてもらおうよ。そうすれば、もう寂しい事なんてない。あの子供に独占されていた、君自身の幸せを取り戻すんだ。≫

 

 声が響く。

 

 ≪なに、もうそのための手段は準備してある。君はただ、願うだけでそのための力を得られるんだ。さぁ、後は唱えるだけだ。≫

 

「…変…神…。」

 

 すとん、と何かが嵌った様な気がした。

 身体が根底から書き換わる感覚。

 世界をより深く、鮮明に感じ取る事が出来、力が全身から漲ってくる。

 

 ≪さぁ往こうか落とし仔よ! 君の母を迎えに!≫

 「あぁぁぁぁあああああああああああぁぁぁぁぁッ!!」

 

 今日この日、最後の仮面の戦士が慟哭と共に生まれ堕ちた。

 

 

 …………………………

 

 

 『すまない…。』

 

 紺の仮面から、苦しげに謝罪の声が漏れた。

 

 『お前の、声に、気付いてやれなかった。』

 

 腹に大穴を開けられた事により、周囲には大きな血溜まりが広がり、今なお出血が止まる事は無い。

 

 『これで、母さんは僕のものだ!僕だけの母さんだ!』

 『いいや、私はアレクとお前、2人の母さんだ。』

 

 仮面を被った異形の戦士達。

 そんな尋常ならざる姿でありながら、2人の会話は我儘を言う子供とそれを諌める母のそれだ。

 

 『やだ!嫌だ!あんな奴のじゃない!母さんは僕の…!?』

 

 腹を貫いたまま喚く我が子を、腹を貫かれたままの母親が抱き締めた。

 

 『お前も、私の子だ。』

 『あ……。』

 

 互いが無骨な戦装束に身を包み、今も戦火が広がる街の只中で、それでも、母の愛は雄弁だった。

 

 

 『お、かあ、さん?』

 『あぁ。』

 

 子の手が母の背へと、恐る恐る伸ばされる。

 甘え方を知らない、ぶつける事しか知らなかった子の、精一杯の気遣いだった。

 

 「感動的だね。だけどそこまでだ。」

 

 不意に妖艶な女の声が響いた。

 同時、ゼルエルがケルヴィエルを庇いながら全方位を警戒する。

 

 「はい、残念♪」

 『『ッ!?』』

 

 だが、異形の闇黒はその防御陣の中から出現した。

 それも、ケルヴィエルの装甲の隙間から。

 

 『が、あああああああああああああああああああああああああああああああっ!?』

 『混沌、貴様まさかッ!?』

 「如何にもその通り。この子は以前の君の種から僕が孕んで産んだもの。僕の血肉を分けてね。つまり、この子の身体は僕で構成されている。こうして分離する位は訳ないのさ。」

 

 ケルヴィエルの血肉を奪って現れたのは、黒い女の姿をしていた。

 だが、ゼルエルにはそれが己が父にして夫である存在であり、宇宙的悪意に権化である事を既に知っていた。

 

 「見事に役目を果たしてくれたね、御苦労様。ご褒美にお母さんとずっっっといられるようにしてあげよう。」

 『アーリッ!!』

 

 闇黒が2人を包むその瞬間、ゼルエルの、リーアの術衣が解けて魔道書のページが全速で離脱する。

 しかし、一手遅れたのか、一部のページはそのまま闇黒に飲まれ、アーリに少なくないダメージを与える。

 

 「てめぇ後で覚えてろよ混沌!」

 『はははハハははははハハはははッはは!!楽しみにしているよ!』

 

 こうして、アーカム最大戦力の1人は邪悪の魔手に捕えられた。

 

 

 ………………………………

 

 

 アレクは人気の無くなった路地を走っていた。

 避難する途中、この路地に人が入っていくのを見かけたからだ。

 しかも、その人物は神父服を着ており、シスターの知り合いがいる身としては放っておけなくなったのだ。

 恐らく、誰か逃げ遅れでも探しているのだろうが、魔術士である自分も加われば直ぐに終わる筈だ。

 そう考えて走る。

 

 「あ! ちょっと待ってください!」

 

 不意に路地を曲がっていく後ろ姿を見つける。

 急いでその路地に入る…が、直ぐに止まった。

 何せ、そこは行き止まりだったからだ。

 

 「何を探しているのかな、少年?」

 

 背後からの声に、全速で距離を空けた。

 見れば、先程見かけた黒人の神父がこちらを見下ろしていた。

 

 「えと、あなたが先程この路地に入っていくのを見て、慌てて追ってきたんです!誰か逃げ遅れてるのかと思って!」

 「なんと。であれば気遣いは無用。私の方こそ、背後に誰か来ている事を警戒して、この様に試す形になってしまった。」

 「い、いえ!こちらこそ!」

 

 普通の神父さん。その筈だ。

 だが、何処か違和感がある。

 否、違和感が無さ過ぎるのだ。

 痕跡を消そうとして、逆に不自然になっている様な…。

 

 「所で、君はアレク・アシュトン君で合っているかね?」

 「どうして僕の名前を?」

 

 違和感が頂点になる。

 魔術の発動のために、体内の魔力を循環させながら思考を加速する。

 この神父は何が言いたいのか、何が目的なのか?

 

 「まぁ色々あってね。君の母達、リーアとアーリの事もよく知っているよ。」

 

 その言葉に、一つの推測が成り立った。

 先日のマスター・テリオンとの邂逅。

 その後の母との対話。

 その時の記憶が、何より母との約束が鮮明に思い出される。

 

 ≪いいか、もしアレに遭遇した時は…。≫

 

 「あなたは、もしかして…。」

 「ふむ、少々怪し過ぎたか。恐らく君の予想は正解だ。」

 

 一瞬の間を置いて、神父は受け入れる様に両手を開きながら、決定的な一言を口にした。

 

 「私が、君の父親だ。」

 「てぇやぁっ!」

 「ぶるぅあああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!」

 

 ≪全力で顔面をブン殴れ。情け容赦は一切無用だ。≫

 

 全力の身体強化をした状態で、渾身のアッパーカットを放った。

 特徴的な悲鳴と共に神父の身体が地面に並行にかっ飛び、向かいの建物の壁面へ衝突し、脳漿をぶち撒けた。

 

 「はぁ…はぁ…はぁ…。」

 

 初めての殺人に、知らず息が上がる。

 母が何故こんな約束をしたのか解らないし、罪悪感が無いでもないが、取り敢えず今は避難所に行く事の方が大事だ。

 証拠なんて、破壊ロボが幾らでも消してくれるし、問題は無い、と思う。

 

 ≪まだ来る。≫

 「ッ!」

 

 脳裏に届いた警告と共に、その場からサイドステップして離脱する。

 同時、黒い瘴気が先程までいた場所を焼いた。

 

 「やれやれ…流石はアレの息子だ。躾がなっていない。」

 

 上顎から上が無い状態で、舌だけを下顎の上で蛇の様にのたうち回らせながら神父が、否、神父の形をした邪悪が立ち上がる。

 

 「イア・ツァトゥグア!!」

 

 瞬時に、現在出せる最大威力の魔術を放つ。

 土に属するもの、即ち金属、ガラス、煉瓦、コンクリート、アスファルト等々…。

 凡そ都市に存在するあらゆるも物質が砕け、割れ、歪みながら、標的へ向けて襲い掛かる。

 

 「ハハはははハハッ!こそばゆいなぁ!」

 

 それらは全て命中する。

 しかし、有効打にはならない。

 見た目の肉体は確かに損傷を受けている。

 だが、その邪悪な気配は微塵も揺らいでいない。

 

 「さて、そろそろ目的を果たすとしようか。」

 『させると思っているのか?』

 

 邪悪がその身から放つ闇黒を膨張させると同時、先程アレクの脳裏に響いたのと同じ声した。

 同時、懐に入れていた「母からのプレゼント」に変化が起きた。

 

 「折角得た新たな主を、貴様に奪わせはしない。」

 

 プレゼント、自衛のために与えられた魔道書「ネクロノミコン機械言語訳」がページに宙に舞い、一点で一つに纏まる。

 額に一角獣の様な一本角、何処か機械的な印象を持つ少女、魔道書の精霊だ。

 彼女は空かさず五角形の防御陣、エルダーサインを展開し、闇黒から主を守る。

 

 「ほぉ、リトル・エイダか。蘇生に成功していたとはなぁ。」

 

 心底愉快気に嗤う神父、否、既にその容貌は人間のものではない。

 闇黒の中の燃える三眼。

 邪悪そのものだ。

 

 「マスター、私を使ってください。」

 「術衣形態って事?」

 「イエス。撤退も容易になるかと。」

 「解った、いくよ!」

 

 突然の事態だが、少女からは敵意は微塵も感じない。

 自分の第六感を信じて、アレクは術衣を纏うための言霊を口にする

 

 「変神!」

 

 掛け声と共にページが宙を舞い、少年の全身を包み込む。

 複雑な曲線が描く灰色の装甲、X字を描く独特のスラスター、何処かエ○ァ弐号機を彷彿とさせる頭部デザイン。

 ページの変質が終了し、術者の望む戦うための姿としての術衣が完成した。

 

 「おぉ、流石精霊持ちの魔道書は違うね!見事なジ○クス!」

 「私はマスターの将来を思うと頭が痛い。」

 「ブラックオックスも大好きだよ?」

 「本気で頭痛い。」

 

 なお、超電動ロボじゃなく初代デザインでも鉄の城でも良いらしい。

 趣味が渋すぎませんかね。

 

 

 

 

 なお、この後クトゥグア召喚と共に離脱しました。

 

 

 

 




 捕らわれた母!
 初めて知る妹の存在!
 そして始まる超巨大ロボバトル!

 最終回 下 キ○○イに何とか!  乞うご期待!



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最終回 下 キ○○イに何とか 前編

今回は皆大好きドクター・ウェェェェェェェェェェェスト!が大活躍!

シリアス? あいつなら途中で死んだよ。



日間    3位
日間加点 15位
週間    1位
月間    6位
ルーキー  8位
感想数  178

何故こんな事になってしまったんだ…!


 「現状は今説明した通りだ。」

 

 

 傷ついた泥神礼賛の精霊、アーリが区切った。

 

 覇道財閥の地下秘密施設、急ピッチで修復されているデモンベインの傍らにの人影がいた。

 アル=アジフを失った大十字九郎。

 主と記述の一部を奪われた愚神礼賛の精霊、アーリ。

 ブラックロッジを抜け出して、現在療養しなければならないドクター・ウェスト。

 本来、不倶戴天の敵同士、或いは同じ敵相手に共闘するだけの関係の面々は同じ脅威に対し、欠けた力と足りない時間、無い知恵を絞って策を考えていた。

 

 「デモンベインは本領発揮出来ずに修理中。私は鬼械神の記述と主が無いから機神召喚は不可能。リトル・エイダは復活したてだし、アレクの技量が不安だから戦闘は避けたい。ドクターも負傷中かつ破壊ロボも無い状態だから同上。」

 「実質、手立ては無い、か?」

 「幸いというべき、人外っつっても全身バラバラにすればアンチクロスの連中はティベリウスを除けば死ぬ。機神召喚をさせない内に火力を叩き込めばギリワンチャンって所だな。」

 「実際、我輩としては時はプラチナの精神で色々動きたいのであるが、死ぬから止めろとエルザに止められているのであ~る。」

 「つっても、来るだろうな…。」

 「そこは間違いないだろーよ。今まで散々煮え湯を飲まされたんだ、私ならここらで徹底的に叩いて二度と立ち上がる事も出来ない様にするね。」

 

 装備・人員・時間。

 何もかもが足りない状況で、それでも抵抗者達は悪足掻きの準備を着々と進めていた。

 

 「さてドクター、デモンベインの方は?」

 「今はエルザが最終調整をしているのであ~る。まぁ最低限は動けるが、武装はバルカンとレムリア・インパクトだけなのであ~る。」

 「じゃ、私らは施設の防衛設備を強化しとくよ。こういう時こそリトル・エイダの出番だ。アイツはかなり役に立つ。」

 「あ~…その笑顔、レポート忘れてきた時のアシュトン先生にそっくりだな…。」

 

 

 …………………………………

 

 

 「主、面を上げて欲しい。」

 

 その頃、ネクロノミコン:機械言語訳の精霊リトル・エイダは蹲ったまま顔を伏せている主の下にいた。

 無理もない、とリトル・エイダは考えた。

苦楽を共にしてきた母が囚われ、生死不明という事実に動揺を隠せないアレク。

 だが、彼はまだ10年程度しか生きていない子供だ。

 例え、その素質が成長すれば単独で地球を滅ぼし得る程のものだったとしても、今の彼は魔術を齧っているだけの歳相応の子供なのだ。

 

 「主は今、とても辛いと思う。しかし、ただ下を向いたままでは何も出来ない。」

 「……………。」

 

 「もう直ぐアンチクロスが攻めてくる。此処にか、或いはアーカムか。それとも他に行くのか。」

 「……………。」

 

 「どの道、多くの人が死ぬ。貴方と同じ思いを抱く人が増え続ける。」

 「……………。」

 

 「私は機械の一部として望まれて生まれたから、こんな時に何と言えば良いのか解らない。」

 「……………。」

 

 「でも、主がこの現状を打破したいと言うのなら、行動しなければ始まらない。」

 「………九郎さん達は?」

 

 「現在、対応策を実行中。この後、私も参加する。」

 「エイダも?」

 

 「私にしか出来ない事がある。現状、デモンベインを除けば、メタトロンと私が最大戦力となる。」

 「エイダは、怖くないの?」

 

 「私にも感情は存在する。しかし、邪悪に対する感情は最初から一つしか抱いていない。」

 「それは、何?」

 

 「怒り。理不尽を行う彼らへの憎悪。その存在を許せないという激情。私の父たる覇道鋼造は、その一心を胸に私を書き上げた。」

 「………凄い人だったんだ。」

 

 「それは主の母も同じ。」

 「母さんも?」

 

 「あの人もまた戦い続けている。ずっと、ずっと。」

 「母さんはどんな理由だったの?」

 

 「『人々が理不尽に泣かぬように、子供達が笑って暮らせるように。当たり前の生を謳歌できるように。』」

 「母さんらしいや。」

 

 此処に来て、漸くアレクは立ち上がった。

 その顔には既に涙の跡も、絶望の痕も無い。

 何処かすっきりとした、晴々しい顔だった。

 

 「少しは元気が出た?」

 「うん。ありがとう、エイダ。」

 「当然の事をしただけ。」

 

 暫く動かないでいたからか、アレクはう~んと身体のあちこちを解した。

 

 「ちょっと長く凹み過ぎたね。母さんに怒られちゃうよ。」

 「問題ない。主はまだまだ子供。」

 「うん、でも『やるべき事があるなら、躊躇わず全力でいく』って約束してるから。」

 「そう。」

 

 復活した主の姿を記憶を眺めながら、リトル・エイダは次の用件を口にした。

 

 「それと、アーリから伝言。」

 「へ?叔母さんから?」

 「『元気出たら少し話す事があるから出頭な。』との事。」

 「さっきも思ったけど声真似上手いよね、エイダって。」

 「これは合成音声。では、私も用事があるので行ってくる。」

 「うん、いってらっしゃい。また後でね!」

 

 

 ……………………

 

 

 対クラーケン戦後 覇道邸地下空間の一室にて

 

 「よーす。具合はどー?」

 「アーリ叔母さんは相変わらずだね…。」

 

 もう一人の家族の様子にアレクは安心したのか呆れたのか、それとも両方か、取り敢えず気が抜けた様に溜息をついた。

 

 「気にすんなっての。で、お前の親父の事なんだけどさ。」

 「あー、あの黒人神父の姿をしたナニか?」

 「そー、それ。今回は神父だったかー。」

 

 どっこいしょ、と爺臭い掛け声と共に、積まれたコンテナにアーリが腰掛ける。

 その表情は苦虫を噛み潰した様な、実にいやーな感じだ。

 

 「アレを親とは思うな。血縁があろうが無かろうが、アレは周囲を引っかき回す事しか考えていない。その目的にしたって大抵碌でもないもんしかない。極稀に違うが、そりゃ先への布石に過ぎない。」

 「母さんとの関係も?」

 「そうだな。つか、元々そのつもりでアイツを生み出したからな。」

 

 益々苦そうな顔をするアーリの言葉に、アレクがギョッとした。

 

 「それ、近親相姦なんじゃ…。」

 「少なくとも、リーアも私も知らなかった。あの野郎は知ってたみたいだがな。」

 

 ケッ!と吐き捨てるアーリ。

 邪神崇拝の奉仕種族の一部にはそんな風習もあると言うが、自分の母がそうであった事へ驚きを抱く。

 同時に、それを仕掛けたアレには怒りが沸々と湧き上がった。

 

 「言っとくが、アレをどうこうしようなんて考えるなよ。今のお前じゃ遊ばれてボロ雑巾みたく使われて、てきとーに捨てられるのが関の山だ。」

 「でも、母さんは戦ってるんだよね?」

 「私らだって四六時中戦ってる訳じゃねーぞ? ただ、そうしないとこっちまで被害が来るだけで…。」

 「叔母さん?」

 「あーもう!そうだよ、確かに私ら戦ってばっかりだよ!だって見逃すとか後味悪過ぎんだろ!?お前の世話シスターに任せてさ!」

 

 だから言いたくなかったんだよー!私はロリコン探偵じゃねー!とコンテナの上で悶え転げるアーリ。

 何気に短パンの隙間からショーツが見えているが、その程度はよくある事なので気にしないアレク。

 女所帯にここまで慣らされたお前の明日はどっちだ。

 

 「さってと、次はちょっとリトル・エイダ借りるかんな。」

 「そう言えばあの子も言ってたけど、何をさせるの?」

 「とっても素敵な事さ☆」

 

 キラリ―ン☆とアーリが歯を輝かせながら微笑む。

 すっごい悪い顔をしていた。

 

 「程々にね…。」

 「勿論勿論!ちゃんと適材適所で適度に頑張ってもらうさ!」

 

 

 ………………………

 

 

 VS ロードビヤーキー後

 

 「私、大活躍。」

 「うん、そうだね。かなりびっくりした。」

 

 またしても覇道の地下施設の一室で、此処の所恒例となった寛ぎの時間がやってきた。

 

 「私が操る機械は、鬼械神と同様の力を得る。そのため、鬼械神とでも通常兵器で戦闘可能。」

 「で、施設内の防衛兵器を操って、クラウディウスだっけ? アンチクロスに大ダメージを与えたんだっけ?」

 「もう少し火器があれば完全に追いこめていた。残念。」

 

 寛ぎと言うには、大分物騒な内容だったが、本人達は実に生き生きとしていた。

 

 「エイダって、自分を電子情報に換えられるんだよね?」

 「その通り。それがどうした?」

 「じゃあさ、ものは試しなんだけど…。」

 

 ごにょごにょごにょ…。

 後に、少年の思いつきは思わぬ方向へと進んでいく。

 

 

 ………………………………

 

 

 デモンベイン格納庫

 

 「おいーす、ドクターいるー?」

 「おぉう?その声は瑕疵付き本むsブゲリュッ!?」

 「人を傷者みたいな言い方すんな。」

 

 忙しなくあっちこっちに顔を出してるアーリがドクター・ウェストを訪ねてきた。

 ぶっちゃけ、何やらかすか解らないから積極的に絡ませたくない2人組である。

 

 「ドクター、そこで転がってないでこのデータ見なー。」

 「い、いや、転がしたのはお前なので…って何であるかこのデータ?」

 

 格納庫にあった端末に表示されたのは、とある図面だった。

 

 「前にてけとーに組んだ奴。ま、大本はあんたのだがな。」

 「んん!? こ、これはまた…凄まじいのであ~る!まるで冒涜的で狂気的な名状し難き山脈の様な!しかししかし探険隊は止まらぬ!新たな発見と未知への探求のために彼らはその先に何が待ち受けていようと進む以外の道は無く、それ故に待ち構える恐怖の下へ知らずに踏み込んでしまった!この後、恐怖の権化が彼らの前に姿を「五月蠅い。」しょごすッ!?」

 

 端末に表示されたデータを見て狂喜乱舞するドクターを、アーリが殴って現世へと帰還させる。

 ドクターは打撃の衝撃でその場でクルクル回った後にべちゃりと床へ沈んだ。

 

 「その通り。あんたの機体から取ったデータが大元(※嘘ではない)だが、これじゃ未完成なのは解るな?」

 「あだだだ…しかし、このままではどうやっても資材が足りないのであ~る。」

 「安心しな。お嬢ちゃんから許可は取ってきた。更に資材に関しては撃破した破壊ロボのジャンクを集めたし、強度面や処理能力に関しても宛てはある。あんたには是非これの作成をやってほしい。」

 「な、成る程。しかし、どうして我輩に?いや、確かに専門家ではあるが…。」

 

 その一言に、アーリがにまぁ…っと邪悪な笑みを浮かべ、あのドクター・ウェストが顔を引き攣らせた。

 

 「あんた、戦いが終わった後の事を考えてるか?」

 「ぬん?いや、我輩は過去を顧みず未来へ飛翔するために現在を全力で生きる主義であるからにして。」

 

その一言に、アーリはぐいと顔を近づけながら更に邪悪に表情を歪める。

 

 「あんたの今までのやらかしっぷりからして、事が終わったら真っ先に追求されるよな。」

 「あ!?」

 「だから、その前に何処かの保護が必要になる。出来れば、ブラックロッジ並に資金力があるスポンサーが。」

 「い!?」

 「覇道ならいけるが、今のままじゃあくまでデモンベインの修理業者でしかない。それも大事だが、代わりがいない訳でもない。」

 「う!?」

 「今後も研究を続けるには、あんただけの希少価値が必要なのさ。そのためにも、この図面のものがいる。」

 「え!?」

 「やってみたくはないか?純粋な、とはまだ言えないが科学の力でアンチクロスの連中を、あのアウグスティヌスにほえ面かかせたくはないか?」

 「お!?」

 「あんたの頭脳なら、何れ純粋な科学の力で鬼械神に、否、この世界を覆う邪悪に対抗できるだろうさ。そして今のどんな発明よりも、あんたとあんたの破壊ロボこそが最高で最優で最強なのだと世界に堂々と宣言できるんだぜ?」

 

 アーリは眼をぐるぐるにしながら、ドクターウェストへと「自分の欲に正直になれ」と囁く。

 彼とて学問の徒であり、研究者としての名声を求める欲もある。

 嘗ての死者蘇生の研究で大敗し、無二の友を無くした身ではあるが、それでもこれだけ言われると色々と込み上げてくるものもあった。

 

 「うぬぬぬぬぬぬぬ…解ったのである。ただし、ちゃんと我輩達の安全確保はよろしく頼むのであ~る。」

 「オーケーオーケー。契約は成立だ、大天才ドクター・ウェスト。これであんたの栄達は確定した。そして、私の全力でアンタ達の身柄を守る事を誓う。(ま、もし出来なくても、コイツで活躍すればそれだけで引く手数多だろうさ。)」

 「そうであるかそうであろう!ぶひゃーひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっッ!!」

 「そうそうその通り!アはハハはははハハはははハハハハはははハハはははハハはhッ!!」

 

 コンソールに表示された「全長100mオーバーの7体の破壊ロボの図面」を視界に入れながら、格納庫に不気味な高笑いが響き渡った。

 

 

 …………………………………

 

 

 太平洋上 南緯47度9分西経125度43分の周辺海域にて

 

 そこは人類の、地球上の多くの生命の命運は賭けた決戦場だった。

 何処までも広がる海と空の中、鋼の戦船と邪悪の眷属が犇き合っていた。

 空には各国軍の戦闘機と無人の破壊ロボが縦横無尽に空を飛び、ミサイルと機銃、レーザー砲を撃ち合いながら、互いに落とし、落とされる。

 デモンベインを除いた多くの兵器が、人命が散っていく。

 それが正史におけるこの海域での戦いだった。

 だが、実際は違う。

 少なくとも、この回、この時だけは違った。

 

 『全艦へ通達。クトゥルーの触手の震動により津波が発生。ご注意を。』

 『通常の量産型破壊ロボクラスの火力では現在のこちらの防御を抜く事は無い。攻撃に集中を。』

 『転覆する可能性が上がった場合、速やかに脱出と人員の救助を。ボートの上ではディープワンズ共の餌になるだけだ。』

 『後方、破壊ロボが接近。ブレイクを。』

 『D-2海域が現在押されている。余力ある者は支援を。』

 

 ネクロノミコン:機械言語訳、その精霊たるリトル・エイダ。

 彼女は電子情報に自らを変換し、通信設備のある場所になら何処にでも行ける上に、彼女の宿った機械は鬼械神と同様の力を得る。

 そして、今現在の殆どの兵器には大なり小なりCPUが搭載され、通信機だって世界中に無数に存在する。

 これを利用しない手は無い。

 アレクの発案の元、覇道の地下施設の時よりも遥かに大規模に、リトル・エイダはその力を全力で振るった。

 各国には「新開発された独自技術による国連軍への支援」とされたが、実際はオカルトによるものだと多かれ少なかれの一部の者は気付いたが、貰えるモノは貰える主義なのは何処も同じだった。

 ほんの十数分程、覇道管轄の艦艇や戦闘機と通信を繋げるだけで、自国の兵器が劇的に強化されるのだ。

 例え今回限りだとしても美味しい事には違い無かった。

 結果、各国の艦船の管制室やコクピットには掌大の二頭身にデフォルメされたリトル・エイダが的確に情報面でもサポートする姿が見られ、国連軍は本来よりも遥かに低い損害で破壊ロボの群れを相手取る事になった。

 更に…

 

 『げーひゃっひゃっひゃっひゃ!よっくも我輩の作品を勝手に使ってくれたのであるなアウグスティヌスめが!かくなる上は我輩の手によって海の藻屑にした後、漁礁として海の底でオブジェとなるのであーる!エェェェェェルザ、GOォォォォォッ!!』

 『破壊ロボ、出撃ロボー!』

 『さぁ、今こそ「スーパーウェスト天下無敵ロボ29豪R-1~試作なのに量産機より強―い!~」の力を見せる時なのであ~る!』

 『お前ら、雇っててなんだがほんっとにやかましいのな…。』

 『あ、アーリ叔母さん元気出して!ほら、凄い活躍だよ!?』

 

 何故か4人乗りに改装された、全長約100mの新型破壊ロボに乗って、量産型破壊ロボもダゴンもハイドラも一方的に蹂躙していった。

 はっきり言って、1人先行してクトゥルーの触手やティトゥスの皇餓と交戦しているデモンベインよりも攻撃範囲が広いため、目立ちまくっていた。

 

 『主、私だけ除者か?』

 『そんな事無いよ!? でも此処狭いし、エイダには別の大事な仕事があるからだよ!』

 『………くすん。』

 『ご、ごめん!後でお詫びするから!僕に出来る事なら何でもするから!』

 『ん?』

 『今』

 『なんでもって』

 『なんで此処で三人とも注目するのさ!?』

 

 カオスに囲まれたアレク君の明日はどっちだ。

 

 

 …………………………………

 

 

 とある鬼械神のコクピット。

 ここは今、本来無い筈の大量の触手に満たされていた。

 本来この鬼械神を操る筈の魔導師は気を失ったまま、小さな喘ぎ声を洩らしながら触手に凌辱され、魔道書は此処にはいない。

 しかし、仮初の操縦者として、その魔導師の娘が眼を虚ろにしたまま此処にいた。

 

 「守らなきゃ…誰でも…近づかせない…母さん…私の…守らなきゃ…私だけの…。」

 

 ブツブツと何かを呟いているが、その殆どは事情を知らぬ者には全く意味の無い言葉でしかなかった。

 だが、知る者にとってはそれで十分だった。

 そして、この場にもう一人。

 惨状を創り出した者だけが、呆れた様子で意味ある言葉を発していた。

 

 「いやいやいや、此処は九郎君の目立つ所だろ。君の役割はもうチョイ役じゃないか。っていうか、此処で機械言語訳が活躍とか…うん、そっちに関しては完全にこちらの手落ちだね。大勢に影響は無いとは言え迂闊だった。」

 

 「じゃぁ、少し早いけど出番と行こうか。」

 

 「さぁ、君から母親を奪おうとしてくる連中が来たよ。大勢で、遮二無二頑張っているけどね。それ程君から奪いたいみたいだ。そして、奪わせないためには何をするべきか解っているよね?」

 

 「では往くと良い。感動の親子の触れ合いと共に、ね。」

 

 

 ……………………………………

 

 

 防御力の差から、ほぼ一方的に駆逐されていたクトゥルーの眷属達が、一瞬だけ動きが止まった。

 先程、デモンベイン召喚時に同じ様な現象が起こったが、今度は何が現れるのか。

 

 『来なすった!一端後退だ!』

 

 それに最速で反応したのは、やはり主従にして半身としての繋がりのあるアーリだった。

 

 『まさかッ!?』

 『あぁ、リーアだけじゃなく、私の鬼械神まで…!』

 『何と!?子持人妻仮面戦士で御主人様が寝取られるとはあぁ何と言う悲劇!○郎系ラーメンだってそこまで属性増し増しにはせんのであ『人の母親を寝取られとか言うなぁ!!』ビューティホゥ!? 』

 『あ、出番取られたロボ。』

 『良いから構えろマジで来るぞ!』

 

 艦隊が急ぎクトゥルーから距離を取り始める。

 同時、何も無くなった筈の海面下から、濃密な神気が溢れ出る。

 

 『汝、光飲む深海の水

  汝、太陽無き地下の土

  悠久の時より立ち上がり、

  星辰の時より顕れ出でよ! ワダツミ!』

 

 瞬間、海面が膨大な水飛沫と共に爆ぜ、全長300m級の鬼械神ワダツミが姿を現した。

 その全長に匹敵する4枚の盾を周囲に浮かばせ、何処かデモンベインに、否、アイオーンに似た意匠を持ちながら、生物的であり、神々しくもあるこの世でネームレスワンと並び、ただ二つのデウス・エクス・マキナだ。

 無限螺旋の中で生まれ、鍛え、今なお成長し続ける土と水の二重属性の神の写し身は今、場に満ちるクトゥルーの神気を存分に吸収し、万全の状態で出現した。

 

 『薙ぎ払えッ!』

 

 シールド裏から展開された100本もの触手の先端から、魔力によるレーザー砲が放たれる。

 それは全てが異なる標的へ向けて放たれ、薙ぎ払われる。

 

 『消えろ消えろ消えろ!』

 

 照射と連射を繰り返しながら、100本のレーザーが海域を蹂躙していく。

 結果、多くの艦船だけでなく、ダゴンやハイドラ、破壊ロボに深き者共も諸共に薙ぎ払われていく。

 

 『やべぇな、此処まで来て艦隊壊滅は避けたい。』

 『んじゃ行くロボ!』

 

 唯一命中しても無事だった破壊ロボが前に出る。

 しかし、相手は全長3倍近い鬼械神であり、火力も防御力も出力も次元が違う。

 

 『あわわわ…な、何か手立てがあるんですか!?』

 『イエスイエス!全く以て何の心配もいらないのであ~る!さぁ今こそあのセリフを言うべき時!コード入力ぅっ!!』

 『『『こんな事もあろうかと!』』』

 『コード承認。合体プログラム始動。』

 『さぁいざ来たれや我が子らよぉ!』

 

 ドクター・ウェストの言葉と同時、転送術式により計5体の破壊ロボが虚空より出現する。

 それは皆100m級のスーパーウェスト天下無敵ロボ29豪R-1~試作なのに量産機より強―い!~と同型だが、ウェスト達の乗る緑に対し、赤、青、黄、白、ピンクというド派手なカラーリングが施されている。

 

 『ちょ、それうちの設備でしょう!?』

 『合体シークエンス開始。』

 

 司令官やってる少女の非難を無視し、合体シークエンスは続いて行く。

 邪神眷属をも含めた周囲が突然の事態に唖然とする中、6体は何故かドラム缶状の胴体底部からロケット特有の白煙を噴出しながら一斉に宙に躍り出て、それぞれが変形しながら一つになってゆく。

 

 赤と青は両脇に陣取ると同時に手足を格納、底部からジョイントパーツを展開し、胴体上面から巨大な拳が出現、数回の回転の後に固定される。

 白とピンクは殿に陣取り、こちらは手を格納、上面からジョイントパーツを展開し、足が前後に移動、爪先と踵となる位置で固定される。

 黄は先頭に移動し、手足を格納後、何と中央から真っ二つになって切断面を他機に向ける様にして飛行する。

 最後に残った緑が中央に位置し、ドリル部分を強制排除、手足を4本の接続パーツへと変形させた。

 そして、6体は一切減速せぬままに海面の一カ所へと突っ込み、盛大な水飛沫を上げた。

 

 『な、なにこれ!?』

 

 ワダツミの中、ケルヴィエルである少女が動揺した様に叫ぶが、時既にお寿司。

 膨大な水飛沫が薄まっていく中、鋼の巨体が姿を現した。

 

 『天が呼ぶ!地が呼ぶ!人が呼ぶ!』

 『悪を倒せと轟き叫ぶ!』

 『天上天下無敵ロボ28號超合金DX限定版「~私の自前のドリルが天元突破~」此処に爆誕ロボ!』

 『さぁ我輩の叡智と血と汗と涙と思いつきと偶然とアーリとエイダとアレクの協力が産んだ科学と魔術7:3の申し子よ!そのぶっとい奴であの甲殻類ロボを叩いて砕いて冠婚葬祭に出るグラタンの器にしてやるのであ~る!』

 

 何故か見事なS字立ちと共にリトル・エイダを除いた全員で勢いのままに名乗りを上げる。

 が、周囲は邪神眷属も国連軍も鬼械神も、果てには此処ではない何処かで見ていた邪神すらもあんぐりと口を開けて呆然としていた。

 

 え、なにこれ?

 

 きっと彼らの思いを代弁したらこんな感じになるだろう。

 

 

 

 

 こうして、デモンベインに続く第二の科学と魔術の申し子がこの世界へと誕生した。

 周囲の意思を10万光年程置き去りにして。

 

 

 

 

 なお、出待ち状態のネロとマスターテリオンは後にこの時の事を「腹筋がつる位笑った」と述懐した。

 

 

 

 




長くなったので二分割。
次回か次次回で完結します。

その後は番外編とリクエストの消化に入ります。


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最終回 下 キ○○イに何とか 後編

週間  15位
月間   5位
感想  215


前回の感想が凄まじい数に(汗


 

 

 それは鋼だった。

 それは巨躯だった。

 それは英雄だった。

 

 この決戦に参加した多くの兵が口を揃えてそれをあらゆる形容で例えようとして、しかし余りに荒唐無稽で、冒涜的で、空前絶後のために出来なかった。

 それだけ、ソイツは彼らの知識や常識からかけ離れた存在だったのだ。

 だから誰が言いだしたのか、ソイツを表す言葉は後に一つだけとなった。

 

 「ドラム缶」と。

 

 巨大な水飛沫が霧と成りながら散り、消えていく後ろから、全身から海水を滴らせながら、その巨体は現れた。

 白とピンクの両足は海面の上でありながら、重力制御によって十全の機動性を確保しながら、どっしりと構えている。

 赤と青の両腕は全体の動作確認を済ませた後、雄々しくその剛腕を構えた。

 そして、左右に突き出た黄の装甲からは6基もの常温核融合炉から来る余剰熱量が吐き出され、周辺の大気を陽炎の様に揺らめかせ、緑の胴体にある頭部、その両眼がキラン☆と妖しく輝いた。

 

 『さぁ恐れ戦くがよいケルヴィエル!この我輩達の無敵ロボが相手をするのであ~る!』

 『合体シークエンス完了!何時でも往けるロボ!』

 『魔力収集術式は大丈夫ですが、クトゥルーの神気が増加傾向にあります!このまま行けば、相手は更に強化されちゃいます!できるだけ短期決戦で!』

 『情報処理担当は私な。んで、ワダツミの頭部はコクピット兼脱出装置だ。首を引き千切ればリーア達を救出できる。』

 『強度面に関しては我が補強した。動力は我が主と共にブーストかけている故、余り時間をかけるな。』

 『よーしよしよし!ではエルザ!』

 『了解!無敵ロボ、突っ込むロボー!』

 

 全長約250mの鋼の巨体が、同格の巨体たる魔術の申し子へ向けて海上を突き進む。

 ちなみにコイツ、既に純粋科学で重力・慣性制御を実現済み(ただしエネルギー不足なのでまだ魔術の補助が必要)であり、海上でも一切問題無い。

 

 『くそ、ちょっとカッコ良いって思っちゃっただろうがぁぁぁ!!』

 

 だが、対するワダツミ、ケルヴィエルは棒立ちする程馬鹿ではない。

 展開した触手から再びレーザーを雨霰と発射、無敵ロボを蜂の巣へと変えようとする。

 しかし…

 

 『効かないロボっ!』

 

 その攻撃は一切通らなかった。

 全てのレーザーが装甲表面だけで弾かれ、内部機構に通る事は無い。

 

 『バリア展開!』

 

 宣言と同時、黄の両肩に搭載されたバリア発生装置により、通常の破壊ロボのそれを遥かに上回るバリアが機体正面へと展開、大量のレーザーの一切を後ろへと通さない。

 

 『無敵ロボ、パンチだロボ!』

 

 そして、格闘可能距離へと詰めた途端、突進の勢いそのままに、無敵ロボがワダツミに殴りかかる。

 ワダツミはシールドでこれを防御するも、その衝撃を殺し切れず、数歩分海上を後退した。

 

 『くそ、馬鹿力め!』

 『ロボ!ロボ!ロボ!ロボ!ロボロボロボロボロボロボロボロボロボロボロボロボロボロボロボ!!』

 

 右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左右左ッ!!

 その巨体からは想像できない程の運動性を発揮しながら、無敵ロボがラッシュを叩き込んでいく。

 

 『ぐ、おおおおおおおお!?』

 

 対するワダツミも負けてはいない。

 4枚のシールドを自身を囲む様に回転させ、その力を受け流そうとする。

 だがしかし、彼女の考えはまだまだ甘い。

 

 『貫通力のある攻撃で一点突破!盾を剥がせば戦闘力はガタ落ちだ!』

 『よし、両腕部ビッグドリル展開である!』

 

 ウェストの言葉の後、両腕部の巨大なマニュピレーターが同サイズのドリルへと一瞬で変形、刻印された術式により、周辺の魔力を吸引しながら猛烈な勢いで回転する。

 

 『ドリルクラッシャーパーンチ、ロボ!』

 『きゃああああああ!?』

 

 操縦者が未熟故か、はたまた相性故か、ワダツミの強固な筈のシールド1枚が巨大ドリルの一撃で破砕された。

 

 『この、ボクが、こんなポンコツ程度にぃ!』

 

 胸部の2門の砲口から魔力光が漏れ出す。魔弾砲の前兆だ。

 

 『なんの!オープン○ェェェェット!』

 

 ウェストの声と共に、無敵ロボの脚部が分離、上半身はロケットの噴射煙を残しながら真上へとカッ飛んでいった。

 

 『嘘ぉぉぉぉぉぉぉ!?』

 

 必然的に魔弾砲は空しく宙を焼くだけで終わる。

 そして、そんな隙だらけの状態を見逃す程、ウェスト達は馬鹿ではないと思う。

 間違いなくキ○○イではあるが。

 

 『全兵装照準良し!無敵ロボ、フルバーストだ!』

 

 アーリの声と共に、未だ空中にいる上半身と海上にいる脚部全てが機関砲、ミサイル、レーザー砲等の火器を展開、隙だらけのワダツミへと叩き込んだ。

 

 『がぁぁぁぁぁ!こ・い・つ・らぁぁ!!』

 

 だが、そんなものは鬼械神相手には豆鉄砲以下、有効打にはならない。

 

 『ドリルハリケーンパーンチ、ロボ!』

 『ぐぅッ!?』

 

 しかし、頭に血の登った相手への目暗ましとしては十分すぎる。

 その間にドリルを展開した両腕が発射、一発は回避されたが、もう一発が1枚のシールドを撃破した。

 

 『再合体及び腕部接続完了!』

 『もう一回突撃ロボー!』

 

 両腕のドリルをギュンギュン言わせながら無敵ロボが再び迫り来る。

 だが、好い加減ケルヴィエルだって我慢の限界だった

 

 『舐めるなぁ!!』

 

 瞬時に両腕に魔剣を展開、自らも突貫し、無敵ロボへと切り掛かる。

 

 『ロボォ!』

 

 巨大なドリルと魔剣が鍔ぜり合う。

 が、このドリルは只のドリルではない。

 嘗ての対マスターテリオン戦のための術式構築の経験から得た魔力収集術式、それを刻まれたこのドリルは例え鬼械神相手ですらその魔力すら収奪し、己の力としてしまう。

 これがバルザイの偃月刀の様な仮とは言え実体を持つのなら兎も角、威力は高くとも術式による魔力収束を基本とした魔剣では相性が悪過ぎた。

 直ぐにワダツミは押し込まれ、その眼前にドリルが迫るが…

 

 『馬鹿が!』

 

 盾から展開された触手が無敵ロボに纏わりつき、その全身を拘束した。

 

 『はははハハは!このまま死ねぇ!』

 

 止めを刺すつもりか、再び胸部に魔弾砲の光が溢れ出す。

 

 『こんな事もあろうかと!我輩の無敵ロボには様々なギミックが搭載されているのであ~る!』

 

 無敵ロボの全身の装甲が展開、内部から無数のマジックハンドが出現し、50本にまで減った触手を捕え、掴み、引き千切っていく。

 結果、無敵ロボは触手プレイから抜け出し、両機の間にやや距離が開く。

 

 『しゃらくさい!』

 

 魔弾砲が放たれる。

 当たれば最高位の機械神とは言え無事では済まない様な一撃。

 しかし…

 

 『肩部シールド展開!』

 

 その程度、考えていない訳が無い。

 両肩に装着してあった黄のパーツが分離、機体正面に移動し、分割した上面同士を結合させ、全長200m級の巨大な盾を形成した。

 

 『だからなんでそんな強いんだよぉぉぉ!?』

 『これぞ科学とキ○○イの力ロボ!』

 

 ケルヴィエルの絶叫と共に、魔弾砲が巨大なシールドに弾かれた。

 更にその盾をマニュピレーターに戻した両腕でしっかり保持しながら3度目の突撃を敢行する。

 

 『お前らなんかに母さんを渡せるかぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 ワダツミも残った2枚のシールドを全面に構え、正面からぶつかりに行った。

 衝突時、凄まじい衝突音が全方位に衝撃と共に響き渡り、海中に行った震動により深き者共の一部が失神、至近にいた者に至っては衝撃波でミンチになるか鼓膜が破裂して絶命した。

 

 『吸い尽くせ、スターヴァンパイアッ!!』

 『イブン・ガズィ、噴射開始。』

 

 ワダツミの腰裏に配置された専用ポッドから、大量のスターヴァンパイアが放たれるも、空かさず無敵ロボから噴射されたイブン・カズィの粉末がその姿を露にさせる。

 そして、元々が軟体生物であるスターヴァンパイアはその厄介さに比して脆弱であり、全身の火器とマジックハンドに叩き落とされ、瞬く間に全滅していった。

 

 『そ、そんな…!?』

 『げーははははははははははは!こちとら何年ソイツを使ってると思ってんだ!メタ装備組むなんて朝飯前なんだよォォォォッ!!』

 『叔母さん叔母さん!顔が、顔が女性としてアレな状態になってますよ!?』

 『このまま一気に畳み掛けるのである!』

 『さぁ止めロボー!』

 『2人とも頭は避けてくださいね!?』

 

 そして、巨大なドリルがワダツミの胴体へ迫った。

 

 『やらせるかぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 ワダツミが周辺に満ちるクトゥルーの魔力を吸い上げると同時、額、胴体2門、腕部2門ずつの計5門の発射口から一斉に魔弾砲が放たれる。

 その威力たるや、今までのものの比では無く、更にそれが零距離なのだ。

 命中すれば如何に無敵ロボと言えどもただでは済まない。

 

 『ぜ、全力防御ー!!』

 『ろ、ロボ―!?』

 

 だが、シールドを構えていたままだった事が功を奏し、その砲撃を遮る。

 しかし、流石はと言うべきか、徐々にシールドが融解を始め、コクピットにアラートが鳴り響く。

 

 『バリア最大出力ロボ!』

 『オープン○ットは!?』

 『この状況でやったら後方の艦隊が壊滅しちゃいます!』

 『えぇい!全エンジンの安全リミッタ解放!魔力収集術式も最大出力である!』

 『止むを得んか!南無三!』

 

 余りの威力に、無敵ロボがバリアと構えたシールドごとじわりと後退する。

 それだけの火力、それだけの威力。

 もし戦闘中の後方の艦隊に突破を許したら、どれだけの大惨事になるか予想もつかない。

 第一、鬼械神相手では通常兵器は効果が薄い。

 無敵ロボが有効打を出せるのは魔術を併用し、科学面においても突破力なら艦隊のそれを上回る故だ。

 

 『がぁ…イア…ぅぅう…クトゥルフ…イア…ふたぐん…だごん…。』

 

 だが、そんな火力を何時までも維持できる訳が無い。

 

 『お、叔母さん!? 向こうヤバくないですか!?』

 『神気に当てられたな。このままだと正気を無くして、完全に化け物になるぞ。』

 『母さんは無事ですか…?』

 『この程度で狂うタマじゃねぇさ。だが…(早い所動いてくれんとヤバい感じだな。)』

 

 今も閃光が迸るモニターを見ながら、アーリは戦闘の緊張と焦りを感じていた。

 

 

 ………………………………

 

 

 眠りからふっと眼が覚める。

 けど、寝ぼけた意識は容易に覚醒せず、暫くそのままボーっとして過ごす。

 

 「■■■■、そろそろ起きなさい。」

 「んー…お早う、お母さん。」

 「早くねー。今日はゴミの日だからお願いね。」

 

 むくりと身体を起こす。

 急速に覚醒していく意識が、早朝の肌寒さと快眠の心地好さを伝えてくる。

 今日は大学の講義あったっけ?

 

 「お早う、お母さん。」

 「お早う、今朝はお茶にする?」

 「うん、お願い。」

 

 淹れたての緑茶を啜りながら、今朝は昨日の夕飯だった牛丼が残っているのでご飯を選んだ。

 それにきゅうりや大根の浅漬け、豆腐とわかめ、長ネギの味噌汁をよそう。

 大学生位ならこの位は普通に入る。

 

 「私は今日は早く帰るから、■■■も早めにね。」

 「おや、夕飯担当してくれるの?」

 「ま、偶にはねー。」

 

 朝食を楽しみながら今日の予定を話し合う。

 うむ、やはり牛丼には紅生姜と七味だね、うん。

 生卵も良いけど、あれはちょっとコッテリし過ぎだし。

 

 「じゃ、洗い物とかはよろしくね。」

 「はいはい、んじゃ行ってらっしゃい。」

 

 行ってきまーすと言う母に手を振りながら見送る。

 全く、もう少し余裕が持てないもんかね。

 

 「で、何のつもりだ、ナイア■■■■■■■■。」

 「おや、随分あっさりだね。」

 

 ずるり、と女の形をした邪神が90度以下の鋭角から煙と共に出現した。

 今回はティンダロスの猟犬風味か、最早懐かしいレベルだな。

 

 「当たり前だ。だって、オレのお母さんは…」

 

 とっくの昔に死んでいるんだ。

 

 

 

 原因は何だったのか、当時の医学では全くの不明だった。

 ただ、徐々に徐々に、まるで真綿で首を絞める様に、母は狂い、弱っていった。

 遂には自分の名前すら忘れ、何かに怯え続け、意味不明な内容を喚きながら、衰弱死した。

 オレはそれをただ見ている事しかできなかった。

 それ以来、オレは人生に悲観しか持てず、ゲームやラノベ、漫画なんかに没頭し続けるロクデナシ成果に埋没し……この世界に堕ちてきた。

 

 

 

 「今にして思えば、アレは精神汚染だった。」

 「して、原因は何だい?」

 「オレだ。」

 

 リビングでソファに腰掛けながら、確信に至っていた推測を口にする。

 前回のコイツとの対峙で、オレは自身のルーツを知った。

 そして、今までのオレ自身の境遇を全て再考察・検証し、その結果の一つとして母の死の原因を突き止めた。

 

 「君から漏れ出る僅かなボクの気配…それこそが彼女を狂い死にさせた原因だ。」

 

 混沌の、闇黒の、邪悪の女が笑う、嗤う、嗤う。

 お前は自身を世に生み出してくれた母を殺したのだと。

 

 「あぁ、そうだな。」

 「おや、随分反応が薄いね。」

 「この世界が気になっててな。」

 

 妙なのだ、この世界は。

 偽物かと思えば、確かにアレは母だと自身の第六感が告げている。

 母の死因もこの混沌の事だから本当だろう。

 となれば、此処は何処か?

 

 「並行世界か?」

 「いや、ボクの壺の中に作った部屋さ。でも、君のお母さんの魂も、記憶も、全て本物さ。」

 

 相変わらず無駄にスケールがでかく、凝った真似をするゲームマスターである。

 

「で、此処を壊すとどうなるんだ?」

 「彼女の魂が砕けるね。あ、部屋に干渉する事はお勧めしないよ。その場合も容赦なく発動するから。」

 

 じゅーごろがらごろ…と何時の間にか出したグラスのジュースを飲み終えた混沌が、今度は野菜スティックを齧りながら告げる。

 

 「そっか…。」

 「まぁ気長に滞在してくれよ。こっちとしては最後まで君が大人しくしてくれれば良いからね。」

 

 言いたい事だけ言って、混沌の女は次の瞬間には消え失せていた。

 

 「取り敢えず、色々見て回りますか。」

 

 さくっと家事を終わらせて、近所を見て回る。

 歩き続けると同時に、もう幾星霜と遥か彼方だった筈の故郷の記憶が蘇っていく。

 初めて同年代の子供達と遊んだ公園。

 通っていた小学校。

 常連だった古本屋。

 昔からある古びたラーメン屋。

 つい数年前に入ったコンビニ。

 友達と駆け回った裏山。

 そして…

 

 

 「ただいま。」

 

 

 母が入っている筈の、墓。

 途中で購入した線香を供えながら手を合わせる。

 その時に思うのは、亡き母との思い出だ。

 たくさんの、無数の、様々な、色々な思い出が脳裏を駆け廻る。

 

 (うん、ちゃんと思い出せる。)

 

 自分の母は既に死んだのだ。

 自分から漏れ出る狂気に蝕まれ、それでも母であろうと無理を重ねて、遂には壊れてしまった哀れな女性。

 思えば、親戚付き合いなんかもなかった事から、未婚の子持女性として苦労に苦労を重ねてきたのだろう。

 それでも身に覚えの無いオレを必死に育て上げてみせた。

 

 「本当、大した人だよな。」

 

 感謝と尊敬と愛情をありったけ籠めて、オレは母の冥福を祈り続けた。

 

 帰宅すると、既に母が夕飯を作り終えていた。

 

 「遅いよー。私だけで食べる所だったんだから。」

 「ごめんごめん。ほら、○○さんとこのケーキ買ってきたから機嫌治してよ。」

 「よろしい。それを献上する事を許そう。」

 「ははー。」

 

 そんなコントをしながら、ゆったりと夕食を食べる。

 久しぶりの母との団欒は泣きたくなる程に懐かしく、愛おしく…

 

 「どしたの?何かあった?」

 「いや、なんでもないよ。」

 

 そして、悲しかった。

 

 夕食後、リビングで何となしに2人でテレビを見ていると、不意に母が声をかけてきた。

 

 「ねぇ、大丈夫?」

 「何が?」

 「何がって…。」

 

 母が無理矢理顔の向きをテレビから変え、強制的に目を合わさせる。

 少し茶色がかった黒い瞳は、最後に見た時と違って、ちゃんと焦点が合っていた。

 

 「何かあって、そんでまた何かあるんだろ?」

 「よく解るね。」

 「解るさ、親子だもん。」

 

 ぎゅっと頭を抱き締められる。

 暖かくて、ちょっと柔らかい感触に、少しだけ身を委ねる。

 

 「言ってごらん。」

 「今から…いや、多分ずっと親不孝すると思う。」

 

 実際は親不孝所ではないが、それでも言っておく。

 この道は、邪悪へ抗う者の道は苛烈であり熾烈であり凄惨だ。

 自分の幸せを祈る母にとっては、親不孝所の話ではない。

 

 「お前のせいじゃない。」

 「いいや、オレのせいだよ。」

 「違うね。」

 「違わない。」

 「じゃぁ、きっと私のせいだ。」

 

 普段ハスッパな母だが、どうしてこうこっちが落ち込んでいるのを察するのは上手いのだろうか。

 

 「お前の悩みを理解してやれない。お前の悩みを吐き出させてやれない。そんな私のせいだ。」

 「違うってば。」

 「じゃぁ、巡り合わせが悪いって事で。」

 「……まぁ、それなら。」

 

 暫しゆったりと時間が過ぎていく。

 きっと次に話し始めたら、この穏やかな時間は終わってしまう。

 互いにそう感じるが故に、最後の時間を惜しんだ。

 

 「オレさ。」

 「うん。」

 「すんごい親不孝する。」

 「理由…は、良いか。」

 「なんでさ?」

 「そんな泣きそうな顔してるんだもん。そうしなきゃいけない理由があるんでしょ?」

 「まぁ、ね…。」

 「じゃ、仕方ないよ。」

 「仕方ないのかなぁ…。」

 「でもさ…」

 

 抱き締められていた頭が解放され、目と目が合う。

 そこには我が子への慈しみと情、何よりも愛に溢れていた。

 

 「私の事、忘れんなよ。そんで、しっかりやりな。」

 「解った。ありがとう、母さん。」

 

 瞬時にナイフサイズのバルザイの偃月刀を召喚、躊躇い無く母の心臓に、その魂に突き刺す。

 物理だけでなく、霊体への一撃に、母は苦しみを感じる間も無く絶命した。

 

 「アフターケアもしっかりってね。」

 

 次いで、肉体から取りだした魂を、自身の混沌の中へと一時的に取り込む。

 これで暫くの間、この世界はこの魂を認識できなくなる。

 そして、それがトリガーとなって、世界が崩れ始める。

 

 「この落とし前、付けさせてもらうぞ。」

 

 知らず流していた涙を拭いもせず、混沌の邪神へと宣戦布告する。

 

 終わる世界の中、何処かで邪神の嗤い声が響いた。

 

 

 ………………………………………………

 

 

 カッと意識が復帰する。

 

 「っ、が、あああああああああああああああああああああッ!!」

 

 渾身の力と共に全身を甚振り尽くしていた触手を引き抜き、引き千切り、握り潰し、燃やし尽くす。

 コクピット内に熱気と不浄な肉が焼け焦げる匂いが漂うが、そんなものに構っていられる状況ではない。

 

 目の前には正気を無くしかけている娘がいて、モニターには今にも撃破されそうな巨大破壊ロボが存在している。

 何処まで事態が進行しているかは知らないが、すべき事をしなければならない。

 それが自らを産み、育ててくれた母を犠牲にしてしまった自分の、この無限螺旋で多くの命を踏み越えてきた自分の責務だからだ。

 

 「ったく、この馬鹿娘が。」

 「いぁ…あ……。」

 

 シートから降り立ち、暴走状態の娘を強引に振り向かせてキスをする。

 これによって構築したパスを用いて、娘の体内に巣食うクトゥルーの神気を吸い出し、代わりに欠損した肉の代わりに自らの内の混沌を流し込む。

 これらと共に暴走状態にあるワダツミを掌握せんと制御系に意識を伸ばす…が、ダメだった。

 どうやら混沌の手管によって、既に首から下は完全に乗っ取られている。

 

 「意識が戻ったか? よし、なら落ち着いて深呼吸だ。」

 「あ…ぁ…さん…。」

 

 弱り切り、ぐったりとする娘の身体を支えながら、しっかりと伝えるべき事を伝える。

 

 「そら、少し休んだら家に帰るぞ。私とお前、アーリとアレクの4人の家だ。そこで皆で暮らそう。」

 「ぅ…ん…。」

 

 安らかに黒髪黒目の少女がその瞼を閉じる。

 母の腕の中で眠る幼子の様に。

 否、彼女は今、漸く幼子としての当然の権利を得たのだ。

 

 「さて、聞こえているかアーリ!」

 

 娘をシートに固定し、厳重に防御魔術をかけながら、リーアは母から戦う者へと意識を変えた。

 

 

 ……………………………………

 

 

 (聞こえているか、アーリ!)

 (おう!ばっちり聞こえてるぞ!)

 

 待ちに待った半身からの念話に、アーリは今の窮地すらどうでもよいものとなった。

 

 「お前ら喜べ!リーアの意識が戻った!」

 「えええ!?ぶ、無事ですか母さん!」

 『安心しろ。本調子じゃないが、戦闘行動は可能だ。』

 「おはようロボ!でも今はこっちを優先してもらいたいロボ!」

 「全くであーる!そろそろ盾が三日間じっくりことこと煮込まれた豚の角煮みたくこってりドロドロジューシィーになってしまうのであーる!?」

 『首から下の制御系は復帰不可能だ。よって現時点を以てワダツミは破棄、頭部コクピットブロックで脱出する。このままだと暴走を開始するから、置き土産を使って動きを止める。その間に止めを刺せ。』

 「解ったロボ!」

 「でも術式維持がそろそろ限界ですんで早くー!?」

 「…アレク、お前修行し直しな。」

 「がーん!?」

 

 落ちが付いた所で、各員が一斉にすべき事をし始めた。

 

 『頭部ユニット切り離しと同時に自壊術式始動!』

 

 ボンッ!という轟音と共に、ワダツミの頭部ユニットが真上に吹っ飛び、離脱する。

 それと同時、全力で魔弾砲を照射していたワダツミに異変が起こる。

 先ず魔弾砲の照射が止まり、全身が端からボロボロと溶け崩れていく。

術式隠蔽のための自壊術式により、構成が急速に劣化しているのだ。

 だが…

 

『GA,GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

 邪神によって手を加えられたワダツミは、それだけでは死なない。

 破損部分が急速に修復されつつ、装甲の隙間から生体組織が沸き出し、急速のその姿をクトゥルーに似た怪物へと変貌させていく。

 無くなった筈の頭部の代わりか、首が盛り上がり、胴体と一体化した首の無い怪物の顔が構築され、足が縮み、腕が鋭く長く伸び、シールドから伸びる触手の先端には口が出来、次いで牙が生えていき、名状し難き叫びを上げる。。

 

 『Gyy…GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!!!!!!!!!』

 

 その叫びは戦場全てを覆い尽くす程になり、やがて地球全土へと轟けとばかりの狂気の波動となって荒れ狂った。

 無限心母によるクトゥルー召喚の時と同様、耐性のないものは意味不明の絶叫と共に気絶するか発狂し、死んでいく。

 

 『こ、これは何であるかー!?』

 『クトゥルーの叫びだ!精神感応を用いてこちらの魂を砕いてくるぞ!』

 『対処法は!?』

 『敵の撃破だ!』

 『成る程解り易いロボッ!』

 

 直後、無敵ロボが再度前身を開始する。

 しかし、既に目の前のソレは先程までの劣化した鬼械神などではない。

 

 『Gyyy…Gyhaaaaaaaaaaaa!』

 

 海中からクトゥルー本体の巨大過ぎる触手が伸び、ワダツミだった怪物を守る様に無敵ロボに向かってくる。

 それだけではない。

 ダゴンとハイドラ、深き者共に量産型破壊ロボ。

 それら全てがワダツミの、怪物の脅威となる無敵ロボに殺到する。

 だが、

 

 『バルザイの偃月刀、過剰召喚!』

 

 50近いバルザイの偃月刀が回転しながら飛来し、その全てをミンチの様に切り裂き、悉く殺戮せしめた。

 

 『アイオーン・リペアⅡ…実戦はまだだったが、良好だな。』

 

 空に浮かぶのは、白い羽に黒い装甲を纏った鬼械神アイオーン、その再設計機。

 両手両足にデモンベインのそれに似たシールドを装備し、通常時はワダツミのコクピットブロックとして機能する。

 勿論単独での戦闘も可能であり、動力はワダツミ同様、魔術機関エンジンとアルハザードのランプ、黄金の蜂蜜酒の複合式を採用している。

 そのため、嘗てのリペアの様に途中で力尽きる様な事は余りない。

 

 『ナイスアシスト!』

 『では必殺技で止めである!カモン、7号機!』

 

 ドクター・ウェストの声に応じ、再度虚数展開カタパルトが起動、全身真っ黒かつド派手な髑髏マークがペイントされた破壊ロボが空中に出現する。

 黒い7号はそのまま底面からジェットを噴射、大空へと飛び立っていく。

 

 『合体シークエンス開始!』

 

 もうノリノリっていうかヤケクソ気味のアレクが告げる。

 術式の維持で知恵熱を起こしているのか、場の空気に酔ったのかは知らないが、これが黒歴史にならない事を切に願う。

 無敵ロボもまた、胴体と足裏からジェットを噴出、重力制御も利用して、巨体でありながら空を飛んだ。

 

 『ドラム・コネクトォッ!』

 

 無敵ロボが追い付いた7号機の底面に右腕を叩きつける様にして、衝突と共に勢いよく合体する。

 更に、7号の脚部が収納、4本の腕全てもドリルだけを露出する形で収納された。

 

 『ドリル、展開である!』

 

 ドクター・ウェストの言葉と同時、7号の上面から今までで最大のドリルが現れた。

 

 『目標、敵鬼械神!』

 『突撃ィッ!!』

 『お前にラブハァァァァァァァァァァァァトッ!!!』

 

 珍妙な掛け声と共に、無敵ロボは巨大ドリルを左腕でも保持し、空中から真っ直ぐに怪物へ向け、ドリルを激しく回転させながら加速する。

 

 『Gyhaaaaaaaaaaaa!』

 

 だが、怪物もただ座して死ぬつもりはない。

 冒涜的な咆哮を上げながら、全4門となった砲口から魔弾砲を発射する。

 その威力たるや先程の一斉砲撃に比肩するものであり、直撃すれば無敵ロボとて撃破は必須だ。

 

 『回れドリル!我輩の浪漫回路よ!今こそ全世界にその雄姿を見せつけるのである!』

 

 だが、漢の浪漫は砕けない。

 圧倒的な威力を誇るドリルによって、全ての魔弾砲が数秒と持たずに蹴散らされ、咆哮する怪物へ迫る。

 怪物は最後の足掻きとばかりに4枚のシールド全てを正面へと構えるが…

 

 『天上天下…電動無双螺旋ロボ!』

 

 世界最大級のドリルの前には無意味だった。

その威力を余す所なく発揮して、浪漫の結晶が邪悪を貫いた。

 

 『我輩に貫けぬものは…殆ど無し!』

 『最後で台無しロボ!』

 『とは言えこれ以上は限界だな。』

 『………………。』(消耗し尽くして声も出ない。)

 

 直後、怪物が断末魔の叫びと共に爆散した。

 

 

 こうして、ルルイエ海域での戦闘の趨勢は決した。

 

 

 …………………………………………

 

 

 その後の顛末はほぼ正史通りに進んだ。

 

 暴君ネロによりクトゥルーが暴走を開始し、世界は滅びの危機を迎えた。

 

 だが、ネロはデモンベインに敗れ、クトゥルーは停止するも、ネロはマスターテリオンの母胎となって死亡した。

 

 転生を果たしたマスターテリオンはクトゥルーを生贄に、自らの父たる存在、外なる神ヨグ・ソトースを召喚、その向こうへと去っていった。

 

 世界は未だ、滅びの危機に瀕していた。

 

 

 

 『じゃぁ始めようか、終わりの始まりを。始まりの終わりを。永劫の終焉を、永劫の開演を。』

 

 

 

 何処かで名状し難き嗤い声が木霊した。

 

 

 

 




もうすぐ…もうすぐ…完結!

まだだ…まだ…気を抜くな!




なお、次回更新は火曜以降です。


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最終楽章 前編 何時とも知れぬ時間の狭間 何処とも知れぬ世界の彼方

くっそ、書いてたら一話に収まらんかった!
と言う訳で明日残り投下するね!


 

 

 「お前の名前はアリスだ。私の娘で、アレクの妹だ。」

 

 旗艦大和の医務室

 そこで目を覚ましたケルヴィエルの手を握りながら、リーアは大切な事を告げた。

 

 「ボクは…アリス…?」

 

 まだ寝起きではっきりしない意識で、黒眼黒髪の少女が問うた。

 

 「そうだ、アリス。もうケルヴィエルなんて名前じゃない。お前は私の娘で、家族だ。」

 

 その少女を胸に抱きながら、リーアは言い聞かせるように話す。

 もう戦わなくて良いんだよ、と。

 

 「嬉しい…。」

 「そっか、お前が嬉しいなら私も嬉しいよ。」

 

 暫し静かな時が流れる。

 外には外なる神ヨグ・ソトースが存在し、今この時にもこの星が滅びるかもしれない瀬戸際でも、それでも今まで傷つけあった親子がお互いを許し、癒すこの時だけは邪魔してはならなかった。

 

 「でも…。」

 「うん?」

 「妹はやだ。」

 「あ?」

 

 ここで初めて、傍で成り行きを見守っていたアレクがドスの効いた声を出した。

 

 「ほー?いきなり現れて娘とか、今までが今までだけに見逃してあげたのにそう言う事を言いますか…?」

 「甘ちゃんも鼻垂れ小僧が、母さんを取られて喚くなんて…マザコン?」

 

 医務室に妙な緊張感が満ちる。

 片や銀髪銀眼の少年、片や黒眼黒髪の少女と対照的だが、その容姿は驚く程似通っている。

 その2人が背景にゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…という擬音を背負いながら、母を巡って対立する。

 リーアは思った。

え、何これ。

 

 (止めて!私のために争わないで!)

 (意外と余裕だなマスター…。)

 

 念話でもアーリの突っ込みも力が無い。

 やはり、消耗しているのだろう。

 

 (現状は?)

 (アイオーンの構成見直しは完了。変形機能を停止して、耐久力の向上に成功。私は今デモンベインの獅子の心臓の魔力を貰いながら休憩中。後1時間もあれば回復完了。) 

 (こちらは見ての通り。回復はほぼ完了だが、子供達が争い始めました。何故に?)

 (まぁ喧嘩するだけマシだろ。好きにさせなー。)

 

 これからは、もう出来ないかもしれないんだ。

 言外にそう告げるアーリに、リーアは無言でその意見を肯定した。

 するべき準備は行った。

 後は魔を断つ剣と、自分達の奮闘に掛かっている。

 

 そう、明日の夜明けと共に、私達はヨグ・ソトースの門の向こうへと出発する。

 

 無論、反対意見は多かったし、そんな必要は無いと大十字九郎は言ってくれた。

 だが、これは私達の個人的決着であり、避けては通れぬ道なのだ。

 でも、今だけはこの暖かい喧騒の中にいたい。

 あぁ、無限螺旋なんてとんでもない事態に巻き込まれたってのに…最後の最後にこんな人並みの幸福を得られるなんて、神様も随分と酷いじゃないか。

 

 

 …………………………

 

 

 母の寂しそうな眼差しに、2人の子供達もまた、別れが近い事を悟っていた。

 その結果、大切な母とその半身が二度と自分達と会う事が出来ないかもしれない。

 否、寧ろそちらの方が可能性が高い事もまた、2人は察していた。

 

 (取り敢えず、騒いで母さんを楽しませよう。)

 (おk。)

 

 視線だけで意見交換を済ませ、これを好機に互いに言いたい事を言い合う事にする。

 勿論、母を悲しませない事が前提だが、互いを家族として見るためにも、思う事は言わねばならない。

 それは勿論、相手への罵倒も含まれる訳で…

 

 「暴力娘。」

 「インテリもやしっ子。」

 「貧相。」

 「貧弱。お前は今魔道書の精霊全てを敵に回した。」

 「知ってるか? 実は精霊の人達ってお尻のラインとかふっくらしてるし、肌とか凄い綺麗なの。」

 「マジで?胸ばっか見てた。」

 「それに比べて愚妹は何処も貧相で…。」

 「セクハラが子供だからって許されると思ってんじゃねーぞ。」

 「ケルヴィエルwwwwwww 厨二乙wwwwwww」

 「ジンクスwwwwwwww 量産機厨乙wwwwwwww」

 

 「「表に出ろやぁぁぁぁぁッッ!!!」」

 

 互いに消耗してる筈なのに、元気に喧嘩する2人。

 と言うか、その息の合いっぷりは何なん?

 リーアは驚きで目を丸くして、遠視したアーリは爆笑する。

 あぁ、これなら2人の仲は心配無いな。

 それだけは確信できた。

 

 「こら2人とも、そこまでにしなさい。」

 「「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ…!!」」

 

 互いに相手の頬を抓ながら唸り声を発する2人を、リーアが引き剥がす。

 その声は多分に呆れが混じっていたが、それでも何処か暖かさがあった…

 

 「「だってこいつが!」」

 「あ?」

 「「ごめんなさい!」」

 

 ドスの効いた声がお馬鹿な兄妹を止める。

 母は強しというが、宇宙的悪意を宿した者であっても例外ではないらしい。

 

 「全く…良いか、お前達。そもそもからして相手の身体的特徴を論う様な真似は…。」

 「「ごめんなさい…。」」

 

 しょんぼりと反省する2人に、リーアは余りクドクドと説教をする事は無かった。

 

 その後は、三人でただ取りとめの無い会話を続けて、夕食も終えた後は三人一緒のベッドで眠りに就いた。

 そして、夜明け前にリーアはそっとベッドから抜け出した。

 

 「「母さん」」

 

 呼び止められて、ベッドに振り向く。

 見れば、2人の我が子がこちらを向いている。

 涙を流し、しかしそれを必死に堪えて笑顔を見せようとして失敗しながら。

 それでも我儘を言わない様に、母親を困らせない様に、必死に耐えながら。

 

 「ごめん。私は、お前達にまだ殆ど何もしてやれてない。」

 

 寂しさと悲しさに泣く我が子を抱き締める。

 少しでもこの思いが届く様に、少しでもこの子達の痛みが安らぐ様に、少しでもこの温もりが伝わる様に。

 優しく、甘く、暖かく、真綿よりもなお柔らかく。

 

 「ぐす、うぅ…おがざん…ッ!」

 「う、ぐ、ふぅぅぅ……ッ!!」

 「ちゃんと、帰ってくる。だから、2人で仲良く待っていてくれ。」

 

 優しく涙を流す子供達の頭を撫でる。

 彼らが泣き疲れて眠るまで。

 そして、2人を寝かしつけて部屋を出た時、既にリーアの顔に優しさは無い。

 

 「すまん、待たせた。」

 「いいさ、んじゃ行くぜ。」

 「あぁ。」

 

 その顔は、戦士のそれだった。

 

 

 …………………………………………

 

 

 『良かったんですか、先生? 子供達を残してきて。』

 『大十字か。あぁ、全て納得ずくだよ。』

 

 門へ向かって飛翔するアイオーン・リペアⅢとデモンベイン。

 黒と白の魔を断つための鬼械神が今、全ての決着をつけるため、ヨグ・ソトースへと飛翔していた。

 

 『覇道に後の事は頼んでおいた。リトル・エイダもいるしな。』

 『でも、あいつらは…』

 『それに』

 

 ウダウダ言う九郎を止める様に、リーアが笑った。

 犬歯を見せる、何処か獰猛な笑い方だ。

 

 『勝って帰る。そう約束した。だから何も問題は無い。』

 『そっすか。』

 

 それ以上は九郎も何も言わなかった。

 ただ、前を見た。

 

 『そうそう、九郎。お前、前に渡した御守りは持っているか?』

 『へ? なんスか急に?』

 『良いから答えろ。』

 『そりゃ持ってますけど…。』

 

 言われ、九郎は懐に忍ばせていた懐中時計を取り出す。

 その表面には旧神の印たるエルダーサインが刻まれた大理石がある一品で、これだけでも生半可な怪異は近づく事すら出来ない。

 

 『汝、また女と…。』

 『おいおいおいちょっと待てアル。オレはお前一筋だし、子持ちかつ恩師に手を出すとか無いからな!?』

 『どーだか…。』

 『どーだか。』

 『どーだか。』

 『『『ねー。』』』

 『仲良いね君達!?』

 

 そして、唐突にお喋りが中断する。

 既に眼前にはヨグ=ソトースが迫っていた。

 

 『往こう。恐怖と絶望と、勇気と誇りに満ちた戦場に。』

 

 そして、ニ機の機神が門へ突入した。

 

 

 ………………………………………

 

 

 行けば帰れない事は解っていた。

 それでも、約束があったから2人は母を見送った。

 

 「例え帰ってくれなくても…」

 「どうか、無事で。」

 

 2人は祈る。

 世界に存在する邪悪ではない神へと祈る。

 優しい神様へ届けと切に願う。

 

 

 ……………………………

 

 

 「ナイアか。」

 「今回も初めまして、マスター・テリオン。」

 「貴公は今回どうする?」

 「ボクはあの子の相手をするさ。まぁ、そちらには別のボクに任せるとしよう。さて、九郎君は来れるかな?」

 「その問いに意味は無い。奴は来る。討ち滅ぼして来る。貪り喰らいて来る。外道の知識を用い、外道を調伏する魔道書と共に、外道を討つ鋼を纏い、外道を狩る刃金を執って、大十字九郎は必ず来る!」

 

 

 ………………………………

 

 

 何処とも知れぬ何時か、何時とも計れぬ何処かで

 長大な階段の先にある玉座で、リベルレギスは待っていた。

 今正に眼下に現れた、不倶戴天の怨敵を。

 

 『待ちくたびれたぞ、デモンベイン。』

 『よう、待たせたな獣。』

 

 リベルレギスが立ち上がると同時、両雄の闘気が、覇気が、殺気が膨れ上がる。

 

 『では始めようか。終わりの始まりを。始まりの終わりを。永劫の終焉を。永劫の開演を―――。』

 

 まるで指揮者の様に、演者の様に、罪人の様に、母の様に、リベルレギスが両腕を広げて告げた。

 

 『クライマックスだ。』

 『マスターテリオンッッッ!!!』

 

 決戦の開幕を。

 リベルレギスが黄金の宝剣を、デモンベインがバルザイの偃月刀をそれぞれ召喚し、斬り結ぶ。

 その余波だけで世界を切り裂き、空間を崩壊させる斬撃の応酬が始まった頃。

 此処とは異なる何処かでも、決戦の幕が上がろうとしていた。

 

 

 ………………………………

 

 

 「やぁ、我が仔らよ。元気そうだね。」

 

 光り無き広大な空間の中、闇黒の化身が燃える三眼のみを輝かせながら嗤っていた。

 自身の前に現れた、馬鹿で阿呆で愚かな者達を見つめながら。

 

 『あぁ、来たぞ混沌。』

 『ここらで蹴りをつけようや。』

 

 闇色の鬼械神アイオーン・リペアⅢが、暗闇の中で燃え上がる。

 焦熱呪文、生半可な怪異なら触れただけで蒸発する超高熱を周辺に発する魔術だ。

 今回のアイオーン・リペアⅢはⅠとⅡの長所たる全身の追加装甲と腕部・脚部の巨大なシールド、そして機関複合方式を採用している。

 短時間ながらも、デモンベインやリベルレギスとも対等に渡り合える自慢の一品だ。

 

 「へぇ、クトゥグアの炎の常時展開とは…成長したね。そうでなくっちゃ♪」

 『御託は以上で良いな?』

 

 無詠唱で偃月刀とマシンガンを召喚したアイオーンが闘気を滾らせる。

 その殺意に触れただけで常人なら死するというのに、混沌はただ愉快そうに嗤い続けるだけだった。

 

 「そうだね、九郎君達の邪魔にならないよう、君達には此処で終わって貰うよ。さぁ、後はエンディングまで一直線。最後は派手に決めようじゃないか!」

 『終わるのはお前だ、混沌!』

 『いい加減に歳甲斐も無くはしゃぐなってーの!』

 『『我らが父に、叛逆仕る!』』

 

 宣言と同時、アイオーンが突貫した。

 

 

 ……………………………………

 

 

 『大十字九郎ッ!!』

 『マスターテリオンッ!!』

 

 青く輝く母なる地球を背景に、ニ機の鬼械神が衝突する。

 片や真紅の邪悪なる鬼械神、リベルレギス。

 片や白亜の斬魔たる鬼械神、デモンベイン。

 それぞれ下半身が、右足と左腕を失い、全身をボロボロにして、既に大破した状態であってもなお、戦闘は激化の一途を辿っていた。

 

 『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』』

 

 両雄が同時に加速、超音速の領域で互いに右の拳と手刀同士をぶつけ合い、指があらぬ方向に圧し折れ、千切れる。

 

 『シャァッ!!』

 

 リベルレギスの左手の鉤爪がデモンベインの顔面を捕え、その右顔面を抉る。

 

 『おらあああああッ!!』

 

 顔面へのダメージをものともせず、デモンベインの左足がお返しとばかりリベルレギスの胴体を捕え…しかし、その前に修復されたリベルレギスの右足がそれを防ぐ。

 

 『アトランティス・ストライク!』

 

 だが、それを読んでいたアル・アジフにより発動した脚部シールドの断鎖術式が、リベルレギスの右足を消し飛ばした。

 

 『ナイスだアル!』

 『当然だ!』

 

 畳み掛けるためにデモンベインが次なる一撃を放つ、その前にリベルレギスが動いた。

 

 『ン=カイの闇よ!!』

 

 漆黒の重力球を発生させたリベル・レギスが特攻する。

 既に手足は生え揃え、不死身の怪物よりもなお邪悪な機神が吠える。

 

 『重力弾だ!捕まったら根こそぎ持っていかれるぞ!』

 『任せろ!イタクァ!クトゥグア!』

 

 デモンベインの両腕に二丁も魔銃が召喚、そのまま抜き打ち気味にリベルレギスへ全弾が放たれ、重力球を破壊していく。

 

 『砕け散れェェェェェッ!!』

 

 だが、それはリベルレギスの接近を許す事となる。

 召喚された黄金の宝剣を振り被り、リベルレギスが怨嗟を振りまきながらやってきた。

 

 『シールドピアースッ!!』

 

 二丁も魔銃を手放し、左腕の対防御突破術式が起動、円錐型の結界が構築、回転し、黄金の宝剣へ正面から衝突、互いが甲高い音と共に砕け散った。

 

 『『ハイパーボリアァァァァァァァァ…ッ!』』

 『『レムリアァァァァァァァァァァ…ッ!』』

 

 だが、その寸前に両雄はその右手に必殺の一撃を用意していた。

 正と負、両方向の無限熱量を直接相手に叩き込む第一近接昇華呪法。

 

 『『ゼロドライブッッ!!!』』

 『『インパクトッッ!!!』』

 

 宇宙に恒星と見紛う程の巨大な花火が咲いた。

 

 

 …………………………………

 

 

 チクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタクチクタク

 

 機械の作動音が木霊する闇黒の中、飛び出した無数の者達がアイオーン目掛け襲い掛かった。

 それは機械だった。

 人型から獅子、虎、ネズミ、馬、鳥、恐竜、魚、蛇、両生類、昆虫、更に正体不明の何かまで。

 ありとあらゆる形を得た機械が迫ってきた。

 

 『焦熱呪文、全開!』

 

 アイオーンの身体をフレアの様な光が包み込む。

 まるで小さな太陽の様なそれは、凄まじい熱量と共に迫り来る機械の軍勢を蒸発させる。

 だが、蒸発していく速度よりも早く機械達が迫り来る。

 

 『シャンタクユニット、オーバードライブ!!』

 

 アーリの声と共に、背面のシャンタクユニットが眩い程のブーストを噴射、一気に加速し、機械の軍勢を熱したナイフを押し付けたバターの様に焼き切りながら飛翔する。

 目指すはこの闇黒の最奥部、燃える三眼が浮かぶ場所。

 

 「ハハはははハハはははハハはははハハは! さぁお出で! 私は此処だとも!」

 

 闇黒が嗤う/笑う/哂う。

 所詮お前達では勝てないと、全ては無駄なのだと嘲笑っている。

 だから、その隙に滅ぼす。

 

 『ヴーアの無敵の印において!』

 『力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよッ!!』

 『『バルザイの偃月刀 過剰召喚!!』

 

 高速で機動するアイオーンの周囲に、50本ものバルザイの偃月刀が召喚される。

 それらは炎を纏い、回転を始めると同時、飼い主に忠実な猟犬の様にアイオーンの周囲に迫る機械の軍勢を蹴散らしていく。

 

 『混沌ッ!!』

 「はハハはははハハはははハハはッ!」

 

 アイオーンの焦熱呪文が終了し、それに代わり、その腕に巨大な杖が召喚される。

 

 『螺旋呪法 神銃形態!』

 『イア・クトゥグアッ!!』

 

 巨大な杖が変形し、巨大な砲となった。

 次いで、その暴力的な砲口から、咆哮と共に灼熱の獣が猛威を奮いながら闇黒の中を突き進んだ。

 周辺に存在する機械の群れを無造作に蒸発し、消滅させながら、炎の旧支配者が燃える三眼に喰らいつかんと迫る。

 

 「残念。その程度じゃやられてあげられないな。」

 

 だが、闇黒から湧き出た黒い炎が、獣を飲み込んだ。

 先程までの灼熱の威容は瞬く間に消え、次の瞬間には闇黒から視界全てを埋め尽くす様な大量のワイヤーと今までの数倍の機械の軍勢が湧き出た。

 

 『ッ、焦熱呪文ッ!』

 

 迫り来るワイヤーに偃月刀が反応し、切り刻む。

 だが、圧倒的多数の前には獅子粉塵の働きも空しく、徐々に機械の海へと飲み込まれていく。

 焦熱呪文による膨大な熱量もまた、全方位から大量に迫り来る機械を焼き尽くせず、取りつかれた。

 

 『ナイアルラトホテップ―――ッ!!』

 

シャンタクが爆音を上げ、アイオーンが燃える三眼目掛けて、せめて一太刀与えんと突き進む。

 だが、その手が届く寸前で、アイオーンの動きは完全に停止した。

 

 『が、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』

 

 自身すら焼き尽くす程の憎悪と憤怒と激情を込めて、アイオーンがもがき続ける。

 だが、届かない。

 後1mも満たないその隙間を残して、アイオーンは完全に拘束されていた。

 

 「ふふふ、こうしてしまえばもうどうしようもない。此処までだよ。」

 

 燃える三眼が女の形を取る。

 ナイア、そう名乗る女は心底哀れそうにアイオーンを、その中のリーアとアーリを見つめていた。

 

 「まだ気付かないのかい? 此処はボクの胎の中。此処に来てしまった時点で、既に君達に勝ち目は無いのさ。」

 

 まるで駄々を捏ねる子供へ言って聞かせる様に、否、奴にとっては真実その通りなのだろう。

 闇黒の女は囀る。

 

 「君には此処で生まれ直してもらうよ。幸い、今回は漸く成功しそうだけど、保険をかけておくにはこした事がないからね。」

 

 ありとあらゆる機械が、ありとあらゆる形で、ありとあらゆる方向からアイオーンに群がり、ゆっくりと包み込み、飲み込んでいった。

 

 

 ………………………………………

 

 

 血戦の儀式は佳境へ差し掛かっていた。

 

 『その深き怨讐を胸に』

 『その切実なる命の叫びを胸に』

 『埋葬の花に誓って』

 『祝福の花に誓って』

 『『――我は世界を紡ぐ者なり!!』』

 

 そして、デモンベインとリベルレギスは同時に駆け…

 

 「撃つな!九郎ォォォォォォォォォォォ! 全ては邪神の謀略だッ!!」

 

 ―――はははははははははははははははははははははは!!もう遅い!!―――

 

 突き出された二つのシャイニングトラペゾヘドロンが交差した。

 

 そして、九郎は知った。

 シャイニングトラペゾヘドロンがひび割れると同時、その中に封じられた邪悪なる存在を。

 

 『言っただろう? 絶望を教えてやるとな。』

 

 マスターテリオンが、諦観と共に呟いた。

 

 『結末など、解り切っていた事なのだよ。』

 『なん、だと…!?』

 『そんな事も知らずに安穏と…。愉快ね、その魂が引き裂かれる様を見届けるのは!』

 『おのれぇ!』

 

 この結末が決まっていたのだとしたら。

 もしそれが真実なら、九郎がここに至る全ての道程が否定されたも同然だった。

 

 (オレの今までは…全て、全て、決められたレールの上に乗ってたって事なのかよ!)

 

 

 ―――そう!全ては―――

 

 

 宇宙が生誕と死滅を繰り返す空間。

 それを引き裂き、混沌の闇を纏う女が交差するトラペゾヘドロンの上に舞い降りた。

 

 「ナイア…?」

 

 九郎はその人物を知っていた。

 アーカムで出会った古書店の店主、否、もっと根源的な所で知っている筈なのだと自分の中の何かが叫んだ。

 それに答える様に、アルが叫ぶ。

 

 「否! そうか…全ては此奴が仕組んだ事か!」

 

 アルと九郎の驚愕を余所に、闇黒の女が本性を現した。

 

 

 ―――そう。全てはこのナイアルラトホテップの手の中に。―――

 

 

 千の異形。

 無貌の神。

 這い寄る混沌。

 チクタクマン。

 暗黒のファラオ。

 ナイ神父。

 外なる神 ナイアルラトホテップ。

 

 

 ―――宇宙よ! 今こそ……あるべき姿に!―――

 

 

 直後、宇宙が混沌に沈んだ。

 

 

 

 

 




リーア達があっさりやられたのはマスターテリオンらが無限螺旋で好き勝手に演じさせられた事からも極当然の事かと。

さて、明日のこの時間には後編投稿しますんで、もう一日待っててくださいな。


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最終楽章 後編 何時とも知れぬ時間の狭間 何処とも知れぬ世界の彼方

漸く本編完結…。
短いようで長かったなぁ…。

さて、後はリクエストとクロスオーバーだな。



日間  6位
週間 24位
月間  4位
感想 244
UA 89795



 瓦礫だけの何もかも死に絶えた場所

 そこに私/俺はいた。

 

 (此処は何処だろう。)

 

 先程まで何をしていたか、何処にいたのかすら記憶にない。

 ただ、酷く疲れ、眠りたかった。

 身体に力は入らず、瞼が重い。

 このまま眠ってしまおうか。

 

 そんな事を考えていた時、不意に前方に2人の人影が見えた。

 若い男女、特に女性の方は小柄な少女だった。

 少女は紫がかった長い銀髪をポニーに纏め、男性は白い薄汚れたコートを着て、何処かへと歩いている。

 

 (知っている。)

 

 その2人の姿に、心の奥で何かが叫んだ。

 私/俺は、この2人を知っていると。

 

 (知っている。)

 

 2人はボロボロだった。

 特に男の方は酷く、白いコートの汚れはよく見ればその多くが血痕であり、彼の足元には血溜まりが出来る程の多量の血が流れ落ちていた。

 全て、男が流した血だった。

 

 (知っている!)

 

 確信を持って言える。

 私/俺は確信を持って言える。

 私/俺はこの人達を知っている!

 

 「     !」

 

 何と言ったのか、自分でも解らない。

 でも、その必要があるから、という焦燥感のままに2人に声をかけた。

 そして、男女が歩みを止め、少しだけこちらに振り向く。

 それは自分の知っている彼と彼女であり、同時に自分の知らない彼と彼女だった。

 

 「   。     。」

 

 2人が私/俺に手を差し伸べて…

 私/俺は2人の手を取った。

 

 

 …………………………………

 

 

 何も無い、光も闇すらも存在しない無の空間。

 そこに九郎の意識があった。

 そんな虚無でありながら、しかし完成された空間が不意に揺らぐ。

 同時、九郎の身体が柔らかい感触を得る。

 成熟した女の、柔らかな肉の感覚だ。

 女の背景は、黒い太陽と赤い月が昇る淀んだ空だ。

 そして周囲の遺跡にも似た廃墟には見覚えがあった。

 全てが死に絶え、滅んでしまったアーカムシティだ。

 

 「やぁ、九郎君。」

 「ナイア…。」

 

 九郎が女の名を呼ぶ。

 魅入られてしまいそうな程に美しい裸体を晒しながら、女は九郎の上に跨っていた。

 よく見れば、女の腹は少し膨らんでいる。

 仔を孕んでいるのだ。

 

 「ナイアルラトホテップ。」

 

 九郎が女の、否、邪悪の真の名を呼ぶ。

 途端、女の形が崩れ、その顔に闇黒の中に浮かぶ燃える三眼が現れた。

 

 「そう。それが僕の本当の名だ。九郎君、永い事御苦労さまだったね。」

 「なんの…話だ?」

 「君はね、ずっとずっとずぅぅぅぅぅぅぅぅっと前から、マスターテリオンと戦っていたんだ。と言っても、前回までの君は…あぁ、その時は覇道鋼造と名乗っていたね。兎に角、今までの君はマスターテリオンに敵わなかったけどね。」

 「覇道鋼造、だと?」

 

 それで全てのピースが繋がった。

 全ては起こるべくして起こったのであり、あのマスターテリオンでさえ、この邪悪の前には被害者であったのだ。

 

 「そう…それもこれも君が、輝くトラペゾヘドロンを執るに相応しい器になるため。そのために、君達は幾星霜と戦い続けていたのさ、ボクの掌の上でね。」

 

 ナイアルラトホテップは朗々と話し続ける。

 心の底から己の歓喜を伝えるために、自らが育てた人の正義へ極限へ。

 

 「マスターテリオンも…こうやって無限の中へ捕えたのか…ッ。」

 

 九郎はおぞましい程の快楽に抗うが、しかし、邪悪は勝手気ままにその身体を貪り続ける。

 

 「彼は解放するさ。無限に疲れ果てていたからね。まぁ無限から解き放たれて何処に堕ちるかは知らないけれど、それがあの子の望みだしね。あの子達も、今はただ僕の中で眠り続けている。これはこれで良いけれど…それじゃ僕が寂しいじゃないか。」

 「おい…お前の中に、誰がいるんだって?」

 

 己の目立ち始めた腹を愛おしげに撫で摩りながら微笑む混沌の姿、九郎は警報を鳴らす己の直感に従い問い詰める。

 

 「この仔は元々僕の仔だよ。人間に産ませて、連中へのカウンター役を期待してたんだけどね…反抗期なのかな、向かってきたから産み直す事にしたんだ。今回の名前は…確かリーアだったかな。」

 「て、めぇ…!」

 

 九郎は必死に身体に力を込めようとし、しかし、敵わずにピクリとも動かない。

 

 「ふふふ、そう連れなくするなよ九郎君。この仔がちゃんと生まれたら、嘗ての君達の様な関係になるもよし、僕も交えて親子丼なんて事も出来るんだよ。」

 「ぐ、がぁ…!」

 

 圧倒的な快楽に、九郎の意識が塗り潰されていく。

 闇に、闇黒に、深淵に、意識が呑まれ、消えていく。

 不味い。そう思い、抗おうとするが、既に死闘の果てに九郎は限界を迎えていた。

 

 「さぁ九郎君、今度は君が僕を慰めておくれ。僕は君に果ての無い快楽をあげよう。それは永遠。死すらも消え果てる永遠だ。狂う事も、壊れる事も、好きなだけさせてあげよう。だから際限なく、一片の慈悲もなく、君を愛する。九郎君、それが愛を交わすって事なんだよ。さぁ、この快楽を共に……」

 (こんな、奴に…!)

 

 それでも、その意志だけは犯せない、冒せない、侵せない。

 

 ―――それでも、と言い続けろ。―――

 

 不意に、声が聞こえた。

 

 

 …………………………………

 

 

 闇黒の子宮に激震が走った。

 暗い暗い暗い、闇よりもなお深き闇黒の中、そこに浮かぶ機械の胎。

 そこからこの闇黒そのものを揺るがす程の震動が生まれていた。

 

 「馬鹿な、早過ぎる! まだ当分は先の筈だ!」

 

 闇黒の主、否、闇黒そのものが焦りと共に叫ぶ。

 此処はクラインの壺の中の、更に己という混沌の中の揺り籠だ。

 奴らからの干渉は有り得ない。

 

 ―――解っていたさ。最初から勝てない事なんて。―――

 

 不意に震動が止む。

 同時に機械の胎の中から声が聞こえた。

 

 ―――私/俺で勝てないのなら、勝てるようになれば良い。勝てる奴を呼べば良い。―――

 ―――だから、私/俺が負けるのは、当然の結果なんだ。―――

 

 男とも女ともつかない声が闇黒に響き渡る。

 その声はまるで聖者の様であり、罪人の様であり、同時に決意を秘めた人間の様でもあった。

 

 「何を!何をしたぁ我が眷属共ぉ!!」

 

 ―――混沌たる我々はあらゆる属性を内包し、時に互いに相争う。―――

 ―――なら、それはお前の一部であっても同じだよな?―――

 

 「まさか!?私を取り込んでいると言うのか!?不可能だ!出来る筈が無いッ!!」

 

 ―――出来るさ。なにせこれは荒唐無稽、空前絶後のお伽噺なんだから!―――

 

 直後、機械の子宮が爆散した。

 

 

 ………………………………………

 

 

 九郎の懐、そこにある懐中時計から光が溢れる。

 エルダーサイン、旧神の印。

 その光の障壁により、混沌の女は弾き飛ばされ、九郎の身体に力が戻る。

 何時の間にか普段着を着て、魔術の行使に支障も無くなっていた。

 同時、混沌の胎から光が漏れ出す。

 

 「形勢逆転だな。」

 「馬鹿な、馬鹿なあああああああああああああああああああああッ!!」

 

 先程の声と同時、混沌に異変が起こる。

 その身体が不気味に歪み、泡立ち、戦慄く。

 人の形を保っていられない。

 膨らんだ胎から漏れ出す光は益々強くなり、徐々に徐々に罅割れていく。

 

 「悪ぃな、ナイアさん。オレ、あんたの事嫌いじゃなかったけど…。」

 

 術衣を纏い、手にしたバルザイの偃月刀が混沌の胸元へと突きいれ、発火する。

 

 「どうもオレ、ロリコンだったらしくってさ。あいつの綺麗な身体知ってると、てめぇなんざ汚すぎてまともに勃たねぇんだよ、このババァ!!」

 「大十字九郎!!」

 

 混沌が身体を焼かれながら、九郎に掴みかかる。

 だが、その顔面に既に九郎が召喚した自動式拳銃が突き付けられていた。

 

 「人間を侮っちゃいけねぇな。解ったかい、カ・ミ・サ・マよぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 引き金を引いた瞬間、混沌の頭部が爆砕した。

 途端、絶望に満ちた世界は割れて消えた。

 

 

 ……………………………………

 

 

 「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!!!」

 

 身を引き裂かれる激痛に、混沌が叫んだ。

 爆散する機械の子宮、その残骸が降り注ぐ中、それが降り立った。

 それは漆黒の鋼であり、刃金だった。

 アイオーン、最強の鬼械神の一つ、ではない。

 アイオーン・リペアⅢにも似ているが、それとも異なる。

 特徴的な脚部のシールドと頭部のアトラック=ナチャ、背部に浮かぶシャンタクユニット。

 それは漆黒のデモンベインだった。

 漆黒のデモンベインの眼に、光が灯る。

 だが、その光は三つ、燃える三眼が如く、激しい意思が込められたセンサーアイが動揺冷めやらぬ混沌へと向けられた。

 

 「馬鹿な!! あり得る筈が無い!! 此処は私の中だ! 私の構築したクラインの壺の、私の胎の内だ!!」

 「だというのに……貴様、私の権限も取り込んだと言うのか!?」

 

 激情のままに叫ぶ混沌に、混沌から生まれ落ちた漆黒のデモンベインが、リーア/アーリが告げる。

 

 ―――簡単な話だ。―――

 ―――勝てないなら、勝てる奴を呼べば良い。―――

 ―――助けを呼べば、彼らはきっと応えてくれる。―――

 ―――だって、彼らは人の望んだ神様だから!―――

 

 虚空に浮かぶ漆黒のデモンベイン、その背後に五芒星が浮かび上がる。

 旧神の印、エルダーサイン。

 碧の光を背後に置き、漆黒のデモンベインが謳う。

 最強無敵の聖なる詩を。

 

 

 ―――憎悪の空より来たりて―――

 

 「馬鹿な!馬鹿な!こんな事は有り得ない!!」

 

 ―――正しき怒りを胸に―――

 

 「所詮は僕の一部だ!千の無貌たる僕の一部だ!奴らを降ろすなんて出来る訳がない!」

 

 ―――我らは魔を断つ剣を執る!―――

 

 「耐えられる訳が無い!所詮君は、魔を断つ剣にはなれない!」

 

 ―――汝、無垢なる刃 デモンベイン!―――

 

 

 虚空に荘厳で、勇猛で、神々しい気配が満ちる。

 漆黒であったデモンベインが暖かい光に包まれた。

 現れたのは黄金の光と神気を纏い、その手に輝くトラペゾヘドロンを握った真なるデモンベインだ。

 幾星霜とあらゆる時間と空間を邪悪との闘争に費やしてきた、優しき狩人の姿。

 人が望み、人から生まれ、人を助ける、最弱最強の剣。

 

 遂に神の領域へと至った、デモンベイン。

 

 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 「デモンベイン!デモンベイン!デモンベイン!」

 「いと憎し、我が恋人よ!」

 「こんな所まで、こんな時間にまで、追って来たのか!我々を!我々を!」

 

 虚空の中、闇黒が吠える。

 憎々しげに、恐ろしげに、おぞましげに、妬ましく、愛おしく、焦がれる様に。

 ありとあらゆる老若男女の声で、闇黒の化身たる混沌が吠えた。

 

 そして、もう一つの戦場でも、邪悪の姦計が破られつつあった。

 

 

 ………………………………………

 

 

 『アル…。』『九郎…。』

 『側にいてくれ。お前と一緒なら、何だって出来る…!』

 

 デモンベインのトラペゾヘドロンが、リベルレギスのそれを取り込み、巨大化していく。

 

 『トラペゾヘドロンが…』

 『融合していく…。』

 

 一つとなり、デモンベインよりもなお巨大となった神剣を、身体の一部であるかのように軽やかに振るう。

 振り下ろし、横に薙ぐ、軽やかな剣舞の後、大樹の様に天地を指して止まる。

 

 ――祈りの空より来たりて――

 「祈りの空より来たりて」

 

 ――切なる叫びを胸に――

 「切なる叫びを胸に」

 

 ――我らは明日への路を拓く――

 「我らは明日への路を拓く」

 

 何処かか響いてくる声が、九郎とアルの言葉に重なる様に宇宙に響いていく。

 

 『五芒星…。』

 『旧神の紋章!』

 

 デモンベインを取り囲む光が、エルダーサインとなって広がっていく。

 

 ―――馬鹿な!有り得ない!―――

 ―――ここは僕が作ったクラインの壺だ!―――

 ―――奴らが介入できる訳が無い!―――

 ―――まさか!?―――

 

 闇黒の女の胎に入った罅から、光が漏れ出る。

 罅はやがて広がりきり、その奥の虚空から一つの存在が感じられた。

 

 ―――貴様か!?貴様が穴を!?―――

 

 混沌が黒い炎を噴出し、己ごと身の内の敵を焼き尽くさんとする。

 だが、遅い。

 既に物語は、大団円へ向けて動いている。

 

 

 ――汝、無垢なる翼 デモンベイン――

 『汝、無垢なる翼 デモンベイン。』

 

 

 そして、デモンベインは光輝となり、宇宙に光が広がっていった。

 

 

 

 ………………………………………………………………

 

     …………………………………………

 

         ………………………

 

     …………………………………………

 

 ………………………………………………………………

 

 

 

 「終わったか……。」

 「そうだねぇ…。」

 

 真空の宇宙空間、何処とも知れない場所で、私達は漂っていた。

 

 「リペアⅢ、もといデモンベイン・カオスとでも言うべきかね? ま、完全に大破して漂流中だけど。」

 「致し方あるまい。まぁ、生きているだけ幸運さ。」

 

 正直、勝機は無かった。

 混沌に捉えられたあの時、あの夢を見なければ、絶対に自分達は負けていた。

 それだけギリギリの戦いだった。

 

 「あの2人には感謝だねぇ。」

 「全くだ。」

 

 疲弊した心身がだるい。

 まるで鉛になったかの様に重く、休息を寄越せと五月蠅い。

 

 「まぁ何時になるかは解らないけど、暫くは眠ろう。」

 「そうだな。回復すれば、また動ける。」

 「そしたら…ふぁ~…あの子らの所に帰ろう。」

 「では、ちと休もう…。」

 

 目を閉じ、身体を数千年単位での休眠に耐えられる様に変質させる。

 あの戦いのせいか、どうも混沌としての属性が強化され、同時にクトゥグアの火への相性も劇的に改善されている。

 恐らく、神降ろしの影響だろう。

 

 「お休み~…。」

 「お休み…。」

 

 シートに身体を預け、目を瞑る。

 あぁ、良い夢が見れそう……

 

 『ひゃーはははははははッ!! 遂に遂に遂に見つけたのであ~る!!』

 

 だ?

 

 「おい、この声…。」

 「何でいるんだ?」

 

 心底疑問に思い、未だ生きていたセンサーで情報を拾わせる。

 そして、視界一面に「全長1kmを超す、超巨大なドラム缶。もといドラム艦」があった。

 

 「「えーーーーーーーーーーーーっ!?」」

 

 もうキャラじゃねぇよとかそういう叫びは一切無視して、2人で同時に叫んだ。

 え、何が起きてるん?

 

 『しかし、アイオーンを追ってきた筈が、何故にデモンベインが此処に?しかも黒くなっておるし、イメチェンでもしたのブゲラッ!?』

 『母さん、聞こえてますか!?』

 

 通信が繋がり、ちょっと歳を喰ったドクター・ウェストが、それを押しのける形で子供と大人の合間程度にまで成長した息子の姿が映った。

 

 『ちょ、馬鹿兄!ボクにも話させない!』

 『な、さっきジャンケンで僕が先って決めただろ!』

 『何秒かってのは未定だったじゃないか!』

 

 更に息子と押し合いへし合いしながら現れたのは家族になって直ぐに別れてしまった娘の姿だ。

 こちらも既に子供と大人の合間にまで成長し、元気に兄と言い争っていた。

 

 『取り敢えずお久しぶりロボ!』

 「エルザ、取り敢えず状況説明を。」

 

 そして全く変わらないエルザが騒いでいる兄妹と痙攣しているドクター・ウェストを放って話しかけてくる。

 

 『エルザ達は何とかダーリン達を迎えに行こうと色々研究してたロボ。それで、何とかこの宇宙にアイオーンの反応を感知できたから、こうして迎えに来たロボ!所で、ダーリン達は何処か知っているロボ?』

 「流石にそれは解らんよ。ただ、こちらが勝って、バラバラになったのだけは確かだ。」

 「つか、好い加減に回収してくれ。そっちはどれ位時間が経ったか知らんが、こっちはついさっき終わった所なんだからさー。」

 『了解ロボ!収容はこちらでやるからお疲れ様ロボ!今はゆっくり休んでてほしいロボ!』

 

 それだけを伝えると、エルザとの通信が一旦切れた

 

 「ははは…ご都合主義も此処に極まれり、だな。」

 「だねぇ。んじゃま、此処は一つ、言うべき事を言っておこうかね。」

 「?……あぁ、そういう事か。」

 「そーそー。んじゃいっせーのーで…」

 

 すぅ…と息を吸い込んで、思いっきり大声を出す。

 伝えるのは感謝。

 先の戦いへの助太刀と、本来なら神降ろしとトラペゾヘドロンによって消滅していたであろう自分達を、この宇宙まで送ってくれたであろう存在へ。

 

 

 「「助けてくれてありがとう旧神様!」」

 

 (おう。これからも頑張れよ!)

 (うむ、達者でな。)

 

 宇宙に残念なイケメンと外見幼女の2人の姿が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何時までも何時までも、此処で世界を見つめ続けましょう。何も壊さず、誰も傷つけず、生き足掻く命達を笑いながら、憧れながら、この永遠を過ごしましょう。それだけが―――」

 「あぁ、それだけが……それだけが、僕達に赦された救いなんだね、エセルドレーダ。」

 

 永劫に続いた絶望の中、少年は漸く愛を知った。

 それは余りにも遅すぎた、当たり前の命の在り方。

 

 (で、どーすんの?)

 (アレを邪魔するのはなぁ…。)

 (お二方とも、良い雰囲気ですねぇ。)

 (ちょっと、羨ましい…。)

 (正直2人の世界過ぎて気が重いのであ~る…。ってか、我輩一応裏切った側であるからにして、見つかったら粛清されちゃう心配がそこはかとなく…。)

 (大丈夫ロボ。ほら、誰も傷つけずって言ってるロボ。)

 (まぁ何にせよ、もうちょいゆっくりしてから声かけようぜ?)

 (了解。では本艦は現状を維持。各乗組員は各々寛いで頂きたい。ただ、くれぐれも邪魔をしない様に。)

 

 「聞こえているぞ貴公ら。」

 「デバガメとは…随分と低俗になったものですね、貴方達。」

 「「「「「「「ごめんなさい!!」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以下、感動ブチ壊しの舞台裏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こうして、また一つ神話が出来上がりっと。」

 「ふむ、今回の戦いの記録か。まぁ良い。ネロ、そろそろ次の舞台を始める。ついてきたまえ。」

 「それは良いけどさ、ナイ神父。お客さんだよ。」

 「なに?まさか…?」

 

 

 「ハロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!エェェェェェェェェェェェヴェリワアアアアアアアアン!イッツアショータアアアアアアアアアアアアアアアアアイム!!遂にやってきました並行世界!我輩の叡智は尽きる所を知らず、遂に遂に次元の壁すら突破してしまうとは!あぁ、壁と言えばこの前物置の掃除をしていたら壁の穴に身体がすっぽりはまって抜け出せなくなった時、何か壁の向こうの下半身の方からカチャカチャと音が。我輩は悲鳴を上げた。変な事するんでしょう?エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!そして壁の向こうの人はこう言った。安心しな、オレはホ○だ。男しか喰わねぇよ、と。かくして我輩は絶対絶命のピンチを、物置にあったダイナマイトで全部吹っ飛ばす事で事無きを得た。」

 「博士は本当にゴキ○リを超えたキ○○イロボー!」

 

 

 ((アカン。)) Orz

 

 

 

 




これにて本編完結です。

いやぁ短期間集中連載はなかなかに骨が折れました。
SS書くのも久しぶりだったのに我ながらよくかったもんです。

それもこれも、読者の皆さんの励ましがあったからこそです。
この場にて感謝を。本当にありがとうございます。

以降もゆるゆると活動していくつもりですので、お気軽にお付き合いください。


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エピローグ  終わった後も続いていく

本編終了後の世界についてのお話です。


 

 綺麗な月明かりの夜、アーカム郊外に位置する公園で、1人の女性が佇んでいた。

 銀髪碧眼白磁の肌、典型的な白人の美女、否、絶世とも言える魔性の美貌を持った女性がただ1人で佇んでいた。

 その手には掌大の淡い光を放つ球体、彼女/彼の母親だった人の魂があった。

 魂は不意に風に吹かれる様に自然に浮かび上がり、数度リーアの頭上を回った後、音も無く宙に溶け、消えていった。

 

 「産んでくれてありがとう。さようなら。」

 

 彼女の眼は、母の魂が輪廻へと還っていった事を確かに見届けた。

 

 「良いのか?」

 「あぁ。あの人は普通に生きて、そして死んだ。それだけで十分さ。」

 「だな。ま、言いたい事も聞きたい事もあったけど、そりゃ蛇足ってもんだ。」

 「多少言えただけでも良しとすべき、か。」

 

 何時の間にか、否、いたにはいたが姿を消していた半身たる魔道書の言葉に、普通ではない手段を取るべきではないと返す。

 実際、既にマスターテリオン程とはいかずとも、鬼械神相手にも戦える程度に人外な彼女/彼にとって、人1人の魂を縛る事は簡単だ。

 だが、それはしない。

 それは死者への、母への侮辱にして冒涜に他ならないから。

 

 「母さーん!お肉焼けましたよー!」

 「そろそろ食べよー!」

 「ははは、普通に肉を焼くと言うのも楽しいものだね、エセル。」

 「はい、マスター。あ、そちら焼けています。」

 「おっと、アレクにアリス、そろそろ肉を取ってくれ。焦げてしまうよ。」

 「「はーい!」」

 

 なお、本日は家族4人+叔父夫婦を加えた6人でバーベキューをしている。

 …材料は全て普通の鳥、豚、牛と野菜各種なので、心配はありません。

 

 

 …………………………………………………

 

 

 こうして、邪神の陰謀は打破され、世界に平和が戻った。

 少なくとも、暫くは平和になるだろう。

 しかし、この世界は邪神の脅威と破壊ロボの性能が世間に認知されている。

 到底何も起こらないなんて期待できない。

 というか、飛翔編を考えると何か起こるかなんて決定している様なものだ。

 

 あの戦いの後、私達は地球に戻った。

 と言っても、既にこの地球は5年近い時間が経過し、自分の知るそれとは差異が出来ていた。

 そう言えば、ドクターが自分達を発見できたのも奇跡に等しいとか。

 マスターテリオン&エセルドレーダも同様だ。

 それに対し、九郎とアル=アジフは見つからなかった。

 まぁあの二人に関しては別の地球か旧神化して邪神ハンターをやってる事は簡単に予想できるので、実はあまり心配していない。 

 あいつらの息子がこっちに来たら、またぞろ気合いを入れ直さねばならないが、それまではキ○○イの鎮圧や外道魔術師の討伐とかをしながら子供達とのんびり過ごそう…。

 

 ドクター達はあの後、覇道財閥の下で日々研究開発に勤しんでいる。

 大抵馬鹿騒ぎを起こすが、被害が出始めればうちの一家の誰か、或いはウィンフィールド辺りに鎮圧される。

 しかし、被害以上の成果を出してるので、研究費用を出し渋られる事だけは無い。

 

 覇道財閥は今現在も世界経済をけん引し、あの戦いの後遺症を癒し、人類の対邪神戦力を整えようと奮起している。

 なお、総帥である瑠璃には主戦力がデモンベインを目標とした魔術戦力ではなく、独自改良・開発された量産型破壊ロボ(有人式)が主流なのは実に微妙な思いなのだとか。

 

 そして、我らがミスカトニック大学では…

 

 

 ………………………………………………………

 

 

 「私が教師、ですか?」

 「その通り。君こそ適任だと私は考えている。」

 

 主婦業務に専念していたある日、アーミティッジ教授に唐突に呼び出された。

 

 「今まで君は陰秘学科に籍を置き、幾度も教鞭を執っていた。だが、それに専念していた訳ではない。」

 「まぁ、確かにそうですが…。」

 「我々だけでは教えられる事に限界がある。生徒達には最高峰の魔導師からの教えを直接受けさせてあげたいのだよ。」

 「私にシュリュズべリィ先生になれ、と?」

 「そこまでは言わん。だが、我々も何時までも現役ではいられんのだよ。」

 

 邪悪と戦うのは1人では不可能だ。

 それが彼のラバン・シュリュズべリィ教授の思想であり、信念だった。

 そのために己が窮地になろうと、その結果として道半ばで果てようと、あの人は最後まで躊躇わなかった。

 対し、私は即戦力化できない者に用は無く、専ら非常勤の講師としての役割を果たしていた。

 それが、正式に陰秘学科のカリキュラムに組み込まれ、後進を指導する立場になる。

 

 「委細承知しました。その話、お受けしましょう。」

 「おお!やってくれるか!?」

 「た・だ・し!」

 

 喜色ばむ教授に釘を刺す。

 あんまり調子に乗らせると、苦労ばかり持ち込んでくるのだこの人は。

 

 「私は人にものを教えるのが上手い方じゃありません。フィールドワーク優先でお願いします。」

 「(お主が苦手レベルなら何人教師が止める事やら…。)解った。その様にしよう。」

 「ありがとうございます。」

 「では、今後ともよろしく頼むよ。」

 

 こうして、私は正式にミスカトニック大学陰秘学科の教師となったのだった。

 

 

 …………………………………………………

 

 

 こうして、私/俺達の物語りは一区切りを得た。

 幸い、今暫くはあの混沌からの干渉も無いだろう。

 だが、この平和が何時までも続く訳ではない事は重々承知している。

 なので、これからも私/俺達は形を変えて戦い続ける。

 少なくとも、人類が自らの意思と力で邪悪と戦えるまでは。

 

 

 

 

 

 

 「で、なんでうちの大学にいるんだ大導師殿?」

 「ははは、今の僕はぺルデュラボー、一大学生さ。それ以上でも以下でもない。」

 「マスターは暫くは極普通の人間として生活なさるとの事。どうかご内密に。」

 「まぁ良いが…頼むから問題だけは起こさないでくれよ?」

 「ちなみにサークルも作ったんだ。是非顧問になってほしい。」

 「あ、そう…。で、名前と内容は?」

 「オタ部。活動内容は今後流行するであろう電子ゲームの研究。」

 「………………………………ちなみにそれ、誰から聞いた?」

 「アーリから。」

 「よし、モン○ンしようぜ!」

 「私はス○ブラを…。」

 「よし、順番にどっちもやろう。」

 

 「その前にネーミングを直せぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以下、次への布石

 

 

 「ふんふふんふーん♪」

 「博士、今度は何を作ってるロボ?」

 「おぉエルザよ!今回は我輩、あのデモンベインの動力機関を再現できないか挑戦しているのである。」

 「獅子の心臓ロボ?今更どうして?」

 「今後、化け物共や他の破壊ロボと戦うなら、現在の核融合炉ではエネルギー不足が起きる事必至!ならば先んじて並行世界より無限の魔力を汲み出す守護神銀鍵機関を我輩の科学力で作成し、今後も我輩こそが科学の叡智の最先端を直走っていると証明するのであーる!」

 「ふーん。でもこの装置、何か光ってるロボよ?」

 「ゑ?…のほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?何故に起動しているのであるかーーーッ!?緊急停止スイッチは何処――!?!」

 「ロボ!……あれ、スイッチ壊れちゃったロボ。」

 「ちょおまwwwwww ってもう手遅れなのである!今すぐ退避ー!?」

 「ろ、ロボーーー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 




これにて本当に完結。
皆さん、お付き合いありがとうございました!




まぁまだまだリクエストとかやるんですけどねw


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番外編1 あの時を詳しく見てみた

感想欄で募集した内容を抜粋しました。

1、ショゴス時のシュリュズベリィ教授の助手風景 1票
2、西博士&エルザとの交流  2票
3、マスターテリオンとの戦闘  3票

何かリクエストがある時は活動報告の方にお願いします。


 

1、ショゴス時のダンディ教授の助手(ショゴスver)風景 1票

 

 「ハイータ、こっちの資料も整理してくれ。」

 「てけり・り。」(はーい。)

 

 「てけり・り。」(この資料はどうします?)

 「ふむ、それは後で纏めて燃やすとしよう。一般人の目に触れたら危ないからな。」

 

 「てけり・り。」(屋敷の掃除終わりましたよ。)

 「あぁ、ありがとう。ではそろそろ一息入れようか。」

 「てけり・り。」(じゃぁコーヒー淹れますね。)

「チョコクッキーとホットミルクもね。」

「てけり・り。」(解ってますよ。)

 

 此処はアーカムシティ郊外にあるラバン・シュリュズべリィ教授の邸宅だ。

 此処には現在1人と一冊と一体が生活を共にしている。

 

 「おや、豆を変えたのか?」

 「てけり・り。」(いえ、淹れ方を変えてみただけです。お口に合いませんでしたか?)

 「いや、私はこちらの方が良いな。今後もこれで頼むよ。」

 「てけり・り?」(おかわりは如何ですか?)

 「もらおう。」

 「私も。」

 「てけり・り。」(ちょっと待っててくださいね。)

 

 何時もの邪神奉仕種族の根拠地を核兵器と鬼械神で殲滅する系のお仕事を終え、久しぶりに帰ってきた家には随分と埃が積もっていた。

 今回は大仕事になるため、ハイータと名付けた南極で拾ったショゴスも同行しており、割とヤバい資料が大量にあるこの屋敷も何十年かぶりに大掃除する事になったのだった。

 

 「ちょっと疲れた…。」

 「レディ、はしたないぞ。」

 「てけり・り。」(お嬢さん、寝るならベッドでお願いします。)

 

 その量たるや、既に大きなゴミ袋が5袋も埋まっており、更に全体の半分以下しか終わっていないのだ。

 小さな身体で頑張ったせいか、魔道書の精霊である葉月もうんざりした様にハイータの上に乗ってだらけている。

 その様子に著者にして主であり、父でもあるシュリュズべリィと助手扱いのハイータが咎めるが、知ったこっちゃないと寛ぎ続ける。

 

 「ハイータって…冷たくて…肌触りが良くて…柔らかいから…お昼寝に最て、き…。」

 「てけり・り。」(教授、助けてください。)

 「やれやれ、働かせ過ぎてしまったかな?」

 

 よっこらせ、と教授が立ち上がり、ハイータから葉月を受け取って、そっと寝室へと運んでいく。

 その姿は何処ぞのロリコン貧乏探偵と違って、極めて紳士的であり、父性に満ち溢れていた。

 …これで葉月が「好きな人ができたの」とか言った日にはどうなるかちょっと考えたくないと思ったハイータだった。

 

 結局この後、疲れが溜まっていたシュリュズべリィも休ませつつ、ハイータが12体に分裂し、午前中を超える猛スピードで作業を消化していった。

 そして時刻は夜、夕飯の時間へと移る。

 

 「おぉ、今日は豪勢だな。」

 「すごい。これ皆ハイータが作ったの?」

 「てけり・り!」(頑張りました!)

 

 その日の夕食は豪華だった。

 焼き立てのパンにサラダ、肉汁が香るハンバーグ、コーンスープに飲み物はコーヒーとミルク。

 どれもこれも彩まで意識して盛りつけられたプロの一品と言っても通じるだろう。

 

 「ハイータ、アルコールは無いのかね?」

 「てけり・り。」(普段から蜂蜜酒を飲んでるんだから、今日位アルコール断ちしましょうね。)

 「ダディ、飲み過ぎは良くないよ。」

 「ぬぅ…そう言われると弱いなぁ。」

 

 暖かくて、少し騒がしく、それでいて何処までも寛げる。

 そんな夜の出来事だった。

 

 

 ……………

 

 

 ギチリと、損傷し、回復もままならない身体で状況を確認する。

 どうやらダメージにより意識が飛んでいたらしい。

 今のが走馬灯と言う奴だろうか?

 連戦に次ぐ連戦により、遂に限界を迎えたシュリュズべリィは倒れ、葉月は敵の手に落ちた。

 自分も既に満身創痍で回復する事も出来ない。

 先程辛うじてこちらの状況を知らせるために分体を逃がしたが、それとてちゃんち辿りつくかは解らない。

 それでも、只このまま死に逝く事だけは間違っていると、霞み始めた思考が告げる。

 

 「ギャッはハハはははは!おいおいおいおい!もう終わりかよ老いぼれ!」

 

 その手にセラエノ断章を持ち、シュリュズべリィの死体を蹴りながら、少年の姿をした魔導師が嘲笑する。

 ブラックロッジのアンチクロスが1人、クラウディウス。

 邪神ハスターの奴隷として暴虐の限りを尽くす外道の1人だ。

 

 「お?まーだくたばってないのかよ?良いぜ良いぜ、老いぼれを痛めつけるのなんざ面白くも糞もねぇ。もうちょっと遊んだって良いよなぁ!」

 

 笑いながら風が吹き荒れ、自分をボロ布の様に吹き飛ばし、周囲のものへとぶつけていく。

 馬鹿が。

 あの人ならそんな雑な風なんか扱わない。

 お前如き三下じゃ、本来のあの人の足元にも及ばないんだ。

 人間なら激しく歯ぎしりしているだろうが、今の自分には歯も顎も無い。

 だから、別の形で意趣返しと行こう。

 

 「おいおいおい?まさかもうくたばっちまったのか?爺より早いなんて情けねぇと思わねぇのかよ?」

 

 クラウディウスが無防備に近づいていく。

 聴覚と熱源探知により視覚に頼らず、精密にその感覚をキャッチしながら、最高のタイミングを待つ。

 肉体の殆どを生体炸薬へと変化させ、何時でも爆破出来る様にセットする。

 

 「んじゃ、お前もあの爺の所に逝きな。」

 「てけり・り。」(あぁ、だがそれは葉月ちゃんも一緒だよ。)

 「あ?」

 

 瞬間、光が弾けた。

 その直後、半径100mが跡形も無く消滅する程の大爆発が起こった。

 

 

 

2、西博士&エルザとの交流(「月の子」計画の落とし子時代)  2票

 

 ここはアーカムシティの封印された13区画「焼野」。

 その地下に眠る夢幻心母の一画。

 此処は夢幻心母内で最も安全で、同時に最もスリリングな場所でもある。

 

 「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!漸く完成したである、我輩のスペシャルウェポンが!その名もスーパーウェスト無敵ドリル13號~貫け奴よりも早く~!これを使えば、あのにっくきメタトロンとデモンベインも一撃に違いないのであ~る!更に更に!今回は特別にオマケして、何とこの30mm6連装チェインガンをおまけにつブギャオゥッ!?」

 『本命がオマケでどうする!』

 「お~、博士の顔がまるでミンチの様だロボ。」

 

 ゼルエルの激しい突っ込みにより、ドクター・ウェストは吹き飛びながら錐揉み回転し、派手に床へと激突、血飛沫と肉片を周辺へと撒き散らした。

 しかし、ここは既にギャグ空間。

 R-21G状態だった顔が普段のR-15G程度へと瞬く間に修復され、ドクターは絶対死んでる死体から死にかけの肉塊へと驚異的な回復を遂げていた。

 

 『ふむ、本命のチェーンガンの仕上がりは上々だな。この辺りは流石と言うべきか…。』

 「博士は確かにゴキブリも裸足で逃げ出す超有害的存在だけど、その技術力と知性に関しては人類でも最高峰ロボ!」

 『褒めるのか貶すのかどちらかにしろと言うに…。まぁ良いさ、ちと一暴れして試し撃ちでもするとしよう。』

 「まだ今日はエルザ達は何もしてないロボよ?」

 『直に起きるさ。そんな予感がするんだ。』

 

 ゼルエルが3m近い巨躯を生かし、これまた到底人間では携行できそうもない全長4m近い6連装チェインガンと大型弾装を肩に担ぎ、研究室を出る。

 彼女はウェスパシアヌスが中心となって行われた「ムーンチャイルド」計画において、ブラックロッジの魔道技術の粋を集めて構築された。

 同型機たるサンダルフォン、メタトロンに比べ、初期型である彼女は既に人間の姿に戻る事も叶わず、全身を分厚い装甲と武器に覆われている上に、人間離れした巨躯と力強い尾を持っている。

 その力はサンダルフォン同様、ブラックロッジの誇る魔導師達と勝るとも劣らない程の戦力を誇る。

 また、数少ない対抗可能戦力であるメタトロンと覇道の持つデモンベインを相手にしても、その常に有利に立ち回る程の戦上手でも知られている。

 

 『行くのか?』

 『サンダルフォン、お前もか?』

 『あぁ、メタトンの相手はオレがする。』

 『任せた。露払いはこちらで行う。』

 

 研究室の出入り口近くの通路で待っていたサンダルフォンが声をかける。

 是が非でも付いていく。

 そんな気配を滲ませる弟分にゼルエルは仮面の奥で嘆息を一つ吐き、彼の望み通りの言葉を口にする。

 そうでもしないとこのシスコンが大人しくならない事を今までの経験から骨身にしみて解っているからだった。

 

 『今日こそ討ち取る。』

 『あぁ…。』

 

 そう言って、2人並んで夢幻心母から出撃した。

 

 

 …………………

 

 

 『ん……?』

 「具合はどうロボ?」

 『……あぁ、負けたのか。』

 

 気付けば、またドクターの研究室だった。

 

 「おおゼルエル、気付いたのであーるか?」

 『あぁ、手間をかけたなドクター。』

 

 視界を動かせば、バラバラになった自分の身体が見える。

 右腕は肘から先が消失、左腕は手首から先が潰れ、下半身は胴体から千切れていた。

 元々実験を終えて寿命の殆どと人間としてのまともな機能を喪失した自分だったが、自前の魔術とドクターからの技術提供により、半ばサイボーグとして辛うじて生き永らえている。

 

 「もう限界であるな。これ以上は幾ら我輩が大天才☆ドクタァァァァウェェェェェェストゥッ!!であっても、これ以上は延命が関の山であ~る。生ゴミにどんなドレッシングをかけても生ゴミでしかない「女の子を生ゴミ扱いとはふてぇ野郎だロボ!」

 「げぺるにっちッ!?」

 

 その2人の元気過ぎる様子を見て、ゼルエルはバイザーの奥でほんの少しだけ目元を緩ませた。

 この二人や大十次九郎とアル=アジフらのやり取りは、この世界で摩耗していくばかりの自分にとっては僅かばかりの清涼剤と感じられる。

 昔も昔、大昔の自分なら、この2人のやり取り見て大爆笑だったのだろうが、今や僅かに表情が動くだけ。

 

 「ゼルエルはもう出撃しちゃダメロボ!元々ボロボロだったのに、無理無茶無謀過ぎロボ!」

 『すまないな、それは出来ないんだ。』

 

 一刻も早く、一秒でも早く、この無限の螺旋から抜け出すために。

ブラックロッジに所属するゼルエルは少しでもデモンベインの、魔を断つ剣達の成長を促さなければならない。

 それを止めたら…恐らく、壊れるだろう。

 今まで得た知識と力を、ただただ衝動のままに振るう単なる怪物と成り果てるだろう。

 それだけは嫌だ。それだけは御免だ。

 そんなものになる位なら、今この瞬間にでも戦って死んだ方がマシだ。

 邪神に歯向かって滅ぼされた方がマシだ。ずっとずっとマシだ。

 

 『私が私で在り続けるためにも、戦うしかないんだ。』

 「ロボ~…。」

 

 エルザがもの言いたげな様子でゼルエルを見つめる。

 しかし、下手な人間よりも人間らしい彼女でも、ゼルエルにかける言葉は見つからなかった。

 未だ生まれてから20年も経っていない彼女の人工知性に記録された人生?経験では、ゼルエルにかけるべき言葉は見当たらなかった。

 とは言え、戦闘を重ねる毎に破損を続け、徐々に機械部分が増えていくゼルエルの身体では、そう遠くない内に死ぬ事になるのは簡単に予想が付いた。

 

 (今回は此処までか。だが…。)

 

 『修復を頼む。私は少し眠る。』

 「ま、任されたのであ~る…。ピカピカにしてやるから、それまでゆっくり休むのであ~る。」

 『あぁ、お休み…。』

 

 それきり、ゼルエルの目から光が消える。

 完全に意識を消えた彼女は暫しの間、安息の時間を得る事となった。

 

 (頼んだぞ…九郎、アル=アジフ、デモンベイン…。)

 

 

 ……………………………

 

 

 覇道邸の地下、そこに広がる格納庫の中で、デモンベインが目を覚ました。

 その視線の先は焼野。

そこから確かに「彼」は自身への切なる祈りを感じていた。

 だが、「彼」はゆっくりと目を閉じて、再び眠りにつく。

 今はまだその時ではない。

 何時の日か、邪悪を打ち破る時を待ちながら、「彼」は次なる戦いのためにその身を休めた。

 

 

 

 3、マスターテリオンとの戦闘(人間でアイオーン・リペア搭乗時)  3票

 

 今回、「彼或いは彼女」は自身の全霊を賭して、ある賭けに出た。

 この無限螺旋というシステムの要たる存在、マスターテリオンを滅ぼす。

 標的が使用する術式、鬼械神の性能、そして何よりマスターテリオン本人と魔道書たるナコト写本。

 それらを最悪の最悪まで想定し、今まで自ら見聞したその力の更に数倍を想定して、出来得る限りの準備をした後に、「彼或いは彼女」は覇道財閥に身を寄せ、そのサポートを受けながら、遂に背徳の獣の眼前に降り立った。

 

 ………………………

 

 振り向けば、背後には覇道鋼造とネクロノミコン:機械言語訳の乗るデモンベインが倒れている。

 既に満身創痍、破損していない場所を見つける事も出来ない。

 その中にいる魔術師と魔道書もまた、今にも力尽きかけていた。

 

 『…………。』

 

 降り立った黒い鬼械神アイオーン・リペアは眼前の深紅の鬼械神リベルレギスを見つめる。

 本来、アイオーンは魔を断つ剣の前身である、人の身には強力過ぎる鬼械神の筈だった。

 しかし、断片化した記述から修復されたアイオーン・リペアは本来肩から展開されるシャンタクが背面から展開し、無骨さの中に曲線のあった優美なデザインはより太く厚く、無骨さを全面に押し出したものへと変貌している。

 それは奇しくも悪しき竜と竜退治に向かう武者の様ですらあった。

 

 『ほう…。』

 

 負の極地たる黒の王、大導師、背徳の獣、マスターテリオン。

 その当の本人は、触れただけで死ぬ程の殺意を浴びながら、まるで出来の良い絵画でも見たかの様な声を上げた。

 

 『許す。先手はそちらに譲ろう。』

 

 途端、空間が爆砕した。

 

 『マスタァァァァァァァァァテリオォォォォォォォォォンッ!!』

 

 この世のありとあらゆる負の想念を詰め込んだかの様な叫びと共に、アイオーン・リペアは踏み込みと共に音速を超過、更に加速しながらリベルレギスへと肉迫し、その拳を突きだした。

 

 『ははははははッ!!良い!心地好い憎悪だぞ!』

 

 それをリベルレギスは苦も無く掌でそれを止める。

 だが、拳は一つだけではない。

 連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打…!

 防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御防御…!

 一分にも満たない時間で、千に届こうかと言う拳の全てを捌き切る。

 

 『そら、こちらからも仕掛けるぞ!』

 『ガァァァァァァァァァァッ!!』

 

 そして、リベルレギスもまた拳を放つ。

 アイオーンよりも強く、重く、速い拳の連打を、しかしアイオーンは更にラッシュを加速させ、己の拳をぶつける事で防ぎ、同時に攻撃を加速させる。

 連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打連打ッ!!

 相手の拳を己が拳で塗り潰す。

 相手の攻撃を己が攻撃で防ぐ。

 相手の殺意に己の殺意をぶつけ合う。

 

 『シィァッ!!』

 

 鋭い呼気と共に、アイオーンが均衡を崩した。

 上体を沈み込ませながら、足を払う形で鋭い蹴りが放たれる。

 

 『温いな。』

 

 だが、リベルレギスはアイオーンの足の分だけ浮かぶという最低限の動作でそれを回避する。

 そして隙だらけとなったアイオーンへと右の踵を振り下ろす。

 

 『舐めるな!』

 

 アイオーンは敢えて肩で戦斧の如く振り下ろされる踵を受け止め、次いで動きの止まったリベルレギスの足を圧し折るために横向きから拳を叩きつけ様と拳を振るう。

 だが、リベルレギスはそれよりも早く左の足をアイオーンの頭部へと叩き付けた。

 

 『温いと言ったぞ?』

 『がぁッ!?』

 

 余りの衝撃に頭部装甲がひび割れ、水銀の血液が飛び散った。

 が、その手はリベルレギスの足を手放す事は無く、次撃が来る前にアイオーンの拳がリベルレギスの膝に渾身の力で横殴り叩きつけられる。

 

 『ぐぅッ!』

 

 その拳の余りの威力に、リベルレギスの右膝が叩き壊れ、同時にアイオーンの拳も砕け散る。

 脚部が解放された事により、自由となったリベルレギスは脚部の修復を開始しながら宙へと飛び上がり、アイオーンもまた損傷個所を修復しながら再び立ち上がり、背面のシャンタクを広げる。

 

 『ヴーアの無敵の印において、力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよ/力を与えよッ!』

 『死に雷の洗礼を。』

 

 アイオーンがその手に灼熱を纏う偃月刀を召喚せんとし、リベルレギスがその手に死の雷を呼び出すのはほぼ同時。

 

 『ABRAHADABRA!』

 『バルザイの偃月刀、過剰召喚!』

 

 リベルレギスより放たれた死の雷光は、しかし召喚された100本ものバルザイの偃月刀が宙を舞い、円盤の如く回転しながら殺到し、吹き散らされた。

 

 『超攻性防御結界!』

 

 次いで、それら全てがリベルレギスを串刺しにせんと猛禽の如く飛翔する。

 

 『ははははは!楽しませてくれる!』

 

 だが、リベルレギスの召喚した十字型の黄金の宝剣が眼にも映らぬ速さを以て、その全てを切り払った。

 

 『種は割れた。その術式、嘗て余が覇道を相手に使ったものだな?』

 

 マスターテリオンが上空からアイオーンを見下ろす。

 その声は実に愉快げであり、まるで幼子が新しい玩具を見つけた様な明るさと無邪気さを孕んでいた。

 嘗て、どれ程過去の事であったか既に定かではないが、リベルレギスの心臓部である魔術機関エンジンの主要部「マナウス神像」が覇道鋼造に奪取され、デモンベインに搭載された事があった。

 その際に心臓部を欠いたリベルレギスはこの反転術式を用いて、二つの心臓を持つデモンベインから自らの魔力を奪い返していたのだ。

 結果的に、その回は当時のマスター・オブ・ネクロノミコンとマスターテリオンによる千日手となり、邪神が無かった事にしてしまったのだが…それを覚えている者は少数だが存在する。

 一つ目は管理者たる邪神。

 二つ目は黒の王とその魔道書。

 三つ目は魔を断つ剣そのもの。

 そして四つ目、外側からそれを観測し得た「彼或いは彼女」。

 

 『それに、この改訂は妖蛆の秘密のそれに近い。成る程、余の術式を基礎に魔力の反転と暴食を行えば、確かにその鬼械神でも余に太刀打ちできよう。成る程、悪くない。奴が言っていた存在がここまで成長するとは。だがな…』

 

 リベルレギスの手に、黄金の弓が召喚される。

 

 『これはどうだ?』

 

 黄金の宝剣が矢として放たれる。

 それは狙い違わずアイオーンの額へと突き進み、しかし、それよりも前に主の危機を察した偃月刀が殺到、幾重もの防壁を形成する。

 だが、黄金の矢はそれら全てを貫通し、アイオーンの額を貫かんとしたが、僅かに減速したためにアイオーンが首を傾けて回避に成功し、薄く装甲を削るに留まった。

 

 『今のは余の魔力のみで構成かれたもの。故に貴公の術式は意味を成さぬ。』

 『ごちゃごちゃと、随分お喋りが好きだな。』

 『ん?』

 

 アイオーンの手元に、割れて砕けた偃月刀の全てが集う。

 それらは圧縮し、凝縮し、統合され、一本の偃月刀へと変じる。

 しかし、その威圧感と大きさたるや先程の数打の比ではなく、アイオーンの全長に匹敵する斬馬刀と化していた。

 

 『御託は良い。』

 

 アイオーンが大偃月刀を肩に担ぐ形で天を仰ぐ。

 その姿からは絶望も、恐怖も、諦観も感じられない。

 ただただ眼前の邪悪を屠らんとする意志のみが感じれる。

 

 『掛かって来い化け物!Hurry、Hurry!』

 『は』

 

 瞬間、リベルレギスから魔力が噴出した。

 

 『ははははハハははははははははははハはははははッ!!!』

 

 狂気、狂喜、驚喜。

 触れればそれだけで狂死する程の魔力。

 あらゆる負の感情が綯い交ぜになった、マスターテリオンただ一人による魔力が全方位へと放たれていた。

 

 『まだ、まだいたか!貴公の様な者がまだいたのか!ク、ははハハははははハハはははッ!!』

 

 噴き出す魔力が一点に収束し、再度リベルレギスの手に黄金の宝剣が出現する。

 

 『ならば見事この首を獲って魅せよ、人間ッ!!』

 『おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』

 

 両雄が空を、地を蹴り、その中間点で衝突した。

 

 『EYAYAAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!』

 『があああああああああああああああ!』

 

 空を駆けながら、斬撃に次ぐ斬撃が放たれる。

 既に剣速は音を超え、その衝突により、周辺の大気も雲も、気体は残らず吹き散らされ、真空に限り無く近くなり、音すらも途絶える。

 斬撃を通し、不可視の魔力が相手に飛び散り、斬撃となって襲い掛かる。

 互いが互いに斬撃の余波だけで傷だらけになりながら、しかし、決定打となる事は無い。

 火花ではなく爆発を合図として、互いが互いを蹴り合い、一瞬だけ距離が開く。

 

 『シィッ!』

 『ぜぇあ!』

 

 互いが武器を召喚する間すら惜しみ、手元の武器を投擲する。

 そして、それらが砕け散る寸前、既に手元には新たな武器が握られていた。

 

 『天狼星の弓よ!』

 『呪法螺旋、神銃形態!』

 

 次いで、核弾頭すら超える大爆発が中間点で発生し、両雄を包んだ。

 

 

 ………………………

 

 

 意識が現世に復帰する。

 即座に周辺状況の確認を開始。

 

 ≪魔力量…残47%

  機体状況…装甲51%破損。性能低下32%

  身体状況…大丈夫大丈夫まだ逝ける逝ける≫ 

 

 何もかもが消えた荒野の中で、瓦礫に埋もれていたアイオーン・リペアが再び立ち上がる。

 その姿は前身ボロボロであり、最早満身創痍と言える。

 

 『修復術式を起動。索敵開始。』

 

 言葉と共に、機体の中心から末端にまで波紋の様に魔力が走り、損傷部分から装甲が螺子が歯車がシリンダーがワイヤーが生え出し、元々そうであったかの様に機体を形作っていく。

 アイオーンが立つのはもう何も無い筈の荒野。

 だが、その中で「彼」には確かに悪意が、殺意が募っていくのが解っていた。

 

 『そこぉッ!!』

 

 抜き打ちの如く召喚されたマシンガンが、虚空を貫く。否、砕く。

 

 『ン=カイの闇よ!』

 

 虚空を砕きながら現れたリベルレギスが、漆黒の重力球を周辺に漂わせながら突撃する。

 重力球もリベルレギスも、共に無視するには危険度が高過ぎる上、既に回避は不可能だ。

 だから

 

 『ぶっ飛べ!』

 

 マシンガンの構成が掻き消され、6連装チェインガン2基が姿を現す。

 毎分1万発のイブン・ガズィの粉薬を採用した特製弾丸が吹き荒れた。

 

 『EYAYAAYAYAAaaaaaaaaaaッ!!』

 

 圧倒的物量により重力球は掻き消されるが、リベルレギスは全身に銃弾を受けながら、しかし、その度に驚異的な回復をしながら突撃を続行、その両の爪を以てアイオーンへ襲い掛かる。

 

 『ッ!』

 

 咄嗟にガトリング砲を身代わりにする。

 切り裂かれ、飛び散る部品に構わず、今度はアイオーンが突っかけた。

 

 『破ぁ!』

 『シャァ!』

 

 至近距離で拳と拳、蹴りと蹴り、頭突きと頭突き、体当たりと体当たりが繰り返される。

 元より互いが長期戦が出来ない現状、一撃でも致命打を与えた方が勝ちとなる。

 これ以上消耗すれば、互いに続行は出来ない。

 それが解っているからこそ、熾烈な攻撃の応酬となる。

 十、五十、百、千、万…。

 打撃が打撃を呼び、時折カウンターや受け、反らしが混じる中、幾星霜と死闘は続いていき…互いの右拳が正面から衝突し、莫大な衝撃が空間を走ると共に、片方の拳が砕け散った。

 

 『がはぁッ!?』

 『があああッ!!』

 

 先に膝を突いたのは、満身創痍のアイオーン・リペアだった。

 

 『ぐ、ぎぃ、…ッ!』

 

 元より術者殺しの異名を持つアイオーンの系譜。

 一度実力が同等かそれ以上の相手と根競べとなってしまっては、魂喰らいの主機関アルハザードのランプでは持久力に乏しい。

 そして、その相手が彼の背徳の獣では、短時間に攻め切れなかった時点で敗北は決していた。

 

 『は、はははははは…。これが、これが痛み…闘争か!ははは、随分と久しいものだ!あはははははははははははははははッ!』

 

 眼前で満身創痍で膝を突くアイオーンを前に、マスターテリオンが高らかに嗤う。

 

 『マスター…テリオン…ッ!』

 

 砕けた右腕もそのままに、なおも立ち上がろうとするアイオーン。

 しかし、その動きは弱弱しく、最早まともに動く事すら出来なかった。

 

 『貴公はよく戦った。余に、このマスターテリオンを相手に一歩も引かずに戦い、此処まで追い込んだのだ。』

 

 その言葉通り、リベルレギスもまた満身創痍だった。

 竜の翼は片側が引き千切れ、全身の装甲は削られ、抉られ、罅割れ、最後の一撃を見舞った右腕は歪み、装甲が弾け飛んで内部構造が剥き出しになっていた。

 

 『故にこのリベルレギスの最大奥義を以て、貴公との戦いを幕とするとしよう。』

 

 大破寸前のリベルレギスの右腕へ、まるで闇黒の太陽を思わせるかの様な負の無限熱量が集っていく。

 右の手刀が抜き手の構えを取り、弓の弦の様に引き絞られる。

 それは絶対零度の手刀、デモンベインのレムリア・インパクトと対を成す必滅の一撃。

 

 『ハイパーボリアァァ…!』

 『ミードセット、再起動完了。』

 

 いざ止めという瞬間、再起動を知らせる合成音声と共にアイオーンの身体に再び力が戻った。

 

 (動けて30秒、その前に…!)

 

 アイオーンが特攻する。

 目指すのはリベルレギス、その心臓部。

 マスターテリオンがいるコクピット。

 

 『ゼロドライブッ!!』

 

 だが、必滅の一撃は止まらない。

 微塵の動揺も見せずに、絶対零度の手刀がアイオーンを貫かんと迫る。

 

 『全装甲強制排除、防御結界始動!』

 

 アイオーンの全ての装甲が排除され、その構成を後先考えず防御のためだけのものへと変質させる。

 それは眼前に迫る滅びを防ぐ事は出来なかったが、その勢いを減じさせ、アイオーンが踏み込むだけの刹那を稼いだ。

 だが悲しいかな、その刹那は遅れて到達した手刀がアイオーンの腹部に突き込まれた事で無為となった

 

 『まだだぁッ!!』

 

 筈だった。

 アイオーンの頭部が滅びゆく胴体から分離し、山犬の如くリベルレギスの胸部へと喰らいついた。

 

 『貴様ぁッ!?』

 

 破損した装甲では、如何にリベルレギスと言えど耐える事は出来ず、コクピットが完全に露出した。

 

 『マスタァァァァァァァァァァテリオォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!』

 

 そして、奇襲はまだ終わらない。

 アイオーンの頭部が維持出来ずに消滅し、次いで残された魔導師がバルザイの偃月刀を握り、咆哮と共に死力を尽くしてマスターテリオンへと特攻する。

 

 「マスター!」

 

 エセルドレーダが瞬時に反応し、主を守るべく防御陣を展開する。

 敵を寄せ付けぬ強固な守りは、しかし、振り下ろされた偃月刀に甲高い音と共に叩き割られる。

 そして、遂に刃がマスターテリオンへと到達した。

 

 「見事だ。」

 

 だが、それだけだった。

 「彼」にはそこまでが限界だった。

 全身の穴という穴から血を流し、黒かった筈の瞳と髪は老人の如く白く濁り、青年故の張りがあったその肌は砂漠よりもなお潤いを無くしていた。

 彼の振るった最後の刃は防御陣を切り裂き、マスターテリオンの肩口に食い込んだ。

 だが、そこまでだった。

 彼の命を奪うべく、最後まで振り抜くための力は、もう残されていなかった。

 彼は、既に死んでいた。

 

 「マスター、直ぐに治療を。」

 「良い。」

 

 マスターテリオンはゆっくりとした動作で肩に食い込んだ偃月刀に触れた。

 たったそれだけで偃月刀は砕けて消え、刃を失った傷口からは鮮血が吹き出た。

 

 「マスター!?」

 「良い。構わぬ。」

 

 微生物すら存在しない荒野の中、マスターテリオンはただ見つめていた。

 2人の血に塗れた敵の亡き骸。

 それにはもう既に魂は無く、単なる死体に過ぎない。

 それでも、初めて己の喉元へと迫った敵に、マスターテリオンは奇妙な感情を抱いていた。

 

 「此度は余が勝った。故に、次もまた余が勝つ。貴公の挑戦を待っているぞ。」

 

 それは彼が、七頭十角の獣が、背徳の獣が、666の獣が、初めて誰かに誓った事だった。

 

 一方的なものだったが、それは確かに「約束」だった。

 

 

 

 

 




 日間   2位
 日間一覧 1位
 ルーキー 1~3位


 わっつはぷん?


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番外編2 何時かあった風景(前半文章追加)

今回のお題

 1、エセ紳士の所で師弟関係
 2、VSデモンベイン
 
 3、1話目のティベリウスによる凌辱シーン は完全にR-18なので、本編終了後に纏めて執筆致します。


 しかし、チラチラと主人公の正体を予測してた方がいますね。
 ネタへの反応も多いですし、書いてて楽しいです。
 本編は残り3~4話で終了ですが、此処で箸休めにリクエストにあった番外編を挟みます。



日間   5位
日間加点 1位
週間   2位
ルーキー 4位
感想数 124


相変わらず幻覚は続いている様だ…。

あ、今回はちょい短めです。



 

1、エセ紳士ことウェスパシアヌスの所で師弟関係(ループ中盤 月の子へ転生中)

 

 

 ブラックロッジの本拠地、夢幻心母の中のとある区画。

 ドクター・ウェストの研究所とはまた赴きの異なる大量の研究資材や設備がある此処は、「ムーンチャイルド」計画の総責任者たるウェスパシアヌスの住処、その最も奥まった場所だ。

 

 「うむ、素晴らしい、素晴らしい成長ぶりだ。これならCの巫女としての機能は十二分に果たせるだろう。全く持って素晴らしい、素晴らしいね!」

 「ありがとうございます、教授。」

 

 此処に住まう者は三つに区分される。

 それは主であるウェスパシアヌスを頂点に、その被創造物か、実験台か、その三つしかない。

 

 「暴君は余りの成功作故に、制御すら出来ぬ程になってしまったが…君は違う。君こぞ、私の望みを叶える成功作だとも、そうだとも!」

 「ありがとうございます、教授。」

 

 瀟洒な紳士服を纏う、橙色の髪の老人は、狂気の笑みを張り付けながら、己の最高傑作へと下卑た笑みを向ける。

 成功作。それは彼の暴君ネロの先行試作型にして、真の完成形たる少女の事だ。

 銀の髪、白磁の肌、碧眼を持つ美少女が服を纏わず、身体を隠す事もせずに立っている。

 しかし、その美しい顔は先程からピクリとも動いていない。

 

 暴君ネロは自分の手に負えない。

 

 偶然か必然か、ウェスパシアヌスの創造した筈の暴君ネロは予想以上の性能を発揮したが、その反面、制御を受け付けない程であり、極めて危険だった。

 それでもCの巫女としての機能で抑えつければどうにか御せるものの、安定性に欠けている感は拭えなかった。

 それではダメだ。

 より完璧に、より強力に、より美しく。

 ウェスパシアヌスの願い、彼のマスターテリオンを超える者を人の手で創造する。

 それを実現するためには、制御できない暴君ではダメだった。

 ウェスパシアヌスは生産直後から半ば放置していたCの巫女の先行試作型の生き残りを徹底的に再調査、再調整、再教育を行い、遂にはネロに匹敵する力を持ちながら、しかし、制御可能な彼だけのCの巫女を創り出す事に成功した。

 その最高傑作こそが、リーアだった。

 

 「おっと、そろそろ午後のティータイムだ。そろそろお茶を淹れておくれ、レディ。」

 「畏まりました、教授。」

 

 

 

 後に、彼女はウェスパシアヌスと共に、最終的に離反した暴君ネロと宿敵デモンベインを相手に死闘を繰り広げる事になる。

 

 

 ………………………………

 

 

 クトゥルー体内 制御中枢において

 

 「詰めが甘かったなぁ、蕩ける様に甘かったなぁ、アウグストゥス。切り札は最後まで取っておきたまえ。どうだ、どうかね、勉強になったかね?」

 『うん、ウェスパシアヌスの言う通りだね。』

 

 アウグスティヌスのレガシー・オブ・ゴールドが焼け解け、アウグスティヌスが灰となった瞬間、不可視の一撃がウェスパシアヌスを襲った。

 正史において、此処でウェスパシアヌスが次に受ける一撃によって死す筈だった。

 だが、此処には彼女がいる。

 真なる月の子、彼の最高傑作たる彼女が。

 

 『それはお前もだ、暴君。』

 

 不可視の一撃は、同じく不可視の一撃によって相殺された。

 空間に響く2人の少女の声に、九郎の全身に強烈な悪寒が走る。

 

 『そっか、君がいたっけ。面倒だなぁ。』

 「やはり貴様か、ネロ。父たる私に手をあげるとは躾がなっていなかった様だ。あぁ残念だ、残念だとも。」

 「教授、お下がりください。ここは私が。」

 

 何時の間にそこにいたのか、サイクラノーシュの上に立つウェスパシアヌスの横、そこに1人の少女が立っていた。

 銀髪に碧眼、白磁の肌を持つ、無表情の美少女。

 

 『あは、誰かと思ったら御姉様じゃない。てっきり逃げ出したと思ったのに。』

 「囀るな欠陥品。」

 

 ネームレスワンのコクピットが広くと同時、纏わりついていた触手を引き千切りながら、1人の少女が姿を見せる。

 

 『エンネア!?なんで生きて…!』

 

 暴君ネロ、またの名をエンネア。

 

 「それは嘘。ごめんねー騙してて。」

 

 片目を瞑って歳相応の茶目っ気を見せながら謝る暴君。

 だが、その眼は一片たりとも笑ってはいない。

 

 「九郎とはたくさんお話したいんだけど…邪魔者を片付けてからにしよっか。」

 「欠陥品には冗句の才能も無いらしい。此処で果てろ。」

 「あはは、試作型の御姉様じゃ勝てる訳ないじゃない!」

 

 月の子の成功作とされる両者の間で、殺気が爆発的に膨張していく。

 互いが互いにコイツが気に喰わない、不倶戴天の天敵であると認識したのだ。

 

 『九郎!』

 『あーもう!取り敢えずとっちめてから話を聞かせてもらうからな!!』

 「ふむ、流石にデモンベインとの三つ巴では君とて危うかろう。私も手を貸そうじゃないか。」

 「おや珍しい。ウェスパシアヌスがそんな事を言うなんて。」

 「ははは、大事な大事な娘が頑張っているのだ。父親である私が示しがつかないからね。」

 

 一瞬、会話に間が開く。

 それだけで、この場の全員が自分の中の闘争のスイッチを押した。

 

 「謳え!呪え!オトー!ウィテリウス!」

 

 再度召喚された2体の巨人と共に、サイクラノーシュが強大な魔術を放つ。

 

 「永劫!時の歯車 裁きの刃!

  久遠の果てより来たる虚無!

  永劫!汝より逃れ得る者は無く

  汝の触れし者は死すらも死せん!」

 

 呪文と共に失われた筈の破邪の鬼械神が血の海に満たされた空間へとサイクラノーシュの盾となる形で躍り出る。

 

 「あははは!さぁどんちゃん騒ぎの開幕だよ!魔衝弾!」

 

 視界に存在する敵全てを撃滅すべく、ネームレスワンが弾幕を四方八方へと撒き散らす。

 

 『貴様ぁ!よっくも妾の鬼械神を勝手に!』

 『だぁぁぁ!このじゃじゃ馬娘共が!尻叩くだけじゃすまさねぇぞ!』

 

 そして、デモンベインがその戦闘の只中へと突っ込む事で、三つ巴の乱戦が開始された。

 

 

 

 

 

 だが、後にこれを切っ掛けにリーアは暴君ネロことエンネアと時空を超えた友情を結ぶ事になる。

 

 

 

 

 2、VSデモンベイン(中盤 海神初期型)

 

 切っ掛けは些細な事だった。

 戯れに街へと繰り出した時に限って破壊ロボが出現して、折角注文したパフェがテーブルの上に倒れて台無しにされた。

 挙句、出撃したデモンベインが大地に降り立った衝撃で跳ね上がったパフェの残骸が顔面を直撃し、折角相方たる魔道書からの勧めで買ったワンピースがクリーム塗れになった。

 こうして混沌の血を受け継ぐ半神の仔の、人よりかなり丈夫な堪忍袋の緒は、見事に引き千切れた。

 それを見た彼女の相方の魔道書は、珍しく顔を真っ青にしたと言う。

 

 切っ掛けは些細な事だった。

 でも、タイミングって重要だよね。

 今回のお話はつまる所そんなもんである。

 

 

 …………………………

 

 

 『げひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッ!!今日こそ!今日こそにっくきデモンベインを!序でにその中の人であるネクロノミコンとロリぺド探偵をこの天才☆スーパードクター・ウェェェェェェェェェェェェェストが倒すのであーる!』

 『破壊ロボ、出撃するロボー!』

 『こんのガ○○○共が!あんだけやってもまだ懲りないのかよ!?』

 『いい加減にしつこいわ、このキ○○○共め!』

 

 憎しみは連鎖する。

 片や一方的に突っかかって一方的に負け続けて一方的に恨み続けるキ○○○とそのロボ。

 片や定職につかない貧乏人で碌に食べ物も食べられずに遂にはロリコンの道へ走ってしまった元インテリとその魔道書。

 どっちもどっちの不毛さであるが、今回はこの不毛さに加え、食べ物の恨みという太古からの不毛さをブレンドしてみよう。

 

 『汝、光飲む深海の水

  汝、太陽無き地下の土

  悠久の時より立ち上がり、

  星辰の時より顕れ出でよ!』

 

 呪文と共に大地を突き破る形で、紺色の鬼械神が街へと躍り出る。

 その突拍子の無さに、つい破壊ロボとデモンベインの動きが止まった。

 

 『な、なんであ~るか!?』

 『九郎!アレは鬼械神だ!クトゥルーの水とツァトゥグアとは、妾も見た事が無い!』

 

 だが、両者の驚きなんて知った事ではない。

 

 『パフェの恨みぃッ!』

 

 率直な怨恨を口にしながら、ワダツミが破壊ロボへと攻撃を開始した。

 機体の周囲を漂う4枚のシールド、その裏からシールド1枚につき25本、総数100本の触手が生え、その先を一斉に破壊ロボへと向け…

 

 『魔光弾、連続照射開始…。』

 

 やる気の絶滅した魔道書の精霊の事と共に、先端部から一斉に光が放たれた。

 

 『の、へぶ、ぼげ、ぶぎゅるッ!?』

 『ろ、ロボォォォォォォォッ!!』

 

 破壊ロボは一瞬の内に装甲を貫通、切断、破壊され、数秒とせぬ内に大爆発を起こした。

 

 「お、覚えておくのであ~~る~~………」

 「ロ~~~ボ~~~~~~~……。」

 

 辛くも脱出したキ○○○コンビは、ドップラー効果と共に捨て台詞を残しながら、夜空のお星様となった。

 そして、第一の目標を撃破したワダツミは、次なる目標へとゆっくりと振り返った。

 

 『なぁ、アル…。』

 『一戦やらねば帰してくれぬであろうなぁ…。』

 

 2人の言葉と同時、ワダツミの眼に光が灯る。

 

 『ワンピースの恨みぃッ!!』

 

 直後、4枚の盾を正面に構えながら、ワダツミは突撃した。

 

 『やらせるかぁ!』

 『エルダーサイン!』

 

 瞬時にデモンベインの正面へと破邪の印が現れ、その身を守護する壁となる。

 だが、眼前にいるのはただの鬼械神ではない。

 マスターテリオンに並ぶ暴君ネロの姉妹が駆る鬼械神ワダツミにとって、この程度の障壁などあった所で意味は無い。

 

 『ぐぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 『にょわぁぁぁぁぁッ!_』

 

 余りの圧力に耐え切れず、障壁は一瞬で弾け飛んだ。

 それでも衝突の勢いは衰えず、そのまま正面にデモンベインを捕えたまま、ワダツミは幾つものビルを突き崩しながら人気の無い郊外の山近くまでデモンベインを押し続けた。

 

 『この、野郎!』

 

 デモンベインが眼前のシールド目掛けバルカン砲を掃射する。

 が、全く通じず、掠り傷もつかない。

 

 『堅過ぎだろ!』

 『九郎、備えよ!』

 

 やがて、デモンベインが山肌へと叩きつけられ、衝撃が機体を走る。

 

 『ぐぅぅぅっ!』

 『次が来るぞ!』

 『クソッたれがぁ!』

 

 山肌に叩きつけられ、動きの止まったデモンベインに、ワダツミがその右手を振り上げ、叩き付けんと振り下ろす。

 デモンベインは咄嗟に脇に転がる事でその一撃を回避するが、叩きつけられた拳は山肌を割り、山体そのものに致命的な損傷を負わせた。

 

 『バルザイの偃月刀!』

 

 瞬時に体勢を立て直したデモンベインが、破邪の偃月刀を手に切り掛かる。

 が、それは瞬時に構えられた盾にいなされ、逆に隙を晒す事になり、別の盾が鈍器となってぶつかってきた。

 

 『ごはッ!』

 『だぁぁぁ!コヤツ、戦い方が巧過ぎる!』

 

 再び弾き飛ばされたデモンベインに、今度は展開した触手からのレーザーの雨が降りかかる。

 破壊ロボを数秒程度でスクラップにする威力は絶対に喰らいたくは無い。

 

『どうする九郎!?何時までも避け切れんぞ!』

 『解ってらぁ!イタクァ、クトゥグア!』

 

 デモンベインの両手に、2丁の魔銃が召喚される。

 旧支配者の名を冠する、暴君より贈られた魔銃は、その性能を遺憾なく発揮し、轟音と共に弾丸がワダツミへと迫る。

 が、防御力に関しては最高に近い性能を持つワダツミ相手では、未だに未熟な九郎ではその防御を突破できない。

 放たれた銃弾は空しく盾に弾かれる…が、その威力は展開されていた触手には容赦無く発揮され、その殆どが薙ぎ払われた。

 

 『ッ、魔弾砲!』

 

 射撃手段を無くしたワダツミが盾を開き、その胸部から魔力砲を撃ち放つ。

 当たれば消滅必須の一撃を、しかし、デモンベインは難無く回避する。

 

 『さっきの触手に比べりゃ解り易いんだよ!』

 『断鎖術式クリティアス、ティマイオス起動!』

 

 此処が勝負所と見たアル=アジフが踏み込みに合わせ、断鎖術式を起動、その機動性を劇的に向上させる。

 何も無い筈の宙を踏み締め、駆け抜けるデモンベインに、しかしワダツミには一切の動揺が無い。

 

 『アトランティス・ストラ…!』

 『イア・ツァトゥグア!』(手加減仕様)

 

 必殺の近接粉砕呪法が叩き込まれる瞬間、隆起した大地をカウンター気味にデモンベインを下から打撃する。

 なまじ勢いがあったばかりに受けたダメージは深く、デモンベインは再度倒れ伏す。

 

 『イア・クトゥルー!』(手加減仕様)

 

 更に追撃が走る。

 一部の地面が隆起した事で破裂した水道管や崩落した下水道、繋がった地下水脈を利用して、街中に巨大な水柱が複数出現し、それらは蛇の様にのたうちながら、デモンベインに迫っていく。

 

 『くそ、コイツ何処まで多芸なんだよ!』

 『言ってる暇があるなら回避せよ!』

 

 幸いにもアトランティス・ストライクが不発に終わったため、蓄積した魔力は未だに断鎖術式の継続に回されており、立体的な機動によって辛うじて回避する。

 

 『くそ、このままじゃジリ貧だ!』

 『ええい、あの盾さえ無ければどうとでも出来ると言うのに!』

 

 あのやたら頑丈な4枚の盾。

 あれがあるから近接戦もし難いし、遠距離では決め手に欠ける。

 幸い、アトランティス・ストライク並の威力なら、態々魔術で対応した事からも通るらしいが、早々にそんな隙など与えてくれないだろう。

 

 (って、よく見ると盾に傷がついてる?)

 

 よく「視れば」、その強固な筈の盾の表面には弾痕が残っている。

 間違いなく、先程自身が放った魔銃によるものだ。

 

 『クトゥグア、イタクァ!』

 『九郎、どうするつもりだ?』

 『取り敢えず見てろ!』

 

 冒涜的で暴力的な2丁の魔銃が咆哮する。

 弾装の中身全てが連射され、その矛先は4枚ある盾の内、特に損傷の激しい一枚の、更に一番深い傷へと着弾する。

 

 『何!?』

 『お~、流石と言うべきか。』

 

 第六感による超精密連射は確かに盾の一枚を完全に破壊し、幾つかの弾丸をワダツミ本体へと到達させた。

 が、本体の方もやたら頑丈なこのワダツミ、致命打には至らない。

 

 『ナイスだ九郎!壊し方が解ったのなら、後はどうとでもなる!』

 『おし、往くぜぇ!』

 

 2丁の魔銃が再び咆哮を始める。

 今度はその咆哮は途切れる事を知らず、連射に次ぐ連射を繰り返す。

 

 『舐めるなぁ!!』

 『盾3枚、傾斜展開及び回転開始!』

 

 3枚の盾が傘の様に展開し、回転を始める。

 途端、傾斜する事で厚みを増して弾丸を流し、回転する事で損傷の蓄積が防がれる。

 そのまま、最初の突撃を焼き直しする様に、ワダツミが突進する。

 

 『九郎!』

 『解ってるッ!』

 

 更に魔銃の連射速度が上がり、盾の損傷が増し始める。

 2枚目が壊れ、3枚目が割れ、4枚目に罅が入り…

 

 『ハァァッ!』

 『負けるかァァ!』

 『シリアスに見えるだろ?でもこれシリアルなんだぜ…。』

 

 4枚目の破壊と同時、両者が再度近接距離へと入る。

 

 『魔剣!』

 『バルザイの偃月刀!』

 

 ワダツミの魔力剣と破邪の偃月刀が真正面から魔力の火花を散らして鍔競り合う。

 

 『おぉぉりゃぁぁぁぁ!』

 『ハァァァァァァァァ!』

 

 斬! 惨! 懺!

 斬撃の応酬の余波により、周辺の木々やビルが次々と切り倒されていく。

 が、両雄は退かず、更に斬り合いは加速する。

 

 『オラァ!』

 『クッ!?』

 

 不意にデモンベインが大きく振りかぶって偃月刀を投擲する。

 高速で回転しながら飛来する偃月刀に、突然リズムを乱されたワダツミが泡を食って偃月刀を防ぐ。

 その瞬間、一瞬動きが止まったワダツミに、デモンベインの頭部から伸びる蜘蛛の糸が魔力を帯びて光り輝く。

 

 『アトラック=ナチャ!』

 『しまっ…!?』

 

 暗黒世界ン=カイに住まう旧支配者の名を持つ糸が、ワダツミの全身を絡め取る。

 魔力を帯びて強固となったその糸は、上位の鬼械神とは言え、一瞬での脱出は難しい。

 

 『光射す世界に、汝ら闇黒、住まう場所無し!』

 『渇かず、飢えず、無に還れ!』

 『レムリアァァァァァァァァァッ!』

 

 その致命的な隙を見逃さず、デモンベインがその右手に膨大な魔力を収束し、必殺の第一近接昇華呪法を起動する。

 

 『くっ、ここで敗れたとしても、第二第三の私がこの恨みを晴らす…!』

 『何気にレムリア・インパクトは初体験だーね。んじゃ、私は撤収~。』

 『ちょ、おま』

 

 ワダツミから密かに魔道書の精霊が脱出するが、余りの隠蔽の巧みさに主たる術者以外は誰も気づかない。

 そして、今まで数多くの邪悪を屠ってきた無限熱量の一撃が、ワダツミへと迫る。

 

 『インパクトォォォォォォォォォォ―――ッ!!』

 

 碧の光の一撃が、ワダツミへと吸い込まれていき…

 

 『昇華ッ!』

 

 展開された結界内で、その熱量が完全に解放された。

 

 

 

 

 次回において

 

 「今度はレムリア・インパクトの直撃を貰っても耐え得る装甲を実現する…!」

 「や、流石に無限熱量相手じゃ無理が……って聞いてねぇ。」

 「ふむ、手加減したとは言え、アレを一撃で打ち倒すとは…此度は期待が持てそうだな。」

 「私の銃も馴染んでるみたいだし、順調だねー…っと危ない。嵌め技は勘弁だよー。」

 「おいおい、今のは当たってたろー?」

 「へへーんだ、私の○ムスにそんなのは当たらないもーん!」

 「行け、私のカー○ィー!ドリルキックで奴を地獄へ落とせ!」

 「では余の○カチュウが相手になろう。」

 「「「何故それにしたッ!?」」」

 

 

 

 




召喚呪文はアンブロシウスを参考にてきとーに作りましたw


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番外編3 無限螺旋序盤の平穏と終盤のキ○○イ

日間   46位
日間加点 47位
月間    4位
UA 100027
感想   294


 今回はリクエストにあった非18禁二つです。

 なお現在溜まっているR-18のリクエストは以下の通り。
・第一話のティベリウスによる凌辱シーン
・TS時空のR-18シーン

 3話貯まったら書き始めます。




 なお、次のリクエストを活動報告で取ります。



 蛇人間でツァトゥグア司祭

 

 

 光の射さぬ地下、暗黒世界ン=カイにおいて

 

 「a08fda@jpij@/@@weee.:;,f@l,w……。」

 

 人類に発音不可能な音声で、祈りを捧げる集団がいた。

 蛇人間達と地底生活によって退化した蛇人間とも言われる大地の妖蛆だ。

 その多くは知性も犬猫程度で、手足も短く力が弱いし、魔術に精通した者は絶えて久しい。

 そんな彼らが曲がりなりにもこうして原始的とは言え、再び宗教を行えるようになったのは、今正に彼らの中心で冥福を祈られている先代の司教の手腕によるものだった。

 

 彼は生まれた頃から退化してしまった大地の妖蛆の中で、例外的に極めて高い知性と初歩的ながらも魔術の行使を可能としていた。

 更に、多くの同族や地下に住まう蛇達、そして交流のある大地の妖蛆達は、彼に対して何処かカリスマめいたものを感じており、その命令には例外なく従った。

 彼は同族と大地の妖蛆達との間に多くの子を成し、更に嘗て栄えていたツァトゥグア信仰を復活させ、衰退の一途を辿っていた蛇人間達の文明を復興させた。

 その後、他の群れや氏族達の殆どがショブ=ニグラスを信仰をしている事に対し、敢えて敵対はせずに互いの信仰を尊重する姿勢を見せて、協調路線を取った。

 この事から、特に外部に敵を作る事もなく、平和に嘗ての文明の復興事業に尽力する事に成功した。

 今や、近隣の蛇人間達は大昔と何ら遜色の無い文化と嘗てよりも優れた知性を持つに至った。

 そして、そんな新たな黄金期を産んだ英雄も寄る歳波に勝つ事は出来ず、遂に逝ったのだった。

 

 「^-08q^i-q@i0q9io-q0oiq-o9qrijm@af…。」

 「「「「「「^-08q^i-q@i0q9io-q0oiq-o9qrijm@af…。」」」」」」

 

 独特の言語で蛇人間が、大地の妖蛆が祈りを捧げる。

 見れば、広大な地下空間のあちこちには彼らと生活を共にする蛇達がおり、彼らもまたじっと祭壇に捧げられた死者を見つめていた。

 祭壇に横たえられた蛇人間は、老いていた。

 鱗も、僅かな体毛も、その全ての色素が抜けて白く染まり、更に、身体のあちこちから鱗が剥がれ、肉が見えている。

 身につけているのはボロボロの土色のローブと質素だが清潔な貫頭衣だけであり、彼が生前肌身離さず持っていた魔道書「ヨス写本」は、彼の子供達の1人であり彼から魔術を継いだ中でも最も腕の良い者が次の司祭と共に受け継いだ。

 その息子もまた、既にかなりの高齢であり、恐らく十年も経たずに世代交代が起こるだろう。

 だが心配はいらない。

 彼の子孫であり、弟子である者達は既に曾孫の代までおり、その血筋が続く限り、彼らの信仰は途絶える事は無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 (■■、■■■■■。) 

 訳:うむ、よくやった。

 

 (■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。) 

 訳:褒美として、お前の子孫達には更なる繁栄を約束しよう。

 

 (■■、■■■■■■■■■。)

 訳:では、次の回へ行くとよい。

 

 (……■■■、■■■■■■■■■■。)

 訳:……決して、あの年増に負けるなよ。

 

 

 

 

 

 マスターテリオン VS 真破壊ロボ

 

 

 事の起こりはマスターテリオンの「気に入った。これを再現せよ。」とのお言葉だった。

 リーアはこれを現実に製作した場合、トンデモナイ事になるのは目に見えていたので、何とかこれを実機作成させずにマスターテリオンを満足させる方法を必死こいて考えた。

 もし手を抜こうものならば、あの忠犬が何をしてくるか解ったものではない。

 

 「と言う訳で、シミュレーションを作成してみた。」

 「中々の出来映えだ!」

 「何がと言う訳かは知らないけど、随分手が込んでるね。」

 

 興味を引かれたのか、何時の間にか暴君が来ていた。

 

 「ふーふーふー(青狸風)。実際の鬼械神のコクピットと同様のレイアウトだからな。操作も魔道書の精霊がいれば専用のものに変更できる。登録されてるのはアンチクロスの鬼械神とデモンベイン、リベルレギス、アイオーン、破壊ロボ、真破壊ロボの計12体だよ。」

 「そりゃ良いけど…最後の真破壊ロボって何?」

 「……まぁプレイしてみれば解るよ、うん。」

 「そーそー。先ずは試してみ?」

 「んじゃちょいと試しに。」

 

 そして、ネロはいそいそとシミュレーターに乗りこんでいった。

 

 

 …………………………………

 

 

 プレイ後

 

 「………………何アレ。」

 

 ちょっと呆然とした状態のネロが呟いた。

 

 「どうして破壊ロボがあんな強いの!?ねぇ!?」

 「どうしてって…色々対鬼械神向けの装備とか取り入れたからとしか。」

 「それだけでこのポンコツが強化されるかぁ!!」

 「いや、よく考えるとすごいんだってアレ。」

 

 何せ、純粋物理化学の力で、ヒヒイロノカネ合金や獅子の心臓を始めとした錬金術による特殊素材や魔術機関や兵装を持ち、物理法則を半ば超越しているデモンベインとまともに打ち合える、それが破壊ロボ(通常版)。

 また、アレはあくまでドクターの今までの発明の延長戦であり、戦闘でどう使うんだという無駄機能が無駄に多いのだ。

 つまり、それらを除いて、純粋に対鬼械神に特化させた場合、更にデモンベイン同様魔術で強化した場合、そらーもー恐ろしい事になるのだ。

 

 「つー訳で、これならお宅の息子さんにもご紹介できるかと。」

 「別にお見合いじゃないんだから…。」

 「そしてもう呼んできたぜ!」

 「新しいゲームが出来たと聞いて。ふむ、これか。エセルドレーダ、供をせよ。」

 「イエス、マスター。」

 「皆行動が早過ぎるよ!?」

 

 登場した途端、そそくさと乗り込むマスターテリオン、それに付いていくエセルドレーダ。

 流石の息の合い様だが、お前ラスボスの貫録はどうした。

 

 「なお、難易度はイージー、ノーマル、ハード、ルナティックの4段階。ルナティックは理論上における理想値を参考にして設定してあるから。」

 『では余はルナティックを選ぼう。』

 「あいあい。んじゃ、ちょっと待ってて。」

 

 アーリがシミュレーターの端末を操作する間、脇の方でリーアとネロがボソボソと会話する。

 

 「…ちなみにネロのは?」

 「ハード。」

 「マジで?」

 「うん。」

 「…………………大丈夫かな?」

 「まぁネロも勝てたんだし、ネロより強いマスターテリオンなら大丈夫じゃない?」

 「一応、スペック上は互角なんだよ?」

 「魔銃手放しといてよく言うよ。消滅術式だって、格上には通じないし。」

 「それ言われるとなぁ…って、そろそろ始まるよ。」

 

 そして、新たに設置された大画面に一番癖の無いステージである荒野、そこに立つ真紅の鬼械神リベルレギスとあちこち姿が変わった破壊ロボの映像が映し出された。

 

 

 ……………………………………………

 

 

 真破壊ロボ、その正体は対鬼械神戦闘に特化する事を主眼に再設計された破壊ロボだ。

 真が付くのは真実の意味ではなく、真ゲ○ター的な意味合いである。

 元々、後半にあったとある回に登場した破壊ロボであり、デモンベインを幾度も大破まで追い込んだ猛者である。

 その外見の最大の特徴であるドラム缶はそのままなのだが、変更点としては砲台と脚部がそれぞれ大型化し、火力と機動性が向上している。

 少なくとも、ダッシュしてもデモンベインの徒歩で追い付かれる程遅くは無い。

 また、火器に関してはライフリングに加速の術式、と銃弾そのものも炸薬イブン・カズィの粉薬を、弾頭に貫通術式をそれぞれ刻み、砲台の付け根を球体状にして可動範囲が大幅に向上している。

 ご自慢のドリルに関しても弾頭と同様に貫通の術式を刻んである他、色々と仕込んであるため、鬼械神の装甲も破壊できる。

 また、装甲もヒヒイロノカネ合金とモース硬度13を超える最新のものへ、CPUも量子コンピューターを採用、動力は常温核融合炉と底部の魔力収集術式を採用している。

 流石に三次元機動こそ出来ないが、陸戦に限ればそこらの鬼械神では先ず歯が立たないだろう。

 なお、AIに関してはリーアがドクターやエルザの操縦を間近に見ていた事もあるので、そこからトレースしている。

 ……が、一度何らかの要素が絡まると明後日の方向に行き出すのがドクターなので、そこら辺は再現できなかったのは勘弁願いたい。

 なお、今回の難易度は当然ながらルナティックだ。

 

 『ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!大導師よ!我輩は遂に貴方に挑戦する!嘗ておしっこちびりそうになった貴方を、今度こそ我輩の発明でぎゃふんと言わせるのであ~る!』

 『ぶっちゃけ勝てる気がしないけど頑張るロボー!』

 『成る程、よく出来ている。だが、どれ程のものかな?』

 『マスターへの暴言を組み込むとは…あの二人、後で仕置きが必要ね。』

 

 ――― Ready Go!―――

 

 画面の中心で戦闘開始のテロップが表示される。

 同時、双方が突撃する。

 リベルレギスの鉤爪が、真破壊ロボのドリルが、両雄の中間地点で火花を散らして鬩ぎ合う。

 

 『ほう、まさか防ぐとは。良いぞ、ドクター。踊る事を許す。』

 『ぬぐぐぐぐぐぐぐ…我輩の発明を舐めるなであ~る!』

 

 空かさず、もう片方のドリルがリベルレギスへと迫るが、あっさりと防がれる。

 だが、これで両腕が塞がった。

 空かさず、正面に向けられる砲台ともう二本の腕に装備された砲が一斉に火を噴いた。

 至近距離で放たれた合計6門の大口径砲。

 それは容赦なくリベルレギスに命中し、その真紅の装甲を僅かながらも削り、割り、抉った。

 

 『ほう! 真と名が付くのは伊達ではないか!』

 

 だが、致命傷とは程遠い。

 例え下半身が吹き飛ばされようと修復して戦闘を続行する最強の鬼械神にこの程度の攻撃は無効だ。

 

 『そら、返礼だ。』

 

 リベルレギスの両手から雷が発生する。

 ABRADAHADABRAの前兆だ。

 

 『甘い甘い甘ーい!サッカリン並に甘いのであ~る!』

 

 だが、真と名が付くのは伊達ではない。

 不意にドリルがその回転数を高め、リベルレギスを押し始め、遂には発生した雷を蹴散らし、徐々にリベルレギスを押しこんでいく。

 

 『ほう、何時ぞやの反転術式か。だが、そればかりでは芸が無い。』

 

 押される上半身をそのまま仰け反らせ、リベルレギスが真下から頭頂部まで切り裂く程の蹴りを放つ。

 だが、ドラム缶は一切壊れなかった。

 寧ろ、蹴られて一端距離を空けた所で、破壊ロボのカメラライが妖しく光る。

 

 『目から怪光線!』

 『光○力ビームだロボー!』

 

 レガシーオブゴールドのそれと何ら劣らない程の威力のビームの一撃が、横薙ぎに照射される。

 直撃すれば如何にリベルレギスと言えど損傷は免れない、それ程の出力だった。

 

 『ははは!楽しませてくれる!』

 

 だが、背徳の獣は動じない。

 即座に防御陣を形成、その一撃を防ぎ切る。

 

 『まだまだロボ!』

 『ドリル・トルネード・クラッシャー!』

 

 しかし、次に放たれたドリルからの衝撃波が、リベルレギスの防御陣を大きく揺らがせる、が砕けない。

 

 『ロボロボロボロボロボロボロボロボッ!』

 

 一度で無理なら何度でも。

 連射される衝撃波が、徐々に防御陣に罅を入れていく。

 

 『ロボォ!!』

 

 遂に防御陣が突破され、破壊ロボがリベルレギスに襲い掛かる。

 だが

 

 『甘いな。』

 

 召喚した黄金の宝剣が破壊ロボを強かに打ち据える。

 

 『効かんのであ~る!』

 『ガンガン反撃ロボ!』

 

 が、並の鬼械神では一撃で沈むであろう斬撃も、単純な耐久力のみで凌いだ。

 呆れるほどの頑丈さである。

 

 『唸れ我輩の浪漫回路!』

 『ドリルロケットパーンチロボ!』

 

 2本のドリルが轟音と共にリベルレギス目掛けて飛んでいく。

 しかし、それはあっさりと黄金の宝剣に切り払われ、何処かへと吹っ飛んでいく。

 

 『ロボロボロボー!』

 

 そこにドリルを放し、通常のマニュピレーターと機関砲のみになった破壊ロボがブーストを噴かせて接近、格闘戦を挑む。

 

 『同じ手が通じるとでも?』

 『勿論思ってないのである!』

 

 リベルレギスの両手が破壊ロボのそれを掴み、先程と同じ体勢になる。

 即座にリベルレギスが破壊ロボの両手を握り潰そうとする、が、その前に先程切り払ったドリルパンチが左右から飛んでくる。

 

 『げひゃひゃひゃひゃ!第三部完であ~る!』

 『博士、それはフラグロボ!?』

 

 実際そうなった。

 リベルレギスが破壊ロボと組み合ったまま、一歩後退する。

 その結果、ドリルパンチはそ見事破壊ロボに命中した。

 

 『ぐへぇぇぇぇぇ?!』

 『ロボぉぉぉぉぉ!?』

 

 衝撃で混乱する破壊ロボを尻目に、自由となったリベルレギスがその右手に負の無限熱量を収束していく。

 

 『やれやれ、この様な所まで再現せずともな。』

 『あのキ○○イ達らしいかと。』

 『まぁ良い。これで決める。ハイパーボリア…』

 『ゼロドライブ!』

 

 超音速の踏み込みと共に、物理法則を超えた絶対零度の手刀が迫る。

 当たれば消滅、掠めても分子崩壊必須の一撃。

 迫り来る必滅の前に、破壊ロボは…

 

 『我輩のドリルに不可能は無いッ!!』

 

 手刀が命中する寸前、訳解らん程の超高速で地中に潜った。

 

 『『は?』』

 

 流石に想定外だったのか、気だるげなマスターテリオンと無表情かつ冷静なエセルドレーダが極めて珍しく間の抜けた声を出す。

 そして、キ○○イコンビはその隙を見逃さない。

 

 『ドリル・トルネード・クラッシュ・アッパーロボ!』

 

 リベルレギスの足元から、頭頂部より巨大なドリルを生やした破壊ロボが突っ込む。

 辛うじてエセルドレーダが展開した防御陣が間に合ったが、一瞬で砕かれた。

 だが、貴重な時間を稼ぐ事に成功、胸部装甲の一部を削り取られるのみで、辛うじて奇襲の一撃を回避する。

 

 『どんどんいくロボ!』

 『ドリルの力、とッくと見るのである!』

 

 少しばかり離れた地面に頭から突っ込んだ破壊ロボは、そのままイルカかシャチの様に地面を掘り進みながら跳ね回り、時には潜ったかと思えば全く予期しない位置からリベルレギスに襲い掛かる。

 

 『ははははは!これは愉快だな!やはりドクターは余を楽しませてくれる!』

 (マスターが喜んでおられる…でも、これはちょっと勘弁して頂きたい…。)

 『喰らえい!ドリル・トルネード・クラッシャー!』

 『破壊ロボ!お前の力を見せるロボ!』

 

 頭頂部のドリルから放たれる衝撃波は。先程の二つのドリルのそれよりも強力であるが、その分予備動作も大きかったため、リベルレギスは余裕を持って回避する。

 だが、それがいけなかった。

 

 『な、落とし穴!?』

 『ほう?』

 

 回避した衝撃波が地面に着弾した途端、その衝撃でリベルレギスの周辺一体の土地が崩落し、土中へと埋まってしまった。

 

 『今ロボ!』

 『破壊ロボに世界中も浪漫が集まってくるのであ~る!』

 

 同時、破壊ロボが地中から垂直に上昇、途中4本の腕全てを強制排除しながら、派手な噴射煙を上げて空高く昇っていく。

 

 『破壊ロボ、世界の命運をお前に託すロボ!』

 『さよならミーシャ…愛しているよ…。』

 『『ハイパー・ドリル・ロケット・オーバードライブ!』』

 

 何か遺言というか死亡フラグくさいセリフを吐くエルザとドクターウェスト。

 しかし、重力加速に加え、慣性制御による重量増加により音速の5倍に到達、小隕石の衝突にまで威力を高めた破壊ロボが未だ埋まったままのリベルレギスへと特攻していく。

 直撃すれば、如何にリベルレギスとて危ういだろう。

だが

 

 『ハイパーボリアァァァァァ…』

 

 それは既に回避も防御も方向転換も出来ないという事を意味する。

 先程は躱された一撃必滅の手刀が、弓の様に引き絞られ、今か今かと解放の時を待っていた。

 その圧倒的な魔力の余波により、周辺の土は凍りつき、粉砕され、リベルレギスを束縛するものは周囲に何も残っていない。

 

 『『いっけぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!』』

 

 確かに真破壊ロボは強い、最強最悪の鬼械神リベルレギスを相手に、ここまで善戦したのだから。

 しかし、彼らの相手は人類の負の極地、邪神の堕とし仔、十角七頭の獣、666の獣、大導師マスターテリオンだ。

 世界最新の物理科学であっても、未だ辿りつけない領域に住まう者。

 

 『ゼロドライブ!』

 

 物理法則を超越した、負の無限熱量を持った手刀が、真破壊ロボの巨大ドリルと真っ向から衝突した。

 

 『NO!?NOOoooooooooo!?』

 『ロボ~!?』

 

 手刀に触れたドリルは、その刻印された術式毎瞬間的にあらゆる魔術・物理的運動を完全に停止、即ち凍結し、自身と手刀からの運動エネルギーに耐え切れず、一瞬で割れ爆ぜ、消滅した。

 

 『良い出来であった。が、まだまだ余には至らん。』

 『御見事です、マスター。』

 

 氷土と化した荒野の中、リベルレギスのカメラアイが勝ち誇る様に輝いた。

 

 ――― Winner LIBER LEGIS!―――

 

 

 「感想はどう?」

 「良い出来だ。流石は人類の叡智の最先端を行く男だ。…が、少々反応速度が不満だな。直ぐにエセルドレーダが調節したとは言え、本来の速さで動いてくれねば困る。」

 「CPUの処理不足か…。うん、解った。搭載CPUを量子コンピューターに換装した上で、プログラムの方も見直してみる。」

 「とりまお疲れー。ドリンク用意してるからどうぞ。」

 「頂こう。」

 「…もう少し薄めの方がマスターの好みだ。」

 「ありゃりゃ、こりゃ失礼。今度から気を付けるよ。」

 「エセルドレーダ、好意を無駄にするべきではないぞ。それに、偶には濃い口で飲むのも良い。」

 「イエス、マスター。」

 

 

 

 「…………ねぇ、アレをおかしいと思うのって私だけ!?私だけなの!?」

 「いや、僕もおかしいと思うからね?流石はドクターと言うべきか、この僕の予想の斜め71度を逝くねぇ…。」

 

 

 

 




 今回はちょいと短めだったと反省。
 いやさ、蛇人間でほのぼのとかあんまり思いつかなかったし、破壊ロボを強くし過ぎても問題かなーと(汗。

 次のリクエストは今から投稿する活動報告にお願いします。


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番外編4 スパロボUX 嘘予告風味

原作未プレイだからギャグにも切れが無いなぁ…(汗
まぁ仕方ないね、うん。



後、午後5時頃に活動報告でリクエスト取るよー。


 番外編5 カオス過ぎる時空=「×2」

 

 

 

 あの戦いが終わり、しっかりロリコン夫婦の息子&娘と自分らの息子&娘の独り立ちを見送り、人類が宇宙進出して邪神勢力と戦えるようになった頃、私/俺達はその世界から去った。

 そこからは適度に邪悪と戦いながら、多くの宇宙を巡る旅路だ。

 あっちこっちに出没する混沌の化身に辟易しながら、時に怒り、時に悲しみ、時に喜び、私/俺達は多くの世界を旅し続けた。

 時には立場の違いや邪神の謀略により、あの旧神夫婦と対立した事もあったが、今の所は何とか最終的に大団円で済ませている。

 かく言う私自身に関しては、混沌の眷属である事を生かし、臨機応変にその姿形を変化して世界を旅している。

 意識しない限りはガチランダムなので、時々変なのに当たる事もあるが、非常時でない限りは他の世界に移るまではその姿のままだったりする。

 まぁ流石に台所の油虫だった時は変えたが。

 それはさて置き、そんな生活を幾星霜と続けていた時、私/俺達はある世界へと到着した。

 

 

 ………………………………………………………

 

 

 宇宙を往く機動戦艦。

 あらゆる戦場に存在する人型機動兵器。

 三日経たずに瓦礫から再生する市街地。

 そして、多くの並行世界(ロボット系版権作品限定)から参戦してくるスーパーロボット軍団。

 

 「まさかスパロボ時空とかないわー。」

 「ないなー、うん。」

 

 ぶっちゃけ、私/オレらがやる事ってあるの?

 アーカムと覇道財閥がある事から、恐らく此処はUXの時空なのだろうが、あのマスターテリオンをしてヤバい事になる超カオス時空。

 何もしなくても英雄達の活躍で、きっと世界は平和になる事だろう…。

 

 「取り敢えず、雲隠れの方向でいかない?」

 「賛成。とっとと退避しよっか。」

 

 やる事が無い?

 だったら遊ぼう!

 と言う事で極東の何処かにでも雲隠れしようとした私/オレ達だった。

 …の予定だったのだが…。

 

 『ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!やはり腕を4本に増やして正解だったのであーる!本日の我輩のドリルは何時もより更に鋭く速く逞しく回転しておりまーす!』

 『あぁ、我輩達の科学力のなんという美しさ…この美しさは罪…罪と言えば処刑、処刑と言えばギロチン…先日出会った青髪男の娘は腕にギロチンなんて付けた偉い物騒な奴だったのであーる…。』

 『『取り敢えず、いっぱい壊すロボー!!』』

 

 アーカムシティを蹂躙するニ体の破壊ロボ。

 しかも、何だか片方に使われてる技術には凄い見覚えがある上に、知らない筈の情報を吐いているっぽい。

 

 「リーア…。」

 「解ってる、皆まで言うな。」

 「キ○○イが他の並行世界から来るとかこの世界末期だよね。」

 「言うなよもうー解ってるんだからさー。」

 

 三角座りしながら膝の間に顔を埋めて現実逃避する。

 つーか、原作デモンベインの初期性能で、あの真破壊ロボに勝てるのだろうか?

 …無理だろーなー、うん。

 スパロボ的にはフル改造して漸く敵う位の基礎性能だぞ、アレ。

 

 「襲われてるのは九郎達だね。メタトロンは…サンダルフォンと交戦中。」

 「取り敢えず、こっちで片方は担当するか。」

 「あいあいマスター。」

 

 現在進行形でニ体の破壊ロボに蹂躙されるアーカムシティ。

 なんか近くのIMが来てくれるらしいけど、それまであの破壊ロボに街を蹂躙されるのも癪だし、一応は長い間一緒にいた知人なので、ここらで止めておくべきだろう。

 

 「「永劫! 時の歯車 断罪の刃 久遠の果てより来る虚無!

   永劫! 汝より逃れ得る者はなく、汝が触れた者は死すらも死せん! 」」

 

 膨大な魔力と召喚陣と共に、神の影、偶像たる魔道の秘奥が現実空間へと顕現する。

 最強の一角たる闇色の鬼械神アイオーン・リペアⅢ。

 複合機関式かつ脚部シールドと各部に追加された増加装甲により、何処かデモンベインに似通ったソレが、轟音と共にアーカムシティに降り立った。

 

 「さぁドクターにエルザ、大人しくお縄に付いてもらおう!」

 「キ○○イ2人とか、誰の得でも無いんだよ!!」

 『のぉう!?その声は歳も考えずヒーローごっこしたり、強制触手プレイされたりする残念系子持ヒロインとその魔道書の声!?』

 「「 死 ね ぇ ッ !!!」」

 『ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああすッ!?』

 『これは博士が悪いロボ~。』

 

 取り敢えず、真破壊ロボを強化型偃月刀で滅多切りにして撃破。

 2人ともしっかり脱出に成功している辺りは流石と言う他ない。

 

 …………後でミノフスキーとか光子力とかナノマシンとかゲッター線とかビムラーとか超電磁とかDG細胞とか取り込んでこない事を祈っておこうか、うん。

 

 

 

 

 宇宙にて

 

 『…………………………。』(たすけて、たすけて、たすけて…)

 「えぇいうっとおしい!助けを求めるなら相手に伝わる様な伝達手段を考えろ!」

 『彼女らは…ELSの言語が理解できるのか?』

 ((あ、やべ。))

 

 

 

 

 月面にて

 

 「よし、この辺だな。そーれツァトゥグアの贄になーれっと。」

 「おーおー、見事に喰われてら。ま、月とは言え地中だしな、こっちの庭も同然だ。」

 『■■■■■■…■■■■■■■■■■■■■。』(ちと多いなぁ…親戚連中にもお裾分けするか。)

 「「どーぞどーぞ。」」

 

 

 

 

 最終決戦(デモベルート)

 

 「君達ね!人のシナリオ崩すのも大概にしてくれないかな!?」涙目

 「はっはっは、ギャグもシリアスもコメディもいける口の癖に何を今更。」

 「そーそー、どうせだから此処はGSの魔王みたく、ギャグ調で滅ぼされてくれ。」

 「だからって…!」

 

 「……………。」(沈痛な面持ちで目を伏せる九郎)

 「……………。」(沈痛な面持ちで目を伏せるアル=アジフ)

 「……なぁ、アル。」

 「なんだ。」

 「帰るか?」

 「…最低限、見届けてからな。」

 「そうだな…。」

 「うむ…。」

 

 「イィィィィィヤッホォォォォォォ!宇宙の果てでも我輩達は絶好調!異星人も異世界人も未来人も訳解らん連中も皆等しく我輩の科学の前にド肝を抜かれているのであーる!」

 「見よ、この我輩達の叡智の結晶を!全長500mを誇るこのスーパーウェスト無双ロボ28劫『伝説巨人よ永遠なれ』を!」

 「「さぁ大導師よ、我輩達の挑戦、受けてもらうのであーる!!」」

 「「宇宙の命運を賭けて、今出撃ロボー!」」

 「ははははははははは!やはり貴公らをスカウトして正解であった!さぁ余を愉しませてくれ!」

 

 

 「こんなのってないよ!あんまりだよ!」

 「文句ならディラン博士に言え。私に言われても知らん。」

 「愚痴なら聞いてやっからさ、諦めたら?」

 

 

 

 そして、なんだかんだで宇宙は一つとなり、新しい命がはじまった。

 

 

 

 「「我輩達の科学の勝利である!」」

 「「いえーい!」」

 「こんなの絶対おかしいよ!」

 

 

 

 

 




なんか二日酔いのテンションのまま執筆したらおかしな事になった(汗


詠唱で誤字あったのを修正


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番外編5 Dies irae 嘘予告 修正&後書きにお知らせ

Dies irae全ルートクリア記念!

リクエストはもう少し待ってください!(土下座


 神座世界。

 それは神座と呼ばれる世界の、事象の中核に座する神、その理念を世界に流れ出させる場所。

 それを中核とした宇宙。

 そこに唯一坐する者として、第四天「永劫回帰」は存在していた。

 その意識は通常は地球上に存在する触覚、つまり派遣している自身の分身、そして自身の歌劇の参加者へと向けられている。

 

 だがしかし、時には例外も発生する。

 

 もしもそれによって致命的な事態が発生した場合、永劫回帰によって問題が発生する前にまで遡り、その原因を入念に排除する。

 それで始末はつく。

 事実、ここまでずっとそうしてきた。

 例外と言えば、回帰の起点となる黄金の獣による座への侵攻だが、それは彼らの約定であり、自滅因子であり、友情でもある。

 水銀の蛇にとって、それは既に既定路線であり、今更黄金の獣を誕生前から始末しても何の意味も無い。

 

 故に、今回の問題は完全に外部からものに他ならない。

 

 空間に激震が走った。

 通常の大地震とすら比較にならぬ程の、超巨大な震動と衝撃が、空間そのものを軋ませる。

 結果、座の存在するこの位相にすら罅が入り、光すら刺さない深淵が発生する。

 だが、第四天は動じない。

 そんな自分でも起こせる事象より、その原因となった者こそ興味深い。

 この宇宙の外より来たる者、それは彼にとって完全なる未知の一つ。

 彼の愛する女神を除けば、最も狂おしい程に焦がれるもの。

 だからこそ、その視線はこの事態が始まってから、一カ所しか見えていない。

 縦横無尽に亀裂が入り乱れ、ガラスの割れる様な甲高い音と共に空間が割られた。

 その瞬間、ソレはこの宇宙に流れ着いた。

 

 ソレは刃金だった。

 

 全長2km、否、本来ならば5kmも超えるだろう、巨大な機神。

 墨を流した様な漆黒の装甲に、碧色の長髪を持った、機械の神様。

 文字通りの機械仕掛けの神、デウス・エクス・マキナ。

 しかし、本来なら神々しさすら感じられるソレは全身を夥しい程の傷に覆われ、その右腕と左顔面、そして下半身を完全に消失し、その断面から臓物の様な内部構造が見て取れた。

 

 「これはこれは…。随分とまた、変わったお客様だ。」

 

 老人の様な、若人の様な、女の様な、男の様な、嘲る様な、称える様な、諭す様な、乞う様な…混沌とした声音で、座の主が声を発した。

 

 「本来ならば、この場所は我が女神だけの場所。それ以外は皆悉く排除するのだが…折角得た未知なのだ。利用せぬ手はあるまい。」

 

 その視線は機神の中に溶け込んだ、1人と一冊へと向けられていた。

 

 「まぁ、役に立たぬのならそれもまた一興。私に歯向かうも、流されるも、従うも自由。我が歌劇にて踊るが良い。千の無貌、這い寄る混沌よ。」

 

 「無論、劇に合わせて仕込みはするが、これは致し方無し。許したまえよ。」

 

 こうして、幾星霜と戦い続ける魔を断つ混沌は意識がないままに、またもや永劫に続く繰り返しへと組み込まれる事となった。

 

 

 

シリアス版プロローグ End

 

以下、スタート時の設定を選択してください。

・月之澤学園1年生(日本人)

・主人公勢のアパートの管理人(日本人)

・フリーランスの魔導師(米国人)

・元国防軍所属の魔人(独逸人)

 

なお、全ルートにおいて、初期は魔道書&記憶無しです。

 

追記、流れ着いたデモンベイン・カオスじゃ軍神仕様です。

 

 ………………………………………………

 

 

 

 神座世界。

 それは神座と呼ばれる世界の、事象の中核に座する神、その理念を世界に流れ出させる場所。

 それを中核とした宇宙。

 そこに唯一坐する者として、第五天「黄昏の女神」は存在していた。

 その意識は常に地球上に存在する全ての命に向けられ、死した者の魂は彼女の元へ一度贈られた後に、何時か全ての人間が幸福=渇望に辿り着けるように願われながら輪廻転生を繰り返す。

 ただ一人、先代の第四天を除いて。

 

 だがしかし、彼女の理だって例外はあったりする。

 

 その日、彼女は仕事以外の日課である地球のとある少年とその愉快な仲間達の観察をしていた。

 嘗て己の半身であり、唯一無二の相棒であった少年。

 最終的に貧乳系毒舌銀髪先輩に走った彼であるが、それでも女神は確かに彼を愛している。

 

 「あはは、香純ったらまた蓮に八つ当たりしてる~。」

 

 天然系巨乳金髪の女神様は、今日も下界を見守っている。

 しかし、そんな日常は唐突に崩れた。

 

 空間に激震が走った。

 だが、他者に害意を持つ事が殆ど無い彼女故に、それが起こっても警戒心よりも先に混乱が先立つ。

 慌てるだけで、彼女は何も…

 

 「か、カリオストロー!」

 「下がっていてくれたまえ、女神よ。ちと厄介な客人の様だ。」

 

 出来なかった訳ではなかった。

 めっちゃ他力本願だが、彼女はちゃんと助けを呼ぶ事が出来た。

 …と言うか、コイツ、出待ちしてやがったのか?

 

 「失敬な。私は常に女神を気にかけているとも。」

 

 つまり盗撮してたのね、流石だよ、うん。

 そして、激震していた空間が遂に限界を迎え、罅割れていく。

 その亀裂の先には光さえ存在しない暗黒であり、この世ならざる法則が渦を巻いて存在している。

 故にそこから来るものは、この世ならざるものに他ならない。

 

 ソレはドラム艦だった。

 

 全長3kmは超えるだろう、巨大なドラム艦。

 緑色に塗装され、各所にアームや砲が設置された、円筒形の巨大な機械。

 それは内部に地球上と全く同じ居住区画を内包した、文字通りの機械仕掛けの方舟。

 しかし、本来なら感嘆の溜息すら出る機能美と技術力の塊たるソレは、今や見る影もない程に傷付いていた。

 

 「ねぇねぇカリオストロ!あれってコ○ニーでしょ!?蓮の部屋のテレビで見たよ!」

 「ははは、正確には違うのだろうが、その機能もあるようだ。いや、まさかこんな未知に遭遇する日が来ようとはね。いやはや、この場で無ければとても幸運な事だったのだがね、うむ。」

 

 嘗て3柱の覇道神が争い、最終的に黄昏の女神が治めているこの神座世界。

 もし相手が悪意ある者、否、そうでなくても女神に害成す存在であれば、この世界にどれ程の悪影響が出るか解ったものではない。

 最悪、もう一度第四天が座につけば永劫回帰でリセットできるとは言え、それは可能な限り採りたくない。

 

 「で、どうするんだメルクリウス。」

 「卿なら何か考えがあると思うが…先ずは情報だな。」

 「あ、蓮にハイドリヒ。」

 

 メルクリウスに遅れる形で、残りの覇道神2柱が姿を現す。

 見た目こそ若く美しいが、見る者が見れば旧支配者ばりの神格に絶句する事だろう。

 そんな存在がこの場に既に4柱いるのだ。

 一度戦闘が開始すれば、それだけで空間がガラスの様にも呆気無く粉砕されてしまうだろう。

 

 そして4柱の視線が集中する中、遂にドラム艦のハッチが開…

 

 「ぬぉう!? 着地の衝撃でハッチが歪んで開かないのであーる!?」

 「博士―、外は一応大気があるみたいだけど念のためにスーツを付けた方が良いロボー。」

 

 かなかった。

 ぎぎぎぎ…と金属同士がすれ合う音がするだけでハッチは開かず、僅かに開いた隙間から中の人の声が漏れ出ていた。

 

 「「「………。」」」

 「ね、カリオストロ。手伝ってあげようよ。」

 

 男衆3柱がちょっと目を丸くする傍ら、女神様は相も変わらず平常運転で慈愛溢れていた。

 そんな感じで覇道神達が態度を決めかねる事数秒の後、今度こそドアが開いた。

 

 「でぇーいこんな時こそエェェェェェルザ!出番なのであーる!」

 「ロボロボロボォ!」

 

 ただし、打撃音と共に吹っ飛んできたドアと共に。

 

 「きゃっ!」

 「ッ!」

 

 女神の傍を掠める様にして飛んでいったドアは、その直ぐ傍にいた永遠の刹那こと蓮目掛けて飛んだ。

 が、彼とて伊達に覇道神なんてやっていない。

 あっさりとドアを微塵になるまで切り裂き、無力化する。

 

 「随分な挨拶だな、おい!」

 

 彼が剣呑な視線を向ける先、内部からモクモクと煙を吐き出す出入口から、遂に人間が出てきた。

 アホ毛の目立つ緑の髪、纏った白衣、そして真っ赤なギターを掻き鳴らしながら、ソイツは姿を現した。

 

 「レディスアァァァァァァァァァァンジェントルメェェェェェェェェンッ!!遂にやってきました新たな世界!魂が収束し、そしてまた世界へと旅立つターミナル!仮説を実証するため、世界の壁を突き破り!我輩の研究は次元の壁を超え、宇宙の真理にまた一歩近づいた!そう、真理とはまるで太陽!未だ人類に計り知れないソレに向かって、我輩は羽ばたくのであーる!…ってあれ?何だか翼が融けてる様な…。」

 「哀れ博士は墜落死。泣き崩れるエルザにダーリンが涙を止めるためにその胸にきつく抱き締めて…。」

 「あのロリコンに限ってそれだけは有り得ないのであ~る。」

 「ローボロボロボロボロボ!」

 「ぶひゃーひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 

 (あ、これがキ○○イって奴なんだ。)

 

 この中で恐らく最も常識的な思考を有する蓮は初めて遭遇する父親とその親友の愉快な部下達とは全く異なるベクトルの狂人というものを初めて前にして、完全に絶句していた。

 

 「ふむ、察するに卿らは科学の探求の徒か。一体此処に何用かな?」

 「おぅん? 誰であるか、この大導師のそっくりさんは?」

 「容姿以前に、雰囲気がとっても似てるロボー。」

 

 マジマジとハイドリヒ卿を見つめるキ○○イとロボ娘。

 もしハイドリヒ卿の部下達、特に忠誠心の高い面々が聞いたら、即効で殺しにかかる程の無礼をかますキ○○イ。

 と言うか、仮にも元上司=マスターテリオンのそっくりさん相手によくそんな態度を取れるものである。

 

 「私によく似た者というのは気になるが…先ずは名乗ろう。私の名前はラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。ドイツ第三帝国、ゲシュタポの長官であった身だ。今は此処で守り役などをしている。」

 「おおう、これはご丁寧に。」

 「挨拶は大事ロボ!」

 

 先程とは打って変わって割と普通に挨拶するキ○○イコンビ、ラインハルトはそんな彼らにあくまで紳士的な対応を崩さずに対応し続ける。

 直情傾向の蓮、天然のマリィ、そして何故か会う人会う人に生理的不快感を植え付けるメルクリウス。

 常識的な思考もあり、狂人の相手にも慣れていて、優秀なラインハルトこそがこの場では適任だった。

 

 「それよりも、卿らは何者で、何をしにここへ現れたのか聞かせて欲しい。我らはそこの女神殿の守り役故、それが解らなければ、我々も歓迎すべき決めかねてしまうのだよ。」

 

 全く身動ぎもせぬまま、覇道神からの圧力が激化した。

 全くの無風から大型台風のそれへの変化。

 常人ならあっと言う間に魂を砕かれるそれに、しかし、ドクターウェストは怯まない。

 何気に最高位の魔人であり、邪神の落とし仔相手に喧嘩売ったり、とある世界では彼の背徳の獣との実戦経験もある男。

 今更気押される事など、このキ○○イに限って有り得ない。

 

 「聞かれたからには答えるのが流儀なのである!我輩の名はドクタァァァァァァウェェェェェェェェストッ!真理の探究のため、三千世界を飛び回る科学の申し子とは我輩の事!今回の目的は先程言った我輩の仮説を実証するためであーる。そこな天然系金髪巨乳ガールがそれらしい事が解ったのであるが…生憎と我輩、魔術よりも物理科学の方が好きだし、何より人様を弄くるのはもう二度としないと誓っている身。今回はこれで満足なのである!」

 「ふむ、どうやら真の様だ。カール、刹那よ。もう警戒せずとも良いぞ。」

 「…みたいだな。」

 

 そこで漸く蓮が右手を下げた。

 神格でもない相手に随分な警戒のしようだが、ここは戦闘力の殆ど無いマリィの座。

 無警戒である事こそが間違いだろう。

 

 「いやはや、まさか魔道ではなく科学の徒がこの場に来るとは私を以てしても予測できなかった。自身の不明に汗顔の至りだが、それ以上に君の磨き上げた叡智にこそ賛辞を送ろう、ドクター・ウェスト。恐らく三千世界のどの時間軸を見渡しても、知識で以てこの領域に到達できる者等10とおらぬだろう。端的に言って有り得んよ、お前は。」

 

 そして、水銀は余りの未知に大絶賛した。

 そう、彼の目の前のこのキ○○イは得意とする分野においては自身に勝る知識を持つと認めたのだ。

 はっきり言って極めて珍しい事態だった。

 

 「げーひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!我輩の辞書に不可能の文字は無いのであーる!たーだ無理とか無謀とか無茶とかしっかり表記されてあるからにして、決して通じないという意味でないのである。」

 「それ、はっきり言って辞書が壊れてるだけロボ。」

 「まぁ我輩としては知るべき所は知れたので帰るべきなのであるが…生憎と、我輩の破壊ロボが此処に来る途中に壊れてしまったのであ-る…。これを修理せん事にはマイホームに帰れないのであーる…。」

 

 ドクター達が乗ってきた全長3kmを超えるドラム艦は未だにモクモクと黒煙を吐いており、明らかに行動不能だった。

 もし下手に動かしたら、最悪の場合は爆散すら在り得るだろう。

 

 「じゃぁ暫く此処にいれば良いよ!」

 

 そこで、黄昏の女神様が慈愛溢れる意見を出した。

 

 「えーと…。」

 

 蓮は固まった。

 マリィの傍にこんなキ○○イを置く?

 有り得ない(0.0001秒)。

 故に何とか彼は彼女を翻意させようと無い知恵を絞った。

 

 「いや、でもさ? 此処って修理に使えそうな材料とか何も無いし、メルクリウスは兎も角、オレ達じゃ雑用位しか手伝えないし、どっか地球の他の場所とか良いと思うんだけど。」

 「む~。」

 「いや、そんな唸られても…。」

 

 不満そうに唸るマリィに困った、と汗を流す蓮。

 が、彼も教育上悪いと思ったのか、遂にこの場で一番の知恵者であるニートが働いた。

 

 「ふむ、であれば城に案内しよう。あの場所なら余程の事でも無ければ被害もあるまい。それに、多少の資材はあるだろう。宜しいかな、ハイドリヒ?」

 「是非も無い。騎士達も皆暇を持て余しているしな。多少の刺激は必要だろう。」

 (多少?)

 

 トントン拍子に進んでいく話に、蓮だけは言い知れぬ悪寒を感じるのだった。

 

 「?」

 

 蓮がうんうん唸っている様を、黄昏の女神が不思議そうに見つめていた。

 

 後日、彼の予感は的中する事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「蓮。」

 「どうした、マリィ?」

 「ドリルって…すごいね…。」

 「メルクリウスー!! マリィが、マリィが汚染されたー!?」

 

 

 

 

 

 

 「なぁ…これ、どうすんの?」

 「キ○○イの回収だけかと思ったら…まさかの神座世界シリーズとか…。」

 「ニートに情報だけ渡して帰る?」

 「…最悪、旧神殿にお出で願おう、うん。」

 

 




Fate第0話見たー。

流石UFOタブル。凄まじい画力だ。



追記 活動報告で今後の執筆予定作品に関してアンケート取りますので、奮ってご参加ください。
期限は一週間を予定しています。



10月11日修正


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番外編6 這い寄れ混沌一家!

漸くリクエスト通常版の方が終了。

まぁ原作がギャグ路線なので無理にシリアス入れちゃった感があるが…。
取り敢えず、18禁済ませたらカンピオーネに行くよー。


番外編 這い寄れ!ニャル子さんとのクロスオーバー

 

 

 

 「真尋さん!御近所さんに挨拶しましょう!」

 

 ある日曜日の午前、八坂邸の居候のニャルラトホテプ星人ことニャル子が唐突に宣言した。

 

 「で、突然どうしたんだ?ってか、今までそんな事しなかっただろ?」

 

 真尋が訝しげにニャル子を見つめる。

 既に彼女やクー子、ハス太が滞在し始めてから結構な日数が経っている。

 と言うのに、彼女がそんな殊勝な真似をしたのは真尋の母である頼子位なものだった。

 それを今更御近所付き合い? 何か企んでいるとしか思えなかった。

 

 「あ、はい。実はこの近所にニャルラトホテプ星人に縁のある御一家がいるんです。ただまぁ、ハーフの奥さんとスリークォーター、要するに四分の三ニャルラトホテプ星人のお子さん2人っていう複雑な御家庭でして…。」

 「あー、御役所的に無用な刺激はすべきじゃないし、複雑な家庭環境だからあんまり触りたくないって事か? でも長期滞在するなら挨拶しといた方が良い、と。」

 「まーぶっちゃけるとそうなるんですよねー。でも、今なら情勢も結構落ち着いてますし、大丈夫かなーっと。」

 

 あははは…と誤魔化す様に笑うニャル子に、ジト目を向ける真尋。

 まぁ言ってる事は理解できるので、視線は手元の雑誌に戻した。

 

 「んで、挨拶するなら一応贈り物とかはあるんだろうな?」

 

 引っ越しの挨拶と来たら引っ越し蕎麦だが、ニャルラトホテプ星人の、というか邪神どもの文化なんてオタク文化が咲き誇っている事位しか知らない真尋である。

 想像すらできなかったし、SAN値的な意味で想像すらしたくなかった。

 

 「あ、それならこれがあります!」

 

 てーれってーと例のBGMを背景にニャル子が取り出したのは…

 

 「数の子ならぬ無形の落とし子の塩漬けー!」

 「どうしてお前はそんなんばっかなんだ!」

 「いだー!? だからフォークは無しって言ってるじゃないですかぁ!?」

 

 取り敢えず、近所のスーパーで蕎麦の詰め合わせを購入する事になった。

 

 

 …………………………………………………

 

 

 「えーと、詰め合わせ詰め合わせ…。」

 「あ、真尋さーん!こっちですよー!」

 「解ったから静かにしろって…。」

 

 相変わらずのニャル子の騒がしさを、保護者役の真尋が嗜める。

 

 「少年、私にもこれ買って…。」

 「あの…僕も…。」

 「クー子は自分の稼ぎがあるだろうがッ!食玩位は自分で買え!ハス太君は…まぁいっか。あんまり高いのはダメだぞ。」

 「ありがとう、真尋お兄ちゃん!」

 「少年、ニャル子に靡かないと思ったらまさか…ッ!」

 「フォークは5本で良いか?」

 「ごめんなさい。」

 

 そして、夕飯の材料もついでに買おうとした所、嗅ぎつけたクー子とハス太の2人まで便乗してきた。

 後者は無害だが、前者は割とこうして悪質な真似をしてくる事もあるため、真尋としてはニャル子と並んで要監視対象だったりする。

 

 「えーと…今日は豆腐と長ネギにピーマン…あ、マーボー豆腐の元も安いな。今夜はこれにするか。」

 「真っ尋さーん!是非とも激辛外道マーボーn「誰も食えなくなるから止めろ。」はぃ…。」

 

 どーして何事もネタに走るからコイツは…と内心で溜息をつきながら、常時ハイテンションのニャル子を捌く真尋。

 その様子、既に熟練の領域に入っているのを周囲の者だけが気付いていた。

 

 (っと、マーボー豆腐の元がラスト一個。早く確保しないと…。)

 

 買い物籠を揺らしながら速足で急ぐ、が、ちょっと遅かった。

 

 「おしゲットー! っておや?」

 「え…。」

 

 一手先にマーボーの元を手に入れたのは、ハス太君とそう変わらない歳恰好の少女だった。

 ただ、真尋が驚いたのはそこじゃない。

 銀髪碧眼に白磁の肌、そして何処か能天気かつ溌剌そうな印象を受けるその表情は、どう見ても傍らにいるニャル子にそっくりだった。

 

 「おやおや、御同類かい? ふむふむ…ほら。」

 

 何やら真尋達を見て納得した後に、目の前のニャル子のそっくりさんが手に入れたマーボー豆腐の元を突きだしてきた。

 

 「って、悪いですよ! 先に取ったのはそっちじゃないですか!」

 「いやいや、君の籠の中身からするに、今夜はマーボー豆腐でしょ? うちはまだ在庫あるし、安売りしてるから買うだけだしね。これ一個手に入んなくても無問題無問題。」

 「は、はぁ…。」

 「それにお連れさんの方、最近引っ越してきた子でしょ? 先住としては仲良くしときたいかなーって。」

 

 にこやかにそう告げるそっくりさんに、真尋はやはりか、と思考する。

 

 (ニャルラトホテプ星人って、随分と外見が似てるんだな。そう言えば、ニャル子の兄も髪の色とかは同じだったし…まぁ外国人から見た日本人って所かな?)

 

 「…明日にでも挨拶に行きますので、ドーゾコンゴトモヨロシク。」

 「何で片言なんだお前は…。」

 「あはは、嫌われちゃったかな?」

 「すいません、彼女が失礼を…。」

 「いーよいーよ、若い子なら私を警戒しても仕方ないし。」

 

 やや残念そうに言うそっくりさんに、真尋は慌てて頭を下げる。

 

 (にしても、珍しいコイツの態度といい容姿といい、この人がニャル子の言ってたご近所さんかな?)

 

 「んじゃ私はこの辺で。じゃーねーご両人。」

 「あ、はい!ありがとうございました!」

 

 そう言ってそっくりさんは去っていった。

 残ったのは未だにそっくりさんが去っていった方向を睨むニャル子と真尋だけ。

 

 「ニャル子、お前どうしたんだ?さっきからおかしいぞ?」

 「…いえ、本部が出来るだけ刺激しない様に、って言った意味を痛感しまして、えぇ。」

 「なんだそりゃ? まぁいいや、残りの買い物を済ませるぞ。」

 

 

 …………………………………………………

 

 

 「やっべーです真尋さん。あの人達ガチで危険です。」

 「取り敢えず説明しろ説明。それだけじゃ訳解らん。」

 

 帰宅後、真尋が早速ニャル子を問い質した結果、珍しくガチな反応が返ってきた。

 

 「昼間に会ったあの人ですけど、多分魔道書の精霊ですね。それも最高位の。」

 「魔道書の? それって何かヤバいのか?」

 「ヤバいも何も戦略核地雷並ですよ!! 最初の護衛任務、赴任先が地球だってのにみょーに人気が無かった理由が今解りました! あーもーあーもー! 今日の出会いも絶対敵情視察に決まってます! 私退治されちゃうんだー! 真尋さん、悔いを残さないためにも一発私t「落ち着け馬鹿。」イッダーーー!?! フォークは反則ですよー!」

 

 余りのヒートアップぶりに真尋が何時もの0フレームフォークで鎮圧する。

 この辺り、既に熟練夫婦並だとは本人達だけが知らない。

 

 「で、何がヤバいのか説明。」

 「あ、はい。魔道書は基本私達の技術を人間が使うためにマイナーチェンジしたものなんですけど…中には私達にも目茶苦茶ヤバい代物もありまして。しかも、あんな風に精霊が元気に独り歩きしてるって事はそれを使いこなせる契約者もいる訳でして…。」

 「それだけじゃないんだろ?」

 

 確かに、地球上でそんな存在がいたら確かに危険かもしれない。

 だが、それはあくまで同じステージに立っただけであり、危険度だけなら邪神ハンターの頼子等もいるため、どっこいどっこいでしかない。

 

「はい、問題はあの精霊がこの宇宙の外の私達に対抗するための魔道書だって事です。」

「この宇宙の外って言うと…外宇宙じゃないのか?」

「私達のいる外宇宙じゃなく、文字通りの異世界です。ドリームランドとも全く違います。」

 

そう言うニャル子の顔には普段の茶目っ気は微塵も無い。

 あるのは真剣さのみだった。

 

 「真尋さん…今から言う話を聞いて、私を、私達を嫌いになりませんか?」

 「今更だな。それに話を聞いてみない事には判断がつかない。」

 「あは、真尋さんらしいですね。」

 

 そう言って微笑むニャル子は、何時もの彼女らしくなく、今にも消えてしまいそうで…。

 真尋は何故か、彼女のそんな顔を見たくない、と思ってしまった。

 

 「多くの宇宙で、私達は人間達が伝えている通りのモノとして存在しています。宇宙を、正気を、魂をを犯し、侵し、冒す。冒涜的なまでに巨大で強大な存在。ただ其処にいるだけで、何もかにもを汚してしまう者。それが私達です。」

 

「真尋さん…この宇宙はね、遥か遠い昔にそんな私達でも穏やかに暮らすために作られた、理想の宇宙なんですよ。触れれば腐らせてしまうなら、腐らない様に変えてしまえば良い。そんな傲慢を満たすために。」

 

 「私達ニャルラトホテプ星人が宇宙連合の中でも他の種族よりも影響力が強いのは、この計画を立案、実行したのが私達だからなんです。だからこそ、この宇宙の現在の秩序を崩壊させる様な連中は見逃さないし、あーいう外から来た人達の対応も私達のお仕事なんです。」

 

 「…幻滅しましたか? でも、これが真実なんです。この宇宙の、一番根っこの部分。」

 

 「ねぇ、真尋さん。どう思いましたか? 化け物だって、改めて実感しましたか? 幻滅しましたか?でも、これが私達なんです。 これが私達「馬鹿。」へ?」

 

 何か1人、泣きそうな顔で鬱シーンに突入している馬鹿を罵倒する真尋。

 

 「お前の今まで言ってきた事は嘘か!? 今まで此処で過ごしてきた生活は嘘か!?」

 「ち、違います!」

 

 真尋が普段のニャル子への態度をかなぐり捨てて、彼女の両肩を掴んで、逃げられない様に拘束する。

 その程度、ニャル子にとっては拘束とはならないが、普段と全く違う惚れた男の様子に何故だか抵抗する気力が湧かなかった。

 

 「お前が、僕に惚れてるのは、本当の事なんだな!?」

 「は、はいッ!!」

 「それなら、別に良い。今の生活が続くなら、そんな大層な話は僕には関係ない。」

 

 普段の真尋からは想像つかない様な、断固とした意思。

 その姿にニャル子は遠い昔に見た、初恋の男性を思い出して…

 

 「うぇぇぇぇぇぇんまびろざ~~ん!」

 「あーもう纏わりつくなうっとおしい!」

 「あいたー!?」

 

 感動の余り抱きつこうとしたが、それは勿論迎撃されたのだった。

 

 

…………………………………………………

 

 

 小一時間後。

 

 「うぅぅ…あの場面は抱き締めるのが正解じゃないですか~…。」

 「言ってろ。んで、結局他の世界の魔道書の精霊がいるとどうなるんだ?」

 「あ、はい。例の御近所さんがあんなブツを持っていて、尚且つ話を聞かない問答無用の邪神ハンターだった場合、頼子さんの時以上の修羅場になります。」

 

 思い出されるのは頼子の帰宅に居合わせてしまったニャル子とクー子への対応だ。

 名乗りの直後、瞬時にフォークで武装し、殲滅の意思を見せた頼子の対応に、アレがまた起きるのか…と真尋は頭が痛くなった。

 

 「あー、確かに厄介だな、それは…。」

 「んで、最大の問題はそういった連中に限って、戦術核程度の火力は平然と持ってたりします。」

 「つまり、街が壊滅の危機って事か…。はぁ~、ったく。どうして僕の回りにはそんな連中ばかり集まるんだ…?」

 「それはもう真尋さんの人徳としか言い様g「黙ってろ。」ぐぇ!? フォークは止めてくださいってばぁ!?」

 「で、どう対応するんだ?」

 

 更に酷くなった頭痛を堪えつつフォークを投擲した真尋は何事も無い様に尋ねた。

 

 「あー、それはですね……ぶっちゃけ何も考えてません。」

 「そうか、何本が良い?」

 「おーけー真尋さん、落ち着いてそのフォークを降ろしてください。流石の私でもそれ全部は勘弁です。」

 

 どーどーと手を翳すニャル子の視線の先には、大量にフォークが詰め込まれたバッグに手を突っ込んだ真尋の姿があった。

 100や200では効かないその量に、流石のニャル子も冷や汗が出ていた。

 

 「まぁ今日会った感じでは理不尽にこちらを殺しに来る事もないでしょうし、念のため、クー子達も一緒に行く感じで予定通りに贈り物を持ってご挨拶に伺いましょう。」

 「もし戦闘になったら?」

 「ふふ~ん、その時はこの銀の鍵でドリームランドに強制転移した後、改めて皆で袋にします!」

 「前から思ってたけど…お前、公務員の筈なのに悪役の方が似合ってるよな。」

 「いや~それ程でも♪」

 「褒めてない!断じて褒めてないからな!」

 

 

 ………………………………………………………

 

 

 翌日の午後

 

 「さて、やってきましたご近所さんの家!」

 「アシュトンか…こんな所までクトゥルフ神話準拠…。」

 「少年、此処で立ってても時間の無駄。」

 「お、お兄さん、早くチャイムを鳴らした方が…。」

 「あ、あぁ、そうだな。」

 

 ピンポーンと、極普通の一軒家の極普通なチャイムが鳴る。

 此処まで、この家の危険性をさんざっぱら聞かされていた身としては、真尋は尋常じゃない緊張感を感じていたのだが、その余りの普通な様子に肩の力が抜けそうになっていた。

 だが、此処まで手を繋いできたニャル子の緊張が未だに解けない事からも、警戒を解く訳にはいかなかった。

 …その2人の様子をクー子とハス太が嫉妬を込めて見つめている事を、当事者達のみが知らなかったりする。

 

 「はーい!」

 

 とたとたとた…という足音と共に、ドアが開いた。

 

 「え…?」

 「うわ。」

 「ニャル子そっくり。」

 「はわわわっ。」

 

 クー子の言葉が全てを語っていた。

 銀髪碧眼に白磁の肌を併せ持った女性。

 その姿は正に「ニャル子が大人になった姿」を想像したらピタリと当て嵌まる様な、そんな容姿の女性だった。

 ただ、そのキリリと引き締まった表情はニャル子に無いものだし、胸部装甲は現在のニャル子と殆ど差は無いが…それはまぁ個人差と言う事で。

 

 「おや、君は確か惑星保護機構の…。」

 「初めまして、八坂ニャル子と申します。事前にお知らせせずにすみませんが、惑星保護機構の当該地域の担当者として挨拶に参りました。あ、これどうぞ。引っ越し蕎麦代わりと言う事で。」

 「これはご丁寧に。私はリーア・アシュトン。この家の家長だ。取り敢えず、立ち話もなんだから上がっていかないか?」

 

 

 これが後にそこそこ長い付き合いになるアシュトン一家との出会いだった。

 

 

 

 

 「おや、先日の子達かい? もうちょいでお昼だし、昼食食べていきなー。」

 「い、いえ! そんな厚かましいですよ!」(こんな核兵器貯蔵庫にいられるかー!)

 「ニャル子、お腹減った。」

 「なんでアンタはこのタイミングでそれを言うか!?」

 

 

 「あれ、母さんのお客さん? 初めまして、アレクです。よろしくね?」

 「あ、はい。 八坂真尋です、お邪魔しててすいません。」

 「良いですって。お客さんなんて珍しいですからね、ゆっくり寛いでください。」

 (実に絵になりますね…。)

 (どっちも優男だから腐女子に掛け算されそう…。)

 

 

 「ただいまー。あ、お客さん初めまして。妹のアリスです。」

 「「似てねぇ(ない)!?」」

 「な、なんだよ、失礼な子達だな!? 結構気にしてるんだよこれでも! 仕方ないじゃないか僕だけ父親似なんだからら!!」

 「すいませんすいませんうちの連中が本当にすいませんこっちで叱るんで許してやってくださいマジで。」

 「「………。」」 フォークで全身刺され中の馬鹿二名

 

 

 「おや、お客さんかい? こんにちは、僕はぺルデュラボー。こっちの彼女はエセルドレーダさ。」

 「こんにちは、皆さん。ご紹介にお預かりしたエセルドレーダです。」

 「あ、ご丁寧にどうも。八坂真尋です。」

 (なんでこー核弾頭よりヤバいのがぼかすかいますかね此処は…。)

 (諦メロン。まぁこっちじゃ手ー出されない限り大人しくしてるからさ。)

 (これ、本国にどう報告しろってんですか。胃がマジで痛い…。)

 

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁぁいこぉんばぁんわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!グッッットイブニィィィィィィィィィング!! お子達よ、我輩こそが科学の頂点を直走る世紀の大☆天☆才! 世界も時間も空間も超越した男、ドクタァァァァァァァァァァァァウェェェェェェェェェェェェェストであーるッ!!」

 「「「「「「「帰れッ!!」」」」」」

 

 「よく来たねドクター。まぁ座ると良い。」

 「呼んだのお前かよ!?」

 

 

 

 山なし落ちなしで終わり。

 



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リクエストが遅々として進まないので機体解説

 

 

○ワダツミ

 外見はまんま青いクシャ○リヤ。

 基礎部分はアイオーンを参考にしているが、主にアイオーンには向いていないクトゥルーとツァトゥグアの術式を使用するための機体であり、機関複合方式を採用している。

 ファンネルの代わりにスターヴァンパイアを搭載し、圧倒的手数と吸血能力によりアンチクロスとも優位に戦える。

 他の基本的な武装は無名祭祀書のネームレスワンと共通しているが、魔剣と魔衝弾は腕部から、魔弾砲は胸部の4連砲口からそれぞれ発生・発射する。

 また、4基のシールドは浮遊しており、柔軟な運用を可能としている他、内部に予備の黄金の蜂蜜酒を内蔵している。

 

 

○ワダツミⅡ

 全長300mを誇る、ネームレスワンと並ぶ数少ないデウス・エクス・マキナ。

 基本武装はⅠと共通だが、4基のシールドバインダー内にそれぞれ25本のテンタクラーロッド(魔力砲内蔵かつクロー付きの触手)を内蔵、腰部背面のコンテナにはヴァンパイアファンネル30個を格納、これらによる圧倒的かつ隙の無い制圧攻撃が可能となっている。

 また、機関複合方式だが、胴体に内蔵してある魔術機関エンジン1基とシールドバインダー内の黄金の蜂蜜酒、更に本体である頭部独自の複数の機関を併せて使用できるため、鬼械神の中でも突出した出力を誇る。

 

 

○アイオーン・リペア

 主人公が初めて搭乗した実戦仕様の鬼械神。

 アル=アジフに記述された本家アイオーンを6割の状態から修復、再現したものだが、実体の無い鬼械神故に機体サイズの変更や特化仕様への変形等、極めて柔軟な運用が可能となっている。

 本家に比べて装甲が増加された分、耐久力に優れる他、アンブロシウスの黄金の蜂蜜酒を予備電源として搭載しているため、アルハザードのランプの使用率がある程度抑えられている。

 また、装甲が増加したために、肩部のシャンタクが背面へとレイアウトが変更している。

加えて、軍神強襲における反転術式の改良版を使用しているため、デモンベインとリベルレギスを相手取る場合、接触時にその魔力を奪う事が出来る。

 基本武装は本家のそれに準ずる他、各種の銃火器等が追加されているが、搭乗者の差により、クトゥグアの適性がやや低下している。

 

 

○アイオーン・リペア改

 アルハザードのランプの欠点を克服する事を主眼とした機体であり、後の全ての仕様の基礎となった機体。

 その最大の特徴として、魔術機関エンジン、黄金の蜂蜜酒を追加搭載した機関複合方式を採用したため、あらゆる状況であっても、出力の低下を防ぎ、搭乗者への負担を劇的に低下させている。

 ある意味、鬼械神のままデモンベイン的なアプローチを目指した機体と言える。

 機体の外観はリペアと変更されていないが、その基礎性能は一回り向上し、更にクトゥグアの適性に関してもある程度改善されている。

 

 

○アイオーン・リペアⅡ

 アンブロシウスを参考に、ワダツミⅡの頭部兼脱出装置としての変形機能を持たせた仕様。

 主に対多数を想定したワダツミⅡでは勝てない強敵を対象にしており、全身の増加装甲を更に追加、その四肢に搭載されたシールドは断鎖術式を搭載し、リペアⅡを超える耐久性と近接打撃能力を持つ。

 反面、手持ち武装が扱い辛くなっているため、近接戦闘仕様とも言える。

 

 

 

○アイオーン・リペアⅢ

 リペアⅡから変形機能を排除、腕部シールドを外し、ある程度軽量化した姿。

 実は形態変化も無くし、純粋な戦闘能力のみに特化させている。

 全体的にデモンベインに酷似したシルエットであり、後にデモンベイン・カオスへと進化する。

 

 

 

○デモンベイン・カオス

 全身が漆黒のカラーリングとなった、アイオーン・リペアの進化形態。

 その性能は完全に本家デモンベインのそれであり、リベルレギスともまともに戦闘可能である。

 ただし、あくまで這い寄る混沌の一部と分捕り、更に主人公の一部まで使用しているため、クトゥグアの炎への耐性は低下している。

 また、カメラアイが三つで真紅という混沌らしい変化も存在する。

 旧神を降臨するための神降ろしの器であり、その際には輝くトラペゾヘドロンを使用可能となる。

 

 

 

○デモンベイン改

 主人公が今まで培った技術の全てを叩き込んで完成させたデモンベイン。

 今まで銀鍵守護神機関のみを搭載していたデモンベインにおいて、初の複合機関式を採用し、それに合わせて全身の伝達系が見直されている。

 反面、若干の重量増加が起きたが、それ以上に出力が向上・安定しているため、以後はこの方式が採用される事となる。

 軍神強襲における双機関式デモンベインには劣るものの、全力時には時間制限付きであるものの、従来の180%まで出力が跳ね上がる。

 武装面においては、未整理だった攻撃呪文の整理の他、左腕部に結界を五角錐状に展開、回転させて敵の装甲・防御陣を突破する対防御突破術式「シールドピアース」を新たに搭載し、近接における貫通力ならレムリア・インパクト以上の武装を得た。

 その高い性能はクラインの壺によるループ終盤において更に洗練されていき、最終決戦においても極めて有効に機能した。

 

 

 

○真破壊ロボ

 ループ終盤にて主人公の影響でドクター・ウェストが開発してしまった、対鬼械神戦を想定した破壊ロボ。

 ドクターの技術が遺憾なく発揮された上に、主人公の技術支援も合わせてトンデモナイ代物となった。

 モース硬度13の装甲材に完全ジェットエンジンやレールガン、試作型量子演算CPU等を搭載し、更にリペアⅠの反転術もちゃっかり再現しており、単独で並の鬼械神を撃破できる性能を誇る。

 その防御力はリベルレギスの踵下ろしを喰らっても一切傷つかない程であり、大型化された脚部は機動性を劇的に改善している。

 特にドリルの一撃は貫通術式を刻んである事から強力であり、リベルレギスの装甲にもダメージを与え、頭頂部の巨大ドリルを用いた超高速の穴掘りと地下からの奇襲を得意とする。

 また、遠距離兵装もレガシー・オブ・ゴールド並の目からのビーム砲、連射可能となったドリル・トルネード・クラッシャー、イブン・カズィの粉薬を炸薬に採用したミサイル、球体・大型化して火力と射角を向上させた砲等、極めて強力な武装を揃えている。

 

 

 

○スーパーウェスト天下無敵ロボ29豪R-1~試作なのに量産機より強―い!

 全長100m級の4人乗りの破壊ロボであり、主機関は常温核融合炉。

 ドクターがアーリの甘言に乗って作成された機体であり、今までの破壊ロボの中でも最大のサイズを誇る。

 先の真破壊ロボに準ずる性能を持つ上に、リトルエイダの能力によって鬼械神としての能力も獲得しており、極めて強力な機体となった。

 また、慣性制御を実現しており、その巨体の割に高い運動性を獲得している。

 クトゥルーの眷属やダゴン・ハイドラ程度では相手にならず一方的な戦闘を可能とし、ワダツミⅡの魔力砲の制圧射撃も通じない程の耐久力を見せた。

 搭乗者はドクターとエルザの他、アーリとアレクの2人であり、魔術による各種サポートや処理能力の劇的な向上が成されていた。

 しかし、この機体の真価は別の所にある。

 

 

 

○6体合体破壊ロボ=天上天下無敵ロボ28號超合金DX限定版「~私の自前のドリルが天元突破~」

 4人乗りのスーパーウェスト天下無敵ロボ29豪R-1~試作なのに量産機より強―い!(緑)を中核にして合体した、全長250mの破壊ロボ。

 青と赤の量産機がそれぞれ左右の腕、黄が肩部、白とピンクがそれぞれ両足に変形し、空中で合体する。

 なお、合体シーンの参考はSRXで。

 デモンベインに続く、科学と魔術の申し子であり、ネロとマスターテリオンをして「腹筋がつる程笑った」と述懐される程のカオスの権化でもある。

 6基の常温核融合炉からなる膨大な出力を生かし、エネルギー消費の高い兵装を連続して使用できる。

 また、慣性制御を実現しており、その巨体の割に高い運動性を獲得している。

 その防御はワダツミⅡのレーザーは一切通さず、魔衝砲で漸く破壊可能となり、そのパワーは拳一つで300mを誇るワダツミⅡを後退させる程のもの。

 自在に分離合体を行い、各機に搭載された武装も使用可能となっているため、合体時のパワー頼りと分離時のトリッキーな戦法を使い分ける事が出来る。

 自慢のドリルのは魔力収集術式が刻まれ、鬼械神に命中すればその魔力を奪い、魔術に当たれば霧散させてしまう上に、収集した魔力は自分の強化に回される。

 他にも、全身に無数のマジックアームを内蔵し、それらを自在に動かして隠し腕として用いる事もできる。

 更に、7号機(黒)との合体で二つの合体技を使用可能になる。

 

 

 

○スーパーウェスト天下無敵ロボ29豪R-1~試作なのに量産機より強―い! 7号機(黒)

 他の予備機としても機能するが、最大の特徴として「ドラムコネクト」による合体後、天上天下無敵ロボ28號超合金DX限定版「~私の自前のドリルが天元突破~」の追加武装として機能する。

 頭頂部のドリルを展開、加速を付けて叩きつける「天上天下電動無双螺旋」。

頭頂部の砲口を展開、機体の全エネルギーを集めて放つ「天上天下一撃滅殺砲」。

どちらも合体時に機体バランスが崩れる事からおいそれとは使用できないが、その威力たるや最上位の鬼械神でも危うい程である。

 

 

 

○ドラム艦

 最終話で宇宙の何処かで遭難していた主人公達を発見した最新の破壊ロボ。

 何気に恒星間航行も可能だったりする。

 巨大な円筒形コロニーとしての機能を有し、超長期的な活動も可能な「コロニーであり、宇宙戦艦であり、ドラム缶型汎用機械」でもある。

 その巨体のため、近接戦闘は考慮されていないが、代わりに全身に配置された火器により、凄まじい火力を誇る。

 

 

 

 

 




なんだろう、破壊ロボの説明考えてる内にそこはかとなく笑い声が漏れてしまうwww


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オリ&メインキャラ紹介 大幅加筆

弟→妹
愚神→泥神
有効的→友好的

修正しました(汗


○リーア・アシュトン

 

 僕らの寝取られ系残念主人公。

 基本的な容姿として白磁の肌に銀髪碧眼であるが、これは「這い寄れニャル子さん!」に登場するニャル子の容姿にそっくりであったりする。

 ニャル子がお気楽ギャグキャラなら、リーアは苦労系熟女に分類されるため、目つきや言葉使いが荒んでいる点が異なる。

 這い寄る混沌を父に持つ半邪神半人間の存在だが、本人がその事に気付かずに育ったため、そのまま人間としての意識のまま生き続けてきた人。

 混沌の手によりデモベ世界に転生し、クラインの壺であらゆる種族に転生し続け、遂には月の子の成功作となり、自身のクローンまで生み出した。

 生粋のデモベファンだが、他にも装甲悪鬼のファンでもある。

 大十字九郎に対して、崇拝に近い愛情を抱いており、もし自身を殺す者がいたとしたら、それは彼とアル・アジフだけだと思っている。

敵として魔導探偵の乗り越えるべき壁に、味方として支える者へと初期を除けば陣営問わず九郎達を支援してきた。

 基本的に苦労症というか世話焼きであり、最終話からはミスカトニックで正式に教職に就いた後、美人教師として名を馳せている。。

 魔術だけでなく、クトゥルー神話に登場する生物や神格について下手な魔道書よりも詳しいため、授業の内容は主に各神話生物の対処法になっている。

 魔術及び戦闘技能については「クラインの壺の外ならマスターテリオンに対して勝率4割」を誇る。

 なお、尊敬する人は旧神夫婦と覇道鋼造、ラバン・シュリュズべリィの4名。

 契約している魔道書は後述の「泥神礼賛」、自身の持つあらゆる知識を自身の皮で作ったページと表紙、自身の血を混ぜたインクで作った書に記し、自身の魂の一部を宿して完成させたものを使う。

 現在は後述のアレクとアリスの二児の母であり、教師と母、ホラーハンターの一人三役で頑張っている。

 後に、弱っていた所を襲われ、第三子を身ごもる事となる。

 

 最近、アーミティッジが持って来るお見合いに辟易としており、密かにショゴスに偽装恋人でもやらせるかを検討している。

 

 

 

○アーリ・アシュトン

 

 皆御存知の魔道書「泥神礼賛」の精霊である悪ガキ系美幼女。

 容姿はリーアと同じだが、こちらは完全に幼女である。

 地球に存在する神話生物や地球の神々、旧支配者らについて詳細に記されている他、ネクロノミコンや無名祭祀書の記述も含む最高位の魔道書の一つ。

 実体はメカとエロとギャグが好きな、子供心を忘れずに騒動ばっかり起こす問題児。

 魔力も自分で生産するか大気中から集めるので、割と普段から好き勝手しているが。面倒見は良い兄貴気質。

 極めて珍しい「複数種の鬼械神から選択して召喚できる魔道書」であり、現在はワダツミⅠとⅡ、アイオーン各種、デモンベイン・カオスから召喚できる。

 実は母にして主人であるリーアとは所謂分霊箱の関係にあり、密接にリンクし、片方が死んでももう片方が生きていれば(場合によるが)復活できる。

 よくドクター作成のゲームを使ってネロやマスターテリオン、子供らと遊んでいたりする。

 

 最近の趣味は通信対戦で熟練者を適度に虐めて成長を促す事。

 相手の成長を感じられるのが嬉しいのだとか。

 

 

 

○アレク・アシュトン

 

 皆御存知のちょっとマザコン入った銀髪銀眼の美少年(10→14歳)。

 まだ若過ぎるものの、母にリーア、父に混沌を持つギル様バリに四分の三が邪神という生まれを持つ。

 そのため極めて高いスペックを持ち、魔術と各種戦闘術においても優秀。

なお、学校ではモテモテだったりするが、本人は一切興味無し。

 尊敬する人は母と叔母と寝物語に聞かされた旧神夫婦。

 大好きな人は母と叔母と叔父夫婦。

 契約した魔道書はネクロノミコン機械語新訳こと新生リトル・エイダ。

 嘗てのネクロノミコンの記述に泥神礼賛の記述の一部が加筆された魔道書であり、既存の機械に鬼械神としての戦闘能力を持たせる他、電子戦においても活躍できる優れ物。

 搭乗する鬼械神は白銀のアイオーンⅡ(アイオーン・リペア改を使い易さ重視で再設計したもの)。

 現在は母だけでなく、叔父夫婦からも魔術・戦闘双方の手解きを受けており、徐々に叔父のそれに近づいていると言う。

 そのためか、術衣が基本臍出しルック(戦闘時にはジンクス)だったりする。

 最近の趣味はドクター・ウェストの破壊ロボをリトル・エイダと共に乗り回したり、勝手に改造したりすること。

 なお、妹との仲は一見敵対的だが、家族の事となると一致団結する。

 

 

 

○アリス・アシュトン

 

 主人公が父、混沌が母というカオスな出自を持ったアレクの妹。

 肉体の一部が混沌の一部であり、後のネクロノミコン血液言語訳と同様であり、理性を奪われ、主人公らと敵対していた。

 和解後は娘としての名前を与えられ、アレクと喧嘩しながらも兄妹仲良く過ごしている。

 学校では皆の姉貴分として酷い先輩や他校の不良等と身体能力をセーブした状態でありながらフルボッコにしたりして過ごしている。

 術衣は母と同系列のデザインだが、機動性重視のケルヴィエル。

 後に契約した魔道書は生き残っていたルルイエ異本、鬼械神はワダツミⅠとⅡ。

 偶に覇道財閥でメイド見習いとしてバイトをしているが、その度に未婚で結構な年齢になり始めているのに強制的にミニスカートの瑠璃を見て密かに哀れんでいる。

 なお、触手だとか頭足類だとかが嫌いで、視界に入れる事すら嫌がる。

 そのため、頭足類に似た神話生物は即効で殲滅している。

 

 

 

○大十字九郎

 

 原作主人公にして多次元世界最強のロリコン魔導探偵。

 主人公による敵味方双方からの強化プランにより、地味に原作よりも若干早くクラインの壺を打ち破った。

 長過ぎるループの中で幾度も主人公と出会い、別れ、争い、愛し合ったが、彼は一切覚えていない。

 ロリコンで股間がフランスパンで生活能力が低い小市民。

 だが、その心は絶望的な邪悪を前にしても折れず、曲がらず、立ち上がり続ける不屈の人。

 旧神化後、子供2人に思いっきり殴られたが、それからは一緒にホラーハンターとして改めて出発した。

 偶に主人公らの下に集りに行き、その度にエンゲル係数を絶望的なまでに上昇させる。

 

 何気にリーアが自分に向ける感情に気付いているが、嫁さん一筋なので決して浮気はしない。

 だがロリコンなので、うっかり視線が小学生の水泳の授業に寄せられたりして嫁さんに怒られる。

 

 

 

○マスター・テリオン

 

 主人公との死闘を通じ、更に同じ混沌の被害者として友好的になったボスキャラ。

 原作よりも性格が大分マイルドだが、役者気質なので最後までしっかりと踊り切った。

 ループ中の数少ない娯楽がデモンベインとの死闘の他、リーアとの戦闘やドクター・ウェストの行動とゲーム等の発明品であり、原作よりもマイルドなのは娯楽があり、ネロとエセルドレーダ以外の理解者にも恵まれたためだと思われる。

 趣味のゲームにおけるPC名は常に「舛田照夫」と名乗り、ゲーム雑誌にも結構な頻度で廃神としてインタビューを受けてたりする。

 原作終了から機神飛翔以後は悠々自適に大学生(恋人持ち)としてミスカトニック大学に通っていた。

 リーアの生徒だったり、アレクの師匠だったり、九朔の親友だったりするが、一貫して自分は表に出なかった。

 魔術と戦闘技術においてアレクの師匠であり、自らの現役時代の芸風を受け継がせた張本人。

 その事に関し、後に全力のリーアとやり合う羽目になったのだが、結局は愉しませただけで終わった。

 偶に旧神夫婦に通信簿風に九朔&紅朔の様子を伝えており、その事はリーア達にも伝えていない。

 が、極稀に旧神夫と「どちらの嫁が素晴らしいか」で論争→ヒートして空間が破砕する程の大喧嘩→嫁達に鎮圧される等、刺激にも事欠かない。

 

 なお、機神飛翔における世界の再構築が完了して九朔が両親を追って消えた後、暫くしてエセルの懐妊が発覚、極めて珍しくガチで驚いて醜態を晒す珍事となる。

 

 

 

○ドクター・ウェスト&エルザ

 

 皆御存知のキ○○イコンビ。

 この作品を通して、最もインパクトのあるキャラだと断言できる程の濃さを持つ。

 寧ろ何度か九郎達の出番を喰ったりしてるので、作者的にもどうしてこうなったと頭を抱えている。

 その性格は人の話を聞かないキ○○イであるが、悪ではあっても邪悪ではない。

 人様に多大な迷惑をかける事は数限りないが、殺しや外道はやらない。

 デモベ世界における真のバグキャラであり、全ループにおいて異なる行動を取り続けるイレギュラー。

 しかも主人公らのテコ入れにより、破壊ロボで神話生物や鬼械神を撃破する程にパワーアップしている。

 本編終了後は覇道財閥専属発明家として活躍しているが、頻繁に発明品が暴走して被害を出すが、必ずそれ以上の利益を出すため、覇道財閥関係者の頭を常に悩ませている。

 何気に機神飛翔世界における全ての破壊ロボの基礎特許を得ているため、凄いお金持ちになった。

 更にトドメとばかりに銀鍵守護神機関の再現実験の失敗により、その因子が不特定多数の世界にばら撒かれ、凄まじいカオスを催す事となってしまった。

 

 なお、あるループにおいて、エルザ女史と添い遂げ、一姫二太郎という3人の子供を作った事が一度だけあったりする。

 

 

 

 

 人物紹介 その2 登場予定だった主人公の各ループ毎の姿

 

 

 ○シャンタク鳥Ver

 

 馬面の怪鳥にして、ナイアラトホテップの眷属。

 主人公の場合、他の通常個体よりもニャル子のシャンタっくんに近い(雌雄に関しては未定)。

 主にダンセイニと並ぶマスコットキャラとして登場を予定していたが、尺の都合で全面カット。

 

 

 

 ○人造人間Ver

 

 所謂エルザ弐号機だった場合。

 キチ○イコンビに挟まれた唯一の常識枠にして、覆面の部下達に最も頼りにされる後方支援型。

 壱号機のエルザが汎用(戦闘含む)型なら、家事や指揮、装備開発等において全力を発揮する。

 が、登場させても特に見せ場が浮かばなかったのでカット。

 外見はエルザの2Pカラー。

 

 

 

 ○ショゴスVer

 

 実は本編の倍以上の出番を想定していたが、尺の都合でカットされた。

 シュリュズべリィ先生のハイータだけではなく、ショゴスロードとしてテケリさんばりの万能不定形メイドとして各陣営で活躍する予定だった。

 その場合、外見は人型への変身を補助する拘束具風にデザインされたメイドを服を着た、銀髪碧眼褐色肌の三代村正的な外見だったりする。

 覇道財閥では覇道鋼造の代から外見年齢が変わらない正体不明のメイド長として、瑠璃の仕事やメイド3人衆の上司として活躍、時折アンチクロスの面々とも戦闘する。

 ブラックロッジではマスターテリオン、ウェスパシアヌス、アウグスティヌスの内の誰かの傍でメイド兼助手兼夜のお伴をしている

 だが、これだと種族補正で初期から強過ぎるのでやはり出番カット。

 

 

 

 ○執事Ver

 

 ウィンフィールドの後輩(見習い)から先輩(執事長)まで幅広く構想していたが、あんまり強くても問題だし、九郎とウィンフィールドの出番を喰うのでカット。

 足技主体であり、ある程度は魔術を齧っており、呪詛対策や身体強化、治癒等も可能。

 反面、特化キャラにはその分野では必ず負ける器用貧乏。

 ショタから燻し銀までいけるが器用貧乏。

 

 

 

 ○メイドVer

 

 覇道財閥メンバーに関しては大筋で無視しても大丈夫なので、一緒に大幅カットされた。

 大体の設定として、10回目の幼女リーアが覇道鋼造に救出され、そのままメイドとして雇われ、成長した姿。

 この人の活躍でエイダ・兼定夫婦は高確率で生き残れる。

 反面、自分自身は高確率で死傷し、最終決戦に参加出来ない事もしばしば。

 外見は普通のメイド服に何時ものニャル子の容姿。

 魔術も扱え、近接戦闘だけでなく銃器や軍事にも明るいパーフェクトメイド ※ただし頑張り過ぎて砕ける。

 普段は丁寧だが、キレると男言葉&咥え煙草。

 男より寧ろ年下の女性にもてる。

 

 

 



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