大司教の権力を悪用して純真無垢な聖女とセックスしたら、毎晩イチャラブご奉仕されるようになった話 (月見ハク)
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第1話 黒髪の聖女 【挿絵あり】

 俺は今日という日を待ちに待っていた。

 大事に大事に育てた美しい黒髪の聖女を抱くのだ。

 

「では処女検査を行う。ローブを脱ぎなさい」

 

「……はい、大司教様」

 

 体のラインをすっぽり隠していた純白のローブ。

 その胸元の紐が解かれると、するすると床に落ちる。

 

 ロープの下は、露出の高い湯浴み着姿だった。

 まだ成人前だというのに、聖女マイの体は色香を放っている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 髪はこの王国では珍しい黒で、肌は透き通るように白い。

 そのギャップがたまらなく妖美だ。

 

 整った顔立ちに目はぱっちりとした二重で、まつ毛は長い。

 年相応の可愛らしさもあるが、美貌のほうが勝っていた。

 羞恥に顔を赤らめ、瞳を潤ませる表情に情欲をそそられる。

 

 ローブをきちんと畳むその手は細く、腕も足もスラリと伸びている。

 そのせいか同年代の聖女見習いよりも背が高く見え、年上に見られるのがコンプレックスだと言っていた。

 

 湯浴み着に包まれた二つの乳房はたわわに実って谷間を作り、なるほど確かに年上に見られても仕方がないだろう。

 縦長の絹布をたすき掛けにしたような露出の多い湯浴み着から、今にも乳毬がこぼれ落ちそうだ。

 

 俺は、布越しにその乳肉をむにと触ってみる。

 

「柔らかい 最高の弾力だ」

 

「んっ……あ、あの、大司教……さま」

 

「感度もかなりいい。清らかな証拠だね」

 

 絹布は頂付近こそ覆っているが、半分以上がこぼれ出ていた。あえてその露出した柔肉に五本の指を埋め込む。

 

「あッ……んっ」

 

 聖女は感度がいいものだが、マイは特に敏感のようだ。

 

「君が純潔かどうか、体の隅々まで確認する必要がある。肌を見せなさい、座学で教えただろう?」

 

「は、い……」

 

 マイが湯浴み着の布を上にずらすと、たぷんと豊かな美乳がこぼれ出た。

 

 

***

 

 

 「処女検査」。

 

 この国では数多(あまた)の聖女見習いから聖女に選ばれた女性は、生涯清らかな存在――処女でなければならない。

 

 そのため、聖女が儀式などに参加する際は、必ず大司教が処女かどうかチェックする。

 裏を返せば、大司教しか処女かどうかを知るものはいないということだ。

 

 聖女の力に目覚めた女性は、治癒の力が体を活性化するため容姿が美しくなり、体も豊かに育つ。周囲もありがたがって大事に育てるので、性格も純粋で優しい。

 

 まさに男の理想のような女。

 子どもの頃から、どうにかしてモノにしたいと思っていた。

 

 そうして俺はひらめいた。

 

 大司教にだけ許される処女検査。

 そこで処女だと言い張れば、いくらでも聖女を抱けるのではないか。

 聖女が妊娠さえしなければいいのだ。

 大司教の権力を使えば、聖女に口止めもできる――。

 

 この解を導き出したとき俺、リンゼ・ヤロワーツの進路は決まった。

 

 もともと王国教会の敬虔な信者を親に持ち、厳格な神学教育を受けて育った俺は、教会内でもすぐに出世した。

 

 大司教となって聖女を抱く。

 

 その禁忌とも言える背徳的な目的のためだけに、日夜修練を積み、司教連中に賄賂を送り、ほどなく最年少で司教に選抜された。

 

 大司教になるためには、司教たち過半数の票がいる。

 

 だが票を集めるのは容易(たやす)かった。

 

 司教の中には聖女見習いを執務室に呼び出し、手籠めにしている者が何人もいたのだ。

 

 閉ざされた教会という組織の中で、品行方正な司教として長年我慢を強いられてきた中年の男と、世間知らずで見目麗しく、うら若き聖女見習いたち。

 

 性欲を堪えきれず聖女見習いに手を出す司教がいるのは当然だった。

 

 しかしそれは禁忌だ。聖女見習いでも、民からすれば聖女とほとんど変わらない。聖女は純潔たれ――その古いしきたりを穢すものは、下手をすれば処刑される。

 

 だから、その弱みを握った。

 

 俺はまず、聖女見習いたちの信頼を得ることにした。中年男しかいない組織で、ただ一人の若者。それだけで女の反応は違う。

 

 さらに誰よりも品行方正を装い、優しく聖女見習いに接した。彼女たちに手を出してしまう気持ちも理解したが、俺の生きる目標は聖女を抱くことだ。聖女見習いには性的な興味が湧かなかった。

 

 彼女たちが心を開いてくれるのに時間は掛からなかった。都合のいい目となってもらい、聖女見習いに手を出している司教を見つけ、脅す。

 

 その他にも、彼らのさまざまな弱みを握った。男は寝物語で口が軽くなる。

 不正や裏金に手を染める司教は山ほどいたし、強引な方法で聖女見習いを抱く者もいた。

 

「ゴーゼ司教、無理やり薬を盛って犯すというのは、あまりに禁忌に触れているのでは?」

 

「リ、リンゼ司教、なんの話だ」

 

「彼女に飲ませた薬は私が解析に回しました。そしてゴーゼ司教の部屋の戸棚から、同じ成分の薬が見つかりました。ただでさえ聖女見習いと交わうのは禁忌。それも無理やりとあっては、死刑では済まないでしょうね」

 

「な……くそっ、何が望みだ」

 

「もうすぐ大司教の選定が行われます。私が大司教になれば、このことは腹の中にしまっておきましょう」

 

 弱みで脅し、懐柔する。

 

 それを繰り返しているうち、俺は史上最年少で教会のトップ――大司教に上り詰めた。

 

 

 早速、聖女を抱いた。

 金髪が美しい二十歳の聖女だった。

 

 聖女を抱く。その行為に俺は夢中になった。

 

「……あッ、あんっ、あ、あっ、んんッ……だ、だめです大司教様、お子がっ、お子ができてしまいますっ……」

 

「大丈夫だ。後でこの薬を飲みなさい。そうすれば(はら)むことはない」

 

 長年の研究の末、最高の避妊薬を作った。何度飲ませても体に影響がなく、司教連中が使っているものよりも数倍品質のいいものだ。

 

 何十年と溜めこんだ精を膣奥で放ったとき、彼女は失神していた。

 

 しかし、満たされることはなかった。

 俺は自分が「絶倫」なのだと知った。

 

 

***

 

 

「あんっ、はぁっ……大司教様」

 

「なんだ?」

 

「あなたは、私が聖女でなくてもこうして抱いていたのですか」

 

「それはないな。私が興味あるのは聖女だけだ」

 

「そうですね、分かっております」

 

「どうしたのだ、急に」

 

「いえ……大司教様に、紹介したい聖女見習いがおります。数日前に入った子なのですが、会ってみていただけませんか?」

 

 金髪の聖女を抱き始めて半年が経った頃、俺は一人の聖女見習いと出会った。

 

 一目見て、全身が沸き立った。

 

「マ、マイと申します。ここでお世話になっております」

 

 黒髪が美しい少女だった。

 

 盗賊に村を焼かれ、地方の教会に保護され暮らしていたという。

 治癒魔法の伸びが著しく、晴れてこの王都教会の聖女見習いに選ばれたらしい。

 

「君は今いくつだね?」

 

「えっと……十一になりました」

 

 たどたどしい口調で話すその姿は可憐で、可愛らしい。

 素朴な雰囲気なのに仕草や表情に色香も感じる。

 控えめな物腰ながら、まっすぐ私を見つめる金色の瞳は凛としていた。

 

 これはいい聖女になる。

 私は直感した。

 

 何より彼女の顔、声、体つき、まとう雰囲気、その全てが私の情欲を刺激してくる。

 

「そうか。しっかり励みなさい」

 

「は、はいっ、大司教さま」

 

 そうして屈託なく笑う少女は、私だけでなく皆の庇護欲をそそった。

 

 一見近寄りがたい美貌の持ち主ながら、実は素直で面倒見がよく世話好き。

 いつも自然体で、聖女見習いたちのムードメーカーなのだと金髪の聖女は語っていた。

 

 俺は、黒髪の少女を手に入れる。

 聖女に任命し、俺だけのモノにする。

 そう誓った。

 

 それからは、事あるごとにマイを可愛がった。

 

「あ、大司教様、あのあたし……じゃなかった(わたし)、先日の座学試験で一位を取りました」

 

「そうか。マイは勉強熱心だね。ただ無理はしないよう適度に励むんだ。聖女は体力が大事だからね」

 

「はいっ」

 

 マイも会うたびに満開の笑顔を見せ、ずいぶんと懐いてくれたように思う。

 

 しばらくして金髪の聖女が、聖女を降りたいと言い出した。

 

「大司教様の精を受けるのは、その……体力的に限界でございます」

 

「…………そうか」

 

 確かに最近の彼女はセックスの後、疲れてすぐ眠っていた。

 

 金髪の聖女の願いを、俺は快く了承した。

 マイが、もう十分に女性として成長してきていたからだ。

 

 金髪の聖女が任を降りてすぐ、俺はマイを史上最年少での聖女に任命した。

 

 それから、マイの聖女教育が始まった。

 

 ――聖女に任命された者は一定期間大司教につきっきりでそのあり方を学ぶべし。

 

 そういうルールを作った。

 

 毎日マイに身の回りの世話をさせ、一対一で指導する。

 特に処女検査についてはみっちりと教えた。

 

「えっ……服をすべて脱ぐ、のですか?」

 

「そうだ。でも恥ずかしがることはないよ。神の前で潔白を証明する清らかな儀式だ。神の代理として、私がきちんと証明するから安心しなさい」

 

 下心などまったくないのだという態度で説明する。

 

「そう、なのですね……」

 

 マイは戸惑いながらも、いつものように人懐こく微笑んだ。

 



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第2話 聖女は何も知らない

 ほどなく、マイの聖女としての初仕事の日がやってきた。

 

 第二王子殿下の成人の儀だ。

 

 この国では十五を迎えると成人の儀を受ける。年に一度、十五を迎えた男女が近隣の教会に集められ、そこで聖女見習いから祝福を授かる。

 

 だが王族は、この教会神殿で聖女から祝福を授けられるのだ。

 

 儀式が行われるのは夕刻。

 

 俺は昼下がりに、マイを呼びに行くことにした。

 

 教会神殿にある緑豊かな中庭。

 花壇のそばにたたずむ彼女を見つけ、俺は目を奪われる。

 

 儀式用の白い聖女服に身を包んだ彼女は、まさに一枚の宗教画のようだった。

 

 春のそよ風に、黒い艶髪がたなびいている。

 金色の瞳は花々を楽しそうに見つめているが、その視線はいつもより儚げだ。

 しっとりとした薄桃色の唇は、微笑んでいるようにも憂いているようにも見える。

 

 美しく神秘的、そして可憐。

 俺の思い描いていた、いやそれ以上の聖女がそこにいた。

 

 

「マイ様っ」

 

 若い聖女見習いたちがマイのもとへ駆け寄る。

 彼女が妹のように可愛がっている子たちだ。

 

「マイ様、いよいよ初仕事ですね」

「第二王子殿下の成人の儀で祝福を授けるんですよね」

「大役、頑張ってください!」

「最年少で聖女に選ばれたマイ様ですもの、心配いらないですよねっ」

「あの、もしよければ後で儀式のこととか聞かせてほしいですっ」

 

 憧れに目を輝かせる聖女見習いたちに、マイは優しく微笑む。それだけで彼女たちの頬がぽっと赤くなる。

 

「ありがとう、みんな。お務め頑張ってくるね」

 

 そんな一部始終を眺めてから、俺もマイのもとへ近寄った。

 

「聖女マイ」

 

「あ、大司教さま」

 

 パッと振り向いた顔は、いつもの人懐こそうな笑顔だった。俺に呼ばれて反射的に浮かべたのだろう。

 

「儀式の準備をする。付いてきなさい」

 

「え、今からですか? 儀式は夕刻からと……」

 

 途端にマイの顔が曇る。もう少し猶予があると思っていたのだろう。

 

 俺は彼女に近づくと、耳元にささやいた。

 

「処女検査は時間が掛かる。特に最初は、な」

 

「……っ」

 

 頬を赤らめたマイが、恥ずかしそうにうつむく。

 いつもの元気な様子とは違う淑(しと)やかな態度に、今すぐ押し倒したい衝動に駆られる。

 

 獣欲を理性でなんとか抑え、平静を装って言う。

 

「座学で教えたはずだが?」

 

「分かり、ました」

 

「ふむ、では来なさい。湯浴みは済ませたね?」

 

「……はい」

 

 俺は司祭服の下で股間を硬くしながら、マイを連れ立って建物へと入った。

 

 

 神殿内を二人で歩く。

 

 大理石張りの廊下に俺の靴音が響き、少し遅れてマイの裸足の音が続いた。

 いつもは並んで歩くか、人目があるときは半歩後ろにいる彼女だが、今は数歩後ろをついてきている。

 

 チラリと振り向けば、マイは下を向き、黒い前髪で目元を隠していた。その様子から強い緊張が伝わってくる。

 

 両手をお腹のあたりでぎゅっと握っており、両腕に挟まれた胸がふくらみを増している。その豊満さに、ゴクリと生唾を飲み込む。

 

 年齢以上の色気を放つ彼女に、邪な思いを抱く者は多い。

 

 俺が片っ端から弱みを握っていったせいか、聖女見習いに手を出す司教は激減した。それでもゼロではない。

 

 圧倒的な美貌と男を惹きつける体を持つマイは、その親しみやすい雰囲気も相まって、司教たちの色欲をあおった。

 

 中には彼女に魅せられ、分不相応な恋心を抱く者もいた。

 

 だから俺は、マイを徹底的に守ってきた。

 できるだけ構うようにしていたし、俺が不在のときは金髪の聖女に見守らせた。

 

 聖女に任命してからは、さすがにあからさまな視線を浴びせる司教はいなくなったが、それでも常に彼女を近くに置いた。

 

 座って書物を読んでいるマイの胸元から白い谷間が覗いていても、なるべく見ないようにした。彼女が俺の執務室のソファーでうたた寝をしてしまっても、その無防備な体には触れずに毛布を掛けた。

 

 全てはこの時のため。

 この時に、とっておくため。

 

 男の下心など知らず、何にも染まっていない真っ白な彼女を、俺だけの聖女に染め上げるためだ。

 

 

「マイ、成人の儀はこの大聖堂で執り行う。段取りは頭に入っているね?」

 

 大きな扉の前で立ち止まる。その向こう側では、司教や聖女見習いたちが忙しなく準備を進めていることだろう。

 

「あ、はい……きちんと、できると思います」

 

 マイは扉を見つめるが、その瞳は別のことに気を取られているようだ。

 

 無理もない。これから長時間に及ぶ恥ずかしい検査が待っているのだから。

 

「処女検査は隣の控え室で行う。来なさい」

 

「はい……」

 

 小さな扉を開けて、マイを先に入れる。

 

 前を横切る彼女の黒髪からは、ふわりと石鹸の香りがした。湯浴みはしっかりと済ませているようだ。

 

 マイには、処女検査がいかに重要な儀式なのかは叩き込んだが、肝心の内容についてはほとんど教えていない。

 

 服を脱ぎ、大司教の言うことに従う。

 

 伝えているのはそれだけだ。

 

 つまり彼女は、これからどんなことをされるのかを何も知らない。

 

「マイ、緊張しているかい?」

 

「はい……でも、これも聖女としての務め、ですから……」

 

 恥ずかしそうに視線をさまよわせる様子に、ますます股間が滾(たぎ)る。

 

「安心しなさい。私がきちんと導いてあげるから」

 

 俺は後ろ手に、扉をそっと閉めた。

 



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第3話 初めての処女検査

 控え室は、簡素な部屋だった。

 

 壁際に机と椅子があり、もう片側に仮眠用の小さなベッドが置かれている。

 正面の格子窓から昼の温かい陽射しが差し込んでいて、部屋全体を温めている。

 

 これなら全裸でも冷えることはないだろう。

 

「では処女検査を行う。ローブを脱ぎなさい」

 

 低い声で厳(おごそ)かな雰囲気を出す。

 

「……はい、大司教様」

 

 マイも頬を赤らめたまま、覚悟を決めたように返事をした。

 

 体のラインをすっぽり隠していた純白のローブ。

 その胸元の紐が解かれると、するすると床に落ちる。

 

 ローブの下は、白い絹布を体に巻き付けたような露出の高い湯浴み着だった。

 たすき掛けにした布から、たわわに実った二つの果実がこぼれ落ちそうだ。

 白布よりもさらに真っ白なマイの谷間に、ゴクリと生唾を飲む、

 

 下半身も、布を軽く巻き付けただけで、白く清らかな下着や柔らかそうな太ももが丸見えだ。

 

 部屋の真ん中に立っていた彼女に近寄ると、その魅惑的な胸元に手を伸ばす。

 

 むにゅう、という柔らかな感触が手のひらに広がる。

 

「ん……」

 

 彼女の可愛らしい吐息が漏れる。

 

 マイの胸は、布越しでも手のひらをじんわり温めるほどの熱を持っていた。

 

「柔らかい。最高の弾力だ」

 

「あっ、あの、大司教……さま」

 

 絹布はおっぱいの頂(いただき)こそ覆っているが、半分以上がこぼれ出ていた。そのはみ出している柔肉に五本の指を添え、一揉(ひとも)みしてみる。

 

「んぅっ……」

 

 マイはびくりと体を震わせ、下を向いた。黒い前髪が揺れ、かすかな石鹸の匂いが漂ってくる。

 

「感度もかなりいい。清らかな証拠だね」

 

 聖女は普通の女よりも感度がいい。

 それは大地の魔力に敏感であるためだとか、治癒魔法が自分や相手の状態を感じ取る必要があるため、修練を重ねるうちに感覚が研ぎ澄まされていくからだとか言われている。

 

 治癒魔法に秀でたマイはその分、性的な刺激にも敏感らしい。

 そう予想はしていたが、ここまで感度がいいとは……やはりこの子を聖女にして正解だ。

 

「あッ……んっ」

 

 少し力を入れて揉み込むと、マイが悩ましげな声を上げた。

 俺の手から逃れようと思わず半歩下がる。

 

「君が純潔かどうか、体の隅々まで確認する必要がある。肌を見せなさい、座学で教えただろう?」

 

「は、い……」

 

 マイが観念したようにうなずく。彼女はためらうように湯浴み着の布を上にずらす。

 たぷん、と音がしそうなほど豊かな美乳がこぼれ落ちた。

 

 マイは恥ずかしいというように、両腕で中途半端に胸を隠す。

 

「しっかり確かめる。腕をどかしなさい」

 

 彼女は耳まで真っ赤にしたまま、ゆっくりと両腕を下げた。

 

(これが、マイの乳房)

 

 その見事な豊乳に目を奪われる。

 

 白いふくらみの先端にある乳首はピンク色で、乳房の大きさの割に乳輪は小さく、それが彼女の無垢さを象徴しているようだった。

 

 手に余りそうなほどの豊かさなのに、重力を感じさせないほどの張りもある。手で揺らしたら楽しそうだ。

 

 存分に……可愛がってやろう。

 

「ふむ。聖女らしい無垢な乳房だ。これから触れるが、検査に必要なことだ。いいね?」

 

「……っ、はい……」

 

 マイが同意するのを待ってから、手を伸ばす。

 

 最初は優しくふんわりと触れてみる。

 横乳に軽く添えるように手のひらを当てただけで、マイは「ん……ぁっ……」と反応し始めた。目元も潤んでいる。

 

 それだけで俺の股間はギンギンに張りつめ、早く早くといきり立った。

 しかし挿れるのはまだだ。まずはじっくりとマイの体を堪能する。

 

「少し揉む。処女かどうかは、弾力も確かめなければならないからな」

 

「あ……あの、純潔を……奪われたことはありません。だから、そのっ……」

 

 処女だからこうした検査は必要ないのでは、と言いたいのだろう。

 

 それはそうだ。

 聖女見習いは司教以外には、男性と接触する機会などほとんどない。

 司教連中にも手を出させないよう常に見守ってきたし、手を出すなと厳命もした。

 女性同士の交わいも教義で禁じられている。

 

 マイが疑問を持つのも当然だ。

 きっとこれまでも疑問を感じていたのだろう。

 

「それは分かっている。だが、神の前では決められた段取りで、処女を証明していく必要がある。これも大事な儀式だ。分かったな?」

 

「……はい、分かりました……」

 

 にじんでいた涙が、その瞳からこぼれ落ちた。

 何も不安がることはないのに。俺がきっちりと絶頂に導いてあげるのだから。

 

「恐がらないでいい。ほら、こうすれば少しは恐くないだろう?」

 

 俺はマイの背後に回ると、後ろから両手を伸ばして豊乳を包んだ。

 艶めく黒髪から、石鹸と彼女の甘い香りが匂い立つ。

 

 俺は手のひらで彼女の乳房を隠すように、ぴたりと当てる。しかし男の大きな手をもってしてもこぼれ出てしまう。

 その大きさを確かめるように、ゆっくりと指を押し込む。

 

 モニュ、モニュという音がぴったりな柔乳だ。

 成長して大人の女になったらどれほど実るのだろう。末恐ろしさに、つい涎れが出てしまう。

 

「柔らかくて、張りもあるな。手に吸い付くような処女のおっぱいだ」

 

「ん……んぅッ、あっ……」

 

 しばらく揉み続けていると、手のひらの中の突起が次第に硬くなってきた。

 

 ふむ……そろそろここを責めてもいいだろう。

 

 俺は一度手を離すと、乳房を下からすくい上げた。

 ゆさゆさと左右に揺らし、たぷたぷと上下に揺らしてみる。

 水風船のような乳毬が面白いように揺れ、手のひらに気持ちのいい重さを伝えてきた。

 

「やっ、大司教……さまっ……」

 

 乳房を遊ばれているようで恥ずかしいのだろう。可愛らしい桃色の乳首がますます立っていく。

 小指の先ほどに膨らんだ蕾に、人差し指を添える。

 

「次におっぱいの先端の硬さを確かめる。耐えられなくなったら言いなさい」

 

 爪先で、乳首をピンと弾いた。

 

「ふっ……くぅッ……」

 

 これまでよりも強い性感なのだろう。マイが下唇を噛んで耐えている。ではもっと刺激を強くしてみよう。

 

 硬くなった乳首を指で押し、クニクニと捏ねて転がしてみる。

 

 マイは俺の指の動きに合わせてビクビクと体を震わせた。自分が彼女に耐えがたい性感を与えていることに、愉悦と興奮がこみ上げてくる。

 

「薄桃色の綺麗な乳首だね。まさに処女の色だ」

 

「んぅっ、大司教……さま、あッ……も、つらい……です」

 

「そうか。それも処女である証だ。そこの机に寄り掛かるといい。さあ」

 

「えっ……」

 

 俺が中断してくれると思っていたのだろう。マイは戸惑いの声を浮かべた。

 

 彼女を振り向かせると、目の前の乳首を指先でピンピンと弾きながら、その白い体をトンと押した。

 

 マイは後ろによろけそうになり、背後にあった机に両手をつく。

 彼女は後ろ手で体を支え、その豊満な乳房を俺に差し出すような格好になる。

 

 俺はその無防備な胸元に顔を近づけ、しゃぶりついた。

 

「いやっ……! あッ、んぅっ……あ、あんッ…大司教様、あ、やめて……く、んんッ……」

 

「何を言っている。ここからが本番なのだ、やめられるか」

 

 舌を使ってめいっぱい乳肉を舐め回し、乳首もろとも口内へと吸い上げる。

 

(甘い)

 

 舐めるたびに、舌に甘みが広がる。

 

 聖女の体は甘い。治癒の魔力を常に発し、それが汗や体液に分泌されるからだと言われている。そんな中でも特に強い魔力を持つマイは、甘味も格別だった。

 

 鼻を乳肌に押し付けると、脳を蕩けさせるような、それでいて落ち着く匂いが鼻腔を満たす。

 

 俺は彼女を味わうのに夢中になった。

 

「はぁっ、あっ……大司教、さま……んっ、どうしてそんなとこっ……舐めるの、ですか?」

 

「こうして処女かどうか、味で確かめるんだ」

 

 適当なことを言いながら、乳首もろとも乳輪を吸い上げる。口内で硬くなった乳豆を舌で転がすと、濃厚な甘みを感じた。

 

 脳が美味しいと喜ぶ。母乳が出るようになったらさぞかし美味いのだろう。孕ませられないのが残念で仕方ない。

 

 乳房を散々味わってから、ぬぽっと口から解放する。白いおっぱいは俺の口の形に赤くなっていた。

 

「……大司教、さま。も……許して、ください……」

 

 マイは涙を流して泣いていた。初心な少女に、いささかやり過ぎてしまったようだ。

 

「マイよ、少々加減が足りなくてすまなかった。跡が付いてしまったね。自分で治せるかい?」

 

 優しく頭を撫でてやる。

 

 するとマイは、そうするのが当たり前というように小さい頭を俺の肩にうずめてきた。

 

 彼女の胸が淡く光り、赤い跡が消えていく。

 いつ見ても彼女の治癒魔法は美しい。

 

「……マイが頑張っているから検査は順調だ。落ち着いたら続きをしよう。いいね?」

 

 びくっとマイの肩が震える。

 まだこのような恥ずかしいことが続くのかと怯えているのだろう。

 

 落ち着かせるために、なめらかな黒髪を何度も撫でる。親のいない彼女は、たまにこうしてやると赤子のように安心した顔をする。自分からせがんでこないところが本当に愛らしいと思っていた。

 

 

 ややあって、俺の胸の中でマイが小さく頷いた。

 

「では……これが一番重要な検査だ。マイ、下を脱ぎなさい。もう少しだから一緒に頑張ろう」

 

「……分かり、ました」

 

 諦めたような、覚悟を決めたような返事だった。

 

 細い指が、ためらいがちにショーツの縁(ふち)にかかる。

 ゆっくりとした動きで、純白の布地が下ろされていった。

 

「おぉ……」

 

 思わず感嘆の声を漏らす。

 

 マイの秘所は、美しかった。

 鼠径部は真っさらに白く、ふっくらと盛り上がった恥丘には一本筋の綺麗な割れ目が走っている。

男の獣欲を受け入れる部分なのに、清純ささえ感じてしまう。

 

「素晴らしい なんて綺麗な色だ」

 

「うぅっ、そんなとこ……見ないでくださいっ」

 

 俺は思わずしゃがみ込み、顔を近づけていた。

 閉じようとする太ももを手で押さえ、恥肉の割れ目を指ですくう。

 

 ヌチュという湿った感触。

 

「いやっ……んんッ」

 

 マイの口から、少女とは思えないほど艶めいた声が漏れる。

 彼女の愛液で濡れた指を舐めてみると、とてつもないうま味を感じた。乳首や素肌の味よりも甘く、濃厚で、女の香りが混じった味だ。

 

 もっと味わいたい。

 

「マイ、処女の証が健在かどうか、じっくりと検める必要がある。分かるね? 私の肩に足を乗せなさい」

 

「は、はい……」

 

 マイは、「んしょ……」といつもの口癖を言いながら机の上にお尻を乗せた。

 座ったまま、足を片方ずつ俺の肩に乗せていく。

 

 股を開いたおかげで花肉がくぱぁと広がり、鮮やかなピンク色の膣内があらわになる。その蜜穴からは透明な愛液がトロトロと滴っていた。

 

(絶景だ)

 

 マイの美しい秘所をまじまじと鑑賞する。

 そこから漂う女の匂いに耐えきれず、俺は指でほぐすのも忘れ、その女陰にしゃぶりついた。

 

「やぁっ……あぁんっ」

 

 ぴちゃ、ぴちょ、じゅろろろ……じゅる、ぢゅぢゅ……。

 

 卑猥な音を立ててマイの膣を舐めしゃぶる。

 

「やぁッ…そこ、そんなとこ……だめですっ、だめぇッ……やあッ、あっ……あんっ、あん、あんんっ……!」

 

「愛液があふれだしてくる、これが聖女の味……っ」

 

 花肉の中に舌を押し入れ、縦横無尽に動かしながら、とめどなく溢れる甘露汁を吸い上げる。

 

 ひたすらに湿地帯を犯す音と、快感に鳴くマイの声が室内に響く。

 もっと、マイのいやらしい声を聞きたい。

 

 俺は、秘唇の蹂躙を舌から指にバトンタッチし、その上にある恥丘に向けて舐め上げていった。

 

 舌先がクリとした小突起をとらえる。

 と同時に、マイの体がビクンと跳ねた。

 

「ひぁっ、そこっ……」

 

 俺はこの敏感な突起に狙いを定めると、思いきり吸い上げた。

 マイの太ももがぎゅうと両頬を圧迫してくる。

 

 すでに露出していた肉粒に舌腹を当て、れろれろ左右に動かす。

 たまに円を描くように舐め回し、最後に突起を唇で挟んで吸い上げた。

 

 じゅるじゅる、ぢゅ……ぢゅぢゅうぅぅぅ……。

 

 強い吸引に、マイの下腹部が痙攣した。

 

「ひぅッ……あぁっ、やッ……あっ、あっ、んんんんっ――ッ!」

 

 吸いついている膣を通して彼女が絶頂したのが分かった。頬を挟む太ももが力み、全身が強張っている。

 

 マイは俺の頭に手を当て、遠くに押しのけようとしていた。

 快感から逃れようとするような彼女に、追い打ちをかける。俺は性器全体を下から上にベロンと舐め上げた。

 

 その瞬間、ビクッッとマイの体が跳ねた。

 

「んんんッ――、っ――ッッ」

 

 彼女は勢いよく背中をのけぞらせ、声にならない声を発した。

 

 俺は立ち上がり、なおもビクビクと痙攣しているマイを抱きしめる。

 彼女は大量の汗をかき、体は熱く火照っていた。

 

 荒い吐息を落ち着かせるように、また頭を撫でる。

 

「マイ、よく頑張ったね。聖女の証を目視した。最後に直接私のもので確かめる。いいね」

 

「ふぇ……?」

 

 絶頂の余韻に襲われているのか、薄っすら開いた目は虚空をさまよっていた。

 

 俺はさっさと自分の司祭服を脱ぎ、下着を下ろす。

 

 同年代の男よりは筋肉の付いた体。

 長時間セックスを楽しむには、それ相応の筋力と体力がいる。

 そのために日々の鍛錬は欠かさない。おそらく歴代の大司教の中でもここまで体を鍛えていた者はいないだろう。

 

 自身の肉棒を見る。

 カチコチに硬くなったそれも、他の司教に比べても太くて硬いのだろう。無垢なマイの膣に挿れるには、あまりに大きい。

 

ゆっくりと、馴染ませていかないといけない。

 

 俺は自分の体全体で、マイの裸体を包み込んだ。

 

(……マイの体が吸い付いてくるようだ)

 

 肌と肌が密着する心地よさが広がる。

 マイの体は汗まみれで、ヌルヌルとした気持ちのいい吸着感があった。

 

「はぁ……最高だ。この触れ心地、香り……」

 

「だい、しきょう……さま……?」

 

「いい子だね、マイ。ほら、腕を私の肩に掛けなさい」

 

 いまだ夢心地といった様子のマイを優しく誘導し、その白くて柔い腕を俺の首に巻き付かせる。

 これで挿入体勢が整った。

 

 黒い前髪が張り付くおでこや、真っ赤に染まる耳にチュ、チュと口づけを浴びせ、意識をそちらに向けさせる。

 

 一方で、片手をマイの腰に回すと、もう片方の手で自身の男根を持ち、濡れそぼる膣にあてがう。

 

 ニュプ……。

 

 肉棒の先端がマイの蜜肉に侵入した。

 

「はぁっ、あッ……!」

 

 マイが俺の耳元で切なげな悲鳴を上げる。

 同時に、亀頭にまとわりついた肉ヒダがきゅうきゅうと収縮し、男根を中に引き寄せ始めた。

 

「う、おおっ……なんと、吸い込まれていく……!」

 

 ヌプ……ヌプ……ジュププ。

 

 肉棒が狭い膣内をかき分け、竿の半分ほどが埋まったとき、

 

「いッ……、つぅッ…いたッ、え? あ、イタいっ、大司教さま、いや……いやぁッ」

 

 処女膜を貫通した痛みで、マイの意識が現実に引き戻されたようだ。

 俺との結合から逃れようと、首を振りながら体を押しのけようとしてくる。

 

「マイ、マイ、落ち着きなさい。儀式の最中だ――むちゅ、あむッ」

 

 俺は混乱するマイを、あえてさらに混乱させるために唇に吸い付いた。ショック療法だ。

 

「んちゅッ、んん!? ……んやぁ、あむ、ん……んちゅっ……」

 

 彼女を混乱させるキスのはずが、俺のほうが戸惑っていた。

 

(頭が、とろけそうだ)

 

 唇が触れた瞬間、そのしっとりとした質感に全身が震えた。

 半開きになった唇の隙間に舌を差し込めば、熱い口内でもっと熱い舌をとらえる。その溶けるような柔らかさに、またも驚く。

 

 舌を絡ませると頭がぼうっと痺れるほど気持ちがいい。

 じゅうっと吸い上げると、彼女の甘い唾液が美味しい。

 

 マイの口内を夢中でむさぼり舌でかき混ぜると、彼女の口端から涎れがこぼれた。

 

 その間も腰をゆっくり押し込み、肉棒をマイの濡れた女膣に挿入していく。

 

 パンと小さい音とともに、俺の股間と彼女の股が密着した。肉棒の根本まで埋め込んだ証拠だ。

 さらにグッと押し込めば、舌の絡み合うその奥で、「んぅ」と可愛い音が鳴った。

 

 少し、馴染ませよう。

 

 腰を止め、彼女の膣内が俺の形を覚えるのを待つ。温かい膣内がうねり、絡みついてくるのを感じる。きゅんきゅんと締め付けながら吸着してくる感覚に、思わず射精しそうになる。

 

(まさか、これほどとは)

 

 マイの膣は、まさしく名器だった。

 膣口が肉棒の根元を絞り、膣奥が亀頭に吸い付いてくる。

 

 俺はこみ上げてくる射精感を必死に耐えながら、彼女の緊張をほぐすようにディープキスを続けた。

 

 やがてマイの全身から力が抜けてきたころ、「ぷはぁ」と唇の拘束を解いた。

 

「はぁ、はぁ……マイ、落ち着いたかい? 今、君の体の中を検(あらた)めている。これは処女の痛みだ。大丈夫、ゆっくり治癒魔法を使いなさい、できるね?」

 

 マイは涙を流しながら、コクと頷いた。

 

「そう、ここに手を当てて、ゆっくり治癒魔法を掛けていくんだ」

 

 彼女の手を下腹部に誘導する。

 手のひらから薄っすらと光がこぼれ、結合部分を照らした。

 

 結合したまま治癒魔法を掛けることで、傷だけを治す。

 これで処女膜が復活することなく痛みが引くはずだ。

 

 すぐに、マイの呼吸は落ち着いてきた。

 しかし痛みが消えた分、今度は俺の肉棒が与える快感に襲われているようだった。

 

「どうだ? 痛みはなくなっただろう」

 

「は、い……でも、これ……んっ、体が、ヘンで……っ」

 

「それは大変だ。どういう感じか言ってみなさい」

 

「大司教、さまの、あっ……かたいのが、アツくてっ、あたま……おかしく、なりそうですっ」

 

 そう涙目で訴えてくる彼女に、ゾクゾクとした悦びがこみ上げる。

 衝動のままに、抽送を開始した。

 

「はぁッ、あぁっ……え、なにっ、あッ……あぁんっ」

 

 ズチュ、ズチュと肉棒が愛液をかき出す音が響く。

 

 ゆったりとしたピストンなのに、膣の締め付けがキツくて出し入れするたびに電流が走ったような快感に襲われる。

 

「ぐっ……なんて気持ちがいいんだ」

 

 しばらく抽送を続けていると、肉棒が敏感な所に当たったのか、マイがビクンと大きく震えた。

 

「あッ……あっ、も……ぬいて、くだ……っ、あんんっ、ひぁッ、ああぁんっ……」

 

 彼女の喘ぎ声に鼓膜がとろける。

 脳が、体がマイを犯すことしか考えらなくなり、腰の動きが勝手に速くなる。

 

 ズチュ、ズチュ、ズチュと彼女の膣を突く。

 

「はぁっ、はぁ……マイっ、これが神の儀式だ。本来、神が行うべき行為をっ……私が代理で行っている……分かるね?」

 

「わかん、な――」

 

 ズチュ、ズチュ、ズチュ、ズチュ。

 

 マイが何かを言おうとするのを遮るように、抽送の速度をさらに上げる。

 

 肉棒が蜜奥に達するたびに、膣内がもう逃すまいと絡みついてくる。その度に体中をゾクゾクゾクと快感が走る。

 

 もっと奥を犯したい。

 肉壁の心地いい摩擦を感じながら、亀頭を蜜口付近まで引き抜き、一気に突く。

 その一瞬一瞬ごとに電流のような快楽を得ながらも、勢いを加速させていった。

 

 淫らな水音は、いつしかパン、パンと肌と肌がぶつかり合う音に変わっていた。

 

「んんッ……はっ、あんっ、はぁッ、うんんっ、はぅッ…あっ、あぅッ、あん、あっあんッ、ああぁん……ッ」

 

 パンパンと激しい抽送音が部屋を満たす。

 もはやマイは嬌声以外を発することができなでいた。

 

「すごい締まりだっ、マイ、出すぞっ、中に……!」

 

「あっ、だめっ……だめッ、あっ、あっあっあっあっ、あ゛あぁぁんっ――――ッッ」

 

 マイが全身を震わせながら後ろに仰け反った。彼女の涙が宙に舞う。

 

 その瞬間、俺は頭が真っ白になるほどの射精感に襲われる。

 腕を伸ばしてマイの体を支えると、その勢いのままマイの膣中に発射した。

 

「ぐぅっ、うぅぅぅぅっ……!」

 

 ドピュルルッ、ドピュッ、ドピュッ……と大量の精液が放たれていく。

 

 するとマイの膣内は激しく収縮し、きゅうっと吸い上げてきた。まるで精巣から根こそぎ精を搾り取ろうとしてくるようだ。

 

 その昇天するような快楽に身を震わせながら、俺は搾りかすまで余すことなくマイの中へ注ぎ続けた。

 

 視界が真っ白になり、気絶しそうなほどに気持ちがいい。

 

 結合部から、精液がこぼれ出ていくのを感じる。

 それほどの量を射精してしまったのだろう。

 

「だい、しきょう……さま……」

 

 いつの間にか、マイが俺の胸にしがみついていた。

 胸元で苦しそうに息を上げ、涙目で見上げてくる彼女をひしと抱き締める。

 

 当たり前のように唇を重ね、目から流れる涙を舌で舐め取る。

 そうしてから、石鹸と女の香りが匂い立つ黒髪に鼻をうずめ、大きく息を吸った。

 

「マイ、はぁ、はぁ……君の黒髪も、この豊かな体も、全てがいい……。私の大切な聖女よ、これが……君の役目だ」

 

 その言葉に、マイの膣内がキュンキュンと締め付けてくる。

 

 彼女の健気な反応にイチモツが硬さを取り戻し、グングンと膨張していく。

 

 絶倫である俺が、一度の射精で収まるわけがなかった。

 

「ぁっ……また、なかで、おっきくっ……んんッ……」

 

 マイの顔に戸惑いが浮かぶ。しかしその瞳はトロンとしており、まるで再びの快楽を期待しているように見えた。

 

「ああ……マイ、そんなにねだったら駄目じゃないか……止まれなくなってしまう」

 

「えっ……」

 

 俺は彼女のお尻の下に手を差し込むと、ぐいっと持ち上げた。

 

「さあ、検査を続けようか」

 




処女検査はまだ続きます。

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第4話 終わりのない絶頂

「あ、あの大司教さまっ、どこへ……」

 

 どこへ?

 

 マイのお尻を持ち上げて抱っこしているせいか、このままどこかへ連れて行かれると思ったらしい。

 

(軽いな)

 

 自分が鍛えているというのもあるだろうが、マイは思った以上に軽かった。その美貌と豊かな胸でつい忘れてしまうが、まだ発達途上の少女なのだと実感する。

 

 俺の胸板でむにゅうと潰れる柔乳の感触が気持ちいい。

 彼女の膣は今も俺の肉棒を咥えこみ、キュンキュンと収縮している。挿れているだけで、もう射精してしまいそうだ。

 

「くっ……マイの中が、私の形を覚えたようだ」

 

「おぼえ、た……?」

 

「ああ、おかげで検査がしやすい。マイ、いい子だ」

 

 艶やかな黒髪を撫でると彼女がほぅとため息をついた。マイの中で嬉しさに似た感情が湧き上がるのを感じる。その証拠に、膣奥がきゅうっと亀頭に吸い付いてくる。

 

 俺は、マイを事あるごとに褒めるようにしてきた。

 

 そして彼女が自分でも頑張ったと思えるようなとき――座学で一位を取ったときや治癒魔法が上達したとき、そういうここぞというタイミングだけ頭を撫でるようにしてきた。

 

 そうして、俺に頭を撫でて褒められるというのは、最上級の賞賛なのだという意識を植え付けたのだ。

 これまで出し惜しみをしてきた分、セックスでは存分に撫でてやろうと思う。

 

 彼女が、この行為そのものを悦びだと感じられるように。

 

「マイ、次は君が上になりなさい」

 

 そう言って、俺はマイを抱えたまま椅子に座った。

 

「んぅっ、はっ……ぁ、大司教さま、これっ……」

 

 俺はあえて椅子に深く腰掛け、彼女の裸体を見上げるような体勢になる。対面座位よりは空間があり騎乗位よりは互いの体が近い、そんな体位だ。

 

「処女検査では、様々な格好で中を調べなければならない」

 

「んッ……そう、なのですか……?」

 

「ほら、こうして下から突くと当たる場所も違うだろう?」

 

 彼女の腰をつかみ、腰だけを突き上げる。

 

「あぁっ、んん……ッ」

 

 少し角度を付けているせいか、カリ首が膣壁をこすった感じがあった。マイのお腹の裏側あたり。反応がいいので、おそらく彼女の敏感な場所の一つだろう。

 

 また、この無垢な聖女に新たな快感を植え付けた。

 その愉悦に突き動かされるように、俺は腰を動かし始めた。

 

 腰をつかみながら、思いきり突き上げる。

 

「ひぁっ、あッ……はあぁんっ」

 

 彼女が背中を反らし、悩ましげな喘ぎ声を上げた。

 

(これも、なんて絶景だ)

 

 快感に体をしならせるマイの姿に目が釘付けになる。

 

 乱れた黒髪はおでこや頬に張り付き、涙に濡れる目元は色っぽく細められている。

 丸みと曲線しか存在しない彼女の体は艶めかしく、汗が窓から差し込む午後の光を反射していた。

 

 パンッパンッと突き上げるたび、時間差で大きな乳房が上下に揺れる。桃色の乳首が激しく動き回り、その軌道を追うのに夢中になった。

 

 胸元で揺れ動く乳房を、ただ突かれるがままの彼女はどうしようもできない。

 下から勢いを付け、肉棒でマイの最奥をノックする。

 

「はあッ、んくぅ……大司教さまの、おく、に……んんッ、あぁんっ、あっ……あぁッ」

 

 俺の腰の上で、彼女は黒髪を振り乱しながらその肢体を踊り狂わせた。

 

 ふと、窓からの光が少し傾いているのに気づく。

 彼女をむさぼるのに夢中になるあまり、もう昼どきを過ぎてしまったようだ。

 

 できればマイの様々な姿が見たい。

 いろいろな体位で彼女に快楽を刻み込みたい。

 

 俺は腰の突き上げを止めた。

 

「マイ、もういいぞ。よくできたね、次の検査に移るとしよう」

 

「はぁっ、はぁっ……つぎ、ですか?」

 

 彼女の瞳が戸惑いに揺れる。未知の快楽への怯えと期待が入り混じった目だ。

 

 股間が熱くなり、思わずピストンを再開しそうになる。

 本当に抱きがいのある娘だ。

 

「そうだな……あそこの扉の前に立ち、お尻を向けなさい」

 

 

 

 

 ズチュ、ズチュと、マイの膣内を肉棒でえぐる。

 

「はぁッ、ぁんっ、大司教さまっ……これ、だめぇっ、あんんっ……ッ」

 

 彼女を扉の前に立たせた俺は、後背位で腰を振っていた。

パン、パンと俺の股間がマイの柔尻を叩く。

 

「マイ、そんなに腰を振って、いやらしい娘だ」

 

 実際腰を振らせているのは俺なのだが、あえてマイの耳元でそう責め立てる。

 ついでに耳を舐め上げ、中を舌で蹂躙すれば、彼女はビクビクと体を震わせた。同時に蜜肉がきゅうっと肉棒を締め付けてくる。

 

 れろれろと耳の外側を舐め上げ、耳たぶを甘噛みし、最後に舌を耳の中に入れてじゅるじゅると躍らせる。それを繰り返して反応を探る。

 

 ふむ、マイは耳たぶを噛まれるのに弱いらしい。

 

「おねが、いっ……んあぁっ、あっ、だいしきょう、さまっ……これ、つらいですっ……」

 

 なるほど、後ろから責めると感度が増すようだ。

 

 パァンッと思いきり突き、ぐうっと肉棒を押し込んで膣奥を亀頭で圧迫する。

 

「あぅッ、んうぅぅぅっ…………ッッ」

 

 マイは全身を痙攣させながら、何度目かの絶頂に襲われていた。

 

 よほどの性感なのだろう。足がガクガクと震え、今にもへたり込んでしまいそうだ。

 

「マイ、少し休憩をしよう。ベッドに来なさい」

 

 俺は彼女のお腹に腕を回して体重を支え、ゆっくりベッドへと誘った。

 

 

 

 

「あぅっ、あっ、あッ……あんっ、だいしきょ、さまっ……あっ、はぁ、ぁんっ」

 

 マイをベッドに座らせたのはいいものの、我慢できずに再び挿入してしまった。

 

 彼女は後ろに倒れないよう、ベッドに両手を付き、無防備になった体を俺に犯されていた。先ほど机の上に乗せたときと同じ、対面座位に似た格好だ。

 

 目の前でたぷんたぷんと揺れる豊乳に舌を這わす。ピストンの振動で乳房が逃れようとするので、大きく口を開けて吸い付き、乳肉を口内に引き止める。

 

 さっきよりも汗のしょっぱさが増した美味しい乳首をしゃぶると、マイの膣肉がヌクヌクと肉棒に絡みつき、射精をねだってきた。

 尻穴が熱くなった感覚とともに、猛烈な射精感が押し寄せてくる。

 

「くっ、こんなに締めつけて……そんなに子種が欲しいのか?」

 

「あぅッ、あっ……そんなの、知らな、い……んぅッ、んっ、あぁんっ、あッ、あんっ、あっあッ、あっあっあっあっ……あああぁぁぁっ――――ッッ」

 

 ゾクゾクゾクと快感が這い上ってきて、股間がカッと熱くなる。

 

「ぐぅっ、出るぞ……!」

 

 ドビュルルッ、ドビュッ、ドビュッと種付け汁が放たれた。

 全身に力が入り、ぐぐぐと肉棒を押し込む。ビュル、ビュルとマイの膣奥に精液を塗り付け、二度目の射精を果たした。

 

(極上の、射精だ)

 

 今まで味わったことのない快楽。

 全身が性感帯になったような心地で、膣内の温もりだけで達してしまいそうになる。

 

 おそらくマイはその数倍もの快感に襲われているのだろう。

 背中を仰け反らせ、ビクンビクンと小刻みに体を跳ねさせている。

 

「マイ……最高だ。今度こそ休むといい。回復したら検査の続きだ」

 

 柔らかい体を抱き寄せ、また頭を撫でて落ち着かせる。

 

「だいしきょう、さま……あたし、なにも……んッ、ぁ……わかん、なくてっ……」

 

「ああ、君は何も知らなくていい。全部私に委ねなさい」

 

 そう耳元で告げると、彼女の体から力が抜けていった。

 

 だらんと弛緩したマイをベッドに寝かせ、俺も隣に寝転ぶ。

 

 荒い呼吸に合わせて、彼女の胸元が上下する。仰向けに寝ているのにその巨乳は横に垂れることなく、美しい半球体と瑞々しい張りを保っていた。

 

「……ぁっ……ぅ……」

 

 絶頂の余韻がまだ収まらないのか、マイが時おり小さくうめき、眉間にシワを寄せる。

 

 あまりの妖美な姿に、精を搾り尽くしたはずの股間がムクムクと膨らみ始めた。

 相変わらずの絶倫ぶりだと、自分自身に苦笑する。

 

 もし相手が普通の聖女見習いなら、いやたとえ聖女でも、俺のペースに体力がついてこれず、このまま疲れて眠りこけてしまうだろう。

 

 しかしマイは幸か不幸か、膨大な魔力に恵まれた娘だ。

 常に微弱な治癒魔法が全身をめぐり、体を癒してしまう。

 

 

 窓の外を見ると、さっきよりもさらに日が傾いていた。

 もう少ししたら夕陽が差してくるだろう。

 

 儀式までに、まだ数度は抱ける余裕がある。

 

 すでにマイの呼吸はだいぶ落ち着いてきている。

 俺は再び彼女の頭を撫でた。

 

「起きたら続きだ、マイ」

 




次話は処女検査は終わりです。


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第5話 口止め

 窓からの陽が傾きかけた室内に、俺とマイの吐息が響いていた。

 

「はぁ、はぁ、マイ……また締め付けが強くなったな。イっていいぞ」

 

「はぁっ、んッ……イって、って、なに……?」

 

「私のでここを擦(こす)ると、ほら、ゾクゾクと体が震え上がるだろう? それがイくというんだ。聖女の、正常な反応だ」

 

 俺はマイを抱っこしたまま窓に押し付け、愛液のあふれる蜜穴を何度も突き上げていた。

 

 体が浮いた状態で犯されているのが恐いのか、彼女はひしと俺の肩をつかんでいる。その乳房は俺の胸板との間で押し潰され、コリとした乳首の感触がこそばゆい。

 

「あっ、またっ……きちゃうッ、大司教さまっ、あッ、あぁっ……ん゛んんんんっ――――!」

 

 もうすでに、マイは数えきれないほどの絶頂を味わっていた。

 少しの休憩を挟んでからはずっと俺に抱かれ続けていて、喘ぎっぱなしでいる。

 

 ぐたりと、マイの体が脱力する。

 軽かった体重がわずかに重くなった。

 

 俺はマイを抱えたまま机のほうに歩くと、そこに寝かせる。机の上で仰向けになった彼女を、今度は正常位で犯し始めた。

 

「すごいな、まだぎゅうぎゅうに締め付けてくるとは」

 

 彼女の体からは力が抜けきっているというのに、その膣内は熱く、グニグニと蠢動して肉棒をしごいてくる。

 たまらず、俺は交尾中の魔獣のように腰を振った。

 

「んんッ……ひ、ぅ……っ、――ッ」

 

 マイはもはや声にならない嬌声を上げていた。

 

 ズチュ、ズチュと彼女の膣内を犯す音だけが響く。

 

「ぐっ、うぅ……!」

 

 こみ上げてきた感覚に押し出されるように、俺はマイの膣内へ三度目の射精を果たした。

 

 

 

 

 夕暮れの西日が差し込む室内で。

 

 マイは床の上にへたり込んでいた。その内股からは白濁液の混じる愛液があふれ、床に水たまりを作っている。

 

「はぁっ……はぁ……、ぅ、んッ……大司教、さま……もう、げんかい……です……」

 

 そうだろう。

 なにせ絶倫を自認する俺ですら、立っていると足腰が震えるほどに消耗している。

 その震えのほとんどはとめどない快感によるものだろうが。

 

 俺はマイの両腕を優しく引っ張り上げた。

 壁のほうを向かせ、両手を机につかせる。白いお尻をそっとつかむと、そのままこちらに差し出させる。

 

 もう、彼女は俺にされるがままだ。

 

「そうだな……聞こえるか、マイ? もう成人の儀は始まっているんだ。……ほら、壁一枚隔てた向こうから司教の口上が聞こえるだろう」

 

「え?」

 

 壁越しに、かすかな男の声が聞こえてくる。

 マイはハッとした表情になり、次いで青ざめていく。

 

 俺はその横顔を眺めながら、マイの突き出された腰に股間を埋めていった。

 

「あっ……!? そ、んなっ……あッ、大司教さまっ……う、くぅッ……じゅんび、を……あぁんっ……」

 

「ああ、そろそろ出番だからな。だからこれが最後だ」

 

 後背位の体勢で、ズンッと強く腰を押し出した。

 

「はあぁっ――ッ」

 

 マイが体を思いきり反らせ、激しく喘いだ。カリ首の裏側で彼女の膣内で特に敏感なところを擦り、そのままぐぐっと押し込んで膣奥を責める。

 それだけでマイは絶頂した。

 

 テーブルに両手を付かせたまま、差し出された柔尻を揉み、蜜壺を犯す。

 白くなめらかな背中は快感でしなり、とんでもなく煽情的だ。それはもう妖艶な女の体と言えた。

 

 膣口からは大量の白濁液があふれ、綺麗な太ももを汚している。

 自身の精液を愛液ごとかき出すように、俺は深いピストンを繰り返した。

 

 パン、パン、パンと規則的な抽送でマイの性感を高めていく。

 

「あんっ、あっ……大司教さま、ぎしき、まにあわな、いっ……あっ、んぅっ、あぁぁっ……」

 

 俺はマイの背中に覆いかぶさると、たぷんと下を向いた水風船のような乳房をぎゅうと鷲掴みにした。

 

「ああぁんっ……ッ」

 

 むにゅ、むにゅと揉み込み、むにゅうぅぅと揉み潰す。

 体が火照ってほぐれたのか、マイの乳房は最初に揉んだときよりもはるかに柔らかく感じた。最高の揉み心地だ。

 

(これは、俺の、俺だけの体だ)

 

 誰もが一度は欲情し、手に入れたいと思う聖女。

 そんな極上の女を犯していることに独占欲と征服欲が満たされ、優越感がふくれ上がる。

 

 俺は今までで一番激しいピストンを開始した。

 

 パンパンパンパンと小刻みで、一回一回が深い抽送。

 あまりの凶暴なセックスに彼女の両腕から力が抜け、体が机に突っ伏していく。

 

「いやっ、あっあんんッ……そんな、はげしいの……んッ、あっ、そとに、きこえ……ああんッ、あんっ、ああんッ……ん゛んッ、いやっ、やあっ……やあぁっ……」

 

 お尻だけを上に突き出した格好のマイに、さらに容赦のないピストンをお見舞いする。

 

(くそ、これは……気持ちがよすぎる)

 

 悲痛な喘ぎ声とは裏腹に、膣内はぎゅうぎゅうと肉棒を締め付けてくる。絶対に離さないと言わんばかりに吸い付いてくる感触に、股間がゾワリと震えた。

 精巣からドロドロの欲望が流れ出すのを感じる。

 

「あぁっ、だめッ……あたま、おかしくっ……んあぁッ、ん゛んっ、いやッ、やあっ……あっあっあっあっ、あ゛ああぁぁぁっ――――ッッ」

 

「ぐぉっ、出、る……!」

 

 ――――ドビュッ、ビュルッ。

 

 弾かれたように、精が放たれた。

 

 精巣にかろうじて残っていた汁を搾り出すような、熱い射精。

 

(やば、い……これは、なんだ)

 

 射精量は少ないはずなのに今までで一番強烈な快感に襲われる。渇いた絶頂が収まらず、全身がブルブルと震える。

 天井を向き、恍惚感に口を開けると口端から涎れがこぼれた。

 

 その間もマイの膣はきゅう、きゅうと肉棒に愛撫を加えてくる。

 

 俺はしばらく気絶しそうなほどの快楽に襲われていた。

 

 

 

 

 ズリュ……と肉棒を抜くと、マイは再び床にへたり込んだ。

 

 俺もいまだ続く快楽の余韻に浸りながら、脱ぎ捨てた司祭服に手を伸ばす。

 その懐から、小瓶と水筒を取り出す。小瓶の中から青い粒をつまみ上げると、彼女の口元へ近づける。

 

「マイ、この丸薬を飲みなさい。処女と認められた聖女だけが飲むことができる奇跡の薬だ。これを飲めば孕むことはない。君は……処女のままだ」

 

 我ながら何を言っているのか分からないが、マイも自身の身に起きたことをほとんど理解できていないだろう。

 

 聖女見習いは性知識に疎い。

 生涯処女である彼女たちには必要のない知識だからだ。

 

 その中でも、マイにはそういった知識を触れさせないようにしてきた。

 

 女の本能で何かを感じ取っているかもしれないが、いずれにせよ彼女はこの薬を飲むしかないのだ。

 

 マイが素直に口を開く。

 

 その小さな舌に丸薬を乗せると、俺は水筒の水を口に含みマイに口づけをした。

 

 彼女は俺の意図が分かったのか、口移しで流し込まれた水をコク、コクと飲んでいく。

 

「ん……んくっ……」

 

 口端から水をこぼしながら、マイは丸薬を飲み込んだ。

 

 窓を見ると、外はもうすっかり夕闇に沈んでいる。

 

 少しセックスに耽(ふけ)りすぎた。

 もう聖女の出番は間近だ。

 

「……大司教、さま。もう、急がないと……」

 

 仕方がない。

 

 俺は机にきちんと畳まれた儀式用のローブを取り、マイに差し出した。

 

「もう間に合わない。今日はそのままローブだけを着ていきなさい」

 

「そん……な」

 

 全裸の状態でローブだけを手渡され、彼女の顔が露骨に引きつる。

 

 俺はさらに追い打ちをかけるように、華奢な肩に手を置いた。

 

「あと、分かっていると思うが、これからも儀式のたびに検査をすることになる。だがこれは神聖な儀式だ。絶対に口外してはならない――いいね?」

 

 少し低い声で言うと、マイはビクっと肩を震わせた。

 

 まあ、口止めなどしなくても口外することはないだろう。

 聖女にとって、処女を失うというのは禁忌だ。

 

 俺は、マイに念押しとばかりに濃厚なキスをした。

 

「んッ……んむっ、ん……」

 

 彼女の無抵抗な舌を絡めとり、舐め回す。

 

 ふと、マイの頬を一筋の涙が流れ落ちた。

 それが何の涙なのか、本人も分かっていないだろう。

 

「さあマイ、儀式の時間だ。聖女としての初仕事だよ。しっかりこなせるね」

 

「……はい」

 

 頭を撫でると、彼女は「ん」と切ない声を漏らした。

 




次話、いよいよ初仕事です。

この初めての処女検査編がR18漫画になりました!
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第6話 初めてのお務め

10/7にコミカライズ版が発売されました!
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 教会神殿の中で、最も広い大聖堂。

 

 天井にはめ込まれたステンドグラスが、夕陽をさまざまな色に変えて大聖堂に降らせている。そんな幻想的な空間に、俺とマイ、そして第二王子だけがいた。

 

「――女神との盟約により、第二王子セダイト・オリミナスは大地の守護者たる責務を自覚し――」

 

 俺は、舞台の真ん中でひざまずく王子に対して退屈な口上を述べる。

 

 王子は透き通るような銀髪と濃い緑色の瞳が特徴的な、美青年だ。

 十五歳にして王国随一の炎熱魔法の使い手だという。

 さらに若くしていくつかの政策を立案実行するほどの秀才。

 

 しかしそんな王子の視線は今、目の前に立つ白いローブを纏った聖女――マイに釘付けだった。

 

 誰もが理知的な印象を持つのであろうエメラルドグリーンの目元は、今はだらしなく下がり、口元も半開きになっている。

 

 本来はひざまずいて下を向かなければならないのに、紅潮した顔を上げてぼうっとマイを見つめている。

 

 その唇が「なんと美しい」とつぶやいたのが、口の形で分かった。

 

 一方のマイは、清らかな微笑みを浮かべてたたずんでいる。

 

その瞳は王子のほうを見ているようで、どこか別のものを見ている……そんな神秘的な印象を与える表情だった。

 

 だが実際、彼女も儀式どころではないのだろう。

 

 シワ一つない綺麗なローブの下は全裸で、しかも俺の唾液や白濁液、自身の汗や愛液にまみれているのだから。

 

 よく見ればマイの頬はほのかに赤く、恥ずかしいのか瞳は潤んでいる。

 それが事後のような雰囲気を感じさせ、年齢以上の色香を醸し出していた。

 

 もしかしたら王子は今ひざまずいたまま、股間を硬くしているのかもしれない。

 

「――セダイト・オリミナスが豊穣の担い手としての役目を果たさんことを願い、聖女の祝福を授けます」

 

 大司教としての長い口上を終える。

 

 段取りでは、ここで聖女が王子に近づき祝福の光を灯す。

 だがマイは、心ここにあらずといった様子で動こうとしない。

 

 無理もないだろう。

 

 隣の控室で処女を喪失し、ついさっきまで俺に抱き潰されていたばかりだ。

 快楽の余韻で、立っているだけでもやっとだろう。

 

 俺はマイの背後に近寄り、耳元でささやいた。

 

「さあ、聖女の祝福を」

 

 ついでに彼女のお尻をむにゅうと揉む。

 ローブ越しだが、下着を付けていないため柔らかく張りのある感触が伝わってくる。

 

「……っ、はい……」

 

 マイはビクンと反応しながらも、ゆっくりと王子に近づき手をかざした。

 

 その手が淡く光ると、王子の全身を白い輝きが包んだ。

 

 聖女の祝福。

 

 治癒魔法の応用で、傷を癒す効果はないが精神を平静に保ったり、リラックスさせたりする効果がある。

 

 なにより治癒魔法よりも視覚的な演出が派手なので、こうした儀式の際や戦地に赴(おもむ)く兵士たちの意識高揚によく用いられる。各地を回って人々に祝福を授けるのが、聖女の主な仕事の一つだ。

 

 祝福の光が消えると、マイが短い口上を述べる。

 

「セダイト・オリミナス。王族たるあなたに女神の祝福があらんことを」

 

 これで成人の儀は終了だ。

 

 マイはよく務めを果たした。

 所作や立ち振る舞いは聖女としての気品を保っていたし、祝福も派手過ぎず安っぽくもない完璧な制御だった。

 

 ついさっきまで絶頂に喘いでいたとは思えない清廉さだ。

 やはりマイを聖女にしてよかった。

 

「では行こうか」

 

 彼女の耳元でつぶやき、連れ立って舞台袖へ向かう。

 

「あ、あの、聖女殿っ……!」

 

 王子がマイを呼び止めた。

 

 本来なら段取りにない行為なので無視をしてもいいのだが。

 相手が相手なのでそうもいかない。こうした越権行為も王族だからこそ許されてしまう。

 

 彼女が俺をチラリと見る。

 

 俺が小さくうなづくと、マイは王子のほうを振り向いた。

 

「なんでしょうか、セダイト王子殿下」

 

 マイの美貌に当てられた王子は一瞬「うっ」とたじろいだが、ぐっと拳を握り込んだ。

 

「あ、明日、私の成人を祝う記念式典があります。聖女殿もぜひご列席願えないでしょうか」

 

 それはもはや王子ではなく、一人の恋する青年の顔だった。

 

「申し訳ございません。私は女神に仕える身ですので、そういった場には参加できないのです」

 

 マイは、慈愛にあふれた笑みを浮かべたまま丁寧に断る。

 

 聖女は、というか教会は政治的に中立な存在だ。たとえ相手が王族であっても。

 

 王家主催の式典に聖女が参加したとあっては、教会が王家におもねったのかと言われかねない。

 

「な、ならば、その後の晩餐会はいかがですかっ、それならば聖女殿も……」

 

 晩餐会など、もっと政治的な場だろうに。

 この王子は魔法や勉学には優れているのに、政治的な派閥争いやしがらみには疎いらしい。

 

 ため息をついて、マイを見る。

 

 彼女はポカンとした顔で王子を見つめていた。まるで彼の言ったことが理解できていないような顔で。

 

 そうだった。

 マイは聖女とはいえ、元は農民の娘。それも幼い頃に故郷を焼かれ、以来ずっと教会の中で暮らしてきた。

 

 王子に晩餐会に招待されるなど予想外だろうし、もしかしたら晩餐会の意味もよく分かっていないかもしれない。

 

 俺はマイの代わりに、一歩進み出る。

 

「すみませんセダイト王子殿下。聖女はそのような場には参加できないのです。どうかご理解を」

 

「そ……そうか、すまない。確かにあなたのような清らかな存在が、欲にまみれた貴族の社交場などに参加したら……無垢なあなたが汚れてしまうな」

 

 まるでデートを断られた少年のように、王子は肩を落とした。

 

 ふむ。

 これは念押しをしておいたほうがよさそうだ。

 

「王子殿下、聖女は生涯清らかな……つまり純潔が尊ばれる存在です。貴族どころか、市民の交流にも染まることはありません。その点、ご留意を」

 

 遠回しに、聖女に懸想しても無駄だと伝える。

 

 マイは一生誰とも交わることはない。俺以外とは。

 

「純……えっ、そ、そうであったのか……?」

 

 平民でも聞いたことのあるしきたりなのだが。

 どうやらこの王子は教会のルールや女神信奉の教義といったものにも、とことん疎いらしい。

 

「では王子殿下、聖女は初のお役目で疲れております。そろそろよろしいでしょうか」

 

「ああ……いや待ってくれ、せめてお名前だけでも教えてくれないだろうかっ」

 

 王子がことのほか追いすがってくる。

 

 別に、聖女の名を明かすなというルールはない。王族に問われて断れる理由は……見当たらないな。

 

 マイに軽くうなずくと、彼女も一歩出て俺の隣に並んだ。

 

「マイ、です。聖女マイと申します」

 

「聖女、マイ……」

 

 王子が惚けたように、その名を繰り返した。

 

「では失礼します、王子殿下」

 

 俺はマイの肩を抱くと、そのまま舞台袖へ引っ込んだ。

 

 

 

 

「初のお務め、よく頑張ったね。緊張したか?」

 

「あっ、あの、んっ……はい、緊張……しました」

 

「そうか。その割にはつつがなくこなしていたじゃないか。初仕事とは思えない余裕を感じたよ」

 

「あ、りがとう、ございます……」

 

 俺は薄暗い舞台袖、マイのお尻を撫でていた。

 

 形のいい丸みをなぞると、下着を穿いていないせいかローブ越しでも輪郭がはっきりと浮き出る。

 柔らかい桃尻を揉み込み、お尻の割れ目へ指を食い込ませる。

 

「王子に晩餐会に誘われていたね」

 

「んぅっ……ぁっ、大司教さま」

 

「どう思った?」

 

「んっ、ぅ……あの私、晩餐会……とか、よく分からなくて……えと」

 

 俺はその答えに満足すると、マイの内股へと手を伸ばす。

 

 丈の長いスカート部分の、そのわずかにスリットの入った部分に手を差し込み、太ももを撫でる。

 

「……んッ」

 

 少しべとついた太ももを上へとなぞっていくと、ひときわ濡れそぼる湿地帯に指を差し入れた。

 

「ぁっ、んぅっ……」

 

 マイが必死に声を抑える。

 舞台袖に引っ込んだとはいえ、まだ近くに王子がいるためだろう。

 

 ぐっしょりと濡れた蜜壺を指でかき混ぜながら、マイの耳元にささやく。

 

「次の儀式は三日後だ。その時はまた……分かっているね、マイ」

 

 マイの顔がみるみる朱く染まる。

 下を向いてしまったので、その目元は前髪で見えない。

 

 彼女はローブの裾をぎゅっとつかむと、小さくうなずいた。

 



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第7話 二度目の湯浴み

 成人の儀が終わり、俺とマイは神殿の廊下を歩いていた。

 

 処女検査に向かうときと同じように、彼女は俺の数歩後ろを無言でついてくる。

 緊張しているというより、今はただ疲労で歩くのも覚束(おぼつか)ないからだろう。

 

 中庭に出ると、日はすっかり沈んでいた。

 

 薄暗い花壇のそばに、もう聖女見習いたちの姿はない。

 

「ではマイ。私はここで」

 

「あ、はい……あの、今日はありがとうございました、大司教様」

 

 彼女はいつも私と別れるときと同じ言葉を言った。

 それ以外の言葉が見つからないのだろう。

 

「ああ、マイも初めてのことだらけで疲れただろう。体も汚れてしまったね」

 

「あっ……」

 

 優しく抱き寄せると、マイは俺の胸板を軽く手で押した。控えめな「やめてください」の意思表示だ。

 

 中庭だから誰かの目を気にしたのだろう。

 

 だが、周囲に人の気配はない。

 俺は昔から人の視線に敏感だ。だからこそ、誰にも知られずに司教たちの弱みを握ったり脅したりしてこれた。

 

 今、この中庭には俺とマイしかいない。

 

 彼女のローブの上から、豊満な胸に触れる。

 揉むか揉まないかという絶妙な力加減で、布地の下の柔らかい感触を撫で回す。

 

「んっ……大司教様、あの……」

 

「ずいぶん汗もかいているようだ。今夜はもう一度湯浴みをするといい」

 

 布越しでも分かるほどマイの体は火照り、ローブが汗で湿っていた。

 胸のふくらみに手のひらを埋めると、コリとした突起を感じる。

 

 俺に何度も抱かれたせいか、マイの体は俺が触れるだけで反応するようになっていた。

 きっと彼女の秘所は、舞台袖で触れたときよりもぐしょぐしょに濡れているだろう。

 

「大司教様、もう、失礼します……」

 

 マイが俺の胸元から離れる。

 

「ああ、湯浴みの後はしっかり休息を取るように。次の儀式は三日後、それも遠出だ。()()()()()()()()使()()だろうからね」

 

「……っ、分かりました。しっかり、休みます」

 

 マイは再び頬を染めると、ペコリとお辞儀をして向かいにある建物へと歩いていった。

 

 月明りに淡く照らされる、彼女の後ろ姿を見送る。

 

 聖女見習い時代から何百回とここでこうして見送ってきたが、いつもより後ろ姿が(なま)めかしく感じる。

 きっとマイの体を知ってしまったからだろう。

 

「俺も休むとするか」

 

 もう一度、彼女の去っていった建物を眺める。

 

 中庭を挟んだ別棟。

 そこは聖女見習いたちが寝泊りする場だ。

 

 男子禁制で、大司教といえども滅多なことでは入れない。

 

 マイの姿が見えなくなると、俺も踵(きびす)を返して自分の執務室へ向かった。

 

 

***

 

 

 別棟の奥まったところにある浴場。

 

 一度に十人は入れるだろう石造りの(ほり)にはお湯が溜まり、白い湯気が立ち込めている。

 

 その(ふち)に、マイは一人で立っていた。

 

 魔導灯のほのかな光が彼女の白肌を照らす。

 

「あと……ついてる。大司教様の……」

 

 体のいたるところに、赤い吸引の印があった。

 

 マイが慌てて治癒魔法を発動する。全身がほんのり光り、キスマークが消えていく。

 

 性の知識に疎い彼女だが、その印が淫らなものだというのは分かったらしい。

 

「よかった。消えた」

 

 他の聖女見習いたちは眠っている時間だが、万が一誰かが来るかもしれない。

 

 マイはほぅと胸を撫でおろすと、ゆっくりお湯に浸かった。

 

 

 一息つくと、全身のべとつきを洗い流していく。

 二の腕、腋の下、乳房の谷間と、いたわるように体中を撫でて汚れを落とす。

 

 やがてその手が、遠慮がちに内股のほうへと下りていったとき。

 

「マイ様っ!」

 

 少女の高い声が浴場内に響いた。

 

 マイはビクと肩を震わせ下腹部から手を離す。

 

「みんな、まだ起きてたの?」

 

 彼女の視線の先には、全裸の少女たちが並んでいた。

 中庭でマイを取り囲んでいた、若い聖女見習いたちだ。

 

「だって、マイ様のお話を聞きたかったんですもの」

「あの、初のお務めはどうでしたか?」

「王子殿下って、どんな人でした?」

「祝福、うまくいきました?」

 

 聖女見習いたちはジャブジャブと湯面を波立たせながらマイに近寄ると、あっという間に取り囲んだ。

 

 中庭と違って人目がないからか、密着しそうなほどの距離まで寄っている。

 

 マイも表情を緩め、にっこりと笑った。

 これも、ここでしか見せない屈託のない笑顔だ。

 

「みんなっ! マイ様が困ってしまったじゃない、質問は一人一つずつ!」

 

 桃色の髪を頭の上で結んだ聖女見習いが、他の少女たちをたしなめる。

 

「ふふ、大丈夫だよニーナ。全部聞くから」

 

「もう、マイ様は優しすぎます! 初めてのお役目で疲れているのに」

 

 ニーナと呼ばれた聖女見習いが腰に手を当て、まだ発達途上の胸を張った。怒ってますというジェスチャーなのだろう。

 

「ニーナはいつも心配してくれるね。ありがとう」

 

「えっ、だってあの、マイ様は誰よりも努力しているのに、私たちの面倒までいっぱい見てくれて、だから……ッ」

 

 ニーナが顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに胸元で手を握る。その仕草だけで、マイに憧れ以上の思いを抱いているのが伝わってくる。

 

 そんな彼女にマイはふわりと微笑んだ。

 

「中庭で約束したしね。でも儀式の内容は人に話せないことになっているから、話せる範囲でね」

 

「じゃあ、王子殿下ってどんな人でしたか?」

 

 すかさず別の聖女見習いが質問する。

 

「ええとね、すごく綺麗な服を着ていたよ」

 

「どんな顔立ちでしたか?」

 

「……真面目そうな感じ、かな」

 

「マイ様、あの……マイ様から見て、格好良かったですか? 第二王子殿下はとてもその……端正な顔立ちだと聞いたことがあったので」

 

 聖女見習いが頬に手を当てて恥ずかしそうに聞いた。

 

 マイはキョトンとした顔を浮かべると、申し訳なさそうに目尻を下げる。

 

「ごめんね、私そういうの……あまりよく分からなくて」

 

「そうだよみんな! マイ様は聖女なんだから、そういうのに興味を持ってはいけないのっ」

 

 ニーナがなだらかな胸を張った。

 

 彼女の様子に、マイは微笑ましいものを見るような表情で穏やかに笑う。

 

 すると別の聖女見習いが質問を変える。

 

「そういえば儀式は夕方からなのに、大司教様は早くに呼びに来られてましたよね。やっぱりいろんな準備をしないといけないのですか?」

 

「え……」

 

 一瞬、マイの体が硬直する。

 

「……うん、その、準備……しないといけなくて」

 

 長いまつ毛を伏せ、恥じらうようにつぶやくマイに聖女見習いたちが息をのむ。

 頬はお湯の火照り以上に染まり、金色の瞳が物憂げに潤んでいる。

 

 あまりに、妖美な表情だった。

 

「マイ様、綺麗……」

 

 誰ともなくつぶやく。

 

「わ、私のぼせてきました! 先に上がりますねっ」

 

 ニーナが勢いよく立ち上がる。

 その顔はマイ以上に赤くなっていた。

 

 小ぶりな尻を振りながら、お湯をかき分け離れていく。

 

 が、ふと立ち止まると何かを思い出したように振り向いた。

 

「そういえばマイ様、次のお務めって直轄領の外れにある村でしたよね、マイ様の故郷に近かったりするのですか?」

 

「え?」

 

 マイが驚いて目を見開く。

 

 次のお務めについては、聖女であるマイですらまだ聞かされていない。

 

 それをなぜニーナが。

 

「ニーナ、それ……誰に聞いたの?」

 

「え、あっ……いえあのゴーゼ司教に教えてもらって……お手伝いをした、ときに……その、マイ様もてっきり知っているのかと……」

 

「ゴーゼ司教……」

 

 マイがその名を繰り返すと、ニーナは気まずそうに結んでいた髪を下ろした。表情を見られないようにするためだろう。

 

「ではお先に失礼します、マイ様」

 

 桃色髪の隙間から覗くニーナの横顔は、今にも泣き出しそうな、それでいて女の色香を漂わせるものだった。

 

「うん、おやすみなさい、ニーナ」

 

 マイは彼女の震える後ろ姿に、悲しそうな笑みを浮かべる。

 

 

「……私が、みんなを守るからね」

 

 他の聖女見習いに聞こえない声で、マイが(かす)かにつぶやいた。

 

 

***

 

 

 その様子を、俺は椅子に深く腰掛けながら()()()()

 

 ――遠視の術。

 

 俺はそう呼んでいる。

 

 体を重ねた相手の動向を、まぶたの裏に映し出すことができる魔法だ。

 

 この力に気づいたのは、初めて金髪の聖女を抱いたときだった。

 

 敬虔な女神の信徒の中で、ごくまれに発現するらしい。

 古い文献によれば数十代前の大司教も似たような力を持っていたようだが、なにせ発現率が低く、詳しいことは何も伝わっていない。まさに伝説級の魔法だ。

 

 うまく使えば、いたるところに監視の「目」を張り巡らせることができる。

 

 もし自分の絶倫という性質をいかんなく発揮し、聖女見習いを片っ端から「目」にしていたら、俺は数年早く大司教になっていただろう。

 もしかしたらこの力は、絶倫とセットなのかもしれない。

 

 でもあいにく、俺は聖女にしか興味がない。

 

「みんなを守る……ね」

 

 浴場でのマイの言葉を思い出す。

 

 「みんな」とは聖女見習いたちのことを言っているのだろう。

 幼い頃に家と家族を失ったマイにとって、彼女たちは妹に等しい存在だ。

 

 さしあたっては、司教連中による聖女見習いへの手出しを止めようと思っているのかもしれない。

 

 性の知識に疎い彼女でも、聖女見習いが何かよからぬことをされているのは気づいていたのだ。

 俺に抱かれたことで、その内容にも察しがついたのかもしれない。

 

 聖女になったからには、何が何でも彼女たちを守ろうと思っているのだろう。

 

 

 ……本当に、たまらない娘だ。

 

 

 ニーナの後ろ姿を見つめる彼女の顔には決意めいたものが宿っていて、俺といるときには決して見せない凛としたものだった。

 

 その意思のこもった表情に、俺の心は鷲掴みにされてしまった。

 

 マイのこんな一面を見れただけでも、遠視の術を授かった甲斐があったと思う。

 

 彼女の心はどこまでも美しく汚れがない。

 その高潔さが、俺はたまらなく好きなのだ。

 

 まさに聖女の中の聖女といえる。

 

 

「……それにしても、ゴーゼ司教か」

 

 ゴーゼ司教。

 

 聖女見習いを乱暴に犯していた男。

 以前その弱みを握って脅したのだが、性懲りもなくニーナに手を出しているようだ。

 

 いい情報が手に入った。

 

 あの男は昔、教会に来たばかりのマイにも手を出そうとしていた形跡がある。

 

 それに狡猾な野心家だ。

 金髪の元聖女によれば、大司教の座を虎視眈々(こしたんたん)と狙っているらしい。

 

 今のうちに排除しておいたほうがいいだろう。

 

 三日後の儀式の詳細を知っていたのも気になる。

 

 

「…………三日後か」

 

 正直、二日間もマイを抱けないのは辛い。

 

 あの体の味を知ってしまった今、早くも俺の股間は彼女を犯したいと(うず)いている。

 

 だがしばらくは、処女検査以外の場でマイを抱くことはない。

 

 儀式という()()で快楽を刻み込み、じっくり調教し、俺に抱かれないと我慢ができない体に変えていくつもりだ。

 

 

 もう一度、遠視の術を発動する。

 

 マイはまだお湯に浸かり、聖女見習いたちに囲まれていた。

 年相応のあどけない笑顔で、妹たちの質問に答えている。

 

 首筋には玉のような汗が浮かんでいて、その一つが流れ落ち、胸元の深い谷間へと吸い込まれていった。

 

 ゴクリと唾を飲み込む。

 

 三日後は、苗植え時期を迎えた農村で行われる豊穣祈願の儀式だ。

 王都から半日以上の距離にあるため、儀式の前日は村で一泊することになる。

 

 つまり、処女検査にかこつけてマイと一晩中セックスすることも可能なのだ。

 

 待ち遠しい。

 

 俺はまぶたの裏でマイの全裸を眺めながら、口角を歪ませた。

 




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第8話 初めての遠出

 成人の儀から三日後の朝。

 

 俺は教会神殿の中庭を歩いていた。

 少し行くと、奥まったところに巨大な温室が見えてくる。

 

 そこは教会神殿の中で最も神聖な場所――「聖域」だ。

 

 聖域。

 

 大地から濃い魔力が染み出している場所(ホットスポット)で、古くから聖女見習いたちが修練を行ってきた。聖域の中で祈りを捧げることによって、治癒の魔力を高めることができるという。

 

 大陸各地に点在しているが、王国内ではこの教会神殿にしかない。そもそもこの神殿は聖域を守るために存在している。それほど重要な場所だ。

 

 ガラス張りの温室に入ると、むわりとする生温かい湿気に包まれる。

 

 多種多様な草木が生い茂るその先に、ぽっかりと空間が空いていた。その場所だけ淡く光っていて、温室に差し込む陽光も合わさり目がくらむほどの輝きを放っている。

 

 その中心に、マイがいた。

 

 地面で正座をし、胸元で両手を握り体内の魔力を循環させている。

 

 光柱の中で祈るマイは神秘的で、まるで女神が降臨したかのようだ。

 

 一瞬で、心を奪われる。

 

 その光景にというより、彼女の(まと)う白い衣服にだ。

 

 上は薄い麻布(あさぬの)をたすき掛けにしたような格好で、その豊満な谷間や横乳があらわになっている。

 

 下は長いスカートになっているが両側に深いスリットが入っており、純白の太ももが付け根まで見えている。

 

 彼女たちがここで修練をするときにだけ着る、修練服だ。

 可能な限り肌をさらすことで、大地の魔力をより吸収できるらしい。

 

「美しいな」

 

 処女検査のときの湯浴み着を彷彿(ほうふつ)とさせる格好に、思わず股間が熱くなる。

 

 この修練服姿のマイを抱いてみたい。

 

 そんなことを考えていると、光の中でマイがうっすらと目を開けた

 

「……大司教、さま?」

 

「おはようマイ。精が出るな」

 

 言いながら、俺は息をのんだ。

 

 彼女の金色の瞳が、虹色に揺らめいている。

 

 大地の魔力の影響だろう。虹色の瞳は俺を見ているようで見ておらず、穏やかな表情なのに感情が読み取れない。

 

 本当に女神が乗り移ったような、見る者をひざまずかせるような存在感を放っていた。

 

 だがしばらくすると、無表情だったマイの頬が赤く染まっていく。

 

「……え、大司教様……!? あの、どうしてここに……」

 

「ああ、大司教は特別に近づくことが許されているんだ」

 

 そう。

 本来、彼女たち以外は聖域に近づくどころか、温室に入ることすら許されていない。

 

 だから、大司教だけは入れるというルールに作り替えた。

 こうしてマイの修練姿を間近で見るために。

 

「そう、なのですか……あの、もう出立の時間でしょうか?」

 

 彼女が、俺の足下に畳まれている自分の白いローブをチラチラと見ている。

 露出の多い修練服姿を見られるのが恥ずかしいのだろう。

 

 そんなマイの様子を見られただけでも、大司教になってルールを作り替えた甲斐があった。

 

 聖域の中で恥じらう彼女をもっと鑑賞していたい。だが、さすがに時間だ。

 

「ああ、馬車を待たせている。あちらを向いているからローブを着なさい」

 

 俺は彼女のローブを拾い上げ、手渡そうとした。

 

 瞬間、手の先が透明な膜のようなものに弾かれる。

 

「あ、ごめんなさい、加護が」

 

 マイが手を伸ばすと透明な膜をすり抜け、俺からローブを受け取った。

 

「聖域の加護か」

 

 聖女や聖女見習い以外の侵入を拒む結界。

 

 話には聞いていたが実際に触れるのは始めてだ。

 つくづく、彼女たちは女神に守られた存在なのだと実感する。

 

 それを(けが)す俺や司教連中には、いつか天罰が下るかもしれない。

 だからといってマイを抱くのをやめるつもりは一切ないが。

 

 スルスルと、背後で彼女がローブを着る音がする。

 

 その下に修練服を着たままなのか、それとも修練服を脱いでローブを着たのかは、今夜の楽しみに取っておこう。

 

「大司教様、準備ができました」

 

「では行こうか」

 

 俺は後ろを振り返ることなく、マイを連れ立って温室を出た。

 

 

***

 

 

 王都から伸びる街道を、馬車の隊列が進む。

 

 先導するのは教会直属の聖騎士たちが乗る白塗りの馬車だ。教会のシンボルである金の紋様が刻まれ、その外装には防護魔法が何重にも編み込まれている。

 

 後方にも同じ白塗りの馬車がおり、彼らに挟まれる形で俺とマイの乗る馬車があった。

 

 聖騎士のものとは打って変わって、俺たちが乗るのは質素な木造りの馬車だ。

 

 ――聖女は清貧(せいひん)たれ。

 

 民に寄り添う存在である聖女は、贅沢が許されない。だから聖女が乗るのも、商人の馬車に毛の生えた程度の粗末なものだ。

 

 だが代わりに、俺の防護魔法で強固に守られている。

 

 文献によれば、そもそも大司教とは聖女を守る盾であり、補佐をする存在だったという。さしずめ姫と護衛騎士のような関係だ。

 

 まあ、姫の処女を奪う護衛騎士がいたら即刻打ち首だろうが。

 

「大司教様、もう王都は抜けたのでしょうか?」

 

 正面に座るマイが、遠慮がちに聞いてきた。

 

「そうだな。そろそろ穀倉地帯に入ったころだろう。ああ、カーテンを開けていいぞ、外の様子が気になるのだろう?」

 

「あ……えと、はい……気になります」

 

「遠慮しなくていい。外の世界を知るのも聖女として大事なことだ」

 

「ありがとうございますっ……」

 

 マイが花の咲くような笑顔を浮かべる。嬉しさと好奇心を隠しきれないといった感じだ。

 

 その勢いとは裏腹に、彼女はカーテンをほんの少しだけ開けた。そんな控えめなところも可愛らしい。

 

 しばし、外の風景に目を輝かせる少女を眺める。

 

 マイは故郷の村が焼かれてからは近くの教会で過ごしていた。治癒魔法を認められて王都教会にやって来てからは、一歩も神殿の外に出たことがない。

 

 聖女見習いは本来、各地の診療所や貴族の出張治療に駆り出される。だが俺はマイを閉じ込め、ひたすらに聖女修行をさせてきた。

 

 無用な知識――主に性に関する知識に触れさせないためというのもあるが、何より彼女のあらゆる初体験は、俺によって与えられるものにしたかったからだ。

 

「マイ、穀倉地帯を見るのは初めてか?」

 

「はい、初めてです。……すごいですね、大地の魔力と人の営みが共存しています」

 

「これが大地の恵みだ。よく見ておきなさい。君の役目はこの恵みを最大限に高めることだ」

 

「はい」

 

 マイが目を細めて微笑む。

 その横顔は年相応の少女ではなく、慈愛にあふれた聖女のものだった。

 

 

***

 

 

 目的の村に着いたのは、日が暮れて夜になり始めたころ。

 

 馬車を降りると、あたりはもう闇に染まりつつあった。

 

 ポツポツと点在する家々には、王都のような魔導灯やランプの明かりではなく、蝋燭(ろうそく)の頼りない光が揺らめいている。

 それでも、蝋燭が買えるだけこの村は裕福なほうだろう。

 

 王国直轄領の外れにある農村。

 

 王家がその権威を他領に示すため、聖女が毎年訪れては豊穣祈願をするのがこの村だ。

 

 聖女は直轄領の中だけで儀式を行う。直轄領と他領とで、生産力に差をつけるためだ。

 

 女神の前に民は平等。

 そんな教義とは矛盾しているのが実に面白い。

 

「おお大司教様、よくぞお越しくださいましたっ、それに新たな聖女様も!」

 

 初老の村長がうやうやしい態度で近づいてくる。

 

 隣に並ぶマイに目配せをすると、彼女は静々(しずしず)と目を伏せた。

 

「村長様、初めまして。聖女マイと申します」

 

「おおっ、マイ様……優しき名ですな。それになんとも美しい」

 

 村長の声にいやらしい響きが混じる。

 その視線がマイの体を下から上に這い、胸元に固定されたのが分かった。

 

「村長、すまないが長旅で疲れているんだ。さっそくだが休ませてもらっても?」

 

「これは失礼しました。……ああすみませんっ、もしよろしければ見ていただきたい子がおりまして」

 

「ほう。連れて来てもらえるか?」

 

「はいっ、すぐに。……おい! あの()を大司教様のもとへ」

 

 村長が声を張り上げると、タタタッと軽い足音とともに一人の少女が走ってきた。

 

「これこれそんなに駆けるでない! 転んで怪我をしたらどうする、まったく……ああすみませんっ、今年聖女の力を発現した娘です。ほれ、挨拶をなさい」

 

 少女が一歩前に出る。

 

「大司教さま、せ、聖女さま……お初にお目にかかります。こ、今年から村の教会でお世話になっている聖女見習いのペ、ペ……ペトラと申しますっ」

 

 それは粗末な麻の服を着た、黒髪の少女だった。

 

 耳が隠れるくらいの短髪で、前髪は綺麗に切り揃えられている。整った顔立ちは、なるほど聖女見習い特有の美貌だ。

 

 なんとなく、出会ったころのマイに雰囲気が似ている。

 

 マイも親近感を覚えたのだろう。一歩前に出て、体を強張らせる聖女見習いに微笑んだ。

 

「初めまして。えっと、ペペペトラさん?」

 

「ご、ごめんなさい聖女様っ! ぺ、ペトラと言います」

 

 ふふ、とおかしそうに笑うマイに、ペトラと名乗った少女が頬を染めた。うっとりとした目でマイを見ている。

 

「聖女様、きれい……」

 

「ペトラさんは、今おいくつですか?」

 

「……へっ? あ、えっと……今年で確か十三のはずですっ」

 

「じゃあ、私のほうがちょっぴりお姉さんですね」

 

 まるで妹を愛でるような口調に、ペトラは「はひっ」と妙な返事をして固まる。

 

 すっかりマイに魅了されたようだ。

 

 石のようになったペトラに、俺も一歩近づく。

 

「どれ、魔力の流れを見てあげよう」

 

 目を凝らし、ペトラの中に流れる魔力を探る。

 

「……ふむ。このまま修練を積めば来年あたりには王都教会に上がれるかもしれない。しっかり励みなさい」

 

「は、はひ」

 

 俺は少女の頭にポンポンと手を置いた。

 

 かつて幼いマイと出会ったときも、こうして頭を撫でたものだ。

 くすぐったそうな笑みを浮かべた彼女は可愛かった。実に懐かしい。

 

 ふと、俺の手にマイの視線が注がれているのを感じた。

 

 彼女に顔を向けると、その視線がすっと逸らされる。

 

「お足止めして申し訳ありませんでしたっ。さあさあ宿でお休みくだされ。そうだペトラ、後で大司教様と聖女様にお食事を持っておいきなさい」

 

 村長の大声に促され、俺たちは村の中で一番豪華な造りの宿へと入った。

 

 

 宿は平屋建てで二部屋しかなかった。

 泊まるのは俺と聖女だけ。年に一度の儀式のためだけに作られた施設だ。

 

 護衛の聖騎士たちが、宿をぐるりと囲んで寝ずの番をしている。

 

 入って廊下の奥が俺の部屋、手前が聖女の部屋だ。

 

「マイ、食事は自分の部屋で取りなさい」

 

「はい、大司教様」

 

「それと、少し体を休めたら私の部屋に来るように」

 

「え?」

 

「儀式の前の処女検査だ」

 

 そう告げると、マイの耳がみるみる赤く染まっていく。

 

「あ、あの……儀式は明日と、聞いています」

 

「ああ、儀式は早朝、夜明けとともに行う。だから検査を行うのは今夜だ」

 

「今夜、ですか……」

 

「明日の儀式は大掛かりなものになる。その分、処女検査も入念に行う必要がある。一晩かけて、じっくりとな」

 

 マイの肩を抱き、その背中を撫でる。

 

「んっ……」

 

 背中をさすりながらゆっくり手を下ろしていく。ふんわりとしたお尻を丸みに沿って触り、ぎゅっと揉み込む。

 

「ぁっ……大司教、さまっ……」

 

 マイがビクッと肩を震わせ下を向く。

 しっとりとした口元から漏れる吐息が温かい。

 

 実にいい反応だ。

 

 もう一度、柔尻を揉んでみる。

 

「んッ……ぅ」

 

 ローブの布地が厚いせいだろう。彼女が下に修練服を着ているのかどうかは分からなかった。

 

 

***

 

 

 自分の部屋でペトラの運んできた質素な食事をたいらげた後、俺はソファーに深く腰掛けていた。

 

 目を閉じると、まぶたの裏にマイの部屋の様子が映し出される。

 

 彼女はペトラと一緒にベッドに腰掛け、楽しげに笑っていた。

 黒髪の少女たちが並んでいる姿は、まるで本当の姉妹だ。

 

「ほう……」

 

 ペトラはずいぶんとマイに懐いているようだった。

 緊張はとうに解けているようで、純朴な笑顔をマイに向けている。

 

 俺は二人の会話に聞き耳を立てた。

 

 

「――そっか、ペトラちゃんの髪色はお父さん譲りなんだね」

 

「はいっ、マイ様の黒髪は誰に似たのですか?」

 

「うーん……小さい頃に教会に拾われたからあまり覚えてないんだけど、お母さんが黒髪だったのはなんとなく覚えてるんだ」

 

 王都を離れ、故郷を想起させる村にいるせいか、マイの口調は教会神殿にいるときよりも砕けたものになっていた。おそらくこちらが彼女の素なのだろう。

 

「マイ様は、お母様似なのですね」

 

「うん、そうなのかな」

 

「きっと綺麗な方だったのですね……私も、マイ様のような聖女になりたいです」

 

 ペトラが思い詰めたような顔をした。

 

「……ペトラちゃんは、どうして聖女になりたいの?」

 

 マイが優しく聞く。

 

「私の村、貧乏で……村や教会のみんなを……ううん、隣の村も、その隣の村も、みんな豊かにしたいんです」

 

「そっか……」

 

 マイは小さくつぶやくと、ペトラの肩にそっと手を添えた。

 

「私もね、昔……先代の聖女様に似たようなことを相談したんだよ」

 

「マイ様が?」

 

「うん。そうしたら『あなたなら立派な聖女になれますよ』って言ってもらえて、それで頑張って修練するようになったんだ」

 

 そこでマイが一息つく。

 

 ペトラのほうは黙って続きを待っている。聖女の過去話の続きを聞きたくてうずうずしているようだ。

 

 マイはくすっと笑うと、まるで小さい妹に聞かせるようなトーンで話し出す。

 

「王都に来たころはね、私は何も知らない田舎者だったんだけど、修練だけは人一倍頑張ったんだ。そんな私に大司教様がいろんなことを教えてくれて……教義や魔法だけじゃなく、この国の歴史とか、礼儀や作法のことまでたくさん。……おかげでね、こんな私でも聖女になれたんだ」

 

「そう、だったのですか」

 

「うん、だから……ペトラちゃんも大丈夫。修練を欠かさなければ、いつか立派な聖女になれるよ」

 

 マイが微笑むと、ペトラの目に涙がにじむ。

 

「マイ様……ありがとうございます。……でも、私……聖女見習いとして認められるのが、少しこわくもあるんです」

 

「どうして?」

 

「だってもし認められたら、王都の教会で暮らすことになるんですよね。村から、みんなから離れて一人で……それがなんだか、こわくて」

 

 するとマイは、申し訳なさそうな顔をした。

 泣きそうになっているペトラに顔を寄せ、彼女の小さい(ひたい)におでこをくっつける。

 

「安心して、ペトラ。もし王都の教会で嫌なことがあっても、私が守るから」

 

「え?」

 

「なんたって、私は聖女だからね」

 

「……マイ様」

 

 ペトラの目元から、いよいよ涙がこぼれ落ちる。

 

 マイは表情を緩めると、ふと思いついたようにペトラの頭にポンと手を置いた。

 

「……」

 

 何かを確かめるように、ポンポンと頭を撫でる。

 

「マイ様?」

 

「……あ、ううんごめん。ほら、そろそろ寝る時間だよ。早く戻らないと教会のみんなが心配しちゃう」

 

 そう言ってもう一度ペトラの黒髪を撫でると、少女の口から「ふぁ」と可愛らしいあくびが漏れた。

 

「し、失礼しましたっ」

 

「いいんだよ、いっぱい寝るのはいいことだから。聖女は体力が大事だって、大司教様もよくおっしゃっているし」

 

「大司教様……思っていたよりお若くてびっくりしました。どのような方なのですか?」

 

 その質問に、マイがキョトンとした顔になる。

 

 ペトラから目を逸らし、困ったように眉間にシワを寄せる。何を言ったらよいのか迷っているようだ。

 

「えと……お優しい方、なのかな」

 

 なんとも歯切れの悪い言い方に、俺は思わず苦笑してしまった。

 

 

「――ではおやすみなさい、マイ様」

 

「おやすみなさい、ペトラ」

 

 ペコリと頭を下げた聖女見習いが部屋を出ていく。

 

 マイはしばらく少女が去っていった扉を見つめていた。

 

 やがて、ゆっくりと立ち上がる。

 

 扉の前で立ち止まり、廊下に人の気配がないことを確認してから部屋を出た。

 

 ためらうような足取りで、廊下の奥の扉へ向かう。

 

 扉の前で再び立ち止まると、目を閉じた。

 

 深呼吸をしてから、ふっとため息をつく。

 

 下唇をきゅっと結び、扉を叩いた――。

 

 

 ――コンコン。

 

 

 そのノック音で、俺は目を開けた。

 

 扉に向かって一声掛ける。

 

「入りなさい」

 

「……失礼します」

 

 ゆっくり扉が開き、マイが入ってきた。

 

 その頬は、まぶたの裏で見たのと同じく朱く染まっている。

 金色の瞳は潤み、窓から差し込む月明かりで(きら)めいていた。

 

 ローブのお腹のあたりを握りしめ、部屋に入ったすぐの所で立ちすくんでいる。

 

 これから自分がされることに、大きな不安と一握りの期待が入り混じる。そんな顔だ。

 

 俺はゆっくりソファーから立ち上がった。

 

「そこでいい。ローブを脱ぎなさい」

 

「はい……大司教様」

 

 マイが胸元の紐を(ほど)いていく。

 体のラインをすっぽり隠していた純白のローブが、するすると床に落ちる。

 

 

 彼女は、露出の多い修練服を着ていた。

 

 

「やはり美しいな」

 

 思わず感嘆が口から漏れる。

 

 薄い布をたすき掛けにした胸元からは、その大きな乳房がこぼれ落ちそうだ。

 

 丈の長いスカートに開いたスリットから、白く艶めかしい太ももが露出している。

 

 窓からの月明りに照らされるマイの体は、一瞬で俺の理性を奪うほど妖艶だった。

 

「こちらに来なさい。処女検査を始めよう」

 

 手を差し伸べると、彼女がじいっと手のひらを見つめた気がした。

 

「……はい」

 

 マイは小さくうなずくと、俺のほうへ近づいてきた。

 

 




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第9話 二度目の処女検査

 俺の手がぎりぎり届くか届かないかの距離で、マイは立ち止まった。

 

 修練服を着たマイを抱く。

 

 今朝に抱いた願望が、もう叶ってしまった。

 その事実に股間が熱くなる。

 

 彼女は立ち止ったまま、どうもあと一歩が踏み出せないらしい。

 修練服の胸元を押さえ、下を向いている。

 

 仕方がないので、何をためらっているのかを聞いてやることにした。

 

「どうしたのだ。これも大事な儀式だと君も分かっているだろう?」

 

「……はい、あのでも……まだ体を清めていなくて」

 

 彼女は部屋の隅に置かれたタライを見た。そこには水が並々と注がれている。さっき食事の後にペトラが運んできたものだ。

 

 そういえば、マイの部屋にはタライが置かれていなかった。

 ペトラとつい話し込んでしまったせいで、頼みそびれてしまったのだろう。

 

「問題ない。処女かどうかを調べるのに、体を清めたかどうかは関係ないからね」

 

「そう、なのですか。……でもあの、私、長旅で汗をかいてしまって」

 

 俺は腕を伸ばしマイを抱き寄せた。

 

「ぁっ、ん……」

 

 ぎゅうっと抱き締め、その柔らかい感触を味わう。久々のマイの体だ。

 

 その艶やかな黒髪に顔を埋めれば、甘くてとろけるような彼女の香りが鼻腔を満たす。

 

「いい匂いだ、マイ。無垢で清らかな処女の香りがする」

 

「んっ、だめです……かがないで、くださいっ……」

 

 俺はマイのうなじに口づけをしながら、その香りをさらに吸い込む。

 

 どこか母性すら感じさせるような落ち着く匂い。それでいて男を否応なくたぎらせる女の香りだ。

 頭がぼうっと蕩け、股間の熱がますます高まっていくのを感じる。

 

「んぅ……やめっ……」

 

 よほど恥ずかしいのだろう。

 マイは俺の胸の中で、力無く身をよじった。

 

 聖女見習いたちは湯浴みが一番の楽しみなのだと聞いたことがある。

 

 些細な娯楽すらなく、厳しい教義を守りながら暮らす彼女たちにとって、風呂は唯一の娯楽であり、リラックスして一日の我慢を解放するひとときなのだとか。

 

 マイにとっても、一日の終わりに体を清められないのは中々に辛いことなのだろう。

 

「マイ、検査が終わったら私が綺麗にしてあげよう。それまで我慢するんだ、いいね」

 

「え、それは……あの――」

 

 ――嫌です、という言葉を、彼女はなんとか飲み込んでいるようだった。

 

 下唇を噛んで、耐えるように眉間にシワを寄せている。

 

「あの、また……するのですか?」

 

 代わりにマイは、別の言葉を口にした。

 

 この問答は彼女が覚悟を決めるためのものなのだろう。抱き締められてダランと下がっていた細腕が、ぎゅっと握り込められている。

 

「する、とは?」

 

「その、服を脱いで……大司教さまの、か、硬いもので、あの……」

 

「ああそうだよ。私の男性器で君の中を確かめるんだ」

 

 マイの耳元にささやくと、その体がビクビクと震えた。

 

「いやかい?」

 

「……こわい、です」

 

「なにが恐いんだ? 言ってごらん」

 

「わ、私の体が……私じゃ、なくなってしまう気がして……こわいんです」

 

 無理もないだろう。

 

 初めてで、しかもあれだけ絶頂を味わわされたのだ。性の知識に疎いマイがあの昇天するような感覚に恐れを抱くのは当然だ。

 

「安心しなさい、マイ。それが処女である証だ。君がイけばイくほど、処女であることを女神に示すことになる」

 

「い、く……」

 

 耳馴染みのないその言葉を彼女がつぶやく。

 

「前は急いでいたからね、無理に何度もイかせてしまった。だが今日はたっぷり時間がある。君が怯えなくて済むよう、しっかりほぐしてやろう」

 

「あっ、んんッ……」

 

 彼女の股ぐらをつかむと、スカート越しでも湿り気が伝わってきた。

 

 マイの心とは裏腹に、体のほうは準備が万端のようだ。

 

「こちらへ来なさい」

 

 俺はマイをベッドへと引っ張り、粗末なシーツの上に押し倒した。

 

「あっ……え?」

 

 彼女が戸惑っている間に、俺もベッドへと上がりスカートをめくる。

 あらわになった白く肉感的な太ももを一撫ですると、魅惑の三角地帯を覆っているショーツに手を伸ばす。

 

「あ、まってくださいっ……」

 

 マイの手が伸びてくるより先に、その薄い布地を引き下げる。スルスルと太ももを通り過ぎた下着が膝を通り、足先から抜かれた。

 

 彼女が内股を閉じる前に、両膝をつかんで左右に開く。

 

「やっ、いやぁっ……ッ」

 

 目の前に、綺麗な秘所が現れた。

 

 白くなめらかな鼠径部。

 その集約する真ん中には綺麗な女膣がくぱっと開いている。

 鮮やかなピンク色の割れ目からは、とろみのある蜜液があふれていた。

 

 男なら誰でも見惚れてしまう、マイの膣だ。

 

「大司教さまっ、いやです、この格好……恥ずかしい、です……っ」

 

 まるでおむつを替えられる赤子のような体勢に、マイがいやいやとばかりに首を振る。

 

「処女が健在かどうか、しっかり(あらた)めなければならないのだ。味を確かめるから我慢するんだよ」

 

「あっ、やぁっ……そこ、舐めちゃっ、んッ、ぁっ……ああぁぁっ――ッ」

 

 数度舐め上げただけで、マイは悲鳴のような嬌声を上げた。

 ビクビクと体を痙攣させて絶頂している。

 

 俺と同じように、この三日間で彼女の体も快楽に()がれてしまったのだろうか。

 控え室で舐めたときよりも明らかに感度が上がっている。

 

「マイ、もう達してしまったのか。早すぎると女神に疑われてしまうな」

 

「……ん、ぅっ……ごめ、なさ、い……からだ、おかしくてっ……」

 

「次は我慢できるか?」

 

「は、い……我慢、します」

 

「うむ。では(こら)えるんだよ」

 

 俺はマイの濡れそぼる花肉にしゃぶりついた。

 

 膣口付近のビラビラを舌で舐め回し、じゅるじゅると音を立てて吸う。

 

「んうぅっ、ぁッ、あぁっ……はっ、あぁッ……あっ、舌、そんなに激しい、の……だめですっ、また、きちゃうっ……」

 

 ズズズズッ――と舌を小刻みに動かして吸い上げれば、マイがたまらず腰を浮かせた。

 

「それ、だめっ、んんッ……ふ、ぁっ、あッ……んんんんっ――ッ」

 

 ビクンッと背中まで反らせて、彼女が再び絶頂する。

 

 自分の舌で面白いようにイってしまうマイに、俺の股間がいよいよ破裂寸前にまで膨れ上がる。

 

 だが、まだだ。

 俺の肉棒でイき狂わせるのは、もっと快楽に溺れさせてからがいい。

 

 俺はさらにマイを追い詰め、性感を高めることにした。

 

「マイ、声を抑えなさい。この建物は外壁が薄いから、君の声が外に聞こえてしまう」

 

「はぁっ、ぁ……そん、な……いや、です……」

 

「ああ、私も君の淫らな声を誰かに聞かせたくはない。でも、検査は検査だ。なるべく激しくしないようにするから、頑張って堪えるんだ」

 

「……は、い」

 

 マイが涙声でつぶやく。

 強烈な快感に耐えるのが、よほど辛いのだろう。その瞳からはすでに大粒の涙を流している。

 

 俺は一度意識を集中させ、防護魔法(・・・・)の調子を確認した。

 

 この建物は今も、強力な防護魔法で覆われている。

 それは外からの攻撃や侵入を防ぐだけでなく、中からの音を遮断する効果もある。

 

 マイの可愛い悲鳴を、外にいる護衛の騎士に聞かせてやるつもりはない。

 彼女がいくら喘いでも、彼らには微かな音さえ届かない。

 

 そんなことなど知らないマイは、両手で必死に口元を押さえていた。

 

「では、いくぞ」

 

 約束どおり、激しい吸引を止めて小刻みな愛撫に切り替える。

 

 だが不幸なことに、こちらのほうが性感は上だろう。

 

 秘口の上あたりにあるクリっとした小突起を舐めると、マイの腰がガクガクと震えた。すでに剥けてあらわになっている花芯に舌腹を当て、左右に動かす。

 

「んんッ、ふぅっ、ん……んっ、ふ、ぅッ……ん゛っ、んんんっ――ッ」

 

 口を押さえながら、マイがまたも絶頂した。

 

 声を我慢している分、逃げ場がなくなった快感が彼女の中で暴れ回っているようだ。

 

 俺は敏感な突起への責めを止めることなく、ひたすらに舌を動かす。

 一定のペースで乱れのない舌使いが、彼女に拷問のような快楽を与えているのだろう。その背中が浮いたまま、ビクンビクンと痙攣している。

 

 とめどなくあふれてくる愛液が俺の顔をぐっしょりと濡らしていく。その甘みのある蜜液をすすって飲むと、脳が美味しいと悦んだ。

 

「あッ……は、ぁッ……たすけて、大司教さまっ……わた、わたし、どうしてもっ……」

 

 ――我慢できない。

 

 そう言葉を紡ぐ前に、マイの体から力が抜けた。

 浮いていた背中がベッドに落ち、そのまま体全体がシーツに沈んでいく。

 

 どうやらあまりの快感に失神してしまったらしい。

 

 少し、いじめ過ぎてしまったようだ。

 

「……はぁ、……はぁ、っ……、は、ぁっ……」

 

 荒い吐息が不規則に乱れている。

 

 彼女は気絶しながらも、絶頂に襲われていた。

 

「マイ……俺の、俺だけの聖女。なんて愛らしいんだ」

 

 まぶたを閉じ頬を紅潮させている彼女に、思いを告げる。幸いなことに、この身勝手な言葉が今の彼女には届かない。

 

 彼女の股ぐらから顔を上げ、体を起こす。

 

 シーツの上に広がった黒髪をすくい取ると、マイのまぶたがピクリと震えた。

 

 残念ながら、彼女は聖女だ。

 

 失神する程度の衝撃では、体内に流れる魔力が瞬く間に回復させてしまう。

 

「……ぅ、ん……大司教、さま……?」

 

 マイが、うっすらとまぶたを開いた。

その火照り切った頬に手を添える。

 

「マイ、よく頑張ったな。おかげで検査を次に進められる」

 

「つ、ぎ……?」

 

「ああ、次だ」

 

 俺は自分のローブを脱ぎ捨てた。股間の膨張で破けそうになっていた下着も脱ぐ。

すると彼女の目の前に、隆々と勃起したペニスが飛び出した。

 

 すでに亀頭は先走り汁で濡れ、肉竿全体がビクンビクンと脈を打っている。

 この三日間、溜めに溜めた獣欲で今にも暴発しそうだ。

 

 ここまで肉棒が張り詰めたことは初めてかもしれない。

 

「大司教さまの……この前、より……」

 

 マイの瞳に怯えが宿る。

 

 俺は彼女が内股を閉じようとする前に、そこへ腰を押し込んだ。

 

「マイ、二度目だから分かっているね。今からこれで中の具合を確かめる。前より苦しいかもしれないが、心配はいらない。すぐによくなる」

 

 腰をほんの少し前に押し出す。それだけで肉棒の先端が、ヌルっとしたうるみ肉の感触をとらえる。

 

「ひぅっ……あぁぁんッ……」

 

 一気に亀頭が温かい粘膜に包まれた。その瞬間、腰が抜けそうなほどの快感が全身を突き抜ける。

 押し出していないのに、肉竿がどんどん飲み込まれていく。膣全体がキュンキュンと収縮し、肉棒を締め付けてくる。

 

「ぐっ……おぉ、すごい」

 

 たまらず喘ぎ声のようなものが口から飛び出す。

 

 マイの膣は狭くてキツいのに、中がニュクニュクとうねり肉棒が奥へと引き込まれる。

 柔らかい肉ヒダが肉竿を圧迫し、吸着してきた。その刺激だけで射精しそうになる。

 

「相変わらず……極上のおマンコだ」

 

 誘われるままに腰を突き出せば、ぐっと根元まで挿入しきった感じがした。

 膣口が根元をぎゅうっと絞ってきて、射精をねだってくる。

 

「あッ……はぁっ、ん゛んッ……っ、大司教さまの、あつい、ですっ……」

 

「ああ、マイの中も熱いぞ。私のをぎゅうぎゅうに締め付けてきている。苦しくはないか?」

 

「わ、かんない、です……んッ、いき、できな……んぅッ、う……くぅッ――」

 

 マイが苦しそうに顔をしかめ、両手でシーツをつかむ。

 俺もこのままではすぐに達しそうなので、しばらく挿れたまま動きを止めた。

 

「くっ、よく馴染んでいるな……マイ、しっかり私の形を覚えていたようだ。偉いぞ、これで検査をスムーズに行える」

 

「……は、い」

 

 マイが辛そうに片目をつむりながら、わずかに微笑む。

 

 俺の言っている意味は分かっていないだろうに、褒められたことが嬉しいらしい。

 そういう素直で健気なところが、俺は気に入っている。

 

 すると嬉しい気持ちに連動したのか、膣の締まりが一段と強くなった。

 

「くっ……いい締まりだマイ。この締め付けこそが処女の証だから、よく覚えるんだ」

 

「んっ、ぅ……こう、ですか、……ッ」

 

 膣全体がきゅうっと締まる。凄まじい吸着感に、精巣ごと持っていかれそうな錯覚を覚える。

 

 マイは何をやらせても、俺の言うとおり器用にこなす。

 それはセックスにおいても同様らしい。

 

「っ……、そう、この感じだ。よくできたな」

 

「……は、い」

 

 こうやって彼女に締め付けることがいいことだと教える。

 極上の名器を、さらなる名器へと調教していく。

 

「では、そろそろ動く。声を我慢できそうか?」

 

「……っ」

 

 返事の代わりに、マイは口元を押さえコクリとうなずいた。

 

 俺は腰をわずかに引き、ゆっくり押し出した。

 

「んうぅっ、ぅ」

 

 ギシ、とベッドが音を立てる。

 

 さらに腰を前後に動かすと、ギシギシと鳴った。古びているせいか、だいぶガタがきているらしい。

 だが、その生々しい音が妙に興奮する。

 

 ズチュ、ズチュときしみ音に負けないほどの水音が結合部で響き出す。

 彼女の具合がよすぎて、腰が勝手に動いてしまう。

 

「んッ、ふ、ぅっ……んんっ、ぁ……んうぅっ、んぅッ……ぁぁっ、んっ……」

 

 マイは目を固く閉じ、快楽に身悶えていた。

 押さえた口元から可愛らしい喘ぎ声が漏れている。

 

「マイ、少し激しくするぞ」

 

「んっ……は、ぃっ……」

 

 ゾクゾクとこみ上げてくる獣欲に抗えず、俺は腰の動きを強めた。

 

「は、ぁッ……んぅ、んっ、ん……んッ、ぅ……ぁっ……」

 

 速くなる抽送に合わせ、マイの嬌声も小刻みなものになっていく。

 

「く、そ……なんだ、これはッ……」

 

 一回一回のピストンが、まるで射精しているような気持ちよさだ。

 

 腰を引くと膣口が亀頭を逃がさないとばかりに絞ってきて、挿入と同時に膣内がぎゅうっと締まる。

 そのたびに股間から脳天までをビリビリと快感が走り抜け、頭の中が真っ白になる。

 

 ギシッ、ギシッとベッドがうるさく軋み、結合部では水音が鳴り続ける。鼓膜が痺れるような淫らな音の響きに、頭がどうにかなりそうだ。

 抱かれているマイはなおさらだろう。

 

 口元を押さえているせいでシーツをつかめない彼女の体は、俺によって好き勝手に揺らされている。

 

 白い修練服の下では、豊満な二つの乳毬が前後左右に暴れ回っている。

 彼女の体に倒れ込んでその弾力を肌で味わいたくなるが、なんとか(こら)える。

 

 修練服を着たマイが犯される様を目に焼き付けたい。

 

 俺は必死に上体をまっすぐ起こしたまま、腰だけを使ってピストンを続けた。

 バチュバチュと、抽送音に俺の股間がマイの尻をたたく音が混じり出す。

 

ギシギシギシと木材のきしむ音が部屋に響きわたる。激しいピストンで、今にもベッドが壊れそうだ。

 

「ん゛っ……は、ぁっ、あぁっ、んッ……うっ、ぁッ……んうぅっッ」

 

 激しく揺すっているせいか、マイは口を押さえるのも覚束なくなり淫らな喘ぎ声を漏らし始める。

 

 汗で湿った修練服が、シーツとの摩擦でみるみるはだけていく。

 俺が突けば突くほど彼女の白肌があらわになる。

 

 それはどんなストリップショーよりも煽情的で、興奮するものだった。

 

「あぁんっ、あっ、んッ……はぁっ、ぁッ……んくっ、ぅ……んっ、んっ、んっ、んッ……」

 

 次第にマイの嬌声が甲高いものになっていく。

 

 俺のほうも、肉竿が膣壁とこすれる感覚が気持ちよすぎて限界が近い。

 

 数えきれない抽送の末、彼女の白い肩が完全にさらされていて、波打つ乳房はもうそのほとんどが露出していた。

 

 その姿に、尻穴の奥がカッと熱くなる。

 燃え上がるような熱が股間全体に広がり、喉奥がうめき声を発する。

 

「ぐ、ぉぉ……マイ、出すぞ、受け止めろっ」

 

「あ、まっ……て、……あッ、んんっ……んッ、んっ、んっんっんっ、ぅ……あぁっ、ん、やっ……あっあっあっあっあっ――」

 

「うっ、ぐぅっ……!」

 

 一瞬、まぶたの裏に閃光が走る。

 ビュルルルッと、凄まじい勢いで精液が発射された。

 

「あッ、ううぅぅぅぅっ――――ッッ」

 

 マイの膣中が蠢動し、きつく締め上げてくる。

 激しく搾られ、俺はまたも膣奥に射精した。

 

 尻穴がきゅううっとすぼみ、腹筋が強張る。股間をぐっと押し込み奥の奥へ種付け汁を塗り付けていく。

 

 いつの間にか俺は体をまっすぐ硬直させ、ガクガクと全身を震わせていた。

 

 

 

 

「――……はぁー、はぁー……はぁっ、はぁ……」

 

 どちらのものか分からない荒い吐息が部屋を満たす。

 

 マイは両腕をだらんと枕元に投げ出し、絶頂の余韻に溺れていた。

 まぶたをきつく閉じ、ビク、ビクと小刻みに痙攣している。

 

 

 やがて、彼女の呼吸が落ち着き、膣内の収縮も緩やかになってきたころ。

 

 俺はゆっくりと肉棒を引き抜いた。

 

 彼女のピンク色の淫穴から、どろりと大量の白濁液がこぼれる。

 

「……マイ、この体位での確認は終わりだ。最高の……まさしく処女の膣だった」

 

「は、い……」

 

「だいぶ激しくしてしまったようだ。起きれるか?」

 

「大丈夫、です」

 

 マイはゆっくり目を開けると、細腕を震わせながらなんとか起き上がった。

 

 綺麗な黒髪はボサボサで、一部は頬やおでこに張り付いている。

 その乱れた様子が、この上なく妖艶だった。

 

 彼女は緩慢な動きでシーツの上を移動すると、ベッドに腰掛ける形で床に足を下ろした。

 

 俺はその背後に回り込み、後ろから彼女を抱き締める。

 その小さく柔らかい体が上下していた。

 

「息が上がっているなマイ。検査を続けられそうか? 儀式とはいえ、これは体力を消耗するからな」

 

 絶倫を自負する俺の肉棒も、今はしんなりと下がっている。

 

「はい……まだ、頑張れます……」

 

 前回を経験しているからか、マイも処女検査がこれで終わりとは思っていなかったのだろう。

 息も絶え絶えながら、しっかりお務めを果たそうという決意めいたものが見て取れた。

 

「そうか。それでこそ聖女だ」

 

 俺はたすき掛けになっている修練服の両側から、布地の中へと手を差し込んだ。

 

 むにゅうと、両手で温かい乳房を鷲掴みにする。

 

「あっ、んッ……大司教、さま……どうして、おっぱいをそうして揉むのです、か?」

 

「ほう……」

 

 前回は俺のなすがままにされていた彼女が、今回は疑問を口にする余裕があるらしい。

 

「前にも言ったはずだが、処女の乳房かどうかを確かめる必要がある。乳房は恵みの象徴だ。ここがまだ無垢であることを、しっかりと女神に証明しなければならない」

 

 すらすらと適当な口実を話す。

 

「そうなの、ですか……んッ、わた、し……何も知らなくて」

 

「知らなくて当然だ。これは聖女と大司教だけの神聖な儀式だからな」

 

 むにゅ、むにゅと乳房を揉みながら(おごそ)かな口調で説明する。

 

 マイの乳房は汗に濡れていて、ぬるぬるとした心地いい触感があった。

 たまに先端の突起をいじると、そのたびに彼女の肩がビクンと揺れる。

 

 修練服の下で俺の手がうごめいている。薄布越しに、マイの柔乳がぐにゅぐにゅと形を変える様を見ていると、次第に肉棒が硬くなっていった。

 

 股間が先ほどと同じくらいに張りつめたころ、彼女の耳元にささやく。

 

「そろそろ次の検査に移るぞ、マイ」

 

 マイがきゅっと下唇を噛む。

 

 ふと、月明かりの差し込む窓が目に入った。

 淡い光の角度からして、まだまだ夜は長そうだ。

 

「マイ、あの窓のところに立ってお尻を突き出しなさい。ここでは暗くてよく(あらた)められない」

 

「……え?」

 

 彼女の見つめる先。

 

 明るい窓の外には、護衛騎士の黒いシルエットが浮かんでいた。

 




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第10話 ご褒美

 月明りの差し込む窓。

 その縁にマイは両手を置き、俺のほうへお尻を突き出していた。

 

 麻布のスカートはめくられ、彼女の白い桃尻とそこからスラリと伸びる脚線美がたまらない。

 まるで早く挿れてとねだっているような格好だ。

 

 まあ、この格好を強いたのは俺なのだが。

 

「前回は処女のお尻と確かめるのを忘れていたからね、今回はしっかり(あらた)める」

 

「あ、の……大司教さまっ」

 

「なんだ?」

 

「これ、恥ずかしいです、とても……」

 

 彼女が俺に聞こえるか聞こえないか程度の小声で訴える。

 

「これも儀式に必要なことだ。我慢しなさい」

 

「ぅ……、そ、それに、あの……外にっ……」

 

 マイが窓から顔を逸らす。その横顔はこれまで見た中で一番赤く染まっていた。

 

 カーテン越しの窓の外、月明かりの中にうっすらと男の影が浮かんでいる。

 この宿を護衛している聖騎士だ。

 

 カーテンで視界を遮られているとはいえ、目と鼻の先に他の人間がいる。おまけに自分は修練服を脱がされかけた淫靡な姿で、しかも俺に検査とはいえ淫らなことをされているのだ。

 

 しかも彼女は常に清廉さを求められる聖女。

 その恥辱や怯えは相当のものだろう。

 

 だがそんな心とは裏腹にマイの膣からはとめどない愛液が漏れ、内股を妖しく濡らしていた。

 

 この背徳的な状況に、彼女の体も感じてしまっているのだろう。俺のように。

 だが、その快感より怯えのほうが上回っては意味がない。

 

 俺の目的はマイに抗いがたい快楽を刻み込み、俺に抱かれなければ生きていけない体にすることなのだから。

 

 少し、ネタばらしをするとしよう。

 

「実はな、この建物には防音の結界が施されているんだ。とはいえ大きな声を上げたら聞こえてしまうから気を付けなさい」

 

「そう、なのですか」

 

 よかった、といった感じで彼女はため息をつく。

 

 俺は念のため、防護魔法の効きを再確認した。

 

 ……問題なく機能している。

 外からの音は聞こえても、逆に中からの音は……たとえマイが()()()叫んだとしても外には聞こえない。

 

 防護魔法でこんな芸当ができるのは俺くらいだろう。

 

 本来、この魔法は音のように害のないものを遮断することはできない。

 マイを自室やこうした遠征先で、存分に鳴かせるために数年かけて編み出したものだ。

 

 しかも俺の防護魔法は任意の相手を閉じ込めることもできる。使いようによっては、彼女を閉じ込める牢獄にもなるのだ。

 

 音を閉じ込めている分、中にいると発する音が反響してうるさくなるが……マイの喘ぎ声や抽送音ならむしろ興奮材料だ。

 

 俺は両手を伸ばし、目の前で美味しそうに実る桃尻をぎゅうっとつかむ。両方の親指がお尻の割れ目に差し込まれ、彼女の敏感な部分に触れる。

 

「は、ぁっ……ッ」

 

 マイが背中を反らせ、慌てて口元を手で押さえた。窓の縁に置かれたもう片方の腕が小刻みに震えている。

 

 彼女の膣を親指で押しながら、柔尻をぐにぐにと揉む。乳房よりもはるかに弾力のある艶尻の感触に、股間がグツグツと煮えたぎってくる。

 早くこの尻に打ち据えたい。

 

「どれ、舌でも確認しないとな」

 

 俺はその場でしゃがみ込むと、目の前にある可愛らしい白桃をれろんと舐め上げた。

 

「ひぁッ……ぁっ、大司教さま……そんなとこ、舐め……ひぅっ」

 

 再び白いお尻を舐める。丸みに沿ってれろぉと舌を這わせると、マイは悲鳴のような嬌声を上げた。

 

「声が漏れているぞ、マイ」

 

「ひっ、ぅ……ごめんな、さ……んうッ」

 

 舌先でちろ、ちろと汗を舐めすくう。甘みとほんの少しの塩気があってやはり美味しい。

 たまらず口を開けてかぷっと食いつくと、彼女は逃れるように可愛いお尻をふりふりと振った。

 

 その仕草が可愛らしくて、もっといじめたくなってしまう。

 

「マイ、もっとお尻を突き出すんだ。そうしないとよく(あらた)められない」

 

「は、い」

 

 観念したように、マイが背中を反らしてお尻を突き上げる。間近に迫ってきた桃割れを、ぐっと左右に開く。

 

「鮮やかなピンク色で、綺麗な膣だな。お尻も瑞々しい感触と味で、まさに処女のそれだ」

 

 至近距離でお尻を広げられ、ねっとりと鑑賞されているのが耐えられないのだろう。彼女のお尻は力んで強張り、太ももはぷるぷると震えていた。

 

 無垢な聖女に初めての恥辱を味わわせている事実に、たまらなく興奮する。

 

 ぱっくりと開いた膣からは、なおも俺の白濁液が漏れ出ていた。ヒクヒクと俺を誘うように収縮を繰り返している。

 もう肉棒が我慢の限界だ。

 

「マイ、よく頑張った。もういいぞ」

 

 俺は立ち上がると、開かれたままの膣穴に勃起したペニスを突き入れた。

 

「あぁッ、んっ……んッ、ふ……ぁっ、んんぅっ……ッ」

 

 マイが声を押し殺しながら、吐息混じりの嬌声を漏らした。

 

 いろいろな液でぬめる膣内が、すんなりと俺の肉棒を咥えこんでいく。

 一突きで最奥まで到達した男根を引き抜き、今度は思いきり貫く。

 

「うぅっ、ッ……んっ、ぁ……ひうッ」

 

 ドチュ、ドチュと下半身を打ち据え、柔らかい尻肉を波打たせる。肉棒をきゅうっと圧縮してくるような、正常位とはまた違った締まりがあって最高に気持ちがいい。

 

 やはりマイは後背位が一番いいのだと確信する。

 

 しばし夢中で肉棒を打ち込んでいると、窓の外からボソボソと男の声が聞こえた。

 

『――時間、――交代、だ――』

 

 護衛の聖騎士が、交代を告げにきた聖騎士と話しているらしい。

 

 俺は腰を動かしながら、聞き耳を立てた。

 

『――お前今日、聖女様のお姿見れたか?』

『マイ様だろ? ああ、俺は馬車付きだったからな』

『お前、名前まで聞いたのか』

『馬車を降りられて、村長と話している所のすぐ近くにいたからな、俺は』

『くーっ、いいなぁ……新しい聖女様、どんなだった?』

『……すごく、美しかった』

『あー、やっぱり……噂どおりだな』

『美しいのもそうだが、なんというかこう……守ってあげたくなる感じがした』

『ああー最年少の聖女様だものな』

『それに……』

『それに?』

『…………すごかった』

 

 騎士たちが無言になる。

 

 すごかった、か。

 

 マイの匂い立つような色香や、どこまでも慈愛にあふれていそうな眼差し、清純さの中に色気を感じる声色、そういう形容しがたい魅力のことを言っているのだろう。

 

 体のラインが隠れるローブを着ていてもなお、隠しきれない豊満な胸のことを指しているのかもしれない。

 

 それにしても、騎士の中でも特に自身を律している聖騎士が、いくら深夜の雑談とはいえここまで口が軽くなるとは驚きだ。

 

 それほど、マイの魅力が凄まじいのだろう。彼らの自制心をゆるめてしまうほどに。

 

『――はぁ~……明日の豊穣の儀式が楽しみだよ』

『そうだな。俺ももう一度見たい』

『さぞかし清らかな雰囲気を纏っているのだろうなぁ』

『清らか、か……』

『あ、まずい。つい立ち話をしてしまったな。大司教様に聞かれたら処分じゃすまないぞ』

『大丈夫だろう。お二人とも長旅の疲れで早々に寝入ってしまわれたようだ。さっきから物音一つしない』

『そうか、ならいいが』

『それにこちらは大司教様の部屋だしな』

『……確かに、最悪大司教様なら……聖女様にはとても聞かせられる内容じゃなかった』

『…………』

『……ん、どうした?』

『いや、マイ様は一生清らかな存在なのかと思ってな』

『そりゃそうだろう。聖女様はそういうものだ』

『男を知らぬ清い体か……誰にも乱されることなく、誰の目にもさらされないというのは――』

 

 ――もったいないな。

 

 騎士がその言葉を発する前に、俺はマイの耳を塞いだ。

 

「えっ……?」

 

 彼女に男たちの猥談が聞こえていたかどうかは、その戸惑う様子からは分からない。

 いずれにせよこの続きを聞かせたら、マイに無用な知識を植え付けてしまう。

 

「マイ、体を起こしてこちらを向きなさい」

 

「んっ……はい……」

 

 彼女は俺に背後から突かれながらもなんとか上体を起こし、頭だけこちらを向いた。

 

「んむっ、んっ……ちゅ、ぅ……ん、んっ……」

 

 マイの口内に舌を滑り込ませ、彼女の舌もろともかき混ぜる。

 クチュクチュと、増幅されたキス音で彼女の脳内を埋めつくす。

 

「んっ、あっ……大司教、さまっ……んんッ」

 

「キスに集中するんだ。こうして口を塞げば声も抑えられるだろう?」

 

「は、い……んッ、んむっ、んっちゅ……ん、んっ……んぅっ」

 

 後背位のまま体をひねるようにこちらを向かせたからか、彼女の胸元に引っかかっていた修練服がずり下がり、白い乳毬がボロンとこぼれ出た。

 

 薄布から解放された乳房が、俺の突きに合わせてたぷん、たぷんと上下に弾む。俺は背後からその豊乳をつかまえると、すくい上げるように揉み始めた。

 

「んぁッ……ん、むっ……ぁ、あっ……んむッ、んぅっ、ん……ぇぁ、んっちゅ、ぅ……」

 

 手に収まりきらない乳房を揉みほぐしながら、ピストンを小刻みなものにしていく。射精の前段階だ。

 

 マイもそれを察知したのか、喉奥で発する喘ぎ声が切ないものへと変わっていった。その甲高い嬌声が、ますます俺の射精感を高めていく。

 

 重なる舌は、ほどけようもないほど複雑に絡み合っていた。

 夢中で温かい口内をむさぼり、腰を振る。

 

 上と下で同時に結合している感覚。

 口内と股間で二重の快楽が生まれ、あまりの気持ちよさで脳が灼ききれそうだ。

 下半身が勝手に動き、無我夢中で股間を打ち据える。

 

「んちゅ、んっ、んんッ……んうっ、ん、んぅっ、んっ、んッ……んっんっんっんっ――」

 

 出る――。

 

「んん゛んんんんっ――――ッッ」

 

 ビュルルッ、ビュルルとマイの膣奥へ射精した。

 

 二度目とは思えない大量の精液が濁流となって押し寄せ、彼女の子宮口へと注がれていく。

 鈴口から精が流れ出るごとに、強烈な快感に襲われる。

 

 快楽が押し寄せてくるたびに、俺は助けを求めるように柔らかい乳肉を揉み回す。

 口内でビンと伸ばされたマイの舌をひたすらに舐め回す。

 

 しかしそのどれもが、快楽を余計に増幅させるものだった。

 

 

 

 

「――んっ……、ぁ――んッ、ん……」

 

 どれだけ舌を絡ませ、肉棒を奥へ押し付けたかもう覚えていない。

 

 月明かりの角度を見るに、だいぶ時間が経過したようだ。

 

 時間の感覚が失われた中で、俺はようやく濃厚なディープキスを緩めた。ゆっくりと舌を(ほど)き、彼女の口内から引き抜いていく。

 

「んぁ……」

 

 互いの舌をつなぐ銀色のアーチが伸び、途中で切れる。

 

 マイの膣奥に埋め込んだ肉棒もゆっくり抜いていく。締め付けの強い膣口から亀頭が抜けた瞬間、栓を失った蜜穴から大量の白濁液があふれ、ボタボタと床に落ちた。

 

 そのまま彼女の背中に体の前面をくっつけ、やんわりと抱き締める。

 

 マイは全身の力が抜けきっていた。

 

 治癒魔法は疲労を緩和することはできるが、根本的な疲れを取り去ることはできない。初めての長旅の疲れも溜まっているだろう。

 

 俺の股間はもうあと三度は精を吐き出せると訴えているが、今の彼女に受け止めるだけの体力は残っていない。

 

 豊穣の儀式は対外的なものでもあるので、失敗は許されない。

 口惜しいが、今夜は打ち止めだ。

 

「マイ、今日の検査はこのへんで終わりにしよう。君も消耗しているし、明日は朝も早い」

 

「……え、あっ……ごめん、なさい……大司教さま」

 

「いや、君はよく頑張った。聖女になりたてにしては上出来だ」

 

 適当な誉め言葉を言うと、俺は脱ぎ捨てたローブに近づき避妊薬を取り出した。

 

 ペトラが運んできた水差しで木のコップに水を注ぐ。

 

 振り返ると、マイはベッドに腰掛けていた。

 

 目を伏せ、どこか落ち込んでいるように見えるのは、処女検査を最後まで務めきれなかったと思っているからだろう。

 責任感の強い彼女らしい。

 

「マイ、口を開けなさい」

 

 俺は丸薬を口に含むと、素直に開いた彼女の唇にキスをした。

 舌を使って、丸薬を彼女の口内へと移動させる。

 

 口移しを終えると、マイがコクっと水を飲んだ。

 空になったコップを見つめながら、まだ浮かない顔をしている。

 

「マイ、今日はよく頑張ったな。声も抑えられていたし、前回よりも――」

 

 具合がよかったと言いそうになり、口ごもる。

 

「……上手かったぞ」

 

「大司教さま……」

 

 涙目で、すがるように見上げてくる彼女に思わず押し倒しそうになる。

 俺は勃起をごまかすために、彼女の隣に腰を下ろした。

 

 ギッ、とベッドがきしむ。

 

 互いの太ももが密着する距離で、マイを慰めることにした。

 

「マイが耐えて頑張ったから、君が処女であることは十分、女神様に証明できた。あとは明日に備えて、ゆっくり休むといい」

 

「……体を、清めたかったです」

 

 彼女が部屋の隅に置かれたタライを見た。

 

 お務めを果たせなかった自分への失望も合わさり、ふてくされたような口調になっている。

 いつも泣き言など言わない彼女にしては珍しい。

 

 マイのこんな態度を見たのは数年ぶりだろうか。

 彼女の珍しい一面を見られたことに、悦びが湧き上がる。

 

「そういえば、浄化の術というのがあってな」

 

「浄化の術、ですか?」

 

「ああ、冒険者たちが好んで覚える魔法なのだが浄化魔法の亜流でな、なんでも体の汚れを取り去るものらしい」

 

「そんな魔法が、あるのですね……とっても、便利そうです」

 

「だろう? マイも覚えたらどうだ。今後も遠征はある。覚えておいて損はないだろう」

 

「私なんかに、覚えられるでしょうか……」

 

 ここまで弱気になっている彼女も珍しい。

 

 本意ではなかったのだが、落ち込んでいるマイも愛らしくていい。庇護欲をそそられて、つい体の隅々まで可愛がりたくなってしまう。

 

「君は器用だから、すぐに覚えられる。私には会得できないが、もともと浄化魔法は治癒魔法と相性がいい。王都に戻ったら王立図書館から特別に魔導書を取り寄せよう。頑張った君への、ご褒美だ」

 

「ごほう、び……?」

 

 マイがキョトンとした顔になる。

 

 常に民を癒し、祝福を与えて回るのが当たり前の彼女たちにとって、対価に褒美をもらうというのは馴染みがないのだろう。

 

「ああ、ご褒美だよ。……そうだね、今度王都の貴族街から花弁をこした入浴剤を仕入れさせよう。聖女になったご褒美にな。聖女見習いたちと使うといい」

 

「それは……みんなも喜びます。ありがとうございます、大司教さま」

 

 ほんのり笑う彼女だったが、その顔はまだどこか曇っていた。

 

 きっともう眠いのだろう。

 

 その証拠に、彼女の手の中のコップが今にもこぼれ落ちそうだ。

 

 

「……大司教さま」

 

「なんだ?」

 

「あの……えっと」

 

 マイの黒髪がふわりと揺れ、俺の胸板にトンと当たった。

 

 眠気にやられて、よろめいてしまったのだろうか。

 だが、彼女の持つコップは落ちていない。

 

 艶やかな黒い髪の毛を見ていると、さっきマイがペトラの頭をポンポンと撫でていたのを思い出す。

 

 俺の真似をしてみたのだろうか。

 

「可愛い子だ」

 

 胸元に埋まる黒髪をポンポンと撫でる。

 相変わらずなめらかで、いい手触りだ。

 

 一瞬、その後頭部がピクリと動いた気がした。

 

 しばらく撫でていると、彼女が体を預けてくる。

 どうやら本格的に寝入ってしまったようだ。

 

 俺はしばらく艶やかな黒髪の感触を堪能しながら、満足そうな寝顔のマイを眺めていた。

 



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第11話 初めての帰路

 月明りが沈み、代わりに空が白み始めた夜明け前。

 

 まだ薄暗い室内で、俺はソファーに座りながらベッドで眠る美少女を見ていた。

 

 全裸のまま毛布を纏ったマイが、すぅすぅと静かな寝息を立てている。

 

 思えば彼女のベッドでの寝姿を見るのは初めてだ。

 

 横を向き、まるで胎児のように丸まっている。その姿は母に甘える赤子のようでもあり、祈りを捧げる聖女そのものにも見えた。

 

 可愛らしく、美しい。

 そして、みすぼらしい毛布から覗く白い肩はこの上なく(なま)めかしい。一晩中でも眺めていられる寝姿だ。

 

 ふと、窓の外が朝焼けの色になっているのに気づく。

 

 今日の豊穣の儀式は夜明けと同時に行われる。そろそろ聖女の起きる時間だ。

 俺は立ち上がってベッドに近寄る。

 

「ん……」

 

 起こす前に、マイのまぶたが薄く開いた。

 

「だいしきょう、さま……?」

 

「おはようマイ。そろそろ儀式の時間だ」

 

「あ……おはようございますっ、えと……ぁっ……」

 

 彼女は体を起こすと、自分が服を着ていないことに気づき慌てて毛布で体を隠す。

 

「そこのタライの水で体を清めるといい」

 

 俺はタライに手をかざし、魔力を集中させた。

 

 水面が小さく泡立ち、やがて白い湯気が上がる。

 

「あ、お湯……大司教さま、炎熱魔法も使えるのですね」

 

 マイが驚きを口に出す。

 

「ああ、私ではこれが限界だがな」

 

 炎熱魔法。

 

 太古に編み出された攻撃特化の魔法だ。攻撃魔法の中でも最大火力を誇り、特に戦時では重宝される。

 確か、先日の成人の儀でマイに欲情していた第二王子は炎熱魔法の使い手だ。

 

 俺も何かあった時のために会得しようとしたが、水をお湯に変える程度が限界だった。

 

 魔法は、その人間の精神性が大きく影響する。

 

 幼少から聖女を抱くことだけを考えてきた俺には、どうやら相性の悪い魔法だったらしい。

 

 代わりに聖女を守りたい……いや閉じ込めたいという欲求が強かったからか、防護魔法には適性があった。

 

 結果、防護魔法を会得している者が多い司教の中でも、俺は一番の使い手だ。これも大司教になれた理由の一つだろう。

 

 防護魔法に、女神から授かった遠視の術。

 この二つだけで俺の聖女を抱くという目的には事足りている。

 

 そんなことを思いながらマイを見ると、ベッドの上で顔を赤くしていた。

 

「どうした? 身を清めないのか」

 

「あっ、はい……あの、大司教さま、が……」

 

 彼女が毛布で体を隠しながら、自分をぎゅっと抱き締めた。

 

 ああ、なるほど。

 昨晩、検査が終わったら俺が綺麗にしてやると言ったのを気にしているのか。

 

「私は廊下で待っている。一人で身を清めて心を落ち着かせ、魔力を研ぎ澄ませておくといい」

 

 今、彼女の体を洗いなどしたら、そのまま検査の続きをしてしまいそうだ。

 

 魔法は精神性が大きく影響する。

 絶頂の余韻に心をかき乱された状態では、儀式が失敗するかもしれないからな。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 胸を撫でおろすマイに股間を刺激されながら、俺は廊下に出た。

 

 

***

 

 

 目の前に広大な畑が広がっていた。

 黒い土に野菜の苗が点々と埋まり、それがどこまでも続いている。

 

 俺とマイはそのほとりに立っていた。

 

「――豊かな実りと大地の恵みが(とこ)しえに続くことを願って、これより聖女が女神の名のもとに祈りを捧げる」

 

 集まった二百人ほどの村人の視線は、ありきたりな口上を述べる俺ではなく、隣で静かにたたずむ聖女へと注がれている。

 

『――あれが新しい聖女様か、若ぇな』

『ウチの下の娘と同じくらいかね?』

『前の聖女様は美しかったが、こっちはこう可愛らしい感じだな』

『ペトラちゃんと同じ黒髪か~、ええな』

『フード被ってっからお顔がよく見えねぇべ』

 

 俺の地獄耳が村人たちの下世話な会話を拾う。

 神聖な儀式とはいえ、彼らにとっては年に一度のお祭りみたいなものだ。

 

 マイは儀式用のローブの上に深々とフードを被っているから、村人の声が聞こえていないだろう。

 落ち着き払った様子で、涼やかな口元にほのかな微笑を浮かべている。

 

 やはり、検査の続きをしなくてよかった。

 

「……マイ、出番だ」

 

 彼女だけに聞こえる小声でささやく。

 

 マイは小さくうなずくと、フードを外した。

 

『おお……』

 

 村人たちが息をのむのが分かった。

 その場にいる全員が口をつぐみ、彼女の美貌に見惚れている。

 

 あたりがシンと静まり返る中、マイが簡素な祈祷台へと上がった。

 その場でひざまずき、胸元で手を握る。

 

「では、豊穣の祝福を」

 

 俺の合図とともに彼女の体が白く輝き出す。

 やがてその体内で練られた魔力が、一気に放たれた。

 

 マイを中心として扇状に広がった祝福の光が、広大な畑を覆っていく。

 

 その直後、地平線の向こうから朝陽が差し込み、あたり一面がまばゆい煌めきに包まれる。

 

 美しい光景だ。

 

 俺は光に包まれる畑ではなく、一心不乱に祈り続ける彼女の横顔に見惚れていた。

 

 

「――聖女の祈りは聞き届けられた。これで苗と大地の恵みの結びつきがより強くなったでしょう」

 

 俺が終了を宣言すると、マイは祝福を止めて安堵のため息をついた。

 静かに立ち上がり、村人のほうを向いて頭を下げる。

 

『せ、聖女様―!』

『俺ァこんな祝福、初めて見ただっ』

『あれ、感動して涙が』

『なんて美しいんだ』

『前の聖女様の比じゃねぇぞこりゃ』

『これで豊作間違いなしだ!』

 

 一気にあたりが歓声と拍手に包まれる。

 その中には、昨日よりも顔を紅潮させたペトラの姿もあった。

 

 異様な熱気に、マイは肩を震わせた。

 

 人々に感謝されたり褒められたりするのに慣れていないのだろう。

 聖女の微笑を貼り付けていた美貌が、照れくさそうにはにかむ。

 

『うわっ……』

『あぁ、やばい……』

 

 さっそく村人の何割かを虜にしてしまったらしい。

 

 俺は護衛の聖騎士たちに目配せをする。

 馬車をこちらに横付けしろという合図だ。彼女が興奮冷めやらぬ村人たちに囲まれてはたまらない。

 

 しかし仕事熱心のはずの聖騎士たちも、皆一心にマイを見つめていた。

 

 仕方がないので「ん゛ん」と咳ばらいをする。

 

 気付いた何人かが急いで馬車のもとへ向かった。

 

 

***

 

 

 のどかな穀倉地帯を馬車の隊列が進む。

 

 俺とマイの乗る馬車は、王都への帰路についていた。

 

 儀式の後、もう少しいてほしいと迫る村長たちを振り切るのは大変だった。

 朝食を取ってもよかったのだが……今日中には王都に帰りたい。

 

 村から王都までは半日以上の距離がある。もし天候が悪化すれば、どこかでまた一泊することになってしまう。

 

 当分、儀式の予定はない。

 

 彼女を抱けないのに同じ屋根の下で一晩明かすなど、俺の身がもたない。

 

「……マイ、先ほどはいい祝福だった。村人たちも感激していたぞ」

 

「ぁっ、ありがとう、ございます……んっ、は、ぁっ……」

 

「緊張していた割に魔力も安定していた。君は本番に強いようだ」

 

「そん、な……こと、んぅッ……大司教さまの、おかげで、ぅ……あ、んっ……」

 

 マイの甘い声が馬車内を満たす。

 

 俺は今、正面に座る彼女へと身を乗り出し、体をまさぐっていた。

 

 儀式用のローブもその下の修練服もめくり上げ、露出した白い太ももを撫で、ショーツ越しに秘部をこする。

 

「よく濡れているな。聖女の蜜がこんなにあふれている」

 

 そう言って指先をぐっと押し込む。

 

「んうぅッ……ん、ぁっ、大司教さま、やめっ……んんッ、ん、ぅッ……」

 

 俺は馬車に乗り込んでからずっと、マイに悪戯をしていた。

 

 最初は俺の手を押さえていた細腕も、今は自身の口元を塞ぐので精いっぱいのようだ。

 

「かなり高まってきたな。ほら、イくといい」

 

 湿った布地越しに敏感な突起を刺激する。

 途端、閉じようとする太ももの力が強まり、片手が柔らかい圧迫に包まれる。

 

「んんっ、ぁっ、いやっ、んッ、んっ……あ、だめ、だめっ……ん、ぁっ、んっ、んっんっんっんっ……んうぅっ――――ッ」

 

 マイは前屈みになり、体をくの字に曲げながらビクビクと絶頂に震えた。

 

「イったな、マイ。……まだまだ帰路は長い。道すがら何度でもイかせてあげよう」

 

 すると彼女は絶頂の余韻で荒く息を吐きながら、俺の腕に手を重ねてきた。

 

「大司教、さま……どうして」

 

「ん?」

 

「……どうして、儀式はもう……んっ、なぜ、ですかっ……?」

 

 儀式は終わったのになぜ体を触るのか。

 

 当然の疑問だ。

 いつかは聞かれると思っていた。

 

 ――儀式後の魔力の流れを見る必要がある。

 

 事前に用意していた言い訳をするべく、口を開く。

 

「君が可愛いからだ」

 

「え……」

 

 しまった。

 

 昨晩、彼女を眺めながら一睡もしなかったせいで、頭が(ほう)けてしまったのだろう。

 つい(よこしま)で肉欲にまみれた本心のほうを漏らしてしまった。

 

「……親愛の情というやつだ」

 

 とっさにごまかす。

 

「しんあいの、情」

 

 彼女がその言葉を繰り返したとき。

 

 ガタンッ――。

 

 馬車が急停止した。

 

 衝撃でよろけるマイを咄嗟に抱き締める。

 

『大司教様、背信者が潜んでいるようです』

 

 馬車の外から聖騎士の声をかけてきた。

 

 この声には覚えがある。昨晩、部屋の窓の外に立っていた男だ。

 

 いや、そんなことはどうでもいい。

 

 背信者。

 

 この大陸では教会に害を成そうとする盗賊、テロリスト、時には国を指してそう呼ぶ。

 

 ちょうど馬車が通りかかったこのあたりは、見通しの悪い岩場だ。

 聖騎士は「背信者たち」と言っていたから賊は複数名か。

 

「大司教さま……」

 

「安心しろマイ。この馬車には――」

 

 突然のことに唖然とする彼女を安心させようとした次の瞬間。

 

 ドン、と地響きが鳴った。

 

『攻撃魔法だ!』

『聖女様をお守りしろ!』

『南の岩陰に二人、草地に一人だ』

 

 外で聖騎士たちが怒号を上げる。

 

 ドン、ドンと再び地響きが聞こえた。

 音の方角からして、今度は聖騎士たちが攻撃魔法を放ったのだろう。

 

「……い、や……いやっ、たす、たすけて……」

 

 マイが俺の胸元でガクガクと震えていた。

 

 尋常ではない怯えようだ。

 

 確か彼女の故郷は、帝国との小競り合いの犠牲になったと聞いている。

 帝国兵の放った攻撃魔法により、ほとんどの家が焼けたらしい。

 

 そのときの恐怖が甦ってしまったのだろう。

 

「マイ、安心しなさい。この馬車は私の防護魔法に守られている。絶対に安全だ」

 

「みん、な……みんなは……?」

 

 外にいる聖騎士たちのことを言っているのだろう。

 

「大丈夫だ、彼らは強い。ほら音が止んだだろう? 聖騎士が賊を制圧したのだ」

 

 すると、誰かが馬車に近づいてくる気配があった。

 

『大司教様、聖女様、ご無事ですか?』

 

 あの聖騎士の声だ。

 

「ああ、大丈夫だ」

 

『念のため、ご無事を確認しても?』

 

「構わない、入れ」

 

 俺は防護魔法の対象範囲を聖騎士にまで広げた。

 そうしないと馬車に手を掛けた途端、彼が吹っ飛んでしまう。

 

 ガチャリとドアが開き、鎧姿の男が一礼して乗り込んできた。

 

「……大司教様、手を下ろしてください。私が彼方まで飛ばされてしまいます」

 

「ああ……すまない」

 

 俺は聖騎士に向けていた手を下げた。

 入ってきた瞬間、無意識に防護魔法を重ね掛けしようとしてしまったらしい。

 

 聖騎士が話した瞬間、マイの肩がビクンと震えた。

 

 もしかしたら彼女も昨晩、彼の声が聞こえていたのかもしれない。

 俺は震える体をさらに強く抱き締めた。

 

「収めたのか?」

 

「はい、背信者どもを三名打ち……いえ、捕らえました」

 

 聖騎士は震えるマイをチラリと見てから言い直した。

 本当は戦闘で殺したのだろう。

 

 賊は攻撃魔法を放ってきた。

 ただの盗賊ではなく、プロの犯行だろう。それもおそらく組織的なものだ。

 

「分かった。事後処理に人員を割きなさい。背景を調べるのだ」

 

「でもそれでは馬車の護りが」

 

「問題ない。私の防護魔法は強固だ」

 

「ですが、それでは大司教様のお体がもちません。昨晩もずっと寝ずに防護魔法を展開されていらっしゃったのでは」

 

「え……?」

 

 胸の中のマイが、小さい驚き声を上げる。

 

「……気づいていたのか?」

 

「夜明け前、二度目の交代の際に気づきました。私も少しだけ防護魔法の心得がありますので」

 

「そうか」

 

 魔法は、寝ている間に発動することはできない。

 強固な防護魔法を展開し続けるには、寝ずの番をするしかないのだ。

 

 成人の儀の後、マイの湯浴み中にニーナが今回の遠征の情報を漏らしたときから、俺は襲撃を警戒していた。

 

 ゴーゼ司教。

 あの野心と色欲にまみれた男は、何をしでかすか分からない。

 

 簡単に尻尾は出さないだろうが、手がかりくらいは押さえておかなければ。

 

「とにかく襲撃の背景を知る必要がある。調べなさい」

 

「ですが……」

 

「聖女なら私が絶対に守る」

 

 胸元で、マイの体がピクリと反応した。

 

 聖騎士は俺と彼女とを交互に見ると、ため息をつく。

 

「承知しました。ですが割く人員は最小限です。ここは譲れません」

 

「分かった。頼んだぞ」

 

「はい」

 

 聖騎士は再び一礼して、馬車を降りていった。

 

 

「……マイ、落ち着いたか?」

 

 胸の中に埋まる彼女へ声を掛ける。

 

「はい、も……大丈夫、です。ご心配おかけして、すみません」

 

 声が小刻みに震えている。

 まったく大丈夫ではなさそうだ。

 

 俺は彼女の震える手を優しく握った。

 

 しなやかで美しい指をそっとなぞる。相変わらず触り心地のいい手だ。

 

「しばらくこうして握っていよう。落ち着いたらいいなさい」

 

「はい……」

 

 マイがまるで甘えるように、おでこを胸板にこすり付けてくる。

 

 

 結局、俺は馬車が王都に着くまで手を握り続けていた。

 

 




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第12話 子守歌

 王都に帰還して五日が過ぎた。

 

 執務室の机には、王家や各領地から送られてくる手紙や書類がうず高く積まれている。

 

 大司教の仕事は、聖女の補佐や儀式を取り仕切るだけではない。教会の予算管理や聖女見習いの派遣の決済など、やることは無限にある。

 

「ふぅ」

 

 いったん休憩し、(ふところ)から一枚の紙を取り出す。

 

『ゴーゼ司教に目立った動きなし』

 

 綺麗な字でそう書かれた文面を見返してから、ビリビリに破いて捨てる。

 教会内で見張らせている金髪の元聖女からの報告だ。

 

 報告によるとゴーゼ司教は、あの桃色髪の聖女見習いを部屋に呼んでもいないらしい。ここまで動きがないのも、逆に不自然だ。

 

 とはいえ、馬車襲撃の背後にゴーゼ司教がいるのかどうかは結局分からずじまい。

 

 調査を命じたあの聖騎士の男によれば、「賊の死体は消し炭になっていて身元はおろか性別も不明」だという。聖騎士たちの攻撃魔法の威力がうかがえる。

 

 結局、ゴーゼ司教を処分するのはおろか、脅す材料すら手に入っていないのが現状だ。

 

 監視の()を増やす必要があるかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、コンコンと扉がノックされた。

 

『マイです。大司教様、入ってもよろしいでしょうか』

 

「……もうそんな時間か」

 

 王都から戻って以来、俺はつきっきりで彼女の魔法習得に付き合っている。

 多忙で退屈なこの仕事において、唯一心が躍るひとときだ。

 

「ああ、入りなさい」

 

 俺は立ち上がると、眉間に力を入れて(おごそ)かな表情を作った。

 

 

***

 

 

「――ではマイ、そのコップから泥を取り除きなさい」

 

「はい」

 

 マイが目の前に置かれた泥だらけのコップに手をかざす。

 するとコップが淡く光り、付着した泥が綺麗さっぱり消えた。

 

「ふむ、上出来だ。インク汚れはそのままに泥だけを綺麗に取り去っている。浄化の対象を選別できたね、やはり君は器用だ」

 

「あ、りがとう……ございます」

 

 彼女は振り返って俺を見上げると、すぐ恥ずかしそうに下を向いた。

 

 マイは今、俺の執務机の椅子に座っている。

 

 昔から彼女に座学や魔法を教えるときは、いつもこうして彼女を自分の椅子に座らせ、俺がその背後から指導をしていた。

 

 この位置だと、マイの白いローブの襟元から純白の谷間を覗くことができるのだ。

 

 以前はそれをただ眺めるだけだったが。

 

「次は精神を集中させる修練だ」

 

「……はい」

 

 俺は彼女の首元に手を添えると、綺麗な鎖骨をなぞりながらローブをゆっくりずらした。あらわになった左肩のラインを撫で、手のひらを下へ這わせていく。

 

「んっ……ぅ……」

 

「マイ、心を乱さずに魔力を集中させるんだ。インク汚れを取り除いてみなさい」

 

 ふくよかな上乳を指でつつきながら、彼女の耳元にささやく。

 

「は、い……」

 

 手のひらで上乳を撫でると、そのふくらみに沿って下へとスライドさせて柔らかい乳房を手の中に収める。中心で硬くなった突起の感触を味わいながら五本の指でぐっとつかむと、手のひらが柔らかい乳肉に埋まる。

 

 マイの乳房は何度揉んでも気持ちがいい。

 

「あっ、ぅ……大司教さまっ、んッ……」

 

 コップにかざした手がプルプルと震えている。

 

「耐えなさい。魔力を制御するんだ」

 

 俺は柔乳の形が変わらないほどの力加減で、優しく揉む。手のひらの真ん中でさっきよりも硬く張りつめた蕾をこする。

 もちもちとした柔肌が手に吸い付き、なめらかな触感に脳が悦ぶ。

 

「ん……うぅっ……」

 

「いい調子だ。そのままインクの成分だけを消していきなさい」

 

 いよいよ佳境とばかりに、尖り立った乳首を指先で弾く。コリコリと何度も転がせば、マイは震えながら前屈みになった。

 肘が落ち、今にも術が解けそうだが手のひらだけはまっすぐコップに向かっている。

 

 そして。

 

「でき、ました……」

 

「……ほう」

 

 彼女の震える手の先。

 コップからはインク汚れが消え、ついでに水垢もなくなっていた。

 

 俺はつまんでいた乳首から指を離し、襟元から腕を引き抜く。

 

「やるじゃないか、見事な魔力制御だ。これで君は浄化の術を使いこなせるだろう」

 

「ありがとう、ございます……大司教さま」

 

 はぁはぁと肩で息をする彼女を見つめる。

 

 やはりマイは魔法の覚えがいい。

 いくら聖女と浄化魔法の相性がよくても、この短期間で完璧に会得するとは思っていなかった。

 

 もしかしたら、この淫靡な訓練方法はかなり有効なのかもしれない。

 

 他の魔法も覚えさせてみるか。

 そのぶん俺も楽しめる。

 

「マイ、君の覚えの早さなら他の魔法にも挑戦してみるといい」

 

「え……よいのですか?」

 

「あと一つか二つなら、治癒魔法に影響を与えることなく他の魔法を会得することができる。何か適性のありそうなものに心当たりは?」

 

 本来、人が扱える魔法の種類には限界がある。だいたいが一つで、どんな使い手でも多くて四つだ。

 

 魔法は、使う者の精神が大きく影響する。

 

 攻撃魔法を会得するには、その内面に眠る攻撃性や加害性を高めなければならない。

 だから基本的に心優しい聖女は治癒魔法しか使えないし、兵士は攻撃魔法しか扱えないのだ。

 

 だが器用なマイなら、治癒魔法に近い系統の魔法ならいくつか覚えられるかもしれない。

 

「心当たり、ですか…………あっ、あの、もしかしたら催眠魔法を、使えるかもしれません」

 

「ほう」

 

「王都に来る前から、教会の子たちをいつも寝かしつけていて……ここに来てからも、よくそうしていたので」

 

「なるほど、適性があるかもしれないな。ふむ……では私にやってみなさい」

 

「え、大司教さまにですか?」

 

「ああ。魔力の流れをみよう」

 

「あの、では……頭をこう」

 

 マイは恥ずかしそうに、手のひらを下げるジェスチャーをした。

 

 素直に首を垂れ、頭を差し出す。

 彼女の手がおずおずと伸ばされ、ふわりと俺の頭に置かれた。

 

「いつも君がしているようにやるんだ」

 

「はい、わかりました……」

 

 するとマイの甘い匂いが濃くなった。

 

 心を落ち着かせ、眠気を誘う香りだ。無意識に魔力を催眠作用のある匂いに変換しているのだろう。

 

 やがて小さい旋律が聞こえてくる。彼女の、子守歌だ。

 

「……気持ちのいい風が、髪を撫でるよ、さやさや、さやさや、いい子の…………えと、大司教さま、ゆっくり、眠りにつきましょう……夢の中でまた、手をつなごうね」

 

 マイが俺の髪を優しく撫でている。

 

 体が重くなり、でもそれが心地いい。

 

 なるほどこれは。

 

「悪くない、な」

 

「え?」

 

「……いや、魔力がじわりと浸透してきて、睡眠欲求を高めている。マイ、これは紛れもなく魔法だ。我流で編み出すとは、やるじゃないか」

 

「あ、はいっ……あの、ありがとうございます」

 

「うむ。……それで子守歌はこれで終わりか?」

 

「え、はい。みんなこれでもう眠ってしまうので」

 

「そうか」

 

 もう少し長くてもよかったのだが。

 

「大司教さま?」

 

「いや……では週明けから催眠魔法の修練を始めよう。魔導書を取り寄せておく」

 

「えっと、週明けから……ですか?」

 

 マイがパチクリと長いまつ毛を(しばたた)かせる。

 なぜ明日からではないのか、という顔だ。

 

 俺は執務机の上に積み上がった紙束の中から、一枚を引っこ抜く。王家の封蝋(ふうろう)が施された手紙だ。

 

「三日後、王国騎士団による大規模な魔獣討伐遠征が行われる。それに聖女も同行してほしいとのことだ」

 

「魔獣、討伐……」

 

「ああ、第二王子殿下の率いる騎士団に随行し、祝福を授けたり傷ついた兵を癒したりするのが君の役目だ。初めての実戦だが、できるか?」

 

「……はい、できます」

 

「分かった。では返事をしておこう」

 

 俺は心の中でため息をつく。

 

 聖女の同行は、第二王子の強い要望によるものらしい。

 

 遠征といっても向かうのは森の外縁部で、強力な魔獣が巣くう最深部ではない。本来ならば聖女見習いが二、三人いれば事足りるはずだが。

 

 おおかたマイに懸想するあの青年が、自分の勇姿を見せたいがための茶番なのだろう。

 とはいえこれは王命なので、教会といえども無下にはできない。

 

 彼女にはまだ実戦は早いと思っていたのだが、致し方ないか。

 器用な彼女なら、うまく立ち回ることもできるだろう。

 

 ただ。

 

「遠征に備えて、しっかり休養を取りなさい。その間は治癒魔法以外の修練も禁止だ」

 

「あ、あのでも、私……頑張れます」

 

 そう言い張る彼女の頬に、そっと手を添える。

 

「だめだ。君は昨晩も遅くまで修練していただろう。顔に疲れが見える」

 

 マイが目を見開き、すぐに泣きそうな顔になった。

 まるで悪戯が見つかってしまった子どものようだ。

 

 遠視の術で彼女を視ていたら、この三日間は毎晩深夜まで浄化の術を特訓していた。

 

「ごめ……す、すみません。あの私も、役に……立ちたくて」

 

 金色の瞳が潤む。今にも涙がこぼれ落ちそうだ。

 俺は少し声のトーンを和らげる。

 

「役目に熱心なのは感心だが、聖女は体力が大事だ。以後は気を付けなさい」

 

「はい……」

 

 目尻を下げ、下唇を噛むマイは庇護欲と同時に、男の嗜虐心をくすぐるものだった。

 つい虐めたくなる衝動を抑え、彼女の涙を拭う。

 

「そうだ。君に渡すものがある」

 

 俺は懐から小瓶を取り出し、彼女に差し出す。半透明の液体に、薄桃色の花弁が浮かんでいる。

 

「大司教さま、これは」

 

「貴族街から取り寄せた入浴剤だ。聖女になったご褒美に渡すと言ったはずだが」

 

「ご褒美……」

 

 マイは小瓶を受け取ると、じいっと花弁を見つめた。

 

「それには魔力を安定させる効果がある。遠征まで、それで心と体を休めるといい」

 

「はい、あのとても……綺麗です。大事に使います」

 

 マイが下を向き、小瓶を胸元で握りしめる。

 

 その表情は前髪に隠れて見えなかった。

 

 

***

 

 

 彼女が部屋を去った後。

 

 俺は執務机の上にポツンと置かれた新品同然のコップを眺めていた。

 

「まさか、催眠魔法の適性まであるとはな」

 

 催眠魔法は、かつて敵陣に潜り込んで諜報活動をするために編み出された魔法だ。

 

 系統は、攻撃魔法に属する。

 

 慈愛にあふれる聖女には本来覚えられない魔法のはずだ。

 

 

 マイにはまだ、俺の知らない一面があるのかもしれない。

 

「……面白い子だ」

 

 俺は股間が熱く(たかぶ)るのを感じながら、口元を歪めた。

 





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第13話 優しい尋問

 魔獣討伐遠征を明日に控えた夜。

 

 俺は一人、中庭の奥まった場所にある温室にいた。

 

 深夜だというのに、聖域が放つ光で温室内は薄明りに包まれている。若干青みがかった光景がとても幻想的だ。

 

「大司教様、まいりました」

 

 振り返ると、入り口に桃色髪の聖女見習いが立っていた。

 

「よく来たね。ええと君の名前は」

 

「聖女見習いのニーナです。先ほど聖女様……あ、じゃなくて先代の聖女様に呼ばれて来ました。大司教様から大事なお話があるとか」

 

「ああ。入りなさい」

 

 そう。

 俺は金髪の元聖女を使って、桃色髪の聖女見習い――ニーナを温室に呼び出していた。

 

 彼女がおそるおそるといった感じで近づいてくる。

 

 白いローブに身を包み、夜だからか桃色の髪は下ろされていた。

 マイよりも年下で、背も少しだけ低い。

 

 ――ちょっと勝ち気だけど、根はとっても優しくて面倒見もいいところが可愛いの。

 

 そう金髪の元聖女は言っていた。

 

 確かに吊り目がちなグリーンの瞳からは、負けん気の強さを感じる。

 

 だが今は、その目尻が不安げに下がっていた。

 

 ニーナが俺から一歩か二歩くらいの距離で立ち止まる。

 

「それで、お話ってなんでしょうか……大司教様」

 

「ニーナ、単刀直入に聞こう。君はゴーゼ司教の手籠めにされているね」

 

 威圧感のある低い声で告げると、彼女の顔が引きつった。

 

 ニーナがゴーゼ司教の手籠めにされていると気づいてから、俺は金髪の元聖女に監視をさせていた。

 

 だが今に至るまで、彼女はあの男の寝所に行くどころか、執務室に呼ばれた形跡すらない。

 

 ならばと、直接聞き取りをしようと思ったのだ。

 

 明日からの遠征で教会を留守にする前に、何らかの手がかりを押さえておきたかった。

 

「て、てごめ、ですか?」

 

「肌を重ねたり、寝所を共にしたすることだ」

 

「あ……え、えと……」

 

 ニーナが小さい体をさらに縮こませる。

 華奢な肩を震わせ、言葉に詰まっているようだ。

 

 彼女たちは、基本的に素直で嘘がつけない。そういう性格だからこそ治癒魔法に適性があるともいえる。

 

 数多くの聖女見習いにこの手の尋問を行ってきたが、結局ストレートに聞くのが一番手っ取り早いと学んだ。

 

「……お、お赦しください大司教様っ……あの、わたし」

 

「ああ、君を咎めるつもりはない。何か事情があったのだろう? 安心するといい。このことは誰にも……聖女マイにも言わないから」

 

 先ほどとは打って変わって優しい声色で語りかける。

 

 ニーナが聖女マイに憧れ以上の思いを抱いているのは、あの浴場で視たときから分かっている。

 

「マイ様っ……!? マイ様はこのことを」

 

「知らないはずだよ。大丈夫だ、彼女には黙っていよう」

 

「わ、わたしマイ様を悲しませたくないんですっ、ほんとに……マイ様だけは」

 

 マイの名前を出されたことで、だいぶ動揺しているようだ。

 

 俺はニーナに近づくと、肩をつかんで引き寄せた。

 

「安心しなさい。絶対に言わないから」

 

 ひとまず落ち着かせるのがいいだろう。

 

 胸の中で彼女は「ひぐっ」と喉を鳴らしたが、口を結んで涙をこらえた。

 

 なるほど、確かに負けん気の強い性格のようだ。

 

 

 

 

「……落ち着いたか?」

 

「すみません、取り乱してしまいました。こんなところマイ様に見られたらすごく心配されちゃいます」

 

「ああ、そうだな」

 

 ニーナは俺の胸元から一歩引くと、にこっと笑う。

 

 聖女見習いらしい穏やかな笑顔ながら、彼女特有の快活で明るい雰囲気が漂ってくる。

 

 そのあどけない表情は元気な少女そのもので、ゴーゼ司教の手籠めにされているようには見えない。

 

「まず言っておこう。私はこの問題を表沙汰にするつもりはない。そして大司教の力をもって君をゴーゼ司教から守るつもりだ。君が望めば、だが」

 

 こう言うとたいていの聖女見習いは安心し、洗いざらい素直に話してくれる。

 

「……大司教様、わたし……聖女見習いのままで、いられますか?」

 

 悲愴感のある表情だが、その(みどり)色の瞳には強い意思が込もっていた。

 

 聖女になりたいというより、マイの近くにいたいという願いのほうが強いのだろう。そんな感じがした。

 

「治癒魔法はまだ使えるのだろう? だとしたら問題ない」

 

 聖女見習いの中には処女を奪われたショックで心を閉ざし、治癒魔法を使えなくなってしまう者もいる。

 

 魔法は、人間の精神性が大きく影響する。

 

 中途半端に色恋に触れたことで心が乱れ、治癒魔法が不安定になってしまう者さえいるのだ。

 

 だが、中には司教の手籠めにされても魔力が安定している者もいる。その違いの理由は分かっていない。

 

「わたし、ちゃんと使えてます」

 

 どうやらニーナは後者のようだ。だとしたら聖女見習いとして何も問題はない。

 

 俺は小さくうなずくと、彼女に手をかざす。

 

「一応、魔力の流れを見よう」

 

「わかりました」

 

 ローブの上から彼女の体内に意識を集中させる。

 

 するとニーナはおもむろにローブの紐を解き、ストンと地面に落とした。

 薄い肌着と布面積の少ないショーツがあらわになる。

 

「……何をしている?」

 

「え、あの魔力の流れを見るん、ですよね……?」

 

「別にそんなことをせずとも――」

 

 言いかけて止める。

 

 おそらくゴーゼ司教はいつもそうしていたのだろう。

 

「大司教、様?」

 

 頬を染めて小首をかしげるその仕草は、女の色香を漂わせていた。

 桃色の髪先が揺れ、恥ずかしそうな上目遣いでこちらを見上げている。

 

 そこに、さっきの快活そうな少女の面影はなかった。

 

 色仕掛け、だろうか。

 

 だが周囲に他の人間の気配はない。

 

 ひとまず、様子を見るか。

 もしかしたらゴーゼ司教を追い詰める手がかりが得られるしれない。

 

「――いや、なんでも。続けなさい」

 

「はい」

 

 彼女はゆっくり肌着をたくし上げ、バンザイの格好をして脱いでいく。

 さらに目を伏せ、少しずつショーツを下げると、片足ずつ抜いていった。

 

 男を悦ばせるための脱ぎ方だ。

 

「準備、できました」

 

 ニーナはゆるやかな双丘を少し寄せるように腕を組み、わずかに内股をこすり合わせる。

 これも、あの男にそうしろと教えられたのだろうか。

 

 彼女の体は隅々まで白く、赤子のように無垢だった。

 

「ふむ。では見ようか」

 

「え、肌を合わせなくていいんですか」

 

「……ああ、私ならこれで十分だ」

 

 ニーナのなだらかな胸が、ほっと撫で下ろされた気がした。

 

 俺は再び手をかざし、彼女を微弱な魔力で包んだ。

 簡易な防護魔法を掛けることで、ニーナに何らかのトラップが仕掛けられていないのかを探る。

 

 世の中には、遠隔からでも攻撃魔法を発動したり、別の人間の体に催眠や麻痺の罠を仕掛けたりする高度な魔法も存在する。

 

「ん……あの大司教様、これ」

 

「なんだ?」

 

「いえなんでも、ないですっ」

 

 彼女の体内の隅々にまで魔力を浸透させていく。

 

 ……どうやら罠の(たぐい)は仕掛けらえていないようだ。

 

「終わったよ。君の治癒魔法は正常だ」

 

「……ありがとうございますっ……大司教様」

 

 どうもニーナの様子がおかしい。

 

 全裸になったときよりも頬を紅潮させ、苦しそうに肩で息をしていた。

 

「どうした? 体の具合でおかしいところでもあるのか」

 

 罠の発動を警戒し、とっさに防護魔法を発動しかける。

 

「いえあの、大司教様の魔力が」

 

「私の魔力が?」

 

「あったかいなって、思って……い、いえすみませんっ」

 

 ニーナは口元で手を握り、そのままうつむいてしまった。

 

 そういえば魔力を直接流し込んで調べるのは、一般的なやり方ではない。

 

 詳細に体の状態を探ることができる一方、その魔力操作は極めて難しいからだ。それこそ私のように防護魔法の調整に長けた者でなければ。

 

 マイには普段から、それこそ出会った当初から毎日のように行っていたからつい同じようにしてしまった。

 

 しかし、あったかいか。

 

 マイからは一度もそんな感想を聞いたことがないな。

 

「あったかいとは、どんな感じだ?」

 

「えぇっ……!?」

 

 ニーナが戸惑ったように目を見開き、妙な声を発した。

 

「どんな感覚だったのか、言ってみなさい」

 

「ど、ど、どうって……っ、その……じ、じんわりっていうか、体がぽかぽかして、あったかいものに包まれてるみたいな感じが、して」

 

「ふむ」

 

「そ、それで、きもちぃ……じゃなくてっ、ジンジンって感覚です」

 

「なるほど」

 

 さっぱり分からないな。

 

「も、もういいですかっ……?」

 

 ニーナはその場でしゃがみ込むと、体を抱き締めるように丸まる。

 

 彼女の言うとおり、尋問はこのくらいでいいだろう。

 

 必要最低限の情報を手に入れることはできた。

 

 俺もその場で腰を下ろすと、床に落ちたローブをその体に掛けた。

 

「よく話してくれたね。君はもうゴーゼ司教に指一本触れられないし、会うこともないだろう。万が一に備えて、しばらくは元聖女と部屋を同じにするといい」

 

「大司教様っ」

 

 少女が胸に飛び込んでくる。

 

 中腰だった俺は彼女の勢いに押されて倒れそうになり、地面に両手をついて支える。

 

 ニーナは俺の胸にしなだれかかるようにして、顔を埋めていた。

 

「どうしたのだ?」

 

 罠の魔法が発動する気配はない。

 

 俺は瞬間的に薄く張った防護魔法を解く。

 

「あ、す、すす、すみませんっ、あの大司教様がお優しくて、あの……失礼しましたっ」

 

 ニーナが慌てた様子で体を起こす。

 

 なるほど。

 

 聖女見習いは親元を離れて寂しい思いをしている者が多いと聞く。

 

 ゴーゼ司教に酷いことをされ、そんなときに優しくされたものだから気持ちが決壊してしまったのだろう。

 

「よい。辛い思いをしたのだ、誰かに甘えたくなることもあるだろう」

 

 ニーナの緑の瞳が揺らぎ、じわりと涙が浮かぶ。

 

 しかし彼女はその目元を拭うと、切なげな視線を向けてくる。

 

「大司教様は、もうご満足……なんですか?」

 

 それは艶っぽい女の目だった。

 吐息は甘く、頬は染まったままで、その瞳は何かを求めるような。

 

 おそらくいつもは魔力の流れを見て、その続きがあるのだろう。

 

 さっきはウブな少女のように丸まっていたというのに。

 今は男の理性を惑わす、なんとも色っぽい表情をしていた。

 

 重力で下を向いた彼女のつつましい胸の先には、色素の薄い蕾がピンと張りつめている。

 初雪のような肌はきめ細かく、触れればさぞ心地いいのだろう。

 

 これが天性のものなのか、教え込まれたものなのかは分からない。

 

 その快活さと色香のコントラストは、多くの男を虜にしてしまうだろう。

 

 だが。

 

「ああ、君への尋問はこれで終わりだ」

 

 あいにく、俺はマイの体を知ってしまった。

 

 マイ以外では股間が(たかぶ)らない。

 

 ニーナが腰をピタリと密着させてくる。

 しかし本来なら硬く勃起しているだろうそこには、ふにゃりとした生理器官しか存在しない。

 

「ほんとに……大司教様はお優しいんですね、わたし……信じたいです、大司教様のこと」

 

「……そうか」

 

 どうやらニーナの信頼を得られたらしい。

 

 これでゴーゼ司教を追い詰める材料を一つ、手中に収めることができた。

 

 あの男がどこまでを想定し、企んでいるのかは分からない。

 

 仮にゴーゼ司教が襲撃の黒幕だったとして、堂々とプロを使って仕掛けてくるというのは大胆というより雑で迂闊だ。

 一方で証拠を一切残さないという周到さも持ち合わせている。

 

 野蛮で慎重な人間が、一番動きを読みづらい。

 

 警戒をさらに強める必要があるだろう。

 

「ニーナ、そろそろ服を着なさい。風邪を引いてしまう」

 

「大司教様」

 

「なんだ?」

 

「聖女見習いは風邪を引かないんですよ?」

 

「ああ、知っているよ」

 

 ニーナは幼ない少女のような顔ではにかんだ。

 

 

***

 

 

 二人で温室の外に出ると、さっきよりも周囲は暗くなっていた。

 

 夜空を見上げると、月が雲に覆い隠されている。

 

 明日はいよいよ魔獣討伐遠征だ。

 天候が荒れなければいいが。

 

「大司教様、マイ様の次のお務めはいつなんですか?」

 

「明朝には皆にも知らせがあるはずだ」

 

 ニーナが次の日程を知らないことに安堵する。

 

「マイ様と、またお出かけになるのですか?」

 

「遠征の場合はそうなるな」

 

「……わたし、マイ様がちょっぴりうらやましいです」

 

「君もよく励むといい。いずれはマイのような立派な聖女になれる日が――」

 

 ……そんな日が、来るとは思えないが。

 マイが聖女でなくなる日など、考えられない。

 

 ニーナを見ると、俺をまっすぐに見上げている。

 その瞳には怯えや色情ではなく、一心に聖女を目指す意思がこもっていた。

 

 まるでここへ来たころのマイのように。

 

 マイがうらやましい、か。

 

 俺は無意識に、ニーナの頭に手を置いていた。

 ポンポンと撫でながら声を掛ける。

 

「さあ、もう寝なさい。聖女見習いは体力が大事だ」

 

「……はいっ」

 

 ニーナはくすぐったそうに肩をすくめてから、元気よく返事をした。

 

「ああそうだ。言い忘れていたが」

 

「なんでしょうか?」

 

「君は、少し言葉遣いが気安いな。私は別に気にしないが、聖女見習いの口調としては無礼だと感じる者もいる。気を付けなさい」

 

「は、はいっ、すみませんっ」

 

「じゃあお休み」

 

「あ、あのっ、わたしの言葉遣い、大司教様は気にしないって……」

 

「私も平民の出だからな。ただもし聖女を目指すなら、私の前でも丁寧な口調を心がけたほうがいい。聖女はいつなん時も聖女であることを求められるからな」

 

「き、気を付けますっ」

 

 桃色の頭頂部から手を離すと、ニーナはペコリと一礼し、聖女見習いたちが暮らす別棟へと駆けていった。

 

 

「ふぅ」

 

 一息つき、俺はまぶたを閉じる。

 

 今や習慣となった遠視の術を使うためだ。

 

 まぶたの裏に、マイを映し出す。

 

 彼女は白いローブを着込んで、外にいた。

 

 ここは……中庭か。

 大きな木の陰から、こっそりと何かを見ている。

 

 その視線の先には、俺がいた。

 

「……マイ、そんなところで何をしているんだ?」

 

 マイが木陰でビクリと肩を震わす。

 

 つい声を荒げてしまった。

 

 だが聖女が夜一人で出歩くなど、あまりに不用心だ。

 

「マイ、隠れていないでこちらに来なさい」

 

 彼女は下唇を噛むと、観念したように木陰から出ていった。

 

 

 まぶたを開ける。

 

 暗がりから、ゆっくりマイが歩いてくる。

 

 その金色の瞳は怯えたように揺れていた。

 

「大司教様、あの……こんばんは」

 

 しゅんと肩を縮こませる彼女の様子に、一瞬で股間が熱くなった。

 気まずそうに伏せられた目元が色っぽく、このまま執務室に連れ込んで犯したい衝動に駆られる。

 

 いけない。

 

 それは明日の遠征でのお楽しみだ。

 

「マイ。こんなところで何をしていた?」

 

「あ、あの……眠れなくて」

 

「明日の遠征で緊張しているのか?」

 

「はい、それでもう一度湯浴みをしていて……出たら、ニーナが一人で中庭へ行くのが見えたので」

 

「つけてきたのか?」

 

「はい、あの……心配で」

 

 それでずっと様子を伺っていたらしい。

 ということは、ニーナと温室から出てくるのも見ているのだろう。

 

 この件にマイを巻き込むわけにはいかない。

 

「少し、聖女見習いの相談に乗っていたのだ。だが解決した」

 

「そう、なのですか……あの、ニーナの相談に乗っていただきありがとうございます」

 

 マイは安心したような、どこか釈然としないような複雑な表情で頭を下げる。

 そのとき、彼女の手の先がブルリと震えたのが分かった。

 

 湯浴みから出てすぐ、夜に長時間外にいたせいで体が冷えたのだろう。

 

「マイ、こちらに来なさい」

 

「は、はい」

 

 ふわりと黒髪が揺れ、石鹸と甘い彼女の匂いが漂ってくる。その中に花の香りがした。

 

「入浴剤、使ってくれているようだな」

 

「はい……心を落ち着かせようと思いまして」

 

 彼女が少し恥ずかしそうに目を逸らす。

 

「そうか。ところで少し魔力の流れを見ていいか」

 

「あ、はい、どうぞ」

 

 俺はいつものように、彼女に手をかざして魔力を浸透させてみる。罠の魔法を仕掛けられていないかチェックをし、最後に治癒魔法の状態を探る。

 ……問題ないようだ。

 

 ――あったかいなって、思って。

 

 ニーナの言葉を思い出しながら、マイの表情を観察してみる。

 

 確かにマイの瞳はゆらゆらと揺れ、頬もほんの少しだけ赤らんでいる。だがニーナのように感じ入った様子はない。

 

 ただ、手先の震えは収まっていた。

 

「よし……異常なしだ。明日の遠征に備え、君もそろそろ寝なさい」

 

「はい、あの……大司教さま」

 

「なんだ?」

 

 彼女は俺の手をじいっと見つめ、下唇を噛む。

 すぐに何かを決心したように顔を上げた。

 

「ニーナにも、その……しんあいの情を?」

 

 親愛の情。

 

 遠回しにニーナにも同じような淫らな行為をしているのかと、疑っているのだろうか。

 

 だがマイは温室の中には入っていない。誤解を招くような場面を目撃されていないはずだ。

 

 それに、彼女の表情はそういうことを疑っているようには見えない。

 

「いいや、私が親愛の情を注ぐのは君だけだ」

 

「それは、私が聖女だからですか……?」

 

 まっすぐ俺の目を見つめてくるが、その表情からは感情が読み取れない。

 

 いや、よく見ると口をきゅっと閉じている。

 彼女がおっかなびっくり聞いてくるときの仕草だ。

 

 すいぶんと控えめな尋問だ。

 

「ああ、そうだよ。私にとって聖女は大切な存在だからね」

 

 優しく、安心させるように言う。

 

「そうですか」

 

 少しだけ、マイが寂しそうな顔をした気がした。

 

「……さあ、そろそろ寝る時間だ。遠征は二泊だ、長丁場になる。しっかり休息を取りなさい」

 

「はい、大司教様」

 

 薄暗闇に、聖女の笑顔を貼り付けたマイの顔がはっきり見えた。

 



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第14話 嵐の夜

 魔獣討伐遠征の初日。

 

 王都から半日ほどの距離にある街道を、討伐隊の馬車が進む。

 

 二十を超える馬車に百を超える騎兵。

 そうそうたる隊列の真ん中に、俺とマイの乗る馬車があった。

 

 正面に座る彼女は窓のカーテンを少しだけ開き、ずっと外の景色を眺めている。

 

 その横顔が、どこか曇って見えた。

 前回の遠征のときは好奇心に目を輝かせていたものだが、今日のマイは寂しそうに目を細めている。

 

 その姿も一枚の絵画のように美しい。

 

 憂いを含んだ金色の瞳で、物思いにふける黒髪の少女。

 体の凹凸(おうとつ)が目立たない白いローブを纏いながらも、その様子は年齢以上の色気を漂わせている。

 

 俺は股間がそそり立っていくのを感じながら、平静を装って問いかける。

 

「マイ、具合でも悪いのか?」

 

「え……いえ、大丈夫です」

 

「少し顔色が暗く見えるが、昨日はたくさん眠れたのか」

 

「はい、たくさん寝ました」

 

「ならばよい」

 

 昨晩、中庭から自室に戻った彼女は遠征の準備を手早く済ませ、早くに床へついた。

 遠視の術で確認済みだ。

 

 

 隊列は街道から逸れ、脇道へと入っていく。

 

 しばらく進むと、鬱蒼と木々の茂る森が見えてきた。

 この森の縁をもうしばらく進むと、今回の目的地だ。

 

 俺は再び彼女に話しかける。

 

「マイ、今回の日程は頭に入っているか?」

 

「はい。今夜は森のほとりで野営し、明日の朝、兵士の方々に祝福を授けてから討伐に同行して日が暮れる前に帰還。三日目は、私たちだけ王都に戻る……ですよね」

 

「ああそうだ。そこで第二王子殿下の隊とは別れることになる」

 

 本来なら、三日目も第二王子と近隣の村々を視察することになっていた。彼の強い要望で。

 

 だが、俺は出発直前にその要求を突っぱねた。

 

 マイに懸想(けそう)している第二王子に付き合わせたくなかったのもあるが、一番は襲撃を警戒してのことだ。

 襲撃者にこちらの予定が知られている可能性がある以上、常に裏をかく必要がある。

 

「聖女は初の討伐遠征ゆえ早くに休息が必要」だと言ったら、第二王子も渋々ながら了承した。

 

「マイ、明日の儀式も朝が早い。今夜は私の――」

 

 ――テントに来なさい。

 

 俺はその言葉を飲み込む。

 

 彼女が悲しそうに目を伏せていたからだ。

 

 やがて、その形の整った桃色の唇が開かれる。

 

「大司教様」

 

「……なんだ」

 

「この近くに、村はありますか?」

 

 村。

 

 この辺りにはないはずだ。

 

 いや、確か地図から消された村がある。

 

「数年前に滅びた村があったと聞いているが」

 

 まさか。

 

「そう、ですか……そこは多分、私が生まれた村です」

 

 マイは幼い頃に帝国軍の侵入によって村を焼かれ、その後、近隣の教会に引き取られた。

 確かにこの森を挟んだ向こう側は帝国領だし、ここから馬車で一日ほどの距離に、彼女の育った教会がある。

 

「風景を、覚えていたのか?」

 

「……森を見て、はっきり思い出せました。森のほとりに小さな村があって、私はそこで、多分三歳くらいまで暮らしていました」

 

「そうだったか」

 

 そのとき、窓の外がカッと光った。

 

 次の瞬間、パァンッと稲妻の落ちる音が響く。

 

 カーテンを開けると、空は暗雲に覆われ閃光が縦横無尽に走っていた。

 

 この分だと今夜は雷雨だろう。

 

 ドンッと、今度は腹奥に響く重低音が鳴った。

 

 俺は咄嗟にマイに手を伸ばし、その両膝に置かれた手を握る。

 

「大丈夫か?」

 

 なんとも間が悪いことだ。

 

 ただでさえ彼女は雷が苦手だ。村が焼かれたときの記憶が蘇るのか、昔は修練中に雷が鳴り出すと、怯えるマイの手をよくこうして握っていた。

 

 まさか彼女のトラウマであるこの場所で、雷に見舞われるとは。

 

 するとマイは、ゆっくり顔を上げた。

 

「平気です、大司教様」

 

 彼女が穏やかな笑みを浮かべる。

 

「私はもう大司教様に心配されるような聖女見習いではありません。聖女に、なりましたから」

 

 それはいついかなるときも慈愛の微笑みを崩さない、まさに聖女の顔だった。

 

「そうか」

 

 俺は手のひらの中で小刻みに震える小さい手を、そっと離した。

 

 

***

 

 

「よく来てくれました、聖女殿……!」

 

「お久しぶりです。セダイト王子殿下」

 

 恋焦がれる相手に会えた喜びか、第二王子が両手を広げて歓迎の仕草をした。

 

 マイはふんわりとした笑顔で王子に頭を下げる。

 

 俺たちは今、王子の野営テントに招かれていた。

 

 外はまだゴロゴロと雷音が響き、滝のような雨が降り続いている。

 

 荒天を理由に討伐隊は目的地に向かうのを諦め、急遽この場所で野営することになった。

 そのため明日は夜明け前に出立し、朝には目的地に着くようにするのだという。

 

 俺は心の中で舌打ちをする。

 

 夜明け前までに十分睡眠を取る必要があることを考えると、処女検査に費やしている時間がほとんどない。

 

 前回の遠征から一週間以上。

 その間に溜まりに溜まった情欲をマイに注ぐには、あまりに短い時間だ。

 

「本日は突然の雷雨に見舞われてしまった。聖女殿をこのような場所にとどめ置くのは心苦しいが、どうか辛抱してほしい」

 

「問題ございません、王子殿下」

 

 マイが再び穏やかな笑みを浮かべる。

 

「しかし、風雨を避けるためとはいえ森に近すぎる。こんな物騒な場所では聖女殿の心を乱してしまうと、部下には言ったのだが」

 

「王子殿下、聖女は大地の恵みを尊ぶ存在です。自然豊かな森は聖女にぴったりの場所なのです。それに……」

 

 彼女は一呼吸置くと、懐かしむようにふっと微笑んだ。

 

「この森は、とても落ち着きます」

 

 マイの優しさと物悲しさの同居した表情に、王子がはっと息をのむ。

 

「……なんて美しいんだ」

 

 王子がそうつぶやくのが、口の形で分かった。

 

 俺は一歩前に出る。

 

「王子殿下、聖女は長旅で疲れています。申し訳ございませんが、このへんで」

 

「あ、ああ、すまない……では聖女殿、明日はよろしくお願いします。祝福もそうですが、討伐への同行についても」

 

「はい。しっかりと聖女のお務めを果たさせていただきます」

 

「それは心強い。まあ同行といっても最後尾ですし、魔獣は私が蹴散らしますから、聖女殿は安心していてください。私が、全力であなたを守ります」

 

 第二王子が身を乗り出す。銀色の前髪が揺れ、緑色の瞳がマイをまっすぐ見つめた。

 

「ありがとうございます。私も、聖女として皆さまをしっかりお守りしますね」

 

 マイが慈愛にあふれた笑みを浮かべる。

 

「いや、私のほうこそ――」

 

「王子殿下、このへんで失礼いたします。ではまた明朝」

 

 放っておくと話が永遠に続きそうだったので、間に入る。

 

 マイとともに頭を下げ、王子のテントを出た。

 

 

 二人でフードを被り、自分たちのテントへと歩く。

 

 兵士たちが嵐の中を走り回り、明日の討伐の準備を進めている。

 

 野営の一番森に近い場所に、俺とマイのテントが並んでいた。

 その出入口を隠すように白い衝立が数枚置かれている。これで彼女が俺のテントへ来る場面を目撃されることはない。

 

「ではマイ、少し体を休めたら私のテントへ来なさい。儀式の前の検査だ」

 

「……はい」

 

 マイは頬を染めて下を向いた。

 

 

***

 

 

 自分のテントで、俺も体を休める。

 

 小さいベッドに腰掛けながら、持ち込んだ書類に目を通していた。

 ふと、懐から一枚の紙を取り出す。

 

『ゴーゼ司教の姿なし』

 

 今朝、金髪の元聖女から届いた(ふみ)だ。

 

 急いで確認したところゴーゼ司教は今朝、懇意にしている地方の教会の要請で出かけたらしい。

 

 あまりに怪しい動きだ。

 もしかしたら、あの男自ら襲撃の指揮を執るのかもしれない。

 

 王都に戻るまで、また寝ずの番で防護魔法を展開しておいたほうがいいだろう。

 

 俺は防護魔法を発動すると、自分とマイのテントを包んだ。

 

「マイがいない」

 

 俺は急いで立ち上がる。

 

 防護魔法の内側に彼女の魔力を感じない。

 

 外に出て、隣のテントへ飛び込む。

 やはり彼女の姿がない。

 

 ――遠視の術。

 

 まぶたの裏にマイを映し出す。

 

「……森か」

 

 彼女は暗い森の中を一人、歩いていた。

 周囲に人の姿は見えず、どうやら誘拐されたわけではなさそうだ。

 

 俺は安堵するより先に、走り出していた。

 

 誰にも見つからなかったとすれば、テントの真裏から森の奥へ入ったのだろう。

 

 裏に回ると、ぬかるんだ泥にマイのサンダルの跡が続いていた。

 

 

 

 

 しばらく足跡を追っていると、先ほど遠視の術で視た風景があった。

 

 やがて、真っ暗な草木の先に淡く光る空間が見えてくる。

 

 茂みから飛び出すとそこは――泉だった。

 

「マイ……」

 

 その光景に、目を奪われる。

 

 月明かりに照らされる泉。

 その真ん中に、湯浴み着姿のマイがいた。

 

 彼女は泉から水をすくうと、白い肩に掛ける。

 そのまま細い腕のラインに添って、手のひらを滑らせていく。

 しなやかな指先から、雫がポタリと落ちた。

 水面に静かな波紋が広がる。

 

 息が止まるほど、幻想的で妖艶な姿だった。

 

「マイ」

 

「大司教様っ……」

 

 再び声を掛けると、マイが即座に振り向く。

 その金色の瞳は見開かれ、どうしてここに? という顔をしている。

 

「君は、何をしているんだ?」

 

「あ、あのごめんなさいっ……嵐が止んだので、お役目の前に体を、清めたくて……」

 

 最後のほうは聞き取れないほど小さい声だった。

 瞳は潤み、叱られる直前の少女のような顔をしている。

 

 嵐が止んだ?

 

 空を見上げると、満点の星空が広がっていた。

 丸い月が白く輝き、泉に降り注いでいる。

 

 マイを探すのに夢中で今の今まで気づかなかった。

 

 彼女に視線を戻すと、ビクッと肩を震わせる。

 きっと森で魔獣に出くわしたらこんな顔をするのだろう。

 

 俺は黙って歩みを進めた。

 

 ローブを着たまま泉へと入り、じゃぶじゃぶと水面をかき分けマイに近づく。

 

「あ……大司教さま、ごめんなさい、勝手に……んんッ」

 

 俺は彼女に手を伸ばすなり、抱き寄せて唇を奪った。

 

「んむっ、んッ……ぁ、んっ、ちゅぅ……んくっ……」

 

 黒髪の後頭部をつかんで動けないようにし、柔らかい唇を押し開く。

 緊張して強張っている体を力いっぱい抱き締め、全身でマイの感触を確かめた。

 

「んん……ぁ、だいしきょ、さまっ、ごめんなさ……んむッ、んっ、んッ……」

 

 彼女に口を開く隙を与えない。

 

 俺は心の奥に沸き立つ苛立ちをぶつけるように、キスをむさぼった。

 




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第15話 三度目の処女検査

 チャプ、チャプと水が波立つ音が鳴る。

 

 泉の真ん中で俺はマイを抱き締め、強引に唇を奪っていた。

 

 ほとんど体を動かしていないはずなのに、時おり彼女が震え、俺が抱き締め直す動作だけで水面が音を立てる。

 

 もはやそれがマイの舌と絡まり合う音なのか、泉が波立つ音なのかは分からない。

 

 それくらい夢中で彼女の口内を犯していた。

 

 強張っていたはずのマイの体からは力が抜け、今は柔らかさしか感じない。

 きつく密着しているせいか、勃起した股間が彼女のお腹に圧迫されて温かい。

 

「……んちゅっ、んッ……ふ、ぅ……んっ、ちゅっ……んぇ、んっ、く……」

 

 とろとろに溶けてきたマイの舌を飲み込むように吸う。甘い唾液で喉を潤し、彼女の苦しそうな吐息を味わっていると、次第に心が落ち着いてきた。

 

 唇を離すと、マイが空気を求めるように肩で呼吸を始める。

 

「マイ、どうしてこんなところに? 知っている場所なのか」

 

「はぁっ、はぁ……知って、ます……子どものころ、お母さんと来たことが、あって……」

 

「君の思い出の場所ということか。綺麗だな」

 

「は……い、ありがとう、ございます……」

 

 耳元に話しかけながら、彼女の息が落ち着くのを待つ。

 

 しかし、強く抱き締めているせいだろうか。

 マイの体は荒い呼吸のまま上下している。俺の胸板で潰れたおっぱいが息をするたびにふに、ふにと形を変えて淫靡だ。

 その柔肉ごしに、彼女のドクドクという可愛い鼓動を感じる。

 

 つい、彼女の腰にいきり立った肉棒を押し付けてしまう。

 

「あ、あの……大司教さま、どう、して……」

 

 どうして。

 

 いきなり激しいキスをしたのか、と聞きたいのだろう。

 

 最近のマイは俺の行動の理由を聞いてくることが多くなった。

 淫らな下心に薄々感づいているのだろうか。

 

「…………君の体に異常がないかを探るためだ。突然姿を消したからね、賊に攫われでもしたのかと思ったのだ。こうすれば瞬時に分かる」

 

 厳かな口調で適当な言い訳を言い連ねる。

 

「……そう、なのですか」

 

「そうだ」

 

 なんとなく彼女が悲しそうな目をした。

 

「でも、どうして……ここが?」

 

「君の足跡を追ったんだ。テントに姿が無かったときは心臓が止まるかと思ったぞ」

 

 一瞬、マイの呼吸が止まる。

 俺を見上げて泣きそうな、それでいて今にも微笑みそうな顔をする。

 

 最近の彼女は、こういうよく分からない見えない表情になることが多い。

 

「心配かけて、申し訳ありません……大司教さま」

 

 その声が何かを求めているように聞こえ、無性に情欲をそそった。

 けっこうな力で拘束しているというのに、彼女の鼓動はむしろ落ち着いていく。

 

 俺の股間の硬直に今さら気づいたのか、マイは恥ずかしそうに下を向いた。

 

「あ、あの……テントに、戻りますか?」

 

 そうだな。

 それもいいが。

 

 幸い、膝のあたりまで浸かっている泉の水は冷たくない。

 

 俺はみるみる赤くなる彼女の耳にささやいた。

 

「いや、あまり時間がない。ここで検査をしよう」

 

「ここで、ですか……?」

 

「嫌か?」

 

「……っ」

 

 マイが下唇を噛む。

 

 ここは彼女の思い出の場所だ。

 そこで淫らな行為をするのに拒否感を覚えるかもしれない。

 

 まあ、嫌だと言ってもやめるつもりはないが。

 

「マイ、これは君への罰も兼ねている」

 

「えっ……」

 

「勝手にテントを抜け出した罰だ。先日襲撃されたばかりだというのに、君は聖女としての危機感が足りないようだ」

 

「あ……ご、ごめんなさい……私、あの……自覚が、足りませんでした」

 

 マイが眉をハの字にし、目に涙を浮かべる。

 どうにもこの顔を見ると虐めたくなってしまう。

 

「そうだな。君に聖女としての自覚をたっぷり叩き込む必要がありそうだ。今回は激しくするから我慢するんだよ。これは、罰だ」

 

「……はい」

 

 ついに彼女の目端から雫がこぼれる。

 

 その涙を見た瞬間、全身が熱くなった。

 これまで抑えていた欲望があふれ出してくる。

 

 マイを好き勝手、めちゃくちゃに犯す。

 

 俺は彼女の顎をつかむと強引に口づけをした。

 

「んぅッ、んっ……んんんッ、ふ、ぁっ……んむっ……」

 

 さっきよりも無理やりなディープキスだ。

 

 ほぐれで柔らかくなった唇の隙間に舌を押し込み、おずおずと差し出された小さな舌を激しく舐め回す。「ぇろぇろ」と下卑た声を発しながら、衝動のままに口内を舌で蹂躙する。

 

 密着していた体をわずかに離し、たすき掛けにしている湯浴み着の両肩をつかむ。力まかせにずり下ろすと、豊かな乳房がこぼれ出た。

 

 脱がした勢いでたぷんと上下に揺れる乳毬を、片手でつかむ。指がどこまでも沈んでいきそうな柔らかさを堪能しながら、下からすくうように何度も揉み込む。

 

「んッ、ぁっ……ん、あんっ……んっ、ふ、ぅッ……」

 

 マイの喉奥から切ない声が上がり、口腔内に反響する。

 次は彼女の体を味わいたい。

 

 俺は絡み合った舌を(ほど)いて、口内から引き抜いた。マイの綺麗な口端から漏れた唾液を舐めすくってから、細い首筋にしゃぶりつく。

 

「んぅっ……ぁんっ」

 

 濃い吸引の跡を付けながら、綺麗な肩のラインに再びしゃぶりつく。そのまま歯を立てると彼女の肩がビクンと跳ねた。

 

「いやっ、あッ……大司教、さまっ」

 

 カプリと噛みつくと、マイがまたビクリと体を震わせる。歯をやんわり柔肌に食い込ませていると、本当に魔獣になったような気分になる。

 ひとしきり彼女の食感を味わい、ゆっくり口を離すと白い肌に歯形が付いていた。

 

 無垢な体に野蛮な跡を刻んでいる背徳感に、ゾクゾクする。

 

「我慢しなさいと言ったはずだ」

 

 そう念押しし、マイを抱き締め直す。

 彼女の鎖骨のあたりに吸い付き、じゅるじゅると卑猥な音を立てながら吸引の跡を付けていく。そのままねっとりと舐め、美味しい汗を吸いながら顔の位置を降下させていった。

 

 柔らかい肉感が増していき、マイから発せられる甘い匂いも濃くなっていく。

 

 やがて大きいふくらみを眼前に収めると、めいっぱい舌を伸ばし乳肉をれろぉと舐め上げた。

 

「やぁっ、んッ……あぁっ、あっ、あんっ……」

 

 舌先を柔乳に押し込みながら顔で円を描くように舐め回す。唾液を塗りたくりながら中心に向かって円を狭めていく。

 淡い色の乳輪に舌先が到達すると、その縁取りに沿って舌を一周させる。

 最後にぷくりと尖り立った可愛らしい突起に、思いきり吸い付いた。

 

「んうぅっ、あッ……あぁんっ――ッ」

 

 強めに吸い上げると、それだけでマイは軽く絶頂する。

 

 細い体をよじって快感から逃れようとするが、俺が両腕でがっちりと拘束しているため身動きができない。

 

 無防備に差し出された白い乳房に、今度は大口を開けてかぶりつく。

 

「あぁんっ、いやっ……大司教さま、それ、やめっ……あんっ、やぁっ……」

 

 柔らかい乳肉にほんのりと歯を立て、歯形を付ける。口内が真空状態になるほど乳房を吸引すると、先端の乳首から甘いエキスが漏れ出てくるような感じがした。

 

 じゅぞぞぞ、と淫らな音を鳴らしながら吸い上げ、ぱっと口を離す。

 柔乳が元の場所に戻る前に、桃色の乳首にしゃぶりつく。優しく歯を立てるとマイの体がビクッと震えた。

 

「やっ、それ……んッ、だめっ……」

 

 彼女の手が俺の頭に乗せられる。

 

「マイ、手をどかしなさい。悪い子には罰が必要だと言ったろう」

 

 クニとした感触の乳首を甘噛みする。

 

「んぁッ、んっ……ごめんなさ、あっ、んうッ……だいしきょ、さまっ、あんッ……たべないで、くださっ……くッ、うぅっ……」

 

 痛みを感じさせない力加減で何度も甘噛みしながら、その隙にマイの下腹部へと片手を伸ばしていく。

 

 湯浴み着のスカート部分をめくり、薄い布地のショーツをつかんで一気に下ろす。

 すかさず股ぐらを手のひらでつかむと、マイの秘所はぐっしょりと濡れていた。泉の水とは違う、ぬるぬるとした愛液だ。

 

「ここも十分に濡れているな、マイ。そんなに検査が待ち遠しかったのか?」

 

「はぁッ、ぁっ……わかんな、い、です……私、ぜんぜん、わからなくてっ……」

 

 ――ごめんなさい。

 

 なぜかその言葉を言わせたくなくて、彼女の膣穴に指を埋め込む。

 

「んぁっ、あぁッ……あっ、ゆび……んんッ、んうぅっ――ッ」

 

 膣肉が指をぎゅうっと圧迫し、蜜液があふれ出す。

 

 またもマイは絶頂したようだ。

 

 彼女の両手はすでに俺の頭をつかんでおらず、手の甲を口元に当てて喘ぎ声を殺そうとしていた。

 

「マイ、声を押さえるな。誰にも聞こえないから存分に喘ぎなさい、いいね」

 

「えっ、は、い……わかりまし、た……」

 

 俺はショーツをさらに脱がしていくと、彼女の太ももを撫でながらつかむ。片足を上げさせて抜くと、もう片方の膝にショーツが残ったままにする。

 

「では、中に入れるぞ」

 

 彼女の返事を待たず、俺は再び柔らかい太ももを抱える。

 素早く自分もズボンと下着を脱ぐと、腰を下ろし、露出した男根をマイの蜜口にあてがった。

 

 チュプ、と亀頭の先端が濡れ肉に埋まる。

 

 快感が亀頭から広がり、全身がブルリと震えた。

 そのまま彼女を貫くように下から思いきり股間を突き上げる。

 

「はぁッ、ああぁっ――ッ」

 

 弾かれたようにマイが背中を反らせた。その反動で豊乳がたっぷんと大きく揺れる。

 

「ぐっ、ぉぉ……すごい締め付けだ、マイ」

 

 ぐんと腰を突き出すと、彼女の体が再び跳ねる。

 

「ああッ……ん――ッ」

 

「マイ、両手を私の肩に掛けるんだ」

 

「は、いっ……」

 

 マイが俺の両肩にしがみつく。

 これで突き上げの反動が逃げることはないだろう。

 

 俺は片手で彼女の腰を押さえながら腰を動かし始めた。

 

「あぁっ、あっ、あっ、あッ……んっ、ぁ、あっあっあっあっ……」

 

 彼女の片足を持ち上げた対面立位の体勢で、強くピストンする。

 

 股間がじんわり熱くなる。膣肉に包まれた肉棒も燃え上がるように熱い。

 膝下まで水に浸かっているため温度差でよりマイの膣内の熱さを感じる。

 

「大司教さまの、あついっ……んうッ、ああぁっん――ッ」

 

 グニグニとうねる膣中が肉棒に吸い付いてくる。引っこ抜くように腰を下げるたびにきゅうっと吸われて先端から射精しそうになる。

 

 彼女の子宮を押し上げるように腰を突き入れると、何重もの膣ヒダをかき分けて最奥に当たる。そんな抽送の摩擦でますます膣内に熱がこもっていく。

 

 ジュブジュブと肉棒で愛液をかき出す音が、激しいピストンで波立つ水面の音と混ざり合う。

 顎を引きながら発せられるマイの喘ぎ声は、風に揺れる木々のざわめきにかき消える。

 

 自然の音を隠れみのに、俺たちは激しいセックスをしていた。

 

「あぁっ、あっ、まって……だいしきょ、さまっ……きちゃ、うっ……」

 

「ああ、イっていいぞマイ。思いきりイって、処女であることを女神に示すんだ」

 

 腰を強く押し付けながら、俺も体を反らすようにして突く。

 するとカリ首が彼女のお腹側――クリトリスの裏側をこすり上げ、喘ぎ声が甲高いものに変わる。

 

「あぅッ、あッ、ん゛んっ……きちゃう……うぅッ、ぁ……イ、く……イっちゃい、ますっ……」

 

 その悲痛な声に、全身が発火したように熱くなった。

 腰が別の生き物になったようにうねり出し、強烈なピストンを始める。

 

「はぅっ、あぁッ」

 

 一瞬、マイの体が浮いたかと思った。

 

 俺の両肩をつかんでいなければ後ろに倒れていただろう。それほどに彼女の体が仰け反った。

 

 彼女のか弱い細腕が、ひしっと俺をつかむ。

 白い二の腕にわずかな筋肉が見て取れた。これがマイの全力なのだろう。両肩にほんのり食い込む指先は心地いい加減で、それが彼女の非力さを物語っていた。

 

 俺は彼女に深い快楽をお見舞いするため、体の前面をピタリとくっつける。

 二人の間で激しく揺れていた乳房がむにゅうと押し潰され、俺に胸板にその柔らかさを伝えてきた。

 

「さあ、イくんだ」

 

 耳元でささやくと、マイが「ん゛んっ」とくぐもった声を発する。

 

 膣内がぎゅうっと締まり、彼女の体がビクンビクンと震えだす。

 

「ん゛ぅ、うぅぅぅっ――――ッッ」

 

 マイの深爪気味の指先が俺の肩に食い込んだ。

 

 彼女は全身の筋肉を力ませ、強烈な絶頂に襲われていた。

 

 だが俺の抽送は止まらない。

 この一週間の精を吐き出すために精巣がぐつぐつと煮立ち、大量射精の準備を始める。

 

「マイ、舌を出しなさい」

 

 再び耳元で指示を下す。

 

 絶頂に溺れるマイは、ほぼ条件反射のように半開きの口から舌を差し出した。

 

「んぁっ、ん……む、ぁっ、んむっ、んんっ……」

 

 ピンク色の舌にしゃぶりつき、俺の口内に引き入れる。くちゅくちゅと舌を絡めながら重なった唇の感触を堪能する。

 

「ん゛んッ、んっ、んっ、んっ、んっ、ん゛ッ――」

 

 口内でマイの舌を弄びながら、ピストンを強める。

突けば突くほど、彼女に何かを分からせたいという衝動がこみ上げてきて、腰の動きが加速していく。

 

 激しく小刻みな突き上げで、彼女の地に着いているほうの片足が水中で浮く。俺しか寄る辺のない状態で、マイはただひたすらに突き上げられていた。

 

 ジュブジュブと彼女の膣に出し入れし、舌で彼女の口内をかき混ぜる。

 頭がおかしくなりそうなほどの快楽の中、精巣から濁流があふれ出る感覚がした。

 

 強烈な射精感とともに欲望の塊がゆっくり尿道を這い上っていく。

 尻奥がぎゅっとすぼみ全身が力む。

 

 出る――。

 

 ぐぐっと股間を押し込んだ。

 

「ん゛うぅっ――――ッッ」

 

 マイが再び絶頂した瞬間、ドビュルルルッ、ドビュルルッ――と大量の精液が発射された。

 凄まじい放出感と射精感に頭が真っ白になる。あまりの快楽に腰が抜けそうだ。

 

 射精中だというのに腰の動きが止まらない。気持ちがよすぎる。

 

「はぁッ、ぁッ、まっ……あっ、まってっ……も、イって、い、っ……イって、ますっ……」

 

「マイ、まだだっ……まだ、出る」

 

 ジュブジュブジュブと信じられないスピードで肉棒を抜き差しする。

 俺の口から情けない声が漏れ、快感が膨れ上がっていく。

 

「ぐっ、あぁぁっ……!」

 

 精巣から第二波が押し寄せてきて、鈴口から精が放たれた。

 ビュー、ビューっと流れ出て、快楽とともにマイの膣奥へと注がれていく。

 

 気持ちいい。

 気持ちよすぎて失神しそうだ。

 

 俺は精巣が空になるまで、ひたすら彼女の最奥へ精を放ち続けた。

 

 

***

 

 

 気付けば、月の位置が変わっていた。

 

 かなりの時間、俺はマイを抱き締め腰を振り続けていたらしい。

 

 いつの間にか彼女は俺の肩に顔を埋め、全身から力が抜けきっていた。

 対面立位の格好で何度も絶頂し、ついには気を失ってしまったのだろう。

 

 抱えていたマイの片足を下ろすと、彼女の体が倒れそうになった。

 

「おっと」

 

 よろけた体を抱きとめる。

 彼女は気を失いながらも、はぁ、はぁと甘い吐息を漏らしていた。その黒髪をそっと撫でる。

 

 俺はマイに子種汁を注ぎ切った達成感で恍惚としていた。

 

「……驚いたな」

 

 絶倫を自認する俺が、一度のセックスでここまで満足してしまうとは。

 長時間にわたり様々な体位を味わい、何度も射精しなければ満たされなかったはずなのに。

 

 俺とマイは、おそろしく体の相性がいい。

 

 なぜか、そのことは彼女に初めて会った瞬間から分かっていた。

 

 

 マイの膣からゆっくり肉棒を引き抜く。

 

 膣口からトプっと白濁液がこぼれ、水面にボトボトと落ちる。

 

 彼女の楽しい思い出も辛い記憶も詰まったこの場所を、俺の精液が汚していく。

 そんな感覚に得も言われぬ満足感を覚えた。

 

 俺は、いったい彼女をどうしたいのだろうか。

 

 そんな疑問がふっと浮かぶ。

 

 今夜はついカッとなり、マイを乱暴に抱いてしまった。

 激情にまかせて本能のまま犯すなど、生まれて初めてだ。

 

 抱く前に感じていた苛立ちはもう、すっかり霧散していた。

 

 

 

 

 マイを横抱きにして暗い森を進む。

 

 彼女を抱えて泉から上がった俺は、避妊薬を飲ませ、泉のほとりに畳んであった白いローブを着せた。

 乾かすのはテントに着いてからでいいだろうと思い、とりあえず来た道を戻ることにしたのだ。

 

 こうして眠る彼女を運んでいると、数年前を思い出す。

 

 一度だけ、マイが執務室のソファーで眠り込んでしまったことがあった。

 それまでも修練中に眠り込んでしまうことはあったが、呼びかけても起きなかったのは初めてだ。

 確かあの日も、窓の外は雷がうるさかった。

 

 迎えに来た金髪の聖女へ引き渡そうと、マイの軽い体を抱き上げた瞬間。

 沸き上がった思いは何だったか。

 

 意外にも、性欲とは別の感情だった気がする。

 決して結ばれることのない聖女に抱いてはいけない(たぐい)の。

 

 

 ふと木々の向こうに、野営の明かりが見えてきた。

 

 茂みから様子をうかがい、森の近くに誰もいないことを確認する。

 素早く森から出て、裏から回り込みながらマイのテントへと入った。

 

 簡易ベッドに、ゆっくり彼女を寝かせる。

 

 ――炎熱魔法。

 

 魔力を調節し、中に着ている湯浴み着を乾かしていく。

 

「……マイ」

 

 すうすうと寝息を立てる少女に呼びかけてみる。

 

 昔ソファーで眠り込んでしまったとき。

 マイは俺の腕の中で、途中から狸寝入りをしていた。

 

 あの緊張したような寝顔を思い出すと、つい口角が上がってしまう

 

 今夜は、本当に眠っているようだ。

 

 ベッドに腰掛け、再び防護魔法を展開する。

 対象はこのテントだけでいいだろう。その分、強度を上げる。

 

 

 俺は彼女の寝顔を眺めながら、寝ずの番を始めた。

 

 




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第16話 新たな力

 夜明け前、空がわずかに白み始めたころ。

 

 静かに眠るマイのまぶたが薄く開いた。

 

「ん……おはようございます、大司教さま」

 

「おはようマイ。もうすぐ出立の時間だ」

 

 俺はベッドに腰掛けながら、彼女の頬に手を当てる。

 魔力を流し込み、マイの状態を確認した。

 

「んっ……」

 

 ふむ。

 長旅の疲れは取れているようだ。

 

「起き抜けだが魔力は安定している。相変わらず寝起きがいいな」

 

「……大司教さまとの修練の、おかげです」

 

 マイが寝ぼけ(まなこ)をこすりながら体を起こす。

 

「あ、服……着せてくれたのですか?」

 

「ああ。君は検査中に失神してしまったからね」

 

「……っ、ご、ごめんなさいっ……」

 

 昨夜の泉での激しい情事を思い出したのだろう。彼女は顔を真っ赤にしてローブの胸元をぎゅっと握った。

 

 ローブの胸元の紐を結んでいないので、襟元がゆるんで彼女の魅惑的な谷間がのぞいている。白い上乳には赤いキスマークが無数に刻まれ、わずかに露出している肩には俺の歯形が付いていた。

 

「跡が残ってしまったな。痛みはないか?」

 

 歯形を指差して言う。

 マイも自分の肩を見て、ますます顔を朱くした。

 

「え、あ……その、チクリとしましたけど……痛くは、なかったです」

 

「そうか」

 

「……あ、あの、どうして……その、噛む……のですか」

 

 彼女は自分の肩口を見ながら俺に問うてきた。

 

 うつむき、目元が黒い前髪で隠れてしまったのでその表情はうかがえない。

 ただ、声が少しだけ上ずっている。

 

 獣欲の発露だとは言えまい。

 勝手にテントを抜け出した罰という理由も、無用な恐怖を与えてしまう気がする。

 

「……検査を早く終わらせるためだ。噛んだほうが処女を確かめるのに手っ取り早いからな。滅多には行わないから安心していい」

 

「そう、なのですか……」

 

 マイはいまいち釈然としない様子だ。

 この言い訳ではさすがに無理があったか。

 

「ではあの、跡を付けるのも……理由があるのでしょうか?」

 

 早朝から質問責めだ。

 

 跡……キスマークをなぜ付けるのか。

 それも検査のたびに体中の隅々にまで。

 

 マイを独り占めにしたいから。

 俺のモノだという証を刻み込みたいから。

 何も知らない無垢な白肌に淫らな跡を付けるのが愉しいから。

 吸引するたびに可愛い声を漏らして震える様子が見たいから。

 

 どれも到底明かせない低俗な理由だ。

 

「私が、そうしたいからだ」

 

 本音に近い言葉を口にする。

 寝ずの番で頭が上手く働かず、適当な言い訳が思いつかなかった。

 

「そう、なんですか」

 

 マイが胸元の赤い印に触れ、ふっとため息をつく。

 恥ずかしそうに下唇を噛む様子からは、感情が読み取れない。

 

「私はテントに戻って出立の支度をする。君も儀式用のローブに着替えを。ああ、治癒魔法で全身の跡を消しておきなさい。」

 

 いつもより跡を付け過ぎた。

 首筋以外はローブで隠れるが、魔獣討伐の際に服がはだけないとも限らない。

 

「はい……わかりました」

 

 彼女は曖昧に微笑んだ。

 

 

***

 

 

 俺たちは夜明け前に出立し、早朝には目的地へ到着した。

 森のほとり、広場になっている場所に簡単な野営を構築し、魔獣討伐の準備を進める。

 

 そして。

 

「――これより、魔獣を滅せんとする勇敢な者達に、聖女から女神の祝福を授けます」

 

 口上を述べると、並び立つ百四十余りの兵士達が一斉にひざまずく。

 

 さすが訓練された精鋭だけあり、俺の隣に立つ美少女に骨抜きにされる者はいない。何割か頬を染めている者はいたが……先頭に並ぶ第二王子を筆頭に。

 

 俺はマイに小さくうなずく。

 

 彼女もコクンうなずき、兵士達の前に一歩進み出た。

 

「皆さんに、女神の加護があらんことを。……どうか無理をせず、何かあったらすぐに後方へ来てください。私が、癒しますから」

 

 マイはほぼアドリブの口上を述べると、最後に兵士達を祝福の光で覆った。

 

 あたり一面が白い輝きで包まれる中、最前列の第二王子が顔を上げる。

 

「聖女殿っ、我々は魔獣一匹たりともあなたのもとへは向かわせません!」

 

 感極まった様子で、マイの言葉とは微妙に食い違う答えを返す。

 

 そもそも祝福を授けている間は頭を上げないのが作法なのだが。

 どうも第二王子は、そういったルールよりも感情が優先してしまうタイプのようだ。

 

 マイも気まずそうに微笑む。

 その微笑に、第二王子はまたも見惚れていた。

 

 

「――では、散開!」

 

 第二王子の掛け声で、兵士達が森へ分け入っていく。

 

 俺たちも数人の精鋭に守られながら最後尾に付いた。

 

 森に入ると、足場の悪さに驚く。

 太い木の根がびっしりと地表を覆い、少し進むだけでも足腰を要求してくる。

 上を見れば大木の枝葉がびっしりと天を覆い、朝陽を遮っていた。

 

「マイ、暗くて見通しも悪い。足下に気を付けなさい」

 

「はい、大司教様」

 

 彼女は緊張した様子で、慎重に一歩一歩を踏み出している。

 

 先に入った兵士達の姿はもう見えず、あたりは静寂に包まれていた。

 

「大司教様、聖女様、我々はここで待機となります」

 

 それは見上げるほどの巨木だった。この大木ぞろいの森でも群を抜いて高い。

 

「マイ、ここでしばらく休憩だ。すぐに治癒を掛けられるよう心の準備をしておきなさい」

 

「はい」

 

 すると護衛の兵士の一人が口を開く。

 

「ご安心ください、我々は森での討伐に慣れております。今回は人数も多い、それに」

 

「それに?」

 

「今日は王子殿下もおりますから」

 

 次の瞬間、ドーンとけたたましい爆発音が響いた。

 前方に真っ赤な火柱が立ち上っている。第二王子の炎熱魔法だろう。

 

 俺は思わずマイを見た。

 

 攻撃魔法で村を焼かれた彼女にとっては、トラウマを刺激されかねない音と光景だったからだ。

 

「大丈夫か?」

 

 彼女にしか聞こえない声でつぶやく。

 

「はい、大丈夫です。……聖女ですから」

 

 マイが穏やかな笑みを浮かべる。

 手元も震えていない。無理をしているわけではないようだ。

 

 知らぬ間にトラウマを克服したのだろうか。

 

「私が防護魔法を展開しているから安心していい」

 

 兵士達にも気づかれぬよう、薄い防護魔法で俺とマイの周囲を覆っている。

 低級魔獣の不意打ちくらいなら防げるし……兵士の奇襲にも耐えられるだろう。

 兵士達の中に裏切り者がいないとも限らない。

 

「はい……わかってます、ので」

 

 マイが恥ずかしそうに口元をゆるめた。

 

 微弱な防護魔法は、同じ使い手でないと中々察知できないはずだが。

 彼女は私の魔力に敏感なのかもしれない。

 

 ドーンと再び重低音が響く。

 

 前方を真っ赤に染める炎熱の柱が上がり、鳥たちが一斉に飛び立つ。

 

 今回の作戦はいたってシンプルだ。

 

 まず兵士達が森に散り散りとなり魔獣を捜索する。

 出くわしたら追い込んだり挑発したり、囮になったりして、第二王子の待つ開けた場所まで誘導。

 魔獣が第二王子のもとに集まったところで、炎熱魔法で一掃するというものだ。

 

 これなら味方にほとんど損害を出さず、聖女のいる後方へ魔獣を討ち漏らすこともない。

 

 だが。

 

「まずいな」

 

 俺は防護魔法の強度を一段階上げた。

 

 第二王子の炎熱魔法の威力が強すぎる。

 

 おそらく後方にいるマイを意識して力んでしまっているのだろう。彼女に自分の魔法を見せたいという欲求も加わっているのかもしれない。

 

 だが強すぎる魔法は、必要以上に魔獣を刺激する。

 

 それは最奥から上級魔獣を誘い出し、その気配に驚いた低級魔獣の大暴走へとつながってしまう。

 

「マイ、私の後ろに下がっていなさい」

 

「えっ……」

 

 彼女を俺と巨木との間に隠す。

 

「――南東、小狼(ころう)型が複数!」

「南西からも、ちっ……熊型が五はいるぞ!」

 

 悪い予想が当たったらしい。

 

 護衛の兵士達が俺とマイを半円状に取り囲む。防衛陣形だ。

 

「聖女様をお守りしろ!」

「西、あれは……大狼(たいろう)型だ!」

 

 彼らの視線の先、暗い茂みの奥で大きな影が動いた。

 人一人をたやすく丸飲みにできそうなほどの巨大な狼だ。兵士が縦に二人分くらいの高さから深紅の瞳がこちらを眺めている。

 

 紛れもなく、上級魔獣だ。

 

 王都の精鋭でも倒すには十人掛かりと聞く。

 ここにいる護衛の兵士は精鋭中の精鋭のはずだから、倒せないことはないだろう。

 

 ただし、相手が一匹の場合なら。

 

 俺たちは十を超える低級魔獣にも囲まれている。

 

「ワ゛ォォォンッッ――」

 

 腹に響く遠吠えとともに、大狼型が飛び込んできた。

 

「怯むなっ!」

「迎え撃て!」

 

 兵士達が攻撃魔法を打ち、剣技を放つ。

 ガキィンッ――とつばぜり合いの音がして、気づけば目の前で兵士の剣が大狼型の牙を防いでいた。兵士のかかとが地面にめり込む。

 

 魔獣は太い前脚を振り上げると、その兵士を切りつけようとした。

 再びガキィンッと音がして、別の兵士がその爪を弾く。

 他の兵士達も大狼型の黒い体躯を斬りつけ、攻撃を弾き、翻弄していた。

 

 討ち取るのは時間の問題だろう。

 

 俺は背後にいるマイに声を掛けた。

 

「マイ、そこから治癒は届くか? 兵士達が傷ついたら即座に回復させるんだ」

 

「はい、できます」

 

 彼女はもうすでに、半身を乗り出し手のひらを兵士達に向けていた。

 

「よろしい。兵士達の動きをよく見て――」

 

 バチンッ――と強烈な破裂音が鳴った。

 

「ちっ、もう襲ってきたか」

 

 目の前で、人の背丈ほどもある灰色の狼が三匹、宙空で静止している。小狼型だ。

 俺たちに飛びかかろうとして防護魔法に阻まれたのだろう。

 

「大司教さまっ」

 

「大丈夫だ、君は兵士達を見ていなさい」

 

 俺は防護魔法の強度を最硬度まで上げた。

 

 バチッ、バチッと小狼型が次々に襲ってきて、弾かれる。

 

「グオォォォッッ」

 

 低い雄叫びを上げ、今度は巨大な熊が飛び込んできた。四足状態でも俺の背丈を優に超える大きさの、熊型だ。それも二匹。

 

「次から次へと」

 

 別方向から飛び込んできた熊型は高く跳躍すると、覆いかぶさるように降ってきた。

 

 バチィンッ――と大きな破裂音が鳴り、熊型が半円球の防護魔法に乗っかる。

 俺は真上に手をかざすと、防護魔法を重ね掛けした。

 

「ギュオッッ」

 

 俺の手のひらから展開された防護魔法が、最初に張った防護魔法を打ち破り、そのまま魔獣達を弾き飛ばす。

 

「聖女様! おい聖女様の守りをっ」

 

 兵士の一人がこちらへの襲撃に気づき声を上げる。

 

「問題ない! 君たちはその個体に専念を」

 

 俺は懲りずに襲い掛かってくる低級魔獣を弾き飛ばしながら、兵士達に声を張り上げた。

 現状、一番の脅威は上級魔獣だ。あれは俺の防護魔法でも防ぎきるのが難しい。

 

 幸い、大狼型は血をだらだらと流し動きも鈍っている。

 あの個体を倒し切ってから、こちらに迫る低級魔獣を一掃してもらったほうが確実だ。

 

 それまで俺が防護魔法をもたせればいい。

 

「マイ、回復だ」

 

「はい」

 

 背後の彼女に指示を出す。

 

 伸ばされた手のひらが淡く光り、目の前で手傷を負った兵士を治す。

 

「上出来だ」

 

 黒髪を撫でてやりたくなったが、あいにく俺の両手は防護魔法の維持で塞がっていた。

 

 

 どれくらい経っただろうか。

 

 兵士達が上級魔獣を着実に追い詰めていく中、俺も襲いくる低級魔獣を次々に吹き飛ばしていた。

 

 もう何度、防護魔法の重ね掛けをしたのか覚えていない。

 

 魔獣達も何度も弾かれた衝撃や地面に叩きつけられたダメージで、だいぶ消耗しているようだ。動きがワンパターンになってきている。

 

 それでも執拗に俺たちを襲ってくるのは、魔力を帯びた人間の血肉が魔獣の大好物だからだ。

 その中でも、治癒の魔力は彼らにとって格別らしい。聖女であるマイならさぞ美味なのだろう。

 

 だからこそ、魔獣討伐で聖女は守りの厚い最後尾に配置される。

 

「マイ、魔力は残っているか」

 

「大丈夫です」

 

 そう言うマイの額には汗がにじんでいる。

 先ほどから何度治癒を放ったか分からない。彼女の魔力も限界が近いはずだ。

 

 魔獣達も自身の体力の限界を悟ったのか、捨て身に打って出てきた。

 

 十を超える魔獣が一斉に跳躍し、襲い掛かってくる。

 

 俺はいったん防御魔法を解除すると、彼らの爪や牙が肉薄するタイミングで魔力を爆発させた。

 

「弾け飛べ」

 

 最大出力の防御魔法を放つ。

 

 バチィィンッ――。

 

 一瞬にして広がった防御魔法とぶつかり、魔獣達が吹き飛ぶ。

 

 飛び掛かってきた勢いと落下のスピードをそのまま利用した。ぶつかる力が大きいほど、その反動も凄まじい。

 

 魔獣達の体は大木を超えるほど天高く舞い上がり、そのまま落ちてゆく。

 

「ギヤッ……」

 

 硬い根の這う地面に叩きつけられて、魔獣達が潰れたような鳴き声を上げる。

 魔獣がこの程度で死ぬとは思えないが、しばらくは動けないだろう。

 

 見れば、兵士達が相手をしている大狼型も、左の前脚を失い満身創痍だ。後はとどめを刺すだけだろう。

 

「ふぅ」

 

 思わずため息をつく。

 フルパワーで魔力を放ったせいか、防御魔法が一瞬解けた。

 

 そのとき。

 

「大司教さまっ」

 

 マイが声を上げる。

 その視線の先、手負いの小狼型がまっすぐ飛び掛かってきた。

 

 急いで魔力を練り上げ、手のひらをかざす。

 

 くそ、ギリギリか。

 

「来ないでっ!」

 

 マイの左手が伸びる。

 

 その瞬間、魔獣がビクンと震えて静止した。

 

 ――防御魔法。

 

 俺の手のひらから展開された魔力が小狼型を弾き飛ばす。

 

 最後の特攻だったらしく、小狼型は木の幹に体を打ち据えるとそのままピクリともしなくなった。

 

「……マイ、今のは」

 

「え……?」

 

 俺とマイはお互いに戸惑いながら、目を合わせる。

 

 すると背後でドンと音がした。

 

 振り向くと、大狼型の頭部が燃え盛っている。黒い巨体がゆっくりと倒れ込み、やがて動かなくなった。

 

「マイ殿っ、ご無事ですか!」

 

 第二王子が兵士達を引き連れて走ってくる。

 

 とすると今のは王子の炎熱魔法か。

 見事に魔獣の頭部だけを燃やしている。これなら草木の密集するここでも燃え移ることはない。

 

 最初からその見事な魔力制御を行ってほしかった。

 

「周囲の魔獣を一掃せよ!」

 

 王子の掛け声で散らばった兵士達が、次々に低級魔獣達を打ち倒していく。

 

 どうやら戦いは終わりのようだ。

 

「ふぅ」

 

 俺は防御魔法を維持したまま、もう一度ため息をついた。

 

 

***

 

 

 死んだ魔獣の事後処理を一部の兵士に任せ、俺たちは帰路についていた。

 

 木の根を上ったり下りたりしながら歩いていると、第二王子がマイの隣に並んだ。

 

「マイ殿、申し訳ありませんっ……今回の魔獣の暴走は、全て私のせいです。私が魔法を考えなしに使ったせいだ」

 

 意外にも第二王子は素直に謝罪してきた。

 その顔は本当に申し訳なさそうで、良くも悪くも不器用な性格なのだと分かる。

 

 マイを助けるために走ってきたときの必死な形相といい、彼女を本気で思っているのが伝わってくる。悪い人間ではないのだろう。

 

 ただ、いつの間にか彼女の呼び方を「マイ殿」に変えているのは少し気になるが。

 

「いえ、王子殿下の隊の皆さんも怪我がなくて良かったです。私たちも無事ですから、気に病まないでください」

 

 マイが穏やかな聖女の笑みを浮かべる。

 

 その(ひたい)に浮かぶ汗に、第二王子は気づいていないのだろう。彼女の言葉に顔を明るくし、すぐに真剣な表情に戻した。

 

「今回の件は私の責任です。どうかこの後、正式に謝罪をさせてください」

 

「いえ、あの……」

 

 すると兵士の一人が王子を呼ぶ。野営の守りについて相談があるらしい。

 

 「ではマイ殿、また後で!」と言い残し、王子は銀髪を揺らしながら走り去っていった。

 

 

「マイ、いいか?」

 

「はい、大司教様」

 

 俺が声を掛けると、マイが隣に来る。

 

「先ほど、君は小狼型……灰色狼の姿をした魔獣の動きを止めた。自分で気づいているか?」

 

「あ、はい……なんとなくですが」

 

「どうやった?」

 

「どうって、えと……分かりません。あのときはただ、無我夢中で」

 

「そうか」

 

 間違いない。

 

 あれは()()()()だ。

 

 電撃魔法の亜種で、催眠魔法よりも攻撃性が高い。

 

 魔法は、使用者の精神に大きく影響する。

 どうひっくり返っても心優しい聖女が覚えられるものではない……はずだ。

 

 彼女の特殊な過去が、影響しているのだろうか。

 理由は不明だが、万が一覚えられたとしても、攻撃的な精神が影響して治癒魔法を使えなくなってしまうかもしれない。

 

 本来なら、覚えさせないほうがいい。

 だが。

 

「……マイ、あれは麻痺の術という」

 

「まひの、術?」

 

「ああ、相手の体を痺れさせて一定時間動けなくする。強力なものなら相手の脳を灼き切ることすら可能だ」

 

「そんな……それを、私が……?」

 

「君は、麻痺の術にも適性があるようだ。催眠魔法より、はるかにずっと」

 

 なぜか俺は……興奮を感じていた。

 

「マイ、覚えたいか?」

 

 低い声で問いかける。

 

 彼女はしばらく下を向いて沈黙し、やがて俺を見上げた。

 

「覚えたい、です」

 

「なぜだ?」

 

「私も……守りたいから」

 

 こちらをまっすぐ見つめる金色の瞳に、暴力的な色は微塵も含まれていない。

 ただ無垢で純粋な思いだけが見て取れた。

 

「やはり、君は面白い子だ」

 

「え?」

 

「いや、なんでもない。……マイ、放ったときの感覚を覚えているね」

 

「はい」

 

「ではその感覚を何度も再現しなさい。君ならすぐに扱えるようになるだろう」

 

「よいの、ですか?」

 

「それが君の望みなのだろう」

 

「あ、ありがとう、ございますっ……」

 

 マイが感極まったように下唇を噛み、うつむいた。

 

 本当に、面白い。

 

 誰よりも理想的な聖女であるのに、これまでのどんな聖女にも当てはまらない。

 俺が幼い頃から思い描いていた理想の聖女像を、たやすく(くつがえ)してくる。

 

 本当にたまらない女だ。

 

「そうだ、マイ」

 

「なんでしょうか?」

 

 俺は彼女の黒髪に手を置くと、ポンポンと撫でた。

 その頭頂部にまで汗がにじんでいるのを感じる。

 

「兵士達の治癒、見事だった。彼らの命があるのは君のおかげだ。よく頑張ったな」

 

「ん……ッ」

 

 マイは切ない声を漏らすと、一度だけ肩を震わせた。

 



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第17話 聖女の願い

 森を出ると、空は夕焼けに染まっていた。

 

 薄暗い森の中にいたので気づかなかったが、もう半日以上が経過していたらしい。

 

 ならばこの異常な疲労感と空腹感も納得できる。

 俺たちは飲まず食わずで魔獣の猛攻を防いでいたのだ。

 

「マイ、テントに戻ったらすぐに食事を取って眠りなさい。明日はまた王都帰還への長旅になる。体力を回復させておくんだ」

 

「分かりました。……大司教さまは?」

 

「私は少し書類の整理がある」

 

 

 夕陽に染まる野営地に着くと、俺はここまでずっと護衛をしてくれていた兵士達のリーダーを呼び止めた。

 マイに聞こえないよう、彼に耳打ちをする。

 

「疲れているところ申し訳ないが、今夜テントの護衛もお願いできるか?」

 

「はっ、元よりそうするよう王子殿下に命じられております。また魔獣が暴走するとも限りませんので」

 

 それもあるが、俺の心配事はもう一つある。

 

「聖女のテントには誰も近づけないでほしい。何人たりとも、絶対にだ」

 

「はっ、もちろんです!」

 

「食事の毒見も、君たちの誰かが行ってくれないか?」

 

「承知しました!」

 

 一緒に死闘をくぐり抜けたから分かる。

 彼らは信頼に足る者達だ。

 

 もし襲撃者の仲間であれば、魔獣の暴走に紛れて俺を攻撃することもできただろう。しかし彼らは命がけで俺とマイを守ってくれた。

 

 

 テントの周囲に兵士達が配置に付くのを待ってから、俺はマイに声を掛ける。

 

「ではな、マイ。今夜はしっかり休みなさい」

 

「はい」

 

「くれぐれも勝手にテントを出ないように。もし破ったら、また厳しい罰を与えるからな」

 

「……っ、はい……」

 

 耳元でささやくと、彼女の耳がみるみる赤くなった。

 

 泉での激しいセックスを思い出しているのだろう。

 瞳を揺らしてうつむいてしまった。

 

 それでいい。

 

 

 マイがテントの中に入っていくのを見届けてから、俺も自分のテントに入る。

 

 荷物を床に落としながら、簡易ベッドまでたどり着く。

 

 そこで視界がグラリと揺れ、シーツの上に倒れ込んだ。

 

「まったく……俺としたことが」

 

 体が重く、全身が泥の塊になったみたいだ。

 酷い脱力感で指先一つ動かすことができない。

 

 魔力枯れだ。

 

 体が失った魔力を補充しようと、強烈な睡魔を呼び起こす。

 むしろよく野営地まで歩いてこれたものだと思う。あの特大の防護魔法を放った瞬間、俺の魔力はほぼゼロになった。

 

 野営地に着くまでマイの周囲に防護魔法を展開できていただけでも奇跡だ。

 

 だが今の俺には、わずかな防護魔法を展開する余力もない。

 

 第二王子が陣頭指揮を執り、過剰なほどに野営地の守りを固めている。

 テントを見張るあの兵士達も信用できる。

 

 ここは、彼らを信じるとしよう。

 

 俺はまぶたの重さに抗うことができず、眠りの底へ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が浮上していく感覚がして、俺は薄く目を開いた。

 

 視界は白いシーツに覆い尽くされている。

 

 どうやらうつぶせで倒れた体勢のまま熟睡していたようだ。

 

 指先を動かしてみる。

 どうやらわずかばかり体勢を変える程度には、体力は回復しているらしい。

 

 俺は寝返りを打ち、仰向けの体勢になった。

 

 天井が暗い。テントの入り口を見ると、差し込む光がなかった。

 

 どうやら夕暮れから夜になるまで眠っていたらしい。

 

「マイ……」

 

 俺はわずかに回復した魔力を振り絞り、さっそく遠視の術を発動した。

 

 まぶたの裏に彼女の姿を映し出す。

 

 マイは、小高い丘の上に立っていた。

 

「ここは……確か」

 

 野営地の外れにある、森を見渡せる丘だ。

 

 彼女は儀式用のローブから普段使いの白いローブに着替えている。

 

 どうやら誰かと話をしているらしい。

 その視線の先にいるのは――第二王子だった。

 

 おそらく王子が悪気なく強引に連れ出したのだろう。

 王子の強い頼みとあれば、護衛している兵士はもちろんマイも易々とは断れない。

 

 彼女と王子は人一人分くらいの間隔をあけて並んでいた。周囲に他の人影はない。

 いや、よく見れば丘を取り囲むように兵士が配置されている。

 

 マイを守るためのものなのだろうが、俺には彼女を丘に閉じ込める檻のように見えた。

 

 一瞬にして、どす黒い殺意のような感情が沸き立つ。

 

 急いで体を起こそうとするが、背中が少しだけ浮き、すぐにベッドに沈んだ。

 歩けるようになるには、もう少し掛かるらしい。

 

 いざとなれば、(ふところ)に隠し持っている魔力増強剤を飲んででも駆け付けよう。

 副作用はあるが、致し方ない。

 

 俺は胸元の小瓶に手を置きながら、マイと王子の会話に聞き耳を立てた。

 

 

「――マイ殿、本当にすまなかった。今後あなたを随行に呼ぶときは絶対に同じようなミスをしない。どうか許してほしい」

 

 第二王子が頭を下げる。

 

「あの、頭を上げてください。そんなに何度も謝らなくても、私は元より全員が無事に帰還できたことを喜ばしく思っていますから」

 

 どうやらこの丘でもさっきから謝罪を繰り返しているらしい。

 

「そ、そうですか」

 

「はい」

 

 マイはふわりと笑う。誰もが赦されたような気分になる聖女の微笑みだ。

 

「あなたは……マイ殿は、本当にお優しい」

 

「そんなことはありません」

 

「優しいあなたには、今回の魔獣討伐は酷だったのではないですか? 魔獣もこの世界に生きるものの一つだ。万人を愛する聖女にはさぞお辛い光景だったでしょう」

 

 やはり、微妙に会話が成り立っていない。

 

 彼女も困ったように微笑んだ。

 

「私は……森の外れの農家の娘で、幼い頃から教会で暮らしていました。どちらもとても田舎で、時おり魔獣の脅威にさらされていました。その恐ろしさを、私は十分に知っています。決して人とは分かり合えないことも……」

 

 魔獣は、人や動植物が魔力を過剰に摂取し、思考を失った成れの果てだ。

 ただ魔力を――魔力を帯びた血肉を食らうために生きている。

 

 言葉や情は、そもそも通じない。

 

「意外ですね。聖女ならば魔獣にも慈悲をお持ちかと」

 

「歴代の聖女様は、そうだったかもしれません。私もそうであったらと思います。でも、現実を見なければとも思うのです。聖女の力には限りがあって、だからこそ祝福を授ける相手を選ばなければいけないときもあると……そう教わりましたから」

 

 これは、俺の教えだ。

 

 聖女の優しさには際限がない。

 かつて魔獣にも慈悲を与えようとした聖女は、現実とのギャップに気を病んで治癒の力を失ってしまった。

 

 だからマイには、魔獣とは分かり合えないのだと口酸っぱく教えてきた。

 

 そのせいで――。

 

「――でも、だからこそ私は人を信じたいと思うのです。どんな人とでも、いつかはきっと分かり合える。女神の前に人は皆平等で、手を取り合える存在なのだと、私は信じたいです」

 

 彼女は、人に対して底なしの優しさを発揮してしまう。

 それはマイの美徳であり、弱点だ。

 

 世の中には、ゴーゼ司教のように決して分かり合えない人間もいる。

 

 いや、俺のような人間に騙され体を差し出してしまう彼女のことだ。

 もしかしたらゴーゼ司教にすら、慈悲をかけようとするかもしれない。

 

「分かり合う、ですか。……私も、あなたと分かり合うことはできますか?」

 

 王子がマイのほうを向き、真剣な眼差しを送る。

 その瞳には熱い恋慕の情がこもっている。

 

「ええ、きっと」

 

 一方のマイは穏やかな聖女の笑みを送り返す。

 王子の真意には微塵も気づいていない様子で。

 

 その純粋な笑顔に、王子は呆れたような苦笑いを浮かべる。

 

「……あなたは、体だけでなく心のほうも無垢なのだな」

 

「えっと」

 

「先ほど、女神の前に人は平等と言いましたね」

 

「はい」

 

「では、あなたも自由に恋をしてもいいのではないか?」

 

「えっ……」

 

「あなたも恋をする権利はある。でないと不公平ではないですか」

 

「こ、恋……?」

 

 マイは目を見開き、顔に戸惑いを浮かべる。

 さっきまでの凛とした雰囲気は消え、年相応の少女に戻っていた。

 

「皆恋をして、むつみ合い夫婦となる。それが人であるはずだ。なぜ聖女にだけそれが許されない」

 

 王子がマイに一歩近寄る。

 手を伸ばせば抱き締められる距離だ。

 

 一方の彼女は、思い詰めたように下を向いている。

 

 やがて、覚悟を決めたように王子を見上げた。

 

「王子殿下、男女のむつみ合いとは……どのようなことをするのですか?」

 

「なっ……」

 

 マイの真剣な眼差しに、王子の顔が真っ赤に染まる。

 

「く、口づけだ」

 

「……口づけ」

 

 マイは指先で、自分の唇に触れた。

 しなやかな指がしっとりと色づく唇を撫でる。

 その吸い込まれそうな金色の瞳は潤み、熱を帯びていた。

 

 ゴクリと、王子が喉を鳴らす。

 

「こうして見つめ合い、唇を重ねるのです。そうすれば……言葉は無くとも気持ちが通じ合うのです」

 

 王子が再び半歩踏み出す。

 マイのローブに王子の着ている皮鎧がくっつく。

 

 しかし彼女は王子の接近を気に留める様子もなく、もう一度彼を見つめた。

 

「気持ち……相手の気持ちは、どうしてそうだと分かるのですか?」

 

「そ、それは……自ずと感じるものでしょう」

 

「自ずと、感じる……」

 

 マイはその言葉を、まるで宝物のように噛みしめた。

 

 自分の胸に手を当て、ほんのりと眉間にシワを寄せている。

思い詰めたような、何かに気づいたような顔だ。

 

「……試してみますか?」

 

「え?」

 

 王子がもう半歩を踏み出した。

 

 俺は懐に隠し持った小瓶に手を掛け、フタを開ける。

 このテントから丘はそう遠くない。

 

 が、マイは王子の体と接触する前に後ずさった。

 

「あっ……」

「危ないっ」

 

 よろけて後ろに倒れそうになったマイを、王子が腰に手を回して支える。

 

 しかしその勢いで彼女がずっと握っていたローブの前紐が(ほど)け、ゆるんだ襟元から白い胸元が露出した。

 

 白くて豊満な谷間に、王子の視線が釘付けになる。

 

 その無垢な素肌には、赤い跡が一つだけ刻まれていた。

 

「見ないでくださいっ……」

 

 マイが慌てて胸元を両腕で隠す。

 

「す、すみませんっ……マイ殿」

 

 王子がゆっくりと彼女の体から離れる。

 

 マイはその間ずっと、胸元をぎゅうと閉じていた。

 

「……王子殿下、そろそろ失礼いたします」

 

「あ、ああ……私のほうこそ、こんな夜半に連れ出してすみません」

 

 一瞬のことだったので、マイの胸に付けられたキスマークには気づいていないだろう。彼女の魅惑的なふくらみを見てしまった衝撃で、それどころではなかったはずだ。

 

 王子の頬はいまだに紅潮している。

 ただ、マイが明確な拒絶をしたことに、少なからずショックを受けているようだった。

 

 俺は小瓶のフタを閉め直すと、懐にしまい込んだ。

 

 

 

 

 マイが胸元を手で押さえながら、丘を下る。

 

 下り坂だからだろう。彼女は少し早足だった。

 

 野営地に戻ると、並び立つテントの間をまっすぐ進む。歩く速度は早いまま。

 

 やがて一つのテントの前で立ち止まる。

 

 俺やマイの食事を用意しているテントだ。中には、あの護衛の兵士の一人がいた。

 彼女は胸元の前紐を締め直すと、一度息を吐いてからテントの中へ進んだ

 

「こんばんは」

 

 挨拶をすると、兵士が勢いよく立ち上がる。

 

「せ、聖女様、なぜこのような場所へ!? もう王子殿下の用事は済んだのですか?」

 

「あの……大司教様のお食事は、まだありますか?」

 

「え、大司教様の……ええはい、まだお取りになっていないようです。毒見は済んでいるのですが」

 

「では、私が運んでもいいでしょうか」

 

「聖女様が自らですか!? いやいいですが……そういうのは私どもの務めでして」

 

「お願いします」

 

 頭を下げるマイに、兵士は慌てた様子で両手を出す。

 

「あ、頭を上げてください。分かりました聖女様、ではよろしくお願いします」

 

「ご無理を言って申し訳ありません。ありがとうございます」

 

 安堵したようにニコリと微笑む美少女に、兵士はしばし固まっていた。

 

 

 お盆を持ったマイが、テントの間を歩く。

 

 さっきとは打って変わって慎重な足取りで、お盆の上の冷めたシチューがこぼれないよう一歩一歩を踏み進めている。

 

 彼女は俺のテントの前まで来ると、深呼吸をした。

 

 意を決したようにテントの入り口をくぐる――。

 

 

「――大司教さま。マイです」

 

 

 その声で、俺はまぶたを開けた。

 

「入りなさい」

 

 厳かな声を発してみる。

 どうやら声は出るようだ。

 

「失礼します。お食事を持ってきました」

 

「君がわざわざ持ってきたのか」

 

「はい、あの……えと……」

 

 マイがお盆を持ったまま言葉に詰まる。

 

 聖女は嘘が付けない。

 このまま俺が黙っていたら、彼女は洗いざらい話してしまうだろう。

 

 おおかた俺の不調に勘付き、心配になったというところか。

 いや、王子に迫られたことで心細くなったのかもしれない。

 

 幼い頃も、彼女は不安なことがあると、よくこうして些細な用事を見つけては俺の執務室に来たものだ。

 今回も、そうなのだろう。

 

「大司教さま、お体の具合が悪いのですか?」

 

 マイが心配そうに聞いてくる。

 

「平気だが、なぜだ?」

 

「お顔が少し、赤いような気がします」

 

「気のせいだろう」

 

 俺は渾身の力を振り絞って体を起こした。

 

「あ、あの無理に起きなくてもっ……」

 

「無理はしていない。食事をいただこうか」

 

 低い声で言うと、彼女はゆっくりと俺の膝にお盆を置いた。

 

 冷たくなったシチューとパンを眺める。

 さすがにまだ食欲は湧かないらしい。

 

「あの、大司教さま」

 

「なんだ?」

 

「私は、治癒の修練に励んできました。だから、その……その人が不調かどうかくらい、分かります」

 

 マイがすべてを見透かすような瞳でじっと見つめてくる。

 

 確かに、聖女相手にこの手の嘘は分が悪すぎるようだ。

 

「……少し、疲れただけだ。じきに回復する」

 

「では、治癒を掛けます」

 

 彼女が細腕を俺の額へ伸ばしてきた。

 

 治癒魔法は相手の体に魔力を流し込み、活性化させる術だ。

 その意味では、俺の魔力枯れの回復も早まるだろう。

 

 だが。

 

「だめだ」

 

 俺はマイの腕をつかんだ。

 その小さい体がビクリと震える。

 

「なぜ、ですか」

 

「君も疲れているはずだ。それに治癒魔法はおいそれと気軽に使っていいものではない」

 

 俺の防護魔法が心もとない今、万が一彼女の身に何かがあったとき、癒せるのは彼女自身しかいない。

 俺はなるべくマイの治癒魔法を温存しておきたかった。

 

「大丈夫です」

 

 マイの腕にぐっと力が入るのが分かった。

 

「だめだ」

 

「だめじゃ、ないです」

 

 ここまで強情な彼女は初めてだ。

 

 仕方がない。

 

「マイ、君はあれだけ念押ししたのにさっきテントを抜けたね。いったい何をしていたのだ?」

 

「それは、あの……王子殿下に、呼ばれて」

 

「私は絶対にテントから出るなと言ったはずだ。王都に帰ったら厳しい罰を与えるから、覚悟しなさい。あの泉でしたときとは比べものにならないくらい、きつい罰だ」

 

「っ……」

 

 マイがもう片方の手で胸元をぎゅっと押さえた。

 みるみる顔を赤らめ、下を向いてしまう。

 

 そう、それでいい。

 

 そうして俺に怯え、俺の胸の中でただ守られていればいいのだ。

 

「大司教さま」

 

「なんだ?」

 

「私はもう、幼くありません」

 

「それがどうした」

 

「魔力の量も、増えました。自分の限界だって分かっています」

 

「そうか」

 

 確かに、そうかもしれない。

 

 俺はつい、マイを出会った頃の彼女に重ねてしまう。

 彼女の言うとおり、あれだけ森で治癒を使ったはずなのに体力にはまだ余裕もありそうだ。

 

「大司教さま……もっと、私のことを信じてください」

 

 マイが下を向いたまま喉を震わせる。

 肩をビクつかせ、今にも泣きだしそうだ。

 

 しかし、その白い頬に涙は流れなかった。

 

 その代わり、ゆっくりと彼女が顔を上げる。

 

「私はもう、聖女ですよ」

 

 涙目で、穏やかに笑う彼女がそこにいた。

 

 それは初めて会った頃の少女ではなく、誰をも安心させ魅了する聖女の微笑みだった。

 

 どうやら、(あなど)り過ぎていたようだ。

 

「そう、だな……俺はマイを信じよう」

 

「えっ……」

 

 彼女が呆然とした様子でこちらを凝視する。

 次第に頬が赤くなり、俺の手から片腕を引っこ抜くと両手で胸元を押さえた。

 

「マイ、治癒を掛けてくれ。少しでいい」

 

「……っ、はい、今……掛けます」

 

 マイは呼吸を落ち着かせると、おずおずと片手を伸ばしてくる。

 

 細い指先が額に触れた瞬間、ぽうっと全身が温かくなった。

 

「これが、マイの治癒か」

 

「はいっ……」

 

 思い返せば、俺は彼女の治癒を数えるほどしか味わったことかない。

 それもマイがまだ覚えたての頃、試しに掛けさせたのと修練中に数度やらせたくらいだ。

 

 こんなにも心地いいものだったとは。

 

 失われた魔力が戻ってくる。

 これなら、軽い防護魔法をしばらく展開できるだろう。

 

「マイ、今夜は私のそばにいなさい」

 

 彼女が一瞬、息をのんだ。

 

 俺は動けない。

 彼女のテントまでを覆う魔力はまだない。

 

 なら、ここにいてもらったほうが手間も省ける。

 マイを防護魔法で一晩包むくらいなら、今の俺でも可能だ。

 明日の分の魔力も温存できる。

 

「……はい、大司教さまのそばに、いますから」

 

「よろしい」

 

 満足してうなずくと、マイはふんわりと微笑んだ。

 

 それは聖女のものではなく、初めて会った頃の少女の笑みだった。

 




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第18話 馬車の中で

 テントの入り口から差し込む光が、明るさを増していく。

 

 昨夜マイは「一晩起きています」と言い張っていたが、俺がまぶたを閉じて寝たフリをするとやがて床にへたり込み、ベッドに上半身だけを乗せて眠ってしまった。

 

 俺は手を伸ばし、ベッドに突っ伏して寝ているマイの黒髪を撫でる。

 

「ん……おはようございます。すみません、寝てしまいました……」

 

「おはようマイ。魔力は回復したか?」

 

「……はい、だいぶ回復しました」

 

 マイは体を起こすとすぐに目を閉じ、体内の魔力を確かめた。

 

 相変わらず寝起きのいい子だ。

 

「大司教さまは、眠れましたか?」

 

「ああ、君の治癒魔法のおかげでよく眠れたよ」

 

 俺は彼女に嘘をついた。

 

「そうですか」

 

 彼女が安堵したように微笑む。

 

 魔力の残量は……二割といったところだろう。

 

 マイの治癒魔法で四割ほどまで回復したが、寝ずの番で薄い防護魔法を張り続けた結果、半分を消費してしまった。

 

 今日いっぱいは防護結界を張り続けられるだろうが、夜は途中の村で一泊する予定だ。

 

 魔力が枯れたら、いよいよ隠し持った魔力増強剤を飲むしかないだろう。

 強烈な副作用はあるが、致し方ない。

 

「テントに戻りなさい。そろそろ出立の準備だ」

 

「はい」

 

 機嫌の良さそうな彼女の後姿を見送ってから、俺は久々にベッドから降りた。

 

 

***

 

 

 三台の馬車が、街道を進む。

 

 第二王子の率いる討伐隊と別れ、俺たちは護衛の聖騎士達と共に王都への帰路についていた。

 

 予定が少し遅れている。

 

 別れの際、終始にこやかな聖女の笑み浮かべるマイに、第二王子が名残惜しそうに何度も別れの挨拶をしていたからだ。

 

『――大司教様。停泊する村は予定どおりで問題ないでしょうか?』

 

 馬車の外から、聖騎士が声を掛けてくる。

 以前の遠出で宿の窓の外にいた男。襲撃の際には馬車に入ってきて俺たちを守っていた、馬車付きの聖騎士だ。

 

 王都までは丸一日の距離だが、日が暮れてからの移動は危険が伴う。

 そのため夕方には途中の村に泊まる必要があるのだ。

 

「いや、予定を変えよう。少し東に逸れたところにも村があったはずだ。そちらに向かえるか?」

 

『私が先触れに行って参ります。宿はあったはずですが、安全確認が必要ですので』

 

「頼んだ」

 

 窓の外で馬がいななき、四足の足音が遠ざかっていく。

 

 もともと宿泊場所は変えるつもりだった。

 

 もし襲撃者が俺たちの急な予定変更――第二王子たちと別れて帰路につくことを察知したとしても、これで多少の攪乱(かくらん)になるだろう。

 

「マイ、また万が一のことがあるかもしれない。今夜は私の部屋のベッドで寝るんだ、いいね?」

 

「んっ……は、い……大司教、さまっ……」

 

 隣に座るマイが悩まし気な声を発する。

 

 俺は今、彼女の肩を抱いて片手をローブの中に突っ込み、肌着の内側にも手を差し入れていた。

 手に余る大きさの生おっぱいをむにむにと揉み込む。

 

 馬車に乗った瞬間から、俺はマイを正面ではなく隣に座らせ、それからずっと彼女の体に悪戯をしていた。

 

 ローブの前紐はとうに(ほど)かれ、魅惑的な胸の谷間があらわになっている。その白い上乳にまだほんのりと赤いキスマークが残っていた。

 

「マイ、検査の印は治癒魔法で消しておくようにといったはずだが?」

 

 先ほどローブの襟元を引っ張って彼女の上半身を覗いてみたが、残っていたのはこの一カ所だけだ。つまりマイはあえてこの跡だけを残したことになる。

 

「……ぅ、ごめんなさいっ……私、あの……」

 

 彼女が気まずそうに言いよどむ。

 

「理由を言えないのか?」

 

 お仕置きとばかりに、クニとした乳首を摘まむ。指先できゅっとしぼるとマイが体を震わせた。

 

「んぅッ……ふ、ぅっ……ごめんな、さ……大司教さまっ、今、消します……」

 

 彼女が涙目になりながら、震える手のひらを胸元に当てる。

 

「いや、消さなくていい」

 

 マイの耳元に低い声でささやく。

 

 俺のモノであるという証を、わざわざ消す必要はない。

 ローブを無理やり暴かれでもしない限り、他の誰かに見られることもないだろう。

 

 ……昨夜、事故とはいえ第二王子に迫られでもしない限りは。

 

「マイ、昨夜は勝手にテントを抜け出してどこに行っていたのだ?」

 

「あ、あの……王子殿下に、呼ばれて」

 

「それで私の言いつけを破ってテントを出たのか?」

 

 硬く張りつめた乳首を指腹でクリクリといじる。

 

「うっ、んんッ……ご、ごめんなさいっ……護衛の兵士さんからも、頼まれて……その」

 

 彼女の目ににじんだ涙が、いよいよこぼれ落ちそうだ。

 

 無理もないことだろう。

 いくら聖女といえど、王子の要請を断るのは難しい。しかもその内容が「謝罪させてほしい」といったお願いならなおさらだ。

 

 だがなぜか、彼女を責めたてたくて仕方ない。苛立ちに似た嗜虐心が全身を支配している。

 

 きっと昨夜、第二王子に無防備にも距離を詰められる光景を見てしまったからだろう。

 

「それで、王子殿下とはどんな話を?」

 

 汗でしっとりとした柔肉を揉みながら聞く。温かい乳肌が手に吸い付いてきて気持ちがいい。

 もうずっと揉んでいるのに少しも飽きない。永遠に揉み続けられる乳房だ。

 

「んッ……ぅっ、謝罪を、受けました」

 

「話したのはそれだけか?」

 

「ぁっ、ん……あの、えっと……」

 

 再び言いよどむ彼女に、嗜虐心がますます膨れ上がる。

 もっと虐めたいという気持ちが昂ってしまう。

 

「マイ、もっと魔力の流れを確認する必要がある。下着を脱いで私のものを挿れなさい」

 

「え……?」

 

「君の魔力の残量をしっかり見るためだ。昨日は確かめられなかったからね。あれだけ治癒魔法を使ったのだ、どこかに異常が起きているかもしれない」

 

 俺は座ったまま、手早くズボンとパンツを下ろす。

 その瞬間、硬く剛直したペニスが勢いよく飛び出した。股間が外気に触れて少し涼しい。

 

「あ、あのっ……私、大丈夫です」

 

「だめだ。もう停泊する村まで時間もない。手早く確かめるにはこの方法しかないのだ」

 

 無理のある言葉を、厳かな口調で言う。

 

「でも、あの、恥ずかしい……です」

 

 マイが肩を縮こませながら窓のほうを見る。

 自分の声が漏れてしまうのを心配しているのだろう。

 

 俺に貫かれたら淫らな声を上げてしまう。

 彼女が当然のようにそう考えてしまっているのが、たまらない。

 

「安心しなさい。馬車付きの聖騎士は先触れに向かった。君の声は誰にも聞こえない」

 

「……わかり、ました」

 

 消え入るような声で彼女が小さくうなずく。

 

 久々にローブの中から手を抜くと、マイはわずかに腰を浮かせた。

 スカート部分をたくし上げ、内側に両手を入れる。露出した白い太ももが情欲をそそる。

 

 やがてその太ももを純白のショーツが下りてきた。紐とわずかな布だけの、彼女の一番大事な部分を守るにはあまりにも頼りない下着だ。

 耳を真っ赤にしてうつむき、座ったまま片足ずつ抜いていく。

 

 目の前で恥ずかしそうに下着を脱ぐ姿に、俺の股間が燃えるように熱くなる。

 

 渡しなさいという意図を込めて手を差し出せば、マイは一瞬驚いたようにこちらを見て、遠慮がちに手渡してきた。

 手のひらで丸まったショーツはまだ彼女の体温を残している。

 

 俺はそれを懐にしまい込みながら彼女の耳元にささやく。

 

「こちらを向いて私にまたがりなさい」

 

「はい……」

 

 マイが立ち上がり、俺の正面に来る。

 

 ガタガタと馬車が揺れ、彼女の体がよろけた。彼女の細腕が助けを求めるように俺の両肩をつかむ。俺もとっさに彼女の細い腰を押さえていた。

 

「肩に手を置いたままでいいから、ゆっくり乗りなさい。……そう、両膝をイスに乗せるんだ」

 

「……はい」

 

 俺に言われたとおりマイは片膝ずつイスに乗せ、俺の腰を挟み込む。一瞬だけ彼女の目線が俺より高くなる。目の前の美少女を見上げると、潤んだ瞳で俺を見つめる視線と交差した。

 

(……いい女だ)

 

 その眼差しは今にも泣き出しそうな、それでいて熱く何かを求めるような……煽情的なものだった。

 思わずぼうっと見惚れてしまう。

 

「大司教さまっ……こ、このまま、腰を下ろすのですか……?」

 

「ああ、ゆっくり下ろしなさい」

 

 俺は彼女のスカートの裾をつかむと、一気にめくり上げた。

 

 無垢でなめらかな鼠径部(そけいぶ)があらわになる。綺麗な一本筋の割れ目からは、すでに透明な愛液が滴り股下をぐっしょり濡らしていた。

 

「よく濡れているな」

 

 彼女のお尻と一緒に腰をつかむと、それだけでマイの体がビクンと震える。

 

「んんっ、んッ……大司教さま、ここで、合ってますか」

 

「ああ、そのまま下ろせば大丈夫だ。しっかり腰を押さえててあげよう」

 

 自分から膣にペニスを挿入するのが恐いのか、彼女はおっかなびっくりといった感じでプルプルと震えている。

 

 俺はいきり立った肉棒の先端の位置を、濡れそぼる淫穴の真下に合わせ、マイの腰をゆっくり下ろしてやった。

 

 ヌチュリと、亀頭が膣肉に包まれる。

 

「んぅッ……は、ぁっ……ッ」

 

 マイが感極まった嬌声を漏らす。

 馬車の中で俺に散々に焦らされ、彼女の体も敏感になっているのだろう。俺の肩をぎゅっとつかんでくる感触が心地いい。

 

 ヌチュ、と肉棒を包む圧迫感が増す。

 マイは辛いのか、ゆっくりと腰を下ろしている。そのおかげで肉棒が彼女の膣中に少しずつ咥えこまれていく。

 その光景に俺は股間を突き上げたい衝動に駆られるが、なんとか我慢した。

 

 ヌチュ、ヌププ……と膣口が肉竿に吸い付きながら飲み込んでいく。

 グニュリとした膣内の感触を股間で味わいながら、やがてぐっと最奥を押す感じがした。

 

「はぁッ……あ、んうぅぅっ――ッ」

 

 挿入しきった性感で、マイが軽く絶頂したらしい。

 

 彼女のお尻がペタンと俺の太ももに当たり、股間にマイの体重を感じた。

 自身の自重で膣奥まで到達した肉棒を、きゅうきゅうと締め上げてくる。

 

「くっ……さらに処女の締まりがキツくなったな。君もずっと欲しかったのか?」

 

 驚くべきことに、彼女の膣内は泉で抱いたときよりも締め付けが強くなっていた。それでいて優しくしごくように膣肉がうねっている。

 あまりの具合の良さに、俺は即座に射精しそうになる。

 

「わかん、ない……ですっ、大司教さま、の……いつもより、アツくてっ……」

 

 そのとき、ガタンと馬車が揺れた。

 

 馬車内が縦に振動し、図らずも小刻みな抽送が発生する。

 

「あぅッ……あっ、だめッ――」

 

 きゅうっと膣口が根元を絞ってきた。

 わずかな振動だけでマイは再びイってしまったようだ。

 

 これはいい。

 

 俺は彼女の両肩に手を置くと、ローブを外側に滑らせていく。中の肌着と一緒に一気にずり下ろすと、白くて豊満な上半身がまろび出た。

 彼女の肘のあたりまで衣服を脱がすと、そのままぎゅっと押さえる。

 対面座位で、下ろされた両腕をつかんでいる状態だ。

 

 そうして固定されたマイの体に、容赦なく馬車の振動が見舞われる。

 

 ガタガタと揺れるたび、彼女の体はわずかに浮き、つかんだ俺の腕によって下に戻される。

 

「んぁっ、あぁッ……だいしきょ、さまっ……あんっ、ん、ぁッ」

 

 馬車の揺れに合わせて喘ぎ声を発するのが面白い。

 その振動だけで目の前の乳房がたぷたぷと上下に揺れ、美味しそうな桃色の乳首が視界の中を動き回る。

 

「マイ、よく見ていなさい。今から君の魔力を舌で確かめる」

 

「ぇ……」

 

 俺はめいっぱい舌を伸ばして、ゆっくり揺れ動く乳房に近づけていく。

 硬い乳首の感触を舌でとらえた瞬間、れろんと舐め上げた。

 

「あぁんッ」

 

 さらにれろん、れろんと何度も舌先で乳首を舐める。

 

「んぁっ、あッ、やっ……あぁんっ――ッ」

 

 ビクビクと肩を震わせ、マイは乳首でイった。

 締まりだけでなく感度のほうも上がっているようだ。

 

「いいぞ、マイ。初々しくて艶めかしい、処女の反応だ」

 

「だいしきょ、さまっ……ま、まりょく、は……」

 

「ああ、そうだな。じっくり味わおう」

 

 俺は唾液で濡れる乳首にじゅうっと吸い付いた。

 

「やあっ、ぁッ……んうぅぅっ――ッ」

 

 きゅうっと膣穴が収縮し、彼女の絶頂が伝わってくる。

 

 じゅううっっと乳輪ごと乳首を吸引しながら引っ張ると、柔乳がわずかに伸びた。ぱっと口を開くと、乳房が元の位置に戻りしばらく揺れる。

 

「いじらしい乳房だ。もっと味わわないとな」

 

 れろぉっと舌腹で乳首を転がしていると、頭上からマイのか細い声が降ってきた。

 

「大司教、さまっ……んッ、まりょく、は……」

 

「ああ、確認したよ。問題ないようだ」

 

「そうです、か」

 

 俺は彼女の白肌にちゅ、ちゅと軽くキスをしながら、上乳にほのかに刻まれた赤い印に思いきり吸い付いた。

 

「んぅッ……」

 

 強く吸引し、俺のモノだという証を上塗りする。

 

「大司教、さま……?」

 

「マイ、舌を出しなさい。粘膜同士を当てたほうが君の内側をもっと調べられる」

 

 彼女に視線を合わせ、低い声で指示を下す。

 

 マイはもう、恥ずかしいとは言わなかった。

 はぁはぁと甘い吐息を漏らしながらトロンとした目で俺を見つめ返してくる。

 

 やがてその瞳を恥ずかしそうに伏せると、彼女は控えめに舌を出した。

 

 その鮮やかな桃色の粘膜に、俺は舌先を付ける。

 

「ぇぁ……」

 

 マイは切なげな声を発すると、その舌先を遠慮がちに絡めてきた。

 

「ぇ、ぇ……ぁっ、ん……」

 

 互いの口先で舌先が舐め合う。

 

 その柔らかい舌先に誘われるまま、俺は優しく唇を重ねた。

 

「んっ……ん、ちゅ……ぅ、ん、んッ……」

 

 まるで恋人同士がするような甘いキスだ。

 

 誰もが……第二王子が求めてやまない小さな唇を、舌先でなぞる。

 彼が感じたかったはずのしっとりした触感を感じ、味わいたかったはずの甘い唾液を舐め取る。

 

 そして、彼が想像だにしていなかっただろう濃厚なキスをする。

 互いの密着した口内で舌をねっとり絡ませるディープキスだ。

 

「ん……んっ、ん、ぅ……ちゅぅっ、んッ、ちゅぅ……」

 

 彼女のぎこちない舌の動きに合わせ、導くように舌を躍らせる。吐息混じりの熱い粘膜の感触が気持ちいい。

 ゆっくり、マイが感じるように舌を絡める。

 

 彼女の脳内から第二王子の記憶を消すために、俺は夢中でキスを続けた。

 

 ガタンッ、と馬車が跳ねる。

 

「ん゛んッ――ッ」

 

 マイの喉奥からくぐもった音が漏れ、股間全体がきゅうっと搾られる感じがした。

 

 強烈な快感で思わず息が止まり、唇を離す。

 

「ぷぁ……はぁ、はぁ……大司教さま、これ、は……?」

 

 ――この口づけは、なんなのですか?

 

 今にも泣きそうな顔が、そう言っていた。

 なぜこんなキスをしたのかと。

 

 一瞬、言葉に詰まる。

 その答えを今、俺は持ち合わせていない。

 

「どう、して……?」

 

 答えを知りたいと、さらに聞いてくる。

 本当に、最近の彼女は質問が多い。

 

 ガタガタとさらに馬車が揺れ、股下で軽いピストンが発生する。

 

「あぁッ……んんっ」

 

「マイ、馬車が街道から逸れたようだ。村はもう近い、確認を終わらせるぞ」

 

「……っ」

 

 彼女が眉間にシワを寄せ、息をのんだ。

 その瞳には切実な欲求がこもっている。

 

 馬車が揺れるたびにマイはイっていた。

 だが、彼女の体が欲する特大の絶頂にはまだ至っていないのだろう。

 

「大司教、さま」

 

「なんだ?」

 

「これが……罰なのでしょうか……?」

 

 彼女が涙声で訴える。

 

 ――どうしてこんなに焦らすのですか?

 

 まるでそう言っているようだった。

 

「罰は、王都に戻ったらと言っただろう」

 

「……て、……ださい」

 

 マイが絞り出すようにつぶやく。

 

「もっと、魔力を……私の中を、確かめてください……」

 

 懇願するような声色に、肉棒がカッと熱くなる。

 

「ああ、もとよりそのつもりだ」

 

 ガタンと馬車が揺れる。

 その振動に合わせ、俺は思いきり股間を突き上げた。

 

「は、あぁッ……ん」

 

 浮いて戻ってきた彼女の膣に、二度、三度と股間を打ち据える。

 

「あぁっ、あッ、ああぁっ――ッ」

 

 ガタガタ道になってきたせいか、馬車の振動が止まらない。

 それに合わせ、彼女の尻とイスとの圧迫の中で小刻みに腰を動かす。

 

 俺に両腕をつかまれ身動きが取れないマイは、ただただ揺すられ嬌声を漏らすしかできない。

 快感に喘ぐ美少女に、俺は顔を寄せる。

 

「マイ、俺のが君の奥まで確かめているのが分かるか?」

 

「んぁっ、あッ、は、い……大司教さまの、が……おく、までっ……」

 

「もっと感じなさい」

 

 ズチュズチュと股下から淫らな水音が鳴り出す。

 膣中のうねりも激しいものになり、俺の精巣から根こそぎ吸い出そうとしてくる。

 

「だいしきょ、さ……あっ、もっと……」

 

 快感に悶えながら、マイが薄目を開ける。

 

「もっと、調べて……くだ、さい」

 

 上ずった声でそう言うと、彼女は半開きになった唇を近づけてきた。

 

 まるで花に吸い寄せられる虫のように、俺はその潤んだ唇にしゃぶりつく。

 

「んむっ、ぁ……んちゅっ、ん……んっ……ぇぁ、ん、んッ……」

 

 じゅるじゅると、互いの口端から涎れがこぼれるのも気にせず唇をむさぼり合う。

 もっと彼女の中を確かめたくて、顔全体を当てるような熱いキスをする。

 

 口内で激しく絡み合ううちに、いつの間にマイの体が後ろに仰け反り、長い後ろ髪がだらんと垂れていた。

 

 泉で犯したときと似た体勢だが、あのときとはまったく感覚が違う。

 

 俺にかき混ぜられるだけだったはずの彼女の舌が、今は懸命にすがりついてくる。

 口端からは物欲しそうな吐息を漏らしている。

 

「ぐっ……!」

 

 股間がゾクゾクと震えだし、息が止まる。

 たまらず舌を解いて顔を離すと、マイの唇が俺の口端に吸い付いてきた。

 

 俺は前のめりの姿勢で、彼女は仰け反った格好のまま、結合部だけが小刻みに動いている。激しさを増すピストンで、胸元の乳房がゆさゆさと揺れる。

 

「マイ、出すぞ」

 

「あっ、わたし、もッ……イきま、んぅっ……イっちゃ、ぅッ――」

 

 俺は腹筋に渾身の力をこめ、腰を動かし始めた。

 

 ジュブジュブジュブと股間で淫らな音が鳴り響く。

 マイが俺の口端に頬をすりつけながら甲高い声で喘ぐ。その艶めかしい響きが鼓膜をくすぐる。

 

「ぁ、あっあっあっあっ、ぁッ……ん、あぁっ、あっあっあっあっ……ッ」

 

 膣内の肉棒がぎゅうぎゅうと全方位から吸い付かれ、破裂してぶちまけてしまいそうだ。

 股間が、全身が熱い。

 

「ぐ、出る……マイの中に、全部、注ぐぞ」

 

「あッ、きて……きてくだっ……あ゛ぁっ、あっあっあっあっ――」

 

「ぐぁっ、ぐぅぅぅっ……!」

 

 ビュルル、ビュルルルッと搾り上げられるように射精した。

 

「あぁんッ、あああぁぁぁっ――――ッ、――ッッ」

 

 悲鳴のような嬌声を上げてマイが絶頂する。

 

 射精中の肉棒がきゅううぅっと圧迫され、ビュルル、ビュルルと膣奥に噴射する。

 下がりきった子宮口に精液を塗りつけ、胎内であふれさせる。

 膣内がさらに締め付けてきて、精巣からこみ上げた残りの子種汁がビュー、ビューと注がれていった。

 

 

 

 

「……は、ぁっ、はぁっ、ぁ……はぁっ、はぁ……」

 

 次第に落ち着いていくマイの呼吸に耳をすませる。

 

 揺れる馬車内で、俺たちは対面座位でつながったまま体を密着させていた。

 

 彼女の荒い吐息が鎖骨のあたりをくすぐる。

 

 窓に目を向ければ、いつの間にか夕陽色の光が差し込んでいた。

 

 目的の村は近い。

 

「マイ、そろそろ村に着く。動けるか?」

 

「……は、い……大司教さま」

 

 彼女は俺の胸元から体を起こすと、両肩に手を置いた。

 太ももに力を入れて腰を浮かし、膣内から肉棒を抜こうとしているようだ。

 

「んッ……く、ぅ……」

 

 ペニスが抜けていく刺激だけで、マイは美しい顔を歪めた。

 

 ヌプと抜けた膣穴から大量の白濁液があふれ落ちる。

 

「あ、ごめんなさいっ……」

 

 別に彼女が謝ることではないのだが、慌てるその顔が面白い。

 

「マイ、浄化の術を使いなさい。できるね?」

 

「はい……やってみます」

 

 マイは自分ではなく、まず俺の股間に手をかざした。

 彼女の手のひらが淡く光ると、肉棒やその周囲のベトつきが消えていく。

 

 ふぅと一息ついたマイは、やっと自分の太ももや下腹部を浄化していった。

 

 互いの体から、綺麗に白濁液や愛液が消え去る。

 

「見事だ。不純物の選別も完璧だよ」

 

 俺は手を伸ばして、腰のあたりまで脱げた肌着やローブを直してやる。

 

「ありがとう、ございます」

 

 彼女は体を小さくして、嬉しそうに微笑んだ。

 

 

***

 

 

 マイに避妊薬を飲ませ二人で馬車を降りると、あの聖騎士の男が待っていた。

 

「大司教様、聖女様、今夜はこちらの宿にお泊りください。二部屋取っております。お食事は村の女が持ってきますので、ひとまずお部屋にてお休みください」

 

「分かった。村周辺の調べは済んでいるか?」

 

「はい、付近に怪しい気配はありません」

 

「では、引き続き宿の守りを頼む。今夜は村長の挨拶はいらない。誰一人として中に入れぬように」

 

「お任せください」

 

 頭を下げる聖騎士の横を通り過ぎ、目の前の宿へと歩く。

 

 宿は、以前の遠出で泊まったのと同じ平屋建ての小さな建物だった。

 

 中に入り、狭い廊下を進む。

 

 部屋は四部屋あり、俺たちが泊まる二部屋以外は無人だった。

 空室に聖騎士は泊まらない。彼らは交代で馬車の中で眠るため、明日の朝までこの宿には俺とマイしかいない。

 

 とはいえ明日は儀式がないため、彼女を抱くことはできない。

 

 部屋の前で立ち止まる。

 そういえば、さっきからマイが無言だ。

 

「では、君も部屋で体を休めなさい。ああ、さっきも言ったとおり食事を取ったら部屋に来なさい。今日は私のベッドで眠るんだよ」

 

 俺はソファーに座って寝ずの番だ。

 

「……」

 

「どうした?」

 

 マイは無言のまま、下唇を噛んで難しい顔をしていた。

 

「あの、大司教さま、その……印を、消さないとだめでしょうか?」

 

 彼女が胸元にそっと手を添える。

 

 印……上乳に刻んだキスマークのことを言っているのだろう。

 

「消さなくていいといっただろう。それは私が君を確かめたという証だ。跡が薄くなってきたら言いなさい、また付けてあげよう」

 

 印を残しておくのが大事なことのように言う。

 

「……大司教さまの、証」

 

 マイが胸元に両手を重ねる。

 まるで宝物を包むかのように。

 

 その姿に、なぜか胸が締め付けられた。

 

 ドクドクと心臓が脈打つ。

 湧き上がってくるこの感情は、身に覚えがない。

 

 独占欲や肉欲とは違う。

 言葉にできない思いがあふれて、苦しくなるような感覚だ。

 

「ありがとうございます」

 

「……ああ」

 

 恥ずかしそうにはにかみ、いそいそと去っていく彼女の後ろ姿を見送る。

 

 結局、俺はマイが部屋に消えるまで呆然と見つめ続けていた。

 





このお話の同人漫画版が2000DLを突破しました。多くの方に読んでいただき有り難うございます。

▼何も知らない黒髪聖女が悪徳司教におマンコを汚される話
https://www.dmm.co.jp/dc/doujin/-/detail/=/cid=d_296546/


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第19話 初めての嘘

 俺は部屋のベッドに腰掛けて、目を閉じていた。

 

 遠視の術を発動し、マイの姿をまぶたの裏に映す。

 彼女はベッドの上に正座して胸の前で両手を握っていた。

 

 魔法の修練だ。

 

 治癒魔法だろうか。それとも新しく覚えた浄化や催眠、もしかしたら麻痺の術を練習しているのかもしれない。

 いずれにせよ。

 

「……罰を上乗せしないとな」

 

 独り言をつぶやく。

 

 マイには、王都に戻るまで魔力の無駄遣いをしないよう言ってある。

 この帰路で万一のことがあるかもしれないからだ。

 

「こちらから呼びに行くか」

 

 俺も彼女も、村の娘が運んできた毒見済みの夕食はすでに取っている。

 後は明日に備えて体を休めるだけだ。

 

 まだ寝るには早い時間だが、修練を中断させ、俺の部屋に連れて来よう。

 マイはまだ体も清めていないようだが、こちらの部屋でさせればいい。

 

 目の前で恥ずかしそうに体を洗う彼女を想像する。

 

 股間を滾らせながら立ち上がると、まぶたの裏の映像がグラリと揺れた。

 

「なんだ……?」

 

 目を開けると、部屋がグニャリを歪んだ。

 足がふらつき、頭がぼうっとしてくる。

 

「やられたな」

 

 食事に毒を盛られたらしい。

 この症状は、睡眠作用のある薬か。

 

 いよいよ倒れそうになり、俺はベッドに体を傾けた。

 ボスンと全身がシーツに埋まる。

 

 想定の範囲内だ。

 

 想定の中でもかなり最悪な部類だが。

 

 こうなっては仕方がない。

 

(……マイ、頼んだぞ)

 

 俺は壁の向こうにいる彼女に祈ると、強制的な睡眠に沈んでいった。

 

 

***

 

 

「――さま、……て、くだ――」

 

 マイの声がする。

 

「……治癒を、……ましたから」

 

 体が軽くなり、意識が浮上していく。

 

 パッとまぶたを開けると、目の前に息をのむほどの美少女の顔があった。

 仰向けになった俺を心配そうに覗きこんでいる。長い黒髪が頬に当たってくすぐったい。

 

「相変わらず、マイは寝起きがいいな」

 

「大司教さまの修練のおかげです」

 

 マイが安堵したように、ふんわりと微笑んだ。

 

「どのくらい経った?」

 

「効き始めに気づいて、すぐにこの部屋に来たので……ほとんど時間は経っていないと思います」

 

「上出来だ」

 

 俺はゆっくり体を起こし、彼女の黒髪をポンポンと撫でた。

 

 聖女は毒を克服できる。

 

 厳密に言えば、彼女たちは一度取り込んだ毒を分解し、治癒魔法に組み込むことができれば同じ毒は二度と効かなくすることができる。

 

 教会では、聖女見習いに睡眠薬や痺れ薬、闇市で売っている媚薬を聖女見習いに飲ませ、手籠めにする司教が多くいた。ゴーゼ司教を筆頭に。

 

 だから俺はそういった薬を片っ端から仕入れ、幼い頃からマイに飲ませ続けてきた。

 

 執務室に呼び、薄めた薬を飲ませて体内で分解させ、治癒魔法に組み込ませる。

 そういう修練を繰り返したのだ。

 

 当初はよくソファーでうたた寝してしまったが、聖女になる頃にはそうした薬のほとんどは効かなくなっていた。

 

 すべてはマイを守るためだ。

 

「大司教さまの薬も治癒魔法で分解しましたが、体の調子はどうですか?」

 

「ああ、さっきよりもいい」

 

「よかったです」

 

 ほっと胸を撫で下ろす彼女をもう一度撫でながら、俺は部屋の中に防護魔法を展開した。

 

「おそらく襲撃だ。マイ、警戒しなさい」

 

「は、はい」

 

 彼女が両手を握り、魔力を練り始める。

 

 襲撃者が部屋に侵入する前に起きることができてよかった。

 防護魔法を展開したから、もう何人たりとも部屋に入れないし、宿に攻撃魔法を撃ち込まれても問題ない。

 

 ドタドタと、廊下を走ってくる足音がした。静かな宿内に木床を蹴る音が響く。

 音の感じからして複数ではなく一人のようだ。

 

 その足音は部屋の扉の前で立ち止まると、わずかな間の後ノックをしてきた。

 

『大司教様、それと聖女様もいらっしゃいますね? 背信者の襲撃です。ご無事ですか』

 

「……君か」

 

 その声は、あの聖騎士の男のものだった。

 

「私たちは無事だ。外はどうなっている?」

 

『今、他の騎士がここを守りつつ、背信者どもの殲滅に当たっています』

 

「そうか」

 

『すみません、念のためご無事を確認しても? 私が部屋に控えてお二人をお守りします』

 

 そういえばこの聖騎士は防護魔法の心得があるのだと言っていた。

 部屋に張られた結界に気づいたのだろう。

 

「構わない、入れ」

 

 俺は防護魔法の対象範囲を聖騎士にまで広げた。

 

 扉が開き、鎧姿の男が一礼して入ってくる。

 

「失礼します」

 

 聖騎士の男は歩み寄ってくると、何かを投げた。

 

 ガキィンッ――と俺の目の前で短剣が跳ね、床に転がる。

 

「え……?」

 

 隣にいるマイが目を見開いて聖騎士を見つめる。

 

 男は恭しい態度を崩さず、ふっとため息をついた。

 

「二重掛け、していたのですね」

 

「ああ」

 

 念のため、俺とマイを覆う防護魔法も張っていたのだ。

 

 男は悔しがるふうでもなく、淡々と言葉を紡ぐ。

 

「最初から、私を疑っていたのですか」

 

「まあな」

 

 と答えてみせるが、別にこの男だけを疑っていたわけではない。

 

 俺はもとよりマイと、自分の()以外をすべて疑っているだけだ。

 

 まあ、別に最初から疑っていなかったとしてもこの男の言葉には違和感があった。

 

 他の騎士が殲滅に当たっていると言いながら、外からは攻撃魔法の音どころか誰の声もしていない。

 

 そもそも第二王子と別れたり停泊地を超えたりといった急な予定変更にも関わらず、この宿をピンポイントで襲ってきている時点で内部に裏切者がいると考えるのは当然のことだ。

 

 前回の襲撃のときも、きっとこの男が様々な証拠を隠滅したのだろう。

 

 俺は、いまだに信じられないという顔で聖騎士を見つめているマイを背後に隠した。

 

「お前の単独犯ということも分かっているぞ」

 

「……さすがです」

 

 今のはカマをかけてみたのだが、どうやら本当にこの男の単独行動らしい。

 

 他の騎士に協力者がいないのが分かり、ひとまず安堵した。

 さすがに複数の聖騎士を相手にするのは骨が折れる。

 

 だが、単独犯のわりにこの男の余裕ぶりが気にかかる。

 

「何を企んでいる?」

 

「もう手遅れです」

 

 初めて男が笑った。

 

 次の瞬間、俺たちの足下に魔法陣が出現した。

 

 罠か……!

 

 咄嗟にマイを横に突き飛ばす。

 

 同時に魔法陣から円柱状の光の柱が立ち上り、俺はその中に閉じ込められた。

 遠隔の防護魔法だ。

 

「マイ、逃げるんだ」

 

 そう叫ぶと、声が反響して響いた。

 

「無駄ですよ。その中にいる限りあなたの声はこちらに届かない。こちらの声は聞こえるようですがね」

 

 心の中で舌打ちをする。

 

 目の前の光の壁に触れてみると、バチッと指を弾かれた。

 かなり強い結界だ。内側から打ち破るのは相当の魔力を必要とするだろう。

 懐にある魔力増強剤に手を伸ばす。

 

 と、俺の前にマイが躍り出た。

 

「……なぜ、ですか?」

 

 彼女は俺を背にしながら、その手には短剣が握りしめられている。

 さっきあの男が投げたものだ。

 

「まさか……信じられないな」

 

 男が愕然とした表情でマイを見ている。

 俺もおそらく似たような顔で彼女の背中を見つめていた。

 

「人に刃を向ける聖女など、聞いたことがない」

 

 男がうわ言のようにつぶやく。

 

 魔法は使い手の精神に大きく影響する。

 

 だからこそ聖女は、人を傷つけることができない。

 そもそもそういう心根だからこそ、治癒の力を開花するともいえる。

 

 であるなら、抜きん出た治癒魔法の使い手であるにも関わらず、守るためとはいえ人に短剣を向ける彼女はいったい――。

 

「答えてくださいっ……どうして、このようなことをするのですか?」

 

 マイが声を張り上げる。その声色は涙で震えていた。

 

 男はしばらく彼女を凝視していたが、おもむろに兜を外し始める。

 茶色い髪の、精悍な顔立ちをした男だった。三十代くらいだろうか、その表情には歴戦を潜り抜けてきた強さと、聖騎士としての生真面目さが色濃く刻まれている。

 

 一見すると、悪事を働く人間には見えない。

 

 男は手のひらに魔力を集中させると、小さい光球を出現させた。

 あれは攻撃魔法だ。

 

 マイが半歩後ずさり、結界ぎりぎりのところで止まる。

 

「いやはや、こんなに驚いたのは初めてです。まさに規格外だ。その美貌もさることながら、そのお心も……あの方が欲しがるのもうなずける」

 

 男が一歩前に出た。手のひらに浮かぶ光球の魔力が増している。

 

「来ないでくださいっ!」

 

 マイが短剣をぐっと前に突き出した。

 

「本当に、あなたのような方が女の悦びを知らずに生涯を終えるなど……世の男があなたを味わうことができないなんて、もったいないことだ」

 

 男の瞳が醜悪な色に染まる。

 

「あの方はそう言っていました。大司教様もそう思いませんか?」

 

 マイの体を下から上に舐め回す男の視線には、聖騎士にあるまじき劣情が見て取れた。

 口角を歪め、顔に興奮を浮かべている。

 

 大司教を害し、聖女に色欲を向ける。

 その背信的な行為に酔っているのだろう。

 

 これが人間の本質だ。

 聖女見習いを慰み者にしていた司教連中も、こんな顔をして自らの行為を語っていた。

 

 俺もきっと、マイを犯すときは同じような顔をしているのだろう。

 

 男がまた一歩を踏み出すと、彼女の肩がビクンと震えた。

 

「お願い、来ないでっ……」

 

 それでも気丈に声を上げる。

 しかし突き出した短剣の先が震えて揺れている。

 

「ああ、そういえば聖女様の質問に答えていませんでしたね。どうしてこんなことを、ですか」

 

 男が短い茶髪を片手でかき上げる。

 

「約束いただいたのですよ。大司教様を排除した(あかつき)には、聖女様を一晩抱かせてもらえると。故郷の優遇や大きな出世も約束されましたが、そんなのは些細なことです」

 

 また一歩、男が近づいてくる。

 あと数歩でマイの持つ短剣を奪い取れる距離だ。

 

「俺は、ずっとあなたが欲しかった。聖女になったときからずっと」

 

 まるで愛の告白のように言う。

 

 その熱のこもった視線にさらされるマイがどんな表情をしているのか、ここからでは伺い知れない。

 

「さあ、聖女様はいただいていきます。彼女を閉じ込める大司教様はここで死んでください」

 

 その言葉に、マイが短剣をぎゅっと握り直す。

 

「させ、ません……そんなことをしても、無駄です。私が、告発します」

 

「それこそ無駄ですよ。あなたの口を閉じさせる方法なんていくらでもある」

 

 男が口端をペロリと舐めた。

 

「さて、十分に魔力も溜まりました。これなら大司教様の防護魔法でも防ぎようがないでしょう。あなたもさっきから魔力を溜めているようですが、無駄です。普段ならいざ知らず、今はこれを防ぎきる魔力が残っていないのも分かっています」

 

 見透かしたような視線を送ってくる男を、睨み返す。

 

 確かに、この男の言うとおりだ。

 あの手のひらに浮かぶ光球を今の俺では跳ね返せない。

 

 おそらくこの結界を解き、マイを横に押しのけて光球を叩き込んでくるのだろう。

 今までの気色の悪い独白は、魔力が溜まるまでの時間潰しといったところか。

 

 対抗策は、ある。

 

 懐の魔力増強剤を飲めば、あの攻撃魔法を防ぐことは可能だ。その前に内側からこの結界を打ち破ることもできるだろう。

 寿命が一気に縮むリスクはあるが、そんなことはどうでもいい。

 

 問題なのは援軍の存在だ。

 

 この男は単独犯だと言ったが少なくとも、もう一人いる。

 それも防護魔法の使い手が。

 

 この結界は遠隔でも操作できるが、自動的に発動するものではない。どこかで視認し、タイミングを見計らって発動する必要がある。

 

 しかも結界の維持には大量の魔力を消費する。結界から離れすぎると魔力の通りも悪くなる。

 

 つまり――。

 

「マイ」

 

 俺は彼女の背中にささやいた。

 

 声は外には届かない。しかしマイは何かを察知したように俺のほうをチラリと見た。

 

 その横顔は青ざめ、瞳には涙が浮かんでいる。

 

 彼女にこんな顔をさせていたのか。

 目の前の男は。

 

「なにをこそこそと――」

 

 男が一歩、二歩と近寄ってくる。

 

 俺は懐の小瓶を取り出すと、迷わず中身を半分飲んだ。

 カッと体が熱くなり、心臓がぎゅうと締め付けられる。

 

 マイに視線を送ると、彼女が見つめ返した。

 それだけで意思が通じ合っているのが分かる。

 

「麻痺の術、窓の外だ」

 

 俺の言葉にマイがうなずく。

 

 短剣を片手で握りながら、もう片方の手を窓へと向ける。そして。

 

 ――麻痺の術。

 

『ぎぁっ……!』

 

 外からくぐもった男の声が聞こえた。

 

 その瞬間、目の前の光の壁がふっと消える。

 

「なに!?」

 

 男が光球を放つより先に、特大の魔力を放出した。

 

 ――防護魔法。

 

 一瞬にして広がった半円球の魔力が男を弾き飛ばす。

 

「かはっ……」

 

 甲冑ごと壁にぶち当たった男が血ヘドを吐く。

 

 木造りの壁に当たった程度では致命傷にはならないだろう。

 だが。

 

「兜を外したのは間違いだったな」

 

 俺は防護魔法の対象範囲に壁を設定し、さらに魔力を放つ。

 際限なく広がる防護魔法と壁との間に男が挟まる。

 

「うがっ、ぁぁぁぁっ……!」

 

 甲冑を着ている胴体はともかく、生身をさらす頭部はこの圧迫に耐えられないだろう。

 男の頭がめり込み、壁がミシミシときしんでいく。

 

 ――ずっとあなたが欲しかった。

 

 男の言葉を思い出す。

 俺と同じ、マイに魅了された一人なのだろう。

 

 ――聖女になったときからずっと。

 

 笑わせる。

 その程度の執着で、彼女を手に入れられるわけがないだろう。

 

 俺は魔力をさらに強めた。

 

「ぁ、ぐぁっ……!」

 

 バキィッ、と木の割れる音がして壁に穴が開き、男がその向こうへ吹っ飛んでいった。

 

 

『何事だ!』

『聖女様はっ』

『安全を確認しろっ!』

 

 外から聖騎士たちの声が近づいてくる。

 

 どうやら終わったようだ。

 

 防護魔法の範囲を、俺とマイを包む程度にまで狭める。

 

「ご無事ですかっ!」

 

 部屋の入り口まで走ってきた聖騎士に、俺は即座に指示を出した。

 

「聖女も私も無事だ。先に背信者を捕らえろ。そっちの部屋でのびている。窓の外にも、もう一人いるはずだ」

 

「はっ」

 

 聖騎士は部屋に入ることなく、踵を返して隣の部屋へ向かった。

 他の騎士も呼び、男の拘束を始めたようだ。

 

「……マイ」

 

 かたわらで、荒く息をしている少女に声を掛ける。

 

「マイ、短剣を離しなさい」

 

 硬く握られた細腕に手を伸ばす。

 

 握り込んだ指を一本一本剥がしていくと、その手から短剣がこぼれ落ち、カランと音を立てて床に転がる。

 

「大丈夫か?」

 

「大司教、さま……私」

 

 彼女の全身が、小刻みに震えていた。

 それは襲撃にさらされた恐怖というよりも。

 

「私、人をっ……」

 

 人に刃を向け、麻痺の術を浴びせた自分に怯えているようだった。

 

「こんな……これじゃ、私……」

 

 ――聖女じゃない。

 

 マイが顔を引きつらせ、手元を凝視する。

 強く握り込んだせいだろう。その小さい手のひらが赤くにじんでいた。

 

 彼女の表情には見覚えがある。

 

 かつて司教に手籠めにされた聖女見習いにも、こんなふうに取り乱す者がいた。

 体を穢され、心を乱された自分は聖女にはなれないと。

 結果、そのほとんどは治癒魔法が使えなくなった。

 

 大丈夫。

 君は聖女だ。

 

 そう言ってやるのが正解なのだろうか。

 

 だが、俺は奥底からこみ上げる感情を抑えられなかった。

 

 誰かを守るためには剣を握る。

 そんなのは、聖女とはいえない。

 

 聖女などという言葉にマイを当てはめていいわけがない。

 こんなに、俺の心を夢中にさせる女を。

 

「君は、それでいい」

 

 思いが口からあふれる。

 

「大司教、さま……?」

 

 俺は床に落ちている短剣を拾い上げ、彼女に差し出した。

 

「大丈夫。君は誰よりも優しい。その優しさで、また私を守ってくれ」

 

 マイの金色の瞳が見開く。

 

 口が何かを発しようと閉じたり開いたりし、でも言葉が見つからないようだ。

 

 やがて彼女の目から堰を切ったように涙が流れ出す。

 

「……はい、大司教さま」

 

 黒髪が、トンと俺の胸板をつついた。

 

 俺の手が自然と彼女の頭を撫でる。

 

 胸元で、マイは静かに泣いていた。

 

 

***

 

 

 夜明け前。

 

 空が白み始めたころ。

 

 俺は馬車の前で、聖騎士から説明を受けていた。

 

「――宿の外に背信者の気配はありませんでした」

 

「逃げたようだな。馬か?」

 

「はい、付近にそれらしき(ひづめ)の跡がありました」

 

「逃げた方角は?」

 

「王都とは逆方向です」

 

「ではすぐに発つ。急ぎ王都へ帰還だ」

 

 逃げた敵に援軍を呼ばれる前に、王都へ戻る必要がある。

 

 おそらく、窓の外にいたのはゴーゼ司教だ。

 あそこまでの防護魔法の使い手は司教にもそうそういない。

 

 王都と逆方向へ向かったのなら好都合だ。

 準備をして、奴を迎え撃つことができる。

 

 馬車に乗り込むと、目を真っ赤に腫らしたマイが待っていた。

 

「マイ、すぐに出発することになった。魔力はまだ残っているね」

 

「大丈夫です。あ、あの、大司教さま」

 

 ガタンと馬車が揺れ、動き出す。

 

 俺はドサリと座席に腰を埋めた。

 

 魔力増強剤のおかげで魔力はまだ半分ほど残っている。

 強力な防護魔法で馬車を包んでも、王都までは十分もつ。

 

「大司教さま、あの」

 

「マイ、助かったぞ。君のおかげで魔法を無駄打ちせずに済んだ」

 

 彼女が麻痺の術で敵の結界を解いてくれなければ、大量の魔力を消費していただろう。

 

「大司教さま!」

 

 マイが大きな声で叫んだ。

 ここまで彼女が大声を上げたのは、喘ぎ声以外では初めてかもしれない。

 

 いや、今の俺だからうるさく聞こえるのかもしれないが。

 

「……なんだ」

 

「毒を、飲んだのですね」

 

 毒、か。

 

 魔力増強剤は確かに寿命を大幅に縮める。

 人間には負荷が大きすぎる薬だ。

 

 現に、今も心臓を握られたみたいに苦しい。

 激しい動悸で呼吸するのも困難だ。

 神経が過敏になり、マイの美声ですら耳にきつい。

 

「毒ではない。一種の薬だ」

 

「これが、薬ですか?」

 

 彼女が小瓶を手にしていた。

 いつの間に俺の懐から。

 

 いや、抜き取られるのが分からないほど俺の意識が混濁しているのだろう。

 

「薬だ」

 

「私が、解毒します」

 

「やめろ」

 

 思わずマイの腕をつかむ。

 

 この手の薬は修練でも試したことはない。

 万が一にも彼女に副作用が出たら、王都までの道のりが危なくなる。

 

「大丈夫です」

 

「だめだ」

 

 つかんだ手の力を強める。

 しかし彼女は小瓶を手放そうとしなかった。

 

「大丈夫です、私なら分解できます」

 

 だめだ。

 

 そう言おうとして、口をつむぐ。

 

 マイが今にも泣きそうな、怒りだしそうな顔をしていたからだ。

 眉間にシワを寄せ、その瞳には絶対に譲らないという固い意思がこもっている。

 

 彼女のこんな顔を、初めて見た。

 

「大司教さま、私を信じてください」

 

「……わかった。だが一口飲んで無理だったら止めるんだ」

 

「はい、無理はしません」

 

 その表情がゆるみ、ふわりと微笑む。

 

 それは聖女でも、出会ったころの少女でもない、彼女の笑顔だった。

 

 マイが小瓶に口を付け、コクリと飲み込む。

 

「うっ、くぅっ……」

 

 綺麗な顔が苦しそうに歪む。

 

「んッ……」

 

 彼女がお腹のあたりに魔力を集中させているのが分かる。

 体内で治癒魔法を発動し、成分を分解しているのだろう。

 

 やがて美しいまぶたが開く。

 

 その目端には涙がにじんでいた。

 

「分解、できました」

 

「見事だ」

 

 後は俺に治癒魔法を掛ければ解毒完了だ。

 

「では、あの……治癒を掛けますね」

 

「なぜ、顔を近づける?」

 

 マイの美少女顔が寄ってきて、鼻先で止まる。

 

「こ……こうしないと、解毒、できないのです」

 

 彼女の瞳が泳ぎ、慌てて目を伏せる。

 

 マイが、嘘をついた。

 

 聖女は嘘が付けない……はずだ。

 それなのに。

 

(まったくこの子は)

 

 本当に、愛らしい。

 

「ん……っ」

 

 唇に柔らかい感触があり、俺は静かに目を閉じた。

 

 彼女のしっとりとした唇に何度かついばまれ、ふんわりと密着する。

 初めてのマイからのキスは、ぎこちないものだった。

 

「んっ、ん……大司教さま、開けて……ください」

 

 甘く(とろ)けるような声に促され、素直に唇を開く。

 小さい舌先がうかがうように唇の裏側を舐め、熱く火照った舌が口内に滑りこんできた。

 

「んッ……は、ぁっ、大司教さま……」

 

 いつから彼女は、こんな誘うような声を出せるようになったのだろうか。

 

 ゆっくりと舌先同士が触れ合い、溶けていく。

 

 俺の手に彼女が指を絡めてきて、ゾクゾクと脳髄に快感が走る。

 

 ブルリと震えた俺に気をよくしたのか、マイは体を密着させてきた。

 どこまでも柔らかい彼女の腰のあたりに、鉄の硬さを感じる。

 

 俺が渡した短剣。

 彼女のお守りだ。

 

「ん、ぁっ……んっ、ん……ぇぁ……」

 

 まぶたの裏に明るさを感じる。

 どうやら日が昇り始めたようだ。

 

 もう体内の毒は消え去った。

 

 それでも俺たちは、夢中で唇を重ねていた。

 








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第20話 王都への帰還

 ガタン、と体が揺れて目を覚ました。

 

 まぶたを開けると、馬車内に窓からの陽射しが差し込んでいる。ほこりが舞い、陽光を反射してきらめいていた。

 午後の空気だ。

 

 魔獣討伐の帰路、宿屋で刺客に襲われたのが夜明け前。馬車に乗り込んだのが早朝だから、半日ほど眠ってしまっていたらしい。

 

 慌てて防護魔法を発動しようとして、すでに馬車内に展開されていることに気づく。

 どうやら俺が眠っている間も発動していたらしい。俺にそこまでの力はないので、おそらく魔力増強剤を飲んだおかげだろう。

 

「ん……」

 

 胸元から可愛らしい声がした。

 

 マイが俺の胸板にしがみついて眠っていた。

 柔らかい豊乳が押し付けられていて、彼女の静かな呼吸に合わせて膨らんだり収縮したりを繰り返している。むにゅうとした感触が胸板に心地いい。

 

 俺は陽の光に艶めく黒髪をそっと撫でた。少し汗ばんでいるのは俺との密着と、午後の陽気のせいだろう。

 

「……大司教、さま?」

 

「おはようマイ。そろそろ王都に着くぞ」

 

「あ、はいっ」

 

 彼女が慌てて体を起こし、乱れた黒髪を手ぐしで直し始めた。相変わらずマイは寝起きがいい。

 

 その様子を眺めていると、彼女が前髪の隙間から見つめてきた。金色の瞳が心配そうに揺れている。

 

「大司教さま、お体のほうは……」

 

 魔力増強剤の副作用のことを言っているのだろう。マイは俺に唇を近づけようとして、途中でためらうように止まる。

 

 もうすっかり毒は抜けきっているが。

 

「……まだ少し重いな」

 

「で、では……治癒を掛けます」

 

「ああ、頼む」

 

 マイは小さく頷くと、上唇と下唇をわずかにこすり合わせた。乾いてしまった唇を潤わせたのだろう。

 

 頬をほんのり赤く染めた絶世の美少女が、徐々に近づいてくる。

 ふわりと、唇同士が触れ合った。

 

「ん……んっ、ちゅ……んッ、ん……」

 

 おずおずと差し込まれた小さい舌を舌先で出迎える。互いに口を開き、舌の密着を深める。互いの舌を舐め回すように躍らせると、彼女の体がビクビクと震えた。

 

 片手を伸ばし、彼女のローブ越しに大きなふくらみをすくい上げる。たぷたぷと心地いい重みを確かめれば、マイの喉奥から甘い声が漏れた。

 

「ん、ぁっ……ぇぁ、んちゅっ……ん、んっ、はぁっ……」

 

 起き抜けのキスで、これほど気持ちのいいものもないだろう。

 

 しばらく彼女の巨乳とねっとりとしたキスを味わっていると、ガタンと馬車が揺れた。

 それが合図になったかのように互いの舌が解け、唇が離れていく。

 

「どう、ですか……?」

 

「ああ、いささか軽くなった」

 

「よかったです」

 

 彼女がふんわりと微笑む。

 どこかぎこちないのは、嘘をついてしまった後ろめたさのせいだろう。治癒を掛けるだけならキスをする必要はないのだから。

 

『大司教様、まもなく教会神殿に到着します』

 

 馬車の外から聖騎士の声がした。

 あの刺客の代わりに、新しく馬車付きに任命した青年だ。

 

「わかった。神殿内の様子はどうだ?」

 

『はっ、戻ってきた先触れによれば変わった様子や不審な気配はないとのことです』

 

「そうか」

 

 とりあえずは一安心だ。

 

 あの宿屋で取り逃がした男――おそらくゴーゼ司教は、また俺とマイを狙ってくるに違いない。しばらくは教会神殿にこもり、迎え撃つ準備を整えたほうがいいだろう。

 

「マイ、当分遠出はない。儀式も行わないから、そのつもりでいなさい」

 

 貴族連中の成人の儀も中止したほうがいい。彼らの従者に賊が紛れ込んでいるとも限らない。

 

「儀式も、ですか?」

 

「ああ、部外者の出入りもしばらくは制限する必要がある。その間、修練を怠らないように」

 

 儀式がないということは処女検査も行えないということだ。当分マイを抱けないのは正直つらいが、致し方ない。

 

「あ、あの……いつまで、でしょうか?」

 

 マイがやけに聞いてくる。その瞳が寂しそうに揺れた。

 

「分からない。賊の脅威が完全に無くなるまでだ」

 

「そう、なのですか」

 

 彼女が下唇をそっと噛む。何かを我慢するときの仕草だ。

 

「あの、では魔法の修練に付き合っていただけないでしょうか? ……その、聖女として、もっと力を付けたくて」

 

 マイが目を逸らしながらお願いをする。嘘と本当が半々といったところか。

 

 緊迫した状況だ。きっと一人でいるのが不安なのだろう。

 

「ああ、構わない。多くの予定を中止にするから私も時間が空く。毎日正午を過ぎたら執務室に来なさい」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 彼女がほっと撫でおろす。

 無性に抱きしめたくなるが、ちょうど馬車が止まってしまった。

 

『大司教様、神殿に到着しました』

 

「ああ、ご苦労」

 

 扉が開く寸前、ずっと俺の手に重なっていたマイの手のひらが離れた。

 

 

***

 

 

「――それでは聖騎士長、手はずどおり頼む」

 

「はい、神殿の守りはお任せください」

 

 俺は執務室の机越しに、聖騎士長に指示を下していた。聖騎士長は四十代の強面で、俺が大司教になる際に王宮騎士団から引っ張ってきた男だ。

 

 信心深く真面目で、間違っても聖女に邪な気持ちを抱くような人間ではない。今回の遠征に同行できず、俺やマイを危険にさらしたことを心の底から悔やんでいるという。

 この男なら、守りを任せてもそこそこ信頼できるだろう。

 

「ああ、特に西側外壁の見回りを手厚くするように」

 

 教会敷地内の西側には、マイたちが寝起きをする別棟がある。もしゴーゼ司教の第一目標が彼女なら、夜間の襲撃もありうる。

 

「はっ、聖女様は我々が命に替えてもお守りします」

 

 聖騎士長が深々と頭を下げ、部屋を出て行った。

 

「ふぅ……」

 

 まだ、体がだるい。

 魔力増強剤の効力は薄れ、代わりに強烈な疲労感が襲ってきている。

 

 根本的な疲れに治癒魔法はほとんど効かない。体を休ませるしかないのだ。

 

 ソファーに移動し、どさっと腰を下ろす。そのまま体重を預けると一瞬でまぶたが閉じた。

 

 

 

 

 そっと、頬を撫でられる。

 

 しなやかな指が俺の唇をゆっくりとなぞり、やがて離れていく。

 

「マイか……?」

 

 ゆっくりまぶたを上げると、目の前にいたのは金髪の元聖女だった。

 

「おはようございます。大司教様の寝顔、久しぶりに見ました」

 

 かつて王国の美の化身とまで呼ばれた聖女。完成された美貌がくすりと笑う。

 悪戯好きそうに口角を上げる仕草は、かつて彼女がベッドの中で見せていたものだ。

 

「もう夕方か」

 

 マイに匹敵するほどの白い頬が、夕焼けに染まっている。長い金髪がさらさらと風に揺れているのを見るに、俺を起こす前に執務室の窓を開けて換気をしたのだろう。

 相変わらずの世話好きだ。

 

「遠征、とても大変だったようですね」

 

「聖女マイの様子はどうだ?」

 

「湯浴みもせずに部屋で寝てしまったようです。お風呂好きのあの子にしては珍しく」

 

「そうか」

 

 それは相当に疲れていたのだなと思う。

 

 俺はソファーに座ったまま背筋を伸ばすと、目の前に立つ金髪の元聖女を見据えた。ここから真剣で内密な話をするという合図だ。

 

「それで、ゴーゼ司教の動向は?」

 

「神殿に戻る気配はありません。遠方からニーナ宛てに密文を送ってきているみたいですが」

 

 ニーナ……桃色髪の聖女見習いか。

 ゴーゼ司教は今もニーナを自分の駒だと思っているらしい。

 

「これは使えるな」

 

「あまりニーナを危険な目に遭わせないでくださいね」

 

「無論だ。聖女マイの負担になる」

 

 そんなことをしたら、俺はマイに軽蔑されてしまう。

 いや、彼女のことだから自分の責任だと気に病んでしまうだろうか。

 

「大司教様は、本当にマイを可愛がっているのですね」

 

 妙に見透かしたような瞳で、金髪の元聖女が微笑んだ。

 

「なにが言いたい?」

 

「いえ……やはりあの子を、リンゼ様に引き合わせて正解でした。あの子をここまで立派な聖女にしてくれましたから」

 

 久方ぶりに自分の名前を呼ばれドキリとする。そういえば、よく寝所で俺の名前を呼ばせてほしいとせがんでいた。

 

「マイが聖女になりえたのは、あくまで彼女の資質によるものだ」

 

「いいえ、リンゼ様のおかげです。だってあの子は……あのまま村の教会にいたらきっと、治癒の力を失っていましたから」

 

「……ほう」

 

 それは初めて聞く話だ。

 

 マイは、この金髪の元聖女に見出されたと聞いている。だがそれ以前のことを聞いても、金髪の元聖女はのらりくらりと明かさなかった。

 

 俺が続きを待っていると、彼女がふふと口角を上げた。

 

「私が村の教会を訪れたとき、あの子は塞ぎこんでいたんですよ。あの子の部屋のベッドで話を聞いたとき、泣きながら明かしてくれたのです。治癒の力が日に日に減っていっていると」

 

「そうなのか」

 

 理由の想像はつく。

 

 魔法は、その人間の精神が影響する。

 

 帝国兵に村を焼かれ、両親も村人も殺され……芽生えてしまったのだろう。聖女が決して抱いてはいけない類の感情を。

 

「リンゼ様も気づいているのでしょう? あの子の心の奥底にある、小さい牙に」

 

「なんのことかな」

 

「ふふ……相変わらず嘘がお下手ですね」

 

 再び見透かしたように微笑んでくるが、俺は表情を変えずに続きを促した。

 

「あの子には必要だったんです、自分の全てを受け入れてくれる人が。親のように包み込んでくれて、孤独を埋めてくれて、無条件で守ってくれるような存在……リンゼ様のような人が」

 

「それは買いかぶり過ぎだ。君なら知っているだろう」

 

 俺の本性を。

 

「ええ、よく知っています。リンゼ様は教会にはびこる不正を取り締まってくれました。先代の大司教様が黙認していた裏金や、聖女見習いへの横暴をなくしてくれた。私は体を要求されても拒み続けていましたが……でもあなたなら、いいと思えたんですよ?」

 

 金髪の元聖女が首筋にキスをしてきた。その唇が俺のローブ越しに胸、腹に落とされ、やがてローブの裾をくわえると、ゆっくりめくり上げる。かつて俺が教え込んだ口淫の段取りだ。

 

「すまないが、今はそういう気分じゃないな」

 

 体を動かそうとしたが、どうにも言う事をきかない。魔力増強剤による全身の疲労がまだ取れていないようだ。

 

 彼女の細い指先が俺の太ももを這う。流れるように下着をずらされると、肉棒がボロンとこぼれ落ちた。

 

 金髪の元聖女が、柔らかいままのペニスを手のひらの上に乗せ、慈しむように先端へ口づけをしてくる。ちゅ、ちゅとキス音を立て、最後に亀頭を舌ですくい上げるように舐め上げた。

 

 これも、俺がかつて教え込んだ作法だ。

 

「リンゼ様の、お味がします。私、このご奉仕が好きでした。あなたの可愛い表情が見られるから」

 

「……聖女を降りたいと言ったのは君ではなかったか?」

 

 金髪の元聖女はふっと笑みをこぼすと、肉棒を持ち上げて裏筋を舐め始めた。舌先がカリ首をえぐるように動く。

 

「ええ、そうしないとリンゼ様はマイを聖女にしようとはしなかったでしょう? それに……あなたはいつも聖女である私を見ていました。私ではなく」

 

「ああ、俺が興味あるのは聖女だけだ」

 

「知っています。私はそれでもよかった。でもマイのことは……あなたは彼女のことを、聖女とは見ていない」

 

「そんなことはない。マイは聖女の中の聖女だ」

 

「ええ、そうですね」

 

 金髪の元聖女がまた、ふっと笑う。肉棒をつかんだまま、玉袋をれろれろと舌で転がし、根元から先端に向けて一気に舐め始めた。

 

「リンゼ様、私の名前をご存知ですか?」

 

「急にどうした」

 

「あなたは私を抱くとき、聖女としか呼んでくれませんでした。私の名前を覚えていますか?」

 

 股下から試すように見上げてくる瞳を、俺は見つめ返す。

 

「ロレンツィアだろう」

 

「ロレンティアです」

 

「……そうだな」

 

「ふふ、リンゼ様が人の名前を覚えるのが苦手なことくらい知っています。でも気付いていますか? マイだけはいつも名前で呼んでいるんですよ」

 

「……短くて覚えやすいからな」

 

「本当に、あなたとマイは似ていますね」

 

「どこがだ?」

 

「素直じゃないところが」

 

 金髪の元聖女――ロレンティアが、亀頭をぱくりと口に含んだ。ちゅうと吸い上げ、片手で肉竿をやんわりとしごき始める。

 じゅるじゅると吸引し、口内の亀頭を舐め回し……やがて口を離した。

 

「やっぱり、反応しない」

 

 ロレンティアから解放されたペニスは、萎びたままだった。

 

「疲れているからな」

 

「ふふ、やっぱり素直じゃない」

 

「……俺を恨んでいるか?」

 

 するとロレンティアがふんわりと微笑む。マイに似た、慈愛に満ちた笑顔だ。

 

「いいえ、安心しました。……リンゼ様ならあの子を一心に思い、救ってくれると」

 

「そうか」

 

 ロレンティアは俺の下着を上げると、肉棒をその中へと収めた。俺のローブの裾を直しながら安堵するようにため息をつく。

 

「あの子は誰よりも優しい子です。どうか守ってあげてください」

 

「わかっている」

 

「マイは誰よりも治癒の才能があり、誰よりも努力を惜しまない子です。でもそれは村の皆を、家族を守れなかったという悔しさの裏返しでもあるんです。その思いは、時に自分自身にも牙をむいてしまう。あの子の心を、守ってください」

 

 ローブの皺を整えたロレンティアがゆっくりと立ち上がる。

 執務室の出口へと歩いていくと、ふと思い出したようにこちらへ振り返った。

 

「そうだ大司教様。色恋は聖女や聖女見習いにとっては天敵なんですよ」

 

 美人顔に、悪戯好きな笑みを浮かべている。

 

「知っているよ」

 

 司教連中に手籠めにされ、倒錯した色恋を覚えたせいで治癒の力を失い、故郷へ帰っていく聖女見習いをたくさん見てきた。

 

 だからこそ、俺はマイを――。

 

「でも私は、恋の始まりと終わりを知ることができて良かったと思っています。……本来なら決して抱けなかった、かけがえのないものでしたから」

 

「君は後悔していないのか?」

 

 するとロレンティアはおちょくるように微笑んだ。

 

「ご存知ですか大司教様? 私の治癒魔法、ちっとも衰えていないんですよ」

 

「そうか」

 

「ですが、マイに恋の終わりは似合いません。それをお忘れなきように」

 

「……覚えておこう」

 

 ロレンティアは小さく頷くと、扉を開けて出て行った。

 

 

「……」

 

 

 静かになった執務室で、小さくため息をつく。

 彼女の見透かすような瞳に、心の奥底を覗かれたような気分だ。

 

 俺はほぼ無意識に遠視の術を発動した。

 

 まぶたの裏に、マイの姿が映し出される。

 

 その視線の先に、扉の前で胸を押さえてうつむくロレンティアの姿があった。

 

 執務室の前で鉢合わせをしたらしい。

 

「ロレンティア、様?」

 

「聖女マイ」

 

 同時に見開かれた二人の瞳が交差する。

 言葉を発したのはマイだった。

 

「あの、どうして大司教さまの……お部屋に?」

 

「ええ、ちょっと大事な話があってね」

 

「大事な話、ですか?」

 

 マイが不安げな表情を浮かべる。

 

「そう、大事な話。内密のね」

 

 確かにロレンティアの用件は、ゴーゼ司教の動向を報告するものだった。極めて内密の話といえる。

 

「それは、どのような」

 

「聖女マイには関係のないことですよ」

 

 その瞬間、二人の間にピリッとした緊張が走った気がした。

 

 マイが胸の前で拳を握る。

 

「あ、あのっ、大司教さまの体調はいかがでしたか? 私もご様子をうかがおうと思って、それで……」

 

「大司教様は今、中止した儀式の後処理に追われているわ。仕事の邪魔になるから入らないほうがいいですよ」

 

 正直、今の満身創痍の状態をマイに見られるわけにはいかない。

 彼女のことだから責任を感じて、治癒のためだと執務室に居座ってしまうだろう。俺としては喜ばしいことだが、聖女が夜に大司教の部屋で長居するというのは外聞がよくない。

 

「そう、ですか」

 

 マイが下唇を噛んでうつむく。

 

 その様子にロレンティアがふうとため息をつき、優しい笑みを浮かべた。

 

「ごめんねマイ……ちょっと、いじわるしちゃった」

 

「え?」

 

 ロレンティアはマイに近寄ると、その頬に手を添えた。

 

「大司教様とは、あなたの話をしていたんですよ。大司教様にあなたの様子を詳しく聞かれてね」

 

「私の、話?」

 

 マイが戸惑いがちに顔を上げる。

 

「ふふ、マイ……綺麗になったね」

 

「ロレンティア様?」

 

「今は前みたいにティア姉さまって呼んでほしいかな。そうだ、マイも湯浴みがまだだったよね。どう、一緒に?」

 

「え、えっと、ティア姉さま……?」

 

「大司教様のこと、知りたいでしょう?」

 

 ロレンティアが悪戯好きそうな笑みを浮かべる。

 

 マイは息をのみ、両手でぎゅっと胸を押さえた。

 だがすぐにロレンティアを見つめ返す。

 

「……知りたい、です」

 

「じゃあ行きましょうか」

 

 ロレンティアに手を引かれ、マイは戸惑いがちに後を付いていった。

 



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第21話 聖女たちの湯浴み

 別棟の奥まったところにある浴場。

 

 一度に十人は入れるだろう石造りの堀にはお湯が溜まり、白い湯気が立ち込めている。

 

 俺は遠視の術で、お湯に浸かるマイとロレンティアの姿を映し出していた。

 

 ロレンティアはマイの背中に回り込み、美しい黒髪を手ぐしで整えている。両手のひらで束ねると、マイの頭の上で器用に重ね合わせ最後に紐で結ぶ。

 マイの綺麗な首筋と、艶めかしいうなじが露わになった。

 

「はい、出来上がり」

 

 ロレンティアは白い両肩に手を置くと、胸をマイの背中に押し付けた。

 

「ありがとうございます、ティア姉さま」

 

 マイが照れた感じではにかむ。

 

 王国一の美少女と美女が裸で密着する姿は、世の男たちが見たら一瞬で心を射抜かれてしまう情景だ。しかも戯れているのは聖女と元聖女。あまりに背徳的な光景に、興奮しない人間などいないだろう。

 

「ふふ、マイの髪は艶があって触り心地がいいわ」

 

 ロレンティアが、マイの耳の横に垂れ下がった前髪をすくう。

 

「そんな……ティア姉さまの髪のほうが素敵です。金色が透き通っているみたいで、私たちみんなの憧れでした」

 

 マイが目を伏せて微笑む。

 

「そう? マイにそう言ってもらえると嬉しい」

 

 ロレンティアがくすぐったそうに口角を上げる。

 

 二人の様子は、本当に姉妹のようだった。

 マイはどこか姉に甘える妹のような口調で、ロレンティアのほうも肩の力が抜けている。どちらも俺といるときには見せない素顔だ。

 

「あの、ティア姉さま……大司教様のお話って――」

 

「マイは聖女になって本当に綺麗になったね。大司教様のおかげかしら?」

 

「えっ……?」

 

 ロレンティアがマイの両肩に置いた手を胸元へと滑らせていく。その指の先、豊満な上乳にはほんのりと薄桃色のあとが残っていた。

 

 昨日、村に向かう馬車の中で俺が付け直したキスマークだ。この証だけは、消さなくてもいいと言ってある。

 

 ロレンティアが吸引のあとを愛おしそうに指先でなぞる。

 

「ぁ、んっ……ティア姉さま、くすぐったいですっ……」

 

「大司教様がマイのことをすごく大事にしているのが分かるわ。さっきだって、一番にマイの様子を聞かれたのよ。すごく心配そうな顔でね」

 

 そんな表情をした覚えはないのだが、ロレンティアにはそう見えたのだろう。聖女は嘘をつかない。

 

「そう、なのですか……嬉しいです」

 

 マイがうっすらと微笑む。頬を赤らめるその表情には、世の男を一瞬で虜にするほどの色香がにじんでいた。

 

 しばしマイの横顔に見惚れていたロレンティアだったが、はぁと大きなため息を漏らす。

 

「……大司教様も、このくらい素直になれるといいんだけど」

 

「え?」

 

「マイも苦労するわね……」

 

 ロレンティアが後ろからぎゅっと抱き締め、密着を強くする。

 

「あの、ティア姉さま、どういう意味ですか?」

 

「大司教様はね、ああ見えて……というか、あなたも気づいていると思うけど、とっても不器用な方なの。複雑な権力争いの中で、自分の気持ちをずっと押し殺して生きてきたせいかしらね」

 

「そう、ですね。でも……とっても優しい人だと思います」

 

「……そうね。私もそう思うわ」

 

 ロレンティアが懐かしむように目を細める。

 

 優しい人、か。

 

 買いかぶっているというよりも、錯覚しているのだろう。ただでさえ俗世と隔絶され男を知らない彼女たちだ。下劣な司教連中と比べれば俺は――少なくとも俺の表向きの顔は、たいそう優しく映ることだろう。

 

「大司教様のお心は容易には図れないけれど、マイ……あなたには分かるのではないかしら。大司教様と時を過ごし、触れ合い、通い合う気持ちがあるでしょう?」

 

「気持ち……」

 

 マイは自分の唇に触れ、恥ずかしそうに目を閉じる。

 

「自ずと感じる……ものは、あります。でも、それがどういうものか……いまいち、分からなくて。確かめるのが、すごく恐い……です」

 

 マイがぽつぽつと、思いを口にする。

 

「マイ、私もね……ずっと教会で暮らしているから分からないことのほうが多いわ。でもこれだけは分かる。あなたは、大司教様にとってかけがえのない存在なの。だから……自信をもって」

 

 ロレンティアが白い背中に口づけをする。

 

「ひゃっ、ん……ティア姉さま? あっ、やめっ……」

 

 細い指先がマイの乳房をツーっと円を描くように撫でる。もう片方の手がマイの滑らかなお腹を滑り落ちていく。

 

「あんっ、もぉ……ティア姉さまっ、どうして」

 

「大司教様はずっと一人で闘ってきたの。ずっと孤独で……それが当たり前に思えるほどに。でもそんなあの人にとって救いとなっているのがマイ、あなたなの。それを素直に感じて」

 

 ずっとマイの乳輪をくすぐっていた指先が、桃色の乳首にツンと触れた。同時に下腹部に伸びていた手がマイの大事なところへと滑り込む。

 

「あぁんっ、んッ……やぁっ……ッ」

 

 マイが肩を震わせ、内股をきゅっと閉じた。彼女の甘い嬌声が浴場に反響する。

 

 やがてロレンティアがゆっくり手を離すと、マイがはぁはぁと息を荒くしながら振り向いた。その目にはうっすらと涙がにじんでいる。

 

「ティア姉さま、いじわるです」

 

「ああ……ごめんなさいっ、ごめんね……マイが可愛くて、つい悪戯したくなっちゃって。ごめん、許してね」

 

 ロレンティアが焦ったような笑顔を浮かべる。本気で許してほしいという顔だ。

 

 マイはロレンティアのほうに向き直ると、うつむきながら息を整えた。

 

「ティア姉さまだって」

 

「え?」

 

「ティア姉さまが、私のこと……すごく大事に思ってくれてるって、感じてます。姉さまは私の恩人で、私は勝手に……か、家族だと思っています。大司教さまだけじゃなくて、私にとっては姉さまも、救いだから……私も、姉さまの救いになりたいです」

 

 マイがロレンティアの手を握る。ロレンティアの瞳が大きく見開かれ、やがて慈しむように細められた。

 

「……ふふ、ありがとう。マイ」

 

 ロレンティアが目端に浮かんだ涙を指先で拭う。いつも気丈な元聖女の、初めて見る泣き顔だった。

 聖女と元聖女が二人そろって涙を浮かべる姿は美しく、神々しささえ感じる。

 

「ところでマイ、大司教様もあなたにとって家族かしら?」

 

「かっ……」

 

 意表を突かれて固まるマイに、ロレンティアが悪戯好きそうな笑みを浮かべる。うっかりマイに泣かされてしまった意趣返しなのだろう。

 

「か……感謝は、しています。あと、あの……私にとっては」

 

 するとロレンティアの指がマイの唇を塞いだ。

 

「その先は、大司教様に直接伝えてあげなさい」

 

 マイがうつむきながらコクリとうなずく。

 

「さて、そろそろ出ようかしら。マイのおかげで火照ってしまったわ」

 

「あ、じゃあ私も」

 

「マイはもうしばらく浸かっていなさい。魔力をかなり使ったのでしょう?」

 

「あ、はい……」

 

 姉にたしなめられる妹のように、マイが肩を縮める。

 

 聖女たちの浴場のお湯には、治癒の力を回復する薬効がふんだんに混ぜられている。彼女たちが修練の終わりに長湯をする理由の一つだ。

 

 

 ロレンティアが立ち上がると、湯面が小さく波立つ。

 

 完成された美体が静かにお湯の中を進み、堀の縁に上がる。

 するとその視線がわずかに見開いた。

 

「あら、ニーナもこれから?」

 

「え、ティア姉さまはもう上がるんですかっ」

 

 浴場の入り口に立っていたのは桃色髪の聖女見習い――ニーナだった。

 

 髪の毛をマイと同じように頭の上で結び、おでこを露出させている。胸も尻も控えめで、マイやロレンティアに比べると体の凹凸はなだらかだが、肌は白磁のように透き通っていて色気よりも清らかさのほうが勝っていた。

 一見するとだが。

 

「マイ様はまだいますか?」

 

「ええ」

 

「やった!」

 

「ニーナ、今日湯浴みは二度目じゃない?」

 

「はいっ……でもさっきティア姉さまとマイさまがここに入るのを見かけて、急いで湯浴みの準備をしてきたんですっ」

 

 悪びれもせずにはきはきと答えるニーナに、ロレンティアがはぁとため息をつく。

 

「ニーナ、マイは遠征で疲れているんだから、わかっているわね?」

 

「はい、わかってますっ!」

 

 嬉々とした声が浴場内に響きわたる。

 ロレンティアが再び小さいため息をついた。

 

「じゃあ、またあとでね」

 

「はい、ティア姉さま、またあとで」

 

 ニーナは小首をかしげてロレンティアに微笑むと、足早にお湯のほうへと向かった。

 

 

 

 

「マイ様っ、遠征のお話聞かせてくださいっ」

 

 ニーナが、マイの豊満な谷間越しに見上げた。

 

 彼女は今、マイのお腹にしがみつくようにお湯の中に浮かんでいた。小ぶりな尻が湯面からぷかりと顔をのぞかせている。

 

「もう、ニーナは甘えん坊さんだねー」

 

 マイが困ったような笑みを浮かべ、ニーナの桃色の横髪をすくう。

 

「だって今は他の子がいないんですもんっ。ほんとはみんな、マイ様を独り占めしたくてうずうずしてるんです。こうやって」

 

 ニーナがマイのお腹にすりすりと頬を寄せる。大きなおっぱいが頭に乗っかり、ニーナもその圧迫を楽しんでいるようだ。

 

「ぁん……もう、くすぐったいよニーナっ」

 

「だってマイ様ってすごく柔らかいんですもん……匂いもすっごく落ち着きますし」

 

 確かに頬と頭でマイの感触を堪能できるあの空間は気持ちがよさそうだ。

 

 マイは仕方ないなというふうに眉尻を下げると、しばらくニーナのされるがままになった。時おり湯面から露出した肩にお湯を掛けたりして、優しい眼差しで彼女を見つめる。

 その姿は、妹に甘えさせる姉のようだ。

 

「私が遠征に行っているあいだ、元気にしてた?」

 

「はい、すっごく元気にしてました」

 

 するとマイは口をきゅっと結んでから、意を決したように口を開いた。

 

「ニーナ、あのね……もし言いたくなかったら、言わなくていいんだけどね」

 

「ん? なんですか」

 

「もしかして……ゴーゼ司教様に酷いことされていたり、する?」

 

 マイの胸の下で、ニーナがピクリと震える。

 

 俺も少し驚いていた。

 

 マイが、勘付いていたとは。

 

 かつては聖女見習いへの悪逆が蔓延していたものの、マイが教会に来る頃には俺がほとんど粛清した後だ。司教連中からの邪な視線や卑しい接触からは徹底的に守っていたし、そういう話も金髪の元聖女と連携してマイの耳には入らないよう気を配っていた。

 

 聖女見習い同士でも「自身が手籠めにされている」なんて話はしないのが通常だ。誰かにバレて、聖女見習いでいられなくなることを彼女たちは一番に恐れている。

 

 だが、マイはニーナの様子の端々から不穏なものを感じ取っていたのだろう。

「はい……されてました」

 

 ニーナが小さく答えると、マイはくっと息を止めた。唇を薄く閉じ開きし、ふっと息を吐いてから言葉を紡ぎ出す。

 

「どんな、こと?」

 

 どうやら無理やり処女を奪われ、淫らなことを強要されていたことまでは思い至っていないらしい。

 いや、うっすらとは気づいているのかもしれない。

 

「……」

 

 ニーナは沈黙した。俺が尋問したときも、彼女はマイだけには知られたくないと泣いて訴えていた。マイを心配させたくないからと。

 

「私が、なんとかするね」

 

 マイが表情に決意を込めて言う。

 

「なんとかって……?」

 

「ゴーゼ司教を、止める。大丈夫……私、聖女になったから、聖女ならきっと、止められる。みんなを守れるよ」

 

 ニーナは鼻をすすり、マイのお腹に顔を埋めた。

 

「ありがとうございます、マイ様……でも、もう大丈夫です。大司教様が、わたしを助けてくれたから」

 

「え?」

 

「大司教様が、相談に乗ってくれて、それで……もうゴーゼ司教に会わなくて済むように、してくれたんです。お部屋もティア姉さまと同室にしてくれて……だからもう、大丈夫なんです」

 

「そう、なんだ……そっか、大司教さまが……」

 

 マイが深く胸を撫で下ろす。目をつぶり、胸の前で祈るように手を握りしめた。その表情は微笑んでいるようにも泣いているようにも見える。

 

「マイ様、わたし……大司教様にお礼がしたいです」

 

 ニーナが柔らかい空間から顔を離し、真剣な顔でマイを見上げた。

 

「うん、そうだね」

 

「大司教様は、どんなお礼をしたら悦んでくれるでしょうか? 近くにいるマイ様なら、何か知りませんか」

 

「え、うん……えっと、大司教様の喜ぶこと……」

 

 マイが視線を泳がせ思案顔になる。

 

 俺が喜ぶこと。

 

 自分でもよく分からない。聖女を抱くことに生涯を捧げてきた俺にとって、それ以外で喜びや悦びを感じることはない気がする。

 

「えっとね……お芋のシチューは、好きかもしれない」

 

「シチュー、ですか?」

 

 予想外の答えにニーナがキョトンとする。

 

「うん。遠征のときね、シチューを美味しそうに食べていた気がして」

 

 マイがふんわりと微笑む。その顔には妙な色気が宿っていた。

 

「……大司教様は、どんなご奉仕が好きなんでしょう?」

 

 ニーナが甘い声色で聞く。マイを試すような表情を浮かべている。明らかに淫らな行為を指しているのだろう。

 

「ご奉仕……首を揉んであげるとか、かな。大司教さま、いつも眉間に力が入っていて首が凝ってそうだから」

 

「そっか……よかったです」

 

 じいっとマイの表情をうかがっていたニーナがにこりと微笑む。さっきまでとは打って変わりその笑顔はハッとするほど妖艶で、女の色香を含んでいた。

 

「よかった、の?」

 

「はい、やっぱり大司教様は他の人と違って清廉でお優しい方なんですねっ」

 

 ニーナがいつもの快活な調子に戻る。

 

 彼女は今のやり取りから、俺がマイには手を出していないと思ったのだろう。

 

 顔に疑問符を浮かべるマイをよそに、ニーナは元気よく体を起こす。ささやかな胸の前で手を組むと、上目遣いにマイを見つめた。

 

「あのマイ様、ご相談があります」

 

「ん? なあに」

 

「わたし、治癒の力がちょっとずつ弱くなっている気がするんです」

 

「そんな……」

 

 マイが一瞬で悲愴な顔になる。

 

 おそらく、嘘ではないだろう。尋問した際にはニーナの魔力の流れに異常は見られなかったが、その後徐々に弱まってしまう前例がないわけではない。

 そもそも彼女たちは嘘がつけない。よほど特殊な、マイのような子でなければ。

 

「わたし……聖女見習いでいたい。いつかはマイ様のような立派な聖女になりたい」

 

「うん、ニーナならなれるよ。私もめいっぱい協力するから」

 

 マイは今にも泣きそうだ。一方ニーナのほうは、表情を変えることなく淡々と話している。

 

「ありがとうマイ様。だからわたし、大司教様に魔法の特訓をしていただきたいんです」

 

「え?」

 

「マイ様から、お願いしてもらえないでしょうか?」

 

「あ……」

 

 マイが言葉を詰まらせた。

 

 下唇を噛み、眉間にシワを寄せている。頭の中でいろんな思いがぐるぐると駆け巡っているようだ。

 マイの困惑気味の視線と、ニーナのまっすぐな視線が交差する。

 

 やがて。

 

「……うん、いいよ。私から大司教様に聞いてみるね」

 

 マイがぎこちない笑みを浮かべた。

 

「やったっ、ありがとうございます!」

 

 ニーナがマイに飛びつく。お湯がバシャンと跳ね、彼女たちの顔や髪が濡れる。

 

 その光景が、グニャリと歪んだ。

 

 

「ぐっ……」

 

 

 目頭に鈍痛が走り、俺はまぶたを開いた。

 

 見慣れた執務室の風景がぐらぐらと揺れている。

 

 疲労が抜けきっていない状態で遠視の術を使い過ぎたらしい。

 

「ふぅ……これ以上は無理か」

 

 硬くなった眉間を指でほぐす。

 

 ――大司教さま、いつも眉間に力が入っていて首が凝ってそうだから。

 

 先ほどのマイの言葉を思い出す。

 首の後ろを揉んでみると、確かに凝り固まっていた。

 

「ニーナの特訓か。好都合だな」

 

 これで彼女と二人きりになる大義名分ができた。ゴーゼ司教から秘かに届いているという密文について聞くことができる。うまくすれば、あの男を罠に掛けられるかもしれない。

 

 開いている窓からヒュウと、涼しい風が吹いた。

 

 そこで初めて、自分の頬が火照っていることに気づく。頬だけでなく全身が発汗し、胸は熱く心臓がドクドクと脈打っている。

 股間もいつの間にか硬く勃起していた。

 

 その理由は、分かっている。

 

 ――感謝は、しています。あと、あの……私にとっては。

 

 ロレンティアに誘導される形でマイが口走った言葉。

 

 マイにとって、俺はなんだと言うのだろう。

 あの言葉の先を想像しようとするだけで妙な焦燥感と、期待と不安が押し寄せてくる。

 

 振り払うようにソファーから立ち上がり、窓を閉めた。

 

 窓の外には、中庭を挟んでマイのいる別棟が見える。

 

 真っ白の外観が、今は夕陽を浴びて赤く染まっていた。

 







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第22話 二度目の嘘

 王都へ帰還して、三日。

 

 晴れた日の昼下がり、俺は執務室でマイの修練に付き合っていた。

 

「では私に麻痺の術を掛けてみなさい。全力でな」

 

「あの、でも……」

 

 マイがローブの胸元をつかみ、心配そうにつぶやく。

 

「大丈夫だ。私は防護魔法を展開している。麻痺の術はあくまで不意打ちに効く魔法だ。油断さえしていなければ防げる」

 

「わかりました。では、いきます」

 

 マイが俺に向かって手をかざす。

 

 ――麻痺の術。

 

 キイィィンと鋭い音が鳴る。防護魔法が魔力を弾いた証拠だ。

 

「これで全力か?」

 

「は、はい」

 

 彼女の息が上がっている。

 

「そうか」

 

 あの宿屋で放ったときよりも威力が小さいのが気になる。

 

 いや、そもそも聖女であるマイが攻撃魔法を扱えることが驚くべきことなのだが。

 威力にバラつきがあって不安定というのは、いざ使おうというときに危険が伴う。

 

「大司教さま?」

 

「ああいや、考え事をしていた。ふむ……マイ、私が授けた短剣は持っているか?」

 

「あ、はい」

 

 マイがテーブルに置いた荷物の中から、布にくるまれた短剣を取り出す。あの宿屋で、刺客の聖騎士が落としたものだ。

 

「それを握ったまま、もう一度打ってみなさい」

 

 布がはらりと落ちる。彼女は片手で短剣を握りしめ、もう片方の手を俺にかざした。

 

 ――麻痺の術。

 

 ガキィィンとさっきよりも大きな反動があった。宿屋で放ったときと同等の威力を感じる。

 

「なるほどな。マイ、今後はできるだけ短剣を身に着けていなさい。そのほうが術の通りがいい」

 

「はい、わかりました」

 

 マイが素直にうなずく。短剣をぎゅっと握りしめ、なにか決意を固めているように見える。

 あまり肩ひじを張らせても魔力によくない影響が出でしまうだろう。

 

「今日はこのへんで終わりにしよう」

 

「えっ、えと……私まだやれます」

 

「適性があるとはいえ、聖女が攻撃魔法を扱うのは魔力の消費が激しい。あまり無理をするな」

 

 言いながら白い肩に手を伸ばし、魔力を浸透させる。彼女の魔力の流れを確かめるいつもの習慣だ。

 

「ん……」

 

 条件反射のようにマイが目をつぶり、小さい吐息を漏らす。

 

(……相変わらず驚きだな)

 

 俺に――人に向かって攻撃魔法を放ったというのに、彼女の体内の魔力は安定していた。治癒の力と、攻撃的な麻痺の力が見事に同居している。

 

 誰よりも優しいのに、誰よりも皆を守ろうという意思が強い。

 そんな彼女の性質を表すような魔力の流れだった。

 

 本当に、マイは魅力的な女だ。

 

 華奢な肩から手を離すと、彼女がふっとため息をついた。ほんのり紅潮した頬が色っぽい。

 

 だが、その瞳は沈んでいるように見えた。

 

「どうした? 浮かない顔をしているな」

 

「あ、ごめんなさいっ……あの」

 

「悩みがあるなら言ってみなさい」

 

 優しく問いかけると、マイが目を泳がせた。

 いくつもの言いたい思いを、取捨選択しているように見える。

 

 やがて彼女の金色の瞳が俺を見上げた。

 

「大司教さま、私も防護魔法を使えるようになりたいです」

 

「どうしてだ?」

 

「みんなを、もっと守れるから……それに、大司教さまの力になりたいんです」

 

 その瞳がゆらゆらと揺れる。

 今にも泣き出しそうな強い思いの宿ったその眼差しを、俺はなぜか直視できなかった。

 

 マイの胸元あたりを見つめながら淡々と事実を告げる。

 

「君には無理だ。治癒の力と防護の力は似ているようでいて、その性質はまったく異なる」

 

「……そう、ですか」

 

 マイがまぶたを伏せる。諦めたように浮かべるその微笑みから、彼女もダメ元で言ったのだろう。

 

 防護魔法は、聖女を守る聖騎士が編み出したと言われている。

 

 公にはされていないが、防護魔法は童貞の聖職者に発現しやすい。その情欲を、生涯を、聖女を護ることに捧げる。その覚悟の強さが防護魔法の適性につながると俺は見ている。

 

 俺が防護魔法にこれほどの適性があったのも、聖女への執着の強さゆえなのだろう。

 

 つまりは防護魔法で護られる対象である聖女が会得するのは、不可能なのだ。

 もし治癒と防護、両方を使える者がいたら……それはもう人の域を超えている。

 

 ――大司教さまの力になりたいんです。

 

 先ほどのマイの言葉を思い出す。

 

 ……気持ちを無下にするのも、彼女の精神状態によくないだろう。

 

「マイ、短剣を使った剣術を習ってみるか? 第二王子殿下の親衛隊に女騎士がいただろう。君の指南役としてこっそり召し抱えてもいい」

 

「え……剣術、ですか?」

 

 思ってもみなかったのか、マイが驚いて目を見開く。

 

 いくら護身のためとはいえ剣術には多少の攻撃衝動が必要になる。

 だが、彼女なら大丈夫かもしれない。自身で身を護れるようになったほうが、より安全になる。

 

 それに。

 

 俺は純粋に、短剣を振るうマイを見てみたいと思った。

 それはさぞや美しく、そそる姿だろう。想像するだけで股間がゾクゾクと昂る。

 

「ぜひ習いたい、です。……でも、よいのでしょうか?」

 

 不安げに見上げてくる彼女を、見つめ返す。

 

「剣を使う聖女がいてもいいだろう。それに、その短剣は君によく似合っている」

 

「本当、ですか?」

 

 マイは短剣を胸元で抱き締めると、嬉しそうに微笑んだ。

 

 俺はその姿から目を逸らし、逃げるように思考を巡らせる。

 

 マイの皆を守りたいという思いの奥には、怒りの情動が潜んでいる。その攻撃性を無理に封印するよりも、剣術という形で昇華させることで、うまく制御できるようになるのではないか。

 

 彼女に視線を戻すと、まだ大事そうに短剣を抱えていた。

 

 ――あったかいなって、思って。

 

 不意に、いつか桃色の聖女見習い――ニーナが言った言葉を思い出す。

 

「マイ」

 

 俺は彼女に手をかざすと、再び魔力を浸透させてみる。

 

「ぁっ……」

 

 彼女は一瞬目を見開いたが、すぐに目を閉じた。落ち着いた表情を浮かべ、俺の魔力に身を委ねているようだ。

 

 やはりニーナのように感じ入った様子はない。

 

 なぜだか、心に小骨が引っかかったような気分になった。これは些細な苛立ちだろうか。妙に子どもじみた感情のようにも思える。

 

「あの、大司教さま……ご気分が悪いですか?」

 

 心配そうに見つめてくるマイと目が合う。

 

「いいや。……うむ、魔力に異常はないな。今日はもうゆっくり休みなさい」

 

「はい」

 

「ああそうだ、ニーナを呼んできてくれるか? そろそろ彼女の様子を見よう」

 

 ニーナの治癒魔法が弱くなっているから見てほしい。

 

 そうマイからお願いされたのが昨日のことだ。三日前に遠視の術で湯浴みを覗いたときに、確かニーナが彼女に相談していた。

 

「……はい」

 

 無表情のマイが俺の胸元あたりを見つめながら、小さく返事をした。

 

 

***

 

 

「ではニーナ、君の魔力の流れを見よう」

 

「は、はいっ」

 

 声を上ずらせたニーナが、なだらかな胸の前で両手を握った。

 

 頬を桃色に染める彼女のおでこに手をかざす。魔力を浸透させていくと、小さい体がぶるりと震え両肩が縮み上がった。

 

「は、ぁっ……んぅぅ……」

 

 絞り上げられるような声だ。目端に涙が浮かび、眉間にシワが寄っている。

 以前、温室で掛けたときよりも反応が大きい。

 

 魔力を解くと、ニーナは肩を下げてはぁはぁと胸を上下させた。

 

「ふむ、つらかったか?」

 

「い、いえっ! そのあのっ……全然大丈夫です!」

 

「そうか」

 

「ただ大司教様の魔力が、すごくてっ……」

 

「そうか」

 

 泣きそうな表情で肩を抱くニーナを眺めながら、思考を巡らせる。

 

 彼女の魔力は確かに弱まっていた。

 だがそれは治癒の力が減っているというよりは、部分的に詰まっているという感じだ。総量自体に変化はない。

 司教連中に手籠めにされた他の聖女見習いとは、明らかに症状が異なる。

 

 そして、この症状には覚えがあった。

 

「君の体内で魔力詰まりが起きているようだ」

 

「魔力詰まり、ですか?」

 

「ああ、マイも何度か起こしたことがあるからな。大丈夫、荒療治だが私の魔力を注ぎ込めば治る」

 

「大司教様の、魔力を……」

 

 魔力詰まりは、大量の魔力が血管で目詰まりを起こしているような状態だ。

 

 魔法はその人間の精神に影響する。

 昔からマイも落ち込んだり思い詰めたりしたときに、この症状を引き起こしていた。

 

 俺はいつもより親身に話を聞き、最終的に大量の魔力を流し込むことで解消できるということを発見した。

 

「ニーナ」

 

「は、ひゃいっ」

 

 ニーナが変な声を上げた。さっきよりも顔を真っ赤にして、額には汗がにじんでいる。

 

「後ろを向きなさい。魔力を注ぐ」

 

 マイであれこれ試したところ、背中に手を当てて一気に流し込むのが一番効果的だった。

 

 ニーナは慌てた様子で背中を向けた。まるでステップを踏むような動きで、ピンク色の髪がふわりと宙を舞う。

 

 白いローブ越しに小さい背中に手をかざす。

 マイよりも背が低いので、かざす場所もいつもより下だ。

 

 魔力を注入し、ニーナの体内へ浸透させていく。

 

「あぅっ、ん……」

 

 体をかき抱くように丸まる背中に、さらに魔力を注入する。はぁはぁと息を荒げ、かなり発汗しているようだ。

 

 そういえば初めてマイの魔力詰まりを治したときも、似たような反応だったのを思い出す。

 

「あぁっ……大司教様の魔力、すごい……です」

 

「そうか」

 

 奥深くまで魔力を浸透させると妙な違和感があった。

 まるで彼女の心臓を別の魔力が包んでいるような。

 

「ニーナ、すまないがローブを脱いでくれないか?」

 

「えっ、えぇ!? ……あ、あのっ、ご奉仕ですか?」

 

「いや、そのほうが治りも早いのだ」

 

 直接肌に触れたほうが探りやすい。この違和感の正体、私の推測が正しければ少々厄介だ。

 

「わ、わかりましたっ」

 

 ニーナは震える手でローブの紐を解き、ストンと床に落とした。薄い肌着と布面積の少ないショーツがあらわになる。

 肌着の裾をつかみ、慣れた手つきで脱いでいく。

 白く透き通った背中があらわになった。

 

「えと……下も、脱ぎますか?」

 

 彼女がわずかに振り返り、吊り目がちのグリーンの瞳で見つめてくる。恥ずかしそうな、だがどこか誘うようなその流し目は、さぞや多くの男を虜にしてしまうのだろう。

 

「いや、このままでいい」

 

 細い背中に手のひらを当て、肌に直接魔力を注ぎ込む。

 

「ひぅっ……あッ、あんっ……」

 

 彼女の全身にまで染み渡らせた俺の魔力が、違和感の正体を突き止めた。

 

(これは、呪いか)

 

 魅了、というより洗脳に近い。ニーナの心を奪い意のままに操る強力な魔法だ。

 

 こうした呪術は帝国で盛んに研究されていると聞く。ゴーゼ司教の背後には帝国がいるのだろうか。だとしたらやはり厄介だ。

 

「ニーナ、一気に詰まりを解消する。我慢できるか?」

 

「は、はいっ……」

 

 幸い、呪術はまだ発動した形跡がない。

 ゴーゼ司教は「どういうとき」のためにこの呪いを掛けたのだろう。殺すとき……いや、マイを無理やり奪うときだろうか。

 つくづく下衆な男だ。

 

 いずれにせよ、ここまで強力な呪術を発動させるには一回が限度だ。それも術者であるゴーゼ司教がニーナの近くにいないと発動しない。

 

 この切り札のためにあの男は何度もニーナを抱き、長い時間を掛けて呪いを仕込んだのだろうが。

 

 今ここで解呪させてもらう。私ならそれができる。

 

「では、いくぞ」

 

 俺は大量の魔力を練り上げ、一気に彼女の中へと放出した。

 

「ぁっ……あぁッ、大司教、さまっ……だめっ、んん゛っ……んうぅぅぅっッ」

 

 ニーナは自分を抱き締めながらビクビクと震えだし、ついに立っていられずに前のめりに倒れた。

 床にへたり込み、四つん這いになった彼女の背中へさらに魔力を注入する。

 

「あぁっ、やめっ……あうぅッ、こんなのっ……むりですっ、ぁっ……あっ、あ゛あぁぁんっ……ッ」

 

「我慢しなさい。もう少しだ」

 

 ニーナの心にまとわりついた呪いを、ゴーゼ司教の魔力を一気に押し流し、俺の魔力で上塗りをしていく。これでもう第三者が彼女に呪いを掛けるのは難しくなるはずだ。

 

 渦巻いた魔力があふれ、ニーナの体が(ほの)かに光る。そして。

 

「んくっ、ぅっ……あッ、あっ……はああぁぁぁんっ――ッッ」

 

 ニーナは背中を反らせて天井を見上げ、やがて糸の切れた人形のように脱力した。

 

 

 彼女の細い肩を支え、落ち着くのを待つ。

 

「ニーナ、よく耐えたな。体の調子はどうだ?」

 

「大司教、様っ……わたし、こんなの……初めてですっ……」

 

 ニーナは瞳から大粒の涙をこぼしている。さすがに負荷が大きかったようだ。

 

 おかげで彼女の体内から呪いは消え去った。

 ついでに魔力詰まりも解消されたようだ。

 

「辛かっただろう? 少しこうして休んでいるといい」

 

「はい……大司教様、すごく……つらかったです」

 

 ニーナが座ったまま後ろに倒れてきて、俺の胸板に後頭部をあずけた。寄りかかった彼女を俺が背後から包み込むような格好だ。

 そういえばマイも昔、魔力詰まりを治したときはこうして俺をソファー替わりにしていた。

 

 なんとなく、桃色の頭をポンポンと撫でてみる。

 

「頑張ったな、ニーナ。あとは胸の内につかえているものを吐き出してみなさい。そうすれば魔力詰まりになりにくくなる」

 

 魔力の不調は精神的なところが大きい。

 こうしてカウンセリングを施すことで心を軽くし、心の不調を起きにくくする。何度かマイの魔力詰まりを治すうちに、結局これは一番効果的なのだと学んだ。

 

「胸の内、ですか?」

 

「ああ、些細なことでいいんだ。今日の天気は憂鬱だとか、聖女見習いの決まりごとが面倒だとか、そういうのでいい」

 

「そんなこと言ったら、ティア姉さまに叱られちゃいます」

 

 くすくすと笑うニーナは、年相応の無邪気な顔をしていた。だいぶ心を許してくれたらしい。

 

 少しして、ふぅとため息をついた彼女がぽつぽつと話し出す。

 

「……司教様がたって、たいへんなお仕事なんですね」

 

 司教……やはりゴーゼ司教のことで悩んでいるのだろうか。

 

「大変かもしれないが、それが司教の生き方だ。女神と人々に尽くし、聖女を護ることに生涯を捧げる。そういう生き物といっていい」

 

「大司教様もですか?」

 

「ああ、私は特にそうだな」

 

「それって、お辛くはないのですか?」

 

 つらい?

 むしろ俺にとっては最上の悦びだが。

 

「どういう意味だ?」

 

「いえその……誰かと、結ばれることはないのかなと思いまして……」

 

「司教や大司教を退いたら、そういう道を選ぶ者もいるな」

 

 引退し、田舎で妻をめとる司教もいると聞く。

 

 だが、ごくごく(まれ)だ。

 

 生涯の多くを教会で暮らし、教義にその身を捧げてきた司教たちが俗世に下るのは難しい。司教になった時点で中年か初老に達しているのが普通だ。俺のように若くして司教になるケースは本当に珍しい。

 

「それで大司教様は幸せなのですか……? 男と女は交わり合うことで、本能的な幸福を得られるのだとゴーゼ様が――ぁっ」

 

 ニーナが慌てて口をつぐんだ。「すみません」とつぶやき、気まずそうに下を向く。

 あの男の邪な教えを披露してしまったことや、「ゴーゼ様」と寝所での呼び方で言ってしまったことに罪悪感をおぼえたのだろう。

 

 こういうときは無理に否定をすると逆効果だ。

 

「いい。それも人の幸福の一つだ。彼も君のためを思っていろいろなことを教えたのだろう」

 

 するとニーナはぐすりと鼻をすすった。

 

「いえ、きっとそんなんじゃ……ないです。大司教様のほうが、もっとずっとっ……」

 

 次第に声が小さくなり、代わりにすすり泣く音が大きくなる。

 

 しばらくすると、ニーナは口を開いた。

 

「最近も、ゴーゼ司教からお手紙をいただくんです」

 

 ずっと聞き出したかったことを、彼女のほうから明かしてくれた。これは都合がいい。

 

「ほう、親しいのだね」

 

「い、いえっ、そんなんじゃなくって……あの、お手紙の内容も『元気か?』とか、『なかなか戻れなくて教会の様子が心配だ』とか、そんな感じでっ……でもお返事をするのが、こわくて、それでっ……」

 

 まだ返事を送ってはいないらしい。

 焦った様子で言い募る彼女に、さらに問いかける。

 

「教会のことを案じているんだね。だから変わったことがないかを君に聞いていると」

 

「あ、はい……行事や遠征の日程を教えてくれたら助かると言われています」

 

 なるほど。これはやはり使える。

 

「では、私は三日後の夜、王陛下との御前会議のため王城に呼ばれていると伝えてあげなさい」

 

「え、いいのですか?」

 

「無論だ。神殿にいる司教たちには通達してある」

 

「わかりました、あとで文を送ります」

 

 ニーナがふっと肩の力を抜いた。

 少しは彼女のわだかまりも解けたのだろうか。

 

 そろそろ日が暮れてきた。

 

 私にはこの後やることがある。

 

「ニーナ、そろそろ戻りなさい。ロレンティアも心配するだろう」

 

「あ、はいっ……ぁ、あのでも、もうちょっとだけ、ここにいてはだめですか?」

 

「すまないが、聖域の見回りをしないといけなくてね」

 

 寄りかかった彼女の肩をつかみ、前に起こす。

 

「わかりました……ごめんなさい、大司教様」

 

 ニーナはこちらに向き直り、お腹のあたりで手を握った。彼女の白い上裸が、窓からの夕陽で赤く照らされる。

 

「まだ胸のつかえは取れていないだろう。悩み事があったらマイに相談しなさい。また私が聞いてあげよう」

 

 言いながら温和な笑顔を作る。

 

 ゴーゼ司教がニーナを「切り札」の一つとして見ているなら、彼女との関係を良好にしておいたほうが何かと有利に働くはずだ。

 

 ニーナはぽかんとしていたが、みるみる頬を朱く染めていく。

 

「いえっ……今のお言葉で胸のつかえが半分くらい消えましたっ」

 

 夕陽のせいか、彼女の瞳までもが熱く蕩けているように見えた。

 

 

***

 

 

 日が沈み、空が薄暗くなった頃。

 

 俺は中庭の奥まったところにある温室にいた。

 

 植物の生い茂るその中心で、光の柱が煌々と輝いている。聖域の放つ光が温室内を包み、ほのかに暖かい。

 

「ここも異常はないな」

 

 俺は聖域ではなく、茂みの中に分け入って各所を点検していた。これまで聖女見習い以外が立ち入れなかったせいで、男手による補修を必要とする部分が多い。

 現状、男は大司教しか入れないので、その手の大工仕事も俺の役回りになるだろう。

 

 ふと、草を踏み鳴らす足音が聞こえた。

 

(誰だ)

 

 なんとなく遠視の術を使ってみる。

 

 まぶたの裏に、温室内を歩くマイの姿が映し出された。

 

(ほう、寝間着か)

 

 聖女見習いたちが別棟でのみ着用している寝間着。

 

 白い麻布を二枚、肩のところで結んだだけのシンプルな衣服だ。首元まで布で隠れているが、そのぶん側面がぱっくりと開かれており、横から見れば脇腹や乳房の一部までもが容易に覗けるデザインになっている。

 白い二の腕も露出していて、腕を上げたらなめらかな腋の下もあらわになるだろう。

 

 上衣の裾をねじ込んでいるスカートは、これも二枚の麻布を腰のところで結んだような作りで、側面には深いスリットが入っている。

 マイが歩くたびに、彼女の肉感的な太ももが露出する。

 修練服に似た、なんとも無防備な格好だ。

 

 マイは温室内を歩きながら、ちらちらと誰かを探していた。

 

 おそらくは俺の姿を。

 

「まったく、仕方のない子だ」

 

 俺は息を潜めつつ、彼女がちょうど目の前を横切ったところで両手を伸ばした。

 

「きゃっ」

 

 マイの体を捕らえると、そのまま茂みの中へと引き込む。片手で彼女の口を覆い、もう片方の手をお腹に回り込ませて拘束する。

 

「んぐっ……ん゛んッ、んっ……!」

 

「マイ、そんな格好で一人出歩くなど不用心ではないか」

 

 耳元でささやくと、彼女の全身の強張りが解けた。口を押さえていた手を放すと、マイがはぁっと息を吸い込んだ。

 

「大司教さまっ……びっくり、しました」

 

「それはこちらの台詞だ。どうして君がここにいる」

 

「あの、さっき……ニーナに会って、大司教さまがここにいると」

 

「それでのこのこと一人で来たのか? こんな無防備な格好のまま」

 

 マイの寝間着の側面から腕を差し込み、柔らかい乳房を揉む。湯浴みをしたばかりなのか彼女の乳肉は熱く火照っていた。そういえば黒髪もしっとりと湿っている。

 鼻先にある白いうなじを嗅げば、いつか俺が渡した入浴剤の香りがした。

 

「あッ、あんっ……ん、ごめんな……さい」

 

「それで私になんの用だ?」

 

 手のひらを豊乳に(うず)めながら聞く。

 

「んっ……ぁっ、あの、ニーナの……んッ、魔力の詰まりを治してくださったと、聞いて」

 

「それで?」

 

「それで……んッ、大司教様とお話がした……ぁっ、ん……ご相談したいことが……」

 

「なんだ」

 

「わ、わたしもっ……詰まりを、治してほしくて」

 

 むにゅう、と乳房を揉み込むとマイは「あッ」と甘い声を発した。

 

 彼女の柔乳を手のひらで(いじ)りながら、体内の魔力を探ってみる。

 

 ……詰まりはないようだ。魔力の流れに異常も感じない。

 

 マイが、また嘘をついた。

 

 その事実にドクンと心臓が脈打つ。どうしようもない情動が体の奥から湧きあがってくる。

 

「本当に、君は」

 

 愛らしくて、いじらしい。俺の心をつかんで離さない。どんなに犯しても犯し足りない。

 

「あの、大司教さま」

 

 黙っている俺に、マイが不安げな声になる。

 

「危ないだろう。……君は狙われているんだ。神殿内とはいえ日が落ちて出歩くなど、襲ってくださいと言っているようなものだ。こういうふうにな」

 

 もう片方の手を彼女の下半身に伸ばし、スリットの中へと差し入れる。なめらかな太ももの感触を撫でてから、ショーツの薄布の内側へと手のひらを差し込む。

 

「んんッ……大司教さま、そこ、はっ――」

 

 すでにぐっしょりと濡れている割れ目へ、中指を浸していく。くちゅりと愛液が指を濡らし、膣肉がうねって収縮しているのを感じた。

 

「はぁっ、あぁッ……大司教さまっ、ゆび」

 

 マイが全身を震わせる。

 以前抱いたときよりも、数段感度が上がっているようだ。

 

「魔力詰まりを治してほしいと言ったね。望みどおり、治してあげよう」

 

 俺は先ほどニーナの呪いを解いたときを思い出していた。

 肌に直接触れて、魔力を一気に注入する。ニーナの反応を見るに、あれは相当な刺激のようだった。

 

 もし、膣を愛撫しながら快楽とともに魔力を流し込んだら。

 

 いったいどれほどの性感に達してしまうのだろう。

 

「マイ、ここは聖域だ。淫らな声を上げてはいけないよ」

 

 俺は指先に微弱な魔力を込めると、彼女の膣内へと注ぎ込んだ。

 



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第23話 求める口づけ

 

 マイの濡れそぼる秘所に指を浸しながら、微弱な魔力を流し込む。

 その瞬間、彼女の体が跳ねた。

 

「あっッ、あぁっ……ん゛うぅぅぅっ――ッ」

 

 俺の股間に密着したマイの腰がガクガクと震え、体温が急上昇したのを感じる。

 

 聖女は体質的に感じやすい。さらにマイの感度は抱くたびに上がっているが、指を挿入しただけで達してしまうとは驚きだ。

 

 魔力を帯びた愛撫が、これほど性感に作用するとは知らなかった。

 

 指先の魔力を解いた瞬間、マイの体から力が抜ける。いつの間にか俺の両腕に添えられた手が汗ばんでいた。

 

「どうしたマイ? そんなに反応して」

 

「わかんない、ですっ……大司教さまのゆびが、あつくてっ」

 

 はぁはぁと熱い吐息を漏らしながら、なんとか言葉を紡ぐ。

 金色の瞳は揺れ、うつろにさまよっている。性感に襲われ戸惑っている表情がとんでもなく色っぽい。

 

 これは、たまらないな。

 

「あのっ……大司教さま」

 

「なんだ?」

 

「ニーナにも、同じように……したのでしょうか?」

 

 マイが震える声でつぶやく。その声色にはわずかな不安が混ざっていた。

 

「いいや、ニーナには軽く触れただけだ。この処置は君にしかしない」

 

「それは……私が聖女だからですか?」

 

 マイが泣きそうな声で聞いてくる。

 

 ――あなたは彼女のことを、聖女とは見ていない。

 

 不意にロレンティアの言葉が脳裏によみがえった。それを振り払うように答える。

 

「……ああ、これは聖女だけにする特別な処置だ」

 

「そう、ですか」

 

 俺の答えは、マイが本当に望むものではないだろう。

 だが彼女は小さくため息をつくと、満足そうに微笑んだ。

 

 その安心したような横顔を見ていると、無性に虐めたくなってしまう。嗜虐心が湧いてきて、もっとマイを性感に溺れさせたくなる。

 

「少し負荷が大きかったか。辛ければここで止めるが、どうする?」

 

 真っ赤になった耳元にささやき、魔力を帯びた指先で彼女の鼠径部(そけいぶ)をなぞる。それだけでマイはブルリと震え上がり、内股をぎゅっと閉じた。

 

「……て、……さい」

 

「なんだ?」

 

「……やめないで、ください……大司教さま」

 

 彼女が涙声で懇願する。恥辱に眉をひそめながらも、なんとかその言葉を絞り出した。

 

 本当に可愛いらしい反応だ。

 

「そうか。なら我慢するんだよ」

 

 ぬちゅ、と再び膣内へ中指を挿れていく。全身の強張りとは裏腹に、マイの膣中は何度も絶頂した後のようにほぐれていた。

 

 わずかな魔力を指先に込め、加減を調節しながら膣内の少しザラザラしたところ――彼女のひときわ弱い部分を押してみる。

 

「あぁッ……は、ぁっ、あっ――ッ、ん゛んんっ――――ッ」

 

 柔らかい膣肉が指をきゅうっと締め付けてく感覚が気持ちいい。

 彼女の体が俺を求めている実感だけで射精しそうだ。

 

「ふむ、こちらの反応はどうだ?」

 

 今度は乳房を揉んでいるほうの指先に魔力を込め、硬くなった蕾をつまむ。魔力を塗り込むように乳首をこねると、彼女の肩がビクンを揺れた。

 

「やぁっ、あ゛ぁッ……んっ、どうして、大司教さまのゆびっ……あッ、んううぅぅぅっ――ッ」

 

 乳首への愛撫だけでマイがまたも絶頂する。

 

 夢中で性感帯を責めていると、だいぶコツがつかめてきた。

反応を見ながら、彼女が一番感じやすい魔力量を把握する。あまり強すぎてもいけないらしい。この絶妙な加減は、俺のように並外れた魔力制御を行える者でなければ無理だろう。

 

 指先の魔力を解くと、再びマイの体が脱力した。

 

「大司教、さまっ……私、ヘンですっ……」

 

「どんなふうに変なのか言ってみなさい」

 

 耳たぶに唇を押し付けてささやくと、それだけで彼女がブルリと震え上がる。

 

「あぅっ……ん、体の中に、大司教さまの魔力が入ってきてっ……あッ、んっ……体が、勝手にびりびりって……頭が、まっしろで……いつもみたいに、我慢できなくて」

 

 マイの告白に、全身が昂った。

 

 いつも挨拶代わりに魔力を注ぐとき、彼女は我慢をしていたらしい。

 

「別に我慢をする必要はない。正常な反応だ」

 

「で、でもっ……ヘンな声、出ちゃうのが……恥ずかしくて」

 

「そうか」

 

 それも興奮する。

 必死に快感を我慢する姿を楽しむのも一興だ。これから魔力の流れを確認するときは、素肌に触れながら行うようにしよう。

 

 そんなことを考えながら、俺はマイの服の内側で手のひらを這わせる。魔力を(まと)わせた指腹で、汗ばんだ乳房の谷間をなぞり、乳毬の輪郭をなぞるようにくすぐり、お腹やヘソも撫でていく。

 マイの感じやすいところを探そうと思ったのだが、どこに触れても彼女は軽くイった。

 

 面白いように絶頂するマイに、愛撫が止まらなくなる。

 

 膣穴を弄んでいた指を抜き、膣口の上、クニっとした感触のクリトリスに触れる。

 

「んぁっ、だ、だめですっ……今そこ、(さわ)られたらっ」

 

「マイ、いくぞ」

 

 中指の先に魔力を込め、張り詰めた肉粒をつまんだ。

 

「いやぁッ……あああぁぁぁっ――――ッッ」

 

 甘い絶叫が温室内にこだまする。まるで感電したかのように彼女は悲鳴を上げた。小さい顎が上向き、開いた口から必死に快感を逃がそうとしているようだ。

 

 すでに足腰から力が抜けきっているマイを片腕で支えながら、耳元にささやく。

 

「まだ魔力詰まりが解消されていないようだ。続けるぞ」

 

「ぁっ……まってくださいっ、もう治って……」

 

 中指を膣中に深く埋め、最奥を押し込みながら魔力を放った。

 

「あッ――」

 

 静かな温室内に、マイの甲高い嬌声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれくらい経っただろうか。

 

 気づけば月が真上から温室を照らしていた。マイをイかせ続けていたら、いつの間にか夜が更けていたらしい。

 

 俺の腕の中で脱力している彼女を眺める。

 

 両腕はだらんと垂れ下がり、上衣はめくられ大きい乳房があらわになっている。

 パンツは膝のあたりまでずり下ろされ、内股になった下腹部からは大量の愛液が滴り太ももを濡らしていた。

 半開きになった口元からはハァハァと小刻みな吐息が漏れ、時おり絶頂の余韻に息を詰まらせている。

 

 神聖な場所にはまるで似つかわしくない、淫靡で背徳的な姿だった。

 

 すでに俺の股間は破裂しそうなほどに勃起し、漏れ出た先走り汁が下着を湿らせている。

 

 このままマイを犯したいが、さすがにこれ以上の快楽を与えたら彼女を壊してしまうかもしれない。

 

「マイ、大丈夫か? 魔力詰まりは治ったはずだから今晩はもう休むといい」

 

「は、い……」

 

 呼吸が落ち着いてきたのか、マイはなんとか返事をした。

 

 小さい体を支えていた腕をゆっくり離すと、彼女が俺のほうへ向き直る。

 

「おっと」

 

 小さい体がふらりとよろけ、俺の胸元へしなだれかかってくる。

 

 熱い吐息をこぼしながら、ゆっくりとこちらを見上げた。

 

「大司教さま、あのっ……」

 

 揺れる瞳が何かを訴えかけてくる。

 何かを求めるような上目遣いだ。

 

 言葉がなくても分かってしまう。

 彼女の表情、仕草のすべてが口づけを欲していた。

 

 だが朦朧とする思考の中で、いい口実が見つからないようだ。

 わずかに開いた唇を俺に向け、その先端が震えている。

 

「マイ、舌を出しなさい。粘膜を通して詰まりが取れたか確かめよう」

 

 彼女は小さく息をのむと、舌先をちろりと出した。

 その可愛らしい舌に、ゆっくり舌を重ねる。

 

「ぇぁ……ん、ぁっ……」

 

 すぐにマイの舌が絡みついてきた。開いた唇が密着し、その閉じられた口内で濃厚に舐め合う。

 

 散々にイったせいかマイの舌が溶けそうなほど柔らかい。口内は熱く、漏れる吐息も温かかった。

 

「んっ……は、ぁっ、んむっ……ん、んっ……ぁぁっ」

 

 くちゅ、くちゅと唾液の混ざり合う音に、脳が(とろ)ける。彼女の求めるようなキスがとんでもなく気持ちいい。

 

 やがてお互いの舌先をすくうように舐め合ってから、ゆっくりと密着が離れていく。

 

「大司教さま、どう……ですか?」

 

 鼻先が触れ合う距離で、絶世の美少女が物足りなさそうに俺を見つめた。

 

 心臓が跳ね、肉棒にドクドクと血が巡る。

 

「ああ、魔力の流れは正常だ。だが最後に私のもので確かめる必要がある。……いいね?」

 

 密着しているマイをさらに抱き寄せ、硬くなった股間を彼女の下腹部に押し付ける。

 

「はい……」

 

 マイは切なそうな顔で小さく返事をした。

 

「そこの木に手を付きなさい」

 

 手を伸ばせば届く位置に生えている木へ、視線を送る。

 

 彼女はコクっとうなずき、素直に両手を木に当てた。

 

俺のほうへ控えめに差し出しされたお尻を一撫でし、スカート部分をめくり上げる。

 マイの丸くて白い尻が月明かりに淡く照らされる。彼女の秘所からは蜜液があふれ、きらめいていた。

 

 その美しくも淫らな光景に、思わず唾を飲み込む。

 

「よく濡れている。私のものがすんなりと入りそうだ」

 

 ズボンを下ろし、先走り汁にまみれた肉棒を濡れ窟にあてがう。

 

「マイ、挿れるぞ」

 

「はい……」

 

 従順にうなずくマイの膣口に、亀頭を埋めていく。ぬちゅ、と卑猥な水音がしたかと思うと肉棒が吸引された。

 

「くっ」

 

 気づけば肉竿が熱い膣内に包まれ、きゅううっと圧迫されていた。腰が浮かび上がるような気持ちよさだ。

 実際には俺が突き出したのだろうが、まるでマイの膣に飲み込まれたような感覚に陥る。

 

「あぁっ……んッ、ぁっ……大司教さまの、入ってっ……」

 

「マイの中はすごいな。私のものをつかんで締め付けてくる」

 

 幾度も絶頂を繰り返した彼女の膣内は、まるで溶ける寸前のように熱くうねっていた。

 

 肉棒をさらに膣奥へと埋め込むために、股間で彼女の尻を突く。

 

「はぁッ……あぁんっ――ッ」

 

 マイが体をくねらせ、抽送の快楽だけでイった。

 

 俺はそのまま彼女に覆いかぶさり、胸元に片手を伸ばす。下を向いて実る豊乳を手のひらでたぷんと揺らし、先端の乳首を指で押さえる。

 もう片方の手はマイの股ぐらへと這わせ、ぷくりと膨らんだクリトリスに触れた。

 

「マイ、これは君が味わったことのない刺激だ」

 

「ぇっ……?」

 

 俺は後背位で挿入しながら、指先に魔力を込めた。

 

「あッ……あ゛ああぁぁぁっ――――ッッ」

 

 彼女が雷に打たれたような悲鳴を上げる。乳首とクリトリスを魔力で愛撫され、さらに挿入の快感まで掛け合わさったのだ。無垢な少女が耐えられる快楽ではないだろう。

 

 彼女の敏感な場所を愛撫しながら、俺は小刻みに腰を動かす。

 

「あ゛ぁあっ、あッ、あんっ……んッ、んあ゛っ、あッ、ん゛ううぅぅッッ」

 

 ズチュ、ズチュと肉棒を出し入れするたびにマイがくぐもった悲鳴を上げる。

 魔力を込めて愛撫をしている乳首はさらに硬くなり、クリトリスも膨らみを増していく。

 

肉棒を咥えこむ膣の中が広がったかと思うとぎゅっと締まり、その繰り返しで肉棒が絞られ、尻奥から強烈な射精感がこみ上げてくる。

 

「ん゛っ、ひぐっ、あ゛ぁっ、ああッ……あっ、はぁっ……んああっ、あっ、いやぁッ」

 

「ぐぅっ……マイ、出すぞ」

 

「ひっうぅッ、あぁっ、ああっ……中がっ、溶けっ、溶けちゃっ……ぅっ、んうぅうううっ――――ッッ」

 

 膣がぎゅうっと締まり、凄まじい快感が肉棒から脳天まで突き抜けた。

 その瞬間、

 

「ぐっあぁぁっ……!」

 

 彼女の腰に股間を強く押し付けながら、ついに鈴口が決壊して精が放たれた。ドビュルルル、ドビュルルと熱い精液が尿道を駆け抜けていく快感に頭が真っ白になる。

 

「ぐっ……ぁ」

 

 脳髄がとろけるような快楽。ドビュッ、ドビュッと彼女の最奥に射精するたびに太い快感に襲われ卒倒しそうになる。足がガクガクと震え、立っていられなくなる。

 

 マイの背中に押し潰すように体重を掛けると、彼女の全身が痙攣しているのを感じる。

 

 やがて互いの体からフッと力が抜け、繋がったまま地面にしゃがみ込んだ。四つん這いになった俺の下で、マイはうつ伏せになって荒い呼吸をしている。

征服感と愛おしさが同時に押し寄せ、恍惚とした快楽が止まらない。

 

「はぁっ、はぁっ、ぁッ……大司教、さまっ……」

 

 絶頂に身を委ねていたマイだったが、次第に呼吸がゆるやかになっていく。

 

 正直このまま朝まで抱き潰したいが、彼女の体がもう限界のようだ。

 

「丸薬を飲んだら、少し眠るといい」

 

 俺の言葉に誘われるように、彼女はゆっくり気を失った。

 

 

***

 

 

 地面から天に向かって光の柱が伸びている。

 

 その聖域の中で、マイは静かに眠っていた。

 

 彼女が気を失ってからしばらくして、動けるようになった俺はマイを抱きかかえ、聖域に横たえた。

 光柱に触れると弾かれてしまうため、彼女の体だけを聖域内におさめるのに苦心した。

 

 うまく寝かせたつもりだったが、聖域の円の範囲は狭く、マイの膝下が外へはみ出ている。

 

 聖域は、大地の力が漏れ出す場所だ。

 

 そこにいるだけで聖女や聖女見習いの魔力を活性化させ、体力も回復させる。マイを休ませるのにここまで適した場所はない。

 

「……美しいな」

 

 白い光の中で眠る美少女に、つい見惚れてしまう。

 まるで気まぐれに地上へ降りて来た女神のようだ。

 

「んっ……」

 

 しばらく眺めていると、彼女のまぶたがピクリと動いた。

 

「大司教、さま……おはようございます」

 

「おはよう、マイ」

 

 体を起こした彼女が目元をこするりながら、ぼうっとあたりを見回した。

 

「大司教さまが、運んでくれたのですか?」

 

「ああ、だいぶ消耗していたからな。休むならベッドよりも聖域のほうがいいだろう」

 

「……ありがとうございます」

 

 これまでの習慣からか、マイは正座をして祈るように両手を握った。

 

 俺もその場で腰を下ろす。

 

 光の壁越しに彼女と視線を合わせ、低い声で言葉を紡ぐ。

 

「マイ、大事な話がある。聖域は君にとって最も安全な場所だ。万が一神殿に侵入者があったときは、真っ先にそこへ逃げ込むんだ。……いいね?」

 

 真剣な眼差しで見つめると、彼女は思い悩むように眉間にシワを寄せた。

 

「私は、みんなを守りたいです」

 

「だめだ。それは私が許さない。狙われているのは君だ」

 

 さらに低い声色で諭す。有無を言わさぬ圧に、マイは握った手をぎゅっと結んだ。

 

「大司教さま、は……?」

 

「私もここで君を守る。それが私の務めだ」

 

 マイは眉間にシワを寄せたまま、俺をまっすぐ見つめた。

 

「では……せめて、大司教さまはみんなのところへ行ってください。私はここにいます。だから、他の子たちを守ってあげてください」

 

 懇願する眼差しの中に、凛とした覚悟のようなものが垣間見えた。

 

 ドクンと心臓が高鳴る。

 初めてマイに会ったときに俺を魅了した、強い意志のこもった瞳だ。

 

(相変わらず優しくて強情な子だ)

 

 だが、そこがいい。

 

「わかった、そうしよう。ただし君の安全が確保できてからだ」

 

「ありがとうございます」

 

 彼女が安堵したように微笑む。

 それだけで張り詰めていた緊張がほぐれるから不思議だ。

 

 

「……そろそろ、戻りますね」

 

 マイがゆっくり立ち上がろうとする。

 だがうまく腰が上がらずペタンとへたり込んでしまった。

 

「まだ体が回復しきっていないのだろう。もうしばらくそこで休んでいなさい」

 

「はい……ごめんなさい」

 

 元はと言えば、俺が無理にイかせ続けたせいだ。彼女が謝る道理はない。

 

 静寂に包まれた温室に、マイの小さい呼吸だけが聞こえる。

 

 しばらく見つめ合っていると、彼女が不意にまぶたを伏せた。

 

「あの、大司教さま」

 

「なんだ」

 

「今夜は……そばにいさせてください」

 

 目を逸らし、まるで無理なわがままを言っているかのような表情だ。

 いてほしいではなく、いさせてほしいと言うところが彼女らしい。

 

「ああ、君が回復するまで……いや、君の気が済むまでここにいよう」

 

「ありがとう……ございます」

 

 マイがほっと胸を撫で下ろし、嬉しそうに微笑む。

 もし聖域の壁に阻まれていなかったら、俺は衝動的に抱き締めていただろう。

 

「あの、では、少しお話をしませんか?」

 

「話? 何か話したいことがあるのか」

 

「あの私、大司教さまのことが……もっと知りたいです」

 

 まるで子守歌をせがむ幼子のような言い方だ。

 

 俺の、身の上話か。

 

 誰かに話したことは一度もないな。

 

「別段面白いものではないぞ」

 

「そんなことないです」

 

 妙に強い口調で反論してくる。

 

「ふむ……とはいえ本当に大した話はないぞ。物心ついた頃には大司教になろうと決意して、それからは教会に入ってひたすら座学と修練の日々だった」

 

「その前は、何をなさっていたのですか?」

 

 物心つく前か。

 

「……記憶にあるのは、ネズミ捕りだな」

 

「ネズミ捕り、ですか?」

 

 マイが目をまん丸くして聞き返す。

 

「ああ、私の家は小さな果物屋でな。手作りの罠を仕掛けてネズミを捕るのが幼い私の仕事だった」

 

「そうなんですか」

 

「君の実家は何を生業(なりわい)にしていたんだ?」

 

 そういえば、彼女が村の教会に保護される前のことをほとんど知らない。

 

「私の家……ですか? あまり、覚えていないんですが……畑を耕しながら治療院を営んでいたのだと思います。よく農作業でけがをした人が、うちに来ていましたから」

 

 彼女が目を細め、寂しそうな顔をした。

 

 家も村も焼かれたマイにとって、昔を思い出すのは辛いことなのだろう。

 

 

「……私の好物はりんごのパイだ」

 

「え、りんご……?」

 

「ああ、売り物の中でも一番高価な果物で、私は滅多にありつけなかった。だがときどき、私が大きなネズミを捕まえると母が褒美に焼いてくれたのだ」

 

「そうだったのですね」

 

 マイがくすりと笑う。

 

「くれぐれも他言無用だぞ。これは誰にも明かしていない。君と私だけの秘密にしておいてくれ」

 

 大司教という立場上、好物一つ知られるだけで面倒なことになる。

 

「私と大司教さまの、秘密……」

 

 マイが唇をきゅっと結び、頬を綻ばせた。

 

「いつか、大司教さまの作ったネズミ捕りの罠を見てみたいです」

 

「いずれな」

 

「もし大きなネズミを捕まえたら、私がりんごのパイを焼きますね」

 

 妙に楽しそうな彼女が面白い。

 その口調は、教会に来たばかりの頃のマイを彷彿とさせた。

 

「だが聖女は生き物すべてを等しく慈しむ存在だ。私がせっかくネズミを捕まえても、君は逃がしてしまうのではないか?」

 

 俺が冗談めかして言うと、彼女はにっこりと微笑んだ。

 

「はい、逃がしてあげます」

 

「だろうな」

 

 俺もつられて苦笑する。

 

 張り付けた笑顔ではなく、自然と笑みをこぼしてしまったのはいつぶりだろうか。

 

 

 月明かりが降りそそぐ温室で。

 俺とマイは夜が明けるまで他愛ない話を語り合った。

 



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第24話 ネズミ捕り

 王都に帰還して六日。

 

 よく晴れた日の午後、俺は神殿の入り口に向かっていた。

 今日は夜から王城で、王陛下との御前会議がある。

 

 廊下から外へ出たところで、俺に同行する聖騎士長と護衛の聖騎士たちが片膝をついて頭を垂れていた。彼らに前には黒髪が美しい聖女――マイが立っている。

 

 彼女は儀式用の白いローブを着込み、細腕を聖騎士たちに向けて目を閉じた。

 

「みなさんの行程に女神の加護があらんことを」

 

 小さい手のひらが淡く輝き、まばゆい光が聖騎士たちに降りそそぐ。

 

 マイの、聖女の祝福だ。

 相変わらず美しい。

 

 祝福の光が止むと、聖騎士長が頭を上げる。

 見惚れた顔でマイを見つめる他の聖騎士たちと違い、彼だけはきりっとした表情を崩さない。やはり信用できる男だ。

 

「聖女様、ありがとうございます。我ら少数ですが必ず大司教様をお守りします」

 

「はい、よろしくお願いします。みなさんもどうか無理せずに」

 

 聖騎士たちが出発の準備をし始めたのを見計らい、俺もマイに近づく。

 

「見事な祝福だ、マイ」

 

「大司教さま」

 

 ふんわりと微笑んだ彼女がこちらに歩み寄ってくる。

 

「出立の前に魔力の流れを確認しておきたい。こちらへ」

 

「あ、はい」

 

 誰にも見られない物陰に連れ込むと、マイの頬にそっと触れた。やんわりと俺の魔力を流し込む。

 

「んっ、ぁッ……」

 

 まぶたを閉じた彼女の口から、甘い声が漏れる。

 

 三日前、聖域で彼女を抱いて以来、俺は挨拶代わりの魔力確認を直接触れて行うようになった。頬を染め、淫らな声を発すまいと唇を引き結ぶ様子がたまらない。

 

 頬から耳をゆっくり撫で、艶やかなうなじ、そして綺麗な首筋へと手のひらを這わせていく。

 

「あぁっ、ん……んぅッ」

 

 マイの手のひらが俺の手に重なる。

 肩を震わせ快感を我慢する姿に興奮する。股間が熱くなり今すぐ襲いたくなるが、今は口実がないし、なにより出発前で時間がない。

 

「……ふむ。異常はないな」

 

 仕方なく手を離すと、彼女が薄く目を開いた。

 

「ありがとうございます……あの、大司教さま」

 

「なんだ?」

 

「えっと、大司教さまにもその……祝福を」

 

「ああ、頼む」

 

 腰を下ろして片膝をつく。頭を垂れるとマイが手のひらをかざすのが分かった。

 

 彼女の祝福を浴びるのはずいぶんと久しぶりだ。祝福の修練に付き合ったとき以来だろうか。

 

「大司教……リンゼの行程に女神の加護があらんことを」

 

 不意に名を呼ばれてドキリとする。王族への祝福以外で名前を呼ぶ必要はなかったはずだが。

 

 彼女の魔力があたりに広がり俺の体に降りそそぐ。

 

 なるほどこれは、聖騎士たちが恍惚としてしまうわけだ。マイの祝福は修練のときよりも温かく、彼女の慈愛がそのまま流れ込んでくるような心地だった。体がみるみる軽くなっていく。

 

 しばし祝福に身を委ねていると、マイの手のひらが俺の頬に触れた。

 

「っ……」

 

 唇に、柔らかい感触が重なる。

 紛れもない、彼女の唇の柔らかさだ。俺の唇をほぐすように何度かついばんだ後、ゆっくりと離れていく。

 

 目を開くと、顔を真っ赤にしたマイの顔があった。

 

「あの……これは、特別な祝福です。こうしたほうが、あの……大司教さまは特にお疲れのようでしたので」

 

「そうか」

 

 特に疲れた者には俺以外にも口づけをするというのだろうか。

 

 その苦しい言い訳が愛おしく感じ、俺は立ち上がりざまに彼女を壁に追い込んだ。

 

「まだ疲れが取れないようだ。もう少しいいか?」

 

「え、あっ……んむ」

 

 強く唇を押し当てると、マイはすぐに唇を開いた。何度か唇の密着を楽しんでから、ゆっくり舌を差し入れていく。すぐに彼女の舌に迎えられ、絡まっていく。

 

「んっ、ふ、ぅっ……んぁっ、ん……ぁっ……」

 

 くちゅ、くちゅとゆっくりマイの口内をかき混ぜる。

 彼女の肢体に手を走らせ、片手で胸元のふくらみを揉み、もう片方の手で尻の丸みを撫でる。マイの体はどこを触っても柔らかく、瑞々しい弾力があった。

 

 硬くなった股間を彼女の柔らかい腹に押し付けていると、このまま衣服を暴いて乱暴に抱きたくなってくる。

 

 だが、近くで聖騎士たちが俺を探している気配がした。

 

 マイの体をまさぐっている手を離し、次いで口づけを解いていく。

 

 目を潤ませた彼女が小さいため息をついた。

 

「大司教さま、疲れは……取れましたか?」

 

「ああ、これで会議も万全だ」

 

「なら……よかったです」

 

 快感に肩を震わせるマイに、俺は視線を合わせた。神妙な表情を作って見つめる。

 

「マイ、湯浴みを終えたら今夜は聖域にいなさい。私が戻るまでずっとだ、いいね」

 

「はい、わかっています」

 

「いい子だ」

 

 黒髪に手を置いてポンポンと撫でる。

 

 彼女は微笑みながら、くすぐったそうに目を伏せた。

 

 

 

 

 馬車の窓から、遠ざかっていく教会神殿を眺める。

 

 俺は三日前に桃色髪の聖女――ニーナに伝えた言葉を思い出していた。

 

 ――私は三日後の夜、王陛下との御前会議のため王城に呼ばれていると伝えてあげなさい。

 

 もし俺が襲撃者なら、大司教が不在のときにマイを狙うだろう。防護結界の使い手である俺がおらず、少数とはいえ聖騎士の数も少なくなる。夜闇に紛れて襲撃できる格好の機会だ。

 

 金髪の元聖女――ロレンティアからの文によれば、ニーナは俺の言うとおりに伝書鳥をどこかへ飛ばしたという。

 

 あとはゴーゼ司教が誘いに乗るかどうか。

 

 俺はさっきよりも小さくなった白亜の神殿を見つめた。

 

 

***

 

 

「大司教殿、すみません。父上との会議の前に呼び立ててしまって」

 

「問題ございません王子殿下、私も殿下にご相談がありましたので」

 

 俺は王城にある応接室で、第二王子と面会していた。

 

 昨日、王子のほうから「王城に来るのであればその前に少し時間をもらえないか」という打診が来ていたのだ。

 

 私も王子に確認したいことがあったので好都合だ。

 

 彼がゴーゼ司教とつながっているかどうか、それを確かめる。魔獣遠征の帰りの宿で襲撃されたとき、ゴーゼ司教もその場にいた。

 

 あの聖騎士の裏切り者が事前に報せたのだと思うが、王子と別れた後というのもあり、王子とゴーゼ司教が繋がっている可能性もある。

 

「それで、マイ殿はお元気ですか?」

 

「ええ、元気ですよ」

 

「私のことを、その……何か言ってはいなかったですか?」

 

 俺を見つめるその瞳は、恋に夢中になっている青年そのものだ。ゴーゼ司教と繋がっているようには見えない。

 

 王子について、か。

 

 マイは神殿に戻ってから、俺の前で王子の話をしたことはない。

 

「そうですね。騎士たちがよく訓練されていると、言っていた気がします」

 

「そ、そうか! それは嬉しいな」

 

 王子への直接の誉め言葉ではないのだが、えらい喜びようだ。ちなみにマイはそんなことは言っていない。

 

「それで殿下への相談なのですが、殿下直属の騎士から女性を一人、お借りできないでしょうか?」

 

「ほう……マイ殿の護衛ですか?」

 

「ええ、聖騎士は男所帯ですので、聖女の身辺警護の女性騎士が必要だと思っていたのです」

 

「もしや彼女の身に危険が?」

 

 勘が鋭いな。

 

 襲撃のことは教会でも一部の人間しか知らない機密事項にしてある。外部……王族や貴族、市民に知られると、教会の威信が揺らいでしまうからだ。

 聖女の身を危険にさらすとは何事だと騒ぐ連中もいるだろう。それは厄介だ。

 

 教会は聖女を独占している――そう言って敵視する人間も多い。

 

 この国では聖女や聖女見習いは教会が管理している。それはつまり、この国の治療行為、民の命や健康を手中に収めていると言っても過言ではない。貴族風にいうと大きな利権だ。

 

 だからこそ教会の権力を削いで、その利権を……あわよくば見目麗しい聖女や聖女見習いを手に入れようと考える貴族は少なくない。

 

「いいえ王子殿下、聖女の身の安全は私たちが守っています。ただ物騒な世相なので」

 

「まあ、そうですね。王城でも派閥争いが活発化してきていますから」

 

 第一王子派と第二王子派の王位継承争いのことだろう。実にくだらない。

 

「それで、お借り受けすることは可能でしょうか?」

 

「ええ、実はちょうどマイ殿には女性の側仕えが必要なのではと思っていたところなんですよ」

 

「……ほう」

 

 それは初耳だ。

 

 第二王子はにっこりと笑みを浮かべ、指をパチンと弾く。

 

 すると彼の横に一人の女性が現れた。両目を布で覆っている以外は特徴のない顔だ。給仕服が馴染んでいて、とても騎士には見えない。

 

「彼女はこう見えて『陰の者』です。マイ殿をしっかりお守りできるかと」

 

「なるほど、気配が薄いわけです」

 

 陰の者。

 王族直属の隠密部隊だ。主に諜報や暗殺に長けていると聞く。

 

 つまりは見張り役か。

 いや王子のことだ、マイの一挙手一投足を報告させるつもりなのかもしれない。

 

 彼女に剣術を教える者を探していただけなのだが、少し面倒なことになった。こちらから相談した以上、断るのは難しい。

 

「で、どうだろうかこの者は? 私は適任だと思うが」

 

「ありがとうございます。ご配慮に重ねて感謝いたします」

 

「いえ、マイ殿のためです。私も彼女を守りたい一人なのでね。先ほど派閥争いが活発になっていると言ったでしょう?」

 

「ええ」

 

 王子の声が低くなる。ここからが彼の本題なのだろう。

 

「どの派閥も教会の協力を欲しています。教会の後ろ盾があるとなれば優位に立てますから」

 

「そのようですね」

 

 本当にくだらない。

 

 教会は権力から切り離され、国境さえ超える中立組織だ。強いていえば建前上は民のためにある。王族の権力争いなどに巻き込まれるつもりはない。

 

「兄上……第一王子の派閥には教会をよく思わない者も多くいます。王家の管理下に置くべきなどと声を上げる貴族もいるのです。もちろん私はそうした過激な主張には反対の立場ですが」

 

「そうですか」

 

 教会をよく思わない貴族が多いのは知っている。

 

 私が司教たちの弱みを握ったとき、そこには必ず貴族との癒着があった。貴族と共謀して裏金を作ったり、聖女見習いの治癒を優先させたりはまだいいほうで、中には多額の賄賂と引き換えに彼女たちを夜の相手として派遣していた者もいた。

 

 ゴーゼ司教を筆頭に。

 

 そんな不正がまかり通らなくなった今の教会、というか俺に不満や恨みを抱くのは当然だろう。

 

 ただ王子の言葉を聞くに、彼はそうした司教と貴族の汚れた歴史までは知らないようだが。

 

 黙って考えを巡らせていると、王子が前のめりになった。ここから大事な話をするぞという合図だ。

 

「教会は民にとって等しく平等な存在であるべきだと思っています。それが聖女の……マイ殿の願いでもありますから。ただ同時に、今の教会のあり方に疑問を持っているのも事実です」

 

「ほう、それはどのような疑問でしょう」

 

「失礼ですが大司教殿は、いずれ家庭を持ちたいと考えたことはありますか?」

 

「ないですね。大司教はその生涯をもって聖女を支える。それが古くからこの大陸で受け継がれてきた教義ですので」

 

「その教義が、あなた方を縛っているのではないですか? 私は貴族も民も等しく自由であるべきだと思っています。教義によって人を愛する権利まで奪われるなど、馬鹿げています」

 

 ずいぶんな理想論を語っているが、王子の目的はマイだろう。彼女を手に入れるために教義が邪魔なだけだ。

 

 俺は小さくため息をついた。

 

 王子は……というか王族は()()()()を知らない。

 

 王の一族は、強烈に聖女を欲する。

 彼らは聖女と交わることによって膨大な魔力を得る。古い昔、彼らはその力を使ってこの大陸全土を支配した。

 

 暴虐の限りを尽くす王族に嫌気がさした(いにしえ)の民は、聖域を造って聖女をかくまい、その間に王族の力が弱まるのを待った。

 

 やがて民はその教訓から「聖女は誰とも交わるべからず」という教義を作り、各地の聖域に教会を建て、聖域と聖女を守護するようになった。

 

 これは歴代の大司教でも知る者は少ない。教会の禁書庫にある古文書に記された、この大陸の真の歴史だ。

 

 大司教とは、そもそもが()()()()聖女を護る騎士なのだ。

 

 まあそんな歴史があろうとなかろうと、誰にも聖女を渡すつもりはない。

 

 マイは、永遠に俺のものだ。

 

「……殿下のお考えはずいぶんと革新的ですね。私は古い人間ゆえ、教義に疑問を抱くなど考えもしませんでした」

 

「なにを言う、大司教殿も十分お若いではないですか。あなたなら私の話も通じるのではないかと……いえすみません、少し熱くなり過ぎました。いずれにせよ私は教会の味方です」

 

 最後に取って付けたような言葉を述べ、王子は爽やかな笑顔を浮かべた。

 

 ただの色惚け王子かと思っていたが、懐柔しつつけん制をしてくるあたり、なかなか抜け目のない男のようだ。さすがは若くして政治に参画する秀才なだけはある。

 

 だが、化かし合いなら俺のほうが上手(うわて)だ。

 

「殿下のお言葉、ありがたい限りです。教会に好意的な方であれば、我々としても協力は惜しみません。いざというときには、ぜひ私を頼ってください」

 

「おお、それは助かります」

 

 第二王子には、とりあえず第一王子派の重鎮貴族の不正の証拠でも渡しておこう。

 同様に第一王子には第二王子派の不正の証拠を流す。そうして双方の力を削りつつ、どちらにとっても教会の影響力を強める。

 

 そうして、たとえ次期国王といえども教会には口出しできなくする。

 これがマイを守るための最適解だろう。

 

「では殿下、私はこれで失礼します」

 

「ええ、今日はいい話ができました。ぜひまた……こ、今度はマイ殿もお呼びして三人でお茶でも――」

 

「いえ、聖女をそのような場には」

 

「そ、そうですか……」

 

 やはり色惚け王子には変わりないようだ。

 

 

 

 

 聖騎士長を連れて廊下へ出る。

 

「ふぅ」

 

 思わずため息が漏れる。

 なんだかどっと疲れた。

 

 王族との腹の探り合いは、小ずるいが欲望に忠実な司教連中とは別種の面倒さがある。マイとの他愛ない会話が恋しくなる。

 

「大司教様、お待ちください」

 

 いきなり背後から女性の声がして、俺と聖騎士長が同時に振り向く。

 

 立っていたのは給仕服を着た、あの陰の女だった。

 

 さすが陰の者だ。まったく気配を感じ取れなかった。

 

「ああ、君は殿下の……どうしたのかな?」

 

「いえ、これから教会でお世話になりますので、ぜひご挨拶をと」

 

 陰の女が抑揚のない声で言う。両目とも布で覆われているのでいまいち表情がつかめない。かなり無愛想な感じだ。

 

「こちらこそ聖女の護衛を任せる身だ、世話になる。ああ、神殿につとめる以上は君も聖女見習いとして入ってもらうことになるが、大丈夫か?」

 

 すると陰の女は一転して顔をほころばせた。

 

「むしろ光栄でございます。聖女様は私のような平民の女にとっては憧れそのもの……その近くにお仕えできるなど夢のようです。聖女様も、そして大司教様も平民の出と聞き及んでおります。まさに私ども平民にとっては希望の星」

 

「……そうか」

 

 熱のこもった口ぶりにいささか引く。……頬を染めて興奮している様子から、どうやら演技ではないようだ。

 

「命を賭して聖女様をお守りしますので、どうぞよろしくお願いします」

 

 いつの間にか近寄ってきていた陰の女が、両手を差し出してくる。

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 俺も片手を出して握手をする。

 と、同時に微弱な魔力を流し込んだ。

 

「んっ、ぐぅッ……!?」

 

 彼女の手がビクッと震えた。

 

 魔力に不審なところはない。体の中に罠や呪いも刻まれていないようだ。

 

「ああすまない。簡単な身体検査のようなものだ」

 

 手を離すと、陰の女は肩を上下させながら甘い吐息を漏らした。

 

「い、いえ……凄まじい魔力制御ですね。私も房中術……女の技をそれなりに叩き込まれましたが、ここまでの心地は初めてです」

 

「さすがは陰の者だ。魔力制御のたまものであるとよく分かったね」

 

 一発で見破ってくるあたり、やはり相当の使い手だ。これは油断できないな。

 俺の目が届かないときはロレンティアに監視させるか。

 

「大司教様こそ、かなり鍛えていらっしゃいますよね。格闘術の心得がおありで?」

 

「いやいや、大司教の仕事はなにかと激務でね。鍛えているといっても、ここにいる聖騎士長からしたら赤子のようなものだ」

 

 言いながら考えを巡らせる。

 この女を抱いて三人目の()にするという手もあるが……無理だな。聖女でもないこの女を抱ける気がしない。

 

 いずれにせよ。

 

「君の着任はまだ先だ。いろいろと面倒な手続きがあるのでね。季節が変わる頃までは待ってほしい」

 

 それまでに対策を考えよう。

 

「かしこまりました。楽しみにお待ちしております」

 

 深々と頭を下げる陰の女を背に感じながら、俺は廊下を進んだ。

 

 

 

 

 王の謁見室近くの控え室で、俺と聖騎士長は顔を突き合わせていた。

 

「それで、第二王子をどう思う?」

 

「私のほうで背後を調べましたが、ゴーゼ司教との繋がりは見えませんでした。今日の様子からも、王子殿下はシロかと」

 

「私も同感だ」

 

 これで懸念の一つは消えた。

 

 控え室の窓から外を見る。

 王都の街並みがもう夕闇に沈みつつあった。

 

「聖騎士長、手はずどおり陛下との会議は断ってくれ」

 

「……本当によいのですか? このように直前で断るなど」

 

「問題ない。それが許されるくらいの貸しは作ってある」

 

「承知しました。では手はずどおり、王城の裏口に商人の馬車を用意しております」

 

「では行こうか」

 

 俺と聖騎士長はゆっくり立ち上がった。

 

 

***

 

 

 すっかり日が沈み、あたりが夜に包まれたころ。

 

 俺は馬車の窓から、目の前にそびえる教会神殿を見上げていた。

 

「大司教様、来ると思いますか?」

 

 商人の普段着に身を包んだ聖騎士長が、神妙な面持ちで聞いてくる。

 

「どうだろうな。だが私が背信者なら必ずこの夜を狙う」

 

 俺も白シャツに黒ズボンという簡素な服を着ていた。平民の服を着るのは何十年ぶりだろうか。

 

 俺たちは王城で商人の変装をした後、商人用の馬車に乗り込んで神殿へと戻ってきた。

 教会の馬車は今も王城に停まっている。襲撃者の仲間が王城を見張っていることを想定した上での作戦だ。

 

 同行した聖騎士たちも商人の格好をさせ、神殿の周りを巡回するよう命じてある。もし襲撃者の気配があればすぐに報告がくる。

 

 

 しばらく待機していると、ついにその時がきた。

 

『東側に背信者、数は二十ほど』

 

 馬車の外から聖騎士が報告する。

 

「やはり一番手薄な東の外壁から来たか」

 

 事前に西側外壁の見回りを強化しておいてよかった。

 

「大司教様の読みどおりですね。で、我々はどうすれば?」

 

「予定どおり正門から行くぞ。背信者はまず聖女のいる西側の別棟を目指すはずだ」

 

「承知しました」

 

 俺は左目だけを閉じて遠視の術を発動した。

 

 まぶたの裏にマイの姿が映し出される。

 彼女は露出の多い修練服を着て、光の柱――聖域の中で祈っていた。

 

 相変わらず美しい。

 

「……いい子だ、マイ」

 

 片目をつぶりながら、聖騎士長と馬車を降りる。

 

「ではネズミ捕りといこう」

 

 俺は小さく息を吐くと、目の前の正門へ駆け出した。

 



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第25話 不意打ち

 俺と聖騎士長、同行していた二名の聖騎士とともに正門へと走る。

 たどり着いたと同時に、門が中から開いた。

 

 滑り込むように入ると、数人の聖騎士たちに出迎えられる。

 

「大司教様、聖騎士長、お待ちしておりました」

 

 一人の聖騎士が深々と頭を下げる。聖騎士長が「誰よりも忠誠心の厚い男」と評した聖騎士だ。他の聖騎士も俺や聖騎士長が身辺調査をして、信用できると判断した者で固めている。

 

 それ以外の聖騎士たちには今夜、休みを与えた。聖騎士の中にまだ裏切り者が潜んでいるとも限らないからだ。

 

「神殿内の配置はどうなっている?」

 

「はっ、聖騎士の精鋭十名のうち五名がここに、残り五名は大聖堂の護りについています」

 

 今夜、マイ以外の聖女見習いは大聖堂に集めている。

 

 ――遠視の術。

 

 まぶたの裏の景色をマイからロレンティアに切り替える。

 広い大聖堂の奥に、彼女たちは固まっていた。魔導灯の光が煌々(こうこう)ときらめく中、手を組んで一心に祈っている。

 

 先頭にはロレンティアがおり、その一歩後ろにはニーナの姿があった。ロレンティアに頼んで「夜を徹して祈りの儀式を行う」よう伝えてあるからか、彼女たちの顔に不安の色はない。

 

 俺は片目で聖騎士長を見つめた。

 

「別棟がもぬけの殻だと気づかれるのも時間の問題だ。その次は大聖堂を狙うだろう。我々はこのまま背信者を警戒しつつ大聖堂に向かう。そこで迎え撃つぞ」

 

「道中、背信者と出くわしたらどうしますか?」

 

「できるだけ殺すな。背後関係を洗う必要がある」

 

 まあ、洗ったところで何も出てこないだろうが。

 

「承知しました。――よしっ、速やかに大聖堂へ向かうぞ。陣形を組んで大司教様をお守りしろ」

 

 聖騎士に囲まれながら、神殿の建物へと走る。

 

 まぶたの裏の景色をマイに切り替えるが、聖域に異常はない。

 

 もし別棟が無人であることに気づかれても、大聖堂に聖女見習いが集まっているとなれば、奴らはそこへ向かうはずだ。

 

 敵の注意を、中庭の奥にある温室から大聖堂に逸らす。

 聖女見習いたちは、いわば撒き餌だ。だがもちろん彼女たちを危険にさらすつもりはない。

 

 ――他の子たちを守ってあげてください。

 

 三日前、聖域でマイと交わした約束を思い出す。

 

 神殿内に入り、廊下を進む。

 夜の神殿内は魔導灯の明かりが点々と続くのみで、昼間よりも薄暗い。

 

 いくつかの十字路を通り過ぎたとき、ヒュっと風を切る音が聞こえた。

 

 ――防護魔法。

 

 咄嗟に魔力を展開する。キィンと何かが弾かれる音が聞こえ、足下に手投げ用のナイフが落ちた。

 

「背信者だ、迎撃しろっ!」

 

 聖騎士たちが一斉に、廊下の奥へ光球を放つ。

 それが当たった瞬間、まばゆい光の中に黒づくめの男たちの姿が見えた。

 

 だがすぐに光が消え、暗い廊下に戻る。

 これは――。

 

「魔道具だ。皆、剣を抜け」

 

 敵は防護魔法が付与された魔道具を付けているようだ。

 非常に高価で一介の賊が手を出せる代物ではないし、司教といえどいくつも用意できるものではない。

 

 やはり、ゴーゼ司教の裏にはもっと大きな力――おそらく帝国がいると見て間違いないだろう。

 

 ガキン、と剣と剣がつばぜり合う音が響く。

 

「数が多いっ、大司教様は下がって!」

 

 聖騎士長が前に出て、俺を狙ってきた背信者を迎え撃った。

 

 目視できるだけで敵は十人。対するこちらは俺を入れて九人だ。一人ひとりの力量は幸いなことに拮抗しているが、人数が少ない。

 

 俺は魔力を練り上げると、最大出力で放った。

 

 ――防護魔法。

 

 かざした手のひらから魔力が放たれ、聖騎士たちをすり抜けて背信者たちに衝突する。

 

「ぐっ!」

「なんだとっ!?」

 

 バリィンッ、と敵の魔道具が弾ける音が聞こえ、背信者たちが吹っ飛んだ。

 何人かは廊下の壁に激突し、残りは床に叩きつけられる。

 

 瞬時に聖騎士長が叫んだ。

 

「拘束しろ! 舌を噛みきらせるな」

 

 聖騎士たちが次々に賊を縛り上げていく。ロープを口に噛ませて自害も封じた。

 

 手早く拘束を済ますと、聖騎士長が指示を出す。

 

「三名はここで待機! 残りは大聖堂へ向かう」

 

 六人となった俺たちは、再び廊下を走り出す。

 すると隣を走る聖騎士長が耳打ちをしてきた。

 

「大司教様、お見事です。あんな防護魔法は見たことがありません」

 

「力を使い過ぎた。もう何度も打てないから油断するな」

 

「承知しました」

 

 あの一回で、魔力の三分の一ほどを消費してしまった。

 一瞬で聖騎士たち一人ひとりを防護の対象に定め、さらに敵の魔道具を上回る魔力を放つ必要があったからだ。

 

 いざとなれば魔力増強剤を飲む手もあるが、できれば使いたくない。

 

 マイの口づけによる解毒はとても魅力的だが、無用な心配をかけてしまうだろう。

 

 ……大司教とは常に聖女を支え、安心を与える存在でなければならない。それに頼ってばかりでは大司教としての面目も立たないしな。

 

「大司教様っ」

 

 聖騎士長の大声が聞こえたと思ったら、左腕に激痛が走った。

 

「ぐっ……」

 

 十字路で出会いがしらの敵に斬られたらしい。

 咄嗟に左足に力を込め、斬った男を蹴り飛ばす。

 

 俺の両側を無数の光球が通り抜ける。聖騎士たちの放った攻撃魔法は、またしても黒づくめの男たちが持つ魔道具に弾かれた。

 

「大司教様、ご無事ですかっ」

 

「問題ない。背信者を拘束しろ」

 

 気づけば大聖堂の間近だった。扉を護っていた五人の聖騎士たちもこちらへ加勢してくる。

 

 これで俺たちは十一人。対する敵は目視できるだけで十二人。また数が足りない。

 

 双方がつばぜり合いを演じ始める中、敵集団の後方にいる人影から光球が放たれた。

 

「くそっ――」

 

 ――防護魔法。

 

 聖騎士たちの前に防護魔法を展開し、光球を防ぐ。そのまま出力を上げていき、さっきと同じように背信者たちを弾き飛ばした。

 

「すぐに拘束しろ!」

 

 聖騎士長の掛け声で、聖騎士たちが走り出す。床に散らばった敵の中に、さっき光球を放った男もいた。

 

「そいつの顔を見せてくれ」

 

 聖騎士に呼びかけると、男の顔を覆っていた黒布が剥がされる。

 

 ゴーゼ司教ではなかった。

 

 攻撃魔法を使ってきたからもしやと思ったのだが……今回の襲撃には加わっていないのだろうか。

 

 いや、そんなはずはない。

 

 宿屋で襲ってきたときと同じように、どこかに身を潜めて好機をうかがっているはずだ。

 

「大司教様、これで背信者のほとんどを捕らえました」

 

「ああ、だが油断するな、まだ――」

 

 ぐにゃりと、視界が歪む。

 足から力が抜け、俺はその場に片膝をついた。

 

 これは、毒か。

 敵の剣に塗り込まれていたのだろう。

 

「大司教様! 誰か大聖堂の扉を開けろっ、至急治癒が必要だ」

 

 聖騎士長に肩を支えられて立ち上がる。

 

 おぼつかない足取りで大聖堂の中に入ると、聖女見習いたちはロレンティアを中心に固まっていた。近くの者はロレンティアにすがり付き、他の者は互いに身を寄せ合い、誰もが顔を凍りつかせている。

 

「大司教さまっ」

 

 大勢の聖女見習いたちの中から、桃色髪の少女が飛び出してくる。

 タタッと身軽な足取りで走ってきたニーナが、俺の胸に飛び込んできた。

 

「ニーナか、皆に変わりはないか?」

 

「はいっ……なんだか外ですごい音がして、でもロレンティア様が、大司教様が来るから大丈夫だよって」

 

「そうか」

 

 ふっと、体の疲労が抜けていく感覚があった。

 見ればニーナが抱きつきながら、必死に治癒魔法を発動している。

 

「大司教様、治ってっ……」

 

 左腕の傷を治そうとしているのだろう。俺は右腕で桃色の小さい頭をポンポンと撫でた。

 

「大司教様、毒ですね?」

 

 ゆっくりと歩み寄ってきたロレンティアが、神妙な表情で聞いてくる。

 顔は少し強張っているものの、自然体の振る舞いを維持しようとしている。他の聖女見習いを不安にさせないためだろう。さすがは元聖女だ。

 

「ああ、治せるか?」

 

「診てみます」

 

 ロレンティアが指で金色髪をすくい、耳にかける。

 その整った顔を俺の左腕に近づけると、傷口へやんわりキスをした。

 

 やがて顔を上げると、俺の血でほんのりと赤くなった唇が開く。

 

「これなら解毒できます」

 

「見事だ。では頼む」

 

「はい」

 

 ロレンティアが傷口に手をかざす。

 優しい熱が患部から全身に広がっていく。足腰に力が戻り、すぐに体が軽くなった。

 

「助かったよ、ありがとう」

 

「いえ……よかったです、リンゼ様」

 

 ロレンティアの声が震える。美しい瞳には涙が浮かんでいた。

 

「ニーナも、もう十分だ。ありがとう」

 

 再び桃色髪を撫でると、ニーナがさらにしがみついてきた。体を震わせ泣いているようだ。

 

 念のため、彼女の頭から魔力を流し込んでみる。

 

「ひあぁっ」

 

 ……ふむ、呪いのたぐいはない。

 

 もしゴーゼ司教が神殿内にいるなら、ニーナの呪いを発動しようとするだろう。まずは自分のもとへ来るよう念じるはずだ。そのときの魔力を感知できれば、あの男の居場所が分かる。

 

 俺は、突っ立ってこちらをぼんやり眺めている聖騎士長を見つめた。

 

「けが人を大聖堂へ運ぶんだ。動ける者は何人かをここの護りに残し、他の者は二人一組で神殿内を探れ。残党がいるかもしれない」

 

「は、はいっ、承知しました」

 

 聖騎士長が外へ出ていくと、ロレンティアがくすりと笑った。

 

「大司教様、その格好もお似合いですね」

 

「そうか」

 

 自分の姿を改めて見下ろす。

 いつものサンダルではなく簡素な革靴。黒いズボンに、商人が着る白シャツ。その左腕の部分が、べっとりと血で赤くなっている。

 

 俺は肩のところからシャツをビリビリと破り捨てた。

 マイが見たら、さすがに刺激が強すぎると思ったからだ。

 

「……ところで大司教様、なぜずっと左目をつぶっているのですか?」

 

「目に、ごみが入ってな」

 

 少し無理のある理由を告げる。

 

 俺は正門をくぐったときからずっと、左まぶたの裏にマイを映し続けていた。背信者と戦っているときも、大聖堂に入ってからもずっとだ。

 今のところ聖域に異常はない。

 

 いや、まて。

 

 光柱の中にいるマイが、うっすらと目を開く。

 

 その視線の先に、近づいてくる影があった。

 

「ロレンティア、聖女見習いたちを頼んだ。君が慰めてあげなさい。それとニーナも、もう離れなさい。聖騎士たちの傷を癒してあげるんだ」

 

 しがみついていたニーナを優しく引き離す。

 

 全てを分かっているかのように穏やかな顔をするロレンティアと、涙目で見上げてくるニーナに告げた。

 

「私は聖女のもとへ向かう」

 

 

***

 

 

 マイの見つめる先、温室の入り口付近にそれは立っていた。

 

 白いローブを頭からすっぽりと被り、顔には気色の悪い白い仮面を付けた、全身白ずくめの男。

 仮面に空いた二つの穴から、細い目がじいっとマイを見つめている。

 

「ゴーゼ司教、ですね」

 

 落ち着いた彼女の声に、男がうなる。

 

「ほう、よく分かったな。大司教から聞いていたか」

 

 聞かずとも、これほど恰幅(かっぷく)のいい男は教会内で他にいない。

 でっぷりとしたお腹を揺らしながら、ゴーゼ司教がゆっくりマイへ近づいてくる。

 

「ゴーゼ司教、ここは聖域です。大司教さま以外、立ち入ることは禁じられています」

 

「くくっ……そうだな。だから光栄だよ。私のような者が聖域に立ち入り、聖女のあられもない姿を拝めるのだからな」

 

 野太いしゃがれ声が、くくくと笑う。

 

 卑しい視線を感じ、マイは修練服から露出した胸元を腕で隠した。それでもなお、ゴーゼ司教をきっと見据える。

 

「聖女が逃げ込むなら聖域に違いないと思っていた。いやはや大当たりだよ……聖女マイ、そこから出てこい」

 

「いや、です」

 

 マイがさらに体をかき抱くと、ゴーゼ司教が自分の手のひらを掲げる。そのふくよかな指には黒い指輪がはめられていた。

 

「この指輪はな、一定時間聖域の力を無効化する特別な魔道具だ。無理やり聖域から引っ張り出してもいいが、できれば面倒な真似をしたくない」

 

 ゴーゼ司教の視線は、マイの足下に置かれた短剣に注がれていた。

 

「その剣でなにができる? 心優しい聖女に人を傷つけられるわけがないだろう。刃物を人に向けただけで卒倒してしまうのではないか?」

 

「こないでください」

 

 マイが声を上げると、ゴーゼ司教はもうあと数歩の距離で立ち止まった。

 

「ふふ、怯える姿もそそるのぉ。男を魅了するその体、美味そうな唇……実にもったいない。旅の道中たっぷり可愛がってやるからな」

 

 しゃがれ声にいやらしい響きが混じり、仮面の下が舌なめずりするのが分かった。

 

 マイは「うっ」と身を震わせながらも、ゴーゼ司教から視線を外さない。

 

「旅、とは……どこへ、連れていくつもりなのですか?」

 

「帝国だ」

 

「帝国?」

 

 思わず聞き返したマイに、ゴーゼ司教が笑う。

 

「ああそうだ。聖女狩りというやつだな。お前の村も、それで焼かれたのだよ」

 

「え……」

 

 マイの目が見開き、固まる。

 

 そんな様子に気をよくしたのか、ゴーゼ司教がもう一歩近づいた。

 

「さあ、私と一緒に来い。馬車の中で、女の悦びを教えてやろう」

 

 太い腕が彼女へと伸ばされる。

 

「いやっ……!」

 

 そのとき、ガタンと温室の入り口のほうで物音がした。

 

「誰だ!」

 

 ゴーゼ司教が手をかざして振り向くも、そこに人の姿はない。

 再びマイへ向き直ると、鼻息を荒げた。

 

「おい、他に誰かいるのか? 大司教は大聖堂へ向かったはずだ。聖騎士でも忍ばせたか」

 

「言いたく、ありません」

 

「正直に言え。さもないと、お前の可愛がっている妹たちも同じ目に遭わせるぞ」

 

 妹たち……聖女見習いたちのことだ。

 

 マイは下唇を噛むと、涙で揺れる瞳をゴーゼ司教に向けた。

 

「誰も……いません」

 

「ふふ、そうか」

 

 その瞬間、ゴーゼ司教の背中に手投げ用のナイフが突き刺さった。

 

「なっ――!」

 

 

 ――俺はそこで、遠視の術を解いた。

 

 温室入り口の物陰から躍り出ると、マイのもとへと走る。

 

「小癪なっ」

 

 ゴーゼ司教の手のひらから光球が放たれた。

 

 ――防護魔法。

 

 咄嗟に魔力を展開するも、威力を押し殺せずに俺の体が後ろに転がる。

 

 どうやら魔力増強剤か、魔力を増幅させる魔道具を使っているようだ。

 

 片膝をついて起き上がろうとする俺に、ゴーゼ司教がゆっくり近づいてくる。

 

「大司教が潜んでいたか……誰もいないなどと、まさか聖女が偽りを口にするとはな……」

 

 その声色から、本当に驚いているのが伝わってきた。

 

 ああ、俺もだゴーゼ司教。

 

 彼女には、いつも驚かされる。

 

 

「マイ、今だ」

 

 

 小さくつぶやくと、ゴーゼ司教の体が跳ねた。

 

「ぐっあぁぁッ……!」

 

 白づくめの巨体にバチバチと閃光が走り、野太い悲鳴が温室内に響く。

 

 その背後、聖域の光の中で。

 

 短剣を片手で握りしめたマイが、ゴーゼ司教に向けて手をかざしていた。

 



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第26話 聖域での雌雄

 マイの放った麻痺の術が止むと、ゴーゼ司教はその場でよろけた。

 

 だが倒れ込むことはなく、また一歩、二歩と俺のほうへ近づいてくる。俺とマイの不意打ちによる挟み撃ちは成功したはずだ。だがその足取りからは、ゴーゼ司教がほとんどダメージを受けていないのが分かる。

 

「まさか聖女マイが発動したものだったとは……素直に驚いたよ。この法衣を着ていなければ危なかった」

 

 カラン、と刃物が床に落ちた。俺が投擲した手投げ用のナイフだ。

 

「ずいぶんと豪勢な格好だな、ゴーゼ司教。まるで祭りの仮装だ」

 

「ぬかせ、貴様も薄汚い庶民の服など着おって。私をおびき出すために手の込んだことを」

 

 その口ぶりには、俺に対する忌々しさがにじみ出ていた。

 

 硬度の高い防護魔法を自分の周りに展開しながら、ゴーゼ司教の格好を分析する。

 

 麻痺の術もナイフも効果が薄い。あの白いローブや仮面は、ゴーゼ司教の意思とは関係なく防護魔法を常時発動しているような代物なのだろう。国宝級の装備だ。

 

 おそらく、奴の持っている魔道具はそれだけではない。

 

 俺は体の前面、ゴーゼ司教のいる方向に防護魔法の強度を集中させる。

 

「リンゼ……生意気な若造め。やはり貴様は先に殺しておくべきだった」

 

「司教の分際で大司教を殺害したとなれば、追放や死刑では済まされないぞ」

 

 口角を上げて挑発すると、ゴーゼ司教が仮面の下で舌打ちをした。

 

「貴様は賊の襲撃によってここで死ぬ。聖女をさらわれ、賊の侵入を許した貴様は、死後も教会の恥として歴史に残るだろう。いいざまだっ」

 

 一瞬にしてゴーゼ司教の周囲に無数の光球が浮かび、俺めがけて放たれた。

 

 ゴン、ゴンと、防護魔法に衝突する音が鳴り響く。

 

 一発一発がひどく重い。攻撃魔法の威力を増幅させるか、もしくは攻撃魔法そのものを作り出す魔道具を持っているのだろう。後者だったら厄介だ。

 

「ぐ、ぅ……!」

 

 魔力を集中させている両手が痺れだす。次々に襲ってくる光球に、防護魔法が削られていく。

 

「はははっ、いい眺めだ。さすがの貴様も限界が見えてきたな」

 

 衝撃に耐えきれなくなり、俺は片膝をついた。それでもなんとか防護魔法の盾を展開し続ける。

 

 光球が衝突した瞬間のまばゆさで、目の前がチカチカする。

 温室内が明るく照らされ、聖域内にいるマイの顔がよく見えた。

 

 彼女が目に涙を溜め、手元の短剣を握り直す。もう一度麻痺の術を使うつもりなのだろう。

 

(やめろ)

 

 俺は首を横に振った。

 するとマイがはっと目を見開く。

 

 聖女である彼女にとって、あの出力の攻撃魔法を連発するのは消費が大きい。それに今、ゴーゼ司教の注意を再びマイに向けるわけにはいかない。

 

 いくら国宝級の魔道具といえど、無尽蔵に魔法を放出するのは不可能だ。この猛攻さえ耐え凌げば勝機はある。

 

 ゴーゼ司教の魔道具か、俺の防護魔法か。どちらの魔力が尽きるのかは賭けだが、いざとなれば俺にも奥の手――魔力増強剤がある。彼女の前では、なるべく使いたくはないが。

 

「マイ、そこで待っていなさい」

 

 俺は小声でつぶやくと、表情をゆるめて笑いかけた。

 

 マイが唇を引き結びながらコクリとうなずく。

 

 いい子だ。

 

「ちっ、しぶとい奴め」

 

 ゴーゼ司教が片手を俺に向け、直接光球を放ってきた。

 

 視界いっぱいに光が広がり、凄まじい衝撃で体が跳ね飛ばされる。

 

 ゆっくり、俺の体が宙を舞った。

 温室の天井が見える。どうやら仰向けの状態で吹っ飛ばされたようだ。

 

 背中が地面に叩きつけられる瞬間、俺は身をひるがえして四つの手足で着地する。

 両手のひらを握るようにして土をつかむと、思いきりゴーゼ司教へ投げつけた。

 

「く、無駄なあがきを!」

 

 再びゴーゼ司教の手のひらから光球が放たれる。

 しかしさっきまでの無数の光球による追撃はない。魔道具の魔力が尽きたようだ。

 

 俺は地面の上を転がりながら光球を避けると、四つん這いのまま笑ってみせた。

 

「どうやら賭けは俺の勝ちのようだな」

 

「魔力枯れ寸前の男が何を言うっ。防護魔法の使えない貴様などただの平民と変わらん」

 

「なら討ってみせろ。魔道具頼りの貧弱司教」

 

 ここまで挑発すれば、自尊心だけは無駄に大きいこの男は俺をなんとしてでも葬ろうとするだろう。

 

「どこまでも愚弄しおって……」

 

 ゴーゼ司教が手のひらに魔力を集中させる。

 

 俺は全身の力を振り絞り、生い茂った草木の中へ飛び込んだ。

 

「逃がすかっ」

 

 俺のすぐ横を光球が通り過ぎ、頬が切れる。

 

 植物をかき分けながら奥へ進むと、背後で草を踏みしめる足音が聞こえた。狙いどおりゴーゼ司教は追ってきたようだ。

 

 またすぐ横を光球が通過し、前方にある細木に衝突する。幹は半分ほどえぐれ、土煙が舞っていた。

 

 今の俺にはもう防護魔法を展開するほどの魔力は残っていない。ゴーゼ司教の光球は魔道具のそれより威力も小さいが、生身の人間に当たれば重傷は免れない。

 

「どうした? ゴーゼ司教は攻撃魔法の操作もおぼつかないのか」

 

 再び挑発すると、直後に光球が飛んでくる。

 

 すんでのところで回避し、草木に隠れながら奥を目指す。

 

「ぐぇッ」

 

 背後でカエルの潰れたような声がした。茂みの陰からそっと見てみると、ゴーゼ司教が尻もちをついている。その片方の足先が、金属製のバネに挟まれていた。

 

 俺が温室内に仕掛けた板バネ式のネズミ捕りだ。まんまと引っ掛かって転んだらしい。

 

「このような小細工をっ……リンゼ、出てこい! このような卑怯な手に何度も掛かると思うてか!」

 

 ゴーゼ司教のしゃがれ声があたりに響きわたる。相当興奮しているのだろう、仮面の下の荒い鼻息の音が聞こえる。

 

「子ども騙しの罠に引っ掛かるなど、お前は下町のネズミ以下だな」

 

「死ねぇ!」

 

 声を張り上げたゴーゼ司教が、こちらへめがけて光球を連発してくる。茂みに無数の穴が空き、そのうちの一つが俺の左腕に当たった。

 

「くっ……」

 

 体をひねって受け流すも、骨の砕ける感覚がした。時間差で鈍い激痛に襲われる。どうも今日は左腕ばかり負傷する日らしい。

 

 ゴーゼ司教の攻撃は止まず、目算で十数個の光球が俺の側を通り過ぎていく。

 ここまで挑発しても自分で放ってくるあたり、他に攻撃用の魔道具を隠し持っているということはなさそうだ。

 

 俺は左腕をだらんと垂らしながら、温室内で一番大きな木のふもとへたどり着く。

 幹に寄りかかると、ゴーゼ司教が現れるだろう茂みの奥を見つめた。

 

「追い詰めたぞリンゼ。お前こそ袋のネズミではないか」

 

 白いローブのあちこちに枝葉をくっつけたゴーゼ司教が、茂みから出てくる。肩で息をしていて、運動不足の巨体にこの追いかけっこはさぞ(こた)えたのだろう。

 

「ずいぶん苦しそうだな、ゴーゼ司教。無駄打ちのし過ぎで魔力も果てたのではないか?」

 

「は、負け惜しみか。貴様こそ追い詰められて満身創痍だろう。なぁに、貴様一人消し炭にするくらいの魔力は残っておる」

 

 ゴーゼ司教が、大木を背にした俺を見て笑う。ゆったりとした足取りで、まっすぐ近づいてきた。

 

 約十歩の距離だ。普通だったら外さない位置だが、ゴーゼ司教の手のひらが不安定に揺れている。魔法の連発と急激な運動により、手元に力を込められないようだ。

 

 かくいう俺も、背中を木の幹に預けていなければとっくに倒れ込んでいるだろう。足腰が情けなく震える。

 

 あと九歩の距離。

 

 八歩の距離。

 

「今度こそ終わりだ、リンゼよ。聖女マイを帝国に送ったら……晴れて私がこの国の大司教だ。貴様は地の底から聖女が犯される様子を眺めているがいい」

 

 七歩の距離。ゴーゼ司教の手のひらに光球が形成される。

 

 六歩の距離。

 

 俺はほっと胸を撫で下ろす。

 やはり、賭けは俺の勝ちのようだ。

 

 次の瞬間、ゴーゼ司教の足下に魔法陣が出現した。

 

「な、罠っ――」

 

 魔法陣から円柱状の光の柱が立ち(のぼ)り、巨体がその中に閉じ込められる。

 この温室内に無数に仕掛けた遠隔の防護魔法だ。

 

「――、――ッ」

 

 光柱の中でゴーゼ司教が仮面を外し、真っ赤な顔で何かを叫んでいる。

 あいにく音も遮断しているのでこちらには聞こえない。

 

 俺は込めていた微弱な魔力を操作し、閉じ込めている音だけを解放した。

 

「――ここから出せ!」

 

 ゴーゼ司教が手のひらの光球を直接ぶつけるが、光の壁に弾かれ霧散する。

 

「無駄だ。今のお前の出涸らしのような魔力では、この防護魔法は打ち破れない」

 

「くそっ、どこまでも卑劣な男だ」

 

 それはお前もだろう。

 

「自分が追う側だと思い込んでいる相手ほど、誘導しやすいものだ」

 

 ゴーゼ司教が悔しそうに口端から涎れを垂らし、膝をつく。

 

「私を……ここで殺すつもりか」

 

「ゴーゼ司教、私がどうしてお前を泳がせていたか分かるか?」

 

「……知るか」

 

 決定的な証拠を手に入れるためだ。

 

 司教を裁くのは思った以上に難しい。

 

 たとえ聖女見習いに蛮行の数々を告発させても、結果的に彼女たちは立場を失ってしまう。故郷に出戻ったとしても腫れ物か、下手をすれば破滅だ。そのため、司教の罪を告発しようとする聖女見習いは一人もいなかった。

 

 俺が司教と貴族の癒着を暴いても、不正が根深いこの国では、徒党を組んだ貴族たちに握りつぶされるのがオチだ。せいぜいが、脅しのネタに使えるくらいだった。

 

 だが目の前の男は、襲撃者とともに現れ、彼らと似たような魔道具を持ち、聖域という不可侵の場所で大司教によって捕らえられた。誰もかばいきれない決定的な大罪だ。

 

「ゴーゼ司教、これは教会だけでなく国に対する反逆行為だ。ただの処刑で済むと思うな」

 

 そしてこの男はマイをさらい、乱暴を働こうとした。俺としてはその罪が一番重い。

 

 ……ここで殺してもいいのだが、情報を吐かせる必要がある。

 

 ゴーゼ司教の背後には帝国がいる。それも国家ぐるみの策謀だ。帝国上層部、いやそのさらに上も関わっているだろう。しばらくこの男を生かすことで、刺客をおびき寄せ、帝国の尻尾をつかめるかもしれない。

 

 聖女狩りなどという愚行でマイを狙うのなら、相手が皇帝だろうと俺は容赦しない。

 

 彼女には、誰も触れさせない。

 

 憎々しげに睨んでくるゴーゼ司教を見下ろす。

 と、その口がわずかに開いた。

 

「――しもべよ、来い」

 

 ゾクリと呪いの波動が広がる。

 

 俺は左目を閉じて、まぶたの裏にロレンティアの姿を映し出した。

 

 ――大聖堂の中。

 ロレンティアの隣で、せっせと負傷した聖騎士を癒すニーナの姿があった。

 

「残念だが、ニーナの呪いは私が解いた」

 

 ゴーゼ司教の細い目が驚愕で見開く。

 

 おそらくは切り札だったのだろう。ニーナを人質にしてマイを聖域から出させるか、油断した俺を背後から斬らせるか……いずれにしても愚劣な考え方だ。

 俺と同じように。

 

「貴様っ……ニーナを抱いたのか!?」

 

「そんなことをせずとも、呪いを解く方法はいくらでもある」

 

「嘘を言うなっ! はは、やはり貴様も同類だったか。……で、どうだった、ニーナの味は? 肌の瑞々しさは格別だっただろう、それにあれは叩くとよく鳴いて――」

 

「少し黙っていろ」

 

 俺は右腕に力を込めると、自分の体を防護魔法の対象内に設定する。

 拳を振り抜くと、光の壁をすり抜けてゴーゼ司教の顎を砕いた。

 

「あがッ」

 

 醜い顔が歪み、巨体がその場で沈み込んだ。

 

 同時に光の柱が消え去る。防護魔法を発動させている俺の魔力が尽きた証拠だ。少しでも遅ければ危なかった。

 

 魔力枯れでふらつく体を奮い立たせ、倒れたゴーゼ司教の衣服を漁る。

 他に魔道具の類は持っていないようだ。

 

 俺はその太い指から黒い指輪を引き抜くと、腰のベルトを外してゴーゼ司教を縛り上げる。

 

 雌雄は決した。

 

 

 

 

 茂みから出ると、聖域の中にいるマイと目が合った。

 

「大司教さまっ」

 

 彼女は立ったまま両手で短剣を握りしめ、その瞳から大粒の涙を流した。

 

「すべて片付いたよ、マイ」

 

「よかった、ご無事で……」

 

 マイのもとへ向かおうとしたとき、温室の入り口から聖騎士長の声がした。

 

「大司教様、聖女様、ご無事ですか!」

 

 よく見れば温室の外に、他の聖騎士たちの影もある。

 ゴーゼ司教が派手に光球を打ちまくったのだ。光や音に気づいて駆けつけてきたのだろう。

 

「聖騎士長だけ特別に聖域へ入ることを許可する。そこの奥に首謀者が倒れているから運び出してくれ」

 

「は、はいっ……承知しました」

 

 おそるおそる入ってきた聖騎士長が、下を向いたまま茂みの中へ消えていく。修練服姿のマイを見ないようにする配慮だろう。やはり聖騎士長は信用できる男だ。

 

 ややあって、ゴーゼ司教を引きずりながら聖騎士長が戻ってきた。

 

「これは……大司教様が昏倒させたので?」

 

「ああ、君との体術訓練のたまものだ」

 

「お役に立てて光栄です。こっそりお教えしてきた甲斐がありました」

 

「また頼むぞ。……ああ、私は聖女の無事を確認するから先に行きなさい。全員牢に入れておくんだ」

 

「はっ、では失礼いたします」

 

 聖騎士長は地面に視線を固定させたまま、聖騎士たちを引き連れ去っていった。

 

 

 

 

 彼らの気配が消えたところで、俺はマイのほうへ向き直る。

 

 近づいていくと、彼女の視線が俺の左腕に向けられた。安堵の笑顔を浮かべていた彼女の顔がみるみる曇っていく。

 光柱の目の前まで来ると、ついには唇を噛み下を向いてしまった。

 

「マイ、今夜は疲れただろう。もう休んで――」

 

「……な、さい」

 

 マイが何事かをつぶやいた。涙声で、その華奢な肩を震わせている。

 

「とりあえず神殿に戻ろう。もう(かた)は付いた、君は安全だ」

 

 手を差し伸べると、彼女は光柱の中で半歩後ずさった。

 

「ごめんな、さい……全部、私のせい……なんです」

 

 マイが下を向いたまま涙を流す。輝く地面にポタポタとこぼれ落ちた。

 

 ゴーゼ司教が口にした事実を気に病んでいるのだろう。村を焼かれたのは自分のせい、今日聖女見習いたちを危険にさらしたのも、俺が負傷したのも自分のせいだと。

 

「君のせいじゃない。悪いのは……すべては聖女を狙う卑しい者たちのせいだ」

 

「私がいたら、私が……聖女だから。だから、みんなが傷つく」

 

 いつしか涙声は嗚咽になり、ついには泣き出してしまった。マイのこんな悲痛な姿を見るのは初めてだ。

 

「私、なんて……」

 

 ――いないほうがいい。

 

 その決定的な言葉は、幸いにも嗚咽にかき消えた。

 

 だが、彼女がこれまでにないほど自分を否定しようとしているのは分かる。きっと、心のどこかではずっとくすぶっていた思いなのだろう。

 

 司教に手籠めにされた聖女見習いたちも、こんなふうに泣いていた。

 

「違う。君は皆に必要とされている。多くの人に求められ、救う存在なのだ」

 

 対処には慣れている。ゆっくり時間を掛け、慰め、いかに自分が尊い存在なのかを理解させる。

 

 だが、今のマイに俺の言葉は届いていない気がした。

 

 一人聖域の中で、心を閉ざそうとしている。

 

 俺は、光の壁の向こうで胸を震わせ泣き続ける少女を見つめた。

 

(小さいな)

 

 この小さい体で、なんと大きな罪悪感を背負おうとしているのだろう。

 

 自然に体が動く。

 俺はゴーゼ司教から回収した黒い指輪を、自分の指にはめた。

 

 一歩前に出ると体が光の壁をすり抜ける。

 

 そのまま、縮こまって泣いているマイを優しく抱き締めた。

 

「ぇ……」

 

 彼女の柔らかい体が震え、戸惑い声が漏れる。

 

「マイ、俺には君が必要だ」

 

「大司教さま、なんで聖域に――」

 

「とても辛いだろう。だが自分がいないほうがいい存在などと、思わないでくれ」

 

 マイの体は冷えきっていた。それを温めるように強く抱き締める。

 胸元に埋まる黒髪に、俺は思うままの言葉を降らせた。

 

「どうしても罪を背負うというなら、俺も一緒に背負おう」

 

「どう、して……そんなこと、わた……私が、聖女だからですか?」

 

「俺が、そうしたいからだ」

 

 胸元でマイが息をのんだのが分かった。

 

 体の震えが落ち着き、おずおずと細腕が俺の腰に回される。

 

 ゆっくりと、彼女の顔が上向く。

 頬には涙の跡があり、目元は赤く腫れている。だが、もう泣いてはいなかった。

 

「大司教さま、どうして……?」

 

 金色の瞳が求めるように揺れた。この期に及んでまだマイは理由を聞いてくる。もっと直接的な言葉がほしいのだろう。

 

 ここは俗世とは隔絶された聖域だ。

 

 だから、何を言っても許されるだろう。

 

「マイ、君が俺のすべてだからだ」

 

 瞳が見開かれる前に、俺は彼女の唇を塞いだ。

 

「んっ……ぁ、……っ、ん……」

 

 口づけを通してマイの唇を温める。絡ませた舌から魔力を送り、彼女の体内へ浸透させていく。次第にその全身が熱を帯びていくのを感じた。

 

 唇の密着を離していくと、マイの手が左腕に触れる。

 

 ――治癒魔法。

 

 優しい魔力に包まれ、腕の鈍痛が癒えていく。

 

 動かせるようになった手のひらを彼女の頭に乗せると、ポンポンと撫でた。

 

「ありがとう。治ったよ」

 

「……はい。きっと……私もです」

 

 マイがふんわりと口角を上げた。聖女でもあり一人の少女でもある彼女の、素直な笑顔だ。

 

「大司教さま、その格好」

 

 マイが気づいたように俺の服装を見つめる。

 

「ああ、商人の正装だ。少し着慣れないのだが、どうかな?」

 

「ちょっぴり、おかしいです……大司教さまじゃないみたい」

 

「そうか」

 

 彼女がいたずらっぽく微笑む。

 ここが聖域の中だからか、どうも遠慮がないようだ。

 

「……マイ、今回も君にはとても助けられた。何か望みはあるか? できるだけ叶えよう」

 

「望み、ですか?」

 

 マイは目を伏せてしばし考えると、再び顔を上げた。

 

「大司教さまと、お出かけがしてみたいです」

 

「お出かけ? どこにだ」

 

 予想外の望みに少し戸惑う。

 

「どこでも……できれば、下町に……屋台の串焼きがおいしいと、聞いたことがあります。あと、大司教さまの生まれ育ったお家も、見てみたいです」

 

「そうか……ならそのときは、おすすめの食堂へ案内しよう」

 

 聖女と大司教という立場である以上、平民のように下町をうろつくなど許されない。お忍びで出かけるなど、叶わない夢だ。

 

 彼女も、それは分かっている。

 だが今だけは、聖域の中でだけなら、叶わぬ望みに思いを馳せてもバチは当たるまい。

 

 食堂のメニューについて話を弾ませていると、薬指にはめた指輪がカタカタと震えだした。魔道具の限界が来たのだ。

 

「マイ、そろそろこの指輪の時間切れだ。一緒に戻ろう」

 

「はい……」

 

 彼女は寂しげに笑うと、差し出した手を握った。

 

 

 マイの手を引いて聖域から出る。

 

 その瞬間、黒い指輪が砕け散った。

 

「大司教さま、指輪が……よいのですか?」

 

「いいんだ。聖域に侵入できる魔道具など、この世から消し去ったほうがいい」

 

 手をつないだまま歩き出すと、ガクンと体が傾いた。

 

「大司教さまっ」

 

「心配ない、ただの魔力枯れだ」

 

 前のめりに倒れ込むと、マイが回り込んで抱きついてきた。

 彼女に支えられながら、二人でその場にへたり込む。

 

「マイ、重いだろう。聖騎士長を呼びなさい」

 

「大丈夫です。私が運びますから」

 

 それはさすがに無理だろう。

 

 そう口にしようとしても、全身が脱力して声が出せない。

 

「うん……そうやって体重を掛けてください。私、慣れてますから……」

 

 声色に艶っぽいものを感じたが、股間に熱が集中する間もなく意識が遠のいていく。

 

「今夜は私に守らせてください……リンゼさま」

 

 子守歌のような優しい言葉に誘われて、俺はまぶたを閉じた。

 





ここまで読んでいただき有り難うございます。第一章・完となります。第二章は書き溜めでき次第アップ予定ですので、今少しお待ちいただければ幸いです…!


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