葦名廻戦 (朝槿)
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第一章 目覚め
野良犬の目覚め


処女作です。
個人的に呪術廻戦とSEKIROの世界観ってよく似てると思うんです。
其処を上手く書けたらな、と思います。
忙しいけど頑張りたい。(切実)

追記:10/21 大きく修正しました。少し特殊タグを入れてみたくなったので。


戦国末期。

 

葦名と呼ばれる地にて。

ススキが揺れ、雷鳴轟く草原。

主の願いを成就させる為、一人の忍が命を断とうとしていた。

 

遠く葦名城では火が燃え盛り、内府によって今まさに滅びようとしている。

葦名を守れる者はもう居ない。

 

何よりも葦名を愛した一人の若武者(葦名弦一郎)、そして国を起こし護り育てた最強の剣聖(葦名一心)

どちらも忍びが斬った。

 

葦名の国を憎んでいたと言う訳ではない。

偶然起こった事件でもない。

起きるべくして起きたのだ。

 

忍びは楔丸を鞘に納め、主人の胸に置いた。

そして背に負ったもう一振りの刀、不死切り(拝涙)を抜き、自らの首に当てる。

 

「最後の不死を、成敗致す」

 

--九郎様。

 

忍びは眠る自らの主人の顔を見下ろす。

まだ若く体は小さい。

しかし、周りの強者にも勝るとも劣らない強さを持っている。

 

忍び、いや狼は、そんな自らの主人に生きて欲しかった。

 

「人として、生きてくだされ」

 

竜胤に囚われない、人として。

 

 

その想いが自らの主人に届く事を願い、狼は首に当てた刃を滑らした。

 

櫻の花びらが散る。

今此処に、不死断ちは成った。

 

 

 


 

 

 

「此処は……」

 

確かに不死断ちを果たした狼。

しかし、彼は何の因果か再び目覚めることとなる。

 

「何処だ……?」

 

自らの主人に従い、為すべき事を為した彼は、主人無き今、何を求め、何を果たすのだろうか。

 

呪霊が跋扈する現代日本。

今、一人の忍びが目を覚ました。

 

 

 


 

 

 

群雄割拠の戦国時代。

巡り動く日ノ本の中でも、特別魔境と呼ばれた葦名。

其処を駆け、戦い、生きた狼だが、今のこの状況には困惑を隠せなかった。

 

「此処は何処だ……?」

 

何故か目を覚まし、知らない部屋にいた。

周りを見渡しても、今まで生きてきた葦名とは思えない。

白く清潔な部屋で、これまた見たことの無い灯りと寝具。

 

もしや幻術か?と思ったものの、目の前に置いてある鏡に映る姿を見て認識を改める。

 

幾分か幼くなったが、其処に映るのは確かに自分……忍びである狼の姿だった。

 

(齢は六、七……いや、体が出来ておらぬ)

 

養父()に拾われた時と同じぐらいの見た目だが、それに比べて今の体は貧弱すぎる。

何かの病なのだろうか……と狼は考えるが、その思考は突然の頭痛に遮られる。

 

「ぐっ……!」

 

今まで感じた事の無い種類の痛みに、狼は思わず苦悶の声を漏らす。

必死に耐えきり一呼吸ついた狼は、自らの脳裏に知らない記憶が浮かんでいる事に気づいた。

 

(これは…この体の記憶……?)

 

幼少期、詳しく言うと産まれてから6歳までの記憶。

その日々を過ごしたのが自分の姿、しかし自分ではない事に狼は怖気を覚えた。

しかし、その震えは突然部屋に入ってきた二人の男女によって遮られることになる。

 

「狼ちゃん……!起きたのね!」

 

「大丈夫か、狼牙!本当に良かった……」

 

狼には何が何だか分からない。

しかし、先程流れ込んだ記憶が誰かを伝える。

 

(……彼らはこの体の持ち主の両親だ。取り敢えず、言葉を返さなければ……)

 

「……大丈夫です。父上、母上、ご迷惑を」

 

「「……え?」」

 

二人は、自分が知っている我が子と余りにかけ離れた様子に愕然とし、固まる。

 

(……ぬかった)

 

狼は自らの過失を察し、慌てて説明しようとするが、それよりも父親の回復の方が早かった。

 

「……狼牙?もしかして、記憶が無かったりするか?」

 

彼は困惑した、しかし真面目な表情で問いかけてくる。

 

「……あります。しかし、何処かふわふわと……」

 

狼にも何が何だか分からない。

かろうじて感覚だけは分かるが、それもしっかりと言葉に表せない。

男は目を閉じ、思考に沈む。

 

「……桜」

 

「分かったわ」

 

桜と呼ばれた女性は狼の手に触れる。

害意も無かった為、狼は黙って受け入れる。

 

「……呪力は変わってない。だけど……少し違和感がある」

 

(呪力?……”気“の様なものか…?)

 

最早状況は狼の理解できる範囲を超えている。

 

「……そっちは置いておこう。狼牙の記憶だけど……」

 

「恐らく……」

 

「「実体験としては覚えてない」」

 

「狼牙。過去の自分が他人の様に見えていたりしないか?」

 

「……はい」

 

(……何と。これだけの会話で……)

 

狼は両親の知力に驚く。

自分は一言二言しか言ってないが、目の前の二人は自分が言いたい事を全て把握してみせた。

 

--良き親に恵まれたようだ。

 

 

そんな狼を差し置いて、両親はひたすらに頭を回転させていた。

 

「解離性記憶障害かしら?」

 

「呪力の暴走で?……いや、術式は脳に刻まれると言うからね」

 

「術式がある事は喜ばしいけど、こんな事なら……」

 

「そうだね。……幸い記憶以外は大丈夫そうだ」

 

一度話を終わらせ、二人は狼に話しかける。

 

「……狼牙、一旦休んでてくれ。起きたばかりだし、今日は寝た方がいい」

 

「狼ちゃん、お休みなさいね」

 

幸いな事に、ゆっくりと考える機会を得る事が出来た。

 

「はい。父上、母上」

 

 

 

 

「生まれ変わり……」

 

白い部屋に一人残された狼は、自らの手の平を見る。

 

確かにあの時狼は死んだ。

不死切りにて首を断ち、九郎は人返りを為した。

確かに竜胤を断った感覚もあった。

 

しかし……

 

「この服、この部屋……そしてこの体」

 

自分の意識は自分だと言えるが、自分の体は嘗てのものではない。

 

「俺は……誰だ……?」

 

……取り敢えず、寝るか。

 

狼は目を閉じる。

疲労した体はいつのまにか速やかに眠りに落ちていった。




貯蓄がない。
作者のアドリブ力と妄想力が試される…!
大丈夫だ、問題ない。(ある)


追記:両親共に頭は良いです。
もし一般人として産まれていたなら、一流大学に行ける程でしょう。
その血を引いた狼の体も大分天才です。


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荒れ寺

本作の狼さんは8周目苦難厄憑クリア済みです。
義手忍具も最終段階まで行ってますし、技も全習得済みです。
まあ今は体できて無いので、成長次第かな?
それに従って、もしかしたら出てくるかもしれないあの人達は、最終的に心中超えます。


追記:星の観測者→星核呪界


眠りに落ちた狼だったが、ふと目を開く。

 

そして再び驚愕した。

其処に広がる光景は先程の白い部屋などではなく、狼にとって馴染み深い場所であった。

 

「此処は……」

 

何時もと変わらぬ荒れ寺が、其処にあった。

 

「荒れ寺?何故……」

 

狼の姿も、いつもと同じく柿渋色の忍び装束に左手の義手、腰には楔丸、背には不死切りを背負っていた。

先程までの光景は幻術か夢だったのか、と再び思いそうになるが、あの情景は生半可な者に出せるような者では無いと考え直す。

 

(義父上、若しくはお蝶殿なら或いは……)

 

それこそあり得ない。狼自らの手で育ての義父と師は斬った。

 

「ならば……」

 

そう考えていると。

 

「こんにちは」

 

背後から声が。

振り向きざまに義手忍具《瑠璃の手裏剣》を発動しようとするが、声の主を視認し動きを止めた。

 

「おっと、止めてくれてありがとう。狼さん」

 

其処にいたのは、幼い自分自身だった。

 

 

 

 

「取り敢えず座って」

 

困惑する狼に目の前の少年が提案したのは、一回説明させて?だった。

狼も何が何だか分からない故、一先ず話を聞く事にした。

……最も、自分が気配を毛ほども感じれなかった事を警戒しての事もあるが。

 

「初めまして。まあ察していると思うけど、僕が君の体の元持ち主。影って呼んでね」

 

少年の幼い見た目とは裏腹に、言葉や雰囲気からは年不相応な知性を感じる。

 

「……宜しく頼む」

 

狼は取り敢えず目の前の少年に敵意はないと判断し、話を促した。

 

「えっと、何から話そっかな……まあいいや。狼さん、もう一回アレやって良い?」

 

「……“あれ”とは?」

 

「コレ」

 

そう言って少年はパチンと指を鳴らす。

その瞬間、先程とは比べ物にならないほどの情報量が脳裏に流れ込む。

 

しかし痛みは不自然な程遮断されていた。

 

「…………」

 

「そんなに睨まないでよ。眉間の皺取れなくなるよ?」

 

見た目に反して性格は子供らしからぬ。

彼曰く、説明が下手だからコレが一番簡単だと。

確かに情報を伝えるには良いだろう。

だが予告もせずに実行するのは、敵意があると見做されても可笑しくない。

 

「悪かったって。でも楽でしょ」

 

反省はしてない様だ。

 

「まあ、冗談は此処までにしておいて。どう?分かるでしょ」

 

狼の表情はいつにも増して不機嫌気味だが、効果は覿面。

狼が知りたいことの殆どを知る事が出来た。

 

 

まずはこの世界について。

狼たちが生きた時代の数百年後。

今は平成という時代であり、あの頃とは一変して日本は平和な世となっている。

しかし、裏では呪霊と呼ばれる悪鬼の類の物が世に蔓延り、変わらず危険な様だ。

 

 

そして呪力に関する事。

人間の負のエネルギーから発生する力であり、それを元にして呪霊が産まれる。

また術式というものについてもあるが、其処は不完全な様だ。

 

「術式は完全なブラックボックスだからね〜。幾ら僕でもそこそこしか分からないよ」

 

そうは言っているが、この情報には結構重大な秘密も混じっている気がする。

狼の忍びとしての経験がそう告げているが、余り深く考えない様にした。

 

「まあ、基礎の基礎だからね。詳しくは知らないよ」

 

あらかた知識や考え方を得られた事は大きな成果であることは間違いない。間違い無いのではあるが……

 

「やっぱり葦名について知りたかった?ごめんね、全部悉く消されてるんだよ」

 

恐らく内府の仕業だろう。

まあ仕方がない。葦名という地域自体が内府にとって大きな汚点、急所そのものであったからであろう。

 

 

 

 

「どう、整理できた?」

「ああ」

 

数分後、目の前の少年……影は狼に話しかけてきた。

正直まだ頭が痛いが、もっと先に気になる事があった。

 

「俺を何故呼んだ……?」

 

その質問に対し、影は少し真面目な表情になって話し始める。

 

「そうだね……まず結論から言おう。僕の家系は竜胤の御子様の子孫だ」

「……九郎様の?」

「安心して。文献によると、彼は余生を全うしたみたいだから」

 

自らの主人は無事に、人として生きる事が出来た。

唯一の、そして最大の願いが叶った事を知り、

 

「忝い」

 

狼はそう頭を下げる事しかできなかった。

 

「礼を言うなら僕の方だよ。ご先祖様を助けてくれて有難うってね」

「いや。為すべき事を、為したまで」

 

お互い九郎に思いを馳せるが、ふと我に帰った影は話を続ける。

 

「おっと、これじゃあ一生終わりそうにないね。君がいる理由だけど……端的に言えば僕が天才だからだね」

 

--は?

 

先ほどまでの空気が嘘の様に場が凍りつく。

 

「嘘嘘、半分冗談。正確に言うと、僕の能力の所為だよ」

 

そう言って影は自身の力について語り出す。

 

 

【星核呪界】

 

影の術式、いや最早天与呪縛とも言えるだろう。

星に刻まれた記録を()()()()扱う事が出来る。

術式発現時に圧倒的な知力を得る代わり、()()()()()()()()()()()()()()()()

本人がどれだけ呪力を持っていたとしても、表皮下でしか扱えなくなるのだ。

 

 

 

「どう?大分ヤバいでしょ?」

 

「……確かに、これは強い」

 

忍びとして見ても、この能力は極限までに強く思える。

少なくとも情報面では彼がいれば負けることはないだろう。

しかし……

 

「……負担はどれ程だ?」

 

「さっすが狼さん!……想像通り、人の脳は星の膨大な記録に耐えられない」

 

本来人間の脳は限界の半分も使われていないと言う。

だが、例え限界まで処理に回しても、星の膨大な記録には耐えきれない。

瞬く間に情報許容量を超え、脳は焼け尽きた。

 

「さあ此処で問題!僕の血には何が流れている?」

 

血は血だ。それ以上もそれ以下もない。

しかし、狼には彼が何を言いたいかが分かる。

 

「……竜胤」

「that's right!」

 

本来人返りによって断たれた竜胤の力。しかし、影の術式によって蘇ってしまった。

 

「詳しくは分からないけど、僕の内部に流れている呪力は普通とは違う。それが作用したみたい」

 

本来の呪力なら人間でも扱える。しかし、神力とも言えるほどの密度を持った力は人間に扱うことは出来ない。

 

「……負担が大き過ぎる」

 

そう、最早命と引き換えの力なのだ。

 

 

 

 

「纏めると、僕は術式の出力に耐えきれず死んだ。そして、不幸な事に竜胤の血が目覚め、僕の体は生き返った」

 

理解した?と影。

それに頷き、狼は最も気になっている事について聞く。

 

「……俺の術式は、何だ?」

 

影はそれにニヤリと笑い、こう言った。

 

「期待して?君の力、中々なものだよ」




次回は狼さんの術式についてです。
SEKIRO組は全員強化するつもりでいますので、楽しみにしてて下さい。
これ以上強化したら呪術組が勝てなくなるって?
大丈夫、五条さんが増えるだけだから。


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狼の武器

狼さん、影の体に憑依したと思っているのですが、実際は違います。
今は書きませんが、狼さんの術式に深く関わってきますので、待ってて下さい。

追記:10/21 少し修正。特殊タグの使い方が分からぬ(切実)
フォントとか多すぎ。


狼の夢の中、心象世界では、影が説明を始めようとしていた。

 

「狼さんの術式。僕が()()限りだと、後天的な天与呪縛方式、つまり僕と同じ様な感じだね」

 

代償があると遠回しに言われ、早速不安になってきた狼だったが、無言で続きを促す。

 

「自分で目覚めさせる……と言うのが今の君には出来ないから、僕が発動させるよ。準備、出来たかな?」

 

「……ああ、頼む」

 

その問いかけに狼は即時に承諾する。

影もそれに頷き、目を閉じた。

 

大日如来の名の元に、かの者の力を現し賜え

 

そう呟き、目を見開く。

 

術式順転 神眼

 

一瞬、体を何かがすり抜けて行った感覚。

そして余りにも微細だが、狼は何かに見られている様な感覚に陥る。

 

「……何をした?」

 

「ちょっと待っててね……よし!おしまい」

 

今度は更に不思議な感触。

体の中にもう一つ新たな臓器が生まれ、身体中に何かが巡っている様な感覚を、狼は味わった。

 

「どう?」

 

「……力が巡っている……?」

 

「やっぱり凄いね。知覚できるほど量あるんだ」

 

「何故……おい、目が…!」

 

影は手で隠しているが、よく見ると目から血が流れている。

 

「あ、大丈夫大丈夫。君と僕は同じ体を持っているから、君の中のスイッチを切り替えただけ。さ、やってみて!」

 

「少し休んでおけ……」

 

無理をした影を見て若干申し訳なく思うが、言われた通りに術式を起動させる。

 

血液ではない、体内に巡るもう一つの流れ。

呪力を認識しろ、回せ、使え。

 

「……血は巡り、竜胤は成る

 

 

「竜界・廻胤忍術」

 

 

頭に浮かぶ言葉。

口からするりと流れ出た。

 

御霊下ろし 阿攻

 

瞬間、体の奥底から力が湧き出で、体が傷みだす。

困惑する狼だったが、回復した影に話しかけられ、力を止めた。

 

「ふ〜ん、成程。前世の力を扱う事が出来る様だね。うん、強い。経験が力になってる」

 

「………」

 

狼がその言葉で思い出したのは、嘗ての最強。

全てを飲み込み、死ぬ間際まで磨いた剣術は恐るべきものだった。

 

「……やっぱり君も体内だけか……いや、逆に君にはこれで良いのかもしれないね」

 

「……?どう言う意味だ」

 

狼の問いに対し、影は指をさして告げる。

 

「君はもう既に一つの完成を迎えている。なら新たな要素はそれを強化する為に使うべきじゃないかい?」

 

「……そうか?」

 

「術式の内容から察するに、身体訓練と並行して行えるよ」

 

狼の何より武器はその技、力、そして経験だ。

それを更に強化するべきだと影は言う。

 

「影の言う通りかも知れぬ……」

 

「でしょ?」

 

同意を得られてご満悦な影を目にし、少し表情が緩んだ狼だった。

 

 

 

 

「良い?此処からはどういう風に生きて行くかの話だよ」

 

「ああ、頼む」

 

二人は床に座り、真剣な表情で話し合いを始める。

 

「まず君の現状だけど、体、術式、呪力は全て君のものだ。だけど、意識は()()()()()()()()

 

「……そうだな」

 

「才能はあるし、君は強い。全ては此処からどれだけ鍛え上げれるかだ。僕は普段心象世界に居るから、寝てる時にしか会えないと思うけど、ある程度なら話す事が出来る。どうしようもなかったら聞いて」

 

「承知した」

 

「そして副作用についてだけど……一切気にしなくていい」

 

「それは……何故だ?」

 

当然の疑問。

体外に放出出来ない、と言う縛りだけでなく、単純だが、途轍もなく危険な副作用もあった筈。

 

「元来僕の術式の縛りは()()()()()()()()()。これは君も同じ。こっちはこれから練習して行く中でどうにか出来る」

 

「其処で副作用。脳が焼き切れる程の知識は僕が受け持つ。大丈夫、君のお陰で脳は何倍も強化されたし、此処では大きな苦痛はしない」

 

「……ああ、わかった」

 

「次に呪力だけど、まあ出力は問題ないね。密度やばいし。体内で扱う事には君には一日どころでは無いアドバンテージがある。使う度に苦痛が走ると思うけど、其処は耐えてくれ」

 

「次に注意点。体内で回している分には感知出来ないけど、体内の呪力を感知出来る手段があるなら一発でバレる。

外からは呪力総量は普通に見えるけど、実際は途轍もない密度だから。

恐らくだけど、ひたすら回し続ける必要があると思う」

 

呪力を流す度に苦痛が走るが、周りから隠す為には呪力を四六中回し続けなくてはならない。

大きなストレスになるだろうが、

 

「承った」

 

狼は其れを受け入れた。

 

 

「………」

 

それを見た影は表情を暗くして、俯く。

 

「……どうした?」

 

「……本当にごめんね。不死断ちを成し遂げたと言うのに、君達を苦労させて。

僕の術式の所為で竜胤が目覚め、君を引き寄せてしまった」

 

「……こんな事なら……」

 

 

“産まれなければ良かったのに“

 

 

ガシッ!

 

そう言おうとした影を、狼は肩を掴んで止める。

驚いて顔を上げた影と目を合わせ、狼は告げる。

 

「……それ以上言うな」

 

「……ごめん」

 

暗い表情をしている影。

狼には、その表情がどうしても嘗ての主人に重なって見えてしまった。

 

「……お前の所為では無い。悪いのは完全に断ち切れなかった俺の所為だ」

 

「それは……」

 

せめて、目の前の少年にだけはこの様な顔をして欲しくない。

そう思い、狼は慣れないながらも必死に言葉を紡ぐ。

 

「……それでも自分の所為だと思いたいなら…」

 

「為すべき事を、為せ」

 

「……影になら、任せられる」

 

その言葉に、影の目には涙が浮かぶ。

狼には想像もできない。

大人を超えた知性を有しているが、まだ幼い、十にも満たない少年が孤独の中で戦っていた苦しみを。

自分が全てを尽くした行動に、彼は一人で辿り着いたのだ。

 

「……お前の行いは、決してあの時代の強者に負けはしない」

 

「……これからも頼む」

 

狼の言葉に目を見開き、涙を乱暴に拭う。

前を真っ直ぐに見据え、影は声を張り上げた。

 

「……うん!」

 

 

 

 

数分後、狼は似合わない言葉を言った事に、影は泣き出してしまった事に内心身悶えしていた。

 

「……お、狼さん?だ、大丈夫?」

 

「…………大丈夫だ、問題ない」

 

「その台詞、全然信用できないんだけど……」

 

 

少しして落ち着いた二人は話を再開させる。

 

「一つ大事な事を言い忘れてたんだけど、この竜胤、()()()()()()()()()()

 

「……他に御子がいると?」

 

「いや、僕には分からない。そもそも僕達だけなのか、それとも()()()()()()()()()()()()()()()

 

……怪しい。影の術式ならば並大抵のものは見通せる筈。

 

「……方法は?」

 

「あるには有る。だけど途轍もない時間と労力が掛かる」

 

影でさえあまり取りたくない手段。それは……

 

「世界全域を虱潰しに視まくる」

 

まさかのゴリ押しだった。




祝詞及び詠唱のフォント《font:49》

狼さん、影くんと出会った事で大分喋る様になりました。
そもそも影くん、今作一の功労者です。
彼が居なければ後々やばい事になるので。


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邂逅

前回の補足

影の最大のデメリットはオーバーヒートなんですよ。途轍もない密度の呪力に途轍もないリターン。
残念ながら影の体は耐えれませんでした。
でも狼さん、何より体内に関しては他の術師の何倍もの適性と慣れがあります。
逆に狼さんのデメリットである知識や経験、索敵。
プロの忍びですが、術式で隠れられたら見つけるのには一苦労かかります。(無理ではない)
彼初見に弱いですから。
なので、戦闘の狼とサポートの影は相性がとても良いんですね。


唯一の方法がゴリ押し。

そう知った狼は呆れてため息をつく。

 

「……他は?」

 

「ない。……第一隠れてるのが悪いんだよ!何で竜胤授けたのに身を隠すのさ!」

 

勝手に竜胤を授け、姿をくらまし情報は一切ない。

流石の影もキレる。

 

「知らぬ。……だが、怪しい」

 

「そうだね……取り敢えず、日本から探す事にするよ」

 

此処で一つ問題が。

 

「……連絡は?」

 

「……あ。無理ですね、はい」

 

流石に日本全土一斉調査は負担が大きいらしく、数年はかかるそうだ。

そしてその間、狼は影と接触する事が出来なくなる。

 

「う〜ん……僕は大丈夫だから、狼さんには【真眼】を預けるよ」

 

「神眼とは何が違う?」

 

「こっちは事象限定。あらゆる情報の大半を視認できる様になる。まあ負担が大きいから使い所は間違えない様に」

 

「‥…承知した」

 

「後は……」

 

影は顳顬をトントンと叩きながら思考する。

 

「そうだ!これからの目標なんだけど、取り敢えず強くなること。で、高校生になる迄はできるだけ力は隠しておいて方が良い。正確には高専に入学するまでは」

 

「……何故だ?」

 

「敵は少ない方がいい。それに、忍びが大々的に動くのも違くない?」

 

「……確かに」

 

若干こじつけの様な気もするが……

狼は気にしない事にした。

 

 

 

 

「ん?……ああ、そろそろ時間だね」

 

狼とこれからについて話していた影だったが、何かに気づく。

 

「目覚めの時間だよ。向こうは頼んだからね、相棒」

 

「……相棒……」

 

突然そう言われ、目を瞬かせる狼。

 

「ありゃ、嫌だった?」

 

前世では、主人と従者、義父と息子、師と弟子、敵と敵でしか無かった。

友人は愚か、まともに話せる人は悉く死んでしまう。

今までそんな風に呼ばれたことは無かったのだ。

しかし……

 

「いや……悪くない」

 

不思議と嫌悪感は湧かなかった。

 

「それは良かった」

 

影も、そんな狼を見て、ニヤリと笑った。

 

 

 


 

 

 

目が覚める。

 

「此処は……病室、だったか」

 

体を起こした狼は、掌を掲げ見つめる。

 

前世で何回も繰り返した苦難。

自らの主人の為、命を賭けた人生だったが、今世は違う。

主人はもうこの世にいない。

それなのに自分だけ生きている。

 

「九郎様は何と言うだろうか……」

 

ああ、そんな事深く考えなくても分かる。

彼なら、自分の主人なら、『精一杯生きよ!』と笑って言うだろう。

 

そしてもう一人の自分。

彼の為にも、竜胤は断たねばならぬ。

 

『頼んだよ、相棒』

 

狼は拳を握り締め、呟く。

 

「任された」

 

今此処に、竜胤を断つと、狼は再び主人に誓った。

 

 

 


 

 

 

数日後。

 

無事に退院した狼は、術式の暴走で性格が変わったと言う事で事を納めた。

嘘をついている様で若干申し訳ないが、仕方がない事だろう。

 

自宅という名の屋敷に帰った狼だが、その豪勢さに面食らったり、家人の反応から影を誇らしく思ったりと、忙しい1日だった。

両親は共に仕事があり、一緒に祝えない事に申し訳なさそうにしていたが、狼には仕事を中断してまで自分を迎えに来てくれただけで充分だった。

 

そんなこんなで慣れない歓待を受け、自室についた狼はやっとの事で一息つく。

 

「……本か」

 

広く豪勢な(前世比)自室で慣れない物に触れ、少し興奮していた狼だが、一旦落ち着いて本棚を漁る。

 

「……これは……」

 

若干呆れた声色の狼。

影は7歳、それも術式発現前であり、大人の様な智慧はまだ得ていなかった筈だが、本棚には様々な種類の事典や学術書がぎっしりと詰め込まれている。

一般の書店に売っているものだけではなく、呪術師関連の物もある。

記憶から見るに、影は一般の方は全て読んだ様だ。

 

天才とはこう言う事を言うのだろうか、と思うと同時に、自分が読まなければいけない事に気づき気を重くする。

何とか自分を奮い立たせ、端から読み始める狼だった。

 

 

 

 

数時間後。

 

拳程もある分厚さの巻物を一つ読み終えた狼は、思わず地面に突っ伏す。

超人的な脳を持つこの体だから良いものを、普通の5歳児には文字が入ってこないだろう。

 

--仙峯寺の両刃使いより厳しい戦いだった……

 

頭を休めようと目を閉じていると、廊下より何かの気配と足音を察知する。

それと同時に、その正体に違和感を覚えた。

 

--何だ……この違和感は?

 

気配は殺されているのに、足音は大きい。

まるでわざと鳴らしているかの様なチグハグさ。

 

身構えた狼だったが、扉より入ってきた者の姿を見て固まる。

 

「おお、狼牙よ!帰ったか!大丈夫か?」

 

「!?」

 

「ふむ、どうした?」

 

何故こんな所に居るのだろうか。

 

「………義父上…!?」

 

目の前に立つ男。

少し出立ちは異なるものの、間違いなく自分を育てた義父、梟だった。




遂に梟さん登場!


補足:これからの目標

・影が竜胤関係の手掛かりを見つけるのを待つ。
・鍛錬をすること。(まずは前世を目標に)
・知見を広げる。
《星核呪界》による知識は全て影が扱っているので、実際は前世+呪力に関する知識(基礎中の基礎)しかない。
最初に共有された知識は、同意の上で殆どを記憶から消した。

狼さんは自分以外に知り合い、それも梟パパがいる事にビビってます。
これ最悪他の人も来てるくね?(意訳)みたいな。
梟パパの方は、狼似の甥が気絶したことに心配して見に来たら、なんか狼になってる〜!って言う事で驚いてますね。

呪術書ですけど、まあ教科書みたいなものです。
簡単なコツ的なものが載っています。
普通は使わないんですけど、影くん暇だったんで読もうと思ってた。


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薄井家

前回、遂にSEKIROから二人目の転生者がいる事が分かりましたね。
まあ、流石にこれ以上はいないでしょ〜(フラグ)

後狼さんについてですが、影の体に引っ張られて親しい間柄の人には結構しゃべる様になりました。
まあ、戦闘時は相変わらず無口ですが。
彼も影の代わりを頑張っているんです。
だから口調が違うなんて言わないで下さい。(本音)


〜〜梟視点〜〜

 

 

葦名城。

天守閣にて、義父と倅は決別した。

 

『…できませぬ』

 

その目に映るのは決意。

掟に背き、御子を守る覚悟。

 

『掟は己で定める。そう決めました』

 

『我が主のように…』

 

殺し合いは梟の奇襲より始まった。

梟の人生でもかつて無い程の接戦。

互いに致命の一撃、忍殺を相手に決め、隙を晒した者は負ける。

 

斬り合いの中、梟は思う。

目の前に立つ狼は、かつて野良犬であった頃に比べ、幾倍も強くなった。

だが、負ける訳にはいかぬ…!

 

ガァインッ!

 

渾身、上段からの斬り下ろし。

それを狼は完璧に弾いて見せた。

 

ああ……倅よ……

 

『影落とし、お返しいたす…』

 

……見事なり。

 

 

 


 

 

「……懐かしい夢を見たものだ」

 

薄井家の屋敷で目が覚めた梟はそう呟く。

珍しく、前世の夢を見る事になろうとは。

 

 

此処は現代日本。

野望を狼に挫かれ、満足して逝った梟は、何の偶然か現代の薄井家に転生した。

変な偶然だと思っていたが、先祖があの竜胤の御子だと知った時は思わず苦笑いするしかなかった。

 

薄井家。

規模は小さく、発端は戦国末期だが、この家は呪術界に於いて確かな立場を持っている。

その理由とは、隠密の腕にあった。

脈絡と受け継がれてきた忍びの技。

呪力ではなく、身体の技の極地。

 

その特異性、危険性から、薄井家は代々細々と継がれている。

秘匿の為、原則子供は二人までであり、薄井家に婿入り、嫁入りする際は情報秘匿の縛りを結ばされる。

よって他の家系と違い、本当に重要な案件のみ指定されるのだ。

 

 

 

 

初代より受け継がれる忍びの精神。

初代当主、薄井九郎により定められた忍びの掟にもそれは現れていた。

凡そは梟が知るものだったが、最後に書かれた三文を見た時、思わず梟の中から感慨深いものが込み上げてきた。

 

『掟は絶対。しかし、時としてそれを曲げねばならぬ時がある。ならば、掟は己で定めよ』

 

恐らく竜胤は断たれ、御子様は人として生きたのだろう。

つまり、狼は成し遂げたのだ。

 

梟はただ、誇らしく思うのだった。

 

 

 

 

懐かしい夢を見た故か、梟は前世に思いを馳せる。

 

「主は絶対……儂が言えた事ではないか」

 

竜胤の為に一心様を裏切り、忍軍を伴って葦名に攻め込み、殺そうとした。

恐らく笑って許して貰えるとは思うが、それを受け入れる事は出来ない。

 

自らの野望に従い、及ばずに負けたのだ。

後悔はしてないが、許されるべきではないと、梟は心に刻んでいる。

 

 

突然、外が騒がしくなる。

 

「はて?……今日は狼牙の退院日か。儂とした事が、忘れておったわ」

 

薄井狼牙。

当主であり、弟である薄井透の一人息子。

最初はただの甥としか考えてなかったが、初めて会った時、梟は大きな衝撃を受けた。

顔から体まで幼い頃の狼に瓜二つ。

それからと言うもの、覚えが早い狼牙へと、自分の持つ知識を詰め込むようになった。

透からも『師匠として教えてくれないか?』と言われ、体術も教える事となっていた。

 

しかし……術式の開花で呪力暴走。

元来薄井家には呪力持ちはいるものの、術式持ちは殆ど居なかった。

反転術式など忍びならどうにか出来る、大抵の術師には余裕で勝てる力量を持っている。

それ故に、術式について詳しい人物が足りてなかった。

 

梟はその時、所要で他所の県に出ていた為、やっと帰ってきた時には退院間近だったのだ。

 

「まだ九時か……透は仕事、桜は日課の鍛錬か?なら儂が会いに行くとするか」

 

土産話でも聞かせてやろうと思い、梟は腰を上げた。

 

 

 

 

「……義父上!?」

 

なんと……

 

狼牙の部屋に向かった梟。

其処に待っていたのは、確かに狼牙だった。

しかし、中身は恐らく……

 

「倅よ……久方ぶりだな」

 

前世での弟子であり、息子であった狼だった。

 

 

〜〜狼視点〜〜

 

 

紛れもない。

目の前に立っているのは、前世で斬った義父だった。

 

「狼よ……色々と聞くことはあるが、先ずは一つ」

 

そう言って梟は背に負った刀を抜き、一瞬で狼の首元に当てた。

 

「……ッ!」

 

「ふむ……目では追えているようじゃな?」

 

前世の何倍も早い……いや違う、疾い。

動きに一切の予備動作がない。

目では追えたが、今の体では太刀打ち出来ないだろう。

 

「まあそれは良い。さて狼、狼牙を何処にやった?」

 

狼牙……恐らく、影の事であろう。

 

「……義父上、説明を」

 

「ふむ……良かろう」

 

そう言って梟は刀を鞘に戻した。

しかし相変わらず隙はない。

 

「……実は……」

 

それを横目に、狼は語り出した。

影と自分の出会いを。

 

 

 

 

「……竜胤の復活か。して倅よ、どうするつもりだ?」

 

梟が問うているのは、何をするつもりか、である。

 

「……御指南を、お願いしたく」

 

「何故だ?前世での記憶があるなら、己でやるのが一番良かろうて」

 

「……義父上は、術式をご存知ですか」

 

「ふむ。儂も持っておるが?」

 

「影より、術式と体術を磨けと。それを同時に熟せるのは義父上ぐらいかと、存じます」

 

「……良かろう。透にも頼まれていた事だ、前世の続きと行こうか」

 

「はっ」

 

 

 


 

 

 

無事に弟子として再び鍛えられる事となった狼。

手始めに、薄井家について知ることとなった。

 

「御子様の子孫である家系と言うことは知っておろうな?」

 

「はっ。忍びの家系である事も」

 

「ふむ……恐らく此処からは知らぬな。狼、ついて来くるがいい」

 

そう梟に言われ、狼は屋敷の地下へと向かう。

何重にも仕掛けが張り巡らされた通路を神眼なしで通り、小さな門辿り着いた。

 

ちなみに、真眼を試しに使ってみると、呪力(仮称)が少し減り、仕掛けが全てはっきりと見える様になった。

本来呪力消費はとても多い筈なのだが、狼と影の二人分+高密度の呪力(仮称)、それも天与呪縛で大幅に増加されている故、結果減ったのはほんの微量。

しかし目の負担は途轍もなかったので、早々に切り、滅多に使わない事にした。

 

 

梟は指を刀で斬り、血を門の何処かに付着させる。

そして呪力を流し込んだ。

門は一瞬光り、狼は内部から何かの力を感じた。

 

「!?ぐっ……」

 

それと同時に、何故か狼の呪力が活性化する。

狼を呪力を扱うデメリットである痛みが襲い、思わず膝をつく。

 

それに気づいた梟は呪力を注ぐのをやめ、倒れそうな狼を支える。

 

「どうした。……もしや、共振か?」

 

 

共振。

同じ波長を持つ呪力が共鳴する事。

今、狼の呪力と扉の術式が共鳴し、両方の呪力が活性化したのである。

 

 

「……恐らく」

 

「ふむ……耐えられるか?」

 

「…‥御意に」

 

梟は再び呪力を流し込む。

すると、門の中央に家紋が浮かぶ。

 

「四つ方喰(よつかたばみ)……!これは…」

 

「御子様の遺した術じゃ。誰に習うたかは分からぬが、この先にあるものは薄井家にとって重要。ゆめゆめ、忘れるな」

 

梟が門をくぐる。

狼は一瞬止まり、呼吸を整え、同じ様に潜り抜けた。




・薄井梟雄

ちゃんと転生した義父さん。生まれつき記憶があったので、ガチガチに鍛え上げて前世より強くなりました。
術式は……まあ、幻術使いますね。(設定考えてない)

人帰りルートなので、天守閣で影落としを返された大忍びの方です。
鈴関連は並行世界という捉え方なので(本作では)、平田屋敷では普通に生きて帰りました。

前世と違いある程度平和なので、(家族には)性格は丸くなりました。
よって狼さんの事も結構気にかけています。

竜胤については……どう考えてるんでしょうね?

追記:にしてもSEKIROキャラの絡みがどう言った雰囲気なのか分からない……誰か教えてくれません?
あ、本作のSEKIRO関連の設定は、シード兄貴の考察を私が勝手に独自解釈したモノなので、解像度悪くても許して下さい。


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地下修練場

追記:10/26前書きを大幅修正しました。すいません、実力を盛りすぎました。

薄井家について
・明治初期につくられた弱小家系。 ・体術だけを求め、術式を持たない非術師が蔓延る。 
・術式を持たない非術師が多いのに、上層部に気に入られている。
・全部噂話だが、何故か信憑性がある。

本当
・戦国後期に初代当主が設立した忍びの組織。 ・危険な任務のみを受け、必ず成功させる。
・独自の権力を持ち、建前の為上層部に従っている。

正体を知っているのは上層部と一部の家の当主ぐらいです。
上層部は何とかして薄井家を弱体化or懐柔したい。
しかし、当主は優秀、家人は裏切らない、実力も豊富、更に母数が少ないので懐柔出来ねえ。
下っ端の家人でさえ三級、上は一級の実力がある。『特級から一級に変更』
今代の当主(狼の父、透)は、戦闘面では其処まで強くないものの、対人(社会的な)が最強クラスに強い。

薄井家の弱点

人数が少ないので圧倒的物量には苦手。
しかし、一人一人が優秀なので、全盛期宿儺一人or漏瑚×4ぐらいならギリ耐えれます。
『全盛期宿儺×5人→全盛期宿儺一人or漏瑚4人』

これは逃げに徹するならと言う条件がつきます。
これはIFの話になるんですが、薄井家全勢力が薄井家にいたとします。
最終目的は当主の逃亡で、敵は全員を殺そうとするので、逃げても殺されます。

全盛期宿儺一人が屋敷を襲撃する→当主+精鋭が地下に逃げて他が外に逃げ出して時間稼ぎ→領域内で精鋭数人ずつおいて時間稼ぎ→更に精鋭を……(此処で領域壊されるかも)→梟や狼が最後の砦となる→その隙に逃亡。

これは梟が今世、狼が前世最盛期だと言う判定をします。
竜胤で無限に蘇るんで狼さんが一生相手します。
飽きるまでは稼げますね。

漏瑚四人の場合ですが、同時に漏瑚四人に極の番放たれたら狼さんでも防げませんよね。
地下に逃げるor外に逃げて時間を稼ぎ、当主を地下に逃す→領域展開とかで地下の領域を破り(4回全部で当たったら)、当主を倒す
これが漏瑚側のベスト。
多分地下に辿り着く前に一人は倒せます。
で、残り三人は精鋭や梟さん、狼さんが全力尽くしたら殺しきれるかと。
あと一人多かったら隙を突かれて当主が殺されます。

分かりにくいですよね。私もです。


門を潜った先。

其処には、広大に広がる森があった。

 

「此処は……薄井の森…?」

 

「その通りだ。かつての薄井にて、葦名の忍びは育った。お主は余り来たことはないじゃろう?」

 

狼には余り馴染みがない、しかし梟には小さい頃の鍛錬の記憶がある。

 

「幸運じゃったわ。御子様がこんなものを遺してくれておるとは。感謝してもしきれんのう」

 

嘗ての葦名にて大忍びと呼ばれる程の力を持った梟。

しかし、今世の方が何倍も強い。

 

快適かつ最善な衣食住、死ぬギリギリまで安心して籠り続けられる領域、そして熟練の忍びの経験。

有り体に言うとチートなスタートを切った梟は、現状が過去最高だと直感し、限界まで自らを鍛え上げた。

 

さて、他の家人だが、梟から見ても精鋭と呼べる程の力を持っている。

そも理由は代々受け継がれる特訓法にあった。

その内容は梟が前世で行ったものよりかは幾分楽だが、現代日本においては類を見ないほど過酷であり、それを乗り越えた薄井家人は総じて優秀。

 

「葦名の忍びでさえ苦労する程だが、この家の人間は揃って努力家かつ成長に貪欲じゃ。葦名でも生きていけるじゃろう」

 

実は梟、幼少期一人で特訓している所を先代当主に見られ、独自のカリキュラムを特訓法に加える事となった。

欠けていたものが嵌ったと言えば当たり前だが、上澄も上澄の忍びが編み出した特訓法。

更に過酷さが増したが、薄井家の人間は何故か揃ってノリノリで取り組み、揃って死にまくった。

アレから二十年程経つが、完璧に熟せるのは梟含め数人のみだ。

 

何故喜んで苦しい鍛錬を受けに行くのか。

梟は一度聞いてみた事があるが、とある忍びは『為すべき事を為せとあるでしょう?』と言っていた。

『強くなる為』ではなく『為すべきだから』。

理由などいらない、それが出来るようになるのが当然なのだ。

梟はその答えを聞き、とても感心したと言う。

 

 

「話が逸れたな。……さて狼よ」

 

特訓の時間だ。

 

 


 

 

数年後。

 

十二歳になった狼は、相も変わらず薄井の森を駆けていた。

この領域には多数の区域に分けられており、狼がいる場所は最終審査の場所だ。

薄井の森には呪具によって生み出された多種多様な幻霊がいる。

強さはピンキリだが、人間側は死んでも復活できるので、いいサンドバックとされているのが現状である。

 

最終審査の会場には凡そ一級に相当する幻霊が一体、二級が三体、三級以下が数十体。

これらを一人で死なずに倒しきれた者が、合格し晴れて任務に当たることが出来る。

狼は既に余裕で合格したが、任務は中一以上でないと受けれない為、日々の鍛錬を此処で積んでいる。

 

 

さて狼だが、身長は160程まで伸び、体格も嘗てより良くなったが、いかんせん上背が足りない。

こればかりはどうしようも無いが、モロに体に影響しているので、体が成熟するのを待つしかない。

 

そして身体面と共に狼が磨いたのは、呪力面だ。

梟の教えによって呪力を扱う事を身につけ、狼は嘗ての忍びの技を再現出来るようになった。

それと同時に、狼は自分の呪力の特異さに気づいてしまった。

 

 

 

 

ある日のこと。

呪力操作を身につけ、体内でようやく回せる様になった頃。

狼は一時の思いつきから、呪力の外部放出を目論んでいた。

 

縛りを一時的に結べば、体外にて少しは扱えるのではないか、と言う企みである。

縛りの条件は、呪力操作時の感情の増大。

本来なら感情→呪力の増加やらだが、呪力操作→感情増幅とする事によって、呑まれる危険性を対価にした。

 

 

さて、此処で一つ。

呪力とは負の感情。

憎しみ、怒り、悲しみ、悔しさ。あらゆるマイナスの感情が呪いを増幅させる。

では、狼は如何だろうか。

 

主を守る事ができなかった悔しさ?

不甲斐ない自分に対する怒り?

殺す相手に向ける慈悲?

 

どれも違う。

狼を渦巻くのはもっと深く、強く、激しい感情。

 

「これは……!?」

 

一瞬のみ腕に纏われた、しかしハッキリと目に焼きついた()()

 

「怨…嗟……!」

 

仏師を苦しめ、最終的に《怨嗟の鬼》と堕ちる原因となった炎、怨嗟であった。

 

 

 

 

それからと言うもの、狼は必死に呪力の操作を行なう様になった。

体を蝕む痛みを無視し、ひたすらに自らの呪力の素、怨嗟と向き合う。

 

其処で分かった事が幾つかある。

狼の呪力の特異さ。

それは怨嗟にあるが、何故自分に宿ったのか。

 

「……心当たりがある」

 

かつての狼の進んだ道。

何回も繰り返された結末の内の一つ。

 

「俺は…‥修羅へと堕ちた事があった」

 

ありし日の記憶。

完全に記憶から消されていたソレが今狼に蘇った。

 

 

 


 

 

 

様々な敵と戦い、天守閣に戻った狼。

彼を待っていたのは義父である梟だった。

 

「義父上…。生きておいで…だったとは…」

 

あの夜、狼は平田屋敷で梟を看取った。

 

「謀よ」

 

謀。臆面もなく、梟はそう言ってのける。

 

「お前こそ、あの夜死んだと思うておったがな」

 

「御子様のお力にて、死人より帰りました」

 

「それよ」

 

は…?

 

狼は何のことか分からず、一瞬呆ける。

 

「儂はあの御子の力を…竜胤を手中にしようと思う」

 

目の前の梟はそう告げる。

しかし、竜胤の御子は狼の主。

 

「ですが…」

 

思わず言葉を洩らす。

 

「…分かっておる。第一の掟により、父が命ずる」

 

「主を捨てよ。今より、あの御子はお前の主ではない」

 

「御子様を…捨てる?」

 

狼は愕然とするしかない。かつて命をとして御子を守れと命じた義父。

しかし彼は今、御子を捨てよ、と言った。

 

「そうじゃ、狼よ…父の言葉に従い、御子を捨てよ」

 

御子様を、捨てる。

 

狼にとって、主は何よりも大事なものであった。

彼の為に命を賭け、彼も狼を信じ力を授けた。

このまま、狼は彼に従うつもりであった。

 

しかし。

 

「……御意」

 

「父の言葉に従い、御子を捨てる…それで良いのだな?」

 

「…はい。掟は絶対。主を…御子を捨てまする」

 

狼にとって、一番大きいもの。

それは、忍びの掟であり、育ての義父だった。

 

 

 

 

その後、狼は義父に従い、エマを、そして一心を斬った。

 

『しゅ…ら…』

 

『隻狼よ…斬って…やれぬか…』

 

そして……

 

『何故…お前が…!?…修羅…!』

 

自らの手で、義父を、兵を、民草を…全てを斬った。

 

 

かつて一心様はこう語っていた。

 

『斬り続けた者は、やがて、修羅となる』

 

『何のために斬っていたか…。それすら忘れ、ただ斬る悦びのみに、心を囚われるのじゃ』

 

今だからこそ思い出せる。

二人を斬った時、確かに。

 

()()()()()()()()




追記:修羅のフォント 《font:348》


解説。
・地下修練場
薄井家の人間、それも当主ら数人によって信用性があると認められた家人のみが出入り出来る特訓場。
忍びとしての訓練をし、どの様な状況でも生き残り命を遂行する力をつける為、此処でひたすら鍛錬する。

・特級呪具 『薄井霧鴉ノ森』
遥か昔、薄井家のルーツであるとある国の森に、霧鴉という存在がいたと言う。
かの存在はは初代当主の願いを受け入れ、この呪具となった。
今も薄井家の地下深くの空間で、人知れず漂っているらしい。

九郎が葦名に一回帰ってきた時、薄井の森に立ち寄って、何の偶然かぬしの霧鴉に遭遇した。
何やかんやあって呪具を手に入れ、子孫の為に修練場を作った。
この領域内で死ぬと、領域内で起こった事は全て幻となり、時間だけが過ぎる。
逆に死なずに出ると、中で起こったことは全て現となる。

要約
領域内で死んだらリセット。死なずに出れたらクリア!頑張って死ぬギリギリを攻めて特訓してね!死んだら全部無駄になるよ!

*この呪具、存在が幻と現の間を彷徨っているので、壊される事も干渉される事も、ましてや見つける事も出来ません。
薄井家の人達は安心して死にまくる事が出来ます。(結果が幻になるだけで普通に死んだら痛い)
これのお陰で、薄井家の忍びは引き際を覚え、結果、危険な任務でも9割が生還しています。


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修羅

前回書けなかった狼について。

嘘なし設定

彼は葦名での一生を八周しました。
(苦難、厄憑については四周目にて行いました)

狼はナニカによって、人帰りルートに辿り着くまでひたすら人生を繰り返していたのです。
此処の順番はどうでもいいんですが、恐らく修羅、不死断ち、帰郷、修羅、修羅、不死断ち、不死断ち、人帰りみたいな。

体と記憶はリセットされ、魂のみが残りました。
まあ一度習得しているので、流派技は習得し直すの早かったですけどね。
ある程度規則性があるのは、直感でその選択肢を選ばなかったからです。
と言うわけで、狼さんは八周分の人生分、魂に怨嗟が積もっています。

影も怨嗟由来の呪力を持っているのですが、それは狼の魂に引っ張られた、と言うのが”一つの“要因です。

え?他にあるのかって?安心しろ、いつか話す。
ん?狼の魂は術式発現時に初めて定着したんじゃないのかって?それも待っててくれよ。

追記:10/16 「御霊降ろし、忍び義手、各種瓢箪」から忍び義手を除きました。まだ左手あるからね。


修羅。

 

自らがかつて堕ちた存在。

人を斬ることに、殺める事自体に悦びを見出してしまう存在。

それこそが修羅。

本来、敵を殺す事はあくまで手段であり、それを目的にする事は断じて赦されない。

九郎様より賜った楔丸の名や、忍びの掟にもそれが現れている。

 

『忍びは人を殺すが定めなれど、一握の慈悲だけは、捨ててはならぬ…』

 

その一握りの慈悲さえ捨て、際限もなく殺し続けた修羅……いや、自分だ。

しかし、自らの修羅を斬り、九郎様の人帰りを為し、仏師殿は介錯した。

何故今、我が身に怨嗟が降り積もっているのか。

 

考えるまでもない。

 

怨嗟の先。その炎は抑える事はできても、決して消える事はない。

再び産まれ、この世に戦の苦しみが、憎しみが…‥怨嗟が戻ってきた。

幾千、幾万と斬り続けた自分が、祓えると本当に思っていたのか?

 

自分の愚かさが余りにも許せなかった。

 

 

今自分にできる事は、自らが受け皿となるだけ。

溜まった怨嗟は晴らし続ける。呪霊は祓う。

そして再び、竜胤を断つ。

 

ああ、分かった。

 

「それが……俺の為すべき事だ」

 

 

 


 

 

 

呪力の本質は嫉妬、怒り、苦しみ、悲しみ、そして憎しみ。

悪い感情は全てを呪い、呪霊を産む。

ああ、どうしようもないのだ。

 

怨嗟の炎は再び日ノ本に降りかかった。

現代の悪感情よりも更に純粋で、危険で、過酷だ。

再び戦乱が巻き起こり、国は燃え上がるかもしれない。

 

だとしても、どうしようも、ないのだ。

 

 

 


 

 

 

中一になった狼は、学校に通いつつ任務を受ける。

そんな生活をしながら、更に過酷な鍛錬を積む様になった。

 

余裕があれば、時間は全て鍛錬に費やした。

その生活に次第に術式も成長して行き、現では術式と技を、夢の中ではかつての強者達と闘う。

 

透も桜も、梟でさえ狼には干渉できなかった。

睡眠、食事は十分にとり、成績は学年トップ。

 

止めたかった。

しかし彼らには出来なかった。

 

透は忙しくほぼ家には居られない。

桜が幾ら声を掛けようとも、狼は申し訳なさそうにしてはぐらかす。

梟には面と向かってこう告げた。

 

『為すべきことを、為すためです』

 

狼を止める事は出来ない。言ったところで、止まらないのだ。

 

狼は強くなり続け、しかし心は確かにすり減っていた。

 

 

 

 

そんなある夜。

 

鍛錬を終え風呂に入り、軽く暗記科目を勉強して床に入った狼。

夢の中でいつも通り類稀な強者達と闘おうとする狼だったが、その手を誰かが掴む。

 

「そんなに急ぐ事もないよ?相棒」

 

振り返った狼の額を突いたのは、数年間一切姿を見せなかった相棒、影だった。

 

 

 

 

「ふむ…‥怨嗟ね。とても厄介だ」

 

影に悩みを全て打ち明けた狼。

彼は悩んでいた。

怨嗟は決して晴れることは無い。

一時的に戦は終結し、葦名が滅び竜胤は断たれた。

しかし、再び竜胤は復活し、怨嗟は日ノ本に振り積もろうとしている。

 

「う〜ん……取り敢えず整理しよっか」

 

 

「現在僕たちが直面している問題。

一つ、竜胤。僕たちに竜胤を授けたナニカを見つけ出し、断つこと」

 

「二つ、怨嗟。恐らく狼さんの魂に積もり積もった怨嗟が現代に溢れ出した。これに関してはどうしようも無い。恐らく竜胤に関わる事だから、怨嗟の鬼みたいなのが現れたら出来るだけ狼さんが斬って」

 

「三つ、呪術界。上層部が腐ってて、薄井家がそれを嫌っているのは知っているよね?

でも狼さんは高専に入らないと行けないし、其処で必ず怨嗟についてバレる。秘匿死刑なんかなったら竜胤もバレてはい、おしまい」

 

「……どうすれば良いのだ……」

 

思わず狼は苦悶の声を洩らす。

 

「取り敢えず!取り敢えずだけど、竜胤を主目的に。そして怨嗟関係なんだけど、狼さん、呑まれてない?」

 

「大丈夫だ」

 

「……それはよかった」

 

(狼さん自身の感情が其処まで揺さぶられてないからね。予想通り。だけど……)

 

これからどの様な事態に直面して行くか、誰にも分からないのである。

しかし影には一つだけ言える事があった。

 

(恐らく強くなればなる程、怨嗟は身を焦がし、抑えきれなくなる。今はまだ黒閃も反転も経験してないけど、核心に触れれば……)

 

最悪、再び修羅になる。

そうすれば、誰にも殺されないだろう。

不死斬りの行方は分からず、恐らく回生のデメリットははるかに重い。

一瞬で修羅から漏れ出す怨嗟は伝播し、日ノ本は愚か、世界は戦火に包まれる。

 

影は其処まで読みきっていた。

 

 

「……先ずは強くなる事。せめて高校入学までに全盛期までは到達する必要がある。術式の発展はそれからでいい。

ひたすら呪力を回して、術式順転以外は自由に使える様に」

 

「承知した」

 

「後は……しっかり休め!」

 

影はそう狼を叱りつける。

 

「……休息はとっているが……」

 

「そうじゃない!……体は休めてても、心は休まってないよ。僕が一番わかってるからね」

 

「……承知した」

 

少しは力を抜けと言う事だろう。

結構張り詰めていた自分に気づき、一度息抜きを考える狼だった。

 

 

 

 

「あ、今どれだけ術式使える?」

 

単純な疑問だった。

意識がこっちに戻ってきて早々、狼と同期して記憶を受け継ぎ、今の力量は把握した。

しかし、術式の主導権は狼にある為、そこだけは把握してなかった。

 

「……御霊降ろし、各種瓢箪、神吹雪、形代流し、帰り仏、鬼仏の設置だ」

 

「うわぁ……大体何でも出来るじゃん」

 

思わず呆れる影。

全ての利点が大き過ぎる。

強いて言うなら毎回体を痛みが蝕む事が大きな障害となっているが。

 

「……呪力消費は大きいが、大抵の事は出来る。しかし、油や薬、飴は出せなかった」

 

「他人には使えないからね」

 

「それに効果が短い」

 

「其処をがんばれ」

 

 

それはさておき。

 

「本題に入ろうか」

 

そう影は語り出そうとするが、それを狼は怪訝に見つめる。

 

「……忘れたの?竜胤の出元!」

 

「………!」

 

すっかり忘れていた狼。

それ程悩みが大きかったのだろうが、影と話した事で幾分か余裕が出来たようだ。

 

流石に責めるわけには……いや先ずそれの為に鍛えてたのに忘れるとか……大分追い詰められていたのかな。

 

影は心配しながら怒って睨むと言う高度な芸当をこなしていたが、流石に疲れたのか顔の力を抜く。

 

「日本全土と一応世界を視たけど……位置的にも怪しい場所があった」

 

ここ。そう言って影は空間に地図を投影した。

狼は自分の知らない夢の世界の使い方に仰天するが、影が指差した先を見て表情を険しくする。

 

 

日本国福島県。

 

そう、恐らく葦名があった場所だ。

 

此処に……竜胤の大元が……!

そう狼は地図を睨みつけるが、それを止める影の一言。

 

「まだ君には行かせないよ?」

 

せめて中三になってから。

 

その言葉に気落ちし、何だか久しぶりに体の力が抜けた狼だった。




狼さん、自分のせいで怨嗟が現代に放たれたと知ってショック。
完全な無自覚、事故。
だからこそ狼さんには堪える。

この人譲れない大義があるので、それの為ならその道に心を決めて進みますし、ブレません。
しかし、完全に意図しないものは決断のしようがないんです。

それを見抜いた影くん。
取り敢えず休め!と叫び、休暇を取らせる事にします。
今回の狼さんなんですが、SEKIRO本編最初の井戸の時ぐらいまで追い詰められてました。
なのでこのまま行ってたら途中で壊れていたでしょうね。

今回のまとめ
・狼さんの呪力は怨嗟!だから一般的な悪感情からなる呪力と違って、使う時に怨嗟に焼かれるし、許容量越えると堕ちるし、しかし強力。
・恐らく竜胤と怨嗟は同じものが原因さ!だから竜胤の元の所に行こうぜ!なんだって?もしかしたら葦名!?
・強くなれよ!取り敢え素で前世最盛期を目標に!術式は一旦置いとけ。鍛えるのは体や刀に呪力纏わせるだけで良い。
・狼くんストレスマッハだけど気付いてない?お前はもう少し力を抜きやがれ!(by影くん)
・葦名行きは2年待ちなさい。

あれ…?テスト期間の筈なのに、ノリと勢いで一話書いちゃった……OWATA。

あ、次回は結構飛ばします。


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休暇?

狼さん。
善人でも悪人でもなくて、優先すべき事を優先しているだけ。
基本は優しいですが、どんなに親しい友人、家族でも、道を違えば容赦なく殺しにかかる。
自分がすべきだと思う事に覚悟を決めれる人。
ブレない。

私個人としては好きな人間です。
利己的でもなく感情的でもなく、出来るならやるし、出来なければやらない。
そして容赦がないが、慈悲を持つ。

現代社会では生きづらい部類かもですね。


「…………」

 

翌朝、いつも通り目覚めた狼は、眉間に皺を寄せて薄井家の廊下を歩いていた。

 

「狼殿、おはよう御座います」

 

「……ああ。良い朝だな」

 

廊下で掃除をしている家人に言葉を返す。

もう慣れたものだが、最初はあまり上手く喋れなかった。

 

葦名の忍びは基本実地任務が多く、懐柔や脅迫、密談などをする必要はほぼ無かった。

優秀で賢い忍び、例えば梟やお蝶はそう言った任務もこなして来たが、残念ながら狼は不得手だ。

基本一言二言の寡黙な人間が、朝の挨拶を返すと言うのは難しいだろう。

 

 

さて、狼は当主である父、透の書斎に向かっていた。

屋敷の中でも中央の方にある部屋は、狼の自室からも少し遠い。

 

余談だが、薄井家では基本自室や表向きの鍛錬場でも外からは見えない奥まった所にある。

万が一の時、逃げる時間を稼ぐ為だ。

それ以外にも、忍びの家系ならではの細かい仕掛けが屋敷中に張り巡らされており、年々増え続けていると言う。

もちろん家人は全て覚えなくてはならないが、それ故に長期間の任務は嫌われている。

 

 

さて、何故透の部屋へ向かっているのか。

 

昨夜夢の中で影に説教されたからである。

曰く……

 

『少し忙しすぎ。幾ら優秀な脳と肉体があるとは言え、やり過ぎだよ。第一……』

 

体感一時間は休むべきだと言う理由をひたすらに捲し立てられ、正論の波に流石の狼も素直に影の言葉に従った。

 

『……と言うわけで夏休みなんだし、一週間休暇をとって下さい』

 

 

 

そういう訳で、狼は透の書斎に着いた。

 

「おはよう、狼牙。どうしたんだい?」

 

「おはようございます。……父上、実は休暇を……」

 

「良いよ、何処行きたい?」

 

”取ろうと思いまして……“と続けようとした狼に、透は食い気味に答える。

透の目は光っており、何処か喜んでいる。

 

透の心情を鑑みれば、それも当然とも言えるだろう。

仕事の所為で全く話せず、尚且つ息子が鬼気迫る様子だと言う事を聞いていたので、どうにかしたかった。

まさにベストタイミングだ。

 

 

さて、父親の勢いに面食らっている狼の背後から今度はこんな声が。

 

「今日はゆっくり休んだらどう?」

 

母である桜は朝食に透を呼びに来たらしく、片手にはしゃもじを持っている。

 

「おはよう、狼ちゃん。いい朝ね」

 

「おはようございます、母上。……もうその様に呼ばれる年ではないですが……」

 

「いやよ。貴方は何歳になっても可愛い私の息子よ。そうでしょ?あなた」

 

「ああ。……さあ、久しぶりの家族での朝食さ。ゆっくりと話そう」

 

前世では少なかった、家族との安らぎの時間。

梟やお蝶との時間や、九郎との日常とも違うし不思議な感覚だが、それが狼には心地よかった。

 

 

 

 

両親との朝食を終えた狼は、屋敷の縁側に腰掛けていた。

さて何をしよう、と思いたったはいいが、何をすれば良いか分からない。

前世では鍛錬か食事、睡眠、任務のどれかしかなかった為である。

 

(……義父上やお蝶殿は……)

 

彼らの前世での息抜きと言えば。

エマ曰く、彼らは良く宴を開いていたと言う。

 

『竜泉を一心様が手に入れると…葦名の城に、人がわらわらと集ってきて騒がしい、酒宴が始まるのです』

 

しかし、狼は酒を飲んだ事はない。

更に、現代では未成年飲酒は法律で禁じられている。

狼も進んで破る気にもなれないので、却下。

 

「……何をしよう」

 

両親は仕事、義父は任務で離れている。

彼らに聞くのは些か手間がかかる。

では、屋敷内ならどうだろう。

 

「……鍛錬場」

 

結局行き着く場所は其処であった。

 

 

 

 

さて、薄井家には鍛錬場と呼ばれる場所は二つある。

明確にはもっとあるが、屋敷内には2ヶ所だ。

一つは地下の領域、もう一つは……

 

「……初めてか」

 

薄井家地上に位置し、外様にも公開されている鍛錬場。

基本対人のための訓練をする場所だ。

地下では忍びとしての訓練を、地上では呪術師としての訓練をする。

 

狼は全てを地下でこなしてきた為、此処に来るのは初めてだ。

 

「あれは……ご子息様……!?」

「珍しい……普段は地下にいらっしゃるのに」

 

周りの家人は驚愕の目を向けている。

 

「…………」

 

狼はそんな周りの目を介さず、端に座っている男の方へ向かった。

 

「……水無月殿」

 

「おっと、これは狼殿。ようこそ、薄井道場へ。初めてでしたかな」

 

「……ああ。休暇を取れと父上に言われた故」

 

「休暇に道場へ……全く、狼殿には敵いませんな!」

 

水無月。

道場を管理している老人であり、月名を持つ薄井家でもトップクラスの実力者。

月名持ちなら誰もであるが、本名は明かされていない。

 

そんな彼だが、無類の鍛錬好き。

本人は引退を表明しているが、まだまだ実力は現役であり、毎日後任の育成と銘打って、ひたすら道場で戦い続けている。

 

 

さて、そんな彼は最近少し飽きていた。

戦う相手は全て格下。

磨けば光る物を持ってはいるが、彼にとってはいまいちだ。

 

「狼殿」

 

そんな彼の目の間に、狼が現れた。

水無月は狼の明確な戦闘を見た事は無いが、鍛錬時の身のこなしから只者では無いと思っている。

さて、彼はどうするだろうか?

 

「一戦、やりましょうや」

 

勿論、狼を誘った。

 

「……承知」

 

そして当然の如く狼も承諾する。

 

 

「え?あの水無月様と模擬戦?」

「ご子息様は大丈夫なんだろうか……」

「まだ中学生でしょ?流石に水無月様も手加減するんじゃないかしら」

 

水無月の強さを身をもって理解している弟子達は、向かい合う水無月と狼をハラハラと見つめている。

彼らからしてみれば、ベテランの師匠相手に自分より幼い子供が挑んでいるのだ。

 

「……強さを見抜けないとは、まだまだじゃのう」

 

そんな彼らを見て、水無月は残念そうに、そして面白そうに呟くのだった。




久しぶりの投稿です。
リアルが結構忙しかったのと、単純にネタ切れ気味でした。
次回は初の戦闘回です。

今の狼さんの強さ。
2週目の弦ちゃんとバトルする寸前(左手あり)

技は完璧ですが、身体面の差異から思う様な動きがしにくい感じ。
あと義手じゃないので戦闘は大幅に弱体化してます。
それでも二級なら簡単に狩れるんですが。
一級はまだ無理でしょう。
単純に体力不足です。
まあ、此処から8周目まで2年で持って行くんですけどね。

因みに水無月さん含め、月名持ってる人全員一級相当です。
薄井家と上層部の密約(脅し)によって、明確な実力付けはされていません。

月名持ちは全員術式を持っているのですが、基本サブなので御三家当主にも割れていません。
薄井家最強の人達です。

え?狼さんや梟は?
まだ秘密です。
強いて言うなら……裏、でしょうかね。


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模擬戦

前回月名の実力について書いたんですが、一級相当は書き方が悪かったです。
普通に非戦闘員もいます。
何かの分野のエキスパートだと思って下さい。

追伸:いつになるか分かりませんが、葦名廻戦ともう一つ呪術廻戦の二次を書き終わった後に、オリジナルを書く予定です。
其処で二次から独自設定を輸入する予定なので、いつか読んだ時は此処らの設定が出てくるのを楽しみにしてて下さい。


向かい合う狼と水無月。

双方の手には木刀が握られている。

 

 

水無月は中段の正眼。

剣先を相手の目に向けて構えることにより、他の全ての構えにスムーズに移行することができる。

剣道では基本の構え方とされていて、正面に滅法強い。

 

対して狼は上段霞。

左足を前に出した半身で立ち、刀は刃を上にして顔の横に構える。

守りが堅く、弾きを専門とする狼にとって最も適した構えとも言えるだろう。

 

 

「開始!」

 

門下生の掛け声で、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

最初に仕掛けたのは水無月。

鋭い踏み込みと共に、上段から振り下ろす。

 

ガッ!

 

それを狼は余裕を持って弾いた。

すぐさま切り返し、右手を狙う。

が、すんでの所で跳び退かれ、空振りに終わる。

 

(……振りにくい)

 

普段真剣しか使わない狼には、木刀は何処か違和感を感じる。

軽く斬りかかって見るが、少し遅いそれは避けられ、お返しとばかりに突かれる。

それを前に身を乗り出し、木刀を踏みつけた。

 

見切り。

突きに対して一歩踏み込み、相手の武器を踏みつける事によって体幹を大きく削る技。

 

木刀という不慣れなモノでも、狼はしっかりと捌いてみせた。

 

 

######

 

 

一方水無月、一連の立ち会いに冷や汗を垂らしていた。

 

(此処までとは……!)

 

主に攻めているのは此方だ。

しかし受けられる、いや弾かれる度に体幹が乱れて行く。

 

一旦飛び退き、呼吸を整える水無月。

額には大粒の汗が浮き出ていた。

 

 

さて、現時点での素の実力なら、水無月の方が一段上である。

体格もこの人生での練度も水無月は高い。

何故ここまで彼は追い詰められているのか。

 

水無月は一介の呪術師として、全盛期の頃は沢山の敵を狩ってきた。

死にかける事も日常茶飯事、そのお陰で反転術式にも目覚めた。

 

しかし、狼が生きたのは戦国、それも葦名という特別過酷な土地。

生と死の狭間で必死に生きてきた狼にとって、今世の環境は余りにも快適だった。

 

危険な地形、其処らにいる弱くない雑兵、そして圧倒的な強敵。

狼は幾度となく死にかけ、そして何度も死んでいる。

潜り抜けてきた死地の数が違うのだ。

 

また殆どの敵が人間であった事も大きい。

熟達の忍びにとって、人体の破壊など容易い。

忍殺はその究極点とも言える技術だろう。

圧倒的に対人に慣れているのだ。

 

 

水無月はそれを何処かで理解していた。

今の自分では、術式なしでは彼に敵わないだろうと。

しかし……

 

(攻めねばなるまいて!)

 

彼は一介の戦士。

諦めるにはまだ早い、そして()()()()

 

(この様な相手と戦える機会なぞ少ない!ならば……)

 

--進むまで!

 

そう水無月は狼に向かって踏み込んだ。

 

 

 

 

「…‥鍛錬に付き合い頂き、感謝する」

 

「何の。此方こそ無理を申して悪かったのう」

 

試合を終えた二人は向かい合い談笑に興じていた。

周りでは、見物していた門下生が感想を言い合っていた。

 

「まさかお師匠様が負けるなんて……」

「ご子息様って見かけによらずお強かったのね」

「俺たちには勝てないな……」

 

其処には、試合前にあった何処か狼を下に見る感情は消えていた。

別に悪感情を持っていたという訳ではない。

彼らはただ単純に心配していただけである。

しかし、当主の息子であり、忍びである狼が下に見られるのは、余り宜しいことではない。

 

「……礼を言う」

 

「何のことやら」

 

その空気感を水無月は察し、この試合を提案したのである。

 

「また頼むぞ?次はもう少し持ちこたえてみせる!」

 

「承知」

 

鍛錬として丁度良い相手が見つかったのは幸運だ。

呪術師としての経験も豊富である。

しかし……

 

(老人……?)

 

自分の周りの老人が強く向上心が高い、という異常に気づいてしまった狼だった。

 

 

 


 

 

 

翌日。

まだ休暇二日目なのにやることの見当が全くつかないまま、再び縁側に腰掛けていた。

 

(………)

 

何もする事がない。

鍛錬という手も父に封じられてしまった。

 

『何で休暇なのにいつもと同じ事してるんだい?対人だからって言うのはナシね』

 

全くもって正論である。

 

「暇だ……」

 

空を仰ぎ続けて早二時間。

鳥を見続けるのにも飽きていた。

 

(歩くか……)

 

何かに出会う事を望み、屋敷を巡る事にしようと狼は腰を上げた。

 

 

 

 

「……ふむ」

 

辿り着いたのは図書館。

屋敷内で二番目に大きい部屋に、山の様に本が置かれている。

影が部屋に持ち込んだ本も此処由来だ。

 

今読んでいるのは地球の歩き方。

片手には辞書を持ち、ヨーロッパの本を読み漁っている。

 

「騎士、か……」

 

:ヨーロッパでは古来より騎士がいた。彼らは主人に仕え……

 

文章の下には挿絵が載っている。

白銀の甲冑を身につけて、大きな剣を両手に持っている。

その時狼の脳裏に浮かんだのは、侍と似た様なものか、とか、隠密には向いていないな、と言うことではなく。

 

『ロバアァーーーート!!』

 

半ば忘れかけていた強烈な記憶だった。

あの時は困惑したものだ。

一切刃が入らず、斬れないにも程があるだろうと、思わず言いそうになった。

最終的に回廊から蹴り落としたが、出来ればもう戦いたくない。

単純に面倒だった。




本作の書き方、と言うか設定?についてなんですが。

◇ ちょっとした場面変化、数時間の時間差など。細かい場面切り替えの時。
###### 視点変更。本作は三人称ですが、これから少し限定視点を入れていきたいので、これが少し出てくる。
水平線(一本横に伸びているやつ) 大きい場面変化や時の変化、回想シーン突入など、一番大きい切り替え時に使う。

ここら辺は私もよく分かってないので、まあノリで把握してて下さい。
書かないと変になりそうだったんで一回整理させて貰いました。


今回は狼さんの初戦闘ですね。
呪術師って対人慣れてないんじゃない?と言う根拠もない推測からこの様な展開になりました。
此処で薄井家の補足情報。

・薄井家血族は数人しかいない。(透、桜、狼、梟、あと数人。基本兄弟は一人から三人で、御三家みたいな分家の存在は認められてない)
・月名持ちは全て非血族。(血族は別枠として役職があり、月名は家人の中の精鋭)
・家人:結婚相手として入ってきた者、月名や当主に認められた者や、それらの二代目三代目が家人となる。

つまり、普通の家庭に家来が沢山ついたもの。(語彙力)


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五条悟

一週間の休暇、最終日のお話です。
(ちなみに3日目から6日目まではひたすら家事してました)

狼さんは何故か御三家の定例会議に呼ばれてしまった透さんに着いていきます。

御三家当主と悟、そして薄井家の当主(透)と狼。

まともな奴いねぇわ。


10月26日訂正:本当にすいません!
1週間の休暇は中1の事。
それから飛んで、既に狼さんは中3という事にしてて下さい!


「どうですか?」

 

笑顔で話しかける透。

しかし目は笑っておらず、体からは怒気が溢れている。

 

「貴様……!そんな事が認めらr……」

 

余りの内容に五条家当主は口を挟むが、

 

「そんな事?巫山戯てるんです?」

 

透は切り捨てる。

 

「で、どうです?禪院直毘人殿?」

 

再び前に向き直った透は、眼前の禪院家当主に語りかける。

 

「もちろん、やってくれますよね?」

 

御三家当主を前に、圧倒的な威圧感を持って脅す透。

 

 

地獄の様な空気を前に、

 

(何故こんな事に……)

 

狼は思わず心中で呻くのだった。

 

 

 

 

時は遡る事、1日前。

 

中3になった狼だが、葦名行きは年度末に予定している。

日々鍛錬を積み、体は全盛期に大分近くなった。

 

ある日の夕食後、狼は透に呼ばれ書斎にいた。

 

「よく来たね。狼」

 

「……はっ」

 

狼牙ではなく狼。

その意は、父と息子、当主と跡取りではなく、《主と忍び》。

それ即ち任務である。

 

「実は明日、御三家定例会に行かないといけなくてね」

 

御三家定例会。

呪術界を牽引する禪院、五条、加茂の三家が定期的に開催する。

呪術界の未来を決める会議……もといマウントの取り合いと嘲り合いの場。

誰が見ても非生産的極まりない。

 

では、何故そんな場所に行く必要があるのか。

 

「あの害悪共……んんっ。御三家の方々が我が家を招待してくれやがってね」

 

本音が出ている。

それをスルーして狼は聞く。

 

「……何故、私が?」

 

「あの塵共、一人で来いとか宣ってね。馬鹿馬鹿しい。脅すか煽てるかして言うこと聞かせようとでもしてるんだろうさ」

 

最早隠す気もない。

 

「という訳で。護衛兼当主の一人息子としての任務だ。頼んだよ」

 

「お任せを」

 

御三家の情報について頭に叩き込む二人を背に、夜は更けていった。

 

 

 

 

〜〜透視点〜〜

 

 

翌朝。

会議の舞台である禪院家に、透は来ていた。

狼は外で待機している。

 

「ほ、本日はお招き頂き、誠に有難うございます」

 

加茂家当主に向かって頭を下げる透。

既に弱小家系の演技に入っている。

 

「ふんっ。折角呼んでやったのだ。くれぐれも、問題を起こすな」

 

敬われた事に気分を良くしたのか、加茂は尊大に注意して来た。

 

(予想通り今の加茂は小物。問題は……)

 

その時、扉が開いた。

それと同時に溢れ出す圧倒的な威圧感。

白髪にサングラスの青年。

これほど世を舐め腐った態度はないと言える程の顔。

 

五条家次期当主、五条悟だ。

 

「禪院のジジイはまだ来てねえのかよ」

 

後ろには現当主がいるが……大して覚える必要はない。

直に当主は譲られるだろう。

 

「……ッ!ご、五条殿、最近はどの様にお過ごしで……?」

 

御三家の当主としてメンツを保とうとした加茂だが、

 

「あ?最近?お前らと違って苦労してんだよこっちは。お前らみたいなザコとは違うの。分かる?」

 

不機嫌な五条悟に気圧され、引き下がっている。

 

(これが五条悟ね……)

 

「で、お前は?」

 

「わ、私でしょうか?」

 

「お前だよお前。御三家でもないのに何しに来た?加茂のひっつき虫ってか?雑魚共が群れてもどーしようもねぇのによ!」

 

(罵倒の切れ味凄いね……)

 

そんな呑気な感想を抱きながら演技を続ける。

 

「い、いえ、実は……」

 

「五条悟、ソレは儂が呼んだ」

 

透に詰め寄る五条悟の後ろから声が掛かる。

其処にいるのは着崩した和服に酒を持った老人。

 

禪院直毘人だ。

 

「あ?お前ら定例会は神聖な場所〜、とか抜かしてただろうが。何で部外者の雑魚を呼んでんだよ!」

 

「今回は特例だ。おい、入れ」

 

五条悟の文句を切り捨て、透を呼ぶ。

 

「は、はい!」

 

不機嫌になる五条悟をおいて、そのまま御三家当主+透は奥の部屋に入っていった。

 

 

 

 

〜〜狼視点〜〜

 

 

透が奥の部屋に入った数分後。

狼は屋敷の門の内側にいた。

 

「………」

 

透からは騒ぎに巻き込まれない様に、と注意を受けていた為、門の陰でひたすらに気配を薄くして待機している。

真眼を最小出力で発動している為、中で何か起こりそうならすぐさま突入する手筈だ。

 

「……?」

 

ふと視線を巡らすと、屋敷内から誰かが近づいてくる気配を捉えた。

 

「チッ、あの野郎……」

 

五条悟だ。

大分不機嫌な様で、一人で歩いている。

かと言って無理に接触する必要はない故、静かにしていると。

 

「……お前、誰だ?」

 

(!?)

 

此方を見上げている……?

明らかに見破られている。

 

「バレてんぞ!」

 

(気配は完全に消し、呪力も抑えていた……)

 

何故、と思いながら身を現し、地面に降り立った。

身長は170を優に超えていて、狼からは見上げる様になっている。

 

「……何故分かった」

 

「俺の眼から逃れると思ってんの?」

 

眼……五条家と言えば。

 

「……六眼か」

 

「そ。で?」

 

「で?……とは」

 

「名前。俺の眼から呪力なしに隠れられる様な奴は見た事ねぇ。お前、誰だ?」

 

「……明かせぬ」

 

此処で一つ。

今世の狼は明かしたくないのではなく、明かせない。

任務を負う薄井家の忍びは名を明かすことを禁じられている。

薄井家でも本名を明かしているのは当主とその伴侶、そして世話人のみだ。

 

よって、狼は名を明かすことは出来ない。

……特例もあるが。

 

「明かせぬ?舐めてんのか!?……じゃあ呪詛師か?」

 

しかし悟は納得できない。

今までの人間は全て名を自分に売り込もうと必死だった。

隠そうとする奴は呪詛師以外にはいない。

 

「否」

 

「は?誰だよ!」

 

だんだん混乱していく五条悟。

 

相当の実力を持っていて、何処か違和感があるが術師のようだ。

しかし自分が知らないという事は有名な家ではない。

だからと言って呪詛師ではない。

六眼が嘘をついていないと判断している。

 

(……口を割らせるか?)

 

面倒になった悟は、試しに呪力を使おうとすると。

 

「……此処ではやめておいた方が良い」

 

(コイツ……!マジで何者だ?)

 

 

ふと狼は目線を逸らす。

いつの間にか休憩時間に入っていた様で、透は狼が待つ此方に向かってきている。

 

「あ?何見てんだ?」

 

余り時間がない。

此処でバレれば当主の演技が無駄になる。

狼は抜け出そうとするが、

 

「おい!逃げれると思うなよ」

 

腕を掴まれてしまう。

力は強く、狼でなければ折れてしまう程。

無駄にもがいているうちに、透が着いてしまった。

 

「狼、どうだい?……おっと、先客か」

 

「お前はさっきの……?」

 

どの様に懐柔するか、頭を回転させる透。

先程とは大違いの様子の透に困惑する悟。

そして……

 

(……これが”オワタ“と言う奴か)

 

つい先日、ネットで学んだばかりの言葉が出てきてしまった狼だった。

 

 

 

 

「……と言う事だね」

 

「つまりさっきのは演技って事か?……チッ、全く気づかなかった」

 

結局事情を話す事にした透。

加茂家から出て、少し離れたカフェで三人の男は向かい合っている。

今し方薄井家の説明を終えたばかりだ。

 

「あのクソ野郎……何が次期当主だ、こんな重要な事隠しやがって……!」

 

「権力は無くても何か秘密を持っていたかったんだろうね。……あの害悪、どうしてあげようかな」

 

呪術界の裏の顔を担う、御三家と同じぐらい重要な家の事を次期当主に話さない。

 

余りの害悪さに悟はブチギレ、透は見た目穏やかでも目と声は笑っていなかった。

 

「……で、透」

 

「なにかな?」

 

一回落ち着いた悟は透に話しかける。

呼び捨てだが、透は気にしないし狼も気にしないのでスルーされた。

 

「……お前らの目的って何だよ?」

 

「薄井家は昔から裏の任務を請け負う事が多くてね。上層部との繋がりが密接だ。もちろん従っている訳じゃないよ、そんな反吐が出るような事がある訳ないじゃないか」

 

「御三家とは?」

 

「僕らは御三家に対する抑止力。戦国末期に初代様が設立されたこの家は、もともと非術師の家系だ。今でも非術師の方が多い。だからこそ、御三家の目には止まらなかった。だけど今代の当主が僕に目を付けた。…‥余計なことしかしない害悪の癖にね」

 

「完全同意。じゃあどうするんだよ」

 

「上層部とも御三家とも縁を結んで切る」

 

「……は?」

 

「裏の仕事、それも死地に部下を喜んで行かせる奴なんて少数。それも憎んでいる相手からの命令は特に」

 

「僕の目的は……」

 

「呪術界の御三家からの脱却さ」

 

これこそが透の目的。

要は御三家の権力高すぎる所為で腐敗進んでるんだから元叩こうぜ、という訳だ。

 

「……できんのか?」

 

「おや?邪魔しないの?」

 

「俺も現状は嫌いだ。で、どうなんだ?」

 

「内部の膿を切る。その為には残すべき人材を把握する事が必要だ。よって此方の人材を御三家に送る」

 

「……老害共が納得するとは思えねぇ」

 

「其処で君だよ、悟」

 

透は指を鳴らす。

 

「君が承諾すれば五条家はクリア。禪院家は対抗して恐らく行ける。対抗して却下したら?どうにかするさ」

 

「俺が拒否する可能性は?」

 

「君の助けが無くても行けるさ。まあ、君なら承諾してくれそうだけどね」

 

自信満々に『行ける』と言い切る透。

恐らく最初から自分が協力する事を見越していたのだろう。

その姿に、悟は真の”当主“の姿を見た。

 

「……お前、この仕事向いてるよ」

 

「お褒めに預かり光栄だね」




本作の悟くん、性格は原作同様クズなんですが、結構賢いです。
だからこそ、自分を上回る知略とカリスマを持つ透を、素直に凄いと思っていました。
これにより、自分を上回っている奴にはある程度の敬意を払う様になりました。

(甚爾さんとかでも初見の場合は普通に舐め腐ります。2回目3回目で実力把握したら、……まあ、強いんじゃね?みたいな)


追記:狼さん、悟両方中3です。


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どっちが良い?(選択肢なし)

この時点での悟は、あまり権力を持っていません。
薄井家という危険な任務を請け負える人材がいる事によって、五条悟の”最強“が明確に定まっていないのです。
六眼+無下限呪術持ってるから強いよね、止まりです。
任務受けれてないので、よって次期当主であれど最終的な決定権は現当主にあります。
悟はすぐにでも当主の権力が欲しいんですが、まだ実績が足りないと。

聡明な読者のみなさん。
どうすればいいか分かるよね?


カフェにて。

透、狼、悟の三人は、デザート片手に会話を続けていた。

(珈琲ゼリー、抹茶アイス、パフェ)

 

「最初は遜って五条家に取り入ろうと思ってたんだけど……今はその必要はないみたいだね」

 

「かと言って、今の俺は正式な当主じゃねえよ?どうすんだよ」

 

そう、現在の五条家では名目上悟は当主ではない。

例え悟が許可しても現当主が拒否すれば無効になってしまう。

しかし。

 

「なら当主になれば良いじゃない」

 

「実績を積めと?俺に任務回って……そうか、お前らの任務を俺に回せば……!」

 

「その通り」

 

今現在、悟が請け負う様な任務は全て薄井家が担っている。

その危険な任務を悟が遂行する事で、実績を作り出せるという訳だ。

 

「どう?」

 

「それで良い……いや、一つ条件だ」

 

「何?」

 

「五条家には送るつもりはないんだろ?なら……ソイツと一回戦わせろ」

 

そう悟が指した先にいるのは、狼だった。

 

「……?」

 

「何首傾げてんだよ。……お前、強いだろ?」

 

任務は回って来ず、偶に来たとしても簡単なものだけ。

最強と持て囃されても、自分の実力を試す事が出来ない。

かと言って術師と戦えるわけでもなく、ひたすらに孤独だった。

 

「一戦、やろうぜ」

 

だが、コイツは逃げない、そして強い。

やっと、そんな相手が見つかった。

 

「僕は全然いいよ。狼、どうかな?」

 

「‥…承知」

 

ああ、お前ならそうするだろ。

不思議とそうなる予感があった。

 

「約束な!んじゃ、行くか?」

 

久しぶりに気分は良く、足取りは軽い。

 

「そうだね。さあ、あいつらを笑ってやろうか」

 

三人は屋敷へと帰っていった。

 

 

 

 

そして、冒頭に戻る。

此処まで順調だった、これで穏便に行く筈……だったのだが。

予想以上にストレスが溜まりまくっていた透と悟が思いっきりぶち撒け、脅していた。

 

 

数分前。

 

「おお、戻ったか!……何故お前がいる?」

 

部屋に戻った透と悟だが、当然直毘人に目をつけられる。

 

「悟、今は定例会の場だぞ!何故k……」

 

五条家当主(以下当主)が非難しようとするが、

 

「黙れよクソジジイ共が。特にお前、薄井家の事、俺に隠してたな?」

 

早速悟がぶっ込んだ。

なおこの時点で両者共に結構キレている。

 

「なっ……!もしかして貴様か!この恩知らずめ……!」

 

教えていない筈の情報を暴露され、すかさず事の元凶であろう弱者を追及する当主だが。

 

「恩知らず?ハッ、頭沸いてるんです?貴方に受けたものは全て仇ですが?」

 

盛大なカウンターを喰らう。

 

「き、貴様、無礼だぞ!私を誰だと……!」

 

「社会の汚物。幸運でしたね、呪術界に産まれて。非術師の社会ならばとっくの昔に豚箱入りでしたよ」

 

「いやのたれ死んでるんじゃねぇの?」

 

一理ある、と二人は当事者の前で納得し合う。

彼は怒りの余り声が出ない様子だが、それを無視して透は直毘人に話しかける。

 

「まあ前座は此処までにして。

禪院直毘人殿、私から一つお願いを申し上げたいのですが、宜しいでしょうか?」

 

「……さっきまでのは演技だったのか?何を企んでいる」

 

「小さな事ですよ。まあ、承諾してくれるなら話しますけどね」

 

「因みに俺は同意したから。五条家は参加ね」

 

「お前は当主ではないのだぞ?それは無効だ」

 

「残念だったな、悟!お前には実績が足りない……」

 

直毘人の言葉を得て勢いづく当主。

しかし、その問題は既に解決している。

 

「薄井家の任務を全て回してある。悟なら1ヶ月で特級になれるさ」

 

「……しかし、上層部がッ……」

 

黙ってはいない、と続けようとした当主だったが、

 

「向こうは薄井家を都合の良い押し付け先としか考えていない。所詮非術師の弱小家系ってね」

 

「俺が任務を全て終わらした時には、もう手遅れ。残念?そっか〜残念か!まあどうでも良いけど」

 

煽りに煽る悟。

今まで気づかず溜め込んでいた分を、透の導きによって最高の形でぶちまけていく。

 

「と言うわけで、当主さん。貴方の居場所はもうないんですよ。諦めて隠居をお勧めしますが?」

 

「……!!この、クソガキ共が……!」

 

「で、どうですか?直毘人さん」

 

「………」

 

「あ、拒否しても良いですよ?残念ながら今止める手は無いので。ですが……」

 

(五条家)に大きく差をつけられるけど?大丈夫?」

 

ノリに乗りまくる二人。

悟は天性の煽り能力で、透は圧倒的な演説の才能で煽る。

相手に思考させる暇を与える必要はない。

例え冷静な思考を持っていても、高なる感情(怒り)は無視する事は出来ない。

そうすれば……

 

「チッ……!分かった、承諾する……!」

 

直毘人は自分が熱くなっている事に気づいている。

しかし、それを押さえられるほど余裕は残っていない。

透のギャップ、演技を見抜けなかった衝撃、全てを把握している様な態度。

少しずつ確かに直毘人の冷静さを削っていたのである。

 

 

「じゃあお話、しましょうか」

 

 

 

 

透の出した“お願い”は二つ。

 

「一つ、薄井家に来ている高難易度案件の共有」

 

薄井家が請け負っている任務を、御三家にも請け負ってもらう。

現状危険な任務は全て薄井家に回っており、月名持ちが何とかこなしてはいるが、余り良い状態ではない。

 

「二つ。御三家+薄井家での人員を一時交換。まあ加茂は五条と、禪院は薄井とで宜しいかなと」

 

「……何故その組み合わせだ?」

 

「考えれば分かるでしょう?男尊女卑、御三家至上とか言う腐った考えは叩き潰さなくてはいけない」

 

「今更何を……ッ!」

 

またもや非難の声を上げようとした当主だが、透から滲み出る怒気に言葉が断たれる。

 

「ハッ、笑わせてくれますね」

 

 

「馬鹿にしてんのか」

 

 

「お前らの所為で何人の人間が貶められたと?そんな腐った考えで色んな所に皺寄せが来てるんですよ」

 

女性を子孫存続の為の道具にしか考えていない?

終わってはいるが、それだけじゃない。

それも重大だがもっとイカれている。

 

「一般家庭出身の術師や非御三家の術師を使い潰す様な上層部、そしてその恩恵を甘い蜜として吸いまくっている御三家(お前ら)の存在そのものが要らない」

 

「全て、潰させてもらおう」

 

 

「これは宣戦布告じゃない。既に決まった、死刑宣告だ」

 

 

透の宣言。

その姿はその場にいた誰よりも強く、誰よりも当主の風格があった。

 

 

 


 

 

 

「いや〜スッキリしたね、悟」

 

「ホントざまあ!ってなぁ、透」

 

無事にお話は終わり、全ての条件を飲ませた透と悟、そして一生空気だった狼は屋敷を出た。

スッキリとした顔の二人はもう名前で呼び合う仲になっている。

 

空は既に暗く、時計は19時を指している。

 

「狼牙、夜どうしたい?」

 

「母上は……早急に帰るべきかと」

 

「なあ、俺も着いてっていいか?」

 

「やっぱり今帰るの気まずい?」

 

「いや、どっちかと言うと面倒くさい」

 

「なるほどね。ちょっと待って……」

 

そう言って透は携帯電話を出す。

 

「もしもし……ごめんね、遅くなっちゃった。……そうそう、実は五条家の悟君が……え?どうしたの?……あ、了解しました」

 

透は何処か落ち込んだ顔で電話を下ろす。

 

「どうしたの?」

 

「……先に言わなかった事への罵倒の嵐であろう」

 

こそこそと話す狼と悟。

この二人の距離も大分近くなっていた。

 

「よし、二人とも。今日は外食だ!」

 

「母上は……」

 

「手抜きは食べさせられないって。何処がいい?」

 

「はいは〜い!俺、あんま知らないんだけど」

 

「お坊ちゃんだね。じゃあまずは……」

 

店について話しながら歩く三人。

夜空には星が煌めいていた。




悟にとって透とは。

自分が知らない部類の人間。優秀。
ちゃんとした大人を初めて見た気がする。
もはや半分父親みたいな存在。

此処まで1日で到達した透さん、対人関係ぶっ壊れ。
これから出てくるオリキャラの中でも一位のチートキャラです。


透さんの最終的な目的。
御三家の腐った風潮をなくし、上層部の権力を間接的に落とす。
(御三家と上層部は同じ側だから、それを離したい)
その為に、御三家の内部改革を進めたい。

①任務の共有。
俺たちだけ死にかけるとかあり得んだろうがよ!お前らも任務受けやがれ!
②御三家と薄井家の交換留学生(?)
内部の人材(若い人間)を改善する為の政策。
実は五条、加茂はどうでも良い。
一番やばいのは禪院家だから。


此処で裏話。
実はですね、悟が任務を遂行したと報告しても、揉み消される可能性があるんですよ。
お前の任務じゃねえからって言われればそれで終い。
だけど御三家は承諾した。
何故か分かります?
最悪薄井家が武力蜂起するからです。
呪術界でもトップクラスの実力を持つ集団+五条悟。
御三家ぐらいなら潰せます。

直毘人さんはそれを分かっていたから、承諾したんですよね。
ほら、”選択肢がない“。


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前回、御三家に対して条件を飲ませた透と悟、そして狼。
夜ご飯をびっくり◯ンキーで済ませ、一時帰宅。

良いですよね、びっくり◯ンキー。
トッピングはチーズ派です。
ご飯とサラダが肉汁に浸かってるの結構好き。


追記:狼さんと悟は中3(15歳)です。
ちょっと説明が足りておらず、申し訳ないです。
少し違和感あると思いますが


 

定例会の数ヶ月後。

 

直毘人が発破を掛けたのか、御三家は既に準備を済ませていた。

そして薄井家に来客が。

 

「来たぞ!」

 

五条家の()()、五条悟である。

 

「ようこそ、薄井家へ。君の所に比べて大分小さいけど、まあ我慢してね」

 

「大事なのは中身だろ。で、何処でやるんだ?」

 

「着いてきて」

 

 

透は悟を連れて例の地下にやってきた。

門を見た悟は愕然とする。

 

「コレさぁ……特級相当じゃん!」

 

「これは薄井家のみの秘密だから、口外しないように」

 

そう言って透は扉に手を翳す。

 

「……ッ!慣れないね……!」

 

扉は透の呪力を吸い上げる。

()()()()()()に思わず呻き声を上げるが、手は離さない。

 

「ふぅ〜……これで良し」

 

「……お前、やっぱ()()()だろ」

 

「そうだよ」

 

薄々感じていたが、六眼には術式が写っていない。

かと言って呪力も普通。

完全なる一般人だ。

 

「呪霊はどうするんだよ」

 

「察知できる呪具が有るからね。見えなくても良いさ」

 

それより、と言って透は門に近づく。

 

「行てらっしゃい。狼牙が待ってるよ」

 

「おう」

 

六眼でも中は見通せない。

霧に覆い隠された様に不明瞭だが、透を信じて悟は歩を進めた。

 

 

 

 

門を潜り、一瞬のホワイトアウト。

視界が開けた其処には、森が広がっていた。

 

(空間の拡張……いや幻術?どちらもか)

 

悟は一人で森を進む。

抜けた先。

半径10m程の広場に、相手は座っていた。

 

「……来たか」

 

「やろうぜ」

 

無下限呪術は切る。

まずは単純な肉弾戦がやりたい。

 

狼牙は刀を抜き、顔の右に構える。

 

(霞……だったか?まあどうでも良い)

 

体に呪力を巡らせ、構える。

 

静寂。

 

鳥の鳴き声を皮切りに、悟は狼牙に向かって走り出した。

 

 

######

 

 

(呪力による拳の強化……)

 

戦闘が始まって数秒後、狼は悟の戦い方を幾分か把握していた。

無下限呪術は切っている様だ。

例え六眼を用いたとして、燃費は相当に悪いと聞く。

 

(なれば……)

 

勝てる。

相手が術式を起動する前に、斬る。

 

「……ッ!」

 

一気に距離を詰め、真っ直ぐに向かってくる拳を弾く。

 

「軽い」

 

「うおっ……何で刀で防げるんだよ!」

 

(普通は逆では……?)

 

刀で拳を弾くなど、葦名では日常茶飯事だった。

逆に仙峯寺の僧は何の強化もしてない手で刀を弾いてくる。

誠手強い敵であった。

 

「別のこと考えてんじゃねえよ!」

 

風を切る様な回し蹴りを体を低くして避ける。

体勢が崩れた一瞬、後ろ襟を掴み押し倒す。

背中を刺し貫こうとした瞬間、呪力の奔流に吹き飛ばされた。

 

「あっぶねぇ!」

 

「呪力を放ったか……」

 

仕留め損ねた。

肉弾戦では此方に分がある。

しかし……

 

悟はサングラスを外した。

 

「……六眼の解禁か」

 

「この時のために態々縛ったんだよ。さあ、やろうぜ!」

 

素早く斬りかかるが、躱される。

先程とは段違いの速さ。

攻めるのは悪手と言わざるを得ない。

だからこそ。

 

「!」

 

全て、弾く。

正拳、前蹴り、回し蹴り、裏拳。

全て弾く。

 

すると段々、悟の動きが鈍くなっていく。

体幹が揺らいでいるのだ。

 

隙ありとばかりに上空に跳び上がり、空中で回転。

その勢いのまま足を振り下ろした。

流れる様に打つ足の連撃。

仙峯寺の僧侶が紡いだ奥義。

 

 

【奥義・仙峯寺菩薩脚】

 

 

「ぐっ……がっ!」

 

悟は腕を組み頭を守るが、そんなものでは止められない。

最後の剣撃を敢えてせず、そのまま体幹を攻める。

 

肘打ちと掌底による体術の流派技。出の速い連撃により、 敵の攻撃の出鼻をくじき畳み掛ける。

 

 

【拝み連拳・破魔の型】

 

 

防ぎきれなかった悟は大きく仰け反る。

体幹が尽きた。

そのまま心臓を貫く……

 

 

 

 

脳内に響く警鐘。

すかさず後ろに跳んで構える。

 

(……空気が変わった)

 

悟は目を伏せて呟く。

 

「……無下限呪術。今俺の周りには、無限がある。お前の刀も、拳も、衝撃も通らない。だけど、俺の攻撃は通る」

 

「ただ、どれだけ攻撃しても俺の攻撃は全部防がれる。なら……!」

 

顔を上げてニヤリと笑う悟。

 

「防げねぇ攻撃をすれば良いだろ!」

 

「……ッ!」

 

急激な呪力の高まり。

準備は、既に終わっていた。

 

「無下限呪術……!」

 

 

【術式順転 蒼】

 

 

 

狼が飛び退いた直後、足元が大きく抉れる。

 

「もっとだ!!」

 

更に辺り一面に限界まで蒼を放つ。

数十秒後土煙が収まった広場には、大きなクレーターが出来ていた。

 

「……いねえよな?」

 

悟は六眼で辺りを見渡すが、何も見えない。

慎重に何度も見渡し、

 

「……っしゃあ!!」

 

両手を上げて快哉を叫んだ。

 

 

 

 

「………」

 

何処か不機嫌な顔をした狼は、入り口付近で目覚める。

 

無事に全身を押し潰され、久しぶりの死を味わった狼は、後ろにいた透に話しかけられた。

 

「負けたみたいだね」

 

「……御期待に添えず」

 

「いいよいいよ。無限のバリアなんてチートじゃん。破れないのが普通さ」

 

そう話していると。

 

「ただいま〜」

 

悟が戻ってきた。

歩いて帰る途中で道を間違えたらしく、服は汚れている。

 

「どうだった?」

 

「楽しかった!」

 

しかし顔は喜びに満ち溢れている。

よっぽど楽しんだ様だ。

 

「狼牙、今度はお前も術式使えよ!」

 

狼が術式を使わなかった事が唯一の不満の様だが、

 

「狼牙の術式は特殊でね。順転を使おうとすると暴走する可能性があるらしいよ」

 

「ふ〜ん……確かになんか変だな」

 

六眼にもそう映った様で、ひとまず納得した悟。

 

「……次は負けぬ」

 

「!俺に勝てるとでも〜?」

 

「ふふっ。これからが楽しみだね」

 

穏やかに語り合う三人。

術師交換の日は近づいていた。

 

 


 

 

数日後、禪院家との交換の日。

狼は両親と悟に送り出されていた。

 

「なんかあったら帰ってくるのよ。大丈夫だと思うけどね」

 

「まあ一応気をつけて。どんな手を使ってくるか分からない……と言っても」

 

「狼牙の想定を上回る罠があいつらに出来るとは思えねえけどな」

 

三人揃って何一つ心配していない。

まあ、狼という熟練の忍びの想定を上回る搦手など、ボケた禪院家には無理だろうと言う信用である。

 

「ただ向こうは性格が終わっているからね。襲われたら叩き潰していいよ」

 

「当主のクソジジイにも許可を得てるからな。思いっきしやったれ」

 

「……御意」

 

狼は頭を下げて車に乗り、禪院家に向かって行った。

 

 

それを笑顔で見送った三人は、スンッと表情を落として会話する。

 

「さて……向こうからは男が一人くるらしい。さて、どうしてやろうかな」

 

「まず俺がぶっ潰せば良いんだろ?」

 

「悟くん、貴方が出たら終わるでしょ。水無月さんにたのんだら?」

 

「あの爺さん大丈夫か?」

 

「普通に強いし、術式使えば今の所内では最強に近いよ」

 

「あの術式で?……まあ透がそう言うんだったら強いんじゃね」

 

今回は内部調査の為、薄井家でもトップの実力を持つ狼が送られた。

 

「さ、準備しようか」

 

三人はそれぞれ準備の為に家を駆け回るのだった。




悟デレてね?
最早薄井家の子だろ。
あ、狼さん蒼四発目くらいで圧縮されました。
イメージはジョジョ3部のバニラアイス戦ですね。


さて、今後の予定。
こっちからは狼さんが、向こうからは……蘭太にしました。
最初は真希真衣にしてたんですが、年齢全く忘れてましてナシにしました。
ちなみに甚爾さんは数年前に出ていってますよ。
狼さんは主に扇とか直哉くんとの交流を描きます。


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設定まとめ

まず皆さんに謝罪を。
大幅な設定変更を繰り返して、申し訳ありません。
当初の想定で行くと後々おかしくなる事が多く、一度結構書き直しました。

なので、今回整理のために設定を書き連ねます。これが正しいです。
なんか矛盾してる、これどう言う事?、この人はどうなの
?とかあれば、感想欄にお書き下さい。
できるだけ返しますので、お願いします。


本作オリジナル設定は『』で囲っています。

 

 

1989年12月7日  五条悟誕生

『1990年3月22日  薄井狼牙誕生』

1990年『未定』 禪院直哉誕生

『1996年3月22日  術式発現、狼覚醒、1回目の回生』

『1996年3月29日  梟との邂逅』

『2002年  狼中1、怨嗟確認』

『2002年  翌週まで休暇期間、水無月との模擬戦』

『2004年3月31日  狼と悟中3、定例会で脅し、約束取り付け』

『2004年7月31日  悟と戦う』

『2004年8月3日  交換の日』

 

日時にはあまり意味はありません。

 

 

 

・薄井狼牙

薄井家長男であり、精鋭揃いの中でもトップに位置する技術を持つ。

その正体は戦国時代の葦名を生きた一人の忍び。

かつての主、九郎の子孫である薄井家の一人息子、薄井狼牙(通称影)の体に憑依転生した。

……と本人は思い込んでいるが、狼牙の体は元々狼の転生体だった。

しかし、不死断ちによって斬られた因果によって関係ない影の魂が定着した。

死にかけた影に、()()()()()()()竜胤によって回生し、本来の持ち主である狼の人格が目覚めた。

 

現在は鍛錬を積み、(中3夏時点では)体術は前世最盛期少し手前、術式は前世の再現と言う、まだかつての強さまでには至っていない。

 

術式

狼……竜界・廻胤忍術

 

忍びとしての技を具現化する。

基本的に前世で身につけ、使った物は再現できる。

形代を用いて使っていた技も、呪力を消費する事で使用できる。

 

御霊降ろし、神吹雪、各種瓢箪、形代流し、帰り仏、鬼仏の設置。

鬼仏は薄井家の自室と地下の門前、透の書斎前に設置済み。

 

順転……???  反転……???  虚式……???  極の番……???  領域展開……???

 

 

影…… 星核呪界

 

星の規模で術式を行使出来るチート。

しかし人間には重すぎる能力な為、使用しすぎると精神だけの影でも絶え間ない苦痛が身を蝕む。

現在出ているのは順転と通常の効果が二つ。

 

通常効果……真眼

 

目に見える範囲の法則を捉える。

六眼を事象限定にして弱体化させたもの。

六眼見たいに呪力消費を抑える事は出来ない。

 

通常効果……星の智慧

 

真眼が捉えたモノの情報を得る。

しかし絶え間なく頭に流れ込む為、一瞬で脳はショートして焼き切れてしまう。

 

 

順転……神眼

 

星の観測者である神の眼を再現したもの。

万物の理を捉えられるらしいが、影は意図的にセーブしている。

六眼と違い魂や術式などを把握することは出来ないが、空気や呪力、磁気など意思の介在しないものは捉える事が出来る。

また、星全体を覆う呪力に干渉し、全世界を見通す事が出来る。

ただし、途轍もない苦痛が生身に襲いかかってくるだろう。

影のこれを用いて違和感のある場所、福島(=葦名)を発見した。

 

 

・薄井梟雄

狼の三十数年前に転生した大忍び梟。

かつての剣術、忍びの技に加え、呪力を用いた幻術を使う。

術式はなし。

単純な剣の技量では狼に劣っているものの、搦手や幻術を利用した戦闘は薄井家トップの実績を誇っている。

 

 

・薄井透

今世の狼の実父。

術式を持たず、呪霊も見えない非術師であるが、薄井家と言う家系の当主を担っている。

心理戦や頭脳戦に滅法強く、御三家当主を脅して意のままに操った。

 

・五条悟

いつかの最強。

現時点では順転まで使える。

原作と違い、高難易度の任務をあまり受けていなかったので、大きな評価はされていなかった。

しかし、薄井家の任務を回すことで実績を得て、当主の座を獲得した。

 

 

 




次回は禪院家に乗り込んだ狼さんの無双物語です。

因みに、狼は戦国の人間ではありますが、女性が弱い訳がないと言う事をみに染みて知っているので、禪院とは相性は悪いでしょう。

さあ、どうなるかな?


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禪院家

弾きってめっちゃ難しそう。
どうも、朝槿です。
何度も言っておきますが、前回の設定が絶対です。
何か違和感があれば感想欄で質問してください。


「此処が……」

 

京都の禪院家の門前に、狼は立っていた。

 

長時間の乗車のせいで固まった体をほぐし、思考を切り替える。

ただの交換留学だと気を抜いてはいけない。

何をされるか分からないからだ。

 

「……行くか」

 

覚悟を新たにし、狼は屋敷へと踏み出した。

 

 

 

 

屋敷に入って数分後、狼は既に屋敷の内情を把握せざるを得なかった。

 

(“魔境”か……)

 

昨日悟は、『禪院は魔境。潰してやろっかなぁ?ホント考えるだけで吐き気するわ。オッエー!』と言っていた。

強ち間違えではないようだ。

 

 

途中で絡まれるのも面倒なので、気配を消して当主の部屋に向かう狼。

入ろうとした狼だが、何かに気づきため息をつく。

 

(……よし)

 

ガラッ……と襖を開ける。

其処にいたのは、はだけた和服を身につけ、酒を右手に持った老人。

禪院家当主、直毘人だ。

 

「来たか」

 

大分飲んでいるようで、1m以上離れた狼にも酒精の香りが漂っている。

 

「……本日より世話になる、薄井狼牙と申します」

 

一応目上の人間なので、片膝をつき頭を下げる。

 

「おう!世話になって行け。儂は歓迎するぞ」

 

定例会とは違い、上機嫌なようだ。

呵々大笑とする姿は当主の風格を確かに感じさせる。

が、禪院家の人間である事は確かなようだ。

 

「だが、コイツらは如何かな?」

 

その言葉と共に、部屋の3方向から一斉に人が襲いかかってきた。

 

目の前の小僧は片膝をつき、頭を下げている。

直ぐには動けまい。完璧な奇襲だ。

その場にいる誰もがそう思った。

 

しかし。

 

「フッ……!」

 

一瞬にして刀を抜き放ち、直毘人の襟を掴み裏に回る。

そして首に刃を当てた。

 

「なっ……!」

 

襲いかかってきた男達……禪院扇や禪院甚一、禪院信朗は思わず動きを止める。

 

「ふむ……儂を殺すつもりか?」

 

薄皮一枚の近さまで刀を添えられた直毘人だが、緊張はしていない様だ。

 

「………」

 

「だんまりか?……良い、退け」

 

「……!しかし……」

 

「殺されたとして、好都合だろう?」

 

それでも留まろうとした信朗を連れて、扇と甚一は此方を睨みつけながら部屋を出て行った。

 

「………」

 

狼はそれを見届け、辺りに伏兵がない事を確認して刀を下ろした。

 

「ふむ、助かる。では、部屋を案内しよう」

 

「……何も、言わぬのか」

 

「この家は実力主義だからな、自らの地位を守りたければ力を示せ。彼奴らはまだ納得しておらん」

 

「……分かった」

 

狼は一応頭を下げ、部屋を出る。

そのまま屋敷の奥へと案内されていった。

 

 

 

 

「無様やなぁ。パパは」

 

一連の出来事を影から見ていた一人の男。

 

「あんなザコに負けるとか、俺やったら恥ずかしくて生きて行けんて」

 

金髪に狐の様な吊り目、顔は薄ら笑い。

 

「ま、俺が負けるわけないんやけどな。()()()()()の俺が!」

 

禪院直哉の顔には、他人を陥れる悪意が浮かんでいた。

 

 

 


 

 

 

翌日。

狼は早朝に屋敷を抜け出し、朝食を外で食べ、誰にも見つからず自室に帰ってきた。

何故そんな面倒な事をしているのかと言うと、夕食に薬が盛られていたからである。

狼には効かなかったが、これからどんなモノが盛られるかわからないので、朝食は外で取る事にした。

 

食事は強制ではないので、何も言われる事がないのは幸いだろう。

 

 

さて、暇だ。

鍛錬をして無駄に手の内を晒す気もないので、毎度の如く縁側に腰掛けて庭を眺めている狼。

 

前世ではこう言う時間はなかった。

自然など身に染みて恐ろしいモノだと知っている為、庭になど興味はなかった。

触れる機会もない。

しかし、今世のものは中々趣深い。

内情に似合わず美しいものだな、と考える狼だった。

 

ふと近寄ってくる気配を感じる。

 

「おいお前」

 

振り向くと、其処にいたのは禪院甚一だった。

 

「……甚一殿。如何用で?」

 

「扇がお前を呼んでいる」

 

扇に使われた事が甚だ不快である様で、最低限伝えるとさっさと去っていった。

 

「……行くべきか?」

 

実力主義と言う特色から、恐らく闘いになるだろう。

面倒だが、行かぬわけにもいかない。

 

「……行くか」

 

もう少し眺めていたかった、と庭を後にした。

 

 

 

 

「来たか」

 

禪院家の修練場にやってきた狼。

予想通り、扇は刀を持って待っていた。

周りには…… 躯倶留隊か。

 

見せ物のように取り囲んでいる。

いや、実際彼らにとっては見せ物なのだろう。

 

「………」

 

狼は刀を抜き、構える。

どちらとも無く、闘いは始まった。

 

 

 

 

「まずは小手調べだ」

 

そう言って扇は斬りかかってきた。

勿論弾くが、中々に強い衝撃だ。

 

(力……いや速さか)

 

純粋な力ではなく、速さを元にした剣戟。

弱くはないが……

 

(……強くも無い)

 

今の狼ならば容易く弾ける。

まだ本気を出していない事もあるだろうが、些か予想は外れだ。

 

 

######

 

 

「アイツずっと守ってばかりいるぞ」

「やっぱり大した事ないんじゃね?」

「俺たちでも勝てそうだよな」

 

周りは戦闘の情勢に飽き始めていたが、一方扇の心中は焦りに満ちていた。

 

(何だ此奴は……!)

 

幾ら斬りかかろうと全て防がれる。

いや、違う。

これは防がれているのではない、()()()()()()

 

(何故、何故そんな事が出来る……!)

 

一介の剣士だからこそ分かる弾きの特異さ。

相手の斬撃に合わせ、自らの刀を合わせる。

一瞬でもズレれば忽ち斬られてしまう。

力の込め方を仕損じれば、体勢は崩れ、これまた斬られてしまうだろう。

 

それを目の前の男は十全にこなしている。

自らよりも圧倒的に若いこの男が……!

 

扇は刀を鞘に納め、構える。

 

(これなら防げまい!)

 

扇は怒りを込めて、全力で居合を放った。

 

 

キィィインッ!

 

「な、なん、だと……」

 

一拍。

響くのは完璧な弾きの音。

扇の全力の居合を、狼は弾いてみせた。

 

一生にわたって鍛え上げた居合を、弾かれた。

弾かれた事に対する衝撃、自らの人生とも言える一撃が敗れた事への怒り、そして負けてしまうと言う恐れ。

 

ソレは、辛うじて残っていた扇の冷静さを奪った。

 

「術式解放……!!」

 

【焦眉之赳】

 

扇は刀身に炎を纏わせ、此方を睨みつけた。

 

「一片残らず、焼き殺してくれる!!」




人生全てを費やした、自分と言う人間を象徴する一撃。
それを完璧に弾かれた時点で、扇は負けました。
しかし、彼は術式を使いました。
彼にとっては、剣士としての誇りよりも、負ける事への恐怖が大きかったんでしょうね。

焦眉之赳(しょうびのきゅう)
名前めっちゃ好きなんですけど、炎の上位互換が普通にいるので(術式が)可哀想。
オリキャラ作るか……?


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奥義・纏い斬り

今回は戦闘二本立てです。
まだ術師との戦闘なので心情とか盛りだくさんですが、個人的には情景だけを描写する書き方の方が臨場感あって好きです。
SEKIROや狼の静かだが過酷な雰囲気を感じられるのも良いですね。
ただ、出来ない。
悲しい。


焦眉之赳。

 

禪院扇の技の一つであり、刀身に炎を纏わせる。

更に、周囲に炎を巡らせ、自在に操ることが出来る。

彼が特別一級術師となった理由の一つであろう。

 

「殺してやるぞォォォ!!」

 

「……!」

 

猛烈な火炎。

弾こうにも実体を持たない炎は防げない。

 

(傘があれば……)

 

忍び義手に備わっていた忍具、仕込み傘。

炎だけでなく術や呪いも防げる万能防具であり、どんな時でも使える便利な忍具だ。

しかし、今の狼にはない。

 

(ならば……)

 

狼は術式によってある物を呼び出した。

 

 

######

 

 

(何をしているのだ……!?)

 

【赤枯れの曲がり瓢箪】

 

炎に対する耐性を齎し、傷を抑える事ができる。

ただ、炎を消す事は出来ない。

あくまで一時的な処置である。

 

四方八方から襲い来る炎を掻い潜り、前に進む。

 

「何故だ、何故逃げぬ!!」

 

(右、下、左上、正面……!)

 

基本的に弾く事を戦闘の要とする狼には、避けると言った事は慣れていないと思われるかもしれない。

しかし、熟練な忍びだからこそ、あらゆる局面に対応出来る……!

 

「死ねぇ!」

 

頭上から振り下ろされる炎の一太刀。

弾く事は出来ない、避けるのも間に合わない。

 

(なら受けて斬る……いや)

 

剣に纏われる炎を見た時、狼の脳裏に浮かんだのは一つの技。

 

牙と刃が一体となる、忍義手技の奥義である

この奥義を最後に、仏師は忍義手を捨てた

極め、殺しすぎた

怨嗟の炎が漏れ出すほどに

 

本来は火吹き筒や神隠しによってのみ、使う事が出来るが、今は持っていない。

だが……!

 

(此処で出来なければ、斬られる)

 

集中。

刀が炎に触れる一瞬。

その瞬間、刀に炎が宿った。

 

 

【奥義・纏い斬り

 

 

炎を太刀に纏わせる。

かつての愛刀と違い、すぐに焼け落ちてしまうだろう。

 

(その前に……!)

 

炎を奪い取った事により、扇の刀の芯が見える。

 

キィィインッ!!

 

弾き、返す一太刀。

刀を斬り飛ばし、腹を逆袈裟になぞる。

 

ザシュッッ!

 

「ぐ、ぐぁっ……!」

 

「……御免」

 

キィンッ

 

炎を振り払い、鞘に収める。

倒れる扇、ざわつく群衆。

それを背に、狼は屋敷の奥へと入っていった。

 

 

 

 

翌朝、少し上機嫌な直毘人が言うには、扇は腹を切り裂かれたが、同時に焼いた事で傷自体は大した事がないそうだ。

 

しかし、本人は負けた事から動く気にもなれず、部屋に篭りきりになってしまったそうな。

既に直毘人によって屋敷中に周知されてしまい、早くも陰口が叩かれ始めた扇が立ち上がる事はもう無いだろう。

 

 

さて、そんな事は特に気にせず、狼は直毘人に呼ばれ部屋に来ていた。

 

「何故呼んだ?」

 

「いや、一つ警告をな」

 

「……警告?」

 

少し真面目な顔をした直毘人は喋り出す。

 

「狼牙よ。お前のこの家での立場は中々のモノとなった。しかし、まだお前の存在を納得出来ない者もおる」

 

「気をつけよ、奴は強いぞ?」

 

「……何故そんな事を?」

 

「薄井家と言うイレギュラーがいる中で、禪院家が彼奴に渡れば確実にこの家は滅亡する」

 

「……何をしろと?」

 

「好きな様にやれい。変わらなければ死ぬだけよ」

 

 

 

 

夜。

自室に帰ろうとした狼を後ろから呼びかける声。

 

「扇に勝ったらしいなぁ?子犬ちゃん♡」

 

「……直哉殿か。何用で?」

 

「簡単な話。……お前、身の程弁えろや。雑魚がデカい顔してのさばってんのとちゃうぞ」

 

「………」

 

狼は無言で刀を袋から取り出す。

ただ固く、頑丈な一振り。

 

銘は黒刀。

 

昨日の刀は燃え尽きてしまった為、忌庫から一本拝借した。

どうやって?

甚壱の後をつけて盗み出した。

勿論直毘人の許可は貰っているが。

 

「雑魚なりに構えた所で、俺に敵うと思ってんの?ま、ええけど」

 

そう言って、直哉は構える。

 

「最速で殺したるわ」

 

 

 

 

突然始まった殺し合い。

一瞬にして直哉の姿は消えた。

 

(何処だ……ッ!)

 

後ろからの殺気。

反射的に腕を振るい、刀で防いだ。

ほぼ直感で受けた拳はとてつもない威力で、吹き飛ばされる事はなかったものの、体幹は大きく削られる。

 

(速い……速度を術式で?)

 

何度か斬りかかるが、全て残像を捉えるのみ。

目を閉じ、脱力する。

 

瞬間右からの殺気。

体勢を低くし拳を避けたが、足を避ける事は叶わず、思いっきり蹴り飛ばされた。

 

「ぐっ……!」

 

まだだ。

まだ攻めない。

攻撃を見切るまでは。

 

 

######

 

 

いつもの事だ。

格下のカスを分からせ、良い気分でゆっくりと休むだけ。

至って楽な仕事。

その筈だった。

 

(何で当たらへんねん!)

 

最初の五分はほぼ当てていたが、時間が経つにつれ、大半を避けられてしまっている。

それも偶に攻撃が掠りそうになる程適応されている。

 

(ホンマに見えてへんのけ!?)

 

目の前の弱者は目を閉じ、体の力の一切を抜いている。

 

(こんな雑魚に!もうええ、殺したる……!)

 

一度距離を話し、奴の背後からジグザグに動きながら足を狙う。

目を瞑っている人間が足を狙われて正確に防げるはずがない。

とても的確な判断である。

 

もし、狼が常人ならばの話だが。

 

懐に隠し持っていた小刀。

それで足を斬り落とす。

投射呪法によって速度は限界まで上昇している。

この一撃なら刀で防いだところで、勢いで押し通せる……!

 

(……は?なんやあいつ、何しとんのや……?)

 

そんな直哉を前に、狼が取ったのは……

 

左足を上げ、両手を力強く張る。

体が一瞬、金色に輝いた。

 

 

【御霊降ろし】

剛幹

 

 

恐らく何らかの術式だ。

だがそんな事はどうでも良い。

 

(殺す!)

 

 

######

 

 

今までにない速さで動いている直哉。

狼はそれを肉眼で捉えてはいなかった。

 

【真眼】

 

影より一時借り受けた力。

それにより、()()()()()()()()を追っていた。

 

「死に晒せぇ!!」

 

だが、捉えなければ意味はない。

タイミングを失敗すれば、どっちみち損傷する。

しかし、狼は冷静だった。

 

(……先に決めているのか)

 

あらかじめ道筋は決められていた。

真眼に未来予知は出来ない。

ならばそう言う事だろう。

 

目前に迫る直哉。

その数秒は、不思議とゆっくりと感じられた。

 

 

ギャィィインッッ!!

 

 

直哉の最速。

それをいつも通りに、狼は弾いて見せた。

 

 

(……は?)

 

狼に弾かれ、直哉は体勢を崩した状態で()()()()

 

 

投射呪法のデメリット。

それは、最初に定めた道筋から大きく外れてしまうと、直ちに一秒フリーズしてしまう事だ。

一秒、それは常人にとっては短くとも、直哉には決して短くない。

そしてそれは、狼にとっても十分な時間だった。

 

 

右手を直哉の背後に回し、そのまま地面に倒す。

フリーズが解け、体を上に向けた直哉が見たのは、振り下ろされる剣先だった。

 

(……死ぬんか、俺)

 

訪れる死を予感し、目を閉じる。

 

ザクッ!

 

もう、何も聞こえなかった。

 

 

 

 

(なんや……眩しい)

 

閉じた視界を埋め尽くす白い光。

その余りの眩しさに、直哉はゆっくりと目を覚ました。

 

「……生きとる……?」

 

其処は知らない天井……だが、自分の屋敷であることは分かった。

それより、何故自分は生きているのか。

あの時確かに貫かれた筈……

 

「……目が覚めたか」

 

声のした方には、先程自分を倒した男が座っていた。

 

「……何してんの?」

 

「何も……?」

 

「何で殺さんかってん!」

 

直哉は声を荒げる。

殺す気で放った一撃を防がれ、負けたのに狼は殺さなかった。

それが自分を何処までもコケにしているようで、怒りを抑えきれない。

 

「こんな生き恥晒すぐらいなら、死ぬ方がマシやわ!」

 

その言葉に、狼は反応した。

 

「……一時の敗北はよい。だが手段を選ばず、必ず復讐せよ……」

 

「な、何や……」

 

「忍びの……いや、俺の掟だ。……出来るか?俺に復讐を」

 

 

そう言って狼は立ち上がり、部屋の外に出る。

直哉には、その後ろ姿が憧れ(甚爾)と重なって見えた。

 

 

 

 

その日からと言うものの、直哉の様子は一変した。

他人に暴力を振るったり、見下したりする事はなく、愚直にひたすら鍛錬を続ける様になった。

だんだん言動からも嘲りの色が消えていき、周りは大いに困惑した。

 

「最近の直哉様、なんか変じゃね?」

「何と言うか、変わったよな」

「なんかあったんだろ。ま、俺たちには関係ないがな」

 

 

一つ不思議な事があるとすれば、狼と話す様になった事だ。

 

「狼クン、いつも鍛錬は何してんの?」

 

「……基礎体力をつけ、後はひたすらに実戦」

 

「何で?整った環境でやる方がええんちゃうの?」

 

「……我が家の特色上、常に強敵と殺し合う事が多い。ならばこそ、型を極め、其処から解釈する事が大事だ」

 

「ほーん。術式はどうしてんの?」

 

「……俺には、自らの素を極める方が良い。術式は高専でやるべきだろう」

 

「高専行くん?隠しとった方がええやろ」

 

「……父上の方針だ」

 

仲がいいのか悪いのか分からないが、少しは打ち解けている様だ。

その様子を見て、直毘人は人知れず笑みを漏らすのだった。

 




《color:#d5b926》《font:520》
剛幹の色とフォント

《color:#ff0000》《font:520》
纏い斬りの色とフォント


はい、という事で直哉くん改心ルートです?
彼は弱者は思いっきり下に見ますが、強者は尊敬しています。
原作の真希さんみたいに長い間格下と認知していたわけではないので、懐柔が楽でした。
あとまだ中2ですからね、其処まで凝り固まっていなかったのも幸いでしょう。
直毘人からしたら、実力はあるものの精神はクズ。
今までの環境ならいけるけど、薄井家がいるなら最悪禪院家潰されるな、と思ったからです。

何で改心したのかと言うと、直哉くんは狼さんに勝つ為に強くなろうとしてます。
その過程で下を嘲ることの無駄に気付かされ、無視するぐらいになりました。
その後狼さんと話してたら、『たとえ弱者でも、成長する。直哉も、彼らから学ぶ事があるかも知れぬ』と言われ、まあそう言うんやったら、って言う感じになりました。
改心直哉くんは結構好きなキャラです。
原作では見られませんでしたがね。


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平和な日常

今回は狼さんと直哉くんの日常です。


それはそうと、ストレージに余裕が無くなったんで、スマホをバックアップして初期化したんですよ。
で、iCloudにサインインしようとしたら、2ファクタ認証が要ると。
此処で気づいたんですよ。

『あれ?そう言えば私、電話番号変えた気が……』

はい、何も届きません。
電話、LINE、メール、そして各種アプリが全く使えません。
そして、ゲームが出来ない。

私が携帯でやる事といえば、連絡、調べ物、動画、執筆、そしてゲームぐらいです。
残念ながら五分の二、いや内容だけならば五分の四が使えなくなりました。

どうすればいいか教えて下さい……!(切実)

あ、因みにゲームは原神と1999ですね。
諏訪部さん大好き。


扇を衆目の中で圧倒し、直哉を倒した事で、禪院家での狼の立場は盤石なものとなった。

絡まれることは殆どなく、狼からも不用意に接触しないので、何も問題は起きなかった。

直哉だけは良く会うが、牙が抜けた様に大人しくなった為、基本的に平和な日々だった。

 

 

ある日の夕方。

直毘人に呼ばれ部屋に赴いた狼。

 

「おお、来たか」

 

「ん?狼クンやったんか」

 

「……何用だ?」

 

直毘人が直哉を呼ぶことは殆どない。

本人達からも聞いていた不思議な状況に、狼は困惑して問いかける。

 

「端的に言おう。お主、薄井に帰れ」

 

「……はぁ?狼クンは交換で来とるんやで?勝手に返したらあかんやろ」

 

「……父上がそう言ったのか?」

 

「ああ。奴曰く、『恐らくそろそろ頃合いだろうから、交換は一旦終わりで良い』とな。あの狐、何故分かる……」

 

直毘人は仮にも忍びの前で堂々と透の事を狐と言ったが、狼も基本同意な為特に何も言わなかった。

 

「1週間後だ。それまではゆっくりして行け」

 

話は終わりかと立ち上がった狼だが、直毘人の言葉にもう一度腰を下ろす。

 

「そろそろ鍛錬したらどうだ?衰えるぞ」

 

「……毎日しているが」

 

「何処でやっとんの?」

 

「……心象世界で」

 

「……え?」

 

狼は目を逸らし答える。

環境から術式について殆ど知り得ない狼でも、心象世界で鍛錬という異常さは把握している。

 

「……我が心中に刻まれた類稀な強者と、何年も戦っている」

 

それを聞いた直哉は不機嫌な顔をする。

狼が鍛錬していない今の内に追いつこうと思っていたのに、裏で鍛錬しているなど拍子抜けだ。

 

「……ずるいわ、それ」

 

「……すまぬ」

 

流石に申し訳なく、狼は目を逸らして答えた。

結局、残り1週間は直哉と鍛錬する事に決まる。

 

 

 

 

「俺はなんの武器がいいん?」

 

「……術式を最大限活かすならば、取り回しが楽な小刀が良いだろう」

 

所変わって忌庫。

二人は直哉の武器を選びに来ていた。

 

「狼クンは何で刀にしたんや?」

 

「師匠が刀を使っていたのと、隠密でも扱いやすいからだ」

 

戦国時代、主要な武器といえば槍、弓であり、刀は其処まで使えるものはなかった。

それこそ梟の様な隠密を主とする忍びや、よっぽどな達人でない限り、刀は十全に使い熟せない。

一兵卒でも刀を持っていた葦名の特異さがよく分かるだろう。

故にこそだろうか、七本槍が戦で特に強かったのは。

 

「直哉に刀は薦めぬ」

 

「それまたなんで?」

 

「……刀では、絶対に勝てない強者がいる」

 

葦名一心。

剣の道のみならずあらゆる武術を極め、人の身ながら刀のみで真空波を飛ばす正真正銘の剣聖。

彼に純粋な剣技で勝てる者など()()()

 

「ホンマにそんな奴おるん?」

 

「ああ。恐ろしく強い」

 

「……なあ、狼クン」

 

「なんだ?」

 

「戦った様に言うとるけど、それいつの人なん?」

 

「………あ」

 

ぬ か っ た。

 

普通に葦名の事を喋ってしまった。

長らく任務に出ていない平和な環境にいたせいで、思考が鈍っている。

 

「なあ。葦名一心って、誰なん?」

 

「………」

 

「言えぬ明かせぬ無言はあかんで」

 

「……話せぬ」

 

「それも却下」

 

「ぐぅ……」

 

狼は必死にするが、残念ながら無理らしい。

何故隠せないかと言うと、聞かれたことは全て何らかの形で返答すると言う縛りを設けてしまったからだ。

その縛りのお陰で無理矢理アドバイスを捻り出していたが、それが仇になってしまった。

 

「………他言無用だ」

 

「もちろん分かっとるわなぁ!」

 

直哉は上機嫌だ。

長い沈黙の末苦渋の決断を下し、狼は薬水瓢箪を一気に飲み干した様な顔で語り出した。

 

 

前世の人生、狼という忍び、敵となった恩人達、自らの主、そして竜胤。

 

何故竜胤について話したか。

狼自身もよく分かっていない。

直哉は何処まで行っても御三家の人間、情報を流される可能性はある。

しかし、信じてみたくもあった。

忍びとしてではなく、狼として。

 

 

「……と言う事だ」

 

話し終えた狼は姿勢を直し、スーパーで買った茶を飲む。

追憶すればするほど、任務に失敗したと知らされているようであまり気分は良くない。

 

一方多大な情報を一気に聴いた直哉は軽く放心状態だった。

 

「……よう此処まで隠し通せたなぁ。いや、忍びやからか」

 

「……他言した時点で、真っ先に始末する」

 

「分かっとる分かっとる。こんなん上層部や御三家だけやない、呪術界に広まったら終わりや。そんなん俺でも分かる」

 

頭を押さえて直哉は呻く。

 

「で?狼クンの強さは死に続けて得たもんやと?」

 

「……真似するべきではない、と言っただろう」

 

「全くもって真似できん。そんなん勝てへんくて当たり前やわ。はぁ……」

 

「どうした?」

 

「葦名一心とか言うバケモンの話聞いたらため息でも出る。何や、刀振ったら衝撃波が15m以上飛ぶって。ホンマに人間か?」

 

「黄泉返りの産物だが、アレは生身の技だ。……劣化なら俺も出来る」

 

「そうそれ。狼クン、何度も見た技なら大体模倣できるのもけったいな才能やで。……ホンマ葦名って魔境やな」

 

「……同意だ」

 

葦名ほど強者が密集していた場所なぞ、呪術師最盛期の平安ぐらいだろう。

そんな所で生き抜いた-ー-何度も死んではいるが-ー-狼は十分に同類(化け物)だった。

 

「で、どないするん?」

 

「……(術式)アリとナシでそれぞれ極めるべき」

 

「ナシは頼むで。アリは……ナシが成長すれば、まあ行けそうやな」

 

そんな話し合いをしながら、二人は葦名の事を思うのだった。

 

 

 


 

 

 

1週間後。

鍛錬したり、直哉に連れられ遠出したりなど色々した狼。

帰宅の日だ。

 

「また来てなー狼クン。今度はそっち遊びに行くで」

 

「ああ」

 

言葉は少なく、背を向けた二人は、それぞれの日常へと帰っていった。

 

 

 

 

「こんなんやと勝てへん……もっと速度出さな……!」

 

狼が帰ってからというものの、直哉は術式を伸ばす為にひたすら特訓していた。

投射呪法は繰り返し使い続ける事で段々速度が上がって行く。

しかし、それと同時にコントロールしきれないと言う危険性があるのだ。

 

「………」

 

吹っ飛んで顔面スライディングしたり、壁に衝突したりなどを続けて、一つの核心に至る。

 

「……フェイントが足りんのか?」

 

速度を出しながらコントロールする為に、出来るだけ分かりやすい道筋で動いていた直哉。

それを改め、敢えて速度を落とし複雑な動きにする事で、速度に対応できる強者への対策とした。

 

「……これ、ええんとちゃうか」

 

その過程で戦闘機や虫などを参考にし、動画を見て動きを掴んでいく直哉。

その実力はかつてと比べ、大幅に上がっていた。

 

 

そして……

 

「パパ、準備出来たで」

 

「おう、こっちもだ。なら……」

 

「「やろうか」」

 

向かい合う直哉と直毘人。

投射呪法の先達であり、自らの目標の一つ。

 

それを今日、超える。

 

 

 

 

互いに投射呪法を使えば、千日手になるか危なくなるので、今回は直哉のみが術式を使う。

だからと言って油断は出来ない。

敵は長年投射呪法を使って死地を潜り抜けた『最速の術師』だからだ。

 

 

(絶対に超えてみせるわ!)

 

そんな想いと共に小刀を構え、直哉は一気に駆けだした。

 

「勝たせて貰うで!」

 

 

投射呪法とは、一秒を24分割したコマで道筋を作る術式。

物理本則に則ったものならば、視界の中ならどんな動きでも作れる。

しかし、どうしても術式が終わるタイミングが出来てしまう。

 

ならば。

 

(繋げれば良い……!)

 

間隔を空けなければ良い。

 

(2回目……3回目……)

 

1フレームも開ける事なく何回も再使用するうちに、直哉はどんどん動きを滑らかにしていく。

本来なら無理な技を、縛りによって可能にする。

 

(別に一セット内に攻撃を当てる必要はない!一発や、一発大きいの当てるだけで良い!)

 

フェイントをかけ続け、直毘人の攻撃の癖を見抜く。

それを同時に極短時間で行う。

直哉にはその才能があった。

 

(後5、4、3……今や!)

 

攻撃を避け、初めて直角に曲がる。

そのまま攻撃と見せかけてフェイント。

一度地に伏せ、上に跳ぶ……!

 

手に持った小刀。

いつの間にか柄を上に持ち変えたソレを顎に振り上げた。

 

(獲った……!)

 

「甘いわ!」

 

だがそれを読んだ直毘人は避ける。

足場をなくし、空中で術式を発動した直哉は止まってしまった。

隙。

縛りによって延長されたフリーズの時間は、攻撃を当てるに十分な時間を齎す……!

 

「残念だったな……!」

 

直毘人はニヤリと笑みを浮かべ、拳を振り上げた。

 

バチッッ!!

 

倒れ伏す影。

土煙に包まれ、顔は見えない。

風が吹き、煙が晴れた其処にいたのは……

 

「俺の勝ちや、パパ」

 

直哉だった。




直哉の縛り。
・連続で発動できる代わりに、攻撃には2回に一回しか出来ない。
・4回発動すると4回目以降の途中、一度だけ任意のタイミングでフリーズできる。
・攻撃をするならば、とある技だけを使う。
・以上の条件以外の行動をしたならば、3秒間強制的にフリーズする。これは解除できない。


とある技、ですが。
落花の情が「触れたものを自動で呪力で弾く呪力プログラム」ならば、「触れたもののエネルギーを吸収し、それを使う技術」と言えるでしょう。

ちなみに、あるゲームのある武技を参考にしています。
知っている方は友達になりましょう。


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辿り着いた答え

私の中で、直哉くんは裏の主人公なんですよ。
狼さんは本作の主人公であり、SEKIROでの主人公。
で、呪術の主人公はと言うと、直哉くんなんですね。
……本作内での話ですよ?

それはそうと、携帯がないのは厄介ですね。
あ、詳細は前回の前書きに書いてるんで、是非助けていただけないでしょうか?


直毘人の確実に入ったと思われた攻撃。

フリーズしていたとは言え、呪力を込めた全力に近いそれを直哉は軽傷で収めた。

そして直毘人は何故か、()()()()()()()()

 

「起きてや〜」

 

その絡繰を直哉は説明したくてたまらない。

直毘人を揺り動かし、気絶から醒まさせた。

 

「……はっ!儂は……負けたのか」

 

「おはよ、パパ。俺の完勝やで!」

 

「……フフッ、フハハ、フハハハハッ!どんなカラクリだ!?」

 

直毘人は自分が何で負けたか分かっていなかった。

ただ、自分が攻撃を与えた直後、何らかの衝撃を受けたことは覚えている。

 

「俺のたどり着いた答え、それは……」

 

 

【秘伝・破魔鏡】

 

 

御三家に伝わる秘伝・落花の情を参考に、独自に編み出した技。

自らに触れる()()()()()の70%を吸収し、自分のモノとする。

それは相手のものでもなく、()()()()()()()()となる。

 

例を言おう。

直哉に蒼が飛んできた。

威力を100とする。

直哉は30のダメージを受け、70の分の呪力を獲得し()()()()()()()として纏う。

それを吸収して回復するのも良し、それをそのまま攻撃に転じるのも良し。

呪力を足して更に強化することも出来る。

これは物理的なものにも使え、斬撃の威力を7割防ぎ、その衝撃を足に纏わせ一時的な推進力としても使えたり。

 

纏めると、7割分のシールドを用いたカウンター技。出力は調節でき、回復にも使えると言う結構な便利技だ。

 

 

「……っちゅう訳。この先はこれをもっと極めて、10割カット……は無理でも、9割は行きたいなぁ」

 

「……直哉」

 

「ん?なに?」

 

「お前……やっぱり天才だな!」

 

「せやろ!?」

 

二人して大笑いする。

 

「だけどなあ、これは狼クンのお陰やで」

 

「ほう?それは……」

 

「狼クンは俺の攻撃を技術のみで弾いてみせた。俺はそれを呪術に落とし込んだだけ」

 

ホンマ凄いわぁ、と直哉は空を見上げる。

その頭を直毘人はワシワシと撫でた。

 

「お前も十分凄い。確実に次期当主はお前だな!」

 

「せやろか?もしかしたら十種持ち出るかもしれんで?」

 

「そしたらどうする?」

 

「正直俺は当主にあんま興味ない。やけどな、パパ。一つ決めた事があんねん」

 

「なんだ?」

 

「2年後……」

 

「俺も高専に行くわ」

 

その顔には、満面の笑みが浮かんでいた。

 

 

 


 

 

 

さて、時は進み3月末。

中学の卒業式を終え、明日狼は葦名へと旅立とうとしていた。

一日中同級生と遊んだので、少し疲れは残っているがまだ全然余裕である。

 

 

余談だが、別に狼に友達が居なかったと言うわけではない。

狼は基本物静かであり、且つ優秀である。

運動面ではとりわけ、そして学業面でも優秀だった。

文系科目は苦手だ。

現代人の思考はすこし違和感があるし、戦国時代だけが得意と言うのは難点だろう。

……古文漢文は圧倒的に得意だが。

 

話を戻そう。

言わば高嶺の花と化していた狼に近寄ってくる者は居なかった。

しかし、同じ様に優秀な男子や、狼から見れば優しすぎる女子。

彼らは狼によく喋りかけてくれた。

大分達観した狼でさえ嬉しかったのだ、彼らの善人さが分かると言うものである。

しかし、別れはいつか訪れる。

狼は高専に、優秀な彼は他県の進学校に、彼女は関西に引っ越す。

狼は久しく感じていなかった寂しさを背負い、笑顔で彼らを送り出した。

 

 

(……柄にもない……いや、それで良い)

 

彼らが幸せに生きる為にも、為すべきことを為す。

新たに決意した狼だった。

 

 

 

 

翌日、狼は早朝から屋敷の門前にいた。

 

「行って参ります」

 

「突然どうしたの、とは言わないさ。何か大事な事が有るんだろうね」

 

まだ夜も明けていないのに透は態々見送りに来てくれた。

 

「……申し訳ありませぬ」

 

「良いよ良いよ。まあ、楽しんでらっしゃい」

 

狼は透に見送られ、駅に向かって歩いて行く。

 

「……()()()()()()()()()()()

 

 

 

早速電車に乗り福島に向かおう。

今日は向こうにある薄井家の屋敷……もとい空き家を目指さなくてはならない。

別に野宿でも全然良いが、現代日本ではあまり良くない。

 

新幹線に乗り、窓から外を眺めたり駅弁を食べたりして数時間。

福島に着いた。

 

本当に来たのだな、と思うと共に、気持ちを引き締める。

葦名にたどり着けるだろうか。

 

(……行くか)

 

 

 

 

少し小話をしよう。

 

葦名の国。

我々の世界では、福島の上あたりに蘆名氏という戦国大名があった。

相模、会津蘆名氏として栄えた蘆名家の発端は、平安末期の三浦義継まで遡る。

 

今回は福島の会津蘆名氏について。

蘆名盛氏の代に最盛期を迎えるも、彼が没した後より蘆名家の衰退が始まる。

家中の統制に苦労し、後継者も次々に病死や暗殺されてしまう。

最終的に奥州統一を目指す伊達政宗に滅ばされ、逃げ延び生きながらえるも、またもや後継者の相次ぐ逝去により、家系は断絶した。

 

 

ではSEKIROではどうだろうか。

葦名の国は滅びてしまったが、それは伊達家ではなく内府によって。

尚且つ内府の兵の装備から、恐らく豊臣公の時代だろう。

有名な大名では、北条が最後の方まで生き残っていた。

本作ではその後に滅びたとさせてもらう。

 

さて、葦名の特色といえばその環境である。

水と深い関わりを持ち、峻険な山脈に各地が阻まれた厳しい山国である。

勿論実際にその様な土地はない。

しかし、本作では実際に葦名は存在する。

 

さあ、此処で一つ疑問に思ったことはないだろうか。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

と言う事である。

内府に消されたとは言え、呪術界までにも情報が残っていないのは可笑しい。

影の神眼でも見つける事は容易ではなかった。

さてはて、どう言う事やら……

 

 

 

 

『恐らく、葦名は巨大な領域と化しているんだと思う』

 

は数年間葦名について調べ続け、一つの結論に至った。

曰く、葦名に流れる源の水を利用した巨大な領域だと。

また、それを為したのは九郎様ではないかとも。

 

『内府は別にご先祖様の事を知らなかった筈。あれ程孤影衆がいたのに攫いに動いてないからね。

もしくは余裕がなかった。

ま、それは置いといて』

 

大切なのはどう言う領域と化したのかだ。

 

『竜胤だけでなく変若水や仙峯寺、葦名の底や菩薩谷など。

まあ、色々利用されてもおかしくないから隠そうとしたんだろうね。と言う事で、あの領域は絶対的に隔絶されている。

言わば一つの世界とも言えるかもね』

 

葦名の存在を隠す。

 

『どういった方法かは分からないけど、恐らく葦名の土地を()()()()()離れさせた。つまり僕達の時空には無いものだとも言える』

 

では、どうやって入るのか。

物理的に、そして呪術的に切断させられている。

 

『時空を渡る為には、幾つか方法がある。今回は慣れている方法を使うよ』

 

それは……

 

 

 

 

時間は変わり夜。

空き家に辿り着いた狼は、もう遅いのにも関わらずフル装備だ。

そして術式を使い呼び出したのは、鬼仏

 

『簡単な事だよ。飛べばいい』

 

思わずそれを聞いた時は、は?と声を出してしまった。

試したことは無かったものの、流石に出来るとは思えない。

まあ、一応試してみよう。

 

 

鬼仏を前に腰を下ろし、坐禅を組む。

 

 

鬼仏見出

 

 

青い炎を前に目を閉じる。

数秒後だろうか。

頬に感じる風に目を開く。

 

 

薄暗い天井。

山の様に彫られた仏像。

そして置かれた鉋と金槌。

 

そこは確かに、懐かしき荒れ寺だった。




第一章完!

という事で答えは、天穂のサクナヒメの武技、破魔鏡でした〜!
本来はダメージを完全に防ぎ、カウンターで術系の追尾弾を発射。
そして25%の体力を回復します。
技ゲージの使用量が少し多いんで多用は出来ないですね。
ちなみに一番好きな武技は飛燕です。

《font:520》《color:#baa014》
鬼仏のフォントです。
なんか他に和風のフォントあったら教えてください。
全部見れねえ。

さて、葦名についてですが、だいたい本文通りです。
簡単に言うと、九郎様が葦名を切り離して物理的に遮断したと。
まあ利用されない様にとか、葦名を守りたかった弦ちゃんの意を汲んでですかね。

さて狼さんですが、鬼仏というチートじみた物品を使って葦名に辿り着きました。
どうなるんでしょうね……?


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葦名追憶の旅
葦名同窓会


今回少し文体を変えました。
狼さんの一人称を少し入れたり、……を・・・に変えたり。
もし嫌であれば感想でお聞かせ下さい。


最初に少しフォントまとめ。

 

49番 祝詞とか

薄井狼牙

 

348番 おどろおどろしいやつ

薄井狼牙

 

520番 技、忍具など

薄井狼牙

 

本編です↓


 

 

「・・・」

 

本当に着いてしまった。

確かに本物だろう。

心中ではない筈。

 

かつての如く床に横たえられた体を起こし、外に出る。

其処に広がるのは、()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

雪が降り積もり、遠くには葦名城が見える。

そして・・・

 

「其処許、懐かしいな。息災だったか」

 

「・・・お前は」

 

少し嬉しそうな様子で話しかけてきたのは、死なず半兵衛だった。

 

 

 

 

「・・・どうして此処に?」

 

「ふむ、どうしたものか・・・ならばまずは我らについて語ろう」

 

葦名は滅び、兵は例外なく殺された。

装備が同じであれば内府の兵を余裕で殺せる葦名の兵だ。

内府の選択も理解できる。

民草は内府の統治に従わせる為、強制的に葦名から連れ出し一生を送らせた。

 

そして葦名は人一人いない無人の土地となった。

さて、九郎は生前葦名を訪れ、様々なことをした。

薄井家の為の呪具だったり、墓参りだったり。

そして最後に、とある大きな事を為した。

 

「それは・・・?」

 

「葦名の黄泉返り、であるよ」

 

曰く、何らかの力を使い、葦名を常人が立ち入る事が出来ない領域とした。

更に、()()()()()()()()()()()()()()

と言っても、魂が強固に残っていた強者ぐらいしか返らなかったが。

 

「・・・」

 

その言葉に、狼の眉間の皺は深くなる。

 

「其処許がどう思うか分からぬが、御子様が実行したのは確か」

 

「・・・何故だ」

 

「・・・御子様自身が伝えてくださったのよ」

 

葦名と言う土地の価値。

それは狼が思うよりもずっと高い。

それを守る為に強者を呼び覚ました。

侵害されるのを防ぐ為には十分あり得る手段だろう。

だが、少し狼は複雑だった。

 

「・・・この事を知っているのは」

 

「一心様や弦一郎様ぐらいではないか?」

 

「・・・一心様が」

 

一心様はともかくとして、弦一郎殿・・・

やはりとは思っていたが、黄泉返るとは・・・

少し恐ろしいまである。

 

「葦名城にいらっしゃる。一度行ってみると良い」

 

「承知」

 

 

 

 

その後穴山や小太郎、黒傘とも再会し、世間話を交わす。

仏師殿が居ない事は少し残念だったが、そろそろ城に向かうとしよう。

 

再び鬼仏に対座し、葦名城に向かった。

 

 

鬼仏・天守望楼

 

 

目を開ける。

其処は何度も強敵と戦った天守閣。

もはや馴染み深いまである。

 

さて、葦名城には飛ぶ事が出来たようだ。

何故か仙峯寺や水生村には飛ぶ事が出来ず、城下と葦名城にしか行けない。

 

(後々調べるか・・・)

 

ふと上階に気配を感じる。

一心様ではないようだ。

気配が違う。

しかし、何処か覚えがある様な・・・

 

上にあるのは御子の間。

階段を静かに駆け上り、刀に手を添える。

本棚の前に人影。

 

気配を極限まで薄くし、近づく。

もし敵ではなかった時を考えれば、月隠は少々不適切だ。

 

忍殺出来る少し手前の位置まで近づいた所で、目の前の人物は気づいたのか振り返る。

 

「おい、其処の・・・貴様か」

 

膝を突き、頭を下げる。

今はもう敵ではないのだ。

 

「・・・弦一郎殿」

 

「久しいな、御子の忍び」

 

変若水の澱を手に入れる前の、葦名弦一郎だった。

目は黒く、理性をたたえた輝きを持っている。

 

「・・・御子より聞いたぞ。貴様、無事に目的を達成した様だな」

 

「・・・葦名は」

 

「芳しくない。御子により蘇ったこの国は、再び斜陽にある。腹立たしいものだ」

 

「変若水は・・・」

 

「得ることも叶わん。自由な土地は葦名城と城下のみ。仙峯寺はおろか、平田屋敷にも行けんわ」

 

「・・・何者だ?」

 

「知らん。ただ、敵の多くが赤目、しかし炎が効かん。どんな絡繰だ?」

 

「・・・一心様は」

 

「水手曲輪だ。既に老人だと言うのに・・・いや、今は異なるか」

 

「・・・?」

 

「行ってみれば分かる。ではな、俺はもう少し調べる事がある」

 

そう言って弦一郎殿は本棚に向き直った。

恐らく彼は、もしもの為に城に残されている。

本人は自ら葦名を取り戻したいに違いない。

だからこそ、今は必死に調べる事で抑えているのだろう。

 

 

狼は無言で下がり、城を出て向かう。

左手は生身である為、地面を走るしかない。

少し進めば、嘗てよりも精強に見える兵が巡回していた。

そのまま行くのは少し拙い。

 

狼は物陰に隠れ、坐禅を組む。

灯る色は空の様。

 

【御霊降ろし】

月隠

 

 

敵対をするつもりは無いが、黙って殺されるつもりも無い。

隠れて進むとしよう。

 

 

たどり着いたのはススキの野原。

何度も何度も死んで強敵を討ち破り、不死を断った因縁の場所。

少し進むと・・・

 

ザンッ!ゾンッ!

 

奥から飛んでくる2連の衝撃波。

直様刀を抜き、弾く。

 

ギィインッ!ガァィインッ!

 

弾いたものの二の太刀で吹っ飛ばされ、刀を地面に突き立て転倒を防ぐ。

こんな事が出来るのは一人しかいない。

 

「おう、隻狼よ!久方ぶりじゃな!」

 

「一心様・・・」

 

かつて自分が斬った、全盛期の剣聖がそこにいた。

 

 

 

 

「出会い頭に竜閃とは・・・」

 

「お主なら弾けるじゃろう?」

 

「・・・はっ」

 

「カカカッ、まあ良い。隻狼よ、戻ろうぞ」

 

一心と狼は歩きながら情報を交換する。

 

「・・・残兵は?」

 

「全て斬ったわ。水手曲輪に生じるモノ共は少し柔すぎる」

 

「生じる・・・」

 

「原理は知らぬが、何処となく怨嗟に似ておる。怨みや怒り、悲しみの権化の様じゃった。修羅に比べたら矮小にも程があるがな」

 

(呪霊か・・・?いや、葦名は隔絶された領域。此処に呪霊は出ない筈・・・)

 

呪霊が生じる原因となる悪感情。

葦名では怨嗟として人々に降り積もる。

呪霊は滅多に生じることはない。

 

首無しや七面武者。

彼らを呪霊と呼ぶのは少し抵抗がある。

破戒僧や獅子猿。

あれらは蟲憑きだ。生身の肉体を持っている。

 

葦名由来ではないだろう。

 

 

さて、少し進んでいると、とあるものが目に入った。

 

「あれは・・・」

 

「行ってみると良い。儂は此処で待っておる」

 

 

「これは・・・墓か」

 

石が積み重ねられたものではなく、大きい石が一つ立っている。

側には一本の刀。

誰のものかなど考えなくても分かる。

狼は無言で膝をつき、数秒頭を下げる。

 

そしてその刀を持って立ち上がり、一心の元に戻った。

 

「もう良いのか?」

 

「・・・はっ」

 

 

 

 

二人が去ったススキの野原。

静かに風が吹き、その風景は先程までの戦いの空気を感じられない程。

その片隅にある墓。

先程まで置いていた刀は無くなり、何処か寂しくなったが、これが本来あるべき姿なのだろう。

 

墓石にはこう刻まれていた。

 

『我が生涯の忍び、此処に眠る』

 

 

 


 

 

 

一振りの刀は持つべき主人の元へ戻り、再び楔となった。

成長した一匹の逸れ狼は、唯一の主から贈り物を受け取り、再び戦火に身を投じる事になるだろう。

 

その結末は、誰にも分からない。

 

 

 

第二章 葦名編

続く・・・




第二章スタート!
という訳で此処までお付き合い頂き有難う御座います。
此処からは高専・・・の前にちょこっと葦名。
久しぶりの再会や、新しい出会い。
狼さんの無口が一層際立ちますね。
上層部には薄井家による痛い目を盛大に見てもらおうと思います。

ではまた後日、投稿をお楽しみに!


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七面武者

と言うことで葦名について。
原作でも色んな意見があった気もしますが、今は悪感情→呪力→呪霊という事にしてて下さい。
さて、葦名では悪感情→呪力が、悪感情→怨嗟だった。
これは葦名の特色の所為です。
源の水含め、あそこは従来の何倍もソッチ方面に近かったんです。
仙峯寺や落ち谷が良い例ですね。

で、葦名の人々はそれらに日常的に触れていると。
そのせいで、彼らの恨みは全て怨嗟に成り果て、仏師殿や狼さんに積もっていった。

まあ、呪霊が出てくる訳ない。
全部怨嗟だもの。
しかし、狼さんの不死断ちや仏師殿の介錯によって受け皿が消えた。
じゃあどうなる?
呪霊出てくるよね〜と言うわけ。


数日後・・・なのかは分からない。

確かに時間は過ぎている様に感じるが、此処での時間は曖昧だ。

一心様や弦一郎殿もどれだけ経ったか覚えていないと言っている。

 

「確かに時は過ぎた・・・しかし、昼夜が巡り年が変わろうとも体は老いる事はない。少々不可思議じゃな」

 

現実ではもう数百年も過ぎたが、彼等の体感ではまだ百年も経っていないとの事。

時空が歪んでいる・・・?

 

(・・・影に任せるか)

 

狼は早々に考えるのを諦めた。

 

 

それは兎も角、弦一郎より任務が下った。

 

「仙峯寺の調査だ。あの寺から音沙汰もないのはいつもだが、少々怪しい」

 

「・・・承知」

 

 

 

 

金剛山仙峯寺。

峻険な山地に建つ、由緒正しき寺院。

葦名の中でも取り分け景色が良く、狼も初めて来た時には感動したものだ。

 

葦名においての仏教の礎であり、修験者が独自の生活圏を築いている。

彼らは日々修行に邁進し、功徳を積むが為に仙峯寺拳法と言う流派を築いた。

 

しかし、彼等は死なずに魅入られた。

蟲を体に憑かせて不死を追い求め、堕落した。

更に変若水を使い、人体実験を繰り返し、竜胤を産み出そうとした。

 

仙峯寺ほど死なずに狂った者は居ないだろう。

彼らは仏道を外れ、畜生に堕ちた。

 

 

さてそんな仙峯寺に、狼は行かなくてはならない。

金剛山への行き方は3つ。

本城から捨て牢に入るか、水手曲輪から捨て牢に合流するか。

そして落ち谷から鉤縄で飛ぶ。

 

今の狼生身故、たとえ呪力で強化したとしても届かない。

ならば捨て牢を経由するしかないだろう。

 

本城から捨て牢への入り口は防がれている。

どんなモノが攻め入って来るか分からないからだ。

という訳で、狼は水手曲輪に向かった。

 

 

 

 

昨日一心が全てを斬った事により、敵は一体もいない。

何の滞りもなく入り口に辿り着いた。

 

全ての始まり。

主を奪われ、失意の底にいた狼が三年間眠っていた場所。

再び戻って見れば、孤影衆が見物に来ていた。

その時は流石に愕然としたものだ。

敵同士故斬ったが、中々強敵だった。

足技が強く、菩薩脚を組み合わせた強力な蹴りは参考に値する。

 

 

さて、そんな事を思い出しながら捨て牢へと入って行く狼。

狭い道を抜けてみれば、少し開けた広場に出る。

 

嘗ては七面武者と言う強敵が居た。

国を獲られた葦名衆の怨霊の集合体であり、刀が全く効かない。

そして怖気を持つ攻撃をしてくる為、何度も死んでしまった。

あの時は鳳凰の紫紺傘があったから良かったものの、今遭遇してしまえば危険な戦いになるだろう。

そう、あの時もこの様に紫の光が・・・

 

 

広場にいるのは七面武者。

それも嘗てより大きい個体だ。

 

「・・・」

 

目が合った。

逃げる事敵わず。

覚悟を決め、狼は楔丸を抜いた。

 

 

強敵 『七面武者』

 

 

 

 

楔丸。

狼が九郎の忍びになった時、賜った刀。

他の刀と違う所は大量にあるが、その中でも特に素晴らしい利点。

それは、ただただ頑丈である事だ。

 

炎、雷、瑠璃の炎、血、毒。

何を付与しても傷一つ付かず、

恐ろしい程の怪力(獅子猿)や、剣聖(一心)の本気の一太刀を喰らっても折れる気配は一切無い。

 

狼の一番の牙であり、無くてはならないもの。

 

さて、そんな楔丸の唯一の欠点。

余り斬れない。

この刀は一心のものの様な名刀ではなく、折れない代わりに斬れ味を捨てた、言わばなまくらだ。

木の盾や、赤備えの重吉などの鎧にはイマイチ通らない。

仕込み斧や槍で引き剥がす方が普通に早い。

 

 

それはさておき(閑話休題)

七面武者には普通の斬撃は効かない。

では、どうすればいいのか。

 

一つ、纏い斬り。

火吹き筒の最終進化である、とある忍具による纏い斬りは、浄化の炎を纏わせる。

 

そしてもう一つ。

空中より取り出した、紅桜色の吹雪。

 

【神ふぶき】

 

怨霊払いの加護を持った紙ふぶき

紙を抄くというが、源の水で行うそれは、神を掬うことでもある

神宿りの紙ふぶきは、浴びた者に加護を降ろす

怨霊の類にも、攻撃が通じるようになる

 

刀は鮮やかに燃える。

 

 

祓い

 

 

呪力にはまだまだ余裕がある。

神ふぶきぐらいならば何十回も使えるだろう。

使う隙がある場合に限るが。

 

 

 

 

一歩。

力強い踏み込みと共に、放たれるは。

 

 

【奥義・大忍び刺し】

 

 

大忍びが編み出した流派技

これは、忍び技の奥義である

遠距離から届くから鋭い突きを繰り出し、刺さった敵を踏み台にして高く飛びあがる

敵を穿ち、再び舞い上がる様は、梟の狩りの如し

 

例え防がれようと、遠距離を詰める事には一番の技だ。

 

ガンッ

 

杖で防がれるが、そのまま斬りかかる。

怨霊系以外もだが、完璧に弾かない限り、神ふぶきは相手を蝕む。

ひたすら攻めるのみ・・・!

 

ガンッ、ギィンッ、ガインッ!

 

七面武者の防ぎと狼の弾き。

弾きは一層音が響く。

敵の得物の芯を捉えているからだ。

 

斬り結び続け、順調に体幹を削っていく。

しかし。

 

(!!)

 

七面武者は後ろに飛び上がり、剣戟は途切れる。

追い打ちをかける寸前、杖を掲げられた。

 

魂よ

 

記憶にある物より明らかに大きい、紫の人魂が何発も放たれた。

後ろに下がりつつ避けるが、玉は追尾してくる。

三発程喰らった所で怖気が体を侵蝕しきり、記憶は途切れた。

 

 

しかし。

 

 

回生

 

 

狼は死なない。

静かに起き上がり、後ろを向いていた七面武者の背中を刺し貫いた。

致命的な一撃。

喜ぶ間も無く、七面武者は姿を消した。

 

それと同時に広場全面を先程より大きい人魂が漂う。

ゆっくりと追尾するソレを避けながら、いきなり飛んでくる光束を躱す。

 

十数秒後、広場の反対側に現れた七面武者は杖を掲げる。

漂っていた人魂は消え、杖の先端は紫に光り輝く。

 

一拍。

 

人二人余裕で飲み込める程の光束が放たれた。

 

(・・・ッ!)

 

横に跳んで避ける・・が、先程と同じぐらいの速さで追ってくる。

何とか逃げ切り接近するが、再びの光束。

避ける間もなく、怖気に飲まれて息絶えた。

 

再び回生。

今度は斜めに全速力で走り、飛び上がった七面武者を空中忍殺。

またもや消え失せる姿。

 

漂う人魂、横切る光束。

先程と同じ。

ひたすら避け続ける狼だが、ふと違和感を感じた。

 

様子が可笑しい。

地面に杖を突き立て、微動だにしていない。

普段なら斬りかかるが、妙なものを感じ、足を止めた。

 

いや、()()()()()()()

 

死者よ

 

漂っていた人魂が消える。

そして、杖の先に灯る。

狼は動き出したが、もう遅い。

まだまだ人魂の奔流は止まらない。

更に紫は濃くなり、広場一面を埋め尽くす。

一瞬、光が消えた。

 

 

 

 

思考より先に、跳ぶ。

その瞬間、広場全域を紫紺の閃光が包み込んだ。

 

「・・・ッ!!」

 

かくも恐ろしく、美しい紫。

一瞬遅れれば、たちまち呑まれてしまう。

空中で身を翻し、空いた隙間に着地した。

 

 

受け身を取れず、数秒遅れて起き上がった狼。

目線を上げた瞬間、思わず固まった。

広場に一面に漂う無数の人魂が、七面武者が持つ杖に引き寄せられていた。

先端に収束する紫の光は、やがてどんどんと濃くなっていく。

 

一瞬の静寂。

 

生者に報いを

 

視界一面を、怨霊の奔流が埋め尽くした。




第三形態はオリジナルです。
やっぱりああ言う攻撃を使うならこうでなくっちゃ!

一つ目
人魂を呼び出し、そっちに気を惹きつける。
地面に杖(?)を突き立て力を溜め、一気に放出。
一秒足らずで床一面を怨霊の奔流で埋め尽くす。

2つ目
一つ目は前座。
床一面を埋め尽くす人魂を直接凝縮。
杖の先端に灯し、ひたすら力を込める。
そして放った人魂は、広場全域を埋め尽くす程の範囲で爆発する。

言わば、下段と全体攻撃の合わせ技ですね。
床一面を一掃して、生み出された怨霊を収束&発散。
七面武者を出すって決めた時には思いついてました。

対策はないです。
下段は狼さんみたいにジャンプ。全体は・・・奔流を吹き飛ばせば出来るんじゃないですか?
狼さんには無理ですけど、一心様ならやりそう。

傘?
流石に全方位360°からの判定は防げないよね・・・?(震え)


ちなみに七面武者だけでなく、葦名元来のもの(瑠璃の炎、神ふぶき、怨霊攻撃、怨嗟)は、厳密には呪力ではないです。
違うものですが、“狼さんにとっての”効力が同じなだけです。
ここテスト出ます。


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仙峯寺

オリジナル攻撃考えるの楽しい。
と言う事で葦名探索編の続きです。

狼さんですが、あの後無事に七面武者に勝ちましたよ。
これからももっと葦名を描いて行こうと思ってるんで、楽しみにしてて下さい。
しかし攻略サイト便利だなぁ・・・


五度死に、漸く忍殺を決めた狼は、少しゆっくり歩いていた。

 

しかし、今回の個体は恐ろしかった。

人魂による弾幕はかつての二倍はあり、単純な剣撃も重い。

光束の移動も速く、全速力で走らなければ追いつかれていた。

忍殺を3回も狙うのは骨が折れる。

 

そして最後の全体攻撃。

あれは流石に避けれない。

結局回生して無理矢理斬り倒した。

 

想定より大分時間がかかってしまった。

だが悪い事ばかりではない。

久しぶりの死地を経験した事で、狼は葦名の空気を思い出した。

 

(少し気が抜けていた・・・)

 

葦名は過酷な土地。

生半可な思考では忽ち殺されるだろう。

竜胤があるとは言え、いつかは蘇れなくなるかもしれない。

 

此処は死地だ。決して安全な馴染みのある場所ではない。

気を引き締め、狼は走り出した。

 

 

 

 

鬼仏見出

 

 

捨て牢を抜けた狼は無事に金剛山に辿り着き、鬼仏で休息を取っていた。

何故かは分からないが、鬼仏での休息の効果は途轍もなく、体は万全の状態になる。

更に敵から見つかる事もなく、一度対座した鬼仏には飛ぶ事ができる。

これが無ければ探索は何倍も苦労していた事だろう。

 

此処で一つ気づいた事が。

昔一度対座した筈の鬼仏が登録から外れていた。

再び自分で付けていかなくてはならない。

少々面倒だが、必要な事だ。

 

 

さて、今回の目的は仙峯寺の内部調査、および()()()()()()()()である。

見渡せば、いつもの様に僧侶が巡回している。

近づいて見ると、普通に襲いかかってきた。

 

(月隠を使っておくべきだった・・・)

 

何処か面倒な顔をして、狼は刀を抜き放った。

 

 

 

 

数分後、敵を一掃し、一つ目のお堂を抜けた狼は壊れた橋の前で立ち止まっていた。

 

(先程の僧侶・・・)

 

相変わらず目についた瞬間襲いかかってきたが、何処か様子がおかしい。

かつての様な理性(?)を感じない。

更に赤目であった。

 

仙峯寺拳法も形が崩れていて、威力で無理矢理殺しにかかってきた。

彼らは言わば下っ端。

純粋に仏敵を討ち倒さんとする僧侶でしかない。

ならば、仏道を体現する拳法が崩れているのは何故だろうか。

 

「・・・力に呑まれたか」

 

別に彼らの結末に怒りや悲しみを覚えているわけではない。

ただ、憐れだった。

 

 

さて橋だが、直っていた。

 

「・・・何故?」

 

確か仙峯寺は、長年の間に老朽化した建物を一切修理しなかった。

先程の建物がいい例である。

ひたすら仏道を邁進したり、死なずに取り憑かれたりした狂人の集まりだ。

更に先程の僧侶は橋の手前からこちらに来ない。

修理なぞ出来るはずもないのだ。

 

だが行かざるを得ない。

恐る恐る橋を渡りきり、通天橋の方に一度向かう。

 

 

鬼仏見出

 

 

鬼仏・境内でひとまず休息。

傷ついた体を癒し、瓢箪を回復させる。

さて、途中で気づいた事だが、此方には敵が居ない。

かろうじてまともな(とも言えない)僧侶は逃げ出したのか。

出来れば遭遇したくないものだ。

 

(それにしても・・・)

 

こうやって鬼仏に対座していると、どうしても出てくる疑問。

 

 

『何故敵が復活するのか?』

 

 

違和感どころではない。

まだ怨霊系なら分からなくもないが、実体を持つ兵や僧侶が復活するのは明らかにおかしい。

強敵だってそうだ。

腕を斬り飛ばしても、一度死んで鬼仏から戻ってきてみれば復活している。

 

「・・・分からぬ」

 

疑問にこそ思うが分からないので、結局また影に任せるしかない狼だった。

 

 

 

 

休息も終わり、本堂へと向かう狼。

全く敵がいない。

屋根に登り、跳び、走り、建物の中を覗き、進み、覗き・・・ッ!

 

いる。

 

異様に低く這いつくばる姿勢。

飛び出た背骨の様な鋼の鉤爪。

顔は包帯に包まれ、両手には一際大きい鉤爪。

 

ソレは奇声を上げ、跳びかかってきた。

 

 

強敵 『長手の百足 仙雲』

 

 

 

 

ギャイン!

 

体重を乗せた強烈な斬りかかりを間一髪で弾く。

仙雲は後ろに飛び退き、体勢を立て直す。

 

その隙に狼は術式を発動した。

 

 

【御霊降ろし】

剛幹

 

 

やけに出番が多い剛幹である。

昔はそれこそ百足衆にしか使わなかったモノだが、最近は体幹を削る攻撃が多い。

両者共に準備を終えた今、”アレ“が始まる。

 

ギィンギィンギィンギィンッ!ギィンギィンギィンギィンギィンッ!ギャィインッ!!

 

恐ろしき十連攻撃である。

五連目と十連目は少しずらしを入れてくる為、少しでもズレると一気に瓦解する。

何度も何度も斬り刻まれたものだ。

特に苦難厄憑では恐ろしい程早く殺された。

弾きでないとダメージを喰らう連撃には辟易とする。

 

だがその経験のお陰で、今は完璧に弾ける。

3回ほど繰り返し、1回目の忍殺。

そして再びの連撃。

 

(1234、56・・・)

 

七面武者と違い、意外と余裕・・・と思っていたのも束の間。

 

(・・・89、10・・・!?)

 

十五連に増えた。

次に備えようと一瞬弾きをやめた狼を、強烈な斬撃が襲う。

しっかり五発で削り切られ、息絶えた。

 

回生。

 

今度こそはと十五連攻撃を弾き切り、これで勝てる・・・と言うのは儚い希望だった。

 

(101112131415、1617・・・!?!!)

 

まさかの二十二連攻撃。

必死に弾き抜き、仙雲の体幹が崩れた瞬間、楔丸を突き上げ、顎から頭までを刺し貫いた。

 

 

忍殺(SHINOBI EXECUTION)

 

 

 

 

「・・・」

 

度重なる試練に眉間の皺が一層濃くなった狼だが、変わらず山道を歩き続ける。

そしてやはりだが、建物が全て修復されていた。

長い年月を経て、しっかりと整備されているかの様に完璧な状態。

 

違和感が積もる中、階段を登り本堂に辿り着いた。

 

 

鬼仏見出

 

 

今日だけで三度目の対座。

順調に進んでいる様で少し安心する。

再び体力を回復し、中に進む。

 

坐しているのは大きな仏像。

現代日本にて葦名の事を調べていた狼だからこそ分かるが、仙峯寺の仏像は一部異なった容姿をしている。

京都や奈良の寺院に置かれている仏像と、葦名のものは少し違うのだ。

中々興味深いが、今は残念ながら調査する事ができない。

目前に置かれている鈴を手に取り、鳴らした。

 

 

【幻廊の鈴】

 

古びた銅で作られた五鈷鈴

これを鳴らせば、幻廊にいる猿たちも狼も、最初の状態に戻る

ただし、屏風の中に捕まえた猿は、鈴を鳴らしても、逃げ出すことはない




今回は、と言うか葦名編あんまり呪術廻戦要素出ないです。
その代わり他所様の考察+私の設定を入れていきます。
出来るだけパクリにならない様に気をつけますが、ちょっとは許して下さいね。

一番好きなステージ?源の宮。
一番嫌いなステージ?葦名の底。

本作の狼さんの趣味は宗教系ですね。
葦名とか言う土地で育ったなら、少なからず興味を持っててもおかしくない。
誰だってそーなる、私もそーなる。
と言う事で、オリジナル設定どんどん入れていくよ!


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葦名の歴史①

まず最初に謝罪をば。

今回の内容、ほぼほぼシード兄貴のサイトから取ってきたものです!!
パクってすみませんでしたぁぁ!

とは言え、一度全部読み込んで咀嚼して自分の言葉で書いたものなので、許してください。
書きたい、と言うか好きな設定が全てあのサイトに書かれてるんですよ!
シード兄貴には謝罪すると同時に、感謝します。


目を開けば、其処は幻廊だった。

 

それにしても、相変わらず不思議な空間だ。

白い霧に包まれ、落ちれば地面に着く前に息絶える。

かといって毒でもない。

やはり、此処は今の葦名と同じく隔絶された場所なのだろうか。

 

ゆっくりと歩いていると、建物が組み替えられ、奥の院へと一本で通じる道ができた。

歓迎はされている様である。

 

そのまま進み、対座する。

 

 

鬼仏見出

 

 

鬼仏・奥の院。

そのまま進み、滝の側にある扉を開くと、見覚えのある人物が。

 

「再び会えた事を喜ばしく思います。御子の忍び」

 

そう言って微笑むのは、かつてと何ら変わらない変若の御子だ。

 

「・・・息災か」

 

「はい。貴方は?」

 

「ああ」

 

「・・・不死断ちを成し遂げられたのですね。竜胤の御子が、教えて下さいました」

 

「・・・そうか」

 

「ええ。今日は何用で?」

 

「仙峯寺についてだ」

 

そう言うと、変若の御子は少し目を伏せ、語り始める。

 

「彼らは死なずへの探究を諦めず、赤目に手を出しました。それだけではなく、葦名全域に漂う竜胤の力を取り込もうとしました」

 

「・・・竜胤を」

 

「はい。大元には辿り着けていない様ですが、じきに至ってしまうでしょう」

 

(源の宮か・・・)

 

「御子の忍び、貴方にお願いがあります。どうか、彼らを止めて下さい」

 

「・・・ああ。元より、そのつもりであった」

 

その言葉を聞くと、変若の御子は安心した様でホッと息をつく。

 

「すみません。少々張り詰めていたもので。少し、休ませて下さい」

 

「ああ」

 

狼は無言で退き、扉を閉じる。

それと同時に、寝息が聞こえてきた。

 

 

奥の院の鬼仏に戻った狼は、目を閉じる。

意識はどんどん暗く。

心中へと、入っていった。

 

 

 

 

変わらず荒れ寺・・・かと思いきや、目覚めたのは葦名城最上階にある、御子の間。

かつての九郎様と同じく、影は其処に座っていた。

 

「やあ。どうだい、葦名は」

 

そう聞く影の顔はお世辞にも明るくは見えない。

 

「どうした?」

 

「いや、ちょっとね。葦名に来てから頭が痛いんだ。だけど大丈夫。もっと大事な事があるよね」

 

そう言って影は促す。

何でも分かっているな、と思いつつ、狼は問いかけた。

 

「・・・まずはこの葦名」

 

「そうだね・・・簡単に言うと、竜胤の御子の力による、完全領域。幻廊と少し似てる。

ご先祖様が亡くなる寸前に展開したモノだと聞いたから、命を使ったんだろうね。

それによって葦名は隔絶されたけど、全域に竜胤の御子の因子が漂う事になっちゃったんだと思う」

 

「・・・何故だ?」

 

「足りなかったんじゃないかな。竜胤の御子だったとは言え、既に体は一般人。

生死の瀬戸際だからこそ竜胤が一瞬呼び覚まされ、結界を築くに至った。

さっきちょっと調べたけど、不死斬りは両方ともご先祖様が回収してる。儀式を終えた後は、恐らく誰かが何処かに封印したんだと思う。

多分協力者の一人かも?」

 

「・・・何処に?」

 

「さあね。僕にはわからない。けど、葦名の何処かであることは確実だよ。葦名以外だったら僕が見つけてるし」

 

「・・・では次だ。仙峯寺の目的は?」

 

「うーん・・・結構長い話になるけど良いかい?」

 

「ああ」

 

「それじゃ、行くよ。これから話すのは、仙峯寺と葦名の長い歴史・・・」

 

 

 

 

まずは仙郷について話そうか。

 

そこは遥か昔から存在していた、葦名の神々が宿る仙郷。

時は縄文時代まで遡る。

天から落ちるのは、巨大な隕石。

源の宮には確かにその痕跡が残ってるよ。

 

さて、君も聞いた事があるだろう?

()()と言う金属は、金剛鉄の事なんだ。

 

【金剛屑】

 

白色に鈍く輝く金剛鉄の屑

金剛屑は、葦名の中でも、ひと際古い土地のみで採れる

古い土や岩は、神を寄せるとも言われる

その恩寵か、金剛鉄は実にしなやかで強い

 

元々いた神か、新しく来た神かは分からない。

だけど、隕鉄に引き寄せられ、源の宮や葦名に根付く様になったのは同じさ。

彼らが葦名土着の神々。

そしてその影響は生物にも及ばされる。

ぬしの白蛇然り、ぬしの色鯉然り。

そのまま土地神として、当時の人々はソレらを祀ったんだろうな。

 

 

さて、時は幾許か経ち、弥生時代。

西の方では卑弥呼が国を治めていた時ぐらいかな。

あいも変わらず隕石は神を引き寄せた。

だけど、それも終わる。

そう、桜竜の到来だ。

 

え?そんな昔なのって?

僕も驚いたさ。この術式は時として予想外の知識を齎してくる。

戦国少し前だと思ってたのにね。

 

話が逸れたね。

君も知ってると思うけど、桜竜は神なる竜。

当然葦名に居付いてた神、もとい()に太刀打ちできる訳は無かった。

無事に立ち退かせ、根付く。

由来は異なれど、神に長年憑かれていた岩。

桜竜が根付いた事をきっかけに、明確な神の岩へと変貌した。

あれだよ、神域に入る時にあった大きい石。

底から引き上げられたものがあそこまで運ばれたんだろう。

 

そして仙郷の民はそれを祀る事となった。

その時ぐらいかは分からないけど、白蛇や色鯉などの“ぬし”たちは中心から姿を消した。

白蛇は落ち谷へ、色鯉は仙郷の端へ。

神域からは水が流れ、()()()()()()()()()()()()

 

これが京の水、つまり変若水の秘密。

仙郷に流れる豊富な、そして清らかな水は神の力を大いに含んだものだったんだ。

そりゃあ不死にもなるよね。

人々は当然の如く水と竜を祀るようになったのさ。

 

 

 

 

「今日は此処まで。それにしても、すごい情報量だよ。纏められる人とかいたら、それこそ賢者だね」

 

「・・・」

 

「疲れた?」

 

「ああ。一度整理したい」

 

「そうだね。明日は葦名と源の宮の争いについてだよ」

 

其処で影は何かに気づいたかの様に狼に話しかける。

 

「あ、そうだ。五重塔に行ってみて。其処に行けば明日の事について多少分かるかもよ」

 

そして影はこう言った。

 

「これを参考にしてね。一心様は国取り戦の時、既に黒の不死斬りを持ってた

 

じゃあね〜、と言う影の言葉が耳に入り、そして再び、意識は途切れる。

 

 

 

 

狼は幻廊の外、本堂で目を覚ます。

そして立ち上がり、入り口へと向かって行った。

 

さて、狼が何処に向かっているかと言うと、仙峯寺にある五重塔である。

かつて仙峯寺拳法の書が置かれていた所であり、記憶が正しければ、求めていた証が見つかる筈。

 

十数分後、狼は五重塔にやってきていた。

人が全く来ない立地故、埃が積み重なっている。

そのまま進んだ所。

其処に座しているのは、《左手が焼け落ちている》不動明王像だ。

一般人が見れば「ああ、火事にでもあったのかな」と残念に思うだろう。

しかし、今の狼が持つ感情は・・・

 

 

 

 

さて、読書諸君の中には知っている人もいるかも知れないが、一つ説明しよう。

不動明王像と言えば、左手には羂索、右手には倶利伽羅剣を持っているのが普通だ。

ご存知の名前が出てきた事に驚いているかもしれないが、一回スルーしてくれ。

 

しかしこの不動明王像は右手には何も持たず、左手は焼け落ちている。

聡明な皆様方なら思い出せるだろう。

左手を燃やし、剣を握る後ろ姿を。

そう、修羅と堕ちた狼だ。

そしてもう一人、炎に焼かれ、左手を欠損した人物は?

仏師、いや怨嗟の鬼である。

 

黒の不死斬りだが、一心はその存在を知っている。

更に田村主膳との戦にもこの刀を持っていたのだ。

黒の不死斬りを手に入れた一心、左手が焼け落ちた仏師、そして左手に黒の不死斬りをもつ狼。

この3つが示すこととは?

 

 

 

 

「一心様・・・いや仏師殿は黒の不死斬りを此処から奪った・・・?」

 

「・・・御名答、といった所か。おまえさんよ」

 

その聞き覚えのある声に振り向く。

 

「・・・仏師殿」

 

「少し話そうか」




はい、ということです。(何が?)
羂索ですが、モチーフがアレなんですよね、多分。
九十九さんも言ってた。

まず言っておきますが、此処に書いてあることはシード兄貴の言葉を自分で解釈したものです。
なので不確定要素も断定してますし、設定として不合理な事も書いてます。
お前、それは違うだろ!とか言う意見はシード兄貴にはもちろん、この作品にも言わないで貰いたいです。
二次創作なので、決めつけは許してください。
其処をご留意頂きたい。


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葦名の歴史②

設定
影の術式についてですが、彼も結構成長しました。
心象世界に情報を具現化。
わかりやすく言うならば、流れ込んできた情報を本にして保管できる。
必要な時はそれを読めばいいので、幾分かマシになった。
だけど、流れてくる時の苦痛は変わらないので、どうにかしたいと思ってる。

影ですが、葦名入りを果たした時に、葦名全域に漂う竜胤の残り香的なものに感化され、術式が軽く暴走。
一気に流れ込んできました。
そして一つ不可解な事に気づきます。

この情報を含めて、葦名関係の情報って結構抜けが多くね?と言う事に。
まるで・・・“誰かの視点である様な”。


「おまえさん、成し遂げたんだな」

 

「・・・ああ」

 

再会した二人は、五重塔の横に腰を下ろす。

 

「・・・」

 

狼は黙って促した。

 

「・・・儂は、忍びだった。そして、一心様の、忍びじゃった。儂の名を下さった、何よりも大切なお方じゃ」

 

仏師は語り出す。

 

「葦名に伝わる、様々な逸話。その一つ、不死斬り。仙峯寺にある五重塔に、それが収められている。それを、儂は知った」

 

「・・・何故?」

 

「任務で仙峯寺の調査をした時、知った。一心様の強さの為に、儂はあの刀を獲った」

 

「・・・」

 

「そして、斬った。切れ味が良い、そう思った」

 

「斬り続けた。次第に、相手を殺す、快感が身を包んだ」

 

「斬り続けた。儂はもう、忍びでは無くなった。殺しの意味を、捨ててしまった」

 

「そして、修羅と成り果てる寸前、一心様が斬ってくださった」

 

「・・・そうか」

 

「それを機に、不死斬りは一心様が預かり、儂は忍びを辞めた」

 

話し終えた彼は、斬り落とされた左手を出す。

 

「お陰で、修羅にはならなかった。そして仏様を彫り続けた。だが、一向に優しい顔の仏様は彫れん。今でもだ」

 

「これも、自業なのじゃろうな」

 

話し終えた仏師は立ち上がる。

 

「・・・行くのか」

 

「ああ・・・おまえさん、有難うよ」

 

その言葉を最後に、何処かへと去っていった。

 

 

 

 

「や、昨日ぶりだね。その様子だと・・・分かったみたいだね」

 

「ああ」

 

聞くと、影はわざと自分で話さず、仏師殿と自分の会話を求めていたらしい。

 

「ごめんね。僕はあの方の心中まで捉えることは出来ないし、何より他人が話すべきではないと思ったから」

 

「俺こそ、礼を言う」

 

「うん。・・・それじゃ、続きと行こうか」

 

 

 

 

前回は・・・ああ、そうだったね。

京の水、及び変若水についてだった。

 

さて、此処で葦名、つまり下界はどうだったか。

この時代は大した社会制度は出来ていない。

その土地その土地で色々と文化があったんだ。

そして狼さんも馴染み深い儀式・・・いや、手段と言ったほうがいいかな。

 

それが、輿入れの儀。

 

仙郷と下界には大きな隔たりがある。

しかし京人、つまり源の香気を纏う者は無条件で行き来できた。

輿入れによってね。

 

 

さ、少し飛ぶよ。

時は進んで平安時代初期。

 

()()()()()()()()()

上界である仙郷から降り、葦名や、京都まで行った京人。

彼らは其処で建築を学んだのか、仙郷に再現しようとした。

その試みは見事に成功し、今では見られないけど、美しい都が出来たって訳。

 

そして下界では、葦名の民も仙郷へ渡る様になった。

どうやって?

狼さんは体験したことあるよ。

そう、香気の偽装。

まあ、もれなく全員京の水飲んで都人になったから、真実は分からないんだけどね。

 

 

此処で余談。

実は輿入れによって源の宮に来た新人が困る事が一つある。

環境の違い?そんなの気にする奴なら来ないさ。

京の水の禁断症状?

この時点ではほぼないに等しい。

 

それは、謁見。

神域から流れ出でる水によって、神域及び内裏への謁見は叶わぬ状態。

其処で水生の初代は、輿入れする人にとある術を教えた。

 

【水生の呼吸術】

 

水生の御初代は、輿入れが決まった者にのみ、密かにこの秘術を授けた

輿入れ望まば、水生の息

これなくば、神なる竜とは見えられぬ

 

と言うわけで、この時代で一層水との付き合いを深めていったのさ。

 

 

 

 

双方一度休憩を取る。

影は片手に手帳を持ち、ずっとそれを読んでたので首を回し、固まっていた狼は肩を回した。

 

「はぁ〜・・・」

 

心なしか、と言うか一目見てわかる程疲れている影。

 

「休むか?」

 

次回に回そうと提案するが、影はそれを断る。

 

「いや、続けるよ」

 

 

 

 

・・・ああ、そうだ。

輿入れの習慣についてだったね。

この時かな、仙峯上人が仙郷に渡ったのは。

桜竜との謁見を経て、彼はぬしの色鯉の肉を授かった。

此処にも神々の立場の差が大きく現れてるね。

 

さて、この肉が全ての元凶だ。

神の力は、人には余りにも大き過ぎる。

僕の力の様に、耐えきれなくなってしまうからね。

血肉などなおさら。

幸運な事に、上人は食べなかった。

彼は真面目な僧侶だ、戒律を破る訳がない。

しかし、ある尼僧が食べてしまった。

誰かわかるかい?

 

そ、破門された破戒僧さ。

そして上人は、彼女の不死を知り、食べてしまった。

彼は口にしてしまった後に、蟲によって齎されたものだと気づいてしまったのだ。

彼は仏道から離れ、死なずへと、呑み込まれていった。

なんと哀れな事だろうか。

 

 

・・・話を続けよう。

時は経ち、数百年後。

源の宮は新たな転機を迎えた。

そう、淤加美一族の到来だ。

こっちは予想通りみたいだね。

彼女らの発端はぬしの白蛇。

落ち谷衆はもともと淤加美一族だ。

 

さて、武力でのしあがった彼らは、源の宮の覇権を手にする。

しかしそんな彼女らにも恐れるものがあった。

それこそ、かつての神、白蛇だ。

アレからしたら、自分を捨てて他の神に乗り移った裏切者。

粛清に動いてもおかしくない、と彼女らは考えたんだろう。

 

そして彼女らは、葦名に攻め入った。

白蛇を潰しにいったか、はたまた葦名を征服したかったのか、心中までは分からない。

 

時は平安中期。

貴族たちは武士を雇い、互いの戦力を持って地位争いをしていた時代だ。

それは葦名では少し異なり、葦名衆は自分達で戦力となっていた。

彼らは無事、攻め入った淤加美一族及び源の宮勢力を追い返した。

そして門番に破門にされていた破戒僧を。

煽てたのかな?

 

そのまま時は過ぎ、次なる騒乱は戦国に巻き起こる。

 

 

 

 

「少し落ち着いた・・・葦名に来てから絶え間なく情報が流れてきててね。喋って整理しなければパンクしてしまいそうだよ」

 

「・・・今回の話だけを見ると、悪いのは全て源の宮と?」

 

「あながち間違ってない。と言うかいつの時代も強大なものに人は縋りたくなるからね」

 

「・・・そうだな」

 

狼は思わず実感込めて頷く。

かつて戦ってきた敵は、竜胤と言う大きな力を求めていたからだ。

 

「・・・よし、整理できた。じゃあ、次は戦国時代だよ」

 

 

 

 

戦国時代初期、下界の葦名は波乱万丈だった。

絶対的だった葦名衆は国を奪われ、田村主膳は国を征服した。

そしてこれからの話で二番目に重要な立ち位置にいる、仙峯寺について話そう。

 

彼らは死なずに魅入られ、その門を固く閉ざした。

が、実はそれもまだ最近の事。

死なずに憑かれたのはほんの一握りだけ。

少なくとも戦国が始まるまでは、門戸を外に開いていた。

 

しかし、田村の国取りによって情勢が一変する。

中立・・・いや、不干渉の立場を取っていた仙峯寺は、田村率いる新勢力に接近される。

要は、「お前らどっちの立場につくんや?」状態である。

葦名を二分している勢力。

田村と一心。

どちらにつくかで仙峯寺は大荒れ。

ただ一つ言えるのは、どちらにも義理立てする気はなかった、と言うことだけだろうね。

極一部の人達(道玄)は一心様に協力する事を決め、他は中立の田村よりとなった。

 

そして此処からが山場。

一心様の生涯について、此処に載っている事を語るよ。




またもやリスペクト過多ですいません。
一旦整理をば。

縄文:隕石降ってきた!隕鉄に神々が引き寄せられた!葦名すごい土地になった!(白蛇、色鯉誕生)
弥生:桜竜きた!岩に取り憑いた!神溶けた!水凄え不死になる!(京の水信仰の始まり)
平安初期:源の宮できた!輿入れで人たくさん行き来出来る!仙峯上人来た!あ、肉食べた。(仙峯寺崩壊の序章・・・の前章)
平安中期:淤加美一族きた!一瞬で最強!葦名行けるっしょ!無理でした。(源の宮と葦名の交流が消えた)
戦国初期:田村葦名奪取!仙峯寺パニック。(?)道玄離反して一心側に。(完全なる仙峯寺の瓦解)

いかんせん、考察をそのまま載せると書きたい設定に合わないから、自分の形に修正するのめっちゃ難しい。
頑張るぞ!


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葦名の歴史③

此処で重要な設定を一つ。

前回書いた様に、影の持つ情報には抜けが多いです。
術式が発現した時に流れ込んできた現代日本の情報は、『副次的な要因です』。
簡単に言うと、副作用。
あれは本来の役割の時に一緒に流れ込んできたもの。

では、本来の術式の効果は何か?
此処でヒントを一つ。

本来得る情報は、弥生から平安中期までの源の宮の情報です。

さあ、聡明なみなさんは正体が分かったかも知れないですね。


黒の不死斬り。

仏師殿が手に入れ、一心様が扱った妖刀。

その本来の役割は銘にも刻まれた、『開門』。

竜胤を供物にし、()()()()()()()

記憶に新しい、一心様の蘇り。

 

此処からは推測を交えて話すよ。

開門の歴史を。

 

 

 

 

不思議に思わなかったかい?

()()()()()()()()()()()()

これは記録に残ってないけど、恐らく源の宮の人物、それも外部から来た鍛治の一族だろう。

強力な神力が宿った隕鉄を使い、祭祀用に造られた二振りの刀は、竜胤を断てる刀となった。

 

時は過ぎ、平安末期。

源の宮を這いずり回っていた貴族達。

彼らの時は平安で終わってしまっている。

この時代に何か大きな出来事があったんだろうね。

それこそ、桜竜が暴走する様な。

 

全ての情報を出そう。

 

・仙郷の桜(常桜)は蟲に憑かれていた。

・桜竜は大きな傷を負っていた。

・不死斬りの名前。

・京の水の異変。

 

 

 

 

「仙郷の桜は、如実に桜竜の状態を表す。何故だか分かるかい?」

 

「・・・竜胤の御子の様な、繋がりを持っている?」

 

「ああ、一方的だけどね。そしてさっき言った大きな出来事とは・・・」

 

 

「戦争だよ」

 

 

「戦争・・・?」

 

「不思議に思わなかった?貴族の大半はあんな風体になって精気を求めてたのに、淤加美一族は元気に蹴鞠してた。この違いは何?」

 

「・・・敗者か、勝者か」

 

「その通り。封鎖された内裏には貴族が、其処以外には淤加美が。この戦争は勢力争いが発端になって起こったものなんだ」

 

「・・・桜竜と鯉か?」

 

「よくわかったね。負けたのは桜竜派。勝った淤加美は喜んで源の宮を支配した。だけど此処で問題が起こった。戦ったのは都人と淤加美だけじゃない。彼らが仕る、竜と鯉も戦った」

 

「・・・勝ったのは?」

 

「勿論竜。鯉と竜じゃ圧倒的な違いがありすぎる。だけど、鯉も一矢報いた。いや、報いてしまった」

 

「・・・傷つけたせいで、水質が狂った」

 

「そう。そのせいで、水に取り憑かれた都人はああなってしまったのさ」

 

「いくつか覚えている」

 

「インパクト凄かったもんね。流石の淤加美も焦ったのか、竜を奉る様になった。竜に捧げる舞はここから来たんだろう」

 

「不死斬りは?」

 

「今から話すよ。竜が狂った事によって、様々な弊害が生じた。京の水の異変、竜咳、そして、竜胤

 

「竜胤・・・」

 

「そして始まったのが、拝涙の儀。竜胤の御子と、その従者による、桜竜を鎮める儀式。それに不死斬りは使われた。拝涙は儀式に、開門は御子と従者の処理に」

 

「・・・処理、だと?」

 

「一度儀式を終わらせた御子は用済み。開門の供物として斬り殺し、従者の命を捧げる事で、新たな竜胤の御子を産み出す。・・・正直言って、胸糞悪い」

 

「拝涙によって得た桜竜の涙は、都人の為。竜胤は手段でしかないのさ」

 

 

 

 

此処で作者から纏めを。

 

・平安末期、桜竜派の都人と、色鯉派の淤加美の戦争が巻き起こった。

・都人対淤加美は、都人の敗北と追放によって幕を下ろし、桜竜と色鯉の争いは、桜竜が大きな傷を、色鯉が命を失うことで決着した。

・その後、傷を負った桜竜は暴走し、水質が大きく変化。飲んだ者の精気を奪う様に。

・京の水に依存した都人はその影響を大きく受け、淤加美は色鯉の為にも竜を鎮めようとした。

・竜咳が発生。葦名にて猛威をふるう。

・竜胤の御子が誕生。契りを結んだ従者と共に、拝涙の儀を始める。

 

竜咳、京の水は同様に、桜竜による精気の奪取によって起こった異常。

それを防ぐ為に拝涙の儀を始め、桜竜が奪った精気を返還した。

 

拝涙の儀

・竜胤の御子が誕生。

・従者を選び、不死の契りを結ぶ。

・不死斬り・拝涙を得る。

・仙郷に乗り込み、桜竜及び白木の翁と戦う。戦闘と言うより、竜に捧げる舞。(儀式的意味を多分に含む)

・涙を得て、源の宮に戻る。

・涙の力を貴族に返還。

・不死斬り・開門によって、御子が殺される。

・その血を浴びた刀で従者を斬り殺す。

・新たな竜胤の御子が産まれる。

 

新たな御子は、同時に前世の御子でもあります。

一度殺され黄泉に行った御子を、再び呼び戻す。

その繰り返し。

これが本当なら、腐ってます。

 

 

 

 

「それが続く事数百年。平安、鎌倉、室町と過ぎようと、それは変わらなかった。しかし室町時代末期、恐らく応仁の乱より少し前、不死斬りが下界へと落ちる。誰かが捨てたのか、それとも間違えたのか。それは分からない。ただ、その刀は仙峯寺に回収され、拝涙は本堂、そして奥の院に、開門は五重塔の不動明王像に収められた。そ片方は秘匿され、もう片方は怨嗟をその刀身に纏う様になったとさ」

 

「おしまい。・・・これが葦名の歴史。どうだった?」

 

「・・・九郎様の行いは、俺の今の目標は、どうなのだ?」

 

「正しい行いだと思う。少なくとも、葦名の人達と竜胤の御子にとっては」

 

「・・・そうか」

 

 

 


 

 

 

数日後、葦名城に戻った狼は、出立の準備をしていた。

 

「行くのか」

 

話しかけてきたのは弦一郎。

鎧も弓もつけず、ひたすら太刀を振っていたのを狼は覚えている。

 

「ああ」

 

「・・・為すべき事は、見つかったか?」

 

「・・・分からぬ」

 

「そうか」

 

静かな二人。

片方は為すべき事見失い、片方は為すべきことを為せないでいる。

そんな二人の背後から、声が掛かった。

 

「隻狼よ。儂らを外に連れて行けるか?」

 

「!?何故ご存知で・・・」

 

まだ誰にも現代日本の存在を伝えていない筈。

 

「御子からの言伝じゃよ」

 

隻狼、お主も何かが分かるやもしれぬぞ。

そう一心は告げる。

 

「・・・御意」

 

どうなるかは分からない。

ただ、変化が欲しい。

その一心で、狼は頷いた。

 

 




葦名編はこれにて一時終了です。
此処から高専編、懐玉編を入れ、再び葦名編に戻る予定です。

今回の章の目的は、葦名の設定を固めたかったのと、影の異変と真実、狼さんの迷いのきっかけです。
不死断ち及び人返りは、明らかに別ルートです。
本来のものが正しいかはさておき、それを歪めてしまいました。
そして今も実行しようとしています。
この歪みは、竜胤を断つことは本当に正しいのか。
狼さんは迷い始めました。

それが伝わっていれば、幸いです。


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高専の日常
入学・・・?


どうも、無事に携帯が直った朝槿です。
わざわざ教えてくれた方、名前は出しませんが本当に有難うございます。

と言うわけで、今回から高専編です。
一年の交流会、様々な任務、日常とかを書きたいと思ってます。
「天元さまからの依頼だ」
までのお話です。


葦名を出立し、数日後。

狼は高専の入り口に来ていた。

 

「入学式・・・」

 

もちろんそんなものは無い。

高専にそんな暇(余裕)は存在しないし、見る親もいない。

哀れな学び場である。

そもそも()()9()()だ、季節ハズレにも程がある。

本来4月より始まる筈だった学生生活は、葦名にいた事で2ヶ月ずれてしまっている。

葦名は外と時間の差異があるようで、再び現世に帰って来た時には5月の後半だった。

キリがいいので二学期から転入する事に決め、狼は少し休暇を取っていた。

 

(中々、修行にも適している・・・)

 

高専の構内を歩きながら、思い出す数ヶ月間。

葦名から連れてきた二人に常識を教え、一心はあっという間に道場の師範になり、弦一郎は薄井の森でひたすら特訓している。

二人と対面した時の梟の顔は、狼からしても耐えれるものではなかった。

つまり、とても面白かったと言う事である。

 

さて、そんな事はおいといて。

本日は顔合わせ。

予想通りであれば、()がいる筈だ。

久しぶりの再会を予感し、狼は建物へと入っていった。

 

 

######

 

 

所変わって教室。

五条悟、夏油傑、家入硝子はいつもの如く、駄弁っていた。

 

「はぁ〜ダリィ〜。早く休みになんねえかな?」

 

「私達に休みは無いんじゃなかったのかい?」

 

「特級術師ご苦労様。何でなれたの?」

 

「そりゃ、俺たちが最強だからだよ」

 

「そうさ。私達は最強だからね」

 

「違う。何でオマエらクズがなれたの、って事よ」

 

くでぇーっとしてた三人に、いつの間にか教室に入ってきた夜蛾は言う。

 

「特級は総じて問題児が任命されるからだ」

 

「あ、せんせー」

 

「姿勢を正せ!」

 

教師である夜蛾の前でも態度を変えない悟。

 

ゴンッ!

 

鉄拳が脳天に刺さった。

 

「いってぇ!」

 

頭を抑える悟を無視し、夜蛾は話し始めた。

 

「本題に移るぞ。今日より、転校生が入学する事となった。ちなみに彼は一般人、等級は一だ」

 

「ふ〜ん。こんな時期に転校生ねぇ」

 

「一級ね。術式は持っているのかな?」

 

「高専に入るなんて、可哀想にな〜」

 

反応はそれぞれ、どうでも良い、興味あり、哀れみ。

三者三様の様子に、夜蛾は頭を抱える。

 

(まだ一年の9月だぞ!)

 

「お前ら・・・!はあ、もう良い。おい、入れ!」

 

諦めた夜蛾の言葉に、転校生が部屋に入ってきた。

 

「・・・今日から此処で学ぶ、()()()()だ」

 

入ってきたのは、普段とは全く違う、高専の制服(依頼改造済み)を身につけた狼だ。

動き易さと分かりにくさを重視した、忍びにも高評価の一品である。

 

それは兎も角。

 

(へぇ〜。彼が一級?なんか余り強そうに見えないけど)

 

(ムスッとした顔してるね。友達少なそう)

 

正直に感想を心の中で述べる傑と硝子。

ちなみに夜蛾は仕事のため、既に職員室に引っ込んでいる。

そんな二人を他所に、悟は今世紀最大の衝撃を受けていた。

 

「・・・え?は、ちょ、ちょっと待て!何で此処にいんの!?」

 

「悟、どうした?知り合いだったのかい?」

 

困惑する悟をおいて、狼は二人に話しかける。

 

「二人とも、これから宜しく頼む」

 

「あ、ああ。私は夏油傑、宜しく頼むよ」

 

「私は家入硝子。宜しく」

 

「無視すんなよ!!」

 

珍しくツッコミに回った悟だった。

 

 

 

 

一旦悟を落ち着かせ、親睦会の如く説明を始めた狼。

聞き終わった二人は、自由に感想を言い始める。

 

「ふむ・・・成程。薄井と言う忍びの一族の人間なんだね」

 

「現代に忍びっているんだ。甲賀と伊賀じゃなく?」

 

普通に納得している様子。

 

「何で納得してるんだよ!と言うか狼牙、隠さないとダメだろ?」

 

悟は何とかテンションを落ち着かせ、狼に問う。

忍びなら隠さないといけないのではなかったのか。

 

「・・・父上の方針だ。上層部を一新するなら、高専には人員がいる」

 

「チッ!透の仕業かよ・・・ならしょうがねぇじゃ〜ん」

 

「その透って?」

 

「コイツの父親で」

 

そう言って狼を指す悟。

 

「薄井家の当主。そんで、俺から知る限りで一番すげぇ大人」

 

「それは戦闘力が?」

 

「いや違う。傑、おまえが正面小細工なしタイマンで戦うなら、一秒で殺せる。だろ?」

 

そう言って悟は狼の方をみる。

余り良い気分ではないが、事実なので取り敢えず頷く。

 

「だけどアイツは賢い。多分敵対しても、一度も会敵することなくヤられる」

 

「其処まで言うのか。一度会ってみたいね」

 

「それは頼めば?で、薄井。反転術式は使える?」

 

傑の独り言に適当に返答し、問いかけてきたのは硝子。

使えるか使えないかで処置の優先度が変わる為、早めに知っておきたいのだ。

 

「使えぬ。・・・だが、それなりの傷なら回復出来る」

 

「ふーん。じゃあ一回見せて」

 

「あ、なら私が模擬戦の相手になろう」

 

「いや、俺やりたい」

 

「・・・」

 

「分かったって。俺は見とく!」

 

狼の、お前は前やっただろ、という目線に、悟は拗ねる様にそっぽを向いた。

 

 

 

 

グラウンド、及び戦闘訓練場に出た四人。

傑と狼は向かい合い、それぞれ構える。

 

(さて、一級らしいけど。どんなものかな?)

 

(呪霊操術・・・集団戦か)

 

互いに相手を見極める二人。

緊張感が一層高まった瞬間、悟の声が響く。

 

「よーい、スタート!」

 

 

その瞬間、両者は術式を発動。

 

【呪霊操術】

 

 

【御霊降ろし】

夜叉戮

 

 

三級以下、凡そ二十体が、一斉に狼に襲いかかった。

 

 

######

 

 

襲いかかる呪霊を前に、狼はすかさず一番近くにいた個体に斬りかかり、あっという間に体勢を崩させる。

そして脳天に突き刺し、体を大きく捻る。

敵の体ごと刀を振り、そのまま周りを一掃した。

 

「!?」

 

「いいね!」

 

傑の驚愕の反応と、悟の歓声。

それを他所目に、狼は一気に距離を詰める。

 

「・・・ッ!舐めないで貰って良いかい!」

 

だが傑も特級。

一秒足らずで平静を取り戻し、二級を含めた十体を場に召喚。

それに対し、狼は走りながら刀を鞘に納め、居合の構え。

一瞬止まり、脱力。

そして全力の抜刀。

横に振り抜いた一閃は、衝撃波を伴って半分の呪霊を斬り裂いた。

 

 

【秘伝・竜閃】

 

 

納刀の構えから、高速の斬り下ろしと共に、真空波を繰り出す流派技

若き剣鬼一心は、死闘の日々を重ね、ただ、ひたすらに斬った

如何に斬ろうか、如何に斬るべきか・・・

そう突き詰めるうち、気づけば刃は飛んでいた

 

その衝撃波は凄まじく、二級を両断し、傑の目の前まで届くほど。

 

「・・・まだ足りぬか」

 

しかし、狼の目標は全力の一心。

今のままでは全然届かない。

 

「・・・ッ!」

 

突然の背後から奇襲。

振り返り跳んで避ける。

が、其処には既に拳を握り込んだ傑がいた。

 

「シィッ!」

 

「ぐっ・・・」

 

思わぬ威力に吹き飛ぶ狼。

刀を地面に突き立て、それ以上の後退を防いだ。

 

「私はコッチも得意なんだよ」

 

そう言って傑は一振りの剣を取り出す。

 

「・・・黒剣か」

 

狼も一時期借りた事がある、硬い剣。

それを右手に傑は斬りかかってきた。

 

「あ〜あ。傑負けちゃったね〜」

 

「なに?どうしたの」

 

「あれが狼牙の一番得意な分野だから」

 

キンッ!

 

弾く。

 

ギンッ!

 

弾く。

斬り続ける傑の剣閃を全て弾く狼。

 

「軽い・・・」

 

「なら!」

 

傑は下腹部目掛けて剣を突き出す。

最早殺す気である。

 

が、狼は前に一歩出て、左足で剣の腹を踏みつけた。

衝撃で完全に体勢が崩れる傑。

そのまま押し倒し、背中に刀を突き立て・・・

 

「しゅーりょー!」

 

悟の声で我に返り、すんでの所で横に突き立てた。




口調把握しきれない・・・
悟、傑はまだしも、硝子がほぼ台詞の参考にならない。
どんな感じか教えてくれると嬉しい!


今回は狼さんの入学(9月)でした。
これからは、さしすせ組としてどんな青春を過ごしていくのでしょうか。
私にもまだ、分かりません。(考えてない)


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初の共同任務(withさす)

どうも、朝槿です。
体調崩してなかなか筆が進みませんでした。
常備薬と抗生物質のお陰で立ち直りましたが、まだ鼻が止まらないです。(花粉症とは違う、粘り気のない奴)

さて、性格、口調を把握しきれないまま投稿すると言う恥を晒していますが、なんとか頑張って調整していきたいです。
では、前回、肉弾戦ボロ負けした傑くんの続きです。


教室に戻った四人。

夏油傑は放心していた。

 

近接戦で決着をつけよう、と意気込んでみたは良いものを、直ぐに完封されてしまった。

ただひたすらに恥ずかしい。

 

「ねぇ今どんな気持ちぃ〜?俺よゆ〜みたいな顔して十秒足らずで負けた気持ち!」

 

「『私はコッチも得意なんだよ』キリッ!いやぁ〜カッコいいね」

 

「悟、硝子。外で話そうか・・・!」

 

「寂しんぼか?一人で行けよ」

 

「そーだそーだ」

 

煽る二人とキレかけている傑。

そんな三人は背後から近づいてくる、一人の影に気付かなかった。

 

「お前ら・・・新入生を置いて何をしている?」

 

ビクッ!

 

恐る恐る振り返ると、其処には怒髪天をついた夜蛾の姿が。

三人は0.2秒で状況を把握し、一か八か逃走を図る。

が、それより先に悟の脳天に拳が落ちた。

 

ゴンッ!

 

「・・・夜蛾殿。もう宜しいかと」

 

「そうか?・・・すまんな、同級生がこんなので」

 

狼に止められ一旦落ち着く夜蛾。

その様子に残りの二人は安心し体の力を抜くが、続けられた言葉に固まる。

 

「そんなに仲良く話したいなら・・・お前ら三人共、任務だ。但し!もし壊したものがあれば、自らで弁償してもらう!」

 

「そn…いったぁ!」

非難の声を上げようとして頭を上げ、机の角に思いっきり頭をぶつけ悶絶する悟を無視して、夜蛾は再び出ていった。

 

 

 

 

所変わって車内。

三人と、一人でやる事もないので着いてきた狼は補助監督による説明を受けていた。

 

「今回の任務は廃屋の調査です。数十年前に没落した裕福な一家の屋敷なんですが、その怪しい雰囲気から肝試しの場として有名です」

 

「肝試しねぇ」

 

悟は何処か面倒くさそうに呟く。

大抵の肝試しの場は呪術的にヤバい所。

経験談だ。

 

「はい。其処では、数ヶ月前から立ち入った人々が行方不明になっておりまして」

 

「数ヶ月前から?何故もっと早く判明しない・・・?」

 

「なんかあるんです?」

 

数ヶ月前と言う呪中途半端な期間に傑と硝子は問いかける。

その質問に補助監督は捻り出す様に答えた。

 

「・・・実は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んです」

 

「はぁ?」

 

「・・・明らかに一級以上あるね、コレ」

 

一級?確か・・・

 

「・・・二級と言われたが」

 

それに対して傑は説明する。

 

「この業界では判断するのが《窓》と上層部だからね。実際との差異は大いにあり得る」

 

「上からの通達が不確定の会社とか誰も入ってこないよね」

 

「返す言葉もありません・・・」

 

なるほど。

夜蛾殿が何処か釈然としない顔をしていたのはそう言うことだったのか。

 

納得する狼を他所に会話は続く。

 

「それ故に実情が何も分かっておらず、発見した私は一級以上の術師を要請したのですが・・・少し過剰戦力すぎでは?」

 

「お前らもさっさと終わらした方が楽だろ?」

 

「そうだね」

 

「うん」

 

「滞り無ければ」

 

全員同意。

そんな四人をよそに、

 

(私も早く帰れないかな・・・)

 

自分には仕事がある事をまざまざと思い知らされた補助監督だった。

 

 

 

 

任務の説明が終わり、現地に到着した四人。

 

洋風の大きな屋敷。

屋敷の周囲は煉瓦の塀で囲まれており、門は鉄製。

窓は全てカーテンが閉められており、全て内側から木を釘で打ち付けられている様だ。

 

「うわぁ・・・」

 

「なかなか雰囲気はあるね・・・」

 

「さっさと終わらせて帰ろうぜ。・・・あ、そうだ。此処らへんでなんか良い店ない?」

 

急に悟が前置きもなく話し始めた。

 

「急になに?らしくないけど」

 

「いや狼牙の歓迎会」

 

「あ〜成程ね。何処が良いかな?」

 

「・・・別に案ずる事は無いが」

 

自分の歓迎会の話がどんどん進んでいく事に、狼はストップをかける。

 

「黙って受け取れば良いよ。あ、五条。お酒無いとこで」

 

が、止まらなかった。

 

「りょーかい。って言っても、何処がいいか・・・」

 

悩み出した悟に声を掛けたのは。

 

「・・・探しておきますよ」

 

「まじ?」

 

「おすすめの所は幾つかあります」

 

「ほんと?じゃあ頼むわ」

 

「分かりました。・・・ですが、どうかお気を付け下さい」

 

戦闘体勢になった三人は、補助監督と硝子を置いて屋敷に入って行った。

 

 

 

 

屋敷内に不法侵入した三人は、辺りを見回す。

 

「結構デカいね」

 

「相当な金持ちだったんだろ」

 

天井にはシャンデリア、床はカーペットがひかれている。

かつては荘厳な雰囲気を醸し出していたであろうソレらは、今では燻んだ灰色。

 

「此処まで豪華な屋敷だったとはね」

 

一般人の傑は家の豪華さに感心するも、あと二人は全く違う反応をしていた。

 

「なるほどねー」

 

「・・・」

 

「?どうしたんだい、二人共」

 

「・・・屋敷内に気配を感じる」

 

「確かにいるんだけど、何処か分からないんだよなぁ。俺が()()もなんかぼやけて見える」

 

そう自分の目を指す悟。

狼も気配が移ろっている様に感じていた。

 

「・・・まずは探索だ」

 

「そうだね」

 

 

 

 

一階。

玄関から進み、右手にある扉を開く。

其処は薄暗い居間だった。

 

「さっきのって、もしかして廊下?」

 

「うん、そうだけど」

 

「床の敷物が土足用だった」

 

「・・・金持ちって凄いね」

 

経験の差だ。

 

 

「それはさておき。悟、なんかある?」

 

「此処には何もないみたいだな。残穢も残ってない」

 

「・・・いや、待て」

 

何もないと聞き去ろうとする二人を呼び止める。

 

「どうした?」

 

狼は黙って刀を抜く。

部屋の奥に設置されている暖炉に近づき、飾ってあるタペストリーを切り裂いた。

瞬間、呪霊が暖炉から飛び出した。

 

ギャァァアア!!

 

すぐさま両断する。

微かな悲鳴を残し、灰となって消え失せた。

だが・・・

 

(・・・手応えがない?)

 

確かに斬り、芯を捉えたが、何処か把握しきれない手応え。

恐らく逃げられた・・・いや。

 

「本体じゃねぇのかよ!」

 

「それは面倒くさいな。恐らく私の術式でも取り込めなさそうだ」

 

「・・・悟。捉えられたか?」

 

「呪力の特徴は把握した・・・でも、わっかんねぇな〜コレ」

 

六眼で周囲を見回す悟。

だが、何も感知する事が出来ない。

 

「チッ・・・生存者がいなきゃ全壊させてたのによ」

 

「地道に調べるしかないね」

 

傑の言葉に賛同した二人は、次なる部屋へと向かった。




実は昨日歩いてたら急にオリジナルの図案が浮かび上がってきました。
逆にコッチの小説の流れ(脳内)が少し滞ってきたので、少し投稿あくと思います。
まあ、失踪はしないので悪しからず。
それではまた数日後。


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亡霊

お久しぶりです。
魔神任務やったり世界任務やったり探索したりで書く暇作れなかった朝槿です。
あ、ちなみに新マップ100%98%、世界任務オールコンプリート。
フォンテーヌは素晴らしいね。
ストーリーも背景設定も景色もキャラも探索も全てが一番気に入りました。

それはさておき。
この数日間で書きたい小説が一気に増えました。

①オリジナル。構想は進んでいるけどいまいち固まらない。まだまだ先になりそう。
②原神。魔神任務でフリーナちゃんとフォカロルスを救いたい欲が出てきたので、書きたい。
③シャンフロ。夏休み辺りにちょこっと書いて後は埋もれてた(当時は投稿する予定なかった)。オリ主と鉛筆のお話。

どーしましょ。
まあ取り敢えず、葦名廻戦楽しんで下さいね。


廃墟となった大きな屋敷。

そこで肝試しをした一般人が数人、行方不明となっている。

その実態を探る為、狼、悟、傑の三人は調査に乗り込んだのだが・・・

 

「はぁ・・・めんどくせーなー」

 

「後残っている部屋は・・・」

 

「3階の客室だ」

 

かれこれ一時間以上、屋敷を探索し続けている。

3階建かつ通路は入り組んでいて、部屋は山の様にある。

 

気配を探すのに慣れている狼はともかく、六眼をフル稼働させている悟は大いに消耗していた。

 

「悟、一回休んだらどうだい?」

 

「・・・二人でもどうにかなるぞ」

 

「そんなこと言ってる暇ねーだろ」

 

もう三十体以上は斬っているだろう。

だが一向に気配は定まらない。

 

「後少し・・・」

 

三人ともども疲れ果てていた。

 

 

3階の部屋を全て見回り、部屋から出た瞬間。

 

「・・・!おい、今の」

 

悟が何かに気がついた。

今まで毛程も感じていなかった気配が、とある方向から強く伝わってくる。

 

「ああ。これは・・・地下か?」

 

「今までのは全部無駄だったと・・・?」

 

関係ない場所をひたすら探索していた事に崩れそうになる傑。

 

「いや、あいつの分体を減らしたお陰で気配を隠すものが無くなった」

 

地下から感じる気配。

3階でも感じられるほど、強い。

 

「早く終わらせようか」

 

三人は急いで階段を駆け降りた。

 

 

 

 

 

一階の端の物置の裏に隠された階段。

完璧に隠されているが、酷使で半ば覚醒した六眼でいとも容易く見つけられた。

さて、少し降ると地下室に出る。

降りてきた扉から反対側には、また階段への入り口が。

降ろうとする三人。

 

すると・・・

 

「「「・・・ッ!」」」

 

何かを越える感覚。

後ろを振り向いても、そこは壁。

 

領域に、入ってしまった。

 

「・・・やばいな、これは」

 

傑は思わずそう呟く。

 

「もう生存者残ってないんじゃね?」

 

悟も目に見えて警戒する。

気配が段違いに強くなっている。

慎重に降り続ける三人。

 

数分後、少し開けた場所に出る。

そこは、墓地だった。

一面に置かれている墓石。

更に床には彼岸花が咲いていた。

 

そして目の前には・・・

 

「黒い、何か・・・」

 

「・・・傑!避けろ!」

 

いつの間にか現れた黒い人影。

最初に気づいた悟の警告も虚しく、手に持つ何かが傑に振り下ろされた。

 

ガァィイイン!

 

間一髪で弾いたのは狼。

しかし不安定な姿勢で吹っ飛ぶ。

だがその隙に傑は体勢を立て直した。

 

「行けっ!」

 

三、四級呪霊を幾つか放ち、対処させる。

その間に狼は復帰した。

 

「危ない・・・助かったよ、狼牙」

 

「ああ」

 

「アイツ何モンだ?全身呪力で出来てるぞ・・・」

 

そんな事を話しているうちに、放った呪霊は全て祓われ、やっと黒い人影の姿が見えた。

 

「・・・!あれは・・・」

 

「知っているのか、狼牙」

 

「・・・俺は、七面武者と呼んでいる」

 

色は黒く、出立も大きく違うが、その姿は七面武者にそっくりであった。

 

「悟、傑。生存者の確認を」

 

「一人で大丈夫かい?」

 

「ああ。これの相手は・・・」

 

「慣れている」

 

そう言って一歩前に出る狼。

つい数ヶ月前戦ったばかりだ。

それも何度も。

 

「しょーがねぇな。傑、いくぞ」

 

その姿に悟は頷き、傑を急きたてる。

二人が離れ、目の前の人影の注意が完全に自分に向かったのを確認し。

 

 

祓い

 

 

神ふぶき。

紫の炎を纏った楔丸をいつもの様に構え、相手を睨みつける。

 

 

強敵 『七面亡霊』

 

 

「参る」

 

 

 

 

先手は黒い人影。

消えたかと思うと目の前に現れ、素早く振り下ろしてきた。

 

ガンッ!

 

(重い・・・!)

 

七面武者、それも最近戦った方よりも強い一撃。

 

ギンッ!ギャンッ!ガィンッ!

 

体幹に響く衝撃。

だが、どれだけ削られようと、狼は体幹を保ち続ける。

果てしなく思える程続いた剣戟は、人影が大きく仰け反った事によって終わりを迎える。

 

隙だ。

 

狼は後ろに回り、背中に刀を突き立てた。

声にならない叫びが場を震わせ、人影は倒れ伏す。

確実に仕留めようと再び胸を貫き・・・

 

 

 

 

脳内に響く警鐘。

狼は咄嗟に無理矢理体を捻り、後ろに倒れた。

その瞬間、人影の周囲が、黒く染まった。

 

熱い。

そう感じる前に、空間は燃え上がった。

逃れられなかった狼の左腕ごと。

 

「ぐぉっ・・・!」

 

狼の左腕を燃やす黒い炎。

色も、様子も違う。

だがその痛みは、湧き上がる感情は、かつての苦しみ(怨嗟の炎)と同じであった。

 

頭を埋め尽くす怒り、憎しみ、悲しさ、虚しさ。

抑えた筈の、斬った筈の修羅の影が、目に写る。

 

だがその影は、亡霊の一撃で狼ごと殴られる。

衝撃で正気に戻った狼は、瓢箪を口に含み体を癒した。

今はこの苦味が有難い。

鬱憤をぶつける様に、狼は再び斬りかかった。

 

 

 

 

更に激しく交わされる剣戟。

先程と打って変わり、狼は猛然と攻めていた。

鈍い鋼の音。

清らかな紫の炎は亡霊を蝕み、黒い怨念は狼の左腕を灼く。

 

痛みに耐えながら、刀を振るう。

体幹が削れようとも、左手の感覚が薄くなっていたとしても。

 

果てしない剣戟。

両者は突然、示し合わせた様に飛び退く。

亡霊は消えかかっていた黒い炎を呼び覚まし、狼は再び神ふぶきを纏わせる。

そして斬りかかってくる亡霊を前に、狼は構えた。

 

 

【御霊降ろし】

夜叉戮

 

 

体幹を大きく削ってくる相手を前に、夜叉戮を降ろす。

自殺行為とも言えるその行為を、狼は迷いなく実行した。

だがそれだけではない。

狼は、更なる暴挙に出た。

 

 

【御霊降ろし】

阿攻

 

 

御霊降ろしの重ねがけ。

修行を重ね、飴を生み出した仙峯寺でさえ禁じた手段。

 

確かに強力だ。

だが途轍もないリスクを孕んでいる。

体は恐るべき速さで軋んで行き、常人なら死に絶える程の怨念が精神を蝕む。

 

だが狼はその一切を無視し、鬼気迫る形相で斬りかかった。

効果は絶大。

二重に強化された連撃は、瞬く間に亡霊の体幹を削り取った。

そして飛びかかった狼は、首に刀を差し込み、一気に捻じ斬った。

 

 

忍殺(SHINOBI EXECUTION)

 

 

そして狼は、晴れていく領域を捉える事なく、地面に倒れ伏した。

 

 


 

 

任務報告書

 

屋敷の地下に未完成の領域有り。

五条悟、夏油傑、薄井狼牙の三者は屋敷内の調査を終え、地下へと侵入。

領域内にて特級相当の呪霊と接敵。

薄井一級術師は戦闘、残りの2名は生存者の救助、及び周辺の呪霊の殲滅を受け持った。

それぞれ無事完了。

しかし、薄井一級術師は疲労によって気絶。

五条特級術師及び夏油特級術師によって救助され、被害者と共に搬送。

2日間昏睡状態にあった。




疲れた・・・
戦闘描写やっぱ難しいですね・・・

今回の顛末。
大正時代のそこそこ裕福だった一家は、とある土地に屋敷を建設。
豪華で絢爛な、裕福さを如実に表す素晴らしい屋敷・・・の筈だった。
屋敷を建てる為に潰されたのは墓地。
それもお祓いなどの対処もせず、物理的に潰した。
壊された墓からは死者の怨念が漏れ出し、どんどん一つになって行く。
しまいには一つの都市の怨念を全て吸収してしまった。
まず被害を被ったのは屋敷の持ち主の一家。
一族全員様々な形で死を迎え、一家は没落。
取り壊そうとした者は更に悲惨な死に様を晒す。
その一家を知る者は誰も居なくなり、次なる犠牲者は不用意に入った一般人。
地下の領域に囚われ、繋がりを怨念に絶たれる。
そして最終的に、特級相当へと進化した。

と言う訳で、罰当たりな行いをした一家への報いが止まらなかった結末です。
特急相当とは書いていますが、まだなりきれていませんでした。
ギリギリ一級ぐらい。
一家皆殺しで目的を達成してしまった事で少し勢いが衰えてしまいました。
もし何らかの形で生き残っていれば、一家に対する恨みで余裕で特級になっていたでしょう。

あの黒い炎は怨念の塊。
恨みつらみの凝縮体は、奇しくも怨嗟と似ていました。
かつて灼かれた怨嗟の炎の様に、狼さんの左手は侵食されました。
幸い炎は消えたものの、怨嗟を止めていた堤防は削られました。
さあ、どうなるでしょうか。


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歓迎会

昔行ったとある和食屋を思い出して書きました。
特に気に入った数品を選びました。
良い所は米も美味しいんですよね。
又今度行きたくなりました。
まあ、高いから無理なんですけどね。


件の任務の数日後。

狼は高専内の医務室で目を覚ました。

 

「・・・」

 

夢の中で影と対話し、盛大に叱られた。

物凄く心配していた様で、余りの怒り様に呆けていたら、更に怒られてしまった。

そのお陰で何故かは把握したが、先日は何処か可笑しかった。

御霊降ろしの重ねがけは、過去一番の無茶だろう。

 

(あの炎・・・)

 

寝起きで怠く、少し空腹だが、体は万全な状態。

しかし、左手が少々疼く。

まるで燃えているように。

 

「起きてた?」

 

左手を見つめていた狼に声がかかる。

振り向くと、林檎を切っている硝子がいた。

 

「皮は?」

 

「?」

 

「いや林檎の」

 

「・・・そのままで良い」

 

林檎の皮には栄養分が多く含まれているらしい。

それに皮の食感も嫌いではなかった。

 

シャク、シャク。

 

林檎を食べる音が医務室に響く。

 

(甘い・・・)

 

味覚は真っ当なようだ。

かつて修羅へと堕ちた時、何を食べても味覚は狂っていた。

肉を食べれば甘く、木の実は塩辛い。

川の水は苦く、魚は酸っぱかった。

 

そんな事を考えながら林檎を食べていると、いくつかの足音が聞こえた。

数秒後、息を切らした悟と傑が部屋に滑り込んできた。

 

「すまない硝子、匿ってくれ」

 

「夜蛾センに追われてるんだよ・・・って狼牙起きてる!?」

 

入ってきた二人はまずベットを見て、次に硝子を確認し、そしてベットを二度見した。

 

「・・・ああ」

 

「おはよう。久しぶりだね」

 

「何で言ってくれねーんだよ」

 

「いやさっき目覚めたばっかだし。寝起きにバカの大声はキツいでしょ」

 

「助かる」

 

「え、それどう言う・・・」

 

「悟」

 

ぎくっ。

 

「ガッデム!」

 

ゴンッ!

 

凄まじい拳骨。

拝み連拳に匹敵する衝撃が悟の脳天に振り下ろされた。

 

床に倒れ伏す悟。

傑はいつの間にかベットの反対側に隠れていた。

 

「硝子、傑は知らないか?」

 

「知りませーん」

 

「そうか。・・・薄井、大丈夫か」

 

「はい」

 

「すまなかったな。ちゃんと等級を伝えられなくて」

 

「・・・いえ」

 

今回の気絶は夜蛾の所為ではない。

あのままでも十分に祓えた。

が、黒い炎に触れたせいで全てが狂った。

欲をかいて忍殺を取りに行った狼の責任だ。

 

そう伝える。

 

「そうか。まずはちゃんと休め。任務はしっかり成功だ」

 

そう言って夜蛾は去っていった。

それと同時に悟と傑は動き出す。

 

「硝子、礼を言うよ」

 

「1カートン」

 

「それは高くないかい!?」

 

「イテテ・・・狼牙、動ける?」

 

「ああ。少し慣らしはいるが、任務には十分・・・」

 

「違ぇよ!」

 

「この前出来なかった歓迎会を今夜しようと思っててね」

 

「あの補助監督さんが良い店を教えてくれたよ」

 

「・・・有難い」

 

気にしないといけない事は山の様にある。

だが今は少し、休んでも良いだろう。

影も言っていた。

 

 

 

 

「かんぱ〜い!」

 

数時間後、とある店で四人の学生は歓迎会を始めていた。

 

「「「乾杯」」」

 

「おいおい、三人ともテンション低くな〜い?」

 

「悟の所為だよ。何で夕食前にクレープ食べようとするんだ・・・」

 

「テンション上げるとお酒飲みたくなるから自制中」

 

「素だ」

 

区分としては居酒屋だが、少々豪華な一品料理が食べれる和食店。

メニューの料理はどれも一千円を超えている。

四人はそれぞれ気になる一品を頼み始めた。

 

 

「!!これ美味」

 

悟が頼んだのは大根の出汁餡掛け。

餡は中華料理の様に甘くなく、出汁が仄かに感じられる。

それが大根に丁度良い。

厚揚げ豆腐には更に染み込んでいて、噛めば噛む程旨味が滲み出る。

高価なモノを食べ慣れた悟でもお気に召すほどだ。

 

 

「・・・お酒欲しい」

 

硝子が選んだのはポテトサラダ。

芋は大きく、野菜がたくさん入っている。

幾ら食べても箸は止まらない。

少しピリッとする辛味も丁度良い。

燻製され凝縮された旨味に、硝子は思わず酒を求めた。

手は注文ボタンへと伸びるが、間一髪で悟に奪われた。

 

 

「やっぱり肉は美味しいね」

 

傑は鶏肉の塩焼きを頼んだ。

鶏肉を塩で焼いただけ。

だが、そのシンプルさが鶏肉のジューシーさを如実に伝える。

添えられた胡椒がこれまた合う。

身に詰まった肉汁に体は米を欲し、手は注文ボタンを探ったが、悟が回収していた所為で届かなかった。

 

 

「・・・」

 

狼は無言で食べ進める。

和食屋ではあるがそれだけではない。

狼が惹かれたのは鶏と茸のグラタン。

洋風料理だが、何処か和風を感じる風味は格別だ。

交互に訪れる食感と旨味には、思わず狼の顔も緩む。

これまた米を欲するが、無下限によって守られた注文ボタンは遠かった。

 

 

「悟?注文ボタンをこちらに渡して貰おうか」

 

「硝子から守ってんだよ!隙あれば酒頼むぞコイツ!」

 

「分かった。だが先ずは米を頼んで貰おうか」

 

「・・・四人前か?傑」

 

「そうだね」

 

「俺らは食べないけど!?」

 

「一人二人前だけど?」

 

傑と狼は不思議そうな顔になる。

当たり前の様に食べるつもりだ。

 

「今度はグラタンを頼もうかな」

 

「・・・では鶏肉を」

 

「もう全部頼んでやるよ!」

 

「日本酒」

 

「「「それは駄目だ」」」

 

 

 

 

天国の様な時間もいつかは終わり告げる。

つまり、満腹だ。

 

元々少食の硝子が一番に、先にクレープを食べた悟が二番、久しぶりの食事の狼は三番に満腹に達した。

そして傑は上手い事食べ終え、満足そうに店を出た。

ちなみに会計は万を余裕で超えていた。

少し軽くなった財布を持つ悟は、どこか悲しい目をしていたと言う。

 

建物を壊すのが悪い。

 

 

さて、四人は何故か件の屋敷に来ていた。

明日取り壊しと言う事で、狼が来たいと言ったのだ。

 

「何で今来たのさ」

 

「忘れ物?」

 

「・・・いや、違う」

 

屋敷内にこっそり入り、地下室へと向かう四人。

階段を降り切った狼は、悟に頼む。

 

「床を」

 

「りょーかい」

 

壊された床下には、ひとつの墓があった。

 

「!!」

 

身構えた傑を悟は押し留め、外に連れ出した。

それを後目に狼はその墓に向かって正座する。

そして術式を発動させた。

 

 

【神ふぶき】

 

 

桜の花びらにも見える神ふぶき。

それを墓に振りかける。

 

墓は紅紫に光り、何かが薄らと消えて行く。

それを見届け、狼は立ち上がった。

 

「もう良いの?」

 

「ああ」

 

「んじゃ、行こっか」

 

そう言って、狼と硝子は先に出ていた二人の方へと歩いて行った。

 

 

 

 

四人が去った墓。

墓石に振り掛けられた紫色の神ふぶき。

消えるまでの一瞬、それは白く光り輝いた。

 

 

 

 

翌日、体と術式を慣らしていた狼は、神ふぶきがいつも異なっていることに気づく。

紫の光だったソレは、薄紅色の炎となっていた。




必要だったか分からない神ふぶきの強化です。
左腕を焼いた炎によって、狼さんも多少は事情を把握しています。
戦国の怨嗟とは違いますが、似ている苦しみです。
共感・・・いや、どちらかと言うと忍びの慈悲でしょう。
せめてもの供え。
それに対しての返礼が、神ふぶきを更に強力で清浄なものとしました。


この前言った他の小説を調整しようと思っているので、少し次の投稿は開くと思います。


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先輩

朝槿です。
執筆の時間が作れず、結構な間が空いてしまいました。
オリジナルの下書きをしてたんですが、題名と1話に悩みまくって、一旦寝かせました。
中々難しい物ですね。

という事で、久しぶりの葦名廻戦をどうぞ。


歓迎会から、数日後。

 

体も完全に回復し、術式の発動も完璧。

例の重ねがけは、発動させる寸前、悟に止められた。

 

『馬鹿か!お前それで気絶しただろ!』

 

『・・・ものにする為だ』

 

『リスキー過ぎるだろ!』

 

狼が鍛錬を止められたのはこれが初めてだ。

義父()(お蝶)には、勝手にしろと言わんばかりの対応をされていたからである。

 

(・・・そんなものか?)

 

竜胤の従者である狼にとって、一度の死など余り恐れるものでもない。

一度に十回を超えると大分焦って撤退し始めるが。

とにかく、過剰な心配はしなくて良いと悟を説得し、重ねがけの実験に入った。

 

 

 

 

一時間後。

狼は出た結論を寮の部屋で纏めていた。

 

・最初に試したのは月隠と叶護、次に月隠と剛幹、最後に月隠と阿攻。

一番負担が少なく、体を蝕む痛みは少なかった。夜叉戮ぐらいだろうか。

実際に試す事は出来なかったが、全て効果がしっかりと発動している様だった。

 

・次に吽護と剛幹、吽護と阿攻。

少し負担が大きく、結構体は痛むが、効果は十全だ。

吽護と剛幹の組み合わせは少々過剰かと思うが、もしかしたら必要になるかもしれない。そんな日が来ないことを願うばかりだ。

 

・最後に剛幹と阿攻。

()()()()()()()()()()()()()()一番苦痛が大きい。

効果はちゃんと発動しているが、非戦闘時の素面では動きに支障が出る。

余り多用しない方が良いだろう。

 

 

此処で一度(鉛の)筆を置き、狼は考え込む。

 

(やはりか・・・)

 

発動できなかった組み合わせ。

夜叉戮について悩んでいるのだ。

 

夜叉戮以外で一番負担が多い阿攻は勿論、一番負担が少ない月隠でさえ重ねられなかった。

 

元々、御霊降ろしとは単体でも人の身に余る御業である。

飴を噛んで堪える事によって、漸く身に降ろす事が出来るのだ。

それを、狼は直接体に降ろしている。

代価として呪力より生成した形代を捧げてはいるものの、重ねがけには代償が足りない。

 

竜胤と鍛え上げた体で何とか耐えているも、かつての狼では体が変形し、狂っていたであろう。

まるで首無しの様に。

 

首無しの恐怖を思い出した狼は、思わず体を震わせる。

強さではなく、恐ろしさという面なら、一心にも負けていない。

ある筈もない尻子玉という器官を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

奇想天外どころではないのだ。

少なくとも抜かれる方からしたら、たまったものじゃない。

 

(・・・もう戦う事はないだろう)

 

ピコンッ

 

何かが立った音が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。

脳内から首無し五人衆の姿を消し、再びノートに書き連ねる狼だった。

 

 

 

 

今更だが、高専ほど学校らしくない学校もない。

一学年は数人で構成され、文化祭や体育祭などという行事もない。

一年生から任務に出て、最悪の場合死ぬ事もある。

これは青春を過ごせなかった上層部の陰謀と言っても過言ではない。

 

だがそんな高専にも、唯一と言ってもいい程の学校要素がある。

 

「貴方が薄井君ね。私は庵歌姫。これから宜しくね」

 

先輩である。

 

「・・・宜しく頼む、庵殿」

 

「歌姫で良いわよ。あと先輩には敬語を使いなさい?」

 

さて、今世の狼は多分に関係を持たねばならない。

前世のようにひたすら口を噤んでいるばかりではダメなのだ。

しかし、年齢が上だからと言って脳死で敬語を使う訳にも行かない。

 

真に敬意を表するべき相手だけに使わねば、言葉が薄くなってしまう。

主である九郎と透、師である梟とお蝶、そして尊敬すべき一心。

 

立場上使わねばならない相手には少し軽く調整して話す。

優秀な人間はこの調整で人間性を判断する。

この技術は忍びに不可欠なのだ。

 

長々と話したが、ここで分かるように、先輩というのは難しい間柄なのである。

年齢は上、しかし立場は殆ど同じ。

礼儀、又は個人的には敬語を使うべきだと思っているが、かと言って距離を離し過ぎるのも良くない。

 

それを懇切丁寧に歌姫に説明する狼。

この行為こそが結構失礼な事なのだが、狼はそれでも語る。

失礼に思われるのは避けたい。

 

「・・・あ〜もう!分かったわ。アンタが私の事をちゃんと敬っているのは分かったし」

 

「・・・忝い」

 

「はいはい。にしても、難儀な境遇ね」

 

歌姫は疲れた表情だ。

流石の狼も申し訳なく思い、とある物を取り出す。

 

「酒だ」

 

「・・・私未成年だけど?」

 

「飲むと聞いたが・・・」

 

「誰から?」

 

「硝子殿から」

 

「・・・貰うわ」

 

何処か諦めた表情の歌姫は、酒を受け取り観察する。

 

「これ何処の奴?日本酒?」

 

 

【葦名の酒】

 

葦名の酒が入った徳利

酒とは、振る舞うものである

源から流れ出ずる清らかな水で作られた酒は、葦名の民に広く愛されている

 

 

「今まで見た事ないわね」

 

物理的に数百年間隔絶された地域だ。

酒だけが流出するはずが無い。

 

「そうね・・・貴方も一緒に飲む?」

 

「・・・酒は余り得意ではない」

 

実は狼、酒に弱い。

葦名の酒ぐらいならば大丈夫だが、猿酒なぞ飲めばすぐに顔は赤くなり、たちまち眠ってしまう。

 

すぐに寝る分だけ梟よりマシだが、やはり親子と言うべきか。

毒には耐性があるのに、酒にはない。

更に、二人とも戦闘時には酒に耐性が出来るのだ。

何故だろうか?

甚だ疑問である。

 

 

それはさておき(閑話休題)

 

遠慮(逃亡)しようとした狼だが、酒を手に入れ上機嫌の歌姫はそれを許さなかった。

 

「良いじゃない。試してみるのも良いと思うけど。それに、先輩からの誘いは貴重よ?」

 

誘い方が完全に会社の上司である。

 

「・・・承知した」

 

今世なら大丈夫と願いながら、狼は渋々頷くのだった。

 

 

 

酒の席に半ば強引に誘われた後、互いに自己紹介兼世間話をしていた狼と歌姫。

突然背後から誰かの声が聞こえた。

 

「おっ、歌姫じゃーん」

 

「先輩と呼びなさい!」

 

すかさずツッコむ歌姫。

それを無視して、悟はこちらに手を振った。

 

「やっほー狼牙。歌姫に変な事吹き込まれてない?」

 

「ああ」

 

「そんな事する訳ないでしょうが!」

 

「いや、歌姫弱いし?何か言われてたらと思うとね〜」

 

「私の、方が、先輩なんだよ!」

 

怒り心頭の歌姫を前にしても悟は態度を変えず、そのまま去っていった。

 

「歌姫殿、落ち着け」

 

「でもね!」

 

「無駄だ」

 

止めに入った狼の一言に、歌姫は一瞬詰まる。

 

「・・・はぁ。そうね、こんなの無駄だわ」

 

「すまぬ」

 

「謝らないで。ほんと、貴方が普通で良かったわ」

 

よっぽど疲れたのか、壁にもたれ掛かる歌姫。

それを前に、狼は少し考え込んで話し出した。

 

「・・・悟は歌姫殿を嫌っていない。ただ面白いから、という理由で接しているのだと思う」

 

「私は結構、アイツのこと嫌いよ」

 

「・・・向こうはそう思っていなさそうだが」

 

「だから困ってんのよ。まあアンタに言っても仕方が無いだろうし」

 

「・・・」

 

流石に歌姫が哀れだ。

後で悟に言っておこう、そう決意する狼だった。




歌姫さんは呪術廻戦の中で好きなキャラトップ五に入ります。
しかし、ストーリーを通して不憫なのは可哀想なので、少しは悟に痛い目を見せる機会をあげる予定です。

にしても久しぶりすぎて書き方が・・・
少し文体変えるかもしれませんが、気にしないで下さいね。


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