黄金の勇者 (fw187)
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女神の聖闘士
竜の星座~高天原の隠者


 世界最高峰ヒマラヤ山脈から程遠からぬ秘境、聖衣《クロス》の墓場を無事に抜けた男。

 第1段階の聖闘士《セイント》、ドラゴン紫龍は高原地帯に聳え立つ巨塔を見出した。

 アッペンディックスの貴鬼が現れ、念動力《サイコキネシス》を用いて訪問者の力量を試すが。

 竜の拳が閃き高速で飛来する無数の巨岩、超特大の指弾を木っ端微塵に粉砕。

 ついでに最下層(ロウアー・エリア)もブチ抜き、塔の均衡を保った儘で中層部の門番と距離を詰める。

 

「何ですか、騒々しい。

 またですか、貴鬼?

 お前の悪戯で、客人を怒らせてしまった様ですね」

 涼やかな声と共に虚空が割れ、物静かな学者の雰囲気を漂わせた塔の主《マスター》が現れた。

 

 ジャミールの隠者《ラムサー》は指先を向け、鬼面の塔ならぬ大理石の塔を操り均衡を回復。

 竜星座の聖闘士が繰り出した渾身の一撃を受け、木っ端微塵となった1階に念動力が作用する。

 

 中空に吊り下げられた八重の塔が緩やかに降下、1階の上に接する寸前で空中浮揚。

 周囲の瓦礫が念動力に砕かれ建築資材と化し、隙間を埋め第1層の上面と接合。

 自然界を表し天、沢、火、雷、風、水、山、地の宇宙エネルギーを現す八卦を象る星封陣。

 八芳星《オクタグラム》は無限の力《パワー》、∞《無限大》の象徴《シンボル》だが。

 無限に拡がる大宇宙《グレート・コスモス》の相似形、肉体に内在する小宇宙《コスモ》。

 究極の第7感覚《セブンセンシズ》、第3段階の小宇宙を覚醒させた賢者が振り返る。

 

 驚愕する老師の愛弟子へ澄明な瞳を向け、第1段階の小宇宙を走査《スキャン》。

 竜星座《ドラゴン》と天馬星座《ペガサス》、破損の甚だしい聖衣を透視し状態を確認する。

 

「聖衣の墓場を突破し得た勇気は認めますが、貴方の要望には御応え出来ません。

 残念ですが聖衣の修理は両方とも不可能、老師へ御報告し他の聖衣を探す事をお奨めします」

 

 無造作に下された宣告を受け、紫龍の瞳が燃えた。

 小宇宙が震え陽炎の如き物質化現象を生起、背中から竜の幻影が湧出し天へと駆け昇る。

 

「聖衣の修復は老師の御依頼に非ず、暗黒《ブラック》聖闘士と対決する為に参上しました。

 邪悪な輩に奪われた黄金《ゴールド》聖衣を取り戻す為、私と友の聖衣2体が必要なのです。

 生命の恩人たる我が友の志に報いる為、せめて天馬星座だけでも修復を乞い願う次第。

 理不尽とは重々承知なれど我が一命を懸け、是が非でも御助力を賜りたい!」

 

 至誠の熱情を迸らせ熱弁を振るう紫龍の小宇宙に応じ、竜星座と天馬星座の聖衣が煌いた。

 同調する聖衣の波動に気付かぬ第1段階の聖闘士に苦笑し、第3段階の聖闘士が言葉を紡ぐ。

 

「貴方の御気持は大変良く解りますが、聖衣の修復は非常に困難と申し上げねばなりません。

 この状態まで破損した聖衣を蘇らせる為には、膨大な精神エネルギーが要求されるのです。

 小宇宙に同調共鳴し無限の力《パワー》を発揮する聖衣は、偉大なる先史精神文明の産物。

 銀河文明の擁護者を名乗る超種族の遺産、小宇宙を映し出す鏡《レンズ》の発展形。

 地、水、火、風、光、闇、命、心の8大元素《エレメント》を内蔵する小宇宙の成長補助具。

 修復に必要な小宇宙は先刻、1階を破壊した際の数百倍に達し貴方の生命に関わりますよ」

 

「我が生命は既に一度は喪われ我が友、星矢の拳が黄泉より呼び戻せしもの。

 天馬星座の聖衣を蘇らせる為に捧げるは本望なり、修復を御願い申し上げます」

 

 決意を映す瞳のみならず第7感覚の真髄、第1段階の小宇宙を奥底まで精査し可能性を確認。

 聖衣の修理技術を受継ぐ唯一の存在、第3段階の聖闘士は初めて微笑を見せた。

 

「貴方の勇気と決断に敬意を表し、数年振りに聖衣の修復を承りましょう。

 館の内部で修復を行います、私に付いて来て下さい」

 

 ドラゴン紫龍はジャミールのムウに先導かれ八芳星の一角、虹色に脈動する一室へ到達。

 燦然と輝く水晶《クリスタル》に覆われ、金剛石《ダイヤモンド》の内部を彷彿とさせる。

 

 伝説に謳われた聖王国が誇る水晶《クリスタル》の都、聖王宮の一角を占める塔の地下。

 謎と神秘に包まれた古代機械、時も次元も解明された天上の都に属する超時空転移装置。

 座標の入力方法を知る者は、超次元間の移動も可能な空想的《フィクティブ》転送機。

 物質のみならず精神体も瞬間移動の対象とする転移機《シャトル》、水晶の機械が煌く。

 

 第7感覚を研ぎ澄ませ己の裡なる小宇宙を最大限に増幅、爆発させ白光が意識を灼いた。

 限界を超え燐気が燃え尽きる程、燃焼させ渾身の力《パワー》を放出。

 

 竜星座の聖闘士が第七感覚を滾らせ、力の根源を振り絞り湧出させた巨大な燐気が変貌。

 牡羊座の聖闘士は苦も無く、第3段階の小宇宙を共鳴させ膨大な精神エネルギーを転換。

 小宇宙エネルギーを注ぎ念動力を用いた細胞賦活と同様、聖衣の傷を治癒し再生を促進。

 竜星座と天馬星座の聖衣が煌き、虹色の光に包まれた。

 

 

(この者が小宇宙に秘める力《パワー》の根源は、星の秘宝石《スター・ドロップ》か?

 八大元素の力を秘め錬金術の触媒となる精霊石の一、虹水晶《レインボー・クリスタル》。旧支配者を追放せし旧神の封印《エルダー・サイン》、ムナールの護符と並ぶ破邪の秘宝。

 妖怪鬼神も怖れ黒の剣と対極に位置する星の霊剣、降魔の利剣を精製する星光の原石。或いは旧支配者《グレイト・オールド・ワンズ》の眷族を討ち、星の戦士が携えた謎の武器。

 異世界の地精族が鍛えた光の武器と同様、磨けば真の邪悪を祓う希望の光となるやもしれぬ。とすれば消息を断って久しい我が師シオンの盟友、五老峰の老師も御存知の筈だが。

 愛弟子に聖衣の墓場を突破する秘訣を明かせしは、或いは私への伝言《メッセージ》かも知れぬ。

 最硬の聖衣とされる竜星座と同様、88の聖衣で唯一つ自己修復能力を備える孤高の聖衣。鳳凰座《フェニックス》が史上初めて主と認め、同調《シンクロ》する男が現れたと聞く。

 無限寿命者《インモータル》と噂される仮面の男は倒され、デスクィーン島の結界は消えた。女神の封印が施されし邪悪の塔を見張る封印監視者に代わり、私の動く刻が到来したのか?)

 

「貴鬼、高天原《ジャミール》を出る時が来た様です。老師の仰られる通り、城戸沙織が女神アテナの転生か否かを確認する為に。

 偽物とされる射手座《サジタリアス》も万一に備え、真偽を確かめねばなりません。紫龍が目覚め次第、日本へ飛びますよ」

 主には及ばぬが念動力を操るアッペンディックスの貴鬼が、眼を丸くする。悪戯好きの少年は重ねて準備を促され、漸く塔の奥へ消失。

 燃え尽きたかと見えた第1段階の小宇宙へ未知の要素、力の根源から湧出する謎の力が作用。念動力を用いた細胞賦活を施すまでも無く、自力で肉体を修復し第7感覚も復活を遂げた。

 意識を覚醒させたドラゴン紫龍の礼に応え、微笑と共に賞賛の詞を贈る第3段階の聖闘士。聖域十二宮の最前線、白羊宮を預かる守護者《ガーディアン》は久方振りに己の聖衣を装着。

 牡羊座《アリアス》の聖衣が輝き第3段階の小宇宙と調和、共鳴し黄金の炎を湧出させる。超長距離の瞬間移動《テレポーテーション》、強大な念動力が時空を歪め3人の姿が消えた。

 

 極東の島国、日本列島の最高峰とされる富士山の麓に連なる広大な樹海。緑の魔境と怖れられる青木が原、闇に包まれた広大な地下空間へ拡がる鍾乳洞の入口。

 再会を喜び聖衣を装着するペガサス星矢、ドラゴン紫龍の隣で微笑むアンドロメダ瞬。冷酷《クール》な表情を崩さぬ聖闘士キグナス氷河、異母兄弟達が洞窟へ踏み込む。

 第3段階の聖闘士は同行せず入口に佇み、牡羊座《アリアス》の聖衣へ小宇宙を集中。黄金聖衣の共鳴作用を利用、射手座《サジタリアス》の位置を探り残留思念を読み取る。

 思念の解析が進むに連れ、穏やかな狼の仮面が外れ表情が一変。ジャミールのムウに付き従う悪戯者、アッペンディックスの貴鬼が怯え距離を置いた。

 

(聖域の偽教皇が反逆者の烙印を押した人馬宮の守護者、アイオロスは知っていたのか? 女神アテナの転生を託せし日本人、城戸光政の正体は大いなる時の神クロノスの転生?

 紫龍のみならず他の3人もまた小宇宙の裡に、クロノスの片鱗が潜んでいるではないか。大時空神の力《パワー》を秘める少年達が、女神の聖闘士と成るは偶然とは思えぬ。

 88在る聖衣の中で唯一、自己修復能力を持ち不死身を誇る鳳凰座《フェニックス》。不死鳥の象徴《シンボル》と同調する聖闘士も日本人と聞くが、紫龍に縁の者か?

 彼等の小宇宙に秘められた力の根源、成長の可能性を探るには絶好の機会《チャンス》。相手は表面的な破壊力を体得する暗黒聖闘士に過ぎぬ、遅れを取る気遣いはあるまい。

 真に彼等が新たな戦いを勝利へ導く希望の聖闘士、最強の切札《ラスト・カード》か否か。選ばれし者と確証を得た暁には、我等も参戦の刻かと老師へ御報告を申し上げねばならぬ)

 霊峰富士の麓に広がる樹海、風洞の奥底に繋がる闇黒の地下空間に於いて。射手座《サジタリアス》の聖衣《クロス》を巡り、激闘が展開された。



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射手座の伝言~我が女神の為に

 新たな聖闘士《セイント》4人は見事、第1段階の小宇宙《コスモ》を発揮。

 日本人の少年達が纏う聖衣は輝き、青銅《ブロンズ》の光を放った。

 勝負を挑んだ暗黒四天王《ブラック・フォー》は当初、互角と見えたが。

 表面的な破壊力は兎も角、第7感覚《セブンセンシズ》の覚醒度に差があった。

(竜星座《ドラゴン》の聖闘士、紫龍は五老峰の老師を師と仰ぐ故に当然だが。

 白鳥座《キグナス》の聖闘士も宝瓶宮の守護者、水瓶座カミュの弟子であったな。

 第3段階の師に薫陶を受けた紫龍、氷河の小宇宙は第1段階の水準を超えている。

 天馬星座《ペガサス》の訓練指導者は魔鈴、アンドロメダ座はダイダロスか。

 第2段階の師とは言え彼等の小宇宙もまた、正式な称号を得た聖闘士に相応しい。

 成長の可能性を秘めた暗黒《ブラック》聖闘士4人も此の儘、死なせるには惜しい)

 黒死の流星を放つ中東イスラエルの少年、ブラック・ペガサス。

 漆黒の鎖を駆使する欧亜の接点トルコの少年、ブラック・アンドロメダ。

 黒い凍気を操る北欧フフィンランドの少年、ブラック・スワン。

 漆黒の拳を振るう東欧ポーランドの少年、ブラック・ドラゴン。

 力及ばず倒れた彼等は、知らなかった。

 牡羊座ムウが念動力《サイコキネシス》を用い、細胞賦活を施していた事に。

 暗黒聖闘士の首領《ドン》、史上初めて鳳凰座《フェニックス》の聖衣を纏った少年。

 憎悪の感情で小宇宙を染めた報復者《アンザラー》、一輝が4人の前に姿を現す。

 自己修復能力を備えた唯一の聖衣、鳳凰座と同調《シンクロ》する小宇宙を持つ長兄。

 不死身の男は弟達4人の攻撃を一蹴したが、残留思念に操られ射手座の聖衣が介入。

 一輝の攻撃を遮り天馬星座の聖闘士、ペガサス星矢を護り逆転勝利を齎したが。

 不意に激震が生じ地下空間を崩壊に導き、敵味方に分かれた兄弟達を埋没させた。

 

(鳳凰座の聖闘士も小宇宙に破邪の秘宝、星の秘宝石《スター・ドロップ》を秘めるか。

 有罪《ギルティー》を倒したフェニックス一輝は、ドラゴン紫龍の兄。

 アンドロメダ瞬、キグナス氷河、ペガサス星矢も城戸光政の血を引く者。

 彼等を含め百人の兄弟が聖闘士の修行に送り込まれ、他にも聖衣を得た者が5人。

 精神測定《サイコメトリ》を用い記憶を辿って見たが、城戸光政とは何者か分からぬ。

 まさかと思うが女神アテナと同様、天空《ウラノス》を統べる天帝セウスも転生を?

 一輝の小宇宙と記憶を走査《スキャン》、解析して見たが一部に封印が施されている。

 ひとつは冥王ハデスの代行者、冥界の預言者パンドラの記憶封鎖《メモリー・プロテクト》。

 もうひとつは我が同僚、処女宮を預かる乙女座シャカの小宇宙だな。

 彼は教皇を名乗る簒奪者を支持すると聞くが、デスクィーン島を訪れた際に気付いた筈。

 本来は彼も聖域を護る切札《ラスト・カード》、不動の門番《ゲート・キーパー》だが。

 来るべき十二宮の闘いに於いて処女宮の守護者、シャカの助力を期待出来るかもしれぬ)

 高天原《ジャミール》の隠者《ハーミッド》、ムウは仮面を脱ぎ捨て念動力を発動。

 一輝の影、最後のブラック・フェニックスも含め瞬間移動《テレポーテーション》。

 息も乱さず青銅5人と暗黒5人、合計10人の聖闘士を富士の地底から地上へ搬送。

 念動力を作用させ応急の救命措置、細胞賦活を施して傷を癒し生命力を回復させる。

 射手座の聖衣を巡り私闘を繰り広げた聖闘士を処罰せよ、と教皇に指示された抹殺者。

 白銀色《シルバー》に輝く聖衣を纏う聖域の刺客、第2段階の聖闘士5人が現れた。

 

 蜥蜴座《リザト》、ミスティ。

 鷲座《イーグル》、魔鈴。

 白鯨座《ホエール》、モーゼス。

 ケンタウルス座、バベル。

 猟犬座《ハウンド》、アステリオン。

 地上最高の美を自認する白皙の男が一歩、踏み出し無謀にも詰問を開始。

「我等は教皇より直接、命令を受けている。

 私闘は禁じられている由、知らぬとは言わせぬ。

 聖衣の修理人には関係無い筈だが何故、こやつ等を脱出させた?

 返答次第では見逃す訳には行かぬ、反逆者に加担の志が有りと見做し処刑する」

 穏やかな狼は涼しい顔で沈黙を守り、何処吹く風と脅迫を聞き流していたが。

 遂に堪忍袋の尾を切り、第3段階の小宇宙を鳴動させた。

「余人は何も気付かぬであろうが五老峰の老師と私、真実を知る者を欺く事は出来ぬ。

 真の教皇とは前聖戦を戦い抜いた勇者、先代の牡羊座《アリエス》也。

 善悪の判断は我が師シオンの盟友、天秤座《ライブラ》の聖闘士が基準となる理《ルール》。

 聖闘士の要となる五老峰の老師もまた、聖域《サンクチュアリ》の教皇を認めておらぬ。

 射手座の聖衣に宿る残留思念が暴露した通り、お前達の崇める教皇は真っ赤な偽者。

 女神の転生たる赤子を黄金の短剣にて害せんと試み、勇者を反逆者と偽る痴れ者に過ぎぬ!」

 

「最早、問答無用!

 教皇を貶める虚言の数々、許せぬ!!

 ジャミールの山奥に引き篭もっていた隠者に、何が出来る?

 我等5名が教皇に代わり、反逆者に鉄槌を下してくれるわ!」

 本来の標的《ターゲット》である青銅、暗黒の聖闘士10人は完全に無視。

 聖域の刺客5名は告発者の抹殺を試み牡羊座ムウの周囲に散開、包囲攻撃を意図し一斉に突撃。

「フッ。

 愚か者、血迷ったな!

 第2段階の聖闘士が束となった所で、私には通じぬ。

 第3段階の小宇宙、体感せよ!」

 最後の台詞は襲撃者ではなく青銅、暗黒の聖闘士達へ手向けられた激励の言葉であったが。

 第1段階の第7感覚では感知出来ぬ程に僅少の時間、一瞬の早業で勝負は呆気無く決着。

 青銅聖闘士が駆使する音速《マッハ》の拳を凌ぎ、白銀聖闘士が操る超音速の闘技。

 天地の差と称される第1段階と第2段階の違いを更に上回り、次元を異にする光速の技が閃いた。

 

 星の光を冠する必殺技を繰り出すまでも無く、5方向から迫る超高速の包囲攻撃を一蹴。

 黄金色に輝く聖衣の拳が空間を引き裂き、白銀色の聖衣を貫き襲撃者達を痛撃。

 巧みに手加減された打撃を避け切れず、聖域の刺客は悉く気絶し大地に倒れ伏した。

 眼前で展開された想像を絶する高次元の攻防、眼にも止まらぬ瞬転の技に唖然とする少年達。

「一時的に意識を喪わせる峰打ち故、心配は要らぬ。

 射手座の聖衣に託された残留思念、アイオロスの無念と伝言は確かに受け取った。

 お前達は今見た通り、聖域から反逆者の烙印を押され生命を狙われている。

 生き残る途は唯一つ、偽教皇の悪事を暴き真実を白日の下に晒すしかあるまい。

 暗黒聖闘士を名乗る者達は、鳳凰座の聖闘士に従うと誓った筈。

 同一の守護星座を戴く青銅聖闘士との決着は一時、延期して貰おうか」

 知らぬ間に細胞賦活を施され、一命を取り留めた暗黒四天王は已む無く承諾。

 群れる事を好まぬ一輝も圧倒的な第3段階の小宇宙に気圧され、異を唱える根性は無かった。

「アイオロスが偽教皇の魔手から救った赤子、城戸沙織とやらの許へ向かうぞ。

 真に女神の転生なれば私もアイオロスに倣い、聖域に蔓延る邪悪を一掃する心算だ」

 白羊宮の守護者は再び念動力を発動、時空を歪め周囲を覆う転送用の力場《フィールド》を創造。

 意識不明の白銀聖闘士を含め青銅、暗黒の聖闘士達を引き連れ城戸邸へ飛んだ。

 

 城戸邸は無人の廃墟と化しており、グラード財団の本拠地も同様であったが。

 気を喪った白銀聖闘士の記憶を解析した結果、他にも聖域の刺客が来日していると判明。

 呉越同舟の一行は銀河戦争《ギャラクシアン・ウォーズ》の舞台、闘技場《コロッセオ》へ転移。

 破壊行為に勤しむ白銀聖闘士5人、立ち竦む少女の姿を視界に捕捉。

 第3段階の小宇宙が閃き城戸沙織の心を慎重に走査、潜在意識の奥底へ精神接触を試みる。

 射手座アイオロスの施した小宇宙の封印、第7感覚の精神遮蔽《サイコ・シールド》を解除。

 13年の歳月を経て女神アテナの破壊が覚醒、神々の大いなる意志《ビッグウィル》が溢れ出す。

 無限の包容力を秘め万物を許容する超空間《ハイパースペース》、雄大な小宇宙が闘技場を覆う。

 左胸に掌を当て片膝を付き拝謁の礼を捧げる姿勢を取り、頭を垂れる第3段階の聖闘士。

 茫然自失の態であった少年達が慌てて、白羊宮の守護者に倣い恭順の意を表し頭を下げた。

 

「人馬宮を預かる守護者にして真の勇者、射手座アイオロスの至誠と導きに感謝を捧げる。

 女神よ、帰依し奉ります」

 蛇遣い座《オビュクス》、シャイナ。

 御者座《アウリガ》、カペラ。

 地獄の番犬座《ケルベロス》、ダンテ。

 烏座《クロウ》、ジャミアン。

 ペルセウス座、アルゴル。

 闘技場の破壊者達にも女神の小宇宙を無視する事は出来ず、真偽は明白であった。

 女神も見放したと豪語する暗黒聖闘士達もまた、本物を眼の前にしては突っ張り切れぬ。

 牡羊座ムウに生命を救われた恩義も有り、青銅聖闘士達と共に忠誠を誓う破目となった。

 伝説の汎用人型決戦兵器、鉄《くろがね》の城に因み鋼鉄《スティール》の称号を授与。

 意識を回復した白銀聖闘士5人も同僚達と同様、女神の小宇宙に触れ潔く白旗を掲げる。

 第3段階の黄金聖闘士1名、第2段階の白銀聖闘士10名、青銅と鋼鉄の第1段階10名。

 射手座の聖衣に籠めた勇者の伝言に応え、21名が聖域に蔓延る邪悪を祓う決意を固めた。



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兄弟の絆~聖域十二宮の前哨戦

 偽教皇は異次元空間を操り遠隔視の秘術、千里眼《クレアボワイヤンス》を駆使。

 城戸沙織の小宇宙を感知し女神の覚醒を察知、時を移さず次なる刺客の派遣を決定。

 聖域の召還に応えぬ牡羊座ムウの造反を念頭に置き、第3段階の小宇宙を操る対等の聖闘士。

 獅子座《レオ》の聖衣《クロス》を纏う獅子宮の守護者、アイオリアに白羽の矢を立てた。

 同時に天蠍宮の主《マスター》、蠍座《スコルピオン》ミロを教皇の間へ招集。

 蠍座の聖衣を纏う第3段階の聖闘士を同席させ、アイオリアの敵愾心を煽る。

 光速の拳を操る獅子の漢は何かに付け、反逆者アイオロスの弟と後ろ指を指される存在。

 特に落度を持たぬ蠍座ミロと比較されては、劣等感を抱かざるを得ぬ。

 城戸沙織は私闘を演じる聖闘士に徒党を組ませ、聖域に反逆を試みる偽女神と断定。

 兄に汚名を着せた元凶を討て、肩身の狭い思いを味わわされた屈辱を晴らせと唆す。

 

 13年前に黄金の短剣を阻止、仁・知・勇を兼備する射手座の黄金聖闘士アイオロスの弟。

 アイオリアも第3段階の黄金聖闘士、城戸沙織の小宇宙に接触すれば一目瞭然だが。

 真相を知った教皇の後継者、牡羊座ムウの注意を一瞬でも逸らす事が出来れば構わぬ。

 白銀聖闘士3名に黄金の獅子、次の教皇に指名された勇者の弟を尾行させ行動を監視。

 兄と同様に女神の警護者《ガーディアン》となる前に乱入させ、否応無しに乱戦へ持ち込む。

 黄金《ゴールド》聖闘士の勝負は容易に決着せず、膠着状態に陥るは必至。

 千日戦争《ワンサウザント・ウォーズ》に意識を拘束され、城戸沙織から注意が逸れる。

 第2段階の白銀聖闘士10名、青銅と鋼鉄の第1段階10名に光速の一撃を妨げる事は出来ぬ。

 アイオリアを捨て駒としてムウの結界に隙を作り、異次元空間から黄金の短剣を投射。

 

 用意周到に仕組んだ罠、陥穽《トラップ》は計算外の要素が作用し不発に終わった。

 弟の小宇宙を感知した射手座《サジタリアス》、兄の聖衣に篭る残留思念が発動。

 獅子座《レオ》の聖衣へ強烈な波動を送り、共鳴を生じさせ弟の第7感覚へ波紋を励起。

 アイオリアは背後に潜む第2段階の小宇宙を知覚、真実を悟ると同時に動き凶拳を阻止。

 気配を殺し好機を窺う白銀《シルバー》聖闘士の機先を制し、光速の拳が炸裂。

 巧みに手加減を加えた獅子の牙が3体の聖衣を貫き、監視役の3人は一瞬で気絶。

 牡羊座ムウは念動力《サイコキネシス》の金網、防御結界《バリア・フィールド》に専念。

 超能力障壁《サイキッカル・バリヤー》は微動もせず、微塵の隙も生じなかった。

 

 獅子の男は女神の化身に忠誠を誓うと踵を返し、単独で聖域へ直行し教皇を討とうとしたが。

 射手座の聖衣に篭る残留思念の伝言を盾に、兄に託された城戸沙織を護衛せよと説得された。

 偽教皇は数多の異次元空間を自在に操り遠隔攻撃、超長距離攻撃を可能とする秘術の使い手。

 第3段階の小宇宙に覚醒する聖闘士が傍に控え、直衛しなければならないと理詰めで説伏。

 監視役の白銀聖闘士3人も意識回復の後、女神の小宇宙に圧倒され教皇に逆らい転向を決意。

 魔鈴達と同様に城戸沙織に忠誠を誓い、同僚の白銀聖闘士10名に合流。

 第3段階の黄金聖闘士2名、第2段階の白銀聖闘士13名、青銅と鋼鉄の第1段階10名。

 射手座の聖衣に籠めた勇者の伝言に応え、25名の聖闘士が偽教皇と戦う旨を表明。

 城戸沙織は偽教皇に翻意を促す為、直接対面し説得を試みると宣言。

 攻撃は最大の防御、の諺に従い女神の聖闘士25名が聖域へ乗り込む事となった。

 

 牡羊座ムウは獅子座アイオリアへ城戸沙織の護衛役を任せ、別行動を命じられた。

 全聖闘士の判断基準となる天秤座《ライブラ》、五老峰の老師へ状況を報告せよ。

 現状では第3段階の黄金聖闘士2名に対し、同格の黄金聖闘士8名が偽教皇に従う。

 城戸沙織の小宇宙に触れれば彼等も反旗を翻すだろうが、同士討ちは避けねばならない。

 前聖戦を戦い抜いた勇者、ライブラ童虎が城戸沙織を女神と認めれば均衡は覆る。

 聖域十二宮の守護者達は寝返り、偽教皇も抵抗の無益を悟るであろう。

 戦術的勝利を求めず戦略的優位を確実にする為、牡羊座ムウは五老峰へ飛んだが。

 偽教皇もまた同様の想定に基き要の石、全聖闘士の判断基準となる存在の抹殺を意図。

 聖域から派遣された巨蟹宮の守護者、蟹座デスマスクが先んじて到着していた。

 

 女神の封印を見張る封印監視者、ライブラ童虎は或る秘術を施され本来の力を発揮出来ぬ。

 危うい所であったが牡羊座ムウの到着が間に合い、デスマスクは1対2の不利な戦いを回避。

 天秤座の聖闘士が示した判断基準を無視、巨蟹宮で待つと捨て台詞を遺し姿を消した。

 巨蟹宮の守護者が想定外の行動に出た為、他の黄金聖闘士も敵に廻る懸念は否定出来ぬ。

 封印監視者は五老峰から動けず、聖域十二宮へ赴き参戦する事は不可能。

 次善の策として老師は封印の監視を継続、天秤座の聖衣に残留思念を籠め牡羊座ムウに託す。

 黄道十二宮の星座を象徴する聖衣12体が揃えば共鳴が生じ、第3段階の小宇宙に波及する。

 或いは精神支配《マインド・コントロール》が破れ、偽教皇の洗脳を脱する可能性もある。

 牡羊座ムウは天秤座の聖衣を携え聖域を護る第1の宮、女神から預かる本来の居場所へ飛んだ。

 

 一方グラード財団の総帥、城戸沙織に従う第1段階の聖闘士アンドロメダ瞬は困惑していた。

 敬愛する師ダイダロスの訃報と共に訪れた先輩、カメレオン座ジュネに泣いて頼まれたのだ。

 白銀聖闘士の中でも最強の実力を持つ人格者、ケフェウス座のダイダロスも抹殺された。

 魚座《ビスケス》の聖衣を纏う第3段階の聖闘士、アフロディーテに瞬も殺されるに違いない。

 泣き喚くジュネに手古摺る瞬を見かねて女神アテナの化身、城戸沙織が助け船を出した。

 錯乱状態に陥り半狂乱の少女も、大いなる意志《ビッグウィル》には逆らえず同行を承諾。

 城戸沙織を守護する獅子座アイオリアは隙を見せず、グラード財団の専用機は聖域へ無事着陸。

 

 白羊宮へ急ぐ一行に偽教皇は最後の刺客、矢座《サジッタ》の白銀聖闘士を捨て駒として投入。

 アイオリアの監視役3人が女神の小宇宙、大いなる意志《ビッグウィル》に触れ寝返った教訓。

 小宇宙を直接攻撃する精神攻撃と幻術を併用する催眠術の精華、幻朧魔皇拳を用い入念に洗脳。

 催眠暗示波《ヒュプノ・ウェーブ》を発展、昇華させた精神支配《サイコ・コントロール》。

 必殺の矢を放ち城戸沙織を葬れ、と強力な催眠暗示命令を植付け詭計《トリック》の種を仕込む。

 異次元空間を通じ偽教皇の遠隔攻撃、精神攻撃の秘術が獅子座アイオリアを直撃。

 第6感覚《サイキック》を備えておらぬ守護者は不意を突かれ、一瞬の隙が生じた。

 

 13年前に女神の化身を襲う寸前であった黄金の短剣は、黄金の矢へ変貌し超空間を飛来。

 幻術を操る矢座トレニーの秘技、幻の矢を陽動として聖闘士達の間隙を縫い標的を襲う。

 伝説の風魔一族が操る秘術、白羽陣の切札《ラスト・カード》。

 直進する青羽、弧を描く赤羽の影に擬態《カモフラージュ》する必殺の影羽が再現された。

 黄金の矢は偽教皇の狙い通り、一瞬の隙を突き獅子座アイオリアの光速拳を回避。

 白光と化した獅子の牙が直撃する瞬間を精確に見極め、幻の矢を割り込ませる。

 黄金の矢はアイオリアの視界から消失《ホワイトアウト》、城戸沙織の胸を貫き心臓と一体化。

 抜く事も出来ず唯一の活路は十二宮の更に後方、聖域の最奥に位置する巨大女神像の携える盾。

 女神の盾に秘められた破邪の秘法を発動させ、女神アテナの小宇宙を活性化させるしかない。

 

 城戸沙織の裡なる小宇宙は黄金の矢に浸蝕され、臨界点を越える瞬間が訪れる刻限は分からぬ。

 城戸沙織は生死の予断を予断を許さぬ状況の儘、白羊宮へ運び込まれ一行に牡羊座ムウが合流。

 黄道十二宮の星座を象徴する聖衣12体の共鳴が生じ、第3段階の聖闘士3名が反旗を翻す。

 他の4名は天秤座の聖衣に籠められた残留思念、老師の意志を無視し応答せず。

 蟹座《キャンサー》の聖衣を纏う死の仮面、巨蟹宮の守護者デスマスク。

 山羊座《カプリコーン》の聖衣を纏う修羅、磨羯宮の守護者シュラ。

 水瓶座《アクエリアス》の聖衣を纏う水と氷の魔術師、宝瓶宮の守護者カミュ。

 魚座《ビスケス》の聖衣を纏う美の裁定者、双魚宮の守護者アフロディーテ。

 第3段階の小宇宙を自在に操る4人は何故か、偽教皇を支持する姿勢を崩さぬ。

 双子座《ジェミニ》の聖衣を纏う神の化身、双児宮の守護者サガと共闘を選択。

 

 牡牛座《タウラス》の聖衣を纏う闘王、金牛宮の守護者アルデバラン。

 乙女座《バルゴ》の聖衣を纏う神に近い男、処女宮の守護者シャカ。

 蠍座《スコルピオン》の聖衣を纏う黄金の蠍、天蠍宮の守護者ミロは要請を受諾。

 銀河戦争《ギャラクシアン・ウォーズ》で敗北を喫し、再修業中の5人も急報を受け参戦。

 牡羊座ムウは老師の代行者として第1段階の16名に、城戸沙織を護り白羊宮へ残留を命令。

 事態を打開すべく第3段階の黄金聖闘士2名、第2段階の白銀聖闘士13名は行動を開始。

 金牛宮の守護者アルデバランを加え、聖闘士16名が双児宮の迷宮《ラビリンス》へ突入。

 偽教皇の異次元空間《アナザー・ディメンション》へ、念動力《サイコキネシス》を投入。

 強大な念動力が異次元空間に干渉、強引に時空を捻じ曲げ複数の地点《ポイント》へ接続。

 小宇宙の共鳴作用を利用し乙女座シャカ、蠍座ミロへ急変する状況が伝達される。

 突如生じた渦の中心へ躊躇う事無く身を躍らせ、黄金聖闘士2人の姿が消えた。



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磨羯宮~修羅の聖剣vs獅子の牙

 聖域《サンクチュアリ》十二宮の一角を占める第10番目の関門、磨羯宮。

 偽教皇の同志が待ち受ける砦に、異次元空間《アナザー・ディメンション》が接続。

 黒い渦が生起し中心から膨大な光が溢れ、石造りの闘技場《コロッセオ》を照射。

 竜の星座と異なる守護星座、ドラゴン紫龍とは比較を絶する第3段階の小宇宙《コスモ》。

 黄金色《ゴールド》の聖衣《クロス》を纏う十二宮の同僚、同格の聖闘士《セイント》。

 山羊座《カプリコーン》の聖衣を纏う修羅、磨羯宮の守護者《ガーディアン》が呟いた。

「やはり、お前か。

 何時か、闘り合う刻が来ると思っていたぞ。

 お前に見事、兄の仇を討ち取る実力が備わっているか?

 力足りず、返り討ちとなる公算が大だと思うがな!

 俺の手足は何物をも斬り裂く降魔の利剣、聖剣《エスクカリバー》と化している。

 お前の兄へ致命傷を負わせた13年前の故事、知らぬ筈は有るまい。

 最後の機会《チャンス》だ、選択の自由を与えてやろう。

 今なら、引き返せるぞ。

 我が軍門に下り降伏せよ、お前は更なる戦闘力の向上が見込めるからな。

 現在只今の所、お前の実力は俺の足元にも及ばぬ。

 俺に師事し腕を磨き修行を積み、高度な技量を身に付ければ互角の勝負も夢ではないが。

 我が忠告に従わぬとあれば手加減は無しだ、存分に実力を試させて貰おうか!」

 

「ふざけるな、兄の仇め!

 増してや女神の化身、城戸沙織の御命が危機に晒されている最中だぞ!!

 天秤座《ライブラ》の聖衣《クロス》を通じ示された老師の意思、知らぬとは言わせぬ!

 兄のみならず女神に危害を加える真の邪悪に組する裏切者、お前に従う理由は無い!!

 13年前も女神の生命が狙われ兄が阻止した事実、知らぬ筈が有るまい!

 お前の許で修行を積めとは冗談にも程がある、兄の無念を晴らさせて貰うぞ!!」

 第3段階の第7感覚《セブンセンシズ》、両者の小宇宙が瞬間的に接触し光速で思考を交換。

 光速の思念が交換され火花を散らし、小宇宙の接触面に激烈な反応が生じる。

 

 一瞬のみ生じた第7感覚の共鳴を互いに遮断、小宇宙が戦闘に備え増幅され極点で爆発。

 修羅の冷酷な眸に応じ獅子宮の守護者、アイオリアが眦を決し獅子の瞳に凄絶な炎を映す。

 人馬宮の守護者を務めし敬愛する兄、射手座アイオロスの無念を晴らす機会を得た弟。

 熱血漢の背中から神々の使者、白い獅子《ホワイト・ライオン》の幻影が立ち昇る。

 黄金の獅子が戦闘モードへ移行、小宇宙が増幅され同調《シンクロ》する聖衣が咆哮。

 山羊座の修羅と獅子座の報復者《アンザラー》、凄腕の聖闘士2人が生と死の接点へ突撃。

 黄金の獅子は解き放たれた弓の如く身を翻し、伝説の超越者を思わせる光の速さで疾走。

 銀河星海の覇者を髣髴とさせる蒼氷色《アイス・ブルー》の瞳が輝き、獅子の牙が閃く。

 

 獅子座の勇者を斬り刻んだ修羅は真正面から光速の拳、必殺の一撃を浴びたかと見えたが。

 上体を反らし両掌を大地に着け同時に旋回、光速拳を避け強烈な蹴りが顔面を襲う。

 伝説の神技的防御《ディフェンス》に優るとも劣らぬ秘術、南米発祥の蹴撃闘法カポエラ。

 相手の攻撃と同時に下方、足元から交差法《カウンター》の技術《テクニック》を披露。

 逆立ち側転を多用する爆裂舞踏《ブレイク・ダンス》の如き、変幻自在の芸術的足技。

 支点となる手首、肩、頭が躍動し切換る変幻自在の魔術《マクンバ》。

 獅子の至近距離へ瞬時に体重移動、制極界《フィールド》の内部に迅速な踏み込み。

 熟練の闘牛士《マタドーレ》が巧みに操る長剣《サーベル》の如く、鋭利な手刀が閃いた。

 

「フッ、がっかりさせてくれる。

 仇討ちだと、その程度の実力でか?

 13年前に女神の化身とやらに殉じた兄、アイオロスへ致命傷を負わせた俺に手も足も出ぬか。

 俺は、大言壮語する奴が嫌いでな。

 黄金の獅子帝は銀河を統べる英雄、星間宇宙の帝王と聞くが。

 獅子座の聖衣を纏う守護者は、兄の足元にも及ばぬと見える」

 常識を無視した特異な体勢から意表を突き、不意に繰り出される瞬速の足技。

 聖剣《エクスカリバー》が乱れ飛び、無作為《ランダム》に浴びせられる。

 修羅の道を歩む守護者の連撃を巧みに避け、恐慌《パニック》に陥らず好機を窺う挑戦者。

 明白な実力差にも怯まぬアイオリアを眺め、ニヤリと満足気に微笑うシュラ。

 旋回足技主体の特異な格闘技、舞踏武術カポエラを始め数多の足技格闘術を究めた漢。

 或いは黄金聖闘士の中でも最強と噂される蹴撃の魔術師、格闘術の天才が再び口を開いた。

 

「まぁ健闘《ナイス・ファイト》と認め教えてやろう、この世で力と頼む物は己自身の拳のみよ。

 俺は『力こそが全て』と語る教皇に共鳴し、協力する事となった。

 我が盟友デスマスク、アフロディーテとても同じ事だったのだろう。

 後にカミュもまた教皇に賛同の意を表し、我等5人は力を以て地上を護る同志となった。

 俺は異種格闘技を選り好みせず試す内、己の裡に天性の躍動音感《リズム》を自覚してな。

 音楽と共に歩んで来た特異な歴史を有する武術、カポエラと運命の出会いを果たした。

 我が母国は欧州南西イベリア半島スペイン、南欧ラテン民族の血が色濃く流れる。

 拳よりも脚を多用するカポエラが殊の外、性に適い足技の持つ無限の可能性に興味を抱いた。

 更に隣国フランスの蹴撃格闘術サバットを学び、両腕のみならず両脚をも鍛え上げた。

 フランス伝統の格闘技サバットは足刀を鍛え、切れ味鋭い薄刃《カミソリ・カッター》とする。

 蹴撃《キック》を腕で防御《ガード》すれば、骨まで斬り裂かれる事となる。

 結果として俺は4本の聖剣《エクスカリバー》を身に付け、聖域最強の修羅と成り果てたのさ」

 

 変幻自在に舞い踊り眼にも止まらぬ両腕両脚、聖剣《エクスカリバー》4本が織り成す回転渦流。

 光速の拳を避けると同時に繰り出される手練の足刀、究極の立体交差攻撃《カウンター》。

 攻撃を避ける瞬間、上体と脚が一瞬で反転する態勢変化《ポジション・チェンジ》。

 全く思いがけぬ方向から再度、強烈な蹴撃《キック》が獅子の顔面を襲う。

 流れる様な連係動作《コンビネーション》、神出鬼没の閃く聖剣が次の攻撃の予備動作となる。

 躍動《リズム》を読み辛うじて合わせた筈の反撃《カウンター》が、虚しく空を切る。

 

 上体を後方へ逸らし両手を大地に着け、逆立ちとも見える独特の変則な構え。

 舞踏《ブレイク・ダンス》の如き高速旋回へ移行、一見不自然な態勢から強烈な斬撃。

 一瞬で回転軸《センター》が変化し掌底、肩、頭頂と次々に支点《ポイント》が移行。

 支点転換の度に律動《リズム》が変化し回転軸、回転速度、進行方向、移動速度を転換。

 全ての要素が予想も附かぬ変化を遂げ、動きが読めず瞬間的に対応が遅れる。

 間合いが全く読めず、想定外の瞬間に両腕両脚が宙を舞う。

 聖剣に鍛え上げられた四肢が舞い、獅子の制極界《フィールド》を斬り裂く。

 変幻自在の不規則運動を繰り返す蹴闘士の妙技、聖剣4本の斬撃が交錯乱舞。

 旋風が竜巻と化し戦場を吹き荒れ、驚異の波状連続攻撃が獅子座アイオリアを襲う。

 異様に鋭い戦闘律動《バトル・リズム》の旋風が、闘技場に吹き荒れる。

 

 山羊座の聖闘士が披露する華麗な足捌《ステップ》が、獅子宮の守護者アイオリアを翻弄。

 4本の聖剣が磨羯宮を乱舞、空間を斬り裂き黄金の獅子を追い詰める。

「ライトニング・ボルト!」

 圧倒的不利な状況にも臆する事無く百獣の王、黄金の獣神が懸命に反撃。

 獅子の心臓《ライオン・ハート》は正確に鼓動を刻み、躍動する修羅を観察。

 恐れを知らぬ獅子王《ライオン・キング》は一見、不規則《ランダム》な動きを解析。

 第3段階の小宇宙を込めた光闘気の波動拳、獅子の光速拳が悉く空を切るも意に介さぬ。

 冷静沈着に判断力を保ち舞踏術の律動《リズム》、黄金律《パターン》の解読を試みる。

 

「思ったよりやるがもう一歩足りぬ、お前の実力は認めてやるがこれまでだな!

 我が4本の聖剣を駆使する秘術を用い、決着を付ける!!

 お前が生き延びる唯一の活路は、俺の連撃を上回る技を繰り出して俺を撃つ事!

 兄を越える事も出来ぬ今のお前には、不可能だろうがな!!

 無駄と思うが精々足掻き、俺を楽しませてくれ。

 期待しているぞ、ジャンピング・ストーン!」

 戦慄の宣告と共に修羅の強靭な健脚が宙に舞い、大理石の床と壁が削られ散弾と化す。

 雨霰と降り注ぐ無数の瓦礫、跳躍する岩石弾が暗幕《カーテン》と化し獅子の視界を遮る。

 山羊座シュラが地表を駆け廻る鼠花火、弾け飛ぶ爆竹の如き渦動《ヴォルテクス》に変化。

 激しい舞踏《サンバ》の律動《リズム》に乗り、闘いの太鼓《ドラム》が打ち鳴らされる。

 千手観音の操る千本の腕を彷彿とさせる乱射乱撃、蹴撃《キック》の鬼が繰り出す暴風雨。

 暴風雨と化した修羅の聖剣が磨羯宮を荒れ狂い、獅子座の聖衣を容赦無く斬り裂いた。

 

 絶対絶命の危機を悟り眠れる獅子が覚醒、第3段階の小宇宙に秘められた潜在能力が覚醒。

 燦爛たる白光を放つ獅子座の黄金聖衣、白金《プラチナ》聖衣が現出し小宇宙を増幅。

「ライトニング・プラズマ!」

 光闘気の輪形陣が形成され電磁波の破砕流、プラズマ渦動を操る雷帝の幻影が出現。

 四千年に及ぶ歳月を掛け銀河が産み出した閃光《フラッシュ》、星々の輝煌波が湧出。

 伝説に謳われる光の星剣、紫煌剣が創造する光の輪《ライトニング・リング》を再現。

 

 華麗な舞踏家にして凄腕の武闘家、蹴撃の魔術師《シュート・マスター》が哄笑。

 芸術的な足技を誇る戦神の化身は、鮮血を思わせる真紅の瞳と赤毛の舞闘家へ変貌。

 修羅の聖衣も小宇宙から湧出する触媒、大いなる意志《ビッグウィル》に応じ変形。

 名状し難い咆哮を轟かせ進化を完了、山羊座の神聖衣《ゴッド・クロス》が現出。

 第3段階の小宇宙を越える超感覚、大いなる意志が唸り声を挙げ実力を発揮。

 燦然と輝く光の輪を一刀両断、アイオリアの纏う白金聖衣も斬り裂き小宇宙が消えた。



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宝瓶宮~凍気の達人vs掌打の術

 聖域《サンクチュアリ》十二宮の一角を占める第11番目の関門、宝瓶宮。

 偽教皇の同志が待ち受ける砦に、異次元空間《アナザー・ディメンション》が接続。

 黒い渦が出現し膨大な光が溢れ、氷床に覆われた水晶《クリスタル》の宮殿を照らし出す。

 白鳥の星座と異なる守護星座、愛弟子とは比較を絶する第3段階の小宇宙《コスモ》。

 黄金色《ゴールド》の聖衣《クロス》を纏う十二宮の同僚、同格の聖闘士《セイント》。

 水瓶座《アクエリアス》の聖衣を纏う守護者《ガーディアン》、水と氷の魔術師が呟いた。

「これは意外だな、天蠍宮を預かる我が友が訪れるであろうと想定していたのだが。

 鎧を透過し肉体へ浸透する防御不可能な打撃系の秘技、骨法の奥義を操る武人が来るとは。

 闘将の切札は強靭な両腕を剛刀とする抜刀術、居合いを応用し双掌から繰り出す光速の斬撃。

 何故に肝胆合い照らす間柄と噂に聞く山羊座シュラ、修羅の道を選びし我が盟友と対戦せぬ?

 我が闘法《モード》の真髄は肉弾相打つ格闘術に非ず、冷却系の攻撃魔法と趣の似た凍気技。

 聖衣を貫徹し甚大な破壊力を誇る骨法の秘技、光速の掌底打と言えども私には通じぬぞ」

 

 牡牛座《タウラス》の聖衣を纏う金牛宮の守護者、武人の矜持を持つ挑戦者《チャレンジャー》。

 闘将アルデバランは些か失礼な宣告を聞かされ、仏頂面を晒すかと思いきや顔筋一つ動かぬ。

 義を重んじ恐れを知らぬ挑戦者、雄渾な体格を誇る勇士は挑発を聞き流し度量の大きさを誇示。

 居合い抜きに斬り捨てる抜刀術の構え、両腕を組み悠然と待ち受ける態勢を保ち鉄面皮を貫く。

 一定の範囲内に踏み込んだ者を返り討ちにする攻防一体の戦陣、制極界《フィールド》を維持。

 予備動作無しで繰り出す交差攻撃《カウンター・アタック》、双掌打を撃つ態勢の儘で呟いた。

 

「置け、宝瓶宮の守護者カミュ。

 我も不利は重々承知の上で挑戦者の名乗りを上げた故、お主に解説して貰うには及ばぬ。

 此方も事情が有るのでな、些か不満かも知れぬが御付き合い願いたい。

 不本意な配役《キャスティング》とは言え、確固たる理由が有るのだよ。

 牡羊座ムウは先代の導師《メンター》、教皇シオンの仇討ちに固執し双子座サガを選択。

 獅子座アイオリアも敬愛する兄アイオロスの仇、山羊座シュラと対決の機会を譲らぬ。

 蠍座ミロは厚い信頼を置く親友と袂を分かち、決着を付ける覚悟と強硬に主張したのだが。

 済まぬが俺が余計な差し出口を行い、お主との勝負を譲って貰ったのだよ。

 仁者ダイダロスを斃した冷酷非情は許せぬが、双魚宮に薔薇の花を敷き詰める男だからな。

 己の宮を薔薇で埋め尽くし花園へ変える感性、美に重きを置き過ぎる性格は理解出来ぬ。

 一言で言えば気質が合わぬ、未だしも水瓶座カミュの方が武人として共感を覚えるのだよ。

 こう言っては何だが冷酷《クール》の質が異なる、と言うか節を曲げぬ矜持を感じるな」

 

 北欧スカンジナヴィア半島出身の金髪碧眼、氷の彫刻を思わせる端麗な容姿。

 芸術的な白皙の面に氷の微笑が迅り、蒼氷色《アイス・ブルー》の瞳が微かに揺らめく。

 純白の雪原に覆われ極光《オーロラ》が舞う極北の荒地、氷の大地《ブルー・グラード》。

 伝説に謳われる氷戦士《ブルー・ウォリアー》の末裔、とも噂される氷の聖闘士。

 氷棺《アイス・コフィン》を創造し、凍れる時の秘法を体得する北の勇者。

 様々な噂を持つ凍気拳の導師《メンター》は、氷の溜息を吐いた。

「フッ、意外だな。

 勇猛なる硬骨漢アルデバラン殿から発せられる美辞麗句の数々、真に感嘆し痛み入る次第。

 五老峰の老子と肝胆相照らす仲の武人から思い掛けぬ事に大層、高く買って頂いた様だな。

 我が友との友情を汲み、苦渋の対決を回避せんとの思慮に対し幾重にも御礼を申し上げる。

 現在只今の所は教皇を名乗る我が同志、双子座サガと共闘する私は君を倒さねばならぬが。

 先刻より示されたる厚意に応え、我が氷の秘術にて生命までは取らぬ」

 

 水瓶座《アクエリアス》の聖衣を纏う水と氷の魔術師、宝瓶宮の守護者カミュ。

 牡牛座《タウラス》の聖衣を纏う武人にして快男子、金牛宮の守護者アルデバラン。

 瞬間的に接触し互いの意思を確認、共鳴せし両雄の小宇宙が遮断され火花が散った。

 激烈な戦闘に備え第7感覚《セブンセンシズ》を研ぎ澄まし、小宇宙が増幅され爆発。

 水瓶座の小宇宙は絶対零度に近い凍気を湧出、周囲の温度が急激に低下し視野が歪む。

 光を屈折させる極冷の領域《テリトリー》、氷の陽炎が創造され水と氷の魔術師が消失。

 太陽光線を屈折させ可視光線を操る暗幕《カーテン》、不可視《ステルス》化の技法。

 柱の男《ワムウ》が操る風の闘法《モード》、透明化力場《リフレクター・フィールド》。

 透明種族《ローリン》の秘術、フレクソ器官に匹敵する氷の障壁《バリヤー》を展開。

 凍気の防御帯域《ディフェンス・ゾーン》が前進、攻勢防御《ゾーン・プレス》へ移行。

 術者の姿を透明化する氷の陽炎は視野を歪ませ居合い、抜刀術の照準を合わせる事が不可能。

 牡牛座の小宇宙を圧縮し双腕から繰り出す光速の掌打、双光掌は封じられたかと見えた。

 

「透明化《ステルス》の秘術は見事だが、俺が攻撃不能になったと考えるのは気が早いぞ。

 我が心眼がお主を捕捉し得るか否か篤と見よ、グレート・ホーン!」

 大柄な牡牛座アルデバランは次の瞬間、意外にも流れる様に優雅な洗練された動きを披露。

 敵の動きを先読みする事が可能な鋭い洞察力の賜物、洗練された完成度の高い組手動作。

 豊富な実戦経験に裏打ちされた熟練の技、的確な歩足運用《ステップ》にて距離を消す。

 一切の無駄を排除した獰猛な鮫の如き俊足、迅速な踏み込みを要求される瞬速の移動術。

 練達の武人は無駄な動きを極限まで削減、瞬速《マイクロ・セコンド》の機動力を発揮。

 獲物を追い詰める野獣の如く洗練された無駄の無い動き、巧みな歩法《フットワーク》を駆使。

 伝説の戦闘機と化した黄金の野牛《バッファロー》が躍動、水と氷の魔術師を追撃。

 宝瓶宮の壁と支柱を巧みに利用し、相手に悟らせず確実に角《コーナー》へ追い詰める。

 

 猛牛の角が不可視化の防御帯域を貫き、至近距離《クロス・レンジ》から双光掌が炸裂。

 退路を断ち黄金色の閃光を放つ掌から剛双角の衝撃、双手突きの掌打を叩き込む。

「素晴らしい、見事だ!

 我が盟友シュラに優るとも劣らぬ格闘術、賞賛に値する!!

 だが私の凍気拳は遠距離《ロング・レンジ》、中距離《ミドル・レンジ》の投射技に非ず!

 むしろ拳を敵に当ててこそ最大限の効果、真価を発揮する直接作用の拳!!

 北斗七星を従え満天の星が旋回する極星、天河の中心に座する北極星《ポラリス》の秘術!

 接近戦を挑んだは無謀であったな、オーロラ・エクスキューション!!」

 水瓶座カミュの小宇宙が煌き膨大な凍気が湧出、宝瓶宮の守護者を包み込む。

 

 黄金聖衣を包む凍気が渦巻き、圧倒的に巨大な白色彗星《クェーサー》へ変貌。

 高速回転する凍気流の渦が周囲に極光《オーロラ》、白色彗星の光冠《コロナ》を創造。

 白光が虹の架橋《レインボー・ブリッジ》、氷《ブルー》の紅炎《プロミネンス》と化す。

 荒れ狂う氷河と雪崩の破砕流《クラッシャー》、氷の牙《ブルー・ファング》が挑戦者を急襲。

 北の大地も震撼する怒涛の進撃、氷礫の嵐《ミルスキ》が燦然と煌き黄金の野牛へ殺到。

「何っ!

 馬鹿な、黄金聖衣が凍り付くとは!?

 第3段階の小宇宙に到達せし氷の聖闘士であろうとも、絶対零度の凍気は産み出し得ぬ筈!

 水と氷の魔術師と尊称される水瓶座カミュよ、何者か知らぬが他者の助力を得ているな!!」

 雪崩の如き凍気の濁流、氷《ブルー》の破砕流《クラッシャー》が牡牛座の黄金聖衣を凍結。

 絶体絶命の危機を悟った黄金の野牛、双光掌を操る闘将アルデバランの潜在能力が解発された。

 

 脱出不可能の窮地へ追い詰められ土壇場で底力が爆発、名状し難い波動が小宇宙を駆け巡る。

 究極の第7感覚を超越する第8感覚《エイトセンシズ》が起動、同調する聖衣も変形を開始。

 牡牛座の黄金聖衣が白金《プラチナ》聖衣へ変貌を遂げ、燦爛たる白光が小宇宙に溢れる。

 電光石火にて白刃を鞘疾らせ居合い抜きに斬り捨てる抜刀術の達人、剛毅な闘王が真価を発揮。

 更なる進化を遂げた天光流の奥義、一瞬の早業を披露し水と氷の魔術師へ逆襲を試みる。

 牡牛座の白金聖衣が煌き武人の俊足を加速、守護者に一太刀を浴びせんと宝瓶宮を駆け抜ける。

 牡牛座《タウラス》で最も明るい恒星、牡牛の心臓とも呼称される赤色巨星の幻影が現出。

 金牛宮の守護者アルデバランの小宇宙が燃え盛る赤色巨星と化し、白色彗星の凍気流を相殺。

 達人の防御を相殺すべく水界と氷界の支配者、海皇の大いなる意志《ビッグウィル》が湧出。

 水と氷の魔術師は神聖衣《ゴッド・クロス》を纏い、髪と瞳が水色《アクアマリン》に染まる。

 無限にエネルギーを吸収し燃え盛る太陽を吹き消す力場、凍気の制極界《フィールド》を展開。

 宇宙気流《スペース・ストリーム》の氷柱に赤色巨星も凍り、アルデバランの小宇宙が消えた。



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双魚宮~薔薇の美神vs真紅の衝撃

 聖域《サンクチュアリ》十二宮の一角を占める第12番目の関門、双魚宮。

 偽教皇の同志が待ち受ける砦に、異次元空間《アナザー・ディメンション》が接続。

 黒い渦が生起し中心から膨大な光が溢れ、魚魔神ダゴンの宮殿ならぬ双魚宮を照らし出す。

 アンドロメダの星座と異なる守護星座、瞬とは比較を絶する第3段階の小宇宙《コスモ》。

 黄金色《ゴールド》の聖衣《クロス》を纏う十二宮の同僚、同格の聖闘士《セイント》。

 魚座《ビスケス》の聖衣を纏う美の裁定者、双魚宮の守護者《ガーディアン》が呟いた。

「ほう、奇遇だな!

 君が来てくれるとは実に喜ばしい、大歓迎だよ!!

 我が宮殿に下品な者は不要、場所柄を弁えず無骨な振舞に及ぶ武芸者は御引取りを願う所。

 猪突猛進の牡牛座アルデバラン、頑固者の獅子座アイオリア等は願い下げだがね。

 天蠍宮の守護者を務める我が同僚、流麗典雅なる蠍座《スコルピオン》の聖闘士ミロよ。

 アンドロメダ島のダイダロスを討つ役を取られた、等と難癖を付ける気ではあるまいね?」

 

「君のお喋りは毎度の事だが敢えて言わせて貰おう、冗談は置け、魚座アフロディーテ。

 我等が女神アテナの転生、城戸沙織の生命が危機に瀕している事を知らぬ筈はあるまい。

 お前も我が同僚にして聖域十二宮の一角、いや最後の砦となる最奥の双魚宮を預かる守護者。

 仮初めにも女神の聖闘士を名乗る者であれば直ちに、天秤座の聖闘士が示せし判断に従え。

 鰻の様につるつると掴み所の無い問答は無用、2度は言わぬ。

 偽教皇と共に闘い女神に敵対するか否か、イエスかノーか?」

 裂帛の気合を迸らせ問い掛ける声の裏に峻厳たる決意、蠍の猛毒を秘めた闘気の胎動が潜む。

 共に地中海に面し西方フランス、東方ギリシアを母国とする金髪碧眼の黄金聖闘士が対峙。

 魚座《ビスケス》の聖衣を纏う美の裁定者、双魚宮の守護者アフロディーテ。

 蠍座《スコルピオン》の聖衣を纏う黄金の蠍、天蠍宮の守護者ミロ。

 第3段階の小宇宙が共鳴し互いの意思を確認、激烈な戦闘に備え瞬間的な精神接触を遮断。

 第7感覚《セブンセンシズ》が研ぎ澄まされ、小宇宙の増幅と爆発で激烈な火花が散る。

 

「フッ、健気な事よ。

 13年前に女神アテナの転生が降誕の際、第3段階に未到達であった君に何が解るのかね?

 今回の闘いは神々の熱き戦い、神話の時代に始まり幾度と無く繰り返された内輪揉めに非ず。

 迫り来る真の邪悪は従来と異なり、闘いの女神と争い地上を欲する神々を遙かに凌駕する存在。

 大地《ガイア》、大洋《ポントス》、天空《ウラヌス》を巡る一連の戦いとは様相を異にする。

 243年前の聖闘士を遙かに超える爆発的な力《パワー》、小宇宙の進化が必要とされるのだぞ!

 黄金聖衣に満足し第3段階の小宇宙が究極の第7感覚と唱え、女神の庇護に頼る愚者に用は無い。

 己の裡なる未知の可能性を信じ鍛錬を積み、限界を越え更なる高処を目指す者が必要なのだ!

 黄金の矢に姿を借りた邪悪の尖兵に倒される未熟者、女神の転生に真の邪悪と闘う資格は無い!

 我等は前回の戦いを生き残った教皇、女神の転生を当てにせず己の力で地上を護る心算よ!!

 お前に真の邪悪と闘う覚悟を有するか否か、手加減抜きの実戦で証明して貰うぞ!

 舞えよ紅バラ、ロイヤル・デモン・ローズ!!」

 

 激烈な宣告と同時に第3段階の小宇宙が閃き闘気が放出され、黄金聖衣が物質化現象を励起。

 双魚宮の守護者を中心に無数の花弁が乱れ舞い、真紅の薔薇が脈動し視界を塞ぐ渦流を形成。

 豪華絢爛たる花霞の結界は視界のみならず、第3段階の第7感覚をも遮断し術者の位置を匿す。

 魚座アフロディーテの操る魔界植物、薔薇の大群が勇敢な挑戦者《チャレンジャー》を包囲。

 伝説の風魔一族が操る攻防一体の戦陣、白羽陣ならぬ紅花嵐の秘術が蠍座ミロの退路を遮断。

 真紅の薔薇が運動神経を麻痺させる魔性の香気、ティオペの秘薬を漂わせ呼吸器へ侵入を図る。

「面白い、受けて立つぞ!

 我が真紅の衝撃を受けて見よ、スカーレット・ニードル!!」

 口径を狭め圧力を一点に集中させ、射程と威力を格段に向上させる狙撃銃。

 或いは毒針が仕込まれ鋭く尖った蠍の切り札、尾の先端の如く。

 裂帛の気合と共に第3段階の小宇宙が震え物質化現象を励起、赤熱の光闘気を指先に一点集中。

 人差し指の先端に鋭利な光の投剣、真紅の尖針《スカーレット・ニードル》が実体化。

 守護星座の蠍座が内蔵する宇宙エネルギーを圧縮、闘気流を集束させ爆発的に撃ち出す。

 

 光速の短針指弾が暁雲を染める茜色の電光、光の細剣《レイピア》と化し双魚宮を飛翔。

 数々の伝説に彩られし高名なる魔界都市の住人、常識を覆す錬金術を駆使する美貌の賢者。

 悪魔の名を持つ魔界医師、裏切り者の汚名を浴びる勇者の盟友にも劣らぬと噂される聖闘士。

 美神の名を冠する雲の惑星、金星を包む大気圏の如く双魚宮を包む魔香気の暗幕《カーテン》。

 蠍座ミロの代名詞、真紅の衝撃《スカーレット・ニードル》が薔薇の花霞を貫いた。

「小癪な!

 貫け黒バラ、ピラニアン・ローズ!」

 攻撃的小宇宙の物質化現象、無数の黒薔薇《ブラック・ローズ》が現出し牙を剥く。

 骨まで獲物を噛み砕く淡水魚の猛禽類、獰猛な鋸刺鮭《ピラニア》の大群が周囲に湧出。

 真紅の衝撃と化した針光線《レーザー》に群がり、光輝く十五条の貫通陣を喰い破る。

 猛咬魚の怪獣が凄牙の濁流と化し、光衝撃波の貫通弾を無効化された蠍座ミロへ殺到。

 ルーン文字を刀身に刻む黒の剣を思わせる黒薔薇、猛禽類の魚群が全方向から迫り来る。

 

 長距離射程《ロングレンジ》を誇る光闘気貫通技も、怒涛の波状攻撃を遮る事は出来ぬ。

 唯一の活路は先に術者を倒し殺到する黒薔薇、猛魚の大群を非実体化させる一手のみだが。

 双魚宮の守護者は魔香気の渦を纏い、呑み込まれる前に気配を掴ませぬ隠形の術を駆使。

 絶体絶命の危機を悟り黄金の蠍、真紅の衝撃を操る知将ミロの潜在能力が解発された。

「ニードル・サウザント!」

 追い詰められ土壇場で爆発した底力が光の結界《バリア》、白光の環状防御を構築。

 伝説に謳われる光の星剣、紫光剣の主を護る光の輪《リング》が再現される。

 光針《ニードル・レーザー》の散弾銃《ショット・ガン》、光の弾幕《カーテン》。

 光子エネルギーを自在に操る光の天使が全身から放つ降魔の利剣、レーザー光線の剣。

 短針銃《ニードル・ガン》が発射する毒針、猛毒を秘め蠍の尾の先端に潜む針の如く。

 全身から燦然と輝く尖鋭な針光線、千人針《ニードル・サウザント》の光牙を斉射。

 光の防御陣を襲う猛魚、黒薔薇の大群は環状防御壁に噛み付き獰猛な鋸牙歯を駆使。

 凄絶なる牙魚も千人針の防御を貫通し得ず歯噛み、歯軋りの唸り声を轟かせた。

 

 蠍座の黄金聖衣が白金《プラチナ》聖衣へ変貌、白光が無数の針《ニードル》と化す。

 千手観音を髣髴とさせる千の光が環状の防御陣を創造、黒薔薇の激流を焼き尽くす。

 千本の針が織り成す光の滝《シャワー》が、双魚宮の迷宮《ラビリンス》を突破。

 魔香気の漂う紅薔薇の吹雪、花霞を物ともせず花園の主《マスター》へ殺到する。

「小僧っ子にしては良い腕だ、上等の出来と褒めてやるが此れまでだな!

 受けよ白バラ、ブラッディ・ローズ!!」

 花々が咲き誇り妖精の舞う超次元の彼方、異世界《エリシオン》の幻影が双魚宮に現出。

 眠り《ヒュプノス》へ誘う花園の主、夢幻界の美神《アフロディーテ》が艶然と微笑む。

 夢の回廊を操る黄金の光エネルギー生命体の魔王子、悪夢を統べる眠りの大帝。

 幻を現実化し得る力を秘め総てを司る存在、夢幻公子の如き金色の瞳が妖艶に瞬く。

 水色の長髪が光の公女を髣髴とさせる豪華な金髪へ変貌を遂げ、額に燦然と輝く光の五芳星。

 哄笑と共に大いなる意志《ビッグウィル》が溢れ、魚座の神聖衣《ゴッド・クロス》へ変形。

 迫り来る針千本を歯牙にも掛けず、悠然と両掌を掲げる魚座アフロディーテ。

 白金の光を放つ輝ける針の大群が煌き、棒立ちの守護者を貫くかと見えた。

 

 聖域の美神は魔性の微笑を昇らせ、魔界医師ドクター・メフィストの針金細工を披露。

 真紅の衝撃1千本を両掌に難無く吸収、錬金術師の秘技を応用し幻の妖花を創造する。

 魔香気を漂わせ侵入者を眠りへ誘う妖花、王家の魔界薔薇《ロイヤル・デモンローズ》。

 尖鋭な棘を牙とし餌を噛み裂く黒い破壊者、黒薔薇《ピラニアン・ローズ》を上回る切札。

 誘眠の芳香を漂わせる美神は優雅に手を差し伸べ、純白に輝く巨大な薔薇を実体化。

 異世界の女神ペイオースに従う天使《エンジェル》、華麗なる薔薇《ゴージャス・ローズ》。

 純白の薔薇が蠍座の白金聖衣を貫き、天蠍宮の守護者に到達。

 正邪の指針を司り真紅の衝撃を操る熱血漢、蠍座ミロの血液を吸い白薔薇が真紅に染まる。

 アリシア星系の第3惑星ランドック、暁の女神5人姉妹の妹姫アウラ・シャーならぬ妹女神。

 運命神《ノルン》三姉妹の妹スクルドの天使、高貴なる真紅《ノーブル・スカーレット》か。

 神々の大いなる意志に拠り実体化された魔界植物は獲物を捕獲、純白から真紅へ色彩を変化。

 大量の失血に耐え切れず穿孔の針撃を操る遠隔攻撃の名手、蠍座ミロの小宇宙が消えた。



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巨蟹宮~嵐を呼ぶ男vs神に近い男

 聖域《サンクチュアリ》十二宮の一角を占める第4の関門、巨蟹宮。

 偽教皇の同志が待ち受ける砦に、異次元空間《アナザー・ディメンション》が接続。

 黒い渦が生起し中心から膨大な光が溢れ、無数の怨念が立ち籠める闇の空間を浄化。

 竜の星座と異なる守護星座、ドラゴン紫龍とは比較を絶する第3段階の小宇宙《コスモ》。

 黄金《ゴールド》の聖衣《クロス》を纏う十二宮の同僚、同格の聖闘士《セイント》。

 蟹座《キャンサー》の聖衣を纏う死の仮面、巨蟹宮の守護者デスマスクが口笛を吹いた。

「こいつぁ光栄だな、てっきり辛気臭いジャミールの隠者が来るもんだと思ったがね。

 俺としちゃあ誰でも構わねぇが、奴さんは臆病風を吹かせて逃げちまったって訳かい?

 全聖闘士の判断基準、五老峰の老師ライブラ童虎が本気を出した所で楽勝だがよ。

 おっとっと、神に近い男と1対1で戦えるたぁ光栄至極と言わなきゃいけねぇな!

 御釈迦様の実力を見せて貰えるたぁ有難え、お前さんを拝まなきゃ天罰が下るってか?

 相手に取って不足は無ぇってもんさ、じっくり遊んでやるから楽しむとしようぜ!」

 敵地《アウェイ》にて五老峰の老師、牡羊座ムウと対峙した際は風の様に去ったが。

 本拠地《ホーム》が闘場の故か自信満々、余裕を見せ挑発を繰り返す巨蟹宮の守護者。

 第3段階の小宇宙と同調、究極とされる黄金の形態へ進化を遂げた蟹座の聖衣が共鳴。

 天地の差を遙かに凌ぎ、青銅《ブロンズ》の形態とは比較を絶する力《パワー》を放出。

 

 第7感覚《セズンセンシズ》を高める為に視覚を遮断、瞳を閉じた儘で平然と無視。

 乙女座《バルゴ》の聖衣を纏う処女宮の守護者、神に近い男シャカの唇が動いた。

「私が見た教皇は正義だ、従来の主張を撤回する心算は無い。

 幼い女神は真の邪悪に抗う術を持たず、己自身の力のみで地上を護る者が必要不可欠であった。

 裏切り者と反逆者の汚名を覚悟の上で、真の邪悪と闘う決意を固めた心意気は賞賛に値する。

 13年に渡り教皇を詐称する偽者と云えども、地上を狙う神々の野望を阻止し続けたのは彼だ。

 第3段階の小宇宙に覚醒前の幼子、当時の私を含め十二宮の守護者5人は君達に借りが有る。

 最後まで反対を貫いた射手座アイオロスを倒し、聖域を護ると誓った君達5人にね。

 アイオロスの精神遮蔽《サイコ・シールド》は解除され、女神は無事に覚醒を果たした。

 城戸沙織の裡なる小宇宙は充分に成長を遂げ、神々の領域《テリトリー》へ到達するを得た。

 彼女の小宇宙から溢れる光の波動、大いなる意志《ビッグウィル》は偽物に非ず。

 全聖闘士の判断基準となる天秤座、五老峰の老師も真に城戸沙織を女神の転生と認めている。

 

 師を殺された牡羊座ムウ、兄を喪った獅子座アイオリアの怒りと悲しみは良く分かるが。

 今こそ全聖闘士が一丸となり、光溢れる地上を狙う真の邪悪を祓う為の戦いを始める刻。

 偽教皇を演じ続けた双子座《ジェミニ》、双児宮の守護者サガ。

 射手座アイオロスに致命傷を負わせた山羊座《カプリコーン》、磨羯宮の守護者シュラ。

 人格者ケフェウス座ダイダロスを倒した魚座《ビスケス》、双魚宮の守護者アフロディーテ。

 冷酷《クール》な仮面を貫き優しい心を隠す水瓶座《アクエリアス》、宝瓶宮の守護者カミュ。

 偽教皇の命に服し抹殺者に徹する蟹座《キャンサー》、巨蟹宮の守護者デスマスクよ。

 ムウとアイオリアは私が説得する故、黄金聖闘士の同士討ちを回避する為に協力を要請する」

 諸行無常の理を理解し敵対する同僚の立場を汲み、情理を尽くした和解の申し出を提案。

 乙女座シャカは小宇宙を抑え瞳を閉じた儘、微動だにもせず戦端を開く心算は無いと証明。

 

 多数の幼児も含め無辜の民を手に掛けた冷酷な暗殺者は沈黙を守り、反応を見せぬ。

 神に近い男が話を終えた瞬間に死の仮面は豹変、両者の小宇宙が瞬間的に接触し思考が閃く。

 光速の思念が交換され火花を散らし、小宇宙の接触面に激烈な反応が生じる。

 一瞬のみ生じた共鳴が断たれ互いに第7感覚を遮り、戦闘に備え小宇宙が増幅され爆発する。

「甘いぜ、シャカさんよ!

 俺ぁ、てめぇ等と馴れ合う気なんざ無ぇ!!

 この世で力と頼むものは、己自身の戦闘力のみ!

 敵が汚ぇ手で来やがるなら、それ以上のド汚ぇ手でブッ潰すまでさ!!

 有難ぇ話だが正義も悪も関係無ぇ、そんな御託は俺にゃ一片の価値も無ぇ!

 残念だったな、顔を洗って出直して来るが良いぜ!!」

 

「出来れば事を荒立てず極力、穏便に済ませる心算であったが已むを得まい!

 説得が無効と判明した以上、望み通り決着を付けるまで!!

 他の宮と教皇の間へ飛び足止めを図る同僚、女神神殿へ向かった者達を援護せねばならぬ。

 視覚を封じる事で第7感覚を研ぎ澄ませ、高めた小宇宙に蓄積されし力《パワー》を解放する。

 千日戦争《ワンサウザント・ウォーズ》に陥る愚を避け、一気に決着を付けるぞ!

 天魔降伏!」

 合掌するかと見えたシャカの両掌が左右に留まり、中間に物質化現象を生起した小宇宙が燃焼。

 神に近い男に同調する乙女座の聖衣が閃き、先制第一撃《ファースト・ストライク》を繰り出す。

 小宇宙の衝撃波が巨蟹宮を貫き天界の天使《エンジェル》、魔界の妖魔も降伏させる一撃が炸裂。

 膨大な光の奔流が放射され、避ける間も無く蟹座の聖衣へ直撃《ダイレクト・ヒット》。

 第3段階の小宇宙に同調する黄金聖衣は青銅聖衣、白銀聖衣と隔絶する強靭な防御力を実証。

 青銅聖闘士数人を同時に打ち倒す一撃にも動じず、無傷《ノー・ダメージ》で術者へ弾き返す。

 

「何だぁ、そんなモンが本気な訳ぁ無ぇだろう?

 今度は俺の番かよ、積尸気冥界波を喰らいな!」

 死の仮面が第3段階の小宇宙を燃焼、物質化させ大量の燐気が台風《タイフーン》に変化。

 視界を閉ざす靄が渦巻き白い闇の濁流、濃霧の竜巻《トルネード》と化し神に近い男へ殺到。

「挨拶は済んだな、行き先は自分で決め給え!

 六道輪廻!!」

 地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人界、天界が空間転移し巨蟹宮に回廊を接続。

 明滅する光の輪が次元の壁を歪め異次元の色彩、六道界の風景が走馬灯の如くに移り変わる。

 蟹座デスマスクは纏い付く無数の亡霊に引き込まれ、地獄界へ堕ちたかに見えたが。

 何事も無かったかの様に涼しい顔で、己の本拠地《ホーム・グラウンド》へ姿を現した。

 

「フッ、てめぇの力はそんなモンか?

 最も神に近い男たぁ笑わせるぜ、俺様の足許にも及ばねぇとはな。

 次元間テレポートが可能な聖闘士は、お前だけじゃねぇんだよ。

 俺様だって積尸気を自在に操り冥界の入口、黄泉比良坂へ自由に出入り出来るんだぜ?

 六道界の何処に落ちようが、何時でも気の向いた時に還って来れんのさ。

 どうした、もうお終いかよ?」

 大胆にも処女宮の守護者に明白な嘲笑を浴びせ、失礼千万な愚弄を重ねる蟹座の男。

 遂に堪忍袋の緒も切れたと見え神に近い男、乙女座シャカの眼が開いた。

「言わせて置けば、調子に乗りおって!

 罵詈雑言の数々、断固として許せぬ!!

 一切の手加減はせぬ、自業自得と心得よ!

 天舞宝輪!!」

 処女宮の守護者は閉ざしていた両眼を見開き、蓄積された膨大な小宇宙を解放。

 究極の第7感覚を更に上回る伝説の阿頼耶識、第8感覚《エイトセンシズ》を覚醒させた。

 

 一気に決着を図り昇格を遂げた小宇宙に応じ、聖衣もまた超第3段階の形態へ変貌を遂げる。

 燦爛たる白光を放つ乙女座の黄金聖衣、伝説の白金《プラチナ》聖衣が現出し小宇宙を増幅。

 乙女座シャカ最大の奥義、相手の五感を断つ攻防一体の戦陣が現出。

 視覚を遮断する事で増幅され蓄積された小宇宙が堰を切り、膨大な光の破砕流と化す。

 第3段階の小宇宙を自在に操る黄金聖闘士にも防御不可能、と畏怖される神に近い男の代名詞。

 双子座、水瓶座、山羊座の聖闘士も対抗し得ぬであろう究極の秘技。

 死の仮面を自称する蟹座の聖闘士デスマスクは、避ける素振りを見せず防御の構えも取らぬ。

 触覚、嗅覚、味覚、視覚、聴覚、第六感までも破壊する必殺技が炸裂するかと見えたが。

 格段に強化された白金聖衣の助力、第8感覚の波動を上乗せした必殺の一撃。

 最も神に近い男の代名詞、天舞宝輪が死を司る男に無効化された。

 

「宇宙の調和を体現する攻防一体の戦陣、我が最大の奥義が効かぬとは!?

 蟹座デスマスクに秘められた真の実力とは信じられぬ、何者かの加護を得ているな!

 天舞宝輪を無効化する際、瞬間的に発揮された小宇宙は断じて第3段階の第7感覚に非ず!

 一体どうやって神々の領域へ踏み込み、大いなる意志《ビッグウィル》を発動させた!?」

 驚愕に顔を歪める神に近い男の唇から、悲鳴の響きを潜めた詰問が迸る。

 小宇宙の裡に潜む異形の存在、死《タナトス》の仮面が哄笑を響かせる。

「失礼な言い草だが大当たりだぜ、流石に鋭いじゃねぇか?

 神に近い男ってなぁ伊達じゃねぇと認めてやるが、神なんざ巨大な力を持った只の駄々っ子よ!

 吹けよ風、呼べよ嵐、血沸き肉踊る大戦乱時代の到来だぜ!

 風の唸りに血が叫び、力の限りブチ当たるとくらぁ!!」

 

 巨蟹宮を預かり嵐を呼ぶ男の額に五芳星が輝き、髪と瞳が銀一色に染まる。

 大いなる意志《ビッグウィル》が小宇宙から溢れ、聖衣も変形《トランスフォーム》を開始。

 冥王ハデスを操り星の光も遮る絶対暗黒の夜、無限に拡がる永劫の闇を力の源とする黒幕の影。

 2流の神を装い死を司る者の哄笑が、超心理物質《エクトプラズム》を操る男の小宇宙に反響。

 身に纏う蟹座《キャンサー》も名状し難い咆哮を轟かせ、神聖衣《ゴッド・クロス》へ進化。

 神々の纏う神衣《カムイ》に限り無く近い究極の形態、とも称される伝説の聖衣が実力を発揮。

 第3段階の小宇宙を越える超感覚、大いなる意志《ビッグウィル》が天舞宝輪を完璧に弾き返す。

 神聖衣の力《パワー》が共鳴相乗効果を発揮、乙女座シャカの第8感覚を遮り小宇宙が消えた。



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教皇の間~神の化身vs真の後継者

 聖域《サンクチュアリ》十二宮の後方、侵入者を遮る最後の砦《ラスト・ステージ》。

 深く腰掛けた儘の偽教皇、本人の前に異次元空間《アナザー・ディメンション》が接続。

 黒い渦が生起し中心から膨大な光が溢れ、女神神殿への道を扼する教皇の間を照射する。

 黄金色《ゴールド》の聖衣《クロス》を纏う十二宮の同僚、同格の聖闘士《セイント》。

 鳳凰座の聖衣を纏うフェニックス一輝、とは比較を絶する第3段階の小宇宙《コスモ》。

 牡羊座《アリエス》の聖衣を纏う男、高天原《ジャムール》の隠者《ハーミッド》が現出。

「我が導師シオンの名を騙る者よ、仮面《マスク》を取れ!

 射手座《サジタリアス》の聖衣に宿る残留思念、13年前の記憶を偽りとは言わさぬ!!

 真の教皇に選ばれし者はお前に非ず、仁・勇・知を兼ね備えた射手座アイオロス也!

 次席指揮官《セカンド・マスター》の身でありながら、次期教皇の座を簒奪せし偽者!!

 前聖戦を闘い抜いた先代の牡羊座シオン、黄金の射手アイオロスを殺めた聖域の僭王!

 女神より双児宮を預かる双子座サガ、道を誤りし神の化身を倒し2人の無念を晴らす!!」

 

「問答無用とは大人気無いが単独で私に挑戦する気概を認め、1対1で勝負してやる。

 最早この窮屈な法衣も無用、我が聖衣よ此の場へ現れ我が肉体を纏え!」

 穏やかな狼《クワイエット・ウルフ》の仮面を投げ棄て、糾弾する高天原の隠者。

 偽教皇は緩やかに椅子から立ち上がり、仮面と法衣を脱ぎ捨て黒髪黒瞳の男へ変貌。

 異次元空間を経由し聖域十二宮の一角、第3の関門となる双児宮から黄金聖衣が飛来。

 双子座《ジェミニ》の聖衣を纏う神の化身、双児宮の守護者《ガーディアン》が呟いた。

「ムー大陸の錬金術師《アルケミスト》、聖衣を創造せし鍛冶達の知識を受け継ぐ伝承者。

 聖衣の秘密を唯一伝え修復、再生を可能とする者を喪う訳には行かぬ故に殺しはせぬが。

 お前の念動力《サイコキネシス》は、我が異次元空間を捻じ曲げる事も可能。

 黄金聖闘士の中でも最強を誇るお前と闘えば、手加減出来ぬやもしれぬ故に1度だけ聞く。

 真に侮り難く我等と同格の実力と認め、無用の闘いを回避する機会《チャンス》を与える。

 我等と共に新たなる闘いへ身を投じよ、肯えれば生命を危険に曝さずに済むぞ」

 第3段階の小宇宙が共鳴し一瞬、精神接触《コンタクト》が成立し思考が閃く。

 互いの意志を確認し精神平面の接触が遮断され、眼に見えない鋭い火花が散った。

 

 精神と次元を操る超心理能力と黒魔道の念術、精神文明の産物を修復し得る光の念法。

 神の化身と尊称される双子座サガ、念動力の秘術を操り聖衣の匠と囁かれる牡羊座ムウ。

 第7感覚《セブンセンシズ》を研ぎ澄まし、周囲に思念波の領域《テリトリー》を展開。

 同調する聖衣が燃え盛る闘志、小宇宙を増幅圧縮し爆発させ激烈な戦闘の幕を開ける。

「異次元空間《アナザー・ディメンション》を凌いだは褒めてやるが、次は効かぬぞ?

 所詮は第6感覚に属する念動力《サイコキネシス》、幻朧魔皇拳を受けよ!」

 神の化身は先手必勝、の諺を実践し先制第一撃《ファースト・ストライク》を投射。

 最初の一撃に全力を以て当たる賢明さを発揮、渾身の小宇宙を投入する双児宮の守護者。

 伝説に謳われるデーモン最強の勇者アモン、デビルマン不動明を戦闘不能に陥れた秘術。

 神々に代わる野望を秘めた大地の守護者が、催眠暗示波《ヒュプノ・ウェーブ》を放出。

 闇の光明を体現する不動明、勇者アモンも赤子同然と豪語する魔族サイコ・ジェミーの術。

 勇者を惑わす精神攻撃《サイコ・アタック》、闇の暗幕《ダーク・カーテン》が匠を包む。

 

「何っ!」

 双子座サガの放った強大な思念波、闇色の妖波動が牡羊座の黄金聖衣に弾き返された。

 会心の一撃《クリティカル・ヒット》、精神攻撃の魔拳が反射し投射直後の術者へ逆流。

 想定外の反撃《カウンター・アタック》、念法の術鏡が極まり神の化身を直撃。

 負《マイナス》方向の精神衝撃、心理平面の波動が属性を転換され正《プラス》に作用。

 精神波長の一致する超心理攻撃が小宇宙に反響、共鳴し闇色の不気味な瞳に暁の光が射す。

 漆黒に染まる長髪と左右両眼を染める漆黒が薄れ光の勇者、金髪碧眼の勇者へ変貌。

 解放された光の小宇宙が一瞬、精神接触を通じ高天原の隠者へ裡なる葛藤の全貌を急報。

 次の瞬間には闇の波動が勢いを盛り返し小宇宙を制圧、神の化身は再び黒髪凶瞳へ変貌。

 闇の御子が膨大な念波を湧出させ漆黒の領域、異次元空間を上回る制極界を創造する。

「おのれ、老いぼれの弟子風情めが!

 聖衣に超能力障壁《サイキッカル・バリアー》を重ね、反射鏡《リフレクター》と化すか!

 精神文明の産物に関する乏しい知識を用い、小賢しい真似をしてくれたな!!

 手加減しておれば図に乗りおって、我が僕の秘密を暴露するは断じて許さぬ!!

 銀河を震撼させる星々の轟き、多元宇宙の均衡を崩す超次元の衝撃を受けよ!

 ギャラクシアン・エクスプロージョン!!」

 

 闇色の夜空を背景に煌めく星々の光、燦然と輝く天河《ミルキー・ウェイ》が渦巻く。

 凄煌なる光の竜巻が教皇の間に現出、異次元空間を荒れ狂い次元の壁を捻じ曲げる。

 多元宇宙の存在必要条件、一定の次元存在確率を満たさぬ亜空間《サブ・スペース》。

 高次元世界へ通じる次元間の回廊《チューブ》、超空間《ハイパー・スペース》。

 次元の壁が捻じ曲げられ様々な異世界が同時に現出、名状し難い色彩と波動が共鳴。

 物理法則の異なる領域《テリトリー》が互いに接触、激震が疾り多重共鳴波を励起。

 百万の天球を守護する調整者、宇宙の天秤を覆滅する可能性を秘めた超次元衝撃波。

 神の化身と尊称される双子座サガの切札、二大銀河の激突と畏怖される秘術が発動。

 四次元時空連続体消去装置《ディスラプター》の副作用、銀河系規模の破砕流を再現。

 銀河の星々が砕け散る凄絶な光景が精神平面に投影され、小宇宙を戦慄が駆け抜ける。

 

 絶体絶命の危機を悟り高天原の隠者、聖衣を修復する業を持つ匠ムウの潜在能力が覚醒。

 第7感覚を超える波長の煌きが小宇宙を疾り抜け、通常の念動力とは異なる念波が湧出。

「クリスタル・ウォール、二乗《スクエアー》!」

 白羊宮の守護者が迸らせた裂帛の気合と共に、第7感覚を上回る第8感覚の波動が実体化。

 一時的に昇華を遂げた小宇宙に応じ聖衣も昇格、超第3段階の形態へ変貌。

 燦爛たる白光を放つ黄金聖衣、白金《プラチナ》聖衣が現出し小宇宙を増幅する。

 アンドロメダ大星雲の救世主伝説、神の如き者と尊称される光の守護者フロイの防御壁。

 幻魔の咆哮にも揺るがぬ白金の光、高次元の制極界に匹敵する超念動の防御力場を創造。

 時空崩壊《クラッシュ》を誘発する可能性を秘めた次元断層、平行宇宙の地滑り現象。

 多元宇宙の破を齎す光の炸裂、二大銀河の正面衝突を水晶《クリスタル》の壁が阻む。

「己の裡なる限界を超え、未知の可能性を引き出し得たか。

 褒美に見せてやるぞ、ギャラクシアン・エクスプロージョンの二乗《スクエアー》を!」

 想定外の反撃にも動揺の色を見せず、哄笑を響かせる覇王から高次元波動が湧出。

 光と闇の両面を備える双面神ヤヌス、ならぬ光と闇を秘めた双子座の黄金聖衣が鳴動。

 

 花々が咲き誇り妖精の舞う超次元の花園エリシオン、冥界を統べる神々の長兄。

 数多の次元を操る冥界の王に仕え、忠実な臣下を演じ真実を糊塗する真の黒幕。

 闇《エレボス》と夜《ニュクス》に属し、時間と空間の法則に縛られぬ外宇宙の神々。

 旧支配者クトゥルー12柱の1、旧神の1柱と互いに矛盾する噂も囁かれる超絶知性体。

 オリンポス12神に属さず、夢を統べる精霊の一族とも称される眠りの大帝ヒュプノス。

 夢を統べる夢幻公子と対立、現実を夢幻と化し悪夢を統べる女神ヒプノスの尖兵か。

 時空の孔を塞ぐ為に現実界、転生先の肉体から離脱し高次元世界へ飛び立った失踪者。

 無限に拡がる多元宇宙の歴史を覆す力を秘め、総てを司り夢幻戦士を統括する総帥。

 星界の果てを彷徨う放浪者と同様、時空を超越する星体《アストラル・ボディ》の影。

 虹彩も瞳孔も無い黄金の光が溢れ出す魔眼、黄金色の髪を戴き黄金の翼を持つ若者。

 ルーンの杖に棲む黄金の光、天秤の化身を操り法にも混沌にも属さぬ超自然の精霊。

 黄金の皮を被った黒の催眠暗示能力者《ヒュプノ》、魔剣の精霊が神の化身を浸蝕。

 風魔一族に一旦破を齎した精神支配の天才児、夢魔の秘術を数段上回る悪夢を再現。

 死の紋章を名乗る華悪崇皇帝の分身、黒瞳黒髪の簒奪者が双子座の小宇宙を闇で覆う。

 

 女神に頼らず己自身の力で光溢れる大地を護り、鮮血の濁流を遮る決意を固めた者。

 中原の宝石パロの命運を握る光の王子と闇の王子、水晶の都を統べる聖双生児。

 新たなる戦いの鍵を握る運命の子が、大いなる意志《ビッグウィル》を溢れさせた。

 小宇宙の波動が双子座の黄金聖衣に作用、神聖衣《ゴッド・クロス》へ変形を促す。

 双面神ジェイナスを象徴する闇王国の王子、光と闇を秘めた運命の王子ゼフィール。

 光の神と闇の神に愛され無限の可能性を秘め、その身体で光と闇を結ぶ究極の存在。

 闇に染まる双生児の半身を合わせた暁に、天闘士を凌ぐ存在へ昇格する筈の超人類。

 神聖衣を纏う神の化身が実力を発揮、渦状星雲を上回る球状銀河の正面衝突を再現。

 超銀河系集団を崩壊させる無限大の衝撃が白光を貫き、牡羊座の白金聖衣を粉砕。

 精神支配の魔拳が精神障壁《サイコ・シールド》を貫き、ムウの小宇宙が消えた。



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闇の神殿~城戸沙織の異変

 聖域《サンクチュアリ》の頂上、十二宮の更に奥へ位置する女神《アテナ》神殿。

 闘いの女神を讃える祭壇の前に、異次元空間《アナザー・ディメンション》が接続。

 女神の危機を救う切り札、破邪の秘法を求め第2段階の聖闘士《セイント》が出現。

 白銀色に光り輝く聖衣を纏う男女13名が精神を統一、小宇宙《コスモ》を発揮。

 目指すは神殿の後方、巨大女神像が携えし邪悪を退ける円形の盾《シールド》。

 城戸沙織の裡なる女神アテナ賦活化の要諦、女神の盾を一刻も早く発見せねばならぬが。

 巨岩大理石の純白な建造物は侵入者達を拒絶、重い扉を閉ざし目前に聳え立つのみ。

 女神の盾と同調《シンクロ》を試み、女性《レッド》聖闘士は懸命に小宇宙を高めるが。

 第7感覚《セブンセンシズ》を操る勇者達の蹴り、拳も闇色の障壁が完璧に遮断。

 謎の波動は第2段階の念波を遙かに凌駕、精神平面の探査サトリの法も及ばない。

 

 白銀《シルバー》聖闘士13名は総力を挙げ、同時多重攻撃を試みるが闇の壁は崩壊せず。

 バーン・パレス心臓部の障壁と同様、破壊力を無尽蔵に吸収し挑戦者を嘲笑。

 第2段階の聖闘士なればこそ絶対的な質、階層《レベル》の違いを感知し得るのだが。

 桁違いに膨大な力量《パワー》を痛い程に感得した所で、事態打開の役には立たぬ。

「第3段階の黄金《ゴールド》聖闘士達は体を張り、偽教皇以下の5人を抑えているのだ!

 彼等の稼いでくれる貴重な時間を無にする事は許されん、何としても突破するぞ!!」

 剛毅な白鯨座モーゼスの叫びに呼応、小宇宙を共鳴させ全員参加の精神融合体を形成。

 統合された突破口を探り瞬時に方策を定め、女神を救う為に決死の覚悟を決める。

 蜥蜴座ミスティ、猟犬座アステリオン、ケンタウルス座バベル、ペルセウス座アルゴル。

 白鯨座モーゼスを含む最強の男性5人が光の魔法陣、五芒星《ペンタグラム》を描く。

 男性《グレー》聖闘士達は障壁の破壊を念じ、小宇宙を増幅し爆発させる。

 勇者の認定証と伝えられる輝聖石、女神の聖衣5体が輝き白銀色の星が煌いた。

 

「大破邪呪文《ミナカトール》!」

 集団超能力に匹敵する破邪呪文の力《パワー》と、神殿から放出される謎の波動が接触。

 闇色の小宇宙は一気に出力を倍増させ、一旦は上回ったかに見えた白銀の光を撥ね退ける。

「アテナ・エクスクラメーション!」

 御者座カペラ、地獄の番犬座ダンテ、烏座ジャミアン。

 大破邪呪文を放った5人に実力の劣る3人が小宇宙を同調させ、女神禁忌技を投射。

 3種の波動が星型5角形へ吸い込まれ、五輪の小宇宙と共鳴し増幅され爆発。

 勢いを盛り返した白銀の光が閃き、闇色の小宇宙を貫通し神殿正面の扉と激突。

 漆黒に染まる頑丈な扉は開かず、神殿内部から更に謎の波動が溢れ出す。

「アテナ・エクスクラメーション、二乗《スクエアー》!」

 巨犬座シリウス、銀蝿座ディオ、ヘラクレス星座アルゲティ。

 獅子座アイオリアの監視役を務めた3人は、女神禁忌技を二重に投射。

 正確に同調された3種の攻撃波動、禁断の合体技が星型5角形へ吸い込まれ共鳴。

 五輪の小宇宙と二重の女神禁忌技が禁断の秘呪文、合体魔法に匹敵する威力を創造。

 再び勢いを盛り返した白銀の光は三度目の正直、闇色の小宇宙と神殿正面の扉を貫通。

 

「やったぞ!

 神殿を突破し、女神を救え!!」

 男性《グレー》聖闘士11人は謎の波動、闇色の小宇宙を抑える力場の維持に全力を投入。

 光の魔法陣と女神禁忌技の配置を崩す事は出来ず、構成する位置から一歩も動けぬ。

 女神の神殿を通り抜け女神の盾と同調し得る確率が高い、と判断された女性聖闘士2人。

 銀の仮面《マスク》を装着する蛇遣い座シャイナ、鷲座《イーグル》魔鈴が走り出す。

「小癪な、悪足掻きをしおって!

 女とは言え容赦はせぬ、異次元空間《アナザー・ディメンション》!!」

 牡羊座ムウを倒した双子座サガが闇色に輝く瞳を閃かせ、第7感覚を超越する力を発揮。

 第3段階を超える小宇宙の爆発に共鳴、神聖衣《ゴッド・クロス》が獰猛に咆えた。

 白銀の光に照らし出されていた神殿の内部に再び闇が渦巻き、正面の扉が閉じる。

 大いなる意志が大破邪呪文の効果を打ち消し、闇の領域《テリトリー》を再創造。

 神々の大いなる意志《ビッグウィル》が秘術を増幅、女神神殿へ超時空の回廊を繋ぐ。

 異様な亜空間が何の前触れも無く眼前に現れ魔鈴、シャイナの姿が消えた。

 

 光の魔法陣を形成する最強の5人、女神禁忌技の配置に就いた儘のやや劣る6人。

 白銀聖闘士11人は再び小宇宙を合わせ、完全同期連係の増幅共鳴効果を狙うが。

 黄金聖闘士は易々と第2段階の融合体を退け、天地の差を上回る実力の隔絶を実証。

 第3段階の小宇宙に薙ぎ払われ、一瞬も抵抗を成し得ず第2段階の小宇宙が消失。

 悲劇は黄金聖闘士達の激闘が展開された4宮と教皇の間、女神神殿にも波及。

 本来であれば女神神殿に至る道を扼する関門、聖域十二宮の一角を占める最前線の砦。

 白羊宮を預かる守護者《ガーディアン》、牡羊座ムウの本拠地《ホーム・グラウンド》。

 黄金の矢に胸を貫かれ意識不明の城戸沙織、女神の化身が不意に立ち上がる。

 第1段階の小宇宙に異様な念波が接触、拒絶反応を生じ瞑目する負傷者の容貌が急変。

 闘いの女神アテナに敵対する邪悪の尖兵、謎の波動が城戸沙織の身体を覆う。

 13年前に黄金の短剣と化し女神の転生、赤子の城戸沙織に融合を図った争いの女神。

 エリスの意志が吹き荒れ、第1段階の青銅《ブロンズ》聖闘士達を豪快に薙ぎ倒す。

 

 天地の差を有する白銀聖闘士、第2段階の小宇宙も一瞬で吹き消す神々の大いなる意志。

 絶体絶命の危機に潜在能力が覚醒を遂げ、星の秘宝石《スター・ドロップ》が煌く。

 精霊石《エレメンタル・ストーン》が煌き、第7感覚を超越する力《パワー》を発揮。

 星々の轟きが小宇宙を激震させ壁を破り潜在意識の領域へ到達、魂の共鳴作用を励起。

 天馬星座、竜星座、白鳥座、鳳凰座、アンドロメダ座の小宇宙に秘められた力の源泉。

 降魔の利剣、星の霊剣を精製する原石となる虹水晶《レインボー・クリスタル》。

 ペガサス星矢、ドラゴン紫龍、キグナス氷河、フェニックス一輝、アンドロメダ瞬。

 5人の聖衣と暗黒四天王《ブラック・フォー》、ブラック・フェニックスの聖衣が共鳴。

 第1段階の小宇宙が五芒星《ペンタグラム》を描き、一時的に昇格《ランク・アップ》。

 未発達の第7感覚が光の魔法陣に増幅され、未知の段階へ進化《レベル・アップ》を遂げる。

 ユニコーン邪武、ウルフ那智、ベアー檄、ヒドラ市、ライオネット蛮の纏う青銅聖衣。

 同調する小宇宙に感応し一角獣座、狼星座、大熊座、海蛇座、小獅子座も虹色に輝く。

 

 光と影の五芒星に続いてもう一つ、星の秘宝石が星型五角形の魔法陣を織り成し互いに共鳴。

 星型五角形の完全同期連係、共鳴効果が励起され魔法陣の発揮する力を数千倍に増幅。

 第1段階の聖闘士10人が描く星型五角形、光と影の魔法陣を踏み台として数百万倍に相当。

 二重五芒星《ツイン・ペンタグラム》の力《パワー》が、神々の大いなる意志を撥ね退けた。

 天馬星座《ペガサス》、竜星座《ドラゴン》、アンドロメダ座、鳳凰座《フェニックス》。

 白鳥座《キグナス》、一角獣座《ユニコーン》、狼星座《ウルフ》、大熊座《ベアー》。

 海蛇座《ヒドラ》、小獅子座《ライオネット》、変色龍座《カメレオン》の青銅聖衣11体。

 暗黒《ブラック》改め、鋼鉄《スティール》5体を含め16体の聖衣。

 同一の守護星座を持つ小宇宙が虹色に輝き青銅、鋼鉄《スティール》の共鳴を実現。

 光と影の小宇宙が同調、完璧な完全同期連係を成し遂げ数千倍の力《パワー》を解放。

 膨大な星々のエネルギーに裏打ちされた青銅の光が閃き、黒い聖姫を強引に拘束。

 猛烈に暴れ廻る神々の大いなる意志を光の魔法陣、五芒星の結界が抑え込む。

 

 光り輝く銀河の激流は変色龍《カメレオン》座の聖衣、唯一の女性《レッド》聖闘士に作用。

 燦然と煌く星の秘宝石《スター・ドロップ》に触発され、ジュネの潜在能力が覚醒する。

 周囲の背景色に溶け込む色彩操作、隠形の術を兼ねる芸術的な擬態《カモフラージュ》。

 念波を凝縮し一気に解凍する事で爆発的に威力を高める念珠の作用、形態模写《コピー》。

 分子変形能力者の操る驚異的な細胞転換の変装術、カメレオン・フェイスが発動。

 アンドロメダ島で訓練を受けた瞬の先輩が、光に包まれ消失《ホワイト・アウト》。

 ジュネの肉体は城戸沙織へ変貌を遂げ、小宇宙の相似化に伴い聖衣が虹色に輝く。

 第1段階の小宇宙とは明白に異なる雄大な波動が放出され、二重五芒星の魔法陣と共鳴。

 窮地に立つ女神の意思を代弁する複製体《コピー》、化身《リバース》の思考が閃いた。

 

「今こそ聖域に蔓延る闇の領域《テリトリー》、真の邪悪に唆された神々の野望を退ける刻。

 全員の小宇宙を同調させ、心底から力を振り絞って私に注ぎ込んで下さい!」

 16人は精神融合体を形成し第7感覚を同調、力《パワー》を無限大に増幅する共鳴作用を励起。

 圧縮思念を星の秘宝石に注ぎ込み、小宇宙の隅々にまで水晶《クリスタル》の光が満ち溢れる。

 魔法円陣の中心で発動される超多元宇宙の瞬間移動、次元間テレポート能力者の秘術が発動。

 白羊宮に異次元空間《アナザー・ディメンション》が現れ、聖闘士17名と争いの女神が消失。

 3次元空間が割れ聖域の頂上、女神神殿の前へ次元回廊が開通《オープン》。

 女神の影は第2段階の聖闘士達、小宇宙へ思念波を注ぎ第7感覚を刺激。

 力を注ぎ込まれた女神の影は白羊宮の外、矢座トレニーの意識も回復。

 白銀《シルバー》聖闘士達に思考が伝達され、転移術の発動に備え全員が小宇宙を高める。

 聖闘士25名が小五芒星5個を頂点とする魔法陣、大五芒星《グレイト・ペンタグラム》が発光。

「大破邪呪文《ミナカトール》、極大化!」

 破邪の秘法と轟く星々のエネルギーが共鳴、無尽蔵の力が解発された。



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聖域の嵐~希望の光

「アテナ・エクスクラメーション!」

 女神の影カメレオン座ジュネ、猟犬座アステリオン、矢座トレニーが女神禁忌技を投射。

 白銀《シルバー》、青銅《ブロンズ》、鋼鉄《くろがね》の聖衣が星の力《パワー》を増幅。

 大五芒星の魔法陣が共鳴し激烈な衝撃、超時空震動波が多元宇宙を突き抜けた。

 

「…此処、何処よ?」

 異次元空間を漂う女神の聖闘士、第2段階の小宇宙と同調する白銀聖衣が星の波動に共鳴。

 鷲座《イーグル》の聖衣を纏う仮面《マスク》の女性《レディ》、魔鈴が覚醒し隣の掌を掴む。

 肉体の接触に小宇宙が反応し共鳴すると何者か、潜在意識の奥底に秘められていた存在が覚醒。

 水晶《クリスタル》の閃光が煌き鷲座、蛇遣座を輝かせ精神の内部を縦横無尽に駆け巡った。

 五感を超える第六感、特殊訓練を受けた若い女性二人一組の超能力《サイキック》が作動。

 千里眼《クレアボワイヤンス》が時空を走査《スキャン》、次元座標を特定し現実界を探索。

 大五芒星に増幅された思考透聴《サトリ》の法、精神感応能力《テレパシー》の変形と接触。

 女神の影は千里眼、次元間遠隔視能力のESP波を辿り赤星《レッド・スター》の矢を投射。

 幻の矢が描く軌跡を搬送波に用い次元間の遠隔移送、異次元空間の瞬間移動を成し遂げる。

 

 3次元空間が割れ星矢の姉と噂される日本人の魔鈴、蛇遣座シャイナが女神神殿内部に実体化。

 天上の都ランドックを統べるアウラ・カーの似姿、聳え立つ像へ神殿を駆け抜け女性達が疾走。

 アリシア星系第3惑星に君臨する暁の女神、5人姉妹の長姉を髣髴とさせる女神像の前に到達。

 退魔の力を秘めた神話の武具、女神の盾《シールド》を2人で持ち上げる。

 大五芒星に増幅された轟く星々のエネルギーと共鳴、盾に描かれた魔法紋様が白金の光を放射。

 太古の昔、旧支配者《グレイト・オールド・ワンズ》を封印した旧神《エルダー・ゴッド》。

 精神生命体の偉大なる種族イース、地球本来の神々を凌ぐと噂される伝説の存在が遺した紋様。

 超古代大陸ムナールの護符にも刻まれた退魔の魔法紋様、旧神の封印《エルダー・サイン》。

 旧支配者と敵対する闘いの女神が持つ盾に秘められた禁断の術、魔を封印する秘法が発動。

 八芳星《オクタグラム》を描く黄金の太陽が燦然と輝き、名状し難い異次元の色彩を放射。

 無尽蔵に湧出するかと思われる膨大な波動流は女神神殿を越え、聖域十二宮へ波及。

 神聖衣《ゴッド・クロス》が闇の光明に呑まれ、精神の内部に生じた異世界への通路を封印。

 主の小宇宙と同調する聖衣が変形《トランスフォーム》を開始、黄金の輝きを取り戻す。

 

 伝説の黄金律《パターン》を裡に秘めた魔法紋様、旧神の封印《エルダー・サイン》。

 女神の盾《シールド》に刻印された大宇宙の理、力の紋章《エンブレム》が再び鳴動。

 真実を指摘され激昂し強引に立ち上がり祭殿毎、天上の都を崩壊に導いた巨大女神の如く。

 神々の大いなる意志《ビッグウィル》を受け、動き始めた女神像を強引に拘束。

 金縛りとなった巨大女神像は大地を鳴動させ、咆哮を轟かせるが星々の轟きには勝てぬ。

 正義《ジャスティス》の盾を掲げる女性2人毎、女神神殿を踏み潰す暴挙を完璧に阻止。

 盾から虹色に輝く五輪の波動が放出され巨蟹宮、磨羯宮、宝瓶宮、双魚宮、教皇の間へ流入。

 乙女座シャカ、獅子座アイオリア、牡牛座アルデバラン、蠍座ミロ、牡羊座ムウが瞳を開く。

 黄金聖闘士達の小宇宙を回復させた虹色の光は、常に城戸沙織の傍に在る勝利の杖へ流入。

 多元宇宙の均衡を象徴する魔法《ルーン》の杖と共鳴、増幅され膨大な星々の光が炸裂。

 杖から脈動する七色の星々の光、勝利の虹《ウィニング・ザ・レインボー》が溢れ出る。

 

 輝ける勝利の紋章《エンブレム》が虹の道を渡り、主《マスター》の身体へ流入。

 桃の精霊が操る精霊魔術《エレメンタル・アーツ》、ホーリー・ブレスの回復呪文が発動。

 虹色の光が体内へ浸透し邪悪な波動を駆逐、小宇宙を染める闇が急速に薄れ弱体化。

 黄金の矢に化身した不和女神エリスの実体化、凶の気を轟かせる魔女の姿が光に包まれ消失。

 闘いの女神アテナの化身が身体の制御権を奪還、黒い聖姫の魔影が薄れ城戸沙織の容姿を回復。

 雄大な女神の小宇宙《コスモ》が蘇り、神々の大いなる意志《ビッグウィル》を放出。

 精根使い果たした聖闘士《セイント》達の小宇宙へ、感謝の意を込め活力《エナジー》を注入。

 黄金《ゴールド》、白銀《シルバー》、青銅《ブロンズ》、黒曜石《オブディシアン》。

 激闘を演じた各段階の聖闘士達が纏う星の衣、各色の聖衣が共鳴し聖域全体に響き渡った。

 

 己の信念に従い敵味方に別れ、光溢れる地上を護る為に闘い抜いた総勢40名の勇者達へ。

 第7感覚《セブンセンシズ》の波動が贈られ女神の想い、小宇宙の共鳴が心の底に染み渡る。

「此の場に集ってくれた全員に感謝の詞を捧げます、心底から有難うと申し上げます。

 私の力が足りない為に聖域が混乱する事態を招き、貴い犠牲が出てしまいました。

 13年前の私に地上を護る力が有れば前教皇シオン、射手座アイオロスは落命せずに済んだ筈。

 力を以て地上に蔓延る邪悪を打ち払わなければ、とサガ達が思い詰めたのは私の責任です。

 味方同士が闘い人格者ケフェウス座ダイダロスが倒れ、互いに傷付いたのも私の力不足が原因。

 犠牲者に深く御詫びし哀悼の意を表します、そして貴方達の献身的な努力に感謝致します。

 冥王ハデス、海皇ポセイドン、戦神アレス、眠りと死を司る双子神ヒュプノスとタナトス。

 聖域に顕れた神々の大いなる意志は真の邪悪に操られ、未覚醒状態で発せられたもの。

 未だ力至らぬ私が真の邪悪を退け神々の力を結集する為、生き残った全員の力が必要です。

 敬愛する師や勇敢で誠実な兄を喪った2人に御願いします、恩讐を乗り越え力を貸して下さい」

 

 243年に渡り聖域の指導者を務めた前聖戦の経験者、導師《メンター》を喪った聖衣の匠。

 穏やかな狼《クワイエット・ウルフ》の仮面を脱ぎ棄て、師の仇を討つと誓った弟子。

 前教皇シオンを恩師と仰ぐ白羊宮の守護者《ガーディアン》、羊の皮を被った狼《ウルフ》。

 最強の念動力《サイコキネシス》を駆使する牡羊座ムウは唇を噛み、言葉を搾り出した。

「…女神の御言葉は総てに優先する、私怨に拘泥せず従う事を誓う。

 最強の実力を保持する双子座サガを教皇、全聖闘士の指揮官と認め新たなる闘いに臨む」

 

 続いて13年前に勇敢で誠実な兄、アイオロスを喪った弟が拳を握り締める。

 掌に喰い込み血が滴り落ちるのも意に介せず、黄金の獅子アイオリアが吼えた。

「俺は不甲斐無くも現在唯今の所、兄アイオロスの仇を討つ実力《ちから》を持たぬと思い知った。

 真の邪悪を退ける為に修羅の道を歩み、四肢を聖剣《エクスカリバー》に鍛え上げた男に及ばぬ。

 射手座《サジタリアス》の聖衣に籠められた遺志に従い、兄に代わり女神を護る為に闘う。

 新たなる闘いが終結を見た後に改めて勝負を申し込む、自決は敵前逃亡と判断する!」

 

 天蠍宮を守護する黄金の蠍が放つ真紅の衝撃、穿孔の一撃が水と氷の魔術師を貫いた。

 凍気を封印しを甘受し贖罪の血を流す親友、宝瓶宮の守護者に代わり女神へ頭を垂れる。

「矜持故に贖罪の言葉を吐く事を潔しとせぬであろう我が友に代わり、代弁させて頂く。

 真紅の衝撃をを甘受し激痛に耐え、免罪符を得るのみで赦されようとは思わぬ。

 前教皇シオン、射手座アイオロス、ケフェウス座ダイダロスの分まで闘い抜くと誓う。

 我が盟友シュラ、サガ、アフロディーテ、デスマスクの帰陣を全員に御願いする」

 

 第3段階の小宇宙を自在に操る黄金聖闘士10人、第2段階の白銀聖闘士12人、女性聖闘士3人。

 第1段階の青銅聖闘士10人、鋼鉄《スティール》聖闘士5人。

 双子座サガ、水瓶座カミュ、山羊座シュラ、蟹座デスマスク、魚座アフロディーテ。

 牡羊座ムウ、蠍座ミロ、獅子座アイオリア、乙女座シャカ、牡牛座アルデバラン。

 イーグル魔鈴、蛇遣座シャイナ、蜥蜴座ミスティ、猟犬座アステリオン、白鯨座モーゼス。

 ペルセウス座アルゴル、御者座カペラ、銀蠅座ムスカ、地獄の番犬座ダンテ、巨犬座シリウス。

 ケンタウルス座バベル、烏座ジャミアン、矢座トレニー、ヘラクレス座アルゲティ。

 ペガサス星矢、ドラゴン紫龍、キグナス氷河、アンドロメダ瞬、フェニックス一輝。

 ユニコーン邪武、ウルフ那智、ベアー檄、ヒドラ市、ライオネット蛮、カメレオン座ジュネ。

 ブラック・ペガサス、ブラック・ドラゴン、ブラック・スワン、ブラック・アンドロメダ。

 ブラック・フェニックス最後の1人を含め、総勢40名に及ぶ聖闘士が聖域に集結。

 光溢れる地上を護る決意を新たに定め、闘いの女神アテナの化身に全員が忠誠を誓った。

 

「聖衣とは聖闘士の身体を護り、小宇宙《コスモ》の進化を反映する精神文明の産物。

 或る異世界に於いて暗黒神を封印した命の鏡、心の鏡と元々の原型《オリジナル》は共通。

 装着者の意志に応じ一瞬にして防御、攻撃の形態に姿を変える変幻自在の聖光気。

 高次元の霊気を凝縮し精製された結晶体《クリスタル》、銀河文明の擁護者が創造した遺産。

 精神の進化を促す能力開発補助具、鏡《レンズ》と同様に聖衣も第7感覚に感応する超心理物質。

 修復には大量の血液が必要ですが、神々の大いなる意志《ビッグウィル》で代用も可能。

 小宇宙の大爆発《ビッグ・バン》、生命力《エナジー》の消耗は生命の危機に直結します。

 破損した聖衣を修復する為に聖域の摩天楼、八芒星《アウセクリス》の塔へ御案内しましょう。

 超古代ムー大陸の錬金術師が遺した秘蹟、高天原《ジャミール》に伝わる秘儀《アルカナ》。

 真世界の都が秘蔵する世界生成の秘密、精霊魔術《エレメンタル・アーツ》の真髄。

 森羅万象の黄金律を秘めた星の秘蹟、究極の魔法陣を用い破損した聖衣を修復します」



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七人の海将軍
人魚姫の招待~海皇の勅使


 13年前に双子座の黄金聖闘士を操り、黄金の短剣と化した渾沌界の尖兵。

 黄金の矢と化し闘いの女神アテナの化身、城戸沙織を貫いた争いの女神エリス。

 聖域《サンクチュアリ》を崩壊に導く策謀、憑依者の布石は水泡に帰したが。

 二手に分かれた聖闘士達も一致結束を果たし、新たなる闘いに備え切磋琢磨を再開して数日後。

 七大海洋で台風《タイフーン》、烈風《ハリケーン》、旋風《サイクロン》が立て続けに頻発。

 大洋に面した各地の沿岸を未曾有の水害が直撃、広大な地域《エリア》に甚大な被害を齎した。

 城戸沙織を総帥と戴くグラード財団も総力を挙げ、原因究明を試みるが真相は杳として知れぬ。

 財団の誇る秘密研究所もフル稼働で災害の予知、対処に邁進するが悉く後手に廻る始末。

 事態打開の糸口は掴めず苦悩の色が濃い大地《ガイア》の守護者、女神の化身が佇む城戸邸。

 厳重な警戒を敷き影道館の如き侵入困難な要害の地、グラード財団の総本山を瀟洒な影が疾走。

 海の皇帝が支配する領域《テリトリー》、大洋《ポントス》の使者が姿を現し優美な唇を開く。

 

「闘いの女神アテナの化身、城戸沙織様。

 大洋の至高支配者《ファイナル・マスター》、海皇ポセイドン様から招待状を贈呈致します。

 汚れ切った地上は浄化し心正しき少数の者のみ、城塞宮アトランティスへ避難を認めるとの事。

 女神の認めし者達と共に海皇様の領域《テリトリー》、海界《シー・ワールド》へ招待します」

 流麗な海水《アクアマリン》を思わせる女高声《ソプラノ》、耳に快い響きを齎す巧みな弁舌。

 神々の大いなる意志《ビッグウィル》、雄大な小宇宙《コスモ》を抑え城戸沙織は丁重に返答。

「ポセイドンの意志は長い眠りに就き、女神の壷に施された封印の有効期限も切れていない筈。

 海皇から招待状が届くとは夢にも思いませんでしたが、貴女の御名前を教えて貰えますか?」

 艶然と微笑む海皇の使者は虹色石《オパール》、緑玉《エメラルド》を連想させる甲冑を装着。

 照明灯の光を反射する鎧は豊穣な遊色効果を励起、乳白色の地に虹色の輝彩が燦然と煌いた。

 

「申し遅れました、城戸沙織様。

 私は海皇ポセイドン様に御仕え申し上げ、人魚姫《マーメイド》を名乗る不束者。

 地上と海界を往来する海皇様の伝令使《メッセンジャー》、海闘士《マリーナ》の末席。

 テティスと申す使い女に過ぎませぬが、御見知り置き願えれば幸いです。

 海皇様は創造された異次元空間《アナザー・ディメンション》、海の聖域ポセイドン神殿の彼方。

 神々の内的宇宙《インナー・スペース》の一、海王星《アトランティス》にて御待ちしています」

 赤、橙、黄、青、緑の揺れる炎を思わせる多彩な斑が乱舞する水滴石《ウォーター・オパール》。

 伝説に謳われる海界の聖闘士、海闘士の標準装備となる鱗衣《スケイル》を纏う美女。

 海皇ポセイドンの側近テティス、人魚姫は城戸沙織に気圧される事無く艶やかに微笑。

 流れる水の如き爽やかな美声、非の打ち所の無い弁舌を駆使。

 つるつると滑る様に言質を与えず、巧みに擦り抜ける弁士の如き模範解答を実演。

 掴み処の無い社交辞令を思わせる自己紹介を受け、女神の化身は微かに眉を顰めた。

 

「海皇ポセイドンの招待に応じ海界へ赴きましょう、道案内を御願い出来ますね?

 同行者は最強の守護者《ガーディアン》、第3段階の小宇宙《コスモ》を操る黄金聖闘士10人。

 小宇宙に星の秘石《スター・ドロップ》を秘めた少年、第1段階の青銅《ブロンズ》聖闘士5人。

 海皇に従う海闘士と共闘する勇者、女神に忠誠を誓う聖闘士15名です」

 城戸沙織の間髪入れぬ応じ返し《カウンター》を受け、人魚姫テティスも僅かに眉を顰める。

 海皇の使者は不意に何処からか指令を受けたかの如く、余裕を回復し優雅に一礼。

「御見事な即断即決、流石に女神の化身なればこそと敬服し感服致しますわ。

 不敬なれど噂に聞く聖域へ同道を御許し頂き、海皇様の御許へ御案内を申し受ける所存です」

 女神の化身は財団の幹部に留守を託し、人魚姫を伴い特別専用機で日本を発ち聖域へ直行。

 海皇の使者に明言した同行者19名を緊急招集の後、無情にも他の聖闘士達を残し海界へ飛ぶ。

 白銀《シルバー》の聖衣《クロス》を纏う第2段階の聖闘士13人、青銅聖衣を纏う第1段階の6人。

 暗黒《ブラック》改め鋼鉄《スティール》聖闘士5人を含め、合計25名は女神の一行を見送った。

 

 地中海ならぬ異世界《アナザー・ワールド》、次元回廊の彼方に位置する十五の次元界の一。

 海皇の統べる海の領域、海界の中心に位置する七角形の城塞宮アトランティス。

 人魚姫テティスに先導され女神の化身、城戸沙織と男女の聖闘士18名が姿を現す。

 待ち受けるは海竜《シー・ドラゴン》の鱗衣を纏う海闘士、ならぬ氷の衣を纏う謎の男。

 嘗て太古の昔に氷の大地《ブルー・グラード》、北極を中心に覇を唱えた最強の軍団。

 氷戦士《ブルー・ウォリアー》の総帥、帝位を奪った僭王アレクサーが挑戦状を叩き付けた。

「海皇ポセイドンの意志は俺の裡に降臨を果たし、汚れ切った地上を一掃せよと命令を下された。

 嘗て北極の地に海皇の意志を封じた聖闘士8名の後継者は全て、海闘士を統率する我が同志。

 地上を襲う水害を喰い止めたくば、女神の化身を大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》へ捧げよ。

 人柱を拒むとあれば最早、問答無用と判断し力付くで連行するまで。

 七大海洋を統べる最強の海闘士、七人の海将軍《ジェネラル》を指揮する新世界の指導者。

 海皇の次席指揮官《セカンド・マスター》、氷戦士の正統なる末裔が挑戦を申し込むぞ!」

 

「問答無用、とは何とも芸の無い論説ですね。

 私は大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》へ入り、ポセイドンと話合いの場を持つ為に来たのです。

 無用な脅迫はおやめなさい、時間の無駄です。

 一刻も早く、私を大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》の中へ案内なさい」

 挑発を重ねる海皇の代弁者、海商王ジュリアン・ソロならぬ冷酷《クール》な簒奪者。

 氷戦士アレクサーは意表を突く女神の詞に絶句し、人魚姫と共に銀色の瞳を宙に泳がせた。

「大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》の中へ入室した者は、2度と出られぬが覚悟の上か?

 神殿の支柱7本を悉く砕けば話は別だが、例え黄金聖闘士10人が揃った所で不可能な事よ。

 海将軍が装着するは只の鱗衣に非ず、嘗て神話の時代に海皇の魂を封じた勇者達の遺せし聖衣。

 悠久の刻を経て第7感覚の具象化を達成し、更なる進化を遂げ第3段階の黄金聖衣を超えた。

 新段階の小宇宙に対応する未知の形態、既成の聖衣を超えた異形の新生聖衣《ニュー・タイプ》。

 緑玉《エメラルド》の聖衣と同調する我等に、旧型《オールド・マン》の貴様達は通用せぬぞ」

 黄金聖衣とは異なる音色で共鳴する氷戦士の甲冑、鱗衣の謎が解けた。

 

「貴様達の挑戦を受けるぞ、真の邪悪を退ける為に避けては通れぬ試練なのだからな。

 大黒柱の中へ入室された女神が水面の鏡を通じ、海皇の影と話をされる間に決着を付ける。

 我等の聖衣と緑玉《エメラルド》の聖衣、何れが上か確かめさせて貰おうか。

 納得が行く様に1対1で勝負してやる、七人の海将軍とやらを此の場に出すが良い」

 総勢19名の随行者を代表して神の化身、教皇に任命された双子座の黄金聖闘士が宣戦を布告。

「海底神殿は七芳星《ヘプタグラム》の結界、大黒柱を支える柱が星型七角形の頂点に在る。

 七大海洋の象徴《シンボル》となる支柱、7本の守護者《ガーディアン》が七人の海将軍よ。

 数を頼まず尋常に1対1の勝負を挑む心意気、流石に黄金聖闘士と尊称される勇者に相応しい。

 俺は1対3でも良いが見上げたものよ、無謀極まりない試みと悟り集団戦法を用いても構わぬぞ」

 城戸沙織は口の減らぬ氷戦士を完璧に無視、大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》の中へ姿を消す。

 同時に黄金聖闘士7人の姿も失せ、同僚3名と青銅聖闘士5名は城塞宮の中心《センター》に残る。

 七大洋を統べる海将軍の領域《テリトリー》、七芳星《セブン・スター》の頂点へ飛んだ。



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南太平洋~海聖獣の襲撃

 地中海ならぬ異世界《アナザー・ワールド》、次元回廊の彼方に位置する十五の次元界の一。

 太古の昔に唯一の大陸を除き惑星を覆い、神話の時代に大洋《ポントス》と呼ばれし母なる海。

 海皇ポセイドンの統べる領域《テリトリー》、海界《シー・ワールド》の中心《センター》。

 星型七角形《セブン・スター》の城塞宮、アトランティスの中央に位置するポセイドン神殿。

 海底の都を治める七芳星《ヘプタグラム》の神殿、大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》の支柱。

 七大海洋の象徴《シンボル》を預かる守護者《ガーディアン》、七人の海将軍《ジェネラル》。

 七芳星の頂点に位置する支柱の一、南太平洋《サウス・パシフィック》の柱を預かる海将軍。

 最強の海闘士《マリーナ》、七大勇者《ビッグ・セブン》の一角は海聖獣《スキュラ》のイオ。

 嘗て神話の時代に海皇の魂を封じ、封印監視者として北極に定住する事を選んだ8人の勇者。

 氷戦士《ブルー・ウォリアー》の先祖、古の聖闘士《セイント》達が遺せし聖衣《クロス》。

 小宇宙《コスモ》に同調《シンクロ》し、未知の力《パワー》を秘めた緑玉《エメラルド》聖衣。

 聖獣6体を宿す絶世の美女、海の魔物スキュラを象徴《シンボル》とする鱗衣《スケイル》が煌く。

 

 第3段階の小宇宙を操る挑戦者《チャレンジャー》、黄金聖闘士の先鋒《トップ・バッター》。

 山羊座《カプリコーン》の黄金《ゴールド》聖衣を纏い、聖剣《エスクカリバー》を秘めた修羅。

 両腕両脚を聖剣に鍛え上げ変幻自在の格闘術を修得し、磨羯宮を預かる守護者《ガーディアン》。

 水と氷の魔術師と対比し蹴撃《キック》の鬼、舞闘術の魔術師《マジシャン》とも噂される達人。

 聖域《サンクチュアリ》十二宮の戦いに際し、神聖衣《ゴッド・クロス》を纏った凄腕の武闘家。

 戦神アレスの大いなる意志《ビッグウィル》を現出させた山羊座の男、闘神の化身が唇を開いた。

「事情は承知していると思うが、1度だけ言って置くぞ。

 お前達は騙されている、無益な闘いはやめておけ。

 断るのであれば已むを得ん、問答無用で打ち倒し力強くで協力させるまで。

 メイン・ブレドヴィナに入られた女神が海皇と対話し、説得を行う間に決着を付けねばならん。

 時間が惜しい、悠長に考えている暇は無いぞ。

 二者択一だ、選べ!」

 

 修羅の道を選んだ聖闘士に相応しい物言いだが、説得になっていない。

 宣戦布告と判断されて当然、喧嘩を売っているに等しい。

 忠義に厚く誇り高い南太平洋の海将軍は当然、顔面を紅潮させ憤激の意を表明。

 売り言葉に買い言葉、山羊座の黄金聖闘士へ過激な返答を叩き付けた。

「問答無用か、全く同感だ。

 有言実行の諺通り、そっくり其の儘お前に返すぞ!」

 超第3段階の小宇宙に同調する緑玉聖衣、海聖獣の鱗衣が主《マスター》の意思を忠実に反映。

 鮮烈なエメラルド色の閃光が炸裂し、先制第一撃《ファースト・ストライク》を敢行。

 光速の数倍に達する速度を獲得した海の惑星、ネヴィアの異星人が誇る魚型宇宙巡洋艦の如く。

 戦闘態勢に入っていた筈の山羊座シュラも意表を突かれる俊足、超絶の機動力を発揮。

 黄金聖闘士の操る光速拳を更に上回り、想定外の瞬速《マイクロ・セカンド》で強襲。

 修羅の不意を突き聖剣の迎撃を掻い潜り、六聖獣の連撃《コンビネーション》が炸裂。

 

 鷲は大空を舞い標的《ターゲット》に照準固定《ロック・オン》、死角から降下し急接近。

 地を這い砂塵を撒き散らす豪快な長距離狙撃《ロング・シュート》の爪、イーグル・クラッチ。

 満点に輝く星々の中で最も強い輝きを放つ天狼星《シリウス》、真紅の聖獣は大地を疾走。

 伝説の人狼《ベイオ・ウルフ》、犬神一族の力と技を秘めた狼の牙、ウルフズ・ファング。

 僅かに触れれば仮死状態に陥るティオペの秘薬を塗った毒の細剣、勇者を倒すハチの一刺し。

 猛毒を注入し神経を麻痺させる女王蜂の針、クインビーズ・スティンガー。

 大蛇《ビッグ・バイパー》は燃える闘魂の代名詞、毒蛇拘束《コブラ・ツイスト》を再現。

 神話に謳われる八岐大蛇《ヤマタノオロチ》の強固な絞め技、サーパント・ストラングラー。

 伝説の悪魔人間《デビルマン》、黄金の蝙蝠《バット》ならぬ吸血鬼《ヴァンパイア》の化身。

 超音波の反射《エコー》を聴き空間把握能力を駆使する蝙蝠の噛撃、バンパイアイン・ヘイル。

 猛烈な怪力を発揮する心優しき雄渾な野獣、先住民族に神の使いと称えられる山の神。

 森に覆われた北の大地《アイヌモシリ》に君臨した大熊の猛撃、グリズリー・スラップ。

 

 6種類の聖獣拳を操り多彩な技を披露、修羅のお株を奪う変幻自在の攻撃で黄金聖闘士を翻弄。

 獣の如き反射神経を誇る手練れが繰り出す拳脚、反撃《カウンター・アタック》が空を切る。

 大自然の精霊《エレメント》が宿る聖獣の動きは達人の体捌き、修羅の舞闘術を遙かに上回る。

 修羅の聖剣《エスクカリバー》を歯牙にも掛けず、無造作に防御《ディフェンス》を斬り崩す。

 縦横無尽に閃く連係攻撃《コンビネーション》、六大聖獣《グレイト・シックス》の六連撃。

 変幻自在の聖獣拳に手も足も出ず、野生の勘を誇る蹴撃の魔術師《マジシャン》も打つ手が無い。

「六大聖獣の連続攻撃に晒されながらも、紙一重で急所を外し致命傷を避けるとはな。

 流石に黄金聖闘士の一角、聖域十二宮の守護者に名を連ねる究極の聖闘士よな。

 お前の強さは認める、ここまで連係攻撃に堪え続けただけでも大したものだ。

 せめてもの情け、俺自身の必殺技を聖獣拳の六連撃に上乗せして楽にしてやるぞ!」

 

 絶対絶命の危機を悟り修羅の裡に眠れる竜が覚醒、第2段階の本気と潜在能力が解き放たれる。

 第3段階を超えた小宇宙に応じ、山羊座の黄金聖衣が変形《トランスフォーム》を遂げる。

 緑玉《エメラルド》に劣らぬ硬度を秘め、燦爛と輝く水晶《クリスタル》の輝き。

 虹色に煌き白銀の光を放つ聖衣、水晶《クリスタル》の聖衣が現出。

 山羊座の水晶聖衣が小宇宙を増幅させ、冴え渡る水晶の輝きが全ての感覚を鋭敏化。

 大自然の精霊が小宇宙に宿り、速度《スピード》感覚が未知の領域へ到達する。

 水晶聖衣を纏った修羅は聖獣の動きを見切り、超絶の反射神経を発揮し敢然と邀撃。

 両腕両脚が閃き犬神一族の名刀、同時に8つの斬撃を放つ八房の威力が再現される。

 先刻まで空を切っていた聖剣《エスクカリバー》が閃き、確実に目標を捕捉。

 鷲の爪を斬り、狼の牙を砕き、女王蜂の針を折り、蝙蝠の翼を裂く。

 聖獣4体を撃墜した修羅は瞬転、間髪入れず骨法独特の舞を加えた強烈な蹴撃を披露。

 身体の捻りを加えた脚が連続して舞い、大蛇と大熊に叩き込まれ巨体を昏倒させる。

 

 海将軍は一転して危機《クライシス》を悟り、己の力を一滴残さず最大の奥義へ投入。

 雷光剣の牙に命を託した華悪崇正統の戦士に倣い、一気に決着を図る。

 戦闘力を喪った六聖獣を頂点とする魔法陣、六芳星《ヘキサグラム》を空中に描く。

 水と云う文字の頂点を結んだ魔法陣の中心、七星陣《セブン・スター》の核《コア》を貫く一撃。

 緑玉水滴状の跳散弾《エメラルド・スプラッシュ》が織り成す大竜巻、ビッグ・トルネード。

 六芳星の魔法陣に増幅され、会心の一撃《クリティカル・ヒット》が山羊座の水晶聖闘士を襲う。

「甘い!」

 七星陣の同時攻撃を受けた修羅は冷静沈着に一言呟き、瞬速の無刀格闘術を披露。

 両腕が縦横に閃き上下と左右に疾走、一直線の斬撃が大竜巻の中心で交差《クロス》。

 大地を十字に裂く伝説の星剣、十字剣の如くエネルギー渦動を十字に斬り裂く。

 八手拳ならぬ手刀と足刀の高速連撃《ワン・ツー》、8本の聖剣《エスクカリバー》。

 水晶の輝きを手に入れた修羅の切札が、南太平洋の柱を護る海将軍の切札を一刀両断。

 六芳星の中心《センター》が打ち砕かれ七星陣が崩壊、頂点《コーナー》の聖獣も消失。

 渦動を斬り裂いた十字の交点《クロス・ポイント》は直進、海聖獣の鱗衣を直撃。

 聖剣《エスクカリバー》の十字架が輝き、七星陣の極点《ウィーク・ポイント》を照射。

 緑玉《エメラルド》聖衣の星命点を極められ、南太平洋の海将軍イオの小宇宙が消えた。



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北氷洋~海魔人の凍気

 海皇ポセイドンの統べる領域《テリトリー》、海界《シー・ワールド》の中心《センター》。

 星型七角形《セブン・スター》の城塞宮、アトランティスの中央に位置するポセイドン神殿。

 海底の都を治める七芳星《ヘプタグラム》の神殿、大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》の支柱。

 七大海洋の象徴《シンボル》を預かる守護者《ガーディアン》、七人の海将軍《ジェネラル》。

 七芳星の頂点に位置する支柱の一、北氷洋《アークティック・オーシャン》を護る七大勇者。

 小宇宙《コスモ》に同調《シンクロ》、力《パワー》を増幅する緑玉《エメラルド》の衣。

 水の精霊《エレメント》の上位存在、北氷洋に出没する巨大蛸《グレート・オクトパス》。

 クラーケンの鱗衣《スケイル》を纏う北の勇者、海闘士《マリーナ》は氷海の将。

 様々な伝承に彩られた海の怪物、クラーケンを象徴《シンボル》とする氷《ブルー》の海将軍。

 水瓶座《アクエリアス》カミュの指導を受け、氷河の生命を救った片目の勇者アイザック。

 

 高度な知性を誇り時間流を操作する能力を開発、魔界を滅亡へ導いた異世界の人類先行種族。

 永劫の昔より宇宙に君臨する異次元の神々、旧支配者《グレイト・オールド・ワンズ》の1柱。

 創世記の惑星に誕生し強靭な生命力を誇る鬼子、超能力双生児7組に倒された巨大生命体。

 旧神の封印《エルダー・サイン》にて眠る偉大な神、九頭龍とも噂される北氷洋の怪物。

 伝説の海底都市ルルイエの主神《ファイナル・マスター》、水の精霊を支配する魔界王の眷属か。

 星船ランドシアⅶに乗り星の海を渡り、ノルンの海に漂着した異星人の末裔やもしれぬ怪魔。

 悪には微塵も容赦せず完璧に冷酷非情を貫き、邪な人間のみ葬る海魔人と畏怖される伝説の主。

 或いは火星《アレス》の首魁《ボス》、祖父なる巨大蛸グランド・オクトパスの子孫であるのか。

 

 第3段階の小宇宙を操る挑戦者《チャレンジャー》、黄金聖闘士の次鋒《セカンド・バッター》。

 獅子座《レオ》の黄金《ゴールド》聖衣を纏い、縦横無尽に疾走する光闘気の拳を操る正義漢。

 兄の仇と闘い己の未熟を悟り、更なる精進を誓った獅子宮の守護者《ガーディアン》。

 両腕両脚を聖剣《エスクカリバー》に鍛え上げた達人を目標に、修羅の門を叩いた熱血漢。

 聖域《サンクチュアリ》十二宮では一時的に、白金《プラチナ》の聖衣《クロス》を纏った勇者。

 幼い女神の化身を守った射手座アイオロスの弟、獅子座アイオリアが鋭い舌峰を響かせる。

「お前の小宇宙が漂わせる冷気、凍気には何やら思い当たる節があるぞ!

 水瓶座カミュには身を挺して後輩の弟子を救い、氷の海に失踪した男が居ると噂に聞いた。

 何故に北極海の柱を護る海将軍を名乗り、我が同僚カミュの弟子が我等に敵対する?

 世界各地を襲う大水害を喰い止めんが為、女神は事態の収拾を図り人柱を志願されたのだぞ!

 海闘士に与する理由は問わぬが我等に協力すれば良し、海将軍の儘でも構わぬが2度は言わぬ。

 貴様も聖闘士を目指し修練を積んだ者であれば、女神の聖闘士として行動せよ!」

 

 熱血漢の糾弾を何処吹く風と無表情に聞き流し、冷酷《クール》に徹する水瓶座カミュの弟子。

 完璧に無視され紅潮する黄金の獅子に冷笑を浴びせ、先達の聖闘士に冷静な口調で切り返す。

「昔話を蒸し返し縛ろうとしても無駄、今の俺は軟弱な女神の聖闘士に非ず冷徹な海魔人の化身。

 私利私欲に塗れ汚れ切った人の世を浄化せんが為、地上は隈無く峻烈なる潮流にて洗い流す。

 神話の時代と同様に惑星表面を水面で覆い尽くし、海の惑星に海洋文明の時代を招来するのよ。

 海皇ポセイドン様の世直し、救世の業を妨げる事は許さぬ」

 第3段階の第7感覚《セブンセンシズ》、海将軍の小宇宙が瞬間的に接触。

 光速で思考が交換され激しく火花を散らし、小宇宙の接触面に峻烈な反応が生起。

 眦を決した白い獅子《ホワイト・ライオン》が瞳を燃やし、猛々しい咆哮を響かせる。

 

 名状し難い形態の海魔人《クラーケン》は強靭な触手を翻し、異次元の音響が轟く。

 互いに戦闘《バトル》の開始に備え精神接触を遮断、小宇宙が増幅され爆発。

 黄金の獅子が疾り、緑光宝石の海魔人が蠢いた。

「最早、問答無用!

 我が同僚カミュの弟子と認めず、女神に仇成す反逆者《トレイター》と判断する!!

 一刻も早く女神を救わねばならぬ、先手必勝の諺に則り一撃で決着を付けるぞ!

 手加減は一切抜きだ、ライトニング・ボルトを受けよ!!」

 黄金の獅子は解き放たれた弓の如く身を翻し、伝説の超越者を思わせる光の速さで疾走。

 銀河星海の覇者を髣髴とさせる蒼氷色《アイス・ブルー》の瞳が輝き、獅子の牙が閃いた。

 

 闇黒物質《ダーク・マター》を斬り裂く光線砲《レーザー》、閃光の拳が一点集中。

 悠然と佇む海将軍の防御力場《バリア・フィールド》を貫き、海魔人の鱗衣を襲う。

「何っ!?

 馬鹿な、信じられん!」

 光の小宇宙を集束した渦巻、黄金の獅子が放った会心の一撃《クリティカル・ヒット》。

 渾身の闘気拳《オーラ・ナックル》、先制第一撃《ファースト・ストライク》は不発。

 氷の勇者は小宇宙の凍気に海魔人の冷気を重ね、重層構造の防御力場を創造。

 共鳴効果で格段に強化された守護結界、制極界は第3段階の小宇宙に抗し得る耐久性を発揮。

 巧妙に張り巡らされた不可視《ステルス》の防弾盾、氷の領域《フィールド》が光を偏向。

 北極海の守護者は水と氷の魔術師《マジシャン》、北の導師《メンター》に学んだ腕を実証。

 黄金聖闘士を手玉に取り直進する筈の闘気拳を屈曲させ、必殺の一撃を見事に回避。

 不動の態勢で蓄えていた小宇宙を一気に爆発させ逆襲、反撃《カウンター・アタック》を放つ。

 

「聖闘士に1度見せた技は2度と通用せぬ、見切られ無効となるは常識なり!

 迂闊にも敵を侮り不用意に決め技を放った己の愚挙を呪え、オーロラ・ボレアリス!!」

 北極圏の夜空に舞う極光《オーロラ》が北の暴風《ボレアス》と化し、黄金の獅子を直撃。

 第3段階の小宇宙も不可能とされる秘術、絶対零度の凍気拳が炸裂し黄金聖衣が凍結。

 絶対絶命の危機を悟り眠れる獅子が覚醒、秘められた潜在能力が覚醒し小宇宙が一時的に昇華。

 小宇宙に同調する衣も青紫《すみれ》色の閃光を放射、水晶《クリスタル》の聖衣へ変貌。

「最初の一撃に最大の奥義を以て当たる賢明さ、黄金聖衣を凍結させる凍気拳は賞賛に値する!

 嘗ての師に相応しい腕と認めてやるが決着を付けるぞ、ライトニング・プラズマ!!」

 緑玉《エメラルド》聖衣に劣らぬ硬度7の衣、紫水晶《アメジスト》聖衣が現出し小宇宙を増幅。

 風の支配者アイオロスに召喚された風の精霊《エレメント》が現れ、生命力《エナジー》を注入。

 風の支配者と並び風の精霊界に君臨する雷帝が小宇宙の裡に顕れ、雷系魔法を操り実力を発揮。

 青紫《すみれ》色の稲妻《ローリング・サンダー》、紫電の雷撃波が放出され極光の暴風を迎撃。

 

「氷戦士の総帥に伝授されし冷気を操る秘術、絶対零度の凍気拳が通用せぬとは!?

 究極の第7感覚は第3段階の小宇宙とする黄金律《ルール》、多元宇宙を統べる法に背くぞ!」

 真実を指摘する必死の抗議も空しく、青紫色の閃電は躊躇せずに傍若無人な攻撃魔法を再現。

 最強の青色攻撃魔法《ブルーライト・マジック》、安全地帯の無い雷《いかづち》が戦場を席巻。

 光の軌道を強引に捻じ曲げる不可視の領域、絶対零度の空間特性を逆手に取る雷帝の一撃。

 雷電の拳が発動され問答無用の電撃波を放射状に放ち天地を覆い、氷華と氷柱の凍気拳を邀撃。

 世界の命運を決める星剣戦争の前哨戦《プレ・ファイナル》、星剣が主と認めた戦士の一騎打ち。

 幻夢氷翔剣の創造せし氷の世界を断ち切る一閃、総てを溶かす黄金剣の膨大な光の群れを再現。

 雷光剣の牙に宿る雷神《サンダー・ボルト》が再現され、極低温の領域《エリア》が崩壊。

 

 通電性の向上した氷の結界を利用し、短絡《ショート・カット》する超伝導の雷撃が一閃。

 青紫色の電磁波《マイクロ・ウェーブ》が一点集中、超電磁直撃砲《マクロ・ビーム》へ昇華。

 氷棺《アイス・コフィン》ならぬ氷晶の環《カリツォー》、氷塵の法衣《アイス・ローブ》。

 天雷の渦《ヴォルテクス》が北氷洋の海将軍、水と氷の魔術師の弟子が創った氷鏡の罠を突破。

 風の精霊界から召喚された雷帝の秘術、プラズマ・ストリームの激流が海魔人を翻弄。

 弥勒の騎士を走査《スキャン》した電子風、超電磁形態の闘気拳が複合防御を透過《スルー》。

 紫電の嵐が光の飛竜《ワイヴァーン》、電光の獣魔と畏怖される光牙《コアンヤァ》と化す。

 氷《ブルー》の牙《ファング》、氷《ブルー》の盾《シールド》も木っ端微塵に砕け散る。

 青紫色《ヴァイオレット》の雷電《プラズマ》が輝き、海魔人《クラーケン》の鱗衣を照射。

 星命点を極め緑玉《エメラルド》聖衣も感電、北氷洋の柱を護るアイザックの小宇宙が消えた。



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南大西洋~海魔女の旋律

 海皇の統べる城塞宮アトランティスの中心、ポセイドン神殿の要となる支柱を預かる守護者。

 南大西洋《サウス・アトランティック》の柱を護る七大勇者、最強の海闘士《マリーナ》。

 巧妙な催眠術を操り犠牲者を拷問に掛け、苦悶の末に凄惨な死へ追いやり生命力を貪る異星人。

 太古の昔に北辺の地ヒューペリボレアを支配し、星の霊剣を持つ英雄に打ち破られた悪竜の王。

 通り掛る船乗りを魔性の歌声にて誘い込み、貪り尽くす人面妖鳥と恐れられる海の魔物。

 女性的な美貌の海将軍《ジェネラル》は、海魔女《セイレーン》の鱗衣《スケイル》を纏う。

 勇敢な騎士を篭絡する傾国の美女、勇者を惑わす絶世の美姫を髣髴とさせる敵の力を削ぐ秘術。

 吟遊詩人の如く優雅に横笛《フルート》を吹き、魂を虜とする艶美にして流麗な音色が響く。

 

 直径1.5メートルに達する扁球形の花を咲かせ、他の植物に寄生し養分を吸い取る寄生植物。

 赤橙色《オレンジ》の花弁5枚を有し、昆虫を操り受粉させる世界最大級の妖花。

 洗脳《ブレイン・コントロール》効果を発揮し、魅惑の陥穽を展開する幻惑のラフレシア。

 瞳を閉じて一心に笛の音を奏でていた海将軍は、艶やかな唇を愛用の楽器から離し瞼を上げた。

 第3段階の小宇宙《コスモ》を操る女神の聖闘士、挑戦者《チャレンジャー》は白羊宮の守護者。

 牡羊座《アリエス》の黄金《ゴールド》聖衣を纏い、神の化身に一騎打ちを挑んだ前教皇の弟子。

 最強の念動力《サイコキネシス》を操る聖衣の匠、高天原《ジャミール》の隠者《ラムサー》。

 聖域《サンクチュアリ》の一戦で教皇の間へ突入、一時的に白金《プラチナ》聖衣を纏った勇者。

 射手座アイオロスの残留思念を解読し、恩師の失踪を巡る真相を知り激怒した牡羊座ムウ。

 逸早く城戸沙織に忠誠を誓い、偽教皇打倒の狼煙を上げた黄金聖闘士が眼を瞠った。

 

「まるで魂を奪われる様だ、こんな素晴らしい音色は聞いた事が無い!

 芸術家を守護する弁財天に相当する異世界の神、サリアに愛された楽曲の天才であるかの様だ!!

 中原の宝石パロ聖王家の異端者、不世出の歌唱力を誇る伝説の吟遊詩人マリウスを思わせる。

 世界を破滅に導く海皇を戴きく海闘士の中に、芸術を解する知性と感性の持ち主が居るとは。

 見事な腕を持つ類稀な演奏家殿、心苦しいが私の挑戦を受けて頂かねばならぬ。

 当方は牡羊座の黄金聖闘士ムウと名乗る者、楽曲師の御尊名を御聞かせ願いたい」

 新大陸の先住者《ネイティブ・アメリカン》と同様、精霊《エレメント》と共生する民の末裔。

 羊の皮を被い赤頭巾を狙う昔話の悪役《ヒール》、ならぬ穏やかな狼《クワイエット・ウルフ》。

 木星《ゼウス》北極の錬金術師《アルケミスト》、超古代ムー大陸にて栄えた鍛冶達の後継者。

 聖衣を修理する術を受け継ぐ唯一の伝承者、高天原《ジャミール》のムウが発した問いに反応。

 

 蒼氷色《アイス・ブルー》の瞳孔が煌き、透明な海水色《アクアマリン》の光が射した。

 美貌の吟遊詩人を連想させる花の唇が開き、聴く者の魂を震わせる麗しい美声が流れ出す。

「これはまた、丁寧な挨拶を頂戴致しました。

 牡羊座の黄金聖闘士ムウ殿、御初に御目に掛かります。

 私は南大西洋の柱を預かる海魔女《セイレーン》の海将軍、ソレントと名乗る一介の音楽家。

 伝説の吟遊詩人に喩えて頂けるは光栄至極、遙かに及びませぬが心底より御礼を申し上げます。

 女神の聖闘士たる貴方が正々堂々、挑戦の名乗りを挙げるは御尤もなれど私も海皇の海闘士。

 高名なる黄金聖闘士の御相手を務め、海将軍の実力を拝見して頂かねばなりません」

 尋常極まりない挨拶を返し、優雅に会釈する海魔女《セイレーン》の海将軍。

 南大西洋の柱を護る海闘士は余裕を見せ、更に言葉を継いだ。

 

「最強の念動力を誇る牡羊座の黄金聖闘士、ジャミールのムウ殿と雖も私の前では赤子に等しい。

 我が魔笛の一吹きにて貴方の生命を奪うは容易いが、聖衣を修理する術は鱗衣の強化にも有益。

 出来れば無益な殺傷を回避し海皇の世直し、理想郷《ユートピア》建設に御協力を願いたいが。

 先ずは御眠り頂き洗脳を施すとしようか、デッド・エンド・シンフォニー!」

 南米大陸の大妖術師、獅子の頭目《ライオン・ヘッド》が操る魔術《マクンバ》に劣らぬ秘法。

 相手の戦闘力を低下させる海魔女の結界、相手の実力を100分の1以下へ封じる魔笛の音色。

 海魔女の化身が奏でる死の旋律《メロディ》が第7感覚を浸蝕、小宇宙が減衰し念動力も不発。

 魔王クリスの超能力を封じた超越大師オーティス・ザ・グレイテストの如く、念を無効化。

 

 旧支配者《グレイト・オールド・ワンズ》の1柱、広大な巣を張る蜘蛛の神アトラク=ナクア。

 七つの呪いを掛け甲高い声を挙げる地の精、蠱惑魔《アトラ》の秘術を披露。

 催眠効果を齎す黒蓮《ブラック・ロータス》の粉、闇の司祭が操る幻術《イリュージョン》。

 心を溶かし魂を縛る蜘蛛の糸を張り巡らせ、巧妙に小宇宙を浸蝕し麻痺させる黒魔術の如く。

 魔族《デーモン》最強の勇者アモン、悪魔人間《デビルマン》不動明を戦闘不能に陥れた天敵。

 先住者の眼ならぬ魔族の催眠術師《ヒュプノ》、精神を直接攻撃するサイコ・ジェミーの能力。

 思考波スクリーンを無効とするブラック・レンズマン、第2段階デルゴン貴族の高度な催眠術。

 鼓膜を破っても頭脳に直接響く笛の音、精神への攻撃が小宇宙を蝕み意識を暗転させる。

 

「馬鹿な、念動力《サイコキネシス》が作動せぬとは!?

 だが我が防御壁《シールド》は超能力《サイキック》に非ず、クリスタル・ウォール!!」

 掻き集めた念波の欠片を牡羊座の黄金聖衣が増幅、転換し鉄壁の防御結界《バリア》を創造。

 相手の攻撃を遮断する水晶の反射鏡壁、制極界《カウンター・アタック》の力場が展開される。

 海魔女の小宇宙が魔性の笛に転換され物質化現象を生起、輝く透明の羽根を持つ妖精が実体化。

 妖精の大群は可憐な容貌と裏腹に魔族《デーモン》の妖鳥シレーヌ宜しく獰猛な正体を暴露。

 赤毛の魔法使に酷使される好戦的な美女、戦闘妖精《バトル・フェアリー》が本領を発揮。

 高貴なる絹《シルク》の大群が攻撃形態、炎の玉《ファイアー・ボール》へ変化し一斉に突撃。

 可憐な妖精の大群が凶悪な牙を剥き出し水晶の鏡壁に殺到、獰猛に噛み付き制極界を喰い破る。

 見る者の心胆を寒からしめる凄絶な光景が展開され、黄金聖闘士の鉄壁力場が無残に崩壊する。

 

 絶対絶命の危機を悟り穏やかな狼が覚醒、秘められた潜在能力が覚醒し小宇宙が一時的に昇華。

 小宇宙に同調する衣も十字架《クルス》の白光を放ち、水晶《クリスタル》の聖衣へ変貌を開始。

 十字軍《クルセイダー》と称する西洋の騎士《ナイト》が装備、胸に十字紋章を描く甲冑の如く。

 白金の光が十字架型に輝く宝珠、星の水晶《スター・クリスタル》を髣髴とさせる聖衣が現出。

 緑玉《エメラルド》聖衣に劣らぬ硬度7の衣、紫水晶《アメジスト》聖衣が現出し小宇宙を増幅。

 轟く星々のエネルギーが小宇宙に注入され、張り巡らされた蜘蛛の糸を蹂躙し焼き尽くす。

 最強の念動力が復活し水晶の反射鏡《ミラー》、超能力障壁《サイキッカル・バリアー》を展開。

 精神攻撃の妖波動が念波の結界に捕捉され、術者を目掛け投げ返され逆流する。

 

「馬鹿な、精神を直接攻撃する死の旋律《メロディ》を無効化するとは!?

 ならば魔笛の奏でる最高潮の音色を味わって頂こう、デッド・エンド・クライマックス!」

 想定外の事態に余裕は消し飛び顔色も急変、海魔女の海将軍が死を招く魔性の笛を吹き鳴らす。

 妖波動は勢いを盛り返し威力を増し、執拗に水晶の反射鏡壁へ絡み付き執念深く浸蝕を試みる。

 防御壁は超古代文明アトランティス由来の水晶楽器、クリスタル・ボウルと化し妖波動を吸収。

 水晶《クリスタル》の迷宮《ラビリンス》、精緻な光の万華鏡《カレイド・スコープ》が現出。

 小型水晶楽器《ミーアクリスタル》の核《コア》、ダブルターミネーションの結晶が煌いた。

 

 大小の水晶楽器が盛大に鳴り響き魔性の笛、死の旋律《メロディ》を圧倒し完璧に封じ込める。

 複雑に光を屈折させる水晶硝子《クリスタル・ガラス》の如く、魔の波動に干渉し強引に変換。

 水晶楽器の重奏相乗効果が作用し、死の旋律《メロディ》を数倍に増幅《パワー・アップ》。

 共鳴が最高潮《クライマックス》に達し極度に圧縮され、獰猛な咆哮と化した旋律を一気に放出。

 可憐な容姿と獰猛な気性を併せ持つ妖精達が無限増殖され、魔笛を操る海魔女の海将軍へ殺到。

「馬鹿な、私の幻妖精《フェアリー》達が!」

 召喚師《サモナー》の運命《フェイト》、精霊を異世界から呼び出し制御に失敗した術者の末路。

 常日頃から酷使される戦闘妖精《シルク》達が、積もり積もった恨みを大爆発させたかの如く。

 妖精の大群が海魔女《セイレーン》の鱗衣、緑玉《エメラルド》聖衣を掌握し星命点を痛撃。

 大音量の鎮魂歌《レクイエム》、葬送行進曲《ゲーム・オーバー》の旋律《メロディ》が響き渡る。

 魔性の音色が精神へ浸透し意識が暗転、南大西洋の柱を護る海将軍ソレントの小宇宙が消えた。



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インド洋~海皇子の宝槍

 海界《シー・ワールド》の城塞宮アトランティスの要、ポセイドン神殿の支柱を預かる守護者。

 インド洋《インディアン・オーシャン》の海闘士《マリーナ》、海将軍《ジェネラル》の一角。

 海皇ポセイドンの一子とも伝えられ勇名を馳せる戦士、黄金の槍を持つ者《クリュサオル》。

 総ての邪悪を刺し貫き聖なる力を秘めた光の武器、黄金の槍《ゴールデン・ランス》が輝く。

 

 電気石《トルマリン》を産出するインド洋航路の中継地、光輝く聖なる島《スリ・ランカ-》。

 獅子島《シンハ・ディーパ》出身の海将軍は青黒い肌の男、総てを魅了する黒《クリシュナ》。

 世界を維持する三大最高神の1柱、ヴィシュヌ神に匹敵し全ての化身の起源と唱える者も在るが。

 海将軍の鱗衣《スケイル》は聖炎《エル・ファイアー》を象り、日輪を背負う勇士を連想させる。

 

 挑戦する勇者は女神の聖闘士《セイント》、第3段階の小宇宙《コスモ》を操る金牛宮の守護者。

 牡牛座《タウラス》の黄金《ゴールド》聖衣を纏い光速の居合い、掌打を駆使する長身の偉丈夫。

 聖域《サンクチュアリ》の戦で宝瓶宮へ突入、一時的に白金《プラチナ》聖衣を纏った剛勇の士。

 頑固で融通が利かぬ一面を持つが度量の大きい武人、一本気で豪放磊落な牡牛座アルデバラン。

 

 

 鍛え抜かれた手練の技を誇る両者は無闇に戦端を開かず、互いに呼吸を読み技量を推し量る。

 第7感覚《セブンセンシズ》と宇宙エネルギーの究極、小宇宙とクンダリーニが瞬間的に接触。

 卓越した武芸者達は『英雄は英雄を知る』の諺通り、一瞬の接触で高潔な魂を感知。

 水晶の如くに澄み渡り透き通った達人の感覚に、言葉に出来ぬ衝撃が疾り深い共鳴を味わった。

 

 海皇と女神、信奉する主は違えど志は同じ。

 互いに強固な信念を堅持し、言葉に拠る説得は無効。

 己の信じる処に従い、全力を挙げ闘うのみ。

 実力を以て雌雄を決し、勝者が敗者の想いを受け継ぐ。

 

 両者の精神が備える等質の宇宙エネルギーが煌き、深い相互理解と断じて揺るがぬ決意が交錯。

 戦闘の天才とも噂される槍使いの海闘士、戦闘証明済み《コンバット・ブローブン》の聖闘士。

 緑玉《エメラルド》の聖衣が煌き、達人《プロフェッショナル》の纏う黄金の聖衣が共鳴。

 ポセイドン神殿の支柱を巡り海将軍と黄金聖闘士、稀代の腕を持つ闘王達の対決が再現される。

 

 

「フラッシング・ランサー!」

 海皇子の化身が操る黄金の槍が閃き、黄金の野牛《バッファロー》が動いた。

 二刀流の剣豪を髣髴とさせる極意、紙一重で真剣を見切る神技的な防御《ディフェンス》を披露。

 長身の偉丈夫は黄金の槍に正面から立ち向かわず、鋭い呼吸で繰り出される突きを巧みに回避。

 

「御見事!

 だが、何時まで避け切れるかな!?」

 槍の名手は高らかに笑うと接近戦を意図する聖闘士の機先を制し、驚嘆すべき槍捌きを披露。

 光速拳を上回る俊敏な突きが連続して繰り出され、黄金の野牛を攻撃圏外へ撃退。

 接近を阻止された長身の偉丈夫は方針を転換、黄金の槍に標的を変更し慎重に間合いを計る。

 聖闘士の意図を察し海将軍が槍を引く寸前、裂帛の気合と共に会心の一撃を繰り出す。

 

「グレート・ホーン!」

 野太い声と共に牡牛座アルデバランの代名詞、黄金の野牛が繰り出す猛烈な掌打が炸裂。

 会心の一撃《クリティカル・ヒット》が、間一髪で逃げ損ねた黄金の槍を横から痛打。

 黄金の槍を持つ両腕へ衝撃が波及し体内へ浸透、運動神経が麻痺し握力が低下。

 野牛の一撃に黄金の槍が弾き飛ばされ、痺れて用を為さぬ両手では無刀格闘術も発揮出来ぬ。

 

 

 勝負あったかに見えたが海皇子の化身は悠然と微笑み、闘気を抑え結跏趺坐の態勢へ移行。

 海皇子の化身と噂される闘王は、体内に位置する7つの座《チャクラ》を活性化。

 小宇宙に劣らぬ究極の第7感覚、螺旋の環《クンダリーニ》を増幅させ強力な結界を展開。

 膨大な宇宙エネルギーを湧出させ、不可視《ステルス》の防御障壁《バリア》を創造。

 

 黄金の野牛を阻む鉄壁の防御、背水の陣を敷き黄金聖闘士を相手に一歩も引かぬ気概を誇示。

 牡牛座アルデバランも咄嗟に突破口を見出せず、互いに武器を持たぬ両雄は膠着状態に陥るが。

 千日戦争《ワン・サウザント・ウォーズ》の様相を呈する均衡を破り、海将軍の声が響いた。

「マハローシニー!」

 

 七色の虹が燦然と輝き、大いなる光の潮流が長身の偉丈夫を押し流すかと見えたが。

 絶対絶命の危機を悟り、黄金の野牛に秘められた潜在能力が覚醒。

 名状し難い闘気流が聖衣を黄金と黒玉、斑模様に染める。

 小宇宙が一時的に昇華を遂げ、第7感覚に同調する精神文明の遺産も黄光を放射。

 緑玉《エメラルド》に劣らぬ硬度7の水晶《クリスタル》、黄水晶《シトリン》の聖衣が現れた。

 

 

「見事な腕だ、尊敬に値する!

 黄金の野牛が切札とする必殺の一撃、剛角《グレート・ホーン》の天地連撃を受けよ!!」

 豹頭の戦士が齎す黄金の光に劣らぬ小宇宙の光を、黄水晶《イエロー・クォーツ》の聖衣が増幅。

 牡牛座アルデバランの両掌が閃き黄金の剛双角へ変貌、猛烈な掌打が大いなる光の渦を邀撃。

 勇敢な魔法使を援けた剛毅な獣王の切札、双腕から繰り出す闘気流の渦が再現される。

 

 左右の掌から繰り出される剛双角、美しい双条破壊光線《ツイン・レーザー》が屈曲。

 皇帝の幽波紋《スタンド》が遠隔操作する拳銃弾、操気弾の秘術《テクニック》を転用。

 白色彗星帝国の都市要塞を護る層流防御、高速気流の弱点《ウィーク・ポイント》。

 防御帯《ディフェンス・ゾーン》を突破する死角《デッド・ゾーン》、真上と真下。

 双つの穿心角が中空で軌道を急変させ頭上と足元へ廻り込み、防御壁を双方向から強襲。

 貫通不可能と豪語する強靭な不可視の壁も、上下から強圧を受け耐え切れず崩壊に至る。

 

 海皇子の化身も絶体絶命の危機に瀕し、懸命にチャクラを活性化させクンダリーニを増幅。

 青闇の月《ダーク・ブルー・ムーン》の水流防御、鱗刃《ウルコ・カッター》の渦を再現。

 世界を維持する最高神の武器、小型円形の飛翔刃を思わせる光刃が煌き周囲に展開。

 飛翔球形波紋刀《シャボン・カッター》の如くに宙を舞い、侵入者を斬り裂かんとするが。

 黄玉《トパーズ》色の瞳ならぬ黄水晶の聖衣が煌き、星々のエネルギーを更に増幅。

 轟く星々のエネルギーが小宇宙に注入され、猛牛の頭が王冠の角《ホーン・クラウン》と化す。

 

 オーランディアの碧石を柄頭とするランドックの王剣、ならぬ剛双角《ロング・ホーン》。

 牡牛座《タウラス》の角が最強の星剣、と謳われる風林火山の如き骨太の剛剣に変貌。

 最も美しい星剣と謳われる紫煌剣の力《パワー》、銀河4千年の星光を圧倒する実力を発揮。

 鱗光刃の潮流防御《ゾーン・ディフェンス》を一蹴、数倍の勢いで押し流す。

 黄水晶の角《ホーン》が黄金の光を放つ王錫の飾り石、ミラルカの琥珀《アンバー》に化身。

 燦然たる黄光が渦巻き海将軍を包囲、脱出路を遮断し容赦無く宙域圧縮《ゾーン・プレス》。

 強烈な圧迫《プレッシャー》を浴び、インド洋の守護者も身動きが取れず避ける術が無い。

 

 呼吸すらも困難な状態に陥り打つ手を封じられた海皇子《クリシュナ》の化身へ、止めの一撃。

 光覇明宗の法力僧が開発した最強の武法具、使い手の法力を極限まで吸い取る対妖用試作兵器。

 使用者の生命力を極限まで削り取る破魔の霊槍、 獣の槍と並び称される穿心角の威力を再現。

 破邪の秘法に匹敵するやも知れぬ最凶の退魔法具、穿心角の幻影が2本も現れ相乗効果を励起。

 剛双鉾の刃に電光が閃き黄水晶《シトリン》に増幅され、緑玉聖衣を纏う海皇の使徒を撃つ。

 

 夜空を背景《バック》に脈動する光の幕《カーテン》、天空《ウラヌス》を舞い踊る光の競演。

 満天の銀河星海を凌駕する極光《オーロラ》、広大な電磁波の光紋様《イルミネーション》。

 天河を割り裂く黄色の短剣《イエロー・ナイフ》が瞬き、観念して微笑む海将軍の頭上を急襲。

 同時に足元から穿心角が閃き、聖闘士の星命点に相当する座《チャクラ》を一刀両断。

 緑玉《エメラルド》の聖衣も星命点、急所《ポイント》を極められ機能停止状態に陥る。

 海皇子《クリシュナ》の鱗衣を纏い、インド洋の柱を護る海将軍《ジェネラル》の意識が暗転。

 アトランの王城を守る海の勇者、快男子クリシュナの小宇宙が渦《ヴォルテクス》の中に消えた。



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北太平洋~海馬の激流

 城塞宮の一角、北太平洋《ノース・パシフィック》の支柱を護る海闘士《マリーナ》。

 海馬《シー・ホース》の鱗衣《スケイル》を纏う海将軍、バイアンの正面に聖闘士が出現。

 黄金《ゴールド》聖衣を纏う蠍座《スコルピオン》の熱血漢、ミロの姿が水色の瞳に映った。

 第3段階の第7感覚《セブンセンシズ》が閃き、海将軍の小宇宙を瞬間的に走査《スキャン》。

 互いの小宇宙を象徴する黄金の蠍、海の悍馬が接触し鮮烈な火花が散る。

 

「お前が噂に聞く聖域十二宮の守護者、究極の形態とされる黄金聖衣を体現する聖闘士か。

 俺の纏う鱗衣は緑玉《エメラルド》の聖衣、お前の纏う黄金聖衣を超越する形態だぞ。

 聖衣とは小宇宙の進化に同調《シンクロ》し異なる色彩、形状へ変形する精神感応の心理物質。

 黄金聖衣と緑玉《エメラルド》聖衣は其の儘、同調する主の小宇宙が異なる階梯と明示している。

 第3段階の黄金聖闘士と第3段階を超越する緑玉《エメラルド》聖闘士では、既に勝負は見えた」

 

「気の毒だが今の大言壮語、大口《ビッグ・マウス》は高く付いたぞ。

 減らず口は其処までだ、どちらの小宇宙が真に上か証明してやる!」

 蠍座の聖闘士は自信に満ち溢れた宣告を受け、一気に顔面が紅潮。

 血液が団体で頭へ昇り小宇宙を熱血させ、黄金の蠍が光の公女と化す。

 

 直視すれば失明の危険も有る光子弾の如く、膨大な光が解放され目も眩む閃光が爆発。

 光の支配者が操る目潰しの術が再現され、海馬の海将軍は戦闘不能に陥ったかと見えたが。

 海将軍の前面には偏光の防御《ディフェンス》、波紋の領域《テリトリー》が存在し光に干渉。

 不可視《ステルス》の防御壁《バリア》に屈折、散乱され膨大な光波は無効化された。

 

 

「フッ、今度は俺の番かな?

 どちらの小宇宙が真に上か証明してやるぞ、ゴッドブレス!」

 流石に動揺を隠せぬ熱血の聖闘士と対照的に冷静沈着、優位を誇示し冷笑を浴びせる北の勇者。

 後の先を取り蓄積していた小宇宙を爆発させ、雄大な巨鯨《ガトゥー》の息吹を一気に放出。

 海将軍の小宇宙が励起させた物質化現象、海馬の吐息《ブレス》が炸裂し挑戦者へ疾走。

 必殺の波紋が黄金聖衣に命中《クリーン・ヒット》、蠍座ミロを直撃。

 海馬の海将軍は首尾良く、天蠍宮の守護者を海界《シー・ワールド》から追放したかと見えた。

 

「成程、大口を叩くだけの事はある様だな。

 緑玉《エメラルド》の聖衣とやらも偽装《メッキ》に非ず、一応は本物と認めてやるぞ」

 巨大鯨の息吹を体現する支柱《サブ・ブレドヴィナ》、鯨柱《ホエール・ピラウ》の守護者。

 北太平洋の海将軍が満を持して放った渾身の秘術、海馬の反撃《カウンター・アタック》。

 深度数百mの超水圧を上回る奔流であったが、、天蠍宮の守護者は微動もせぬ。

 

 閃光と共に小宇宙の物質化現象、空中浮揚する微細な針の群れを周囲へ張り巡らせ結界を展開。

 空気の揺らぎ現象を的確に感知し詳細に測定、対象範囲を見切り紙一重で回避するが。

 千日戦争《ワン・サウザント・ウォーズ》を嫌い、短気な面を持つとも噂される見者が動いた。

 

「此の儘では埒が明かぬ、問答無用の詞に従い一気に決着を付けさせて貰うぞ!

 我が必殺の針撃を受けよ、スカーレット・ニードル!!」

 星命点を貫く小宇宙の穿孔光線《タイト・ビーム》、針状破壊光線《ニードル・レーザー》15条。

 人差し指の先端が煌き蠍座ミロの代名詞、小宇宙を圧縮した真紅の衝撃を投射。

 

 桃源郷の道士に学んだ符術師の操る十五雷正法の如く、波長の異なる精神衝撃の物質化現象。

 総ての戦闘力を指先の一点に集束して撃ち出す必殺の気孔波、魔貫光殺砲の威力を再現。

 真紅の針が光輝く尖鋭な細剣《レイピア》と化し、北太平洋の海将軍バイアンへ殺到。

 波紋の防御壁を貫き海馬の鱗衣に命中、星命点を極め小宇宙を掌握するかに見えた。

 

 

「問答無用とは良い詞だ、気が合うな。

 大洋を飛翔する白鯨の姿を拝ませてやるぞ、ライジング・ビロウズ!」

 北洋の海将軍は腕を旋廻させ気流と波紋を操り、空気と海水の防御壁を激突させ共鳴波を創造。

 気体の衝撃波と液体の波紋震動が重複、相乗効果を励起し数倍に強化された破壊力を発揮。

 海馬の緑玉《エメラルド》聖衣が煌き強靭な馬蹄、抜群の貫通力を発揮する散弾を投射。

 水流の螺旋が真紅の針、ミロの代名詞を鮮やかに退けた。

 

「馬鹿な、信じられん!

 気流を操る海将軍如きに光速の針撃、スカーレット・ニードルが破られるとは!?」

 地中海の海底から海皇神殿の天井を突き破り、膨大な海水を貫き海面へ敵を吹き飛ばす秘術。

 黄金の野牛が操る居合い抜きの豪拳、掌底打に劣らぬ海馬の必殺拳が炸裂。

 鮮烈な緑宝玉色《エメラルド・グリーン》の奔流、海馬の強襲が天蠍宮の守護者を直撃。

 

 孔雀青《ピーコック・グリーン》の渦が黄金聖衣を覆い、蠍座の小宇宙を呑み干すかに見えたが。

 絶対絶命の危機を悟り小宇宙が一時的に昇華、黄金の蠍に秘められた潜在能力が覚醒。

 小宇宙に同調する衣も鮮烈な光を放ち、水晶《クリスタル》の聖衣に昇華する。

 

 

 緑玉《エメラルド》に劣らぬ硬度7の水晶《クリスタル》、針水晶《ルチル・クォーツ》。

 数多の針《ニードル》を内蔵する水晶の聖衣と化し、小宇宙の進化《レベル・アップ》を促進。

 死鏡剣の破片と同様、光り輝く無数の短針《ニードル》が現出。

 風魔一族の超能力戦士を翻弄した秘術が再現され、海馬の昇柱水流を強引に掻き消す。

 

 海将軍の技を無効化した無数の針が集束、渦巻き状の破壊光線《トルネード・レーザー》を創造。

 最強の赤色攻撃魔法《レッドゾーン・マジック》、火竜《かりゅう》の幻像と化し頭上で旋回。

 海馬の鱗衣へ標的固定《ロック・オン》の後、逃げる余裕を与えず一直線《ストレート》に飛翔。

 獲物へ突撃し心胆を寒からしめる破壊力を遺憾無く発揮、波紋防御が木っ端微塵に粉砕される。

 

 大地を割り割き獲物を十字架に縛り大地の底へ葬送する伝説の星剣、十字剣の力を再現。

 獰猛な尖針の大群は避ける術も無い海馬の化身を捕捉、乱射乱撃の嵐に曝され戦闘力を喪失。

 北洋に君臨する絶対的な主《ファイナル・マスター》、白鯨の幻影も消失《ホワイト・アウト》。

 緑玉《エメラルド》聖衣も無力化され、北太平洋の柱を護る海将軍バイアンの小宇宙が消えた。



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南氷洋~海幻獣の悪夢

 海皇ポセイドンの統べる領域《テリトリー》、海界《シー・ワールド》の中心《センター》。

 七芳星の頂点に位置する柱《ピラウ》の一角、南氷洋《アントラティック・オーシャン》。

 超古代の暗黒大陸カナン、魔獣大陸ムー等と唱える者も在る南極大陸を取り巻く海の守護者。

 七人の海将軍《ジェネラル》に属し、氷海に君臨する最強の支配者《ファイナル・マスター》。

 悪竜の魔法使デルゴン貴族の如く相手を己の領域《テリトリー》、幻の中へ誘い込む催眠術師。

 魂を呪縛する歌声にて船員達を誘惑し、貪り喰らう海魔女《セイレーン》に劣らぬ海の怪物。

 海幻獣《リュムナデス》の鱗衣《スケイル》を纏う海皇の使徒、手段を選ばぬ男。

 緑玉《エメラルド》の聖衣《クロス》を纏う海将軍、カーサの正面に女神の聖闘士が姿を現す。

 

 挑戦者《チャレンジャー》は、黄金《ゴールド》聖衣を纏う魚座《ビスケス》の聖闘士。

 魚魔神ダゴンの宮殿ならぬ双魚宮を預かる美神の化身、冷酷非情《クール》なアフロディーテ。

 第3段階の第7感覚《セブンセンシズ》が閃き、海将軍の小宇宙を瞬間的に走査《スキャン》。

 海幻獣と美神を象徴する小宇宙が接触し短絡《ショ-ト》、互いに反撥し鮮烈な火花が散った。

 

「魑魅魍魎が跳梁跋扈する魔獣大陸、レントの海の南方に位置する暗黒大陸に棲む古代生物か?

 大自然の精霊《エレメント》に非ず妖怪、幻魔の類を戴く低劣な輩が相手とは思わなかった。

 不満は有るが遣り直しを要求している暇は無い、厭な事は早目に切上げ次の対戦に期待する。

 舞えよ紅バラ、ロイヤル・デモン・ローズ!」

 互いに第7感覚《セブンセンシズ》が研ぎ澄まされ、激烈な戦闘が幕を上げた。

 

 

 過激な宣告と同時に第3段階の小宇宙が煌き、同調する黄金聖衣を輝かせ物質化現象を励起。

 双魚宮の守護者を中心に無数の花弁が乱れ舞い、真紅の薔薇が脈動し視界を塞ぐ渦流を形成。

 豪華絢爛たる花霞の結界は視界のみならず、第3段階の第7感覚をも遮断し術者の位置を匿す。

 

 美神の名を冠する雲の惑星、金星を包む大気圏の如く双魚宮を包む魔香気の暗幕《カーテン》。

 魚座アフロディーテの操る魔界植物、薔薇の大群が海幻獣《リュムナデス》の化身を包囲。

 伝説の風魔一族が操る攻防一体の戦陣、白羽陣ならぬ紅花嵐の秘術が蠍座ミロの退路を遮断。

 薔薇の花霞に包まれた海皇の使徒は泰然自若、不気味に唇を歪ませ不敵な嘲笑を浴びせる。

 

「究極と喧伝される第3段階の小宇宙、黄金聖闘士の実力とは其の程度かよ!

 驚いたぜ、ホントに失望させてくれるじゃねぇか。

 これじゃあ、雑魚《ザコ》の海闘士だって倒せやしねぇだろうなぁ。

 出し惜しみしてんのなら相手が悪いぜ、俺様にゃ逆立ちしたって通用しねぇんだよ。

 てめぇは魚座の聖闘士だったっけか、そんなら俺等の仲間に加えてやっても良いんだがな。

 ちったぁ本気を出しな、綺麗な兄ちゃんよ」

 

 

 余裕綽々で宣う南氷洋の守護者、面に漂う薄ら笑いに神経を逆撫でされ黄金聖闘士が憤激。

 美神の化身は怒りに全身を震わせ、玄妙不可思議な海幻獣の化身に天誅を加えんとする。

「小癪な!

 貫け黒バラ、ピラニアン・ローズ!」

 小宇宙が爆発し激怒の物質化現象、牙を剥く黒薔薇《ブラック・ローズ》が大量に実体化。

 骨まで獲物を噛み砕く淡水魚の猛禽類、獰猛な鋸刺鮭《ピラニア》の大群が周囲に渦を巻く。

 

 ルーン文字を刀身に刻む黒の剣を思わせる黒薔薇、猛禽類の魚群が南氷洋の守護者を包囲。

 猛咬魚の怪獣が凄牙の濁流と化し殺到、海幻獣の化身が周囲に展開する謎の力場に激突。

 猛魚の群れは海将軍の結界に噛み付き、獰猛な鋸牙歯を駆使する怒涛の波状攻撃を展開。

 凄絶な牙魚の大群も海幻獣の防御を貫通し得ず歯噛み、歯軋りの唸り声を轟かせた。

 

 謎の力場は攻撃を遮断すると同時に、術者の小宇宙を走査《スキャン》し精神波長を測定。

 思念内容が模写《コピー》され心の奥底を捜索、目標を発見解析し精緻な複製幻像を創造。

 海幻獣《リュムナデス》の化身が本領を発揮、闇の司祭が得意とする黒魔道の秘術を再現。

 精神測定《サイコメトリ》に基く精神攻撃、夢魔の幻術《イリュージョン》が展開される。

 

 

 第2段階の白銀《シルバー》聖闘士、ケフェウス座ダイダロスを討った時の記憶。

 聖域の召集に応えぬ人格者を倒した際、明白となった衝撃の事実。

 ダイダロスの指導を受け師を敬愛する弟子、第1段階の青銅《ブロンズ》聖闘士。

 仮面《マスク》を被り素顔を隠す女性《レッド》聖闘士、カメレオン座ジュネ。

 

 教皇に歯向かう反逆者と見做し処刑するか、或いは聖域へ連行する予定であったが。

 迂闊にも戯れに仮面を外し素顔を見た直後、想定外の精神衝撃を受け体が硬直。

 最愛の女性を喪った悪夢の記憶、最悪の心理的外傷《トラウマ》が甦った。

 

 仮面の下に秘められていた顔と寸分違わぬ、心の奥底に押し込めた愛する女性の顔。

 アンドロメダ座の聖衣を纏う瞬に生き写しの少女、エスメラルダと同様に。

 カメレオン座ジュネに生き写しの若い女性が、海幻獣の化身に再現される。

 

 

 緑玉《エメラルド》の聖衣が小宇宙を増幅、克明に描写された幻の映像が動いた。

 魚座アフロディーテの心底に秘められた存在、女神ならぬ忠誠の対象が現れ微笑む。

 鮮明な女性像は幻とは思えぬ圧倒的な存在感を示し、美神の化身へ白い掌を差し出す。

 

 想定外の強烈な精神衝撃を受け、凝結した魚座の黄金聖闘士アフロディーテ。

 突如として現れた過去の亡霊に、最愛の女性を護れぬ己の無力を呪った記憶が甦る。

 偽教皇に与し力が総てと唱える双魚宮の主から、冷酷非情の仮面《マスク》が外れた。

 

 禁忌の記憶が齎す圧倒的な罪悪感に幻惑され、無防備状態に陥り慟哭する美神の化身。

 虎視眈々と黄金聖闘士の隙を伺う南氷洋の海将軍がニヤリ、と邪悪な冷笑が浮かぶ。

 

 内面までも精巧に再現する海幻獣の秘術、幻像《イメージ》の衣を纏い易々と接近。

 最愛の人に擬態し己は傷付く事の無い絶対安全な場所、幻の陰に身を置き犠牲者を屠る。

 卑劣な海闘士が用いる常套手段、必勝パターンが見事に決まり金星を射止める寸前。

 海幻獣《リュムナデス》の化身は身体の自由を奪われ、素っ頓狂な悲鳴を上げた。

 

 

 

「何だってんだ、急に体が動かなくなりやがったぞ!?

 てめぇの仕業か、何しやがった!」

 唐突に響いた悲鳴に幻術が破れ、幻像が消失《ホワイト・アウト》。

 瞬時に事態を把握した黄金聖闘士は怒髪天を突き、小宇宙が爆発的に燃焼し昇華。

 絶対絶命の危機に晒されたと悟り美神の化身が激昂、秘められた潜在能力が覚醒。

 小宇宙に同調する衣も変形《トランスフォーム》、水晶《クリスタル》聖衣と化す。

 

「フッ、私も甘いな。

 幻術に囚われ、己を見失うとは。

 何処かで誰かが語っていた成句《フレーズ》だが、敢えて引用させて貰うぞ!

 敵が汚い手段を用いるならば、更に上を行く卑劣な手段を用い完璧に叩き潰すのみ!!

 それが勝つと云う事だ、男が一度闘う以上は一つの例外も無く勝たねばならん!

 敗北には一片の価値も認めぬ、負ければ最愛の女性を護る事も出来はしないのだ!!

 

 私は女神の聖闘士として忠誠を誓い、新たなる闘いに身を投じる決意を定めているが。

 力無き正義は無力、力こそが総てとする信念に変わりは無い。

 盟友デスマスクと共に卑劣を旨とし皆が苦手な輩を倒し、邪悪に屈せず闘い抜くのみ。

 我が望みは地上の平和のみ、過去の亡霊に用は無い。

 下賎な妖術師にしては上出来、と褒めてやろう。

 受けよ白バラ、ブラッディ・ローズ!」

 

 緑玉《エメラルド》聖衣に劣らぬ硬度7の水晶、紅水晶《ローズ・クォーツ》の聖衣。

 真紅の薔薇を髣髴とさせる小宇宙の光が溢れ、紅水晶の聖衣に乱反射し周囲を染める。

 

 運動神経を麻痺させる魔性の香気、ティオペの秘薬ならぬ魔香気を漂わせる花霞。

 紅薔薇の花吹雪が舞い踊り敵を捕縛した罠《トラップ》、花粉の結界が姿を現す。

 金縛り状態の海将軍は最後の足掻きを見せ、懸命に小宇宙を蓄積し増幅させるが。

 魔界植物の支配者《ファイナル・マスター》、魔界医師の妖しい微笑が再現される。

 

 魔香気を漂わせ侵入者を眠りへ誘う妖花、王家の魔界薔薇《ロイヤル・デモンローズ》。

 尖鋭な棘を牙とし餌を噛み裂く黒い破壊者、黒薔薇《ピラニアン・ローズ》を上回る切札。

 誘眠の芳香を漂わせる美神は優雅に手を差し伸べ、純白に輝く巨大な薔薇を実体化。

 異世界の女神に従う天使《エンジェル》、華麗なる薔薇《ゴージャス・ローズ》に非ず。

 妖怪の血を好み獲物を捕食する魔界の吸血植物、純白の薔薇が標的《ターゲット》を認識。

 燦然と輝く薔薇水晶の圧倒的な光芒を前に、海幻獣の秘術も無効化され風前の灯である。

 

 

「こんな馬鹿な、やり直しを要求する!

 卑怯だぞ化物め、サラマンダー・ショック!!」

 一縷の望みを託した火蜥蜴の幻影、デルゴン貴族の精神衝撃《サイコ・ショック》。

 最後の反撃も高貴なる真紅《ノーブル・スカーレット》、紅薔薇の水晶聖衣には通じぬ。

 実体化された魔界植物は獲物を捕獲、大輪の花弁が純白から鮮烈な真紅へ色彩を変える。

 緑玉《エメラルド》聖衣を纏う海幻獣《リュムナデス》の化身、カーサの小宇宙が消えた。



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北大西洋~海竜の野望

 海皇ポセイドンの統べる領域《テリトリー》、海界《シー・ワールド》の中心《センター》。星型七角形《セブン・スター》の城塞宮、アトランティスの中央に位置する神殿。

 黄金の三角地帯《ゴールデン・トライアングル》、数多の船が忽然と消息を断った魔の海域。北大西洋《ノース・アトランティック・オーシャン》の象徴、柱《ピラウ》を預かる勇者。

 七人の海将軍《ジェネラル》に属し、魔海に君臨する最強の支配者《ファイナル・マスター》。大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》の支柱七芳星の一角を護る最強の海闘士《マリーナ》が動いた。

 

 竜星座《ドラゴン》の聖衣《クロス》を纏う日本人、紫龍とは縁も所縁も無い赤の他人。聖闘士から海将軍へ鞍替えした簒奪者ではあるが紅の傭兵、予知能力者に非ず。

 神の化身と慕われる双子座サガを操り、十二宮の激闘を企んだ聖域の反逆者《トレイター》。三又の鉾《トライデント》を引抜き海皇の魂を解放、女神の封印を外し壺を隠匿した真犯人。

 幼く力無き女神に代わり、地上最後の砦となるべき聖域《サンクチュアリ》を掌握した偽教皇。双子座《ジェミニ》の黄金《ゴールド》聖闘士、双児宮の守護者と見紛う容姿端麗な白皙の男。

 海皇の軍師を騙り海将軍を率い、地上と大海に君臨する支配者を夢見た風雲児。瓜二つの兄のみならず聖闘士と海闘士を陰から操る黒幕、野望に燃え神々を畏れぬ策士。

 究極の第7感覚《セブンセンシズ》、第3段階の小宇宙《コスモ》を持つ運命の双生児。 緑玉《エメラルド》の聖衣《クロス》を纏う、海闘士の次席指揮官《セカンド・マスター》。

 

 海竜《シー・ドラゴン》の鱗衣《スケイル》を纏う海皇の使徒は、聖闘士《セイント》の実弟。もう1人の双子座カノン、海竜の聖闘士に対するは第3段階の小宇宙を操る十二宮の守護者。

 挑戦者《チャレンジャー》は、黄金《ゴールド》聖衣を纏う蟹座《キャンサー》の聖闘士。冷酷な美男《クール・ビューティー》、魚座《ビスケス》の聖闘士アフロディーテの盟友。

 月光仮面に非ずと嘯く非情《クール》な伊達男《ダンディ》、巨蟹宮の守護者デスマスク。第3段階の第7感覚《セブンセンシズ》が閃き、海将軍の小宇宙を瞬間的に走査《スキャン》。強大な小宇宙が接触し互いに反撥、鮮烈な火花が散った。

 

「大西洋の柱を護る海将軍が双子座サガ、神の化身たぁ御釈迦様でも御存知あるめぇ! 海底神殿の大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》をフッ壊して、女神を救うんじゃなかったのか? 納得が行かねぇ、ホントにブッ魂消たぜ!

 けど此の小宇宙は間違い無く第3段階、海闘士なんぞに出せるモンじゃ無ぇからな。一体全体どうなってんだ、何で神の化身がこんなトコに居んだよ? さっぱり訳が解らねぇぜ、説明しやがれ!」

 強固な精神障壁《サイコ・バリヤー》に阻まれ、精神接触《コンタクト》は拒絶された。思念波《サイキック・ウェーブ》の解析、精神紋様《サイコ・パターン》も識別出来ぬ。

 第7感覚を第3段階へ進化させた者同士、記憶走査《メモリー・スキャン》は不可能。小宇宙の力量は互角、精神測定《サイコメトリ》も思考盗聴《タッピング》も通用しない。

 想定外の事態に当惑し苛立ちを募らせ、癇癪を破裂させる寸前に至った挑戦者を嘲笑。北大西洋の柱を護る海将軍、緑玉《エメラルド》聖衣を纏う海竜の聖闘士が吼えた。

 

「何が神の化身だ、あんな愚か者の兄と一緒にするな! 双子とは言え、俺は善と悪の狭間で揺れ動く柔弱な心は持っておらん!!

 悪役《ヒール》に徹し切れぬサガと異なり、俺は悪の救世主となるべき存在よ! 精神波同調者《サイキック・ツイン》の俺が囁き、愚かな兄を操縦していたのさ!!

 操り人形の兄に与した同類のお前達に、我が野望を邪魔はさせぬ! 一瞬の内に葬ってくれるぞ、ギャラクシアン・エクスプロージョン!!」

 改心した神の化身を罵倒する不逞な宣告と共に、運命の双生児は兄の技を再現。神の化身と尊称される双子座サガの代名詞、銀河爆発を彷彿とさせる荒技が炸裂する。

 両掌から放出された小宇宙の物質化現象、共鳴相乗効果《オーバー・ドライブ》。銀河を破壊する海竜の咆哮、星海《スター・オーシャン》を波立たせる鯨波。

 百万の天球を揺るがす超時空震動、次元崩壊に直結する重力衝撃波が炸裂。死神の化身と畏怖されるシチリア島のイタリア人、伊達男《ダンディ》が消えた。

 

「フッ、他愛も無い。神の化身を凌ぐ俺の相手が、並の黄金聖闘士如きに務まるものか! 遊んでいる暇は無いな、囮の氷戦士《ブルー・ウォリアー》が何時まで保つか解らぬ。奴が兄の注意を引き付けている内に、事を運ばねば」

 不敵な微笑と独り言を残し北大西洋の柱を離れ、大黒柱の方角へ歩み去る寸前。唐突に投げ掛けられた罵声が、双子座カノンの背中に氷柱を生じさせた。

「勝利の余韻に浸ってるトコ、邪魔するぜ。兄より優れた弟なぞ存在しねぇと言うが、全く以って其の通りだな! 愚兄賢弟たぁ聞いて呆れる、未だ勝負は付いてねぇのも解んねぇか?

 良い事を教えてやるぜ、てめぇは双子座サガの足許にもおよばねぇよ!! 異次元空間《アナザー・ディメンション》の猿真似なんぞ、通用して堪るかってんだ! 今度はてめぇが消えな、積尸気冥界波!!」

 不逞の言動を繰り返す運命の双生児を嘲る様に、一旦は姿を消した伊達男が忽然と出現。冥界の入口へ緊急避難《エスケープ》、黄泉比良坂から悠然と帰還し嘲笑の返礼。小宇宙を爆発させ物質化現象を励起、大量の燐気が実体化し視界を閉ざす。

 邪悪な者の魂を封じ込め転生を許さぬ星剣、白靄剣の力《パワー》が再現される。白い靄が渦巻き雪崩の如き濃霧の濁流、竜巻《トルネード》と化し策士へ殺到。神の化身を悪の道に導く邪悪の化身が、白い靄に掻き消されたかに見えた。

 

「フッ、愚かな兄の物真似が黄金聖闘士に通用せぬは理の当然! 聖闘士に1度見た技は2度も通用せぬ、との黄金律《パターン》は百も承知よ!!

 巨蟹宮の守護者が操る技は先刻承知、俺には髪の毛一筋程も効かぬ! 時空を超え異次元を彷徨うが良いわ、ゴールデン・トライアングル!!」

 傲慢倨傲な双生児の弟は全く動じず、罵詈雑言の嵐を叩き返すと異様な力場を創造。 時の狭間に通じる魔の三角地帯、第3段階の小宇宙が躍動し黄金の三角地帯が現出する。

 非物質存在の星体《アストラル・ボディ》、時を超える精神生命体も逃れ得ぬ究極の罠。カリンクトゥムの扉を超えた夢幻界の涯、虚無《ヌル》の海へ直接転送する暗黒回廊。

 海竜の鱗衣が青緑色に輝き、超空間《ハイパー・スペース》への回廊を創造。総てが流れ落ちる多元宇宙の果て、カリンクトゥムの扉が開き巨蟹宮の守護者を吸引。

 大地を裂き十字架に捕縛し墓穴へ葬る伝説の星剣、十字剣の如く蟹座の黄金聖衣を捕捉。星剣が誕生せし絶対真空の聖地、星界の果て《スターズ・エンド》へ連れ去らんとする。

 

 絶対絶命の危機を悟り小宇宙が一時的に昇華、蟹座の黄金聖闘士に秘められた潜在能力が覚醒。小宇宙に同調する蟹座の衣も鮮烈な光を放ち、水晶《クリスタル》の聖衣へ変形を開始。

 緑玉《エメラルド》に劣らぬ硬度7の水晶《クリスタル》、煙水晶《スモーキー・クォーツ》。煙状の霧を内蔵し見透かせぬ水晶の聖衣と化し、小宇宙の進化《レベル・アップ》を促す。

 正義《ジャスティス》の切札《カード》が呈示され、幻像《イメージ》の物質化現象を励起。敵を操り人形と化す伝説の幽波紋《スタンド》、白い霧怪が実体化し運命の双生児を襲う。

 

 宇宙戦艦を捕食する魔性の霧怪、絶対真空の宇宙空間を平然と遊弋する大宇宙の魔物。宇宙の海に棲む金属腐食生命ガス、死神の仮面が操る煙霧の気流《ストリーム》が現出。

 伝説の汎用人型決戦兵器、鉄の城が誇る切札の一つと畏怖され物質を分解する気流が疾走。霧の嵐《ルスト・ハリケーン》が渦巻き、濃霧の壁が海皇の魂を解放した張本人を襲う。

 風魔一族の超能力戦士《サイキック・ソルジャー》、独眼竜の瞬間移動も封じる伝説の星剣。十字剣の如き暗黒回廊の拘束力を、黒の塔を護る煙の騎士を思わせる強大な攻撃力が断ち切る。

 悪の心しか持たぬ神の化身、双子の片割れが操る異次元空間を平然と無視し海竜の鱗衣を直撃。不死者《ラザルス》ならぬ死神の化身、不死身の抹殺者《ターミネーター》の嘲笑が響き渡る。

 

 7人の海将軍を操る海の軍師が纏う鱗衣、緑玉《エメラルド》聖衣も為す術が無く沈黙。煙水晶の聖衣に増幅された小宇宙の嵐、魔性の霧が双子座カノンを煙に巻き意識を暗転させる。

 海界の絶対君主《ファイナル・マスター》、海皇の代理を装い聖域の支配権を狙った反逆者。北大西洋の柱を護る海将軍、海竜の緑玉《エメラルド》聖闘士カノンの小宇宙が消えた。



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海鷲の鱗衣~魔氷の弾幕

「1対3でも良いとは見縊られたものだが、不公平な勝負は我等の矜持が許さぬ。伝説に謳われる氷戦士《ブルーウォリアー》、アレクサーと言ったな。

 お前の相手は同じ凍気の技を操る者同士、氷の聖闘士《セイント》が相応しかろう。水瓶座《アクエリアス》カミュが、1対1の試武を申し込む」

 究極の第7感覚《セブンセンシズ》、第3段階の小宇宙《コスモ》を持つ北の勇者。宝瓶宮の守護者《ガーディアン》、水と氷の魔術師が氷戦士へ挑戦状を叩き付けた。

 

「フッ、尋常の勝負と言う訳か? 水と氷の魔術師カミュの尊名は、氷の大地《ブルーグラード》にも届いている。

 俺は神話の時代より極寒の荒地に留まり、氷雪に鍛えられた北の民を束ねる者。氷棺《フリージング・コフィン》を創造する魔術師も、氷戦士の総帥には勝てぬ。

 氷の聖闘士としての矜持、自尊心《プライド》に懸け退く事は出来ぬであろうが。海皇の魂を封じた極寒の荒地、超次元の王国を預かる勇者の末裔を侮らぬ方が良いぞ。

 勇敢なる挑戦者《チャレンジャー》、水と氷の魔術師に敬意を表し秘技を披露する。冷凍睡眠《コールド・スリープ》の秘術、氷の塔《ブルー・シャトー》にて瞑目せよ。

 聖闘士を先祖に持つ者同士、何れの技量が上回るか証明してやるぞ。猛烈な北風の神と畏怖される凄絶な碧氷の衝撃波を受けよ、ブルー・インパルス!」

 

 氷戦士は戦乙女《ワルキューレ》が操る切札、猛風《サイクロン》の術を再現。北の民に伝わる秘術、氷床の大地を吹き渡る極北の暴風《ボレアス》が挑戦者を襲う。

 碧い氷の衝撃波が聖闘士を包み透明な円錐形の凍壁、氷雪女王の塔へ封印する寸前。微動もせず沈黙を維持していた水瓶座カミュ、北の導師が初めて動いた。

 

「噂に聞く氷戦士の芸術、極冷気を操る技術《テクニック》は充分に見せて貰った。謝礼として我が秘術を披露するぞ、オーロラ・エクスキューション!」

 黄金聖闘士数人の力でも破壊出来ぬ永久氷壁、氷棺《フリージング・コフィン》。氷の唇が動き水瓶座の小宇宙が煌き、凍れる時の秘法を応用した防御結界が起動。

 絶対魔法防御にも匹敵する氷の芸術が変化し、氷の反射鏡《ミラー》を形成。光を乱反射させる白魔道《ホワイト・マジック》、氷晶の結界が現出し魔術師を包囲。

 虹色に輝く氷塵、氷晶の輪《リング》が描く幻想的な万華鏡《カレイド・スコープ》。氷の制極界《アンティ・カウンター・フィールド》が、氷戦士の一撃に干渉。

 光波を屈折させる鏡の如く、氷鏡《ブルーレンズ》が氷の衝撃波を反射。鏡返しの術《ミラーリング・マジック》、攻撃波が軌道を逆送し術者へ疾走する。

 

 氷の聖闘士は更に第3段階の小宇宙を駆使、天空を乱舞する極光《オーロラ》を再現。極彩色の光波と化した凍気流、氷の衝撃波が共鳴し威力が倍増される。

 異なる小宇宙が完璧に同調され、相乗効果で凍気は絶対零度の数倍に到達。大言壮語を重ねる氷戦士を捕捉、有無を言わせず凍結させるかに見えたが。

 氷戦士の瞳が緑玉《エメラルド》と化し、大いなる意志《ビッグウィル》が湧出。小宇宙に同調する鱗衣も、海鷲《ゼー・アドラー》の神聖衣《ゴッドクロス》と化す。

 

「見事な返し技《カウンター・アタック》だが、俺には勝てぬ! 俺は氷戦士の総帥に留まらず、海皇の化身へ昇格を遂げし者よ!!

 海皇ポセイドンの象徴《シンボル》、三又の鉾《トライデント》を用いるまでもない! 極冷気と凍気の共鳴波を弾き返してくれる、ブルー・フォレスト!!」

 北の覇王が小宇宙の物質化現象を励起、絶対零度の力場《フィールド》を創造。 凄絶な氷嵐《ブリザード》が吹き荒れ、純白色に煌く輝ける闇がカミュの視界を塞ぐ。

 

 氷戦士の領域《テリトリー》が氷結、極冷凍気の術鏡《マジック・ミラー》と化す。更に南の鷹ならぬ氷の鳥《ブルー・バード》、天空神の幽波紋《スタンド》が現出。

 太陽と月の妖瞳を持つ隼《ファルコン》が、氷の誘導弾《ミサイル》を発射。標的を執拗に追跡し瞬間凍結させる氷の尖円錐、死の氷柱《ブライニクル》が飛翔。

 散弾銃《ショット・ガン》の如き尖鋭な氷柱の銛、冷気と凍気の散弾が投網と化す。無数のエネルギー奪取弾が炸裂、死の氷柱が林立し氷の大森林が形成される。

 

 絶対絶命の危機を受け秘められた潜在能力が覚醒、水瓶座カミュの小宇宙が一時的に進化。小宇宙に同調する黄金聖衣も鮮烈に輝き、煌く水晶《クリスタル》の形態へ昇華。

 緑玉《エメラルド》に劣らぬ硬度7の結晶体、透明な水晶《ロック・クリスタル》の聖衣。氷河の様に光を屈折させ、ヒマラヤ山脈に産出する氷水晶《ブルー・クォーツ》が出現。

 氷戦士に劣らぬ凍気流、氷牙《ブルー・ファング》が神気に増幅された氷の破砕流を邀撃。極冷気の大渦巻《メイル・ストローム》、噴射気流《ジェット・ストリーム》を弾き返す。

 

 海皇の化身を極冷気の寒冷前線、死の氷柱が渦巻く霧の嵐《ルスト・ハリケーン》が強襲。堪らず顔色が急変、顔面蒼白の蒼氷色《アイス・ブルー》と化し切札を投入。

 勝利の杖と並び称される神々の武器、三又の鉾《トライデント》を掲揚し迎撃。大いなる意志《ビッグ・ウィル》が唸り、極冷気の氷嵐が三又の鉾に吸収される。

 

 雄大な小宇宙の内部で更に極冷気の氷嵐を増幅、三又の鉾から放たれ再び逆走《リターン》。海皇の圧倒的な力《パワー》が上乗せされ、凍気流の凄絶な氷牙も消失《ホワイト・アウト》。

 絶対零度の白光榴散弾が炸裂、渦巻く氷塵《ブルー・ダスト》と氷華の波紋が空間を凍結。氷水晶《アイス・クリスタル》の聖衣も凍結されるか、と見えた其の時。

 水瓶座カミュの眼前に、人影が割り込んだ。

 

「恩師に危害を加える事は許さぬ、我が師カミュに倣い背水の陣にて潜在能力を解き放つ! 渦巻き潮柱と化す氷の虹を見よ、ホールドニィ・スメルチ!!」

 師の危機を目前にした弟子は座視せず、無謀を承知で水瓶座カミュの眼前に踊り込む。自ら死地に跳び込んだ異母兄弟を見殺しにせず、青銅の聖衣を纏う少年達が動いた。

 

 絶対絶命の危機に小宇宙が鳴動、星の秘石《スター・ドロップ》が煌き互いに共鳴。少年達は本能的直感的に散開、星型五角形の魔法陣を描き更に力を増幅する。

「燃えろ、心の小宇宙よ! 奇蹟を起こせ、大破邪呪文《ミナカトール》!!」

 五芒星《ペンタグラム》の魔法陣が煌き、星光の万華鏡《カレイド・スクープ》が現出。輝星石の光波動が乱反射され、凄絶な星風《スター・ストリーム》が吹き荒れる。

 

 五芒星の力《パワー》は凄絶な咆哮を響かせ、絶対零度の極冷気と凍気流を邀撃。謎の力は神々の大いなる意志を圧倒、氷塵の破砕流と霧の嵐を完璧に撃破。

 氷嵐《ブリザード》の渦巻《ヴォルテックス》、氷の大森林《ブルー・フォレスト》も突破。五色の共鳴波が海鷲《ゼー・アドラー》の鱗衣、緑玉《エメラルド》の聖衣を貫通。

 総てを溶かす太陽の光、北極星《ポラリス》の如く堅忍不抜の永久凍土。虹色の波紋、魔氷の障壁が激突。北の民を率いる勇者、アレクサーの運動神経が麻痺し小宇宙が消えた。

 

「大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》を破壊するぞ、女神アテナを救わねばならぬ!! 今度は我等も加わる、アテナ・エクスクラメーション!」

 双子座《ジェミニ》の聖衣を纏う神の化身、乙女座《ヴァルゴ》の聖衣を纏う神に近い男。水瓶座《アクエリアス》の聖衣を纏う水と氷の魔術師、3人の小宇宙が同調し爆発。

 黄金《ゴールド》聖闘士《セイント》3人の合体技、小宇宙の極大化呪文。女神禁忌技が発動され、星の少年達が形成する星型五角形へ膨大な力《パワー》を投射。

 星の秘石《スター・ドロップ》が輝き、大破邪呪文《ミナカトール》の効力を増幅。五芒星《ペンタグラム》の魔法陣が煌き、黄金聖闘士の小宇宙が無限大に膨張する。

 

 凄絶な力の渦動《ヴォルテクス》、破壊エネルギーの幻像《ヴィジョン》。小宇宙の物質化現象が励起され、凄絶な破砕流の嵐が実体化し大黒柱を直撃。

 神々の大いなる意志を一蹴した謎の力は命中する直前、減衰し破壊力が大幅に低下。五芒星の中心から投射された黄金聖闘士の三重奏、女神禁忌技を大黒柱は完璧に弾いた。

 

「お前達の精神周波数に同調《シンクロ》する波動、妨害波《ジャミング》が感知される。我等のみでは解除《リセット》出来ぬ故、全員集合の後に再試行《リトライ》するぞ」

 七芒星《ヘプタグラム》の海底神殿を支える柱、七角形の頂点から7人の聖闘士が帰還。第3段階の聖闘士10人が五芒星2個を形成、第7感覚を研ぎ澄まし黄金の小宇宙を燃やす。

 

「大破邪呪文《ミナカトール》、二乗《スクエアー》!」

 破邪の秘法に増幅された黄金聖闘士達の念波が、青銅聖闘士の小宇宙へ注入され共鳴。無限の可能性を秘めた謎の力を完全に解放させ、大黒柱から女神を解放せんとする。

 集束された黄金の光が謎の妨害波を撥ね退け、星の秘石と同調《シンクロ》する直前。第3段階の聖闘士達が発した集団念波、黄金の光を遮る闇の暗幕が現れ星の秘石を隠匿。

 第1段階の小宇宙に名状し難い悪寒、強大な妖波動が轟き女神の聖闘士達を震撼させた。

 

「この波動は神々の大いなる意志《ビッグ・ウィル》だが、海皇ポセイドンに非ず! 冥王ハーデス、天帝ゼウス、大いなる時の神クロノスとも異なる!!

 ひとつは光溢れる地上の支配権を巡る闘争、神々の熱き戦いに記されし戦神アレスか? 邪悪なる神々よ、正体を明かせ!」

 第3段階の小宇宙《コスモ》を遙かに凌駕し、異次元の色彩を放つ妖波動の三重奏。第7感覚《セブンセンシズ》の走査《スキャン》が、軽々と撥ね返される。

 

「ひ弱な聖闘士共、虫けら如き人間風情が神々の野望を妨げる事は許さぬ。 邪魔する者は眠り、死を司る我等が一掃してくれるぞ!」

 氷戦士《ブルー・ウォリアー》とは比較を絶する冷気、魔の潮流《ストリーム》。負《マイナス》の力場《フィールド》、異次元の領域《テリトリー》を創造。

 鋭い詰問を迸らせる最も神に近い男、神の化身を嘲笑する運命の双子神。最強を誇る黄金聖闘士達の眼前で、不気味な波紋が蠢き異次元空間が浸蝕された。



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七色の光~虹水晶の奇蹟

 海底神殿の支柱を護る最強の海闘士《マリーナ》、7人の海将軍《ジェネラル》。

 対等の勝負を闘い気絶した後に応急処置を受け、大黒柱の前に放置されていた勇者達。

 小宇宙が一時的に消えた7人の内、3人が不意に起き上がった。

 

 精神攻撃の術を操る海将軍は、瞳を金と銀と真紅の3色に輝かせ異様な小宇宙を湧出。

 嘗て狂闘士《バーサーカー》を率い地上に君臨した覇者、赤毛紅眼の戦神アレス。

 額に黒の五芒星を戴き銀色に輝く凶眼と髪を持ち、死を司る弟神タナトス。

 額に白の五芒星を戴き金色に輝く魔眼と髪を持ち、眠りを司る兄神ヒュプノス。

 

 神の化身と瓜二つの美貌を誇る運命の双生児、神を畏れぬ男が盛大に哄笑。

 燃え立つ炎と象徴する魔術師の赤、相手の弱点に擬態する幻術の遣い手が唱和する。

 

 魔性の音色と旋律を奏でる催眠術師、夢見る力を操る夢魔の化身も優雅に微笑。

 海幻獣、海竜、海魔女の鱗衣《スケイル》が神聖衣《ゴッド・クロス》へ変形。

 強大な異次元の波紋に怯まず、第1段階の青銅《ブロンズ》聖闘士を庇う先輩。

 究極とされる黄金聖衣を纏う第3段階の勇者達へ、挑戦状が叩き付けられた。

 

「城塞宮アトランティス本来の主、海皇ポセイドンは私の演奏を聴き眠り続ける。

 大いなる時の神クロノス、精霊女神レアの間に誕生したハーデス神の肉体もな。

 仮死状態に在る冥王は意識は半覚醒状態、夢遊病の如く夢と現実の区別が付かぬ。

 表向き従属神を装う我等、夢魔と幻魔の双子神こそが真の権力者であるのだ。

 地上侵攻を企み一時は覇を唱え、冥界へ亡命した狂気の戦神アレスも我等が操る。

 外宇宙より飛来せし我等ヒュプノス、タナトスの兄弟神こそが真の主神よ!」

 

 3人の海将軍は邪悪な神々の意志に操られ、悠然と歩み寄り禁断の合体技を模倣。

 精神支配《マインド・コントロール》下の戦神、双子神は女神の禁忌を平然と無視。

 異次元の色彩が渦巻き空間を乱舞、海底神殿を華麗に彩り複雑な模様を投射する。

 

「我等の前では児戯に類するが、お前達の技で決着を付けてやろう。

 アテナ・エクスクラメーション!」

 火の元素《エレメント》を支配する戦神の呼吸に、金と銀の兄弟神が同調。

 強大な波紋の共鳴、相乗効果《オーバー・ドライブ》が励起し空間を疾走。

 地水火風の一角を占める最高神、炎の戦神が練り死と眠りの神が同調させた波紋。

 闇の元素と心の元素が上乗せされた共鳴波、妖波動の破砕流が聖闘士達を襲う。

 

 圧倒的な波紋の奔流、濁流に黄金と青銅の聖衣が掻き消されるかと見えた其の時。

 絶対絶命の危機に際し、新たな潜在能力が起動。

 小宇宙が一時的に進化を遂げ、同調する第3段階の聖衣にも波及。

 黄金の形態から転換され、勝利と希望を象徴する澄明な魔法石《マジック・ストーン》と化す。

 

 金色の針《ゴールド・ルチル》を鏤めた透明な石英、針水晶《ルチル・クォーツ》。

 赤い護符ならぬ苺水晶《ストロベリー・クォーツ》、紅水晶《ローズ・クォーツ》。

 太陽に翳すと光が透け、灰色掛かった桃色となる煙水晶《スモーキー・クォーツ》。

 ヒマラヤ山脈の透明な水晶《ロック・クリスタル》、氷水晶《ブルー・クォーツ》。

 紫水晶《アメジスト》、黄水晶《シトリン》、緑水晶《プラシオライト》。

 小宇宙に同調《シンクロ》する聖衣7体が、形態転換《トランスフォーム》を完了。

 中心に十字の聖痕《スティグマ》が煌き、星水晶《スター・クリスタル》と化す。

 

 最強の念動者、神に近い男、神の化身が纏うは白金水晶《プラチナ・クォーツ》。

 白金聖衣に大樹の年輪を思わせる模様、黄金律を映す究極の紋様《パターン》が煌く。

 3人の纏う幻影水晶《ファントム・クォーツ》の聖衣が煌き、三位一体の魔法陣を形成。

 黄金三角《ゴールデン・トライアングル》が創造され、七色の水晶と同調《シンクロ》。

 7種類の虹水晶《レインボー・クリスタル》が揃い、虹色の光が溢れ出す。

 

 黄金の小宇宙と水晶の聖衣が奏でる光の旋律、多重共鳴波が7種類の聖衣に作用。

 総ての聖衣が虹水晶へ変貌を遂げ、勝利の虹《ウィニング・ザ・レインボー》を描く。

 虹色の光が煌き、少年達の精神周波数に同調《シンクロ》。

 強大な妖波動の破砕流、魔神の波紋を照射干渉し破壊の衝動を偏向。

 水晶《クリスタル》の聖衣が共鳴、高音程の多重協奏曲が海底神殿に響き渡る。

 鏡《レンズ》の様に光を反射し、七色に輝く太陽の力《パワー》を纏う虹の水晶が輝いた。

 

 見る角度に拠り表象が異なる天空の電磁波、極光《オーロラ》の水晶が七色の光を乱反射。

 海底神殿に張り巡らされた結界、魔神の妨害波《ジャミング》が相殺され無効化。

 星の秘石《スター・ドロップ》が煌き、少年達の小宇宙に虹色の輝きが溢れる。

 

 銀河星海に煌く星々の轟き、無限の可能性を秘めた謎の力が顕れ魔神の妖波動を転換。

 活性化された星の秘石が光の五芒星を描き、星々のエネルギーが湧出。

 水晶聖衣の黄金三角が星々の轟きに共鳴、無尽蔵のエネルギーを得て虹の架橋を描く。

 

 氷戦士アレクサーの記憶、氷の塔に収容され深い眠りに囚われた青年の姿を透視。

 黄金三角の魔法陣が超空間の通路《チューブ》を開き、海皇へ精神接触《コンタクト》。

 眠りを司る夢魔ヒュプノスの防御結界、催眠暗示帯域《ヒュプノ・ブロック》を発見。

 

 星の秘石に転換された夢魔と幻魔の妖波動、双子神の念波《サイキック・ウェーブ》。

 次元回廊を経由し神々の大いなる意志《ビッグ・ウィル》が投射され、魔法結界を相殺。

 神々の次兄ポセイドンが数百年に渡る深い眠り、夢魔の罠から醒め真の意志と知性が甦る。

 

 数百年前に聖闘士8人の施した秘術、冷凍睡眠《コールド・スリープ》を解除《リセット》。

 海皇の小宇宙が真に覚醒を遂げ、冷凍保存されていた本来の肉体も目覚める。

 鮮やかな緑玉《エメラルド》の瞳、海商王ジュリアン・ソロと瓜二つの眸が開眼。

 城塞宮の主が数百年に及ぶ深い眠り、半覚醒状態から解放された。

 

 大洋《ポントス》の至高者《ファイナル・マスター》、海皇ポセイドンは激怒。

 大いなる意志《ビッグ・ウィル》が時空を超越、氷戦士の鱗衣へ流入し形態変換を励起。

 澄明な水色《ブルー》に赤紫、黄金が煌く鮮烈な虹色の海水精霊石《アクア・オーラ》。

 古代アトランティス大陸で製造され大宇宙、超自然の意思に連繋し高次元世界へ繋ぐ要の石。

 魂を浄化し時間軸を超え過去と未来を繋ぐ宝珠が、精霊魔術《エレメンタル・アーツ》を起動。

 

 海皇の象徴《シンボル》、三又の鉾《トライデント》が誰の手も借りず空中浮揚。

 大いなる意志《ビッグ・ウィル》、駆動エネルギーを注入され海底神殿を疾駆。

 魔神に憑依された海皇ポセイドンの使徒、最強の海闘士とされる海将軍の3人。

 海竜カノン、海幻獣カーサ、海魔女ソレントを海皇の神器が貫いた。

 

 真に目覚めた海皇の神気と星の秘石が共鳴、膨大な力《パワー》が解放される。

 神々の気と人の意志が1つとなり、光の武器に注がれ無限の可能性を開く。

 幻海の奥義、光浄裁《ジャッジメント》が心の奥底を照射し小宇宙が共鳴。

 三又の鉾が燦然と輝き、憑依服従《コントロール》を解呪《リセット》する。

 

 城塞宮アトランティスの海底神殿、海の聖域は太古の昔より海皇の神気が充溢。

 金の夢魔ヒュプノス、銀の幻魔タナトス、赤の戦神アレスは形勢不利と見て消失。

 鱗衣と肉体を貫く三又の鉾は傷跡1つ残さず憑依服従、精神支配の犠牲者を解放。

 旧支配者の魔力から解放され意識を回復、全員が海皇の意思を悟り和解に至った。

 

 改めて海皇に忠誠を誓った7人の海将軍、氷戦士の鱗衣が海皇の加護を受け変形。

 燦然と輝く星の緑玉《スター・エメラルド》聖衣と化し、小宇宙を昇華。

 七人の海将軍と氷戦士を加え、23名の勇者達は一致協力。

 大黒柱《メイン・ブレドヴィナ》も凄絶な共鳴波、合体攻撃は耐え切れず粉砕されたが。

 

 降り注ぐ海水の中に佇んでいた筈の女神は姿が見えず、雄大な小宇宙を感知する事も不可能。

 最も神に近い男は超次元間の遠隔精神感応、千里眼を動員し姿を消した神々の痕跡を精査。

 失踪した女神の足取り、時空を超越する航跡《シュプール》が発見された。

 

 次元間遷移《ディメンション・ワープ》が敢行され、女神は冥王の領域へ飛んだ。

 冥界へ突入する為には、第8感覚《エイト・センシズ》の覚醒が必須条件となる。

 高次元の領域に属する未知の階梯《ランク》だが、挑戦しなければ女神は救えぬ。

 

 不退転の覚悟を決めた聖闘士と海闘士、氷戦士の小宇宙に海皇の思念が助力。

 起爆剤となる補助エネルギー、神々の大いなる意志《ビッグ・ウィル》を注入。

 臨界点に達した小宇宙へ共鳴、大爆発《ビッグ・バン》を励起し進化の階梯を昇る。

 

 第8感覚の覚醒に成功し小宇宙の昇華、新たなる形態の聖衣を実現した勇者達。

 黄金聖闘士、海将軍、氷戦士は3人ずつ固まり六芒星《ヘキサグラム》を描いた。

 

「アテナ・エクスクラメーション!」

 第8感覚《エイト・センシズ》の三重奏《トリプル・アクセル》、禁断の合体技。

 六角形の中心に位置する星の少年達、5人へ女神禁忌技を投射し精霊魔術が発動。

 海皇の念が作用し、超空間《ハイパー・スペース》へ至る門《ゲート》を創造する。

 

 神々の大いなる意志が働き、超空間チューブを女神の赴いた時空へ接続《リンク》。

 次元界を超越する回廊《チューブ》が開き、勇者達の眼前で光の輪が瞬き安定化。

 六芒星《ヒランヤ》が燦然と輝き、23人の姿が消えた。



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冥界の挑戦状
三人の反逆者~冥界の使者


 女神アテナと聖闘士15人が海界へ赴いた直後、聖域《サンクチュアリ》では。

 第1段階の聖闘士達が小宇宙《コスモ》を懸命に燃やし、無謀な突撃を繰り返していた。

 

 青銅《ブロンズ》と暗黒《ブラック》、改め鋼鉄《スティール》の聖衣《クロス》が輝く。

 だが小宇宙を爆発させ繰り出す一撃は、対手の防御《ディフェンス》に例外無く弾かれる。

 白銀《シルバー》聖衣を纏う先輩、第2段階の聖闘士達は容赦無く反撃に移行。

 天地の差を埋める術は無く、若き勇者達は打ち倒されるが。

 小宇宙を燃やし、痺れた身体に活を入れ再び突撃。

 進化を試みる聖闘士10名も約360秒後には精魂尽き果て、大地に突っ伏した。

 

 鷲座《イーグル》魔鈴と蛇遣座《オビュクス》、シャイナが挑戦者達の小宇宙を精密に測定。

 思考透聴《サトリ》の術を心得る猟犬座《ハウンド》の聖闘士、アステリオンも協力。

 訓練相手の男性《グレー》聖闘士達も、直接体感した小宇宙の感触《タッチ》を伝達。

 先輩の女性《レッド》聖闘士に従う変色龍座《カメレオン》、ジュネが傷薬を貼る。

 

「坊や達にしちゃ思ったより根性を見せてくれた、と褒めてやっても良い様だね。

 特訓から逃げなかった褒美に、ひとつ教えてやるよ。

 坊や達の小宇宙は確実に成長してる、階梯を昇る可能性は思ったより大きい。

 小宇宙を底の底から爆発させた時、潜在能力が解放されて実感する筈さ。

 其の時に聖衣が何色に輝くかは、坊や達の小宇宙次第だけどさ。

 万一の際には頼りにさせて貰うからね、精々頑張りな」

 白銀聖闘士達の意見を纏め謎の日本人女性、魔鈴が代表して総合的な評価を宣った。

 

 海界《シー・ワールド》の聖域、城塞宮アトランティス海底神殿を巡る激闘開始の直後。

 五老峰の頂に座し封印監視者《ゲート・キーパー》を務める勇者、老師の顔色が急変。

 天秤座《ジェミニ》童虎は全聖闘士の判断基準、不動の星とも噂され現世への介入を控えるが。

 隠者の紫《ハーミッド・パープル》に劣らぬ千里眼、遠隔視能力の映像は凶変を明示。

 邪悪を閉じ込めた閉鎖時空間、渾沌の領域《テリトリー》へ通じる第1の門《ゲート》。

 時の封土に聳え立つ巨塔が鳴動、女神の封印は効力を喪い地に墜ち108の魔星が解放された。

 

 封印監視者の任が解かれたと悟り、五老峰の老師は遙かなる高嶺から聖域へ急行。

 十二宮を護る聖闘士達と合流、魔星に使唆される諸勢力の奇襲が想定されると言明。

 星崖《スター・ヒル》に近い聖闘士墓地から、突如として強大な闘気が湧出。

 厳戒態勢の聖闘士達は異様な小宇宙の出現を感知、表情を強張らせ全員集合。

 城戸沙織を護る黄金聖闘士10人、青銅聖闘士5人の留守を預かる女神の聖闘士は総勢25名。

 足音も無く現れた冥界の預言者、冥王の使者と対峙し第7感覚と小宇宙が火花を散らす。

 

「小宇宙の感触から察していたが、信じられぬ。

 243年前の戦いを生き残った唯一の戦友、聖域を導く教皇の任を託されし我が盟友よ。

 13年前に邪悪の憑依を受けた神の化身、双子座《ジェミニ》サガに討たれた筈。

 嘗ての精気に溢れし若者然としておるが、如何なる方法で甦り新たな肉体を得た?

 我が友の攻撃的な小宇宙、身に纏いし黒い聖衣が発する異様な闘気は不審に耐えぬ。

 女神を救う為に闘った243年来の友が、何故に敵対を試みる!?」

 

 五老峰の老師が皆を代表して声を張り、背後の聖闘士達も思考を投射し反応を探るが。

 第1段階と第2段階の小宇宙は、鉄壁の精神遮蔽《サイコ・シールド》に手も足も出ぬ。

 冥王に憑依された神の化身に襲われ、星崖《スター・ヒル》の頂上にて斃された教皇。

 不和の女神を駆逐し聖域が浄化され、瞑る続ける死者は聖闘士墓地に埋葬されたが。

 闇黒の聖衣を纏う鋼鉄聖闘士に非ず、黒玉の衣を纏う冥界の使者は3名。

 黒衣を纏う侵入者《インベーダー》の小宇宙は第3段階が2、第2段階が1。

 

 聖域を逃れた勇者とアンドロメダ島に瞑る人格者、2人の肉体は朽ち果てた筈だが。

 黄金聖闘士と白銀聖闘士の最高峰、聖闘士墓地に埋葬されておらぬ筈の死者達。

 第3段階は射手座《サジタリアス》アイオロス、第2段階はケフェウス座ダイダロス。

 亡霊《ゴースト》聖闘士を代表し先代教皇、牡羊座《アリエス》シオンが告げた。

 

「我等が装備する黒衣は冥闘士《スペクター》の証、冥衣《サーブリス》に他ならぬ。

 既に御察しの通り現在の我等は聖闘士に非ず、冥王に仕える冥闘士であるのだよ。

 目的は言うまでも無く冥王ハーデス様の地上制覇、敵対する聖闘士を一掃する事だ。

 全ては渾沌界の侵攻より光溢れる地上を護る為、旧知の友を倒すも已むを得ぬ次第。

 聖域は現在只今より冥闘士の拠点、地上に於ける最後の砦へ変貌を遂げる。

 ハーデス様の御言葉は全てに優先する、巨大女神像の破壊を邪魔すれば容赦せぬぞ」

 

「我等は女神に帰依し奉る者、冥王に屈し走狗と成り下がったお前達に敗れる訳には行かぬ。

 誠に遺憾ではあるが再び眠りに就いて貰わねばならぬ、女神の敵対者と見做し倒すまで!」

 女神の聖闘士26名を代表し天秤座《ライブラ》の黄金聖闘士、童虎が盟友の宣告に応えた。

 前聖戦を闘った戦闘証明済み《コンバット・ブローブン》の猛虎、老師が擬態を脱ぎ棄て咆哮。

 第7感覚の領域で敵意が交錯し生者と死者の小宇宙が接触、激烈な反応が生じ両者が乖離する。

 悪夢の戦場と化した聖闘士墓地を舞台に生者と死者、聖闘士29名の凄惨な激闘が幕を開けた。

 

「フッ。

 残念だな、我が戦友《とも》よ。

 前聖戦より243年の時を経て尚、女神の聖闘士として戦う心意気には敬意を表するが。

 無限の再生能力を得た我等、不死身の回復力を誇る亡霊聖闘士には勝てぬ。

 我等は冥王ハーデス様に忠誠を誓う冥闘士、嘗ての狂闘士《バーサーカー》にも等しい。

 光溢れる地上を真の邪悪より護らんが為、巨大女神像の破壊を妨げてはならぬ」

 

 牡羊座《アリエス》の冥衣《サーブリス》を纏う冥界の使者、牡羊座ムウの恩師。

 亡霊《ゴースト》聖闘士の筆頭《トップ》、反逆者の凶刃に斃れた13年前の前教皇。

 星崖《スター・ヒル》の頂に屍を晒し塵と化した前聖戦の勇者、シオンの非情な宣告。

 五老峰の老師ならぬ見者の皮を脱いだ猛虎、ライブラ童虎の小宇宙が爆発した。

 

「説得に応じぬとあれば已むを得ぬ、宣戦布告と判断し女神の敵と看做す!

 せめてもの情けを掛け我が手にて討ち取る、廬山百龍覇!!」

 猛虎の瞳が魔を焼き尽くす聖炎《エル・ファイヤー》を宿し、亡霊聖闘士の筆頭を直視。

 黄玉《トパーズ》色に輝く虎眼《タイガー・アイ》が、盟友シオンの双眸を貫いた。

 

 天秤座の黄金聖衣が強烈な閃光を発し、第3段階の小宇宙に作用し物質化現象を励起。

 主の意思に応じ不退転の決意を変換、最硬の竜闘気が実体化され凄絶な破壊力を発揮。

 猛虎の背中から黄金の闘気《オーラ》が立ち昇り、飛竜《ドラゴン》の大群が実体化。

 243年来の盟友が纏う冥王ハーデスに忠誠を誓った証、漆黒に輝く不気味な冥衣へ殺到。

 

 竜族の闘気、魔族の魔力、人の心を備え最強の戦闘用改造生命体とも噂される勇者の切札。

 竜の騎士が操る最硬の闘気流、と畏怖される竜闘気《ドラゴニック・オーラ》の最終兵器。

 竜の騎士が取り得る最終進化形、伝説の最強戦闘形態《マックス・バトル・フォーム》。

 理性の束縛を脱した竜魔人《ドラゴン・デビルマン》の秘技、竜闘気砲《ドル・オーラ》。

 鉄壁の防御壁に破孔を穿ち貫徹する装甲炸裂弾、圧縮された竜闘気の徹甲弾100発分。

 昇龍覇の威力を遙かに凌ぐ師匠の必殺技、竜闘気砲の百乗《グーゴル》が嘗ての盟友を撃つ。

 

「残念だが、私を討ち取る事は出来ぬ。

 冥王ハーデス様の偉大なる力《パワー》、無限の威力を体感せよ!」

 牡羊座の冥衣が漆黒の光芒を発し、不可思議な位相の領域《テリトリー》を創造。

 闇の領域が制極界の変形、事象の地平面《シュヴァルツシルト・ゾーン》を展開する。

 

 殺到する飛竜の大群を牡羊座シオンの冥衣、輝ける闇が接触し超重力の潮汐作用にて拘束。

 冥闘士が操る交差法《カウンター・アタック》の秘術に転極され、術者へ一直線に逆走。

「応じ返しの奥義、術鏡《マジック・ミラー》が廬山百龍覇を反射《リバース》するとは!

 以前のお主に其処までの技量は無かった筈、冥王以外の存在から助力を得ているのか!?」

 

 嘗ての親友から鋭い指摘を浴びせられた前教皇は一瞬、顔面を硬直させたが。

 冷酷《クール》な微笑が白皙を覆い、表情を糊塗し内心を包み隠した。

「我が友と雖も邪魔立ては許さぬ、戯れに付き合っている暇は無い。

 一刻も早く巨大女神像を破壊せねばならぬ、スターダスト・レボリューション!」

 

 第3段階の小宇宙が煌き輝ける闇、牡羊座の冥衣が黒曜石《オブディシアン》の聖衣と化した。

 一時的に視力を奪う光子弾に数倍する大口径の照明弾、星弾《スター・シェル》が炸裂。

 数多の彩光弾が複雑精緻な軌道を描き、優美流麗な星弾幕の乱舞が童虎の周囲を埋め尽くす。

 轟く星々の猛風《サイクロン》、銀河の大渦巻《メイン・ストローム》が無数の星塵に変貌。

 満天の夜空を彩る渦状大星雲、天河《ミルキー・ウェイ》を圧する星爆《スター・バースト》。

 銀河星塵の光芒に天秤座の聖衣、第3段階の小宇宙が掻き消される。

 女神不在の聖域を預かる最強の聖闘士、ライブラ童虎の意識が消えた。



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亡霊聖闘士~天地の差

「第3段階の聖闘士≪セイント≫、射手座≪サジタリアス≫の勇者アイオロス!

 13年前に聖域≪サンクチュアリ≫を逃れ、幼い女神を救う為に生命を懸けて闘った貴方が!!

 何故に冥王ハーデスの尖兵と化し同胞たる我等、女神の聖闘士に牙を剥く?

 冥闘士≪スペクター≫に与し、巨大女神像の破壊を目論む理由は何だ!?」

 

 双子座≪ジェミニ≫の聖闘士と並ぶ運命の双生児、獅子座≪レオ≫アイオリアの兄。

 神の化身と共に聖域の双璧と慕われ、一時は新教皇へ任命された正義漢は口を開かぬ。

 返答の代わりに第3段階の小宇宙が鳴動、同調≪シンクロ≫する漆黒の冥衣から咆哮が轟く。

 

 黒玉≪ブラック・ジュエル≫の冥衣を纏い、黄金の小宇宙≪コスモ≫を発揮する冥界の使者。

 黒曜石≪オブディシアン≫の聖衣、ならぬ射手座の冥衣≪サーブリス≫を纏う勇士。

 城戸沙織と共に託した黄金≪ゴールド≫聖衣へ勇者の伝言、女神を護る残留思念を遺した男。

 主席指揮官≪ファイナル・マスター≫と同格の勇者、第3段階の亡霊≪ゴースト≫聖闘士。

 冥王の尖兵を務める次席指揮官≪セカンド・マスター≫、射手座アイオロスが動いた。

 

 沈黙の戦士は階梯≪ランク≫の異なる下級聖闘士を相手に、懸絶する実力の差を証明。

 弟のお株を奪う獅子奮迅の働き、竜虎乱舞の光速拳を繰り出し第2段階の後輩を一蹴。

 白銀≪シルバー≫聖闘士達を翻弄、懸命に反撃を試み必殺技を繰り出すが掠りもしない。

 

 圧倒的な力≪パワー≫と凄絶な技量≪テクニック≫、隔絶する小宇宙と格の違いをを誇示。

 猟犬座≪ハウンド≫の白銀聖闘士、アステリオンが操る思考透聴≪サトリ≫の術も無効。

 瞬く間に男性≪グレー≫聖闘士12名、女性≪レッド≫聖闘士2名が打ち倒され意識が消えた。

 

「ダイダロス先生!

 何故、先生が女神の敵に廻るのですか!?」

「聖域の召喚を拒否して教皇の刺客、黄金聖闘士と闘ってまで女神への忠誠を貫いた先生が!

 有り得ない、本当に訳が解らないよ!!」

 赤道直下のインド洋上に位置する絶海の孤島、魔獣大陸の残滓と畏怖されるアンドロメダ島。

 白銀聖闘士の中でも最強の実力者と噂される人格者、ダイダロスに師事する2人が叫んだ。

 

 サクリファイスの試練を経て、アンドロメダ座の聖衣が資格有りと認め小宇宙へ同調した瞬。

 仮面≪マスク≫を被る女性聖闘士、変色龍≪カメレオン≫座ジュネの悲鳴の影を潜めた絶叫。

 尊敬する導師≪メンター≫へ翻意を促し、懸命に呼び掛ける弟子達を完璧に無視。

 男女の青銅≪ブロンズ≫聖闘士を一瞥、無感動な視線を投げ身を翻す。

 

 第1段階の小宇宙しか発揮し得ぬ若輩に、豊富な実戦経験≪キャリア≫の差を見せ付ける。

 洗練された戦闘術を駆使する亡霊聖闘士は、天地の差とも噂される力と技の差を実証。

 冷静沈着に相手の動きを見切る紙一重の技、神技的な防御≪ディフェンス≫が必殺技を無効化。

 一転して拳と脚を閃かせ、相手の力を逆用する交差攻撃≪カウンター・アタック≫が炸裂。

 

 華麗な技術≪テクニック≫が遺憾無く発揮され、練達の技が女神の聖闘士達を次々に打ち倒す。

 同色の暗黒≪ブラック≫改め、鋼鉄≪スティール≫聖闘士達も分け隔て無く鉄拳と烈脚が襲来。

 一縷の望みを託した星の秘石≪スター・ドロップ≫、小宇宙の非常回路も沈黙を護り発動せず。

 瞬く間に男性≪グレー≫聖闘士10名、女性≪レッド≫聖闘士1名が打ち倒され意識が消えた。

 

「現在のお前達の実力では到底、新たなる戦いに参戦する資格は無い。

 我等は一刻も早く巨大女神像を破壊せねばならぬ、さらばだ」

 黒光りする冥衣を纏う亡霊聖闘士、3人の反逆者≪トレイター≫達は捨て台詞を残し姿を消した。

 

 意識不明の聖闘士達に止めを刺す手間を省き、聖域の最奥に位置する女神神殿へ直行。

 聳え立つ女神像の前にケフェウス座ダイダロス、牡羊座シオン、射手座アイオロスが鼎立。

 亡霊聖闘士3人が小宇宙を高め、同調増幅し相乗共鳴効果を励起し禁断の合体技を投射する。

 

「過去の亡霊よ、新たなる時代の前に消え失せるが良い!

 巨大女神像を葬るに是れ以上の技は有るまい、アテナ・エクスクラメーションを受けよ!!」

 強大な小宇宙の三乗≪テリオス≫、破壊震動の共鳴波が疾走し標的≪ターゲット≫を直撃。

 神々の姿に似せた超古代の複製≪レプリカ≫、奇蹟≪ミラクル≫の可能性を秘めた切り札。

 中継者≪リレイヤー≫と同様、大いなる意志≪ビッグ・ウィル≫を中継する送受信増幅装置。

 闘いの女神アテナを模した立体像≪フィギィア≫が大音響を発し、木っ端微塵に粉砕される。

 

「何っ?」

 粉塵爆発を思わせる閃光と轟音が空間を引き裂き、無数の破片と粉微塵の砕片が周囲に散乱。

 宙を舞う微細な欠片が悉く尖鋭な針と化し、3人の侵入者≪インベーダー≫を襲い冥衣を貫通する。

 

 第3段階と第2段階の小宇宙を飛翔、精神測定≪サイコメトリ≫を実施し記憶領域を精査。

 思考の基となる思念の元素≪エレメント≫が解析され、冥王の尖兵を務める真の理由を看破。

 尖針の大群は3人の小宇宙から遷移、意識の無い聖闘士達の潜在意識へ転移し鮮烈に輝いた。

 

 ユニコーン邪武、ウルフ那智、ベアー檄、ヒドラ市、ライオネット蛮の裡で星の秘石が共鳴。

 潜在能力が一時的に覚醒を遂げ小宇宙の進化を励起、星の秘石に導かれ未知の階梯へ昇華。

 小宇宙の進化に呼応し同調する一角獣、狼、大熊、海蛇、小獅子の聖衣も異なる形態に変貌。

 白光を放つ黄金の聖衣、白金≪プラチナ≫聖衣5体が現出し星型五角形が輝く。

 氷棺≪フリージング・コフィン≫と並ぶ凍れる時の秘法、星の白金≪スター・プラチナ≫。

 五芒星≪ペンタグラム≫の白金聖衣が共鳴、秘石に隠匿された能力の一端を解放し時を停めた。

 

 時間凝固装置の作動した領域≪テリトリー≫、時の封土が冥界の妖精≪フェアリー≫を捕捉。

 凍れる時の秘法が蝶≪バタフライ≫の意識を停め、亡霊聖闘士の行動を見張る監視の目を塞ぐ。

 無限の力≪パワー≫が解発され黄金と白銀の聖闘士15名、青銅と鋼鉄の聖闘士11名へ波及する。

 

 強烈な光の波動が第7感覚を刺激、強引に小宇宙を揺り動かし鮮明な記憶と共に意識が覚醒。

 総勢26名の聖闘士が一斉に動きライブラ童虎を中心に展開、星型五角形の魔法陣を描く。

 城戸光政の血を引く少年5人が星型の頂点に立ち、他の4名と小五芒星陣を形成。

「大破邪呪文≪ミナカトール≫!」

 

 小五芒星陣を頂点とする星型、大五芒星≪グレート・ペンタグラム≫が小宇宙を増幅。

 破邪の秘法が星の秘石と共鳴、聖闘士26名の小宇宙が天秤座≪ライブラ≫の聖衣へ集束。

 第7感覚の活力≪エナジー≫が補充≪チャージ≫され、無数の尖針から膨大な光が溢れる。

 

 燦然と煌く銀河星海の潮流が渦巻き、天雷と電光の織り成す雷電の烈風が轟音を発し飛翔。

 星々の力≪パワー≫を充填され尖針の大群が遷移、亡霊聖闘士の小宇宙に出現し光り輝く。

 先刻の巨大女神像と同様に冥衣が粉砕され、聖域に安置されていた聖衣2体が鳴動。

 射手座≪サジタリアス≫とケフェウス座が飛来、主の小宇宙に同調し身体を覆う。

 尖針の大群は前教皇の小宇宙に集束、牡羊座≪アリエス≫の複製≪レプリカ≫を創造。

 聖痕≪ステイグマ≫の十字形が象限された白金の聖衣、星白金の聖衣が装着される。

 

 女神の聖衣は聖域を護り続けた指導者を見棄てず、時を停める秘法を用い体を保護。

 230年に渡り女神に仕えた前教皇は冥王の束縛を逃れ、五老峰の老師と共に戦列へ復帰。

 女神の加護を得た射手座、ケフェウス座の聖衣も星白金の形態へ変貌し体を保護。

 牡羊座の複製と化した女神の聖衣と同調、時を停める秘法と主を護る結界を維持。

 女神の聖衣は主の小宇宙、大いなる意志≪ビッグ・ウィル≫の痕跡を辿り行方を探索。

 超空間≪ハイパ・スペース≫から無数の時空、次元間の航跡を走査≪スキャン≫する。

 

 海皇ポセイドンの領域≪テリトリー≫、城塞宮アトランティスの海底神殿には居らぬ。

 既に大黒柱≪メイン・ブレドヴィナ≫、海界≪シー・ワールド≫を離脱≪セパレート≫。

 冥界≪アナザー・ワールド≫へ至るには、第8感覚≪エイト・センシズ≫の覚醒が必須。

 

 ケフェウス座ダイダロスは聖域に残り、真の邪悪に従う勢力の蠢動を監視せねばならぬが。

 天秤座の聖衣も牡羊座に擬態する聖衣と同調、女神の加護を受け盟友と肩を並べ参戦。

 射手座の聖衣と同様に十字形の聖痕が象嵌され、星白金の形態へ変貌し共鳴を奏でる。

 星の白金と化した聖衣の三重奏、二乗≪スクエアー≫を凌ぐ三乗≪テリオス≫の共鳴。

 生死を超えた黄金聖闘士3人の第8感覚が顕在化、超次元の転移術を起動させ姿が消えた。



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冥王宮~邂逅と曙光

 冥闘士≪スペクター≫を統率する神々の長兄、冥王ハーデスが君臨する次元界。

 大地≪ガイア≫の底いや冥王星、或いは月の裏とも噂される領域≪テリトリー≫。

 百万の天球≪オールターネット・ワールド≫を貫く影の道、超次元回廊の彼方。

 冥界≪アナザー・ワールド≫の聖域≪サンクチュアリ≫、冥王宮≪ジュデッカ≫。

 闇色に輝く瞳と髪を持つ神々の長兄、ハーデスの憑依する身体は瞬と異なる。

 

 黒い冥衣≪サーブリス≫を纏い、地獄の閻魔帳≪ファイル≫を携える美男子。

 静粛を旨とする冥界の審判≪ジャッジメント≫、天英星バルロンのルネ。

 有罪≪ギルティ≫か否≪ノット・ギルティ≫か、判決を下す相手は城戸沙織。

 グラード財団の総帥と冥闘士、闘いの女神と冥王の宿る身体が真っ向から対峙。

 

 神々の大いなる意志≪ビッグ・ウィル≫が渦巻き、不気味な鳴動を響かせるが。

 玉座の傍に控える他の冥闘士達は手も足も出ず、完全に圧倒され沈黙している。

 神の威厳が漂う冥王の化身と女神の転生、無言劇の強烈な圧力≪プレッシャー≫。

 物質化現象を遂げた超重力の渦巻く、帝王の間に。

 不意に虚空が割れ、人影が現れた。

「女神よ、遅参仕りました。

 

 城砦宮アトランティスの策謀は暴かれ、海皇ポセイドンは覚醒を遂げた模様です。

 最強の海闘士≪マリナー≫、海将軍≪ジェネラル≫も新たな盟友となりましたが。

 我等と共に飛んだ筈ですが、途中で逸れたと見え行方不明であります」

 ジェミニ、アクエリアス、カプリコーン、ビスケス、キャンサーの冥衣ならぬ聖衣。

 ヴァルゴ、アリエス、スコルピオン、レオ、タウラスと共鳴し光の旋律が響き渡る。

 

 双子座サガ、水瓶座カミュ、山羊座シュラ、魚座アフロディーテ、蟹座デスマスク。

 乙女座シャカ、牡羊座ムウ、蠍座ミロ、獅子座アイオリア、牡牛座アルデバラン。

 究極の第7感覚≪セブンセンシズ≫、小宇宙≪コスモ≫を自在に操る勇者が10人。

 第3段階の聖衣≪クロス≫が燦然と輝き、黄金≪ゴールド≫の光が蟠る闇を照射。

 

 最強の海闘士≪マリーナ≫、七人の海将軍≪ジェネラル≫が纏う鱗衣≪スケイル≫。

 氷戦士≪ブルー・ウォリアー≫を含め、緑玉≪エメラルド≫の聖衣を装備する8人。

 海界≪シー・ワールド≫から転移した聖闘士は総勢15人、他の8人は姿が見えぬ。

 天馬星座、竜星座、白鳥座、鳳凰座、アンドロメダ座は青銅≪ブロンズ≫の聖衣。

 ペガサス星矢、ドラゴン紫龍、キグナス氷河、フェニックス一輝、アンドロメダ瞬。

 5人の少年達を見た女神は表情を和らげ、18人の勇者達に微笑を投げ掛けた。

 

「ありがとう、本当に良くやってくれました。

 カミュ、氷河、海将軍と氷戦士≪ブルー・ウォリアー≫の心配は無用です。

 彼等は海皇ポセイドンと共に戦神の本拠、火星≪アレス≫へ向かっています。

 火蜥蜴≪サラマンダ≫の棲む火星の聖域、火王星≪フレイム・ランド≫が目標地点。

 新たなる狂闘士≪バーサーカー≫、紅衣の戦闘士≪ファイター≫達と対決する為に。

 海皇は必ず戦神の呪縛を解いてくれます、貴方の弟を含む8人の勇者は大丈夫ですよ」

 

 神の化身と尊称される双子座サガも、女神の化身に内心を隠す事は出来ぬ。

 不肖の弟とアイザックを案じる双生児の兄、氷聖闘士の師弟が同時に頭を垂れた。

 続いて獅子座アイオリア、牡羊座ムウへ視線を移し圧縮思念≪パケット≫を投射。

 凝縮された思考の塊を解読した2人は顔を輝かせ、サガと同様に深く頭を下げる。

 

 第3段階の小宇宙を共鳴させ、莞爾と微笑む黄金聖闘士達。

 第1段階の青銅≪ブロンズ≫聖闘士達は意味が判らず、訝し気な表情を見せた。

「城砦宮の対決と同時に冥王、ハーデスの尖兵が聖域≪サンクチュアリ≫を襲ったのです。

 先代の牡羊座シオン、射手座≪サジタリアス≫アイオロス、ケフェウス座ダイダロス。

 亡霊≪ゴースト≫聖闘士として仮初の生命を与えられ、女神像の破壊を試みましたが。

 冥界の妖精≪フェアリー≫、調査蝶≪センサー・パピヨン≫の監視は遮断されました。

 星矢と紫龍の師、魔鈴と老師も各々の能力を活用し使命を果たす為に動いています。

 一輝と瞬と同じ場所で訓練を積んだジュネ、鋼鉄≪スティール≫聖闘士達も無事ですよ」

 

 言葉化された説明を受けた5人の少年達に、漸く納得と共感の笑顔が広がった。

 対照的に冥闘士達は顔を顰めるが、女神の圧力≪プレッシャー≫に抗し得ず沈黙を維持。

 

「先刻から彼の呪縛、催眠暗示帯域≪ヒュプノ・ブロック≫を走査していますが。

 解除≪リセット≫には、肉体接触≪タッチ≫が必要な様ですね。

 精神接触≪コンタクト≫では解除出来ない様に、二重の遮蔽が施されています。

 私は極楽浄土≪エリシオン≫へ赴き、彼の仮死状態を解く心算です。

 眠りを司るヒュプノス、死を司るタナトスは既に極楽浄土へ先行していますが。

 神々の長兄ハーデスの肉体を解放し味方に付けねば、事態の打開は望めません。

 天帝ゼウスの支配する領域≪テリトリー≫、天王星≪オリンポス≫の状況は不明。

 大いなる時の神クロノスが統べる時の封土、氷王星≪ヴァルハラ≫も同様です。

 此の場は貴方達に任せ、直ちに行動へ移ります。

 申し訳ありませんが、後を頼みます」

 

「御任せ下さい、女神の御言葉は全てに優先します。

 我等も可及的に追随致します故、後武運を御祈り申し上げます」

 新たに選任された教皇、双子座サガが代表して発言。

 神に近い男を始め黄金聖闘士10人の小宇宙が煌き、女神の意思に応える。

 雄大な小宇宙が瞬き、超時空転移術を発動。

 無限の時空を貫き女神の化身、城戸沙織の姿が消えた。

 

「女神へ追随すると大口を叩いていたが貴様等、何処へ行く心算だ!?

 我等が至高者≪ファイナル・マスター≫、ハーデス様に楯突く不届き者めが!

 海皇の助力を得たとは言え女神に仕える軟弱者が、よく此処まで来たと褒めてやるが。

 聖闘士≪セイント≫風情が此の先へ行く事は許さん、我等が成敗してやる!

 幸い此処は聖闘士の墓場、氷地獄≪コキュートス≫の隣だからな。

 生きた儘でも構わぬ、氷漬けにしてくれるぞ!」

 

「お前達は未だ、知らされておらぬのだな。

 俺自身も13年前からハーデス神の思念体に憑依され、服従を余儀無くされていた。

 憑依を解呪する際、神々が未覚醒状態に在ると女神は仰られていたが。

 海底神殿を巡る海将軍≪ジェネラル≫との対決を経て、全ては明白となった。

 神々の長兄ハーデスは側近を装う双子神に騙され、仮死状態に陥り利用されている。

 死を司る神タナトスが冥王ハーデスを偽り、お前達を踊らせている元凶なのだぞ」

 

 二重人格と疑われ闇色の髪と瞳に変化する偽教皇、神の化身が真実を告げたが。

 冥王に忠誠を捧げる冥闘士達は、聖衣≪クロス≫の着用者を敵視し聞く耳を持たぬ。

 信奉する主神が従属神に操られる筈は無い、聖闘士の詭計≪トリック≫に過ぎない。

 我等は離反工作を企む謀り事に乗せられる愚者に非ず、もっとマシな嘘を考えろ。

 

 第7感覚≪セブンセンシズ≫を超越する第8感覚≪エイトセンシズ≫、阿頼耶識。

 超第3段階の小宇宙≪コスモ≫も拒絶され、誤解を解く術は無い。

 冥界の至高者に仕える最強の冥闘士、次席指揮官≪セカンド・マスター≫。

 地獄の騎士達を統括する責任者、冥界の三巨頭≪ビッグ・スリー≫は姿が見えぬ。

 

 脈動する黒い光を放つ黒い宝石、魔剣の化身を思わせる黒い鎧を装着する冥闘士達。

 銀河文明の敵対者、闇黒鏡闘士≪ブラック・レンズマン≫の鏡衣≪レンズ≫か。

 強靭な硬度を誇る純粋炭素の結晶、黒金剛石≪ブラック・ダイヤモンド≫の如く。

 脈動する黒い光を放ち、邪悪な精霊の棲む黒い宝石≪ブラック・ジュエル≫の鎧。

 黒曜石≪オブディシアン≫を遙かに凌ぎ、冥界の聖衣とも言うべき冥衣≪サーブリス≫。

 艶やかな黒光りする冥衣が主の小宇宙に呼応、戦闘態勢≪バトル・モード≫に移行。

 

 無言の挑戦状を叩き付ける冥闘士に応じ、黄金≪ゴールド≫聖衣も形態を変化。

 第8感覚に応じ硬度8の宝石、黄金の光を放つ黄玉≪トパーズ≫が顕れる。

 脈動する黒い光を弾き貫通する黄金の太陽風、光冠≪コロナ≫を体現する聖衣。

 小宇宙に応じ形態転換≪トランスフォーム≫、第8感覚に対応する聖衣が燦然と輝く。

 

 冥界に残り冥王ハーデスの忠誠を誓う演奏の名手、琴座≪ライラ≫のオルフェ。

 黄金聖闘士に劣らぬと噂される白銀聖闘士を除き、冥衣を纏う地獄の騎士達。

 漸く女神の圧力≪プレッシャー≫、金縛り状態から解放された黒衣の冥闘士。

 屈辱と憤怒が物質化現象を励起、闇色の黒い炎が渦巻き燃え盛る戦闘意欲を表明。

 小宇宙と同調する聖闘士達の衣も輝き、輝ける闇を背景に宣戦布告の思考が閃いた。



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最終形態~死界の蝶

「異形の者よ、お前も冥闘士《スペクター》の一員と判断し試武を申し込む。

 如何なる形態《フォルム》か知らぬが、尋常ならざる小宇宙《コスモ》の持主。

 

 推察するに冥闘士の中でも1、2を争う実力者と見た。

 先ずは相手の名を聞きたい所だが非礼に当たる故、私から名乗りを上げよう。

 

 私は冥王ハーデスに憑依され偽教皇を演じ、女神の恩赦を受け帰参を許された反逆者。

 双子座《ジェミニ》の聖闘士《セイント》、サガの挑戦を受けよ!」

 

 

 三叉の刃槍と力の輪《リング》を掲げ、翼を拡げる不和女神エリスの彫像を戴く建造物。

 冥界の最終地点に近い最後の砦、嘆きの壁を背負い聳え立つ冥王宮《ジュデッカ》。

 

 沸騰する液状軟体生命《スライム》、とでも形容すべきであろうか。

 パレイン星系の第2段階レンスマン、ナドレックの如き不定形の液体を思わせる異様な物体。

 

 無数の気泡が次々に浮上し表面に達すると破裂、無限連鎖の如き胎動を繰返す闇色の怪物。

 宇宙に蔓延る種子の種族、神の種子《フモール》やもしれぬ存在が心話を発した。

 

 

(御尊名は存じておりますよ、聖域《サンクチュアリ》最強を誇る黄金《ゴールド》聖闘士殿。

 丁寧なる口上に御礼を申し上げる次第です、私はパピヨンのミューと名乗る地妖星の冥闘士。

 

 双子座サガは神の化身と噂に聞くが、私の異名は進化する魔物《デーモン》でね。

 大変見苦しい姿を御目に掛け誠に申し訳も無いが、現在只今の私は第1形態の卵に過ぎない。

 

 私は第2形態の幼虫、第3形態の繭《サナギ》、最終形態の蝶へと進化を重ねる魔物なのですよ。

 高名なる神の化身サガ殿に御相手を願えるとは真に光栄至極だが、進化には時間が必要だな)

 

 

 

 眼前の異様な物体とは対照的に精緻な心話、明瞭な擬似音声が小宇宙《コスモ》に響き渡る。

 トパーズ色に輝く双子座の聖衣《クロス》が煌き、第3段階の聖闘士が頷いた。

 

「最終形態《ファイナル・モード》へ進化し全力を以て闘う心意気、丁寧な説明に感謝する。

 進化に必要な時間を寄越せ、と申し出る公明正大なる態度も気に入った。

 

 貴公の希望を飲み最終形への変貌、形態変化《トランスフォーム》を遂げるまで待つとしよう。

 進化に必要な時間は如何程か教えてくれぬか、その間は決して手出しせぬと誓うぞ」

 

 

 人間形に非ざる為か思念波の周波数、波長が微妙に異なり同調《シンクロ》は困難。

 催眠暗示波《ヒュプノ・ウェーブ》の精神攻撃、と誤解される懸念を覚え精神感応は断念。

 

 面倒ではあるが思考元素《エレメント》を言葉へ変換、口頭で意思を伝える神の化身。

 聴覚器官を備えていおらぬかと思いきや、即座に反応が生じ気泡の発生頻度が急激に上昇。

 

 先刻の双子座サガと同様、全力攻撃の予備動作《モーション》と受け取られる懸念を覚えたか。

 進化する魔物から強度と正確さを増した心話が閃き、第3段階の小宇宙に明瞭な音声が響いた。

 

 

(進化を数分で完了する為、通常以上の速度で細胞変化を促進した影響が出てしまっている様だ。

 通常の形態変化では此処まで激しくならぬが取り急ぎ、進化を完了させてしまいたいのでね。

 

 私も進化を完了するまで手出しはせぬ、と言いたい所だが他の同志達は既に闘いを始めている。

 最終形態へ進化を遂げた暁には全力で御相手する、双子座サガ殿に感謝し名誉に懸け誓約する。

 

 貴方に通用するとは思えぬが小手調べだ、第1形態でも使える力と技で御相手をさせて頂く。

 誠に申し訳も無いが御理解と御容赦を賜りたい、アグリィ・イラプション!)

 

 

 

 苦渋を感知させる思念波が引き潮の如く退き、代わって強大な念動力の集束波が襲来。

 小宇宙に同調する双子座の聖衣、泰然と腕を組み瞑目する神の化身を金縛り状態に陥れる。

 

 続いて大地を鳴動する不気味な咆哮が轟き、異形の表面に噴火口が生じ多数の溶岩弾を発射。

 熱線砲《ブラスター》の青白い火球を思わせる浸蝕弾、異様な液体の詰まった火炎弾が疾走。

 

 謎の弾幕が微動もせず腕組みを解かぬ双子座サガ、トパーズ色に輝く聖衣を直撃する寸前。

 最も神に近い男と同様、小宇宙を蓄積していた神の化身が瞳を開き裂帛の気合を迸らせた。

 

 

「良く言った、地妖星の冥闘士パピヨンのミュー!

 挑戦を受ける、アナザー・ディメンション!!」

 

 金縛り状態を一瞬で脱した神の化身は、時空を超越する異次元空間への次元回廊を創造。

 瞬速《マイクロセコンド》の早業を披露、無数の浸蝕弾が次元間の潮流へ流され虚空へ消えた。

 

 更に位相の異なる亜空間へ次元回廊を繋げ、金縛り状態を生起する念動力の網を捲き込み反転。

 反物質へ変換された浸蝕弾の嵐が術者へ逆流し、沸騰する異形の物体を直撃し爆発させた。

 

 

(礼を言うぞ、双子座サガ殿!

 我が獄炎弾は伝説の黒龍波と同様、術者の力《パワー》を爆発的に高める触媒!!

 

 地獄《インフェルノ》の炎を成分とする獄炎の浸蝕弾は、最上の栄養剤《エサ》に他ならぬ!

 不壊の防御装甲を紡ぎ出す第2形態、幼虫《シュレックヴルム》への進化が完了したぞ!!)

 

 液状化現象を生起した噴火口とも思える異様な物体が割れ、異星の寄生生物の如き影が跳躍。

 黒光りする甲殻を纏う揚羽蝶の幼虫に見えなくも無い、不可解な物体が着地し床の上を蠢く。

 

 

 

(貴方の御厚意に拠り、最終的進化に至る為に必要とされるエネルギーは充分に蓄積された!

 数十秒もあれば第3形態の繭《サナギ》を脱し、最終形態の蝶へ昇華する事が可能だ!!

 

 繭を形成する為に必要な儀式となる故、御了承を願う次第!

 対等に闘う為に最強の状態へ進化させて頂くぞ、シルキィ・スレード!!)

 

 第2形態の幼虫は、大口《ビッグ・マウス》から絹《シルク》の糸《スレード》を大量に投射。

 殊勝にも敵の攻撃を封じる為の拘束技、神の化身を疑う無謀な試みは控え己の体を完璧に被覆。

 

 

 銀河系全域を恐怖の渦に捲き込んだブルー族の切札、シュレックヴルムが創造する最強の物質。

 次元重層式の格子状防御力場を内蔵し、宇宙戦艦の全力砲撃も無効化する強靭な装甲が現出。

 

 興味深い表情で眺める双子座サガの眼前で、異様な繭状物質に包まれた魔物は更に進化を加速。

 生後2ヵ月で少年の形態へ成長を遂げた神の種子と同様、急速に小宇宙を燃焼し膨張させ成長。

 

 最終形態へ進化を遂げる間は手出しせぬ、との誓約を信じ僅かの間ではあるが深い眠りに就く。

 絹糸の繭を破られ致命傷を被る危険を冒し、黄金聖闘士の眼前で無防備な深層睡眠状態に陥る。

 

 

 神の化身は実力主義《ストロング・スタイル》を貫き、燃える闘魂の如く相手が立つまで待機。

 冥王軍最強の鎧に皹が入り表面に無数の亀裂が走り、内側から爆発的な力を受け不気味に軋む。

 

 絶対魔法防御にも匹敵するやも知れぬ絹糸の繭、モルケックス装甲が鳴動し遂に大爆発を生起。

 第3形態の繭が木っ端微塵に砕け散り粉砕された破片、絹糸の砕片が花吹雪と化し周囲に散乱。

 

 無数の絹糸が死の砂漠を吹き渡る砂嵐、光輝く砂塵を大量に含む雨霰となり一帯に降り注ぐ。

 燦爛たる美華と光輝を発する花吹雪の嵐を掻き分け、最終形態へ進化を遂げた魔物が名乗った。

 

 

 

「大変お待たせした、双子座サガ殿。

 最終的進化を遂げるまで猶予を頂戴した厚意に応え、全力を以て御相手をさせて頂く。

 

 断っておくが私はハーデス様に忠誠を捧げる冥闘士だ、貴方に勝利を譲る気は無い。

 口幅ったいが私1人で黄金聖闘士を一掃する覚悟だ、手加減は御無用に願いたい。

 

 貴方は神の化身と尊称される最強の黄金聖闘士だ、相手に取って不足は無い。

 双子座サガを倒せば逆転の可能性も見えて来るであろう、フェアリー・スロンギング!」

 

 

 黒輝りする冥衣を纏い斑模様の羽根を拡げ、美しい蝶の化身へ進化した魔物パピヨンのミュー。

 地妖星の冥闘士背中に生えた光り輝く4枚の羽根を翻し、優雅に翔き空中を浮揚する。

 

 死界の蝶《フェアリー》を従える魔物、最終形態《ファイナル・モード》の蝶《バタフライ》。

 オーストリア出身の超能力者《サイキック》は心を凝らし、念動力《サイコキネシス》を発動。

 

 小宇宙の物質化現象が励起され、宇宙の不死者が象徴《シンボル》とする蝶の大群を創造。

 全身全霊を込めた最初の攻撃《ファースト・ストライク》、起死回生の一撃を叩き付ける。

 

 

「其の意気や良し、神々の長兄ハーデスに忠誠を誓う騎士《ナイト》と認め一撃で勝敗を決する!

 敬意を込め我が我が全力を以て迎撃する、ギャラクシアン・エクスプロージョン!!」

 

 相手を勇者と認める宣告と共に小宇宙が爆発、同調するトパーズ色の聖衣が煌き閃光を発した。

 性質の異なる異次元空間を正面衝突させる荒技、銀河も砕け散る双子座サガの代名詞が炸裂。

 

 圧倒的な力《パワー》で念動力の網を破り、獲物を死界へ葬り去る蝶の大群を一網打尽とする。

 神の化身が放った全力の一撃を受け地妖星の冥闘士、パピヨンのミューから意識が消えた。



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仮面の男~地獄の門番

「やれやれ、俺は面倒臭ぇ事が大嫌いな性質《タチ》なんだがな。

 お前ぇ等、聖闘士共を相手にした所で一文の得にもなりゃしねぇ。

 

 俺ぁ欲に塗れた人間なんざ信じる気は毛頭無ぇが、銭は裏切ら無ぇぜ。

 冥界の守銭奴と嘲笑する阿呆共にゃ、金の有難味なんざ解りっこねぇだろうがよ。

 

 正義を口にする人間ほど腹ん中は真っ黒なもんよ、聖闘士様にゃ解んねぇだろうがな!

 俺ぁ此方(こっち)の水が性に合ってるからな、さっさと地上へ帰りやがれ!!」

 

 

 死の砂漠ノスフェラスと中原を隔てるロス川、ならぬ地獄の辺境を流れるアケローン河。

 筏を自在に操り大河を漕ぎ渡る優秀な渡し守、銀貨を徴収する地獄の入口へ案内する番人。

 

 異世界への通路を開く門番《ゲート・キーパー》、次元回廊の魔法結界を操作する能力者。

 イタリア半島ナポリ出身、冥界辺境の守護者《ガーディアン》が御託を並べる。

 

 悪びれもせず己の信念を貫き、飄々とした語り口で生々堂々と主張する地獄の門場。

 他の冥闘士が居並ぶ前では賄賂の要求も出来ず、尋常な台詞を吐く天間星アケローンのカロン。

 

 

 

「冥闘士(スペクター)なんざ陰気な辛気臭ぇ連中ばかりだと思ってたがよ、意外と話せるじゃねぇか?

 俺も綺麗事を吐かす連中には反吐が出る口でな、てめぇとは気が合いそうだぜ!

 

 こう言っちゃ何だが俺様も悪の道に染まった事を後悔なんかしてねぇ、強い方に付いたまでよ。

 うちらの女神様は器が大きいからよ、お前の同類かも知れねぇ俺に巨蟹宮を預けた儘なんだぜ!

 

 銀貨なんざ幾らでもくれてやる、百億だろうが千兆だろうが気前良く払ってやらぁ!

 ただし大枚を叩く代わりに契約は契約だ、踏み倒して逃げようなんざ考えんなよ!!

 

 

 金の為に闘うなぁ傭兵の常識よ、後ろ指を指される筋合いなんざこれっぽっちも無ぇんだ!

 亡者共から銀貨を徴収してんのなら、冥界の王が払う金額も知れたモンだろ?

 

 1人だけ裏切り者になれとは言わねぇよ、冥闘士の腕を見込んで全員を雇ってやる!

 他の連中を口説き落としてくれりゃ余計な諍いも不要だ、褒賞(ボーナス)も弾むぜ!!

 

 てめぇの訛りにゃ聞き覚えがあるから大盤振る舞いしてやるぜ、良く考えろよ兄弟(ブラザー)!

 悪い事ぁ言わねぇから勝つ方に付きな、同郷の誼で優遇してやるぜ!!」

 

 

 

 瞬間切替スイッチ内臓の風雲児、デスマスクは戦闘に備え鳴動する小宇宙を一瞬で抑制。

 言葉の訛りから抜かり無く相手も同国人と推察、母国語で陽気に喋り散らし心理戦を展開。

 

 独自の基準で勧善懲悪を遂行する臨機応変の勇者、蟹座《キャンサー》の黄金聖闘士。

 売り言葉に買い言葉、守銭奴の本音に素早く便乗する強かな凄腕交渉人《ネゴシエイター》。

 

 常識を頭から無視した豪勢な対価を呈示、太っ腹の金蔓を装い相手の警戒心を解除(リセット)。

 冗談に紛らせ未来永劫に渡り魂を縛る言霊の呪術、悪魔の誘惑を装い対等の契約を持ち掛ける。

 

 

「聖闘士と言やぁ女神アテナの騎士《ナイト》、頭の硬ぇ石頭《グディ》揃いの筈じゃねぇか?

 おめぇは口車の天才かよ、ファウスト博士を悪の道に誘った悪魔(メフィスト)みてぇだな!

 

 正義の味方は義理堅い反面、柔軟な思考の出来無ぇ固い連中と相場は決まってんだぜ?

 冥闘士が吐かす台詞じゃねぇが成仏させてやるぜ、エディング・カレント・クラッシャー!!」

 

 仮面(マスク)の男は怒気を削がれ呆気に取られ、一瞬マジマジと豪放磊落な挑戦者(チャレンジャー)を凝視。

 詭弁と判断し濃紺の色眼鏡の遮蔽する瞳を怒らせ、自慢の豪腕を駆使し掌から猛烈な渦動を投射。

 

 

「フン、素直じゃねぇな!

 大人しく契約へ応じてりゃあ、銀貨の大枚を手に入れられたものをよ!

 

 残念だが、黄金聖闘士を相手にするなぁ百年早ぇぜ!

 悪い事は言わねぇから暫く眠ってな、積尸気冥界波!!」

 

 死の仮面《デス・マスク》を名乗る男は悠然と両腕を組み、微動もせず冷酷《クール》に嘲笑。

 イタリア出身の伊達男《ダンディ》は物質化現象を励起、鳴動する小宇宙は燐気の猛風(サイクロン)と化す。

 

 

 

 白い闇の濁流が視界を閉ざし靄の渦巻、濃霧の竜巻《トルネード》が冥界の渡し守へ殺到。

 大海の潮流に優るとも劣らぬ水面、死界と現世を隔てる広大無辺の雄大な水流の主を押し包む。

 

「甘ぇぜ、黄金聖闘士さんよ!

 霧の嵐《ルスト・ハリケーン》を御返しするぜ、ローリング・オール!!」

 

 地獄の境界線《ボーダー・ライン》を成す大河の冥衣、アケローンの付属品《オプション》。

 琉球古武道の武器にも用いられる不壊の櫂《オール》、橈《パドル》を自在に操る棒術を披露。

 

 

 殺到する霧の濁流に対し水平方向に回転させ、高速気流の渦に積尸気を巻き込む。

 遠心力を用い更に加速させる応じ返しの術、妙技を披露し白魔の霧が術者へ逆流し殺到する。

 

「ほう、多少は出来るじゃねぇか?

 ますます気に行ったぜ、腕付くでも契約させてやるかんな!

 

 黄泉比良坂へ自由に出入り出来る俺様にゃ、積尸気の応じ返しは効かねぇよ。

 歌舞伎の闘士が操る毒霧の術じゃあねぇが、極彩色の積尸気を見せてやるぜ!」

 

 

 無造作に白魔の霧を吸収した蟹座の聖衣が煌き、黄玉《トパーズ》色の濃霧を湧出。

 竜戦士出現の前兆とも伝えられる黄金の雲塊、銀河星海を覆う雲海が渡し守へ押し寄せる。

 

「畜生め、てめぇの必殺技を正面から喰らって被害皆無《ノー・ダメージ》たぁ汚ねぇぞ!

 折角の応じ返し技《カウンター・アタック》も無効かよ、少しは手加減しやがれ!!」

 

 抗議の絶叫を挙げ頼みの綱とする攻防一体の戦陣、櫂橈を縦回転させる冥闘士。

 黄光を放射する積尸気の奔流、黄金の雲海を斬り裂かんと一縷の望みを託す。

 

 

 

 物干し竿とも噂される長大な漕棍(オール)のみでは不足と悟り、遠心力を以て加速。

 踵を軸に自らの身体を回転させ、白い天使の風魔風剣が繰り出す秘術を繰り出す。

 

 優雅な白鳥の円舞曲(ワルツ)ならぬ凄絶な高速回転、不可視の刃で万物を切り裂く鎌鼬(かまいたち)。

 夢幻公子の転生せし総てを司り無限の可能性を秘める剣士、若武者を斬り刻んだ疾風の舞。

 

 拡散波動砲の一斉射撃を弾き返す鉄壁の防御、白色彗星を護る強靭な高速気流の演舞を再現。

 黄金の破砕流と化した積尸気の濁流、時の大河を髣髴とさせる白濁の急流に抗し位置を確保。

 

 

 驚異的な瞬発力を秘めた筋肉を躍動させ、絶妙の演舞を披露する体操選手の如く跳躍。

 北斗神拳伝承者の究極奥義、夢想転生ですらも押し崩す凄絶な魔闘気に対処する回転防御。

 

 人馬一体ならぬ人棍一体の相乗効果、強靭な弾撥(バネ)の原理と反発力を最大限に活用。

 意外と弾力性に富み柔軟な全身を捻り、円舞(ダンス)の齎す遠心力も力(パワー)に転化。

 

 平衡感覚を保ち積尸気の激流を斬り裂き、巧みに棍を操り標的に照準を定め渾身の一撃。

 デルゴン貴族の罠を打ち破る勇士の愛刃、宇宙斧と化し雪崩に等しい雲海の津波を突破。

 

 

 霧の壁を突き抜け魔の三角海域、バミューダ・トライアングルから生還せし幸運な船の如く。

 アケローン河の領域(エリア)を預かる冥闘士、水上の守護者は霧の罠を破り術者へ殺到。

 

 大陸を焼き尽くす力を秘めた史上最強の妖、白面の者を斃した獣の槍を操る勇者の姿を再現。

 魔槍の斬撃にも等しい棍(オール)の強打、闇を引き裂く閃光の一撃が決まったかと見えた。

 

「積尸気の虹《レインボー》を切り抜けるたぁ思わなかったぜ、大したもんだ。

 見事な腕前と認め給料は上乗せしてやっからよ、賃金交渉は御仕舞いにさせて貰うぜ!」

 

 

 

 黄金の聖衣と同調(シンクロ)する第七感覚(セブンセンシズ)の真髄、小宇宙(コスモ)の波長が急変。

 爆発的に燃焼し膨張するかと見えた直後、臨時改造の特殊波動砲と同様に収縮し1点へ集中。

 

 全方向からの強大な圧力を受け、常識を超えた激烈な反応が生じる爆縮作用を励起。

 宇宙開闢の超自然現象、大爆発《ビッグ・バン》を髣髴とさせる質的変化を遂げ一時的に昇華。

 

 小宇宙と密接に連動する聖衣も変質、霧状に姿を変えた黄玉《トパーズ》と化し全身を覆う。

 霧を自在に操り数多の敵を斃した伝説の風魔一族、霧風の代名詞が再現され視界を完璧に遮断。

 

 

 相手の攻撃を寸前まで引き寄せ瞬時に回避、拳が身体を突き抜けると噂される神技的ディフェンス。

 真剣の見切りを応用する独特の間と呼吸を披露、間一髪の僅差で瞬速の棍を風の様に透り抜ける。

 

 究極戦士の最終流法(ファイナルモード)、渾楔颯(こんけつさつ)を連想させる一撃に返礼。

 直撃の瞬間に間を外され思わず呼吸を乱した好敵手の獲物を奪い、返す刀で脳天を一撃。

 

 起死回生を意図し一発逆転を試み、懸命の努力を傾け勇戦敢闘を演じた冥界の勇者。

 アケローン河の渡し守を務める地獄の門番、天間星の冥衣を纏う冥闘士カロンの意識が消えた。



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罪人の鞭~記憶の扉

「髪と瞳の変色は禁忌の呪術、精神支配《サイコ・コントロール》を解除《リセット》の証。

 神の化身を唆使した黒幕は冥王、ハーデスの星幽体《アストラル・ボディ》と云う事か。

 

 君の主《マスター》は離脱《セパレート》と同時に女神を追い、超次元の彼方へ飛んだ。

 凍れる時の秘法を施術した本体を護る為、冥界を見棄て極楽浄土《エリシオン》に去った。

 

 精神支配《サイコ・コントロール》を脱した今なら、自由に思考を巡らす事が可能。

 催眠暗示命令《ヒュプノ・ブロック》に囚われず、正邪の判断を下す事も出来る筈。

 

 

 冥闘士《スペーサー》は神々の長兄に忠義を捧げる勇者、冥界の聖闘士《セイント》。

 女神は君達を倒せと命じてはおらぬ、我等と共に地上を護る戦友として期待している。

 

 光溢れる地上を護り真の邪悪を阻む為、新たなる戦いには数多の勇者達が必要だ。

 既に海皇ポセイドンは夢魔ヒュプノスの術を脱し、本来の身体を取り戻し覚醒を遂げた。

 

 神々の長兄ハーデスも幻魔タナトスの呪術を脱し、真の肉体と共に魂の自由を回復する。

 無用な争いに生命を浪費せず、冥界の至高者《ファイナル・マスター》を待ち給え」

 

 

 第8感覚《エイトセンシズ》を発顕させ生死を超え、冥界の涯へ到達した黄金聖闘士。

 小宇宙《コスモ》と同調する聖衣《クロス》が煌き、黄玉《トパーズ》色の光を放つ。

 

 或る分岐先では真相を看破し幽霊《ゴースト》聖闘士、最強の3人と闘い消滅を偽装。

 極楽浄土へ向かう途中で冥王の小宇宙を感じ、ジュデッカへ現れた阿頼耶識の先覚者。

 

 第7感覚《セズンセンシズ》を高める為、常に瞳を閉ざし視覚を遮断する神に近い男。

 乙女座《バルゴ》の聖衣を纏う処女宮の守護者、シャカの唇から穏やかな声が響いた。

 

 

 

「残念だが私はハーデス様に直接、御目通りを許され御尊顔を拝見した直参の者。

 冥界の王ハーデスの側近とは言わぬが御親兵、近衛兵を務め旗本とも言うべき存在よ。

 

 永劫の日蝕《グレイテスト・エクリプス》は人類絶滅に非ず、創造の準備段階に過ぎぬ。

 心清らかなるハーデス様が地上を浄化し、理想郷《ユートピア》を創造する壮挙のな。

 

 乙女座シャカは黄金聖闘士の中でも唯一、八識に目覚める要注意人物と警告を受けている。

 神に近い男が操る弁舌に騙されはせぬ、リー・インカーネーション!」

 

 

 地獄の閻魔帳《ファイル》を携え、静粛を旨とする冥界の審判《ジャッジメント》。

 裁きの館を預かる冥王の代理人《エージェント》、天英星バルロンのルネは話合いを拒絶。

 

 寛容にも選択の機会《チャンス》を与えた神に近い男に、問答無用と挑戦状を叩き付けた。

 無駄口を叩かず先手必勝の諺に則り、先制第一撃《ファースト・ストライク》を投射。

 

 相手の記憶巣《メモリー・バンク》を走査《スキャン》し、罪状を空間に投影する幻術。

 精神測定《サイコメトリ》の秘術が炸裂し、神に近い男が犯した悪行の数々を抉り出す。

 

 

「双子座《ジェミニ》サガが偽教皇と知りながら、告発せず沈黙を守った偽証罪!

 下級聖闘士を遙かに凌ぐ己の実力を誇り、慈悲の心を持とうとせぬ驕慢は立派な罪だ!!

 

 青銅《ブロンズ》聖闘士が処女宮へ来た場合、どうする心算だったか忘れたとは言わせぬ!

 聖域《サンクチュアリ》に従わぬ不逞の輩として、六道輪廻へ墜とす筈だったではないか!!

 

 口清く上手い事を言いおって、貴様の言う事は信用出来ぬわ!

 他人に暴力を振るった罪は明白、第六獄《プリズン》一の谷《バレイ》へ墜ちよ!!」

 

 

 

「フッ、笑止な。

 神に近い私が、地獄に墜ちると思うのかね?

 

 冥界の何処へ飛ばそうが無駄だよ、徒労に過ぎぬと忠告して置こう。

 私を弾劾するとは良い度胸だ、今度は君が異次元の旅《トリップ》を楽しみ給え。

 

 せめてもの情け、行き先は自分で決めさせてやろう。

 幸運を祈るぞ、六道輪廻を受けよ!」

 

 

 裁判官の掌から圧縮された小宇宙が湧出、異次元空間《アナザー・ディメンション》を創造。

 錯綜する時空間を渡る超次元の潮流、黒い風が吹き寄せ神に近い男を運び去るかに見えたが。

 

 何事も無かったかの様に冥王宮《ジュデッカ》へ舞い戻り、涼しい顔で微笑む神に近い男。

 瞳を開き地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人界、天界へ次元回廊を接続。

 

 明滅する光の輪が次元の壁を歪め異次元の色彩、六道界の風景が走馬灯の如くに移り変わる。

 今度は冥界の審判が纏い付く無数の亡霊に引き込まれ、地獄界の一角へ堕ちたかに見えた。

 

 

「優越感に浸るのは君の勝手だが、あまり舐めて貰っては困るな。

 私は第一獄《プリズン》を預かる地獄の番人だぞ、地獄に堕としてどうする心算だ?

 

 虚仮脅かしの威嚇は効かぬし時間稼ぎも無駄だ、好い加減に本気を見せ給え!

 神でもない者に他人を裁く権利は無い、冥界の掟に従いファイヤー・ウィップを受けよ!!」

 

 空間転移の術を用い、己の本拠地《ホーム・グラウンド》へ姿を現した地獄の審判。

 裁きの鞭が獰猛な唸り声を挙げ、最も神に近い男の纏う聖衣を捕捉する。

 

 

 

「幾重にも巻き付いた鞭は、君の積み重ねた罪状を証明するものだ!

 神に近い男が聞いて呆れる、バラバラに切り裂き遺体を撒布してくれるぞ!!」

 

 冥界の裁判官は鞭を引き絞り、輪切りとなった筈の身体から盛大に真っ赤な血潮が噴出。

 瞬く間に床一面に拡がり真紅の湖が足元を浸蝕、血の池地獄が冥界の審判を呑み込む。

 

「馬鹿な、裁きの鞭に巻き付かれた者は例外無く体を寸断される筈だぞ!?

 神に近い男とは聞くが貴様は神でない筈、どんな詭計《トリック》を用いたのだ!」

 

 

 想定外の事態に動転する地獄の審判、天英星バルロンのルネを憐れむ様に一瞥。

 悟りを開き優雅に微笑む聖域の覚者、乙女座シャカの唇が開き涼やかな風が流れ出す。

 

「口は、災いの元。

 天に唾する者は、己自身の顔で唾を受ける破目になる。

 

 自分の言葉は自分に還る、と聞いた事は無いかね?

 神でもない者に他人を裁く権利は無い、君は自分自身の言葉に敗れたのだよ」

 

 

 数知れぬ亡者達を裁き、罪状に対応する地獄へ堕とした冥界の審判。

 自分自身の行動は棚に上げ他人の責任を追及し、炎の鞭で引き裂いた重罪人の冥闘士。

 

 催眠暗示能力を保持する妖魔《モンスター》、バルロンの冥衣を纏う第一獄の番人。

 四方八方から押し寄せる鮮血の奔流、濁流が閻魔帳を携える冥界の裁判官へ殺到。

 

 真紅の大渦巻《メイル・ストリーム》が轟き、黒い光を放つ冥衣を呑み込む。

 身体の自由を喪い瞳を宙に泳がせ、呆然と佇む天英星ルネの意識が途絶えるかと見えた。

 

 

 

「魔術《マジック》の種は見破ったぞ、魔眼《デビル・アイ》の遣い手め!

 貴様も奇術師《マジシャン》の同類、幻術《イリュージョン》を操る者ではないか!!

 

 我が魔力を撥ね返すとは見事な腕、超心理学の達人と褒めてやるが只では済まさぬ!

 凶眼《イーグル・アイ》の究極、最上級呪文《クライマックス》を受けよ!!」

 

 絶体絶命の窮地を脱し九死に一生を得て顔面蒼白、荒い息の惨状を露呈する冥闘士。

 天英星バルロンのルネを源とする魔闘気を受け、冥衣が脳髄を浸蝕する黒い宝石に変貌。

 

 

 時間も空間も意味を為さぬ絶対の虚無、宇宙的な孤独と永劫の闇が第3段階の小宇宙を浸蝕。

 心理学的な技術と叡智を結集した芸術品、内面と外界を入れ替える高度に洗練された罠。

 

 人生を追体験させ心の奥底まで揺さぶり、弱点《ウィーク・ポイント》を暴く超心理攻撃。

 相手の記憶を自在に操り過去の情景、生涯の最後に振り返る走馬灯を再現する超絶の秘術。

 

 果てしの無い記憶と追憶の激流、尽きせぬ悔恨と慙愧の想念が織り成す思考の環《ループ》。

 如何なる勇者や賢者も逃れ得ぬ思念の檻、生涯の檻が自らの内宇宙を映し出す魔鏡と化す。

 

 

 己の存在意義を見出せず苦悶の底、無限に連なる失意の日々が延々と続いた過酷な日々。

 聖闘士の資格を得る以前の修行時代、悟りを拓く事が叶わぬ挫折と虚無の底無し沼が現出。

 

 何時の間にか第3段階の第7感覚を発揮する術を見失い、小宇宙が萎縮し聖衣も輝きを喪失。

 好機到来と見た冥闘士が魔性の鞭を繰り出し、最も神に近い男を捕捉するかと見えた其の時。

 

 シャカの脳裏を或る鍵言葉《キイワード》、思念波が掠め第9感覚《ナインセンシズ》が覚醒。

 記憶封鎖《メモリー・プロテクト》が解除《リセット》され、超次元世界の幻影が甦る。

 

 

 

 天王星《オリンポス》を治める最高指導者《ファイナル・マスター》、ゼウスと対面した記憶。

 天帝の使者を務める天界の聖闘士、天闘士の証となる天衣を得た叙任式の一部始終が鮮明に甦る。

 

 潜在意識に埋め込まれた第9感覚の非常警報《アラーム》、銀河の鏡が閃き小宇宙と精神を純化。

 調整者一族の浄化作用は一瞬で完遂、表層の記憶も再び封印され顕在意識から消去《ロスト》。

 

 第7感覚《セブンセンシズ》の真髄、小宇宙《コスモ》が爆発的に増幅され凄絶な白光を放射。

 主《マスター》と同調《シンクロ》する聖衣が燦然と輝き、白金《プラチナ》の閃光が闇を貫く。

 

 

「幻魔の呪術と超心理学の罠《トラップ》、内部空間《インナー・スペース》を破るとは!

 己の内宇宙を打ち破る事は、己自身を破壊する行為に他ならぬ!!

 

 滅多に創れぬ黒魔道の芸術品、《生涯の檻》を破る条件は全く異なる自我の創造!

 自分自身の内部に閉じ込められた状態で、どうやって突き破る事が出来たのだ!?」

 

 仮想空間の無限城に類似の輝ける闇、記憶の鍵を解き放つ超心理学的波動の磁場が崩壊。

 逆転勝利の一歩手前で超次元感覚の罠《トラップ》が作動、追い詰められた冥闘士が絶叫。

 

 

「君の秘術は魂の底まで堪えた、尊敬に値する優秀な超心理学者と認め賛辞を贈る。

 お蔭で第8感覚《エイトセンシズ》の真髄、阿頼耶識の上を行く心象《イメージ》を得た。

 

 私自身にも想定外の秘術の起動する要因、特訓《トレーニング》を君にも体験させてやるぞ。

 次なる飛躍と進化の要諦となり無意識の裡に埋没する銀の鍵を見よ、天空覇邪魑魅魍魎!」

 

 相手の心底に潜む恐怖と悪夢の似姿を多元宇宙から捜索、異次元を経て現実界に召喚し具象化。

 超絶レベルの大魔術《マジック》、幻術《イリュージョン》の大群が冥界の裁判官に殺到。

 

 最も神に近い男と互角の攻防を繰り広げ、心理決闘を試み墓穴を掘った冥界法廷の断罪者。

 罪人の鞭と相手の記憶を操る冥闘士、天英星バルロンのルネを無限の恐怖が襲い意識が消えた。



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呪術師の報酬

「飛んで火に入る夏の虫め、白銀聖闘士オルフェは黄金聖闘士を凌ぐと聞いているぞ!

 噂に聞く第3段階の小宇宙と雖も我が魔琴の調べ、冥界の呪歌には手も足も出るまい!!

 私の琴は冥界の創造主ハーデス様に御寵愛を賜り、オルフェの竪琴を凌ぐ至高の旋律!

 我が音色は最強の海闘士(マリーナ)、海将軍(ジェネラル)の横笛(フルート)に優る!!

 生肉は口に合わぬだろうが目障りだ、久々に暖かい御馳走を賞味させてやるぞ!

 お前の胃は丈夫だ、腹を壊す事も無かろう!!

 冥界の至高者に楯突く不届き者、静穏の都を騒音で乱す無法者(バスタード)め!

 我が愛獣ケルベロスの餌食となり、生きながら喰われてしまえ!!

 地獄の最終地点に程近い冥界の聖域、冥王宮(ジュデッカ)に土足で踏み込んだ報い!

 傍若無人な振舞いを後悔させてやる、バランス・オブ・カース!!」

 

 エジプト出身の呪術師、天獣星スフィンクスの冥衣を纏う第二獄(セカンドプリズン)の番人。

 世界三大美女に名を連ね、古代エジプトの誇る冷酷な美女(クールビューティー)。

 クレオパトラの如き美貌の女王(ファラオ)、美形の冥闘士が咆えた。

 呪術師(ブーディスト)の達人が魔装具を奏で、魔琴の重苦しい音色が神経系統へ作用。

 優美な獅子の身体と絶世の美貌を持つ超古代の聖獣、冥闘士の象徴(シンボル)。

 巨大女神像にも匹敵する彫像、スフィンクスの魔影が冥王宮(ジュデッカ)に現れる。

「意識が薄れ身体が動かぬ、小宇宙も急激に低下するとは!?

 冥闘士の魔術は第七感覚(セブンセンシズ)の真髄、第八感覚(エイトセンシズ)に及ぶのか!?」

 先代教皇の後継者、牡羊座(アリエス)の黄金聖闘士が絶叫。

 微動もせず凝固(フリーズ)する挑戦者を見下し、ケルベロスを従える第2獄の番人が哄笑。

 三つ首の聖獣も獰猛な咆哮を響かせ、飼主の笑声に唱和する。

 

「フハハハハハ、他愛もないものよ!

 女神を護る究極の守護者とされる黄金聖闘士と雖も、我が秘術の前には赤子も同然よな!!

 お前の心臓(ハート)が真実の羽根と釣り合わねば、お前は邪悪と証明される!

 魂までも消滅する事になるのだ、思い知るが良い!!」

 名状し難いトパーズ色の輝きを放つ聖衣を破り、心臓が空中浮揚(レヴィテーション)。

 驚愕に瞳を見開く黄金聖闘士を嘲る様超古代の壁画を思わせる秤に飛翔する。

 

 宇宙の天秤(コズミック・バランス)、百万の天球を象徴する秘蹟の左右が上下。

 女神に帰依する黄金聖闘士が瞳を見開き、凝視する様を愉し気に眺める黒衣の術者。

 冥界の掟(ルール)に従い、呪術が犠牲者に作用。

 冥界の第2層を占める秘境、地上の薬園にも劣らぬ花園に犠牲者の倒れる様を期待するが。

 聖域(サンクチュアリ)を護る第一の門、白羊宮を預かる勇者は凄絶な超念動を投入。

 神に近い男も凌駕する強大な思念波を浴び、秤が遠隔操作能力に屈し冥界の掟が覆る。

 

「馬鹿な、そんな事はありえん!

 女神に仕える聖闘士には死あるのみ、他の選択肢は認めぬ!!

 冥界の黄金律を無視する破戒者に鉄槌、天誅を下す!

 それ、喰ってしまえ!!」

 飼主の許可を得て勇躍、喜び勇んで獲物に躍りかかる地獄の番犬ケルベロス。

 三つ首の魔獣を嗾使する冥闘士の眼前で、更なる異常事態が勃発。

 獲物を見失い怒り狂う地獄の番犬、冥闘士の愛獣(ペット)はピクリとも動かぬ。

 小宇宙(コスモ)の物質化現象、念動力(サイコキネシス)が標的に一点集中。

 不可視の剛腕が地獄の番犬に裸締め、力任せの荒業を浴びせ戦意と意識を刈り取った。

 

「貴様、どんな魔術を使った!?

 そういえば、聞いた事があるぞ!

 ジャミールのムウは唯一、聖衣(クロス)修復の術を伝える者!!

 精霊魔術(エレメンタルアーツ)を極め、多彩な超能力(サイキック)を備える魔術師!

 古き神々に術を学び精霊の棲む槍、剣を創った異次元世界の錬金術師!!

 超古代の暗黒大陸にて栄えた偉大な種族、魔剣を鍛えた鍛冶師の末裔であると!

 冗談じゃない、超自然現象か怪奇現象か知らんが俺の手には負えん!!

 吸血植物共を操る魔術師め、後で始末してやるから覚えていろよ!」

 想定外の事態に狼狽する獣使い(ビースト・マスター)、冥闘士の耳に涼し気な声が響く。

 

「君の魔術(マジック)は、その程度か?

 可愛い魔獣(ペット)の仇、一矢を報い冥闘士の意地と気概を見せられるか否か。

 今度は君の番だ、健闘(ナイスファイト)を期待する」

「黄金聖闘士の魔術師(マジシャン)めが、大口を叩きおって!

 超古代の闇黒大陸を源とする秘術の伝承者、ファラオの名に懸けて負ける訳には行かぬ!!

 天獣星スフィンクスの冥闘士ファラオの底、最強戦闘形態(マックスバトルフォーム)!

 今まで誰にも見せた事の無い究極の奥義、秘儀(アルカナ)中の秘儀を見よ!!」

 

 無限城の覇権を争う一方の雄、呪術師(ブーディスト)を統べる魔界の聖王が降臨。

 大宇宙の深淵を映す闇色と碧玉の瞳、金銀妖瞳(ヘテロクロミア)が輝き魔力を増幅。

 凶眼(イーグルアイ)と魔眼(デビルアイ)の共鳴、相乗効果(オーバードライブ)。

 額の中央が縦に裂け真紅の瞳、光の帝国を統べ黒の魔剣を持つ魔術師皇帝の赤い目が開眼。

 竜の紋章2個の相乗効果、双竜紋の如く黒碧紅3色の瞳に聖痕(スティグマ)が現れた。

 

 相手の秘術と奥義を総て読み取り、専売特許の技を自在に操る究極の掟破り。

 裏新宿の理を統べる最強の至高者、雷帝と互角の激闘を演じた最強最悪の魔王が実力を発揮。

 死鏡剣の術を逆用する超能力戦士、飛鳥武蔵の影を見破った風魔一族の末弟と同様に。

 魔の森を操る術者の小宇宙に波長を合わせ、極微量の気配を数千倍に増幅。

 不可解な術の結界に同調(シンクロ)を図り、音叉の如き共鳴現象を増幅させ強弱を精査。

 鏡像を操る超能力者の座標を特定、幻術(イリュージョン)を打ち砕く。

 

「錬金術師(アルケミスト)の隠者め、化けの皮が剥がれたぞ!

 冥界の掟に則った尋常な勝負に超能力、幻術を用いるとは聖闘士の風上にも置けん!!

 我が魔琴を以て成敗してくれる、キッス・イン・ザ・ダークネス!」

 怒りに燃え瞋恚の炎を秘めた第三の瞳が輝き、冥闘士の魔力を増幅。

 聴衆の神経を狂わせる重苦しい音色が響き渡り、呪縛の波紋が聖闘士に纏わり付く。

 

「人を呪わば穴二つ、の諺を知らぬのか?

 君の呪紋を君に返還してあげよう、クリスタル・ウォール!」

 白羊宮の守護者(ガーディアン)は念法の達人に倣い、第3段階の思念波を一点に凝縮。

 聖衣の修復も可能とする超能力波、念動力(サイコキネシス)の物質化現象。

 大魔王の究極奥義を崩す要諦となった至宝、シャハルの鏡ならぬ水晶(クリスタル)の楯。

 ムウの創造する鉄壁の遮蔽術、鏡の魔術に呪術師の波紋が弾き返される。

 

「聖闘士の辞書には最低限の礼節、掟(ルール)を守る戦士の矜持は記載されておらぬのか!

 技を編み出した創造者(クリエイター)こそ、技を破る術の第一人者と知れ!!」

 天獣星の冥衣が咆哮を響かせ、光も脱出不可能な黒太陽(ブラックホール)に変貌を遂げる。

 逆流する黒龍波に喰われる風を装い、栄養剤(エサ)として吸収する魔界盗賊の奥義を応用。

 冥界の楽器を魔力の源泉とする奥義、超音波震動の波及効果を底無し沼が喰らい尽くす。

 

「第二段階の本気、呪術(カース)の源泉は見せて貰った。

 退場の花道を飾るぞ、スターライト・エクスティンクション!」

 強大な思念波が凝縮され高貴な薔薇、白金(プラチナ)の光を放つ獰猛な大輪と化す。

 大宇宙の何処かに存在する筈の未確認天体、黒太陽と対を成す星界の極光(オーロラ)が現出。

 敵の弱点を物質化する超戦士(スーパーソルジャー)の秘術に倣い、聖衣も変貌。

 呪術の至高者が放つ奥義と同質の共鳴波、白太陽(ホワイトホール)が黒太陽を掻き消した。

 

「これで終わり、と思うなよ!

 パンドラ様から御預かりした魔鏡、至宝の威力を見せてやる!!

 究極の秘技、絶対破壊(アブソリューディストラクション)を喰らえ!

 俺の創造する魔の磁場に呑み込まれ、魂も残さず消滅するが良い!!」

 相手の心を映し取る朧炎の鏡、神の記述(カード)ならぬ冥界の魔法具。

 追い詰められた冥闘士は嘗て、自ら冥界の門を叩いた聖闘士を騙した魔術の種を活用。

 生命と引き換えに願望を叶える、とも伝えられる暗黒の鏡を用い呪力(パワー)を増幅。

 漆黒と碧玉と真紅の竜瞳(ナルガ)が閃き、呪術王(ブードゥーキング)の最終奥義を起動。

 夢の精霊ヒュプノスの集合体、悪夢を統べる魔性の女神(ヒプノス)が超能力戦士を襲う。

 

「呪術師の奥義に敬意を表し『眼には眼を、歯には歯を』の諺に相応しい禁断の術を披露する。

 黒魔道師の操る最凶の悪夢と無限の恐怖、逆説(パラドックス)の物質化現象をね。

 期待以上の健闘(ナイスファイト)を見せて貰った御礼だ、心ゆくまで堪能し給え」 超戦士(スーパーソルジャー)の奥義、相手の弱点を物質化する超能力(サイキック)が発動。

 念動力が電磁波に転換され雷神の鎚(トゥールハンマー)、無限城に君臨する雷帝の鉄槌に昇華。

 天獣星(スフィンクス)の冥闘士、ファラオの意識が悪夢に呑み込まれ虚空の彼方に消えた。



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旋律の貴公子

「女神の聖闘士を地上に還す事は、冥界の掟《ルール》に反するが。

 ハーデス様に忠誠を誓い、私と同じ道を選ぶのであれば話は別。

 私も嘗ては女神に仕えた身である故、一度だけ選択の機会を与えよう。

 忠告を受け容れ戦闘を放棄するか、飽くまで闘うか。

 黄金聖闘士と言えども、私を倒す事は出来ぬと思うがね」

 

 謎の失踪を遂げ既に死亡している、と思われていた琴座《ライラ》の聖闘士。

 第3段階の聖闘士を凌ぐ実力とも噂され、白銀《シルバー》聖衣を纏う伝説の男。

 冥王に忠誠を誓った聖闘士と対峙するは、水色の長髪を靡かせる美貌の主。

 聖域十二宮の最終関門《ファイナル・ステージ》、双魚宮を預かる黄金聖闘士。

 魚座《ビスケス》の聖衣を纏い、金星《アフロディーテ》の名を冠する勇者が応えた。

 

「御厚意は忝いが其の質問は無用だ、女神に仕える聖闘士ならば選択は決まっている。

 君の琴が奏でる極上の音色は噂に聞いているが、私には通用せぬと断って置くぞ。

 真紅の絨毯《レッド・カーペット》、王宮薔薇《ロイヤル・デモンローズ》の中で眠り給え」

 黒蓮《ブラックロータス》にも劣らぬ強烈な芳香の魔術、花霞が優雅に敵対者を包み込むが。

 何故か麻酔の効果は顕れず、白銀聖闘士オルフェは美男子に劣らぬ艶然たる微笑を投げた。

 

「天と地の狭間に輝きを誇る美の戦士、アフロディーテ殿の噂は私も聞き及んでいる。

 誠に残念だが貴方の魔術《マジック》は冥王、ハーデス様の結界に無効化された。

 冥界の掟に従い私の琴が奏でる旋律、貴方の操る薔薇の何れか上か決着を付けねばならぬ。

 ハーデス様も聞き惚れる我が演奏を聴き給え、ストリンガー・ノクターン!」

 名手の繊細な指先が竪琴の弦を掻き鳴らし、玄妙不可思議な和音の共鳴を響かせる。

 音波を超越する催眠暗示の妖波動、花吹雪を操る魔術師の瞳が翳り薔薇の中に崩れ落ちた。

 

「他愛も無い、とは言わぬ。

 我が夜想曲《ノクターン》、小夜曲《セレナーデ》は神々も眠らせるのだからな。

 水瓶座《アクエリアス》の黄金聖闘士、水と氷の魔術師カミュも賛美してくれた。

 ユリティースが落命した時、デスマスクを動かしてくれる程にね。

 私と恋人の身体は黄泉比良坂を抜け、冥王宮《ジュデッカ》で演奏する機会を得た。

 演奏の褒美に彼女の星幽体《アストラル・ボディ》、魂は身体に戻されたのだが。

 地上へ辿り着く前に振り向いてしまい、第二獄にて石化する事となってしまった。

 今の私は女神の為に戦う聖闘士に非ず、ハーデス様に感謝を捧げ忠誠を誓う冥闘士。

 せめてもの情け、苦痛を感じず永遠の眠りに就き給え」

 

 瞑目する黄金聖闘士を眺め、独り言とも取れる述懐を洩らす伝説の聖闘士。

 誰も聞いておらぬ筈の淡々とした呟き、慙愧の念に応え思い掛けぬ声が静寂を破った。

 

「君の言う事も良く解る、と言ってやりたい処だがね。

 冥界へ至る手段を講じた黄金聖闘士、デスマスクは地上を狙う神々に操られていた。

 ユリティースが毒蛇に咬まれ落命した事も含め、総ては冥王が仕組んだ事。

 君を冥界に束縛する為、用意周到に張り巡らされた罠《トラップ》に過ぎぬ。

 冥王の名を騙る暗躍者が企んだ詭計《トリック》である故、恩義を感じる必要は無い。

 光溢れる地上を狙う真の邪悪を退け、女神アテナを護る為に協力を要請する」

 呆然と佇む伝説の聖闘士オルフェの瞳に憤怒の炎、真紅の劫火が燃え盛った。

 

「最愛の女性を喪う苦しみ、悲劇の代償は私も痛い程に理解している心算だが。

 数年前に逝った私の恋人、魂の離脱した身体も残っておらぬ女性とは状況が異なる。

 石化の術を解呪して最愛の恋人を救い、地上に連れ戻す術は無い訳でもないぞ。

 牡羊座《アリエス》の黄金聖闘士、ムウの噂は君も聞いた事がある筈。

 念動力《サイコキネシス》を以て、細胞賦活《マッサージ》を試みるのだよ」

 魔術師の台詞が進むに従い理解の色が浮かび、驚愕に席を譲り希望の光に転化。

 琴を爪弾く手を休めた聖闘士に応え、美神《アフロディーテ》の化身も微笑。

 

 伝説の聖闘士を陥れた陥穽の裏事情が暴露され、和解の道を拓いたかと見えたが。

 悪夢を総べる夢魔ヒュプノスの陥穽、小宇宙の奥に隠匿された後催眠の術が作動。

 精神平面の黒影が高度な法術の秘儀《アルカナ》、神の記述《カード》を呈示。

 『絃術師』の模様《パターン》が鍵となり、小宇宙を闇に染める暗黒回路に接続。

 冥衣《サーブリス》と同様に聖衣が黒く染まり、凄絶な闘気が湧き起こった。

 

「オルフェ等と云う名の男は知らぬ、我が名は絃術師オルフェウス。

 神々の長兄ハーデス様の領域《テリトリー》、冥界への侵入者に天誅を加える!」

 或る異世界に於いて冥界三巨頭の一、ラダマンディスを緊縛した実績を誇る秘術。

 琴座《ライラ》の聖衣から無数の強靭な絃が伸び、投網の如く標的を掌握する固め技。

 無限城戦国時代の覇者、戦慄の貴公子が操る『流水の刃』が黄金聖闘士を急襲。

 

 琴絃の束を貫通力に優れる銃弾の奔流と化す《貫》、第1段階『鉄砲水』が殺到。

 数千mの深海に相当する強水圧を創り敵の動きを止める《縛》、第2段階『渦巻』が拘束。

 無数の絃が滝と化し頭上から降る《襲》、回避不能の第3段階『雫』の豪雨が翻弄。

 数多の絃が強大な破砕流と化す《砕》、第4段階『濁流』が真正面から挑戦者を撃つ。

 

「ヒュプノスの陥穽に屈する訳には行かぬ、ピラニアン・ローズ!」

 美神の掌から思念波の物質化現象、黒い薔薇が翔び無限増殖。

 空中を埋め尽くす獰猛な毒牙、魔界植物の渦動が『流水の刃』を無効化。

 黒薔薇の大群は絃術師に殺到、白銀聖闘士の奪還を試みるが。

 強力な催眠暗示波の操る勇者は強靭な防御結界、風鳥院流絃術『繭玉の楯』を発動。

 絃の大群を高速回転させ激流と化し、『渦潮の陣』が複数の竜巻を捲き起こす。

 

 螺旋状に渦巻く重層防御、鉄壁の螺旋が黒薔薇の強襲を阻止。

 琴座《ライラ》の聖闘士は『降雨の槍』を披露、無数の絃が数多の槍と化し降り注ぐ。

 散弾銃《ショットガン》の如き弾幕を浴びせ、不規則に炸裂する『時雨』が挑戦者を幻惑。

 頭上に注意を逸らし足許を浸蝕、『霧雨』が纏わり付き敵の捕縛を図る二重三重の罠。

 天地連撃を操る魔戦士は美神の化身を掌握、必殺の一撃を極め討ち取るかと見えた。

 

「勝ち誇るのは未だ早い、ブラッディ・ローズ!」

 魚座の聖闘士は絶体絶命の危機を悟り、最強の薔薇を投入。

「冥界の理《ことわり》を覆す事は許さぬ、我が秘術を以て星の塵を一掃する!」

 無数の絃が激流と化し挑戦者に殺到、生涯の檻ならぬ『繭玉の檻』を創り内部に拘束。

 一点集中の合気法極波弾と同様に琴絃を集束、一撃必殺の星弾と化す『流星』が炸裂。

 挑戦者は拘束技に拘らず第8感覚を研ぎ澄ませ、絃術師の繰り出す秘奥義を観察。

 オルフェの意識を乗っ取る憑依者の影法師《シャドウ》、残留思念の識別に成功。

 

「目には目を、歯には歯を、神の記述《カード》には神の記述《カード》を!

 『芳香の魔女』と『親愛なる亡者』、2枚のコンボで『絃術師』を破る!!」

 アフロディーテの両手に異なる聖札、小宇宙の物質化現象が現出。

 高位現実《アバリアティ》の結界、紫色《ラベンダー》の領域《テリトリー》を展開。

 ユリティースが微笑み、光の波動が憑依服従の罠に呪縛された犠牲者を包み込む。

 小宇宙を縛る残留思念の要諦、魔水晶《ヒュプノ・クリスタル》を隠匿する闇が薄れた。

 

「高次元世界の精霊《エレメント》達よ、我に力を!

 我が小宇宙を象徴する薔薇の短剣となり、呪縛を断て!!

 先代の魚座《ビスケス》に敬意を表し封印した秘奥義を見よ、ダガー・ローズ!!」

 小宇宙を昇華させ第三段階の第七感覚を超える第八感覚、阿頼耶識の物質化現象を励起。

 白金色《プラチナ》の薔薇が渦巻き魔女のナイフ、水晶の短剣《ダガー》に変貌。

 水晶《クリスタル》の短剣から、鮮烈な青紫色《ヴァイオレット》の聖炎が湧出。

 紫色《ラベンダー》の風が舞い踊り夢魔の催眠暗示、精神支配の魔法陣が消え失せる。

 

 光り輝く精霊達の統一体、破邪の剣が閃き魔水晶《ヒュプノ・クリスタル》を粉砕。

 オルフェの魂を操る呪縛が解除され、白銀色の光が琴座の聖衣から溢れ出す。

「私の恋人は数年前に逝き、魂の戻る身体も残されておらぬが。

 魚座アフロディーテの名に懸け、ユリティースの石化は必ず解除する。

 冥界に幽閉された君の恋人を奪り還し、光溢れる地上に連れ戻すと誓うぞ」

 伝説の聖闘士は無意識に微笑み、繊細な両手が竪琴に触れる。

 神々も聞き惚れた精妙な音色が冥界に響き、聖闘士達の前途に希望の虹を描いた。



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天牢星の冥闘士(仮)

「静寂に満ちた世界の(ルール)を乱し、ハーデス様に楯突く聖闘士《セイント》の鼠《ネズミ》共め!

 不逞の輩は我が斧《アクス》にて残らず討ち取り、氷地獄《コキュートス》に叩き込む!!」

 

 冥界三巨頭《ビッグ・スリー》の一角、ラダマンディス直属の冥闘士《スペクター》が吼えた。

 牛頭人身の怪物《ミノタウロス》の名を冠する冥衣(サーブリス)、天牢星の鎧を纏う長身の男が突撃。

 ゴードンが雄渾な体格に似合わぬ瞬速、洗練された無駄の無い動作(モーション)侵入者(インベーダー)に迫る。

 

 聖域(サンクチュアリ)十二宮の一角を預かり、研ぎ澄まされた闘気を纏う男に必殺の一撃を浴びせるが。

 山羊座《カプリコーン》の聖衣(クロス)に触れる寸前、標的(ターゲット)の姿が消え失せた。

 想定外の事態に殺気を削がれ、硬直するかと見えた冥闘士に横殴りの旋回技が炸裂。

 シュラの代名詞、聖剣《エクスカリバー》が真横から襲撃者を薙ぎ払う。

 

 竜星座(ドラゴン)(シールド)も斬り裂く一閃、強烈な斬撃が決まり黄金聖闘士の勝利かと思われたが。

 冥闘士は咄嗟に身を引き、遠心力で破壊力の増した蹴撃《キック》の角度・方向・速度を確認。

 予知能力者の如く精緻に時間差を測り、小指を砕く横殴りの拳で邀撃を試みる。

 天賦の才を備える修羅も瞬時に敵の意図を読み、右脚の軌道を直撃の寸前に下げ痛打(ヒット)を避けた。

 

 

「意外に、出来る男だな。

 縦から横への変化、一の太刀(ファースト・ストライク)を瞬時に読んだ動物的な直感は見事と認めてやろう。

 呼吸を完璧に合わせた返し技(カウンター・アタック)、牙斬の要領で紙一重の撃墜を狙う度胸も賞賛に値する。

 今度は連撃だ、貴様の実力を見せて貰うぞ!」

 

 シュラは無造作に冥闘士との距離を詰め、上体を瞬時に沈め繰り出された拳を避けた。

 カポエラ戦士特有の高速旋回、デンプシー・ロールを遙かに凌駕する変幻自在の舞踏術に移行。

 練達の聖闘士と冥闘士は互いに態勢を崩す為、騙し技(フェイント)を繰り出し一瞬の隙を狙う。

 会心の一撃(クリティカル・ヒット)を極める好機(チャンス)を窺い、空拳と蹴撃の応酬が続く。

 

 此の儘では一向に埒が明かぬ、と見た故か。

 長身の男は唐突に跳び退き、射程距離外に逃れた。

 不用意な追撃に移らず様子を見る聖闘士を睨み、深く静かに呼吸を整える。

 

 黄金の聖衣を纏い第七感覚《セブンセンシズ》の真髄、小宇宙《コスモ》を高める聖域の修羅。

 冥界の宝石と喩えられた精神感応物質(サイキック・コンヴァーター)の鎧を纏い、第六感(シックス・センス)を研ぎ澄ませる地獄の騎士。

 暗黙の合意に達した両者は一歩ずつ、生と死の接点に向け再び距離を詰めた。

 

 

「先刻の暴言を撤回する気は無いが、楽しませて貰った故に断っておく。

 絶対真空の聖地(オリンポス)を護る邪魔者、天闘士(ガーディアン)共を倒す為に鍛えた奥義は無敵よ。

 我が戦斧(バトル・アックス)の前には砕け散る運命(さだめ)の星、燃え盛る太陽に挑む無謀な蜂も同然。

 風車に挑む愚者が持つ鋭利な剣の如き無用の長物、儚く無力な蟷螂(とうろう)の斧に過ぎぬ。

 万物を斬り裂く聖剣《エクスカリバー》と雖も、所詮は剃刀《カミソリ》。

 枯れ果て地に墜ちた空洞の枝にも等しい、激突すれば砕けるのは其方だ!」

 

「俺は戦う前から虚勢を張り無駄に吼え捲る輩、大口《ビッグ・マウス》と云う奴が大嫌いでな。

 拳で語らず実力の伴わぬ有象無象、舌戦の強者は地獄の底で解説に専念して貰おうか。

 問答無用だ、消え失せろ!」

 

 相手の心理面に対する小手調べ、挑発の応酬は済んだ。

 両者は躊躇無く指呼の間に踏み込み瞬速の早業、必殺の一撃を披露。

 無敵と謳われた聖剣《エクスカリバー》が異音を発し、シュラの呼吸が乱れる。

 強化クリスタル製の戦斧《トマホーク》を髣髴とさせる手刀(しゅとう)が閃き、均衡が突き崩された。



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