転生デジトレのお悩み相談所 (がははw)
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タキオンどこ…どこ…?
クク…俺は闇のトレーナー。前世ではウマ娘のアニメ、ゲーム、グッズ…それどころかBBSとかいう深淵に入り浸っていたほどにウマ娘が好きな男だ。
さて、そんな俺だったが…なんとウマ娘の世界(多分アプリ時空)に転生してしまった。
人間本気になれば何でもできるようで、子供の時から(推しを作っては脳を焼かれながら)勉強し、見事トレーナーになれた。
「こんにちは〜」 ガチャ
さて、改めて自己紹介をしよう。俺はデジトレ、名前はない(訳ではないが名乗ることはない)。
デジとは『アグネスデジタル』のことだ。彼女は…良いぞ…
「トレーナーさん、今日も1日頑張っていきましょう!」
ウマ娘は全員推しだが…最推しは彼女だろう。特徴的なピンクの髪、143cmという女児かと疑ってしまう程の低身長、そしてそれと対比するかのような大きなリボン…
もぅほんと無理…かわいい…好きぃ…
「トレーナーさん? どうかしましたか?」
スカウト時に『だれぇ…?』って言われた時は気絶するかと思ったね、うん。
しかも…これだけでも限界なのに性格が『自分のことを可愛いと思ってないオタク』だって?
おまえが一番可愛いよ!!(迫真)
悔しいが…かけちゃお民の気持ちも分かr…いややっぱ駄目だ。奴らは処刑対象だ。
「あのぅ…大丈夫ですか…?」
しかも可愛いだけじゃない。勇者モードになるとキリッとした目で目標に向かってストイックになる。いつもとのギャップは…もう…
「最ッ高!!」
「……最高?」
え…うぇ!? おデジいるぅ!!?
今日もかわいい…じゃなくて、一体いつ来たんだ? というか今の声聞こえていたのか?
マズい…俺は硬派を演じているんだ。「担当のことを考えてました」と言えば聞こえはいいが実際は問題しかないことを考えていたんだ。
「…なるほど、そういうことでしたか!」
バレたら「解雇!」って…いや「逮捕!」とか…
「昨日のファル子さんのライブ良かったですもんね!!特にファンサしてくれた時なんか_あッ」
…気絶したな。どうやらバレてはいなかったようだな。…それにしても_
「_気絶して満面の笑みのデジタルもかわいい…」
今更だが、この物語は俺とデジタルとのこんな日常を描いた話だ。
____
俺はトレセン学園の相談役をしている。最初はただ知り合いにアドバイス等をしていただけだったが、噂が噂を呼んだらしく…気づいたらトレーナー室が相談所扱いされていた。色々なウマ娘と話せるので満更でもないし、むしろ大歓迎ではあるのだが。
ジャンル問わず色んな相談がやってくる。例えば…
『カロリーが低いスイーツを知りませんか?』
『最近出禁の店が増えてきて…どこか良い店を知らないか?』
『お腹空いたので何かお菓子下さい!!』
…あれ? 食べ物系ばっかじゃね?
本当はもっと色々あるはずなんだが…何故だ…?
「は? タキオンがいなくなった?」
「ああ、昼休みになったのにお弁当を取りに来ないんだよ。あのタキオンが…」
今日の相談人はモルモット…タキトレこと、アグネスタキオンのトレーナーだ。
タキオンに脳を焼かれ、今なお「タキオンがいなきゃ…俺は…」と言い黒く光ってる(?)、タキオンのことしか考えていない生粋の狂人だ。
…まぁ、タキオンに焼かれるのも分かる。可能性を信じて研究に没頭し人体実験もするマッドサイエンティスト気質。なのに誰かがいないとまともに生活も出来ないポンコツっぶり…刺さる人には刺さる。俺もソーナノ。
ちなみに仲は良い。担当バが同室だしな。
「実験室は行ってみたか?」
「もちろん行った。でも居なくて……なあ、一緒に探してくれないか?」
声も態度もしおらしくなって全身を青く光ってる…七変化か何かなの?
それは一先ず置いといて…うーん…
タキオンはタキトレに胃袋を掴まれているから昼休みにトレーナーの所に行くことは当然なんだが…
いや、例外としてタキオンが研究に没頭しすぎることがありえる。しかしその場合はタキトレが実験室に行くから、二人が会わないというのはあり得ないな…
それに、もし本当に行方不明になっていたら「トレーナーくぅん…」とか「ここはどこだろうねぇ…お腹減ったねぇ…」などと言っているだろう。
「…分かった、二手に別れて探そう。何かあったら連絡する」
「_ありがとう」
「いやいや、別に当然のことだし……でも、一つだけいいか_
その眩しさどうにかならない?」
「はあ…あのなぁ、この光はタキオンがくれたものなんだ」
「そうだな」
「つまり、発光している時が一番『ああ、俺ってタキオンのものなんだ』と実感できる。だから発光はやめない」
「…そうか」
____
うーん、さっきのタキトレは中々きしょかったな。俺も変人だとは言われるがあそこまではないはず。
でも、もし自分もおデジにあんなことされたら…うん。墓まで持って行くだろうな。
それはともかく、俺は今職員室に来ている。理由は協力者を増やすためだ。
10分ほど経っているからそろそろだと思うが…来たな。
「授業中にすまないな、デジタル」
「い、いえ。それほど重要な話なんですよね!問題ありませんッ!!」
協力者というのはかわいい可愛いCawaii Kawaii愛バ…デジタルのことだ。
授業中に呼び出すのも申し訳ないが事が事だし、同室として何か知ってることとかないか聞きたかったからな。
あれ? でも確かデジタルはウマ娘相手に目立つのは好きじゃなかったよな? そして教室から出る時きっと目立ったよな? そしたら誰を恨むよ……俺じゃね?
…やめよう。これ以上考えるとハラキリ一直線だ。
「簡潔に言うと、タキオンが行方不明になった」
「え…ええ!?タッタ タ タ タ タキオンしゃんがァ!!?」
すっごく驚いてる。動揺するデジタルもかわいいね♡
しかし、いつまでも見ておくわけにもいかない。渋々話を進めるとしよう。
「続きいいか?」
「…あ、はい!大丈夫です!」
「タキオンについて何か知らないか? 体調が悪そうだったとか、様子がおかしかったとか…何でも良い。」
「ちょっと待って下さいね…えーっと_」
手を口に当て、ブツブツと言いながら考えるデジタル。うん、かわいい。
ていうか挙動の一つ一つがかわいい…なんなんこの娘?(逆ギレ)
「あ、思い出しましたよ! 昨日『あと少し…あと少しなんだ…』って言いながら夜更かししてました!!」
え…今のはタキオンの声真似なのか…? もう一回やってくれ、動画撮るから。
「おそらく何か作っていたのでしょうけど、集中していたので話しかけるのはやめておきました」
「なるほど…デジタルが起きた時もやっていたのか?」
「いえ…その時にはもう部屋にはおらず…」
実験室にはいない、タキトレの部屋にもいない、寮にもいない…
「これ本当にどこにもいないのでは…?」
「…かもな」
「そう…ですよね…… ああ、あたしがもっとタキオンさんを気にしておけば…」
いかん、デジたんが曇ってしまった…
…クソッ!推しを悲しませるなんて…俺は何をしているんだ!!
こんなんじゃ俺はトレーナー失格だ!
…え? 『闇のトレーナーのお前はハナからトレーナー失格』だって?
否定はしないがそういう話じゃないんだ! 否定はしないがな!!(二回目)
「安心しろデジタル。実はもう目処が立っている」
「…えぇ!!? そうなんですかぁ!??」
「ああ、そうだ。だが万が一ということがある。一応寮へ確認しにいってくれないか?」
「そういうことならおまかせください!あたしがきっちり確認してきます!」
デジタルは廊下を走らないギリギリの速度で去っていった。さて…
「これからどうしよう…」
早歩きする後ろ姿もかわいいと思いながら、俺はそう口にした。
____
曇り顔が嫌だったからつい嘘をついてしまった。もうこうなれば早急に見つけなければならない。
でも…タキオンが行きそうなところはもうないんだよなぁ…
「マジでどうしよう…」
人手を増やして捜索したら「知ってるって言ったじゃないですか!!!」と言われ、最終的に嘘つき呼ばわりされるだろう…あれ? これご褒美か?
…いや、「嘘つき♡」なら良いが今回は「嘘つき…嘘つきッ!!」だからご褒美ではないな。ガチ罵倒されて興奮する性癖はあんまりないぞ。(全くないとは言わない)
「どこかに『他人に見えなくて高速で探すことができるウマ娘』とかいないかなぁ…」
………
待て…居るぞ! 1人だけ!!
そうとなれば話は早い。ササッと行くことにしよう。
_____
タキオン捜索RTA、はーじまーるよー
改めてどうも皆さんこんにちは、デジトレです。
今回はこちらのゲーム『ウマ娘プリティーダービー The Life ~今日からあなたもトレーナー~』の1章『消えたアグネスタキオンを探せ』をプレイしていきたいと思います。
このゲームは自分がトレーナーになって多くのウマ娘と関わっていくという、言わばアプリトレのサポカイベのようなものですね。
さて…今回のRTA最大のポイントは『タキオンについての情報がほとんどない』ことですね。というのもこのゲーム、あらゆるパターンのルートがあります。その数、およそ14万!? うそやろ!!?
判明されている数であって、まだまだ解析の余地もあるとのこと。こんなの覚えられるわけないっピ!!
なので固定ルートという概念がありません。もっと言うと、リセットも再走も出来ません。まるで現実みたいだぁ…(直喩)
ですが文句を言っても始まりません。担当をアグネスデジタルにして…これで準備OK!
タキトレに捜索依頼を頼まれた所でタイマースタートです。よ゛ろ゛し゛く゛お゛ね゛か゛い゛し゛ま゛ー゛す゛(cv KRIK)
今回の情報は…実験室にいないことだけですね。最悪のパターンを引きました。
本来なら来世で
早速呼び出して(授業中)話を聞きましょう。えっと…何々…
昨日から何か作ってた? 朝起きた時にはもういない?
ほわぁ?(BRIT)
そんな情報じゃ何も分かるわけないだろ! いい加減にしろ!!
ですがその気持ちはデジタルも一緒です。現に段々とかわいいお顔が曇っていっています。
…アーテガスベッチャッタ-
『安心しろデジタル。実はもう目処が立っている』
『…えぇ!!? そうなんですかぁ!??』
やらかしましたね…この選択肢は確定でデジタルのメンタルが一時的に元に戻りますが、嘘だと分かった瞬間に信頼度がガクッと下がるものです。
本来なら押すべきではなかったですが…推しが悲しんでいるのに耐えれる奴いる? いねぇよなあ!!
はい、この瞬間から真のRTAの始まりです。クリア条件は『デジタルに嘘だとバレないようにしながらタキオンを見つける』となります。
どうしてお助けキャラからデバフをもらって難易度が高くなっているんですか?(現場猫)
まあいいでしょう。くよくよタイムなんて5秒でじゅうぶんです。切り替えていきましょう。
と、いうわけでオリチャーを発動! ここは一旦実験室へ向かいます。
誰もいねぇだろ馬鹿じゃねぇの(笑)と視聴者は思うかもしれませんが、あそこには奴がいます。
そう、その人物とは…マンハッタンカフェに憑いている幽霊、通称『お友だち』のことです!
この広いTRSNで人探しとなれば人手を増やしたいところですが…そもそも授業中に手伝える人何てそう多くありません。各トレーナー、ゴルシ(本物)、幼女、緑の悪魔、リコちゃん(星漿体)、ゴルシ(分身体)ぐらいです。低乱数で生徒会メンバーもいます。
しかし、今回のような隠密に探したいときに彼彼女らは向いていません。というか8割が『タキオンだぞ?』と言って手伝ってくれません。おいたわしやタキ上…
その点お友だちは条件を全部クリアしています。幽霊だから他の人には見えない、推定SSだから移動も速い、一応カフェの知り合いなので手伝ってくれる… なんだこれはたまげたなあ…(勝手にたまげてろ)
だから実験室…というか共有しているカフェの私物部屋に行く必要があるのですね。
という訳で研究室にイクゾー デ ッ デ デ デ デ デ !
______
カーンが入ってない-564点
さて、移動時間に謎の妄想をしていたが…実験室に着いた。
外からガサゴソと何か音もするし、きっと中にお友だちはいるだろう。
ノックをして入室する。そしてカフェのスペースまで行って目を『良く』した。
ふふ…このデジトレ、読者に言ってなかったことがある。実は俺…転生した時に特典を貰っていたのだ。
何がいる? と聞かれたのでノータイムで答えた。
『ステータスも見えるような【良い眼】をください』
この【良い眼】というもので凝らすことでステータスが見えるようになったが…なんと副次効果があって…幽霊とかが見えるようになった。オンオフ式で見ようと思う必要はあるが、常時見えてるよりも良いと思う。
そして何より…目を『良く』するという表現が厨二心が刺激される。とてもカッコいい!!
「あっ居た。今時間ある?」
『…何か用カ?』
カフェにそっくりな彼女…お友だちがこちらに目を合わせ質問してきた。カフェ以外に目を合わせる機会があるのは俺だけだからよく目を合わせたがるのだ。可愛い奴め!!
「いや、タキオンが朝から見当たんなくてな…ちょっと手伝ってくれない?」
『ハ…?』
…なんでそんなに驚いてるの? あれ? もしかしてそんなにタキオンのことが嫌い?
『そうではナイ…。もしかして…ジョークなのカ?』
「いや、大マジなんだが…」
俺がそう言うと、お友だちは後ろに指をさした。振り向いてみたが、ただソファがあるだけだ。
「誰もいないけど?」
『アホ、目を【良く】シロ』
…ああ、そういうことね。一度幽霊を視認したらオフにしても1時間は見えるから切っていた。オンのままは疲れるからな。
早速俺は目を『良く』し、再びソファを見た。すると…
なんということでしょう。さっきまで誰もいなかったソファに、スヤスヤと気持ちよさそうに寝ているタキオンがいるではありませんか。
「…いや、なんで!?」
おまえどうして透明になってるんだよ!!おまけにキチンと服まで透過して!!
こういうのは服は透明にならないだろ!! どうせなら、どうせなら…
…やめよう。ガイドライン違反だ。
『ここで何があったか…説明、いるカ?』
「…頼む」
______
あれは、今朝のことだっタ。
「もう少し…もう少しだ…」
アイツ…タキオンが朝早くから何かを作ってイタ。いつもより目がキまっていたガ、今考えるとあれは寝不足だったのダロウ。
「後は調合薬AとBを1:2で混合させれば…ついに出来たぞ! 『透明になれる薬』!!!」
透明、カ。
作ったということ自体は大したことダガ、そんなものを作ってどうするというのカ。
人から見られないことを良いことに悪事を働ク…コイツならやりかねんナ。
「早速モルモットくんに飲ませて実験を…いや、彼はこの薬のことを知らない…なら、自分で飲んで驚かしてみようか…
それがいいねぇ!! いないはずの人から声を掛けられたらどういう反応をするのか…実験してみようじゃないか!」
ゴクリ、と一気飲みするアホ。
碌に睡眠も取ってないのに研究研究、実験実験…アホとしか言いようがないナ。
そんなことを思いながら見ていたガ、何も変わった様子はナイ。失敗したカ。
「ハハ…どうやら薬は効いているみたいだねぇ」
ヤツは鏡を見ながらウンウンと頷ク。…ナルホド、幽霊であるオレには見えるのカ。
ならば問題ナイ。カフェに危害を加えることはできないナ。
「それにしても、この薬は苦いねぇ…紅茶とカップ……カップは…カフェのでいいか」
バシンッ
「い゙っ__」
良い訳ないダロ、アホ。
そのカップは
「_居たのかい、カフェ」
……ハ?
辺りを見回すがカフェはいなイ。そもそも今は授業中だからいるわけがナイ。カフェはこのアホとは違ってまともなんダ。
「いやね? 私も君のものを勝手に使おうとはしたよ? しかしわざわざ殴る必要はないだろう。何故暴力を振るったんだい? ……なるほど、確かこれは君のトレーナーから貰ったものだったねぇ。つまり君はそれを使われたくないあまりに私を殴った、という訳だ。いやいや、君のトレーナーへの独占力がそれほど大きなものだったとは…私の予想を遥かに超えていたよ。流石は血に飢えた猟犬(笑)といったところかねぇ。そもそも_」
ナニやらペラペラと言っているガ…コッチはそれどころじゃナイ。無視ダ無視。
しかし…オレのことが見えるようになるとハ…あの薬凄いナ…
イヤ、待てヨ……?
あの薬があれバ…誰でもオレが見えるようになるナラ…
マックちゃんとおしゃべりできる…ってことォ!?
「オイ」
「なんだいカフェ? いつにも増して言葉遣いも少々荒々しいが…本当に猟犬にでもなったのかい?」
「オレはカフェではナイ」
「ふぅン…なるほど、よく分かったよ」
何度も頷き、こちらを見てイル。ようやく分かってくれたようダ。ホラ、サッサと薬を寄越セ。
「そういうキャラ設定はデジタルくんの本で見たことがあるが…まさか、カフェもそうなってしまうとは…」
「………は?」
「ああいや、悪いと言っているわけではない。君がそういった妄想するのは自由だ。そこを否定する権利は私にはないからねぇ。ただ…何でいきなりそんな妄想をするようになったのかは興味がある」
椅子に座り、紙とペンを取り出す。そしてオレに再び話しかけてきた。
「さあ、教えてくれたまえ!! 君が何故過去にもしていた妄想を再びするようになり、どのようにしてイタさ全開のオーラを発揮させているのk…キュウ」
「寝てロ、アホガ」
寝不足で限界だったのカ、急に倒れ込んでしまっタ。決して気絶させたりはしていナイ、いいナ?
_それにしてモ…あの薬のことはカフェに伝えていた方がいいだろウ。
キーンコーンカーンコーン
どうやら昼休みのようダ。ちょうどイイ。伝えにいくとしよウ。
オとしたアホをソファで寝かせ、オレは部屋を後にした。
「タキオ〜ン、お弁当持ってきたぞ〜。あれ、どこ行ったんだ?」
____
「タキオン! タキオン!!」
「おや、私は一体何を…」
「よかった…よかったです…」
「…ああ、そうだな」
タキトレがタキオンを起こすのを2人で見つめる。タキオンの無事を知らせているうちに放課後になってしまったが、大事がなくて何よりだ…タキオンはまだ透明だが。
「……どうして、タキオンさんを殴ったのですか?」
『イヤ、オレはただ寝かそうとしただけデ…』
他方ではカフェがお友だちを問い詰めている。さっきから助けてと言わんばかりに視線を感じるが、怖いから無理。ごめん。
「掛けたまえ、お茶を淹れよう」とタキオンに言われたので素直に座る…あ、やっぱりタキトレが淹れるのね。
それにしても透明ねぇ…『良く』した俺からしたら普通に見えるが…やっぱり他の人からは後から着た白衣が浮いているように見えるのだろうk_
「同志、同志」
おっほ♡ いきなりのデジたんASMR♡
俺はギリギリで声が出るのを抑え、デジタルに続きを促した。
「どうしてタキオンさんは透明になれる薬なんて作ったのでしょうね」
「…それ、は…」
何でなんだろうか。闇のトレーナーの俺には覗きしか思いつかないが、タキオンがそんなことをするとは思えない。
『実験の許可? そんなのなくても勝手にするさ』
_みたいな態度を貫くタキオンが隠れてやりたいことなんてあるのか? いや、ない。(反語)
俺が悩んでいると、ある質問がタキオンに飛んだ。
「はい、紅茶…ところで、何でそんな薬を作ったんだ?」
「おや、気になるかい?」
「まあ、多少は…」
ナイスタキトレェ!
このままだと「覗きだろ」ってデジタルに言ってしまう所だった。ドン引きされたら生きていけなくなっただろう。
「ふぅン、良いさ。隠すことでもない_結論から言うと、取引だ」
「取引?」
「ああ。あるトレーナーが私の所に来て…いや、彼ではない」
あるトレーナー、と言った所でこちらを見るタキトレ。俺そこまで信頼ないの?と言うためにアイコンタクトで会話する。
『お前俺のことなんだと思ってんの?』
『覗き魔』
おん? やんのかテメェ?
確かにデジタルに誘われなくてもウマ娘ウォッチングはするが…薬使ってまでやるわけねえだろ!!
…落ち着こう。学生の前でキレる大人は醜い。おデジの前だし、もっと穏やかでいよう。
「『担当がサボってないか確認したい。代わりにデータを渡す』と言ってね。彼女は特殊なウマ娘だったから、win winという訳さ」
「特殊?」
特殊というと、うちのデジタルのように芝とダートを走れるようなものだろうか。
そう思い隣を見る。デジタルは「うへへェ…」と言いながら悶えていた。多分透明になったタキオンにじゅるりらしているのだろう。マジかわいい。
「タキオンが特殊って言うほどなんだから、本当に珍しいウマ娘なんだな」
「そりゃそうさ。何たって彼女は_超が付くほどズブいからねぇ」
_____
「はぁ… 嫌だなあ…」
私は普通ウマ娘ことヒシミラクル。今更衣室ですご〜く絶望している。
今日の予定はプール。トレーナーさんに物申したが、スタミナをつけるならプールが最適だと言われてしまった。
でも、今日で5日間連続になる。トレーナーはウマ娘を虐待することがお仕事なのかな?
「いっそのことサボっちゃおうかなぁ…」
そんな考えが頭を過る。うん、4日も頑張ったのだ。1日ぐらい休んでも問題ない! 今日はお休み!!
…と考えたいが、無理だろうなぁ。そもそも、5日連続プールになったのは2日目に逃げたことが原因だし。
…そろそろトレーニングの時間か…遅刻したら延長するって言われたし…行かなくちゃ。
重い足(プールに行きたくないから。決して体重が重いわけではない)を動かし、私はしぶしぶ
…………
「今日もプールだけど…ねえ、ミラ子」
「嫌です」
「…まだ何も言ってないよ?」
何も聞きたくありません。目の前の悪魔は「早くプールに入れ」とか言うに違いないです。
両手で耳を抑えましょう。少しでも聞こえないように…!
「ウマ娘の耳には意味ないでしょ、それ」
「あー、何て言っているのか聞こえませーん」
「……昨日夜食でミラ子のプリン食べt「はぁ〜!!? あんなに私のって言ってたじゃないですか!!!」…やっぱ聞こえてるじゃん」
はっ! つい返事をしてしまった!!
「プリンは食べてないよ。それで本題だが…急遽予定が入った。だからミラ子のプールを見れない」
え、それって…
「今日は休みですか!??」
「じゃあ何で水着を着せてると思う?」
「え…トレーナーさんが伝えるのが遅かったから…なーんて…?」
「……ハッ」
「笑うことないじゃないですか!!!!」
何でこう…トレーナーさんって私を苛立たせることに長けてるのでしょうか。そろそろ私も怒りますよ??
「今日は自主練ってこと。1人でやっててね」
「1人で!!? 嘘ですよね!!?」
「溺れかけたら助けてもらうよう周りに言っておいたから大丈夫! じゃあ頑張って!!」
「いや、頑張ってって言われても…行っちゃた」
…とりあえず落ち着いて考えよう。
えっと、今からプールだって時にトレーナーさんが急用が入って、それで1人でプール練習をしていろと…
殺す気ですか?
「いや無理無理! 死ぬ!! 溺れ死ぬ!!!」
私が泳げないことを知ってて放置? 正気ですか?
周りが助けてくれるとしても普通担当バを置いていくものなんですかね??
やっぱりサボりましょうか? 明日明日トレーナーさんにバレても「命を危機を感じました」と言えば許してくれる…はず…!
というより、私がサボってもトレーナーさんにはバレないのでは? 今日は他のトレーナーさんたちもいないようですし…
う~ん…
「帰ろう!」
自分の命を守るためです。仕方のないですよね。
久々の休みだなぁ~! ずっとプール続きだったから体も痛いし、今日はだらだらしますかねぇ?
カン! カン! カン! カン!
あ、それとも何か食べに行きましょうかね?
うん、そうしよう! 何食べようかなぁ……!
カン! カン! カン! カン!
ここは定番のお好み焼き…あ、でも新作のはちみーが出たみたいなんだよねぇ…
どっちにしようかなぁ…?
カン! カン! カン! カン!
そうだ! どっちも食べたら良いんだ!
カロリーは…ほら、最近体絞ってたし、大丈夫大丈夫!!
「お い」
え…うわあああぁぁぁぁぁぁ!! 缶が浮いてるぅぅぅ!!!
「お前何してるんだ!? あ゙!!?」
その声はトレーナーさん!? なんで!?
「言えないってことは…そういうことでいいんだよなぁ!!?」
「いや、違っ…そんなことより、どうして透明になっているんですか!?」
「…そんなこと、だと?」
あ、やば。
「お前がサボろうとしてたんだろうが!! オラッ! 今日は25M20周だ!!」
カン! カン! カン! カン!
「うわああああん! トレーナーさんの鬼! 悪魔! プール調教師!」
「ヒソヒソ…見てあれ…」
「ヒソヒソ…あれそういうプレイよ…」
「ヒソヒソ…そうよね…爛れてるわ…」
__________
アグネスデジタル:タキオンさんのことが心配で心臓が張り裂けそうになった(本人談)
この後実験を手伝った。
アグネスタキオン:薬を完成させてからの記憶がない。
最初からスパートをかけることができるミラ子に興味がある。
マンハッタンカフェ:カフェトレが来るまでお友だちを怒ってた。暴力ダメ、絶対
カフェトレが来て落ち着き、事情を知ると怒りの矛先はタキオンに向いた。
お友だち:タキオンのせいで怒られタ。オレは悪くナイ。マックイーンのため実験体になった。
ぶっちゃけ血に飢えた猟犬はないと思っている。
ヒシミラクル:プールの後にお好み焼きを奢ってもらった。嬉しい。
はちみーは駄目だと言われた。悲しい。
デジトレ:RTA完走した感想は「余裕でしたね」(震え声)
この後実験を手伝った。
タキトレ:タキオン見つかって一安心。安心したらオレンジに光ってた。
この後実験を手伝った。
カフェトレ:今回出番なかった。ごめんね(作者)
この後カフェをいっぱい甘やかした(宥めた)
ミラ子トレ:なんだかんだ5日間泳いだミラ子を偉いと思っている。
はちみーは翌日奢った。
ブルアカ〇夢語録を言いそうなウマ娘ステークス
??「んあーっ! (風水的に)枕がデカすぎ_」
??「リッキーやめなって! トレセンでは〇夢ごっこは恥ずかしいんだよ!」
??「え…?」
??「……え?」
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どぼめじろう、脱稿しろ
10000字超えてます。
「邪魔するのだ」
牙と言えるほどの鋭い歯、それに加え『のだ』という語尾が特徴的なウマ娘…シンコウウインディ。
悪戯が好きで良くヒシアマ姉さんに怒られてるが、かまってほしさにやってると考えると実に可愛げがある娘だ。たまに悪戯に加担すると喜ぶ。かわいいね。
そんな彼女が大きな麻袋を担ぎ相談室に来た。その麻袋は何かモゾモゾと動いており、誰かが中に入っていることが容易にわかる。
またイタズラか? と思ったが、ウインディの後ろからデジタルがついてきていることで察した。
「あー、これは…
「はい…
デジタルが答える。その言葉を聞いた俺は鍵で部屋のドアを閉めた後、金庫の中に入れた。ガチャリという金庫が閉まる音が響いた時、麻袋の動きが止まった。おそらく、もう逃げられないことを悟ったのだろう。
ウインディが麻袋を降ろしながら、冷たい声で言い放つ。
「今日こそは絶対に逃がさないのだ__」
麻袋が開かれた。中に入っていたのは__
「__どぼめじろう」
同人作家 どぼめじろう ことメジロドーベルであった。
____
メジロドーベル…名前の通りメジロ家のウマ娘でクールビューティー。黒髪ロングで正統派お嬢様感が凄く卑屈な一面もあるウマ娘だ。俺はこういう娘に弱いんだ。好き。
前世では自作の少女漫画があるという設定だけで頭古手川扱いされた『風評被害ステークス』上位のキャラであったが…
「それで、どのくらい終わっているんだ?」
残念なことに今世でも変わらないようで『どぼめじろう』という名前で同人作家をしている。
そして、3人が同時にここに来たということは、十中八九コミックウマーケット…通称ウマケの原稿が終わっていないのだろう。どぼめじろう、どうしてこうなった。
俺の言葉を聞いたデジタルとウインディはドーベルの方を向き、ドーベルは質問に答えず終始無言であった。
「まさか…何も終わってないのか?」
キッ
やば♡ 睨まれてる♡
「…プロットも終わってないのだ」
「ちょっと、『ラモ×ラモトレ』本ということは決まってr 「それは終わってると言えないのだ!!」……はい」
「そこのデジタルを見るのだ。年末にも出走するのにもういつでも入稿できるのだ。しかもどぼめじろう先生との合同同人誌だけじゃなく新刊を5冊、さらにもう1冊描こうとしてネームまで終わっているのだ。エリ女で今年は出走し終わったどぼめじろうはどうなのだ? ウマッターを見ても『ダブルスイカできた!』『全部の異変見つかった!』『RPGリメイク全クリした!』_」
はぁ、とため息を吐き呆れるウインディ。流石にこれ以上は…と思ったデジタルが待ったをかけようとする。
「あの…デジたんは別に合同同人誌を作らなくてもいいですから…」
「そういう訳にはいかないのだ」
ポケットの中から1枚の手紙を取り出す。
「これはどぼめじろうのトレーナーからの手紙なのだ。読むから聞いておくのだ」
驚くどぼめじろうを横目に見つつ、ウインディは読み始めた。
サンビーム先生へ
お願いです。ドーベルに原稿を描かせてください。彼女は9月の頭に『デジタルと合同同人誌を描くことになったの!』と私に教えてきました。あの時の笑顔は今でもハッキリと覚えています。それなのにやる気が原因で描かなかったらデジタル先生にも迷惑ですし、なにより彼女自身が後悔することでしょう。後になって後悔し涙を流すドーベルの姿は見たくありません。なのでどうか、どうかドーベルに原稿を描かせてください。よろしくお願いします。
Oh…ベルトレェ…
とても切実なベルトレの想いが書かれたものだ。心中お察しします…
ここで三者の反応を見てみよう。ドーベルはどこか落ち込んでいる。きっと『トレーナーから心配されたことは嬉しい…。けどアタシはここまでしないと描かない娘だと思われているの…?』とでも思っているのだろう。そりゃそうじゃ(オーキド)
デジタルは昇天しかかっている。おそらく『ハァ~ッ、トレーナーが担当ウマ娘ちゃんを想う気持ち…良いッ!』だろう。良いよねトレ×ウマ。ウマ×ウマも好きだが。いつも通りで可愛いね♡ おデジ♡
ウインディは…なんか葛藤してるな。多分『そもそも何でウインディちゃんがこんなことしなきゃならないのだ…?』かな? 可愛そうなサンビーム先生…
「あ、こっちはどぼ先生宛なのだ」
我に返ったのかウインディは手紙をもう1枚取り出し未だ頭を悩ますドーベルに渡した。
とりあえず読んでみることにしたドーベルは…まるで『ボンッ!』という効果音が聞こえるかのように急に顔を赤くさせ、手で顔を隠した。そしてやけに耳がピコピコと動いている。よほど何かクる内容が書かれていたのだろう。
読みたいが…ここで読みたいって言ったらどうなる? Noという答えしか返ってこないだろう。
でも読みたいンゴ…せや!(なんJ)
目を『良く』する。 と言っても、前のように幽霊がいるわけでもない。
対象は目の前の手紙だ。なんとこの目…透視もできる!
透視できる対象に制限はない。人、物…もちろんウマ娘にもできる。
…最も、生物に使っても服だけの透過はしてくれない。具体的には筋肉が見えるほどだ。本気を出せば骨も見える。……昔はどうにか服だけ透視できないかと血涙を流してたもんだなぁ…
まぁいいや。サッサと見てみるか。どれどれ…
うーん…ただ応援する手紙のようだが…おや?
『9月のあの時のキミの笑顔はとても可愛かった』
『頑張るドーベルのことが好き』
『終わったら2人でどこか遊びに行こう』
ゴフッ!!!
「どうかしましたか?」
「いや…大丈夫だ。気にしないでくれ」
なんだこの…この砂糖多めの文は! こんなんもう告白やん!!
そしてスパダリときたもんだ…はー、羨ましい。こんな人俺にも欲しい…いや俺はなる側か。
「アタシ…描くわ!」
「どぼめじろう、先にプロットを…まぁ、とりあえず様子を見るのだ」
ドーベルがトレーナーからの愛の手紙により(珍しく)自分から取り組む。それを見たデジタルも描き始めたので俺とウインディは2人を見守ることにした。
そして時間が経ち…どぼめじろうのネームが終わった。
「やっぱりやればできる娘なのだ。どぼめじろう、ちょっと確認させるのだ」
どぼめじろうをどかして確認するウインディ。凄い…本当に編集者みたい。
「ふむ…中々悪くないのだ…は?」
好感触かと思われた瞬間に不穏な声を出す。読み終わると、ため息をつきながら言った。
「……なんでなのだ」
「え?」
「なんでこんな内容にしたのだ…」
項垂れるウインディ。その反応を見て気になったデジタルも覗き込んだ。
「ふむふむ… えェッ!!2人でクレープを食べる!?あのラモーヌさんがァ!!?それでいてラモーヌさんがラモトレさんのクレープを_しかもこれ、食べてる所がッッ!あッ!! どぼめじろう先生っ、ネームなのでまだ描かれてませんが、やっぱりこのシーンってラモーヌさんは…」
「うん。完全に間接キスになっているから少し頬を赤らめるようにする…かな」
「で す よ ね ェ ! ! あ、いや、デジたん的には『トレーナーに対して恥じらいを全く感じず押すラモーヌしゃん概念』も良いですよ! でもやっぱり『言動では押せ押せしつつもやっぱりどこか年相応の恥じらいを持つラモーヌしゃん概念』も……いやぁ〜、良い!凄く良いッ!!それでそれで、次のシーンはぁ!! …あっ」
何かを察しながら、少し顔がぎこちなくなりながら読むデジタル。「いや、これはこれで…アリ、ですね!!」と言った後は、またも色々と興奮しながら読んでいた。可愛い。
最後まで読んだデジタル「我満足、故に我天界へ逝かんとす…」と言いながら尊死した。よし、今なら読んで発狂してもバレないな。
「俺も読んでいい?」
気になっていたので許可をとると、どぼ先生は二つ返事で承諾した。なんでも男の人としてどう思うか答えてくれとのこと。
内容としてはチケットを貰ったから2人きりで某遊園地に行くというもので、途中ハプニングがあったが最後は観覧車でラモトレが
「俺、頑張るよ!ラモーヌがずっと…いや、一生レースに出れるように!」
と半ば告白(のようなもの)をした後、ラモーヌが「あら…」と言ってトレーナーに近づき
「なら…報酬が必要ね」
頬にキス。驚くラモトレに「__ひどい顔」と言い捨て外を見始める。そして観覧車から降りるまで絶対に顔を合わせようとしなかった_
メジロって皆こんなんなの?
どいつもこいつもいちゃつきやがって…ズルい。俺もおデジと2人でお出かけとか行きたい。
…さて、現実逃避は終わりにして、今度こそちゃんと読むか。
ページを戻す。何故って? そりゃ読み飛ばしたからさ。
読み飛ばしたページの内容は遊園地のハプニングだ。ラモーヌがトレーナーとはぐれたっていう内容で、家族とはぐれた少年を元気づけ迷子センターまで送るっていうのは流し読みで分かってるんだが…
どうして少年視点で描かれているのですか?
ラモーヌ視点で描けばいいものをわざわざそうするとは…どぼ先生クオリティだな。ぶっちゃけ読みたくない。俺の中で危険信号がめっちゃ鳴ってるから。
…しかし、感想を言うと言った以上くよくよ言ってられないし…読むか。
_________
僕、濃葉 海。今日は家族で遊園地に来たんだ!でも…
「おとうさぁん、おかあさぁん、どこぉ?」
僕、迷子になっちゃった。1人で怖いよぅ…2人ともどこに行っちゃたの…?
このまま見つからなくて、もう一生会えなかったら…うぅ…どうしたらいいの…?
そう思っていると、誰かが僕に話しかけてきた。
「ねえ、坊や」
僕は顔を上げてその人を見た。その人はしゃがんでいたからすぐに目と目が合った。
僕にはない大きな耳から話しかけてきた人はウマ娘だったことにすぐに気づいた。お母さんはウマ娘じゃないからお姉さんみたいな大人なウマ娘と話すのは初めてだ。
「お姉さん、だれ?」
その質問にお姉さんは答えることなく、僕に質問してきた。
「そうね_質問に答える前に訊きたいことがあるのだけど、よろしくて?」
「…うん。いいよ」
「なら訊くわ。あなたが今すべきことは泣くことなの?」
驚く気持ちで頭がいっぱいになって「え?」と言ってしまう。でも、お姉さんはそんな僕に構わず話し続けた。
「下を向いてメソメソと泣くことがあなたが今やるべきことなのか_そう訊いているのだけど」
いきなりキツい言い方をされたが、どうにか落ち着いてその言葉の意味をゆっくりと考える。僕が今やるべきことは、泣くことなのかって?
_違う、泣くことじゃない。お父さんとお母さんを見つけることが、僕が今やるべきことだ。
そんなことを考えていると、でていた涙は止まっていた。
「_そう、よろしくてよ」
そう言いながら、お姉さんは僕の頭を撫でた。お母さんとか学校の先生も褒める時に撫でてきて、その時にはただ嬉しいと感じるだけだったけど、お姉さんが撫でるのはいつもと何かが変わっていて、ただ嬉しいと思うだけじゃなくて、なんだか心臓がとてもドキドキしていた。
「もう一個訊くわ。じゃあ、あなたは今からどうすればいいと思う?」
「…お父さんと、お母さんを探すこと」
「なら、どこに行けばいいかしら」
お父さんとお母さんに、必ず会える所…?
僕は夢中に考えた。すると、ある1つの答えが浮かんだ。
「迷子センターに行って、お父さんとお母さんを待つ!」
そう言うと、お姉さんはどこか嬉しそうにしながら立ち上がった。
「_賢い子は嫌いじゃないわ。ほら、行くわよ」
お姉さんは僕の手を握って連れて行こうとする。急に手を握られてドキッとして、つい叫んでしまった。
「お、お お お姉さん!?僕、1人でも行けるよ!!?」
「自分で言うのも変だけど、私がここまでするのは珍しいのよ」
だから大人しくついてきなさい、と言わんばかりに僕を引っ張るお姉さん。僕は諦めて歩き始めた。
_なんで手を繋いでるだけなのにドキドキするんだろう。こんなの、今までなかったのに。
____
「ねえお姉さん」
歩き始めてしばらく経って、僕はお姉さんに話しかけた。
「何かしら」
「どうして泣いてた僕にこんなに優しくしてくれるの?」
最初から思っていた疑問だった。働いている人に僕のことを伝えたら彼らがどうにかしてくれる。わざわざ僕に話しかける必要なんてなかったのだ。
それに、今もこうして僕を迷子センターに連れて行こうとしている。
「そうね_」
立ち止まり、僕の顔をじっと見る。恥ずかしくて目を逸らしたくなったが、見ている内に段々とお姉さんの瞳に吸い込まれるかのように魅入ってしまった。
「ただの、気まぐれよ」
何か他の理由があるかのような言い方をするお姉さん。気になったが、僕の心臓はドクドクと鳴っていて質問どころではなかった。
「あなた、レースはお好き?」
お姉さんが質問してきた。僕はレースが好きだ。ウマ娘の真剣な顔、『勝つ』という気持ち、それらによって発生する疾走感…初めてお父さんがレース場に連れて行った時から、僕はレースの虜になった。
そのことをお姉さんに伝えると、今日1番の笑顔になりながら話した。
「あなたも、レースが好きなのね」
「お姉さんも、レースが好きなの?」
「ええ_愛しているわ」
そう言っているお姉さんの顔は…色っぽい、と言うのだろうか。とても素敵で、まるで、いつまでも見ていられるような_
_ああ、分かった。なんで、僕がこんなにドキドキしているのか
「お姉さん、勝負しよ!」
「…勝負?」
「僕がトレーナーになったら絶対1番強いウマ娘を育てるから!お姉さんはその娘と勝負するの!」
「あら_楽しみね。期待して待っているわ」
_僕は、お姉さんのことが好きになったんだ。
____
「お姉さん、僕もう平気だよ」
迷子センターに着いて、アナウンスもしてもらった。多分10分もしない内にお父さんとお母さんが来る。お姉さんと別れるのは残念だが、これ以上迷惑をかけるのも良くないと思った。
「気にすることはないわ。私は居たくてここに居るの。それに_」
「…それに?」
「_いいえ、何でもないわ」
違和感
今、何かを言おうとして言わなかったお姉さんが途轍もなく美しく思えた。…いや、それだけだとおかしくはないのだが、今の瞳が、どこか遠くを見ていて、何かを期待しているような…そんな眼だった。
「本当?」
「_ええ。問題ないわ」
違和感
やっぱり、お姉さんの眼が変だ。きっと今の言葉も嘘だろう。でも、これ以上質問しても…
『本当の本当に?』
『…しつこいわよ』
『…ごめんなさい』
『はあ…もう少し、賢い子だと思っていたのだけど_残念だわ』
いや、これでいい。
きっと、僕には関係のないことなんだ。そもそも、なんでもかんでも気になるからって質問するのも良くない。決してお姉さんに嫌われたくないからではないぞ、うん。
それに…お姉さんはきっと…僕のことが好きなんだ!だって、初めて会った僕にこんな優しくしてくれたり、頭を撫でたり、でも、それらは『気まぐれ』ってお姉さんは言うし…
そう!これらは照れ隠しだったんだ!!もっと言うと、さっきお姉さんは『賢い子は嫌いじゃない』って言ってた。これはつまり
こういうことだ!お姉さんは僕のことが好きなんだ!!
そんなことを考えていると、スッと気持ちが落ち着いた。そして、別の話題を振ろうとお姉さんに話しかけようとした。
その時だった。
「ここにいたのか、ラモーヌ」
その人は、僕よりの年上で…多分、20歳前半くらいの人だった。迷子センターに今いるのは、僕とお姉さんだけだ。でも、僕はこの人を知らない。
「あら、やっと来たのね」
お姉さんが話しかける。この男の人は、お姉さんの知り合いなんだろう。それだけなら何も問題ない。それだけならば。
しかし、僕は気づいた_気づいてしまった。
お姉さんの瞳が、レースを愛していると言っている時と同じだったのだ。
(あれ……?)
頭をハンマーで殴られたかのような衝撃が僕を襲った。その場で倒れそうになったがなんとか持ち堪え、必死に考える。
お姉さんは、僕のことが好きじゃなかった…?
……いや、そんなことはない。僕の見間違いだ。ちょっと自分よりもいい男の人が現れたから、きっと動揺してしまったのだろう。
そうだ。そうに決まってる。だって…そうだろう? そうであってくれ_
「私、貴方がいなくてさみしかったのよ_ほら、こういうことをしたくなるぐらいに_」
「指を絡めたくなるぐらいって…ねえ、これって冗談なの?」
「ふふ…どうかしらね_」
_脳破壊なんてごめんだね
いつもの僕ならそう言って「推せる~」と現実逃避した
だが 目の前には初めて会った美しいウマ娘のお姉さん
恐らく将来も含めて1番好きだと思う人
否定したくなった
ねじ伏せてみたくなった
僕のこの恋が叶わない原因 その頂点を
自分を肯定するために いつもの自分を曲げちまった
_その時点で負けていた
意識を失いかける中、再びお姉さんを見る。…やはり、彼と一緒の時の方が楽しそうに見えてしまう。
_
他人が自分を好きになることはない
そういう
『最期に言い残すことはあるか?』
『…ねえよ』
どこかから聞こえた声にそう返す。もう脳破壊されるっていうのに、何も言うことなんか…
点滅する視界から質問の主が見える。__あれは僕だ。未来の僕だ。
なら…言っておいてもいいかもしれない。
『12~3年もしたらトレーナーになってやる。____好きにしろ』
「ところで、何で迷子を連れて行ってあげたの? いつもなら他の人に任せそうだけど」
「そうね_以前貴方のアルバムを見せてもらったでしょう? あの子の顔がどこか似ていたのよ。……トレーナーになるって言ってたわ」
「へぇ…将来知り合いになるかもね」
______
「_タルッ!デジタル!」
__はっ! あたし今まで意識飛んでました!?
気が付くとドーベルさんが私を揺すって覚醒させてくれていました。真っ先に読ませてくれて覚醒もさせてくれるなんて…しゅごい…好き…
「あ、ありがとうございます。いやぁ~それにしても凄いですね完成してない本でトブだなんて…やっぱり凄いですよ先生ッ!」
「あ、ありがと…ってそうじゃなくて、あれ!」
どうなってるの!?と言いながら指をさします。一体何があったのか…
oh…
トレーナーさんが完全にフリーズしちゃってますね…
「私の本見てからあんな風になっちゃって…私、どうしたらいいのか…」
「う~ん…全く動く気配がないのだ」
ウインディさんがウマ娘パワーで小突いたり引っ張ったりしまいますが1mmも動いてないですね…それにしても、何でああなってしまったのでしょうか。
どぼめじろう先生の本…脳破壊の表現…あっ!
「なんてことを…デジたんが…デジたんがしっかり止めていれば…」
「ねえ、あれどうなってるの? まさか…しn」
「いえ、あれは恐らく…」
言おうとした直前にトレーナーさんが活動を再開しました。…さて、あの本はセーフだったのか、アウトだったのか…
「…なり…ますね…」
「ん?今なんて」
「少し…横になりますね…」
あ、駄目みたいです。ふらつきながらソファに向かって…布団で隠れてしまいましたね。
「先生の本がアウトだったみたいですね」
「アウトって、何が?」
「……脳破壊…?」
サンビーム先生はどうやら分かったようですが、まだどぼめじろう先生がピンときていないようなので言うことにします。
「トレーナーさん、NTRとか、BSSとか…そういう脳破壊系が無理だそうで…。過去に私が描こうとした時もああなってしまって…」
私もあまり好きではないですが、トレーナーさんは重度のアレルギーみたいですね…
2人が驚いている(呆れてる?)なか、トレーナーさんの右手が布団から出てきました。何やら紙を持っていますね…
「えっと…『内容もひっっじょうに良く、観賞用、保存用、布教用、崇拝用、スペア、スペアのスペア の6冊ほど買いたくなりましたが、やはりここまで脳破壊の表現をするべきだったのかという疑問があります。せめて、少年視点ではなく、ラモーヌ視点にしてトレーナーとじゃれている裏でデフォルト絵に雷が落ちている、などの穏やかな表現の方が見ている読者の脳も破壊されずに済むと思います。P.S 続編希望』…だそうです」
「これ本当にキツイと思っているの?」
…まあ、HPが低い人がやる行動には見えませんね…やっぱり問題ないんじゃないんでしょうk…あ、駄目です。布団越しでも震えているのがわかります。ギリギリ崩壊してないってぐらいですかね?
「…まあ、一理あるのだ。この本の本題はあくまでラモーヌとそのトレーナー、それをこの部分が妨げていること自体は事実…こいつみたいな被害者が出るのは自明の理なのだ」
「…そうね。だったらおまけページ…いや、f〇nboxかな?」
「それがいいのだ」
どぼめじろう先生も変えるみたいですね。良かった…実際あたしも読んでるときギリギリでしたから…
「ほら、トレーナーさん。先生が内容を変えてくれるみたいですよ」
布団をまだ被っているトレーナーさんに話しかけます。このまま落ち込まれても困りますしね。
…出てくる気配がありませんね…まあ、お気持ちはよぉ~く分かります。もう干渉するのはやめておきましょう…おや?
急にトレーナーさんが起き上がりましたね。そしてこっちにやってきて急に抱きしめてきました…急に抱きしめてきた!!?
「あっ意外と体ごつい…じゃなくて!!トレーナーさんッ!!!? 急にどうしたんですか?!」
あたしが尋ねてもずっと無言です…先生方も何も言わないですし… ヒョエエ…もうなにがなにやら…
「デジタルゥ…」
トレーナーさんがあたしの名前を呼んで涙目になっていきます。
「そうか、分かったのだ!! デジタルのトレーナーはどぼ先生の本の影響で自分がデジタルの担当じゃなかった時を想像して今の状態になってしまったのだ!」
「ただの被害妄想じゃない!!」
「オタクはよくネガティブになる生き物なのだ!!!」(諸説あり)
…お二人が仲良く戯れていますが、それを気に留めることなくあたしは少し邪な考えを持ってしまいました。
(うわぁ、トレーナーさん…かわいい…)
…待ってください!デジたんの頭がおかしくなった訳ではないですって!!
だって皆さん考えてみてください!『いつもこんなあたしのことを第一に考えてくれて共通の趣味もある(あたしにとっての)スパダリが急にしおらしくなってあたしに抱き着いてきている』のですよ!!
そんなの正常でいられるわけないじゃないですかッ!!!ギャップ萌えですよギャップ萌え!!
…だから、あたしも変になっていたのでしょう。
「…トレーナーさん」
腕を回し抱き返して…いわゆるハグをしているかのような状態になりました。距離がより近くなってトレーナーさんの心地よい匂いを感じます。
「大丈夫です…デジたんはここにいますよ…」
「うう…デジタル…」
耳元でささやくとさらに抱きしめてきました。こうやって密着してるとなんというか…その…
すごく…幸せですね…
「…ねえ、もう一冊描いていい?」
「まぁ…間に合うなら構わないのだ」
___________________________
今日はウマケ当日、アタシはトレーナーと一緒にサークルを切り盛りしていた。
アタシは売り子、トレーナーは『どぼめじろう先生』として販売している。壁サーではないけど、2人で回すには忙しく感じる…まあ、トレーナーとの共同作業だと思えば、悪くないけど。
「すいませ~ん。新刊1冊おねがいしまーす!」
「はい。分かりました」
チラッとトレーナーの方を見る。どうやら若い女性客を相手にしているみたい。
手元で行っている作業を止めないようにしながら、2人の会話に耳を傾けた。
「それにしてもどぼめじろう先生って素敵ですね~! 絵も上手で優しくて見た目もカッコいい!!」
「ははは、ありがとうございます」
「あの、もしよかったらこの後一緒に回ってくr『キッ!!!』ヒッ!!」
慌ててその女性は去って行った。アタシのトレーナーに色目使うから悪いのよ。
…はぁ、またアンチコメ増えちゃうな。
「あら、可愛い売り子ね」
「あ、ありがとうございm…」
頭を下げ落ち込んでいるアタシの前で誰かが言う。女の人に言われることは珍しいなと思いながら顔を上げようとした。
瞬間、撃たれたかのような衝撃がアタシを襲った。
「どこか、体調が悪そうに見えるわね」
「えっ、あっ…どうして…」
目の前のウマ娘を、私は知っている。
青鹿毛、美貌、立ち振る舞い…間違いなく、アタシの目の前にいるのは__
「ラモーヌ…さん」
「ドーベル__少し、お時間よろしくて?」
_________________________________________
アグネスデジタル:アーメン、どぼ先生。
メジロドーベル:ドウシテ…ドウシテ…
シンコウウインディ:真っ白に燃え尽きた。子分と遊んで元気になった。
メジロラモーヌ:様々な愛を見れると聞いて参上。どぼめじろうの本はおおむね満足。
デジトレ:ラモーヌ呼んだ元凶。
ベルトレ:ドーベルと年末デート(?) 。ラモーヌが来ることは知っていた。
ラモトレ:ウマケでレースについてまとめた本を出した。プレミアついた。
濃葉 海くん:12~3年後にメジロになった。
1話が面白くなさ過ぎる。書き直そうかなぁ…
次から1人称になります。3人称マジで分からん…
追記:1話も2話も書き直したで。
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