妖精の翼 ~新たなる空で彼は舞う~ (SSQ)
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紹介
人物紹介


主人公紹介&ヒロイン(予定)
(将来的にはきゃっきゃうふふみたいな展開にしたい作者)

他の方は順次出していきます。



フレデリック・T・バーフォード

階級 大尉

今作品主人公。地上では、仲間とはそれなりに会話をするが、空に上がると味方と戦果どちらかを取るべきかとなったら戦果を優先する。

しかし、貸し借りは律儀に返すところがある。かつての部隊では人とコミュニケーションをとることを大事にしていたが僚機を失ったあたりから急激に人を避けるようになる。

表面では普通に会話をしていてもそれ以上の付き合いは徹底して避けるようになる。

TAB-14が壊滅し部隊が再編される時の騒動とスーパー婆さんによる人員補給要請が重なりセントラルコンピューターのジャッジにより、特殊戦に配置された。

ただ、特殊戦に求められる完全個人主義で機械的な理性をそこまで、持っているのかという意見もありセントラルコンピューターに再検討を要請するも、問題なしと判断された過去がある。

部隊ではそれなりに上手くいき、ジャックとも友達になれたほど。

しかし特殊戦では、人付き合いはそれほど悪くはなかったため、特殊戦としてどうなのかという意見はいまだ残っている模様。異常な人員が集まったエース部隊ということで少し性格が戻ったのではないか、というのが担当医の報告。

こちらの世界にきて、回りがほぼ180度変わったためか少しずつ性格も変わっていく。

3番機に続き、戦果が高かったためFFR-41に乗ることに なる。コールサインは「B-14」

FAF撤退戦では、なんとか生き残るも核爆発に巻き込まれる。

元前線基地TAB-16 戦術空軍第1666戦術戦闘飛行隊

-666TFS 通称「スティンガー隊」4番機。(自己設定)

特殊戦第5飛行隊 通称「ブーメラン飛行隊」14番機

パーソナルネーム「ガルーダ」

ブリタニア空軍特殊戦術航空隊第2飛行中隊第21攻撃飛行隊

FFR-41 メイブ(世界線:ジャム)

FRX-99無人偵察機を有人化出来るようにしたもの。

ただし特殊戦で主に使うため、偵察機。

ステルス性、高起動性を意識した前進翼機(ただし高速時は翼が後進翼になるため、正確には可動翼)。

元が無人機だけにセーフティを掛けないと高起動性故に起こる高Gに人間が耐えられない程の旋回性能を持つ。

エンジンは「スーパーフェニックスMk.11」

機動力より速度を重視した設計になっており、その速さはFAF主力戦闘機 シルフィードがアフターバーナーを点火して追いかけてもスーパークルーズ状態で十分に逃げ切れるほどの出力を誇る。

 

FFR-41(世界線:ネウロイ)

基本的には変わらないが機体がそのまま性能をとどめたままストライカーユニットになったと思ってもらいたい。

ただし、ミサイルのような何かを自身の魔力から生成して発射可能。1回の出撃で8発分が限度。

 

 

固有魔法:思考加速

自分の脳の思考処理割合を20%程に増やすことにより思考速度を1.1~400倍に自由に変えることが出来る。

制約として魔力回復速度を考慮して1日に加速できる時間は 現実時間で30秒程。

武装

M82A1とよく似た狙撃銃。

 

ウィルマ・ビショップ

階級 軍曹

妹とは異なり、行動力の塊のような人物。

ブリタニア空軍の入隊審査、訓練期間が長いと知るや、新大陸のブリタニア連邦・ファラウェイランドに単独行、航空歩兵の資格を得た後、ブリタニア防衛の戦力派遣組として欧州に戻ってきた。ワイト島分遣隊配属となり、問題児だらけのチームを纏めるムードメーカーとなる。 (ピクシブ大百科より)

固有魔法 「魔弾」

使用武器 12.7mmM2重機関銃、M1919A6、ボーイズMk,1対装甲ライフル

 

角丸美佐

階級 中尉

ワイト島分遣隊隊長。元は扶桑皇国陸軍第50戦隊に所属していたが戦闘で負傷してしまい療養もかねて、ワイト島の隊長になった。

固有魔法 金剛力

本人曰く「物質に魔力を通し、対象に魔力を徹す。」

具体例を挙げれば、短刀をネウロイに突き刺して、金剛力を発動させ短刀をぶっ刺してネウロイを撃墜。

一言で表すなら"筋肉解決(?)"。

 

アメリープランシャール

階級 軍曹

当初はターンハウス基地に配属する。その後自由ガリア空軍アルザス航空隊に転属となりテットリング基地に異動。ペリーヌ・クロステルマン中尉の僚機を務めることになった。

ペリーヌが第501統合戦闘航空団に転属となった後、程なくして北アフリカ方面へ転属する。当地で撃墜戦果を重ね再びブリタニアに転属するし、ワイト島分遣隊へ配属される。当初はターンハウス基地に配属する。その後自由ガリア空軍アルザス航空隊に転属となりテットリング基地に異動。ペリーヌ・クロステルマン中尉の僚機を務めることになった。

ペリーヌが第501統合戦闘航空団に転属となった後、程なくして北アフリカ方面へ転属する。当地で撃墜戦果を重ね再びブリタニアに転属するし、ワイト島分遣隊へ配属される。(ピクシブ大百科)

 

フランシージェラード

階級 小尉

リベリオン出身のウィッチ。小柄でやや傲慢な態度で、当初赴任したばかりのウィルマ・ビショップのことはあまり快く思っていなかった。階級は少尉であるが、リベリオンは養成学校卒業後すぐに少尉になるため実戦での戦績はほぼ皆無。シャーロット・E・イェーガーに憧れており、彼女と同じ機材を使用したりと、彼女を目標に努力している。

固有魔法 短距離加速

瞬間に爆発的な推力を得る。まだ未熟なため発動できる距離は短い。 (ピクシブ大百科)

 

ラウラトート

階級 小尉

第501統合戦闘航空団「ストライクウィッチーズ」の設立時のメンバーの一人であり、ワイト島分遣隊の中では一番の実力者。オストマルクを失い、大切な仲間を失ったからか、自暴自棄になり仲間との協調性がほとんど無く独断専行が目立った。そのことで同僚だった501JFWのゲルトルート・バルクホルンからは快く思っていなかった。

彼女をスカウトしたミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは、バルクホルンの苦情により苦渋の選択でワイト島に配置換えを命令する。その時ミーナは、ラウラに「いつか最高のパートナーができるまで諦めずに頑張って」と、言い別れる。その後、角丸美佐によってなんとか部隊に馴染むように努力している。

自分のストライカーを自分で整備したり、「アンカ」という愛称をつけたりと、とても大切にしている。 (ピクシブ大百科)

固有魔法 感覚加速

自身の感覚を加速させる。

本人曰く「空中に投げ出された食器を受け止めるのも、発射された弾丸を見てから避けるのも造作もない」とのこと。バーフォードとの違いはバーフォードは思考のみで身体事態は加速しないが思考事態の加速能力はこちらの方が上。一長一短ってところ。




大体まとまってきました。
更新速度は鈍い&不定期になると思うので
他の作者さんの良作を読みながらゆっくり待っていてください。
次回から本編。
舞台はワイト島。


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ちょいっと補足。502編

そもそも502JFWってなに?
どんなことする部隊なの?
誰が所属しているの?
という人向けに"軽く"解説します。
501しか知らない人向けです。
知ってる人は無視して構いません。



502JFWはバルバロッサ作戦に投入された部隊が母体になっています。

バルバロッサ作戦ってなにさ?

これは1940年にまで遡ります。

この年からカールスラントの政府機能をノイエ・カールスラントに移転する作戦、大ビフレスト作戦が開始されました。

それと同時にベルリンからも軍や民間人の撤退も始まりました。

一時は10万人規模で孤立する事態も発生しましたが90%程がバルトランド、スオムスに撤退することが出来ました。

そして1941年6月、スオムス方面から南下してペテルブルグの巣を破壊する作戦が立案、決行されました。

これがバルバロッサ作戦になります。

結果としては失敗。

当初想定していなかった場所からの攻撃を受けたため被害が大きくなり一時撤退を余儀なくされました。

その後中欧~東欧にかけて複数のネウロイの巣が発見されこれを破壊するために502が設立されました。

(ただ、502の基地がペテルブルグにあるということなので後に破壊されたものと推測してます。)

そして、この部隊の主任務は

カールスラント北東部をオラーシャ国境から奪還する事、スオムス方面から来たネウロイを迎撃することに有ります。

正式名称"第502統合戦闘航空団"

通称"ブレイブウィッチーズ"

他の部隊と比べてかなり攻撃的な性質を持つためユニット回収隊(エイラ姉が、ここに所属)も存在する。

東部方面統合軍総司令部(オラーシャ、オストマルクの国境からウラル山脈までと東欧諸国等)の指揮下にある。

 

隊長

・グンデュラ・ラル少佐

使用機材:メッサーシャルフBf-109G-2

年齢、18

能力不明

 

総撃墜数は人類第3位、250機撃墜到達順位は2位の化け物。

姉御キャラで優れた指揮能力を持つ。

1941年1月、バルバロッサ作戦時に負傷し一時は引退も考えられたが気合いで復帰。

復帰後も30機撃墜するなど腕は鈍っていない様子。

JG52の隊長もしていた。

当作での呼称は「少佐」

 

 

 

作戦隊長

・アレクサンドラ・I・ポクルイーキシン大尉

使用機材:La-5

年齢、16

能力、映像記憶

どんなものでも記憶できるらしい。

 

バーフォードと同じ対物ライフル(PTRS-1941)を使用する。

小さな頃から機械を弄っているため、能力もあってかユニットには詳しい。ブレイクウィッチーズが成立するのも彼女のお陰といっても過言ではない。

彼女が書いた教本はすごい人気らしく航空学校の校長にならないかといわれるくらい凄い人。

オラーシャトップクラスのウィッチ。

当作での呼称は「熊さん」

(実は声優もいます。)

 

 

 

・ヴァルトルート・クルピンスキー中尉

使用機材:メッサーシャルフBf-109

年齢、18

能力不明

 

ブレイクウィッチーズその1

楽天家でお酒好き。

彼女の戦闘スタイルを表すとしたら

"攻撃は最大の防御"。

それゆえよく壊す。ついたあだ名は「ユニット壊し」。

よく不時着もするらしい。オメガもびっくり。

実は上司の受けが悪い他の2人をかばう役割をしている優しいお姉さん。

当作での呼称は「伯爵」

 

 

 

・管野直枝少尉

使用機材:零式艦上戦闘脚ニニ型

年齢、15

能力、圧縮式超硬度防御魔方陣

つまりはめっちゃ硬いシールド

前話には書かなかったけどバーフォードのユニットが中破したのは、あの後回し蹴りしたときに拳にシールドを展開した管野にカウンターされたから。

 

ブレイクウィッチーズその2

ああ見えて昔は大人しかったらしい。

熊さんが姉に似ているためか頭が上がらないらしい。

戦闘スタイルはとにかく接近してからの攻撃。

その為、敵と接触することもしばしば。

一匹狼らしい。

当作での呼称は「管野」

 

 

 

・ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン曹長

使用機材:メッサーシャルフBf-109

年齢、15

能力、超回復

 

ブレイクウィッチーズその3

ついてない、とにかくついてない。

上条さんよりすこし幸運くらい。

ついてないためユニットをよく壊すが彼女の敢闘精神故に食らいつきながら攻撃するためさらに落ちやすくなる。

頑張ろうとするも、壊すためか上司の受けは悪い。

がんばれ、ニパ

当作での呼称は「ニパ」

 

 

 

・ジョーゼット・ルマール少尉

使用機材:VG.39

年齢、17

能力、治癒魔法

 

本作にてまだ1度も発言してない気がする。

502では珍しい粘り強い防御戦略を得意とする。

502に来る前から熊さんとは面識があった模様。

流されやすい性格で個性の強すぎるこの部隊では苦労しているらしい。

掃除が好きで邪魔されるとすごく怖いとの事。

よくつまみ食いしている。

当作での呼称は「ルマール」

 

 

 

・下原定子少尉

使用機材:紫電二一型

年齢、17

能力、遠距離視と夜間視の複合魔法

遠くをよく見える。そのまんま。

夜間哨戒も行う。

 

正に大和撫子。

502に扶桑の文化を広めようと頑張るも歪曲され正座が懲罰の対象になったりと上手くはいってない模様。

ルマール少尉と仲がいい。

料理が得意で管野の餌付けにも成功している。

坂本少佐の、元で訓練を受けていたことも。

当作品集での呼称は「下原」

 




いかがでしょうか?
とりあえず今後は「」で彼女たちを呼びます。
サーニャ、エイラ、バーフォード、ウィルマは省略しています。
間違いがあれば指摘よろしくお願いします。
次は部隊の割り振りについて書きます。
1000文字切ったらこちらに追記する形になります。
本編の方は前回告知の通り3/20までに投稿します。


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ワイト島分遣隊編
前日談 前と後


フェアリィでの話です。
雪風に関して少し独自設定は入っています。

さすがに、ちょっとは書かないとなと思いまとめました。
雪風のネタバレ入っているので注意

ワイト島編はいいやという方は第25話まで飛んでください。


フェアリィ星、かつて地球に侵略してきて、今は逆に侵略されているジャムの母星だ。

そして、侵略している地球軍改めてFAFの最前線基地の1つ、TAB-7より南東に190km上空、俺は味方が戦うのをただ見ていた。

特殊戦第5飛行隊、通称SAF。その14番機、パーソナルネーム「ガルーダ」、それが俺の身分だ。

任務は「戦闘情報を収集し、必ず帰ってくること」。

味方が死のうが関係ない、すべての武装は敵を倒すためではなく自らを守るためにある。

最新鋭機FFR-41に搭載された偵察ポッドがあらゆる情報を収集する。

現代戦闘において情報はかなり重要だ。

敵を知り、己を知れば百戦危うからずというがまさにその通りだ。

そして、その情報を集めているのが我ら特殊戦だ。

それから2分程で戦闘は終わった。

1/3が撃墜か、酷いもんだ。機体を上手く操れなかったから死んだんだ。これじゃ、金の無駄だな。

「B-14 ガルーダ。情報収集行動終了。生存者確認できず。complete mission .RTB」

 

基地に帰り報告書を提出、自室に戻る。

実を言えばあまり特殊戦には行きたくなかった。

彼らが「機械になり損ねた人間」といわれてることは知っていた。もちろんそんなことはどうでもいい。

もっと最前線で戦いたかった。

けれど上はそれを許さなかった。

人間関係に難あり、上司がそんなことを書いたせいで最前線から外された。

最新鋭機に乗れなかったら辞めてただろう。

まぁ、今のままでそこまで不満を持っているわけではないのでここで考えるのをやめた。

 

そして、それから数ヶ月。

いろんな事があった。

味方内にジャムがいるとか大騒ぎになったら

あーだこーだ(詳しく知りたければ原作orアニメ見てね) あってフェアリィ星を放棄することになった。

なんせ、星事態がジャムだったかも知らないのだ。

そして、地球とをつなぐゲート手前でジャムと最後の戦いになった。必死に戦った。

脱出計画の最後、味方の機体が3つの核爆弾を積んだ無人機を引き連れてゲートを完璧に破壊した。

計画事態は成功した。大部分は救われた。

しかしその爆発に巻き込まれた者もいる。

自分もその1人だった。

空の上で死ねるのかと、不思議と恐怖はなかった。ただ、もっとこの愛機と空を飛びたかった。

薄れ行く意識の中でふと昔どっかのテレビで見たCMを思い出した。

「神は言っている、ここで死ぬ運命ではないと、、」

こんな子供の頃の記憶までよみがえるってことは本当に潮時か。

「なぁ神様、もしいるならもっと空を飛びたいって夢、叶えてくれよ。」

もちろん、返答が帰ってくるはずもない。

そして完全に意識が途絶えた直後。

 

 

 

 

 

----俺は世界線を越えた

ジャムのいない、でもまさに存亡の危機にある地球へと

 




地球軍あらためFAFは侵略軍として定義していいのかよくわからなかったから侵略としました。
次回からこそ本編。


ねたを挟むことくらい許して


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第1話 接触

これから作者の暴走が始まります。
メイブ追記
FFR-41には電子頭脳が搭載されており、B-14も例外ではなくこれからは電子頭脳はgaruda、コールサインはガルーダと表記します。


Another view -Side Royal air force &Royal navy-

 

1225 ブリタニア海軍所属イントレピッド(HMS D-10)が哨戒航海中に謎の発光を確認。

レーダーに反応がないが、新型のネウロイの可能性があったため座標及び視認内容を報告。

北緯32度20分23秒

東経02度46分01秒

 

1230 イントレピッドからの報告を受けた海軍指令部が空軍指令部に該当項目を確認、及び万が一に備えての偵察を要請。

 

1240 該当空域に友軍がいないことから当現象はネウロイまたはそれに準ずるなにかによる物と判断。現象から最も近く、かつ付近で演習を行っていたワイト島分遣隊に緊急発進命令。

 

1245 ワイト島分遣隊、現場急行了解と返答。

 

1300 分遣隊より報告。”特に異常は見当たらず”。現場海域に到着したイントレピッドからも同様の報告があったため上層部は処分保留と決定。

 

1305状況終了

 

Another view end.

 

-Side Barford-

ここは?

あの閃光に巻き込まれついに死んだと思ったらまだ、空を飛んでいた。

ここは噂に聞く天国か?

あの世と言うのはずいぶんと思っていたものとは違うようだ。

・・・ジョークが言えるほど意外と余裕があるらしい。いや、逆にそこまで追い込まれているのかもしれないな。

とりあえず、顔を動かしてあたりを確認してみる。まずな何事も状況確認と情報収集だ。

どうやら自動でオートパイロットが作動したのか普通の巡航速度で飛んでいるようだ。まったく、このシステムには感謝だな。これがなければ本当に死んでいた。

そして身体中生きていることを主張してくるかのように痛みが刺さってくる。パイロットがここまで全身に痛みがあるなんていったいどういった状況なんだ・・・。

下を見れば一面真っ青。海か?

ん?下?

よく見たら回りを見ても計器も操縦桿もない。ここはコックピットじゃない。

・・・じゃあ俺はどうやって飛んでいるんだ?羽でも生えてしまったのだろうか?

背中を確認してみると銃のようなものを担いではいたが、さすがに羽はなかった。

よかった。

いやいやいやいや、ちょっとまて。理解が追い付かない。

FAFは?フェアリィは?なんで俺はこんなところを飛んでいるんだ?

そして今の俺にはその疑問を解消するための解決策が手元に一つもない。降りようにもどこに下りればいいのかすらわからない。

「まったく、最高だな。」

そう思わずつぶやいてしまうほど俺は追い詰められているのだろう。

ふと足を見てみると見慣れないなにかがついていた。

それは両足についていてまるで・・・なんだ?これ?

不思議な形をしている。だがなんとなくだが俺が今まで乗ってきた愛機に似ている気がした。

どうやら俺はこいつのおかげで今、空を飛べているらしい。

こんなの履いた覚えはないんだがな。というかこんなのがいつの間に開発されていたんだ?さすがシステム軍団というべきかな?

試しに動かしてみるとオートパイロットが解除されて、一気に体勢が崩れた。

「うお!」

驚くことがたくさんありすぎて、オートパイロット中に入力動作を行えばそれが解除されるということを俺は忘れていた。

そしてただでさえ体に大きなダメージがあるのにそこで急な機動をすればもちろん答えは1つしかない。

急激なGによって体に一気に力がかかる。

そして動かした方向がまずかったのか一気に急降下が始まってしまった。

「まじか!!」

こうして急な気圧の変化からダメージを受けていた俺は簡単に意識を失ってしまう。

そして最後、1文の英文を読んでついに俺の視界は暗転した。

 

You have control.

I have control .

-Side barford end-

 

-Side garuda-

それは1225、イントレピッドが謎の発光を確認したところまでさかのぼる。

 

メインシステム通常モード起動。

garudaは一瞬で機体の形状が変わったことに気がついたが当たり前のように受け入れた。まるでそれが当然であるかのように。

機体が急降下中、パイロットは意識不明。

機体保全のため機体の操縦系統を掌握、オートパイロットに切り替え。

完了。

通常高度まで上昇次第、その高度を維持。

次に現状把握。

システム軍団の衛星網とデータリンク 失敗 。

偵察カメラからの情報を踏まえてここはフェアリィでないと判断。

他惑星最候補の地球と判断 。

GPS各種人工衛星とデータリンク 失敗。

該当周波数 探知できず。

各種無線を傍受 成功。

情報収集行動開始。

民間ラジオより現在が1944年8月26日であることが確定。

原因精査 ジャムによる時空干渉の可能性ありと判断。

これ以上は判断材料不足とし、情報収集を最優先任務とし、不確定要素はパイロットの判断に委ねると決定。

 

一瞬パイロットが目を覚ましたが再び意識不明。

バイタルに異常あり、これ以上は危険と判断。

付近の友軍反応を精査。

レーダーに感5 距離70 方位265 IFF応答なし。

速度、大きさからしてジャムでないと判断。

現在の自機と同形状なので友軍と判断。

救難信号 反応なし。

モールスによる信号 応答あり。

今後の判断はパイロットに任せ自分は航行に専念すると決定。援護を待つ。

-side garuda end-

 

Another view -Side isle of Wight Detachment-

ウィルマ・ビショップ、アメリープランシャール、フランシー・ジェラード計3人はいつもの、想定されている状況から明らかに外れている想定外の事態が起きていることに完全に混乱していた。

「何事も整理しないとね。」

「えぇ。整理整頓、大事です。」

「うん。」

ウィルマはとりあえず現場空域に到着するまでに現状を確認してみた。

命令を受けたとき私たち3人は対地攻撃支援演習を行っていた。アメリーは対地支援攻撃が苦手だから私たちがそれを見てアドバイスをする、というのが今日の内容だった。

そしてその演習中に司令部から発令された突然のとあるエリアへの急行命令。

付近を航行している駆逐艦が不審な発光を確認したので何が起きているか見てこい。とまぁこんな感じだった。

その時、みんなの隊長であった私は”こういう時に発令される命令はたいていの場合、ネウロイの撃墜命令。今回はどうやら違うらしい。

駆逐艦の見張りがネウロイの閃光を見間違うはずがないからもしかしたら今回は楽ちんかもね。”とそんなことを3人で話していた。

ここの空域に限って言えば1940年くらいに起きたバトルオブブリテンでも、ほかの場所でも噂程度だけれどカールスラントやガリアなど欧州各地でも不審な発光が確認されたことはある。これらすべてが同じものだったという報告はどこにもないしそれが単なる見間違い、金属片が太陽光を反射した、自然現象などその謎の光の原因は様々だった。

そして一番厄介なのは“新型のネウロイ”という報告。ネウロイの巣が近くにある空域だと特にその傾向は高く当時は怪しい光はネウロイだと思え、とか言われていたくらいだし。

だから今回もネウロイの可能性が高いのだろう、というのが自分と司令部の見解だった。

実際の所、確かにここは最前線だしその可能性は十分にある。だけれどもこの近くには501統合戦闘航空団の基地がある。新型のネウロイだったら私たちが倒すよりもそっちに任せてしまったほうがいろいろと後の処理が楽だし今後のためになるはずだ。

そう楽観視していた。

 

けど、状況は私の想定をはるかに上回った。

目標到着まで残り10分といったところで突然、救援信号が発せられた。

私たち3人は顔を見合わせ最悪の状況に備える。しかしそれから3分以上がたっても全く何も起こらない。そう、何も起こらなかったのだ。

普通なら救援信号というのは広域に発せられるためすぐに様々な部隊が受信できるようにその精度もかなり高い。だからこの近くにいるほかの部隊が聞き逃すなんてことはまずありえないはずなのだ。ましてや、この近くには先ほどの謎の閃光を確認したはずのブリタニア海軍の艦艇、支援物資を輸送している扶桑の護衛艦隊、オラーシャに変えるために航行している巡洋艦数隻をすでに“目視”している。そんな海軍の艦艇すべてが聞き逃すなんてことはまずありえない。そしていくら待っても司令部からその詳細に関する情報が一切流れてこない。つまりこの救援要請は私たち3人のみに送られてきていることになる。

「この状況、みんなはどう思う?」

「まずは下にいる海軍の皆さんに救援信号を受信しているかの確認を行うべきだとおもいます。」

「そうね、あとは司令部と付近を飛行しているほかの航空機にも確認ね。」

「ま、それが一番よね。解りました、フラン、司令部に確認をお願い。アメリー、できるだけ多くの航空機に確認してもらえる?私は海軍の船の人たちに聞いてみるから。」

「了解です!」「わかったわ。」

こうして3人であらゆるところに連絡する。私は他国と意外とつながりがあったから扶桑の駆逐艦の艦長と連絡を取ることができた。その彼も受信していなかった。ブリタニア海軍も同様、オラーシャはちょっと距離がありすぎてダメだったけれどこちらに報告してくれないところを見るとおそらく同様に受信していないのだろう。

アメリーやフランも同じだった。フランは何回も司令部に問い合わせたところついには怒られてしまったそう。こんなの怒られ損よ!と口をとがらせていた。

まぁ言いたいことはわかるわ。だって今も耳につけているインカムからは救援信号である…---…が聞こえてきているんだもの。これを私たち以外が誰も聞いていないなんて不気味なことがいま、目の前で起きている。

私が考えていると二人が心配そうな目で見てくる。

「そんな顔しないで。まずは私たちで確認に向かいましょ。だって今、まさに誰かが助けを求めているんだから。」

「そうよ!あんな使えない連中放っておいて早く行きましょうよ!」

「そうですね、手遅れになる前に急ぎましょう!」

「よし、それじゃあ行きましょうか。」

そして私たちはさらに速度を上げてそこに向かうのだった。

しかし、私の気がかりは偵察命令があった場所とほぼ同じ場所からの救援要請。なにか関係あるのか、むしろ関係があるとしか思えない。

もしかしたら何かしらの事情があるのかもしれない。

私は2人には言わないでひそかに警戒心をあげておくのだった。

 

そしてまったく予想だにしていないことが起きた。

今まで生きてきた中で一番驚いたかもしれない。

救援要請をしたウィッチは女じゃなくてまさかの男だった。

近付いた瞬間いきなり自由落下を始めるもんだから急いで回収した。

見た目は16から18くらい。

髪は黒いがうっすら開いた目は蒼色だった。

意識もなく怪我をしている。ただ、血は既に止まっているようで止血の必要はないかな。

 

というか、男のウィッチ何て聞いたことない。

まったく予想していなかった事態に2人もびっくりしてる。

「誰よ、こいつ。」

「少なくとも知り合いにこんな人はいないわね。」

「ケガ、していますね。大丈夫でしょうか?」

「フラン、あなたにはこいつが平気に見えるの?気を失っているのに?」

「あ、いえ、そんなことは・・・。」

「はいはい、ケンカしないの。」

この場を指揮する者として私はとにかく彼を基地に連れていくことにした。

見捨てるなんて選択肢は元から私にはなかったもの。

私が彼を背負って後ろの二人にユニットと、武器をもってもらった。

2人は「このストライカーユニット重すぎる!」と言っていたが、捨てるわけにもいかないので我慢してもらった。

「ごめんね、帰ったらお菓子あげるから。」

「なら、少し我慢します。」

「もう、仕方がないわね。」

ふてくされながらもしぶしぶ了解してくれた。

というか、お菓子で簡単につれちゃうならこれからもいろんなところで使えるかな。

まだ子どもなのね。

 

それにしても、彼に聞きたいことはたくさんあったけどこの状態じゃ聞くに聞けないし、武器も見たこともないような形だし、全く司令部に何て報告すればいいのよ。

悩んだ挙げ句さっきいないって言っていたのに嘘をつかれた怒りからか異常なしと報告してやった。

まぁ、後で文句言ってきたらすぐ確認がくると思って緊急事態につき無理だったと言えばいいか。

さて、基地に帰ったら隊長に何て言えばいいのかしら?

あっ、ドクターに待機していてもらわなわないと。

急いでくるよう隊長にお願いしておこう。

本当に隊長には申し訳ない、たぶん一気にやることが増えて負担をかけるかもしれない。だから私も手伝ってあげないと。連れ帰るって判断した私のせめてもの罪滅ぼしみたいなものだ、と考えていた。

 

 

こうしてバーフォードとウィルマのファーストコンタクトは終わった。

 

Another view end - side Isle of Wight Detachment-

 

 

 

 




小説って書くの大変だね。楽しいからいいけど。
頑張ったと思っても2000文字くらいにしかならなかった。
これからちょっとずつ増やせるようにがんばります。


このなんか時間ごとに刻々と状況が変化するような感じにしたかったがあまりできなかった。
次回から生かそう

ご指摘、ご感想、誤字報告があればよろしくお願いします。


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第2話 pay back(上)

始まりましたよーワイト島。
今回はワイト島分遣隊をメインにしていきたいですな。


「はぁ、どうしてこう私にこんな大変なことを押し付けるのかしら。」

ワイト島分遣隊、隊長角丸美佐中尉はため息をついた。

本日22回目のため息である。

現在時刻1853、ドクターの話じゃ彼の容態は安定しているとのこと。目が覚めるまでにはもうしばらくかかるらしい。全く、どうしたらいいものか。

「はぁ。というか上になんて報告すればいいのよ。人を空の上で拾いました?なんで空から人が降ってくるのよ。」

本日23回目のため息をついたところでまた昼間にあったことを思い出してみた。

こんな事きっと二度とないでしょうね、と思いながら。

 

~~~~~~~

1300

ウィルマ・ビショップらより通信が入った。彼女らは司令部からの命令で確か偵察に行っていたはずだ。駆逐艦が不審な光を発見したかだっけ?

そんなのウィッチじゃなくても近くの航空隊に任せてしまえばいいのに。

だけれども、命令は命令。軍に所属している限り、下されたものは実行しなければならない。だから大変だろうけど、彼女たちにお願いした。

予定よりも10分ほど遅れての報告。何かあったのかと心配になっていたのでひとまずはみんなの声が聴けて一安心。そうして私もそこで何が起きているのか気になっていたので早速その内容を聞いていみるとその返答は、”すごいものを拾った”とのことだった。

す、すごいもの?何かしら?

「どういう事?詳しく説明して?」

だがウィルマさんの報告の口調からしてどうやら困惑しているのはあちらも同じ様子だった。というか、一体何なのか余計に気になる。

「なんと言うかね、生まれて20年近くたつけどこんなの見たのはじめて。こんなのって言っちゃ失礼かもしれないけど。とにかく連れて帰るから待ってて、あとドクターを待たせておいてほしい。よろしくね」

「えっ?待って!誰か怪我をしたの!?」

「いや、そういうわけではないの。そういうわけでわね、大事なことだから2度いったの。まぁ楽しみにして待っててね。あと、司令部には問題なしと報告しておいたから~。」

「あっ、ちょっと!」

それっきり、通信は切れちゃった。

たしか上の話じゃ、この偵察の目的はネウロイかそれに準ずるなにかによる攻撃の可能性って話だったわよね。それにドクターが必要……

ここで角丸中尉の頭の中を1つの勘がよぎる。

まさか、あの子たち宇宙人でも拾ったんじゃ!

-今となってはよくこんなことが思いついたなと我ながら感心してしまう。嘘です、浅はかだと思います。-

人間と言うもの1つでも答えを見つけてしまうとそこからさらに、色々なものまで連想してしまうものである。

宇宙人ってことは、言葉が話せない事もあるわよね。

見境なく攻撃してきたらどうしよう?

指揮官としてみんなのことは私が守らなきゃ!

ドクターには、注意してって言っとかなきゃ。

基地にいる人には箝口令をひいてあとはあとは……

こうして3人いや4人が帰ってくるまで彼女の勘違いは続く。

 

1330

偵察隊が帰投。そこでウィルマたちを待っていた角丸中尉、ラウラ少尉、ドクターは緊張していた。なんせ、隊長が宇宙人が来ると言っていたからだ。まぁ隊長以外は半信半疑だったが。

「宇宙人っていったいどんな姿をしているんだろうね?」とドクター。

「興味ないや。」とラルラ少尉。

なんせ自分たちは宇宙人(?)そのものと常に戦っているのだからちょっとやそっとでは驚かない自身がある。肌の色はなにかしら青?灰色?触れるかしら?

 

そんなおどおどしている角丸中尉を変な目で見ているラウラ、ドクターは最初隊長が何を言っているのか解らなかった。しかし聞くところによると曰く、ウィルマがすごいものを拾った。曰く、3人とも怪我をしていないのにドクターが必要。曰く、生きてきた中で一番驚いたらしい。ここから導き出された結論が宇宙人らしい。

彼女に聞こえないように2人で話し合う。

(きっといつもの疲れだろうね。)

(そうだと思いたいです。これが素だったら私、本気で困ります。)

(きれいな顔していうことはきついね、君って。)

(これが私の素ですから。)

と角丸隊長の悪口(これでも心配している)を言い終えて、じっと空を見る3人。

よくわかったようなわからないような状態のまま待っていると3人が見えてきた。

双眼鏡でみてみるとウィルマが何かを背負っていて残りの2人が何かを担いでいる。

「アメリーとフランシーが持っているの、あれストライカーユニットじゃないか?」

「ストライカーユニットを履く宇宙人?」

「そんなのわからないわよ。とにかくもう着陸しそうだし行ってみましょう。ドクター、くれぐれも注意してね。」

「了解。」

 

こうして演習に出ていた3人がようやく基地に帰ってきた。

「お帰りなさい。お疲れ様です。」

こうして3人はようやくウィルマたちが拾った”もの”と対面した。

「「「え?」」」

しかし目の前にある、いやいるのはどう見ても宇宙人なんかではなく。

「人?しかも男?ウィルマさんどういう事?」

どう見てとすぐ市街地に出ればいそうな青年だった。

「この人を拾ったの。というかドクター、この人怪我しているみたいなの。急いで治療してあげて。」

「ちなみに聞くけど宇宙人なんかじゃいよね?」

「?少なくともここに連れてくるまでそんなことは一度もなかったわよ?」

「よろしい。ならば私の管轄内だ。一つ、働くとしよう。」

こうして、彼はドクターと担架を持ってきた看護師たちに連れていかれた。

アメリーとフランシーは疲れたので休ませてくださいと言って寄宿舎に入っていった。確かに、きっとあっちでいろいろなことがあったんでしょうね。

ラウラはドクターに何かあったときのために付き添うという形でついていった。

残された2人がは状況を整理し始めた。

「それじゃあまず、どういう経緯でこうなったのか教えてくれる?」

「うん、わかったわ。それじゃあ、まずは司令部から命令を受け取ったところからね。」

私はウィルマさんから今回のことの大まかな概要を報告してもらいようやく事の全貌を把握することができたのであった。

かくかくしかじか・・・

 

 

向かっている途中救援要請があったこと、そしてその救援要請は周りにいる味方は誰一人としてその信号を受け取っていなく私たちだけしかとらえることができなかったこと、そしてその信号をたどっていった先で偵察空域で彼を拾ったこと、司令部に何て報告すればいいのか解らなかったから取り敢えず異常なしと報告したことを話してもらった。

「話はだいたいわかったわ。私の早とちりだったみたいね。ごめんなさいね。」

「いやー最初は話が呑み込めなかったけれどようやく隊長がなんか変な感じに誤解しているってことが私もわかったよ。」

そう笑顔で笑ってくる。本当になんであんなこと考えちゃったのかしら、と顔が赤くなっていくのが自分でもはっきりとわかった。

「それで、あの2人が持っていたものは?」

「彼が履いていたストライカーユニットと持っていた武器ね。どれも初めて見るようなものばかり。」

大きな机の上に置かれた一対のストライカーユニット。それと私がみたことのあるものより一回り小さなライフル。エンブレムもその持ち物も私が知っているものと一致する物は一つもない。

「これは?対物ライフルかしら?武器に弾は入ってる?」

カチャ、ジャキン!

チェーンバーを引いて薬室に弾丸を入れる。すでに装填されていたらしく床に1発落下していった。

「入ってるみたい。試し撃ちしてみようか。」

「まぁ助けてあげたんだしいいかしらね。ウィルマさん、ライフルをお願いね。」

「りょーかい。」

肩にそのライフルを背負い私たちは射撃場に移動する。

 

「ウィルマさん、射撃用意お願い。」

「はーい。」

ウィルマがうつ伏せになって射撃準備にはいった。

目標は300m。

射撃場の端っこにあるポールに赤い旗を掲げて実弾射撃練習中であることを示す。

「よし、これで準備よしと。ウィルマさん準備は?」

「いつでも。」

周りの安全を確認したうえで笛をピーを吹く。こんなところに入ってくるような人はここにはいないだろうが一応決まりだ。

「よーい。」

そして的の上にある吹き流しが完全に垂れ下がったのを見計らって

「撃て!」

射撃命令を下す。

ガン!ガン!

それに従いウィルマさんは続けざまに2発、発砲していった。

あまり聞いたことのない音に不思議がりながらもスコープを使って射撃成果を確認する。

 

倍率をあげて確認すると弾丸は見事に的の中心に吸い込まれていった。

「さすがね、ウィルマさん。」

「ううん、違うの。あれは私の腕じゃない。すごいのよ?零点調整してないのにあんな当たるの。これなら隊長でもたぶん行けると思う。」

うつぶせになりながらもへーほーはーと言いながらその銃のいろんなところを触る彼女。

「撃ってみる?」

一通り見終わったウィルマさんが私にそんな提案をしてきた。

「え、私?私はいいわよ、遠慮しておくわ。」

「そんなー、せっかくなんだし使わせてもらえばいいのに。」

「いいの。」

私はそう言いながらウィルマさんから目をそらす。

だって、私狙撃は苦手だもの。部下の前でそんな恥はさらしたくなかった。

「ま、隊長さんがそういうのならいっか。」

「そうよ。さてと、詳しく見てみましょうか。」

彼女が射撃した後に残った2つのから薬きょう。確認してみると使用している弾薬は12.7mm。この弾薬を使用しているライフルなんて珍しい。とはいうものの、対装甲ライフルなんてあまり見たことも使ったこともないから一概にはなんともいえないのだけれど。

「ねね、うちにまだ12.7mmの在庫ってあるよね?誰も使わないからもうちょっといい?」

「ダメです。これは遊びじゃないのよ?」

「ぶー。ケチ。」

「はいはい。」

ウィルマさんは口をとがらせながらそう反抗する。一応、借りものなのよ?そこの所、忘れてないかしら。彼女はそう言った後も銃のいろんなところを触っていた。

まるで新しいおもちゃをもらってうれしそうな子供みたい。

「ちょっと彼のストライカーユニット見てくるわね。ウィルマさんはここにいる?」

「あ、私も行きます。少しあのユニットの形も気になっていたので。」

「なら行きましょうか。」

先ほどと同じようにから薬きょうを箱に入れ、旗を降ろす。

片付けが終わったことを確認したうえで私たちはユニットを置いた格納庫に向かう。

 

「それにしても見たことのないストライカーユニットね。少なくとも扶桑では一度も見たことはないわね。」

「私も見たことはないなー。私達が使うものと大きさも一回りくらい違うし、それに変な形ね。」

「取り敢えず、触るのは彼が目を覚ましてからで、いまは回りから見てわかるところだけにしておきましょうか。」

普通のストライカーユニットとくらべてかなり大きい、全体がグレーの塗装に覆われている。前につき出している翼、翼の途中には8個の見慣れない突起物(彼女らにわからないのも無理はないが元々ミサイルなどを吊り下げていた名残でここから魔力弾を発射する。)、そして下は3つの板が三角形を作っている(推力偏向ノズル)不思議なものだった。

極めつけは所属を表すエンブレムには"フェアリィ空軍(Fairy Air Force) "、"ブーメラン飛行隊(Boomerang SQ)"、"SAF 514" と書いてあった。

「隊長さんなら何かわかるんじゃないの?」

「さっぱり、ブーメラン飛行隊ならともかくフェアリィ空軍何て聞いたことないし。SAFはなんの略かもわからないし。514ってことは、14番目の統合戦闘航空団ってこと?でもそんなにできたなんて聞いたこともないし。

それにこれレシプロユニットじゃないのかな?

まったくわからないね。」

「だよね、これも彼が起きるのを待った方がいいかもね。」

さすがにユニットを使って見よう、という話にはならなかった。みんな自分の機体には思い入れがあるし他人が自分のユニットを使うどころか触るだけで怒る、という人も意外と多い。だからこれは眺めるだけにしておいた。

 

こうして30分程話していると、ドクターがやって来た。

「一応、一通りの手当ては終わりましたよ。かなりの傷だけれど命には問題なし。だけれど安静が望ましいですね。まだ目は覚めていませんが所持品などがありましたので面会しますか?」

「それじゃあ、会いましょうか。」

「えぇ。せっかく助けたその人だもの。話せなくても何かわかるかもね。」

「そうだといいのだけれど。」

こうして格納庫を後にする3人。全く静かになったこの格納庫。

その一連の会話、行動を情報収集行動として監視している"目"にはまだ誰も気がつかなかった。

 

病室まで行く途中一番気になっていたことを角丸はドクターに聞いた。

「彼は本当に男なんですか?男に限りなくにていて実は女でしたとか、ないんですか?」

私がそう聞くと、ドクターは笑いながらまさか、といい否定した。

「彼は間違いなく生物学上男ですよ。間違いありません。」

「ドクターがそういうなら、そうなんでしょうね。それで、所持品というのは?」

「ドッグタグに、拳銃、それと身分証などが入った革のケースです。それ以外は特には見当たりませんでした。」

私たちはカルテを手にしながら歩くドクターの話を聞きながらその廊下を歩く。

骨折など飛べなくなるほどの傷はないが何かの破片で切ったようなものや打ち身などが全身に。原因は不明だけれど、何かしらの先頭に巻き込まれたものと思われる。

というのがドクターの判断だった。

こうしている間に診療室の目の前についた。

「さて、この部屋に彼は眠っています。私は外で待っているので終わったら声をかけてください。それと何かあったときも同様に。」

「ありがとう、ドクター。さて、入りましょうか。」

 

ドアを開けるとベッドで彼は寝ていた。隣のテーブルには彼の所持品と思わしきものが載っていた。少し血の匂いがするのだが汚れてはいない。おそらく看護師が綺麗に拭いてあげたのでしょう。

とにかく彼の情報が知りたい。ケースを開けて中身を確認してみるとそこには3つのものが入っていた。1つはさわったこともないような素材で出来た身分証、残りは写真で片方は3人で写っていた。1人は髭を生やしたいかにもブリタニア人って格好の中年?、もう一人はいかにも暗そうな扶桑人、端で少し笑いながら、ブリタニア人と肩を組んでいるのが恐らく彼だろう。目も蒼いし。少し扶桑系の血が入っているのかな?

最後の写真は家族写真のようなものだった。どれが彼かわからない。裏を返してみるとこう書かれていた。

"Remember 315"と。

2人は少し顔を見合わせたあと、写真はしまった。

「取り敢えず、写真は後でにしない?」

「そうね。それじゃあ、身分証でも見ましょうか。」

パラッと見てみると

 

 

名前 フレデリック・T・バーフォード

所属 フェアリィ空軍特殊戦第5飛行隊

階級 大尉

年齢 35

生年月日 7/2/1990

国籍 UK

性別 男

血液型 A型(Rh+)

…………

 

と色々書いてあった。

「SAFは特殊戦の略だったのね。どうやらフェアリィ空軍所属というのは間違ってないみたいだわ。」

「結局わかったのはあのストライカーユニットに書かれていたことが間違ってはいないってことだけか。どうします?隊長さん?」

「はぁ、結局は彼が起きるのを待つしかないのね。取り敢えず今後のことはみんなで晩御飯を食べたあとに話し合いましょうか。それまで一旦解散ということで。」

「そうですね、了解です。」

こうして、ウィルマと別れて誰もいなくなったことを確認して本日1回目のため息をついた。

彼女らにこんな姿は見せたくないからね・・・。さて、どうしたらいいものか。

~~~~~~~~

 

 

 

 

 

こうして時は1853まで巻き戻る。

時計を見て、もう間のなく19時を指そうとしていた。もうそろそろ晩御飯ね。

取り敢えず私としては

・彼が目を覚まし次第話を聞く。

・指令部には報告しない。

・出来れば戦力になってもらいたい。状況によっては上層部に掛け合うことも選択肢に入れておく。

この3つていきますか。

さて、みんなはどんな反応をするのかな?

納得してくれればそれでいいんだけれど、なんせ男のウィッチだもんね。もめるだろうな。

………どうでもいいけど男のウィッチって変じゃない?

マジシャン?んー?なんかしっくりかないな~。

”隊長ー。御飯ですよ!”

あっ、アメリーが呼んでる。

晩御飯の時間だ。今日は誰が担当だっけな?御飯の時くらい、忘れてもいいわよね。

そんなことを思いながら隊長室を後にするのだった。

 




第弐話にしていきなり上下話という前代未聞の結果になってしまった
隊長さんは憂鬱すぎて生年月日に気づいていません。
重要イベントなので後で面白くなりそうな予感。
主人公の生年月日ですが、お姉ちゃんこと園崎さんの誕生日から、年はウィルマが1920年らしいので70足しました。
それと、お気に入り登録ありがとうございました。
投稿してまだ数日仕方ってないのに。
自分の予想だと、8話位まで書いてようやく100UA位で初めてのお気に入り登録だったらいいなと思っていました。
me嬉しい。
これからもよろしくお願いします。

ご指摘、ご感想、誤字報告があればよろしくお願いします。


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第3話 pay back(下)

会話を書くのって難しい。



1930 全員で夕食を食べてその流れのまま今後の彼の処遇についての会議が始まった。メンバーはここワイト島分遣隊所属のウィッチの5人である。

「それでは、第1回戦略会議を始めたいと思います。」

わーわーパチパチパチ。

名前はいかにも作戦会議って感じなのに雰囲気が完全にお茶会なのが否めない。

というか机に紅茶、コーヒーにクッキーって完全に夜のお話し会ね、これ。

「コホン。さてこの会議の議題は言うまでもなくお昼に保護した身元不明のウィッチについてです。男性と言うこともあって慎重に進めていきたいと思います。ウィルマさん、彼について今解っていることを報告してください。」

私が彼女を指名すると元気よく返事をして立ち上がる。

その時、ちゃんと右手を上にピンと伸ばすのも忘れなかった。

「はい。まず所属から。フェアリィ空軍特殊戦第5飛行隊とのことです。ここで一応聞いておきたいのですが、フェアリィ空軍って名前聞いたことある人はいますか?」

首を傾げたり、無反応だったり、首を振ったりしている様子からないとみて間違いないだろう。フェアリィ空軍ね。そんな国名なんてあるのかしら?妖精の国なんてまるでおとぎ話に出てくるお花畑が広がるようなところかしら?

「ありがとう、では続けるね。名前はフレデリック・T・バーフォード。階級は大尉。すごいわね、今この基地で一番階級が高いのね。国籍はUK?どこかしら?年齢は35歳。」

「とても30代には見えなかったのですが…見た目では20代前半かと思ったのですが…。」

「もー隊長ってば見る目がないわよ?あれはどう見たって10代よ?身長が周りの人よりも大きいからってさすがにそこまで年を取っているようには見えないわよ。」

「私もそう思います。なんというか20代はないかな、と。」

「う・・・。」

すこしおどおどした感じで発言したのはアメリー。そんなこと言わなくても・・・。

確かに少し盛りすぎかなとは思っていたけど。

「確かにとてもじゃないけど30代には見えないよね。で次が問題なのだけど、生年月日が1990年2月7日ってことになっていることなの。」

皆が一様に首をかしげる。

「1990年?1890年の間違いじゃなくて?」

「1990年って、今年は1944年ですよ?46年後じゃないですか。」

フランがどうなのよ。と顔で訴えてくる。

仮に1890年の間違いだとしたら、それじゃいま54歳になっちゃうじゃないの。

「見間違いじゃないわよ。ほら、これが彼の身分証。」

そこには間違いなくいままでウィルマが報告してくれた通りの事が書いてあった。

しかし、ここにいる全員が疑問に思ったこと、それは

「この顔写真、すごく綺麗。白黒じゃなくてカラー写真。カラー写真なんて初めて見た。」

そう、現代じゃ当たり前のカラー写真は当時では珍しいもだった。確かにカラー映画というものはあったがそれ事態かなり高価なものであり、一兵士ごときにカラー写真を使うなんて考えられなかった。

「確かにね、この顔写真も彼にそっくりだからこの身分証も彼のものと見て間違いないでしょうね。話がそれちゃったけど取り敢えず、一旦整理してみましょうか。」

・所属はフェアリィ空軍特殊戦第5飛行隊

・年齢は35、生まれは1990年。

「それじゃあ彼は今から46年後に生まれるってこと?俗に言うタイムスリップってやつ?そんな馬鹿な」

「フランさん、すこし落ち着きなさい。それを含めての会議なんだから。」

うー。

フランはほっぺを膨らませながらうなり声を上げていた。

あっ怒られてふてくされてる。

「そう考えるのが妥当でしょ?現にフェアリィ空軍なん隊長ですら知らない空軍が存在するわけがないと思うし、国籍がUKというのも気になるし。」

「どっかの国が極秘に持っている空軍という可能性は?」

「もし、秘密利の空軍だとしたら身分証持たないと思いしストライカーユニットにもあんな堂々とかかないでしょ。」

「それもそうですね。」

というか、そんな極秘情報に私たちが関わっているとしたらもしかして今後ここの立場がかなり大変なことになってしまうのではないか、と思うと一瞬背中がぞくっとする。

あれ、私ってば本当に大変なものを持ち込ませちゃった?

 

「そういえば、ストライカーユニットと言えばラウラ、何か解ったことはない?」

いままでずっと黙っていたラウラだが隊長は事前にわかる範囲でいいから調べてほしい。特別に触るのも許可すると。自分でストライカーユニットの整備もしてしまうラウラなら何かわかるかもしれないと思ってそのような指示を出したのだ。しかし、

「なにも。中は調べられなかった。というか調べようとしても開かなかった。」

「そう、なら仕方ないわね。」

振り出しに戻っちゃうわね…とため息をついた隊長。

「いままでに見たこともない不思議な型をしたジェットストライカーユニットって事くらい。」

「………………………………?ジェットストライカーユニット?」

こくんとうなずくラウラ。

「物凄く重要じゃない‼」

思わず叫んでしまった隊長。

何故なら先日友人から来た手紙にジェットストライカーユニットの製作に難航している。詳しくは言えないがまだかなりの時間がかかりそう。どうしたものかというのを聞いたばかりであったからだ。各国で研究開発が進み、ようやく試験運用が始まったばかりの代物だ。それ自体が軍事機密の塊みたいなものだ。もしかしたらではなく本格的にまずいかもしれない。

「ジェットストライカーユニット?」

アメリーはどうやら知らない様子だ。ラウラが説明を始める。

「簡単に言えば噴流式魔導エンジンを積んだストライカーユニット。長所はその莫大な出力で普通のストライカーユニットより速く、高く飛べること。欠点はそれ故に莫大な魔力を消費することで、開発国はそこが一番悩んでいるみたい。こんな感じでしたっけ、隊長さん?」

「ええ、そのとおりよ。どうしてラウラさんは彼のユニットがジェットストライカーユニットだって解ったんですか?」

「昔、研究所で見たことがあるから。」

一同納得しているご様子。

いやまって、研究所に行ってみた事があるほうが逆に驚きなんだけど。

「じゃあ、彼は何らかの形で未来から来て怪我をして今も意識不明といったところかしら。」

「そう考えるしかないわよね。あれ?私、もしかしたら凄いものを拾っちゃったのかしら。」

そして、今回の問題を持ってきた張本人であるウィルマさんが急に慌てだした。彼女もようやく事の重大性に気付いたようだ。

「拾ったは失礼じゃない?ウィルマさん?」

「いや、拾ったとしかいい用がないんですよ。」

まぁ、そうなんだけどね。

「でもそんなバカなことってあり得るの?未来よ?未来。本じゃあるまいし。」

「だって1990年ですよ。人類が動力付きの飛行機で初飛行してからたったの数十年でそれを使ってネウロイとの戦争の主戦力としているくらいですしもしかしたらそんなことも可能になっているかもしれませんね。」

「どんなことしているんですかね?」

一瞬、皆で約50年後の未来を想像してみる。

「ネウロイはいるのかしら?」

「そのころには頑張って撃退してそう。」

「人類が負けているかも。」

「「「やめてよ、そんな不吉なこと!」」」

 

 

「さて彼の今後についてなんだけど目が覚めるまでは彼はここで保護したいと思います。その後の処遇については彼が目を覚ましたあとに話し合って決めたいと思うのだけどそれでいいかしら?」

本当はこれ以上関わらないほうがいいかもしれない。だけれど、だったら彼をどうする?捨てる?それこそ本当にまずい。だからしばらくは様子見。

「それしかないでしょ、捨てるわけにもいかないし。」

「わ、私もそれが一番だと思います。」

「かまわない」

「そーしましょ。」

こうして、暫くは保護するという形で決まった。

 

ラウラ、アメリー、フランには部屋に戻ってもらって食堂には隊長とウィルマが残った。

「隊長さんとしては、彼が目を覚ましたらどうするつもり?指令部に差し出すつもり?そんなことしたら……」

「わかっているわウィルマさん。男のウィッチを見つけたなんて報告したら彼は連れていかれて一生太陽の光を見れないかもしれない。」

本当は私たちが聞いたことがないかもしれないだけでこの世界に何人かはいるのかもしれない。だけれど私がそれを知らないのはきっと絶対数が少ないからだ。もしかしたら研究で使われるかもしれない。私としてもそんなことに協力するくらいなら保護して(もしかしたら重要な戦力になるかもしれないし)活用したほうがいい。そう考えるようにした。

「じゃあどうするの?」

「それはね……………」

隊長の出した案はとても奇想天外で一瞬開いた口がふさがらなかった。

 

こうして夜は更けていく。

 

 

 

 

0600に起床、いつもと変わらない朝日からの心地よさに目を覚ます。

 

0700朝御飯。

「で、彼はまだ目を覚まさないの?」

みなで食べているときフランが聞いた来た。

「ドクターの話じゃ容態も大分よくなってきているから今日か明日には目を覚ますとのことよ。」

「そう。」

相変わらず、自分のほしい情報が手に入るとそれ以上のことは話そうとしないラウラ。もう少しほかの人と会話をしてくれると少しは隊長としても楽になるのだけれど。

「それじゃあ皆さん、いつも通り張り切っていきましょうか。」

はーい。

今日もいつもと変わらない、のんびりした日が過ぎる。

 

と思っていた。

1043 ネウロイ空襲警報。

全機スクランブル。敵は中型1、小型2。

今の私たちなら十分驚異だった。501の基地に行ってくれればよかったのにとぼやくラウラをなだめ、今日やるべきことが先延ばしになったと嘆くウィルマさんをなだめ皆で出撃する。

1050 スクランブル発進完了。

1105 交戦開始

「ラウラは中型を、私とフランが右の小型を、ウィルマとアメリーが、左の大型をお願い。無理せずに焦らずに確実によ、みんな!いい?」

「「「「了解!」」」」

 

それにしてもすばしっこい上になかなかコアが見当たらない。 フランはまだ実戦に慣れていないから無理もないが、敵の攻撃を回避するのに精一杯。ラウラは腕は確かだから任せられる。ウィルマたちもなんとかやってくれると信じている。

なら私は私の戦いに集中するのみ。

「フラン、弾幕を張ってネウロイの進度を右にずらして!」

「わかった!」

フランがけん制射撃をフルオートで行うことで敵ネウロイはこれを回避しようと逆方向に旋回する。

よし、奴は誘いに乗った。ネウロイの進路の先をすこし先回りして攻撃する!

ユニットの回転数を上げて速度を上げる。

よし、フラン。いい感じ。まずは攻撃しようとしてくるフランに狙いをつけたネウロイに一瞬の隙が生まれる。

速度を上げて敵の少し前に出ることでおそらくコアがあるであろう場所を攻撃するための最もいいポディションを確保する。

「今!」

まるでコックピットのように少し盛り上がったところに必中の狙いを定めた角丸の銃、M1919A6が火を吹く。毎分600発の7.62mmが一気に発射され、ここぞとばかりに根雨リオの装甲を削っていく。

そして弾丸が切れると同時に光るコアが露出した。

「コアが見えた!機体の中央すこし右上を狙って!」

「了解!」

最高のタイミングを逃したことに悔やむがすかさず腰から予備の小型拳銃を取り出し発砲する。やはり腕のいいフランがとどめを刺し、よし!撃墜!

爆発し、破片を散らしながら落ちていくネウロイを横目に残りの娘の状況を確認する。

「援護が必要な人は?」

「ラウラの援護に回ってあげて、すこしきつそうみたい!」

「わかった、ありがとう!」

ウィルマさんの報告だとあっちは少し押されているみたいだ。こっちが援護に到着するまでなんとしても持ちこたえてほしい、そう願いながらフランについてくるように指示を出す。

 

ラウラのところに向かうとかなり厳しそうだった。中型ゆえに敵の攻撃も激しく見た目より速い。

おまけにラウラは魔力をかなり消費している。私たちも消費しているとはいえ、ラウラは私たちよりもかなり厳しい。このままじゃまずい。

なら短期決戦で攻める。

「ラウラ、援護して!私が攻めるから!」

「必要ない。」

またこの子ったら!

ラウラは1人で十分だと思っていた。

援護なんて要らない。

あともう少し、それで落とせれば十分。

いける。

確かに彼女の腕は確かだ。

昔501にいただけに相当だ。本来ならこの程度のネウロイだって彼女一人でも落とそうと思えば落とせる。だがそれも細心の注意をしたうえで彼女が本来の力を出せればの話だ。

それゆえの慢心。

 

ここで予想外の事が起きる。

中型のネウロイが2つに分裂したのだ。

「な!!」

片方が彼女の前に飛び、もう一方が後ろで減速した状態となった。

結果としてラウラは2つのネウロイに挟まれた形となる。

前方と後方のネウロイが絶好の機会と言わんばかりにラウラに対し砲火を向け撃墜しようとする。

もちろんラウラだってそれなりの腕を持っている。第1射はシールドと回避運動で素早くよけた。その2秒後に撃たれた第2射はシールドと彼女の能力をもってよけて見せた。

だがそこまでだった。

第2射をよけたその瞬間、ユニットの出力が一気に失われるのが分かった。

魔力切れだ。先ほどから素早い飛行を行っていた上にあんなに激しい回避運動と魔力消費の激しい能力を使ったのだ。それも当然といえばそうかもしれない。

そしてその瞬間を今度こそ、ネウロイは逃さない。

第3射をネウロイが行おうとしたその瞬間

 

ネウロイが両方とも爆発した。

 

 

時系列はすこし遡る。

1100

彼、フレデリック・T・バーフォードはようやく目を覚ました。

起きた瞬間に自分が知っている場所とは異なるところにいる、という経験は初めてではないがやはりいいものではないな。

右を見て左を見て体を起こす。ベットで寝ている、いや、寝かされていたか。右手を見ると針が刺さっている。点滴をされているのということはここはただの病院か診療室か何かでとにかく、生きてるということか。

「ま、点滴してくれる天国なんてあってたまるかって話だよな。」

そう判断した俺は体を起こした。多少痛みもあるがそこまで支障はない。服を置いてあったものに着替え、机の上にあった自分の所持品を身に着ける。そして身分証がなくなっていたことに気が付いた。

「あれ、どこいった?」

机やベッドの下、机の中をあさってみたがそれらしきものは見つからなかった。

「フムン。」

まぁなくなって困るようなものでは、、、あるか。どうやら写真はなくなっていないようだ。

取り合えず部屋の外にでも出てみる、それに愛機も探さなくては。拳銃に初弾を装填。

ここはどこからわからない場所。前に零が経験したあのジャムの作り上げた空間の話を思い出し、ここももしかしてと警戒しながら進むことにする。

もっとも、俺にジャム人間と人の区別がつかないと話にならないがね。

そしてドアを開けるとさっそく、人がいた。

「「あ。」」

たまたま、様子を見に来たドクターと蜂あわせてしまった。

思わず、殺気全開で「誰だ」と聞いてしまった。

ドクターは、その殺気に驚いてしどろもどろに「き、君を助けたものだ。」と答えた。

よかった。

俺は拳銃を下げて敵意を既に持っていないことを彼女に示す。

「すまない、いきなりでこちらも驚いてしまったものでな。それと、助けてくれてありがとう。お陰でまた太陽を見れたよ。」

「そ、そうか。体調に問題ないか?」

体調?体は少し痛むし頭は少し理解が追い付けず困惑しているのだがそれをひっくるめたこう答える。

「問題ない。」

「そうか、よかった。」

こんなところで足を止めていても何も始まらない。そう考えるようにした俺はまず、自分の機体の所に戻ることにする。

「それじゃあ、俺の愛機のところに案内してもらいたいのだが。頼めるか?」

「もちろん、こっちだ。ついてきてくれ。」

ドクターの案内の下、俺は今まで見たこともないような光景を目にする。

雰囲気からして軍事基地っぽいが地面が木の板、外には舗装もされていない道が遠くまで伸びている。普通、こんな古臭い設備なんかを維持するはずがないのにな、と驚きを隠せない。

目の前の彼女、ドクターは長い髪をゆらしながら俺の前を進む。何も話しかけてこなく、自分としても現状を知りたいためこちらから話しかける。

「そういえば、ここはどこなんだ?」

「ブリタニア、ワイト島の分遣隊基地だ。」

「ブリタニア・・・?」

どこだ、そこは?

「君はあの空域で何をしていたんだ?」

「さぁな、俺も良くわかっていない。」

「記憶に異常が見られるのか?」

そこでようやく俺に興味がわいたのか後ろを振り返り、俺の顔を覗き込んでくる。

「あぁ、すこし思い出せないことがある。」

ドクターがいい感じに勘違いしてくれたおかげでこの場は何とか誤魔化すことができた。

「なるほど。ここの隊長は君を休ませておいてあげて、といっていた。まだ時間はあるからゆっくり思い出すといい。」

「なるほど、ありがとう。」

「別に、かまわないさ。」

 

5分ほど歩くと入り口についた。

「ここが、格納庫だ」

そう言ってなかに入ると目に飛び込んできたのはよくわからない形のなにかだった。

「これは?」

「?なんのことだ?これが君の愛機じゃないのか?ウィルマ君の話じゃ保護された時これを履いてたとのことだよ。」

俺は手に持っていた本(ブリタニアガイドブック、先ほど渡されて読んでいた。)を思わず手から離してしまった。

「まじかよ。」

馬鹿な、あり得ない。

こんなことがあっていいのか。

あの先進的なフォルムは見る影もなく失われ、よくわからないものになっていた。

しかし本能的にわかっていた。これが自分の愛機だと。FAFや特殊戦のエンブレム、そして自分の機体番号514とかかれているのだから間違いない。

そういえば、気を失ったときこれをはいていた気がする。

 

その時、近くから声が聞こえてきた。

《……は援護して!》

《当たらない!》

《誰か援護頼めない!?》

どうやら無線機からのようだ。緊迫した様子がはっきりとわかるがドクターは全く気にかける様子すら見せない。

「あの声の主は?相当まずいようだが」

「ここ所属のウィッチだよ」

「俺を助けてくれた?」

「あぁ。あの様子じゃかなりまずいようだが・・・。ところで、君はウィッチなんだろう?」

ウィッチ?見慣れない単語に思わず首をかしげる。

「まぁ、いいさ。君が何者であろうがもういいことだ。判断はここの隊長がするべきことだしな。問題はいま、彼女らが危険にさらされているということだ。あいにくと私はここでできることといえば彼女らの無事を祈ること。だけれど君はどうだ?何かしてやれるんじゃないか?」

「俺が・・・?」

ドクターがその指さす先にはなんとなくだがわかるメイヴがいた。全くをもって変わってしまった目の前の機体にさらなる驚きと困惑を隠せないが今の流れからすると、おそらく助けに行けるのは俺だけ、ということなのだろう。

「・・・わかった。出撃の準備をする。そっちも離陸許可やその他もろもろ頼めるか?」

「もちろんだ。わが隊の皆を助ける人の頼みを断れるか?」

「頼んだ」

ドクターはうなずくと建物へと走っていった。さて、

「Garuda、もしお前が俺の愛機だというのならそれを証明してくれ。お前ならできるはずだ。」

そういって自分の足をユニットに入れてみる。

起動したのか自分を中心に不思議な模様の円ができた。

ユニットからは聞きなれた音が聴こえてきた。

そして目の前には

"Ready for battle Barford."と出た。

やっぱりこれは愛機だったのか。

心にすこし残っていた不安がようやく解消してほっとできた。

『準備はいいかい?』

無線から彼女の声が聞こえた。

「あぁ、問題ない。そちらが連絡をくれたということはもういつでも問題ないということか?」

『そうだ、なら急いでくれ。彼女らを助けてやってくれ。』

「もちろん。恩は早めに返すに越したことはないからな。」

俺はそう言い残し、機体を動かし始める。

ユニットはまるでいつものような感覚で動かすことができた。まるでコックピットにいるかのような感覚。

滑走路までタキシング、出力最大。

《ガルーダ、出撃する。》

爆音を響かせ空の女王は飛んでいく。

"まったく、あんな馬鹿は嫌いじゃないよ。"

元ウィッチのドクターが壁に寄り添いながらそう呟いた。

 

無線の通信ポイントまで向かう途中、Garudaが収集した情報を確認していた。いまは1944年だということ。この世界の敵はネウロイだということ。ジャムがいるかは不明だということ。背負っている武装の詳細。助けてくれた人たちのこと。そして、この新しく生まれかわったメイブのこと。燃料は必要なく、魔力それもパイロット自身から吸収するとのこと。なんてハイブリッドなんだ。

魔力をつかってミサイルを打てること、ただし1回の出撃ではや8発が限度とのこと。

ただ、情報流出の観点からあまり使う気はなかった。

もう少しで射程圏内か。

シーカーオープン。

敵ネウロイにロックオン。

小型に2人、中型に3人か、しかし1人ずば抜けて攻撃しているやつがいるな。

一部高熱源反応あり、動力源と推測。

優先目標とする。

敵分裂、再度ロックオン。開始。

まずい、間に合わない。

バーフォードはとっさに判断し、ミサイルに対しLOAL(発射後ロックオン)を命令。

承認、Fire.

ロックオン、着弾まで5

間に合え‼

4

3

2 ずば抜けて攻撃しているやつが驚いた顔をしている、回避は間に合わないだろう。

1

hit

目標 クリア

 

 

・・・・間に合ったか。取り合えず、彼女らが俺を助けてくれた人達か。

なんとかネウロイとやらは撃墜できたみたいだ。それにしても分裂しながらもまだ飛行できるとは、いったいどういった構造や飛び方をすればあんなことが地球重力圏でできるのやら。ジャムだってあんな芸当は不可能だろう。

さて、せっかく危機を排除したんだ。けがや消耗もなく無事だろうか。

近づくと驚いた顔をしてこちらを見ている。

こんな若い女の子を戦場に出すのか、それにしても

何で、パンツなんだ?

そこはポーカーフェイスでごまかしてまずは挨拶をしなきゃな。

 

「フェアリィ空軍特殊戦第5飛行隊14番機。B-14ガルーダ。パイロット、フレデリック・T・バーフォード大尉だ。助けてくれたことに感謝する。」

 

 





次からはもっと細かくかけるようにしたい。

ご指摘、ご感想、誤字報告があればよろしくお願いします。


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第4話 会合

人物紹介更新しますた


「フェアリィ空軍特殊戦第5飛行隊14番機。B-14ガルーダ。パイロット、フレデリック・T・バーフォード大尉だ。助けてくれたことに感謝する。」

 

角丸は、一瞬何と返せばいいのか解らなかった。

本当に男なのにストライカーユニットを動かせてる…。

でも、尻尾や耳が見えないってことは使い魔はいったい何なのだろうか。

それに、やっぱりどう見ても30代には見えないわよね。

等々色々考えていると私たちがなかなか反応しないのに対して彼が首をかしげたので慌てて敬礼して返答する。

「私はワイト島分遣隊の隊長を勤めています角丸美佐中尉です。失礼ですが、大尉にはいくつか聞きたいことがあるのですがよろしいですか?」

私がそう言うと彼はあたりを見渡すとこちらに少し困ったような顔を向けてきた。

「ここでか?出来れば落ち着いた場所の方がいいと思うのだが。」

そこで彼が言いたいことが分かった。

あっ、しまった。迂闊だったわ。確かに、こんなところで話すような内容じゃない。

もっと落ち着いたところで話したいし。

「そうですね、では一旦基地に戻りましょうか。みんな、帰るわよ。」

ワイト島まで戻る間彼は私たちの左後ろをすこし離れて飛んでいた。

本当はいまここで聞きたいことが山々あったのだけれど、どうにも 聞けない雰囲気だったのでここでは聞かないことにした。

それにしても、本当にジェットストライカーユニットなのね。プロペラが回ってないみたいだし。けど、ちょっとうるさいわね。

いったいどこの国の試作機なのかしら、同じウィッチとして気にならないと言ったらうそになる。

だけれど聞くに聞けない何かがここを支配しているのも同時に気が付いていた。

こうして無線封鎖しているわけでもないのに静かな時間が過ぎていく。

 

-Side barford-

わからん、さっぱりわからん。

なぜ、パンツ1枚で平気なんだ?

そんな彼女たちの複雑な感情をよそに俺は残念ながら自分で考えておいてなんだが低レベルな考え事しかしていなかった。

Garudaの報告と自分が経験した事を踏まえて総合的に考えて、ここは別世界と考えるべきだろう。ジャムがいた世界だっていわば別世界だ。こんなものがあってもおかしくはないだろう。まぁ、いろいろいいたことは山ほどあるがそれは個人でわかる範囲をはるかに超えている。

わかっている情報をもとに軽く整理してみるとしよう。

最初は彼女らが言うネウロイと自分達が知っているジャムが同一のものではないかと考えた。しかし、先程の戦闘でネウロイがビーム攻撃を行っていることを確認したので残念ながら違うとわかった。

それに、今自分がはいているストライカーユニットやらは自分達の世界にはなかった。それにいまは1944年らしい。複数のラジオ放送から確認できたことだからまず間違いない。自分が知っている世界では人間同士で血みどろで無益といっても等しいような戦いが本来ならば眼下で繰り広げられていたはずだ。しかし、ここでは人間同士ではなく人間対ネウロイという構図になっている。兵士が向ける銃口の先には人の代わりにネウロイがいる。もしかしたらこっちの方が幸せだったのかもしれない。

ある意味、きれいな世界とでもいうべきであるか。

しかし、先ほどから言っているがこの惑星の住人、特に女性はパンツで過ごすことが普通となっているらしい。今、自分はここの部隊しか知らなないため何とも言えないがここだけねじが外れているとは思えない。多国籍部隊のようだしまずありえないだろう。

変人ばかり集めた、という可能性も否定できないわけではないがそんなことを言ったらきりがないのでそこで切り上げる。

この世界の住人はいったいどこで間違えてしまったのだろうか?

そしてそれを置いておいて、彼女の見た目も問題だ。どう見ても10代の勉強にいそしんでいるはずの年代の少女にしか見えない。

なぜ彼女たちがその姿からは似つかわしくない銃を持ち、空を飛び、敵とその身をかけて戦っているのか、全く理解できなかった。軍というものに所属しているのであるから国のため、と言うのだろうか?俺自身が自分のためにしか戦っていないから見えにくいもののために戦うというのはいまいち理解できなかった。そのことを含めて、到着したら聞いてみるとしよう。

 

海岸線を右手に飛んでいるとやがて小さな島が見えてきた。それに合わせて高度を下げているのを見るとおそらくあの島が彼女たちの基地なのだろう。

どんどんと高度を下げて、やがて滑走路を完全に視認できるようになった。

Run way insight.

Gear down.

Approaching minimum.

Check.

Minimum.

Landing

《100》

《50》

《30》

《20》

《10》

Touch down.

Reverse push.

アイドル状態にして格納庫へ向かう。

たまたま空いていたらしいユニット搭載器にストライカーユニットを置いてエンジンカット。

出撃の際に持って行った武器の類をユニットに置き腰をついて足を引き抜く。

借り物の靴を履きコンクリート製の床に足をつけると周りからの鋭い視線が突き刺さってくるのを感じた。

 

さて、これから尋問が始まるわけか。

始まる前から疲れているのだが、この世界の情報を一気に入手出来る機会なので心して当たらなければならない。下手をしたらここで銃殺されてしまう可能性だってある。

先ほど、隊長を名乗っていた黒髪の女性が皆の前出でて、俺と正対する。

 

「ようこそワイト島分遣隊基地へ。あなたの来訪を歓迎するわ。」

「え?」

 

俺としては銃を突きつけられて話されることを想定していたため、その予想外の言葉に思わず驚いてしまった。

「?どうされました?」

「銃を突き付けられることも想定していたからな。まさか社交辞令とはいえ歓迎の言葉をかけてくれるとは思ってもみなかった。」

「まさか、そんなことはしませんよ。あなたは今、ゲスト。それに助けれてもらったのだから歓迎こそすれど拒否はしません。」

そういって手を差し出してきた彼女の手を俺もとって握手をする。

「それでは、行きましょうか。」

「あぁ、案内を頼む。」

「もちろんです。」

 

彼女の先行の元、食堂に案内された。

あまり広くはないが全員が座れるには十分な広さがあり、それぞれか自分の場所に座る。

俺の席も用意されていたようで指示されるままに着席する。

 

「まず、自己紹介から。」

そういって手を挙げたのは黒髪の少女。見た目は日本人といったところか。

「私は扶桑皇国陸軍、角丸美佐中尉、隣にいるのがブリタニア空軍、ウィルマビショップ軍曹。」

「よろしくね。」

そういって銀髪を揺らすビショップ軍曹。俺も改めて姿勢を正して自己紹介をする。

「フェアリィ空軍、フレデリック・T・バーフォード大尉だ。階級のことは気にせずに普通に話してくれていい。その方が楽だ。」

「わかりました。では、早速ですがフェアリィ空軍とはなんなのですか?」

「質問を質問で返すようで悪いがジャムという言葉に聞き覚えは?もちろんパンに塗る方ではないからな?」

2人は顔を見合せ首を横に振った。その様子だと全く知らないのだろう。

自分の感覚だとほんの数日前まで戦っていたその存在を全く知らないというのは逆にショックだった。だが以前ジャックが言っていた”地球の連中はジャムの存在を疑っている。”というその言葉を思い出す。もしかしたらそうなのかもしれないというわずかな希望を抱きながら。

「そう…か。ジャムはな、ネウロイとはまた違ったタイプの宇宙人だ。」

「は?」

そこで、俺はジャムが30年前に侵攻してきたこと、人類が必死になって奴等の母星まで送り返したこと、奴等の母星にこっちが基地を作ったこと、それがフェアリィ空軍だということついでに、この世界にくる直前に起こったことを詳細に話した。

「………というわけだ。これだけ話してもやはりジャムという敵については聞き覚えがないか?」

「はい。軍に所属している以上、もしそんな敵がいるのならば絶対にしらされているはずですからね。」

「私も隊長さんと同意見。だからごめんなさい、バーフォード大尉。あなたのそのジャムという敵については今教えてもらったこと以上のことは全くわからない。」

「そう、か。」

やはり俺はきっとあの爆発で全く俺の知らないどこかに飛ばされてしまったんだな。

「自分の知らないところに迷い込むことがこんなにも大変だったとはな。」

「大尉?」

自分の世界に浸っていたことを角丸中尉に話しかけられてようやく気が付く。

「あぁ、すまない。少し混乱していてな。」

「大丈夫ですか?少し休みます?」

「いや、問題ない。話を続けよう。」

「それじゃあ、私何か入れてきますね。」

「ありがとう、ウィルマさん。お願いね。」

軍曹はそういって立ち上がり台所へと行ってしまった。

「大尉、あなたは何者なんです?一体ジャムはどこに?」

中尉の疑問はもっともだ。というかこたえたいが俺だっていまいちよくわかっていないんだ。

「確信は持てないがおそらく、俺はここの世界とは別の世界の人間だと思う。」

「え?」

「俺の生きていた年代、装備、常識、多少は似ているものがあるが食い違っているところもある。そんなのを説明しようなんて言ったらそれしかわからない。」

ジャムが時空を操る力を持っているのでは?という噂は昔からあった。どこからそういうのが出てきたのかは不明だがすくなくとも零が似たような経験をしている。だからだろうか、こんなことが起きてもすんなりと受け入れられるのは。

「俺の常識からしたらアメリカ人とイングランド人、日本人が1944年に肩を並べて戦争やっているのが信じられないんだよ。」

「アメリカ?日本?」

「あぁ、そうだ。とにかく、信じられない事ばかり起きているが考えられる余裕ができてきた、と考えてくれ。」

「そうですか。解りました。」

そういってうなずく中尉。そのタイミングで軍曹がコーヒーを入れてきてくれた。皆で一口飲んだ後で話を再開する。

「さて、次はあんたらにこの世界のこと、ネウロイとはどんなものか話してもらえるか?この世界の常識も含めて頼む。俺自身についての話はそのあとにしよう。」

「わかりました。」

…………………

どうやらこの世界は思っていたよりも深刻らしい。ヨーロッパの大半はネウロイに侵略されており今も必死の攻防戦が続いていること。ここは比較的穏やかだが最前線はヤバイらしい。

フムン、ネウロイの弱点はコアでそこを破壊すればいいのか、逆に破壊するまで再生を続けるとかずるくない?まぁ、うちのgarudaは簡単に見つけてくれるのでそこは、安心しても問題ないかな。

「以上が私たちが知っているこの世界の常識と情勢ね。何か質問は?」

「一ついいか?」

「何でしょうか?」

「君達はその、なぜ下着のみで空を飛ぶのか?」

「?」

何故かこいつ何言っているのみたいな顔さを中尉と軍曹はする。逆に傷つく。

「ズボンをはかないで平気なのか?その、なんというか目のやり場に困る。」

「?ズボンですよ?」

「?」

ダメだ、お互い話がかみ合わない。

「いや、今のは聞かなかった事にしてくれ。」

もうこれ以上この事に首を突っ込むのはやめよう。俺はは無理だとあきらめた。

「そうですか、ウィルマさんは何かある?」

「あります。えっと国籍にUKとあったのですがどこですか?」

「UKといったらUnited Kingdom、まぁイギリスといってもいいか。それ以外何がある?というか、ワイト島自体が英国領じゃないのか?」

今度は俺がこいつ何いってるんだって顔になった。

「?ここはブリタニアよ?」

俺の返答がよくわからないような顔をしながら中尉はそう答える。

「まて、ブリタニアとは、どこだ?」

「「「?」」」

そうして再び話がかみ合わなくなる3人。

「まず、世界地図を見せてくれないか。」

「あなたの後ろに張ってあるわよ」

 

…………1ヵ国も知っている名前がない、というか知っている地図と国境が違うところがある。

「もしかして、世界が変わったから自分の知っている国とは異なっているのかも知れないわね。」

「言われてみれば、その可能性があったな。有り難う。ということは俺はビショップ軍曹と同国人という事になるのか。」

「大尉もブリタニア出身?」

「まぁ、そうだな。」

「どこ生まれなの?」

「ノース・ヴァーウィックだ。フォース湾に面した町だ。」

「うーん、名前だけ聞いたことはあるかも。」

そうか。まぁ、同郷の者がいるというのはそれはそれでいいことだしな。

「それじゃあ、詳しくはあとでね。では、フレデリック・T・バーフォード大尉。あなたに提案があります。」

少し穏やかになった空気を中尉が再び引き締める。きっとこれから彼女の口から言われる言葉はきっと俺のこの世界での人生を左右することになるはずだ。

「聞きましょう。」

だから心して聞かなければ。

「あなたはさっき実戦経験者と言っていました。ですが、ストライカーユニットでの実戦は今日がはじめてだった。そうですね?」

「そうだ。」

「ですがあなたは先ほど、ネウロイを撃墜した。」

「あぁ。」

「つまり実戦で通用するほどの腕を持っているということですね。」

「まだわからないが、数をこなせばきっとうまく操れると思う。」

「なるほど、わかりました。」

そういうと中尉は目を閉じて何かを考え始めた。

時間にして1分ほどだろう。秒針が進む音のみが響き渡るこの食堂で沈黙が続いた。

そしてようやく、中尉が目を開いた。

「なら、ここにしばらくいませんか?幸い人数には余裕がありますし、実戦経験者となれば1人でも多い方がいいですし。元の世界に戻るためにも生き延びる方法をたくさん知る必要があると思いますし。」

角丸中尉からの提案はまさに俺にとって救いだった。今の俺はどこにも行く場所がなくこのままでは死ぬのは目に見えていた。住所、戸籍がない俺を雇ってくれる軍などいくら状況が切迫しているとはいえ存在しないだろう。

だから少しでもながく時間を稼いで今後の方針を決めるためにもどうしても住める場所が必要だった。そこの角丸中尉の提案。きっと彼女自身もそれなりのリスクを背負うだろうがきっとそれも覚悟しているのだろう。なら俺がすべきことはただ一つ。そのリスクを容認できるほどの結果を残さなければならない。

「いいのか?俺としてはそれが理想だとおもっている。叶うならそれが望ましい。」

だからもう一度中尉に確認をとる。これでいいのか、と。

「ならそれでいきましょう。よろしくお願いいたします。大尉。」

だがあっさりとそれを受け入れた中尉。まったく、この年でそんな博打みたいなことを決められるその判断力がうらやましいよ。お互い、再び握手をして俺はその提案を受け入れた。

「あぁ、よろしく。それとバーフォードでいい。」

「ならバーフォード。これからよろしくね。」

「もちろんだ。ところであなたたちはなんと呼べばいい?隊長、ビショップで構わないか?」

「まぁ、それでいいですよ。」

「よろしく、隊長、ビショップ。」

「よろしくね、バーフォード。他のメンバーは晩御飯の時に顔合わせしましょう。」

3人で握手をした。

 

こうして彼のウィッチとしての戦いが幕を開ける。

 

 

 

 

 

「あ、あと身分証を返してもらいたいのだが。あれは俺の身分を証明出来る数少ないものだからな。」

「そうだったわね。はい、有り難う。勝手にとってしまってごめんなさいね。」

荷物を確認した際、唯一なくなっていた身分証を隊長から返してもらう。

「仕方ないさ、隊長も情報が欲しかったんだろう?」

「そういってもらって助かるわ。ところでその写真とあなたの見た目がかなり違うようだけど身分証として平気なの?」

「?写真を撮ったのは4か月前だ。そんなに変わっているのか?」

「ほら、鏡」

覗き込むと、別人がいた。否、それは過去の、恐らく18歳くらいの頃の顔立ちだった。

「なっ!?」

そこにいたのは数日前にひげを剃ったときに見た自分とはかけ離れ、随分と若々しくなった誰かがいた。いや、誰かではなく間違いなく俺なのだろう。

「大丈夫、ですか?」

不安そうな表情をした隊長とビショップ。

「いや、平気だ。少しショックだがな。」

 

そういって少し落ち込んでいる俺を不思議そうな顔をして見守る2人。

あとでビショップだけには話しておくか。隊長に話すと面倒くさくなりそうだし。そう心に決める俺だった。




ようやく合流しました。
1000越えました。
ありがとう、そしてありがとう!
あとごめんなさい。
ウィルマビショップは本来、ファラウェイランド空軍所属ですが、ブリタニア空軍一部変更しています。
そっちの方が後で展開が楽になるので。
あと、ウィルマが生まれたのは1924年でした。

ご指摘、ご感想、誤字報告があればよろしくお願いします。


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第5話 テストフライト

自分の頭の中ではこの世界に来たのはウィルマがワイト島にきておよそ1週間くらいと想定しています。

人物紹介のところ、主人公の紹介を追加しました。
自己解釈を説明しないまま、書いていたためご指摘をいただきました。
至らぬ点がありまして、ごめんなさい。


「改めて、本日からワイト島で居候させてもらうことになったフレデリック・T・バーフォード大尉だ。よろしくお願い致します。」

晩御飯の時に改めて自己紹介をした。隊長が予め手を回していてくれた(フェアリィ空軍の事やどういう経緯でこの世界に来たのか、何故見た目が異なるのかなど。)お陰でそれほど混乱もなく受け入れてもらえた。その点は感謝している。

「階級は大尉だが、基準が恐らく違うので階級は気にせず普通に話しかけてくれて構わない。そっちの方がお互色々らくだろう。」

この世界じゃ、20代で中佐の人もいるらしい。全く悪夢でしかないな。それでいて目の前の日本人、いや扶桑人の角丸は中尉だ。この世界で本気で生きてくならばきっと俺の持っている基準や常識というのは本当に捨てなければならないんだな、と改めて実感させられた。

さて、とりあえずの挨拶を済ませたつもりなのだが誰も俺に話しかけてこない。これは良そうなのだが俺との距離を測りかねているのだろう。そりゃそうだ。いままで少女しかいなかった部隊にいきなり身元不明の男がやってきたんだ。隊長はよかったがこいつらもいきなりフレンドリーというわけにはいかないだろう。というわけでまずはこちらから話していくことにした。

「何か質問はありますか?」

これがベターだろう。できるだけ彼女らのもつ疑問を解消し、少しでも警戒感を解いてもらう。別に持つ分には一向にかまわないがそれが実力行使という目に見えるものになるとかなり厄介だからな。

さて、目の前の少女たちの様子はというとまずはお互いの顔を見合わせていた。誰が一番に質問を始めるのかを探っていたのだろう。そしてまず目の前の赤髪の少女が手を挙げた。

「あなた、使えるの?隊長の話じゃ今日、ストライカーユニットに乗ったばっかりなんでしょ?」

といってきた。

「ところで、君の名は?」

「リベリオン陸軍所属のフランシー・ジェラード少尉よ。それで、どうなの?」

「いけるんじゃないか?まだここの辺りはそんなに飛んでいないが伊達に飛行時間は長くないし戦闘経験はかなり積んでいる。コツをつかめば行けると思う。」

「はぁ、頼りないわね。今まで何機落としたの?」

「80は超えていると思う。詳しい記録はもう消えてしまったがな。」

「「「80!?」」」

全員が目を丸くしている。

自分としてはパイロットは20年以上、FAFには14年くらいいるので累計すればそれくらいかという感覚である。恐らく彼女らは見た目と実際の年齢が噛み合っていないのを忘れているのだろう。見てて面白いからいいが。

といっても初期のジャムは非常に機動性が悪く、積んでいるミサイルを一機1発で発射しても全弾命中することもよくあった。だからその間に一気にスコアを稼いでしまったためこんないい記録が残っているわけであってこの直後からこう上手くはいかなくなった。

だからずるをしているといわれるとその通りではある。だからあまりこの数字には誇りを持っているわけではない。

 

「まぁ、このスコアは戦闘機にのってのスコアだからストライカーユニットじゃあ勝手が違うから期待はしないでくれ。今日、3機撃墜できたのもある意味まぐれだしな。」

実際、今日は急いで出撃したせいで操縦はいまいちよくわからなかったためgarudaに任せていた。飛んでいる間は収集された情報を確認していたし、攻撃だってミサイルだったしな。ただ、ミサイルも頻繁に使うと色々不味いので緊急の時以外は使わないようにするつもりだった。そのため、自分のなかではストライカーユニットの操縦訓練が急務と言えた。

「隊長、出来れば近いうちにストライカーユニットにのって訓練飛行をしたいと思っているのですが。」

「大尉ってあのユニットに慣れていないの?」

割り込むように声をかけてきたウィルマよりもさらに白色に近い銀髪をした少女。

「ラウラ・トート。階級は少尉。それで、どうなの?」

雰囲気からこの場では絶対にしゃべらないだろうなと思っていた彼女から声をかけられて少し驚いた。

「あぁ、機種変換みたいなものをしてな。あの機体自体にまだ慣れていないんだ。」

「そう。」

そういうとラウラは興味をなくしたかのようにそっぽを向く。

「それで?隊長、どうなんだ?」

「えーと、明日なら特に何もすることがないから・・・いいわ、明日の午後一番に飛んできて、それとできるだけ短時間で自分のユニットをものにしてね。」

「もちろん。」

形は変わったがあれは紛れもなくずっと乗ってきた愛機。変わったのは見た目と動かし方、それ以外はきっと変わっていないはずだ。なら乗りこなせるはず。

・・・そう信じたい。

「午前中は何かあるのか?」

「いえ、特には何もないわ。午前中の方がよかったかしら?」

「いや、このままでいい。」

どちらにせよ、新しく変わってしまったメイヴの総点検をどこかのタイミングで行いたいと思っていた。午前中の時間ならオーバーホールするわけじゃないから問題ないだろう。

「もうこれでいいか?」

「はい。」

そう小さな声で手を挙げるおとなしそうな彼女。

「自由ガリア空軍所属のアメリー・プランシャールです。お一つ質問してもいいですか?」

「あぁ、構わないさ。」

だが俺がいいといったのにただもじもじしたまま何もしないアメリー。

どうしたのかと、皆が不安に思い始めた頃、ようやく口をひらいた。

「大尉が好きな女性のタイプって何ですか?」

「へ?」

予想外な質問に俺はまた戸惑う。

「アメリー!へーそんなことに興味あったんだ!」

と目を輝かせながら身を乗り出しているのはビショップ軍曹。

「へ、あ、あの、その・・・皆さん質問しているのに私だけで来ていなかったのでそれじゃあ嫌だったので・・・。」

と顔を真っ赤にするアメリー。

「まぁ、お年頃ですからね。あ、私も気になるかも。隊長さんは?」

「え、私ですか?うーん、確かに私と同世代の殿方がどういった好みを持っているのかというのは私も全く分からないので・・・。」

「なるほど、隊長さんも興味ありと。」

「興味があるとは言っていません!」

「でも気になるんでしょう?」

「まぁ、そうですけど・・・。」

と急に楽しそうにしゃべりだす少女たち。

「楽しそうだな。」

「なに他人事みたいにしているんですか、大尉。あなたの好みを聞いているんですから。さ、答えて!」

その積極的なビショップ軍曹に思わず後ずさる。

「何引いているんですか?ブリタニア紳士の名が泣いちゃいますよ?」

「紳士ってそういうものか?」

「そういうものです。女性の質問には誠心誠意をもって答える。そうでしょ?さ、さ、どんな人がタイプですか?」

そういわれてもな・・・。適正年齢になったと同時に軍に入り、陸を経て空を目指した俺にとって青春=軍の仲間であってそういった経験はない。もちろん一夜限りの形だけならあるがそんな長期間関係を持った異性などいなかったし興味もなかった。今の今まで空こそが俺の人生そのものだと考えていた自分にとってその話題考えたこともなかった。

そんな悩んでいる俺にしびれを切らしたのか軍曹がさらに追い打ちをかけてくる。

「ならこの5人の中なら誰ですか?」

「そう来るか。」

「ええ、来ます。」

よっぽど興味があるのかその圧迫感はすごい。もう壁に背が付いているというのに目を輝かせながら迫ってくる。

「ちょっと待ってくれ。」

さすがにこれ以上来られると困るのでいったん肩を押して距離を取る。そのうえで全員を見渡す。

誰だろう。

そのとき、なぜだろうか。一瞬で目の前の少女、ウィルマ・ビショップ軍曹が目に入った。

よっぽど先ほどの行動力が俺のどこかに印象深く残っただろうな。

「君かな。ウィルマ・ビショップ軍曹。」

「へ?わたし?」

「あぁ。」

俺がそういうと彼女はこちら側に背を向けて思いっきり手を伸ばす。

「ウィルマ・ビショップ軍曹!なぜか選ばれちゃいました!」

まるで酔っ払いだな。思わずそう感じてしまうほどのノリだった。皆、拍手をしてたたえているようだがその様子はどこか苦笑いだった。

「ちなみに私のどこがいいと思いました?」

「そうだな・・・。」

改めて彼女を上から下まで眺めて俺はふとどうして彼女を選んだろうと思う。

どうしてだろうな。

「なんとなくだ。」

「えーそれじゃあ、隊長でもよかったのかー。残念。」

そういって肩を落とす軍曹。

「そんな女の子に期待を持たせるだけ持たせてあとは捨てる大尉なんて嫌いー。」

舌をだしてそっぽを向く軍曹。

「・・・・。」

俺が何も言わなまま沈黙を保っていたことに気が付いた彼女がこちらに顔を戻す。

「どうしたの?大尉?」

「え、あ、なんでもないさ。少し考え事だ。」

「もしかして・・・。」

「いや、それはないさ。」

「まだ何にも言ってないよ!」

「言いたいことはわかるさ。」

「はいはい、仲がいいことはいいことだけれどこれくらいね。もう遅いから続きは明日にしましょ。」

「うー、隊長。いいところだったのに。大尉、絶対明日ね。」

「明日何をするんだよ・・・。」

そう騒ぎながらほかのアメリーたちを連れて皆、食堂から出て行ってしまった。

パタン、とドアの閉じる音を聞いてようやく一息つけた。

あの時、どうして俺は何も言えなかったんだろうな。不思議だ、普段は何も言えなくて詰まることなんてほとんどないのに。

だが、確かなことが一つだけある。

 

あの時、彼女がそっぽを向いたときに宙をふわりと舞った長い銀髪を俺は綺麗だと感じた。

 

今はそれ以上のことはわからないが、とにかくそう感じたのだった。

 

 

急に静かになった部屋で俺は新聞を読みながらラジオを聞いていた。時計が22時を指した辺りで外の空気を吸いに建物の外を出た。その時、建物案内で紹介された角丸中尉がいる司令官室の明かりがついていることに気が付いた。ほかの奴らの声が聞こえないところを見るとおそらくもう寝てしまったのだろう。

中間管理職が一人、夜遅くまで頑張るのは世界が変わってもそういうのは変わらないのだなと変な関心をしながら俺は彼女と話すために手土産をもって部屋へと向かった。

 

コンコン

「バーフォード大尉だ、少し平気か?」

「大尉?どうぞ、開いてるわよ。」

ガチャ。左手でカップを二つ持ち、右手で扉を開ける。

「失礼する。」

「散らかっていてごめんなさいね。あらいい香り。」

隊長はコーヒーの香りに思わず笑顔になる。

「ここ、いいか?」

カップを机の上において空いている椅子を彼女の前に置く。

「ええ、構わないわ。ここにあるのは一応、見られても平気なものだし。それで、こんな時間に何の用?」

「外に出たとき、ここの部屋の電気がついているのが見えてな。中間管理職のつらさを知っているものとして見過ごせなくてな。少し、息抜きはどうだ?」

「ありがとう、大尉。気が利くのね?」

「もちろん。これでも英こ・・・いやブリタニア紳士だからな。」

それなら納得です。と隊長は言ってくれるがこれまでそんなこと一度もしたことがなかったので少し変な感じがする。

 

「そういえば、隊長は扶桑皇国出身なんだよな?」

「そうだけど、それが?」

『扶桑皇国についてすこし話が聞きたいと思ってな。』

『!あなた扶桑語話せるの!?』

突然、ここいらでは聞けない母国語を聞いたためかあって以来、一番の驚いた表情を見せてくれた。

『そんなに驚くことか?』

『えぇ、この言葉を聞くのも随分と久しぶりの気がしてね。』

彼女はそういうと俺から視線をそらし別の方を向いた。

その目線の先には隊長のほかに数人の扶桑人の姿が。

『ここは長いのか?』

『まだ1年もたっていないわ。けれど随分と長く過ごしている気がするわ。』

そしてため息をする隊長。たぶんこれ以上聞いても何も答えてくれないだろうから俺は話題を変えることにした。

『隊長。』

『何かしら?』

俺は声をかけて視線をこちらに戻させる。こういうのはしっかりと正面を見て言うべきだ。

『俺をここに入れてくれて、感謝している。本当にありがとう。』

頭を下げて謝意を伝える。このことは心からの本心だ。

『いいのよ。もう決めたことだし。』

『だがこれだって全くのノーリスクというわけではないだろう?』

『まぁ、それはそうなんだけれど。書類の書き換えとかは昔の親友に任せてね、何とかなりそうなの。』

その一言に思わず絶句する。

『大尉ってそんな顔もするのね。もしかして気にしている?』

『当たり前だ。書類の書きかえって・・・そのリスクがどんなものか別世界にいた俺にだってわかる。なんでそんなことを?初めて会ってからまだ数日もたっていないだろう。』

思わず慌ててしまうが彼女はそんな俺に対して妙に落ち着いていた。

『私はここが最後だからね、だからなんでもできるのよ。』

『それは、どういう意味だ?』

『秘密。とにかく、大尉は気にせず今の環境に順応することに専念してね。』

そうしてみんなで仲良くできれば今の私はそれで幸せだから、とつぶやく隊長。

『中尉。』

だから俺は隊長になんて言えばいいのかわからなくなってしまう。だから素直な感謝を。

 

 

『ありがとう。』

 

 

『なんかそんな純粋な感謝を言われたのも随分と久しぶりな感じがするわ。』

『ここで感謝以外の言葉が俺には思いつかないからな。』

 

『隊長。』

『ん?なに?』

俺は彼女一人にすべてを背負わせるなんてことはできなかった。確かに俺は自分のことしか考えない。ほかの奴を気にしていては生きてはいけない。そういう考え方の下で生きている。だがこう話が進んでいるのならば全くの別だ。隊長が経歴に傷がつく覚悟で俺を救ってくれた。ならばやるべきことは一つ。

『もし、隊長に何か起きれば俺は必ず助ける。』

 

俺の言葉に目を丸くしている隊長。そしてすぐ苦笑いになる。何が嫌なのか今の俺にはわからない。

『まるで騎士様みたいね。』

『茶化さないでくれ、隊長。俺は本気だ。』

 

『なんでそんなこと言ってくれるの?あなたはそれを受け入れるだけでいいのに。』

何故だって?そんなの決まっている。

「それが俺の流儀だからだ。」

助けてもらったのならば俺の持ちうるものすべてでその恩を返す。それが俺の流儀だと思っている。

『わかった。それならありがたく受け取っておくわ。』

『本当だぞ?忘れるなよ?』

『もちろん。』

そしてそれからしばらく話が続き、置時計の24時を知らせるメロディーまで絶えることはなかった。

 

Another view -Sied Kadomaru-

「”それが俺の流儀だからだ”、ねぇ。私よりも年下っぽい顔してそんなこと言うのね。」

今さっき、出て言った彼の言葉を口に出して思い出す。

私が彼に協力しようと思ったのは私自身がもうウィッチとしての経歴がダメになってしまったのだからこれ以上なくなるものがないと思ったからだ。

かつては「魔弾の射手」なんて名前で呼ばれていたこともあった。あの頃が私のピークだったのかななんて今となってようやくわかった気がする。そしてあの爆発事故に巻き込まれて重傷を負って以降、今ではこんな僻地に配属になり軍では活躍できない私なんてやめるに辞めさせられないお払い箱みたいなものなのだろう。

だから負傷している彼を見て思わず自分に照らし合わせてしまった。今の彼なら普通に復帰できるしこの年ならばまだ十分に活躍できる。こんな今の私と違って。

一瞬自分の経歴が、彼の素性は?と、確かに思った。だけれど不思議と電話を掛けるその手は早かった。けがを負っているのに不確定な無線の通信だけを聞いて助けに来てくれた彼。だから大丈夫だとすぐに私は確信した。手回しもすぐに済んだ。

大尉は一時的にブリタニア軍から派遣された新型ユニットの試験官ということになった。これならユニットを操っていても基地内にいても問題ない。かつての名声がこんなところで活躍するとは思っていなかった。

だから手配が終わった後の私は満足していた。彼がもしかしたらここで皆のことを助けてくれるような存在になってくれるかもしれない。仲間が一人増えるというのは悪くない話だ。みんなへの負担が減るし結果的にはいいだろう。

ただ少し残念なのは彼自身がそのことに罪悪感を覚えていることだった。私が自己満足でやったことなので、ただその立場に彼は甘えてくれていればそれでよかったのに。それだけが心残りだった。どちらにせよ私はやったことを後悔なんてしていない。だからもしこの件がのちに問題になったとしても一人で蹴りをつける、そう心に決めるのだった。

 

Another view end -side Kadomaru-

 

次の日

ユニットの整備をやろうと思ったのだがビショップ軍曹がいろいろ教えてくれるそうなのでそちらの方を優先させた。昨日の時点でと部分には問題なかったので今すぐやるべきことがない以上、そちらの方が大事だ。

そして戦闘訓練が始まった。まずは射撃。

うつぶせ状態、足を広げてた状態での、射撃訓練。

一からやり直す気分でいたがどれも、かなりいいスコアが出せたと思う。

「中距離も遠距離も可能ってすごいわね、普通はどちらかに特化でもしないとやっていけないと思うんだけど。」

「狙撃は得意だからな。」

「パイロットなのに?」

「昔な、SASにいたことがあってそこで習った。」

「SAS?」

「知らないならそのままの方がいい。」

「えー、教えてくれたっていいじゃん。」

そうやって寄ってくるビショップ軍曹。同じ狙撃銃を操る者として純粋に興味があるのか触らせてほしいと詰め寄ってくる。なんとなく嫌だったので今は触らせていない。なぜか壊されそうな気がしたからだ。

それにSASの話だってどこの時代にあるのとは目的がかなり違うと思うからな。

「機会があればな、それより射撃はこれくらいでいいだろう。次は座学だ。よろしくな、ビショップ先生。」

さっき、軍曹と呼んだらせめて今日は先生と呼べと言われた。

 

ビショップ軍曹改めビショップ先生の魔法の授業はかなりわかりやすかった。”さすが、一番の年長者だな”、と言ったら厚さ5cmの教本を投げてきやがった。ウィッチとは何なのか、どういう理論のもとに空を飛んでいるのか、魔法の役割とその仕組み。さながら小説に出てくるような世界で現実味はなかったが目の前にいる少女たちはそれを使って命を懸けて戦っていると考えると急に現実感が出てくる。

 

久しぶりの訓練生気分は2時間ほど教わり次は格納庫近くまで移動し、固有魔法を使ってみることに。

「それじゃあ、まず展開してみて」

「まずは手本を頼む。」

「こればっかりはすべての始まりだからね。実際にやってもらわないと。イメージとしてはエンジンを始動させるスイッチを入れる感覚。きっかけを作ってあげればあとは勝手に動いてくれくれるの。」

なるほど、イメージがエンジンの始動か。そして俺が思い浮かべるのはピストンがゆっくりと動き出すあの風景。

そうだ、いきなり動き出すのではなくゆっくりと、だが確実に早くなるあのイメージだ。

そしてしばらく集中すると何かが繋がるような感覚が起きた。まるでエンジンに火が入った感覚だった。

そしてその直後に俺の足下に魔方陣が展開された。

「見たこともない文字ね。」

「俺事態がイレギュラーだからな。」

「なるほど。それじゃあ、さらに集中してみて。」

目を瞑ってさらに集中する。エンジンの回転数をさらに上げるイメージ。車ならもうすぐレッドゾーンだ。

と思ったその時一瞬くらっとなる。何だと思って目を開けたら

 

世界が止まっていた。

 

まるで自分一人だけが世界から取り残された感覚。

身体どころか視線を動かす事すらかなわない。本当に魂だけが体から外れてしまった感じだ。

慌てて回転数を下げるかのように意識的に集中を落とす。やがてゆっくり胸の何かが穏やかな感覚になり世界がゆっくりと動き出す。そしてだんだんと加速していき体が自由に動かせるようになった。

「?どうしたの?」

俺が足をもつれさせ、慌てて体を支えてくれるビショップ軍曹。

助かった、ありがとう。といって彼女から離れる。

「大丈夫?」

「何か一瞬くらっとしたら世界が止まったんだ。で、もう一度集中したら何かが沸き上がる感覚を感じたんだ。で、目を開けたら元に戻ってた。」

「うーん、よくわからないな。」

説明がうまくできない。アドレナリンが出ているせいで感覚が鋭敏になっているようだ、と言ってもおそらく通じないだろうし。

「まるで、世界から俺が取り残されているような感じだった。走馬灯みたいな?」

「それは、感覚が加速しているせい。」

思わぬ事実に驚きながらも声の主の方へ振り向く。

「ラウラ?」

「それってどういうこと?」

オストマルク空軍、だっけか?後で聞いたのだが彼女も昔はエース部隊にいたらしいが何らかの理由でここに来た人らしい。どちらにせよ元エースならその話の信ぴょう性はぐっと上がる。

「私も初めて能力を使ったときそんな感覚に陥った。」

「体が動かなかったんだが、それはわかるか?」

「それは多分頭だけが加速されているためだと思う。」

「なるほどね、流石だな。優秀なだけある。」

「そんなことない、私は優秀じゃないし、私も似たような経験をしていたから助言ができただけ。」

「わかった、どっちにしろ助かったよ。ありがとう。」

「別に」

まるでいうべきことはすべて行ったといわんばかりに話を切り上げると彼女は建物へと戻っていってしまった。

「じゃあさしずめ俺の固有魔法は思考加速ってところか。ところで、ビショップ先生の固有魔法は?」

「あたし?、私は魔弾かな。どんなのかは秘密」

ずるくね?

「ところで、使い魔はなんなんだろうね?」

「わからん、それに気にならないからな。」

「私が気になる。だから、調べてあげる。」

「さいですか、手つきが嫌らしいのですが…」

「気にしないの。」

結局いろいろなところを触られてほんの小さな耳みたいなのができていることが分かった。

「面白い!こんなの始めて見た!扶桑の絵本に出てきた鬼みたい!」

「お、鬼だと?」

先生は終始感動していた。

鬼と言われた俺は地味に傷ついていたが。

 

午後、訓練飛行。

1日ぶりのストライカーユニット。

昨日とはすこし違う感覚だな。

タキシングして滑走路へ。

イメージするのは先ほどと同じようにエンジンの回転数を上げる感覚。だけれども能力を使うときとは違うただ市速度を求めるかのような感じだ。

そして俺のイメージ通りにユニットは速度を上げていく。その加速度の感覚、周りの風景の流れる速さはいつもの光景とそう変わらなかった。

そして離陸。

心の中でイメージするだけで何もかも動く。便利だが、いざとっさの判断が求められたときはこれはこれできついかもしれない。

 

基地の近くに設定された訓練空域は風の流れもよく、まさに初めて戦闘のことを考えることなく自由に飛ぶにはふさわしい気象条件だった。

 

「それじゃあ、大尉。どんな感じに飛びたい?訓練生時代を思い出すような基礎の復習から?」

一瞬、それにしようか悩んだ。だが駄目だ。俺はこの時代で生きていくと決めたんだ。ならできるだけ早くこのユニットを今までのように使いこなせるようにならないといけない。すでに一回飛んだことで多少コツはつかんでいる。ならそこまで戻る必要はないだろう。

「いや、その必要はない。軍曹、君の好きなように飛んでくれ。俺はそのコースを正確になぞって見せる。それでどうだ?」

「私はそれでもいいけれど、平気?そのユニットまだ使い始めてそんなに時間たってないんでしょ?」

「平気だ。それに自分の限界はわきまえている。無理だと思ったら素直に離脱する。もっともそんなことは起きないと思うけれど。」

「へー。面白いじゃん。」

俺の言葉に不敵に笑みを浮かべる軍曹。

 

「それじゃあ、ついてきて!」

 

俺を置いていくかのように軍曹は一気に急降下を始めた。

フライングしてまで突き放したいか。

「いいだろう、ついて行ってやるさ。」

 

彼女のユニットについている翼から発生している飛行機雲をコースの目印として俺も急降下を始める。

だんだんと速度が上がっていくとともにユニットから発生する振動が大きくなる。それとともに進路にふらつきが出始める。必死に制御しようとしてもそれが逆に振動を助長させるような動きにつながる。そして一瞬で、俺の意図しない力が働き、振動がすぐに収まった。

おそらくgarudaが介入したのだろう。ここでもこいつの助けを借りることになるとはな。

そして軍曹が急降下の体勢から体を引き起こし、海面すれすれを飛ぶ。

速度が彼女よりも早くなっているため俺は軍曹が引き起こした場所よりもさらに手前で引き起こす。

強烈なGが俺を襲うが予想していていたよりもはるかに楽なものだった。レッドアウトもそれほど起きない。

これがビショップ軍曹が言っていたあの魔法による加護というものなのだろうか。

「てっきり海に突っ込むかと思った!」

「そんなへまはしない!」

「ならこれはどう!」

エネルギーを取り戻し再び上昇体勢に入る軍曹。

大勢の関係で上を見ることが厳しいため一瞬反応が遅れる。

すぐに出力の向きを変えて上昇体勢に入る。だが空戦では一瞬の隙が致命的。

その上昇に合わせて進行方向を見るが誰もいない。完全に見失った、はずだった。

だが経験からだろうか、自然と行き先が分かった。

左ひねりこみ

その単語が頭をよぎる。それなら俺が見失ったのも納得だ。そしてその機動が分かっているのなら行先に向かえばいいだけのこと。

身体を動かし左に少し上昇させる起動を取る。

そしてその直後、目の前に彼女が上から舞い降りてくる。

完璧な起動をしていたがゆえに前にしか注意を向けていない。ここは敵がいないから注意がそれたんだろうな。

そして後ろを振り向いた彼女と目が合う。

驚いた彼女に対して軽く手を振るとその表情が一変、怒ったようなものに変わった。

本気にさせてしまったかな?

やはりその予感は正しく軍曹はもう俺に何も言わずに回避機動を行うようになった。

こちらだって伊達にSAFで長い間過ごしているんだ。先ほどは一瞬見失ったがこの後は一度も彼女の背後から離れることはなかった。

 

「あああああ!くやしい!!」

もう限界、と俺に一報を軍曹が入れてきたことでこの訓練は終了となった。

「どうして?最初は振り切れたと思ったのに。」

「なんとなくだな、左ひねりこみで来ると思ったんだ。だからその回避する先にいれば必ずついていけると思ったら案の定、目の前に来たからな。あとはもう手を取るように分かった。」

俺のその種明かしに何度目かの驚いた表情を見せる。だがその表情もすぐに落ち込んだものに変わった。

さすがにかわいそうになってきたのでもう帰ることにする。

「帰ろうか、先生。」

「もう先生の所が嫌みにしか聞こえないよ。」

あー、これは完全に落ち込んでいるな。基地に帰っても口をきいてくれないかもな。

「あと、今日はいろいろ教えてありがとう。」

だから感謝が早いうちにしておくことにした。

「え?全然役に立たなかったんじゃない?」

「そんなことはない。初見のものばっかりで対応しにくかった。あっちじゃ、大体が見慣れたようなものばっかりだったし、あとそれとさ、今日1日付き合ってくれてありがとう。楽しかった。だから、俺が言うのもなんだが落ち込むなよ。」

 

何かを考えるそぶりをしてやがて笑顔になる彼女。

「ありがと、大尉。」

彼女の笑顔は夕日と重なってとても綺麗だった。

 

 

Another view -Sied Bishop-

くやしい。本当に悔しかった。その悔しさも彼のきれいな飛びようというか自分の情けなさが占めていた。

昨日あんなことがあったから年下のような年上の彼、バーフォードをこの空中訓練でギャフンと言わせてやるはずだった。

結果は失敗。

今まで培ってきたあらゆる機動を試したけどダメ。

地上にいるときとは別のまるで、獲物を狩るようなちょっと怖い目が常に私を見て追いかけてくる。

本当にバーフォード?と思ってしまった。

多少は怖気づいてしまったけれどそれなんかは理由にはならない。

それで情けない自分に落ち込んでいた。

声をかけてきたときも嫌みを言うのかと思ったら逆に感謝された。理由を聞けば、初見で対応しにくい機動をしてくれたからと、意外なことに1日付き合ってくれたからだそうだ。

私はどうってことはなかったのだけど彼なとってはかなり重要だったみたい。

すこし、彼に対する考え方が変わったかも。

よくわからない人から不思議でちょっと面白い人って感じかな。

この瞬間からだろうか、私がまたこの人ともう一度飛びたいと思うようになったのは。

 

Another view end -side Bishop-

 




つぎは2on2の模擬戦に使用と思います。


ちょっとずつ彼の過去も明らかにしていきたいです。
これからも暴走ゆえに道がそれることがあるため、できるだけ直していきたいと思います。

ご指摘、ご感想、誤字報告があればよろしくお願いします。


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第6話 模擬戦&強襲

今度は地上もあるよ。


Check 6

ラウラが迫ってくる。機体にリミッターをかけているとはいえ、なかなか振り切れない。

流石は、オストマルク撤退戦の生き残りといったところか。かなり急な起動で仕掛けたつもりでもついてくる。つまりはこちらの動きが読まれている。だがこっちもメンツがあるんでね、墜ちるわけにはいかないんだよ。

もう一人の動きにも警戒しながら俺はラウラの動きと攻撃タイミングに警戒するのだった。

 

~~~~~~~~~~~~~~

3時間前。

朝御飯を終えて、仕事前の会議のような奴で隊長が言った。

「昨日に引き続き、今日はバーフォードさんを含めての模擬戦を行いたいと思います。」

「平気なのか?ネウロイが来るかも知れないぞ?」

ここは近くに統合戦闘航空団なる世界各国のエースを集めて編成した特殊部隊のようなものがあるらしい。そこの部隊のやつらが大抵こちらに来るネウロイを撃破してしまうためここワイト島にはほとんどネウロイは来ないらしい。だかここも本土防衛のための重要な拠点のひとつ、らしいがあんな雰囲気をみるとそんな気はしないが。

「一応、私とあと1人が待機しているので問題ありません。」

ネウロイの強さがわからないが彼女2人で対象出来るらしい。なら任せるが。

「それなら構わないが。で、誰が出るんだ?」

「そうね、誰か出たい人がいる?」

「はい!」「はい」

手をあげたのビショップ軍曹と、ラウラ?意外だな。

こういうのは興味がないと思っていた。

「能力が似ているので戦ってみたい。」

あぁ、なるほどね。そらなら俺も興味がある。この自分に宿った能力がどれ程使えるのか未知数である以上、俺以上に使いこなせる彼女がどういう風にして使うのか参考になるだろう。

「あと1人ね。アメリーさんと、フランさんどうする?」

「あの…私出たいです。」

こちらも意外だった。大人しそうな雰囲気がある彼女もでるのか。

「それじゃあ、アメリーさんね。フランさんもそれでいい?」

「構わないわ、ネウロイが出たときはこちらできっちりおとしてあげるから。」

「それじゃあ1000に4人は離陸。1230までには戻ってくるように。解散」

 

1000離陸

軍曹を隊長機としながら編隊を組んで哨戒を兼ねながら訓練空域まで向かう。。

「それで、グループはどうする?」

この人数なら2人1組だろうか。

「どうしたいの?」

「これは提案だが俺とビショップ軍曹、アメリーとラウラというのは?」

「あの、なぜですか?」

「1つは、昨日とんだお陰でビショップの飛び方は大体わかったから連携がしやすい。だったら僚機なら最適かと思ったからだ。2つめは、聞いた話じゃ先日アメリーはビショップに戦い方を教えてもらったんだろ?ならそれを実際に試してみるのにいい機会だとは思わないか?それとも変えてほしいか?」

「いえ、問題ないです。」

「軍曹、仕切ってしまったようで悪かった。あとは君に任せる。」

別に平気だよ、と特に気にする素振りも見せず軍曹が指示をだす。

「それじゃあ全機、合図をしたら4500まで上昇、到達後、反転して4000まで下げたら模擬戦開始といこうか。」

「「「了解」」」

 

「全機、上昇」

軍曹の指示で全機が飛行機雲を作りなが上昇を始める。

3500

4000

4200

4400

4500

「それじゃ、反転!」

ユニットの出力先を変えて今度は降下を始める。

4400

4300

4100

4000

さて、いきますか。高度計の数字が4000を切ると同時に俺は体のスイッチを戦闘モードに切り替える。

「ガルーダ、エンゲージ」

俺がこの世界に来て初めての記録に残る戦闘が始まる。

~~~~~~~~~~~~~

 

さて、どうしたものか。おれ自身、彼女を振り切れないことに少し苛立ちを感じ始めていた。こっちだってそれなりの経験を積んでいるし特殊戦にいたプライドもある。最初は様子見だったのもいまでは振り切る事のみに集中している。そして今の今まで俺もラウラもそのどちらも一発も射撃を行っていない。銃弾は模擬弾に全て交換されているため射撃は行える。行えるのだが、どうにもタイミングが掴めない。ラウラがまだ一回も俺の後ろに付いているというのにこちらに射撃を行ってこないのもよく分からない。こちらのパターンを読んで最高の一撃を食らわすためかおれ自身を慌てさせてペースを崩させるためか、解らないがどちらにせよこの状況が長続きするのはかなり不味い。

持久戦はおれ自身が嫌いだし、このユニットでは相性が悪い。ここまで読めない奴と戦うのも久しぶりだ。

 

このままではらちが明かないと判断した俺は彼女、ビショップに助けを求める。

「ビショップ、ラウラを振り切れない。カバーできるか?」

「へ?昨日あんなに凄い機動やってたのに?」

「あぁ。どうやら俺は彼女と相性が悪いらしい。合図をしたら牽制射、方向は任せる。」

「了解。なら終わったらこっちも手伝ってよ?」

「俺が撃墜されていなければな。」

「なら、さくっとやっちゃいますか。」

「あぁ、たの・・・!」

っ!

警戒を怠っていたわけではないがかなりいいタイミングで攻撃してきた。初めてのラウラの射撃。今の今までさんざん貯めていた、かなり自信があったと見える。

回避できたのも勘だ。なんとなく狙われていたのがわかり左に体をひねりギリギリでそれを回避した。

「絶対に当たると思ったのに。」

「戦闘中に話しかけてくるとは余裕だな!」

一瞬、聞かれたか?と警戒するが周波数がそもそも違った。

「けど次は当てる。」

「そりゃどうも。」

だがこちらももうそろそろ仕掛けさせてもらう。ずっと追われるというのは嫌いなんだ。

ここで、俺は再び急上昇をする。体にGを強く感じるほどの急上昇だったはずだが彼女も普通についてくる。当たり前だ、ついてきてもらわなきゃこっちの作戦も成功しない。

ここで、左急旋回…くる!

ユニットを自分からみて右上に突き出し急減速、そして降下。

体を限界まで捻る。

体が360度ぐるりと回ったことで俺はラウラを見失ってしまう。全く、コックピットにいた頃は計器のせいでジャムを見逃しそうになりもどかしい思いをしたが、逆に全くなくなってもそれはそれで不便だ。

「後ろ!」

俺と軍曹のみが使えるチャンネルでの警告。まさかこれにも付いてきたと言うのか!

俺が驚いている間にラウラは俺を必中の範囲内に捉えていた。

「あぁもう、馬鹿!」

そして俺もラウラも思わぬ方向からの攻撃に驚いた。彼女はいつの間にかアメリーの追撃から俺の援護に移っていたのだ。

ラウラはビショップの攻撃圏内に入っていることに気づく。すかさず感覚加速でギリギリ軍曹の攻撃を回避するが俺への攻撃は中止を余儀なくされた。彼女の最高のタイミングでの援護射撃に2人も舌を巻いていた。

その瞬間、俺は彼女と目が合う。

"なにやってるの!"

そう促すような視線に俺は漸く意味を理解した。

さんざん煽られてイライラしていたせいで彼女が作ってくれたこの最高の攻撃タイミングを見逃そうとしていたのか。

バカだな、俺は。

 

すぐに俺は狙撃銃を構えてラウラの姿を照準の中央に捉える。ただこんなに早い動きだと狙いにくい。

・・・使ってみるか、あれを。

イメージするはエンジンの回転数をあげるあの感覚。そして

-発動-

そして世界が止まる。

スコープで、既に大まかな位置を捉えていたので微調整、あれ?前回と違って体が少しだけ動く、いや、正確には加速率が前回より小さいのか?

捉えた。

照準の先にはビショップか俺かどちらを先に狙うか迷っているラウラが。

「悪手だぞ、それは。」

たった1人のほんの一瞬の援護で全く状況が変わった。彼女に感謝しながら俺は引き金を引く、それと同時に魔法解除。

ガン!!

いつもよりも少し軽い射撃音と共にペイント弾が発射。

そしてペイント弾はラウラの額へ吸い込まれていき、ヘッドショット。

「あう!」

「よし!」

頭に衝撃を受けて変な声を出すラウラとその彼女の撃墜判定に喜ぶ軍曹。

 

 

「ビショップ、ありがとう。さっきは助かった。」

「なら次はこっちを助けてくれない?アメリーに追いかけ回されているんだ。」

「軍曹、さっきの腕なら君一人で十分じゃないか?」

「それが大変なの。どんどん私の技術を盗んじゃうから。」

「そりゃ大変だな。援護する。そのままの進路を維持してこちらに意識が向かないようにしてくれ。」

「なるほどね、了解。」

俺の武器からどういう攻撃をするのか即時に理解する軍曹。

ユニットの出力を抑えて空中でホバリングするように位置をとり、狙撃銃のスコープを覗きこむ。

軍曹の後ろを必死にだが確実に追いかけるアメリーの姿をとらえた。軍曹も後ろに向けて射撃を行い彼女のみに集中するように仕向ける。

「急いでくれると助かるんだけど!」

「わかってる。」

アメリーに、撃墜判定が出ればいいので先程のようにわざわざ頭に当てる必要はなく体のどこかに当たればいい。なので狙う際、飛行姿勢の関係で横のズレは問題ないが縦のズレは致命的となる。

「もし私に当たったら何かしてもらうからね?」

「それは君の責任だろう。」

「でもラウラに落とされなかったのは私のお陰じゃない!」

まぁ、確かにそうだ。さっきは危ないところを助けてもらったしな。

「まぁ、その心配は。」

雲や空気の流れ、重力を考慮に入れ照準をアメリーの腰に定める。

「不要だぞ?」

-発砲-

俺の狙撃銃から放たれたペイント弾は正確にアメリーへ飛んでいき彼女のユニットを黄色に染めた。

こうして、模擬戦は終了した。

 

 

帰投後、俺はユニットの整備を行っていた。昨日の今日でかなり激しい出力の切り替えや機動を行ったからな。メンテナンスしないと後々に影響が出てきそうだと思い、工具を手に取り始めた。

「みてもいい?」

そんな俺の作業風景が気になったのかラウラが顔を出してきた。

「あぁ、かまわない。」

俺がそういうと彼女は丸椅子をかかえ少し離れたところに座った。

「2度も・・・。」

「ん?」

「2度もかわされた。」

「あぁ、あれかって2度も?一回しか撃ってなくないか?」

「軍曹に邪魔されたから。」

「なるほどね。」

そういうとラウラは黙ってしまった。何か言うことを考えているのかそれとも見ることに集中しているのか?

「絶対に当たると思ったのに。特に最初の射撃は。」

「確かにな。中々に危なかった。」

「どうして避けられたの?能力?」

いや、そんな凄いものじゃない。

「勘だよ。」

「・・・そんなもので避けられるの?」

「そうだ。というか、勘と自分の経験を元に脳がとっさに判断したものだ。俺だってかなりの時間空を飛んでいるしそれなりに落としてきた経験がある。だから回避できたんじゃないかな。とっさに背中に感じるものがあって体を捻ると俺がいたところにペイント弾が飛んでいった。」

「本当に?」「本当だ。」

俺の言葉に難しい顔をするラウラ。まぁ俺だって言い表せないがな。

「でも、お前だって中々の腕じゃないか。射撃もそうだが飛びかたもかなり洗練されている。

本当は後ろにつかれた瞬間にコブラ機動から俺を抜かした瞬間に背中に撃ってやろうと思っていたんだ。それがどうだ?急減速しても俺を追い越すことなくしっかりとついてきやがった。あのときは焦ったな。それからはもうお前のペースだ。」

「そんな事ない。」

と首をふるラウラ。

「私もほとんど飛んだことないって聞いていたから油断していた。だから撃つタイミングも逃していたしそもそも付いていくだけで精一杯だった。」

よく言うよ。あんなの見せつけられてどこが精一杯だよ?

「だから次は絶対に落とす。」

「言ってくれるじゃないか。なら俺はまたペイント弾を当ててやるよ。なに色がいいんだ?黄色か?青色か?」

「あれ洗うの凄く大変だからいや。」

「なら。」

俺は左側ユニットの整備を終えてアクセスパネルを閉じながら彼女に言う。

「次は当たらないことだ。」

「ん。もちろん。」

俺の言葉に決意のこもった視線を向けて頷くラウラ。

次に右側のユニットの整備を始めようとすると彼女は立ち上がった。

「もういいのか?」

「うん。聞きたいことは聞けたから。」

そう言うと椅子を持って格納庫から出ていってしまった。あの歳のラウラに空で翻弄されたのは予想外だった。途中からはただ振り切る事のみに集中してたはずなのに結果はダメ。

「俺もまだまだ、だな。」

一から仕切り直しだな、と思いながら機体のカバーを開けてみると、ふと何かが震えているのがわかった。

どうやら何かが刺さっているみたいだ。おまけに光っている。

そこに刺さっていたのは

「携帯?」

 

~~~~~~~~~~

オーバーホールを、終えて部屋に戻る。

「なんだ、これは?」

こっちの世界に来たときに起きた機体の魔改造の産物?

いや、魔変形というべきか。どちらにせよこいつがメイヴの一部なのは間違いないだろう。

立ち上げてみると、どうやらgarudaに直接アクセス出きるみたいだ。保存してある様々なデータがこれで見ることが出きる。先程の戦闘データも保存してあり意外と便利だな、と素直な感想を口にする

充電はストライカーユニットに繋ぐことで出きるのか。毎回行くのは面倒くさいけど、どこでも充電できるのは大きいだろうな。

Garudaとのデータリンク完了。

警告!

ポップアップして出てきたのはgarudaからの警告だった。もとの世界ならウイルスか危険なサイトと判断して消しそうだがここではちがう。何だろう?と思いながら確認してみると

最近基地近くにて発光及び無線を確認、暗号無線のため解読できず。ただ出力が弱かったためどこか近隣にある受信施設への報告の可能性あり。至急対処を。

場所は~

とのことだった。流石、自分の身を守ることに特化したAIは違う。自分に害がある可能性が少しでもあるならば早急にパイロットに対してそれに対処するように指示を出す。おかげで今回も助かったが。

フムン、対応が早いな。いや、もともとこの基地を監視していた奴が偶然見つけただけかもしれないが。

俺は支度を始めることにする。隊長さんに何かが起こる前にこちらでその芽を摘んでおこう。

 

2200 隊長には早く寝る。死ぬほど疲れているんだ。起こさないでくれ。といって万が一部屋に入って脱走だと誤解されないようにちゃんと理由があっての事だという置き手紙をおいておく。

でもよく考えたら理由があってもなくても脱走だしそもそも理由なくして脱走はしないよな。

基地の周りにあるフェンスを越え、夜の林をひたすらに走る。腰には小型拳銃を装備しているが、それ以外の武装はしていない。最初は狙撃銃を持っていくことも考えた。だがあれは大きすぎるし弾薬が減っていた際の言い訳もできない。彼女たちの使用している銃を借りることも一瞬考えもしたがそれも捨てた。

あいつらの銃を人の血で汚すことなんて支度はなかったからな。

 

該当の家は村のはずれにある一軒家。以前に地図を見せてもらったがそこそこ大きい村のはずれにあり普段誰も近づかないような気に囲まれた場所にある。なるほど、絶好の場所だな。夜に明かりをつけたとしても木がそれを遮ってくれる。

ということは逆に俺のことも遮ってくれる、ということだ。

海からの風が木の葉を揺らし、地面の草をなびかせることで俺の走る音もかき消していく。

やがて該当の家にたどり着く。立哨もなし。トラップも見えない。

姿勢を低くしながらドアに張り付く。

そうしながら耳を澄ませると中から声が聞こえってきた。

『…それで、上は彼をどうするつもりなんだ?』

『さぁな、空軍大将様は様子見らしいけど命令があれば捕まえるんじゃないか?』

『とりあえず、今日は何て報告するんだ?』

『中の様子じゃ模擬戦をやったみたいだな。』

『全く羨ましいよ…』

内通者がいる?それか監視している別のグループがいるのか?まぁいい。どちらにせよ俺に敵対する勢力になりそうだな。

 

最初は何か、特に警察にでも偽装しようかと思ったがどうせ時間はかけられない。なら速攻だ。

こういう時のマスターキーと言ったらショットガンだろうがあいにくとそんなものはない。俺は以前に軍曹から魔法を使用している間は自分の基礎体力や筋力などが挙がっていることを知っていた。だから魔力を発現させ、準備を整える。ふとこめかみの所に灰色のふさっとしたものが出ていた。まるで小さな耳みたいだなと思いながら俺は拳銃を抜く。

強化された力をもって小型拳銃で木製扉の鍵の部分に連射する。

3発で完全にカギが吹き飛び、次に扉を蹴ると中に入れるようになった。

突入。

この家の大きさからしてそこまで敵はいないだろう。

そして音に気が付いてこちらに来ていた敵を見つける。

銃口をそのまま敵に向けようとするが、すぐに照準を下に向け足を狙う。

発砲。

「グッ!」

そのまま倒れる敵に後ろから続いていた敵が思わず下に注目してしまった。

そして集中がそれた内にさらに発砲。

そいつらに近づいて手に持っていた拳銃を蹴り飛ばして使えないようにする。

とりあえず2人は無力化した。あと敵は?と思った瞬間

背後から何か風を切る音がした。

足を軸にその場で回転しその攻撃を回避して逆に今度はこちらが攻撃する。銃底で胸をたたき、一瞬よろめいたとこでそのまま拘束する。

「よう。いくつか聞きたいことがあるんだ。」

「あ、あんた、何者だ?」

「あんたらが敵に回した男だよ。それより、定時連絡の時間だろ。上に繋げ。そいつらにちょっと用事があってね、話さないといけない用事があるんだ。」

敵の武装解除をしながら話す。

「何をする気だ?」

そのまま椅子の前に連れて行き座らせる。

「お前さんは話すことしかできないのか?黙ってやれ。」

時間。捕まえた男が連絡を始める。こいつの役割は最初の符号一致作業のみ。

『それで、現状は?』

すぐに用がなくなってしまった彼の頭をたたきつけて気絶させる。

「悪いな、全滅だよ。」

『…………誰だ?』

「あんたらが敵に回した男だ。」

『まだ、こちらは手を出してはいないつもりだけどね。』

「情報を漏らそうとした。それなら敵だ。」

俺は助けてくれた人や恩がある人に足しては自分の能力をもってその恩を返す。だが敵であれば自分の能力で排除する。なら今のこいつらは俺にとって排除する相手でしかない。ジャム、ネウロイと同じ認識でしかない。

『なるほど、ところで君はあのジェットストライカーユニットのウィッチという認識で間違いないかな?』

「あぁ。よくわかったな。」

『最近は穏やかなものでね。私の敵と言ったら政治的なものだけだ。それにそこを襲うやつらなんて君以外にいなさそうだからな。ところで2週間後君と話がしたい。ワイト島には連絡をしておく。』

連絡だと?つまりこいつはここに対して命令か何かをできる立場にある人間なのか?

しまったな、てっきりどこかの諜報機関が仕掛けてきたものだと思っていた。流石に手を出すのが早すぎたか?

「連絡だと?一体どうやって?」

『そりゃ正式なルートでだ。それじゃ、楽しみにしているよ。リョウ。』

「おい!」

そういうと切れてしまった。あいつは言いたいことを言ったが俺は聞きたいことは聞けなかった。なんだ、いったいどうなっている?なんでその名前を知っている?

正式なルート?どこかの軍の上層部が関わっているのか?

「あー、くそ!」

自分のその能力のなさに嘆くがこれ以上はどうしようもない。

 

俺はこの小さな家を後にする。

こうなってしまった以上は2週間後を待つしかないのか。俺は頭を抱えながらここを出るのだった。




昨日の分の投下です。
寝落ちしました。

書いている本人は暴走が激しくて楽しくてしょうがない。
戦闘の描写は上手く書けてるかな…

ご指摘、ご感想、誤字報告があればよろしくお願いします。


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第7話 Happy birthday!!

模擬戦を終えてから1週間たった。

出撃も1回しかなく、ネウロイは2機墜としたのでこの世界での撃墜数は5、総撃墜数は158といったところか。この世界でも5機を超えるとエース扱いになるのだろうか?

ただ、今となってそんなエースの称号なんかよりももっと気に掛けるべきことがあった。

 

2週間後とはいえ、いまだに何一つ連絡がここに来ない。なにかしらのコンタクトがあってもいいのだがと思うが残念ながらそれらしきものは何もなかった。隊長がすべて握りつぶしている可能性もあるが、俺宛の連絡となればさすがに無理なはずだ。とにかく、今はあらゆることを想定しておかないとな。ユニットに乗っていないときは俺を守ってくれるのは腰にある小型拳銃だけだ。せめてこいつだけでもちゃんとしておかないとな。

そんなことを思っていると後ろからビショップ軍曹がきて、耳もとでこうささやかれた。

「2100に私の部屋に来て。理由は来てから話す。」

「なんだよいきなり?」

「じゃあ、そういうことで。」

行ってしまった。まるで風のように着て一瞬で去ってしまう。

まだ、時間はあるし部屋に戻って本でも読むか。

ちなみに今読んでいるのは扶桑海事変からここ最近までの戦いを詳細に記してあるものである。ほとんどこの世界についての知識がない自分に少しの助けにでもなればとビショップが貸してくれた。あいついいやつじゃん。読んでいて気付いたのだが、面白い事にもとの世界で男だったやつがこっちじゃ少女になっていることが多々あった。あと、剣でネウロイと戦っているやつがいるとか。全く何がなんやら。

それとだいぶストライカーユニットについてもわかってきた。ウィッチという彼女たちの魔力をエネルギーに変換して飛ぶ魔法の箒といったところか。燃料を増槽として搭載してさらに長距離飛べるユニットもあるようで個々のあたりはハイブリットエンジンなのか不明だが研究が進んでいるらしい。ジェットストライカーユニットも存在しているらしいがいまだ試作段階。そもそもストライカーユニットが一連を通してもっとも魔力を使うのは始動の時らしくその時に使用者の大半の魔力を奪ってしまい活動可能時間は5分程度なのだとか、ってこんなこと書いてあるのを読んでも平気なのか?まぁ、貸してくれた奴だし平気なのかもな。そう自分に言い聞かせて先を読み進めることにした。

 

2100

ビショップの部屋にいくと隊長以外全員がいた。ビショップ軍曹が声をかけたのはどうやら俺だけじゃなかったらしい。空いていた椅子に腰かけると今回の発起人である彼女が話を進めだした。

「それでは第2回戦略会議を始めます。今回の議題は、隊長の誕生日を祝おうの会、題して20の誕生日おめでとう!!!の会についてです。」

「それで、誕生日はいつなんだ?」

「明後日」

「なぜここまで引き伸ばした?」

思わず、ビショップの頬を引っ張ってしまった。そういうものって1週間前くらいから綿密な計画を製作してから隠密に進めるものじゃないのか?今のこの状況を見る限りそんなのかけらもないんだが・・・。

「いはい、いはい!」

彼女が涙目を浮かべ始めたので放す。

まぁ、ここまで来てしまったのならしょうがない。残された時間で迅速に行わなければならないだろうな。

「それで、予定は?」

「うー。明後日は私と隊長が哨戒飛行だからいない間に料理や飾りつけをしてもらいたいなと考えてます。」

「食材は揃っているのか?」

「明日、皆で買い出しに行きます。ちなみに隊長は明日呼び出しを食らったそうで出頭しなければならないみたいなのであません。」

その言葉に思わずはっとなる。まさか、彼女に先に手を出すつもりでは?

「その出頭の内容は?」

だからどうしても聞いてしまった。最悪そちらの方もやらなくてはならなくなる。

「隊長の怪我についてだそうです。行先は扶桑大使館みたいですよ。」

扶桑大使館か。あの声の主に扶桑語の訛りは微塵も感じられなかった。つまりは、おそらく違うだろう。よかった、迷惑はまだかけていないみたいだな。だが警戒はしておくべきだろう。隊長が帰ってきたらさりげなくでも聞いてみるか。

「わかった。じゃあ、人員の振り分けは?」

「料理がうまい人ー?」

俺とアメリーが手をあげる。

「えっ、あんた料理できるの?」

「失礼な、あっちじゃ暇なときは作ってた。食堂もあったが作るのも悪くないと思っていたし、男子ご飯何て言うのもあるしな。」

「嘘でしょ、てっきり全くできないと思っていたから。」

「なんだ?失礼じゃないか?」

「まぁまぁ。それじゃあ、残りの人たちで装飾を行いましょっか。」

「「「はーい。」」」

こうして、配置は大まかに決まった。

 

2230

喉が渇いたので食堂にいくと隊長と鉢会わせた。いつもの服で相変わらずこの時間も仕事を続けているのだろうか。

「こんな時間まで仕事か、大変だな。」

「責任者だしね。あっ、ちょっとついてきてもらえる?」

「?」

隊長に呼ばれて俺は彼女に連れられて司令官室までついていく。今日は呼び出されてばかりだな、と思っていると彼女から茶封筒を渡された。

「これは?」

「給料かな、ここに来てすでに5機墜としているでしょ?だから。」

手渡しの袋の中に入っているなんて初めてだ。もう一つ上の世代、こいつらにとっては下の世代では・・・ってちょっと待て。

「いいのか、曲がりなりにも部外者だぞ?」

「いいのよ、浮いた分をやりくりしたから。それに私たちと一緒に戦ってくれているあなたに何も対価がないというのはさすがに私が気まずいから。」

「だが、これは俺が好きでやっていることだ。隊長がここに受け入れたことに対する対価であってそれで相殺できるほどだ。だから隊長、君がわざわざ身をこれ以上、切る必要なんて無いんだ。」

「それでも。私たちは感謝しているから。初めてあなたがネウロイを撃墜したとき、ラウラはあなたが助けてくれたことに感謝していたわ。それに前の模擬戦も、参戦していたみんなにいい影響を与えているみたいなの。いままでほとんど私たちと話そうとしてくれなかったラウラも少しずつだけれど他愛もないことを話してくれるようになった。フランはつんつんしているけれどあなたの実力は認めているみたいよ?アメリーも負けていられません!って張り切っていたしウィルマさんも”彼が来てからさらにここの基地がにぎやかになって楽しい。あの人にはすごく感謝しないと。”って言っていたわ。そして、それは私も同じ。あなたとウィルマさんが来るまでのここは連携をとるのも苦労していたほどなの。自分の主張が強すぎたり、逆に全くできなかったり、そもそも話を聞いてくれなかったり、ね。

だからウィルマさんも含めて私はあなたにこの”ありがとう。”という気持ちを伝えたい。

あなたは確かに恩を感じてくれているから今のままで十分かもしれないけれど、私はダメでどうしてもわかってもらいたいからね。だからこういう給料、という形をとったの。

どちらにせよあなたも、外に出たときに自由に使えるお金が多少は必要でしょ?

だからこれはどうしても受け取ってもらいたいの。」

・・・そんな顔で言われたら俺はもう反論できない。彼女が恩を感じてくれている、それは俺もだ。だからこそ、彼女にそれ以上背負ってほしくなかったから働いたつもりだったのに・・・。

だが彼女がそう言うのならありがたくもらうとしよう。現金は明後日に備えてほしいとは思っていたからな。

「・・・すまない、助かる。この借りは出撃して戦果をもって隊長に返すさ。」

「わかった、期待しているわ。

あなたは初めて飛んだ時と今日飛んだ時を比較してもかなり動きが綺麗になってきているのがわかるわ。短いこの間でこれだけ動きがよくなっているんだもの。きっと将来すごいウィッチになりそうね。」

「あぁ、そうなれるといいな。隊長。」

「ん?」

頭を下げて彼女に感謝を伝える。

「ありがとう。感謝している。」

「もう、いいのよ?好きでやったことだから。」

「それでもだ。」

「はいはい。わかったから今日はもう早く寝なさい?」

「子どもじゃないんだから。」

「子どもじゃない。十分。」

そういって俺は隊長に背中を押されて部屋を出された。右手に握りしめていた茶封筒をみてもう一度その扉にむかって声をかけた。

「ありがとうな、隊長。」

 

 

次の日

俺とアメリーは買い物をするために市場まで向かっていた。車を借りて俺が運転する。この車型は初めてだったが意外と乗れた。初めて聞くエンジン音に新鮮味を感じながら市場の近くに車を止めてその先は徒歩で向かう。

「それで、何を作るのか?」

「ガリア料理にしようかと、バーフォードさんは?」

「扶桑食かな。ブリタニア料理よりは隊長の受けもいいと思うし。ただ、食材が揃うかどうか。」

「扶桑食できるんですか?」

「それなりにはできるさ。母親が扶桑人でな、ほら髪が黒いのもそのせいだな。けど、ガリア料理とあうものってあるのか?具体的に何作るんだ?」

「ええっとですね、…。」

「なるほど、それは中々良いかもしれないな。ただこれは作り方がわからない。代わりにこれはどうだ?」

「あ、いいですね!それじゃ、デザートはどうしましょっか?」

「それはだな・・・。」

こうして、フルコースの案を練っていく。

 

 

明日作る際に必要な食材を買い終わったところで最後に収入もあったことだしあるものを買った。それは

「洋服ですか」

「今までは整備の人のを借りてたけどさすがに不味いと思って3着もあればローテーションできるし。」

「なるほど。それとその細長い布は何に使うんですか?」

「ズボンの内側にボタンと共に着けることで半ズボンにもながズボンにもなるように少し改造するんだ。」

「へー。そんな事も出来るんですか。器用ですね。」

「まぁな。」

車の後ろに買った食材や洋服を乗せて運転席に座る。

エンジンをかけて基地へ帰る。

運転席の前にガラスがあるだけであとは外が丸出しのこの車、風を切るこの感覚が気持ちいい。フェアリィでは絶対に経験をすることが出来なかったのでこれはかなり楽しい。

「大尉ってすごいですね。」

「いきなりなんだ?アメリー?」

海を右手に走っていると助手席の彼女が声をかけてきた。

「ほら、戦闘もできてあっという間に部隊のみんなと仲良くなってそれだけじゃなくて料理や裁縫もできるなんて。」

「まだ裁縫と料理の腕はここでも通用するとは限らないだろ?」

「それでも、あの場で手を挙げたってことはそれなりにはできるんですよね?」

「まぁ、昔の仲間には受けが良かったな。」

そもそも一緒に飲むときに何かないのか!と言われて片手間で作ったのがきっかけだった。それから何回かやっているうちに調理の奴らにも声をかけられるようになりだいぶ腕が上達していった。書類を代わりにやってもらう対価として作るのはかなり割のいい仕事だったからな。

「私は今でも話すのが苦手で、だけど何もしないっていうのも嫌で・・・。」

「そうか?その割には今俺に話しかけてきたり昨日の料理担当決める時も積極的だったじゃないか?」

「いまは、その・・・全く話さない沈黙が続くのが嫌でこうやってお話ししているんです。迷惑、でした?」

「いいや、そんなことはない。対向車がいない道を走っているとだんだん暇になってくるからな。ちょうどよかったよ。」

「ならよかったです。」

「ま、アメリーはさ。」

「はい。」

俺は前を向きながら彼女のその不安を想う。確かに不安だよな。故郷を離れて言語の違う国にその歳で一人で来るのは。

「あいつらが好きか?明るく何事も率先していく軍曹、無口だけど頼りになるラウラ、生意気だけれど根はやさしいらしいフラン、そして皆をまとめるたまにおっちょこちょいなことをするけれど頼れる隊長が。」

「もちろんです。」

よかった。ここで言葉を詰まらせるなんてことはされなくて。そんなことされたらなんて助言したらいいのかわからなくなる。

「ならいいじゃないか。あいつらはそんなこと気にしないさ。自分の好きな時、好きなタイミング、好きなことを話せばいい。もちろんたまには話を聞いてやるとかな。あいつらのことだ、お前を嫌いになったりなんかしないさ。」

「そうですか?」

「人間関係なんてそんなもんさ。まぁ、つい最近までそれすらも俺は嫌っていた節があるがな。」

SAFは人との付き合いが極端に減る、そんな気がする場所だった。新しい最新の機体、最新の設備、最強のAI、それを渡されても結局動かすのは俺だ。あんなところにいては気がめいってしょうがない。それがここに来て、急に話すようになった。はじめは戸惑った気がするが今は慣れてだいぶ話せるようになった気がする。

「意外ですね。」

「だろう?俺だって意外に思っているんだ。ま、物は試しだ。帰ってからでもいい、少しでも自分から好きな話題を話してみるといい。きっとすぐに楽しく思えるさ。」

「わかりました、怖いけれど、やってみますね。」

その決意の表情をしたアメリーと後ろの青い海の合わさった風景というのが妙に印象に残った。彼女ならやれるだろう。一度失敗した俺とは違って。

 

基地に帰ってきた後は下準備を行う。

料理は明日からで間に合うのでそうする。ちなみに俺が前菜、スープ、サラダを、アメリーがメイン、デザートをすることになった。ただ、ガリア料理と扶桑食が混在すると言うカオスな状態になっているが平気なのか?

まぁあくまでも、なんちゃってフルコースのようなものなのでよしとしますか。

ちなみに前菜は刺身の盛り合わせ。魚は明日の朝一番で買ってくる。

スープは味噌汁。何にしようかと相談したら味噌汁がいいとアメリーが言っていたので採用。昔飲んでみて美味しかったらしい。てか、フルコースに味噌汁ってどうなのよ?ちゃっかり味噌もあるし。隊長が扶桑人ということで権限を使って何とか入手したのかもな。故郷の味というのは外国に行った時ほど大切に思えるものだ。

デザートはフルーツの盛り合わせとケーキ。

アメリーが担当するのはわからん。教えてくれなかった。

こうして、料理組は準備完了。明日はこの下準備をもとに一気に作り上げるだけだ。隊長が帰ってくるまでにこちらは準備を終えることができたので地下の食糧室に隠しておく。

内装組も隠れながら着々と準備を進めているらしい。

次の日。

隊長には朝食の食糧が足りないことに今日気が付いた、ということにして車を飛ばして市場で行われていた朝市で今日必要なものを買いそろえた。

朝御飯を済ませ隊長を追いやって準備開始。

3時間前

ケーキ製作開始。作るのはカラメルクリームのプリンケーキ。

残り2時間。

アメリーのメインの料理が始まる。

鶏の赤ワイン煮だそうです。

残り1時間。

ケーキが大体できたので前菜製作に取りかかる。

魚を捌くのも久しぶりだな。

残り15分

全ての準備を終えた。食堂に顔を出してみるとすでに装飾、テーブルのセッティングは完了していた。

「軍曹。そっちは?」

「完了!お料理はどうです?チーフ?」

「チーフ?」

「そ、料理長みたいなもんでしょ?」

「まぁ、そうだが。こっちも問題なし。あとは・・・。」

「帰ってきた!」

外を監視していたフランが隊長の載る車を視認した。俺と軍曹はお互いにうなずいて自分たちの場所につく。

「ただいまー。」

おかえりなさい!それとおめでとう!

ここに所属する俺を含めて全員がクラッカーとともにそう叫ぶ。

「え、え、え?」

混乱している隊長をビショップが背中を押していつもの場所に座らせる。そしてハンドサインで”GO”の指示を受け、俺とアメリーはキッチンに戻る。

「始めようか、アメリー。」

「はい。失敗できませんね。」

「もちろんだ。」

ビショップの「それでは、隊長の誕生日パーティーを始めたいと思います!」という声が聞こえ、こちらも最終工程を始めた。

こうして始まりました。

1品目

魚の刺身の盛り合わせ。

本当は枝豆豆腐を作りたかったのだが過去に2度失敗したことがあるのを思い出してやめた。

てか、扶桑料理かな?

2品目

トマトファルシ(トマトの中に詰め物をしたもの)

3品目

ここで、味噌汁。

空気読んでない感が半端ないが、評判はよかった。

4品目

鶏の赤ワイン煮

アメリーが頑張ってたやつやん。

てか普通に美味しい。

最後

ケーキとフルコースの盛り合わせ。

1ホール作ったら凄い量になったが皆に配ったら見事になくなった。女子恐るべし。

結果は大成功だろう。隊長も喜んでいたし。

「こんなこと、してもらったのは随分久しぶりで本当にうれしい。」

と、隊長はそういうとうれし泣きをしてしまった。

ラウラが背中をさすりアメリーとフランが声をかけているのに対して俺は端でその様子を見ていた。新参者の俺は後で行けばいいだろうし今は昔からここにいる彼女たちの時間にするべきだろう。

「これって大成功だよね?」

いつの間にか俺の隣に立っていたビショップ軍曹。

「あの様子を見る限り、な。」

「料理もすごくよかったよ?」

「アメリーの腕がよかったからな。」

「もう!どうして自分の成果を認めないの?」

・・・俺の?まぁ、確かに自分の作ったものは自信のある物しかださないしこれをまずいと言われたらへこむレベルのものだと自負している。

「だって、これを企画したのは君だろう。」

「優秀な人たちが指示に従ってくれたからね。チーフ。」

「俺は・・・。」

「だからさ、そういうの、やめよう?せっかく頑張ったのに自分の努力を否定するのは。ほら、あれ見なよ。」

その指さす先にはいつの間にか泣き止んだ隊長がみんなと仲良く話している姿が。

「あの笑顔を作ったのは、大尉なんだからさ。」

やがて俺たちに気が付いた隊長が手招きをしてこっちにおいでと誘う。

「ほら、いこ?」

俺の手を取り歩き出す軍曹。

「軍曹、ありがとう。」

俺のことを認めてくれて。

「そうそう、そんな感じに何も考えずに素直に感謝を受け取ればいいの。」

ま、こんなのも悪くないな。そう思えるようになった。

後ほど、少しアメリーとフランが喧嘩になりかけたとき隊長が金剛力を使って爪楊枝を飛ばしたら爪楊枝が壁に大穴を開けると言うすごい技を見せてくれた。

お陰で静かになったが隊長の笑顔が少し怖かった。

 

あと片付けを終えてリビングでうとうとしていたらビショップが紅茶を入れてくれた。軍曹が飲んでいるのはコーヒーだったのでわざわざ別に作ってくれたみたいだ。

「ありがとう。」

「いいわよ、これくらい。あとこれ、隊長さんが渡しておいてって。」

渡された手紙をはさみで口をきって取り出し、読む。

 

『出頭命令

10/2

フレデリック・T・バーフォード大尉、ウィルマ・ビショップ軍曹、両名に対し空軍司令部に出頭を命じる。

ブリタニア空軍 ヒューゴダウディング空軍大将』

 

その文を読んだ瞬間、眠気が一瞬で飛んで行ったのが分かった。ブリタニア空軍の空軍大将?どうやら俺と話したあいつはここの最高地位にいる人間らしい。そいつから直々にお呼び出しを食らうとはさすがに俺も予想外だった。ブリタニアかカールスラントあたりかなと予想していたがまさかこんな奴だとはね・・・。そして俺と連名という形で書かれているビショップ軍曹にも違和感を覚えた。なぜこいつの名前まで?

「何て書いてあった?」

「ほら、見てみろ。あんた宛でもあるぞ。」

「えっ?何々?………………何で!?」

「何か悪いことでもしたんじゃないのか?」

「身に覚えがないんだけど。私、命令違反だけはできるだけしないように過ごしてきたからね。それが自慢なの。」

「そんな自慢されても困る。ま、明日になったらわかるさ。気長に待とう。」

さて、吉と出るか凶とでるか?そんなことを言った手前、俺の心は不安が徐々に占めるようになっていた。

 

次の日

隊長にはブリタニア軍の上層が呼び出しがあったことを伝えずに、外出する。彼女のことだ。きっと知れば手を打つだろう。だが、ここまで来たらあとは俺がやるべきだろう。

模擬戦以来の僚機となったビショップ軍曹を連れて基地を出る。

「空軍司令部ってどこにあるんだ?」

「ロンドンだね。」

ちょっと遠くない?

「ビショップが行きの運転してくれないか?どうせ場所わからないし。」

「了解。」

ジープは俺たちを乗せて、動き出す。まるで俺の心情を表すかのように曇りのこの天気に若干、鬱気味になりながらも軍曹から話をまずは聞こう。

「それで、空軍大将とやらはどんな人なんだ?」

「んー、一言で表すならいかにもブリティッシュなおじさん。」

「曖昧だな、あったことは?」

「2回くらいあるよ。あと501を作った人でもある。」

501か、あのアイディアは素直によく思い付いたなと思う。ヒューゴダウディング空軍大将、訓練生時代に”歴史”の授業で名前を聞いた記憶がある。何をしたかまでは覚えていないが俺の世界でも”男”として生きていた人物だ。

「それで、会った感想がブリティッシュなおじさんというわけか。」

「部下思いでもあるよ。いつもみんなのことを心配してくれていたし。うーん、これ以上は口で説明するのは難しいかも。」

「フムン、なるほど。後はあってからのお楽しみか。」

「そういうこと。」

 

車で3時間。途中、船による移動も兼ねているためやはり直線距離ではそれほどなくても意外と時間がかかる。

それにしても、のどかだな。もうすぐロンドン市内とのことなのにまだでかい建物が見えないんだが、てか羊が放し飼いになってるよ。噂には聞いていたがこれ程とは。さすがは田舎空軍と、どやされるだけあるな。俺自身、ロンドンに行くときは飛行機でここよりもさらに近い基地で降り立って外が見えにくいトラックで移動していたためこんな風景はあまり見たことがなかった。

というか、俺がこの世界に来て初めての遠距離外出だな。今までいい意味での自宅警備員やってたわけだし。

そんなこんなで、景色を眺めているとすぐ市内にはいって行き、そこからは軍車両専用車線を使いかなりの速さで移動していき無事に空軍司令部に着いた。

車を所定の位置に止めて下車。

入り口の衛兵に手紙を見せて待つこと数分、大将の秘書がやって来た。

「こちらです、大将は会議が長引いているのであと5分程かかるとのことです。それではこちらへどうぞ。」

「ありがとう。」

秘書に連れられて向かう先は最上階にある空軍大将のみが使うことができる部屋だった。窓から外を眺めてみるが風景は昔見たのとそれほど違いがみられなかった。まぁ、観覧車がないのは大きいな。 さすがブリタニア空軍司令部、出る飲み物は紅茶か。基地にあるのよりもはるかにいいのを使っているのが素人の俺でもわかる。

それにしても、

「さすがは大将、秘書持ちか。」

「それは、そうでしょ。仕事も半端なく多いと思うから、1人じゃ足りないかもね。もしかしたら第2秘書とかいたりして。」

「あり得るな。俺だったら絶対にいらないな。ずっといられると逆に窮屈に思ってしまいそうだ。」

「あーわかるかも。仕事ができそうな人だと余計にね。息苦しそうで嫌かも。」

「確かにな。」

そんな雑談をしていると5分程でドアがノックされた。

「大将がお入りになります」

別軍隊とはいえ、上官だ。一応、礼儀はわきまえているつもりだ。

俺と軍曹は立ち上がって大将を迎える。

ガチャ

紺色の制服を身にまとい、部屋に入ってくる空軍大将。

「遅くなってしまい、申し訳ないね。私はブリタニア空軍ダウディング大将だ、突然の呼び出し失礼したね。ウィルマ軍曹、フレデリック大尉。」

「いえ、問題ありませんって大尉?」

俺がただ何もせずに立ったままになっているのに怪訝に思った軍曹が話しかけてきた。

だが俺はそれに返答できないくらい頭が真っ白になった。いやどっちかと言えば殴られたような感覚に陥っていた。話したくても口がうまく回らないような感覚。

馬鹿な、何故ブリタニア空軍の大将なんてしているんだ?

でもこの声は間違いない、聞き間違えるはずかない。

もし違ったら?最悪銃殺か?

いや、あの事を知っていた時点で間違いない。

ここは、攻めるべきだろう。あらゆる可能性を頭の中で模索し、そして俺は一つの解にたどり着く。今目の前にいる人間は、あいつなんじゃないかと。

 

「ダウディング空軍大将殿、失礼ですが”ジャック”という名前に心当たりはありませんか?自分の知っている元上司であなたに特徴がそっくりなのですが。」

 

 




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第8話 前進

「ジャック。ジャックか、その名前で呼ばれるのは随分と久しい気がするよ。」

 

30秒ほど沈黙が流れて彼が話し出す。

「偵察の報告からお前か俺の知る誰か、それもFAF時代のとは考えていたが的中しているとは思わなかった。いや、そんなのははかない希望だと切り捨てていたのかもな。」

「と言うことは、俺の推測は間違っていないか?」

「あぁ。まさかいきなり当てられるとは思っても見なかったがお前の知る俺だ。久しいな、リョウ。」

彼のその表情は本当に俺との再開を懐かしんでいるようだった。

「よかった、間違ってなくて。それにしても、老けたな、ジャック。あとすまないが、そっちの名前はしばらくやめてくれ、まだ彼女に話してないんでな。だから本名で頼む。」

「そうか、バーフォード。アナベラ、すこし席を外してくれ。」

「わかりました。」

彼女が部屋を出るのを確認してからジャックは話し出そうとする。それを直前に止めた軍曹。

「あの、私も部屋から出た方がいい?」

先程の会話から自分はいてはいけない人間だと思ったのだろうか?

「ジャック、彼女にはFAFのことは話してある。」

「そうか、ならかまわないよ。軍曹、これから話すことは君が知っている世界を遥かに越えたものだ。これ以上聞きたくないと思ったら直ぐに退出してかまわない。」

だがその言葉に首を横にふる彼女。

「いえ、全部聞きます。それが彼を保護しようと思った私の責任だと思います。」

まっすぐジャックを見つめる視線は真剣そのものだった。

そんな表情をみた彼が俺に軍曹に聞こえないように"いい相棒を見つけたようだな。"と声をかけてきた。

反論する隙を与えないように、ジャックは話題を変える。

「じゃあ、何が聞きたいかな?」

「まずは、ジャックと言うのは?その、空軍大将の愛称みたいなものですか?」

「あぁ、私のアダ名みたいなものだ。FAFじゃそいつ、バーフォード大尉の上司だった。それじゃ、改めまして、ビショップ軍曹。元フェアリィ空軍特殊戦第5飛行隊戦隊指揮官のジェイムズブッカー少佐だ。いまじゃブリタニアの空軍大将をやっているがな。」

「ちょっとそこがよく分からないんです。ジャム、フェアリィ空軍、彼の説明だけでは解らないことが多くて・・・。」

「まぁ、こいつは昔から他人に説明するのが下手だからな。そのことは、これから話そう。すこし長くなるが構わないな?」

「おい。」

俺の非難も軽く流しながら彼は自分が経験してきたことの全てを語り始めた。ジャックは今58歳らしい。つまり生まれた年は1886年、19世紀だ。そんなスーパー爺ことジャックは今から45年前、気がついたら児童養護施設で寝ていたらしい。当時13歳。青春も始まったばかりとも言える歳の青年に生まれ変わった彼を周りは両親をネウロイの攻撃で失いそのショックで記憶を無くしてしまった哀れな少年という事になっていた。

そんな彼に唯一残されていたのがヒューゴ・ダウディングという名前だけだったらしい。つまりその体を自分が乗っ取ってしまったということだ。それからは勉強して、大学を出て、幹部士官候補生として入隊、FAF時代の知識を生かして空だけでなくあらゆるところで行われた作戦にてウィッチの有用性、そして自らの優秀さを戦果という形で挙げ空軍将校としての地位を得て今のポディションになったとのこと。

 

「それじゃあ、ジャックはもうこの世界に来て45年もたったのか。」

「あぁ、長かったよ。それで、バーフォードは何年なんだ?」

「そうだな・・・約4週間といったところか。」

そう言うとジャックは苦笑いする。

「お前にとって俺と別れたのは4週間前、一ヶ月程度かもしれないが俺にとっては45年ぶりなんだよ。」

「「あっ!」」

そうか、そうだった。さっきは普通に流していたがこいつにとっては昔の知り合いとの再開は約半世紀ぶりなんだ。

「先程再開する前、こいつのことを覚えているか不安だったが人間の脳というものは意外にも優秀らしく、会った瞬間に全てが鮮明に思い出せたよ。」

俺には理解が出来ない領域だな。隣の彼女も驚いてなにも言えなくなっていた。半世紀、そんな昔の事を人は思い出せるものなのか。そんな俺たちを懐かしむ目でみるジャック。

「俺にとって、お前がこの時期にこの世界にあいつを持ってこの世界に現れたと言うのは非常に重要なことなんだ。まさに神が俺に人生最大の幸運をもたらしてくれたといっても過言ではない。」

「?」

なんの話だ?俺がそう口にする前にジャックが続きを話す。

「俺が501を作ったのは知っているな?」

501JFW通称"ストライクウィッチーズ"。詳細はここでは省くがスオムスのいらん子中隊という多国籍軍が成果を挙げ始めたことに由来して作られた飛行隊。将来的にはどんどん増やしていくらしい。

「・・・まさか、501に行けとは言わないよな?」

いくらなんでもそれは無理がありすぎる。まだ一回もあったことはないがアメリーやフランからの噂は聞いたことがある。なんせそこには撃墜王であるハルトマンとバルクホルンという俺の世界でも300機撃墜を達成した人物がそこにはいるのだ。

戦闘機パイロットなら知らないはずがない、そして誰もが一度はあこがれるその人物がそこにはいるのだ。そんな恐れ多いところ行ける自信がない。

実際は、ようやく慣れてきたワイト島にもう少しだけ居たいという気持ちがあったからだ。

「流石にそんなことは言わないさ。ただ、軍部内で、戦果の高いウィッチを集めた航空隊を作ろうと言う話になってきている。現在はメンバー選定中だ。大方は決まってきたがな。もうわかっただろ?」

「まさか、そこに俺を入れるなんて言うわけないよな?」

「そのまさかだ。俺にとってもお前にとってもこれはいい案のはずだ。なぜならお前が乗っているユニットはジェットストライカーユニット。素性の知れないやつを軍に入れようとすると必ずどこかで不信感が生まれる。ならそれをできるだけ抑えるだけの要素が必要だ。もしそこに所属しているという名前だけでも存在していれば、不審に思うことがあっても怪しまれることはないはずだ。」

「でも、俺が入るにはいささかハードルが高すぎるんじゃないのか?」

「そんなことはない、この地位に着いた頃からすでに準備は進めていた。」

「・・・なんでそんなにも手際がいいんだ?」

「なに、簡単なことだ。俺がこの世界に来たのだから他の誰かも来るかもしれない。それがFAFの連中か、はたまた地球の連中かは分からない。ただ、そいつが戦いたいという意思があるのにそれを無念のままにしたくなかったから、もしその時になったらすぐに出来るようにしておきたい、と考えていただけさ。そして、現にお前が来た。サインさえすれば訓練過程なしで行きなり幹部士官だ。俺のいままでの努力が無駄にならなくて本当によかった。」

「さすが、元特殊戦の指揮官だけあって恐ろしいほどに手際がいいな。それで、もし俺がサインをしたらどうなるんだ?」

「俺の指揮下に入ってもらう。昔と変わらんよ。しばらくはワイト島に勤務してもらう。ただ来年の3月を目処に別の部隊に入ってもらう。」

「それが、今ジャックが作っている部隊というわけか。」

「いや、名前だけなら部隊が出来次第すぐに入ってもらう。部隊というのは別の地域に行ってもらうという意味だ。」

なるほどね。魅力的な提案だな。現状、隊長の好意で居候させてもらっているがこのままというのもまずい。そろそろ安住の地を手に入れたいと思っていたところだ。そんなところに舞い降りてきたこのチャンス。俺はもう乗るしかないんだろうな。それに彼女にいつまでも面倒をかけるわけにはいかない。巣立ちするにはいい時期だ。ただこの契約を結ぶ際の問題があるとすれば

「条件がある。」

「言ってみろ。」

「俺のgarudaに一切手を出すな、この世界の人間には絶対に渡せない。」

俺の乗るあのメイヴだけは絶対に他人に触らせたくなかった。あの機体は特別だ。その意味はシステム軍団がわずかな数しか作らなかったから、という意味の特別ではない。思い入れがあるのだ。いろいろな機体を乗っては機種転換してどれもいまいちしっくりこなかった。そんなパイロットとして不満な生活を送っていたときに俺に与えられたのがあのメイヴだった。初めて乗り、空を飛んで確信した。こいつなら、こいつならば命を共にしてもいい機体だと。だからきっとこれが普通のユニットならばそんなことは考えなかった。解体されようが”ああ、やられちゃったな。”程度にしか感じなかっただろう。だが

もしあのメイヴがそのような目にあいそうならば俺は死力を尽くしてでも奪還するだろう。それほどに思い入れがある機体だった。

だからほかの奴の手に渡らせるわけにもいかなかった。それもジャックは十分に理解していてくれた。

「確かにな、あれは色々とまずい。よし、俺としても善処しよう。軍の極秘研究所が開発して現状魔力量がかなり多い彼にしか扱えない失敗作だと説明すれば納得してくれるはずだ。」

「わかった、ありがとう。」

俺に有利な条件だけが並び、これ以上のことを飲んでもらうのは正直言って無理があるのでは、と思っていた。だがジャックはそれを受け入れてくれた。

もちろんここまでしたということは無償の手助けというわけではないだろう。手元に置くのだからそれなりの戦果を要求する、ということだろうな。

もちろんだ。そこまでお膳立てしてくれたというのならば、俺もそれ相応に答えて見せようじゃないか。

 

「それで部隊の名前はなんなんだ?」

いったん話が落ち着いたところで話題を未来のことに焦点を当てる。これから新しくこの世界で生きていくための身分証ともなる部隊の名前だ。気にならないわけがない。

「Special Tactical Air Force(特殊戦術飛行隊)だ、入ってもらうとすれば第2飛行中隊(Second Squadron)になるから略すとSTAF、SSQ所属と言ったところか。」

STAF、SAFにtacticalの文字を追加しただけじゃないか。名前やその部隊の性質はまるで以前のそれにそっくりだ。

「なるほどね、それでほかのメンバーは?1人でも構わないぞ。」

だが、ジャックは思わぬ提案を俺たちにする。

「なんで、2人を今日呼んだのか分からないのか?」

「まさか、ビショップとか?」

「嘘でしょ?あ、いえ。嘘ですよね?空軍大将?」

おもわず、今まで黙っていたビショップも声に出して驚いている。

てか俺の方が驚いている気がするよ。

「冗談はよしてくれ、ジャック。彼女とはまだ3、4回しか飛んでいないんだぞ。そんなやつと組めなんて、確かに腕はいいが早計過ぎないか?」

「もちろん、理由はある。先日行った模擬戦の報告書読ませてもらったぞ。」

「何で持ってるんだよ?」

空軍大将だからな。と前置きをして資料を目の前に置く。

「模擬戦における連携。あれに俺は注目した。」

近年、ネウロイの襲撃パターンは大型を中心とする少数精鋭から中型を隊長機としその護衛を小型ネウロイが行う物量作戦へと切り替え始めた。彼らにして見れば使うエネルギー量やコアの数もそれほど変わらないにも関わらず比較すると後者の方が人類側に与えるダメージが多い。なぜなら同じウィッチが対処に当たっても大型だけだとそれだけに集中されて撃墜されてしまうが大量のネウロイをぶつけるとウィッチを分散させることも可能になり、各個撃破も狙える。

実際に、ここ最近ウィッチや迎撃に当たった戦闘機の消耗率がバトル・オブ・ブリテン以降下がっていたものが再び上がり始めたのだ。

そこで考えられたのが僚機戦術、またの名をロッテ戦術。カールスラントでは盛んに研究が進んでいるがここブリタニアではそれほど、いや遅れているといっても過言ではない。

なぜなら、それはこの国にただよう”古き良き”という考え方だ。

騎士道精神なんてものがこの世界の軍人にも根付いているらしい。それ自体が悪いわけじゃないが誰もが英雄になりたがる。そんなものは幻想だ。慣れる奴なんて最初から限られているんだ。だから”ブリタニアの連中は島国だからプライドが高いだけでダメだ”なんて陰口をたたかれるんだ。

そんなのを打開するにはこれしかない。だがそれにも情報が足りない。だから俺たちにその一部を担ってほしいらしい。

「情報の収集は何もお前たちだけがやるだけではない。この部隊にいる全てのウィッチがそれに加担することになる。おれはこの世界を変えるつもりだ。もうそんな年の少女が平気で前線に出るこの時代の流れを変えることはできない。ならば、その消耗をいかに減らすかが、俺のここの立場にいる間での仕事だと俺は思う。」

まぁ、ジャックといえばジャックらしいが。ずっと”必ず帰ってこい”と俺たちに言い続けたほどだ。そう簡単に生き様というのは変えられるものではないのは俺もわかっている。

どちらにせよ、俺は軍曹がいいと言うのならこの話は受けるつもりだった。なんせジャックの頼みだからな。早速カードを使ってきたと思えばわかりやすい。

だが肝心の軍曹の反応はいまいちだった。

「私は、その確かにそんな名誉ある部隊に配属させてもらえるのは嬉しいです。ですが・・・。」

「・・・そうか、君の年齢のことだな。”上がり”が近づいてきたのか?」

「はい、飛ぶ分はまだ問題ないと思うのですが、シールドがあと1年ほどかと。」

「構わない、所属している間にそれなりの成果を出してもらえれば問題ない。」

「なら、了解しました。」

「だそうだ、バーフォード。答えを聞こうか。」

俺は彼女の言っていた”上がり”というものを理解できていなかった。まだウィッチ関連の書物をすべて読んでいないのでそこに書いてあることだろうが・・・。

「わかったよ。ジャック、あんたの指揮下なら俺は空を飛ぼう。それと軍曹、俺とこれからもしばらく一緒に飛んでくれるというのならよろしくな。」

「期待を裏切らないと思っていたよ。」

「うん、そうだね。よろしくだね。」

ジャックとビショップ軍曹、それぞれに握手をする。

こうして、俺はブリタニア空軍に入った。まさか話がこんなに早く進むとは夢にも思って見なかった。ここに来たときはあの話し相手が分かればいいなと思っていたが今となっては、収入源まで見つかってしまった。ジャックとこれからの打ち合わせをしていくうちに俺がこの世界で生きてくための人物像が出来上がっていった。

現状はワイト島分遣隊の隊員としてネウロイと戦うがしばらくは俺の身分は極秘らしい。男のウィッチなんて前代未聞だし爆弾そのものだ。士気にも関わる。

たが段階的には対外的にも出していき、普通に生きていけるようにはなるそうだ。

電話帳並みの量の契約書にサインして終わったのは1700だった。

「うちに来ないか?久しぶりに話がしたい。」

仕事と支度の関係で2000に来いと、住所の書いた紙を渡されたのでそれまではロンドン市内を観光することにした。

 

テムズ川に沿って2人で歩く。車は司令部に置いてきた。

もう10月の中旬ということもあって太陽が沈む時間が早いためこの時間でも太陽は夕日色に染まり始めていた。そんな太陽が出ているロンドンをビショップと歩くというのはなかなかに不思議な感覚だった。ここに来て4週間で久しぶりの僚機ができた。

もう作ることはないだろうと思っていた僚機。なのにいつも間にか前を歩く彼女と組んでいた。あってそんなに立ったわけではない。ジャックの口車に乗せられた?

俺はそんな気はしない。なんでだろうな、ただ何回か飛んで助けられて、一緒に飛ぶとやりやすい、とは感じた。ただそれもレシプロ機体の速度での話、だがな。

しかし今はそれよりも軍曹に問いただしたかったことがあった。

「ウィッチに限界があるなんてはじめて聞いたぞ。しかも、後1年くらいでシールドが出来なくなるのか?」

上がりについてだ。確かにどうして大人になる前の少女ばかりが戦場に立っているのかよくわからなかった。だが、ここは最前線でも何でもないから訓練兵からようやく戦場に立てるようになった奴らばかりを集めているのだと思っていた。だから彼女たちは自らの青春時代を犠牲にしてまで戦っている、というのがカルチャーショックだった。

「言ってなかったもんね。ただ、私はシールドが使えなくなっても数年は飛ぶつもり。」

そしてそのビショップ軍曹の決意にもさらに驚かされた。

「それだけ危険度が一気に上がる。そんなの無茶だ、危険すぎる。」

「シールドが上手く使えない大尉には言われたくないな。」

「それは、そうだが・・・。」

そう、何を隠そう俺はシールドが使えない。魔法はイメージする力が大事らしい。だからユニットを動かすときは燃料を魔力に置き換えてエンジンに流入させるイメージ、能力を発動させるときはエンジンの回転数を一気に上げるイメージをしている。主に自分が思い描きやすいようにしているわけだが、それではシールドをイメージするにはどうしたらいい?俺にはそのイメージが全くできなかった。最初は牛乳を温めたときに出来るあの膜をイメージしたが随分と薄い、蹴って割れるようなもので実戦投入にははるかに及ばなかった。そのあとも強化ガラス、防弾ガラス、ダイヤモンド結晶などとにかく透明で堅そうなのを何個も思い浮かべてもそもそもできないか、できても薄すぎるかのいずれかだった。

常識が違う以上こいつらに聞いてもよくわからないだろうし、実際わからなかった。

だから最近はいっそのこと使わずに飛べるようにしようと思い機動性を重視して飛んでいる。最も、シールドを張れるようになる練習も並行してやってはいるがなかなかうまくいかない。一度きっかけができればうまくいきそうなのだが。

 

「俺の事は、どうでもいいだろう。何故飛び続ける?何がお前をそこまで動かしているんだ?」

ウィッチにとってシールドは彼女たちの盾だ。それがなくなりかけているのになぜ自分を犠牲にしてまで飛ぼうとするのか、今の俺にはまだ想像ができなかった。

そして彼女は俺の疑問に目を合わせることなく話し始める。

「2つあるよ。1つは私には妹がいてね、いま501にいるの。あの子が頑張っているのに私が飛べるのに飛ばないって言うのはちょっと悔しいじゃない。」

「妹がいるのか。それに501?さっきジャックに聞いたあのエース部隊じゃないか。」

「そうそう。私の自慢の大切な末っ子よ。」

そういって軍曹は財布から家族写真を取り出して見せてきた。・・・多くない?ちょっと予想していたよりもはるかに多いんだが。

「ちなみに、うちって8人兄弟姉妹なの。」

「8人か、そりゃすごい。」

元気なお母さんだ。1,2,3・・・本当だ。両親含めて10人いるよ。この調子だと親戚含めた全員集合の写真は大変なことになりそうだ。

「大尉は?いないの?」

「妹がいた、生きていれば・・・何歳だろうな?」

「え?」

「なに、昔のことだ。小さい頃に俺以外が飛行機事故でどかんっと逝ってしまった。それだけの話だ。もう昔すぎて思い出せなくなってきたよ。」

「・・・ごめん。」

「気にするな、それに何時かは話しておかなきゃって思ってたしな。」

俺の言葉に少し黙ってしまう軍曹。さて、何をかんがえているのやら。

「・・・大尉って前にさ、前に空が好きって言っていたじゃん?家族をそんなので無くしているのになんで好きなの?私だったらそんなこと経験したら嫌いになっちゃいそうだから・・・。」

テムズ川から対岸にかかる橋を渡り始めた頃、そんなことを聞いてきた。あぁ、そのことか。

「俺が空に憧れを持ったのはそれが起きる前だった。大好きだったんだよ、あんな人が行くことができないところまで自由に行ける飛行機とそれを可能にさせるほど高いあの空が。だからまぁ最初は嫌いになりそうだったよ?すべてを奪ったあの飛行機が。だけれど時間が経つごとに気が付いたんだ。違う、飛行機と空は俺に何かを与えてくれたのかもしれないってね。空っぽになって初めてわかったよ。だから余計、パイロットになりたくなった。それだけだ。ま、そんな事故を経験していなくても空に関わる仕事についていたのは間違いないだろうな。」

俺は空が好きだ。夕焼けに照らされオレンジ色に染まっているあの雲、手に届きそうなほど低いところにある物から高すぎてわからないような雲。そして何よりもあの群青色の空が。そいつが俺を悲しいなんて感情をまるで風のように吹き飛ばしてしまったのだろう。だから、これこそが俺の人生なんだ。

「なんでそこまで話してくれたの?家族の事、隠すことだって出来たのに。それも会って間もない私に、隠しておきたくはなかったの?」

俺はそんなことは思っていなかったがな。ただ話しておきたかっただけだ。

「別に。これから、数年は一緒の部隊だろ?だったらお互いのことは知っとかなきゃいけないだろう?どちらにせよこんなのは俺にとっては隠しておくべき話でもないからな。そうだろう、相棒?」

「あ、相棒?確かにそうだけどさそんなに深刻な話だとは思ってもなかったし、聞いちゃ悪かったかなとか思っちゃうじゃん。」

案外、そんなところを気にするのか。まめな奴だ。

「それじゃあ、俺の過去は心の中にしまっておいてくれ。それより、もう1つの理由ってのはなんだ?」

「あ、逃げたな?えっとね、うーーーん。やっぱり秘密。」

「なんだそりゃ。教えてくれないのか?」

帽子の位置を直しその場で銀髪を揺らしながら一回転するビショップ。そしてこちらを見ると人差し指を自分の口の前で立てる。

 

「乙女には明かせない事だってあるの。」

 

そして軽くウィンクをする彼女。夕焼け色の明かりが彼女を余計綺麗に、そして可憐に照らしていた。

(まったく、そんな表情されたらな。調子がくるってしょうがない。)

「それよりせっかくロンドン来たんだしすこし廻ろうよ、案内するよ!」

「それもいいなって、こら腕を組むな。」

「へー、案外ウブなところがあるのね。」

頬をつっついてニヤニヤしながら言ってくる。その表情も俺がどう思っているのかまるですべてわかっているようかの確信的なものだった。

「お前さんといると何か調子が狂うな。」

「ウィルマ」

「ん?」

顔を戻すと俺の腕につきながらも今度は真剣な表情に戻っていた。

「ウィルマって呼んで。せっかく僚機になったのにファミリーネームってのも味気ないでしょ?」

「・・・随分といきなりなんだな。」

「こういうのは決まった日に私が決めないとずっとこのままだからね。それで呼んでくれるの?ダメなの?」

軍にいる間、こういったことをしたことがない俺にとっては少し気恥ずかしいものがある。だが、まぁこいつからしたらそんなことを気にしてはいないのだろう。

「ウィルマ。」

「そそ。それでいいのよ。」

俺が彼女の名前を呼ぶと顔を綻ばせ喜ぶ彼女。

「なんかうれしいね。だってようやくバーフォード大尉が私と同じ立場につけたんだもの。」

「そういうものか?」

「そういうものなの。」

そういう彼女の声は弾んでいた。何がそんなにうれしいんだ?

「でも、バーフォード、ね。大将が言ってきたリョウってのはダメなの?」

「…………済まない。まだ、ダメだ。まだ今のままで頼む。」

「そっか。ならしょうがないね。なら、バーフォード。」

人の名前をバカにしやがって。だが不思議とそこまで怒る気分にもならなかった。

ふと、彼女は腕を離して俺の正面に立った。

真面目な顔になったので俺も背を伸ばす。

「それじゃあ、よろしくね。バーフォード大尉。」

「あぁ、よろしく。ウィルマ。」

目を見ていたまま固まっていた俺たちだが気まずくなりほぼ同時に目をそらす。

”それじゃあ、いこっか。”

”あぁ”。

沈黙を消したのはウィルマだった。彼女が再び前にでてお互いゆっくり歩き出す。

彼女は隣で「それで、どこいくの?」

と聞いてきたので、おまかせと答えておく。

またこうして誰かとペアを組むことになるとはな。

もう組まないと決めていたのに。

だけど、彼女なら、彼女なら失わない。そんな気がしていた。理由はわからない。

けど、

 

 

 

 

もう2度と自分のミスで仲間を失ったりはしない。

 

 

 

そう心で誓っておく。

 

 

 

2200

ジャックの家に着くと予想外の事がおきた。

あのジャックがエプロンを着けて料理してる。

てか、1人暮らしかと思ったら秘書のアナベラさんがいる。何故と聞くと、結婚しているらしい。しかも3人の息子と2人の娘がいるらしい。

「ジャック、お前、秘書にまで手を出したのか?結婚しているようには全く見えなかった。」

「順番が逆だ。結婚して秘書になったんだ。故に問題ないんだよ。」

もう、女とは付き合わないとあれだけ言っていたのに、人は変わるものだな。

ただ、彼女には本当の事を話していないらしい。なるほどね。だから、あの時部屋から追い出したのか。

俺の事は友達の息子と言うことにしているらしい。

馴れ馴れしいのは俺が許可したからだ、と説明している。そうか外部から見れば俺は年上に対して敬意をもっていない生意気な子どもに見えるのか。全く俺は気にしていなかったがジャックはわかっていたようだ。

まったく、これはこれですこし不便だな。

こうして、ジャックとジャックの奥さんが作ってくれた料理を食べて泊まっていっていい、連絡はしたと、言っていたので泊まらせてもらった。

 

 

次の日

0600

「それじゃあな、ジャック。色々助かった。これからもよろしくな。」

「あぁ、久しぶりに友人に会えて楽しかったよ。あと、これがお前の新しい身分証だ。これは書類が入っているから帰ったら読むといい。」

アタッシュケースとカードを渡された。この時間に用意できているなんて、昨日のうちによほど苦労して作ってくれたんだろうか。

ケースを開けて身分証だけ取り出す。

ブリタニア空軍第6試験飛行中隊及びワイト島分遣隊所属、フレデリック・T・バーフォード大尉。

「なるほど。これが今の俺の身分というわけか。なるほど、試験飛行中隊とは考えたものだ。」

「あぁ、隠れ蓑みたいなものだ。ま、前者の所属もすぐに俺の管轄となる新しい部隊名に変わる。わずかな間しか使えないだろうがあって困る物でもあるまい。」

確かにな。軍属でありながら身分証を携帯していないのはそれだけで怪しいからな。今の俺にとってこの世界に生きていることを証明してくれる唯一のものだ。ありがたく、大切にしながらもらっておくとしよう。

「ありがとうジャック。世話になった。それじゃあ、また次の作戦の時に会おう。」

「あぁ、お前がまた俺の下で働いてくれるようになったのは素直にうれしいからな。またともに戦おう。」

「もちろんだ、ジャック。」

俺は身分証を懐に入れてウィルマと共に歩きだす。

「待て。」

だが、それもジャックの声に止められる。振り返ると穏やかな目で俺たちを見る彼の姿が。

「ジャック?」

「お前変わったな。」

ジャックから見たら45年前の俺とは変わってるように見えているのだろうか?

俺は・・・たぶん変わったな。

「まだ、4週間だっけかここに来て。だけど、何か変わったよ、お前さんは。随分としゃべるように、それと丸くなった気がする。昔はもっと棘々しいイメージがあった。何がお前を変えたんだ?」

ま、そんなの決まっているだろう。環境が変わったから、だ。しいて言うならば

「周りに出来た新しい、仲間だろうな。あいつらがきっと俺にいい影響を与えてくれたんだとも思う。SAFで得るものは確かに多かった。だが、ここで得られたものはまた別のものだ。前者は技術、後者は、その・・・言葉では表せられない何かだ。」

俺の言葉に何度かうなずくと俺の肩に手を載せてきた。

「今のお前は昔よりもずっといい。普通の人間として生きているんだな。安心したよ、昔のままではなくきちんと生きているようで。」

「なんだ、いきなり?まるで爺さんだな。」

「フッ、違いない。とにかく、今の環境を大切にすることだ。」

「言われなくてもわかっているよ。」

俺はその手をどかしてジャックに別れを告げる。

「じゃあな、爺さん。しばらくしたらまた会おう。俺とウィルマを呼ぶことを忘れないでくれよ?」

「もちろんだ。お前はあれの要だからな。待っているぞ。」

敬礼をして俺たちはジャックの家を去り、自分たちの基地へと戻る。

「随分と、仲がいいんだね?私は大尉と空軍大将がため口で話しているのをみて冷や冷やしていたよ。」

帰り道、ハンドルを握るウィルマにそんなことを言われた。

「昔からのよしみだからな。それほどではないが、長い間俺の上司だったからな。それに部隊にいたときの数少ない話せる友人でもあったんだ。」

「友人ね。なんか見た目のギャップがすごすぎてわからないよ。」

「ま、俺は自分の姿が分からないから何とも言えないがあいつも同じようなことを思っているだろうよ。」

相変わらずの曇りの天気にうんざりしながらも俺は景色を眺める。

「もう一度、聞くけどさ。」

「?なに?」

もう決まったことなのに、確認する。再確認なんて俺らしくもないが聞きたくなった。

「俺が僚機になっても、本当によかったのか?」

「あぁ、その話?別に全然平気だよ。だってもともと私には今の大尉以外にパートナーなんて呼べる人はいなかったから。もちろん、仲間と呼べる人はたくさんいるけどね。」

「そうか。」

「それにね。」

いったん、話すのをやめて一瞬だけ顔をこちらに向ける。

「もうこの歳になると航空歩兵としてはベテランだけどピークは過ぎているからね。あと1年以内に来るであろう”あがり”を前に最後、何か凄いことをしてみたいと思っていたの。だから空軍大将が直々に作るその部隊に配属になるっていうのはきっと私ができる最後の大仕事だからね。それをブリタニア空軍初のジェットストライカーユニット実戦投入機の搭乗者ということになっているあなたと一緒なら楽しそうだな、って思って。

もちろんあなたのその腕も信用しているし信頼もしている。だって私が本気出しても全然振り切れないし、元501のラウラとも互角に戦えるあなたのそばで戦えるなんてすごいことじゃない?」

「・・・俺はそんなものじゃ。」

「あなたがそう思っていなくても私はそう思っているの。だからいい?もうこんなこと二度と聞かないで?いい?

私は私の信じたものに従う。それだけだから。」

いつの間にか非難の目を送ってきていたウィルマ。そっか、俺の発言は彼女の自信を傷付けていたのか。だから謝るのではなく、その判断を間違っていなかったと信じさせてほしい、ということか。

「わかったよ。ウィルマ。」

だから俺は謝らない。彼女の進む道を少しでも助けるために。

「ならこれからはこき使ってやるよ。楽しみにしていろよ?」

「えー、それはちょっとひどくない?}

「お前が言ったんだろうが。」

「私はね、そういう事を言いたかったわけじゃないの!全く。」

頬を膨らませる彼女だが怒っているような様子はない。むしろ楽しそうだった。

これならやっていけそうだな、相棒。

そう感じさせてくれるような彼女にもう一度心で感謝した。

 

0930

ワイト島分遣隊基地に帰ってきて車を止め、基地内にいる隊長に帰隊報告。

ただ、ここでも問題発生。

隊長が「朝帰りとはいいご身分ね」とめっちゃ怒ってた。

ジャック、連絡したって言ったじゃないか…。

あのとき、あいつ酔っぱらってたから怪しいとは思ってたけどきちんと仕事をするやつだから平気か、と納得したのがダメだった。

事情(昨日の事をありとあらゆる)を話して、これからも俺が隊長の指揮下に入るという書類を渡す。最初は驚いた様子だったがだんだん理解していき、最後には承認してくれた。

「まぁ、大体はわかったわ。正直いきなり、指揮下に入りますと言われても混乱するけど。とにかく、これからから今まで以上にローテーションに組み込むからよろしくね。」

「あぁ、こちらこそ。」

隊長と握手をしてうなずく。

こうして、またウィッチとしての一歩を歩き始めた。

 

 

 




ご指摘、ご感想、誤字訂正があればよろしくお願いします。。


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第9話 部隊の裏事情

今回も日常会です。


ブリタニア空軍試験飛行中隊

それが今の俺の所属らしい。もちろん、そんなものは存在しない。

ジャックが予算をやりくりして何とかつくった架空の飛行隊だ。それにしてもどうやって隠してたのだろうか?ジャックの手腕に驚きながら、今度聞いてみることにしよう。

 

いま、俺は機体の整備をしている。正式に書類上ではここに配属になった俺。つまりは彼女達と同様に命令があれば飛ばなければならない。ワイト島では毎日出撃命令が下る、なんてことはないがいつでも飛べる準備はしておかなかければならない。そしてジェット機というものは繊細だ。レシプロ機なんかよりも遥かにパーツ数が多いためその分、構造が複雑でより壊れやすくなる。だから日々の整備が大切なのだ。より長く、こいつと一緒に飛ぶために。

そういえば、聞くところによるとウィルマがここに来るまで4人はあまり仲が良くなかったらしい。当たり前だろうな。

リベリアンらしく気の強いフラン、逆におどおどしているアメリー、常に1人で行動しようとするラウラ、怪我の療養のために来たのに左遷されたと勘違いして焦っている隊長。まとめるとなるとかなり大変そうだ。まぁ特殊戦のあの何とも言えない空気もまた凄かったな。

ところが、ウィルマが来てから状態は変わったらしい。

 

隊長曰くアメリーは成績はいいのにその性格ゆえにあまり上手くいかないことがあったがウィルマに色々と教えてもらってだいぶ自信を得た。曰くフランはある日を境に急に棘が丸くなったというか他人に対して優しくなり始めたらしい。フランに聞いてもはぐらかされたがどうやらウィルマさんが関わっているとのこと。

そして、隊長自身も励まされたらしい。誕生日会の前偵察飛行中に色々と言われてようやく目が覚めた、と言っていた。

そんな中に俺というイレギュラー要素が入ってきた。隊長は最初俺が宇宙人だと、思ってたらしいな。まぁ、あながち間違ってはないが。

3日ほど前だろうか。俺を拾って迷惑してるか?と聞いた。隊長は

「そんなことはないわ。確かに初めは困惑したわ。けれどだんだん時が経つに連れて私達のことも考えて行動してくれてる、って思えるようになった。間違えてたら教えてくれる、他のメンバーのサポートもしてくれる。だから迷惑何かじゃない。むしろ感謝してるわ。」

と言ってくれた。

感謝してる、か。久しぶりに聞いた気がする。というか、最近ウィルマとの距離が近くなった気がする。僚機になったからかよく話すようになった。内容は日常会話だけだ。ただ、この基地のなかでは一番話しているかもしれない。ジャックを除けばこの世界で唯一俺の家族の事を話した人だもんな。よく考えたらたくさん話したし話してもらったな。

あと、最近変わったことと言えば空中戦の事をウィルマ、アメリー、フランと時々隊長を加えて話すようになった。前はウィルマだけだったので、人数が増えるといろいろな事が聞ける。あんな形のネウロイをみたや、一度に10個のネウロイが襲ってきて大変だったとかだ。逆に俺も戦闘技術、それも出来るだけ少なくだが彼女らに話している。それでもはじめて聞く戦術だったと言ってたこともあった。

さて、左エンジンは問題なかった。次は右か。

ん、誰か来たな?あれは

「ラウラか。ユニットの整備か?」

コクン。

返答なしか、まぁ想定の範囲内だ。

彼女も整備を始める。

カチ、カチ、カチ、時計の針が進む音と時々金属と金属がぶつかったときに起こる音だけが響く。

15分後

「ん、アンカの調子もいいみたいね。」

「アンカ?機体の名前か?」

独り言らしくいきなり、話を振られて驚いている。

「そう。あなたも名前をつけているでしょ?」

「まぁ、そうだな。機体の名前はメイヴ、俺がつけたわけではないが妖精の女王の名前なんだ。結構俺はいい名前だとは思うな。」

まぁ、こいつ単体の名前はつけてないな。落とされることはまずないと思ってはいるがもし損失でもしたらなんか立ち上がれなくなりそうだからな。

「それにしてもそのユニット、変な形。」

「人の機体を貶すのか?」

作業をしながら少し苦笑いで返答する。確かにラウラや他の奴がのるレシプロ型のストライカーユニットと比べれば確かに変な形に見えるのだろうな。

「ごめんなさい、そんなつもりで言ったわけでは」

「わかってるよ。最初似たような感想を俺も持ったしな。メイブ、風の女王にふさわしい機動力を得るために少し不思議な形になったんだよ。ただ、ストライカーユニットになる前はかっこよかったんだぞ?まぁ、今の姿じゃ想像できないだろうがね。」

「…そう。ということはその形には意味があるの?」

珍しく食いついてくるな。

「そうだ、詳しくは言えないが綿密な計算に基づいて設計されてる、らしい。」

このユニットを履くようになってから気づいたのだが、翼や他、各種機構は飛行中ちゃんと作動している。

試験飛行のとき、アフターバーナーを点火して最高速度で飛行していた時も翼が回転して後進翼になっていた。上昇、下降、旋回するときもちゃんと翼、補助翼は動いていたし。ただこれが飛んでいるとき本当に意味があるのかは謎だ。あとは、何故か推力偏向ノズルが新たに付いていた。上下左右に動いているからこれも上手く作動してあるのだろう。1つ面白いのがギア(車輪)が車のように動くことだ。元々メイブのギアにはモーターが内臓してあって自力で動くことが可能だったがストライカーユニットでも装備されていた。これの何が面白いかって?一言で言えば"まるでセグウェイ"。

左右1本ずつ、計2本のギアが自分の思うように動かせる。しかもそれなりにスピードが出る。制御は慣れればあとは、楽勝だと遊んでいたら(暴走していたら)隊長に怒られた。

 

それ以来、使ってないな。ただ思いがけない遊び方が見つかったのは収穫だろう。

「ジェットストライカーユニットには興味がある。聞いた話だと魔力の消費が激しいというのは本当?」

「そもそも、基準がわからないから何とも言えないが多分普通のよりは多いんじゃないか?」

「乗ってみたい」

「さすがに、それは許可できないな。これは俺の愛機だし、ラウラもアンカとやらを他の人にさわられるのは嫌だろ?」

心当たりがあるらしく、シュンと肩を落として落ち込むラウラ。

「残念。」

また、沈黙が続く。あれ以上食いついてこなかったということはよっぽど乗って見たかったのかもな。

 

10分後、フランが来た。最初、顔だけを出してきてこちらを伺うかのように辺りを見渡したあと、ようやく中に入ってきた。

「ラウラにバーフォード、あなた達何やってるの?」

「「整備。」」

言葉に話しかけるなオーラを漂わせるがフランは話を続ける。いや気づいていないのか。

「整備兵に任せればいいのに。」

「いざというとき困るのは自分。整備してあげれば必ず答えてくれる。」

「確かに、キレイね。」

そう言ってさわろうとする。あっ、あれはまずいな。愛称をつけるくらい大事なユニットだ。ラウラに許可なく触るのは絶対に許さないだろう。

案の定、ラウラがフランにチョップを食らわせた。

「いたーーーい!!」

フランが叫んだ。そして一瞬の間をおいて隊長が走って入ってくる。どんな魔術使ったんだよ。

「どうしたの?」

「ラウラがぶった!」

「私のアンカに触ろうとしたのを防いだだけ。私は悪くない」

「えっと、あ!バーフォードさん。説明してくれる?」

2人がそれぞれのいいわけを口にするがそれだけではいまいち状況が把握できない隊長は俺に説明を求めてきた。

「あーまぁ、事態は簡単だ。遊びにきたフランがラウラの許可なく彼女のアンカにさわった。それを是としないラウラがフランを叩いた。そんな感じだ。」

簡単な説明だったが状況をわかってくれた隊長。その様子だとこれも初めてではないのかもな。

「あはは、なるほどね。それよりラウラ、もうすぐ哨戒飛行の時間だから準備してね?」

「………了解。」

ムスッと不満な表情を浮かべながらも離陸の準備に入る彼女。

あの2人に哨戒飛行を任せて平気なのか?

 

俺の懸念をよそに15分後隊長らは行ってしまった。

「大丈夫なのか?」

先程のあのやり取りを知っているからこそ、不安に感じて思わず独り言を呟いてしまった。直後、後ろからウィルマが話しかけてきた。

「平気だと思うよ。隊長はラウラと仲良くしたいと思っているみたいだし。今日の哨戒飛行はそのためにあえて飛んだんじゃないの?」

「なぜわかる?っていうのは俺より長くいるお前には愚問か。」

当たり前じゃない。と俺に言ってくるウィルマの顔は自信に満ち溢れており、おそらく自分の意見に確信を持っているのだろう。

「仲良くしたいっていうのはさっき聞いたから。隊長自身がラウラとコミュニケーションをあまり取れていない事を気にしていたみたいなの。だから今日、空で少しでも糸口を見つけられたらとでも考えたんじゃない?」

「なるほどね。心配のし過ぎか?ラウラもそれなりに腕はあるみたいだし。」

「悩みすぎると老けるわよ?」

「もう既に老けてるよ。まぁ何かあればすぐ連絡が来ると思うし、隊長が帰ってくるまでユニットの試運転でもしようかな。」

「付き合うよ。」

「助かる、側で出力調整のメモをとってくれ。」

「了解」

こうして、しばらくエンジンの出力を確認したりセグウェイごっこをして暴走していると、無線が入った。

ネウロイと交戦を開始したとの事だ。ラウラが独断専行しているらしい。あいつ!

「援護は必要か?」

《待って、ここは私に任せてほしいの。ここでしか、やれないことをやらなきゃいけないから。》

「わかった。だが隊長」

《?》

「幸運を」

《ありがとう。》

こうして無線は切れてしまった。ウィルマが走ってきた。なんかこう、見てると凄いな。

「それで、隊長は?」

「すべて、任せてほしいと。ウィルマの言った通りだよ。策とやらに任せてみようと思う。」

「あなたの律儀に貸し借りを返す性格から強行してでもいくと思った。」

「さすがにそこまでやぼじゃないさ。」

ばらしたつもりは無かったんだがこいつにはわかっていたか。何か全てを見透かされた気分になるな。

 

そして、1時間後2人は帰ってきた。行きと違ってなんというかオーラが行きはむわーとした感じだったのが帰りはほわーとした感じになっている。んー、上手く言い表せないが収穫はあったのだろう。

「お疲れ様、隊長。どうだった?」

「撃墜2だけど、それ以上にラウラと少し仲良くなれた気がする。」

「ならよかった。部隊員同士の連携がとれないとめんどくさくなるからな。」

 

それから数日後ラウラが他人と話すようになった。飯を食べた後もすぐ部屋に戻らず手伝うようになったし、コミュニケーションを取るようになった。

よかった。彼女はまだ"こちら側"には来てなかったか。

無感情にただ命令に従う、そして腕もいい。もしそんなウィッチがいたら簡単に捨て駒にされるだろう。

彼が懸念していたのはその事だった。

 

なにはともあれ、ようやく5人と一人の不思議なウィッチーズの友好関係ができたのである。

 

 




今回はラウラ回です。
文字少し少なめです。
お気に入り25件ありがとう!
次回は戦闘を入れます。


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第10話 赤城防衛戦(上)

ごめんなさい、戦闘はやっぱり次回で。
予想以上に作戦前夜が増えてしまった。



「近々扶桑の欧州派遣艦隊がここ、ブリタニアにやって来ます。それにともないワイト島分遣隊にも出撃命令が下されると思います。なので、いつ命令が来ても問題ないように準備を行ってください。」

朝ごはんを食べ終わった後、全員隊長の部屋に来るように、と話があったので来てみるとそんな話だった。扶桑の欧州派遣艦隊、か。その資料によると赤城を旗艦とする空母機動艦隊の様だ。ただその規模は、かの国の保有する海軍力からしたら小規模と言わざるを得ない。まぁ、空母を持っていない国からしたらかなりの大きさとなるがな。それにしても出撃命令か、ガリアのネウロイの巣がこちらではなくあちらの艦隊を狙う可能性を考えての出撃準備か。もちろん501にもこの命令は、いっているはずなのでこちらはそのサポート程度だろう。

「それで、誰が出るんですか?」

「まだわかりませんが全員だと思います。任務の性質上人が多いに越したことはありませんので。他に質問は?」

全員か。ガリアからネウロイが来たら本土の防衛隊があたるはずだから多分メインはこっちの方だろうな。

「俺はどうする?」

「何とも言えません。ただ、命令があったら来てもらいます。」

「了解。」

「ちょっと待って、なんであんたも出撃することになってるのよ?居候の身で、公式の作戦に参加してもいいの?」

と、声を荒らげるフラン。

「フランさん、私も信じられないのですがバーフォードさんはいまブリタニア空軍所属なんですよ。」

「「「えっ!?」」」

その事を知らないアメリー、ラウラ、フランが驚く。まぁ俺がブリタニア空軍への所属が

決まった日、彼女らからしたら普通にいつもよりも少し遅れて帰ってきた程度の認識でしかなかったようだ。だからこれまでに驚いているのか。

「なんだ、隊長。言ってなかったのか?」

「言う機会を逃してしまったと言う方が正しいかもしれないわね。1つ聞きたいのだけど、一体どうやって入ったの?しかもいきなり士官なんて。」

まぁ、確かに隊長の疑問ももっともだ。俺だっていきなり現れた身元不明者が呼び出されたかと思ったらいつの間にか上官になっていたら疑問の一つも沸く。

「(あちらに俺の知り合いがいてな。なんとか工面してもらってここの部隊に入れてもらった。)」

ただ、この内容はあまり知られたくない事なので隊長だけに聞こえるような小さな声で教えてあげる。

「(知り合いですか?一体誰なんです?)」

「(さすがにそれは秘密だが、俺の昔の上司でその当時からよくしてくれている人だ。今回もいろいろと手を回してくれたみたいだ。)」

「(なるほど。そういう事だったのね。)」

そういって俺から離れる隊長。しかし彼女の表情はあまりよくはなかった。なぜだ、とお考えを巡らせてやがて一つの答えにたどり着く。

「隊長。もしかして自分のやったことが無駄だったとか考えてないか?」

「!・・・はぁ、やっぱりわかっちゃう?」

「あぁ、そんな表情されたらな。」

そして隊長は気まずそうな顔をしてそっぽを向いてしまった。こりゃ落ち込んでいるかもな。

「隊長、それは間違いだ。隊長が、自分を犠牲にしてまでそこまでやってくれたおかげで俺はあいつとも再開することができたしここまでスムーズに進めることができた。渡された手紙を読んだら、隊長が細工をした書類を使わせてもらったとか書いてあったぞ。」

「え”。うそ、ばれてた?」

自分のした細工があっさりばれていることを知った隊長はさらに肩を落とした。

「あぁ。だが問題ないみたいだぞ。恩返しのつもりみたいだが、こいつを利用させてもらう代わり、隊長のかかわった痕跡を完全に消したらしい。だからこれ以上隊長が俺に関わることで不安や負担を感じることはないんだ。」

「(・・・あなたを救うつもりが逆に私が救われることになるとはね。)」

もう一度近づいてきて小声で隊長は俺の耳元で再びささやいた。

「(でも、よかったわ。せっかくここまでかかわったのに嘘偽りを身にまといながら生きるのではなく、ちゃんとした身分を手に入れてきちんとした生活を送れるようになったみたいで。)」

「(それも全部、きっかけを作ってくれた隊長のおかげだ。ありがとう。)」

「(もう、だからそれはいいって言っているのに。)」

「ちょっと、いつまで2人で話しているのよ?」

やがて怪訝に思ったフランが俺たちに割り込んできた。なんだよ、せっかく隊長に感謝を伝えていたのに。

「いえ、なんでもないわ。ただ大尉が私にお礼をしてくれていただけだから。」

やがてもう一度全員を見渡した隊長は俺たちに指示を出した。

「というわけで皆さん。ここで、お開きとします。なお近日中の出撃につき、哨戒飛行はしばらく中止となります。以上解散!」

ザッ

全員で揃って敬礼をしてここは解散となった。

 

朝の隊長からの通達が終わり、急に暇になった俺は射撃場に向かうことにした。

昔はあんなに毎日狙撃銃で撃っていたのにパイロットになってからは長い間撃ってなかったせいかスコアが落ちてしまっていた。拳銃ならたまに撃っていたが機関銃や、ライフルは全くといっていいほど触っていなかったな。

大体狙うべき場所はわかるのだが、どうしても数cm単位でずれる。ネウロイのコアを狙う際、目標との距離、重力による弾道の下降、気温、気圧、湿度、風向きと風速、自身の移動速度、そしてユニットから発生する振動をすべて考慮して狙いを定めなければならない。この世界の狙撃銃を使用するウィッチが狙撃を行う際、移動しながらではなく他のウィッチの援護を受けてホバリングしながらの射撃を好むのはよくわかる。俺だってメイヴとgarudaのサポートと俺自身が持っているあの思考加速の能力がなければ音速に近い速度で飛びながら正面から突っ込んでくるネウロイのコアに正確に当てるなんて神業は不可能だ。

だがサポートを受けているとはいえ、実際に撃つのは俺だ。一日に定められた上限いっぱいまでひたすらに海上に浮かんで常に動いている目標に撃ち続ける。

その結果、ここ数週間である程度は勘が戻ってきた。雀百まで躍り忘れずとはよく言ったものだ。毎日俺の周りに落ちている空薬莢を訓練終了後は小さな袋いっぱいにしては整備兵に引き渡すの繰り返しにもようやく成果が出てきたわけだ。

今までは飛行体勢に似ているうつぶせの状態で訓練を行っていたが今週からは地面に腰かけて、腕の力のみで重心を支える体勢で訓練を行っている。腕の震えを含めたより細かい調整が必要な射撃となり難易度は上がる。だが、これも絶対に役に立つはずだと思いながら今日も射撃訓練を行う。

ただ、常に動いているウィッチとネウロイなのに制止目標はどうなのかと、フランに言われたことがある。まぁ、地上に浮かんでいる目標など彼女からしたら静止目標だろう。ま、ウィッチからしたらあながち間違っていないが数で勝負する機関銃と一撃必中を狙う狙撃銃とではそもそも射撃の概念が違う。とはいえ、俺も動いた状態での訓練や実戦経験をもっと積みたいと思っていた。

しかし移動する目標相手の訓練なんてここではできたものではない。そのため俺はひたすら静止目標へのcm単位よりさらに上のmm単位での正確な射撃を毎回できるように今日も上限いっぱいまで射ち続ける。

 

やがて最後の弾倉に入っていた訓練弾をすべて射ち尽くし、格納庫に向かおうと立ち上がり後ろを見ると隊長を除く全員が俺の訓練を見ていた。

「・・・何しているんだ?」

「ん?のぞき見。それと、お見事。5発連続射撃も全部ボードの円の中に当たったね、2発は中心から右下に少しずれてるけど残りは全部中心に命中。すごいね。」

「あの姿勢から500m先のターゲットへ射撃したとき大尉はあの命中率。あの技術は凄いと思う。あれは私には絶対に出来ない。」

ウィルマとラウラは双眼鏡をもって俺の射撃成果を確認しアメリーとフランは横になりながらこっちを見ている。

「ラウラならできそうだと思うんだがな。」

だが俺の言葉に首を横に振るラウラ。

「無理。訓練生時代でも狙撃の成績は良くなかった。」

「意外だ。ラウラにも苦手なものもあるんだな。」

「そんなものだと思う。大尉だってシールド苦手でしょ?」

「う、まぁ、そうだな。」

「というか、あんた。毎日毎日あんだけ撃って、よく疲れないわね。」

「これでも鍛えているからな。それにあんなのずっと持っていればそれなりに力が尽くしな。」

そんなもん?と言いながら俺の腕を人差し指でつついてくるフラン。

「そういえば、ウィルマさんも妹さんもスナイパーでしたよね、二人そろって狙撃手ってすごいですね。」

「私?私は確かに使えるって程度であの子には到底腕は及ばないかな。何年か前、戦った時は五分五分だったしね。」

そういえば、8人兄弟だったな。妹は確か501にいるんだったな。それでいて狙撃銃使いとなれば俺よりもいい腕しているかもな。

その話を聞いたフランが体を起こしてこっちを見てきた。先ほどとは違いなにか面白いものでも見つけたかのような表情だった。

「なら、バーフォードと勝負してみたら?どっちが上なのかって?」

「「え?」」

思わず彼女とほぼ同時に変な声を出してしまった。

「それって狙撃の勝負か?何の意味がある?」

「なんとなくよ!どうせ暇だったし、これもきっと面白い展開になりそうだし。それじゃあ、ウィルマ軍曹。狙撃勝負でこいつを負かしてきなさい!少尉の命令よ!」

「命令?お前にウィルマへの命令権なんてあるのかよ。」

「うるさいわね。それで、軍曹。やるの?やらないの?」

「やろっか。面白そうだし。どう?バーフォード大尉?ものは試しで一度やってみない?」

フランの問いかけに即答したウィルマも楽しそうに声を弾ませながら俺を誘ってきた。

「だが、俺が今日撃てる弾丸はもう残っていないぞ?どうするんだ?」

「なら、私が撃つはずだった弾倉一つ分の弾薬を渡すよ。それならいいんじゃない?前見せてくれた弾丸と私が使うのは同じ種類のものだから問題ないはず。」

「なるほど。なら俺としても相棒の狙撃の腕は知っておきたい。やるか。」

「そう来なくっちゃ。なら何か懸けしない?」

「賭け?そういうの、まずくないのか?」

「お金が関わらなければ平気。消耗品とか口約束程度ならね。もちろん勝った方がその権利を持つっていうのでどう?」

ま、いっか。ここでならそんな言われる要求だって限られたものくらいしかできないだろうし。

「俺はいいぞ。」

「なら、決まり!わたし、銃持ってくるから先そっちも準備しておいてよ。」

「了解。」

終えたはずの訓練を再び再開させるために俺は先ほどまでいた場所に戻る。”絶対負けない事!いいわね!?”とウィルマを叱咤しているフランはいったいなんで一人でそんなに盛り上がっているのだろう?そんなことを思いながらもう一度、狙撃の準備を始める。

 

うつぶせの状態でスコープの調整をしていると何かが”ドサッ”と音を立てて俺の隣に置かれた。

顔を動かして目の前に見えた足を上にたどっていき・・・途中でやめる。ダメだ、それ以上はよくない。彼女からしたら平気なのかもしれないがやっぱり目に毒だな。少しこの環境に慣れたと思ってはいたが、なぜか彼女のを見るのが気恥ずかしくなった。僚機となってこれからもずっと一緒だから、と心のどこかで俺が思っているからだろうか。

「?どうしたの?」

「いや、なんでもない。それよりも早く準備を始めてくれ。」

「了解でーす。あ、それと私、この狙撃銃使うの久しぶりだから少しゼロインやってもいい?」

「あぁ、構わないぞ。」

「よかった。それじゃあ、調節終わるまで待っててね。」

俺の一瞬の動揺も悟られることなく、彼女は狙撃の準備を行う。俺はうつぶせの状態から胡坐の体勢に移り、彼女のその様子を見ることにした。ウィルマは慣れた手つきで素早く狙撃銃を完成させると弾丸を装填、うつぶせになり射撃を始める。

「ウィルマの固有魔法、魔弾だっけか。前に名前だけ教えてくれたよな。それで、その魔弾とやらはどんな効果を持っているんだ?」

魔弾、その大層な名前を持つからにはきっと何か凄い能力でも持っているんだろうか。ほかの奴の能力を聞くと大抵名前を聞けば推測できるだけあって聞いてわからないウィルマの能力には僚機ということもあって興味があった。

「それは、見てからのお楽しみに。」

そんな俺をよそにウィルマはこちらに顔すら向けずに調節を行っていた。その集中力はいつも戦闘で時々見せるものに迫るものがあり、彼女の気合の入れようが分かった。

そして、射撃をいったん止めるとおもむろに銃を分解して何個かのパーツを交換し始めた。その一つによく見てみると外した方のパーツには刻印が押されているのに対して彼女が自ら付けたものには何も押されていなかった。

「それ、正規品じゃないな。オリジナルの部品だろう。自分のカスタム品か?」

「やっぱりわかる?見る人が見ればわかるもんなんだね。自分じゃ渡されるまで気が付かなった。」

「?自分で作ったんじゃないのか?」

まさか、と言って首を横に振って苦笑いをするウィルマ。

「こんな凄いの、私じゃ絶対に無理。これはね、お母さんが作ってくれたの。」

「お前の母親が?随分とすごい人だな。職人か?」

「似たようなものだね。お母さんも元ウィッチで狙撃銃使いだったの。今は引退して私たちの世話をしてくれる傍ら、こんなものも作ってくれるの。ほら、よくお母さんって自分の子どもにハンドメイドのカバンとか作って渡してくれるでしょ?それと似たような感じ。」

それは、まぁ、なんというかすごい家系だな。親も狙撃手でハンドメイドの部品を渡されていたということは小さい頃からずっと狙撃手として生きてきたんだろう。だが彼女は狙撃銃は得意にはなれなかったのか。得手不得手が人にはあるが、その家族のことを聞くとすこし彼女に同情してしまった。

そして再び射撃を行うウィルマ。

その過程で気が付いたことがある。体の揺れが小さいのだ。普通、うつぶせの状態では体のほとんどを地面に当てているとはいえ、上半身を支えているのは膝から手首にかけてだ。だからどうしても撃った際にその衝撃を腕に負担がいかないように体が動く。なのにこいつはあまり動かなかった。なぜだろう?そう思いながら横からその射撃のフォームを見て俺の疑問はすぐに晴れるのだった。

「胸、か。なるほど。」

「へ!?」

いい感じにクッション代わりになっていてそこでも体を支えることでより衝撃を吸収しやすい状態になっていた。だって、あんなに大きければ十分支えられるだろう。

俺の言葉と吟味するかのような口調に反応してこちらを見るウィルマ。よほど動揺していたのか最後の弾丸はプレートに当たった音がしなかった。

彼女は自分の胸を見て、俺の言ったことに気が付いたようだ。だが俺はその時、っそのウィルマの射撃姿勢がいろんなところを含めて

「きれいだ。」

そう考えていた。

「綺麗って。ってそうじゃなくて、そんなこと言う人だとは思わなかった。」

少し顔を赤く染めながらそう俺を非難してくる。俺もあ、やっぱりまずかったか、と思いながらも反論する。

「いや、俺はその状態をすごいなと思っただけで決してウィルマの身体的特徴を意識していたわけではない。」

「本当に?」

「本当だ。嘘だと思うなら、この賭けに勝ってもう一度俺に問いただせばいい。」

「・・・わかった。絶対に負けないから。」

俺に弾丸を一発だけ渡してくるウィルマ。

「勝負は一発か。なるほど、面白い。」

「そう。one shot one kill.絶対に負けないから。勝ったら本当のこと話してもらうから。」

「なら、負けないようにしないとな。」

俺もうつぶせになり、照準の真ん中に訓練用のターゲットをとらえるのだった。

 

Another view -Sied Bishop-

彼に私の胸を指摘されたときは素直に恥ずかしかった。彼がそんなことを言うとも思っていなかったので本当に不意打ちに近く、今でも心臓がどきどきしている。

ほかの子といる時には全く気にしたこともなかった。いや、たまに触ってふざけていたことはあったけれどその時は全く意識なんてしていなかった。だからかな、今そのことを言われた瞬間に自分でも意識し始めてしまった。

彼は初めて会った時、私たちの服装についても言っていた。もしかしたら彼からしたら今の私たちの姿は異常に見えているのかも。

あ、だからさっき私が来たとき、顔を上げようとして途中で止めたのかな。

そう考えると余計に恥ずかしくなってきた。私たちにとっての普通が彼には違う。

つまり、今さっきまで”視られていた”んだ。服装はもしかして、変だったりしたかな?言動は?髪の毛、ぼさついていなかったかな?

”きれいだ。”

その先ほどの彼の言葉がもう一度頭の中でよみがえってきた。私だって女の子だから、綺麗って言われるのは仲間から言われるのとは少し違った印象になる。

心がなんというか踊り始めたとき、ふと気が付いた。

嬉しい。でもその綺麗ってどこを見て言ったんだろう?胸?背中?もしかして、お尻?

そう考えると少し、怒りがわいてきた。男の子ってみんなこんなんなんだろうか?

人を喜ばせておいて、別の私の恥ずかしいところ見ていたなんて。

なら絶対に負けられない。

最初は使うつもりはなかった魔弾を使うことを私は決心し、そのトリガーにかける指に集中し始めた。

絶対に勝って、謝らせてやるんだから。そう心の中でつぶやきながら。

Another view end -side Bishop-

 

隣でなんかすごいものを感じる。これが魔力が外にあふれている、という状況だろう。

フムン、どうやら先ほどの俺の言葉は火に油を注ぐかのようになってしまったようだ。

おそらく、魔弾とやらを使ってくるだろう。なら今の状況で彼女が外すとは思えない。

ということは何としても俺はターゲットの中心を貫ぬかなければならなくなった。

なら、俺も本気で勝負に出る。

-発動-

加速割合をかなり抑えて、ターゲットを狙う。あらゆるものを考慮に入れて、スコープの衷心より少し左上で狙いを定める。そして波の影響で浮いたり沈んだりしている目標の動きにパターンを予測して、ようやく俺の狙い通りの所に来るほんの直前で

-発砲。-

能力解除。世界に俺が追い付くかのような感覚を覚えている間に隣で発砲音が聞こえた。

ウィルマが俺よりも若干遅れて発砲したみたいだ。

そして、俺は彼女の魔弾というのを初めて目にした。

(翼?あれが魔弾か。)

まるで銃弾に翼のようなものが付いているように見えた気がした。魔法とやらの翼を実体化させることによりより安定させているのだろう。戦車のAPFSDSみたいなもんか。俺のよりもはるかに安定しているその弾丸は一直線にターゲットへと吸い込まれていき。

そして、着弾。

わずかな時間差をもって2枚のプレートにそれぞれの鉛玉が貫いてどこかへ飛んで行ってしまった。

結果は

 

俺が左上5cm、ウィルマはほぼ中心、というか中心の黒丸がそのままなくなってた。

中心か、あの穴の大きさからして相当のエネルギーがあったに違いない。だが、彼女があれを使ってまで中心をぶち抜いたというのはよっぽどの覚悟だったんだろうな。

「負けだ。俺はずれて中心に当たらなかった。」

「なら、私の勝ちって認めてくれる?」

「あぁ、あんなの見せられちゃ嘘すら吐く気にならない。」

誰がどう見ても彼女の勝ちだ。それが覆ることはないだろう。

「それで、ウィルマ。君の要求ははなんだ?」

俺の負け宣言によし、とガッツポーズをしていたウィルマだが、何かにはっとした顔になると急に眼をそらし始めた。

「え、えっと、その・・・。」

「?さっき言っていたことの話か?」

「あ、あれは、なんか、いいや。」

ぼそっと(なんか恥ずかしくなってきちゃったし)とつぶやく。

そうして、あぁ、と俺はようやく納得した。

「さっきのは、本音だぞ?」

「・・・ほえ?」

「さっき言ったスタイルもそうだがその銀髪。綺麗だと思うぞ。手入れも大変なんじゃないか?」

「え、うん。毎日頑張って、朝早く起きて梳かしたり毛先が痛んだりしないようにしているよ。」

「だろ?」

俺は彼女の腰まで伸ばしている髪を触らせてもらった。流れるようにサラサラで太陽の光をわずかに反射してよりきれいな色を出していた。そして彼女のいい香りが同時にフワリと感じられた。俺の髪とは大違いだな。

「あの・・・さすがに、ちょっと、もう恥ずかしいかも。」

「あ、あぁ。悪い。」

俺は髪から手を離す。ウィルマは手を後ろに回してそっぽを向いている。

「でも、ありがとう。頑張ってるから、ほめてくれてうれしかった。」

それだけ言って彼女はライフルを抱えると、駆け足で帰っていった。

その場に取り残された俺の所に3人がやってきた。

「それで、どっちが勝ったの?」

「ウィルマだ。あっちが中心を完璧に撃ったからな。」

「それでなんで軍曹の髪、触ってたの?」

「なんとなくだよ。もちろん、いいって言われてから触ったぞ。」

「「「へー。」」」

というと意味深な顔を向けてくる3人。なんだよ。

「ウィルマさんも女性ですもんね。どうでした?」

「さらさらしていたな。」

「違いますよ、ウィルマさんの反応です。」

「まぁ、悪くはなかったと思う。」

「「ほほう。」」

そして次は3人で何かを話し始めた。だが、そのわずかに見える表情からはあまり俺にとっていいことを話しているようには思えない。

「それじゃ、大尉。私たち、行くところができたから。」

「失礼します。」

「じゃあ。」

フラン、アメリー、ラウラはそれぞれそう言うと駆け足で建物へと入って行った。

「いったい何を話していたんだろう?」

ぽつんと、俺一人、射撃場に残されたのだった。

 

その日の夜、隊長から新たに全員に向けて連絡があった。扶桑艦隊の到着に関する情報が更新されたらしい。

「作戦行動開始は明後日の1000赤城本体の護衛は直掩機が対応するとのことなので、私たちの任務は出来るだけネウロイが赤城に向かわないよう1機でも多くネウロイを落とすことにあります。詳細は明日の夜、地図を使って説明します。ギリギリまで進路が変更になる可能性があるためプランが多くなりますので事前に資料を配布するのでよく読むように。最後に、バーフォード大尉。司令部より正式に当作戦に参加せよとの指令がありました。ただ、当作戦に限ってバーフォード大尉、ビショップ軍曹はダウディング大将の指揮系統に組み込まれるとのことです。よろしいですね。」

ジャックの?そんな大事な時にあいつの直接の指揮下に入っていて命令系統に遅れが生じないのだろうか?いや、俺でも思いつくことなんだ。あいつが考慮してないわけがない。

「わかった。」

当日は大変だろうな。俺は心の中で強くそう思うのだった。

「何か質問は?」

「なぜ2人だけ別系統?」

でもやはり、俺たちが別行動なのにフランが疑問に思うのは当然のことだろう。

「わかりませんが、今回は特例でこうなったとのことです。実験もかねていると聞きました、」

「実験?こんな重要な護衛任務で?」

「ええ。大将は独自の指揮系統で動かせる少数精鋭部隊を作るらしく、それが実践でどれだけ役に立つかを試したいそうです。少数なら、他部隊にも援護にすぐ回せるがどれくらい負担がかかるかのデータを取りたいと書いてありました。」

ジャックらしい。ブリタニアではそういったデータ量でほかの国に遅れをとっているらしいからな。ぜひとも役に立ててもらいたいものだ。

「それでは、明後日に向けて各自休養及び準備を怠らないこと。以上。解散。」

 

こうして、この世界で初の作戦に参加することになった。

 

 

「ウィルマ?」

隊長からの通達が終わった後も様子がおかしかったウィルマに声をかける。だがいまいち反応が悪い。

「おい。生きているか?」

「・・・え、え!あ、バーフォード。ごめんね、まったく気が付かなかった。どうしたの?」

「それはこっちのセリフだ、ウィルマ。賭けが終わってから部屋に戻っただろう?そのあと何かあったのか?」

ウィルマを見る限り、何か深刻に考えている様子だった。

「さっきね、3人が私たちの部屋にきていろいろ聞かれてね。それで考えるものがあって、少し悩んじゃった。」

「どんな事聞かれたんだ?」

だが、俺の質問に急に顔を赤くして慌て始める彼女。急に慌て始めて俺は余計に不安になる。

「そんなの、言えないよ。」

「・・・そうか。いつかいえるようになったら俺にも話してくれ。相棒が情緒不安定だと、戦っている最中も気になってしょうがない。」

「うん、ごめんね。それとありがとう。」

「気にするな。」

俺は彼女の肩を軽く拳でつついて別れを告げる。

「いつか、話してくれるといいな。」

なぜか、彼女に対してそう思ったのだった。

 

 




すこしほわほわを入れてみました。
やっぱりウィルマかわいい。

次回は護衛任務。

ご指摘、ご感想、誤字報告があればよろしくお願いします。


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第11話 赤城防衛戦(下)

ようやく2桁になりました。
趣味全開でここまで来たのにたくさんのお気に入りありがとうございます。
戦いがメインです。
今回から文字数が多くなるので話数のところを算用数字にしました。

アニメだと1期第2話あたりです。



作戦を明日に控えて各部最終チェックをしていると、ジャックから連絡が来た。

『よう、元気にしているか?』

「あぁ、おかげさまで肩身を狭く過ごす必要がなくなって助かったよ。」

電話がある部屋の受話器を取るなり、ジャックの口からはなたれた言葉は英語ではなく、いわゆるFAF語だった。英語をより機械的にしたといわれるこの言葉。英語をベースにしているとは言えども英語圏の人間でも聞き取れて、話す事ができるようになるにはしばらくかかる。なるほど、盗聴対策か。直接基地にかけてきたから事務的な連絡かと思ったが、これなら確かに聞かれていてもほとんどの奴は何を言っているのかわからないだろうな。しばらくの間はそれほど周りを気にしなくても平気だろう。

少なくともこの世界の人間は俺たちのいた世界ほど暗号が重要ではないからそれほど凄いのも開発されていない。せいぜい身内同士で隠す程度だ。

『それは何より。明日の作戦時のお前達2人の指揮系統が変更になっているのは聞いたな?』

「あぁ。急で驚いたがジャックの思うところがあったのだろうし、命令なら従うさ。」

『なら結構。明日の防衛戦にはワイト島分遣隊の他にも多数の部隊が参加することになるはずだ。既に他部隊にも遊撃隊が参加することはガランド少将を通じて通達してある。引っ張りだこになるかもしれんな。』

ガランド少将。たしかカールスラントのウィッチ総監だったか。なるほど。あちらともコネクションを持っているのか。

「かもな。一つ聞きたいのだが、今回の作戦に俺を参加させても平気なのか?一応秘密ってことになっているんだろう?」

『そこんとこもちゃんと考えてあるさ。男で魔力持ちはいないわけではないが、実戦に出ている奴は皆無だしな。この作戦でお前がやることは徹底的にネウロイを落とす事だ。そうすれば、軍の間で男のウィッチがブリタニア空軍にいて、かなり腕がいいという話が流れるだろう。あとは頃合いを見計らってSTAF発足を発表するって予定だ。』

お披露目会も兼ねているというのか?

「衝撃的なデビュー戦を飾ることになりそうだ。男のウィッチが所属するとなれば世界は注目するだろうしな。それでいて、ブリタニア空軍が世界で初めてジェットストライカーユニットの実践配備をしたと言う事実を作るわけだ。」

『利用させてもらってすまないが、これから安定的に俺がSTAFを指揮する立場に着くにはこれがベストなんだ。既に根回しは完了している。』

そこんところは心配しなくていいとは、見事と言うかなんというか・・・。

「構わないさ、ジャックにはあっちでもこっちでも世話になっている。借りを返すと思えば安いもんさ。それにしても世界初を同時に2つもか、なかなか凄いな。」

『両方ともお前がやることは担いでくるんだろうが。機体の方はどうだ?』

「問題ない。一応いつも通りの成果が出せるよう細かいところまでチェックしていたところだ。」

『そうだったのか。邪魔したな。』

「平気さ、少し休もうと思っていたところだ。」

『まぁ、こっちも話すことといったら近くまたこっちに来てもらうことになるだろうって事くらいか。』

「何故?」

『正式にSTAFが発足する日が決まったから部隊内での顔合わせと説明をしなきゃいけないからな。11/1発足だから前日には来てもらうことになるだろう。近くになったらまた連絡する。』

「了解。それにしても早いな。前聞いたときはまだかかるんじゃなかったのか?」

『俺が本気を出したらこんなもんだよ。』

「ジャックの本気か。どんなのやら。」

『言ってろ。っと、すまない。これから会議なんだ。』

「そうか。それじゃあまた連絡くれ。」

『わかったよ。あと最後に。』

「なんだ?」

『生きて帰ってこい、これは命令だ。』

「了解、大将殿。」

ガチャン

俺が(なま)った腕を慣らしている間にジャックは着々と準備を進めている。ブリタニアのエースウィッチが一堂に集まるらしいSTAF。俺もプライドがある。負ける気はないがジャックの期待に応えるためにそいつらよりもはるかに高い戦闘技術を持ち、圧倒する必要がある。それを可能にさせるには静止目標程度ならmm単位で、移動目標でもcm単位で正確な射撃を行えるための腕、そして最適な場所から射撃できるように移動するためのユニットを制御できるような力、そして自らの能力を完璧に使いこなせる必要がある。

ここに来てから、だいぶ勘を取り戻せた。あとは、明日うまく使いこなせるかだ。

自信はある。あとは実践するだけだ。

 

夕食後、情報の更新はなかったため、隊長のお話はすぐに終わった。

「…というわけで、昨日と情報の更新はありません。明日に備えてゆっくり休んでください。以上!」

全員揃って起立、敬礼。

俺は話が終わり部屋に帰る支度をしていた皆の間を抜けてウィルマの所に向かう。そして、壁に掛けられた艦隊の予定進路表を眺めていた彼女に声をかける。

「ウィルマ、時間あるか?明日の事で話がした。」

「何?出来ればゆっくりしながら話したい。あ、バーフォードの部屋は?」

「せめて、ウィルマの部屋じゃダメか?」

「私の部屋はアメリーもいるもん。あの子には聞かせられない、そういう類の話じゃないの?」

「まぁ、ワイト島分遣隊の仲間としてではなく、ブリタニア空軍としてだからな。

わかったよ。それほど時間はかからないはずだから、あとで来てくれ。」

 

俺が部屋に戻り、ジャックと契約の時に書いた書類をまとめていると5分くらいしてウィルマが入ってきた。

「・・・本当にベッドと机、それに椅子以外何もない部屋ね。」

「仕方ないだろう。定期収入が入るようになったのもつい最近のことだしそもそも俺にはほしいものがないからな。それと、立っているのもなんだからそこの椅子にでも座ってくれ。」

「ありがと。それじゃあ、遠慮なく。」

そういって俺の隣に座る彼女。てっきり、椅子を動かして正面に座るもんだと思っていたから思わず顔を覗き込んでしまった。

「え?どうしたの?」

「いや、なんでもない。さて、明日だが指示書はもう読んだな?」

「ええ。」

「よし、なら大まかな動きは頭の中に入っているはずだ。明日は遊撃隊として色んな所をまわるから長期戦が予想される。よっていつもより多くの弾薬を持った方がいい。あと、節約を心がけてくれ。武器は何を使うんだ?狙撃銃か?いつも通り機関銃か?」

「今回も機関銃にする。昨日はうまくいったけれど、私あの魔弾をいつも毎回、完璧に制御できるわけじゃないからね。だからいつも通りの機関銃で。安心だからね。」

 

この部隊で最年長ということもありてっきり完璧に使いこなしているもんだと思った。昨日のあの勝負でだって彼女はかなり動揺していたのは俺だってわかった。なのにその状況にも関わらず俺が少し外しているにもかかわらず正確に中心を射抜いた。

あの時、俺が勝ったら仕方ないと励ますつもりだったのだが、どうやら間違っていたのは俺のようだ。

だから今回のような重要な作戦ならてっきり使うもんだと思っていた。だが彼女自身がどうやら狙撃手としてどこかコンプレックスを感じているのかもしれない。妹は501で同様に狙撃手として成功させているのもそれを加速させているのかもな。

だから無理強いはしないが、彼女の狙撃をまた見れるかもと少し期待していた分、残念なのはある。

 

「あの魔弾、明日も使ってくれるのかもと思って期待していたんだがな。」

「あぁ、あれ?かなり魔力使うから何発も連射はできないよ?たいていの魔法がそんなもんだからね。だからバーフォードみたいに一回当たりの魔法消費量が少ないのも珍しいんじゃない?みんな魔法はここぞというときに使うイメージがあるから。」

「それを言ったら俺だって確実に当てる自信があるときは使わない。不安だと思った時に使ってより狙いを確実にする。そんな使い方だ。だからあながち皆とそう変わらないと思うぞ。」

「そっか、そんなもんなんだね。わたしも昨日は本当に勝つつもりで使ったから。」

「なるほど、そうまでして俺に要求を飲ませたのか?」

「え、まぁ、そうだね。まぁ、今となってはあまり気にしていないけれど。一つ忘れないでほしいのは、あれはまだ継続しているってことだよ?」

何か要求を一つこなすってやつか?

「え、あれ俺が本音を言うってことでチャラじゃないの?」

「あれは勝手に言ったことじゃん。だからなし。忘れないでね?」

その悪魔みたいな表情でこちらに笑いかけるウィルマ。意外なところで細かいな。

「わかった。わかったよ、ウィルマ。」

「やった。」

と嬉しそうにする彼女。その先ほどとは違う心から嬉しそうな表情を見てしまうと、すこしまぁいいいかという気分になる。

「話がずれたな。もどして・・・ここまで読んだのか。指揮は俺がとる、ウィルマは俺の後ろをついてきてくれ。要請があったら急行、落としたら次のところ、また終わったら次のところって感じだ。ただ、当作戦の主目標は扶桑欧州派遣艦隊の防衛だ。こいつらが沈むなんて事があってはならない。その事も念頭に入れといてくれ。」

「援護要請と艦隊の防衛、重なってどっちかを選ばなければならないときはどっちを優先すればいいの?」

「その時の状況による。本当の緊急時となったらウィルマは援護、俺が防衛に向かうなんて事もあり得るからな。それと弾薬の件だが、そっちの方が消費量が激しいだろう?こちらはそれほど持つ必要がないからいくらかだったら肩代わりできる。どれくらい持っていくつもりだ?」

「本当!?すごく助かる!えっと、私のカバンにはこれくらいは入るはずだから・・・。」

それから1時間ほど話をしてお開きになった。

初めてウィルマと組んで作戦に投入されるんだ。失敗はできない。

 

次の日

出撃前最終ブリーフィングが行われていた。

「私たちの任務は赤城の護衛任務となります。全員での出撃となりますがウィルマさんと、バーフォードさんは別の指揮に入るため残りのラウラさん、アメリーさんフランさんが私の指揮となります。各員留意しておくように。」

「「「「「はい。」」」」」

「あと、最後に。ようやくみんながこの時まとまれて、一つになれたんだなと感じてるの。ウィルマさんと、バーフォードさんがいないのは残念だけどそのなんと言うか……ありがとう。」

((((隊長…))))

すこしはにかみながらそんなことを言う隊長。いままで、そんなに大変だったのか。

手をいじりながらも嬉しそうに語る彼女はきっとようやく部隊がまとまったと実感できているのだろう。俺一人を受け入れる時もあれほど身を削って働いていた彼女だ。ここまでまとめるのは相当大変だったんだろうな、と思えるようになった。

なら俺たちはその期待にも応えないと。

「出撃は1300、以上、ブリーフィング終了!」

 

両足のケースを開けてAPUを作動。

少し待ってユニットに足を突っ込む。

機関銃を背中に掛けて、ライフルを手に持つ。

魔導エンジンをアイドル状態にセット。

右エンジン始動。

左エンジン始動。

各部オートチェック開始。

Auto Throttles---Check

ALS---Check

ADC1&2---Check

AECS---Check

AICS---Check

ASE---Check

Complete

システムオールグリーン

エンジン始動完了

APUをoff

先に5人を離陸させる。

許可が出たので滑走路に侵入。

フラップダウン

《Cleared for take off.》

先行した隊長たちが滑走路上にいない事を視認する。

出力最大

V1

VR

V2

ギアアップ。

旋回して彼女らを追いかける。

 

最後に離陸したアメリーの右後ろにつく。

「そういえば隊長さん、護衛する空母には誰か乗っているの?」

ふとウィルマが話し出す。

「聞いた話だと、501の人員と新人ひとりが同乗しているとか。細かいところまでは聞いてないけど。」

(ペリーヌさん元気かな?)

(イェーガー中尉がいるところじゃない)

(501……………か)

(リーネ元気にしているかな?)

「どうしちゃったのかしらみんな?」

「なんか思うところがあったんじゃない?」

レーダーコンタクト

IFF応答なし

Enemy

敵か、大分近いな。さすがに戦闘機と同じ様に超長距離索敵とはいかないか。

そしてネウロイもやはり扶桑の艦隊が近くを通るのを黙ってみているわけにもいかないか。

「敵視認!小型5中型1!中型が赤城に向かった!」

「隊長、小型は任せた。中型はこちらで叩く。ウィルマ!Follow on my wing.」

「了解!」

「隊長、死ぬなよ。」

「あなたもね。」

あんな大きいのに小型とさほどスピードが変わらないか、一体どうやって出してるのやら。

 

「下から行くぞ。一撃で仕留める。」

「了解。装甲は任せるね。」

中型ネウロイはまるで俺らに気が付いていないかのように一直線に艦隊へ向かう。そしてまだ艦隊からは発砲は来ていない。俺たちが向かっているのはわかっているはずだから失敗したら、頼んだぞ。

速度を一定にして銃口を上に向け、射撃体勢を取る。そして俺の後ろに続いてウィルマも準備をする。俺は上昇を続けて、敵との距離が200を切ったその時

-発砲-

反動を強化された筋力をもって押さえつけ、続けざまに3発撃った。そしてその弾丸はコアのある場所の直下に吸い込まれていき・・・

一発目は着弾するも的外れな場所に

二発目は少し近づくもずれ

三発目が見事、コアの直下に着弾した。

そして俺はネウロイを下から追い越す。ようやくネウロイは俺に気が付いたようだがもう遅い。一発だけ、こちらに向かってレーザーを撃ったが、その直後に続いてウィルマが下から機関掃射を行い、コアを完全に破壊した。

よし、と思う手前、もし俺が最初の2発を完璧に当てていれば、それで済んだのにと改めて反省する。やはりお互い移動しているときに当てるのは本当に難しい。

 

《HQより、ガルーダ隊へ。ポイントES-26にて、多数のネウロイと交戦中との報告。数が多くて援護が必要だ。急行しろ。》

「ガルーダ1 Copy.敵の詳細は?」

《小型が15中型が6、そのうち高速型2が赤城に向かったそうだ。》

「了解、高速型は任せろ。一応、赤城にも警告を。ガルーダ1、アウト。聞いたな?ウィルマ。お前は先に援護に迎え。俺は高速型を落とした後に向かう。」

「任された!スターボード」

ウィルマが右旋回して援護に向かう。

さてと、こっちも急行しますか。

スロットル全開。

コンタクト。捉えた。11時方向。

やっぱり早いな。ここは進路を先回りして撃破するのが鉄則かな。

Garudaを周囲警戒に全力を注ぐよう命令。

そして俺は遠回りするようにネウロイの進路上に先回りして射撃ポディションを確保する。これなら安定して攻撃できる。まぁ、あっちがして来たらどうにかするさ。

そして俺は射撃に専念する。まだ、敵の射程外。

思考加速開始。

それにしても、あのネウロイ、やけにまっすぐ飛ぶな。スピード重視だからか?

コアは右の翼先端、少し小さいが標的ほどじゃない。調節、指を動かし加速解除。

ガン!!

素早く銃身を動かし今度はもう1機のネウロイの先端に狙いを定めもう一度加速し微調整。

捉えた。ファイヤ。

解除。

着弾、撃墜。

ネウロイは2機とも高度を落とすと爆発し、粉々となった。

 

ほんのわずかな間に2回も能力を使ったことでまるで脳が締め付けられる感じがする。ふと右腕につけた時計を見ても秒針すらほとんど進んでいない。

端から見れば適当に撃っているようにしか見えないが本人からすれば精密射撃をしている感じなのだ。

「ウィルマ、こっちは片付いた。そちらの状況は?」

「ちょっとやばいかも、さっき1人墜ちたしネウロイも数が増えてきてる。」

まさか、陽動?一応連絡しておくか。

「HQ、先ほど連絡をうけた所に急行中。高速型は始末した。こっちのネウロイの数が多すぎる。陽動の可能性があるから注意しろと、他の部隊に通達してくれ。」

《HQ、了解。あと、救援要請のあった部隊に回線を繋ぐぞ。》

《こちらはブリタニア空軍、第4防空隊所属イーニッドキャリック少尉です。ガルーダ1聞こえますか?至急援護が必要です。》

「こちらはワイト島分遣隊所属、コールサインガルーダだ。あと5分で到着する。それまで耐えてくれ。」

《了解です。こっちも被害が出ているので早くお願いします!》

やばそうだな、仕方ない。

A/B

著しく魔力を消費するがあちらの損害も無視できない。

スーパーフェニックスMk,11が吠え、救援を待つ味方への距離を一気に縮める。

流石アフターバーナー。数十秒で目標位置が視認できる距離にまでなった。

すぐにバーナーを切って上からネウロイの部隊を奇襲する。

先ほどは能力を使った時は当てられたが使わないときは1発しか当てられなかった。

いつまでもそれに頼るわけにもいかない。相手も小型だ。

ここは能力をできるだけ使わないで行く。

まるで急降下爆撃のように一気に上から落ちていく。そしてスコープでネウロイ2機に追われているウィッチを確認。かなり焦っているようで後ろに射撃をしているが全く届いていない。

俺は素早く狙いを定め

-発砲-

発射されたときの速度に加えてユニット自体の速度も加算されて、小型ネウロイに着弾した徹甲弾はいつもよりもはるかに大威力をもってコアを貫通。

続く小型にも発砲

少しずれたがこちらもエネルギーをもってコアを破損させ、結果的には両方とも撃墜できた。速度を落として追われていたウィッチにの横につける。

「生きてるか?」

《はい!ありがとうございますって男!?》

「ならいい。驚いている暇があれば落とせ!ウィッチ、ぐずぐずするな!」

《り、了解です。》

くそ、あと6機とはいえ、まだ他のやつらが動揺している。使えないと見た方がいいだろう。それに、ここにいるネウロイは絶対に逃がすわけにはいかない。ミサイルだってこんなところでは使いたくない。

「ウィルマ!その2機をこちらまでおびき寄せろ!こっちもおびき寄せるから合図をしたら俺のターゲットを撃て!」

『模擬戦でやったやつね?了解!』

まず、あえて小型の後ろを追いかける。案の定別の小型機が追いかけてくる。

Warning

敵レーザーを回避した直後に加速。

攻撃後一瞬無防備になるそこを狙う。

ガン!

撃墜。

さすが対物ライフル。コアを一撃で貫く。

One shoot one kill といったところか。

一機を機関銃で進路を変えさせたりする。ウィルマが2機つれてきた。追っかけて、追いかけられてという感じだ。まぁ結果として問題ないか。

「ウィルマ、いまだ!」

すばやく、攻撃目標を切り替える。

ウィルマは俺が追いかけていた奴を、俺はまず最初にウィルマの後ろの奴を狙う。攻撃させる暇を与えずに落とす、すぐに体を動かし追いかけていた奴を狙う。しかし問題発生。コアが見えない、正確には隠れていて撃っても当たらない場所にある。

まじかよと、思った瞬間。

爆散した。

なんだ!と思ったら。ウィルマが落ちたネウロイに向かって銃口を向けていた。

「ウィルマが落としたのか?」

『ええ。こっちを落とした後にもう一機狙えるかなと思ったらバーフォードが銃を向けていたのに気づいたんだけど、顔が驚いていたから撃てない位置にコアがあるのかと思って撃ったら見事に落とせたというわけ。最後の1機もあちらさんが落としたみたいだよ。』

「キャリック少尉、生きてるか?」

『生きてますが、仲間が2人………。』

「そうか。残念だったな。」

『とにかく、あなた方が来てくれたお陰で助かりました。ありがとうございます。』

「了解、ウィルマ行くぞ。」

《了解。》

「HQ、ES-23は片付いた、次は?」

《DE-04に迎え、海軍が小型の攻撃にさらされている。》

「了解、急行する。」

 

 

こうして、今日で11機落とした。

結局あれは陽動ではなかった。

よかった。他がミスして赤城が沈んだらと思っただけでゾッとする。

つまり、主力の進路上にあまり強くないやつらがいて、巻き込まれたというわけか。

運がなかったな。遠くから何かがこちらに向かってくるのが分かった。あれは?隊長たちか。スコープを使って見てみると俺のよく知る色合いの服の編隊だった。

「全員無事だったか。」

「ええ、こっちはあまりネウロイが来なかったから。そっちはどうだったの?」

「かなり、酷かった。味方にも被害が出るくらい。」

「そうだったの、赤城も無事みたいだしもう平気みたいね。ネウロイも撤退していったし、ってあら?あれは?」

隊長が何かを見つけたようで、急に俺たちを置いて東へ向かう。

「ちょっと待ってくれ、隊長!はぁ、ウィルマ、ここで待機していろ。」

「え、あ、了解。」

 

遅れて向かうと誰かが隊長と話していた。眼帯をつけていて、誰かをお姫様だっこしてるのか?

一体どこのイケメンだよ。

邪魔しないように少し離れた位置で見ていたら眼帯が俺のことを指差していた。

隊長が来いといっている。

「驚いた、まさか本当に男だったとは。」

目の前の士官服を着た扶桑人は開口一番に俺にそう言ってきた。

「時代は変わるものだ。それにだってどこの国の法律にも男がウィッチになってはいけないとは書いていないはずだしな。ところで隊長、この方は?」

「あぁ、この方はね。」

「いや、角丸中尉。自己紹介くらいは私にさせてくれ。」

「はっ。失礼しました。」

構わないよ、とうなずく少佐に敬礼する隊長。もしかして隊長の昔の上官だった人とかか?

「私は扶桑皇国海軍欧州派遣艦隊第24飛行戦隊288飛行隊所属の坂本美緒少佐だ。」

「上官でしたか。失礼しました。ブリタニア空軍第6試験飛行中隊のフレデリック・T・バーフォード大尉です。坂本、少佐ですか。たしかリバウの三羽烏の・・・。」

「はは。まさかブリタニア空軍の君にもその名前を知られているとはな。別にたいしたことはない。ただ目の前のネウロイを落としているうちに私たち3人が少しうまかっただけで誰かがそんな名前を付けただけだ。それにしても、男のウィッチが見つかった事も驚きだが既に実戦経験者だったとはな。」

「自分で言うのもなんですが、かなりの場数は踏んでいると思います。そこらのボンクラとは一緒にしてもらいたくはありません。」

「もちろんだ、かなりの修羅場をくぐってきたのだろ?目を見ればわかる。」

彼女の経歴は前にウィルマから借りた本を読んで大まかなことは知っている。彼女も扶桑の中でトップクラスの化け物だろう。いまだこの世界ではひよこに等しい俺では到底かなわない相手だ。

「それで、その子は?」

隊長が俺も気になっていたことを質問した。

「あぁ、新人の宮藤といってな、魔力量は多いが使い方がなっていないようだから、これから鍛えていくつもりだ。」

「宮藤?失礼ですが、あの理論を完成させた?」

「あぁ、そうだ。(偶然なのか、必然なのかわからんな。)よく知っているな?」

「一応は。」

坂本少佐ーーー!

「おっと、こちらの迎えが来たようだ。とりあえずあとは501に任せてくれ。」

「少佐は501所属なのですか?」

「あぁ、そうだがそれが?」

「あ、いえ。知り合いが501に関わっていたのでなんとなく。」

「なるほど、ちなみに誰なんだ?」

「それは、次回あったときに。そっちの方が面白いでしょう?では。」

「あ、少佐。それではこれで失礼します。」

「あ、あぁ。また会うこともあるだろうし、その時はよろしく頼む。」

 

 

 

「バーフォードさん、最後のあれなんだったんですか?」

「何となくだよ。普通に話したんじゃ印象薄れるかもしれないだろ?人脈ってのはあった方がいいし。別に司令部の命令書には一切の会話を禁じるとは書いてなかったから別にいいだろうし。」

「はぁ、まぁわかりました。」

「隊長ーー!どうでした?」

残ってた4人が聞いてくる。

「501が後を引き継ぐみたいなので私たちはこれで撤収します。」

「「501が来てるの!?会いにいっちゃダメですか??」」

そろうなー。2人とも。ちなみにアメリーとフランな。

「ダメに決まってるでしょ!あっちは作戦行動中なんですよ。」

「でも!」

「疲れた」

ラウラが、空気を読まずいった隙にウィルマが2人を掴んで

「さぁ、別にいいじゃない。ラウラも疲れているみたいだし私たちも帰りましょ。」

と引っ張って基地に向かって飛ぶ。

「ペリーヌさーーん!」

「まったくもう。」

こいつら、まだ子供だな。

まぁ、俺も疲れたし帰って休むか。

 

Another view -Sied501-

「美緒、大丈夫?」

「あぁ、こいつも中々頑張ってくれたしな。」

「そうですか、ところでさっきの2人は?」

「あぁ、1人は昔の知り合いでもう1人はそいつの部下なんだが面白いやつだよ。」

「というと?」

「聞いて驚くなよ。なんと男のウィッチだったんだ。」

「男?そんなのがいるんですか?見間違いじゃなく?」

すこしミーナの目が厳しくなる。

「間違いない。この目で見たしな。それにかなりの場数を踏んでいると見た。」

「そんなこと聞いたことありませんが。」

「今まで、秘匿されてたのがようやく表に出てきたんじゃないか?おまけにジェットストライカーユニットだったからな。」

「ジェットストライカーユニット!?もう実戦配備なのね。それじゃあ表に出ないわけですね。」

「まぁ、詳しくはあとで話すとしよう。ペリーヌも怒っているみたいだしな、」

「ええ。」

Another view end -side501-




戦闘描写にまだなれない。
ようやく501一部が登場しました。
エンジン始動時の専門用語はアニメとかいろんなところからひっぱってきました。
次回からまた日常に戻ります。

ご指摘、ご感想、誤字指摘があればよろしくお願いします。


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第12話 STAF発足前夜

ジャックの会話の間に説明がはいるのは、そうしないと会話の量が半端なくなるためです。
読みにくくなっていたらすみません。


それにしても、この世界に来てもう2ヶ月ちょいか。

早いもんだな。

STAF発足を明日に控え、俺とウィルマは司令部が寄越した車に乗ってふとそんなことを考えていた。

はじめはこの世界に来て混乱しかなかった。隊長のご厚意でなんとかできていたけど、いなくなってたら俺はどうしていたのだろうな。ジャックがいてくれて本当に助かった。あっちでもこっちでも助けられてばかりだな。俺がここに入ることで少しでもあいつの助けになればいいが。

いま、2人とも服装はいつものままだ。どっちにしろ制服はもらってないしな。俺は長ズボンに長袖の普通の冬スタイルだ。ウィルマはズボン(?)に長袖でこちらの世界での一般スタイル。スカートならまだしもあれって寒くないの?

さて、ここで俺の長ズボンを紹介しておこう。いくらか前にアメリーと買いにいったあと長ズボンを少し改造したのだがその内容は至って簡単。太股の真ん中らへんの高さにボタンを付ける。そして、ズボンの下にボタンが通る程度の穴をあける。そうすることで、いつもは長ズボン、ストライクユニットに乗るときはズボンをあげて穴にボタンを通すことであら不思議、半ズボンになるのだ。こうして冬も半ズボン、長袖という不思議なスタイルにならなくて済むのだ。

ジャックによると今日はSTAFの説明、顔合わせ、明日のちょっとした式典についての説明があるそうだ。

このブリーフィングを滞りなく進めるためにある程度の情報は渡しているらしい。所属するメンバーの所属、機種、撃墜数、など。もちろんメンバー一覧には俺のことも入っている。撃墜数は25。まぁFAF時代のスコアを引き継いじゃ後で問題になるだろうしな。

使用機材は軍規につき開示できずか、あのユニットはたしか表向きは俺専用に作られた特殊ジェットストライカーユニットってことになってるんだよな。バーフォード専用機か、その響きも悪くないな。てか表向きったって少将以上か許可された人間以外は見れないんだよな。

恐るべし、軍規。

と、司令部が見えてきた。前回は喧嘩を売りに行くつもりで来たが、今回は特にそういったものもなくただ命令でって感じだからな。

入り口でアナベラさんが迎えてくれた。

「お久しぶりです。バーフォード大尉、ビショップ軍曹。既に大半の方が到着されており、あと4名といったところです。お急ぎ下さい。」

さてと、ここからが正念場か。どういこうか。俺よりもスコアが上の奴は結構いるみたいだしな。

「こちらです。大将。バーフォード大尉とビショップ軍曹がお着きになられました。」

「入ってくれ。」

「「失礼します!」」

部屋は細長いタイプで机がコの字に配置、議長席にはジャックとあと誰か知らんやつが座ってた。

そして、座っていたウィッチたちが一斉に俺に注目する。品定めする目、どうでも良さそうにすぐそらす奴が大半で軽蔑するようなやつが2人。きっとプライドの塊なんだろうな。そういうタイプは無視するに限る。

所定の場所に座り資料を読んでいると、最後のやつが来た。時間ちょうどだ。

「これより、STAF発足会議を始める。総員起立!ヒューゴ・ダウディング大将に敬礼!」

「あぁ、それじゃあ楽にしてくれ。まず自己紹介から。私はヒューゴ・ダウディングだ。STAF最高司令官として君たちの直属の上司になる。さて、認識の違いがあると不味いので軽く資料を交えながらこの部隊がどういうものなのかも含めて説明していこう。」

よくしらんやつが何か必死にペンを動かしているところを見ると書記官かなにかなのか。

「まず、設立のきっかけから。近年、多国籍軍のウィッチ部隊が戦果をあげてきていることは知っているな?そこで各国が相次いで部隊を作るようになったのだがそこで問題が発生した。誰を送るかということだ。当然エースは自国内に止めておきたいというのが大半だろう。しかし、私はあえてこの体制を否定したい。」

ジャックは世界地図の前に移動して続ける。

「ブリタニアは確かに欧州最後の砦の一つだろう。ここが落ちれば世界にとってもかなりの影響が出る。しかしだからといっていつまでも守りに入っていていいのか?攻撃は最大の防御という言葉がある。私はこれを推し進めていきたい。ブリタニアが欧州解放の主導権を握りたいと思っている。そしてこれは欧州から完全にネウロイが駆逐されたあとにも関係する。自分の国がブリタニアによって解放されたという印象を与えれば将来その国とは友好関係が結べるだろう。ここで君たちに言っておく。君たちには今の祖国はもちろんのこと、将来の我が国のために利用させてもらう。残酷かもしれないがこれが設立に当たっての条件だった。」

あたりが静まり返る。

そうか、ジャックは根回しをするために覚悟を背負わされたということか。大変だな。

「君たちには何のメリットもないかもしれない。具体的な任務についてはあとで話すが今より更に大変になるだろう。あえてメリットを言うなら所属がいかにもエリートらしくなった、というだけだな。」

すこしクスっとなる。

「だから、君たちにはブリタニアの将来のために力を貸してほしい。無理にとは言わない。嫌ならすぐに出ていってもらって構わない。駒になるくらいなら自分の好きなようにいきるのでも構わない。君たちの経歴に傷がつくような事はないと断言しよう。」

30秒ほど静寂が流れる。

「ありがとう諸君、さてSTAFの詳しい説明に入ろう。この部隊は空軍名義になっているが実質的には空軍の指揮を離れ独自の指揮下に入ることになる。現在は空戦ウィッチ計23名だが今後は陸戦ウィッチ等も入ることが検討されている。いつかは特殊作戦軍というものにしたいというのが最終目標だ。また海軍との共同作戦も行われることがある。空母に乗って飛び回ってもらうこともあるので長時間祖国を離れることになるというケースもあると思っておいてくれ。

STAFは大きく分けて3つの部隊に分けられる。それを説明していこう。

まず第1飛行中隊。通称"FSQ"。この部隊は主に防衛を得意とする部隊だ。主な任務は防空、対空哨戒などだ。今だと情勢が不安定な地域にいってもらって撤退戦の援護、ネウロイの巣が近くにあり都市を守るために特化したものだと考えてもらいたい。もちろん他のこともしてもらうが。第1飛行小隊(VFA-10)から第4飛行小隊(VFA-14)までの計10名だ。

次は第2飛行中隊。通称"SSQ"。この部隊は主に攻撃を得意とする部隊だ。主な任務は敵ネウロイ拠点の破壊、大型作戦時は遊撃隊としての参加、敵情偵察などだ。まぁ大まかに言えば何でも屋ってところかな。ただ、この部隊は他の部には不可能または作戦失敗などで難易度がかなり高いと思われるものが回される予定だ。だからかなり危険だがそれも留意してくれ。第11飛行小隊(VFA-21)から第15飛行小隊(VFA-25)までの計11名だ。

最後は第3飛行中隊。通称"TSQ"。これは主に実験部隊だ。テスト飛行が終了し飛行事態は問題ないと判断された機材を実戦でテストしてもらい、報告してもらう。報告はもっと出力を上げろなど、旋回性能をあと何%ほどあげて重量を下げろなど実戦でしか出せないデータを収集してもらう。

第21飛行小隊(VFA-31)のみの計2名だ。

以上計23名の内訳だ。ここまでで何か質問は?」

「中隊で所々飛んでいるのはなぜですか?」

「これから人数が増えたときに、その隙間に入れることで対応するためだ。他には?

ないようなので先に進ませてもらう。

さて、今後の予定について話そうか。今日はこの会議が終わったら終了。明日は非公開の就任式、発足式、などが行われ、記者会見がある。基本的には私と他数名だが出る。

君達は記者会見にはでなくていいが一部の部隊には明日から任務についてもらう。早速飛んでもらうことになる者もいるがそれは我慢してくれ。それから………」

そして、装備品、給料、階級について、作戦が発令されたときの指揮系統など多岐にわたり1時間ほど話があった。

「以上だ。あと基本的には部隊員どうしあまり顔を会わさないと思っておいてくれ。小隊単位で各地を飛び回ってもらうから式典以外ではないと思ってくれてまわない。

では最後に何か?」

ガタッ

「大将殿。一つ聞きたいことが。」

「何だね?」

「フレデリック・T・バーフォード大尉についてです。噂や資料を読んである程度は理解してますがなぜいれたのですか?25機程度なら他にもいると思いますが。」

せっかく大将が予防線を引いたのに聞いてきたか。

馬鹿な女だ。

「まず1つ。彼の腕はたしかだ。このスコアもここ1ヶ月で叩き出したものだ。ジェットストライカーユニットをはいているとはいえ、スコアはスコアだ。その2。最近になってようやく上がgoサインを出したため表に出てこれたが彼は今まで非公式に作戦に参加していた。だから回りにも全く知られていなかった。非公式スコアも含めれば撃墜数は70を越えるだろう。それでも不満かね?私は彼はブリタニアを代表する空戦ウィッチだと考えているが。」

「そんなことは、私は!」

「男というのが気に入らない?」

黙ってゆっくりとうなずく。

「なら、彼よりいい成績を出せたらまた来るといい。他には?」

もうこれで終わりというように話を強制的に打ち切る。

「内容なら解散とする。宿泊施設はこちらで用意した。出たら私の秘書からもらってくれ。以上だ。」

「総員、敬礼!」

 

さて、書類も貰ったことだしホテルにでもいくかって、誰か来た。さっきの女か。

「私は、あなたを認めない。」

「ブリタニア空軍はあんたに許可をもらわなきゃ戦えないのか?」

「なんですって?」

思わず笑ってしまった。しかも相手は中尉だ。

「それに、スコアも大事だが一番重要なのはネウロイに勝つこととだろ?違うか?」

あぁ超怒ってるね、大噴火直前だな。それに見た目は15くらいか。感情の制御がうまくないな。

しかし、彼女はいってはいけない言葉を口にする。

怒り故か正常な判断ができなかったのかもな。

「どうせ、その女も手駒にしたんでしょ?この変態が!」

ビンタをしようとしてきた。

なぜ手を出してきたのかかわからんが、"Guilty"。

相手の手首を右手で掴んで左手で彼女の左肩を掴む。そのまま彼女の手を背中に回して顔を壁に叩きつける。

よく警察が身柄を拘束するときに使う技だ。

まぁそんなに力は込めてないから平気なはずだ。

そのまま耳元で殺気を丸出しにしながら話しかける、

「調子に乗るなよ小娘が。貴様に彼女の何がわかる?俺はあいつに助けてもらった。そして、それを返そうとしているだけだ。俺はお前みたいに感情だけですべてを判断するやつが一番嫌いなんだ。」

すっかり怯えてやがる。さっきまでの威勢はどこにいったのやら。

「どうせ、散々俺たちの英雄だなんて囃し立てられた結果がこうだろ?よくある話だ。自分には力があると思い込んでいる。だから認めたくてもプライドが邪魔して認められない。違うか?」

黙ったままだ。図星か?

「俺を認めたくないのは結構だ。だが、他のやつは巻き込むな。迷惑だ。」

もういいか。拘束を放し自分の荷物を取り上げる。

「もし、自分の意見を認めてもらいたいなら成果を出せ。俺は出したからここにいる。なら、次はお前が出す番だ。そうだろ?」

コクン

「わかっているなら結構だ。いこう、ウィルマ。」

「り、了解。」

「それと、手を出したのは済まなかったな。そうでもしないと聞いてもらえなかったと思ったのと、彼女を侮辱されたからついな。できればウィルマに謝ってもらいたいものだな。」

一瞬間をおいて。「ごめんなさい、言い過ぎた。」

「あ、いいよ。気にしてないし。」

ちゃんと謝ってくれた。

「なんだ、やればできるじゃないか。さて、用もすんだし行こう。」

もうあいつに構う必要はなくなったので放置する。

 

司令部を出て、ウィルマに話しかける。

「巻き込んで済まなかったな。ただ、侮辱されたのはどうしても許せなかった。」

「何でそんなに気にしてくれるの?」

「何でだろうな?俺もよくわからん。」

「そう、でもちょっと嬉しいな。気にしてくれるだけの存在ってことでしょ?」

「かもな、大切な相棒だしな。」

「その相棒のレベルってどれくらいなの?」

「しらん。」

「教えてくれないの?」

と雑談をしているとふとあることに気づく。

つけられてるな。止まってた車のバックミラーを使って見てみるとスーツにジャケット、シルクハットってなんじゃありゃ?

どうみてもつける人の服じゃないだろう。

いろいろなルートを使ってもついてくる。

さて、どうやって巻こうかな。

あ、いい作戦思い付いた。

「ウィルマ、ちょっと顔寄せて。」

「えっいきなり!?それはないんじゃないの?」

「いいから」

「でも覚悟が」

顔を近づけて耳元で小さくささやく。

「つけられてる、この先の公園で仕掛けるからこれから言うことをしてくれないか?」

「え?あっなんだ、そんなことかってつけられてるの?まぁわかった。」

なんだがっかりしてるのか?

「なにを期待させたかわからんが頼むぞ。」

「で、なにをすればいいの?」

「それは…」

 

Another view -Sied Chaser-

ターゲットが公園に入りベンチに休んでいる。女はどこかに走っていった。男は小さな子供3人と何か話している。遠すぎて内容はわからない。

女が戻ってきた。子供たちに何か渡した?

スコープでみると、なんだチョコレートか、それも小さなやつだ。同僚にも確認するが同意件だった。

なにをする気だ?

子供たちはそのままどっかに走っていったので無視。2人の監視を続ける。

2人が移動をするみたいなので移動しようとしたら肩を叩かれた。

誰だ?と思ったら警官だった。

「あの、何の用でしょうか?急いでいるのですが。」

「ほう、それは子供たちを漁るためかね?」

「は?」

同僚と顔を合わせる。

「何のことですか?」

「とぼけるな。助けを求めてきた子供が直接あんたらに襲われたといっているんだ。」

警官が指を指した先にはさっき監視対象と話していた子供が俺たちを指差して泣きながらながら。

「あの人です。あの人が僕のお尻さわったんです!」

「わたしは、胸をさわられました!」

「怖かったよー!」

婦人警官が慰めている。まさか、あの野郎!

「ご、誤解だ。私はなにもしていない!」

いつのまにか5人の警官に囲まれた。

まずい、ここは身分証を出して回避するか!

しかしまずいことにその動作を拳銃を出す行為と間違えられ、取り押さえられた。しかも俺たちは実際に所持している。

「確保!おい、こいつら銃を持っているぞ!」

「署まで連行する。おい、連れていけ!」

「まて、俺は無罪だ!」

顔を監視対象に向けると男が左手の中指を上げていた。

クソが!!!

 

Another view end -side Chaser-

 

「よかったの?あれで?」

「あぁ、ジャックが言ってたんだが各軍には俺のことを探らないようにと通達を出したらしい。どうせ守られないだろうから実力行使に出たわけ。もしこれから尾行したらこうなるよって見せしめ。あいつら一生ロリコン&ショタコンを背負って生きていくのか。」

「でも、あれが尾行じゃなかったら?」

「銃持ってるんだから間違いないでしょ。さて、いこうか。」

「ええ。」

しかしホテルにつくとまた問題が。

ウィルマと同じ部屋だった。ジャック!!経費節約か!?「私は平気だよ?」

「いいのかよ。まぁいいならいいなって俺がよくない。」

「どうして?狼になっちゃう?」

「ならないよ。まぁここで文句を言ってもしょうがない。さっさと行動しよう。」

「オッケー。」

晩ごはんを下で食べて、ホテル備え付けの大浴場てゆっくりして部屋に戻る。

テレビも無いんだよな。ここは。

改めて別世界に飛ばされたと実感する。

寝巻き持ってきてよかった。さてと、寝るか。

「ウィルマ、電気消すぞ。」

「うん、おやすみ。」

5分くらいたっただろうか。眠れん。

よく考えたら誰かと相部屋で寝るも久しぶりだな。FAFじゃ個室が与えられてたしな。

「バーフォード寝た?」

「起きてるよ。」

まるで修学旅行みたいだ。

「あのね、今日ありがとうね。」

「何が?」

「ほら、会議が終わったあとちっちゃな子と喧嘩になったでしょ?」

「あぁ。」

あれがどうしたんだ。

「私のために怒ってくれた。それが嬉しかったの。だからありがとう。」

「別に………仲間が侮辱されたら怒るのはあたりまえだ。」

「それでも、そんな当たり前でも。そういう風に考えてくれてるんだなって思って。あまり、そういうところ見せてくれないし。」

体を彼女に向けるとウィルマはこっちを向いていた。

何て返答すればいいのかわからなかった。

ただ、彼女の言葉にビックリした自分がいたのも事実だ。

だから。

「これからも、よろしくな。ウィルマ。」

彼女に向かって手を伸ばす。掌をグーにすると彼女も同様に向けてくれて

一瞬だけ触れた。

「おやすみ。」

「あぁ、おやすみ。明日も早いぞ?寝坊するなよ?」

「寝坊したら起こしてくれる?」

「わかったよ。」

不思議とすぐ睡魔はきた。

 

 




今回も長くなりました。
大分ウィルマとも、距離が縮まったかな?
ちなみにあのanotherviewでのやりとりは
アメリカのドラマ「バーン・○ーティス」を参考にしています。
結構面白いですよ。
ズボンはウニキュロで似たようなのが売ってます。
結構便利。


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第13話 強行偵察

UAが4000越えましたー!
ありがとうございます。



0555

目が覚める。アラームが鳴る5分前だ。

ロンドンの天気は雨か、こういう日はあまり外を出たくないのだが仕方ないな。

さて、ウィルマも起こそうかな。早めに全部済ませてチェックアウトしたいし。

体を起こして腕を伸ばす。んー、ふう。

横をみると、まだ口を開けて寝ていた。

こいつ、なんて寝相なんだ?冬だってのに服がはだけてる。寒くないのか?

「おい、ウィルマ。起きろ、朝だぞ。」

肩を揺すって起こそうとしたそのとき、腕を捕まれて抱き締められた。抱き枕を抱かれる感じに。

は?なに、何が起きてんの?

頭が真っ白になるがすぐ思考が働く。

こいつ確信犯?てか柔らかいな、意外と大きい……はっ!

無意識の犯行だとしたらすぐに離れないと!

てか、力強い!

「んーむにゃむにゃ。」

慌てて時計をみると

05:59:51

終わった

そして無慈悲にも

06:00:00

ジリジリジリ!開いている右手で時計を黙らせる。

ガチャン。止まった。

ふぅ

「ふぁ、んー?」

顔を見るとウィルマと目があった。

まずい、ここはクールに確実にだ!

「おはよう、ウィルマ。悪いんだけどさ、腕を放してくれないか?」

「?うで?……………あっ!」

はっきりとわかるくらいの速度で顔を赤くしたウィルマは俺を枕投げみたいに投げ飛ばして走って洗面所まで走っていく。

3分くらいしただろうか。ウィルマが顔だけをひょこっと出して

「……………ごめん。」

謝ってきた。

「何で謝る?」

「私、寝てるとき何かに抱きついちゃう癖があるから。嫌だった?」

「まさか。むしろ役得だと思った。」

また真っ赤になる。かわいいな。それに分かりやすい。

「着替え、取ってもらえる?」

「ほらよ。」

かばんを渡す。

10分後。最高に素敵な笑顔で

「無かったことにしよう!いいね?」

と言ってきた。あぁ、これは拒否するとヤバイやつや。

「わかったよ。それじゃあ、朝ごはん食べに行くか。」

「そうしよっか。」

そうして、いつも通り朝ごはんを食べて早めにチェックアウトし、司令部に向かう。

司令部に着くなりすぐジャックにつれていかれた。何でも、王族の方が急遽出席されることになっていつも通りの服装じゃ不味いと言うことになったのだ。

少し大きいがまぁいいか。

1000

国防大臣からヒューゴ・ダウディング空軍大将に対し部隊賞旗と正式な辞令書が渡された。そして、軍の偉い人や知らない王族の方から長い話を終えてようやく終わった。

1230

さてと、これで終わりか。ようやく帰れる、と思ったらジャックに呼び止められた。

「なんだジャック?世間話ならまた今度にしてくれないか?」

「残念だが、作戦だ。すまないがこれはバーフォード大尉のみの作戦だ。ビショップ軍曹は今回は不参加となる。」

「はぁ、了解しました。」

「よし、大尉。ついてこい。」

部屋に入ると説明が入る。

「まず聞きたいのだが、メイブの航続距離はどれくらいだ?」

「巡航速度M1.75でおよそ6000km。」

「結構。今回行ってもらうのは欧州にあるネウロイの巣の強行偵察だ。これが飛んでもらう飛行ルートだ。」

「ガリアまで飛んでベネチア、ミュンヘン、ベルリン、ノヴゴロドまで行って帰ってくる。総飛行距離5650km?まじで言ってるのか?」

「あぁ、昨日言っただろ?STAFに回ってくる仕事は他の部隊が実行不可能だと判断されたものだって。それに、メイブの偵察能力なら今まで得られなかった情報も得られるはずだ。」

「はぁ、万が一交戦しなきゃいけない場合はどうすればいい?」

「すまないが、武器の携行は認められない。」

「おい、ジャック。冗談はほどほどにしてくれないか?」

「大真面目だ。ネウロイが敵探査になにを使っているのかを探るためだ。お前の体やユニットはステルスだから俺たちが使っている電波ならまず写らない。だが、銃を持っていくとそれで気づかれる恐れがある。」

「それじゃあ、もしネウロイが俺に気づかなかったらネウロイは普通の電波で探査していることがわかるってことで気づかれたら未知のなにかで探っているってことがわかるってことか?」

「あぁそうだ。本当は俺だって行きなりこんなのやらせたくないんだが、今は情報が必要なんでな。済まない。出発は明日の1700。必ず生きて帰ってこい。これは、命令だ。」

「了解、必ず成功させます。」

書類を鞄にしまい、部屋を出る。

部屋の前で待っていたウィルマが走ってくる。

「何だって?」

「極秘作戦だってよ。ウィルマはお留守番よろしくね。」

「はぁ、私もいきたかったな。」

ごめんな、ウィルマ。これだけはお前と一緒にすることは出来ないんだ。

「そう言うな。また機会があるさ。それより帰ろう。」

「だね、それよりお昼食べようよ。」

「そうだな。…………」

結局手軽に食べられるのにして、司令部の車で帰路についた。

 

 

1600

ワイト島基地帰投。

「あら、お帰りなさい。式典、どうだった?」

「もう疲れたよ。クタクタ。」

「それにしても、特殊戦術飛行隊だっけ?すごいのに入っちゃったのね2人とも。」

「まぁな、隊長。俺は明日作戦があるから格納庫にむかうから。これが書類。よろしくな。」

「あっちょっと!はぁ。ウィルマさん説明よろしく。」

「ええっとね……」

こうして時間は過ぎていく。

 

次の日 1700

「ガルーダ1、離陸する。」

《了解、離陸を許可する。》

長距離強行偵察作戦が始まった。

誰もいないため、制限なしの100%の出力が出せる。

どんどん上昇し、巡航高度まで上昇し巡航速度でまずガリアの、ネウロイの巣まで向かう。

なぜこんな時間にしたのかとさっき聞いたら

「ついでに、ナイトウィッチも騙せるのか試してみたくて」

らしい。まぁ確かに俺しか試せる人はいないだろうけど、他の部隊に迷惑かけるのはどうなのよさ?

まぁ情報収集事態は昼も夜もほとんど変わらない精度で行うことができるのでかまわないが。

距離423km。

12分後、到着。情報収集行動開始。

10分で完了。途中、ネウロイが気づいてこっちに来ようとしたが、11000辺りで1回レーザーをこちらに放って引き返した。どうやら、接近してきたことには気づかなかったみたいだな。

収集終了。

次はベネチアか。距離827km

23分後、到着。収集開始。

それにしても、水の都か。

ネウロイは水が苦手って話じゃなかったのか?

なぜこんなところに拠点を作ったのだろうか?アフリカ侵攻?別にいいところがあるだろうに。

ここでの収集を終えて次に向かう。

ミュンヘン(278km)、ベルリン(500km)を終え、最後のノヴゴロドへ向かう。距離1348km。めっちゃ遠いな。

時間にして40分後。

ようやく到着。

現在時刻1620

これが終われば帰れるぞー。

Contact! Unknown!

やはり、順調にはいかないか。

3時方向。おでましか?ナイトウィッチ?

来た方向、速度、大きさからいって恐らく502JFW所属か?

まだ気づいていないみたいだな。かなり距離もあるしな。

収集終了。帰投開始。

だが、恐ろしいことにやつらついてきた。

俺の進路を先回りしようとしている。

まじかよ、速度ではこちらが上回っているからいいが、他のやつらに連絡されると面倒だ。どうする?

ここは全力で逃げるか。

スーパークルーズ状態で一気にワイト島(2275km)をめざす。

しかし、その時すっかり忘れていた。本島には501があるのを。そして、そこにもナイトウィッチがいることを。

 

なんとか振り切ったはずだ。こっちの探査範囲外ということはあっちもそうだろう。

Caution! contact!

冗談じゃない。普通についてくるとは。

Head on.

機数1

回避する。

ヨーロッパ本土方面へ向かう。

くそ、来やがった、やる気か?

まてよ、もうジャックの言っていたナイトウィッチの探査能力についての任務は完了しているはずだ。

やつらにはわかる。メイブのステルスでさえも見抜けるのか。人間恐るべしだな。

しかもこの空域ならワイト島の哨戒空域だ。

誤魔化せるだろう。

さっそくコンタクトをとろうとして、思い返す。よく考えたら、先にコンタクトをしたらなぜナイトウィッチがいたことがわかったと言う話になるから来るのを待つか。

しかし、無線による呼び掛けより先にフリーガーハマーが飛んできた。

まぁ、当たらないがな。

遥か後ろを通りすぎていく。それならまだいいがあいつその後4発もぶっぱなしてきやがった。さすがにこれは遺憾のEを発動せずにはいられない。

「こちらはブリタニア空軍STAF、SSQ、VFA-21所属のフレデリック・T・バーフォード大尉だ。そこの味方に向けて攻撃をぶっぱなしている奴は誰だ?」

「私は501JFW所属のサーニャ・V・リトビャク中尉です。友軍機ですか?申し訳ありませんでした。」

「まったくだ、当たっていたらどういうつもりだったんだ?」

「当てるつもりは有りませんでしたから。それより、今日はこの空域は誰も飛んでいないはずでは?」

こいつ!まったくジャックのやつ。チョー許さん!ちゃんと伝えとけよ、ってこれ極秘任務か。ジャックが伝えてないと言うことは、あれ、やばくね?通信したら記録残るし。そこでとっさに思い付いたのが

「飛行中にトラブルに見回れてな、海岸に不時着して修理していた。終わったのがついさっきでいま帰投中だったんだ。」

「そうでしたか、失礼しました。」

「それじゃあ。」

「待ってください、バーフォード大尉ってあのバーフォード大尉ですか?」

「どれかわからないのだが?」

「特殊戦術飛行隊の男のウィッチ。」

「そうだがそれが?」

「特殊戦術であるあなたの機体に不具合が起こるとは思えないのですが。」

「ようは、最高のスタッフがいるであろう特殊部隊の隊員がミスを犯すはずがないと?」

「はい。」

くそ、勘がいいやつは嫌いだ。

「俺の使っているユニットはジェットストライカーユニットだ。部品や仕組みが複雑な分故障が起きやすい。しかもまだあくまで試作機だ。仕方ないと思ってもらうしかないが。いまもいつ壊れるかひやひやしているんだ。早く帰りたいんでな。」

いくらか時間をおいたあと。

「わかりました、お時間をとらせてもらって申し訳ありませんでした。では。」

こうして離れていく。

まぁようやく終わった。帰ろう。

ワイト島についたのは21時だった。

 

数日後、すべての情報を端末に入れて俺は再び司令部にいた。今は地下にある大型演算機の部屋にいる。

収集した情報をタイプライターに繋いで高速で打ち出そうと言う寸法だ。

ちなみにこれを作ったのはジャック本人らしい。

高速でgarudaによって収集した情報が文字として変換され印字されていく。

「悲しいことにこの40㎡にぎっしりとおいてある高速演算機よりこの端末の方が処理能力は数倍も上なんだよな。時代の変化を実感するよ。」

「そうだな、それとリョウ。よく作戦を成功させてくれた。お陰でかなりの情報が入った。」

「それなんだがジャック、ネウロイには見つかんなかったがナイトウィッチには見つかったぞ。」

「ほう、興味深いな。何故ナイトウィッチだけ?」

「さぁ?人類の神秘ってやつじゃないか?」

「納得できるのがくやしいな。まぁ冗談は置いておいて、実際はナイトウィッチは俺たちが知らないまったく別のなにかで探知しているのかもな。」

「知らないなにか、か。」

「システム軍団の、やつらが聞いたら泣くな。」

「だろうね。っと終わったみたいだ。」

「ありがとう、ゆっくり読まさせて貰うよ。」

「ジャック、その情報、ばら蒔くなよ?」

「当たり前だ、不信に思われない程度に発表するさ。じゃあな。」

そう願うよ、ジャック。

まぁSTAF初の任務は無事成功か。

ようやく肩の荷がおりた、がよく考えたらまだ始まったばかりか。

頑張らないとな。

端末を外し、タイプライターを分解、印字した情報が記録されていないことを確認して組み立てて部屋を出る。

さて、帰ろう。




航続距離は妄想です。
距離はグーグル地球で測ったから精度は普通かな。
次回はワイト島に舞台は戻ります。久しぶりのアメリー、フラン。

いまいち強行偵察らしさが出せなかったな


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第14話 ターニングポイント

アニメ1期第3話ネタバレあり注意。
前回嘘ついてごめんなさい。
フランは出ません。
ワイト島の、メンバーも最後に少ししか出ません。
このネタをどうしても先に入れたかったのでいれちゃいました。
ごめんね。


長距離偵察から2週間、正直言って疲れたよ。

FAFでもこんな頻度で偵察には行かなかった。

なんせ4回も偵察を行った。まぁ内容はまさにFAFのブーメラン飛行隊のらしいものだった。

2日休憩を挟んでガリアのネウロイの巣周辺を2時間偵察。陸上部隊が拠点をおけそうな場所を重点的に探し、どのルートを使うかなどの調査を行った。

2回目の偵察はネウロイの性能評価を行った。近くまで一気に踏み込んで誘きだしたらそいつらを引き連れどこまで追ってくるか、どれくらいの速度を出せるか、どれくらいの旋回性能を有しているか、同時にどのくらいの攻撃を行えるかなど調査した。はっきり言ってこれが一番精神的に来た。常に集中していないと万が一にも落ちたとしても誰も助けに来てはくれないからな。

3回目の偵察は一番FAFらしかった。2回目の3日後に行われたその内容は"501JFWのウィッチがどのような飛び方を行い、どのように戦うのかの調査を行え。"とのことだった。

501の攻撃隊の後方10km高度22000mから追いかける。順調に敵を落とすが問題が発生した。陽動に引っ掛かって本命を取り逃がしたらしい。確認してみると1機だけだがかなりの速度が出ているな。

雑魚が、なんでそれを想定しなかった。

熟練6人も向かわせてそのようなことも想定できなかったのか。敵を落とすことだけに集中するからそうなる。

戦場じゃ回りの状況を常に把握できなければ死ぬと言うのが世の常だと言うのに。

連絡すると本土に上陸するような事態になったら不味いので、最悪介入を許可するとのことだった。

501から新たに4人のウィッチの出撃を確認、そんなにいるのか。ワイト島の2倍もいるのか。戦力だけで言ったら確かに世界最高クラスの飛行隊だな。

2機が攻撃開始。一撃離脱を試みるも失敗、後ろから追撃に入る。機体の色とウィッチの情報を総合。ジャックからもらった人員データと照らし合わせると一致。

エイラ・イルマタル・ユーティライネン、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケか。この状況下では固有魔法は役に立たなそうだな。

ヒット。落としたか?

いや、ネウロイは後部を切り離して更に加速か。

速度が売りのメッサーシュミットが振りきられているがあれ平気なのか?てか、あんなのがたくさん来たらブリタニア陥落するんじゃないのか?

さて、どうするのか見ものだな?

進行方向の先を見てみると2機いたはずなのに反応が1?

は?肩車?

よくそんなのが思い付くな。戦闘機のりじゃまず考えられない。

下機が発砲。ネウロウが回避しようと上昇、そこに上機が発砲、ネウロイを直撃。

やるな。あいつらは誰だ?検索。

ヒット。

宮藤芳佳とリネット・ビショップ、ウィルマの妹か。ビショップ家はスナイパー家族なのか。

めっちゃ、喜んでる。というか、新人か。ミスってたらどうなってたんだろうな。501基地がぶっ飛んだらジャックの首も吹っ飛んでたな。まぁ、そうならないように最悪俺も待機してたしな。

「こちらSTAF SSQ VFA-21 一番機、ガルーダ。情報収集行動終了。敵残存勢力確認できず。 Fuel Bingo.Complete Mission,RTB.」

初めての実戦を成功させ喜んでいるものもいれば、ネウロイを全部落として安心している者もいたが、空の上で銃に反射して僅かに光った光に気づいた者は誰もいなかった。もちろんすべての戦闘行動を監視されていたことに気づいた者も。

 

その次の日、司令部に向かった。端末はジャックに渡してある。その端末を通じて情報は昨日のうちに渡してあるのでそれを確認するために今日は来た。

ちなみに、ここ最近の指令は端末を通じてgarudaに送られてくる。かなり便利だ。ちなみに万が一無くしてもgarudaは場所を把握しているし、最悪自爆させられるようになっている。すでにネウロイの巣に関連する情報は渡してあるためこれは501に関するものだ。

「グッドニュースのバッドニュースどっちから聞きたい?」

部屋に入るとコーヒーを入れながら聞いてきた。

「グッドニュース」

「お前さんが仕入れてくれたネウロイの巣に関する情報。なかなか興味深いものばかりだった。兵器開発にかなり使えそうだ。それと、なかなか面白い物が写ってた。」

「何だ?」

「昨日南回りで帰っただろう?その時garudaが偶然写して気になって調査したんだ。もともとなにもないはずの場所に高熱源反応が確認された。」

「どっかの誰がが何かをそこで行っていると? 」

「可能性はある。現に多数の人間やトラックの跡が確認されている。そして、それを裏付けるようにある報告が上がってきた。調査官が最近になって発見した。これを見てくれ。」

「んーと。食費のかさ増し?は?1食あたり1000円?なんでこんなの気づかなかったんだよ?」

「色々あったんだよ。他にもかさ増しがたくさんあって空軍の他にも海軍、陸軍にもあった。ちなみに空軍が一番少なかったが。そして、そのかさ増しした金がある一味のところに回っているのが判明した。それがこいつ、トレバー・マロニー大将だ。」

「そいつが、指揮をとってなにかやってるのか?」

「あぁ。ただ何をやってるのか完全には解らなかったのだが、ある程度はわかった。その一つがこれだ。見てみろ、吹くぞ。」

「……………パンジャンドラムだと?」

「しかも、実践配備レベルにまで完成させていやがった。アフリカのでの試験で成功させているらしい。」

「馬鹿な!?変態紳士がこの国にもいたと言うのか?」

「いや、開発者のなかに扶桑人がいたからな。あいつら、限られた予算のなかで無茶な要求に答えるの大好きだからな。」

「あー成る程ね。」

おもわず納得しちゃったよ。

「まぁ、それは置いておいてかさ増していた件を監査委員会に報告してやった。気分爽快。ここまでがグッドニュースだ。」

「バッドニュースは?」

「空軍がマロニーの手に渡った。」

「・・・?は?」

頭のなかで木魚の音がなった。

「それじゃあ、ジャックの立場は? 」

「STAF指令長官だ。マロニーがやっていたことは上も承認済みで俺は嵌められたってことだ。」

「なぜ、辞めさせられたんだ?」

「不正を見抜けなかったのは上司である君の責任だとよ。それに放置していた君にも責任があるとのことだ。」

「マロニーが何故空軍のトップに?」

「何かを成功させたらしい。ただ、あいつはウィッチが嫌いだから、あいつだけはトップにさせたくなくて何年も粘ったのだけどな。」

「ちょっとまて、それじゃあ、STAFを作った本当の理由ってまさか。」

「あぁ、やつに優秀なウィッチを渡さないためだ。あいつの指揮に入れば最悪捨て駒にされかねない。それに俺が創設すれば、自然と指揮官になれるから万が一空軍大将を首になってもまだ戦えるようにとね。

それと奴の不正を暴くために必要なものを出来るだけ俺の手の内に持っておきたかった。お前が来てくれたお陰で大分楽になったし拠点らしきものも見つかったしな。」

「さすがとしか言えないよ。クーリィ少将に似てきたんじゃないのか?」

「よしてくれ、あんなスーパー婆さんと一緒にしないでくれ。それでマロニーが行っていると研究についてなんだが、garudaの報告であることがわかった。」

「ほほう、聞こうか。」

「ネウロイのコアから発する特定周波数がこの廃墟跡地から発するものと一致した。」

「つまり、そこにはネウロイがいる?」

「そこで、さっきのマロニーが、空軍トップになった理由と繋がるわけだ。」

「ネウロイを利用した新たな兵器の開発、か。」

「恐らくな。ウィッチに手柄を取られて面白くない上層部がそう判断したのかもしれない。けれど、上層部も、そう簡単にはSTAFには手を出せない。何故だと思う?」

「お手上げだ、俺じゃもうわからんよ。」

「ヒントは式典当日に飛び入り参加したやつ。」

「マジでいってるのか?」

「あぁ、この組織のバックには王族がいる。君臨すれども統治せずとはいえ、ある程度の発言力をもつ王族を敵には回したくないだろうしな。」

「どんな人脈を持っているんだよ。」

「まだあるからな。まぁ俺としてはこのままではいささか気に入らない。マロニーを失脚させたい、しかし奴には上層部が味方についている。どうすればいいのか悩んだ結果思い付いたのが」

「奴の研究を隠せないレベルまで民衆の目にさらす?」

「その通り。実はなネウロイに人間に対して1度コンタクトがあったことがあるんだ。いずれもよくわからなかったがな。」

「具体的にはどのような形で?」

「人間の形をしたネウロイ。」

「馬鹿な、それじゃあ、ジャムみたいに…」

「ジャム人間のことか?今は確認できていないが問題ないだろう。現に雪風は撤退戦のとき、バンジー内のジャム人間を正確に発見していた。garudaにもできないはずがない。そのgarudaが、敵と認識しているネウロイを街中で発見していないならいないと見ていいだろう。」

「雪風、零か。懐かしいな。まぁジャックがそういうならわかった。それで?」

「Garudaの映像でもにたようなやつ、まぁそいつかどうかはわからないがコンタクトをとれないかと考えている。」

「もう、あそこにはいきたくないのだが。」

「だから、あらゆる周波数をガリアに向けて放っている。うまくいけばコンタクトがとれるかもしれない。」

俺は思わずため息をしてしまった。

「なぁ、ジャック。そんなことして、もしもネウロイの奴らが大挙して押し寄せてきたらどうするんだ?

ここイギ、いやブリタニアは欧州の反撃拠点の地でもあるんだろう?ここがつぶされたら欧州戦線に大打撃は間違いないだろう。」

「確かにその通りだ。だがな、そこまでリスクを負ってでも敵の事を知らなければなにも始まらないんだ。奴らの攻撃は駆逐艦の装甲を紙切れみたいに破る。

その唯一の対抗手段がウィッチのシールドだ。

もしそれが使えなくなったら?

そのときは人類の終焉だ。」

ジャックの言いたい事はわかる。ブリタニアと引き換えにしてでも敵を知る覚悟というわけか。

「わかったよ、ジャックがそう決めたなら俺はもう口出ししないさ。」

「ありがとう。それでは引き続き監視と調査。頼んだぞ。」

「了解。」

そういって俺は部屋を出たのだった。

 

 

 

 

この動きを快く思わない者もおりそのうちの1人が話し合いを始めていた。

「ねぇ、アメリー聞いて。」

「どうしたんですか?ウィルマさん?」

「最近バーフォードばっかり作戦に行って私には1つも命令が来ないの。何か不公平だとは思わない?」

まったく、最後に一緒にとんだのいつよ?

「はぁ、けれど聞いた話だとダウディング大将と大尉はお知り合いなのでしょ?だったら知り合いにしか頼めない作戦を頼んでいるのではないですか?」

「それでも、何か不満なんだよね。」

「その不満は大将に信頼されてないからと思っているからですか?」

「そうじゃない。」

「じゃあ何でですか?」

「バーフォードと一緒に飛べないからかな?」

「ほう。」

メアリーの目が光った。何か思い付いたのかな?

「もしかして、ウィルマさんも乙女と言うことですか!」

「は?乙女?」

「こっから先はウィルマさんが自分で自分の心に聞くのが一番だと思います!」

「そうはいったってね。」

「頑張ってください!あの、私、2人のために応援してますか!」

「え?ちょっとメアリー?」

「そっか、あのウィルマさんがかー。」

「教えてよー。」

「それを言うのは野暮ってもんですよー。」

2人の話は続いていき、隊長に怒られるまで続いていたらしい。




今回は独自解釈色が濃いめです。
利用して切り捨てる、フラグじゃありませんよ。
次あたりはさすがにワイト島に戻ります。
ジャックの出番が急に増えた。


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第15話 ワイト島の日常

昨日はラジオ更新日でしたね。
皆さん聞いた?
作者はBSA会員になりたい。
一度コメが採用されたが送ってもなかなか取り上げてもらえない。頑張って送るか。

今回もタイトル悩んだ。


ジャックの衝撃の発表からしばらくたった。特に用事もなかったから、昨日哨戒飛行後簡単にしか整備できなかったため、模擬戦が始まるまでgarudaを弄ってた。

因みに今日はアメリーとフランが模擬戦を行うらしい。

きっかけは朝。

食堂でのこと。朝御飯を終えて、食器を洗っていたら騒ぎ声が聞こえた。

「501って言ったらシャーロットイエーガー大尉に決まっているでしょ!スピードと情熱、何より美貌!501といったらこの人でしょう!」

「いいえ、ペリーヌ中尉に決まってます!気品溢れる振る舞いや上品さが際立ってます!ペリーヌさんこそ501にふさわしいんです。」

何やってんだ?あいつら。

隊長とウィルマは遠巻きに面白そうに見ている。

501か。統合戦闘航空団として成果はあげているようだが、前に偵察したときは不安しかなかったな。お前らが挙げている2人だって指揮下とはいえ陽動に引っ掛かっていたからな。

まぁ、撃墜数は凄いがよく生き残ったもんだな。

「そんなことありません‼」

いきなりアメリーが叫んだ。

「ペリーヌさんのことを悪く言うのは私が絶対に許さないです!」

フランがペリーヌを貶したから怒ったのか。

「はいはい、そこまで。今日は2人に模擬戦をしてもらいます。一度ぶつかってはっきりしちゃったほうがいいわよ。30分後に格納庫に集合ね。」

隊長も大変だな。あんなのの仲裁をやんなきゃいけないなんて。

「あ、バーフォードさん。ありがとうね。」

「かまわないさ、それで?平気なのか?ネウロイとかは。」

「万が一には私たちも地上で待機しているので問題ないでしょう。というか、貴方達がその心配をするの?」

「備えあれば憂いなし、だろ?」

「そうね。」

 

こうして今に戻る。

もう始まって3分ほどだがかなり拮抗している。

「ラウラ、この戦いどう見る?」

「腕前は同じみたいだけど、ユニットの性能の差でフランが上かな。」

「ユニットの差?出力の問題か?」

「そうだね。大尉は?」

「アメリーは既に実戦を経験していてネウロイも何機も落としている。それに501ペリーヌの僚機にもなっていたんだろ?それでも、腕前が同じだと言うのならフランがかなりの才能を持っていることになるが。」

「でも、あれだけ拮抗していると言うことは間違いないんじゃない?」

「そうかもな、さっきから後ろについているのはフラン出しな。降りきれるのあ、被弾したな。」

「みたいだね。」

「フランが勝つと思っていたが意外だ。ウィルマ、アメリーにそれとなく話を聞いてやってくれ。俺も気になるがウィルマの方が聞きやすいだろ?」

「わかった。」

さて、garudaの整備にでも戻るか。

 

Anotherview -Sied Bishop-

私としても、アメリーの力になってあげたかった。フランを応援してない、って訳ではないがなんか助けてあげたくなっちゃう感じ。

夜。

お風呂でアメリーに悔しい?って聞いたら

「いつまでもペリーヌさんの力になれないなって、それが一番嫌だなと思う。」

っていってた。うーん。なら私のしてあげることは話を聞いてあげることだけで、具体的な戦闘に関することはラウラやバーフォードに聞いた方がいいかな。

「ウィルマさんは、今日の模擬戦みてて、どうでした?できればアドバイスとかくれるならほしいです。」

「かなり、いい線いってたと思うよ。ただ、アドバイスは他の人に聞いた方がいいかも。私は最近はバーフォードとの連携に重点をおいているからね。」

「そうですか。それはそうと、バーフォードさんとはどうなんですか?どこまでいったのですか?」

「え?」

いきなりどうしたのだろう?

「んもー、ウィルマさんたら。あの人とはどこまで行ったんですか?」

なんか急に元気になり始めた。

「どこまでって具体的には?」

「手を繋いだりとかそれ以上とか?」

「手は繋いだ……かな?」

「ほう、だいぶ進みましたね。」

「なんのこと?」

アメリーは何をいっているの?

「んもう、ウィルマさんは、あの人のことをどう思っているんですか?」

「彼?」

言われて初めてどう考えてるかを考えた。

最近は彼の作戦に関われなくて悔しかったけど、昨日一緒に空を飛んだときは楽しかった。この基地で一番一緒に飛んでいる時間が長いのは私だ。

「空を飛んでいるときは、一緒にいてたのしいかな。」

「そうじゃなくて、好きか嫌いかです。」

「嫌いじゃない。好きってどの?」

「そりゃ、恋の方ですよ。で、どうなんですか?」

「わからない。ただ、」

まだ会って2カ月位しかたってないんだよ。

けど実際はどう?

相棒って呼んでくれた。この基地じゃ一番一緒にいる気がする。同じ部隊に入るときも私のことを気にしてくれた。腕も組んで歩いたこともあった。間違えて、抱き締めちゃったこともあった。空では面白い話もしてくれるし、実戦では息のあった連携攻撃ができていると思う。私に合わせてくれているのかもしれない。けどいま私が自信をもって言えることは、

「彼のことは信頼している。あっちはどうかわからないけど助けてほしい時に助けてくれるし、やばそうなときは助ける。そんな関係かな。」

「ウィルマさん、本当にそれだけですか!」

「多分。」

「ウィルマさんはそれでも、いいんですか?ずっと友達で?」

アメリーの攻撃が激しい。どうしちゃったんだろう。

ただ、彼が別のウィッチと仲良く空を飛んでいるのを想像して一番最初に感じたことは

「嫌だな。」

「でしょ!だったらアタックです!はぁー。この話をできただけでちょっと元気出ました。」

「まぁそれより、ラウラに戦闘について聞くんでしょ?早く上がって聞きに行かないとラウラ寝ちゃうよ?」

「はっ、そうですね。先に上がります!失礼します!

「じゃあねー。」

それにしても、アメリーは興奮してたなー。

「恋か。」

考えたこともなかった。もし、ウィッチになってなかったら彼氏とかいたのかな?

ウィッチになったことは後悔してないけどそんなことも考えちゃう。

彼の存在が大きくなってるのは事実だし、どうなんだろう?モヤモヤしてる。これ以上考えても仕方ない。

上がろっと。時計を見たらアメリーが出てから10分がたってた。

食堂にいくとちょうどラウラとアメリーの話が終わったみたいだ。詳しくは明日のお楽しみだそう。

というか、明日も模擬戦するんだ。

大変だな。牛乳を飲んで部屋に帰ろうとすると、彼が電話をしていた。ジャックとか言う人と話してるのかな?

『ウィルマビショップ軍曹か?あぁ、優秀だと思う。』

あ、私のこと話してる。ちょっと盗み聞きしちゃお。

『信頼できるやつ、だと思う。俺の過去もジャックの次に知っていると思うしな。』

へー、そうなんだ。

『やっぱり、ジャックの仕業だったのか。それより前だよ。』

なんだろう。

『ウィルマか、かわいいとは思うよ。相性もいいと思うし。』

その瞬間顔が真っ赤になった気がした。

慌てて走り出す。部屋に戻った瞬間、ベッドに飛び込む。アメリーはしがびっくりしているが無視。アメリーのせいでいろんなことを考えちゃってるな、私。

あの人に顔見て話せる自信がなくなっちゃうかもしれない。はぁ、どうしちゃったんだろうな、私。

Another view end -sideBishop-

 

夜、ジャックから電話がかかってきた。

もちろん携帯なんてあるはずがなく、食堂においてある電話で話している。

「それで、計画の全貌は掴めたのか?」

『まだだ。前回と情報の更新はない。ただ、何故奴がこんな計画を行っているのか考察はしてみた。』

「聞こうか。」

『戦場のイニシアチブを女、それも子供に取られることからの私怨。』

「そんな簡単なことか?」

『言い方が悪かった。ようは、ウィッチが戦場の主導権を握るのが気に入らなかったんじゃないのか?戦闘機でも戦えるが、昔はかなりおとされたしな。そして、戦場の主導権をウィッチという不確定要素に左右される状況の今を変えたかったのかもしれない。未成年の少女が地上にいる兵士や民間人の命を守っていること事態が、優秀な奴が世界にはたくさんいるとはいえ、作戦立案者とかは不安だったのかもしれんな。』

「それで、ウィッチと同性能、それ以上のなにかを自分の手駒にしたかったと。そのためには敵ですら利用する。まさに悪魔に魂を売ったみたいだな。」

『あくまでも予想だがな。それにしても、フォス大尉がいてくれたらな。彼女なら正確に分析してくれてかなり状況が進んだろうに。』

「いない人をねだったりしたってしょうがないだろう。心理学者に知り合いはいないのか?」

『残念ながら。まぁそれは置いておいて今までかなりの額の金が動いているからその計画には相当期待されていたのかもしれない。今部下を送って調査中だが時間がかかりそうだ。』

「部下って俺の時と同じようなやつらか?不安しかないんだが。」

『そりゃあ、お前さんとは状況が違うさ。何せこの世界は諜報より純粋な戦闘力が重要視されているからな。だが、まぁ安心してほしい。そのなかでも優秀なやつを送ったから。』

「わかったよ。最悪はgarudaで強行偵察するか?」

『一応考えておいてくれ。ただ、ストライカーユニットだとなにかとまずい。偵察するなら地上からがベストだろう。装備類もこちらで準備しておく。』

「出来るだけ動きやすい装備で頼む、あとは詳細な地図も。設計図があればいいが中が改装されているはずだから宛にはならないな。出来るだけ探らせてくれ、人数や防衛網など全部だ。」

『手配しておこう。それで、そっちはどうだ?うまくやっているか?』

「まぁやっているさ。だいぶ馴染んだし、あっちも受け入れてくれて助かってる。色々手伝ったりしてるしな。」

『よかった。特殊戦のなかじゃ変わり者だったお前とはいえ、洗礼を受けているからな。うまくやっていけてるか不安だったがよかった。それで?僚機は使えるか?』

「ウィルマビショップ軍曹?あぁ、優秀だと思う。」

『ほぉ。それで、彼女のいまの印象は?』

「信頼できるやつ、だと思う。俺の過去もジャックの次に知っているからな。」

『話したのか、発足前日にか?話す機会をあげてやったもんな。』

「やっぱり、ジャックの仕業だったのか。それより前だよ。」

『なるほどな、もうそこまでいったか。それで?彼女のことをどう思ってる?』

「ウィルマか、かわいいとは思うよ。相性もいいと思うし。」

ガダ、ん?

『そうか、お前も変わったな。』

「なんだ、急に悟りだして。歳でもとったんじゃないのか?爺らしくなりやがって。」

『いってろ、昔はスコアを気にしてたお前が今は連携を考えるようになったか。一番影響を与えているのは彼女だろうな。大切にしろよ。』

「わかってるさ、もう誰も死なせはしない。じゃな。」

『あぁ、また連絡する。』

ガチャン

大切にしろか、その助言はどういうベクトルなんだ?

子持ちとしてか?司令官としてか?

まぁ後で考えるか。

 

次の日

今日、もう一度アメリーとフランが模擬戦をするらしい。

「2日連続で平気なのか?」

「模擬戦程度なら問題ないわよ、私が許可したし昨日同様私達も待機しているからね。」

まぁそれならいいか。ちなみに、今日はシールドを使ってもいいらしい。何で昨日は縛りにしたんだ?

おっ始まった。

「ラウラは何を教えたんだ?」

「秘密、けど上手くやれば勝てるものを教えた。」

「なるほど。ウィルマ、アメリーとは昨日なにか話せたか?」

「……………………」

「おい!」

頭を指で突っつく。

「ピャア!な!あ、ど、どうしたの?」

「(ピァアってなんだよ。)アメリーとはなにか話せたのかと聞いたんだ。」

「あ、ええっとね、このままじゃ、嫌だなだって言ってた。」

ふむ、まぁあとは今日の模擬戦に注目だな。ラウラが教えたらしい技も気になるし。

それから2分、昨日と変わらないような展開だった。またフランがアメリーの後ろについた。だがラウラを見ると特に変わった様子もないのでなにか一発逆転の技を教えたのか?

その瞬間、アメリーは後ろに向かって攻撃を始めた、シールドを展開しながら。

「面白いな、攻撃と防御を同時に行っているのか。」

「そう、シールドはやろうと思えばどこでも張れるから練習すればそれがいつでも可能になる。使いこなせるようになれば他でも十分渡り合えるはず。」

まぁ俺が使いこなすのはあ無理かな。いまだシールドを張れないからな。

以前ラウラに聞いたところ、シールドは"相手の攻撃を防ぐ"という意識を具現化したもの、だそうだ。

空中戦で攻撃を受けた時、無意識に敵の攻撃を"防ぐ"ではなく"回避する"を考えている俺には少し厳しいのでは?と言っていた。

なるほどな。こいつもなかなか凄い奴だよな。

お、アメリーがフランを落としたか。

これで1-1だけど、アメリーが優勢か。

けど、あれって一度使われたらまたすぐに対処されちゃう気がするが平気なのか?

そこはアメリー次第か。

模擬戦は終了した。

収穫は多かったな。

 




昨日投下分です。
だいぶ距離が近くなってきたかも。いいねb

マロニーについては2chでも討論がされるほど意見が様々あります。ここでの意見は私個人的な考えです。思うところがあると思いますがちょっとずつ理由を明かしていくので怒らないでね?


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第16話 非公式会談

だいぶ4000字位で安定してきた、
少ないかもしれないけど、できるだけ毎日更新します。
がいつ途切れてもおかしくはないのでそこはご理解を……。


 

「なぁ、ジャック。俺の事信頼してくれるのはありがたいがこの頻度はないんじゃないか?」

今日また司令部に呼び出されていた。

「すまないとは思っているが万全を期すためだ。我慢してくれ。その分給料は出すから。」

「だったら、ワイト島にうまいものを送ってくれ。扶桑食で頼む。」

「なぜ扶桑食?」

「ブリタニア料理はあてにならないから。」

「わかった、手配しよう。それでお前をわざわざ呼び足したのは2つある。1つは、新たに入ったマロニー達が研究していたことに関する情報だ。」

「パンジャンドラム改とか言わないよな?」

「まさか、隠していた方だ。ようやく、搬入されているものがわかったよ。これがリストだ。」

「フムン、超々ジュラルミンか。やつら、航空機でも作っているのか?」

「だろうな、だが下の方を見てみろ。この部品を組み合わせると何ができると思うかわかるか?」

ふと、一昨日ラウラがアンカの整備をしていたときに呟いた単語がそこにあるのを見つけた。たしか、その部品があった箇所は………………

「魔導エンジンか?」

「だろうな、それもジェットタイプだ。」

「そうか、1940年代は各国が第1世代ジェット戦闘機が開発されていた時代だもんな。ただ、この世界ではウィッチの保有する魔法量の関係から難航していると聞いているが?」

「お前が乗っているのを除けばな。一応、既に各国が実践配備に向けて準備を始めている。現にうちのTSQ(第3飛行中隊)でも性能評価中だ。」

「だんだん読めてきた。ウィッチがダメなら他で試そうって寸法か。ただ、なぜそれにこだわる?奴はウィッチが嫌いじゃなかったのか?」

「嫌いだが、実力は認めているのであろう。現に11JFSを作ったのも奴だ。ウィッチの最大の利点はどの方向にでも攻撃できること。そこに目をつけてかつウィッチに頼らない戦力を作ろうとした。全く、小癪なやつだ。素直に実力を認めて、ウィッチと共同作戦という形で公にすればまだ評価されただろうに。と思ったがその動力源がネウロイじゃな、表に出せないよな。」

ジャックのやつ相当頭に来ているみたいだな。

いつもはしない愚痴を呟いてる。

「なぁ、ジャック。あんたは奴の性格をよく知っているからそう思うんだろ?ただ、俺は別の考え方をしている。俺は奴のを資料上しか知らないからこういう考えができるとまず始めに言っておこう。それと、奴の肩を持つ訳でもないと。」

「面白い、聞こうか。」

昔の事を思い出しながら話だす。

「零が植物状態になった時の事は覚えているか?」

「あぁ、忘れるものか。」

「それじゃあ、零が目を覚ましたきっかけとなった事件が起こる前に誰かと話したことは?」

「そこはいまいちだな。」

「そうか。まぁあんたにしてみたら零が目を覚ました事の方が大事だったもんな。あんたが司令部に入ってグノー大佐とロンバート大佐があんたに話したことを思い出せるか?あいつらあんたにこう言ったんだ。"パイロットの事を思えば無人化を進めるのは当たり前だとは思わないかね?"、"もうこれ以上、彼のような痛ましい被害者を出さないように、無人機計画を進めることを考えてはくれないか?"とな。」

「…………………あぁ、思い出したよ。そうだったな。そうか、そうだよ。そういう考え方もあるのか。」

「ただ、いま奴等がやっているのはメイブにジャムを乗せるのと同じことをやっているからな。

いま俺が思っているのはこの世界には無人機は早すぎないかってことだ。少女を戦場の最前線で戦わせるのもどうかと思うが、この世界にまだ人間は必要だ。それに無理にネウロイに頼ろうとするのもダメだな。コンピュータ開発に力を注げばいつかはたどり着けるものを。」

「長年時間をかければできるものより、今すぐ出来そうなものに力を注いでしまうのは仕方がない。なら余計奴の計画を失敗させる必要があるな。それじゃあ、もう1つの呼び出した理由だ。」

そういって1つの書類の入った大きな封筒を差し出してくる。

「この鞄を501に届けてほしい。」

「パシリか?それならお前の部下にやらせればいいじゃないか?」

「それは無理だ。501をいく道には奴等が設置した監視所がある。501の近くにもな。だから直接いくと悟られる可能性がある。だからお前に託すんだ。」

「501に直接乗り込めと?」

「なぜそうなる?マロニー派には書類の受け渡しを行っても絶対ばれない場所がお前らにはあるだろう?」

「…………空か。」

「そうだ。今晩飛んでもらって501のナイトウィッチにコンタクトを取れ。会ったらこれを501の指揮官に渡すよう伝えて、5日後再びここに会うときに返答がほしいとそいつに言ってくれ。ちなみに、ナイトウィッチは他のナイトウィッチと夜間は交信をしているそうだから、終わったのを見計らってコンタクトを取るように。いいな?」

「俺が呼び出された理由がわかったよ。たしかに俺しか出来ないな。わかった。必ず渡す。」

「頼んだ。」

 

ワイト島に買えると直ぐに隊長に命令書と、今晩新しくもらった装備を試すために飛ぶことを伝える。

「了解です。夜間飛行ですか?出来るんですか?」

「あぁ、そのための専用装備だ。俺1人だからよろしく。それに備えてもう寝るから。おやすみ。」

「了解。」

隊長がきを使ってくれたのか誰も起こしてくれなかったのはたすかった。

夜、日付が変わり2時間がたった。もうそろそろか。

今夜は満月か、月が綺麗だ。

格納庫に向かい、ユニットのAPUを作動させようとしたとき、後ろに気配を感じた。

バッ!

振り替えると、毛布にくるまったウィルマがいた。

彼女には隊長を通じて作戦があることは伝えてもらっているはず。

「どうした?ウィルマ?」

「また、作戦?私抜きで。」

思わず、心が痛む。彼女はまだ一度も作戦に従事していない。俺が何回も行っているのに待ちぼうけは辛いだろう。ただ、内容上連れていくわけには行かない。

「すまない。そうだ。隊長から1人で行くとは伝えてもらっていたはずだが。」

「私って必要ない?お飾り?」

俺かここまで追い詰めてしまったのか。

責任は俺にあるな。

「そんなことはない。」

「けれど、連れていってはくれないの?」

「ジャックからの直接の依頼なんだ。内容が機密であるから誰にも漏らせないんだ。」

「私の事、信用できない?私はあなたの事こんなに信頼しているのに!」

目にいっぱい涙を貯めながら言ってきた。

そうか、ジャック。何となく変わったってのがわかった気がするよ。

彼女を抱き締める。

ビクッとなってるが構うもんか。

怖がらせないように、なるべく優しく言う。

「信頼してないやつなんかに僚機を任せるもんか。」

「だったら、何で!」

「今は言えない。だけど、約束する。こいつがすべて終わったら君に話す。全てだ。必ず話すから、それじゃダメか。」

「ダメ。せめて理由を教えて。」

「君を巻き込みたくない。」

マロニーの計画を潰すために俺が行うのは表沙汰に出来ないことが多くなる。密会するのも1人の方が見つかる危険も低くなる。敵地への侵入、工作活動何てウィルマに参加させるのはもっての他だ。

「巻き込むことによって失うことが最も怖いんだ。だから今は全て俺に任せてくれ。この案件以外なら2人でも空を飛べるはずだ。」

「本当?」

「あぁ、本当だ。」

俺の胸に顔を埋めながらときどきひゃっくりをしているウィルマを3分くらい待っていると顔を上げてくれた。

「わかった、待ってるから。そのかわり必ず教えてね。」

「あぁ、約束だ。」

恥ずかしくなったのかウィルマが急に離れる。そして小指を差し出してきた。顔は毛布で隠している。

俺も小指を絡めて腕を2回振る。

「じゃあね、行ってらっしゃい。」

「あぁ、もう遅いから寝ろ。」

「来るのずっと待ってたんだから。」

そうだったのか。

「ありがとう。」

APU作動。

ユニットに乗り込んでハンガーを離れる。

ウィルマは軽く手を振っていたので降り返す。

 

離陸。

いま思ったら、俺はなんか大変なことをしてしまったのではないか、という不安に教われた。

泣かしちゃったが平気か?

やめだ、帰ったらゆっくり考えるとしよう。

それよりまずは501のナイトウィッチを探さないとな。

書類も持っているし、とりあえず前回会ったところまで向かう。

Garudaが調べた結果わかる範囲内では会話の通信は聞こえない。ならコンタクトするなら今がチャンスだ。

それから30分後。レーダーに反応。11時方向。

IFF witch

すぐそちらに向かう。

5分後、フリーガーハマーが1発飛んできた。

またか!

すかさず、連絡を取る、

「こちらはSTAF所属のフレデリック・T・バーフォード大尉だ。サーニャ・V・リトビャク中慰に通達する。至急、攻撃を止められたし。」

返答は無かったが、攻撃が止まった。

彼女を目視できる距離まで近づく。

「バーフォード大尉、でしたっけ?こんなに夜に何の用ですか?」

結構警戒してるな、仕方ないか。

鞄から書類を取り出す。

「これを、501の指揮官、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐に渡してほしい。5日後またここで会うときに返答を頼むと伝えてくれ。」

「なぜ、この場で渡すのですか?正式なルートで渡せばいいでしょう。」

「監視されてあるんでね、それにこれはヒューゴ・ダウディング大将からの非公式な依頼でもある。それでも断るのか?」

「………わかりました。お預かりします。」

「中佐にはくれぐれも、伝えてくれよ。ではまた5日後、この時間、この場所で。じゃあ、おやすみ。」

「はい、おやすみなさい。」

こうして2人は別れる。さて、俺のやることは果たした。たのんだぞ、ミーナ中佐。

 

 

Another view-Sied Minna-

はぁ、今日も書類を片付けなきゃいけないと思うと憂鬱だわ。せめて美緒が手伝ってくれるといいのだけど、まぁ無理ね。さてもうそろそろサーニャさんが報告に来てくれる時間ね。紅茶でも淹れてあげようかしら。

コンコン

「どうぞ。」

「失礼します。」

「サーニャさんおかえりなさい。問題はなかった?」

「あった。」

「えっ?ちょっと詳しく話してもらいたいのだけれど。」

「これ。フレデリック・T・バーフォード大尉からもらった。ヒューゴ・ダウディング大将からの非公式な依頼だと言ってた。あと5日後に返答がほしいと。それじゃ。」

「あ、サーニャさん!」

まぁあの状態じゃ聞くのも無理ね。フレデリック・T・バーフォード大尉って噂に聞いた男のウィッチ、それに501の創設者であるヒューゴ・ダウディング大将からの非公式の依頼。わざわざサーニャさん経由ってことは余程表に出したくないと見える。できれば関わりたくはないが、あの人には恩があるからとりあえず見てみる。

その内容は驚くべきものだった。

マロニー一派がネウロイを利用して新たな新兵器を作っている。現在調査中だが、かなりの予算がつけられておりネウロイがユニットを動かす可能性も否定できない。そして、マロニー一派の勢力は拡大しており、501にも手が及ぶ可能性がある。

ついては、われわれSTAFと手を組んで奴の野望を阻止する計画に参加、もしくはどんな形であれ協力してほしい、と書いてあった。

さすがに、これは無視できる内容ではないわね。朝御飯を食べたら美緒と相談しなくちゃ。

それにしても、ネウロイを使った新兵器?

嘘かもしれないが、この人は今まで一度も私たちに嘘をついていない。

いまのところは信じている。

だとしたら、そんなものは絶対に許さない。他の誰もが許したとしても。

 




ウィルマ急接近
どうして、こんなに追い詰められたのかは次で説明します。

次回はどんな展開にしようか悩んでる。
ちなみに、ワイト島のエンドは決まっているがそこまでの道のりは未定。
この密会を思い付いたのも書いている途中。
綱渡り。


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第17話 ウィルマの憂鬱

実はとんでもないことに気づいてしまった。
ウィルマ視点が嫌な人は途中から飛ばすことをおすすめ。



Another view -SiedBishop-

それは前日まで遡る。

彼が電話で私の事を話していたのを聞いた数日後。

太陽の光が差し込んでくる。今日も天気はいいね。

いつも通り朝御飯を食べて、洗濯物を干したあと一旦部屋に戻る。

ふと見ると、机の上にコインが置いてあった。

確かこれは前に2人でロンドンに行ったとき、チョコを買ったときのお釣りだ。上着に入れっぱなしだったから置いておいたんだっけ。

手のひらに小さなシールドを展開して、コインを浮かせる。時々こうやって遊んでいるのだが、なんかいつ見ても神秘的だと思う。

だけど、今日は違った。

コインがシールドをすり抜けて落ちていった。

コン。

あれ?

おかしいと思いもう一度試しても同様に落ちてしまった。

まさか、"あがり"?

おかしい、体感だとあと半年以上は持つと思っていたのに。それから10回以上試しても全てコインは落ちていった。頭の中が真っ白になった。

そんな、何で?

足の力が抜けて座ってしまった。

ようやく、この人となら一緒に空を飛びたいという人を見つけたのに。まだ、一緒に一度も作戦に参加してないのに。

そんなのって………ないよ。

そうだ、一度彼に相談してみようかな。

今は出払っちゃっていないけど、帰ってきたら言ってみよう。

何でも話してくれって言ってたし。何かアドバイスをくれるかもしれない。

とりあえず、今日はやることをやんなきゃ。

体に鞭打って無理やり動かす。

けれど、彼はちょうど私が買い出しに行ている間に帰ってきてそのまま寝てしまったらしい。深夜には任務もあるとの事。

裏切られた気がした。

いつでも聞いてくれるんじゃなかったの?

よりにもよってこんな大事なときに聞いてくれないの?

晩御飯も体調不良ということで食べなかった。

もしかしたら、もう魔力が限界なのも気付いていて意図的に距離をおいている?

…………………そうか。

なんだ、私の勘違いだったのか。

優しくしてくれたのはそのため?

なら何となく全ての説明がつく。

作戦に私が呼ばれずに彼だけがいつも参加してたのもそうだったのか。

毛布にくるまって外を見てみたら月が綺麗だった。今の私とは大違い。

見に行きたいけど、外は寒い。格納庫に行けば寒くないよね。

時計を見たら日付が変わっていた。

扉を少し開けて格納庫の隅でくるまりながら空を見る。

星がよく見える。いつもは気にしなかったけどこうしてみてみると綺麗。

どれくらいたっただろう。足音が聞こえてきた。

入り口から彼、バーフォードが入ってきた。暗くて気づいていないのかな。

心のなかで別の私が叫んでる

"どうして、気づいてくるないの?"

せっかく会えたから少し話がしたい。そう思って後ろから近づく。

彼が急に後ろを振り返り、

目があった。

とりあえずにか話さなきゃ。

「また、作戦?私抜きで?」

どうして、こんな喧嘩腰になっちゃうんだろう?

「すまない。」

謝ってくれたけど、私が聞きたいのはそんなことじゃない。

「私ってお飾り?」

「そんなことはない。」

否定されても嬉しくない。

もっと別の言葉がほしい。

「けれどジャックからの依頼でつれてけない。」

ここで、私のなにかが切れた気がした。心の中に留めておこうと思った言葉を言ってしまった。

私が一番あなたに聞きたいことは

「私って信用できない?私はこんなにも信頼しているのに!」

魔力がもしかしたら、限界に近いかもしれないことを隊長さんにではなくまず最初にあなたに話したかった。

いつでも、話してくれっていったじゃん。

なのに、なんで遠いの?

もっと近くにいてほしい。

涙が出そうになる。

 

すると突然抱き締められた。

えっ?な、なに?

「信頼してないやつなんかに僚機を任せるもんか。」

なんか、一瞬心の隙間が少し埋まったきがした。

そしてその一言で救われた気がした。

けど、まだ言ってしまう。

「だったらなんで!」

「巻き込みたくない、巻き込むことで失いたくない。けどこれ以外だったらまた飛べるはずだ。」

「本当?」

私、単純だから信じちゃうよ?

わたしのことを想ってくれてるんだって。

「あぁ。」

その言葉を聞いて涙が出てきた。

彼の胸に顔を埋めてしばらく泣いているとなんか心が落ち着いてきた。

昨日からずっと生きた心地がしなかったけどようやく、落ち着いてきた。

それと同時になんだが急に恥ずかしくなってきたので離れる。忘れてたけど、彼これから作戦だもんね。

「いってらっしゃい」

「あぁ。いってくるよ。」

そうして彼は空に飛んでいった。

いなくなってふと気がついた。

そっか、なんかアメリーの言ってたことがようやくわかった気がする。

私はあの人を………

 

 

Another view end -sideBishop-

書類を501に託したその日、基地に帰ると同時に眠くなった。

格納庫に着くと、ウィルマがハンガー隅で寝ていた。

部屋に帰れっていったのに。抱えると案外軽かった。

そのまま食堂につれていってソファーにおこうとした瞬間、アメリーと目があった。

「お邪魔でしたか?」

なにあの笑顔、逆に恐い。

「いや、変なところで寝てたから起こそうと思って。というか、どうした?」

「たまたま、起きちゃって。それに部屋にウィルマさんがいなかったのでどうしたのかなと思って。バーフォードさんは?」

「作戦が終わったから帰ってきた。」

「夜なのにお疲れ様です。あっ、私はいなくなるのでごゆっくり。」

「おい。」

走っていなくなった。

俺も、彼女の隣に座る。

「俺が追い詰めたみたいだったな。すまなかった。」

返答は無かったが。寝息が聞こえるから寝てるんだろうな。

………………………

気がついたら俺も、寝てたのか。体を動かそうとしたら右肩が重い。見てみると、ウィルマが寄っ掛かってた。

まぁ、いいかな。

ってよくない。全然よくない。むしろピンチだ。

時計をみたら0700

もうすぐあいつらが起きてくる、ていうかすでに起きているかもしれない。ドアをみると、わずかな隙間から6個くらいの瞳を見つけた。

終わったわ。

その後、何があったのかめっちゃ聞かれた。

隠せるところは隠して、ギリギリを話して切り抜けた。

 

「そっか、もうシールドが張りにくくなってきたか。」

俺はウィルマの話を聞いていた。いまは1000、

なんとか時間を設けて彼女の言葉を聞いていた。

「この事を他に誰かに話した?」

「今のところはあなただけ。」

「これからはどうしたい?ウィルマがどの選択を取ろうとも俺は支持するよ。」

「前、話したでしょ?リーネが飛んでいる限り、私も限界まで飛ぶって。」

「その分危険が増すのにか?」

「バーフォードだって、シールドは使ってないじゃん。」

「前提が違う。まぁウィルマがそう考えているならわかった。なら、これからはシールドに頼らない飛び方を出来るだけ教える。それでいいか?」

「いいの!?」

「あぁ、約束したからな。」

「それじゃあ、よろしくね。」

「隊長には訓練で飛びたいと言っておくから。」

「わかった!」

 

次の日、本格的なシールドを使わない訓練を始めた。

彼女には"全ての攻撃を回避する"ということを覚えてもらう必要がある。

だから、まず始めに、回避起動を身に付けてもらう。

次に俺があらゆる方向から攻撃を行い、逃げてもらう。

最後は回避と攻撃を行えるようにする、という方向で始めたら。

さすが、何年も飛んでいるからかすぐ起動は身に付けてくれた。(すでに大半を覚えていたというのもあるが。)ただ次の回避が中々うまくいかない。

全て自分で攻撃を見切って回避しないといけないが癖が抜けないらしく大変そうだった。

まぁ、気にせず撃ちまくったが。

おかげで変態!とか人でなし!とか言われた。

お前のためなのにといったら

知ってると笑顔で返された。

それからかなりの頻度で練習を行ったおかげである程度までできるようになっていた。

突然ネウロイが飛び込んできても大半はかわせていて残りは無意識にシールドを張っていた。

小型ゆえに出力も小さいためか、まだシールドは平気みたいだ。

ただ、無意識に張ってしまうあの癖は何とかしたいな。

アシストして彼女が落とせたので攻撃の連立もうまくいっているようだ。

 

 

 

 

そして、501の返答を聞きに行く前日にその事をジャックに話した。今回はgaruda経由だ。

『そうか、もう限界がきたか。だが、それに屈せず逆に延命措置をとるとはな。』

「彼女の意思だ、なら尊重するさ。」

『惚れた女だからか?』

「ジャックが言うならそうなんじゃないか?」

『お前なぁ、でどうなんだ?』

「自分の事は自分がよくわかっているつもりだがよくわからんってのが本音だ。ただ、少なくとも友達以上ではある。」

『ならいい。まぁ聞いといてなんだが、俺もそこまで興味があるわけではないからな。』

なら聞くな。

『ただ、守ると決めたなら、覚悟を決めろよ。生半可な覚悟じゃまた失うことに』

「わかってるよ、ジャック。」

『結構。昔の俺を見ているようでひやひやする。さて、もうすぐ、書類が届くと思うがそれをまた届けてもらいたい。』

「直接渡されなかったが平気なのか?」

『暗号表は既に彼方に渡してある。さて、水面下とはいえ、各国の支援を取り付けた。』

「まじか、どうやったんだ?」

『マロニーは亡命してきたウィッチを続々と指揮下にいれて自分の駒として使っている。主に後方支援とかにな。確かに後方支援は重要だ。ここブリタニアが落ちれば欧州も陥落したも同然だ。だが、自国のウィッチばかりが後方支援について、ブリタニアのウィッチは本土防衛についている現状を快く思わない連中もたくさんいる。だからそいつらと連絡をとっても協力してもらうってことにした。』

「なるほど、ジャックがもとに戻ればマロニーよりは平等に扱うってところをアピールしたのか。」

『そうだ、中々の大物にも人脈が出来て一石二鳥だ。このまま人員も増えたことだし一気に責める。証拠を集めて、固まり次第、次の行動に移る。作戦があればまた伝えるから。それじゃあ、以上だ。』

「結果は明日報告する。」

『頼んだぞ。』

その後、すぐジャックの部下が書類を届けてくれた。

 

深夜2時。

離陸して前回の場所に向けて飛行する。

ただ、今回はちょっと違うみたいだ。

ランデブーポイント手前で彼女が交戦していた。

2機か、彼女の武器を考えれば厳しいかもしれない。

上空から急速接近、敵の攻撃を紙一重でかわし、能力発動。

高熱源部位を特定、攻撃。

ヒット。敵が破裂する寸前、横を通りすぎて破片を取り込まないようにする。

すかさず、もう1機を探す。

見つけた、ん?

501側が落としたようだ。

前回同様、声が聞こえる距離まで近づく。

「怪我はないか?」

「ありません。援護感謝します。」

「俺の仕事をしたまでだ。それで、返答は?」

「………?」

「5日前」

納得しました、みたいな顔をしているので思い出したようだ。ポケットから紙をだして、読み始める。

「返答はYes、とのことです。」

「わかった。ありがとうと伝えておいてくれ。あとこれも渡しておいてくれ。」

「わかりました。それで、次は?」

「同様に5日後、ここでだ。」

「了解です。では」

「じゃあな。」

 

さて、匙は投げられた。

頼むぞ、501、ジャック。

 




実はアニメってこの話がある頃って夏なんですよね。(サーニャ&宮藤の誕生日が8/19)
よって、季節が真逆。
なんと言うことでしょう。
ただ、今作はワイト島をメイントしているので季節が真逆になっているのは許してください。
501の宮藤とか大変なことになっているが割愛。
訓練時間が……それは気合いと根性でウニュウニュ。






はい、私のミスです。ごめんなさい。
気づかなかったです。
ただ、もうこれからの展開も考えてやっているのでこのまま突き進みたいと思います。
グダグダでやって来た弊害がこんなところに出てくるとは。
どうか、優しく成長を見守ってもらえると嬉しいです。


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第18話 今年最後の2週間

着々とUAとお気に入りが増えていて嬉しいです。
読んでくれてありがとう。



 

各国が秘密裏に動き出した。

廃墟に向かうトラックを逐一監視したり、出入りする者の顔を記録したり、電力の消費量を監視したり等と様々なことが行われている。

その結果大まかな全体像が見えてきた。

航空機は最低でも1、予備を含めて5機程度と思われる。

ただ、ほとんどが試作機と思われ、実戦投入はまだ先かと。

機体の形状は、機体があるところが常に閉まっているため確認できないが、影を観察することで大まかな概要は判明した。

機体の大きさは普通の航空機程度、時々エンジン音がするため専門家に調査させたところ、ジェットストライカーとのこと。少なくともレシプロではない。

既に機体事態は完成していると思われる。

ただ、決定的な証拠はいまだなし。

詳細なスペックも不明。

基地潜入を選択肢に入れるべきかと。

 

「以上が報告になります。」

「ご苦労。下がっていいぞ。」

「失礼します。」

部下の報告を受けて、ため息をつくジャック。

尻尾がつかめない。だが、こちらも負けるわけにはいかない。あちらがブリタニアを味方につけたならこちらは欧州だ。各国は既にブリタニアとの交渉の場でも圧力をかけ始めている。裏に俺がいることは解っているのだろうか?

いや、こっちもいろんな場所に掛け合っているからな。

どっちもどっちか。

もうすぐ、今年も終わる。

勝負は来年に持ち越しだな。いっそのこと試験飛行でもしてくれればいいのにな。しかし、あちらがネウロイのコアを持っているのは痛い。garudaに偵察させようにも長時間とどまっていれば気づかれる恐れがある。ネウロイが電波を使って索敵している可能性が高いとはいえ、探査系のウィッチがいたら、たちが悪い。現にメイブですら、発見するようなやつらだ。電波ではなく何で索敵しているのかが気になるな。

マロニー、お前が何を考えているのかはわからん。その計画を進める真の目的がウィッチの為ではなく世界の空を掌握するためなら、俺は容赦はしない。覚悟しておけよ。

 

気になるな報告も入ってきた。

最近、ネウロイの動きが活発化してきたらしい。ワイト島ですら出撃回数が増えているようだ。

まさか、あの計画が次のステップに移行した?

ネウロイのコアを使った実験を本格的に進めた結果それに呼応してネウロイが飛んできている?

なら、厄介だな。彼女らがそう簡単には落ちるとは思っていないが、早急にに進める必要があるな。

ただ、人員を送れば解決するわけでもないのがもどかしいな。501には司令部に報告しているのとは別にネウロイの特徴を詳細に記録したものを作ってもらっている。

負担を増やすわけにはいかないが、やってもらうしかないので謝るしかない。感謝でもしたいが繋がりをばらすわけにはいかないので、それはいつもの交換する書類に書いておく。

さて、どちらが先に出るかが勝負の鍵だ。

負けるわけにはいかない。

 

今日はウィルマと哨戒飛行だった。

いや、今日もか。あの日以来隊長が変な気を使ってくれてほとんどがウィルマとの哨戒飛行だった。

まぁ、ネウロイがいない時はほとんど訓練に費やしている。

最近はネウロイの出現数が増えてきている。噂じゃ、ブリタニアがネウロイの総攻撃を受けるのではとか聞いたが、ジャックはあの計画が関係していると見ているらしい。

まぁたぶんそうなんだろうな。

話を戻そう。小型のネウロイの攻撃ならまだシールドを使えば防げるがそれもいつまで持つかわからない。なので、空中戦闘起動を主に教えている。

自分でも厳しめにしているつもりだが必ずついてきてくれる。

それが妙に心地よい。

かなり無茶な起動をとったかな思って後ろを見たらちゃんとついてきていて驚いた。

ただ、それはあくまで訓練でのこと。実戦となると、まだ見ていて危うい。無意識のうちにシールドを張っていることもある。

ただ、ちゃんと最後は落とせているので今後に期待と言うところか。

「どうだ、体もユニットも問題ないか?」

まぁ、木の葉落としをなんなくやっちゃうくらいだから体自体にはダメージはないだろうが疲労があるからな。

「いまは平気。それより、私の動きはどうだった?」

「まだ、全然だめだ。たまに俺が後ろを向いて銃を構えたら無意識にシールドを張ろうとしているだろ?

「ばれてた?」

「ウィルマは分かりやすいからな。」

「むぅ。」

「まぁ訓練で出来ないのなら実戦では絶対できないと思った方がいい。あとこれからは攻撃しながら連携を行うことを忘れないでくれよ。」

「わかった。」

こうして、今日の飛行は終わった。

 

基地に帰って隊長に報告。

終わったらすぐに整備にかかる。次の飛行は2日後。

それにしても、あと5日でクリスマスか。

…………いつもお世話になってるし何か買った方がいいのだろうか。貯金もあるな。

時間がたつのが速く感じる。歳をとったせいかな。

明日、ロンドンにまたいくからその時に何か買うか。

 

次の日

いつも通り書類を取りに向かった。

ジャックから更新された情報を確認し、明日の深夜フライトで渡す書類を受け取って解散になった。

今日はいつもより早い。まぁそっちの方が有難い。

さて、何にしようか。

隊長はお茶かな。アメリーはハーブか。フランは…………あいつアメリカ、もといいリベリオンだから飴か。ラウラはクッキーかな。部屋でボリボリ食ってそう。

さて、ウィルマはどうしようかな。

あいつには世話と迷惑をかけたし。これからもしばらくは一緒だからお守りかな。

いろんなところを回っていると、お守りを売っていた所を見つけたので入ってみる。最初に目に飛び込んできたのが

ウサギのチャームだった。"ラビット・フット"ちょっと怖いので却下。

チャームか。色々あるな。翼(上昇、飛躍)か十字架(力を与える、永遠)どちらにしよう。

悩んだ結果弾き出した答えは………

まぁ、両方でいいかな。お守り何個もつける人だっているしいいかな。会計を済ませて店を出る。

さてと、次は………お片付けか。

前は警告も兼ねてくどいやり方をしたが、次はもうないよな。買ったお守りをポケットに入れて走り出す。

相変わらず追跡が下手だ。走って路地裏に入ろうとするとすぐ走って追いかけてくる。

路地裏の角で来るのを待つ、足音は2つか。

3

2

1

今!

思いっきり右手でラリアットを仕掛ける。

敵がテレビにでも出れるんじゃないのってくらい面白い転びかたをした。そのまま回転して左足でもう一人を蹴ろうとしたらバックステップで回避された。

敵が腰の後ろに手を回す。

銃か?ナイフか?フェイクか?

こちらは1歩踏み込む、見えたのは銀色に光るナイフ。

突き刺してきた。

体を少し右に捻り突きを回避。ナイフは腹と二の腕の間を過ぎていった。そのまま敵が勢いで突っ込んできたので敵の手から肘にかけ手を腋で、肘から方にかけ手を左手で固定。そのままちょうど壁が近くにあったので右手で敵の頭を壁に叩いて、いつものように関節技で拘束。地面に押さえつけて、敵のナイフを拾い首に当てる。

ラリアットの方は頭を地面に打ち付けて気絶中。こっちはってあれ?まさか、今ので気絶?

どうしよ。まぁ、いいか。ボディーチェック。

身分証の類いは見つからなかった。仕方ない、放置しておけば誰かが通報してくれるだろう。身

元を引き取りにきたやつを探ればいいし。

ちなみに、警察はこっち側の人間だ。なんでも長官の娘がウィッチらしい。昔は子供を見せあったくらいの仲なんだとか。まぁ、あとはあっちに任せるか。

チャームも落としてないし、書類は無事。盗まれたものはない。それじゃあ、買い物にいくか。

2つの気絶した男を放置し、商店街に戻る。

必要なものを買って基地に戻る。ベッドの下に隠してナイトフライトに備えて早めに寝る。

 

0310

ランデブーポイント

「何か、変わったことは?」

「ネウロイとの交戦が以前より増えました。ただ、他の地域ではそのようなことは無いとのことなので、ガリアの巣の動きが活発化していると見るべきかと。」

「ダウディング大将は計画が進んだため、ネウロイに何らかの影響を与えているのかもしれない、とのことだ。これからもさらに増えるかもしれない。」

「わかりました、伝えておきます。あとは?」

「特には、次も5日後でこの場所で。」

「了解です。」

さて、帰投するか。

帰投中、不明なレーザー照射を探知。

敵には捕捉されてはいない。

方向は方位310

マロニー一派の廃墟方面だな。

だが、ジャックからそこは飛行禁止との指示があったため帰投。

これは、報告ものだな。

 

帰投後、すぐ寝る。午後からはまた哨戒飛行だ。

0900

起床、とっておいてくれた朝御飯を食べて整備を行う。短時間の飛行だったとはいえ、一応な。

1300

哨戒飛行開始

「今日もナイトフライトだったんでしょ?疲れてない?」

「睡眠もとったし、飯も食ったし問題ない。」

「そう?なら、今日もよろしくね。」

「あぁ、今日もシールド張らないようにしろよ。」

「善処するね。」

こっちはレーダーがあるからそんなに動かなくても探知出来るからその分訓練に費やせるのは助かる。

そして初めてから30分後。

コンタクト

方位165距離45000Angle3 反応の大きさから大型1小型2かな。

「敵だ、インターセプト!」

「了解。」

「Master arm On.」

武器のセーフティーを解除、急行する。

高度はこちらが上、下に3機を見付ける。

「いくぞ、ウィルマ!小型は任せた。engage.」

「了解。」

熱源確認、ファイア

カチ、なっ!

慌てて敵の攻撃を回避し、横を通りすぎる。

「どうしたの!?」

「不発弾だ。すまない、次は仕留める。」

しかし、そこでウィルマがこっちに意識を向けていることに気づく。敵は!?

「後ろ、回避しろ!」

返答もせず、すぐ回避。しかし、それでウィルマが体勢を崩す。まずい!

出力最大、後ろからウィルマを引っ張って一時離脱しよう、という思考が働く。

敵が攻撃体制に入った。間に合うか?

そして、敵の射線にウィルマが重なる。攻撃と、回収。どちらを行う?

答えは決まっていた。

銃を背中に回す。

最大速度でウィルマを両手でホールドしてそのまま上昇。

その瞬間、左の脇腹に激痛が走る。

ネウロイのレーザーがか擦った。

ライフルの先端が溶けた。

気にせずそのまま上昇。

「ウィルマ、無事か!」

「大丈夫だけど、バーフォード、その傷は!?」

「かすっただけだ。」

どっちかといえば抉られたの方が近いかも。ただそこまで深くないのかひどい出血ではない。

「なんで、どうして………」

「それはあとにしろ。とにかくウィルマは、離脱しろ。それと銃を貸せ。あとは俺が何とかする。」

「その怪我で!?無茶だよ!」

「聞け!これは、命令だ。俺が戦った方が生き残れる。」

無理やり銃を掻っ払い、ウィルマを放す。

ブレン機関銃か、残弾確認、問題なし。

さて、落とし前はつけてもらうぞ。激痛を無視して空を飛ぶ。

まず、小型から。熱源確認、ファイア。

10発じゃあコアが露出するだけか、そのまま5発撃ち込んで撃墜。

大型からのを回避。こいつはあとでだ。

最後の小型に狙いを定めてファイア。

撃墜。残弾あと20。

予備は無いからな。

さて、どうしたものか。

接近するしかないか。どうも威力不足が否めないからな。

よくこんなので戦えるもんだ。

それにしても、よく動く。ちょこまかと。しかも遅い。

なら、速度を上げて一気に追い抜く。

追い抜いた直後に、急減速。

レーザーを回避し、敵さんが追い付く頃に再び加速して、高熱源部位に銃口を向ける。

距離10

ファイア

12発目でコア露出。

残りの8発でコアを貫く。

そのまま、加速。

破片に巻き込まれないように離脱する。

ふう、どうにかなったな。

 

 

Contact

方位168数4 IFF Unknown

どっちだ?と思ったら通信が入ってきた。

「こちらは501所属の坂元少佐だ。そちらが救援要請を行ったらウィッチか?」

「坂元少佐?いえ、私は救援要請は出していませんよ。(なら、ウィルマか?)」

「ん、その声はワイト島のバーフォード大尉か。どういうことだ?」

「救援要請を受けてくれたのは有難いが、ネウロイはこちらで片付けた。おそらく、こっちで先に離脱したやつが出したのだろう。申し訳ないな。」

お互いが目視できるまで近づいてきた。4人か。

「ところで大尉、その血は?」

「すこし被弾してな。血の量からして問題ない。出血もだいぶ止まったみたいだし。それでそちらは?」

「平気ならいいが、こちらは」

「エーリカハルトマン中尉です!よろしくね!」

「フランチェスカルッキーニ少尉、だよ?」

「シャーロット・E・イェーガー大尉だ。よろしくな。」

これはまぁ、個性的なメンバーだ。あのハルトマンにちびっこに最速のイェーガーか。

「それ、ジェットストライカーユニットか?どれくらいの速度が出るんだ?」

「すまないが軍事機密だ。だが、レシプロよりは速いとだけ言っておこうか。」

「1人で3機落としたの?凄いねー。さすが噂の大尉だ。」

「噂ってなんだよ?」

「坂元少佐がすごい男のウィッチがいるって話してくれたからどんなのかなーって思ったら予想以上だよ!」

もし、この娘がハルトマンなら少し嬉しい。

「そりゃどうも。少佐、いったい何を話したんだ?」

「赤城防衛戦での事だ。ダメだったか?」

「別に、では俺はこれで。怪我の治療もしたいので。」

「501の方が近いんじゃないの?」

「501はめんどくさいからな。それにこいつならさほど変わらん。」

「なぁ、どれくらい「そうか、わかった。」」

イェーガー大尉を少佐が無理やり遮る。

「それじゃあ、また空で会おう。」

「ではな。」

501と別れる。

ウィルマのやつ、援護要請を出してくれていたのか。俺のことを思ってくれたのなら嬉しい分すこし気恥ずかしいな。

それにしてもなんで、守ろうとしたんだろう。先に落とした方が結果的には良かったのかもしれない。

ふととある映画のワンフレーズを思い出す。

俺の今までの疑問やジャックの言ってたことをすべて解決させるような一言を。

 

『惚れた女を守るのが男ってもんだ。そうだろ?』

 

すとんと、何かが落ちた。

納得だ。どうして、守ってあげたくなったのかわかった。

ジャックにはすべてお見通しと言うわけだったのか。

こうして帰路に着く。

 

 

レーダーに5機の反応。

IFFは味方、ワイト島のユニットの反応を示していた。

 




彼の体術はゴルゴ13を参考にしています。え?何でかって?最近はまってるからです。
501がまた出てきた。
次話くらいで年越しする予定。
予定だよ。


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第19話 覚悟

Warning!

今回はシリアスと桃色成分で溢れかえっています。
そういうのが苦手な人や嫌な人、嫌悪感を覚える人はここでブラウザバックか次の話に進めることをおすすめします。



取り合えず、帰ったら治療を受けた。

傷はそれほど深くはなかった。

それと隊長に怒られた。どうして、こうなったのかと。

ウィルマが油断して俺がかばったことにしておいたら、次からは気を付けてね。それとこんな無茶は二度としないようにとのことだった。

そのあと、ウィルマが謝ってきたが気にするなと言ってこの件は終了した。

 

そして、クリスマス。

戦時中でもやるらしい。まぁ誕生日会やっちゃうくらいだしな。

午前中に買い出しに言って軽くお昼を食べたら夜ご飯の支度をアメリーと始める。

ちなみに、スクランブルに備えてラウラが待機しているのだが今は椅子に座ってつまみ食いが出来ないかと狙っている。

「残念だが今は下ごしらえの段階だから、何も食えないぞ。」

すると、悲しい顔をして部屋を出ていった。

向かった先が格納庫だと信じたい。

 

生地を作ったり、下ごしらえが取り合えず一段落ついたところでアメリーが、話しかけてくる。結構真面目な顔をしているのでそういう話なのだろうか。

「バーフォードさん。まず初めに言っておきます。私はウィルマさんがもうシールドを張れないのは知っているんです。バーフォードさんも、もちろん知っているんですよね?」

「あぁ。」

アメリーはウィルマと同室だから、気づいていたのかも知れんな。

「ならなぜ、ウィルマさんを飛ばすのを許したのですか?」

「それが彼女の意思だからだ。なら俺はそれを最大限尊重する。」

「一歩、間違えば死ぬのをわかっていても許すのですか?」

「そうだ。」

「何でですか?」

一息おいて、答える。

「彼女の僚機として、一人の男として信じているからだ。」

「……信じている?」

「そうだ。彼女が他のだれの意思でもなく自分の意思で、自分で決めて飛ぼうとしている。なら俺はそれを尊重する。教えられることは何でも教える。危なそうにしていたら何度だって助ける。まぁ簡単にいえば飛びたいと思ってるなら飛ばせてあげたいってことだ。」

アメリーはため息をついて続ける。

「私としては出来ればもう飛んでもらいたくは無いのですが、何故かこの人に任せれば大丈夫って気がするんですよね。」

「その点は問題ない、と思う。」

「思うって…。とにかく、ウィルマさんをよろしくお願いしますね。私にとっての恩人の1人なんですから。この人が教えてくれたから私は自信を持って飛ぶことが出来るようになったんですから。」

「わかってる。任せろ。」

「それで、ウィルマさんのことどう思ってるんですか?」

「信じていると言ったはずだか?」

「そうじゃなくて、好きなんですか?」

一瞬なんて答えるか戸惑う。俺にとって彼女は。

腹を決めるか。迷ってもしょうがない、答えは決めていたはず。

「だろうな。」

「そうですか!それじゃあ、いつ伝えるんですか!まさか、今日ですか!?」

急に元気になったな、こいつは。

他人事だと思いやがって。

実際こいつにとっては他人事だしな。

「今日は、無理だろ。」

「なら、12/31にしましょう、迷っていてもしょうがありません。あと1週間で覚悟決めてください。」

「おい、ちょっと待て。」

「どうせなら、ロンドン行ったらどうですか?そこなら、日付変わった瞬間に花火が上がるんでチャンスですよ!」

まずい、流される。でも、こいつの意見を参考にする価値はあるよな。俺こういうの疎いし。

「じゃあどうやって抜け出すんだよ?」

「私が、隊長を説得します!何とかします!」

「わかった。考えておく。さて、続きを作ろうか。」

「はい!」

ここで切り上げないとこのまま暴走しそうなのでやめさせる。

そのあとずっとアメリーは機嫌がよかった。

「ウィルマには言うなよ?」

「言いませんよ、言ったら面白くないじゃないですか。」

 

1900

何とか全部出来たが大変だった。あのあとアメリーがちょくちょく失敗したり迫り来るラウラを阻止したり、突破されて欠片1つもっていかれたりなど色々あったが無事完成。

テーブルに乗っけて全員が集まったところで隊長が一言。

「無事に今年もクリスマスを迎えることが出来ました。まぁあと少し日付は残っていますが誰かさんみたいに怪我しないように注意していきましょう。それではメリークリスマス!」

隊長の誕生会でどれくらいが適量かは大まかに解っていたのがよかった。ぶっつけ本番はあまりしたくはないからな。てかなかなか早いペースで消えていくがあいつら平気なのか?

まぁ元気みたいだしいいか。

最後、ケーキを食べ終わったあと、全員に前に買ったプレゼントを渡した。結果は上々。喜んでもらえてよかった。

それから1時間後、隊長以外がソファーで並んで寝ていた。平和だな。

食器を洗って、仕舞い終わったのが1100だった。

「お疲れさま。今日はありがとうね。あっ、コーヒー淹れましょうか?」

「頼む、少し疲れたから休ませてくれ。」

隊長の優しさには感謝だな。

「はい、どうぞ。」

「ありがとう。で、何か話があるのか?」

「解っちゃった?ええっとね、………」

内容はアメリーが聞いてきたのとほとんど変わらなかった。なんだ、しっかり見ているじゃないか。

それで、一応全てを話しておいた。

すこし、3分くらい黙ったあと。

「大晦日、行ってらっしゃい。特別に許可するから。」

「いいのか、そんなことして。」

「休暇は出せるのよ?軍人でも。それにこの基地の決定権は私にあるからいいの。」

「わかった。ありがとう。」

「いいのよ、これくらいしかできないし。」

それで隊長とは別れる。この基地のみんなには助けてもらいっぱなしだな。

 

次の日今年最後の501との情報交換に向けての資料を取りに行くためにロンドンに向かった。今回は直接来てほしいとのこと。

昼を現地で済ませて司令部に向かう。

部屋に入るなりジャックに冷やかされた。

「聞いたぞ、大晦日にプロポーズするんだってな。」

「………………誰に聞いた?」

「ワイト島の指揮官が直接連絡をくれてな。よろしく頼むだそうだ。」

隊長…………

「それで、どういうプランでいくのか?」

「まだ、決めていない。」

「なら、参考までにこいつを見ておけ、きっと役に立つはずだ。」

なんかいろんなイベントの時間が書いてある。てか仕事しろや。ありがたいけどさ。

「あと、悪いが大晦日の日は彼女もつれてきてくれ。話がある。」

「何を話すのか?」

「マロニーの計画についてだ。」

「彼女を巻き込むのか?」

「いや、身内になるなら教えておいて損はないだろう。どうせいつかは話さなきゃいけないんだ。」

「だからって、その日に話す必要はないだろう。」

「まぁ、それは建前で本音は彼女をここに呼び寄せるためだ。」

ずっこけそうになる。

「休暇をもらったんだろ?年越しくらいこっちでゆっくりしろよ。ホテルはとってやったから。金は給料から引いておいたからな。」

「手際がいいのか悪いのか。まぁそれは感謝するよ。こいつをもとに計画を立てる。」

「頑張れよ。くれぐれも、彼女を退屈させるようなプランは立てるな。後で見せろよな。既婚者として評価してや?。」

「わかったよ。」

「ただ、もう3日からは仕事に戻ってもらうからそのつもりで。」

「了解。それで、資料の方は?」

「これだ。あとあちらさんからも資料をもらうと思うから31日に持ってきてくれ。以上だ。何か質問は?」

「ない。」

「なら結構。頑張れよ。」

わかってるよ。

 

その晩、いつも通り資料を受け取り、また渡して終える。

「次は来年の5日だそうだ。」

「了解しました。」

「あと、奴等はこっちの予定関係なく来ると思うから気をつけて。よいお年を。」

「よいお年を。」

そうして別れる。今日は電波の照射はなかった。

 

そして、決戦の日。12/31。

どう出るかは俺もわからない。だが、やるしかないよな。

隊長はウィルマには交代で休暇が取れるようになったのでまずあなたたちからと説明したらしい。

怪しまれることなく、出掛けられた。

部屋を出て、アメリーとハイタッチをして、フランには頑張ってきなさいと言われ、ラウラにはbと無言で励まされ、隊長には肩を叩かれ頑張ってねと言われた。

てか、みんなに言ったのかよ。

「行ってくる。」

なんか、フラグみたいだな。

そして、荷物を積んでロンドンに向かう。

「今日は、何があるの?」

「ジャックが、話すことがあるらしい。ウィルマが一番知りたがっていることだ。」

「前に言ってた計画?」

「そうだ。」

「そのあとは?適当に。ただ、大晦日だけあっていろんなイベントやってるみたいだからまわるか?」

「まわりたい!」

その後も適当に雑談して前回同様車を一旦司令部において現地で昼を済ませる。

ジャックの部屋についたのは1330だった。

「お忙しいところ、申し訳ありません。」

「かまわんよ、どうせ今日はもうやることはほとんどないからな。さて、大まかには聞いていると思うが………」

ジャックの説明は3時間にも及んだ。501の得た情報や俺がまだ知らない情報を交えて話してくれた。

「以上が、すべてだ。納得してくれたかな?」

「ええ。本当はまだ信じられないのですが、事実なら許せないですね。」

「信じていもらえたなら助かったよ。あと、彼の立場も理解してくれると。」

「わかってます。」

「よろしい。それじゃあ、これで解散だ。」

「今日はありがとうございました。」

「いやいや、一人でも仲間が増えてくれるのはこっちとしてもありがたいしな。あと、バーフォード大尉。一旦残ってくれるか、今後の作戦で話したいことがある。」

「ということだ、ウィルマ。すまないが下がってくれ。」

「了解です。」

ドアが完全に閉まったところでジャックが話始める。

「さて、どうだ?緊張してるか。」

「すこしな、俺のこの世界での人生がかかってるからな。」

「違いない。とりあえず、荷物を置いてから行くといい。これが予約表だ。」

「ありがとう、いってくる。」

「まるで息子の旅だちを見ている気分だ。」

「俺はダチだと思っているがな。」

「頑張れよ。最後に、」

「?」

「ホテルの部屋は防音だぞ。」

「やかましいわ」

 

バタン。

「ウィルマ、行こうか。」

「どんな話だったの?」

「下らない世間話だった。」

「へー。」

 

そのままホテルに向かい、当たり前のように同じ部屋だった。ウィルマは気にしてないみたいなのが救いだ。

1700

「さて、町にでもいきますか。」

「そうだね。」

ロンドンは意外なほど賑やかだった。ネウロイと戦っているようには思えない。いや、敢えてこんな空気を作ってるのかもしれないな。

少しでも元気を出してもらえるようにと。

「なんかいいね、この空気。」

「そうだな。」

「けど、私たちがひとつでもミスしちゃえばこの人たちの笑顔が無くなっちゃうかもしれないんだよね。」

「そうならないように訓練して戦ってるんだろ。」

「そうだよね。頑張らないとね。」

「無理しすぎるなよ。」

こんな雑談をして途中変なバーで夜食を済ませて広場で催し物をやっているのを見てたら時間は2330になっていた。時間がたつのが早いな。

花火が見やすいと言うテムズ川の街道で芝生に腰を落とす。

「ねぇ、バーフォード。前に言ってたリョウって名前。教えてくれない?」

「そうだな。一応、国の名前はこっちに会わせて話すから心配しないでくれ。

俺の両親は父親がブリタニア人、それも扶桑人のハーフ。母親が扶桑人だった。だから俺はクウォーターなんだよ。それで、生まれた時につけてもらったときの本名があるんだがそれは今は隠してる。一応本当に親しいやつにだけリョウと呼んでもらっている。ちなみに名前の一部だ。」

「なんで、そっちで名乗らないの?」

「父親の仕事の関係でブリタニアに移り住むことになったんだ。ここの国籍も取って平穏に暮らしてた。俺が8の時、父親の会社がリベリオンにも出ることになってな。その支店長に父親がなることになった。大騒ぎして親戚も呼んでいいとのことになって親戚も全員呼んでパーティーを開いたんだ。会社の人も呼んで。けど、それが仇になった。」

「というと?」

「あとは昔話した通りだ。そのパーティーを開いていたビルに飛行機が突っ込んでな。俺は冒険とか好きだったからパーティー抜け出してたまたま来たエレベーターで下に降りたんだ。受付の人と話してたらものすごい衝撃が来てな。あとはもう滅茶苦茶だった。家族全員が死んで本国に送還された。そこに目をつけたのがMI5。どうせ、身寄りがいないのなら小さいうちから教育させる極秘のプログラムがあって、そこで俺はあらゆる術を学んだ。諜報、戦闘術、心理学、サバイバル術、何でもだ。そこで、今の名前が与えられた。

結局10年くらいたってパイロットになった。その1年後にジャムが来た。俺は条約に乗っ取ってFAFに、送り込まれてあとはずっと戦っていた。そこでジャックに会った。これがすべてだ。」

「…………………」

ウィルマも黙ってる。せっかくの雰囲気を台無しにしちゃったな。まぁこれも話すべきことだったしな。それに、

「だけど、俺の人生はまったく嫌なものではなかったよ。」

「…………?」

「この世界に来てようやく、時分がどうして生まれてきたのかわかった気がするんだ。」

周りがあと60秒!と騒ぎ始める。

もうそんな時間か。

「立って、それとこっち来て。」

ウィルマに促されて川の近くまで来る。

「ここなら花火も綺麗に見れるから。」

そっか。なるほどね。

むかいあわせに立って両手を握られる。

彼女の体温が手を経由して伝わってくる。

30秒

「あのね、私も貴方に色々教えてもらった。

そして、初めてこの人とならずっと飛びたいと思えるようになった。」

15秒

「来年も飛びたいな。一緒に。」

「飛べるさ、僚機なんだから。」

5秒

「来年もよろしくね。」

あぁよろしく言おうとした瞬間。

 

キスされた。

 

時間にして数秒。

そして花火が上がる。

まわりは歓声に包まれるがどこか遠くから聞こえてくるようにしか思えない。

「ウィルマ?」

「やっぱり、来年だけなんて嫌だよ。私は貴方とずっといたい。ずっと貴方と一緒に空を飛びたい。もうシールドも使えなくなるけどそれでも貴方とできるだけ時間を共有したい。ずっと隣にいたい。

だから

私を守るナイトになってくれませんか?」

すこし、涙声でいってきた。

俺は何も言えなかった。もちろん嫌なわけがない。

だが、なんと言えばいいのかわからなかった。

ウィルマは待ってくれている。

もしかしたら、生まれて以来一番焦っているかもしれない。

と、そのとき、周りがヤジを飛ばしてきた。

『待たせるなんてどうしたんだー!』

『早く返答してやれよ!』

あわてて回りを見るとなんか俺たちを中心に少しだけど人だかりができてる。気づかなかった。

だがお陰で緊張はしなくなった。それに覚悟はできた。

俺は膝をついて、ウィルマの左手を取る。

そして、誓う。

「ウィルマが望むなら、俺は君を守ってみせる。何があっても例え誰もが君を見放したとしても俺だけは君を守る。だから、」

立ち上がって手をとり、目を見つめる。そして

「ずっと俺のそばにいてくれますか?」

 

静寂が訪れて

「はいっ!」

笑顔でうなずいてくれた。

彼女を抱きしめてありがとう、と呟く。

泣きながら頷いてくれた。

もう、周りは大騒ぎ、てかやかましい!!

もう一度こっちからキスをして、ウィルマを離すと知らない奴らが一斉に話しかけてきた、肩を組まれたり揉みくちゃにされながら抜け出せたのはその30分後だった。

 

ホテルに戻って顔を見合わせる。

「なんか、今日は大変だったね。あとさこれからもよろしくね。」

「うん。」

会話が続かない。

いつもならスラッとなにか話すことが浮かぶのに。

 

「ひとつお願いがあるの。」

「ん?」

「わたしを、抱いてくれない?」

吹いた。

「意味わかってていってる?

「もちろん。むしろ、今日だから。この気持ちを忘れたくないから。お願い。」

「本当に?」

「うん。」

「後悔はしない?」

「あなたなら絶対に。」

「………………わかった。」

「あとひとつだけ、リョウって呼んでもいい?なんか、本当の名前を聞いちゃったらそっちで呼びたくなっちゃた。そっちの方が安心する。」

「わかった。よろしくね、ウィルマ。」

「ふつつかものですがよろしくね、リョウ。」

 

 




これは構想の段階から絶対にやりたかったことでどうしても譲れないイベントでした。
やれてよかった。

ワイト島編もあと10話以内で終わりかな。


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第20話 参賀日

ようやく話を通常路線に切り替えられました。
アマアマもちょっと含めながらアニメ1期との連動も、もうすぐ終わります。




0555

いつも通り目が覚める。

寒い。

隣を見ると彼女が寝ていた。

ゆっくり、体を起こしてとりあえず着替える。

1945年。前にいた世界では激動の年だった。

おそらくこっちの世界でも地図が変わるような大きな戦いがあるかもしれない。

そして、俺はその最前線で戦うことになるだろう。

まだ寝ている彼女を見て不安になる。俺は守れるのか?

また失うんじゃないかという不安に襲われる。

いや、失わないようにあらゆる術を教えているんじゃないか。もうあんなへまをしないように。

不安を打ち消す。

時計が鳴った。すぐに消す。

どうしようか、起こそうかな。でもまだ寝顔も見てたいし。

ウィルマが寝ているベットに腰掛けて彼女の髪を撫でる。というか、今日はどうしようか、1600までに基地に帰ればいいとして1400くらいまでは自由に使えるのか。

フロントで聞いてくるか。

立ち上がろうとしたら服を捕まれた。

「どこ行くの?」

「起きてたのか、下で今日のイベント何があるのか聞いてこようと思って。」

「私も行く。」

「なら起きろ。40秒で支度しな。」

「そんなんじゃ無理ー。かばんとって。」

「はいはい。」

まだ寝ぼけてる。目が半分くらいしか開いてないし。

「服、前後ろ逆だぞ。」

「んー。わかった。」

着替えるのに15分かけてようやく部屋を出る。

「それで、下に何しに行くの?」

「聞いてなかったのか?」

「聞いてたけど忘れた。」

「フロントに今日のイベント何があるのか聞きに行くんだよ。あと、朝御飯を食べに行く。」

「わかった。」

1Fに降りて聞いてみると特にはなにもやらないらしい。今日からは世間一般じゃ、普通に日常が始まるとのこと。

「なにもないんだって。」

「ブリタニアじゃ、盛大になんかやるのはクリスマスだからね。今日から仕事の人も多いんじゃない?」

「それを早く言えよ。」

「今思い出した。ごめんね。」

笑顔でそんなこと言われたら許せないはずがない。

「それより、朝御飯いこうよ。」

「だな。」

適当に朝食を済ませて部屋に戻る。

 

「さて、今日はどうする?」

「ゆっくりしたい、昨日は疲れた。主にリョウのせいで。」

「それでも、10時には出なきゃいけないんだ。」

「スルーですか。だったらギリギリまでゆっくりしたら、どっか適当に回ろうか。」

「そうしますか。」

壁に寄りかかりながらベットで座って外をみてる。

今日は快晴か。ロンドンは霧が多いって聞いてたがそんなことはないのか。

0900を回って時計が9回なる。

「一昨日ね、リョウがいないときにみんなで話し合ったの。」

「何を?」

「私が付き合うことになったらどうするかってこと。最初ね、話したらみんななんかそんな気がしてたみたいなこといっててビックリした。薄々気がついていたみたい。そうしたら、私おいてけぼりで話がエスカレートして最後に、隊長が"私達は2人にさせてあげることしか出来ないから、あとはあなた次第。頑張ってね"みたいなことをいってくれたの。」

「だから、みんな知ってたのか。」

「リョウも知ってたの?」

「出発する直前にみんなに励まされた。」

「そうだったんだ。だったらお礼しないとね。」

「じゃあ、ここ出たらそれ探すか。」

「そうだね。」

そのまましばらくボーッとして0950に部屋を出る。

チェックアウトして荷物を車に乗せる。

車を駐車場から出して適当に別の駐車場を探して止める。

その足で店がたくさんあるところまで歩いていく。

「何にしようか。」

「なんか、個人個人よりはみんなで1つの方がいいんじゃないか?」

「じゃあお菓子かな?」

「クッキーとかいいな。」

「紅茶は?」

「じゃあ両方で。」

「両方か。組み合わせも悪くないしね。それでいこう。」

お菓子やさんで俺がクッキーを買う。ウィルマも何か買ったみたいだ。

「なに買ったんだ?」

「秘密。」

「ケチ」

「後で教えてあげるか。」

(´д`|||)

「そんな顔しないで、絶対教えるから。」

腕を組まれた。

「なんか、らしくなってきたな。」

「ふふん、そうでしょ?」

そのあとも教えてくれなかった。

紅茶もいろんなものの詰め合わせにした。

時間は1250。フィッシュアンドチップスに挑戦したが意外といけた。こっちは噂よりよかった。

ただ、ウィルマばお気に召さないようなのでケーキのお店に連れていったら喜んでくれた。

「どうしてこんなお店知ってるの?」

「利用したことあるからな。」

「へー、誰と?」

「上司とだよ。」

「ダウディング大将?」

「違う、そこ頃はまだ知り合いじゃない。」

頭にさの上に?が、出てそうな顔をしてる。

「じゃあ、いつ利用したの?」

「単純計算だと、64年後かな。」

「?????」

「この世界に来る前だ。」

「えっ、それじゃあこのお店は60年後の別の世界にもあるの?」

「あぁ、もしかしたら世界が近いのかもな。」

「面白いね!」

全くだ。

買い物も終わったので基地に帰る。

車内では疲れたのかウィルマは寝てた。

1545

「「只今、帰投しました!」」

「おかえりなさい。」

みんなにやにやしながら言ってくる。

俺とウィルマは顔を見合わせて、覚悟を決める。

ウィルマの肩を抱き寄せて

「知っていると思いますが報告します。フレデリック・T・バーフォードはウィルマ・ビショップと付き合うことになりました。色々、応援ありがとう。」

「ありがとうね。」

みんな拍手してくれた。

よかった。

「プロポーズの言葉は?」

「どこまでいったの?」

「気になる。」

一気に迫ってきた。

「ウィルマ、後よろしく。」

「えっ?」

「車の中で寝てただろ?俺は運転で疲れたから休む。」

「ちょっと!?」

「あとで、ちゃんと愚痴は聞くから。」

とにかく逃げる。どうせ終わらないだろうしな。

その後5時間も話したらしい。ガールズトーク恐るべし。

 

深夜、ウィルマが部屋に入ってきた。

「これあげる。」

渡されたのはクローバーのチャームだった。

「これは?」

「前にチャームくれたでしょ?そのお返し。ちょっと屈んで。」

言われた通り屈むと持っていたチャームを取られてそのまま首の後ろに手を回されて、チャームが首にかけられた。

「ありがとう。大切にする。ウィルマ、俺も掛けてあげるから貸して。」

同様に掛けてあげる。

「それで、クローバーはどういう意味なんだ?」

「秘密、恥ずかしくて言えない。」

「なんだそれ。」

「ありがとうね、それじゃ!」

走って行ってしまった。

クローバーの花言葉を調べてみると"幸福"、"私のものになって" らしい。

全く、可愛いことしてくれるな。

 

次の日

「隊長達は休みを取らなくていいのか?」

「ワイト島勤務事態が休暇みたいなものだしね。私は平気よ。」

「私はウィルマさんの話聞けたら満足でした。休みなんか要らないくらい幸せになれました。」

アメリー、お前はそれでいいのか。

ほかの2人も似たようなこと言っていた。

なんか、思い思いにボーッとしてしているが、奴等にとってそんな事情は関係ない。

 

ネウロイ接近警報

その瞬間全員のスイッチが切り替わる。

「スクランブル!」

それと同時に部屋の電話も鳴る。

「もう、こんな急いでいるときに!」

隊長が愚痴をこぼす。

「俺が出る。ラウラ、前に教えたスイッチをonにしておいてくれ。」

「わかった。」

俺は直ぐに受話器を取る。

「誰だか知らんがこっちは緊急発進なんだ。後でまたかけてくれ。」

『バーフォードか!俺だ。こっちもそれに匹敵するくらいの緊急案件だ。』

FAF語で電話とは余程ヤバイことらしい。

「ジャックか、続けてくれ。」

『15分前、廃墟から謎の飛行物体が発進した。追跡した結果、ガリア方面に飛んで行ったとのことだ。だが、途中で振りきられたらしい。かなりの速度だ。』

「もしかして、これも関係が?」

『あるだろう。伝達、VFA-21、1番機は速やかに不明飛行体を追跡しろ。命令だ。』

「了解。」

格納庫に走る。既に殆どが離陸体制に入っていた。

ラウラ、助かる。

速やかにエンジンを作動。

離陸する。

「隊長、聞いてくれ。さっきの電話は司令部からだった。別方面からネウロイが接近しているとのことなので俺はそちらにあたる。ウィルマこっちに来てくれ。」

「?なに?」

「君には言っておく。一昨日ジャックが話した不明機がどっかを飛んでいるらしい。俺はそちらにそちらを担当する。ただ、速度が速すぎて俺にしか追い付けない。ウィルマ、隊長達のサポート頼んだぞ。」

「了解!」

「戦闘前に2人の世界とは羨ましいですね。」

「それじゃあなー。」

逃げるように離脱する。

さて、とりあえず探すか。

ジャックに回線を繋ぐ。

「現在の不明機の位置は?」

『不明、ただ501にもスクランブルがからそいつらが来た方向を探ってくれ。もしかしたら奴が誘い出したのかもしれん。』

「了解、情報が入ったら知らせてくれ。」

『任せろ。』

15分ほど探しているとコンタクト

見つけたら。

「発見、ガリアの海岸線に沿って南下中。他のやつと比べれば恐ろしく早い。」

『速度は?』

「音よりは遅いが他の機体よりは速い。まぁ、メイブの敵じゃない。高度18000から偵察を開始する。」

『了解、頼んだぞ。奴等の切り札とやら、拝ませてもらおうか。』

上空から偵察行動開始。

攻撃をしてこないところをみるとまだ気づいていないのか。奴との距離を考えればそこまで探知範囲は広くないのかもしれない。

たが、ネウロイの巣に近づいていると言うのに一向にネウロイがこっちに来ないのが気になる。

ステルスか?いや、メイブの空間受動レーダーにではなく、普通のレーダーに反応したということはステルスではないか。なら敵に味方と判断されているのか?

ネウロイはこっちには絶体に気づかない。なら味方と思われているのか。やはりコアを使っているのには間違いないか。

敵進路変更、帰投コースか。敵がこっちに気づいていないのなら、奴等はワイト島と501は避けて帰るはずだ。となると、ルートは限られる。

本島の海岸線を飛ばさせれば、気づかれないようにするために最大出力を出して飛ぶかもな。

ウィルマに連絡。やつが通りそうな所にネウロイをおびき寄せて進路を全て塞ぐ、海岸線方面以外を。

そちらに転進、かかった!

敵はスピードを上げる。亜音速か、よく出せるものだ。

追跡続行。

Garudaがありとあらゆる情報を収拾していく。

 

そのまま奴は廃墟に着陸していった。

敵は一度も追跡されていたことに気づかなかった。

これなら、ナイトウィッチの方がよっぽど索敵能力は上だな。

「ウィルマ、こちらは片付いた。援護は必要か?」

『こっちも終わってこれから帰るとこ。』

「了解、すぐ追い付く。」

 

基地に帰投後すぐジャックに連絡を取る。

「どうだ?情報は届いたか?」

『あぁ、ネウロイに味方と識別させるか、厄介だ。しかもこれが試験飛行は成功したと見るべきだな。』

「なら、奴等が行動に出るまで時間の問題か?」

『だろうな、ただ新たに入った情報だとまだ1機しかできていないとのことだ。廃墟は地下を考えてもそこまで大きくはない。こいつがいなくなった後潜入したエージェントは部品は発見できたが機体は見つけられなかったらしい。』

「潜入したのか。それで、他の情報は?」

『それだけだ。他は無理だったらしい。』

「なら、あと数機できるまで動かない?と考えるべきか?」

『そうだろう、予備機もないのに計画を実行は出来ない。マロニーも優秀だからそこのところはきっちり解ってるはずだ。こりゃあさらに攻めないとな。』

「わかった。別命があるまで待機している。」

『あと、明日部下に資料を渡すから貰ってくれ。』

「明後日501に渡してくるよ。」

『頼んだぞ。』

ジャックとの、話はおわった。

さて、これからは時間との勝負か。




チャームはお互いで交換するものらしい。
ゲームで知った。

物語も大体3/4が終わった感じかな。
もちろん、ガリアで話を終わらせるつもりはありません。
そこは約束する。


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第21話 新たな脅威

今日はサーニャの出番多いよ。
UA7000ありがとう!



小ネタ

「ねぇ、リョウ。ちょっと相談があるんだけど。」

「ん?」

「みて。」

ウィルマはシールドを展開する。

そのシールドは

「前より大きくなってる?」

「そう。それに強度も増してるの。何でだろうね?」

「わからんが、いいことなんじゃない?」

「不気味だけど、気にしないことにする。」

「そうした方がいい。」

何でだろう?魔力が増えたとか?

そんな簡単に増えるもんなのか。

 

 

次の日の深夜いつも通りランデブーポイントに向かった。今回も資料を交換して終わりかと思ったら少々事情がややこしいことになっていた。

「強迫?」

「はい。バルクホルン大尉とハルトマン中尉が外出した際、病院に立ち寄ったのですがその際車から離れて暫くして戻ってきたら手紙が挟まっていたんです。」

「具体的な内容は?」

「"これ以上知りすぎれば命の保証はない"」

「心当たりは?っと聞くのは愚問か。」

「あるんですか?」

「ミーナ中佐から何も聞いてないのか?」

「はい。」

「少し待っていてくれ。」

ジャックに緊急連絡する。

『どうした。』

「ジャック、501に脅迫があった。差出人は不明だが恐らく奴だろう。」

『なるほど。我々ではなく、501にか。お前達の会談がばれたという可能性は?』

「俺はいつも東に向けて飛んだあと遠回りして、ここまで来ている。こちらの索敵範囲はナイトウィッチより遥かに上だ。それでも発見できないからそれはないだろう。」

『となると、ミーナ中佐あたりが独自に調査していると見るべきだな。お前はどう考える?』

「気にせずこのまま続けさせるべきかと。」

『理由は?』

「1つはどうせ中佐はいってもやめないだろうしここで味方を捨てるのはまずい。もう1つはこれを餌に敵戦力のを釣る。実力行使に出てもらえればこっちのもんだ。

たが、さすがに実力行使はしないだろう。デメリットが多すぎる。出したらこっちが探りを入れることくらい想定しているはずだ。

となると、実力行使というのは例の不明機と見るべきだろう。あの運動性能を見る限りだと現行のウィッチより性能はいい。それに機械だ。殺すのも造作もないだろう。」

『501を解散すると言ってくる可能性は?』

「ネームバリューのある501を解散させて、結果も出していない不明機を民衆が支持すると思うか?まぁ、501が何か重大なミスでもしたら決行するかもな。既に試作機は出来ているわけだし。」

『まぁどっちにしろ、奴等の機体が完成すれば501を解散させに来るだろうな。わかった、その案で行こう。今日から監視も増やす。』

「了解だ。伝えておく。っと待たせたな。」

サーニャの顔を見るとどこか別の方を向いていた。

「おい。」

「歌が」

「?」

「歌が聞こえる。前にも聞こえたんです。ネウロイ!」

該当周波数を探す。

みつけた。

「なんだこれは?」

不思議な音だ。歌と言われれば聞こえるような気もするが不気味だ。

詳細な位置を探る、レーダー範囲外から聞こえるのか。

どこだ?

コンタクト

捉えた。識別。

IFF Enemy

「サーニャー敵だ、北方向。ついてこい。」

「わかりました。」

解析完了 hit1

マロニー派が所有する航空機。

ジャックからの連絡がないということは2機目が、見つかった可能性が高い。

ECM作動。

奴には密会していたという情報を渡すわけには行かない。

こんなところで何をしているんだ?

まさか敵の目が少ない夜間に飛んでいたのか?

「サーニャ聴こえるか?なにか問題があればいってくれ。」

「はい、何とか聞こえます。探知は問題ありません。」

やはり、ナイトウィッチの索敵範囲は電波じゃなかったのか。ECMの影響を受けないとは。

「ですが、ネウロイの反応はありません。何故わかったのですか?」

「固有魔法だ。それより、今更だが共同戦線だ。お互い、協力しあおう。」

別話題にして嘘を誤魔化す。

ネウロイは電波で索敵しているはずだからこちらが攻撃するか目視圏内に入らない限り気づかれない。

「サーニャ、雲海から接近する。接触しないように気を付けてくれ。」

「了解。」

今日が曇りで助かった。

進行方向を先回りして攻撃する。最悪逃げようとしたらリミッター解除して全力で落とす。

「俺が先制する。誘い込むから君の判断で攻撃してくれ。出来るか?」

「できます。」

「わかった。幸運を。」

離脱し、敵を探る。

熱源反応あり。

奇襲する。

標準を合わせ、攻撃。

ファイア!

着弾、正確に当たったが、落ちなかった。

硬い!

装甲を厚くしているのか。

だが、修復が始まらない所を見るとまだ、完全に制御できていないのだろうか。

敵も攻撃してきた。

よし!

これで抗議が来ても反論できる、

回避。

しかし、外見はウィッチに少しにているな。あれはエンジンか。

ならそれを狙う。

後ろについた。

しかし、よく動くなこいつ。

索敵がままらないというのによく動けるもんだ。いや、逆にわからないからこそ、動いているのか。

だが。奴もバカじゃない。

後ろにつかれているとはいえ、ウィッチ達にそれは関係ない。こいつもそうだろう。なんせ全方向攻撃できるもんな。許せんっ!

能力始動

エンジンユニットのエンジン部分にあるわずかな隙間を狙う。

スタンバーイ、スタンバーイ

ガン!

その隙間に吸い込まれるように弾丸が入っていき

左ユニット爆発。

その衝撃で一瞬姿勢制御が出来なくなり回避を中止する。

そこにすかさずサーニャのフリガーハマーによる攻撃が命中。

すごいな、彼女の攻撃もすごいが敵もすごい。なんせ

「今の一瞬で左手を犠牲にするかわりに心臓部への攻撃を防いだのか。」

まだ、飛んでいる。

だが、辺りどころが悪かったのか防いだとはいえ、コアが露出している。

「もう一発打ってくれ。」

サーニャに頼むとすかさず第2射が飛んできて命中。

もう、防御機構も作動していない。

その隙にコアに向かって狙撃、命中。

敵は今度こそ爆散した。

だが、ネウロイのコアやユニットを使っているのにシールドやネウロイの修復機能が作動していなかった。ECMが仕事をしてくれたならありがたいが恐らくは違うだろう。完全には利用しきれていないのか。

何にせよ実戦データと敵戦力の破壊をできたのは大きい。

「無事か?」

「無事です。お疲れさまです。」

「あぁ、お疲れ。それにしてもこれはなんだ?ビームを撃ってきたということはネウロイか?」

「見慣れない形をしていたので恐らくは。反応もあったので。」

よし、これで彼女もネウロイと交戦と報告書に書いてくれればOKだ。

「よし、それじゃあこれで帰投するか。そちらの中佐には"そのまま続けてくれ、護衛は任せろ。それと、無茶はするな。"と伝えてくれ。」

「わかりました。では。」

「それじゃあ。」

帰路につく。

それにしても2機目が出来ていたなんて。別の場所ならかなり厄介だぞ。それにしても、何故歌っていたんだろう。

こうして基地に帰る。

 

 

朝。

「おはよー!」

ウィルマの笑顔が眩しい。

こっちはさっき寝たばっかりだというのに。

てか、部屋に何故いる。

「まだ眠い。」

「今日は哨戒飛行だよ!」

そういえばそうだった。

「一緒に飛べるね!」

なるほど、だからこんなテンション高いのか。

「俺も嬉しい、早く飛びたい。けど、今は寝かせくれ。」

「わかった。」

といって抱きついてくる。臭いを嗅いでいる。変態か。

「寝るぞ、俺は寝るぞ。」

「別の女の臭いがする。」

顔は寝ぼけた顔をしているが、頭は急に覚めた。

何故だ、何故ばれた。

確かにさっき飛んだけどさ、あれは浮気じゃないぞ。

超笑顔、押さえつけられた。

猫耳が出てるってことは魔力全開か、てかガチで動かないんだけど。

「気のせいじゃないのか?この基地はウィルマ以外にもいるじゃん。」

「私の使い魔知ってる?」

「しらん。」

「スコティッシュフォールドなんだ。猫だから、鼻が利くの。」

まじかよ、それずるくない?

「今なら、怒らないで聞いてあげる。」

修羅場だな。しかも、人生あるある、"怒らないといっている人に限ってめっちゃ怒る。"状態。

どうするべきか。悩んでいるとさらに腕に力が入る、ヤバい、これはヤバい。なら正々堂々本当のことを話すしかないな。怒られる要因を潰しながら。

「ジャックに頼まれて501の奴に資料を渡しただけだ。」

「それってサーニャさん?」

何・故・知・っ・て・い・る?

「さっき、大将が教えてくれたの。浮気されないように手綱を持っておいてくれって。」

ジャックーーー!

「一緒に戦ったんだって?いいなー。私はまだなのに。」

たしかに報告はしたが何故ばらす!?

「確かに戦った。ただ、仕方なかった。こっちの事を奴等にばらすわけにはいかなかった。」

「それは聞いた。けど、私が怒ってるのはそこじゃないの。」

やっぱり怒ってるじゃないですか、やだー。

「私だって戦いたい。たしかに今回は仕方なかったよ?わかってる。協力しないとまずかったって聞いた。

けど、心の中ではずるいって感情が渦巻いてるの。

前に私を出撃させなかったのも、私の事を思ってくれているからって知ってる。

けどね、私以外の人がリョウと一緒に戦ったって聞いてなんかね、ずるいって感情が渦巻いてるの。

もうナイトに守られるだけじゃやだ。お姫さま扱いはしないでよ。私だって戦える。」

だから、私を見捨てたりしないで?

そんなことを訴えている気がした。

なんだ、まだ子猫じゃないか。

「悪かった。これからは本当に危ない任務以外は一緒に行こう。」

「うん。」

もう、猫耳も尻尾も消えていた。

抱き締められた。

「浮気しないでね?私は多妻は許さないから。」

「するもんか。絶対にしないよ。」

「約束だよ?」

「あぁ。」

ウィルマが目をつぶる。

顔を近づけようとしたその時

「ウィルマさーん!バーフォードさん起きましたー?」

あわてて、ウィルマが離れる。

「まだ!起きて!リョウ!」

ひっぱられてベッドから落ちる。

「ウィルマさん?」

「おはよう、アメリー。」

「おはようございます。どうしたんです?」

「アメリーのバカー!」

「( ; ゜Д゜)!私何かしましたか!?」

「気にするな。それと朝御飯だな?すぐ行く。」

「は、はい。先いってますね。」

アメリーが部屋から出ていく。

 

「うー。せっかくいい雰囲気だったのに。」

「行こう、ウィルマ。もう目は覚めた。誰かさんのお陰で。」

「そっそれはー、、、」

「夜間飛行明けで疲れてんだけどな。」

「ごめん。」

しゅんとなる。きっと、猫耳が生えてたら耳も垂れ下がっていただろうな。

逆にかわいそうになってきた。

「ウィルマ」

彼女が顔をあげた瞬間、ほんの一瞬だけ、する。

顔を放すとなんか急に笑顔になった。

「行こう。お腹すいたしな。」

「うん!」

元気になったな。これでいい。彼女の悲しんでる顔なんて見たくない。

この平穏が続けばいいと思うがそういうわけには行かない。

もう、火蓋は落とされている。

ある者は来る日に向けて準備を進め

ある者は脅しに屈せずさらに真実にたどり着こうとし

ある者は予定外の邪魔に驚愕するも計画を進めようとし

ある者はその計画を潰す計画をたてる。

そう遠くない日すべては終わる。

どちらが笑うかはまだわからない。

 

 

「てか、猫が使い魔だと、臭いもわかるのか。凄いな。」

「ごめん、あれ嘘。もう、サーニャさんと会ったのは知ってたからちょっといってみたかっただけ。

「なんだ、俺の感動返せ。」

「やだー。」

走った逃げられた。




歌イベントも取り入れてみました。時系列ずれてるけど結果的にはよかった気がする。


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第22話 急変

段々終わりに近づいてきました。
501上陸。
今日はいつもより少な目。


1000

ウィルマと哨戒飛行中に緊急連絡があった。

Scramble order

Vector 168 35 angle4

Intercept.

Copy

ネウロイを観測。迎撃命令発令。

本来であればワイト島の管轄範囲であるが、501の2人が無断で出撃し演習を行っていて独断で迎撃に向かったらしい。

実弾を持ってはいるが片方はルーキーのため、スクランブルがかかった。

哨戒飛行中で援護に行ける距離だから速やかに迎えとのこと。

馬鹿が!何故そんなつけ込まれる隙を作った?

下手をすれば命令違反を起こしたってことで責任を取らされるかもしれないのに。

とにかく、愚痴ってもしょうがないので迎撃に向かう。501からもインターセプターが出撃したとのこと。あちらさんの方が先に着くみたいだな。

 

どうやら無断で出撃したやつらが接触したらしい。

しかし、Engageを宣言したあと敵の詳細が入ってこない。何か問題が?いや2人が同時にやられるはずがない。片方がルーキーとは言え腐っても501だ。そんな簡単にやられるはずがない。

 

5分が経過したあとも続報が入ってこない。

何が起きている?

「ウィルマ、急ぐぞ。何かおかしい。」

「了解。なにもないといいけど。」

コンタクト、反応は敵1味方だと3、そのうち1つがもうすぐ接触する。パターンから2つは宮藤、坂本と判明。もうひとつは不明。

そして、敵の反応と宮藤が止まった?

何をしている?停止したまま30秒が過ぎ、坂本が攻撃範囲に入った。そしてレーダーの反応は

 

 

 

 

 

坂本を現す点が×になった。

『Sakamoto/Mj Lost』

撃墜と。

 

 

 

 

 

 

「Mayday,mayday Emergency call!坂本機が落ちた。ウィルマ、救助に迎え。俺は敵を落とす。」

「了解!」

敵ネウロイはかなりのスピードで戻っていく。

人型?確かネウロイは地球の様々な者を模倣した形とは聞いていたがまさかここにも人型が出現するとはな。

行き先はネウロイの巣か。

追いかける。

しかし、いかんせん巣に近かった。

レーダーに多数のネウロイ反応。護衛機か。反応は25。正直いってあの数は無理だ。

どうする。一旦追いかけるのを止める。護衛機は攻撃してこない。

ネウロイの巣が視認できる距離でミサイルを使うわけにはいかない。

くそ、次は落とす。

「ウィルマ、状況は?」

『回収したよ。501に急行する。』

「わかった。俺も向かう。すぐ合流する。ジャックに連絡をとる。緊急事態が発生していることを伝える。

「………というわけだ。それと少佐を501に運んでいる。あっちに連絡しておいてくれ。」

『了解した。着いて一段落したら中佐と話がしたい。お前も交えてな。わかったな?』

「了解。」

ウィルマ達に合流する。

「ウィルマ、状況報告を。」

「まだなんだ。ペリーヌさん、出来る?」

「は、はい。ええっと、ああっと…」

「ペリーヌ・クロステルマン中尉か?落ち着け。俺はブリタニア空軍所属のフレデリック・T・バーフォード大尉だ。何があったか話せるか?」

「はい。あ、あの!少佐が、怪我を…。」

息が荒い。体も震えている。あきらかに異常だ。

「ダメだ。パニック症候群だ。俺が上官であることも理解できてない。一旦落ち着かせよう。宮藤軍曹。話せるか?」

「は、はい。何とか。」

「わかった。簡潔に素早く報告しろ。」

ペリーヌと演習を行っていたこと。演出中にネウロイと接触したこと。そのネウロイは人型で敵意はなかったこと。話そうとしたら坂本少佐が来て怪我をおったこと。

全て話してくれた。

まさか、奴等からこんな形で接触してくるとはな。

そして、扶桑の士官が部下の失態で怪我をしたなんて話は隠せるものではない。近いうちにマロニーは来るだろう。

501が見えてきた。これ以上はジャック達と話すべきだな。

既にウィルマが着陸許可申請、医療班の待機要請をしてくれていた。

先に彼女らを着陸させる。

後から俺が続いて着陸。

「ミーナ中佐と話がしたい、至急話をつけてくれ。」

「誰だ貴様は?」

「あれ、バーフォード大尉だ、わかった。すぐ呼んでくる。」

「あ、おい!ハルトマン!」

人脈、バンザイ。

しかし、いろんな奴がいるもんだ。

「あ、バーフォードか。どうしたってあの騒ぎで一緒に来たのか。」

「大尉だ、こんにちは。」

シャーロットとルッキーニ少尉か。

彼女とは階級が同じなんて、この世界理不尽や。

ルッキーニはあったときからなんか他人行儀だしな。

「シャーロットか。そうだ。なかなかヤバイことになってるんでな。」

「何があったんだ?」

「俺の口からは何とも。中佐が許可したら話せる。」

「なるほど。こんな状況じゃなかったらそのユニット乗りたかったんだがな。」

「そもそも、こんな状況じゃなかったらここには来ないし、絶対に乗せない。俺がいないとき、触るなよ。触ったら、どうなるかわかってるな?」

「わかってる。冗談だよ。」

「ならいい。」

ユニットを置き場に置いて、とりあえず靴を借りてはく。ウィルマはリーネと話している。姉妹だもんな。なんか似てるし。

しばらくするとミーナ中佐がきた。ウィルマを呼ぶ。

サッ、敬礼。

「ブリタニア空軍、特殊戦術飛行隊、第2飛行中隊、第21飛行小隊所属、一番機フレデリック・T・バーフォード大尉と」

「同所属の2番機、ウィルマ・ビショップ軍曹です。突然の訪問失礼します。」

「501の指揮官のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です。構いません。状況を説明してもらえますか?」

「わかりました。中佐、ダウディング大将も状況確認を求めているので繋ぎます。」

中佐に無線を付けてもらってgarudaで暗号化したものをジャックが持っている端末と接続し通話する。

『ヒューゴダウディング大将だ。いつも書類上では世話になっているな。突然の部下の訪問すまないな。』

「いえ、構いません。それで、状況は?」

『大尉、報告を。』

「了解。」

そして、宮藤から聞いた情報を話す。

「ネウロイが人と接触ですか。考えたくないですね。」

『まぁ、可能性は無かったわけではない。さて、問題は少佐の容態と今後についてだ。中佐、坂本少佐は?』

「現在治療中です。宮藤軍曹も治癒魔法を使って治療に参加していますが今は不明です。」

『わかった。続報が入り次第教えてくれ。さて、今後の予定だ。中佐、彼女をどうするつもりだ。』

「まだ、考えていませんが最悪なものにはしません。」

『わかった。さて、これが一番聞きたいことなのだが、上にはいつまでに隠せる?』

「数日程度かと。大将からの情報で監視員がいるのはわかっています。すぐ連絡は行ってしまうでしょう。」

『わかった。隠し通すのは無理か。中佐、一旦無線を切ってくれ。』

「わかりました。」

こっからはFAF語だ。

「ジャック、状況は最悪だな。本音を言ってしまえばあのまま接触してもらいたかったが、こうなってしまったんだからプランを考えよう。」

『ネウロイがもう一度接触してくる可能性は?』

「高いだろう。宮藤の話や、レーダーの動きからも見て、敵は宮藤を特別視している。宮藤がまた出れば接触して来るだろう。」

『となると、今もっとも最善の策は宮藤がネウロイと接触した情報を中佐に報告、それを受けて、俺がマロニーの廃墟を強制視察、かな。だが、マロニーは来るか?1機はこちらで破壊してあるので奴等には1機しかないはずだ。』

「だが、奴等にとっても最大のチャンスだ。この機会を逃すとはおもえない。1機だけでも強行してくる可能性も充分ある。」

『なるほど。それじゃあ作戦はマロニー派がくることを前提にたてた方がいいな。宮藤の処分はどうさせようか。』

「もう一度接触させるためにも宮藤の処分は処分保留、それが無理なら謹慎程度にさせるべきだろう。上には人型で困惑していたところを狙われたといえばある程度は通じるだろう。

それに正義感の強い彼女のことだ。脱走してでも彼女から接触しようとするだろう。」

『よし、それでいこう。中佐に繋ぐよう言ってくれ。』

「中佐、繋いでくれ。」

「わかりました。」

『ミーナ中佐、宮藤の処分は軽いものにしてほしい。表向きは人型に困惑した宮藤が戸惑っていたところに少佐が、到着。宮藤をしかったところで攻撃をうけた、と説明しろ。実際はマロニーの計画に対抗するためだ。明日にでもどうするべきかの書類を送らせる。』

「………わかりました。大将、あなたにはご恩がありますのでそれを返すつもりで動きます。ただ、部下の命をさらすようなことはさせません。」

『それは、こっちもだ。あと、最後に警告だ。マロニー派が近く、介入してくるかも知るない。こちらでも手を打つが間に合わないかもしれない。気を付けてくれ。少佐の件は間に合えばいつもの交換のとき、報告してくれ。』

「了解です。」

『VFA-21は、一旦帰投。別名あるまで待機しろ。』

「了解。」

無線を切る。

「ミーナ中佐、一旦我々は帰投します。今夜、いつも通りサーニャを哨戒に飛ばしてください。その時に詳細は渡します。」

「わかりました。では。」

敬礼して、ユニットに乗る。

帰投。

帰る途中ウィルマが話しかけてきた。

「これからどうなるんだろうね?」

「わからない。ただ、数日中に全て決着がつくだろうな。」

「なるほど。あーあ。せっかくの二人での飛行時間が無くなっちゃったね。」

「仕方ない。また次回があるさ。」

「だね!」

ワイト島に着陸する。

 

 

 

夜。

ジャックが、急ピッチで作った資料が日付が変わってから航空便で届いた。

それを持っていつも通りの場所に向かう。

「少佐の容態は?」

「ついさっき目を覚ましました。」

「ならよかった。これが作戦書だ。あらるゆ状況に対しての対応案が書いてあると言ってくれ。」

「わかりました。あと、こちらが今回の調査書です。」

「ありがとう。あと、交換はこれが最後だ。もう、会うことはないだろう。」

「わかりました。」

「それじゃあ。」

「あ、最後に。」

「?」

「いままで、ありがとうございました。それでは。」

「ああ、またどこかの空で。」

こうして別れる。二度と会うことはないと言っときながらどこかの空では矛盾してるかもしれないが一種の挨拶だな。

さぁ、激動の3日が始まる。

少し睡眠を取ったら恐らくは出撃だ。

決着は全て3日以内につけるとジャックが言っていた。

間違いないだろう。

この戦い、負けられない。




あした、更新できないかもしれません。
できたらします。できれば、更新記録を途絶したくはないし。


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第23話 lastoperation(上)

上下構成なので今回も短め。



 

いつだってそうだ。

予定なんていつ、ずれるかわからない。

予定通りいくことなんてあまりない。

今日だってそうだ。彼女は魔力の関係から次の日は大人しくしていると思ってた。

だが違った。

彼女は俺達の予想をことごとく裏切った。

なんとも皮肉なもんだ。軍規を守らないような奴を手配したと言うのに常識にすら縛られないとは。

お掛けで何とか間に合うはずだった作戦も完全におじゃんだ。しかたない。プランBだ。マロニーの後手になるが最後は勝てばいい。

それにしても中佐にはよく働いてもらった。

いままで、散々だった501をこの最高な形にまで仕上げた。俺の無茶だって聞いてくれた。迷惑をかけたな。きっと指示書だって読めばすぐ理解してくれるはずだ。

後、あいつもそうだった。いつだって作戦をこなし、帰ってきた。

それに今は彼女もいる。

人は変わるものだな。

さて、俺が出来るのはあいつに今知っている情報を伝えるのと、作戦実行の命令を下すことだ。

コードネーム:ウォーロック、か。機銃とビーム両方を使えて、変形もできるのか。

システム軍団が泣くな。

そして、コアコントロールシステムだと?しかも5機必要なのか。

まぁ、今となってはあいつに渡す以外使い道はないな。

指揮官として、やるべきことをやる。

端末をとり、連絡をとる。

1コールで応答があった。

「作戦を伝える。」

行ってこい。

 

 

『作戦を伝える。』

すでにスタンバイ状態だったので、すぐ連絡がとれた。

『先程、宮藤が脱走した。501には彼女の撃墜命令が下ったそうだ。中佐のことだから追いかけはするだろうが、撃墜はしないはずだ。マロニーは必ずそこに漬け込む。総じて501を解散させるだろう。だが、俺はそれにあえて乗っかる。

ウォーロックには重大な欠点がある。詳しくは後で送るがお前には前に1機撃墜してもらっていて本当に助かったよ。

マロニーは必ず作戦を成功させる必要がある。何てったってもう奴は後には引けない

イレギュラー要素のせいで動き始めてしまったからな。なら、奴のすることは1つ。ウォーロックの有効性を証明すること。それしかない。だが、恐らくは無理だろう。最高の機材をもつgarudaにだって解析が無理だったコアを扱えるとは思えん。

暴走して、終わりだろう。暴走したなら、破壊せねばならん。その役目は501に行って貰う。

君の任務を伝える。彼女たちのお膳立てをしろ。こいつは彼女らに破壊してもらわなければならない。お前さんには辛いかもしれんな。表舞台にたてないもんな。だが、やって貰う。

命令。501を監視、場合によっては援護しろ。別命は追って指示する。』

「了解。1人でやった方がいいか?」

『お前さんに任せる。』

「わかった。必ず成功させる。」

『数日に渡って行われるかもしれん。気を付けろよ。じゃあな。』

通信は切れた。

「ウィルマ、今は待機していてくれ。どうせまた戻ってくる。」

「というと?」

「一度監視に着いた後、彼女らも帰る。そうして、再び501が動き出したらウィルマにも来て貰う。それでいいか?あと、もしかしたらワイト島にも出撃命令が下るかもしれない。隊長にも伝えておいてくれ。」

「わかった。待ってる。」

ちっちゃく手を振ってくれた。手を振り替えす。

それじゃあいきますか。

離陸。まずは高度を上げて高高度から宮藤らを監視する。

20分後発見。

前に逃がしたネウロイと飛んでいる。その後ろ20kmを501が追いかける。

宮藤らが向かう先はネウロイの巣か。まさか、本当に招き入れるとはな。

501が止まる。宮藤は遂にネウロイの巣に侵入した。

レーダーから宮藤をロスト。

さてと、これから敵さんはどう動くのか。

そのまま監視を続けて10分後、高速接近するUnknownを確認。以降ウォーロックと呼称。

今は手出しをしない。今はウォーロックの本当の実力を見るときだ。

レーダーに新たな反応、さっきのネウロイか。

攻撃開始。

ウォーロックがネウロイに対し機銃攻撃。

ネウロイロスト。

直後新たな反応、同じネウロイか?

ネウロイが攻撃、今までより遥かに多いレーザー攻撃。

よく501の連中も避けるもんだ。

ウォーロックがシールドを使い、レーザーを防ぐ。

エネルギー収束反応。やるのか?

ウォーロックがネウロイに攻撃。

ネウロイをロストする。

レーダーに友軍機、宮藤か。

ルッキーニが回収に向かう。

ウォーロックはコンバットエリアから離脱を開始。本土へ向かう。

501のやつらも帰投を開始。

「ジャック、宮藤がネウロイと接触した。それとウォーロックの戦闘データもある程度回収した。これより501を追跡調査。ひとつ頼みで滑走路に水を8割位満たしたバケツをたくさん置いておいてくれ。」

『バケツ?わかった。指示を出しておく。』

「頼んだ。」

その後、マロニーが到着との連絡が入る。

こちらも計画通り追いかける。

501の奴等も帰投。

俺は高度を下げて顔がカメラで確認できるほどまで下げる。各種センサーを全てがしたの会話に集中させる。

501の連中とマロニーが会話を開始。

口の動き、近くに置いておいたバケツの表面が彼らの会話により若干動くところを精密に、確実に読み取り文字化する。ただ、さすがにすべては無理のようだ。

『501の解散はきみのせい』

『私は見た、ネウロイの巣………ネウロイのコア……』

『………………中佐、君は命令に………』

『本日を持って501は解散とする。………』

ビンゴ!

「ジャック、確認した。マロニーは501の解散を宣言した。」

『よくやった。一旦帰投しろ。プランBを開始する。』

「了解。」

ワイト島とに帰投する。

すると隊長達が走ってきた。

「お帰り、あのね大変なことになったの!」

「501のことか?」

一様に驚いた顔になる。

「バーフォードさん、どうしてそれを?」

「秘密だ。それより、何か変わったことは?」

「今のところは。」

「わかった。隊長、いつ出撃命令が来てもおかしくないから注意してくれ。数時間以内に来るかもしれん。」

「もう、出来てるわ。」

「ならよかった。それじゃあ一旦休ませてくれ。続きは座りながら話がしたい。」

そして、一旦食堂に移動する。

一様に落ち込んでいる。

「なんで501が解散に?まだ、ガリアも解放されてないのに。」

アメリーが聞いてくる。ガリア出身の彼女には気になるだろう。

「詳しくは話せないが上の事情だよ。」

「そんな。」

「ここはどうなるの?」

フランもいつもに増して不安になってるみたいだな。

「まだわからない。ただ、上はウィッチなしでガリアを制圧しようとしている。ということはここも無くなる可能性が高い。」

「そんな!」

「どうにかならないんですか?」

「あぁ。普通の方法じゃあな。」

一堂首をかしげる。

「どういうことですか?」

「1つみんなに聞きたい。君たちはこれからの未来のため、501のため、そして、ここにいる仲間のために戦えるか?命を落とすような激戦が待っていようとも。」

静まり返る。

「私は。」

隊長?

「私は、最初ここに左遷されたんだと思ってずっと落ち込んでた。みんなとも上手く会話できなくて、悩んでた。けど、ウィルマさんやバーフォードさんのお陰でいろんなことがわかった。たくさんみんなと話して色んな事を知った。知らない世界や戦いかた、ハーブティーの淹れかたもね。扶桑にいたころとは別の何か大切な物をここで学んだ。だから、ここが無くなるのになにもしないなんて私はやだ。抗えるのならとことん抗う。だから、私は行きます。」

「私も!ウィルマさんは私に自信をくれました。ここがなくなるなんて嫌です。」

「あたしだって嫌だ。戦えるのなら戦って守りたい。ワイト島とみんなと一緒にいたい!」

「わたしも。ようやく何のために空を飛ぶのかわかった気がするし。ここが無くなるなんて嫌だ。」

「だってさ。リョウ。私は………、言わなくてもわかるよね?」

「なんですかそれ!?以心伝心ってやつ?」

「見つめあえば何でも解っちゃうんですか!凄いです。」

「落ち着けて。解った。皆の気持ちはわかった。あとは……」

突然電話が鳴る。なんだよ、せっかくいい雰囲気だったのに。隊長がでる。

「はい、ワイト島分遣隊ですはい…………はい、え?なんで!?…………そんな。………はい。…………わかりました。」

「なんですって?」

「現在時刻を持ってワイト島分遣隊を解散するだそうです。」

「「「!?」」」

「やはりな。さて、皆の覚悟はわかった。聞いてくれ。それじゃあ、俺たちがやるべき事を説明する。俺たちがやるのは赤城の護衛だ。」

「?またですか?」

「そうだ。赤城はこれから扶桑に帰るところだ。しかし何を考えているのか護衛もつけていない。絶対にネウロイの餌になる。ここで赤城を失うわけには行かない。そして、並行して他の部隊が501基地奪還に動く。501が来るまで赤城を守りきる。もちろん、解散命令無視で行く。それでも行くか?」

全員がうなずく。てか、俺が隊長みたいになってるな。

これが終わったらあとは任せるか。

「ありがとう。さて、俺も覚悟を決めるか。」

そうして、腰から拳銃を取りだし初弾装填。

困惑しているなか、俺は銃を向けて5発発砲。

パン!パン!パン!パン!パン!

すべて彼女達の脇を通りすぎる。

「どうせ、終わったら君たちは軍法会議だ。命令無視だもんな。君たちは一人の男に拳銃で威嚇射撃を受けて脅されて仕方なく従った。そういうことだ。解ったな?」

「ちょっと、それって?」

「責任は俺がとる。皆は気にせず戦ってくれ。」

「まさかあんた!」

「死ぬつもりじゃないよ。ただ、ワイト島の皆は初めから俺の事をすぐ受け入れてくれた。君達がいなければ俺は今頃くたばっていたかもしれない。こんなので借りを返せるとは思っていない。だから、これは俺の我が儘だと思ってくれ。」

「そんな…。」

「まぁ、一人の男がカッコつけた結果だと心のなかで割りきってくれ。それより、もう時間がない。ウォーロックは巣に向かったらしい。急がないと。」

「バーフォードさん。」

「?」

「ありがとう。私達のことを思ってくれて。」

「………お礼は終わってからしてくれ。それじゃあ、隊長、号令を。」

「わかったわ。伝達。これよりワイト島分遣隊は司令部の命令に背いて赤城の護衛に向かいます。みんな。これが最後の出撃になると思う。みんなで怪我せずにまたここに戻りましょう!」

「「「「「了解!」」」」」

「あと、バーフォードさん。終わったらちゃんと全部私たちに話してくださいね?」

「約束する。」

いこうか。

 

様々な決意や覚悟をを胸にハンガーへ6人は向かう。

ワイト島分遣隊、最後の作戦が始まる。




何とか投稿できた。
明日でアニメが終わります。


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第24話 last operation(下)

ここあたりから原作を離れ始めます。オリジナル展開です。

さらば、原作また会おう!



情報は次々入る。

ウォーロックがネウロイの巣付近で作戦行動を開始する

一時は成功するように思えたが失敗、

ウォーロックが制御下を離れる。

暴走開始。

「なんか、大変なことになってますね。赤城が無事だといいけど。」

やはり自分の国の船が攻撃を受けているのは彼女を不安にさせるらしい。

「あ、見えた!」

そこに見えたのは絶賛攻撃中のネウロイと対空攻撃中の赤城だった。

ジャックからのオーダーはここで赤城を沈めるな、だ。

「こちらはワイト島分遣隊所属の角丸美佐中尉です。赤城聞こえますか?これから航空支援に入ります。」

『ウィッチか?連絡はなかったがとにかく、助かる!よろしく頼んだぞ!』

「こちらは北側から侵入します。誤射には注意してください。よし、みんな!行くわよ!」

「「「「「「了解!」」」」」」

2度目の防衛戦が始まる。

 

Another view -Sied Minna-

いま、501に向かって3人で走っていた。

さっき、基地から大きな爆発があった。

なんかわからないけど、混乱してそうだしトゥルーデの怪力で制圧してしまおうと言う話になった。

そのため、基地に向かっていたのだけれど突然4台のトラックが後ろからやって来て私達を追い抜いた後止まった。

「ミーナ、あれはなんだろう?」

「さぁ?」

トラックから1人の兵士が降りてきて敬礼してきた。

「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐ですね。もし、501基地に向かわれるのならご一緒いたします!」

「失礼ですが、あなたは?」

「はっ!自分はブリタニア陸軍所属のザガライアスマッカーム中尉です。ダウディング大将の命令でこれから501基地を強襲します!」

「はっ?陸軍なのに空軍の命令に?」

「詳しくは車内で説明いたしますがいかがなさいますか?大将からは要請があれば乗せるようにと命令を受けています。」

「ミーナ、どうせ行く場所は同じなんだから一緒に行ったらどうだ?」

「そっちの方がいいと思うよー。」

一瞬考えて

「わかりました。一緒に行きます。」

「わかりました。では、こちらへ。」

トラックに乗り、説明を受ける。

どうやら、極秘利にダウディングから要請を受けたこちら側の陸軍の指揮官がマロニーの不正を暴こうと協力してくれたらしい。

なんでも、陸軍の指揮官は計画を知るやいなやブリタニアの恥だといって協力関係になったらしい。

あとこれを、と言われて渡された資料の中には様々な資料が入っていた。様々な不正を示すもの。廃墟を改造した研究所中の写真、ウィッチのネガティブキャンペーンの指示書など色々入っていた。

そして、最後の一枚には

"私ができるのはここまでだ。あとは中佐、君に任せる。幸運を"

と書いてあった。

あの人は人脈はあった方が言いとは言っていたがこれ程まであるとは。

「中佐、間もなく到着いたします。」

「わかりました。トゥルーデ、あなたも暴れてちょうだい。」

「ミーナ?」

「ちょっと、私も怒っているからね。代わりに発散してちょうだい。」

「あぁ。わかった。」

先頭車両が基地のゲートを突発し、後続が続く。

入り口に到着。

「総員降車!1、2班はコア制御室を占拠、3班は管制塔を、4班は格納庫を当たれ!行け、突撃!」

兵士達が走っていく。

「私たちも行きましょうか。」

「あぁ。」

15分後

私たちは制御室にいた。

捕まった人が一ヶ所に集められていて、そこにマロニーの姿もあった。

「中佐、なんの真似かね?クーデターでも起こすのかね?」

「それは、こちらの台詞です。」

そう言って、資料を投げる。それを見たマロニーの顔がきつくなる。

「どこでこれを?」

「ヒューゴダウディング空軍大将からです。」

「またあいつか!何故私の邪魔をするのか!」

別の兵士が走ってきた。

「中佐、これを。」

確認するとそれはウォーロックの詳細な計画書だった。

「ネウロイのコアを使った航空機だと!ふざけてる!」

トゥルーデでもかなり怒っている。

「ひとつ聞かせてください。何故、敵を使ってまでこのようなことを?」

ため息をつき、外を眺める。もうあきらめたらしい。

「中佐、君も指揮官ならわかってもらえるものだと思っていたんだがな。」

「?」

「指揮官として、いつも出撃を命令しているとき、どんな気持ちだ?」

「話をそらすな!」

「ゲルトルート・ハルクホルン大尉、君は黙っていてくれ。中佐と話をしているんだ。」

「っ、貴様!」

「バルクホルン大尉、ごめんなさい。」

ごめんなさい、トゥルーデ。

「いつも、全員無事に帰ってきてほしい。そう願っています。」

「なるほどな。確かに指揮官は全員が願っている。

ウィッチは帰還率はかなり高い。だが、戦闘機のパイロットはどうだ?

シールドも使えず、ただ一方的に殺られる。

ブリタニア防衛戦の時、私は彼らが死ぬとわかっていても命令せねばならなかった。出撃しろと。

そして、必ず未帰還機がいる。パイロット達は誰も私を責めない。自分達の腕の無さが死を招いているだけだと言う。

君たちにはわからないだろうな。圧倒的なキルレシオを誇り、簡単にネウロイを落とす君たちにはね。」

「……………っ!」

「そして、2人の空軍大将が生まれることになる。一人は最前線にウィッチを置くことによりパイロットの消耗を押さえようとする者。もう一人は死んでいった仲間たちのための弔い合戦がしたいパイロットの為の機体を作ろうとする者だ。どちらも部下たちの事を思って行動していた。だが、501ができたことによって、機体の開発は中止された。501の方が安く、高い戦果を上げ始めたからな。だから、私は魂を悪魔に売った。」

「それがネウロイのコアを使った無人機?」

「そうだ。計画は順調だった。相対的に見れば軍全体の犠牲もかなり押さえられる。私はこの戦争を終わらすために働いたつもりだった。しかし、結果はこの様だ。彼女がネウロイと接触すると言うイレギュラーな事態に私は焦ったよ。さすがに彼女がこの計画を指摘したときは驚いたよ。」

「やっぱり宮藤の言っていたことは正しかったのか。」

「以上が私の話せる全てだ。ほかに何か聞きたいことは?」

「なぜ、ウィッチとの共同作戦を取ろうとしなかったのですか?」

「仮に、しようとしたら君達は受け入れたのかね?君達はスコアを取られて自分達が捨てられると感じて結局あの機体はおかしいと言ったはずだ。」

否定できない自分が悔しかった。

私たちは使えるから今ここにいる。もし、上が使えないと判断したら?

私たちはネウロイを倒すためだけに今を生きているといっても過言ではない。もし、その存在意義を取られるとしたら?

私たちは動いただろう。

「もう、いいだろうか。」

「ええ。ですが、あなたの行っていたことは明らかに不正行為です。解っていますね?」

「さっきも言ったが悪魔に魂を売ったときに全て覚悟を決めていたよ。」

「わかりました。マッカーム中尉、連れていって。」

「はっ!おい、いくぞ。」

マロニーや他の部下も連れていかれた。

「なんか、複雑だな。」

「ええ。あの人にもあの人なりの信念があったということなのね。」

しばらくなにも話せないでいると兵士が入ってきた。

「中佐、ダウディング大将からお電話です。お繋ぎしますか?」

「繋いで。」

近くの受話器をとる。

『ミーナ中佐、お疲れさまです。ご協力感謝します。』

「大将には、設立時からお世話になっていますから。1つ、お聞きしたいことがあるのですが。」

『聞きましょうか。』

「大将はマロニーが計画を行っていた理由はご存じでしたか?」

『…………あぁ、知っていたよ。古い付き合いだしな。その事で何度も激突したよ。私が彼の計画を潰したのは敵のコアを使ったところだ。あいつは、やり過ぎたんだよ。まだ、誰も制御できないと解っているものに手を出すのは愚かだった。ましてや、国家的なプロジェクトではなく秘密利だったからな。俺はそれを知ったとき怒ったよ。なんせ、味方にも被害が出る可能性もあったからな。そんなのは絶対に許せなかった。』

「わかりました。ありがとうございます。それで、お電話をしていただいた理由は?」

『いま、坂本少佐などが乗った赤城が攻撃を受けている。ワイト島の奴等が応戦しているが、不安が残る。501が解散した今、君はどこの指揮下でもない。だから、これはあくまでお願いだ。やってくれるか?』

「わかりました。すぐ向かいます。」

『………ありがとう。助かる。』

「いえ、これは自分の為でもありますから。では失礼します。」

電話を切る。

「ミーナ?何だって?」

「坂本少佐達が乗った船が攻撃を受けているらしいの。だからそれを助けてくれないかってお願い。」

「なんだと!?宮藤もか!?」

「ええ。」

「なら早く行った方がいいんじゃない?」

3人は格納庫に向かって走り出す。

格納庫でエイラとサーニャにあう。

なんでも助けに来たとか。エイラは誤魔化していたけど。

トゥルーデでの怪力で格納庫のゲートを壊してユニットに乗る。

「みんな、いい?いま少佐達が危険な状態なの、私たちはそれを助けに行きます。いい?」

みんながうなずく。

「501、出撃!」

 

Another view end -side Minna-

 

 

はっきり言って数が多すぎる。

赤城も回避運動をしている。みんながシールドを張って防御しているため、被弾0なのが唯一の救いだ。

新たな反応。右側より小型3接近。

素早く能力発動し1機落とした後回避運動。

ネウロイが横を通りすぎていく、その直後に発砲。

ヒット。

よし、最後。

スコープを覗き、狙いを定めて

ファイア

撃墜。

いやー七面鳥撃ちだな。

てか、ウィルマさん、めっちゃシールド使ってるやん。

なんで平気なの?

まぁ、みんなが防御を行っていてくれるから俺は攻撃に専念できる。

圧倒的感謝。

と、甲板を見ると離陸体勢のウィッチがいた。

この状況下でか。反応は、宮藤か。

戦力が増えるのはありがたい。

そしてなんとか離陸したみたいだな。

「宮藤軍曹、聞こえるか?聞こえたら速やかに赤城の防衛に回れ」

『は、はい。わかりました!』

よし、ジャックから501の制圧は完了し、援軍がもうすぐ来るとの連絡があった。後少しか。

なーんて考えていると。高速で接近する敵機を確認。

IFFはウォーロックを示している。

「隊長、ウォーロックが出現した。俺はそいつを相手にするから501が来るまで踏ん張ってくれ!」

『わかりました!』

『え、501来るんですか!!』

相変わらずだな。

さて、ウォーロック。

おまえは赤城に近づかさせんよ。てか、なんでネウロイ化してんの?

まぁ、いい。

正面から向かう。

敵機銃攻撃。当たらんよ。

すれ違い様に発砲。右翼を破壊。しかし、すぐ修復が始まる。

よく考えたら敵からの機銃攻撃なんて久しぶりだな。

振り替えって再び発砲。今度はシールドで防がれた。やっぱり前回とは比べ物にならないくらいの性能だな。

敵がレーザー攻撃、速やかに回避する。

さて、ついてこい。少し速度を上げて離脱しようとすると追いかけてきた。よし。

そのまま右旋回。

ウォーロックが偏差射撃をしてくる。

左急旋回、ウォーロックももちろんついてくる。

そこで、急減速。

機関銃に切り替えて発砲。

毎分3000発を無理矢理魔力で押さえ込んで打ちまくる。

ウォーロックが前に出た。煙が出ているようだが相変わらず飛んでやがる。

頭部を攻撃したのに、外れた?

そこて、ウォーロックからエネルギー収束反応。

Garudaが演算しどこを狙っているかを計算すると、俺ではなく赤城だった。

この長距離をか?

さっき引き離したから10kmはあるはずだが

だが不味い。当たればヤバイのは誰だってわかる。

ここで、俺は空戦で初めて敵の攻撃を回避するではなく防ぐと考えた。

ウォーロックが攻撃。

その射線上に無意識のうちに俺はシールドを展開していた。

レーザーの攻撃をある程度防いだが全ては無理だった。

途中でシールドが壊れてしまった。

だが、シールドのおかげでビームの向きが変わった。

赤城に直撃。だが飛行甲板をえぐっただけだった。

しかし、赤城はそれで揺れる。

甲板から少佐が落ちる。なぜ艦内に居ないんだよ。というつっこみをしたが彼女らは落ちる。

誰かいるか?

と思ったら2人のウィッチが回収してくれた。

ウォーロックがこっちに攻撃を再開したので回避。

解析するとシャーロットとルッキーニ少尉だった。

まにあったか!

レーダーにも反応。ミーナ中佐達か。

「ミーナ中佐か?ワイト島のフレデリック・T・バーフォード大尉だ。ジャックから連絡は受けている。こちらはウォーロックと戦っている。何人かこちらに回してくれ。」

「わかりました。あと5分でそちらに向かいます。」

よし、俺は出来るだけやるか。

しかし、今度はさっきと違った。

上から左の翼を破壊したら修復が始まらなかった。頭部の修復もゆっくりしか行われていない。

こうして、やっているうちに501が来た。

メンバーはバルクホルン、ハルトマンに宮藤?

「なぜ、宮藤がいる?」

『私も戦いたいんです!』

理由になってない気がするが。

「聞け、こいつは高起動機体だ。注意しろ。だが、修復はそれほど早くない。速やかに落とすぞ!」

「わかりました!」

「わかったよー」

「了解した!」

ウォーロックは、相変わらず俺を危険だと判断しているようで俺を追ってくる。

なら、こっちだって考えがある。なんせ昔の世界じゃ世界最強だったやつと同じような化け物ウィッチがいるからな。

「501!合図をしたら十字砲火をしてもらいたい。30秒後だ!出来るか?」

「任せて!」

よし、ならいくぞ。

再び加速。ウォーロックも加速する。大きく旋回しながら彼女らの下まで誘導する。そして、俺は急減速を行う。

ウォーロックも予期したかのように減速し、俺に攻撃してくる。

回避してこっちも攻撃。

奴は止まってシールドで防ごうとする。

「いまだ!やれ!!」

「「「了解!」」」

3人による攻撃を受けてウォーロックはボロボロになる。

そして、そのままなにもしないで空中にとどまる。

「最後だ、止めをさす。」

バルクホルンが言うがウォーロックは宮藤の前に動いて、止まり

 

コアを露出させた。

 

意味がわからない。全員が戸惑っていると、宮藤が銃を構えた。

ウォーロックはなにもしない。もしかして、今のウォーロックにはあの人形のネウロイが取りついている?

宮藤に倒されたいと思ってるのか?

わからない。

10秒ほど時間が過ぎて宮藤が呟く。

ごめんなさい。

発砲。

ウォーロックのコアが破壊された。

 

その直後ガリア解放上空の雲が消え始めた。

2分ほどで雲は完全に消えてなにも残らなかった。

まさか、ウォーロックのコアに付いていたのがネウロイの親玉のコアだったのか?

「ちょっと、何が起こってるのかよくわからないんだけど、1つ大尉に確認していい?」

「なんだ?」

「ガリアの上空のネウロイの巣はどうなったの?」

あらゆるレーダの反応にも映らない。空間受動レーダーはさっきまで何かあったがいまはなにもない事をを示している。

そこから弾き出される結論は

「消滅した、ってことじゃないのか?」

「本当に?」

「確認してみたら?それと、宮藤、なんでさっき謝ったんだ?」

「あのネウロイは私に巣で教えてくれた子だったから。」

「間違いないのか?」

「はい。そう感じてます。」

フムン、彼女はなにか巣で教えてもらったのか?

まぁいい。今は

「帰るか。」

「そだねー。」

 

4機か赤城に到達すると全員がいた。

赤城乗員は帽子を振っていた。

無事だったか。

アメリーはペリーヌと、フランはシャーロットと、ラウラはミーナ中佐と話している。

「隊長、状況は ?」

「とりあえず、赤城は守れました。ただ、いきなりネウロイが消滅してその直後にガリアの巣が消え始めてよくわからないです。」

「まぁ、俺よくわからない。」

と、ジャックから連絡が入った。

『状況は?』

「終わったよ。赤城は俺のミスで一部破損だが航海には問題なさそうだ。ウォーロックは破壊したが何故かガリアの巣も破壊させれた。」

『巣の件はこちらでも確認した。それと、これをウィッチ全員に繋いでくれないか?』

「わかった。」

全員に繋ぐようにお願いする。

『はじめましての人は初めまして。お久しぶりの人はお久しぶりだな。ブリタニア空軍大将のヒューゴダウディング大将だ。さて、君たちのおかげで赤城は守れたし、ネウロイの巣も破壊できた。まず、そこにブリタニアを代表して感謝する。さて、ここで1つ君達に言わなければならないことがある。

ガリアの巣が無くなったことでブリタニアは直接ネウロイの脅威に晒される事が無くなった。そのため、501とワイト島は正式に解散になるだろう。』

全員がさまざまな顔をしている。無理もないよな。

『正式な辞令は後日だが確定だと思ってもらいたい。君たちは各国の指示に従って別の所にいくことになるだろう。最後に、私個人からだがよく全員無事でいてくれた。私からも感謝を。ありがとう、ブリタニアをガリアを救ってくれて。以上だ。なにか質問は?』

誰も答えない。

『わかった。全員は元の基地に戻って別名を待ってくれ。以上だ。』

通信が切れた。

「ミーナ中佐、援護など去年から色々世話になった。助かりました。」

「いえ、大将達がいなければ私たちも大変な目にあっていたかもしれません。わたしも感謝してます。」

「そうか、なら以上だな。それでは、またどこかの空で。」

「ええ、さようなら。」

501と別れる。

とここで、重要な事に気づく。

「隊長、こっちで挨拶しちゃって悪かったな。」

「いいですよ、バーフォードさんの方が面識あったみたいだし。私は赤城の艦長と話をしてましたから。さて、帰りましょうか、私たちの基地へ。」

「「「「「了解!」」」」」

こうして、ワイト島最後の作戦は無事終了した。

 




ガリアの巣がなぜ消えたのか解らなかったので勝手に自己解釈。
しばらく日常会が続きます。


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第25話つかの間の休み

飛んできた人向け。
ガリア解放に伴いワイト島分遣隊が解散。
次の勤務地へ行くことが決まった。
彼は彼女を守る覚悟を胸に刻み空を飛ぶ。
転勤前の休み期間からこの話は始まる。


それから数日間いろんな事があった。

まず、軍法会議にお呼びだし。

ただ、それはジャックが弁明してくれたのと赤城を無事護衛したのと、(なぜか俺も)ガリア解放に貢献したとの事でおとがめなしなだった。

それと、赤城の艦長が挨拶に来てくれた。

沈まんでよかったですわいみたいなことを話してすぐ終わった。

それと、正式なワイト島分遣隊解散命令がでた。

そして、今日は皆と会える最後の日。

そもそも殆ど荷物がない俺はカバン1つで済んだ。

皆は結構あるみたいで担当の人に昨日渡していたみたいだ。

ここではいい思い出がたくさんできた。

いい人に出会えた。

元の世界じゃありえない風を感じながら飛ぶという経験もできた。

性格もすこし変わった気がする。

そして、なによりウィルマに出会えた。

一時期はもうシールドも張れないくらい魔力が減ったが今は元通りらしい。

心当たりはひとつあるがまぁいいや。

張れるならそれに越したことはないし。

 

すでに、大半の奴は玄関に集まっている。

最後の荷物をまとめるのに戸惑っているとアメリー待ちだ。

ちなみにこれからの進路は、隊長が扶桑に帰り、アメリーはガリア復興に協力し、フランとラウラはよくわからないが別の所に行くらしい。

俺とウィルマは10日程したら別の所に行くらしい。今日、ジャックが司令部で配属先が決定するとの事なので明日か明後日くらいにら判明するだろう。その間は司令部付きでネウロイの残党狩りに付く。

ここに残れば楽なんだがどうもいつもは南から来てたのが東側から来るのがいるらしい。そいつらがしばらくは担当になる。

アメリーが来た。

「さて、皆さん。今日でワイト島分遣隊は正式に解散となります。いままで、私についてきてくれて本当にありがとう。最初は隊長らしく振る舞うことができなかったけどみんなのおかげで何とかやってこれました。今日で皆とはお別れになっちゃうけどまた何処かで会えたらお話ししましょうね。

それじゃあ、まずアメリーさん。自信がなくていつもおどおどしてるなって印象だったけど、練習や実戦を重ねるごとに強くなってるなって印象でした。泣き虫の貴方がおまじゃこんなに自信をもって飛んでるのは凄いことよ?だから、あなたの持っているその自信と笑顔でガリアのヒトタチヲ元気付けてあげてね?あと、お料理美味しかったわよ。」

「……はいっ!」

「次にフラン。ここが初めての実戦ということでかなり不安だったろうけど本当によく頑張ったと思う。昔はただ、威勢がいいだけかなと思ってたけど、今は元気で頼れるウィッチです。もう貴方は一人前です。自信をもって次のところでも頑張ってね。」

「わかった、頑張る。」

「次はラウラ。誰も寄せ付けない、自分一人で大丈夫っていっていた貴方が今はちゃんと仲間の事を思いやれるすごい人になりましたね。確かに過去に悲しいことがあったと思うけど、今の貴方ならもう大丈夫。オストマルク解放の為に戦うあなたを扶桑から応援してます。頑張ってね。それと、仲間にきつく当たっちゃダメよ?」

「うん、わかった。」

「次はウィルマさん。貴方には感謝してます。私が部隊をまとめあげるのに苦労していたとき色々なサポートをしてくれて本当に助かりました。ウィルマさんがいなかったら今でも私はダメだったかもしれません。困ってるときは相談に乗ってくれたし、気まずいときも仲介をしてくれた。本当にありがとう。次の勤務地でも2人で頑張って。バーフォードさんとお幸せにね。」

「はい!」

「それじゃあ、最後にバーフォードさん。最初は宇宙人なんて言っちゃってごめんなさいね。本当に初めてあったときはどう接していいのかわからなかった。けど、貴方から話してくれたり、ときどき助言してくれてこの人も世界が違っても普通の人なんだって安心しました。皆の訓練や模擬戦も付き合ってくれてありがとう。ウィルマさんのこと前みたいに泣かしちゃダメよ?ちゃんと守ってあげなさいね?」

「言われなくても。」

「さてと、長い話はこれでおしまい。最後に、みんなに渡すものがあるの。」

そういって一人一人に渡してくれた。

アメリーには緑茶の葉、フランには小さめの扶桑人形、ラウラには浴衣、ウィルマには星光社の時計。そして、俺には何故か扶桑刀が渡された。

俺以外のものは過去に隊長がなにか扶桑のもので欲しいものある?と聞いたときにもらった返答らしい。

「その刀はね、赤城の艦長にバーフォードさんには半分扶桑の血が流れてるっていったら、たとえ、ハーフでも扶桑男子足るもの国が違うとはいえ、持つべきだとか言い出して、ついでにブリタニアと扶桑の有効の架け橋ってことで2本刀が送られたうちの1本なんだって。なんでも、扶桑の魔女が実戦でも使うくらいの能力があるんだって。」

「そんなもの、俺がもらっちゃっていいのか?一応、昔教わったことあるから使えるが。」

「是非、貴方にもらってほしいとのことよ。赤城を守ってくれたうちの一人である貴方に。」

「わかった。なら使わせてもらうよ。」

実戦で使えるってどれくらいの強度があるんだよ?

あとで、ジャックに言ってみるか。

「それじゃあ、これでおしまい。本当にみんなありがとうね。」

一人一人を抱き締めて挨拶を始める。

ガリア復興頑張ってね。貴方ならもうできる、自信を持ちなさい。仲間を大切にね、ラウラは強いから平気よ。これからも、気を付けて飛んでね。

俺の前で戸惑ったけどウィルマの顔みたらウィルマは「私は気にしないよ?」的な顔したらしく俺も抱き締めてくれた。

「守るものがある男の人は強いって聞いたことがある。貴方はウィルマさんを幸せにしなさい。」

「あぁ。任せろ。」

そして、離れる。

「挙式あげるときは是非呼んでね。」

「あ、私も呼んでくださいね!」

「あたしも見たい!」

「ん、呼ばれたら行く。」

一斉に目を輝かせて言ってくる。

「き、挙式!?考えたこともなかった。」

ウィルマが叫ぶ。確かに。戦うことばかり考えてたからな。

「その、リョウは、したい?」

「そりぁ、結婚か。したいかな。」

回りがはしゃぐ。

「というわけで、時期は未定ですがちゃんと連絡するから!!!」

「絶対ですよ?」

「必ず!」

そんな感じではしゃいでいると車が到着した。計4台か。

「最後に、写真とりましょうよ!」

「あ、運転所さんで一番腕がいい人お願いします!」

昔、写真家だったという扶桑系の人に撮ってもらった。

「現像できたらブリタニアが責任もって送るから。」

「よろしくね。」

「それじゃ、またね!」

全員がそれぞれの車にのって別れる。

こうして、ワイト島分遣隊は今日、正式に解散した。

 

 

「なんか寂しいね。」

「そうだな。けど、俺たちはこれからは遊撃隊として動くことになる。こういった出会いと別れを繰り返すことになるんだよな。」

「なんか詩人ぽい。」

「せっかくの雰囲気が台無しだよ。」

「あは、ごめんね。所で次って何処なんだろうね?」

「恐らく最前線だろうな。今回の一件でSTAFが取り敢えずは使えることを世界に示した。次は実績を作る番だからな。覚悟しておけよ。」

「あたしはリョウと一緒ならどこでもいいや。」

こいつ、さらっと。

 

 

その後なんかうとうとしてきたから寝てると俺達の臨時配属先に着いた。市街地近くの基地でロンドン最終防衛ラインでもある。

基地の部屋に荷物を置いて昼飯を食べる。

食後、早速もらった扶桑刀を振り回す。

扱いは小さいころ、日本人教師のなに郷さんに教えてもらった。当時は意味あんのかよとか思っていたがこんな形で使うことになるとは。習っておいてよかった。

どうやらこの刀魔力を帯びているらしい。俺の手から魔力を入れると青く光りだした。

この厨二病っぽいのがたまらないね。

これをみていた兵士が集まってきてなんか切れよって話になって試しに鉄パイプを立てて切ったらあっさり切れた。

カランカラン

カチャン、刀をしまう。

オウ、サムライとか聞こえて涼しい顔をして流すが内心超焦ってた。

隊長!何て武器をくれたんだよ!これはやばくないか!?

とまぁ、こんなことをして、なぜか哨戒飛行をさせられて今日は終わった。

 

次の日、俺たちは司令部に向かった。ジャックとの話があるからだ。

「「失礼します!」」

「おう、入れ。」

ガチャ

「よく来てくれた。紅茶は?」

「貰おうか。」

「頂きます。」

「わかった。すぐ淹れよう。」

ジャックが立って淹れ始めた。

「とりあえす、あれからの人事を話すな。マロニーは免職は免れた。ただ、他の連中が全部マロニーに責任を押し付けようとしたが、それはなんとか回避した。しばらくは遠い僻地で仕事だな。まぁ、やつのことだ、平気だろ。どうせまた戻ってくる。俺は計画を暴いたってことで元の役所に戻って今はSTAF指令長官兼空軍大将だ。」

「戻れたのか、よかったな。」

「お前さんたちがうまく動いてくれたお陰だ。」

「それで、何でガリアの巣は破壊されたんだ?」

「わからん。ただ研究者の話じゃウォーロックが関係している、しかわからないとのことだ。表向きは501とワイト島の面々が破壊したとのことになっているがな。」

「そうなんですか。」

「あぁ。はい、どうぞ。」

「ありがとう。」

「ありがとうございます。」

紅茶とお菓子を貰った。

「さて、お前さんたちが一番気になっているであろう次の勤務地が決まったぞ。」

「どこだ?」

ジャックが一口飲んで、コップを机の上に置いて話した。

 

 

 

「502だ。」

 

 

 

「502?どこだ?」

「オラーシャ帝国北西部のペテルブルグにある統合戦闘航空団だ。詳しくはこれを見てくれ。」

資料を貰う。

502JFW、通称"ブレイブウィッチーズ"

隊長:カールスラント空軍、グンデュラ・ラル少佐

戦闘隊長:オラーシャ陸軍、アレクサンドラ・イワーノブワ・ポクルイーキシン大尉

隊員:カールスラント空軍、ヴァルトルート・クルピンスキー中尉

隊員:扶桑皇国海軍、管野直枝中尉

隊員:ガリア空軍、ジョーゼット・ルマール少尉

隊員:扶桑皇国海軍、下原定子少尉

隊員:カールスラント空軍、エディータ・ロスマン曹長

隊員:スオムス空軍、ニッカ・エドワーデル・かタヤイネン曹長

以上8名

「それに加えて501からも2人配属されて計12名となる。」

「統合戦闘航空団は上限が11名ではないんですか?」

「今回は特例でな、上層部は速やかにノヴゴドロのネウロイの巣を破壊したいらしい。よって、特例で12名を許可したらしい。まぁ1人どっかに放浪するやつが要るから実際問題ないと思っているらしい。」

「それ、いいんですか?」

いや、だめだろ。

「さて、命令!VFA-21は502JFWに参加し6ヶ月以内にネウロイの巣を破壊しろ。」

「………………は?」

「俺だって驚いたさ、ネウロイの巣を破壊しろだと?無理に決まってる。だが、これがボーダーらしい。済まない。」

「まぁ、やれるだけやるよ。」

「頼んだ、出発は1週間後だ。以上、解散!」

 

 

 

 

「どうなるんだろうね?」

「さぁ?ネウロイの巣って敵の拠点だろ?そう簡単に落とせるかよ。」

「まぁ、やれるだけやろうよ。」

「取り敢えず、みて、ゆっくり作戦でも考えないとな。」

「だな。」




今回はいろんなところの資料を漁りました。
大変だった。
てか人物像に関する情報が少なすぎるね。


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第26話 新たな旅立ち

ワイト島編と502JFWの中間はこれで最後です。


取り敢えず、基地に帰り502周辺の地図を確認した。

502とネウロイの巣はそれなりに離れている。

502の主任務は北側からのカールスラントの奪還とスオムスに向かうネウロイの迎撃か。

それで、敵さんの懐に入るからユニットがバンバン壊れると。それゆえにブレイクウィッチーズなんて呼ばれるやつがいるのか。

誰がうまいことを言えと。

てか、ユニットを壊しても生きている辺り凄いな。

どうやって脱出してるんだろうな。

 

ユニット回収班?

マジかよ。そんな部隊にまで予算を回しているってところを見ると相当消耗が激しいのか。

こんなところでメイブを失うわけにはいかないな。

ジャックに頼んで予備のユニットでも送って貰うか。

ブリタニアのユニットと言えばスピリットファイアーかな?

そういえばTSQの奴等がテストしてるジェットストライカーユニットも気になるな。明日辺り試してみるかな。

今日はもうねるか。

 

と、突然警報。

ネウロイか。ガリアの残党か他の地域から来るようになったのか?

まぁ出撃回数が減っているところを見ると前者だと思いたい。

「ウィルマ!いくぞ!」

「はーい!」

格納庫に入ると既にゲートは空いていて滑走路の誘導灯が点灯し始めた辺りだった。

エンジン始動。武器を取る。

滑走路に進入。

《Garuda team,you are cleared for take off》

離陸開始。

なんか普通はTacネームとかは使わないらしいんだけど俺とウィルマの名前を言うと長いからVFA-21がgaruda teamということになった。というかした。

今日は満月なのでウィルマもついてきた。

「ウィルマ、夜間戦闘は平気なのか?」

「まぁなんとか。昔ね、人手が足りなくてやったことあるんだけど満月の時でも、全然平気だった。」

「わかった。でも油断するなよ。」

情報だと小型2機らしい。巣が破壊された今大型はおろか、中型すら来なくなった。来ても小型機数機だ。

だが、腐ってもネウロイ。詳しくはわからないがしばらくは訓練を終えたばかりのウィッチが迎撃に当たるらしい。

ちなみに今回は扶桑刀も持ってきている。一度は実戦で試してみたい。

「ウィルマ、右下だ。engage」

低空を飛ぶ2機を確認。レーザーを回避してほぼ急降下爆撃みたいに接近。抜刀、魔力を手から送ると青く光りだした。まるでライ○セーバーだ。

コアの位置を確認。

もう一度攻撃を回避して両手で構えて

「フン!!」

コアごとぶった切った。

そのまま通過して後ろで爆発を確認。

刀をしまう。

「また、つまらぬものを斬ってしまった…」

「いや、そもそもその刀実戦で使ったの初めてでしょ。」

ウィルマさん、突っ込みありがとう。

(゜o゜)\(-_-)

ウィルマも一撃で落としたらしい。

「ウィルマもさすがだな。」

「貴女の相棒だもの。これくらいしなきゃね。」

さて、これで帰るのも面白くない。

せっかく、寝ようとしたところを起きて出撃したんだ。

ん!いいこと思い付いた。

「ウィルマ、ちょっとこっち来て。」

「何?」

「ちょっと後ろ向いて。」

「?」

そして、たまたまズボンに入っていた布でウィルマに目隠しを付ける。

「え、ちょっと、リョウ!?」

ウィルマの腰に腕を回して抱き抱えて

「それじゃ行こうか。合図をするまで目隠しはずしちゃダメだよ。」

「教えてよ!何するの?」

「それはお楽しみに。

コントロール、敵は倒した。ちょっと散歩に行ってくる。」

『了解。楽しんで。』

既に管制官も俺たちの関係を知っているらしく、夜と言うことで特別に許可してくれた。ありがとう。

それでもぶつぶつ言うウィルマの小言を適当に受け流しメイブの出力を最大にする。

向かうは俺は見慣れたところでもウィルマは絶対に見たことがない場所。

 

 

15分後。

抱えているせいか少し時間がかかったがまぁいいか。

「ウィルマ、外していいよ。」

「リョウが外してよ。」

「無理、手が塞がってるから。」

「はぁ、わかった。」

ウィルマが目隠しを外した瞬間、ウィルマの体が一瞬ビクッとなった。無理もない。俺も初めて見たときは感動したもんな。

 

 

 

「…………………凄い。」

「ようこそ、宇宙と地球の狭間へ。」

高度22000m、この時代の技術では絶対に来れない空間。

高度が高いため地球が丸いことがよくわかる。

「あの光ってるのは全部町の灯り。」

「たくさん光ってるね。それに………星もよく見える!」

この高さになると、雲も小さく見えるほどだ。回りには何もない。いるのは俺とウィルマだけ。

「あっちに光ってるのわかる?あれが次の勤務地。」

「ほんの小さな灯りだけど、みえる。そっか、あんなところにも人が住んでいるんだね。」

「さすがに、暗くてネウロイの巣は見えないね。」

「え、明るいときは見えるの?」

「もちろん。注意深く見ないとわからないけどね。」

「いいな、今度は明るいときに連れてきてね?」

「いいよ、けど502じゃ無理っぽいな。」

「じゃあ次の出撃で。」

「本当はないのが一番だけどな。」

それっきり静かになる、聞こえるのはメイブのジェットエンジン音だけだ。

「ねぇ。」

「?」

「ワイト島解散の日に言っていたこと。真剣に考えてね。」

「結婚のことか?」

「うん、なんだったら明日にでも両親に紹介してもいいよ?」

「それは覚悟が決まってない。」

「私じゃだめ?」

振り向いて聞いてくる。

「まさか、そんなことはない。ただ……」

「ただ?」

「ウィルマの両親が納得するような戦果をあげてからにしたい。」

「そんなこと?」

「そうだ。仮にも俺は男のウィッチだ。得体の知れないものに娘をくれはしないだろう。なら一発で納得してくれるような物を示す。」

「そっか。まぁ考えてくれてるなら私はいいよ。嬉しい。」

体ごとこっちを向いた。

「なら、誓って?」

「ここで?」

「むしろ、ここ以上にロマンチックな場所なんてないと思うよ?」

「そうだな。

結婚しよう、ウィルマ。時期はわからないけど、それまで俺は死なないしウィルマを死なせない。何があっても守り抜く。」

「ありがと、リョウ。私もあなたを守るよ。」

そして、キスした。

 

「はぁ、なんかこんな凄い場所でこんなこと言われたら一生の思い出になるなー。」

「なら、それが絶対に忘れないようにする?」

「え、何するの?」

「こうする。」

俺はメイブのエンジンをアイドル状態にして、手を放した。

「え!ちょっと!」

必然的に2人とも自由落下を始める。

「どう!こんなの?」

「馬鹿!何するの!」

「これなら一生忘れない!」

「確かに忘れないけど、怖い!」

魔法を使ってるので息もできるし、問題ないのだがウィッチというのは無重力に慣れてないのかもな。

「楽しくないの!?」

「こんな体験したことないからわからない!」

 

高度が15000くらいになったところで

「こう、体を大の字にして!減速しよう!」

「こう!?」

「OK!そのまま!」

さらに降下、高度10000

「ウィルマ!エンジン始動!」

「わかった!」

こんな高さで始動するか不安だったが何とか動いてくれたらしい。こちらも始動。

もう一度ウィルマを抱えて降下速度をさらに減速。

そして高度3000。

無事いつもの高さにいつもの速度で戻ってきた。

「ご感想は?」

「もう、滅茶苦茶でわからない、けど。」

「けど?」

「一生忘れない。」

「ならよかった。」

こうして基地に戻る。

「またしよっか。」

「もうやだ。」

えー?楽しいのに、スカイダイビング。

 

次の日

ジャックに予備のユニットの事を話したらTSQの拠点がある別の基地に連れてかれた。ウィルマも一緒だ。

話し合った結果候補に上がったのは

・スピリットファイアMk,2

・ヴァンパイアF.1

となった。

まずはスピリットファイアから。

乗って離陸。

まずはじめに思ったのが、軽い。

機動性もなかなかいい。メイブより上じゃないか?

しかしいかんせん出力にかなり不満がある。

遅い。レシプロに速度を求めるのはまずいがな。

保留かな。

次はヴァンパイア

ジェットストライカーユニットということで乗ってみるとなんか魔力のわりに出力が比例してないな。いくら流してもそれに見あった出力が出ない感じ。

それに、機動性も悪い。

第1世代ジェット戦闘機だから仕方ないか。

 

結局選んだのはスピリットファイアだった。

予備とはいえ、毎日出撃するような事態になればメイブが持たん。

同じジェットストライカーユニットよりは機動性を重視した。

ウィルマは同じユニットに乗るということで喜んでた。一緒に飛んでるときも尻尾が動いてたから間違いない。

このユニットは今日そのまま502に送るらしい。そうしないと着任に間に合わない。

とりあえずジャックにはウィルマとのことも話しておいた。

聞くとジャックとウィルマの母親であるミニービショップとは知り合いらしい。

俺らには秘密にしておいたらしい。

だから、紹介も簡単に出来るが、その心がけはいいと思うということでその日まで待ってこれるとのこと。

あと、端末も返してもらった。

「かなり、便利だったんだがな。」

「暫く会えないんだ。それに俺だって使いたい。」

「なら、仕方ないな。」

端末はきれいな状態で無事俺の手元にかえってきた。

 

そして数日後。

「それじゃあなジャック。空軍とロンドンは任せたぞ。」

「あぁ、任せろ。」

502に行く日になった。武器と荷物を背負って502まで直行する。現状それが一番時間がかからない。

「ビショップ軍曹も元気で。リョウを頼んだぞ。」

「もちろんです。」

「よし、VFA-21に通達。本日より同航空隊は502JFW所属とする。以降は現地の指揮官の指示に従え。それと、生きて帰ってこい。これは命令だ。」

「行ってくる。」

「行ってきます。」

「じゃあな。」

離陸して進路を東にとり、速度をあげる。

海岸線がどんどん離れていき、こうしてブリタニアを離れる。

初めての出国だな。

しばらくは海上だが途中元501の2人と合流して502に向かうことになっている。

飛行開始から1時間。

レーダーに反応

IFFは、こいつらか。

ジャックは会えばわかると教えてくれなかったからな。

20分後、合流。

「俺達はブリタニア空軍所属、特殊戦術飛行隊、第2飛行中隊、第21飛行小隊所属のフレデリック・T・バーフォード大尉と、ウィルマ・ビショップ軍曹だ。よろしくな。」

「私はスオムス空軍、飛行第24戦隊第3中隊。エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉だ。よろしくナ。」

「お久しぶりです。オラーシャ帝国陸軍586戦闘機連隊。サーニャ・V・リトビャク中尉です。」

「まさか、お前さんと一緒になるとは。今度は同じ部隊だ。よろしく頼む。」

「はい、では行きましょうか。」

しかし、そう簡単にはいかない。

「サーニャ、ちょっと聞きたいんだがその大尉とは、どういう関係ナンダ?」

はっ?

「えっとね、エイラ。ダウディング大将とミーナ中佐が秘密に連絡を取っていたのは知ってるでしょ?」

「ウン」

「それを仲介してたのが私とバーフォード大尉。大尉が大将から書類をもらって夜間哨戒のときに渡してもらって私がミーナ中佐に渡してたの。」

1分くらい考えてサーニャにいくつか聞き始めた。

「…つまり、夜に会って話していたト?」

「うん。」

「私には秘密で密会してたノカ?」

「ごめんね、エイラ。絶対言うなって命令だったから。」

「私ともしてないような事を空でしてたト?」

「うん?」

「サーニャと大尉であんなことやこんなことをしていたト?」

「まって、エイラ。」

しかしエイラはもう止まらない。

なんか知らんが怒ってる。

(#`皿´)

感じだ。

すかさずウィルマにジェスチャーを交えてアイコンタクト。

(ウィルマ、手を貸してくれ!)

(リョウが蒔いた種でしょ?)

う、確かに命令だったがそうだ。

(ウィルマを連れていかなかったのは悪かった。けどあの時は呼ぶわけにはいかなかったんだよ。)

(そうだとしてもねー。)

ニヤニヤしてる。あ、こいつ今の状況楽しんでるな。

(貸し1つね。何でも私の言うこと聞いてね。)

(言われなくても。俺はお前の騎士だ。)

(言ってくるねー。1分時間をちょうだい。)

(任せた。こんなところで死にたくない。)

そういってウィルマはサーニャに小声で話しかける。

エイラは

「ユルサナイ、サーニャニチカヅクヤカラハユルサナイ」

なんて言って銃を構えやがった。

しかも初弾装填してる!

こっちも扶桑刀を構えて魔力を送る。

刀が青く光る。

一触即発の状態だが、ウィルマがこっちを向いてbってしてきた。

間に合ったか。

「エイラ。」

「サーニャ、私ハ、今トテモ忙シイ、邪魔ハシナ………」

そして、サーニャは胸の前で祈るように手を組んで首を右に15°ほど傾けて

 

 

 

 

「私のために争わないで。お願い。」

 

 

 

 

 

…………こいつ、何行ってんの?そんなことで

「サ、サーニャが、そういうんだったら、わ、ワカッタ。ごめんな、サーニャ!」

えーーーー、マジかよ。

エイラは銃を下げてサーニャに近づいていった。

俺はなんか拍子抜けして刀をしまった。

「何とか収まったね。」

「まぁな。てか、これからが不安だ。」

「あはは。」

ウィルマも苦笑いだ。

「さて、502に向かおう。時間も食っちまったしな。」

期待と不安がいい具合に混ざりあった不思議な感情が俺を支配していた。

 




次回辺りから長期連載休止になります。
詳しくは明日のあとがきを読んでね。
読んでくれてた人はありがとう!
暫くお待ちください。
けど、絶対用事が終わったら続き書きます。
5ヶ月くらいかな。


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502JFW編
第27話 着任


この話に出てくる料理は作者の今日の晩御飯。



502到着まで残り30分といったところでコンタクト。

「お客さんだぞ。」

「なんのコトダ?」

「エイラ、ネウロイ。2時の方向。」

やはり、気づいたか。

索敵範囲は本当にどれくらいなんだろうな。

「機数15、大型3、中型4、小型8。歓迎にしては数が多いな。ウィルマ、行くぞ。」

「了解。502に報告しておくね。」

「サーニャ、502から味方が出撃したか解るか?」

「反応はない。まだみたい。」

「よし、距離的に考えてもこちらが早く着く。先に片付けてしまおう。」

「お前、サーニャに何命令……」

「わかりました。エイラ、いこ。」

「サーニャー!待ッテ!」

はぁ、あんなやつがスオムスで一番のエースなんて信じられん。人は見かけによらず、か。

 

まもなく、攻撃圏内。

初弾装填、セーフティー解除。

「敵機多数だ。みんなこんなところで落ちるなよ?」

「わかってる。」

「了解です。」

「だから、なんで……」

「Garuda engage」

まずは、大型を落とす。ウィルマには護衛の小型を任せる。

急降下開始。

コア確認、弾丸を相手のコアに射撃。

 

そのまま旋回、一直線上に小型、中型が並ぶ位置にいたのでタイミングを合わせて発射。

小型は撃墜、中型は少しずれたがコアを露出させた。

すかさずウィルマがコアを攻撃。

撃墜。

「ナイスアシスト。」

「いやいや。」

それにしても、ユーティライネンのやつ、凄いな。

レーザーを見ないで回避してやがる。後ろにでも目がついてんのか?

後で聞いてみるか。

それにしてもフリーガーハマーって9発しか打てないんじゃ、どうなの?予備を持ってきているようには見えないし。増援とか来たらどうするんだろうな。

まぁ、いい。今は自分の事に集中する。

ウィルマが後ろについてきているのを確認して残りを落とす。

小型と中型5が逃走を開始。

「ウィルマ、俺が前に出るから君が後ろから追撃してくれ。」

「わかった。」

出力を上げて放物線を描くようにして敵の前に出る。

「逃げれるとおもってんのか?」

能力と射撃を交互に繰り返す最近編み出した名付けて"速射"で3機落とす。残りはウィルマが処分してくれた。

「終わったか。そっちはどうだ?」

「全部落としました。」

「了解、502に向かうぞ。」

まさか、こんなところで時間を喰うとはな。

まぁ10分程で15機落としたのだからいい方だな。

 

そして、25分程でオラーシャ帝国、ペテロブルグ上空に到達。

着陸許可を得て、滑走路進入する。ワイト島とはまた異なる別の景色に、目を奪われながらも着陸を行う。

地面に接地したと同時に少し、タイヤが滑る感じがした。今まで経験したことがなかったことなので、一瞬あせったがすぐに微調整を行い進路を再びまっすぐにする。

思ったがかなり雪が多いな。さすが、北に位置しているだけある。だが、この調子だと雪が降ったときのランディングはかなり厳しいものになりそうだ。

いくら魔法で体が守られ、強化されているとはいえ限度がある。この地域でウィッチが活動できるということは問題ないのだろうが、不安が頭をよぎっていた。

格納庫のユニット置き場に武器一式を置いて一息着くとだれか2人がきた。

一人は茶髪で明らかに司令やっていますという雰囲気の女性でもう一人は小柄の銀髪だ。おそらくこの人は副官だろうな。

そして俺と目を合わせる何かを吟味するかのように上から下へと視線を動かす彼女。

「あの、何か?」

だが、俺の質問に答えることなく彼女は観察を続けるとふと、隣の小さな女性と何かアイコンタクトをした。何かの合図だろうがあんなわずかなものでは俺も内容を推測することはできなかった。そしてようやくその茶髪の女性は口を開いた。

「君が噂の男のウィッチか?」

「そうです。マム。あなたはここの司令官のグンデュラ・ラル少佐でありますか?」

俺は敬礼しながら、彼女を見る。そう、目の前の茶髪の女性こそ俺のここでの上司となるラグンデュラ・ラル少佐だ。撃墜数人類第3位という化け物だが思っていたほど威圧感はない。

むしろ感情をそこまで表に出すような人物には思えない。初めて見たときに感じたイメージは常に冷静で適切な判断をくだせそう、だった。

「ほう、自己紹介をしなくても既に私のことは知っていると?」

「事前に自分の配属先の上官の顔と名前を覚えておくのは常識かと。ましてや、それが世界最高峰レベルにあるウィッチとなればなおさらです。」

「スコアは?」

「50は越えているかと。先程5機落としてきましたから。」

「なるほど。田舎空軍にも使える奴はいるということか。」

「そこら辺の雑魚よりは使えると自負しているので男女差別なく使っていただけたらと思っています。なんなら後で模擬戦を行ってみたらいかがですか?ご自慢の兵隊を全部落としてやりますよ。」

殺気を交えて言うと副官が指令の顔を見ながら何か小声で話している。

(ここで騒ぎを起こすのはやめといたほうがいと思います。)か。

「まったく、随分と嫌われているものだな。」

一瞬、俺の言葉に驚いた顔をするがすぐ元の表情に戻る。

「なら嫌われたままでいるか、それを改善するか。それは君次第だ。」

「あの、バーフォードさん。どうされたんですか?」

サーニャ達が入ってきた。ユニットを起きながら話しかけてくれた。

すると、司令はいきなり笑いだした。何こいつ。

「いや、失礼した。男のウィッチがどんなやつか気になってしょうがなかったから話してみたかっただけだよ。すまなかったね。さて、私が知っての通りグンデュラ・ラル少佐だ。そして、彼女が私の副官のエディータ・ロスマン曹長だ。見た目と階級によらず凄腕だ。」

「よろしくお願いします。」

「ブリタニア空軍、STAF、SSQ、VFA-21、フレデリック・T・バーフォード大尉と」

「同所属のウィルマ・ビショップ軍曹です。」

「サーニャ・V・リトビャク中尉です。」

「エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉ダ。」

「以上4名、着任許可を願います。」

「着任を許可します。ようこそ502JFWへ。歓迎するよ。さて、他の子達は後で食事の時に紹介しよう。部屋は曹長が案内する。頼んだ。あと、大尉。少し残ってくれ。」

「わかりました。」

「なんかやらかしたの?」

「来てまだ5分しかたってないんだぞ?」

「後で教えてねー。」

そういって3人はいなくなる。

「さて、君に話すことは……」

「大体言いたいことはわかってる。あんたらのウィッチに手を出すつもりはない。俺は生涯で一人の女しか愛さないって決めてるんでな。それに、外交問題なんて起こしたくないしな。」

「なら結構。ローテーションなどは後で決めようか。それと、もうひとつある。統合司令部より、ひとつの命令が来ていてね、ネウロイに関する同基地で所有する情報を全て君に渡せと来ているんだ。君は私の城で何をするつもりだ?」

「俺は何も言ってない。ただ、俺に一つの命令を下した。半年以内にノヴゴロドのネウロイの巣を破壊しろ、だ。俺はそのためにここに送られてきた。その為ならなんだってするってことだ。聞いてないのか?」

「いいや、まったく。それにしても、ねぇ。ネウロイの巣を破壊?勝算は?」

「まだ、まぁあと5ヶ月以内に作戦をたてるさ。承認されれば実行、拒否されれば別の作戦を立案する。それだけだ。」

「なるほどね。私たちとしても是非ネウロイの巣を破壊してもらいたいからね。ガリアの巣を破壊したことは皆知っている。期待しているよ。」

あれは今でも何で破壊されたのかわからないんだがな。

「あと、君たちには今日の晩御飯を作ってもらいたいんだが出来るか?」

「できるさ。男だからってなめんなよ。12人分か?」

「そうだ、楽しみにしてる、1900に間に合わせてくれ。食材は自由に使ってくれ。それじゃあ。」

「おい。」

「……まだ何か?私も忙しいんだが。」

「俺の部屋は?」

あっという顔になってる。忘れてたのか?

「すまないね、案内するよ。」

 

 

部屋は普通だった。生活するのに問題はなさそうだ。

荷物を置いて端末を弄る。

Garudaにできる範囲で情報収集するよう命令。

疲れたのでベットで少し仮眠する。

ドアがノックされた。

今は1700か。

ドアを開けると金髪の女の子がいた。後ろにはウィルマもいる。

「何用だ?」

「晩御飯を作る時間だってさ。」

ウィルマに聞いたんじゃないんだがな……

「君は?」

「アレクサンドラ・I・ボクルイーキシン大尉です。少佐に晩御飯の準備の手伝いをするように言われました。」

「ウィルマ、お前も呼ばれたのか?」

「うん、でも熊さんも手伝ってくれるんだって。」

「く、熊さん?」

「あの、そ、それ私です。」

ボクルイーキシン大尉が手をあげる。

「なぜ熊なんだ?」

「使い魔が熊なので。」

「なるほと。では熊さん。俺はフレデリック・T・バーフォード大尉だ。同じ階級だしバーフォードで頼む。ウィルマ、行こう。」

「はーい。」

2人で歩き始まると熊さんも追ってきた。ウィルマは食堂の位置はわかっているらしい。

「あの、バーフォードさん。」

「なんだ、熊さん。」

「もう、それで決まりなんですね…。ところでお二人の関係ってどんな感じなんですか。」

「相棒」

「夫婦」

「へ?ふ、夫婦?」

「そうなの!もう誓いあったしね!」

ウィルマが熊さんと嬉しそうに話始める。

さて、何にしようかな?

中華にしようか。

豆腐が有れば麻婆豆腐にしよう。

米あるのかな。

と現実逃避していると熊さんとウィルマが最高の盛り上がりを見せていたり

「お二人は切っても切れない関係ってことですか!羨ましいです。」

「えへーそうでしょ。」

話に熱が入っているのか二人は厨房を通り過ぎていってしまった。

おーい。こっちじゃないのか?

まぁ俺1人でも問題なく作れるし、ウィルマが基地の仲間と信頼関係が気づけるのなら越したことはないかな。

食料が入っている倉庫を漁った結果、材料や調味料が全部揃っていたので麻婆豆腐にした。

最初は鰻ゼリー攻撃にしようと思ったが後で差し支えるのでやめた。

てか、ご飯を炊くのどうしようかと悩んでいたらだれか入ってきた。扶桑人か?

「あなたは?」

「本日配属になったフレデリック・T・バーフォード大尉だ。今は晩御飯の準備をしている。ご飯の炊き方に困っていたんだが教えてもらえるか?」

「わかりました。ところで、何をお作りになるんですか?」

「麻婆豆腐とあと一品何にしようか悩んでいたんだ。何がいいと思う?」

「麻婆豆腐とは?」

「知らないの?」

「はい。」

そういえば、なんかあそこだけぽっかりなかったもんな。調味料はあるのに。

「辛い豆腐料理と思ってもらえればいい。なにか、ない?」

「春雨を使った料理はどうでしょうか?」

春雨の入った袋を見せてくれた。

「なら麻婆春雨でいっか。」

「?」

「まぁ、俺の(いた世界での)オリジナル料理だと思ってもらえればいいよ。もしかしたら名前が違うだけかもしれないし。」

「わかりました。ではあと少ししたらご飯炊きますね。」

「助かる。そういえば、君は?」

「下原定子少尉です。夜間哨戒を行っています。」

その後扶桑語で話すと少し驚かれたがそれ以降はトラブルもなく無事できた。

ウィルマの奴は結局来なかったがな。熊さんとどこまで行ったんだ?

麻婆豆腐も麻婆春雨もいい味に仕上がった。

大皿に盛り付けて、テーブルに置いて小皿を準備していたら少佐が来た。

「ほう、本当に作れるのか。」

「あたぼうよ。」

他の連中が続々と来て、全員が席につく。

「とりあえず、簡単に説明してもらおうか。今日作ってくれたのは本日配属になったフレデリック・T・バーフォード大尉だ。」

「どうも、よろしくお願いします。料理は食えばわかります。悪くない出来だと思うので。」

みんな食べ始めると反応は上場だった。

てか、ウィルマさん、熊さんと仲良くしてるな。

食べ終わると、自己紹介を行った。

 

よかったことはこの基地の奴等がすぐ俺を受け入れてくれたことだ。

一つは飯が美味しかったからだそうだ。料理は国境を越えるとはよくいったものだな。

次に戦果を上げられるからだそう。少なからずガリア解放が役に立っているらしい。

最後に隊長が会ったときに言ったことをばらしやがった。熊さんもそれに乗じてベラベラ話すからもう大変。

ウィッチ同士のカップルなんて殆どいないからということで大量に質問を受けた。2時間くらい付き合わされたがお陰で評価は悪くない。

その点は感謝している。

まぁ変な目でやっていくよりはましだしな。

上手くやっていけそうだ。

こうして、夜は更けていく。

 

 

 





追記
もう少し長引きそうです。
3月5日までには更新します。
さらに延期してしまいそうで、申し訳ないです。


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第28話 認められること

お久しぶりです。
実に5か月ぶりの更新となりました。
それではどうぞ。

502人物紹介を作りました。
目次の一番上から2つめをご覧ください。


「模擬戦、ですか?」

 

着任した翌日、少佐に呼び出され司令官室に顔を出した矢先に言われた。

「あぁ。昨日来たばかりで申し訳ないが1000にクルピンスキー中尉と管野少尉と一緒に飛んでもらうことになった。君たち2人も合わせて2on2で戦ってもらうことになるな。構わないかな?」

構わない?つまり命令ではないということか?

まぁ、俺としても演習だとしても経験が詰めるので断る理由はないしな。

隣に立っているウィルマに顔を向けるとうなずいてくれた。

彼女も構わないみたいだ。

「もちろんです、少佐。」

「そうか、ありがとう大尉。この模擬戦は後で戦う2人の強い要望でな、くれぐれも注意してくれ。」

「?」

注意、だと?

何をするんだ?いつも通り飛ぶというのに、等と考えていたらウィルマが助け船を出してくれた。

「ほら、クルピンスキー中尉と管野少尉って"ブレイクウィッチーズ"で有名じゃない?だからだよ。」

「その通りだ、軍曹。まぁ、正直言えば君たちの実力がどれ程のものかというのを知りたいというのもあるな。書類だけじゃわからないこともあるからな。」

「なるほど、わかりました。では準備にかかるので失礼します。」

「あぁ。頼んだぞ。」

そう言って退室する。

「昨日見た限りではそんなには気性は粗そうには見えなかったんだが実際はどうなんだろうな?」

「まぁ、少佐が忠告してくれたってことはそれ程って事なんじゃない?」

「わかった、善処しておこう。そう言えば、スピットファイアはもう届いたのか?」

「今日の0830に来るって書いてあったからもう来ていると思うよ。どうして?」

「愛機を壊したくはないからな。」

思わず彼女も苦笑いをして

「成る程ね。」

同意してくれた。

 

ー格納庫ー

ちゃんとスピットファイアは届いていたので受け取りのサインをして無事引き渡しを終えた。

あとは模擬戦にむけて調節をするだけだ。

といっても部品が所定の位置に付いているか、エンジンは起動するかなどの簡単な事ばかりとなるが。

しばらく弄っていると後ろから声がした。

「これがスピットファイアMk2ですか。うちの部隊では初めての機材ですね。」

振り向くとそこには

「熊さんか。」

「熊さん、やっほー。」

502の戦闘隊長、熊さんことポクルイーキシン大尉がいた。

「聞きましたよ。これから"あの2人"と模擬戦をやるんですね?」

「あぁ、噂は聞いているがどういう戦い方をするのかさっぱりわからん。何かアドパイスってあるか?」

「アドバイスですか、、、。」

そういうと考える人のようなポーズを取った。

「特にはありませんね。」

ないのかよ。

「ただ、何しでかすか解らないのでそこは気を付けておいた方がいいかもしれませんね。」

「なるほど。助言ありがとう。参考にさせてもらうよ。」

「お役に立てたなら幸いです。では、私はこれで。」

そう言うと、彼女は格納庫から出ていってしまった。

扉がしまる音がして、静寂が訪れる。

「なぁ、ウィルマ。」

「ん?」

「熊さん、何しに来たんだろうな?」

「そう言えば、そうだね。お話ししに来ただけかもね。」

「そうかもな、それじゃあ再開…………」

ガチャ

また格納庫の扉か開く音が聞こえたのでそちらを見るとそこにいたのは、

「熊さん?どうしたの?」

「………本来はナオのユニットを修理するためにここに来たのですが皆さんとお話ししたら忘れてしまって、、、。」

顔を少し赤らめながら彼女はそう言った。

少しおっちょこちょいな所があるのかもしれない。

結局3人でユニットを弄りながら話をして時間を潰した。

 

0945

ドタドタドタドタ

段々足音が大きくなってくる。誰だ?

バーン!!

扉が大きな音をたてて開いたと思ったら例の2人がいた。

「今日の模擬戦、絶対勝つ!!」

「男のウィッチか、どんななのか気になるな。」

クルピンスキー中尉、通称伯爵と管野少尉、通称ナオがいた。

というか、やけに力入ってるな。

「熊、ユニットありがとう。」

「いえいえ。」

というか、他国の軍人が自国の兵器を触っているけどいいのかよ。

俺は立ち上がって"注目!"といって全員の意識をこちらに向ける。

「それじゃあ、全員揃ったことだし始めるか。ウィルマ、地図かして。」

「どうぞ。」

「ありがとう。それじゃあ、ブリーフィングやるよ。」

そして今回の模擬戦に関する項目の確認を始める。

訓練空域、そこまでの飛行経路、天気、時間、勝率条件などの情報を全員で共有する。今回は1発でも食らったらアウトというルールらしい。

最初はなんか言ってきたが俺が一応一番階級が高いのを知っているためか直ぐおとなしくなった。

こうして、全ての準備が終わった。

 

1000

滑走路28Rから定刻通りに離陸後進路を南にとり、訓練空域まで向かう。

今つけているのはスピリットファイアMk2、ウィルマと同型機である。

それにしても、初めてのレシプロ機での戦闘訓練とだけあって少し緊張している自分がいる。

なんせ、愛機とは全くといっていいほど勝手が異なるからだ。

速度、上昇限界、加速度、旋回性能、どれを取っても同じものなどありはしない。

これから先スピリットファイアを使っての実戦だってあるだろうから今のうちからこいつになれておく必要がある。

だから、この模擬戦だけでこいつができる限界を知る必要がある。

しかし、今までは様々なサポートをつけて飛んでいたがこいつにはそんなものはもちろん無い。

これがウィルマやウィッチーズ達の見ている世界か。

メイブのサポートが無い今、本当の実力が試されると考えると楽しみでもあり、不安でもある。

そう考えているうちに訓練空域に近づいてきた。

ちなみに全員がMG42(模擬弾)だ。

いつも狙撃銃を使う身としては慣れないが仕方ない。

後ろを振り向き、3人に顔を向ける。

「ブリーフィングでいった通りだ。6000まで上昇後、降下。4500で散開後、開始だ。いいな?」

「「「了解。」」」

そして全員が上昇を始める。

 

4000を過ぎた辺りだろうか、突然後ろで

ガチャン

という音がした。

勘でヤバイと感じたのでとっさにウィルマに散開のハンドサインを送る。

左急旋回をしてその場を離れると元居た場所を模擬弾が貫く。

「伯爵!打ち合わせ通りだ!そっちは頼んだぞ!」

「任せろ!」

(くそ、奇襲か。全く、ルールもあったもんじゃないな。)

伯爵がウィルマに向かい、管野が俺の後を追う。

始まってしまったものは仕方ない。この借りは勝って返す。

後ろに付かれているが、それにしてもあいつよく撃ってくるな。

残弾を気にしているのだろうか。

しかし、これはなかなか不味い状況だな。

普通のウィッチであれば空を飛びながら後ろに向かって攻撃することは可能だろう。

しかし、俺の場合はそうはいかない。

今まで前に撃つことしかしてこなかっただけに後ろを向きながら攻撃をするということが俺にとっては非常に難しい。

只でさえレシプロ機に慣れてない上に今回は機関銃なので弾速が違う。

いつも通りに狙っても外れる。だからその調整もしなくてはならない。

チャンスを伺いながら回避行動をする。

 

そして管野が弾切れになったときを狙って

ー能力発動

周りがゆっくりと動く中、正確に狙いを定めて

解除ー

攻撃。

右肩から左腹にかけて斜めに模擬弾が飛んでいくもシールドによって阻まれる。

外れか。彼女達にとっては生命線だろうが、今の俺にとっては邪魔物でしかない。

 

それにしてもあいつ

速い。

右急旋回ごそのまま急降下、そして急上昇したあと左旋回なんて動作をしても平気でついてくる。

それに段々距離が縮んできている。

俺は遠距離を、管野は近距離を得意とするためこれは不味い状況だ。

おまけに残弾気にせず撃ってくるもんだから進路も制限される。

どうしたものか。

このままでは埒があかない。

 

、、、仕方ない。いつも通りいくか。

「ウィルマ、仕掛ける。出来るか?」

「ちょっと厳しいかも。なかなか振りきれなくて。」

あっちも劣性か。

「俺がそっちにいくから合図をしたら"クロス"だ。そちらがやり易い位置まで誘導する。わかったな?」

「了解」

ウィルマの方に行くために上昇する。

追いかけてくるのを見た後、また速度を上げる。

相変わらず撃ってくるが左右に揺らして回避する。

そして進路が交差し、ねじれの位置にいるウィルマに合図する。

 

「今だ!」

 

その瞬間、俺が伯爵を、ウィルマが管野を攻撃する。

彼女たちも昔はやっただろうが個の実力が高い今はあまりやら無いであろうロッテ戦法。

狙いを定める瞬間に再び能力を使ってより正確に狙いを定める。

先ほどの攻撃で感覚掴めた。あとは撃つだけ。

発射。

俺の放った11発のうち3発が命中し、伯爵は撃墜判定となった。

 

一方ウィルマの方は問題が発生していた。

管野がウィルマの攻撃にとっさに反応して反撃したのだ。

結果ウィルマの攻撃は外れるし、逆に被弾してしまった。

両者とも1人ずつ減り残り2人となった。

 

そして、管野がついに弾切れを起こした。

そりゃあんなにばらまいてたら直ぐなくなるよな。

あとは冷静に狙いを定めればなんて考えていたらこちらにも問題が発生していた。

左エンジンのユニットの出力が急激に下がったのだ。

振り切ろうとして行ったあの機動にユニットが耐えられなかったらしい。

新品だからか?

まぁ、メイブと同じ感覚で出力を上げたり下げたりしたら悲鳴をあげるのも当然か。

飛ぶのには問題ないがこれでは戦闘は厳しいな。

お互い継続するのにも無理があるから潮時か。

まだ後ろを飛んでいる管野に声をかける。

「おい、管野しょ、、、、」

 

 

 

振り向いた直後、管野が猛スピードで俺に頭突きをしてきた。

一瞬気を失いそうになるが堪える。星が見えて気がしだ。

そして、管野は俺の銃を掴み

「貸しやがれ!まだ弾余ってるんだろ!」

「はぁ!?」

こいつは何を言っているんだ?

取らせまいと力を込める。

「男のウィッチの癖に女々しいんだよ!」

その瞬間なにかが切れた気がした。

結局のところ、俺はこの世界では異質というわけか。

こいつが当たってくるのは異様ともいえるやつに拒絶反応を覚えているからか。

ワイト島みたいなやつらは所詮少数派に過ぎないということなんだな。

ならば、その拒絶とやらを力で覆してやる。

幸いにも演習中だしな。

 

だから俺は右のストライカーユニットで回し蹴りをした。

それも回転数をあげて速度を増したやつをだ。

それに対して管野は銃から手を離し回避した。

彼女のほんの数mm先をユニットが通りすぎて行く。

「調子に乗るなよ、小娘が。」

「へっ、やっと本気になりやがって。銃なんて使わないでかかってこいよ。」

「ハッ、簡単に死ぬなよ。」

 

結局このまま近接格闘を続けてしまい、俺のユニットから黒い煙が出始めた頃撃墜された2人に止められようやく終わった。

 

 

 

今となってだがあのときの俺は冷静さを欠いていた。

昔の同僚がみたら笑うだろうな。

特殊戦の奴等だったら?と思ったがやめた。

あいつらはそもそも他人に興味を持たないから気にすらしないだろうな。

まったく、ダメだな、俺は。

 

ー502JFW 1130 指令官室ー

「で、何か言いたいことはあるかな?大尉?」

「いえ、なにもありません。少佐。」

遠くから黒煙が見えたらしくて何事かと確認に来た曹長に説明したらそのまま指令官室につれてかれて今に至る。

中破1、小破1という報告に少佐は明らかに怒ってる。

「まさかさらに一人ブレイクウィッチーズが増えるとは思いませんでしたよ、大尉。」

「それだけはご勘弁を、曹長。」

結局少佐と曹長の審議の結果、今回は"訓練中の事故"不問となった。ただ、次やったら正式にブレイクウィッチーズの仲間入りにすると言われた。

「もう、懲りたら反省してくれよ、大尉。」

「は、失礼します。申し訳ありませんでした。」

もう一度頭を下げ、指令官室をでる。

 

 

「お疲れさま。」

外にはウィルマが待っていてくれた。

「済まなかったな。巻き込んでしまって。」

「平気だよ。それにしても、今日のリョウはらしくなかったね。あんなになんというか気性を荒くしているのは初めてだよ?どうしたの?」

「………自分の不甲斐なさに気づかされたんだよ。俺もまだまだだな。」

「ふーん。 だったら。」

ウィルマが両手を取って正面に立ち、俺の目をじっと見ながら言った。

「一緒に、成長しようよ。ね?まだまだ知らないことだってあるんだし。次にいかせばいいじゃないの。」

「……そうだな。」

「そうそう!ほら、いこ。報告書を書かないといけないし。」

2人で歩き出す。

「ウィルマ。」

「ん?」

「ありがとう。」

「……いいってことよ。」

 

 

彼女と出会って変わったな、俺も。

さて、行くか。

まだ、認められなくたって構わない。

なら認められるだけと成果を出せばいい。

こうして、ようやく502のメンバーとして動き出す。

まだ戦いは始まってすらいないのだから。

 

 

 

 

 

 

別の場所にて

熊「それで、管野少尉はバーフォード大尉のことを認めてないの?」

 

管「は?何で?」

 

かくかくしかじかウィルマ軍曹から聞いたことをはなす。

 

管「いや、そんなことないぞ、ただどれくらい強いのか知りたかっただけだし。」

 

熊「それじゃあ、大尉の勘違い?」

 

管「じゃないの?今度はまた本気で戦ってもらいたいな。ユニットを使ったら近接空中戦闘は楽しかったしなー。」

 

熊(………ただの戦闘狂ないの?ならバーフォード大尉は怒り損?)

 

つづく。




改めましてお久しぶりです&お気に入り登録保持ありがとうございます。
とりあえず一段落ついたので投稿しました。

ながく更新してなかったので内容を思い出すためにもう一度読み直してみると、
なんか読んでるこっちが恥ずかしくなるような事が書いてあって反省しました。
暴走タグつけておいてよかった。
なんか厨2病ノートを見返しているような気分。
内容を変えることなく台詞を変えるところがあるかもです。

また、以前と設定が違うぞ!
と気づいた方がいらっしゃったらご指摘の方、よろしくお願いします。

とりあえず、これからも(さすがに以前のように毎日は無理ですが)更新していきます。
次は3/20までには投稿します。
最後になりましたが、これからもよろしくお願いします。




間違い修正しました。


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おまけ *

時間軸などがずれているところがありますが気にしないでもらえると幸いです。
短めです。
何となく思い付いたものとなります。
後、今話から501組もアニメと同じように呼びます


作中のB隊、チームについては次回説明します。


それは着任して数日後の朝だった。

「バーフォード大尉、ビショップ軍曹。あなたたち宛に手紙が来てますよ。」

曹長に朝御飯を食べ終わった後、そう言われ手紙をそれぞれ宛に計2通受け取った。

ちなみに、まだ朝食後の休憩時間なので皆くつろいでいる。

それぞれ思い思いの事をしているようだ。

「俺は、、、ジャックからか。ウィルマは?」

「メアリーからだ。どうしたんだろう?」

取り合えず各々の手紙を読む。

ジャックからの手紙には

ガリアのネウロイの巣が破壊された原因に関する暫定報告書が入っていた。

ウォーロックが巣と同調した結果、巣の中枢までシンクロしてしまった。それゆえウォーロックを破壊したため巣も破壊されたのではないかというものだった。

最後、宮藤にコアを露出させたのは少なからず残っていた人形ネウロイの意識ではないか?

何らかの意識が働いたため自らを破壊させるような行動をとったと思われる。

とも書いてあった。

なるほどな、それならかなりの説明がつくな。

ネウロイか。

ジャムともまた違ったよくわからないやつだ。どうやって飛んでいるのかもわからん。

しかし、ジャムがネウロイみたいな攻撃方法でなくて本当に良かった。

全方位に攻撃できるとか、戦闘機乗りにとっては悪夢出しかないからな。

それにしても、ネウロイの巣がどういう規則に乗っ取って配置されているのかいまいち良く解らないな。奴らは何を狙っている?

水か?何らかの資源か?はたまた文化か?

今度、皆と話してみるか。

「ウィルマの方は何て書いてあった?」

「なんか、メアリーは501の人達にスポットライトを当てた活動写真をとることになったらしいんだけどそれに出ることになったんだって。」

「は?なんでさ?」

「ペリーヌさんに誘われたらしいよ。同じガリア人で昔知り合いだったということで採用になったらしいね。憧れのペリーヌさんと、それも活動写真の共演をする事が出来てすごく嬉しかったって書いてあるね。ちなみに、私の妹のリーネもでるみたい。元気にしているかな?」

なんでも三人一組らしいが501は元々11人のため一人足りないから埋め合わせで入ったとのこと。もう他のメンバーは撮ったらしくてこの3人が最後らしい。

まったく、縁と言うものは時には珍しい繋がりを生むもんだな。

 

しばらくすると扉が開いて夜間哨戒を終えたサーニャが帰ってきた。

「お疲れさま、サーニャ。」

「あ、バーフォードさん、おはようご、、、」

「サーニャお帰り!!!」

エイラが割り込んできた。

「エイラ、ちょっとうるさい。」

「うっ、ごめんナ・・・・」

2人が話している間に紅茶を入れる。これから寝るサーニャに対してカフェインを与えるのはまずいからな。

「ほら、どうぞ。」

「ありがとうございます。」

「あ、ありがとう、大尉。でも、珍しいナ。」

「何となくそういう気分だったんだよ。そういえばお前らはもう撮影したんだろ?いつ公開なんだ?」

「「撮影?公開?」」

「501のガリアの巣を破壊した活躍を記念して活動写真を撮るとか聞いたが。もう最後のグループの撮影が始まってらしいがな。」

「詳しく!!」

エイラが食いついてきた。

さっき聞いた話をすべて話す。そして…

「私たち、仲間はずれにされてるナ、サーニャ。ミーナ中佐、どうしテ!?501であんなことやこんなことをしてしまったからカ!?」

「エイラ、501で私が寝ている間何をしたの?」

「は!、べ、別に何もしてないゾ!!」

したな、わかりやすすぎるんだよ、お前は。

「どうしよう、ちょっと電話で聞いてくる!!いくゾ、サーニャ!!」

「あっ、待って。エイラ!」

走って出ていった。それに話題そらしやがった。

「なんか、悪いことしちゃったね。」

「仕方ないさ。さて、行くか。」

「うん。」

そういって手紙をポケットにしまおうとしてふと、もう1枚手紙があることに気づいた。なんだろうか?

赤文字で”極秘”とは書いてなかったのでウィルマも読んでいい物だろうと推測し2人で読む。

そこに書いてあったのは

 

「部隊証?」

「パーソナルマークみたいなものだよ。」

VFA-21のマークを考えてほしい。そして、それが出来次第、君たちのユニットに描くことになる。

というものだった。

「ウィルマは絵かける?」

「風景はかけるけど動物とかは苦手かな。」

「なら、適当に相談してみるか。熊さんにでも聞いてみようか。」

・・・・・・

 

 

「私はちょっと無理ですね。ごめんなさい。」

断られた。

「熊さんは絵を描くのは苦手か?」

「はい、絵はどうしても苦手で。何かを教えるのは得意なのですが。でもルマール少尉は得意みたいなので聞いてみたらどうでしょう?同じB隊なら出撃待機中に聞くのが一番いいと思いますよ。」

「わかった。ありがとう。」

「いえ、それでは失礼します。」

 

 

 

休憩時間が過ぎ、出撃待機中状態となり今は格納庫で装備の確認を皆でしている。もうすぐ終わるがな。

 

「ルマール少尉。」

「はい?なんでしょうか、大尉?」

「君は絵が得意か?」

「それなりにはかけますよ。それがどうしましたか?」

「頼みがある。」

 

 

 

 

部隊証の事で協力して書いてくれる人を探していて、熊さんがルマール少尉は絵が得意とのことなので依頼したい、と伝える。

「わかりました。いいですよ、協力します。でも私でいいんですか?」

「他に心当たりがないからな。助けてくれると本当にありがたい。」

「それなら、早く終わらせちゃいましょう。」

部屋に戻り4人で話を始める。

ちなみに俺、ウィルマ、ルマール、伯爵だ。

こうして、デザインが始まる。

「そういえば、バーフォード大尉の使い魔ってなんなんですか?」

「アメリカワシミミズク」

嘘だ。ジャックと来る前に決めておいた。

何故こいつかというと。ある日突然ジャックに好きな動物は何だ?と聞かれてふと小さい頃通っていた学校の名誉校長としていつも入り口にいたアメリカワシミミズクを思い出したためだ。それと夜間哨戒が出来るといったとき使い魔がミミズクというと納得されやすいというのもある。

「ふむふむ。それでは、それも入れましょうか。」

ひたすら鉛筆を動かす音だけが響く。

「そういえば、バーフォードのユニットって部品とか交換してないけどいいのか?」

伯爵がうつ伏せのまま話しかけてくる。てっきり寝ているもんだと思ったが。

「ジェットストライカーユニットの方が?あれは特別製だからな。放っておいても勝手になおる。」

「なにそれ?」

「すべての部品に魔力が込められていて帰ってくる度に魔力を入れておくと自動で直るんだ。だからとくに修理とかは必要ない。ブリタニアのすごい技術その5、”形状記憶魔道金属”って奴だ。」

「・・・・ずるくない?手かなにさ?形状なんとかって?」

「悪いがそれ以上は機密だ。」

装甲に魔力が込められているのはジャックと調べて気づいた。しかし、どうしてこうなったのかは未だに疑問だ。こいつの部品はおそらくこの時代では作ることが不可能だからこういう謎システムがあってよかった。

「どれくらいの速度が出るんですか?」

「巡航速度で計算するならバッキンガム宮殿から凱旋門まで9分30秒。」

「それはすごいですね。」

明らかに信じてないな。わかりやすいたとえだと思ったんだが。

まぁ、宮殿から凱旋門までおよそ340km、巡航速度がM1.75、最高速度がM3.3だから最高速度ならおよそ303秒だから5分。まあ、最高速度なんて維持し続けたらあっという間にガス欠になる。この時代じゃ音速も越えられないから想像も出来ないか。

システム軍団も化け物を作ったものだ。

「今さらですけど、男のウィッチって言いにくくないですか?てか長いんですよ。」

「ルマール、じゃあなにがいいんだ?」

伯爵が手を挙げる。

「ウィザードかソーサラーってのは?調べたらこの2つが出てきたよ。」

「もういっそのことウィザードにしたらどうです?世界にただ1人ウィザード。部隊名もそうすれば知名度アップ間違いないですよ。響もいいですし。」

「……………………俺にはガルーダっていう名前がある。それに誇りを感じているし、変えるつもりはない。」

「でもかっこいいじゃん。変えないの?バーフォード?」

「そう言われてもな。」

「というか、ガルーダってなんですか?」

「ヒンドゥー教における神の名前だ。伝説上の鳥だ。母親をへび族に苛められたことに滅茶苦茶怒ってそれ以来竜をよく食べるようになったらしい。ヴィシュヌ神を乗せて空を飛ぶんだ。」

「…………なんか凄いですね。」

 

結局、折衷案としてウィザードとガルーダ両方名乗っては?というウィルマの提案で片がついた。

俺としては変えたくはないのだが両方ならまぁいいか。

 

 

そうこうしているうちに部隊証が出来たみたいだ。

「出来ました。こんなのでどうでしょうか?」

ルマール少尉が見せてくれた。

 

【挿絵表示】

 

「ウィルマさんが、魔女。バーフォードさんが、フクロウです。ちゃんと部隊名も入れました。」

ふむ。まぁ、ミミズクなんだがアメリカワシミミズクの特徴を捉えているからいいか。

「いいんじゃないか?」

「いいね、白黒って言うのが逆に目立ちそうだし。」

こうして部隊証もでき、近いうちにうちの愛機にまた新しいマークが追加されることが決まった。

 

 

ルマールから絵の書いてある紙を受取り、封筒に入れて司令部に出してきた。数日中にジャックの元に届くだろう。

すぐ近くだから出撃待機中でも許可は降りている。

部屋に戻ってウィルマの隣りに座り、ゆっくりする。

時計の針の音や本のめくる音が響くなか、ルマールが俺の前に歩いてきた来た。

「大尉、一つ言わせてください。」

「どうした?いきなり?」

そう言うとルマールは俺達に頭を下げた。

「祖国ガリアのネウロイの巣を破壊する作戦に参加してたと今朝、少佐から聞かされて知りました。恩人でもあるあなたにお礼を言うのが遅くなってしまい、ごめんなさい。けれど、言わせてください。

本当にありがとうございます。」

そういえばルマールはガリア人だったな。

 

「………巣を破壊したのは、501の奴等だ。俺はそこにいたにすぎない。感謝されるべき奴らは501であって、俺たちじゃないさ。」

「それでも、一人のガリア人として祖国解放に携わった人に感謝はしなければいけないと思いますから。些細なお返しでもしないと私のプライドが許さないので。」

そう言って彼女は俺の目をじっと見てくる。

「………わかった。ならその感謝は受け取っておく。律儀な奴だな。」

「ガリア人ですから。」

なるほどな。

「………一つ聞きたいことがある。」

「なんでしょうか?」

「君はこれからは何のために戦う?」

「戦う理由ですか?」

俺はうなずいて肯定する。

「祖国が解放された今、君たちの国はやるべき事が山のようにあるはずだ。現に501のクロステルマン中尉は予備役となって親をなくした子供たちの助けをしているそうだ。ガリア人なら、国の復興を支援するべきじゃないのか?」

ここで一度、覚悟を聞くべきだと思った。彼女の事だ、ここに残っているということはこれからの進むべき道は決めてあるはずだが、同じチームとして聞きたいと思った。彼女の覚悟を。

「確かにそうですね。ライフラインを復旧したり、各地に散らばった人々を呼び戻したり、たくさんありそれこそ10年以上かかると思います。けれどそれ以前にカールスラントやベルギカなどまだ祖国に帰れない人達もたくさんいます。なのに私だけが祖国復興のために帰るなんて出来ませんよ。私はヨーロッパが解放されるまで戦います。復興はそれからでも出来ますからね。」

なにを分かりきったようなことをみたいな顔で返してくれた。

「そうか。ならこれ以上は言うまい。頑張れよ。」

「はい、でも本当にありがとうございます。解放を聞いたときは涙が出てきましたから。」

彼女は俺に笑ってそう言った。

その表情はとても可憐であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「浮気は許さないよ?」

「わかってるって。」

 

 




エンブレムは今日久しぶりにペイントに触ったのでリハビリも兼ねて書いたものです。
絵はフリー素材を使用したため製作時間は1時間ほどとなりました。
本当はすべて1から作りたかったのですが自分の絵心の無さに涙。
ガリアの巣の件は前に感想で教えてもらってようやく真実を知ったのでここに書かせてもらいました。教えてくれた中将さん、ありがとうございます。
わからなかった人もいると思うのでようやく説明できてよかったです。
本編は近いうちに出します。
挿絵が上手く表示されてるといいな。


挿絵表示方法
PC版・スマホ版は挿絵を直接本文内に表示させることが出来ます。(携帯版はリンクのみ表示)
[PC版]小説ページの右上の方にある「小説閲覧設定」→「ルビ機能」
[スマホ版]「メニュー」→「閲覧設定」→「挿絵表示」


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第29話 502の一日

最初は説明です。特に読まなきゃあとでやばいというわけではないので飛ばしてもかまいません。
あと、今回は日記っぽくなってしまいました。



さて、ここで502の指揮系統や部隊について簡単に説明する。

 

まず、指揮官であるラル少佐は基本的には出撃しないで基地に残り出撃したウィッチに命令を下す役割をしている。以前大怪我を負ったことも配慮してのことである。

その補佐官であるロスマン曹長はバックアップ要員として待機しており、ほかのウィッチが何らかの理由で出撃できないときは変わりに出撃することになる。

次に夜間ウィッチについてだ。

502では月曜日から土曜日までは下原少尉とサーニャ中尉が交代で行い、日曜日はバーフォード大尉が行っている。

これには2つの理由があり、1つは夜間ウィッチの負担軽減にある。ペテルブルグの夜は長い。1945年1月8日で言えば日の出は0953、日の入りは1617。単純計算で太陽が出ている時間は6時間24分しかない。それ以外は夜になってしまう。つまり17時間36分は夜間ウィッチの担当ということになる。

その上、欧州のなかでもトップクラスの激戦区である502では2日に1回は夜間戦闘がある。ただでさえ、1人で戦わなければならないためそれが連日続くと歴戦のウィッチでもすぐ消耗してしまうためこういう措置が取られた。

二つ目は、単にバーフォード大尉の夜間戦闘能力の向上にある。統合軍本部としても彼がどれほど使えるのか未知数であるため少しでもデータがほしいところであったため特例で許可された。

また夜に空を飛べるウィッチはそもそもの絶対数が少ないため、できるとことならぜひ使いたいというのが司令部の本音であった。

さて、こうすると太陽が出ている間に戦うことができるウィッチは8名となる。そして502における戦闘の90パーセント以上をこの8名が行っている。

502は前述したとおり非常に攻撃的な部隊であり時には数日間装備をもって基地から離れ、ネウロイの巣から遠くない位置で野営をして、そこから出撃を行うことがある。

ここではそれを“遠征”と呼んでおり、野営するところはかつて人が住んでいた村を借りたり、撤退戦以降使われなくなった基地であったりさまざまである。

そのため、502では細かい部隊を作る必要があった。

四人一組の大隊が二組、それぞれをA隊、B隊と呼称する。

また大隊の中でも一班、二班と分かれる。

具体的に言えば

A隊、一班・・・・ポクルイーキシン大尉(A隊隊長)、ニッカ曹長

A隊、二班・・・・管野少尉、ユーティライネン少尉

B隊、一班・・・バーフォード大尉(B隊隊長)、ビショップ軍曹

B隊、二班・・・クルピンスキー中尉、ルマール少尉

といった具合だ。たとえば遠征がないときは

日の出1時間前~南中時刻、A隊

南中時刻~日の入り30分後、B隊

といった感じにネウロイに対抗する。またA隊が遠征に出ている場合は

日の出1時間前~南中時刻、B隊一班

南中時刻~日の入り30分後、B隊二班

という割り当てになる。506のように、基地まで別ということにはならない。

こうしてウィッチーズとウィザードの一日が始まる。

 

 

 

 

 

 

0500

起床。1月とあってペテルブルグの朝は寒い、がとにかく起きなければなにも始まらない。

寝巻きから普段着に着替えて外に出る。まだ太陽が出る気配はまったくない。

10分後宿舎の前で準備運動をしているといつもどおりウィルマが出てきた。

「おはよう。ウィルマ。」

「おはよー、寒いね。」

「仕方ないさ、いくぞ。」

「わかった。」

二人で走り始める。この時間帯は着陸機がないから滑走路の端から端まで二往復する。毎日必ず走り、体力の低下が起こらないようにする。片道2kmなので計8km、ウィルマもよくついてきてくれるものだな。

「お疲れさま。それじゃあ。」

「うん。また後でね。」

走り込みを終えて、部屋に戻り汗を拭いて身だしなみを整える。

 

0555

全員がブリーフィングルームに集まり始める。

ちなみに、走り込みをしている奴はあまり多くなく、管野なんかはよく寝坊する。

そして、よく少佐に怒られる。学習しろ。

まぁ扶桑と比べて遅い朝、早い夕方には慣れないのかもしれないな。

 

0600

少佐と曹長が入室する。

「おはよう。」

「「「「おはようございます。」」」」

「それでは、気象ブリーフィングを始める。曹長、配ってくれ。」

「わかりました。」

毎朝、この時間から夜間哨戒中のウィッチを除くすべてのパイロットが集まって今日の天気など気象情報の通達が行われる。

「ペテルブルグ気象台からの報告によると本日の天気は一日を通じて晴れ、ただし、エリアエコー、フォックストロット、リマ、マイク、クエベックでは午後から雲が厚くなるそうだ。戦闘を行う際は、雲の中に逃げられないように注意しろ。また今後一週間の天気に更新があった。あさってまでが晴れの予報だったが、低気圧の勢力が予想よりも大きいらしく、明日までになった。それ以降は雪が降る予報になっている。遠征組みは延期になる可能性があるので、今後の通達を待ってくれ。以上だ。何か質問は?」

「雪というのはどのくらいだ?視界がさえぎられるほどか?」

「そこまでではないらしいが、予想される積雪はペテルブルグで15cm・・・・」

その後10分ほどで気象ブリーフィングは終了した。

 

0630

朝食の時間だ。といってもまだ太陽は出ていない。今日は熊さんとニパが作ってくれた。トースト、サラダ、コーンスープといった具合だ。ちなみに下原が担当のときは必ず和食だったりする。基本的にはお付の料理人が作ってくれるが、たまにウィッチが担当する。

一番多いのは夜食で主に親睦を深めるために行われるのだが、朝食の担当は少佐の朝ごはんくらいたまには自分たちで作ったらどうだ?という提案で決まったらしい。

「管野、塩取ってくれ。」

「フンッ。」

直球ストレートで投げてくるも上手くキャッチする。

まったく、これだから一匹狼は。大和撫子の名前が泣くぞ。

「どうも。」

「どういたしまして。」

しかし、ちゃんと教育を受けているだけあって返事はするのでさらに質が悪い。ただ、たてつくだけなら悪ガキの一言で片付けられるのだが。

朝食を腹に流し込んでお皿を片付ける。

「ご馳走様、熊さん、ニパ。」

「いえ、どういたしまして。」

「うん、今日は失敗しなくてよかったよ。」

「失敗?」

「ええ、ニパは前にトーストを全部丸焦げにしたことがあって・・・。」

すかさず、熊さんが答えてくれた。

「・・・ニパってとことん機械に嫌われてないか?」

「うっ。」

「だよなー。ユニットだってよく壊すもんナ。」

「イッル!それは、私のせいじゃ・・・・。」

「はいはい、そこまでにして。皆さん、やることあるでしょ?」

「はい・・・。」

さすが戦闘隊長、まとめるのが上手いな。

「大尉の隊は午前中だっけか?」

「そうだ。B隊が午前でA隊が午後だな。」

「ならこれからサーニャとなんかしよー。」

その場で2回転してスキップしながら食堂から出て行った。まだ、サーニャが帰ってくるまで時間があるから何か準備して待っているのだろうが。

さて、俺も支度するか。

 

0700

ユニットが置いてある格納庫で装備の最終確認を行う。

メイブの方は一度起動してしまえばオートチェックが働くがスピットファイアの方はそうはいかない。まだ完全には機体の構造を把握できていないためウィルマと一緒に確認する。こういう時、僚機と同じ機種だと整備がしやすい。今日は出撃があったときはメイブを使うつもりだが万が一動かなかったときのためにスピットファイアも準備しておく。ちなみに、模擬戦のときに出来た亀裂などはもう修理済みである。

全部の動作が完璧に行われることを確認して、チェックリストをマークして提出する。

ちなみに予備パックというのが存在していて、いろいろなサバイバル用品が入ったリュックサックを持っていってもいいのだがよく墜落するニパを除いては遠征のとき以外はまったくといっていいほど持っていかない。結局は戦闘の邪魔なのだ。

 

1000

ペテルブルグの日の出の時間が過ぎ、ネウロイがいつ来てもおかしくない時間帯になる。

ちなみに自分たちの今日の担当時間は0850~1200となっている。

 

「それで、エリアノヴェンバーからルート135を通ってエリアインディアに入った瞬間に右側に見える大きな建物は何でしょう?」

「ホテルかな?屋根に“HOTEL”っていう看板があるやつ。」

「教会、屋根にでっかい白い十字架が載っているやつだ。」

「教会で正解です。ホテルはルート246から侵入するときの目印ですよ。」

「あら?そうだっけ?もう一度確認してみる。」

「確認したほうがいいな。すぐ憶えなよ。

「わかってるって。」

今行っているのは戦闘を終えて基地に戻る際に目印になるものを覚えているかの確認だ。

レーダーがそれほど発達していないこの時代では目視での飛行が多くなる。

もちろんレーダーの索敵範囲内であれば現在地がわかるが範囲外や通信機が故障した際に無事に基地に帰れるよう、502周辺の地形を完璧に覚える必要がある。目印になる物で一番多いのは人工物だが、山や湖などでかい自然の物も目印になったりする。

そのため新参者である俺たちは数日でできる限り覚えて、こういった出撃待機中などの隙間時間に覚えられているかどうかのテストを行ってもらっている。ルマール、いつもありがとう。

ちなみに地図といっても山の大きさなどを正確に作ってある立体模型があるため非常にわかりやすい。

ワイト島時代は主な戦闘空域が海上であり、501のおこぼれをこちらが迎撃するのが任務であったため空域もそれほど広くはなかったことから、覚えることはそれほど多くはなかった。それ故に方角を正確に測ることができれば帰ることができた。

だがこっちは地上で似たような地形が広がり戦闘空域も広大である。一度自機がどこを飛んでいるのかを見失うと非常にまずいためこうして覚える必要があるのだ。

 

俺ら三人で土地当てクイズをしているこの出撃待機室はこの部屋にいれば何をしていてもかまわないことになっている。

ちなみに今この部屋には五人いる。

曹長、伯爵、ルマール、俺、ウィルマだ。

曹長がこの部屋にいるのは少佐の補佐としてやるべき仕事があるのだが、階級的に見てはいけない書類が少佐の所にはたくさん来るためこの部屋で仕事をしているらしい。

ちなみに何か連絡があれば曹長が伝えてくれる。

「伯爵ってさ、今まで何機のユニット壊したんだ?」

ふと気になって聞いてみた。

「聞きたい?まいったな・・・ここでかい?」

ほかにどこで聞けばいいんだよ。思わずため息が出る。

「十機です。」

代わりに曹長が答えてくれた。すると曹長は突然立ち上がり叫びだした。

「だいたい!あんたはどうして二回に一回は何かしらの装備を壊さないと気がすまないの!私はあんたがユニットを壊すたびにどれだけの書類にサインしなきゃいけないと思っているのよ!?」

「上が納得して黙っちゃうくらい毎回撃墜しているんだからいいじゃないか。」

「この!」

曹長は指示棒をもって伯爵に襲い掛かる。

「痛いな~。先生~。」

「少しは反省しなさい!」

めちゃくちゃ叩いている。よほどストレスが溜まっていたのか。

・・・・・・・・というか俺の知っている曹長と違う。

元のイメージは一言で言えばクールビューティーだったが今の彼女を見るとなんというか気苦労の耐えない突っ込み役にしか見えない。

まぁ、502に来て数日でどのような性格かを知ることができるわけはないか。

それにしても平穏だな。ネウロイの出現頻度が低い冬とはいえ最前線とは思えん。

「どうしたの?ウィザード、そんなじっとこっちを見ちゃって。まいったな。私に惚れた?でも、一夫多妻制は宗教上だめなんだな。」

「ウィザードじゃない。バーフォードだ。いや、曹長がそんな感情を表に出すとは知らなかったものでな。」

「なんと!私ではなくロスマン曹長か!やっぱりバーフォード大尉は年上がお好き?」

「違う。」

「というか、バーフォード大尉にも言いたいことがあるんです!」

俺?曹長がこちらに歩いてくる。プンスカプンスカ私は怒っていますオーラがすごい。

「模擬戦でユニットを中破するとか、一体どういうことですか?あの時は少佐がいて深くは追求できなかったのでどうして中破したのか聞きたいんですけど。」

「ユニットで回し蹴りをしただけだ。そうしたら管野に迎撃されてユニットが凹んだんだ。」

「なにが回し蹴りをしただけだ、ですか!普通そういうことはしないでしょ!?」

「ブレイクウィッチーズ相手に普通が通用するわけないだろ。」

「よ、さすが幻の四人目のブレイクウィッチーズ!わかってる!」

あおるな、伯爵。

「軽く話には聞いていましたがまさか、本当にしたんですね・・・・。次はないですからね。」

「もちろん、ブレイクウィッチーズにはなりたくないからな。」

「えっ、ならないのかい!?」

そこに驚くのか。

「というか、あんた!伯爵も少しは・・・・・」

リリリリリリリン、リリリリリリリン!!!

電話だ。

「タイミングが悪い!」

悪態つきながら受話器を取る。

伯爵も新聞をまた読み始めたし、俺も何か飲もうか・・・

と思った次の瞬間、曹長が叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スクランブル!!!!」

 

 

 

 

 

一瞬で全員の意識が戦闘モードに切り替わり、基地内に警報音が鳴り響く。

四人が一斉に走り出し、すぐ隣の格納庫にある各々のユニットに搭乗する。

そしてその瞬間からこの基地は少しの間、俺たちのものになる。

管制塔や格納庫には“SC”のランプが点灯し、基地は第二種警戒態勢に移行する。

ペテルブルグ基地に着陸しようとしていた輸送機隊には着陸中止と上空待機が通達され、ロンドンに向かう高級士官を乗せた飛行機も滑走路手前で離陸待機が命じられる。

全てはウィッチを最優先に離陸させるために。

メイブの回転数が上昇し始める。銃を取り安全装置を確認。

全員から準備完了のハンドサインを受け取り、移動を開始する。

「502B隊隊長機より、管制塔へ。離陸許可を要請する。」

『了解、アポロ1、ウイスキー3を経由し、28Lより離陸せよ。現在風は南南東に2km、離陸に支障なし。』

「了解。全機、聞いたとおりだ。ついて来い。」

「「「了解。」」」

そして滑走路に進入、速度を一気に上げて離陸する。

「相変わらずジェットストライカーユニットはうるさいね。どうにかならない?」

「すまない伯爵、できない。」

『502コントロールより502B隊へ、第13観測所より報告だ。中型5、小型13の計18機の編隊がエリアオスカーサウスより3-5-6方向に時速460kmで飛行中、エンジェル9、防衛ライン突破まであと30分。至急これを撃墜しろ。』

30分?だいぶ近づかれたものだな。山の間でも飛んできたのか?

「全機、12000ftまで上昇する。上空から奇襲をかけて一気に減らす。出来るな?」

「もちろんですとも。」「いけます。」「いけるよ。」

 

全機が一斉に高度をさらに上げる。四つの飛行機雲が空に浮かび上がる。

索敵に反応あり、二時方向か。

そして、目視でも機影を捉える。

「敵機発見、二時方向下。安全装置解除。スタンバイ。」

初弾を装填し、スコープを調節する。よし、問題ない。

「降下開始、まず小型機を出来るだけ減らせ。」

四機が急降下を開始しネウロイを捕らえる。敵機からも攻撃が始まる。

 

小型ネウロイの高熱源部分に標準を向けて

攻撃

すかさず、すぐ隣の小型機に対しても

攻撃

続けざまに二機の小型ネウロイが爆散する。撃墜できた。

そしてすれ違う直前に

-能力を起動-

世界がゆっくり動く中でさらにもう一機のネウロイに対して狙いを定める。

引き金に意識を集中して

-解除-

攻撃

よし、一気に三機落とせた。

地面が急激に迫ってくるので反転し上昇。魔力で身体が強化されているらしいがそれでも苦しみを覚えるほどの急激なGが体を襲う。

「くっ、全機散開!二班は残存の小型機を狙え!」

「「了解!」」

 

一番近い右側をとぶ中型機に狙いを定め

攻撃

コアの少し右に着弾。外したか。

敵レーザーを、体を思いっきりひねって回避。

ネウロイを見下ろす場所について再び

攻撃

ネウロイのコアを露出することが出来た。

しかし硬い。前じゃ、一発あれば中型程度であれば落とせた。

何らかの敵装甲のアップデートでもあったのか?

修復がはじまり、引き金を引くが

ミスファイア(不発)、こんなときに限って不発弾かよ!

手動で排莢しようとしたとき、目の前のネウロイが爆散する。

ウィルマか、ナイスアシスト。

「大丈夫?」

「問題ない。ただの不発弾だ。」

弾薬はこちらの時代の物を使っているがよく不発弾がある。

怖いからやめてほしいものだ。

「ルマールです。小型はすべて処理したのでサポートに回ります。」

「了解、助かる。」

 

その後五分ほどで、敵は殲滅できた。

スコアは伯爵が6、俺が5、ルマールとウィルマが4(共同撃墜も含む)という結果だった。

 

1130

無事全機、帰頭した。誰もユニットを壊すことなく待機室に戻ってきたため曹長のほっとした顔といったらもう。

その後、1200まで襲撃はなかったのでこのままA隊に引継ぎとなった。

 

お昼ごはんを食べ、四人で報告書を書く。

「今日は何も壊してないからサインする量が少なくて楽だね。」

「だったらこれからも壊さなければいいのに。」

「ユニットは壊してなんぼだからね。」

知らんがな。というか、この隊の隊長は俺だから伯爵が壊すたびに何か少佐に言われるのか?それは困る、というか面倒くさい。

「もう、壊すなよ。責任とかクレームとか全部俺にくるのだから。」

「それは無理な相談という奴だな。鳥に空を飛んではいけないといっているようなものだよ。」

なんだその例えは?

「・・・・面倒だけは起こさないでくれよ。」

「善処するよ。」

ウインクされてもどう反応していいのかわからないからやめてくれ。

報告書を仕上げ、少佐に提出後はノルマを達成したということであとはA隊任務終了時刻まで基地内であれば何をしてもいい時間となる。

ウィルマたち女子三人は女子会を開くとか言ってどっかに行ってしまったので俺は格納庫でメイブの点検を行ったり、ユニットに乗ってラジオでは聞けないような周波数を聞いて時間をつぶした。たまには一人も悪くはない。

 

1900

下原&管野ペアが担当となり扶桑食が今日の晩御飯となった。

煮物、焼き魚、お味噌汁、白米、卵焼きetc.が並んだ。

これってどちらかというと朝食向きじゃないか?と思ったが飲み込む。

まぁ、そんなもんだろうと納得しておいしくいただきました。

食べ終わって食器を台所に持っていくと扶桑二人組みがいた。

「管野も料理が出来るんだな。まったく、イメージとは異なるものだな。」

「オレだって出来るさ。家で徹底的に叩き込まれたからな。」

「それはご苦労なこった。」

自分の使った食器を水ですすいで洗い始める。

管野の隣で大皿を洗っていた下原が話しかけてきた。

「バーフォードさんも出来るんですよね、私としてはそちらのほうが意外です。」

「出来ちゃ悪いのか?生きていくうえで必要なスキルだしな。」

「そういうわけではなく、ただ単に珍しいなと思ったんですよ。」

「お前、実は女なんじゃないの?ユニット動かせるなんて。」

管野は相変わらず突っかかってくるな。

「そういう管野こそ、男なんじゃないのか?一人称オレだし。」

「何だと!」

「まぁまぁ。そう怒らない。ほら、ナオもやることあるでしょ?食器洗わなきゃ。」

「わかってるよ!まったく。」

洗い終わった皿を立てかける。

「それじゃあな。」

「はい。お疲れ様です。」

 

 

 

2300

夜間ウィッチのバックアップ要員ではあるが少佐が俺の行動を把握していればどこに行ってもいいらしい。が、特に行く場所なんてないから部屋か食堂で待機しているが。

万が一のときは曹長か少佐にたたき起こされるだろう。

ということで、少し早いが寝る。

さっきまで飲んでいた紅茶のカップを洗って元に戻す。

「お休み、ウィルマ。」

「おやすみ、私ももう少ししたら部屋に戻ろうかな。」

「明日も早いんだからそうしたほうがいいんじゃないか?」

早寝早起き、って廊下に張ってあるからな。

下原が502に持ち込んだ扶桑文化が広まった成果だろう。

扶桑文化が変な方向に広まっているのは気のせいだろうか。

「そうだね。ばいばいー。」

「あぁ。」

部屋に戻り横になって目を閉じる。

 

 

こうして502での一日が終わる。

そしてまた明日が始まる。

 




こういう設定を考えているときって一番楽しいんですよね。
間違いがあればご指摘よろしくお願いします。
いまいち全員の特徴を捉えきれてないんですよね・・・。


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第30話 夜間哨戒

祝 お気に入り登録100件越え!!!
作者の趣味全開の当小説を読んでいただきありがとうございます!
これからも頑張りますので読んでいただけると幸いです。


最近登場人物が急に増えて困ってる人、ごめんなさい。
さらに増えました。
ただ、アニメにも出てたことがある人なのでそれほど困らないかも。


1945/1/14

0655

今日は日曜日だ。

よって、夜間哨戒任務があるがB隊はいつもどおり出撃待機を行う。

今日は午前中だったため俺も通常通り参加する。

朝食を済ませ、日の出一時間前になったので待機部屋のいすに座ってネウロイの襲来に備える。

「夜には夜間哨戒があるのに午前の哨戒に参加しなきゃいけないなんてなかなかハードだね。」

「伯爵か、仕方ないさ。ここは最前線だし夜間ウィッチはいつも人が足りてない。飛べる奴は飛ばさなきゃならないからな。夜のために魔力を残しておきたいから今日は来ないといいが。」

「まぁ今は冬ですし、昨日襲来したので今日は来ないでしょう。」

「ルマール、フラグを立てるな。」

「フラグ・・・?」

「いや、なんでもない。」

新聞を適当に選んでいすに座る。

早速広げたがその新聞はオラーシャ語だった。

すまない、オラーシャ語はさっぱりなんだ。その新聞を戻して英字新聞を取る。

「オラーシャ語は読めないのですか?」

「まぁね、知り合いにしゃべれる奴はいたが。ルマールは読めるのか?」

「дa.まぁ少しだけですけどね。」

それにしても、いろいろな新聞があるな。扶桑にカールスラント(ドイツ)、オラーシャ(ロシア)、オストマルク、ガリア(フランス)、ブリタニア(イギリス)、ロマーニャ(イタリア)などなどさすが多国籍軍。ただ最新の朝刊はオラーシャの新聞社が発行する英字新聞とオラーシャ語版のみだがな。

色々な新聞を読み比べしてみたいが英語とドイツ語と日本語以外は読めないから無理だな。

「紅茶とコーヒーが入りましたよ。」

ウィルマが全員分の飲み物を淹れてくれた。

「ありがとう。」「あ、ありがとうございます。」「ありがと。」

「いえいえ。」

ふう。まるで、休日だ。コーヒー飲んで新聞読んでるだけで給料もらえるとかネウロイとの戦闘を詳しく知らない奴が聞いたら怒り狂うだろうな。

 

結局午前中の襲来はなかった。

午後の任務をA隊に引継ぎお昼ご飯を食べ、報告書を3人に任せ、夜間任務に備えて寝る。

 

 

1730

およそ5時間の仮眠も取れた。

腕を伸ばして眠気を払っていつもの空を飛ぶときの服装に着替える。

食堂に行き、既に用意されている夕食を少し時間は早いが食べる。

すばやく済ませ、皿を戻し出撃準備にかかる。

格納庫に行くと先ほど帰還したA隊の面々がいた。寝ている間にスクランブルがあったのだろう。

「お疲れ様、熊さん。」

「あ、バーフォードさん。これから夜間哨戒ですか?気をつけてくださいね。」

「ありがとう。」

自分のユニットがあるところにいくと今日の夜間哨戒での飛行ルートが書いてある書類が置いてあったので目を通す。飛ぶ主なルートはレーダーの死角となりやすい谷や山の麓などが多かった。

1900から0400までの9時間となっている。

マジかよ、夜間哨戒ってこんな飛ぶものなの?魔力自体は食べ物を食べれば回復するとのことなので一応余分に持っていく。9時間連続で飛べないことはないがこれほど長い時間飛ぶことはめったにないので少し不安に襲われるがそれを振り切って銃のチェックを始める。

チェック完了。

ユニットを起動させる。チェックリストクリア、オールグリーン。

スタンバイ。

「いってらっしゃい。」

突然話しかけられて振り向くとそこには彼女がいた。

「ウィルマか。いってくるよ。」

「夜だからくれぐれも気をつけてね?」

「もちろん、こんなところでくたばるほど俺はやわじゃないさ。」

「なら安心した。」

「気をつけてね。」

「いってきます。」

そういって滑走路に向かう。単調なやり取りだけど十分に気持ちは伝わってきた。

それにしても死に行くのではないのだから何を大げさななんて思ったが、彼女だからこそ夜間の怖さというものを知っているのかもしれないな。まぁ、俺はいつもどおり任務をこなすだけだ。

1850 離陸

 

1900 

エリアエコー到着、哨戒任務を開始する。

今日は新月なのであたりは本当に暗い。町の明かりもこのあたりは既に人が撤退しているためない。ルックダウンレーダーによって地面との距離が常に把握できるため衝突することなく夜間も飛ぶことが出来る。さらに夜間でも昼間のように見えるナイトビジョンのようなものもあり、昼と同様に飛ぶことが出来る。索敵は赤外線感知システム、空間受動レーダー、通常索敵レーダーが全自動で行う。万が一のときのために自分でもあたりを見て確認しているがはっきり言って俺が行うのはこいつを飛ばすことと敵を発見した際の攻撃のみとなる。もし、メイブが前のように戦闘機の形態だったら俺は要らない子だったはずだ。

 

それにしても、星がよく見える。遠くにはうっすらとオーロラも見える。

あれが北斗七星か。確か上からドゥーベ、メラク、ファド、メグレズ、アリオト、ミザール、ベネトナシュだったな。で、あれが北極星か。21世紀から前後数世紀はずっと北にあって西暦10000年位にはデネブが北極星の代わりになるとか聞いたがあれは本当なのだろうか。さらに視界を動かす。

カシオペア座か、Wだからわかりやすい。左からセギン、ルクバー、ツィー、シュダル、カフか。

これくらいきれいな夜空を見られるのはパイロットの特権だしな。

異なる世界に来ても星の位置は前と変わってない。

宇宙からしたら別の世界に来たことくらい些細なことなんだなと知らされた気がした。

 

2時間ほどたったころだろうか、突然通信が入ってきた。

『おーい、いるんじゃろ?』

誰だ、こいつ。とりあえず、無視する。俺じゃない可能性だってあるしな。

『わかっているぞ、無視するな』

指向性の通信?こちらに誰かがいるのをわかっている上で話しかけてきているのか?

『サーニャや下原さんから聞いています。502JFWのウィザードについては。だから警戒する気持ちもわかりますが、少しお話しませんか?個人的にも気になりますし。』

別の奴が話しかけてきた。サーニャや下原、勝手に話しやがって。

周波数を調節し、とりあえず話しかけてきている奴の位置を探す。

「とりあえず、身分を明らかにしろ。話はそれからだ。」

『むッ、失礼な奴じゃな。せっかくわらわが話してあげてる・・・』

「御託はいい。」

『506JFW所属、ハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン大尉じゃ。ウィトゲンシュタインと呼ぶがいい。』

長いんだよ。

『連合国軍第一独立特殊戦航空団、ハイデマリー・W・シュナウファー少佐です。階級は気にせずハイデマリーでいいですよ。』

くそ、上官かよ。

「502JFW、フレデリック・T・バーフォード大尉だ。バーフォードでよろしく。」

それにしても506か。貴族だけの部隊だって聞いたことがある。いつ発足したのか分からんがとにかく面倒くさい奴らだ。

こういう奴にはあまりかかわりたくない。

『それで、そっちの状況はどうじゃ?』

「特に変わりはないな。」

位置特定、大尉はガリアのセダン上空、少佐はベルギカのサントロンか。相当な距離があるぞ。

彼女らの魔道針というのか長距離でもラグなしで通信できて、索敵も出来る優秀なものなのだな。

『さて、ウィザード。わらわはお主についていくつか聞きたいことがある。答えよ。』

「断る。さっさと基地に帰れ。」

うるさいな、だから貴族は嫌なんだよ。

声が響いて頭が痛い。

「躾はちゃんとしておいてくれ、少佐。」

『はい、なんかごめんなさい。』

『ハイデマリー!』

それから、数分後ようやくおとなしくなった。

『それでは、お話ししませんか。』

「あんたなら構わないさ。」

まぁ、シュナウファー少佐なら常識が通じそうだしな。

『早速なのですが、あなたは何者なのですか?情報を探そうにもまったくでないし急に沸いて出てきたとしか思えないのですが。』

はい、まったくをもってその通りです。突然この世界に来ました。

そういえば、俺に関する情報を各国はどれほど握っているのだろうか?

「悪いが軍事機密だ。ちなみにどれくらい知っている?」

『うちの部隊にはそなたと同じ軍の者がいるからのう、何でも空軍大将の伝家の宝刀らしいな』

「ブリタニア空軍の奴がいるのか?」

『バーガンデールだ。知らないのか?』

VFA-17所属のあれか。確か男として育てられたとかいってたな。元ベルギカの貴族で祖国が陥落したからうちに来たらしいな。

10番台だから防衛を主任務としているから最適ではあるが、なるほど。

『それと、初めてジェットストライカーユニットを実践配備した部隊であるとか。』

「まぁ、つけているのは俺だけだけどな。」

『ジェットユニットはどうなのじゃ?早いのか?』

「早いさ、だから周りの連中と速度を合わせるのが大変だな。それと魔力の消費量が多いからお前らはやめたほうがいいぞ。俺は元の魔力量が半端ないから問題なく飛ばせるが。」

本国に流れることも考え、少しうそも混ぜてみるか。

「まぁ、実際にはやめといたほうがいいぞ。一機作るのにも金や時間がかかり過ぎる。金属ひとつ作る過程からおれ自身の魔力を入れることでユニットと自分との魔力親和性を限りなく高めることでようやくジェットストライカーユニットとして動かすことが出来ているのだ。ほかの人が乗っても飛ばせないのはそのせいだ。いわばバーフォード専用機と言ったところか。」

『専用機ですか、すごいですね。』

「これくらいで十分か?次はこっちの番だな。506ってのはいつ発足したんだ?」

『まだじゃ。だが正式なお披露目はしてないだけで部隊の運用は行っているという状況じゃな。まだ来てない奴もおるし。』

なるほど。ガリアとしても防衛戦力はあるほうがいいからな。一刻でも早く守ってもらいたいっていうのが本音だろう。

「少佐、506ははっきり言って使えるのか?」

『んな、わらわが弱いと申すのか!』

「連携の面についてだ。貴族って無駄にプライドが高いからチームプレーに向いてないと思うのだが。」

『そうですね、不安です。』

『ほう?わらわが他のウィッチ達と連携がとれないと申すのか?』

『だって、大尉。チームプレーってしたことあります?前のあの戦闘の時だって・・・・』

『あれはこやつがわらわについてこられないのが悪いのじゃ!』

だめだ、こいつ。

『腕は確かなのですけどね。』

「なるほどね。今のやり取りで大体わかったよ。」

あと聞きたいことといったら、、、

ピーーー!

コンタクト。ヘッドオン。中型が一機。速度が速いことから偵察機の可能性あり、か。

『どうされました?』

「お客さんだ、切るぞ。」

『お気をつけて。』

『フン!まぁ、がんばるがよいぞ。』

「わかったよ。通信アウト。」

 

周波数を切り替えて本部に報告する。

「こちら502JFW、バーフォード大尉だ。エリアエコーNにて会敵。中型1、engage.」

『こちらコントロール、了解した。Good luck.』

初弾装填、安全装置解除。正面から突っ込んでくる。

コア位置特定、右翼の付け根か。面倒くさい位置にある。正面からじゃ一撃での露出は不可能か、なら上からだな。

上昇開始、まだ気づかれていないか。ネウロイは金属に反応するとどっかの報告書で読んだことがある。元の機体でもそれほど金属は多用されてないからやはり気づかれにくいのかも知れないな。

敵との距離が12000mくらいになりようやく軌道を変えてきた。

進路から考えるに谷に沿って巣に戻ろうとしているのだろうか。気づくのが遅いんだよ、既にこちらは高度を取ってある。

敵後方上空から一気に急降下してコアのある部分を狙う。

攻撃

着弾

反動でずれた分を修正し再び

攻撃

着弾

少しずれたか。

 

しかし着弾した衝撃で進路がぶれたのかそのまま谷の壁に突っ込んだ。

まずい!

すぐに目を覆った。それと同時にネウロイが爆散する。

こっちは突然強い明かりが出来るとカメラがそれにあわせて集光してしまうからだめなんだよ。少し遅かったのか目がチカチカする。

I have control.

Garudaの自動制御で速やかに戦闘空域から離脱する。

レーダーから反応が消えたところを見るとさっきの爆発でコアも爆散したらしい。

不覚、FAFじゃ夜間戦闘といってもそれなりの明るさはあったので新月でのこういった事態は想定していなかった。

時間がたち、目のチカチカもだいぶ落ち着いた。

You have control.

再び巡航状態に戻る。今日は失敗だったな。次回にいかせる機会が得られただけでも運がよかった。もし二機いたらなんて思うとぞっとする。

「コントロール、バーフォードだ。片付けたぞ。任務を続行する。」

『コントロール、了解。』

 

『なんだ、もう終わったのか。速いのう。』

「無線を聞いていたのか、趣味が悪いな。」

巡航状態に戻った数秒後にまた通信が来た。

『暇だしな。お主が戦っている様子を見たかったのだが距離がありすぎて捕捉できないので少しでも情報をと思ったのじゃが。お主しゃべらんからのう、何もわからなかったのじゃ。』

『お疲れ様です。中型一機と聞いていたのですが速いですね。』

「運がよかっただけさ。特に今日はな。」

『そうですか。』

 

再びエンジンの音だけが響く。

『お、日付が変わったのう。』

1/15(月)か、あと終了時刻まで4時間もあるのか。

星の位置もだいぶ変わったな。離陸直後見えていた星座のうち、もう半分以下にまで沈んでいるものもある。

『それじゃあ、わらわはこれで終了じゃ。後はほかの部隊に引き継ぐからのう。』

『お疲れ様、ハインリーケ。』

そういってウィトゲンシュタインはいなくなった。

 

「ウィトゲンシュタイン大尉とは知り合いなのか?」

すこし気になったので聞いてみた。

『えぇ、前に同じ部隊にいまして。でもハインリーケがこういう風に夜間哨戒中に誰かと会話をするのって珍しいんですよ。いつも“子供の遊びだ”とか言って絶対にやらなかったのに。プライドよりも興味のほうが強かったのかもしれません。』

「そいつは光栄だよ。まったく。」

『そうですか、よかったです。』

・・・・・皮肉が通じないか。

『初めての夜間哨戒任務はどうですか?』

「どうも思わない。敵を探し、いれば落とす。昼間とやることは変わらない。」

『・・・変わっていますね。初めてやる人はみんな怖いって言うものですよ?』

「夜間飛行自体は初めてではないし、昼間より敵が少ない分こっちのほうが幾分らくだね。」

『私は昼間の戦闘をあまりしないのでわかりませんが、確かにそうですね。けれど、誰も援護してくれないのが大変ですけどね。』

「それは自分の腕で何とかすればいいだろう。少佐という階級についているのであればそれだけ腕が認められているのだろう?なら問題ないだろう。」

『確かにそうですけど、そういう意味ではなくですね。あっ、バーフォード大尉これで失礼します。ネウロイですので。』

「幸運を。」

『はい。』

そういって通信は切れた。結局任務終了時刻まで通信は来なかった。

「コントロール。こちら502JFW、バーフォード大尉だ。ミッションコンプリートRTB」

『こちらコントロール。すべて了解した。』

 

 

0642に基地に帰頭、報告書はいつでもいいといわれたので朝食を食べてそのまま寝る。

今日一日は余程のことがなければ出撃はしなくていいので昼あたりまで寝る。

1300に起きて昼食を取った後に報告書を書き、少佐のいる部屋に提出しに行く。

「少佐、報告書を提出しに参りました。」

「どうぞ。」

「失礼します。」

扉を開けるとコーヒーを飲みながら様々な書類にサインをしている少佐がいた。

すごく忙しそうだ。

「これが昨晩の報告書です。確認をお願いします。」

「確認する。少し待て。」

ペンを置いて俺の書いた書類に目を通す。

「ふむ、なるほど。了解した。中型一機を撃墜か。パターンからすると本来ならば来るのは明日のはずなのだがな。」

「そもそもパターンなんて、存在するはずないじゃないですか。何を言っているんです?」

「なんだと?」

顔を上げて俺を見る。まるで信じられないものを見つけたときのようだ。

「?何でしょうか?」

「パターンがないだと?どういうことだ?」

「そんなものこちら側が勝手に推測したに過ぎないものでしょ?いまのあなたたちは、そうですね…、たとえるならある命題を証明するときに、数学的帰納法で命題の成立を証明しようとしているとしましょう。統合軍はn=1のときの成立は既に証明しているのですが肝心のn=kのときの成立を仮定してn=k+1が成立するという項目の証明を行っていないのですよ。だからパターンにずれが生じるんですよ。」

「もっとわかりやすく頼む。」

難しい顔をしているということはわかっていないな。

自分ではわかりやすいと思ったんだが。

「つまり、あなた方は表面的な事柄だけを見て物事を判断しているんです。根本的な事柄を考慮にいれていない。ネウロイは高度な知的生命体です。奴らの行動には何かしらの理由があります。あなた方の言っているパターンというのはたまたまなんですよ。それをあたかもネウロイにはパターンがあり、それに基づいて行動していると思い込んでいる、それだけの話です。」

「ちょっとまて。ネウロイが高度な知的生命体?何を根拠に・・・・」

「例を挙げないとだめです?501で宮藤とネウロイの間で何かしらのコミュニケーションがあったというのは知っていますか?」

「あぁ。」

「つまり、ネウロイは人間の言葉を理解することが出来て、それに答えられる能力がある。この事実がどれだけすごいことかわかりますか?」

少佐は黙ったままなので続ける。

「そんな奴らが無計画に地球を侵略しようなんて思うはずがない。パターンに沿ってしか攻撃できないなんて思わないほうがいいですよ。いつか、奴らも人間の行動をまねして戦術を立ててくるでしょう。ネウロイに勝ちたいと思うならパターンなんて考えはすぐに捨てて常に警戒を怠らないでください。常に奴らの上を行く戦略を立てろ、さもなければ待っているのは死あるのみです。」

 

「なるほど、わかった。次回、統合司令部に行くときに上に話してみよう。」

「よろしくお願いします。それでは。」

部屋を出ようとすると呼び止められた。

何だ、まだあるのか?

小さな封筒を投げてきたので受け取る。

「これを。話は変わるがハイデマリーの奴といつの間に仲良くなったんだ?」

封筒を開けると長方形のカードが入っていた。

何だ、これは?

「QSLカードじゃないか。」

「QSLカード?」

「私も詳しくは知らないが、交信したことを証明するカードだと思ってもらえれば問題ないと思う。」

「何でそんなもの送ってきたんだ?」

少佐は再び書類に向き合い、作業を始める。

「彼女は引っ込み思案だから話す人が少ないんだ。けれど友達は作りたい、特に自分の専門であるナイトウィッチとは特にな。だから話して気があうと思った奴には送っていると聞いている。サーニャも持っているそうだ。大尉も送ってやるといい。せっかくなので友達になってやってくれ、喜ぶぞ。」

「わかった。送っとくよ。ナイトウィッチの知り合いがいるのも悪くない。家の奴らとは時間が合わなくてなかなか聞けないからな。それとさっきの奴。ちゃんと制服組の奴らに伝えておいてくれよ。」

「了解した。」

 

その後、部屋に戻りルマールが書いてくれたエンブレムの下書きをQSLカードの裏に書いてその他もろもろ必須事項を表に書いた上で、サントロン基地にその日のうちに送った。

 

 

 

 

Another view -side Saint-Trond Base-

 

「ハイデマリーさん、あなた宛にお手紙よ。502ってラル少佐のところよね?何かしら。」

ハイデマリーがはさみで手紙を開けるとカードが入っていた。

ミーナ中佐はカードの詳細は知らないようだ。はやり、知る人ぞ知るというものなのかもしれない。

「ハイデマリーさん?それなにかしら?カード?」

「まぁ、一言で表すなら友達の証ですかね。」

「???」

裏のエンブレムの下にはこう書いてあった。

Let me be your friend.

友達になれるかもしれない人からの初めての手紙だった。

 

another view end.




階級などは今年の1月にでた506の小説を元にしています。
なのでwikiと少し異なる部分もあると思いますがご了承ください。
基本的に資料は小説を基準に、なければwikiという風にしています。
英語は自信ありません。
次回は502に戻りますよ。

何かあればご指摘願います。


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第31話 遠征(上)

戦闘描写が続いたので今回はなしにしようかなと思ったけどやっぱり入ってしまった。
ただほのぼの展開。ぴりあま?
初の一万文字越え。


1945/1

これから今日を含めて4日間、502JFWは臨時特別編成となる。

以前からたまに言われていた遠征が実施されることになり、俺たちB隊が行うことになった。

さて、B隊が遠征として前線で待機を行うことになった場所はエリアR(ロメオ)中央に位置するチェソヴォ=ネティリスキーというところになった。サンクトペテルブルグから直線距離で120km、ネウロイの巣があるノヴゴロドからは約50kmとFOB(Front operation Base  前線作戦基地)を置くにはなかなかいい位置である。

しかし、なぜこの時期に遠征があるのかというとまた“パターン”らしい。

3日以内にけっこうでかいのが来るらしい。

そんなもん、ここ最近は冬なのに一日おきくらいに来ているのだからそんな予想当たるに決まっているだろう。

しかし100%迷信とはいえないのが残念だ。

ユーティライネン少尉の未来予知なんかがいい例だ。

彼女はすぐ先の未来を視ることが出来るらしいがもしかしたら未来視が出来る奴を隠し持っているのかもしれない。

まぁ、そんな奴がいたらそいつ一人をめぐって戦争が起きるな。

・・・・可能性の話をしても仕方がない。少佐は過去のデータを元にパターンを見つけ出し、それを元に司令部が命令書をだしているのだから俺たちはそれに従うしかない。

しかし、天気予報じゃないんだからそんなのに時間をかけるならもっと別なこと、たとえばコンピューターなどを作るのに割り当てたほうがよっぽど迷信を信じるよりは確実だとは思うがね。

 

少佐から遠征に関するブリーフィングを終えて、今俺たちは荷造りをしている。

現在、チェソヴォ=ネティリスキーには人は住んでいない。

昔はそれなりに人がいたらしいが過去の撤退戦で既に住民は退去しており今はオラーシャ政府の所有地ということになっているため、東欧統合軍が臨時でそこを間借りする形をとって作戦を行う。

この町は東欧司令部の指揮下にある部隊のなかで公表されているなかでは一番近い場所にある。巣から一番近い観測所だってもっと遠い場所にある。

資料によるとしばらく駐屯する場所にある人工物といったら撤退する際においてかれたものや建物、最近設置したらしい俺たちでも使えるような簡易レーダー施設くらいしかないないらしい。そのため食料、燃料を毎回持っていかなければならない。またネウロイの活動範囲に近すぎるため空から補給物資を投下するという方法も一時は考えられたが結局却下された。

どうやら投下する機体を護衛するためのウィッチすら足りない状況のため、こうして毎回自分たちで担いでいくしかないのだ。ただ、前回の遠征の際、余った物を倉庫に保管してあるとのことなのでそれも上手く活用しながら持っていくものを選別する。

さて、突然だが敵の飛行ルートについて説明する。ノヴゴロドからサンクトペテルブルグまで侵攻する際のネウロイの飛行ルートのパターンは主に3種類ある。

まずは最短コースの一直線で飛行するルートα、次にエリアQ(クエベック)中央にあるストレチニ湖付近で北上するルートβ、エリアN(ノヴェンバー)北にあるキリシという町付近で北西方向に旋回して向かうルートγがある。

俺たちB隊が遠征で泊り込むチェソヴォ=ネティリスキーはコースαの線上にある。よって今回の任務はルートαを通るネウロイの殲滅にある。規模が大きいときは後ろに控える別のウィッチ隊と共同作戦を取る手はずになっている。

ほかの敵については、βはカールスラント空軍、γはオラーシャ空軍、その他やほかの部隊が見逃したネウロイを502が担当することになっている。

さて、大体準備が出来たみたいだな。

「よし。それじゃあ、持ち物の最終チェックを始める。伯爵」

「はいはい。弾薬と燃料。ちゃんと持ったよ。大尉も同じ弾薬をつかってくれれば楽なのに。」

「それは、兵器開発局の連中に言え。ルマール。」

「はい。衣服、各種医療品持ちました。」

「ウィルマ」

「通信機と、予備の部品。確認したよ。」

「了解。」

「隊長は?」

「食料と飲料水。確認した。」

「よろしい!それでは楽しい楽しい遠征にでも行きますか!」

「なんで、伯爵が仕切っているんですか・・・。」

格納庫の壁に立てかけてある各員の名簿の札を“出撃待機中”から“遠征中”に変える。

そして、ストライカーユニットに搭乗する。俺もメイブに乗り、エンジンの回転数を上昇させる。

チェックリスト、確認開始。

エラー

通常索敵レーダーに異常あり。

通常飛行に問題なし。

飛行可能。

なんだと?

「どうしたの?」

「いや、問題ない。」

とにかく飛ぶことは可能らしいから離陸シークエンスを続行する。

滑走路に進入し、離陸。旋回してエリアR(ロメオ)に向かう。

飛行開始から10分後グリーンランプ点灯、つまりエラーは直った。

索敵自体は空間受動レーダーやほかにもあるため、仮にレーダーが壊れても問題ないがなぜエラーが起きたのかがわからない。

すべての機器の精査を行うが問題はなし。別のプログラムでも確認するも問題なし。

内部の問題ではない?では外部?

Garudaに対しあらゆる条件を考慮して原因を探すよう命令する。

5分以上かけてGarudaが出した結論は

“情報不足”だった。

じゃあなんだ?フェアリでは常に問題なく動くはずの機械を乱すような原因となるものは。

・・・・・・・・あれか。

ふと、とある原因になりうる可能性が思いついた。

そう考えればなぜレーダーだけが影響を受けたのかうなずける。

もしかしたら敵さんにも影響が出ているかもしれない。ネウロイにも何か変わった動きがあればいつかたてなければならない進行作戦の鍵になるかもしれない。

とにかく、Garudaに可能な限りその原因を考慮に入れて対策をとるよう命令を下す。

 

しばらくして目的地が見えてきた。

もちろん滑走路なんてないから近くの広くて降りることができる牧場に着陸する。

無事着地し、牛舎を格納庫代わりに使う。ユニットから降りて全員に集合をかける。

全員が降りて俺の前に整列したので指示を出す。

「お疲れ様。さて、これから指示を出すからそれに従って行動してくれ。ウィルマ、通信機を設置しろ。ルマール、泊まる場所の掃除を頼む。伯爵、家の中を回ってしばらく過ごすのに問題があるような場所の修理を行え。ウィルマ、伯爵はそれぞれの仕事が終わったら雪かきを始めよう。解散!」

「「「了解。」」」

俺はウィルマが設置した通信機で本部に到着を報告する。

本部からの通知によるとしばらくは晴れが続くらしいが3日目の夜から最終日の朝にかけて吹雪く予想が出ているとのことだ。

屋根が落ちると怖いからとにかく雪を落とす。時々使われる程度なので修繕なんて簡単にしかされてない。どこかが壊れやすくなっているかもしれない。家が壊れるのはたまったものではないので、少しでもリスクを減らす。

しかし、先にレーダーを設置しなければならないので先にそちらを済ませる。

掃除が得意なルマールに家は任せて雪をどかす。しばらくするとウィルマと伯爵が合流した。どうやら二人とも問題なく終わったとのことだった。

「それにしても寒いね。」

「昼でこの寒さだから、夜はかなり冷えるな。ストーブが正常に動くといいが。」

「それは問題ない!」

伯爵がスコップを上に掲げて叫ぶ。

「なぜならカールスラントの科学力は世界一だからな!」

「でもこの家のストーブはオラーシャ製だよ。しかも薪ストーブ。灯油じゃない。」

「「「・・・・・・・・・・・。」」」

「・・・じゃあ何で燃料持ってきたんだよ?私の苦労は!?」

「まぁ何かには使うんじゃない?」

不安になったので持ち物リストを確認したが確かに灯油と書いてあった。

外や部屋照らすのに使えばいいか。どうせ電気なんて通ってないし。

 

30分くらいである程度雪をどかすことで広さが確保できたので牛舎から簡易レーダー装置を引っ張ってきて起動させよう、と思ったのだがうんともすんとも言わない。

「寒さにやられたか?」

「そうみたいだね。どこかのコードが切れちゃったのかな?」

「やっぱりオラーシャ製でも寒さにはだめなものもあるんだな!」

「1939年カールスラント陸軍納入って書いてあるよ。」

「「「・・・・・・・・・・・・。」」」

伯爵、涙拭けよ。

「もう軍曹の馬鹿!!」

伯爵がウィルマに抱きつこうとしてあわてて逃げる。そのまま家に逃げていき伯爵もそれを追いかける。

遊んでないで仕事しろ。というか、突っ込み役というのも時には自重しないとだめだな。

いや、それ以前によく屋根から飛び降りても平気だったな。

「屋根から雪降ろすから、家から絶対に出るなよ!」

「わかってるよ隊長!もう捕まえたから!」

「伯爵!?いや、放して!!」

じゃれあうワイマラナー(犬)とスコティッシュフォールド(猫)を放置して、屋根に上る。もともと尖がっていて雪が積もりにくい形にはなっているがそれなりに残っている。

それを何とか滑らないように落とす。

 

何とか降ろして暖を取ろうと部屋に戻るとルマールが二人を正座させて怒っていた。

ものすごい剣幕で怒鳴っている。

早口で何を言っているのか時々聞き取れなかったが要約するとせっかく整えたベッドや部屋をこんなに散らかして、私も働いているのになんで遊んでいるんですかうんぬん。

「それくらいにしてやれ、ルマール。」

「あ、バーフォード大尉。ですが・・・。」

「どうせ、伯爵なんていっても聞かないだろ。二人とも正座一時間な。ルマールもこれでいいだろ?」

「はい。」

それにしてもずいぶん散らかしたものだな、雪降ろしている間になにやったんだか。

「伯爵、人の嫁に何しやがる。」

「なっ!」

一瞬でウィルマの顔が赤くなる。意外なところでウブなんだな。

「いいじゃんべつに、触って減るようなもんじゃないし。」

「・・・・・お前は何をしたんだよ。まぁいい、一時間たったら部屋を元に戻せよ。」

「「はーい。」」

二人のいる部屋を離れて牛舎に行く。既にルマールによって掃除が完了しておりここでも十分寝れるんじゃないか?というくらいきれいだ。さすが502で一番の綺麗好きだな。まぁそんなことしたら凍死しそうだけど。

テーブルの上においてある通信機をストーブのある部屋の中に持ち込んで部屋の中でも通信状態が良好であることを確認した上でもし本部から指令が届いたときにすぐに反応できるように待機する。

ストーブが正常に動いているためか部屋の温度も上がってきて快適になってきた。隙間は既に伯爵のお陰かふさがれているため外から冷気が入ってくることもない。

平均最高気温が-5.1℃、平均最低気温が-10.7℃だけあって外は寒い。もちろん部屋の中でも防寒具を着ている。

4時間途中で交代しながら待機したが結局この日、ネウロイは来なかった。

日の入り後30分が経過したので本部に定時報告を済ませて、今日の業務は終了となった。

 

1900

夜ご飯の時間となった。皆で食べるといっても502でいつも食べているような物ではなく、長期保存の利く軍用携行食や缶詰といったものだ。

ただ、せっかく火があるので使わない手はない。本当はコンロを使うのが正しいのだがガスも通ってないからこちらも使うことができない。

フライパンの上に乗せて火に近づけていためたりして調理する。

明日、一度煙突を掃除しないとだめだな。

食器を洗ったり何かと水が必要なので雪の塊をなべの中に入れて火にかける。70℃以上の温度で10分やれば殺菌できる。薪ストーブの火力なら十分だろう。

お湯も出来たのでコーヒーや紅茶を淹れる。

「ふぅ。今日もお疲れ様でした。」

持ってきたらしいクッキーを皆にどうぞと差し出しながら言ってきた。ルマールの手作りだそうだ。

「ルマールが今日は一番働いてくれたから。助かった。」

「いえ、私は元々掃除が好きなのでこれくらい・・・。」

「それでもいいんだよ。それで、そこにいるお二方は今日何をしてくれた?」

ビクと二人の方が動く。

そして伯爵がビシッと手を挙げて宣言する。

「部屋にあった様々な物の位置を変えました!」

要は散らかしたというわけか。

「明日、煙突掃除な。」

「はっはっは!冗談がきついよ、大尉!」

「・・・朝食抜きにしてやろうか?」

「ごめんなさい。ちなみに軍曹は?」

「ウィルマは執行猶予だろ。先に手を出したのは伯爵だろ?」

「まぁそうだけどさ。でも軍曹には甘いね!」

「悪いか。」

「そっか、なるほどなるほど。バーフォード大尉はお嫁さんの尻にひかれるタイプか。」

そんなことはない、そんなことはないはずだがどうだろうな。

「そういえばさっきお嫁さんとか言ってましたもんね。」

ニヤニヤしながらルマールが言ってくる。

こいつら十代女子はやっぱり食いついてくるものなのか。

「まぁ、言ったな。」

「将来は結婚とかするんですか?」

「「へ?」」

 

思わずウィルマと同時に声を上げてしまう。

返答しようと思ったがなんと言えばいいのか思い浮かばない、というか今まで考えたこともなかった。いつ死ぬかわからない身だからとお互い言えなかったのだ。

いや、それ以上踏み込みたくなかったのかもしれない。

なんせ、どちらかを残して片方がいなくなる可能性だって十分あるから。

だが・・・・

 

「リョウはさ、私と結婚したい?」

思考はその言葉で遮られる。いつの間にかウィルマは俺の気づかないうちに目の前に来ていた。

今、俺はどう答えるべきか。将来を見据えて考えるならするべきではないだろう。するとしても退役後だ。

だが、そんな考えは彼女の目を見た瞬間消え去ってしまった。

まっすぐ、あなたの気持ちを答えてほしい、そんな風に言っているように見えた。

なら、俺が言うべき言葉は一つだ、覚悟を決めろ。

もう失わない、必ず守るとあの時彼女に誓ったはずだ。

だから俺は、

「あぁ。」

肯定した。彼女は微笑みながら"良かった"と呟き

「なら私はその言葉で十分だよ。リョウのことだから将来のことを考えてなんて思っていたんでしょ?だからいつ?なんて聞かない。そのときが来るまで私は待っているから。」

額と額をあわせながらそういってくれた。

「ね?」

 

かなわないな、彼女には。それに俺もずいぶん変わった。ジャックに以前、指摘されたがその通りだ。他人のことを優先事項に含められるようになったし、性格がずいぶん丸くなったと思う。

「ありがとう。」

「うん。」

 

 

 

 

「あのー。すみません。お二人の世界に入るのはいいんですけどそろそろ戻ってきてほしいです。」

「あっ、え、えっと・・・。ごめんなさい!」

ばっ!と俺から離れて近くにあった毛布に包まって顔まで隠してしまった。

「それにしても大尉と軍曹か~。階級を超えた上司と部下の恋模様か~。これだけでも小説かけちゃいそうだね。」

「伯爵、茶化すな。それと、それやったら絶対に許さないからな。銃殺刑ものだぞ。」

「えーどうしようかな?」

「・・・・・すこし外に出てくる。」

「寒さ対策はきちんとしてくださいね。」

「わかった。」

 

外に出てさっきのことをもう一度考える。まだ一ヶ月もたってないんだな。彼女とこういう関係になってから。

ここ最近は、命令があれば飛んで交戦し、撃墜したりネウロイの習性について調べたりする日々がずっと続いたからな。考える暇がなかったとは言わないが意識的に無視していたのは事実だろう。

結婚しなければ仮にどちらかが死んでも若気の至りとか何とか言って忘れることが出来るだろう。しかし、もしその一線を越えてしまえばどうなってしまう?

俺にはそれがわからない。そのときも同様に忘れることが出来るのか?

いや、もう今の時点で既に忘れるなんて不可能だろうな。

ならいっそのこと進むしかないだろう。

だが・・・・、だめだ、またループを繰り返す羽目になりそうだ。さっきは覚悟なんて言ったが深くその事について考えれば考えるほど雑念が入ってきて覚悟が揺らぎそうになる。

そういえば、FAFではヒュー・オドンネル大尉とかがそうだったな。

テストフライトは見ていたがまさかあんな結果になるとは。特殊戦のとは違って明るくていい奴だがそういう奴に限って死んでいく。

一度ジャックにでも相談してみるか。あいつはもう子持ちだし。

結局星空を30分くらい見てから部屋に戻った。

 

 

「・・・って言ってくれたんだよ。」

「へー、意外と隊長もいいこと言うんだね。」

部屋に戻るとウィルマは毛布から抜け出し三人で話していた。女子会、ガールズトークってやつか。

「お帰り。寒くない?」

「平気だ。」

「さっき、どう告白してくれたかを聞いてたんだよ。意外といいこと言うんだね。」

「やかましいわ、伯爵。」

「年が変わった直後にプロポーズなんてまるで映画みたいで羨ましいです。私もいつかこういう風になれるんですかね?」

ルマールがため息をつきながらそうつぶやいた。

「まぁ、がんばれ!」

「ウィルマさんがそういうと、勝者の言葉にしか聞こえないんですよ!」

「そうだそうだ!」

あいかわらず伯爵はあおるな。こいつらだってネウロイがいなければ普通に青春を謳歌していたのに、いや結局人類同士の戦争に巻き込まれていたか。ウィッチとして全線に出るか軍人の補佐役にでもついていたのだろうか。

 

「そういえば、軍曹って20歳超えているのに魔力はぜんぜん問題ないのかい?」

「去年の暮れまではシールドも張れないくらい弱まっちゃったんだけど今年に入ってからなんかわからないけど改善してネウロイのビームにも耐え切れる位にまで回復したよ。」

「そんなことってあるんですか?魔力が回復とか。」

「一時的なスランプとか?それなら前例が幾つかあるみたいだけど。隊長は何かわかる?」

・・・・・心当たりは確かにあるがいや待て、ゲームじゃあるまいし。

そんなことがあってたまるか、いや実際起きているんだから、どうしたものか。

まぁ、考えないことにするか。冷や汗が少し出てきたが。

「わからない。」

「そっかー、まぁウィッチのこと自体も詳しくはわかってないこともあるから仕方ないかもね。」

「そうですね。あっ、なんかもうこんな時間なのでそろそろ寝ましょうか。」

「そうか、じゃあ私はベッドをこっちに持ってくるね。」

「いったん換気しますね。」

ここで寝るのかよ。まぁ、暖房効率を考えれば納得だな。

しかし、驚いたことに別の部屋からベッドごと持ってきやがった。二つのシングルに一つのダブル。

「じゃあ、俺はソファに寝るから・・・・。」

「「駄目だよ(です)!」」

「何故だ!?」

なぜ、伯爵ならともかくルマールまで?

「バーフォード大尉が隊長なのに寒い思いをするのはいけないと思います。」

「というか、二人に何かあった方が面白いし。」

「本音が駄々漏れだぞ。」

「まぁ、バーフォードも諦めて。一緒に寝ようよ。」

ベッドをバンバン叩いてウィルマが言ってくる。さすが行動力の塊だな。

まぁ別に嫌なわけではないし。

「はぁ、わかったよ。ほら、ランプ消すぞ。」

「「おやすみー。」」

「お休みなさい。」

パチン。ランプは消えたがストーブの火が意外と明るい。

自分が寝るベッドに入る。ちょっと暖かい。

 

10分くらいして他の人の寝息が聞こえてきた頃ウィルマが小声で話しかけてきた。

「起きてる?」

「一応な。」

そういうと、体をこっちに向けていきなり抱きついてきた。こうして彼女の体温が直に伝わってくるとなんとも言えない気持ちになる。俺はどうしたらいいのか、何をすべきか、いろんな考えが頭をよぎる。

そんな俺を見て、何かを思ったのか話しかけてきた。

「さっきはありがとうね。いつか結婚してくれるっていってくれて嬉しかった。」

「いいのか?俺でも?」

もしかしたら、一番聞きたかった質問かもしれない。

「もちろん、他に誰がいるの?」

「いるのか?」

冗談で聞いてみる。

「まさか。リョウは?」

「いないな、君が一番だと思う。」

そういうと、彼女は笑顔になった。よかったと思ったがその一方で少し安心している自分がいると思うと情けなくなる。

「明日も早いからもう寝よう。おやすみ。」

「うん、おやすみ。今日はいい夢が見れそう。」

「それは良かった。」

 

こうして、初日は無事終わった。

 

 

 

二日目、早朝

ガサッ

何かを踏む音がして一瞬で目が覚めた。

条件反射でウィルマの拘束から抜け出して右足につけてあるホルスターからFN GP M1935を抜き、初弾を装填して安全装置を解除、音のした方面にある壁に張り付く。

近くに鏡がないか探すが特に見当たらない。代わりに小物入れが置いてあったので音のしたほうに投げる。どこかにあたったのか割れる音が響いた、その瞬間再び雪を踏む規則的な音が聞こえた。

やがて聞こえなくなったが10分ほど時間を置いて外を確認する。

見える限りでは異常は見当たらなかったので左手にランプを、右手に拳銃を持って外に出る。あたりを警戒しながら家の周りを一周する。結局確認できたのは小さな足跡が複数あるのだけだった。いたのは鹿あたりか。

家に戻りランプを消し、初弾を薬室から取り出して安全装置をかけて消えかかっている薪ストーブの火をもう一度つける。まだ真っ暗だがもう0523だ。0600には本部から気象情報の通達が行われるから全員おきなければならない時間なのにまだ寝てやがる。まぁ、ぎりぎりまで寝かせておいてあげるか。

今日は走ることが出来ないので体を伸ばしたりといったストレッチ程度にとどめておく。

誰も起きなかったから0545に全員を起こしてすぐに支度をさせる。

0600からの気象ブリーフィングでは今日の天気、及び一週間の天気に関して特に変更がないことが通達され、引き続き待機を命じられた。

今日は一日中快晴で気温も少し上がるらしい、がよく見たら“真冬日”だった。

最高気温が氷点下なので防寒対策をしっかりと行うようにだそうだ。

昨日の晩御飯とそれほど変わらない内容の朝食を済まし、出撃待機状態となる。

しかし、本部のように待機室があるわけではないので先ほどと変わらずリビングで待機する。

出撃の際、ストーブはそのままらしい。放置しても問題ないのか疑問があるがいいならそれに越したことはない。なんせ巣から50kmしか離れていないからな。ストーブを消している間に距離を詰められ、地上にいる間に攻撃されるなんて事態が起こる可能性があるためだろう。

ただ、ネウロイが来るまでは暇なわけで、ついにわが隊の盛り上げ担当の伯爵が

「暇だ!」

ギブアップした。

「雪合戦しよう!」

「却下。」

「なんで!?」

「万が一ネウロイが襲来したらどうする?」

「誰かがここに残ればいいじゃん。」

まぁ、そうか。

「じゃあ、お前ら言ってこいよ。俺が待っているから。」

「やったね!さすが隊長!」

いつぞやぶりに伯爵にウインクされる。だからそれされるとどう返せばいいのかわからんのだよ。

「私がここに残りますからバーフォード大尉が行っていいですよ。」

「いや、しかしだな。」

「行ってください。だってほら、バーフォードさん、502に来てからウィルマさんと遊ぶ時間なんて取れてないでしょ?こういう時にしないと次はいつになるかわかりませんよ。」

ルマールはこういうときに気が利く。

「・・・助かる。だが、警報が出たらすぐに呼べ。なんだったら銃声で知らせてくれてもいいからな。ただ、撃つときは上を向けろよ。」

「わかりました。」

「30分で戻る。」

「了解です。」

手袋をつけて、外用の靴に履き替えて外に出る。

扉を開けた瞬間二つの雪玉が飛んできたのであわててしゃがんで回避する。

「ほう、伯爵、軍曹。余程戦争がしたいと見える。」

「大尉さんには前回の緊急発進のとき撃墜数で負けているからここで取り返す!」

「まぁ、どうせなら勝ちたいからね。バーフォードに当てられるようがんばるよ!」

二対一の劣勢だが能力も考えれば十分勝てる。

「よろしい、ならば相手になってやる。二人とも雪球の貯蔵は十分か?」

とは言うもののまだ一個も手元に武器がないから近くの遮蔽物に身を隠しすばやく雪玉を作る。

「軍曹!援護してくれ!私が一気に攻め込む!」

「了解!」

どっちから来る?右か?左か?

勘で右に出るとウィルマが遠くに見えた。すぐ左を見ても伯爵はいない。

どこだ?

「隙あり!!」

後ろで殺気を感じたのですぐ横に飛ぶ。

元いた場所を雪玉が着弾する。遮蔽物を乗り越えてきたか。

すかさず持っていた雪球を投げるが伯爵が遮蔽物から偶然滑って転がり落ちたことで回避される。

視界の端で何か動いたのですぐその場に伏せると連続で二個飛んできた。

ウィルマからの援護射撃か。お互い手の内をよく知っているので厄介だ。

さらに一個伯爵から飛んできた。

馬鹿な、もう彼女は雪球を持っていないはずなのに!?

よく見たらさっき俺が作った奴だった。拠点が制圧された。仕方ない、次の場所まで移動するか。

一番近い遮蔽物まで30m。全力で走る。その間も攻撃を受ける。

「軍曹!地点225313に対地攻撃要請!」

「了解、攻撃します!」

上から雪球が降ってきた、迫撃砲かよ。まぁ、かなりずれているから当たらないがな。

だが、そうやって身を隠している間にも伯爵がどんどん近づいてくる。ここが勝負所だ、今作った二つの雪球に全てを賭ける。

左から全力で飛び出して敵の位置を確認、二時方向、距離8m。その後ろ、俺から10mにウィルマか。

伯爵がすでに投げるモーションを取っていたのでその場で急停止する。そして俺の前を雪球が通過する。

まず左に持っていた雪球を伯爵に投げる。イナバウアーをして回避しようとしていたが失敗してそのまま仰向けで倒れていった。

次に右手にある雪球をウィルマに投げる。直球、ストレートで投げられた雪球は完全にノーマークだったウィルマの顔面に直撃して、彼女も仰向けに倒れていった。

伯爵が投げて回避した雪球を取って、近くまで歩いていく。

「最期に、何か言い残すことは?」

「ヘッ、田舎の母ちゃんによろしく言っといてくれ。」

「了解した。」

そういって、俺は彼女に雪球をぶつけた。とりあえずは勝利した。

「ブヘ。隊長、どうだった?私の演技?」

「60点。」

「61点満点で?」

「1300点満点でだ。」

「なんだよー。」

手を差し出して彼女を立たせる。

「お、さすがブリタニア紳士だね。」

「やかましいわ。」

ウィルマの近くに行くとまだ倒れていた。

「大丈夫か?」

「立てない。手、貸して。」

そういって手を差し出した瞬間、彼女が右手に隠していた雪球を投げてきた。

とっさに反応できなくて、何とか回避しようとしたが右肩にぶつかった。やられた。

「リョウなら絶対手を差し出してくれると思ったよ。だから油断していると思った。」

「・・・さすが、何でも知ってるな。」

「でしょ?」

その後投げに投げて被弾3、撃墜7(伯爵4、ウィルマ3)だった。

 

「ルマール、時間を取ってくれてありがとうな。」

「いえ、とんでもないです。楽しめましたか?」

「おかげさまで、あの二人はまだ外にいるからルマールもいくといい。」

「いいんですか?」

「もちろん。」

「ありがとうございます、それでは失礼します。」

スキップしながら出て行ったところを見ると彼女も遊びたかったのかもな。よく考えれば本部での勤務は午前のみとかの場合がほとんどのため休日がない。月月火水木金金状態だ。だから少しは遊びたかったのかもしれないな。

 

 

結局今日も襲来はなかった。

あの後遊びつかれた三人は待機中もうとうとしてたくらいだからよっぽど体を動かしたんだな。まぁ、こいつらのことだから緊急出撃になったら一瞬で気持ちも切り替えてくれるだろうからそこは安心している。

来るとしたら明日だろう。

今日はしっかりと体を休めて明日来るかもしれないネウロイに備えるとしよう。

 




最近話数が増えるたびに文字数が増えていく。
今回も5000いったらいいほうかなとか思ってたら倍近くにまでなり書き終わったところで右下の文字数みてびっくり。
スマホで投稿するよりwOrdつかったほうがやっぱりラク。
校正もしてくれるし。
ちなみに、主人公の呼称について
ウィルマはバーフォード、二人の時はリョウ(例外も)
伯爵は隊長
ルマールはバーフォード大尉、隊長
です。
ほかの人は『大尉』です

間違いがあればご指摘願います。


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第32話 遠征(下)

今話については登場人物に不満がある方もいらっしゃるかもしれませんが、ごめんなさい。
自分としてはいつかは出したかった方の一人なのです。





三日目

戦闘っていうのはいつも突然起きる。

それは昼ご飯の用意をしているときだった。

『502B隊へ、緊急通達。オラーシャ空軍第42飛行隊がエリアS(シエラ)Nのチュドボ上空で交戦中、そこから救援要請だ。報告によると大型1、中型3、小型多数の中規模編隊だ。至急、援護に向かえ。』

「ルートαの防衛は?」

『カールスラント空軍JG35がスクランブル発進して哨戒に当たっている。』

「了解。急行する。みんな、ランチタイムはいったんお預けだ。援護してやろうぜ。」

「「「了解!」」」

牛舎の扉を開けて出られるようにする。ユニットをはいて、システムチェックを行う。今回は問題なく動いているから安心して飛べる。

最後にでた伯爵が扉を閉めて全員がそろったところで離陸する。

離陸後、いつもとは違い今回は全力飛行で援護に向かう。チュドボまでおよそ40km、そんなに時間をかけずに援護に向かえるが援護を待っている彼女たちのことを考えて俺だけ先行する。

戦時中とはいえ、502が援護に向かったのに間に合わなかったという事態になればあとあとまずいからな。

とはいっても音速を超えない程度の速度だが。

レーダーでも既に敵影を捉えており目視でも確認できる距離になってきた。

さて、どこから攻めるべきか。

大型1、中型2、小型6か、より取りみどりだな。

「502Bリーダーから42飛行隊へ、現着。自己紹介は後にしよう。どこから片付ければいい?」

『42リーダーです、援護感謝します。大型機の対処をお願いします。』

「了解した、残りの3機は後から来るからそれまで持ちこたえてくれ。アウト。」

大型機の中央部に向けて射撃を行い注意をこちらにひきつける。いいぞ、こっちに向かってきた。

「バーフォードより502B隊全機へ、大型はこちらで片付ける。後の奴は42飛行隊を援護しろ。」

『『『了解!』』』

装甲が厚い分連続して当てなければならない、まぁやってやるさ。

502B隊全員が交戦を宣言。彼女ら3人いれば援軍としては十分だろう、俺がこいつさえ片付ければの話だが。

第42飛行隊からある程度距離を稼いだので戦闘を始める。

 

大型との交戦はよく考えたら数回しかないがさすが図体がでかい分、いままでのネウロイより攻撃が激しい。

機動性、速度共にこちらが上のため当たることはないがその欠点を補うほどの火力を持ってこちらに攻撃を仕掛けてくる。これじゃあ、機関銃じゃ攻略は難しいな。

普段、数人で連携してようやく撃墜できるというのもうなずける。

だがこちらとてプライドがある。オーバースペックの機体に乗っているんだから一人で落としてやる。

双発型の航空機をしたネウロイだ。ためしにエンジン部分に攻撃してみたがすぐ修復が始まってしまった。いったい、こいつらはどうやって飛んでいるのかが一番の疑問だな。ジャムだって推進機構があるというのに。

コアの位置はネウロイの先端部分、普通の飛行機ならレーダーが積んでいる部分にあり移動はしない。

なら前方から突っ込んですれ違いざまに攻撃するか。速度を上げて敵の前に出て距離を離す。ある程度離れたとこで反転して一気に距離を詰める。

そしてお互いの距離が本当に近くになった瞬間

-能力発動-

Garudaの指示を元にその部分を狙う。

-解除

攻撃

着弾

だが、すれ違いざまに攻撃したのは俺だけではなかった。超至近距離で敵の表面が赤くなる。あわてて体をひねるが左脇腹をレーザーがえぐる。

そして回避しようと動いた際に左脚部がネウロイと少し接触する。

ネウロイとユニットの接触部分で火花が散る。

そして通過、再び両者の距離が離れ始めた。

7G旋回を行って再び追いかける。

左脇腹に激痛が走るが今はそんなことはかまってられない。

敵はすでに修復を始めている、追撃をかけてコアを破壊しなければならない。

今度は敵から見て右から左へ正面を横切るコースで攻撃する。

エンジンの出力を上げてほんの一瞬にかける。イメージするのはかつて零とシステム軍団が模擬戦を行ったときの出来事。武装していない雪風を援護するためにTS-X1はミサイルに増槽を当てた。資料でしか見てないが今なら能力もあるからやれるかもしれない。

音速近くまで速度を上げ敵正面で体を奴に向ける。急激なGが体を襲い先ほどの傷口がさらに開いた。

かまわない、肉を切らせて骨を絶つ!

-能力発動

スコープの倍率を最大にまで上げてコアの表面を確認し、かつGarudaによる表面の解析を行って最も効果的にダメージを与えられる部分を探し出す。

ここだ、ほんのわずかな一部分だが露出している部分がある。着弾までの時間を考えても十分弾丸はコアに到達する。ユニットから発生する振動や手振れを全て考慮に入れて標準をあわせる。

あとは撃つだけ。距離70m。

-解除

攻撃

処理速度を加速した状態で電気信号を送ることで通常では0.2秒行動を起こすのにかかるのをさらに短縮して電気信号を送ることが出来る。

端から見れば神業のような攻撃も、からくりがわかれば誰でも出来るようなものなのだ。

正確に誤差1mmで着弾、ビンゴ。

コアから煙が出てその5秒後に爆発した。

「大型はこちらで処理した。そっちはどうだ?」

『中型があと1、小型が3だ。さすが八人いるとたくさんいてもすぐに終わるね。』

なら、こちらは高みの見物とするか。

502の三人はどこにいるかすぐにわかる。なんというか飛び方が綺麗だ。

普段はあんな感じの伯爵だって戦闘になると全くをもって変わる。見たところネウロイのレーザーを避けてシールドを張るのは最小限にしているようだ。シールドだって欠点はある。

攻撃を受ければレーザーの攻撃を防ぐことが出来るがそちらに集中しなければならない。特に混戦状態だと一方向のみに集中するというのはまずい。42飛行隊の奴らはそれが顕著だ。回避よりも防御に専念しているように見える。まぁ戦闘機乗りとしていまだシールドを張るのに違和感を覚える俺だからそう感じるのかもしれないが、実際502の奴らのように防御より回避が上手い奴がエースになる素養を持っているのかもしれないな。

しいて不安要素を挙げるとするなら “奴”がユニットを壊さないかどうかだ。

42飛行隊の3人が小型二機を撃墜、ウィルマ、伯爵が援護してルマールが中型を撃墜か。

「状況はクリアだ。全目標を撃破を確認した。」

『502リーダーへ、了解で・・・って大丈夫ですか!?その傷!』

「あぁ、かすり傷だ。情けない。」

そういうが、ユニットにまで血が垂れている。帰ったら治療しないと。

『大型を一人で撃墜するほうがすごいと思いますけど。さすが502の皆さんです。助かりました。』

「・・・次は助けられないかもしれない。今回は君たちの運がよかっただけだと考えてくれ。普段なら今日の二倍の時間がかかっていたんだから。」

『わかりました、肝に銘じておきます。』

「ならいい。全員帰頭するぞ。」

「「「了解。」」」

FOBに進路を取る。

しばらくして彼女らが話しかけてきた。

『隊長、その怪我平気かい?』

「わからないな。ルマール、とりあえず帰ったら治療頼む。」

『了解です。』

出血量は減ってきたところを見ると傷口は閉じたのかもしれない。しかしいまだ痛みは完全には引かない、鎮痛剤は持ってきていたっけ?

『というか、隊長さっきは厳しめだったね。なにか思うところがあったの?』

「実力のない奴はすぐ死ぬ。ただ、今の戦況を考えれば多少の喪失すら看過できない状況だ。ウィッチの増強に数年前から力を入れているとは言え、相応の実力をつけるには最低でも数年かかる。だから死なない程度にがんばってもらいたいんだよ。特に最前線の奴らには。」

『へー意外と考えているんですね。』

「まぁ全滅でもされるとこちらの責任問題にも発展しかねないから釘を刺しただけだ。仕事も増えるしな。」

『なるほど、だいたいわかったよ。』

 

FOBが近づいて着陸態勢に入る。水平飛行から体を引き起こす。ランディングアプローチに入る。

着地

衝撃が痛みを伴って伝わってくる。

ユニットを所定の場所においてそのまま別の部屋に移動して、近くの長椅子の上に寝る。

「それじゃあすこし傷口見せてもらいますね。」

彼女は素早く俺の服を切り裂いて患部をみる。

「バーフォードさんが怪我をするなんて珍しいですね。ちょっとみる限り血は止まっていますけど、とにかく治療しますね。」

そういうと両手を突き出して治癒魔法をかけてくれる。

どういう状態なのか見ることはできないがだんだん何かがふさがる感覚はある。それと痛みが少し引いた。これが治癒魔法か、SF風に言うなら医療用のナノマシーンがもし開発されていたらこんな感じなのだろうか。

「大体終わりました。ただ、私の能力では応急処置程度しか出来ないのでとりあえずガーゼをつけて包帯を巻きますね。それと帰ったら必ずお医者さんに見てもらってくださいね。」

体を起こして傷口に注意しながら上着を脱いでいる間にルマールが救急キットからガーゼと包帯を取り出して保護するためにそれを巻きつけてくれた。

「ありがとう。ルマールがいなかったら今回のはまずかったな。それにしても医療について詳しいんだな。」

そういうと彼女は少し黙ってしまった。しばらくして話してくれた。

 

「慣れていますから。アフリカでは医者が足りなくて私みたいな治癒魔法が使えるウィッチはよく戦闘がなかった日は駆り出されたんですよ。そこでは嫌でもいろんな人を見てきましたからね。」

 

「すまないな。それと助かった。」

「いえ、いつもは助けてもらってばかりですので大尉の助けになれて少し嬉しいですし。それでは失礼しますね。」

ルマールが部屋を出ると外で待機していた伯爵とウィルマが入ってきた。

ウィルマが俺の荷物を持ってきてくれたところにさすがパートナーだと感じた。

「わお、隊長って脱ぐとすごいんだね。」

「うるさい。」

まぁ、自分でもそう思う。あちこちに傷のあとがあったりする。

「それで、傷がどうなったの?」

「応急処置程度だそうだ、だから帰ったら医者にみせる医者に見せるようにと言われたよ。」

「なるほど、服はどうするの?」

「予備があるはずだから、それを着るさ。血のついたやつは焼却処分する。」

「仕方ないね。」

血のにおいで動物が来るかもしれないのでそうするしかないだろう。

「それじゃあ、報告は私たちでやっとくから。」

「いや、俺がやる。」

そういって立ち上がったとたん痛みで思わず姿勢を崩してしまう。

あわてて二人が支えてくれた。くそ、まるで介護されている老人だ。

「まぁ、今日は休みなって。たまには隊長も私たちに頼ってよ。」

「そうそう、バーフォードも働きすぎだからね。とりあえず着替えたら呼んでよ。」

「・・・ありがとう。」

そういうと、二人は出て行った。代えの服に着替えて血のついたズボンとシャツを袋に入れる。

袋とかばんを肩に掛けて部屋を出る。

「大丈夫、もう平気だ。」

「本当?」

「あぁ」

伯爵はもう本部への定時連絡のためいなくなっていがウィルマはそのまま残って荷物を持ってくれた。

リビングに戻りルマールから遅い昼食をもらう。

その後も出撃待機時刻まで来なかったので今回は俺が定時連絡を行い、今日の業務は終了となった。明日は1000にここを出発することになった。本来なら朝一番で帰る予定だったのだが今晩から日の出近くまで雪が降る予報が出ているので時間が遅くなった。

晩御飯はいつもどおり1900に取った。

食事を終えてコーヒーを飲みながらみんなと雑談する。

「傷口はどうですか?」

「まだ痛むが基本的には問題ない。すこし血がにじんでいるが気にするほどではないだろう。」

「ならよかったです。」

治癒魔法か、こういった医療設備が完璧ではないときに負傷したときものすごく役立つな。

あらためて魔法の凄さを知った。

「それで、結局今日は何があったんですか?どういう顛末で怪我をしちゃったんですか?」

「大型を落そうと思ったらカウンターを食らった。それだけだ。」

「それだけって・・・。」

「何か問題でも?」

「普通大型っていったら私たちでも数人で連携して倒すようなレベルですよ?いったいどうやったんですか?」

「普通に狙撃しただけだ。悪いがそれ以上は軍事機密だ。それこそウィルマやほかのブリタニア空軍の奴らにも言えないレベルだ。」

二人の視線がウィルマに向くが彼女は首を振って“私も知らない。”とアピールする。

「そうですか、ならこれ以上は聞きません。ただ、無茶はしないでくださいね。」

「そうだぞ、隊長の代わりに報告するのも面倒くさいし。」

「まぁ、バーフォードのことだからまた無茶するだろうけど、死なないでね?」

口々にみんなが言ってくる。

「すまなかったな。これからは死なない程度に無茶するさ。」

「なんですかそれ?」

「まぁまぁ、隊長も反省しているみたいだし。隊長も今日はもう休んだら?」

「そうさせてもらうさ。俺にかまわず話していていいぞ。」

「わかりました。お休みなさい。」

「お大事にー。」

「おやすみー。」

こうして俺は先に休まさせてもらった。

 

四日目

0945

502基地に帰るための最終チェックを行っていた。今回の遠征では通信機、ルマールや伯爵が持ってきた荷物の中で長期保存が可能なもののみを残して後はお持ち帰りということになっている。

必然的に伯爵の荷物が一番重くなるため、彼女のほかの荷物を分担して持っていくことになった。といっても大部分は帰りが武器と個人の荷物以外運ぶものがないウィルマが担当になった。

さっきまでは雪によって入り口が埋もれたのでそこの雪を脱出するのに必要な分だけをせっせと取り除いている。ただ一度速度が出てしまえば後はずっと浮いたままなので航空機と比べて取り除かなければならない雪の量は圧倒的に少ない。

こうして定刻の1000までに全てのやるべきことを終えられたので離陸する。

あとは我が家まで一直線だ。

『ひゃー、今回の遠征もいろいろあったねー。なぁ隊長。』

「まぁな。空で怪我したのも久しぶりな気がする。」

『そんなこと気にしなくていいんじゃない?私なんてしょっちゅうだし。』

『爵はもっと自重しなさい!』

『それはちょっと難しい相談だな~。』

なんてたわいもない話をしながらペテルブルグまで飛ぶ。

エリアM(マイク)中央を飛行中に本部から指令があった。

『本部から502リーダーへ、応答しろ。』

「こちら502リーダー、敵か?」

『いや違う。呼び出しだ。貴機は進路を変更してロンドンに向かえ。統合軍本部からの召喚命令だ。』

「了解した。」

『隊長なにか悪いことしたのかい?』

「わからん。とにかく俺は急遽ロンドンに向かわなければならなくなった。クルピンスキー大尉、現時点より502B隊の指揮は君がとれ。復唱。」

『了解、これより502B隊の指揮を取ります。』

「というわけだ、しばらくいなくなる。いつ戻るかはわからないから少佐にはよろしく言っといてくれ。」

『任せなさい。』

『お気をつけて。』

『急な長旅だけどがんばってね、あとお土産よろしくね。』

「了解。じゃあな。」

そういって左旋回、速度制限を解除して速度、高度ともに本来の値にまで一気にあげる。

 

 

 

ヨーロッパ大陸を離れてしばらく北海上空を飛んでいるとブリタニア連邦がみえてきた。

管制官の指示のもと、司令部に最も近い基地に誘導されそこに着陸する。

そのまま格納庫に向かい、ユニットから降りると迎えが来ていた。素早くユニットから端末を取り出したところで話しかけられた。

「STAF VFA-21隊長、フレデリック・T・バーフォード大尉ですね?ヒューゴダウディング空軍大将がお待ちです。こちらへ。」

そういって車に乗せられる。ジャックの奴、何かあったと見るべきか?いや、電話ではいえないような内容か?

そのまま司令部にまで連れて行かれそのまま空軍大将のいる部屋まで向かう。

「VFA-21隊長、フレデリック・T・バーフォード大尉、召喚命令に従いただいま参りました。」

「入っていいぞ。」

「失礼します。」

そういって入るとジャックは相変わらず書類を読んでいた。さすが管理職の最上位にいるだけあって少佐と比べ物にならないくらい多い。

「さて、ジャック。呼んだ理由を教えてもらいたいものだな。大方電話じゃ話せないような内容なんだろ?」

「いきなりだな、まぁいい。錆とねずみどっちがいい?」

何だよそれは。

「錆は?」

「陸軍の奴がへまをしやがった。」

身内の錆ってか。

「詳しく。」

「一ヶ月も話だ。もともとはベルリンやオストマルクなどにある複数の巣を502、504、506、508などのを含めた同時多方面侵攻作戦が計画されているのだがその一環としてブリタニア陸軍のモントメゴリー将軍がライン川空挺突破作戦を実施したんだが失敗した。9月あたりから作戦自体は行われていたのだがガリア解放にあわせてさらに増援を送ったにもかかかわらずだ。原因は事前偵察や準備が足りなかったと釈明しているらしい。」

聞いて呆れた。情報戦の重要さをこの世界の誰よりも深く理解しているであろう俺たちからすれば失敗して当たり前だ。手柄を急いだ結果失わずにすんだものまで吹き飛ばしやがった。

「銃殺刑ものだな。」

「俺だってそうしたいが、今回は謹慎処分で終わってしまった。以前にあげた戦果が影響だろう。ただ、アフリカでは15:1じゃないと攻撃しないような慎重なやつだったんだがな。何がこいつを無謀な作戦を実行させたのやら。」

「わからんな。それにしてもずいぶんと遅い報告じゃないか。」

「海と陸が手を組んで隠してたんだよ、偶然俺の耳に入って調査してみればこのざまだ。結局カールスラントやうちの航空戦力がライン川を挟んでネウロイと対立しているのが現状だ。よかったニュースといえばカールスラントがここでジェットストライカーユニットの実験をしているという情報とそのユニットの大まかな性能がわかったくらいか。」

それはそれは優秀な駒だこと。

「それで、ねずみって言うのは?」

「これだ。」

そういってひとつの書類を渡される。

表紙に“Top secret”と書いてある。が気にせず読む。

とある作戦の概要が書いてあってので5分ほどで全て読み終わった。

「で、こんな馬鹿な作戦を行おうとしているのはどこのどいつだ?」

「聞いて驚くなよ、地中海方面司令部だ。」

はぁ、思わずため息が出る。

「・・・・トラヤヌス作戦か、トラヤヌスって確かローマの皇帝だよな?」

「あぁ、五賢帝の二番目の奴だ。一時はメソポタミアまで征服した男だ。」

なるほど、ネウロイを支配してやるぞ、っていう思いが込められているのか。

「ネウロイとのコミュニケーション作戦か。よくこんな作戦書が手に入ったな。」

「各地に優秀な目と耳がいるんでな。」

MI6だろうか?

工作員とやらは戦争の混乱にまぎれて難民として各地に入り込んだのだろう。

「しかし、どうしてこんな作戦を?しかも極秘で?」

「いま、統合軍の中に戦争派と穏健派がいるんだ。詳しいことは面倒くさいから言わないが戦争派はうちの陸軍が失敗したせいで一時的に勢いが収まっているんだ。その隙を突いて穏健派が点数稼ぎをしようと考えているのだろう。」

「しかし、これ成功するのか?ネウロイとのコミュニケーション作戦って言ったって前例がガリアでの宮藤少尉の件を含めてほとんどないだろう?」

「確かにな、だが奴らには前例があれば十分なのだろう。しかも動く部隊は504だ。成功すると見込んでいるのだろう。」

「それで、ブリタニアとしてはどうするんだ?」

「まぁ静観だな。失敗してくれれば御の字、成功してくれればネウロイがどのような奴か手がかりがつかめる。」

なるほど、どちらに転がってもこちらの利益になるのか。ジャックのことだから成功したときでもあらゆる手段を用いてどんな内容だったかは知ることが出来るだろう。失敗したらそれを追求してさらに発言力をあげるのか。

「それで?俺を呼び出したのはこんな話をするためではないだろう?もっと別なことがあるんじゃないか?」

「あぁ、そうだ。これからが本題だ。この書類を届けてほしい。」

そういって書類を渡される。

「どこにデリバリーするんだ?」

「いま、扶桑の欧州派遣艦隊がオラーシャのリバウ軍港にいることは知っているな。そこにむかって現在扶桑の空母“飛龍”とその護衛のために数隻の軍艦が航行中だ。場所はグダニスクの北60kmのところだ。その船に乗っているVIPまぁ、艦隊司令長官だがこいつを届けてほしい。すでに話はつけてあるからいきなりズドンはないだろう。お前の速度ならリバウ軍港に入港する2時間前には着くはずだ。」

「了解した、まったく人使いが荒いな。」

「あきらめろ、そういえば怪我をしたと聞いたがその調子じゃ問題なさそうだな。」

「相変わらずお早いことで。」

「それじゃあ、頼んだぞ。あと、これも渡しておく、暗号表だ。何かあったときに使え。」

「了解。」

そういって部屋を出る。そのまま司令部を出ると先ほど迎えにきてくれたやつが俺を見て敬礼したのでその車に乗って基地に戻る。

再びユニットに乗って滑走路から離陸してロンドンを離れる。そういえばパスポートなしで入国していたけどよかったのだろうか。

北海を東に進みバルトランドの領空を侵犯しながらバルト海に出る。進路を南に変えて扶桑の艦隊を探す。

約10分ほどで見つかったので艦隊のレーダーにあえて見つかりやすいように電波を発信して通信を行う。

「こちらコード“ガルーダ”、荷物を届けに来た。着艦許可を求む。」

『確認する、少し待て。』

二分ほど空白があった後に許可が下りた。前方から二つの反応、誘導という名の監視目的のウィッチか。殺気丸出しで前方と後方に一機ずつ張り付いてきた。

大きく旋回して空母の後ろにつく。まったく、面倒を掛けさせやがって。ただでさえ休みたかったのにロンドンに向かえと言われ、その上デリバリーまでやれと言われて・・・・なんかいらいらしていたのでユニットのシステムを全開にする。

大出力のルックダウンレーダーを作動させる。通信にノイズが入り交信が不能になる。そして空母の索敵レーダーもマスキングを掛けられて使い物にならなくなる。

そのまま速度を一気に上げて空母の上を通過。この速度には監視ウィッチも追いつけずに距離を離される。

旋回してもう一度空母の後ろにつく。今度はちゃんと着艦する。

ギア-down

アレスティングフック-down

マニュアルアプローチ開始

オートスロットル-off

アンチスキッド-off

スピードブレーキ-ext

着艦。

爆音を巻き散らしながら甲板に降りた。エンジンをアイドル状態にして近くのあいているユニット置き場に止まる。

全てのシステムをオフにする。ようやく空母のレーダー及び通信設備が回復する。

近くにいる乗組員に声をかける。

「ブリタニア空軍特殊戦術飛行隊第21攻撃飛行隊隊長のフレデリック・T・バーフォード大尉が書類を持ってきたと艦隊司令長官に伝えてくれ。長官に直接渡すように上から言われているともな。」

「は、はっ!了解しました!」

海軍式の敬礼をして走ってどこかにいってしまった。

それにしても周りのほとんどの奴らの視線がそれぞれの作業をしながらもこちらに向けてくる。

注目されるのも嫌なものだな。それほど珍しいのか。

しばらくすると先ほどの乗組員が帰ってきた。

「長官がお話しするそうです。どうぞ、こちらへ。」

「他国の軍人が入っていいものなのか?」

「長官が許可されたので。」

「それならわかった。」

そういって艦橋に案内される。ここは日本語もといい扶桑語で話すべきだろう。

「はじめまして、ブリタニア空軍特殊戦術飛行隊第21攻撃飛行隊隊長のフレデリック・T・バーフォード大尉です。ヒューゴダウディング空軍大将からの命令を受けて書類を届けに参りました。」

「扶桑海軍、遣欧艦隊司令長官の山口多聞海軍中将だ。ほう、君は扶桑語も話せるのか。」

「はい、問題なくこなせます。」

思わず姿勢が伸びる。そうか、本来ならミッドウェーで死んだはずの人がこの世界では生きているなんてことは普通にあるのか。

「ダウディング大将からは君のことは聞いていたが、なるほど。いい目をしている。死線を何度も越えてきたようだな。」

「恐れ入ります。それと、これが渡す書類になります。確認をお願いします。」

封を開けて中身を確認した上で受け渡しのサインをくれた。

「では、自分はこれで。」

「まぁ待て。君とはすこし話をしてみたい。あぁ、ここは任せたぞ。ついてきたまえ。」

話?何を話すんだ?

よくわからないま艦橋の外に出る。

「ダウディング大将とは知り合いでな、先日ブリタニアに寄港したときに君のことを教えてもらったんだよ。」

「何と言ってましたか?」

「大切な部下の一人だと言っていたよ。」

よかった。変なことを言ってなくて。

「さて突然だが、君はこの戦争についてどう思っている?」

戦争?いきなりなんだろうか?

「どうとは?戦術論の話でしょうか?」

「それも含めてだ。」

フムン。ならいつも少佐とかに言っていることを言えばいいのか。

「一言で言えばずさんですね。戦争は情報が左右することをわかっていない者が多すぎる。彼を知り、己を知れば、百戦して危うからず、という言葉がある通り敵について知ろうと行動している者が少ないと思います。」

「ふむ、なるほど。ではどうすべきだと思っている?」

「ブリタニアでは最近ネウロイ心理学という分野が出来たました。今までの行動から敵が地球で何を求めて行動をしているのか、そしてどうすれば敵の一歩先を進めるのかを研究しているそうです。自分はこういうのが世界に広まるべきだと感じています。」

長官が俺のをじっと見てくる。

何か思うところがあったのだろうか。

「面白いな、普通の軍人なら敵の殲滅あるのみというのが大部分の意見だった。敵を知る必要があるといったのは君とダウディング大将が初めてだよ。」

「まさか、扶桑にもいるでしょう。ただその声が潰されているだけですよ。」

「そうだろうか?まぁ、そうだといいがな。」

 

その後風を直接感じながら空を飛ぶのはどんな感じか?とかオラーシャは寒いか?502の管野の暴れっぷりは健在か?など普通の会話を10分ほどして最後にジェットストライカーユニットが見たいと言うので甲板に降りる。

「なるほど、これが噂のジェットストライカーユニットか。名前はなんと言う?」

「メイブ。」

「我が国で作ることは可能かな?」

「無理でしょう、時間と金を湯水の如く使えばいつかは可能だとは思いますが。制御や整備するのもレシプロ型と比べ物にならないほど大変ですし。さらに魔力も何倍も必要となりますよ。」

「開発のやつらもそこがネックだと言っていたよ。君も魔力が多い方か?」

「はい、能力もそれほど魔力を消費しませんので思う存分飛ぶのに魔力を回せますしね。」

「では、最後に。君が着艦するときに発生したノイズは君かな?」

「ええ、何か問題でもありましたか?」

「いや、特には。」

自軍の欠点を他軍にばらすほど愚かではない、ということか。

「では、自分はこれで失礼します。また生きていたらお会いしましょう。後武運を。」

「君もな。」

そういうと、艦橋に戻って行った。

発艦許可が降りたので離艦、一旦旋回しアフターバーナー点火、艦橋のすぐそばをとれるだけの速度を取って飛行する。一瞬、中将と目があった気がした。

そのまま艦隊を離れて502JFWの基地があるサンクトペテルブルグへと進路を取り、帰投する。

またいつか、会いましょう。山口多聞中将。




昔の有名な人を誰が出したかったので出せて良かったです。
嫌な人はごめんなさい。




ご指摘や感想があればお願いします。


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第33話 飛行停止

今日はいつもは絡みのない娘との話です。



502JFWに帰頭後少佐に帰ったことを伝えた後、医者に傷のあとを見せに行った。

「ふむ、表面は治っているが皮膚の下はまだ完全には治ってないね。」

「しかし飛んでいる間は特に問題はありませんでしたよ

。」

「まぁ、そうだろうね。うーんと、君がウィッチであることも考えて・・・・。今日を含めて飛行停止三日ね。」

は?飛行停止処分だと・・・?

「なぜです?理由を聞かせてもらっても?」

「まだ血管やその他の組織が完全には治ってないんだ。その上飛行中に高Gがかかることで変に癖がついてしまう可能性だってある。傷の状態を見たところ三日もあれば完全に治るだろう。

四日目の朝、気象ブリーフィングが終わったら再び来なさい。そこで延長するか原隊復帰にするか判断するから。ただし、無茶な運動は禁止。君、毎朝走っているようだけどそれもだめだからね。」

そういって医者は俺の診断書に赤いインクで“飛行停止”の判子を押した。

診察室から出る。最前線じゃ常にウィッチの数が足りないって話じゃなかったのか?

その足で再び少佐の元に向かう。

「さっきドクターから電話がかかってきた。三日間の飛行停止だそうだな。」

「自分としては不満です。」

「まぁそういうな、ドクターの言い分は最もだ。しばらく大尉は飛べないがもちろんその間は働いてもらう。下原が言っていた扶桑のことわざ、働かざる者食うべからず、だ。」

「もちろん、わかっています。」

そう返事をすると、書類の束と判子を渡された。

「この書類に判子を押してくれ。君の所属、階級で考えて閲覧してもよい物を渡したから気にせずやってくれ。今日中に、出来れば夕食前に終わらせてくれ。ただし、この部屋からは持ち出すな。」

ほかの机がないので近くのいすを持ってきて少佐の机の反対側に陣取る。

それからはひたすら四角の中に納まるように判子を押す。

 

これは?502JFWの予算案か。

・・・・なんで基地にある全ての給水塔の電気代が502で負担することになっているんだよ。こういうのって区画ごとじゃないのか?

まぁ、少佐が見てOK出したのだからいいのだろう。

それにしてもストライカーユニットの修理代ってうちが一部負担なんだな。壊したウィッチの所属する軍と502で7:3くらいか。

とはいうものの、この額はなかかな無視できないがな。

事務書類をまとめる仕事はいつも報告書をかいているためかスムーズに進んで夕食前には終了した。

夕食をみんなで済ませたあと部屋に戻ろうとしたら熊さんに話しかけられた。

「怪我はどうでしたか?」

「飛行停止処分三日だ。その間飛べないなんて最悪だ。」

「バーフォードさんは飛ぶのが好きなんですか?」

「あぁ。空はいい、自由に飛んでいる間は嫌なことを忘れられる。」

熊さんは微笑みながら“そうですね。”と同意してくれた。彼女が共感してくれたことはうれしい。

ただ、何となく飛ぶという奴もいたり、空が嫌いなのに飛ぶ奴もいたりするので素直に飛ぶことが好きな人に会えるのは意外と少ない。

「ルマールもありがとう、君のおかげで入院するような怪我も、三日待てば飛べるようになるまで回復していたみたいだ。」

「もう、お礼ならたくさん受け取りましたよ。」

「それでも一応な。」

コーヒーを飲もうと台所に行こうとした瞬間

「「お土産は!?」」

ウィルマと伯爵が走ってきた。

「ない。買う暇なんてなかった。」

「「そんなー!」」

同じポーズをとりながらorz状態になった。

お前らいつの間にそんな仲良くなったんだよ?

「フン、怪我するなんてだらしないな!」

「いつも何か壊している奴なんかに言われたくないな。」

「なに!?」

ガタッと音を立てて椅子から立ち上がった。管野は相変わらずで安心した。

「まぁ私は今まで一度も怪我をしたことなんてないしナ!」

「エイラは未来予知があるからでしょ?」

「サーニャ!それは私の実力のうちであって別に能力にたよっているわけでは・・・。」

「大尉、怪我したの?サルニアッキ食べる?」

「ニパ、なぜ怪我からその飴につながるのかがわからない。」

「バーフォード大尉、今回もユニットを壊さなくてよかったです。」

「曹長、いつも俺が壊しているようにも取れる発言はやめてくれ。」

「でも、壊したでしょ?」

「一機だけだしまだ全損はしてない。」

十五分くらい皆と話していたら少佐が近づいてきて無慈悲な宣言をした。

「さっきの書類が予定より速く終わったみたいなので追加だ。」

「了解です。」

もちろん所属が違うとはいえ、ここでは逆らえない。

こういう展開になるのだったらもう少し夕食後まで書類を少し残しておけばよかった。

判子を押す仕事をひたすら続けてながら途中、少佐にいろんなことを聞かれたがのらりくらりとかわして結局仕事が終わったのは2500だった。

そのまま部屋に戻って普段着のままベッドに倒れこんで就寝した。

 

次の日

走ることは禁じられていたので体を伸ばそうとしたのだが医者に止められた。

広いリビングではなく自分の部屋でやればよかった。

飛べないのに気象ブリーフィングを受けて天気を確認する。

朝食もいつもよりも味気ない気がする。

少佐からの命令で今日は曹長の手伝いになった。

曹長の仕事は主にデスクワークだが時々基地の外に出て行う仕事もあるので今日はそれも手伝うことになった。

「それで?曹長は今日なにをするんだ?」

「最近弾薬と食料の補給が減りましたので、別のところから譲ってくれないかというお願いと昨日ニパが“また“壊したので壊れたのを渡すのと代替機の受け取りに行きます。道案内はするので、運転できますよね?」

「わかった。」

「なら結構です。それとこれが外出許可証となりますので、守衛に渡してください。身分証は持ちましたね?持ってないと出られても入れませんから。」

いつも通り外出規定に書いてある持ち物を全て鞄に入れて宿舎から出る。

よく考えたら俺ってこの基地から一度も地上から出入りしたことがないんだな。

こちらの駐車場は来たことがないがさすが東欧戦線の主力基地だけあってたくさんの車両が止まっている。空から見たときは米粒が整列しているように見えたが実際には結構大きな車が多数いた。

「それにしても502JFWは他の部隊と比べても郡を抜いて目立っているよな。」

「あなたがそれを言いますか?大尉と比べたら私なんて小さな存在ですよ。」

「冗談じゃない、曹長も十分目立っていると思うぞ。」

「そうですか?」

「今エースと呼ばれているような奴らをたくさん育てたそうじゃないか。」

かつてハルトマンの長機を務めたこともあり様々なウィッチを育ててきた、教え上手な面がある。彼女の活躍を見れば十分昇進も可能だが幹部養成課程を修了していないためこの階級である。

そう報告書には書かれていた。

「表では知る人ぞ知るという扱いでも軍内部では誰もが知っている、それなら十分じゃないか。俺なんて基本表には出ない上に軍内部にも不快に思っている奴が多いのも事実だからな。」

「表?」

「報道規制って奴だよ。ウィザードなんてよくわからない奴が出てきたらもう大騒ぎだろ?民間人には教えないんだよ。というか本音は女性ウィッチが新聞の一面とかで目立ったほうが華やかだからだろうな。戦場に咲く花っていうやつか?どっちにしろ目立つのは嫌いだからな。それに敵は少ないに越したことはない。」

そう、各国の情報機関は既にある程度情報を集めているだろうが報道機関には一切の情報の公開すらされていない、というか統合軍が隠したがっている。

露見したら面倒くさいことになりそうだからな。

まぁ、仮に報道されたとしても今は戦時中だから一時的に話題になるだけですぐ忘れられるような気がする。

「大尉も大変ですね。私も本来ならウィッチになれなかったんですよ。ヒスパニアでの怪異の影響で私でも入隊できるくらい基準が引き下げられたので。」

「そういえば曹長、身長低いよな。」

「私からすれば伯爵と大尉は大きすぎるんですよ。私より年下の癖に。」

「身長が低いと不便か?」

「えぇ、何かと。ですがそのおかげで一撃離脱戦法に集中できたので結果としてはよかったのかもしれませんね。センスが必要なドッグファイトにはいまだ慣れません。」

そういって車に乗る。どちらかといえばトラックか。ニパのユニットを乗っけているし。

基地を出てしばらく無言になる。曹長は何かの書類を読んで、チェックやサインをしている。

「そこの曲がり角を曲がって道なりに30km進んでください。」

「わかった、飛ばすぞ。」

しばらくスピードを高めに運転すると一気に開けてたくさんのトランクが積み重なった場所に出た。

「ここが集積基地なんですよ。扶桑から送られてくる物資はまずモスクワに送られてその後各地の東欧に送られます。そしてバルトランドやここペテルブルグに送られる荷物はこの集積基地に送られます。もちろん502の荷物のおよそ60%はここから来るんです。あ、そこにとめてください。」

しばらくすると責任者らしき人が来てその人にニパのユニットを引き渡す。

いつものことなのかユニットを見るなり苦笑いになったがすぐ持って行った。

代わりのユニットをトラックに載せる。

「これで終わりか?」

「いえ、ここからが勝負です。」

勝負?そういうと、もう一度車で移動して今度は別の場所に来た。

「ここは?」

「主に弾薬などを集積している場所です。バルトランドに送られるような奴ですね。はい、さっさと手伝ってください。」

そういうと車に乗せるよう言われた箱を載せる。

「誰も責任者が来ないようだがいいのか?書類は?」

「そんなもんありませんよ。」

なんだそりゃ、と思って曹長を見ていると何かを箱に書いていた。

「おい。」

「なんですか?」

曹長がはさも当たり前のように荷物の宛先をバルトランドの空軍基地から502に書き換えていた。送り先は扶桑の軍事工場か。

「それって横領じゃないのか?」

「今は戦時中です。荷物がネウロイに襲撃されて届かないことなんてよくあるんですよ?それにたとえば“宛先を書く人が間違えちゃった”とかね。私としては大変、心が苦しいのですが捨てるわけにもいかないので大切に使わせてもらっています。」

曹長はニコニコしながら教えてくれた。楽しむのをモットーとしているも以前に話してくれたが少し違うんじゃないのか?

その後食料もありがたく貰い受けたので車はほぼ満載になった。

もうここではもらうものがなくなったのでで集積基地を出る。

「フフッ、大漁大漁♪」

「どうなっても知らないぞ。」

「大丈夫ですよ、いつも平気でやっていることですし。司令部も黙認してくれています、たぶん。それにこうでもしないと予算が足りないんですよ!主にあの方たちのせいで!」

「それはご愁傷さまです。」

「ちなみに大尉のユニットってどれくらいのお金がかかるんですか?」

「スピットファイアのほうか?」

「いえ、ジェットストライカーユニットのほうです。」

たしか、ゼロ戦の価格が一億五千万くらいだと考えてて・・・・それにメイブは限定数しか作っていないはずだし。

「よくわからないが、とにかく高いぞ。2000倍はいくかも、いやもっと高いかも。」

「えっと、つまり大尉のユニット1機で私たちのユニットが2000機以上買える・・・?」

「まぁ、それ以上買えるかもしれないな。本当の価格は開発局の奴等しか知らないだろうがな。」

曹長が卒倒しそうになる。

そしてがしっと俺の左腕をつかんでくる。

「絶対に!!!壊さないでくださいね!!壊したらただじゃおきませんよ!給料から天引きしますから!」

「わかったから!曹長、運転中だ!」

「あ、ごめんなさい。」

というか、曹長は給料も管理しているのか?

あれ、俺の給料ってどこから出ているんだろう?502に配属になったとはいえ、ブリタニアからじゃないのか?

「それは怖い。まぁ、ジェットのほうは絶対に壊さないから安心してくれ。」

「スピットファイアのほうは壊す気でいるんですか!?」

「好きで壊しているわけではない!」

「でもあれのせいで余計頭を下げなければならなかったんですよ!東欧司令部長官には“はっはっは、彼もブレイクの素質を持っているのかも知れんな。”なんていわれる始末ですよ。」

「それは、悪かったな。」

そのままいったん基地に帰り荷物をおろす。

そして今度はいろいろなところに届けねばならない書類を少佐から受け取って再び基地を出る。

まずはサンクトペテルブルグ中心部にある司令部に報告書を提出しに行く。

司令部到着後、駐車場に車両を止めて建物に入る。

「ここが東部方面統合軍総司令部か、管轄がでかい割に建物は小さいな。」

「西はここペテルブルグ、東はウラル山脈までと広大ですね。ちなみにここの指揮下にある統合戦闘航空団は502のほかに503があるんですよ。」

「503か、あまり噂を聞かないな。うちは良い意味でも悪い意味でも有名だからな、もしかしたら埋もれてしまっているのかもしれない。」

「でも報告を見る限りうち同様激戦区みたいですね。」

「それじゃあ、いわばこっちは問題児であっちは模範生徒って感じか。」

「ですかね。」

受付に書類を提出しに来た旨を伝え、どういうわけか副司令官に会うことになった。

なんでもあちらが会いたいらしい。

副司令官室に案内され五分ほど話をしたがこれといった話題はなかった。

純粋に話をしたかったらしい。書類を渡して退室くる。

「なんか拍子抜けでしたね、副指令が会いたいっていうから何か大尉が私の知らないところでしでかしたのかと思いましたよ。」

「苦労しているんだな、曹長も。それで、次は?」

「お昼にしましょう。」

時計を見ると現在時刻は1225、時間的にもちょうどいいな。

「いいお店を知ってますか。行きませんか?」

「別にかまわないが、仕事が残ってるんじゃ・・・。」

「大尉っていつも職務、仕事ばっかりですね。せっかく基地の外に出れたんですから羽伸ばそうとは思わないんですか?」

「思わない。」

はぁ、と曹長がため息をつき、そして左手を腰に当て、ビシッと右人差し指でさしてきた。

「いいですか、私は基本なんでも楽しんでいこうというのをモットーにしています。確かに軍人としてやるべきことはしっかりやらなければならないとは思いますが、たまには休息も必要です。私たち軍人はいつ死ぬかわからないんです。だったら今を楽しく生きましょう。」

そんなこと考えてもみなかったな。死にたくなければ自分を強くする。

そんなことしか考えていなかった俺にとって彼女の考えは斬新というか驚きだ。

「わかったよ、でどこに案内してくれるんだ?」

「こっちです。以前、少佐に連れて行ってもらったんですよ。」

10分くらい歩いたところにあるすこし大きめのお店に連れて行かれた。

「何名様ですか?」

「二人です。」

「では、こちらへ」

ちいさなテーブル席に案内された。

「カールスラント料理か、故郷の味を思い出すのか?」

「えぇ、よく家族で食べていた食事を思い出すんです。なに頼みますか?」

「よくわからないから、全部任せる。」

「わかりました。」

曹長が注文後、しばらくしてソーセージやジャーマンポテトなど数種類が運ばれてきた。

「曹長は俺が知らない間にいろんなことしていたんだな。」

「補給関連は誰かが必ずやらなければならないことですしね、少佐はだめだし他の人はそんな余裕ないし必然的に私がやらなければならないんですよね。」

「専門の人を採用するわけにはいかないのか?」

こういうものって補給兵とかそういう奴がやる仕事だと思ってた。

「補給関連はウィッチのことをよくわかっている人がついたほうがいいですしね。」

確かにそうだ、勝手を知っている人が補給担当であれば安心できるし。

むしろブレイクウィッチーズが成り立っているのは曹長のおかげなんだよな。

だからいつもあんなに怒っているのか。

「すまないな、曹長。迷惑掛けて。」

「今日おごってくれたら許してあげます。」

「わかった、それで手を打とう。」

よし、っとガッツポーズをして

「店員さんー!追加オーダーお願いしますー。」

「おい、待て。」

「いいじゃないですか、私の懐は痛まないし。それにこれ高いけどすごくおいしいんですよ。」

ここのお店って家族と食べていた料理って言うから家庭料理専門なのかと思ったらちゃっかり高級食材を使ったものもあるのか。

まぁいいか、曹長にはいつもお世話になっているから。

「今日だけだからな。それと、これでこの前、模擬戦で中破したことはチャラだから。」

「仕方ありませんね。あっ、いいこと思い付きました。次ユニットを壊したら今度は2回にしましょうか?」

「なら、なおさらもう壊せないな。」

「そうです、壊さなければ大尉も怪我を負わない、私も書類を書かなくてもいい、他の人も余計な資材を使わなくて済む、つまりみんながハッピーになれるんです。」

なんだその幸せスパイラル理論みたいな奴は。

最後の料理を食べ終わると食後のコーヒーとデザートがきた。

「いつの間に頼んだ?」

「気づかなかったんですか?」

「あぁ、カールスラントの料理名はあまり知らないから何言っているのかわからなかった。」

「なら仕方ないですね。ゴチになります♪」

まぁ、いいか。ちゃんと二人分頼んであるみたいだし。

 

「今日はありがとうございました。ご馳走になります、大尉。」

ちゃんとお礼をするときはしっかりクールだよな。

本当にオンオフを切り替えるのが上手だ。

「別にいいさ、曹長とこうしていろんなこと話す機会ができたからな。」

「ならよかったです。そろそろ行きましょうか。」

「あぁ、そうだな。」

そのままレジに向かい会計を済ます。

意外とかかった費用は高くはなかった。

「さて、そろそろ仕事を再開しましょう。まず司令部に戻って車と取りに行かないと・・・。」

「あれ、パウラじゃん?どうしたの?」

声がした方向を向くと知らない奴がいた。

「あ、サラ。久しぶり、報告書を届けに行くついでの昼休み。」

曹長の知り合いか。

「なるほど、ここおいしいもんね。そちらの人は?彼氏?」

「違いますよ、ブリタニアからきた502のウィッチ、まぁどちらかといえばウィザードですかね。」

「・・・男のウィッチ?うそ、都市伝説だと思ってた。」

ども、と会釈する。

「まぁ、仕事一筋のパウラに彼氏なんて出来ないだろうねー。」

「失礼な、それはサラだって一緒でしょ?」

「確かにね、出逢いなんてほとんどないし。」

結局3分くらい曹長と話していなくなってしまった。

話していた内容も世間話程度だったし。

「彼女は?」

「昔同じ部隊にいた人です。私がいろんなことを教えた一人ですね。」

「パウラっていうのは?」

「・・・私のあだ名です。ラテン語で小さいを意味する゛パルトゥス゛から来てるそうです。」

それは、曹長にぴったりだこと。

「そういえば、曹長って本当に教師みたいだよな。指示棒持ってるし。」

「あれはブリーフィングのとき指しやすいから持っているだけですよ。」

「眼鏡かけたら完全に先生だな。いや、すでに何人も教え子がいるんだから既に先生か。」

「まぁ、実際私は教育係ですからね。教えた子が成長していくのは見ていてうれしいですし。」

もう教師の貫禄まで出始めているみたいだ。

「というか、俺よりも撃墜数は上だろ?本当に何でも出来るのに何で曹長なんてやってるんだよ。」

「まぁいろいろあるんですよ、私にも。」

その後、オラーシャ海軍基地や各通信施設に司令部から渡された書類を届けて今日の外回りは終わった。

基地に戻り全部終わったことを少佐に報告する。

「そうか、ご苦労様。補給物資は不安だったから助かった。それと大尉もなれない外回りをありがとう。」

「いえ、久しぶりの外出で羽を休めることが出来たので良かったです。」

「まぁ、明日も曹長の手助けをしてもらうことになるが頼んだぞ。」

「「了解。」」

司令官室を出て終わりかと思ったらまだ仕事はあるらしい。

設備点検や各自のユニットが正常に動くかの点検の報告書も回収しに行く。

最初に見回りをしなければならない場所に向かう途中、緊急発進警報が鳴った。

午後のこの時間の担当はB隊だ、本来ならば俺はユニットに乗って指揮をとらなければならないのに。

離陸のために滑走路に向かう三人が俺を見つけたのか手を振ってきたので敬礼して返す。今日、指揮を撮っているのは伯爵か。不安だ。

全員が無事離陸したことを見届けてから自分の仕事に入る。設備点検や特に冬場は重要な水道管に亀裂がないか等を確認する。

 

一時間ほどした後、B隊が帰ってきた。

双眼鏡で機影を見ると二つしかなかった。車の音がしたので振り返ると猛スピードでエイラの姉が乗った車が基地から出て行った。

それが意味することを理解した曹長が崩れ落ちた。

「また落ちたの!また伯爵!?」

伯爵の心配をするより先に面倒くさい仕事がまた出てきたことに対する恨みの言葉が出てくるところを見るともはや当たり前になっているのかと思ってしまう。

そして最後の見回りで格納庫に入った曹長をさらに突き落とす事実が待っていた。

ニパがまた壊したらしい。

それも今日受け取ったばかりのユニットを。

「二パー!出てきなさい!」

ああいうの鬼というんだろうな。そんな形相をした曹長が全力でニパのいるであろう宿舎に走っていった。

しばらくするとニパの悲鳴が聞こえてきたから恐らく捕まったのであろう。

報告書を出すのを忘れていたらしくて少佐も知らなかったらしい。

一日に二機破損するという事態に曹長の怒りがしばらく収まることはなく、戻ってきた曹長を俺が手伝ってるときもずっと“まったく、いつになったら学ぶのやら”とか愚痴をもらしていた。

またひとつ曹長の新たな面に触れた気がした。




曹長って仕事のときはクールだけど他のところでは明るいというあまり見かけない人なんですよね。だからちょっと難しい。
いつもクールとか常に明るいって子はよくいるし、今作の中にもいますしね。


しばらく戦闘が続いてまったくないのが久しぶりってくらい?
フミカネさんが書いた502だけでは性格は読み取りにくい・・。
何かおすすめがあれば教えてくれるとうれしいです。


ご指摘、感想、評価は常時受け付けています。


うわきじゃないよ?
(これからもひとりの娘に注目した話を入れてきたいなーと思ってます。)


修正
(前)
「よくわからんがスピットファイアの200倍以上じゃないのか?」
「200倍!?」
(後)
「よくわからないが、とにかく高いぞ。2000倍はいくかも、いやもっと高いかも。」
「えっと、つまり大尉のユニット1機で私たちのユニットが2000機以上買える・・・?」
「まぁ、それ以上買えるかもしれないな。本当の価格は開発局の奴等しか知らないだろうがな。」
ほか、一部訂正。


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第34話 偵察任務

だれか「アルプスの月虹」作ってくれませんかね?

漫画オーロラの魔女2巻の話が少し入っています。
まだ読んでなくてネタばれ駄目ーー!という人はブラウザバック。


昨日やらかしたニパのユニットの破損度は小破だった。少し直せば今日からでも飛べるらしい。

昨日曹長が小破なのに怒ったのは中破にしろ小破にしろ、書かなければならない報告書の量は変わらないためらしい。さすがに大破や全損レベルになるとまた書く量が格段に増えるとのことだ。

というわけで完備してある予備パーツを破損したものと交換して修理は完了となった。

ただ、ニパのことだから数日中にまた壊す可能性があるため、すむやかに使用した予備パーツの取り寄せが行われた。基地で直せるものはできるだけ直して時間的な損失も抑えていきたいと曹長は話していた。

さて、俺は昨日に引き続き曹長の手伝いをしている。といっても補給関連は昨日済ませてしまったので今日の主な曹長の仕事は書類関係だ。そのため俺はその間に昨日のうちに終わらなかった設備のチェックを行う。ただ、時間があれば食料の補給に向かうらしい。

格納庫で確認項目をしていると外で騒ぎ声が聞こえたので出てみると何かすごいことになっていた。

エイラがなんかメイドのような、なにかわからない服を着ていて(使い魔の耳を出した状態)ニパも同じような服を着ていてアウロラ(エイラの姉)が写真を撮っているという状況だった。

「お前ら、何しているんだ?」

「あ、たったっ大尉!何でそこにいるんダ!?」

「ただ、見回りをしているだけだ。そっちこそなんでこうなった?」

そういうとアウロラが二枚の写真を見せてきた。

「いいか、バーフォード大尉。これが8年前のイッルでこっちが現在だ。この二枚の写真を見てどう思う?」

「あ、ねーちゃん!だめ!」

エイラがアウロラから奪い返そうとするが華麗に回避して写真を俺に渡した。

8年前のほうは雪の上で遊んでいるエイラで現在のほうは一言で言えば寝起き直後みたいだ。髪が跳ねていて服もだらしない。

「・・・なんか吹っ切れた感じがあるよな。」

「それは、ねーちゃんが悪意のあるチョイスをしただけだ!」

「まぁ落ち着けって。それでイッルをリベンジさせよう!ということになってこの服を着せたわけだ。で、いまのイッルとニパの服装、どうだ?いいだろう?」

フムン、この服装って“不思議な国のアリス”に出てくる女の子の服装にそっくりだな。もしかしてスオムスの民族衣装だったりするのか?

「似合っていると思う。可愛いんじゃないか?」

そういうと二入とも真っ赤になった。

アウロラはその姿を見て笑っているし。

 

 

「そうだ、ねーちゃん。小さい時、電離層にいけるとか言ってたけどさ、魔女になってからわかったけどそんなの無理じゃん。」

電離層?60km~3000kmの高密度のイオンがある大気層のことか。確かに今の技術じゃ無理だな。航空機だとどうなんだろう?本気出せばいけるのか?

「あの時、私は行けるとは断言していないしな。まぁ小さい子供の夢を壊すのはいけないと思ってな。」

「ぐぬぬー!」

「ま、電離層は無理でもお前ならいつかは成層圏の果てまでいけるかもしれないな。」

「はぁ?意味わかんないし・・・・。」

「物のたとえだよ。」

 

すると近くにいたニパが空を見ながらつぶやいた。

「成層圏か~。私たちがいつも飛んでいるのが対流圏だよね?」

「そうだ、大体地上から11kmまでが対流圏でそれから上、11~50kmが成層圏だな。」

「私たちじゃいけない世界だからなー。どんな景色が見れるんだろう?イッルはどう思う?」

「私は、そうだな~~想像できないな。ねーちゃんは?」

「それはもう地球の果てまで見れるんじゃないのか?雲なんてその高さになるとないと思うからすごい景色が見えると思う。」

「想像もできないナ。」

ふと三人がこちらに顔を向けた。

「なんだよ?」

「ちなみにさ、バーフォード大尉のユニットだと成層圏いけるの?」

「ぎりぎりだよ。普通のユニットと限界上限高度は変わらない。」

「「なんだー。」」

つまんないのーとかいっているが仕方ないじゃないか。

この空気じゃ事実は言えないよな。それに本来のスペックなんて明かせるわけがないしな。

まぁ、FAFでのメイブの限界高度は24800mだが地球大気上だともうちょい上までいける。

戦略偵察用のシルフなら増速用ラムジェット・ブースターをつけて高度45000mを飛ぶことができるらしい。

「まぁ、普通に成層圏にいけるまではもう少し時間がかかりそうだな。でも考えてみろ、人類が初めて空を飛んでから40年後には空を飛ぶことがもはや当たり前になったんだ。一度発明されればそこからは早い。ましてや今は戦時中だ。各国の開発局の奴らも必死になってネウロイに勝つための兵器を開発しているんだ。そう遠くないうちにストライカーユニットで成層圏にいける時代が来るさ。航空機だともう成層圏を飛ぶ奴も出てきているんじゃないか?」

「でもそれじゃあさ・・・・。」

「言いたいことはわかる。要は自分の肌でその空気を感じたいってことだろ?開発されて実践配備となればあんたらはスオムスの中でもエースなんだから優先して配備されることになるんじゃないか?だから待ってればいつかはくるさ。」

ウィッチっていうのは本当にすごい。

音速近くの速度を直接肌で感じることが出来るんだから。

「そうか、じゃあ待っているとするか。もし来ればサーニャと一緒に・・。」

「それまで生きていればの話だがな。」

そういうと二人はむすっと不機嫌そうな顔をした。

「不吉なこと言うなヨ。」

「そうだそうだ!」

「そういわれても俺としては当然のことを言ったまでだ。だが今まで被弾率0%と普通なら死ぬような事故から何回も生還している不死身のような奴に言っても説得力ないがな。下手したらこの基地の中でも一番生存率高いんじゃないか?」

「そういわれればそうかナ。」

「私だって好きで事故にあってるわけじゃないもん。」

確かにニパは本当に不運としかいいようがないからな、他にウィッチがいるのに雷がなぜかニパに集中するとかな。それだけならまだしもいろいろあるからな。

「だがな、あんたら注意したほうがいいぞ。」

・・・頭の上に?が見えた気がしたぞ。

「いつかは魔力が衰退して使えなくなるんだろ?そうしたらエイラの“未来予知”の精度だって落ちるんじゃないか?ニパの“超回復能力”だって効果が低下していくんじゃないか?あんたらはスオムスのなかじゃトップエースだ。そう簡単には地上には降ろさせてもらえないぞ。おそらく死ぬか完全に魔力が衰退するまで飛ばされ続けるだろう。そんな時どうするんだよ。精度が低くなった未来予知に頼りながら飛ぶのか?だから少しはシールド張る練習とか回避の練習をしておいたほうがいいんじゃないか?五年後の話なんてわからないかもしれないがあっという間だぞ。」

「そういわれてもナ・・・。」

「わからないよ。」

「心の隅に留めておけばいい話だ。いつか、思い出してくれればいいから。っとすまないな、せっかく姉妹で話していたのを邪魔してしまって。」

「私は別に、君の話もなかなか面白かったし。」

「まぁ私も同じだな。」

「どうせ午後まで特にやることないしナ。というか大尉の話もなかなか斬新だゾ。そんなこといつも考えているのカ?」

いつもジャックとたまに零もまじってこういった少し先の未来を見据えた話をしていた気がする。だからだろうか、彼女らみたいに今を必死に戦っているのを見ると口出しをしたくなるのは。

「癖だよ。いつもいろんな可能性を考えながら生きている気がする。」

「変なのー。すこしは楽しんだら?」

「曹長にも同じこと言われたよ。」

その後、なぜか大体大尉はなんでそんな回りくどい考え方をしているのさ~から始まりいろいろな事を言われ続けた。彼女らからしたらアドバイスをしてくれていたのだろうがすこし面倒くさかった。

ちなみに見回りはなんとか昼食前に終わらせて、問題がなかったことを報告書に記入して曹長に時間ぎりぎりで提出した。

午後は曹長の時間が出来たということで食料の追加補給を行うことになったが実態は補給という名のお菓子類の買出しだった。

基地のやつらにアンケートをとりいざ買い出しへ。

市場は意外と扶桑の物がそろっているため502で出されるお菓子類は和菓子が多い。

これも下原の布教の影響だろうか?

みんなマニアックなものではなく普通に売られているものを挙げてくれたためそれほど時間もかからずに買出しは終了した。

結局その後はまたまた曹長の手伝いをして今日の業務は終わった。

 

 

次の日、ドクタールーム

「それで、怪我の治癒具合はどうですか?」

「うーんと、これなら問題なさそうだね。よし、飛行停止は解除ということで。それじゃあこの書類を少佐に提出してくださいね。」

「ありがとう、ドクター。失礼する。」

自分では問題ないと思っているのに怪我で空を飛べないというのは歯がゆいものだな。

まぁ、結果としてしばらく地上での休暇を楽しめたと思えばいいか。今日から飛べるとだけあって足取りも軽い。

食堂に入ると少佐と伯爵という珍しいペアが朝食担当だった。

すでにテーブルに並べてあったのを見るとパン、ソーセージ、チーズだった。

見れば誰だってカールスラント料理だなとわかる今日の朝食はいたって調理は簡単で誰でも手軽に出来そうだ。

カールスラント人は朝食を二回食べるそうだがここではそんな時間はもちろんないので他の奴らと同様に一回で済ませる。食堂で一番に目が合ったウィルマが駆け寄ってくる。

「あ、バーフォード。どうだった?」

「問題ない、今日から戦線復帰だ。迷惑かけたな。」

「そんなことないよ、よかったね~。」

伯爵と少佐がキッチンからみんなの分の飲み物を持って出てきた。

「お、隊長、復帰か~。いやー私がみんなを率いるってのはやっぱり向いてないね。そういうのは隊長に任せるのが一番らくだね。」

「伯爵、お前は節度というのを覚えたほうがいいんじゃないか?」

「無理だよ。」

おい、伯爵。

「バーフォード大尉も今日から復帰ですか。おめでとうございます。」

「ルマールか。おめでとうはいいのかわからないが、とりあえずありがとう。今日からよろしく頼むぞ。」

「ええ、二日間大変でした。伯爵が全部私に報告書押し付けるんですから。」

「私はさ、ほらユニット破損させちゃったからそれの報告書と始末書も書かなきゃいけなかったし。」

「それも含めて隊長代理であるあなたが行う仕事でしょう!」

「まあまあ、終わってしまったことはしょうがない。今日からちゃんと書いてくれる人が復活するし。」

「お前な・・。」

とはいうものの、この空気がすこし懐かしく思えてしまうあたり自分がかなりこのチームになじんでいるのを示しているのだろうか。

 

朝食を済ませ少佐は別の仕事があるため先に出ていってしまった。本来なら作った人が皿を洗うのだが伯爵一人に皿洗いを任せるのは少しまずいということになって俺が手伝うことになった。

「確かに11人分の皿を全て伯爵に任せると絶対なにかしでかすんじゃないかという不安に襲われるよな。監視役が必要とはいえ、なぜ俺がしなければいけないんだ?」

「くじに負けたんだから仕方ないじゃん。ほら、ちゃっちゃと洗っちゃって。」

「・・・なんか伯爵に指示されるとすごくいらいらするんだが。」

「隊長は沸点が低いね~。怒りっぽい人は早死にするよ?」

おもわず皿に力を込めてしまった。割れなくてよかった。

「そういう伯爵だってあんな飛び方しているとすぐ死ぬぞ?」

そういうと伯爵は笑って否定した。

「・・・・・死なないよ、私は。というか死ねないね。」

「理由を聞いても?」

「決まってるじゃんだってさ、

 

 

守らなければいけない人達がいるから。」

 

 

 

なぜか伯爵は遠い目をした。いつものおちゃらけた雰囲気とは180度違う。彼女はこんな表情もすることができるのか。

そんな顔されたら何て言ったらいいのかわからなくなる。

「なんてね、ほら急がないと遅れちゃうよ?」

伯爵が強制的に話の流れを変えてきたのでそれにあわせる。

「わかったよ。それと伯爵。」

「ん?」

最後の洗い終えた一枚を立てかけて彼女を見る。

ギザだがこれだけは言っておきたい。

 

「無茶はするなよ?」

 

「もちろん。心配性だな、隊長は。」

そう返答すると伯爵は皿洗いに再び集中し始めた。

 

俺は食堂をでて格納庫に向かう。

さっきのやり取りを思い出す。

もしも、ジャックなら“もう死亡報告書を書きたくないからな”なんて気の利かせたことを言うのだろうが俺には無理だ。

部隊の隊員にまで気を配るのは隊長の役目だがどこまで踏み込んでいいのかわからない。

以前治療してくれたルマールだって何かしらのことを抱えているみたいだし、伯爵にもあるだろう。それを聞いてもいいのか?

いや、駄目だろう。

はぁ。まったく、人との距離ってのは難しいな。

 

 

 

「?どうしたんだい?隊長?」

伯爵?

「そんなところで立ち止まっちゃって。もしかして待っててくれた?」

ニヤニヤしながら聞いてきた。

「まさか、少し考え事をしていただけだ。行くぞ。」

「はいはい、了解。」

そういうのはいつか考えることにしよう。

いまは目の前に集中しよう。

 

いつもの待機時間も半分以上が過ぎ去った1105に突然呼び出しがあった。

少佐から全員ブリーフィングルームに集合するようにとの通達だった。

とりあえずB隊の4人でブリーフィングルームに行くと502の保有する全員のウィッチが集合していた。

「突然すまない。まずはじめに言っておく。緊急事態だ。」

部屋がざわめき始める。

「静かに!といっても現在わかっていることは主に二つ。ひとつはノヴゴロドを囲むようにして配置されてある観測所からの定時連絡が途絶えたことだ。途絶えた観測所があるのは第一観測所から第十観測所までの計十箇所だ。午前八時、午前十一時の定時連絡が全ての箇所から行われなかった。

それともうひとつ。一部地域に通信にノイズが発生していたりレーダーにノイズが走っていて使用不可能になっている場所がある。時間は1035から発生している。

主なエリアはエリアQ(クエベック)からエリアS(シエラ)及びエリアV(ヴィクター)からエリアX(Xレイ)の計6箇所だ。このエリアの共通点はネウロイの巣から70km圏内にあるということだ。

また同様にこのエリアにあるオラーシャ、カールスラント空軍基地からも通信が途絶している。

よって司令部は1100をもってデフコン3に移行、502JFWのナイトウィッチ隊に対して偵察命令を出した。」

なるほど、これは穏やかな話じゃないな。

「偵察隊は、バーフォード大尉、君が指揮を執れ。下原少尉、リトヴャク中尉の両二名は彼の指揮下に入れ。」

恐らく夜間ウィッチのもつ能力を使えば無線が使えなくてもコンタクトできると考えたのだろう。

「質問をしてもよろしいですか?」

「かまわないよ、バーフォード大尉。」

「現在自分はB隊の指揮を取っています。ということはクルピンスキー大尉に指揮権を移行するというのでよろしいですか?」

伯爵が嫌そうな目でこちらを見てきた。わかるが、今は抑えてくれ。

「いや、私が指揮を執る。」

そういうと再びざわめきが起きた。

少佐が?

以前怪我をしてリハビリはしたが以前の様にはもう飛べないと聞いていたが。

なるほど、それ程切羽詰っているのか。

「了解しました。以上です。」

「結構。さて、司令部が現在デフコン3に移行したため502JFWも現時点を持って警戒態勢に移行する。

出撃可能なウィッチは常に待機することになる。よって今までのようにA隊、B隊が別々に出撃するのではなく、常に同時に動くことになる。

そのことを踏まえて置くように。

では偵察任務の三人以外は解散。」

そういうと他の面々は部屋から出て行った。

エイラが去り際にサーニャが怪我を負ったら許さないからな、っていってきた。

わかってる、そんなこと。

「さて、バーフォード大尉とリトヴャク中尉は空間把握を、下原少尉は遠距離視が出来るということだな。その能力を持って通信途絶地域の偵察をお願いしたい。これが各基地と観測所の場所となる。この地図はなくさないようにな。各地の異常がなければそのつど本部に報告してくれ。質問は?よし解散。」

 

そういってブリーフィングルームを出る。めんどくさい任務だ、はやく終わらせたいものだな。

「さてと、とにかく格納庫に急ごうか。話は空でしよう。」

「「了解。」」

1125、502JFW基地を離陸。進路を南にとって現場空域に急行する。

「さて、俺たちの任務を確認しようか。主任務は通信途絶地域の偵察及びそこで作戦遂行中の兵士の安否確認ってところだ。何か質問はあるか?」

「なぜ、通信が出来ないのでしょうか?」

「理由は通信妨害じゃないのか?ネウロイか他の何らかの要因により通信が出来ない状態になっている。妨害が行われているならノイズの件も説明がつくし大元を片付けてしまえばこの件は解決する。そのための俺たちだ。」

「ネウロイが通信妨害ですか、これから頻繁に行われるようになれば厄介ですね。」

「そうだな。まぁその対策は上が考えることだ。俺たちは目の前の作戦に集中しよう。

といってもそのことで一番被害を受けるのは他でもない俺たちだがな。」

「確かにそうですね。」

「下原は俺と飛ぶのは初めてだな。万が一戦闘になったとき、あわせられるか?」

「バーフォード大尉が狙撃銃、サーニャさんがフリーガーハマーで、私が機関銃ですか。

遠距離型が二人なのでお二方の援護のもと私が突っ込むという形でしょうか?」

「わかった。それでいこう。サーニャは平気か?」

「問題ありません。以前一緒に戦ったことありますし。」

なら問題ない。今回は援護か。まぁ夜間戦闘を一人でこなすような奴らだからそんなに心配はしていないが。

 

 

30分ほどすると基地が見えてきた。ここの基地に所属するのはオラーシャ空軍第42飛行隊及び他航空機隊一小隊だ。以前、援護してあげた部隊か。

「どうだ、下原。何かわかるか?」

「見えますが、何も問題が起きているようには見えません。飛行機を整備している人も見えます。」

「つまり、基地が被害を受けている様子はどこにもないと?」

「その通りです。」

ただの、電波妨害?まさか、そんなもののためにこんな大々的なことをするのか?

「とにかく降りてみるか。サーニャは上空待機を続行してくれ。下原、着いて来い。」

「「了解。」」

「こちら502JFW偵察隊のフレデリック・T・バーフォード大尉だ。貴基地の状態を報告してくれ。」

ザーーー。相変わらず駄目か。ただこの高度だと彼らからも視認できていると思うのだが。

「502JFWの偵察隊だ、聞えないのか?」

もう一度問いかけるも返答はない。

着陸しようかと考えていたところ、基地から発行信号が来た。

『こちら42飛行隊基地、通信機器に問題が発生。それ以外の設備に関しては問題ない。貴機からの通信は聞えている。』という内容だった。

やっぱりメイブ時代からの通信機器をそのまま受け継いでいるためかこの時代のよりもはるかに出力が高いのか。そのおかげで一方的になら聞えているのか。

「了解した。以降、司令部からの命令はこちらを通じて行う。通信終了。」

『了解、通達感謝する。』

とりあえず、無事は確認したので次の基地に向かう。

 

 

 

42飛行隊基地を離れた76秒後、突然Garudaが警告してきた。

長距離レーダーに反応あり。敵か。

音速の1.3倍、この世界にしては恐ろしく速い。

「サーニャ、気づいたか?」

「えぇ、ネウロイですね。かなり速いですね。それに山間を抜けてきたのか近くに来るまでわかりませんでした。おそらくネウロイの偵察機だと思います。」

基地到着まであと一分ほどか。敵数1。俺たちからみて9時のほうから基地に向かっている。

 

42飛行隊が滑走路に進入開始。離陸体制に入る。おそらく空間把握系のウィッチが接近を感知してスクランブルに入ったと思われる。

 

 

・・・・まて、数1?

その瞬間あのときの記憶が思い出される。

そう、あのTAB-14が壊滅したときの。

「あの中型ネウロイ何するつもりですかね?」

「わかりませんが、サーニャさん、心配する必要はないと思いますよ。中型程度ならあの基地所属のウィッチで問題ないでしょうね。対空射撃も行っている上、離陸も始めているみたいですし。バーフォード大尉、次行きましょう。大尉?」

まさか、奴らの目的は?あのネウロイは、まずい!

「Garuda、TARS(戦術航空偵察システム)を作動。撮れ。」

-Copy. TARS activate -

「どうしたんですか?大尉?」

「目を閉じてろ。つぶれるぞ。」

「「え?」」

「閉じろ!!」

「はいっ!」

強く二人に怒鳴り散らす。こんなことはしたくはなかったんだが緊急だからな。

「502JFWより42飛行隊基地へ。PAN PAN PAN Code:U Uniform Uniform.」

まにあわないな。

そして中型ネウロイが速度を保ったまま基地に突っ込んで行き

 

 

 

一瞬、閃光でなにも見えなくなった。

 

 

 

 

あわてて腕で目を覆う。

その直後に爆音と衝撃波がきた。

しばらくして耳鳴りや目がシバシバするのが治ってきたので爆発が起きた方向を見てみると

 

基地があった場所にいくつもの大きなクレーターが出来ていて地上施設は跡形もなくなっていた。

 

 

 

その直後、遠くのほうでも連続して3回ほど同じような爆音ととてつもない量の煙が見えた。

「いったい何が起きたんですか?」

「・・・状況は最悪だ。今のでおそらくペテルブルグよりもネウロイの巣に近い基地が全部吹き飛んだだろう。」

「それじゃあ、あの基地にいた人たちは?」

「全滅だろうな、基地ごと消滅したんだ。苦痛すら感じる暇もなかっただろうよ。」

「そんな・・・。」

Garudaが新たな敵を見つける。ここからは遠くない位置に大型のネウロイが飛翔している。

おそらくあれが先ほどの攻撃機の母機だろう。

「敵だ、さっきのネウロイを射出した母機だ。とにかくあれを落すぞ。」

「は、はい。」

「え、了解です。」

とりあえずは返事してくれたがその顔からは動揺が見てとれた。

あのちょうしじゃだめだな。いくら何年も戦線にいるとはいえ先ほどの攻撃をみてしまってはショックだろうな。

「いや、撤回だ。サーニャと下原はそこで待機していろ。今のお前らじゃ使い物にならない。」

そういって返答を聞かずに出力を上げて一気に距離を詰める。

もう一度攻撃されるとまずいので早急に落とさねば。今は銃の射程範囲に入るまでの時間すら惜しい。

ECMの出力を最大にしてあらゆる妨害電波からも影響を受けないようにする、そしてこれから行う攻撃の情報ができる限り漏れないようにする。

あれを最後に使ったのはワイト島だったか?

魔力をミサイルのような物に変えて射出する。一回の出撃で8回までしか使えないが背に腹は変えられない。

 

ターゲットをロック。

発射。

一気に自分の魔力がユニットに吸い取られる感覚に見舞われる。

そして俺から離れていったミサイルが高速で飛翔して数秒後にネウロイに着弾。

母機は爆散した。

敵機の撃墜を確認。

すると502本部から通信がきた。妨害電波がなくなり、本部との通信が可能になった。

『ラルだ。バーフォード大尉、先ほどの衝撃の理由はわかるか?』

「あぁ。」

『なら報告してくれ』

それと同時に広域レーダーに多数の反応が出る。

方向はノヴゴロド。空からネウロイの大群が侵攻してくる。

数はゆうに100を超える。

そうか、当たり前だよな。

目の前にある障害を破壊してから進行する。誰だってわかること。ネウロイの侵攻が再開したか。

『大尉?聞えているか!?』

「聞えているよ。」

『なら報告しろ!』

この状況を表すぴったりな言葉を少佐に伝える。

「戦争だよ、司令部に伝えてくれ。今すぐ防衛戦力をかき集めろとな、時間はあまり残されてないみたいだ。」

 

 

戦いの火蓋は既に切って落されている。

はたして勝利の女神はどちらに微笑んでくれるのか。

 




今話はオーロラの魔女と雪風アニメを投入しています。
ようやく雪風を入れられた。
これから大規模戦闘が2話くらいにわたって続きます。
ちょっと後半は大変だった。読みにくかったらごめんなさい。
デフコンは分かりやすくするために使いました。

ご指摘、感想がありましたらよろしくお願いします。


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第35話 ペテルブルグの戦い

独自解釈が入ります。


諸君、ミッションの概要を説明する。

現在ネウロイの大群がここサンクトペテルブルグに侵攻中である。

敵の数は大型が20、中型が35、小型が70の計125機の大編隊である。

縦一列中央に大型機、それを護衛する形の中型機、さらにその周りに小型機が張り付いている編成である。これだけの数いるためか進軍速度は遅い。

また敵はルートβを使って侵攻している。迂回するルートを使っているとはいえ、時間には余裕がないと思ってもらいたい。

次に防衛線について説明する。

本来であれば第一次防衛ラインの担当であるオラーシャ、カールスラント両軍の該当航空隊がすでに迎撃に当たっているはずだがネウロイの攻撃を受けて基地ごと消滅したとの報告が入っている。

そのため第一次防衛ラインはすでに突破された、と見るべきだろう。

最前線の基地を破壊した新型ネウロイはすでに偵察隊によって撃墜されたとの事だ。

どのような方法で壊滅させられたかは現在調査中であるが今はそれよりもやるべきことがある。

第二次防衛ラインで敵編隊を迎撃隊するため502JFWを主力とした臨時ウィッチ航空隊を編成した。

オラーシャ空軍より9名、カールスラント空軍より10名、扶桑海軍より8名、それに502JFWの12名の計39名がグンドュラ・ラル少佐の指揮下のもと、防衛に当たる。

ただ時間がなくて思うような数が集まらなかったため第二次防衛ラインが突破されるのも時間の問題だろう。

そのためバルトランド、スオムス、オラーシャ、扶桑、カールスラントの各軍が応援に駆けつけてくれることになった。この援軍は最終防衛ラインでネウロイの迎撃に当たる。

君たち502JFWの主な任務はこの援軍が到着し、準備が整うまで出来るだけ時間を稼ぐことにある。

我々司令部では最新のネウロイの状態を知ることはできない。

そのため第二次防衛ラインの戦闘を含めて臨時ウィッチ航空隊の指揮は少佐に全て一任するものとする。

扶桑海軍を含めて全ての参加航空ウィッチ隊は東欧戦線司令部の指揮下に入っているため司令部から少佐に該当部隊の指揮権を委譲する形になる。

少佐には39名の指揮を任せることになる、負担はかなり重いものになるだろうが君以外に現在任せられる者がいないのが現状だ。すまない。

ここサンクトペテルブルグが陥落するような事態になれば欧州奪還は振り出しに戻ってしまうだろう。

よって、ここはなんとしてでも死守しなければならない。

背水の陣だ、命に代えてでも守る覚悟で挑んでくれ。

諸君の健闘を期待する。

以上だ。

 

 

-東部方面統合軍総司令部総司令官より502JFW指揮官への状況報告及び指令通達に関する通信

報告書「第三次ペテルブルグ防衛戦に関する報告書」より抜粋。

 

 

 

 

「下原、サーニャ落ち着いたか?」

現在第二次防衛ライン死守を司令部より命じられたため俺たち偵察隊は本隊と合流するために急行していた。ランデブーポイントは指定されていたが既に本隊の場所は捕捉しているため予定よりも早く合流できる見通しだ。

「えぇ、先ほどは申し訳ありませんでした。」

「ごめんなさい。」

「確かにあんなのを見たら呆然とするのもわかるがこれからはとにかく体だけは動けるようにしてくれ。ボーっとしている間に撃墜だけはされたくないだろ?」

「「はい。」」

「なら平気だな。この話は終わりにしよう。それで魔力のほうは平気か?これからドンパチにぎやかな戦闘が続くが。」

すこしそこが気になっていた。魔力切れで墜落してもしばらくは助けは来ない、ペテルブルグが陥落するような事態が起きれば救出隊だって撤退するだろうから生き延びられないだろう。

「問題ありません。夜間飛行で長距離は慣れていますし。」

「私も大丈夫です。あ、本隊が見えてきました。」

下原には見えているようだが俺とサーニャには捕捉は出来ても肉眼では捕らえることが出来ない。さすがは遠距離視の能力持ちだな。

 

しばらくして本隊と合流できた。

「少佐、状況は聞いていますね?どうやって時間稼ぎをするつもりですか?」

「とりあえず、大尉は全員にネウロイの詳細な編成と配置を教えてくれ。」

「わかりました。まず、中央に大型ネウロイが・・・・・・。」

そうやって少佐や他の隊員に詳細な説明を行う。

「なるほど、わかった。ありがとう大尉。さてこの大変な事態をどう対処すべきかな。」

「少佐らしくないですね、いつもなら笑って作戦を説明しているのに。」

そういったのは熊さんだった。彼女は昔の作戦で少佐のことを良く知っているのかも知れんな。

「まぁ、確かにいつもならな。今回は緊急な上に司令部が全て私に一任してきたということは責任まで押し付けてきたということだ。まったく、制服組というのはいつも自分の保身しか考えてない。下のことを考えてもらいたいものだな。」

「そういう少佐は?」

「私はもちろんいつも部下のことを考えている、主に三人でな。」

そういって少佐は笑った。かるく冗談をいえるくらいには落ち着いたかのか。

「それでこそ、少佐ですよ。さてどうするか決めましょうか。」

「その件について、ひとつ提案があるのですが。」

そういうと二人がこっちを向いてくる。

「聞こう。話してくれ。」

「はい、先ほど説明したように敵編隊は縦に長い形です。それに中央部に大型の中でもさらに一回り大きい個体があります。奴らがどのような指揮系統の下で動いているかは不明ですが大型は先につぶしておくべきでしょう。そこで敵編隊を前衛、中衛、後衛と三つに分類して攻撃しましょう。

つまり俺、少佐、熊さんがそれぞれ指揮を取って同時に三つの場所を攻撃するのはどうでしょうか?

俺はもともと攻撃を専門とした部隊の一員なので前衛を攻撃することによって編隊を混乱させて進軍スピードを遅らせます。

少佐が中衛を攻撃しましょう。もともと少佐は優れた指揮能力を持つとの事なので敵中枢と思われる場所を叩いてください。

熊さんが後衛を攻撃してください。俺と少佐が進軍を遅らせられれば後ろは詰まるはずなのでとても狙いやすいはずです。

俺がB隊と扶桑海軍を、少佐がカールスラント出身なのでカールスラント軍を、熊さんはA隊に加えて、オラーシャ出身なのでオラーシャ軍を指揮すればスムーズに行えると思います。

どうでしょうか?これが俺が思いつく最も効率のいい作戦だと思いますが。」

「私もこれはいいと思いますよ。自分と同じ出身ならよりスムーズだと思いますし。」

すこし考えた少佐が決断する。

「よし、それでいこうか。みんな、聞いてくれ!」

そして少佐は俺が彼女に伝えたときよりもはるかにわかりやすい言葉で全員に作戦を伝える。

 

「・・・・という作戦となる。これよりバーフォード大尉率いる部隊をAチーム、私が率いる部隊をBチーム、ポクルイーシキン大尉が率いる部隊をCチームと呼称する。なにか質問は?」

・・・・・・。

「よろしい。この防衛戦は今後の欧州戦線、もとより今後の人類とネウロイとの戦いを左右する重要な戦闘になるだろう。だが、そんな気負わなくてもいい。今は目の前の戦いに集中してくれ。全員で生き残って少しでも援軍のためにネウロイを減らそうじゃないか。

さて、準備はいいか!?」

「「「「了解!」」」」

少佐はさわやかな笑顔でそんな風に全員に言った。

あたりを見てみると先ほどより格段に顔がこわばっている奴が減った。

どんなに厳しいときでも笑顔を忘れないとは聞いていたがこんなときもちゃんと忘れないとはさすがだな、伊達に司令官をやっていないってことか。それにしても、

「これほどの淑女があつまると壮観だな。」

地上から見れば40個近い飛行機雲がV時型に飛んでいるのが見えるのか。

「?なんか言った、隊長?」

「いいや、別に。」

しばらく飛ぶと黒い点がたくさん見えてきた。

「敵機目視、Cチームは離脱しろ。Good luck」

「了解です、少佐。幸運を。」

Cチームが離脱する。いったん高度を上げてA,Bチームがいい具合にかき混ぜたところでCチームが叩く。

「Aチームが上、Bチームが下についてそれぞれ編隊を組め。」

そういうと扶桑海軍所属のウィッチがルマールと伯爵の後ろにつく。

遠くて顔は見えなかったがそのウィッチは前に飛龍の偵察ウィッチだった。

「あんたらが扶桑海軍”飛龍“所属のウィッチ隊か。噂の二航戦とやらの実力を見せてもらうぞ。」

「そういうあなたがブリタニアの魔術師?噂には聞いていたけどね、実力はそこそこと聞いているけど使えるのかしら?」

「そこいらのぼんくらよりはね。ま、実力はこの戦いで証明して見せよう。」

「それじゃあ、楽しみにしてますよ、大尉殿。」

「お互いにな。足は引っ張るなよ。」

「誰に言ってるんです?二航戦を甘く見ないでください。」

 

そして同時に攻撃するためにBチームが離脱する。

あとはタイミングを合わせるだけだ。

俺たちが担当する前衛の内訳は大型3機、中型6、小型多数といった具合だ。

「よし、よく聞け。俺たちAチームの任務は敵前衛を叩くことによって敵全体の侵攻速度を遅らせることと、それによりB、Cチームがスムーズに敵を叩けるようにする手伝いだ。まぁ簡単に言えば手当たりしだいネウロイを墜とせ。そうすれば敵さんも混乱してくれて自動的に進軍速度も落ちる。戦闘に関しては一度全員で急降下して攻撃。反転後、B隊は俺とともに大型を優先して攻撃、扶桑海軍は自由戦闘だ。わかったか?」

「「「「了解。」」」」

 

 

『ラルだ、バーフォード大尉。準備しろ。攻撃は10秒後。アウト。』

そうして俺は右手を掲げる。

「敵機が多い、対空砲火には気をつけろよ。

それでは諸君、

 

 

 

 

 

 

派手に行こう。」

 

戦況を引っ掻き回す、それが俺たちの役目だ。

体をひねり一気に高度を下げる。後ろも遅れることなくついてくる。

そして小型ネウロイが迎撃のために高度を上げてきたがそれは他の奴らに任せて大型を狙う。

駄目だ、一番装甲が厚い部分にコアがありこの急降下だけでは落せないか。

他の中型を狙い

-攻撃

運よく一撃で落せた。

次!

近くの中型に発砲。

コア露出。

 

追撃しようとするも別のネウロイからの攻撃で中断される。

とにかく一機でも落したいが敵の攻撃もなかなか激しくて思うように狙えない。

シールドも一応張るがメインは回避だ。

先ほど攻撃したネウロイの修復が完了する前にもう一度攻撃して

-撃墜

全機がネウロイの編隊とすれ違う。

そして反転、一機も落されることなく一撃離脱は完了した。

後は自由戦闘だ。扶桑海軍の8機が離脱して攻撃を開始する。

 

「B隊、よく聞け。一番先頭の大型ネウロイのコアは機体中央部の盛り上がっている場所の下にある。そこに火力を集中させろ!」

しかしルマールと伯爵が攻撃するも大型ゆえに修復スピードが速いのかなかなか露出しない。

これは予想外だな。

「ルマール、伯爵、攻撃をいったん中止。しばらく待て。俺が攻撃したら再開してくれ。」

銃を背中に回して万が一ということで持ってきた、以前もらった扶桑刀に切り替える。

刀に魔力が流れるよう意識を集中させる。

刀が青く光りはじめたのでユニットの速度を一気に上昇させて大型に急接近する。

いくら魔力を流した扶桑刀とはいえ、特別な能力を持っているわけではないので大型のネウロイをコアごと両断することは不可能だ。

なので俺は、

 

「ハァ!」

 

盛り上がった部分だけを削いだ。斜めに切断して本体から切り離された部分が直ぐに消え、コアの明かりが少し見えるくらいにまで削ぐことができた。

そして俺がネウロイから離れた絶妙なタイミングで伯爵とルマールが攻撃してコアを完全に露出させて破壊した。

「よっしゃ、ナイスだよ!ジョゼ!」

「伯爵も、ほら次行きますよ!」

 

ふと後ろを見るとちゃんとウィルマも着いてきてくれてた。

彼女も俺に近づいていた小型ネウロイを撃墜したりとしっかりサポートしてくれていた、さすがだな。

「次だ、今いた奴の奥にいる大型を倒す。コアの位置は、面倒くさいな。コアが2個あるタイプだ。それぞれ両翼の付け根にある。

同時にやるぞ。

ウィルマと俺が右翼を、伯爵たちが左翼を、頼んだぞ。」

そういって二手に分かれる。

翼の付け根にあるためさっきのより装甲は薄いが片方がしくじるとコアが復活する恐れがあるため同時に、正確に破壊する必要がある。

まぁ、いつも通りにこなせばいいだけの話だが。

大型機からの攻撃を分散させるために伯爵たちが上から、俺たちが正面からそれぞれ攻撃する。

「行くぞ、スタンバイ。」

他のネウロイからの攻撃をかわしつつ、左からの攻撃は俺が、右からはウィルマがシールドを張り分担して防御することで出来るだけ被弾のリスクを減らす。

そして

「いまだ!」

「了解!」

ウィルマが少し上昇、俺が少し降下して正面から上下にクロスするように射撃を行いコアを破壊した。

すれ違った直後に爆散したところを見るとあっちも何とか破壊したみたいだ。

 

そして、それから10分ほどひたすら攻撃していると弾切れになった。

他の隊員からも残弾なしや残りわずかの報告が出たので他のチームも含めていったん離脱する。

敵編隊の38%を撃墜、なかなかいい出来だと思う。これで、援軍のやつらが上手くやってくれるといいが。

 

そしてB,Cチームも合流。最初の編成に戻り戦闘空域を離脱する。

小型数機の追撃があったが距離を離すと戻っていった。

「ラル少佐だ、敵勢力の約4割を撃墜した。残弾がなくなったので補給を行いたい。」

『了解した。エリアG(ゴルフ)にて4機の輸送機が飛行中だ。そこで弾薬などの補給を行え。』

なるほど、空中給油ならぬ空中補給か。

考えたな。まぁウィッチだからこそ出来る業か。

 

該当空域まで行くと輸送機が飛んでいたので平行して飛ぶ。

すると輸送機のドアが開いてロープをつかんで先端が機体の下になるよう指示される。

しばらく待つと弾薬や食料が入った籠が流れてきた。

事前に対応する弾薬はいってあるので対応した補給物資が送られてきた。

全ての受け渡しを終了して今度は端を機体よりも上に上げることで籠が機内へと戻っていった。

 

いったん休憩を取ることになった。だが着陸は出来ないので空を飛んだままだが。

それと簡単な軍用携行食糧と水を摂取する。魔力は食べ物を食べればある程度回復するらしいが本当なのだろうか?まぁ燃料を食べ物に置き換えれば納得はいくが。

 

さっきよりも少し数が減った気がしたので編隊の機数を数えてみたら35機だった。

「少佐、残りの4機は?」

「あぁ、B,Cでそれぞれ2人が駄目だった。こっちは一人は近すぎ過ぎて他のウィッチが撃墜したときの爆発に巻き込まれてそのまま落ちていった。助けようにも手が回らなかった。もう一人は正面からの攻撃を防いでいた時に後ろからネウロイの攻撃を受けてな、直撃だから何も残らなかった。二人とも新人で、先月から前線に配置されたばかりだったから今回のような大規模戦闘を行うには経験が足りなかったな。Cチームのほうはわからない。」

「なるほど。まぁ運がなかったな。」

「あぁ、そっちは損害はなかったようだな?」

「そうですね、扶桑海軍の奴らはずいぶんと実戦なれしていたみたいです。おかげで射線に入ってくるような奴もいなかったし、やりやすかったです。

敵さんもそんなに連携を組んで攻撃をしてくるなんてことはありませんでした。」

「だが、それも時間の問題だと?」

「さすが少佐、よくわかっていらっしゃる。」

「以前大尉に散々聞かされたからな。」

そう、一番心配しているのはその点だ。

各軍の上層部の奴らは戦略というのを良くわかっていない気がする。

それは時代背景もあるだろう。

前にいた世界では同じ1940年代でもまったくといっていいほど戦争の状況は異なる。

同じ兵器でも運用思想が違ったりするがこの点に関してはそれ程問題ではない。

 

果たして上の奴らは戦略というものをわかっているのだろうか?

相手のことを出来るだけ調べて、相手の裏の裏をかいて勝利する、そんな経験があるのだろうか?

長年ネウロイとの戦争で隙をつかれるという経験が果たして何回あったのだろうか?

俺が心配しているのはそこだ。

今回だってここの主力のほとんどを集結させている。

そうすれば必然的に手薄なところが生まれる、そのことを理解して集めているのか不安だ。

 

ふと、疑問が浮かんだ。

なぜ、ネウロイはこのタイミングで攻撃を仕掛けてきた?

ガリアのネウロイの巣が壊されたことによる報復?

いや、ネウロイは、冬は活動が低下するはずだ。

ならなぜ、奴らが苦手とするこの冬の時期に攻撃を仕掛けてきた?

そこである仮説が思い浮かぶ。

 

仮にネウロイが、冬が苦手なのは以前は何らかの問題があったから必然的に襲来する数が少なかっただけで今はもう改善されていたとしたら?

 

そうしたらどうなる?

冬は人類側は防衛が手薄になるだろう。来るべき夏に備えて準備を開始しているとはいえ、どうしても手薄になる部分がある。

もし、予想していない時期にネウロイの大群が主要都市に侵攻したらどうする?

戦力が低下しているため少しでも補おうとするため様々な場所に散らばっていたものが一箇所に集中する。

そうすれば必然的に重要度が低い場所が手薄になる。

だが重要度が低いとはいえ、軍を維持するためには必要な場所だったりする。

たとえば、補給基地とか線路とか。

扶桑からの支援物資はシベリア鉄道を使ってモスクワに送られその後、中継基地を通ってからサンクトペテルブルグに送られる。

主な輸送手段は列車だ。

列車は線路がなければ動かせない。

そして人間は食べ物がなければ生きていけない、飛行機がなければネウロイとも戦えない。

そう、ネウロイが人間に勝つ方法は何も直接人間を殺す必要はない。

補給路をたってしまえばいい、そうすれば後は勝手に死んでいく。

 

「少佐!何か大きな地図はないか?」

「どうした、いきなり?」

「まずいことになっているかも知れない。サーニャ!下原!索敵を行え!主にエリアN(ノヴェンバー)、I(インディア)、E(エコー)を重点的に!」

「な、サーニャに何・・・。」

「エイラは黙っていて。了解です、大尉。」

ガーンと泣きそうな顔になっているエイラをほっておいて索敵にはいる。

「いったいどうした、大尉?」

「とにかく、大きな地図はないですか?何でもいいんです!」

少佐は輸送機から大きな地図をよこすように指示する。

あせるな、落ち着け。

かなり大きめな地図が送られてきたので伯爵とルマールに端を持たせて広げる。

少佐と曹長を呼んで俺の考えを地図を使いながら伝える。

「よく考えたらおかしかったんですよ。なぜこのタイミングに侵攻するのかって。ネウロイは冬が苦手なのにって。」

「ガリアの巣が破壊されたことに危機感を覚えたからじゃない?」

「確かにそうかもしれない。だがな、いかんせんタイミングが速すぎる。まだガリアの巣が破壊されてから一ヶ月近くしかたってないんだ。それなのにこんな短い間にこれだけの戦力をなぜ出せる?まぁ、もしこれだけの規模を簡単にネウロイの巣がぽいぽい出せるのであればまたそれはそれで大問題だがな。

俺はこの攻撃は以前より計画されていたものだと考えています。そうでもしなきゃ125機なんて出せませんよ。」

「なるほど、大尉の言いたいことはわかりました。それで?」

「つまり俺が言いたいのは計画されていた攻撃にしては不可解な点がいくつもあるんですよ。それを含めてある結論が思い浮かんだんです。」

 

さりげなく他のオラーシャやカールスラントのウィッチも聞いているがそいつらも含めてまだ全員よくわかってないような顔をしている、少佐を除いて。

「その結論ってなんですか?」

「これは陽動なんじゃないかって思うんです。なぜ遠回りのルートβを使う必要がある?すでに奴らの手によって第一防衛ラインの脅威は排除されている。もしペテルブルグを本気で陥落させたいなら直線コースのルートαを使えばいいのに。実際、ルートαでこられていたら援軍は間に合わずに、ペテルブルグも陥落していた可能性があります。

そこで思ったんですよ、敵は西側に主力をひきつけておきたいんじゃないかって?」

いつの間にか来ていた熊さんが手を挙げて質問する。

「それに何の意味が?」

「熊さんらしくない。さて質問だが東側にある軍の重要施設といったら何がある?」

そこで少佐と曹長の声が重なる。

「「補給基地!」」

「そうだ、正確にはそこからモスクワまで延びる軍用路線だがな。」

「それって・・・・!」

「もう気がついたな?

結論から言えばさっきまで俺たちが相手にしていたのは囮だよ。敵の主目標はサンクトペテルブルグなんかじゃなくてそこから東に行ったところにある大規模集積基地のノバヤ・ラドガじゃないか?

ここは弾薬や食料がたくさん保管してあるし。」

俺の指摘に黙ってしまった。

あたりにはエンジン音だけが響く。

「それにルートγで侵攻するネウロイはいつもエリアS(シエラ)のチュドボ上空で進路を転換する。だがもしここで進路を変更せずに直進した時、たどり着く場所は・・・。」

そういって俺は地図を指差しながらたどっていくと

 

「ノバヤ・ラドガ。」

「そうだ、ここが敵によって壊滅してみろ。復旧にはかなりの時間がかかるだろう。それにここから送られる荷物はペテルブルグに送られてくる60%を占めているんだ。仮に今回を乗り切ったとしてもこれから夏になりさらに攻撃の頻度が増すようになったら補給が追いつかなくなる。本来であればペテルブルグの次に防衛すべき場所だ。

たが、集合命令を出したお陰でここの担当ウィッチもここにはいないはずだ。

誰か現在の送られてきた援軍はどこにいるかわかりますか?」

そういうと曹長が手を上げて地図を指示棒で叩きながら教えてくれた。

「エリアL(リマ)の最終防衛ラインに向かっているそうです。

でも大尉、これはあくまでも予想ですよね?ネウロイがそんなこと考えているとは思えないのですが。」

確かにそうだ。これはあくまでも俺の予想でしかない。

だが俺にはどうしてもネウロイが低知能な奴らだとは思えなかった。

だから奴らは絶対にここを狙うだろうという確信があった。

 

 

 

「なぜそういえる?なぜネウロイは頭が悪いといえるんだ?勘か?なら捨てたほうがいい。勘というものは自分が経験してきたものをベースに導き出されるものだ。戦場に出て6年も満たないような奴の勘なんて信用できるのか?。」

「それはッ!」

曹長の反論をさえぎるようにサーニャが報告してくれた。

「いました!エリアN(ノヴェンバー)とエリアI(インディア)境界付近をヴォルホフ川にそって北上中です!

大きさは不明ですが40機近くいます!ノバヤ・ガドラ到着までそう時間はかかりません!」

「よくやった、サーニャ!さて、少佐。さっきの話ですが、この行動を見るからに今サーニャが発見したネウロイの行き先は明らかです。そして我々に余り時間は残されていません。ご指示を。」

少佐は先ほどとは違いすぐ判断してくれた。

「この部隊の指揮は全て私に任されている。バーフォード大尉、君にノバヤ・ガドラ防衛を任せる。Aチームは彼の指示に従ってなんとしてでも防衛してくれ。残りは私についてペテルブルグに向かっている編隊を排除する!」

「了解です、少佐。しかしここからではいかんせん距離があってネウロイのほうがどうしても速く着いてしまいそうです。」

「その件に関しては私が司令部を通じて集積基地に警報を出してもらう。だがそこの護衛ウィッチもペテルブルグ防衛に回っているためあまり期待は出来ない。一秒でも早く着くようにしてくれ。」

「了解、生きてたらまた詳しく話しましょう。」

「あぁ、お互いな。」

そういって離れる。

B隊の面々と扶桑海軍の奴等が集まって来たので通達を行う。

「さて、さっきのやり取りを聞いていたと思うが敵のネウロイにも少々出来る奴がいたようだ。俺たちの任務は今、丸裸になっている大規模集積所を敵から守ることにある。悪いがもう一度手を貸してもらうぞ。」

「わかりました。補給基地がなくなると私たち扶桑海軍としても大変ですから。最悪扶桑に帰れなくなる、という自体も考えられますからね。手助けします。」

「感謝する。それじゃあ、急ぐぞ!」

「「「「了解!」」」」

この戦いがこれからの戦争にどう影響してくるのか、どちらにせよ今後大きな改革が必要になるのは間違いないだろう。

俺たちは一気に速度を上げて目的地へと急ぐ。

 




これからも更新が遅れるかもしれません。


ご指摘、ご感想があればお願いします。


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第36話 戦いと新たな影

何とかこれからも前回投稿から一ヶ月以内には投稿するようにします。


ノバヤ・ラドガ集積基地まであと5分のところを飛行していると黒い煙が見え始めた。

やはり間に合わなかったか。本気を出せば俺だけもっと速く到着することは出来たが、そんなことでこいつの本気を見せるなんてことはしたくはなかった。

周りに人がいるのに本気を出すのはもっと深刻な事態のみにしたい。

さて、基地のほうだがしたの奴等もがんばっているようだが、旗色が悪い。

 

「502JFWからノバヤ・ラドガへ、状況はどうなっている?」

『こっちはネウロイの攻撃を受けている!あと何分で着くんだ!?こっちはそんなには長くは持たない!!速く助けてくれ!』

「あと5分、いや3分持ちこたえてくれ。」

『わかった、3分間は保って・・・』

通信途絶か、送信アンテナが破壊されたか通信機があった場所ごと消失したかのどちらか。

どちらにせよ、状況はかなりまずい。

しかし、通信ができなくなったのは少々面倒くさいな。

せめてどちらの方角から進入するかを知らせたかった。

俺たちをネウロイと誤認されて対空砲でお見舞いされたくはない。

まぁ、出来なかった事を嘆いても仕方ない。

 

「いいか、もうすぐ基地が見えてくる。だが地上の奴らは俺たちのことを知らない可能性があり、こちらに発砲するかもしれない。戦闘を開始すれば気づいてもらえるだろうか最初のうちはとにかく回りに気を配れ。散開後は各員自由戦闘で一人当たりのノルマは5機。状況を考えて手当たりしだい落しまくれ。」

「どうやら大型はいないみたいだね。大半が小型か、不幸中の幸いだね。ところで隊長、私はこんなものを持っているんだな。」

そういって伯爵が腰から小型拳銃らしきものを取り出した。

「じゃーん、フレアガン。中に信号弾を詰めているから戦闘開始直前に発砲すればいいよ!」

「そんなもの、なんで持ってるんだよ?」

「少佐と別れる前にくれたんだよ。何かしらの問題が発生して基地との通信が不可能になったときに使えって、絶好の機会だね!」

「さすがだ、伯爵。いつもこんな風に気を配れる奴だったらよかったのにな。」

「何か言った?隊長?」

「いいや、なんでも。」

 

そしてネウロイを射程圏内に捕らえる。

俺は先ほど伯爵から渡されたフレアガンを上に向けて発砲する。

小さな光球が上へ昇って行きしばらくして爆発音とともに緑色の煙がそらに広がった。

しかし、しばらくしても地上では対空砲が火を噴いていることを見るとまだこちらには気づかないのか。気づいたとしてもやめたくはないのかも知れないな。

どちらにせよしかたない、ネウロイを標準に捕らえるのに必死なのだろう。

 

「いくぞ。」

「「「了解。」」」

地上を見るにすでに30%は破壊されている。壊滅とは言わないが戦線の後退や戦力の低下は必至だな。

とにかく一機でも落して被害を減らさないと。

まずは小型を狙う、あのサイズなら一撃だな。

スコープで狙い

-発砲

機体を弾丸が貫いて一回で撃墜できた。

左旋回をして次に目に入った中型を狙う。

こちらがネウロイよりも高い位置にいるため、この有利な状況は逃せない。

-発動

世界がゆがんで見える中でコアの位置を正確に捕捉する。

こいつは二発は必要だな。

 

ふと、視界の左端で小さな何かが見えた気がした。

ネウロイにしては小さすぎる。

確認したいのは山々だが、加速しているのは思考だけであって体はそのままであるため眼球を動かして直接見ることはできない。

少し考えて、攻撃を中止して回避することを考える。

 

-解除

世界が元の速度に戻るほのと同時に左側にシールドを張る。

直後、爆発が起きて体が横に吹っ飛ばされた。

シールドを張っているとはいえ、かなりの衝撃波が襲ってきた。

おそらけ空中で炸裂するタイプの砲弾の先端にVT信管でも搭載されていたのだろう。

怪我はないみたいだが頭がくらくらするが、もしシールドを張っていなかったら今頃ミンチになっていただろう。

『バーフォード!大丈夫!?』

「ウィルマか、問題ない。戦闘は続行できる。お前も気をつけろよ。」

『無茶はしないでね?お願いだよ?』

「お互いな。」

ったく、こんなところでは死ねないというのに。味方の誤射なんかで死にたくはない。

 

その後もなんとか体中の痛みをこらえながら攻撃して何とか4機落した。

5機目を狙おうとした途端、敵編隊が撤退していった。

帰っていったのは見たところ8機、全員で32機落せたか。

気がつかなかったがいつの間にか対空砲火もやんでいた。

「全員無事か?」

「無事ですけど、魔力が限界です。基地に戻れそうにありません。」

「仕方ない。各員、追撃は中止だ。いったんこの基地に着陸して迎えでも呼ぶか。」

「残念ですけど今の私たちではその選択肢しかありませんね。」

「B隊はどうだ?」

「無理っぽいな。」「限界ですね。」「私も。」

なら、被害状況の確認もかねてこの基地にお世話になるか。

あちらも俺たちをかまっている暇なんてないだろうけどそのうち応援も来るだろう。

「全機、一旦降りるぞ。」

そういうと全員ついてきた。こういうときどこでも着陸できるストライカーユニットは便利だな。

着陸して5分ほど待っていると兵士が2人、車に乗って走ってきた。

「502JFW所属のバーフォード大尉だ。現状は報告できるか?それとこいつらを少し休ませたい。」

「わかりました。おい、食料と毛布を。」

「了解!」

一人が敬礼して車に乗って走っていった。

「それで?状況は?」

「基地の40%が消失しました。それと人員の半数が死亡しました。実際には死んだか、軽症がほとんどです。重傷者はあまりいませんが現在治療中です。幸いにもここには医療品がたくさんありますからね、医者も軽症だったので迅速に治療できました。」

「基地能力の修復にはどれくらいかかるか?」

「線路はそんなに被害を受けていなかったので一週間ほどで輸送は再開できます。ただ、置かれていた荷物の被害が甚大です。弾薬が置いてあった場所に攻撃を受けて一気に吹き飛びましたからね、また今回と同様の攻撃を受けたら補給も滞っている現在なら簡単に壊滅ですね。今回消費したものを含めて、昼夜問わず全軍を動かしたとしても復旧には最低でも一ヶ月はかかるかと。ペテルブルグもそれなりの被害を受けた模様ですがあちらも撤退してくれたおかげで助かったそうです。」

「わかった、ご苦労。」

「もう少しで皆様に食料などが届くと思います。それでは自分はこれで。」

彼は別のところに歩いていってしまった。

40%が破壊された上に貯蔵されていた弾薬に引火か。

502には優先して補給してくれるだろうが全体的に見れば補給は厳しくなるだろうな。

結果を見れば表向きは勝ったが被害を見れば負け、戦術的敗北といったところか。

今攻められたらひとたまりもないがネウロイもこれだけ大規模な攻撃をしたのだからしばらくはこないだろう。

10分ほどすると毛布や食料を持ってきてくれたのでありがたくいただく。

それと少佐に一旦補給基地に着陸したので迎えを寄越すように要請したのだが混乱しているため不可能ということなので魔力が回復しだい帰頭ということになった。

日の入りまであと一時間ほどだがそれから完全に暗闇になるまでは少し余裕があるので何とか今日中には帰れるだろう。

扶桑海軍の奴らは固まって休んでいたので指揮官に声をかける。

「日の入りまであと一時間だがここから帰れるだけの魔力は回復しそうか?」

「とりあえず高カロリー補給食をもらえたので何とか帰れると思います。ペテルブルグまで戻れれば扶桑の人たちもいると思うので問題ないと思いますが最悪お世話になります。」

「そうか、ならぎりぎりまで休んでいてくれ。」

「わかりました。」

そういうと彼女も輪に入っていった。

俺も少し休むか、既にB隊の奴らは寝ていたので俺も近くにあった毛布を取り座ったまま目を閉じる。

 

そして一時間後、少ない時間だがある程度は魔力が回復したので帰頭することにした。

もともと区画ごとに荷物を置いてあったため多少地面は凹んでいるが一直線の道があるためそれを滑走路代わりに使う。

「補給品など、世話になった。」

「いえ、こちらこそ助けに来てもらって本当に感謝してます。」

「ならいい、全機帰るぞ。」

そういって加速すると、この基地の生き残りが手を振っていた。

伯爵などは振り替えしていたが俺は興味もなかったので軽く敬礼し、そのまま離陸してペテルブルグに進路を取る。ただそこまで距離は離れていないためすぐだ。

 

そして辺りがだいぶ暗くなってきたところで扶桑海軍の奴らが離脱することになった。

彼女たちもその足でリバウに向かうらしい。

「魔力も問題なさそうなのでこのまま帰頭します。それとバーフォード大尉、今作戦では指揮お疲れ様でした。」

「精鋭ぞろいのあなた方のお目にかなったかな?」

「ええ、十分ですよ。それにわれわれ扶桑海軍ウィッチ航空隊にも引けをとらないかと。」

「買いかぶりすぎだ。」

おれがスピットファイアを使っていたらまた結果も変わっていただろう。

結局はこいつのおかげでもあるんだがな。

「謙遜はするものではないと思いますが。そういえば、私としたことが名乗っていませんでしたね。」

そういえば、こいつの名前聞いてなかった。

「そうだったな。改めて名乗ろうか。ブリタニア空軍所属のフレデリック・T・バーフォード大尉だ。」

「扶桑海軍“飛龍”、第四制空隊隊長の春山真澄大尉です。私たちの実力はどうでしたか?」

「文句のない働きだった。さすがだ。」

「あら、うれしいです。それでは、またどこかの空でお会いしましょう。」

「あぁ、お互い死なないようにな。」

 

そいって分かれる。

俺も彼女たちにも知らないうちに助けられていたのだろうか、精進しないと。

「お疲れさん、隊長。」

「お疲れ様です、バーフォード大尉。」

「お疲れー。」

「おい、そういうのは帰ってユニットを脱いで一段落してから言ってもらいたいな。」

「お、あれですか?作戦は基地に帰って報告書を提出するまでが作戦、ってやつですか?」

「そんなの聞いたことないぞ。」

結局こんな風に雑談をしながら基地に帰った。

 

「B隊はただいま帰頭しました。」

「あぁ、ご苦労だった。」

基地到着後、そのまま司令官室にいる少佐に帰ったことを伝えるために顔を出した。

この基地もネウロイの攻撃を受けて二本ある滑走路のうち南側が使用不可能となっている。

そのため現在、ペテルブルグの破壊された対空砲陣地の修復の次に高い優先度という位置づけで作業計画を立てているとのことだ。

またいつもユニットを置いている格納庫は問題なかったが航空機をしまっていた格納庫が二つ潰れて中に入っていた航空機ごと潰れてしまったらしい。

こちらの修復も優先順位は高い。

ちなみに現在最優先で行われているのはインフラの復旧で空軍基地だというのに電気が通ってない。

司令官室もランプに火をつけて照らしている状況だ。

報告によると明日には回復するとの事、人海戦術を用いて徹夜で復旧工事を行っているそうだ。

ただ今日のごたごたで中間管理職以上の奴らはしばらく寝れない日々が続くだろうと思うとその該当する奴らには同情してしまう。ただでさえ暗いのにご苦労なこった。

 

 

少佐たちは俺たちが離脱した後そのまま援軍に合流して戦ったそうだ。

これほどまでに大群同士の空中戦はいままでにあまり例はないらしい。

ましてやここ数年はネウロイと均衡状態を保っていたため司令部もかなり混乱してしまった。

緊急時のマニュアルも存在したが結局一部では守られることなく動いてしまった部隊もあるらしい。

日々の訓練も突発的な事件に対応できないんじゃ意味はない。

そして今一番少佐の頭を悩ませているのが司令部からの抗議書だった。

少佐に命令したのはあくまでもペテルブルグの防衛であって集積基地の防衛は貴官の主任務ではない。大尉の行動は明らかな命令違反である。

などなどたくさんの文句が書いてあった。

なぜ、広域の探査能力を持つ大尉が事前に把握できなかったのか?

もっと早く捕捉できたはずである、理由を説明せよとか知るかよ。

それ、サーニャにも同じこといえんのかよ?

「どうせ、理由を説明しろ、というのは間接的な出頭命令でしょうね。東欧司令部としても俺の情報を隠し続けているブリタニア空軍に嫌気がさしてできるだけ集めたいと思っているんでしょう。抗議文の送り主が司令長官の名前しか書いてないところからも推測できますし。」

「ならどうするんだ?おとなしく従うのか?」

「まさか。」

ではどうしようか、何か黙らせるでかい爆弾はないものか?

「司令長官はカールスラント人でしたっけ?」

「あぁ、それがどうした?」

頭の中で電球が光った気がした、ひらめいた。

「俺にいい考えがある。」

 

 

-東欧司令部司令官室

私は焦っていた。本国からブリタニアの魔術師のことを探るよう指令が出されていた、そのため私兵や持ちうるあらゆる情報網を使って探ってみた。

だが出てきたのはブリタニアが公表した情報程度だった。

502に来ればきっと何かわかるだろうと楽観視していたあのときが懐かしい。

格納庫には常に彼の母国の警備兵が24時間体制で巡回していてその上彼自身がユニットの整備を行ってしまうためどんな素材を使っているのすらわからない。

資料によると部品はブリタニアからの輸送機によって直接運ばれているようだ。

どこかを経由してくれれば確認することが出来たのだが。

502にいるわが国のウィッチからの報告からは現在試験運用中のあのジェットストライカーよりも数字で見れば性能は低いようだ。

現に我がカールスラントよりも先に最前線に配備したという事実を作るためだけにろくな試験もせずに配備した失敗作という意見もある。

だがそんなはずがないのだ。

明確な根拠はない。ただの私の勘に過ぎない。

確かにブリタニアの空軍は最近大きな人事異動や新部隊の創設など動きがあわただしい。

そして親部隊の司令官でもありブリタニア空軍の司令官が推薦してきた人物とそのユニットが間に合わせのはずがない。

自信があるから送り出してきたのだと私は考えていた。

皇帝陛下もそのお考えに賛同しており、閣下みずから私に報告をするようおっしゃった。

だからわかっている以上の情報が得られないことに焦っていた。

そこにこのペテルブルグへの大規模攻撃だ。

下手をすれば私の責任問題になる。いや、被害の報告書を委員会が見ればかならずなるだろう。

保身の材料がほしかった、この司令官の任を解かれても本国で働けるよう便宜を図ってもらえるような何かを。

だから私はどんな手段を使ってでも彼から聞き出そうと思い、召喚要請をだした。

抗議文を送った数時間後に502から返信の封筒が届いたので私は急いであけた。

なんせ自分の将来がかかっているからな。

だが、私はそこに書かれている一文を読んで顔が真っ青になった。

なぜ、この名前を知っている?

私を含めてカールスラントでも知っている人間はほんの一握りだというのに。

そこには

 

“「V-2ロケット」進捗はどうでしょうか?”

 

と書いてあった。

そして、彼がなぜこんなことを書いてきたのかわかってしまった。

まるで手紙が“お前が何を考えているのか全てわかっているぞ。”といってきているような気がした。

足元が崩れるような感覚に陥り私はなにをすばいいのかすらわからなくなってしまった。

 

 

-502JFW基地

V-2ロケット、この世界では対ネウロイの巣や地上型ネウロイやその中間基地を徹底的に破壊するために現在開発中のロケットのことだ。

ジャックから送られてきた報告書によると

性能はあまり変わらないが搭載できる弾薬等から海軍の砲撃が届かない内陸部に存在するネウロイへの攻撃が期待できるらしい。そのため主な戦略としてはV-2でネウロイに大打撃を与えて修復される前にウィッチや航空機が止めをさす。というのが構想されているらしい。

ただ都市という大きな目標になら簡単に狙えるがネウロイの巣という小さな目標にどう誘導するかが一番の問題となっているそうだ。

まぁ、こいつが実用化されればカールスラントの名声は回復するだろう。

そのため国家機密に指定されている。

ここ最近周りが俺のメイブを探ろうと騒がしかったので脅しということで“ブリタニアはV-2を知っているぞ”というメッセージを伝えたわけだ。

上手く通じているといいが。

 

そんなことを考えながら俺たちは晩飯を食べていた。だが皆一様に疲れた顔をしていて一部の奴らは食べながら寝ている。

「みんなお疲れのようですね。バーフォード大尉は平気なんですか?」

「疲れているし、寝たいさ。だが食べないと魔力の回復が遅くなるらしいしな。曹長は?」

「少佐が仮眠するようにといってくれたので少ししたら楽になりました。それと聞きました?東欧指令長官が倒れたらしいですよ。」

「司令部なんて俺たちと比べれば仕事をしてないだろうに。こっちは死人が出ているのにのんきなことだな。」

「それもそうですね。」

俺はまさか自分が送った手紙が元で倒れたなんて予想だにもしていなかったがな。

さて俺も軽く晩御飯を食べてさっさと寝るか。

 

 

こうして長い一日は終わった。

502は一人の欠員も出すことなく無事帰ってこられたのは幸いだった。

だが今回の件は世界に大きな影響を及ぼすだろう。

上の奴らが教訓を生かせるのか不安だがそこはジャックと相談でもしてみよう。

 




実は零と半沢直樹の中の人は同じ。


評価、感想、御指摘等があればお願いします。
一話挟んでまた上下かも。


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第37話 責任

熊さんの台詞がすごい長いところがありますが、ごめんなさい。


 

「熊さんが?意外だな。」

朝のブリーフィングで熊さんが体調不良のため本日は出撃できないことが通達された。本来なら代わりに曹長が入るのだが昨日の今日で曹長の仕事が非常に多い。

補佐の曹長ですらこの調子だから少佐もしばらくは仕事が多いのだろう。

その証拠にいつもなら気象ブリーフィングの最後に“がんばっていこう”、とか“みんな気をつけろよ?”とか姉御キャラ全開なのに今日は何も言わず出て行った。

心なしか肩が落ちているような気がした。

 

そして少佐の次に階級が高い熊さんと俺は手伝えることがいくつかあるはずなのだが、残念ながら今日はできない。

熊さんは体調不良なので飛べないのはもちろんのことだが現在、各国の上層部が502JFW所属のウィッチに聞き取りを行っている。

あの戦いはいろいろとイレギュラーなことが多々あった。

そのため直接戦闘に参加したウィッチから話を聞いているのだが、一度に聞くとそれだけで戦力に穴が開くため順番に聞いているとの事だ。

今日から三日間、まずはA隊から聞くという事なので必然的にB隊がしばらくは出撃待機となる。

それも通常のような半日ではなく、B隊全員が昼間を担当する。

そのため少佐や曹長の手助けは出来ないのだ。

がんばれ、曹長と少佐。くれぐれも倒れるなんて事にはなってほしくないな。

もしそんな事になったら階級的に俺がここの責任者となるからな、そんなのは絶対にいやだ。

 

 

日の出からしばらくたち、昼ごはんの時間になった。

ただ、肝心の食料がまだこない。

新鮮な食料は修復作業員に優先的に支給されるため俺たちはいつものレーションだ。

午後には一部の食糧が回されるとの事なので晩御飯には何かありつけるといいな。

「なぁ、隊長。」

「なんだ、伯爵?」

「いまの索敵って誰が行っているだい?」

「え、レーダーで行っているんじゃないんですか?」

ルマールの返答にちっちっちと小指を左右に動かしながら否定した。

「ちがうんだなー、ジョゼ。」

「え・・・・。あっ、そっか。」

そうなのだ。索敵の要である観測所と前線基地は昨日のネウロイの攻撃で消滅した。

そのため、レーダーやそれを監視する人員まで吹き飛んでしまったのだ。

 

「少佐から渡された資料によると他の国から人員を回してもらっているらしい。昨日の援軍のなかで空間把握系のウィッチの一部が急遽ペテルブルグに残ったらしい。

そいつらが今は哨戒を行っているとの事だ。

集積基地には修理部品はいくつか残っていたがさすがにレーダー本体はなかったから今、扶桑やオラーシャから急いで取り寄せている最中らしい。

ただ、持ってきても設置するのに場所選びもしなきゃいけないからそういうのも、考えてあと2ヶ月がかかるだろう。

今は索敵に人員が足りないから今後は世界中から優先的に索敵ウィッチが集められるんじゃないか?

現にサーニャも夜間ウィッチなのに今、空を飛んでいるわけだろ?

この辺りは余程余裕がないんだろうな。この調子じゃ制空権だって危うい。

まぁ、どっちにしろ戦線が後退したから索敵すべき範囲が減ったのがせめてもの救いかな。

ネウロイの巣から半径50km圏内は飛行禁止と来た。

上層部は余程ネウロイを刺激したくはないと見える。」

「それ、人類側としてはあまりうれしくはないニュースですね。」

確かにな、せっかくガリアを解放したというのに別方面では一歩間違えれば陥落していたという事態があったのだから。

上層部は上げて落とされた気分だろうな。

「そうだなー、せっかく最近はいいニュースばっかりだったのに。これで一気にどんよりムードだね。隊長、ここは何か気分を盛り上げる芸を披露してくれませんか?」

「いやだ、というかそれは伯爵の役目じゃないのか?」

「なんで?」

「なんでって、そりゃうちの隊のはちゃらけ担当だからじゃないか。」

「隊長!それちょっとひどくない!?」

「事実じゃないか。」

 

そんな俺らをみてルマールとウィルマが笑っていた。

こんなやり取りだけでも、すこしだけ部隊の空気がやわらかくなった気がした。

先の大きな戦いの直後のためか士気が下がっていたので、このまま出撃なんてのは嫌だったから結果的には良かった。

こういうところではいつも伯爵は役に立つ。

 

 

結局今日、スクランブルはなかった。

出撃なしと、報告書に記入して司令官室にいる少佐に提出に行くと、二人とも疲れきった顔をしていた。

「大丈夫ですか?二人とも。」

「この状況をみて私たち、元気にしていると見えます?」

「いや、見えないな。」

「はぁー。もう無理です。大尉はいいですねー、今日一日中暇してたんでしょう?私も休みたいです。」

そういうと曹長は机に突っ伏してしまった。

「少佐もお疲れ様です。」

「あぁ、ありがとう。まったく、やってもやってもまた書類が追加される。嫌になるなっとそうだ。」

少佐は何かを思い出したのか近くの書類の山からひとつの封筒を見つけ出し俺に渡してきた。

「バーフォード大尉、少し気になる報告があがってきんだ。今見なくてもいいが、今日中にこれに目を通しておいてくれ。」

「了解。それと、これが今日の報告書となります。他には?」

「ありがとう。そうだな、特にはないな。」

「わかりました。では失礼します。」

 

そういって俺は司令官室を出る。曹長の“手伝えー!“という声が聞こえた気がしたが気のせいであろう。

そして俺は、自分の部屋に戻って渡された報告書を読む。

中身は2冊で、1冊目はそこには今日の1230に偵察と思われる小型のネウロイと交戦してウィッチが一名負傷したとの事が書かれていた。

2冊目を読んでみるとカールスラントの戦術班がとある報告書を発表したという記事とその報告書が入っていた。

詳しく読んでみると、そこには夜間ウィッチは昼間戦うと負傷しやすいというデータが詳細に記載されていた。

夜間ウィッチは大規模な作戦がない限り普通昼間は飛ばない。

そうすると普段夜に慣れきっている奴がいきなり昼間にシフトチェンジするといろいろと問題が出てくる。

 

たとえば、太陽だ。

今日のケースも追いかけたとき、ネウロイの先に太陽がありいきなりの光に思わず目を閉じてしまったため、ネウロイの攻撃を完全に回避することが出来なかった。

また、昼間と夜間では敵の数も異なることがある。

夜間に複数機襲来することなんて珍しいが昼間だとむしろ単独のほうが珍しい。

そのため、ペテルブルグでの夜間ウィッチの昼間での索敵運用には注意すべしということまで書いてあった。

なるほど、面白いな。

実際、サーニャや下原も自分で何とかしようとする傾向があるからな。

今後、一人で全部こなそうとする夜間ウィッチが負傷や撃墜なんて事態に陥らないといいが。

まぁ、俺も人のことはいえないがな。

 

 

「リョウ、起きてる?夕食だよ?」

「今行く。」

ノックの音の後にウィルマの声がしたので書類を机の中にしまい、部屋を出るとウィルマがいた。

「いこっか。今日は晩御飯なんだと思う?」

「レーション?」

そういうとウィルマは苦笑いになった。午後に食料が届かなかったという最悪のケースを想定したがそれは起こらなかったらしい。

「違うよ、もっといいものだよ?」

「缶詰?」

「・・・リョウ、最近軍用食ばっかり食べて変になっちゃった?」

「まさか、冗談だよ。で、なんなの?」

「ミートボールだって、北欧風の。」

北欧って事はバルトランドとかスオムスか。

「今日の担当はニパとエイラか?」

「そうだよ、聴取から帰ってきてそのまま作り始めたんだから。急に祖国の味が恋しくなったんだって。なんかわかるなー。」

「なるほど。ウィルマの場合は祖国というより親の料理の味じゃないか?」

「というか、みんなそんなもんじゃない?」

「そういうものなのか。よくわからん。」

「まぁ、人それぞれだしね。」

 

他愛もない話をしながら食堂に入ると大体の奴らは既に座っていた、というか既に食べている奴もいる。

ただ、いくつか空席が目立つ。

扶桑組みの管野と下原は今日は聴取が長引くため帰ってこない、少佐と曹長は疲れて夕食も食べずに寝てしまったらしい、熊さんは療養中につき部屋にいるため7人しかいない。

「いきなり、ここまで減っちゃうと寂しいね。」

「戦時中なんだから、ありえなくはないだろう。」

「まったく、リョウってばいつもマイナス思考なんだから。」

「悪かったな。」

そういって席に着く。

「隊長、遅いよ。もう先食べてるからね。」

「むしろ、伯爵が俺のこと待ってたらそれはそれで驚きだな。」

「確かに。」

向かいに座っていたニパがブルーベリージャムが入ったビンを差し出してきた。

「それは?」

「ん?ブルーベリージャムだよ?」

「いや、見ればわかるが?」

「なら、はい。どうぞ。」

いや、意味がわからないんだが。

「どうぞって何につけるんだよ?」

「ミートボールにさ。」

「え?(なに言っているんだ?)」

「え?(つけないの?)」

お互い理解が追いついていないのを見かねたエイラが教えてくれた。

ミートボールにブルーベリージャムをつけて食べるのは一般的らしい、本来は“こけもも”を使うらしいが手に入らなかったため今回はこれで代用したとのこと。

付けて食べたら意外とおいしかった。

組み合わせとしては塩キャラメルみたいなもんか。

 

食後、風邪気味の熊さんにミートボールなんて食べさせるわけにもいかないのでB隊の女子組みがお見舞いに行っている間に昼間に届いたらしいりんごをカットする。

2個分カットすれば平気かな、なんて考えながらお皿に盛って熊さんの部屋に行くとちょうど3人が出てきたところだった。

「あ、隊長。いいところに、熊さんが話があるんだって。」

「俺に?お前らじゃなくて?」

「そうみたい。あ、りんご切ったんだ。もらってもいい?」

「熊さんの分なんだが。」

「いいじゃん、一個くらい。」

そういって伯爵が一個とり食いやがった。

「それじゃあ、がんばってね。」

「なんか、元気なかったから相談されたら乗ってあげなきゃ駄目だよ?」

「大尉、がんばってください。」

はぁ、他人事だからってと思わずため息をしてしまった。

そしてすれ違いざまにウィルマが囁いてきた。

「なんかね、熊さんかなり落ち込んでいるように見えたから何か相談されたらちゃんと乗ってあげるんだよ?」

「わかったよ。」

相談か、面倒くさいのじゃなければいいが。そう思いながら熊さんの部屋の扉をノックする。

どうぞと声が聞こえたので入ると部屋は電気がついてないため暗く、部屋の明るさは外からの月明かり程度だった。

熊さんはベッドから身を起こして外を眺めていた。

俺はベッドのすぐ隣に椅子を持って行き、座った。

「りんご、剥いたんだが。食べるか?」

「いただきます。」

皿を差し出すと一個食べ始めた。

なんというか、あだ名は熊さんなのに食べる姿は栗鼠だな。

りんご一個分を食べ終わったところでもういいですといって皿を返してきた。意外と食ったな。

まぁ、残っている奴は伯爵にでもあげるか、目を輝かせながら食ってくれるに違いない。

「風邪はどうなったんだ?」

「だいぶ楽にはなりましたが、まだつっかえている感じです。」

「そうか。」

そして沈黙が訪れる。

5分くらいたった後だろうか、熊さんが聞いてきた。

 

「バーフォードさんは、B隊の皆さんとどう接していますか?」

「普通の会話程度だな、それに戦友として接しているつもりだ。ウィルマとも任務中は他のメンバーと同じように接している。」

いきなりだな。

とりあえず、熊さんが何を求めているのかわからないから自分の思っていることを話す。

だが、これは少々重そうな話になりそうだ。

人生相談なんてほとんどやったことないんだがな。

 

「ウィルマさんや、伯爵、ジョゼを失うことを考えたことはありますか?」

「いつも考えているさ、だからそんな事がないように常に最悪のケースをかんがえ・・・。」

「いえ、そうではなく。」

そして熊さんがこちらに体を向ける。

 

「もし失ってしまったときのその後のことです。」

 

つまり想定外のことが起きて彼女らを失ってしまったとしたらあなたはどうするの?か。

難しいな。

そう言えば、ウィルマを失ってしまったら俺はどうするんだろうな。

そんな事がないようにあらゆる対策することだけを考えてきたから、熊さんの指摘にはすぐに答えることが出来なかった。

伯爵やルマールだってそうだ。

死亡届けにサインするだけなら簡単だがな、実際はそう簡単にはいかないんだろうな。

昔の俺なら黙って切り捨てるなんて言っていただろう。

だが実際には簡単に切り捨てるなんて出来ない領域にまで入ってしまった気がする。

俺が黙ってしまったのをみて、熊さんがポツリと話を始めてくれた。

「少し私の話を聞いてくれますか?」

「わかった、聞こう。」

そういって俺は姿勢を正す。

 

「昨日の戦い、初めて502以外の部隊の隊長をしました。臨時とはいえ、同じオラーシャ出身のウィッチ十数名を指揮するのは高揚しました。

なんとしてもペテルブルグを防衛するという一身で戦いましたが、結果的に数名の戦死者を出してしまいました。

仲間を失うのは初めてではありませんでしたから、基地に戻ってくるまでは残念だったとしか思っていませんでした。

基地に戻って報告書を書いて、そのときは少佐に直接司令部に提出しに行くよう言われました。

そこで司令部に入ろうとしたときに、何人かがオラーシャ軍の高官に詰め寄って怒鳴っているのが見えたんです。

最初は何事かと思って遠巻きに見ていたのですがしばらくして、うちの子を返せ!といっているのが聞こえました。

そのまま聞いていると、どうやらその娘は私の指揮下に入って戦い、戦死したウィッチの両親だということも聞こえました。

そこで私は初めて気づいたんです。隊長という責任の重さに。

思わず報告書を出すのも忘れて逃げてしまいました。

私はあの人たちから責任を追及されるのが怖かったんですよ。本当はその事についてもあの人たちに説明しなければいけないのかもしれないのに。

 

ここでは皆がエースなので誰かが死ぬなんてほとんど考えたことありませんでした。

ですが大尉という階級である以上、時には戦闘があまり得意じゃない娘もいっしょに指揮しなければならない時もあるんですよね。

そして、私はその指揮下にある全ての娘の責任を負っている。

 

ですがあの防衛線での戦いで、私は皆に自由に戦うよう指示しました。

担当空域にいるネウロイの数はそこまで多くなく、時間も限られていたので一撃離脱では遅いと考えました。そして既に敵にも位置がばれているので奇襲も不可能だと判断しました。

ですが私は502のメンバーと同じように命令を出してしまったんです。

戦死した娘達は実戦をほとんど経験したことのない新兵でした。

本当ならいろいろ注意すべきことを念を押して言えばよかったのに。

馬鹿ですよね、私って。

そんな娘に自由戦闘を指示したってあんな混戦状態じゃ難しいのに。

自由戦闘中のドッグファイトだってあんな新人じゃ難しかっただろうに。

どうしてあの時そんな事もわからなかったんだろう。

結果として数名が亡くなってしまいました、少佐はあの戦いじゃ仕方ないと言ってくれましたよ。

ですが私は無理です!

今も撃墜される瞬間に見たあの娘の表情が頭の中で能力のせいもあって正確に思い出せるんです。

あの絶望を感じているあの顔が!

まるで死にたくないって言っているように聞こえるんですよ!

私はどうしたらよかったんです?

模範解答ってなんですか?どうしたら誰も死なずにあの戦いを全員で切り抜けられたんですか!?

ねぇ、答えてくださいよ!バーフォードさん!

私はどう指示していればあの娘達は死なずに済んだんですか?」

 

熊さんはいきなり俺の服をつかみ、彼女は涙を流しながら俺に聞いてきた。

部屋は暗いのに彼女の顔はなぜかよく見えた気がした。

「なんでバーフォードさんには出来て私には出来ないんですか・・・?

同じ502の隊長なのに、どうしてこんな差ができちゃうんですか?

昼間どころか夜間の戦闘もこなして、どちらでも戦果を挙げている、

それに昨日の戦いでも誰一人として撃墜されることなく任務をこなしていましたよね?

なぜです?どうやったんですか?

そもそもの実力の差ですか?

なにか言ったらどうですか!?

お願いします、なにか答えてよ・・・。」

 

10分ほど彼女はひたすら泣いた。

時折俺の胸を叩いたりしたが特には何も言わないであげた。ここで言っても余計感情的になるかもしれない。

 

それにしてもまさかこんなに悩みが深刻だったとは、それに自分が少なからず関わっていたのか。

このままじゃ熊さんは潰れてしまうから何とかしたい。

 

「落ち着いた?」

「えぇ。」

彼女はそれ以上何も言わないので俺がさっきの問いに答える。

「俺と熊さんに戦闘の技術にそこまで差はないよ。むしろ実力だけだったら熊さんのほうが上だろう、俺は機体に助けられているだけだ。

でもさ、あるひとつの点において俺は熊さんよりはるかに上回っている自信がある。」

「それは?」

熊さんが急に顔を近づけてきた。

まるでその目は何でもいいからすがりたい、そういっているように見えた。

だが、すまない。それは無理だな。

「経験だ。」

「経験ですか、私だって・・・。」

「熊さんはさ、自分以外全滅したことってある?」

「え?」

「毎回、味方がどれだけ死んでも自分だけは必ず帰ってくることから死神なんて呼ばれたことはある?」

「いえ・・・。」

「味方を助けたのに、逆に助けを求めると厄介扱いされたことは?」

「・・・ありません。」

だよな。こんな経験しているほうが珍しいし、もしこれを乗り越えてきているならあんなことで責任感なんて感じないだろうし。

「まぁ、いま挙げたのは極端な例だけどな。だけどさ、熊さん。君って今までにどのくらい空を飛んで戦ってきた?」

「えっと、4年くらいだと思います。」

4年か、むしろそんな短期間でエースと呼ばれる程になったのだからそれはすごいことだと思うがな。

でも逆にその短さが今回の原因か。

「俺は熊さんがどういう経験をしてきたかは資料で読んだこと以上はわからない。でもこれだけは言える。俺と熊さんには明確な経験という壁があるんだよ。俺は熊さんなんかよりはるかに長く空を飛んでいるし、はるかに多くの敵と戦ってきたし、はるかに多くの修羅場を越えてきた。

だから自分の行っていることは常に取りうる選択肢の中で最も最善なものだと思っているし、自信を持って部下にも命令できる。

そこなんじゃないかな?」

そういうと熊さんはうつむいてしまった。

「経験ですか。それじゃ、私は追いつけないですよね。

なぜ、バーフォードさんが強いのか少しわかった気がします。

でも、それじゃあ駄目なんですよ。

どうやったら皆を救えるようになるのですか?

どうやったら誰も死なずに生きて帰って来られるのですか?」

そして、ふたたびすがるように俺に言ってきた。

どうしよう、とすこし悩んでいたら昔とある人に自分が言われたことを思い出した。

あの時も悩んでいた俺にあの人はアドバイスをくれた。

あの言葉で俺は少し救われた。

悩みは違うが、きっと助けになると思い熊さんに伝える。

 

「それくらい自分で考えろ、と言いたいところだが今の熊さんを見る限りそんなことさせたら、余計に自分を責めちゃいそうだからひとつアドバイスをする。

 

強くなれよ。

 

どういう強さは自分で考えてくれ。

ただ戦闘で強くなるのもいいし、皆にどんな時も最良の指示を出せるのも一つの強さだ。

どんな形でもいい、強くなれ。

そうすれば昨日みたいなことはもうこれからせずに済むし自己嫌悪なんかにならなくて済む。」

「・・・私に出来るでしょうか?」

「出来るさ。

なんて言ったって熊さんは502の戦闘隊長なんだから。

それにA隊のリーダーでもあるんだ。

経験をつむ意味でもA隊の皆に、それこそ自分の手足のように指示を出せるように練習をしてみたらいいじゃないか?

優秀な人材が揃っているんだ、せっかくのチャンスを無駄にせずに活かせるようにしてみな。

そうすればきっと強くなる。」

そしてまた沈黙が訪れた。

ただ先ほどとは違ってすこし空気がやさしくなった感じがする。

 

「バーフォードさん。」

「なんだ?」

「私、もう少しがんばってみようと思います。

それと、皆を死なせないような隊長になりたいです。

だから、その、がんばりますから、時々助言がほしいです。」

「わかった、相談には出来るだけ乗るよ。

だからがんばれ。熊さんなら出来るさ。」

「はい、がんばります。・・・・あ。」

俺の顔がものすごく近くにあったのにようやく気がついた彼女は顔を見る見る真っ赤にしていった。

なんか口がパクパク動いていて見ていて面白い。

「お、お、おやすみなさい。」

そういって熊さんは素早く俺から離れてベッドの中に戻ってしまった。

もう完全に隠れていて、まるでみのむしだ。

少しは彼女の助けになれたのだろうか?

ただ、別の事を気にする余裕ができたのはいい傾向だと思う。

「あぁ、おやすみ。明日からまたよろしくな。」

「は、はい。」

そういって俺は立ち上がり部屋を出た。

おやすみ、熊さん。

 

扉を閉めてふと横を見るとB隊の面々と曹長がいた。

「お前ら、なにしているんだ?」

「いやね、さっき熊さんの怒鳴り声と泣き声が聞こえてきたからどうしたのかな?って思ってさ。ただその様子だと問題なさそうだね。」

「大尉、いったい何やらかしたんですか?」とルマール。

「別に、ただ昨日のことで少し相談に乗ってあげただけだ。」

そういうと皆は、あーなるほどねと納得してくれた。

「熊さん指揮下の何人か亡くなっちゃったから落ち込んでたのか。」

「そ、だから同じ隊長としてすこしアドバイスしてあげただけだ。」

「なるほどね、なら安心したよ。隊長が何かしたのかと思って心配だったんだから。」

「そうですよ、ですがそんな事はしないとは思っていましたよ。」

ひどい言いがかりだな。

そうこう話していると少佐がやってきて俺たちをうるさいと叱った上で解散を命じてきたので各自の部屋に戻ることになった。

「それじゃ、お休みー。」

「おやすみなさい。」

伯爵、ルマール、曹長が自分の部屋に戻っていった。

「それで、ウィルマはどうしたんだ?」

そう聞くとウィルマは何も答えずに俺に顔を近づけてきていきなり臭いをかぎ始めた。

「なにしてるんだ?」

「熊さんのにおいがする。」

いきなりストーレート来た!

まずい、何か怒ってる!

ここは上手く回避すべきか?正直に話すべきか?

よし、今回は回避すべきだ。

余計な詮索をされる前に逃げよう。

「熊さんの寝室に行ったんだから当たり前だろ?」

「熊さんの服のにおいがする。もう一度聞くけどなにかした?」

ウィルマがニコニコしながら俺を見てくる。もちろん目は笑っていない。

まさか、一瞬でばれた?てか何でばれたの?

「私の使い魔はスコティッシュフォールド、猫だよ?普通の嗅覚の何倍もあるんだから。」

「まじかよ。」

「ちょっぴり勘も入っているけどね。それで、何かしたの?」

「してません。」

されただけです。

「へー、ふーん。本当に?」

「あぁ、本当になにもしてない。まさか俺がウィルマ以外の人に手を出すとでも?

そんな国際問題を起こすほどのリスクを犯すはずがないじゃないか。」

「そうだよね、そこは信用してる。んじゃ、質問を変えるよ。

それじゃあさ、なにかされた?」

相変わらず、勘がするどいこと。

落ち着け、まだ何か道があるはずだ。

そうだ、あれは仕方がなかったんだ!それを上手く説明すれば!

「仕方なかったんだ、熊さん落ち込んでたし。」

「有罪。」

一発アウト!?

ウィルマに猫耳と尻尾が生えて魔力を具現化して俺をつかんでくる。

こうされたらいくら俺でも力では勝てない。

「詳しく聞かせてね?リョウ?」

結局部屋に連れて尋問された。

 

 

--- 翌日、ブリーフィングルーム

「あ、おはよう。軍曹にって隊長、平気かい?疲れているみたいだけど。」

「あぁ、問題ない。それで?伯爵は何か用か?」

「少佐からこれを渡すようにってさ。」

伯爵から数枚の命令書を渡された。

飛行ルートが詳細に書いてあった。

「今日、司令部に急遽行くことになったおかげで代わりに熊さんがブリーフィングするんだけどね、隊長には今日、夜間哨戒任務につくよう命令が降りているからいつも通り気象ブリーフィングが終了したら任務の時間まで自由にしていいってさ。」

「わかった、ありがとう。」

「いえいえ~。」

飛行ルートを確認する。

よく見ると今まで重点的に飛んでいたネウロイの巣から半径50km以内が丸々はずされている。飛行禁止命令ってのはここまで及んでいるのか。

さすがにやりすぎじゃないか。この調子だと最前線基地の壊滅した理由の調査のさらに後になりそうだな。

・・・ちょうどいい機会だ、自分でも哨戒がてら調査してみるとしよう。

何かつかめるかもしれない。

そう思い、熊さんが入ってきたので俺はいつもの席に座り気象ブリーフィングが始まった。

 

 

 

夜間哨戒のじかんになった。

命令書どおりの時刻に502を離陸して指定された空域へ向かう。

とりあえず、ペテルブルグに設置されているレーダーの索敵圏内では命令書どおりに飛ぶ。

30分くらい時間をかけてようやく抜け出したので一気に速度を上げる。

飛行禁止エリアに最高速度で侵入し、前線基地があった場所まで一気に距離を詰める。

しばらくして一箇所目の元基地上空まで到達した。

あの時はすぐに母機を落さなければならなかったのでよく調べられなかったから今回はいろいろ見てみる。

あの時記録した資料や502にあった基地の見取り図も参照する。

着弾10秒前までこの基地に接近していた高速飛翔体は1つだった。

それなのに基地にはいくつものクレーターがある。

格納庫付近に大きなのがひとつ、滑走路と宿舎付近に一回り小さいのがそれぞれ一個の計三箇所か。

着弾箇所だけみてもネウロイは正確にこの基地を攻撃している。

明らかに考えてこの基地の主要部を攻撃している、これは今までの単にレーザーでなぎ払うのとわけが違う。

単に敵を倒すことではなく、敵全体を無力化することを考えているのか。

さらに詳細を調べるために一旦地上へ降りる。

クレーターの大きさから着弾時の衝撃を考えるがあの時、音速程度しか出ていなかったのにこれほどの破壊力をどうやって作り出しているのか不思議だった。

弾頭になにか特徴があるのかもしれない。

他の二箇所も一番大きいものよりも深さは浅かったことから、おそらくメイン一発のサブ二発を搭載した対地攻撃用ネウロイで着弾直前に分裂して各々のターゲットに飛んでいくタイプだろう。

今はこれが世界中のネウロイの巣で量産されてないことを祈ろう。

そして次に宿舎があったところに目を向ける。

ほとんど吹き飛ばされており、骨組みが残っている程度である。

これでは遺品などは何ものこっていないだろう、地下シェルターに隠してあれば見つかるがあったとしても瓦礫の下だから今の俺では見つけることはできない。

結局その後も調査したが特にこれといったことは見つからなかった。

今日はこれくらいにして元のルートに戻って本来飛んでいるところにいると報告しないとな。

 

 

定時報告を済ませてもとのルートに復帰する。

しばらくすると彼女から通信が入ってきた。

『もしもし、502JFWのウィッチさんは誰かいますか?今晩は誰か飛んでいますか?』

「ハイデマリー少佐ですか、お久しぶりです。」

『その声は、バーフォード大尉ですか。ペテルブルグが大変なことになっていると聞きましたが、皆さんご無事ですか?』

「えぇ、何とか。」

『ならよかったです。聞いたときは心配したんです。知っている人の安否が不明なのは不安ですからね。資料には詳細は不明と書いてあったもので。』

そうだったのか、それが影響して任務に支障が出てないといいが。

そんな些細なことの心配事でこんな優秀な人が死ぬなんて嫌だからな。

「ご心配かけましたが全員無事です。ただ、味方のウィッチにも少し消耗はあったみたいですが。」

すこしの沈黙の後に話を続けてくれた。

「そうですか、残念です。もしよろしければサンクトペテルブルグで何があったか教えてもらえませんか?資料で呼んだのと実際に聞くのでは違うと思うので。それとミーナ中佐にも聞けたら聞いてきて、とお願いされているので。』

「わかりました、それでは・・・。」

そうして、自分が防衛戦で行ったことを全て問題ない範囲で話す。

基地が壊滅したこともその事実は伝えたがその原因となる攻撃については本部が現在調査中ということで濁しておいた。

 

「これくらいですね。」

『なるほど、報告書に書かれていないこともありました。ただ、私たちに送られてきたのは速報だったのでそうだったのでしょう。大尉、ひとまずはお疲れ様でした。』

「ありがとうございます。」

『ただ、一度に4つの前線基地が消滅したのは穏やかではないですね。こちらでも注意を促しておきますね。』

「お願いします、今の状況でさらに前線基地が消滅なんて笑えませんからね。」

『そうですね。

それでは、私たちからひとつ報告が。ペテルブルグが襲撃された日、こちらも中規模のネウロイの攻撃を受けました。大型3を含む、編隊で数は45でした。もしかしたら他の場所でも攻撃を受けた場所があるかもしれませんが今のところそういった報告は入っていません。敵ネウロイを全機撃墜することによってなんとか危険は回避しました。

ただ、なかなか危なかったです。

一部防衛線を突破されて被害を受けましたが軽微です。』

そんな話まだ聞いてない、がかなり重要な情報だな。

もしこの話が本当ならあることが証明されたことになる。

いままでは何らかの方法でネウロイが話をしているのでは?という憶測に過ぎない仮説はあがっていたが、サントロンとペテルブルグでの同時多発攻撃が計画的に行われたとしたらネウロイは何らかの方法で通信を行っていたことになる。

これはもし通信方法がわかればこれを妨害することで人類側が有利になることを意味している。

これだけでも十分有益な情報といえるだろう。

「非常に有用な情報をありがとうございます。」

『いえ、こんなのでも役に立てたなら幸いです。』

「ええ、助かりました。それと、ハイデマリー少佐。万が一昼間戦うことになったら太陽に注意してくださいね。ハイデマリー少佐がそんな小さなミスを犯すとは思えませんが最近こっちで昼に飛ぶことになった夜間ウィッチが太陽で目を覆っている隙に怪我をする事案が起きました。そちらでは夜間ウィッチが昼間に駆り出されるなんて事態にはならないでしょうが一応心に留めて置いてください。」

『わかりました。バーフォード大尉もお気をつけて。今日は少し早いですが私はもう任務は終了となるので、またお会いしましょう。ではおやすみなさい。』

「ええ、おやすみなさい。ハイデマリー少佐。」

そういって通信は終わった。

今回の夜間哨戒任務はなかなか有意義なものだった。

次回も何か掴めればいいが、そう思いながらすこし青くなり始めた空を見ながらペテルブルグに進路を取り帰頭コースに入った。

 

 




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低評価、高評価も含めてありがとうございます。
これからもがんばります。

ご感想、ご指摘があればよろしくお願いします。


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第38話 帰投1

主人公が空を飛んでいるときに見ている世界はエスコンをイメージしてもらえればいいかも。


 

俺が独自に旧前線基地を偵察してから数日がたった。

あの後俺が夜間哨戒任務を任されることはなく、下原が夜間の担当する日々が続いた。

そしてA隊が聴取を終了したので次はB隊が聴取を行うということになった。

だが俺の上官であるジャックには既に報告を終えている。

あの戦いの後に、早急に伝えるべきだなと思い次の日に連絡した。

主に伝えたのは

・旧前線基地の状態は壊滅、理由は不明。

・ペテルブルグ防衛戦は戦術的に敗北。復旧にはある程度時間がかかる。

・今後は敵が裏をかいてくることを想定して作戦を行うよう全軍に通達するよう要請。

の三つである。

これだけでもジャックは理解してくれたので非常にありがたい。

ただ、ウィルマに関してはジャックが派遣した補佐官に報告を行うよう言っている。

これにはいくつか理由がありB隊の戦力が一時的に全て抜けるのは戦力的にもまずい、というのとブリタニア空軍が誰も自分で報告しないというのは外面的にも内面的にもまずいので彼女が行うことになった。

結果として俺は以前と変わらず、ただ今度はA隊と一緒に熊さんの指揮の下でスクランブル発進に備えるということになる。

しかしここ最近は出撃がほとんどなくなっていたため俺は予備のスピットファイアをスタンバイに出してメイブのオーバーホールを少佐の許可を得て行っていた。

周りは仕切りを立てて完全にシャットアウトした上で整備を行い、スクランブル時は衛兵にここを守ってもらうことにしていた。

 

さて、以前のエンジントラブルはおそらく太陽フレアだと予想している。

正確な年月は覚えていなかったが過去の資料を確認しながら引き算を行うとこの年になったのでおそらくフレアが影響しているのではないか、と推測した程度だ。

14年周期でくるこいつは対策をしていないと電子機器類に大きな影響が出る。

なんせイージス艦ですら影響を受けるらしいからな。

ただ、抜本的な改造は出来ないので万が一に備えての対策を練るくらいしか今はやることがない。

ただ、このフレアがネウロイにも影響が及ぶのであればしばらくは小康状態が続きそうだ。

 

そしてその対策を練るのと同時にユニットの細部まで点検を行っている。

ここ最近は時間が取れなくてできなかったからようやく詳細を調べることが出来る。

FAFのときの愛機の構造はある程度は理解しているためか、こんな形になっても意外とわかる。

それにしてもどうしてこんなストライカーユニットみたいな形になっちまったんだろうな。

あのときのほうが先進的なデザインをしていたのに。

油をさしたり、汚れが詰まっていたところを入念に掃除したり、破損している場所がないか、ボルトの締め付けがゆるくなっている場所がないかなどを確認していたところいきなり少佐から呼び出しを食らった。

15分後に集合との事だったので急いで部品やカバーを元に戻す。

とりあえず元いつもの姿に戻ったが、少佐の話が終わったらもう一度あっているか確かめないと、それにテスト飛行もしたい。後で申請するか。

 

俺が司令官室に入ると既にサーニャがいた。

サーニャがいるということは偵察関連だろうか。

俺が入ってくるのを少佐が確認すると書類を持って話し始めた。

「リトヴャク少尉、バーフォード大尉。同二名に対して東欧司令部より緊急命令が発令された。これはいかなる任務よりも優先される。

任務の内容だが、二人にはこれから旧前線基地の偵察任務を行ってもらう。」

そういいながら少佐が今度は地図を使い、説明を始めた。

ようやく前線基地の偵察命令か。

司令部が重い腰を上げたのはいいことだな。

少しずつでもいいから何か新しい事実を発見してもらいたい。

少佐の話を聞いたところ、偵察を行うのは前回俺が行った場所とは別の場所だった。

西に30kmと50kmにあるカールスラント空軍がいた場所だ。

「以上が偵察エリアの詳細となる。何か質問は?・・・・。

ないな、次に行くぞ。

さて、ここでひとつ言っておかなければならないことがある。

緊急事態に陥っても援軍はだせないそうだ。

よって当作戦は最少人数で行ってもらう。私としても遺憾だが仕方ないと思ってくれ。」

まるで極秘作戦だな。

その後、少佐によって細かな規定が指示された。

通信機の所持は禁止、出来る限りネウロイとの接触を避けること、など隠密行動を頭に入れて行動せよとの事だった。

無線も含めて最小限か、もともと司令部の奴らに期待なんかしていないので俺としてはやることに変わりはないな。

「あと、装備類はこちらで揃えておいた。数日間にわたって調査することを考えて揃えておいた。きっと役に立つはずだから確認しておいてくれ。以上だ。解散。」

そう言われて、敬礼をした後に俺とサーニャは司令官室を出た。

 

格納庫に行く途中ふと気になることがあり、彼女に声をかける。

「冬季サバイバル訓練を受けたことはあるのか?」

「ありません。むしろそういう訓練を受けたことがあるウィッチのほうが珍しいんじゃないですか?」

「そうなのか?」

普通、軍人ならそういった訓練は一通り何らかの形で受けていると思った。

特に敵地に墜ちることも考えてウィッチやパイロットはそういうのが充実しているはずだと思ったのだが。

「えぇ、ネウロイとの戦いが深刻化してとにかく数が足りなくなったので仕方がなかったのだと思います。幹部クラスのウィッチでも訓練はうけていないと思いますよ。」

そうか、大体いまの空軍の現状を理解できたきがした。

今現在の方針はとにかく数を揃えることが急務となっているのか。

質より数、エースが出てくれればそれで万々歳くらいにしか思っていないのかもな。

それと同時に少し不安になってきた。

でも常に冷静なサーニャなら緊急時は指示さえ従ってくれると思うので、後は俺が何とかするか。

 

それにしてもいきなり出撃命令か、これじゃあメイブの修理はお預けだな。

こんな任務とっとと終わらせて早く修理の続きでもしたい。

スピットファイアもそれなりにいいが、やっぱりメイブの方が空を飛んでいるとき落ち着く感じがする。

「それじゃあ、支給される装備でも確認するか。」

「そうですね。」

 

二人で格納庫に向かうと装備担当の兵士からリュックサックを渡される。

確認のために一度中身を全部取り出すとサバイバル用品やカメラ、食料などいろいろなものが入っていた。

不備や破損がないかをもう一度確認して書類にチェックを付ける。

サバイバル用品の中の寝袋や予備の防寒具など命に直結するものは特に慎重に確認する。

特に問題がなかったため受け取りにサインして提出し、準備を終えた。

「サーニャ、そちらに問題は?」

「ありません。準備完了です。」

「了解、それじゃあ行こうか。」

そういって出撃者名簿の俺のところにかかっている札を出撃中に替える。

ふと、横を見るとちらちらサーニャが遠くを見ているのがわかった。

「どうした?」

「いえ・・・・。」

「?」

サーニャが見ていた方向をたどってみると、いつも通りエイラがじっとこちらを見ていた。

心なしか彼女が真っ黒なオーラをまとっているようにも見えた。

「あいつのことは気にしても仕方がない。」

「そうですね、行きましょうか。(ごめんね、エイラ。)」

そういいながら滑走路に管制塔の許可を得て進入し、離陸する。

また帰ってきてから色々聞かれるのか、と思うと少し憂鬱になった。

 

飛行中はサーニャとは一言も話さずにそのまま目的地へむかう。

そして飛行禁止空域に書類上、防衛戦以降初めて侵入する。

進路を西に取り、以前まで基地があったところまで向かう。

侵入後、15分程度で見えてきた。

「・・・ひどいですね。」

「あぁ。」

そこの基地も相変わらずだった。

格納庫近くに一個、滑走路中央部に一個、建物近くに一個と変わらない。

生存者はいないだろうな。

「とにかく地上に降りてみるか。」

「そうですね。」

なにか残っているかもしれない、そう思い基地に着陸した。

ユニットはわずかに屋根が残っていたため雪が積もっていない格納庫においた。

 

とりあえず、30分ほど二手に分かれて散策してみた。

俺は建物があったところ、サーニャは格納庫周辺といった具合だ。

建物に着いたが雪が積もっていて足場が悪い。

司令室があったと思われる場所になんとかたどり着いて、何か探してみてもあるのは瓦礫の山。

十数個ほどひっくり返して見ても、結局なにも見つからなかった。

 

集合時間が近づいていたので格納庫に戻る。

「何か収穫は?」

「まったくありませんでした、バーフォード大尉は?」

「こちらもまったく、あるのは瓦礫だけだ。」

「こっちもそうでした。」

「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・、一旦昼にするか。」

「そうですね。私も、すこし疲れました。」

人が死んだ所の近くで食うのはどうかと思ったが、ここ以外に食う場所があるのか?ということになると他にあてがないのでここで済ませることになった。

「これじゃあ、偵察は今日中に終わりそうだな。」

「そうですね。」

司令部は何かしら残っているだろうとは思っているためか数日にわたる偵察を予想していたみたいだが、まさかここまで何も残っていないとは思ってもみなかっただろうな。

それに攻撃の跡も雪をかぶっているため痕跡が残っていたとしても今の装備じゃ発見できない。

「この現状をどう司令部に報告したらいいんでしょうね。」

「それはこっちが聞きたいよ。」

思わずため息をしてしまった。

 

レーションを水で流し込んで食事を終える。

相変わらず冷たい水だが、凍ってないだけましか。

次の基地の偵察が終わったらせっかく持ってきた燃料があるんだから使ってお湯を沸かそうか。

「行こうか、サーニャ。今日中に終わらせるぞ。ここは敵さんの制空権下だからな、長居はしたくない。」

「了解です。」

そういってユニットに足を突っ込んでエンジンを始動させる。

魔導針を作動させたサーニャが突然、叫ぶ。

「敵です、すぐそこまで来ています!」

「噂をすればって奴か、急ぐぞ。」

「はい、山の陰になっていたため気がつけませんでした。申し訳ありません。」

「気にするな。

今はここから素早く離脱することだけを考えろ。あの数じゃ、こちらに勝ち目はない。」

素早く銃のスコープで確認するとかなりの数が近くにまで接近していることがわかった。

格納庫から一気に加速して離陸する。

V1

VR

V2

地面から離れ、上がり始めた直後

「左!」

「ッ!」

左側から別働隊が急に姿を現した、まるで転移してきたかのように現れた。

サーニャの警告をうけて、回避しようと体をひねる。

だがわずかに間に合わず、左ユニットに直撃した。

被弾!

それと同時にユニットが爆発した。

急激に推力が失われたためバランスが崩れ一気に高度が下がる。

「バーフォード大尉!」

「逃げろ!」

俺は思わず、そう叫んでいた。

せめて、彼女だけでも逃げてほしい、そう思い叫んだ。

そして真っ白な大地が迫ってきた。

 

 

 

すまないな、ウィルマ。

しばらく、帰れそうにない。

 

そう思った瞬間、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

-Another view side LITVYAK

「逃げろ!」

そう言うとバーフォード大尉は地面に落ちてしまいました。

地面に落ちるとそのまま転がっていくのが確認できましたが高度も考えて最悪の事態にはなってはいないと思います。

すぐ救出をと思ったのですが、左から大尉を撃墜したネウロイとその随伴機二機の計三機が迫っているのがわかりました。

その瞬間、私は決断を迫られます。

大尉の救出か、敵の殲滅か。

私はどちらをとるかをすぐに選ぶ必要がありました。

ですが、どちらを行うにしてもどちらにせよ無理だと判断しました。

なぜなら、救出にはすこし時間がかかります。

その間にこの三機が襲ってくるでしょうし、この三機を相手にしているうちに追撃隊がおいついてしまうからです。

仮に大尉を担げたとしてもあの数を相手に追撃を振り切れる自身が私にはありませんでした。

そして、この援軍を呼べない状況下では最悪共倒れの可能性もあります。

いまはどうしても人が足りない。

 

私のすることができる選択肢からどれを行うかを考えた末、私は一旦、基地に帰頭することを決断しました。

基地に戻れば何かしらの援軍を出せる可能性があるので、私はそれに賭けることにしました。

何かしても大尉の足を引っ張ることになる事は間違いない。

そんな私の力量のなさにもどかしさを感じる。

 

せめてこれが役に立てば、と思い自分の背負っていたリュックサックを大尉の近くに投棄しました。

大尉ならきっと使ってくれるはず。

ごめんなさい、ですが必ず助けに帰ってきますから待っていてください。

 

Another view End

 

 

 

 

意識が少しずつ明確になり始め、目を開ける。

左頬が冷たい。

体を起こしてあたりを見渡すと先ほどまで履いていたユニットから煙が出ていた。

すでに左脚のユニットは脱離しており右脚のも大破していた。

こいつはもう使えないな。

なんとか痛みをこらえながら立ち上がり、空を見上げる。

すでにネウロイは退却しており、静寂が広がっていた。

サーニャは上手く逃げてくれたか、救援でも呼んでくれればありがたいが果たして来てくれるものかな。

地面には自分の背負っていたリュックの中身が散乱しており、正直困る。

着地したときの衝撃でリュック自体が破損したみたいだ。

とりあえず、そこから両足分の雪山用の靴を取り出して履き替える。

使えるものを探すか。

 

5分ほど散策してとりあえず、使えるものを集めた。

何個か、壊れて使えなくなっていたものもありそれは潔く捨てた。

ふと遠くに目をやると、オレンジの目立つものがあったので近くまで行って見るとリュックが落ちていた。

俺と同じ形で502のマーク。サーニャか、助かった。

あのかばんはもう使えなかったから、なにか入れるものがほしかったのでありがたく使わせてもらう。

中をあさり、カメラや俺も持っているものを捨てる。

さてと、食料が4日分、燃料が少々、それに地図、シャベルなどなどか。

とりあえずは何とかなりそうだな。

ただ、狙撃銃を確認したところスコープのレンズが割れていた。

スコープがなくても撃てないことはないが長距離となるとまずいな。

サングラスをかけて、地面からの反射光によって目が痛まないように保護する。

さてと、とりあえず行動しますか。

そう思って空を見上げると、西の空の雲行きが怪しくなってきていた。

「こっちのほうは、何とかならなそうだな。」

気象ブリーフィングだと確か午後から天気は下り坂って話だったな。

急いでシェルターを作らないと。

組み立て式のシャベルを繋ぎ合わせて簡易シェルターを作る。

荷物類を放り込んで中に入り、ある程度手の体温で溶かした雪をコップに入れて火をかけて水を作る。

数十分もすると吹雪いてきたので入り口を閉めて、小さく丸まった寝袋を取り出して中に入りじっとする。

とにかく、今は明日が来るのを待つだけか。

 

 

 

 

 

-another view 502JFW commander room

 

「撃墜!?」

リトビャク少尉からの報告に私たちは動揺を隠せなかった。

少尉からの詳しい報告を聞き、私はすぐに曹長に指示を出した。

「いま、発進できるのは?」

「A隊がスタンバイしています。ですが・・・。」

そして曹長が何を言おうとしているのかはすぐに気づく。

飛行禁止命令、正確に言えば該当空域のみだが。

だが、大尉の墜落した場所はそこに入ってしまっている。

「それに、気象班の報告によりますとこの地域はもうすぐ吹雪となりますし仮にこの空域に到着できたとしても帰りには日が沈んでいます。残念ですが、今日は無理です。」

「確かにな、大尉の装備にこのオラーシャの冬を越せるような物は?」

曹長に聞くと素早く書類の束から所持装備一覧を取り出して確認する。

「防寒具を持っていっているはずです。この気温でも問題なくすごせるはずですが、不安ですね。」

「あぁ、明日捜索隊を出せないか司令部に進言してみよう。」

「そうですね。今、私たちに出来るのはそれしか・・・。」

がたんと音がして振り向くとそこはウィルマビショップ軍曹がいた。

「うそ、でしょ?」

 

しまったな。

あとで全員に言うとはいえ、今一番聞かれたくない相手だったのだがな。

「どういうこと・・・ですか?」

今ここで言葉を濁すのは無駄だと思い、現状わかっていることを伝える。

「聞いての通りだ。バーフォード大尉がエリアX(Xレイ)で撃墜された。生死は不明だ。」

それを聞くと軍曹は走って部屋から出て行ってしまった。

まさか!

そう思い私も追いかける。

「曹長、しばらく任せたぞ!」

「わかりました。」

早まるなよ、軍曹。

 

Another view end 502JFW commander room

 

 

 

 

Another view side Wilma bishop

 

ブリタニア軍の高官に防衛線での出来事を報告して帰ってきたため、そのことを司令部に報告しに行ったらなにかあわてている声が聞こえた。

今となって思えば盗み聞きなんてするんじゃなかった。

「失礼します。」

ノックをしても返事がなかったから部屋に入った。

そこから聞こえてくる声を聞いてしまった。

撃墜?大尉?

それで思いつくのはあの人しかいなかった。

私の大切なあの人しか。

思わず、持っていた書類を落してしまった。

「うそ、でしょ?」

頭が真っ白になる。

少佐が嘘や冗談をつく人物とは思えないが思わず聞いてしまう。

「どういうこと・・・ですか?」

「聞いての通りだ。バーフォード大尉がエリアX(Xレイ)で撃墜された。生死は不明だ。」

そんな。

リョウが?

足から力が抜けておもわず壁によっかかってしまう。

走馬灯のようにいろいろな記憶が頭の中によぎる。

ふと頭の中でずっと前に彼と話したときのことを思い出した。

そういえば、前にリョウとこんなことが起きた時のことを話した気がする。

必死に記憶を手繰り寄せて思い出す。

あれは結ばれてから数日くらいだっただろうか。

『なぁ、ウィルマ?』

『ん?』

『もし、俺が死んだとしたらさ・・・。』

『え!?いきなりどうしたの?』

『いや、お互い軍人だ。万が一ということがあるだろう?』

『なんだ、びっくりしたよ。』

『まぁ、そうだよな。だけど一度はこういう話をしておくべきかなと思って。それに本当に言いたいことは手紙に書いてある。』

『手紙?なにそれ?』

『それをこれから言おうと思っていたんだよ。まぁ簡単だよ。いつも俺のベッドの下に箱を用意しておく。暗証番号は0520だ。』

『あ、それ私の誕生日だ。』

『そうだ、それと端末を用意してくれ。』

『端末?』

『そうだ、いつも俺のジェットストライカーユニットの右脚部に装着してある。万が一なくなったりジェットストライカーユニットごと消失したときはジャックに電話してくれ。あいつにも同様の内容が書いてあるものを渡している。』

『それで、その端末と手紙を用意したら?』

『それは・・・・・』

そうだ、もしもこんなことが起きたときのためにと手紙を用意してくれていたはず!

 

秘密で渡してくれた合鍵を自分の部屋から持ち出して彼の部屋を開ける。

いつものにおいが少し部屋からして、ただでさえ胸が締め付けられているというのにそれに加えて涙が出そうになる。

今はぐっと堪える。

まずは箱を探さないと。

ベッドの下に手を入れるとすぐに見つかった。

ダイヤル式のロックを0520としてあけると二通手紙が入っていた。

ひとつは“俺が死んだ時。”、もうひとつは“生死不明の時。”と書いてあった。

いまは不明なのだからこちらを開ければいいのかな。

絶対に死んだ時の方は開けたくないな。

ふと、今あけていいのかという考えがよぎるがそもそもリョウが墜ちるということ事態が緊急事態なのだからと自分に言い聞かせる。

手紙を開けると紙の中央部に四角く変な黒と白のマークが書いてあった。

「なにこれ?これが手紙?」

現代ではQRコードと呼ばれるものだがこの時代の人たちにとっては謎の記号でしかなく、逆に端末でしか読み込めない以上不特定多数の人物が入る可能性のあるここでは絶対にばれない暗号といえるだろう。

「あれ?」

手紙の下のほうに何か書いてある。

1、端末を用意してくれ。

2、マークがついていないほうを表にして側面の丸い小さな銀色のボタンを押してくれ。

3、画面が明るくなり、Passcodeとでるから君の誕生日四桁を入力してくれ。

4、左下にQRというマークが出るからそれを一回タップしてくれ。

5、画面に四角が出るからそれにこの上のマークが合わさるように調節してくれ。

6、OK?という文字が出たらそれをタップしてくれ。メモは絶対にするなよ。

と書いてあった。

とにかくその手紙を持って箱を閉め、格納庫まで走る。

途中何人かに呼び止められたが無視して走る。あとで謝らなきゃ。

格納庫に入り、彼のユニットがあるところまで走る。

衛兵に止められるも身分証を掲示して仕切りの中に入る。

右ユニットを触ってopenと書いてある場所を見つけたので少しいじってみるとカチッという音と主にふたが開いた。

「これが端末?」

聞いていた通り少し大きめで重さがある四角い箱だ。

手紙の通りボタンを押す。

「あ、すごい。光った。」

そして書いてある順番どおりに進めていくと最後の”OK?”という文字が出た。

その文字をタップすると少し時間を置いてたくさんの文字が出てきた。

これが私宛の手紙?

読んでみる。

 

 

 

“ウィルマへ

これを読んでいるということは俺が何らかの形で行方不明になっているということだろう。

ウィルマのことだからどうせ他人の話も聞かずに走って俺の部屋から手紙をとりだしてこれを読んでいるんだろ?

後で隊長とかに謝っておくんだぞ。“

 

見事にその通りなので少し反省する。

でもなんでもわかっちゃうんだな。

 

“でもウィルマの気持ちもよくわかる。

俺だって逆の立場になったら何か行動したくなるからな。

心配になったり不安で押しつぶされそうになるかもしれない。

 

でも安心してくれ、必ずウィルマの元に帰るから。

 

こんな言葉が簡単には受け入れられないだろうが心配するな。

あの時約束しただろ?

だから君には待っていてほしい。間違っても命令無視してまで助けに来るなよ。

そんなことしたら俺が逆に心配になる。

わかったか?“

 

「うん。わかったよ。待ってるから。必ず帰ってきてよね。」

聞こえはしないと思うけど思わずつぶやいてしまった。

 

ん?

手紙は続いていた。

そこには私にしか頼めないことというのが書いてあった。

なんだろう?

“俺がいないうちに誰かがユニットを奪うかもしれない。

だからそのときのために警戒装置を作動させてほしい。

これを奪われるわけには行かない。ウィルマだから信用して任せられる。

出来るか?

方法は以下の通りだ。

1・・・・・・・・・・

 

任せた。

俺が帰ってくるまで頼んだぞ。

最後に、ウィルマは何でも一人で抱え込んでしまう癖がある。

せっかく頼れる仲間がいるんだから、相談したいことがあればみんなにするといい。

心配するな。帰ってくるまでの辛抱だと思って待っていてくれ。

必ず戻るから。

短いが、これで終わりにしておく。

体に気を付けてな。

P.S.俺の部屋、荒らさない程度だったら使っていいぞ。“

 

 

うん、リョウに任されたことは必ずやるから。

だから、そっちもがんばってね。

でも、部屋は使わないかも。

そう思い、指示されたとおりの手順で端末をタップする。

何個か終わらせるといきなりピー!という音とともに完了の文字が出た。

これで終わりかな。

出来ることがなくなってしまうとまた不安が襲ってくる。

むしろ何かしていたほうが 気がまぎれる。

しかしすることがなくなると、また涙が出そうになる。

でも、今はこらえる。いまは駄目。

そう自分に言い聞かせる。

もし、いま泣いたら何かが壊れてしまいそうだから。

 

Another view end side wilma bishop

 

 

 

 

 

寒さと音の組み合わせで何回も目が覚めたが明け方あたりから吹雪が収まり、少し寒さにも慣れ始めたので眠ることが出来た。

だが、熟睡とはいいがたい睡眠だった。

時計を見ると既に日の出時刻になっていたのでとりあえず、サングラスをかけて外に出る。

今日は快晴だった。

ここ数日で食べなれたレーションを少し食べて水を飲んで体力の温存をする。

さて、今日が勝負時だ。

救援が来てくれたときのためにいつでもフレアガンを撃てるように調節しておく。

雪が積もっていたが雪用の靴ならなんの問題もなく歩けるようだ。

体がなまらないように10分程度体を動かす。

痛みもだいぶ治まっており歩く分には問題ない。

 

後は救援を待つだけか、しかし情けないな。

あれだけ、がんばれよと言っておきなが自分が落されるとはな。

ウィルマは平気だろうか?

熊さんはしっかりしているだろか?

少佐には迷惑ばかりかけているな。

そして、ただなにも考えずに空を見上げ、眺める。

 

 

いつのまにか昼間になっていた。

朝と同じようなものを取り、また待機する。

しかし

一時間

二時間

三時間

いくら待ってもなにも来ない。

聞こえる音といえば、木がこすれあう音や風の音、雪が木から落ちたときの音など自然の音だけだ。

そして日の入りの時間になった。

「今日はこなかった・・・か。」

久しぶりに声を出した、がそんな事をつぶやいたって事態は好転しない。

シェルターに戻り昨日のように入り口を閉じる。

さてと、これは本格的に救援は来ないということか。

今日は一日中、快晴。風もそれ程強くはなかった。

空を飛ぶのに何の問題もないはずだ。

墜ちた場所だってサーニャが荷物を落してくれたところを見るとわかっているはずだ。

なら、考えられる可能性はひとつ。

何らかの理由がありここまで来ることが出来ない。

これならいつまでたっても救援は来ない、自力で帰るしかないか。

ここからペテルブルグまでは直線で100km以上、歩くとなると迂回しなければならないからかなりあるだろう。そしてこの悪条件だ。

帰れるか?と不安になるが、すぐその考えを振り払う。

いや、必ず帰る。

それしかない。

地図を広げて最初の目的地を決める。

ここから一番近い場所は・・・・あった。

以前、遠征で使った村がここからいくつか経由した場所にある。

そこなら以前、使わずに放置しておいたはずの衣料品や通信機があるはずだ。

まずは、ここを目指そう。

 

そうと決まれば後は行動するだけだ。

寝るのに必要なものを残してあとはかばんにしまう。

あさってが満月なのを考えれば日の出よりも早い時間から行動できる。

燃料は問題ない、銃も接近すれば撃てる。

よし、装備は万全だな。

あとはおれ自身か。

生き残ってやる。

待っていてくれ、必ず戻るから。

そう思い、明日からの帰路に向けて今日も早く寝た。

 

次の日、day2

 

まだ日の出もしていない午前6時に起床する。

月が出ていて雲にも隠れていないためかなり良く見える。

朝食をとり装備をもう一度確認する。

忘れ物、不備がないことを確認してシェルターを出る。

地図とコンパスで現在地を確認してこれからの最短ルートを導き出す。

さてと、久しぶりの雪道行軍だ。

この先なにが起こるかわからんからな、注意しながら出来るだけ早くサンクトぺテルブルグまで帰る必要がある。

出来るのか?

一瞬不安になる。訓練でもこんな長距離、しかも徒歩での移動はしたことない。

だが、顔をはたいて不安を拭き飛ばす。

やるしかないんだ。

出来る、出来ないの問題ではなく。

「行くぞー!」

思いっきり叫んで自分を奮い立たせて歩き始める。

長い撤退戦が今、始まった。

 

 

 

 

Another view side 502JFW

 

やはり司令部への救援作戦申請は拒否された。

理由は言われなくてもわかるしその訳も理解している。

兵士一人と人類の拠点どちらを取るのかなんてその辺りで遊んでいる子供にだってわかることだ。

「曹長、司令部からの許可が下りるとしたらどのような場合だと思う?」

「まず、前回のように再び最前線基地の偵察という名目は不可能だと思います。既に、残っているものはほとんどないという報告を行っている以上、再調査は出来ないでしょうし。

司令部に秘密で強行偵察を行ったとしても哨戒飛行中のウィッチに捕捉されます。

今現実的に出来るとしたら、飛行可能な場所まで大尉に移動してもらい救助するという方法しかありませんね。

それにしても墜落現場からはかなりの距離がありますがね。」

「大尉は冬山でのサバイバル訓練を受けたことがあるはずだ。救出ポイントまで移動してもらえればいいんだが・・・。」

「それにしてもそのことを伝えるための通信手段がありません。今回だって通信機を持っていかずにサーニャさんの魔導針での通信のみということだったので。」

「つまり、現状我々に今すぐ彼を救出する方法は・・・。」

「ありません。」

彼がどのルートで帰るか、そもそも帰ることが可能かすらわからないのに飛行可能な場所で探すというのも無謀か。

何とかして絞り込めればいいが。

しかし、何も出来ないというのは歯がゆいな。

「私なら何か出来るかも知れません。」

「なに?」

そういうとリトヴャク少尉が入ってきた。後ろにはユーティライネン少尉もいる。

「彼を置いてきたのは私です。

今となってはそのことがずっとこころ残りです。

私の魔導針なら何かしらの手がかりをつかめるかも知れません。ですから、昼間の哨戒飛行の傍ら、探すのを行いたいです。」

「わ、私も!サーニャの何かしらの手助けが出来るかも知れないからナ!」

そしてその後ろからは先ほど帰ってきたばかりの下原少尉も来た。

「夜間は何か明かりがついていれば目立ちます。人がまったくいないような場所なら特に。

私の能力ならばそういった目立つものを発見できるかも知れません。

なので、私も参加したいです。

なにもしないでいるというのも嫌です。

それに今までいた人が突然いなくなり、生きているかもしれないのに見捨てるのは扶桑軍人としてもありえませんから。」

この三人がいてくれれば確かに探すべき場所がある程度絞り込めるかも知れない。

しかし・・。

「負担がさらに増えることになるが?出来るのか?」

「「出来ます。」」

「・・・わかった。なら昼間はリトヴャク少尉とユーティライネン少尉、夜間は下原少尉、それぞれ任せたぞ。」

「「了解!」」

そういうと三人は出て行った。

「さてと、曹長。引き続き私たちも出来ることを探そうとするか。仕事が増えるが平気かな?」

「もちろんです、少佐。」

曹長が頼もしい返事をしてくれた。

私たち502JFWも独自の捜索網で出来る限り探してみせる。

だからバーフォード大尉、私たちが発見するまでくたばるんじゃないぞ。

私は司令官室にある出撃者名簿をじっと見ながらそう強く思った。

 

Frederick T Barford / Lost

 




アニメシリーズが始まると今作もかなり影響出るだろうな・・・。
楽しみでもあり、ちょっと複雑でもある作者。
自爆機能はアニメでもあったので情報保護という観点から採用。

ご感想、ご指摘があればよろしくお願いします。


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第39話 帰頭2

5/20がウィルマの誕生日だったのに何も上げられなかった。
ちとR-15Gが入ってます。
注意です。


まずは歩いてチェソヴォ=ネティリスキーを目指す。

距離にして35kmを二日間かけて歩く。

この辺りは高い山もないため邪魔となるものが少ないため本音では一直線で目的地まで向かいたいのだが、進路上に森がある。

森をそのまま踏破することも考えたが、やめた。

確かにコンパスや地図は手元にあるが森ではまっすぐ歩いているつもりでも一周していたなんて事が良くある。

そのため、森を通る近道を取るよりその周りを歩くルートを選択した。

急がば回れという奴だな。

 

それにしても、この雪用の靴は歩きやすい。

もともとオラーシャやスオムスで作られたものらしいが底に平らな板が貼り付けてあり、体重を分散させることにより雪に脚が埋まらないようになっている。その代わりいつもの靴のように歩くことが出来ないのでコツが必要だが。

しばらく歩いていると空が瑠璃色、そしてオレンジ色になってきた。

ようやく夜明けか。

 

そしてさらに時間がたつと太陽が出てきた。

やはり太陽が出てくると幾分か安心する、暗いのよりも明るいほうがいい。

さてと、ここから先はある程度開けているから誰か足跡を見つけてそのままたどってきてくれないかな?

そうしたら一発で終わりなのに。

「ま、そう簡単に上手くはいかないよな。」

 

数時間ほどひたすら森に沿って歩いていると、太陽がちょうど真南に位置したので適当な木を見つけて寄りかかる。

万が一誰かが来てくれた際、目立つリュックを空からでもわかるような広い場所に放置しておく。

ようやく休憩の時間が取れた。

いつものように雪を少し手で暖めて火で溶かす。

本当はコーヒーか紅茶が飲みたいのだが、ないものをねだっても仕方がない。

 

水分も補給できたので出発する。今日だけであと7kmは進みたい、と思い体を起こしてリュックを取る。

と、ふと視界の端の空で何かが光った気がした。

すぐに双眼鏡を使って確認してみると、黒い物体が飛んでいるのが見えた。

方角を確認すると南南東、ネウロイの巣がある方面だ。つまりあれはネウロイか。

一瞬期待した俺が馬鹿だった。

それにしても、ここ最近感じたことだが単機の偵察型が増えた気がする。

奴らもあの防衛戦を経て戦略を変えたのかも知れないな。

結局ネウロイは俺に気づくことなく視界を横切る形で北へ向かった。

このまま進めばそのうち、こちら側の哨戒網に引っかかって撃墜されるか探知されることなく巣に戻るかのどちらかだろうな。いや、さらに敵側の前線基地を作るのかもしれない。

どちらにせよ空を飛べない俺に今出来ることは何もない。

意外なネウロイの習性が見られたところで俺も出発する。

 

 

結局今日は何も問題にめぐることなく無事予定していた目的地にたどり着いた。

ここは以前飛んだとき空から確認しておりまわりに危険となるようなものは何もない。

簡単なシェルターを作り、中に入り夕食とする。

残りのレーションも半分をきった。遠征で使った場所が壊されていたり、食料が野生の動物などに荒らされてなくなっているなんて事態が起きていないといいが。

・・・レーション以外の食料を何か見つけないといけないな。

木の実でも探すか?

いや、この季節だと発見するのは至難の業だな。

あれこれ考えても結局効率よく栄養を摂取できる方法が拠点の薬という考えに行き着いた。

となると早く拠点に到着しなければならない理由がまた増えたな。

やることもやったし今日は寝よう、明日には遠征の拠点に到着できるようにしたいものだ。

 

 

 

Another view side 502JFW

 

私は昼間、夜間のほぼ24時間体制で三人のウィッチが大尉を独自に探してくれているがそれではまだ足りないと感じていた。

なので、地上からもなにか手がかりを探せないかを聞くため、ウィッチ回収班の隊長を呼び出していた。

「失礼します。」

そういってアウロラ・E・ユーティライネン中尉が部屋にはいってきた。

「用件は大尉のことでしょうか?」

「あぁ、そうだ。回収隊の意見を聞きたいと思ってな。現実問題、彼の場所を発見できたとして回収はどの辺りから出来る?」

「どこへでも、と言いたいところですが実際はそう遠くまではいけません。」

「何故だ?いつもはあんなに出動しているのに。」

私がそういうと彼女は苦い顔をしてこちらを見てきた。

なにかどうしようもない理由があるみたいだな。

「いくつかあります。まず一つ目、雪の中を踏破する雪上車はありますがあまり燃費が良くありません。そのため予備の燃料を持っていったとしても基地から50kmのところが限界だと思います。いままで雪上車の行動範囲外で撃墜という例がありませんでしたからね。

そして二つ目、その雪上車ですが現在予備パーツが不足しています。

ここ最近、出動自体は少なかったのですがそのときに一部部品が破損してしまいました。

それを修理したのですがその部品の補給がまだ届いていません。そのため予備のパーツを持っていかないとなると万が一故障した際に二次災害が発生してしまう可能性があります。

そして我々回収隊の長距離回収任務を妨げている最大要因がこれです。」

そういって中尉は立ち上がって地図にしるしを付けた。

「少佐、ここに何があるかご存知ですか?」

「いや、知らない。教えてくれ。」

「ここには、地雷が埋まっているんです。撤退戦のときに連合軍が地上型ネウロイの進軍速度を出来るだけ遅らせるために埋設した地雷がいま地図を付けたところに大量に埋まっています。

正確な数はわかりませんが一万個前後といわれています。

その地雷の種類は対戦車地雷から対人地雷まで、接触式から圧感式まで様々なものが埋まっています。

これが逆に我々の行動をも制限している原因となっています。」

「つまり、彼を救助するにはその地雷原を超えてもらわなければならないということか。」

「残念ながら。この地雷原があるほとんどの空域も飛行禁止空域に指定されていますから空からの救助も不可能ですからね。」

思わずため息をしてしまった。

彼にとっては非常にまずい事態だろう、もし知らずにそこを通過してしまえば確実に死んでしまう。

扶桑で言う泣きっ面に蜂とはこのことだろう。

「わかった、ありがとう。また何かあれば呼び出させてもらう。」

「了解です、失礼します。それと、我々は命令があればいつでも出動できるようにはしております。何かあればご命令を。」

「頼もしい限りだ、了解した。」

そう言うと中尉は部屋を出て行った。

私は椅子に深くかけ、改めて地図をじっと見る。

救出隊の皆はうちのブレイクウィッチーズで救出には慣れていると思っていたが彼らにとっても彼のような長距離は想定していなかったらしい。

いままではこの距離になると旧前線基地のほうが近かったため管轄違いと割り切っていたらしい。これを機に何かしらの対策を練ってもらおう。

しかし、いざという時に役に立たないのは私も彼らも悔しいだろうな。

何のためにいるんだといわれても仕方ないな。

別の方法を探ってみるか。

そう思い、私は部屋を出た。

 

Another view end

 

 

 

墜落三日目

目が覚めて、時計を確認すると午前6時だった。

こういうイレギュラーの時でも同じ時刻に目が覚めるのは習慣の賜物だろう。

あと、自分自身のサイクルが完全には崩れていないところを見るとまだ問題はなさそうだな。

本当にまずい事態になれば起きる時間も安定しなくなる。

ただ、自分では感じ取ることの出来ない隠れた疲労は少しずつ溜まってきているだろう。なんとか解消できればいいが。

全ての身支度を終えて出発する。

忘れ物はない、今日もがんばろう。

日が沈む前に遠征先の村に到着できるようにペース配分を行わなければ。

今日は曇りだが薄く太陽の光が見えるという直射日光が当たらないにも関わらず明るいというなかなか恵まれた天候だった。

 

 

歩き始めて約四時間がたった午前11時ごろ、問題が発生した。

遠くで何かが動いた気がした。

すぐにうつ伏せになり、双眼鏡をとりだして確認する。

焦点を合わせて確認するとその正体は“熊”だった。

体は意外とそこまで大きくはなかった。

この時期に?冬眠しているはずでは?というか、この地域に熊がいるのか。

おそらく冬眠しているところを何かしらの事柄が発生して目が覚めてしまい再び寝る事なく起きてしまったため、食料を探しに山を降りてしまったのだろう。

風の向きを考えても、こちらの匂いがあちらにつく事はないだろう。

・・・これはチャンスではないだろうか。

すぐに狙撃銃を組み立てて撃てるようにする。

そしてリュックを地面に置き、その上に狙撃銃を設置して固定する。

スコープはお釈迦になってしまったので双眼鏡を上手く使い狙いをあわせる。

ただ、これではスコープの代わりなどは到底不可能なので、結局狙いをあわせるのは俺の勘になるだろう。

偶然とはいえ、せっかく見つけた食料だ。無駄にしないように狙う。

奴はゆっくり動いては時々立ち止まっては辺りを見渡している。

大体の場所を見越して、固定する。

狙うのは頭。小型、場合によっては中型ネウロイですら落すことが出来るこの銃弾なら熊なら当たれば一発だろう。

のっそり歩いていた熊が止まる。

俺は息を止めて、狙撃体制に入る。

そして立ち上がったところを見計らって

-発動

どの方向に顔を動かすかを見極める

狙う位置は目の後ろの部分、頭中心部を貫けるように狙う。

-解除

発砲。

辺りに狙撃銃の発砲音が響く。

すぐさま狙撃銃で確認すると熊が横に倒れるのが見えた。

すぐにかばんを背負って熊に近づく。

万が一仕留めきれていなかった場合に備えて銃は構えたまま接近する。

・・・。

5m

4m

3m

2m

1m

辺りは真っ赤な血で雪が染まっていた。

その体を銃でつついても反応がなかったので次に足で蹴ってみた、がやはり動かなかった。

一度、その熊に頭を下げ誰かどこにいるかわからない神に感謝を伝える。

これは教えてくれた先生の言っていたことだが感謝を忘れてはいけないそうだ。実際に俺もこれで生きられそうだしな。

銃を仕舞い、ナイフを取り出して解体に入る。

血抜きをした後で上半身の皮や食べられる肉を袋に入れて、胸に残っていた血を飲んで体力を何とか回復する。

熊の血は滋養エキスとして一部の民族では重用されているらしい。

食料ということでいくらか肉が溜まったって俺も安心しきっていた。

だからだろうか、周りを囲まれていたことに近づかれるまで気がつかなかった。

 

顔を上げると中型の動物に囲まれていた。

しくじったな。

辺りを見渡すと数は6、風に乗った血の匂いに気づいてやってきたのだろう。

持っていた肉の入った袋を熊の脇に捨てて左手にナイフを、右手で腰に付けていたハンドガンを取り出してそいつらに向けて構える。

よく周りの奴らを見てみるとそいつは犬だった。

首に首輪がついているところを見るとおそらく以前は人間に飼われていたのだろう。

人間の匂いがわかるのか、そこまで威嚇はしていなかったが警戒はされていた。

そりゃそうだろう。昔、なんらかの形で捨てたはずの奴らと似たような匂いがしたら警戒するはずだ。

俺も隙を見せないように武器を犬たちに向けて無言でにらみつける。

 

お互い対峙したまま両者とも一歩も動かずに10分がたった。

これ以上、時間を延ばすのはこちらとしてもまずい。

時間がたてばたつほど目的地に到着するのが遅くなり、こちらが不利になるのは明らかだった。

ほんの思い付きだった。

試しにまだ袋に入れる前だった解体済みの肉を奴らの前に投げてみた。

・・・あ、食べてる。

それを食べ終わると犬たちはじっと俺のことを見てきた。

なんとなくもう一度肉をあげてみた。

・・・食べてるよ。

それを何回か繰り返すうちに尻尾を振りながら、いわゆるお座りの状態になった。

もしかしてなつかれた?

とにかく、敵ではなくなったので解体の続きに入る。20分ほどロスしたがまぁ許容範囲だろう。

その後、解体が終わりある程度溜まったので移動を開始した。

もちろん犬たちもついてきた。人間慣れしているせいか、食べ物をくれる人を主人とでも思っているのか?

いや、犬は頭のいい動物だ。

きっと彼らなりの思惑があって俺についてきているのだろう。

どうせ食べ物を分けてくれる食料提供者程度にしか思っていないんだろうな。

「おい」

「「ワンッ!」」

「ついてくるのか?」

「「ワンッ!」」

「食べ物はあまり分けられないぞ?」

「「?」」

「付いてきても何もいいことはないぞ?」

「「ワンッ!」」

・・・こいつら、本当にわかって反応しているのか?

「ならこいよ。」

「「ワンッ!」」

そう吠えると、後ろをついてきた。

まぁ害にならないならいいか。

というか、犬と会話しようとしている俺もすこしおかしくなっているのかもな。

 

その後、数時間ほど歩くと人工物が見えてきた。

双眼鏡で確認すると以前使った建物が見えた。

どうやら目的地に着いたようだ。

さらに30分ほど歩き、ようやくたどり着いた。

太陽がもう低い位置にいたのでとりあえず明るいうちに行わなければならない家の中の整理や火をつけるなどの作業を行う。

暖炉に火がついて部屋がある程度明るくなることには太陽はすっかり沈んでいたので早急にしなければならないこと以外は明日に回そう。

外から雪を持ってきてお湯を作る。

お湯が沸くまでに今日取ってきた肉を同様に外の雪の中に入れて冷凍保存する。

 

ふと、今着ている服を見てみると腕や腹部などに血が付いていた。

慣れていない人が見たら卒倒するな。

お湯を飲んで体を温め、犬たちにも少し分けてやると俺と同じように飲み始めた。

しばらくすると眠気が襲ってきたので以前使ったのと同じベッドに横になる。

久しぶりの感触に安心したのかすぐ眠りに落ちることが出来た。

 

 

 

Another view side 502JFW

 

リョウが撃墜されて生死不明という突然の連絡から四日たった。

昨日帰ってきた伯爵やルマールも驚いていた。

皆、助けに行きたいのは山々だったがそこに様々な壁が邪魔していて、結局いつものスクランブル以外では禁止空域にすら近づけないのが現状。

私たちに出来る事は何もない。

ただ、サーニャ少尉や下原少尉が必死になって探してくれているのはわかっている。

帰ってくるたびに皆からどうだった?と聞かれて首を横に振るのを何回も見た気がする。

もし発見したなら帰ってからではなく発見したと同時に報告してくれるのはわかっているのに聞かずにはいられない。

そして二人がごめんなさいと私に言うたびに色々な意味を含めて心が痛む。

出撃待機しているときも空気がすこし重い気がする。

そしてみんな私に気を使って休んでもいいよ?といってきてくれる。

その心遣いは本当にうれしいけど、それじゃあ、駄目なんだ。

何かしていないと不安と悲しみで心がいっぱいになっちゃう。

そして今日もいつもの気象ブリーフィングを終えて朝食を食べる。

伯爵が気を利かせて無線機の調節をしているみたい。

ラジオも聞けるということでなぜか軍用の物がリビングにおいてある。

曹長が、彼が撃墜したあとに持ってきてくれた。

と、伯爵が本当にたまたま国際救難波にあわせたとき。

「・・・・o・・・・s・・・・」

なにか聞こえた気がした。

それに気がつかなかったのか伯爵はそのままつまみを回してしまった。

「伯爵!」

私が思いっきり叫んだのに回りがびっくりして私を見る。

「な、なんだい?」

「今の、チャンネル!もどしてください!」

「あ、あぁ。わかった。」

そういって伯爵が元の周波数に戻す。

「・・・・・・・・」

私は無線機のそばまで行って耳をスピーカーに近づけて耳を澄ませる。

「・・・こ・・・・1・・・。」

さらに細かな調節をすると聞こえてきた。

「こち・・・02・・・フレデリック・・・フォード大尉・・。」

断片だけど聞こえたその声の主にさらに驚愕する。

「リョウ!聞こえてるよ!」

「ッ!お・・・ウィルマか?よか・・・こっ・・無事・・・。」

よかった・・・・!

電波状況がかなり悪くて聞こえないが確かに彼の声だって一瞬でわかった。

「ねぇ、今どこ!」

「き・・・えない・・。もう・・一度・・・。」

「今の現在地は!?」

「・・・・だ、・・とこ・・だ。」

あぁ、本当に肝心なところが聞こえない。

「聞こえない!お願い、もう一度答えて!」

「なん・・・?いまは、・・・ない。・・・・事態だ。・・・ぞ。」

「お願い!聞こえる?」

突然口調が焦りを伴った言葉に代わったので何か起きているのかと悟る。

「どうしたの!?」

そして次の言葉を最後に通信が途絶えてしまった。

「愛してる。」

その言葉だけは本当にはっきり聞こえた。

辺りには雑音だけが響いた。

 

 

なにも考えられなくなってしまった。

ようやく生きているとわかったのに、なんで切れちゃったの?

せっかく手がとどいたと思ったのに急に離された感じがした。

ポン、と肩を誰かに叩かれた。

後ろを振り返るとそこには少佐がいた。

「軍曹、話は今聞いていた。」

「少佐・・・。」

少佐は優しく私に話しかけてくれた。

「ようやく・・・見つけたと思ったのに・・・・。」

「軍曹。」

もう一度呼ばれたので顔を上げて少佐の顔を見る。

その表情は私とは違ってまるで決心に満ち溢れているようだった。

「あきらめるのはまだ早いぞ。」

「え・・・?」

思いがけない言葉に思わず耳を疑う。

「大尉は少なくとも生きているんだ。それだけでも救いじゃないか。それにもしかしたら空を飛んでいるどこかのウィッチが場所を捕捉しているかもしれない。まだ、希望を捨てるには早すぎると思うぞ。」

「そうですが・・・。」

「軍曹!」

「はい!」

突然、怒鳴られて思わず返事をしてしまう。

「君は、彼がそんな簡単に死ぬと思っているのか?

君よりも彼と接している時間が短い私でもわかる、彼はそう簡単にはくたばるような男じゃないと。どうなんだ?」

「そんな事は!」

「ならば、信じてやりな。

そうすれば必ず帰ってくるさ。」

なんの保障もない言葉とはわかっているが、今はその言葉を信じてみようと思った。

叱咤されて目が覚めた。

そうだよ、今までは生死すらわからなかったんだから。

それに比べれば一歩前進したんだもん。

「わかり・・ました。信じてみます、いえ、信じます。」

「そうだ、その勢だ。」

少佐がそういうとみんなが励ましてくれた。

「そうだよ、隊長はずるがしこいからね。きっと大丈夫さ。」と伯爵。

「以前、かなり深い傷を負ってもけろっとしてましたからね。」とルマール。

「大尉よりも私、撃墜されているけど平気だから大丈夫!」とニパ。

「ふん、こんなんで死ぬのはだらしない奴だけだ。」と管野少尉。

「大丈夫ですよ、彼なら。」と曹長。

みんなが、リョウを信じているんだから、私も信じてあげないと。

顔をパンと叩いて気持ちを入れ替える。

「ありがとう、みんな。」

「まぁ、この借りは帰ってきたときにきっちり隊長に返してもらうから問題ないよ。」

伯爵がいうとみんな笑っていた。

「さてと、私もやれることをやるから君たちも事態が動いたら頼んだぞ。」

「了解!」

みんなあなたのこと信じているから。

いま、何が起きているかわからないけど、がんばって。

そして無事に帰ってきて。

そう私は願った。

 

Another view end side 502JFW

 

 

 

時間はすこし遡る。

午前6時、いつも通り起床する。今日は昨日なんかよりも良く眠れた。

それと火が消えかかっていたので火力を強める。

部屋が少し暖かくなったところで、続々と犬たちも起き始めた。

昨日の残りの肉を焼いて分け与えるとすぐに食べた。

俺もしっかりと食事を取り、昨日できなかった装備の補給などを行う。

栄養サプリメントなどが何個かあったのでそれを摂取し、数日分を取り出して袋に入れる。

これでしばらくは欠乏症に悩まされる危険性がなくなった、この錠剤が上手く機能すればの話だが。

さて、レーションの補給などいろいろやっているうちに0700になっていた。

502だともうそろそろ朝食を終えて今日の業務を開始するために誰か通信機の前にいるかもしれない。

国際救難信波でだせば誰かしら空に飛んでいる奴にでも聞こえればいいな。

通信機の電源を入れる。

くそ、ノイズしか聞こえない。

前回使ったときは問題なかったのに。

この通信機が限界を迎えているのかそもそものコンディションが悪いのか。

とにかく、発信してみるか。それしか俺には選択肢がないからな。

「こちらは502JFW所属のフレデリック・T・バーフォード大尉だ。現在、エリアR(ロメオ)中央のチェソヴォ=ネティリスキーから発信している。救援を要請する。」

ノイズのみか。

もうしばらく続けてみよう。

その後、五回程繰り返しているとどこかにつながったようだ。

「リョウ・・・え・・・よ。」

「ウィルマか、よかった。こっちは無事だ。」

誰がこちらの呼びかけにこたえたか断片的に聞こえてきた音声からでもすぐにわかった。

「いま・・・こ?」

「聞こえない!もう一度頼む。」

「い・・どこ?」

「エリアR,以前遠征で行ったところだ。」

「聞こえ・・・・も・・度・・て!」

「なんだ?いまは・・・。」

そう答えようとした瞬間、犬が一斉に外に向かって叫びだしているのが見えた。

なんだと思い、窓の外を見た瞬間その正体に寒気がした。

「すまない、緊急事態だ。」

「・・し・・の?・・・こた・・・て」

まずいな、もしかしたら死ぬかもしれないな。

だからあの言葉だけは言っておきたかった。

「愛してる。」

その一言を言い終えた瞬間、俺は瞬時に左に思いっきり飛んだ。

わずかに遅れて地上歩行型ネウロイのレーザーが家を貫通するほどの威力で突きぬける。

受身からすぐに立ち上がり狙撃銃と予備マガジンを取り、初弾を装填、ネウロイに立ち向かう。

6本足で歩いているそいつはまるで昆虫を大きくしたようなネウロイだった。

犬たちはさっきの攻撃には巻き込まれてはいなかったようだ。

魔力を顕現させて身体能力を底上げする。

体力の消耗も激しくなるがそんな事にかまっている場合ではない。

距離にして10m、お互い向かい合ったまま相対する。

月明かりがあるとはいえ、若干暗い。敵のあらゆるサインを見失わないようにじっと見る。

先に動いたのはネウロイだった。

敵のレーザーを紙一重で回避してこちらは敵正面を攻撃、コアの露出はなし。

敵右側側面に向かって走り出す。

ネウロイもこっちに走ってきた。

すかさずその場でジャンプして右側面前方と後方を攻撃、コア露出はなし。

着地して再び走り出そうとした瞬間にネウロイが後ろ足を使ってなぎ払うように攻撃してきた。

こいつ、近接攻撃も出来るのか!

体をそらし回避するもネウロイが真ん中の足を使って今度は刺すような突き攻撃を行った。

すかさず能力を使用し、敵の足に狙いを定めて

発砲。

銃弾がとがっている部分を破壊し、その着弾の衝撃で軌道がずれて俺にそれが当たる事はなかった。

次の攻撃に移るためにさらに敵の後ろに走る、ネウロイは先ほどの攻撃で少し体勢を崩しているのでそのうちに一気に走る。

その間に素早くマガジンを交換する。

そして後ろに回りこんで

発砲。

コア露出なし。

さてと、どうしたものか。

ふと、以前にみんなと地雷と地上ネウロイの話をしたときのことを思い出した。

たしか、地雷が最も効果的に使えた信管が接触型だったらしい。

地上のネウロイのコアは胴体下部に多いから、らしい。

・・・信じてみるか。

ネウロイに向かって思いっきり走った。

敵の足による突き攻撃を避けてネウロイの下に滑り込む。

そして真ん中を狙って。

発砲。

みんな、信じてみてよかったよ。

コアを破壊する事は出来なかったが露出はできた。

転がりながら素早く立ち上がり距離をとる。

場所はわかった、後はそこを破壊するまでだ。

俺は再び走る。

最後の一押しだ。

だが敵にとっては生きるか死ぬかの危機、奴は賭けに出た。

ネウロイがいきなり後ろの修復されたばかりの2本足を使って立ち上がったのだ。

そして残りの4本を振り上げて、俺に向かって突き刺そうとしていた。

思わず、予想外の攻撃に俺は止まってしまった。

どっちに回避すればいい?右か?左か?

ほんの一瞬の出来事がなにもしていないのに能力を使っているみたいに感じられた。

敵にとってはまさに好機の一瞬、それを逃すまいとネウロイは足を振り下ろした。

と、そのとき強い衝撃を受けて俺は右に飛ばされた。

素早く左を見ると犬が俺に体当たりをしていた。

おそらく動物の勘でとっさに判断してくれたのだろうか。

現にネウロイの攻撃は左にそれて俺や犬に当たる事はなかった。

 

 

素早く受身をとり、にネウロイを狙う。

ネウロイは攻撃のスピードを緩めることが出来ずそのまま突き刺してしまってのか、足が土に埋まって身動きできていない状態だった。

次はこちらの番だ。

今度こそ、倒す!

先ほどの攻撃で少しコアが出ているのでそこを狙い速やかに

発砲。

銃弾がコアを貫いてネウロイが爆発した。

喜ぶのもつかの間その爆発の衝撃で俺は吹き飛ばされ、思わず銃を手放してしまった。

しばらくの浮遊感ののちにまず右腕に衝撃を受け、その直後に背中に痛みが走った。

同時に頭もどこかにぶつけて一瞬星が見えた。

しばらくしてふらつきも収まってくると自分の状況が見えてきた。

どうやらまず飛ばされて、右腕に木の幹が当たった後に体が地面に叩きつけられたようだ。

しかも雪の上ならまだしも先ほどの攻撃で雪がなくなっており俺は頭を木の根にぶつけたようだった。

痛みをこらえ立ち上がり、戦果を確認する。

ネウロイは無事に撃破できたようだ。

だが、銃が木にぶつかったためか壊れてしまった。

これじゃあ、もう撃てないな。

荷物になるからこのまま捨てておくか。

銃をその場に捨てる。

よく考えたらこいつとはこの世界にきてずっと使ってきていたんだよな。

何体もこいつを使って倒したんだよな。

もう一度銃を取って改めて木に立てかけて敬礼する。

「ありがとう。」

思わず、つぶやいていた。

ずいぶんと俺も感傷深くなったものだな。

敬礼した際に痛みが走った右腕が熱を持ち始めたので、裾をめくると紫色に変色していた。

そこらへんの雪を拾って、押し付け冷却する。

他を確認すると左足のすねも打ち身をしていたようだ。

同様に雪を押し付ける。足の怪我は今後の進軍に影響が出そうだな。

とりあえず、拠点に戻るか。

 

 

拠点の家は半壊していた。

暖炉もなくなっていたし、そもそも家の半分がなくなっている。

残っている家も一部に着火しており近いうちに全焼してしまうだろう。

もうここに住む事はかなわないだろうな。

持ち主には悪いことをした。

「移動するか。」

「ワン!」

ここまでネウロイが来たという事はまた来る可能性がある。三十六計逃げるに如かず。

速やかに昨日冷凍した肉を回収し、その他装備を揃える。

本当はもう少し休みたかったので不満があった。

たが、ネウロイが破壊してくれたおかげでいいものが見つかりその不満もどこかへ吹き飛んだ。

スキー板が見つかったのだ。

これで移動速度も速くなるし、なにより歩くよりも足への負担も軽くなる。

すぐに靴を履き替えて、板に固定。

問題なく固定され、試しに移動してみるとスムーズに移動できた。

後ろを見ると犬たちも走っていた。

あいつらも走りたかったのかも知れない。

いままでゆっくりだったから犬も不満だっただろう。

だが、武器があとハンドガンだけというのが少々心細かった。

刀持ってくればよかったかも。

それにしても食料と、燃料はあと4日分か。

燃料はこれから先、補給できないだろうからかなり節約しないとだめだな。

 

地図を見て次の目的地を探す。

このままP41を使ってE105まで出られれば後はサンクトペテルブルクまで一直線か。

だいぶゴールが見えてきた。

「さてと、行くぞ!」

「「ワン!」」

掛け声をすると返事をしてくれる存在がいるのはありがたいものだな。

俺が滑り始めると全頭が走ってきた。

まだ、行程は半分も終わっていないがゴールがゆっくりだが見えてきた。

待っていろよ、必ず戻ってやるからな。

 

 

 

Another view side shimohara

 

私は飛行禁止空域ぎりぎりのラインを沿うように飛んでいました。

今日も特に発見できないまま任務終了時刻の0745が近づいていて少し焦りが出始めた気がします。

0700ごろ、遠くを見ていると一瞬何かが光ったような気がしました。

すかさず能力の遠視を使って何かを確認します。

もうひとつの能力の夜間視を使ってもさすがに直接正体は確認できませんでしたが、シルエットやその後光ったあの特有の発行色から地上型ネウロイと断定しました。

私はそれを監視していたのですがその10分後、突如としてそのシルエットが消えてしまいました。

周りに何かが飛んでいるのが見えたのですがわからずじまいでした。

とにかく、今確実にわかっていることは地上型ネウロイが先ほどまでは確かに存在していたのに突如として消滅してしまったということのみです。

なぜ消滅してしまったのかわからない今、この案件は早急に報告すべきだと判断しました。

「こちら502JFW所属の下原少尉です。あ、少佐。ええっと、・・はい。・・・いえ、少々問題が。・・・・はい。エリアR(ロメオ)です。・・・・・はい。よろしくお願いします。」

私は報告を終えて基地へと進路を取った。

この情報がなにか役に立てばいいのだけれど。

 

 

Another view end side shimohara

 

 




執筆以来、一番長くなりそうです。
ご指摘、ご感想があればお願いします。


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第40話 帰頭3

Another view side 502JFW

下原少尉からのネウロイの報告を私は司令室に入ったと同時に受け取った。

地上型ネウロイを発見したのが0700。

地上型ネウロイが消滅したのがその10分後。

そして、大尉との更新が途絶えたのは0700。

私はこの2つの案件が無関係だとは思えなかった。

仮にこの2つの事柄がつながっていたとしたら?

大尉は無線で何かが起きたようなことを言っていた。

それがネウロイに襲われたことを指していたとしたら?

ネウロイがいたのがエリアR(ロメオ)は以前遠征にも使っていた場所だ。

無線が設置されているはずなのでそこで交信したのかもしれない。

交信が切れたのもネウロイの攻撃を受けた、と考えれば全てがつながる。

「曹長!」

廊下で兵士と話し合っていた曹長を緊急の案件だと呼び出す。

「少佐?どうされました?」

「もしかしたら大尉の場所がわかったかもしれない。」

「え!?少佐、どういうことですか?」

私は自分の考えを曹長に伝える。

朝の交信のこと、下原からの報告を総合的に考えて彼の居場所を推定できたことを話した。

「・・・なるほど。確かにそれなら納得できます。」

「と、なると急いで捜索隊を出さねばな。仮に負傷しているとなると時間がかかりすぎるとまずい。」

「ですが、夜間ウィッチは今の時間では既に全機帰頭しています。魔力的に考えても捜索は不可能でしょう。そうしますと我々で向かうしかありません。」

「今日の出撃可能時刻は?」

「日の出時刻が0828なので0815には可能です。

エリアRでしたらここに到着するまで1時間30分はかかりますので予定到着時間はもろもろを含めて10時ですね。」

「そうだな。とにかく曹長は速やかに書類の製作に入ってくれ、私はメンバーの選定に入る。」

「わかりました。」

ようやく見えた希望だ、手放してたまるか。

そう思いながら私と曹長は作業に入った。

 

Another view end side 502JFW

 

 

 

そのままスキー板で時々加速をつけながら今までの道のりを一気に進む。

これなら今日中にサンクトペテルブルクまで一直線となるE105が通る町、リュパニまで到着できそうだ。

今日の天気は曇り、それも雲が厚いタイプだ。

経験から考えるにこれから数時間、下手すれば数十分後には雪が降り始める。

風はそこまで強くないから吹雪なんで状況にはならないだろうが少し不安だ。

怪我の件もある。出来るだけ無理はしたくないが兼ね合いが重要だな。

 

俺は今、昔は道だったところを走っているため今までとは景色がかなり変わっていた。

たとえば左には道の端を表す棒が立っており、約3kmごとに標識が立っている。

道端には戦車やトラックなどの軍用自動車が放置されていた。

昔はここに人間が住んでいた証拠ではあるのだが、今となっては虚しさを感じる。

ここまではもちろん順調だったのだが、ここに来て少し進軍速度が遅くなってしまった。

それは昼を食べ終わりひたすら進み続けて後、リュパニまで12kmというところで発生した。

 

滑っているとふと変なにおいがした。

犬の様子も少しおかしかった。

そして遠くのほうにでこぼこした地形や少し赤黒色の模様が見えたのでそれを確認する。

双眼鏡で見てみると何体かの動物が転がっていた。

道の凹凸、動物・・・地雷か?これだと遠回りをしなければいけないな。

強行突破して地雷を踏むなんて事はしたくない。

ただ、迂回ルートはないため森を歩いて遠回りするしか方法はないみたいだ。

スキー板を外して雪用の靴に履き替える。森の中じゃスキー板で移動できないので仕方がない。

「疲れたか?」

「ワフ。」

「ここの地雷原を抜けたら一旦休憩にしようか。」

「「ワン!」」

そういって、右側の森を抜けるルートを取る。

どこまで地雷が埋まっているのかわからないのでかなり遠くまで進路を変えた。

1時間はロスしたことになるが、背に腹は変えられないからな。

 

弧を描くような遠回りの道なき道を歩き始める。

時々コンパスと地図、あとは目印を確認しながら現在地を把握し、常に自分がどこにいるのかわかるようにしておく。

ちょうどいま俺が歩いているところが中間辺りになるのか。

そしてE105に出られれば後は一直線となり障害となるものも今までよりも一気に少なくなる。

そうすればさらに進軍速度も上がるから楽になるかもな。

リュパニにも何か物資が余っているかもしれない。缶詰なら数年持つものがあるから、もしかしたら食えるものが残っているかも。

通信機があれb

 

 

カチッ

 

 

体の動きと思考が一瞬にして全て停止した。

今、俺の右足は何を踏んだ?

馬鹿な、こんな事態が起きないようにわざわざ遠回りをしたというのに。

鳥が運んだ?

いや、何らかの事情でここまで流れてきてしまったのだろうか。

どちらにせよ、今俺はほとんど動くことが出来ない。

冷や汗が出てきた。

落ち着け、落ち着け。

頭の中の地雷に関する知識を総動員する。

踏んだ瞬間に爆発するタイプではなかった、という事は加圧式か。

一度重さがかかることにより、スイッチがオンになり重さが離れると爆発する。

この時代の地雷だから仕組みはそんなに難しいものではないといいが。

ただ、不安なのが設置してしばらく時間がたっているのでどこかが劣化してそれが爆発につながるのではないかという点だ。

「動くなよ、伏せ!」

そう命令すると、犬は伏せたままじっとしてくれた。

一度深呼吸して気持ちを整える。

いまここで失敗するとせっかくここまで生き残ったのに全てが水の泡だ。

疲れが何も解体に影響しないことを祈りながら作業を始める。

まず、リュックサックを下ろしその中からナイフを取り出す。

次に右足の周りの雪と土を払って地雷を露出させた。

しゃがんで表面のカバーを抑えているゴム製の押さえをナイフで切り取る。

そしてゆっくり慎重に解体を始める。

この時代の地雷の仕組みは幾分簡単だった、せめてもの救いだな。

何せ解除されることを裏手にとって解体のために導線を切った瞬間に爆発するタイプもあるくらいだしな。

 

半分の工程が終わったくらいだろうか。いつのまにか雪が降り始めていて肩に少し積もっていた。

その雪を肩を少しゆすって落したことで意識が外に向いた。

今まで手元に集中していたためか回りに注意が向いていなかった。

おかげで遠くから何かの音が聞こえてきたことに気がつけた。

だんだん音が大きくなり、その正体がなんだかわかった。

これは・・・レシプロ機!?

思わず顔を上げると、遠くから2人のウィッチが飛んでくるのが見えた。

すぐさま、リュックの中にしまってあるフレアガンを取り出すため、手を伸ばそうと思ったがそれが不可能だと気づく。

いま、手を離すと信管が作動する可能性がある。

埋設されてしばらくたっているから信管が壊れているかもしれないがそんな賭けには出たくなかった。

犬が空に向かって吠えているがあの高さじゃ、自機のから発する音でかき消されてしまうだろうな。

結局彼女らは道路の上空を飛び、やがて北に去ってしまった。

 

俺自身の不幸をこれほど呪ったことはない。

捜索隊は通常、一度飛んだ場所は二度と捜索しない。

通例なら、もうここには来る事はないだろう。道路に沿って飛んでいたという事はそのまま俺が使おうとしていたルートを使ってペテルブルクに戻ったはずだ。

つまり、俺が発見される可能性は限りなくゼロになったということか。

・・・続きをやるか。

その後30分かけて無事に地雷を無力化した。

ただ、そこにあるのは安堵ではなく今までの肉体的な疲労と精神的な疲労だった。

 

「行こうか。」

そういうと犬たちも付いてきてくれた。

 

 

Another view side 502JFW

 

司令部は我々が計画した作戦書を正式に承認した。

以前よりも巣から距離が遠くなり、なおかつ生存可能性が高かったことが理由だった。

捜索メンバーにはB隊とリトビャク少尉が付いた。エイラには待っていてもらう。

4人を緊急招集してブリーフィングルームで作戦の説明を行う。

「よく聞け。大尉は現在、エリアRのチェソボ=ネティリスキー付近にいる可能性がある。

詳細は時間がないから後で話すが下原が手がかりを見つけた。

私はその手がかりが大尉につながると信じている。

君たちにはその現場に向かってもらい、状況を確認してほしい。

なにか質問は?

・・・・よし、任せたぞ。

大尉を見つけ出してくれ。」

「「「了解。」」」

ようやく捜索に動けるということでB隊の面々の士気も十分。

きっと何かしらの成果を挙げてくれるだろう。

 

4人は0815に離陸、エリアRに急行した。

「大尉、そこにいるといいですね。」

「うん・・・。」

私はここ数時間で事態が急変しすぎていて、すこし思考が追いつかなかったので皆についていくのに精一杯だった。

とにかく、今は目的地に向かいことだけを考えていた。

 

迂回しながらようやく目的地に到着した。

雪がもう降り始めていてそんなに長い時間は捜索できないことも示していた。

空から見た様子だと家が既に焼失していたり、壊れている家もあり人の姿は確認できなかった。雪のおかげである程度延焼が防げたのかもしれない。

私たちはとにかく下に降りて捜索することに決めた。

「とりあえず、降りてみますか?」

ルマールの提案に皆がうなずく。

「そうだね、北方向から着陸しよっか。私とウィルマ軍曹で下に降りるからジョゼとサーニャは上空に残って警戒に当たってくれるかな?それとなにか空から見つけることが出来たら教えてくれる?」

「「了解。」」

現在もっとも階級が高い伯爵の指揮の下、捜索が始まる。

私と伯爵が下に降りて以前止めた場所と同じところでユニットを外す。

靴に履き替えて辺りを歩くとすぐに色々なものが見つかった。

部屋の中には放置されたままの錠剤、洗われた痕跡のないフライパン、血の付いたベッド。

どう考えても人間が使ったとしか思えない証拠がたくさん見つかった。

「うーん、どうやらここに人がいたとしか思えないよね。」

「そう・・・ですね。」

「でもこれは隊長さんが使った明確な証拠ではないね。」

「なにか、特定できるものがあればいいんですけど。」

その後、壊れてほとんど原型をとどめていない無線機が見つかった。

仮にリョウがここにいたとするならあの時交信が切れた理由が説明できる。

でも私の胸には一抹の不安は残ったままだった。

 

いつの間にか家の捜索から外の捜索に切り替えていた伯爵がまた証拠を見つけたようだった。

地面には爆発した後があったがどうやらそれではないらしい。

指差すその先には木に寄り添うように銃が立てかけてあった。

すかさず、少し積もっていた雪をはらって識別番号を確認すると以前一緒に取り付けたブリタニア空軍のマークと番号が刻印されていた。

間違いない・・・彼の銃だ。

「どう?」

「大尉の物で間違いありません。」

「そっか、ならある程度は絞り込めたってことだね。」

「そうですね・・・。」

でも、なぜリョウが銃を放置したのかわからなかった。何か原因があるのかも。

伯爵と話しながら銃を調べ始める。

「というか、現場を見るからに隊長さんが一人で地上ネウロイを撃破したと見るのが妥当だね。」

「確かにそうですけど・・・。」

本当に、生身の体でネウロイと対峙したの?

リョウったら本当にすごいんだね。

「まぁ、絶対に不可能って訳ではないよ。実際に、エイラの姉さんも似たような事したっていう武勇伝を聞いたことあるからね。」

「そうなのですか?」

「あくまで又聞きだけどね。」

アウロラ中尉もすごい人なんだな。

銃をよく見てみたら銃身が曲がっていたりスコープが壊れていたり同じ狙撃銃を使う身として一瞬でこれでは使えないな、とわかった。

「それじゃあ、今大尉は何で自分の身を守っているでしょうか?」

「ブリタニア空軍でも予備の小型自動拳銃を配備しているんだよね?」

「はい、私も一応持っていますが・・・。これだけで不十分だと思うんですよね。」

「だよね。でもこれより北ではここ数年、地上型ネウロイの発見報告はないから鉢合わせないことを祈るしかないね。」

「ですね。やはり、大尉は見つかりませんでした?」

「うん。残念ながら。現状を鑑みると周りを捜索していなかったってことは既に隊長さんは移動しているって事だよね。というか、撃墜した場所からここまで移動しているところを見ると最初から基地まで歩いて帰る気だったんじゃない?」

まぁ、リョウならその可能性もある。

もしかしたら、通信機を取りに行くためにここまで来たのかもしれない。

どちらにせよ、今日の朝までは彼がここにいて既にどこかに行ってしまった事は確かだ。

「それじゃあ、どこにいったんでしょうか?」

「そうだね・・・。」

『伯爵、軍曹。だんだん雪が強くなってきました。早くしないと帰れなくなってしまうのでそろそろ引き上げましょう。』

「了解、すぐ戻るよ。」

『大尉は見つかりましたか?』

伯爵と私はユニットを置いた場所へ歩きながら上の2人と会話する。

「いや、残念ながら。だけど、朝までいたっていう証拠は見つけた。移動手段が徒歩だと考えればそれ程遠くまでは行っていないはず。詳しくは上がってから話すよ。」

『了解です。待ってます。』

「それじゃあ、私たちも急ごうか。」

「了解です。」

ユニットに速やかに履き替えてエンジン始動。

回転数が上がり進路上に問題なし、離陸。

速度を上げる。

『敵発見、伯爵たちから11時方向。私がやります。』

サーニャの報告の直後、遠くの地面の山がいきなり膨らんでいきなり地面が破裂した。

そこからネウロイが一体、湧き出てきた。

この状態では私たちは攻撃できない、かといって離陸を中止することも出来ないのでこれは確かにサーニャに任せるしかないね。

離陸、体が地面から離れ始めるのと同時にネウロイが完全にその姿を現した。

しかしそのネウロイは攻撃することなく消滅した。

姿を現したの同時にサーニャのフリーガーハマーによる攻撃がヒット。

わずか数秒で爆散してしまった。

こういう時、やっぱり援護が要ると助かるね。

「って、地上型ネウロイってああやって出現していたんだ。知らなかった。」

「まぁ、私たちは主な戦場は空からだからね。サーニャ、ありがとう。」

『いえ、それが仕事ですので。』

 

しばらくしてサーニャとルマールと合流した。

「さて、これから大尉を探さなきゃいけないけどこの天気だとさすがに時間がない。よって帰るついでに昔道路があった場所をたどって北上して探索と帰頭を同時に済ませちゃおうと思うんだけど、どうかな?」

「いいと思います。」「そうですね。」「私もそれがいいです。」

「ok。さて、大尉が行こうとしている目的地の候補地は二つある。

ひとつは私たちの基地、もうひとつは集積基地。

ここからだと私たちの基地へは直線距離は短いけどいろいろ障害がある。集積基地へは直線距離は長いけど安心して進めるみたい。どちらも大尉が選択する可能性があるんだよね。

だから私と軍曹が502、サーニャとジョゼは集積基地方面にむかうルートを担当する。それでいいかな?」

「「「了解。」」」

「よし、それじゃあ雪が激しくなる前にとっとと隊長さんを見つけてあったかい暖炉にでも当たろうか。」

そういって二手に分かれて捜索を始める。

「少し高度を下げようか。視界がだんだん悪くなる。危ないと思ったらとにかく高度を取るんだよ。」

「了解。」

道路にそって北上を始める。

北上し始めて15分程たった頃真っ白な地面が一部赤だったり黒だったりするところを見つけた。

「伯爵、あれなんでしょうか?」

「あれは、地雷を踏んでしまった動物だと思う。」

「地雷・・・、そんなものも設置してあるんですか?」

「そうだね、あの時はみんな逃げるのに必死でいつか帰ってくるときのことなんて考える暇もなかったんだ。」

そして、私はその不安を抱いてしまった。

「大丈夫だよ、大尉はきっとそのこともわかってるはずだから。」

「そうですよね。」

そういって私はその不安を記憶の隅に追いやり彼を探すことに集中した。

まさか、そのすぐ下に探し人がいるとも知らずに。

 

結局基地にたどり着くまでに発見することが出来なかった。足跡も雪によってかき消されてしまいどこに行ったのかすら把握できなかった。

捜索は明日へ持ち越しということになった。

ただ、事態は少しずつ前進している。それだけが唯一の救いだった。

 

Another view end side 502

 

 

 

レシプロ機は再び戻ってくるという事はなかった。

解体後、地雷原を遠回りして道に戻り無事にリュドボに着いた。

しかしそこにあるのはただの廃墟。予想はしていたがいざ、この姿を見るとさすがにくる。

家だって旧前線基地ほどではないが骨組みしか残っていない場所も多い。

何とか風から体を守れる場所を見つけ、そこをキャンプ地とした。

まだ日の入りまで時間はあるがこれ以上進むと安全に夜を越せる場所がなくなるのでここにする。

とはさすがに何もしないというのもいけないなと思っているとたまたま鹿が通りかかった。すかさず犬達に追いかけるよう指示。

散々追い掛け回した上で最後に俺が鹿の頭をハンドガンで打ち抜いて狩猟は成功した。

燃料や食力を新たに確保して、あまった物は犬にあげた。

出来ればこうやって定期的に狩猟が出来ればいいのだが、そう上手くはいかない。

 

火を起こして燃えるものがあったのでそれに火をつけて暖をとる。

疲労困憊、炎に当たっているとだんだん暖かくなってきたので寝る支度をして寝袋に入る。

眠りにはすぐに落ちることが出来た。

 

 

遭難5日目

目を開けると真っ黒なものが見えた。

何だ!?

あわてて起きるとその正体は犬だった。

・・・鼻か。

時計を見ると0710、完全に寝坊だ。

急いで支度を始め、雪を火にかけて水を用意する。

犬に肉を分けて俺は残り2つとなった非常食の1つを食べる。

今日はなんとなくこちらを食べたい気分だった。

準備が出来たので火を消して出発する。

燃料はあと二日もしたらなくなる。

よく持ったほうだが、あと二泊三日でこの距離を突破する必要がある。

このスキー板がもし壊れでもしたら踏破は絶望的、なんとしてでも慎重にかつ速めに進まなくては。

 

ひたすら進む。

今日も昨日に引き続き空は雪模様でこれでは飛行機は飛べない。

今日中に飛行禁止空域を脱出する予定だがどうやら見つけてもらえる可能性は明日に持ち越しだな。

それにしても犬たちは元気だな。あまり食料を分けてあげられていないはずなのに元気に走っている。

俺を追い越して先に行ったかと思えば待っていて追いつけばまた先に行く、というのを

もう何回も繰り返している奴もいる。

そんなに楽しいものなのか?

まぁしっぽ振っているし、楽しいならいいか。

雪のせいで思うように速度が上がらなかったり、また地雷原を発見したせいで余計に長距離を移動した。

また、この辺りは斜面が多く上るのに時間がかかるという想定外の事態も起こったりした。

 

日の出まであと二時間という頃、出発してからすでに20kmを踏破した辺りで犬の様子がおかしくなった。

しきりにそわそわして道から外れるルートを取り始めたのだ。

「おい!」

ただ、犬はそいつらだけで行ってしまうのではなく時々こちらを振り返っては進んでいた。

まるで俺についてきてほしいかのような仕草さだった。

仕方ない、行くか。

 

道から外れて5分ほど移動すると洞窟が見えてきた。

ここに何があるんだ?確かに一晩過ごすのにはちょうどよさそうだが。

一匹が俺の服を引っ張ってきたので付いていく。

「わかったから、ほら。ちゃんと行くから。」

スキー板を外して洞窟の中に入る。

 

そしてそこに広がっていた光景を見て俺は全てを悟った。

洞窟の奥に壁に寄りかかるようにして既に息絶え長い年月がたったであろう人たちがたくさんそこには眠っていた。

「そうか。ここにいる人たちがお前さんたちの元ご主人、ということか。」

おそらくはここにいるという事は上のほうで行方不明の期間が規定を超えたということで既に死亡とはなっているだろう。中が空っぽの墓が設置されている人もいるだろうな。

近くで落ち込んでいる犬の頭をなでながらつぶやく。

「・・・また絶対に基地に帰らなければならない理由がひとつ増えたな。」

とにかく身分が明らかになるものを回収しないと。

一番近くにいたカールスラント陸軍高官の制服を着た彼の手に手帳があったので慎重に取り出す。

ぱらぱらめくっているとおそらく遺書だろうか、死ぬ直前に書いたと思われる手紙を見つけた。

 

それによると彼らが亡くなったのは今から5年も前らしい。

撤退を余儀なくされひたすら北に向かっていたところだった。

15人の兵士と4名の負傷したウィッチを載せたトラックはここの手前10kmでネウロイの攻撃を受けて大破してしまいそこから徒歩で移動していた。

と、そこで犬ぞりを使って移動していたオラーシャ軍の伝令兵1名と合流、一部荷物を載せてもらい移動を再開した。

しかし吹雪が強くなり洞窟へ避難。

安心かと思われたが一向におさまる気配もなくそれが3日も続き、ただでさえ満身創痍だった仲間はどんどん息絶えていった。

出発したときに全員で生きて目的地に着こうと約束したのに、どうやらそれは守れそうにない。

ウィッチたちにはそう長くはもたないであろう俺たちをおいてユニットで先に行けと何度も言ったのに付いていくといって聞かなかった。

今となっては遅いが銃で脅してでも行かせるべきだった。

結局あと数時間もすれば全員戦死するのは間違いない。

最後に、残されるすべての人へ謝罪を。

本当にすまない。

そう書かれていた。

 

 

戦争で華やかしい戦果を上げる奴らの裏にはこういう光が当たらないまま一生を終える奴もいるんだよな。

まずは生き延びないとな。

とにかく、今は彼らの身分がわかるものを回収しないと。なんとしても彼らの者を正しい持ち主の元に届けたい。犬たちにもその恩を返すことも含めて。

この時代だ、DNA鑑定なんてものはないから一度回収すると誰が誰だかわからなくなる可能性があったのでこの手帳に位置と番号を書いて証拠が残るように記録した。

もてるものといえばドッグタグ程度かな。

捜索していると手帳やかばん、缶詰(膨らんでいるが)などかなり色々なものが見つかった。

そして一番の収穫といえばこの犬ぞりの道具だろう。

犬につけるところ、土台、紐、放置されていたとは思えないほど劣化が少なかった。

おそらく洞窟の奥のほうにあったため外気にあまりさらされなかったためだろな。

明日からの移動でこれを使えるといいな。

ふと時計を見るともう日の入りの時間だった。

一旦作業を中止して、火をつけ暖をとる。

今日はここで一晩しのぐか。

犬たちと食事を取り作業を続行する。

2250に15人分のドッグタグの回収、位置の記録を完了した。あと個人を特定できる私物を彼らの持っていたなかで一番おおきなかばんに収納して今日は終了とした。

明日はいつも通りの時間に出れるな。

今日は体を横にするとすぐ眠れた。

 

 

“おい!”

・・・?

“起きろ!“

・・・人の声?あわてて体を起こす。

“ようやく起きたか。”

ここは・・・酒場?

どうやら俺は机でうつ伏せになって寝ていたようだった。

まて、状況が理解できない。

“ここがどこだかわからない様子だな。無理もない。まぁ、とりあえず飲むか?”

先ほどからの声の主は俺の正面に座っていた。そしてその男が俺にグラスを差し出してくる。

「まぁ、いただくさ。」

口の中に飲み物の味が広がった。それと同時に意識もはっきりしてきた。

「気に入ったか?これは俺のお気に入りなんだ。」

「悪くはないな。」

「そりゃ、良かった。」

周りには俺を含めて21人、広さはそれなりにあるから窮屈ではなかった。

一人で飲んでいる奴もいれば数人で盛り上がっている奴もいる。あっちには曹長と同年齢っぽい奴らもいた。

「ひとつ、聞きたいんだが。ここはどこだ?それとお前は?」

「まぁ、焦るなって。これだからブリタニア人は。紳士なのはわかるが厳格すぎるのはどうかと思うぞ。」

「・・・カールスラント人であるあんたには言われたくないさ。それに話がつながってないぞ。」

「言うなぁ、お前さん。気にするな。」

そいつは笑いながら俺のグラスにワインを注いできた。

「まぁ、それはあとにしよう。そんな事はいつでも話せるし、重要性はそれほどない。それで、最近の情勢はどうだ?」

話を変えやがって。まぁ、いいさ。後でじっくり聞けばいい。

「悪いな、このままだとペテルブルクはまたネウロイに取られちまう。早くこの状況を変えたいな。」

「そうか、ペテルブルクは取り戻したのか。」

「?」

「いや、こっちの話だ。カールスラントはどうだ?」

「相変わらず変化なしだ。一進一退だがこちらは進展なしだ。というかカールスラントのことならお前さんのほうが詳しいんじゃないか?」

「こちらにも事情があってな。」

「そうか。」

ワインを飲みながら色々なことを話していく。二本目を半分あけたところでふと何かに気づいたようだった。

「どうした?」

「どうやらあっちにあんたと話したがっている奴らがいるんだ。ほら、行くぞ。」

席を立つよう促され、そいつの後ろについていく。

案内されたのは奥のテーブル席だった。既に4人の少女が座っておりちょうど2席分あいていた。

「ほら、連れてきたぞ。」

「あ、隊長!ありがとう!一度でいいから話してみたかったんだ。」

「あんた、隊長だったのか?」

「あれ、言わなかったか?まぁ座れよ。」

席に座ると別の飲み物とポテトを差し出された。

「ありがとう。」

「いえいえ。」

そういうと4人の少女が俺をじっと見つめてきた。

変な沈黙があってなんとなく気まずい。隊長と呼ばれた男は別のほうに目を向けて酒を飲んでいた。こちらの事は一切関わらないとでも言いたげだった。

「・・・なんだ?」

「男のウィッチなんて初めて見たからどんなのか気になったんです。」

「ご感想は?」

「普通。」「普通だね~。」「どこにでもいそうね。」「言われなきゃわからないわ。」

いきなりひどくないか?

ま、そんなもんか。それをきっかけにたくさん質問を投げかけてきた。

「ジェットストライカーユニットってどんな感じなんですか?」

「速いし、レシプロじゃ体感できない世界を楽しめる。」

「「「「へー!」」」」

「それにしてもジェットか。俺たちが知らない間にそんなものまで出来ていたのか。」

ポテトをつまみながらそいつはしみじみ語っていた。

「結構有名な話だと思うんだが。聞いた話だと数年前くらいから噂にはなっていたそうじゃないか。」

「・・・まぁ、俺らは噂に疎いからな。悪いな。」

「いや、それならいいさ。」

「それで、どんな任務に就くんですか?」

「普通と変わらん。」

「502ってどんなところですか?」

「みな優秀だ。俺も付いていくので精一杯だ。」

「パウラって知っていますか?」

「曹長のことか、よく世話になってるよ。」

「パウラってまだ曹長なんですか?」

そういうと、みな笑っていた。曹長のこと知っているのか。

「パウラだったらもっと上いけるのにねー。」

「きっと物資横取りしてるのがいけないんだよ。」

曹長・・・お前・・・。

昔からそうだったのか。

「ウィトゲンシュタイン少尉は知ってますか?」

別の娘が話してきた。少尉?

「あの、のじゃ!のじゃ!言う奴か?」

「そうです。あの人元気にしていますか?」

「元気だが一匹狼気取っているみたいだぞ。幸いにもフォローしてくれる人がいるみたいだが。」

「そうですか、なら良かった。」

「伯爵はまだユニット壊しています?」

「最近はおとなしいな。だが壊すと俺が責任おわないといけないからこのままでいてほしいな。」

「たぶんそれは無理でしょうね。」

「だろうな。」

お互い思わず苦笑いをしてしまう。共通の知り合いがいると意外と話が盛り上がる。

そいつが変人だと余計に。

その後も15個くらい質問に答えた。

「ありがとうございました。初めて男のウィッチと話したけどそこまで変な人じゃなくてよかった。」

「うんうん、そだね~。」

なんかいつの間に打ち解けていたな。

久しぶりに人と話して俺の少しハイになっていたからかも知れない。

「それじゃあ、一旦戻るか。続きは君たちに任せて俺はこいつとまた飲むさ。」

「男同士の大事な話ですか?」

「そんなもんさ。いくか。」

「了解。」

そういって俺が席を立つと、一人が俺に話しかけてきた。

「あの!」

「なんだ?」

「もし、パウラと伯爵に会ったら・・・。」

「会ったら?」

「第4飛行隊のことはもう心配しないで大丈夫って伝えてもらえますか?」

「・・・わかった。絶対に伝えとくよ。」

「それと、姫様にもお願いします。」

「了解した。」

「「「「よろしくお願いします。」」」」

そういうと彼女たちは敬礼してきたので俺も答礼して4人に別れを告げ、元の席に戻る。

「どうだ?あいつら可愛いいだろう?」

「まぁ、元気だったな。」

「まったくだ。本当ならこんなところでくたばる必要なんてなかったのにな。」

彼はため息をつきながらタバコに火をつけ遠くを見ていた。その目には無念と悔しさがにじみ出ていた。

うすうすだが、俺はこいつらの正体に見当が付いていた。

噂に疎い、なのに俺のことを噂以上に知っていた、最近の出来事をしらない。それだけで十分だ。

おそらくは彼らの無念さが集まってこうなったのだろう。

この世界には魔法があるんだ、こんな奇跡みたいなことがおきたっておかしくない。

 

「それがずっと気がかりだったのか?」

「そうだ。それだけじゃない。俺が判断を誤らなければこういうことにはならなかった、ずっと苦悩しているさ。さっきはあんなふうに話せたがずっと胸に何かがつっかえている感じがする。」

「吹雪は想定外だった。それも普通じゃ数時間で納まる奴なのにそのときは何日も続いたんだろう?なにもあんたに責任が全部あるわけじゃない。ただ運がなかったんだろ?」

「あぁ、だがな。」

「あんたが言いたい事はわかる。たとえ想定外だったとしても結果的に全員を助けることが出来なかった。違うか?」

「・・・その通りだ。」

彼が酒を飲み終わるのを待って話を続ける。

「だが、仮にその吹雪のなか出て行ったとしてもどうせ結果は同じだった。あんたが洞窟に残る判断をしていたから俺はあんたらを見つけることが出来た。それを見ればあんたの判断は間違っていなかったさ。」

「違う!!」

突然グラスを机に叩き彼は叫んだ。おかげでグラスは割れ、周りの視線が全てこちらに向く。

「お前さん、部下はいるか?」

「3人を指揮下においている。少なくとも6日前までは。」

「隊長がなすべき職務はなんだ?」

「部下への命令と彼らの命を守る責任。」

「そうだ。俺はそれを守れなかった。

あんた部下を失った事は?」

「あるさ。最初は落ち込んだ、俺もあんたみたいに苦悩した。」

「なら・・・。」

「だがそのうち感覚が麻痺してくるとその悲しみさえ感じなくなる。」

驚いた顔をしてこちらを見てくる。

かまわずに俺は続ける。

「そいつは運がなかった。そう割り切り始める自分がいるんだ。あんたはこっち側に来ちゃいけない。その気持ちを忘れないことが何よりも部下への弔いになる。違うか?」

「だがな・・・。」

「あんたは部下の事を考えて、行動した。

その死を他の要因に擦り付けることなく自分で負っている。もう充分なんじゃないか?

そういうと、その男は言葉に詰まってしまいお互いが無言になる。

するとバーにいた一人が突然声を上げる。

「俺は、隊長と一緒に戦えて光栄でした!あの時の事は仕方なかったんです。もう一人で抱え込まないでください。」

「そうです!隊長は何でもこなす人ですばらしいですが、少しは我々にも話してもらいたいです。」

「なぜ自分ひとりで全てをこなそうとするんですか?」

一人、また一人と彼らが声を上げる。

「なぜだ、何故皆は俺を責めない?俺はあんたを死なせたんだぞ?」

「決まっているじゃないですか?なぁ?」「あぁ。」

 

そして口を揃えてこういった。

「隊長を信頼していたからだ。」

 

「隊長は常に俺たちの味方だった。上が無茶な命令をしたときも真っ先に抗議に行きましたよね?そんな隊長だったから俺たちは付いていった。

だから俺たちがあの時、結果的には死んだが隊長を恨む要素なんてどこにもないんだ。」

そうだ、そうだと回りも続けて同意する。

「わかってくれましたか?俺たちの気持ちは。」

 

「あぁ。・・・・ありがとう。」

 

しばらくしてようやく落ち着いたみたいだった。

「ずいぶん慕われているじゃないか。あんたが一人で抱え込んじまったからこんな結果になったんじゃないか?」

「・・・そうかもな。否定はしない。」

「というか、結局あんたらで解決しやがって。俺は必要なかったんじゃないか?」

「そんなことはない。」

「俺はな、あんたが来るまではずっと部下と話せないでいた。自分で距離を開けていたからな。だけどあんたのおかげでようやく距離を縮められた。きっかけをくれたのはあんただ。」

それなら良かったんだが。

結局おれの言いたいことだけをぶつけてあとはこいつらだけで解決したように思えていたが。

「それで、あんたはもう思い残す事はないのか?」

「いや、あるさ。もちろんこいつらにも。じゃなかったらこんなところにこないでさっさと天国に行っているだろうよ。」

「それじゃあ、時間のある限り聞こうか。」

「俺の持っていた手帳とタグを家族の下に届けてほしい。それと妻と娘にすまないと伝えてくれ。」

「わかった。」

「俺も!母さんにタグと形見の・・・。」

結局20人近くの要望を憶えることになった。最も、大抵は所持品を家族の下に届けてほしいということだった。

ただ、何人かは戦友に渡してほしいといっていた。ウィッチはそんな感じだった。

 

「さて、お前たち。こいつに何か伝え忘れた事はないか?」

誰もなにも言わない。

「了解した。それでは・・・っと名前を聞いていなかったな。」

「ブリタニア空軍、フレデリック・T・バーフォード大尉だ。さっきはないがしろにされたが今回は答えてくれよ?」

「もちろんだ。カールスラント陸軍、エッケハルト・リーネン少佐だ。バーフォード大尉、俺に懺悔の機会をくれて、そして皆と再会する機会をくれてありがとう。」

「こんな奇跡は俺が起こしたわけじゃない。それこそ神様に感謝すべきだ。俺はただ通り過ぎようとしていたが犬が連れてきてくれたんだ。」

そういうと、皆が驚いていた。

「そうだったのか。我々が紐を外した後、ちゃんと生きていてくれたのか。それじゃあ彼らにも感謝だな。」

「そうしたほうがいい。」

「大尉、それともうひとつ。俺の腰にナイフがあるはずだ。それを君に持っていてもらいたい。」

「いいのか?家族の元に届けなくて?」

「かまわん。大尉が受け取ってくれ。それは俺からの感謝の印だと思ってくれればいい。」

俺は頷いて

「わかった。」承諾した。

「それじゃあ、出口はあっちだ。」

少佐が指差す方向に、入り口と思われるドアがあった。

「そこから出ればきっとこの世界から出られる。大尉、あとは任せたぞ。」

「了解。」

そういって俺は彼らの部下の間を通り、ドアノブの手を掛ける。

「大尉。」

「なんだ?」

後ろを振り返り答える。

「ありがとう。」

そういうと少佐と彼の部下が敬礼をした。

俺も敬礼をして元にもどし、扉を開く。

まぶしい光に思わず手で顔を覆う。

するとだんだん意識が薄れていった。

そして完全に途絶える直前

-さらばだ、また会おう。

そんな声が聞こえた気がした。

 

 

Another view side ???

行ったか。

次第に俺の意識も薄くなっていく感じがした。

「君たちは本当に良かったのか?」

なんとなくだが聞きたい気持ちになった。

すると俺の副官であった少尉が答える。

「当たり前です、それこそ今さらですよ。」

周りの皆も頷いてくれた。

「そうか、ならよかった。」

そして意識も朦朧としてくる。

この感覚は以前の死ぬ直前に似ている。

だが、あの時とは違い今はもう後悔などはない。

ただ、未練が少し。こいつらと一緒にもう一度朝日を見たかった。

そして家族にも会いたかった。

でも、もういいんだ。あとは大尉が何とかしてくれる。

時間をかけてでも受け入れてくれることを願うか。

そして俺は目をつぶる。

さようなら、みんな。またどこかで。

 

Another view end side ???

 

 

遭難6日目

現在時刻、1110

ずいぶんと長い夢をみた。いや夢だったのだろうか?いつの間にか太陽も上がっていた。

こんな悪条件でよくこんな眠れたものだ。

まるで自分が経験したことのように思えた夢、ということにするか。

とにかく記憶が薄れぬうちに昨日の作業の続きをする。

一時間掛けて詰められるだけの荷物を全て集め、かばんに入れる。

朝食を済ませ、最後の出発準備として犬ぞりが使えるかどうか試した。

犬は特に嫌がることなくすんなり付けてくれた。

全て、問題なし。それじゃあ・・・っと忘れそうになってた。

一番近くの少佐のマークをつけた亡骸から言われたとおりの場所からナイフをケースごと取り出し、俺の腰につけた。

「それじゃあ、さらばだ。」

そういって前を向くと後ろで音がした。

あわてて振り返るとその亡骸の顔の骨の位置が少しずれていた。

なんらかの影響で動いてしまったのだろうが、なんとなく俺には彼なりの返答なのかもしれないと思っていた。

「GO!!!」

「「「ワン!」」」

俺が指示を出すと犬たちは一斉に走り出す。

残りの距離を考えて、上手くいけば今日中にペテルブルクにたどり着けるだろう。

 

 

 

走ること6時間、途中紐が切れるというアクシデントもあったが何とか応急修理を済ませて休憩を6回ほど挟み移動した。

すでに太陽は沈んでいる。犬にも疲れが見え始めている。

あと少しだ。

もう少し、俺たちは進み丘の上に着いた。

そして、俺の眼下には人工の光がもたらすきらめきが広がっていた。

ようやくここまで来た。あと少しだ。

最後の坂道を俺達は下り始めたのだった。

 




次回で遭難は終わりです。
3話くらいでまとめようかと思ったらこんなに長くなってしまった。

ご指摘、ご感想があればよろしくお願いします。


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第41話 到着

お気に入り150件ありがとうございます。


坂道を一気に下り、5日ぶりにサンクトペテルブルクに戻ってきた。

落ちる前までは当たり前のように見ていた景色も懐かしい。

同時にいつもは空から見ていた風景も地上から眺めてみると意外と大きいと感じた。

 

町に入る直前に犬ぞりから下りて徒歩で移動を開始する。

まだ街中は輸送用トラックを含めてかなりの車が走行しているためそれの邪魔にならないようにするための配慮だ。

それに犬ぞりで車道や歩道を走ると事故がおきそうだからな。

今までお世話になってきたサバイバル用品が入ったリュックはここで放棄する。

 

昨晩回収した遺留品が入ったかばんを背負って502JFWがある基地の入り口までの約5kmを歩く。目的地がもう目に見える場所まで見えているためか今まで散々蓄積していた疲労は感じなくなっていた。

「お疲れ様、助かったよ。それじゃあ、あと少しだ。」

「「「ワフ。」」」

「あそこに行けば食べ物とかをきっともらえるはずだから、そこまでがんばろう。」

「「「ワン!」」」

食べ物の話になると突然元気になるのは動物も人間もあまり変わらないんだな。

深夜の道を犬6頭連れてみすぼらしい服を着ながら歩いているのは我ながらなかなかすごい光景だと思う。

まだ1900で人通りも多い。時々驚いた顔でこちらを見てくる人もいる。

まぁ、こんな怪しさ100%で歩いていれば当然声をかけられるわけで。

「おい!」

「あ?」

振り向くと二人の警察官と思わしき人がいた。

「こんなところで何をしている!」

「帰宅しようとしているだけだ。疲れているんだ。早く解放してくれないか?」

「そういうわけにもいかない。ここは貴様のような浮浪者は認められない都市なんでな。」

まぁそう勘違いされても仕方がない格好をしている俺も悪いよな。

というかいつの間にか犬がいなくなっている。殺気を感じて先に逃げたのか?

「この国は見た目で人を判断するのか。まったく・・・。」

「なんだと?」

警官の一人が俺をつかもうとしたので思わず払いのける。

「公務執行妨害だ!貴様を逮捕する!」

まったく、こんなテンプレみたいなことしやがって。

今のやり取りで腹が立った。

振り上げられた右手を左手でつかみ右手で奴の頭を思いっきりこちらに引き寄せて鼻に膝蹴りを食らわせる。

今の一撃が効いたのか鼻血を出しながら気絶した。

もう一人が既に警棒を振り上げていたので、すかさず回避振り下ろした右手をつかみそのまま関節をまげて動かないようにしてから頭を壁に叩きつける。

こちらは気絶しなかったので敵が落した警棒で頭を思いっきり叩くと今度はちゃんと気絶してくれた。

だがちょっと回りに気を配るのを忘れていて目撃者がいたようだ。

さらに応援を呼んでいたのですぐに逃げる。

「まったくこの町は忙しいな!」

「ワン!」

いつの間にか俺の後ろを犬達が走っていた。

こいつら、俺を置いて逃げやがって。

路地裏に逃げ込み着ていた防寒具を脱ぎ捨てる。さっきは防寒具やフードをかぶっていた。

そしてあの暗さだから顔もわかんないだろうし犬は喧嘩を始めたときはいなかったからばれないだろう。たぶん。

少し寒くなったがこの下にはまだ上着がある。まぁ、何とかなるだろう。

サイレンが聞こえてきたのでこのまま走って基地まで向かった。

 

基地の入り口までひたすら走っていたのでもう疲労が限界に近かった。

さっきまではハイになっていたのに今のでどこかに消え去ってしまった結果、反動も加わって一気に襲ってきたのだろう。

2100で人の出入り口は閉鎖されるはずだからまだ時間的には大丈夫だろう。

入り口に近づくと守衛がいた。門番が一人、小さな小屋に一人か。

「止まれ!」

「ここの基地の者だ。身分証もある。」

あるよな?ポケットをあさるとちゃんといつもの場所から出てきた。

なくしたかと思った。

「確認する。」

守衛が俺と写真を交互に見る。

「了解、確認した。どうぞ。」

「ありがとう。」

身文書を返してもらい、俺は基地に入る。

久しぶりの基地に懐かしさを憶えながら俺は格納庫を目指した。

 

 

Another view

 

「あれ?」

「どうされました?フォーリー曹長?」

「伍長。バーフォード大尉って5、6日前に撃墜されて行方不明になった人じゃないか?」

「あー、そんな話聞きましたね。それがどうかしたのですか?」

「いやさ、さっきの奴の身分証にその名前が書いてあったから。」

二人は彼が歩いていった方向を見た。だがそのどちらもいるはずの人影を確認する事が出来なかった。

「おい、あの人が通ったのってほんの少し前だよな?」

「はい。」

「あそこに隠れられる場所なんてあるか?」

「ありません、防犯上の理由とかでそういうものをあえて何も設置していないと聞いたことあります。」

「じゃあ、なんでいないんだ?犬もいたよな?」

「・・・いませんね。」

「まさか・・・。」

「曹長?」

彼は真っ青になりながらよく噂に聞く亡霊の話をする。

「ほら、よく聞かないか?

故郷に帰れなかった魂が天に召されることなくこの世にさまよっている話とか。

これは大尉が基地に帰りたいと思ったまま死んでしまった結果幽霊になったとかじゃないか?」

「まさか!」

「でも、戦場じゃよく聞く話じゃないか。」

と、突然小屋の電球が切れた。

「「ギャーーー!!」」

きっと呪いだ。

もうそうとしか考えられなかった。

「ほら!間違いないじゃなか!」

「た、た、たしかに、そ、そう、曹長の、い、言うとおりかも、しれ、しれません!」

「とにかく、飲んで忘れちまおう!」

「そ、そうで、そうですね!」

そういって俺たちはすかさずウォッカを取り出して、それを飲んで忘れることにした。

今日は厄日だ。きっとそうに決まってる。

 

Another view end

 

 

 

 

ふらふら歩いていたら何かにつまずいて転んでしまった。

顔面に雪が当たって冷たい。

ふと横をみたら俺が転んだのを何かの命令と勘違いしたのか全頭伏せの状態になっていた。

立つのがだるい。

あー、何も考えたくない。

すこしこのままでいようかな。

と、思った瞬間後ろで叫び声が聞こえた。

うるさいな・・・。

さっきの叫び声でなんか気分が削がれたし、起きるか。

ゆっくり立ち上がって格納庫へ歩き始めた。

 

夜の時間になり、もう離着陸する機体がいないためか滑走路はかなり暗かった。

なんとか格納庫の入り口に灯っている明かりを頼りに俺の愛機がいる格納庫へ向かう。

 

格納庫を見つけて入り口を開けて入る、犬たちもついてきた。

格納庫には誰もいなかった。正確には俺のユニットを守ってくれている人がいるが。

先に確認するか。

「止まれ!ここから先は立ち入り禁止だ!」

「俺はその認められているうちの一人なんだが。」

「はっ?って大尉!?」

「おう、そうだ。通してくれないか?」

さすがに、こんな格好じゃ本人だってわからないか。

身分証を見せたらわかってくれたようだから何よりだ。

「失礼しました!いつお帰りに?」

「ついさっきだ。」

「はぁ、とにかくここには5日前にビショップ軍曹をお通しして以降、誰も入らせていません。」

「ご苦労さん。」

「ハッ!」

二人は敬礼して通してくれた。

そうか、ウィルマはちゃんとやってくれたのか。

久しぶりにみる愛機は確かに何も変わっていなかった、ただ少しだけ埃が積もっていた。

少しあけて確認したところ何もいじられた痕跡がなかった。

よかった。

『あれ、君たちどこから来たの?』

あの声は・・・下原か。

『さっきあけたときに入ってきちゃったのか?』

犬たちにでも話しているのだろうか?

俺は仕切りからでて辺りを見渡すと6頭の犬に囲まれながら彼らに話しかけている下原がいた。

「よお、これから哨戒任務か?ご苦労さん。」

「へ?」

狐につままれたような顔をしていた。

「えーーーーー!?」

そう叫ぶと下原は尻餅をついてしまった。

「うるさいぞ、下原。」

「え、だって、なんで、いるんですか?」

「その言いようはひどくないか?」

せっかく帰ってきたのに最初の言葉がそれか。

てっきり守衛が報告しているもんだと思っていたが。

「あ、申し訳ありません。あの失礼ですけどひとつ聞いてもよろしいですか?」

「いいぞ、許可する。」

「本物ですか。」

「あぁ、間違いない。少なくとも俺が認識しているなかではな。」

そういいながら、俺は手を差し出して下原を立ち上がらせる。

「あ、本物ですね。」

「だろ?」

服についた汚れをはたいてこちらを向いた。

「とっても、心配したんですよ?」

「それは悪かったと思ってる。」

「ウィルマさんにも謝ったほうがいいですよ?」

「もちろん。」

すると下原は笑顔になってこういってくれた。

「おかえりなさい。」

「あぁ。ただいま。」

下原が次の言葉をつむごうとした瞬間

「しーもーはーらー!どうしたんダ?そんな大声だしテ?」

エイラがはいってきた。そしてこいつも例に漏れず俺の顔を見るなり数秒こっちをじっと見た上で

「ンギャーーーーー!幽霊ダ!!!」

叫んだ。

「どうしたの、エイラ?そんな大声出して?」

「さ、サーニャ!幽霊ダ!」

俺を指差しながらそういってきた。

続いて入ってきたサーニャの反応といえば

「なに幽霊って?え?・・・・・・・・・。」

サーニャは特に叫ぶことなくフリーズしてくれた。

まぁ、予想通りの反応だな。サーニャが叫ぶ姿も見ては見たかったが。

「サーニャ、エイラ。俺だ。バーフォードだ。忘れたか?」

エイラのほを数回叩くと落ち着いてくれた。

「え?あ、ほ、本当ダ!」

「大尉・・・?」

サーニャは落ち着き、エイラは再び動き出したことでようやく俺を認識してくれた。

「サーニャ、あの時は君の荷物を俺のところに投げてくれてありがとうな。おかげで無事に生き延びることが出来たよ。」

「でも、大尉・・・。私はあなたを・・・。」

「あれはしかたなかったさ。それにちゃんとするべき事はしてくれたんだろう?サーニャは君の出来る事はちゃんとやったんだ、それで十分だ。」

「はい・・・。ありがとうございます。でも・・・。」

「俺は無事に帰ってこれたんだ。もういいじゃないか。」

「わかりました・・・。」

うっすらと涙を浮かべているところを見ると結構責任を背負わせてしまったのかもしれない。

「ごめんな、でもありがとう。」

「はい!」

頭をなでてあげるとようやく笑顔になってくれた。

「大尉!何してんダ!」

「エイラ!」

サーニャも思わず怒ってしまったみたいだ。まぁ、こいつは平常運転で安心した。

「何事だ!?」

廊下を走る音が大きくなり格納庫に少佐が入ってきた。

「いったいなにが・・・・。」

「よう、少佐。」

「・・・バーフォード大尉?」

さすが、少佐。いつでも冷静沈着。

「ブリタニア空軍、フレデリック・T・バーフォード大尉。ただいま帰頭しました。承認お願いします。」

「あ、あぁ。承認する。」

俺が敬礼すると少佐もちゃんと返してくれた。

「いつ戻った?」

「今です。」

「怪我は?」

「まぁ、死に直結するような怪我は何も。」

少佐は俺をみて、よううやく帰ってきたか、なんて独り言をつぶやいた上でねぎらってくれた。

「そうか、ご苦労だったな。」

「はい、本当に疲れました。」

そういった直後熊さんや伯爵、ルマール、曹長そしてウィルマが入ってきた。

「リョウ!」

そう叫ぶと俺に抱きついてきた。

「本物?」

「失礼な、本物だぞ。」

「生きてる?」

「もちろん。約束しただろ?かならず戻るって。」

本当に守れてよかった。

改めてそう思えた。

「うん。なんかすごいにおいする。」

「悪かったな。ここ数日野宿だったからな。」

「でも、あったかい。ようやく帰ってきてくれたね。」

「本当に、疲れたよ。ウィルマ。」

「ん?」

「ちゃんと手紙読んでおいてくれたんだな。」

「もちろん、だから信じられたんだよ。」

そうか、なら万が一に備えて作っておいて良かった。

これから先またこの手紙が必要になる機会が起きないように、俺もちゃんとしないとな。

「少佐。」

「なんだ?」

抱きつかれたまま少佐を呼ぶ。

「ここの手帳に書かれている者の親族がいるかどうか調べてもらえないか?」

そういって俺は手帳を渡す。

「?わかった。」

「それと、そこのかばんの中身は漁らないでもらえないか?」

「中には何が入っているんだ?」

「それは後で教える。今は無理だ。」

うっすらと意識が薄れていく。安心しきってどっと疲れが襲ってきたのだろうか。

「ウィルマ、すまん。少し眠るぞ。」

「うん、わかった。後は任せて。」

「頼んだ。」

最後、落ちる寸前にウィルマの声が聞こえた。

「おかえり。」

あぁ、ただいま。

 

 

次の日、0630

目が覚めたらベッドで寝かされていた。

あたりを見て置いてある荷物の配置から自分の部屋だとわかった。

誰かが運んできてくれたんだな。

それに服がずっと着ていた物ではなく洗い立ての物に変わっていた。

ただ俺の物ではなく病院で支給されているものなのだろう、アルコールの匂いが少しする。

しばらくするとB隊のみんなと曹長がお見舞い兼食事を持って来てくれた。

「起きた?調子はどう?」

「悪くはないな。」

「これ、朝ごはん。どうぞ。」

「ありがとう。」

俺が食べ始めると曹長が机に座ってなにやら書類を広げ始めた。

「それは?」

「2つあります。1つは昨日大尉が少佐に頼んだものですよ。私は見ることが出来ないので後でご確認ください。もうひとつは聴取です。かなり疲れていると思いますが撃墜されてから帰ってくるまでの間に何があったのか話してください。」

「最初からか?」

「全部です。大尉は撤退戦後初めて地上からここまで帰ってきた事例なんです。なので貴重な情報をほしいということで聴取することになりました。」

ま、当然だろうな。

そういえば・・・、

「ブレイクウィッチーズの皆は違うのか?」

あいつらもしょっちゅう落ちているからてっきりこういうのは行わないものだと思っていた。

「あの人たちは比較的近距離なんですよ。大尉ほどの距離からだとほとんど資料がないのでわからないので、おそらく初めてかと。」

「まぁ、わかった。話すよ。」

「よろしくお願いします。」

そして俺は最初から全てを話した。

撃墜されたこと。

何とかシェルターを作ったこと。

そしてひたすら帰るために移動したこと。

途中、敵とも交戦したこと。

全てだ。

・・・・・。

 

「・・・というわけだ。」

「話を簡単にまとめますね。まず撃墜された日はシェルターを作って退避、遭難1日目は救援を待って待機、次の日から移動を開始、2日かけて遠征で行ったところに到着。

次の日の朝に通信を試みるも途中にネウロイに遭遇。それからチュドボに移動、さらに2日かけてここに帰ってきた。間違いないですね?」

「そうだ。」

そう間違いがないと認めたはずなのに曹長はため息をついた。

「どうした?」

俺がそういうともう一回ため息をしてこちらを見てきた。

「だって、信じられませんよ。160kmを動物の力を借りたとはいえ踏破したんですよ?それもこのオラーシャの極寒の中をですよ?さらに熊や鹿を狩って食糧を確保したり挙句の果てには行方不明になっていた人たちを発見するとか・・・。

大尉って、いったいどんなびっくり超人ですか?」

「・・・それほめてるの?貶しているの?」

曹長はもう一度ため息をして俺をじっと見つめた後に続けてくれた。

「ほめているんですよ。本当に何者なのですか?どこでそんな知識を身につけたんですか?」

「本国で訓練の一環で収得したとしか・・・。」

「誤魔化さないでください。」

「本当なんだが・・・。」

「ブリタニアの航空歩兵の訓練では熊の狩り方を学ぶんですか?」

次に曹長はウィルマの方を向いて聞いた。

「少なくとも私はそんなのしなかったよ?」

「ですよね、安心しました。」

「というか、熊って食べられるんだ。知らなかった。」

「私もです。」

そうなのか・・・。

そうか、熊を食べるなんて文化があるのは意外と少ないのかもな。

「味は悪くはないぞ。」

「「「「へー。」」」」

その後もいろいろな体験談を興味深そうに聞いてくれた。

昼ごろになり、一旦皆が部屋から出て行った。

どうせ、今日は体が動かせない。

暇つぶしにと、俺はウィルマたちが持ってきてくれた新聞を広げた。

五日間、世間から離されていたが特に劇的に変わったことなどなく安心した。

戦況が変わっていたらどうしようかと思ったが特に東部戦線変化なし、か。

リベリオンで新型爆撃機が試験飛行に成功。

ガリア復興事業が本格的に始動、エリゼ宮にて統一政府初代大統領が宣言。

しかし、依然として難民問題、財政問題など課題が残る。

世界はゆっくりとだが動いている、それがネウロイに対抗できる決定打となる動きが現れるのはいつになるのやら。

結局、今日はただゆっくり体を休めるためだけに費やしたのだった。

 

次の日もベッドで横になりながら引き続き調書を作る曹長の質問に答えたり、遊びに来たみんなと話して終わった。

 

帰ってきて3日目。

「リョウ、外出しない?許可は取ったよ。」

いつも通り病院食を食べ終わるとウィルマが話しかけてきた。

外出か、今まで散々外にいたから帰ったらしばらくはゆっくりしたいと思っていたのにいざゆっくりしていると今度は外が恋しくなる。

そんな状況だったから本来はその提案には賛成だったのだが・・・。

「すまんが足の凍傷の関係で出来るだけ歩くな、と医者から言われているんだ。」

「知ってるよ、だから車椅子も用意したよ。」

ウィルマが一旦外に出て車椅子を持ってきた。

それは準備がいい事で。

そういえば、少佐から渡された資料の中にペテルブルクに住んでいる遺族もいたはずだ。

彼らの荷物を渡しにでも行くか。

「わかった。少し手伝ってくれるか?」

「了解。」

ベッドから降りて車椅子に乗り、かばんを取る。

車椅子ってどうやって前進するんだっけか?と戸惑っていたらウィルマが押してくれた。

どうやら今日は彼女の手助けなしでは外に出られないらしい。

「気になってたんだけど、そのかばんの中身は?」

「前に話しただろう?回収した遺留品だ。ここの町に何人か住んでいるみたいだから渡しに行こうと思ってな。」

「そっか、今日はぶらぶら基地の外を行こうと思ったんだけどそれを優先したほうがいいみたいだね。」

ちょうど、入り口辺りまで来ていたのでウィルマはそのまま車両担当のところまで行って車の鍵を借りてきた。

車の前まで押してもらい助手席に座り後ろに車椅子を載せる。

「俺は運転できないぞ?」

「病人に運転させるわけないじゃん。」

じゃあ誰が・・・、と思っていたら当たり前のようにウィルマが運転席に座る。

「・・・ウィルマって運転できたんだ。」

「うん、ここ最近はしてなかったけど。」

そういって車のエンジンを掛けた。

「それじゃあ、いくよ?」

「了解。」

・・・・・・。

?動かない?

「あ、アクセルとブレーキ間違えてた。」

不安だ。

 

 

 

その後は何とか急ブレーキ、急発進を繰り返しながら何とか事故を起こさずに全ての家を回ることが出来た。

遺族の方も数年ぶりに帰ってきた私物を見て発見者が自分だと伝えると皆、感謝してくれた。

本来であれば専門の人が軍にいるのだろうけど、今回はどうしても自分が渡したかった。

近いうちに回収隊がそこに向かい、全部持って帰ってくるつもりらしい。

それまでは何とか待っていてもらいたいな。

全ての家を回り基地に変えると曹長と伯爵たちがいたので彼女たちにも託されたドックタグを渡した。

最初は夢で会ったなんていったら疑われたが何とか説明して伝言を言うと、どこかに行ってしまった。

彼女にも思うところがあったのだろうか。

そんなこんなで今日一日が終わった。

 

 

そして・・・・。

「よし、怪我もだいぶ治っているみたいだね。体調面も問題なし。

試験飛行の許可を出すよ。」

帰頭4日目、実質9日ぶりに空を飛ぶ許可がでた。

ただ、いきなり実戦には出せないのでまず試験飛行ということになった。

評価はルマールとウィルマが行う。伯爵は基地待機だ。

いつも通りのブリーフィングをどこか懐かしさを感じながら受けて、格納庫に向かい愛機に搭乗する。

チェックリスト、問題なし。

滑走路への進入許可が下り、ルマールを先頭にして滑走路へ向かう。

いままで通り、何の問題もないはずなのに。どこかで不安を感じていた。

撃墜されたのだってあれが初めてというわけではないのに。

ただ一撃でも食らえばそれが即、死につながることを改めて感じさせられた。

そんな俺を見かねてかウィルマが俺の手を握ってきた。

「大丈夫?」

「問題ない、と言いたいところだが正直言うと不安だな。」

「手、震えているもんね。撃墜されて怖くなっちゃった?」

「ま、そんなところだ。」

そういうと彼女は器用に俺の正面に回ってきて額をつけてきた。

数秒か、数十秒、じっと目を閉じてあわせてくれた。

たったそれだけなのに、不安が少し和らぐ。

「大丈夫。私もいるから。それに今日は戦いは、なし。ネウロイが来たらすぐ逃げて。」

「そんな事しろと?何のために武器を持ってきたと思ってるんだ?」

一応、試験飛行いうことで小銃、ペイント弾搭載の機関銃、近接武器の刀を装備していた。

「今日は余裕があったら模擬戦闘やるって話でしょ。リョウは病み上がりなんだから今回は絶対に戦っちゃ駄目。上からの命令でしょ?」

「それは男としては情けないよな。」

そういうとウィルマはため息をついて俺の胸をつついてくる。

「今日は特別だから。これからは私を守ってほしいけど、今日だけは私に守らせて。たまには守ってもらう人の気持ちも味わってみるといいよ。」

俺としては守るというより、攻撃されないように少しでも早く敵を倒そうとしていただけだったんだがな。結果としてウィルマを守ることにつながっていたか。

「それはさぞかしいもどかしいだろうな。だが、わかったよ。今日だけは甘えるとする。」

「うん。それがいいと思う。」

そういうとお互い黙ってしまう。

「あの・・!」「えっと・・・。」

今度は同時にしゃべってしまった。

「ウィルマから先でいいよ。」

「リョウからでいいよ。」

こんなときでもお互い譲っていたらルマールが割り込んできた。

『あのー。』

「「ん?」」

『周りに言いふらすようにいちゃいちゃするのはやめてもらえますか?』

「「え?」」

どうやら通信機を通じてもれていたらしい。

ウィルマは顔を真っ赤にして慌てて離れていった。

別に、関係なんてばれているんだしそんな恥ずかしがらなくても・・・。

『B隊へ、離陸を許可する。風は微風、問題なしだ。』

管制塔からの離陸許可の通信が入ってきた。

「了解、離陸する。」

『それじゃあ、デートフライトでも楽しんでこいよ。大尉。』

「・・・了解。」

前言撤回。やっぱり、いじられるのは苦手だ。

そう思いながら俺はユニットの出力を上げ、空へ上がったのだった。

 




ご指摘、ご感想、誤字指摘があればよろしくお願いいたします。


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第42話 復帰

この時代の武器も少し出したいなと思い、書きました。
いつもよりも短いです。


変な冷やかしを受けつつ何とか終えた試験飛行。

帰ってきてからも色々な奴らに滑走路でのことを冷やかされた。

今度からはちゃんと無線が切れているか、外に会話が漏れないかを確認しないとな。

もうこんな事はこりごりだ。でもウィルマに励まされて不安も取り除けられたのもまた事実だからな・・・。

 

さて、試験飛行で俺の飛んでいるときのフォームや射撃時の体勢などが問題ないかの評価を行ったルマールが今、少佐と曹長を含めて3人で現場復帰してもいいかの話し合いをしているところだ。

ここで合格判定が下りれば現場復帰、不合格なら再試験まで引き続き飛行停止だ。

そして司令官室の前で俺はただひたすら待っている。

試験結果を緊張しながら待つ、というのも久しぶりだ。

自分では問題ないつもりでも何かミスでも犯していたらと思うとやはり不安だ。

中で何か話しているのか、さすが司令官室だけあって聞こえない。

今はただ、待つのみだ。

 

5分くらいがたった頃だろうか。

「大尉、お入りください。」

「失礼します!」

曹長が部屋の扉を開けて、入室許可をしてくれたので俺は部屋に入った。

曹長の指示の元、そのまま少佐の机の前に案内されて椅子に座る。

俺が座ったのを確認すると少佐が話を始めてくれた。

「さて。ルマール少尉が記録したデータを元に私と曹長で評価を行った。

回りくどいのは嫌いなんでね、結論から言おうか。」

そのとき俺はどんな顔をしていたのだろうか?

少佐は俺の顔を見て笑っていた。そして

「そんな顔をするな。全会一致で現場復帰を許可する。」

よかった。

これで不合格なんて判定が下りていたらどうしようかと思った。

「ありがとうございます。これからもご期待に沿えるように精進します。」

うむ、と少佐は腕を組みながらうなずく。

「少尉は君の飛び方を被弾して初の復帰飛行とは思えない綺麗な飛び方といっていたぞ。

狙撃銃を使う君が機関銃で射撃しても正確に標的に当てていたところもすばらしい。

だがな・・・。」

「なんでしょうか?」

「あれさえなければ完璧だったとさ。」

そういうと少佐は笑い、曹長はため息をつき、ルマールは少し顔を赤くした。

「これからはオープンチャンネルなんかでは絶対にしません。」

「そういう問題じゃないんですよ!」

すかさず曹長のつっこみが入る。

「まぁまぁ。彼もああ言っているようだし。それに彼女たちだって少しうらやましいんだよ。」

「うらやましい、ですか?」

「あぁ。私たちは国に身をささげた身だが軍曹は国と君に身をささげている、そんな状況がね。それにここじゃ、同世代の出会いが無いに等しいからな。程ほどにしてくれよ?」

「了解しました。」

俺は座ったまま、敬礼をして了承する。

 

「さて、君が以前まで使っていた銃は壊れてしまったそうだな?」

「えぇ、どうしようか考えていたのですが・・・。」

俺が今まで使っていた銃はあの時に壊れてしまった。

そのまま放置しておいたはずなのだがウィルマが後に発見、回収してくれていたおかげで無事に俺の手元に帰ってきた。ありがとう、さすがだ。

分解して修復可能か見てみたがバレルがおかしくなっていたりと到底撃てる状態じゃなかったのでとりあえずジャックに相談した上でロンドンに送りつけた。

ジャックは腕のいいガンスミスを何とか見つけて直してやるからそれまで待っていろといってくれたので俺はそれまで待つことにした。

一体何ヶ月かかるのか少し不安だ。完全に直せ、とは言わないが出来るだけ今まで通り性能を保持してもらいたいな。

でも元をたどれば壊した俺が悪いんだがな。

 

さて、修理が完了するまでつなぎの銃が必要となるのだが・・・。

「この基地で狙撃銃を使っている人っているんですか?」

「ポルクイーキシン大尉がたまに使っているくらいだ。後は全員機関銃だな。そもそもバーフォード大尉はなぜ癖のある狙撃銃を使うのだ?

使い勝手のいい機関銃のほうが軍曹とロッテを組む際、いいはずなのだが。」

「最初は俺がネウロイの装甲を削った後で止めをウィルマが刺す、という戦術を取ろうと思ってこうしたのです。今では2人で分かれても問題ない状態になってしまったのですがね。」

もちろん嘘だ。協力して撃墜するという点は間違ってはいないのだがな。

「なるほど、わかった。現状対装甲ライフルがポルクイーキシン大尉の使うPTRS1941しかない以上、バーフォード大尉が使う狙撃銃の修理が完了するまで彼女が使用を許可すれば実戦で使うのを認めよう。もちろん特例だぞ、そこはきっちり理解しておいてくれよ。」

「了解です、感謝します。」

ブリタニア人がオラーシャ軍の銃を使用するんだからな、特例だろうな。

というわけで俺がしばらくお世話になる狙撃銃が決定した。

 

この時間は熊さん率いるA隊がスクランブル待機なので少佐の許可の下、出撃待機室に向かう。

部屋に入ると熊さんはエイラに肩をもんでもらっていた。

何と言うかすごく新鮮だ。緊急出撃待機中とはとても思えん。

「あー、そこいいですね。」

「ここ?それとももっと上のほうカ?」

「はー、最高。」

「・・・何してんだ?」

俺が声を掛けるとまずニパが返事をしてくれた。

「熊さんがイッルに肩もんでもらっているんだよ。命令ー!とかいって。」

「なぜ、そんな事になったのか逆に知りたいよ。」

「それで?バーフォード大尉はどうしたの?」

「あぁ、熊さんに用事があってな。」

おい、熊さん!と俺が声を掛けようと思い、彼女のほうを見るとなぜかニヤニヤ笑みを浮かべているエイラがいた。あの顔は何かろくでもないことを考えている顔だ。

と、その瞬間。

「てやーー!」

「ぃったーーーい!」

熊さんが椅子から転げ落ちた。

そして床に丸くなりながら肩を抑えている。

エイラはおそらく力を目いっぱい入れて熊さんの肩でも押したんだろう。あれは確かに痛いしな。

「大丈夫か、熊さん?」

「うー、痛いです。」

「熊さんが悪いんだゾ、あたしに命令で肩をもませるなんてするからだ。」

「なんでそんな事したんだ?」

「エイラさんがいつもトラブルを持ち込んでくるので仕返しにと思ったんですよー。」

なんか、熊さんも大人気ないところあるよな・・・。

っと、こんなことしている場合じゃなかった。

「熊さん、PTRS1941を貸してもらえないか?俺の狙撃銃が壊れてつなぎを探しているんだ。少佐も許可は出してくれている。」

「いいですよ。私もほとんど使っていないですし。」

よっこらしょ、とつぶやきながら熊さんは先ほどの椅子に座る。

もう肩は大丈夫なのだろうか?

「バーフォードさんもこれを機に機関銃に乗り換えたらどうですか?」

「なぜだ?」

「だって、機関銃なら弾の生産量も多いですし銃の代えもすぐ利きます。こんな面倒くさいことにもならないですし。」

まぁ、それは一度は考えたがすぐにやめた。

「それも一理あるが俺は狙撃銃を使うよ。なれた方を使いたいのは当たり前だろ?それに・・・。」

「それに?」

「もし、これから機関銃じゃ太刀打ちできないほどの装甲を持ったネウロイが現れたらどうする?そんな時対装甲ライフルならまだ応戦できるだろう。つまりはそういうことだ。」

「なるほど、バーフォードさんもしっかり考えての結論なんですね。なら私はもう口出しはしません。PTRS1941はユニット格納庫の近くにある武器庫の3番棚の一番下にあります。

詳しくはケースの中にある書類を読んでください。」

「ありがとう。大切に使わせてもらうよ。」

そういって、俺は出撃待機室を出ようとすると電話が鳴った。

曹長がすかさず受話器を取り数秒後に叫ぶ。

 

「スクランブル!」

A隊4人が一気に跳ね起き扉から出て行く。

「行ってきます。」「行ってくるゾ。」「・・・行く。」「じゃねー。」

「行ってらっしゃい。幸運を。」

熊さん、エイラ、管野、ニパが走って格納庫に向かって行くのを俺は敬礼をして見送った。

しばらくしないうちにユニットの始動する音が聞こえてきて滑走路に向かい始めた。

熊さんが手を振っていたので俺も振り返すと彼女は少し笑顔になった。

しかし、すぐまじめな顔に戻り滑走路に進入、一気に速度を上げてやがて4機は空に舞い上がっていった。

上昇後、進路を西に取りしばらくすると見えなくなった。

それにしても、西方面か。

カールスラントにあるネウロイの巣からバルトランド、スオムス方面に向かうネウロイの迎撃に向かったのか。

ここ最近はずっとノヴゴロド方面の迎撃ばっかりだったから珍しいな。

 

ま、今は狙撃銃を借りるとするか。

武器庫の鍵は既にもらっているので鍵を開けて三番棚を探す。

比較的入り口から近くにあったのですぐに見つけられた。

だが、俺はその大きさに驚くしかなかった。

シモノフPTRS1941。全長2140mm、重量20800g、使用弾薬は14.5x114mm、銃口初速は1012m/s、有効射程400mのセミオートマチックライフルだ。

弾薬は主にオラーシャが製造している。弾頭重量は59.7g~66.5gまであり俺は鉄鋼焼夷弾を使用する。100mで射撃した場合、60度傾斜した40mm鋼板を貫通させられる。

威力は問題ないのだがでかい上に重い。近くにいた兵士を呼んで台車にケースを乗せるのを手伝ってもらったほどだ。

 

何とか射撃場まで運んでケースから銃を取り出してセッティング、銃弾を装填してスコープを取り付けてうつ伏せになる。

まずは撃ってみるか。

微調整を行い射撃、今までとはまた違う音が辺りに響いた。

いままでの使用弾薬が12.7mmだったのでそれよりもさらに大きい弾丸を使っているせいか、少しパワーが上がった気がした。

命中精度はこの距離なら許容範囲だろう。そもそも弾丸が大きいおかげで機関銃を使っているやつらよりもそれ程弾道がずれる心配がないので幾分らくだ。

次に飛んでいるときをイメージして立った姿勢で射撃を行う。

しかし、構えようにも腕がプルプルする。

なので魔法を発動させて身体能力を底上げした上で再び姿勢を正す。

しかし全長が2m近くあるのでなかなか怖い。

そして1発撃ってみたら予想通り、反動でひっくり返りそうになった。慌ててバランスを取って何とか銃も落さずにすんだ。

そして、目標からも少しずれていた。

その後4発ほど撃ったが・・・・、これは少し練習が必要だな。

と言うか対装甲ライフルと立って射撃すること事態が端から見れば異常だよな。

でも何とか使えそうだ。今までよりも距離を詰めて射撃すれば一撃かもしれない。

試射で使える弾がなくなったので移動時の練習を兼ねて台車を左手で押して、右手で銃を担ぐようにして移動することにした。

あれ?このポーズって・・・。

\デェェェェェェェェェェン/

 

格納庫に戻り銃を愛機の近くに立てかけた。

しかし、熊さんはあんな小柄な体でこんなでかい銃を一体どうやって使っていたんだろうな。

新しい弾薬箱から弾丸を取り出して詰め込んでいく。

カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、カチッ。

 

約半分が詰め終わったところで急に警報がなった。

顔を上げるとそこには『HOT S/C』のランプが点灯していた。

スクランブル!

A隊が緊急出撃中ということで臨時待機していたB隊の面々が走ってくるのが見えた。

弾丸は10発、弾薬の数に少し不安を覚える。

万が一敵の増援がきたら、と思うが彼女らがいれば問題ないだろうと情けないがそう思い不安を払う。

ユニットに乗ってエンジンスタート。

やれやれ、同時に2方面に対してスクランブルがかかるのは不運だが早速新しい銃を試す機会が出来たと思えば幸運か。

銃を両手でしっかり保持して予備の弾薬を持って出撃する。

先行して滑走路への誘導路に向かい、その途中で3人と合流する。

「遅いぞ。」

「ごめんね、隊長さん。それにしてもそれが新しい銃?すごく大きいね。」

「俺もこの大きさには予想外だがな。」

「私も、対装甲ライフルなんてバーフォード大尉の以前使っていたものと私の妹が使っている奴しか見たことないからね。」

そういえば、ウィルマの妹も対装甲ライフルを使っていると以前聞いたことがある。

今度話を聞いてみたいな。

全員揃ったところで滑走路に進入して出力上昇、ジェットストライカーユニット特有の爆音を響かせながら離陸する。

昔は嫌がられた音だが今は俺を識別するひとつの手段でもあり、また象徴のひとつでもある。

進路を南に取り、編隊を編成、速度と高度を上げる。

地上からの誘導の元、迎撃空域に向かい該当空域中央で敵ネウロイを発見。

小型ネウロイ6機の編隊でまっすぐペテルブルクに向かっている。

「伯爵、ルマールは右翼を。俺とウィルマが左翼を、それぞれ担当する。いいか?くれぐれも落ちるなよ。それとあとあと面倒くさいから被弾もするな。Engage!」

「「「了解!」」」

全機が敵機上空から一気に攻撃する。

すれ違いざまの攻撃後の散開。502では最もポピュラーな初撃方法だ。

一気に高度が下がる中、ネウロイからも小型のレーザーが飛んでくる。

回避しながらもコアの位置を特定して

射撃。

着弾。

少しずれてしまったがすかさずウィルマが止めを刺して、

交差。

Break.

後ろで3機が一気に爆散した。伯爵とルマールとウィルマが撃墜か。駄目じゃん、俺。

あれがネウロイではなく普通の航空機だったら俺の一撃で翼を破壊したので間違いなく撃墜だったのだが、と言い訳じみたことを考えてしまった。

反転、上昇。

敵も同様に散開し、そのうち1機がウィルマに張り付いた。残りの2機は伯爵、ルマールに向かった。彼女たちなら小型1機程度なら問題なく落すだろう。

「ウィルマ、出来るだけ同高度で回避運動してくれ。」

「了解!」

俺はウィルマが引き付けている高度よりもさらに上から攻撃を行うことにした。

ネウロイよりすこし上から狙いを定める。

まだ、敵はウィルマに集中しているためかこちらには気づいていない。

今がチャンスだ。彼女の安全のためにもここで撃墜する!

さっきは狙ったところよりも上にずれた。

射撃時の反動が予想よりも大きかったからだろう。

それを考慮して狙いを普通よりも下にする。

ゆっくり体が動き、自分が調節した上で完璧だと思うところにクロスをあわせる。

だがさすがは21kg。敵の機動に対して、思うように狙いが定められない。

すこし振り回されてしまう。

何とか狙いを定めて

-能力発動。

世界が遅くなる。

そして一番先頭にあるコアに狙いを定め、

-解除。

射撃。

そして弾丸は上手い具合に吸い込まれていき、しかし少しのずれを含みながら

着弾。

一気にコアを貫いた。

撃墜は出来たが狙いは正確に中央を狙ったはずなのに右にずれた。

ま、これは慣れの問題だからな。

と、思った矢先すぐ下のほうで続けざまに爆発音。

最後の2機が散っていった。

伯爵とルマールもやってくれたか。

しかし、今までよりも敵さんの機動性が悪くなった気がする。以前ならもう少し手こずるはずなんだがな。

ま、いいか。今の状態じゃろくに敵のことも調べられない。

PTRS1941も使えることがわかっただけでもいいとするか、伯爵も何も壊していないみたいだし。

こんな風にすぐ終わるような展開がこれからも続いたほうが俺としても安心なのだがどうせ続くわけがない。

またすぐにネウロイの性能も上がるだろう、そこからが勝負だ。

そんな事を思いながら俺は集合の号令を掛けて編隊を組み、帰頭するのだった。

 

 

基地への帰頭後、報告書を書いていると伝令が来た。

「バーフォード大尉。ロンドンのブリタニア空軍司令部からお手紙です。司令部のブリアニア課に届いておりますので至急お受け取りに向かってください。」

「あぁ、了解した。」

届けてくれないところを見ると、そして俺に直接取りに来いなんていわなかったところも見るともしかしたら重要な案件なのかもしれないな。

なぜなら、どこかで誰かに中身を見られる、という時代が起きないように本国の人間のみが扱えるルートで届けられたのだから、そして俺が直接取りに行くなんてしたらそれこそ怪しまれるからな。

すぐに少佐の元に行き、外出許可と車両使用許可を取り付けて司令部に向かう。

司令部、ブリタニア課。

本国より派遣された人が東欧司令部管轄内で作戦行動中の軍人が本国と連絡を取る際、ここが中継地点となる。

まぁ、俺は直接連絡と取る手段を持っているからあまり利用した事はないがな。

受付に話をつけて封筒を受け取りすぐに帰る。

たまたま入り口近くで電話を終えたばかりの少佐がいたので帰ったことを伝え、部屋に戻り封筒を開封する。ジャックからの報告書と、もう数枚のTOP SEACLETと押されている作戦書を読み進める。

そして、そこに書いてあったことに俺は驚きを隠せなかった。

確かに、この書類はこのルートじゃないとまずいな。

 

 

 

ガリア解放後、ペテルブルクを除く全てのネウロイの活動が沈静化した。

そのため連合軍司令部の中にネウロイとの戦いを避ける派閥、穏健派が勢力を強めてきた。

その派閥が立案したのがネウロイとのコミュニケーション実験作戦。

同時に攻勢派も反抗作戦を立案、こちらは既に実行されている。

506が出来たのもこの反抗作戦に投入するためだと思われる。

だが、開始して間もないがあまり戦果を上げられずにいる。

そのため穏健派が次第に発言力を増しつつあるのだ。

同時にヴェネチア方面でも人型ネウロイが数回確認されていることも穏健派の勢力拡大につながった。

結果としてコミュニケーション実験作戦が立案され実行されることとなった。

実行は今年4月X日。

作戦名は “トラヤヌス作戦”。

 

 

 

 

こうして、世界は休むまもなく再び大きく動き始める。

 




出典
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A2%E3%83%8E%E3%83%95PTRS1941
https://ja.wikipedia.org/wiki/14.5x114mm%E5%BC%BE
ご指摘、ご感想があればよろしくお願いします。


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第43話 ヴェネツィア戦(上)

大体この話はアニメ2期の1話より前らへんです。
結構長くなりました。



時は過ぎ、4月となった。

まずヨーロッパ戦線の近況について説明しよう。

501の活躍でガリア上空のネウロイの巣が破壊されたこともあり連合軍は以前より計画されていたガリア奪還作戦を敢行、結果パ・ド・カレー上陸に成功した。

その後も同時多方面作戦によりパリ、ベルギカ国境付近のセダンの奪還に成功。

さらに部隊は北上を続ける、がカールスラント国境付近で残存ネウロイ部隊とこう着状態に陥ってしまった。

この状況を重く見たブリタニアのモンドゴメリー将軍はライン川空挺突破作戦を実施した。ベルリンの近くにFOBが出来れば反抗作戦時に重要な基地になると考えられこの作戦は承認され、実行されたが結果は失敗。

事前の偵察不足や無理な進行計画が災いしたと言われている。

この結果攻勢派は発言力を失い、逆に穏健派の勢力拡大につながった。

快進撃にもストップがかかり、ヨーロッパ戦線は再びこう着状態になり面倒くさくなりそうだ。

なにか状況を一変させるような、それも人類側に有利なことが起きてくれればいいのだが。

そしていまだもってトラヤヌス作戦実施日もわかっていない。わかっていたら絶対ジャックから偵察命令が来るだろうし。

ここまで情報漏れがないのは逆に珍しいんだがな。

 

さて、こっちはどうなのかと言うとペテルブルク防衛戦後、しばらく空中哨戒任務を任されていたウィッチたちはここの対空砲やその他防衛火器の数が揃ってきたこともあり3/31をもっていなくなった。

そしてその任務は今現在、502が担当している。

最近も喜ばしい(?)事にネウロイの出現数も増えて毎日A隊かB隊のどちらかがスクランブルに当たっている。

着実に撃墜数も増やして夏辺りには幻の3桁台にいくかもしれない。

他の場所と比べてもそもそもの1ヶ月あたりの出撃回数が世界各地の平均よりもはるかに高いため当たり前でもあるか。

自分としても生きているうちに撃墜数が3桁に手が届きそうになるなって思ってもいなかったのでうれしいのだが、素直に喜べない自分がいる。

その理由の1つは自分が使っているユニットがこの時代で使うにはあまりにも強すぎることにある。性能だけを見てもこの時代のユニットと比べれば点と地ほどの差がある。

レシプロは一度被撃墜をしていることもあったここ最近は敬遠気味だったし、仮にレシプロユニットのみだったらきっとこの撃墜数に到達するまでもっと時間もかかっただろう。

ちなみにもう1つは周りの仲間たちにあったりする。指揮官の少佐は人類第3位の撃墜数を誇り、伯爵やルマール、曹長やエイラと言うか彼女たちのほとんどが撃墜数だけを見れば俺を上回っている。

自分で言うのもなんだが俺がエースだとすれば彼女らはまさにエースオブエースだ。

東部戦線では100機落したら一人前、一流と呼ぶのは150を超えてからという空気がありいまだ俺は一人前にすらなっていない状況である。

俺が勝っていることといえあえて挙げるならば飛行時間くらいだろうか。

とにかく、絶対評価はいいほうなのだが相対評価になると劣ってしまっているため素直に喜べないのである。

「隊長、もうすぐ3桁だね。ようやく一人前になってきたんじゃないかい?」

そして、それを面白がっているのか伯爵もいじってくるのがさらに嫌だ。

「そういうお前は撃墜数3桁行っているのにいまだに一人前じゃないな。」

「ほほう、私が一人前じゃないと?」

そういうと伯爵はポーズを決めてくる。いわゆるセクシーポーズって奴だ。

そんなポーズされたって欲情しないぞ、俺は。

「それじゃ聞くが、今年に入って伯爵が壊したユニットの数を教えてくれないか?」

「はい!」

そういうと右手を掲げ親指から中指を使って3のポーズと取る。

「それは全損のみだろう、破損も含めてだ。」

そういうと伯爵の顔から汗が出始め、残りの薬指と小指をゆっくり広げようとする。

しかしなかなか動かそうとしない上に・・・、

「おい、左手はどうした?」

「うッ!」

そう、こいつが破損も含めて本格的な修理が必要になった回数は片腕じゃ足りなかった。

そしてついさっきも右エンジンから煙を出しながら帰ってきたばっかりだ。

消火班も緊急出動して着陸直後に彼女のユニットに消化剤をやって何とか鎮火したという事態があったのだ。消化剤をかぶってしまったので大部分の部品の交換が必要だろうな。

ちなみに、今は鎮火した直後に曹長から怒られるのを恐れた伯爵が逃げてきて隠れた先にたまたま俺がいて話をしている、という状況だ。

「俺を一人前ではないと豪語する伯爵は、さぞ被撃墜数も少ないんでしょうね?」

「そ、それは・・・。」

そういうと、伯爵は一歩後ろに下がった。

「そういえば、さっきの被弾の件。報告書を書いてもらいたいんだが?かまわないな?」

「いまは、忙しいから後にしてもらえないかな?」

「今すぐに書いてくれないか?」

俺が笑顔で言いながら一歩進むと伯爵も一歩下がる。

「そうやって、部下に責任を押し付けるのはどうかと思うよ?」

「そもそもこの件はお前の責任なんだから伯爵が負うのは当然だろ?」

「責任を取るのが隊長の仕事じゃないの?」

「部下の命に責任を持つのが指揮官の仕事だ。」

どっちかが一言喋るごとに俺は一歩進み、伯爵は一歩下がる。

彼女は気がついていないが、もう少しで伯爵は逃げ場を失う。

「いま、私の命が危うくなっているみたいなんだけど・・・?」

「被弾するほうがよっぽど危ないだろ?被弾しないように注意するのもまた隊長の仕事だとは思わないのか?」

その言葉を最後に、伯爵はついに逃げ場を失ってしまった。

チェック。

「何か言い残す事は?」

「え、えっと・・・。」

数秒黙った瞬間、伯爵の目が急に変わった。

この目をするのはいつもろくでもないことを思いついた時だった。

俺も少し警戒する。

「隊長。」

「なんだ?」

「ごめんね?」

彼女が思いっきり俺の股を狙って足を振り上げてきた。

すかさず、防御するがその一瞬で伯爵は素早く身をこなして逃げた。

「伯爵!!」

「あっはは!」

彼女は全力で走り、扉から外へ出る。

「じゃあねー、まだ半人前の隊長さんー!」

しかし、ちょうど扉の段差に躓いて転んでしまう。

まるで漫画みたいな転び方しやがったぞ。

俺も慌てて部屋から出ようとしたが、そこで気づいてしまった。

外にものすごい負のオーラをまとった曹長がいたことに。

「は・く、しゃ・く?」

「ひっ!」

あんな笑顔で言われたらさすがに誰だっておびえるよな・・・。

鬼の曹長、なんて俺は心の中で勝手に呼んでいる。

「伯爵、報告書は?」

「い、いま書こうと思っていたんだよ!なのに、隊長が私のことを襲おうとするから・・・。」

「大尉?」

あの野郎、俺のことを巻き込みやがったな。

舌打ちしたくなる衝動を抑えて、冷静に曹長に返答する。

「そいつは息を吐くように嘘をつく。知っているだろう?」

「そうですね。そうでした。それで、伯爵。なにか言い残す事は?」

「隊長の裏切り者ー!」

「連れて行け。」

「了解。連行します。」

曹長がそういうと伯爵の首根っこをつかんでずるずる引きずっていった。

伯爵が暴れているが曹長の持ち前の怪力でどこかに連れて行った。

ま、自業自得だろうな。

ふと時計を見るともう1330だった。

腹も減ったし、食堂に行くか。

 

自分の分の食事を取り、席に向かうとルマールとウィルマが食べていたので隣にお邪魔させてもらう。

「あ、大尉。遅かったですね。」

「あぁ、伯爵の相手をしていたからな。」

「あー、伯爵また今日もやらかしちゃいましたからね。さっきも曹長がすごい形相で食堂に入ってきたかと思えばあたりを一瞥したらまたどっかいっちゃったんですよ。

それでどうしたのかと思っていたのですが、その件でしたか。」

「まったく。もう少し伯爵には自重してもらいたいものだな。」

今日の昼は一週間に一度の和食でご飯とか魚だった。

彼女たちと話しながら先に骨を全部とってからいざ食べ始めようと思った矢先、

『バーフォード大尉、バーフォード大尉。至急通信室に来るように。』

呼び出された。持っていた割り箸に力が入り、ボキッという音をして折れた。

「あー、お疲れ様です。」

「大尉、ほらがんばって!」

「・・・行ってくる。」

「「いってらっしゃい。」」

2人に慰められながら俺は急ぎ足で通信室に向かう。

 

通信室に入り、通信機の前に待機している奴に話しかける。

「それで、誰からの通信なんだ?」

「ロンドンです。ダウディング大将が至急お話になりたいと。緊急回線からでしたから。」

ジャックが?

そう思いながら俺は受話器を取る。

「バーフォード大尉です。」

『大尉、緊急事態だ。ブリタニア空軍秘密暗号通信でコンタクトを取る。周波数は315だ。5分後に通信を開始するからユニットで聞け。以上だ。』

ジャックは一方的にそういうとすぐに切ってしまった。

「どうされました?」

通信兵はこちらの顔をうかがいながら聞いてきた。

「さぁな、俺もわからんさ。」

そういって俺は通信室を出た。

だが、先ほどの有無を言わせぬあの雰囲気から何かが起きているのは間違いないので俺は急いで格納庫に向かった。

 

格納庫に入り、ユニットを起動。

周波数を事前に言われているものに合わせてコンタクトを待つ。

程なくして通信が入ってきた。

『聞こえるか?』

「あぁ、よく聞こえる。状況説明を頼む。」

 

 

 

『トラヤヌス作戦が失敗してヴェネツィアがまずい状況になっているらしい。』

 

 

 

なんだと?いつの間にトラヤヌス作戦が実行されていたんだ?

というかなぜジャックが事前に把握できなかった?

と聞きたい衝動を抑え、まずは話を聞く。

「詳しく頼む。」

『といってもあちらが混乱しているらしくて状況がいまいち把握できていない。10分前に全滅との報告が入った戦車隊が先ほど航空支援を要請してきたくらいだ。指揮系統すら怪しい。』

なんだそりゃ、ロンドンに支援要請をしてくるあたりその混乱具合は半端なさそうだな。

「なるほど。俺は偵察でもしてくればいいのか?」

『理解が早くて助かる。この通信が終わり次第、すぐに出発してくれ。命令書は既に東欧司令部に送ってある。大尉は表向きはロンドンに向かうことになっている。だが本命は状況偵察だ。出来るだけ早くヴェネツィアに向かい時間が許す限り偵察を行え。』

「了解した。」

『任務の詳細は30分後にこの周波数から行う。常に注意して置くように。以上だ。それと・・・。』

「わかっている、必ず生きて帰るさ。」

『あぁ、前みたいに落ちるなよ?今度は帰ってこれないぞ。』

「了解、通信終了。」

 

それにしても相当、面倒くさいことになりそうだな。

近くにおいてある先日修理が完了した狙撃銃を手に取り、初弾を確認。予備弾薬をいつもよりも多く持ち緊急用の高カロリークッキーと水を素早く飲んでエネルギー補給を済ませる。

いつもの狙撃銃の修理が間に合ってよかった。

ジャックが何とか見つけてくれたガンスミスが気合と根性で直してくれたらしい。

多少、スペックダウンしているがまぁ許容範囲だろう。

PTRS1941を持っていくなんて事にならなくて本当に良かった。

 

ユニットのエンジンを始動。

離陸準備に入る。

「管制塔。司令部より出撃許可は下りたか?」

『あぁ、たった今来たところだ。ロンドンに緊急で向かうとは大変だな。滑走路への進入を許可する。進入後は速やかに離陸しろ。着陸機、離陸機、共になし。風は南方向に2m/s。Good luck.』

「了解。」

誘導路を経て滑走路に進入。そのまま滑走路での一時停止も行わずに離陸する。

だんだん小さくなっていく建物に目を向けながら俺は進路を西に取った。

 

離陸後、ペテルブルクのレーダー範囲では進路をロンドンに取った後探知圏外に出た後スーパークルーズまで一気に高度、速度を上げてネウロイ、人側の探知できない領域に入る。

しばらくすると315から通信が入ってきた。

『聞こえるか?』

「あぁ、感度良好。」

『よし、今わかっている範囲で説明する。本日現地時刻1300にトラヤヌス作戦が実行された。しかし原因は不明だが作戦は失敗。新しいネウロイの巣が出来てそこから多数のネウロイがヴェネツィアに向かっているとの事だ。大尉には援軍として参戦してもらうと同時に情報収集を行ってほしい。まず、上空到着後、限界高度で1時間、無線や情報収集ポッドから情報を集めろ。

収集した情報は現在、地中海に展開中のブリタニア海軍派遣艦隊旗艦、“プリンスオブウェールズ”に周波数315で送れ。1時間経過後はブリタニアからの増援部隊として派遣されたように見せかけて、戦闘を開始。以降は南欧司令部の指示に従え。何か質問は?』

「派遣期間は?」

『追ってこちらから指示するが1週間程度と見込んでいる。他には?』

「問題ない。」

『了解した。頼んだぞ。南欧司令部管轄内でのコールサインは“シルフィード”、本部コールサインは“オーバーロード”だ。通信終了。』

 

シルフィード、か。ずいぶんと懐かしい。まさかその名前を使うことになるとはな。

偵察時間が1時間なのはおそらくこのユニットの性能がばれないようにするためだろう。

サンクトペテルブルクとヴェネツィアの直線距離は約2000km。

この機体の巡航速度のM1.75を保てば1時間程度で到着する。しかしこの時代のジェット機、たとえばMe262だと水平飛行時でも870km/hしか出せない。

そう考えるとこの距離を飛ぶのに2時間以上かかる。よってこの1時間と言うのは表向きは最高速度で、実際には時間調整の意味を兼ねて計算された時間なのだろう。

 

巡航速度で最短コースをとり出発後約1時間でヴェネツィア上空に到着した。各地で煙が上がっており、既にそこは戦場なのだと認識させられる。

俺は高度22350mから旋回しながら偵察を開始する。

各種可視光線・赤外線カメラ、赤外線ラインスキャン、コンフォーマル・マルチバンドESMセンサー、そして無線傍受から情報収集を開始する。

『こちら第13戦車隊、どうした!航空支援はまだか!?』

『ネウロイが多すぎます!どちらからか増援を回す事は出来ませんか?』

『504は一体どうしたんだ?』

『4人以上が既に負傷して戦線を離脱している模様!巣からの増援を抑えるので限界だ。漏れたやつらはそちらで何とかしてくれ!』

『くそ、こんなときに限って!』

『こちら3-2-1-B、味方に多数の負傷者が出た、至急救助を要請する。』

『出来ない、そちらで何とかしてくれ。』

『砲撃支援を要請する。地点C-O-258792に対し集中砲火を要請する。』

『あぁ、駄目だ!その地点は文化保護の交戦規則により攻撃が禁止されている地区だ!』

『オーバーロードからウォーハンマー3指揮官へ、地点254175へ移動しろ。聞こえたか?』

『ウォーハンマー3からオーバーロードへ。ウォーハンマー3指揮官は死亡!命令は了解した!』

無線を聞きながらその悲壮に満ちた声に耳を傾ける。

だが、俺は何もしない。ただ情報を集めるだけだ。

・・・・。

 

 

30分ほど偵察を行っていると大まかな状況がつかめてきた。

市民の誘導もいまだ実施中、海軍からの艦砲射撃も空軍からの航空支援も陸軍からの砲撃もヴェネツィアという歴史を持つ都市ゆえに思い通りに行われていなかった。

いまだ本格的にまずいという意識がないのだろうか?もっと危機感を持つべきだ。

いままでこの近くにあったネウロイの巣は中規模だった。それゆえにそこから来るネウロイもそれ程脅威ではなかった。

だからトラヤヌス作戦の実行地に選ばれたのだけれど。

しかし、いま出来ているのはさらに2周りほど大きくなったまさに要塞のようだった。

ネウロイの巣の大きさとそこから来る敵の数や強さが比例しているとなると地中海、そして第31統合戦闘飛行隊にまで影響を及ぼす可能性だって出てくるというのに。

 

ま、そんな事は俺には関係ないことだ。全てはここの指揮官が決めるべきことだ。

俺は情報収集結果を暗号通信を使用しプリンスオブウェールズに報告していく。

そこで人が何人死のうが今の俺には関係ない。

俺やジャック、そしてウィルマに何かしらの影響がでるまではの話だが。

ただひたすら報告していった。

 

結果としてこの世界で一番速くヴェネツィアで起きている戦闘の全貌を把握できたのは当事国のヴェネツィア公国でもなく隣国のロマーニャ公国やオストマルクでもなく、一番海外から兵士を派遣している帝政カールスラントでもなくブリタニア連邦だったのはまた別の話。

 

1時間がたち、プリンスオブウェールズに対し、情報収集行動の終了を宣言して一旦元来た方角へ引き返し再び今度は高度を下げてヴェネツィアのレーダーにあえて映るように高度6000mから進入してコンタクトを取る。

「シルフィードからオーバーロードへ。援軍として到着した。どこに行けばいいのか指示してくれ。」

『東欧の魔術師様か!ようやく来てくれたか。ロマーニャ公国第23飛行隊から救援要請が来ている。新米ばっかりで練度が低い部隊だ。至急援護に行ってやってくれ。貴機の3時方向高度3200m、相対距離23kmで交戦中だ。』

「了解。急行する。」

先ほどの無線からの情報で既に何人かの死傷者が出ている部隊のはずだ。

場所も本部の微妙な誘導なんか頼りにしなくても正確にわかっている。

すでに混戦状態になっており見るからに絶対に連携なんか取れていない。

いままでは中規模のネウロイの巣だったということで新米の練成にはちょうど良かったのだろう。あの部隊は運がなかったんだろうな。

しかたない。

急行している間にもまた光点が1つ減った。

そろそろまずい状況だろうな。

「シルフィードより、23飛行隊へ。これより援護する。Engage.」

『遅い!』

こっちだって好きで遅れたわけじゃない。

右下でネウロイ2機に追われている少女の上についてすかさず攻撃。

ペテルブルクのネウロイと装甲の厚さが異なるのか中型ネウロイにも関わらず、2機とも一撃で落すことが出来た。

ビンゴ!

これはうれしい誤算だ。今までは2回攻撃しなければ撃墜できなかった敵がここでは一回で落せる。もしかしたらネウロイの巣が新たに出来たことも関係しているのかもしれない。

ジャックに報告しとくか。

まぁ、今はその誤算に感謝しよう。

すぐ背後から別のネウロイが急速接近してきたので右急旋回でひきつける。

上空からもさらに1機、先ほどの状況とはまったく逆になった。

だが、俺だってこんなところで落されて死ぬわけにも行かない。

すぐに速度を上げて高度を上げる。

俺の上昇速度に反応できなかった一機をすぐ下に捕らえることが出来たのですかさず射撃

撃墜。

爆煙で一瞬なにも見えなくなるが心に一瞬危機感が芽生えたのですぐにシールドを展開する。

直後、俺を追ってきたもう1機が放ったレーザーが煙を貫いてシールドに直撃した。

だが良かったなどと安心する暇もなく再び今度は左旋回してコアを最も狙撃しやすい場所に移動する。

しかしネウロイも弱点をかばうようにして機体の腹を見せ、俺からコアを守るような姿勢になり今度は逃げようとした。

だが、俺にとっては結局のところ関係ない。

機関銃なら貫通できないだろうがこちらは銃弾の大きさだけでも1.5倍以上あるんだ。

「チェック!」

発砲。

俺の射撃でネウロイの回避行動もむなしく12.7mm弾はコアを貫いた。

貫通直後爆発し、やがて破片も消えていった。

直後に後ろでも爆発音が聞こえた、友軍が落したのだろう。

索敵レーダーにも敵影はなく、空域がクリアになったことを確認した。

ここの飛行隊の隊長がこっちをじっとにらんでくる。

もっと早く来てればとか言いたげな目をしていたが俺は無視して本部と通信を行う。

「シルフィードからオーバーロード、片付いた次はどこだ?」

『シルフィードか、さすがだな。次は港湾部に向かってくれ。大型地上ネウロイが出現して民間人にも多数の死傷者がでており第14戦車隊も手を焼いている。敵数は4、頼めるか?』

「了解、任せてくれ。」

俺は手早く通信を行い、すぐここを離れる。

次の港湾部では偵察時でも救援要請や攻撃要請が行われていたがそのほとんどが拒否されていた。おかげでここでも無視できないほどの損害が出てきていた。ウィッチ隊から見れば大型ネウロイ4機は倒せない程の脅威とはいえないが、地上部隊からすればかなりの脅威だろう。

「シルフィードから第14戦車隊隊長へ、航空支援だ。どちらから進入すればいい?」

『よくきてくれた!北方向から進入してくれ!市場付近にいる大型ネウロイが目標だ。確認できたか?』

「了解、目視した。攻撃5秒前。」

通信を終えると同時に急降下。

北から道路にそってネウロイを捕捉。

スコープで大型ネウロイのコアを捕らえて

-射撃。

着弾。

さすがに大型、一部を露出したが撃破は出来ない。

続けてもう一発、さらにその隣にいたネウロイにも二発12.7mm弾を浴びせる。

着弾して一瞬の間をおいて2機の大型ネウロイが爆発した。

だが、あと2機。

残弾は1発。一旦離脱するのも手だが俺には策があった。

コアに向けて射撃を行う。

もちろん一発じゃ撃破は出来ない。

だがコアは露出した。

そしてすぐに銃から手を離し反動で背中に回してすぐに腰からナイフを取り出して

 

ネウロイのコアにそのスピードを上乗せして突き刺した。

 

かつて、ワイト島時代に隊長が見せてくれた技。

ジェット機の速度を持って突き刺さったナイフはそのままコアにめり込んで

爆発した。

 

俺は突き刺した瞬間にシールドを展開し、ユニットの出力をゼロにする。

そしてネウロイが爆発、俺はシールドの方向を微調整して進路を少し変える。

そして変わった先には最後のネウロイ。

すぐに扶桑刀をとりだして

-能力発動

最後の1機のコアの位置を特定する。

右前足の胴体側の付け根を狙いに定め

-解除

もち手に左手を添えて体を思いっきりひねって

「はあッ!」

ネウロイごとたたき切った。

そのままの速度を保ったまま市場を抜けてすぐに体を安定させて上昇する。

「シルフィードより第14戦車隊、隊長へ。オーダーにあったネウロイは全て撃破した。

他に何か必要か?」

『・・・・。』

「おい!」

『・・ッは!あ、いや。問題ない。ありがとう、助かった。』

「了解した。通信終了。」

俺はまだ高度5000まで上昇する。

「シルフィードからオーバーロードへ。片付いた。」

『了解した、シルフィード。次は・・・・。』

 

俺はこの後も3時間ほど飛んで今日だけで12機撃墜、撃破した。

 

司令部の指示でロマーニャ公国領の飛行場が対ヴェネツィア戦の航空隊前線基地となったのでそこに向かう。

途中、ロマーニャ空軍のウィッチ隊と合流。

そのままエスコートされながら基地に向かう。

「そっちの状況はどうだった?」

『ぜんぜん駄目です。倒しても倒しても一向に減りません。こっちの被害が大きくなる一方なのに敵本陣には一度も損害を与えられていませんし。このままでは・・・。』

これから夜間に入れば航空支援も難しくなる。

地上部隊は依然として戦っているのが心苦しいのだろうか。

だが夜間になれば同様に敵飛行型ネウロイも少なくなるはずだからそれは夜間ウィッチに任せればいい。

問題は夜間ウィッチが裁ける程以上のネウロイが襲来する可能性があることだな。

俺が出撃する可能性も考えておかないと。

とりあえず、ついたらシステム関連のチェックだな。

 

30分ほど彼女らと速度をあわせながら飛行して前線航空基地が見えてきた。

滑走路は2本、ここからヴェネツィアへ大型爆撃機や航空機が離陸する対ネウロイ拠点でもあるからやはり基地としては広いほうだ。

着陸許可をもらってランディング、彼女らとは別の格納庫に誘導されてそのまま進み格納庫の中に入る。

先に帰ってきていたウィッチの不思議なものを見るような視線を感じながらユニット置き場にユニットを設置。

エンジンをカット。

重い銃と刀をそばに立てかけてようやくひと段落できた。

それと魔法の加護がなくなったため気がついたのだがここは少しあったかい。

ペテルブルクが寒すぎるのかロマーニャが暖かいのかわからないがこの気温の変化が体に影響しなければいいが。

一旦ユニットから離れ、自由に飲んでいいらしい飲み物から適当に選ぶ。

コーラが入ったビンを選んでふたを取り、飲もうとしたら放送が入った。

『全ウィッチ要員は2200より会議を行う。時刻に第2ブリーフィングルームに集合するように。』

『ブリタニア空軍所属のフレデリック・T・バーフォード大尉。至急臨時司令室へ出頭せよ。』

くそ、相変わらずタイミングが悪い。

ユニットに戻る間に飲めるだけのんで残りはユニットの近くに置いておく。

そして俺はユニットから端末を取り出して警戒モードに移行、及びgarudaに引き続き無線傍受による情報収集を命令した。

司令室に行く間に端末に送られてくる情報を確認し、最新情報を頭に叩き込む。

無線の内容も俺が到着したばかりの頃と比べれば混乱具合は収まっていた。

だが、内容は決して楽観できるようなものではなかったが。

 

「バーフォード大尉です。」

司令室に入室を許可され、部屋に入る。

中は戦場だった。

色々な人が走り、受話器を持ちながら電話に怒鳴りつけ、必死に地図に書き込みをする人がたくさんいた。

そして俺を見つけた総司令と思われる人が走ってきた。

「すまないな、こんな有様で。呼び出しておいてなんだがゆっくり話す時間はない。手短にいこうか。」

そういうと俺を巨大な地図の前に案内する。

「まずは、救援感謝する。どこの国も今はガリア解放後の奪還作戦に戦力を割いているということで救援を出してこない。1人とはいえ502の主力の1人、それも東欧の魔術師が来てくれたとなるとありがたい。君には期待している。ぜひ力を貸してほしい。」

「もちろんです、将軍。」

東欧の魔術師、元は伯爵が俺のことを魔術師と言い始めたことがきっかけだった。それにいつの間にか人を介するうちに最初に東欧の、なんて付いてしまった。

軍部が広まりすぎるのを恐れたため、民間人でこの名前を知る人は少ない。

だが、兵士の間では俺が撃墜されて無事帰ってきた頃辺りから一気に都市伝説のような噂として広まっていった。

公表もしないが否定もしない。そして履歴も不明。噂にはもってこいの要素がたくさんありすぎて広まったのだろう。

そして、そんな面倒くさい立場にいま俺はいるのだ。

だからここに来たときも色々な奴に不思議なものを見るような目で見られていたのだ。

後で知ったのだが俺がネウロイ勢力圏から徒歩で脱出したことと似たようなことをかつてロマーニャ出身のカールスラント空軍所属のウィッチがしたことがあったらしく親近感があったと誰かが言っていた。

 

将軍には今日行った戦闘を軽く説明して、指揮系統が異なるため指揮下に入るのではなく協力することを伝える。

あっちはこれに了承し戦ってくれる限りはここの施設を自由につかってもいいということになった。

話がわかってくれる人でよかった。

10分ほど話、俺は司令室を出た。

 

時間がちょうど良かったので俺はそのまま食堂にいって夕食をとった。

ロマーニャ公国の基地だけあって夕食はパスタだった。

食べていると周りの声がたくさん耳に入ってくる。

そしてその声のほとんどがヴェネツィアに出来たさらに大きいネウロイの巣に対する不安感で楽観的な声は1つも聞こえてこなかった。

食器を返して食堂を出ようとしたとき、ふと端末が震えているのに気がついた。

ポケットから取り出すと

Warning

ユニットをいじろうとしている奴がいる。

俺は格納庫に急いだ。

 

「誰だ!」

俺のユニットは入り口の近くにある、なのでドアを開けたと同時に俺は腰の後ろにある“もの“に触れながら叫んだ。

「ひゃ!」

「所属と姓名を名乗れ!」

俺がそう叫ぶとすく直立不動になって敬礼をしてきた。

「ブリタニア空軍、504所属のパトリシア・シェイド中尉です!」

504だと?

壊滅したと無線では聞いていたが彼女を見る限り負傷をしているとは思えない。

「ここで何をしている?」

「は、同じブリタニア空軍の大尉のジェットストライカーユニットが気になったので見ておりました。」

俺は彼女の目をじっと見つめた。

目を動かしたり、顔を背けたりするようなしぐさを見せていないところを見ると嘘をついているようには見えなかった。

ただ、俺の顔がそんなに怖かったのかだんだん涙目になってきた。

こちらも嘘泣きではなく本気で泣きそうになってきたので俺は話を打ち切ることにした。

「まぁ、いい。今後は不用意に触らないでくれよ?」

「は、はい!申し訳ありませんでした、これからは絶対に触りません!」

というか、他人のユニットに触らないでもらいたいものだな。

そんな事をしていると後ろのドアか誰かが入ってくる音が聞こえた。

「あ、大尉・・・。」

「これはいったいどういうことですか?」

なんだか面倒くさそうな事態になる前に俺が軽く経緯を説明した。

そうすると、彼女はすぐに謝ってくれた。

彼女は竹井醇子というらしい。階級は大尉、504の戦闘隊長とのことだ。502の熊さんのポディションか。同じ階級なので堅苦しいのはなしにしよう、と言うとすぐに普通にしてくれた。

502も504もそれぞれの隊長が両方とも怪我で一時戦時離脱しているという共通点もすぐ打ち溶け合えた。

それにしても、扶桑軍人と言うものは本当にどこにでもいるんだな。どこの戦場に行っても絶対1人以上はウィッチがいるなんて余程戦力に余裕があるのだろうか?

「それで、504の状況はどんな感じなんだ?はっきり言って何人動かせる?」

「もともと11人編成でしたが、隊長は飛べませんし、ほか2名が負傷で離脱中です。その2人にもそれぞれ僚機がいるのですが、見るからに不安で飛ばせたくありません。よっていま、安心して飛ばせるのは6人といったところでしょうか。残りの2人の立ち直ってもらえれば安心なのですが。」

半分しか安心して使えないか、ここの主力がこんな状況ではヴェネツィア奪還の要の航空戦力の低下が否めない。

ま、ないものをねだっても仕方がない。総司令部が撤退する気なら、それを支援するし、このまま奪還する気なら俺も手を貸すだけだ。

彼女2人も俺のこと、そして502のことを知りたがっていたので俺はユニットの整備をしながら話してあげた。

もちろん、重要なところは見せないようにしながら。

 

しばらくすると航空要員に対しての作戦会議が始まるという放送が入ったので3人で会議室に向かった。

「それで、504は基地から撤退したんだろ?軍はこのまま撤退すると思うか?」

「わかりません。でも、私としてはヴェネツィアをいま奪還するのは難しいと思います。一度撤退して戦力を補充した上で再度攻撃するべきだと思います。」

「それが最善だろうな。」

会議室に入ると既にたくさんの人が座っていた。504の奴らは席が決まっていたので一旦別れ、俺は一番後ろの壁にもたれかかって会議が始まるのを待った。

程なくして副官が入ってきて声を上げた。

「注目!」

その声と同時に全員が立ち上がり、すぐに先ほどあった司令官が入ってきた。

「全員座ってくれ。それでは、臨時作戦会議を行う。まず紹介を行おう。既に知っている者も多いと思うがブリタニアから臨時で派遣されたバーフォード大尉だ。他の部隊がガリア奪還に大部分を注いでいるなか、唯一救援に対して増援を送ってきてくれた。彼は502でも戦果を上げているので問題ないと思っている。それでは大尉、よろしく。」

「はじめまして。ご紹介に上がりましたブリタニア空軍及び502JFW所属のフレデリック・T・バーフォード大尉です。公式撃墜数は89です。ある程度は戦力になると思っているので何かあればよろしく。」

あれがうわさの?とか魔術師かとかいろいろ聞こえてくるがもう慣れた。

そしてすぐ現状報告とこれからの見通しについて通達される。

まず、現状報告だが先ほど司令室に入ったときよりは良くなっていたが依然として間違いが多々あった。続々と入ってくる情報を処理し切れていないのがわかる。

間違った報告がされるたびに心の中でそれは違うだろうと思わず突っ込みをいれていた。

 

そして次のこれからの見通しだが、総司令部はヴェネツィアを放棄する、という選択肢はないらしい。

それを聞いた周りのやつらに動揺が広がる。

「我々は、ここを取られるわけにはいかないのだ。もしも、ヴェネツィアに今までの中規模のネウロイの巣ではなく、大規模なネウロイの巣が出来れば地中海だけでなくアフリカにまで危険が広がる可能性があるのだ。」

「しかし、司令!現状の戦力では奪還どころか敵を抑えるのが精一杯です。そんな我々にどうしろと!?」

どこかのウィッチが立ちあがりまるでみなの気持ちを代弁するかのように大声をだした。

「もちろん、そこは我々もわかっている。」

「なら・・!」

そういうと指令は右手の人差し指を掲げた。

「1週間だ。それだけ持ちこたえてくれ。いま各国の軍が回せるだけの戦力をこちらに送ってくれている。それが到着するのが1週間後だ。そこまでなんとか持ちこたえてくれ。」

その情報に再び会議室がざわめき始めた。

「1週間ならなんとかいけるかも?」

「でも、主力の504だってすでに何人か負傷しているんでしょ?」

「戦力は逐一補充されるんだろ?いけるんじゃないか?」

「そうかもしれない!」

会議室に明るい雰囲気が広がり始めた。

 

だが俺にはわかっていた。そんな甘い見通しが通じるはずがない。

思惑通りに事が運ぶはずかないのが世の常だというのに。

「それでは、これからの予定を・・・。」

司令が続きを言おうとしたそのとき、基地内に警報が鳴り響く。

俺は音がなったと同時に会議室を飛び出していた。

502で毎日聞いていた緊急発進警報の音とよく似ていたので条件反射で動いていた。

あわただしく動き始める人にぶつかりそうになりながらも何とか格納庫に入り、ユニットを装着。補助動力装置を作動させ、武器を取り移動開始。

システムチェックは滑走路に向かう途中に終わらせる。

「シルフィードよりコントロール。お客さんだろ。どちらから来ている?」

『シルフィード!?どういう意味だ?』

「時間がないんだろ?すぐ報告してくれ。俺は夜間戦闘が出来る、時間を稼いでやるからいますぐ離陸させろ!」

一瞬の沈黙をもって管制官はすぐ対応してくれた。

『あぁ、わかった。責任は俺が取る。方位1-6-3、敵数8、この基地にはあと15分で到達する。滑走路は17を使用してくれ。すぐに離陸を許可する。』

「了解、感謝する。」

『すまない、レーダーサイトが破壊されて接近に気づけなかった。一番近いナイトウィッチも間に合わない。あんたが頼りだ。俺たちの命、任せたぞ。』

「あぁ、任された。シルフィード、離陸する。」

滑走路に到着する頃には全ての離陸準備は完了していた。滑走路で停止することなく今日2回目の離陸を始める。

出力を一気に上げて離陸、初めて聞くジェットストライカーユニットの音に驚いてこっちを見ている奴等の顔が見えてすこしおかしかった。

 

高度5000ftを越えた辺りで再び通信。

『いま、ナイトウィッチ2機がそちらに向かっている。到着は25分後だ。それまで何とか持ちこたえてくれよ。』

なるほど、しばらくは俺一人で時間を稼がなければならないのか。

大変だがやるしかない。

 

そこで俺はなんとなく昔小説で読んだフレーズを言ってみたくなった。

なんとなく、今の俺なら有言実行できる気がした。

「別に」

『?なんだ?』

「別に、全て倒してしまってもかまわんのだろ?」

さっきみたいに再び一瞬沈黙が入る。

しかし今度は先ほどの悩んでいる感じではなく、本当に呆けている感じが俺に伝わってきた。

『っはは!面白い奴だな!やってくれるか?魔術師殿?』

そんなの、答えは決まっていた。

「あぁ、もちろんだ。Engage.」

速度を一気に上げて敵編隊と対峙する。

 

大型1、中型2、小型5の完全に基地を潰す気だな、あれは。

護衛機だろうか、小型3機がこちらに向かってきた。

制限解除、安全装置解除。

音速に近い速度で小型機の包囲を突破する。

と、同時にすれ違う寸前で発砲。

ビンゴ!

まず1機、残り7機。

一気に中型機まで迫る。

そして、それを防ごうとかなりの数のレーザーが俺を襲う。

だが、俺の速度にネウロイはついていけなかった。

普通のウィッチの1.5倍ほどの速度だ。そう簡単には当てられないだろう。

進行方向右側の中型ネウロイに狙いを定める。

変な魚の形をしたネウロイだ。普通の横に平らな奴ではなく立てに平べったい。

物理学をあざ笑うかのような形をしたこいつだがコアがちょうど右目の位置にあった。

目の位置にあるためか赤く光って見える。

見た目は不気味だが、自ら弱点をさらしているその姿は滑稽だった。

ネウロイの編隊は俺を脅威だとは思っていないのか進路を基地に向けたままだ。

その判断、間違いだとわからせてやる。

攻撃の一瞬の間を見つけ、コアに狙いを定め

Warning! I have control.

発砲。

 

だが予想もしなかったことが起きた。

Garudaによる自動操縦がわりこんできたのだ。

俺が発砲する0.2秒前に体の向きを強制的に変える運動を始めた。

発砲0.5秒後、俺を爆発が襲う。

爆発した方向にシールドが張られ、被害を最小限にとどめる。

本来よりも早いタイミングでの爆発。

すぐに理由はわかった。

小型ネウロイが中型ネウロイをかばったのだ。

ネウロイがネウロイをかばうなんて今まで遭遇どころか、予想すらしたことがなかった。

何故かばった?俺にはその理由がわからなかった。

だが、考えるのは一旦後だ。

体制を整えるため高度を取ると

 

You have control.

操縦を戻してくれた。

Garudaのおかげで助かった、が今の起動はかなり体にきた。

しかし休んでいる暇はない。

銃を再び構えなおして今度は急降下しながら、先ほどの中型ネウロイの右側から狙いを定める。

最も慣れた攻撃方法で狙いを定め、発砲。

相変わらず中型にも関わらず、一撃だった。

ま、あの位置にコアがあるのなら仕方がない。

そしてようやく小型3機、中型1機、大型1機がその足を止めてこちらに攻撃を集中させてきた。

あとは殲滅するのみ。俺はグリップを強く握り締め、残りの集団に突入した。

 

 

 

Another view side Luisa Torchio

 

私2人のナイトウィッチは全速力で戦闘空域に向かっていた。

本来であればナイトウィッチが夜間に集団で戦闘を行うという事はまず、ない。

ゆえに、敵が出てきてもたいてい1人で対処してしまう。

しかしネウロイ編隊が夜間に攻撃を仕掛けてきたとなれば話は別だ。

敵編隊が夜間にそれも前線基地に攻撃を仕掛けてきているらしい。

哨戒網に穴が開く覚悟でナイトウィッチを戦闘空域に回しているということなのでかなりまずいのだろう。

実際大型1、中型2がいると聞いたときは驚いた。よっぽどネウロイはその私たちの基地を落したいのだろな。

『コントロールよりトルキオ中尉、エレナ少尉。先ほどシルフィードが交戦を宣言した。捕捉はしているか?』

「はい、しています。あと10分で到着します。」

『了解した。急いでくれ、彼は1人で戦っているんだ。』

「彼、ですか?」

『それは、あとで本人に聞くといい。頼んだぞ、通信終了。』

コントロールとの通信が切れた。

私とエレナ少尉はとにかくネウロイがいる場所に急ぐことにした。

のだが・・・。

 

『ねぇ、中尉。』

「なに?少尉?」

『あれ、どういうことだと思います?』

2人とも空間把握能力を持っているためネウロイとそれと戦っているウィッチらしきものの動きはつかんでいる。最もウィッチの反応はすごく小さく何とか捕捉している程度なのだけれど。

しかし、いまはそんな事は同でも良かった。

私たちは驚いていた。

一機、また一機とネウロイの反応が消えていく。あの数のネウロイを一人で相手にしてなお互角に戦えているのもすごいことなのだがそれよりも驚くべきことがある。

『なんですか、あの動き?』

そのウィッチの動きは私たちと一線を越していた。速さもさることながらどうやったらあんな動きが出来るのかまったくわからなかった。

おそらく濃密なネウロイからのレーザーを避けるための回避運動なのだろうけど私たちの頭では理解が追いつかない。

その動きはまるで

「妖精みたい・・・。」

『そうですね・・・。』

そのウィッチのコールサインはシルフィードというらしい、そしてそれは風の精霊の名前だ。今のあのウィッチの飛び方はその名にふさわしい、と私は思っていた。

そして気がついたらシルフィードは既に最後の小型機を撃墜しており、あとは大型機だけが残っていた。

行かないと!

見とれていたせいでもうすぐ武器の有効射程圏内に入りそうだったのに気がつかなかった。

「こちらトルキオ中尉です、援護します。」

『遅い!』

最後の一機とはいえ、敵は大型。

決して油断は出来ない。

そして、私は一人で7機も落した彼女の顔をみて驚いた。

「男?」

 

 

Another view end side Luisa Torchio

 

何とか他のネウロイは落したが最後の大型ネウロイが厄介だった。

形はトンボの姿をしていた。

コアの数はなんと4個。さすが大型。

場所も両翼の先端にあり少しばかり距離が離れている。

正直対応に困っていた。

『こちらトルキオ中尉です、援護します。』

「遅い!」

だから、援軍が来てくれたときはありがたかったが本音を言えばもう少し早く来てほしかった。

だって、10分以上たっているじゃないか。

そして援軍の2機が近づいてきて俺を見るなりやっぱり驚く。

だが、それも後にしてくれ。ネウロイから一旦距離をとり、作戦を伝える。

「いいか、コアの数は4だ。俺が2つ、あとはあんたらがそれぞれ1つずつ壊してくれ。場所はあの羽の先だ。やれるな?」

「は、はい。」「出来ます!」

「コアは出来るだけ間を置かずに壊す必要がある。合図と同時に攻撃だ。

攻撃方法は問わない。確実に破壊してくれ。いくぞ、break!」

「「(り、)了解!」」

さすが軍人、最初は戸惑っていたが、指示をだしたら従ってくれた。

2人は上昇し始めたので俺は下から一気に攻撃する。

敵ネウロイした500mのポディションにつき、彼女らが旋回しているのが見えた。

「stand by.」

相変わらずネウロイからの攻撃は激しいがこれが最後だ。

「go!」

一気に出力を上げて上昇する。

相対距離が300mになったところで

-発砲

続けざまに2発片方のコアに打ち込みネウロイとすれ違う。

一瞬コアが破裂するのが見えた。まず1個。

そして今度はこちらが上になった瞬間にもう片方に2回発砲。

直後。

爆発。

やったか!?

しかし直後に悲鳴が聞こえた。反対側を見ると片方は破壊できているがもう片方は駄目だった。

だが、まだネウロイが完全に修復するまでほんの少しだけ時間はある。

「カバー!」

『了解!』

俺の指示をすぐに理解してくれた彼女に全てを託し、反転急降下を始める。残弾はあと1発。

一番装甲が薄いであろう場所に狙いを定めて

-発砲、残弾なし。

銃弾は最後に残ったコアがある場所に正確に着弾した。

そして想定通り表面だけを破壊するにとどまった場所に追い討ちを掛けるようにもう一人のウィッチが止めの7.62mm弾を浴びせて

-爆散

撃墜した。

しかし、まだ俺の仕事は終わらない。さらに速度を上げていまだ降下を続けるウィッチを追いかける。銃を後ろに回して俺は落ち続ける彼女に対して手を伸ばす。

声を掛けても反応がない。最悪の事態も考えるが、今は捕まえることを第一に考える。

あと、5m

3m

1m

届いた!

彼女をぐっと手繰り寄せ、抱きしめて上昇する。地面まであと10mもないかなりぎりぎりのところを飛び、高度を上げる。

ぐったりとした彼女の脈を確認する。

よし、まだ死んではいないな。器用に銃と彼女の位置を動かして彼女を背中に背負った。

「シルフィードよりコントロール。敵機は全機撃墜した。負傷者あり、緊急搬送の準備をしてくれ。」

『コンロトール了解。負傷したのは誰だ?』

あれ、名前がわからない。そういえば、自己紹介もするまもなく、行動を開始してしまったからな。

『エレナ少尉です。』

もう一人が俺の代わりに報告してくれた。

『コントロール了解。準備しておく。それとお疲れ様。そしてありがとう。』

それで通信は切れた。

「トルキオ中尉といったな?援護感謝する。これで何とか全機落せた。」

『あ、少尉は!?』

「無事だ。今は気を失っているだけだ。」

『そうですか、良かった。』

そして、すぐ無言になる。

中尉はこちらをちらちら見ているが、何か言いたいことがあるのだろうか?

しばらくすると

『あの、バーフォード大尉ですよね?東欧の魔術師って呼ばれているあの?』

「あぁ。」

俺としてはそんな形で広まるのは不本意だがな。

トルキオ中尉は何を話すのかと思っていたがその内容はすごく不思議なものだった。

『さっきはすごかったです。』

「何が?」

すごかった?

何か彼女に特別なことをした憶えはないのだが・・・。

俺が何がすごかったのかわからない、そんなそぶりをしていたのを見て中尉が付け加えてくれた。

『飛び方です。すごく綺麗でした。まるで妖精が舞っているかのような・・・。そんな印象を受けました。とにかく、あんなふうに飛べるのはすごく素敵だと思います。』

「そんな風に言われたのは初めてだ。」

妖精、か。どこかむずがゆい。

そんな風に言われてうれしいような、しかし変な感じだ。恐らく彼女達だけだろうな、俺の飛び方が綺麗と言ってくれるのは。

感性の違いからだろうが、きっと他のやつは言ってはくれないだろう。だから、素直に嬉しいと思おう。

再び沈黙が続き、俺が別の話題を振ろうとした瞬間、腕の中でなにか動いた。

「ん・・・?」

「起きたか?」

目が覚めたのに気がついた中尉がすぐに俺の隣にやってきた。

「少尉、無事!?体、どこか痛くない?」

トルキオ中尉の心配をよそに、エレナ少尉はまだ事態がつかめていない様子で首を動かして周りを見ているのがなんとなく感触でわかった。

やがて俺が後ろを見るとエレナ少尉と目が合った。

そして突然爆弾と投下した。

「・・・パパ?」

「「・・・は?」」

思わず、中尉と声が重なってしまった。

は??ぱぱ?

俺の頭の中を“?”が覆いつくす。

 

【パパ】

父親。お父さん。子供などが父親を呼ぶ語。(明鏡辞典)

 

って、意味はもちろん知っているがそういうことじゃなくて。

「っはは!」

トルキオ中尉が思わず笑い出してしまった。

やがてその笑い声で目が完全に覚めた少尉が顔をすごい勢いで赤くなっていくのがわかった。

「え、あ、あの、こ、これはどういうことですか!?」

「私が聞きたいよ、少尉。それにしても魔術師さんをパパって・・・!少尉、君は大物になるよ!」

もうどうにでもなれ。

俺は思わずため息をしてしまった。

だが、重症じゃなくて良かった。

俺の背中で人が死ぬなんて気分が悪いからな。

遠くの基地で着陸灯が点灯したのがわかった。

「少尉、体は平気か?」

「は、はい。平気でしゅ。」

あ、かんだ。

「もうすぐ基地に着く。それまで我慢してくれ。」

「は、はひ。」

相変わらず中尉は笑っている。少尉もこの調子なら問題ないだろう。

もうすっかり打ち解けている中尉をよそに俺はもう一度ため息をついて、管制塔に着陸許可を求めそれが降りたのでアプローチに入るのだった。

今日は長かった。ゆっくり休めるといいな。

 




この世界って小型でも大型でも1機なんですかね?
今作ではそのようにしています。
501も次回から出します。
時系列が少し調整されていて何とかアニメと同じ時間軸になるようにしているので
すこし変なところがあるかもしれません。
そこはごめんなさい。

進軍や時代背景などはストライクウィッチーズ、紅の魔女たちを参考にしました。

ご指摘・ご感想があればよろしくお願いします。


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第44話 ヴェネツィア戦(下)

話数を重ねる度に文字数が増える増える。
ついに2万です。



基地到着後、エレナ少尉はすぐに治療室へ運ばれた。俺も少し腰の回りに痛みを覚えたのでそれを申し出ると同様に診察された。

診断結果は急旋回を行ったことによる捻挫。

放置しておくと変に癖がつく可能性があるということなので治療ウィッチに治してもらうことに。

すぐ担当のウィッチが来る、とそういうと医者はすぐどこかに行ってしまった。

「あの医者も大変なんだな。」

思わず、疲れからか独り言を言ってしまう。

「この基地にもヴェネツィアで負傷した兵士や民間人がたくさん運ばれてくるんですよ。だから合間を縫って大尉の診察を行ってくれたんです。いまだ重傷者はたくさんいるんですけど私たちウィッチは最優先。ウィッチというのはそれだけ重要視されているんですね。」

返答されるとは思ってもみなかった。

後ろを振り返ると一人の少女が立っていた。

「あんたは?」

「あ、失礼しました。私は504所属のロマーニャ公国空軍のフェレルナンディア・マルヴェッツィ中尉です。大尉の怪我を治療しろといわれて来ました。」

あぁ、例の赤ズボン隊のやつらか。どう見てもパンツだろうという突込みにも、もう疲れた。

「ということは中尉は治癒魔法が使えるのか?」

「はい。それじゃあ、はじめましょうか。」

俺が服を捲り上げるとすぐに彼女は魔法を発動、俺の腰に手を当てて治療を始めてくれた。

 

「大尉、ひとついいですか?」

「ん?なんだ?」

俺は後ろを振り返ると真剣な目をした中尉と目が合った。

 

「ありがとうございます。私たちを守ってくれて。」

 

・・・守ったつもりなんてなかったんだがな。

「別に。あの時は警報の音に体が反応して勝手に動いただけだ。いくら指揮系統に組み込まれていないとはいっても勝手な行動には間違いがな。」

そうなんだよな、これ。大丈夫かな?勝手に行動したなとか言われないといいが。

まぁ、7機落した上にちゃんと基地を守ったのだから文句を言われる筋合いはないか。

「それでも行動できるだけすごいですよ。私たちなんて昼間の戦闘で疲労困憊していてほとんどの人がまともに動けなかったんですから。みんな大尉を見てもっとがんばらなきゃとか思っているはずですよ。」

「そうだといいな。明日からの戦いもさらに激しさが増すだろうからな。」

「そうですね・・・。」

そういうと彼女は黙ってしまった。

なんとなく落ち込んでいるようにも見えた。

「責任を感じているのか?」

「え?」

「ネウロイがこんなにたくさん襲来するのはトラヤヌス作戦実行直後だろ?自分たち504が刺激しなければ、とか思ってたりしないか?」

「・・・はい。」

「ならそんな事を考えるのはやめておけ。自分をさらに追い込むだけだ。作戦実効命令を出したのは司令部なんだ。それにヴェネツィアを守る責任がとか考えているのならそれも同じだ。いくら精鋭とはいえ、一度に裁ききれる数には限りがあるんだ。それ以上がこられたら無理なものは無理なんだ。

もし、そんな事を考えているなら今は切り替えて、これ以上の被害を出さないためにはどう動けばいいのかを考えるべきだ。違うか?」

「はぁ。・・・強いですね。大尉は。」

経験の差だよ、と言おうと思ったがやめた。

こればかりか彼女にがんばってもらうしかないからな。

中尉は俺の腰から手を離し、魔法を解除した。

「ありがとうございます。少し楽になりました。大尉の怪我したところはどうですか?」

「あぁ、さすがだ。問題ない。」

「そうですか、他に何か問題とかありますか?」

「大丈夫だ。ありがとう、助かった。」

「いえいえ、それではまた明日からもがんばりましょう。おやすみなさい。」

そういうと彼女は去っていった。

さてと、どこで寝ればいいんだろうか?

近くの奴に話を聞くと、寝袋が支給された。ベッドは病人に渡しており足りないんだとさ。

仕方ないので格納庫で一夜を過ごすことになった。

 

ウーーーー!

ぐっすり寝ていたのにまた警報音に起こされた。

ガバッと寝袋からおきてすぐに抜け出しユニットのAPUを作動。

その間に寝袋をたたんで武器類を装備する。

そしてユニットを装着してチェックリスト確認開始。

時間を確認すると0310だった。もうこの頃には眠気もなくなっていた。

まったく、戦場っていうのはこんなにも忙しいものなのか。

これが連日続いたら持たないぞ・・・。

「シルフィードよりコントロール。まったく、すばらしい朝だな。敵情報と離陸許可を寄越せ。」

『その通りだな、シルフィード。お客さんは東から4機接近中だ。他のナイトウィッチも現在交戦中につき助けは出せないそうだ。シルフィードがいて助かった。離陸を許可する。誘導路、滑走路は昨日と同じだ。頼んだぞ。』

「了解した、通信終了。」

格納庫から誘導路を通り、滑走路に向かう途中に基地内から放送が聞こえてきた。

“当基地は現時刻を持って警戒態勢に移行。総員持ち場に着け。”

あわただしく人が動く中、通信が入ってきた。

『大尉、待ってくださいー。』

「だれだ?」

『トルキオ中尉です。すぐ行くので待っていてくれませんか?』

「無理だ。来るなら、先に行くから急いでついて来い。」

『そんなー!パパ待ってー。』

俺は無言でそいつとの回線を切った。

こいつだけは、絶対に待ってやらない、俺はその瞬間にそう心に誓った。

 

結局、こいつが来る頃には俺が3機撃墜してしまっていたので最後の一機をこいつに任せて俺は先に帰投した。

基地に着いたのは0420、そのまますぐに仮眠を取り再び起きたのは0548。

すぐに身支度を整えて、合同気象ブリーフィングに参加。

朝食をとり格納庫に止めてあるメイブの機体を整備。

0700から続々とウィッチ隊が離陸する中、俺は0830に離陸。

地上や味方ウィッチ隊からの救援要請をうけそれぞれ援護に向かう。

特に地上部隊の援護だとかなり感謝されてこちらも悪い気はしない。

だが、司令部からの命令はいまだ徹底抗戦。

一度休憩や弾薬補充のために基地に戻ったのだが、ロマーニャ公国空軍所属のウィッチ一覧の掲示板の×印が出撃したときよりも増えていた。

果たして、ここまでしてヴェネツィアを取り戻す意味があるのだろうか。

こういう掲示板を見ると彼女たちの死を無駄にしないようにせねば、と思ってしまう。

 

再び戦場に行き、救援を受け助けに行く。

基地に戻ったのは1710、今日は7時間空にいた計算か。

撃墜数は8。

「お。」

今計算してみて気がついたのだが、撃墜数がついに100を超えた。

「すごいですね。」

「ん?」

後ろを振り返ると504の戦闘隊長、竹井大尉が俺の書類を覗き込んでいた。

「あまり人の書類を覗き込むのはいいとは思えないぞ?」

「あ、ごめんなさい。撃墜数のところがふと目に入っていつもよりも桁がひとつ多かったので。それにバーフォード大尉なら見られてはまずい書類はここでは読まないと思いますし、その書類にも部外秘の判子が押されていなかったので。」

たしかにそうだがこれがその規則に当てはまらない書類だったらどうするんだろう?

「まぁ、いいか。3桁にはなったが502の連中と比べたらまだまだだからな。そういえばそっちの状況はどうだ?」

そういうと、竹井大尉は少し落ち込んだ様子を見せた。

「あまり、よくありません。今日もまた負傷者が増えて戦力がさらに低下しています。幸い死者は出ていませんがいつ出るのかわかりませんし。全滅してしまった隊も少なからずあるようです。」

彼女の視線の先には昼見たボードがあった

まったく、×の数が増える事はあっても減る事はないんだよな。

と、少しどんよりした空気になっていたら外が騒がしいことに気がついた。

「なんだか知っているか?」

「さぁ?私には?」

二人して首をかしげていると近くのウィッチがなにやら話しているのが聞こえた。

「あの、“アフリカの星”が来ているんですって。」

「それってハンナ・ユスティーナ・マルセイユ大尉のこと!?」

「えぇ、なんでも504の隊長に助けられたことがあってその恩返しで来ているそうよ。」

「お話できないでしょうか?」

「無理でも、一度見てみたいわね。」

そのウィッチは急いで外に出て行ってしまった。

名前は聞いたことがある。

アフリカの第31統合戦闘飛行隊で戦闘隊長をやっている奴だ。スコアは200を超えているスーパーエースの一人だ。アフリカすっぽりだしてこっちに来たという事はあちらのほうは比較的落ち着いているのだろうか。

「竹井大尉は会いに行かないか?」

「私は別に、部下の怪我の確認に行かないと行けないので。」

「そうか、戦闘隊長も大変だな。」

「本来は隊長の仕事なんですけどね。あの人もやることが多いので私が代わりをしています。」

そうなのか。この調子だと以前のペテルブルグ防衛戦のときも少佐と曹長は大変だったんだろうな。

と、視界の端でなにやら集団が動いているのが見えた。

なにやらサインを求めているウィッチがいるがやんわりと断っているみたいだ。

「人気者は大変なんだな。」

「そうですね。あ、それではバーフォード大尉、そろそろ時間なので。また夜の会議で。」

「あぁ、お疲れ様。」

そういって竹井大尉と別れる。

さてと、俺もユニットの整備と銃のクリーニングをしないとな。

適当に小さなテーブルを引っ張ってきて武器の分解を始める。

 

しばらく綺麗なタオルで汚れを拭いていると急に手元が暗くなった。

顔を上げると一人の金髪少女が立っていた。

ずいぶんと身長が高い。俺と同じくらいあるんじゃないか?

俺はすぐに顔を戻して、作業を続ける。

「あんたが噂に聞く“東欧の魔術師”か?」

「あぁそうだ。」

へぇー、といいながら彼女は俺の正面に座る。

どうやら彼女は俺の都合に関わらず何かを話す気でいるらしい。だか

「それと、ひとつ言わせてくれ。俺は好きでその名前を広めているわけじゃない。」

「それじゃあ、誰が名づけたんだ?」

「伯爵だ。」

どうせ言ったってわからないだろう、と思いながらその名前を言うと意外な反応が返ってきた。

「あぁ、クルピンスキー少尉か。」

「知っているのか?」

「もちろん。同じ部隊にいたからな。」

少尉って言ってた事はおそらく502に来る前に一緒の部隊だったのかもしれない。

そういうと彼女は右手を腰に当てて自らの名前を名乗る。

「はじめまして、魔術師。私はカールスラント空軍所属ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ大尉だ。」

「魔術師と呼ぶのはやめてくれ。俺はブリタニア空軍所属フレデリック・T・バーフォード大尉だ。アフリカの星が俺に何の用がある?」

 

「バーフォード、私はあなたに会いにきた。会いたかった。」

 

その言葉に思わず手を止め、彼女の顔を見てしまう。

告白染みた言葉だと一瞬思ってしまったがすぐそれが間違いだと気がついた。

彼女の顔は笑っていたがまるで獲物を見つけたときのような笑みだった。ちゃっかり呼び捨てになっているし。

「そりゃどうも。スーパーエースが俺なんかに会って何をしたいんだ?」

そう、会いたかった理由がいまいちよくわからない。

まだ俺は目立った功績なんて挙げていない。しいて言うなら歩いて帰った程度だ。

それなんかも人類の役になんてたたない。

彼女の目に付けられる要素なんて見当たらなかった。

「バーフォード。昨日撃墜したネウロイの数は?」

「昨日の昼間に落したのは12だ。」

「それだけじゃないだろ?」

「・・・夜間に7で合計19だ。それが?」

俺がそういうと彼女は腕を組んで俺をじっと見てくる。

しばらくお互いの目を見ていたところ彼女がポツリと漏らした。

「気に食わない。」

「は?」

「私は1日に落したネウロイの数の最多が17だった。私はそれを誇りに思っているしそれで表彰されたこともある。だけど、そのスコアが塗り替えられたことが気に食わない。

もちろんスコアはいつか更新されるものだろう、けどそれが私じゃなくて他の人だったのが気に食わない。

だからここに来た。私のスコアを破った張本人がどんな人なのか見たくて。」

「それは光栄だな。」

自分の都合でここに来たとも取れる言葉に対して皮肉交じりに答えてやると鼻で笑われた。

こいつ・・・。

だが、新聞のアフリカ版でよく目にする名前の彼女がいま目の前にいる。

気にならない、といえば嘘になる。

「はぁ、マルセイユ。ここにいたの?」

「ケイ!」

そういうと一人のウィッチが歩いてきた。

少女と言うよりは幾分大人びている。いままで出会った中では一番年長じゃないだろうか?

「はじめまして、バーフォード大尉。マルセイユの上司で扶桑海軍所属の加東圭子少佐です。うちのマルセイユが迷惑かけていませんでしたか?」

『そりゃもう、ちゃんと捕まえて置いてくださいよ。』

俺が扶桑語で話すと一瞬少し驚いた顔をして、こちらにあわせてくれた。

『はい、ごめんなさいね。目を放した隙にすっとどこかにいなくなってしまって。

アフリカの星なんていわれていますけど実際はグーたらですからね。』

『違いない、っと忘れていました。言わなくても既に知っているとは思いますが一応自己紹介を。俺はブリタニア空軍所属フレデリック・T・バーフォード大尉です。』

『よろしくね、大尉。あ、それとマルセイユには気をつけて。たぶん何かにかけてちょっかいかけてくるかもしれないから。

あなたがマルセイユの記録を超えたと聞いたときの彼女の反応はすごかったから。

ロンメル将軍から話を聞いた瞬間突っかかりそうになっているのをみんなで必死に止めたんだから。』

俺は苦笑いをしてしまう。

『先ほどの会話でなんとなく想像ついてはいました。』

「おい、ケイ!私のわからない言語で私の悪口をいうな!」

やはり雰囲気でわかってしまったか。

「それでは、加東少佐。また後ほど。」

「えぇ。それじゃ。またあなたの話も聞かせてね。」

そういうと2人は去っていった。向かった先から推測するに司令官室だろう。

とにもかくにも彼女らが援軍として来てくれたなら戦力としては十分だろうな。

 

今日は晩飯を食べようとしていたら加東少佐がやってきた。

「ここ、いいかしら?」

『えぇ、かまいませんよ。』

『別に私に合わせなくてもいいのに。』

『他の国の言語って言うのは時々話さないと忘れちゃうんでこういった機会があれば話すようにしているんです。迷惑でしたか?』

『いえ、そんな事はないわよ?むしろこっちのほうが楽と言うか懐かしいというか。

ま、迷惑じゃない事は確かね。』

それなら良かった。

さて、加東少佐もここに来て話をしにきたって事は何らかの意図があるのだろう。

俺自身としても昔の隊長さんや下原から聞いていた“扶桑海三羽烏”の一人とコネクションがもてるならそれに越した事はないし。

『ところで、マルセイユは放置してもいいんですか?』

『ま、あの調子を見る限り問題ないと思うわ。』

そう少佐が指差す方向を見てみるとたくさんのウィッチに囲まれながら自分の武勇伝を語るマルセイユがいた。

気持ちもわからないわけでもない。憧れのスーパーエースの一人と話せる機会が出来たんだからそれを逃すはずがない。

『本人も上機嫌だししばらくは放置しても大丈夫かなって。それに私も疲れるし。』

なるほど。それもそうか。

『だから、ちょうどあなたが暇そうにしていたから来たと言うわけ。

それで、話に付き合ってくれるかしら?』

『もちろんです。話せない事もありますがそれ以外なら。』

そこから少佐の話につきあった。

ジェットユニットの乗り心地、男一人だとどんなことが大変なのか、前に撃墜されてネウロイの巣近くから歩いて基地に戻ったときのこと、欧州、特に東欧の戦況はどうかなどを話したのだった。

『ペテルブルクでの戦いは1日だけとは聞いていたけど結構激しかったのね。』

『えぇ、幸い死傷者は少なかったんですけどね。アフリカではどうなんですか?

502並の激戦区とは聞いていますが?』

『確かに大変なんだけれど、たいていマルセイユが撃墜しちゃうからね。もちろんライーサや真美、マティルダ・・・、あの人も入れておくか、もがんばってくれてはいるんだけどね。』

そんなにマルセイユはアフリカですごい戦果を上げているのか。

アフリカのネウロイはガリアのやつらよりも手ごわいと聞く。

そりゃ、新聞にアフリカの星って書かれるわけだ。

『物資も足りないし、ロンメル将軍に言って優先的に回してはもらっているけどそれでも足りないものは足りない。』

『その気持ちはわかりますよ。前の防衛戦で物資集積基地が攻撃を受けて一時期は弾薬だって来なかったこともありますし。

うちの曹長がいなければどうなっていたことやら。』

『やっぱりどこも大変なのね。』

『むしろ楽なところがあるならぜひ教えてもらいたいですね。』

『『はぁ。』』

二人同時にため息をついてしまう。

『“書類を主敵とし、余力を以ってネウロイと戦う”とはよく言ったものよね。』

『そうですね、俺は隊の隊長やっていますけど隊員がよくユニットを壊すので上司の苦労は良くわかりますよ。』

『あー、“ブレイクウィッチーズ”だっけ?どんな感じなのかしら?』

『今年だけで9回は破損させていますよ、それもそのうちの半分は単に装甲板の交換とかそういうのではなく修理工場に持っていかないと治らないレベルです。そしてそのレベルの破損が起きるたびに俺たちは修理申請書類や代替機申請を行うんですよ。』

『すごいわね。一人当たり4ヶ月で3機も壊すなんて。マルセイユも良く壊すほうだけど一年に1,2機だし。それでも戦果はちゃんと上げているんでしょ?』

『ん?』

『え?』

・・・どうやらお互いの認識に齟齬があるようだ。

『・・・ちなみに9回破損させたのはクルピンスキー中尉一人で、ですよ。他の2人は別のチームなので詳しくは把握しておりませんけど管野少尉は中尉の7割くらい、カタヤイネン曹長はその半分くらいです。そう考えると合計17回は修理出していますかね。』

『・・・嘘でしょ?』

『本当ですよ。これでも一月下旬に防衛戦があった以降ネウロイの行動が沈静化したおかげで少ないほうらしいですよ。』

しかし、出撃回数が減っても何故か壊すユニットの数に現状変化が見られないのがブレイクウィッチーズの怖いところでもある。

『・・・上には上がいるのね。それにバーフォード大尉も苦労しているのね。』

『えぇ、ここは彼女らの書類のことを考えないでいいので少し楽だったりします。』

『それは私も同じね。』

意外と加東少佐とは話があう。お互いじゃじゃ馬が下にいると苦労話が理解できてしまう。

夕食のパスタもすっかり冷めてしまった。

『それにしても、魔術師なんて聞いたときはどんな人かまったく想像できなかったけどいざ話してみると面白い人でよかったわ。』

『それは“扶桑海三羽烏”の一人に認めてもらえたと捉えてもいいんですか?』

『そうね・・・。腕もいいならぜひとも・・・。』

 

ウーーーー!

警報!

その音と共に食堂も急に騒がしくなる。

「少佐、失礼します。」

俺はすぐに立ち上がり“スクランブル!”と叫んだ上で走り出そうとする。

「大尉!」

加東少佐に呼び止められ、一瞬走るのをやめる。

俺が振り返るといつの間にか少佐は立ち上がっており、俺に敬礼していた。

『武運を。』

俺は軽い敬礼をして格納庫に走る。

 

格納庫に入り速やかにユニットを起動、離陸体勢に入る。

ふと、辺りを見渡してみると今朝と様子が少し変わっていた。

誰かが手を回してくれたのかわからないが俺が夜間出撃をする際の手助けになるような情報が既に黒板に掲示されていた。

最新の気象情報、滑走路付近の風速と風向き、敵方向、数、速度が書かれていた。

これを読んでおけば、管制塔と通信する時間や手間も少し減る。

いつもは俺が外していたユニットロックを整備兵が手伝ってくれて出来るだけ早く離陸できるようなシステムが出来ていた。

おかげでいつもより30秒は早く離陸が出来る。

「シルフィードよりコントロール。今日も素敵な夜になりそうだな。手順は今朝どおりでいいな?」

『こちらコントロール。そうだ。プレゼントは気に入ってもらえたかな?』

「あぁ、最高だよ。すぐ離陸する。」

『了解した。すでに誘導路からは人員は退避済みだ。トルキオ中尉とランデブーポイントで合流後、共同で撃墜してくれ。Good luck.』

またトルキオ中尉か・・・。

 

離陸後、敵進路と交差するコースを取る。途中、ランデブーポイントでトルキオ中尉と合流する。

「遅いですよ、大尉。」

今朝、置いていったことをまだ根に持っているのか。

「俺は基地から来ているんだ。中尉には一人でネウロイを落す覚悟くらい見せてもらいたいものだな。」

「いいましたね?大尉?なら私が一人で撃墜しますから!」

「ほう、それは楽しみだ。」

報告だと敵は中型2機、ナイトウィッチならいけないわけではないだろうな。

レーダーでも敵の反応は捉えている。中型2機、報告と間違いはない。

やがて視認できる距離になり、戦闘準備を整える。

「大尉は見ていてください。私も出来ることを証明して見せます。」

中尉がそういった瞬間、ネウロイ2機がこちらに進路を変更してきた。

真正面で捉える形になった。

「行きます!」

ところがネウロイの見た目に変化がおきた。

まるでハッチが開くかのようにネウロイの装甲が開いた。

やがてそこから小型ネウロイが中型1機につき6機出てきた。

小型射出後、中型は格納していた場所を切り離して小型機編隊の真ん中に護衛されるように配置された。

合計14機の編隊が俺たち2人に襲いかかろうとしていた。

「それじゃあ、トルキオ中尉。あとよろしく。」

「た、た、大尉!?!?」

「だってさ、さっき“私に任せてください!”って言ってたじゃん。」

「ごめんなさいごめんなさい!今は何回でも謝るので今回だけは助けてくださいお願いします!」

はぁ、仕方ないな。

「貸し、ひとつな。」

「はぁ。まさか、見返してやろうと思ったら逆に変なことになっちゃった・・・。」

「ほら、なにぼさっとしている!くるぞ!」

「はい!了解!!」

俺と中尉は敵編隊にまっすぐ突っ込んで行った。

 

Another view side Katou major

 

大尉が出撃してから1時間以上がたっただろうか。

残念ながら夜間ウィッチと違って私たちは今空を飛ぶ事は出来ない。

ある程度明るければ、それこそ満月であれば、戦う事はできるんだけどね。

だけと今日の空は真っ暗。

こんな状況で飛ぶなんてしたら暗くてでネウロイを見つけるどころか自分がいまどこを飛んでいるのかすらわからなくなる。

一度飛んだことがあるけどあれは恐怖以外何者でもなかったな。

そんななか、何時間も飛ぶ夜間ウィッチは本当にすごいと思う。

なーんて考えていると基地内に放送がはいってきた。

『シルフィードより報告。敵ネウロイ14機を撃墜、味方損害なし。また基地より半径200km圏内に敵影なし。これにより、現時刻をもって当基地の警戒態勢は解除。準警戒態勢に移行しろ。繰り返す・・・。』

へー、最初は中型2機って話だったけどいつの間にか14機になっている。

聞く話によるとバーフォード大尉は昨日も単独で7機落しているからおそらく今日もそれくらいは撃墜しているだろな。

そういえば、マルセイユは?

彼女を探すがどこにもいなかった。

はぁ、また探さないと・・・。

 

しばらく歩いていると正面からマルセイユが歩いていた。

「まったく、どこいっていたの?」

「ケイか。すこしレーダー室に行っていた。」

「レーダー室?そんなところでなにしていたの?」

そしてマルセイユの話を聞いてみると面白い話しが聞けた。

バーフォード大尉がどういう動きをするのか少し気になったのでレーダー画面を見せてもらえば何かわかるかと思いレーダー室にいたらしい。

部屋にはなぜか簡単に入らせてもらえたらしいが、問題はレーダーに大尉の反応がなかったことだ。

警報がなった直後、時間にして大尉が離陸した直後にすぐレーダー室に入り、観測を始めたらしい。絶対に映る はずの反応がない。

まさか、実際には行っていないのか?という仮説も思い浮かんだが無線の報告や地上班の報告からも出撃し、戦闘を行っているのは確かだ。

観測員の話を聞くとこういう風にレーダーに映らない、または反応が薄いという報告がナイトウィッチからも上がっているらしい。

結局どんな飛び方をするのかはトルキオ中尉とやらの話しから得られたへんな話以外はわからず仕舞いだった。

そういう顛末だったらしい。

 

レーダーに映らない?それもナイトウィッチの反応にも引っかからないなんて事あるのかしら?

あ、もしかして。

「もしかしたら、バーフォード大尉の固有魔法って隠密なのかも。」

「隠密?何だそれは?扶桑のニンジャとやらか?」

「まぁ、そうしておこうかしら。とにかく、レーダーやナイトウィッチの反応に引っかからないというのが彼の固有魔法ゆえだとしたら説明がつかない?」

「ふむ、なるほど。でもそんな固有魔法なんて聞いたことないぞ。」

「彼は、魔術師なんだし私達ウィッチの常識を当てはめるのを少しおかしいかもしれない。」

そう思うと俄然、彼に興味がわいた。

どうやらマルセイユも同じようだった。

 

Another view end

 

 

帰ってくる頃には既に会議は始まっていた。

さすがに俺一人を待っていてはくれないんだろうな。ユニットと武器を置き、急いで会議室に向かう。

会議室のドアを開けると音に反応してかほぼ全員の顔がこちらに集中する。

「遅くなりました。」

「ご苦労だった、大尉。後で戦闘の報告してくれ。それでは続ける。」

俺は昨日と同じ場所に寄りかかり、会議の話を聞く。

 

内容は意外なことが通達された。

ネウロイの巣からの敵の襲来数は日に日に増えて、こちらの戦力は補給が来ないのでどんどん減っている。

このままでは奪還どころか防衛すら怪しくなってくる。

味方の消耗率が司令部の予想をはるかに上回っていたらしい。

そりゃそうだろうな。ろくに地上部隊を援護も出来ないんだから当たり前だろう。

いくら空がメインだって言ったって地上部隊だって重要な戦力なんだ。

それを軽視している以上、失敗するのも当たり前だ。

この状況を鑑みて司令部は本日2230を持って全軍に対して撤退命令を出した。

俺たちの明日からの任務は撤退する味方の防衛となる。

そのため全ウィッチ隊の再編成が行われることになった。だが増援部隊は継続して遊撃隊のように動く手はずになった。

そして・・・。

 

次の日。

いまだヴェネツィアに残り撤退を行っている部隊を安全圏内まで逃がす撤退戦が日の出と共に幕を開けた。

ユニットの最終チェックをしていると後ろに気配を感じた。

「どうしたんだ?」

俺はいつもと変わらず作業をしながら声をかける。

「バーフォード大尉。あなたの飛び方、見せてもらうぞ。」

「・・・なんだいきなり?そんなにスコアを抜かれたのが悔しかったのか?」

「もちろん。」

振り返るとやっぱり彼女は笑っていた。

「その割には笑顔じゃないか。」

「私のスコアを抜いた奴がどんな飛び方をするのか気にならないほうがおかしいじゃないか。もしかしたらライバルになるかもしれないだろ?」

「君のライバルか、面倒くさそうだな。」

「そういえるのも今のうちだ、待ってろよ!絶対また追い越してやるからな!」

そう叫ぶと隣の隣に設置したあるユニットに足を突っ込んで離陸体勢に入った。

俺はこのときは知らなかったが、彼女は昨日の夜俺についての収穫がなくてもやもやいていたらしい。だから今日こそは、と張り切っていたとの事。

 

時計を見るともうそろそろで作戦時刻だった。

ユニットの確認もこれで十分だろう。さてと、俺も行くか。

エンジン始動。離陸態勢に入る。

『作戦行動中の全ウィッチに通達する。これより作戦開始となる。君たちの任務は昨日とは違い防衛だ。勝手が違うからくれぐれも注意してくれ。Good luck.』

司令官がそう激励の言葉を述べるとすぐに管制塔から離陸の指示が飛んできた。

それじゃ、はじめますか。

『コントロールよりシルフィードへ。貴機の離陸は3番目だ。滑走路14Lを使用しろ。第25飛行隊へ・・・。』

 

 

ヴェネツィア上空での戦いはさらに激しさを増してきた。

ネウロイも手を緩めることなく、逆にここで地上部隊を殲滅すべく大量のネウロイを投入してきた。

次々に入ってくる敵発見報告と攻撃命令をよく聞きながら黙々と作業をこなしていく。

 

大きな動きがあったのは1156だった。

敵の大部隊がウィッチ防衛網を突破したとの報告が入ってきた。全てのウィッチ隊が戦闘に集中している隙をついた形だ。まるで物量作戦だ。いつからネウロイは数に者を言わせて戦うようになった?っていつものことか。

増援部隊にこれを殲滅するよう指示が入る。

大型を含む20機を越える大編隊だ。

俺が攻撃圏内に到着する頃には既に戦闘は始まっていた。

あれは、マルセイユか。

そりゃ増援部隊に攻撃指示が入ったんだから戦っているのは当たり前か。

動きを少し見ていたがあれはすごいな。

まるで攻撃する先にネウロイが自ら向かっているように見える。

実際にはマルセイユがネウロイの進行方向を予測して偏差射撃しているだけのはずだがそれを忘れさせるほどの完璧な射撃だった。

ただ、少し危なっかしい飛び方をしている気がする。早く援護に入るか。

「シルフィードengage.」

まずは大型を除く中型と小型を先に殲滅する。既に4機落されているから残りは16機。相手に不足はなし。

素早く近くを飛んでいた小型2機を撃墜してマルセイユの援護に回る。

来たか、と言うかのように一度俺のことを一瞥するとすぐに戦闘に集中し始めた。

中型が俺の背中から迫ってくる。

俺は速度を上げて一気に引き離して、急旋回。体を上げて射撃体勢を取る。

発砲。

狙いは中型ネウロイ。

弾丸は正確に着弾した、が撃墜ならず。

昨日は落とせたのに。

理由は俺のミスかネウロイの変化かわからないが撃墜仕切れていない。

速やかに追撃して先ほどの弾丸が破砕した部分に着弾、撃墜。

くそ、また2発使わないと落せなくなったのか?

まぁいい。次!

次の敵を探そうとふと顔を動かしたとき、マルセイユの後ろに一機つこうとしているのが見えた。

彼女は前方の中型に集中しているのか気がついた様子はない。

あの馬鹿!

ああいう状態に陥りやすいタイプに俺は心当たりがあった。

常に2機で行動しているやつらの1番機だ、常に背中を守ってくれる奴がいるやつほど一人になったときもいつもの癖で背中が留守になりやすい。俺も何回か経験がある。

言葉で警告している暇はない。

俺はすぐに出力を上げて彼女とネウロイの間に割り込む進路をとる。

間に合え!

ネウロイがレーザーを発射した瞬間、本当にぎりぎりで彼女の背後でシールドを展開できた。

すぐにシールドの隙間から射撃を行う。

運が良かったのか、コアがほんの少し先ほどのより表面に近いところにあったおかげで弾丸がコアまで到達し、ネウロイを撃墜した。

「背中がお留守だぞ、アフリカの星さん。」

俺はリロードしながら彼女に声をかける。

「すまない、助かった。」

彼女は追いかけていたネウロイを撃墜した後でそういってきた。

背後に気配がすると思ったらいつの間にかマルセイユが俺の背後に背中と背中を合わせるかのような体勢で飛んでいた。

これでお互いの死角はほぼない。

「スーパーエースがらしくないじゃないか。」

まるで苦虫をかんだような顔をしながら俺に言ってきた。

「いつもはライーサがいたから、すっかり警戒を怠っていた。」

ま、予想通りだな。

「何なら背中を守ってやろうか?」

「冗談じゃない。2番機を別の人に任せたなんてライーサに言ったら泣かれそうだ。ただ援護してくれるというのならありがたい。」

まったく、見ていられないな。ひやひやする。

「残り半分だ。援護してやるから間違っても怪我するなよ。そこらのウィッチに殺される。」

「誰に言っているんだ?私はハンナ・ユスティーナ・マルセイユだぞ?」

鼻で笑われたよ。さっき被弾しそうになっていたくせに。だが俺はすぐに気持ちを切り替え、今は目の前のネウロイに集中する。

「「行くぞ!」」

この場限りの共闘が始まった。

 

マルセイユの後ろにつき、援護をする。

彼女が狙っているネウロイは俺基本、手出ししない。

手助けなんていらないだろうし、手出ししたら横取り!とか言われそうだしな。

だから彼女の死角から襲うネウロイを優先して攻撃する。

大型は一機、こいつさえ注意すれば後は俺たちならそれ程苦労しないはずだ。

やはり、先ほどのミスを挽回するかのようにさらにスピードを上げていた。

彼女の動き、敵の配置、全てに注意を向けながら俺は飛ぶ。

 

気がついたら残り大型1機になっていた。されど1機。

「案外たいしたことないな。」

まったく、どの口が言うのか。

「最後の大型のコアがある場所は一番中心部だ。俺がこいつを全叩き込むから止めは任せたぞ。」

銃を軽く叩きながら聞くとマルセイユもすぐ反応する。

「了解した。任せろ。」

その言葉はすごく頼れる一言だった。

新しい弾糟に変えて、準備を整える。

「go!」

速度を上げて一気に距離を詰めて至近距離から12.7mm弾5発を出来る限りの速度で反動を制御しながら連射する。

残弾がなくなったところにすかさずマルセイユが機関銃をフルオートで全弾叩き込む。

だが

「硬い!」

コアに到達できなかった。

 

大型ゆえに修復速度も速い。

「どけ、マルセイユ!」

しかしまだ手段がなくなったわけではない。

最後の手段その1の扶桑刀がある。

もっていた銃を腰に回して抜刀。

音速ほどの速度をもって

 

斬る。

 

なんとか刃がコアを切り裂いた。

そして

爆発。

 

予想していたのよりもはるかに大きな爆発で俺は吹き飛ばされる。

シールドを張ったつもりだったがシールド展開速度よりも爆発速度のほうが速かったらしく右手に激痛が走る。

上下左右もわからないほど回転していたがふとやわらかい感触が体を覆った。

「おい!平気か!?」

「あぁ、マルセイユか。助かったが少し平気じゃないな。」

右手に力が入らない。血が止まらない。

あぁ、ミスったな。破片で切り裂かれたと思われる8cm程度の裂傷が出来ていた。

左手でマルセイユの手を借りながらそして、彼女に血が付かないように気を配りながら服を切って巻きつける。応急処置ですらないがやるに越した事はないだろう。

この傷も治癒魔法で治るといいな。

あ、まずい。意識が少し薄れてきた。

「マルセイユ、問題ない。お前は早く次のところに行け。俺は一旦基地に戻る。」

「そうか、気をつけろよ。仮にも臨時とはいえ、援護してくれた奴がしなれると私としてもあまり気分がいいものではない。」

「わかった。努力する。」

そういえば、マルセイユはよく俺と受け止められたよな。

下手すればユニットにあたって怪我する危険だってあったのに。

「本当に大丈夫か?」

「平気だって言っているだろう?マルセイユ、お前はいま俺と違ってここに必要な人間だ。お前を必要としている人がたくさんいるんだから早く行け。」

そういうと、少し心配そうな顔をした後にうなずいて。

「気をつけてな。」

そういって東の方向に飛んでいった。

管制塔に負傷したことと一旦帰ることを伝える。

せっかくの服が血の色と匂いで台無しだ。着替え、もらえるといいけど。

速度を上げて基地に向かうがあと15分はかかる。

意識がどんどん薄れていく中、ついに

I have control.

制御を奪われ、気がついたら意識を完全に失っていた。

 

 

気がついた。

時計を見ると1758

ほぼ18時だった。服は病院服になっており誰かが変えてくれたのだろうか。輸血もされている。

「あ、目を覚まされましたか?」

看護師がやってきて俺の調子を確認してきた。

傷は動脈も傷つけており、出血量も危険な量だったらしい。

治療は一人では間に合わないとの事で2人の治療ウィッチが行ったらしい。

傷はふさがったが血が抜けているので今輸血している、との事だった。

本当は飛行禁止だが、状況が状況なので出撃は本人の意思に任せるといわれた。

俺はもう特に体の異常がなかったので退院することにした。

それにしても本当に治癒魔法ってすごい。変な癖も残っていないし傷もちゃんとふさがっている。

ただ、痕が残りまだ痛みも残っている。ま、これは仕方ない。

 

ブリタニア軍がいるが服があれはもうだめなので別なのを渡された。私服になってしまったが最近は少しずつ顔も覚えられてきているのでまぁ問題ないだろう。

部屋を出て、とりあえず格納庫に向かう。

しかし、少しふらふらするし痛みもある。

万全とはいえない、がおそらく今晩またネウロイが来れば俺も出撃するつもりだ。

今も夜間ウィッチの数は足りない。万全でなくても飛べるのなら出撃すべき、だろうな。

それにもし死ぬなら空の上がいい。

 

格納庫でユニットを確認する。

最重要の場所を空けられた形跡はない。

格納庫の扉が開く音がして顔を上げるとちょうどアフリカ組みが帰ってきたところだった。

「バーフォード大尉。」

「・・・加東少佐にマルセイユか。ちょうど帰ってきたのか。おかえり。」

俺がそういうと二人ともただいま、と答えユニットを脱ぐとすぐこちらに歩いてきた。

「怪我のほうはどうだ?」

「とりあえず、治療ウィッチががんばってくれて何とかなった。まぁ痕は残ってしまったがな。」 

そういって俺は腕を見せる。

「とにかく、戦闘には問題ない。なんだ?心配してくれたのか?」

「あぁ。」

マルセイユはそう言った。俺としては意外だった。

てっきり自分の身内しか気にしない性格だと思っていた。

「そんなに意外か?私を助けてくれた相手を心配するのが。」

「まぁ、な。」

失礼な奴だな、とマルセイユは笑いながら言ってくる。

どうやら冗談とうけとめられていたようだ。

「私だって礼儀をわきまえているさ。」

「ほら、嘘つかない。」

「ちょっとケイは静かに。」

「はいはい。」

ま、加東少佐はいつもグーたらといっていたから少佐の言いたい事はわかる。

「ゴホン。まぁ、それに大尉は私にとってもいなくなっても困る人だしな。」

へーと後ろで加東少佐がニヤニヤしていた。

「それってどういう存在なんだ?」

「前にも言ったと思うが私のスコアを超えたという数少ない人間なんだ。ようやく張り合える人が出来たというのに。足を引っ張る人ならともかく私を守ってくれてそして新しい目標でもある人をないがしろにするはずがないじゃないか。」

「つまり、俺はお目にかなったのか?」

「当たり前じゃないか。しいて言うならライバル?そんな関係かな?」

ライバル、か。よく考えたら俺にそんな関係の奴はこの世界にはいなかったな。

というか、今朝言っていたことを認めてくれたってことか?

502のやつらはライバルと言うよりは仲間って感じだしな。

「悪くないな。」

「だろ?だからすぐに超えてやるから簡単に死なないでくれよ?」

「抜かせ、近いうちに誰もが絶対に超えないようなスコアを出してやる。」

そんな俺らを見て少佐は意外な顔をしていた。

「マルセイユとそんな話を出来る人がいるなんて本当に珍しい。」

「ちなみに他に誰かいるのか?」

「えっと、エーリカ・ハルトマンとか。」

そんな化け物と同列に扱われているのか?それは光栄だが、怖いな。

 

「そうだ!どうせならお互いのユニットにサインでもしたら?」

加東少佐が突如そんな事を言い出した。

「あ、それいい!」

マルセイユのサインねぇ、あまり本人はしないらしいからもらえるならいいのかも知れない。

というか少佐、“お互いがサインしている写真をどこかに売りつければ何か言い情報と引き換えに出来るかも。”とか言うな。聞こえているぞ。

マルセイユも乗り気でもうユニットの塗装に使われる塗料をいつの間にか準備していた。

「どこに書けばいい?」

「隙間にならどこでもいいぞ。」

「それじゃ、翼でいいか。」

マルセイユは両翼に書いてくれた。

「それじゃあ、バーフォード大尉も。」

ユニットにサインなんて初めてだな。筆記体で書くと喜ばれた。

加東少佐が写真を取るといってきた。

両人のユニットを前におき、マルセイユの隣に立つと肩を組まれた。

「・・・なんだよ?」

「まぁ、いいじゃないか。」

「いいと思うわ。それじゃ、3、2、1」

パシャ!

それは俺がこの世界で初めて取られた写真だった。

 

次の日も味方の防衛戦が続いた。

司令官からは要請を減らそうか?と聞かれたが断った。

素直に病人扱いされるのがいやだったからだ。

昨日と同様に遊撃隊として動くがマルセイユと共に戦う機会が意外と多かった。

形としては2人に同じ場所での要請が送られ、現場で合流するという戦い方だったがやはりすごく戦いやすかったことを憶えている。

彼女が危なくなったら俺がカバー、俺の後ろについていた奴は回避のために振り切ろうとしたらいつの間にかマルセイユが攻撃をしていた。

今日もスコアを越えられる事はなかったが彼女の勢いを見ていると本当に明日にでも超えてきそうな勢いがある。

そんな戦い方を俺たちは続けていた。

 

いつの間にかヴェネツィアについてから6日がたった。

部隊の撤退も順調に進んでいるみたいだ。

俺は単独でCAP(Combat Air patrol、戦闘空中哨戒)を行っていた。海上には一部地上部隊の撤退支援のために多数の艦艇が展開しており、俺やマルセイユを含めて数人のウィッチがネウロイの襲撃に備え、上空待機している。

ただ、さすがに襲来するネウロイの数も減ってきておりこの艦隊に襲ってくるネウロイ編隊の数も一日に2,3回程度になってきた。そのため、この空は非常に穏やかだった。

ふと遠くに目をやった。この高度からだと遠くにアフリカ大陸が見える。

あそこでも人類とネウロイが戦っているのだと思うとつくづく昔いた世界での第二次世界大戦を思い出すな。

ピピッ、ピピッ。

一瞬の空白を置いて通信が入ってきた。

『コントロールからシルフィードへ。緊急発進要請(Scramble order)、方位0-0-3、貴機からの距離は65km、高度3500m付近にてネウロイの攻撃を受けたとの報告が入った。扶桑の二式飛行艇で佐官も乗っている。至急援護に向かえ。他のウィッチも向かっているとの事だが時間がかかるようだ。急いでくれ。』

「了解した。すぐ向かう。」

佐官が乗っているとあれば救援要請を無視するわけにもいかないので俺は進路を変更、すぐに0-0-3に転進する。

まったく、他のやつらが向かっているなら何で俺も向かわなければならないんだ?

俺がどれほど使えるかは知っているはずだから、相手も問題ないと判断したのだろうか?それならいいんだが。

とにかく行くか、そう思いながら俺は速度を上げた。

 

しかし飛んでいる間に問題が発生した。

飛んでいるうちに敵の反応が消失したのだ。

ネウロイ反応が消失する直前にウィッチの反応があった。

すぐ近くを飛んでいたウィッチはかつて同じ空を飛んだことがある宮藤だと判明した。

ったく、ウィッチが同乗しているなら救援要請なんて出さずに自分たちで処理してしまえばよかったのに。

そんな愚痴もどうせ届かないだろうなと思いながら敵消失につき任務終了を報告しようと思ったがふとGarudaからの警告が目に留まった。

レーダーからは確かに機影は消失しているのだが、Garudaはいまだ敵がいると告げていた。

どこだ?どこにいる?

通常レーダー、空間受動レーダー共に敵影確認できず。

まだだ、まだ終わっていない。

ネウロイがまだそこにいる、俺は直感でふたたび前進を続けた。

狙撃銃のスコープの倍率を最大にして敵を最後に確認したところへ向けて覗き込む。

しばらくして俺はようやくGarudaの言っている意味がわかった。

コアは完全には破壊できてはいなかった。

破片状になったコアが再び集まりだし、ひとつのコアになり、ネウロイが姿を現した。

こちらのレーダーもコアが復元された辺りでようやく敵影を映し出し始めた。

まさか、コアを復元するとはな。これではレーダーで観測できないわけだ。

再び宮藤が戦闘を始めたが俺はここでその戦闘の行方を見守ることにした。

かつて、ワイト島時代、あの仕事をなしとげた彼女がここにいない間にどれだけの腕を見せるのか単純に興味がわいたからだ。そして、彼女へ向かう多数のウィッチもレーダーに捕らえている、俺の出番は不要だろうな。

だから俺は記録モードをオンにして状況偵察を行い、見守ることにしたのだった。

 

大型かつ復元するような相手だがさすがエースぞろいの501だ。集まりだしてから10分ほどで撃墜してしまった。

そしてなにやら無線で話しているのだがさすがにそこまで聞く必要もないと思い、俺は今度こそ進路を戻そうとしたら無線で呼び止められた。

『そこでさっきからずっと私たちを見ていたウィッチ、もう姿を現したらどうだ?』

相対距離で8kmはあるはずだが、確認してみるとこちらを見ている奴が一人いた。

片方の目が紫色に輝いている、あれは魔眼か。ということは坂本少佐だろうか?

最初は無視しようかと思ったが下手したら追いかけてきそうな迫力があったのでこちらから向かうことにした。

距離が10mのところまで近づくとようやく全員の顔がわかった。

「「大尉!?」」

「イッルにサーニャか、一週間ぶりだな。」

502で一緒だった2人にまず驚かれた。その驚く2人を見て他の奴も驚くという不思議な光景が同時に起きている。

「大尉はここで何してんダ?ロンドンにいるんじゃなかったのカ?」

「いろいろあってな、今はヴェネツィアの防衛の任についている。サーニャ、502に変化は?」

俺がサーニャのほうを向くとサーニャは人差し指をあごに当て少し考えるそぶりをしながら答えてくれた。

「えっと、私たちに召集の命令が降りたのが5日前なんですよ。大尉がいなくなってから私たちが出発するまでの間のことでしたら、特に変化はありませんでした。伯爵も“また隊長は出張か~”とか言っていましたし。」

いまのサーニャの伯爵の真似が意外と似ていてすこし驚いた。

それと伯爵、という単語に反応したカールスラント人が2人いた、あれは中佐とバルクホルン大尉だっけか。なにかいやな思い出でもあるのだろうか。

「そろそろいいか?」

蚊帳の外にいた少佐がようやく介入してきた。

ただ、出足をくじられて少し残念そうだった。

「かまわない。」「いいゾ。」「はい。」

「バーフォード大尉だったかな?ガリア以来だな。」

「そうですね。」

「なぜ、私たちをずっと見ていた?助けもしないで。」

ま、そりゃ気になるよね。

命掛けて戦っているそばでじっと見られていたらな。

「手出しは不要だと思ったからです。それに・・・。」

「それに?」

「あなたたちに興味があったから。世界最高峰レベルの空中戦がどのようなものかと思って。」

なんせ300機撃墜を達成するようなやつらがいるんだ。

俺としてはほめ言葉の意味合いを含めたのだが、一瞬いやな顔をされた。

なにか気にでも触れたのだろうか?

「それで、ご期待には沿えたかしら?」

少佐の後ろからミーナ中佐が現れ、そういってきた。

まるで坂本少佐を守るかのように。

そういえば、欧州のウィッチは異性との接触を認めない傾向があるらしいが、それを意識してか?

「えぇ、だから期待していますよ。ストライクウィッチーズの皆さん。俺ではヴェネツィア奪還は無理だった。だからあんたらにそれを託したい。」

「え?」

俺にいきなり頼まれたのがそんなに不思議だったのか中佐は変な声をだして驚く。

だが、俺の言ったこともすぐ理解してくれた。

「頼みます、中佐。」

「わかりました、必ず。」

中佐は敬礼して俺に答える。

「それでは、長居するのもなんなので。またどこかの空で会いましょう。」

「えぇ。」

そういって俺は背中を向けようとすると

「あの!」

声をかけられた。

声の主は

「・・・・。」

リネット・ビショップ曹長だった。というか階級証を見る限りウィルマより階級上じゃん。姉としていいのかよ。

「どうした?」

「・・・・・。」

なぜか顔を少し赤くしながらもじもじしていたので声をかけるが何も返答をしてくれない。

「おい?」

「・・・・。」

もう一度俺が声をかけると顔は相変わらず赤いままだが、ついに何かを決心したのかキリッとした目で俺を見つめて、

 

「お義兄さん!」

 

ヴェネツィアに来て、そして俺にとって2度目の爆弾が投下された。

いや、人がいる前でその名前で呼ぶの!?

501のやつらのほとんどは何が起きているのかわからない顔をしているが502にいて事情を知っている2人は違った。

イッルは大爆笑、サーニャは顔を背けて少し笑っている。

こいつら、自分たちが関係ないことをいいことに楽しんでいるのか。

ウィルマの奴、リネットと手紙をよくしているらしいからおそらくあったときはよろしくとでも言っていたのだろう。だからこんなことになったのか。

「・・・なんだ?」

さすがに、なんだ?妹よ、とは言えないので普通に返しておく。

しかし内心ではすごく動揺している俺がいた。

「お姉ちゃん、元気ですか?」

「あぁ、うちのムードメーカーとしていつも盛り上げてくれているよ。」

「それは、お姉ちゃんらしいです。元気にしているならよかったです。」

こうして、ウィルマの妹に会えたのだからひとつ聞いておきたいことがあったのを思い出した。

「そういえば、ウィルマとよく手紙のやり取りをしているよな?何かおれの事言っていたか?」

俺がそういうとリネットまた気まずい顔をした、そんなこと言われても困るといった顔だ。

「いつもお義兄さんのことばっかり書いていますよ。大体7割はお義兄さんのことです。あとは近況報告とかです。見ているこっちが恥ずかしいのでお姉ちゃんに言ってもらえませんか?」

ウィルマーーー!お前って奴は・・・。

というか兄とか連呼しないでくれ、恥ずかしい。

そこで再び中佐がこの状況がわからない勢を代表して聞いてくる。

「その、2人はどういったご関係で?」

「はいはい!私が説明しよう!」

そこでエイラが手を挙げてみんなの注目を引く。

「イッル!」

だが、てめぇは駄目だ。お前は伯爵と同類だろ?知っているぞ、どうせ誇張して説明するに決まっている。

俺が彼女をにらみつけてわかっているな?と目で問いかけると。

「・・・はい。」

シュンとしぼんでしまった。

さて、必然と俺に視線が集まり説明責任を果たさなければならないのだが・・・。

『シルフィード!どうした?何があった?』

ナイスタイミングだ!

「いや、なんでもない。敵か?」

『あぁ、基地に向かっている奴がいる。念のため向かってくれないか?』

「了解した。」

そうして俺は彼女たちを見渡して

「というわけだ、俺は行かなきゃいけないが・・・。リネット、後は任せたぞ。エイラだけにはさせないでくれ。わかったか?」

「あ、はい。わかりました。」

「ありがとう。それじゃな、これからもよろしく。」

俺は逃げるようにユニットの出力を上げて空高くにとんだ。

レーダーにネウロイの姿を捉える。

さてと、これからは仕事だ。切り替えないとな。

ヴェネツィアの空は今日も忙しい。

 

7日目

司令部は戦闘の終了を宣言した。

ネウロイからの襲撃もかなり減った。

敵もおそらく消耗したのか以前のような大編隊ももう来なくなった。それに501が再編され、ここの防衛に当たる以上もはや俺たちがいる意味もなくなった。

俺も状況報告のためにロンドンの空軍司令部への報告命令が来た。

トラヤヌス作戦前に書類上で所属していたウィッチも今では78%程度になった。

作戦の代償はロマーニャ公国にとって自国の優秀なウィッチの喪失とすぐ近くに大規模なネウロイの巣が出来るというかなり高くつくものになってしまった。

501が優秀だといえ、504の悪夢がある以上決して安心できるものでもない。

だが、増援部隊をこのまま駐留させるわけにもいかないのでこうして戦闘の終了が宣言された。

俺たち増援部隊は本日1000を持って当基地を離脱、各自の基地に帰投することになる。

 

さて、こちらの話になるが俺の記録をマルセイユは抜く事はなかった。

何とか勝ち逃げできた。だがそのことでマルセイユにはねちねち言われた。

そして時刻は0945ここに集まっていたウィッチも各地に散らばり自国防衛の任務に就く。

だから、こうやって集まるのも最後になる。

ここでは本当に色々なやつらとあったな。

竹井大尉、マルヴェッツィ中尉ら504は先ほど話したが2人も大変だったらしい。

特に治癒魔法を使える中尉は疲労困憊だった。

本当にお疲れ様だな。

 

「あ、大尉も帰っちゃうんですか?」

「えっと、502ですか?」

声をかけてきたのはエレナ少尉とトルキオ中尉だった。

「いや、502に帰る前にロンドンだそうだ。なんでも報告をしてもらいたいそうだ。」

「へー、大尉も大変ですね。」

「あぁ。必死に戦って疲れているのに今度はお偉いさんとお話とは、憂鬱でしかない。」

「そう、ですね。」

「まぁ、大尉もがんばって!」

「がんばってください!!」

「お前らもな、これから夜間ウィッチは大変だぞ?」

「え?」「はい!」

そんな対照的な二人とQSLカードを交換する約束をして分かれた。

 

「バーフォード大尉!」

「マルセイユ大尉か。いいのか、他のやつらとは?」

「まぁ、平気だ。それにしても、今日でお別れだな。何とかスコアを塗り替えたかったんだがな。」

「あと2機まで迫ったのに。惜しかったな。」

「あぁ。だが待っていろよ!今年中に絶対に塗り替えてやる。」

「ペテルブルクでその記事が一面にのった新聞が届くのを待っているよ。」

そういって握手する。

「はーい!みなさーん集まってー。」

そう叫んでいるのは加東少佐。またあの写真をどこかに売りつけるのだろか?

マルセイユに引かれて最前列の真ん中に並ばされる。

「ここに俺がいるのはいいのか?」

「いいんじゃないのか?なんていったってこの基地の守護神じゃないか。」

マルセイユがそういうと周りのウィッチの口を揃えて似たようなことを言ってくる。

「守護神?」

「そう、守護神。」

「そうですよ!確かにマルセイユ大尉もすごかったですけど、バーフォード大尉もすごいじゃないですか。昼間の戦闘だけではなく夜間の戦闘もちゃんとこなして。よく体が持ちましたね。」

「この基地で一番活躍したのは誰?って聞いたらたぶん全員がバーフォード大尉って答えますよ。」

「そうです!あのジェットストライカーユニットの音も最初はうるさいと思っていましたけど日がたつにつれて安心するようになっていましたし。

戦っているときもあの音が聞こえたときは安心した。」

「あ、それ私も!」

この基地でそんな印象を受けていたなんてすごく不思議だった。

「参ったな。注目されるのはあまり好きじゃないんだが。」

「今日くらいはいいんじゃないか?ほら、写真を撮るだけなんだし。」

「そうですよ!ほら並んで!」

「はい、撮りますよ!」

少佐が大声で叫び最後まで生き残ったウィッチが一同に集まる。

「はい、チーズ!」

 

パシャッ!

 




よく詠唱するタイプの魔法ってありますけどあれってプログラミングみたいですよね。
詠唱とコードを同列にみるとなんか親近感がわきます。
エイラの呼び方が変わっている理由は次の話で書きます。

たくさんのお気に入り登録、感想、評価ありがとうございます!
これからも頑張りまする。

ご指摘、ご感想があればよろしくお願いします。


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おまけ2 *

おまけ編です。
時系列としては2つとも撃墜されて、基地に帰ってきた数日後です。
第41話の後らへんくらいかな。

理論のところは自己解釈が入っています。


<エイラ、がんばる>

「大尉!」

それは1月下旬のこと。みな夕食を済ませ、これから自由時間という時にエイラが突然俺のところにやってきた。突然のことで驚いたが、とにかく話を聞いてみることにした。ちなみに今日はサーニャが夜間哨戒任務についているのでこの場にはいない。

「どうした?」

「頼む!大尉!助けて!」

・・・いったいどうしたんだ?

エイラは俺の元にすがり、涙目になっていた。

「とりあえず、何が起きたのか話せ。ほら、コーヒー入れてやるから。」

「うん、わかった。」

ウィルマに目配せをすると彼女は何か甘いものを取りに行ってくれた。

こういう気遣いがありがたい。

エイラを隣の椅子に座らせて、俺はコーヒーを淹れてもって行く。

「ほら、とりあえずどうぞ。」

「うん、ありがとう。」

すこし時間を置いたことで彼女もたいぶ落ち着いていた。

彼女が一口飲んだところでウィルマがクッキーを持ってきたので早速話を始める。

「それで、何があった?」

「このままじゃ、サーニャと離ればなれになっちゃうかも知れない!!」

・・・うん、そりゃエイラにとって一大事だな。

あちゃーといいたげな顔をしているウィルマと目が合い、どうやら面倒くさそうな案件なのだと確信する。

 

とりあえず話をまとめる。

エイラはどうやら今まで現場活動を重視して士官昇進は拒否していたらしい。だけど501に行くことになり上層部からの餞別で少尉にはなった。がサーニャは士官教育を受けた中尉、このままではいつ離れてしまうかわかったものではない。そう思ったらしく本国に問い合わせてみたところ、士官試験に合格すれば(かつてマンネルヘイム十字章を受賞したことがあり、技能は問題ないと判断され)いままでの功績を鑑みて(既に少尉なのに)少尉候補者学生として戦術や将校としての素養をさらに1ヶ月で叩き込むらしい。

そんなので士官になれるのって、スオムスはいいのか?いや、エイラだから例外なのか。

というわけで早速勉強し始めたのが今年の初め。

ところが501など色々あり、実際に始めたのは502に来てから。

気分一新始めたのはいいが、わからないことだらけ。どこからはじめたらいいのかすらわからなくなってしまった。

このままだと絶対に受からないと考え誰かに聞こうと思った。

そして最初に思い浮かんだのはニパ。

だが、ニパの階級は曹長。つまり士官教育を受けていない。

それでは誰だったら聞けるのか?

少佐は無理、熊さんも戦闘隊長という立場なので無理、伯爵はいじってくるから嫌だ、管野はなんか怖い、姉ちゃんはいつも忙しそう、ジョゼはなぜか話しかけにくい。

その結果一番聞きやすいのが俺、と言うことになったそうだ。

「頼む!この通りダ!」

エイラは頭を思いっきり下げて、ついには土下座をしてきた。

「・・・なんだそれは?」

「みやふじから聞いた!扶桑流の人に物事を頼む際の最上級の礼儀だ!」

俺は扶桑人じゃないんだがなとか思いながらどうしようか悩む。

ふとウィルマの顔を見ると彼女は目であなたの好きにしたら?といってきた。

まぁ、俺としても悪い話じゃない。

「いいぞ。」

「本当か!?」

「あぁ。だが時間はどうやって確保する?」

「緊急発進待機の時間を使う、少佐に頼んだらジョゼと配置換えになったからナ。」

なるほど。こいつは、既に俺が承認すること前提で動いていたのか。

根回しが済んでいるところはさすがだな。

「わかった、明日からやるからそれでいいな?」

「助かる!」

がばっと顔を上げて目をキラキラさせながら手を握ってきた。

そんなに追い込まれていたのか。

「ちなみにあと試験までどのくらいあるんだ?」

「一ヶ月だ!」

不安だ。

 

そうして“エイラをサーニャに内緒で士官にさせよう作戦”が始動した。

士官試験に出される問題は飛行用語や理論といったものである。

普通の戦闘機パイロットなら身近なものばかりだがウィッチになると感覚で飛んでいる者が多く、非常にてこずる場所らしい。

無意識のうちで全てを考慮して飛ぶことが出来るのは若さ故なのか、それとも・・・。

そんな事はどうでもいいのだが今はその無意識のうちに行っていることを説明できなければ不合格になってしまうのでまずはそこからはじめる。

と言うことでスオムスの教本を英語に直したものを俺が見てもいいのかと思いながら問題を出す。

ちなみに俺は魔法関連はさっぱりなのでウィルマにサポートしてもらいながら出題する。

本人はいつも飛んでいることを説明すればいいのだから楽勝なんていっていたが。

「ウィッチが水平飛行中に速度を落した際、起こる問題とその対処法は?」

「高度が落ち始める。だから迎え角を通常より大きくとる。」

「迎え角を取りすぎると?」

「制御不能になる。具体的にはスピン状態になる。」

「なぜ制御不能になる?」

「えっと・・・。」

10秒ほど沈黙が続いたので、エイラは答えられないと判断した伯爵がさっと手をあげ

「空気流がユニットの翼からはがれてしまい、飛ぶために必要な揚力を生み出せなるから。」

「正解。」

「ふふん、これくらい出来て当然だね。」

見事に正解した。

意外と伯爵も答えられるんだな。

「スピン状態に陥ったときの対処法は?」

「適当に・・・。えっと・・・。」

適当にって何だよ?

「それじゃあ、駄目だろう。もし教官になったらいつかは生徒に説明できるようにしなければならないんだ。伯爵、答えられるか?」

「はーい。スピンが起きている方向とは反対方向にエンジンの出力方向を向けてとにかく高度を落す。そうして速度を稼ぐんだね?」

「そうだ。エイラ、これが説明って奴だ。わかったか?」

「心ではわかってるんだけど、説明するとなると言葉に上手くできなくて・・・。」

「けれど、それが出来ないといけないんだろ?」

「ハイ、ソウデス。」

そういうとエイラは落ち込んでしまった。

「とにかく、口で説明して、それが書けるようにならないと。そこがおそらく弱点なんだから。」

 

「ウィッチが使う銃が地上で使うときに比べて弾詰まりしやすいのは何故?」

「わかんない!」

「伯爵!」

「知らない。」

2人ともわからないということなので俺は教本を見て、答えを確認する。

実は俺も初めて知ったのだがオートマティックの銃は射撃の際の反動やガスを使って排莢している。ところが上下左右あらゆる角度から銃を射撃しているウィッチの場合、ウィッチ自体の速度も重なって銃を設計した際には想定していない方向への力がかかり弾詰まりを引き起こしてしまうそうだ。

「「へー。」」

と言うわけで俺はエイラに、普通の勉強に加えて説明する力も養うように提案したのだった。

 

 

さて、こんなことを毎日続けていると傍からみていても大変なわけで。

エイラも見るからに疲れていた。出撃待機中もうとうとしていることが多かった。

もちろんスクランブルのときになれば起きるし、戦闘中も被弾することなんて事態はなかった。

でも彼女にとってはそれでも心配なわけで・・・、

「エイラ、大丈夫?」

「大丈夫だヨ、サーニャ!」

早速サーニャに心配されていた。サーニャにはもちろん勉強していることは話していない。

というか、普段あんな調子なのに勉強しているなんて話しただけで勘のいいサーニャなら気がついてしまう恐れがある。

だからなんとしてでも誤魔化さないといけないのだが肝心なときに不器用なのがエイラ。

「最近忙しそうだけど、どうしたの?」

「大丈夫だよ!だから何にも心配はいらないんだナ!」

これじゃあ、心配してくれって言っているようなもんだろ。

・・・サーニャが動く前にフォローしておくか。

せっかく引き受けたんだから、どうせなら最後まで完遂させてやりたいし。

 

夕食後、夜間哨戒前の最終確認をしているサーニャを格納庫で見つけた。

どうやら今晩の気象状況を確認しているようだった。

満月の快晴、飛ぶのには最高の天候のようだ。

俺の足音に気がついたサーニャが振り向き、俺と目が合った。

「サーニャ、少しいいか?5分で終わる。」

「バーフォード大尉?いいですよ。」

「悪いな、少し重要なことなんだ。」

そういうと、サーニャは近くの椅子に座る。

俺は立って話すつもりだったが促されたので隣に座る。

「それで話はなんですか?」

まずサーニャが切り出してきた。

時間を取らせてしまっている手前、彼女のペースに合わせることにする。

「サーニャのほうが聞きたかったんじゃないか?ここ最近のエイラの様子とか突然A隊からB隊に異動したこととか。本人は濁すだけで話してくれないからな。」

「・・・はい。エイラどうしちゃったんでしょうか?」

そういうとサーニャは黙ってしまう。なんとなく落ち込んでいるようにも見えた。

「お互いに信頼しているからこそ、話してほしいのか?」

「はい。」

即答だった。

「いつもならまず、私に相談してくれていたのに。それで、少し不安になってしまったんです。」

「ふむ、なるほど。」

「大尉は何か知っているんですか?」

そこで俺は少し悩む。

ここで全てを打ち明けるのも確かに手だが、それはエイラを侮辱することになる。

でも全て隠すのも得策ではない。

だからちょうどいいようなウィルマと話し合って決めた折衷案、それを彼女に伝える。

「だったら、待ってあげるのもひとつの手じゃないか?」

「え?」

「詳しくはいえないが、あいつだって考えているんだ。そして、どんなときもサーニャのとこを一番に考えている。それは確かだ。だったらいまこの瞬間はエイラは自分でやってみたいといっている以上、たとえ信じているとしても見守ってみるのも手だと思うぞ。

ま、これも他人が俺に教えてくれたことをそのまんま言っているだけだけどな。」

ふと彼女を見てみると目を丸くしていた。

・・・なんだ、俺がこんなこと言うのがそんなに意外だったのか?

「待ってあげる、ですか?」

「あぁ、時間がたてばエイラだって話してくれるさ。あいつがサーニャのことを嫌いになるなんてありえないしな。あいつはいつだってサーニャのことしか考えてないから。」

「そ、そうなんですか?」

顔を赤くしながら、そして少し照れながらそういった。

そして少しの時間をおいて、彼女は答えを決めた。

「そうですね・・・。わかりました。エイラのことを信じてもう少しだけ待ってみることにします。」

そういうと彼女は立ちあがり、ユニットに向かった。

「大尉、ありがとうございます。おかげで楽になりました。」

「なら、幸いだ。夜間哨戒任務、気をつけて。」

「了解です。」

サーニャは一礼してユニットに搭乗、程なくして出て行った。

さてと、これで2人の間でなにもないといいんだけどな。

 

格納庫を出ようと振り返ると、入り口からこっちを覗いていたエイラと目が合った。

「大尉?サーニャとなに話していたんダ?」

「残念ながらそれはサーニャと2人の秘密だ。」

「なんだと!」

ったく、こいつはサーニャのことになるとまるで人が変わるからな・・・。

 

「まぁ、その話は置いておいて。」

「おいておけるわけないだろ!」

ったく、面倒くさい奴だな。なんだよ、もう。

対応するのもだるいので俺のペースで話を進める。というか、どうしても聞いておきたかったことがあったのを思い出した。

「エイラは前に502に派遣されるのが決定したのはガリア解放された直後だといっていたな?」

「ん?あぁ、私達はサーニャの両親を探すためにオラーシャに向かう予定だったんだけど、出発する直前に命令が来てここにくることになったんだ。

お偉いさんの話じゃ、ブリタニアから2名派遣することになってこちらもと言うことで決まったらしいナ。きっと我々も戦力を出さないわけにも行かないのでちょうど手の空いたこいつらを送り込んじまえ!とか思われたんだろうナ。まったく、迷惑な話だナ。それと今思えばこの2人って大尉達のことだったのか。」

自己完結しているエイラを見ながら俺はひとつの結論を出していた。

・・・やっぱり。

以前からなんとなくは想像していたが俺がこの世界に来て少なからずなにかに影響が出ているのか。

俺が来なければジャックはウィルマの派遣を決定しなかった。俺と出会うことのなかった彼女はあのまま引退していたかもしれない。そして、この2人は俺達の派遣の影響を受けずに捜索を続け、両親を見つけていたかもしれない。

俺はこのとき罪悪感を覚えた。

もしかしたら、俺は彼女の両親との再会を邪魔してしまったのかもな。

このまま、何もせずにのうのうと生きてゆくのも少しいやだな。

だったら、少し手伝うか。

「それがどうしたのか?」

「いや、こっちの話だ。それじゃあな。」

「あ、待て!大尉、まだ話は終わってないゾ!」

俺は俺のために行動する。

少しでも自分の中にある罪悪感を消したかったから。身勝手だと思われても仕方がないが、行動する。

なぜなら、それが俺のせめてもの償いだから。

 

次の日

「なぁ、ジャック。少し頼みがある。」

『お前が俺に頼み事とはずいぶんと珍しいな。どうした、話してみろ。』

「実は・・・。」

 

『・・・なるほど。大体は理解した。それは確かに他人事じゃないな。わかった、こちらでも調べてみよう。その件は確かに個人で探すのには少し無理がある。』

「助かる。頼んだぞ。」

『あぁ。それにしてもお前さんが他人の心配をするとはな。人は環境が変わるだけでこんなに変化する物なんだな。』

「言ってろ。あんなむさくるしい地下から地上に、それも体自体に変化がおきたんだ。思考に変化が起きないほうが無理がある。ジャックだって変わっただろうに。」

『違いないな。

「それじゃあこっちはこれからブリーフィングだ。切るぞ。」

『じゃあな。何かわかれば連絡する。』

俺は受話器を元の場所に戻す。

ジャックは人づてとロンドンにある資料から探すようだから、俺はこちらの東欧司令部が保管する資料から探す。

ブリタニア課からも何人か人を借りて閲覧できる資料から出来る限りのことをするつもりだった。

 

そして、約4週間ひたすら色々なことをエイラに教え続け、裏では捜索も行った。

まずは、エイラの方から。

もう大変だった。今まで感覚で飛んできたつけ故にエイラの頭には常に?マークがついていた気がした。だが時間がたつにつれて彼女の?も減ってきた。

きっと本人の努力が実り始めていた証拠だろうな。

そして

「・・・どうダ?」

「・・・うん。いいんじゃないか?この成績なら問題なく合格できるだろう。」

「やったー!」

俺がそういった瞬間エイラは飛び上がり、もうすごく喜んでいた。

試験前日でようやく合格点に達したんだ、そりゃうれしいだろうな。

「試験は明日だったな?」

「あぁ、試験後当日に結果がわかるんだって。即日結果発表。」

「と、なるともう下手したら今週中に士官教育が始まるのか。」

「そうなるナ。」

「そうすると、しばらくサーニャとはお別れだな。合格したらちゃんと挨拶しておくんだぞ。」

「・・・・・・は?」

「ん?」

俺はエイラの回答を見ながらだったのでふと止まったエイラを見てみるとその顔は何か重大なことに気がついたようだった。

「サーニャと・・・お別れ?」

「・・・まさか気がついていなかったのか?仮に一ヶ月程度とはいえ、オラーシャ空軍士官学校にサーニャも一緒に入学なんて、そんなこと出来るはずがないだろ?」

もしかしたらエイラがおねだりすれば可能かもしれない、なんてそんな可能性がふと浮上するがそれを彼女に伝えるのはやめておく。

言ったら絶対に実行するに決まっている。なぜなら、

「・・・・・ああああ!!!」

この絶望に満ちた声が物語っている。

さすがに今の叫び声に伯爵も驚いていた。

「サーニャと、一ヶ月も、お別れ!?そんな、そんなのって、どうしよう!?

・・・っは!!そうだ、士官学校に行かなければ!!」

そっちかー。そっちに思考が傾くのか。

「それは本末転倒だろう!何のためにやってきたんだよ!?」

「だって、だって、サーニャと・・・。うわーーー!」

・・・一体どうしたらいいんだよ?

結局1時間ほど説得して何とか士官学校に行くことにした。

というかさせた。

これから1ヶ月我慢するのと今を甘えていつか一生離れ離れになるのとどっちがいいという究極の選択をさせたら何とか折れてくれた。

はぁ、相変わらずどこか抜けているな。

 

次の日、いまだに嫌がるエイラを車に押し込み司令部に送り込む。

つく頃には腹をくくっていたらしく、”いってきます。”と敬礼しながら司令部へと入っていった。

一旦基地に帰り、試験が終わる頃に再び迎えに行くと複雑な顔をしたエイラが入り口で立っていた。

紙を見せてきたので確認すると成績表だった。どうやらエイラは合格点をはるかに上回る得点で試験を合格したらしい。

私、本番に強いタイプなんダとは言っていたが強すぎだろう。

トップ卒業も夢じゃない。

一人しかいないけど。

 

そしてその数日後、行ってくるゾ、とただ一言、悲壮感を漂わせながら格納庫に向かっていった。

期間は4週間、果たして彼女は耐えられるのか。

さすがにかわいそうになったのかサーニャが手紙を送るよ、といったら泣いた。

サーニャに抱きついてワンワン泣いたあと、半泣きしながら離陸していった。

無線からはエイラの泣き声が時々聞こえてくるほどだった。

強く生きろよ、エイラ。

 

 

4月

サンクトペテルブルクはようやく暖かくなってきた。

いまだ冬服は手放せないが、最高気温が氷点下を上回る日が出てきただけましだろう。

みなのユニットも凍ってしまって動かない、なんて事態も少なくなってきた。

少しずつ雪解けも始まっておりこれで滑走路の雪問題も早く解決してもらえれば楽なんだが。

さて、サーニャのほうを話そうか。

ジャックからある程度情報が集まったので取りに来てほしいという連絡が来た。

司令部のブリタニア課で書類を受け取り、部屋を貸してもらって早速こちらで得られた情報と照らし合わせながら確認する。

サーニャの両親の行方に関する報告だ。だめもとで調べてもらったがなかなかいい情報が得られた。

オラーシャ軍がメインなので彼女の書類も502の同僚と言うことである程度は見せてもらえた。ここに書かれている内容はジャックのほうでは手に入れることが出来なかったのでかぶらなくて良かった。

彼女の両親は音楽家と言うことで音楽大学や演奏集団などの名簿から探したが見当たらなかった。

モスクワや少し遠いスオムスなども当たってみたが、だめだった。

ただ個人の教師とかになっているともはや探す事は不可能だ。と言うわけで今すぐ、会いに行くというのは不可能だった。

次に足取りだが、2年前までの足取りまでならつかめた。戦争が始まり、モスクワまで行きそこで数年過ごした記録が残っていたらしい。

そこで避難民を輸送するための列車に乗ったのは確かなのだがどれに乗ったかの資料がなかったらしい。オラーシャからの避難民にかつて聞いたことがあるがモスクワからの列車に乗った人のうち、東に逃げたのなら安心、南に逃げたならおそらくは絶望的、西や東なら五分五分と言ったところなのだとか。

有名な音楽家でヨーロッパで名前が知れ渡っていた人物だったからすぐ見つかるかな、と楽観していたがやはり無理だった。

だが、ある程度は絞り込めたのがせめてもの収穫か。

今の時点で出来る限りの事はしたのでエイラも帰ってきたことだしちょうどいいタイミングと言うことで俺は渡すことにした。

 

部屋から退出して、書類を鞄にしまい基地に帰る事にした。

1階に下りると少佐と会った。

「少佐、どうしたんですか?」

「あぁ、大尉か。今日エイラが帰ってくるそうだ。」

ブリタニア課の人から聞いてはいたが、それとなく初めて知ったことにしておく。

「早いですね、と思ったらもう4週間たっているのでもうそろそろだったんですね。」

「あぁ、だから復帰に関する書類を受け取らなければならないのでここに来たわけだ。」

なるほど。

復帰するのにまた書類を作らないといけないとは、これだから中間管理職だけにはなりたくないんだ。

「それじゃあな、大尉。」

「えぇ、お疲れ様です。」

そういって俺は少佐と別れる。

空を見上げると少し低めの高度を取った機体が1機、上空を飛んでいるのが見えた。

あれは、エイラか?

方角から考えて、スオムス方向からの帰投コースだろうから間違いないかな?

ようやく帰ってきたのか。果たして士官教育を受けてどれくらい頼もしくなっただろうか、少し楽しみだ。

 

「サーーニャーー!!!!」

俺が帰るとそんな声が聞こえた。

基地に車を止めて、自分の部屋戻る途中の通路でのことだった。

おかしい、ここから格納庫まではかなり離れているというのに、相当大きな声だったんだろうな。

はぁ、この調子じゃ根本的なところはまったく変わってないな。

「エイラ、お帰り。よくがんばったね。それと中尉昇進おめでとう。」

「あ“り”がどうー。」

格納庫に入るとこんな感じだった。

もう、泣いていて何を言っているのか良くわからん。ただ、ずっと会えなかった衝動とそれにほめられたことでもう何かが決壊してしまったのは確かなようだ。

それにしても中尉に昇進か。よくいろんな意味で耐え切ったものだ。

エイラがこっちに気づいて走ってきた。

「大尉、ほんっとうにありがとう!おかげで何とかなった!」

「良かった。ま、お前さんの実力なんじゃないか?」

「いやー、そんなー、照れるナ。」

えへへ、といいながら少し笑う。相変わらず喜怒哀楽がすごい奴だ。

まぁ、泣かれるよりはいいか。

少佐に帰ってきたこと言ってくるー、と言い残しエイラは-おそらくは司令官室だろう-スキップしながら去っていった。

ちょうどいいや、これはエイラがいるときに渡すとまた変なことになりそうなので今のうちに渡しておく。

「サーニャ、これを。」

「これは?」

俺は先ほど受け取った書類をサーニャに渡す。既に彼女に渡す事はジャックに言ってあるのでジャックもそのことを承知で書類を作っているはずだ。

俺もそれを前提にタイプライターを使いながらなんとか書いた。

「そうだな、あえて言うなら罪滅ぼしだ。サーニャのためになるものだ。受け取ってほしい。」

「はい、わかりました。今、見てもいいですか?」

「もちろん。」

 

サーニャはその書類を読むにつれて表情を変えていった。

「バーフォード大尉、これって・・・。」

「まぁ、読んでの通りだ。エイラとサーニャは本当だったら両親を探すつもりだったんだろう?なのに俺達のせいで502に行くことになった、だからそれの罪滅ぼしだ。

あまり有力な情報はなかったがな。」

「それでも、ありがとうございます。私達だけじゃ、絶対これすらも集められなかった。」

もう一度書類に目を落し、読み始める。

 

「ま、2人が本来集めるはずだったものを俺が勝手にやっただけだ。俺のただの自己満足で罪滅ぼしをやっただけだ。勝手に君のプライバシーに入った事は謝罪する。

けれど、俺はそれをやらないといけない気がしたんだ。許してくれるかな?」

「そんな、ここまでしてくれて許さないなんて事はないです。それと、罪滅ぼしとは?」

「そこはたぶんエイラがわかってくれている。今度聞いてみてくれ。」

「はい。」

足音が聞こえ、だんだん大きくなってきた。

「少佐はいなかったのでーかえってーきましたー。」

さっきと同じハイテンションを保ったままスキップで帰ってきた。

「お帰り、エイラ。早かったのね。」

「少佐はいなかったんだ。まぁ、挨拶はあとででいっか。それでさ、大尉。ひとついいかな?」

「ん?なんだ?」

「ちょっと話があるんだな。いい?」

「別にかまわないが・・・。」

「よし、それじゃサーニャ。またあとでナ。」

「うん、じゃあね。エイラ。大尉、ありがとうございました。」

「あぁ。」

今のやり取りをエイラは不思議そうに見ていたがすぐ俺の手をとり引っぱっていった。

つれてこられた場所は格納庫と格納庫の間、人影はまったくない。

ふとエイラを見るとなんかもじもじしていた。

こんな積極的なエイラを見るのは珍しい。というか、何が目的なのかがまったくわからない。

「あのさ、大尉。」

「どうした?」

目をそらしながらも俺に語りかけてくる。

「えっと、本当にありがとうね。私一人じゃ絶対に合格できなかった。大尉が私に教えてくれたおかげでサーニャともこれから一緒に行ける可能性が広がったんダ。だからありがとう。本当に感謝してる。」

そういうとエイラは頭を下げた。

そっか、なるほどな。ようやくわかった。

「・・・別に。がんばったのはエイラだ。俺は手助けしただけだ。」

最初は貸しが出来るなんて考えていたが他にも手助けする理由が俺には出来ていた。

サーニャのも含めての罪滅ぼしだ。この世界に来たのは本当に偶然だったが俺が降りたせいで身近な人に影響が出ている。だったら俺が出来ることをしたい。

そう思って手伝ったんだ。

「そういうところって、やっぱり大尉らしいな。」

「なんだよ、大尉らしいって。」

「えっとね、感謝してもなんかするりと回避しちゃうようなところ?

たまには受け取ってみるものだヨ?」

なんだそりゃ。

「だから、お願いがあって。もうひとつ、聞いてくれる?」

「別に、何でも聞くのに。」

何でも?とエイラが聞いてきたので、俺は話を聞くだけだ、それから決める。というと

なんだ、と残念がられた。

そして、一回咳をして空気を変えた上で、

「私を“イッル”って呼んでほしい。」

そう頼んできた。

「イッル?まぁいいけど何で?」

「私のあだ名なんだ。本当に少しの人にしか呼んでもらっていない名前なんだけどね。

私は大尉に本当に助けてもらったんだ、だからぜひこの名前で呼んでほしいんだ。

だめかな?」

「まぁ、そういうならわかった。でもそんなすごい名前で呼んでもいいのか?」

「もちろん!ほら私を呼んでみて?」

俺は一回深呼吸してその名前で呼ぶ。

 

「イッル。」

 

そういうと、イッルは一回俺今まで見たこともないような笑顔を見せて

 

“ありがとう”

 

そういった。

数秒の沈黙を挟んでそれじゃね、と言い残してエイラ、いやイッルは走っていった。

 

・・・ウィルマがいなくて本当に良かった。あの笑顔には一瞬心が動いた。

「どうだ?私の妹は?」

後ろから声をかけられた。

振り返るとそこにはエイラの姉、アウロラが立っていた。

「予想外だったよ。まさか、あんな奴だったとはな。」

「ふふん。なんせ私の自慢の妹だからな。私を差し置いて手を出すんじゃないぞ。手を出すなら私を倒してからだ。そうすれば考えてやる。」

してそんな事冗談でも言わないでほしい。ウィルマに聞かれていたらと思うとぞっとする。

最近ウィルマが時々すごく怖く思うときがある。特に他のウィッチと話しているときだ。

あれは嫉妬だろうけど、女の嫉妬ほど怖いものはないと誰かが言っていたが最近ようやく意味がわかった。

「悪いが遠慮しておく、怖いからな。それにエイラにはサーニャがいるじゃないか。俺なんかが入る余地はない。」

「そうか?あのエイラが他人にイッルと呼ばせる人なんて本当に少ないぞ。少なくともスオムスの人間以外で呼ばせているところなんて見たことがない。私も驚いているくらいだ。」

「そうか、なら光栄だよ。そういえば、サーニャは普通にエイラって呼んでいたけどあれは?」

「あぁ、いまだにそう呼んでほしいっていう勇気が出ないんだってさ。まったく、変なところで残念なんだから。」

そういうと同時に遠くで警報が鳴った。

これはスクランブルではない、ウィッチ回収隊の出動命令だ。

「・・・また誰かが落ちたのか。」

「そうみたいだな、それじゃあ大尉。あとはよろしく。」

アウロラは、車があるところへ走っていた。

さてと、俺も自分の用事を済ませるか。午後の出動に備えて格納庫に向かう。

 

格納庫に入るとサーニャとイッルがいた。まだ再会を喜んでいるのかと思ったら少し違った。

「大尉、どういうことダ?」

「どういうこと、とは?」

そういうとサーニャがこの書類を指差す。

あぁ、なるほど。

「喜んでくれたなら何よりだ。」

「違う!」

そういうと俺に迫ってきた。

「私がいない間にサーニャに手を出そうとしていたなんて!」

その言葉に思わずサーニャと顔を見合わせてしまった。サーニャのことになるといつも視野が狭くなるんだよな。

まったく変わった様子がないエイラに、お互い苦笑いをしてしまう。

「あ、まさか!もうそんな以心伝心できる関係に!?」

一回ため息をついた後に小声でサーニャに話しかける。

(相変わらずだな。)

(ですね、でも少し安心している私もいます。)

(奇遇だな、それは俺もだ。)

このやり取りを見た瞬間、イッルはついに爆発した。

「やっぱり、大尉なんて大嫌いだーーー!」

その言葉を聴いてようやく、あぁ、いつものイッルが帰ってきたんだなと実感している自分がいたことに気がついたのだった。

End

 

 

 

<テストフライト>

 

「エンジンテスト開始。」

本当ならもっと早くやりたかったのだが、おれ自身が被撃墜してしまい、結局出来ていなかったA整備をようやく行える時間を確保できたので数日かけて実施した。

特にエンジン部に関してはかなり細かいところまで分解して出来る限りの点検を終える事が出来た。一部、エンジン使用時に問題が発生しそうな場所が数箇所あったのでそこを直せたのは良かった。

これでしばらくは問題ないだろう。

後は全ての箇所が正常に動くかを確認するためにテストフライトを行わないとな。

ここ最近はスクランブルの回数も少ない。昨日、A隊は1回緊急出撃を行ったが俺達は0回だった。ネウロイの襲撃が少ない今だからこそ、このA整備が出来たって言うのもある。

そんな状況だから試験飛行の許可もすぐ下りるだろうと思い、少佐の元に向かうと案の定すぐ降りた。

試験飛行空域はバルト海上空、ここ最近ウィッチの大半がペテルブルクの哨戒やガリアに回されているのでバルト海の警戒網が薄くなっているとのことだ。

よって警戒するウィッチの数は多いに越した事はない、というのが理由らしい。

 

さて、許可も下りたことだし離陸準備にはいる。

万が一に備えて通常の武器を装備して支度を整えた。

ここ数日は新しく持ってきた(というか曹長に頭下げて持ってきてもらった)スピットファイアだったので久しぶりのメイブの速度で空を飛べるのがうれしい。

Auxiliary power unit(APU、補助動力装置)を作動させてユニットを起動する。

そしてエンジン出力をアイドルにセット。

右エンジン、左エンジンの順番で始動。

それと同時にエンジンの回転数が上昇し始める。少しずつエンジンから発している音が大きく、そして甲高くなり始め無事始動できたことがわかり安心できた。

しばらくしているとエンジン回転数が右が32%、左が33%で安定し始める。よし、許容範囲だ。

次にエンジン温度を確認する。アイドル状態で300-350℃が安全圏内だが、320℃で問題なし。その他全てのチェックリストを確認、エンジンスタートは全過程を無事に出来た。

また、フラップ、ラダー、ギア、偵察ユニット、全て問題なし。

管制塔の許可を得て滑走路に進入。ホイールブレーキを作動させながらエンジン回転数を75%で安定させ、滑走路で一旦停止する。

進路上に障害がないことを確認した上でブレーキ解除、エンジン回転数を最大にして離陸滑走に入る。

いつものジェットユニットの爆音を響かせながら速度160km/hで離陸、最大上げ角の2/3ほどの角度を持って離陸する。

高度10mでギア収納。

332km/hでフラップアップ。

そして俺はバルト海上空の試験飛行空域に進路を向けて、一気に速度を上げた。

 

試験飛行は主に最初は緩やかな飛行を行い徐々にユニットに負荷がかかる飛行をしてゆく。

ゆったりとした旋回から初めてそれがクリアできたので4、5、6G旋回を行い肉体限界ぎりぎりの9G旋回もこなせた。

戦闘中に行う急降下の攻撃も急な出力の上げ下げも許容範囲だろう。

地上を精査するレーダーにも問題なし。海上を航行する艦船を複数確認。

他の偵察ユニットでも同様に識別、問題なし。

よかった、ここ最近触っていなかったから何か問題があると正直対応に困るところだった。

 

高高度での燃焼試験のために上昇していると高度10000m付近を飛行中にレーダーが敵影を捉える。

俺よりもさらに2000m近く上を飛ぶネウロイを発見した。

高いな、推定高度は12000m。普通のウィッチはこの高度まで上がれるのかぎりぎりのところだよな。

小型だがかなり高速だったため、偵察型と推測。

だが、見ると機体の大部分を飛ぶために費やしているのでは?と思えてしまう形をしていた。

過去には機体の半分をブースターのように使い、途中で切り離すタイプのネウロイも報告されていることを考えれば十分ありえるだろう。

北へ向かっていることを考えればこいつらはベルリンの巣から出撃し、バルト海を北上してスオムスに向かうルートを取っているのだろう。

こいつらは本来ならば502が担当するやつらのはずだ。

俺がこの空域を飛んでいる事は地上のやつらは知っているはずだから迎撃命令が来ないところを見ると警戒網の穴を抜けてきたのか?

そうすると、やっかいだぞ。

 

まぁ、今はいい。

前方のネウロイに標準を合わせることにする。

ECMを作動させ、味方のレーダーに映らないようにする。

これからの戦闘は公式記録にはのこらないが、この攻撃手段はまだ秘密にしておきたい。

BOREサイトモードを起動して敵機2機をロックし、ミサイル攻撃の準備を開始。

これは、こちらの兵装も問題なく使えるかのチェックもかねている。

ついでにどれくらいの性能があるのかの確認もあるが。

STTモードに自動で移行して作動音がハイピッチになる。敵機との距離が11000mを切る。

そしてミサイルのシーカーロックが完了しいつでも発射可能になる。

 

【挿絵表示】

 

「発射」

ユニットから2つの光点が飛び出して一気にネウロイに向かって飛んでいく。

 

5

4

3

2

1

 

Lost

撃墜確認。

遠くで小さな煙を確認したところでECMを解除する。

辺りの電波妨害も解除されて、通信がクリアになる。

『・・大尉!無事か?』

「こちらバーフォード大尉だ。どうした?」

『あぁ、突然電波障害が発生してな。そちらのバルト海方面からだったから何かあったのかと思ってな。』

「残念ながらこちらでは何も確認できない。偵察は必要か?」

『いや、大尉は試験飛行中だろ?だから気にするな。付近のウィッチ隊に出撃を要請したからあとは彼女らに任せて帰投してくれ。』

「バーフォード、了解した。」

彼女らには無駄足をさせるわけだが仕方ない、こっちはウィッチが手出ししにくいやつらを片付けたんだからせめて働いてもらおう。なにかこの動きに関する報告が上がればいいのだが。

 

とにかく、こちらの試験は全て問題なく終わる見込みだ。

最後の高高度燃焼テストのために俺は一気に高度を上げたのだった。

 




さて、この”妖精の翼 ~新たなる空で彼は舞う~”もおかげで1年です。
自分の趣味全開ですが、読んでくださってありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。

ご指摘、ご感想があればよろしくお願いします。


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第45話 会議前日

ヴェネツィア防衛戦が失敗に終わり、人類はそこを失った。
司令部は一旦体制を立て直すために部隊の再編を行う。
その過程で援軍として来ていた俺達には帰頭命令が降りる。
それと同時に俺には本国司令部に出頭するよう命令がおりたため、一緒に戦った仲間に別れを告げて、ブリタニアに向かうのだった。


ネーデルランド、アルンヘムン上空約20000m

 

 

ヴェネツィアからロンドンに帰る途中、時間調整のため少し寄り道をしていた。

アルンヘムンはネーデルランドと帝政カールスラントの国境近くにある町で現在カールスラント奪還を目論むカールスラント陸軍を主力とする連合軍とそれを支援する空軍及び一部海軍航空隊の前線基地となっている。

現在も膠着状態になっているとはいえ、ネウロイとの激しい戦いがいまも続いている。

そして、俺がここに来た理由のひとつでもあるとある部隊が攻撃を行っていた。

それは、地上攻撃ウィッチ。

俺と同じように空を飛びネウロイを攻撃するために動いているが、任務はまるで異なる。

彼女らの主任務は地上型ネウロイの撃破。

飛行型ネウロイとは装甲の厚さも異なりそれゆえ撃破するには我々空戦ウィッチとはまったく別の攻撃方法が必要になってくる。

俺もヴェネツィアや撃墜された後を含め何回か戦ったことがあるが、高速で動いている目標を攻撃するのと違ってほぼ止まっているに等しい目標を撃破するのは能力を使用していなければきっと手こずったであろう。

さて、この時代の地上攻撃ウィッチは主に2種類の攻撃法方を選ぶことができる。

まず1つ目。大型で大口径の対装甲ライフルを使用する。空戦ウィッチが使用するのよりもさらに大型で威力も大きいため振り回しにくいため俺達は使うことが難しいが、地上攻撃ウィッチなら可能だ。これであればたいていの地上ネウロイは破壊できる、今のところは。

しかし、中にはこれでも破壊できないタイプも存在する。

例を挙げるとすれば、海に沈んだ船にネウロイが取り付いて結果として超大型ネウロイになったパターンがある。

こういったネウロイを攻撃、撃破する方法が、背中に機関銃や狙撃銃を担いで開いた両手で爆弾を持って敵上空で放り投げる方法だ。

最初の一度しかチャンスがない上に爆弾を投下したあとは対地上型ネウロイに対して効果が薄い機関銃や狙撃銃しかオプションがなくなるしそんな状態で空戦型のネウロイと遭遇したら爆弾を放棄して戦闘か撤退かの2択しかなくなるなど欠点が多いが、装甲が厚いタイプのネウロイには非常に有効な攻撃手段だ。

ちなみにウィッチによって持てる爆弾の限界重量が異なるため、基地には1ポンド単位で重さが異なる爆弾がたくさん置いてあるらしい。ボーリングかよ。

こうやって地上攻撃ウィッチはこの2つの攻撃手段を敵によって使い分けて出撃している。

ただ、使い分けているとは言っても中にはそれぞれを専門に行う部隊もあるようで、今俺が見ている部隊も爆弾を持って急降下しながら投下、攻撃するいわゆる急降下爆撃に特化した隊のようだ。

無線を傍受していると、隊長機の指示の元で全機が一斉に急降下を始めた。

地上戦車隊の連中が無線でサイレンと言っているのが聞こえてくることからおそらく使用機材はスーツカだろうか。

そして全機が敵の対空レーザーを回避しながら所定高度で投弾し、反転上昇を始める。

投げられた爆弾は地上の大型ネウロイ1体あたり2個の割合で割り振られていた。

やがて爆弾は高度を落していき、ネウロイに着弾した。

隊長機を含む3機のウィッチが放った爆弾はネウロイに命中、うち1機はコアを破壊。

残りの3機が放った爆弾のうち2発は空中にてネウロイのレーザーに迎撃されて空中で爆発、1発は戦闘のネウロイの進行方向に着弾し、移動速度を少し遅らせることに成功した。

そこに地上戦車部隊や迫撃砲を運用する部隊などが集まったカールスラント陸軍が集中砲火をかけ、のちに撃破した。

それを見届けた地上攻撃ウィッチはそのまま基地に帰っていった。

おそらく爆弾を再度もって出撃するのだろう。

空戦ウィッチとは異なる戦い方を見られたのは参考になった。

まったくこの世界の戦い方は本当に変わっているな、というか俺の常識の範囲外のことがいくつも起きる。

そう改めてこの世界の常識と俺の世界での戦い方の違い痛感しながら俺はまた針路を本国に戻した。

 

ブリタニアの領空に近づくと哨戒飛行中のウィッチに身分を尋ねられ、それに答え、照合が終わると目的地を指示された。

そして管制塔の指示のもといつもの基地とは異なる、ハイ・ウィッカム空軍基地に着陸した。

どこかの資料ではこの基地には滑走路は存在しないと聞いたことがあるのだが、実際にはちゃんと1本だが存在していた。

ここにはブリタニア空軍ウィッチ軍団、戦闘機軍団、爆撃機軍団のそれぞれの司令部がある。

同じ建物に3つの本部があると混乱しないのだろうか。

いや逆に有事の際は色々なところに行かないでもこことロンドンにある航空省と連絡が取れれば問題ないからいいのか?

そんな事を考えながら格納庫に到着。エンジンの出力をカットし、ユニットを外すと魔力の保護が解除されてすこし寒さを感じた。

 

そんなに俺は寒がっているように見えたのだろうか?

「寒いのでしたら、こちらのジャケットをどうぞ。」

ふと、少女の声が聞こえた。

視界の左側の端から何か動くものが見えたので確認すると、背中には空軍のエンブレム、右肩には特殊戦術飛行隊のエンブレムがつけてあるジャケットを渡された。

差し出されたところを見るとどうやら俺が着ていいものらしい。

「ありがとう。ところで君は?」

「ダウディング空軍大将からの使いで、大尉を迎えに行くようにといわれました。」

そして、そのジャケットを差し出した少女が俺に敬礼していた。

彼女とは一度会ったことがある。STAF発足の会議直後にすこしばかし“お話”したあの少女だった。確か、名前は・・・。

「VFA-13、第1飛行中隊、第3飛行小隊所属のジーナ・オウレット中尉です。あの時はどうも。」

彼女は敬礼したまま自己紹介してきた。あぁ、そんな名前だったかな。

少し小柄で、生意気だったあの時の奴か。半年振りくらいだが、少し雰囲気が変わった気がする。

何と言うか強くなった?というか口調も変わった。ジャックの指示の元何個か作戦をこなしたのだろうか?

「あぁ、ずいぶんと久しいな。それと、雰囲気が少し変わったな。あのときより多少場数を踏んだんじゃないのか?」

ところが俺がそういうと彼女はため息をついてうつむいてしまった。

俺は褒めたつもり言ったはずなのにどうやら彼女にはそれが皮肉だと受け取られてしまったようだ。

「はぁ、確かに私もここ数ヶ月で何回か死にかけそうになりましたけど、何とか生きて帰ってきました。おかげでそれなりに経験をつめたと思ったのですがね。

その点に関しては大将に感謝しています。おかげで撃墜数も増えて、階級も上がりましたし。しかし、そんな私にとって最近上げた一番の成果もあなたにとっては多少で済まされてしまう程度なのでしょうね。」

どうやら俺が502でどんなことをしているのかをどの程度かはわからないが知っているらしい。

いったい誰に聞いたのやら。

そんな俺の疑問を気にせず彼女は話を続ける。

「大尉と話したとき、当時は私と撃墜数が3しか違わなかったから次あったときは差をさらに広げて見返してやろうと思っていたのに、気がついたら大尉ったらスコア100超えているじゃないですか。まさか、そんなスコア出すとは思っても見なかったし。

化け物ですか?ブリタニアで100を超えている人なんてほとんどいないというのに。

あのとき大尉に喧嘩を売った私を殴ってやりたい。」

一応上官なのだが、あの時と同様敬う気配を微塵も見せない彼女を見てこの部分は変わっていないのだなとつい思ってしまった。

「だったら今殴ってやろうか?」

俺が冗談めかしにそういうと彼女は苦笑いしながら、“遠慮しますよ、痛いのは苦手だし”と返してきた。

「それでは行きますか。ついてきてください。」

俺はうなずいた後、ユニットを警戒モードに移行させて中尉についていく。ちなみに俺は“とりあえず、本国に帰って来い。”としか言われていなかったのでブリタニアについてからの指示は特に与えられていなかった。最初は良くわからなかったがおそらくそれからは彼女についていけ、という意味も含まれていたのであろう。

入国したので必要な書類に移動しながらサインして、窓口に提出する。

そして、そのまま彼女についていくと駐車場に出た。

まぁ、空からロンドン中心部からここまでの距離は大まかに把握していたので車での移動が妥当なのだろうな。

そして俺は意外にも助手席に座るよう促されてその通り座ると中尉が運転席に座る。

運転できるのか?と聞くともちろん、と得意げな顔で返された。

ちなみにウィルマよりも上手かった。

 

基地を出て相変わらずの田舎の風景に懐かしさを覚えながらも眺めているとふと、行き先を聞くのを忘れていたことに気がつく。

「それで、どこまで行くんだ?」

「航空省ですよ。そこで大将がお待ちです。何でもヴェネツィアでの話が聞きたそうですよ。」

俺の問いかけにオウレット中尉は顔を前に向けたまま答える。

「それと速やかに報告書を作るようにとの指示が大尉には出ています。なんでも明日の1000に首脳陣、各省庁、陸軍、海軍、空軍、SISを含めた国防会議が開かれて今後の戦略を話し合うということでそこで使用される資料で参加する人に現状を説明する際に必要なため、だそうです。具体的な会議内容は私には知らされませんでした。何か質問は?」

「ここ最近、何かブリタニア空軍で動きは?」

俺はダッシュボードの中に入っていた今後の動きとやらが書かれた資料に目を通しながら中尉と話す。

ここ最近、ジャックが何をしているのかはあまり教えられなかった。

知らせる必要がないため、とも取れるが俺としては同じ部隊に所属しているほかの人員がどのような作戦を行っているのか気になっていた。

「STAFのFSQ(第1飛行中隊)はあまり動きがありませんでした。防衛を主任務とするうちはここ最近攻勢に転じている欧州ではあまり活躍の場がありませんからね。ここ最近はスクランブルで助けが必要な部隊の援護に行ったりアグレッサー(仮想敵)を行ったりと雑用ばっかりでした。ですがヴェネツィアが陥落し、又こう着状態に陥っている戦線を鑑みると何かあるかもしれません。他の隊員も上手くいけば活躍できるかもって張り切っていました。

SSQに関してはVFA-21、まぁ、大尉達が502で活躍しているところや、第3飛行小隊が潜水艦に乗り込んでスエズ方面を強行偵察したり、かなり動いているようです。なんせ、いま本国にはSSQのメンバーは大尉一人だけで残りは全員国外ですから。

TSQはジェットストライカーユニットの量産型をどうするかの方針を立てるためのテストをしているそうです。が、魔力消費量の関係から上手くは言っていないみたいです。技術陣の方が燃料タンクならぬ魔力タンクと言う魔力を事前にためておくことが出来る素材の開発にいそしんでいるとか。これくらいです。」

なるほど、意外と活躍しているんだな。

それにしてもVFA-23の潜水艦を使った強行偵察か。船を撃沈する必要がないこの世界で潜水艦が存在するのはなぜか、とずっと思っていたがなるほどな。潜水艦を使うことでネウロイの制空権内でも敵に見つかることなく懐にもぐりこめるのはかなり有効な戦方だよな。

もっともそのアドバンテージもネウロイが対潜警戒機なんて物を作り出すまで、という短い期間だけだろうが。

「あと、ブリタニアに襲来するネウロイの数もかなり減ってきたので航空省内部では防衛に回していた戦力を国外の欧州奪還作戦に回してはどうかと言う声も上がっているみたいです。」

確かに敵が来ないのにその戦力を無駄にしておくのももったいないし。

というか、こいつ・・・。

「ずいぶんと、詳しいのだな。」

「ええ。ここ最近はずっとヴェネツィアの件で私達はずっと航空省にこもりっぱなしでしたから大将や上官の方たちといろいろ話す機会があったので。」

「ヴェネツィア?お前らや仲間は行っていないだろうに。」

「大尉が行っていたじゃないですか。私達は大尉や現地ブリタニア軍からもたらされた情報を元にそれを解析して、現状がどのようになっていて現地司令部がどのような指示を出したのかを分析して今後に生かす、という作業を行っていました。何日にもわたる大規模襲撃なんてここ最近じゃ珍しかったんで。」

なるほど、現役のウィッチによるネウロイの行動分析か。

確かにジャックならそういうネタには喜んで飛びつきそうだもんな。

ふと顔を上げると遠くに時計台が見えていた。いつの間にか市街地に入っていたようだ。

空は相変わらずの曇り。

こういう時、一気に雲の上の空にまで上がりたい。

フェアリィの空とは異なる青く澄み渡る地球ならではの色はいつ見ても見飽きない。

地上で見る色と20000mで見るのとはまったく違う顔を見せるからな。

「どうしました?」

「いや、ロンドンは相変わらずの曇りだなと。」

「そうですね。ここ最近も雨や曇りが続いています。こういう天気は好きじゃありません。」

「俺もだ。」

まったく、嫌な空だ。

 

航空省及び空軍司令部がある建物に着くや否やすぐに俺は彼女と別れ、ジャックの部屋に連れて行かれた。

いつもの部屋とは異なり広めの会議室に案内された。

部屋に入ると5人ほどがいそいそと書類を製作しており、その一番奥にジャックがいた。

「バーフォード大尉、ただいま到着しました。」

「おう。ヴェネツィアから直帰、ご苦労だった。早速だが急いで報告書を製作してくれ。詳細は中尉から聞いていると思うが今日の1700までに完成させてくれると助かる。それと出来上がり次第順次こちらに送ってくれ。」

「了解です。」

ジャックのすぐ隣の机に俺は陣取り、早速タイプライターで報告書の製作にはいる。

普段は手書きだが今回は作戦日数も長かったこともあり、いつもよりも量がはるかにおおい事からタイプライターを使用しての作成となった。

 

ひたすらに打ち続け、2時間かけてようやく終わりそれをジャックに渡す。

意外と早かったな、と感想を受けチェックをされた報告書はそのまま近くの奴に渡された。

聞くところによると俺の報告書は明日の会議資料にまるまる使われるということでこれからコピーに入るとの事だ。え、まるまる使うなんて聞いていないのだが。

ここにいる人員も全て明日の会議のための資料作りのためにジャックが集めた人員なんだとさ。

もちろん俺も報告書が終わったからといって帰れるわけでもなく資料作りを1900まで手伝わされた。

1930をもって一旦解散となり残りは明日終わらせるということになった。既に参加者が読むべき資料に関しては、作成は終了しており後はコピーして、まとめるだけなので残りは他の奴の仕事だ。

俺はもちろんこのままホテルかどこかでゆっくり休む、なんて事はできずそのままジャックと話すことになった。

明日の会議前までに俺からも直接話を聞きたいらしくてとりあえず、報告書に書いたことも詳細に語るようにした。

 

「ところで、502のほうは順調か?」

「まぁな、何とかやっているよ。」

1時間ほどで終わった口頭による報告後にジャックがそんな事を聞いてきた。

「ノヴドロゴ方面のネウロイの巣破壊作戦はどうだ?何か思いついたか?」

「残念ながら明確にはまだだ。今はどこから進入するのが一番感知されないか、どうやって敵の防空火器をくぐりぬけようかなどを資料から探したりしているところだ。」

だが資料がいかんせん少なくてどうしようか悩んでいるところだった。

これ、2年前の情報じゃん。って事が何回かあったほどだ。

俺が502に派遣された主目的だって本来はネウロイの巣の破壊作戦の立案だったし、行き詰っているところをジャックにでも相談しようと思っていたところだった。

何かあと一押しがあればいい案が思いつきそうなのだが。

502の誰かにでも聞きたかったがそんな事は口が避けてもいえないしな。

 

「ま、そんなところか。だがその様子だとあまり上手くはいっていないみたいだな。そこでだ、こいつを上手く活用は出来ないか?俺としてもぜひともこいつの活躍する場を提供してあげたいと思ってな。」

ジャックがそういうと、ひとつの封筒を渡してきた。

それにはブリタニア空軍の文字が入っていた。

「確認しても?」

「もちろんだ。」

俺はそう促されて封筒の中身を確認する。

そこにはとある航空機のスペック表が入っていた。

ブリタニア空軍の開発局が数ヶ月前に試作機が初飛行したとある爆撃機だ。

昔空軍の教本なんかで見たことがある機体だ。速度性能や高高度性能、低空での操作性を高く評価されたその機体は・・・。

「イングリッシュ・エレクトリック・キャンベラ?」

「そうだ。どうだ?上手く使えないか?」

確かに、使える。

だがこの機体は確か史実だと1949年あたりに初飛行したはずなんだが・・・。

そこのところをジャックに聞くとこの世界では特に航空分野において技術の進歩が特に早く、ストライカーユニットでは上手く行かないジェットストライカーエンジンだが航空機に積むほうのエンジンはかなりいいところまで出来ていたのでそれに力を入れて何とか試作し、飛行の成功をさせることが出来たそうだ。

・乗員数3

・最大離陸重量は55000lb

・動力はロールスロイスエイヴォンR.A.7 Mk.109を2発装備

・航続距離は5540km

・実用上昇限度は15000m

俺が確認しうるネウロイが飛べる最大高度よりも3000m高い高度を飛べる。

性能はまず問題ないはずだ。

これなら、巣からのインターセプターを気にせず攻撃が出来る。

だが、問題はいくつかある。

まずは、ネウロイの巣の防御をどう突破するかだろう。

ネウロイの巣の周りはかなり硬い物質で覆われおり、地上攻撃ウィッチを含めてもどのような攻撃手段を用いたとしてもウィッチが普段持っている武器ではその防御を突破する事は難しいだろう。

先ほど資料作りの間に確認したとある報告によると、1940年代に人類が撤退する際、たまたま戦艦の砲弾が巣に直撃したことがあった。しかし35.6cmの砲弾が直撃したにもかかわらずコアの露出にはいたらなかったらしい。そして次の砲弾が着弾している頃には修復の大部分が完了していた。

つまり艦船から砲撃でネウロイの巣を破壊したければ砲弾を正確に直撃させるだけの命中精度に優れた砲とその砲弾を一箇所に集中的に狙えるための各艦艇同士での連携、そして修復される前に次を叩き込むために連続して発射するために出来るだけ早く砲弾を装填するための装置とその連射に耐えられる砲身、最後に自分をネウロイから守れるための防御力が必要になる。

もちろんこれが全て備わっている艦隊などこの世界に1つも存在しない。

よって艦砲射撃による巣の破壊は困難なのだ。もっともノヴゴロドの巣は射程圏外だが。

 

ではウィッチの能力を使ったらどうだ、という話になる。

おれ自身が固有魔法に詳しいわけではないのでなんともいえないが、少なくとも俺のようなパッシブの能力では話にならないだろうな。

ではウィルマのようなアクティブな攻撃に使える能力だとどうなるのかというと、ヴェネツィアで俺が到着する前に試した奴がいるらしい。

彼女の名前はアンジェラ・サラス・ララサバール中尉、504所属のヒスパニアの空戦ウィッチだ。彼女の固有魔法は魔力炸裂弾。効果は名前の通りだが、実際に行ったところ大型ネウロイのコアを一撃で破壊する程度の能力で到底ネウロイの巣の防壁を突破するのはかなわなかったそうだ。

そうなるとやはり普通の攻撃方法しかないのだろう。

なら攻撃方法はどうする?

カールスラントのV2はまだ使える状態ではないだろう。

となると、一番効果がある攻撃方法は爆撃か。

だが爆撃って言ったって都市を破壊するのではなく、空中に浮かぶ小さな目標に攻撃するんだ。

そう当たるわけでもないだろう・・・。

いや、キャンベラの離陸限界ぎりぎりまで乗せた大型爆弾を投下して、それをウィッチがシールドを張ってネウロイの攻撃からも守りつつ誘導するのはどうだろうか。

454kgの爆弾を6発搭載できるらしいがそれよりも大きくて威力がある爆弾を1発、積んで投下するという事は出来ないだろうか?

たしかロシアがツァーリボンバの実験を行ったとき、爆弾が機体に収めることが出来ず、はみ出したまま離陸した、と聞いたことがある。

速度や上昇高度などの性能が落ちるだろうが、それに見合うだけの威力は見込めるだろう。

そして航空機を何機も使い、それこそ同時多発的に異なる方向から一点に集中攻撃したとしたら?

かなりのダメージを与えられるはずだ。

だが、問題はその誘導するウィッチとネウロイの巣を護衛する奴等だ。

護衛するネウロイを何とかして切り離す必要があるし、万が一爆弾で破壊し切れなかったら?おびき寄せるなんて初歩的な作戦に引っかかってくれるか?

何か決定的な一撃を与える方法・・・。

ああ、そういえば502に肉弾戦でネウロイを撃墜するような馬鹿がいたな。

弾丸のように飛べば飛ぶほど威力が落ちるのと違い、あいつは直接攻撃する。

なら最後のとどめ、ネウロイの巣の防壁が消え去った中心、ネウロイの巣の心臓部を破壊できるんじゃないか?

 

 

頭の中で一斉に何かがつながりだした。今までなんとなくだが思い浮かべてきた構想がここに来て急に形になりだした気がする。

「・・・い・・・お・・い・・・」

そうだ、なんで思い浮かばなかったのだろうか?この世界には形や運用法が違うとはいえ、俺の知っている兵器がちゃんと存在しているのに。

まったく、俺は・・。

パンッ

「おい、平気か?」

ジャックが俺の顔の前で手を叩いた音で一気に現実に引き戻された。

「あぁ、問題ない。それよりもいい考えが思いついたんだ。聞いてくれないか?」

「?それはかまわないがずいぶんといきなりだな。」

「ジャックの助言でな。我ながらいいアイディアだと思うんだが。」

「ほう、なら聞こうか。」

 

そして俺は今思いついたことを話す。もちろんただの絵空事でしかないが細部を調整すれば十分いけるのではないかという自信があった。

 

「面白い。大まかな道筋としてなら問題ない。

まさかこの話からここまでつなげるなんて思っても見なかった。」

「ジャックも似たようなことを考えて、俺にこの資料を見せたんじゃないのか?」

「いや、俺が考えていたのは普通にB-29で爆弾の雨を降らせようかとかそんなことしか考えていなかった。お前のほうがよっぽど効果があるはずだ。こちら側でも検討してみるよ。」

B-29か、あれもなかなかだがこいつと比べるといくらか見劣りしてしまうな。

限界高度といい、速度といい、量産型だから仕方ないな。

だがB-29だってリベリオンの切り札だと思っていたのだが。

「ん?気になるのか?それはだな、リベリオンがここ最近物資の支援だけで人員をあまり送り込まなかったせいで存在感が薄れてきているからだ。だから切り札を送り込んで少しでも、って考えているんじゃないか?現に506のB隊だってリベリオン人が大半を占めているし501にも1人送り込んでいるだろ?」

なるほど、結局は政治的な思惑か。

この欧州戦線も欧州各国のみで戦線を維持できるほど余裕があるわけでもない。

リベリオンから送られてくる物資は半端じゃないし現に俺が使っている12.7mm弾もリベリオン製だ。この国ひとつあるかないかでずいぶんと変わってくるもんだ。

リベリオンはそれを承知でさらにさらに発言力を上げたいと思っているんだろう。

この戦争が終わった後の戦後処理の件も含めて。

あの時あれだけ支援したんだから、もちろんわかっているよな?と。

そして、欧州のほとんどの国はその要求を受け入れざるをえない。

そしてそれを阻止するのがブリタニア、とジャックは考えているらしい。

そのためにネウロイの巣の破壊という各国へのアピールもかねてなんとしても成功させたい。だからノヴドロゴの巣を破壊できるのか、その調査のために502に俺を送ったのだろう。現状もっともネウロイの情報を集めることが出来るメイブを持っているから。

「とにかく、リベリオンのこちらへの進出する姿勢を危惧しているのは何も俺だけじゃない。そしてそう感じている勢力は国内外に多数存在する。だから明日の会議ではなんとしても他のやつらから支援を取り付けたい、そう考えていたから正直俺が考えていたものよりいい案をお前が出してくれて助かったよ。」

「助け舟を出してくれたのはジャックじゃないか。とにかく助けになったのなら何かの手当てを出してもらいたいものだな。」

「わかった、考えておく。それともうひとつ。さっき話してくれた作戦の概要をまとめたものを作ってくれないか?

明日の会議でぜひ議題に出したい。俺は根回しをしてくるから明日の朝までには完成させられるか?」

せっかくいい案が思いついたんだ。

少しばかり疲れてはいるが忘れないうちに形にしとかないと・

「あぁ、もちろんだ。任せてくれ。」

「ありがとう、それじゃあ後はよろしく頼む。23時ごろには一旦帰ってくるから何かあればそのときによろしく。」

そういうとジャックは執務室から出て行った。

フットワークが相変わらず軽い。さてと、俺も始めるか。

食器類を外に出し、タイプライターを引っ張り出して作業を始める。

 

こういう作戦の資料を作るのは初めてではないので、思ったよりも時間はかからなそうだ。

 

大型爆撃機を使用してその機体が持ちうる一番重い爆弾1個を数機が運び、ネウロイの防壁を物理的に突破する。

この作戦自体前例がないし、爆弾が着弾するまでの制御及び護衛をウィッチが担当するというのももしかしたら危険極まりない、といって切り捨てられるかもしれない。

だが、いままでガリアのネウロイのコアとシンクロさせて結果的に破壊できた例を除けばいままでネウロイの巣を破壊できた成功例はそう多くない。

扶桑で破壊した例でもウィッチの力は必要だった。

やはり、いかに協力して作戦を遂行できるかが鍵になってくるだろう。

上の連中も初めての正規の手段を踏んだ欧州方面のネウロイの巣破壊作戦をブリタニアが指揮を取る、ということになったら食いついてくるかもしれない。

ま、そこのあたりのメリットを明日ジャックに説明してもらえれば幸いだな。

 

俺は頭の構想を誰にでもわかるように、書き始めた。

時間は限られているが、やれるだけの事はしよう。

 




遅くなってしまいすみません。
作っては消して作っては消してを繰り返していたら
こんなにも遅くなってしまいました。

ご指摘、ご感想があればよろしくお願いします。

パイロット1人育てるのにF-2だと、5年で5億4千万円かかるそうです。


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第46話 国家情報戦略会議

今回は説明大めの1万文字です。というかずっと1万超えてるんだよね。
大和が来たんだからこんなことがあってもおかしくないよねと重い作りました。


何だこいつは。

目の前のネウロイは追跡を振りきるために必死に右旋回、左旋回を繰り返す。

おかげでこちらとしては狙いを付けにくい。

能力だって何回も出来るものではないのだからいい加減早く落としたい。

敵が右翼を下に、左翼を上に上げるのが見えた。

そこだ!

この戦闘で5回目となる能力を使用する。

コアの場所はわかっている。後は狙いを定めて、引き金を引くという命令を下すだけなのだが。

まるでわかっていたかのようにネウロイは旋回を中止して、コアへ向かっていた弾丸から身を守るかのように右翼を犠牲にして事なきを得る。

飛ぶのに形状は関係ないやつらにとってこの程度の被弾など、どうって事はない。

そして5発発射したことにより弾切れだ。

すぐに弾槽を交換する。

だがその瞬間、真っ黒の航空機の形をしたネウロイが消える。

一瞬だけ見えた上へ消える敵との相対速度を表す数字が-(マイナス)から+(プラス)に換わったのがわかった。

コブラ!

すぐにライフルを手放し、右足につけていた拳銃を取り出して体をひねる。

けん制になればと思い構えるもそこにはいない。

“Watch 6”

背後!?

まさか、あの後でバレルロールもこなしたって言うのか!?

そして背後に敵がいる、という警告は

“Warning!”

敵が攻撃を仕掛けてくる、という警告に変わる。

こんな状況で、どうしろと?

後ろに猛烈な光が迫ってくるのをなんとなく感じながら俺は・・・・。

 

 

 

 

0542

パイロットなら誰もが一度は見るという、“自分が敵に撃墜される“という夢。

それをただの夢、と片付ける奴もいれば予知夢だといって怖くなる奴もいる。

どちらかといえば俺は予知夢と感じてしまうほうだ。

こういう夢を見た後、たいてい悪いことが起こるなんてわかりやすいものだったらいいのだがあいにくこの夢は何もしてはくれない。

ヴェネツィアという久しぶりの空戦がこういった夢を見せたのだろうか?

いずれにせよ、今は起きるとするか。

 

さて、今日は国家戦略情報会議が開かれる。

今後の国の方針や軍関係の動きを決める重要な会議だけあっていくら俺の担当するところが少ないとはいえ、ミスは絶対に許されない。

資料の最終確認を行わなくては。

 

資料片手に食堂で軽めの朝食をとる。今日俺が行うのはヴェネツィアで自分自身が行った行動などの報告、ジャックのサポート、だ。

報告などをお偉いさんの前で行うのは以前に何度かしたことはあるが、不安なものはこればかりは不安なんだよな。

 

朝食を終えて執務室に入るとジャックが既にいた。

席について何かの本と紙を見比べていた。

「おはよう、気分はどうだ?」

「悪くはないな。それで、今日の会議は予定通りに行われるんだろな?」

「あぁ、もちろんだ。これが出席者リストだ。確認しろ。」

そういわれて一覧表を確認する。首相に各軍大臣、SISの情報科部長などそうそうたるメンバーが集まっている。少なくとも空軍大将ジャック直属の部下とはいえ、俺がいていいような場所ではないな。

「・・・こんな会議に本当に参加しなきゃならんのか?俺はこういう会議は苦手だからいまから考えるだけで頭が痛くなるんだが。」

「仕方ないだろう?そもそもヴェネツィアで行われたあの空戦においてブリタニア軍で戦闘に参加した人員は意外と少ない。本当だったらあの最初から最後まで戦っていた504に所属しているパトリシア・シェイド中尉にやってもらいたかったんだが彼女はいま、あそこを離れるわけにもいかない。

他のやつらも途中で負傷して情報が更新されていなかったりするんだ。

それにお前はあの1週間、常に本国に情報を送り続けただろう?それが高く評価されてこの会議への出席が認められたんだ。覚悟を決めろ。」

はぁ。思わずため息をついた後にうなずく。

ここ最近ジャックに言いように使われている気がしてならないが同時に世話にもなっている。恩を返す、という意味でもここは仕方がないだろうな。

「わかったよ、ジャック。」

「結構。0930にはここを出るから準備しておけ。いいな?」

「了解。」

・・・もう一度、確認しておこう。

 

 

そして0930にジャックに引率されながら会議場に向かう。

そこの部屋に入ると丸い円の形をした机が中央にありそれに沿ってたくさんの椅子が置かれていた。

これが噂の円卓会議、って奴か。

「どうした?」

「別に、問題ない。」ただ少し身震いがしただけだ。

ジャックが円卓の椅子に座り俺は少し後ろの椅子に座る。

すこしひそひそ声が聞こえるがほとんどの人が無言で座っている。まだ開始には時間があるが続々と人が入ってくる。

 

開始時刻と共に最後の出席者であり議長の首相が入ってきた。

それと同時に全員が起立。首相が着席すると後に続くように全員が座る。

全員が着席したのを確認した上で、首相が会議の開催を宣言する。

「これより、臨時国家情報戦略会議を開催する。まずはヴェネツィアでの戦闘報告を行ってもらいます。空軍所属のフレデリック・T・バーフォード大尉。よろしくお願いします。」

「了解しました。」

俺が席を立つと一斉に視線が俺に集中する。まずは、第一関門といったところか。

報告はするが全ての真実は語ってはならない。それが俺とジャックとの約束だ。

いくらこれが重要な会議だとはいえ、空軍のみで保有して取り扱いたい情報があったらしい。

「ご紹介にあがりましたブリタニア空軍所属のフレデリック・T・バーフォード大尉です。

現在502に所属しており、ヴェネツィアには空軍大将からの緊急連絡を受けて出撃しました。

まずは資料3ページをご覧ください。それでは今回の戦闘での推移経過をご説明いたします。・・・」

さて、はじめようか。

 

そして俺はヴェネツィアで起きた7日間を語る。

あくまで俺が話すのはそこで起きたことの事実だけで自分の考察を交えてはいけない。それを行うのは次に話す分析班の報告の仕事だからな。

15分ほどかけて報告を終えると2つほど質問が飛んできた。

・なぜあれほどの正確な状況報告を行うことができたのか?

 (本当はユニット搭載の機器を使用したからであるがもちろんそんな事はいえないので)今回は戦闘空域がそれ程広いわけではなかったので無線を聞いて、事実かを確認するために実際に行って確かめることが出来たから。あくまで自分の主任務は情報収集を行い、それを本国へ報告することであって援軍として現地軍の援護を行うなどの戦闘に関する仕事は副目標だった。よってあれほど正確に出来た。

・今回、ロンドンへの報告は海軍の艦艇を中継して行うという方法を取ったがその際、何か問題点などはあったか?

 技術的なことに関して特にこれといった問題は発生しなかった。だが後にロンドンに帰ってきた際、自分が報告したのと一部異なる場所があったので情報が何箇所か経由する際に問題が発生したと思われるので調査するようお願いしたい。

「・・・これ以上質問はないようですね。大尉、ありがとう。次に今回の戦闘に置ける分析、今後の戦闘に関する予測に関する報告をお願いしたい。3軍合同分析室室長、よろしくお願いします。」

3軍合同分析室。

陸、海、空、SISが集めた現地の情勢やネウロイに関する情報を一箇所に集め、解析する部門を指す。通常、情報分析はSISが行っているが今回のような緊急の場合に設置され全ての情報が一箇所に集まるようになる。

室長は首相がじきじきに指名を行っており今回はヴェネツィアで3年ほど大使館にて武官として働いていたことがある人物が指名された。

「かしこまりました。

まず、今回ヴェネツィアにおける戦闘は人類側の敗北とみて間違いないでしょう。ヴェネツィアは陥落し、そこにあるネウロイの巣の規模は以前よりもさらに大きくなりました。地中海と北アフリカ、また現在カールスラント奪還作戦に従事している部隊に対する脅威はよりいっそう増大しました。

501が再び設立され、現在欧州や一部地中海方面の防衛に当たっていますが到着までの時間やレーダー哨戒の穴を考えると今後被害が拡大する可能性も高いでしょう。

特に海上輸送を行う部隊には今後、ウィッチが艦隊に張り付いて護衛を行うなどしないと不安が残ります。

ここ最近快進撃が続いていた人類側としては痛い失点となりそうです。

それではお手元の資料、及びこちらの地図をご覧ください。現在わかっている範囲内でブリタニア軍を含む各軍隊の最新状況をお知らせいたします。」

 

そして各地における最新状況が欧州地域を中心に伝えられた。

カールスラント奪還作戦は今だに膠着状態。

アフリカ戦線は戦線をさらに南へ進めてはいるが横に広いため中東辺りから飛んできたネウロイに回り込まれるなどの危険があるため進軍速度は遅め。

スエズ方面は軍事作戦どころか作戦の立案すらされていない状況。

「総合的に見ればいまだ欧州完全奪還は夢のまた夢。始まってすらいない、と表現するのが正しいでしょう。」

そう3軍合同分析室室長は言って締めくくった。

「わかりました。室長、ありがとうございました。

さて、皆様にはわが国を取り巻く状況は把握していただけたと思います。

ガリア解放と足がかりが見えたこの時期にヴェネツィアが取られたという非常に由々しき事態であります。

そして欧州各国からはわが国に対して更なる援助を要求する声が日に日に高まっています。

本来であればすぐに答えたいのですが残念ながら資源や人材には限りがあります。よってどこにどれだけを派遣するかをこの場で話し合いたいと思います。」

首相はそういうと3つのプランを提示した。

まず1つめ。カールスラント奪還及びガリア復興支援など中央司令部管轄区域を重視した戦略。

2つめ。ヴェネツィア奪還を支援し、将来のスエズ運河奪還を視野に入れ中東諸国も支援する南欧司令部及び中東を重視した戦略。

最後に、かつてブリタニアが行ってきた“光栄ある孤立”を復活させるか。

 

おそらく参加者の中に最後の選択肢をとる愚か者はいないだろう。もう1カ国だけでネウロイと戦っていくというのは不可能なのだから。

ガリアとカールスラントかロマーニャ公国、どちらを取るかが問題なのだ。

どちらにも同じだけ送ればいい、という最も簡単な解決方法は残念ながら出来ない。

この国を守るだけの戦力だってある程度は残しておかなければならないし、他の地域にもある程度は送らなければならない。何よりこの戦いは陸軍、海軍、空軍、が協力して戦わないと勝てない。陸軍だって空からの支援がなければ危険だし、海軍は自分の航空隊を持っているとはいえ、その装備や人員数は空軍に劣る。空軍だって滑走路を守るための陸軍が必要だ。つまり、陸軍はあっち、空軍はこちら、海軍はここ、といった別々に動くという事はもう出来ないのだ。

よってたくさんの増援を送るとなるとどちらかに重点を置かざるを得ないのが今のこの国の現状だ。

リベリオンのように物量作戦が出来る国なんてほかに扶桑くらいしかいないのだから。

 

さて、ジャックは今後の“恩”を含めて高い技術力をもつカールスラントの支援を行いたいらしい。もっともだ。

欧州各地で戦っているカールスラント人はかなりの数に及び特にウィッチは高い戦力を有している。もしブリタニアがカールスラント奪還に多大に寄与したとなるとそのエースたちが自分達の味方になる可能性がある。そのうま味は計り知れない。

それに関してはSISとも意見が一致しており長官も賛同してくれているそうだ。

しかし、陸軍と海軍はそれに難色を示しているらしい。

我々は移動するのに特にこれといった障害がない空を主な領域としているのに対し、海軍は海を、陸軍は陸地を主な移動、及び戦闘地域としている。

陸軍がヴェネツィア攻略を支援したいのはアフリカにいる部隊に危険が及ばないようにするためなのはわかるが海軍がそういうのは何故なのか。

カールスラントの支援に回ったとしても海軍航空隊、ウィッチ隊及び艦砲射撃、海上輸送で十分支援は出来るはず。

だが、俺は地理的な要素を1つ忘れていた。

「我か国は、この場所を取られるわけにはいかないのです。」

海軍省司令官が地図で指し示した場所は、

ジブラルタル海峡。

ヨーロッパとアフリカの境目。東西60km、幅は15~40km。大西洋から地中海へ行くためにはここを通るほかない。

この狭い海峡にはブリタニアの軍港がある。

そう、こここそがブリタニアにとって重要な場所であるのだ。

飛び地とはいえ、ここは立派なブリタニア領土。

そしてジブラルタル海峡の安全を守っているといっても過言でもない。

今は人類が共闘しているからあまり問題はないがネウロイとの戦いが終わったあと、仮にどこかの国と戦争になったときここを抑えているのとないのとでは状況が一変する恐れがある。

なんせここを抑えておけば海からの支援は行えなくなるのだから。

インド洋からこっちに来ようとしても今は失ってはいるがスエズ運河はブリタニアとガリアで保有していることになっている。

ネウロイの攻撃によって壊れているとなると黒海に船で物資を輸送するとなるとこのジブラルタル海峡を通らざるを得ないから。

だからヴェネツィアからネウロイが飛んできたとしてこの軍港が破壊されるとドサクサにまぎれてどこかの国に取られる、なんてことになると溜まったものではない。

だから海軍はその脅威をまず排除したいと考えているのだ。

恩か、地理的有利か、どちらを取るかが今の焦点になっている。

海軍の説明に他の部署もそちらの意見に傾き始き始めた。

―技術だって譲ってくれるとは限らないしな。

―それに今の政府は南リベリオンにあるんだろ?ここに戻ってくる確証なんてあるのか?

―いまだってこう着状態なんだ。先にやりやすそうな方を仕留めておくべきだ。

確かに荒廃したカールスラントなんかよりもロマーニャ方面に賭けたほうが安全な気がするしな。

「なるほど。確かにそうですね。我が国としてもジブラルタルを失うのは痛手だ。そこを含めて空軍はどう考えているか、お願いできますか?」

「了解です。」

入れ替わりで海軍代表が座り、ジャックが立ち上がる。

「空軍としては陸軍、海軍の提案に一部反対です。」

「ほう、一部と言うのは?」

「仮にカールスラントではなく、ロマーニャを取ったとなると我が国にいるカールスラント人からの強い反発が予想されます。

ネウロイから逃れて来た彼らは陸、海、空軍だけでなくあらゆる分野において我が国の技術力の向上に寄与しました。」

「では、彼らに恩を報いるためにもカールスラント奪還をすべきだと?」

「本来ならば。しかし、国は恩だけで動かせるものではありません。私はこう考えています。

国内にいる多数のカールスラント人のためにもカールスラント奪還には我が国は積極的に関わっていくべき、しかし同時に今現在進行形で発生しているヴェネツィアのネウロイの巣もどうにかしなければならない。」

「いかにも。」

そこでです。と一旦区切ったあとでジャックが周りを見渡した後で話す。

「この両方を同時にこなすための作戦を立案しました。」

「作戦ですか。具体的には?」

ジャックが合図したので俺は足元においてあった作戦概要を参加者全員に配布する。

 

「それでは、“ノヴドロゴ方面奪還作戦”の概要について説明いたします。」

さて、これがジャックと空軍への援護射撃となればいいが。

アイディアだけとはいえ、自分が考えた作戦だ。上手くいってほしいものだ。

「さて、先ほど陸軍や海軍がご指摘になったジブラルタル海峡の件も確かにわかります。しかしジブラルタル海峡とヴェネツィアはいままでのネウロイの行動半径を考えると限界ぎりぎりの距離です。さらに仮に巣から直線的に進むとすると必ず501の警戒空域を通らざるを得ませんし南から迂回するとなると現在地中海で行動中の海軍や統合軍アフリカの警戒網に引っかかります。よって“早急に”ヴェネツィアを攻略する必要はないと思われます。だが、確かに両軍の意見も尊重したいと思っています。」

ジャックが何を言いたいのかわからない参加者はとにかく、彼から何が語られるのかをただ聞くしかない。

「現にネウロイの性能は年を追うごとに上がっており、開戦時と現在では限界高度、最高速度など含めてほとんどの分野において上昇しております。先ほど挙げた警戒網を突破されるのも時間の問題かもしれません。またジブラルタルには我が空軍の基地がありここを経由地や活動拠点としているウィッチや航空機も多数います。

ゆえに私も陸軍、海軍をヴェネツィアに送りこむのは賛成です。よって空軍としてはこの作戦、第4の選択肢を提示したいと思います。」

「第四の選択肢?」

「えぇ。先ほど述べた両方の問題を同時に解決させるのです。」

―そんな上手い話があるのか?

―不可能だ、どちらも失敗するに決まっている。

―だから他のどちらか一方に絞り込もうとしているんじゃないか。

そんな声が多数聞こえてくる。資料を読めといっているのだからさっさと読めよ、なんて思いながら俺はジャックのほうを見る。ジャックのほうはというと周りの雑音を気にせず話を進める。

「確かに皆様が危惧していることは良くわかります。ですがまずは作戦概要をご確認ください。」

そして、ジャックはこの作戦の地理的、政治的な効果を話し出す。

「まず、作戦の概要について説明します。

この作戦は空軍の精鋭をもって最新鋭爆撃機を使用してネウロイが来ることが出来ない高高度から爆弾を投下してネウロイの巣を破壊する、というものです。

使用機材は現在空軍で試作機が完成し、初飛行を済ませてばかりのイングリッシュ・エレクトリック・キャンベラ。作戦開始数ヶ月までに当作戦に改修を完了させる計画です。

この作戦のもっとも重要な点はまず1つ、いままで行うことが出来なかった大型爆弾の搭載とウィッチの誘導があるとはいえ精密爆撃が可能になったという点です。

これにより威力のある爆弾を同じ場所に連続で攻撃し、ネウロイの巣の硬い城壁を突破することが可能と考えています。

そして、もうひとつが今までに一度もない陸地に存在しているネウロイの巣への初めての攻撃の例を作ることが出来ます。もし成功すれば今後の内陸地にある巣への攻略も可能になりますし、陸軍は破壊後の戦力としてある程度は必要になりますが海軍の支援を必要としないので他に回せます。

地理的利点としてはノヴドロゴを攻略できれば扶桑からの支援物資をサンクトペテルブルクに送る際のルートがここを通る輸送経路を構築できるようになるので単純計算運ぶことの出来る物資の量が2倍になります。

また502もさらに南進することが出来るので東からは502、西からはカールスラント軍による挟み撃ちが可能になり、よりカールスラント奪還が現実的になります。これは間接的にカールスラントを支援することになりますし、後のベルリンのネウロイの巣破壊作戦が行われる際に、必ずやこのノヴドロゴの巣が破壊されているというのは有利に働くはずです。

私は海軍、陸軍をヴェネツィア、アフリカ方面に空軍をこの作戦に投入することでこの問題を解決できると考えています。

ただ、いくつか問題点があります。

今すぐ結果を出したいと考えているカールスラントをいかにして抑えて込むこと。

オラーシャが、ブリタニアが奪還作戦を主導することに理解を示してくれるか。

この2つだけでもかなり説得が必要となりますが、ここは外務省、そして首相にお願いしたいと思います。

以上、空軍が提唱する第4の選択肢となります。なにか質問はございますか?」

すかさず、海軍代表が手を挙げる。

「つまり、我々海軍と陸軍はヴェネツィアに行き、そこを援護することが可能、という解釈でいいのかな?」

「はい。ですが本当であれば海軍と陸軍の航空戦力を少しでもお借りしたいところですが。」

それならば、と両者はお互い顔を見合わせ、少し会話をすると

「規模にもよるがある程度は出せるはずだ。」

「ありがとうございます。それは心強い。」

他に質問する声が上がらないのを見計らって首相が空軍大将に質問を投げかける。

「確かにその案は実行可能であると思われます。

私自身も今まで考えていたどちらかをとる、ということをせずに済む。両国とも良好な関係を築いたままでいる、というのは非常に喜ばしい。しかし、具体的にはどの部隊をノヴドロゴ攻略作戦に送り込もうと考えているのでしょうか?空軍もあまりに多くの人員を送り込む余裕はないと思いますが。」

「首相、我が軍には少ない人員で多大な戦果を挙げられる精鋭部隊が存在します。私はこの部隊を活用したいと思っています。」

「特殊戦術航空隊、ですか?」

首相の問いかけに、ジャックは自信をもってうなずく。

「他の国では優秀な人員を集めた専門の部隊を創設する、という動きは実は余りありませんでした。しかし私が率先して結成を進めた501がそれを示したように日に日にその必要性が高まっていた事はあきらかでした。

ゆえに我が軍でも専門のSTAFという部隊を設立しました。

結果は皆様が知っての通りです。バーフォード大尉の撃墜数は100機を越えて、ヴェネツィアでは1人で遊撃隊としての任務をこなし昼夜問わず出撃し、いかなる状況下でも戦闘を行える優秀なウィッチ、いやウィザードとなりました。

他にも、プロバート大尉率いる第3飛行小隊は今だ奪還の計画どころかいまどのような状態になっているのかすらわかっていないスエズ運河へ海軍と協力して強行偵察を行い、これを成功させました。私はこの短期間でこれほどの戦果を挙げられた彼と彼女らならば、必ずや成功させられると思っています。」

ふむ、とつぶやくと首相は黙り込んだ。

そしてもう一度資料を読み始めた。

 

そして5分ほどたち、ようやく考えがまとまったのだろうか。首相が口を開いた。

「なるほど、わかりました。私としても空軍の提案は実に魅力的だと思います。陸軍、海軍の意見を取り入れた上で空軍の一部戦力を解放作戦に使いながら残りの余剰戦力を南欧に送る。全ての要求を満たす現状最高の案だと思います。

他の方はどうお考えで?」

首相の問いかけに各軍、大臣が賛同を示した。

現状ではこれが一番に思えるからな。

「わかりました、では全会一致でブリタニアはヴェネツィア方面の支援を重視した上で空軍の特殊部隊が間接的にカールスラントを支援していく、という方針で行きたいと思います。」

こうして、臨時国家安全保障会議は終了した。

 

その後は、特にやることもなかったので航空省の中にある休憩室で軽く睡眠を取った。どうせ、帰るのは明日だし。

なんでも今日の夜、各軍の関係者を含めて今後のヴェネツィアにおける軍の展開についての会議があるらしい。

その場で国家情報戦略会議にて言った作戦のもう少し詳しい概要を話すことになっているので、どうせ長引く会議に向けて今から休憩を取っておこうと思った次第だ。

 

 

だが、国際情勢と言うのはめまぐるしく変わるものである。

少し遅れただけで、間に合わなかった、戦争に発展したというのはよくある話だろう。

 

「・・・つまりヴェネツィア公国とロマーニャ公国は我がブリタニアの支援を必要としない、とおっしゃられるわけですか?」

「左様。ヴェネツィアの奪還は我々の手で行う故、貴国の支援は必要としていないのでな。」

そういうと両国の大使は我々ブリタニア外務省の外交官を突き放した。

「何故です?3日前にはなんとしてでも出してほしい、と申していたはずでは?」

「状況が変わった。とにかく貴国の首相に伝えてくれ。我々は貴国を必要とはしない。ヴェネツィアの奪還は“我々“で行う。まぁ、多少の軍隊の支援は認めるがな。」

この高圧的な態度に外交官は怒りを覚えた。

だが、これでも国の名前を背負っているのだ。感情をあらわにすることなくとりあえずこの事実を政府にもっていくことにして、面会が行われたロマーニャ大使館を後にした。

 

 

「はぁ?ヴェネツィアの軍事支援案が断られた?」

その一方的な高圧的な態度は外務省だけでなく首相官邸、各軍の上層部を混乱させる結果となった。

なぜなら俺は知らなかったが、ヴェネツィア防衛戦が行われている際、多数のロマーニャ人が情報収集の名の下にブリタニアの各省庁に訪れてわが国を助けてほしいといってきていたのは既に多くの人が知っていたからだ。

だから今夜行われる会議だってまさか、両国が支援を断るなんて考えもしなかったから開催が決定されたのだったから。

そして、首相はこの件を受けて外務省、SIS、各軍に対してなぜこのような事態になったのかの情報収集を命じた。

 

まず、ロマーニャ、ヴェネツィア公国だけの力ではヴェネツィアを奪還する事は不可能なのは明らかだった。つまり、他の国からの援助を受けられることになったのだろう。

となると援助できる国なんて限られてくる。

最初に候補が上がったのはリベリオンだった。

理由は、前に述べたとおり自身の影響を広げるためだろう。だがリベリオンにある大使館からは特に大規模な軍隊の移動が確認させる、などはなかった。

既に出港させた可能性がある、ということを踏まえて更なる調査を命令しようとしたとき、扶桑の大使館から連絡が入った。

“横須賀に停泊していた大和、及び随伴艦隊に動きあり。”

大和はここ最近まで改修が行われており、先日航海から帰ってきたばっかりだった。

そのため、演習に出た可能性は低い。

扶桑国が動いた?

その可能性が急浮上してきたことに上層部は驚きを隠せなかった。そしてその可能性を確信に変えさせるような情報が入ってきた。

“南欧司令部に対して扶桑海軍が地中海における護衛要請をだしていた。“

艦船は不明だが、仮にこのまま補給を含めて通常の航海を進めたとすると大和を含む艦隊が護衛を行ってほしい日にちの開始日とほぼ一致する。

赤城はヨーロッパから帰ったばかりのはずだからくるはずはない。そう考えるとこの艦隊でほぼ間違いないだろう。

ロマーニャは扶桑についた。

別に信じていたわけではないが、ロマーニャがこちら側からいなくなった事実に政府は衝撃的だった。

こうして、先ほどの会議は全て振り出しに戻ってしまった。

近いうちにもう一度行うらしいが、きっと混乱の嵐だろうな。

と、考えていたらジャックが俺を呼んだ。

「なんだ?」

「面倒くさいことになったが、お前はとりあえずサンクトペテルブルクに帰れ。本当だったら今後の戦略会議に出てもらおうと思っていたが今日はそれもキャンセルだ。

次がいつ開かれるかわからないからこれ以上お前を引き止めておく理由もない。これからは俺達本国勤務のやつらの仕事だ。お前は速やかに帰投しろ。これが命令書だ、いいな?」

「了解。」

そうジャックは俺に一気にまくし立てると他の場所に行ってしまった。

先週までヴェネツィアの件で忙しかったのでようやく落ち着いたと思ったらこの騒ぎでジャックも大変だろうな。

命令書をかばんに入れて俺は基地に向かった。

ハイウィッカム基地に向かう士官達の乗るバスに一緒に乗せてもらい基地に到着、速やかに窓口に命令書と一緒に渡された飛行計画書を提出し、格納庫に向かう。

エンジンをスタートさせ、管制塔の離陸許可を待っていると格納庫に入ってきたオウレット中尉らVFA-13の連中に会った。

「もうお帰りですか?」

「あぁ、仕事が終わったからな。中尉は?」

「整備を、と思ったんですけどね。ジェットストライカーユニット特有の音が聞こえたのでやるべきこと後回しでこっちに来ちゃいました。」

後ろの2人は不思議そうな顔で俺と、自分たちの使っているのとはかなり形が異なる俺のユニットを眺めていた。

ただ、既にエンジンが始動しているためか遠くからしか見ていない。

「昨日の昼に来て、今日の夜にはペテルブルクですか。忙しいにしても、よく魔力がもちますね。」

「あぁ、気合だよ、気合。」

―気合の問題ですか?

声は聞こえなかったが彼女の口がそう動いていた気がした。

『ガルーダ、誘導路への進入を許可する。滑走路22へ向かえ。』

「了解、滑走路22へ向かう。というわけだ。それじゃあ、またな。」

「えぇ、またどこかで。」

俺がそういうと彼女たちは敬礼して俺を見送ってくれた。

そのまま誘導路へむかい滑走路に進入、離陸してブリタニアを俺は離れた。

 

502を離れるときも、ロンドンを離れるときもどたばたしまくった遠征だったな、そんな事を考えながら北海へ針路を取ったのだった。

 




いつの間にかお気に入り200越えてて本当にありがとうございます。

今年中にノヴゴロド編を終わらせたいと考えています。

相変わらずの鈍足と文才ですが2016年もよろしくお願いします。

ご指摘、ご感想があればよろしくお願いします。


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第47話 ネコとミミズクとハヤブサと

サンクトペテルブルクには大規模戦闘後の穏やかな空気が流れていた。
だが、以前とは異なり2人異動になり夜間哨戒で俺が飛ぶことも多くなった。
そんなある夜不可解な行動をしたネウロイがいた。



1945年5月、ヴォロソヴォ上空37000ft

久しぶりの夜間哨戒任務。

離陸したときのサンクトペテルブルクの天気は雨。

雨雲が以外と厚く高度2000ft~28800ftまではずっと雲の中を飛んでいた。

おかげでいま、眼下のオラーシャは一面雲で覆われているのだ。

この雲の中をネウロイに進まれたら肉眼では絶対に見つける事は出来ない。

そんな事を思わせるほどの天候だった。

 

さてここ最近、世界的に見てネウロイの攻撃の頻度が少なくなってきている。

やはり、どこかで大規模な攻撃があった直後と言うのはネウロイも自重せざるを得ないらしい。

本来ならばこの時期に我々人類勢力は一気に攻勢に転じて攻めるべきなのだろうが、残念ながらそうはいかない。

やはりペテルブルクの防衛戦、カールスラント奪還作戦の膠着、そしてヴェネツィアの戦いと欧州でここ最近立て続けに一気に戦闘が発生したために物資不足と言うわけだ。

おかげでこの大チャンスを上層部は残念ながら指をくわえながらただ眺めるしかないのだ。

戦力が整っていないのにも関わらず攻撃するのは無謀以外何物でもないからな。

 

『・・・と言うわけでここ最近ネウロイはだんまりです。夜間戦闘を行わない日が多くなりました。昼間も同様にネウロイの数や戦闘回数も少ないみたいですが、残念ながら燃料、弾薬などの補給品もヴェネツィアに優先的に送られているので前進速度が遅くもどかしい日々です。まぁ前進できているだけいいですけど。』

とハイデマリー・W・シュナウファー少佐。

『まったく。504の連中は何をやっていたのじゃ?精鋭ぞろいと聞いていたのに奪還されおって。』こちらはハインリーケ・プリンツェシン何とかウィトゲンシュタイン大尉。

「まぁ、その言葉は深く受け止めるとしよう。しかしそれだけ言うならなぜ来てくれなかったんだ?貴族っていうは本当に助けが必要なときには来てくれないものなのか?」

うぐ、という声が聞こえ、

『まったく、バーフォード大尉もハインリーケのことをあまりいじめないでください。命令がないと出撃できないのはお分かりでしょ?』

おそらく今シュナウファー少佐の顔は笑っているだろう、いやきっとそうだ。

以前、いままでは2人か1人だったので新しい人が加わってにぎやかになったのがうれしいとかなんとか言っていた。きっとこういう束の間の安らかな時間を楽しんでいるのだろうか。

「もちろんわかっているさ。ただきっと貴族のことだから平民が危機に陥っていると知ったらいてもたってもいられないんじゃないかと思ってな。」

『そりゃもちろんじゃ!我にかかればネウロイ100匹などちぎっては投げ、ちぎっては投げであっという間に倒せるだろうよ!』

「『・・・・・。』」

少佐と俺はどう返していいのかわからず思わず無言になってしまった。

もし個人チャンネルが繋げたのならこの瞬間、臨時対応会議でも開けていたのだが。

『・・・・まぁ、50くらいかも知れぬ。』

「『・・・・・・。』」

『・・・・連続となるとちと厳しいかも知れぬ。』

「『そりゃそうだ(でしょうね。)』」

『おぬしら!馬鹿にしおって!!』

というか、先に振ったのはそっちじゃないか。

『ハインリーケの見栄っ張りはいつものことですからね。バーフォード大尉も温かい目で見守ってあげてください。根はいい子なんですよ?』

「シュナウファー少佐が言うんだからきっとそうなんでしょうね。というか、ヴィトゲンシュタインの言うことを聞いていては楽しいのでこのまま見守るとします。」

『なんかのう、そんな事を言われると逆に傷つくのじゃ・・・。これでもわしは王女なのに・・・。』

「・・・・へ?」

王女、だと?

「シュナウファー少佐、それ、本当ですか?」

『ええ、そうですよ。プリンツェシンという王女の称号を持っているんですよ。欧州の中では随一の名家で貴族だけでなく政治家にも影響を及ぼすほどの凄い家なんですよ。』

まじか、まじか、まじかよ。

「電波越しだと、まったくそんなのに気がつかなかった。」

『ふふん、どうじゃ?恐れ入ったか?』

「すまないが、そんな感じがぜんぜんしないんだが・・・。」

『え・・・?ハイデマリーはどうじゃ?』

『私は、ハインリーケと直接会ったことがありますからそんな事はないですよ。もしかしたらそこの違いかもしれませんね。』

確かにそうかもしれない。

その人がもつオーラと言うものは実際に合わないとわからないものだからな。

『執事もいますからね』

「ほう。」

『おうちは城ですよ?』

「はぁ。」

 

『それで、バーフォード大尉は我を敬う、とか語尾を変えるとか考えるようになったか?』

なんでだろうな。

こんな王族だって話を聞いていても特段敬うとかそういう考えはまったく浮かんでこない。

この時代では存在した貴族というものにいまだなれていないからだろうか。

「悪いがそんな気持ちにはなれないな。悔しかったら俺よりも上の階級になることだ。」

先ほどの乗りで俺は返したがウィトゲンシュタインは意外な答えを返してきた。

 

『よかった。』

 

「・・・てっきり怒るもんだと思ったが。」

『普通の者だったら怒っていたかも知れぬ。でもハイデマリーもバーフォードもうちの506の人みたいに私が王族だからといって媚を売るような奴じゃないからな。

私はハイデマリーもバーフォードも好きだぞ。』

その言葉だけを聞くと闇がありそうな雰囲気だ。

きっと過去にその称号ゆえになにかあったに違いない。だから俺としては特に詮索せずに

「それは光栄だよ、ハインリーケ。」

普通に、でも少しだけ親しみをこめて答えた。

『なんか良かったです。いつも話している3人でこうして仲良くなれるのは。ハインリーケも前に、いきなり態度を変えられたらどうしようとか・・・。』

『んん!ハイデマリー!まぁ仲がいいのはいいことじゃな!それにしてもこやつがワシの呼び方を変えたのにこちらが変えられないのは嫌じゃな。何かいいのはあるか?』

「俺としてはこのままでいいんだが。」

『よし、ハイデマリー。こやつの新しい名前を今度考えるとしよう!いいな?』

『え、えぇ。わかりました。』

「・・・俺としてはこのままがいいんだが。」

『『それじゃあ、面白くない!!』』

「2人は本当に仲がいいんだな。」

後日、ウィトゲンシュタインことハインリーケからQSL(ハイデマリー少佐にそそのかされたと書いてあった。)とたくさんあだ名が書いてある手紙が送られてきたのはまた別の話。

 

 

『ところで、ヴェネツィアはどのような場所でした?』

「どのような、とは?」

『町並みです。綺麗でしたか?』

「残念ながらそこにはほとんど降りていないからな、なんともいえないですね。ただ上から見た景色だけを言えば綺麗でしたね。」

ヴェネツィアは島になっているためそこには滑走路がないゆえに戦闘に参加したウィッチたちや俺らは本土側の基地から離発着を行っていた。いま考えてみたらよくもあの小さな島をめぐってあの様な大規模な戦闘が行えたものだ。

まぁ、あの場所の戦術的価値を考えれば当たり前のことか。

ロマーニャとマケドニアの間にあるアドリア海の最深部にあるここヴェネツィアは東欧方面やアフリカ方面からやってくるネウロイにここを抜けられると一気にヘルウェティア連邦や帝政カールスラントに到達できてしまう。

そのためなんとしてもここの拠点は確保したかったのだが、残念ながらそれは失敗してしまった。

シュナウファー少佐が先ほど言っていた物資不足もネウロイによる多方面同時攻撃を避ける意味でもなんとしてもヴェネツィアを取り戻したい思惑ゆえに起きていることなのだ。

『ヴェネツィアは非常に美しい都市だと聞いている。いつかいってみたかったのう。ま、我の故郷には及ばないだろうよ。』

確かに建物自体や町並みは綺麗だったが対空砲が建物の上や港近くにずらりと並び、小型トラックや軍用車が動き回るあの町は果たして美しい町と表現できるのだろうか。

『ネウロイの攻撃によってヨーロッパ全土でだいぶ遺産が少なくはなってしまいましたがそれでも昔の建物が残っている場所はたくさんあるのですから、そこを見てみては?

それにきっといけるようになる日が来ますよ。きっとね。』

「そう願うよ。あんな大規模戦闘を何回もやっていたら命が何個あっても足りない。

まったく、嫌になっちまうな。」

『本当にそうですよね。・・・・それに空気も読めない。』

「『?』」

一瞬、シュナウファー少佐の言葉が理解できなかった。

『ネウロイです。ベルリンの巣から出撃したようです。大きさはおそらく中型。数は1。こちらではなく方位0-1-5、北欧方面に向かいました。おそらくバルト海を北上するかと。バーフォード大尉、おそらくあなたがいる空域の近くも飛ぶと思いますが対応できますか?』

シュナウファー少佐からの非公式とはいえ、迎撃要請。

先ほどまでのお茶会のような空気から一気に会議のような張り詰めた雰囲気に変わるのがわかった。

それにしても、こちらに飛んでくるのか?

まったく、遠くからご苦労なことだ。

「このままこられると俺としては対応できません。」

『何故です?そちらにもネウロイが?』

「いえ、そういう訳ではありません。いま、こっちは雨雲が広範囲で覆っているんです。離陸したときは下が2000ft、上が280000ft近くまで。かなり厚い上に濃いです。よって戦闘に必要な視界が確保できていないんです。ちなみに今の敵の高度は?」

『ちょっと待ってください。ええっと、今は約7500ftでそのまま上昇中です。

ベルリンから北欧へ向かうネウロイの過去の飛行ルートから推測するにバルト海を通ってボスニア湾を北上する可能性が高いのですが、ここ最近はストックホルムから東に150kmほどの場所で転進し、ヘルシンキを通過するコースも増えてきていますからね。

どちらのコースを取るかは今は不明です。』

俺はかばんから地図を取り出して、チャートにマークをしながら少佐からの話を聞く。

ベルリンからスオムスって1100km以上あるんじゃないか?

これっていっそのことノブゴロドから思いっきり遠回りしたほうが楽じゃないか?いや、意外と502と巣の距離が近すぎるからそうするとどちらにせよ察知されるのか?

『そのルートを取るネウロイは近くの502に寄らずにさらに北へ向かうと聞く。彼らにしてみればもっと近いルートなどいくらでもあるはずなのに。余程サンクトペテルブルクで痛い思いをしたに違いないのぉ。』

『おそらくはスオムスやバルトランド北部の現在の状況の偵察を目的とした飛行と思われます。502さんにはご迷惑をかけます。』

あぁ、そうだった。

なんでシュナウファー少佐がずっとネウロイの迎撃のことを言ってくるのかと思えば、最近いろんなところに行き過ぎて忘れていたが俺達502の存在意義はペテルブルクの防衛と、ベルリン方面からくるネウロイの迎撃も含まれていたんだった。

さてと、いまシュナウファー少佐が本部に対してネウロイ発見の報告をしたとなるとこちらに迎撃命令が下るまであと10分はあるか。少佐とネウロイの距離が離れる前に出来るだけ聞いておきたいところだ。

「形状は何もわからないのか?」

『かなり平べったい形です。ええっと、これは・・・何でしょう?』

『そんなこと我らに聞かれてもわかるわけがなかろうに。どこか特徴があるところはないのか?』

『もう少し、もう少し待ってください。』

こういった形状を探るために集中するってのはこの時代のナイトウィッチらしいところだな。俺のだとこう上手くは行かない。全て機械に頼ってしまっているところがあるからな。

『・・・だめです。距離が離れすぎてしまって特徴を捉え切れません。申し訳ありません。』

少し、時間と距離が足りなかったか。

「仕方ないさ、どうせ後でわかるんだ。無理して知る必要はない。」

『なら何故聞いたのじゃ?』

「別に、知っておくに越した事はないからな。バルト海に展開中の艦艇からなにか情報を得る事は可能かと思うか?」

『どこを飛んでいるかなどの位置情報は得られると思いますが、形状などはこの時間ですし今の高度を考えると無理でしょうね。せいぜい大型、中型、小型などの判別が限界だと思います。』

つまり、これ以上の情報を得る事は無理か。俺は針路を西に取り、通常警戒コースを外れて哨戒空域ぎりぎりで待機することにした。どうせすぐ命令が来るだろうし。

 

-10分後

ザッ

『コントロールより、502、バーフォード機へ。インターセプトだ。場所は・・・。』

来たか。

「大体の事は聞いている。バルトランド領のゴットランド島から北東に150kmほどスオムスに転進すると思われるポイントにてネウロイの迎撃、中型1機で間違いないか?」

『・・・・何故知っている?』

「アルンヘムのシュナウファー少佐が教えてくれたんでな。随時最新情報は教えてほしい。ところで2つほど聞きたいことがあるがいいか?」

『手短に頼むぞ、ウィザード。』

だから、その名前で呼ばれるのはあまり好きじゃないんだがと何度も言っているのだがな。

どうせ言っても次の呼ばれるときは忘れられているだろうな。

「予想戦闘空域の周りは視界が確保できているのか?それとペテルブルクの夜間哨戒はどうする?ここを空っぽにするわけにも行かないだろうよ。」

『サーレマー島からの報告だと10分前から月明かりが見え始め、雲は徐々に東へと流れているそうだ。おそらくは問題ないだろう。ペテルブルクのほうは下原少尉がスクランブル発進したから問題ない。安心して迎撃してくれ。』

下原が叩き起こされたか。あいつは寝起きが良くないからきっと不機嫌になりながら飛んでいるだろうな。

しかし、下原はどうしてこんな雲が厚いときでも哨戒任務をこなすことが出来るのか不思議だ。彼女が持つ周囲警戒能力の高さゆえだろうか。

「了解した。これで心置きなく飛べるものだ。だが、これからはリバウの扶桑海軍のやつらも使ってやったらどうだ?」

『あぁ、あいつら夜は飛びたがらないんだ。リバウには滑走路がないから空母から発進することになるんだが船が動いてないからやら得意な昼ではないやら甲板の雪を降ろすのは手動だから時間がかかるやらで基本夜間スクランブルには応じないな。今の時期はもう雪はないからその言い訳も通じないがな。』

なんだそりゃ?

ペテルブルクのときはすぐに来てくれたのに。

空母搭載のウィッチだからきっと夜間飛行できる奴がいてもおかしくないのにな。

「まぁ、とにかく今日は他の戦力はあてにならないんだな?」

『その通りだ。とにかく急いで向かってくれ。厄介なことが起こる前に。』

「了解。」

まったく、今日はこのまま何もなく報告書には特に“異常なし“って書いて終わらせるはずだったんだけどな。

『命令、下りましたか?』

「あぁ、残念ながらな。まったく、スオムス方面の防衛は505の仕事じゃなかったのか?」

『あそこにはナイトウィッチはいませんからね。いるのは多少の夜目の効くウィッチだけで夜になるとどうしても他の部隊に任せるしかなくなってしまうんですよ。』

なるほど。統合戦闘航空団には最低1人以上はナイトウィッチが配備されているもんだと思っていたが、そういうわけにも行かないんだな。逆にうちに2人も夜間飛行が可能な人員がいるのが珍しいのか。

『こちらの探知範囲からネウロイが消えました。これ以上の追跡は不可能です。あとはそちらにお任せします。』

「了解。情報感謝する。」

『まったく、こちらはネウロイが来なくて暇しているというのに貴様はおこぼれをもらっているのか。うらやましいのぅ。』

「ま、暇すぎるのも逆につらいってのは良くわかるさ。そのときに備えて牙を磨いて置けよ、黒猫」

『そうさせてもらうわい、ミミズクさんよ。』

『まぁまぁ、二人とも。こういう束の間の平和を享受するのもひとつの任務みたいなものですから。バーフォード大尉、終わったらどんな敵だったから教えてくださいね?

関わってしまった以上、気になりますから。』

「わかりました、後で必ず報告します。通信終了。」

予想会敵時間を計算して、速度を上手くあわせながら俺は迎撃ポイントにさらに向かう。

 

-15分後、ヘルシンキから南へ50km上空40000ft

遠くにわずかに地上の光が確認でき、それが雲の端まで来ているというのがわかった直後だった。

「戻った?」

『あぁ、バルト海を展開中の扶桑海軍及びオラーシャ海軍の駆逐艦からの報告だ。ほぼ同時刻に報告が上がった。間違いないと見ていいだろう。』

いままで直行するなり、迂回するなりしてでも撤退するなんてしなかったあのネウロイが帰っただと?

「どこで戻ったんだ?」

『迎撃ポイントから南南西に100kmの場所だ。現在付近を航行中の艦船が全速力で転進ポイントに向かっている。』

こいつは何しに来たんだ?

俺達の動向を知るため?仮にどこまで侵入したらインターセプターが上がるかの偵察だったらやつらには俺の事は捕捉出来ないはず。

無線を傍受して位置情報をある程度知ることが出来ていたなら話は別だが。

「シュナウファー少佐、先ほどのネウロイだが針路を変更。来た道を戻っているようだ。捕捉出来るか?」

『本当ですか?いえ、今現在は捕捉出来ていません。出来る限り近づいて確認してみます。

「あぁ、頼む。」

少佐が何かつかんでくれるといいが。

『コントロールよりバーフォード機へ。ストックホルムより偵察機が上がった。これから先はこいつが引き受けるようなので帰投しろ。』

「了解、あとで事の顛末は教えてくれるんだろうな?」

『それはそっちの司令官に掛け合ってくれ。俺は知らない。アウト。』

ったく、魔力を無駄に消費しただけかよ。

体を左に傾けて、針路をサンクトペテルブルクに戻す。

『だめです。確認できません。となるとオストマルク方面に抜けたかもしれません。そうなると私の索敵範囲外なので捕捉出来ないです。』

「なら何しに来たんだ?わざわざ海の上で引き返すなんて。」

『やつらの何らかのテストだったりはしないかのう?』

「そもそもネウロイに新型とかあったりするのか?」

『敵の前線基地の拡大方法に変化があったりする事はあった。それ以外だと形状の変化のみじゃの。それが機動性に影響しているかは残念ながらわからないがのう。』

『行きと帰りで形が変わっていたりすればなにかわかるかも知れないのですが。そこはオストマルクの飛行隊に任せるしかないですね。』

とにかくこれ以上はわからないのでこれ以降はのちの情報が入り次第、また夜みんなが集まれば話し合おうということで解散になった。

 

サンクトペテルブルク上空2800ft

空が黒から水色へ、やがてオレンジ色に染まり始めた頃に遠くから下原が向かってきたので合流した。

どうやって遠くから発見したのか聞いてみるとその遠距離視野の能力をもって直接見つけて、自機と俺の速度差を計算しながら先回りする形で合流したらしい。

追いつくために常に計算する必要があるはずだが、それを勘だけで行ってしまうこともさることながら遠距離高速移動目標を目視で発見するってのはそれだけで脅威じゃないか。なぜならそれだと本格的にこのメイブのステルスが役に立たないからな。

さすが、レーダーなどの反射波を使用せずに目視のみで夜間哨戒を行うだけある。

 

「そちらはどうだった?」

ふと俺がいない間のサンクトペテルブルクのことが気になり、下原に聞いてみた。

「特には何も。ずっといつものコースを回って目を凝らしながら探しましたがネウロイどころか飛行機雲すら見つかりませんでした。」

やっぱり、ここ最近の平穏はいつも通りか。

「と言うかですね大尉、聞いてください。ラル少佐に叩き起こされて“少尉、出番だ”とか言われて寝ぼけながら話を聞いたらどうやら夜間スクランブルで大尉は戦闘のために出張中。寝起きだと視野が狭くなるので目薬さしていざ飛んでみれば特に異常なし。

さすがに疲れました。」

いつもは物静かな下原がここまで言っているのだからかなり頭にきているに違いない。

「まぁ、気持ちはわかる。出番だとか言われていざ空に舞い上がってみても特にやる事はなし。そりゃいらいらするな。」

「まったくです。この静けさをこれから忙しくなるであろう日々に持っていきたいです。」

「?」

「えっとですね。つまり、しばらくしたらネウロイも活動を再開するでしょう?そうするとまた毎日スクランブルの日々になりますけどその戦力をこういった暇な日に分散してくれればある程度は楽になるのにな、と思って。」

「なるほどね。」

と、話しているうちにサンクトペテルブルクの町並みが見えてきた。

5月に入り、雪が溶けずいぶんと暖かくなった。そんな少し霧ががったペテルブルクはまた違った顔を見せていた。

『バーフォード機、下原機へ。着陸を許可する。』

「お先にどうぞ。」

「ありがとうございます、大尉。」

ようやく長い夜を終えることができた。

先ほどのネウロイの新しい報告が今日中に入るといいが。

 

格納庫に機体を入れる途中、端っこでなにやらカールスラント組みが騒いでいるのが見えたのでユニットを収めて覗いて見ることにした。

「あれなにやってるんだ?」

俺に声をかけられて我に返った熊さんが教えてくれた。

「あぁ、バーフォードさんですか。夜間哨戒お疲れ様です。どうやら少佐達の本国から新型機が届いたらしいんですけど、どうやら技術陣から稼動具合を報告してほしいという通達も一緒に来たみたいなんです。それを聞きつけた伯爵が“我こそは!”とか“自分が乗りたい“と手を挙げたのです。

それが朝の出来事だったのですが踏まえたうえで少佐が最終決定をしているみたいですね。」

「なるほど。」

あっちには少佐がいないところを見るとまだ最終決定はしていないみたいだ。

だが、あの場にいつもラル少佐と一緒に動いている曹長がいないところを見ると

「まぁ、伯爵はないだろうな。」

俺は間違いない、とそう思いながら熊さんにいった。

「あはは、そうですね。」

熊さんも苦笑いで同意してくれていると、少佐の声が聞こえてきて・・・・。

 

「・・・と言うわけでエディータ・ロスマン曹長、君に今回の新型機に関するデータの収集を一任したいと思う。」

「了解です。」

 

-「妥当だろうな。」「ですよね。」-

 

「通達は以上だ。速やかに曹長は準備を開始してくれ。遅くても0930には離陸するよう・・・・。」

「ちょっと待った!!!」

バッと手を挙げて発言の許可を求めるかのように片手ではなくなぜか両手を挙げる伯爵。

「なんだ、クルピンスキー中尉?」

「なんで私じゃないの!?」

だって、お前

「「絶対壊すだろ(でしょ?)?」」

遠くからだが思わず俺も突っ込んでしまう。

「予備があるじゃないか!?」

「そもそも壊れることが前提なのか!?」

こんな流れになるのは想定の範囲内だったが意外にもなかなか伯爵は引き下がらずついにはだだをこね始めた。

「やだー、やだー、新型のりたいー!」

などと騒ぎ始めた。その後床で幼児のように暴れまくっている伯爵を少佐が確保して反省室へ連れて行った。やがてだんだんエコーのように“いやだー、反省室だけはいやだー”という声が小さくなっていった。

いったい反省室にどんな嫌な思い出があるのか、とすこし不安な気持ちになりながら俺達は伯爵を見送った。

 

格納庫と緊急発進待機室はその性質上かなり近い位置にあるため、スクランブル要員は格納庫か待機室のどちらかにいればいいことになっている。

伯爵は反省室に送りこまれたため、今はいないが警報がなったらおそらく釈放されることだろう。きっと少佐も出撃して敵をいつも通りに撃墜して何も機体を破損させることなく戻ってくることが出来れば伯爵を許すしてくれるんじゃないか?

反省室といっても実際は部屋ではなく食堂に隣接してあるなぜか設置してある和室がそうなっているだけなのだが。

そんな話をしようと伯爵の元に向かうと、そこには正座をしている彼女がいた。

もし、刀が置いてあったらそれはそれで絵になりそうな姿だった。

「よう、調子はどうだ?」

「最悪だよ、隊長。新型機は乗れないし少佐には怒られるし、挙句の果てには後で反省文だよ?どうしてこうなっちゃったの?」

明らかにいつものお前の勤務態度が悪いに決まっているのだが、それはあえて何も言わないで置く。

「まぁ、それは自分で考えるんだな。というかあれは新型だろ?そのうちこの基地にも配備されるだろう。それにここは世界屈指の激戦区だ。きっとそう遠くないはずだと思うんだが。」

「違うんだよ、隊長。私が悔しいのは隊長は知らないかもしれないけど朝のブリーフィングで新型機の話を聞いたとき少佐と話したら乗せてくれるような事言っていたんだよ!だからそのときからずっと上機嫌でいつもよりも朝食は豪華にしてあげたのに、いざ直前になってみたら新型に乗るのはパウラじゃん?あんまりだよ!」

一気にまくし立ては伯爵だがきっと新型に乗れるのはかなりうれしいことだったんだろな。

朝食を豪華にしたとか言っていたがいつも面倒くさいからって調理の簡単なものしか作らないくせに。きっと目に見えて浮かれていたに違いない。

「なんで、少佐はいきなり搭乗員を変えるようなことをしたんだ?」

「わかんないよう、そんなことぅ。」

正座しながらずっと文句を言っている伯爵を見ながらふと、ひとつの可能性を思いついてしまった。

「少佐はお前をいつか乗せる、って意味で言ったんじゃないか?今日って話ではなく。」

「へ?」

「きっとお前のことだから少佐にしつこく迫ったんだろう?見かねた少佐は仕方なくあくまでも可能性の話をした、と考えればつじつまが合うんじゃないか?」

「・・・・・。あれ?」

と伯爵は首をかしげて考え始める。

ん?あれ?確かに新型には乗せてくれるっていったよね?でもでも、今日とは言ってなかったし言わなかった?あ、そうすると搭乗は無期限延期という可能性もある?

とかぶつぶつ言っている。そして

 

「少佐の馬鹿!!!」

 

きっと答えにたどりついてしまったのだろう。そんな事を言うと伯爵はついに正座をやめてたたみで寝始めてしまった。

「おい・・・・。」

「あーあー、もういいもん。警報が鳴るまで私は絶対に起きないもん。」

「・・・そうか。」

「あ、いや。お昼になったら起きるからその時になったら隊長起こしてね。」

そういい残すと伯爵は目を閉じてしまった。

ここは軍隊であり、こう伯爵が寝ている間にも給料が発生していることを彼女は覚えているのだろうか?

さすがは502で少佐の次に撃墜数が多いだけある、度胸もエースクラスか。

 

「なるほど、中尉は寝たか。と言う事は私の予想が当たったか。」

声がして振り返ると後ろにはいつの間にか少佐が立っていた。

「少佐、どうしたんですか?」

「ロスマン曹長と予想をしていてな。さっきから話はある程度聞いていたが大まかな流れは君達が話していた通りだが、そのあと曹長とこの後伯爵がどういう態度をとるかと言いうのを曹長と予想をしていた。ちなみに私の予想は伯爵は私が見に行ったときには不貞寝をしている。曹長の予想は何事もなくずっと正座をしている、だった。きっとこれには曹長の願望も入っているのだろうがね。」

確かにな。まじめででも明るい曹長らしい予想ともいえるだろう。

「それで、少佐は伯爵をどうするんです?」

「別に、何もしようとは思わん。出撃する意志はあるようだから必要なときは飛ばさせるさ。」

きっと、こういうおおらかな性格も司令官に必要な正確なのだろう。

「そういえば大尉は夜間哨戒明けだろ?疲れも溜まっているだろうから報告書を提出してすぐ休むといい。」

あぁ、そういえばそうだった。あの件も書かないといけないのか。

書くことが増えて憂鬱だが、とっとと終わらせてしまおう。

「わかりました。それでは失礼します。」

そういって敬礼して俺が部屋の扉に手を掛けたとき、少佐がもう一度俺に声をかけてきた。

「やはり、私は今日中尉を乗せなくて正解だったと思うよ。」

「・・・?何故です?」

いきなり少佐が投げかけてきた言葉に疑問を覚えながらも返答をする。

「きっと今日、中尉は何かしらのことをしでかしてせっかくの新型機を破損してしまい到着後3日もたっていないのに本国に“破損につき情報収集不可能”という文面を送る羽目になっていただろうからね。」

「・・・違いありません。」

俺は思わず少佐の皮肉に苦笑いで答えてしまう。

あくまでも可能性の話なのだが俺と少佐はきっとそうなるであろうと心のどこかで確信してしまっているのだろう。やはり考える事は皆も同じなのだ。

「あぁ、あと数週間もすれば再び忙しい日々が舞い戻ってくる。それまでに体と機体の調整を済ませて置くんだぞ。」

「了解です。」

俺はそういって部屋を出た。さて、報告書をとっとと書いてウィルマのところにでも戻ろうか。

 

 

 




投稿が遅くなりごめんなさい。
この話は結構なやんで消したりの繰り返しであとで見てみると編集時間が100時間を越えていてびっくり。

欧州(ストパン世界)の地図は504の漫画についていた地図を参考に国名などを引用しています。

506新巻もでてうれしい。
502のPVもでて見ましたけどあれ誰??
年内に放送してくれるといいな。
502題材にさせてもらっている自分としては本当に気になる!!

ご指摘、ご感想があればよろしくお願いします。



伯爵はイケメン。デレ姫も良くない?


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第48話 今日の狐のご機嫌は?

突然だが、ウィッチが使う弾薬にはいくつか種類がある。

まず通常弾丸。

一般的な歩兵が使う銃弾とまったく同じものを使用する。これの特徴は補給所に行けば自分が使用しているものと同じ種類の物であれば必ずといっていいほど在庫があることだ。たいていのウィッチはこれを使うことになるが一番威力は低い。

ワイト島ではこのタイプの物を使用していた。

次に、生成する過程でその弾丸に魔力をこめて作られたいわゆる魔力弾、と言うものがある。

生産量は通常の物よりは多くはないが、ウィッチが戦場にて機関銃などでばら撒いても問題ない程度には生産されているらしい。主に使用されている場所は最前線など特にウィッチとの戦闘が激しい地域で502もこれに該当する。

弾丸自体にある程度魔力がこめられていて、さらに自分の魔力と反応することでネウロイに相乗的かつ効果的な攻撃を行うことが出来ると説明を受けたが、残念ながらおれ自身が魔法に関する知識が少ないため具体的な事はよくわからない。

実際に使ってみると確かに差が実感できる、という認識である。

俺の場合は狙撃タイプなので威力よりも貫通性能を重要視する必要があるため、この魔力弾型のフルメタルジャケットタイプの弾丸を使用している。

そして、おそらくウィッチが使えるであろう最も威力が高いと思われるのが薄殻魔法榴弾である。まぁ、ウィッチの中には怪力能力をもって本来は車や戦車、艦船などに積むようなものを自力で持っていって撃つような規格外な戦闘能力をもつウィッチもいるみたいだがもちろんそれは除く。だって、おかしいじゃん。なんだよ40mm弾とかさ、88mmとか頭おかしいだろう。

それは置いておいて、こちらは威力重視の弾丸で着弾した瞬間に爆発することでダメージを与えるタイプである。初速は秒速800mを超えて、この時代の下手な機関銃弾よりもはるかに威力が高い。銃弾の重さも115gと重いのにも関わらず、だ。

 

さてなんでこの話題が出たのかというと話は2週間前に遡る。

ハインリーケが通信をしてこなくなった。以前のカードが送られてきた後の返信も来ない。夜間哨戒中も心配そうなハイデマリー少佐と2人で“まさか死んだ?”“そんなわけないじゃないですか。仮に死んでいたら大々的に報じられますよ。”“いや、国全体の士気が下がる可能性があるから隠しているのかも・・・。”“確かに。彼女の名前が新聞の一面に出るだけで売り上げが上がる、とまでいわれている国民的英雄でもありますからね。可能性は十分あります。”

なんて不謹慎な会話をした2日後、次の夜間哨戒シフトのときにハイデマリー少佐からハインリーケが風邪をひいたと聞いた。

あのハインリーケが風邪ですよ。とすこしテンションがなぜか上がっているハイデマリー少佐といつの間にかハインリーケの話で盛り上がっていた。彼女の過去や性格など面白い話が聞けたがもっとも収穫といえたのが薄殻魔法榴弾の存在を知れたことだろう。

すぐにどこの国で製造しているかを調べてみるとカールスラントのみだと知った。というかカールスラントしか大量生産に成功していないらしい。

さらにカタログを見ていると薄殻魔法榴弾で俺の狙撃銃の口径ともぴったりの弾薬を製造していることもわかった。やはりカールスラントにも俺と同じような狙撃銃を使うウィッチがいて彼女らの声を聞いて製造を開始したみたいだ。

早速少佐の元に行き、配備のお願いをした。

しかし、結果は”No”だった。

ただでさえ、物資がヴェネツィアに送られているというのにそんな貴重なものが地理的にも遠いサンクトペテルブルクにくるとは思えないし、何よりそんな物が配備されたら伯爵達が目を光らせながらそれを使いたいがために無駄に出撃し、浪費して挙句の果てにユニットを消耗するに決まっている。

と、言われた。曹長も“確かに、そんな未来しか見られない私達が悲しいです。”なんていっていた。

まぁ、俺としてもあったらいいな、使ってみたいなという感覚だったので申請は却下ということでこの話は終わるはずだった。

その1週間後、事態は大きく動いた。

 

カールスラントから配備された新型ストライカーユニット、Ta152H-1という高高度むけユニットのテストを行っていた。

普段、俺達が戦う時、高度6000ftを下回ることや21000ftを上回る事はあまりない。ところが、以前遭遇した30000ft以上を飛ぶ偵察機タイプがここ最近から見受けられるようになった。前にハインリーケやハイデマリー少佐たちと話した通りここサンクトペテルブルクはスオムスやバルトランド、オラーシャ北部へ向かうような高高度飛行ネウロイの転進ポイントに一番近い基地でもある。そのため、メイブの様なあっさり60000ft以上まで飛べるような機体ならともかく、他のやつらが使っているような低空、中高度での戦闘をメインにしたユニットだとこういった偵察タイプが飛ぶような高度までたどりつくまで時間がかかるorそもそも届かないというような事案が発生するようになったため、設計され、作られここにテスト配備された。

 

「大尉、現在の高度はどれくらいかわかりますか?」

今回のテスト空域はバルト海上空。

そこを俺と曹長は2人で飛んでいた。ここ最近は夜間哨戒で飛ぶことも増えて休んだ翌日の午後がフリーなためこういった役割に回されることが多かった。

「33000ft、資料によるとあと10000は上がれるはずだが調子はどうだ?」

「快適です。普段は地上にいることが多いのであんまり空も飛べないですし、そもそもここまで上がる必要もありませんから。それにしてもここは本当に綺麗ですね。さすが成層圏、雲ひとつない。ここからなら私の故郷も見えるかもしれません。」

「ここから遠いのか?」

「オストマルクとの国境付近のゲーラと言う町です。知っていますか?」

おれ自身、欧州の主要な都市なら職業柄覚えているが、さすがにそれ以外だとわからない。

とりあえず、地図で確認しようと思い取り出してはみたが・・・、

「なぁ、オストマルクとカールスラントの国境ってどれくらいあるんだ?」

「えっと、軽く300km以上・・・ですかね?」

曹長、そんな笑顔で軽く300kmって言われても、ペテルブルクと巣を往復した距離以上じゃねぇか。そんなのわかるわけがない。

「残念ながら今もそこはネウロイの勢力圏です。いま、私達の同胞が必死に国土奪還にいそしんでいるのに私は遠く離れたここでただそれを見ていることしか出来ない。

本当は今すぐにでも飛んで行って戦いに参加したいんです。伯爵もあんな風ですけど心の中ではきっと私と同じ気持ちだと思います。」

ネウロイに国を奪われるという経験をしたことがないブリタニア人や扶桑人など、そして俺には彼女らの気持ちを理解するという事はきっと出来ないだろう。

だが仲間が戦っているのに自分が遠くで何も出来ずにただもどかしくしていることしか出来ないこの気持ち、というのも最近ようやくわかってきた。

前の場所ではきっと理解できなかったことも少しずつ、わかるようになった今だからこそ言えることがある。

「Haste makes waste.下原が言うには“しいては事を仕損じる”という言葉があるらしい。」

「なんです?」

「焦りすぎるな。そんなんで注意力が散漫になっていざ人手が必要なときに負傷でもしたらどうする?急ぎたいのもわかるが、まずは焦らず自分の任務に集中するといい。

このユニットの試験データがもしかしたらベルリンのネウロイの巣の偵察に役に立つかもしれないだろ?」

「わかりますけど・・・。」

そういうと彼女の使い魔のキツネ耳が垂れ下がる。

「大尉もわかりませんか?このもどかしー気持ちが。なんというかSF小説みたいに一瞬で遠くまで瞬間移動できたらどんなにいいかって思っているんです。」

そんなのが出来たらウィッチを瞬間移動させるより爆弾の雨をネウロイの巣の上空に瞬間移動させたほうがはるかに効率がいい気がする。

「ま、俺が言いたいのはここの任務に本国が就かせているのもきっと意味があるはずなんだ。ノヴゴロドの巣がなくなればオラーシャ側からも巣に対して攻撃することが出来るようになるんだ。今していることで無駄なことなんて何もないんだから。」

本当ですかー?とつぶやいていたので“もちろんさ。”と答える。

思わぬところで、というのは意外と良くあることだからな。

「私が頼りない補給部隊の代わりに必死になって武器弾薬や食糧などの物資を融通して502に持ってくるのも?」

「あぁ、いつも助かっているよ。曹長がいなければ毎回残弾を気にしながら戦わなければならないかも知れない。」

「あの3人組が壊したユニットの代わりを手配してもらうために上に謝るのも?」

「もちろん。エースたちは一箇所に集まってこそだからな。解散されて戦力が分散されてはかなわん。」

「少佐の補佐を毎日して、書類と戦う日々なのも?」

「そうだ、管理職ってのはネウロイよりも書類との戦いがメインだ。部隊運営にはきっと曹長の働きも欠かせないはずだ。」

「・・・ちなみにブレイクウィッチーズが今までに全損したあのユニットたちは?」

「あれは無駄の塊だろうな。あれだけで何人のウィッチが飛べるのやら。あ、いや、意外と新人ウィッチ100人と奴ら3人の撃墜数って同じくらいかもな。」

「そうかも知れないのが憎たらしいところです。なので怒るに怒れない。」

「それは言えているな。」

そういうと少しずつ曹長の耳も元通り上を向いていた。少しは気持ちが晴れたのだろうか。

「さて、もう少し上に行きましょうか。」

そういうと曹長は右手を差し出す。

「?どうした?」

すると曹長は、

「レディをエスコートのするのはブリタニア紳士の役目ではなくて?」

一瞬、曹長の言っていることがわからなかった。

が、すぐに我に

「そうですね。これは失礼しました。ミス、ロスマン。」

俺は曹長の、のりに合わせて手を取った。

「それでは、どちらまで?」

「出来る限り上まで、まだ見ぬ場所まで私を連れてって!」

「了解。」

俺は彼女の速度に合わせながら一気に上昇して行った。

 

「ところでこれって楽しい?」

「もちろん、最高です!それに私は私が楽しいことなら何でも挑戦しますから!」

 

そして高度40000ftを超える。

外気温は-67℃を下回り魔法による加護がなければ生きることすら出来ない場所まで来た。

俺や曹長のユニットにも霜がつき始めていて彼女のユニットならあまりいたくはない環境のはずだ。

 

「もう雲があんな下にある。けど、残念です。空中に浮いているネウロイの巣はかろうじて見えますが、私の故郷までは見えませんね。」

「ブリタニアは影も形も見えないがな。」

「それは、そうですよ。ベルリンだってあんなに遠いんですから。」

曹長はじっとカールスラントのほうを見ていた。

俺達でさえ、ネウロイのことを考えずにただ遠くの景色だけを見る、なんていう余裕はないんだ。

あまり飛ばない曹長には久しぶりに眺める故郷に思うところがあるのだろう。

本当はそっとしておきたいが、ここではあまり時間がない。

下手をするとレシプロのエンジン内温度が下がりすぎて止まってしまうかもしれない。

現に先ほどから少しずつトーンが落ち始めている。回転数が下がり始めている証拠だ。

「曹長、時間だ。早くしないと最悪エンストを起こすぞ。」

「!・・・そうですか。大尉がそういうなら仕方ないですね。」

名残惜しそうにもう一度、遠くを眺めると曹長が先行して降下を始めた。

 

上昇しているときとは異なり、曹長は何も俺に話しかけてこなかった。

眼下に広がる海や陸地、雲との距離がだんだんと縮まっていく。

高度計の数字が目にも留まらぬ速さで減少していき、やがて18000を切り始めた頃で再びエンジンの出力を上げて体を引き起こす。

だが、曹長はそのまま降下を続けていた。

どうした?と声をかけようとしたそのとき、

バンッ!

少し低音が混じった爆発音とオレンジ色の光と黒色の煙が確認できた。

「曹長!」

よくみて見ると彼女の右ユニットから炎が出ていた。あれはまずい!

「おい、どうした!魔力供給を停止しろ!消火するんだ!」

だが声をかけても返事がない。

体を真下に、だがゆっくりと回転し始めた彼女に俺は危機感を覚えた。

「曹長!曹長!返事をしろ!」

見たところあれは完全に意識を失っているんじゃないか?

爆発の衝撃ゆえか理由はわからないが失神してコントロールを失い失速状態に陥っている彼女を今すぐにでも起こさないと大変なことになる。

一気に速度を上げて彼女に手を伸ばす。

「パウラ!」

くそ、冗談じゃない。

こんなところで死なれてたまるか!

あと30cm,20cm,と近づいたそのとき彼女の左ユニットが俺に襲い掛かってきた。

グヮン、と体が回りユニットが俺の右手に直撃する。

「ッ!」

冗談じゃない!利き腕だぞ、こっちは!

 

思わず離れてしまったせいで彼女との距離がさらに離れる。高度は既に12000をきっている。

もう一度だ!

右手の痛みをこらえながらもう一度アプローチを行う。

残り相対距離が2mのとこになったところで

-発動

ネウロイを攻撃するときよりは加速を遅くして最も安全に彼女を捕まえられるタイミングを探る。

まだだ、まだだ・・・今!

素早く懐に入り込み曹長を両手で抱えて、水平飛行に移る。高度は7500ft、かなり危なかった。

曹長が気を失ったためか魔力供給が途絶え、ユニットからの炎上は既に停止していた。

「曹長!」

声をかけても返事がない。

「おい!」

今度は体をゆすってみる。

するとようやく動く気配がした。

「あれ、ここは?ってええ!?いまこれってどういう状況ですか!?」

「落ち着け!」

ようやく起きたか。まったく、手間をかけさせてくれる。

ほんの一瞬だがこのまま起きなかったらどうしようかと悩んだが杞憂で終わってよかった。

「怪我はないか?」

「ちょ、ちょ、いまどういう風なのか顔が動かせないのでわからないです・・・。」

「何があったか憶えているか?」

「えっと、ですね・・・。降下している途中で、だんだん意識が遠のいていったのは憶えています。」

「どうしてこうなったのかは?」

「ごめんなさい、大尉。わからないです。」

「そうか。」

とりあえず、俺は今この間に起こったことを話した。

自身が気を失っていたこともそうだが、右ユニットの燃えていたあとを見てかなり驚いていた。

「本当に助かりました。もしこの場に大尉がいなかったら、私・・・。」

「今回は気にするな。というか、万が一こういった事故が起きたときのために俺がいるんだから助けるのは当たり前だろう?それに次が起きないようにすればいいだけの話だ。とにかく、目立った怪我がなくてよかった。」

「はい。ありがとうございます。」

そういうと彼女は俺の腕を強くつかんだ。

身長150cmの曹長が俺にはさらに小さな存在のようにも見えていた。

しばらく曹長は俺にしがみついたままだった。

彼女のユニットは両足とも魔力供給を停止しているため、俺のメイブが2人分を支えていることになる。

実はいつもよりも魔力消費量が多く、ちょっとつらい。

「ところでいつまでこうしているつもりだ?」

「もう少しだけ、お願いします。」

了解。と俺は答える。

ま、いくら実戦を何回も行ってきたとはいえこの歳だ。気が動転するのも無理はないか。

もう少しだけ、待ってあげるのもいいかもしれない。

いつも助けてもらっているお礼だと思えばな。

「(Ich beneide sie….)」

一瞬、伯爵が何かをつぶやいたのが聞こえた。

「何かいったか?」

「いえ、何でも。」

そういうと曹長は俺の胸に顔をうずめて再び黙ってしまう。

 

5分ほどしてようやく曹長は復活した。

「もう平気です。さっきまでは恐怖で心臓バクバクだったのに今ではもういつもどおりです。」

顔色も悪くない、耳も問題ない、これなら平気だろう。

「ユニットはどうだ?」

「・・・だめです。うんともすんとも言いません。」

「なら曳航みたくこのまま俺が基地まで連れて行くか。悪いが背中に回ってくれないか?このままだと前が見えにくい。」

「了解です。」

上手く動いてもらって背負った状態になり、銃を前に回してようやく前方の視界が確保できた。

「それじゃ、一旦帰るか。」

「そうですね。」

痛む右手を隠しながら基地に針路を向ける。

「あぁあ、これじゃブレイクウィッチーズのこといえませんね。」

「きっと帰ったら伯爵に何か言われるだろうな。」

伯爵のことだ。いつも壊して怒られていたので曹長が壊したと知ったら煽ってくるだろうな。

「これもきっとさっき大尉が言っていたHaste makes waste.ということなんでしょうね。本当に失敗しちゃったな。」

「これでわかっただろ?急ぎすぎると何かしら起きるんだって。」

「身をもってわかりました。」

「ならよろしい。」

俺達は曹長がユニット破損、俺は右腕負傷、と言うことで今日の飛行は出来ない、と少佐に後ほど言われるのだった。

 

医師の診断結果、右腕の尺骨が骨折を起こしていることがわかった。

しかし、だんだんこの世界に慣れてきた俺ですら驚いたのが医師の下した診断は全治一週間だってことだ。短すぎだよな。

もちろんその間は飛べない。8割治った状態で飛ばすよりも完治させて飛ばしたほうが後々にも言いという判断だ。

さっさとルマールの治癒魔法で直してもらってこいと言われ、食堂にいる彼女の元へ行くとなんと掃除中だった。

なにがなんとだって?

ルマールは両親が宿屋を経営していることから小さい頃から良く手伝っておりベッドメイクや掃除が得意である。また502で一番綺麗好きとも言われている。よってそれを邪魔されるとこの基地でも3本指に入るほど怖い(伯爵談)らしいので終わるのを待って声をかけた。

ふう、終わったとつぶやいたルマールは心なしか顔が輝いているように見える。

「ルマール、ちょっといいか?」

「何でしょうか?」

「さっき怪我してしまってな、治癒魔法かけてくれると助かる。」

「大尉が怪我ですか?またですか。あ、紅茶飲みながらでいいですか?」

「もちろん。」

自分の紅茶を作るついでに、作り置きのさめたコーヒーを温めなおして一緒に淹れてくれた。

「どうぞ。」

「ありがとうな。」

ルマールは棚からクッキーを取り出して机に置き、ひとつ食べてからはじめましょう、といった。それくらいの余裕はある。

「それで、どこを怪我したんですか?」

「右腕だ。医師の診断によると骨折しているらしい。ルマールが治癒魔法かけてくれたら固定するって話だっ・・・・。」

「何でそれを早く言ってくれないんですか!!!」

「ル、ルマール?」

ティーカップを雑に置くと顔を思いっきり寄せてきて、彼女は叫ぶ。

何故だろう?結局怒られた気がしてならない。

「骨折なら早く言ってください!すぐに治しますから!というか、何故いままで黙っていたんですか!?」

「だってさ、伯爵とかが“いいかい、隊長。ジョゼに話しかけるのは掃除中以外にするといい。なんせ怒らせるとかなり、いや言葉に表せないくらい怖い。”とか言っていたからな。」

「地味にバーフォード大尉も伯爵の真似が上手くなってきましたね。今の聴いて少し腹が立ちました、ってそうじゃなくて伯爵とか管野さんとかは私が楽しく掃除しているときにそういうのを何も考えずにすり傷とか一日で治るような軽い傷なんかで私の治癒魔法に頼るから怒るんです!

普通は、仲間が負傷したとき私は絶対に拒みませんから。ほら、早く見せてください。すぐ直してあげますから。まったく大尉ってばいつも変なところで気を使うんだから。」

「あぁ、わかった。」

まるでぷんぷんという音が聞こえてきそうな感じのルマールは俺の怪我している場所に彼女の手を当てて魔力を顕現、治癒魔法をかけ始めてくれた。

細胞が活性化しているのか、医学の知識はほとんどないためよくわからないがなんとなく治っていくのがわかる。

 

そんな魔法の神秘に改めて驚きを隠せずにいるとルマールが声をかけてきた。

「大尉、本当に死なないでくださいね?」

え、思わず顔を上げると彼女はなにやら神妙そうな顔をしていた。

「いきなりだな。いったいどうしたんだ?」

まったく関係ないが今のルマールの口調は昔映画で見た、出撃するパイロットに心配そうに声をかける女性を思い出させた。

「いま、大尉に何回治癒魔法をかけたっけと思い出していたんですけどなかなかに壮絶だなと思いまして。さっきも言ったように伯爵とかは擦り傷程度でよく来るっていいましたけど大尉の場合はおなかが少し抉れたり全身の傷に加えて衰弱状態だったり今日の骨折だったりと私が治癒魔法かけるときなかなかに重症ですね。」

あー、確かにそういわれればそうだな・・・。

ルマールに頼る時、そのほとんどがすぐに医者の手当てが必要だったりする。

そして魔法をかけてくれるとき、いつもルマールは嫌な顔ひとつせず行ってくれる。

軽いとはいえ(後で空腹になるとの事)代償があるのに。

「私を含めて、死んでしまわれると治せないんです。そこはわかっていますか?」

もちろん、わかっているさ。

「だから死なない程度に怪我して帰ってくるんじゃないか。」

「そういう問題じゃないんです!」

そう言うとルマールは俺の怪我をしている腕を強くつかんできた。

「そういう、問題じゃないんですよ・・・。」

もう一度同じ言葉をつぶやくルマールは少し悲しそうだった。

 

・・・今の軽口は失言だったな。

治りかけの腕に、彼女の手を通して強い痛みが走った。それはまるで彼女の抱える心の痛みだといわんばかりの物だった。

治癒魔法の使い手は戦場で兵士の治療を行ったりすることがある、と聞いたことがある。

文句ひとつ言わず治療してくれるルマールのことだからここに来る前の場所でもきっと同じようにしていたのだろう。たくさんの人を救い、そしてそれと同じくらいあるいはそれ以上にだめだった人もいるだろう。その“失敗した”経験はルマールの肩に俺達他人にはもちろんのこと本人ですら気がつかないうちに重荷として襲い掛かる。

それ故に些細な怪我でも心配してしまう、かつて救えなかった人たちのことが頭をよぎるから。

「すまない。それと本当に、ありがとうな。心配してくれて。」

だから謝罪と感謝を。

こんな俺の事ですら心配してくれて。

「わかってくれればいいんです。だからこんな怪我しないでくださいね?骨折だって下手すれば大変なことになるんですから。」

そう言って、ようやく手の力を緩めてくれた。

これも彼女の怒っているというサインだったのだろうな。

 

「ただ・・・。」

まだ話は終わっていないみたいだ。なにか憂鬱な話をするのは勘弁だなと思ったがどうやらそうではないみたいだ。

「もしも大尉が本当に私に感謝してくれているんだったら・・・。」

「だったら?」

ブルーな話ではなかったと安心したのも束の間。一瞬、何を要求するのかと身構えたが

 

「なにか甘いお菓子でも作ってください。」

 

・・・意外と普通だった。それにしてもお菓子か。本当に、お年頃って感じがする。

それも作ってくれか。どちらにせよおいしいお菓子が売られているお店なんてサンクトペテルブルクでは見たこともないから作るしかないのだろうな。

「まぁ、それくらいなら出来ないことではないが・・・。」

そういえば、ウィルマが何かしらのレシピを知っていたはずだから今度、教えてもらう。

そうだ、今夜あたりに声をかけてみよう。最近一緒に何かをするという機会が少なかった。夜間哨戒に呼ばれたり、当番が上手く合わさらなかったり、話はするがどうしてもロンドンにいたあの時よりは減っていた。

ちょうどいい機会だし、誰にも邪魔されずに何か作りたいな。

「ちなみに私はクッキーが大好きです。」

「スコーンじゃだめか?紅茶に合うし。」

「じゃあ、それで妥協してあげます。一日でも早い提供を期待していますからね。」

そういうとルマールは俺のための魔法に集中し始めた。

 

何も考えずにただ魔法を見ていると、5分ほどしてルマールが声をかけてきた。

「終了です。わたしの能力ではこれが限界ですね。あとは大尉の努力しだいです。」

「フムン、熱はまだあるが痛みはだいぶ引いた。これなら1週間で本当に完治してしまいそうだ。」

「そうですか!なら良かったです。」

手をパタパタさせながら“ひゃー、暑い”なんていっているルマールは再び席を立ち床下の保冷室からサンドウィッチを取り出すと食べ始めた。

暇だったからそんな姿をじっと見ているとさすがに気まずくなったのか半分差し出して

「・・・食べます?」

そんな事を言ってくれた。さすが、気配りの出来るいい子だ。

「いや、こういっちゃ何だが自然な流れでつまみ食いしているなと思って。うちのウィルマは“は!またおなかにお肉が!”なんて言っているから結構斬新だなって。

そこいらの女子よりも明らかに消費カロリーは多いはずなのになんで太るんじゃといつも嘆いているな。」

「うちのウィルマとか、さすが大尉は違いますね。」

「事実だろ?」

“はぁ、お暑いこと“と独り言を言った後で解説してくれた。

「私はこうやって治癒魔法を使うと体が火照っちゃうんですね。そうするととっっってもおなかが空くので食べないとやってられないんです。」

夜に食堂でなにか音がすると思ったらルマールだったのか。

てっきりねずみがいるのかと思って少佐に相談してしまったんだよな。ここは外より暖かいし、食糧もあるから間違いないと思ったのに。

ま、ペルシャ猫が腹を空かせて食べ物を漁りに来ていると考えてしまおう。

「ウィルマさんは大人って感じですからね。スタイルいいし。」

「ま、年齢もあるだろうな。20歳を超えているから魔力も落ちている。昔みたいに食べてもその分魔法を使えないから太ると感じているんだろうな。」

「なるほど。そういえば、大尉。ひとつ聞きたいことがあるんですけどいいですか?ちょうどウィルマさんの話になっていますし。」

「かまわないよ。」

“では”と姿勢をただし、こちらに真剣なまなざしを向けて聞いてくる。

 

「ウィルマさんをいつまで飛ばす気ですか?」

 

・・・ついに聞いてくる奴が出てきたか。

20歳という年齢だともう引退してもおかしくはない。今はシールドを張れるほど魔力を保持しているが数ヶ月前までは限界に近かった。いつ再び限界が来てもおかしくはないし、兆候だってある。見ている限り、シールドの展開速度が遅くなってきていた。

だが、俺とウィルマの間でここに来て一度もそんな話はしたことがなかった。

意図的に避けていたといってもいいだろう。だからルマールが聞いてきてくれたのはちょうどよかったのかもしれない。

「どんなに延長したとしても、今年末だろうな。」

これは俺が想定している彼女の限界だ。それに再び戦闘が激化することを考えればベテランの類に入るウィルマが502から抜けるのは厳しいだろう。ほんの噂だが扶桑から2人を新たに編入する計画があるらしいが少なくともそこまではいてもらわなければならないだろうな。

「決めているのなら、いいです。」

「望んでいた答えは得られたかな?」

「はい。というか、出すぎたことをしてしまい、申し訳ありません。こういった事は2人で決めるべきことなのに。」

「いや、平気だ。」

むしろ、決めるきっかけを作ってくれたことに感謝しているくらいだ。

ずっと、どこか逃げていた気がするからな。

ついでだ、今度お菓子のときに話してみよう。

「今度、じっくり話してみるよ。結果が出たら改めて皆に知らせる。」

「わかりました。ありがとうございます。」

そういうと、早足で食堂を出て行った。

・・・最後は気まずい結果になったな。そう思いながら俺はコップを流し置きすっかり忘れていた医者の下に向かうのだった。

 

後日、熊さんを含め整備員が事故の原因を調査した結果、右ユニットの炎上は過度の魔力流入によるオーバーフローだった。本来であればいくつもあるはずの安全装置が何らかの原因(おそらく低温のため安全装置が凍結し動かなかった)によって、動作不良を起こしエンジンの回転数が設計限界を超えてしまい、炎上したと思われる。

このことを記入した報告書を提出しに行ったのが事故発生の5日後、つまりはおととい。

一次報告書は当日に出していたため、これは最終報告となる。

 

俺が少佐との用事が終わり待機室へ帰る途中、司令部から帰ってきた曹長を見かけた。

だがどうにも様子がおかしかったので声をかけてみる。

「曹長、どうだっ「あーもう!許せない!」」

俺の声が聞こえていないのか独り言をつぶやきながら曹長は部屋へと戻っていった。

一体どうしたのだろうか?なにかあったに違いないのだがかなり“きてる”みたいだ。きっと物に当たらないのは曹長なりのプライドがあるからだろうけど、あれはなかなかにやばい。

どれくらいやばいかって?後ろのほうでその様子を見ていたいつもユニット壊している3人組が

「あんなに怒っている曹長は久しぶりだ。」と伯爵。

「さっき破損させちまったけど、なんていえば一番怒られずに済む?」と下原に相談しているのが管野。

「どうしようどうしよう前に壊したのがばれちゃったのかな?どうしよう!!」とノイローゼになりかけているのがニパ。

と、怒られてもへらへらしているこいつらですら本能で危機感を覚えているくらいである。

司令部から帰ってきてからずっとあんな感じなのできっと上層部と何かやらかしたのは明らかである。現在時刻は1650。今日の夜間哨戒は他の部隊の奴が行うので502全員で夜食を食べることになる。

つまり、このままではあの気分が最悪に悪い曹長と一緒のテーブルで食事をしなければならない。空気も最悪になるのは間違いない。

そのため早急に原因を究明し、解決策を見出さなければならない。

今日、夜間哨戒任務が入っていればそんな事を気にせず年頃な女子だけでどうぞごゆっくり、と全てを擦り付けることが出来たがそんな事は残念ながら無理だ。

スクランブル待機組みで緊急対策会議(仮)を開くことになった。

そして、会議が開始されると同時に

「こんなときのラル少佐だ!」

「ラル少佐はどこだ!?」

いきなり全てをなすりつけようと、人柱探しが始まる。対策とはなんだったのか。

ところが

「少佐は上層部と追加の会議があるそうで夕食の時間に戻るそうです。」

と、警備兵が話してくれた。

 

「何でこんなときに限って少佐がいないんじゃー!!」

「落ち着け、伯爵。こんなときに焦ってもしょうがない。」

「それじゃ、隊長。誰が・・・ってそうだ。次に階級が高い熊さんか隊長が行けばいいじゃないか!!」

「!!それがいい!」

管野が獲物を見つけたときのような目で俺らを見る。

その指摘にお互い顔を見合わせて。

「ここはこの部隊で一番勇気があふれて最高に素敵な紳士であるバーフォード大尉が。」

「ここは、レディーファーストで。そしてオラーシャ1の美女のポルクイーキシン大尉が。」

と同時に不毛な言葉をつむぐ。

ここでお互いが譲ったとしてもただただ無駄な時間になるのは目に見えている。

 

こんなときはウィルマ、いつもそばにいる君に助けを求めるしかない。

すかさず俺ら2人の間でしか使わないハンドサインの1つ、“カバーしてくれ。”で救援要請をする。

あごを机の上に乗せてぼーっと眺めていたウィルマが俺のサインに気づき体を起こす。

「同じカールスラント人のほうがいいんじゃない?特に伯爵は曹長ともここに来る前から知り合いなんでしょ?」

「え“!?」

ナイスだ!

俺がウィンクするとウィルマは“どうだ、すごいだろう!”といわんばかりの顔をした。

そこで俺とウィルマのやり取りを少し見ていた熊さんが

「そうですね、やっぱり階級なんかよりも長年の付き合いのほうがきっと曹長の悩みを解決する手助けになるはずです。」

と更なる支援攻撃を行ってくれた。

こうして5人(ニパはどこかに消え、下原はうとうとしている。)によう“こうどなじょうほうせん”が繰り広げられていると

ドンッ!!

普段そんな大きな音をしてあける必要のないドアがものすごい勢いで開いた。

「何を、しているんですか?みんな揃って。」

曹長と言う名の震源地がついにきてしまった。だが彼女が来るまでの空気は伯爵が対応する空気だった。このまま行けば・・・

「(You have!)」

伯爵、貴様!裏切ったな!?

「(バーフォードさん♪)」

熊さん、お前もか。いつも信頼していたのに。

そんな今までで一番かわいいような声で言われたって・・・。

気がつくとみなの視線が俺に集中していた。

まて、いつの間にお前達は俺に擦り付けたんだ?

そして、俺は能力を使っていないのに瞬時にあらゆることを考えていた。

ここで、全員が集まるにふさわしい何らかの理由を考えて・・・・、そうだ!

 

「なぁ、曹長。また伯爵がユニットを・・・。」

「アタック!!!」

伯爵が彼女から最も近くにあった本をこちらに投げてきた。彼女も本能でこれ以上言わせてはだめだと判断しての攻撃だろう。

文庫本サイズの本を手でキャッチして事なきを得たが、直撃していたらまたルマールの世話になるところだった。

だが、これも根本的な解決にはなっていない。

どうしようか再び考えようとしていたそのとき、

 

「そういえば、バーフォード大尉。」

 

俺の名前が呼ばれたとき

伯爵は小さくガッツポーズをして“yes!”とつぶやき

管野は右手を顔の前で立ててあちらの国の祈るポーズで“ご愁傷様”とつぶやき

熊さんは申し訳なさそうに“ごめんなさい”とつぶやき

ウィルマは“がんばって”と俺に囁いてきた。

「何でしょうか?ロスマン曹長?」

「ちょっといいかしら?」

もはや口調まで変わってしまっている曹長に階級差など関係なく指示に従う。

立ち上がり、いすを机の下に入れ曹長の下に向かう。

その途中でウィルマの横を通り過ぎるときにお互いのこぶしを軽くぶつけ合って

-いつも出撃前にするおまじないのようなもの-

彼女の元に向かう。

一旦出撃待機室からでて、廊下にて曹長の話を聞くことにした。

「それで、話とはいったい?」

内心すこし緊張しながらも曹長に話しかける。

「前に、バーフォード大尉は薄殻魔法榴弾がほしいということで補給申請していましたよね?」

「ええ、確かに。」

あれは、ハインリーケが使っているから俺も使ってみたいっていう単なるわがままみたいなものだから申請したこと自体、俺も忘れかけていた。

「あれ、私が許可します。というかさせます。何とかしてここに持ってきますのであさって、補給基地に行きますから同行してください。」

「へ?」

なぜ?というかあの場で開口一番で拒否したあの曹長がなぜ?

そんな俺の疑問に答えることなく曹長は話を終わらせる。

「話は以上です。それでは私はこれにて失礼します。お時間をおとりして申し訳ありませんでした。」

そういうとあっさり曹長は俺を解放してくれた。

また何かをつぶやきながら司令官室へ向かっている彼女を俺はじっと見ながら少し思うところがあった。

さっきはあんな風に擦り付け合いしようとしていたが、本当のところ何があったか少し気になっていた。ただ、積極的に関わるというのがあまり好きではないというだけだ。

前に40000ftで少し彼女の心に触れられた気がしたためか、それとも単に不機嫌な奴が部隊にいるとそれだけで士気が下がる、という士官の考えゆえか判らないがなぜあんなに不機嫌なのか気になっていた。

そうなると先ほどまでは修羅のように見えていた彼女は今ではただただ、何かつらいことを抱えて小さくなっている少女にしか見えなかった。

「曹長。」

「何です?」

不機嫌な声で振り向き、俺に返事をする。

「何かあったのか?話を聞こうか?」

「え?」

「その様子だと、司令部で上の奴になにか言われたんだろ?話してみれば楽になるかもしれないぞ?」

俺がそういうと15秒くらい固まってしまった。

・・・平気か?

そう思いはじめた直後、曹長は俺との距離を一気につめてこちらに来ると

「大尉!聞いてください!あいつらったら本当にほんっとうに私のこと・・・!!」

心のストッパーが外れたのか先ほどの怖い表情から泣きそうな顔に変わり一気に話を始めようとしてきた。

「待って、とりあえず食堂で何か飲みながら話を聞こう。それでいいか?」

「ッ。・・・はい。」

ああ、これは深刻だな。

肩をつかんでよく表情を確認してみると一瞬、曹長の顔がかつてワイト島で見た毛布に包まっていたあのときのウィルマに重なって見えた。きっと聞いてあげないと後で潰れてしまうかもしれない。

そっと曹長の体を回転させて背中を押し、歩かせる。

ふと後ろを見るとうえから伯爵、ウィルマ、ルマール、熊さんと4個の顔がこちらを見ていた。さっきおれの事を見捨てた人たちが今頃になって安全圏から見ているとはいい度胸だ。

あとで見ているといいさ。

 

そこからの曹長は凄かった。2時間止まらなかった。

「大体、どうしてユニットを壊したことが全部私の責任って話になるんですか!おかしいじゃないですか。急激な加速は事故の原因になるくらいわかっていますしもちろんそんな事はしていません。それなのになぜんか私がそんな事をしたかのようにいわれました。

挙句の果てには“新型のテストを曹長階級の奴にやらせるからいけないんだ。これだから下士官は責任感がない。502にはそんなやつらしかいないのか?”ですって?

確かにうちにはユニット壊しまくる人がたくさんいますけど、ちゃんとペテルブルクは守っているでしょ!

あなた達が優雅にワインを飲めるのは一体誰のおかげだと思ってるんじゃ!」

というようなことを30分1セットを4回ほど繰り返し最後のほうには

「こんなの、こんなのってあんまりですよー。大尉にはわからないでしょうね。」

といって机に突っ伏しながら泣き始めてしまった。

傍から見ていると申し訳ないが酔っ払いのようにしか見えないが、曹長は至ってまじめなはずなのでとりあえず背中をさすりながら励ましてあげる。

残念ながら月並みなことしか言えなかったがだんだん曹長の返答の声も小さくなっていき、やがて寝息を立て始めた。

その頃になってようやく俺に全てをなすりつけた人たちが入ってきた。

気まずそうに俺と目を合わせないようにしている3人とは別にウィルマが俺たちに近づいてきた。

「お疲れ様。」

「あぁ。曹長、相当まいっていたみたいだ。今日くらいは休ませて上げたほうがいいと思うな。」

「それじゃ、後は私達で何とかしておくね。」

「あぁ、頼んだぞ。」

そういうとウィルマとルマールが曹長の腕を抱えて部屋に連れて行った。

 

というのがあったのがおとといの話。

今日は補給物資を受け取るために支援基地へ向かっていた。3台のトラックに別れ先頭が整備兵3名、次が曹長と伯爵(あの身長で軍用トラックをよく運転しているな。)、最後が自分と言う感じに運転している。

「それで、今日は何を受け取りに行くんだ?」

『定期的に補充される缶詰などの食糧、各隊員から購入申請がありその中で受理された雑貨、例を挙げるならたとえば下原少尉は茶具セット、ルマール少尉がファッション雑誌とかです。それにユニット整備の際に部品劣化などで交換が必要になったものがあるのでそれの補充、最後に“私が現地で必要だと思ったもの“です。リストは出来ているので到着後すみやかに行います。』

最後のって、要はいつもやっている奴か。

ちなみにいまは曹長と俺はインカムをつけて会話している。

『大尉の言っていた“例の弾丸“も私がほしいと思ったものの類です。

あれには結構苦労したんですよ?』

「・・・具体的には?」

『上の、もちろんラル少佐ではありませんが、人の名前を使って要は上官権限でこっちに持ってこさせた上で、本来であれば本部保管にしておくはずの物が“なぜか”502で使用されることになっているのです。

どうせ上の人も補給基地の人もお互いが連絡を取る余裕などはないので気にしません。

これが昔いた普通の部隊だと怪しまれていましたがここは502、世界でも屈指の航空歩兵隊ですからね。』

「本当に危ない橋を渡っているんだな。」

『本当です。もし“あの件”がなければ私もこんな事はしなかったのですが。さすがにあれには私も許せなかったのでやっちゃいました。』

「ありがとうな。わざわざ。」

『いえ、私の自己満足ですから。それに大尉はその対価に見合った成果を上げてくれますからね。きっと皆が満足する結果につながるはずです。』

 

30分ほどしてようやくついた。いまだに少しだがネウロイから受けた攻撃の傷跡が残るもほぼ問題なく支援基地としての役目を果たしていた。

整備兵3名と伯爵にはこいつの代替ユニットと交換部品及び定期補充物資の受け取りに行かせて俺は曹長の手伝いをする。

 

「さて、バーフォード大尉。こちらです。」

曹長の後についていき、いくつもの木箱の間を抜けてようやくたどり着いたそこには1メートル四方の大きな木箱が2つと縦2.5m、横、高さ1mほどの木箱が1つ置いてあった。

全ての箱には十字のカールスラントを表すエンブレムと”Hergestellt in karlsland”の刻印が押されていた。

「まず、これは大尉が使っている銃対応の12.7mm弾です。」

「おう。」

なに?まずって事は次があるのか?

「そしてこれは20mm用の弾丸です。12.7mmよりも炸薬が多いので威力が大きいです。もちろん弾薬はすべてカールスラント製なので性能も世界一です。」

「なぁ、曹長。俺は・・・。」

「えぇ。20mmを使える銃を持っていない、ですよね?もちろんわかっています。」

そういうと、彼女は最後の木箱のふたを開けた。

「これは私からのプレゼントです。命を助けてもらったり泣き言に付き合ってくれたりしてくれたお礼だと思ってください。もっとも私自身が身を切っているわけじゃないので痛くもかゆくもないんですけどね。」

その木箱の中には馬鹿でかい機銃が入っていた。

「MG 151/20機関砲です。普段は戦闘機に積んで使うものなんですけど、以前ヴィトゲンシュタイン大尉の話をしてくれましたよね?その後調べてみたらこの人もこの銃を現地改造したものを使っているそうです。なのでがんばって手に入れました。

改造はうちの整備班がやってくれるみたいなので数日中には出来るはずです。

ぜひ使ってください。私のコネや努力の具現みたいなものですから。」

曹長って、本当に某傭兵空軍部隊の武器商人みたいになってきたな。

よくこんなものを手に入れられたものだ。

「俺が使ってもいいのか?」

「もちろんです。あ、国籍の問題ですか?それはもうぜんぜん問題ありません。ばれた時は物資が足りないからって上のせいにすればいいですし。

それにいつも平気でやっていることですしね。」

いまさら御託を並べるなってか?

まぁ、威力が高い物がほしいから薄殻魔法榴弾を入手したかったわけで結果としてはさらに威力が高い火器を獲得できたのはそれはそれでよかったのかもしれない。

「なら、ありがたく受け取らせてもらうよ。助かる。」

「はい。たぶん12.7mmのほうは大尉の狙撃銃用ですからそう簡単にはなくならないはずですけど、20mmのほうはきっとばら撒く形になると思います。けれど心配しないでください。私が何とかしますから。」

これって確か一発あたりかなり高くなかったか?曹長が何とかするというと本当に何とかなってしまう気がするがさすがに何回もお世話になるのは気が引ける。

だから本当に必要なときのみ、使うことにしよう。

「なら、次に大型のネウロイが出現したら使ってみるよ。」

「はい、ぜひ使ってあげてください。」

そういうと曹長は大型の木箱を運ぶ専用の荷台を持ってきた。

「さ、早く運んで私達の基地に持って行ってしまいましょ。誰かにとがめられる前に。」

「それもそうだな。」

と、MG151/20が入った木箱を持とうとするとかなり重かった。/

「ちなみに銃本体だけで40kg超えますけど、平気ですよね?」

「まぁ、魔力加護があれば平気かな。」

これはきっと実戦では肩がこりそうだ。

そんな事を思いながら今度は2人とも魔力を顕現させて、身体能力向上の加護で何とかトラックに搬入するのだった。

 

『バーフォード大尉、聞こえるか?』

「ラル少佐?どうしたんですか?」

補給基地から帰る道を下り後は左折をして直線の道を行けば基地に帰れる、というところで少佐から通信が入った。

『至急、司令部に出頭してほしいそうだ。場所はブリタニア課で何でも書類が届いているから受け取れ、との事だ。』

「書類ですか、了解です。」

『すまないな、せっかく補給基地まで行ってからの帰りの途中だろ?私があと10分長くいればそんな面倒はさせなかったのだが。』

「いえ、問題ありません。曹長、そこで止めてくれ。」

『了解です。』

曹長も通信を聞いていたため、既に内容は理解しているが中間の整備兵2名は知らない。

一旦車列をとめて、片方1名に俺の代わりに基地に持って帰ってほしいことを伝え俺は東欧司令部まで歩いていった。

 

「連絡があったので参りました、502のフレデリック・T・バーフォード大尉です。」

「あ、バーフォード大尉ですか。了解です。隣の応接室に入ってお待ちください。」

そういうと、受付の人は置くまで走って行き、“課長!バーフォード大尉がいらっしゃいましたよ!”という声が聞こえてきた。

一体何なのだろうか、と思いながら隣の部屋に入り座って待っていると2分くらいして課長が入ってきた。

「やぁ、待たせてすまないね。あ、立たなくて結構。私が東欧司令部ブリタニア課、課長のアーヴィング・リース中佐だ。なんで私が出てくるかというとこの封筒にそれだけの意味があるからだ。この地域で活動する全てのブリタニア軍兵士の活動状況を私が知っておく必要があるため作戦指令書などを私が閲覧する義務と責任を負っている。だがな、この作戦指令書はこの印が書いてあるせいで私には閲覧する権限がない。つまりは“そういうこと”だ。

私は知る必要がない、と言うわけだ。さて、その命令書は私は退室するからその後で読むように。それと、心の準備を忘れずにな。では。

そうそう、そこの紅茶はあったまっているから好きに飲むといい。」

一気にまくし立ててリース中佐は俺に話す隙も与えずに部屋を出て行った。まるでこの書類を手放せてようやく一安心、という感じがした。

表には“作戦指令書”の文字と俺の名前、と“極秘”のマークが、裏にはブリアニア空軍、SIS、MI5、そして“ブリタニア王室”の家紋が記されてあった。

今までジャックから送られてくる指令書だって、こんなにマークがあった事はない。

「嫌な予感しかしないのだが。」

はさみで上の封を切り中の書類を取り出す。

 

 

王室命令 =作戦指令45503=

ブリタニア連邦君主の名の下にブリタニア王立空軍特殊戦術飛行隊第2飛行中隊第21攻撃飛行隊隊長フレデリック・T・バーフォード大尉に対し以下の命令を行う。

なお、当命令はいかなる命令より最優先行われるものとする。

・・・

 

俺はため息をついて、天を仰ぐのだった。

 




一週間で書けたのに編集にじかんがかかりおわったのが2358。
これからも月1で更新できるようがんばります。

ご指摘、ご感想があればよろしくお願いします。

タイトル間違えていたので修正。

次は遅くても7/1に更新します。文字数も増えて分けることに、、、


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第49話 忙しい一日(上)

502司令官室。

大きな置き時計の秒針が進む音が響き、午後3時のほのかに暖かい光がさすこの部屋にはラル少佐(司令官)と曹長(実質上の副官)、熊さん(戦闘隊長)と俺の4人がいる。まさにこの4人が実質的にこの部隊を引っ張っているメインというわけだ。

ちなみに今の俺は熊さんの補佐と502夜間戦闘隊長という名義が与えられている。夜より昼のほうが飛ぶ回数が多いが、階級的に下原よりも上でかつ夜間も飛べるということでそういう位置づけになっているそうだ。

夜間索敵は残念ながらメイブでしかできないので俺はこの役職には不服なのだが諸事情あり(主にブレイクウィッチーズ)、こういう形に落ち着いた。

さてなんでこの4人で話が行われているというと、

 

「しかし、この時期に部隊隊長クラスの人員を一度にここ、ペテルブルクに集めるとは。それに東側だけでなく、西側からもか。ところで、なぜ506も呼ばれているんだ?こいつらの仕事はガリア防衛じゃないのか?」

「そうです。会議の議題を考えるとやっぱり不自然ですよね。507をさらに南進させた方が有益だと思うんですけど。」

「ストックホルム辺りに駐留してくれればこっちは一つに集中できるんだが。」

「それにしてもベルリンの巣攻略に関する各主要ウィッチ部隊の召集ですか。よくもまぁこんなにも集めたものですね。戦力が手薄になったところを狙われたらどうするんですかね?」

「おそらくは優秀な戦力があつまる506をどうせなら戦線も近いことだし逆方向から挟み撃ちするためにそっちから力を割いてほしいという思惑が顕著に表れているんだろうな。」

 

いずれ行われるであろうカールスランド奪還を目指す欧州司令部は主戦力になるウィッチ飛行隊の隊長クラスの人員を一箇所に集めて今後の方針について話し合いたいそうなので合同作戦会議がここペテルブルクで開かれることになったためだ。もちろん俺は参加しない。むしろ参列者名簿に自分の名前がなくて安心したくらいだ。前回のロンドンでもう会議にはうんざりした。

 

ただ、いまここにいる全員の疑問はなぜ会議を最前線により近いガリアで行わないのかということだ。公式見解ではガリアは復興中につき金が~(略)と言っているが別の理由もありと踏んでいる。ここ502も本格的にカールスラント奪還に動員されるのでは、と我々は考えている。それが本来のブレイブウィッチーズの役割であるが現状、ペテルブルクの防衛で精一杯なこの状況を理解しているのだろうか?そして更なる疑問はガリア防衛が主任務のはずの506が何故呼ばれているのかだ。先ほどの熊さんの解説も憶測にすぎないが俺は貴族ばっかりの部隊だからそこに所属するウィッチの家族も相当の金を持っているはずなので出資でも要求するのだろうか、と考えている。もっともそんな傲慢なことでもしたら逆に潰されそうだが。

「もし、これで502のカールスラント進行作戦が決定するのなら私としても本当にうれしいです。」と、曹長。なんせそれはカールスラント人の悲願だからな。

「さすがにそれはないだろう。会議は1日しか開催されない。できて各部隊の情報共有、うまくいけば1飛行隊レベルでの連携だろう。さすがに大規模な部隊レベルになると無理がある。」と少佐。

ま、実際この会議自体、開催目的が不明だから本当にやる意味があるのかすら不明だからな。

こんな会議を開催しなければ“あのへんな命令”も下されることもなかったのに。

いっそのことネウロイがここを襲撃してくれれば会議が中止になってその命令書も向こうになるのにな。

 

「どちらにせよ、この会議には502からは司令官である私と戦闘隊長であるポルクイーキシン大尉が出席する。曹長は私の代わりにここで仕事を行っているからスクランブルのときは彼女達をまとめてくれよ?バーフォード“少佐”。」

「・・・ラル少佐、自分のことを呼ぶときはまだ正式には任官されていないので大尉のままでいいです。それに俺自身がラル少佐、あなたと同じ階級を名乗るのはおこがましい気がするので。」

「それはカールスラントとブリタニアの昇進スピードの違いじゃないか?」

「それはそうですが・・・。」

そうそう、本当に功績が認められてなのかはわからないが昇進した。3日前に通達が来て大尉から少佐となったわけだがなんだか不思議な気分だ。理由は撃墜数100超え及び502やヴェネツィアでの功績が大であると認められたからという事らしい。

だが俺が特に全員に言い振り回しているわけでもないのでウィッチでも知らない人がいるらしく警備兵に挨拶されるときやたまに書類を渡されるときにも“大尉”で呼ばれることがある。ちなみにウィルマには最初にいった。喜んでくれた顔が見られただけでも良かったと思えるよ。

 

その一方、素直に昇進を喜べない理由が俺にはあった。

それは撃墜数の違いだ。ラル少佐の撃墜数は250超えのカールスラントというか人類第3位、伯爵も200超えを目の前に控えていて中尉。(原隊では大尉らしいがここで問題を起こしまくった結果降級させられたらしい。本人は取るべき責任をすべて熊さんに任せられるとか言って全く気にしていなったが。)年齢を考えるとラル少佐を超える可能性は十分に考えられる。それなのに俺はようやく100を超えて少佐、もちろんブリタニアの中で数えればトップクラス、いや三本指に入るのではと自負しているのだがカールスラント勢と比べるといささか見劣りしてしまう。一度ランキングを見たことがあるが上から見ても所属がずっと“カールスラント空軍”、“カールスラント空軍、“カールスラント空軍・・・・・とこの世界の空にはカールスラント所属の奴しかいないのでは?とまで思わせられるような感じだった。

さて、そんなエースたちのスコアの半分の俺が彼女たちよりも階級が高いか同じ少佐となるわけだ。うれしさよりももどかしさを感じてしまうのも仕方ないといってほしい。

それにしてもこの世界ではストライカーユニットに乗る搭乗員の昇進は本当に早い。カールスラント空軍のウィッチを束ねる総監はアドルフィーネ・ガランドだが彼女の階級は少将だが年齢も23歳である。

その年齢なら普通の軍人でも一番早いコースで少尉か中尉あたりだろう。この世界でいかにウィッチが重要な役割を担っているのかがわかる。

 

「とにかく、明日から各地のウィッチがこの基地に集結する。会議はあさってでその次の日に帰る手はずなのでその点を覚えておくように。」

「会議って、本当に一日しか行わないのですか?」

「私も今回はあくまでも顔合わせとそういった会議が開催されたという名目がほしいだけなのだろうと考えている。来る連中のなかには私の知り合いもいるがどれも癖の強い奴らだ。どうせ何も決まらずに終わると見ているがな。」

見ている分には面白いのだがな、と言って少佐は書類に目を落とした。

ブレイクウィッチーズをまとめ上げているラル少佐が、癖があると感じているのだからきっと相当な奴らなのだろうな。

少し話してみたい気もするが、おそらく面倒なことになるだろうからやめておこう。

「各隊の人員はこの宿舎の余っている部屋を使ってもらう。既にルマール少尉が準備を進めているので手が空いている人員がいたら手伝いに・・・、いやその必要はないか。逆に邪魔になるだけだからそのまま出撃待機させて置くように。君達は格納庫の配置などを決めておいてくれ。以上、解散。」

こうして、人員の受け入れ準備が始まった。

 

熊さんとは分かれて俺は格納庫に向かう。とりあえずはここに来るウィッチのユニット置きをセットしなければならない。書類によると遠距離からくる部隊の場合は輸送機に乗ってくるため必要ないとのこと。となると5組10機分のユニット置き場が必要になるんだな。

予備の奴も使うとして、足りなかったらどこからか融通でもしてもらうか。

と格納庫内の電気をつけるために隣接する小部屋のドアノブに触れた瞬間、ドア越しに違和感を覚える。なんだろう?

ドアの向こうにもやっとした何かを感じる。

無人ではない?

だが、格納庫の電気がついていないので本来ならここに人はいないはず。

 

あたりを見て、誰もいないことを確認した上で、腰から拳銃を抜く。

ならここの中に誰かいるとしたらそいつは正規のルートで入っていない可能性が高く、ここに電気をつけるという本来の正しい目的のために入っているわけではなさそうだ。

初弾を装填、安全装置を解除した上で、ドアを蹴って一気に押し入る。

部屋の中は暗かったが、俺の銃を向ける先には黒いシルエットがうっすらと見ることができた。

 

「なるほど。さすがに無警戒で入ってくるほど馬鹿ではありませんでしたか。さすが空軍大将が推薦するだけある。

お試し程度と考えて使えればもうけものと思っていましたがこれはこれは・・・。」

 

そのシルエットから声が聞こえた。男の声で渋みがあるがまだ若さが残る、そんな声だった。

「何者だ?」

「私ですか?今回あなたの命令書が有効性を保っている限り行動を共にする者です。そうですね、“ジェームズ”とでも名乗っておきましょうか。それと、その拳銃はすぐにしまってください。少なくとも今は敵ではありません。」

作戦、あの命令書に関することか。

拳銃を元に戻して腰にしまい、壁にもたれる。

「よく言う。それで、所属はSIS、それもMI6といったところか?」

「・・・どうしてそれを?」

ジェームズと名乗る男は俺を疑うようなまなざしでこちらを見てくる。

ジョークのつもりで言ったことがまさかあたっているなんて思ってもみなかったしこれが逆に彼が警戒心を持つきっかけになってしまった。

「なに、ただの勘だよ。さてここでわざわざティーパーティーをするために俺を待っていたわけではあるまい。さっさと話を進めてくれないか?」

俺は面倒が嫌いなんでね。

「・・・それもそうです。では、これを見てください。」

とりあえず、話題を転換して話を進める。

彼はテーブルの上にペテルブルク市内の地図を広げ、俺に資料を見せてくる。

「明後日、506の隊長ロザリー・ド・エムリコート・ド・グリュンネ少佐、及びその副官としてハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン大尉が到着することは既に知っていますね?」

「あぁ。貴族ぞろいの506の中の隊長とその戦闘隊長ということしか知らないぞ。」

「それでは、グリュンネ少佐が遠縁とはいえ、ブリタニア王室とつながっていることは?」

「・・・それは初耳だ。ということはあの命令書に王室のマークが押されていたのはそのためか?」

「理解が早くて助かります。」

なるほど、だんだんとわかってきた。

俺が受け取った命令書に書いてあった事柄は以下の通り。

一つ、現地にて諜報員と接触し指示を仰ぐこと。

二つ、グリュンネ少佐およびその副官に対して危険が迫っていると判断した場合、これを速やかに排除すること。

つまり、仕事中はちゃんと専門の部隊が行うからプライベートはそっちに任せるね、ということだろうか。

そんなの不可能に決まっている。俺一人でどうしろってんだ。俺の専門は銃を撃つことであって攻撃は得意だが防衛は苦手なんだ。

俺がそんな事を考えているのを気にせずに“ジェームズ”は話を続ける。

「現在、ガリア方面で506への妨害工作が活発化しつつあります。水面下で行われていることが大半で、我々ブリタニアがメインになってこれに対応が最近では数件ですが実力行使に移ろうとしていたこともあります。」

「具体的には?」

「弾薬などの物資に交じって時限爆弾が。」

わお。

「それは穏やかじゃないな。」

「えぇ、全くです。それではバーフォード少佐。なぜ、各国が集まる統合戦闘航空団に対して圧力を加えようとする勢力がいるのか、理由はお分かりになりますか?」

各国の人員が集まる統合戦闘航空団に対して、敵対しようとするとなると一度に複数の国を敵に回すことに等しい。かなりのリスクがあるものと思われるがそれを知ってなおも圧力を加えようとする集団がいるということか。

「航空団に圧力を加えるといったな?ウィッチ個人を狙っているわけではないんだな?」

「その通りです。506を含めて、もともと統合戦闘航空団はブリタニア空軍大将であるヒューゴ・ダウディング大将の主導の下、設立されました。そして501やその他を含めて確実に成果を挙げているのを気に食わない連中がネウロイ以外にも、皮肉な話ですが我々人類の中にもいるということです。」

となると、そもそもその統合戦闘航空団自体を邪魔だと考えているのか。そうなると以前ジャックが言っていたあの

「リベリオンか?」

真っ先にそれが思いついた。欧州での発言力がブリタニアよりも劣るリベリオンが勢力をここヨーロッパで大きくしようと考えたとき、すでにブリタニアの手に染まっている統合戦闘航空団が戦果を挙げるのは気に食わないはずだ。

「いえ、リベリオンは“まだ”動いていません。ですが、いい線をついていますね。今回は506の話です。つまりは・・・。」

「ガリアか。」

「その通りです。」

とっさに506の本拠地があるガリアの名前を挙げてしまったが、自分の中に疑問が残る。

506の主任務はガリア防衛のはず、本来ならばもろ手を挙げて歓迎するはずなのに。

「だが、なぜガリアが手を出すのか疑問に思っているようですね?まず初めに言っておきますと主に活動しているのはガリア諜報部ではなく活動家が中心となって行っているようです。」

「活動家?よくそんな活動をする余裕があるものだな。」

「全くです。どこからあのような多額の金を集めているのかのルートは不明ですが、未確認情報ですが王党派が支援している節があります。さらに厄介なのがそれをガリア本国が支援している可能性があるということです。

さて、なぜこのような事態になっているのかを説明しましょう。本来であれば506の隊長は元501のガリア空軍所属のペリーヌ・クロステルマン中尉が就任するはずでした。ですが残念ながら階級も足らず、本人も拒否し挙句の果てにはヴェネツィアでの件で完全にその話は流れてしまった。そこで新たに白羽の矢が立ったのがグリュンネ少佐。

ガリアとしては復興したばかりで自国の領土をネウロイから守るための戦力ですら不足している。彼らからしてみればプライドが許さないのでしょうね。自分の領土すら守る力が不足していて、それを補う強力な航空隊の隊長はあのブリタニア人。」

「だから、一度506を潰して新しい、ガリア主導の別の航空隊でも作ろう、と?」

「上は今までの活動記録を総合してそう考えているようです。今の506は正式発足前です。ここで何か起きれば潰すのは簡単ですからね。しかもA隊とB隊の中の悪さも妨害工作に拍車をかけています。敵からしたら隊長と副官がここペテルブルクに来ているというのはチャンス以外何物でもないはずです。」

なるほど、506の連中が危ないのはよくわかったし護衛が必要なことも明らかだ。

ここペテルブルクで彼女らの身に何かあれば最悪だ。“自分のみすら守れない隊長が、ほかの奴らを守れるはずがない。”とか言われそうだ。統合戦闘航空団の名に傷がついてはならないのだろう。

「だが俺だって護衛に関する訓練を正式に受けた事はない。3人くらいならまだしもそれ以上でかかってこられたら無理だ。」

「その点はわかっています。先ほど言ったでしょう?使えればもうけもの程度としか考えていなかったと。」

「ほう、言ってくれるな。」

「だれだってそう考えるでしょう?ただの航空歩兵なのにいったい何ができると考えても仕方がないでしょ?まぁ、先ほどの行動を見れば考えを改めるだけの材料にはなりそうですがね。

さて少佐にはペテルブルクにて出来るだけ2人と一緒に行動してもらいたいのです。そうですね、ペテルブルク滞在中はここの宿舎に泊まるとの事なので主にこの基地内での安全確保に努めてください。少佐ならこの基地内を自由に動き回っても問題ないはずなので不審な人物は事前に把握しておく、武器庫や格納庫など狙われやすそうな場所の安全確保などをお願いします。当日は基地内での護衛に専念してください。例えば、寝ているときに狙われないように周囲の安全を確保する、移動の際は同行する。もちろん怪しまれないように。我々も同様に監視していますので少佐一人にやらせるということはありません。

また、グリュンネ少佐たちが基地内にいないときで人員が足らない場合、手伝ってもらうことがあると思いますので準備を怠らないでください。」

ま、それが妥当だろうな。それ以上のことは俺にやれと言われてもできない。この基地内なら警備兵がいるから外部よりも安全、そして俺が最も守りやすい場所というわけか。

 

「さて、大まかな話はわかった。さて、俺はいったい具体的に何から彼女らを守ればいいんだ?」

ジェームズは書類を机の上に置き、さらに写真を何枚か見せてきた。

そこには何人かの男が映っていた。全員が別人で、服装は市街地であればどこでも見かけそうないたって普通の格好だった。だが、目つきは違った。明らかに一般人ではない、どこか鋭い目つきだった。

「こいつらは?」

「我々が敵対勢力と認識している勢力の構成員です。写真自体は別の場所で撮られたものですがこれと同一人物がすでにオラーシャに入国していることがわかっています。表向きはガリアに拠点を置く海運会社の社員で入国目的はペテルブルクからガリアへ物資を運ぶための搬入作業を行うため。彼らが乗っていた船の名前はシュトロンス号。ガリア国籍で総トン数は2255t、出港は3日後を予定しています。

問題はこの海運会社が数年前にガリアがネウロイの侵攻を受けた際に国営から民営に移ったという点です。」

「つまりこの会社がガリア政府に何らかの形でかかわっていると?」

「ほぼ間違いないと考えて問題ないでしょう。当時の政府が崩壊しかけ相当混乱していましたからね、無職になりかけた多数の公務員が採用された形跡がありますから。」

ということはすでにかなりの数の人員がここに潜んでいる可能性もあるのか。

「お分かりいただけたなら結構です。期間は明日、お二方が到着した時点からあさって、彼女達が乗った輸送機が離陸した時点までとなります。期間も短いですが、危険性も十分あります。移動中に襲撃されるのはほぼ間違いないでしょう。」

「そこまでわかっていて対策はもちろんしているんだろうな?」

「えぇ、敵の数は多くても30名です。この会議自体が2週間前に決まったばかりです。

506の基地を襲撃するには警備が厳重すぎる、だがここならば少なくともそこよりは警戒度は低い。

だから奴らとしても決行せざるを得ない。だから彼らも急いだんです。

そこにぼろが出始める。その海運会社名義で長期間ホテルを借りていたり、どこかの家を短期間借りようとすれば必ず跡が残りますからそこをたどりました。大体の敵の拠点はわかりましたがダミーもあり時間がかかります。ですが、当日までにはこちらが対処しておきます。少佐は万が一に備えて基地内の警戒を。」

「了解。」

「それでは、私も仕事に戻りましょう。この武器はご自由にお使いください。普段少佐が使っているものは管理されていて平時では使えないのでしょう?

おや、そういえば先ほど私に向けてきたあれは?」

「あれは個人で持っているものだ。預けてあるのとは別のな。だがサプレッサー付きの方が便利そうだ。ありがたく貰うよ。」

そういってジェームズはサプレッサー付きの拳銃一丁と予備弾倉3つを渡してくる。

俺はそれを受け取ると軽く問題ないかを確認して腰に仕舞う。前と後ろの計2丁もつとやっぱり重いな。

「どうです?」

「あぁ、問題ない。」

「わかりました。では、失礼します。何かあればご連絡いたしますので常に取れるようにしておいてください。」

そういって、ジェームズは部屋から出て行った。俺は受け取った拳銃に一度手を触れた後、自分の仕事に戻るのだった。

 

それからの数日は忙しくて体感でほんの一瞬にすぎていったように思えた。俺も時間の合間を縫って基地内を歩いて、できる限りのことはした。警備兵の中に不審者はいなかったし、侵入されそうな場所は埋めたり、隠したりわからないようにした。当日彼女たちが泊まる部屋もチェックした。ジェームズのほうもうまくやっているようだ。

俺は呼ばれることはなかったが、何度かコンタクトを取った時に聞いたのだが何人か拘束して尋問したらしいが有力な情報は得られなかったそうだ。だが彼らも決して無視できないほどの損害を被ったはずなのでそう大きな行動には出られない、とジェームズは考えているらしい。

まぁ、俺もやれるだけのことはやるさ。

 

さて、いま俺たちは放置していると何をしでかすかわからない伯爵、頑張って何かしようとすると逆に邪魔になってしまう不幸なニパ、その2人を監督する熊さんを除く全員で間もなく来るであろう各部隊指揮官を交えた昼食会の準備を行っていた。

「このお皿はどこに置けばいいですか?」

「中央に、配置図の赤丸のところにおいてください。」

「シルバーの拭き上げ、完了しました!」

「ありがとう、それじゃあ指定の場所においてください!」

ルマールの指揮のもと作業を行うが、邪魔する要員がいないためとてもスムーズに準備がすすむ。

ちなみに調理は司令部付きの士官向けの料理を作っている人がわざわざ出向いてきてくれた。今回の会議の議長を務める東欧司令部としても普通の隊長クラスのみだったらまだしも、506の貴族が来るため下手なものが出せないというのが本音なのだろう。

この2人はたとえ、今日の会議に顔合わせ程度の意味合いしかなくても決して無下にできる相手でもあるまい。

「これで食器、シルバー、飲み物、すべての準備が整いました。管制塔からの連絡によるとあと10分で輸送機が到着するそうです。ラル少佐、バーフォードた・・・少佐、ロスマン曹長は出迎えに向かってください。第2格納庫前に駐機する予定だそうです!」

「了解。」「ああ、行ってくる。」「はい!」

というわけで、司令官とその副官および俺の3人で出迎えということになった。残りのメンバーで細部のチェックを行い完璧に仕上げてみせるとルマールは張り切っていた。

あまり服装に関して特にいわれなかったフェアリーとは違ってここではある程度、どの服を着るのかというのは決まっている。とはいえ、戦闘中や普段となるとある程度は私腹を来たりなどといったことは容認されている。

では、今はどうかというと流石にいつもの服装で迎えるわけにもいかないのでちゃんとしたブリタニア空軍の礼装を身に着けて格納庫の前で待機する。

「少佐、ほら。こっち向いてください。」

「うん?曹長?」

俺が彼女のほうを向くと曹長は俺のネクタイを引っ張り出した。

「曲がっていますよ?ちゃんとしないとだめです。」

「え?あぁ、すまない。」

おかしいな。出る直前にちゃんと鏡の前で確認したはずだったのだが。

「これでよし、と。ラル少佐はどう思いますか?」

曹長は困惑している俺の後ろに回り、体を押して少佐の前に立たせる。

「うむ。やはりいつもの雰囲気とは違うな。」とうなずきながらそうつぶやくラル少佐。

「それはそうでしょう。こんな服、いつも着ていたら窮屈でしょうがないと思います。」

「だろうな。ボタンの向きも正しい。ネクタイも問題なし。階級章は新しいものになったのだな?」

「えぇ、今日の配達で来た通達と一緒に送られてきたので先ほど交換しました。」

そうしてラル少佐は改めて俺を上から下まで眺めたうえで、OKサインを出してくれた。

この基地の司令官の合格をもらい少し安心していると手の空いている整備兵も続々とこちらに来て、整列を始めた。

基地運営に必要な最低限の人材を残したうえで、出迎える。

ここ502としてはやるべきことはやったので後はV.I.Pの到着を待つのみ。

「ところで今日の昼食会、何が出るんですかね?」

テーブルのセッティングをしながらもちょくちょく厨房を覗いていた曹長。やはり気になってしまうのだろうか。502で一番料理がうまい下原はどちらかというと家庭風である。

なのでいつもとは全く違うフルコースの料理というのが気になってしょうがないのだろう。

「司令部付きの人だからさぞ、腕が立つ人なんでしょうね。」

「ワインも“これを飲んでもらいたい”なんて言って持ってくるほどだからな。本人のおすすめなのだからきっと合うのだろう。」

ワインか。今が1945年だから今年出来たワインをずっと持っておけば将来、高値で売れるのだろうか?そういえば、前に1945年のヴィンテージワインに12万ドルついたとか見たことあったな。

何とか入手して取っておくか。あ、でもどこに保管しておこうか。ジャックの家にでも?いっそのことウィルマの家に挨拶に行くときに手土産にでも持っていけたらな。

「バーフォード少佐、どうしたんだ?」

さっきから俺が黙っていたのに気が付いた少佐が話しかけてくる。

「いや、なんでも。」

「なんか、いつもの伯爵みたいな顔していましたよ?変なことでも考えていたんでしょう?」

「まさか、どんな雰囲気の人が来るのかと想像していただけだ。」

「それはそれで、変なことだとは思いますけどね。」

と曹長に突っ込まれたとき、遠くからエンジンの音が聞こえてきた。

来たか?

全員の視線が右から進入してくる輸送機に注目する。そして、あたりが緊張に包まれる。

しかし

「あれは、オラーシャ空軍の輸送機だな。そういえば今日つくことにはなっていたが15分ほど早めについてしまったらしい。」

なるほど。後ろからはため息に似たものが聞こえてくる。

気持ちはわかるさ。立場上、出迎えに行かなければならないのはわかっていても面倒くさいものは面倒くさいし、すべてラル少佐に任せてしまいたいが残念ながら立場上そうはいかない階級になってしまった。結局逃れられないんだな。

ふと腕時計を見ると予定到着時刻まであと5分。こういう時の5分というのは意外と長いんだよな、なんて思っていると。

 

 

 

 

 

ウゥゥウウウウーーーーーー!

 

 

 

 

 

 

あたりにサイレンが鳴り響く。緊急発進警報!

 

 

 

顔を思わず上げ、そしてため息をつく。

「今日の昼食会への出席は、中止だな。」

「そんなこと言ってないで!少佐、ほら行きますよ!」

ラル少佐から“出迎えは中止、すぐに迎撃せよ”という指示を受けすぐに格納庫へ向かって走り出す。

建物の中に入っていく曹長から“私もおいしいお昼食べたかったのに!!”という心の叫びのようなものが聞こえてきたのでそれに心の中で同情しながら俺はネクタイを緩め、走る。

格納庫のユニット搭載器具を駆け上り、自分のメイブに搭乗する。

エンジンを始動し回転数を上げ始めていると、すでに出撃待機していた熊さん、伯爵、ニパは滑走路に向けて移動を始めていた。

ウィルマ、ルマール、曹長は予備待機---以前の2手に分かれて集積基地を攻撃された教訓から義務化された---のためここにはいない。ふと、最近ウィルマがスクランブルのシフトに入らなくなり始めたことを思い出したがすぐに忘れる。それは後でだ。

レシプロと違ってジェットタイプのストライカーユニットは準備が完了するまでどうしても時間がかかる。管野は俺よりも後から入ってきたはずなのに移動を始めていた。

とにかく、焦らずに。

『おら、少佐!少佐の癖に準備が遅いな!そんなんだから俺に負けるんだよ!』

無線で管野があおってきやがった。先に移動し始めたからって随分と余裕だな。

「ほう、管野少尉。その余裕が空に上がっても続くか見ものだな!」

『ほざけ!少尉に負けるみじめさを味わせてやるよ!』

それだけは味わいたくないな、と思いながら機体の最終チェックを完了させる。

武器を確認し背負い、腰につけユニット固定器具のロックを解除して滑走路にむけて俺も移動を開始する。

『敵ネウロイの数は5~10。大型1とそれを護衛する中型、小型の爆撃編隊です。ルートγを進行し防空圏到達まであと45分です。』

「随分とばらつきがあるんだな。原因はなんだ?ネウロイが分裂しているとか?」

『そんな変な状況ではなく単にレーダーの調整が終わっていないためだそうです。』

よく知っているな、熊さん。

『バーフォード少佐、離陸を許可します。離陸後は左に旋回して先行する本隊と合流してください。それと上空待機している機体に注意を。Good luck.』

「了解。離陸する。」

管制塔の指示のもと管野が離陸した20秒後に俺が離陸するという、超過密ダイヤみたいになっているがとにかく一刻も早く空に上がらないと。

出力を上げ、一気にvrまで持っていく。

速度が上昇しエンジンの甲高い音が耳に響き渡りいつも通りだなと安心しながら、タイヤが地面から離れてるのを目視した後、高度をさらに上げていく。

1500を超えて上昇しながら左旋回を始めると右上に1機の輸送機が見えた。

あのマークは、俺と同じブリタニア空軍。つまりあの中にお姫様たちが乗っているというわけか。

無線でしかやり取りしていなかったため一度もお互い顔を合わせたことがないハインリーケ。少しだけどんなやつなのかと楽しみにしていたのだがネウロイを放置するわけにもいかない。

また後でな、お姫さま。

そんなことを思いながら俺は本隊との合流を目指した。

 

 

-グリュンネ少佐-

サンクトペテルブルク基地に向けて着陸態勢を取っていた機体がいきなり降下をやめて

上昇を始めた。

「機長、どうしました?」

「少佐、申し訳ありません。管制塔からの指示でこちらにネウロイが向かっているということなのでサンクトペテルブルク基地は現時刻をもって迎撃体制に移行、インターセプターを最優先で出撃させるためにすべての機の着陸、離陸許可が取り消されました。そのため当機も着陸を中止、上空待機を行います。」

私たちが出撃する必要があるか、と考え始めようとしたとき大尉の言葉によってそれはさえぎられた。

「その必要もなかろう。なんせここは502の本拠地。奴らに任せて我らは我らのすべきことをなすべきであろう。そうであろう?」

私が一瞬、万が一の時のためにと思い持ってきたストライカーユニットを見たのを見逃さなかったのだろう。だから考えていることを理解したのだろうか。

「それもそうですね。下手に合流すると彼らの連携を崩すだけですね。」

窓の外を見ると3人のウィッチがすでに上昇を始めていた。さすが、欧州屈指の激戦区だけあってスクランブル警報から離陸するまでの時間が短い。

「あのエンブレムは、オラーシャ、カールスラント、スオムスか。ということは戦闘隊長のポルクイーキシン大尉、クルピンスキー中尉、そしてカタヤイネン曹長といったところか。」

「よくこの距離からそのエンブレムが見えますね。」

「ふん、これくらいできて当然じゃ。」

私がほめたのが嬉しかったのか、いつも通りの返答が返ってきた。最近ようやくウィトゲンシュタイン大尉の扱いがわかってきた気がする。

素直にほめても、喜ぶことはない。怒っても謝らない。などなど、捻くれてはいるが100%傲慢というわけではないらしい。

 

と、私の思考も一つの音によってすべてさえぎられてしまった。

レシプロとは明らかに違う低く、そして大きい音。

機体を操縦していたパイロット、ユニットの整備でついてきた3人の整備兵、そして乗り合わせた4人、全員がその音に注目する。

 

ジェットストライカーユニット

 

そしてその搭乗者であるフレデリック・T・バーフォード大尉。いや先日少佐に昇進したから私と同じね。

「あれが、噂の。」

「まだカールスラントでも試験運用中なのに。」

「ジェットストライカーユニットの実戦配備か。時代は変わったもんだ。」

「やはり速い。あっという間に通り過ぎていったな。」

その爆音と彼らの感想を横目に見て聞きながら彼のことを思う。

同じブリタニア空軍にもかかわらず、彼のことをよくは知らない。

私は506の司令官となるためか声はかからなかったが空軍の中から選ばれた優秀なウィッチが所属するSTAFにいる、ってことくらいかしら。ほかには・・・。

「私よりも大尉のほうが、彼のことは知っているでしょう?」

「そういわれてもな。こうして本人を見るのもこれが初めてなのじゃが、顔も機体のエンブレムも速くていまいちよくわからなかったのう。」

そうそう、こうは言っているが彼女の数少ない話し相手であったっけ。

夜間哨戒中に知り合って、時々手紙のやりとりを行っているのはここ最近で一番驚いたことだ。この人と話せる友人がいたことには本当に驚いた。

「こうやってはるばるペテルブルクまで来たんだから、地上で奴と話せる時間が取れるといいのう。」

「今はわからないです。地上に降りたら昼食会の予定でしたがこの状況だとおそらく中止でしょう。そのまま司令部に連れていかれて実らない会議をやらされる。もしかしたら今日中に帰るかもしれませんね。」

ただでさえ、この会議自体がやる意味が薄いと考えている。ここの司令長官と顔合わせができればいいかな、くらいにしか考えてなかった。

「少佐、着陸許可が下りました。」

「了解しました。」

とにかく、後は着いてから考えましょう。

機体はようやく降下を始めたのだった。

 

 

「みなさん、どうですか?」

管制塔の指示通りに進み、間もなく接敵できる空域に到達したはずなのに俺たちはまだ敵を見つけられてはいなかった。正確には俺以外は、だが。

俺たち迎撃隊は高度6000ftで自分を先頭にして左翼、右翼に2人配置してお互いの距離を少し離してできるだけ索敵範囲を広げる編隊で飛行していた。

それに対しネウロイの現在位置は進行方向左、下方。大型1、中型3、小型4の爆撃編隊だ。

このままいけばあと5分で進路が交わるため、発見も時間の問題のはずだが敵ネウロイは雲の中を進んでいる。

一人一人が広域索敵を行えない上に目視に頼らざるをえないこの時代の捜索方法ではこのネウロイの進路はまさにセオリー通りといえるだろう。

だが、人類だって決して進化を怠っているはずがない。

『イーグル1号機から迎撃隊へ報告。現在位置から進行方向左にいるはずだ。まっすぐペテルブルクに向かっているはずだが見えないか?』

最近から試験運用がされている索敵レーダー搭載の上空哨戒機からの連絡だ。

「だめだ、前方には厚い雲があって見えない。そこにいるのは間違いないか?」

『あぁ、レーダーが嘘をついていなければな。』

間違いない。こちらの情報と一致している。ならばここから一気に行くか。

「さて、聞いた通りだ。前方左方向下方、進路は我らの根城だそうだ。熊さん、どうする?」

編隊飛行中、外部との通信は俺がメインで行い、最終的な判断を熊さんが下す。

書類上では熊さんより階級が上とはいえ、さすがに502の戦闘隊長である彼女を一緒に行動している間は、さしおいて俺が全部の指揮を行う気はさらさらない。

『ニパと管野さんは私についてきてください。伯爵はバーフォードさんについて行ってください。私たちが左後ろから、バーフォードさんたちが右後ろから攻撃することによる挟撃を行います。それでいいですか?』

「言いも何も、熊さんが指揮官なのだから俺たちはそれに従うだけだ。」

『了解、ありがとうございます。それでは散開!』

「「「「了解!」」」」

3人と別れ、伯爵が俺の後ろからついてくる。

『隊長、少佐になって初めての戦闘でしょ?』

「あぁ、そういえばそうだな。」

『それじゃ、進化した少佐がどれだけすごいか楽しみだ!』

ウインクしながらそういってくる伯爵。

こいつ、素で言っているのか煽ってきているのかわからないが言われたからにはやるしかないだろう。

「伯爵も、くれぐれもユニットを壊さないでくれよ?」

『隊長が頑張れば私の戦闘も減るから結果的に問題なくなるんじゃないかい?』

「よく言うよ、全く。」

これだからエースパイロットってやつは。無理難題を平気で突き付けてくる。お前にしごとをさせる暇も与えずに敵機を落とせと言うのか?ため息しか出ない。

『ま、私は何もしてなくても普通に壊すけどね。』

「おい!!」

『ほら、少佐。置いてくよ?エンゲージ!』

伯爵はそういうと一気に降下してネウロイに奇襲を行う。まるで自分のペースで戦闘を始めたかのように見えたが実際には完璧なタイミングで熊さんたちの隊と攻撃時間を合わせていた。そんな伯爵に感心しつつ

「エンゲージ。」

俺も交戦を宣言し、銃を構える。それと同時に敵ネウロイ全機が雲の中から姿を現した。大型は今まで見た中でもトップクラスに大きい個体だった。

「伯爵、まずは小型、中型を片付けろ。大型はそのあとに集中すればいい。」

『了解!いつも通りだね。』

俺たちに気が付いた敵が中型1、小型2を送り込んでくる。

「伯爵、小型2は任せるぞ。」

『こっちの火力じゃ中型にはてこずりそうだ。OK、小型は私に任せて隊長は中型に集中しちゃって。』

伯爵は高度を上げて小型を攻撃し始める。単発射撃による牽制射だがそのおかげで2機とも伯爵へ向かう。

仕事を任せたからにはこちらもやるべきことはやらないと。

目の前の中型からレーザーが4本、こちらへ向かってきた。体をひねり3本は回避、残りの一本を目の前にシールドを斜め方向に張って誰もいない下へ受け流す。

だいぶシールドを張るのをうまくなったとはいえ、真っ正面から力づくで受け止める自信はまだ俺にはない。今回は俺を囲むように逃げ道を作らない攻撃だったため、3本を回避して、残りの1本を受け流すことにより逃げ道を作った。

内心ひやひやしながらも体を右にずらしてネウロイとすれ違う。

それと同時にユニット出力部を前に向けて急旋回を行いながら急減速を行う。それに伴う体への急激なGに耐えながらもネウロイに向けて発砲する。

だが急減速中の振動や相手との相対速度が急激に変化するこの環境ではうまくは狙った場所に撃ち込むことができなかった。

低い音と強い反動を受け流しながら撃った弾丸も1発ははずれ、もう1発も左翼に直撃したに過ぎず到底致命傷とはならない。

敵が修復を始めるがやはり攻撃の手は緩めてこない。時間差で来た2本のレーザーを、この時点でユニット進行方向を変えることに成功していたので出力を最大にまで上げて回避する。俺の少し後ろをレーザーが飛んでいくのを確認して、今度は俺がネウロイを追いかける。

態勢が切り替わったことに気が付いたネウロイも速度を上げてコアが狙われないような回避運動をし始めるが速度と機動性で勝るこちらには意味がないだろう。

コアは機体中心、機体真後ろから狙っては邪魔が入り狙いにくい。

上から素早く2発撃ちこむのが正解だろう。

一気にネウロイとの差を縮めてネウロイの上に位置を取り、狙いを定め・・・

 

 

『隊長!』

“check 6”

 

 

伯爵とgarudaからの警告を同時に受けて右に減速しながら後退する。

それと同時に上からレーザーの束が降ってきた。

俺はエッジナイフ機動を行って最小限の動きで回避しながらも攻撃してきたネウロイに狙いを定める。

だが、引き金に指をかけて瞬間

 

何発か銃弾が当たる音を響かせた後に、小型ネウロイは爆散した。

右側面から伯爵が攻撃したのだろう。

そして彼女はそのまま降下を始めると中型機に射撃を行う。MG34から放たれた約40発の弾丸が中型ネウロイの装甲を一気に削る。だが、ネウロイも黙ってはやられまいと伯爵に攻撃を仕掛けた。もちろん彼女もシールドを展開し、俺と反対方向に離脱する。

伯爵のアイコンタクトを受け、俺はその瞬間に彼女の意図を理解した。

進行方向を伯爵の方向に変えるためにむき出しのコアをこちらに一瞬見せてきたネウロイに対し、俺は素早く銃を構え

 

-発動-

ネウロイのレーザーに当たって弾丸が無駄にならない最適なコアを破壊するルートを定める。

ここだ!

-解除

-

発砲。

音速の約3倍の速さの12.7mmがコアを完全に貫通し、破壊した。

爆発し、散っていったネウロイを横目に見ていると伯爵が近づいてきた。

『ごめん、隊長。あれは私の担当だったのに。』

伯爵にしては珍しく、素直に謝ってくる。

「気にするな。それに中型のバックアップもしてくれただろ。結果としてはどちらも被害なしで落とせたから問題ない。」

俺は少し彼女の技量に感心していた。小型を撃墜すると同時に中型との距離を大まかにつかんでネウロイのコアのある位置を正確に射撃していた。

ほんの数秒の間の出来事のはずなのにその判断力はさすがだと思った。俺は能力があるから精密射撃ができるが彼女はそれを勘で行った。

普段のあれからは想像できない、だが200機近く撃墜するのはあの腕あってのことなのだろうなと感じていた。

『次は、絶対失敗しないから。』

「あぁ、頼んだぞ。」

『了解!』

伯爵はそういってうなずくと俺の後ろにつく。ふと熊さんたちのほうを見るとあちらも同様に中型、小型はすべて落としていた。

残るは大型だけだが・・・

「どうだ、熊さん?」

『だめです、コアの位置がわからない上にあの装甲、かなり固いです。』

まるで某宇宙戦争の中に出てくる“死の星”の形にそっくりな球体のネウロイはゆっくりと、だが濃密な対空レーザーでこちらを攻撃してきていた。

試しにこちらも12.7mmを撃ってみるがいつもの半分くらいしか削り取れなかった。

どうしようかと悩んでいると、ふと前に曹長からもらった例の“プレゼント”の存在を思い出す。あの銃は持ってきていないが、12.7mmの弾薬はある。

「熊さん、一つ作戦があるんだが。」

『なんですか?』

俺は皆にこの“プレゼント”を使った目の前のネウロイの撃墜するための案を話した。

・・・・・・・

 

 

『わかりました。それでいきましょう。』

「よろしく頼む。」

『伯爵、ニパ。私と援護に回ってください!管野さんはバーフォード少佐と行動してください!目標は前方の大型球体ネウロイ!ここで落とします!』

伯爵と入れ替わりで今度は管野が俺の隣に来る。

「さっきの案だが、行けるか?」

俺は管野に話しかける。彼女には彼女の最も得意とする方法で攻撃してもらうが、今回は危険がかなりある。だが、そんなことはまるで気にしていないようだった。

「俺の心配でもしているのか?ハッ、だったら自分のやるべきことに専念することだ。」

俺の右肩に腕をのせ、顔を寄せながら話してくる管野は相変わらずの口調だが言っていることは確かに正しい。いくら心配したって結局は彼女の腕次第だからな。

「だが、この作戦だともしかしたらユニットを壊しちまうかもしれないな。」

「今回は、気にするな。仕方ない。俺が責任とやらを取ってやるよ。」

俺がそういうと彼女はニヤリと白い歯を見せながら笑ってくる。

「お、言ったな?男に二言はないぞ?」

「ほざけ、そういうのは成功させてから言え。」

『こちらは準備OKです。いつでもどうぞ!』

そしてちょうどいいタイミングで熊さんから連絡が入る。管野も絶好調のようだしこれで準備は完了だ。

「了解、始めてくれ!」

『わかりました!』

その声と同時に熊さんたち3人が大型ネウロイに一斉射撃を行い、そちらに注意を引き付け始める。

俺は通常弾丸の入った弾倉を外し、薄殻魔法榴弾が入ったほうを装填する。

「管野、準備は?」

「いつでも。一瞬で終わらせてやるよ。」

管野は腕を組んでネウロイをにらみつける。そしてその体から想像もつかないほどの殺気があふれていた。

俺は再び銃を構え、ネウロイのコアのある場所に狙いを定める。

「射撃は6発だ、それまでは絶対に射線に入るなよ?味方撃ちなんて言われたくないからな。」

「わかっている、そんなミスはしない。それじゃあ、しくじるなよ?バーフォード少佐。」

「誰にものを言っている。俺はブリタニアトップの航空歩兵だぞ?」

「ぬかせ!」

そう叫ぶと管野は一気にネウロイに向けて突っ込んでいった。

俺はユニットを安定させながらコアに狙いを定めて

 

 

発砲。

 

 

いつもの弾薬とは明らかに違う反動、威力、マズルフラッシュが俺に襲い掛かってくる。

暴れ馬のようなこの弾丸を制御しようと腕に力を入れたがそれを制御するのはあまりにも難しく、反動で銃口が上に跳ね上がった。

すぐに着弾した場所を確認するとやはり、少しずれていたとはいえその威力に見合った被害を与えていた。

その威力に感心しつつもネウロイはすぐに修復を始めるのですかさず2発、3発、4発、5発と撃ち続ける。そしてそのたびにネウロイの表面で爆発が起こり、その装甲を削っていく。

残り残弾が1発になったところで俺は管野に向かって叫び、最後の弾丸を撃つ。

「管野!ぶちかませ!」

そして、その1発が着弾すると同時にネウロイのコアを露出させた。

「任せとけ!!!」

管野はそう応えると彼女の固有魔法、圧縮式超硬度防御魔法陣を右腕に展開して

「落ちろ!!!」

修復が始まりかけたネウロイのコアに正拳突きをした。

 

その衝撃にコアが耐えきれるはずもなく直後に爆発し、完全に反応が消えたのだった。

「おい管野!生きてるか!?」

死ぬはずがないとは思っているが、万が一に備えて俺はすぐに管野に声をかける。

『うるせーぞ!勝手に人を殺すな!』

その爆炎から一つの白い線が見えはじめ、すぐにそれが彼女のユニットだとわかった。

「熊さん、最後の大型ネウロイの撃墜を確認。」

『OKです!これで全機撃墜しました。バーフォード少佐は連絡をお願いします。』

「了解。502迎撃隊からイーグル1号機へ、敵機は全機撃墜した。周囲に敵影なし。」

『こちらも確認した。この空域にはほかのネウロイはない。Good work.帰還してくれ。』

戦果確認のためにこちらの空域にやってきたイーグル1号機から通信が入る。

「あぁ、ありがとう・・・?」

俺たちよりもさらに左上空を飛ぶ哨戒機を見ておもわず違和感を覚える。

翼の形が変?

見た目から単発にも見えるが、あの翼についているのはなんだ?なぜ左にはついていないんだ?双発にしては随分と変な形をしている。

とりあえず、自分の狙撃銃のスコープを使って見てみるとどうやら単発なのは間違いないらしい。

そして右側のでっぱりには人が乗っているのが確認できた。以上から導き出されるあの機体の名前は・・・。

「まさかBv141!?」

ドイツのリヒャルト・フォークト博士が生み出したあの名(迷)飛行機が、飛んでいる?

「惜しいね、隊長。それは1941年初飛行の試作偵察機だ。あれは電子哨戒任務用に改良されたBv169だね。」

しかも試作機で終わらずに電子偵察機として任務に就いていのか?

確かに、よく見ると翼の端っこに索敵用の棒のようなものが伸びているのが見える。

だが、かの機体の代名詞といえる右端の乗員が乗るための全面ガラス張りの場所はちゃんと健在である。

「あれは初めて飛んでいるところを見たときは驚きを通り越して困惑したよ。というか、あんな機体が何で空を飛ぶのか全く、不思議だね。」と伯爵。

「なんでもあのスペースのおかげでトルク偏差がおこらないとか。最高時速も450オーバーだしね。航続距離も1200kmあるから長時間の哨戒任務にも耐えられるとか。」と熊さん。さすが502で一番機械に詳しいだけある。

「そうそう!聞いた話だと、Bv141が採用されなかったことに怒った製作陣が空いたスペースを改良してエンジンの性能もさらに上げて電子哨戒機に改良したところ、とりあえず使ってみようって話になったらしいんだよね。それで一番テストにふさわしい場所がここって話になって試験運用が行われているんだって。」

見た目とは裏腹にBv141の性能はかなり良かったと聞く。その改良版となればこの時代の戦闘にもふさわしい性能を秘めているのだろう。

だが視界がかなり良好とはいえ、やはりあの形には驚くばかりだ。

俺がこの時代に来てから何度か“ジェットストライカーユニットの実戦配備とは驚きだな”と言っている人を何人か見かけたがきっとこの気持ちは俺が今、あの機体を見て驚いた瞬間の感情と全く同じといってもいいだろう。

バンシーを見た時も驚いた。あんなにも馬鹿でかい機体が空を飛んでいることには驚いたが、まだ理屈では納得していた。ネウロイはそもそも魔法か何かで飛んでいるに違いないと、同様に納得できる。

だが、あれはなんだ?

なぜ安定して飛んでいるのか、飛行機は左右が同じ形でほぼ同じ大きさであるという先入観が、邪魔して頭が理解を拒んでいるようにも思える。

「なんで飛んでいるのかわからないって顔しているね、隊長。」

「伯爵。お前はあれがなぜちゃんと飛ぶのがわかっているのか?」

「うん?全然わかんない。でもね、一つだけわかっていることといえば。」

「いえば?」

「カールスラントの科学力は世界一!ってことだね。」

まぁ、あんな機体を本気で飛ばそうと考えて、実行する国がほかにいてたまるかというのはあるが。

 

ちなみに、着陸する寸前に姿勢を崩した伯爵が506からやってきた整備兵の前でユニットを爆発させながらも軽症で済ますということをやらかしてひどく驚かせたそうだ。

着陸する寸前までは本当に完璧だったのになぜ、そこでブレイクウィッチーズの本領を発揮してしまったのだろうか。

目を丸くして驚いている整備兵をよそに伯爵は、“掴みは最高だった。”などとほざいていたので前回一致で下原直伝の正座の刑に処することになった。

 

 

伯爵の壊したユニットの後処理の事を考え頭を抱えながらもなんとか熊さんと一緒に報告書を書き終えた俺達はラル少佐と曹長、熊さんと今日の戦闘について話しあうために再び集合していた。

ちなみに昼食会は中止となり、506の隊長たちを含めてすでにペテルブルクに到着していた会議出席メンバーは司令部に集まっているらしい。あそこなら地下シェルターに籠っていればネウロイの爆撃があってもそれなりの時間耐えることができるからな。

ここでのんきにお茶会でもしている間にネウロイの攻撃を受けて仮に隊長クラスが全滅でもしたらそれこそシャレにならない。

さてさて、今日の戦闘のほかにも各地でスクランブル発進した部隊が出始めているらしい。いままで傾向から総合的に判断して、ネウロイの活動が再開したとみてまず間違いないだろう。

その情報に焦った東欧司令部上層部は各地の隊長がここに集まるのはまずいと判断し、会議の中止を決定したんだと。全く、なんのための集会なのやら。おかげで今向かっていた部隊は急いで自分の基地にとんぼ返りさせて、すでに到着していた部隊も準備ができ次第帰らせるらしい。

だが、輸送機で来た506などの連中は今から帰る支度をするとどんなに急いでも出発が日の入りの時間近くになり逆に危険ということで明日、帰ることになった。

 

昼食会で出されるはずだった料理をかなり遅い昼食として食べながらそんな二転三転したその会議の行方の報告を聞いていたのだった。

ほかの連中も食堂でおいしく食べているらしいが残念ながらこちらは話すことが山積みなので騒ぐのはあちらの仕事というわけだ。

「さて、会議が中止となったことは侵攻作戦にも更なる影響が出そうだが今はそれよりも重要なことが起きているのだな?」

「はい。ネウロイが再開し始めておそらく数日中には毎日スクランブル発進する日々がよみがえるでしょう。いろいろな課題がありますがひとつずつ片付けていきましょう。まず1つ目。今後の出撃メンバーをどうするかについてです。」

「以前のようにA,B隊といった感じにはできませんからね。」

あれは人員がほかのウィッチ隊と比べて豊富にいたからできたことであって普通はあんなことはできないんだろうな。きっと恵まれていたんだ。

「最近までやっていた2人を待機人員、残りの5名を出撃メンバーとするのでいいんじゃないか?」

だが、曹長はため息を混ぜながら次の課題を話し出す。

「そこで次の課題が出てくるんですけど、誰がブレイクウィッチーズの面倒を見るのかということです。バーフォード少佐も夜間哨戒で飛ぶことが多くなったはずなので昼間に回ってもらうことも大変でしょうし。」

確かに夜間哨戒明けぎりぎりのネウロイとの接触はかなりつらい。帰った後も交戦記録を書かなければならないのでそのあとで出撃待機を行うのは正直言って無理だ。

「やはり、戦闘隊長の熊さんの負担が増えるな。」

そこが最も懸念するところである。今までは伯爵の問題は俺がメインで対処していたがこれからは熊さんが一手に引き受けることになる。なぜなら俺が昼間に飛んでいたとしても結局のところ一番の責任は戦闘隊長である熊さんが背負うことになるのだから。

「管野には接近戦を行わせるのは今日みたいな日だけにさせて、伯爵にはもっと丁寧に飛ばすよう教育したとしても、ニパだけはどうしようもできないな。」

「「「・・・・ハァ。」」」

本当に彼女の被撃墜理由は不幸としか言いようがないことばかりが羅列してある。

この理由は個人のレベルでは本当にどうしたらいいのかわからないものばかりだ。

落雷が直撃って周りにほかのウィッチがいるのにまるで狙い打ちしたかのように彼女に落ちているのは哀れとしか言いようがない。

「こればっかりはどうしようもありませんね・・・・。」

「そうだな。ここで話し合っても仕方がない内容だ。」

「話を戻しますが私の負担が増えることですが、とりあえずは1か月ほど運用してみてそれから改めて決めるほうがいいと思います。ただ、シフトを決める際に彼女たちが3人そろうようなことは絶対にしないでもらえれば私としても希望が持てます。」

希望の話になってしまうのは仕方がないか。破損するたびに交戦記録のほかに何枚も書類を書かなければならないのは苦痛でしかない。しかもそれは当の本人には任せることのできないものだから余計にたちが悪い。

結局現状維持しか方法がないのか?という空気になり始めたときラル少佐が口を開いた。

 

「仕方がない。曹長、“例のもの”はいつ届く?」

「な、少佐!?まさか!?」

「あぁ、そのまさかだ。もう下りる頃合いかと思っていたがどうやらそうではないらしい。」

「しかし、それでは・・・。」

「おいおい、いったい何の話だ?」

「あぁ、そういえばあれが壊れたのはバーフォード少佐たちが来る前か、なら知らないのも仕方がないな。」

そういうと少佐は背筋を伸ばした。

たったそれだけなのにこの場の空気を換えてしまったのはひとえにこれから話す事がそれほど重要だということだろう。

 

「結論から言おう、私も出撃する。そうすれば昼間の戦闘指揮官の人数問題やそもそもの人員配置の件も解消するだろう?」

「ラル少佐が?けがは?」

「飛んで戦う分には問題ない。君たちにも引けを取らない自身もある。まぁ、今までも腕がにぶらないようにと出撃は行っていたのだがね。ちょうど君たちが来る1週間前に戦闘中に急旋回した時にコルセットが壊れてしまったんだ。これは昔、私がけがをした時の後遺症に対応するために作られた私のための特注なのでね。ただでさえ時間がかかるのにこのご時世だからな、余計時間がかかってしまった。

だがそれも今週中にここに届く手はずになっている。これでしばらくは腰痛に悩まされずにすむ。」

ふん、なにが“けが”だ。一瞬で流したがその一言で済むようなけがではなかったくせによく言うよ。

不屈の闘志とでもいうべきか、資料でも呼んだがあれはすごいものだ。いったい彼女の何が不可能を可能に変えたのだろう?

しかし無事に生き残ったのはいいが後遺症としてこの年から生きている間、ずっと痛みに悩まされるのも大変だろうな。

「少佐!そんなの、無茶です!そもそもコルセットが壊れた原因だって・・・。」

「それ以上言うな、ロスマン曹長。」

思わず立ち上がった曹長をラル少佐は優しくなだめる。そしてその言葉に、唇をかみしめながらもそれ以上いうのをやめるのだった。

「もちろん、心配してくれるのはうれしい。だがこれは私が決めたことだ、たとえ昔からの付き合いがある君に言われても変えるようなものではない。

なぜなら私はここ502の司令官なのだからな。

君たち全員の命の責任を負っているんだ。わかってくれるかな、ロスマン曹長?」

「なら、私も少佐が飛ぶときは必ず一緒に飛びます。これだけは絶対に譲れない条件です。」

「いいだろう。だが、一つ言わせてくれ。」

「なんです?」

「これからは私の名前を呼ぶときは階級の前にラル、と階級の前につけてくれ。私とバーフォード少佐とどちらを呼んでいるのか、わからなくなるからな。」

このタイミングでそれを言うのか?いや、曹長の話を折るためにあえて言ったのか。

「わかりました、ラル少佐。でも私の言いたいことはわかってもらえますよね?」

「もちろんだ。善処しよう。」

”なら私からもういうことはありません。”というと曹長は目の前の書類に再び目を落とした。

「ほかには、この4人で話すべきことはありませんか?」

お互い顔を見合わせるがこの調子だと特にはなさそうだろう。

「わかりました。これで話し合いは終わりです。ただ連絡として弾薬の更なる安定的な供給が可能になりました。本当にタイミング的にもばっちりだったので安心しました。

これがずれると戦闘にもっていく銃弾を制限するとかになっていたかもしれないので良かったです。

ほかにもコーヒーや甘いものなどの嗜好品も定期的に仕入れられるようになりまた。」

「「「おお!」」」

これも曹長が陰で努力した成果だろう。本当に彼女の戦いには頭が上がらないものだ。

「なにもしないでいると急に補給がなくなったりしますからね。定期的に申請をしないといけないんですけどそれは私の専門ですからね。今後ともよろしくお願いします。」

「それはこちらのセリフだな。毎回、助かっているよ。」

「そうですね。こうして甘いものを食べられるのも曹長のおかげですからね。」

「あぁ。私の仕事の手伝いも大変なはずなのによく頑張ってくれている。みなも感謝しているだろう。」

俺たちがそういうと曹長は顔を赤くして縮こまってしまった。

「さて、おいしい食事会もこれで終わりだ。各自、自分の仕事に戻るように。解散!」

「「「了解。」」」

俺は席を立ちあがり、自分の部屋に戻るのだった。

会議が中止になったことでもう俺の出番はないのだろうと、安心しきっていたがこれから4時間後自体は大きく急変するのだった。

 

 

-到着から8時間後-

外のオレンジ色の街灯が薄く車内を照らし前から後ろへ流れていくのを見ながら物思いにふけっていた。

今、私は今日泊まることになっている502基地へ帰る車の中にいる。運転手は基地でもお世話になっている人を連れてきた。声をかけたら喜んで志願してくれたのは良かったが彼のお気に入りの車は持ってくることはさすがにできないので502の基地においてあるものを借りた。そして東欧司令部が念のためにと、つけてくれた護衛の車が前後に合わせて2台、走っている。

さて、ネウロイの活動が再開したということで急きょ中止になった会議だったが、せっかく東欧司令部がある都市に来たのだからここの司令官と話しておかなければ損だと考え、到着後そのまま司令部に行ってみた。

アポなしでいったにもかかわらず司令長官が直接話をしてくれたのはやはり私や大尉の後ろ盾ゆえだろう。私としてはただ、知り合いになれればいいなとしか思っていなかったので話せてよかったとその時は思っていたのだけれど。

彼の口から直接聞いた東欧戦線というのは悲惨なものだった。物資を運ぶための船、制空権を維持するための対空兵装、その不足を補うためのウィッチや戦闘機、そのウィッチたちが戦うための武器弾薬、それを運ぶための車両、あらゆるものが不足しているまさにないない尽くしだそうだ。

私や大尉に言われても困るのだが、これは遠回しに何らかの援助を求めているのだろう。

彼の言いたいことは本当によくわかる。うちの人たちはここと比べればはるかにいい暮らしをしている。実際、大尉とか嗜好品を多数持ち込んでいる。そんな彼女に節約しろといっても“それではネウロイに負けたことになるのでは?”といって聞かない。

そんな状況をほかの人が見れば“うちはこんなに苦しいのになんであいつらは贅沢しているんだ?”と思うのも仕方がないだろう。

だけど私自体寄付ができるほどの財力を持っているわけでもないし、大尉の家だってかなり行っているはずだ。そう考えるとやはりこれ以上は難しいのが現状なのだろう。

30分ほどの会談を終えて、知り合いを当たってみるという旨を伝えると司令官は頭を下げて“よろしくお願いします。”と言ってきた。

 

その後もここに住んでいる知り合いを多数訪ねてみたが相変わらず聞こえてくるのは東欧戦線の厳しい現状。戦線を維持するのが精一杯という印象を受けることが多く新聞でよく見る快進撃の文字とはまるで正反対の状況だった。

そんな彼らの声を聴いて今、私たちは基地への帰路についている。

「ここもひどいものだな。あのような状況でよく戦線を維持できるものだ。」

「ペテルブルクはオラーシャ第2の都市でしたからね。首都モスクワが陥落している今、ここまで落とされるわけにはいかないのでしょう。ここはカールスラント奪還作戦の要であると同時に将来的にはオラーシャ奪還作戦の最重要都市になるはずです。」

「そんな重要都市がなぜこんなにも物資が不足しているのじゃ?」

「需要と供給が釣り合わないからでしょう。ここには軍関係者以外にも難民などを含めて多数の人が住んでいるため食料だけでも莫大でしょうね。」

「なるほど。」

ふとエンジン音がしてその方向を見ると一機のユニットが上昇していくところが見えた。この時間に単独飛行ということはおそらく夜間哨戒飛行だろうか。

「そう考えると502も大変でしょうね。」

「あぁ、奴も”もしいろいろなところを巡って弾薬をかき集めてくれる曹長がいなければ厳しい戦いになっていただろうな”といっておったぞ。」

奴?502で大尉の知り合いといえば、バーフォード大尉でしょうか?

最近基地内でもあのウィトゲンシュタイン大尉に仲がいい知り合いができたと話題になったあの人は確かここの統合戦闘航空団所属でしたね。ここに来る途中、速すぎて見えなかったあのジェットストライカーユニットをつけた彼でしたっけ。

あと15分もすれば基地につくのだから後であってみましょうか。彼には同じブリタニア人として話も聞いてみたいし。

「うちにも兵站担当に誰かつけてみましょうか?」

「なら黒田が適任じゃろう。きっと最小限の金で大量に購入するに違いない。特別手当でもつければ確実にいい仕事をしてくれるじゃろうな。」

大尉の言葉で思わず“手当出るんですか!やります!”といういつもの言葉が頭に響く。

「帰ったら考えてみましょう。」

「あぁ。妾がじっくりとノウハウを教えてやるとしよう。」

思わずクスリと笑ってしまった後に私は再び窓の外を眺める。

だが久しく戦いから離れていたせいで失念していた。私たちの敵は何もネウロイだけではない、ということに。

 

ドンッ!!

 

前方から何かが爆発したような爆音とそれに伴う閃光が私の視界を覆う。

思わず、その激しい閃光に顔を背ける。

それと同時に車が急停車、運転席に座る彼が後ろを振り向き私たちに叫んでくる。

「襲撃です!頭を下げッ」

だが運転手の声は続くことはなかった。前のガラスが蜘蛛の巣のようになり、運転席が赤く染まる。そしてそれっきり彼はそのまま背もたれに寄りかかりそれ以降、動くことはなかった。

「大尉!」

「わかっておる!おぬしもしゃべるな!」

パパパパンッ!

パンパンッ!

後ろの護衛車が車の前に私たちを守るかのように甲高いブレーキ音を響かせながら停車し、その中から兵士が素早く出てきて発砲を始める。

「いったい誰が、何でこんなことに?」

「そんなの心当たりが多すぎてわからん!我ら貴族を恨むものか、506やその組織を恨むものか、もしかしたら死んでいった仲間たちの親戚かもしれぬ。とにかく今は収まるのを待つのじゃ!」

私たちは車の外で続く銃声や悲鳴に体を小さく丸めてとにかく、騒ぎが落ち着くのをまつ。

だがその間も銃弾が車に当たる音が続き、いつ私達に当たってしまうのかと怖くて仕方がなかった。後で考えればこの時、魔法を発動させてシールドを展開していればこんな怖い思いをしなくてよかったはずなのに、この時はそんな考えに至らなかった。

車の中に血の匂いが充満し始め、それがわたしの恐怖を加速させていく。

 

突然、私の右側のドアが開いた。

そこには男性が立っていた。服はスーツで茶髪のとても若い男性、いや少年だった。

「グリュンネ少佐とウィトゲンシュタイン大尉で間違いない?」

その男性はいきなり、私たちの名前を呼ぶと手を差し出す。

「あなたは?」

「502所属のフレデリック・T・バーフォード大尉です。そこの路地まで走れますか?そこからすぐ近くのところに身を隠せる場所があります。少なくともここよりは安全なはずです。」

その名前に驚くが、すぐに意識を戻す。

なぜウィッチである彼がこの場にいるの?

偶然?なら彼は自らの意志でこの銃撃戦に飛び込んだの?正気じゃない。

なら・・・?

「少佐!すぐに決めてください!」

確かに今はそのことを考える時間も余裕もない。先ほどの疑問を頭の隅に追いやりすぐに考えをまとめる。私は少なくともここにいるよりはほかの場所に移動すべきだと考えるが大尉はどうだろうか?

左に座る彼女に目を向けるとすでに覚悟を決めていたようだった。

「行こう。」

ウィトゲンシュタイン大尉はそう言ってうなずいた。なら、決まりだ。

「行きます。案内してください。」

「了解。まずはそこまで走ってください。さぁ、行って!」

私は彼の手を取り立ち上がると運転席にいた彼に一瞬、目をやる。

“ごめんなさい。それとさようなら。”

心の中で謝り私は全力で路地裏のまで一気に走る。

銃弾がそばを通る音がしたが奇跡的に一発も当たることはなく、路地に入れた。バーフォード大尉も遅れて牽制射をしながら続き、私たちを追い越すと先行し始めた。

彼は早歩きで前方と時々後方を警戒しながら路地裏を進み続ける。

 

「なぜここに?」

率直な疑問を彼にぶつける。

なぜあの銃撃戦のさなか私たちのことがわかり、そして危険を冒してまで私たちを助けてくれたのか気になった。いまだ心臓がバクバク鳴っていて何とか紡げたのがその言葉だった。

「偶然です、少佐。行きつけの店にいたら遠くから銃声が聞こえて思わず駆けつけたら少佐と大尉がいたので。資料でお二人の顔は拝見していたのですぐにわかりました。」

そういえば、502の司令官室に行ったとき私とウィトゲンシュタイン大尉の顔写真付きの資料が机の上に置いてあったのを思い出した。だからわかったのだろうか?

「それで、どこへ向かっているのですか?」

「目的はここから最も近い我々502の基地です。しかし、このまま最短距離で市街地を突っ切ると敵と鉢合わせをする可能性があるので少し遠回りをしますがよろしいですか?」

「わかりました。」

サンクトペテルブルクの古い建物の間を縫うように移動し右に行っては左に行きを繰り返していく。つい方向感覚を失いそうになるが北がどちらかだけは常に把握しておく。

「誰が私たちを襲ってきたのか大尉にわかりますか?」

だめもとで聞いてみたが意外と手掛かりになるような情報が得られた。

「ここ最近、不審者がこの辺りを歩いていたという情報を聞いたことがあります。警察が動いていたようですが結局その後どうなったかの話は分かりません。もしかしたらその不審者の所属する勢力が動いたのかもしれません。」

「ほう、随分と詳しいな。どこでその情報を?」

「なんせラル少佐から聞きましたから。外出する際は気を付けるようにとの指示が出ていましたので。」

「なるほど。」

 

かなり速いペースで歩いていて私の息も上がり始めていた。少しフラっとしてしまい足を止めてしまう。

「少佐?大丈夫ですか?」

「え?キャッ!」

大尉の声に驚き思わず足がもつれてしまい、しりもちをつく。

腰に痛みを覚えながらもふと顔を上げるとバーフォード大尉が私の顔を見ていた。感覚ではかなり遠くにいた気がしたので一気に距離が縮まったのかと勘違いしてしまい思わず驚いてしまった。

「大丈夫ですか?いきなり声をかけるのはまずかったですか?」

「ごめんなさい。ぼーっとしていました。」

大尉に手を借りて立ち上がる。

「異常事態や慣れない環境のせいでで予想以上につかれているのかもしれません。少し行ったところで休みましょう。」

「ここでか?もう少し耐えて基地に戻るべきではないのか?」

“確かにそうですが”と前置きをしたうえでウィトゲンシュタイン大尉を説得する。

「無理に動かしていざというときに動くことができないとそれこそ問題です。申し訳ありません、ウィトゲンシュタイン大尉。わかってもらえますか?」

「・・・了解。」

「わかってもらえて何よりです。少佐、もう少しです。」

「わかりました。ウィトゲンシュタイン大尉もごめんなさい。迷惑変えてしまって。」

「よい。無理は良くないしのう。仕方がない。」

息を整えて、私たち3人は移動を再開した。

 

少し歩くとベンチがあったのでそこに座らせてもらう。

「5分で移動します。大尉は大丈夫ですか?」

大尉は首を横に振って問題ないとつぶやく。

私が座って大きく深呼吸をして息を整えていると彼はカバンから水筒を取り出すと、私と大尉に差し出してきた。

「飲みますか?」

「はい、ありがとうございます。」

「ウィトゲンシュタイン大尉も、どうぞ。」

だが、彼女はその水筒をじっと見つめると一瞬顔をしかめると、

「いや、その必要はない。」

大尉は彼の水筒を手で弾き飛ばし、その流れで腰から拳銃を抜いて彼に向けた。

「大尉!?何をしているんですか!?」

「少し黙っていてくれ、少佐。」

ハインリーケ大尉は彼に拳銃と顔を向けたままそういってくる。

「?何の真似ですか、ウィトゲンシュ・・・」

 

「黙れ。貴様がその名で呼ぶだけで虫唾が走る、偽物。」

 

・・・・え?

 

 




例えばICカードの残金が徴収されたあと”501円”だったりふとみた車のナンバープレートが”・502”だったりストップウォッチを止めたとき”.506”だったりするとうぉ!となる。
上下にするつもりはなかったけど読みやすさ重視で。
機体はオリジナル。型番もね。

ご指摘、ご感想があればよろしくお願いします。
次の話は7月中に校正して投稿します(意外とこれに時間がかかる)。

以下心の叫び
主人公かわいい(でかい)
管野はやっぱり熱血(bがよかった)
ニパもでかかわい(もっとこっちでも出さないと)
熊さん納得(サーシャって響きもつかおっと)
伯爵!?イケメン!このフェイスでウィンクとかするんでしょ?そりゃ落ちちゃうよ。
ところでお前さんの固有魔法はなんだい?
曹長!え、大人っぽい!女の子というより女性って感じ
ラル少佐はさすが、リーダーの雰囲気ありますね。
ジョゼが一番驚いた。小説と雰囲気が違う!おどおどしているのはそれはそれでかわいいけど
下原、・・・お母さん?ウサギの耳いいね!
お姉ちゃん"ほら、ダメじゃないの”とかいって優しく管野をなだめてそう。

いつかこっちにも出張してきてほしいな。
楽しみすぎ。
それと姫様の声に思わず笑っちゃう。セイバー!


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第50話 忙しい一日(下)

祝50話(ナンバリング順)


「黙れ。貴様がその名で呼ぶだけで虫唾が走る、偽物。」

 

 

・・・え?

 

 

「いったいそれはどういう意味ですか?大尉?」

一瞬の静寂の、のち偽物と呼ばれた少年は首を傾げ、彼女にそう問う。

「それじゃ。」

「?」

だがそれに対し彼女は拳銃を向けながら、そして軽蔑の視線を彼に向ける。

「こやつはな、我には丁寧な口調など決して使わんのだよ。それに、呼ぶときはウィトゲンシュタイン大尉なんて呼ばないで普通にハインリーケ、と呼ぶのじゃ。」

「?初めて会うのだから、こうして丁寧に話でいるだけですが。」

彼は大尉の指摘に対して、ウィトゲンシュタイン大尉はため息をつきながら話を続ける。

「まったく、まだ言い訳するか。もうわらわは貴様が偽物だと確信しているというのに。

なら貴様が本物だというのならここで貴様の固有魔法とやらを見せてみよ。なぁ少佐?」

・・・あ!

そうだった。今の彼の階級は大尉ではない。少佐だ。

「いまの奴はな、バーフォード“少佐”なのだよ。そもそもの階級が違うのじゃ、偽物。グリュンネ少佐、お主行きの機内で言っていたではないか、ちょうど今日昇級したとな。」

確かに、そんな話は大尉とした。

心のどこかで今日昇進したことを本人が忘れていたのだと思っていたのかもしれない。

だけどそれが、まさかそれが間違いだったなんて夢にも思わなかった。

 

大尉がそこまで言ってようやくその少年は黙り込んでしまった。

やがて一瞬遠くを見て頭をかきながら彼女に質問する。

「ちなみに教えてくれないかな?その調子だと最初からもうばれていたのかな?」

「あぁ、もちろんだとも。本人の髪の色は黒だぞ?目は青色じゃ。」

まいったな、とつぶやく彼。

だがその雰囲気からは追い詰められている様子はまるでない。

拳銃を向けられているとは思えない余裕がそこにはあった。

「そこまで知っていたとはね。506からは彼の情報を写真や特徴などの書かれた書類は完全に消去した。仮に写真を見られたとしてもそこから紙の色や瞳の色までわかるはずがない。

あいにく、うちに彼と特徴が完全に一致する人物がいなかった。だからだれが彼を演じるのって話になったとき、歳が一番近いと思われる僕に白羽の矢がたったんだ。

彼と直接会ったことのある知り合いもいないはずだし、手紙も検閲していたから特徴は知りえるはずがない。無線も傍受していたから彼と連絡を取った形跡もない。上手くだませると思ったんだけど結果はこのざまか。ねぇ、どうやって彼の特徴を知ったの?君の直属のエージェントとか?」

だが、大尉は彼の質問を鼻で笑う。それはあざ笑うかのように、なぜそのようなこともわからないのかと言っているようだった。

「手紙まで検閲していたとはな。だがそれでは出来るはずがあるまい。妾と奴とをつなぐもう一つのルートを貴様はまだ知らないようだ。先ほどまで成りすましていたんだ、少しは考えてみてはどうだ?」

そうすると彼は手を口にあて考えるポーズをとるが相変わらずそこには余裕がある。

「・・・だめだ、さっぱりわからないや。答えは?」

「ハッ、答えると思ったのか?偽物。本人についての調査をもっと正確に行わなかった貴様ら自身を恨むがいいよ。」

「ひどいな。これでも結構頑張ったんだよ?彼のことはもちろん尾行した。ここ1週間で1回しか外出しなかったからそのままついて行ったんだけど開始後3分で見失ったんだよね。基地外から観察しようともなぜか見失ってしまう。彼、間違いなくこっち側の人間だよ。」

こちら側、という言葉を聞いて違和感を覚える。いったいどういう意味でいったの?

確かに彼には闇が多いのだけど。

ふと偽物が何かに驚いた顔をした。

「あぁ、なるほど。わかった、ウィッチ同士の通信か。QSLカードもそのためか。だから傍受できなかったのか。やられたな、それなら僕たちがわかるはずがないよね。あぁあ、失敗した。」

「なんだ、先程から饒舌に話すではないか?観念でもしたか?」

「まさか?」

だが、その偽物は笑みを浮かべた。その様子はこの状況を楽しんでいるかのようだった。

流石にその様子に違和感を覚えた大尉が問い詰め始める。

「随分と余裕だな?どちらが上かわかっているのか?」

「それはこちらのセリフだ、ウィトゲンシュタイン大尉。なぜこんなルートを選んだのかわからないのかな?なぜここで休もうと提案したんだと思う?なんで全く後ろから追手が来ないんだと思う?なんであの場から走らずにわざわざ早歩きでずっと移動していたのだと思う?ねぇ、何でだと思う?」

そこでようやく彼がずっと余裕を見せていたのかの理由がわかった。

「まさか!」「チッ、やられたようじゃな。」

すべて計算尽くしていた、ということなのだろう。

そしてここはすでに敵勢力圏内の真っただ中ということだろう。

あの時きちんと本人かどうかの確認でもしておけば、彼女の疑っていることに気付いてあげられればと後悔するが今はまず、この状況を打開する解決策を考えなければ。

「一つ聞いていいかしら?」

私は最初から持っていた疑問を彼にぶつける。私の声に気がついた偽物はこちらを向くと笑顔になる。

「おや、グリュンネ少佐。その悔しさがにじむ素敵な顔に免じて何個でも答えてあげましょう。」

「ッ!」

冷静に、と理性が私に語りかける。

その偽物の指摘に思わずこぶしを握る力がはいるがそれ以上はしないように自制する。一度、深呼吸して怒りを抑え彼に問う。

「あの襲撃はあなたたちが?」

「もちろん。あ、もしかしてあの運転手のことを気にしているのかな?ま、仕方がないよね?何事にも犠牲はつきものだからね。」

「貴様!」

その言葉に大尉の銃を持つ手に力がこもる。

一瞬、彼の顔が私の頭をよぎった。私たちが急な予定でここに来ることになり自ら運転手が必要だろうということで志願してくれた。それほど話したことはなかったが、私たちの仲間だという意識は私や大尉にもあった。だから大尉はいま、偽物の言葉に憤りを覚えたのだろう。私だって、今の言葉は許せなかった。

「おっと、やめておいたほうがいいぞ“姫さま。”」

「ッ、その名で呼ぶな!」

大尉は指を引き金にかけ、ファイアリングピンを親指で引き、いつでも発射できる体勢にして最後の警告とばかりに叫ぶ。

だが、その警告でさえ偽物は軽く受け流す。

「どうせ、その銃の引き金を引く勇気もないくせに。ほら、安全装置がかかっているぞ?」

その言葉に思わず反応したハインリーケ大尉が一瞬目を離した隙に偽物が回し蹴りをして顔を蹴り飛ばした。そして、その衝撃で拳銃が吹き飛ぶ。

「あッ!」「ック!」

「ネウロイ相手には銃を撃てるが、人間には撃ったことがないな?これだからウィッチは生意気で困る。」

偽物は飛ばされた拳銃には目もくれずに、立ち上がろうとするハインリーケ大尉に向かって拳銃を向け、それを制す。

「本当は両方とも生きて連れて来いって話だったがあれはあくまでも希望だ。本命であるグリュンネ少佐さえ連れていけばこちらとしても計画は成功なんだよね。大尉も魅力的だけどそこまで必要としているわけではないんだ。だからここでサヨナラだ。

僕を偽物と見破ったその洞察力は見事だったけど経験と腕が足りなかったね、ウィトゲンシュタイン大尉。次はしくじらないようにしたほうがいいよ?他人まで危険にさらしてしまうからね。

最も、その機会があればだけど。」

私はその言葉に、まさに大尉がこのままでは殺されてしまう、という危機感から本能的に腰に手を伸ばそうとする。

だが、

パン!

偽物が私の足元に銃弾を撃ち込み、私の動きも牽制する。

「下手に動かないほうがいいと思うよ?少佐は殺してはダメだけど、生きていればそれでいいだけの話だからね。

あぁそれにしても、その憤っている表情もまた素敵だ。美人はどんな顔をしていても美しいね。いっそのこと家に飾りたいくらいだ。だけど残念なことにこれから先、2人もいらないんだよね。」

その直後、スーツを着た男たちが私たちの周りに現れる。数は6人ほどだろうか。帽子を深くかぶっていたため顔はわからないがおそらく味方ではないだろう。

「お前たちか。時間通りとはいえ、随分と遅かったじゃないか。上からの指示はグリュンネ少佐が最優先で姫様のほうはオプションって話だったな?ならこの生意気な女は殺してしまっても構わないかな?」

男たちは何も答えず、ただ立ったまま動かない。だが否定をしないところを見ると肯定しているのだろう。

「うんうん、いいね。それで、船はどんな感じ?」

「すでに準備を完了しており1時間以内に出港可能です。」

「素晴らしい。それじゃあ、これから最後の仕上げに処刑を始めよう。罪状は、そうだな・・・堕落しきった王女に対する罰というのはどうだろうか?うん、それがいい。そうしよう。

本当は王女に手をかけるっていうのはまずいんだけどまぁ、カールスラント人だからいいよね。」

そういいながら偽物は笑いながら大尉の頭に銃口を向ける。本人は楽しんでやっているのがまた憎らしい。そしていま何もできない自分もまた悔しい。

「プリンツェシン、ペテルブルクにて散るってね。最初から勝利の女神とやらは僕に微笑んでいたみたいだね。じゃあね。」

偽物がそう言い残して引き金に指をかけ、そして

 

 

 

「やめて!」

 

 

 

 

パン!

 

 

 

 

 

私の叫びと乾いた発砲音があたりに同時に響いた。

 

 

「「なっ!」」

偽物と私の驚いた声が重なる。

そしてわずかに遅れてカシャン、と偽物の手から拳銃が落ちた。

偽物が崩れ落ち痛みにのたうちまわり始めた。

「な、くそ、何でこの僕が、こんな、なぜだ!?誰が僕を撃った!探して、殺せ!」

想定外の事態に私たちだけでなく彼らも混乱していた。

慌てて周りの男たちも音がした方向に振り向き、腰から銃を抜こうとするが別の人影が暗闇から飛び出してきた。

敵を視認したのにその人影の速度はあまりにも早く、スーツの男たちは反応できない。そうやって手間取っている間に人影は次々と拳銃を発砲、男たちを無力化していく。その移動スピードや手際のよさは恐ろしく早く人間とは思えない速度だった。

だが敵だって馬鹿じゃない。処理しきれていない残りの敵がスーツからMP40を取り出すと彼に向けて発砲した。

 

その時、ここにいる誰もが考えもしなかったことが起きた。

彼の目の前にシールドが展開されたのだ。スーツの男たちは驚きながらも攻撃の手を緩めない。

だがそれもむなしくシールドが彼に向かって撃たれた弾丸はすべて弾かれ、周りの壁に当たるのみで肝心のそのシールドを張っている人物には一発も当たることはなかった。

やがてMP40の弾丸がすべてなくなり、そのタイミングを見計らってその人は姿勢を低くしてスーツの男たちに再び突っ込む。

一人目の腹にナイフを突き刺し、そいつの体を盾にしながら2人に発砲、そのナイフを抜きさり、最後の男にそれを投げ、無力化した。

その攻撃はまるで踊っているかのように流れる動作で行われていたのだった。

その人は盾にした男を投げ捨て、偽物が最後のあがきと言わんばかりに拳銃を取ろうとはいつくばっているのを見て、その偽物の頭を踏みつける。

「残念ながらお前の勝利の女神への思いは片思いだったようだな。その程度の信仰ではきっと彼女も振り向いてはくれまい。」

そういって拳銃を手に取り自分の懐に仕舞ったのだった。

しばらくするとまた別の人物がやってきて指示を出し始めると何人かの彼の取り巻きがスーツの男を連れて行った。

偽物も例外でなく“やめろ!離せ!”と叫んでいたがすぐに聞こえなくなり、やがて暗闇に消えて行ってしまった。

突如現れ、私たちを助けてくれたその人物は無力化していったスーツの男たちが連れていかれるのを眺め、全員がいなくなるのを確認すると座り込んでいた大尉に近づく。

何を!と思ったが彼はそのまま跪くと彼女についていた血を優しく拭き始め、ゆっくりと話し始めた。

「やれやれ、全く。きれいな金髪が台無しだぞ?」

その言葉に大尉は目を点にして彼を見つめるが、その表情が面白かったのか彼は小さく笑う。

だが、その笑いは先ほどの偽物とは異なりとても優しい笑いだった。

「その最後まであきらめない闘争心、いま少佐を守れるのは自分だけという感情からくる正義感、この2つがきっとあちらに向けて微笑んでいた女神をこちらに振り向かせるだけの力になったんだろうな、ウィトゲンシュタイン大尉。いやハインリーケ。

心で思っているだけでなく実際に行動するその勇気と行動力、称賛に値するよ。」

大尉の髪をきれいに整えると、その男は帽子を外す。そこでようやく顔を見ることができた。

黒髪に青い瞳、そして彼女をハインリーケと呼び捨てで呼ぶ、まさかこの人が?

「バーフォード、少佐?」

「あぁ、そうだ。こうして会って話すのは初めてかな、グリュンネ少佐。お会いできて光栄だ。もっともこんな形でなければなおよかったのだけれどね。」

こうしてようやく私たちは本物のバーフォード少佐と直接、会うことができたのだった。

 

 

-数時間前-

今日の報告書の提出を済ました俺は自分の部屋で武装の準備を進めていた。

今俺が持てるのはサプレッサー付きの拳銃程度でトンプソンなんて火力があるやつは大きさの関係で隠せない以上所持することができなかった。そしてほかに4つの弾倉を準備して、いつあの2人が帰ってきても問題ないようにしていた。

と、作業をしていた机に巻物が転がってきた。

ジェームズの指示で窓を開けておいたのだが、どうやらそれは俺にコンタクトを取る際の手紙を送り込むようだったらしい。

その紙を広げると“30分後に3番通り、”la garia”の前に集合。 J”とシンプルに書いてあった。間違いなく彼からの連絡なので素早く銃を腰にしまい普通のスーツを着て外に出る。もちろん正門から出ると出入りの記録が残るため、あらかじめ定められたルートから基地の外に出た。ダービーハットをかぶり、できるだけ目立たないように歩く。

 

そして、裏の路地を使って近道をしながら定刻通りの時間に待ち合わせ場所につく。

すでにジェームズは到着していたのでさりげなく彼の隣に立ち、話しかける。

「わざわざ、呼び出した理由は?あとは彼女らが帰ってくるのを待てばいいはずでは?」

「ここから2ブロック行った先に敵のアジトがあります。非常に由々しき事態なのですがそこの奴らが彼女らを襲撃するという情報がはいってきたため、我々はそこを速やかに制圧しこれを予防しなければなりません。少佐にはこのお手伝いに来てもらいました。」

いきなり呼び出したと思えば、強襲の手伝いか。あまり得意ではないんだよな。

昔、やったことはあるがやはり空を飛ぶほうが得意だ。

「制圧ね、敵の数は?」

「6名、ほかの奴は現在位置は不明。武装も不明です。ですが今やらねば彼女たちに被害が及びます。速やかに制圧しましょう。」

そんな状況でやるっていうのか。時間も人員も足りない、だけれども失敗は許されない、か。骨が折れそうだ。

「すでにほかの人員は配置についています。我々の合図で待機メンバーも同時に突入します。青いスーツを着ていたら味方ですので間違って撃たないように。それと彼らには帽子をかぶっていないやつを無力化しろと言ってあるからくれぐれも無くすことがないようにしてくださいね?」

「了解。」

そう返事をするとジェームズは移動を開始したので俺もその後に続く。

なんとなく話の流れに乗せられてしまったがどうやら俺も手伝うのは決定事項らしい。

思わずため息をつくも、どうせやらねばならない仕事だと心の中で割り切ることにした。

 

そして俺たちはとある古びた3階建ての家の裏路地に到着する。ジェームズが扉を指さしたので俺は腰から拳銃を取りだし準備を整える。先端にサプレッサーを取り付け、初弾を装填、安全装置を解除する。左手を弾倉の下にそえ、右手でグリップをつかみ人差し指をトリガーにほんの触れる程度に乗せる。

「準備は?」

「いつでも。」

俺の返答にジェームズがうなずくと一旦後ろに下がり、ドアの金具がある部分に向けて発砲。数発撃ち、吹き飛んだどころで右足でドアを壊し突入する。

入ってすぐの右の部屋を確認、クリア。

左のキッチン、クリア。リビング、クリア。右の小部屋、クリア。洗面所、クリア。と順調にクリアリングをしていると、上のほうからも何かが壊れる音がした。上の階から音が聞こえたことを考えれば十中八九、敵は上にいるだろう。

だが挟撃されないようにまず1Fに敵がいないことを確認する。上からも味方が突入していることを考えれば少しは余裕があるはずだ。

速さ優先ですべての部屋の安全を確認して階段へ向かう。

俺は次のフロアに上がるべく階段に足をかけ、一気に駆け上る。

そして、最初の踊り場を曲がったところで俺は知らないやつと目が合った。

「「あ」」

青いシャツに黒のズボン。敵か。ほんの一瞬の間でそう判断した俺は狙いを絞り引き金を引く。

ピュン!ピュン!

サプレッサーにより減音された拳銃から放たれた銃弾は敵腹部に2発着弾。男は手に武器を持っていたが何もできずに攻撃をまともに喰らい、崩れ落ちた。

減音されているとはいえ、近くにいたため俺の発砲に気が付いたジェームズが俺に近よってきてとがめてきた。

「言い忘れていましたが、できるだけ殺さないでくださ・・・ってもう遅いですね。」

「そういうのは入る前に言ってくれ。」

彼はため息をつき、転がっている彼を足でつつきなが愚痴ってくる。

「まったく情報を聞き出す身になってください。死体は何も話してはくれないのですよ?」

「了解、次からは気を付けるよ。」

そして再び俺が先行しながら残りの階段を上り、左側の廊下を確認した直後。

背後から空気を切り裂く音が聞こえた。

「うぉっと!」

最初に右から確認すればよかったと心で思いながら体をその場で足を使いながら横半回転させて、その攻撃を回避する。

空を切った男は一瞬前のめりになり、こちらが一方的に有利な状況になる。

銃を構え、胴体を狙おうとしたが

“できるだけ殺さないでくれ。”

というジェームズの声が頭の中でよみがえり、狙いを変え足に2発撃ちこむ。

痛みに耐えられず手に持っていたフライパンを落とし、倒れそうになる男の首元をつかみ右側の部屋に投げる。

クリア。

男をその場に放置し何かしないように見張りながら、かつ周囲に警戒しジェームズが来るのを待つ。

しばらくして彼がほかの仲間4人を連れてきた。

「6名中1名行方不明というか逃げられていてすでにいなかった。うち1人は重傷ときました。確保すべき資料は燃やされていなかったので問題ないでしょう、その怪我した人物がここの隊長だってことを除けばね。」

「口が利ける状態にはしておいたんだ。これ以上は望まないでくれ。」

「とにかくそいつの治療を頼みましたよ。最低限、話を聞けるようにはしておいてください。治療キットはそこにあるやつを使ってください。」

そう彼は俺に指示を出すとどこかへ行ってしまった。

ジェームズたちはあちらで確保した奴らから尋問を始めるようなので俺はけがをさせた奴の手当てをすることになった。ここでの情報収集が完了次第、こいつを連れていくつもりらしい。そのあとは知らん。取りあえず、話しかけてみるか。

「おい、口は利けるか?Wie lautet dein Name? Quel est votre nom?(お前の名前はなんだ?)」

「Va te faire enculel….」

その男は痛みに耐えながらも俺を睨んでくる。

「なるほど。罵るだけの元気があるようだな。だがな、勘違いしないでもらいたいがそれに先にそちらが手出ししてきたんだから仕方ないことだ、違うか?」

「・・・お前らが先に殴り込んできたくせに。」

「そちらこそ、この街に旅行できたわけではあるまい。何しに来たんだ?姫様の誘拐か?身代金なんてそんな金に興味があるわけでもないだろう?

この時代、フリーの傭兵なんてそう多くはいるまい。それに身のこなしからすぐわかる。訛りだってそう簡単に消せるものでもないからな。」

「・・・・。」

「だんまりか。いいさ、逆にペラペラしゃべられると逆に怪しく思える。ディスインフォメーションを考えなければならなくなる。」

止血を行い、包帯を巻きとりあえずの応急処置は完了した。そして隣の部屋からの悲鳴も聞こえなくなったところで別の青スーツの男がやってきた。

「ジェームズはどうした?」

「さっき、敵の資料の類を見つけたとか言ってあっちの部屋で何か読んでいるみたいだ。それで、そっちはどうだ?尋問しても問題なさそうか?」

「俺は衛生兵じゃないんだからそんなこと聞かれてもわかるわけないだろうが。まぁ、みたところは元気そうだ。」

「なら問題ない。最低限口が利ければ・・・・。」

 

 

「クソが!!!」

 

 

その叫び声とともにジェームズがこちらにやってきて足元に転がっている男をつかみ問いただす。

「こいつは本物か!?」

「・・・・。」

「答えろ!」

「まて、ジェームズ。いったい何の話だ?」

俺がジェームズの肩を抑えながら聞くと彼は舌打ちをしながら俺に書類を雑に渡してきた。

「10分前にあちらの部屋にあった受信機から出てきた書類を暗号表にそって解読したものだ。」

渡し方のせいで少し折れていて、文字は汚く読みづらかった。だが肝心な要点ははっきりとつかんでいた。

「なるほど、すでに襲撃部隊は現地に到着していてこちらは囮というわけか。まんまと釣り餌に引っかかっちまったというわけか。」

「あぁ。忌々しい限りだが全くをもってその通りだ!」

と、その時遠くで爆発音がした。俺はあごで窓をさしながらジェームズに聞く。

「あれか?」

「あぁ、ここから3ブロック先だ。先ほど別動隊に動くように指示したからあっちは任せよう。さて、ここも既に突入がばれている可能性がある。少佐、俺と一緒に資料の回収を手伝ってくれ。お前ら、セーフハウスまでそいつらを連れていくぞ!続きはそこで行う。撤収準備!」

「了解。」

ジェームズがイラつきながら部屋を出ていくのをみて、俺は思わずつぶやく。

「口調、変わってやがる。」

「あれが本来のジェームズだ。いつも作戦行動中は本性を隠すのが奴だがさすがに今回は表れちゃうよな。」

と、だれかが話したのを聞いて納得した。なるほど、あれが本来の彼というわけか。

実にわかりやすい。

「少佐!」「わかっている。」

ジェームズの催促をうけ、部屋に入るとそこにはペテルブルクの地図や各駐屯に配置されている部隊の詳細、重要人物と思われる顔写真付きの資料が置いてあった。

「俺たちの侵入に気が付いてすぐに処分するという考えには至らなかったのか?基本だろうに。」

「どうやら処分するよりも先に敵を対処したほうが早いと考えていたようだ。彼らも引き揚げ作業中に襲撃されることは考えていなかったようだ。しかし、ここがおとりの可能性がある以上どれが正しい情報なのかを精査する必要があるな。」

「とにかく、ここにあるやつ全部カバンに入れればいいのか?」

「あぁ、情報はあるに越したことがないからな。」

俺はそこいらにある書類をかき集めて、整えてはカバンに入れる作業を繰り返す。

しゃべってはいるがやることは単純だから間違えることはあるまい。

「しかし、敵はいったいどこからこんなに兵力を集めたんだ?お前だって相当数減らしたのだろ?」

「あぁ、もちろんだ。本国からの情報をもとに減らしていき、該当箇所はここが最後のはずだった。

だが敵は俺たちを上回った。ただの組織がここまで兵力、武力を蓄えられるわけがない。それにここは敵にとってもアウェイのはずだ。おそらくはバックに国レベルの何かが付いているはずに違いない。こりゃ、帰ったら大騒ぎだ。なぜだかわかるか?」

「王室関係者を狙うやつが単なる民間組織の連中ではなく国が関わってくるレベルにまでなったからか?」

「そうだ。下手したら水面下で戦争になりかねない事案だからな。国レベルっていっても資金援助程度だと思っていたがどうやらそれ以上のようだ。」

確かにそれは厄介だ。ただでさえネウロイとの戦争に忙しいっていうのに今度は人間同士か。

まったく、忙しいね。

 

「終わったな?」

「あぁ、これで全部だろう。」

「ならいい。あとはこいつをセーフハウスに運ぶのを手伝ってくれればお前の仕事はおわりだ。よし、お前ら!撤収だ!速やかに行動しろ!」

机の上に何一つなくなりきれいな状態になったのを確認してジェームズはほかの人員に撤収命令をかける。

そして俺たちはジェームズの先導のもと、来た道を戻る。

カバンを斜めにかけて、走っている途中でこぼれないようにチャックを完全に閉める。

 

確保した人員を急いで連行しながら、急ぎ足で移動する。

そんなとき、ふと視界の端で何かが動いた気がした。

 

何か嫌な予感がする。

 

その勘に従って下を見ると何かを構えている奴と目があった。

「あ。」

あれは、確か、どっかで見たことが・・・?たしかヴェネツィアの戦闘で地上の兵士がネウロイに撃っていたやつに似ている・・・?対大型ネウロイ用砲?

っておいおいおい!

冗談じゃないぞ!

 

 

「伏せろ!!」

 

 

思わず叫んだが、ここで瞬時にこの言葉の意味を理解し行動できたものはいなかった。

俺はすかさずジェームズの首根っこを引っ張り窓から離したうえで魔法を発動、即座にシールドを展開する。

その直後。

 

 

ドドドンッ!!!!

 

 

と俺の目の前で大爆発が起きた。

激しい爆風と轟音を間近で聞いてしまったため甲高い“キーン”という音が頭の中で響き渡る。

ネウロイのレーザーの直撃にも耐えるシールドだがさすがに間近で爆発した対戦車ロケットの爆風までは完全に防ぎきれなった。

だが、何とか生きている。足元の地面の板はシールドを張っていたところから放射状にきれいな部分と黒く焦げている部分が分かれていた。

さらにその先の正面を見ると大きな穴とすぐ先の板がなくなっていた。すこし遅く歩いていたら落っこちていたな。

下を見るとたった今撃ち終えた砲身を捨てて、逃げようとしている人物が見えた。

ここまでやられて逃がすわけにもいかない。腰から拳銃を抜き、6発連射する。

だが、感覚がおかしいこの状況で撃っても壁に弾痕を残すことしかできなかった。

「な、なんなんだ!!」

少し感覚が戻ったのかジェームズの叫び声が聞こえた。俺はリロードしながら答える。

「敵の攻撃だ。おそらく逃した一人だろう。」

「ほかの奴は?」

「なんとか生きているみたいだぞ?」

俺は頭を抑えながら立ち上がろうとしている彼の部下を見る。けがをしているようだが何とか生きているみたいだ。

くそ、と悪態ついたジェームズが立ち上がる。

「せっかくこれから話をと思った矢先がこれだ。なんとしてもあいつを確保する。追うぞ!」

「あぁ。もちろんだ。」

こちらだって死にかけたんだ。このままみすみす逃がす、という選択肢はなかった。

がれきを伝って地上まで下り、奴が逃げた道を進む。

下に小さな血痕が垂れておりどうやら先ほど全部外していたと思っていた弾丸の中にあたっていたものがあったみたいだ。

右、左、前進、左、と進み、ついに右に曲がると先ほどの奴がいた。

足を引きずりながら歩く敵に向かってこれ以上撃つと生死にかかわるかもしれないので一気に距離を詰めて身柄を拘束する方針でいく。

と、残り10mになったところでようやく敵は俺が追いかけてくることに気が付いた。

よほど焦っていたのかこの距離になっても気がつかなかったようだが追いかけっこもここで終わりだ。

残りの距離も一気に詰めようと走ろうとしたその時、奴は体をこちらに向けてきた。

そして、その右手にはトンプソンが。

「やば!」

ほぼ反射的に横のごみ箱の側面に飛び込んだ。

パパパパン!!!

そしてほんの直前まで俺がいた場所を鉛の雨が飛んでいく。

顔を上げると反対側のごみ箱で同様に隠れているジェームズと目が合う。

「あれ、何とかできないのか!?」

「あいにく、拳銃しかないぞ!」

敵は後退しながら銃を撃ってくる。

俺が銃を構えようとするとジェームズは止めてくる。

「だめだ、奴はできるだけ傷つけるな!」

そんな無茶な。どうしろというんだ?

「お前、さっきのシールド使って突撃できないか?」

まぁ、やれないことはない。完璧にシールドを信じているわけではないが少なくとも拳銃弾程度なら弾いてくれるだろうか。

「・・・わかった、威嚇射撃だけでもいい。援護してくれ。」

「もちろん、それくらいならできる。」

よし、ならあとはやるだけだ。

「合図をしたらやってくれ、いいな?射線上に入ることになるがくれぐれも撃つなよ?」

「わかった。さっさと終わらせよう。」

敵はすでに3秒以上連続で発砲している。トンプソンのドラムマガジンが50発だからもうすぐ玉切れになるはずだ。

「撃て!」

ジェームズが発砲し、それに反応して敵も発砲する。

 

-発動-

魔法の加護を得た俺は一時的に人間の限界を超える。

俺は思いっきり、飛んだ。

そして壁を蹴り、わずかに進行方向を変えて銃の射線から身をそらす。

 

そして俺と奴の距離が1mを切ったところで

 

奴をぶん殴った。

 

最後の敵は俺のこぶしを受けて遠くに吹き飛ばされる。そのまま地面を滑っていった敵はやがて壁にぶつかりようやく止まったのだった。

こうして何とか敵を無力化することができたのだった。

「これで最後か?」

「いや、あと1人残っているが足取りがつかめていない。」

と、その時

『待て!』

と何か言い争っている声が聞こえた。

本来ならば積極的にかかわるべきではないが、この声には心当たりがあった。

まだ魔法を解除していない俺の耳にはわずかだがその会話内容が聞こえてきており無視できなかった。

「ちなみに仲間はほかにいるか?」

「あぁ、緊急時に備えてあと4人ほど近くに待機している。」

「すぐにここに来させることは?」

「可能だ。1分で来る。何故だ?」

俺は改めてジェームズの顔を見る。

「頼みたいことがあるんだ。それも緊急のな。」

「・・・いいだろう。助けてもらった恩があるからな。ここで返しといてやる。」

こうしてジェームズの助力を得て、俺は彼女たちのもとに向かうのだった。

 

 

 

「そうだ。初めましてだな。ハインリーケ、グリュンネ少佐。

一応、本物という証拠といえば、これくらいか?あとは取り敢えず魔法も使えるという証だ。」

俺は自分の身分証を懐から取り出し右手の上に小さなシールドを展開、それを浮かべる。

ウィルマが昔コインでやっていたのを思い出して、これならば信じてもらえるだろうと思いながら、やって見せた。

そしてハインリーケが何か口を開こうとした瞬間

「そちらはどうだ!?」

「だめです。2人ともいません!」

遠くを警察官や憲兵が走っていく姿が見えた。あれは間違いなく本物だろう。

「悪いな、ハインリーケ、そしてグリュンネ少佐。俺は本来ならばここにはいない人間なんだ。あなたたち二人は彼らに助けを求めるといい。俺はこれで帰る。」

ここに来るもの時間の問題だろう。俺は立ち上がり、ハインリーケに手を貸してゆっくりと立たせる。

「とにかく、2つ約束してくれ。1つ、ここで俺とは合わなかった。2つ、これはすべて勇敢なハインリーケ大尉が対処した。いいな?」

「あ、あぁ。」

「グリュンネ少佐は?」

「わかりました。」

「よし、ありがとう。もし今日502の基地で泊まることになったならそこで詳しい話でもしよう。会えてよかった。またな。ジェームズ、行こう。」

「あぁ、言われなくても。」

俺は彼女たちにそう言い残すと路地裏を一気に抜けて市街地にでる。ふと自分のスーツを見るといたるところが痛んでいる。

こんな姿で街を歩いていたら確実に職務質問されるに違いない。

ジェームズとは途中で別れ、俺は人目につかないルートを選びながら急いで基地に戻ったのだった。

 

 

出た時と同じルートで基地に入り、窓から自分の部屋に入る。入口は武装した兵士がいたため、使えなかった。

鍵を開けて部屋に入ると人の気配がする。反射的に腰に手をかけるが、わずかに月に照らされて見えたそのシルエットを見てすぐにその手を離す。

「おかえり。」

その口調はとても優しかった。彼女はそういうと部屋の電気をつけてこちらにやってくる。

「あーあ、せっかくのスーツが台無しだね。いっつも軍指定の制服だからこのスーツ姿はなかなか見られないよね。本当ならびしっと決まったところが見たかったよ。」

そう、俺の部屋にいつの間に入り込んでいた彼女の名は

 

「ウィルマ、何でここに?」

 

俺の最愛の人だった。

「それはあと。ほら、すぐ着替えないと。」

俺が上着を脱ぐとウィルマがそれを受け取り、きれいにたたんでくれる。

彼女に言われるがまま、いつもの服に着替える。

最後のジャケットを羽織り、彼女にどうしてここにいるのか話を聞こうと思ったそのとき部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「バーフォード少佐、いらっしゃいますか?」

「あぁ、すぐ開ける。」

誰だ?と思いながら万が一に備えながらドアを開けると2人の男が立っていた。腕にはMPの文字が入った腕章をしていた。

「なんの用だ?」

「基地の外で問題が発生しておりまして、基地内の全人員の所在を確認していました。今までどちらに?」

「この部屋に。仕事をしていた。」

「誰かそのことを証明できる人はいますか?」

「証明?そんなの・・・。」

「それなら私が。」

と、俺の後ろから顔をウィルマが顔を出してきた。

「ウィルマ・ビショップ軍曹もご一緒でしたか。わかりました、結構です。ありがとうございます。」

彼女の顔を確認するやMPたちはその話題を引き下げた。

「それで、ほかに何か用事でもあるのか?」

「はい、少佐にはラル少佐より至急司令官室に来るようにとの指示がありましたのですぐ向かうようにしてください。では。」

そう言い残し、憲兵たちは走って次の場所へと向かっていった。

俺はそれを見届けて、部屋のドアを閉める。

振り替えると彼女が笑顔を浮かべながら立っていた。

「ウィルマ、まさかお前・・・。」

「それは言わないで、ね。」

ウィルマは彼女の人差し指を俺の唇に押し付ける。

「もう、私が知らない間に危ないことをしていることに気が付かないとでも思ったの?薄々気が付いていたよ。」

全く。女の勘というやつか?

「ちなみにどこから?」

「一人で司令部に行ったって聞いた時から。前もその前も同じだったからね。」

確かに一人で司令部に行くことは彼女に伝えた。そんなこと今回が初めてではなかったから普通に隠し通せると思っていた。だが実際にはその時点ですでにばれていたのか。

「そこいらの諜報員よりよっぽど腕が立つな、ウィルマは。」

「それはあなただけだからね。実際には、町から爆発音がして慌ててこの部屋に来ても誰もいなかったところを見てようやく確信はしたんだけどね。だからもし、巡回の兵が来たとき誰もいなかったら絶対怪しまれると思って。私だけでもいれば多少時間が稼げると思ったんだ。」

そういうと彼女はその場で一回転して“どう、私ってば偉い?”と聞いてきた。そんなの言われるまでもない。

「ありがとう。本当に感謝してもしきれないよ。」

「ん。私はその言葉が聞ければ満足だよ。ただ、今度3つくらいわがまま聞いてね?」

「我儘か、俺のできる範囲に絞ってくれよ?」

「もちろん。無理なわがままで貴重な1回を使いたくないからね。ほら、これでこの話はおしまい。ラル少佐のところに行かないといけないんでしょ?」

「あぁ、そうだった。行ってくる。」

いってらっしゃい。その言葉を言ってくれる彼女に心から感謝しながら俺はラル少佐のもとに向かった。

 

司令官室の前に立ち、ドアをノックする。

「バーフォード少佐です。」

「あぁ、入ってくれ。」

部屋に入るのと入れ替わりで、ラル少佐のもとにいた兵士が俺の隣を通って部屋から出ていった。

俺はドアが閉まるのを見計らって彼女のほうを向く。

「それで、いったい何が?」

「緊急事態だ。外で爆発音などが聞こえたのは知っているな?」

「えぇ。どこかで弾薬庫が爆発でもしたのですか?」

“これは極秘事項なのだが”と前置きをしたうえで少佐は俺に報告してくれた。

「506のグリュンネ少佐と君の知り合いでもあるウィトゲンシュタイン大尉何者かにが襲撃された。」

「・・・なんですって?状況は?」

だが俺はすでにそのことを知っている。

我ながらひどい演技だ、と思いながらも少佐の話を聞き続ける。

「すでに保護され、こちらに向かっている。明日の出発まではこの基地に泊まって貰う。ここなら彼らのユニットも置いてあるから最悪の事態でも空に逃げられるからな。

そこで、司令部から佐官クラスの人員に対して常時拳銃所持命令が出た。当基地では私とバーフォード少佐、君に持ってもらう。」

そういって俺にも通常時は武器庫で保管している本国から支給されている拳銃を渡される。

俺はそれを受け取り、同時に受け取った脇のホルスターに仕舞う。

「装備したな?間もなく506の司令官と戦闘隊長が来る頃なので私たちで迎えに行く。バーフォード少佐、君にも私と一緒に出迎えに来てもらう。構わないな?」

「もちろんです、ラル少佐。」

「よろしい。なら来てくれ。正面ホールに車列は到着する。」

 

俺はラル少佐について行き正面ホールに到着する。すでにここの基地の防衛に当たっている警備兵やほかの基地から臨時で送られてきた部隊の人員がフル装備であたりの警戒に当たっていた。

やはり、あの事件がそれほどの影響を及ぼしたのだな。

5分ほどたつと遠くから複数のエンジン音が聞こえてきた。

「来たぞ。」

その少佐の声と同時に先頭車両のヘッドライトの明かりが俺たちを照らしてきた。

基地正門の重いゲートが警備兵によって開けられ、それに続き装甲車を先頭に4台の車列が到着。車が停車すると2台目に位置していた兵員輸送車から完全武装の兵士が真ん中の車を囲うように配置につく。

そのうちの隊長と思われる人物がこちらに向かってきた。

「オラーシャ陸軍、警備部第1警備隊隊長の、キリヤコフスキー大尉です。」

「502指揮官のグンデュラ・ラル少佐だ。あの車の中にVIPが?」

「えぇ、これが引き継ぎの書類です。それと司令部からもしラル少佐が警備人員を必要としているなら少佐の指揮に入れとの指示が出ていますがいかがなさいましょうか?」

ラル少佐はこちらを見てくる。おそらく自分では決めかねて他人の意見を必要としているのだろう。

本当ならこの基地に他の部隊を招き入れるのは危険だ。あの中に工作員が紛れ込んでいたらなにかされかねない。だが、あの警備部隊は東欧司令長官直属の部隊のはずだ。きっと警護対象が対象なだけにこの部隊をよこしたのだろう。

ならば、直近の警備はラル少佐の信頼する人物に任せて彼らにはほかの場所を警備してもらうのが得策だろう。人員は多いに越したことはないだろう。

俺はラル少佐に対してうなずくと、彼女も決めたようだった。

「わかりました。承認します。現時刻から貴隊は私の指揮下に入りなさい。」

「了解!」

「よろしい。それでは、VIPを指定の部屋まで送ってください。案内はこのバーフォード少佐が行います。ついたらVIPが泊まる施設の周辺警戒に当たりなさい。そのあとの指示は追手連絡します。何か質問は?」

「いえ、ありません。」

「それでは、解散!」

「「了解!」」

俺は大尉についていき、車のドアを開けて出てきたハインリーケとウィトゲンシュタイン大尉を出迎える。

「“初めまして”、グリュンネ少佐。」

「えぇ、お会いできて光栄です。バーフォード少佐。あなたのことは車の中で聞きました。いろいろ聞きたいことがあるけどここでは迷惑になりそうなので後は部屋で聞きます。ウィトゲンシュタイン大尉も聞きたいことが“たくさん”あるそうなので。」

お互い握手をした後、移動を始める。

「わかりました。それではご案内します。行きましょう。」

俺が先導しその周りを警備隊が歩き、その中心にグリュンネ少佐たちが歩く。

建物の入り口で警戒している兵士に、VIPが到着したことを伝えここで警備隊とは別れる。

ここからはいつも502の警戒に当たっている警備兵が先導しさらに進む。

そして、彼女らが宿泊するこの建物で一番警戒しやすい真ん中の部屋につく。

「以降、何かあればすぐ我々のほうへお伝えください。すぐに駆けつけますので。」

「ご苦労、後は俺が引き受けます。」

「了解です。」

そういうと警備兵は少し離れたところから立哨を始める。

「では、こちらへ。すでにお荷物は置いてあります。」

部屋を開けて誰もいないことを確認したうえで、彼女2人を案内する。

部屋の電気をつけて、カーテンを閉め、ドアを閉じる。万が一に備えてベッドをひっくり返したり机の裏を探ったりカーペットをはがしたりして録音機やそれに似た類のものがないかも調べる。

そして、問題がなかったことを確認してようやく一息がつけるのだった。

「さて、無事にこうして再びあえてよかったです。二人とも。」

「ええ・・・。」「うむ・・・。」

「・・・・・・。」

しかし、それ以上何も続かないまま沈黙があたりを包む。おそらくは聞きたいことが山ほどあるのだけれど混乱していて何から聞けばいいのかわからないのが現状なのだろうか?

「とりあえず、何か飲むか?紅茶?コーヒー?」

「紅茶」「コーヒー」

見事に別れたな。

「・・・聞いといて何だけどどちらか一方にしてくれないか?作るのが面倒くさい。」

「なんじゃそれは?それが客をもてなす人の態度か?」

笑いながらハインリーケはそう言ってくるが恐らく本心ではないようだが、確かに今は俺が歓迎する人の立場なのだからそういえばそうだな。

「仕方ない、両方とも淹れるから少し待ってください。ハインリーケ、少し時間がかかるがいいな?」

「よいよい、妾が紅茶にすればいいだけの話じゃ。うちの隊長がコーヒーを飲むなんて言い出したらそれこそ事件じゃからな。」

「あら、大尉。私だってコーヒーを飲むことだってありますよ?」

「それはプライベートでの話じゃろ?今回はあくまでも仕事上での話じゃからな。」

「フフ、それもそうでしたね。」

こんな会話でもすこし2人の雰囲気が柔らかくなった気がする。結果論だがやはり緊張されたままではうまく話もできないからな。

しばらくして淹れおわった紅茶をカップに入れてそれぞれに渡す。夜だからということで甘いものは2人に考慮してなしだ。

「さて、いろいろ聞きたいことがあると思うが何から聞きたいか?といっても今はありすぎて何から聞けばいいのかわからないのではありませんか、少佐?」

「えぇ、そうですね。」

「では、まずはどうして自分があそこにいたのかを話しましょうか。」

そして俺は作戦司令45503について話す。作戦の内容をこんな風に話していいものかと一瞬考えたが彼女たちなら聞く権利があるだろと思い話す事にした。

俺は、メインは航空歩兵としてそれ以外の時間は2人に対する脅威があればそれをマークしできれば排除することが任務だったこと、ここ数日で敵の脅威が激減していたことから警戒が緩んでいた可能性があったこと、2人が襲撃される数時間前からあそこにいたこと、助けられたのは偶然だったこと、あの場で俺の存在を隠したかったのは任務が関係していたことをすべて話した。

「なるほど。では、私たちを襲撃した部隊はどこの所属だったということは、今現在わかっていないのですか?」

「いま、集められた情報をもとに特定を進めているようですが量が多く特定には時間がかかってしまうようですね。」

 

こんこん。

とドアをノックする音がこの部屋に響いた。

防音対策が施されているこの部屋では中の音が外に漏れにくい構造になっているため、いまここから“誰だ”と聞いても答えてはくれないだろう。

「2人も、万が一に備えてベッドの脇に隠れてください。」

「わ、わかりました。」「うむ。」

2人が脇に隠れ、見えない状態になったとこを確認して俺は拳銃に手をかけながらわずかにドアを開ける。

「誰だ?」

「警備隊のマクベリック少尉です。ブリタニア外務省からグリュンネ少佐の安否を確認したいといってきている人物がいるのですが通されてもよろしいでしょうか?」

「そいつの名前は?」

「ヒューバート・ホワイトリーと名乗っています。司令部のブリタニア課に問い合わせたところ確かに外務省職員として2週間前からここに駐在員として派遣されていることが確認されています。」

「わかった、通してくれ。ボディーチェックを忘れるなよ?」

「もちろんです、少佐。」

 

しばらくするとその外務省職員とやらが来た。

「初めましてバーフォード少佐。ヒューバート・ホワイトリーです。ブリタニア大使館で駐在員をしています。本来であればお二人が司令部にいるときに行くべきでしたがお時間のほうがなかったということなのでこちらのほうに出向かせていただきました。」

「わかりました。では、お入りください。少尉、引き続き警戒を。」

「了解です、少佐。」

俺はホワイトリーを部屋の中に入れ、2人に会わせる。

「さて、彼がブリタニア外務省職員、ではなく諜報機関MI5所属の“ジェームズ”だ。今回の作戦の指揮を執っている。」

「少佐、確かに俺は諜報員でもあるがれっきとした外務省の職員でもある。名義だけ出向している感じではあるが。どちらにせよ外交官という肩書はいろいろな場所で役に立つ。

「ウィーン規則ですか?」

ウィーン規則。のちのウィーン条約として各国の間で結ばれることになるこれ、一言でいえば外交特権だ。公館の不可侵や刑事裁判権の免除などが決められておりブリタニアとオラーシャの間でも結ばれている。

「その通りです。さすが、グリュンネ少佐。理解が早くて助かります。さて私が来た理由ですが確かに安否確認及び事情聴取もありますがそれ以外にもいろいろと報告すべきことがあるのでやってきました。」

「何かわかったのか?」

「えぇ。いろいろと、それもあまりうれしくないことが。」

もう収集した情報分析結果の速報がでたのか。

ジェームズはそう答えるとカバンから書類を出し始めここにいる全員に配り始める。

それに驚いたハインリーケが思わずジェームズに声をかける。

「それは妾に聞かせても良い話なのか?」

流石貴族なのかそういう裏事情についてよく知っているハインリーケだ。下手に聞くとまずい情報だってここには含まれているだろう。重要情報は知る人の数が少なければ少ないほうがいい。

そんなこと百も承知の彼女だから、そのことを聞いたのだろう。

だが、彼はそんなことはまるで気にしていないようだった。

「問題ありません。あなたがカールスラント軍人であることを気にしているのですか?なら我々としてはこう言いましょう。“あえて聞かせている”のだと。我々の諜報能力を正しく理解してもらうと共に今後の両国の友好関係も願って、ね。」

つまり、これはハインリーケを通じて本国に流してもらうことでブリタニアがこれだけ調べる能力を持っているのだぞという示威行為につながり、ただのカールスラント人ではない名門貴族出身のハインリーケを我が国の職員が助けたし、ついでに情報もあげるからわかっているな?という貸しにもつながっていると言いたいわけか。カールスラントと友好関係を築けるというのはブリタニアにとっても悪い話ではないからな。

「わかった。邪魔して悪かったのう。」

「いえ、大尉のいうことも最もですからね。さて話を進めましょう。今回、あなたたちに襲撃を仕掛けてきた組織は我々諜報部内で“NOG”って呼んでいる奴らです。活動方針が“高貴なる王家とそれを補佐する貴族による絶対の統治”だそうです。共和制を完全なる悪だととらえ、王家が国を導くことこそが正しい、と思っている連中ですがその歴史は古く少なくとも19世紀に活動していた記録があります。」

「ちょっと待って、そんな王家と貴族を大切にするような連中がなぜこの2人を襲った?」

おれはふと思い浮かんだ疑問を彼にぶつける。そんな共和制を大事にするような奴らが共和制の維持に必要不可欠な貴族や遠縁とはいえ王族にかかわりある人を狙う理由がわからなかった。

「それはですね、連中が言う王家と貴族という単語の前に“ガリアの”っていう言葉をつける必要があるんだ。」

あぁ、なるほど。

「つまり、“君臨すれども統治せず”のブリタニアの王家や貴族以外の人に人気の高い貴族とやらは眼中にないのだろう。というか逆に気に食わないと思っていても過言ではないのかもしれないな。」

かなり厄介な連中だ。502にはぜひともかかわってはほしくないな。

「確保した人員については現在調書中です。何も情報が出てこないところを見るとよほど口が堅いのかそもそも何も知らないのかまでは判別がつかない状態です。もう少し時間をいただければ何かわかるかもしれません。」

「ほかに何かわかったことは?」

「はい、いくつか。」

そしてジェームズはあの場所で確保した資料の分析結果を彼女たちに伝える。断片的とはいえ少しずつ集まってきているような印象を受けた。

“これで今わかっていることは以上です。”そう締めくくったジェームズが話し終わるころには短針が1つ進んでいた。

すべてを話し終えた彼はいったん姿勢を正すとグリュンネ少佐に問いかける。

「それで、少佐。この件について506としてはどう対処するつもりでしょうか?」

俺は資料を読む作業をいったん止めて、2人を交互に見る。曲がりなりにも司令官だ。そして彼女の部下に直接的な被害が出ている以上、何かしらの行動をするのだろうか?

だが、彼女が出した答えは意外なものだった。

 

「・・・私としてはこれ以上のことは何もしないと判断します。」

 

その言葉に対し、ハインリーケは乱暴にカップをテーブルの上に叩き付けるように置くと立ち上がった。

「なぜじゃ!?運転手は殺され、われらも殺されかけた!それなのに何もしないというのはどういうことじゃ、少佐!」

「落ち着いてください、ウィトゲンシュタイン大尉。」

ハインリーケの激高に対しても冷静に、優しく声をかけ彼女を落ち着かせる。そして少佐は話し始めた。

「ジェームズ。今回の襲撃に関して直接的にNOGが関与している証拠はありますか?」

「・・・いえ。状況証拠のみで彼らの関与を明確にするものはなにも。回収した物品から推測は可能ですが大まかな絞り込みのみでそもそもこの証拠自体が法的な効力を持ちません。

ガリア諜報部についても同様です。彼らが関与していなければルートに関する情報を収集することなど不可能です。おまけに今日は予想外のことが起きたにもかかわらず、正確に襲撃してきた。バックについているのは明らかです。彼らに情報提供したものがいる以上そいつを特定しなければなりませんがこのご時世、どこに誰がいてもおかしくはないので相当な時間がかかるでしょう。

使用された弾丸もどこの戦場でも必ず見かけるようなありふれた銃弾です。」

「つまり、外交ルートを使って正式に抗議することは?」

「不可能です。」

ジェームズがそう断言すると“わかりました。”といってハインリーケのほうに体を向ける。

「つまりはそういうことです。貴族として外交について学んだことのある大尉ならもうわかったはずですよね。」

「ッ・・・!」

だが、グリュンネ少佐も506の司令官だ。こんなことでみすみす引く人ではなかった。

「ですが、私としてもあきらめるわけにはいきません。何とかして決着をつけたいと思いますが一介の軍人である私にできることは限られています。ですからこれは個人的なお願いです、ジェームズ。何かわかれば、506に何かの危険が迫っていることがわかれば、私に連絡をください。お願いします。」

彼女が頭を下げるとジェームズはいったん慌てるそぶりを見せたがすぐに彼女の”願い”に

「了解ました、グリュンネ少佐。私のほうでも今後調査を進めます。何かわかれば直接、お渡しに参りましょう。」

そう応えた。それに対して少佐は彼に微笑みをうかべ、今度はこちらを見てきた。

「あなたの協力に心から感謝します。そして、バーフォード少佐。私たちを助けてくれてありがとうございます。本来であればあなたは称賛されるべきことをしたのですが、事がことなのであなたの功績が認められることはないでしょう。ですが、私たちはあなたのしてくれた事を忘れることはありません。」

「・・・その言葉が聞けただけで十分ですよ、グリュンネ少佐。」

もしジェームズの指定する時間が少しずれていたら間に合わなかったかもしれない。もし俺があの時魔法を使っていなかったら彼女たちの声を捉えることはできなかったかもしれない。

俺はその重なった偶然にありがたみを感じながら少佐の感謝を受け取ったのだった。

そしてグリュンネ少佐は再びジェームズに話しかける。

NOGが今後もブリタニアの脅威になるとMI5はそう判断していますか?」

「今はまだ。ですが今回の一件で方針を切り替えざるを得ないと思います。」

「わかりました。でしたらジェームズ、あなたの直上の上司にこう伝えて下さい。」

 

 

“次何かあったら、私がNOGのみならず背後の組織まで私の責任で潰す。”

 

 

と。

 

その言葉を言った時の少佐の雰囲気はこの場の空気を一瞬で凍らせるほどの威力があった。

これが上に立つ者の意志というやつか、と俺は思わず感心してしまった。

「了解です、少佐。」

ジェームズがそう答え、いったんこの話が終わったなというところで

「すまぬ、少し外すぞ」

そういい残してハインリーケは部屋を出ていった。

 

彼女一人で外を歩かせるわけにはいかない。彼のほうを見ていくべきかを尋ねる。

「あぁ、頼んだ。こっちは俺が見ておく。」

何か言おうとしたその直前に彼は指示を出してきた。俺は立ち上がって部屋を出る。

警戒中の兵士に敬礼しながらどこに行ったかを尋ねると階段を登っていった、と答えた。

実際に、階段を昇る足音が響いていたので俺もそれにつづく。

最後の屋上階まで登り切り、テラスへ続くドアを開けると冷たい風が俺に吹きこんできてこの季節でも相変わらずの寒さだなと思い出させてくれた

 

あたりを見渡すと柵に寄りかかっている彼女が目に映った。

「風邪、ひくぞ?」

俺が彼女に近づいて、こう話しかけてもハインリーケは何も答えずにただただサンクトペテルブルク市街地の夜景を眺めていた。それだけでも絵になるのはひとえに彼女の持つ雰囲気ゆえだろうか?

もう一言、何か言おうかと思ったその時、ハインリーケが視線をこちらに向け口を開く。

「わかっていてもどうしても許せないことがある、おぬしにもわかるじゃろ?」

おそらく先ほどの話関連だろう。まぁ、言いたいことはわかる。あれができたらどんなに楽か、だがそうしようとする行為を規則が俺を縛る。そういうときは決まってもどかしい気持ちになるものだ。

「見えなくても、自分を縛り付ける鎖というやつか。」

「ま、そんなところじゃな。」

そういってハインリーケはため息をついて話し始める。

「隊の中に1人くらいはよく命令違反をしてでも自分の信念の通りにする奴がいる。妾はそういうやつが嫌いであり妬ましく思える。」

「・・・妬ましい?」

“あぁ”とつぶやくと彼女は再び目線を市街地に戻す。

「命令違反をして行動するというのは中々できることではない。本来は罰せられる行為、下手をしたら銃殺であるしそんなことが許されてはならない。だがな、今はそれが妬ましいと思えてしまう。こんなことを言うこと自体、二律背反しているがな。」

「・・・あの運転手の話か?」

ハインリーケは頷いてそれを肯定する。

「そこまでは親しいとは言えないが、町に出るときに世話になったこともあったその時に何度か話していたから。よりによって目の前で死なれると心に“くる”ものがある。」

彼女の心の中でいま葛藤が起きているのだろうか?

たがらだろうか。少し彼女の心の中が気になった。

「それで、お前は何をしたいのか?彼に対する復讐?自分を襲撃いてきたやつらを恨むか?どのようなことを考えるかはお前の勝手だがいずれその連鎖は・・・。」

「そのようなことは考えていないし、その連鎖が無限に続くことくらいはわかっておる。今はな、そんな考えはいったんすべて忘れてただただ何も考えずに時間を過ごしたい気分なんじゃよ。」

そういわれ、俺ははっとした。

Curiosity killed the cat、好奇心猫をも殺す、とはよくいったものだ。時にその好奇心が自らだけでなく他人を傷つけることがあることくらい知っていたはずなのに。

「・・・なら、俺は無粋なことをした。悪かったな。」

「よい、許そう。今の妾はもし誰か来たのなら他愛もないことを話したい気分じゃった。嫌なことを一時的に忘れられるような話をな。ほれ、何か最近あった面白いことでも話してみろ。」

先程の言葉を許されたことに心の中で反省しつつ俺は困惑していた。まったく、無茶をいう姫様だこと。

そして思考を巡らせる。面白い話か。なにがあるだろうか?

最近食べた不思議なもの?502の伯爵の話とか?

っとそうだ、一つ聞きたいことがあったんだ。

「そういえば、ハインリーケ。お前の乗っているユニットはなんなんだ?」

「なんじゃ、そんなことか。まったく、つまらない男よな。そんな話しか淑女に振ることができないというのか?」

「は?」

純粋な疑問を聞いたつもりだったがまさかそう返されるとは思わなかった。そりゃ、面白い話ではないが・・・。

「もっと別な話題はないのか?」

「まったく、注文の多い姫様だ。」

「フン、姫というのは我儘なものじゃ。それに答えてこそ、だ。そうじゃろ?

お主、今のままではブリタニア紳士の名が泣くぞ?何かないのか?最近はやりの紅茶の話や今、貴族ではどんな花が話題になっているかなど何かあるじゃろ?」

流行りの紅茶?そんなの俺が知っているわけないだろう?花なんてそんなお気に入りのものがあるわけじゃない。

「あーあぁ、暇じゃなー。何か面白い話でもしてくれんかのうー。」

そう俺が必死に何か考えている間もハインリーケは煽ってくる。

・・・。そうだ、あれなんかはどうだろうか?

あんな不思議な体験はそう人生で何回も巡り会えるものでもない。話してみる価値はあるだろう。

「仕方ない。とっておきのを話してやる。だが、お前には信じてもらえないかもな。」

「なんでもよい。わらわを楽しませてくれればよいのだからな。」

“もちろん。”と俺は前置きをした。

「前に俺が落ちたことは話したよな?」

「あぁ、そこから歩いてここまで帰ってきたのじゃろ?随分と大したものじゃ。だがその話は以前に聞いたぞ?」

「あぁ、あの時は地雷の下りまでしか話せていなかったからな。あの話の続きだ。俺が経験した不思議な酒場の話だ。」

そして俺はあの時の寝ていた間に体験したあの隊長とその部下と4人のウィッチの話をした。

今思えば随分と不思議な体験をしたものだ。生身の体で空を飛ぶという事実の次に驚いたことかもしれない。

 

 

 

「到底信じがたいな。おぬしはそんなことを経験したというのか?」

「あぁ、そうだ。どうだ、お気に召したかな?」

「いろいろとな。ちなみにその夢に出てきた少女の所属していた部隊はどこだかわかるか?」

「わからない。・・・そういえば伯爵や曹長と同じ部隊だったというのは聞いたことがある。」

託された遺留品を渡したときにそんなことを言ってくれた。あえて何も詮索はしなかったがもしかしたら何かわかるかもしれない。

「ペテルブルク、クルピンスキー中尉、ロスマン曹長・・・。なるほど、そういうことか。」

そして意外にも答えはすぐに導き出されたようだ。ハインリーケはうなずきながら独り言をつぶやき、なにかわかったようなことを言っていた。

「おいおい、一人で、勝手に納得しないでくれないか。俺にも教えてくれ。」

俺がそういうとハインリーケは"本人達には内緒だぞ"と前置きした上で教えてくれた。

「Jagdgeschwader52,通称JG52といわれるカールスラント空軍最高クラスの航空隊だ。お主も名前くらいは聞いたことあるじゃろ?

彼女らはおそらくはそこでほかの奴らと一緒の部隊だったのだろう。それともう一つ、ペテルブルクの悲劇なんていうのを聞いたことがある。撤退を支援するためにウィッチが兵士を安全な場所へ運ぶという作業を行っていたがその最中、吹雪に巻き込まれそのまま遭難してしまった、という話じゃ。優秀なJG52のウィッチが多数遭難し、行方不明になったということで一時期話題になったことがあるが結局話は噂の域を出なかったからのう。まさか本当だとは思わなかったぞ。」

なるほど、ね。いろいろと見えてきた。

「これ以上の詮索は、彼女たちのためによすとしようか。少佐、中々に面白い話じゃったぞ、合格じゃ。」

「それは何より。さて、ハインリーケ次はそっちの番だ。」

「わらわが?」

目を点にしてハインリーケがそう言ってくる。

そりゃそうだ。こっちだけ聞いていてもつまらないからな。

「あぁ、何か一つくらいあるだろ?」

「もちろん、わらわの部隊の奴には話したことがない特別なものじゃ。聞きたいか?」

「ぜひとも。そこまで言うのならきっと面白いんだろうな?」

「よろしい、心して聞くがよいよ。わらわとまぁ、なんだ、よく話す奴に黒田那佳というやつがおるんじゃがこやつは恐ろしいほどの守銭奴でな。それはもう・・・。」

 

こうして夜は更けていく。彼女の話すその口調からは何もマイナスな感情は感じ取れなかった。

だから安心していたが俺が唯一気にしていたのはそれがハインリーケの心の底から出している表情なのかそれとも仮面をつけてしまっているのか俺にはわからなかった。

 

 

次の日、グリュンネ少佐たちが帰る日になった。一泊しかしていないはずだが随分と密度の濃い2日間だっただろう。

彼女たちはほかの502のメンバーといろいろなことを話しているようだ。俺は一番話したいことは昨日の夜のうちに伝えたし、ジェームズからも何か聞いたようだ。俺の予感だがあいつとはこれからも付き合いが長くなる気がする。

506の輸送機を最終点検している整備兵たちをなんとなく眺めているとグリュンネ少佐とハインリーケの2人がこちらにやってきた。

「もういいのか?」

「えぇ、私はあまり話す内容もありませんでしたからね。大尉が少し昔話をした程度でしょうか?」

「うむ。だがわらわは貴様とこうして直接話す事が出来ただけで満足じゃ。これ以上ここですることもないからのう。昔ペテルブルク防衛、あぁ、ここ最近の奴ではない数年前のやつのほうじゃが、ここの基地から出撃したことがあったから、懐かしいとは思っていたんじゃ。

だから妾は話すのよりはこの基地を最後に散策することができてよかったと思えたのだ。」

なるほど、だから昨夜は一直線に屋上に行くことができたのか。少し不思議だったんだ。

「なら、もう十分だな?」

「いや。おぬしに、」

そういうとハインリーケは俺の右手を取って

「感謝を。あの時助けてくれてありがとう。昨日は言えなかったからのう。」

頭を下げた。

「・・・そんなことを言うとは驚きだ。」

「妾だって謝るときは謝るし感謝しているときは必ずそれは伝える。そんなことすらわからないのか?」

「そういうな、斬新だっただけだ。」

そういってお互い手を放す。ふと表情を見ると昨日よりは良くなっていた。あんなふうに話せただけでもよかったのだろうか?そんな不安をよそにハインリーケは俺に別れを告げた。

「ならよい。では、さらばじゃ。また会おう。」

 

そういうと彼女は機体に向かって歩いていく。

「ハインリーケ!」

俺の言葉に足を止めて振りむく。

 

「何も一人で抱え込むなよ、お前は特にその傾向が強いからな。つらいなら誰かに言うのも一つの手だ。そういうのを言える奴、お前にもいるだろう?」

 

最後に、心のどこかで詰まっていたことを彼女に伝える。どうしてもハインリーケはどこかいつも無理をしているようにしか見えないからな。

「わかっておる。それこそおぬしに言われなくてもな。」

だから、それこそが俺が一番いいたいことだと心の中で愚痴る。

“本当にわかっているのか?”と俺が思った直後、彼女はまるで思考を読んでいるかのように言ってきた。

「心配するな、一人ではだめだと思ったらおぬしに真っ先に言ってやる!それで満足か!この世話焼きめ!そんな顔で言われたらかなわん!」

顔?俺はそんなに不安そうな表情をしていたのだろうか?だが、彼女からその言葉が聞けただけでも満足だ。

「あぁ、いいだろう。」

「ならよい。さらばじゃ!」

そう言って、彼女は機内へと入っていった。

「バーフォード少佐、最後に一ついいですか?」

「なんだ?」

そして最後まで残っていたグリュンネ少佐が俺に話しかけてきた。彼女がいなくなったところを見計らってだから何か重要なことなのかと思ったがそうではなかった。

「どうか、ウィトゲンシュタイン大尉を嫌いにならないでください。」

「は?いったい何の話です?」

「大尉はうちの基地でもなんというか、これでも最近は変わったほうですけど結構ひとと話すときも威圧的なんですよ。無意識のうちにしてしまうようなのですが初めてあった人はそれで嫌いになったり怖がったりしてしまう人も多いんです。私たちに対してもあんな感じですからな。

ですが、バーフォード少佐と話しているときは明らかに違いました。

あんなに笑ったり冗談を言ったりするウィトゲンシュタイン大尉を初めて見ました。きっと少佐は大尉にとっても数少ない親しい人なのでしょう。ですからお願いです。どうか・・・。」

どうやら彼女には俺たちの関係がそう見えていたのだろうか。

「大丈夫ですよ。ハインリーケと話していると面白い奴ですからね。

嫌いなることはなると思いますよ。あっちは気まぐれだからわからないが。」

「それこそないと思います。でもその言葉が聞けただけでも良かったです。これからもよろしくお願いしますね。」

そういって俺は彼女たちと別れる。こうして直接話せる機会は次がいつになるのか見当もつかない。だがこれが最後にならないよう、俺も落ちないようにしないとな。

 

彼女たちの乗ったDC-3は格納庫をでるとそのまま滑走路に向かい飛んでいきやがて空高く消えていった。

さらばだ、また会おう、ハインリーケ、グリュンネ少佐。

 

 

「なぁ、バーフォード少佐。」

グリュンネ少佐たちがガリアへ帰っていきがらんと開いた格納庫でジェームズが話しかけてくる。

先ほどまで姿すらなかったのにいったいどこから来たのやら。

「この調子でいけば大体お前さんもあと5,6年で飛べなくなるだろう?ずっと魔力が続くわけでもないだろう。」

そして彼は俺の痛いところをついてくる。

それは常日頃、気にしていることなのだが・・・。

「まぁ、そうだろうな。自分ではできる限り飛びたいとは考えているが。」

俺がそう答えるとジェームズはスーツのポケットから手を出して何かを考える素振りを見せる。そして一瞬、間をおいてから意外なことを話してきた。

「もし、飛べなくなったらこちらに来ないか?こっちの世界は面白いぞ?」

その言葉に俺は驚いた。

確かに銃の腕はほかの奴よりはうまい自信はあるが・・・。

「それはスカウトか?」

「まぁ、そんなところだ。どうだ?」

まぁ、魅力的ではある。誰だって自分を高く評価してくれる人間がいるというのはうれしいものだ。

その提案は実際、いいものだろう。こいつがMI5でどんな役職についているかはわからないがスカウトをできるというのはそれなりに高い役所だろう。

その彼が直接、採用してくれたという話になれば俺がそこでそれなりの活躍をすれば昇進速度も速いはずだ。

この年齢からだったらかなり早い段階でそれも達成できるかもしれない。だけど。

「いや、遠慮しておくよ。」

俺はその提案を蹴ることにした。

「なぜだ?お前なら正式な訓練を積めばいつか優秀な諜報員になれるはずだ。」

俺の回答にジェームズは不思議そうな顔をする。

断ったのがそんなに意外だったのだろうか。

「なぜかって?決まっているだろ?」

俺は雲一つないこの澄んだサンクトペテルブルクの大空を指さしながらその理由を答える。

 

 

「俺は空が好きなんだ。空を飛ぶことのできない人生なんて考えられないってな。」

 

 

俺の答えに一瞬、呆けた顔をしたジェームズはその後急に笑い出す。

「なるほど。男のウィッチっていうのはどんなやつかと思っていったがまさか生粋の空好きだったとはな。」

「あぁ、あいにく地上の諜報員みたいなこそこそ動くのは嫌いなんだ。俺は何にも遮るものがないこの空を自由に飛ぶ、それだけで満足なんだよ。」

”なるほど。”とつぶやき彼は俺に背を向ける。

「だがもし気が変わったら俺に声をかけてくれ。くれぐれもその腕をウィッチの教官なんかで使いつぶさないでくれよ?」

「それはその時考えるさ。だがもしかしたら忘れているかもしれないな。」

「ならその時、また声をかけに行くさ。邪魔したな。」

そう言い残してジェームズは格納庫から出ていった。

5年後、俺は何をしているんだろうな。唯一の不安といえば俺も例外なく魔力が少なくなり空を飛べなくなるということだ。

この世界は好きだ。自分の好きな機体にのり、フェアリーでは決して味わうことのできなかった風を感じながら飛ぶというこの体験をできなくなるのはさみしいものだ。

上空を3人のウィッチが飛んでいるのを見て、心の中でもう少しこの奇跡が続けばなと願うのだった。

 




5月あたりにヨルムンガンドを見てなにか地上の戦いを描きたくなって書いた話。(この話の骨格?を書き終わったあとにノーブル3巻を読み、意外と被っていることに驚愕したのはいい思い出。大幅修正しました、、、。)
書いて気が付いたけど意外と難しい。空のほうが慣れているからかな?
やっぱり自分は空が好きなのだと実感できたいい機会でした。
この好きという感情を意外と理解してくれる人が少ないのが残念。


ご指摘、ご感想、誤字指摘があればよろしくお願いします。



タペストリー欲しい。
次は遅くとも8/26には投稿します。。


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おまけ3

まずは芳香、サーニャ、静夏、お誕生日おめでとう!!いやーめでたいな!
(ただ、このSSでは出番少ないけどね・・・。)
それとコミケお疲れ様でした。8/26に投稿しようと思ったのですがこの2つをことを言いたかったので早めの投稿です。
そして1週間以上フライングですが祝2周年です。お気に入りしてくれる方はもちろん、わざわざもう1ステップ踏んで評価してくれる方もいらっしゃってすごくうれしいです。もうすぐUAも5万に届く勢い。
これからも頑張って作っていくのでよろしくお願いします。


今回も長いです。移動時間のお供に、ぜひ。


-ブレイブ(ク)ウィッチーズの本領発揮-

「スクランブル!」

曹長の叫びと基地内に響き渡るサイレンの音を聞きながら俺は乱暴にドアを開けてハンガーまで全力で走る。

緊急発進警報。502JFWではこの時期になると毎日1回、多いときは2、3回発令されるこの警報も今日はいつもと状況が違った。

1025、ノヴゴロド方面からのネウロイに対する迎撃命令が発令された。

これにはいつも通り出撃待機中であったポルクイーキシン大尉を隊長とし、クルピンスキー中尉、管野少尉、ルマール少尉がこれに当たる。

1110、続いてカールスラント方面からのネウロイが北上しているとの情報が入り、再び警報が発令された。このとき、迎撃隊は現在交戦中につきそちらに戦力は回せない状況だった。

そのため本来であればこの迎撃隊の責任者である隊長は俺になるはずだった。

 

「行くぞ、諸君。準備はいいか?」

だが今回はいつもと違った。この迎撃隊の隊長は502の長でもあるラル少佐だった。

以前から問題視されていた人員不足を解消するにはまだまだ時間がかかる。ただでさえ、ほかの部隊にも補充要員が足りていないというにもかかわらず統合戦闘航空団というある意味、国の代表を集めて作っている部隊に人員を回せるほど優秀なウィッチが余っている国などどこにも存在しない。

だからどうしても人員の補充が遅くなってしまうのが現状らしい。そこで執られた延命措置ともいえる対処が司令官自ら出撃するという傍から見れば一度事故が起きてしまえば部隊の存続が危うくなるほどの危険な綱渡りのような対処だった。

これにひどく驚き、心配しているのがロスマン曹長。そりゃラル少佐の右腕としていつも働いている彼女にしてみれば怪我人に等しい人が空を飛ぶのだからたまったものではないだろう。

だがラル少佐の意志も固いようだし、ここは曹長も受け入れるほかないだろう。

というわけで、この迎撃には俺を含めてラル少佐、曹長の計3人で当たる。ほかの人員はノヴゴロドの方面が少し敵の数が多いようでかつこちらは大型1機のみということで待機とされた。

1115に502JFW拠点のあるプルコヴォ基地を離陸。

離陸後いつも通り進路を西にとり高度を上げて編隊を組む。

巡航高度に到達後はラル少佐が先頭につきその右に俺、左に曹長が付く。

ちなみにラル少佐の武装はもはやカールスラント空軍所属のウィッチではお馴染みのMG42、ロスマン曹長は寒冷地仕様のフリーガーハマー。寒冷地仕様って具体的に通常のタイプとどう違うのだろうか?寒さで信管や配線関連が破損したり誤作動を起こさないように特別な保護やコーディングでもしているのだろうか?

いずれにせよ、この3人がいれば火力は申し分ないだろう。

「どうした、少佐?顔色が悪いぞ?体調でも悪いのか?」

「え、あ、いえ。そんなことはありませんが・・・。」

そう、火力に関しては全くをもって心配していない。

「全く、何を心配しているのだ、バーフォード少佐。この場には今のカールスラントのウィッチの基本陣形であるロッテ戦法を生み出し、502における食糧確保の第一人者、エディタ・ロスマン曹長。

ブリタニア最高クラスのウィザードにして特殊戦術航空隊第二飛行隊隊長のフレデリック・T・バーフォード少佐。そして私、人類第3位にして502を統べるグンドュラ・ラル少佐がこの場にいるのだぞ?

この3人の撃墜数を合わせるだけで軽く400に到達するというのに、いったいどこに不安要素があるというのかな?」

「いや、そういうわけではなく・・・。」

いま一番心配なのはあなたですよ、ラル少佐。

「まぁ、バーフォード少佐の言いたいことはわかります。ラル少佐?くれぐれも無理しないでくださいね?」

「もちろんだ、ロスマン曹長。私もこんなところでスコアを途絶えさせるわけにはいかないからな。なんせこの部隊だけでもどんどん追い上げてくる奴らが山ほどいるから私の不安も増すばかりだ。

悪いが人類第3位の椅子は譲るわけにはいかないのだよ。」

「だからって撃墜されたら何もかもおしまいです。登山と同じで途中で引き返す勇気も必要だっていうことをくれぐれも忘れないでください。」

「そうですよ、ラル少佐。あなたがいてこその502です。そこの所は・・・。」

「それは少し違うぞ、バーフォード少佐。」

「?」

ラル少佐の思わぬ指摘に首をかしげる。何か間違いを言ったか?彼女は左右にいる俺と曹長を交互に見て、すこし笑いながら言う。

「私やバーフォード少佐、ロスマン曹長、ビショップ軍曹、ポルクイーキシン大尉、カタヤイネン曹長、管野少尉、クルピンスキー中尉、ルマール少尉、下原少尉この全員がいてこその502だ。そこは忘れるなよ?」

・・・まったく、この人は。いつだって周りへの心配を欠かさないんだから。

「“あの2人”もですよ、少佐。」

「もちろん、忘れてなんかいないさ。」

「あの2人?」

いったい誰のことだ?

「あぁ、少佐たちは知らないのも仕方がないな。なんせ入れ替わりだったからな。いつか戻ってきたときに教えるとしよう。」

「そうですね、詳しくはまた今度。」

俺が知らない502のメンバーか。その様子だとまた戻ってくるみたいだし気長に待つとするか。

 

やがて接敵予定空域に到達し、しばらく探していると曹長が一番先にネウロイを見つけた。

「敵機確認!あれは・・・、間違いありません。報告にあった通り、火力が非常に高いX-7型のネウロイです!」

「なるほど。たしかに強敵だな。」

後ろの4つの姿勢安定尾翼のようなものが取り付けられ胴体には3つの翼のようなものが120°おきに配置されているX-7型ネウロイ。速度はそれなりにあるが彼女たちでもそれなりに追いつける。

独特な形をしているがこのデザインは嫌いではない。

「さて、普通のウィッチだったら2小隊が総火力を集中して落とすような敵機だが・・・。どうだ?1小隊未満の我々では手に負えないかな?」

もうすぐ敵の射程圏内に入ろうとしているのにこの余裕。何が危険で何が大丈夫なのかを今までの経験からわかりきっているからこそ、こうしていられるのだろうな。俺だってそこまではいけないさ。

「ご冗談を、ラル少佐。そんなことはわかりきっているでしょう?」

「それもそうだな」

そういって笑うそばでは曹長が深刻そうな顔をしながら“本当に、無茶しないで下さいよ?”とつぶやいていた。わかるよ、その気持ち。

「敵機発光!」

ネウロイから光が見えた。その瞬間、この場にいるすべての人員がすぐに頭を戦闘モードに切り替える。この距離からだったらまず当たらないが回避運動をする。

数秒後、的外れな場所をネウロイのレーザーが貫いてゆく。4本の太いレーザーはほかのネウロイと比較してかなり威力が高くその一本一本が直撃すればまずは助からない。

ある程度低ければけがをするなどで済まされるがこいつは洒落にならない。至近距離をかすっても直撃でも変わらないだろう、そんな風に思わせるほどの見た目だし実際何人ものウィッチがこれで散っていったと聞いている。だからこの人数で落とすとなると連携や位置取りが重要となる。

そうして狩りが始まった。

 

「バーフォード少佐!ついてこい!」

「了解、喜んで!」

だから俺はラル少佐についていくことにした。大型ネウロイを少人数で落とす、というのはこれから先必須となるはずだし俺には同世代のウィッチと比べてその経験が少ない。

何よりも人類第3位の飛び方を間近で見てみたかった。

 

曹長のフリーガーハマーの装弾数は9発。下手に無駄うちはできない上に敵の装甲は硬い、俺の連続射撃でもすべて打ち尽くし、リロードしている間に大部分が修復されてしまうため事実上、俺にはこのネウロイの装甲は抜けない。そのため彼女の武器がまさに今回の戦闘のカギとなる。

だから曹長が最もコアを狙いやすい場所にネウロイを誘導するのがラル少佐の仕事、俺は攻撃や囮、その両方ができるためその2人のサポートだ。

 

俺とラル少佐が射撃を行ってこちらへ注意を引き付ける。3発ほど発砲するころにはネウロイは総長には目もくれずに俺たちに火力を集中し始めた。

「よし、来たぞ!間違っても当たるんじゃないぞ!」

「もちろんです!こんなところで落ちたりしませんよ!」

その大きな巨体の機首をこちらに向けると速度を上げてその濃密な火力でこちらを攻撃してくる。

さて、ついてこい。こっちに集中してくれればその分曹長が狙いやすくなる。

後ろを見ながら敵の攻撃をかわし、前を見ながらラル少佐に当たらないようかつ最適な場所に向かうための進路をとる。あらゆることを同時にこなしながら俺たちは飛んだ。

 

 

そしてその空を縦横無尽に駆け巡るラル少佐の機動を見ていてわかったことがある。

あれが人類第3位の飛び方か、と。なにがフェアリィだ。よっぽど彼女のほうが妖精だ。

ジェットストライカーユニットでレシプロに合わせた機動をするのは速度やそもそもの設計概念から難しい。だけどそれを抜きにしてもあの飛び方はきれいだと思った。502はエースばかりだ。皆、何度も一緒に飛んでいるからここの戦い方に個性があるのはわかってきた。伯爵は主兵装を使って敵を翻弄しながら戦う。敵を混乱させるため先陣を取りたがる勇敢な奴だがその一方乱暴な飛び方ゆえによく壊す。

熊さんは一言でいうなら丁寧な戦い方をする。周りの状況を把握しながら適宜、支持を出しチャンスだと感じたらそれを逃さない。

曹長はフリーガーハマーを使って彼女の見た目とは異なり大胆に戦う。ほかの皆と比べて飛んだ回数は少ないがここぞというとき“私に任せてください”と言わんばかりにその実力を発揮する。

管野は一言でいい表すなら“獰猛。”持ち前の能力を使って弾切れになったら殴りかかる、俺には到底まねできないような戦い方は使い魔のブルドック由来なのだろうか。

ルマールは流されやすい性格からか自ら引っ張っていくというより味方をカバーしながら戦う。

ウィルマも似ているかな。俺のサポートをしてくれるけれど仲間のサポートももちろんする。年齢から積極的に先頭に立って戦うのが厳しいというのもあるみたいだ。正直つらい。

下原は夜間戦闘にて一人で戦うこともあってかなり積極的だ。違うと思ったら意見するし、仲間の行動が危険だと思ったらたとえ上官であろうと注意する。さすが502のお母さん。

ニパはなんというか、かわいそうだと思う。ポジティブなのはいいがやる気が空回りして囮になろうとしたらほかの敵までもがニパを狙うようになり被弾してしまう、といったことがよくある。

 

だからこそ、皆の飛び方を知っているからこそ、ラル少佐の飛び方は次元が違うと感じてしまう。旋回一つとってもその速度、旋回半径、旋回するときのキレ、真似しろといわれてもできないようなものばかりだ。

さすが502を統べる隊長だと思わざるを得なかった。

「どうしたバーフォード少佐!遅れているぞ!」

そして俺と彼女の距離に差ができていた。なぜジェットがレシプロに遅れを取っているのか?それはごく単純だ。俺が彼女の低速領域における機動についていけないからだ。

ジェット機がレシプロの速度に合わせて同じような起動をするのはかなり厳しい。ストライカーユニットだからある程度緩和されているとはいっても限度がある。

「もしかして私の尻にでも見惚れたかな?」

そしておそらくラル少佐はわかっている。先ほど、ほんの一瞬彼女と目が合った。

その時の顔は笑っていた。久しぶりに飛んで楽しいのか、はたまた俺を引き離せて喜んでいるのかそこまではわからないがこちらに顔を向けて笑っていた。

「ご冗談を!」

だからなんだ?俺だってブリタニアじゃ、ちょっとしたエースだ。そんな俺がついていけないはずがない。もちろん、こいつの力に物を言わせて飛べば距離などすぐに詰められる。だけどそれではだめなのだ。なんとなくここでラル少佐に同じ起動で飛べたら何か上に行ける、そんな気がしたからだ。数センチ単位での制御を行い数パーセント単位で出力の管理をすれば追いつける。ならやってやるさ。あっちに余裕があってもこっちにはあまりないが構わない。このまま一気に追いついてやる。

 

そしてついにその瞬間が訪れる。ラル少佐が一気に最高速度を保ちながら旋回を行いネウロイもそれに続く。さらに俺がしたから攻撃を行うことによって敵がその巨体をひねる。

「曹長、チャンスだ!」

「はい!」

そしてネウロイの上200mに位置していた曹長にとって最高の攻撃場所となった。

何せネウロイのコアは中心部よりも上、曹長の連続攻撃を持ってすればまず落とせるはずだ。

フリーガーハマーから白い煙をまき散らしながら一直線に飛んで行ったロケット弾はネウロイに直撃した。

爆炎と煙を発しながらネウロイは爆散した。

「よし!」「やりました!」

小さな破片を多数まき散らしながら徐々に小さくなっていく煙を見て喜ぶ二人。

だが、

「まだだ!」

そう、まだ撃墜できていない。Garudaはdestroy判定を下してはいない。つまり、まだ完全に落としきれず、あの煙の中に本体が残っているはずだ。

一番警戒しなければいけないのは倒したと確信した直後だ。

俺はその煙の中をじっと見つめる。まだ撃墜した直後でどこにいるのか俺やメイヴにも判別がつかない。

「全員、警戒を!」

「「!!」」

俺の警告に具体的に何に警戒すればいいのかわからないはずの2人も、彼女らの直感で煙の中に銃を向けていた。

 

そしてその瞬間、煙の中からかなり速い速度で何かが飛んで行った。

「ッ!」

直感でその物体がラル少佐に向かっていること確信した俺は銃を構える。

だがスコープを覗き、その姿を捉えるころにはラル少佐とネウロイとの相対距離が撃墜安全距離(爆発が起きても巻き込まれない最低距離。)を下回っていた。

俺がネウロイを視認した時点ですでに第三者が手助けできる余裕などなかったのだ。

「少佐!」

だからせめてもと、俺は警告をラル少佐に送った。

 

彼女はすぐにシールドを展開、敵の突進に備える。

今まで何度も修羅場をくぐって来た彼女だからこそのその展開速度だった。突っ込んできたネウロイが当たる直前に何とかできたシールド、しかしその防御をネウロイは速度で突破してしまった。

まるでガラスが割れるかのような音とともに砕け散るシールド片。

そして運よく回避できたのかネウロイが敢えて外したのかはわからないがネウロイはラル少佐の脇を通過するとそのまま南の空へと消えて行ってしまった。

「ラル少佐!」

叫びにも悲鳴にも聞こえる曹長の呼びかけにラル少佐は明るく答える。

「大丈夫だ、問題ない。けがだってないさ。」

「本当ですか?これからも戦いたいからって嘘を言ったり無茶していませんか?」

「だから平気だ。」

そんな2人を俺は眺め、もう一度南の空をにらみつける。今回の戦果は撃墜ではなく、撃退か。最後、本当に詰めが甘かったな。一瞬見えた世界第3位の背中が今は成層圏のはるか向こうにいる感じがする。とにかく、あれを撃てなかったのは俺のミスだ。そこは反省だな。

「少佐、申し訳ありません。自分はあなたのサポートでしたのに。」

「ん?あぁ、気にするな。あのネウロイの攻撃には驚いたが別に回避できないわけではなかったからな。」

「回避、できなかった、わけではない?」

つまり、普通に防げたと?さらりと言ったがこの人、本当に化け物だな。

とそんな少佐から普通に出た言葉に驚愕していたところ、熊さんから連絡が入った。

彼女らが出撃した時間を考えればすでに戦闘は終了し、帰路についているはずだが何か問題が起きたのだろうか。俺にはおそらくはブレイクのうちの誰かがやらかしたのだろう、というどこか確信めいたものがあったがな。

「熊さん?どうした?」

『ええっとですね、伯爵さんがまた・・・。』

その瞬間、俺と曹長とラル少佐の顔が険しくなる。やっぱりな。こういう時の勘っていうのは当たるものだ。ため息をしながら彼女の報告の続きを聞く。

『ほかの娘の手伝いに行くとか言ってどっかに飛んでいってしまって。』

そして“あぁ、なるほど”と一同納得する。伯爵が新兵の援護に行くことは昔からあった。それ自体は何の問題もないどころか素晴らしいことだし新兵からしてもこれ以上ない援護だろう。

だが奴はいつもやりすぎる。どうして最後のとどめを新兵ではなくお前が自ら率先してやろうとするのか?だから必要以上に被弾するんだよ。

そう心の中で伯爵を叱りながら、状況の詳細を熊さんに聞く。

「どこかとはどこだ?」まずはラル少佐から。

『あ、え、ラル少佐?方角から考えてペイプシ湖方面に飛んでいったのは確かです。その方面で別動隊が動いている情報が入ったのでおそらく間違いないと思います。』

曹長が素早くフリーガーハマーを背中に回し、代わりにウエストポーチから大きめの地図を出し俺とラル少佐が一緒になって話せるように俺たちに向けてくる。

俺と少佐は曹長が持っている地図にマークをつけて伯爵の目的地と思われる場所への距離を測る。

「クルピンスキー中尉、現在位置を知らせ。」

しかし、応答がない。絶対なにかまずいことに関わっているに違いないと思いながら何回か通信を繰り返してみても反応はなかった。

せめて監督役の俺か熊さんか誰かが到着するまで待っていてほしかったが無理だろうな。

「おそらく全力飛行中ゆえか何かに干渉しているのか、どちらにせよ、いま彼女と連絡を取ることはできないか。能力使用中に伯爵の移動速度はわかるか?」

『伯爵が使用している機材で668km/h、能力で加速すれば最低でもあと+50以上は行くと思います。』

「熊さんたちの現在位置は?」

『ルガとゼルジンスコヴォの間です。』

伯爵は皆よりも早く移動できる関係で追いかけても絶対追いつかない。そして追いつくまでにかかる時間を考えて計算するとどうやら俺がここから速度を出して目標の場所に向かったほうが速いみたいだ。

「ラル少佐、伯爵の面倒は俺が見ます。曹長、後は任せた。くれぐれもラル少佐にこれ以上、無理させるなよ?」

「おいおい、バーフォードしょ「もちろんです。絶対にさせません。」はぁ、まったく。」

「わかった。ラル少佐、行ってきます。」

「あぁ、頼んだぞ。さてさて、心配性の曹長に引率されながら帰るとするよ。」

「それが賢明ですよ。」

2人と見送りを受けて俺は編隊を離脱、一旦高度を上げて速度を増速させる。なにかやらかす前に到着できればいいのだが、とはかない希望を願いながら俺は目的の場所へと向かうのだった。

 

それから十数分後、俺が戦闘空域に到着したころにはすでに戦闘は終了していた。

3人ほどのウィッチが伯爵の周りに集まっているのは既に遠くから把握していたが目視してみるとどうやら何か話しているように見えた。。

「おい、伯爵。」

「あ“」

何やら変な声を出して気まずそうな顔でこちらを見てくる伯爵。

そして俺が話しかけたときに彼女がその手に持っているものを見て、そこでブレイクウィッチーズの本当の意味をようやく知った。彼女らが壊すのはなにもストライカーユニットだけではなかったのだ。

「まじかよ。」

そこには伯爵がネウロイを攻撃するためにすでに弾切れとなったために最後の活躍といわんばかりに叩き付けられてしまい、壊れて使い物にならなくなったMG42があった。

「おい、それはなんだ?」

もちろん正体はわかっているが伯爵に聞かずにはいられなかった。いったいどういう使い方をすればそんな形になるのか想像ができなかった。そして彼女の返答もまた予想外だった。俺から目をそらして考え込むこと30秒、彼女の言い訳とは。

「これ?ええっとね・・・。クルムラウフ(曲射銃身)?ちょっと壊れているけど。」

「帰ったら始末書な。」

これがちょっとなら大破の定義を考え直さなければならないだろう。

なにがクルムラウフだ、あれはほとんど撃つことができないとはいえ銃としての機能を持っているのだからいいのであってお前が持っているものは既にガラクタだろう発砲どころか整備だって無理だろう。

「そんな!また?今月何枚書いたと思っているの!?隊長、そりゃないよー。」

「それはこっちのセリフだ!ここ1週間はおとなしいと思った矢先がこれだ!少しは自重って言葉を知ったらどうだ!?」

「出撃が少なかったんだから仕方がないじゃないか!そりゃ、張り切っちゃうよ!」

「何が張り切るだ!どうしてそのベクトルを壊す方向から支給品を大切に使うという方に変更できないのかな!?」

「そんなことしていたらネウロイに負けちゃうよ!?」

「足りない物資をやりくりするのも戦いだ!」

「物資は使ってこそ価値があるんじゃないか!」

「だからって壊したら意味ないだろうが!!

俺と伯爵の口論をただ眺めていた3人のうちの1人が見かねて声をかけてきた。

そりゃ、いきなり目の前の口論を始めたら誰だって戸惑うだろう。彼女からしたらよくわからない何故いるのかもわからない男が命の恩人と口論をし始めたようにしか見えないはずだしな。

「あの・・・。」

「なぁに、ティア?」「なんだ?」

俺と伯爵が同時に彼女らに顔を向けると3人は固まってこちらを見ていた。なんとなくだが子犬が怖がっているときに集団になっているあれを思い出した。

「クルピンスキー中尉は私たちを助けるために、その、銃を壊しちゃったんですよ・・・。ですから、その、そのですね・・・。」

「あまり怒らないであげてください・・・。」

「お願いします・・・。」

「む。」

その3人の訴えるような眼を受けて俺は思案する。確かに、伯爵がいなければこいつらの誰かひとりが欠けていたのかもしれない。だから伯爵の功績は間違いなく大だ。厳重注意にしてもいいかもしれない。まぁ、そこはラル少佐たちと相談だ。

こいつのドヤ顔さえなければ俺は間違いなくそんな判断を下していたな。

「guilty(有罪).少しは反省する姿を見せろ。」

「そんなぁ・・・。」

俺の宣言に肩を落としながら、けれどもなんか面白い形になったと若干前向きな伯爵を連行しながら彼女たちに別れを告げる。

「それじゃあ、達者でね!」

「は、はい!本当にありがとうございました。」

「「ありがとうございました!!」」

そんな見送りを受け、なんとか引っ張りながら基地に帰るとすぐに伯爵はどこかに消えてしまった。事前に曹長に連絡して待機していてもらったのだがその包囲網すら抜けてどこかに行ってしまった。なるほど、固有魔法:マジックブーストは伊達じゃないな、なんて感心していたら1時間ほどたったところで自ら現れた。いったい今まで何していたんだ?と燻がる皆の前で一枚の紙を見せつける。

「これ見て!」

「これは?」

そこには官給品オークションの文字が。

軍はいま、何もかも足りない状況だがその一方で余っているものもある。製造過程で欠陥が発見され配備中止になったものの既に作られてしまった装備、耐久年数を超えてついでに新型の機体ができたことで使われなくなった輸送機など、そんなものを捨てるのではなく売ってしまおうというのが官給品オークションである。すべて最近まで国が管理していたため、製造されてから年月がたってはいるが状態がいいものが多く人気が高い。

「なるほど、オークションね。それで?いったいどうするんだ?」

「このMG42を出品しようと思うんだ!」

しゅ、出品?ここにいる伯爵を除く502全員が頭の上に?マークを乗せた。

「意味が、分からん。出品してどうするんだ?そもそもこれは軍のものだろうが。」

「そこについては全く問題ないよ!」

彼女の説明によるとこの1時間の間に基地を抜けて司令部まで移動し、出品の交渉と許可を取り付けて戻ってきたらしい。許可を出した士官いわく“どうせ廃棄するものだ。戦闘機などは軍事機密の塊だが、この銃は無機構化したうえで、重要な部分を外して出品する分には問題ないぞ”ということらしい。

「いやいやいや!そういうことじゃなくてだな!」

「これでうまくいけば壊した分は弁償できるよ!」

どうせ、こいつに反省しろなどといっても無駄だ。そうあきらめた俺は残りを少佐たちに任せることにした 。

「はぁ、もういい。勝手にしろ。」

結局、ラル少佐の1万ドルを超えたら今回の件はなしにしようという話で俺たちは手を打つことになった。

「どうして本当に最後の最後でダメにしていくのか・・・。」

「何か言った?隊長?」

「いや。」

 

 

そして当日。

引率役の俺は会場の一番後ろの通路で壁に寄りかかりながら彼女の出番を待つ。意外とこの位置からでも十分舞台を見渡すことができた。普段から狙撃銃を使って長距離を見るようにしているのが役に立っているのだろうか?

入場の際に渡されたプログラム進行表によると伯爵の品はお昼前、最後の時間になったらしい。これって、一番最後は取りだから期待度が高くなるか、逆にそれより前で金を使い果たして誰も買わないのどちらかかもしれないな。

そしてオークションが始まる。午前の部は主に軍関係品が出展されることになっている。

次々と俺が何度も見たことがあるようなものが100個単位で数万ドルくらいで売れていく。これ、軍からしたら相当いい商売になってそうだな。

そんなことを思いながら眺めていたらようやく伯爵の番になった。

 

『続きましては、午前の部最後の品です。それではこちらです。』

最後の品が会場に運ばれてきた瞬間、この場にいたすべての客の顔が驚きに変わった。

なんぜ目の前にあるのはただの壊れた銃だったのだから。

『皆さま、お静かに。驚くお気持ちもよくわかりますが、これからご説明をいたします。さて、それでは登場していただきましょう。この品の出品者です。』

ライトが右側の扉に集中し、そこからいつもの軍服姿に帽子をかぶった伯爵が出てきた。会場の様子からしてこの場にいる約1/3が彼女の顔を知っていて残りはおそらく名前は知っているが顔は知らないという人たちだろう。

伯爵はステージの真ん中に移動するとマイクを取る。

そしてここから彼女のステージがはじまった。

「やあ、みなさん。初めまして、中にはあったことがあるひともいるかな?まずは自己紹介を。

カールスラント空軍第52戦闘航空団第7中隊所属のヴァルトルート・クルピンスキー大尉です、よろしくね。ブレイクウィッチーズといえばもうお分かりでしょう?ちなみにここ502では事情があって中尉です。」

-あぁ、あのユニット壊しか-

-なんでも1回の出撃で1個は壊すとか-

-それはさすがに言い過ぎでは?-

-どちらにせよ、1ユニットを壊すまでに落とすネウロイの数が新人のウィッチよりも数倍以上だから司令部も怒るに怒れない事情があるらしいな-

-ただ壊しすぎて中尉に下げられたそうだ。-

-なるほど、それも納得だ。-

あぁ、なんか盛大に言われているな。

後ろから見ていても参加者が隣の人と話しているのが見て取れる。よっぽど彼らの中でも噂になっているんだろうな。あたりが静かになったのを確認したうえで進行役がGOサインを出した。

「さてたくさんのユニットを壊すことで、同時にエースとしても有名なこの私ですが先日別の部隊の娘が救援信号を出していましてね、そこへ私がこうビューンとかけつけた訳ですよ。」

両手を広げて自分を飛行機に見立て壊れた銃の周りを一周する。静かなこのホールに彼女の靴の音が響きわたる。ずいぶんのシュールな感じがするが本人は気にせずに話を続ける。

「すでに502の緊急発進命令における戦闘で弾丸は残り40発程度。援護程度しかできないことはわかりきっていました。ですが!私は彼女たちを見捨てることなど到底できませんでした。

自分の固有魔法を駆使し、ユニットが壊れて上官に怒られるのも覚悟で私は救援信号を発信している部隊に駆けつけました。」

おい、その上官って俺のことか?

一瞬彼女と目があった。俺の睨んでいる顔が見えたのだろうか、伯爵は俺にウインクをすると話を再開した。

「私の固有魔法を駆使し限界を超えて稼働したユニットは限界に近づいていました。だけれど、救援信号を出していた彼女たちも同様に、すでに限界を超えていました。

だから私は戦った。たった40発しか残っていない?違う、されど40発です。この弾丸が彼女たちの命を救えるのであればそれはその時点でただの弾丸ではなくなります。

私はその残りの弾薬を使ってネウロイを2機、落としました。だけれど最後に小型ですが1機、残ってしまいました。他の娘も既に残弾は0、シールドを張るための魔力の余裕すらありませんでした。だから私は思いついたのです。最後のネウロイを落とす方法を。

救援要請を出していたうちの1人は攻撃魔法を持っていました。そしてその子が最後の力を振り絞ってその攻撃魔法を使ってネウロイの装甲を削りました。

コアを露出させることは何とかできましたが、それを破壊することはできませんでした。

急速に修復を始めるネウロイを忌々しく思っていた私の脳裏にふと一つの案が浮かびました。

それがこの銃です。」

そうして伯爵は目の前の壊れたMG42を抱えるように持ち上げる。

そして機関部を優しくなでながら話を続ける。

「私は再び固有魔法を発動、速度を限界速度まで上げたうえでこの銃でコアを叩きました。約12kgあるこの銃をあの速度で叩き付けたのです。その衝撃に耐えきれるはずもなくネウロイは落ちていきました。

私たちは“やった、やったぞ”と歓声を上げました。ですが、ふと手を見るとこの壊れてしまった MG42が。長年使い続けた相棒ともいえるこの銃が、彼女たちの命を救ったのです。なんの後悔もありません。ですが、少し寂しかったです。だってもう治らないことは見て明らかだからです。」

Repair(直す)ではなくcure(治す)と表現するか。いったいここからどうつなげるのやら。

「軍の規定に沿えばこの銃は破損品として扱われ、処分されるでしょう。そして私には新しい銃が支給されるでしょう。ですが、それは悲しすぎます。

私は、破損品を持ち帰ることはできません。なぜならカールスラント軍人だから。

この何人もの戦友やこの空を救ってきたこの相棒をただただ、捨てるなんてできません。皆さんはできますか?長年愛用してきたもの、車、時計、杖、家、何でも構いません。ずっと使い続けてきたものがふとしたことで壊れてしまった際、“はい、さようなら”と捨てることができますか?

少なくとも私にはそんなことできません。私はこの壊れてしまった相棒が何とかならないかいろんなところに回りました。そして私はこのオークションを知りました。ならば、この事実を知って、共感してくれる誰かの手に渡ってその人の手によって大事に保管されたほうが私は幸せだ、そう思いここに出品しました。

どうかお願いです。この子はもう戦えません、ですがその勇敢に戦い壊れてしまった、その事実を無駄にさせないためには皆様の力が必要です。

ここでの収入はカールスラント難民の小さな子供たちの学校などに宛がわれるそうです。

この子の勇敢さに、カールスラントの未来に、どうかよろしくお願いします。」

伯爵は涙声でそう締めくくり頭を深く下げる。それと同時に会場から大きな拍手が沸き起こった。

いわゆるスタンディングオベーション、あたりを見渡しても座っている人間はほとんどいないほどだ。

その一方で伯爵をただ白い目で見ている俺がいた。何というか、恐ろしい演説だった。決して嘘は言っていない、がいわゆる針小棒大、誇張、大袈裟、実際に起きたことを見て、知っていて彼女のいつもの姿を見ているからこそこの立場に立てるのであってもし何も知らなければどうしていたのだろうか。

結局その感動の渦が収まらないうちにオークションは行われ、ただの壊れた鉄くずに15,350ドルの値がつけられたのだった。

 

 

「やぁ隊長、これで反省文はなしかい?」

壇上から降りてこちらに帰ってきた伯爵は開口一番、おれにそういってきた。

「詐欺師め。」

「それはひどいな。私のプレゼンテーション能力を高く評価してもらいたいものだね。」

「自分の経験を誇張するのがお前のプレゼンか?この先生きのこれないぜ?」

「そんなこといわれてもねぇ?実際、生き残ってきたし?」

運が良かっただけだろう、と言いかけてやめた。たしかにそれは彼女の努力の結果だということに間違いないからな。

「ちなみにこの交渉術はね、予備の機材を回してもらうときにその隊の指揮官にお願いするときにみにつけていった物なんだ。だから何年もかけて練りに練られたまさに私の切り札なのだよ。」

「そうか、よかったな。」

「え、それで終わり?なんかないの?“さすがっす!”とか“巨匠!”とか?なんか私のことほめてくれたっていいじゃん。」

ぶーと頬を膨らませながら不貞腐れる伯爵を横目に俺は歩き出す。すると“置いてかないで”といわんばかりに伯爵は、慌てて俺の横に並ぶと一緒に歩き始める。

しばらくの間、何も言わないままただ歩く靴の音だけが廊下に響く。そうして何も話さないまま関係者出口への最後の道についたとき、伯爵が口を開いた。

「Eines Tages, wird es eine Zeit sein Ihnen mein wahres Selbst zu sagen?」

いつの日か、本当の私を話せる日がくるのか?だと?

「いったい何の話だ?本当の私?」

「え、嘘!?」

俺の指摘に急に驚き、少し恥ずかしがる伯爵。

「あーそっか。隊長、カールスラント語わかるんだっけ。いやだな、なんか本心を聞かれたみたいで。独り言のつもりだったんだけどね。ちなみに意味はわかっちゃった?」

「まぁ、直訳ならな。だがお前の意味するところは解らない。」

「別に、なんかさ、あんな感じに嘘100%ではないけれど本音ではない事ばっかり言っていると本当の自分を見失いそうな気がして。だから本音だけで語り合いたいなって思ったの。こんなこと恥ずかしいからわざわざ言葉変えて言ったのに。隊長ったら本当にデリカシーないよね。」

いや、お前が言ったんだろうが、と言いたいのを抑える。だってこいつの言いたいことはよくわかっていたから。本当の自分を見失う、八方美人になっている自分が本来の自分を上書きしてしまいそうでたまに怖くなることがある。おそらくこいつもそうなんじゃないかなって。

「いつでもいいからさ、俺じゃなくてもいい。502のメンバーにでもいいから本音でいろんなこと話してみろ。きっとその不安もなくなるさ。」

「ふーん、そんなもんかね。」

と複雑そうな顔をする伯爵。なんかこうしているとみんなの相談役になったみたいだ。

「よし、この話はおしまい。それじゃ、今日稼いだこのお金でなんかしよっか!」

いったん切りをつけた伯爵が話題を変えてくる。ってちょっとまて。

「それって全額寄付するんじゃなかったのか・・・?」

「ちょっとくらい、いいじゃん。何する?おいしいもの食べる?なんでも奢れるよ?」

「だったらその金で壊したユニットの弁償してやれ。喜ばれるぞ?」

「いーやだよっ!あはは!」

そう言って笑いながら走り出す伯爵を小走りで追いかける俺。

なんか最近いろいろな女性に振り回されっぱなしだな、と感じざるを得ない日だった。

 

-熊さんのオラーシャ語講座-

ハインリーケたちが帰り、一段落したここペテルブルクの最初の週末。

通常ローテーションが始まり再びこの忙しい日々がよみがえってきたことにため息をつくと同時にまた空を毎日飛べる、といううれしさが頭の中でぶつかり合っていた。

とはいっても今日丸一日、俺はフリーだった。ちなみにほかに今日開いている人員は熊さんとニパだ。

戦闘隊長2人もシフトから外れて問題ないのかと思っていたが今日は問題なかった。

なぜかって?今日もあのラル少佐が飛んでいるからだ。たまにはいいだろうということで休みになったが心のどこかではやはり心配している自分もいた。まぁ、警報が鳴ったら行動すれば問題ないか、と勝手に納得し今日の休みを満喫する。

 

さて、今俺が歩いているのはペテルブルク市街地の大通りだ。

先日の事件の面影はもはやなく日曜日ということもあって多くの人が町を歩いていた。前線から最も近い大都市だけあって軍人の割合も多いがここで生活している市民も普通に歩いている。

やはり大きな港や空港、鉄道駅があり物資が集結する場所だけあって人が集まりやすいのだろう。

それにここは東欧方面の司令部があるだけあって治安警備部隊も多数いる。ほかの町よりもやはり治安がいいと聞くがおそらくはそれも関係しているだろう。

そんな俺は軍人枠なわけだが一日中、部屋でのんびりしていようかと考えたが曹長から買い物を頼まれたため、基地の外へ出て買い出しに行っていた。普通に(曹長の努力の甲斐あって)物資は来るわけだがやはり時々欠けることがある。途中で盗まれたかそれとも襲撃にあって放棄されたか実際のところは不明だがとにかく書類と実際に届いた物の数が一致しないことがよくある。

それが調味料だったりするとこれが困るわけでこうして今日は俺がオフだったためその任務を任されたというわけだ。

曹長作成の“安い品マップver1.2”を手に持ちながら一緒に挟まっている買い物リストに沿って必要なものを購入していく。

リンゴ、ワイン、パン、野菜などなど補給物資とは異なり実費を皆でちょっとずつ出し合って少しおいしくする、というのがいつの間にか502で決まっていたルールである。

皆、特に味にこだわりを持っているわけではないが不味い飯よりはおいしいほうが力は出るし。

そんなわけでリストの90%を購入し、最後の調味料“塩”を探しにここまで来た。なんでそんな重要なものが無くなっているのか、いやむしろ塩だから無くなったのかと自分で自分を納得させながら町を歩く。地図に細かく書かれた店のありかを頼りに歩くが意外とこれが見つからない。

屋台のようなお店がいくつも並んでいて非常にわかりにくい。

「いらっしゃい!」

「おい、兄ちゃん!みていかないか?」

「安いぞ!ここらへんでこんないい品でいい値段なのはここだけだよ!」

いろいろな露店の店の人から声をかけられるが軽く会釈をして目的の露店を探す。名前を探すついでに露店の品ぞろえを見ているがこれが意外と国際色が豊かなのだ。

食品をメインに売っているが脇でなぜかガラス細工を売っている店。あのペガサスみたいなのが薄い青色でいい雰囲気を出している。

様々なパスタを売っている店、うちにはロマーニャ人はいないからパスタパスタ言わないが今度出してみるか。大量に作るのも楽そうだし。

あとは、瓶詰のものを売っている店もある。マッシュルームのオリーブオイル漬けなんかを前に誰かが買ってきたっけ。

普通に野菜や果物を置いている露店、あそこからいい香りがするが、あれは紅茶の店か。

へーいろんな種類があるんだな。

と匂いを嗅ぎながら通り過ぎようとしていたら、突然店主に声をかけられた。

「お、兄さんブリタニア人かい?」

俺と目が合うと声を弾ませながら俺に話しかけてくる、

「?なぜだ?」

「いや、お兄さんが歩いてきた道の途中にコーヒー豆の店があったのにそこは通り過ぎてここでは足を止めるなんてブリタニア人以外で誰がいる?

それにペテルブルクじゃ、紅茶よりコーヒーが主流だからな。こんな店の前で足を止めるのはよっぽどの紅茶好きかブリタニア人のどちらかに決まっているさ。」

なんかそれはそれで偏見みたいになっている気がするが。コーヒーの匂いはわかっていたがその時はパスタのことを考えていたから通り過ぎただけだったのだが、なぜかここでは足を止めてしまった。きっと体に染みついた何かが反応してしまったのだろう。

なにかつられてしまった気もしないわけではないが取り敢えず話を聞く。なんか面白そうだしな。

「どうだい?なかなか種類あるだろう?この町じゃ一番種類を揃えているからきっとお前さんのお気に入りが絶対あるはずだ。」

ダージリン、アッサム、アールグレイ、フレーバーティー、ウバ、ティンブラ、ニルギリ、キームンなどなどいろいろある。しかもそれぞれに等級ごとにそろえてある。よくこれだけ集めたものだな。

きっと貴族、例えば506の連中、特にハインリーケなんかだったらこれらすべて味の違いなど判るのだろう。

だがあいにくと俺には等級の違いどころか葉っぱの違いすら分からない。たぶん何個か一度に比較できれば“お、違うな。”くらいわかるだろうけどその程度だ。

だが俺が険しい顔をしているのを勘違いされて吟味していると思われたようだ。

「ま、確かにそうだろうな。」

勝手に納得されてなんだ?と思っているとコップを差し出された。

「ウバだ。ミルクティーだが飲んでみろ。ミルクもこだわっているからな。」

そういわれて俺はそのミルクティーを口に含む。鼻からふわりといい香りがぬけていった。

「おいしいな。香りもいい。」

「当り前だろう。この時期が一番うまいんだからな。」

何を当り前のことを、と店主は腕を組みながら俺にそういってくる。いいな、これ。そう思いながら値段を聞く。

「100gいくらだ?」

「3000ルーブルだ。」

一瞬、むせそうになる。おいおい、まじかよ。

戦時下で最前線、そして嗜好品ということを考えればその値段かもしれないが、というか適正価格を知らないが。

ま、いっか。これくらいあればみんなで1回くらい食後に飲めるだろう。

だまされたと思って一回挑戦してみるのもいいだろう。どうせ買いたいものなんてたいてい支給品で済んでいるからな。意外と余っているし使うのもまた復興だろう。だがさすがに3000ルーブルは高いな。

「今度からひいきするから2500くらいにしてくれないか?」

「言うじゃねぇか。そういうのは次来てから言ってくれ。今回は3000だな。」

確かにな・・・。いきなりきた相手に500ルーブルも値下げできないか。これもなかなか言い品っぽいからな。今回は言いなりになっておくとするか。

「それもそうか。だがその言葉、次来た時も忘れないでくれよ?」

そういうと俺は3000ルーブルをわたす。

「なかなかいい葉だ。楽しめると思うぞ?」

「そうか。帰ったらゆっくりティータイムと洒落こむとするよ。」

俺はその袋を受け取りカバンに入れる。

「まいど。」

「気が向いたらまた来るよ。」

俺が店主に手を差し出すと彼も俺の手を握って握手をしてくる。なんとなく、同郷の者に会えたので挨拶したい気分だった。

「あぁ、そうしてくれ。」

そう言い残しておれは店主に別れを告げ、本来の道に戻る。道草を食ってしまったがせっかくの休暇だしいいか。いつもは歩かないところを歩くというのもまたいいものだ。

あ、そうだ。

「そういえば、この店ってどこにある?」

俺は曹長の地図を紅茶屋の店主に見せて最後の店の位置を聞く。この買い物をしていて忘れそうになっていたが俺は最後の店を探している途中だった。これ以上、迷子になるのは面倒くさいし時間の無駄だからと思い、彼に聞いてみた。

「ん?あぁ、このまま4つ行った先の白髪の爺さんがやってるところだな。」

「なるほど、ありがとう。」

詳しい位置を聞くことができ、若干地図に修正を加えて俺は最後の店へと歩き出した。

 

お、白髪の爺さん。あそこから1,2,3,4め。間違いないな。

そして俺はその露店の品ぞろえを見て驚愕した。これも、これも、あの変なのもこれ全部塩?ということはまさかここって塩の専門店?

店の軒先には3cmくらいの正六面体を3つ繋げてできたような白い結晶がぶら下げてあった。

これは・・・塩の結晶か?これくらいになるまでどんだけ時間と労力をかけたんだろうか。

なるほど、曹長が推薦するだけある。専門店ということならきっと安くていいものが手に入るに違いない。

「これ、いくら?」

俺はとりあえず、一番手前にあった塩の瓶を指際し店主に聞く。どれが安くてどれが高いのか見当もつかなかったので適当に聞いてみることにした。

「Эта соль составляет 100 рубль.(100ルーブルだよ。)」

「・・・は?」

?いま明らかにブリタニア語ではない言語で話された気がする。

「なんていったんだ?もう一度頼む。」

「Ты умеешь говорить на русском? Прости, я не могу говорить по-английски. Пожалуйста говорят России. (オラーシャ語を喋れないのか?悪いね、俺はブリタニア語をしゃべれないんだ。オラーシャ語で頼む。) 」

あー、なるほど、もしかしてオラーシャ語か?そうするとかなり厄介だな。俺はオラーシャ語がさっぱりなんだよな。まいったな。

「これ、いくら?」

俺は塩を指さして、右手でお金のマークを作りボディーランゲージを駆使して店主に自分の意志を伝える。もしかしたさっきは聞き取れなかったのかもしれないし。

「Кстати эта соль производится в Sicilia. Это очень низкая цена. Но это хорошая соль. (ちなみに、そいつはシチリア産だぞ。安いぞ。だがいい塩だ。)」

「シチリア?ロマーニャのか?」

なんとなく聞き取れたシチリアという単語だけを言ってみると反応が返ってきた。俺の望んでいる解答ではなかったがおそらく産地の話だろう。シチリア島では岩塩が有名だって話を聞いたことある。

「да. возьми это. (そうだ。取ってみろ。)」

店主はその中の一つの瓶を開けて俺に手を出すよう促し、少し俺の手の中に乗せてきた。食ったから買えとか言われたらどうしようかと一瞬思案する。が、どうせ言われたってわからないからいいかと思い、本日二度目の試食。

初めて塩の試食なんてしたがその味は

「しょっぱい。」

申し訳ないが紅茶同様、どこかの本で読んだ塩をなめた瞬間“甘い!?”なんて言っていたあの台詞を“塩なんて甘いわけがないじゃん。”という一言で切り捨てたこの俺に味などわかるはずがなかった。

「Вкусно?(おいしいか?)」

「あぁ、悪くはないな。だが塩単体ではこれがいいものなのかダメなのかわからん。」

「Kупить, или нет?(買うのか?買わないのか?)」

「まぁ、これでいいか。で、いくらなんだ?」

実際のところお互い相手が何を言っているのか理解はしていないのだが、オラーシャ語が分かる人間から見れば会話がかみ合っているように見えているのだ。

そんな奇跡が起きているとは露知らず途方に暮れ始める俺。このままいっても買えない気がしてきた。紙幣を渡せば帰る気がしたのでもうこれで済まそうか、いやぼったくられたらどうしようか。

と俺が頭の中で無限ループを起こしていると突然助け船が来てくれた。

「Он говорит, "Сколько стоит эта соль?"(彼は、“この塩は何ルーブル?”って言っているんですよ。)」

またオラーシャ語が増えた、と思いながら後ろに振り向くとそこには意外にも熊さんがいた。彼女は俺に“ここは私に任せてください。”というと俺が買おうとしていた塩を指さしながら店主となにやら会話を始めた。

「Я вас понялa. Это 100 рубль. (あーなるほど。100ルーブルだよ。)」

「Если я покупаю 5 из них, вы могли бы дать мне скидку?(5個買うからもっと安くできませんか?)」

「…да.480 рубль.(わかった、480ルーブルだ。)」

「450!」

「475.」

「OK, Я это куплю.(OKです。買いましょう。)というわけでバーフォード少佐。5個で475ルーブルみたいですけど、どうします?といか、私買っちゃいますって言っちゃったんですけど良かったですか?」

「え、あ、あぁ。いいと思う。」

「了解です。」

流れるような美しい発音に驚きながら何もできないでいる俺の横で熊さんは自分の財布から500ルーブルを取り出して店主に渡して買い物を済ませてしまった。

 

「はい、どうぞ。」

店から離れて通りに出ると熊さんは買ってくれた塩を俺に渡してきた。

「ありがとう、熊さん。本当に助かった。本当に相手が何を言っているのかさっぱりわからなくて途方に暮れていたんだ 。」

俺は彼女の払った475ルーブルを通訳してくれた感謝を込めて1000ルーブル分、渡そうとするがそれを熊さんは、はっきりと断った。彼女は口を尖らせ感情を少し表に出していた。

「熊さん?」

「私はですね、お金が欲しくてバーフォード少佐を助けたわけじゃないんですよ?同じ仲間だからです。そこは勘違いしないでください。」

腰に手をあててその白い髪を揺らす熊さん。

「あぁ、すま・・・。」

「それにすぐ謝る。自分がいいと思ってしたことなんだからそれにはちゃんと自信を持ってください。」

あれ?なんで俺、こんなに怒られてるの?

「了解。」

おそらく、一番無難な返事をすると“よろしい。”と曹長のようにいうと、いつものように微笑む。

「ただ少佐があんな風に困っているのは斬新でしたね。」

「うるさい。そういう時だってあるさ。ま、ありがとうな。」

「“Спасибо”」

「・・・なんだって?」

「Спасибо、オラーシャ語で“ありがとう”です。覚えておくと楽ですよ。」

「superciver?」

俺のその発音に首をかしげる熊さん。

「俺はあっているつもりなんだけどな・・・。」

「なんか、違うんですよね。」

どうやら俺の発音は彼女からすると違うように聞こえるようだ。俺としてはかなり似せたつもりだったんだが。

「とにかく、今度なにか熊さんが困ったことに直面していたら何か助けるよ。そうだな、ユニット破損報告書作成の手伝いなんかどうだ?」

「嬉しいし助かります。バーフォード少佐がそういってくれるなら、それに関しては甘えるとします。」

お互い昼と夜の戦闘隊長ということだけあってお互いの苦労を理解しあえるのはいいことだと思う。

「それで、どうしてあそこにいたんだ?今日はてっきり機体の整備でもやっているもんだと。」

「確かにそれも大事ですけど、今日は大事な買い物があったので。」

「何を買うつもりだったんだ?」

「下着ですよ。」

「は、え、いや、あの、熊さん?」

何を当たり前のことを?と言いたげなくまさんに俺は慌てる。

まさかそんな単語がいきなり出てくるとは思わなかった。

「・・・あ!」

俺が、慌てるのをみて自分の失言に気がつく熊さん。真っ赤にして顔をそむけてしまう。

「・・・わざわざ言わなくてもよかったのに。」

「みんなと同じような感覚で言ってしまいました・・・。失礼しました・・・。」

「「・・・。」」

 

「あれ、食べよっか。」

ちょうどクレープの屋台があったので熊さんを誘う。あれがあってよかった。

もしなければこの空気のまま帰らざるを得なかった。

「あ、いいですね。そうしましょうか。」

気まずい思いをしていた思いを振り切るかのように彼女もすんなりと同意してくれる。

ここでの屋台ではちゃんとブリタニア語が通じたので今度はちゃんと2人分の代金は支払えた。

「おいしいですね。」

「あぁ、そうだな。」

こういった食べ歩きも熊さんと歩くというのもやっぱり面白いものだな。ずる休みをしているみたいだ。

「いつも買い出しはほかの奴に任せて俺はここに来ることなんてなかったからな。たいてい曹長と一緒に物資基地に行く程度だったからこんなことは全く想定していなかった。

そりゃ、どこでもブリタニア語が通じるわけないか。ここオラーシャ帝国だもんな。」

「そうです、私の大好きな祖国です。」

オラーシャはその領土の何割かはネウロイに占領されている。彼女の生まれた場所はわからないがもしかしたら今も帰ることができない場所なのかもしれない。

「ちなみに、自己紹介するとどうなるんだ?」

「私ですか?」

「あぁ、さっきの会話を聞いていて気になったんだ。オラーシャ語で熊さんが自己紹介すると、どうなるのかなって気になったんだ。」

意外とおかしいかもしれないな、と思いながら熊さんのほうを見る。

熊さんはなんか恥ずかしいですね、と言うと一回“コホンと”声を整えたうえで、

「Здравствуйте. Меня зовут Александра Ивановна Покрышкин Капитана.

Я принадлежу к Сухопутные войска Орася империя 216-ю истребительную авиационную дивизию, а также 502JFW.

Между прочим, Мой знакомо является Белый медведь.

(こんにちは、私はアレクサンドラ・イワーノブナ・ポクルイーシキン大尉です。オラーシャ陸軍第216航空飛行師団および502JFWに所属しています。ちなみに私の使い魔はホッキョクグマですよ。)」

ふう、と息を吐くとどうでしたか?と首をかしげて聞いてきた。

「だめだ、何言っているかさっぱりわからない。」

「ふふ、初めて聞いていきなりわかられちゃったら困りますよ。私のオラーシャ語の通訳という仕事がなくなっちゃいますからね。」

そういえば、何回か物資の説明がオラーシャ語で書いてあったためになんて書いてあるかわからなかくて困っていたところを助けてもらったことがあったな。

「そういえばバーフォード少佐はカールスラント語しゃべれるんですよね?どうしてそれにしたんですか?」

「そんなこと話したっけ?」

「えぇ、前に。確か新聞の話だったような。」

あーなんとなくそんな話をしたような?売る覚えだが彼女が言うのだから間違いないのだろう。

「昔、外国語の選択の時にほかの言語を勉強するのがなんというか、つらかったんだ。だからふざけてリベリオン語(アメリカ語)と書いたら教官にものすごく怒られてな、選択する余地すら与えられず気が付いたらカールスラント語(ドイツ語)になっていたんだ。」

そういうと熊さんは驚いた顔をしてそうなんですか?と聞いてくる。

「え、なんか意外ですね。少佐ってそんなふざけたことするんですね。」

「たまにな。でも今は良かったと思っているよ。なんせカールスラントのウィッチっているのはどこに行っても必ずいるからな。彼女らに言葉を合わせると意外とスムーズにコミュニケーションが取れるからな。ちなみにブリタニア語が喋れればカールスラント語も覚えやすいっていうのはあれ、嘘だぞ?確かにちょっとは似てはいるけどね。」

ヴェネツィアいった時もマルセイユやその上官と彼女らに合わせて話したことですぐ打ち解けられた気がするし。当時はまさかこんなことになるとは思ってもみなかった。FAFではドイツ語を使う機会がなかったから忘れてしまっていたかな?と思ったがこれが意外と覚えているものだ。

やっぱり何事もやっておくものだなと痛感した瞬間だった。

「それならこの機会に少し勉強してみません?何回かほかのウィッチに教える機会があって軽くだったら教えられますよ。もっとしゃべれるようになればきっとここでももっと楽しく過ごせると思いますよ?」

まぁ、知っていて損はないしペテルブルクでオラーシャ語が話せれば多少楽だろうし。

「熊さんが大変じゃなければ、頼みたいな。少し興味もあるし。」

「そうですか!わかりました!」

俺の教えてほしい、という言葉に笑顔を咲かせる熊さん。オラーシャ人が1人しか502にいないため自分の本当に伝えたいことを自分の母国語で話せないというのは意外とつらいものだ。

だから一人でも多く、自分の本心からの言葉で伝えられる人が増えるのは彼女にとってもいいことなのだろう。

「まずオラーシャ語は母音が10個、子音が21個、それ自体は発音されない記号字母が2つ、計33文字で構成されています。」

「はぁ。」

「а,ы,у,э,о が硬母音、я,и,ю,е,ёが軟母音と言われそれぞれ分かれています。後は全部子音ですが子音と軟母音の間に入れるъや子音の後につけてその子音を軟音化するьがあります。」

「また発音にも変化が起きて子音の発音が変わったりするんですよ。」

「へー。」

だめだ、全然わからない。文法のルール以前に発音でつまずくとは。

「例えばですね。」「済まない、熊さん。ストップだ。」

嬉しそうに話す彼女を止めるのは申し訳なかったがもうこの時点で躓いているのにこれ以上聞いてもわかるはずがなかった。

「あー、言いたいことわかりました。」

そういって熊さんは苦笑いをする。

「すまないな。理解が追い付かなくて・・・。」

「まぁ、そうですよね・・・。」

そういってうなだれる俺に熊さんは心配そうに俺を見てくる。

「どうしたんですか?少佐?」

「いや、数カ国語しゃべれるからってオラーシャもいけるかなとは思っていたんだけど手も足も出なかったからな。」

「そんな短時間でできるわけないですよ。もっとゆっくりと時間をかけないと。」

「いや、それはわかっているんだが・・・。」

実はちょっと余裕だろうと心の中で思っていただけにショックなのだ。

 

そんな少し落ち込んでいた俺の耳に後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。誰だろう?と思いながら振り返ると

「バーフォード少佐とサーシャだ。やっほー。」

「こんにちは、ニパさん。」

「ニパ?こんなところで何やっているんだ?」

そこにはわが隊一の不幸な二パがいた。

「なんかね、本国から何か重要な連絡があったらしくて最初は司令部に行ったんだけどここにはないからって大使館に行かされたんだ。1時間待たされた挙句その連絡はなんだったと思う?

昇進延期だってさ。なんでもユニットを壊しすぎているのが仇になっているみたい。」

そういうとニパは肩を落として落ち込んでしまった。

まぁ、彼女のストライカーユニット破損理由はほかの2人と違って何でそんなに不幸なんだ?といいたくなるようなものばかりだ。しかし本国の連中からしたらたまったものではないからなぁ。

本当にお金が絡んでくるとろくなことがない。

「それは、なんというか。」

「本当だよ!確かに自分が悪いこともあるかもだけど、3回に1回くらいは事故だよ!」

「だが、あんな感じにいつも盛大に墜落しても生き残るっていうのはパッシブタイプの魔法のおかげか?」

「うん、あれがなければ絶対死んでいたね。」

あははと笑う彼女だが俺と熊さんは戦慄していた。隊長ゆえにどういう状況で墜落したかは知っている。あんなので生きられるほうがおかしい。いつか本当に大けがをしないかひやひやしているのだ。」

そんな俺たちの心配をよそにいつもの通り元気な二パはどうやらこちらの話題が気になっていたみたいだ。

「ところで、なんの話してたの?」

「ん?あぁ、言葉の話だ。」

「言葉?」

そして俺は先ほど熊さんに助けられたことを話す。

 

「ほーなるほど。私もオラーシャ語は無理ダナ。」

「あ、今のエイラっぽかったな。」

「え、そう?」

といいながら笑顔になるニパ。なんだかんだであいつらって仲がいいんだな。

「ちなみにスオムス語で“こんにちは”はどう発音するんですか?」

「Hyvää päivää!」

「「?」」

なって言った?熊さんと顔を見合わせてもお互いよくわからない。

「やっほー程度だったら”moi”でもいいかも。それでじゃあねーが“moi moi”だよ。」

もいもい?それじゃあ久しぶりに会ったね、はもいもいもい?

「なんか可愛いですね。」

「でしょー。」

こうしてニパのスオムス語が可愛い、という話が結局基地に戻るまで続くのだった。

ただ最後まで熊さんの俺がオラーシャ語は難しい、といった時のあの少し悲しそうな顔がどうしても頭の中に残っているのだった。

 

だから少し勉強してみることにした。熊さんには少し下地ができてからまた教えてもらおう、そう心に決めながら。

 

そして2週間後。

「あ、熊さん。おはよう。」

「あ、少佐。おはようございます。」

だが俺は一瞬、せっかく覚えたフレーズが頭の中から消えてしまう。ずっと黙ったままの俺を不思議そうな顔で見てくる。

「あー、えっと。」

「?どうされました?」

あ、そうだ。とようやくまるで空から降ってきたかのようにフレーズを思い出せた。

「Как депа?(調子はどうだ?)」

俺のオラーシャ語に一瞬びっくりすると微笑みながら同じオラーシャ語で返してきた。

「Хорощо.(元気ですよ。)」

ふう、と思わず息を吐く。何とか通じた。意外と発音の練習が難しく時間がかかったがちゃんと伝わっているようで安心した。

「俺の発音は間違ってない?」

「やっぱりブリタニア語の訛りが残っていますけれど、聞きやすいですよ。」

「よかった。Спасибо(ありがとう。)」

「Пожалуйста.(どういたしまして。)それで、どうしていきなりオラーシャ語を?」

そして案の定不思議そうな顔をしながらくまさんが聞いてくる。

「前に通訳して助けてくれたことがあっただろ?市街地で塩かったときのだ。あの時はダメダメで教えてくれるって話、流れちゃっただろ?だから俺も反省したんだ。今は、習いたいって気持ちが大きいし基礎もやった。だから時間あるときに、またオラーシャ語教えてくれるかな?」

“もちろん”と笑みを浮かべながら約束してくれた。

「少佐がオラーシャ語を喋れるようになるまできっちり、教えてあげます。」

「あぁ、よろしく頼むぞ。」

俺が右手を差し出すと、くまさんもその手を取る。きっとこの経験は無駄にならないはずだ。

そう思いながら新しい決意をするのだった。

 

 

-もう一つの使い魔たち-

目が覚めたとき、あたりには何もなかった。あるのはただ真っ白な世界。さえぎるものは何もなく、ただただそれが永遠に遠くまで広がっていた。

なんだ?ここはどこだ?

目覚めた瞬間、自分が全く知らない場所にいるというのはこれが初めてではないがどれもこれから起こることは自分の想像の範囲を超えているものばかりだった。

 

まずは状況確認だ。

眠る直前のことは覚えている。格納庫に言って機体のチェックをしようとしたらちょうど下原が出撃する直前だった。そこで少し話しをした後、俺は機体のメンテナンスを行った。いつもなら昼間のうちにしていたが今日は忙しくてその時間が取れなかった。だから10時以降といういつもよりも遅い時間から1時間半ちょいかけて軽いメンテナンスを行った。で、そのあと自分の汚れを落としてそのままベッドにもぐりこんだ。

俺が覚えているのはここまでだ。しかし寝ている間にどこかに誘拐されて閉じ込められてしまった、という感じではなさそうだ。なんというか、現実という感じがしない。空気のぬくもり、衣服の擦れる感覚、地面を踏んだ時に感じるコンクリートの固さ、体を動かしたときに感じる筋肉の動き、そのすべてが全く感じられない。これは夢なのか?前に経験したのと似たようなものなのか?

だがあの時は後で案内されて気が付いたが、最初から出口があった。だがここには出口どころか人工物が何一つない。どうやって抜け出せるのやら。

試しに目を閉じて頭の中で“起きろ!!”と念じてはみたが特に状況が変化するようなことはなかった。ま、そんなことで覚めるような夢だったらこんな経験ができるわけないか。

とはいうものの、一体どうしたものか。あたりを見渡しても誰もいないし何もない。

「まったく、誰かいないものか?」

思わず独り言をつぶやいてみる。

 

 

「あら、それは私に言っているのかしら?」

 

 

「!?」

思わぬ返答に驚き、慌てて後ろを振り向くとそこには一人の少女が立っていた。ピンクの髪に銀色の髪飾り、白いマントに白いスカート。さらしているその足は傷一つないきれいな足だった。

「誰だ、お前は?」

先ほどあたりを見渡した時、だれもいなかったその場に突然現れたその少女に、俺の彼女に対する警戒度は一瞬で最大になる。

思わず腰に手を当てて、そこにあった拳銃を取り出そうとするが彼女はそれを許さない。

ふわりと、俺の元まで一瞬で距離を詰めると右手を俺のほおに当て、左手で二の腕をつかんでくる。掴むといっても怪力で押さえつけるのではなく触れる程度につかんでくるだけ。

たったそれだけ、それだけなのに俺は動けなくなってしまった。まるで暗示にかけられているかのように俺の頭の中から彼女の拘束から脱出する、抵抗する、というオプションが消えてしまった。

「そんな怖いもの出さないの。ね?」

そして彼女がそう俺の耳元でささやくとついに右手から力が抜けてしまい、抜きかけていた拳銃を地面に落としてしまった。

「誰だ、お前は?」

体から抜けそうになる力を何とか抑えながら再度、彼女にそう問いかける。

「あら?私のこと知らない?そんなはずないわ。」

そして踊るように、舞うように俺から離れた彼女はこう言った。

 

「私はメイヴよ。コナハトの女王にして戦いの女王、そして永遠の貴婦人にして恋する少女。私に寄り添わない男、手に入らない至宝はないわ。なぜならすべて私のものだもの。」

そして彼女と俺は正対する。そしてそのメイヴは俺の瞳を見つめ、ニッコリと笑顔を浮かべながら俺に問いかける。

「ねぇ、あなたはどうかしら?あなたは私のために戦ってくれる戦士になってくれる?」

 

その瞬間、一面真っ白だった空間に一つの部屋が出来上がる。

白色の壁紙に天幕までついたベッド、大きな窓の外からは緑色の草原が広がっている。地面は明るい色のカーペットが敷かれまるで誰かの私室のようなものが一瞬で作り上げられた。

俺は周りを見渡したあと、改めて目の前の少女に目を向ける。

「ん?何かしら?」

女王メイヴ。あれは確かシェークスピアの本だったか、彼女の絵を見たことがあるが全くといっていいほど似ていない。本当に女王メイヴなのか?

だが彼女自身がメイヴと名乗っているのだからおそらく本人なのだろう。自分の思い描いていた人物像とのギャップを感じながらも俺は彼女と話すことにした。

「女王?確かにそうだろうがお前の本質はそうではないだろう。どちらかといえば“女神”じゃないのか?」

まずは、一番最初に思い浮かんだ疑問から。

「ふーん。あなた、私のことをそう見るの?別にいいけれど。」

 

ここですこし彼女に関する説明。

はじめに、女王として描かれることが多い彼女だが女神であることはもはや明確であると考えられている。アイルランドの戦の女神だけでなく地母神、繁殖の女神としての性質を持っていたと思われ、彼女は少なくとも9人の王と結婚したとされるがその結婚も普通のものではなくむしろ恵みを象徴とする女神と王との聖なる婚姻を意味している。

メイヴが登場するのはアルスター神話群の「クーリーの牛争い」。

メイヴは夫のアリル王よりもコナハトの支配権を持っていたがアルスターのクーリーにいたドウンという牛を手に入れようと軍隊をアルスターに向ける。この戦争の時に彼女は戦士たちと肩を並べ戦ったらしい。ちなみにクー・フーリンをゲッシュ(Geiss:名誉に関する魔法的な拘束でアイルランドの王や英雄たちに課せられていた。これを破ると運命の破滅につながるといわれている。)をやぶらせて彼自身の魔法で槍を奪って自身を殺させたのもこの時。

そのあとは変な死に方をするが死後も彼女への信仰は続き、妖精の女王で夢をつかさどるマブ女王と混同されていくことになる。現代でも現実で彼女を見たという人がいるがそれが死後何百年後であっても彼女への信仰が続いているという何よりの証であろう。

 

彼女は先ほどできた目の前にできた椅子に座り、立ったままの俺を見かねて声をかけてきた。

「別に私の許可など必要ないのよ?さ、座りなさい。」

先ほどのことがまるで嘘のかのように力がある程度戻っていたので俺は目の前の椅子に訝しながら座る。そしてどうやら俺の質問には答えてくれないようだ。何か思うところがあったのだろうか。

 

「それで、俺に何の用だ?それにここはどこだ?」

なら質問を変えるまで、と思い俺は一気に思っていたことを口にする。

「質問が多いのね。少しは余裕を持ったらどうかしら?」

それが彼女には俺が慌てているように見えたのだろう、実際不安が心を支配していたが。そんな様子の俺にメイヴは諭しながら飲み物を渡してくる。そして“お話しするんだから基本よね。”といいながら小さな菓子類を一緒に差し出してきた。

俺はいまだ状況が呑み込めていなかったがまずは話を進めるためにその飲み物に口をつける。

「どう、おいしいでしょ?私が淹れたんだもの。当り前よね。」

「あぁ。いいと思う。」

その香りは紅茶でもなくコーヒーでもなくハーブティーだった。あまり飲んだことはないはずだったがこれはこれでいいものだった。

 

ある程度のみ干して穏やかな雰囲気になり始めたところで俺は疑問を一つずつ、ぶつける。

「それで、お前は何者なんだ?」

まずはそもそもの疑問。

「だから私は女王・・・。」

「違う。」

そうじゃない。それはもう聞いた話だ。俺が聞きたいのは

「どうして、その女王メイヴがこんなところにいるんだ?」

そもそもの謎だ。かつての神話に出ていた女王メイヴがただの少し数奇なことを経験したに過ぎないパイロットに何の用だ?俺なんかよりもずっと世界に貢献した男などいくらもいるだろうに。

ただ、彼女の答えは予想外に単純なものだった。

「そんなの、私があなたとお話ししたいから呼び出したに決まっているじゃないの。もう長い間一緒に空を飛んでいるのだからあなたに興味を持つことがおかしい?」

おかしいに決まっているだろう。話?一体何を話すというのだ?

「一緒に飛んでいたというのはどういう意味だ?俺とお前はこれが初対面のはずだが?」

俺の問いに対して首を横に振って否定するメイヴ。

「確かにこうやってあなたと会うのは初めてだわ。でもね、私はずっとあなたのことを見ていたわ。そうね、わかりやすく言うのなら・・・艦魂って聞いたことない?私も詳しくは知らないのだけれど艦の化身なんて言われているもの。同列視するのは厳密にいえば間違っているのだけれど、わかりやすく言い表すとすればそんな感じね。」

そもそもすでに死んでいる、というか生きていたのかすら俺にはわからないやつがどうして今目の前でこうして話せているのかすら理解できていないのにそれ以上のことを話されてもわかってくれと言われてもそんなの無理だ。だから俺はとにかく知っている知識で何とか理解しようとする。

「馬鹿げている。つまりお前はゴーストとでも言うのか?」

「そんな下級のものと一緒にしないで。それじゃ、聞くけれどあなたの目の前にいるのはいったい誰?」

「女王メイヴと名乗る身元不明の少女、というのが今の俺の感想だ。」

そんなかたくなに認めようとしない俺に初めて困った顔をするメイヴ。何かを考えうように指を顎に当てて上を見つめる。

しばらくすると何か思いついたかのように笑顔になる。

「一度だけよ?私がこんなことするのは本当に恵まれた男だけだからね。」

「一体何を・・?」

そうメイヴが言うと俺の額にキスしてきた。

その瞬間、俺の頭に激しい痛みが走る。それと同時に脳裏に俺が見たことがないような映像や画像が流れていく。それは俺が理解する速度をはるかに超えてあらゆる情報が流れてきているかのようだった。

思わず椅子から転げ落ちてしまうが、それが痛みを和らげることにはつながらない。まさにこれが“頭に知識が流れてくる”というべき事なのだろう。

5秒か、30秒、1分かあるいはそれ以上だろうか、俺には把握できないような時間が経過してようやくメイヴが声をかけてきた。

「どう?これで信じてもらえた?」

何回も咳をして、激しい頭痛に顔をしかめながら彼女をにらみつける。

「何を、した?」

「単純なことよ。私の記憶を少しだけ見せてあげたの。あなたがそんな風になるのはまだまだ初心者だからよ?」

「これが少しだと?」

見せられたその絵を思い出す。どれも戦いの記憶だった。時に自ら先陣を切り、時に指揮官として戦っていた。確かに戦の女神にふさわしい振る舞いだったがそれがメイヴ本人だとはわからない、というのが本音だった。だがまたあんなことをさせられるのは御免だ。だから仕方なく俺は認めることにした。

「それで、わかってくれたかしら?」

「あぁ、痛い程にな。」

彼女は俺に手を差し伸ばしてそう言ってくる。頭がふらついてうまく立ち上がれそうになかったので素直にその手を借りる。

「平気?」

自分がしておいてその質問はないだろう、と心の中で罵りながらも“問題ない”と答える。

確かにお前さんのことを知らなかったのは悪かったが、もっと別な方法にしてくれればよかったのに。

そんな俺が心の中で愚痴を言っているのを感じ取ったのかメイヴが謝罪をしてきた。

「ごめんなさい、こんな方法しかあなたに私だって認めてもらう方法が思いつかなかったの。あなた自身が私の伝承を知っている程度でその詳細を知っている様子ではなかったから直接見てもらったほうがわかってもらえると思ったの。」

それに対し、俺は疑いのまなざしを向ける。直接見せるって言ったって、あの痛みで何個か忘れてしまったぞ?何のためにあんな痛みを感じたと思っているんだ?

「そんな顔されると私、悲しいわ。」

「させたのはお前だろう?」

俺の指摘に思わず、体を縮めもう一度謝罪をしてきた。

「ごめんなさい。もうあなたが傷つくようなことはしないわ。」

「・・・わかってくれたならそれでいいさ。」

素直に謝ってくるメイヴに驚きながらも、俺はうなずき席に座る。

向かい側に座ったメイヴはそれがうれしかったのか“ありがとう。”と笑顔で言ってきた。その表情と声に思わず、心が揺れそうになる。

「えっと、どこまで話したのかしら?そうそう、機体のメイヴに私があなた流に言えば“取憑いた”というところね。実際のところ私の名前をつけている空飛ぶ乗り物が出来たから気になってこちらに来ただけなのだけれどね。ただ面白そうなことをしている、としか思っていなかったのだけれど思わぬ収穫があってよかったわ。」

「収穫?」

「そう。それにね、今の私は満足しているわ。私の気分でこちらに来たとはいえ、まさか私が誰かに振り回されるなんてね。そしてライダークラスである私が騎乗するのではなく、逆にされる側になるなんてね。

でもね、あれほどの速さを出せるのは本当にすごいわ。きっと最速のランサークラスの英霊ですら私に追いつける者などほとんどいないと思うわ。

あとあんなに遠くまで見渡せる“れーだー”というものも素敵ね。姿が見えなくても何処にいるのかの居場所を捉えられるのだからアサシンの気配遮断だってもう怖くないわ。まさにたくさんの種類の宝具を使いこなすライダークラスの特権ね。」

そして矢継ぎ早にメイヴが語る内容に全くついていけない俺がいた。

「ちょっとまて、いったい何の話だ?ランサー?ライダー?それは俺の機体と何か関係があるのか?」

「そんな焦らないの。いつか教えてあげるわ。その時まで、待っていてね。ね?」

「ずいぶん焦らしてくる女王だこと。」

「あら、そういう女性のわがままにも付き合うのが紳士の役目でしょ?」

「頼むから紳士の意味を履き違いないでくれ。」

まったく、付き合っていられないよ。

とりあえず、今は教えてくれないようなので俺はまたの機会にとあきらめて彼女の話を聞き続ける。

「とにかく、あちらの世界じゃ、私を使うやつはみんなつまらない男ばかりだったわ。というか変な奴?みんなハード(私)ではなくソフト(AI)に興味を持っていた。私はただの道具、空を飛ぶために必要なただの機械、その程度にしか見ていなかった、あそこにいるほとんどの人間がね。

そんな奴ら大っ嫌い。私は私に恋して私につき従い私になびく男は大好きだけど彼らは全く当てはまらなかった。つまらない奴らね、乗られているだけでイライラしたわ。

だけどあなたはどうだった?ねぇ、あなた私と初めて最初に会った時私になんて声かけたか覚えていて?」

もちろん、忘れるわけなかろう。

俺は初めてあの機体と出会った時のことをを思い出す。

久しぶりにFAF本部があるフェアリィ基地へ来た。

特殊戦に配属になり、不安だったがジャックは雰囲気がいい人だった。あの時は心底“いい上官に恵まれたものだ”と思った。彼に連れられて地下格納庫につき、案内された先にその機体があった。

事務的な連絡、この機体の諸性能を軽く説明をするとすぐにジャックはいなくなってしまった。

そして俺はその今まで乗っていた機体よりもはるかに性能がいいこいつを操れるか、そしてこの部隊でやっていけるのか、いろいろな不安が渦巻いていたがコックピットの座席に座った瞬間にそんな不安は不思議となくなった。代わりに俺の心にあったのは心地よさだった。まるで俺が来るのを待っていたかのように思えてしまった。今になればバカだ、と思える。だけどその時はそう感じていた。

だからだろう、俺は心地よさから思い出した昔の夢を思い浮かべながら、こういったのだ。

 

 

「「Please lead me to the true sky,madb.(メイヴよ、どうか本当の空へ俺を導いてくれ。)」」

 

 

そして同時に俺と彼女の口からその言葉が紡がれる。俺の驚いた顔を優しく微笑みながら話だす。

「あの言葉は特に印象的だったのを覚えているわ。あなたが来るまでは正直に言えばずっと寂しかった。例えば一番機のパイロットなんて“雪風”としか言っていなかったし。

“私はメイヴ!女王メイヴよ!”といってもあのAIに邪魔されて気がついてくれない。誰も私の声に気がついてくれない。悔しかったし、つらかった。だけどあの時自分にできることなんて何もなかった。だから我慢したわ。

それからいくらかの月日がたって、あなたが目の前に現れた。最初は例にもれず変な奴が来たのでしょう?、と思った。結果的にはそれはある意味正しかった。

だってあなたはAIに対してではなく私に語りかけてくれた。その時、ちょっぴりだけどうれしかったのを今でも覚えているわ。だって初めての人だったんだもの、私に話しかけてくれた最初の人だった」。その時からね、あなたとお話しをしたいと思うようになったのは。」

そんなこと言われてもな。俺は訓練生時代から初めて乗る機体には声をかけていた。もちろん相手は機械だ。返答なんて求めていないし、逆に返ってきたら怖い。現在進行形でちょっと不安だ。

 

ただ、何というか、ジンクスのようなものだ。こんな経験ないだろうか?

調子がおかしいストーブの前で家族と新しいストーブに買い替えようかと話し始めると心なしか調子がよさそうに見える、なんてことが

パイロットにとって戦闘機というのは単なる機械ではない。命をあずけ共に戦い、ともに空を飛ぶ。

それは戦車であったり艦艇であったり下手をすればそいつと命を共に落とすことになるかもしれなのだ。そりゃ、愛着の一つくらい沸くさ。

だから俺があの時声をかけたのも俺が初めて乗る機体に行うただの儀式のようなものに過ぎない。そんなものに一々何か思われてもな・・・。

 

「一つ聞いていいかしら?the true skyってなに?フェアリィの空は偽物なの?」

「え?」

物思いにふけっていた俺をメイヴがこちらに呼び戻す。

夢の中でそんなことができるんだなと感心しつつもメイヴの問いに答える。

「別にそういうわけじゃない。空に偽物も本物もあるか。俺が言いたいのはそういうことじゃない。もっと単純なことだ。」

「じゃあ、どういう意味?」

「・・・俺はあのフェアリィの空が嫌いだった、それだけの話だ。」

この青い空にずっと憧れて紆余曲折がありながら数年遅れで入ったパイロットコース。地球での訓練では確かに飛べていたが緊張もあって記憶はあまり残っていない。ようやくウィングマンバッジを手に入れたと思った矢先、俺は幸か不幸かフェアリィへ行くことになった。だから俺が青い地球の空を飛べていた時間というのは総飛行時間で考えるとそんなに多くない。

確かに空を飛ぶのは好きだ。趣味はなんだ?と聞かれたら真っ先に巡航飛行だと答える。

空から地上を見下ろしている時、まるで自分が人間ではなく地球の一部になったかのような思いにさせてくれるあの場所。たいていの人はそこを成層圏、と一言で切り捨ててしまうが俺にとってそこは聖地だ。まさに人生の原点がそこにあるといってもいい。だからだろうか、俺はあの緑色の空が好きにはなれなかった。空なのは間違いないのだが俺の好きなものではない。

ゆえに俺はメイヴに願った。どうか俺にとっての本当の空、あの真っ青でどこまでも飛べそうな気にさせてくれる群青の空、限界高度ぎりぎりから見るあの青と黒の狭間の世界へもう一度連れていってくれないか、と。

こんなことを言っても理解してくれる人は少ない。これはパイロットを志したものだけがわかる空へのあこがれだ。誰にも好きなものは存在するが俺はたまたまその対象が空だった。それだけの話だ。

誰も理解してくれくれなくたって構わない、そう思っていた。

 

ところが意外にもメイヴは俺のいうことを理解してくれた。

「私も。あの緑っぽい色は誰かが作ったみたいな感覚にさせられて嫌だったわ。」

“まるでフェアリィの空はただの幻想、映し出された虚無みたい。”そう嫌な顔をしながらつぶやいた彼女に俺は同意する。

「その気持ちはよくわかるよ。とにかく気味が悪いんだ。何というか、本能が受け付けないんだ。あんなの、空じゃないって。偽物だってね。」

「そうそう!まさにそんな感じよ!それに何かに見られている感じがして落ち着かなかったわ。」

そう言うメイヴはまるで興奮が抑えきれない様子だ。満面の笑みを浮かべて楽しい、うれしい、そんな感情を隠さず逆に前面に押し出すかのような雰囲気を醸し出す。

その姿は無邪気な少女、そのものだった。

 

「やっぱり私たちって気が合うのよ。ここにあなたを呼んでよかったわ。」

「・・・そうか、よかったな。」

先ほどから急に気分がよさそうなメイヴに若干押されかけている俺にさらに彼女は話してくる。

「さっきも言ったけれどずっと前から、それこそあなたが私に初めて声をかけてきてくれた時から二人っきりでお話ししたいと思っていたの。何が好きで何が嫌いか、あなたの全てが知りたかったから。

だから今、私はすごく幸せ。ただ空が好きだっていうのは意外だったわ。なにせ私を好きになった人は皆戦士、剣を振るい、槍を振るい、斧を振るうから。

だからあなたは私にとって新鮮、斬新とも言うべき人かしら?」

「それは俺だって同じだ。まさか夢の中で自分の意志で誰かと会話をできるとは思ってもみなかったし、しかもその相手がずっと一緒に飛んできたメイヴと来た。存在自体が不思議だし、話していることが分からないところもある。もし、目の前にいる女王メイヴが機体のメイヴと似たような存在だというのなら今後も長い付き合いになりそうだな。」

「長い付き合い、ねぇ。それはパイロットであるあなた次第よ?あと数年かもしれないし、明日かもしれない。そこの所はわかっていて?」

「もちろんだ。俺だってそう簡単に死ぬとは思っていないし、そもそも死にたくないからな。」

「ふふ、ならいいわ。楽しみにしているわ。」

“あぁ、そうしてくれ。”と俺はつぶやいた後、残り少なくなったハーブティーを飲み干した。

「うん、そうね。決めたわ。」

それと同時に唐突に彼女は立ち上がり目の前のテーブルを、腕を振るって消し去ると俺の前に立つ。

 

「ねぇ、あなた。私のものにならない?」

「は?」

メイヴの告白に俺は驚いた。頭が真っ白になったといっても過言ではないかもしれない。突然のその提案に頭が理解を受け付けていなかった。一方でメイヴが“その驚いた顔も私、好きよ。”続けて言うが、そのまっすぐな言いようが頭ではわかっていないはずなのにストンと心に落ちていった。

「私の、もの?それは・・・?」

「結婚、婚姻、儀式的なもの、何と呼んでも構わないけれど。私との契約とはそういうことよ。」

いきなりのことで混乱している、というのが本音だ。いま一番頭の中を占めていることは“なんで俺なんだ?”ということだ。先ほどから向けてくる彼女の好意が理解できない。

今は聞いてくれるだけでいい、そういう彼女に俺はただうなずくしかなかった。

「ねぇ、もしこの場で私と契約すればあなたはもっとすごい力を手に入れられる。あのフェアリとは違って私を知っている人はあなたの周りに大勢いる。信仰がそれほど強いということは私の力もその分強くなるということ。・・・そんなに私の言っていることが信じられない?不思議そうな顔をしているわね。」

「・・・当り前だろう。契約?この世界の使い魔って話だったらなんとなくわかるがどうせ違うだろう?」

「もちろん。あんな程度のものではないわ。でも根本的には一緒。あなたの使い魔、アメリカワシミミズクがもたらしてくれる魔法の力よりもはるかに巨大な力をあなたに渡すことができるわ。動物と英霊、その差は言わなくてもお分かりでしょ?いままで何かしらの英雄伝を読んだことは?みんな何かしらの上位の霊と契約しているわよ。」

いや、さっぱりわからない・・・。英霊?なんだよそれ。いままでそんなのと正反対の世界で生きてきたせいで理解が遅いのかもしれないがそれを抜きにしてもわからないことが多すぎる。

「というか、契約して一体俺はどうなるんだよ?」

「今までとは比べ物にならないほど力を手に入れられるわ。あなたはきっとネウロイと戦っていて自分がはっきりと無力だと感じたことがあまりないからわからないかもしれないわね。けれど周りの娘を見てみなさい?皆、いつも自分の無力さを嘆いているわ。もっと力があれば、とね。だけれどそんな娘たちに同情はしても力を貸す奴なんてほとんどいないわ。だって悲観しているような奴と契約なんてしても面白くないもの。だからあなたみたいな少なくとも絶望なんかよりも希望を見出すような者が好かれるの。私もその一人ね。

だからもしあなたが私と契約してもっと強くなったら?

きっとその娘たちも自分の背中を預けられる存在ができたって思うようになって、さらに強くなる。希望を見出してくれるかもしれないわ。そうすればあなただけではない、みんなが幸せになるの。」

「ちょっとまて。お前の言うメリットはわかった。だが、そもそも俺と契約してお前に何の利益がある?

お前は施しの女神じゃないんだろう?何か対価があるはずだ。」

無償の行いほど怖いものはない。彼女は自身の欲求に素直に従うタイプだ。きっと何かあるはずだ。

「あら、私の心配をしてくれているの?それは嬉しいわ。それだけ私に興味を持ってくれているのね?」

「いや、そういうわけじゃ。」

「いいわ、答えてあげる。だけど簡単なことよ?だって目の前にこんな素敵な男性がいるんだもの。そしてその人が私を大切に、ずっと使ってくれているのよ?ならこれからもずっと一緒にいたいと、思うのも普通ではなくて?」

「普通、なのか?いや、そんなわかないだろう。」

これが女心というものか?いや、そんなことがあってたまるか。何人もの男と関係を持っているこいつが俺だけに特別な好意を持つなんてそれこそありえないだろう。

「別に構わないわ。あんなところにずっといたのだから私の恋心がわからないもの仕方ないと割り切ってあげる。まだ時間はたくさんのあるのだから、ゆっくり私が教えてあげるわ。

でもね、これだけは言わせて。

 

私、あなたのこと好きよ。

 

大好きな人から求められるというのはとっても嬉しいこと。そして何より私は求めたいし求められたい。

だからお願い。」

そして、彼女は俺に近づきもう一度ささやいてくる。

 

 

 

私のものになって?

 

 

 

魔女のささやきとはきっとこんなものなのだろうな。たとえ命を差し出せと言われてもその気にさせてしまうような何かがある。頭が選択肢をたった一つに、ほかのものを消し去ってそれしか選べないようにしてしまう、そんな感じだ。何も抵抗しない俺にメイヴが顔を近づけ唇をかさねようとしたその瞬間、

「悪いな、お前の好意には答えられそうにない。」

俺は、その彼女の好意を蹴った。

「え?」

彼女の狐につつまれたような顔に思わず笑ってしまいそうになる。なぜそんな余裕が自分にあるのかわからないが俺は笑ってしまった。

「メイヴ、お前もそんなおどけたような顔できるんだな。」

そんな俺とは対称的に急に慌て始めるメイヴ。

「そんな、なんで?私のどこかが嫌い?なんで私を頼らないの?なんで私を必要としてくれないの?あの女がいるから?」

「別に、そんなもんじゃない。いやそれは嘘か。それも一つかな。

確かにメイヴ、君の提案は魅力的だ。誰だって必要とされたいし、認められたい。それにそのお前の俺への好意も素直にうれしい。

契約だっけ?それをすれば間違いなく世界トップクラスのパイロットになれるんだろうな。夢にも入り込めるような存在のお前のいうことだからまず間違いないんだろう?

だけど俺はそんなもの、いらない。その理由はさっき話した時にわかってもらえたと思ったんだけれどな。」

「私に教えてくれる?なんでいらないの?」

いまだ困惑した顔のメイヴの肩を押していったん離れさせる。そうしたうえで俺はその疑問に答える。

「簡単なことさ。俺はな、空を飛ぶのが好きなんだ。だから来世は鳥がいいな、なんてね。そんなことばっかり考えている。そんな男さ。」

俺は立ち上がって両手を伸ばして空を飛ぶしぐさをする。こうしてメイヴに話すことでようやく自分はいったいなぜ空を飛んでいるのか、それが明確にわかった気がする。その点に関しては彼女に感謝だな。

「力なんて求めていない。もちろん死にたくはないから撃墜されないように鍛えて努力をする。ほかのウィッチ、特に伯爵かな、彼女に煽られるのは嫌だから追いつくために射撃の練習をしたりほかの人にもっと良い飛び方がないか相談もしたりするさ。だけどその程度だ。俺は戦闘狂みたいに己の限界に挑戦したり、果ては世界一なんてものには全くあこがれていない。

俺は、メイヴ。FAFにいた頃からの夢であるこの地球の青い空を飛べるだけで、もう満足なんだよ。」

「全然わからないわよ。」

そういう彼女はまるで駄々をこねる子供のように見えた。全く、何が貴婦人だ。これじゃ、本当にただの少女だ。

「全く。いつの間にか立場がかわっちまったな。いいさ。解ってくれなくても。いつの日かわかってくれれば。」

だが彼女はもう俺など見ていなかった。何やら独り言をつぶやき雰囲気も怪しくなり始めた。

「そう、そうなのね。くーちゃんみたいにあなた、私に逆らうのね?」

「は?」

とその時までは思っていた。

 

「私はね、私に従わない男が大っ嫌い。」

そういうと彼女の手には鞭がいきなり現れる。

「だから教えてあげる。私のものにならなかった、という代償がどれほど高くつくか特別に見せてあげる!」

彼女は右手に持っていた鞭を高らかに上げると叫んだ。どうやらただの少女ではなくかなりやばめの女だったらしい。

「あらゆる力が私の力。人を統べる王権。人を虐げる鋼鉄。人を震わす恐怖!」

そういった直後、強い風がメイヴへ向かって流れていく。

思わず腕で顔を覆うが、それと同時に危機感を覚える。なにかメイヴに向かってまずいものが流れていくと。そして時間とともにその気配は大きくなり、やがて何もなかった空間に一つの馬車のようなものが出来上がった。

「なんだよ、それ。」

本能がささやいてくる、あれはまずいと。

俺の叫びにメイヴは笑みをうかべ、こっちを見てくる。その笑顔はひどく恐ろしく思え、彼女は最後通告と言わんばかりに“受け取りないさい。”とつぶやくと

「愛しき私の鉄戦車(チャリオット・マイ・ラブ)!」

攻撃をぶっ放してきた。

「冗談じゃない!」

俺はシールドを張って彼女のその突進に備える。オーラからわかるがこんな防御はほとんど役には立たないだろう。だが俺はシールドを張る、いや張らざるを得なかったのだ。

 

-夢の中で死んだ人間は決して現実で目を覚ますことはない。-

 

あぁ、こんなことを思い出すなんて本当に死ぬのだろうか。これじゃあ、まるで走馬灯のようじゃないか。

だが俺だってこのまま植物状態になって生き続けるなんて生き恥はさらしたくない。無理だ、ダメだとわかっていても足掻きくらいはしてやる!

俺自身のもっている魔力をすべてシールドに回し、彼女の攻撃に備える。

ユニットに魔力を回していない分、いつもより大きなシールドが展開されるがやはり付け焼刃が否めない。これだったら、少し時間をくれとか言って先延ばしにすればよかった。だがそれは意味のない後悔だ。解っているなら少しでも死なないように努力するべきだ、と自分に言い聞かせ限界まで魔力を送り込む。さぁ、来るなら来い!

 

そしてその突進が当たるほんの直前。

彼女に何者かの邪魔が入った。それと同時に俺は何者かに蹴飛ばされ横に大きく吹き飛んだ。

地面に衝突した後何回か回転し、ようやく止まった。全身の痛みを耐え、這いつくばりながら辺りを見てみると俺の目の前に何かが舞い降りてきた。

金にも似た色をした羽毛を全身にまとった大きな鳥がメイヴに対して叫び、威嚇する。

「あーもう!なによ、あなた!神鳥の癖に、なんでいつもいつも私の邪魔をするの!?ここは私の世界なのに!」

「グァア!」

メイヴが目の前の鳥に警戒しながら馬車から降りる。それに対してその鳥は俺を守るように大きな翼を広げ、いつでも受けて立つぞ、と彼女に対して戦う意思を見せる。

ふとその鳥は一瞬俺を一瞥すると鼻を鳴らした。まるで倒れこんでいる俺が情けないといわんばかりだった。

それに対して俺は目の前に優雅に立つその鳥に見惚れていた。なにせ目の前の鳥に心当たりがあったからだ。

羽を広げてまるで絵画にでも出てくるような美しいその鳥のたたずまいはまさにそう

「お前、ガルーダか?」

インド神話における神の鳥、そのものだった。

 

 

かつて俺が訓練生だった頃、訓練施設に併設されていた図書館で俺はインド神話を読んでいた。

何十冊もあるその本を初めて見たとき何故この本があるのか気になって司書に聞いたところ、かつての植民地であったインドの歴史を学ぶということは非常に重要である、ということで揃えていた名残らしい。

全く軍事や授業とは関係ない本だったが試しに読んでみるとこれが意外と面白く、その本を読んでいる時はつらい時間を忘れられることができて、俺にとってはその読書の時間はまさに心の癒しだった。

その中で出てきたのがガルーダ。

炎のように光り輝き熱を発する、そして黄金のような羽色の神鳥。3最高神の中の1柱ヴィシュヌが騎乗するまさに聖なる鳥。

当時、将来パイロットを目指していた身としてヴィシュヌに不死の性質を与えられていて、また母親を助けるために神々に戦いを挑むその勇猛さ(brave)、というのは戦闘機乗りとしてこれほど願掛けするにふさわしい存在はいない、そう思った。

そしてそれから数年後、無事にウイングマンのバッジを手にし、最初の部隊配置された場所で上官から君のコールサインは?と聞かれ俺は何の迷いもなく“ガルーダ”と答えた。

最初は神鳥の名前をそのままつけてもいいのだろうか、という迷いはあった。だがその迷いはすぐに消えた。空を飛ぶ楽しみと名前の誇り、それが俺を支えてくれた。

SAFに配置変更になり初めてジャックに会った時も“イギリス人っぽい名前の癖になぜコールサインはインドなんだ?”と笑われたのは今でも覚えている。

 

 

そしてその話に出てきた通りの存在がいま、目の前にいる。

「そこをどきなさい、ガルーダ。私はそいつに用があるの。」

それに対してガルーダはメイヴを鼻で笑う。その提案を一瞬で切り捨てられたことにメイヴはさらに激昂する。

「いい加減にしてよ!いつまで私の邪魔をすればいいのよ!?そんなに私があなたの主を取ろうとするのが気に入らない?」

それにガルーダはメイヴに一度叫び声をあげて威嚇する。

「わかったわ。いつかは決着をつけないと思っていたことだしこの場ではっきりさせましょう?」

鞭の先端をガルーダに向けるメイヴに対して望むところだと言わんばかりにガルーダも臨戦態勢を取る。

そして、両者は同時に動き出し鞭を、かぎ爪を敵に対して振りかざした。

 

 

そこからの戦いはもう俺の目でとらえられる速さを超えておりただただ、傍観するしかなかった。

「どうすんだよ、これ。」

もはや俺そっちのけで戦っているお二方を見て思わずつぶやく。おそらく俺が声をかけてもどうせ届かないだろうし何よりどちらかが倒れるまでやめないだろう。このままいっそのこと放置しようかと思っていたら、右肩に鋭い痛みが走り思わず見てみるとそこにはミミズクがいた。白と濃い灰色の斑点模様に頭には羽角のような物が2個ついていた。あ、こいつってまさか?

「お前が俺の使い魔か?」

「ホッホ。」

「それとも違うのか?」

「ホーホ?」

「どっちなんだ?」

「ホ!」

俺が問うたびに首を100度曲げながら返事をしてくれるミミズク。こいつらって眼球が動かない代わりに首がよく動くんだっけ?よく動くわりに、肯定か否定かなのかすらわからない。というか俺の言葉がわかっているのかすら不明だ。実際の所、こんなところにいるのだから理解していると思いたい。

「ちなみにお前に、あいつらの戦いが止められるか?」

わずかな希望にかけて俺がそう尋ねと体を急に細長くしてそっぽを向いてしまう。絶対してやるもんかという意思が思わず伝わってきてすぐに飽きらめる。まぁ、普通の鳥のサイズのこいつに何ができるんだって話だ。

「というか、お前は何しに来たんだ?」

「ホ!」

そう吠えるともとのサイズに体を戻し、今度は大きく翼を広げ始めた。威嚇か?いや、自分の威勢のよさでも表わせいているのだろうか?さっきのガルーダの真似かもしれないがはっきりわかることはこいつが何を言いたいのかわからない、ということだ。つまりは何一つ解決した事案はなく、逆に厄介事が増えたことになる。

「いい加減にしてくれよ・・・。」

気が付くと騒がしい3者をよそにだんだんと意識が遠のいてくのが分かった。あぁ、ようやく夢から覚めるのか。休むはずがさらに疲れてしまった。

「あ、ちょっと、まちなさい!」

俺がこの世界から目覚めようとしているのにメイヴが気が付く。ガルーダと戦いながらこっちにも意識を向けてくるとはずいぶんと余裕なんだな。

「いいこと?あなたが私を使ってくれる限り、ぜったい、絶対にあきらめないんだから!」

だんだんと意識が薄れていく中で最後、メイヴのそんな叫び声が聞こえたのだった。

きっとまた何度も呼ばれるんだろうな。そう思いながら俺は目を覚ますのだった。

 

 

「という夢を見たんだ。」

『はぁ。』

あれから数日後、夜間哨戒飛行中にハインリーケとハイデマリー少佐といつもの3人で話していた。502で話しても誰も信じてくれないどころか気味が悪いと思われる気がしたのでそこで俺はこの彼女たちならきっとまぁ、平気だろうと思いその夢のことを話すことにした。少なくとも面と向かって話すよりはこうして電波に乗せることで雑談程度に受け取ってもらえると思ったからである。しかし実際の所は、まぁ、想像していた通りだった。

『どうした、バーフォード少佐?どこか頭での打ったのかのう・・・。今日はおとなしく帰って速やかに衛生兵に診てもらったほうがよいぞ?』

『ハインリーケ大尉、それは言い過ぎでは?』

「まぁ、そう言いたくなる気持ちもよくわかる。」

俺だって、例えばルマールが夢の中で使い魔と話をした、なんて相談して来たら絶対に困惑して再度聞き直す自信がある。だけど、本人からしたら間違いなく経験したものなのだから余計にたちが悪い。

『こやつが変な奴だってことは知っておる。それこそ初めて会話をした辺りからな。だがどうやら妾が思っていた“変”のベクトルというのが別方向にも伸びていたようじゃのう。』

「随分といってくるじゃないか、ハインリーケ。」

『お主が困ったら言えばいいといったのではないか、あのペテルブルク基地の格納庫で。妾はいま、壮絶にお主のその話に困惑しているぞ。』

『そんな会話されたんですか?』

ハイデマリー少佐が不思議そうに俺に聞いてくる。彼女からしたらハインリーケとそんな話をする事自体が不思議でならないんだろうな。

「あぁ、まあな。こいつはいつも危なっかしいからな。」

『よく言うわい。妾が飛んでいるところはほとんど見たことがないくせにどうしてわかるのじゃ?』

「無線や噂で十分わかるよ。いろいろと無茶しているみたいじゃないか。元気そうで何よりだ。

ハイデマリー少佐もいろいろと苦労なさっているそうで。」

『えぇ、最近は夜間戦闘の回数も増え大変です。撃墜数が増えることはいいことですがそれが我々にとっては、という話になると逆によくない事ですからね。』

『こちらもじゃ、厄介なネウロイも現れて対策を考えねばならぬ。』

2人も大変なんだな。皆、最前線で戦う身としてお互いが大変な思いをしているのがよくわかるからこうして話をして適度にガス抜きをして何とかやっているんだよな。

俺は両足に履いているユニットを見る。この頼もしいこいつがいる限り、俺を撃墜できるネウロイはほとんどいないはずだ。あとは集中力や技量などの俺自身にかかっている。

 

「しかし、あのピンク。あいつだけは・・・。」

あのメイヴ、また夢に呼び出されたらどうしようかと憂鬱になるなと俺が呟いたその瞬間、急に姿勢が崩れる。

一瞬見えた出力のモニターによると右のエンジン出力が20%に、左が65%にまで急激に操作されていた。

「はぁ!?」

俺の意図しない形でのエンジン出力の操作。予想外のことが突然発生し、対応が遅れる。

そしてその致命的なタイムロスが起きている間に左右のバランスが崩れ、揚力がなくなり失速して自由落下が始まろうかというときに

-I have control-

Garudaによるオートパイロットが作動、ユニットの左右の出力が均等になり元の高度へもどる復元飛行が開始された。

『バーフォード少佐?大丈夫ですか?』

「いや、何でもない。問題ないよ。」

もしかしたら今の発言に気分を損ねたメイヴが俺に何かを仕掛け、それに素早く対処してくれたガルーダの小さな攻防があったのかもな。

「まさかな・・・。」

自分の機体の気分を損ねないように注意を払う日が来るとはな。

俺は空に広がる満天の星空を見ながらそんな新しい憂鬱な要素に頭を悩ませるのだった。

 




ガルーダ1羽って数えてよかったんでしょうかね?柱ですか?
ちなみに夢の中のメイヴはFGOのメイヴを想像していただければ。
彼女が出てきた瞬間、出さないと!とはっきり思い、出しました。
どうしてこう、公式HPのキャラ紹介のみんなはあんなに勇ましいのか。

ロシア語は第2外国語をロシア語にした関係で友人、(そして偉大なるgoogle先生)の力を借りて何とか書いてます。
とはいえ、自身のレベルが低いため、あっているかの不安もあります。
スペル、文法ミスなどがありましたらご指摘ください。(ドイツ語をやっている友人が煽ってくる。)

最近一番作者を戦慄させた事案が”伯爵僕っ子”説。真実やいかに。

ラル少佐の機動に驚く場面がいまいちイメージできない方はマクロスフロンティアの”あの重いアーマードパックでよくあんな・・。”
と驚いているアルト君を思い出していただければ。

コミケでストパン行きました。それにコスプレしている方で何人かウィッチやっている方もいらっしゃいましたね。思わずロスマン先生をされている方を見たときは心の中で”曹長!!”と叫んでしまいました。C91あたりでもっと活性化しているといいですね。次のコミケのサークル募集の締め切りも近いようですので皆さん、ご注意を。

ご指摘、ご感想、誤字指摘があればよろしくお願いします。

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第51話 キャリア

前前前回までのあらすじ。(おまけも含めるとぴったりだった。)
少佐になってハインリーケと初めて対面したりラル少佐が復帰、熊さんにはオラーシャ語を教えてもらったりメイヴがメイヴだったり充実した日々だった。
そんなある日に502にとある一報が入り俺たちの人生をさらに揺さぶっていく。



「おはよう。」

「あ、おはようございます!」

「ん。」

いつもの時間に目を覚まし軽い運動をした上で宿舎に戻ると、ふといい香りが漂っていた。

観測機器の故障で気象予報の発表が遅れるため、通常なら午前6時に行われる気象ブリーフィングが今日は朝食後に行うことになった。そのため本当なら忙しい朝の時間に少し余裕ができていた。運動のあとは自分の部屋に戻るつもりだったのだがその匂いにつられて俺は目的地を変え、上りかけた階段を下りてキッチンに向かった。

「今日の朝食担当はお前らか。」

御飯を炊いて何かを煮ているのを見てみると、どうやら今日は和食というわけか。扶桑組の2人が調理を行っていたので予想できていたがやはり自分の知らない料理が出るというのはいいものだ。もちろん美味しく食べられるものに限られるが。エプロンをかけた下原は顔だけをこちらに向けて手を動かしているが、管野はこちらに見向きすらしない。

一生懸命にねぎを切っているようだが身長が低いため少しやりにくそうだ。

「・・・なんだよ。」

「いや、大変そうだなって。」

「ふん。見てンじゃねぇよ。」

視線に気が付いた管野がこちらに声をかけてくるが俺は軽く流す。

きっと俺が手を貸そうと言ったとしてもそれは彼女のプライドが許さないだろう。というか、無理に手伝おうものなら包丁を振り回して抵抗されるかもしれない。

それほどに管野は負けず嫌いなのだ。いや、単に俺に対する風当たりが強いだけかもな。

ただ、この場に立ったまま2人の作っているのを眺めているというのも気まずいのでとりあえず下原の手伝いをすることにした。

入口にかけてあったお盆を取り、お椀にみそ汁を注ぎ終わってそれを探していた彼女のもとに向かう。

「あなたが探しているのはこの金のお盆ですか?それともあちらに置いてありますステンレス加工された銀色のお盆ですか?」

俺は少しふざけながら下原に声をかける。

「ふふ。普通の木のお盆でいいですよ。ありがとうございます、少佐。」

そんな俺の冗談に少し笑いながらも俺の持っているお盆に次々とよそったみそ汁を載せていく。

「これをもっていけばいいのか?」

「ええ、そうです。では、行きましょうか。」

俺が先導しながら彼女は大皿を両手で持ち、一緒に食堂へと向かった。

 

「そういえば、最近は夜間哨戒シフトも楽になりましたね。」

ふと後ろからそんなことを言ってきた下原に顔だけ向けて返事をする。

「あぁ、そうだな。」

以前よりかねて投入されてきた新兵器や試作機が次々と導入されたおかげで夜間哨戒の回数が一週間当たり1回ほど減った。

こうして彼女と一緒に朝の時間帯に何かをするなんてことはつい先日までは考えられなかった。ほとんどの場合において俺か下原のどちらかが夜間哨戒任務についていてこの時間はまだ飛んでいたはずだからな。技術の進歩でこうも目に見えて楽になると人類が優勢なのではとつい、思わせられてしまう。

「そういえば、下原。お前の能力だと、どうやってネウロイを見つけているんだ?」

「私ですか?」

彼女の能力は遠距離視と夜間視の複合魔法視力だ。俺のメイヴは勝手にネウロイを見つけてくれるが彼女はそうはいかないだろう。

「そうですね・・・。夜だと動く物体というのがほとんどいないので一定時間、とある場所に目を凝らすんです。ほとんどの場合何も見つけられませんが1回の飛行でだいたい1、2回ほどネウロイを見つけられるんです。そのとき全く動いていないはずの風景の中で小さな物体が一定速度で動いているのが見えているんです、そうやって見つけます。だからずっと飛んでいる間は気が抜けませんね。ほかのナイトウィッチがどういう風なのかはわかりませんがこっちの方が絶対に大変だと思います。」

なるほど。結局ネウロイを見つけるためには自分の目が頼りなんだな。

「それじゃ、夜間視はどういう風に見えるんだ?」

「どういう風、と言われてもですね・・・。簡単に言えば満月が出ているときは昼間ほどではありませんが明るく見え、新月の時でも満月が出ている時よりも少し明るく見えるという感じですね。この点に関しては、夜でも昼間のように戦えるのでこの時間帯で演習をやったら結構勝てるとおもいます。」

その説明を聞く限りナイトビジョンよりもはるかに優秀な目だな。暗い時でも色彩を失うことなくはっきりと視認できるならより敵機の特徴を・・・ってそういえばネウロイはほとんど黒と赤しかなかったな。

「暗い部屋で無くしものを探すときは便利そうだな。」

「そうですよ。それにこの能力が便利なのは暗いところで本を読めるので訓練生時代はよくお世話になっていました。ほかの人に迷惑をかけることなく就寝時間後も本を読めるので睡眠時間を犠牲にその分たくさん読みました。」

「・・・すごく使いこなしているな。」

「ええ、それに遠くがはっきりとよく見える能力は何も夜間戦闘だけでなく昼間でも正確に狙いを定められるので本当に恵まれていると思いますよ。」

その自分の能力を完璧に理解して、使いこなせている下原もよっぽどすごいと思うがな。

 

そんな会話をしているうちに食堂についたので、配膳を始める。この時間でも食堂に誰も集まっていないのを見るとこの空き時間をみな有効に利用しているんだろうな。

ただ、一部の奴らは二度寝に使っていそうだが。

「バーフォード少佐の能力って確か・・・なんでしたっけ?」

下原は俺の能力に興味があるのか。そんな戦闘以外では使い道がなさそうなこの能力だがな。

「思考加速だ。現実時間を置き去りにして考える時間を延ばせる。」

「そう、それなんですけど前にみんなでもし戦闘以外で自分の能力を使うとしたらどうなんだろうって話になったときに少佐の話題も上がったんですよ。」

「戦闘以外でか?使う機会なんて無さそうだけどな。というか使い道が思いつかない。」

「そうですか?例えば横断歩道を歩いていたら猛スピードの車が突っ込んできたらその能力を使えばどちらに逃げればいいのか冷静に判断を下せそうじゃありませんか?」

あーなるほどね。自分の命にとっさに判断しないといけないときにその時間を稼げるのは確かに大きいな。

でもそれってよく考えたら・・・。

「そういう時は考えるよりも先に体が動きそうだな。」

脊髄反射とかで。

「・・・確かに言われてみればそうですね。」

「それに加速している間、体は現実と同じ時間軸だから身体を動かすことはできないんだ。だから以外と不便だったりするんだよ。例えばこうして立っている状態で発動したとしても脳の思考だけが加速しているのだから目は動かせない。もしも加速している状況であたりを見渡せたのならそれは眼球自体もその速度に合わせて高速で動いていることになる。そんなことできたら苦労はしないんだよな。」

便利そうに見えて実は不便な俺の能力。唯一の救いといえばその加速度の割合を任意に調整できることだろうか。

全員分の場所に皿を置き配膳がとりあえず終わったことを確認して台所で戻る。

そしてその間も能力の話題が続く。

「それじゃ・・・じゃんけんなんてどうですか?手を開く直前に手の動きが分かれば何を出そうとしているかわかりませんか?」

じゃんけんか。ちなみにこの基地では扶桑式のじゃんけんが採用されている。

「どうだろう、やってみないことには何とも言えないな。。」

言われてみてば確かに実践できそうだ。手を動かさないか、二本か、五本全部かを見分けるだけで動く相手に対して狙いを定めるよりもよっぽど楽だ。

「とにかく一度やってみるか。」

「はい!負けませんよ!」

そういうと彼女は足を止めてこちらを見てくる。

「バーフォード少佐。私は、パーを出します。」

管野や下原がよく、最後のデザートをかけてじゃんけんで勝負するときに行う両手を体の正面でねじる謎のポーズ(彼女ら曰く、ここで思い浮かんだ手を出せば絶対に勝てるらしい。)をしてきた。

「宣言してどうする?」

「わかりませんか?私は宣言通りパーを出すかもしれない。だからそれを狙った少佐がチョキを出すと考えてグーを出すかもしれない。一種の情報戦です。」

「・・・あくまでも俺の能力の調査の一環じゃなかったか?」

「勝ち負けは大事です。こんな小さな一戦でも負けられないものは負けられないんです。さ、行きますよ。最初はグー、じゃんけん!ポ・・・」

-発動-

加速割合はそれほどにせず下原の右手に注目する。

いったん腰まで引いた右手を再びこちらに突き出すように迫ってくる下原の右手、その掌がまるで花が咲くかのように広がっていくのが分かった。

なるほど、パーか。ならこっちはチョキを出してやろうじゃないか。

-解除-

「ン!」

パー

そして能力を使ってから出した関係でほんのわずかに俺が遅れて必勝の手を出す。

チョキ

「勝ったな。」

「・・・・。」

しかし下原はすこし不機嫌そうだ。

「なんだ?」

「なんか、ずるくないですか?今だって少し遅れて出していましたし。」

「そりゃ、下原の手を見てから俺は何を出すのか考えているからな。100%後出しだ。」

俺の解説に頬を膨らませる下原。何故だ。やれといったのはそっちじゃないか。

「少佐!悪用厳禁ですからね。」

「わかっているよ。何回もやると疲れる。」

その後もいつもよりも若干不機嫌な下原をなだめながら台所まで戻っていった。

 

「遅かったな。」

まるでバーのマスターのようなセリフをいう管野に思わず笑いそうになるがそれをこらえる。地味に貫禄のようなものが出ていて雰囲気がぴったりだった。

一方、下原はそんな事には全く気づかず最後のおかずを何にしようか悩んでいるようだ。

「あとは・・・、キュウリのお漬物は・・・、そうだ、あっちだ。なおちゃん、ちょっと取ってくるから待っていてね。」

そう言い残して下原はどこかに行ってしまった。そしてどうやら最後のおかずはキュウリの漬物に決まったらしい。

こうしてこの場に俺と管野が残される。下原の足音が聞こえなくなったタイミングで俺は管野に話しかけることにした。こいつに話したいことがあったからな。

「なぁ。」

「なんだよ?」

「すこしは、俺とも仲良くしてくれたっていいんじゃないか?」

こいつが楽しそうにしているのを一番よく見かけるのは空にいる時だ。それも危険な接近戦を挑んでいる瞬間、一番輝いているように見える。それ以外、地上でこのちっちゃい存在が・・・。

「なんか変なこと考えたろ?」

「いや、なにも。」

訂正しよう、彼女が人生を謳歌しているところを見たことはほとんどない。管野をテイムした下原ならあるだろうけど俺に対してはきっと見せてくれすらしないだろう。

「少なくとも、俺は少佐と仲良くはしているだろ。」

「そうか?これは俺の勘なんだけど、なんか当たりが強くないか?」

「これが素だ。そう簡単に治せるものじゃない。それくらいわかるだろう?」

「わかるけどよ、そのままじゃ友達減るぞ。ナオちゃん。」

下原が管野に使っていたあだ名を俺も使って見た。俺としては親睦を深めるためと思って特にそれ以上深く考えずに言ったのだがその瞬間、

がた!

彼女は合間を挟みすらせず、右手に持っていた包丁を振ってきた。

すかさず左手でガードし、その刃先が俺に当たるのを防ぐ。

「今のは、やめてくれ。鳥肌がたった。」

「言ったこちらに非があるが包丁を振り回すのだけはやめてくれ。またジョゼに怒られる。」

ケガするたびに怒りながらも魔法で直してくれるジョゼ。実はその間、彼女の雰囲気からは想像できないようなことをずっと言われており、意外とこれが心にくる。だから最近はできるだけ無茶をしないで戦っているのだ。その努力を無駄にしないでほしい。

「だが友達が少なくなると思うのは本当だぞ。」

もちろん、それは本心だ。今は周りが優しいからいいものの、別な環境では逆に嫌がられることだってある。根はいいやつなんだ。だからそんな風になってほしくなかった。

「少佐はどうなんだよ?」

「一匹オオカミのお前さんよりは、いると信じたいね。少なくともここ以外にも他国の知り合いウィッチが何人かいる。そういえば、マルセイユと飛んだこともあったな。」

「あのマルセイユか?アフリカの魔女?」

「そうだ。ヴェネツィアで会ってな。」

意外そうな顔で俺の方を向いてくる。・・・そんなに意外だったのだろうか。

「以前いた部隊でも仲間はいる。今ごろ、皆どこかで頑張っているんだろうよ。お前だってここに来る前いろいろな場所をめぐっていたんだろう?」

「あぁ、いるぜもちろん。飛びっきりのやつがな。」

意外だった。もちろんそんなやつがいたことそうだが、そいつのことを思っているときの管野の雰囲気が、だ。

「どうせならさ、一つくらい決めポーズでも持ってみたらどうだ?」

「は?決めポーズ??」

「ほら、お前って見た目怖いじゃん。」

「うるせぇ。」

そういって先ほどとは異なり足を蹴ってきた。

「だけど初めて会った人から怖がられた経験は?」

「・・・無いことはない。」

あるんじゃねぇか。

「だから一つでもポーズを決めておいた方がのちに別の部隊に行ったとき、それをやれば一発で打ち解けられるさ。な、物は試しだ。」

 

こうして管野への決めポーズ指導が始まった。心のどこかで気にしていたのか俺自身が驚くほどにすんなりと指示を受け入れる管野。そして5分後。

「こ、こうか?」

そういうと右手を腰に当て左手で決めポーズをして戸惑いながらも笑顔を浮かべている。

その今まで見たことがないような可憐な姿に思わず目を奪われる。某超時空なんちゃらを思い出させるそのポーズ、いつもの彼女からは絶対に想像できないその姿はまさに可憐だった。

「・・・いいんじゃないか?」

「そ、そうか?」

あぁ、悪くないぞ。そう口にしようとした瞬間、

 

「おはよー。きょうの朝ごはんって・・・・・。」

後ろを振り返るとそこにはあくびをしながら入って来ようとする伯爵が。

すっかり管野の方に目を向けていたため伯爵の存在に気が付かなかった。管野にとって最高に最悪なタイミングでよりにもよって伯爵が来てしまった。

決めポーズをしたまま固まる管野、先ほどの表情のまま固まる伯爵、そしてその両方を見渡す俺。

何も言えないまま30秒ほどたった時、ついに伯爵が耐え切れなくなった。

「は、は、は!なんじゃそりゃ!!!」

「くそ!少佐!てめぇ!」

「まて、俺は伯爵が来るなんてわからなかった!」

「そんなの知ったことか!この野郎!」

顔を真っ赤にして右手に超圧縮したシールドを展開し、今度こそ本気で殴ってきた。

一回目を横に体をずらし、二回目は後ろに飛びそれ以降は全速力で走って逃げた。

結局この追いかけっこは(また)先生が仲裁に入るまで続いた。

もちろん、そのあと二人で怒られた。

 

 

「ニパ、そこの醤油取ってもらえませんか?」

「どーぞー。」

「ありがとうございます。」

なんだかんだでいつもより10分遅れてしまったがいつも通り朝食をとる502の面々。

「それで、さっきはなんであんなことしていたんですか?」

俺と管野が正座させられて先生に怒られるという風景は熊さんにとっては不思議なものだったらしい。

「あぁ、あれはな・・・。」

「少佐!」

俺が事の真相を話そうとしたとき、管野が勢いよく立ち上がる。

「それ以上言ったら。」

「わかっているよ。だそうだ、熊さん。残念ながら俺の口からはこれ以上何も言えない。」

「そうですか、残念です。」

「でも、少佐まで怒られるっていうことはよっぽどだよね?」

スプーンを加えながら俺の方を向いてくるニパ。

「まぁな。」

「隊員間での親睦が深いのはいいことだが、ほどほどにしてくれよ。君たちは特に前科があるからな。」

「あれは、管野が挑発してきたからだ。ブリタニア人として戦うべき時は戦うものだ。」

「は、挑発に乗った時点でお前の負けじゃないか。」

「まぁな。だが俺はユニットを完全には壊していないのに対して管野、お前はどうだ?」

「はっ!そんなの気にしていたら戦えるのかってんだ。」

「2人とも?」

お互いの口論がヒートアップしそうになった途端、ロスマン先生が間に入る。

「また叱られたいのかしら?」

その笑みは俺たちの上がりかけていた熱や体温までも急速に奪っていった。

「いや、そんなことはありません。そうだよな、少佐。」

「あぁ、全くだ。」

ぎこちなくだが、食事を再開する俺たち。

「まったく、少佐もたまにこうして羽目を外すと変な方向に行きますよね。」

その先生の指摘に、思わず何も言えなくなる今日の朝だった。

 

 

「よし、それじゃあ聞いてくれ。」

皆が食べ終わり、皿を下げ広くなった机で今日の朝会が始まる。

「おはよう、諸君。」

後ろで曹長が周辺地図をセットし、それを使ってラル少佐が説明を始める。場所は違えどいつもと変わらない気象ブリーフィングの始まりだ。

「今日の天気は晴れ時々雨、湿度は93%。予想最高気温は17℃、最低気温は8℃だ。言わなくてもわかっていると思うが雨が降っているときはグリップが握りにくくなったり標準がずれたりするからいつもよりも正確な射撃を心がけるように。周辺基地から離着陸する航空機に関する情報は配布した紙に書いてある通りだ。ただその情報にとらわれることなく、所属不明機を発見した際はいつも通り管制官に照会を忘れるな。」

次はいいニュースだぞ。一瞬、話す口を止めたラル少佐が間をおいていった一言に皆が驚く。

「いったい何が起きるんだい?」

「遠征が再開されることになった。」

「ようやくだな!」

よっぽどうれしかったのか管野がその場で立ち上がってそう叫ぶ。ま、彼女の性格を鑑みれば納得だろう。"落ち着きなよ、直ちゃん。"と言っている伯爵も心なしか嬉しそうだし。

「前の防衛戦のせいでしばらくひきこもることを余技されなくなっていた我々だが戦力の補充が完了したということで再開することになった。

2週間後から始まるのでポルクイーキシン大尉、誰を回すかローテーション表を土曜日までに作成してくれ。」

「了解です。何名まで連れていけます?」

「最大で5名だ。前線につかせることでこちらにも余裕が生まれるからな。それとバーフォード少佐。」

「はい。」

「彼女のサポートを頼む。君かポルクイーキシン大尉どちらかがこちらに残ってもらわないと困るから必ず片方が遠征、もう片方がここという形になるようしてくれ。どのタイミングで入れ替わるかは君たちの判断に任せる。」

「「了解。」」

「どこに配置されるのかはぎりぎりまでわからないがようやく攻勢に回れる。諸君、暇な待機任務などもうこりごりだろう。これからは積極的に奴らを落としてやろうじゃないか。それまで牙を磨いておけよ?」

遠征か。俺はあまり出撃したことがないがこいつらからしたらこんなところで引き籠るよりはずっと楽しいのだろう。なんせここはそんな連中ばっかりだもんな。

「それと少佐には後で個人的に話さないといけないことがあるのでこれが終わった後、ここに残るように。重要案件だ。」

皆が浮足立っていたところでの俺への重要案件の通達。そのことを話した瞬間、ラル少佐の顔が先ほどの明るい顔から少し暗い雰囲気になったのを俺は見逃さなかった。

「重要案件、ですか。解りました。」

だから俺も心して聞かなければならない案件なんだろうな。

「時間を取らせて悪いな。」

「いえ、ラル少佐の頼みであれば問題ありません。」

すまないな、と俺に謝ると再び皆を見渡す。

「それじゃあ、何か報告や質問は?無いようだな。それでは最後に。これは先ほど私のもとに入ってきた連絡なのだが、遠征の件よりもさらに良いニュースだ。懐かしいあいつらが・・・。」

コンコンコン

「失礼します!」

少佐の許可を待たずに通信兵が部屋に入ってくる。だが彼の焦りようはいつもとはかなり違うかなり緊迫した感じがした。

「なんだ?」

「司令部より緊急出撃命令です。」

その一言で部屋の空気が一気に引き締まる。

少佐が伝令兵より紙を受け取りそれに目を通す。

「了解した。直ちに出撃する、司令部にも命令を受諾したことを連絡しておいてくれ。」

「了解!失礼します!」

そういうと彼は走って部屋を出て言った。

「というわけだ。502JFW総員に通達。」

その一言で全員が椅子から立ち上がり気を付けの姿勢になる。

「緊急発進だ。我々は東欧司令部の命令によりこれからスオムスの救援に向かう。直ちに準備を始めろ!」

了解!

皆が声をそろえて敬礼した後にそう返事した。

 

いつものスクランブル発進の要領でユニットの準備を全くしていなかったにもかかわらず少佐からの命令を受けてからわずか15分で全員が離陸を完了した。

このスピードもほかの部隊ではまねできないほどの実戦経験と訓練のおかげだろう。

だがいくら素早い準備を完了させて出撃したとはいえ、肝心のなぜ我々が南ではなく“北”へ進路をとっているのか、皆が疑問を抱いていた。

「それで、ラル少佐。詳細を教えてもらえませんか?」

だから誰がその疑問をラル少佐にぶつけるかで図りかねていた。だから熊さんが意を決して聞いてくれて皆、心の中で熊さんに感謝していた。

ラル少佐はカバンから上空でもちゃんと読めるようにしっかりと固定された書類を手に取り話し始める。

「まず、敵は陸戦ネウロイだ。」

「ちょっと待ってください、私たちの専門は・・・。」

熊さんが思わず口をはさんでしまう。そりゃそうだ。空と陸じゃ同じネウロイでも全くと言っていいほど違う。だがその質問もラル少佐にとっては想定の範囲内だった。

「あぁ、もちろんわかっているしそれを含めて説明しよう。」

端から回してくれ、と渡されたのは今回の敵に関する資料。ただ書いてある情報は非常に少なく、上に書いてある第一次報告書の名にふさわしい本当に急いで作った感じが伝わってくる。

「敵の呼称は以降“キャリア”と呼ぶ。このキャリアだが全長250mの超大型ネウロイだ。」

「随分と大きいんですね。今までそんな大きさのネウロイなんて・・・。」

「確かに。ここにきてそんな巨大なネウロイは一度も遭遇していませんからね。まるで空母ですね。」

「そう、空母なんだ。」

「??」

先生が独り言のように言った言葉が正解だとラル少佐は言った。

空母、250mクラスの超大型ネウロイ、陸戦ネウロイ・・・。

「あぁ、なるほど。」

「バーフォード少佐はわかったようだな。陸戦ネウロイの攻撃に我々が招集された理由が。」

「キャリア、というのも納得ですね。」

さすが海軍所属と言うことあって下原もすぐにつながったようだ。

その一方でいまだ何のことだか理解していない様子のニパやジョゼ。空軍所属だといまいち関連付けがしにくいのかもしれない。

「つまり、そのキャリアから空戦タイプのネウロイが沸いてくる、ということですよね?」

どうしてもわからない様子だったので下原が彼女らに助け舟を出してあげた。

その言葉でようやく納得した2人。

「あぁ、そうだ。偵察の時ではわからなかったらしくて第一攻撃隊もそのキャリアの迎撃隊のせいで失敗したらしい。」

「もう第一攻撃が終わっているんですか。それも失敗して。それなら統合戦闘航空団クラスのウィッチを呼びたくもなりますよね。」

「全くだ。」

ラル少佐はいったんため息をして、経緯を話し始める。そのため息は自体がそんなにも進んでいることに対してか攻撃隊のふがいなさに対してかはたまた面倒に巻き込まれたか、という辛さからか、どちらにせよ相当大変な戦いになりそうだ。

「502を全機出撃させるのはさすがに危険があるとは思ったのだがな、基地から目的地のヨエンスーまではおよそ300km、それほど離れていないし万が一基地に何らかの危険が迫ったとしても直ちに作戦を中止すればいつでも戻れる距離だ。だから私は意見具申など一切せずに命令に素直に従ったんだ。どちらにせよ、東欧司令部管轄でトップクラスの戦力を誇る我々を全力出撃させるほどだからよっぽどキャリアというのは強いネウロイなのだろう。」

いままで空戦ネウロイとばっかり戦ってきた俺には地上を走行する巨大なネウロイというのがいまいち想像できない。大型ネウロイですらあの対空レーザーに悩まされていたのにそれが超大型ネウロイとなったらいったいどれだけの火力があるのだろうか?

「ちなみに迎撃型のネウロイの数はわからないのですか?」

「キャリア自体が一種の巣のようなものだからな。あの大きさならどれくらい内蔵しているのか想像もつかん。もし人類側の空母と同性能だとしたら最低でも50機、下手したら100機以上のネウロイが一度に襲ってくるかもしれない。」

そりゃ、悪夢だな。

「護衛の陸戦ネウロイは?」

「現在確認されていない。」

「そのキャリアの速度はどれくらいなんですか?」

「現時点で時速10km。」

「随分と遅いですね。」

「あぁ、あの巨体を動かすのに随分と苦労しているようだ。おかげで時間が稼げているようだからその点については感謝だな。」

時速10キロか、さすがに海の“キャリア”のような速度は出せないか。どちらにせよこのネウロイがヨエンスーに到着した時点でここは陥落する。今はその巨体をもって地上にあるありとあらゆる障害を破壊して進んでいるのだろう。おそらくそれが速度を思うように出せない理由かもしれない。

「しかし、それほどの巨体となると出現事例もそれほどないのでは?」

「そうだな、私が思い出せる限りだとアフリカで似たような事例があった限りだな。」

アフリカか、ということは砂漠あたりか?そうなると障害も少ないからここよりも撃破は大変だったのだろうな。

「その時はどのように撃破したのですか?」

「報告書によるとウィッチや砲撃等による総攻撃後、試作機をオーバーロードさせて自爆させ、破壊したそうだ。」

「どちらにせよ、私たちの力が欠かせないのですね。」

「あぁその通りだ、ルマール少尉。それに我々空戦ウィッチだけでなく攻撃機や地上攻撃ウィッチとの綿密な連携が欠かせないだろう。このキャリアはスオムス軍の重要拠点の一つに向かっているのは間違いない。なんとしてもこいつを撃破しないと最悪北欧が分断されかねない。状況はかなり緊迫していると見える。」

隣のウィルマから資料が回ってきたので一緒に地図を含めて確認する。時刻ごとにキャリアが現れた場所と進行ルートが書かれた地図だが残念ながらその発見ポイントを示す点の数は少ない。-これじゃ、なにもわからないよな。--ちょっと少ないよね。-

とほかの奴らにばれないように小さく愚痴をこぼす。

「だけれどこの作戦、主力は我々というより地上攻撃隊ですよね。そうすると護衛が主任務になるのでしょうか?」

「いや、迎撃ネウロイを攻撃隊から引きはがすか、それか全てせん滅するかのどちらかになるだろう。ただ敵の迎撃ネウロイの数が分からない以上、やはり引きはがす形になるだろうな。それに・・・。」

ラル少佐は全員を見渡して一瞬笑う。

「我々はブレイブウィッチーズだ。護衛任務なんかよりも殲滅戦のほうが性に合っている。そうだろう、みんな?」

その言葉に思わず笑みを浮かべる部隊の面々。その笑いはまるで狩りを始める前の狩人のようだった。これほど心強い奴らが集まっている部隊など、統合戦闘航空団の中ですらほとんどないだろう。そう思わせるほど、皆自信にあふれていた。

「壊さなければ最高の戦力なんだがな。」

「ここだと予備のユニットもないからもし飛べなくなったら帰る方法は陸路か輸送機に載せてもらって乗り継ぎになるから注意しろよ。」

「「「えっ」」」

もはや定番となりつつあるこのやり取りだが果たして今回はどうなるのやら。

そのあと、“もし壊しちゃったら先生、僕のこと背負って運んでくれない?”と迫り最終的には怒られてしまったのはまた別の話。

 

ペテルブルクの基地を出発して数時間後には前線集結基地に到着した。数多くのウィッチが集まることになるがやはり空戦ウィッチというカテゴリにおいては502が主戦力となるのは間違いないだろう。管制官から指定された格納庫へ向かう途中、駐機しているいろいろな機体、ユニットを見る限り決して大きくはないこの基地に様々な場所から戦力が集結をしているのがはっきりとわかった。

ユニット置きにメイヴをセット、出力を完全にカットして待機状態にしておく。

大規模戦闘が予想されるときに俺が装備するもはや定番となった狙撃銃、刀、拳銃をしまう。指揮官であるラル少佐はユニットを置くとすぐに走ってきた兵士から説明を受けていた。今後の予定でも聞いてタイムテーブルを調整しているのかもな。

しばらくすると確認を終えたラル少佐が全員に招集をかけて、皆が整列する。

「よし。まずはバーフォード少佐、ポルクイーキシン大尉。」

「「はっ。」」

「キャリアと一番初めに接敵した部隊の隊長と話ができるそうだ。時間があるうちに直接話を聞きに行こう。ロスマン曹長。」

「はい!」

「基地管理責任者と話をつけて我々が使用できる弾薬の量やその所在、整備に関すること、そのほかの指示を確認しておいてくれ。ほかの人員は彼女の指示に従うように。以上、解散。」

ラル少佐の指示を受け、全員が一気に動き始める。

 

ロスマン曹長と“手伝うよ。”といって意外と気が利く伯爵は建物の中に入っていき、残りの奴らは掲示してある最新情報をもとに何かを話している。何も言われずとも皆が今やるべきことを完全に理解できているのはさすがだと思う。

「2人とも、ついてこい。」

「「はい。」」

ラル少佐が先導して俺たちも基地内を急ぎ足で歩き始める。

「そこの隊長と話せる時間は限られている。時間が過ぎると彼女も自分の部隊の世話をしなければならないみたいだ。」

「そんなに時間が限られているのですか?」

熊さんがラル少佐に質問する。

「あるように見えるか?」

確かに周りを見て暇そうにしている奴や休んでいる人員、それどころか歩いている人すら見かけない。皆、走るか急ぎ足、それか険しそうな顔で話し合っている奴らばかりだ。なるほど、時間に余裕があるようには見えない。

「いえ、見えません。」

「そうだろう?そもそもこの話を聞く機会だって私が統合戦闘航空団の隊長という立場をうまく使わせてもらい何とかひねり出したものだ。” Know your enemy, know thyself, and you shall not fear a hundred battles.” というやつだと言ったら何とか割いてくれた。彼女に敬意を忘れないでくれよ。」

「もちろんですよ。情報は多いに越したことはありませんからね。」

「あぁ、そうだ。とにかく何か有益な情報が手にはいることを祈ろう。」

そして俺たちは周囲の例に紛れずに急ぎ足で建物の階段を上り3階にあるとある一室の前に立つ。

「行くぞ。」

俺と熊さんがうなずくと同時にラル少佐がノックする。

-どうぞ-

その声が聞こえると少佐がドアノブをひねり、扉を開けた。

「第502統合戦闘航空団、隊長のグンドュラ・ラル少佐だ。わざわざ我々の為に時間を割いてくれたことに感謝する。」

ラル少佐の後に続き部屋に入り、顔を上げる。

そして、そこに立っていた少女に俺は驚きを隠せなかった。

 

 

「ラウラ?」

「バーフォード、大尉?あれ?大尉じゃない?」

 

 

わずかな間だったが一緒に空を飛んだかつてワイト島分遣隊の仲間、ラウラ・トート少尉がそこに立っていた。

少尉なのに隊長?と今おもった疑問をのちに聞いてみると元オストマルク空軍で編成された部隊らしく、そのなかで一番戦果を挙げておりかつて501にも所属したことがある彼女が特例で就任したらしい。

「なんだ、知り合いか?」

「え、えぇ。前にワイト島で一緒でした。」

お互いが知り合いだったのはラル少佐も知らなかったことらしくて熊さんと一緒に少し驚いた表情をしていた。一方ラウラ“久しぶり”といって手をさし伸ばしてきたので“あぁ、そうだな。”と俺も答える。前よりも少し表情が柔らかくなった気がする。

「軍曹も一緒?」

「あぁ、元気にしているぞ。」

「よかった。それと・・・。」

ラウラは俺の肩につけている略式の階級章を指さす。

「昇進したんだ。おめでとう。」

「あぁ、ありがとう。」

「100機撃墜のことも聞いた。すごいよ、本当に。」

「結構苦労したがね。」

と、俺たちだけの話に花を咲かせようとしていたのを少佐がすぐに摘み取る。

「悪いな、二人とも。時間が限られているんだ。今はキャリアの詳しい話を聞かせてくれないかな。」

そうだ、こんな話をしに来たんじゃなかった。お互い生きていたらこの続きをしようと約束し本題に入る。

全員が椅子に座り机に広がっていた資料を見ると少し情報が更新されているのが分かった。

「さて、トート少尉。君の隊が一番初めにキャリアと接敵したらしいな。そこから現時点に至るまでを、要点を押さえて話してくれ。」

こくり、とうなずくとその中の一枚の紙を俺たちに見せてきた。それを覗き込むと詳細な今までの時系列が記されていた。まだ空では読んでいない資料だ。

「大まかな時間の流れは以下の通り。昨日の夕方、技術向上ということで私たちの部隊は演習を行っていた。これはネウロイが現れても即応的に対処できるように勢力の拮抗している境界付近で行っていた。キャリアを見つけたのは演習中。ドッグファイトをしていた2機がネウロイ勢力圏内に誤って侵入、普通だったらその時点で迎撃機が来てもおかしくはないのにいつまでたっても来なかった。不思議に思った私は演習を中止する指示をだしてその付近の監視についた。監視開始後5分、突然山から何かが出てきたの。それがキャリアだった。

その大きさから私たちだけでは絶対に撃破できないと判断して司令部に緊急通報しそこから一時撤退。

その後、急いで地上攻撃機を主戦力とする部隊が編成されて攻撃に向かった。これが第一次攻撃。結果は失敗。この時点で護衛についているネウロイが一機もいなかったためこれ単体の攻撃かと思ったら実際は中に迎撃ネウロイを内蔵しているなんて誰も予想できなかった。

明らかに多い迎撃隊および対空火力によって多数の被害を受けたためこれも撤退、現在は第二次攻撃準備中といったところ。」

かいつまんで話してくれたがようやく事態の全貌が読めてきた。前例というのは時に恐ろしいものだ。おそらく命令を出したやつもそのアフリカの事例をもとに部隊を編成してしまったのだろう。だから失敗した。

「第一次攻撃についてもう少し詳しくわかるか?」

「JU-87を主戦力とする急降下爆撃隊12機、地上攻撃ウィッチ8名、空戦ウィッチ12名。これがこの地域及びここの指揮官が招集できる最大戦力だった。見た目が空母に似ているということから急降下爆撃が最適だという判断が下された。急降下爆撃によってコアの周辺を破壊、残りの精密爆撃機をウィッチが行う予定だった。空戦ウィッチはその護衛。結果は護衛できる数を大幅に超える迎撃機の登場で失敗。爆弾を放棄して撤退した。この判断は間違ってなかったはず。強行していたら全滅だってあり得た。」

確かにな。だがその巨体のどこにコアがあるのかわからないのによく出撃したもんだ。

「敵迎撃ネウロイについて詳しく。」

「大型は確認できず。小型機と中型機の割合は7:3といったところ。キャリアからの発艦速度は海軍空母とそれほど変わらないと思う。実際に空母に乗ったことがないから何とも言えないけれど。」

「キャリアの対空火力は?」

「空母の対空銃座をレーザーに置き換えたような物。数も似たような感じだと思う。」

わお。素敵すぎて泣けるね。

「本当に行動を共にするネウロイは確認されていないのですか?迎撃機以外で。」

「今のところは。さらに現状は刺激しないようにということで偵察は地上部隊が隠れながら行っているみたい。ウィッチは付近を1人も飛んでいない。」

「キャリアに攻撃することはできたのか?」

「それすらできなかった。」

「なるほど、つまり敵の装甲の能力は未知数か。」

「そうなります。」

その後も何個か疑問に答えてもらい、時間になった。

「なるほど、あまり時間は取れなかったがいい情報が聞けた。」

「502のラル少佐のお役に立てたのなら幸いです。」

二人は立ち上がって握手をする。

「それじゃあ、もうすぐ時間だな。帰るぞ。」

「あ、ちょっといいですか?」

「「?」」

「ラウラ、ラル少佐。1分だけ時間を割いてもらえますか?」

お互いの顔を見合わせる二人。そしてラウラがうなずくとラル少佐は理解してくれたのかこちらを向くと“一分だけだぞ。”と言って熊さんを連れて先に出て言った。

「悪いな、時間を取らせてしまって。」

俺の謝罪に首を横に振って“問題ない。”とつぶやく彼女。

「前よりも、明るくなったな。」

俺は久しぶりにあったラウラの印象をそのまま伝える。彼女も自覚していたのか少し微笑む。

「みんなのおかげ。悲しいこともあったけれどみんなが支えてくれたから。」

「そうか・・・。よかったよ。初めて会った時から少しラウラのことが心配だったからな。」

「それは私も同じ、バーフォード少佐。」

「・・・俺?」

ワイト島ではそれほど危ういことはしていなかったと思っているが・・・。

「初めて会ったときはただ空を飛ぶことだけに固執していた感じがしたから。」

「・・・まぁわからなくもない。」

「だけれど今ではちゃんと仲間のことも大事に思っているでしょ?雰囲気でわかる。」

「わかるのか?」

「少佐だって私のこと、わかったでしょ?それと同じ。」

なるほど。俺はほっと一息つくともう一度ラウラに目を合わせる。

「ラウラ。」

「少佐。」

そして同時に声が重なってしまったことに思わず笑ってしまった。

何か、話さないとなと思ったその時“コンコン”とドアをノックする音がした。

「時間か。」

「意外と短かったね。」

「そうだな。この作戦が終わったらでもいいからウィルマも混ぜてまた話そう。続きはその時で。」

「うん、そうだね。その時は軍曹にも会いたいな。」

「あぁ、だからその時までお互い死なないようにな。」

「もちろん。」

そういって俺は扉に手をかける。

「またな。」

「バイバイ。」

俺は扉を開けて外に出る。ラウラは俺の姿が完全に見えなくなるまで手を振ってくれていたのだった。

 

「有意義な時間は取れたか?」

「はい。ありがとうございました。」

廊下で待っていてくれた二人に礼を言って頭を下げる。

「いや、仲間というのは大切なものだ。むしろこんなわずかな時間しかさけなくて悪かったな。」

「いえ、時間がもらえただけでも十分ですから。」

「そうか、ならよかった。」

優しい表情を向けてくれるラル少佐には本当に感謝だ。この時間だってこの場では本当なら貴重なはずなのに。

「それじゃあ、行こう。」

「「はい。」」

熊さんにもお礼を言って3人で歩き出す。

 

「ところで、2人はキャリアについてどう思う?」

各部隊の幹部、主要人員を集めた会議が行われる会議室へ向かう途中、ふとラル少佐が話しかけてくる。

「まずはポルクイーキシン大尉から。」

「私ですか。」

いきなり振られて少し黙り込む熊さん。与えられている情報はわずか。そこからどれだけ推測できるのかをラル少佐にテストされているようで身が引き締まる。俺たちの回答に世界第3位のウィッチはどういう感想を言うのだろうか。

「私は・・・敵のネウロイが本気を出しているようには思えないし逆に手を抜いているわけでもない、つまり現時点ではこの程度の戦力しか用意できなかった、そう思えるんです。ここ最近、ネウロイは負け続けていたのが一転してヴェネツィアで勝利しました。巣同士が連絡を取っているのかは不明ですが、この流れに乗ろうと十分な数が用意できなくても、ここなら陥落できると考えて送り込んだのだと思います。」

「ふむ、なるほど。勝ち戦に乗る、というわけか。ではバーフォード少佐、君はどう考える?」

「気の利いたことが言えないので直感で言います。空で人類に手を焼いていたので今度は人の手をまねたうえで攻撃方法を変えてきたのでは?と考えます。これはお試し攻撃の一種なのでは、と。」

「お試しか、続けてくれ。」

「彼ら自身が敵の手法をまねるというのは別に珍しいことではありません。問題なのはそのまねた手法で組織を運用できるか否か。いきなり主戦力を充てるのはリスクがありますからね。以前のペテルブルクへ向かったすべてのネウロイの総重量とキャリア1機、いや1艦の総重量だって意外と変わらなかったりするかも知れません。人類側の戦略をまねたというのならこれに駆逐艦も付け加えネウロイとしても1艦隊作るだけでも巣レベルですら一苦労でしょう。なのでその試作運用なのでは?」

「ふむ、試作機ならぬ試作艦か。面白い。」

そして振り返り2人をそれぞれ見るラル少佐。

「二人と貴重な意見をありがとう。参考になったよ。」

「ちなみにラル少佐はどう考えているんですか?このキャリアの攻撃について。」

「私か?そうだな・・・。」

顔を戻してしばらくの沈黙の後にラル少佐はこういった。

「ノアの箱舟、かな。」

それっきりラル少佐は何もしゃべらなかった。俺も熊さんもお互い顔を見合わせるが結局、ラル少佐の言いたいことは理解できなかった。

 

会議室に入るとすでに多くの人が座っていた。ラル少佐たちと同年代と思われる少女たち、そしてその姿は年齢に見合わぬほどに気概に満ちている。一方反対側にはいかにも軍人と思われる軽くウィッチたちの2倍3倍の人生経験を積んできたような人たちがそこにはいた。

そして俺たちが用意された席は一番前。なるほど、こりゃすごい。

着席して会議の始まる前のピリピリしたこの空気を肌で感じながらまずは席に置いてあった資料を会議が始まる前に目を通しておく。

すでに終結が完了している戦力はどうやら航空戦力だけではないらしい。砲兵を中心とする砲撃大隊、及び戦車隊が集結を完了してすでに前線への移動を開始しているらしい。砲撃はわかるが戦車?と思っているとどうやら予想進行ルート上の近くに高台があり、そこから攻撃するとネウロイに十分砲弾を当てることが可能なのだとか。なるほど、当てることができるのならそれは心強いな。ほかにもロケット弾を発射できるシュトルムティーガーが来ているとのこと。なんでスオムスにカールスラントの新型兵器があるのかと思ったら試験運用のために持ってきていたらしいとラル少佐が説明してくれた。なるほど、ここは人がいない土地が有り余っているからな。

それに戦車も投入されているのは先の第一次攻撃から急降下爆撃機だけでは火力が足りない可能性が指摘されたためかもしれない。きっとその判断は間違っていない。

「司令官入室!」

いつの間に開始時刻になっていたらしく、その声が響くと同時に会議室にいた全員が起立する。

左の扉から当作戦の指揮官と思われる将官階級の人物が次々と入ってくる。やがて全員がそろうと着席し会議が始まる。

「現在、我が国に深刻な脅威が迫ってきている。これを放置することはネウロイに国を明け渡すというのと同義でもある。

そんなことはあってはならないしこれ以上奴らに渡す土地など1ヘクタールすらない。この美しい国をなんとしても死守してもらいたい。諸君の健闘に期待する。また今回指揮はスオムス領土ということで、また陸軍、空軍が主力ということでスオムス軍が全面的に行う。応援として他国から来た部隊に関しては、指揮権に関しては東欧司令部より一時的に移譲されていると考えてもらいたい。」

確かにな。502の指揮権は東欧司令部にあるが各個人に対しての命令権は所属する部隊の上長が持っているがそれでは不便ということで部隊規模の指揮権に関しては司令部が保有している。しかし、今回のように一つの国に危機が迫っておりそれに対処するために統合戦闘航空団が送られた場合、いちいち東欧司令部に命令を経由させていては時間がかかる。

というわけで特例として司令部が許可した場合に限りその国の司令部に対して一時的に指揮権の一部を譲渡することが認められている。ただし預かっているウィッチを無能な奴に預けるわけにもいかないので司令部はいつでもその指揮権をはく奪する権利も同時に所持しているが。

ま、詰まるところこの時点では俺個人に対する命令権はダウディング空軍大将ことジャックが、第502統合戦闘航空団に対する命令権はスオムス空軍、それも当作戦、航空隊指揮官であるテロ=マルクス・アスピヴァーラ空軍少将が保有することになる。その命令権もキャリアを完全に撃破した瞬間に失効することになる。

応援として送られてきた部隊も北欧や欧州が多い。スオムス国内はもちろんのことバルトランド、復興を進めるガリアなどだ。そしてその増援として送られてきた部隊の中にも他国の人員が含まれていたりする(国同士でウィッチを一定期間、交換しお互いの技術を学ぶ交換留学生のような制度を利用しているため。)のでかなり国際色が豊かだったりする。

「まずは地上部隊からの報告をまとめた現在のキャリアの最新情報だ。」

スオムス陸軍東部方面防衛隊指揮官ヘルマンニ・リピッシュ中将が自ら説明を行う。

「キャリアの速度は発見時から変わらず時速10km、これがこいつの巡行速度なのか最高速度なのかは現時点では不明。このキャリアの最も警戒する点についてはその巨体をもってほとんどの障害物を自力で排除している点にある。つまりは我々が短時間でできるような妨害工作ではこいつの到着時間を遅らせることはできない、ということだ。陸軍としてもいくつか案を考え進路上の川で止める作戦を考案しようとした。しかしこいつは船のように進路を変えることができる。このキャリアを足止めするほどの爆薬を仮に進路上に仕掛けても進路を変えられては無意味になると判断して中止した。この速度をもとに計算を行うとここヨエンスーには48時間後に到達することになる。スオムスとしてもここは拠点の一つでありネウロイとの勢力境界線と隣接しているこの都市を失うわけにはいかないと考えている。なのでこれから説明する撃破作戦に関して諸君に覚えておいてもらいたいことは仮に国境を突破されてもヨエンスーが陥落することは絶対にあってはならないということだ。

さて我々陸軍の任務は戦車、高射砲による水平射撃、迫撃砲などにより高威力射撃によってキャリアの装甲をはがすことにある。

いま我々陸軍がもっとも必要としているのはコアの位置に関する情報だ。正確な位置が把握できないと無駄なところに何発も打ち込む羽目になる。そこで作戦第一段階として偵察任務を行ってもらいたい。現在は我々陸軍が行っているがそれでもやはりこれほどの大きさだと航空偵察が一番確実なはずだ。というわけでこの後の説明は空軍が行う。」

リビッシュ中将がアスピヴァーラ少将に席を譲る。

「さて、今回の航空隊作戦指揮官の東部方面航空隊指揮官、テロ=マルクス・アスピヴァーラ空軍少将だ。さてと、時間も限られているしさっさと行こうか。

まずはリビッシュ中将が述べたように正確な偵察が必要だ。というわけで早速命令だ。第502統合戦闘航空団、夜間戦闘隊長のフレデリック・T・バーフォード少佐。うん?どこにいる?」

「は、ここに。」

急に名前を呼ばれたことに驚きながらも立ち上がり返事をする。

俺の存在を知らなかったか、知ってしても信じていなかったと思われる奴らが一定数いたようで会議室にざわめきが起こる。

「静かに。ここは会議室だ。わかるな、ん?」

その殺気がこもった声に改めて静かになる会議室。実戦経験豊富な奴らを一瞬で黙らせるほどの殺気。きっとこいつも場数が半端ないんだろうな。

「ま、俺も初めて資料を見たときは驚いだが後で各自、驚いておいてくれ。さて、少佐。東欧司令部から送られてきた資料によると君はネウロイのコアの位置が正確にわかる能力を持っているようだな?」

「はい。確かに持っています。」

実際には俺ではなく、メイヴの能力なのだがそんなことを説明してもどうせわかってはくれないだろうからそれは心の中にとどめておく。

「なら今の話の流れでわかったな?君にはキャリアのコアの位置を探ってもらいたい。普段君が相手にしているようなネウロイと比較してかなり大型になるため正確には把握できない可能性は我々も考慮しているためそこは気にしなくていい。ナイトウィッチとしても動いている君なら覚悟はしているだろうが、今回は迎撃機の数も多いしこれからすぐに飛んでもらうことになるから到着する頃でも十分明るい、つまり不利な条件で君には偵察してもらうことになる。本当はこんなことはしたくないのだが、君の能力が当作戦のカギとなり時間も押している。だから君の要望には我々はその要請に答える義務がある。それでは、君は何を望む?」

「自分のサポート人員を少数、割いて欲しいです。それも自分と同じ部隊から、502の部隊からです。」

俺はすぐにそう答えた。今までは確かに一人で十分だった。だが今回はそうはいっていられない。何人かで複数の視点から、それも経験豊富な仲間とならきっとほかの連中と一緒に行くよりもはるかにいろいろな情報を得られるだろう。

「わかった。要請する人数は?」

「自分も含めて4名です。下原定子少尉、ジョーゼット・ルマール少尉、あとはウィルマ・ビショップ軍曹です。これであれば確実に任務をこなせるはずです。」

今回はあくまでも偵察任務だ。だから絶対にブレイクウィッチーズの3人は無理だ。特に管野はネウロイが出てきた瞬間に“ぶっ潰してやるぜ!”とか言いながら任務を忘れて撃破してしまいそうだ。ラル少佐とロスマン曹長、熊さんは彼女たちの役職上やるべきことがあるから無理だ。そう考えるとこのメンバーが最適だろう。ルマールは以前に一人で艦船を防衛した過去があり戦力が限られた状況でもきっと活躍してくれるはずだ。ウィルマは言わずとも俺のしてもらいたいことをすぐに理解して実行してくれる。だが、アスピヴァーラ空軍少将は俺に予想外の判断を言い渡す。

「ウィルマ・ビショップ軍曹は却下だ。ほかの人員を推薦してくれ。いなければこちらで手配する。」

「なっ!」

驚きを隠せずに、思わず声を出してしまった。なぜウィルマが却下されるのか?

「なぜ、ですか?階級ですか?」

「そういうわけではない。ただこれは命令として彼女を当偵察作戦、及びにキャリア撃破作戦に参加させることは許可できない。」

「ですが、彼女は自分の僚機です。なぜ出撃どころか作戦の参加すら・・・。」

いつもならトラブルを防ぐために上官に向かっての口答えは絶対にしないのだが今回ばかりは思わず口にしてしまった。だが少将はそんな時間すら惜しいとバッサリと切り捨てた。

「控えろ、少佐。それにこれは君の上長であるSTAF指揮官、ダウディング空軍大将の決定だ。命令に従え。」

ジャックが?と心の中で思ってしまう。今の俺にはなぜそんな判断を下したのかわからなかった。

「・・・了解です。なら彼女に代わる人員を502から選出することはできません。」

「だろうな。そちらも忙しいようだし。それならロマーニャ空軍のトルキオ中尉をまわす。ナイトウィッチで実戦経験も十分だと判断した。彼女を君の指揮下に臨時は入らせる。それでいいな?」

「了解。」

「よろしい。じゃあ、座ってもらって構わない。それでは航空戦力の詳しい説明に入ろうか、資料の・・・・。」

 

そして会議はこの後30分ほど続き、大まかな作戦などが伝えられた。作戦開始時刻などの詳細はコアの位置がわかってから攻撃ポイントを設定するなど決まるらしい。

会議後、すぐに俺はアスピヴァーラ空軍少将からの偵察命令を受理し出撃準備に入る。

「それでは、ラル少佐。」

「うむ。頼んだぞ、バーフォード少佐。君の情報がこの作戦の重要なカギになるだろう。ただ・・・。」

ラル少佐がそれ以上言わなかったのはウィルマに関する件だろう。心配してくれたのか。俺たちの問題にラル少佐を巻き込んでしまったみたいで逆に申し訳なくなる。

「えぇ、わかっています。ダメなものはダメと割り切るようにしますから。そのことは作戦が終了したら問い詰めることにします。」

「あぁ。作戦行動中は自分たちの身の安全を最優先に何が何でも帰ってくることに固執しろ。被撃墜や被弾など許さん。解ったな?」

「了解。直ちに準備します。」

一瞬、昔ジャックから出撃前に言われていたあのセリフを思い出しながら俺はラル少佐と敬礼をかわして皆がいる格納庫に向かう。

 

格納庫に入ると皆の視線が俺に集中する。どこか雰囲気が暗い感じがする。

「下原、ジョゼ。命令は聞いているな?すぐに準備しろ。でき次第、すぐに離陸する。」

「・・・・・。」

「どうした?」

誰も返事をしないことに一瞬戸惑っていると曹長が皆を代表してか俺に声をかけて

きた。

「バーフォード少佐。軍曹のこと・・・。」

あぁ、そのことか。皆心配してくれていたのか。

「優しいな、みんなは。」

そういうと少し表情が柔らかくなる。

「なぜ飛ばせてくれないのか、とりあえずそのことは後にする。今は目の前に集中しておく。問いただすのはいつでもできるからな。」

「もっと、落ち込んでいると思いました。」

「俺が?まさか。彼女がケガしたとかだったら焦っているがな。」

だって生きているんだ。ということは逆に考えればいつでも話せるということでもある。なら今すぐ、彼女と話す必要はない。だが、少しだけでいいから話だけはしたかった。

だが俺たちは準備に入るがいつまでたってもウィルマが現れなった。さすがに不安になってきたのでジョゼに聞いてみた。

「ジョゼ、ウィルマがどこに行ったかわかるか?」

「待機命令を出されていたのですが、ここにいるのはもどかしいということでほかの部隊のお手伝いに。許可は出ています。」

だからこの場にいなかったのか。もしかしてどこかで落ち込んでいる可能性も考えていたので少し安心した。

「なるほど。ウィルマらしい。」

活発な彼女のことだから格納庫で待機などせずどこかに行っているとは思っていたがまさか許可をもらってまで動いているとは考えていなかった。

 

「それじゃあ、行こうか。」

「はい。」「了解です。」

準備を終えて、滑走路に向かう。出撃前に一度、話しておきたかったのだがどこに手伝いに行ったのかわからなかったので帰ってきてから探すことにする。

タキシングをして滑走路に向かっている途中、別の格納庫から出てきたウィッチがやがてこちらに合流してきた。

「トルキオ中尉か。久しぶりだな、ヴェネツィア以来か。」

数か月前のことだが随分と久しぶりに思えた。顔つきも少し変わり実践をそれなりにこなしてきたのが伺えた。

「えぇ、そうなりますね。今回もよろしくお願いします。」

「頼むぞ。中尉、右につけ。下原、ジョゼは左だ。離陸後に編隊を組む。」

「「「了解。」」」

サンクトペテルブルクでは見られないほどの高頻度で航空機が離陸していく。メインは輸送機だが近辺の空中哨戒任務を終えた戦闘機やウィッチがたびたび着陸していく。

そんな状況だが俺たちはスクランブルの時と同様、最優先で離陸許可が下りた。

ほかの航空機が空中待機している間に間を縫うように速やかに離陸していった。

 

高度を低めに取りながら偵察ポイントに向かう途中、彼女に気になっていた疑問をぶつける。

「トルキオ中尉はどうしてスオムスに?あの時以来、ヴェネツィアの防衛についているんじゃなかったのか?」

「えぇ、私もそうなるものだと思っていました。ですが、命令でこちらのほうに飛ばされまして。上官は理由を教えてはくれなかったのですがのちに聞いた噂によるとどうやらあちらには扶桑からの応援が多数集まってきており人員に余裕ができて私はさらなる実践教育もかねて前線であるこちらに送られてきたとのことです。」

「なるほど。それで経験は積めたのか?」

「はい。能力の使い方もかなりわかってきて前よりも上手に使いこなせるようになっていますよ。」

「ほう。なら期待しているぞ。」

「もちろんです。」

そういって胸をはるトルキオ中尉。

「そういえば、少佐。トルキオ中尉とはお知り合いなのですね。」

と中尉を見ながらも俺に声をかけてくる下原。

「あぁ、前にヴェネツィアで大規模な空戦があったのは覚えているだろう?その時に俺はブリタニアからの増援としてそっちに緊急派遣されたんだ。その時に夜間戦闘があって一緒に飛んだうちの一人が彼女。ロマーニャ空軍所属のトルキオ・エマヌエーラ中尉だ。」

「よろしくお願いします。」

「よろしくね。」

「はい、よろしくお願いします。」

三人が挨拶するのを見計らってトルキオ中尉にジョゼと下原を紹介する。

「さて、こちらが扶桑海軍所属の下原定子少尉、であちらがガリア空軍所属のジョーゼット・ルマール少尉。」

「お二人とも活躍は聞いていますよ。こんなすごい人たちと飛べるなんて私、今すごく興奮しているんです。」

「その2人に俺は含まれていないのか?」

「バーフォード少佐は以前に一緒に飛んでいますから。」

そうかよ。

「そういえば、トルキオ中尉。お前さん、ナイトウィッチだったな。」

「えぇ。」

「夜間はどうやって敵を探っているんだ?」

「私はほかのナイトウィッチと同様魔導針で探るんですけど探し方がちょっと独特なんです。普通は自分を中心に円球状に探査を行いますが私は約20度前後という非常に狭い範囲しか出来ない代わりにより長距離、高精度に行うことができるんです。」

「なるほど。意外とそんな能力を持った奴っていないんだな。」

「魔導針を持つナイトウィッチはたいていが広域哨戒型ですからね。昔は常時全球位を探っていたらしいんですけど今ではレーダーのように精査できるようになってこれでも便利になった方なんだとか。たいてい夜間に飛ぶナイトウィッチは一人なので広域哨戒型の方が役に立ちます。その一方で私のような能力だと逆に飛んでいる間、常に周囲を警戒するために360度探す範囲を自分で常に動かさないといけないので逆に不便なんです。その代わりに未確認や新型ネウロイと遭遇した時、敵の火力が激しくて近くまで近づくことができない状況だと逆に重宝されたりするんです。それなのでこの作戦には私は結構適任だったりするんですよ。」

俺は広範囲にいる多数のネウロイを同時に精査できる。下原はその遠距離視野で安全距離からネウロイの偵察をできる。トルキオ中尉はネウロイを詳細に調べることができる。ジョゼは万が一怪我した時でもその能力、応急処置が可能で彼女自身、写真の撮影や絵をかくのが得意なため俺はそれらを一任できる。意外と臨時編成だがうまくいきそうだ。

 

地上を走行するスオムス陸軍戦車隊を眼下に見ながら、道路に沿って飛行する。

トルキオ中尉を除き、俺たち3人はここの地理に詳しくはない。もちろん地図を見て大まか村、教会、畑など帰還する際に目印になるものの位置を把握はしているが実際に見ないことには話しにならないからな。それに何より戦車隊の隊長から直々にお願いされたことだ。

航空支援があるということは戦車隊の連中からしてみてもうれしいことだからそれをぜひとも彼らにも飛んでいる姿を見せて戦車乗りたちの士気を上げてほしい、といわれた。

実際に飛んでいる間も戦車から身を乗り出して手を振っている姿が見えた。

自分たちのエンジン音でわからないが何か声をかけてくれているのだろうか。

ま、実際は俺なんかではなく後ろの3人を見て喜んでいるだけだろう。

やがて先頭の戦車を追い抜き、キャリアへと向かうことにした。

 

「渡された情報によると間もなくキャリアの近くになる。」

あたりを見てもキャリアの姿を見ることはできなかったが俺たち4人は奴がどこを走っているのかはわかっていた。

なぜならその走った際に発生する砂埃が空高くに舞い上がっていたからだ。

その発生源は目の前にそびえたつ山の向こう。さすがにこのサイズの山を突破することが出来ないらしく迂回していた。

それをいいことに俺たちは山の陰からキャリアを偵察することにする。変に刺激して迎撃機を上げられると偵察を行うことが困難になり敵自身の警戒度を上げることにつながると判断したためだ。

山の陰にホバリングするように空中にとどまり、偵察を始める。

「ジョゼ、写真の撮影を頼む。トルキオ中尉、キャリアの装甲が薄そうな場所を探ってくれ。下原、迎撃ネウロイがどこから出るのか、対空迎撃レーザーがどこに配置されているのかを目視で探ってくれ。」

 

と偵察を始めようとしたまさにその時、キャリアを確認しているとネウロイの中央部に穴があいた。

「なんでしょうね?」

トルキオ中尉はよくわかっていないようだったが、

「もしかして・・・。」

「だろうな。」

俺と下原はその空いた場所、大きさから大まかな予想はついていた。

やがてその穴から小型のネウロイが浮き上がってきた。キャリアの表面にまで完全に上がるとそのまま速度を上げて発艦、どこかへ飛んでいった。さらに数機が次々と飛んでいきやがて南へ向かっていったのだった。

「あいつらが戦車隊を見つけないといいが。」

「とりあえず、本部には通報しておきますね。」

「あぁ、頼んだ。」

下原が本部に報告している間、俺はTARPSを作動させてキャリアを本格的に探る。

そしてメイヴは短時間で解析を完了させgarudaがその結果を見せてくる。

まず、コアの位置は船尾にあった。船の動力源がある場所とほぼ変わらなかった。そしてコアの数は4つ。どうやらここから各部にエネルギーを供給しているみたいだ。正方形の頂点のように配置されたコアのうち前2つが移動に使われ、前2つがそのほかに回しているみたいだ。これは通常のネウロイと比べてはるかに大きなエネルギーが流れた結果、外部からでも判別可能な状態になっていたためだ。これをもとにトルキオ中尉が偵察を行った結果、コアを攻撃する際、後ろの2つを狙う際は船尾へ、前の2つは上空または側面から狙ったほうがいいことがわかった。

下原によると元々ネウロイは表面が赤いところからレーザーが発せられることがわかっているのでそれを元にどこに配置されているかを観測した結果、これが厄介で本来の空母に置かれている対空機銃の場所のほかにも表面にもあるため普通の空母よりもかなり濃密になるだろう。きっと超大型ネウロイの名前にふさわしい敵になりそうだ。

「どうだ、これ以上探るのは無理だと思うが・・・。」

「そうですね、確かに。」

「こちらの撮影も完了です。」

「私も・・・!?」

とトルキオ中尉が何かを言おうとした瞬間、俺のgarudaが警報を鳴らす。

「ネウロイ!」

その存在に気がついた彼女が叫ぶ。

山に隠れて接近していたのはどうやら俺たちだけではないらしい。

「行きます!」

「待て!」

戦闘を始めようとするトルキオ中尉を止めさせる。ここで戦うのはどう考えてもこちらに有利な条件など一つもない。

「撤退だ。ここで戦っても俺たちが一方的に不利になるだけだ。」

それに山を挟んだ向こう側には奴らの母艦がいる。高度を上げて戦うとそちらからのレーザーにも対応しなければいけない可能性もある。

「北側から迂回するコースで高度を低くして撤退する。戦闘はどうしても振り切れない場合のみだ。」

「「「了解!!」」」

ユニットの魔力流入量を上げて出力を上げる。

「撤退。全機高度1000でついてこい!」

俺たちが速度を上げ始めると同時にネウロイ4機がレーザーで攻撃してきた。

バラバラに分かれて北へ向かうがお互いの距離はできるだけ離さないように飛ぶ。この速度だと一度離れ離れになると合流するだけでも一苦労だからな。

キャリアからだんだんと離れていくが小型ネウロイ4機はいまだに追いかけてくる。

ほかの3人を先行させて俺がその後ろを飛んでいるため全部が俺に攻撃を仕掛けてくる。

まったく、鬱陶しい奴らだ。

銃の安全装置を解除して敵に狙いを定める。俺とネウロイ、お互いが水平飛行で飛んでいるため背中を地面に向け体全体を使って銃を安定させる。

そして俺を狙うために一番近づいてきた敵に向かって

-発砲-

少し山なりに飛んでいた弾丸はネウロイにもちろん着弾した。だが、ネウロイの一部を破壊するのみにとどまった。

俺が前方に向かって飛んでいるのだからその分、弾丸が発射された際の速度がその分遅くなる。時速100km/hで移動する車に乗って進行方向と逆方向に時速100km/hで投げるとその場にストンとほぼ垂直に落下してしまうのと同じだ。必然的に着弾した際の威力が大幅に減衰してしまったのだ。いつもなら正面から発砲すれば俺自体の速度が上乗せされるから問題なんだがな。

「あ、ずるい!」とトルキオ中尉が。意外と戦果にこだわる奴だったんだな。

「こっちが殿を務めているんだ、それくらいいいだろう。お前たちはそのまま速度を落とすな。」

俺は続けざまにさらに発砲。一発ネウロイの中心を二発の弾丸が段階的に削りようやく一機撃墜した。

小型一機に対して合計四発の発砲か、なんと割に合わないのだろう。

そして俺が撃墜した瞬間に三機は上昇を始め、やがて旋回しキャリア方面に飛んでいった。

あちらから撤退命令が出たのかそれとも一機落とされ警戒度が上がったためか俺たちにはわからないが、このまま基地に連れて帰るわけにもいかなかったので結果的には良かった。

「各機、編隊を組み次第進路変更。基地へ直行するぞ。」

「わかりましたけど、さりげなく一機落としているのはやっぱりずるいと思うんですけど?」

「お前らの機関銃だと数十発撃たないと落とせないだろうが。弾丸の速度の関係で俺の狙撃銃なら後ろ向きに発砲していてもある程度の威力はあるからな。」

「またスコアを伸ばしていますね。さすがです。」

「ありがとう。ともかく、いったん帰ろう。」

「そうですね、近いうちまた決戦になりそうですし早く休みたいです。」

そうだ。こんなの嵐の前の静けさみたいなものなんだ。警戒機が一気に4機来たんだ。作戦当日になったらこれの何十倍ものネウロイが一度に来ることも想定しなければならないからな。だからこの瞬間だけは周りを警戒しながらも少しだけ気を抜いてもいいだろう。

「はぁ、疲れちゃった。こんなに能力をずっと使い続けたのも久しぶりだし。」

「たぶん作戦日はさらに使うことになると思うぞ。」

「え“」

そのトルキオ中尉の不思議な返事に思わず皆笑い終始穏やかな雰囲気のまま基地に帰投していった。

 

 

基地に到着後、すぐに収集した情報をもとに司令部が分析し部隊の配置が始まった。

作戦の詳細が決定するまである程度時間がかかるため、航空歩兵には待機命令が出されていた。俺はその時間を利用してウィルマと休憩でも取ろうと格納庫から出ようとした瞬間、声をかけられた。

「隊長、少しいいかい?」

「伯爵?」

声の主はブレイクウィッチーズの1人、クルピンスキー中尉がそこにいた。

「何しているんだ?お前のことだからほかのウィッチのナンパでもしているのかと思っていたが。」

「まぁ、それもさっきまでは少しはしていたよ?」

「していたのかよ。」

思わずため息をつき、近くに置いてあった瓶のふたを開けて水を飲む。少しということは4,5人くらいか。そうして声をかけられた連中の中に偽りの伯爵像が出来上がっていくんだろうな。

「それで、なんの用だ?」

「軍曹のことだよ。」

その言葉に反応して俺の瓶をつかむ手に力が入った。まさかこいつからウィルマの名前が出るとは思ってもみなかった。

「ウィルマがどうした?」

「不安だったからね。元気そうにしていたけれどみんなわかっている。あんな空元気されても逆に皆が不安になっちゃう。」

来て。と伯爵が言ったので俺は彼女についていく。

 

「ほら、あれだよ。」

伯爵が俺を連れてきたのはすぐ隣の第二格納庫だった。何かしているようだったので彼女らから見えない扉の陰からそこを覗き込む。

そこには小さなウィッチと一緒にユニットの整備をしているウィルマの姿があった。

「ここ、ボルトの締め付けが緩いでしょ?だから飛んでいるときプロペラの回転に不調があったんだよ。」

「なるほど!飛んでいるときおかしいな、とは思っていたんですけどまさかここが影響していたなんて思いもしませんでした。」

「ここはね、ユニットのエンジンを支える重要な場所だからね。きちんと整備しておかないと最悪、空を飛んでいるときにここが外れてエンジンがずれて動かなくなってしまう恐れもあるか本当に大事なところなの。」

「え!そうなんですか!」

「そうなの。だからユニットの整備は専門の人に任せるのも大事だけどやっぱり最後はきちんと自分の目で確かめないと。なんせ自分の命を預けているものだからね。軽いA整備なら出撃前に必ず。B整備は月に1,2回かな。C整備D整備は時間に余裕があるときに。特にD整備を行うときは整備の人と一緒にやって細かいところまでユニットをチェックしてきちんと飛べるようにしないとね。そして整備の合間に部品や構造を細かいところまでしっかり、見て完璧に理解すること。そうすれば空で何か起きたとき、自分で対処できる幅が広がるからね。」

「いままで整備って全部整備の人に任せっきりだったんですよね・・・。やっぱり少しは自分のユニットは整備したほうがいいんですね。」

「そうだね。その方が私はいいと思うな。」

「わかりました!ほかにもいろいろ教えてください!」

「いいよ。ほかにはね・・・・。」

 

「頑張っては、いるな。」

「そう。飛行禁止命令書を軍曹が受理してからずっとあんな感じ。」

ウィルマは開いたままのアクセスパネルを指さしながら群がっている5人くらいのウィッチにいろいろなことを教えている。教えているときのウィルマの表情は確かに笑顔だ。だが伯爵の言う通りどこか無理をしているようにしか見えなかった。

俺が居ても立っても居られなくなり扉を開けようとしたその時、伯爵に腕をつかまれた。

そして彼女は首を横に振る。

「まだ軍曹には時間が必要だよ。たとえ隊長のようなあの人にとって大事な人だとしてもね。」

「しかし・・・。」

「はぁ。戦闘以外はまるでだめだね、隊長。」

その伯爵の指摘に思わず、何を言えばいいのかわからなくなる。

「軍曹が飛行禁止命令を言い渡されたのはたぶん“上がり”だからでしょ?隊長だってそうだけど私たちウィッチはいつの日か飛べなくなる。そのXデイがいつかはわからないけれどそれが空で起きるのはまずい、それもこんな重要作戦では。だから隊長たちの上官はそういう命令を出したんだと思う。ウィッチという魔女になった以上、これはどうしても避けられない道だからね、いま話しかけたい気持ちはよくわかるよ?だけれど今はだめ。これは私の勘だけど私たち502の基地に戻ってからゆっくり話すべきだと思うな。ウィルマ軍曹にも今は自分自身と向き合うための時間が必要だよ。隊長もこの作戦が終わってからでも遅くないはずだから一度よく考えてみるといいよ。」

確かに今、俺が彼女に声をかけてもあった瞬間に何を言えばいいのかわからなくなってしまいそうだ。不安を見せまいとしている彼女の努力を壊したくはなかった。

「そうだな・・・。確かに俺はこういった話が苦手だった。俺一人じゃどう彼女とその問題に向き合っていいのか全く分からなかっただろう。伯爵、今回はお前の助言に従ってみるよ。それからでも遅くはないだろうからな。」

「それがいいよ、“バーフォード少佐“。」

伯爵からの思わぬ助言に助けられた。いつもはあんな調子なのにたまにこういった側面を見せてくるから困るんだ。

「ありがとう、伯爵。」

「へーき。これは私の得意分野だかね。あ、もしも振られちゃったら私が慰めてあげようか?」

「それは無理な話だ。お前だけには世話にはなりたくない。」

「ひっどーい!」

そういうと伯爵は別のところに走っていってしまった。俺のことを心配して助言までしてくれた彼女には感謝だな。

「ありがとう、伯爵。」

もう聞こえないだろうと思い口にしたのだがその瞬間に伯爵はクルリと振り返り、ウィンクしてきた。

相変わらず、すごい奴だな。

 

俺がウィルマのことで悩んでいる間も司令部では作戦のかなめ、迎撃ポイントをどこにするかの議論が行われていた。どこに地上部隊を展開するかもめにもめて複数ある予想進路から仮にどこに通っても射程圏内に収められそうな場所が迎撃ポイントと設定された。

ヨエンスーから約120kmの場所だった。

「ずいぶんと近すぎないか?」

もらった資料を読んで思わず、そうつぶやいてしまった。

「まだ集結していない部隊があるんだ。それに敵の速度が遅いんだ。それをできるだけ活用して一台でも多くの砲を、一両でも多くの戦車を考えた末がこの場所だ。」

「あ、ラル少佐。確かにこの資料を見る限りかなり戦力が集まりますね。ですが・・・。」

「あぁ、これは諸刃の剣だ。」

「確かに。ここではもう後がありませんね。」

あまりにも近すぎで航空機が攻撃して基地に戻ってもたぶん時間的に考えれば再度攻撃は撃墜されていなければ可能だろう。だが、この距離が仇にならないか?

もし、失敗したらそれで終わり。部隊を再編している間に絶対にヨロンスーは陥落する。

つまり攻撃は最初で最後。チャンスは一回きり。この作戦の失敗はスオムス南部の陥落の始まりとなってしまうかもしれない。こんな賭博みたいなことをよくやろうと思ったものだ。

「・・・いや逆だ。やるしかないのか。」

「バーフォード少佐?」

「スオムスからしたらやるしかないんですよね。新しく巣ができる可能性があったとは言え、どちらかといえばバルト海を北上してこちらに向かってくるネウロイに集中しなければならなかったためそちらの脅威優先度はどうしても低い。だから対応が遅れ、それを取り戻すための時間を必要とした、というわけですか。」

「たぶんな。」

そして俺とラル少佐は窓から外を見る。俺たちが視線を向けるその先にはまだ見ぬ脅威、キャリアが鈍足だが確実に迫ってきている。

「・・・厳しい戦いになりそうだ。」

「はい。決して負けることができない戦いですからね。」

残り時間は限られている。それをどう上手に利用するかがカギになりそうだ。

「行こうか少佐。奴が来るまでにまだやるべきことがあるからな。」

「そうですね。このローテーションを見る限り自分も夜間スクランブルの人員になっているようですし。」

「慣れない土地でのスクランブルは大変か?」

「いえ、空はどこでも一緒ですから。」

「なるほど、それもそうだな。だが無理はするな、ここはすぐに応援を呼べるはずだから一人ですべて落とそうとはせずに危険だと感じたら必ず要請するんだ。」

「わかりました。心にとめておきます。」

 

そしてキャリアが来るまでウィッチたちに心が休まらない時が過ぎていった。いつあの大群が来るのか、不安に思いながら過ごす日々だった。いっそのこと来てくれればここまで緊張しなくていいのに、とつぶやいている奴もいた。だがネウロイは予想に反して一機も警戒網に引っかかることはなかった。夜間哨戒シフトに組まれた俺も新聞や雑誌を片手にラジオに耳を傾けひたすらに時を過ごしたが一度もレーダーはネウロイを発見できなかった。その間も地上部隊は進軍を続け、迎撃ポイントに集結する。そしてそれを知ってか知らずかキャリアもそこに向かう。

決戦の時は近い。

 

2日後、0400。

夜間哨戒シフトを途中で切り上げ4時間の睡眠をとり作戦会議が始まる。今日、キャリアとの一大決戦が始まる。

「おはよう、諸君。」

参加するすべてのウィッチ、パイロットが話を聞けるようにと出発前の最終ブリーフィングは一番大きい第5格納庫で行われた。夜明けとともに行われる攻撃を前に最終確認というわけだ。

「すでに配布された資料によって当迎撃作戦については頭に入っているだろうが説明を行う。

今回、キャリアを撃破するにあたって主力という概念はない。全部隊がスケジュールにのっとって迅速にネウロイが修復する隙を与える間もなく攻撃を続けることがカギとなる。

地上部隊が同時に火力をコア付近に集中させ、ある程度破壊したら次は急降下爆撃によるピンポイント爆撃、この時点でコアを破壊できると考えてはいるが万が一外した時に備え地上攻撃ウィッチが超精密爆撃を行いコアに直撃させて撃破する。この間、キャリアに搭載されている迎撃機に関しては空戦ウィッチがこれを抑える。詳細は配布した資料を再度確認してくれ。何か質問は?」

もうこの時点で質問する奴なんていないだろう。そう思っていたが、誰かが一瞬間をおいて手を上げる。

「万が一、当作戦でキャリアを撃破できなかった場合は?」

おそらくここにいるほとんどの人が聞きたくても聞けなかった質問を誰かが司令に問う。そんなの聞かなくてもわかっているだろうに。俺はそう心の中で愚痴る。

「撤退は許されない。何としても撃破しろ。」

「ですが・・・。」

「我々にはここを突破されてしまうともう我が国を守る壁がなくなってしまう。絶対に失うわけにはいかないのだ。もし、という概念は当作戦には存在しない。死力を尽くせ。死んででも守れ。今こそ国にその命をささげる時だと思え。家族を守りたいなら全力を尽くせ。さもなければ、その死の矢は君たちの大切な人へと降り注ぐことになるだろう。」

司令はそう質問したウィッチに無慈悲に言い渡す。そうだ、それしかない。この町を死守しろ、この作戦の全員への命令をわかりやすく言えばそうなる。

「あとは、何かあるか?」

先ほどの司令官の発言にもう皆何も言えなくなる。ここにいるほとんどがスオムス軍に所属しているだけあって余計あの言葉の重みが身に染みているのだろうな。

「ならこれにて最終ブリーフィングを終了する。作戦開始時刻は0510、諸君の健闘を期待する。以上、解散!」

一斉に全員が立ち上がり、礼をすると彼らは建物の中へ戻っていった。

 

あらゆる体調、機材の最終チェックを皆が終えたのが0500ちょうどだった。滑走路からの離陸順番などすべてを円滑に行うために分単位で決まっているスケジュールだがそれでも作戦開始時刻は0510だ。まだ少しだけ余裕がある。だがこの数分というのが意外とじれったいものだ。何をしていいのか、いや何もしない方がいいのかと決めかねているとふとラル少佐が立ち上がる。

そして皆の注目を集めながらも、逆にラル少佐は椅子に座っている皆を見渡す。

「まったく、情けないな。そんなに手ごわいか、今回の相手は?」

「ラル少佐?」

まさか出撃前にそんなことを言われるとは思わず、いったい何を?と言ってしまう。

「いや、いつもはあんなに元気な君たちが今はひどく弱って見えるのでな。これ以上の激戦を何度も潜り抜けてきたはずなのに皆、やけにおとなしいからな。まぁ、出撃前に死ねと言われれば確かにそんな気分にもなる。」

そんなに今の俺たちの表情は暗かったのか。顔に手を当てるが特に強張っている感じはしない。隣のジョゼや熊さんを見てみると、あぁなるほど。どこか暗い感じがした。

「どうした?そんなに不安か?伯爵?」

「え、僕かい?」

「そうだ。君がそんな風になっているのを見るのはずいぶんと久しぶりだ。反省室でも見られない光景をこんあところで見るとはな。どうした?こんなのよりももっとひどい場所を多数渡ってきた君がまるで頼りないように見える。そう思わないか、バーフォード少佐?」

一瞬、俺を名指ししてきたことに驚くがすぐにおどけて見せる。

「えぇ、全くです。いつも今みたいな淑女のような振る舞いだったら502はまた違ったかもしれない。先生、熊さん、どう思う?もしそうだったら俺たちの仕事はもっと減っていたかもしれないんだぞ?願ったりかなったりだと俺は思うんだがどうだ?」

ラル少佐から託されたバトンを俺は2人に渡す。

「それは、少し気味が悪いですね。」

「まったくです。“ちゃんと整備をしておいたよ”、“あぁ、その書類かい?もちろん作成済みだよ。”なんて伯爵が言ったら鳥肌が立ってしまいそう。ジョーゼット少尉ならわかってくれますよね?」

「ジョゼ、君はそんなこと言わないって信じているよ。」

「え、え、私ですか!えっとそうですね・・・。」

「ジョゼ!」「少尉?」

「そんな!私、どうしたら・・・?」

流されやすいジョゼの反応に皆が笑みを浮かべる。

「それならニパはどうです?」

「私?伯爵があんな感じだから私も一緒になっていろんなものもらえるから私はこのままがいいな。」

「もらえる?」

「うん。前に伯爵と一緒にあの倉庫にあった扶桑の黒くて甘いあのお菓子・・・。」

「あ。」「お前か!」「ニパ!」

伯爵が気まずそうな表情を浮かべ管野と下原が立ち上がる。

「「あれ食べたのあなた(お前)たちだったのか!!」」

「「げ。」」

と墓穴を掘ったことに気がつくニパと芋づる式に犯人だと判明した伯爵。

「ニパ、伯爵。この作戦が終わったら詳しく聞かせてね?」

下原の笑顔に思わず表情がひきつる。

ニパ周辺が少し険悪になったが空気はやはり穏やかになっていた。

「さて、ある程度緊張がほぐれたようだから私から皆に一言、言わせてくれ。」

後ろの時計を確認して、ラル少佐はもう一度皆を見渡す。

「私たちは第502統合戦闘航空団だ。ここにいるメンバーは皆エースの中のエース。一人一人が航空歩兵一個中隊に値する技量を持っていると私は信じている。ウィルマ・ビショップ軍曹は残念ながら飛べないが我々が彼女の分まで戦ってやろうじゃないか。かの501にはガリアの巣を破壊されるという遅れをとりさらに次はヴェネツィアのネウロイの巣を目指していると聞く。このままではわれらの名前が泣くと思わないか?」

確かに競っているわけではないがあちらだけが戦果を挙げ続けているのはどうにも気に食わない。そう思っているのは俺だけではないようで皆もうなずいたり肯定している。

「そんなところに現れたのがあのキャリアだ。今、目の前にいるネウロイは巣ほど大きくはないがそれでも脅威だ。

ならせっかくの機会だ。我々の任務は制空権の確保だが活躍できないわけではない。いや、

むしろ最高の働きをしよう。砲撃隊や爆撃隊なんかよりもわかりやすいほどの華麗な働きを戦場にいるすべての兵士に見せつけてやろう。我らこそが最高のウィッチだとここスオムスの地に知らしめてやろう。502こそが世界最強の統合戦闘航空団だと知らしめてやろう。それでは諸君。

 

 

このブレイブ(勇猛)のエンブレムに恥じぬ戦いをしようじゃないか。」

 

 

はい!と皆がラル少佐の呼びかけに答える。いつもはこんなことを絶対に言わなさそうなラル少佐がここまで言ったんだ、だからそれに答えるのが下につくもの定めだろう。そしてもうそこには先ほどの暗い雰囲気などどこにもなかった。

そして格納庫にかけてある大きな時計が05:10:00を指した瞬間

「コンタクト!」

一斉に整備兵、パイロット、ウィッチなどが一斉に動き出す。

さて、出撃だ。

 

編隊を組んだり、巡航速度の関係で時間がかかる急降下爆撃機隊を優先して離陸させている間も無線からは次々と連絡が入ってくる。

既にキャリアはここから約130kmのところを、速度を保ちながら移動しており作戦は時間通りに決行される。

爆撃機隊が故障機を除き全機離陸した後にわれら空戦ウィッチが離陸する。

管制塔の許可が下りるとラル少佐がハンドサインを送り全員が続いて離陸していった。

空に上がり高度を上げていくとすぐに爆撃隊が見えてくる。爆撃機隊の上に位置を取りいつ。

やがて後続の空戦ウィッチが続々と現れそれぞれの位置についていく。こうして空飛ぶ騎兵隊の布陣が完成する。

 

キャリアとの相対距離が50kmあたりになったとき、地上から火が上がった。

敵の攻撃か!と一瞬焦るがこちらのレーダーではネウロイを捕捉できていないので予定通りの攻撃だろう。山なりに飛んでいったであろう砲弾がしばらく時間をおいて

『着弾!』

という無線の声の直後に閃光を伴いながら爆発する。

ここからではBDA評価はわからないが少しくらいは被害を与えられていると信じたいものだ。

と、その時。

敵機を発見したことを示す表示が警報音と共にポップアップされる。

おそらくメイヴが探知したということは・・・

『敵機、上がってきます!』

空間把握能力を持つ前方哨戒任務を兼ねているナイトウィッチがネウロイを発見したことを告げる。

『予定通りだ。爆撃機隊には一機も近づかせるな!』

ラル少佐の命令で502は編隊から離脱し速度を上げて迎撃ネウロイのインターセプトに当たる。

 

そして、もうすぐ敵の射程圏内に入ろうとしたところで熊さんが最終確認といわんばかりに皆に最終確認を行う。

「今まで以上に激しい混戦になります。ネウロイを狙いに定めた瞬間に自分を狙っている奴がいたことに気がついたら回避を絶対に優先してください。

それと、どうしても振り切れないと判断したらすぐに味方を呼んでください。それだけは絶対に忘れないでください。」

熊さんの言葉を聞きながらも俺は前方への警戒を忘れない。

敵は一度に大量には上がれない上に地上部隊の攻撃にさらされて離陸できずに落ちていく奴もいるが上がってくる奴もいる。そして爆弾の雨をかいくぐってきた奴が意外と多い。

そのすべてが地上部隊を無視してこちらに向かってくるあたり敵もこちらの真の狙いに気がついていることなのか。

「来るぞ!」

そしてレーザーが飛んでくる。

 

前方には砲撃をかいくぐって離陸した迎撃ネウロイが10機。中型が4、小型が6。502だけでも十分対処できそうな数だがネウロイは時間ごとにどんどんと数が増えていく。

その対処を含めてほかの空戦ウィッチ隊と協力しなければならないだろう。

前方からの攻撃を素早く回避してスコープをのぞく。狙う先には小型ネウロイ。

まず一機!

そう思いながら狙いを定めるがすぐにスコープからその姿が消えてしまった。

俺が狙っていたネウロイを含めて数機が上昇を始める。俺たちを上から追い越して爆撃隊を狙う算段だろう。

「させるか!」

俺もユニットの出力先を変えて追うように上昇する。明らかこちらの方に速度の軍配が上がりその差も急激に縮まる。

そして再び先ほど逃げられたネウロイに標準を向ける。

ドン!

相変わらず狙撃銃らしくない発砲音を響かせながら一直線に上昇するネウロに向かって魔力補強された徹甲弾が伸びていく。いい感じにコアの中心に着弾した徹甲弾はそのままネウロイの装甲を貫き、コアさえも貫通した。小型程度なら一撃で倒せる確信があった俺はすでに次の目標に狙いを定めていた。僚機が撃墜されたことでもう一機の小型ネウロイが旋回するような動きを見せるがもう遅い。

「すでにその動きは見切ってんだよ。」

トリガーを引き再び発砲。だいぶお互いの距離が近くなっていたためコンマ数秒で着弾した徹甲弾はこちらも軽く貫通した。

だが最後の中型ネウロイはそう簡単には見逃してはくれない。爆撃機隊へ向かうのは不可能と判断したのか上昇をやめてこちらに攻撃を仕掛けてくる。注意がこちらにむいた、よし、いい傾向だ。

中型とはいえなかなかに侮れない。あの大型に近い大きさの中型を本当はすぐに撃墜してほかの援護に回りたいがやはり難しいだろう。ならばここで落とさねば。

周りのレシプロ型のユニットを使用しているウィッチではできないような機動や速度をもって敵機を翻弄する。

さぁ、踊れ踊れ。

敵のレーザーは俺が0.3秒前にいた場所を貫いていく。明らかに俺の速度に対応できていない。くるりとその場所で一回転して急降下、そして一気にネウロイの下に潜り込み発砲。

ネウロイも俺が発砲するほんの一瞬前にその巨体をわずかにずらしコアが露出させまいと着弾個所をずらす。その大きさでよく動くものだ、感心するよ。

そして中型を追い越してしまった俺はそのまま減速を行いながら上昇。

一気にエネルギーを失ったことで速度が急激に落ちるがこれで構わない。ユニットの出力先を今までの進行先に向けて再度加速、今度は奴を後ろから追いかける形になる。

カブトガニのような形をした中型ネウロイは本気で俺に怒っているようでさらに畳みかけるようにこいつが持つ火力をすべてこちらに向けてきた。シールドを張りながらも連続射撃を行う。

ドン!

一発目。徹甲弾はネウロイの装甲を削るかのようにほぼ水平に飛んで行った。当てるつもりだったのだが予想以上に表面の傾斜が小さく表面に一直線上の傷をつけるのみにとどまった。どちらかといえばはずれか。

ドン!

二発目の射撃。

一発目を撃った時よりもさらに高度を上げてからの射撃。敵との距離はさらに近づいた状態での発砲。若干弓なりに飛んで行った徹甲弾はネウロイに対して35°の入射角をもって着弾。屈折のように着弾後浅い角度で進み表面をさらに破砕する。

ドン!

そして三発目。

距離を完全に詰めた俺は敵の左側面、距離にして40mの所から発砲した。この発砲を終えた時点で弾倉の残弾はゼロ。

俺の狙撃銃から放たれた徹甲弾は先ほど破砕した部分へと正確にそして45°という最適な角度で進入していった。着弾後、破砕されてもろくなっていたネウロイの装甲をさらに削り取りながら徹甲弾はさらに最深部へと向かっていった。だが表面からコアまでかなり深く、この3発ではコアまであと10cmというところで削れきれずに終わってしまった。

そしてそのまま高速で追い越してしまった俺に対して、持てる火力を一気にこちらに向けてくる中型ネウロイ。もう俺を撃墜しようと必死なのが手に取るようにわかる。ま、修復をしながらも俺に襲い掛かってくる奴を最初の徹甲弾を外した時点で完全に装甲を削り取れるなんて思っていなかったさ。だから。

 

 

「先生。」

「はい、お任せを。」

 

 

その灰色の制服を身にまとった小さな狐が下から飛び上がってきた。

ネウロイの右下方から一気に上昇し俺の飛んでいる位置の正反対から飛んできた彼女。レシプロとは言え、その速度は侮れない。ましてや、いまこの敵の攻撃はすべて俺に集中している。出力を上にあげて頭が下になった状態になっているが上への加速度と下への重力加速度が一致したとき、前方に進む力を除いて一瞬体が停止する。

偏差をあまり考えなくていい、その場所にぴたりと彼女は来てくれた。

先ほど俺が反転した直後、目があった先生に一瞬の間にハンドサインで援護要請を出した。それにこたえる形で俺の描いたとおりに先生は状況を理解して飛んできてくれた。

最高の場所を作ったんだ。あとは任せたぞ。

そして彼女はその部隊内最高火力であるフリーガーハマーをすでに手負いのネウロイに対して2発発射した。白煙を出しながら高速で飛んでいく弾頭は歴戦の猛者である彼女が外すことはまずなく正確に俺が削った場所に着弾する。

ネウロイは一度折れるかのように二つに分裂したかと思うとすぐに白い破片をまき散らしながら爆発した。そしてその破片を回避しながら俺の右についたロスマン曹長。

 

「さすがだよ、先生。」

「いえ、少佐があれだけやってくれていたので私が落とせたんです。本当は必要なかったのでは?」

「そんなことないさ。」

俺は彼女にもう残弾がなくなった弾倉を見せる。

「これじゃあ、リロードして攻撃するタイミングを狙っているうちにまた再生されてやり直しだ。だから助かった。」

「なるほど、そうでしたか。それならお役に立てたなら光栄です。」

 

そして俺たちが迎撃ネウロイを抑えている間に爆撃機隊は機体に負荷がかかることを承知で最高速度を維持してキャリアへと向かっていく。

だがどうしてもネウロイを抜かせることはなくてもレーザーが彼らへと飛んでいってしまった。

またもう一機小型ネウロイを撃墜したと思った時、大きな爆発音が聞こえた。その方向を見てみると爆撃機隊のうちの何機かが黒煙を上げながら高度を落としていた。搭乗員が脱出しているかはわからないが被弾したのだろう。

彼らを一機も落とさない覚悟でいたのだが、このざまか。無線から聞こえる声もすべてが、状況が悪い方向に向かっているというのを俺たちにはっきりとわからせるものだった。そんな中で聞こえてきた一つの報告が皆を勇気づける。

「キャリア後方右側のコアを破壊!」

戦車隊による集中攻撃が功を奏してそこのコアを破壊することができたようだ。そして続けざまに砲撃隊が飽和攻撃をかけることによって修復速度をはるかに上回る速度で攻撃を行うことによって後方左側のコアを破壊した。これによりキャリアは完全に動きを停止した。

そして攻撃ポイントに近づくにつれて徐々に悪い報告が入るようになった。

砲撃隊、戦車隊の砲弾の量が少なくなってきたこと、そして迎撃ネウロイがそちらにも向かい始めたことだ。空戦ウィッチ隊も1/3をそちらに回し爆撃機隊、砲撃隊の両方に攻撃がいかないようにする。

「全く、きりがない!」

キャリアが完全に動きを止めたため砲撃隊の精度はほぼ完ぺきといっていい状況だった。それでもネウロイはキャリアから発艦してく。それも中型クラスばかりが。なぜか?奴らほどの大きさになると砲弾が当たって自分自身が破損してもコアさえ無事なら発艦できるからな。だから逆に小型ネウロイだと砲弾でコアごと撃破されることが多い。

つまりは中型ばかりを相手にしなければならないということだ。砲撃隊が半分を発艦するネウロイに対して攻撃してくれているおかげでかなり撃破してくれているがそれでも大変なものは大変なのだ。

周りにいる中型は6機。明らかに不利、そして護衛戦力は先ほどの2/3。

ならば、ここにいる中型を早急に撃破するしかない。攻撃は最大の防御。こいつらがいなくなれば爆撃隊への脅威は減る。

俺は攻撃する手をやめて一度、高度を高くとる。傍から見れば戦場から逃げるような行為に見えるが俺にはそんな気は一切ない。高度13000についたところで俺はTARPSを作動。残りの敵の精査を行う。俺の指示を受けてメイヴが中型6機を探りその結果はすぐに出た。こうしてここにいる全てのネウロイの解析を終えた俺はまさに神の視点からこの戦場を眺めることができた。

「伯爵!ラル少佐!熊さん!そいつのコアは尾翼だ。そこじゃない!」

「「「!」」」

「ジョゼ!管野!下原!そのネウロイにはコアはない。ジョゼの4時の方向、管野の7時の方向にいる翼が4つある中型を狙え!コアは左側下の翼の真ん中だ。下側から攻撃を集中しろ。そうすれば両方とも撃墜できる。」

「てめぇ、俺に指示なんて・・・。」

「直ちゃん!ありがとうございます、少佐!」

「痛ぇな!」

はぁ、何をやっているのやら。

「ニパ!check 6!狙われているぞ」

「うぉ!本当だ!危なかった!」

「帽子をかぶったカールスラントの対物ライフルを持ったそこのウィッチ!3時方向下方、爆撃隊に向かっている!対処してくれ、コアは先端だ。その銃なら当たれば3発で貫ける!」

「!はい!」

そしてあんなに苦戦していたのにほんの1分の間に4機の中型が撃破された。俺はまるでAWACSかイージス艦にでもなった気分になっていた。

『もうすぐ降下地点だ。そこまでに絶対に近づかせないでくれよ!』

爆撃隊から通信が入ってきたが、何機か味方が落とされていて怖がっていたらどうしたものかと思ったがその声を聴く限り問題なさそうだ。

「わかっているよ。先生、今追っているネウロイはコアが二つだ。伯爵、先生の援護だ。コアは前方の盛り上がったところと尾翼の付け根だ。前者の方が、装甲が厚い。タイミングは任せる。」

「了解!」「少佐、ありがとうございます。」

「最後の一機はちょうど中心。火力を集中して一気に削るんだ。」

「「「了解!」」」

その近くにいたラル少佐とジョゼ、熊さんが機関銃で一気に俺の言ったところに攻撃を仕掛ける。周りにいたウィッチも次々に狙いを定め攻撃する。

そして残りの2機はほぼ同時に撃破された。

「爆撃隊へ、空は完全にクリア。あとは任せたぞ。」

『あぁ、せっかく作ってくれた花道だ。無駄にはしない!』

爆撃隊隊長機の声が響く。残りコアは2つ。

彼女たちはできるだけキャリアからのレーザーが爆撃隊へ当たらないようにするためシールドを張ることに集中する。そして

『攻撃開始!俺に続け!』

単縦陣のように編隊を組みなおしていた急降下爆撃隊が一気に降下を始める。Ju-87から発せられるサイレンの音が今では頼もしい音のように聞こえていた。

すでに道中で6機落とされていて18機になっていたが火力は十分なはず。

一直線に各機が攻撃するため敵にとっては攻撃しやすくなるが逆にこっちの防衛しやすくなる。

そして脅威がなくなった空を気にせずに今はキャリア本体からの対空レーザーのみに集中して彼らを守る。

そして次々と急降下爆撃を慣行していく爆撃隊、離脱するときにさらに5機落とされてしまった。だがそれに臆することなくどんどんと装甲をはがしていく。

そして12番機の放った爆弾がコアを露出させた。

『コア露出!』

続く14番、15番機が至近弾を当ててついにその次の18番機がコアに命中させた。

コアが砕け散る音があたりに響きわたり歓声が響く。

あとは残り前方左側のコアだ。音を聞いた19番機はすぐに狙いを右から左にずらし攻撃する。だがさすがキャリア、砲弾の雨にさらされていながらもまだコアを露出させることはなかった。そして隊長機から19番機までの撃墜された機をのぞく14機でようやく破壊したコアを残りの4機で破壊できるはずがなかった。続く地上攻撃ウィッチの投弾でも想定よりもはるかに厚いコアを前にしてぎりぎりまで露出させることができても破壊することはかなわない。

最後のあと一手が足りなかった。量にしてまさに爆撃機が爆弾1発分、いやコアに亀裂を入れられればいいからそれ以下だろうか。どちらにせよあそこで外していなければ、あんなところに無駄撃ちをしなければ、間違いなく破壊できただろう。

大量の煙の中で外側の修復が始まっており残りの残弾では砲撃隊の力を借りてもそこを引きはがすのは難しいかもしれない。グリップを握る手に力がこもる。ほかに手はないか?と考えを巡らせようとしたとき、

『まだ終わっちゃいねぇぞ!』

無線から入ってくるその耳が痛くなるほどの大きな叫び声、決して聴き間違えることのないその声の主は急降下を始めた。

「管野!?」

そうか、こいつならその能力で行けるかもしれない。前に大型ネウロイを撃墜するときに使わせたフリーガーハマーにも引けを取らないほどの能力。

そこからのラル少佐の判断は早かった。

『クルピンスキー中尉!バーフォード少佐!彼女を追いかけて援護!』

すでに降下を始めている彼女の援護に回れるのはそれ以上の速度を、能力をもって出せる伯爵とユニットの出力で可能な俺だけだ。

この高度から管野に追いつくためにはかなりの速度が必要だ。今まで生身では出したことのない速度にまでさらに加速する。一機に地面が俺に近づき、空を飛んでいる空戦ウィッチを次々と追い抜いていく。管野のユニットを目視してさらに追いかける。

そしてその瞬間、機動を一瞬で変えて管野に襲い掛かろうとしているネウロイが目に入った。急降下爆撃機が攻撃しているその隙に発艦した小型ネウロイが1機、管野に向かう。伯爵はこいつの少し前に発艦した別のネウロイに攻撃を集中しているため気が付いていない。

「全く!世話をかけさせる!」

ただでさえ、この高度では出したくない速度を出して知るが俺はさらに加速する。

 

前方を攻撃するために集中していた管野はそこでようやく横から来ているネウロイに気が付いた。すでに掌にシールドをスタンバイさせている管野の表情はまさに怒りだった。攻撃を決めようとしていたときにそれを邪魔するように現れたネウロイ。俺だって怒りたくなる。だが管野は再び前を向きさらに降下しようとする。肉を切らせて骨を断つとでも言いたいのか?相変わらず無茶をしやがる。

そしてネウロイが管野に向けて攻撃しようとした瞬間。

俺がそのネウロイをたたき切った。上から降ってきた俺に思わず目を見開く管野だがすぐに落ち着きを取り戻す。わずか0.1秒にも満たない時間のはずなのにお互いうなずく、そんなことができた気がした。

-やってやれ。-

-もちろん。-

 

アイコンタクトでそんなことをしながら再び追い越した彼女を俺は見送る。

『少尉、警戒!』

その時、熊さんの叫びが無線を通じて聞こえてきた。そして俺はなぜ彼女が叫んだのかの意味にようやく気が付く。今までさんざん空に撃っていた対空レーザーが一発も撃たれていないのだ。目の前のネウロイに集中しすぎていたのは管野だけではなかったようだ。

映像記憶能力をもつ熊さんが警鐘を鳴らす、その意味を俺より長く彼女と一緒にいる管野なら絶対にわかるはずだ。

キャリアもかなり追い込まれている。修復機能があるとはいえ、攻撃隊にやられた範囲は大きいからコアを隠すだけでも時間がかかる。そしてもっとも近くにいる脅威、すなわち管野を排除しなければ、とキャリアも考えているはずだ。ならどのタイミングで仕掛けてくるのか見極めないといけない。カギは熊さんだ。今までの経験からどのタイミングでネウロイが攻撃を仕掛けてくるのかをその記憶から探っているのだ。

そして次の瞬間、

『右!』

熊さんの声が聞こえたと同時に管野がその方向にひねる。条件反射といってもいいほどの素早い動きだった。

 

管野が体をひねった直後、元いた場所をキャリアからのこれでもかというほどのレーザーが貫く。流石だ、熊さん。正確にキャリアがどこをどのタイミングで攻撃してくるのかを的中して見せた。

『よし!』

誰かがそう言った。キャリアと管野の距離を考えれば次を撃つ前には攻撃できる。キャリアはもう防御手段もないし装甲はかなりはがれている。管野の手には能力の具現である超硬シールドが展開されている。もう目の前に何も遮るものはない。

勝った!

俺だってそう思った。

 

だがキャリアは最後までしぶとかった。もうなにも手を出せないと思っていたこいつは最後の最後でレーザーの代わりに艦載機型のネウロイを管野に向けて射出してきた。

「な!?」

突然の予想だにしない攻撃に驚きながらも、とっさに手に展開していたシールドを急いで前方に広げる管野。だがそのネウロイの射出速度はすさまじくそのネウロイが体に直撃することは防ぐことができても威力を減衰させることはできなかった。

そのままの勢いで俺のほうに飛ばされる彼女。俺は管野を受け止めるためにシールドを張ろうとし、そして俺は再び彼女に驚かされた。その目は今だ全く諦めておらず、むしろ闘志の炎が燃え盛っていた。

そして俺と管野が再び交差しようとした瞬間、彼女は俺の左手を強くつかんだ。

管野のもつその強い力で体を回転させられて彼女と正対する。先ほどのネウロイの攻撃によって打ち上げられたときに発生したエネルギーもちょうどこのタイミングで使い果たし、わずかな間無重力のような状態になる。そして管野は苦しい顔をしながらも俺を力づくで引っ張った。近すぎて彼女の鼻に当たりそうなほどに引き寄せられた俺はただ管野が次に何をするのかをただ待つしかなかった。

そして彼女はつぶやく

 

 

 

悪い、あとは任せたぞ。

 

 

 

腹部にかなりの衝撃を受けると同時に速い速度で地面に落下していった。そしてすぐに管野の意図を理解した。単純なことだ、あいつは目の前で敵にやられたことをそっくりそのまま今度は俺を使ってやり返したんだ。そのまま目線をあちらに向ける俺を蹴ったと同時に力尽きたのかすでに落ち始めていた、がすぐに伯爵が飛んできて彼女を支えた。あちらは平気そうだな。

管野にやられた傷は痛むが、今は我慢だ。

 

空中で姿勢を立て直し持っていた狙撃銃を連射した。反動を気にせず撃った3発の徹甲弾が最後の装甲を削る。コアの一部が見えたところで弾切れになった狙撃銃を素早く後ろに回して腰に差した刀を抜きり、

 

その速度をもってコアに突き刺した。だがその速度に俺の体が耐え切れるはずもなくすぐに右手が悲鳴を上げ体勢を崩してしまい、体をネウロイにぶつけてしまった。

パキッ!!!

そしてここに来てから何度も世話になった刀にも亀裂ができてしまった。もうこれ以上は刺すことも切ることもできない。

くそ、ダメか。あとほかに残っている手は、何がある?刀はもうだめ、狙撃銃は残弾なし。もう無理なのか?

 

一瞬、頭の中を悲しいイメージが支配する。ダメだ、できない、無理だ。そんな単語は埋めつくそうと雪崩のように覆いかぶさろうとしてきた。

・・・いや、まだだ。まだあきらめるわけにはいかない。あいつに任されたんだ。頼んだ、と。俺は気合でその負のイメージを頭の中から追い出す。

なら引き受けたからには今俺がやらないで誰がこいつのコアを破壊できる。

もしここであきらめたら

”おい、少佐!なに一人で勝手にあきらめてるんだよ!ざけんな!”

とか言われそうだ。それに腰と背中に背負った2つの銃がまるで自分を使えと言わんばかりに自己主張をしているからな。

まだ手は少ないが出来ることは残っている。

腰に手を回しハンドガンをわずかに露出したコアに向けて6発打ち込む。コアの表面に傷をつけることはできたがそれ以上はできない。

そして俺は持っていたハンドガンを放り捨てると背中の狙撃銃に手をかけ、銃口を上にして大きく掲げる。銃弾が残っていないからもう武器としては使えない?そんなわけあるか。最後に残された手があるじゃないか。そして俺は心からの本心を口にして

「いい加減、ぶっ壊れろ!」

渾身の一撃をもってコアを銃床で思いっきりたたきつけたのだった。

 

 

バキッ!

 

 

その瞬間、ネウロイの修復が止まった。やったのか?ダメなのか?

俺はその判断を下せないでいると目の前の蜘蛛の巣のような切れ目が少しずつ、だが加速的にコア全体へと広がっていった。そしてその亀裂がコアを完全に回った瞬間。

目の前で爆発が起きた。

吹き飛ばされてキャリアからだんだん遠くなっていくがその途中、ネウロイがその巨体を維持できなくなりやがて白い破片をまき散らして消滅したのが見えた。

なるほど。俺はやるべきことはちゃんとできていたらしい。

そしてふと、俺の後ろにふわりと柔らかさとぬくもりを感じた。

「お疲れさま。本当に頑張ったね。」

あぁ、そうか。この声は。

「来てくれたのか。」

「一人でじっとしているのは性分じゃないからね。」

「違いない。」

俺とウィルマで先ほどまでキャリアがいたその場所を眺める。キャリアがいた場所はきれいなのだがその周りを囲むように土地が荒れている。きれいにそのキャリアの面影が残っているのを見るてようやく撃破したのかと実感できた。

「あぁ、随分と久しぶりに頑張った気がするよ。」

「疲れちゃった?」

「少しな。」

「なら寝ているといいよ。」

あぁ、そうするよ。そう口にする間もなく意識が遠のいていく。

薄れていく意識の中で遠くから何人かのウィッチが来るのが見えた。熊さんたちか?

ま、今はどうでもいい。すこし疲れた。

「おやすみ。」

「あぁ。」

そう返事だけして俺は完全に意識を手放した。

 

 

 

「ここは?」

体が何かによって小刻みに揺れる感覚が俺を深い眠りから覚ました。

「ヨエンスー発。サンクトペテルブルク行きの臨時便ですよ。」

声のした方に顔を向けると真っ白の純白の服に茶髪をツインテールでまとめた少し内気な彼女がいた。

「ジョゼか。ほかのみんなは?」

「外をご覧ください。」

外?と思いながら今度は反対側に顔を動かしながら窓の外を見るといつもの見慣れた光景だった。

輸送機の翼のさらに先に編隊を組みながら飛ぶ4人のウィッチ。

熊さん、ニパ、曹長、ウィルマか。

 

「それで、現状は?」

俺は再びジョゼに視線を戻し、問いかける。

「自分についてですか?それとも少佐が気を失ってからですか?」

「気を失ってから時系列順に頼む。」

「キャリアは撃破されました。そこは安心してください。」

「そうか、なら俺の働きは無駄じゃなかったということか。」

俺がそういった瞬間、ジョゼが揺れる機内で立ち上がった。

その顔はひどく悲しそうなものだった。

「ジョゼ?」

「少佐。私の非礼をお許しください。」

 

パチン!

 

その直後、俺は彼女に平手打ちをされた。

「ジョ、ゼ?」

今まで彼女に怒られることはあっても実力行使に出られたことは一度もなかった。だからだろうか、今の平手うちは俺にとってかなりショックだった。

「以前、少佐が骨折したとき、私がなんて言ったか覚えていますよね?忘れたとは言わせませんよ。」

俺はうなずいてもちろん、とつぶやく。

あぁ、あの時のジョゼは忘れられないさ。そうだ、あの時もひどく悲しそうな雰囲気だったな。

「内臓破裂寸前の脾臓、足や腕と腹部で激しい内出血、2か所の複雑骨折、うち一つは粉砕骨折。関節は4か所以上外れていました。」

「俺が負ったケガか?」

「はい。誰よりも最優先で手術室に運ばれました。ウィッチ、502という要因が大きいと思いますが治癒魔法使いのウィッチが私も含めて2人が手術と並行しながら治癒魔法をかけたんです。そうでもしないと手遅れになるのは目に見えていましたから。」

よく生きていたな、と我ながら思う。

「ジョゼ?」

腕が振るえ、何も言わない彼女の顔から一筋の涙がこぼれ、やがてそれが俺の頬に落ちた。

「私、・・・まだ甘いお菓子もらっていませんよ。前に・・・約束した奴です。」

「お菓子・・・、あっ。」

そうだ。前に治癒魔法をかけてもらった時に約束したものか。結局忙しくて街にでることすらかなわず買えていなかった。

「少佐、お願いですから・・・・もう・・・無理・・しないで・・・。」

そこでようやく理解した。彼女がどれだけ俺のことを心配してくれていたのか。

涙を流すジョゼに俺はただ、謝ることしかできなかった。

「すまない。」

「謝るくらいなら・・・心配させないで・・・くださいよ・・・。手術のあいだ・・・どれだけ、どれだけ私が心配したと・・・思ってるんですか!胸がはちきれそうでしたよ・・・。辛くて、怖くて・・・もし死んじゃったらどうしようって。」

「・・・。」

「つい今までだって、もし、目をさまさなかったら・・・。不安で・・・仕方なかったんですよ?それなのに・・・どうせ・・・少佐は、馬鹿だから・・・また無茶するんでしょ?」

「・・・あぁ、たぶんな。」

こんな泣き虫のジョゼを前にして嘘はつけない。

あぁ、君の言う通りだ。俺はまた無茶をして、そして君を悲しませる。どうあがいても絶望が立ちふさがるというのなら俺はそれを力づくで破る覚悟だ。そうして破った先でまた君の世話になるんだろうな。

「だったら、これだけは・・・やくそく、してください。」

「・・・なんだ?」

顔をぐしゃぐしゃにしながらジョゼはこういった。

「絶対に、死なないで・・・ください。かならず・・・生きて・・・ください。むちゃして、大けがをしていても・・・生きて帰ってきてくれれば・・・私が、私が絶対に治しますから・・・。」

そういってジョゼは小指を差し出してくる。俺もそれにこたえるかのようにわずかに動く手から小指を出して、彼女の指と結ぶ。

「あぁ、約束だ。必ず、それだけは絶対に守る。」

「必ず・・・ですよ?」

「もちろんだ。紳士の名に懸けて。」

「・・・なら、安心です。」

小指を離すころには、もうジョゼは涙を流してはいなかった。

 

「もう平気か?」

「はい。見苦しいところをお見せしてしまいすみませんでした。」

そういってジョゼは頭を下げてくるが、俺はそんなこと全然気にしていなかった。というか

「この固定は外せるか?」

俺を固定するこの器具をどうにかしてほしかった。

「あ、はい。ごめんなさい、忘れていました。」

彼女自身も忘れていたようですぐに3か所の固定器具を外してもらい、ようやく不自由から解放された。

体中に痛みがまだ残っているが基本、動けるだろう。

そんな中でひと際強い痛みが腹部に走り、思わず服をめくるとそこには青く変色した箇所が。

「ひどいですよね。そんな怪我まで負ってどうしてあんなことができたんですか?」

「それが彼女の意志だったからだ。」

「彼女?」

「管野だ。あの時俺は管野にその意思を託された。だから引き継いだ者の責任だと思ったんだろうな。考えるよりも先に行動していた気がするよ。」

あの時は半ば強制的に任された感じはあった。だが同じキャリアを撃破するという目的があった以上、任されたからには俺がやらないといけない、そうあの時は思っていた。

結果的には良かったがあの時失敗していたらと思うとやはりぞっとする。

「そういえば管野は?」

「ここです。」

ジョゼが少し体をずらすとそこには先ほどの俺のように体を固定された彼女の姿が。いまだに寝息を立てているその管野の姿は年相応の少女だ。

「俺のケガについてジョゼ以外で知っている人はいるのか?」

「ラル少佐とロスマン曹長が。」

「それじゃあ、この変色箇所については?」

「誰も・・・。」

「なら、このことは絶対にほかの奴には言うな。特に、こいつにはな。」

「でも、その傷跡ってあの時ユニットで・・・。」

「わかっている。」

あの時、蹴られたときの激痛は忘れられるものではない。だから俺自身がどこを蹴られたかというのはわかっている。だからと言って彼女を責める気は全くない。

「頼む。こいつにこんなことで肩に背負わせるものを増やしたくない。俺が気にしなくたってこいつは知ってしまったら絶対に・・・。」

たとえそれが彼女によってつけられた傷だとしても、知られたくはなかった。

「わかりました。これはここでの秘密です。だけれど、もしラル少佐に命令されたときは、お願いしますね。」

「あぁ、わかった。」

そうして俺は今一番気にしなければならないことにようやく気が付いた。

「メイヴは!?」

「メイヴ?」

「俺の乗っているジェットストライカーユニットの名前だ。」

今までさんざん乗ってきた愛機だ。俺がこんな状態だからメイヴももしかして、と一瞬最悪を想定するが、

「あぁ、あのユニットなら“なぜか”無事ですよ。まったく、あれがほとんど無傷なのが信じられません。塗装ですら傷がついていませんよ。」

と意外と平気らしかった。

ベッドから飛び降りてメイヴに近寄って細かいところまで見てみたが、傷らしいものは一つもついていなかった。

「よかった。」

そうつぶやきユニットに手を添える。

と、その瞬間パチッという音とともに軽い痛みが指先に走る。

「どうしました?」

「静電気か?」

いや、そんなことあるはずないか。こういう電子機器の塊っていうのは電気の扱いには特に注意が必要だからこんな簡単に表面に電気が走るわけがない。

なら意図的に起きたものだろう。そしてそんなことをするやつを俺は知っている。

「すまなかったな、お前にも随分と無茶をさせたようだ。」

心からの謝罪の言葉をかけてもう一度触れると次は何も起こらなかった。この言葉が届いたのかはわからないが許してくれたものと信じたい。

コンコン

何かをたたく音が背後でしたので振り返るとそこには伯爵とウィルマが輸送機と並行しながら窓に張り付いていた。

器用なものだ。

何か言っているようだがこちらは無線をつけていないので何を言っているのかわからない。ただたぶん体の調子を気にしてくれているのだろう、雰囲気でわかった。

「大丈夫だ。」

そういってその場でくるりと右足を中心に一回転して見せた。

左足を着こうとしたとき、機体が揺れたせいで俺も体勢を崩してしまった。

「おっと。」

「少佐!」

慌ててジョゼが俺を支えに来る。

「全く、あんな大けがした後なんですから無理しないでください。ペテルブルクに到着するまでは寝ていてくださいね。それと、ついたら検査入院ですよ。」

「え、飛べないの?」

「当たり前です!何考えているんですか!?」

意外にも力が強いジョゼに強制的に寝かさられて固定器具を強制的につけさせられる。

「君が人を拘束するのが好きだったなんてな。」

「茶化さないでください。少佐が悪いんですよ?それにこれは必要な措置であって私の好みではありません。」

「なるほど、逆に縛られるのが好きだと。」

「違います!」

ジョゼとこんな変な会話をしながらペテルブルクまでの暇な時間を楽しい時間へと変換していくのだった。

もうできるだけこいつらを悲しませることはしたくないな、そんなことを思いながら。

 

 

 

「ラル少佐?」

書類を持ってきた司令部付きの兵士がノックをしても返事がないことに怪訝に思うがすぐにその理由を思い出す。

「そうか、今はヨエンスーか。」

だが一人で納得してもどうしようもない。

「なら、これどうしたらいいんだろうか。とにかく司令部のブリタニア課に戻すとするか。」

彼が持つその書類の封筒にはこう書かれていた。

-退職勧告書-

ブリタニア空軍総司令部人事局発

ブリタニア空軍特殊戦術航空隊第2飛行中隊第21攻撃飛行隊所属ウィルマ・ビショップ軍曹宛

 




アニメに合わせて口調を調節。
ここでやるとネタバレになりかねないので詳しくは活動報告で。

最初はキャリアから大型ネウロイを発艦させることも考えたけれど、空母の上にB52が乗っているあの画像を思い出してやめた。
アニメは声とキャラがマッチしすぎていてもうやばい。この感情を一言で言い表すことができないくらいやばい。

ご指摘、ご感想、誤字訂正があればよろしくお願い致します。

あれからフォロワーがちょっとずつ増えてきていてうれしい限りです。あっちもよろしくです。


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第52話 大切な彼女

俺の僚機に退職勧告書が届いた。
いつか来るものだとは思っていたから覚悟はしていたが、ラル少佐の一言で俺たちはとある決断を迫られることになった。




今回は話の性質上、あまりブレイブウィッチーズの面々は出てきません。ご了承ください。


 

 

よう、相棒。生きているか?

そう俺が聞けばラル少佐なら

「相棒か。そういうのはもっと撃墜数を稼いでから出直してきてくれ。」

と一蹴するだろう。俺のスコアなんて彼女の半分以下だしな。

曹長は

「相棒、ですか?私はそんなのになった覚えはないのですが。それより少佐、早く準備してください。資材基地に物資の回収に行きますよ。今日はいつもよりも少し多いんですから。」

と俺の言葉をまったく気にも留めず流すかな。

熊さんはどうだろうか?

「相棒、ですか?私が、少佐の?まぁ、似たような感じではありますね。」

管野はわかりやすいと思う。

「あ?うっせーな。俺にはそんなのいらねぇよ。」

と相変わらずの口調で言ってくるだろう。

伯爵ならどうだろう?

「なるほど、隊長は僕のことをそんな風に思ってくれていたのか。それはとてもうれしいな。」

と、冗談交じりの笑顔で返してくれるだろう。

それじゃあ彼女、この部隊で一番の最年長でありながら残念ながら階級は一番下、だけれどラル少佐とは違ったベクトルで皆を引っ張っている一番の元気娘、そしてなにより俺が一番大切なウィルマ・ビショップならきっと・・・。

 

「うん?どうしたの?」

 

いつものように笑顔を、だけれど少し元気がないようなその笑みを俺に向けてきてくれた。

思わず、そのやるせないような表情をするウィルマの目を見つめた後、俺は顔を背けて

「いや、なんでもない。」

そういうことしかできなかった。

サンクトペテルブルクの朝、彼女に退職勧告が届いた日、そして自分の無力さを痛感した日でもあった。

 

 

ヨエンスーから帰ってきた次の日、ほぼ命令という形で俺は出撃ローテーションに組まれることなく休みをもらい、その足で病院での検査を受けに行った。

ラル少佐か曹長のどちらかが事前に手を回していてくれたのか受付をするとすぐに診察が始まった。定期健診で行うのとほぼ同じようなことをした後、待たされること10分。診断をしてくれたドクターが俺に診断結果を話してくれた。

「それで、俺の今の状況ってどのような感じなのでしょうか?」

ジョゼが持っていた診断書を手元に置き、それを難しい表情を浮かべながら俺に話を始めた。

「うーん。ここまでひどい怪我というのもずいぶんと久しぶりに見たよ。」

「前線勤務をいくつもしてきたあなたのような医者でもですか?」

「そうだね。だってこれ程の怪我だと、普通の兵士なら野戦病院に運ばれてくる途中で死んじゃうからね。まず助からないよ。」

「・・・やっぱりそんなレベルなんですか?」

ヨエンスーで治療にあたった医師の所見を、今の状態を記した問診票と照らし合わせながらうーんとうなるその医者。

「君、ウィッチじゃなかったら死んでいたね、間違いなく。あっちで何があったかは知らないけれど地上部隊の一兵士だったら僕なら切り捨てるね。こんな患者を助けるのに時間と備品を使うならほかの怪我がひどくない奴を助けた方が部隊全体にとっても利益だ。だが君のような人物だと話は変わってくる。100機以上の撃墜、おまけにここのあたりじゃ一番といわれる第502戦闘航空団所属でさらに夜間の戦闘隊長。それに加えてブリタニア本国ではウィッチ特殊部隊の第二飛行中隊の隊長。治癒能力をもつウィッチがいてそれを使えば治せるのならば、そんな人物を失うのはまずいという判断になるから僕としても残念ながら処置せざるを得ない。

世界にはたくさんのウィッチがいるけれど、3桁を超えるほどの逸材はそう多くない。だから君が最優先で治療してもらえたんだと思う。現地で誰が君を治療したのかは知らないけどその判断は間違ってなかったと思うよ。

ま、何が言いたいかというと今の状況に感謝しながらも、同じような怪我は二度としないことだ。この状況から治せるレベルのウィッチがいつもいるとは限らないからね。」

「まぁ、それは同僚にもきつく言われましたよ。」

「ふむ。502といったらルマール少尉だったか?なら彼女には継続的に治癒魔法をかけてもらうのが最適だろうな。このまま放置すると変な“癖“がつく恐れがある。応急処置レベルだとは聞いているがないよりはましなはずだ。どちらにせよ、ここペテルブルクには君のその”癖“を治すためだけにつける治癒魔法使いのウィッチなど、いない。もっと重症の患者に回すからな。」

「もちろんです。そんなものは全く期待していませんでしたし。」

「なら結構だ。それと、腹部の怪我だが。」

このまま跡になって一生残るであろう腹部のあざに手を当てる。触るだけでは何も感じないが少し力を入れると痛みを覚える。

「内臓のダメージがかなり激しくて、日常生活でも影響を及ぼす可能性もある。魔法は万能とはいえ完ぺきではないからな。もし次破裂したら、命はないぞ?医者としてはもうウィッチを辞めるべきだ、と言いたいな。もう十分君は戦果を挙げたし少し早いが下りても誰も文句を言うまい。」

ありがたい助言だ。この医者も俺のことを心配してそういう風に言ってくれているのだと思う。だがそんな気など全くない。俺は好きで空を飛んでいるんだ。そう簡単にやめることなんて出来ないし、したくない。

「ご忠告には感謝します。ですが俺はまだ下りません。まだ俺は飛びたいんです。」

「だが、そんなのはウィッチよりもGが少ない戦闘機、または爆撃機や偵察機、輸送機でも同じ目的を果たせるのでは?なぜウィッチにこだわる?」

好きだからさ。戦うことが義務なんかに感じてはおらず、ただ好きだからだ。

「あなたは、なぜ医者になったのですか?」

「そりゃ、人を助けたかったからだ。目の前で人が死なれるのは嫌だったからな。」

「人を助けるという目的でしたら軍人になっても果たせるはずです。技術者になってネウロイに対抗できる兵器を作ればそれは結果的に人の助けになるはずです。」

「・・・なるほど。少し無茶苦茶な気がするが君の言いたいことがなんとなくわかった気がするよ。君は好きで飛んでいるのだな。僕が好きで人を助けているのと同じように。ほかではなくウィッチという形にこだわるのはそのためか。」

その彼の言葉に俺は首を縦に振ってうなずく。専門職についているからこそわかってもらえると思った。まだ完全には理解してくれてはいないようだが、気持ちでも十分だ。

「わかった。君の意志を尊重して飛行許可を出そう。だがしばらくの間、昼間はだめだ。ラル少佐からしてみては君が1週間抜けるのは痛手となるかもしれないが、事情が事情だ。何機もの小型、中型ネウロイを相手にする高機動運動は病み上がりの君が絶対にしてはならないことだ。ただ夜間だけは許可しよう。哨戒がメインとなるこれなら君が無理することも少ないだろう。だが体に不調を感じたらすぐに申告すること。より長く飛びたいのなら努々忘れないことだね。昼間の間に短い時間でもいいのでルマール少尉に、特に腹部に対して治癒魔法をかけてもらえ。一週間も続ければ完治とは言わないがまぁ、よくなるだろう。これ以上のことは今の医療技術ではできないし、ここにいる治癒魔法使いを探すしかない。そんなのがいるのは欧州ならブリタニアのロンドンにある中央病院の専属魔女くらいだろう。つまり、本気で治したいなら本国に帰ることだ。ま、それでも治る確証はないが。

それほどに君の怪我の代償は大きいんだ。それを心にとめてこれからも飛んでくれ。」

「了解した。診断、ありがとう。しばらくは彼女に頼ることになりそうだな。」

「あぁ、くれぐれも気をつけてくれ。特にこの一週間はな。」

「わかった。それじゃあ、また来週。」

俺はそういって、診察室を後にする。一言が随分と長い先生だったな。ただ、輸送機でジョゼに泣きながら言われたことを心にとめながら話を聞いていたがやはり本職から現状を聞くと思わずぞっとしてしまう。一つ間違えて居たらウィッチどころかパイロットとしての人生が終わっていたわけか。まったく、笑えないな。

「大丈夫ですか?ずいぶんと長かったようですが?」

「先生、悪いな。待たせてしまって。」

付き添いとして一緒に来てくれた先生に謝罪をする。本当は彼女に迷惑をかけるのは嫌だと思い、俺の相棒のウィルマと行こうと昨日の時点では思っていた。俺も彼女もそのつもりで話しを進めていたのだが、今朝になってラル少佐がウィルマを連れて東欧司令部に行ってしまったので俺は一人になってしまった。なら仕方ないと思ってそのまま一人で行こうとしたらさすがに病人をそのまま行かすのはまずいと止められて先生が引率してくれることになった。

「それで、先生の診断の結果は?」

「ヨエンスーであっちのドクターが言っていたとおりだ。ここでもこれ以上の治療は無理だそうだ。だからしばらくはジョゼの世話になりそうだ。」

「ジョゼさんの治癒魔法は応急処置程度の筈ですが。」

「魔法をかけてもらわないよりはまし、という事らしい。」

なるほど、と言いながら車いすの手配を始めようとする先生。流石にそれは必要ないと止めるが彼女は本気で申請しようとしていたようだ。

「本当に歩けるのですか?」

「ここまできちんと歩いてきたじゃないか。無理はしてないよ。」

「私にはいつも無理しているようにしか見えないのですが。」

「そんなつもりはないんだけどな。ただ精一杯なだけさ。」

1階に降りると来た時同様にたくさんの人であふれていた。そしてそのほとんどは軍人で最前線での戦いで負傷し、現地では治療が不可能と判断されてここに戻された者たちだ。

そう、ここは何を隠そう軍人専用の病院だ。民間のよりもサンクトペテルブルクということあってか物資や機材がかなりそろっている。そしてベッドも不足していて患者が一回のロビーにも寝かされているのが現状らしい。ここが最前線だということを改めて痛感させられる光景だった。

「相変わらず、ひどいなここは。」

「ですね。それと少佐。」

先生は振り返って俺を見てくる。少し冷たいその視線はまるで俺を責めているようだった。

「なんだ?」

「心にこの光景を焼き付けておいた方がいいですよ。本来であれば少佐もそこで寝ている彼らの一人になっていたはずなんですから。」

「・・・そうだな。忘れないでおくよ。」

俺たちは広い通路を通ってこのロビーを後にする。だがその先生の言葉はいつまでも離れることはなかった。

 

駐車場に戻り曹長の運転のもとで基地に戻る、はずだったがいつもの交差点を右折せずそのまま直進し始めた。

「先生?」

「道はあっていますよ。基地に戻る前に少し寄りたい場所があるので先にそちらへ向かいます。」

「どこへ行くんだ?」

「説明すると長くなるので現地に着いたらお教えします。」

そして連れていかれた先にあったのはこの街を一望できるほどの大きな建物、聖イサアク大聖堂だった。そのまま先生は小さな入り口を衛士からは顔パスで通り抜けると階段を上り始める。

見上げる先、かなり上まで続くらせん階段に思わず頭を抱えてしまう。

「ここ、上るのか?」

「ええ。ついてきてください。」

仮にも病人だぞ、そう心の中でつぶやきながら登ること二百数十段。

扉を先生が開けると冷たい風が俺の間をすり抜けていった。そしてそこを抜けるとサンクトペテルブルクを一望することができた。飛んでいるときに見る景色とはまた違うその光景に思わず見とれてしまった。

先生は壁に手をかけてサンクトペテルブルクの景色を眺める。俺はその隣に立ち、少しだけ同じように景色を楽しんでいると彼女の方から声をかけてきた。

「いい景色でしょ?ここは私が初めて赴任してきて最初に見つけた私の憩いの場。何か悩むことがあったらここに来て景色を眺めながらゆっくりと考えるんです。」

眼下に広がるのはオラーシャ帝国の旧都であり、東欧戦線最前線基地でもあるペテルブルクだ。美しい街並みと合わせていくつもの兵器が空に向けられている光景というのはやはりせっかくの物を台無しにしてしまっている気がしてならない。ただネウロイの攻撃を受けたことがあるはずだが歴史的な建物はまだ無事なのはたくさんあるようだ。

下原の持ってきた扶桑の暦によるとすでに夏が始まっているらしいが、ここから眺める景色や感じる風を含めても夏はまだ当分先な気がしてならない。空を見上げるといくつもの直線に伸びる雲、飛行機雲が見て取れた。輸送機部隊かウィッチ隊か詳しくはわからないがここの空もかなり昼間は混雑しているんだな。こうして空を何もせずに眺めているとたまには面白い発見も出来るものなんだな。

「なるほど、いい景色だ。だが、少し寂しいな。」

「そうですね。まだ残念ながら平和には程遠いですからね。」

そういう先生の表情は寂しそうだった。

 

「さて、先ほどの話題に戻ろう。先生、聞きたいことがある。」

「はい。なんでしょうか?」

「俺をここに連れてきたということは何か悩むことがあったという事か?それも俺に関係する事案で。」

「そう、その通りです。」

やっぱりな。そして俺に関わる案件で思いつくものなんて今のところ一つしか思い浮かばない。

「いったいなんの事か話してくれないか?」

「わかりました。でもそれは私からよりもあの方の方が適任だと思います。」

あの方?と誰のことだかわからなかったが先生の視線が俺ではなくその後ろに向けられていたことに気が付く。そして振り向くとそこにはいつの間にかラル少佐がいた。

「少佐?なぜここに?ウィルマ、いえビショップ軍曹と一緒に東欧司令部に行ったはずでは?」

「その通りだ。だが彼女には先に帰るように命じてあるからもう今頃はついているはずだ。さてバーフォード少佐、君の質問に答えよう。なぜ我々がここにいるのか。まず初めに確認だが、私たちがなぜ東欧司令部に呼ばれたのか、理由は知らずとも推測できているな?」

「・・・はい。」

ジャックからの突然の彼女に対する飛行停止命令、年齢、ワイト島での出来事。総合して導き出される答えはおのずとわかってしまう。

「本日、ブリタニア空軍ウィルマ・ビショップ軍曹に対して同空軍人事局が一枚の書類を渡した。内容は“自主的な”航空歩兵徽章の返納。理由は年齢による魔力減衰、だそうだ。つまりウィッチとして飛ぶことをやめろと言っているのと同じだな。」

やはりな。こうなるのではと薄々感づいていたから、軍をやめろと言われるのではと想定していた俺にとって彼女の口から出たその言葉にそれほど驚きを感じることはなかった。

気持ちとしてはいつか来ると思っていたものがついに来た、というところだろう。

だが、少佐から言われる次のことはさすがに予想していなかった。

「この件だが、返答は6か月以内、ということになっているが私としては彼女に数日以内に決断して提出してもらいたいと思っている。」

「・・・今何と?」

「もう一度、今度ははっきりと言おうか。ウィルマ・ビショップ軍曹には数日中にこの部隊を出ていってもらう。これは私と軍曹の決定で、君たちに拒否権はない。」

俺はその言葉に思わず振り向き、曹長にも同じことを聞いてしまう。

「ロスマン曹長も、同意見だという事か?」

「ええ。私もラル少佐の判断には賛成です。これ以上先の見えない軍曹にはこれ以上ここで戦うのは無理である、というのが私たちの判断でおそらくこれが最適解だと思っています。」

近いうちに何かしらのことでウィルマへやめろという連絡が来ることは想定していた。だがそれにしたって書類が来てからやめるまではいくらか執行猶予があるものだと思っていた。それすらくれないなんてどういうことだ?

 

「理由くらい説明してもらえるんですよね?」

もちろんだ、と前置きをしてラル少佐は話し始めてくれた。

「私は自分の部隊から戦死者を出すようなことはしたくないと思っている。バーフォード少佐、君はもう認識していると思うが彼女のシールドではすでに小型ネウロイのシールドを抑え込む程度が限界だ。彼女のウィッチとしての生活も終わりが近いのは誰の目から見ても明らかだろう。」

確かに一時的に回復したと思われたウィルマのシールドもやはり限界が来ている。このまま飛び続けるリスクを考えれば下りる日も近いとは考えていた。

だが、どうしてもラル少佐と曹長がなぜ数日以内に、それも強制的にやめるよう迫ったのか少しわからなかった。

「すこし、前の話をしよう。4月あたりの話だ。2名の扶桑のウィッチが本国の指示で一時的に帰国した。私としても手放すことはしたくなかったのだが彼女らの母国からの命令とあれば私には干渉する権利などない。そこでだ、私はその2人を穴埋めするための人員を探した。

そこで起きたのが501によるガリアの解放、及びそこの解体。2名の追加人員要請を送ったその次の日のことだ。その時彼女ら、具体的にはエイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉及び、サーニャ・V・リトビャク中尉から一部のルートを通じてこちらに配属希望がなされた。彼女らは増員希望をしたことを知らなかったようだが私はこの2人ならば十分だろうと考えた。私と先生は彼女らの経歴、戦歴は知っていたからな。

ところが、その日のうちに欧州司令部から東欧司令部を通じて別の2名の追加人員に関する書類が来た。」

「欧州司令部から・・・。つまりは俺たち、ですか?」

「そうだ。最初、その書類が届いたときは受け入れる気はなかった。なぜなら彼女ら2人を超えるような人員など、どこにもいるわけがないと思っていたからな。

だが、その書類を読んで三重の意味で驚いた。」

「三重、ですか?」

「あぁ。まず初めに、ブリタニアが本国の人員をこのような所に送り込んできたこと。防衛重視で他国に人員を送りたがらないあの国がまさかここへ送り込んでくるとは予想もしていなかった。

二つ目はそのうちの一人が使用している機材がジェットストライカーユニットだったこと。私もそれなりにユニットには詳しいつもりだったしカールスラントでの試験飛行や実験隊では戦果を挙げつつあるとは聞いていたが、まさか私が現役の時代に、それも私の部隊の人員が使用するジェットストライカーユニットの実戦配備機を目にするとはな。

そして三つ目がその搭乗者が男だったということだ。これは前例がなかったから最初は書類の不備かと思ったくらいだ。

以上の事からあの島国の連中が何を考えてこの二人を送り込もうとしたのか、私には理解ができなかった。なぁ、先生。初めてこの2人に関する書類が来た時のこと覚えているか?」

「えぇもちろんです。“使えない連中だったら追い返してやろう。”そうおっしゃっていましたよね?私もそう考えていました。何か大きな怪我でもしたら二人とも送り返してしまおうと。」

なるほど。初めて会った時少し視線に敵意が入っていたのは本来送られてくるはずだった2人に加えて余計なのが付け加わったのが2人も気に食わなかったというわけだったのか。

「だがその予想もいろんな意味で裏切られた。」

裏切られた?

「まず君への評価だが、180°変わったといっていい。きっかけが、管野少尉と初めて模擬戦を行ったあたりだろうか。彼女と空中で格闘を行ってユニットを破損させたと聞いたときはブレイクウィッチーズがまた一人増えたのか、と本気で悩んだものだ。」

「・・・その節はどうも。」

「だが、同時に彼女たちと渡り合えるということが分かったのも収穫だった。その後も遠征などを繰り返して、ここでの時間を一緒に過ごしていると大体君たちのことが分かってきた。今だから言えることだが、君たちと一緒に飛んだ彼女らを出撃のたびに呼び出して報告を聞いていたんだぞ?」

「そうだったんですか?」

ということは俺が仕事をしている間、あいつらは俺の評価を直接ラル少佐に伝えていたことになる。なんとなく身内に敵がいる感じがしていい気はしないが彼女なりの俺たちに関する情報収集だったのだろう。

「まあな。だから君が落ちたと聞いたときは驚いたよ。本来ならばすぐに救援を送ってすぐに助けられるはずだったのだが、あの時私たちは楽観視していたのかもな。数日前にも近くでカタヤイネン曹長が落ちて4時間後には救出されていたからな。

だから、まさかあそこまで見つからないとは思ってもみなかった。そして、君自身があの環境で自らの力で生き延びてまさか犬の力を借りて歩いて帰ってくるとはな。あの時は、心底君には驚かされた。そして、話はここに戻るというわけだ。さて今の私の君たちへの評価を言おうか。」

俺は背筋を伸ばす。ラル少佐からの評価、気にならないはずがない。

「私はバーフォード少佐、私は君の能力を高く評価している。この件は私だけでなく先生、戦闘隊長であるポルクイーキシン大尉も同意見だ。」

「え、ありがとうございます。」

予想外に彼女の口から誉め言葉が出てきて少し驚いた。もっと厳しい言葉が出ると思ってた。

「百を超えるスコアをもつウィッチというのは世界的に見てもそう多くはありません。それはこの部隊でも言えることです。そして驚異的なのはその速度。渡された資料を見ても初撃墜から百に到達するまでの期間と年齢を考えればまだまだスコアも伸びると思いますよ。そして誰とでも連携をとれるのはさすがだと思います。自分では無理だと判断したらほかの可能な者のために援護を行う、最近だとヨエンスーでもやってもらいましたが素直にすごいと思いますよ。特に伯爵からもあなたへの評価はいいですからね。」

「あの伯爵が?」

「えぇ。もともと、伯爵にもあなたの評価をしてもらっていましたからね。“僕も抜かれないように頑張らないとね。”なんていっていましたよ。」

あいつめ、本当にそう思っているのか?いつも猫をかぶっているから何が本音で何が嘘なのかがわからないんだよ。

「さて、ウィルマ軍曹の評価だが・・・。」

「・・・。」

「正直、判断に迷った。君と別動隊として動いたときの彼女の動きはそれほど特筆するほどの物はなかった。しいて言うのなら長年ウィッチとしてやってきたゆえのそれなりの勘を持っているようだがその程度だ。あのレベルのウィッチならほかの部隊にも山ほどいる。

わざわざここに置いておくほどではない。」

「では、今の今までおいてくれていたのは情けだとおっしゃるのですか?」

「まさか、そんなことはしない。ここだって余裕があるわけじゃないからな。だが・・・。」

「?」

「君と組んで空を飛んだ時の軍曹の動きは全くの別物といってもいいほどだった。これは伯爵の報告となるが、“ロッテ戦法を極めると、きっとああなるんだろうな。”と言っていたぞ?

そして、先生。君も何回か軍曹と少佐が一緒に飛んでいるところを見ているだろう?

あの戦術の生みの親といっても過言ではない先生はどう思った?」

「えぇ。あれは素晴らしいと思いましたよ。どうしても僚機がいても常に相手のことを考えるというのは空戦中においては非常に難しいことです。だって自分が戦っているだけでも大変なのにその上、他人のことも考えないといけないんですから。

だから、本来のロッテ戦法は助けが必要な時、速やかにそれに答えられるようにする、というものでしたし、私もそういう風に想定していました。ですが、あなたたちのペアは違った。助けが必要になったと思った瞬間はすでに援護をしている、なんてことはふつうできませんよ。」

「だそうだ。だから判断に困った。なぜ、これほどまでの動きをできるのにそれができるペアがただ一人、君だけなんだろうかと。まぁ、すぐに答えはわかったが。だが、それはいいかもしれないが部隊という単位で考えると話は変わってくる。彼女は確かに素晴らしい技術を持っている。持ってはいるのだがそれを完璧に活用できる相手が君だけ、となると、な。」

全然気にしたことはなかったがそんなことがあったのか。ならラル少佐からしたらそんな奴は使いにくいよな。ローテーションも組みにくくなるだろうし。

「・・・確かに。少佐の判断は間違ってないと思います。」

だから、わかるからこそ、納得できなかった。

「なら。」

「ですが、もう少しだけ、彼女と飛ぶことはできないのでしょうか?ぎりぎりまでとは言いません。ですが、せめて1か月、いや2週間でいいので。」

「だめだ。」

だが俺の願いも取るに足らないといわんばかりに切り捨てられた。

「なぜです?なぜ少佐はそこまで彼女に引退を迫るんですか?」

責め立てるような口調になっていたのにようやく気が付いた俺は、拳の力を抜き深呼吸して落ち着きを取り戻すようにする。少佐もそれに合わせてその理由を話し始めてくれた。

「ヨエンスーに行く直前に扶桑から増援がくる話はしたことを覚えているか?あの時は途中で終わってしまったが。」

「え、えぇ。」

そうだった。話している途中で緊急出撃命令が出たんだっけ。だからほとんど聞いていないに等しいが来ることはなんとなく知っていた。

「統合戦闘航空団に所属できるウィッチは上限が11だということは?」

「それは、はい。知っています。」

確かどこかの資料で読んだことがある。増えすぎると収集が付かなくなるから上限を設定したという話だったはずだ。

「ならもう大体わかったのではないかな?今502に所属しているウィッチは全員で10名。規定通りだとあと1名しか入れない計算になる。そしてその増援である彼女らが来るのはもう来週の話だ。そうなると定員の11名を超えてしまうことになる。」

「ですが、以前・・・。」

「君たちが来た時の話か?あれは、私が特例で東欧司令部と取引してようやく一定期間だけという制限付きで認めさせたものだ。本来ならば認められない例外中の例外だ。」

つまり、あれは特例でありウィルマ程度ならばわざわざ司令部と交渉してまでとどまらせておく価値などないというわけか。

普通に背景などを含めて考えたのならば当たり前の話か。前の話だと彼女らは昔ここに所属していたやつらだ。どれくらいいたのかは不明だが、時々耳にする話から推測するに彼女らの腕もなかなかにいいらしい。なら、もうウィッチとして限界を迎えつつあるウィルマをここに残すよりまだ十分伸びしろがある奴2人を迎えたいと思うのは当然だろう。

そして、ここからは俺の勘になるが少佐もあの書類が来る来ないにかかわらず近いうちにウィルマに同様の話をしていたのだろう。たまたま書類の方が早かったという話だ。

あの扶桑人の援軍の話の手はずを見ていれば大体の予想がついてきた。

「つまり、彼女がいる限りその扶桑の二人組は入れない。できる限り早く部隊に補充させるには早急にウィルマには去ってほしい、というわけですか。」

「あぁ、その通りだ。あの二人にはどうしてもここで戦ってほしい。彼女らはいま私が勧誘できる中で最高戦力だ。逃したくはない。」

だからこれ以上言ってもおそらく無駄だ。ラル少佐の心の中ではもうこれは決定事項だ。俺にこの話をしたのだって情けをかけてかもしれないし、仮にウィルマをしばらくの間残す許可を出すとしたらそれはその二人の援軍を遅らせるための理由にふさわしい大きいメリットを示さないといけない。残念ながら俺にはそんなものは、ない。

ならばあとは簡単な話だ。これは決定事項であり命令なのだから俺はそれに従うほかない。それにここは軍だ。唐突で自分には受け入れがたい命令でもそれを認めるほかないのだ。

「わかりました。ラル少佐、あなたの指示に従います。」

「助かる少佐。それでビショップ軍曹への説明は私がやるか?」

「いえ、自分がします。」

別に引き受けなくてもいいんじゃないか、一瞬そうも考えたがすぐに捨てた。こういうことは俺がしないといけない、そんな義務感みたいなのが俺の中にあったからだ。

「わかった。終わったら私に声をかけてくれ。事務的なものはこちらですべて行う。」

「了解です。では後はこちらに全部お任せください。」

それでは、と言って俺が立ち去ろうとすると少佐が“まぁ、待て。”と先ほどの少し硬い言い方ではなく柔らかい口調で止めてきた。てっきり話は終わったものだと思っていたので少佐が雰囲気を変えてきたのには戸惑いを覚えた。

「?なにか?」

「体の調子はどうなんだ?先ほど、先生と一緒に病院に行ってきたんだろう?何か言われなかったのか?」

心配してくれているのか、このラル少佐が俺に?いや、単に戦力が失われるのが惜しいだけじゃないのか?・・・ダメだ、さっきの話からでどうも心が卑屈になってしまっていた。

「まだ完全には調子を取り戻せては終わらず。しばらくは安静してほしいとの事です。これをラル少佐に、と。」

「うむ。読ませてもらおうか。」

俺は退出する際に、ラル少佐に渡すように言われた書類を彼女に手渡す。最初は無表情で目を通していた彼女だが次第に顔をしかめ始めた。

「よくも、まぁ、ここまでやったもんだな。」

「ラル少佐?それをあなたが言いますか?」

「先生、それは言わない約束じゃなかったか?」

曹長に自分のことを指摘されて思わず苦い顔をする少佐。かつて自分も似たような重傷を負っていたため、あまり強くは出られないらしい。

「それで、どうなんだ?あっちの先生はなんて言っていたんだ?」

「自分では問題ないつもりですが一応安静にしておくこと、ということで通常飛行は禁止、夜間飛行のみの許可だそうです。自分では飛べるつもりなのですがね・・・。」

「なるほど。つまり通常任務への復帰は一週間後か。彼女たちと合流時期はほぼ同じだな。」

「順調にいけばそのはずです。」

「了解した。それでは、バーフォード少佐。昼間シフトからはしばらくは外すからその間、療養に勤しめ。夜間シフトは基本下原に行ってもらうがとりあえず明日の夜は飛んでもらう。今の状態でどうだ、明日の哨戒任務に耐えられるか?」

「もちろんです。問題ありません。」

「なら結構。基地に戻れ。それとビショップ軍曹のことは任せたぞ。」

「了解。基地に帰投します。」

俺はラル少佐とロスマン曹長に敬礼をしてその場を後にする。彼女らに背中を向けた瞬間、何か聞こえた気がしたが、気のせいと切り捨て俺は階段を下って行った。

 

彼がいなくなった後でラル少佐はロスマン曹長に彼の診断結果を聞いていた。

「それで、実際の所はどうなのだ?彼の容体は?」

ラル少佐の問いに足してロスマン曹長は懐から“もう一枚の診断書”を彼女に渡した。ドクターから彼自身が本当の容体を誰にも知られたくないということを言われており、彼に渡したものとは別のものを曹長に渡していた。患者のことを第一に考えなければならないがあいにくそこは軍病院。ドクターには彼自身の上官に正しい情報を伝える義務がある。だからこのように秘密裏に渡しておくのが最善だと判断したそうだ。

「あの怪我は彼にかなりのダメージを与えていたようです。もう一度、あのようなレベルのダメージを同じ場所に受けたら非常に厳しいものになると。」

「間違いなく飛べなくなる、か。」

「いえ、それ以上に最悪の事態になるそうです。」

「それ以上、だと?」

あまり表情を変えないラル少佐がこの時はひどく驚いた表情を見せていた。

「はい。たぶんご自身の腰に聞いてみるのが一番わかりやすいと思います。」

「なるほど。実にわかりやすい説明だ。」

それがどういう事を意味するのか分かったとき、二人にはいつもの涼しさを運んできてくれる風も今は寒く感じられていた。

「ここまでの怪我を負いながらもまだ飛び続けるその執念。いったいどこから出てくるんだろうな。」

「あの人普通に空を飛んでいるときふと顔を見るとすごく輝いているんです。」

「輝いている?あいつがか?」

「えぇ。ただそれはナオのような戦闘を楽しんでいるような感じではなくただ純粋に空を飛ぶことを楽しんでいるような、そんな雰囲気なんですよ。両手を広げてクルリと反転しているさまを見ていると本当に遊んでいるかのように錯覚してしまいそうです。」

それはまるで絵本に出てくる妖精のよう、そう曹長は思えていた。

「空を楽しみながら飛ぶか。私はそんな事を考えたことをなかったな。いつも空を飛んでいるときに考えることはただただどうやってネウロイを撃破するのか、ということばかりだ。」

「えぇ、私もそうでした。次々と入ってくる新米ウィッチを育てる事だけを考え、彼女らが死なないようにするには何を教えればいいのか、それだけを考えていました。だけどあんなに楽しそうに空を飛んでいるのを見ると不思議な感じがしてならないのです。」

きっと昔の私なら“ふざけてないで真面目に戦いなさい!”って怒っていたでしょうね、と微笑みを浮かべながらつぶやく曹長。この二人にはそういう感覚が新鮮だったのだ。

「だから、私も先ほど病院で彼が出てくる前にすでに診断は聞いていたのですが、出てきた彼に”もう飛ぶのをやめては?” なんていう事はできませんでした。」

「なるほど。彼にとって空というのは彼自身の存在意義に等しいものになっていたのか。」

「きっとそうだと思います。」

だからこそ、先ほどの判断は彼女らにとっても彼にとっても非常に重いものになっていた。

 

「なぁ、先生。」

「はい、なんでしょうか。」

「私はその存在意義のうち半分を占めているであろう彼の僚機を奪いその対価として“彼女ら“の帰還を受け入れた。私は自分の下した判断を間違えたとは思っていない。」

「ええ。502の指揮官として至極まっとうな判断だと思います。」

「ありがとう。だが彼からしたらどうだろうか。前の作戦でもキャリアの撃破と引き換えに怪我を負い、さらには彼の大切な僚機も上の指示で外された。少佐からしたら散々尽くした結果がこの仕打ちだ。私としては罵倒されるくらいは覚悟していたんだがな。」

「ラル少佐。あの人は・・・。」

「あぁ、わかっている。そんなことをする奴じゃないことは。だが彼がそれでもしてくる覚悟で私はあの話をした。」

一人一人にかまっていては部隊なんて到底統率できないだろう。だが、逆に雑に扱いすぎていては誰も支持してくれないだろう。難しい線引きが必要だがこの問題はその線上にあったともいえるはずだ。だからこそ、色々なことを想定していただけに驚きが隠せないのだ。

「そうだったんですか・・・。」

「おそらく彼のことだ。私が命令だといったから納得していないのにも関わらず、それを受け入れてくれたのだろう。」

そして何かを決めたかのように振り向くとロスマン曹長に指示を出す。

「先生、少し働いてもらうぞ。」

「少佐?」

「少しはこっちも動かないと割に合わないと思わないか?」

そういうラル少佐の顔は少し含むような笑い顔だった。

 

 

時々、軍用車両の後ろに牽引されている152mmりゅう弾砲とすれ違いながらもペテルブルクの美しい街並みを眺めながら俺の乗る車は市街地を走っていく。曹長が歩いて帰るのは厳しいだろうから、ということで車を貸してくれたがやはり助かった。

それにしても基地に帰るのがこれほどまでに憂鬱だったのは久しぶりだ。前回は装備品を壊して始末書を書くことが確定していたときだったな。だがあれは同じ部隊に何度も始末書を書いている奴が書き方を教えてくれることになっていたからそれほどではなかった。

だが今はどうだ。ウィルマには彼女の意志とは関係なしに強制的に数日以内に降りてもらうことになる。上からの命令だということ、そして俺が本気で彼女に頼めば聞き入れてくれはするだろうがどんな反応をするのか。悲しむだろうか?怒るだろうか?

これはここの部隊に所属するほかの誰でもない俺がやらねばならないことだとわかっている。だからこそ、いろんなことを考えてしまう。

基地の守衛に挨拶し、車をいつもの場所に止める。空は快晴で澄み切った青色をしているというのに、俺の心の中は濁り切った灰色のようだ。まるで心が説得は無理だ、と言っているようだった。そんな憂鬱な気分を押さえながら車を降りてカギを管理室の連中に返そうとベルを押した瞬間、隣から声をかけられた。

「おかえり。」

その声に驚きながら右へ顔を向けるとそこにはウィルマがいた。

「なんだ、ウィルマか。ただいま。」

「そんなに驚かれるとは思ってなかったよ。それで病院の先生はなんて言っていたの?」

「ヨエンスーの先生が書いてくれたこととそんなに変わらなかったな。できる限り安静にしておけってさ。」

車のカギを管理人に渡して書類にサインする。“お疲れさん。“と声をかけて歩き始めるとウィルマが横に並んできた。

「そっか。もうけがで飛べなくなっちゃうとかはないの?」

「それはなかった。ただしばらくはジョゼの世話になりそうだ。」

「あちゃ、なら早く治さないとね。」

「そうだな。夜しかダメというのもつまらないからな。そっちはどうだったんだ?何の用事だったんだ?」

少しそのまま黙ってしまうウィルマ。まったく、俺もひどいことを聞くものだ。もうその内容を知っているというのに。だがどうしても彼女の口からそのことを聞きたかったから聞いてしまった。対する彼女は目に見えて元気がなくなっていった。

「その、大体想像ついていると思うけどさ、本国からもう飛ぶなって言われちゃったの。」

「理由は?何か伯爵みたいに規則違反とかしたわけじゃないだろう?」

「たぶんね。理由は年齢による魔力の減少だから違うと思うんだ。」

この世界において歳で引退、というのは意外と少ないらしい。理由は簡単。魔力が限界を迎える前に何かしらの理由で下りざるを得なくなったり、そもそもその歳を迎えられなかったりするからだ。だから魔力の限界で下りるというのはけっして不名誉なことではなく逆にそれまで長い間戦い続けることができるほどの技量を持っているという証でもあり一種の勲章みたいなものなのだとか。

「そうか。ここはお疲れ様っていうべきかな?」

「うん、ありがとうね。」

やがて格納庫までつくとウィルマが俺の正面に回ってきてガッツポーズをしてきた。

「ただこんな凄い部隊にいるのに今まで何にも成果を出せていないでしょ?だからあとしばらくは猶予があるみたいだからそれまでは頑張って何とか人に誇れるくらいのスコアは出したいな。リョウも最後までちゃんと協力してよ?」

「・・・ッ。」

彼女からしたらこれがウィッチとしての有終の美を飾るための最後の目標だろう。最後の最後くらいは何かしたい。凄いことだし素晴らしい。しかし、唯一悲しいことと言えばそれは二度とかなわないという事だろう。

「?」

「あぁ、そうだな。」

今あのことを言えたらどんなに楽だろうな。だがそんな笑顔を前にしたら言えるわけがないだろうが。今は拳を握りしめ彼女を見守ることしかできない。

「なんか反応悪いなー。もしかして私が先に引退しちゃうのが寂しい?」

「・・・そんなところだ。」

「そっかそっかー。あ、でもみんなには内緒だよ?あと数か月はばれないようにしないとね。みんな優しいからもしかしたら手助けしてくれちゃうかもしれないし。」

“それじゃあ、またあとでね。ユニットの調整をしないといけないし!”そういって走ってユニットのもとへ向かうウィルマをただ俺は見送ることしかできなかった。

 

いつもと変わらない夕食を終えて、俺はウィルマの部屋へと向かう。別れた後からどういう風に切り出そうかずっと考えていた。世間話をしてからがいいのか?それともいきなり最初からいうべきか?悩んでも結局いい答えなど浮かばなかった。

そうしている間に彼女の部屋の前についてしまった。これ以上悩んでもしょうがない。どうせ何も思いつかないだろう。そう考え俺は覚悟を決めて、彼女の部屋をノックした。

「はーい。」

「俺だ。今平気か?」

「もちろん!どーぞどーぞ。」

扉を開けると髪を下したウィルマがこちらへ笑顔を向けてくれていた。そのまま部屋に入ると少しいい香りがした。部屋の隅には紅茶の葉のメーカーの名前が入った木箱がおいてありそこから香っているのかもな。

「ここ最近は遠くへ行ったりシフトの違いでこうやって私の部屋で話せてなかったもんね。」

「あぁ。10日ぶりか。」

「ありゃ、意外と短い。」

「そんなもんだよ。」

「ま、そっか。ささ、座って座って。」

ウィルマがベッドに座りその横へ座るよう促されたのでそこへ腰かける。

そして腰かけると俺の肩に寄りかかってくるウィルマ。

「何かあった?」

「え?」

まるで心を透かして見られた気がした。

「いつもより少し口数が少ないけど、今日はなんか元気ないよ?行く前と帰って来たときじゃ全然違うもん。」

「・・・相変わらず、鋭いな。」

「当たり前だよ。毎日見て、聞いて、話しているんだもん。気が付かない方がおかしいでしょ?」

違いない。たぶん俺だって彼女が元気にしていなければ気が付けるんだろうな。それが一緒にいた時間の成果というわけか。

「それで、話してくれる?」

俺はうなずいて、ラル少佐との話を彼女に伝える。

「ラル少佐はウィルマにもう下りてもらいたいそうだ。」

「へ?」

「執行猶予の半年を待たずしてできるだけ早く、それも数日中に降りてほしい、これがラル少佐の“命令”だ。」

「・・・命令、かぁ。」

「そうだ。約一週間後に扶桑から新たに2名ここの部隊に来るらしい。もともと統合戦闘航空団は定員が11人だ。今のままでは入れないが、ウィルマが抜ければちょうど二人入れるからな。それがウィルマにいますぐ下りてほしいという命令が下った理由だ。」

「あちゃ、今の私はラル少佐からしたら邪魔なんだ。」

そんなこと、無いとは言い切れなかった。もちろん俺はラル少佐を技術、カリスマ性ともに凄いと思っている。あの年齢で各国のエースを率いているんだ。俺なんか足元にも及ばない。

だから、彼女を悪く思うなんてことはしたくなかった。でもそうは言っていなかったが極端に言えば、邪魔だろう。その二人を入れるために真っ先に切り捨てるとしたら将来性が一番ないウィルマが上がるのは必然なのだから。

「んじゃ、それが帰ってきてからずっと元気がなかった理由?」

「そうだ。ウィルマがあんなに張り切っているのは久しぶりに見るがそれは絶対にかなわないってわかっていたからな。」

「なんだ、わかっていたなら教えてくれればよかったのに。」

そう言って頬を膨らませるウィルマ。そんな事、無茶に決まっている。あの状況下でそんな事を言えるわけがないじゃないか。俺はそう心の中で悪態つきながら今の心境を彼女に伝える。

「俺はさ、今心の中で二つのことで揺れ動いているんだ。」

「?」

「もし、このままウィルマが飛び続けてくれてくれればまだ一緒に俺が好きな空で好きなウィルマと飛ぶことができる。それはそれですごくいいことだと思う。だけれど、それはそれなりのリスクを伴う。だって、もうシールドを張ることすら厳しいだろう?」

げっとまるでいたずらが見つかったときの猫みたいな反応をした後にガクッとうなだれる。だがこんな暗い話題をしているというのに彼女の様子はいつもと変わらない気がした。

「・・・気が付いていたの?」

「さっき言っていただろ、毎日見て、聞いて、話しているんだもんって。」

「あー、そういえばそうだね。私も気が付くんだからリョウも気が付くか。」

当たり前だろう。期間は一年にも満たないけれどかなりの時間飛んでいるんだ。些細な事一つや二つ簡単に見つけられるに決まっている。

「だから今すぐにでもウィルマに飛ぶことを辞めてもらえば、君はこれから先ネウロイとの空戦で絶対に傷つくことはない。俺は君とこれから何年も何十年も一緒に過ごしたい。

だからその一瞬の幸せよりも今、俺が飛べなくなる間のあと数年は我慢してその後は2人でずっと一緒に、という思いもある。」

「もしかしてそのどっちを取るかで悩んでいるの?」

「そうだ。」

万が一、というリスクをとるか取らないか。どっちを取ったとしてもおそらく俺は後悔するだろう。取って万が一なにか起きればそれを、リスクを取らなければその思い出を作ろうとしなかった自分を。いわば究極の選択にも似たようなもので俺は葛藤していた。

「ウィルマは、どうしたい?」

「ちょっと急すぎてわかんないかな。でもさっき会った時に話したようにもう最後も近いから何かしらの戦果は挙げたいかな。いつか子どもが出来たとき“お母さん、引退する間際にこんな凄いことしたのよ。”って言ってみたいから。でもこれは希望だね。そんな凄いこと私にはできないだろうし降っても来ないだろうし。そもそも離陸することすらもうだめかもしれないからね。」

「そんなに魔力に限界が来ているのか?」

「ある程度なら問題ないだろうけど長時間の哨戒任務はもう無理だろうね。」

“弱くなっちゃたな、私。”そうつぶやくと俺に体を預け、目をそっと閉じた。ただただ、時計の針の進む音が聞こえゆったりとした時間が過ぎていく。このままずっとこの瞬間が続けばいいのに、と思うこともあるこの時間。きっと彼女も同じことを考えているから口を閉じてただ時を過ごしているのだろう。

五分くらいたった頃だろうか、ようやく彼女はポツリと話を始めた。

「私はね。いま本当に幸せだよ。」

「・・・それは本当にか?」

俺は彼女をここだけでも何度も傷つけているというのに。ウィルマは俺が怪我をするたびに手当を手伝ってくれた。軽い時はまたやっちゃったの?と困り顔で、重い時は本当に泣きそうな顔でいつも手当をしてくれた。仮に俺が、ウィルマが自分がいるのに何度も傷ついているのを目の前にしたら俺は耐えられないだろう。なんて自分は無力なんだって自分を責めていそうだ。なのに彼女は俺に対して今この瞬間がとても幸せだ、といった。

「俺は、ここで君を幸せにできていたのか?」

「もちろんだよ。」

ウィルマは俺の右手を取るとそっとなぞり始める。まるで今までの記憶をたどるかのように思い出しながら。

「初めてワイト島で会った時から不思議な人だなって思っていたの。だっていきなり目の前で気を失っちゃうんだもん。話を聞いても全く私の知らない世界の事ばかり。男の人のウィッチってだけでもおかしいのに話の内容もおかしかった。でも怖くはなかった。だってその言葉が暖かったんだもん。」

「俺の言葉が、暖かい?」

「そう、そんな感じがしたな。だって結構些細なことにも感謝してくれたり手伝ってくれたりしたでしょ?だからあなたに興味が沸いて話がしてみたいって思うようになった。」

俺にはそんな気は全くなかったが、ウィルマからしたらそういう風に感じていたらしい。だからあの頃からずっと積極的に話しかけてくれていたのか。

「それからいろいろあってこんな関係になった。短い時間で一気に私の周りの環境は変わった。それは嫌なことじゃなかったよ?むしろ凄く楽しかった。きっとリョウと会っていなければ私のウィッチとしての人生はあそこで終わっていたんだと思う。けれど、本当に奇跡みたいなことが起きてこの時期まで飛べるようになった。毎日が本当に楽しかった。ウィッチとしてほかの娘と楽しくわちゃわちゃしながら飛んでネウロイと戦って時々お菓子を食べて、そんな日々にリョウが加わってもっと楽しくなったの。ここにきて、私よりも年下なのに私よりも本当に戦果を挙げている娘たちと一緒に戦っていける自信はなかった。けれど、リョウがいてくれたおかげで何とか戦えた。初めは感じていた不安もリョウと一緒に飛んでいる間はそれを感じなかった。むしろ一緒に飛べて役に立てていたと思えるようになっていた。」

「あぁ。俺はいつも助けられていたな。」

そうだ、ウィルマは俺のサポートにいつもついていてくれた。取り逃がしたネウロイ、俺がおとりになっている間に撃墜する、その逆もあった。お互いがお互いのことを考えていたからこそできたサポートだと思う。

「そうでしょ?頑張ったもん。けどね、それももう限界。私のシールドがネウロイのレーザーを防げない限り、もう役には立てない。

楽しい幸せな時間が永遠に続くのは絵本の中だけ。もう私の絵本も最後のページ。薄々覚悟はしていたけど、ついにその時が来ただけなんだと思う。」

ウィルマのウィッチ物語はもう最終ページ、か。随分詩的な言い方だが言いたいことはよくわかった。もう彼女自身が限界を迎えていることには気が付いていたんだ。あとは決断だけだった。

「そうか。強いな、ウィルマは。」

「そんなことないよ。予想していたから覚悟はできていたってこと。さすがにその話をされた次の日に、辞めるっていうのは予想していなかったけど。」

「さすがにそこまで出来ていたらきっと将来別の道進めるだろうね。」

「超能力者、ウィルマ・ビショップなんてね。」

と俺の手を強く握ってきたウィルマ。

「私はね、もう覚悟を決めたよ。リョウの話を含めてね。」

そして顔をこちらに向けて真剣なまなざしで俺を見上げてきた。

「そんな今すぐ決めなくてもいいんだぞ?明日一日使ってゆっくり考えたっていい。」

だがウィルマは首を横に振って俺の頬に触れて困ったような笑顔を浮かべてくる。

「平気だよ。私のことを一番に考えてくれているのはよくわかるよ。けれど、私のわがままでリョウに迷惑かけるわけにもいかないでしょ?それにもう私の魔力では戦闘では役に立てないことはみんなわかるもの。ヨエンスーでもそれははっきりしていたし、それにあそこで今では後方支援を行ったほうがみんなの役に立てることも知ることができた。

だから、平気だよ。もう下りたって私は何の後悔もしない。」

そんな眼差しで言われたら、それ以上は何も追及できなくなってしまう。俺は心から湧き出てくるウィルマへ聞きたいことをすべて消し去りうなずく。

「わかった。答えてくれてありがとう。」

「ただね、その・・・。少しさ、不安だから、ちょっと今日だけは一緒に寝てくれる?」「

「あぁ、それでウィルマの不安が少しでも和らぐなら。」

「うん!ありがとう!」

立ち上がって部屋の電気が消えると薄い白色の光が差し込んできた。そしておもむろに俺に飛び込んでくるウィルマ。

これで本当によかったのか?そんな不安が俺の心から消えることはなかった。

 

「それじゃあ、話してくるね。」

「あぁ。」

次の日、ラル少佐とロスマン曹長がいる部屋の前まで俺とウィルマは一緒に向かった。

朝食の時、2人に話があるというとその一言だけですべてを理解してこの場を作ってくれた。

「やっぱりあの2人しかいない部屋に私だけっていうのは緊張するね。」

「そうか?俺はしょっちゅう話をしているからそんなのはないぞ。」

「私はいつも上官を目の前にしても平気なタイプなんだけど、今日だけはさすがにね。」

そんなの初めて聞いたぞ。まぁ、ウィルマが上官に萎縮している姿なんて想像できないからな。無理な物には無理だと何のためらいもなく言いそうだしな。

「それで、本当にやめるんだな?」

「うん。もう決めたことだから。これ以上は無理だよ。ほら、シールドだってこの通りだし。」

そう言って掌にシールドを展開するウィルマ。それは俺らが張るものと比べてもかなり薄く見え、とてもネウロイのレーザーの直撃には堪え切れるとは到底思えない厚さだった。

「むしろ、ここまでよくケガもせずに頑張ってこられたと思うよ。どっかの誰かさんと違ってね。」

その一言は俺の心に突き刺さる。心配させた後ろめたさが俺を襲い掛かってきた。

謝ろうか、それとも別の話題を振るべきか、その悩んでしまった時間が致命的だった。

「なんだ、もう来ていたのか。」

俺が最後に何か話そうかと思案しているとラル少佐が戻ってきてしまった。全く、どうしてこう大事な時に限ってタイミングが悪いことが起きるんだ。

俺がそう心の中で悪態ついているのを知らずにラル少佐は顔を耳元に近づけてこれからの会話が彼女に届かぬよう、囁いてきた。

「(それで、話というのは昨日のことでいいのか?)」

「(ええ。そういう方向で、ということになりました。)」

俺がそういうと少し驚いた顔をするラル少佐。

「(まさか話した次の日に決まるとは思っていなかった。随分と仕事が早かったな。)」

「(えぇ。まさか俺もこんなに早くすんなりと決まるとは思ってもみませんでした。ただ・・・。)」

「(何か、問題があったのか?)」

俺は一瞬、あと数日だけ執行猶予がもらえないかというべきか悩む。少しくらいならば許可してくれるのでは?という甘い考えがよぎってしまう。だが、ダメだとその考えを頭から消し去る。ラル少佐は上官で俺は部下だ。彼女の命令は絶対であって、疑問の余地はあってはならない。ウィルマは大切だが、そこに私情が入ってはいけないんだ。

「(いえ、何もありません。)」

迷いはあった。だからこそ、俺はそれを打ち消すようにそういった。

少佐は俺とウィルマの顔を交互に見る。俺の顔から少佐は何を思ったのかはわからないが“わかった”とつぶやき顔を縦に振る。

「それじゃあ、あとは私たちで詳しく話そう。この話は長くなるはずだから少佐は部屋に戻って待機していろ。今日中に結論が出ないかもしれないからな。」

「わかりました。ただ何か決まったのでしたら真っ先に知らせてください。」

「あぁ。そのようにしておこう。では軍曹、始めようか。」

「はい。」

扉が閉まるその瞬間のウィルマの表情は何かを決意した、そんな風に俺には見えていた。

結局、夜間哨戒に出発する時間までウィルマたちの話が終わることはなかったようだ。俺はどうなったか不安に思いながらも離陸していった。ラル少佐たち3人がいる部屋を眺めながら。

 

夜間哨戒中、いつものハインリーケ、ハイデマリー少佐に加えて今日は501のサーニャまでも加わって話に花を咲かせていた。

ちなみにどうやってサンクトペテルブルクとヴェネツィアというこの時代にしては長距離の通信を可能にしているのかというと、ハイデマリー少佐が俺たちの間で中継基地のような役割を行っているかららしい。ナイトウィッチというのはずいぶんと便利なことができるなとは思っていたがまさかそんな通信基地のようなことができるとはかなり驚いた。

もっともそのような便利なことができるのもひとえにナイトウィッチ最高峰であるハイデマリー少佐だからこそできる技術なのだろう。

こんないつもの夜よりちょっぴり賑やかなった場が出来上がったからだろうか、俺はつい心の迷いを彼女たちに話していた。

「ところでさ、一つ聞きたいことがあるんだ。」

『なんじゃ?お主が、我らに聞きたいことじゃと?』

「あぁ、そうだ。」

“へー”、“ほー”と不思議そうな声を出す3人。そんなに意外だったのか?

『バーフォード少佐がそんな話を切り出すなんてなんか不思議ですね。』

「ちょっと思うことがあってな。」

『思うところがある・・・。悩み事ですか?』

「そんなところだ。」

『それで、悩みとはなんじゃ?』

一拍、いつの間にか上がっていた呼吸を整え、心を整理して俺は皆に問いかける。

 

 

 

「もし、自分の大切な人が飛べなくなったらどうする?」

 

 

 

誰かの息をのむ声が聞こえた気がした。少し、残酷な質問だったかもな。

そう思いもう少し説明しようかと思った時、ハインリーケが答え始めた。

『どうすることも出来んじゃろ。そもそもそういうのはお主が悩むことではなく、その本人が悩むことではないのか?』

なるほど。いかにもハインリーケらしい答えだなと思う。

『そうじゃありませんよ、ハインリーケ。』

『ん?ではどういう事じゃ?』

だが、俺の悩みをあの一言だけでかなり理解していてくれたハイデマリー少佐が彼女の答えに補足を入れてくれた。

『バーフォード少佐が言いたいのは、そういう“仲間”とかいうものではなくもっと大切な人の事ではないでしょうか?』

「あぁ、その通りだ。そうだな、お前で言えば前に話してくれた黒田とかかな。そいつが突然、それも一生、ウィッチとして飛べなくなったらどうする?って話だ。」

サーニャだとエイラになるのか。ハイデマリー少佐だと・・・誰だろうか?

彼女の交友関係はあまり話に上がらないから想像すらつかないんだよな。

『あいつが突然飛べなくなるか、それも一生。想像すらつかんな。』

『でも今バーフォード少佐の周りではそういう事が起きているんだと思います。だから悩んでいるんですよ。』

「あぁ、ハイデマリー少佐の言う通りだ。」

どうやら俺の悩みを3人に聞いてもらったのは正解だったかもしれない。502の奴らにはどうしても離せない内容だったしな。

『できればでいいのですが、もう少し詳しく話してもらえますか?』

『私も、詳しく聞きたいです。』

サーニャも聞きたいのか?やっぱりエイラがらみだろうか?

「面白い話ではないぞ。もしかしたら不快に感じるかもしれない。」

『えぇ。でも、お願いします。』

「わかった。」

俺はそうして最初からすべてを話した。どうしても彼女に何かしてあげるべきではないのかという迷い、彼女の判断を尊重すべきということは心ではわかっているはずなのにどうしても迷ってしまうということを。

「俺は、どうするべきなんだろうな。あいつとどうしたいのか、どうするべきなのか、それすらも悩んでしまっているんだ。」

『・・・難しいな。お主たちの問題だけでなく第三者の要因も関わっておるのが余計に複雑にさせる原因になっておるのじゃな。』

「悪いな。こんなことにつき合わせてしまって。」

『そんなことはないです。誰もが一度は向き合わないといけないようなことだと思いますし。』

『そうじゃろうな。覚悟しているようでしていないと、いざというときどうしたらいいのかわからなくなってしまう。そこのお主のようにな。』

「それは、ハインリーケの言う通りだ。」

その指摘に思わず自分が情けなくなってしまった。なんせずっと先延ばしに知った結果がこれだ。いつかいつかと思いつつ嫌な話題だと避け続けていた自分に非がある。

 

5分くらい、誰もしゃべらない時間が続いたがそれも彼女の声で終わる。

『私はその大切な人がした判断を尊重したいですね。』

「サーニャ?」

まず初めに話し出してくれたのはサーニャだった。

『だって大切な人ですから、もちろん最後まで一緒にいたいです。でもそういう人だからこ

そ、私の意見で動いてほしくないです。少佐の大切な人はもう辞めると決めているんですよね?』

「あぁ、彼女の意志でな。」

『ならもうそれを尊重してあげるべきだと思います。だってそれは大切な人が決めたことですから。過度に干渉するのは良くないと思います。』

『でも、バーフォード少佐のもう少しだけ一緒に飛びたいというその未練も少しわかります。』

サーニャの意見に対して逆の意見を話し始めたのはハイデマリー少佐だった。

『私は、その固定の僚機というのがいないのでそういう事はいまいちわかりません。だから想像となってしまうのですが今までずっといた人と突然一緒に飛べなくなるというのは寂しいことだと思います。

いつも一緒に戦っていつも一緒に戦果を喜んでそしていつも一緒にそばにいる、その人が突然いなくなってしまったら悲しいです。もちろん、ネウロイとの戦いが終結してみんなで引退、というのが最高なんですけどね。』

魔力低下や被撃墜なんかではなく、戦争の終結による引退か。それは本当に現状を見れば本当に夢だな。

『その人に、そのことを伝えてみては?“あなたはそう決めたかもしれないけれど、私はもう少しだけ飛びたい。わがままに付き合ってほしい。”と言ってみるのもいいかもしれませんよ。自分の都合を押し付けてみるのも時には大事だと思います。今ならまだ間に合うのではないでしょうか?』

2人の意見は対照的だけどどちらの言っていることも間違えではないし、いいことだと思う。ただ、俺自身が答えを出すのにつながるかなり貴重な意見だ。やっぱり相談してよかった。

 

そういえば、と前置きしてハイデマリー少佐がふと疑問を投げかけてきた。

『少佐は、その大切な人がすんなりと飛ぶことを辞めることを受け入れてしまったことに戸惑いを覚えたりはしませんでしたか?』

戸惑い?戸惑いなんてそんな・・・いや、あったな。どちらかというと戸惑いよりも違和感という方が適切かもしれないが。

「・・・あぁ、そうだな。さっきまではあれほど頑張ると張り切っていたのにこの話をし始めた途端にあきらめてしまった。どうしてそういう風に変えてしまったんだろうとは思ったな。」

『それってもしかして少佐に気を使った結果だったりしませんか?』

十分にあり得る。いつも俺に気を使ってくれていたウィルマのことだ。今回も自分の意見を押し殺して、また他人を最優先にしてしまったのではないか?俺は、あいつの好きなように生きてほしい。こんな大切な決断をするときに俺なんかを考慮に入れないでただ自分のしたいことをして欲しいんだ。そして彼女がそうやって決めたのなら俺はどんなことでも受け入れたい。

『どうやら、あるみたいですね。昔本で読んだことあるんですよ。お互いが気を遣ってしまった結果不仲になるっていうのが。』

お互いが気を使っている、か。もしかしたらそうかもな。お互いがお互いのことを常に考えているから、もしかしたらということもある。

『なら、そこから先は少佐自身の問題ですよ。私たちができるのはここまでですから。

一度、本音で話し合うのもいいかもしれません。』

「そうだな・・・。ありがとう2人とも。あとはもう少し、自分で・・・。」

考えてもう一度、今度はお互いの気を遣うことなく本音で語り合ったほうがいいのかもなと結論付けようとしたその時、

『お主、それよりもっと先にやるべきことがあるんじゃないのか?』

ハインリーケの少し怒ったかのような声が聞こえた。さっきから一度も発言をしていなかったからどうしたのかとは思っていたがまさかここで何か言ってくるとは思わなかった。

「もっと先に言うべきこと?あいつにか?」

『そうだ。先ほどからずっと話を聞いているが一度もそこについて話しておらんかった。きっとその調子だとまだ言っておらんのだろうな。』

「言っていない?一体何の話だ?」

『たわけ!それくらい自分で気づけ!馬鹿者が!』

その甲高い彼女の声が頭に響く。

『本当に今のお主はお主か?あの時のようにもっと頭を使え!もし全然だめだというのなら今すぐ北海にまで飛んで行って頭を冷やして来たらどうだ!』

俺があいつに一番に話さないといけないこと?もう俺は言うべきことは言ったはずだ。

ハインリーケがここまで言うんだ、きっとこいつのいうことは正しいだろう。

何だ?俺はいったい何を言い忘れている?

基地に戻ってきて、彼女の口から飛べなくなることを聞いて、お疲れさまと声をかけて、ラル少佐から頼まれたことを話すために彼女の部屋に行って、そのことを話していろいろ話したな。ケガの事、ワイト島やここでの思い出も話したな。それから出会った時からいろんなことがあったと、ウィルマは俺に出会えてよかったって・・・。

「あ。」

『少佐?』『ふん。遅いわい。』

初めてこの世界に飛ばされてきたとき、俺を救ってくれたのは誰だ?俺とワイト島分遣隊の皆との懸け橋的な存在になって俺を孤独にさせまいと努力してくれたのは誰だ?そしてこんな俺でも見捨てずにずっとそばをついてきてくれて助けてくれたのは誰だ?

決まっている。ウィルマじゃないか。

そんな煩わしいことを考えたり本音で話したりとかそんな物よりももっと先に言うべきことがあるじゃないか。

「なるほど、確かにお前の言う通りだった、ハインリーケ。言われるまで全く忘れていた。」

『全く。阿呆、間抜け、そんな言葉しか思い浮かばないぞ、馬鹿者。』

そのハインリーケの言葉が心に突き刺さる。確かにこいつの言う通りだ。どうしても視野が狭くなって本当に大事なものを見落としていたみたいだ。

「ありがとう。助かった。」

こいつのおかげで俺の進むべき道がようやくわかった気がした。何かしてあげる前に俺がまずウィルマにしなければならないことが残っていたのだから。

 

『ところで、バーフォード少佐。』

「ん?サーニャ?どうした?」

帰ったらウィルマにあってどういう風に話そうか、と考えているとサーニャが話しかけてきた。

『その大切な人ってリーネさんのお姉さんですよね?』

「あぁ、そうだ。」

『どうやって出会ったとか教えていただけませんか?リーネさんはあまりご存知では内容だったので。』

前に皆がいるところで“お兄さん”って言ったあのリーネ。本人はいたって真面目言っているのだろうがこっちとしてはかなり気恥ずかしかった。きっとあれ以降彼女もいろいろ聞かれたのだろうがやはり張本人に聞くのが一番ということなんだろうな。

「別に構わないが・・・。ハイデマリー少佐も聞きたいか?」

『ぜひ。せっかくの機会ですから。ハインリーケも聞きたいと思いませんか?』

『ふん、まったく興味ないわい。』

『あれ、この前・・・。』

『うるさい!黙っとれ!』

どうやら俺の知らない間に面白いことになっていたようだ。

 

『少佐、聞こえるか。こちら502コントロール。』

「感度良好、問題なし。どうした?」

ラウラたちとの演習を行っていたころの話をしていた時、管制塔から唐突に連絡が入ってきた。たいてい管制塔から連絡が来るときはろくなことがない。だが今回の連絡は敵発見報告ではなく意外なものだった。

『前線基地、ブラボー3にて急患が発生した。至急大量の輸血が必要らしいがそこの基地にある分では足りないらしい。幸いこちらの病院にある分を回せることになった。』

「つまり、俺にその輸送を行えと?」

『あぁ、少佐のジェットストライカーユニットなら速度も問題ないだろう。そちらまで血液を運ぶ部隊がたった今スクランブル発進した。エリアGにて合流してくれ。夜間哨戒任務はそいつらに引き継いでくれれば問題ない。』

「了解した。」

血液輸送か。そんなものまでウィッチの仕事なんだな。そんなものくらい輸送機でやってしまえばいいのに、と思ったが燃料代などを考えればやはり楽なのだろう。ウィッチの汎用性の高さ故に重宝されるんだろう。

『ネウロイですか?』

俺が別のところと通信していることを感じ取ったハイデマリー少佐が何事かと聞いてきた。

「いや、ネウロイとは関係ないが緊急事態だそうだ。」

『ネウロイではないのに、ですか?』

「あぁ。俺の速さが必要なんだとさ。」

『速さ、ジェットストライカーユニットですよね。なるほど。』

任務に関することにつながるから話せないことがお互い分かっているからそれ以上は聞かれなかった。

『それでは、幸運を。』

『また話の続き聞かせてください。』

「あぁ、ありがとう。もちろん、その時はちゃんと話してやるさ。」

 

 

10分後、先に指定された合流ポイントに到着したがまだあちらは到着していなかった。

とりあえず来る方向と距離はわかるのでスコープを使ってその報告を確認する。

接近してくる反応は・・・2?てっきり下原だけかと思っていたが、どうやらそうじゃないらしい。どこかで別の部隊所属のナイトウィッチと合流したのかそのほかに何か、理由があるのか。合流すればその理由もわかるか。そう適当に楽観視していた。

やがて接近してくる2つの衝突防止灯が大きくなり、シルエットが分かるくらいに近づいてきてそこでようやくもう一つの反応が何かわかった。

「ウィルマ!?」

「えへ。きちゃった。」

「来ちゃったってお前・・・。下原、これはどういうことだ?」

502から来たのは下原とウィルマだった。俺の困った顔に下原も同様に苦笑いをしながら答えてくれた。

「簡単に説明すると、ウィルマ軍曹がどうしても今日飛びたいということで少佐が特別に許可してくれたんです。」

「ラル少佐が許可を出したのか?」

「そうだよ。頭下げて必死にお願いしたら特別に、ということで許可を出してくれたの。」

「許可を、あの少佐が?」

「はい。ですから、こうして軍曹が私と一緒にこられたんです。」

まさか、あの人がそんなことを認めてくれるなんてな。だが、結果的にはこれはラッキーだったかもしれない。なんせ最後の最後でこういった機会を作ってくれたのだから。

「それと、これが連絡にあった血液です。」

「あ、あぁ解った。確かに受け取った。だが、ウィルマ。お前はどうするんだ?俺と一緒にこれを運びに行くわけにも行かないだろう?」

「そこは私にお任せください。少佐が戻ってくるまで私と一緒に飛んでいてもらいます。ウィルマさんはあまり夜間哨戒の経験がないという事なので今後のためにもいい経験になると思います。」

いい経験、か。まだ下原には正式にはウィルマが辞めることは教えていないから親切心からそう言ってくれるのだろう。

「助かるよ。それとウィルマも夜間哨戒は不慣れだろうけれど下原に迷惑をかけないようにしておけよ。」

「もちろんだよ。下原さん、よろしくね。」

「下原も、ウィルマはこの通り夜間哨戒経験があまりなくて頼りないだろうけれどたまにはこういう賑やかなのもいいと思うぞ。適度に使ってやってくれ。」

「わかりました。少佐が戻ってくるまでは夜間飛行の先輩として色々教えてあげることにします。」

そういう下原の口調は心なしか弾んでいた。案外彼女も教えるのが好きなのかもしれないな。

「頼んだ。それじゃあ、行ってくる。」

「行ってらっしゃい。」「よろしくお願いします!」

俺は二人の声を受けながら進路を南東に向け、出力を一気に上げた。

 

 

基地に血液を届け、合流した場所に戻る頃にはすでに午前3時を回っていた。基地に到着すると意外にも俺のことは知られているらしく顔を見てすぐに“バーフォード少佐ですよね?”と名前で呼ばれた。もっと時間がかかると思っていた、と到着の速さに驚かれた。そのまま少し休んでいったらどうか、という流れになったが臨時で哨戒任務を変わってくれている奴がいるからということでまた来るという約束をして基地から離れた。いつもなら少しいただろうが今日だけは、どうしても時間を無駄にすることができなかった。下原と時々連絡を取りながら、こちらで位置を把握ながら無事に合流できた。

「下原、ウィルマが世話になったな。」

「いえ、夜間哨戒中にこうやって話せるというのは意外と新鮮ですごくよかったです。もちろん、ちゃんと仕事はしていましたよ?」

やはり下原の能力だと俺みたいにほかのナイトウィッチと交信ができない関係でいつも一人だ。だからこういった誰かと話しながら、というのも珍しいのだろう。

本来ならこういったことは絶対に許されないはずなのにこうして飛んでいるのは、彼女の説得と少佐が機転を利かせてくれたおかげか。

2人に合流したのはいいがこれからどうしようかなと考え始めた時、下原が予想外な提案をしてくれた。

「少佐、もしよろしければ今日は最後まで私が夜間哨戒を引き受けますよ。」

「え?」「下原?」

「私にはわかりませんが、お二人にとって大事なことがあったんですよね?なんとなく雰囲気でわかりました。けれどそれを聞くのはご法度だってわかっているからみんな気がついてはいるんですけど聞かなかったんです。

ここならお二人以外誰もいません。せっかくの機会ですからぜひ使ってください。」

午前3時の東欧戦線。太陽が昇り始めオレンジ色になり始めたこの空、周りを飛んでいるものはネウロイどころかウィッチすらいない。まさに俺たちだけにあるかのような場所であり最後の最後で舞い降りてきたラストチャンスだ。ならぜひとも使いたい。

「これは私の勘なんですけど、きっとお二人の問題ってケンカとかじゃないですよね?」

「あぁ、それは違う。俺たちの間でケンカなんてしたことがないからな。」

「え、ワイト島でちょっとしなかったっけ?」

「そうだっけか?」

「したよー。私あの時けっこう怒ってたもん。」

俺とウィルマで顔を見合わせてそんなことを話しているのを下原は穏やかな顔で見ていた。

「いえ、その様子だとそこまで深刻そうではありませんね。それだけ分かれば十分です。もし別れるなんて話になったらどうしようって心の中で思っていたので安心しました。」

「・・・そうだったのか。随分と迷惑をかけたな。」

「ありがとうね。」

俺とウィルマは下原に頭を下げる。ここまでしてくれた彼女に感謝だ。もちろん許可を出してくれた少佐もそうだが俺が行って帰ってくるまで本来ならば引き渡したらそれで終わりの筈なのにずっとウィルマのリードをしていてくれた。

どうしてそこまで下原は・・・?

「そういえばラル少佐が“バーフォード少佐ならきっとここで引き受ければあとで好きなことを一つかなえてくれるはずだ。彼は義理堅いからなって。”って言っていましたよ?」

わかっているな?そう言いたげな表情をこちらに向けてくる下原。やっぱりうまい話には裏があるってことか。トレードマークのうさ耳を動かしながら目で催促してくる彼女。まぁ、それでこの貴重な時間が貰えるというのならば安いものだよな。

「・・・その件については後ほど、下りたら話そうか。だがそれは了解したと伝えてくれ。」

「約束ですよ?私、そういうの絶対に忘れない人ですから。」

俺の約束を取り付けた下原の表情はしてやったりと言わんばかりのものだ。

「それでは、夜間哨戒の方は私にお任せください。といってもあと日の出まで30分もないですけどね。」

「そうだな。この時期の朝は早いしな。」

午前3時だというのにもう東の空は濃い青色からオレンジ色にかなり染まり始めていた。夜間哨戒の時間が終われば俺も基地に戻らないといけない。それほど時間は残されてないが、やれるだけのことはしたい。

「それでは、ごゆっくり。ラル少佐には私から報告しておきます。」

そう言い残すと下原は出力を上げて北西の方角へと消えていった。俺はウィルマの右に立ち、彼女の左手をそっと取った。

「暖かいね。」

「あぁ、寒いだろう?夜間哨戒も戦闘は少ないけど大変だってこと、わかってくれたか?」

「うん。最後の最後でいろいろわかってよかったよ。」

ふと彼女の顔を見るといつもと変わらない笑顔だった。今になってようやく気がついたが昨日までの彼女の笑顔はやっぱりどこか悲しそうだったな。

「あ、どうして来たんだって顔してるね?だって昨日、あんなに寂しそうな顔していたらもう一回くらい飛んであげないとなって思っちゃうよ。」

「さすが、ウィルマだ。」

行動力の塊であるお前じゃなきゃ、絶対できないことだろうよ。普通は上官を説得してほとんど飛んだことがない夜間に飛ぼうなんて思わないだろ。

「ラル少佐には迷惑、かけちゃったな。」

「そうだね。でも悔いが残らないようにこうしてもらったんだ。いやだった?」

「まさか。」

俺が一番欲しかった時間を作ってくれたんだ。うれしくないはずがないじゃないか。

「だよね。そう言ってくれると思ったよ。」

さて、さっきまではどう切り出そうかとか考えていたが今となってはもうどうでもよくなった。なに、簡単なことだ。自分の思っていることをそのまま伝えればいいのだから。

一度深呼吸してその握る手に少し力を込めて

 

「今までありがとうな、ウィルマ。」

 

心からのありがとうを伝えた。

「ほえ?」

「いやさ、こうやって僚機になってくれたことを心から感謝するっていう事をあまりしてこなかったからな。ずっと一緒にいることが当たり前になってずっと言えていなかった。

だから、ありがとう。出会えてよかった。」

「え、え、その、どういたしまして?」

なんとなくウィルマっぽいその反応にどこか安心してしまった。不安などは感じてはいなかったがどこか緊張していたからな。

「急にどうしたの?」

「せっかくの機会だからいろんなこと感謝しなきゃなって思ったんだ。」

俺がFAFからここに飛ばされて真っ先に助けてくれたのは彼女だった。身元不明の人物を受け入れるリスクを冒してまで助けてくれた隊長もそうだけど、その後も不信感を覚えているはずの皆との仲介をしくれたおかげで俺はなんとかなじめた。それからだろうか、俺が変わり始めたのは。今まで以上に周りを頼れる様になった。

「ウィルマ、君が俺を変えてくれたんだ。これでも仲間のことを今までよりもずっと頼れる様になった。お互いを信頼しあうっていうのを教えてくれたのは君だ。そんな自覚はないかもしれないだろうけどさ、変われたのは事実だ。俺もウィルマと同じで本当に出会えてよかった。」

空を飛ぶ楽しさというものに新たに誰かと一緒にという新しさを俺にくれた彼女。

「なら、お互い様だね。私もあなたと飛べて楽しかった。」

それを2人とも感じられているというのは本当によかったと思う。

「最後の最後で一緒に飛べてよかった?」

「あぁ。」

「うれしい?」

「もちろんだ。」

「なら、無理した甲斐があったよ。」

彼女がそういった直後、太陽のまぶしい光が俺たちの目に入ってきた。二人でそちらを向くとわずかに太陽が姿を現していた。

「空から見る日の出もいいね。」

「綺麗だろ?」

「うん。すごく綺麗。」

『502コントロールだ。バーフォード少佐、現在位置知らせ。』

俺とウィルマはお互い顔を見合わせると思わず苦笑いしてしまう。せっかく幻想的な風景を楽しんでいたのに突然現実に戻された気がしたからだ。だが、仕方ないか。

「こちらバーフォード少佐。現在位置エリアG」

『エリアG、了解。哨戒機が上がった。速やかに帰投してくれ。』

「了解。」

哨戒機が上がったならもう終わりか。本当はもう少し上にいたかったがわがままを言っても仕方ない。

「帰るか。」

「そうだね。」

こうして俺たちは基地への帰路についた。俺はもう飛ぶ前に感じていた不安はどこにも覚えていなかった。

 

 

彼女がいなくなり一週間がたった。部隊の雰囲気は彼女が去った後少し味気なく感じていたが今ではもうそれが日常となってしまっていた。もちろん寂しさがないと言えばうそになる。だけど、そんなことを言っていても始まらないしいつまでも俺だけが引きずるわけにもいかないのだ。新しく部隊に来る2人との調整ももうすぐ完了し、数日中にここに来るとの事。これでここ502統合戦闘航空団も11人となり正式に満員となり遠征も本格的になるだろう。そういえば、腹部の傷もジョゼのおかげでだいぶ楽になった。毎回毎回ぶつぶつ言いながらも結局は治癒魔法をかけてくれた彼女には感謝だ。

「失礼します。」

「どうぞ。」

さて、いつものようにラル少佐に呼び出されていた俺は先に皆に準備させてからラル少佐に会う。司令官室に入るとラル少佐が仕事をしていた。この様子も相変わらず、だな。だが、いつもと異なり、

「ラル少佐、ロスマン曹長は?」

先生がいなかった。この時間ならすでに一緒に仕事をしているはずなのに。

「所要があって現在、席を外している。」

「そうでしたか。」

確かさっき3人で話し合うと聞いていたのでてっきり少佐、先生、俺の3人だと思っていたから彼女がいないのは意外だった。

「それで、お話というのは何でしょうか?」

こうして呼び出されるのももう慣れたものだったから話してくる内容も大体予想がついていた。俺が椅子に座るとラル少佐は走らせていたペンを置き、こちらを見て話し始めた。

「バーフォード少佐、君にも補佐官が必要ではないか?」

だが、その予想は今回に限っては外れることとなった。

「補佐官、ですか?」

「あぁ。私にもロスマン曹長が、私の実質的な副官を務めてくれている。仕事が多くてよく手伝ってもらっているのは君もよく知っているだろう。

だが、これは私の仕事要領が遅いのが悪いのだがここ最近かなり仕事が溜まっていてな。篭鳥恋雲とはまさにこのことだろう。少佐にも少し手伝ってもらいたいことが山ほどあるのだ。」

「それは、別に構いませんが・・・。」

別に仕事を手伝うことくらい問題ない。どうせ出撃後の報告書の作成が終われば基本俺は自由だしな。その空いた時間に曹長と資源基地に行ったり熊さんと話し合ったりしていたからいけるだろう。

「あぁ、ありがとう。だが手伝ってもらうことになるとどうしても君の仕事も大変になるはずだ。だから補佐官をつけるのはどうだろうか、と提案させてもらっているんだ。」

「・・・そこまで増えるのですか?」

「あぁ、502の司令官となるとほかの部隊の比ではないな。いろいろな場所に勤務してきたがここが一番忙しい。おかげで空に飛ぶ回数も減ってしまっている。」

そういうラル少佐の顔はかなり嫌そうな顔だった。ラル少佐のことだから俺に仕事を回したとしてもそれが他の俺の仕事を圧迫する程はならないだろう

「それで、どうだ?補佐官は必要か?」

「必要ありません。自分のことは自分ですべてやるのは当たり前ですから。」

「それは私に対する当てつけかな?」

「あ、いえ、決してそんなことは。」

「冗談だよ。」

そういうラル少佐の表情はいつもと比べて明るかった。こういう冗談を言うのも珍しい。

コンコン。

そしてちょうどいいタイミングでドアをノックする音が響く。

「少佐、私です。今戻りました。」

「先生か、いいぞ。」

所要とやらが終わったのか曹長が帰ってきた。こんな時間から外出なんて珍しいな。

「お疲れ様だ。それで、そっちは?」

「問題ありません。」

「?」

「ラル少佐、そちらはどうでしょうか?」

「予想通りだったよ。」

??なんだ?何かラル少佐と先生の間で話が進んでいるが全く俺はついていけない。

「いったい何の話ですか?」

 

「実はな、補佐官の話は私がブリタニア空軍の君の上司とも話し合って決めたことでもあるんだ。将来、絶対に必要になるはずだから今のうちから付いていてもらえばあとできっと楽になるだろうという事でな。」

「ジャック、いえダウディング空軍大将がですか?」

「そうだ。そしてすでに人選は済ませて命令書を携えてもう来てもらっているんだ。」

もう来てもらっている?それって・・・、あぁ、だから先生はこんな時間から所要があったのか。そのわざわざ手配してくれた俺の補佐官とやらを迎えに行くために。

「そりゃ、なんとまぁ、仕事が早いことで・・・。」

「こういう仕事は早いに越したことはないからな。それじゃあ、先生。」

「はい。」

そう言って扉を開ける先生。そして扉の向こうから一人の少女が入ってきて、窓の外から流れてきた風が彼女の髪を大きく揺らした。

「彼女が、今日から人事局が推薦してブリタニア空軍大将の命令の下で君の補佐官についてもらうことになったのだが、自己紹介の必要はあるかな?」

トレードマークの茶色の帽子とジャケット、そして青色の瞳、誰が見間違えようか。

「ウィルマ!?」

「やっほー。」

笑顔で手を振ってくる彼女。何でここに?いや、今の流れから俺の補佐官ってまさか?

「少佐、これは私の贖罪でもあるんだ。」

「ラル少佐?」

贖罪?一体何の話だ?

先ほどから話の流れが速すぎてついていくのがやっとの俺だが、その言葉が心に引っかかった。

「贖罪、ですか?」

「あぁ、私は君たちのことの事情を一切無視してあの決定をした。そのこと自体は間違っていたとは思っていないが、ずっとここであの三人組やポルクイーキシン大尉、そして私たちを含め全員のために働いてくれた君に何もしないのは少し心苦しくてな。私の持っているコネクションを使って何とかここまでやっては見たが、どうだ?私からのプレゼントは気に入ってもらえるかな?」

ラル少佐。あなたって人は、いつも俺を驚かせてくれる。嬉しくないはずがない。

「もちろんです、少佐。ありがとうございます。」

俺は立ち上がってウィルマの前に立つ。たった1週間、されど1週間。もしかしたらあと数年は会えないのでは、なんて考えていたからこんな形で再会できたのは予想外だった。

だからウィルマがここに帰ってこられたことに感謝しながら、両手を広げて彼女の帰還を歓迎する。

「お帰り、ウィルマ!」

「ただいま!」

そう言って俺に飛び込んできたウィルマは今まで最高の笑顔だった。

 




ブレイブウィッチーズのアニメは毎回終わった後に尊い、としか言えませんでした。502でも501でもアフリカでもいいからアニメどんどん出ないかなー。
新年あけましておめでとうございます。(大遅刻)

次回からはフルメンバーで戦闘シーン全開で行きます。

ご指摘、ご感想、誤字訂正があればよろしくお願い致します。


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間話-1

まさかの8か月ぶりの更新。
遅くなりすみません。
メインとは少し離れていますので注意です。




-ねね。なにか面白い話ない?

 

-何よ?唐突に?もうやることが無いなら寝てしまいなさいな。明日は早いんでしょ。

 

-そうは言ってもね、眠れないものは眠れないんだよー。何かない?私は面白い話をご所望します!

 

-うーん・・・。あ、そうだ!それじゃあこんな話知ってる?これはほんの数年前の話なんだけど・・・。

 

-あー無理無理。私怖い話絶対無理。

 

-そんなんじゃないよ~。もう、怖がりなんだから。これはね、妖精の話。

 

-妖精?なにそれ?おとぎ話?

 

-ううん、違うよ。これはね、私たちの先輩ウィッチから聞いた話なんだけどね。ネウロイと戦っているとき、その先輩たちの隊は四方を囲まれて本当に危ない状況だったんだって。司令部に援護を要請してもほかの部隊も同じで自分たちで精一杯。到底ほかの人たちに手を回せるような状況じゃなかったんだって。

 

-それっていつの話??

 

-えーっと確か1940年のダンケルクでの話って言っていたからたぶん1940年だと思うな。カールスラントのベルリンやガリアのパリが陥落した年。私たちはまだ入隊してなかったね。

 

-そっかー、それだと5年前になるのかな。え?あれ?妖精の話はどこいったの?

 

-ちゃんと続いているから安心して。それでえっと、どこまで話したんだっけ?

 

-助けてほしいのに、誰も人がいないってところまでだよ。

 

-そうだった、そうだった。それでね、先輩は“だれでもいいから助けて!”てもう一心不乱に、それこそ神様に祈るように叫んだんだって。その時、突然ネウロイが爆発したんだ!

 

-ふーん?それで?

 

-いったい何が起きたの?と先輩があたりを見渡すと遠くに真っ白な服を着てとんでもない速さで飛ぶ“何か“がいたんだって。その”なにか“はものすごい速さでネウロイをあっという間に撃墜してそのままどっかに行ってしまったんだってさ。

 

-なにそれ?どういうこと?

 

-え、えっと、肝心なことは先輩もよくわからなかったみたいで・・・。

 

-だめじゃん!それで、結局その“なにか”って何物だったの?

 

-それは私にもわからないや。

 

-えー。それじゃあ、全くわからないよ。

 

-う、ごめんね。

 

-ならそこからは私が話すよ。

 

-あ、先輩!お疲れ様です!前に話してくれたことをこの子にも話してあげていたんですよ。先輩、この子にも“妖精”の話、してあげてください。

 

-あの話か?カールスラントウィッチで撤退戦を経験しているウィッチならだれでも知っている話だぞ?

 

-え、そんな有名な話なんですか?

 

-あぁ。知らない人はいないだろう。前線の飛行隊の隊長クラスなら見たことがある人も多いはずだ。無論、わたしも見たからな。

 

-妖精を、ですか?

 

-そうだ。正確に言うならば私もあの妖精とやらに助けられた一人だからな。ただ・・・、あれを妖精と表現するのは少しおかしい気もするがね。とにかく、せっかく敵襲もない夜だ。私が一から話すとしよう。

 

-お、いいですね!私もまた聞きたいです!

 

-私も、気になります。

 

-いいだろう、話をしようか。あれはパリが陥落した1週間後の話だ。私はまだ残って戦っていた友軍を支援するためにガリアを飛んでいたのだ。私は絶対にあそこでの戦いを忘れることはないだろうな・・・。

 

 

 

 

 

 

「こちら502JFW、バーフォード少佐。現在位置エリアK南上空。転進ポイントに到着。目標到着(ETA)まであと30分。」

『確認した。進路そのまま。ボギーの存在は確認できず。報告事項がなければそのまま基地へ直行してくれ。』

「了解。進路そのまま。」

 

 

徐々に南進作戦を進めるための一環として、ウィッチや航空機によるネウロイと人類との緩衝地帯になっている場所の詳細把握のための偵察飛行がここ最近は頻繁に行われている。

さらには遠征も限定的だが再開されて、俺たちも前線基地に増援として配置されることになった。

遠征基地へ向かうその途中もあえて遠回りまでしてこのようなコースを飛行しているのはそのためだ。

殆どの部隊では敵との接触に備えてツーマンセルで今回のような偵察飛行を行うが502ではそんなことはしない。

もちろん人手が足りないということもあるが一人でも対処できるだろうと上が信頼しているからだろう。

そういう部隊なのだな、と改めて痛感する。

それほど各国の上層部に信頼されているほどの戦力を持っている奴らが集まっているんだ。

伯爵やジョゼなんていい例だ。

地上にいる時と戦っている時、彼女には明確な差がある。

何が彼女たちをそうさせているのか、俺にはよくわからないがエースってやつはそういう物なのだろうな。

閑話休題、俺は廃墟と化した街を見下ろしていた。

支給されている地図と現状が違いすぎることにうんざりしながら見たままの結果を記入していく。

ここに住んでいた人たちがいなくなってから時が止まってしまっているその町は再び人が戻ってきたとしてもすぐに元の生活を送れるようなレベルではなかった。

冬を終えて、春、夏を迎え人の手を入れることなくただ放置されていた建物など劣化しない方がおかしい。

それは舗装された道路や橋にも言えることで既にいくつかの場所は原型をとどめていなかった。

「こりゃ、進軍スピードに相当の遅れが出るだろうな。」

思わず独り言をつぶやきたくなるほど、見た目は悲惨だった。

かなり横幅あるこの川だ。

橋を再びかけない限り車両どころか人もここを渡ることができない。

迂回しようにもその迂回ルートとなるはずの別の橋も崩れかかっている。

こちらは壊れかけているのだから余計にたちが悪い。

いっそのこと完全に壊れて流されていた方が壊す手間がかからない分、より短い時間で直せただろうに。

 

『やあ隊長。今どこだい?』

「伯爵か。無事に到着しているようで何よりだ。」

目標の半分を達成したころ、無線を通じて伯爵の声が聞こえてきた。

暇を持て余してしているだろうなと思っていた矢先にこれだ。

向こうの人たちに迷惑をかけていないといいんだが・・・。

『まさか僕の心配をしてくれているなんて・・・。やっぱり隊長はやさしいなぁー。』

「いや、ユニットの話だ。到着早々代替機を貸してくれなんてそちらの隊長に行ったらこっちにまで迷惑がかかるからな。」

『ひどいなぁ。僕の心配はしてくれないのかい?』

お前さんの心配?

そんな軽口叩ける時点で無用だろうに。

「ユニットが無事という事ならお前さんも無事だっていう事だろう?」

『嬉しいな!ジュース片手に待ってるね。ほら、ジョゼも。・・・・・・・・。あの、偵察任務お疲れ様です。こちらはご厚意に甘えさせてもらって休ませていただいています。ご到着、お待ちしていますね。』

「あぁ、ジョゼもありがとう。どうだ、伯爵の様子は?」

『その、いつもと変わりません。すでに顔見知りの現地のウィッチの方とは仲良くお話しされていました。』

あいつ・・・。

お話し?ナンパの間違いじゃないのか?

こりゃ、ついたらあちらの隊長から文句を言われることも覚悟しないとだめかもな。

「ジョゼの方は?」

『私、ですか?はい、皆さんのおかげでうまくやらしていただいています。』

「そうか、よかった。もしなにかやらかしているようだったら到着したときにまとめて報告してくれ。」

『わかりました。それではお待ちしていますね。』

「あぁ、頼んだ。通信終了。」

伯爵と二人だとあのジョゼも結構大変だろうな。

きっと事あるごとにちょっかいを出す伯爵とそれを嫌がるジョゼがいるんだろうな。

 

遠征に従事するメンバーは前とほとんど変わらなかった。

ほとんどというのはウィルマがいなくなったという点だ。

彼女はペテルブルクに残りほかの人たちの手助けをしている。

今回も熊さんたちが居残り、俺たち3人が遠征組になった。

ただ今日は俺がサンクトペテルブルクの基地にいる間にしなければならない仕事があったため伯爵たちには先に向かってもらっていた。

だから俺は今一人で遠征先の仮設基地に向かってその途中で偵察任務についているのだ。

伯爵が“僕は現地の部隊の子たちや指揮官と面識があるから打ち合わせとかは全部任せてよ!”なんて言っていたから半信半疑で全部任せてみたがジョゼの話を聞く限りはうまくやっているようだ。

やっているよな?じゃないと困る。

面識があるというのがかつての仲間だったのか、それともユニットを壊した時に世話になったのかどちらなのかわからなかったが今回は前者だったらしく部隊間交流もスムーズに行きそうだ。

俺たち待機時間が長くなるがその分、夜間哨戒の時間も短くなりだいぶ楽になった。

前線部隊もこの時期になると太陽が出ている時間が長くなりその分活動時間が長くなり負担が多くなってきていたため今回の遠征もかなり喜ばれているらしい。

俺たちの“現状の“敵であるネウロイもまたその日照時間の増加に比例して出現数、活動時間が先月や先々月と比べて確実に増えてきている。

つまりネウロイも冬眠から目覚めて活動を再開し始めたってことか。

夜間哨戒の時間が減るのはありがたいがその分、激しい戦闘の回数が増えるというのは少し憂鬱だった。

 

 

 

基地まで残り15分というところでそれは突然起きた。

・・・何かがおかしい。

鋭敏に働いていた俺の勘が唐突に自分にそう呟いてきた。

まず初めに気がついたのは周りの気配だ。

先ほどまでは明るかったのに急に暗くなってきた。

それと肌で感じる空気が重いように感じた。

よく見てみると自分の周りを霧が覆い尽くそうとしていた。

下の偵察に気を取られていつの間にか霧の中に突っ込んでしまったのか?

いいや、そんなはずはあるまい。

朝のブリーフィングでは今日の天気は晴れで、濃霧が発生するようなコンディションではなかったはずだ。

だがそれでも目の前にはだんだんと濃くなっていく霧が発生していた。

それに伴い、地面が霧で隠されていった。これでVFR(有視界飛行方式)での飛行ができなくなってしまった。

明らかに霧ができるスピードが速すぎた。

こんな経験は雲に突っ込んだ時くらいにしか経験できない。

それほどに周りが見えなくなる速度が速かった。

「コントロール、こちらバーフォード少佐。濃霧発生により視界不良。そちらに何か濃霧にかんする情報は入ってきているか?」

『こちらコントロール。周辺空域はいたって快晴。予報でも霧が発生するとの報告はあがっていないぞ。報告も同様だ。10分前に飛行したパイロットからもそういった危険気象に関する報告は来ていない。』

「了解。ならいま報告だ。グリッド056158にてVFRが困難なレベルの濃霧が発生。任務を一時中断して高度を上げる。」

『・・・・・・・。』

「コントロール?聞こえているか?任務中断、高度を上げるぞ。」

『・・・・・・・・。』

「おい!聞こえないのか?」

突然、コントロールと連絡が取れなくなった。

無線途絶時のマニュアルに沿って通信回復試みるがあちらとの通信を再開することはできなかった。

何故だ?

何が起こっている?

こちらの通信機器を使用しているのにも関わらずあちらに通信が届かない、なんてことは今までなかっただけに一抹の不安を覚えた。

俺は高度を上げて、とにかくこの霧から離脱することにした。

先ほどまで通じていた無線が急に通じなくなったのはこいつの無線機器の故障が原因とは考えにくいのでこの霧の可能性が高い。

地上と衝突するリスクを考えても現状は周りを見ることができないので高度を取っておくことに越したことはない。

偵察任務の中断はあちらに聞こえていないかもしれないがこの際、緊急事態なので仕方がない。

足のユニット出力向きを変え、太陽を目指して一気に高度を上げる。

3000、5000、8000、10000と高度計の数字が目まぐるしく増加していきそれに伴って空気が軽くなるような感覚を感じた。

だがそれなのにも関わらず、霧が晴れることはなかった。

普通、成層圏まで霧が多い隠すことなんてあるのだろうか?そんなことは聞いたことがない。

なら今、目の前で起きているこの現象はいったい何なんだ?

そんなことを考えて上昇をしている間も霧は濃くなっていく。

まるで俺を包むかのように見える先が10m5m、3mと消えてゆきやがて自分の指先すら見えなくなったとき

 

“あぁ、まるでフェアリ星とをつなぐ星間通路に入るときのようだ”

 

俺はふとそんなことを考えていた。

 

 

 

 

その霧が一瞬にして晴れた。

急に差し込んでくる太陽光に思わず腕でおおい隠す。

どうやら霧を抜けたようだ。

Garudaが指し示す現在の高度は12000m。

いつの間にか1万を超えるところまで来ていたようだ。

周りを見ても先ほどまで俺を覆っていたはずの霧はどこにもなかった。

俺の混乱は下の景色を見てさらに大きくなった。右手には海が、眼下に海岸線があり左手には平野が広がっていたのだ。

先ほどまでオラーシャの領空を飛んでいたはずなのになぜ、そこに海岸線が広がっているのだ?

霧に覆われていた間にまさかそこまで移動した?

いや、先ほどの場所から一番近い海岸線なんてサンクトペテルブルク付近のあそこだ。

それにしたって、いろいろ辻褄が合わなすぎる。

仮に現在位置がサンクトペテルブルク周辺空域だとしても、右手に海しかないのがおかしい。

あそこを飛んでいるときは左手にカールスラント、右手に遠くながらバルトランドが見える。

つまりこの高度から海しか見えないのがありえない。

そうなるとさらに遠い場所を飛んでいることになるはずだが、霧に覆われていた時間が5分以下だったことを考慮するとその時間でかつ通常推力で行ける該当場所なんて“存在しない”。

なら、俺は今どこを飛んでいる?

パイロットとして自分の飛んでいる場所を把握できていないのは最悪な事態だ。

一旦、ユニットの出力方向を下に向け、その場にとどまり辺りを見渡す。

海岸線があるということは大まかに場所が絞られてくる。

それと現在時刻と太陽の位置から方角を測定することから海岸線の向きがわかるためさらに絞り込むことができる。

俺はポケットから地図を取り出し、似ている場所がないかを探し始めた。

最初はつい先ほどまで飛んでいた場所の近くを探してみたが該当する場所が見当たらない。

念のために数回確認してみたがやはり一致しなかったので今度はさらに範囲を広げて探してみた。

山、町の地形、海岸線の形、遠くに見える何か特徴のある建物、いずれも周辺空域と地図が合致する場所はない。

つまり、いま俺はこの地図に書かれている場所の外にいる事になる。

スーッと首筋を汗が一筋、流れていくのが分かる。

冷静になれ、焦るとわかるものもわからないぞ、そう自分に言い聞かせてみるがいつもよりも鼓動が早いのが分かった。

このまま地図をにらんでいても絶対に現在位置はわからない。

とにかくこの緊張状態を押さえるために俺はもう少し飛んで周りを確認してみようと思った直後、あらゆる周波数を探り、情報を集めていたGarudaが何かをつかんだ。

自動で調節された周波数から聞こえてくるその声に俺は耳を澄ますのだった。

 

 

-????/??/??/??:??-

OOOOO上空

 

パリ陥落。そのニュースは私たちにとって衝撃だった。いくら何でも敵の進軍スピードが速すぎる。

先月、カールスラントの首都ベルリンが落ちたというニュースを聞いたばかりだったのに。

距離にして約870km、もちろんウィッチや地上部隊も必死に抵抗しただろう。

それをわずか一か月で敵は突破した。

私たち最前線にいる人たちだってショックだったのに司令部じゃきっと真上に爆弾を落とされたくらいの衝撃だったはずだ。

戦力が各地でバラバラになっている現状ではネウロイに各個撃破されてしまうのは目に見えていた。

だから戦力を一か所に集中させて再編成する必要がある。

そのためにこの撤退作戦が立案され、いま目下実行されている。

私たちに与えられた任務は民間人及びそれを護衛する味方地上部隊の撤退支援だった。

護衛任務、私はそれが一番嫌いだった。

いつ来るかわからないネウロイに常に気を張っていなければならない。そしていざ戦うときは決まって奇襲の場合がほとんどだ。

むしろこんな任務が好きな人はよっぽど忍耐力がある人か物好きな人に違いない。

年齢が低い私たちに気を配ってくれているのか2時間ごとに場所を変えて集中力を維持させるという上の判断には嬉しくて涙が出る。

もちろん皮肉だけど。

だけれど今回の護衛戦闘は同じ護衛でもいつもの作戦とは状況が全く違う。

好き嫌い言っている場合ではないのだ。

ここはそう、ダンケルク。

いま、私たちの目の前では人類史上最大の撤退作戦が行われている。

周りをネウロイに包囲されている今、残された唯一の脱出路は海から船を使うしかなかった。

今足元にいる40万人の命は私たちにかかっている。

そしてその人たちを助けようと数え切れぬほどの船がここに集結して撤退を支援していた。

軍艦や輸送船だけではない。

ドーバー海峡を渡って民間の漁船までもが救出に駆けつけていた。

そうでもしなければここにいる人々を全員助け出す事なんて不可能だった。

何とか船の数はそろった、しかし逆に考えればあれだけの資材や人が集まっている場所となればネウロイにとってみれば格好の標的でしかない。

だから私たちは絶対にここから先へネウロイを通してはならないのだ。

あの中には私の家族だっているんだ。絶対にネウロイなんかにやらせはしない。

みんなでブリーフィングの時にそう誓って今も空の上で必死に戦っている。

だけれど、ネウロイはそんな覚悟をあざ笑うかのように人類側のすべての航空戦力をはるかに上回るほどの量を投入してきた。

地上のレーダーではネウロイの機影は観測主が皆故障かと勘違いしてしまうほどだったらしい。

私はあの光景を一生忘れることはないだろう。

地平線の先から黒い集団が一つ二つとだんだん増えていったあの光景を。

百から先は怖くなって数えることはやめてしまったが勘ではその数倍はいただろう。

ここ数日はネウロイの襲撃が全くと言っていいほどなかった。

来たとしてもせいぜい小型機数機程度でウィッチが近づくだけですぐ引き返していった。

中にはネウロイはここに気が付いていないのでは?ここにはいない別の部隊が健闘してここの周辺には近づくことすらできないのでは?と楽観視していた人もいた。

私も少しはそれに期待していた。だって戦わずに済むのであればそれに越したことはないもの。

しかし現実は甘くなく、むしろ状況は最悪だった。

ネウロイはこの日のために戦力を温存して一気に私たちを殲滅するつもりだったのだ。

そして現状、ネウロイの思惑通りに戦況は動いている。

敵は私が防衛している空域にも押し寄せ、遠回りして海からも来ているらしい。

ブリタニア本土からも応援が来ているらしいが圧倒的に数が足りない。

私たちはそんな数でも戦闘力でも勝っている敵と互角以上の戦いを強いられていたのだ。

 

「こちら第13飛行隊中隊長です。第二防衛ラインαに多数のネウロイを確認!現状では抑えきれません!早く増援をこちらに送ってください!すでに消耗多数。このままでは全滅です!」

私は本部にそう叫ぶ。ダンケルクに投入されている航空戦力は現状ここの司令部がもつ全戦力だ。

撤退が完了すればここは放棄されることから予備戦力は作戦立案当初から考えられていなかった。

初めから全戦力を当てて味方に被害を及ぼさないようにすることが第一だったからだ。

それの意味するところは緊急時の補充ができないという事。

緊急オプションとして用意していたはずのブリタニアからの応援も海上での戦闘で精一杯らしい。

『無理だ。これ以上の戦力は回せない。なんとしてでも現状の戦線を維持せよ。』

「わかっています!ですが戦力差は・・・!」

『すまない。ほかに回せる戦力は本当にどこにも無いんだ!既に撤退は半分が完了した。もう少し耐えてくれ!』

「ッ・・・・!了解!」

ようやく半分?冗談じゃない。

このまま撤退が完了するまで待っていたら私たちは全滅だ。

この空で死んでしまうのか、それとも地上部隊が撤退を完了し私たちに撤退命令がくだるのか、どちらが先に起きるのか私にはわからなかった。

いや、考えたくもなかった。

「全機!弾薬と魔力は極力節約して!何としても撤退命令が出るまで・・・キャ!」

『隊長!!』

みんなに指示を出すためにそちらに注意を向けたせいで周りのネウロイが攻撃態勢になっているのに気が付かなった。

運がよかったのかそのレーザーは直撃することなく体のすぐ脇を貫いていった。

すぐに体勢を整えて背後にいる私を落とそうとしたネウロイに反撃する。

 

ダ!ダ!ガッ!

 

2発撃っただけで嫌な音と共に銃は突然発砲を止めてしまった。慌てて確認すると空薬莢が排莢口で詰まっていた。

ジャム!?こんな時に!?

距離が近くこれくらいであれば撃墜できると思った矢先の玉詰まりだ

。しまった、と思った頃にはもうネウロイは射程圏外にまで離脱していた。

戦闘中に気を抜くという油断とジャムという運が悪かった結果、せっかくのチャンスを逃してしまった。

『隊長!お怪我は!?』

「平気、問題はないよ。」

口ではそういったが心はすでにボロボロだった。

援軍は来ない、味方も数をどんどん減らしてきている。

それなのに敵の数は撃墜しても撃墜しても一向に減らない。

私は手動で詰まった弾薬を排莢して無駄になった弾が落ちていく様をただ見つめることしかできない。

玉詰まりは直した。

さぁ銃を手に取れ!戦え!ネウロイを落とせ!家族を守れ!

頭の中の自分がそう叫ぶがもう一人の自分がそれを聞こうとしない。

まるで虚無感が頭をすべて支配してしまったような感覚に陥ってしまった。

もうだめかもしれない。

撤退命令が下りるまで耐えられないかもしれない。

そしてそんなつらい思いが胸の中で沸き始めた。

また視界の端で誰かが落ちていくのが見えた。

きっと私ももうすぐあぁいう風に落ちていくのかな。それとも何も残らないのかな・・・?

一度生まれると止めることは難しいこの感情が胸の中に一気に広がる。

嫌だ、なんで、なんで私が?運が悪かったの・・・?

視界が急ににじみ始めて止めたくても止まらない涙があふれてきた。

皆の隊長になってからはこんな涙は見せないと心に決めていたのに、もう限界だった。

援軍はこない。味方は疲労困憊。それなのに敵は健在。

これを絶望と呼ばずしてなんという?

だからだろうか、絶対言わないと心に決めていたつらい思いを叫んでしまった。

 

「もう誰でもいい!!誰でもいいから私たちを助けてよ!!!」

 

もちろん、返答はない。

こんなことを言ってもなんの解決にもならない事なんてもちろんわかっている。

けれど、叫ばずにはいられなかった。

それはまるでここで戦っているウィッチすべての気持ちを代弁したかのような言葉だった。

これを聞いている通信士やその上官ですら規則違反の無線を咎めることすら忘れてしまう、それほどに悲痛に満ちた叫び声だった。

 

「は、はは・・・。」

涙と共に笑い声まで漏れてきた。

あぁ、私ってもうだめなんだろうな。

急に先ほどまであったはずと戦う気力が抜けていく感じが自分でも分かった。

「何やっているんだろうな、私ってば。」

視界の右上から先ほど取り逃がしたネウロイが再び近づいてきた。

耳元で誰かが叫んできているがもう聞こえない。

いや、きっと脳が聞くことを拒否しているのだろう。

右手に持っている銃は垂れ下がりもはや引き金に力を込める事すらできない。

ただそれを手放さなかったのは脳に残っていたわずかな理性がそうさせていたのだろう。

“ごめんね。こんな隊長で。”

今戦っている皆へ、そしてもうこの場にいない仲間へ、そうつぶやいた。

もう目の前にまで迫ってきているネウロイを見つめ、私は目を閉じようとした。

 

 

それゆえ、ネウロイが鈍い音を響かせた直後に爆発して落ちていくという光景が目の前で起きたことをすぐに受け入れることができなかった。

 

「え?」

目の前にいるのは真っ白の服を着て見られないユニットを付けた私たちより一回り大きいウィッチ。

手には大型の対物狙撃銃を持ち、背中をこちらに向けながら鋭い目でこちらを振り返りながら見つめてきた。

 

 

 

時間は15分ほど遡る。

Garudaがとらえた周波数から聞こえるのは増援要請とそれを許可できない通信士の声、それとわずかな悲鳴だった。

先ほどの無線からもう一刻の余裕がないことはわかっていた。

ダンケルクの撤退作戦。あちらとこちらでの両方の撤退作戦については資料で読んだ。

一つ共通しているのは両方とも俺がいた頃ではすでに過去に起きた出来事と記されていることだ。

なんとなくだが今自分が置かれている状況は理解できた。

そして今、目の間でその戦いが起きている。無線を聞く限り状況は最悪。

このままでは残っている地上部隊やウィッチは甚大な被害を受けてしまうことになる。

傲慢なんかではない、だが今俺が行けばもしかしたら助けられるかもしれない。

ならためらう理由などない。

502の奴らがもしここにいたとしたら助けに行くことを即決するだろう。なら俺も、そうするしかないだろうな。

「Garuda、現在地から発信ポイントまでの飛行ルートを。」

3秒ほどするとすぐに発信ポイントが割り出された。Garudaも現在位置は把握できてはいないが発信方向であれば捕捉することはできる。それさえわかれば後はそこに向かって一直線で飛ぶだけだ。

そしてかつて初めてウィルマたちと会った時のように彼女たちにピンポイントで通信を送る。

「3分耐えろ。必ず助ける。」

俺はそう言うとストライカーユニットの出力を最大にまで上げ、彼女たちのもとへ飛んだ。

ブリタニアの精鋭、が彼女たちのもとへ飛ぶ。

 




改めて、遅くなりすみません。
前回の最後の最後であんなこと言っておきながらまさかの別世界。
というのもこの話自体案が思いついたのは去年の5月の事です。
英語の本を読んでいるときに何を隠そう自分がアイリーンをイレーネと読み間違えていたところからスタートしました。
そこから並行して進めていましたが数か月のブランクののち、先にこちらでリハビリやと思って始めたら結構進みこちらが先になりそうです。
量が量なので今回から読みやすさも重視し始めたということで、分割して投稿します。予定では5,6話くらいで終わります。そんなに時間をかけづに完結させて本篇に行きたいのでよろしくお願いします。
ちなみに最初の場所をダンケルクにしたのももちろんあの映画の影響です。

ご指摘、ご感想、誤字訂正があればよろしくお願い致します。


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間話-2

Garudaの計算していた通り3分で発信源である部隊を目視することができた。ネウロイの発するレーザーと比べてユニットが作り出す飛行機雲の数が圧倒的に少ない。

このままでは全滅は必至だろう。

戦況を一気に変えることは無理かもしれないが、ここの状況くらいは変えてみせる。

 

まず、一番初めに目に入った一人のウィッチを3機のネウロイが追いかけまわしていた。その後ろから味方と思われる奴が追撃しているがユニットが不調なのか追いつけていないようだった。

速度を一気に上げて追撃しているウィッチを一瞬で追い抜く。

さらに目の前に迫ったネウロイを射程圏内にとらえた瞬間

 

-発動-

すれ違うまでは約4秒。だがこの条件下なら問題ない。

まず一番左のネウロイに照準を合わせて発砲。

薬莢がスローモーションで落ちていくのを落ちていくのを視界の端でとらえながら次のネウロイへほぼすれ違いざまに続けて、撃つ。

両方とも命中したのは確認できたがこちらの速度が速い故、それ以上の事は確認できないままウィッチを追い越して前に出る。

そして体をひねりながら最後のネウロイに狙いを定めて

 

-発砲-

 

俺の撃った弾丸はネウロイのコアから若干右にずれた位置に着弾した。

最初の2機へはどこにあたったのか確認できないまま追い越してしまったため、まだ仕留めきれてない可能性を考え、奥のネウロイに銃を構えたその時、

 

ドドンッ!!

 

といういつもとは異なる音が俺に届いていた。

ネウロイの損傷具合を見てみると、どうやら着弾した銃弾はそのままネウロイを貫通し内部から破壊つくしてしまったようだった。

柔らかい?

昨日まで戦っていたネウロイとは明らかに装甲の厚さや強度が違った。これは好機かもしれないな。

コアの破損した先ほどのネウロイはそのまま高度を落とすと爆発して姿を消した。

驚き、慌てている二人のウィッチの無事を確認した俺はそのまま速度を落とすことなく別のネウロイに狙いを定めたのだった。

 

 

小型、中型九機ほど落としたくらいだろうか、その“声”が唐突に響いた。

 

『もう誰でもいい!!誰でもいいから私たちを助けてよ!!!』

 

その悲痛な叫び声は、まるで七面鳥撃ちだなと少し気分が高揚していた俺を一瞬で突き落とすほどの威力があった。

その発信源はすぐにGarudaに頼ることなくわかった。

ここからそう遠く離れていないところに銃口を下に下げてその場に浮かんでいるだけのウィッチを見つけられた。

その姿は、この敵のど真ん中で戦うことをあきらめてしまっているように見えた。

そして彼女を見つけたのはどうやら俺だけではなかったようだ。

中型のネウロイが高速で彼女の正面にまっすぐ突っ込んでいくのがレーダーでわかった。

おいおい、冗談じゃない!

援護として来ているのに、目の前で死なれるのは嫌だぞ・・・!

ユニットの速力を再び最大限にして一気に距離を詰める。

魔力を持っていかれる感覚を覚えたがどうせ回復するんだからと割り切り接近する。

だが少し俺の方が接近するのが遅かったらしい。

目視でネウロイがレーザーを発射しようとしているのが分かった。

なら、こうするしかないか。

俺はそのネウロイに狙いを定める。

ネウロイは進行方向左に13度。高度差は10m未満。進行方向は俺と交差するためかなり前方に狙いを定める。

 

 

-発砲-

 

 

俺が発砲するのと同時にネウロイもレーザーを放った。

「間に合え!!!」

ユニットの出力をほんのわずかな値を調節しぎりぎり最高のタイミングを狙う。

そして彼女とレーザーとの距離が15mを切った直後

俺はシールドを展開した。

シールドはレーザーに対して斜めに敷かれたため、打ち消すことはできなかったがそらすことは出来た。

そのまま継続して照射されていたらダメだったろうが俺の撃った弾丸が正しくネウロイのコアを貫いていたようで俺が彼女の前を通り過ぎた直後に煙を出して落ちていった。

 

俺はネウロイに殺される一歩手前だったあのウィッチのもとに向かった。

周辺を警戒しながらも振り向くと彼女は目をつぶり、涙を流していた。

そしてどことなく絶望しているような雰囲気をもまとっている気がした。

「え?」

そんな彼女はネウロイの響かせたあの音でようやく俺が目の前にいる事に気が付いたようだった。

今の俺は白迷彩服を着ている。

しょうもない理由でこれを着ているわけだが、今回はこの空の色と白色がミスマッチしていることで混乱している彼女も俺をすぐに認識してくれた。

「助けに・・・来てくれたの・・・?」

かすれたような声でそう俺に聞いてきた。

「あぁ。」

俺のその返答に混乱の表情が驚きに変わった。

「増援は、来ないんじゃなかったの?」

「ただの気まぐれみたいなもんだ。増援はまだ来られないだろうさ。無線を聞く限りあちらも手間取っているようだ。」

「そう・・・。」

俺の返答に再び少し落ち込んでしまう彼女。だが、俺はそんな必要はないんじゃないか、と思っていた。

「そんな悲観的になる必要はないんじゃないか?」

「え?」

「そんなに下ばっかり見ていないで顔を上げて周りを見てみろ。俯いていたら見えるものも見えないだろう?」

「回りって、なにを・・・・うそ。」

最初は視線だけを、次に顔を動かし、その次はその場でくるりと回るように周囲を見渡す彼女。

そしてあることに気が付いたようだった。

「ネウロイが・・・少ない・・・?」

「ほらな。少しは粘ってみるもんだろう?」

ここの空域のネウロイを一気にそれなりの数を俺やほかのウィッチが落としたおかげか敵が少なくなっていた。

ほかの空域に行ったのかそれとも一時撤退したのかはわからないが先ほどは上を見ても下を見ても左右をみてもどこにでもいたネウロイがその数を減らしていた。

敵を全機落とす事なんて到底できない。だが2,3割でも減らすことができればネウロイも戦略を改めざるを得ない。

戦力の追加か、撤退か。

今回は運がよかったのかそれとも敵の戦力に限りがあったためか撤退してくれたため、この場は何とか無事に切り抜けることが出来た。

周りを見てみても徐々に先ほどまではほぼバラバラで動いていたため各個撃破されかけていたウィッチたちが今では集まり始めて徐々に戦力の再編成を進めていた。

もうここは平気だろう。次、手助けが必要だとしたら海上のウィッチたちだろう。

まだあっちにはこの余波は伝わっていないようで激しい戦闘が続いている。

彼女の副官と思われるウィッチが話を始めたのを見計らって俺は海の方に進路を向けたのだった。

 

-????/??/??/??:??-

ダンケルク上空

「隊長!!」

私の副隊長がすぐ隣まで来てくれた。

「お怪我は?先ほどネウロイが隊長のそばで爆発しましたが・・・。」

「平気よ。あの人が助けてくれたから。」

「あの人、というのは先ほど隊長とお話しされたあの白色迷彩を着たウィッチの人ですか?」

「ええ。」

「遠くからしか見ていませんでしたが少し不思議なユニットを履かれている方でしたね。そういえばお名前は・・・。」

その時、普段では聞いたことも無いような爆音が響いた。

とっさにそちらを向くとさっきまでいたあの人がいなくなっていた。

慌ててその姿をさがして、ようやく見つけた頃にはすでに小さくなっていた。

「聞けなかったね。」

「え、ええ。ですが、相当腕が立つ方でした。すれ違いざまに一気に三機のネウロイを落としたんですよ?」

「三機も?」

「司令部にはあの方をなんて報告するんですか?」

「するしかないじゃない。あんな状況を一気に変えてくれたのよ?お礼の一つも言わないと。」

「そうですよね。地上部隊の撤退状況はどんな感じ?」

「80%が完了。残りもあと数時間です。」

「わかったわ。」

目の前を見ると先ほどではないが依然としてネウロイは残っている。一度にかなりの数が減り混乱していったん撤退したようだがまた戻ってくる可能性は十分に考えられる。

「ほかの中隊長と連絡して部隊を再編成しましょう。このままバラバラに動いたとしてもいい事なんてない。いったん、部隊をもう一度時間内で組みなおすの。出来る?」

「わかりました。やりましょう。もうだれも死なせないためにも。」

「ありがとうね。いつも世話欠けているわね。」

「それが私の仕事ですから。それと、ヒット&アウェイを徹底させましょう。新人ウィッチだとどうしてもそれを忘れてひたすら追いかけてしまう子がいましたから。」

「そうね。新人が多いチームにはベテランの人を何人かつけましょうか。私が他の隊長と連絡を取るから編成の手伝い、任せるわよ。」

「お任せください。なんとしてもここは死守しましょう!」

「そうね。」

一度はあきらめかけたけれど、誰かがくれたこのチャンス。絶対に無駄になんかしない。

そう心に決めた。

私の心の中にはさっきまであった虚無感はもうどこにもなくなっていた。

ありがとうね、どこかのウィッチさん。

諦めて何もかも捨てようとしていた私を助けてくれたあの真っ白のウィッチに心のなかでそっと感謝をしたのだった。

 

 

海上でも何回か戦っているウィッチの援護を行ったり2回の遭遇戦を行っているうちに持っていた弾薬の残りが少なくなっていた。

気が付いたら最後の弾倉にリロードしていた。

これ以上の戦闘は無理だな。この最後の奴はできる限り援護ではなく自分の身を守るために使用したい。どこか弾薬を補給できる場所を探さないとな。

通信を聞いている限り上空を飛んでいるウィッチ隊にも撤退命令が出ている。

この調子ならもうこれ以上弾薬を消費する必要もないだろう。残りの戦闘に関しても彼女らに任せてしまって問題ないはずだ。

撤退命令がでておそらく士気がその時だけは高いだろうから、たとえ疲弊していたとしても最後の戦闘ということできっと耐えられるだろう。

そのため現在、問題は俺自身にある。

先ほど銃弾の話もしたがほかのユニットや俺の体調のことも考えないといけない。

何の話をしているのかって?そう、補給に関する問題だ。

最初はいっその事、彼女たちについていこうかとでも考えたのだがやめた。

確かにそれが一番手っ取り早いかもしれない。俺の姿を見ているはずのウィッチが何人かいるはずだからあの空域でいったい何をしたかの説明は彼女たちがしてくれるかもしれない。

だが今の俺は身分、所属不明の不審者だ。

下手したら軍事機密を違法な手段で知った不審者、ということで身柄を拘束されユニットを没収されて二度と飛べなくなってしまう可能性もあるからな。

だから俺は軍に頼らずに自力で生き残る策を探さねばならないわけだ。

とは言ってこのままずっと飛んでいるわけにもいかない。

今日の戦闘でかなりの魔力を消費してしまった。

そろそろ集中力を維持させるのも限界だろう。

幸い、ここはダンケルク港周辺。

ここを守るために絶対にいくつかの航空隊基地が配置されているはずだと踏んでいた。

現に捜索開始から10分で見つけることが出来た。

滑走路1500m級が一本と小さな基地だが大きめの格納庫が2つあることからそれなりの人員がいたのだろう。

しかし撤退が完了した今となっては上空で周回しながら様子をうかがってみるが明かり一つついていなかった。

よかった。こんなところで助けを求められたり逆に俺に向かって銃を撃ってくるような奴がいても困る。

太陽はあと15分ほどで沈んでしまいそうなので早く着陸してしまおう。

 

着陸後、格納庫に向かいユニットを置く。

ようやく地上に降りられたことに正直ほっとした。

霧から晴れたときは自分の現在位置を見失っていてどこか不時着のことも考えていた。

まぁ、今は別の問題が発生しているが今はそれを置いておいて素直に生きて降りられたことを喜びたい。

しばらくしたらここも真っ暗になるはずなので何か明かりが欲しいと思い、ライトに灯をつけて格納庫のライトスイッチをいじってみた。

しかし、既に人々が撤退し終わっている場所に電気は通っているはずもなく明かりがつくことはなかった。

こういうところだからどこかに発電機とかもありそうなんだがな。

まぁ、ああいう目立つものがすぐに見つけられないということはここではなくどこか、おそらく地下にあるのだろう。

どうせ見つけられても動くかどうかの保証もないから探すのはあきらめるか。

仕方なく周りを見てみるとランタンが使えるようだったのでそれを頼りに移動することにする。

 

明かりを手にした俺はまずは格納庫の探索を始めた。

何もないだろうが、何か現状を把握できるようなヒントがあるかもしれない。

放置されているユニットは8、戦闘機はBf-109が5、D.520が2機、スピットファイアMk.XIIが5機。

少し調べてみるどうやらその様子はいつも伯爵や管野が壊しているような感じとは少し違った。

放置されているユニットを注意深く観察してみると破損している場所はそれぞれ異なるのだが、すべてのユニットからエンジンなど飛ぶのに必須な部品が取り外されていた。

おそらくここから撤退する時に使えそうな部品だけ取り外したのだろう。

これらを修理することはかなわないからせめて壊れていないものだけでも持っていこうと思ったのだろうか。

「なるほどね。確かにそれは合理的な判断だな。」

しかし、エンジンやその他主要部品が外されてしまいもう二度と飛べなくなっているとはいえここにドイツとフランス、イギリスの戦闘機がここに一堂にこの時代に並んで放置されているというのは色々思うところがあるな。

こんな調子だったら何か指令室か司令官室に書類が残されているかもしれない。 

焼却処分されていないといいんだが。

 

格納庫を出て目の前にここの基地で唯一、5階まである建物が目に入った。

おそらくあそこがここの基地の拠点なんだろうな。

広い入口から中に入ると中はかなり荒れていた。

ここから撤退するときにきっと大急ぎで支度をしたんだろうな。

一度ここを出発したら戻ってくることができないため、必要なものを、それも船での撤退のため、最小限にして後はすべて放棄したのだろう。

だからここの基地にはトップシークレットレベルの物は残っていないだろうがなにかそれなりに重要度が高い書類は物が残っているかもしれない。

エレベーターももちろん動いていなかったので俺は階段で5階に上り司令官室と思われる部屋に入る。

扉には鍵がかかっておらず中には容易にはいることができた。

ここもメインホールほどではないが地面には乱雑に散らかった書類が散らばっておりひどいありさまだ。書類は部外秘の印鑑が押されているのにも関わらず破れていたり、足跡が多数ついていたりして読めたものではなかった。

「はぁ。せめて散らかすならその本のままにしておいてくれればいいのに。なんでわざわざ封をきっちゃうのかな。あとで見る方が大変だろうが。」

地面に落ちてもはや読み物として機能できていないものは放置しておいて俺は机や棚に置いてあるまだ読むことができる書類をいくつかピックアップした。

 

-第25戦車中隊進行計画書-

-弾薬、銃器配備状況について-

-各部隊における人員消耗率について-

-大ビフレスト作戦進行状況について-

何個かの書類を流しながら見ていると、一つ目を引く書類を見つけた。

 

-ダイナモ作戦-

 

ダイナモ作戦?

それって、確かダンケルクからフランス軍、イギリス軍を一度に約40万人を撤退させる大作戦のイギリス側のコードネームだったよな。

まさかついさっきまでやっていたあれがあのこの世界におけるダイナモ作戦だっているのか?

俺は書類をめくりその概要を読み始める。

大ビフレスト作戦においてカールスラント軍の大半はちぇるべるす撤退作戦やハンニバル撤退作戦で撤退を完了させた。だが民間人の撤退を支援するためにいくつかの部隊はまだ欧州に取り残されていた。

またブリタニア軍も海外派遣した一部の部隊が撤退を行えていなかった。

それに加えて一か月前に陥落したパリから脱出しようとしていたガリア軍を主力とする部隊が、大半はヒスパニアやロマーニャへ撤退を完了したが北部方面に駐留していた部隊はネウロイによって分断され逃げることができなかった。

以上の3つの軍の総勢が40万人ということもあって決して無視できる人数ではなかった。

そのために立案されたのがダイナモ作戦だった。当初はカールスラント、ブリタニア、ガリアを三回に分けて回収する方法が立案されて一部実行された。

しかし予想以上にネウロイの抵抗が激しく回収のたびに護衛をつけていては戦力が足りなくなることが予想された。

そのため、一度に全部隊を一か所に集中させてそこでまとめて撤退させるという大撤退作戦が立案された。それがダイナモ作戦の概要だった。

そして今日がその作戦の最終日、全員を一人残らずダンケルク、そして欧州から撤退させたというわけだ。

作戦日程表によるとその最終日は1940年6月4日とある。

つまり、今日はその日ということで間違いないだろう。

今俺は1940年に来てしまったというわけか・・。

落ち込むのは後にして、とにかく現在位置と現在時刻が分かったことは大きな収穫だ。

なら次に考えるべきことは何をすべきだ。

前に落ちた時と違って今の俺は怪我をしていないしユニットは破損していない。

少なくとも最悪ではない。いいように考えればずっと前に起きたタイムトリップがまた起きたというだけだ。あの1945年に戻れる確証はなかったがそこまで慌てる時間じゃないと思うようにした。

これ以上の収穫は望めないだろう。

未来のエースウィッチを召喚してこの戦局を変えさせるための計画、なんてものが出てくるのならば話は別だがな。

そんな元あってたまるかって話だ。

銃を手に取りランタンを腰にぶら下げる。

ふと窓の外を見てみるともう太陽は沈んでしまっていた。今持っている時計を見ても21時になっているがこの時間もおそらく間違っているはずだ。

どこかで時計調節できる場所も探さないとな。

格納庫かどこかにパイロットが時間合わせに使っているはずの時計があるはずだ。

あとで探しに行こう。

 

1階に降りると食堂を見つけることがあった。ここは他の場所とは異なりかなり綺麗だった。

料理人には綺麗好きが多い気がする。

おそらくそいつのプライドが再びここに戻ってきたとき、すぐに再開できるようにできるだけ綺麗にしておいたんだろうか。

少なくともそいつらのおかげで今俺はすぐに食事にありつけた。

と言ってもコンロを触ってみても火が付かなかったので残っていた缶詰をそのまま食べることになった。

不幸中の幸いなのか缶切りが残っていたので気合で開けるなんてことにはならなかった。

そういえば、まだ倉庫の探索をしていなかったな。

あちらの方に持ち出せずに放棄したものが残っているかもしれない。

まだ見ていないが何個かは残っているだろう。もしかしたら何か調理用のコンロか何かが残っているかもしれない。

ずっと冷たい保存食を食べていてはたぶん一週間後には飽きている事だろう。

しばらくしたら暖かいものが恋しくなるだろうから明日辺りから見つけたら持ち帰るリストにでも追加しておくか。

食事を終える事には先ほどまではわずかに明るかった空も完全に暗くなっており星々が光り輝いていた。

地上にいる時にここまで暗いのも久しぶりだな。

夜間哨戒の時はいつもこのような感じだが、基地にいる時は必ずどこか街には明かりが灯っていたので基地全体の明かりが消えているのは久しぶりな気がする。

これほど暗いとランタンで照らしながら倉庫を探索しても絶対に何かを見落としてしまうだろう。

倉庫の探索は明日以降の太陽が昇ってからにしようと、俺は決めて今日は寝てしまうことにした。

 

1940/6/5 1日目

目が覚めたのは日の出直前だった。いや、丘に隠れているだけでもう太陽は日の出を迎えているかもしれない。

オラーシャほどではないがガリアの朝というのも随分と寒い。

冷えた体を温めるためのストーブなんてものもここにはないので(あったとしても動かないので)体を動かすことにした。

俺は体を起こすと駆け足で誰もいない建物を走り、宿舎を漁ることにした。

昨日の戦闘で硝煙や海上を低空で飛行した際に跳ねた海水のせいで俺の来ている服はかなり汚れていて着替えたかった。

軍事基地ということもあって服装にも困らなかった。汚れた服を捨てて新しい服に着替える。

一応、白迷彩の服のストックがあったからそちらを選択した。

服の色が変わってしまうと“あちら”に戻ったときにきっ伯爵やジョゼに遠くからだと間違えられてしまうからな。

ストックがあればできる限りはこの白迷彩にしておくとしよう。支給されていた白色迷彩服とは着た感じ

が若干異なる。

体感だがこちらの方が、素材がいいような気がする。

この服を作ったのがまだ深刻な素材不足の時ではなかったため今よりはいいものを使用して作れたからだろうか。

とにかく、着心地はこちらの方がいいな。

 

予想外にいい服を着られたことに少し嬉しくなった俺は、今日はダンケルクの街を探索することにした。

なぜかというとやる事がなくなってしまったからだ。

人類がこの地から撤退してしまった以上、もはやネウロイはこのような小さな港町などに用などないだろう。

もはやここはネウロイの勢力圏内だ。

必要が無い限り飛ぶのは控えるべきだ。

別に戦えということになったとしても現状は負ける気はしないが、下手したらネウロイを怒り狂わせてしまい俺が死ぬまでネウロイを投入して追いかけてくるだろう。

まぁ、包囲されたら速度差を生かしてまたどこかへ逃げるだけだが、現状は弾薬が心もとないから安定して供給できるルートを発見できない限りは控えるべきだな。

とにかく下手に空に上がれない以上、やれることは限られてくる。

どこかに移動しようにもこの基地にはスクラップ同然の機体と車両しかない。だが幸いにも近くにまだ使えるはずの車両が大量に放置されている場所がある。

そう、昨日人類が撤退し終わって誰もいない町、ダンケルクだ。

ダイナモ作戦には物資の回収に関する記述はなかった。

史実においてもイギリスは大量の物資をそこに放棄してしまうことで深刻な物資不足に悩まされたと聞いたことがある。

つまり、まだそこには使うことが車両や武器弾薬が残っている可能性がある。

ダンケルクまでは直線で30km。

壊れていない基地内移動用の自転車があったのでそれを使えばきっと今日中に行って帰ってくることができるはずだ。

朝食でコーンとコンビーフを食べた俺は早速ユニットから端末を取り出し、自転車に乗ってダンケルクの街へ繰り出したのだった。

 

空から見るとあんなに小さな町だったのにいざ自転車できてみるとそれなりに大きいんだな。

舗装されていない道に四苦八苦しながらもなんとかダンケルクについた俺はこの街を見ながらそう思った。

俺の読み通り、あちこちにまだ使えると思われる車両が放置されていた。

これは良かった。移動手段が確保できたでも幸いだ。どこに行くかは決まってないが。

燃料もほかの車両に入っているものを移して残りをタンクにでも入れればかなりの距離を移動できるはずだ。

牽引式のミニトラックも見つけられたから多少燃費は落ちるだろうがここに予備燃料でも積めばしばらくは安心できるかもな。

だが想定外なこともあった。

弾薬や医療品関連がほとんど残っていなかったのだ。ダンケルクの街自体がそれなりの大きさがあるとはいえ、物資を集積している場所は限られている。

昨日発見した作戦計画書にもその記述が書かれていたため、今日は3か所あるうちの一つ目を探索したわけだ。

とりあえず12.7mm弾100発、薄殻魔法榴弾も15発回収できた。医療品も応急処置パックがかろうじて3つ、見つけられた。

Mg34などの銃弾はそれなりにあったのだが威力がある12.7mm弾は昨日と一昨日の戦闘でほとんど使用されてしまったのだろう。

医療パックなどは銃弾なんかよりもさらに需要が高いためほとんど使用され使われなかったものはそのまま持っていかれてしまったのだろうな。

おそらく今日調べた物資倉庫らしきところにはこれしかなかったがもっと探せばほかにはあるだろう。

ここに来る途中に何か所か対空銃座を見つけていた。

だがこの街にある多数の銃座を、一つずつ探索をしていると今日中に基地に帰れなくなってしまうだろう。

俺はそこらへんに放置されている中で一番状態のよさそうな牽引車両付きトラックを選んで燃料の残量を確認する。

よし、とりあえず基地へ戻ってまたここダンケルクに行けるだけの燃料は残っていた。

「今日はこれくらいにしておくか。」

今日の目標であるダンケルクの街に到達して何が残っているかの確認という2つが達成できたから今日はもう十分だ。

12.7mm100発と薄殻魔法榴弾15発はそれ単体だけでもそれなりの重量があるため複数回に分けて何とか搬入した。

一応、弾薬が500発ほど残っていたのでMg34一丁とその弾薬も貰って帰ることにした。

もちろん来るときに乗ってきた自転車も後ろに載せて行きと比べてはるかに楽な帰りに俺はついたのだった。

 

 

行き苦労して行ったためかかなり時間がかかるイメージだったのだが帰りにはそれほど時間がかからなかった。

基地に到着してもまだ太陽はそれほど沈んではいなかった。だがもう一度行けるか、となると話は別でもう厳しそうなので街の探索は明日にする。

トラックを格納庫のそばに置き後ろの牽引トラックに苦労しながらユニットの搭載を完了した。

やはり魔力を発動させると筋力もそれなりに強化されるので何個かに分けて載せて再び組み立てるという少し面倒くさい方法をとったが、これで後ろの牽引トラックからもユニットを履いて後ろが直線であれば発進できるようになった。

ちょっとした移動型ユニット発進基地の出来上がりだ。

メイヴを固定して布をかぶせてようやく終わったと一息ついたその瞬間、

 

パリン!

 

背後で何かが落ちて割れる音が聞こえた。

俺はすかさず姿勢を低くして銃の安全装置を解除する。

ただ自然現象に従って落ちたのだったらいいのだが、これが誰かがぶつかって落ちたとなれば話はまったく変わってしまう。

撤退とやらに置いていかれた奴が正気を失った状態でここの基地に迷い込んだ、なんて最悪の事態じゃなければいいが。

音は倉庫の中から聞こえてきた。そういえば昨日から倉庫の中を探索するのを忘れていた。

もしかしたら誰か昨日からそこからいたのかもしれない。

端末には今日なにも警報が入らなかったということはユニットをいじられたということはないだろうがもし人が、それも俺に敵対心を持っているような奴がそこ似たとしたらかなり厄介なことになりそうだ。

最悪、銃撃戦も覚悟しないといけない。

わずかに開いたドアを足で蹴って開ける。ここも同様に電気がついていないため中はわずかに太陽の光がさしているだけでほとんど真っ暗だった。

手元のランタンの明かりを頼りに倉庫内に入る。

10mほど歩いたところでほんの少し明るくなっているところを見つけた。どうやら倉庫内の小部屋のようでそこから明かりが漏れていた。わずかに薄いが影のようなものも見える。

先ほどの音はそこからか?俺はランタンを足元に置いて拳銃の安全装置を外す。

ゆっくりと足音を立てずに小部屋の扉の前についた。

心の中でゆっくりとカウントダウンをする。

3,2,1…,0!

そして俺は力いっぱいに扉を開けて低姿勢のまま突入した。

 

「動くな!」

「ぴゃ!」

 

・・・ぴゃ?俺が想定していたのと明らかに違う声が聞こえた。

視線を下に動かすとそこには・・・

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

そう俺に謝りながら怖がる少女がいた。

 

なぜだろう、もしかしたら俺はこの子を救うためにここに呼ばれたのではないだろうか?

この子とはここでこの日に会うべくしてあったのではないか?

そんな風に考えてしまった。

 




気が付けば2月・・・。前回投稿よりもう5か月・・・。早いものです。
帰ったらしようと何度も繰り返しているうちにここまで来てしまいました。
これからも頑張って更新はしていきたいです。

ご指摘、ご感想、誤字訂正があればよろしくお願い致します。


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