中二病は魔王様 (夜紫希)
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序章
中二病は異世界に


オリジナル作品を書き始めて見ました。
暇つぶしで書いているので更新はかなり遅いです。ご了承ください。


「あなたは死にました」

 

あなたは神にこのような言葉を投げられた場合、どういう反応で返しますか?

 

「ぼ、僕が死んだ!?嘘だ……嘘だあああああ!!」

 

このように現実を受け入れないのタイプが大体多い。

 

「……あぁ……死んだのか……」

 

ですが、落ち着いて現実を受け入れる者もいます。

 

「ちくしょう……!まだやり残したことがあるのに……!」

 

涙を流しながら後悔する者も当然いる。

だが、

 

「俺が死んだ?違うな。それはお前らが仕組んだ陰謀だろ!まさか、この俺を闇に葬るチャンスかと思ったか!?だが、甘い……この俺を騙したければ、神を、仏を、悪魔と手を組んで全力で騙しに来るがいい!!」

 

中二病を拗らせた人は前代未聞だった。

 

中二病患者がここに来るのは少なくはない。しかし、5分も掛からず現実を見て冷静になり、素に戻るのがオチだった。

だが、この青年は一味違った。現在死んでから5時間ずっとこの状態である。

 

「ねぇ……あなたは死んだ時のこと覚えてるでしょ?あの時、あなたは死んだのよ」

「ハッ、お前らの幻覚に俺は騙されているっとでも思っているなら諦めろ。俺の右目の邪眼には効かない」

 

美人な女の神様、撃沈。

 

「痛みを感じただろぉ?つらかっただろぉ?お前さんは死んだ痛みを知っているだろぉ?」

「俺は常に死よりも苦しい地獄を見てきた。あんな痛み、俺には効かん」

 

悟りを開かせる神、失敗。

 

「君は死んだんだ!現実を受け止めてよ!」

「俺はお前たちに屈しないぞ」

 

そして、すべての神が納得させることが出来なかった。

中二病の青年はポーズを決めて一言。

 

「それより、ここはどこだ?」

「「「「「死後の世界って言ってるだろ!」」」」」

「それはお前らの設定だろ」

「「「「「「お前だけにはそんなこと言われたくなかった!」」」」」

 

神たちは頭を抱える。この中二病の青年は神を弄んでいるようだった。だが、青年にそんな趣味はない。あるのは純粋な心。

 

(僕死んじゃったのおおおおお!?)

 

青年の内心では動揺していた。今のは青年の素である。彼は中二病を発動していても、心や頭では死んだことを納得していた。だが、表に出さないよう仮面を被る。

 

「はやく俺を元の世界に返したほうがいいぞ?」

「それは出来ない話だ」

 

後ろから一人の神が青年に向かって歩いてきた。

 

「ここにいる我々神はお前らを新しい命に生まれ変わらせるのが目的だ。生き返ることは許されん」

「な、なんだと……!?」

 

青年が初めて顔に驚いた表情になる。

 

「い、いや!この俺ならそんな規律は通用しない!」

「神を越える存在に喧嘩を売っているのか?」

 

神の目つきが変わった。突然声が低くなった神に青年は怖じけつき、後ろに下がる。

「おおおおおおお俺に勝てる奴はこの世にはいないにゃ!」

 

青年は動揺しまくり、噛んだ。神は気にせず続ける。

 

「……ここまで強気でいられるとは……『アレ』をやらせても良いかもしれんな」

「「「「「『アレ』……ですか……」」」」」

(え、何?嫌な予感しかしないんだけど?)

 

神たちの真剣な表情に青年の足は震えた。この後、もしかしたら殺されるのではないかと。

 

「少年よ。名前は何だ?」

「うぇ!?えっと、あ、あ………黒白院(こくびゃくいん) 真也(しんや)だ!」

「……本当の名は?」

「……籠姫(かごひめ) 雪也(ゆきや)です」

(((((え?もしかして、素出てる?)))))

 

神の冷徹な瞳を見た青年。雪也は正直に自分の名前を明かした。

 

「籠姫 雪也よ。お前には特別に命ずる」

 

神は雪也に指差す。

 

 

「世界を救え」

「…………………………………え?」

 

 

雪也は耳を疑った。そして、仮面が剥がれ落ちた。

 

「僕が世界を救ううううう!?」

「「「「「僕っ子!?」」」」」

 

次は冷静な神を除いた神たちが驚いた。

 

「無理ですよ!僕は喧嘩は弱いし、こんな変な事してるんですよ!?」

「「「「「敬語を使ってる!?」」」」」

 

雪也は別人のようだった。いや、別人と言っても過言ではなかった。

冷静な神は雪也の本当の姿を見ても眉ひとつ動かさなかった。

 

「お前なら必ず成功することができるだろう」

「いや、僕はm

 

無理です。っと断ろうとしたが、青年の視界は暗くなり、気を失ってしまった。

 

 

________________________

 

 

ここは何処だろうか。

 

気が付くと、僕は床に寝ていることが分かった。目を閉じた状態でも分かる。

頬で感じ取れる感触はゴツゴツとしており、冷たい。

 

(……人の気配がする)

 

大方また僕を虐めてきた奴らが俺をここに閉じ込めたのだろう。あいつらは手加減というもの知らない。これで何回気絶したのだろうか。

 

まぁ原因は分かっているけどね。

 

「ハッハッハッ!この俺がその程度でやられると思ったか下等生物が!俺に邪眼(ダークネス・アイ)が有る限り、何度でも甦ることができる!」

 

この中二病のせいだと。

 

僕は勢いよく立ち上がった。そして、部屋全体を見渡す。

部屋はとても大きな空間だった。天井まで高さは30メートル弱。上から大きなシャンデリアがぶら下がっていた。壁は赤いカーテンがいくつか垂れており、窓の外は真っ暗だった。

 

そして、この部屋で一番異様な空気を放っているのが奥にある玉座だった。

 

玉座には黒髪のロングヘアーの美少女が足を組んで座っていた。その回りには悪魔みたいな翼の生えた人や天井まで頭がギリギリつきそうなくらい大きなドラゴン。頭の無いボロボロの甲冑を着た騎士がいた。

 

 

……………………………………………え?

 

 

RPGにでも出てきそうなモンスターが俺を囲んでいた。

そもそもここの部屋の雰囲気がアレに似ていた。

 

ラスボスがいる部屋。魔王の部屋に。

 

「何だお前は?お前も魔王を希望しているのか?」

 

玉座に座った黒髪の女性が話しかけてきた。

 

「魔王……だと?」

 

僕は辛うじて中二病を発動させる。

思い出した。僕は死んで、神に……えっと、生き返らされてしまったんだ。

しかも、世界を救えだの言い出したんだ。正気の沙汰か、神よ。

 

「何も知らないのか?」

(……ここで『帰ります』とか言えないよね)

 

さっきから僕の隣では犬の頭が3つあるモンスターがずっと見てるんだが。下手したら食われるぞ、僕。

 

「ああ、すまない。俺も魔王になりに来たんだ。いや、俺が魔王になる運命(デステニー)だがな!」

「「「「「あぁ?」」」」」

「ひぃぃいいいいいやッはああああああ!!」

「「「「「!?」」」」」

 

僕はモンスターの睨みに悲鳴をあげそうになるが誤魔化した。むしろ周りの奴らを脅かすことに成功。

 

「僕……じゃなくて俺はどうすれば魔王になれる?」

「簡単よ」

 

玉座に座った美少女は笑みを浮かべて告げる。

 

「ここにいる全員で戦争して最後まで残った者が魔王だ」

(はい、再び人生終了のお知らせです)

 

ヤバい。足が震えてきた。

 

(いや!まだだ!)

 

「提案がありゅ!」

 

ヤッベ。噛んじった。

美少女は何も気にせず僕に聞く。

 

「何だ?」

「武力だけでは魔王にはなれない……と俺は思うぞ」

「ほう……」

 

美少女は目を細めて僕を見る。その紅い瞳には僕を興味深く見ていた。

僕は声を振り絞って言う。

 

「戦略なら俺の十八番だ。チェスなら神にも負けん」

「チェスか……久しぶりに聞いたな。人間のやっている遊びで戦うのは確かに悪くない」

 

よし。チェスなら僕でも戦える。

美少女は玉座から立ち上がり、部屋全体に聞こえるような声で言う。

 

「ではこうしよう。武力で戦いたいものは外に出て一位を決めろ。チェスで戦いたいならこの場に残れ」

 

その瞬間、ほとんどのモンスターが部屋を出て行く……いや、

 

誰も出て行かなかった。

 

(おかしい……!?ここで野蛮なモンスター全員が全て出て行く計算が!?)

 

「誰も出て行かないのか?」

「我には最高の頭脳を持った参謀がいるからのう」

「私としてはこちらのほうが得意ですからね」

(僕の策略を潰していくな)

 

美少女の言葉にモンスターたちは不気味な声で笑い合う。やめて。トラウマになっちゃう。

 

「では、始めるとするか」

 

パチンッ

美少女は指を鳴らす。

その瞬間、部屋の真ん中にチェス盤が乗ったテーブルが出現した。もう僕はツッコまないぞ。

 

「最初は提案者……そうだ、名前は何だ?」

「籠……黒白院 真也だ」

 

僕は嘘を吐いた。こっちの名前の方がかっこいい。

 

「ではシンヤと戦うのは……」

「俺がやろう」

 

美少女が対戦相手を決める前に、甲冑を着た頭の無い騎士が名乗り出た。

 

「こう見えても頭だけはいいんだ」

(脳どころか頭すらないじゃん)

 

僕は心の中でツッコんだ。もうツッコミはしないと思っていたのに。

 

「よろしくな、真也」

「あ、ああ……よろしく」

 

フレンドリー過ぎるだろこの人。握手までしちゃったよ。

 

「ちなみに魔王の側近さんよぉ……負けた相手には好きなようにしてもいいって条件をつけていいか?」

 

訂正。バイオレンスな人キタ。

 

「そうだな。負けたら相手に絶対服従をルールに追加しよう」

(いやあああああ!!)

 

人の人権を粗末にしないで!あと、あの女の子魔王の側近だったの!?玉座座っちゃアカンでしょ!?

そんなことより、助けて!未来のネコ型ロボット!

 

「それじゃあ……やろうか」

(絶対に負けるな負けるな負けるな負けるな負けるな負けるな負けるな負けるな負けるな負けるな負けるな負けるな!!)

 

こうして、人生を賭けたゲームが始まった。

 

追記 お家に帰りたい。

 

 

________________________

 

 

「「「「「……………」」」」」」

 

モンスター達は絶句していた。

 

 

現在。僕の戦績は62勝0敗。

 

 

「お前の負けだ……チェックメイト」

「なん……だと……!?」

 

僕の目の前に座っていた黒服を着たモンスターが膝から崩れ落ちた。これで63連勝だ。

 

「これで全員か?他愛もない連中だな。まぁ俺の頭脳(ブレイン)にはIQが1億を超えているらしいからな」

 

僕は中二病を発動させ、溜め息を吐いて呆れる。いや、IQ1億とかありえねぇよ、馬鹿。

チェスは僕からみたら床に落ちてる鉛筆を拾うことより簡単だ。このゲームで負けるなんて僕の人生では一生ない。

 

「これで俺が魔王だと証明したことでいいのか?」

「ああ、問題ない。他の者もそれでいいな」

 

だが、誰も魔王の側近の声に反応しなかった。

 

「沈黙は肯定とみなすぞ?」

「……納得いかぬな」

 

一匹のモンスターが口を開いた。

 

「その者は知恵はある。だが、力が無いと魔王とは言い切れない。ここにいるもの全員がそう思っているだろう」

「今頃文句を言うのか、ドラゴ?」

 

ドラゴと魔王に呼ばれたモンスターはまるでドラゴンのような姿をしていた。赤く厚い皮膚を持ち、全てを破壊する牙が僕を圧倒させていた。こんなにでかいのに存在なのに今まで全く気付かなかった。

チェスでは勝てたが、戦闘になったら瞬殺されるだろう。

 

「だがなドラゴ。それなら問題ない。すでに解決済みだ」

「何だと?」

 

魔王の側近は立ち上がり、僕の目の前まで歩いてきた。

顔をよく見ると、人間と変わらない姿をしていた。綺麗な黒い髪に、柔らかそうな唇。目はパッチリとして、吸い込まれてしまいそうな紅い瞳。彼女はとても魅力的だった。

 

魔王の側近は息を吸い込み、呼吸を整える。そして、

 

「私とシンヤが魔王になるからな」

 

あれ?僕だけじゃないのか?まぁ、僕としては生きていられるなら何でもいいけどね。

 

「じょ、冗談ですよね?」

 

ドラゴの口調が急変した。いや、敬語を使い出した。

 

「本気だ」

「勘弁してください!こんな弱そうな男を魔王ってどういうことですか!?」

「何を言っている。お前の言う通りに勝った者を魔王にするのだろう?シンヤがいいではないか」

「そこじゃないです!問題は……!」

 

もう会話についていけなくなったんだけど、僕。

 

 

「魔王の娘が魔王をやることですよ!」

 

 

「「「「「な、何だって!?」」」」」

「娘だと!?側近じゃねぇのか!?」

 

モンスター一同が驚愕した。もちろん、僕も驚愕した。

 

「いや、でもそんなに驚く事でもないのか?」

 

側近じゃなくて魔王の娘でした☆

あれ?別に驚く事じゃねぇじゃん。

 

「シンヤ。お前の頭では理解できていないから説明するぜ」

 

お前には言われたくなかったよ、Mr.首無し騎士。チェスで瞬殺したのを忘れたのか?

 

「歴史史上最強の魔王。その隠し子があの娘だったとはな……」

「俺に説明するんじゃなかったのかよ」

「世界が……滅ぶぞ」

「だから、説明しろってえええええ!?」

 

滅ぶ!?何で!?

 

「何故だ!?」

「魔王の母君を知っているよな。この世界を血と炎の地獄に変えた魔女のことを」

 

母親こえええええ!!やっぱり女はこえええええ!!

 

「母と魔王には子が生まれなかったのに……もし他の女と出来たとバレたら……魔王ごと、この世界は血と炎と絶望と最悪の地獄に再び変えられる……!」

 

魔王浮気したの!?最低だなオイ!みなさん!浮気は絶対にしないでくださいね!

ていうか、浮気だけでこの世界滅んじゃうのかよ!

 

「ドラゴ。他の者の対応を任せたぞ。私はシンヤと話をする」

「待ってくださいお嬢様!」

 

魔王の娘は僕の手を掴み、一緒に部屋を出て行った。

 

「お嬢様!お嬢様!!」

 

ドラゴの必死の呼び声が廊下に出ても聞こえてきていた。

 

________________________

 

 

「おい!状況を説明しろ!」

 

僕は彼女の手を振り払う。

 

「お前が魔王隠し子なのは分かった!でも、何でお前が魔王になることが反対されているんだ!」

「私が有名になると、必ず父上の本物の母上。その母上の耳に聞かれたらこの世界が滅びるからだ」

「……何で魔王になる?」

「父上を探すためよ」

 

魔王の娘は廊下の窓を見る。外は真っ暗で大きな月が見える。……何故か赤いけど気にしないでおこう。僕、疲れているんだよ、きっと。

 

「魔王になれば父上が私の前に必ず現れる」

 

もしかして、彼女は自分の父親に会いたくて……それで魔王になって、

 

「そして、母上に差し出す。そうすれば母上のお怒りが父上だけになり、世界は滅ばなくなる」

 

そのかわり魔王が滅びるな。魔王さん。母と娘があなたの命を狙っていますよ。

 

「だから、その手助けをしてほしい」

「……それだけじゃないだろ?」

「鋭いな」

 

黒髪を大きくなびかせる。

 

「魔王の娘。レナ=フランベール二世よ。レナと呼んで」

 

レナは僕の手を掴む。

 

僕は神が言っていたことを思い出す。

世界を救え。

それは魔王を探し出して、魔女の怒りを対象を魔王だけにすることだろうか?

 

それなら協力してもいい。だが、レナはまだ何か隠している。

僕にはそれが分かった。

 

でも、内容までは分からない。だから、

 

 

「シンヤ。私と一緒に魔王になって、この世界を征服をしましょう」

 

 

世界征服。

 

そのことに俺は。僕は目を見開いて驚いた。

 

僕はとんでもないことに巻き込まれたみたいだ。

 




アドバイスなどをたくさん受け付けています。感想等など気楽に些細なことでも構わないのでお願いします。



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中二病の魔王と隠し子の魔王

異世界(ラバルディクス)

 

これは僕が来た新しい世界の名前だ。もちろん、僕が名付けた。異論は認めない。

この世界を大きく分けると2つの領域が存在する。

それは【人間界】と【魔界】だ。

人間界はその名の通り、僕と同じ人間が住む世界だ。どんな町並みなのかは見たことない。もしかしたらRPGであるような木やレンガで出来た家などが並ぶ町や国かもしれないし、東京みたいなビルが建ち並ぶ大都市かもしれない。僕は教えてもらったことただ話しているだけだから分からない。

そして、人間界の隣にある巨大な島。朝昼の空は真っ赤になり、夜には星明かりひとつない真っ暗闇が支配することで有名な魔界だ。

嘘じゃない。本当だよこれは。僕は自分の目で見たのだから。最初見たときは足が震えたよ。

それで魔界なんだけど、アニメやゲームで出てくるような奴らばっかりだった。うん、そうそう。頭の無い鎧の騎士とかね。ドラゴンもいたよ。

 

そして、今僕はその魔界の王様である【魔王】に君臨してんだよね。まだだけど。

 

………これからどうしようか?

 

________________________

 

 

「悪いがもう一度言ってくれないか?レナ=フランダース二世」

「誰だそいつは。私はレナ=フランベール二世よ。それにレナと呼んでと言ったでしょ」

「ああ悪い。少し混乱……いや、そんなことより聞きたいことがある。お前の日本語、おかしくないか?」

 

僕はレナの日本語がさっきからおかしいことに気付く。さっきから高圧的な喋り方をしたと思ったら、今度は親しみやすそうな喋り方をする。正直やめてほしい。

 

「ニホンゴ?それはどこの民族語だ?もしかして人間専用の言葉かしら?」

「知らないのか?じゃあお前たちの言語は何だ?」

「魔界の言語はワストブレア語だ。人間界はキャストブレア語だと聞いている」

 

何それ。ブレアブレアって。トニー・ブレアでもいるの?ここはイギリスが支配してるの?

ごめん、分かりづらい例え話だった。

どうやらワストブレア語は日本語と同じと認識してもいいのかな?

 

「とりあえずその変な言葉……ワストブレア語を直そう。聞いててモヤモヤする」

 

~30分後~

 

「じゃあこんな感じで話せばいいのかしら?」

「ああ、多分それで問題ない」

「私レナ!永遠の17歳☆」

「やめろ。今すぐやめろ」

 

もう一回レッスンやろうか。やっぱ現役女子高生風とか似合わない。

 

~さらに30分後~

 

「私が魔王レナ=フランドール二世だ、人間共」

「お、おう……」

「よろしく頼むぞ、シンヤ」

「ッ!?」

 

いきなり冷たい態度から急変して、レナは微笑んできた。僕はその笑顔に不覚にも心臓が縮み上がる。

こ、これがギャップ萌え!?こんなの画面越しの女の子にしかゲフンゲフン。

 

「どうした?」

「い、いや……それで完璧だ。さすが俺が教えただけのことはある」

「時間はかなり掛かったな」

 

うるさい。

 

「それで話を戻すが、俺が魔王になるのは分かった」

「私も魔王になる」

「レナの母が世界を滅ぼそうとしているのも理解した」

「父上を生贄にしてな」

 

うーん、いつ聞いても父親が可哀想過ぎて泣ける。でも隠し子は不味いよな。乙。

 

「隠し子ってことは……レナの本当の母親は誰なんだ?」

「え?知らないが?」

 

そんな当たり前な顔で僕を見ないで。

 

「魔王になれば親父が現れるんだよな?具体的にどうやったら現れる?」

「私が名声を上げれば父上の称号である魔王が無くなり、私が魔王の称号を手にすることができる。父上は必ず私から称号を奪い返すはずだ」

「称号って……そこまで大事なのか?」

「魔王の称号があるだけで魔界の軍を思うがままに動かせるぞ。全部」

(それを貰うのか……僕は……)

「だが、父上の妻である母上は易々と私を魔王にしないだろう」

「何故だ?」

「母上は本気で父上を愛しているからだ」

(そりゃ隠し子がいたら殺されるに決まってるよ……)

 

もう焼かれろよ父。こんなに素晴らしい妻がどこにいるだろうか。

 

「大体理解できた。いいだろう、最強と謳われたこの俺が魔王になってやろう!」

 

しっかりと決めポーズを取って俺は承諾する。これ大事。

 

「そうか!じゃあさっそく人間を全員皆殺しに

「ごめんちょっと待って」

 

僕は手を前に突き出してレナを止める。今聞いてはいけない言葉を聞いた気がする。

 

「人間を……どうするって言ったお前?」

「皆殺し」

「……………ん?」

「皆殺し!聞こえないのか?」

 

僕、人間。

ヤバい。バレたら即打ち首だろこれ。いや、僕はまだバレていない。バレてないよね?

 

「なぁ……俺とレナは二人で魔王だったな?」

「そうだ」

「……軍の指揮を俺にやらせろ」

「何故だ?」

 

人間を皆殺しにさせないためです。

とか、言えないな。

 

「一つ聞くが人間側はどのくらい強いんだ?」

「国ごとに異なる。大きい国であればあるほど戦力は強い」

「どこの国を攻めるつもりだ?」

「人間界に攻めた時に近くにある国だ」

 

計画性0だな。

 

「はぁ……俺が人間側のお偉いさんならばその国の守りをとっくに強化させている」

 

人間だけど。

俺は中二病を発動しないように続けて説明する。

 

「理由は簡単。こういう戦争はどこか一つ自分の領土が取られるとなし崩しに次々と取られるものだ」

 

一度領土を取れば戦略の数は2倍。3倍。いや、10倍にも跳ね上がる。それほど最初の一手は大事だ。

チェスや将棋だってそうだ。最初の一手でどうやって勝つか、どうやって守るか、全てが変わる。

 

(だが、それはゲームやボードゲームでの話!)

 

本物の戦争なんか分らないよ!

魔物がどれだけ強いかも分からないのに!指揮なんかできるか!

人間VS魔物!これ、魔物が勝つよな?

 

(戦争を起こさせないようにする方法……それは僕が魔王軍を人間界に攻めさせないことだ!)

 

僕の言っていることは『はったり』だ。上手い事、指揮を取ることが出来れば人間との戦争を避けられるはずだ。

 

(これで引っかかってくれるといいんだけど……)

 

さすがの魔王でも僕の嘘を見抜くはずだと思うが……

 

「なるほど……さすがシンヤだ!私が認めただけでもある!よし、軍の指揮はお前に任せよう!思う存分人間の戦略を潰してくれ!」

 

将来詐欺にあいそうで怖い。

 

「あ、ああ!この俺が必ず世界を混沌の渦に巻き込んでくれるわ!」

「おお!」

 

僕の言葉を聞いて目を輝かせるレナに僕は少し心を痛める。

人間の皆さん!逃げて!僕が足止めしているうちに!

 

「お嬢様!」

 

僕の後ろから聞いたことのある低い声が僕の耳に入る。

振り返ると……アレ?

壁があった。確かにここから声がしたはずだけど……?

 

ドゴンッ!!

 

突如、僕の目の前の壁が吹っ飛んだ。

壁の向こう側から現れたのは赤い皮膚をもった巨大なドラゴンだった。

 

「うわああああああッッ!?」

「ドラゴ。何事だ?」

僕は腰を抜かして驚き、尻餅をついた。レナは眉ひとつ動かさずドラゴに尋ねていた。

 

「まず良い報告があります。まずお嬢様は魔王に認められました。そして、魔王を希望していた魔物は全てお嬢様の忠実な僕になるそうです」

「さすがドラゴ。それで?悪い報告もあるのだろう?」

「悪い報告はそこの小僧も魔王を認めてしまったことです。さらに残念なことに先程の魔物たちも小僧の部下になると言っております」

 

すごい。僕、ドラゴにすごく嫌われてる。

というか、チェスでの賭けを守ったのかあの魔物たちは。律儀だな。

僕はズボンを濡れていないか確認して立ち上がる。大丈夫。漏らしてない。

隣で腕を組んでいるレナはドラゴの言葉に少し苛立っているようだった。

 

「ドラゴ。まだシンヤを認めないのか?」

「そもそも魔王は力ある者がなるのが必然的。だが、そこの小僧にはそのような力があるとは思えません。頭の回転は少しばかり良いようですが、魔王になるには不向きです。小僧には参謀の側近でよろしいでは無いですか?」

 

敬語使っているようで使っていないね、このドラゴン。小僧小僧って……一応僕は17歳なんだけど?うん、小僧だね。

 

「ダメだ。魔王にする」

「お嬢様!」

「ドラゴ。お前は一つ勘違いをしている」

「……何をですか?」

 

レナは僕に指をさしてハッキリと告げた。

 

「シンヤには【邪眼(ダークネス・アイ)】がある!」

 

いやあああああああ!!!

それは設定!止めてよ!目からドラゴンの力とか涌き出ないよ!

 

「シンヤの中には黒炎竜の力が眠っていて、間違って力を解き放すと宇宙の銀河系をすべて滅ぼしてしまうらしいぞ!」

 

僕は日本語を教えているときに雑談したことを後悔する。かっこつけなければよかった。

とにかく、今は誤解を解かないと……その前に。

 

「銀河系だけでは済まないぞ。銀河系のさらに奥にある【最終宇宙空間(アナザーギャラクシー)】まで崩壊させてしまうんだ」

「あ、アナザーギャ、ギャラシー?」

 

僕の言葉に首を傾げるレナ。気にせず続ける。

 

「俺の力は間違って解放するなど到底無い。あれは言葉のあやだ。俺は現に黒炎竜の(フォース)を使いこなしている!」

「よ、よくわからないが……すごいだろ!ドラゴ!」

 

あ。

 

(しまったあああああ!!!)

 

僕は死にたい気持ちになる。

何故ここでよりによって中二病を発動させてしまった。いや、設定が違うことが許せないのは分かる。いや、分からないよ馬鹿だろ、僕。

 

「そういえば魔王を決める時、小僧はいつこの城に入って来た……!?私が見張っているのに……まさか!?それも黒炎竜の(フォース)と言うのか!?」

 

ちゃう。

 

「私も気付かなかったぞ!」

 

そこ自慢するところちゃう。

 

「当たり前だ!この俺の気配を察知するなど1億光年早い!」

 

そこ乗っかるところちゃう!あと、それ距離だから。時間ちゃう。

 

「……………分かりました。少し小僧については考えを改めて見ましょう」

 

改めたならそんなに睨まないでドラゴ。僕の体に穴が開いちゃうよ。

 

「よし、ではドラゴ。晩餐の仕度をしろ。今宵は私とシンヤの祝いだ」

「御意」

 

ドラゴは静かに長い首を下げて、その場から立ち去る。

 

ドゴンッ!!

 

壁を突き破って。

砂埃が天井まで高く舞う。ゴホッ。

 

「ご、豪快な奴だな……」

「何がだ?」

「な、何がって……壁を突き破っていることだ」

「それがどうした?」

「……いや、もういい」

 

なるほど、自由な所ですね。魔界は。

 

「何だ?気になるじゃないか」

「だから、壁をそんなにホイホイ破っていいのかって聞いてるんだ」

「ドラゴの体だと仕方ない。それに」

 

レナは壁を見つめる。つられて僕も視線を壁に移す。

その時、目を疑った。

壁が新しく生成されているのだ。

壊れた箇所からドロドロした液体が出て、穴を塞いでいく。

そして、元通りに戻った。

 

「すぐに直る」

「……この城は(ソウル)が宿っていたりするのか?」

「……何を言っているんだ?生きているわけないだろう」

 

レナに異端者でも見るかのような目で見られた。ちょっと中二病混ぜたけどダメだった。魂と書いてソウルと読む。グッジョブ。

 

「晩餐って飯を食ったりするアレか?」

「そうだ」

「……ようやく俺に休息が得られるのか。さすがに(フォース)を常時出しているのはキツイからな」

 

あまりの安心感に中二病発動。僕は頭を抑えて痛みに耐える。痛くないけど。

 

「だ、大丈夫なのか?」

「安心しろ。真紅に染まりし鮮血を飲めば、疲れ切った我が体もすぐに回復する。この程度造作もない」

「血だな!まかせろ!ドラゴに用意させ

「よし!今日は良好だ!俺の右手が最高に(うず)くぜえええええェェェ!!」

 

僕は急いでドラゴの所へ行こうとしたレナを必死に止める。油断も隙も無いよ。

 

________________________

 

 

「それでは皆の者。遠慮なく食べたまえ」

 

レナの一言で()()()晩餐が始まった。

何が最悪かと言うとまず招待された奴らが魔王になりたかった奴らだったからだ。そう、モンスターたちだ。今は僕の部下らしいが今はそんなことはどうでもいい。

人という名の人種が一人……一匹もいない。

モンスター怖い。気を失いそう。

そして、そのせいで一番最悪なのは……料理だ。

 

「どうしたシンヤ?食べないのか?」

 

レナが僕の顔を覗きこんで様子を伺う。

僕の目の前に出されているのはスープだった。ただし、色は紫だ。

スープの色が紫とかおかしいだろ。何か泡立ってるし。え?もしかしてこれって目玉じゃ……いや、考えるな。見るな、僕。

モンスターたちは何の躊躇いもなく豪快に食べて行く。レナもスプーンですくって食べていた。

 

「念のため聞きたいことがある。これは何が入っている?」

「そうだな……まずギャークスの肉が入っている」

「ギャークス?」

「見たことないのか?黒くてウネウネした奴」

 

レナの言葉に僕はうなぎを連想させる。だったら食べれるか?でも、紫なんだが?

 

「腕が何本も生えて大きな目が特徴的な奴だぞ?本当に知らないのか?」

「知らない方がよかった」

 

僕は急いで手を合わせてた。もちろん『ごちそうさま』だ。断じて『いただきます』ではない。

絶対モンスターだよね?あそこにいるウネウネした奴と大差ないよね。

 

「ほ、他の料理はないのか?」

「あそこに食材があるから自由に料理してもらえばいい」

 

レナは後ろに視線を送り、僕に教える。

後ろには大きな縦長の銀鍋がいくつも置いてあった。

食べれるものを探すため、僕は立ち上がり鍋の近くに移動する。

とりあえず一つだけ試しに蓋を開けて見た。

 

パカッ

 

「にゅ?」

 

バンッ!!

 

僕は普段じゃ出すことのできない身体の限界を超えた速さで蓋を閉めた。

何かいた。しかも喋った。『にゅ』って。

どんな奴がいたかは聞かないで。気持ち悪い奴だったから。

 

「……………」

 

僕は静かに隣の銀鍋の蓋を開ける。

 

パカッ

 

「キシャアアアアアッ!!」

 

バンッ!!!

 

「レナあああああ!!」

「ッ!?」

 

僕は大声でレナを呼んだ。レナは体をビクッと驚ろいてこちらに振り向く。

 

「ど、どうしたシンヤ?」

「少人数の部隊を作ってくれ。今すぐ!」

 

レナの目が見開いた。僕の言葉を聞いて察したのだろう。

 

「攻めるぞ、人間界に」

 

僕のご飯狩りだ。



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中二病の魔王は闇を知る

【ルルセット国】

 

人間界で三番目に大きい国。魔界から一番近い国でもあるため兵士の数、戦力は人間界で一位を争う程の実力。

ゆえに戦士や魔法使いなどの職業を持った者たちが多く暮らしている。

そのため店は武器屋や防具屋が比較的に多く、魔界が恐れる国になりつつある。

だからと言って、決して物騒な国ではない。逆に一般市民は強い者。職業を持った者が多くいることによって、魔物から守られている安全かつ平和な国だと印象付けられている。おかげで人口も多い。

土地は広く、食料にも困らない。人材や資源も十分備わっている。

まさに素敵な国の代表例だ。

 

しかし、黒白院(こくびゃくいん)真也(しんや)。本名籠姫(かごひめ)雪也(ゆきや)は語る。

 

この国はあの国(日本)と同様、腐っているっと。

 

________________________

 

 

僕たちは少数部隊を編成させ人間界に乗り込んだ。メンバーは僕と頭を失った甲冑騎手と………。

 

魔王レナの三人で人間界に来た。

 

現在、街に向かって森を歩いて進行中。

 

「おかしい……俺は少数メンバーは8人くらいだと予想していたのに……」

「旦那、最初は14人いたんだぜ?」

「じゃあ何で3人で人間界に来ることになった!?あと、何でレナまでついてきた!」

 

僕は大声で二人に抗議する。おかしい、三人って少なすぎる。

 

「私は全属性魔法、暗黒魔法、空間領域魔法、超次元爆破魔法、転移魔法……まだ多くの魔法が使える」

「……エルフとダークウィッチがあんなに落ち込んでいた理由が分かったな」

 

レナがいるせいで他の魔物の魔法が要らない現実。だが、ここで一つ疑問が生まれた。

 

「おい、首なし騎士(デュラハン)

「……………もしかして俺のことですか、旦那?」

「ああ、そうだ。名前が分からなかったから適当に名前を言った」

 

相変わらず無意識で中二病を発動してしまった。ここまで来ると一種の才能なのでは……!?いや、それはないね。

 

「……い、いえ!旦那、その名前貰ってもいいですか!?」

「それは構わないが、前の名前が気になる。聞いていいか?」

「……………ホッピーです」

「え?」

「ホッピーです」

「………まじか?」

 

かっこ悪いな……。

ここは一つ。言ってみたいアレをやってみよう。

 

「この俺様、魔王が貴様に名を授ける。貴様は今日から【魔界の暗黒騎士(シャドーナイト)】。名はデュラハンだ!」

「ははぁ!有り難き幸せ」

 

僕は右手でホッピー改め、デュラハンに向かって指を差す。デュラハンもノリが良く、片膝をついて右手を胸に当てた。

そして、静寂が場を支配した。

レナは黙ってその光景を見ていたが、沈黙に耐えきれなくなり、口を開く。

 

「……何をやっている?」

「「楽しいよ?」」

「馬鹿なのか?」

 

僕もまだまだ子供です。

 

「それで……話がかなりずれてしまったが、デュラハン。お前、何で来た?」

「それはちょっとひどくないですかね!?」

「レナがいればデュラハンいらないだろ」

「ふっふっふ、甘いぜ旦那。俺には魔法なんか必要ない!」

 

頭は必要だけどね。

何でついて来たのかデュラハンの代わりにレナが説明する。

 

「確かに、そいつは魔界一の剣技の持ち主だ。私より強いと聞いている」

「剣だけですがね!」

 

デュラハンはそう言ってドヤ顔をした……ような気がした。いや、頭が無いけどドヤ顔してそうな感じだった。

僕はデュラハンが凄い事が分かり、少し驚いた。

 

「てっきり3ステージ目くらいに出てくる雑魚くらいの強さかと思ってた」

「さっきから酷くないですか、旦那!?」

 

別に。僕は普通だよ?

 

「見えてきたぞ」

 

レナは前を指差して教える。

 

「はぁ?何も見えないぞ」

 

僕は目を凝らすが、前方はまだ森が深くまで続いている。

 

「旦那………あと一時間歩けば俺たちにも見えると思います」

「どんだけ目が良いんだよ!」

 

 

________________________

 

 

「やっとついた……」

 

一時間歩き続けた僕は呼吸を整えながら言う。汗を滝のように流し、体力はもう0だ。

正面には街の防壁である約10mの壁がある。入り口は3mほどの大きさで、閉ざされている。

 

「お疲れ様です、旦那」

「ああ、はやく中に入って休憩しよう」

 

デュラハンに肩を貸して……首が無いから腕を回せない。結局僕は一人で立ち上がる。

 

「だけど、どうやって入るんだ?」

「普通は門を開けてもらうのですが……偵察しに来たのならこっそりと入るのが

 

ドゴオオオオオォォォ!!

 

僕とデュラハンの言葉が巨大な爆発音で打ち消された。

 

ついでに門も打ち消s……吹っ飛んだ。

 

「ん?入らないのか?」

 

レナは不思議そうな顔をして、僕たちを見る。右手には大きな魔方陣が回っていた。

 

「もうやだこの人」

「旦那、しっかりしてください!」

 

絶対メンバー間違えたでしょ?

 

「しゅ、襲撃だああああああァァァ!!」

 

街の中では民間がパニックを起こしていた。

 

「「ですよねー」」

「よし、行くぞ!」

「「ちょッ!?」」

 

僕とデュラハンが同時にレナを止める。行くぞ!っじゃないよ!ダメだよ!

 

「レナ、姿を隠す魔法はあるか?」

「あるわよ?」

「はやく使え!」

 

レナは魔方陣を僕たちの足元に出現させる。その瞬間、僕たちの身体が透けていく。

 

「これで誰にも見えないはずだ」

 

本当に何でもできるチート魔王だった。

 

「旦那、中に入りましょう」

「そうだな……」

 

僕はパニックに陥っている兵士に向かって南無三。ごめんなさい。

【ルルセット国】に入国した。

 

 

________________________

 

 

「凄い……」

 

僕はルルセット国の街並みを見て感激した。

街は大勢の人が賑わっており、道がぎっしりと人で埋まっていた。子供、老人、若者、カップル爆発しろ、鎧を着た騎士、とんがり帽子を被った魔法使い。まるでRPGの世界に来たことを錯覚させる。

透明化している僕たちは人が多い場所に行くのは危険なので、現在民家の屋根にいる。僕の身体能力では屋根に飛び乗ることは不可能なので、デュラハンにおんぶされて登れた。頭無いからしがみつきにくかった。

 

「もしかしてあの奥にあるのは城か?」

「ああ、ルルセット城だ」

 

僕の質問にレナが答えてくれる。

街の最奥には山のように高くそびえる巨大な白い城があった。

存在感が半端じゃなかった。「この国の頂点は俺様だ!」と言わんばかりの大きさ。絶対にあそこに王様がいる。

 

「だが、この国は人間界で3番目なんだろ?」

「はい、旦那の言う通りこの国の戦力、土地の大きさは人間界で3番目です」

 

今度はデュラハンが答えてくれた。一番の国も見てみたいけど、今はそれどころじゃない。

 

「お腹空いた……」

「何で食べなかったんですか?絶品ですぜ?」

「ダメだ。俺は絶対に食わんぞ」

 

食べた瞬間、僕のライフゲージが一気に無くなりそうだよ。

 

「とにかく食べ物を買いに行くぞ?」

「「?」」

「どうした?」

 

僕の発言を聞いて二人が不思議そうな顔をした。

 

「略奪するのが手っ取り早いだろ?」

「あータイムタイム。作戦タイムお願いします」

 

レナの言葉を聞いて急いで作戦会議を開く。さすが魔界にいる奴らは野蛮だな。

 

「俺たちはここに何しに来た?」

「偵察ですか?」

「そうだ。なら俺たちは人間と同じ行動を取るべきだろ?」

「「……………」」

 

さすがに苦しい言い訳だったかな?

 

「そうだな……確かに一理ある。さすがシンヤ!」

「すげぇぜ旦那!そこまで考えてるなんて!」

 

杞憂だった。

家から降りて薄暗い路地裏の道に着地する。

僕はレナに透明化を解いてもらうように言うと、魔法陣がまた足元に出現する。そして、再び自分の体がはっきりと見えるようになった。

さすがにデュラハンはそのまま歩いたらアウトなので首の部分に壁際にあった丸いツボ(ドラ〇エでよく見かけるアレ)を乗せて、黒い布を頭に被せた。よし、解決。

僕とレナはコートを羽織っているから問題ない。レナが着ている黒いドレスのような服も目立つことはない。僕?僕はTシャツにジーパンだ。そして、コートを羽織っている。うん、もちろんダサいよ。

 

「じゃあ行くか……我が生命の源になる(しょくざい)を求めて……!」

「え?旦那……マジでこれで行くんですか?」

 

とか言っているがしっかりとついてきているデュラハン。必死にフードでツボの頭(仮)を隠す。

薄暗い路地から出て、大勢の人々が賑わっている大通りに出る。

 

「ねぇねぇ、聞いた奥さん?」

「何かしら?」

「正門が壊されたらしいわよ……物騒だね」

「まぁ!一体誰が……!?」

 

僕達です。

 

「ふふふ、有名になったな、私たち」

「ポジティブ過ぎるだろ」

 

この魔王凄いよ。ただ者じゃないよ。

 

「そうですね。このデュラハンも有名に」

「なってない。てか、お前何もしていないだろ」

 

アホみたいな会話をしながら街道を歩く。ああ、お腹すいたよ。

店の屋台には美味しいそうな食材や料理が並んでいる。

 

「金は持ってないのか?」

「え?何で持つ必要があるんですか?」

「……逆に問う。何故持たない」

「奪えばいいじゃないですか」

「なるほど、さすが小悪党(デュラハン)だな」

「えッ!?何でちょっとせこそうな奴になっているんですか!?」

 

僕がデュラハンを弄っている時、

 

「あれ?レナはどこだ?」

「………嫌な予感がしますぜ、旦那」

 

ああ、奇遇だね。僕もだよ。

 

「何しやがるんだテメェ!」

 

遠くで男が怒鳴り声が聞こえた。その方向を見ると、人だかりができていた。

 

「何だ?文句があるのか、人間」

「あぁ!?テメェも人間だろうがッ!」

「あー、レナの声なんか聞こえないぞ、俺は」

「諦めてください旦那」

 

何でこの魔王は問題ばかり起こすのだろうか。

僕は人混みをかき分け、中心にいる迷惑魔王様を探しに行く。

中心には一人の中年男と美少女魔王がいた。

 

「何をやった、レナ」

「む、シンヤ。ちょうど良かった」

 

僕の顔を見た瞬間、レナはムッとした顔から笑顔になった。

 

「聞いてくれシンヤ!この男が訳の分からないことを言っているんだ」

「レナ、状況を説明してくれ」

 

レナは頷いて言った。

 

「うむ、ここに置いてあるリンゴを食べたのだ」

「……金は払ったのか?」

「…………?」

「お前が悪い」

 

僕は切に願う。人間界の常識を少しだけでもいいから知ってください。

おじさんの額には血管が浮き出ている。相当キレているようだ。

 

「まぁまぁ、落ち着いてください」

 

デュラハンが僕とレナの前に来て、おじさんの前に立った。どうやら仲裁に入ってくれるらしい。デュラハンは魔王より常識があるみたいだ。

 

「んだテメェ!?出しゃばってんじゃねぇぞ!」

 

おじさんはデュラハンの胸ぐらを掴んだ。

 

「あッ」

 

気付けば僕は声を漏らしていた。

 

ガシャンッ!!

 

デュラハンが乗せていたツボが落ちた。

 

「「「「「……………」」」」」

 

場が静寂に包まれる。

 

「………どうも、デュラハンです☆」

 

何故自己紹介したし。

当然ながら、今のデュラハンには頭が無い。よって、

 

「「「「「うわあああああァァァ!!」」」」」

「「「「「きゃあああああァァァ!!」」」」」

 

悲鳴が街に轟いた。

 

「あぎゃあああああァァァ!!」

 

おじさんも失神寸前。

 

「どうする?薙ぎ払うか?」

「お前ちょっと自重しろ」

 

レナが真顔で言った。僕は呆れて頭を抑えた。

 

「旦那、とにかく逃げましょう!」

「ああ、そうだな」

 

僕はデュラハンに再び抱っこされ、レナと共に逃げた。

 

「【空間転移(ヴァイタル)】!」

「普通に逃げようよ……」

 

レナの足元に魔方陣が現れる。

一瞬にして、僕の見る景色が変わった。

 

 

________________________

 

 

「どこだここは……」

 

気が付けば僕は一人だった。

どこまで飛ばされたのだろうか。ルルセット国の街とは正反対で、道はゴミが落ちており、民家はボロボロだ。

空気は不味く、キツイ異臭が鼻を刺激する。匂いの元を辿ると、道で何人も人が汚い布に包まって寝ている。あれは果たして生きているのだろうか?貧弱な体をした僕より腕や足が細い。

ふと足元に視線を落としてみれば、ネズミの死骸が転がっていた。僕は口元を抑えながら後ろに下がった。

 

「坊主……金をくれないか?」

 

その時、横から声をかけられた。

 

「ッ!」

 

僕は声をかけられた人物を見て驚愕した。

声をかけたのは白髪の男性。髭も白く、長い。外見から察するに、年齢は60を超えているはずだ。

そして、両腕が無い。

着ている服はボロボロの布一枚。体は震えている。

老人は家の壁に背を預けて座っている。

 

「大丈夫ですか!?」

 

僕は急いで老人にかけよった。

老人の体から酷い匂いがする。言い方は悪いが、生ゴミより酷い匂いだ。

 

「金……金は無いのか?」

「すいません、今は何も」

「持っていないのか……そうかそうか……」

 

僕の言葉を聞く前に、老人は答えた。そして、老人は下を向いて俯く。

 

「家まで送りましょうか?」

「家か……そんなものとっくの昔に売り払った……」

「売った?」

 

老人はポツポツと語りだす。

 

「両腕を失った瞬間、同時に職も失ってしまった」

「……………」

「金は減っていく一方……家を売ってしまうまで減っていた」

 

僕は老人から視線を外して、周りを見た。そして、確信した。

ここは老人と同じような人が集まった場所なんだと。

日本で言うとホームレスだ。ここにいる人たちは家を、仕事を、無くした者たちだ。

 

「ああ、そうだ。ここはワシのような人たちが集まる場所だ」

「ッ!?」

「驚いたか?ワシは人の心を読めるのじゃ」

 

老人は目を瞑り、誇らしげに言った。

 

「ここはルルセット国の東側にあるスラム街。棄てられた街じゃ」

 

僕が迷子だということを知っていたのか、老人はわざわざ場所まで教えて説明してくれる。

 

「棄てられた……それは国にですか?」

「ああ」

 

老人はゆっくりと頷いた。

 

「税金を払えぬ者に、幸福は訪れない……現国王の言葉だ」

「……あなたの人の心を読む能力を使えれば、お金は稼げたのではないのですか?」

「ワシが何故腕を無くしたと思う?」

 

老人はゆっくりと目を開ける。その目には怒りが込められていた。

 

「国王の側近である大臣。そいつの心を読んだせいだ」

「そ、それだけで……?」

「ああ、読んだ心が最悪なモノだったからだ」

 

老人は告げる。

 

「大臣は国王の暗殺……そして、魔物と手を組んでいたことが分かったからだ」

「なッ!?」

 

僕は驚き、目を見開いた。

 

「これは30年も前の出来事だ。今は現国王が……」

「大臣……!」

 

僕は震えながら言う。僕の言葉に老人は弱々しく頷いた。

 

「あの時、国王にこのことを言った。暗殺されるっと……」

 

しかしっと老人は一度区切る。

 

「運悪く、その場に大臣と魔物が隠れていた。ワシは両腕を斬られ、国王は魔物に殺された。ワシは必死に逃げ、このことを兵や役人に言い回った」

 

老人は空を見上げる。

 

「そして、ワシと関わった者が全員打ち首になった」

「嘘……だろ……!?」

 

老人は空を見上げながら首を振った。

 

「反逆罪だった。皆無罪を主張するも、無駄だった」

「じゃあ何で……何でこの街はあんなに賑やかで……!」

「知らないから……じゃろ?」

 

僕は信じられなかった。

あんなに賑わっていた街が。

 

「ここにいる者は大臣に反逆したものだ。歯向かった人たちは財産を奪われ、やがて全てを奪われる。(大臣)税金()を払えぬ者もここに牢獄される」

「牢獄……?」

「そうか……魔王じゃったな、あんたは」

「……………」

「身構えなくていい、今のワシは何もしない」

「……………すいません」

「魔王がワシに謝るか……これは貴重な体験だ」

 

老人は小さく笑う。だが、僕は未だに笑うことはできない。

 

「代わりにお教えしましょう、魔王。この街は国王によって閉じ込められているのです。一般市民が入れないように」

 

僕の手が……いや、体が震えてきた。

 

「ここからはもう出ることは許されないのです」

 

状況が理解してしまった。

……シリアスな雰囲気だけど一回ぶち壊すね。

 

(僕、閉じ込められたッ!?)

 

どうしよう!?何てところに瞬間移動してんだ!

 

「では、まずネズミの獲り方から……」

「暮らさないよ!?僕はここで暮らさないよ!?」

 

この老人、さっきまで弱っていなかったか!?

 

「あなたと話していると、少し元気が出ました」

「そ、そうですか……」

「だから、はやく逃げてください」

 

老人の目つきが変わった。

 

「うぅッ……」

「ッ!」

 

道の奥から男の呻き声が聞こえた。

 

「ったく、道で寝てんじゃねぇよゴミが」

「全くだ。ほら、あぶないですよ~?」

 

ドゴッ!!

 

銀色の鎧を着た兵士が道に倒れている男を蹴り飛ばした。男は弱っていて抵抗することができない。

 

「何てことを……!?」

「兵士はこの牢獄を見回りに来ます。そして、暇つぶしに私たちを痛み付けるのです」

「暇つぶし……ふざけすぎだろ……!」

 

僕は老人を急いで立たせる。

 

「な、何を……?」

「逃げるに決まっているじゃないですか!はやく立って……!」

「おいおい、露骨に嫌がってんじゃねぇよ?」

 

後ろから声をかけられた。

 

ドゴッ!!

 

その瞬間、背中に衝撃が走った。

 

「がはッ!?」

「ぐぅ……!」

 

僕と老人は一緒に壁に叩きつけられる。体の中にあった空気が一気に吐き出される。

僕達を蹴ったのは先程の銀色の鎧を着た兵士だった。

 

「おいおい、もしかして侵入者って奴か?」

「マジかよ!殺す?」

「ッ!?」

 

足が震えだし、背中に嫌な汗が流れ出した。

兵士の腰にぶらさげている剣が怖い。

二人の兵士は徐々に近づいてくる。

 

でも、ここで怖がっていたらダメだ。

 

ここでしっかりと気持ちを伝えるんだ!

 

 

 

 

 

「ごめんなさい!僕、死にたくないです!」

 

 

 

 

 

「「「え、えぇ……?」」」

 

The・土下座・インフィニティ・クロス・バインド。

その時間、わずか0.5秒。

 

「許してくださいごめんなさい!死にたくないです!僕はゴミなので無視してください!」

「坊主ゥ……」

 

老人がこちらを見て憐れんでいた。

 

「……どうする?」

「ろ、牢獄に入れておくか?」

 

先程まで人を蹴っ飛ばしていた兵士が戸惑っていた。

僕の秘技を見た者は必ずそんな反応をする。どうだ、カッコ悪いだろ!?

 

「牢獄ですか!?お願いします!入れてください!暴力は振らないでください!」

「あ、うん……」

 

兵士は僕の肩を掴んで立たせる。

一つ言っておくと、僕は変態ではない。

 

「あ、いましたよ」

「おーい、シンヤ!」

 

いいタイミングだなぁ……ホントに。

声がする方を見てみると、綺麗な黒髪の美少女と頭を失ったモンスターがこちらに向かって歩いてきていた。

 

「ま、魔物だと!?」

「まさか門を破壊したのは……!」

「ああ、私だ」キリッ

 

キリッって何だよ。ドヤ顔してんじゃないよ。

 

「そして、私が首なしの騎士……デュラハンだ」キリッ

 

だからキリッって何だよ。顔ないじゃん。キリッ顔もドヤ顔分からないよ。

 

「クソッ!」

 

一人の兵士が鞘から剣を抜く。そして、デュラハンに向かって突撃した。

 

「甘いな、人間」

 

デュラハンの声が聞こえた瞬間、兵士の持っていた剣が消えた。

 

「は……?」

 

兵士は自分の手を見て混乱する。そして、驚愕した。

 

剣は腰の鞘に戻っていた。

 

「殺す価値も無い」

「デュラハン……すげぇ……」

 

さすが少数部隊のメンバーから外されなかっただけの実力はある。

 

「そこの人間、旦那から手を放せ」

「そうだ、放せ」

「アンタ、さっき命乞いしていただろ……」

「この俺様を拘束するなんて……死にたいのか?」

「え、えぇ……?」

 

兵士はドン引きだった。さきほどの態度の違いに。

 

「放さないなら仕方ない……デュラハン!」

「御意」

 

スパンッ!!

 

デュラハンは目にも止まらぬ速さで僕を回収した。ちなみに何が起こったのか僕も分からない。気が付いたら僕はデュラハンに担がれていた。

 

「よし、次はあの兵士を死なない程度でボコボコにしろ」

 

ドゴッ!バキッ!メキッ!

 

「「ぐえッ!?」」

 

またしても一瞬にしてデュラハンが兵士をボコボコにした。兵士は道に倒れ、動かない。し、死んでないよね?

 

「無事で良かった。途中で落としたから死ん……無事で良かった!」

 

待てレナ。下手をしたら死んでいたのか、僕は!?しかも、落としたってふざけてんのか!?

 

「まぁいい……その分収穫があったからよしとする」

「収穫……ですか?」

「ああ」

 

僕はレナの方を向く。

 

「レナ、この国が欲しくないか?」

「「「ッ!?」」」

 

僕の言葉にレナ、デュラハン、老人が驚いた。

 

「そ、そんなことができるのか!?」

「ああ、上手くいけばの話だ」

「き、聞かせてくれ!」

「フッフッフ、いいだろう!」

 

コートをなびかせながら高らかと言う。

 

「それはこの老人を我が軍に入れるということだ!」

「「な、何だって!?」」

「わ、ワシ!?」

 

僕はコートを老人に渡す。

 

「おい貴様……俺の配下になれ」

「ッ……ワシは魔王の仲間になるくらいなら……」

 

老人は僕から目を逸らす。

 

(配下になってくれたら、この国を救ってみせます)

 

「ッ!?」

 

僕の心を読んだ老人が驚愕した。

 

(あなたの力があればこの国を救うことができる。どうしますか?)

 

「……………ッ!」

 

老人は少し考えた後、力強く頷いた。

 

「いいでしょう。あなたに仕えましょう、魔王様」

「それでいい。名は何と申す?」

「ファブル=カプラコーンです」

「よし……レナ、デュラハン、ファブル」

 

僕は笑いながら言う。

 

「まず飯を食べに行こうか」

 

「「「……………」」」

 

もう餓死しそう。

 




【没ネタ】

デュラハン「え、旦那を途中で落としたんですか!?」
レナ「ああ、落とした」
デュラハン「なんでそんなに冷静なんですか!旦那を落としたんですよ!?」
レナ「だが、場所は分かるぞ」
デュラハン「……魔法で、ですか?」
レナ「鼻だ」
デュラハン「犬!?」
レナ「むッ!?シンヤは上かッ!?」
デュラハン「全然使えないじゃないですか、その鼻!」
レナ「実はいうと気配でわかる」
デュラハン「何でボケたんですか!?」
レナ「後書きだからだ!」
デュラハン「えええええェェェ!!」


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中二病の魔王と作戦会議

【悪魔階級】

 

魔界には強さが段階的に分けられた名称がある。

弱い順に並べると魔物、魔獣、例外種、悪魔そして一番上に君臨するのが魔神だ。

魔物はスライムやゴブリンがコレに当てはまる。人間界にいる戦士や魔法使いなら簡単に倒せる弱さ。

魔獣。獣などのモンスターだ。先程の魔物よりは少し強い種族だ。

例外種はエルフやリザードマンなどの種族を指す。彼らは魔界に味方する種族と人間界に味方する種族と別れているため例外にされている。エルフは魔力が高く、リザードマンは力が強く、階級が同列となっている。

悪魔。一匹だけでも人間に脅威になる存在。かなりの上位のランク階級だ。腕っぷしの戦士が100人係で倒しに行っても、返り討ちに合う可能性があるほどの強さだ。ちなみにデュラハンはこの階級に属している。

 

そして、魔物の頂点に君臨する魔神。その階級のモンスターは一匹だけで人間界を滅ばすほどの力がある。

 

レナは魔神までの力は持っていないが、悪魔よりも強大な力を持っている。当てはまる階級がない。作るなら準魔神と言ったところだ。

 

 

_______________________

 

 

僕たちは現在ルルセット国の西側にある街の酒場にいる。

店内は中年のおじさん達が豪快に笑い、豪快に酒を飲み、豪快に殴られていた。喧嘩しないでよ……。

耳が痛くなる程うるさい中、僕たちは店の隅に座っていた。

 

「うるさい奴らだ。飛ばしてやろう」

「やめろ。今すぐその右手に展開している魔方陣を消せ」

 

僕の隣に座っているレナをなだめる。勘弁してくれ。

 

「さて、ルルセット国を奪う作戦だが、俺に考えがある」

「さすが旦那!カッコいいです!」

 

頭に壺を乗せ、布を被せたデュラハンが僕を褒め称える。

 

「今回の作戦の鍵となる人物。それが、さっき拾ったお爺さんだ」

「ファブル=カプラコーンです」

 

ファブルは頭を下げる。

レナはファブルを見て、僕に問いかけた。

 

「シンヤ、そいつの腕はどうした?」

「王様に斬られたらしい」

「王様に?」

 

レナの目が光った。

 

「なるほど、王様を悪者だと国民にバラし、革命を起こさせるのだな!」

「おしい。少し違うな。王様の座を―――」

 

僕はファブルの肩に手を乗せた瞬間、言葉を詰まらせた。

 

「―――何かヌチャヌチャしているんだが」

「すみません。最後に水を浴びたのは10年以上も前で……。腕があれば体を洗えたのですが……」

 

ファブルは申し訳なさそうな顔をして謝る。聞いてはいけないことを聞いてしまった。ファブルに悪いことをしてしまった。

そんなファブルを見たデュラハンは意気揚々で告げる。

 

「大丈夫ですよ、ファブルのじいさん!私など、お風呂に一度も入ったことがないですから!」

「お前、帰ったら風呂行け。決定事項だ」

 

汚いよ……。その状態で僕を触ったの?ショックだよ……。

 

「不便だな。私が腕をやろうか?」

 

レナの言葉に僕は立ち上がった。

 

「どういうこと!?自分の腕千切ってやるのか!?」

「違う。作るのだ」

「作る!?」

「シンヤが認めた者だ。腕の一本や二本、何十本でも生えさせてやろう!」

 

二本で十分です。気持ち悪くなっちゃう。

レナは呪文を唱え、右手の掌に魔方陣がグルグルと回る。

そして、ファブルの腕に黒い煙が渦巻いた。

 

(黒い……煙………)

 

もう嫌な予感しかしなかった。

ファブルの肩から新しい腕が……。

 

悪魔の手の様な黒い手が生えた。

 

「うわあああああァァァォォおおおいッ!?」

 

またビビったことを上手く?誤魔化した。

ファブルの腕は黒い鱗で覆われており、手の指は鋭く、爪が長い。

確かに腕が二本生え、元に戻ったが……正直に言うと恐ろしい。

 

「どうだファブル。いいだろう?」

「どこがだ!?」

 

レナのセンスは腐っているの!?それともこれが悪魔のかっこいいなの!?

ファブルは自分の悪魔の手を眺めながら呟く。

 

「………えぇ、素晴らしいですね」

「ほら見ろ!ファブルだって嫌……が……ってない?」

 

嘘……。

 

「自由に動かせます。完璧です。ありがとうございます」

「い、いいのかよファブル……」

 

気持ち悪くないのか?

 

「ほら見てください」

「あ、近づけないで……」

 

怖い。

 

「それで、シンヤの考えた作戦は何だ?」

 

レナに聞かれた質問に僕は答える。

 

「作戦を言う前に、王様はファブルの腕を斬るだけじゃなく、他にも悪行を行っていたことを知ってほしい」

 

僕は王様の悪行を事情を知らないレナとデュラハンに話した。

レナは深刻そうな表情で言う。

 

「魔界に相応しい人材だ……殺すのが惜しい」

「勘弁して」

 

もうやだ魔界の住人。デュラハンも「弟子にしたいですね」っとか言ってるし。

 

「もういいよ……でも殺すのはやめてくれ」

「何故だ?一国の王を殺したとなると、私の名声が上がるのだぞ?」

「殺すのが惜しいとか言ってなかったか?」

「名声のためなら仕方ない。死んでもらおう」

 

王様の命軽っ。

しかし、僕は認めない。

 

「人殺しよりいい使い道があるとしたら?」

「殺さないでおこう」

 

よし、全力で模索しよう。

 

「それで旦那。どうするんです?もし必要なら魔界から軍を呼びますけど?」

「必要ない」

 

デュラハンの言葉に僕はニヤリと口元に笑みを浮かべながら言った。

 

「王座を蹴り飛ばすだけだから」

 



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