表向き一般村人ビーの冒険手記 (タータスタータ)
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第1話 9日目、10日目

 僕は、物語の主人公に憧れた。

 

 ピンチに駆けつけ、様々な人を救い、世界を平和にする。

 見知らぬ場所、見知らぬ魔物、見知らぬ世界。

 様々な冒険を山あり谷ありで駆け抜けていく主人公に、僕は憧れたんだ。

 

 だから。

 

「村を出て! この剣一本で成り上がるぞー!」

 

 僕はお父さんの部屋に置いてあった錆びついた剣を、日の出の太陽に掲げて誓う。

 

 主人公の旅立ちは、やっぱり日が昇る早朝だよね! 

 

「にぃー?」

 

 っと、妹が起きてしまった、もっと静かにするべきだったか。

 まぁ、妹ならいいかな。

 

「おーくのーおやぅめー?」

 

 僕は声を潜めて妹に話す。

 

「いいや違うよ、僕は今から旅に出るんだ!」

 

「たにぃ? どぅてー?」

 

 妹は頭を左右に揺らしながら聞いてくる。

 

「この間行った所で吟遊詩人さんが話していたんだ、主人公は小さな村から飛び出して、魔物を倒したり人を助けて、最後には世界を救うって!」

 

 僕の住んでいる村は、辺境の谷底にある小さな村だ。

 ここから近くの街までは徒歩で10日くらいかかる。

 

「おおー! ……お? にぃーいぁおぁーじー「つまり! 小さな村に住んでる僕は! 主人公になれる! だから行ってくるね!」うー? うー? ……うー! いーかりゅ?」

 

「うーん、しばらくは帰って来ないかな」

 

「しばーぅ? いっか!」

 

「ううん、もーっと長い間帰って来ないかな」

 

「おー! なーぃおーくのーおやぅめ! おやぅめばんばー!」

 

「うん! 違うけど、頑張ってくるよ!」

 

「ばんばー!」

 

 妹の応援を背に、僕は旅出つ。

 

 

 ここから、僕の剣での成り上がり主人公物語が始まる! 

 

 きっと、街に着くまでにも魔物と戦ったり! 人を助けたり! たくさんの物語が僕を待っているんだ! 

 

 さぁ、行こう! 輝かしい未来に向かって! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1日目、魔物もいなくて、人もいなくて、何もなかった。

 

 ま、まぁ、まだ旅立って1日目だし、村からそんなに離れてないし、こんな所に人はいないよね! うん! 魔物は当然居ないけど仕方ないね! 

 

 2日目、魔物もいないし、人もいないし、何もないし。

 

 そう簡単にはイベントとかは発生しないよね! 

 

 3日目、魔物もいない、人もいない、何もない。

 

 そろそろ何かあってもいいんじゃないかなー? ワクワク! 

 

 4日目、魔物もない、人もない、何もない。

 

 早く何か来ないかなー? 

 

 5日目、魔物、人、何もない。

 

 そろそろくるか!? 

 

 6日目、魔物×人×何×

 

 まだかなまだかなー? 

 

 7日目、魔物人何無い

 

 そろそろ街についちゃうよー? いや、街付近でこそ何かあるよね! きっとそこで巻き込まれて大変な目に合うんだろうなー! 

 

 8日目、魔人何無

 

 ついちゃうよ? そろそろ街についちゃうよ? どうしよう? イベント待ちでもっと寄り道する? えー、でも食料とかもあるし、自分からイベントを探しに行くなんて主人公のやることかな? やっぱり巻き込まれてこそ主人公! 真っ直ぐ街に行ってもイベントはやってくる! そう信じてる! 

 上を向いて歩こう! 

 

 見上げた先には、青い鳥が飛んでいた。

 

 9日目

レースフルト領主、フランクリン・レースフルトの精霊封印化実行

 10日目

 

 ついちゃった。何もなかった……

 いや! ここから! ここからだから! 街についてからが本番! 人が沢山いるってことはそれだけトラブルも多いし! 山あり谷ありのイベント盛りだくさん! バンザーイ! 

 

 街に入る入り口で一悶着あったり! 

 

「止まれ、子供が一人? ……おい、身分の証明できるものはあるか?」

 

「あ、これです」

 

「これは……ああ、どうぞお通りくださいませ」

 

「あ、はい」

 

 何もなかった……

 

 切り替えていこう! 

 

 冒険者ギルドで冒険者登録しに行ったら、いかつい人たちに絡まれたりとか! 

 

 ギルドにやって来た! 受付に着いた! 

 とりあえず受付のところにいるキレーなおねーさんに話しかけよう! 

 

「あの」

 

「君、どうしたの? 何か依頼かな? それとも冒険者登録かな?」

 

「あ、登録です」

 

「そうなのね、じゃあ色々聞いていくね? 文字は読み書きできる?」

 

「あ、はい」

 

「あら、小さいのにすごいわね、じゃあこっちにきて……ここに書いてあることをしっかり読んでから、この紙に色々書いてもらえるかな? 大丈夫?」

 

「あ、はい」

 

「じゃあ書き終わったら呼んでね、次の方ー? 依頼ですか? 登録ですか?」

 

 カキカキ…………

 

「あの、はい」

 

「あれ? もう書いたんだね、ちょっと待っててね、このあと色々しけ……ん……成る程、承りました、これであなた様も冒険者です」

 

「あ、はい」

 

「冒険者証は身分の証明にも、あ、いえ……分からないことがありましたらいつでも対応しておりますので、お気軽にご相談ください」

 

「あ、はい」

 

 絡まれなかった……

 

 うーん、イベント、何も起きないなー。

 僕にはマグレインみたいな巻き込まれ主人公は無理かも……

 ある程度は自分からトラブルに巻き込まれに行かないとなのかな? 

 

 つまり! 情報集めだ! 

 

 というわけで! やってきました酒場! 

 情報集めといったら酒場だよね! 

 

「注文は?」

 

「あ、ミルクで」

 

「……」

 

 さて! 他の人に話を聞きにいこう! 

 

 キョロキョロ。

 

 ……うん! やっぱり、耳をすませてお話を聞こう! 

 

 ちょ、ちょっと厳つい人が多いから及び腰になってるわけじゃ無いヨ? 話しかけに行くのが怖いわけじゃ無いヨ? ホントダヨ? 

 

 ……耳をすませてー、盗み聞きー! 

 

「3番通りの武器屋、最近扱う武器の種類増やしたみたいだぜ、クリーゼ様の影響かもな」

 

「はぁー、辛えよ……とっとと死なねぇかなぁ……ゴミ領主が、はぁ……」

 

「ねぇ、世界一強い、誰?」

 

「あん? そりゃ勿論! 最強と言ったらクライム様だよな! 単独ドラゴンキラーだし!」

 

「クライムアート様を超える強さを持つ奴なんていねぇよなぁ!!」

 

「はぁ……お前ら何もわかってねぇ……最強はルリ────」

 

「あー! クッソ! マジクソ! マジカルマジマジッ! クァー!」

 

「聞いた? 魔法陣? の研究が進んでまた一つ解読できたとか」

 

「っぱメルメル様は天才よ!」

 

「なぁ知ってっか? リースティユルが植物まみれになったらしいぜ? なんでもウッドエレメンタルが出たとか、やべぇよなぁ」

 

「精霊病ね……胡散臭すぎ、どうせ国の陰謀とかでしょ」

 

「ふむ、確かに今までの傾向を考えると、国の利」

 

「なぁ! さっきドレスのクッソ可愛いお嬢様みたいな人見かけたぜ! あーいれてぇ」

 

「お前ヨメいんだろ、精霊病かかるぞ」

 

「ばっ! オメェこんなんでかかるかよ! はっはっは! っと、ちょっと掃除に行ってくる!」

 

「掃除? 何行ってんだ? 酔ってんのか?」

 

「トイレだよトイレ! トイレの暗喩だよ! 言わせんな恥ずかしい!」

 

「いつかクライムアート王子様に〜私を見つけてもらって〜! 玉の輿〜! 来ないかな〜! 平民と王子様の〜! 身分違いの恋!」

 

「雑魚王子」

 

「お金を持ってればいいんです〜白馬の王子さま〜私をさらって〜」

 

「妄想乙」

 

「は? 戦闘狂ビッチのガキが」

 

「まだ処────」

 

「マジカルマジマジィ! ぎぃぃぃい!! マジマジカル! ああああ!! マジマジィ!!!!!」

 

「お前酔いすぎ、不幸だが災害みたいなもんだろ、諦めろ」

 

 ……うん! 

 

 情報収集はそろそろいいかな! 

 色々聞こえて来てたから、情報を精査しよう! 

 

 えーっと……マジカルマジマジしか覚えてない。

 近くにいるのかな? うーん……

 

 ……うん! 人には向き不向きがあるよね! 情報収集するくらいなら街を歩き回ろう! 

 

 

 

 やっぱりイベントがあるとしたら、路地裏とかだよね! 

 よーし! 歩き回るぞー! 

 

 

 

 うーん、普通に治安いいなぁ、この街。

 昨日領主が死んだ……死んだ? まあ死んだでいいか、死んだばかりなのに治安いいのはすごいよなぁ。

 これじゃあイベントも起きないかな……

 

「き、やー、たすけーてー、わー」

 

 お! 人の助けを求める声! きた! これこそイベント! 

 

「ヘッヘッヘー、こいつぁー高く売れるぜ!」

 

「ひゃっはー! このまま奴隷に売っぱらってやるぜぇ!」

 

「おじょ、お前様は、えーっと……なにかひどいことになります、あ、ぜ!」

 

 いかにもならず者みたいな格好した厳つい顔つきの3人の男が一人の女性を取り囲んでる! 助けないと! 

 

「ヘッヘッヘー、きっと慰み者にされて尊厳グチャグチャだぜ!」

 

「ひゃっはー! お前の人生終わりだなぁ!」

 

「あー、何かひどいことされます、お、あ、お前様は、ぜー!」

 

「いーやー、たすけーてー、だれかー、しゅーん、たすけーてー、しゅーん」

 

 でも、3人か、勝てるかな? 

 いーや! きっと主人公パワーがなんかこう覚醒してなんとかなるはず! 

 

 行くぜ! 

 

「やめろ! 何をしている!」

 

 僕は飛び出した! 

 

「ヘッヘッヘー、やっときた……か?」

 

「誰だあいつ?」

 

「え、あ、え、ど、どど、どう、ど!?」

 

「ちょっと! どうするの!?」

 

 何やらならず者3人が女性の近くで固まって小声で話し合っている。

 

 も! もしかして! 僕の力に恐れをなして! 恐怖してる!? 

 何か主人公補正が働いているに違いない! 

 

 勝ったな。

 

「さあ! その人から離れろ!」

 

「いや、あの、これはですね、ちょっと事情があるというかなんというか」

 

「申し訳ありませんが、見なかったことにしていただきたい」

 

「あの! ……えっと……あ、あ、あ」

 

 あれ? 荒くれ者風な人たちが急に背筋正して雰囲気ががらりと変わった。

 

「あ、あの、本当に攫われそうになっているとかじゃないので」

 

 そして女性からそう言われる。

 

 んー?? 

 

「えっと」

 

「ま、マリィちゃんから、離れろー!」

 

 急に後ろから大きな声がした。

 

 振り返ると、そこには身なりのいい、高そうな服を着てる人が巨大なハンマーを持っていた。

 

「あ……き、やー、たすけーてー、わー、4人におそわれてるのー、しゅーん」

 

「え? 4人?」

 

 荒くれ者は3人では? 

 僕は思わず女性の方に振り返りそう呟いた。

 そして。

 

「ま、マリィちゃんに手を出したら、ゆ、許さないぞー!」

 

「え?」

 

 ガツン! 

 頭に軽い衝撃が! 

 

「あ、やば、民間人に……」

 

 あ、どうしよう、よく分からないけど、まあ良いか。

 おやすみ〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは」

 

「お目覚めになりましたか」

 

 目がさめると、いつのまにか大きな部屋のベッドで眠っていた、でいいかな。

 

「あの」

 

「巻き込んでしまい、大変申し訳ありませんでした!」

 

 そこには、さっきまで荒くれ者の格好をしていた人達が、かっこいい騎士甲冑を着て、頭を下げていた。

 

 

 

 

 話を聞くと。

 

 どうやらあれは、この街の亡くなった領主の娘さんが、意中の人の気をひくために攫われそうな演技をしていただけらしい。

 

 そこに自分が来たから困って、結局しゅーんという人のハンマーで☆後頭部強打☆され、僕は意識を失ったとかなんとか。

 

 その後、2人はいい感じになったとかなんとか。

 

 うーん? 

 

 つまり自分は、恋のキューピッドになった、てきな感じ? 

 つまり人助け? いい感じになったなら人助け成功! 

 そう考えれば主人公っぽい! 

 

「ありがとうございました!」

 

「え? ん?」

 

 やっと主人公らしいことができた! やったー! これはいいイベントだ! 

 

 

 

 

「こちら慰謝料になります」

 

 そう言って騎士の方はお金を差し出してきた。

 

「いいや、受け取れません」

 

 主人公は見返りを求めない! 

 ってやつだね! 

 それに、医者料なんて言われても、僕が医者にかかることなんてあり得ないし、こんなはした金受け取っても、別に嬉しくないからなー。

 

 

 というわけで、僕は断って邸を後にした。

 それにしても、昨日領主が死んだばかりなのに忙しくないのかな? 別に関係ないのかな? まあいいか。

 

 今日は満足! 時間も時間だし、宿を取って休もう! 

 街に来て1日目、色々なこと……は、なかったけど、主人公っぽいことが出来た! 

 明日からもしばらくはこの街で活動しよう! 

 ずっと同じ場所にいる気はないけど、大きい街だし、領主も死んだばかりだし、色々なことが起こると思うから! 

 

 夕日が眩しい。まるでこれからの僕を祝福してくれているかのようだ。

 見上げた空には、沈みゆく太陽を背に飛ぶ青い鳥がいた。

リースティユルに出現したウッドエレメンタル、及び陰月の4に出現予知が確認されたアクアエレメンタル両精霊のリースティユルでの捕縛並びに王城への護送命令

 騎士視点

 

 やれやれ、お嬢様のお守りは大変だぜ。

 意中の人の気を引くために街中で攫われそうな演技をするなんて、そんなもん、うまくいくのかねぇ。

 

 ま、やるからには全力だ。

 

 今ここには、ゴロツキに扮した俺と先輩騎士二人、そしてお嬢様。

 これはどこからどう見てもゴロツキに攫われそうなお嬢様って盤面だぜ! 

 

 そして! 主役の商家のご息子様が、もうすぐここを通るってことは分かっている! 

 

 さぁ! この俺、サブロー様の名演技で商家のご息子様を華麗に騙してやるとするか! 

 行くぜ! 

 

「き、やー、たすけーてー、わー」

 

 ブハッwwなんだよその棒読みww大根役者すぎるだろww

 演技の才能ゼロじゃねえかww

 こんな演技に騙される奴なんていねぇだろww

 しゃーねぇーなー、これはもう俺の名演技でカバーするしかねぇ、本気、出しますか! 

 

「ヘッヘッヘー、こいつぁー高く売れるぜ!」

 

「ひゃっはー! このまま奴隷に売っぱらってやるぜぇ!」

 

 先輩方もダメダメだな、及第点すらあげれねぇ。

 しゃーねぇ、俺が手本ってやつを見せてやるか! 

 

「おじょ、お前様は、えーっと……なにかひどいことになります、あ、ぜ!」

 

 ……完璧だ。

 先輩方もお嬢様も俺を見習えよー? 

 

「ヘッヘッヘー、きっと慰み者にされて尊厳グチャグチャだぜ!」

 

「ひゃっはー! お前の人生終わりだなぁ!」

 

 見よ! 俺様の華麗な名演技を! 

 

「あー、何かひどいことされます、お、あ、お前様は、ぜー!」

 

 いやー、天才すぎてやばいわー自分の才能が恐ろしいね! 

 

「いーやー、たすけーてー、だれかー、しゅーん、たすけーてー、しゅーん」

 

 ブハッwwお嬢様演技下手すぎワロタww

 

「やめろ! 何をしている!」

 

 っと、ついに来たか。

 さあ、ここから更に俺の名演技が光るぜ! 

 

「ヘッヘッヘー、やっときた……か?」

 

「誰だあいつ?」

 

 ん? 

 

 商家のご息子様かと思って見てみれば、そこにいたのは黒髪で、ちょっとサイズの大きいくたびれた服を着、腰にかなり錆び付いていてなんの手入れもしていないだろう剣を鞘にも入れずに下げた年若いガキがいた。

 

 全然別人じゃねぇか! 

 

「え、あ、え、ど、どど、どう、ど!?」

 

 他の奴が来るなんて想像してなかったぜ! 

 

「ちょっと! どうするの!?」

 

 っと、お嬢様はもう演技が剥がれている。

 予想外が起きた時のアドリブ力にこそ、名役者の力量は試されるんだ。

 少しはアドリブ力鍛えなー? 

 俺を見習えよー。

 

「さあ! その人から離れろ!」

 

「いや、あの、これはですね、ちょっと事情があるというかなんというか」

 

「申し訳ありませんが、見なかったことにしていただきたい」

 

 こうなったら! 俺の名演技! 名アドリブで華麗にこの場を納めてみせる!! 

 

「あの! ……えっと……あ、あ、あ」

 

 ……ま、どれだけ優れた役者でも、たまーには咄嗟にアドリブが出来なくて固まることもあるからな。

 いやー何時もはできるんだけどなー偶々! 今回だけ! うまくいかなかったなー、かぁー、運が悪いなぁー。

 

「あ、あの、本当に攫われそうになっているとかじゃないので」

 

「えっと」

 

「ま、マリィちゃんから、離れろー!」

 

 おっと!? 更に人物が増えてますます舞台が大混乱だ! 

 って、商家のご息子様じゃねぇか! タイミング悪りぃー! 

 

「あ……き、やー、たすけーてー、わー、4人におそわれてるのー、しゅーん」

 

 棒読みすぎるwwそれに4人ってww

 

「え? 4人?」

 

 何言ってんだこのお嬢様はww数も数えられねぇのかww

 

「ま、マリィちゃんに手を出したら、ゆ、許さないぞー!」

 

「え?」

 

 ……あー、このガキも巻き込んだのか。

 困るんだよねー台本にないことを咄嗟にされると。

 他の人がどう対応したらいいか困るだろー? 

 これだから大根役者は。

 俺の完璧な役者ぶりを少しは見習ってほしいね。

 

「あ、やば、民間人に……」

 

 お、ガキが倒れた。

 よし! これで台本通りお嬢様と俺たち暴漢役3人と商家のご息子様だけになったな! 

 

 これで再開できるぜ! 

 

「今日のところはこれで勘弁してやる!」

 

「ずらかるぞ!」

 

 あれ? 先輩方はガキを背負って逃げてしまった。

 何やってんだ? はーあ、これだから素人は。

 台無しじゃねぇか、これじゃあお嬢様と商家のご息子様の仲も進まねぇなぁ。

 

 しゃぁーねーなぁーここは俺一人でもやってやるかぁ! 

 

 ここからが俺のオンステージ! 

 

「おい! サブロー! 何やってる! 早く来い!」

 

「え? あ、あ、はい」

 

 ……は、次回に持ち越しだ! 

 

 

 

 にしても、変なガキだったな。

 あんな巨大なハンマーで殴られたってのに、起きたらピンピンしてやがったし、あんな大金、受け取らねぇで帰りやがって。

 勿体ねぇ。

 あんだけ金がありゃ今すぐにでも騎士なんて辞めてやるってのによぉ。

 

 まぁそれはいい、さて、領主様に金でもせびりに行くか。

 娘のことを気にしていたし、俺様の名演技のおかげで2人が結ばれそうだって報告してやろう! 

 

 そうすりゃ、臨時収入、給料アップ、間違いなしだぜ! 

 

 コンコン

 

「領主様ー、ご報告したいことがー」

 

 返事がねぇ? いないのか? 昨日から見かけてないし、そういう時は大体この研究室に篭ってるもんなんだがな。

 寝てんのかね? 

 

 しゃーねぇ、起こしてやるか! 

 

「失礼しまーす……あ?」

 

 扉を開けると……そこには……

 

「あ……お、おい、マジかよ……」

 

 レースフルト領主、フランクリン・レースフルトの……



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第2話

 次の日、つまり11日目

 

 僕は乗り合いの馬車に乗って街を出ていた。

 

 昨日もう少しここにいるなんて言った気がしないでも無いけど、やっぱりこう、同じ場所に居続けるなんて違うよね! どんどん違う場所に移動して世界を見て回るべき! うん! 

 だから何も考えず僕は馬車に乗った! そういう事にしておこう! 

 

 それにマジカルマジマジも近くにいたら嫌だし! 

 世界が滅ぶと困るもんね! 

 いや、流石に大げさかな? まあいいや! 

 

 馬車には僕の他に2人の女性が乗っている。

 多分昨日酒場で見かけたような気もする人たちだ! 

 

「初めまして〜、私はミーナライカ、戦士をしているわ〜、短い間でしょうけどよろしくね〜」

 

 ミーナライカさんは巨大な盾を持っている、青色の髪で、大きくて綺麗なおねーさんだ。

 

「あ、はい、僕はビーですよろしくお願いします」

 

「……」

 

「こ〜ら、リスちゃんも名乗りなさいよ〜、ごめんなさいね〜、この子人見知りで〜」

 

「弱い奴興味ない」

 

「え? 僕弱くないですけど」

 

 僕最強だけど? 

 

「……本当?」

 

「だって僕は主人公だから!」

 

「ふーん、リステライカ、よろしく」

 

 リステライカさんは小さな杖を持っている、銀色の髪をしている小さな子供だ。

 リステライカさんは魔術師だね。

 才能はありそうだけど、そんなに強くは、って、あー、この子あの子か。

 

「坊やはこれからどこに向かうの〜?」

 

「あ、リースティユルってところに行きます」

 

「へぇ〜? やめておいたほうがいいわよ〜? 今はウッドエレメンタルが〜暴れてるって噂だし〜」

 

「あ、僕強いので大丈夫です」

 

 あの程度の精霊なら全然怖くないしね! 

 

「ふ〜ん、ま〜そこに向かおうとしている私達が〜とやかく言えることじゃ無いわね〜、それに〜、今出て行った街は昨日領主様が亡くなられたって噂だし〜、留まっててもいろいろ問題に巻き込まれたわよね〜」

 

 ん? ……今、おかしくなかった? あれ? 

 

「ビーは弱そう、どれくらい強い?」

 

「え? あ、勿論世界最強ですよ!」

 

「……ふーん」

 

 あ、これは間違いなく疑われているな! 

 僕には分かる! 

 

 その時、急に馬車の動きが止まった。

 そして、御者の人が外から声を掛けてきた。

 

「おーっと、すいやせんねお客さん方、ちょいとゴブリンが出てきたんで、処理してきますわ、少々お待ちを」

 

 ゴブリン! これは僕の出番だ! 

 

「ちょっと待って! この襲撃イベントは僕に任せて! 僕の実力を見せてあげるから!」

 

 ここは僕が現れたゴブリンをかっこよく倒すイベントだね! 

 

「ゴブリン程度で、何見ろと」

 

 僕は馬車を勢いよく飛び出した。

 

「グギャ! グギャ!」

 

 そこには、僕と同じような錆びた剣を掲げるゴブリンが4体いた。

 

 4体!? くっ、なんて多さだ! 

 

「こんな所に出てくるたぁ、数も少ねぃですし、逸れですな、お客さん、すぐかたぁつけるんで馬車に戻ってぃやしていいんですぜぃ?」

 

「いいや! 僕が戦います!」

 

 馬車襲撃イベント! ここは僕の活躍の場だ! 

 僕は先頭のゴブリンに向けて走り出した。

 

 まずは数を減らそう! 

 

 出し惜しみは無しだ! 最初から全力で行く! 

 

「くらえ! うおおおおおお!」

 

 必殺! 

 

「☆YOKO GIRI☆」

 

 ガキン! 

 

「グギャ! グギャ!」

 

「っなぁ!? 馬鹿な!?」

 

 僕の全力の横切りが、防がれた!? 

 それに小さい体なのに、なんて力だ! 押し切れない! 

 

 ゴォォォォォォォォ! 

 

 今、僕と1体のゴブリンが鍔迫り合いをしている。

 

 だけど、何故か他の3体のゴブリンが怯えた表情をして後ずさっている。

 まさか! この土壇場で僕の主人公力が覚醒した!? 

 これなら、僕が囲まれることはない! 

 僕の覚醒した主人公力に恐れをなしているんだね! 

 

 なら! 

 僕は一度距離をとった。

 

 体が熱い、今、僕は燃えるように熱くなっている! 

 

「これだけは使わないと決めていた……けど、仕方ないみたいだ、お前には、この一撃が相応しい……この世界の力を借りた究極の一撃! 受けられるものなら受けてみろ!」

 

 うぉぉぉぉぉおおおお! 

 秘奥義! 

 

「☆TATE GIRI☆」

 

 ガキン! 

 

「グギャ! グギャ!」

 

「っ!? 馬鹿な!?」

 

 この僕の縦切りを、防いだ!? 

 縦切りは僕の力だけじゃない! この世界の重力だって力に加わっているというのに! 

 

 なんて強さだ! 

 

「……グギャ?」

 

「……フレアレイン」

 

 ゴォォォォォ! 

 

「あっ」

 

 僕の目の前で、ゴブリン4体が、降ってきた炎に包まれて消えてしまった……

 

 あ、僕の後ろでリステライカさんが魔術使ってたから熱かったのかな……うん。

 

 今のはレイン系フレア魔術だね。

 炎に変換した魔力を空中で収縮し、前方上空に向かって放射状に解放。

 雨のように炎を降らせる極極低威力、極低範囲の魔術。

 

 リステライカさんが放ったのかな? 

 

 …….うん! 

 

 これぞ仲間との連携! パーティの勝利! 

 主人公には仲間がいるからね! 

 

「あなた、弱い」

 

「え? 僕弱くないですけど」

 

「ゴブリンに苦戦、ざーこ」

 

「こ〜ら、リスちゃん、ダメよ〜そんな言葉使ったら〜ごめんなさいね〜」

 

「ほぉ、中位魔術たぁー、なかなかつぇーじゃないですかい」

 

「弱い人興味ない」

 

 そう言って、リステライカさんは馬車に戻っていった。

 

 よし! 僕も戻ろう! やっぱりこの戦闘はいいイベントだったね! 

 

 

 

 

 主人公には仲間がいるものだ。

 つまり、この出会いは大切にしないといけないね! 

 一緒にゴブリンを倒した仲! つまりリステライカさんは仲間! 

 リステライカさんと一緒にいるミーナライカさんも仲間! 

 

 よし! この2人を僕の仲間に加えよう! 

 

「2人とも! 僕の仲間にならない?」

 

「ならない」

 

「あ、はい」

 

「リスちゃんが仲間になるなら〜考えてもいいけど〜」

 

「あ、はい」

 

 つまり、リステライカさんを仲間にすれば2人とも僕の仲間だね! 

 よし! 頑張ってリステライカさんを仲間にするぞー! 

 

「……押し付け……」

 

 ん? リステライカさんがジトーッとした目でミーナライカさんを見てる。

 どうしたんだろう? 

 

「因みに〜ビー君は〜知り合いにお金持ちの人とかいたりする〜?」

 

 お金持ちの知り合い? うーん? 

 

「知り合い、にはいないですかね?」

 

 知り合いって確か、互いが互いを知っていて、友達未満の人のことだよね? 

 1番のお金持ちの人は、僕のことをお父さんだと思ってるだろうし。

 一応お父さんもお金持ちではあるのかな? でも家族だしね! 

 僕も多少は持ってるけど、僕のことを聞いてるわけじゃなさそうだし! 

 

「そう〜? 残念ね〜」

 

「ミナ、金しか興味ない」

 

「お金は大事よ〜?」

 

「そんなもの、力、あれば不要」

 

「いいえ〜力なんてあったって〜お金の前には無力よ〜世の中〜お金が全てよね〜」

 

 あれ? 二人の間に火花が見える? 気のせいかな? 

 

「力、あれば、お金簡単、取れる、逆、無理」

 

「いいえ〜お金さえあれば〜強い冒険者に依頼を出すことも〜優秀な護衛を雇うことも〜容易だし〜力よりお金よ〜」

 

「自分、強ければ、不要」

 

「強くなるにしても〜お金さえあれば、有能な教師を雇って自分磨きもできるし〜優れた武器防具を買うことだって〜できるわ〜」

 

「無駄、力が全て」

 

「お金が全てよ〜」

 

「力」

 

「お金〜」

 

 力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金、力、お金。

 

 馬車には2人の声がずっと響いている。

 

 僕が会話に入る余地がない! 

 

 馬車は揺れながらゆっくりと進んでいった。

 

 父親視点

 

「そう言えば、最近息子を見ぬな、娘よ、息子が何処にいるか知らぬか?」

 

「にぃー?」

 

 最近娘は言葉を覚えた。

 だが、私には娘の言葉がよくわからぬ。

 妻や息子は完璧に理解出来ているそうだが……

 だが、流石に私でも今の言葉はわかる。

 

 ビーと、言ったのであろう。

 息子は自らの名を語らぬ、基本的に語るのは略称だ。

 既にその名に見合う実力を兼ね備えているというのに、なぜ名乗りを渋るのかは私には分からぬ。

 

「ああそうだ、びーさん、などと名乗っておる息子のことだ、どこに行ったかわからぬか?」

 

「おーくのーおやぅめー!」

 

 ……随分猟奇的な娘に育ってしまった。

 唐突にオークの親が美味いと叫ぶとは、何処で教育を間違ってしまったのか。

 

「……そう、か」

 

 やはり、まだ娘との会話は難しいか。

 今度妻が帰ってきたら、猟奇的に育っていることも含めて娘の教育に関して話をしよう。

 

 しかし、暇だ。

 ここ最近はお役目がめっきり減った。

 我らの役目が無いことはいいことではあるのだが。

 

 王家より家名を頂いている手前、お役目が無くていいのかという懸念点はある。

 だが、我が家名の元となった使者が、最近は全く現れぬ。

 つまり良い、ということなのであろう。

 

「平和だな」

 

 昔は考えることもなかった、平穏。

 少し退屈で、しかしそれ以上に心休まる長閑な、のんびりとした雰囲気。

 

 それは、なかなか良いものだった。

 

「お前もそう思わないか? ワールドよ」

 

「うー? いいー!」

 

「ふっ、まだ幼き娘には分からぬか」

 

 しかし、世界の名を与えた娘が、無垢に、無邪気に育っている。

 

「世は安泰、だな」

 

 …………………………いや、

 

「猟奇的だったな」

 

 オークの親うめぇ、は…………まあ、よいか。

 



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第3話 12日目

 12日目

 

「2人はどうしてリースティユルに行くんです?」

 

 馬車に揺られながら聞いてみた。

 リースティユルまでは馬車で3日くらいかかるらしい。

 あと2日かな? 

 まだまだ時間はあるから2人とお話ししよう! 

 

「……」

 

 リステライカさんには無視された! 悲しい! 

 

「ん〜そうね〜リースティユルに行くのは〜リスちゃんの望みだからかな〜」

 

「そうなんですね」

 

「そうそう〜そこにいけば〜噂のルリビタキに〜会えるんじゃないかな〜ってね〜」

 

「ルリビタキ?」

 

 あれ? どこかで聞いたような? なんだったかな? 

 

「ルリビタキ、王国の秘密兵器って噂」

 

「それがどんな人なのか〜団体なのか個人なのか〜男なのか女なのか〜一切不明の存在ね〜」

 

「そうなんですね」

 

 んー、聞き覚え、あるんだけどなールリビタキ、なんだったかなー? 

 

「雑魚王子の功績、殆ど偽物、裏にそれいる」

 

「そうなんですね」

 

「噂では〜数年前にできた〜例のアビスもルリビタキが〜作ったんじゃないか〜て言うのもあるのよ〜」

 

「西方の山、一夜で谷に、それもルリビタキ」

 

「そうなんですね」

 

 もうちょっと、頭のここまで出かかってるんだけど、うーん? 

 

「王国の秘密兵器なら〜大規模な災害とか〜そういうところに行けば〜見つけられるんじゃないかな〜ってね〜」

 

「男なら子供作る、女なら戦う」

 

「そうなんですね」

 

 引っかかってる、うーん……あああー! 思い出せそうで思い出せないの辛い! 

 

「聞いてる〜?」

 

「あ、はい聞いてますよ」

 

 多分! 聞いてはいたと思う! 何も覚えてないけど! 

 

「で〜、あなたは〜何しに行くの〜」

 

「あ、僕です? 僕は旅です! 主人公は色々な場所に旅するものらしいですからね!」

 

「貴方、モブ」

 

「え? 僕主人公ですけど? 昨日のゴブリン襲撃イベントもこうやって日記に書いてますし!」

 

「主人公で〜日記〜イベントって言ったら〜マグレインの冒険手記かしら〜」

 

「あ、知ってます!? 僕はその主人公が好きで!」

 

「私は商人の〜」

 

「最強の魔術師が」

 

 僕達は同じ物語について語り合った! 

 

 

 

 

「大金で相手を黙らせるあのシーンが〜本当に爽快で〜♪」

 

「剣での鍔迫り合い! 切った張ったの大立ち回り! ああいうのが本当にかっこいい!」

 

「集団戦、主人公、無力、単体集団両対応魔術師、最強」

 

「えー? 魔術師は神竜の長にぼろ負けしてたじゃないですか! その点主人公は神竜の長を切り殺してるんですよ! 1対1最強! 主人公はすごい!」

 

「ゴブリン軍団すら対応できない主人公、ザコ、魔術師居なければ村滅んでた」

 

「えー? でも魔術ってそんなに面白く無いですし、強いのは認めますけど楽しくない!」

 

「才能ない僻みウケる」

 

「そもそも〜お金があれば解決できる問題を〜わざわざ武力に頼るのは〜野蛮よね〜」

 

「戦闘で逃げる商人、ゴミ無能」

 

「確かに! かっこ悪い!」

 

「あれはそもそも〜お金に理解のない主人公の〜」

 

 僕達はこうして語り合い仲良くなった! 

 

 

 

 夜。

 

 星って、凄いよね。

 キラキラ輝いていて綺麗だし、強いし! 

 数が少ないのだけが難点かな? 

 

 っと、これは今は関係ない話だった。

 

 あー、星が綺麗だなー。

 輝く星の光を浴びる青い鳥も綺麗だ。

 

 ……あー! 思い出した! 今日引っかかってたやつ! あー! お前か! 

 スッキリした! 

[緊急]北方ダイサイザイにて神竜族と思われるドラゴン集団の侵略を確認、現任務は破棄し、至急討伐を依頼する、周囲の被害は問わない、迅速な対応を求む

 13日目

 

 明日にはリースティユルに着く見たい! 

 それまでリステライカさんとミーナライカさんと沢山話すぞー! 

 

「……すぅ」

 

「……んっ」

 

 と、思ったけど、2人とも寝ちゃってる……

 

 昨日夜遅く、いや朝まで近くの森を走り回っていたらしい。

 昨日すれ違ったけど、僕は普通に馬車で寝ちゃった。

 何やってたんだろう? 鬼ごっこかな? 僕もやればよかったなー。

 

 起こすのも悪いし、今日はのんびりかなぁ。

 

 ……暇だなぁ。

 この後の予定もなくなっちゃったし、どうしよう? まあ、リースティユルには行けばいいかな。

 

 ……暇ー。

 急にすけすけふわふわとかバサバサパタパタとか襲いかかってこないかなー。

 いや、バサバサパタパタは昨日倒したしまあいいか。

 

 アッチッチにょろにょろとか、カチコチピチピチとか、マルマルぶーぶーと、か、ピカピカしゃーとかでもいいよ! 

 

 最近食べてないから久しぶりに食べたい! 

 あっ、今はやめたほうがいいかな? 今度取りに行こっと。

 

 イベント来ないかなー? 暇だよー? 暇すぎて死んじゃうよー? 

 もうマジカルマジマジ以外ならなんでもいいからこないかなー? 

 

 何かイベント起きないかなー? 

 

 ……暇だぁ。

 

 

 

 

 

 1日前 夜 ミーナライカ視点

 

 お金が欲しい。

 それは子供の頃からずっと抱き続けている、私の欲であり、根幹だ。

 子供の頃、お金がなかったから、父も母もいなくなってしまった。

 ずっと苦しい思いをし続けた。

 だからこそ、私はお金を求める。

 いつか子供を産んだ時に、子供に私と同じ苦労をさせない為に。

 

 本当なら、私は商人になりたかった。

 でも、私には商才なんてものは無くて、あるのはこの恵まれた体だけ。

 だから戦士なんてものをやっている。

 体が傷つくかもしれない戦士は、本当にやりたくないのだけれども、仕方ない。

 

 私の持っているものの中で、1番高く売れるのは何か? 

 それは、私自身だ。

 お金持ちに私を売り込んで、結婚することが、1番お金が手に入る。

 だから私は冒険者になって、ランクを上げて、地位を高めて、自らの付加価値を上げている。

 

 リスちゃんとは違って、私は自分磨きを忘れない。

 おしゃれにもお肌にも、異性に好かれる為に、そこにお金と労力は惜しまない。

 肌に傷が残らないように、高いポーションも常備している。

 

 言葉遣いだって、男性は女性に母性を求めるものと聞いてからはゆったりと話すようにしているし。

 

 ……お酒の席は例外よ? 

 

 だから本来は夜更かしなんてする気はなかった。

 けど。

 

「リスちゃ〜ん、待ってよ〜」

 

「絶対、いる!」

 

 私は夜の森を駆けていた。

 

 

 

 少し前の話。

 

 夜、私は小腹がすいて、寝床になっている馬車を抜け出した。

 

 そしたら、リースティユルまで一緒の馬車に乗っているビー君が、青い鳥を錆びた剣に乗せて、近くの森の方を眺めながら小声で何かをつぶやいていた。

 

 どうしたのだろう? 

 私は声をかけてみた。

 

「……ブルー「ビー君〜?」あ、ミーナライカさん、どうしたんです?」

 

 私が声をかけると、青い鳥は飛び立っていった。

 

「こんな時間に〜何をしてるのかな〜」

 

 ビー君はまだ幼いように思う。見た目は12才から15才くらいかな? リスちゃんと同じくらいって感じだ。

 まあ、見た目をいじる術や、成長が遅い種族なら、もっと歳をとっていても不思議ではないけれど。

 でも言動や態度的に、かなり若いと思う。

 

「ああ、いえ、ちょっと掃除に行こうかなと」

 

「掃除〜?」

 

 掃除? 何かの暗喩だろうか? 

 ……あー、そういえば、トイレに行く事を、掃除しに行くって言っている人もいた気がする。

 そういうことを言うのが恥ずかしい年頃なのかな。

 

「あ〜そうね〜気をつけていってらっしゃ〜い」

 

「行ってきます!」

 

 そう言って、ビー君は森の中に入っていった。

 

「……化・が……レイ…………」

 

 どうしよう? ついていったほうがいいのかな? 

 まあいいか。

 お金持ちならついていって、じ〜っくり見守ってあげても良かったけど。

 そうじゃないからね。

 

 さて、食事をとりましょう。

 幸いなことに私は食べてもお腹に肉が付きにくい体質をしているみたいだから、よっぽど食べすぎなければ問題ない。

 

 まあ、街の中でもないから、味気ない食事ではあるんだけどね。

 

 じゃあ、いただきます。

 

 

 

 

 

「ミーナ」

 

 しばらく食事をしていたら、リスちゃんも起きてきた。

 

「あら〜リスちゃんも食べるかしら〜」

 

 お腹が空いたのかしら? 

 

「うん」

 

「じゃあ〜一緒に食べましょうか〜」

 

 リスちゃんとは結構長い付き合いになる。

 私とリスちゃんの関係性は、保護者兼姉変わりと行ったところか。

 

 私とは少し事情が違うけど、リスちゃんも天涯孤独の身。

 魔物に襲われて、村が壊滅、その村の唯一の生き残りがリスちゃんみたい。

 

 リスちゃんが助かったのは、偶然通りかかった人物に救われたかららしい。

 

 それが誰かとかは全く思い出せないみたいだけど。

 

「はい、リスちゃ〜ん」

 

「……」

 

 私とリスちゃんが出会ったのはその後の……って、あれ? 

 

 リスちゃんが固まって動かなくなってしまった。

 

「どうしたの〜」

 

「嘘……ありえない……」

 

 リスちゃんは目を見開き、私の背後の森の方を見ている。

 森に何かあるのかしら? 

 

 しかし、振り返っても森があるだけだ。

 特に何かあるようには見えないが。

 

「何かあったの〜?」

 

「……見え、無い? ……」

 

 リスちゃんには何か見えているのだろう? 

 何らかの魔法? 私には魔法の才能が少ししか無いからよく分からないが、リスちゃんが驚いていると言うことは、何か相当すごいものなのだろうか? 

 少し警戒心を上げておこう。

 

「ありえない、魔力ない? ……なぜ? ……光の柱、召喚、いや、招来? 何を? ……極位、天位、いや、神位魔法の可能性すら、なのに……私の眼でも……もう1回? 2度目も同じ……いや、あの目しか見れない? 幻惑? 幻影? 隠蔽? ……いや……三回目?」

 

 リスちゃんが珍しく饒舌に独り言をつぶやいている。

 リスちゃんでも解析できない事態と言うことは、かなりマズイかもしれないと言うことだ。

 

「……うぅっ」

 

 リスちゃんが急に片目を抑えてうずくまってしまった。

 

「リスちゃん!? 大丈夫!?」

 

「この光景……どこかで……ぐっ……何、これ……目に……目が……うう……行かなきゃ……いる……あそこにきっと!」

 

 そう言って、片目を抑えたリスちゃんは森の中に向かって走り出した。

 

「あれ? どうし「邪魔!」ぐえっ」

 

 森から出てきたビーくんを突き飛ばしながら。

 

「リスちゃん待って〜」

 

 突き飛ばされたビーくんはポカーンとしていて可哀想だけど、今はリスちゃんを追いかけないと! 

 

 

 

 

 

「2人とも慌ててどうしたんだろう? ま、いっか、掃除も終わったし、寝ようかな」

 

 

 

 

 

 深夜の怪しげな雰囲気が漂う森の中、私はリスちゃんを見失わないように、なんとか追いかけている。

 

「リスちゃ〜ん、待ってよ〜」

 

 底力というやつかしら、普段ならとっくに体力が切れているはずなのに、未だにリスちゃんの速度が緩まる気配がない。

 その小さい体を生かして木々の間をスルスルと走り抜けている。

 体力は私の方が多いのに、全然追いつけない。

 

 それでも見失うことはなく、しばらく追いかけていると、急にリスちゃんの動きが止まった。

 

 体力の限界かとも思ったが、違った。

 そこには、リスちゃんだけではなく、もう一人、別の人物が立っていた。

 背中に無数の武器を背負う鎧武者、顔は鬼の仮面で隠れており見ることができないが、身長は2メートルほどあり、とても厳つい、怖い雰囲気を持つ人物がいた。

 

「貴殿らが、ブルーバードか?」

 

 ブルーバード? なんの話だろうか? 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

 リスちゃんは息が上がっており、返事する余裕もないようだ。

 状況がわからないが、私は咄嗟にリスちゃんを庇うように前に出た。

 

「ようやく見つけたぞ」

 

 そう言うと、鎧武者は背中の武器ではなく、腰に下げた刀をゆっくりと引き抜いた。

 

「っ!」

 

 この人、強い! 

 刀を引き抜いた瞬間、強烈な存在感が襲いかかってきた。

 この人は私一人では到底太刀打ちできないほどの強さを持っている。

 

 戦うのは本気で避けたいレベルだ。

 

 だけど、状況がそれを許してはくれなさそうだ。

 威圧感が凄まじい。

 こちらを逃す気はかけらもなさそうだ。

 

 やるしかない。

 

 私は盾を構える。そして、直ぐに魔法を使えるようにゆっくりと魔力を浸透させていく。

 

 相手は格上、けど、私の盾は格上にも通じる。

 これほどの敵だ、私の攻撃は効かないだろう。

 でも、防ぐだけなら出来る。

 私が全ての攻撃を防いで、リスちゃんが全てを薙ぎ払う。

 そう、いつも通り、私は私に出来ることをやるだけだ。

 

 チラリと横目でリスちゃんを見る。

 まだ息は上がっているけど、戦えないほどじゃない。

 

 攻撃は全てリスちゃんに任せて、私は防御に専念する! 

 

「我が名は、クリーゼ」

 

 鎧武者の鬼の面の奥の眼の光が妖しく輝いた。

 

「この刀に!」

 

 そう言うと、鎧武者は刀を掲げたまま、こちらに突っ込んできた! 

 

 そして、私の盾にも魔力が浸透しきり、魔法の待機状態は完了した。

 この魔法は瞬間的な盾の超強化、そして強力な吹き飛ばし効果を付与する魔法。

 発動が早すぎても遅すぎても効果を成さない。

 

 相手の攻撃に合わせる必要がある為、扱いはかなり難しいが、その分燃費と効果はかなり良い。

 私が唯一使える魔法だ。

 

 もう少し、ギリギリまで引き付ける。

 鎧武者が、目前に来るまで、逸る心を抑えつける。

 

 焦るな、焦るな……今だ! 

 

「フォートレス!」

 

 私の盾が光り輝き、私を魔法が発動した。

 

 だが。

 

「……!?」

 

 タイミングは、完璧だった。

 剣の間合いに入った瞬間に、フォートレスを発動させた。

 しかし、敵は未だに剣を振ってこない。

 

(タイミングをずらしてきた!?)

 

 鎧武者は目前で急停止した。

 フォートレスの発動を読まれたのだろう。

 

 普段は魔物専門な為、対人戦の経験は少しばかり薄い。

 だからこそ、このフェイントに対応できなかった。

 

(マズイ、魔法が……き、れ……)

 

 フォートレスが、解除された。

 

 そして…………

 

 

 

 

 

 

「サインください!」

 

「……え? ……人違いです〜」

 



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第4話

 14日目

 

 街が見えてきたぞー! 

 

「またのご利用をお待ちしておりやすぜ!」

 

 御者のおじさんとは門の前で別れた。

 なんか面倒な手続きが色々あるんだとかで。

 僕たちは身分証を見せればすぐ入れるけど、大変そうだなー。

 

「じゃあ街に入ろう!」

 

 門番の所で並んで手続きをする。

 門番の人は金髪のカッコいい若いお兄さんだ。

 まずはミーナライカさん。

 

「次! でっ……コホン……おお、金級冒険者か、通ってよし!」

 

 次はリステライカさん。

 

「次! ……おお、金級冒険者か、若いのにすごいな! 通ってよし!」

 

 次は僕! 

 

「次! ……ん? なんだこれは?」

 

「あ、はい」

 

「私は身分証を出せといったのだが? なんだこの子供の落書きみたいなものは? こんなものを出せなどいってないぞ! 後ろにも人がいるんだ、早くしろ!」

 

「いや、あの、あ、はい」

 

 大丈夫かな、この人。

 それは置いておいて、どうしよう? これが使えないとなると、他の身分証……あ、そういえばこれがあった! 

 

「あの、これ」

 

「ふむ、冒険者証か、最初からそれを出せばいいものを……屑鉄級か、ならば色々と手続きが必要だ、こっちに来い!」

 

 あれ? ミーナライカさんとかリステライカさんはいいのかな? 

 

「あの、2人は」

 

「あん? 金級なら門はフリーパスだ、冒険者としての信用があるからな、だがお前は屑鉄級だ、冒険者ギルドで最低限の講義とテストを受かるだけでなれる屑鉄級に、信用なんてものはない」

 

 講義? テスト? なんのことだろう? 

 

「今この街はちょっと問題ごとが起こっている、金級冒険者が来てくれるのは素直にありがたいが、問題があるからこそ、余計に変な奴を入れるわけにはいかない」

 

 精霊関係かな? 

 これからアクアエレメンタルも来るみたいだし、大変そうだよね。

 

「だからお前はこっちだ、それともあの2人が身分を証明してくれるのか? それなら」

 

「ここでお別れね〜じゃあね〜」

 

「じゃ」

 

 そう言って、ミーナライカさんとかリステライカさんは街に入っていった。

 

「じゃあねー! またねー!」

 

 仲間になってくれなかったのは残念だけど、旅は、出会いもあれば別れもある! 

 また再開した時に、今度こそパーティメンバーになってもらおう! 

 

「……捨てられたんだな、ドンマイ」

 

「?」

 

 急に門番の人の雰囲気が柔らかくなった。

 どうしたんだろう? 

 

「俺も餓鬼に何イラついてんだか、大人気ねぇ、はぁ、まあいい、おい! リュウザキ!! 俺はこいつの手続きをしてくる! 後は任せたぞ!」

 

「へ〜い」

 

 

 

 

 門番の人は机の上の書類をパラパラめくりながら、僕に質問をしてくる。

 

「念のため手配書も再確認しておくか……ま、大丈夫だな、さて、色々と質問に答えてもらうぞ」

 

「はい!」

 

 ワクワク! こういうの体験したことないから楽しみ! なんか取り調べ見たい! 

 

「まず名前は?」

 

「ビーです!」

 

「……この街に来た目的は?」

 

「旅です!」

 

「……子供が旅か、まあ、いい、どれくらい滞在予定だ?」

 

「気が向くまでです!」

 

「……具体的にはどのくらいだ」

 

「未定です!」

 

「……長期か短期か」

 

「短期です!」

 

「……ああ、で、お前の故郷は?」

 

「ライトクラスターです!」

 

「いや、国の名前じゃなくてだな、村とか街とかの名前だよ」

 

「村です!」

 

「……村の名前は?」

 

 そう言えば、あの村って名前あったっけ? 知らないや。

 

「知らないです! 村って呼んでます!」

 

「……ふむ、ここからどれくらいだ?」

 

「どれくらい? 急げば大体10分です!」

 

 歩けば20日くらい? 

 

「近いな、そのくらいに村があったか? ……ああ、そうか、よし、次、お前、金は持ってるよな?」

 

「はい! 持ってます!」

 

「こういう街に入るには、街の住民か、高位冒険者か、貴族などのよほどの身分を証明されたもの以外には、手形をここで買ってもらうことになっている、この街で問題を起こさず、街から出るときにここに手形を返しにこれば、9割は返す、1割は手数料だ」

 

 へーそうなんだ! 

 

「はい!」

 

「当然、問題を起こせば返金はないぞ、犯罪を犯したなら、手配書に記載されて他の街にも回される、注意しろよ」

 

「はい!」

 

「因みに、手形がどのくらいの値段か知ってるか?」

 

 いつも普通に通れてたからしらないや。

 どれくらいなんだろう? 

 

「知らないです!」

 

「そうか、知らないか……ニヤリ」

 

 え? もしかしてすごい高いのかな? 足りなかったらどうしよう? 1億ゴールドくらいしか持ってきてないけど。

 

「この手形はな……なんと……なんと」

 

「なんと?」

 

 すっごいためる! 

 

「なんと! ……100万ゴールドだ!」バァーン! 

 

 あ、よかった。そのくらいなら大丈夫だね。

 

「はい!」

 

 僕はポケットから財布を取り出して、そこからお金を出した。

 ジャラジャラジャラジャラ!!! 

 

「ってのは当然冗だうぇぇぇ!?!?」

 

 これで100万ゴールドかな。

 

「ま、待て待て待て待て!」

 

「はい! 待ちます!」

 

 沢山待って欲しいみたい。

 いやー、正規の手段で街に入るのは初めてだけど、色々聞かれるんだなー。

 

「いや、あの、あ、え、あ、お、あ」

 

「大丈夫です?」

 

「大丈夫じゃない、全然大丈夫じゃない!」

 

「あれ? 足りなかったかな?」

 

 ジャラジャラジャラ。

 

「違う! そうじゃない! やめろ! やめてくれ! 待って! 頼むから!」

 

「ん? はい」

 

 よく分からないけど、どうしたんだろう? 門番の人、すごい動揺してるみたいだけど。

 

「じょ、冗談だから! ジョーク!! ジョォォォォォークッ!!」

 

「冗談? やっぱり100万ゴールドじゃ足りなかったんですね」

 

 さらにお金を取り出した。

 ジャラジャラジャラジャラ。

 

「待て! 違う! 逆だ! 俺が悪かった! 茶目っ気なんて出してすまん! だからすぐにしまってくれ! 屑鉄級冒険者は1ゴールドだ! 1ゴールドで手形は買えるから!」

 

「あ、そうなんですね」

 

「やめてくれ! そんな大金見せないでくれ! 心臓に悪い!」

 

 1ゴールドで良いんだー。

 まあ、お金の使い道なんてあんまりないし、1ゴールドでも100万ゴールドでもどっちでも良いけどね。

 

 僕はお金を戻して、1ゴールドだけ残した。

 

「え? いま、どう……アイテムボックス……いや、でも、くたびれた服着て、サビサビの剣を下げた、お金持ち? ……擬態?」

 

 門番の人は考え込んでしまった。

 

「あ、あのー、も、もう一度お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

「え? ビーです」

 

「あの、家名とかはあったりしますでしょうか?」

 

「言わないとダメなんです?」

 

 あんまり名乗りたくないっていうか、術式の変更が面倒くさいっていうか。

 あ、でも名字ならいいのか。

 

「ああ! いや! いやいやいや! 結構でございます! 大丈夫でございます!」

 

 いいみたい。

 なんか急に口調が変わった、変な人だなー。

 

「ブツブツ……家名があって、お金持ちで、アイテムボックスを持ってて、擬態している常識知らず、……箱入りのお坊っちゃん……」

 

 急に貶された! というかアイテムボックスは持ってないよ! 

 流石にお父さんの部屋からアイテムボックスまで持ち出したらバレるから! 

 

「お手数をおかけしました! こちら手形になります! どうぞお通りください!」

 

「あ、はい」

 

 変な人だなー。

 

「あ、あと! 今現在は街の北部は危ない為通行禁止になっております! 近寄らないようにお気をつけてくださいませ!」

 

「はーい」

 

 進入禁止ってことは、北側で何か面白いことをやってるってことなのかな? 

 行ってみよう! 

 

 

 

 門番視点

 

 仕事も終わったし帰るか。

 

「うーん、全く見覚えないんだがなぁ」

 

 荷物を取りに行くと、書類をパラパラめくって悩ましそうにしてる先輩がいた。

 

 気にせず帰る。

 

「おさきー」

 

「お、リュウザキ! ちょうど良かった!」

 

 はぁ、先輩に呼び止められた。

 早く帰りたい。

 

「何すか」

 

「リュウザキ、この紋章に見覚えないか?」

 

 そう言って王家の裏の紋章の1つを見せてきた。

 

「あー、ないっすね」

 

 面倒そうな予感がする。

 スルー安定だ。

 

「そうか、なら、どっかの新興貴族の家紋とかか? もしくは大商人? 教会、は、違うよな、んー?」

 

 王家だよ。

 なんでしらねぇんだよ。

 門番なら知ってないとダメな情報だろ。

 

 王家の裏の紋章は何種類かあるが、それを見せられたら、何も聞かず、誰かも詮索せずに素通りさせる。

 そして後で王家に報告の手紙を出す。

 それが門番の仕事の1つ。

 

 それなのに先輩が裏紋知らないってどういうことだよ。

 

「分かった! 教養のないどっかの冒険者が適当に作った紋章だな!」

 

 王家が作った紋章だよ。

 

「だからあんな子供の落書きみたいなやつだったんだな!」

 

 王家侮辱してるぞ。

 

「たく、それにしても、どこの誰が作ったかは知らんが、ダッサイ紋章だな」

 

 お前死ぬぞ。

 

「センスってものが感じられない、これを作ったやつは、きっとまともに教育も受けてないような野蛮人だろうな! あっはっは!」

 

 どこまで敵に回す気だ? 

 王族も、王家の教育係も敵に回してるぞ。

 

「にしても、あんな大金持ってて、あんなボロい格好してるってことは、家出かねぇ」

 

 裏紋使ってるってことは、この街のウッドエレメンタルに対処するために王家が寄越したんだろう。

 

 それなのに、そんな人物に対して、先輩は色々やらかした、と。

 巻き込まれる前に逃げるか。

 どうせ、怒られるにしても先輩だろうし。

 

「お先ー」

 

「おう、気をつけて帰れよー、俺は王家に報告の手紙を送らんといかんから、少し残る」

 

 報告? 裏紋関係と別か? 

 

 ま、いっか。

 とっとと帰ろ。

 

「しーらね」



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