恋太郎のお友達(近い将来女に刺されて死ぬ) (ハッピーエンド大好きクラブ)
しおりを挟む

第一話「君のことを大好きになる〇〇人の彼女」

 

もし、もしもの話。友達が平然と二股していることを報告してきた場合、俺はどんな顔で受け止めればいいんだろうか。

その「もしも」が、「もしも」じゃなかったら。多分俺は、なんの躊躇もなく友達を殴るかもしれない。

 

事情はどうであれ、だ。でも特別な事情があるかもしれない。友達だからこそ、ここはそうなった原因を聞こう。俺は間違ってはいない。暴力に訴えるより対話をすることで相手の本質を引き摺り出す。

間違ってはいないはずだ。一旦冷静になろう。

 

なのになんで、俺は今縁結びの神社に連れられているんだ────?

 

 

「あー…………恋ちゃん?こことお前の二股の件になんの関係が…………」

 

隣にいる我が友達こと愛城恋太郎へ神社と二股の件の関係性について尋ねる。

すると恋太郎は賽銭箱へ五円玉を放り投げた。いやお願い事するためにここに来たわけじゃないと口に出そうとした時、賽銭箱からいかにもな格好をした神様らしき爺が現れた。

 

「色々省略するとこの神様のミスのせいで100人の運命の人と付き合うことになるんだ」

 

「ちょっと何言ってるか分かんない」

 

「因みに一人に絞ると残りの99人は近いうちに不幸な目にあって死ぬって」

 

「わー!お星さまが見えるゥー!」

 

「駄目だクウちゃんの脳内メモリーが容量オーバーしちゃった!!」

 

「あの……ほんとすまぬ」

 

 

 

 

俺としたことがあまりの内容の濃さに失神しかけちゃったぜ。詳しい事情を聞くに恋太郎は眼の前に浮かんでいる恋愛の神とやらの采配により、高校で100人の彼女が出来るそうな。

それは「運命の人」と呼ばれ、本来は一人に付き一人だという。

しかし神様はテレビを観ながら仕事をしていたらしく、注意散漫になったせいで恋太郎の運命の人の数を二桁多くしてしまったそうだ。

運命の人と愛し合って幸せになれなければ相手は死ぬというのに。

 

つまり、業務上起きたミスによって100人の女の子の喉元に時限式爆弾が仕掛けられたわけだ。

 

恋太郎の二股にも納得がいく。寧ろ正しい判断だと褒めてやりたい。過程はどうであれ二人の命を繋いだんだ。

 

「ちょっとまだ整理が出来てないけど、恋ちゃんが本気で100人の運命の人に向き合うってなら俺は応援するだけだよ」

 

「……………クウ」

 

恋太郎は女の子の恋心を弄ぶような男じゃない。全力で愛を示し、行動に移す漢の中の漢だ。もうこれ以上の心配事は必要ない。

残り98人の運命の人と関わることで困ったことがあれば出来る限りのことをするだけだ。

 

「しっかり幸せにしねぇとな。100人の彼女を」

 

どうせ相手側も同意の上なんだろう。だったら俺が口を挟む権利は無い。勝手に幸せになってくれればいい。

それはそうと折角の機会だ、俺にも運命の人がいるかどうか聞いてみよう。

 

「なぁ、俺にも運命の人はいるのか?」

 

途端に神様は冷や汗らしき汗を大量に流しだした。杖を握る手は小刻みに震えていて明らかに怯えた様子を見せている。

この変わりように俺は言葉を失うもなんとか喉から「い、いねぇの?」と絞り出した。

 

「い、いない………というか……おぬしが運命の人な女の子はおる……よ。けど…………そのぉ…………おぬし、は、その、とてつもない女難の相がぁ……………」

 

────じょ、女難?女難の相?

 

「女難ってあれ?女絡みで苦労する的な………」

 

「そ、そうじゃそうじゃ!おぬしは将来悪い女に引っかかるかもしれん!じゃから彼女を作る時は慎重に動くと良い!これはわしからのアドバイスじゃぞ!」

 

「おー、胡散臭いけど神様が言うとなんか信憑性あんな。分かった、気ぃ付けるよ。ありがとな」

 

もう用は済んだので俺と恋太郎は帰ることにした。女難の相があると言ってもアドバイスをもらったし、女関係で苦労することはないだろうな。

 

 

 

──────────

 

 

 

恋愛の神様は梅干しを一気食いしたときのような渋い顔を浮かべて杖を握りしめていた。

立ち去る二人の背中を見つめたまま、深く嘆息する。

 

────言えない。言えるわけがない。

 

近い将来、○○人の運命の人に囲まれ腹を刺されて殺されるなんて。

 

とてもじゃないが言えることではない。唯殺されるならまだしも、あんな結末が待っているだなんて…………神様といえど言っていいことと悪いことはある。

 

「せめて……来世では順風満帆な人生を歩めることを約束しよう。そうじゃないと割に合わんて。可哀想に…………」

 

 

 

────────合掌。

 

 

 





空星空梨(そらぼしくうり)

本作の主人公。恋太郎とは中学からの付き合い。恋太郎より身長が高く、彼曰く「とんでもねぇイケメン!ぶっ殺してぇ!」と一方的な嫉妬と殺意を向けられるほど顔立ちは整っている。
とはいうものの中学時代はすげぇ荒れていたので告白された経験は少ない。
両親とは幼い頃に死別。一度も墓参りに行ったことはない。
恋太郎のことは親しみを込めて「恋ちゃん」と呼び、彼からは「クウ」と呼ばれている。

現在は女子バレー部のマネージャーを務めている。女子バレー部………つもりそういうことだ。



次回、ヒロイン登場。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話「運命の人」

 

 

俺の名は空星空梨(そらぼしくうり)。ごくごく普通の男の子で、今現在学校へ登校中だ。友達何人かと駄弁りながらの登校もいいもんだけど、こうして一人でのんびり歩くのも悪くない。俺からしたら一人のほうが気楽でいい。

曲がり角を曲がった先で友達の恋太郎を発見した。両脇には数日前にスマホで見せてもらった例の彼女二人。

 

恋人らしく仲睦まじい姿で歩いている。手を繋いで、体を密着させて。恋太郎から幸せオーラが見える見える。

 

さて、これはどうしたものか。アイツ等かなりゆったり歩いてるからこのままだと俺が先を越してしまう。

 

恋太郎のことだ、絶対俺に声をかけるだろう。彼女のことは予め聞いているし今更紹介されても困る。

 

「よし」

 

走って通り過ぎよう。そう決めた俺はジョギング程度の速さで走り出す。

 

「………?あ、クウだ!」

 

「うげっ!」

 

恋太郎の野郎、走り出したと同時に俺に気づきやがった!

 

「「クウ?」」

 

彼女二人がこれまた同時に俺の方へ振り返る。次の瞬間、目玉をひん剥いて口をあんぐり開けてからこんなことを叫びやがった。

 

「「とんでもねぇイケメン来やがったぁ!!」」

 

絶叫に近かったな。恋太郎の野郎は腕を組んで後方保護者面しながら頷きやがる。なんなんだお前。

他人に褒められるのは嬉しいけどコイツ等二人が褒める相手は俺じゃない。そこは訂正しねぇとな。

俺が口を開こうとしたら恋太郎が「紹介するね、コイツは中学からの友達の……」と勝手に紹介を始めたのでとりあえず遮って止めに入る。

 

「俺は空星空梨。気軽にクウって呼んでくれ。アンタのことは事前に聞いてるよ。院田唐音と……花園羽香里だったよな?」

 

二人の見た目を端的に説明すると金髪ツインテツンデレ女子が院田唐音(いんだからね)で桃色ボブヘアぶりっ子女子が花園羽香里(はなぞのはかり)。個人的に花園さんの付けてる花形の髪飾りはすごく似合ってると思う。

 

「ふ〜ん……?アンタが噂に聞いてた男ね。ま、恋太郎の方が百万倍カッコいいけどね!」

 

「か、唐音……!唐音もすっごい可愛いよ!」

 

「フン!べ、別にアンタの顔が好きすぎるあまり一日中見つめてたいからとかそんなんじゃないんだからね!」

 

「欲望ダダ漏れだな」

 

二人の会話に嫉妬した花園さんはふくれっ面になりながら恋太郎に詰め寄り、自分も褒めろと促した。

なんというか、意外にも仲良くやれているようだ。

ここは静かに立ち去るとしよう。空星空梨はクールに去るぜ。

 

「待って待ってクウ!一緒に行こうよ!二人もいいよね?」

 

「いや遠慮しとく。いいか恋太郎、彼氏ってのは友達よりも彼女のことを優先しなきゃいけねぇんだぜ?目一杯イチャつきながら登校しろよ」

 

「でも………俺はクウも一緒に……」

 

「気持ちだけ受け取っとくよ。今は、彼女を最優先に考えろ」

 

後ろにいる院田さんと花園さんへ目を向ける。軽く笑いかけて、「お前らの彼氏は俺よりイケメンだよな?」と尋ねる。

 

二人はお互い顔を見合わせて、自身を持って返事をくれた。

 

「「百万倍カッコいい!!」」

 

「なら、離すなよ。恋太郎もな」

 

言葉を残してこの場を立ち去る。こっからあと98人追加されると思うとホント大変だな…………恋太郎のやつ。

 

 

 

 

 

 

立ち去る空梨の背中を見つめながら、恋太郎達は心のなかで同じ台詞を叫んだ。

 

"なにアイツ、すっげぇ男前なんだけどぉ!!!!"、と。

 

 

 

──────────

 

 

 

運命の出会いなんてあるはずない。そんなものはドラマや漫画の話であって、現実ではあり得ないことだ。

少なくとも、大御門大蛇(おおみかどおろち)はそう思っていた。身長194cmで体重74kgもある自分には。しかも根暗で見た目の割には運動神経は対して高くなく、寧ろ運動音痴の烙印を押されてる。ちょっとしたことで転ぶし、足をよくぶつけるし、声も小さいし、寂しがりやで暗闇が苦手。

極めつけは興奮するとおしっこを漏らしてしまう癖があること。なのでこっそりオムツを履いている。

 

しかし今日、大蛇の運命は大きく変わる。

 

「ゎ、ゎぁぁ………!」

 

担任の先生から頼まれていた資料を運んでいた最中、足を滑らせ階段から転げ落ちてしまった。

体は昔から丈夫なので怪我は全く無い。それより資料が吹き飛んで床に散らばってしまった。

大変だ、もうすぐお昼休みは終わるのに。急いで集めないと。

 

「おい大丈夫か?」

 

「…………ぇ?」

 

声をかけられ、反射的に顔をあげると白鳥のように美しく整った顔立ちの少年が映り込んだ。

瞬間、大蛇の全身に電流が走った。頭の天辺から足の爪先まで駆け抜ける激しい痺れ。それは一瞬で消え去り、同時に心臓がけたたましく動き出した。

顔が熱くなるのが分かる。目を離せられない。もっと見つめていたい。

 

無意識に察した。これは運命なのだと。目の前にいる少年は、自分の運命の人なんだと本能で理解した。

 

「散らかってんなぁ。これ、職員室まで運んでたのか?」

 

「ぇ?ぇと……ぅ、ぅ…………」

 

「なら俺が変わりに持ってくよ。丁度女子バレの顧問に呼ばれてるしな」

 

ささっと資料を集めた彼は「一応保健室に行っといた方がいいと思うぜ。じゃあな」と行ってしまった。

大蛇は待ってと声をかけようとしたが、如何せん声は小さく彼には届かなかった。

 

 

胸の中には彼に会いたい気持ちで溢れている。そういえば、彼は女子バレの顧問に呼ばれていると言っていた。

つまり女子バレー部のマネージャーか何かをしているのだろう。

大蛇は胸に手を当て、ぎゅっと握りしめる。

 

 

この日、大御門大蛇は女子バレー部に入部することを決めた。

 

 

────極度の運動音痴なのに。

 






大御門大蛇(おおみかどおろち)

ヤベェ女。




次回「蛇神降臨」


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。