デート・ア・サバイブ (亜独流斧)
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序章
最後の修正


まだデートのキャラは名前やイメージでしか出ません。
それにしても士郎さん、めっさいい人みたいになった…

ちなみに好きなライダーは王蛇ですが…デートの世界に出していいものか…


神崎士郎は、先程まで見ていた光景を思い出していた。

 

「それにしても、今日は天気が悪いね。吾郎ちゃんの顔が、見えないや…」

仮面ライダーゾルダ・北岡秀一

 

「先生…また美味い物買って…帰ります…」

同じく仮面ライダーゾルダ・由良吾郎

 

「何故だ…何故だ…何故だ…何故だあ!……うああああああああああ!!」

仮面ライダー王蛇・浅倉威

 

「さっき思った。やっぱりミラーワールドなんて閉じたい…闘いを止めたいって…。きっとすげえ辛い思いしたり、させたりすると思うけど…それでも止めたい…。それが正しいかどうかじゃなくて…オレもライダーの一人として…叶えたい願いが、それなんだ……」

仮面ライダー龍騎・城戸真司

 

 

現在士郎は13番目のライダー・オーディンを、仮面ライダーナイト・秋山蓮と戦わせていた。

 

「戦え…戦え…」

 

もう何度繰り返したのか分からない台詞が、士郎の口からこぼれる。

しかし彼はもう気づいている。妹は、神崎優衣は、新しい命を受け取らないであろうということに。

そして、そのことをハッキリと意識したとき、ナイトと戦っていたオーディンは消滅した。

 

「最後に残ったライダーは、お前だ…」

 

その一言と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「またダメなのか…優衣…」

 

彼の脳裏に、以前投げかけられた言葉が響く。

 

(優衣ちゃんは新しい命なんていらないって言ってんだよ!お前、兄貴のくせにそんなこともわかんないのか!)

 

(もういいよ…お兄ちゃん…)

 

士郎は暫しの間目を瞑り、そして…再び目を開けた時には答えを出していた。

 

「分かった…優衣。お前は…何度繰り返しても、新しい命を受け取ろうとしなかった。そしてそれは、この先も変わらないだろう…。」

 

今まで、決して認めようとしなかった結末、すなわち優衣の消滅。それをようやく受け入れた彼の顔は、悲しみと苦しみで染まり切っていた。しかしその一方で、その表情には迷いも後悔もなかった。

 

「ライダーの戦いも終わりにしよう。お前の望む…二人だけじゃない…みんなが幸せになれる世界を描こう…」

 

(ありがとう、お兄ちゃん…)

 

頭の中に優衣の声が聞こえる。もう妹の存在が完全に消えかかっていることを感じ、士郎の目からまたも涙が溢れそうになる。

 

「だから、そのために…もう一度だけこれを使うことを、許してくれるか…優衣」

 

その手にはオーディンのデッキが握られている。

 

「お前は…俺たち二人だけの世界ではなく、みなが笑顔になれる世界を望んだ。なら俺が最後にできることは、兄として…お前の願いを叶えることだ」

 

士郎の脳裏には、ある少女たちの姿が浮かんでいた。

 

「今まで、お前以外のことは取るに足らないことだと思っていた…。だが、こうなった今…俺はあいつらを放っておくことはできない。(おまえ)の願いのためにも、俺が今までしてきたことへの償いのためにも…」

 

彼は()()()()のことを、ミラーワールドの研究を進める途中で知った。

 

(お兄ちゃんは、やっぱり優しいお兄ちゃんのままだったね…)

 

彼は、ミラーワールドを経由して()()()に行けることを発見した。ただ、ミラーワールドの優衣や、リュウガとなったミラーワールドの真司もそのことと関係があるのかまでは分からなかったが…

 

「ありがとう…優衣」

 

彼は、何度か彼女たちを見ていた。何度繰り返した世界でも、彼女らのほとんどが、士郎と同じように苦悩を感じていた。

世界から拒絶され、絶望していた少女。他人を傷つけないために、自分が傷つき続けていた少女。大好きな相手のために、その相手と傷つけあい、自分の命を捨てようとしていた少女たちなど。

 

「変身」

 

あちらでは一人の少年が、彼女らを救うために行動していた。しかし…士郎は何度も失敗した姿を見ていた。

 

「五河士道、もうお前にも精霊たちにも絶望を感じさせはしない。…とは言え、実体の無い俺が力を貸すことはできない。だから……」

 

(真司くんたちなら大丈夫だよ、お兄ちゃん)

 

「…ああ」

 

士郎ことオーディンは、一枚のカードをゴルドバイザーにセットした。

 

『TIME VENT』

 

そして世界は戻り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蓮…お前がオレにそんな風に言ってくれるなんてな。お前はなるべく生きろ…って、ん?」

 

目を覚ました城戸真司は、いろいろと違和感を感じた。まず、自分は確かレイドラグーンとの戦いで少女を庇って致命傷を負い、戦闘の後に死亡したはずであった。

もし仮に一命を取り留めていたんだとしても、分からないのはもう一つの変化であった。 

 

「なんでオレ、子供になってるんだ…?それもこんな小学生みたいに…」

 

今まで見てきたことは全て夢だったのだろうか。確かに以前、蓮、北岡、そして異常に心の綺麗な浅倉と、見知らぬライダーと共闘したと思っていたら、夢だった。あの時のように、自分はまた長い夢を見ていたのか。

しかしそのような記憶があること自体、自分の今まで体験してきたことが夢ではないという一つの証拠となりうる。

その上、彼のそばには見慣れたカードデッキが落ちていた。

 

「やっぱ夢じゃない。てか、なんで燃えてるんだ?」

 

確かに彼の最後の記憶では、レイドラグーンの襲撃により、町のいたるところに火や煙が出ていたが…

 

「こんなに大火事だったか?オレ寝ぼけてファイナルベントでも使ったかなぁ?」

 

わけのわからない状況が重なり過ぎて、そんな意味不明なことまで考えてしまう。

 

「一体何が起きてるんだよ…あっつ!」

 

しかし、真司のそんな反応も仕方のないものだった。そこは天宮市と呼ばれる、真司の知らない場所であり、その火事は天宮市の大火災と呼ばれる、真司の知らない事件だった。

 

つまり、真司が今いるのは、真司の知らない別の世界であった。




なんかデートへの移り方が強引ですみません。ついでに、この作品では、冷静に読んでいくと、時系列が矛盾する・あるいは登場人物たちの年齢がおかしくなってしまう部分がでてきます。例えば龍騎の世界は本来、どう考えてもデートの世界より昔(公式には龍騎は2002年)なのに、タイムベントで未来から真司が来たりしている点などです。また、真司は士道とタメかいっこ上にするつもりですが、真司の本来の年齢が23歳のため、タイムベントした年数に矛盾が生じてくる場合があります。
こういった点につきましては、
・この物語ではデートの世界の数年後が龍騎の世界
ということだけご理解頂ければ、あとは独自に解釈していただいて構いません。
(士郎が意図的に行った特殊なタイムベントだった、龍騎の世界とデートの世界で時間の流れ方に若干の違いがある、等)
ただ、実際のところ、そこまで意識する必要はないのですが…念のため


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もう一つの誕生秘話

デート・ア・ライブのキャラが登場します。まだほとんど喋ってないですが…。
ちなみにサブタイトルは龍騎第一話のサブタイトルと、精霊イフリートの誕生をかけてます



「あち、あちち!マジでこれ死ぬって!」

 

真司がいたのは普通の住宅街だった。とてつもない業火で辺り一面が覆われていること以外は…。

このままでは炎に焼き尽くされてしまうと判断した真司は、鏡を探した。この子供の体で、この見知らぬ場所で、変身できるかは分からないが、何もしないよりはマシだと真司は判断した。

 

「あ!あった!」

 

真司は燃えている家の中に、割れた窓ガラスを発見した。幸い自分の姿は映っている。つまり、鏡として機能するということだ。

真司はデッキをかざし、構える。すると鏡に映る自分の腰に、見慣れたベルトが現れる。同時に、実体の自分の腰にもベルトの巻き付く感覚を感じる。

 

「小学生サイズにも調節してくれんのか…ホントどういう原理なんだろ。あとライドシューターはどうなんのかな…まあいいや。変し……」

 

(おにーちゃん…おにーちゃん…!)

 

そのとき、少女のものと思われる泣き声が聞こえた。

 

「な!?まだ人がいるのか?」

 

真司は声のする方へ向かおうとする。しかし、その行く手に『何か』が立ちふさがる。それは、ノイズのようで、姿を認識することができない。しかし、確かにそこに存在していた。

 

「なんだお前!この火事、さてはお前の仕業だな!」

 

【確かに力を与えたのは事実だ。だが、それを制御できなかったのは彼女さ。もっとも、力は封じられた…じきに火も収まるだろう】

 

「このやろー!やっぱりお前の仕業か!やい、この火どうにかしろ!」

 

【……きみ話聞いてた?】

 

むろん話など聞いていなかった真司は、『それ』をどうにかして倒す、あるいは捕まえることを考えていた。だが…

 

【それにしても、きみは…普通の人間とは少し違う気がする。でも、きみ自体から特殊な霊力を感じるわけではない…。一体何者だい?】

 

その言葉と同時に『何か』の手(実際には認識できないので手か分からなかったが)が真司に迫る。真司は身構えたが、結果的に『それ』が真司に触れることはなかった。

先程の窓ガラスから飛び出した存在が、二人の間に割り込んだからである。

 

【ほう…こいつは…】

 

猛々しい雄叫びをあげながら現れたのは、無双龍・ドラグレッダー。非常に荒い気性と、高い戦闘能力を兼ね備えた、龍騎の契約モンスターである。

 

【成程…()()()から時折現れる怪物に、その怪物の力を借りる人間。まさかこんな形で出会えるとはね】

 

『何か』は実に興味深そうな様子だったが、真司にはなんのことかさっぱりだった。

 

「向こう?何の話だよ!」

 

【知りたい?なら、教えてあげる。その代りに、きみの力についても教えて…】

 

(その必要はない)

 

突如、その場にはいないはずの第三者の声が響く。真司が先程のガラスに目をやると、そこには神崎士郎が映っていた。

 

「神崎!?」

 

「その通りだ龍騎、いや、城戸真司」

 

【きみは…あちら側の支配者かな?】

 

『何か』は士郎に問いかける。

 

「お前の言うあちら側というのが、俺の考えているものと同じ(ミラーワールド)ならば…その通りだ。そしてお前に教えることも、教える必要もない…」

 

【ふうん…それは残念だ。ならこの辺で失礼するよ。あの子は霊結晶を受け取り、灼爛殲鬼(カマエル)の力を手に入れた。そして彼はその力を封じ込めた…。目的は果たせたよ】

 

そう言って『何か』は姿を消した。突然の急展開に、真司は暫しの間放心していたが、思い出したかのように士郎の方へ向き直る。

 

「神崎!一体あいつは何なんだよ!それにオレの体とか、この大火事とか…」

 

と、そこまで言ったところで、真司の頭の中にあの聞き慣れた音が聞こえる。キィン…キィンと響くその音は、ミラーモンスターの出現を知らせるものだった。しかし自分のそばのガラスには、自分の姿と士郎しか映っていない。

 

「まさか…」

 

「城戸真司。詳しい説明は後でする。お前も気づいている通り、外に一組の兄妹がいるがモンスターに狙われている。彼らを救ってくれ。」

 

「ああ!勿論…え?」

 

その言葉に真司は思わず固まってしまう。何故なら真司の知る士郎は、妹の優衣のことしか見えておらず、そのために誰が犠牲になっても気にしないような男だったからだ。その上、ミラーワールドの支配者でもある彼なら、真司に頼む必要もなくモンスターを止められるはずだった。

 

「説明は後だ。今は時間がない。ひとつだけ伝えておくと、同じミラーワールドでも、俺はこちらの世界に近い場所、つまり今現れているモンスターたちは支配することが出来ない。加えて、訳あってオーディンの力も使えない。」

 

「それって…」

 

「今あいつらを助けられるのはお前だけだ、城戸真司。頼む…」

 

自分の知る士郎とのあまりの違いに真司は戸惑うが、すぐに切り替える。

 

「わかった…いや全然わかんないことだらけだけど、お前のこと信じるよ。それにオレは、人を守るためにライダーになったんだ!言われなくても助ける!」

 

「…恩に着る」

 

「その代わり、後で全部ちゃんと説明しろよ!」

 

と、そのとき先程の少女の悲鳴が聞こえた。

 

「まずい!捕食のために外へ出てきた!」

 

その言葉を聞いて、真司は声のした方へ急ぐ。

 

「間に合ってくれよ…。あれか!おりゃああ!」

 

間一髪、怯える兄妹と、それを捕食しようとしているモンスターを発見した真司は、走ってきた勢いで体当たりを仕掛ける。

体が小さくなっていたので、大人の体で放つそれより威力は当然低い。だが、完全に兄妹に意識が向いていたモンスターは、突然のダメージに驚いて、そばに落ちていた鏡の破片から逃走した。

 

「早く逃げて!」

 

真司は兄妹にそう叫びながら、鏡の欠片に向けてデッキを構える。そして…

 

「変身!」

 

デッキを腰に着けたベルト「Vバックル」にセットすると、真司は赤色を基本とした鎧のような姿・仮面ライダー龍騎へと姿を変えた。

 

「しゃッ!」

 

真司は気合を入れると、モンスターを追ってミラーワールドへと飛び込んだ。




おまけ
浅倉「お前は…泥を食った事があるか?」
十香「泥はないが、フライパンは食べられるぞ」※原作5巻・著者紹介参照
浅倉「え」
神無月「たとえ泥でも、司令が食べろと仰るなら…アァン司令、お慈悲を~!」
浅倉「…」

お読みいただいてありがとうございました


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NEXT STAGE

今回で天宮市火災編は終了です。結構解説だらけの回になってますので、読み辛くて不快感を感じた方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。


龍騎がミラーワールドに入ると、そこには先程のモンスターに加えて、基本的な形は似ているが、より頑丈そうなモンスターも待ち構えていた。

 

「な!?もう一匹いたのかよ!」

 

先程真司が体当たりしたのは、レイヨウ型モンスターの「ギガゼール」。そしてもう一匹の方は、ギガゼールと同じレイヨウ型ではあるものの、より大きなサイズと頑丈そうなボディが特徴の「オメガゼール」と呼ばれるモンスターだった。

 

しかし、相手が複数でも龍騎は冷静だった。いつもは「バカ真司」などと呼ばれてしまっている彼だが、流石は最後の一日まで生き残ったライダー。子供サイズでありながら、ギガゼールとオメガゼールの両方を相手取り、体術で確実に追い詰めていく。そして…

 

『STRIKE VENT』

 

「どりゃあああ!」

 

ドラグレッダーの頭部を模した武器「ドラグクロー」を装備し、そこから放たれたドラグクロー・ファイヤーを受けたギガゼールは爆死した。

 

「よし!」

 

龍騎は残るオメガゼールの方へと向き直る。残るはオメガゼール一匹だが、そう簡単にはいかない。オメガゼールが何かを叫んだかと思うと、あたり一帯の建物の影からギガゼール、それと「メガゼール」と呼ばれるレイヨウ型モンスターが数匹現れた。

レイヨウ型のモンスターたちは、基本的に2体以上の群れを作って行動する性質がある。その中でもオメガゼールは、ギガゼールらを率いるリーダー的な役割を担っている。

 

「こいつら、火事に巻き込まれた人たちを狙って集まったのか!」

 

その言葉を合図にゼールたちは一斉に襲い掛かってくる。

 

「くっ!」

 

『SWORD VENT』

 

龍騎はドラグセイバーを装備し、ゼールたちを迎え撃つ。しかし、流石に数が多すぎた。ゼールたちの連携を前に、龍騎は防戦を強いられる。

 

「なら…これでどうだ!」

 

『ADVENT』

 

「ガアアアアア!」

 

龍騎がカードをセットすることにより、ドラグレッダーが召喚される。呼び出されたドラグレッダーは、ゼールたちを炎とその巨体で薙ぎ払う。

ドラグレッダーの援護もあり、徐々にゼールたちの数が減っていく。気付けば、残るは例のオメガゼールを含めて3体になっていた。

 

『FINAL VENT』

 

「はぁぁぁー…」

 

仮面ライダーたちの必殺技・ファイナルベントのカードをドラグバイザーにセットし、龍騎は構えをとる。

そして掛け声と共に飛び上がり、空中で体を捻りながらキックのフォームをつくり、

 

「たあああああ!!」

 

ドラグレッダーの吐いた火球と共に、ゼールたちへと凄まじい蹴りを放つ。龍騎のファイナルベント・ドラゴンライダーキックである。

ゼールたちは咄嗟に背を向けて逃亡を図る。が、いくら素早い彼らでも、技が放たれてから逃げようとして間に合う攻撃ではない。3体とも後ろからキックを食らって爆発した。

 

「よっしゃ!」

 

ゼールたちの生命エネルギーをドラグレッダーが捕食したのを確認して、龍騎はミラーワールドを脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外に出ると、先程の兄妹が気を失って倒れていた。

 

「な!?おい、大丈夫か!?」

 

真司は必死に呼びかけるが、反応がない。だが、安定した呼吸をしている上に外傷もないところを見ると、命の危険があるわけではなさそうだ。

 

「そいつらは気を失っているだけだ。命に別状はない」

 

その声で真司は士郎の存在に気が付いた。

 

「神崎…一体なにが…」

 

「お前がミラーワールドへ入ったのと入れ替わるように、『奴』が戻ってきた。そいつらから自分に関する記憶を消すために。俺もモンスターに気を取られていて、気付いたときにはもう遅かった…」

 

「な…なんでそんな…」

 

「…城戸真司。お前には全てを話しておこう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、お前も気が付いていると思うが、ここはお前が元々いた世界ではない。……その顔を見ると、気付いていなかったようだな。とにかく、そういうことだ。

この世界と元の世界は、ミラーワールドを間に挟む形で存在している。そしてお前も知っての通り、ミラーワールドに普通の人間が自分の意思で出入りすることはできない。つまり、こちらと元の世界の両方に行くことができるのは、俺やモンスターのようにミラーワールドの中に住む者たち、そしてデッキを持つライダーたちだ。

だが、出入りできるといっても理論上の話だ。お前たちライダーも仕事などがある一般人である以上、その行動範囲は決まっていた。だからそれほど実感が湧かないだろうが、ミラーワールドは世界全体がもう一つ存在しているようなものだ。それがこちらの世界とお前が元いた世界の二つ存在している。一言で『ミラーワールドを間に挟む形で』と言っても、それは二つの世界の間に地球が二つあるようなもの。

つまり、二つの世界は行き来するには遠すぎる。それが可能なのは俺くらいだ。…そう、お前をこの世界に運んだのは俺だ。

そして、体の異変に関してだが、それについてはお前は答えを知っているはずだ。

 

「それって…タイムベントか!?」

 

「そうだ。お前をこの時間のこの場所に連れてくるために、タイムベントでお前をこの時間へと戻し、デッキを持たせ、そして運び込んだ。」

 

「なんのために…」

 

「一つはお前にさっきのモンスターを倒させるためだ。先に説明したように、ミラーワールドは広い。この世界に近いこちら側には、俺と優衣が生み出した存在であるミラーモンスターは少ない。だが一方で、こちら側には俺の支配力が及ばない。だからライダーであるお前に力を借りる必要があった」

 

「そんな理由が…。それじゃ、他の理由ってのは?」

 

「そこの兄妹…五河士道と五河琴里にとって、全てが始まった日。そこにお前を立ち会わせるためだ」

 

そう言って士郎は、精霊と呼ばれる存在について、そして琴里に何が起きたのかを語った。

 

「そんなことが…。でも、いま琴里ちゃんに精霊の力はないんだよな?なんでなんだ?それに士道にも何かあるのか?」

 

「それについては今伝えることはできない。だが、いずれ分かる。そしてお前には士道たちを守って欲しい。士道の力が、いずれ必ず必要になる…。精霊を救うために。」

 

いまだ分からないことだらけの真司は、完全に納得したわけではなかった。だが、人を守ることに真司が反対する理由もなかった。

 

「わかった。前みたいにライダー同士で殺し合えとかなら絶対やらないけど…二人を守るためになら戦う。」

 

「すまない…頼む」

 

今まで「戦え」とばかり言い続けてきた士郎の変化に、真司はどうしても違和感を感じてしまう。だが、士郎のそんな変化が嬉しくもあった。

 

「それで、オレはまずなにをすればいいんだ?」

 

「ん?…ああ、まずは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「火事に巻き込まれて気を失っていた子供たちを助けてくれて本当にありがとう!」

 

「は、はぁ…」

 

「本当にありがとうございます。オレも琴里も完全に意識がなかったから…あのままだったらどうなっていたか」

 

「おにーさん、ありがとう!」

 

真司はあの後、二人を火の中から外へと脱出させた。そして、火災のことを知って飛んで帰ってきた二人の父親に出会って、二人を無事に返すことが出来た。…のだが、父親と、目を覚ました兄妹から、何度も繰り返しお礼を言われ、戸惑っていた。

 

「それで、ご両親にもお礼を言いたいのだが、今はどちらにいらっしゃるのかな?」

 

「え…と、実は…」

 

真司は心苦しい思いをしながらも、適当な話をでっち上げて、両親がいないということを話した。

 

(お前は今、小学校高学年の姿だ。そして当然、この世界に家も親族もいない。そういうわけだ、近くで二人を守るためにも、何とかして五河家に転がり込め)

 

真司の脳内で先程の士郎の指示が再生される。

 

(無茶苦茶言うよなあいつ…なんかキャラ変わってる気がするし…)

 

確かに士郎の言うことはもっともな話だし、モンスターから二人を守ったのも事実だ。なのだが…

 

「それは…本当に大変だったね。よし、真司君…うちに来なさい。これからきみは、うちの家族だ!」

 

「そうしてくれるとオレも嬉しいよ!歳も近そうだし、よろしく真司!」

 

「い、いいんですか?あ、ありがとオゴォ!」

 

「よろしくね、真司おにーちゃん!」

 

「痛って…ああ、うん。よろしく…」

 

何の疑いも無く真司に笑顔を向ける3人に、真司はひたすら心の中で謝り続けた。そして、実年齢23歳ながら良い子にすることを誓うのだった。




おまけ
耶俱矢「しかしモンスターの名前は微妙なのばかりであるな。バクラーケンとかオメガゼールとか…もっと我を満足させるものはおらぬのか」
琴里「蓮に契約モンスターの名前を聞いてみたら?」
耶俱矢「蓮?あのコウモリか?クックック…大方なんちゃらバットとかであろう」
琴里「ですって蓮。正解は?」
蓮「闇の翼ダークウィング」
耶俱矢「やだカッコイイ…」
蓮「素が出てるぞ」

お読みいただいてありがとうございました。最初のゼール軍団にサバイブ使うか迷いましたが、3話で奥の手使ってたらこの先大変かと思い、今回はナシでいきました。
次回から十香編突入です。個人的には十香が一番好きなので、しっかりと十香の可愛さが伝わるように頑張りたいと思います。


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十香デッドエンド
4月10日


前回予告したように、十香編突入です。
今回はまだ十香は出ませんが…


「あははー!真司おにーちゃんおはようなのだー!」

 

「ゴフゥ!」

 

4月10日、月曜日。真司は謎のダメージによって目を覚ました。

 

「ん…あれ、琴里?蓮と北岡さんと浅倉は?それに…仮面ライダーアギト」

 

「なに言ってるのお兄ちゃん?てれびくんの応募者全員サービスでも見た?」

 

琴里の心配そうな声に、寝ぼけていた真司の意識がようやくハッキリしたものとなる。

 

「…ああ、ごめんごめん。おはよう琴里」

 

「うむ!おはよーだ、お兄ちゃん!」

 

真司が五河家の息子になって、5年の月日が過ぎていた。

最初こそ真司は大人である自分が子供として周りに馴染んでいくのは難しいかと思っていた。だが、気さくで優しく、そして活発な性格の真司は、家庭でも学校でもすぐに周りと打ち解けることができた。

そしてもう一つ、真司は元々頭はよくない。加えて、大学では一般教養科目こそ用意されているものの、基本的には専門分野についてしか学ばない。そしてそれすらも卒業して、ジャーナリストの職に就いていた真司が、過去に学んだことを憶えているはずもない。要するに、一度大学卒業までしているにも関わらず、真司の学力は決して高いと言えるものではなかった。おかげで周囲から何かを不審がられることもなかったのだが、真司としては複雑な心境であった。

 

「あれ、まだ6時前?なんで今日こんなに早いんだ?」

 

「今日からおとーさんたち出張でいないでしょ。それで、今日士道おにーちゃんが料理当番だから起こしてあげることになってて、ついでに真司おにーちゃんも起こしてあげたの」

 

「そーなのか。ありがとな琴里」

 

自分はこの時間に起きる必要がないのに起こされたのに気付かず、お礼までちゃんと言うあたりに、真司の抜け具合と人の良さがにじみ出ていた。

 

「それじゃ、士道おにーちゃん起こしてくるね!」

 

「おう、たのんだぞ琴里。さて…オレも準備するか…」

 

真司は現在、士道と一緒に都立来禅高校という学校に通っていた。昨日までで春休みが終わり、今日から2年生になる。

あの日以降、真司は士郎の姿を見ていない。城戸真司が五河真司になったのを見届けた後、士郎は姿を消してしまったのだ。

 

(俺は他にもしなければならないことがある…。いつか時が来たら、再びお前の元へ現れるだろう。それまでは二人をモンスターから守れ。)

 

「神崎は最後にああ言ってたけど…もう5年経ったよなぁ。あいつオレのこと忘れてんじゃないよな…」

 

真司は士郎が最後に残した言葉を思い返しながら、学校に行く支度をする。

 

「今日は始業式だから教科書とかいらないよな…あれ、生徒手帳どこやったっけ…」

 

と、そのときだった。部屋の扉が乱暴に開けられ、今にも泣き出しそうな琴里が飛び込んできた。

 

「真司おにーちゃあん!士道おにーちゃんが、士道おにーちゃんが…T-ウィルスにいいい!」

 

「ど、どうした琴里。士道起こしにいったんじゃなかったのかよ」

 

「そ、それがね…」

 

 

 

(……実はオレは『とりあえずあと10分寝てないと妹をくすぐり地獄の刑に処してしまうウィルス』、略してT-ウィルスに感染してるんだ…)

 

(逃げろ…オレの意識があるうちに…)

 

 

 

「……って」

 

「なんだって!?士道を助けなきゃ!」

 

そう言って真司は士道の部屋に向かおうとする。

 

「!?ダメだよ真司おにーちゃん!危ないぞ!」

 

「大丈夫だ。『妹を』くすぐるウィルスなら、オレが士道に危害を加えられることは無い…と思う。琴里は、もしもの時のためにリビングのテーブルで壁を作ってくれ。」

 

「わ、わかった!気を付けてね、おにーちゃん…」

 

「分かってる…。しゃッ!士道を助けるぞー!」

 

「いや真司、そこまで頭回るなら、冗談だって気づいてくれよ…」

 

廊下から士道が眠たげに突っ込む。

 

「あ、あれ?士道?ウィルスは?」

 

こんな感じで、五河家の朝はにぎやかだった。

 

 

 

 

 

『―――今日未明、天宮市近郊の―――』

 

「うぉ…また空間震かよ」

 

「なんか、ここら辺一帯って妙に空間震多くないか?去年くらいから特に」

 

真司のつぶやきに、士道も反応を示す。

 

空間震。それはこの世界で30年前から観測されている現象で、原因不明、発生時期不明の災害である。

突然発生し、辺り一面を破壊し尽くしてしまう、理不尽な現象であった。

そして真司は、詳しいことは知らないが、この災害が精霊と関係のあるものだということは、士郎から聞かされていた。

 

「…んー、そーだねー。ちょっと予定より早いかなー」

 

「早い?何がだ?」

 

「んー、あんでもあーい」

 

真司は琴里の意味深な発言に、士道はその声がくぐもっていたことに首をかしげる。

士道が琴里の頭に手を置き、その顔を自分の方に向けさせると、予想通りその口にはチュッパチャプスがくわえられていた。

 

「こら、飯の前にお菓子を食べるなって言ってるだろ。」

 

「んー!んー!」

 

士道が飴を取り上げようとし、琴里は口をすぼめてそれに抵抗したために、せっかくの可愛い顔が台無しになっていた。

と、そのとき真司の頭の中に例の音が響いてきた。ミラーモンスターが出現したらしい。

 

「あ、ちょっとオレトイレ!」

 

おひーひゃんはほいれひゃひゃいほー(おにーちゃんはトイレじゃないぞー)

 

琴里の小学生みたいなジョークを聞き流し、真司はトイレに向かう。ちなみに琴里はまだ飴を口に入れていたため、その言葉はかなり聞き取りづらかった。

 

「変身!しゃッ!」

 

そしてトイレの鏡からミラーワールドへ向かった。

 

「…ライドシュータートイレから出れるかな…幅的に」

 

少し不安はあったが…。

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

「おかえり。長かったな」

 

真司がリビングに戻ったときには、もう朝食ができていた。幸い出現したのがかなり弱いモンスターだったため、怪しまれない程度の時間で戻ってこれた。

 

「おにーちゃん!デラックスキッズプレートだぞ!」

 

「あ、そうだ真司。今日の昼はファミレスな」

 

「お、いいねー!」

 

「絶対だぞ!絶対約束だぞ!地震が起きても火事がおきても空間震が起きてもファミレスがテロリストに占拠されても絶対だぞ!」

 

「いや、テロリストはやめよう。な?」

 

琴里の言葉に、真司は浅倉と初めて会ったときの様子を思い出して胃が痛くなるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真司と士道が登校すると、すでに廊下にはクラス表が貼りだされていた。それを確認し、二人は新しい教室へと向かう。

 

「まさか真司もオレも同じ2年4組とはな」

 

「兄弟で同じクラスってあるんだな」

 

そんな会話をしながら教室に入る。と、そこで

 

「―――五河士道」

 

士道は見知らぬ少女に呼び止められる。人形のように端正だが、表情を感じさせない顔をした少女だった。

 

(え、士道。誰この子?)

 

(いや、オレにも…)

 

真司と小声で言葉を交わしながら、士道は記憶を必死に呼び起こす。だが、やはりその少女については何も覚えていなかった。ちなみに真司も士道の周りでその少女を見た覚えはなかった。

そんな士道の様子に少女は「覚えていないの?」と問いかけるが、士道が思い出せないらしいことを確認しても、特に落胆らしいものも見せず「そう」とだけ言って席に歩いていった。

 

「な…なんだ、一体」

 

士道と真司が頭を悩ませていると、不意に見事な平手打ちが二人の背に叩き込まれた。

 

「あいたたた…何すんだよ殿町!」

 

こちらの犯人はすぐに分かった。真司が背をさすりながら抗議の声をあげる。

 

「おう、元気そうだなセクシャルビースツ五河兄弟」

 

二人の友人・殿町宏人は、腕を軽く組み身を反らしながら笑う。

 

「……セク……なんだって?」

 

「ビーストの兄弟だから、複数形でビースツだ」

 

「そういう文法的な『なんだって?』じゃねぇよ!そのあだ名そのものについてだよ!!」

 

「セクシャルビーストの兄弟だ、この淫獣どもめ!ちょっと見ない間に色気づきやがって。いつの間に鳶一と仲良くなりやがったんだ、ええ?」

 

言って、殿町が二人の首に手を回し、ニヤニヤしながら聞いてくる。

 

「鳶一…?誰だそれ」

 

「あ、もしかしてさっき士道と話してた子じゃ?でもそれならオレはお呼びじゃなかったけどな」

 

「……お、お前ら知らなのかよ?ウチの高校が誇る超天才。成績は常に学年主席、体育もダントツ。おまけに美人で去年の『恋人にしたい女子ランキング・ベスト13』でも3位だぜ?聞いたこともないのか?」

 

「知らん…てかオレも真司もそういうのあんまり興味ないからな」

 

「ああ、オレも知らないや。というかベスト13て中途半端だな」

 

「主催者の女子が13位だったらしい」

 

「「…ああ」」

 

「ちなみに男子は358位まで発表されたぞ。」

 

「「多っ!?誰だよ主催者」」

 

「オレだよ」

 

「「お前かよ!」」

 

「お前らはそれぞれ一票ずつ入ったから同着52位だ。ちなみに同順位の52位は他に30人いる」

 

「「反応しづれえ!」」

 

「どんだけハモってんだお前ら」

 

そんなことを言い合ってるうちに、予鈴がなる。真司と士道が慌てて座席を確認すると、士道が先程の少女・鳶一折紙の隣で、真司は士道の後ろという配置であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからおよそ3時間後。

 

「五河兄弟、どうせ暇なんだろ、飯いかねー?」

 

始業式を終えて、帰り支度をしていた二人に殿町が話しかけてくる。

 

「あぁ…わりぃ。今日オレら琴里と飯なんだ」

 

「琴里ちゃんか…確かもう中2だよな。彼氏とかいんの?3つ年上の男ってどうかな」

 

「おい…」

 

殿町の言葉に士道は思わずジト目になる。そして真司は士道に同意するように言葉を続ける。

 

「殿町、あんま人の妹に手を出すなよ。世の中には、妹を助けるために殺し合いさせるやつだっているんだからな」

 

「え…マジで…?」

 

そのときだった。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――

 

突如、街中に不快なサイレンが響き渡る。それは、空間震の発生を知らせるものだった。

だが、真司と士道は知らない。このサイレンが、5年間止まっていた彼らの運命が動き出したことを告げるものだということを…




おまけ
佐野(百合絵さん!出してくれ!出してくれ!出してくれえええ!)

神無月(司令、ああ!ご慈悲を!ご慈悲をー!)

神無月「フフ。私たち、なんだか似てますね」
佐野「いや一緒にしないでくださいよマジで」


お読みいただいてありがとうございました。佐野の最期はいまだにトラウマです


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名無しの少女

いよいよ十香登場です。しかし十香も士道もブンブン振ってるけど、サンダルフォンって重くないのかな…


「お、落ち着いてくださいぁーい!だ、大丈夫ですから、ゆっくりぃー!おかしですよ、おーかーしー!おさない・かけない・しゃれこうべーっ!」

 

そう言って生徒を誘導しているのは、士道や真司のクラスの担任である岡峰珠恵教諭・通称タマちゃん先生である。

真司たちが帰り支度をしていた際に響き渡った空間震警報。それにより、現在学校に残っていた生徒たちは、地下に造られた空間震用のシェルターに避難しているのだった。

 

「大丈夫かな…鳶一のやつ」

 

士道が心配そうにつぶやく。

先程士道たちは、皆が避難していく中、一人反対方向の昇降口に向かっていく鳶一折紙の姿を見かけていた。その際に士道は呼びかけたものの、折紙は「大丈夫」とだけ言って去って行ってしまった。

 

「まあ、本人が大丈夫って言ってたし…警報が鳴ってるって分かってて外に居続けたりしないだろ。…たぶん」

 

「そうだよな…ん…?」

 

真司の言葉に士道は少し引っかかるものを感じた。そして数秒考えた後に違和感の正体に気付いて戦慄する。

士道は、己の嫌な予感が外れることを願いながら、ケータイのGPS機能を起動させる。が、その予感は当たってしまっていた。

 

「真司…朝に琴里が言ってたこと覚えてるか?」

 

「朝…?T-ウィルスと、デラックスキッズプレートと…」

 

と、そこまで言ってようやく真司も気付く。

 

「まさか…」

 

(空間震が起きてもファミレスがテロリストに占拠されても絶対だぞ!)

 

「琴里のやつ…まだファミレスの前にいる……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだよ、なんだってんだよこれは…ッ」

 

士道と真司は、琴里を探しに街中を駆け回っていた。その途中、進行方向が眩い光に包まれたと思ったら、二人は爆音と強烈な衝撃波に襲われた。

そして二人が目を開けると、そこに先程まで見えていた街並みはなかった。全て跡形も無く消滅していたのだった。

 

「これが…空間震…」

 

あまりの光景に、真司はあたりを見回す。と、そこで奇妙なものに気付く。クレーターのように削り取られた街の中心に、玉座のような何かが鎮座していた。そして、その謎の玉座の肘掛けに当たるであろう部分に、足をかけるようにして立っていたのは…

 

「おい士道、あれ…」

 

「女の…子?」

 

その少女は、お姫様のドレスのような不思議な恰好をしていた。その手には、身の丈ほどあろうかという大剣が握られていた。

だが、そんな事はどうでもよくなってしまうくらい…その少女は、暴力的なまでに美しかった。

少女はこちらに気付いたのか、真司たちの方を向き、ゆっくりと手にした剣を振りかぶる。そして、その剣を真司たちの方に向けて、横薙ぎにブン、と振り抜こうと…

 

「って、なんかヤバいって!」

 

真司は咄嗟に士道を引き寄せ、地面に伏せる。結果的にその行動は正しかった。二人が伏せた直後、頭上を刃の軌跡が通り抜けていったと思うと、後方にあった家屋や店舗、街路樹や道路標識などが、みな一様に同じ高さに切り揃えられていた。

 

「「…な!?」」

 

士道は理解の範囲を超えた戦慄に心臓を縮ませた。そして様々な修羅場を潜り抜けてきた真司でさえ、目の前の光景に驚愕していた。

 

(今の攻撃…ライダーに変身しててもまともに食らったら危ない…。士道を連れて早く逃げないと―――)

 

「―――お前たちも…か」

 

「…えっ!?おわぁー!」

 

突然頭上から聞こえてきた声に、真司は思わず間の抜けた叫び声をあげる。そこには、一瞬前まで存在していなかった少女が立っていた。

 

「―――君、は…」

 

呆然と。士道は、声を発していた。

 

「名、か。―――そんなものは、ない」

 

少女はどこか悲しげに答える。その顔はひどく憂鬱そうな―――まるで、今にも泣き出してしまいそうな表情をしていた。

だが、少女は何かに気付いたように視線を上に移す。それにつられて真司と士道も上を向くと…

 

「んな……!?」

 

二人ともこれ以上ないくらいに目を見開き、士道は思わず声を漏らしていた、。

上空には、まるで機械を着ていると言っても差支えないような、全身をボディースーツで覆われた人間が何人も飛んでいた。だが、士道と真司が驚いたのはそこではなかった。なんと上空の人物たちは、士道たちの方へミサイルらしきものをいくつも発射してきたのだ。

 

「「うわぁぁぁぁぁ!」」

 

二人は思わず叫び声を上げる。

だが―――数秒経っても二人にダメージは無く、意識もハッキリしていた。二人が恐る恐る上空を見上げると、まるで見えない手にでも掴まれたかのように、ミサイルが空中で静止していた。

 

「…こんなものは無駄と、何故学習しない」

 

そう言って、少女が剣を握っていない方の手を上にやり、グッと握る。するとミサイルは圧縮されたかのように、その場で爆発した。

その後も次々とミサイルが撃ち込まれる。が、その全てが少女には通用しない。状況を飲み込めていない真司と士道から見ても、この場ではこの少女が最も強いということは明らかだった。

だが、士道も真司も別のことが気になっていた。

 

「なんであの子…あんな顔してるんだ…」

 

士道は、少女の表情が気になっていた。この場で誰よりも強いはずの少女は、先程見せたような悲しげな顔をしていたのだ。士道の目には、この少女が疲れ、悲しんでいるようにしか見えなかった。

 

 

 

一方、真司はあるものを探していた。

 

「くそ、こんなときに…どこだ…?一体どっから出ようとしてんだよ…」

 

真司が探していたもの、それは『鏡』であった。

少女が最初にミサイルを破壊した直後、真司は例の音、つまりモンスターの出現を感じた。だが、辺り一帯は先程の空間震の影響で鏡どころか何も残っていない。そのため、モンスターの現れる場所を予測するどころか変身することすらままならない状況であった。

 

(このままじゃ誰が襲われるか分からない…。だけどこんなドンパチやってる状況じゃ、誰かが襲われてから動いたんじゃ間に合わないかもしれない…どうすりゃいいんだよ…)

 

と、そこで真司と士道の思考は一度中断した。何故なら、少女と戦っていた人間たちの中に、見知った顔を発見したからである。

 

「鳶一―――折紙…?」

 

士道が思わず声を漏らすと、折紙がちらとこちらを一瞥する。

 

「五河真司と…五河士道?」

 

そして怪訝そうな声音で、返答するように二人の名前を呼ぶ。

だが、折紙はすぐにドレス姿の少女の方へ視線を戻し、そしてそちらへ向かって一気に加速した。

そして折紙はそのまま、いつの間にかその手に握られていた光の刃のような武器で少女に切りかかる。が、少女はそれを躱し、反撃とばかりに剣を振り下ろす。そこから二人の斬り合いがはじまった。

折紙の登場に真司と士道は暫し放心していた。だが、我に返った真司は、二人の戦いをやめさせようと動く。

 

「おい!よせって!なんでお前ら戦ってんだ…って、あれは…」

 

そのとき、真司はようやく探していたものを見つけた。折紙と戦闘中の少女の剣。その表面に、一瞬だったが、その場にいるはずのない存在が映っているのを確かに見たのだ。

 

「うおおおおお!二人とも止まれえええ!」

 

真司は咄嗟に走り出していた。その叫び声に、今まで真司たちに気付いていなかったボディースーツの一団も、二人に接近する真司に気付く。

 

「な…そこの少年、危険よ!止まりなさい!」

 

集団のリーダーと思われる女性が、接近しながら呼びかけるも真司の耳には入らない。

そして、そんな周りの状況の変化を感じた少女と折紙は、互いに相手に集中しながらも、ほんの一瞬だけ周囲を確認する。しかし、叫びながら接近してくる真司を見た途端、さすがの二人も一瞬動きが止まる。

そしてその瞬間、少女の剣からミラーモンスターが出現し、二人に襲い掛かった。

 

「「なっ!?」」

 

完全に不意を突かれた二人は反応出来ず、その攻撃をモロに食らってしまう。…はずだった。

 

「うおりゃあ!」

 

だが、そうはならなかった。間一髪のところで真司はモンスターに跳び蹴りを食らわせ、剣の表面からミラーワールドへ押し戻した。

 

「真司?いまのは…一体…」

 

士道が近づいてきながら真司に問いかける。

 

「士道、あいつはオレに任せろ。お前はその子のそばにいてあげろ。向こうは沢山いんのに、こっち一人じゃかわいそうだからな」

 

「え?いや、うん…。って、オレに任せろって一体何するんだよ」

 

士道の問いに答える代わりに、真司はドレスの少女に呼びかける。

 

「ごめん。悪いんだけどさ、オレが戻ってくるまでその剣出しっぱなしにしといてくれる?もしどこかに片付けたりするんだったら、代わりになんか、鏡みたいに映る物出しといてくれると助かるんだけど…」

 

「う、うむ…わかった…」

 

まだ状況についていけていないのか、少女はポカンとした表情をしていた。

とは言え、ミラーワールドからの出口を確保するための約束を取り付けることが出来た真司は、それ以上何も言わず、剣に向かってデッキを構える。

 

「変身!」

 

Vバックルにデッキを挿入し、真司は仮面ライダー龍騎へと姿を変える。

 

「しゃッ!」

 

そして真司は、呆気にとられる周囲を尻目にミラーワールドへと入っていった。




おまけ
浅倉「イライラするんだよ…」
十香「ぬ…そうなのか…すまぬ……」
浅倉「いや…うん、分かればいい」

浅倉「オレをイラつかせるな!」
四糸乃「ご…ごめん…なさい…。許して…下さい…」
浅倉「いや…その、うん…こっちこそごめんね…おにいさん怒鳴ったりして…。焼きそば…食うか?」
士道(ピュアってスゲエ…)


お読みいただいてありがとうございました。ご意見、ご感想などお待ちしてます。


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五河真司包囲網

ミラーワールドでの「真司」の部分を「龍騎」に変更しました。それに伴い、3話の同じ部分も修正してあります。今後はミラーワールドでの名称はライダー名で統一します。
あと、原作の龍騎では出口になるものが動いていた場合(例えば佐野が走る軽トラを追いかけながら変身してましたが、あれが脱出する場合だったとき)にどうなるのか描写されてなかったので、今回は独自解釈が少し入っています。


ミラーワールドに入った龍騎を待ち受けていたのは、ソノラブーマと呼ばれるセミ型モンスターだった。ソノラブーマは、その腕の先に付いた大きな鉤爪を振り回して龍騎を攻撃する。だが、素早い剣術を駆使して戦う仮面ライダーナイトや、絶え間なく攻めてくる仮面ライダー王蛇との戦闘を何度か経験している龍騎に、なんの策も練らずに大振りの攻撃を当てようというのは土台無理な話だった。

 

『SWORD VENT』

 

「てやぁ!」

 

龍騎はソノラブーマの攻撃を躱しながら、ドラグセイバーで何度も斬り付けていく。セミ型というだけあって、そのボディは頑丈だった。だが、何度も攻撃を浴びせていくうちに、着実にソノラブーマにダメージを与えていた。

とはいえ、そう簡単にやられるつもりはソノラブーマには無かった。トドメを急いだ龍騎は、咄嗟にソノラブーマの放った催眠超音波を食らってしまう。

 

「ぐあああ!」

 

真正面から超音波を食らった龍騎は、体に力が入らない。そして鉤爪による追撃を食らわせられた。

 

「ぐっ!クソ…」

 

だが、そこでソノラブーマは勝利を確信してしまった。自分がなぜ龍騎の不意を突けたのか。もっといえば、龍騎に何故隙が出来たのか。彼はそこからなにも学んでいなかった。

ソノラブーマはトドメとばかりに、鉤爪を振り下ろす。だが、

 

『GUARD VENT』

 

ドラグレッダーの胴体を模した盾・ドラグシールドが龍騎に装備される。突如現れた盾に攻撃を弾かれ、ソノラブーマは戸惑う。そしてその隙を龍騎は見逃さなかった。

 

『ADVENT』

 

龍騎は契約のカードをドラグバイザーに挿入し、ドラグレッダーを呼び出す。呼び出されたドラグレッダーは連続で火球を撃ち出してソノラブーマを圧倒する。その猛攻に、ソノラブーマは逃げ出そうと背を向けるが…

 

「逃がすか!」

 

『STRIKE VENT』

 

「はああああ!」

 

ドラグクローを装備した龍騎の動きに合わせ、ドラグレッダーがより強力な火球を撃ち込む必殺技・ドラグクロー・ファイヤーが炸裂する。背を向けていたソノラブーマはこれを避けきれず爆散した。

 

「よっしゃ!」

 

 

 

 

 

「のわぁ!」

 

「「!?」」

 

突然の出来事に、戦闘を再開させていた少女や折紙を含む武装集団も動きが止まる。だがそれも無理はない。先程、鎧のような姿に変身し、剣の中に入っていった真司が、今度は元の姿に戻って剣から出てきたのだから。

 

「いったぁ~…やっと出られた…。時間切れで死ぬかと思った…」

 

真司がソノラブーマを退治してから数分が過ぎていた。にも関わらず、今になって出てきたのには理由があった。至極簡単、出れなかったのだ。

 

「ちょっと君!確かにオレの説明足りなかったけどさ。剣出しといてって言って、そこから入って行ったら、そりゃまたそこから出てくるってことだろ!振り回してちゃ出れないだろ!鳶一さんも!この子に攻撃したりしたら、そりゃこの子だって戦っちゃうだろ!」

 

真司は早口で説教を始める。ただ、それも仕方のないことだった。

 

 

 

 

 

ソノラブーマを倒した真司は、すぐさまミラーワールドを脱出しようとした。だが、入ってきた方向を見ても、出口が見つからない。

 

「あれ…あの子、約束忘れちゃったのかな…」

 

真司は首をかしげるが、そうでは無かった。直後に出口は見つかったのだ。…超高速で移動していたが。

 

「へ…?」

 

真司の口から間の抜けた声が漏れる。

 

「やっべ…そういやオレ、剣を出しておいてとは言ったけど…動かすなって言わなかった…」

 

と、同時にあることに気付く。

 

「ん…?てことは…さっきのモンスター、無理に倒さなくても出てこれなかったんじゃ…。ていうか、出てきたのオレのせい?」

 

とはいえ、過ぎてしまったことを考えるよりも、目の前の問題に取り組むのが先であった。

それから数分間、真司は剣を追いかけたり、他の出口を探したりしてみたがあえなく失敗。

 

「ちょ、ヤバいって!誰かあの子止めて!神崎!ドラグレッダー!誰か助けてくれよー!」

 

その日、ミラーワールドに真司の悲鳴が響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「まったく!たまたま君がオレの近くに来たからよかったけど…もう喧嘩すんなよ!」

 

そう、真司が出てこられたのは本当に偶然、ご都合主義レベルの運の良さにすぎなかった。実際、真司が出てくる直前には肉体の粒子化が始まっていた。

 

「って、あれ?いない…さっきまでいたのに…」

 

そこで真司は、少女がいつの間に消えていることに気付く。どういうわけか、真司が文句を言うのに夢中になっている間に少女はいなくなってしまっていた。それだけでなく、なぜだか士道までいなくなっていた。

 

「あっれ~…おかしいなぁ…」

 

真司は二人が消えてしまったことに困惑しながら、周囲を何度も見回す。しかしその直後、真司の頭の後ろで「ガチャリ」という音と

 

「動かないで」

 

という折紙の声が聞こえたと思うと、次の瞬間には真司は包囲されていた。

 

「え?え?」

 

「五河真司、もう一度言う。動かないで。従わなければあなたを拘束しなければならない」

 

いつの間にか隣で武器を構えていた折紙の言葉に、真司はかつて誤認逮捕された記憶が蘇り、戦慄する。

 

「弁護士は北岡さん並みの腕で、でも北岡さんより性格のいいやつを!あ、でも北岡さんみたいなぼったくりは論外で!頼む!」

 

「何を言っているのよ君は」

 

「へ?」

 

いつの間にか真司の目の前には、先程真司に呼びかけていたリーダー格の女性が立っていた。

 

「え…と、おば…じゃなくてお姉さんは…?」

 

「なんか余計な単語が聞こえた気がするけど…まあいいわ。私は陸上自衛隊AST部隊隊長の日下部燎子よ。早速ですがいくつか質問させてもらいます。あの剣から出てきたのは何?見たところ、あなたは『プリンセス』自身でさえ気付かなかったあの化け物に気付いていたみたいだけど」

 

「プリンセス?」

 

「さっきの少女の姿をした存在のことよ。それより質問に答えて」

 

真司はこの状況を予見していなかった数分前の自分を呪った。本来なら、ミラーワールドについて関係の無い人間、ましてこちらの世界の人間に知られるのは避けたかった。だが、この状況では正直に答えるしか方法が無いのも事実であった。

 

「えっと、多分信じてもらえないだろうけど…あれはミラーモンスターって言って、鏡の中の世界に住んでいる奴ら…です」

 

真司の答えに燎子や周囲のASTのメンバーも驚愕する。

 

「鏡の中の世界!?プリンセスの能力じゃなくて?」

 

「はい。今日はたまたまあそこから出てきただけで、あの子は関係無いです。鏡になる物がある場所なら、どこでもミラーワールドと繋がってます」

 

「ミラーワールドにミラーモンスター…まさかそんなことが…」

 

ASTの隊員達がざわめく中、一人だけ冷静な折紙が口を開く。

 

「五河真司、あなたはさっきミラーモンスターが現れる前にすでに行動を起こしていた。それに、あの姿や、ミラーワールドに入っていったことといい、あなたは何者?そもそも、何故そんなことを知っているの?」

 

折紙の言葉に、騒然としていた場が静けさを取り戻す。

 

「え…と…それはその…」

 

折紙の言葉に、真司はどう答えるべきか分からず戸惑う。

いくら状況が状況でも、ライダーについて全てを打ち明けるわけにもいかない。加えて、まだ真司は包囲されたままであった。

 

「早く答えて」

 

折紙の言葉に真司は話さざるを得ない状況にあることを強く感じる。真司はこの状況を突破する方法を考えながら、仕方なくデッキを取り出した。

 

「それは?」

 

「これはカードデッキ。これを持っている人間は、ミラーワールドを覗いたり入ったりできる。それに、モンスターが出現した時も感じ取れる」

 

「あなたはさっき、それを構えて変身していた」

 

「ああ、これを使うと、変身して自分が契約したモンスターの力を借りることができる。オレはあの姿のことを仮面ライダーって呼んでる」

 

「仮面ライダー…」

 

と、そこで真司は一つのアイデアを思いつく。

 

「あ!?すみません、またミラーモンスターが…」

 

その言葉に燎子らASTの隊員達の表情が険しいものになる。

だが、それは真司の嘘であった。

 

「なんですって!?一体どこに!」

 

「あっちです、あっち!ちょっとどいて!」

 

そういいながら真司は走り出す。突然のことに包囲していたASTは動けずにいたが、真司が200メートルほど離れたところでようやく騙されたと気付く。

 

「待ちなさい!」

 

「ごめんなさい!でもオレ妹探しに来ただけなんですって!」

 

そう言って真司は振り切ろうと建物の残骸の角を曲がる。その時、真司の体が謎の浮遊感包まれた。

 

「え」

 

そして次の瞬間、その場から真司の姿は消えていたのだった。




おまけ
吾郎「どうすか…?オレの新作」
十香「うむ!ゴローの料理はいつ食べても美味しいな!」
吾郎「いえ…大したことないっす」

北岡「ま、確かにオレは金持ちで天才でカッコいいけど」
十香「そうなのか…秀一は凄いのだな…」
北岡「だろぉ?十香ちゃん話わかるね~」


士道「あれ?十香は?」
琴里「秀一のとこ。気に入られたみたいね」

お読みいただいてありがとうございました。ご意見、ご感想お待ちしています。
加えて、本編でのアイデアや、おまけで絡ませて欲しい組み合わせなどもお待ちしています。


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変わる運命2

今回はいよいよラタトスクとの接触。色々と物語が動き出します。
ちなみに、冒頭部分はネタに走り過ぎました。すみません…。一人もしかしたら分からないライダーがいらっしゃるかもしれませんが、そんな方はディケイドの「龍騎の世界」について調べてみて下さい。ヒントは「卑怯もラッキョも大好きだぜ!」「バカな!私は、絶対生き延びて…」です。


真司はどこかの廃工場にいた。

 

「あれ?さっきまでオレ街中でAST…だっけ…、とにかくそんな人達に追いかけられてたのに…」

 

不思議に思いながら辺りを見渡す。なぜだろうか、その場所はどこかで見たことがあるような気がした。

と、そこで真司を呼ぶ声が聞こえる。

 

「龍騎!」

 

真司が声の方向へ顔を向けると、ナイト、ゾルダ、王蛇、そしてアギトが立っていた。

 

「蓮!北岡さん!浅倉!それに仮面ライダーアギトも!」

 

「俺達もいるぜ!」

 

今度は真司の後方から声が聞こえる。振り返ると、そこにはかつて戦ったライダーたちが集合していた。

 

「みんな…どうして」

 

真司が唖然としていると、ゾルダが真司に語り掛ける。

 

「何を言ってるんだ龍騎、また俺達の使命を忘れたのか?人間の自由と平和を守る。違うか?」

 

「北岡さん…」

 

ゾルダに続いて、王蛇も口を開く。

 

「俺達はお前の仲間だ…だからここにいる。フッ…」

 

王蛇の言葉に周りのライダーたちも頷いた。

 

「浅倉…みんな…」

 

「正義もラッキョも大好きですよ…」

 

「みんなで一緒に…英雄になろうよ」

 

「オレも先輩たちと一緒に戦いますよ!オレ、強いんですから!」

 

「みんな…」

 

感動で涙を流しそうな龍騎に、ナイトが優しく声をかける。

 

「俺達は仲間だ。みんな、お前と出会えて…幸せだ」

 

「蓮…。オレも…みんなと出会えて幸せだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幸せだ!」

 

「え!?何!?」

 

突然叫び声をあげた真司に、隣のベッドに腰掛けていた士道は体をビクっと揺らす。

 

「あれ?ここは?ていうか士道?みんなはどこ?」

 

「真司?何言ってんだ?」

 

「…ん、そっちも目覚めたようだね」

 

真司がまだ少し寝ぼけながら周囲を見回していると、少し離れた場所から士道のものとは違う声が聞こえた。

声のする方を見ると、妙に眠たげな顔をした見知らぬ女性が、こちらに向かって歩いて来るのが見えた。

 

「気分はどうだね」

 

「えっと…まあ大丈夫です」

 

真司は自分の置かれている状況がいまひとつ理解出来ず戸惑っていた。見知らぬ女性に声をかけられたことで完全に目を覚ましてはいた。なので、先程の廃工場(ミラクルワールド)の光景が夢であったのには気付いていた。

だがその前の記憶、崩壊した街でASTに追われていたことについては間違いない。…はずなのだが、現在真司がいたのは保健室のような場所で、先程いなくなったと思っていた士道も隣のベッドにいた。

 

「えっと、ここはどこですか?それに、あんたは…」

 

「ああ…ここは『フラクシナス』の医務室だ。先に気絶していた君の兄弟を運び込んだ後、君も回収時に意識を失ってしまったので一緒に寝かせていた。…そして私はここで解析官をやっている、村雨令音だ」

 

「『フラクシナス』?士道、なんだそれ?」

 

真司は先に運ばれたという士道に問いかけるが、それに対し士道は首を横に振りながらこたえる。

 

「いや…オレもさっき目が覚めたばかりで…」

 

と、そこで村雨令音と名乗った女性は二人に背を向けながら呼びかける。

 

「…ついてきたまえ。二人に紹介したい人物がいる。……どうも私は説明が下手でね。詳しいことはその人から聞くといい」

 

そう言って令音は歩き出す。真司と士道も困惑しながら後に続いた。ちなみに道中、令音が30年寝ていないなどと言って睡眠薬を大量に飲みこんだときには、二人とも令音が死んでしまうのではないかと不安になった。

 

「…さ、入りたまえ」

 

そう言って令音に連れて来られたのは、まるで船の艦橋のような場所だった。そこで待ち構えていた人物が二人に声をかける。日本人離れした顔つきに、金髪で長身の美青年だった。

 

「初めまして。私はここの副司令の神無月恭平と申します。以後、お見知り置きを」

 

「は、はぁ…どうも」

 

突然知らない人から挨拶されたことや、軍事施設のような場所に自分たちが案内された理由が分からず戸惑っていた士道と真司だった。が、その直後に目の前の艦長席から響いた声に更に驚かされることになる。

 

「来たわね。歓迎するわ。ようこそ、『ラタトスク』へ」

 

「「琴里!?」」

 

そう、真司たちの方を向いた艦長席に座っていたのは、真紅の軍服を肩がけにした可愛い妹であった。

琴里は二人の叫びを無視して真司の顔を見る。

 

「そんなことより真司!あれは一体どういうことよ!」

 

「えっ、ちょ、呼び捨てェ!?あと『そんなこと』って…」

 

「自分の兄が姿を変えて、しかも剣の中に行ったり来たりしてたら他の大半は『そんなこと』よ!」

 

「あ…。もしかして…見てた?」

 

「見てたわよ!さあ早く!」

 

と、そこでヒートアップする琴里を諌めたのは、先程の村雨令音だった。

 

「…待ちたまえ琴里。まず彼に話を聞く前にこちらのことを説明した方がいいのではないかね。お互いに色々疑問があるんだ。…ならまずは、こちらのことをきちんと理解してもらった方が彼も話しやすいだろう」

 

令音の言葉に、琴里は完全に納得したわけではないようだが、ひとまず冷静さを取り戻す。

 

「そうね…令音の言うことも一理あるわ。いいわ、先に私たちについて説明してあげる」

 

そう言って琴里は、正面の巨大なモニターを指さす。そこには、先程の少女が映し出されていた。

 

「まず、精霊って存在についてだけど…」

 

「精霊!?」

 

聞き覚えのある単語に真司は反応する。それは、5年前に神崎士郎から聞かされた存在であった。

 

「何?真司、精霊を知っているの?というか、知っていながら精霊とASTの戦いに突っ込んだの?」

 

「AST…ってあの空飛んでた人達か。え!?じゃあ、あの子が精霊!?」

 

「今頃!?一体真司は精霊についてどこまで知っているの?」

 

琴里が呆れたように尋ねる。

 

「えっと、普段は違う世界に住んでいて、『天使』とか『霊装』とかって個別の能力を持った強いやつら。このぐらいかな」

 

そう、真司が士郎から受けた説明はこれだけだった。なので、琴里に精霊の力が宿ったのは例外で、他はミラーモンスターやライダーのような屈強な戦士の姿をしているものだと勝手に思い込んでいたのだった。

 

「なんで天使のことまで知ってるのに、姿かたちや空間震との関連性については知らないのよ…。いいわ、真司も士道と一緒に聞いてちょうだい。精霊について、そして私たち『ラタトスク』について…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――というわけでデートして、精霊をデレさせなさい」

 

「頑張れ士道!お前ならできる!」

 

琴里の話が始まってから数分後。士道は非常に戸惑っていた。

常識外れな内容ばかりで、いまだ完全に理解できたわけではない。だが、ASTが武力で精霊を排除しようとしているということ、対するラタトスクは対話により精霊を対処しようとしていることは分かった。そして士道個人としては、対話の方法に賛成だった。

だが、そのための手段がデートという点だけは納得がいかなかった。

(ちなみに真司は話の途中で号泣し、士道のデートによる精霊の無力化に大賛成だった。)

 

「オレじゃなくて真司じゃダメなのか?」

 

「真司には士道のサポートを頼むわ。まだ説明してもらってないけど、また今日みたいな怪物が出たら真司の力が必要になるでしょ?」

 

「おう!」

 

「だ、だけど…」

 

「黙りなさい、このフライドチキン。精霊を助けたいんじゃないの!?」

 

琴里の言葉に、士道は何も言い返せなくなる。

もはや士道に逃げ場は無かった。士道は観念したように、琴里の正面に立つ。

 

「…わかったよッ!でも、デートなんてしたこと無いからどこまでできるか分からないぞ」

 

士道の言葉に、琴里は満足そうにほほ笑む。

 

「心配しなくても大丈夫よ、ここには士道をサポートする優秀なクルーがそろっているわ」

 

そう言って琴里は、艦内のメンバーの紹介を始める。

 

「5度もの結婚を経験した恋愛マスター・『早すぎた倦怠期(バッドマリッジ)』川越!」

 

「いやそれ4回は離婚してるってことだよな!?」

 

「夜のお店のフィリピーナに絶大な人気を誇る、『社長(シャチョサン)幹本!』」

 

「それ完全に金の魅力だろ!?」

 

他にも『藁人形(ネイルノッカー)』だのなんだのと、奇妙な経歴と異名を持つクルー達にツッコミまくっていたため、艦橋にいたメンバー全員の紹介が終わったときには、士道は疲れ切っていた。

と、そこで琴里がクルー達に呼びかける。

 

「そういえば海之(みゆき)はいつ頃戻るって?」

 

「ええ!?まだいるのか!」

 

琴里の言葉に士道は驚きの声をあげる。もう彼にツッコミを入れる余裕は残っていなかった。

だが、真司は『海之』という名前に引っかかるものを感じていた。かつて自分はどこかでその名を聞いたことがある。だが思い出せない。そんな思いが真司の中でモヤモヤとした感情を生み出していた。

 

「先程、連絡がありました。もうすぐ帰還するとのことです」

 

椎崎と呼ばれていた黒髪の長い女性が琴里に報告する。それとほぼ同じタイミングで、真司たちが入って来た入口が開いた。

 

「司令、ただいま戻りました。」

 

「ああ、お帰りなさい海之。ご苦労様」

 

自分たちの後ろから聞こえてきた声に、真司は思わず振り返り、そして驚愕する。琴里が艦長席に座っていた時も驚いたが、目の前に立っている男の存在はそれ以上に真司を驚かせた。

 

「そうか…来たか。久しぶりだな、城戸」

 

その姿は、真司の知っているものより若干若かった。だが、真司がその男を、自分の運命を変えてくれた男(・・・・・・・・・・・・・)を見間違える筈が無かった。

 

「手塚…」

 

そこにいたのは仮面ライダーライア・手塚海之だった。




おまけ
佐野「そんなお若いのに業務執行取締役なんて。いいな~、憧れるな~」
アイク「大したことではないさ。それにしても、君は人を褒めるのが上手いね」
佐野「いやいや、そんなこと無いッスよ!ウェストコットMDはホントに凄いですって!」

佐野「メイザース執行部長、ホントにお綺麗ですね~。しかも世界最強の魔術師だなんて!」
エレン「私にとっては当然です。ですが、あなたは人を見る目がありますね」
佐野「いやいや、オレなんて全然!強くて綺麗な執行部長、憧れちゃうな~」

1か月後
佐野「DEM日本支社の社長になりました」
真司「もう士道じゃなくてお前が対話役やれよ!」

お読みいただいてありがとうございました。ご意見、ご感想、お待ちしています。


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再開

今回、全くと言っていいほどデートアライブの話が進みませんでした…。申し訳ありません。
その分、今回は龍騎分多めになっております。……龍騎分てなんやねんオレ


(しっかりしろよ!お前は運命を変えるんだろ!運命に決められた通りに死ぬのかよ!?)

 

(違う…あの時占った…次に消えるライダーは……本当はお前だった…。しかしオレは…)

 

―――お前なら…雄一…お前は後悔なんてしてない…今なら分かる―――

 

―――お前はオレの運命を変えてたんだ…―――

 

―――そしてそれがもっと大きな運命を変えるかもしれない―――

 

 

 

――――――オレの占いが……やっと外れる――――――

 

 

 

(手塚!手塚!手塚あああああああああ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、城戸。いや、今は五河だったか」

 

「手塚…お前…なんで」

 

真司は自分の目の前の光景を信じられずにいた。

彼の目の前にいたのは、かつてライダー同士の戦いを止めるため共に戦った、仮面ライダーライアこと手塚海之だった。

 

「お前と同じだ。オレもこの世界で精霊たちを救うために神崎に呼ばれたんだ。」

 

そう言って海之はカードデッキを取り出す。手塚の死後、ライアの契約モンスターだったエビルダイバーは王蛇が契約したはずだった。だが、どうやらタイムベントの影響によって、一度死んだはずの真司や海之同様に元に戻ったらしい。そのデッキにはエイを模したライアのマークが描かれていた。

 

「手塚…謝って済むようなことじゃないし、なんて言えばいいかよく分からないけど…ごめん…!オレの…オレのせいで…お前は……」

 

真司はライダーバトルの前半戦で、ガイに続いて死ぬ運命にあった。そのことを知っていた海之は、王蛇との戦いの中で、龍騎を王蛇のファイナルベントから庇って命を落としたのだった。

 

「手塚…ごめん。ずっと謝りたかった。オレがあそこで出ていかなかったら…」

 

「その時もオレは浅倉にやられてた。あんな一方的に押されていたんだからな。違うか?」

 

「それは…」

 

海之に非難されても仕方がない。そう思っていた真司は、予想外の返答に言葉を詰まらせる。そんな真司に、海之は優しく語り掛けた。

 

「オレはあの戦いの間、ずっと考え事をしていた…雄一がライダーにならなくて悔やんでいたのではないか…とな。どのみちあの状態では、浅倉に敗北するのは目に見えていた」

 

「手塚…だけど…」

 

なおも謝ろうとする真司を制し、海之は「それに」と続ける。

 

「オレは自分の意思で死を選んだんだ。お前が来ないまま浅倉にやられていたら、後悔しか残らなかっただろう。だが、お前を庇ったことはオレの意思だ。オレは運命を変えることが出来た。雄一(あいつ)は後悔なんてしていなかった…それを知ることも出来た。オレは満足していたんだ。だからお前が責任を感じる必要はない」

 

(お前たちが責任を感じるのは勝手だ…だが忘れない方がいい。手塚は自分の意思で死を選んだんだ…。そういう男だったはずだ)

 

真司はかつて蓮にかけられた言葉を思い出す。おそらく彼も海之の死について思うところはあったのだろう。だが、蓮は海之の思いに気付いていたからこそ、彼の死について「何も感じない」とまで言って感情を殺していたのではないだろうか。そう思った真司は、蓮にきつく当たってしまったことについても後悔した。

 

「手塚…ありがとう。お前の言葉で、ちょっとは気持ちが楽になった。…それに、蓮にも謝らないとな」

 

「秋山に?」

 

「ああ。お前が死んだ後、オレあいつに八つ当たりしちゃって…だけどこうしてお前と会って、やっぱりオレ、あいつにちゃんと謝らないといけないって思った」

 

「そういうことか…。なら、謝ればいい。きっとあいつなら許してくれるだろう」

 

「え?それって…」

 

「ちょっと!いい加減説明しなさい!」

 

海之の言葉にどういう意味かと尋ねようとした真司だったが、その言葉は琴里によって遮られた。

 

「どういうことよ!?真司、海之とどういう関係なの?それに海之が死んだって一体…」

 

「…それについては私が説明しよう」

 

その言葉に真司や琴里のみならず、その場にいたほとんど全員が驚いた。その声の主は令音だったのである。そのことについて何も疑問を抱いていない様子なのは、海之ともう一人。

 

「…その様子だと神無月、あんたも知っているみたいね」

 

「…申し訳ありません。どのような処罰でも受け入れますゆえ、司令、どうかお許し下さい。とゆうか、是非処罰を!なんなりと!ハードなやつを!」

 

神無月の言葉を無視して、琴里は令音の方へ向き直る。

 

「……これまで黙っていたことについては何も言わないわ。令音のことだから何か考えがあったんでしょ。令音。あなたの知っていることを教えてちょうだい。」

 

「…わかった。まず、先程の変身についてだが…」

 

そう言って令音は琴里や士道、フラクシナスのクルー達に説明を始める。仮面ライダーのこと、ミラーワールドやミラーモンスターのこと、さらにはライダーバトルやタイムベントのことについても彼女は知っていた。

 

「…というわけだ。要するに彼らは、異世界から来た人間ということになる」

 

「な、なんだよそれ…願いのために殺し合うなんて…」

 

あまりに信じ難い内容に、真司・海之・神無月・令音を除くその場にいた全員が驚きを隠せずにいた。

 

「…確かに信じ難いし、正しいとも思えない。…だが、その是非を問えるのは、実際にライダーとして戦った者達だけだと私は思うよ」

 

 

「だけど…」

 

令音の言葉に、士道は納得出来ない様子で反論しようとする。しかしそんな士道に、神無月は先程とは違う真面目な様子で言葉をかける。

 

「私も村雨解析官の言う通りだと思います。例えば士道くん、もし五河司令が何らかの理由で命が危なくなったとき、ライダーバトルに誘われたらどう思いますか。しかも、人を襲うモンスターを止められるのも仮面ライダーだけです」

 

「それは……」

 

「…いずれにせよ、このことについてこの場で議論することに意味は無い。だからいいとは言わないが、既に行われ、終わったことだからね。…もっとも、時間としてはこの先に起こるはずだった出来事だが」

 

令音がそこまで言ったところで、再び入口が開く。そこから二人組の男が入ってきた。

 

「そういうこと。オレもあの時は死なないために必死だったわけよ。あ、司令、頼まれてた書類出来たよ」

 

「先生、お疲れ様です」

 

真司はその声に、琴里を含めたフラクシナスのメンバーはその言葉に再度驚かされる。

 

「北岡さん!?それに秘書のあんたも…」

 

「秀一!?あなたもライダーだったの!?え、まさか吾郎も!?」

 

「いっぺんに話しかけるなよ。そりゃあオレは金持ちで天才でカッコいいけど、聖徳太子じゃないんだからさ」

 

そこにいたのは仮面ライダーゾルダ・北岡秀一と、秘書の由良吾郎であった。

 

「司令のご想像通りオレも元ライダーなのよ。あ、吾郎ちゃんは違うけどね。そして、お前ら同様神崎に連れて来られたってわけ」

 

「オレは付き添いです。オレは先生の秘書ですから」

 

「そういうこと。吾郎ちゃんのいない生活なんて考えられないからね。神崎に吾郎ちゃんも一緒でいいならこっちに来てもいいって希望したんだよ」

 

かつてと変わらない姿で説明する秀一。そのそばで嬉しそうにしている吾郎。以前見たのと全く変わらない光景に真司は懐かしさを感じていたが、秀一のその一言に疑問を感じる。

 

「北岡さん、希望したって…?」

 

真司は何気なく思っていたことを口に出す。しかし返って来た答えは無慈悲なものだった。

 

「何言ってんの、当然でしょ?異世界に行くんだ。それも天宮市の火災からだから最低数年はいなきゃならないし、任務完了までどの位かかるかも分からない。てことは実質元の世界に帰るの無理。だったら拒否権や条件出す権利だってあるでしょ」

 

「え……?そう…なの?」

 

真司は救いを求めるように海之を見る。だが彼もそんな視線に気付かずに答えた。

 

「ああ。オレは浅倉が起こした事件から雄一たちを救うことを条件にした。あいつのピアノをもう聞けないのは残念だが、精霊のことを知った以上放ってはおけないからな」

 

「ま、オレも令子さんに会えないのは残念だけど、健康な体に戻れて、万が一の場合も医療用顕現装置(リアライザ)を使わせてもらえて、吾郎ちゃんも一緒なら断る理由もないしね」

 

二人に続くように令音も言葉を続ける。

 

「…ライダーやミラーワールドのことは神崎士郎から直接聞いた。…正直、鏡の中に見知らぬ男が映っていて、しかも話しかけてくるのだから驚いたよ。知っているのは私と神無月、それと数人の技術スタッフだけだ。…琴里、君に伝えなかったのはこれ以上負担を掛けたくなかったからだ…。ただでさえフラクシナスの司令として負担が多かったからね」

 

「令音…ありがとう…」

 

思ってもみなかった令音の優しい言葉に、琴里は思わず涙を流しそうになる。が、なんとかそれを堪えて言葉を発する。

 

「…でも、これからはちゃんと話してよね!私たちは家族も同然なんだから!」

 

「…琴里…わかった。気を付けよう」

 

琴里の言葉に今度は令音が面食らったような表情になるが、すぐに微笑んでそれに答えた。

そして琴里は、士道に改めて発破をかける。

 

「さあ士道!これだけたくさんの人間が協力してるのよ!覚悟決めてしっかり挑みなさい!」

 

「…ああ!やってやる!」

 

「それでこそ私のおにーちゃんね。今までのデータから見て精霊が現界するのは最短でも一週間後。早速明日から訓練よ」

 

「おう!……ちょっと待て、訓練って?」

 

「さあ、私たちの戦争(デート)を始めましょう」

 

「ねえ!訓練ってなに!?」

 

琴里の言葉に士気の上がるクルー達。一体何をさせられるのかと慌てふためく士道。それを穏やかな表情で眺める令音、海之、秀一、吾郎。フラクシナス艦橋は、騒がしいがとてもいい雰囲気で満ちていた。

……一人を除いては。

 

「…オレ気づいたらここにいたんだけど。しかも説明とかロクに無かったし…なにこの差…イジメなのか…?」

 

一人部屋の端でいじける真司(主人公)には誰も気付かなかった。




おまけ
須藤「ライダーになって、頂点を極めるのは興味深い…!」
夕弦「疑問。蟹が龍や蛇や不死鳥に勝てると本気で思っているのですか?」

東條「英雄って…どうすればなれるのかな…?」
夕弦「嘲笑。英雄(笑)」

芝浦「オレが…ゲームを面白くしてやったのに」
夕弦「無視。近くにいたガイが悪いです」


令音「…このところカウンセリングに訪れるライダーが増えたな」
夕弦「困惑。何かあったのでしょうか」



手塚に続き、北岡と吾郎も参戦です。さらにお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、龍騎の最高の相棒とも言えるあの(・・)ライダーのフラグも立ちました。登場はまだ先になりますが、ぜひご期待ください。
ちなみに作中の令音の言葉は、最終回の大久保の言葉を基にしています。最後にいいこと言ったよ編集長。
お読みいただいてありがとうございました。ご意見、ご感想、お待ちしています。


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訓練、そして…

おまけ
須藤「ライダーの力は癖になるんですよ…そして頂点を極めたいと思うようになる…」
折紙「それはつまり私が士道の***が癖になって、士道を***したくなるのと…」
須藤「違いますね」
折紙「じゃあ***は?」
須藤「私が言うのもなんですが、ちょっと交番へ行きましょうか」


今回はおまけが先という構成になってます。紛らわしくてすみません。
加えて、話グダグダな上に、更新遅くなってすみませんでした。そろそろリアルも忙しくなってきて、今後も更新が遅くなるかもしれません…。
あと、作中の「キッド」はドラゴンナイトネタです。



「…なんですかこの部屋」

 

「このコンピューターとかディスプレイすげーな!OREジャーナルにもこんなのあったら良かったのに…。あ、でもオレ基本取材派だったな…。でも、これなんですか?」

 

「…部屋の備品さ?」

 

「いやなんで疑問形なんですか!ていうかそれ以前に、ここ物理準備室でしょう?もといた先生はどうしたんですか!」

 

「…ああ、彼か。うむ…………。まあ、そこで立っていても仕方がない。入りたまえ」

 

「うむ、の次は!?」

 

「ホントにすっげーなこの部屋!秘密基地みたいだ!その辺にファイズとかイクサとかG3とかいたりして!…誰のこと言ってるんだオレ?」

 

「ガタガタうるさいわよ士道。真司も落ち着きなさい。…ていうか真司、昨日本物の秘密基地見たでしょ」

 

本来物理準備室という部屋は、実験の準備くらいでしか生徒は入らず、基本的に静かな場所のはずである。だがその日の来禅高校物理準備室は、とても騒々しかった。防音加工という本来物理準備室に必要無い改造が施されていなければ、平気で廊下や隣の教室の生徒達に会話が聞こえていただろう。

真司と士道がラタトスク機関に加わった翌日。突然村雨令音が士道達のクラスに副担任として赴任してきた。驚く真司と士道。だが、彼女や何故か校内に現れた琴里に連れられて物理準備室へとやってきた二人は更に驚くこととなる。

物理準備室は、多くの液晶画面が設置された『少なくとも物理準備室では無い部屋』に変わっていた。

 

「…さ、ともかく訓練を始めよう。ここに座りたまえ」

 

「ちょっと!オレの質問は無視ですか!?ていうか訓練って!?」

 

「昨日も言ったでしょ。精霊との対話のための訓練よ。もしかしてもう忘れたのかしら?」

 

司令官モードの琴里が、呆れたようにため息をつく。その様子に士道は一瞬文句を言いかけるが、ぐっと堪えた。士道はまだ、リボンの付け替えによって現れるらしいこの状態の琴里に慣れていないのだが、少なくとも口喧嘩で自分に勝ち目が無いことは、なんとなく悟っていた。

 

「仕方ないわね…令音、真司とこの記憶力の残念な兄に訓練内容を説明してあげて」

 

「…ああ。シンとキッド、君たち二人にはやってもらいたいことがある。それは女性への対応に慣れてもらうことだ」

 

「シンって…真司のことですか?キッドってのは…」

 

「…?いや、シンは君のことだが。彼は旧姓が『城戸』だと聞いていたのでキッドと呼んだのだが…」

 

「いや、なんでオレがシンなんですか…オレの名前は士道です…」

 

「…そうだったか。すまないね。…話が逸れたが、精霊とデートするためには会話が不可欠だ。ある程度の指示はこちらからできるが…やはり本人が緊張してしまっていては話にならない。だからしんたろうと真司には、そのための訓練をしてもらう必要があるんだ」

 

令音の言葉は至極当然の内容だったが、士道は少し納得できない様子を見せる。

 

「令音さんがオレの名前に関して直す気ゼロなのはこの際置いといて…女の子との会話って、流石にそのくらいは」

 

と、そこまで言いかけたところで、士道は琴里に後ろから押されて令音の胸に顔面から突っ込む。

 

「……ッ、な、ななななにしやがる…ッ!?」

 

士道は顔を真っ赤にさせながら抗議したが、琴里は嘲るように肩をすくめて士道の言葉を一蹴した。

 

「ダメダメね。わかったでしょ、このくらいで心拍を乱していちゃ話にならないの」

 

士道は明らかに例がおかしいと感じながらも、琴里の言い分にも一理ある部分はあると訓練に対する認識を改める。

一方真司は令音の説明に疑問を感じていた。

 

「令音さん、オレも訓練するんですか?デートするのは士道で、オレは裏方なんじゃ…?」

 

真司の疑問に、令音は部屋のコンピューターや機械のいくつかをいじりながら答える。

 

「…状況次第では君にも精霊との対話役をやってもらうかもしれない。それにシンの手伝いにしても、女心というものを知っておいて損はない」

 

「なるほど…」

 

「…対話を手段として用いるとはいえ、相手は精霊。ちょっとしたミスが命取りになりかねない。…流石に失敗したら『折れたァ!?』じゃ済まないからね」

 

「ちょっと待って!なんでそれ知ってんの!?」

 

令音は真司の言葉には答えずに、机の上のモニターの電源を入れた。すると画面には、可愛らしくデザインされた『ラタトスク』の文字が映し出される。そしてそれが消えると、今度はポップな音楽と共に、カラフルな髪の美少女達と『恋してマイ・リトル・シドー』というタイトルが表示された。

 

「訓練ってギャルゲーかよ!」

 

画面を見た士道は思わず突っ込む。一方の真司はギャルゲーというものにあまり実感が湧いていないのか、画面に表示されたキャラクターたちをキョトンとした様子で見つめていた。

 

「令音さん、これって?」

 

「…ああ、そういえば海之たちもよく知らなかったね。君たちの世界にも全く無かったというわけではないだろうが、彼らの話を聞く限りこちらほど知られてはいないようだ。…第一、君たちは進んでギャルゲーをやるようにも見えないな」

 

そう言って令音はもう一台のモニターの電源を入れる。

 

「…それはいわゆる『ギャルゲー』、恋愛シミュレーションゲームだ。ゲーム内の自分の行動を選択して、キャラクターと恋愛するというものだ。…まあ、訓練用のゲームだから、市販されているものとは多少異なるがね」

 

「う~ん…分かったような…よく分からないような」

 

「…まあ、実際に慣れてみるのが一番だろう。真司、君はこっちでやってみたまえ。一応君は裏方だから、シンのものより難易度は下げてある」

 

そう言って令音は、電源を入れたモニターの前に真司を座らせた。

 

「………令音さん、オレのやつ、ホントに恋愛のゲームなんですか?」

 

「…そうだが」

 

「いや…士道のとオレの、全然違う気がするんですけど」

 

士道の画面と同様に『恋してマイ・リトル・シンジ』というタイトルが表示される。だが、士道の方の画面がピンク色を基調としたもの。対して、真司の方は背景が燃え盛る炎という、まるでRPGや格闘ゲームのようなものだった。

 

「…気のせいだ。バトルなどは一切なし、難易度もやや低めで甘々な恋愛を体験できる」

 

「…はあ。それならまあ…」

 

やってみますと真司が言いかけたところで、遮るようにスピーカーから音声が響く。

 

『戦わなければ生き残れない!』

 

「……」

 

「「「……」」」

 

物理準備室に静寂が訪れた。しかしそれも一瞬。

 

「あ、士道は失敗したら黒歴史をいろんなところで公開するから。昔士道が作ったポエムとか」

 

「なんで!?」

 

すぐに士道の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて士道、真司。いよいよ実戦よ。準備はいいかしら?』

 

装着したインカムを通じて、二人の耳に琴里の声が届く。

 

「いや…準備ってか、オレは色々トラウマが増えただけに感じるんだが」

 

「……二次元の女の子ってあんなにたくさん必殺技持ってたのか…知らなかった」

 

二人は訓練のときのことを思い出して、少々げんなりした様子になる。

 

『だらしないわね~。今からそんな様子じゃ、先が思いやられるわよ。精霊はもう、その部屋(・・・・)にいるんだから』

 

琴里の言葉に二人の表情は一転して引き締まったものになる。

それは、二人が訓練を始めて数日後のことだった。

 

 

 

 

事の起こりは数時間前に遡る。

真司はギャルゲーに対する間違った認識を、士道は数々のトラウマを得ながらも、なんとかギャルゲー特訓を終了させた。

その後、今度は生身の女性相手との訓練ということで、岡峰珠恵を士道が口説けという指示が出された。事が起こったのは、士道が口説く中で口にした『結婚』という言葉に目がマジになってしまった珠恵を振り切り、次なる相手として鳶一折紙に接触していたときだった。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――――――――

 

突然、何の前触れも無く、空間震警報が響き渡る。それを聞いた折紙は、

 

「急用が出来た。また」

 

と言って駆け出した。

そして折紙と入れ替わるように、士道のもとに真司が駆け付ける。

 

「士道!琴里から連絡だ。一旦フラクシナスへ戻れって」

 

「分かった!急ごう!」

 

「おう!ところでお前、先生との結婚どうするんだ?」

 

「今言うことか!?」

 

 

 

そうして準備を整えた二人は、精霊の出現場所へと向かっていた。

 

「まさかオレたちの通ってる教室に現れるなんてな。…士道、緊張してるか」

 

「ああ…まあな…」

 

『今なら止められるわよ』

 

琴里は試すようにそんなことを言う。…が、

 

「いや…やるさ。オレはもう、あの子のあんな顔は見たくない……」

 

士道は力強く答えた。その答えに琴里は満足した様子を見せる。

 

『よく言ったわ。流石私のおにーちゃんね。…さ、頼んだわよ二人とも』

 

「おう!」

 

「ああ!士道たちのことは任せろ!」

 

『さあ、私たちの戦争(デート)を始めましょう』

 

琴里の掛け声と共に、二人は二年四組の教室へ突入した。




番外編・「恋してマイ・リトル・シンジ」誕生秘話
「…ということで、士道くんのためのソフトについてはこれで決定とします。次に、真司くんの方ですが…こちらも司令と村雨解析官から一任されてますので、我々で制作にあたります。副司令」

「川越さんの説明した通りです。みなさん、制作に関して何かアイデアはありますか?…はい、北岡さん。どうぞ」

「俺思うんだけど、城戸の仕事は士道くんのサポートと、彼に万一があった場合の交代要員でしょ?だったら両方の訓練が必要だと思うのよね」

「なるほど…。一理ありますね。他には…海之くん、どうぞ」

「詳しく聞いたわけではないが、恐らく城戸はギャルゲーというものに触れた事が無いだろう。だから、いくら高性能な物を作っても、訓練という意識が湧かないと思う。そうなれば、せっかくの訓練もただのゲームに…」

「確かに…それについて何か考えはありますか?」

「奴ライダーバトルや異世界への転移といった、普通起こりえない経験はすでにしている。ならば、それに似たような設定にしてやれば、自然と訓練内容に入っていけるんじゃないだろうか」

「なるほど…映画などで、子供部屋のクローゼットなどが未知の世界に繋がっているという演出で、観客を物語に引き込むのと同じ発想ですね。」

「すごい…みんな!我々も彼らに負けないように頑張ってアイデアを出そうではないか!そしてそれが、真司くんたちを助けることになる!」

『おおーーー!』




「…で、その結果がこれってわけ?」

「すみません…少々悪ノリしました」


【企画書『恋してマイ・リトル・シンジ』】
・ストーリー
ある日突然世界が崩壊を始めた。戸惑う主人公・五河真司だったが、突如現れた謎の少女によって、この現象が9つの並行世界が1つに混じろうとして起こったものだということ、自分の使命が「9つの世界を旅してそれを阻止する」というものだということを告げられる。だが彼は行く先々の世界で、その世界の鍵を握る少女たちから『悪魔』と忌み嫌われ、襲われる。
果たして真司は、彼女たちをデレさせ、世界を救うことができるのだろうか!

「『できるのだろうか!』じゃないわよ」

・ヒロイン案(一例、今後案を追加予定)
『乾 多久実』ぶっきらぼうな態度だが、本当は不器用で心優しいツンデレ。必殺技はクリムゾンスマッシュ
『五代 雄香』一見変わり者だが、強い意志と優しさを兼ね備えた人物。2000の技を持つ。必殺技はマイティキック。
『天道 総子』自分が世界で一番偉いと本気で思っており、クールかつ不遜な態度を取る。一方で、弱者は決して見捨てない熱さと正義感を持つ。必殺技はライダーキック

「なんでヒロインがみんな必殺技持ちなのよ」

・キャッチコピー『戦わなければ生き残れない!』

「やかましいわ」


「司令、だめでしょうか…」

「当たり前でしょ!なんでこんな10周年企画みたいな内容になんのよ!いろんなところから怒られるわよ!」

「し、司令、落ち着いてください!何を言っているのか分かりません!」

「むう…でももう手直ししてるヒマもないし…真司には悪いけど、これでいくしかなさそうね」

こうして、真司の訓練用ソフト『恋してマイ・リトル・シンジ』は、おおよそギャルゲーとは呼べそうにない代物となったのだった。

終わり


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きみの名は……

仮面ライダーデータ
『仮面ライダー龍騎』
変身者・五河真司(旧姓は城戸)
契約モンスター・無双龍ドラグレッダー(5000AP)
ファイナルベント・ドラゴンライダーキック

特殊なカードは持たないが、ソードベント、ガードベント、遠距離攻撃も可能なストライクベントと基本的な装備のカードはバランス良く備えた強力なデッキ。主に近距離での肉弾戦を得意とする。また、契約モンスターのドラグレッダーは、モンスターの中では大物の部類に入る。
ライダーになりたての頃は、戦闘経験の不足から、全ライダーの中でも高スペックなデッキの力を上手く引き出せないことも多かった。次第に高い戦闘能力を獲得していったが、ライダー同士の戦いに対する考えから本気を出せないことも度々あった。今作では殺し合いを強要されているわけではないため、自分のやるべきことを見据えて全力で戦うことができるようになり、前述のように上手く戦えないということはなくなっている。
また、本作での彼は、ライダー同士の戦いの中で、命を落としながらも答えを見つけたことにより、自分でも気付かないうちに精神的に大きく成長している。

「オレは絶対に死ねない!1つでも命を奪ったら、お前はもう後戻りできなくなる!」


士道は教室に入る前に、彼女に最初にかける言葉を考えていた。

 

――――――やあ、こんばんわ、どうしたの、こんなところで――――――

 

それが当初予定していた士道の挨拶だった。だが…

 

「あ…」

 

前から4番目、窓際から2列目―――ちょうど士道の席に少女はいた。

物憂げな表情で席に座り、黒板をぼうっと眺めている。半身を夕日に照らされたその姿はあまりに神秘的で、士道の思考能力は一瞬停止してしまう。だが、それも一瞬のことだった。

 

「ぬ?」

 

士道たちの侵入に気付いた少女はこちらを向く。

 

「…ッ!や、やあ―――」

 

士道がなんとか心を落ち着かせながら手を上げ…ようとした瞬間。

 

「士道危ないッ!」

 

士道の体は真司に押し倒される。それと同じタイミングで、少女が無造作に手を振り抜き、先程まで二人が立っていた位置に黒い光線が命中した。

 

「うおっ!あっぶね~…」

 

後ろの光景を確認した真司は思わず顔を歪める。その言葉につられて振り返った士道は、あまりの光景に固まってしまった。入口の扉やその先の壁は木端微塵になっていた。

 

「お前たちは何者だ」

 

と、不意に声がそばから聞こえた。

 

「「な!?」」

 

そこには先程の少女・精霊『プリンセス』がいた。二人が後ろを振り返っていたわずかな時間の間に、少女は彼らのそばに移動していた。

 

「答えろ」

 

その迫力の前に二人は反射的に答えようとする。だがそのとき、インカムを通じて琴里からストップがかかった。

 

(なんだよ?早く答えないと…)

 

『分かってるわよ。でも今、精霊の精神状態は不安定。下手なこと言ったらお陀仏よ。逆にここで上手くいけば…』

 

(…!信頼を得られるってことか!)

 

『そういうこと。少しだけ待ちなさい』

 

 

 

『フラクシナス』艦橋のスクリーンには、精霊の少女の姿が映し出され、その周りには好感度などのパラメーターが表示されていた。その様子はまるでギャルゲーのようである。

そして今、画面中央には選択肢の書かれたウィンドウが表示されていた。これは、令音の操作する観測用顕現装置(リアライザ)と連動したフラクシナスのAIが、状況に対応した返答のパターンを表示したものであった。

 

「まずは士道の方からよ。総員、5秒以内に選択!」

 

別件でこの場にいない海之・秀一・吾郎を除くクルー達が一斉に手元のコンソールを操作する。その結果はすぐに琴里の手元のディスプレイに表示された。

 

「なるほど…大体みんな私と同じ意見みたいね。このタイミングで冷静な海之がいないのは不本意だけど…多分間違いはないでしょう。士道、聞こえる?こう言いなさい」

 

そう言って琴里は士道に指示を出した。

 

 

 

「もう一度聞く。答えないなら敵とみなすぞ。お前たちは何者だ」

 

その声音から二人は、士道と真司が沈黙していることに少女が苛立ってきたのを感じる。このままではマズいと二人が感じたとき、士道のインカムから琴里の声が聞こえた。

 

『士道、聞こえる?こう言いなさい。人に名を尋ねるときは自分から名乗れ』

 

「人に名を尋ねるときは自分から名乗れ……って何言わせてんだよ…」

 

言ってしまってから士道は顔を真っ青にするが、時すでに遅し。それを聞いた途端少女は不機嫌そうに顔を歪める。そして、今度は大きなエネルギー弾のようなものを作りだし、放つ。威嚇のためか、士道から少し離れた場所を狙ったらしく、直接的なダメージは無かった。が、下の階の床まで破壊したその攻撃は、士道の精神面に充分過ぎるダメージを与えた。

 

『あっれ~?おかしいな~?』

 

「おかしいなじゃねえ!殺す気か!?」

 

「士道!何考えてんだよ!そういうこと言ったら相手も怒るって分かるだろ!」

 

不思議そうな様子の琴里に士道は文句を言い、その士道に真司が文句を言った。

 

「いや、あれは琴里からの指示で、オレの意見じゃないって!」

 

「ちょっと考えたら分かるだろ!『マイ・リトル・シンジ』のモモタロ子ちゃんも同じこと言われてキレたの忘れたのか!?」

 

「オレそれやってねえよ!てか、誰だよモモタロ子ちゃん!名前ひどすぎだろ!」

 

と、二人の口論がヒートアップしかけたとき、不機嫌そうな「おい」という声が聞こえ、二人は冷静さを取り戻す。少女は再び手の中にエネルギー弾を作り出していた。

 

「これが最後だ。答える気が無いなら、敵と判断する」

 

その言葉に二人は慌てて口を開く。

 

「お、オレは五河士道!ここの生徒だ!敵対する意思は無い!」

 

「オレは城戸…じゃなくて五河真司!士道の兄弟だ!オレも敵じゃない!」

 

両手を上げながら答える二人を、少女は訝しげに見つめる。そして数秒後、何かに気付いたかのように「ぬ?」と眉を上げた。

 

「お前たち…一度会ったことがあるな………?」

 

「あ…ああ、今月の…確か10日に。街中で」

 

「おお」

 

士道の答えに、少女は得心がいったように小さく手を打った。

 

「お前たちか。思い出したぞ。お前はなにやら姿を変えて、私の鏖殺公(サンダルフォン)の中に出入りしていたな」

 

「そうそう。覚えててくれたんだ」

 

少女の目から、微かに険しさが消えるのを見取って、少し二人の緊張が弛む。

少女は、今度は士道の方へ話しかけた。

 

「そしてお前は、そいつがいなくなった後におかしなことを言っていた奴だな」

 

少女がそう言った直後、

 

「ぎ……ッ!?」

 

「士道!?」

 

士道は少女に前髪を掴まれ、顔を上向きにさせられていた。

 

「…確か、私を殺すつもりはないと言っていたか?ふん――見え透いた手を。言え、何が狙いだ。油断させておいて後ろから襲うつもりか?」

 

「おい!いくらなんでもそれは…」

 

「まってくれ…真司…」

 

真司は士道を掴んでいる少女へ詰め寄ろうとするが、士道がそれを制止する。

彼は少女への恐怖よりも先に、彼女が士道の言葉を微塵も信じられないということに、目の前の少女がずっとそのような環境に晒されてきたことに憤りを感じていた。

 

「人間は…お前を殺そうとする奴らばかりじゃない!オレたちは、お前と話をするために来たんだッ!」

 

インカムから、琴里が士道を諌める声が聞こえる。だが彼は止まらなかった。

この少女は、自分が愛されるなんて微塵も思っていないような、世界に絶望した表情をしていた。士道は、その表情が嫌いでたまらなかった。

今まで彼女には手を差し伸べる人間がいなかったのだ。たった一言でもあれば、状況は変わっていたかもしれなかったのに。

だから士道は、自分がその一言を言ってやると決めた。

 

「オレは、お前を否定しない!」

 

「!!」

 

士道の言葉に少女は驚いたように目を見開く。少女は士道を掴んでいた手を離し、士道から目を離した。そして、暫しの間黙った後、小さく唇を開く。

 

「…シドーといったな。本当に、お前は私を否定しないのか」

 

「本当だ。それにオレだけじゃない」

 

士道の言葉に続くように真司も答える。

 

「オレもだ。きみを否定したりしない」

 

「本当の本当か?」

 

「「本当の本当だ」」

 

「本当の本当の本当か?」

 

「「本当の本当の本当だ」」

 

二人が間髪入れずに答えると、少女は髪をくしゃくしゃと掻き、ずずっと鼻をすするかのような音を立ててから、顔の向きを戻してきた。

 

「ふん。誰がそんな言葉に騙されるかばーかばーか」

 

「ッ、だから、オレたちは…」

 

「だがまあ、あれだ」

 

少女は複雑そうな表情を作ったまま、士道の言葉を遮って続ける。

 

「どんな腹があるのか知らんが、まともに話をしようとする人間はお前たちが初めてだからな。話くらいしてやらんこともない」

 

そう言いながら、少女の表情はほんの少しだけ和らいだ。どうやら、気を許してはもらえたようだ。

 

「ああ、ありがとな…え…と」

 

そこまで言って士道は少女に名が無かったことを思い出す。士道が言葉に詰まっている様子から、真司と少女も士道が考えていることに気が付いたらしい。

 

「む…そうか、私と話をするには名前が必要だな。これまでは相手がいなかったから必要が無かったが…シドー、それにシンジといったな。お前たちは私のことをなんと呼びたい?私に名を付けてくれ」

 

「「え…」」

 

少女の要求に二人は言葉を詰まらせる。士道はまさか高校生で名付け親になると思っていなかったし、真司も本来は28歳のはずだが、ここでの生活に馴染んでいたため名前を付けるという実感が湧かなかった。と、そこで真司のインカムに通信が入る。

 

『真司、彼女の外見に合う名前に必要なのは古式ゆかしい優雅さよ。そしてそれにピッタリな名前は…トメ!』

 

「トメ!きみの名前はトメだ!」

 

真司がそう告げた次の瞬間、真司の横にあった机とその列の机が全て消し飛んだ。少女の表情からして、よっぽど嫌だったらしい。

 

「うおお!あっぶね…ってああ!あれオレの机!明日集めるって言われた課題入れっぱなしだったのに!何してくれちゃってんのきみィィィ!!」

 

「何故だかわからんが、無性に馬鹿にされた気がした」

 

目に見えて少女が不機嫌になる。全国のトメさんには悪いが、流石に今時の女の子に付ける名では無いだろう。そう思った士道は、「課題ィィィ!」と悶える真司を無視して少女に話しかけた。

 

「そうだな…じゃあめぐみはどうだ?」

 

「ぬう…悪くはないが…シンジはどう思う?」

 

先程まで悶えていた真司だったが、少女に問われたことでようやく我に返る。

 

「ん?うーん…別に悪くはないけど…めぐみって名前にいい思い出無いんだよな…OREジャーナル社員総出で振り回されたりとか…」

 

「シンジが言ってることはよくわからんが…なら止めておこう。シドー、すまん」

 

「気にするな。それなら…十香ってのはどうだ?」

 

そう言って士道は黒板に『十香』と書く。

 

「うむ…まあいい。トメよりはましだ」

 

「おお!それいいな士道!」

 

どうやら気に入ってもらえたらしい。真司に至っては大絶賛していた。4月10日に出会ったから『十香』という少し安直なアイデアではあったが、どうやら間違ってはいなかったようだ。

 

「十香…か」

 

そう言いながら、少女は士道が書いた『十香』の字を真似するように黒板を指でなぞる。すると、少女の指が伝った跡が綺麗に削られ、下手くそな字で『十香』と刻まれていた。

 

「シドー…シンジ。十香、私の名だ。素敵だろう?呼んでくれ」

 

「おう!十香ちゃん!」

 

「うむ!」

 

真司に名前を呼ばれて満足そうな様子の少女は、今度は士道の顔を真っ直ぐに見つめる。

 

「シドー…」

 

少女の―――十香の言葉に士道は若干の気恥ずかしさを覚えながらも、その望みを受け入れる。

 

「と、十香」

 

士道がその名を呼ぶと、十香は満面の笑みを見せた。思えば二人が彼女の笑顔を見たのはこれが初めてかもしれない。

その幸せそうな表情に、士道と真司も思わず笑みをこぼすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。士道や真司のサポートとは別の用事で天宮市内の大通りを訪れていた海之・秀一・吾郎の三人は、空間震用シェルターに避難していた。

 

「へえ、もっとぎゅうぎゅう詰めで暑苦しいかと思っていたけど…案外快適じゃないの。ま、でもやっぱフラクシナスに回収してもらった方がよかったけど」

 

秀一の言葉に海之が答える。

 

「仕方ないだろう。まさかあのタイミングでモンスターが現れるとはな。空間震が起きればあまり関係無いが、起きる前の避難のどさくさに紛れて人を襲いかねない」

 

「ま、仕方ないか。戦闘が終わった後は時間的に城戸たちの準備で忙しかっただろうし。無理に戻ろうとしてクルーの仕事増やすのもあれだしね」

 

彼らの会話の通り、二人がモンスターを退治したときにはすでに、士道と真司の実戦投入に向けた準備でフラクシナス艦内は慌ただしい状態だった。それを見越した三人は無理に艦には戻ろうとせず、こうして他の市民と共に公共用シェルターに避難していたのであった。

 

「あいつらならきっと大丈夫だ。いい結果をもたらせると出た。オレの占いは当たる」

 

「それは頼もしいじゃない。…ま、こっちが上手くいかなかった分、あいつらには成功してもらいたいね」

 

そう言いながら、秀一の表情が険しいものになる。彼らが今回別行動で行った任務はまたしても(・・・・・)失敗に終わっていた。

 

「しかしあいつも大変だな。また(・・)記憶喪失だなんて。まだ若いのに2回目とはね~。……吾郎ちゃん、あいつ(・・・)のことどう思う?」

 

「…正直、今のままでは難しいと思います。根が頑固そうな人でしたし、記憶まで無いとなると…」

 

「オレも同意見だ。…とは言え、ヤツの記憶を戻せそうな人物を考えても、それこそ城戸か小川恵理くらいしか思い浮かばない。だが、小川恵理はこちらにはいない。ヤツ自身が一緒に連れていくかという神崎の提案を拒否したのだからな」

 

「全く…ややこしいことしてくれるよアイツも…」

 

秀一が思わずため息をこぼす。その一言が、現在の海之たちが解決すべき問題の全てを表していた。

 

「お前は…オレはどうすればいいんだ…。秋山…」

 

海之の漏らした呟きは、誰の耳にも届かなかった。




おまけ

琴里「おにーちゃん!おはよーだ!」
蓮「とっとと起きろ。お前のいびきでこっちは寝不足だ。安眠妨害で借金を追加しておく」


十香「シドー!一緒に昼餉にしよう!」
大久保「バカ真司!とっとと取材行って来い!」


四糸乃「こんばんわ…士道さん…。十香さんと一緒に…晩御飯…食べに来ました……。あの…ご迷惑でしたか…?」
浅倉「お前の都合なんざ知るか。戦いたいんだよ、オレはな…。不満か?だったらどうする。()るか?」
真司「もうやだこの格差!」


お読みいただいてありがとうございました。今回はいつもより少し長めになりました。読みにくいと感じた方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。今回士道が主人公らしく振舞っていたかと思えば、真司がほぼ空気となってしまいました。次回は真司が活躍しますのでご容赦ください。
ご意見、ご感想、お待ちしています。特におまけがネタ切れになりかかってますので、意見やアイデアをくださるとありがたいです。


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龍騎の願い

更新遅くなってすみません。今回は解説やらなんやらで、文字数増えた割に進みませんでした。
本当にごめんなさい


『精霊の少女』が『十香』となってから暫くの間、三人は会話を楽しんでいた。人間である士道や真司からすれば当たり前のことにも、十香は驚き、いくつも質問を投げかけてくる。一方で十香のその無邪気な反応が、話をしていて楽しいと士道たちに感じさせる。士道は、この時間がずっと続けばいいのにと感じていた。

だが、そう思う時に限って招かれざる客はやって来る。十香が彼らの今いる教室について質問をしていた時、真司はモンスターの出現を知らせるあの音を聞いた。

そしてそれとほぼ同じタイミングで窓側から爆発音が響いたかと思うと、教室の壁が破壊され、空中を飛行するASTの姿が現れた。

 

『真司!士道!』

 

二人の耳に琴里が呼びかける声が響く。

 

「ああ、分かってる。真司、どうする?十香を連れて別の部屋に逃げるか?」

 

士道が確認するように尋ねるが、真司は首を横に振った。

 

「ダメだ。あれじゃどこに逃げても追ってくる。…それに今はオレの近くにいてくれ。ミラーモンスターが近くにいる」

 

そう言いながら真司はポケットから小さな機械を取り出し、確認する。それは、ここへ来る前に令音から渡された物だった。

それ(・・)が正常に起動していることを確認した真司は、今度はミラーモンスターを探す。その姿は、普段の頭の悪さなど感じさせない『歴戦の猛者』の雰囲気を醸し出していた。

しかし、そこへASTが放ったと思われる攻撃が向かったことにより、真司はやむなくモンスター探しを中断する。幸い、その攻撃は十香によって防がれ、二人にダメージは無かった。

 

「おい!なんで攻撃してくんだよ!ふざけんな!」

 

真司の怒気をはらんだ呼びかけによって、ASTは彼らの存在に気付く。

 

「あなたたち、そこで何しているの!危険よ!…って、あなたたちはこの前の……」

 

避難するように呼びかけようとした燎子は、彼らが以前も精霊の出現場所にいたことを思い出した。

 

「あなたは確か……仮面ライダー…だったわよね。そこをどきなさい」

 

「…なんでだよ」

 

警戒しながら真司は燎子に問いかける。しかし、それに答えたのは別の人物だった。

 

「私たちは精霊を倒さなければならない。そこにいたら、あなたも士道も巻き込まれることになる」

 

「鳶一さん…やっぱりあんたも来たのか」

 

「鳶一…なんで…」

 

真司や士道の言葉には答えず、折紙は続ける。

 

「精霊は災害。そこにいるだけで世界を壊す怪物。私たちの狙いはあくまでも精霊であって、あなたたちを巻き込むのは不本意な事。それにミラーモンスターに対抗する手段が現時点で無い以上、五河真司に死なれては困る」

 

折紙は真司たちに淡々とそう告げる。そしてそれが真司の怒りを爆発させた。

 

「ふざけんな!そりゃ空間震とかで被害が出てるのはホントかもしれないけど、ちょっと人と違うってだけで化け物扱いするなんて間違ってる!そんなこと言ったら、オレやあんたたちの力だって化け物扱いされるには充分だろ!」

 

「真司…」

 

それは、普段ニコニコしている事の多い真司が見せた本気の怒りだった。あまりの迫力に士道や十香、ASTまでもが思わず口を閉じるが、唯一折紙だけはひるむ事無く真司に反論する。

 

「あなたの言っている事は詭弁でしかない。実際に精霊によって被害が出ている以上、それを倒すのが私たちの務め」

 

「あんたなぁ……」

 

真司は反論しようと口を開きかけるが、口論はそこで一度中断された。入口側の窓ガラスから、モンスターが出現したのである。切れ味の鋭い角状の武器を腕に装着したシマウマ型モンスター・ゼブラスカルアイアンだった。

ゼブラスカルアイアンは他の人間には目もくれず、一直線に十香へ斬りかかる。しかし、その攻撃が当たる直前に真司突き飛ばしたため、その攻撃は当たらなかった。

 

「ごめん十香ちゃん!大丈夫か!?」

 

「う、うむ。シンジのおかげで無傷だ。それよりシンジとシドーは大丈夫か?」

 

「ああ、オレは大丈夫だ。真司は…」

 

「オレも無傷だ。心配してくれてありがとな」

 

真司はそう言ってデッキを取り出した。そんな真司に折紙は問いかける。

 

「…精霊の戦闘能力を考えれば、わざわざあなたが危険な目に遭わなくてもよかったはず。そもそも今といい、この前といい、何故あなたは精霊を庇うの?」

 

その問いかけに真司は先程とは違って静かに答えた。

 

「…十香ちゃんはずっと敵意を向けられながら生きてきた。士道が気付くまでずっと、誰も護ってくれなかったんだ。だからこれからは…オレが護る。十香ちゃんも、士道も、琴里やみんなも…。人を護る為にライダーになったんだから、精霊を護ったっていい!」

 

そう言って真司はデッキを構える。すると本来、鏡の前やミラーワールドでしか現れないはずのVバックルが出現する。

 

「!?真司…それって…」

 

「…ああ。ここに来る前に、令音さんにもらった機械のおかげだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡ること1時間前。

真司は令音に小さな機械を渡されていた。

 

「令音さん…これは?」

 

「…顕現装置(リアライザ)の一種だ。これは君たち仮面ライダーにしか使えない」

 

顕現装置(リアライザ)。それは30年前に人類が手にした禁断の技術。コンピューター上での演算結果を物理法則を歪めて現実に再現するという、いわば科学の力で魔法を再現するという装置であった。

 

「…以前、ライダーのことを知っているのは私と神無月のほかに、数人の技術スタッフだけだと言っただろう。彼らにはこれを作る為に知ってもらったんだ」

 

そう言って令音はその機械について説明する。

 

「…これは精霊自身の体や、霊装、天使などから発せられる霊力を使って、現実の世界に一時的に擬似的なミラーワールドを作り出すという物だ。つまり、精霊の現れているときはライダーの能力をフルで発揮できる。…ちなみにこれで作り出されるのはあくまで『ミラーワールドもどき』。モンスターも生息できるが、中で人が消滅するということは無い。…君たちライダーは現実でも変身出来るらしいが、アドベントカードの力を現実でも引き出すために作ったんだ。」

 

「そっか…現実の世界にモンスターは長いこといられないし、カードの能力も…」

 

「…そういうことだ。それと、これは必ずしもメリットというわけでは無いが…モンスターも現実に出て活動できるようになる。つまりASTとモンスターが同時に現れた時も、どちらか一方を放っておかなくても済む。…ただし君の負担も大きくなってしまうのも事実だ」

 

令音はそう言って不安そうな表情を浮かべる。それはまるで、本当に渡してもいいか迷っているようだった。

だが…

 

「ありがとう令音さん。…オレさ、思ったんだ………」

 

「…?何をだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人と精霊の戦いなんて止めたい。精霊を助けたい。それがオレがこの世界で見つけた答えなんだ。…この世界のライダーとして、叶えたい願いなんだ。だから…変身!」

 

龍騎となった真司は、ゼブラスカルアイアンへと突進しながら叫ぶ。

 

「士道!お前は十香ちゃんとの話を続けろ!こっちはまかせとけ!」

 

「あ、ああ。分かった。…十香、続けよう」

 

「う、うむ…しかし、シンジは大丈夫なのか?それにシドー、お前も同胞たちから攻撃されてしまう。」

 

「大丈夫だ。真司を信頼してるからな」

 

 

 

一方、ASTたちもこの事態に混乱していた。精霊のそばには民間人、しかも能力の不明なミラーモンスターや仮面ライダーまで現れた。このような状態はイレギュラー中のイレギュラーであった。

 

「あの怪物は…ミラーモンスターってやつよね…この前や今の様子を見るに人を襲うみたいだし、仮面ライダーってのも未知の存在…。どうするべきかしら」

 

燎子は隊長として、自分や部下たちがどう動くべきか決めかねていた。他のAST隊員たちも同様に、自分が誰を倒せばいいのか分からずにいる。

しかしその中で唯一、折紙だけが燎子の指示を待たずに校舎へと向かっていく。

 

「ちょっと折紙!待ちなさい!」

 

燎子は制止をかけるも、折紙はその動きを止めない。

 

「誰を攻撃するかなんて考えるまでも無い。ASTの使命は精霊を倒すこと。どのみち五河真司の性格なら、モンスターを放ってまでこちらには来ないはず。邪魔の入らない今が好機」

 

折紙はそのまま教室に向かってミサイルを撃ち込む。だが、真司がそれを許すはずも無かった。

 

「そんなことさせるか!来いドラグレッダー!」

 

そう言ってゼブラスカルアイアンの攻撃を躱しながら、契約のカードをドラグバイザーに挿入する。

 

『ADVENT』

 

呼び出されたドラグレッダーは、真司たちのいた教室の隣の部屋の窓から現れた。口から放った火球で、折紙の撃ったミサイルを爆破させる。

 

「なっ…」

 

これにはさすがの折紙も動揺を隠せない。折紙だけでなく、人間サイズのモンスターしか見た事の無かったAST部隊は、突然現れた巨体を前にどう行動すべきか分からずにいた。

 

「ドラグレッダー!その人たちや攻撃をこっちに入れないようにしてくれ!殺すなよ!…念のためもっかい言うけど、殺すなよ?」

 

ドラグレッダーは分かったとばかりに雄叫びをあげると、ASTの方へと向かって行った。そして龍騎もまた、ゼブラスカルアイアンを入口の方へと蹴り飛ばすと、士道と十香に声をかける。

 

「ここでドンパチしてたら落ち着かないだろ。ちょっと出てくるよ」

 

「シンジ…大丈夫か?」

 

「大丈夫だって。それより士道との会話は楽しい?」

 

「うむ!シドーの話はとっても面白い。それに一緒にいてすごく楽しいぞ!」

 

「と、十香…」

 

十香の素直な反応に士道は思わず赤面する。そんな二人の様子を見て安心した龍騎は、二人に背を向ける。

 

「そっか…よかった。ならもっと話してなよ。あいつらはオレがなんとかする」

 

「真司…気を付けろよ」

 

「分かってる。……士道、ちゃんとデートに誘えよ?」

 

龍騎は最後に士道にしか聞こえないように小声で呟くと、ゼブラスカルアイアンを追って廊下へ飛び出した。




おまけ
浅倉「殴れ!オレを殴れッ!」
神無月「ああん!どうかその拳を私に!」

十香「シドー、何故二人とも自分を殴れと言っているのだ?」
士道「見ちゃいけません」


お読みいただいてありがとうございました。


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秋山蓮の現在

更新遅くなってしまい申し訳ありません。今回文字数が多い割に、伏線回収しようとしてあんまり進みませんでした。前回も同じようなことを言ったのに、学習してなくてすみませんでした。
あと、ゼブラスカルアイアンとの戦闘は演出と尺の都合で省いています。ゼブラスカルくんのファンの方がいらっしゃったら申し訳ありません。
あと、今回はおまけがありません。ネタ切れです。完全にノリで書いてるものでしたが、もし楽しみにして下さってる方がいらっしゃったらごめんなさい。
そして最後に。今回なんか謝ってばっかりで本当にすみません。


「…そりゃそうだよな、普通に考えりゃ休校だよな……」

 

精霊・十香と話をした翌日。普通に登校した士道は、瓦礫の山と化した校舎の目の前で己の間抜けさを呪った。普通に考えれば、空間震やASTたちの攻撃によって校舎が使えないことは分かり切っているのだが、なんとなく来てしまったのだ。

 

 

 

真司が教室を出た後、士道は真司とドラグレッダーのおかげで邪魔をされずに十香と語り合うことが出来た。

そして、ラタトスク機関員たちの声援(というかはやし立てるかのようなコール)に後押しされ、士道は十香をデートに誘うことができた。だが、そこで十香は消えてしまった。後で琴里に聞いた話では『消失』(ロスト)と呼ばれる現象らしく、その時点でASTも撤退した。

残された士道はモンスターを倒した真司と合流してフラクシナスへと戻り、琴里に一晩中その時の映像を見ながらの反省会をさせられ、寝不足のまま今に至る。

 

 

 

「やっぱり真司の言う通りだったな…」

 

ちなみにその真司は現在、自宅でまだ寝ていた。一度士道に起こされたのだが、「昨日の感じじゃ学校は休みだ」と言って二度寝してしまったのだ。結果的に真司が正しかったとはいえ、全く確認をしようとせずに寝続けるその姿はある意味潔かった。

 

「どうすっかな…確か卵と牛乳切れてたよな」

 

そのまま帰るのも何だと思い、買い物をして帰ることに決めた士道は家への帰路とは逆の方向へと歩き出す。

が、数分と待たず、士道は再び足を止めることとなった。

 

「…っと、通行止めか」

 

道の真ん中には立ち入り禁止の看板が立っている。とはいえそんなものが無くても、目の前の道が通れないのは明らかだった。アスファルトの道は滅茶苦茶に掘り返され、ブロック塀は崩れ、雑居ビルまで崩落している。まるで戦争でも起こったかのような有様だった。

 

「…いや、違うな。実際ここで戦争みたいなことやってたな」

 

士道はこの場所に見覚えがあった。そこは、初めて十香にあった空間震現場の一角だったのだ。

 

「…ドー」

 

士道は改めて昨日の出来事を思い出す。――――――十香。昨日まで名を持たなかった、精霊の少女。

昨日、以前よりもずっと長い時間話をしてみて―――士道の予感は確信へと変わっていた。

 

「…い、…ドー」

 

確かに彼女は普通では考えられない程の力を持っている。それこそ、国家機関が危険視する程に。

だがそれと同時に、士道は彼女がその力を無慈悲に振るう怪物だとは到底思えなかった。

 

「おい、シドー」

 

昨日の真司の言葉が士道の頭の中に響く。

 

(ちょっと人と違うってだけで化け物扱いするなんて間違ってる!)

 

あの時、士道も同じことを感じた。あの少女の鬱々とした顔を何とかしたいと思ったのだ。だが、そのためにはもう一度彼女と会わなければいけない。十香と会うための手段が無い士道は、どうにかしてもう一度あの子と会えないかと…

 

「…無視をするなっ!」

 

「―――え?」

 

視界の奥―――通行止めになっているエリアの向こう側から響いてきたそんな声に、士道は首を傾げる。どこかで聞いたことがあるような声。それもつい最近、昨日学校で聞いたようなものであった。

何気なくその方向へ視線を向けた士道は、自分の目を疑った。何故ならそこにいたのは…

 

「と、十香!?」

 

「やっと気付いたか、ばーかばーか。まあいい。シドー、『デェト』とやらに行くぞ」

 

昨日士道が学校で遭遇した、あの精霊の少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ…まさかアギトの仲間まで助けに来てくれるなんて…ムニャ…。ギルスさんカッコいいですね…」

 

士道が学校で十香と再会していたのと同じ頃、五河家宅で真司は未だに眠り続けていた。幸せそうな表情で眠る彼だったが、その平穏は「いい加減起きろ」という一言と共に襲ってきた衝撃によって打ち壊された。

 

「グハァ!!何すんだアナザーアギト!」

 

「お前が何言ってんだ。さっさと起きろ」

 

「あ…あれ?北岡さん?なんでうちに?…ていうか、なんでオレの上に乗ってんの?」

 

真司の体を踏みつけていたのは北岡秀一だった。見ると、部屋の入口付近には手塚海之と由良吾郎もいる。

真司の疑問に答えるように、秀一が説明する。

 

「城戸、オレたちはお前に話があったんだよ。それも重要な」

 

「大事な…話?」

 

「そ。なのに待っててもお前が全然起きないから、司令に鍵借りて入ったってわけ。いやー、フラクシナスの転送技術ってホントすごいね」

 

「なるほど…で、なんで北岡さんはオレの体踏んでるの」

 

「お前起こすためだよ。司令はいつもこうしてるんだろ?」

 

「いつもじゃないし、それで起こせって頼んだわけでもない!ていうか、琴里と体格差考えろよ!!」

 

真司は文句を言うが、秀一はそれを興味なさそうに軽く流す。

 

「さっきも言ったろ。オレたちはそんな事よりももっと大事な話をしに来たんだって」

 

「大事な話ってなんだよ!」

 

「秋山のことだ」

 

先程のダメージによる不満からほとんど突っかかるように聞いた真司だったが、秀一の言葉に思わず思考が停止する。

 

「北岡さん…今なんて…?」

 

「何度も言わせるなよ。秋山のことについての話だ」

 

秀一の言葉を引き継ぐように、海之が説明する。

 

「…あいつもオレたちと同様に、神崎にここへ連れて来られたんだ。小川恵理の身の安全を条件にな。神崎は彼女も連れて行くかと提案したが、あいつは危険に巻き込みたくないとそれを断ったんだ。」

 

「そーゆーわけで、あいつは一人でこっちに来たんだ」

 

「じゃ、じゃあ蓮はもしかして近くにいるのか!?」

 

かつての親友がこちらの世界にいる。その思いに真司は興奮を隠せなかった。だが、その質問を聞いた三人の表情は険しいものだった。

 

「な、なんだよみんな怖い顔して…」

 

「城戸。あいつは確かにこっちにはいる。もっと言えば天宮市内の、この近くの大通りにある建物で暮らしてる」

 

天宮大通りといえば五河家からすぐの距離で、士道や真司もよく利用している。予想以上の近さに真司は驚きを感じるが、同時に何故そこまで分かっていながら、彼が今ここにいないのかという疑問を感じた。

 

「お前は今、『なんでそこまで分かっているのに秋山はここにいないのか』と思っているだろう。…やつがここにいないのは理由がある」

 

「理由ってなんだよ手塚…。もったいぶるなよ…」

 

「あいつは記憶喪失だ。自分のかつての名字すら覚えていない」

 

「え?」

 

海之の言葉に真司はポカンとなる。記憶喪失などそんな簡単になるものではない。真司は海之の言葉が最初は信じられなかった。

だが、海之がそんな冗談を言う理由が無い。そもそも真司はかつて蓮が記憶喪失になったことを見た事があった。

予想外の事態に唖然としている真司に、海之は説明を続ける。

 

「あいつはそもそも、お前の次にこの世界に来てお前や士道をサポートする予定だった。…だが、あいつがこちらに来る際にトラブルがあったらしく、あいつは記憶を失っていた。神崎は何度か記憶を戻そうとしたらしいが、全て失敗。神崎はやむなく秋山を一時的に計画から外した。そして秋山の居場所をオレたちに伝え、オレたちはヤツ自身が記憶を取り戻すのを待つことになった…というわけだ」

 

「そんな…」

 

「ちなみにあいつと何度か話をしてみた感じ、元の世界のことに関して覚えていたのは、『蓮』って名前とデッキに関してだけだったな。ま、デッキに関してはなんで自分がこれについて知っているか覚えてないみたいだったから、所謂『体が覚えている』って感じだな」

 

秀一の言葉に真司は愕然とする。今の蓮の状況は、かつて記憶を失ったときとまるっきり同じだったからだ。しかも、以前彼の記憶を取り戻す鍵となった小川恵理はここにはいない。完全に手詰まりの状況であった。

 

「じゃ、じゃあ蓮のやつは今どうなってんだよ!オレの後に来たんなら、あいつも当時は小学生だろ!?」

 

「あの人も真司さんと同じように、こちらの世界の人に拾われて暮らしています。ちょうど天宮市火災の直後にこっちに来たらしいんで、記憶が無かったのと家族がいなかったことについても、火災が原因だと思われたみたいですね」

 

真司の質問に、それまでずっと黙っていた吾郎が答える。

 

「それにあの人を引き取った人も、真司さんを引き取った五河氏同様に、細かいことを気にしない方だったらしいです」

 

「らしい…?」

 

「ええ…。蓮さんを引き取った羽黒氏は、五河夫妻同様に仕事で海外に赴任していることが多くて…オレたちも直接会った事は無いです。蓮さんがこっちに来た経緯は、蓮さん自身の発言と、神崎士郎が言っていたことから繋ぎあわせて推測しました」

 

「そんなわけであいつは『羽黒蓮』として、海外からの仕送り、それに店の売上げで一人暮らししてんのよ」

 

「店?売上げ?」

 

ここまでの会話と一切関係無い単語に、真司は首を傾げる。そんな彼の疑問に手塚が答えた。

 

「最初に大通りに住んでると言っただろう?羽黒氏の亡くなった奥さんが元々は喫茶店をやってたらしい…。奥さんが亡くなってからはずっと店を閉めていたらしいが、秋山の作る料理とコーヒーが美味いと近所で評判になったらしく、あいつの気が向いたときだけだが店を開けてるらしい」

 

「へえ…確かにあいつ、花鶏(あとり)でも器用だったからなぁ」

 

「そういうわけで、オレたちは今日またあいつのところを尋ねてみるつもりだ。幸い学校も休みだし、今日はお前にも来てもらいたい」

 

「お前のバカで、あいつも何か思い出すかもしれないしな」

 

「北岡さんはいちいち一言多いんだよ!…けどまあ分かった。すぐ支度するから、少し待っててくれ」

 

自分のことを覚えていないというのは少し寂しさを感じたが、真司の中ではそれよりも、もう会えないと思っていた友人に会える喜びの方が勝っていた。真司はベッドから降りて、急いで着替えを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかったー開いてて。一度来てみたかったんだよね」

 

「…この店はそんなに人気なのかい?店員の少年の態度はお世辞にも良いとは言い難かったが」

 

「んー…まあそれはそうなんだけど。でも、ここの料理やスイーツってどれも美味しいって評判なの。それこそ愛想の無さも有名だけど、それを上回るくらいに。この店いつ開いてていつ閉まってるかが分からないんだけど、それでも経営面に余裕があるっていう話は有名らしいよ」

 

「…それはすごいな。喫茶店でそんな一流シェフのような真似ができるとは…この混み具合も頷ける」

 

琴里は、令音と共に天宮市大通りにある小さな喫茶店に来ていた。士道同様にいつも通り中学校に登校した琴里だったが、琴里の通う中学も昨日の影響で休校となっていた。そのまま帰るのも癪に思った琴里が令音を呼び出し、大通りをぶらぶらしていたところ、『店主の気が向いた時しか開いてない』とこの近くでは有名な喫茶店が開いていたので入ってみた…という流れで今に至る。

 

 

「…お待たせしました。ごゆっくり」

 

琴里と令音が会話をしていると、二人の注文した品が運ばれて来た。料理人とウェイターを兼任しているこの店唯一の店員は、ニコリともせずにそう言い放つと、さっさとカウンターに戻って行く。

黒髪の短髪に整った顔立ち、そして愛想の無さが特徴的な男だった。

 

「うわ~美味しそう!…って令音、どうしたの?」

 

早速運ばれて来たケーキに手を付けようとしていた琴里は、令音が難しい顔をしながら店員を眺めているのに気付く。

 

「…いや。以前この店のことをどこかで聞いたような気がしていたのだが、今思い出した。海之たちから聞いたのだが…あの店員も仮面ライダーだ」

 

「…え!?そ、それ本当なの!?」

 

「…ああ。間違いない。彼の外見的特徴や店の住所も、海之から聞いていた話と一致する。…ただ、彼は昔の記憶が無いらしいが」

 

「記憶がないってどういうこと!?それに……」

 

と、そこまで言った琴里が不意に黙り込む。その視線は、店の入り口の方向へ注がれていた。

 

「…?どうしたんだい琴里」

 

「ん……ちょっと非科学的かつ非現実的なものを見た気がして」

 

そう言って琴里は令音の後ろを指さす。そこには…

 

「ほう、この本の中から食べたいものを選べばいいのだな?」

 

「ああ、そうだよ」

 

「きなこパンは。きなこパンは無いのか?」

 

「…や、流石に無いだろ。……と思ったらあるし…。けど最初のパン屋で散々食いまくったじゃねえか」

 

「また食べたくなったのだ」

 

来禅高校の制服に身を包んだカップル風の男女―――士道と十香がいた。




仮面ライダーデータ
『仮面ライダーライア』
変身者・手塚海之
契約モンスター・エビルダイバー(4000AP)
ファイナルベント・ハイドべノン

カードデッキは元々海之の友人である斉藤雄一が与えられたものだったが、戦闘を拒否したために雄一はガルドサンダーに殺害され、戦いを止めるべくデッキを海之が引き継いだ。浅紅のボディーに後頭部の弁髪『ライアエンド』が特徴的。
ライダー相手の戦闘では苦戦している様子が多く見られたが、初戦でナイトを追い詰めるなど実際の能力は高い。近距離武器の中ではリーチの長い『エビルウィップ』や、相手の武器をそのまま再現できるコピーベントなどを用いたトリッキーな戦い方を得意とする。サバイブ・疾風のカードを神崎士郎から与えられたが、一度も使わないまま後に蓮に譲った。
ライダーバトルにおいて数少ない善のライダーであり、戦いを止めるために真司や蓮とも共闘した。今作ではラタトスク機関員として真司と士道をサポートする。実は真司と合流する前から、フラクシナスにモンスターが現れた際にはほとんど彼が倒していたが、これは令音や神無月すら知らない(そもそも空中艦なので、モンスターが現れること自体少ない)。
デート・ア・ライブの世界に来たのは真司や蓮よりも数年後、ラタトスク機関が組織として完成する直前のタイミングで、令音や神無月とは神崎士郎を介して接触した。彼のこちらの世界での戸籍などは、全てラタトスクが手を回して用意したものである

「あいつの信じた正義を無駄にしないためだ。それと……変えられなかった運命を変えるために」



お読みいただいてありがとうございました。蓮の名字の元ネタはディケイドのナイトです。
ご意見、ご感想、お待ちしています。


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デートの主役と立役者

前回の感想にとても心温まるコメントを頂き、とても感動しました。これからも一人でも多くの方に面白いと思って頂ければ幸いです。



時間は、士道と十香が喫茶店へ入る数分前に遡る。

十香と再会した士道は、十香と共に大通りをぶらついていた。霊装を解除し制服姿そっくりに変化した十香は、どこからどう見ても普通の女の子だった。

 

「シドー、あのきなこパンとかいうものは何なのだ?美味すぎるぞ!あの粉の強烈な習慣性…あれが無闇に世に放たれれば大変なことになるぞ」

 

「ねえよ。…まあ、気に入ってくれたなら良かった」

 

初めて崩壊していない街を見た十香は、様々な物に興味を示した。中でもとりわけ食べ物を気に入った十香は、行く先々で色々な物を食べては感動していた。どうやらその中でも、最初のパン屋で食べたきなこパンが一番のお気に入りらしい。

 

「ところで十香…お前、昨日あの後どうしたんだ?それに今日は空間震警報鳴ってないし」

 

士道は昨日十香が消えてしまってからずっと気になっていたことを尋ねる。

 

「別にいつも通りだ。通らぬ剣を振るわれ、当たらぬ砲を撃たれ。……いや、昨日は違ったな。お前たちが護ってくれた」

 

「…や、まあオレは役に立たなかったけどな。真司とあの龍のおかげだよ」

 

「そんなことはないぞ。お前は同胞に撃たれるかもしれなかったのに…逃げずに私と向き合っていてくれた。…その、なんだ、嬉しかったぞ」

 

もじもじした様子でそう言う十香に、士道は思わず顔が赤くなるのを感じる。そんな様子を誤魔化すように、士道は十香に話の続きを促す。

 

「そ、それより十香、その後はどうしたんだ。昨日急に消えちまったけど」

 

「ぬ?そうだな…別にいつも通り、私の身がこの世界から別の空間に移されて終いだ」

 

「別の空間…そういや前に、真司や琴里もそんな事言ってたな。どんなとこなんだ?」

 

ちょっとした好奇心で士道は十香に尋ねる。しかし、返ってきたのは

 

「よくわからん」

 

という一言だった。十香の答えに、士道は思わず眉根を寄せた。

 

「あちらに移った瞬間、自然と休眠状態に入ってしまうからな。辛うじて覚えているのは、暗い空間をふよふよと漂っている感覚だ。―――私にしてみれば眠りにつくようなものだな」

 

「んじゃあ、目覚めたらこの世界に来るってことか?」

 

「少し違う」

 

十香が首を振ってから続けてくる。

 

「そもそも、いつもは私の意思とは関係無く、不定期に存在がこちらに引き寄せられ固着される。まあ、強制的にたたき起こされているような感覚だな」

 

「…………っ」

 

士道は息を詰まらせた。十香の話が本当ならば、この世界に現れることすら自分の意思で無く、空間震というのは本当に事故のようなものだということになる。ならばその責任まで精霊に―――十香に問おうというのは、いくらなんでも理不尽が過ぎると感じた。

と、そこまで考えた士道は、十香の言葉に少し引っかかるものを感じた。

 

「…いつもは?ってことは、今日は違うのか?」

 

もし十香が今日、自分の意思でこちらの世界に来ていたとしたら、それが原因で空間震が起こっていないのかもしれないのだ。それが事実なら、空間震による被害を無くすことが出来るかもしれない。

だが、いつまでたっても十香から答えが返ってこない。不審に思った士道が、十香のいるはずの方向を見ると、そこに十香はいなかった。慌てて士道が辺りを見回すと…

 

「シドー!次はここに入りたいぞ!なんだか美味そうな匂いがするのだ!」

 

少し先の喫茶店らしき店の前で十香が手を振っていた。どうやら士道が色々考えている内に、先に進んでしまっていたらしい。

確かに空間震のことに関しては色々気になるが、ここでもし十香の身に何かあって、このデート自体が失敗したら元も子もない。ならば今はこのデートに集中するべきだ。そう判断した士道は、先程の疑問を一度頭の隅に追いやり十香の元へ向かった。

 

「ちょっと待て十香!今行くから!」

 

 

 

 

 

そして現在。幸いなことに喫茶店に入った士道と十香は、既に店内にいた琴里と令音に気付かなかった。

 

「えええ……なにこれぇ」

 

「…なまらびっくり」

 

まさか昨日の今日でこのような展開になると思っていなかった琴里と令音は、慌てて携帯電話を確認する。しかし、ラタトスクからの連絡は入っていない。つまり、精霊が出現する際の空間の揺らぎは観測されていないということである。

 

「でも…あれって精霊よね…。精霊には、私たちに感知されずに現界する方法があるってこと?」

 

「……ただのそっくりさんという可能性は?」

 

令音の言葉に、琴里はしばし考えを巡らせた。だがすぐに首を横に振る。

 

「もしそうだとしたら、おにーちゃんが普通の女の子連れてるってことになるぞー。精霊の静粛現界とどっちが非現実的かって言ったら…僅差で前者かなー」

 

「…なるほど」

 

割とえげつない評価に、しかし令音はすんなりと納得する。

 

「そうなると…士道(・・)一人では荷が重そうね」

 

いつの間にかリボンを黒に変え、司令官モードへと変化した琴里は、携帯電話をラタトスクの回線へと繋ぐ。

 

「…ああ、私よ。緊急事態が発生したわ。―――作戦コードF-08・オペレーション『天宮の休日』を発令。至急持ち場につきなさい」

 

琴里が電話を終えるのを待って、令音が声を発してくる。

 

「……やる気かね、琴里」

 

「ええ。指示が出せない状況だもの。仕方ないわ」

 

「…ふむ、では私も店側と交渉してくるとしよう。…琴里は真司や海之たちに連絡してくれ」

 

「ええ。…でも大丈夫?あの店員を説得するのは大変そうだけど…」

 

「…いや。海之たちの話では、彼は記憶こそ失っているが、根っこの部分まで変わってしまったわけでは無いらしい。…そしてそれが本当なら、勝算はある」

 

そう言って令音は、鞄から分厚い封筒を取り出す。その中にはぎっしりと札束が詰まっていた。

 

「……彼は誠実な人間だが―――ドケチらしい。金に魂を売ることはないが、金に弱いというのは話が別だ」

 

琴里は先程の店員の顔を思い浮かべる。…なまじクールな雰囲気だった分、琴里の感じたガッカリ感は大きかった。

 

 

 

「…お会計お願いします」

 

そんな呼びかけを聞いたこの店のマスター・羽黒蓮は、レジへと向かう。なんだかいやに疲れたような声音だと思っていたら、そこにいたのは先程された『お願い』の対象だった。

 

「お前か…代金はいい」

 

「え!?」

 

蓮の言葉に目の前の少年は目を丸くする。それはそうだろう。この少年こそコーヒーを一杯しか飲まなかったが、連れの少女はきなこパンをはじめ、代金を払えなくなると止められるまでを注文を続けていた。それがタダになったのだから、驚きもするだろう。

 

「お前の知り合いだという、眠そうな顔をした女性から代金は既に貰っている」

 

「眠そうな…令音さんか。助かった…」

 

目の前の少年は思い当たる節があるのか、心底安心した表情になる。

ちなみに実際のところ、蓮はこの二人が飲み食いした分の代金よりずっと多くの額をもらっていたが、そのことは黙っていた。別に蓮がせこいのではなく、あくまで無駄なことを言う必要が無いという、冷静な判断に基づいて行動しただけである。決して差額を返したくないというわけでは無い。

 

「それと…これを預かっている。店を出たらこれを使えと言っていた」

 

そう言って一枚の紙を渡す。これをこの少年に渡してくれというのが先程の女性からの『お願い』であった。

普段の蓮ならば面倒だと断っていたが、今回はたまたま「たまには人助けも悪くない」と思って引き受けた。…先程の飲食代とは別に、ほんのちょっぴりお礼(・・)は貰ったが、断じて買収されたわけではない。

 

「これは…福引券?」

 

「この店を出て、右手道路沿いに行った場所に福引所があると言っていた」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「別に敬語じゃなくても構わん。歳も近そうだしな。…払ったのは別の人間とはいえ、ここまで店の売上に貢献したやつは初めてだ。また来い」

 

「あ、あはは…考えておくよ…。オレは五河士道。それじゃあまた」

 

そう言って少年は店を出た。おそらく先に出ていた少女と合流し、あの福引をしに行くのだろう。

 

「珍しいね。蓮くんが人にあんな風に言うの。いつもなら売上に貢献するような人でも、気に入らなかったら店から叩き出しちゃうのに」

 

そう言って声をかけてきたのは、隣のクリーニング屋の店主だった。

 

「…別に。それよりいいのか?こんなところで油を売っていて。アフリカ行きだったか…準備があるとか言ってただろう」

 

「そっちは大丈夫だよ。店の方も、今日は息子に任せてるし」

 

「そうか。なら今日はもう店を閉めるから、残りの客の会計を頼む。注文された物はもう全員分出してある」

 

そう言って蓮はエプロンを片付け、店の裏口へと向かう。

 

「また~?前に追加注文があったとき大変だったんだけど…」

 

「文句を言ってきたら叩き出せ」

 

「そんな事するのは君だけだよ!…もう、仕方ないなぁ…今度コーヒータダにしてよね」

 

「考えておく」

 

そう言って蓮は裏口から店の外へ出ると、すぐ近くの洋服店のショーウィンドウへと向かう。幸い、辺りに人通りはなく、店内からも見られていない。そのことを確認した蓮は、ショーウィンドウへとデッキをかざす。

未だに何故自分がこれを使えるのか分からない蓮だったが、確かなのは自分の覚えている記憶より以前から、このデッキを蓮が所持していたということだった。

 

「変身!」

 

蓮は紺色を基調とした騎士のような姿・仮面ライダーナイトに変身し、ショーウィンドウを通してミラーワールドへと入っていく。そして、ミラーワールド内の喫茶店を通り抜け、先程の少年・士道が向かった方向へと進んで行く。

思った通り、暫く進んだところでミラーモンスターを発見した。そのサル型のモンスター・デッドリマーは、近くの店のショーウィンドウから今にも士道か連れの少女・十香に襲いかかろうとしていた。

 

「ちっ!させるか!」

 

『NASTY VENT』

 

ナイトが剣型の召喚機・ダークバイザーにカードをセットすると、どこからともなく巨大なコウモリ型モンスターのダークウィングが現れ、デッドリマーに超音波を浴びせる。突然の攻撃にデッドリマーは完全に不意を突かれ、思わず倒れこむ。

 

「店の中ではダークウィングが睨みを効かせていたから、奴らが外へ出るのを待っていたんだろう。…だが、生憎オレは店の前に長時間居座った挙句、そのまま何も注文せずに帰り、更には売上に貢献した客に手を出すような迷惑な輩を見逃すつもりは無い……」

 

そう言ってナイトはカードをダークバイザーに挿入する。

 

『FINAL VENT』

 

ダークバイザーから電子音が発せられると同時にダークウィングがナイトと合体し、マント状になる。それと同時に空からダークウィングの尾を模した巨大な槍が出現した。飛んできたそれをナイトはキャッチし、デッドリマーの方へと走り出す。そしてナイトは空高く飛び上がり、ダークウィングのマント『ウィングウォール』で自身の体を包んで、ドリルのように高速回転しながらデッドリマーへと向かって行った。ナイトのファイナルベント・飛翔斬である。

デッドリマーは銃の形状をした尻尾を取り外してナイトを攻撃するが、ファイナルベントを破る事は出来ず、そのまま貫かれて爆発した。

 

「…帰るか」

 

ダークウィングがデッドリマーの生命エネルギーを捕食するのを見届けたナイトは、来た道を一人引き返して行った。




お読みいただいてありがとうございました。今回は前半を士道や琴里・令音目線で、後半を蓮目線で描いてみました。作中に出てきたクリーニング屋は別に重要人物でも何でもないのですが、ファイズの啓太郎の父親をイメージして書いてみました。
次回か次の次辺りで十香編を終了しようと思っているのですが、ここ最近のペースだともっとかかるかもしれません。
この作品へのご意見、ご感想をお待ちしています


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士道の決意

おまけ
真司「アビスラッシャー!」十香「フカヒレスープ!」
真司「バクラーケン!」十香「イカソーメン!」
真司「ボルキャンサー!」十香「カニクリームコロッケ!」

琴里「…何やってるのあれ?」蓮「オレに聞くな」


「出かけた…?」

 

「ごめんね。ついさっき店から出て行っちゃったんだよ。彼は時々僕やご近所さんにお店を任せて、どこかに出かけちゃうことがあるんだ」

 

そう言って目の前の男・隣のクリーニング屋の店主だという人物は、心底申し訳無さそうな表情を真司たちに向ける。この口ぶりからして、この男も蓮の行き先を知らないのだろう。

 

「本当にごめんね。力になれなくて」

 

「い…いえ、こちらこそ…。突然押しかけてすみませんでした…」

 

そう言う真司の表情はとても残念そうなものであった。

 

「すまん城戸…まさかこんなことになるとは…」

 

「…流石のオレも悪いと思っているよ。休日の朝から踏みつけて、喜ばせた挙句秋山がいませんでしたってのは…すまん」

 

真司のあまりの落胆ぶりに、海之や秀一ですら気の毒さや罪悪感を覚える。一方真司も周囲が真司に気を使っていることに気付き、慌てて元気そうな表情を作る。

 

「ごめん、オレばっかり落ち込んでるみたいな感じ出して。三人も今日はあいつに会いに来たってのに…。オレならもう大丈夫だ!北岡さんに踏んづけられたのは話が別だけど…蓮がこっちにいるってことも、どこに住んでるかも分かったし。ありがとうみんな!」

 

「城戸…」

 

蓮の事は残念だが、いつまでもうじうじしているわけにはいかない。真司たちには今、やるべきことがあった。

 

「ホントはここで待ってたいけど、今は琴里たちに無理言って待ってもらってる状況だ。…今回は帰ろう」

 

「…そうだな。司令からの呼び出しがかかったときは何事かと思ったが、まさか今日精霊が現れるとはな」

 

「…行きましょう」

 

吾郎の一言と共に、海之、秀一が店を後にする。それに続いて吾郎が出て行き、最後に真司が名残惜しそうに店内を一度見回してから三人に続いた。

 

 

 

「さて…オレたちはフラクシナスに戻る。城戸、お前はこれを」

 

そう言って海之は真司にインカムを差し出す。

 

「ああ。オレの役目は二人に気付かれないように護衛すること…だろ?」

 

「そうだ。頼んだぞ」

 

「まかせとけ」

 

そう言って真司は、士道たちが誘導された地点へと向かって走り出した。残った三人もまた、フラクシナスへと引き返すために人気の無い路地裏へと向かう。だが、突然秀一が何かに気付いたかのように、ある一点を見つめながら足を止めた。

 

「先生?どうかしましたか?」

 

不思議そうに吾郎が問いかける。海之も秀一が見ているのと同じ方向に視線を向けるが、特に変わったものは見当たらなかった。

 

「吾郎ちゃん…手塚…悪いんだけどオレ、別行動させてもらうよ。司令には上手いこと言っといて!」

 

そう言って秀一は返答を待たずに走り出した。

 

「おいっ!待て北岡!」

 

「先生!」

 

残された二人は呼びかけるも、秀一はそのまま振り返ることなく走り去った。

 

「どうする。追うか?」

 

「…何か先生なりの考えがあるんだと思います。…オレたちはこのままフラクシナスへ向かいましょう」

 

「…そうするしか無さそうだな。行こう」

 

そう結論付けた二人は、再び歩き出した。

 

 

 

四人が店を去ってから数分後。店に戻って来た蓮にクリーニング屋の店主は声をかける。

 

「おかえり。さっき君にお客さんが来てたよ」

 

「何?…ああ、またあいつらか。オレに歳の近そうな三人組の男だろ」

 

蓮には彼の言うお客さんに心当たりがあった。記憶を無くす前の蓮の事を知っていると言って、何度か訪ねてきた連中のことである。

確かに彼らはデッキのことや自分の性格などを知っている様子ではあったが、蓮は彼らのことを信用してはいなかった。

だが、クリーニング屋から返ってきた言葉は蓮の予想したものとは違っていた。

 

「ん?いや、四人だったよ。確かに歳は近そうだったし、内三人はこの近くで見たことあるような気もしたけど…」

 

「…何?」

 

考えていたものと違う答えに、蓮は思わず自分の耳を疑う。

おそらく『見たことのあるような三人組』というのは彼らのことだろう。だが、四人目の人物については蓮には全く心当たりが無かった。

 

「またオレのことを知っているとか抜かす輩か…?」

 

手近な椅子に腰かけながら、蓮は面倒臭そうに鼻を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は18時。天宮駅前のビル群に、オレンジ色の夕日が染み渡る。

そんな最高の絶景を一望できる高台の公園を、少年と少女が二人、歩いていた。

少年の方はさほど問題ない。普通の男子高校生だ。だが、少女の方は―――

 

「…ふう。存在一致率98.5%。流石に偶然とかで説明できるレベルじゃないか……」

 

日下部燎子は目を細めながらそう呟いた。その後方から、静かな声が燎子の背に投げられる。

 

「狙撃許可は」

 

そこにいたのはワイヤリングスーツにスラスターユニットを装備し、右手に自分の身長よりも長い対精霊ライフル『クライ・クライ・クライ』を携えた鳶一折紙であった。

 

「…出てないわ。待機してろってさ。まだお偉方が協議中なんでしょ」

 

折紙の問いかけに、振り返ることなく燎子は答える。その視線は先程の少女・精霊に注がれていた。

二人がいるのは精霊がいる公園から離れた、宅地開発中の台地だった。公園から1キロ圏内には、燎子たちを含めてAST要員が十人、二人一組の五班に分かれて待機していた。

 

「…しかし折紙、あんたよく見つけ出したわね。空間震も起こってないし、パッと見は普通の女の子よ」

 

「あそこにいる彼を、五河士道を尾行していた」

 

「…それってストーカーじゃないの?」

 

「私と士道は恋人同士。問題はない」

 

「……まあ深くは聞かないけど、警察の厄介になることだけは止めなさいよ」

 

燎子は折紙の底知れぬ行動力に思わず頭を抱える。とはいえ、その行動力のおかげで精霊を倒す大きなチャンスが巡ってきたのも事実だった。

 

「…!了解。折紙、射撃許可が下りたわ。総員、実戦準備!折紙、任せたわよ」

 

「了解」

 

上層部からの攻撃許可が出たことを確認した燎子は、待機していた全隊員に指示を出す。だが、燎子はそこで違和感を感じた。すぐそばの折紙以外、誰の返事も聞こえてこなかったのである。

 

「ちょっと。何かあったの?誰か応答しなさい」

 

「多分誰も返事はしないと思うよ。オレがちょっと寝かしつけてきたからさ」

 

折紙よりも更に後ろから聞こえてきた声に、思わず燎子と折紙は振り返る。そこにはメカニカルな外見が特徴的な緑色のライダー・ゾルダが立っていた。

 

「あの子がいつもの霊装じゃないし、剣も持って無かったから不安だったけど…ちゃんと変身は出来るみたいだな。良かった良かった」

 

ゾルダは独り言のようにそんな事を呟く。

 

「仮面ライダー…?」

 

「そっ、ライダーはあいつ一人じゃないってわけ」

 

思わぬ状況に燎子は戸惑いを隠せない。折紙もまた驚いた様子を見せていたが、すぐに切り替えてゾルダに問いかける。

 

「…あなたが他の隊員を倒したということ?」

 

「そう。誤解の無いように言っとくと、誰も殺してないし、威力を抑えたから大ケガ負ってる人もほとんどいないはずだ」

 

「どうやって私たちに気付いたの」

 

「昼間にお前を見かけてね。ほんの一瞬だったから気のせいかと思ったけど…気のせいじゃ無かったみたいだな」

 

「あなたの目的は何」

 

「あの二人のデートを邪魔するのを止めさせたいだけさ。よく言うだろ?人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてなんとやら、ってな。取り敢えずその物騒な銃をしまって、この場から引いてくれない?」

 

「嫌だと言ったら?」

 

「馬に蹴られるよりは痛いだろうな」

 

そう言ってゾルダは銃型の召喚機・マグナバイザーにカードを挿入する

 

『SHOOT VENT』

 

自身の背丈をも上回る巨大な大砲『ギガランチャー』が召喚される。その迫力に思わず燎子は後ずさった。しかし折紙は

 

「精霊を倒せるなら本望。私は引くつもりは無い」

 

そう言って射撃体勢に入る。

 

「なっ!?オイオイ冗談でしょ!?」

 

流石にこの至近距離でギガランチャーを体へ撃ち込んでは、いくらワイヤリングスーツに身を包んでいてもただでは済まない。しかも折紙は射撃に集中するため、随意領域(テリトリー)で防御するそぶりも見せなかった。

 

(浅倉とかだったら平気で撃つだろうけど…流石にそこまでやるのはマズいな)

 

そう判断したゾルダは、ギガランチャーの照準をクライ・クライ・クライに合わせる。だが、その一瞬が隙となった。

 

「させないわよ!」

 

「ぐあっ!?」

 

死角から燎子の放った攻撃に、ゾルダは完全に不意を突かれた。そして折紙はこのチャンスを見逃さない。

素早く精霊に狙いを定め、そして――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日に染まった高台の公園には今、士道と十香以外の人影は見受けられなかった。

 

「おお、絶景だな!」

 

十香は先程から、落下防止用の柵から身を乗り出しながら、黄昏色の天宮の街並みを眺めている。

フラクシナスクルー達の誘導に従っていった結果、この場所にたどり着いたわけだが、実は士道もここに来るのは初めてでは無い。というか、密かなお気に入りの場所でもあった。

 

「シドー!あれはどう変形するのだ!?」

 

十香が遠くを走る電車を指さし、目を輝かせながら言ってくる。

 

「残念ながら電車は変形しない」

 

「何、合体タイプか?」

 

「まあ、連結くらいはするかな」

 

「おお」

 

十香は妙に納得した様子で頷くと、くるりと体を回転させ、手すりに体重を預けながら士道に向き直った。

夕焼けを背景に佇む十香は、それはそれは美しくて、まるで一枚の絵画のようだった。

 

「それにしても―――いいものだな、デェトというのは。実にその、なんだ、楽しい」

 

不意に、十香が屈託のない笑顔を浮かべながらそんな事を言ってくる。士道は思わず顔が赤くなるのを感じた。

 

「どうした、顔が赤いぞシドー」

 

「……夕日だ」

 

士道は顔を逸らしながら誤魔化す。

 

「どうだ?お前を殺そうとする奴なんていなかっただろ?」

 

「……ん、皆優しかった。今日は本当に有意義な一日だった。世界がこんなにも優しいだなんて、こんなに楽しいだなんて、こんなに綺麗だなんて…思いもしなかった」

 

「そう、か…」

 

士道は口元を綻ばせて息を吐く。だが十香は、そんな士道とは対照的に、眉を八の字に歪めて苦笑を浮かべた。

 

「私は…いつも現界するたびに、こんなにも素晴らしい物を壊していたのだな。メカメカ団が私を殺そうとする道理が、ようやく…知れた」

 

「―――っ」

 

士道は息を詰まらせる。そして十香は悲しそうな表情で続ける。

 

「シドー、やはり私は――――いない方がいいな」

 

言って―――十香は笑う。ただしそれは、昼間見せたような無邪気な笑顔ではなく、まるで自分の死を悟った病人のような―――弱弱しく、痛々しい笑顔だった。

 

「そんなことないッ!!」

 

士道は思わず声を張り上げていた。十香は驚いた表情していたが、士道は構わずに言葉を続ける。

 

「だって…今日は空間震が起きてねえじゃねえか!きっといつもと何か違いがあるんだ!………それに…こっちに現れるたびに空間震が起こるってんなら…だったら帰らなきゃいいじゃねえか」

 

まるで、そんな考えなど全く持っていなかったというように、十香は目を見開く。そんな彼女に、士道は一度でも試したのかと問いかけた。

 

「で、でもあれだぞ。私は知らない事が多すぎるぞ?」

 

やがて十香はそんな事を言った。それは暗に、士道の問いかけに対する答えがイエスだということを示していた。

 

「そんなもん、オレが全部教えてやる!」

 

十香の発した言葉に、士道は力強く答える。

 

「寝床や、食べる物だって必要になる。予想外の事だって起こるかもしれん」

 

「それもオレがどうにかする!予想外の事は起きたとき考えればいい!」

 

十香は少しの間黙り込んでから、小さく唇を開いてきた。

 

「…本当に私は生きていてもいいのか?この世界にいてもいいのか?」

 

「ああ!そうだ!」

 

「……そんな事を言ってくれるのは、きっとシドーだけだぞ。メカメカ団や他の人間だって、こんな危険な存在が、自分の生活空間にいたら嫌に決まっている」

 

「そんなもん関係ねえ!他の人間がお前を否定するなら…オレはそれよりずっと強く!お前を肯定する!!」

 

士道は叫び、そして十香に向かって手を伸ばした。十香の肩が、小さく震える。

 

「握れ!今は―――それだけでいい…ッ!」

 

「シドー……」

 

十香は数瞬の間思案するように沈黙した後、そろそろと手を伸ばしてきた。

そして、士道と十香の手と手が触れ合おうとした瞬間。

 

「――――――――」

 

士道は全身に途方もない寒気を感じた。

 

「十香!」

 

士道は無意識のうちにその名を呼び、十香が答えるよりも早く、彼女を突き飛ばした。そして…

 

「―――――――あ」

 

凄まじい衝撃を感じたかと思うと――――――――――――――士道の意識はそこで途絶えた。




おまけ・その2
真司「ブロバジェル!」十香「中華クラゲ!」
真司「エビルダイバー!」十香「煮付け!」

琴里「…ホントに何やってるのあれ」蓮「…シーフードが好みのようだな」

お読みいただいてありがとうございました。一応念のため付け加えておくと、この世界でも北岡さんは強いです。折紙と燎子を除く8人ものASTを、短時間で気付かれずに倒しています。描写のせいで「ゾルダよえーじゃん」と感じられた方がいらっしゃいましたら、決してそのようなことはございませんのでご安心下さい。
よっぽどやらかさない限り、次回で十香編は終了です。最後まで頑張っていきたいと思います。
ご意見、ご感想共にお待ちしています。


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空分かつ剣

ようやく十香編が終了です。今回は書いていて少し駆け足になってしまったような気がしました。
読み辛さ等を感じられた方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。
真司は変身はしますが、話の都合上戦闘はありません。しかし、アドベントってホント話作る上で便利なカードだなぁ…


「シドー…?」

 

十香は横たわっている士道に呼びかける。だが、返事は無い。彼の体には、十香の手のひらを広げたよりも大きな穴が開いていた。

 

「シ―――、ドー…」

 

やはり反応は無い。数瞬前、十香に差し伸べられていた手は、一部の隙間も無く血に濡れていた。

 

「ぅ、ぁ、あ、あ―――」

 

突き飛ばされた十香、血まみれの士道、士道の倒れている位置、そして――――辺りに立ち込める焦げ臭さ。

十香は、状況を理解した。

 

「――――」

 

十香は着ていた制服の上着を脱ぐと、優しく士道の亡骸にかける。

 

(―――駄目だった。やはり、駄目だった)

 

次いで十香はゆらりと立ち上がると、顔を空に向けた。

 

(この世界で生きられるかもしれない、士道がいてくれたなら、何とか出来るかもしれない)

 

(すごく大変で難しいだろうけど、出来るかもしれないと思った)

 

(だけれど)

 

「やはり―――駄目、だった」

 

十香は呼ぶ。霊装を。絶対にして最強の、十香の領地を。

 

「<神威霊装・十番(アドナイ・メレク)>……」

 

周囲の景色がぐにゃりと歪み、十香の体を霊装が包む。

十香は地面に踵を突き立て、そこから巨大な剣が収められた玉座が出現する。十香は跳躍し、背もたれから剣を引き抜いた。

 

「<鏖殺公(サンダルフォン)>―――【最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)】!!」

 

十香が吠えた瞬間玉座がバラバラに砕け散ったかと思うと、その破片が十香の持つ剣にまとわりつき、全長10メートル以上はあろうかという、更に巨大な剣と化した。

十香はそれを軽々と振りかぶると、士道を撃ち抜いた弾丸が飛んできた方向へと振り下ろす。

刀身の光が一層強いものとなり、次の瞬間には、広大な台地が縦に両断されていた。

 

「十香ちゃん!よせ!!」

 

十香の後方から声が聞こえた。振り返ると、そこには息切れしながらもこちらにかけてくる真司がいた。

 

「シンジか…済まない。シドーは私を庇ったばかりに……」

 

「分かってる…。だけど、それは十香ちゃんが悪いわけじゃない。それよりも攻撃を止めてくれ!士道だってそんな事望んでない!」

 

「止めるなシンジ…。世界は私を否定した。それだけではない。シドーの命まで奪った。やつは…」

 

そう言って十香は、先程攻撃を放った方向へと目をやる。十香には、そこにいる者達の姿がハッキリと見えていた。

 

「やつは―――(ころ)して(ころ)して(ころ)し尽す」

 

十香はそれだけを告げると、真司の制止を聞かずに一瞬で高台へと移動した。

 

 

 

 

 

「全く…真司、あそこはちゃんと止めなさいよ。周りが人のいない開発中の土地だったのが幸いしたわね」

 

『無茶言うな!事前に聞かされてても、血まみれの兄弟見たらやっぱり動転するっての!!』

 

フラクシナス艦橋の正面モニタには、体をごっそり削り取られて横たわっている士道、怒りに身を任せた様子の十香、そして士道のそばで様子を見守っている真司が映し出されていた。

 

「どうやら秀一が動いていてくれたみたいだったけど…一歩及ばなかったみたいね。ま、お姫様がやられなかっただけマシか」

 

『お前な…そういう発言は不謹慎っていうか…。とにかく良くない。オレだって見るの辛いし、士道本人はもっと辛いんだからな』

 

「…わかってるわよ。私だって、ちゃんと心配はしてるんだから」

 

海之、吾郎、令音、そして神無月を除くフラクシナスのクルーたちは、みな目の前の会話に唖然としていた。

『ラタトスク』の最終兵器であり、琴里や真司にとっては大切な兄弟であるはずの士道。彼が目の前で突然死んでしまったにも関わらず、何故彼らが普段通りに会話出来ているのか理解できなかったのである。

だがその直後、彼らは更に驚くこととなった。突如、士道にかけられていた制服が燃え始めたのである。

しかし、驚くべきはその後だった。制服が焼け落ち、士道の肉体があらわとなる。

 

「き、傷が!?し、司令…これは……?」

 

そう。銃弾によってくり抜かれた傷口が燃えていた。その炎は傷口を見えなくするくらいに燃え上がり―――徐々に勢いを無くしていく。やがて炎が消えた後には、完全に再生された士道の肉体が存在していた。

 

「前にも、それにさっきの真司との通信でも言ったでしょ。士道は一度くらい死んでもニューゲーム出来るって。―――まあ、真司がすぐに理解して落ち着いてくれたのは意外だったけど。てっきり精霊と一緒に暴れだすかと思ったわよ」

 

『まあ…色々な。オレ自身、タイムベントを何回も経験して、死んだと思ってたやつにも会ってるしな』

 

「ふぅん…まあいいわ。あ、そろそろ起きるわよ」

 

琴里がそう言うとほぼ同時に、士道の体がピクリと動く。そして…

 

『…あっちゃちゃ!あっつうう!?…あれ、なんで生きてんのオレ?』

 

「し、司令…」

 

「すぐに士道を回収して。彼女を止められるのは士道だけよ。真司は先に行って秀一と合流しなさい。―――士道は、役割(・・)を説明したらそっちに送るわ」

 

琴里の言葉に真司は力強く頷き、デッキを取り出した。

 

「頼んだわよ、真司おにーちゃん」

 

『任せろ。変身!』

 

真司は龍騎に変身し、十香たちのいる高台へと向かった。

 

 

 

 

 

燎子から見て、状況は最悪だった。待機させていたAST隊員たちはみな、すぐそこにいる仮面ライダーに倒されていたが、この状況では参戦したところで何かが変わるとも思えない。寧ろ、余計な死傷者を出さなくて済むようにしてくれたことに関して礼を言いたいくらいである。

燎子自身は何とか空中へ離脱することが出来たが、精霊が折紙に狙いをつけていること、加えて折紙自身が人を撃ってしまったことによって動けなくなってしまっている事が原因で、折紙は集中砲火を受けていた。随意領域(テリトリー)で防御こそしているが、未だ生きていること自体が奇跡のような状況である。あのライダーがいなければ、今頃既に木端微塵になっていただろう。

 

「折紙!至急離脱しなさい!折紙!」

 

 

 

「だってさ。オレとしてもそこでへたり込んでるよりは、自力で逃げてもらった方が助かるんだけどな…。痛たた…やっぱ馬の方がマシだなこりゃ…」

 

「私が…士道を……」

 

「…ったく、そんなになるなら最初から撃つなっての。ほら、逃げるよ」

 

ゾルダは軽い口調で話すが、既に彼の全身はボロボロだった。ガードベントで召喚した盾・ギガアーマーをギガランチャーに装備し、この砲撃とギガアーマーで攻撃を凌いではいたが、十香の攻撃を耐え続けるというのは無理があった。

 

「…その姿、シンジの仲間か?なぜそいつを庇う」

 

「…ぶっちゃけ一人でも逃げたいとこなんだけど、そうも言ってられないわけよ。あのバカが言ってなかった?『士道はそんなこと望んでない』って。だからかな」

 

「そうか…なら―――――――終われ」

 

そう言って十香は剣を振り上げる。十香の纏うエネルギーがより濃いものになっていくのを感じたゾルダは、思わず死を覚悟した。だが

 

「やめろおおおお!!」

 

突如上空から響いて来た声に、十香は思わず動きを止め、剣を下ろす。そして次の瞬間、十香とゾルダたちの間に割って入るように、ドラグレッダーに乗った龍騎が空中に現れた。

 

「間に合った…こっち来てからドラグレッダー(おまえ)に頼りっぱなしだな」

 

「城戸か…全く遅いっての」

 

「五河……真司…」

 

龍騎の登場にゾルダは少し安堵した様子を、折紙は驚いた表情を見せる。

 

「五河真司…私は、五河士道を…」

 

「そうだシンジ!なぜお前までそいつを庇うのだ!そいつはシドーを……」

 

「分かってる。鳶一さんのせいじゃないとは言わないし、簡単に許したり出来るようなことじゃない。だけど…」

 

真司は答えながら、ガードベントのカードをドラグバイザーに挿入し、ドラグシールドを召喚する。

 

「オレは人も精霊も、みんなを守りたい。誰にも傷ついて欲しくない。オレは今度こそ戦いを止める。それがオレの願いで…士道の願いでもあるんだ」

 

そう言って龍騎は、真っ直ぐに十香の目を見た。表情こそ見えないが、仮面越しに伝わって来る龍騎の真剣な雰囲気に、十香は思わず気圧される。

 

「…そんな盾だけで私を止めるつもりか。私はシドーを殺したその女を許さんぞ」

 

「オレは十香ちゃんと戦うつもりは無いからな。これだけで充分だ」

 

「私を嘗めているのか?いくらシンジでも、邪魔立てするならば…」

 

十香はそう言うと再び剣を振りかぶり、そこにエネルギーが集まり始める。しかし、十香の言葉に龍騎は首を横に振った。

 

「違うよ十香ちゃん。オレの仕事は、あいつが来るまで君を止める事だ。…と言っても、そろそろだと思うんだけど」

 

「……どういう意味だ?」

 

「あいつは…士道はまだ終わっちゃいない」

 

「!?それは一体どういう…」

 

十香が言いかけたその時だった。

 

「十ぉぉぉ香ああああああああああああああああああああああああ――――――ッ!!」

 

上空から聞こえてくる、己の名を呼ぶ声に、十香は思わず耳を疑った。剣を振り上げたまま声のする方へ目をやると、そこには……

 

「シ―――ドー………?」

 

先程撃ち抜かれたはずの士道が、猛スピードで落下してきていた。

ラタトスクからのサポートによって、不意に士道の落下スピードが急激に和らぐ。十香は士道の元へ飛んでいくと、その体を抱き留めた。

 

「シドー…ほ、本物か…?」

 

「ああ……一応本物だと思う。心配かけてごめんな」

 

士道が言うと、十香は唇をふるふると震わせた。

 

「シドー、シドー、シドー…っ!」

 

「ああ、なん―――」

 

士道が答えかけたところで、辺りに凄まじい光が満ちた。十香の握っていた剣が、辺りを夜闇に変えんばかりに真黒な輝きを放っている。

 

「と、十香!?これは―――」

 

「【最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)】の制御を誤った!どかかに放出するしかない…!」

 

「どこかってどこだ!?」

 

士道の問いかけに対し、十香は無言で地面の方を見る。そこには、今にも死にそうな様子の折紙がいた。

 

「ちょ、お前らぁ!?なんかこっちチラッと見てたけどさ、まさかこっちに撃ったりしないよね!?」

 

折紙のそばにいたゾルダは、慌てた様子で声を張り上げる。

 

「い、いや分かってますよ!……十香、それは駄目だ。あっちに撃っちゃ駄目だぞ!」

 

「ではどうしろと言うのだ!もう臨界状態なのだぞ!!」

 

そう言っている間にも、十香の握る剣はあたりに黒い雷をまき散らしていた。

その時、どうするべきか思案していた士道の耳元から、インカムを通して琴里の声が聞こえてきた。

 

『ほら士道、さっき教えたお姫様を助けるたった一つの方法。実行しちゃいなさい』

 

「い、いや琴里、あれは…」

 

「どうしたシドー?何か策があるのか!?」

 

士道はぼそぼそと琴里に言い訳をしようとしていたところを十香に見つかってしまう。

士道は先程フラクシナス艦内で、琴里から十香を救う方法を聞かされていた。正直到底信じられるものでは無く、どうにか他の方法で解決しようと思っていた士道だったが、最早この状況では他に選択肢は無い。士道は意を決して十香の問いに答える。

 

「あ、あるにはある…。そ、その、あれだ…!十香!お、オレとき、キスをしよう…ッ!いややっぱ忘れて…」

 

「キスとは何だ!?」

 

「へ?こ、こう…唇と唇を合わせ―――」

 

士道が言い終わらないうちに、十香は何の躊躇いも無く士道の唇に自分の唇を重ね合わせる。すると、その一拍後に十香の剣にヒビが入り、バラバラに霧散して空に溶け消える。

次いで、十香の纏っていた霊装が光の粒となって、空へ舞って行った。

やがて二人は抱き合う形でゆっくりと落下していき、そのまま着地する。

 

「す、すまん!これしか方法が無いって言われて……」

 

「は、離れるな馬鹿者…ッ!!見えてしまうではないか…」

 

そう言って十香は士道をより強く抱きしめる。突然キスされたことや、十香の霊装が消えたことで目のやり場に困ってしまっていた士道は、十香のその行動により一層慌てふためく。

 

「やれやれ。こういうのをこっちじゃ『リア充爆発しろ』って言うんだっけ?」

 

いつの間にか変身を解いた秀一が、からかうように言いながら近づいて来る。その横には何故か鼻を抑えている真司もいた。

 

「き、北岡さん…からかわないで下さいよ。それよりその真司は一体?」

 

ふぃふぃふんば(気にすんな)ほっとふぃげきがつよふぁっただふぇだ(ちょっと刺激が強かっただけだ)

 

「城戸…お前実年齢何歳だよ……」

 

「あ、あはは…」

 

そんなやり取りをしていると、十香が「シドー」と消え入りそうな声を発してきた。

 

「なんだ?」

 

「また、デェトに連れて行ってくれるか……?」

 

その問いかけに、士道は力強く首肯する。

 

「ああ。いつだってな」

 

士道の答えに、十香はこれまでで一番の笑顔を見せたのだった。

 




デート・ア・サバイブ!!

「夜刀神十香だ!皆よろしく頼む」

「いたく、しないで…ください…」

「…精霊が十香一人だなんて、誰が言ったのかな?」

「たとえ世界中を敵に回しても、そいつを死なせたくはないと思う」

「蓮、お前……」

「オレは…力が欲しい。真司たちみたいに、みんなを護れる力が…!」

戦わなければ生き残れない!



お読みいただいてありがとうございました。次回から四糸乃編です。ついに蓮が…!?
ご意見、ご感想、お待ちしています。


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四糸乃パペット
新しい日常


お待たせして申し訳ありませんでした。いよいよ四糸乃編です。
今回はホントに冒頭の部分だけです。


ある雨の日、天宮市内にある公園の一つ。その一角で、少女は傘もささずに怯えていた。

彼女の目には、人型でありながら人ならざる姿をした存在が、自分の方へと迫って来る様子が映っている。

雨によって出来た水たまりから現れたその怪物は、ゆっくりと、しかし確実に少女に近づいていた。

しかし、少女と怪物との距離があとほんのわずかというところまで迫ったその時、近くにあった別の水たまりから巨大な黒い何か(・・)が現れ、怪物を体当たりで弾き飛ばした。

少女は新手の出現に一瞬恐怖を感じるが、その黒い何か(・・)の正体を理解すると安堵の表情を見せる。そしてその数秒後、公園の入口に一人の少年が現れた。

 

「大丈夫か、四糸乃」

 

少年は少女の方へと近づきながら問いかける。それに対して少女は

 

「はい…。ありがとう…ございます」

 

と答えた。そして少女に続くように、少女の手にはめられたそれ(・・)が少年に話しかけてきた。

 

『やっはー蓮くん!いやぁ~いつもいつも悪いねぇー。蓮くんのおかげで四糸乃もよしのんも、いっつもケガ一つ負わずに済んでるよー』

 

「そうか。まあそれだけペラペラと喋れるなら無事なんだろうな」

 

少年はそれ(・・)の言葉を軽く流すと、デッキを取り出し水たまりへかざす。

既に先程の怪物・ミラーモンスターの姿は無い。先程の怪物を追い払った黒い存在―――ダークウィングや、少年が現れた後、モンスターはミラーワールドへと逃亡していた。

 

『んもー蓮くんってば、つれないなぁー』

 

「文句なら後で聞いてやる。変身!」

 

その少年―――――羽黒蓮は、デッキを腰のVバックルに装着し、その姿を仮面ライダーナイトへと変える。そして蓮は、モンスターを追って水たまりからミラーワールドへと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シドー!クッキィというのを作ったぞ!」

 

そう言って水晶のような瞳をキラキラさせ、手にした容器を士道に差し出しているのは一人の少女。その容器には(多少焦げていたり、ちょっと形がいびつだったりするものの)クッキーが入っている。

士道とその少女は同じクラスではあったが、家庭科の授業では個人の作業量が充実するように…とかなんとかいう理由で、実験的に男女別々で調理実習を行うことになった。つまり、今日は女子たちの実習の日だったということである。

女子から手作りクッキーをもらうというだけで他の男子からの嫉妬の的であるの上、それを差し出しているのは冗談のように美しい美少女であった。そのため、士道としては周囲からの視線が痛くて仕方ない。

少女の名は夜刀神十香。つい先月士道とデートをした『精霊』である。

 

 

 

 

 

およそひと月前のこと。十香と士道のデートから、土日を挟んでの月曜日。いつも通り登校した士道と真司を待っていたのは、全身包帯だらけの鳶一折紙だった。

 

「お、おう、鳶一。無事で何より――――――」

 

「ごめんなさい。謝って済む問題ではないけれど」

 

気まずげな空気になりながらも挨拶をしようとした士道を遮り、折紙は深々と頭を下げてきた。

折紙によると、十香を狙ったあの一撃は、折紙が放ったものらしかった。

 

「い、いや別にもういいって。オレは結局無事だったんだし。…それよりも頭を上げてくれ。目立つから」

 

「…わかった。本当にごめんなさい。そして、許してくれてありがとう」

 

「お、おう。気にすん…」

 

「でも―――――浮気は、駄目」

 

「………は?」

 

折紙の言葉に意表を突かれた士道は、思わず目が点になる。周囲で興味深そうに聞き耳を立てていたクラスメイトたちも、折紙の発言でざわめきだした。

しかし当の折紙は全く気にすることなく、真司に謝罪と感謝の言葉を述べると、そのまま自分の席へ戻って行った。

 

「…士道、浮気って?」

 

「…オレが知りたいよ」

 

残された士道たちが呆然としている間にチャイムが鳴る。そして岡峰珠恵教諭が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。

 

 

 

「今日は出席を取る前にサプライズがあるの!―――入って来て!」

 

珠恵やたらと元気な声で、先程自分が入って来た扉の方へと声をかける。

すると扉が開いて、一人の少女が教室に入って来た。少女はものすごくいい笑顔で

 

「夜刀神十香だ!皆よろしく頼む」

 

と名乗った。

予想外過ぎる展開に、士道、真司、折紙の三人は動揺する。また、他のクラスメイトたちは、十香のあまりの美しさに騒然となった。

しかし当の十香本人はそんな視線など気にすることなく、黒板に下手くそな字で『十香』とだけ書いた。そして満足げに「うむ」と頷く。

 

「と、十香。お、お前、なんで…」

 

「ぬ?」

 

士道が言うと、十香は視線を向けてきた。そして声の主が誰か分かるや満面の笑みを浮かべ

 

「おお、シドー!会いたかったぞ!!」

 

大声で士道の名を呼び、ぴょんと飛び跳ねて士道の元へとやってきた。

 

 

 

 

 

(あの時はホントに驚いたよなぁ…)

 

最初はどうなることかと思ったが、十香は高校生活をとても楽しんでいる。特に真司やクラスメイトの女子たちと仲が良く、精霊として命を狙われていたころとは比べ物にならないくらい笑うようになった。それ故に、士道は裏で色々と手を回してくれたという琴里らラタトスク機関に感謝していた。

とはいえ、士道にとって有難いことばかりかというと、残念ながらそういうわけでもなかった。

まず、十香は士道とよく行動を共にする・もしくはしたがるのだが、それによる周囲の視線が中々気になる。特に、十香が美少女であるが故、士道は男子生徒たちからの嫉妬と羨望が入り混じった視線をよく感じた。

例えば今も、十香にクッキーを差し出された時から、士道は言い知れぬ寒気を背筋に感じていた。一番近い所では殿町宏人が、負のオーラを漂わせながらやさぐれた様子で

 

「五河ぁ…。お前はいいよなあ、美少女からクッキーを貰えて…。どうせオレなんか闇の住人さ…ほら、思いっ切り笑えよ…」

 

などと呟いていた。

 

更に問題はもう一つあった。

 

士道が意を決して十香のクッキーを口に運ぼうとすると、

 

「……ッ!?」

 

士道の目の前を銀色の弾丸のような物が一直線に通り過ぎていく。廊下の方から放たれたと思しきそれは、士道が手に取ったクッキーを粉々に砕くと、そのまま壁に突き刺さった。

 

「なっ…!?」

 

士道が戦慄しながらもそれ(・・)の飛んで行った方向を見る。どうやら先程の弾丸の正体は調理室のフォークだったようだ。

 

「ぬ、誰だ!危ないではないか!」

 

十香が叫び、フォークが飛んできた廊下の方向へと目を向ける。士道もそれにつられるように同じ方向を見ると

 

「………」

 

そこにはついさっき何かを投擲したかのように右腕を伸ばしている折紙がいた。恐らく先程フォークを投げたのは彼女で間違い無いだろう。

 

「と…鳶一?」

 

「ぬ?」

 

士道は頬に汗をひとすじ垂らし、十香は不機嫌そうに眉根を寄せる。

しかし折紙はそんな二人の様子に動じることもなく、士道の元へとやってきて、左手に抱えていた容器の蓋を開け士道に差し出した。

 

「夜刀神十香のそれを口にする必要は無い。食べるならこれを」

 

折紙の差し出した容器の中には、まるで工場で製造されたかのような、完璧に規格が統一されたクッキーが並んでいた。

一方十香は折紙に対し、頬を膨らませながら抗議の声を上げる。

 

「邪魔をするな!シドーは私のクッキィを食べるのだ!」

 

対する折紙も全く怯む事無く、

 

「邪魔なのはあなた。すぐに立ち去るべき」

 

と言い放った。

ヒートアップしていく二人の口論。一人取り残された士道は頭を抱える。

十香が来禅高校に通うようになって起こったもう一つの問題というのが、まさに今の状況だった。この二人、事情が事情とはいえ仲が物凄く悪いのである。

確かにほんの少し前まで互いに命を狙い、そして狙われて来た間柄であるため、すぐに仲良くするのは不可能であるというのは士道も理解している。しかし頭では分かっていても、顔を合わせるたびに喧嘩を始める二人の間に止めに入るというのはかなりきつく、もう少し仲良くできないのかと思わずにはいられなかった。

ましてや、片や力を封じられたとはいえ『精霊』、片や兵器こそ使っていないとはいえ、その精霊を倒す事を目的としているASTの魔術師(ウィザード)。この二人の喧嘩の仲裁ともなると、その労力は半端なものでは無い。

 

「お、落ち着けって二人とも。どっちも美味そうだぞ。なあ真司?」

 

放っておくと殴り合いにまで発展しかねない様子の二人の間に割り込みつつ、士道は援軍を呼ぼうとする。真司はよく士道と一緒に二人の喧嘩の間に割って入っていた。そのため、今日も彼の力を借りようとした士道だったのだが……

 

「美味い!でも材料を混ぜ合わせるとき、もう少し混ぜた方がいいかな」

 

「なるほど~。それにしても五河くんってお菓子作り得意なんだ~」

 

「まあちょっとだけ…。士道も料理得意なんだけど、昔バイトしてた関係でさ、喫茶店で出すような物とか紅茶に合うお菓子とかはオレの方が得意なんだよ。あ、あと餃子も得意」

 

「へ~!なんかオシャレかも!……餃子?」

 

真司はたまに十香にお菓子を作ってあげていたのだが、どうやらそのことを知った女子から味見を頼まれたらしく、彼は数人の女子に囲まれこちらに気付いていなかった。

助っ人という希望を絶たれ、士道の目の前が真っ暗になる。ちなみに殿町が「今のオレにはクッキーは眩しすぎる」とか「完全(パーフェクト)調和(ハーモニー)も無いんだよ」とかわけのわからないことを口走っていたが、構っている余裕も無かったのでスルーした。

 

「シドー、どちらも美味そうだと言ったな。ならばシドーは私の作ったクッキィと、鳶一折紙が作ったクッキィ、どちらを食べたいのだ?」

 

「え?」

 

不意に十香からそんな事を言われ、士道は間の抜けた声を発した。

 

「さあシドー」

 

「………」

 

十香と折紙が、左右から同時にクッキーの入った容器を差し出してくる。

どちらを選んでも危険だと判断した士道は、両手でそれぞれのクッキーを手に取り口に放り込んだ。

 

「う、うん。美味いぞ二人とも」

 

何とか最悪の状況は回避した、そう思った士道だったが…

 

「私のほうがちょびっと早かったな」

 

「私の方が、0.02秒早かった」

 

二人はそんな事を言い出し、互いに睨み合う。その場に流れる空気を感じ取った士道は、はぁ、とため息をつき、再び二人の間に割って入る。

 

 

 

次の瞬間、士道の体に二人が互いの急所めがけて放った拳が炸裂した。

 




番外編・がんばれ!蓮店長(冒頭の変身した部分の後)

「あ、蓮くん!着替え終わった?全く、こんな雨の中どこ行ってたのさ」

「ちょっとな。…それよりもこの状況はどうした」

「蓮くんが出かけた後や、戻ってから着替えしてる間に来たお客さんたちで…」

チラッ

「…渡くん、いい加減そのマスクとサングラス取ったら?完全に不審者よ」

「……」

「仕方ないんです恵さん。渡はこの世アレルギーなんです」


チラッ

「じいや。ここがショ・ミーンのキッサトゥーンというものか?」

「左様でございます坊ちゃま」

「中々興味深いな。おい店主!カケ・ソーバを貰おう!」



「……なんか変わった人たちだね。ところで蓮くん、何作ってるの?」

「注文を聞いてたろ。かけそばだ」

「…あるんだ」

終わり



お読みいただいてありがとうございました。ところどころのネタが分かりづらかったら申し訳ありません。
この作品をお気に入り登録してくださる方がこれを投稿する時点で160件にもなっており、本当にありがたく感じます。今後も頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。
ご意見・ご感想などお待ちしています


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雨の日の出会い

仮面ライダーデータ
『仮面ライダーゾルダ』
変身者・北岡秀一(一度だけ由良吾郎が変身したこともある)
契約モンスター・鋼の巨人マグナギガ(6000AP)
ファイナルベント・エンドオブワールド

遠距離攻撃系のカードを一枚も持たないライダーも多い中で、所有カードのほとんどが銃火器類を召喚するものという珍しいライダー。銃撃戦を得意とし、その性質上中距離~遠距離での戦闘ではかなりの実力を誇る。反面、龍騎・ナイト・王蛇などの戦う事の多かったライダーたちと比べて格闘能力はそれほど高くない。
龍騎同様に特殊なカードを持たないが、それを補えるほどの火力を有している。特にファイナルベントは非常に強力で、サバイブ系ライダー3人を除くと、王蛇のドゥームズデイに次ぐ威力である。ただし発動までの隙が大きく、また広範囲を攻撃出来る反面威力が拡散してしまうというデメリットもある。
今作では海之と共にラタトスクのメンバーとして士道らをサポートする。龍騎の世界で真司に少しずつ感化されていったことに加え、戦う動機であった不治の病から解放されたことで、以前よりも性格が少し丸くなった。とはいえ、毒舌やナルシストでワガママなところ等は全く改善されていないが、本人曰く「これがなきゃオレじゃない」とのこと。
以前同僚のクルー達に好みの女性を聞かれたとき、桃井令子に関して説明の仕方をミスしたせいで、「なかなかつれないところがいい」と言いたかったのを「虐められるのが好き」と誤解されてしまった事がある。ちなみにこの誤解のせいで、一時神無月に物凄く親近感を持たれた(現在は解決済み)

「オレは自分が一番可愛いんだよ!他人の為の犠牲は美しくない!!」


「…おいおい、今日は晴れって言ってたじゃねぇか」

 

ポツリポツリと降り出した雨の中、士道は疲れた様子で呟く。

結局あの後、十香と折紙は喧嘩を始め、士道は止めに入ることとなった。途中で真司が気付いて手伝いに来てくれたとはいえ、士道の身体には大きな疲労が残っている。

そこへ追い打ちをかけるかの如く、帰り道で降り出した雨。疲れ切った様子の士道は、周りからは実年齢より若干老けて見えた。

そんな士道をあざ笑うかのように、雨はみるみるうちに激しさを増していく。このまま家まで突っ切るのは不可能だと判断した士道は、仕方なく目についた神社の大きな木の下へ入り、雨の勢いが弱まるのを待つことにした。

 

「最近あてにならないな…降水確率10%って言ってたのに」

 

士道が制服に付いた水滴を払いながらそんな事をぼやいていると、不意に水たまりに踏み込んだかのような音が近くから聞こえた。何気なく士道がそちらへと目をやると、そこには雨の中を楽しげにぴょんぴょん飛び跳ねている少女がいた。

少女は可愛らしい意匠の施された緑色の外套に身を包み、ウサギの耳のような飾りの付いた大きなフードを被っている。そしてその左手には、いやにコミカルなウサギ型のパペットが装着されていた。

雨の中を軽やかに飛び跳ねる少女。その姿に士道が目を奪われていると…次の瞬間、少女が盛大にこけた。少女の手からはパペットがすっぽ抜け、少女はうつ伏せのまま動かなくなる。

 

「だ、大丈夫か、おい」

 

士道は慌てて少女に駆け寄り、彼女を助け起こす。そこで初めて、士道は少女の顔をハッキリと見ることが出来た。

歳は琴里と同じくらいだろうか。ふわふわとした青い髪の、フランス人形のような可愛らしい少女だった。

 

「…!」

 

と、そこで少女は目を見開いた。そしてその目に士道を映した途端に顔を真っ青にし、少女は怯えるかのように士道から距離を取った。

 

「…ええと」

 

助け起こすためとはいえ、少女の体に触れてしまったのは軽率だったかもしれない。とはいえ、やはりいきなり小さな子に拒絶反応を起こされるというのは、士道にとっても少しショックだった。

 

「そ、そのだな、オレは―――」

 

「……!こ、ない、で…ください…っ」

 

「え?」

 

士道が少女の方へ足を踏み出すと、少女は怯えた様子でそう言った。

 

「いたく、しないで……ください……」

 

続けて少女はそんな言葉を吐いてくる。少女のあまりの怯えように、どうするべきか士道が戸惑っていると、

 

「お前…そこで何をやっている……」

 

背後からそんな声が聞こえてきた。

 

(この状況は…マズい…!オレが幼女を怖がらせているように見えるッ……)

 

勿論士道は無実なのだが、もし誤解されて通報でもされれば士道はいろんな意味で終わってしまう。士道は慌てて声の方へ振り返り、状況を説明しようとする。

だが、そこで士道の目に映ったのは、予想外の人物だった。

 

「お前は…!確か……五河士道とか言っていたな」

 

「この前の喫茶店の…」

 

士道の目の前に立っていたのは、十香とのデートで訪れた喫茶店の店主の少年だった。

 

「そういえばまだ名乗っていなかったか。オレは羽黒蓮だ」

 

そう言って蓮は、士道と怯えた様子の少女を見比べる。そして蓮の視線が少女の左手へと向いたとき、彼は納得したような表情を見せた。

 

「なるほど…大体状況は理解した。五河、お前あいつが着けていたパペットがどこに行ったか分かるか?」

 

「へ?」

 

突然の問いかけに士道は一瞬戸惑うが、すぐに少女が転んだ時の記憶を思い起こし、パペットが飛んで行った方向へと目をやる。するとそこには、先程のウサギのパペットが落ちていた。

 

「あ、あった!」

 

「お前はあれを取ってきてくれ。オレは四糸乃を落ち着かせておく」

 

「え?四糸乃…?」

 

「そいつのことだ。ちょっとした知り合いなんだが…訳あってそいつは中々人に馴染めない…」

 

「人見知りってこと…か?」

 

士道の問いに対し、蓮は「そんなとこだ」とだけ答えると、まるでもうこの話は終わりだと言わんばかりに、四糸乃の方へと歩き出した。

士道としてはまだ気になるところはあったが、これ以上踏み込んではいけないような気がして口を閉じる。

そして士道は、質問を続ける代わりにパペットを拾いに行った。

 

 

 

 

 

「あ~…つっかれたぁ~…」

 

真司は一人、帰り道を歩いていた。本当なら士道と一緒に帰るつもりだったのだが、昼にクッキーを味見した女子たちから色々とアドバイスを求められ、それに答えている間に士道は先に帰ってしまっていた。そのとき真司は鞄を持って移動していたので、おそらく士道は机に真司の鞄が無いことから、真司が先に帰ったと勘違いしてしまったのだろう。

ちなみに、その女子たちが傘の予備を持っており、それを貸してくれたので真司は濡れず済んでいた。

 

「ん?あれって…」

 

真司が神社の前を通り過ぎようとしたとき、そこに見知った人物を見かけて足を止める。

 

「あれは…士道か?」

 

そこにいたのは先に帰ったはずの士道だった。どうやらここで雨宿りをしていたらしい。

真司が士道の方へ歩いていくと、士道の他に小さな女の子らしい人影と、真司や士道と同じくらいの男性と思われる後姿が目に入る。見知らぬ人物がいたため、真司は話かけていいのか一瞬迷ったが、まあいいかと士道に声をかける。

 

「おーい、士道!」

 

「あ、真司!どうしたんだよその傘?」

 

「ちょっとな。それよりお前ど……」

 

そこまで言いかけて、真司は言葉を失った。理由は目の前にいた人物である。

真司の声や、士道のそれに対する返事につられて、士道と話をしていた二人が真司の方を向いたのだが……真司はその内の一人の顔に見覚えがあった。

 

「五河。こいつは?」

 

目の前の少年が士道に尋ねる。

 

「ああ、こいつは五河真司。オレの兄弟だよ。真司、この人は…「蓮…」え?」

 

真司は士道の言葉を遮って、その名前を口にする。

 

「真司…お前なんで…?」

 

「………貴様、何故オレの名前を知っている?答えろ」

 

蓮がそう言うと同時に、真司と蓮の頭の中に例の音(・・・)が響く。

 

「この音…モンスターか!」

 

真司は反射的にポケットからデッキを取り出す。一方蓮は、真司が取り出したデッキを見て一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに冷静さを取り戻した。

 

「お前…。そうか、お前が菊池が言っていた4人目か…。オレの過去を知っているとかいう連中の仲間だな」

 

「…菊池ってあの店番してたおじさんか。…そうだよ、蓮。オレは昔のお前を知ってる」

 

「あいにくオレはお前らの事を信用していない。…だがまあ、取り敢えず今はモンスター(こっち)を先に片付けるぞ。…四糸乃、よしのん、ここを離れてろ。変身!」

 

「士道も先に帰っててくれ。変身!」

 

真司と蓮は水たまりを使って、それぞれ龍騎・ナイトへと変身する。そしてそのまま水たまりへと飛び込み、ミラーワールドへと向かって行った。

 

 

 

「ええ!?蓮も仮面ライダー!?マジかよ…」

 

残された士道は驚きのあまり目を丸くしていた。そしてふと、士道の脳裏に疑問が浮かぶ。

 

「…ええと、四糸乃だったな。君は蓮がライダーだってこと知っていたのか?」

 

だが、士道が先程まで四糸乃がいた方向を見たとき、すでに四糸乃の姿は無かった。

 

 

 

ミラーワールドへと入った二人は、それぞれ一体ずつモンスターを相手取っていた。龍騎が戦っているのは、バクラーケンと呼ばれるイカ型のモンスター、一方ナイトの相手は同じくイカ型のウィスクラーケンと呼ばれるモンスターであった。

 

「ほっ、てやぁ!」

 

ドラグセイバーを装備した龍騎は、力強い剣裁きでバクラーケンを追い詰めていった。

 

「おりゃあ!!」

 

龍騎は一気に仕留めようとドラグセイバーを振りかざすが、その瞬間バクラーケンは頭上の口吻から煙幕を放出する。龍騎の視界が一気に暗くなった。

 

「のあ!?くそ…、何も見えない!」

 

煙幕から脱出するため距離を取ろうとする龍騎だったが、直後何か(・・)が迫って来るのを感じ、咄嗟にドラグセイバーで防御しようとする。

その何か(・・)は龍騎の首を絞めようと放たれたバクラーケンの触手だった。ドラグセイバーで防御したため最悪の事態は逃れたものの、あまりの粘着性の強さにドラグセイバーを外すことが出来ず、そのまま奪われてしまう。

 

「ああ!?返せちくしょー!!」

 

煙幕から脱出した龍騎が抗議したが、そんな事をしたところで返してくれるわけもなく、バクラーケンはドラグセイバーを無造作に放り投げる。そして今度は龍騎の体を拘束しようと、再び触手で攻撃してきた。

龍騎はそれを躱し、デッキから新しいカードを引いて、ドラグバイザーにセットする。

 

「近付くと触手と煙幕…なら遠くからでどうだ!」

 

『STRIKE VENT』

 

ストライクベントのカードが発動し、龍騎の手にドラグクローが装備され、それと共に上空からドラグレッダーが現れた。

何かを感じ取ったのか、バクラーケンは焦ったかのように煙幕を放出するが、ドラグレッダーの放つ火球によって吹き飛ばされてしまい、すぐにその姿があらわになる。

 

「おりゃあああ!!」

 

そして龍騎は、その姿めがけてドラグクロー・ファイヤーを放った。

 

 

 

一方その頃ナイトは、ウィスクラーケンの動きを完璧に捉えていた。ウィスクラーケンは長い槍のような武器と、得意の素手での近接格闘攻撃を組み合わせてナイトに繰り出していたのだが、ナイトはそれをことごとく躱し、すれ違いざまにダークバイザーでのカウンター攻撃まで叩き込んでいた。

 

「いい加減チマチマやるのも飽きてきた。一気に決めさせてもらう」

 

そう言うと蓮は1枚のカードをダークバイザーに挿入し読み取らせる。

 

『TRICK VENT』

 

ダークバイザーから電子音声が発せられると同時に、一人だったナイトが二人になる。そして一人、また一人と増えていき、ウィスクラーケンが気付いたときにはナイトは8人になっていた。

 

「「「「「「「はっ!!」」」」」」」

 

7人のナイトが一斉にウィスクラーケンに襲いかかる。ウィスクラーケンは得物を振り回すが全て躱され、更にその隙に背を向けてる方向のナイトたちから一斉に斬りかかられ、逆に大ダメージを負った。

 

「これで終わりだ!」

 

『FINAL VENT』

 

唯一攻撃に参加していなかったナイトがファイナルベントを発動させ、空高く飛び上がる。

身の危険を感じ取ったウィスクラーケンは逃げ出すが、逃げ切れるはずも無く、背後から飛翔斬によって貫かれた。

 

 

 

「………」

 

ナイトは無言で龍騎の方を一瞥する。どうやら向こうも終わったらしく、こちらに近づいて来る。

 

「あれ?蓮、お前待っててくれたのか。てっきりさっさと帰っちゃうもんだと…」

 

「…馴れ馴れしくするな。別にお前を待っていたわけじゃない」

 

ナイトはそう言って踵を返し、そのまま歩き出してしまう。

 

「お、おい蓮!待ってくれ!オレは…」

 

龍騎が慌てて呼びかけると、ナイトは一旦足を止め、振り返らずにそのまま

 

「お前を信用したわけじゃない。…だが、話くらいは聞いてやる。ついて来い」

 

とだけ言って、再び歩き出した。

 

「蓮、それって!」

 

驚いた龍騎が再び呼びかけるも、今度は返事は返って来なかった。ナイトは無言のまま、近くにあった水たまりに入って行ってしまう。

 

「あ、蓮!待てよ!」

 

ようやく掴んだチャンスを手放すまいと、龍騎はナイトの後を追って水たまりへと向かって行った。




お読みいただいてありがとうございました。今回ついに真司と蓮を対面させることが出来ました!ただその分、ちょっと詰め込みすぎたかな?って感じにもなってしまいました。読みにくいと感じられた方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。

前回までの読んで下さった方々の感想を見ていると、ちょくちょく他のライダーのネタを挟んでも、やっぱり分かる方が多いんだなぁと感じました。余裕があれば、『龍騎×デート・ア・ライブ×別のライダー』みたいな感じでこの作品と、他のシリーズのライダーとのクロスオーバーもやってみたいなと少し思っています。
設定の矛盾?問題ありません。「番外編」「MOVIE大戦」「パラレルワールド」「ここが○○の世界か…」「ゴルゴムの仕業」世の中にはこんなにも都合のいい言葉が溢れています。バーコードモチーフの悪魔が通りすがって、多少の無理は破壊してくれるはずです。

長々と失礼いたしました。ご意見、ご感想などお待ちしています。




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嘆きの士道

少々中途半端な終わり方になってしまった気がします。オリジナル展開入れたとはいえ、まさかあの説明シーンが一話で終わらないとは…。

話が変わりますが、沢山の方がこの作品に感想をくださり、とても嬉しく有難いことだと感じています。…ですが、最近本編への感想をあまり見かけない気がします。やっぱりつまらないのでしょうか…。どんな些細なことでもいいので、ご意見やご感想をいただけると嬉しいです。

最後に、以前の後書きでやってみたいと書いた番外編についてのアンケートを始めました。興味のある方は今回の後書き、及び活動報告をご覧ください。




家の前にたどり着いた士道は、浮かない顔をしていた。

雨でびしょびしょだからというのもある。昼間の十香VS折紙の件での疲労も大きい。しかし一番の理由は…

 

(さっきも足手まといだった…。オレ…何の役にも立てないのか……)

 

先程の神社での出来事が士道の頭から離れなかった。

真司に加えて蓮までもがライダーだった。恐らく彼も人知れずモンスターと戦っているのだろう。そして、以前聞いた話によれば、ラタトスクの北岡秀一や手塚海之もライダーとのことらしい。

周りに沢山のライダーがいて、人々を護るために戦っている。しかし自分は、そのことを知っていながら何も出来ない。そのことが士道の無力感を一層強いものにしていた。

そんな事を思いながら、士道は玄関に鍵を差し込む。と、そこで士道は違和感を感じ、ドアノブを握ってそのまま引いてみる。すると士道の予想通り、出掛けに鍵をかけていたはずの扉が、なんの抵抗も無く開いた。

 

「琴里か…?」

 

士道が不審に思いながら家の中へ入ると、予想もしていなかった人物が彼を出迎えた。

 

「よう、久しぶりだな」

 

「手塚さん!?なんでここに?」

 

「司令に呼ばれてな。上がらせてもらっているよ」

 

そこにいたのは、先程士道が思い浮かべていたライダーの一人である手塚海之だった。海之は士道に微笑みながら事情を説明する。

 

「お前たちに話があるらしくてな。司令や北岡、令音さんもいる」

 

「話?」

 

「ああ。それで城戸にも関係があるんだが…一緒じゃないのか?」

 

海之の何気ない問いかけに、士道は再び憂鬱な気分になる。

 

「真司は…モンスターと戦ってます。オレは何も出来なくて…力も何もない、弱いやつだから」

 

そんな風に自嘲気味に話す士道を、海之は「そこまでだ」と遮った。

 

「事情は大体分かった。だが士道、お前は自分を安く見すぎだ」

 

「え?」

 

「お前は何も出来ないと言ったが、お前にはお前の良さがある。例えお前に、精霊の力を封じる能力が無くても、それは変わらない」

 

「でもオレは戦いじゃ役に立たなくて、モンスターが出たときはいつも真司に助けてもらっていたし…。それに十香のことも、オレだけじゃ何も出来なくて、フラクシナスの人に助けてもらった……」

 

「さっきも言っただろう。お前は自分を悲観しすぎなんだよ。何も出来なかった?いいや、肝心なところで十香の心を救ったのは、フラクシナスのコンピューターでもクルーでもなく、お前が自分自身で考え出した答えだったと聞いている」

 

「それは…」

 

まだ何か言いたそうな士道を遮り、海之は力強い言葉で続ける。

 

「それにオレは、力が無いことが弱いこと、何も出来ないことだとは思わない。――――――オレの親友は、ライダーになることを拒絶して死んだ」

 

「!?それって…」

 

「あいつはピアニストとして、ようやく周りから認められ始めたというときに…ピアノを弾けなくなった。そして絶望していたあいつは、神崎士郎にライダーとして選ばれたんだ」

 

「そんな…なのにどうしてライダーになることを拒んだんですか?」

 

「あいつは自分の全てだったピアノと、他人を傷つけたくないという思いを天秤にかけて―――――他人の命を選んだんだ。その結果、モンスターに食われて死んでしまった…」

 

士道は何も言う事が出来なかった。そんな士道に、海之は微笑みかける。

 

「暗い雰囲気になってしまったな…。だが、今の話を聞いて、お前はその男の事を弱いと思うか?何も出来ない奴だったと思うか?」

 

「それは…」

 

「お前の気持ちもよく分かるし、人を護るためにデッキを使っている今の状況と、ライダーバトルの真っ只中だったオレの話とでは状況が違うのも理解している。………だが、オレは力がある奴よりも、自分の正しいと思ったことを貫ける奴の方が、よっぽど素晴らしいことだと思う」

 

「手塚さん…」

 

「……まあそうは言っても、これだけで気持ちの整理が着くかと言われれば、そう簡単にはいかないだろう。取り敢えず風呂にでも入ってこい。全身ずぶ濡れだぞ」

 

「あっ…すっかり忘れてた。そうします。……ありがとう手塚さん。気を遣ってくれて」

 

海之の言葉に気分が少し楽になった士道は、彼の言葉に従って風呂場へと向かった。

今は自分の出来ることをしよう。自分が正しいと思ったことをやり通そう。正直、まだ力への未練や自分の無力感が消えたわけでは無かったが、士道の足取りは先程までよりずっと軽やかだった。

そして、軽やかな足取りのまま脱衣所の扉を開けた士道は

 

「なっ…、し、シドー!?」

 

本来ここにいるはずのない、十香の一糸纏わぬ姿を目撃した。

状況を理解出来ずにフリーズしている士道の耳に、リビングの方からの会話が聞こえてくる。

 

「司令!十香が風呂に入っているってどういう事ですか!?オレさっき士道を風呂場に行かせちゃったんですけど!?」

 

「そうそう海之、いい仕事してくれたわね。今頃士道はドキドキのハプニング中、ってとこかしら」

 

「いや何言ってるんですかアンタ!?」

 

いまだに頭が正常に働かない士道だったが、海之のらしくない全力のツッコミから、この状況が琴里に仕組まれたものだと何となく理解した。

 

「え、えと、十香…これはだな………」

 

本能的に危険を感じ取ったのか、士道の口は無意識にそんな事を発していた。しかし――――――――

 

「い、いいから出て行け!!」

 

「ぐぇふッ……!?」

 

抵抗虚しく、士道の腹部に本日何度目になるか分からないボディーブローが炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか今、士道がラッキースケベで殴られた気がする」

 

「……お前はいきなり何を言っているんだ」

 

士道が十香と脱衣所で鉢合わせしていた頃、モンスターを倒した真司は、蓮に連れられて例の喫茶店を訪れていた。

 

「何か飲むか」

 

「あ、じゃあコーヒーで」

 

「900円だ」

 

「タダじゃないのかよ!それどころかメニューの表示価格よりもずっと高いし!!」

 

「誰がわざわざ淹れてやると言った。缶コーヒーで充分だろう」

 

「それで金取るつもりなのお前!?」

 

そんなやり取りを交わした後、二人は向かい合う。そしてまず、先に話を切り出したのは、真司の方だった。

 

「それにしても、どうしてオレのこと信じてくれる気になったんだ?手塚たちのときは信じてくれなかったのに」

 

「…勘違いするな。オレはお前を信じたわけでは無いと言っただろう」

 

「じゃあ、なんでオレの話を聞いてくれる気になったんだよ」

 

真司のこの問いかけに、蓮はほんの一瞬思案するような表情を見せた。

 

「実際にデッキを使って戦うお前を見て、少し興味が湧いた。…というのも事実だが」

 

「だが?」

 

「実際のところ自分でもよく分からん。何故よりにもよって、一番頭の悪そうなお前の話を聞く気になったのかな」

 

「うおい!お前なあ…」

 

余計な一言に真司は抗議しようとするが、蓮は全く取り合わなかった。

 

「お前が頭が悪そうなのは事実だろう。―――だが、何となくお前の話は聞いてみたくなった。理由としてはただそれだけだ」

 

再度抗議しようとした真司だったが、後から付け足された言葉に驚いて口を閉じた。

あの(・・)蓮が、信用していなかったはずの他人の話を聞きたくなるなど、少なくとも真司の記憶の中ではそうそうないことである。相手の話を聞かずに、敵を無駄に増やしたことはあったが。

 

「…お前、今何か失礼なことを考えていなかったか」

 

「え!?き、気のせいだろ…。そ、そんな事より、オレの知っている事を話すから、ちゃんと聞いておいてくれよ」

 

「……まあいいだろう」

 

心を読まれたことに動揺しつつも、真司は気持ちを落ち着かせて語り始めた。

 

かつて起こった戦いについて。

そして、蓮が誰を愛し、何を思って戦っていたのかについてを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十香の精神状態を安定させるため…ってのは分かります」

 

先程の風呂場での一件の後、着替えを済ませた士道は、リビングにいた琴里と令音から「今日からしばらく十香が五河家に住む」と宣言された。

士道としては、突然そんな事を言われても納得できない。故に琴里らに説明を求めたところ、二つの理由からその必要があると説明された。

一つ目の理由は『十香のアフターケア』。現在、十香と士道の間には霊力の経路(パス)が出来ているという。そして問題なのが、十香の精神状態が不安定になってしまったとき、士道側から封印したはずの霊力が逆流してしまうということだった。

十香は今はフラクシナス艦内に住んでいるのだが、まだ完全には人間への不信感を克服できてはおらず、更に1日2回の検査によってストレスも蓄積しやすい。そういった理由から、検査の数値も安定してきた今、最も信頼されている士道の家で十香がきちんと生活出来るかを見たいとのことだった。

自分が十香に信頼されているというのは嫌な気はしない。それに、十香の力の危険性を身をもって知っている士道としても、力の逆流を防ぐというのは納得できる理由だった。

しかし士道が分からないのは、もう一つの理由の方だった。

 

「オレの訓練のためって、どういう事ですか?もう訓練なんていらないんじゃ?」

 

二つ目の理由が『士道と真司の訓練のため』と聞かされたのだが、士道はこの言葉の意味が理解出来なかった。

 

「…ふむ?なぜそう思うのかね」

 

「なぜって……だって十香の精霊の力はもう封印したわけで…」

 

士道が言うと、令音はゆらゆらとした調子で首を横に振った。

 

「…精霊が十香一人だなんて、誰が言ったのかな?」

 

「えっ!?それってどういう…」

 

「…そのままの意味さ。特殊災害指定生物―――通称精霊は、現在の段階でも十香の他に数種類確認されている。このことは真司も知っているだろう」

 

「そーいうわけで、士道にはまた精霊をデレさせてもらう必要があるのよ」

 

二人の言葉に、士道は心臓が引き絞られるのを感じた。

 

「……じょ、冗談じゃ―――」

 

「ふうん?もう精霊とデートして、キスして力を封印するのは嫌だっていうのね?」

 

士道の言葉を遮って、琴里は彼に問いかける。

 

「あ、当たり前だ!!」

 

士道は即座に拒否しようとするが、

 

「じゃあ、このまま空間震で世界がボロボロになっていくのを見ているか、ASTが精霊を倒すなんて奇跡的なイベントを待つわけね?」

 

琴里のこの言葉の前に、何も言えなくなってしまった。

士道は自分の知らぬ間に、想像以上の重責を背負わされていたのだった。そのあまりの重さに、士道は胃が痛くなるのを感じる。

だが、士道には気になる点があった。それは、デートによって精霊の力を封じるという行為の、そもそもの前提として確かめておかなければならないことであった。

 

「―――琴里」

 

「何かしら?」

 

なんとなく質問の内容を推し量ったのか、琴里は悠然と返してくる。

 

「まず、聞かせてくれないか。『ラタトスク』ってのは、一体何なんだ?お前はいつ、そんな組織に入ったんだ?それに…オレのこの力ってのは、一体何なんだ?」

 

「―――そうね。丁度いい機会だし、簡単に話しておこうかしらね」

 

そう言って琴里は、ふうと息を吐くと、ポケットからチュッパチャプスを取り出す。それを口にくわえてから、琴里はラタトスク機関について話始めた。




―――――キィン…キィン…

?「初めまして。それとも久しぶり、というべきか…。オレの名は神崎士郎。かつて妹の優衣を救うためにライダーバトルを開催し、そしてこの『デート・ア・サバイブ』では城戸真司らライダーを『デート・ア・ライブ』の世界に送り込んだ男だ」

神崎「今回この作品の番外編を執筆しようと思い、それに関連していくつかのアンケートを実施することにした。主な内容としては、クロスさせる龍騎以外のライダー作品についてだ。詳しいことは活動報告を見てくれ。なお、一人一票でお願いしたい。
…そんな事よりさっさと本編進めろ?もっともな意見だが、どうかここは大目に見て欲しい。一人でも多くの方の投票をお待ちしている」

―――――どのような物語になるのか、決めるのは貴方だ―――――


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彼らの答え

前回から今回の投稿までに時間がかかってしまい申し訳ありませんでした。
しかもその割に少し短めになってしまっていますが、どうかご容赦ください。

それとは別に、以前後書きや活動報告で告知したアンケートですが、ファイズコラボと真司&夕弦・士道&耶俱矢ということに決定いたしました。投票して下さった方々、本当にありがとうございました。すでに1話は完成・投稿済みですので、興味のある方はぜひそちらもご覧下さい。


「―――――これが、現段階で言える私と士道、それに『ラタトスク』についての情報よ。とにかく、今重要なのは、『士道には精霊を何とかする力がある』ってこと」

 

「いや、お前5年前って……まだ8歳じゃねぇか!そんな子供を司令官にする組織なんてあるか!!」

 

「実際に指揮を執りだしたのはここ最近よ。それまではずっと研修みたいなもの」

 

「い、いや、そういうことじゃなくてだな…」

 

琴里の話を聞き終えた士道は混乱していた。確かに分かったことも多いが、それらが新たな疑問を生み出し、結果的に話を聞く前よりも分からない事が増えてしまっていた。

 

「それになんで、ラタトスクはオレにこんな力があるなんて分かったんだよ!?自分でも気付いていなかったのに」

 

「そ、それは―――――そう、ラタトスク機関の観測機で調べたの。それでわかったのよ!」

 

司令官モードとは思えないような歯切れの悪い調子で答える琴里に、士道は違和感を覚える。だが、士道にはそれ以上琴里を追求することは出来なかった。

琴里はいつもとは違う、少し憂いを帯びたような表情をしていた。何か感慨に浸るような、悲しい思い出を思い起こすような、あるいは――――――――取り返しのつかない過ちを悔いるかのような。

妹のそんな表情を見て、士道はこれ以上この話に踏み込んではいけない気がした。

 

「と、とにかく士道!あなたには力があるわ。その上で選んでちょうだい。―――これからも精霊を口説き落としてくれるかどうかを、ね」

 

「……少し、考えさせてくれ」

 

琴里の問いに対し、士道はそう答えるのがやっとであった。

確かに空間震の問題を解決するためには、士道の力で精霊の霊力を封じるか、ASTのように精霊を武力で制圧するという困難かつ士道の納得できない方法を取るしかない。だが一方で、先月の出来事で士道が感じた恐怖心は、士道を躊躇わせるには充分過ぎるものだった。

 

「ま、今はそれでいいわ」

 

士道のこの反応は予測出来ていたのだろう。琴里は別段ガッカリした様子もなく、ふうと息を吐いてからそう言うと、隣に座った令音に視線を送った。

 

「それじゃあ令音、準備を」

 

「…ああ、任せてくれ。…というか、もうおおむね終わっているよ」

 

「さすが。仕事が早いわね」

 

「…ちょっと待て。準備って何のことだ?」

 

目の前で交わされる不穏な会話に、士道は嫌な予感を覚える。

 

「え?さっきも言ったじゃない。十香がここに住むから、その部屋の準備よ」

 

「いや、ちょっと待て!考えさせてくれって言っただろ!」

 

さも当然、といった様子で返してくる琴里に士道は抗議するが、

 

「ええ。だからこっちのことは気にせずじっくり考えてちょうだい」

 

琴里はまるで取り合わない。

 

「無茶言うんじゃねぇぇぇぇ!!」

 

「うるさいわね。どっちにしろ精霊用の特設住宅が出来るまで十香にはここにいてもらうしかないのよ」

 

納得がいかない士道に、琴里はやれやれといった様子で説明する。

 

「んなこと言っても……大体、年頃の男女が同じ家に住むってのは…」

 

「じゃあ、自分でそう説明しなさいよ」

 

そう言いながら琴里は士道の後ろを指さす。それにつられて士道が振り返ると、十香が廊下から不安げな眼差しを士道たちに送っていた。

 

「…シドー。やはり、駄目か?私が…ここにいては」

 

悲しそうな瞳で見つめてくる十香に、士道は言葉を詰まらせる。そして結局、

 

「…わ、分かったよ………」

 

士道の方が折れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「士道…あいつチョロイな~」

 

「だからお前は一体何を言っているんだ」

 

同時刻、真司もまた、蓮に彼らが元いた世界に関する全ての説明を終えていた。

 

「…さっき説明したので全部だ。信じられないかもしれないけど……」

 

「ああそうだな。異世界だと?まったくもって信じられん」

 

「何だと!?蓮、お前!」

 

「信じられないかもしれないと言ったのはお前だろう。確かに所々の辻褄こそ合うが…それだけだ。少しでも期待したオレが馬鹿だったようだ」

 

淡々と言い放つ蓮に、真司は思わずカッとなる。

 

「お前なぁ…」

 

「何だ?ショックか?いきなりそんな話を信じろという方が無理だろうが」

 

それに、と付け加えて、蓮は話を続ける。

 

「お前の話が事実だったとして、それでどうなる?お前の話の通りなら、オレはかつて愛していたという女のことは諦めてこちらに来ている。元の世界に帰れるわけでも無いのに、過去のことを思い出してお前らとつるむ理由が無い」

 

「だけど協力して精霊を…」

 

「それしたってもうすでにやっている!今更お前らの力を借りるまでもない!!」

 

「……何だって?」

 

蓮の思いがけない発言に、真司の怒りは一瞬で収まった。そして代わりに、その発言への疑問が湧き上がる。

 

「蓮、一体どういうことなんだよ?」

 

「…さっきオレと五河士道の他に、もう一人少女がいただろう。あいつの名は四糸乃。精霊だ」

 

「何だって!?ってことは蓮、お前が言ってたのは…」

 

そこまで言いかけた真司を遮り、蓮は帰れとばかりに入口の扉を開ける。

 

「これ以上お前に言う事は何も無い」

 

「だけど蓮…その四糸乃って子の事は…」

 

なおも食い下がろうとする真司の言葉を遮り、蓮は冷たい声音で言い放つ。

 

「お前らが他の精霊をどうしようが勝手だが、オレや四糸乃には関わるな。他の連中にもそう伝えておけ」

 

蓮の強い口調に、真司はこの場でこれ以上何を言っても効果は無いと悟る。

 

「分かった…。けど、もし少しでも考えが変わってくれたら…、その時は待ってるからな」

 

真司はそれだけ言い残すと、蓮の返事を待たずに店を出たのだった。

 

 

 

 

「待っている…か」

 

真司が店を出て行った後、蓮は先程の会話について考えていた。

真司には全く信じられないと言ったものの、蓮自身確かに思い当たる節があるのも事実なのである。

 

(最も古い記憶が5年前…だが、オレの記憶がどこを最後に無くなっているのかを、誰かに話したことはない)

 

この事実は真司たちが記憶を失う前の蓮と、失った後の蓮の両方を知っているという可能性を示すものだった。

そして何より、カードデッキの存在。

四糸乃とよく一緒にいるため、ASTのことや、彼女らが不思議な機械を用いて戦っていることを蓮も知っていた。それに加えて、空間震によって街が破壊されてもすぐに元通りになる。こうした極めて高い技術が存在していながら、どこを探しても鏡の中に入る技術は見つからず、ミラーモンスターを知る者はいなかった。つまり、真司が言ったように、『違う世界からもたらされた技術』という説明が最も辻褄が合うのである。

だが、やはり『違う世界』という一言が、蓮が彼らを信じることを躊躇わせていた。

 

「…まあ、奴が真実を言っていようが、嘘をついていようが構わんか。オレはオレのやるべきことをするだけだ」

 

蓮は静かに目を閉じ、かつて彼女と交わした会話を思い出す。

 

―――――お前は何故戦わない!?その力を振るえばお前が負ける事は無いはずだ!―――――

 

―――――きっと、あの人たちも…いたいのや、こわいのは、いやだと……思います。―――――

 

「…ならばオレは、お前を護り抜く。誰が相手だろうと必ずな……!」

 

ゆっくりと開いた彼の目には、強い意志が宿っていた。




おまけ
浅倉「おい城戸ォ!外伝だかファイズだか知らねえが、さっさとオレを戦わせろ!」
美九「そうですよー!早くして下さーい!」
真司「ご、ごめん…。けどまだまだ先かなー…なんて」
芝浦「ま、いいんじゃない?それだけ楽しみが増えるってことだし」
真司「いや、お前は一生待っても出ないけどな…」

お読みいただいてありがとうございました。なるべく早く続きを投稿出来るよう努力します。
ご意見、ご感想、お待ちしています。


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ナイトの謎

お久し振りです。最後に投稿してから4か月…非常に長い期間が空いてしまい申し訳ありませんでした。
今後も以前と比べて投稿までの間が長くなってしまいそうですが、今回のような事にならないように努力していくつもりですので、これからもお付き合いいただけると幸いです。


「そうか…秋山がそんなことを」

 

「ああ。悪い…上手くいかなかった」

 

蓮とのやり取りの後、帰宅した真司は海之、琴里、令音の三名に、士道と別れてからの出来事について話した。真司自身としては、彼に味方になってもらうチャンスを逃してしまったと責任を感じていたが、話を聞いた他のメンバーの反応は違っていた。

 

「いや、そもそもオレたちは最初以外まともに話すら出来ていない。秋山がお前の話を信じるかどうかは別として、少なくともお前はあいつを騙すつもりではないこと、そしてオレたちの目的が伝えられただけでも充分な成果だ」

 

「そうね。それに『ハーミット』、四糸乃と呼ばれている精霊についても情報が得られたわ。正直、その蓮ってライダーのいるところでは、彼女の攻略は難しそうね」

 

「…だが、逆に言うと彼女の身の安全は、他の精霊と比べれば多少は良いとも言えるだろうね。…話を聞く限りでは、彼女は今日も含めて我々の知らないうちに何度か静粛現界をしており、そのうちの何回かは、モンスターに襲われていたのを蓮に助けられている、ということになる」

 

「ハーミット?それが四糸乃ちゃんの識別名なのか?」

 

聞き慣れぬ単語に真司は首を傾げる。すると令音はタブレット端末を操作し、彼女についてのデータを表示させて真司に手渡した。

 

「…そうだ。そこにも書かれているように、彼女は非常におとなしい精霊だ。これまでに起こした空間震も比較的小規模なものが多く、なによりASTに攻撃されても全く反撃しない。それこそが彼女が隠者(ハーミット)と呼ばれる所以さ」

 

「ちょっ、待って下さい!全く反撃しないって!?精霊なら天使があるじゃないですか。別に人を傷つけて欲しいわけじゃないですけど、普通は十香ちゃんのときみたいに反撃するはずじゃ…」

 

「…だが、事実彼女は防御や逃走以外で力を使っていない。理由までは分かっていないがね」

 

「もっとも、だからと言ってASTが攻撃をやめるわけじゃないのは十香の件で学んだでしょ」

 

「そんな…」

 

明確な殺意を持って襲い来る敵を前に、対抗できるだけの力を持っていながら反撃しない。彼女がそうする理由は分からないが、それがどれだけ大変なことかはライダーバトルを経験した真司にはよく分かった。

 

「まあ、彼女の霊力を封印することが出来れば、そんな状況から解放することはできるわ。どのみち次は彼女をターゲットにするつもりだったし」

 

「…とはいえ、どうやって蓮が四糸乃と知り合い、何故彼女を護ろうとするのかも知る必要があるね。今のままだと彼はこちらの介入を快く思っていないが、それさえ分かれば敵対せずに済むかもしれない」

 

「とにかく、現時点でこれ以上考えていても仕方がない。オレは一度フラクシナスに戻って、北岡たちにこの事を伝えておく」

 

「ん。お願いね」

 

色々と課題はあるものの、海之と琴里のそのやり取りで、取り敢えずその場はお開きとなった。

 

 

 

「そう言えば士道は?」

 

海之が帰った後、今更ながら先に帰ったはずの兄弟の姿が見当たらないことに気付き、真司は琴里に問いかける。すると、琴里が答えるよりも先に部屋の入口が開いて、十香を連れた士道が入って来た。

 

「よう、お帰り真司」

 

「士道…ってなんで十香ちゃんも?……まさかさっきまでいなかったのって、十香ちゃんと…駄目だ士道!そーいうのはまだ早い!!」

 

「んなわけあるか!大事な話してるみたいだったから二階にいただけだ!」

 

一人勝手にヒートアップしていく兄弟を慌てて制止させる士道。一方で十香の方は、二人が何を言っているのか分からずに、一人ポカンとしていた。

 

「な、なーんだ…。いや、士道、オレはお前を信じてたぞ?」

 

「まあ、これからするかもしれないけどね。真司、十香は今日からしばらくウチに住むから」

 

「しどぉーう!?」

 

「琴里はもっと丁寧に説明しろ!ていうか真司、お前やっぱり全然信用してないじゃねぇか!」

 

その後、令音から訓練についてのきちんとした説明がなされ、士道の名誉はなんとか守られたのだった。

 

 

 

 

 

「そういや琴里、訓練ってのは一体何なんだ?オレに一体何やらせるつもりなんだよ」

 

士道だけでなく真司も十香が住むことを了承してから(ちなみに真司は最初こそ驚いたものの、基本的に兄妹たちやラタトスクを信用しているので即OKした)およそ3時間後。

その間に士道らは夕食を食べ終え、令音はフラクシナスに帰り、十香は客間に赴いて荷解きを行っており、そして真司は風呂掃除に向かったため、リビングには士道と琴里だけが残っていた。

ソファに腰かけて食後のチュッパチャプスを楽しんでいた琴里は、それを加えたまま唇を動かしてくる。

 

「別に、何もしなくていいわよ」

 

「は?どういうこった?あれだけ訓練訓練言ってたのに」

 

琴里の言っている意味が今一つ理解出来ず、士道は首を傾げる。

 

「んー、正確に言うと、普段通りの生活を送る事が今回の課題……かしらね」

 

「あ?」

 

「基本的に士道の訓練は、精霊とデートすることになったことを想定して、そのときに緊張したりしてミスしないようにすることを目的としているわけよ。要は焦らず落ち着いて行動するための…」

 

と、琴里はそこで突然説明を中断し、何やらボソボソと唇を動かし始める。よく見ると彼女の右耳には、小型のインカムが装着されていた。

 

「……そう、わかったわ。ん…じゃあ……」

 

「琴里?誰と話してるんだ?」

 

「―――ああ、何でもないわ。それより士道、百聞は一見に如かずよ。今回の訓練について、その目で見て理解してもらうわ」

 

「え?それってどういう…」

 

士道が琴里に発言の意味を尋ねようとした丁度そのとき、風呂掃除を終えた真司がリビングに戻ってきた。

 

「終わったぞー。後は湯が沸くまで少し待ってくれ」

 

「ありがとう真司。ところで、戻ってきてすぐに悪いんだけど、トイレの電球を換えてくれない?お手洗いに行きたいんだけど、さっき確認したら切れてたのよ」

 

「?別にいいけど」

 

琴里が何故ずっとここにいた士道に頼まなかったのか、ということに真司は疑問を感じたようだったが、特に何も言わずに予備の電球と作業用の丸椅子を手にトイレへと向かって行った。

 

「なあ琴里、トイレの電球が切れてたなら、なんでオレに言わなかったんだ?ていうか、そもそもこの前交換したばっかりじゃなかったか?」

 

同じように疑問を感じた士道は琴里に問いかける。すると琴里は口にチュッパチャプスをくわえたまま、真司が出て行った方向を顎で示した。

 

「今回の訓練について、目で見て理解してもらうって言ったでしょ?ドアを少しだけ開けて、真司に気付かれ無いように覗いてみなさい」

 

「はあ?」

 

琴里の意図がさっぱり読めず、ますます困惑する士道だったが、取り敢えず言われた通りに廊下を覗き込む。

真司の驚いたような声と、十香の悲鳴が聞こえてきたのはそれとほぼ同じタイミングだった。

 

「なんだ…?ってうおお!」

 

そして士道が状況を理解する前に―――凄まじい音と共に真司の体が宙を舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

琴里に嵌められた真司が十香のトイレを覗いてしまい、制裁されているのとほぼ同時刻。

少し遅めの夕食を終えた蓮は、呆れたように溜息をつくと、面倒臭そうに店の入口から外にいる彼女(・・)に向かって声をかける。

 

「……いつまでコソコソしているつもりだ。お前の視線を感じていたせいで、飯も落ち着いて食えなかった」

 

「……その割にはリラックスしていたように感じた」

 

声をかけられた少女―――鳶一折紙は、そう言いながら物陰から姿を現した。彼女自身、蓮に気付かれていたことは自覚していたらしい。

 

「いつから気付いていたの?」

 

「最初からだ。あの城戸とかいう奴と一緒にいたときから、ずっと店の前にいただろう。雨の中ご苦労なことだ」

 

「…そんなに前から気付いていて、どうして何もしなかったの」

 

「別に見られて困る物も無いからな。いちいち対応するのも面倒だっただけだ」

 

折紙の質問に対し、蓮は素っ気なく言い放ち彼女に背を向ける。だが、店の奥に戻ろうとしていた蓮は、折紙の次の一言に動きを止めた。

 

「見られて困らないなら答えて。あなたは何故ハーミットと行動を共にしていたの。それに、あのデッキについても」

 

「……どうやら思っていたよりも前からコソコソしていたらしいな。何が目的だ」

 

先程までの折紙に興味を持っていなかった時とは打って変わって、今の蓮は途轍もない殺気を放ちながら折紙を睨み付けていた。恐らく大抵の人間は目を合わせただけで逃げ出してしまうだろう。

しかし対する折紙も全く怯まず、毅然とした態度で言葉を返す。

 

「精霊と接触している人間や、精霊とも渡り合える力と鏡に入れる能力を併せ持つ装備。これらは精霊を排除する上で、貴重な戦力になる。私たちに協力して欲しい」

 

「ほう。つまり四糸乃をおびき出す餌になれ、そしてお前たちにデッキを渡すか、共に戦うかしろ…ということか。それでオレに何のメリットがある?」

 

「高額の謝礼と最高の待遇を用意する。そもそも精霊は意思を持った災害。対抗する術を持っているなら、出し惜しみするべきではない」

 

「……なるほど、確かにお前の言う通りかもしれんな。それに見返りも魅力的だ」

 

「!じゃあ…」

 

「…だからと言って協力する気は無いがな。帰れ」

 

そう言って今度こそ蓮は店の奥へと戻って行った。

一方残された折紙は、蓮の発言に理解が追いつかず、しばらくの間呆然としていた。が、暫くして我に帰った彼女は、中にいる蓮に向けて問いかける。

 

「何故!?精霊は倒すべき存在!それを…」

 

「それはお前らの考えだろ。正論だからと言って、それをオレにまで押し付けるな」

 

店の奥から返事が返ってきたのはそれが最後だった。それ以降、折紙の呼びかけに彼が答えることは無かった。

 

「どうして精霊を庇うの…。お父さんとお母さんは…精霊のせいで死んだのに」

 

彼女のその呟きは、蓮の耳には届かない。

 

 

 

 

 

店の奥に戻った蓮は、手にした物体をじっと見つめていた。

 

(何故かは分からないが、オレは一瞬あの女にこれを渡そうかと思った。オレ自身には奴に協力する気は一切無かったにも関わらず、だ。これも昔の記憶が関係しているのか…?)

 

蓮が手にしているのは件のカードデッキ。ただし、彼がナイトとして戦う際に使用している物ではない。

白鳥のようなマークが描かれた、真っ白なケース。そこに収まっているのは一度も使った事の無いカード。

それを、一瞬でも彼女に渡そうと思ったことに対し、自分でも戸惑いを感じていた。

 

(遠目からASTの一員として見ていたときには何も感じ無かった。となると…直接話をしたからか?このデッキをオレに渡した奴は、オレに使う人間を見極めさせようとしていたのか?)

 

彼の覚えている最も古い記憶。そこで彼は既に複数のデッキを所持していた。しかし同時に、ナイトのデッキ以外は自分の物ではない、と、なんとなく理解していた。そしてその感覚は間違ってはいなかったと今でも思っている。

下手に他人のデッキを使って危険を冒す必要は無い。そう考えた彼は、残りのデッキを二つ(・・)とも家の棚の奥深くにしまい込んだのだった。

 

「…考えすぎか。最近妙な連中ばかりが集まってきてたせいで、オレも少し疲れているのか」

 

そう自分に言い聞かせた蓮は、白いデッキを元の棚へと片付ける。

彼が持っていたもう一つのデッキ―――――龍の紋章が描かれた黒いデッキと共に。




お読みいただいてありがとうございました。
自分でも思っていた以上に、初っ端のシーンを引っ張ってしまいました。
そして謎のデッキ登場。白々しい?さてさて何のことでしょうか。
次回から少しずつ話が進んでいく予定です。
ご意見、ご感想などお待ちしています。


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新任務

最近思った事
チェイサー【chaser】…追手、追跡者
『魔進チェイサー』って名前、折紙さんに合いすぎてる気がします。「魔が進む」とか逃げ切れない感が半端ない。
例え士道がカブトやアクセルだったとしても、彼女だけは振り切れない気がします。絶望が士道のゴールだ。

そんなこんなで、今回もよろしくお願いします


「おーう五河兄弟…ってどうした?なんか二人して死にそうな顔してるが……」

 

朝、真司たちが重い足を引きずって教室に入るなりかけられたのは、殿町の怪訝そうな声だった。

彼らは顔や手など至る所に湿布を貼り付けているうえ、足取りは今にも倒れてしまいそうなほどフラフラになっていた。今の二人を見たら、恐らく殿町でなくとも同じような反応をしただろう。

彼らのその悲惨な姿は、例の訓練で失敗を重ねた証だった。

 

「いやぁ…今朝士道のとばっちり食らっちゃってさ。こいつ朝、十香ちゃんの胸にモゴォ!」

 

「い、いや家で色々あってな…あはは」

 

「そ、そうか…大変だったな」

 

士道は余計な事を喋りそうになった真司の口を目にも止まらぬスピードで塞ぐと、殿町に乾いた笑みを向ける。その顔に何か危険なものを感じ取ったのか、殿町も深く追求はしてこなかった。

 

「そ、そう言えばお前らにも聞いておきたいんだが…ナースと巫女とメイド…どれがいいと思う?」

 

「「は?」」

 

突然のわけの分からない問いに、二人は間の抜けた声を発する。すると殿町は、手にしていた漫画雑誌を二人に渡す。開かれていたのは、巻末のグラビアページだった。

 

「読者投票で次号のグラビアのコスチュームが決まるらしいんだが…悩むんだよなあ」

 

「……ああ、そう」

 

士道が溜息交じりに返すも、殿町はまるで気にしない様子で雑誌を二人に突き付けてくる。

 

「で、お前らはどれがいいんだ?ちなみにオレはナースなんだが…」

 

「じゃあそれで投票すればいいじゃねえか……ええと、じゃあ…メイド?」

 

呆れながらも士道が律儀に答えると、殿町はピクリと眉を動かした。

 

「ど、どうした?」

 

「―――まさかお前がメイド好きだったとはな!悪いがオレたちの友情はここまでだ!」

 

「どうすりゃいいんだよ。めんどくさい奴だな」

 

「冗談だって。それで、真司の方はどれなんだ?」

 

士道のツッコミを軽く流し、殿町は真司に再度問いかける。対する真司は、こんな話にそこまで真剣になるのか、というレベルで考え込んでいた。

 

「うーん……オレ、そもそもあんまりコスプレとか興味ないからなー」

 

「ならもうこの三つ以外でもいいからよ。どんなのが趣味なんだ?」

 

「まあ正直、真司のそういうのはオレも気になるかも」

 

真司とはそれなりに付き合いがある二人、それも一人は同じ屋根の下で暮らす家族であるにも関わらず、二人とも真司のそういった方面の好みについてはよく知らない。そのため二人とも真司がどのような回答をするかに、それなりに興味が湧いた。

 

「うーん…ホントに興味無いからな…あ!でもこの前見た婦警さんは美人だったなー!」

 

「ほう!真司はミニスカポリスが好みなのか!こいつは予想外だな」

 

「オレも正直予想外だったよ。真司の好みって全然知らなかったからさ」

 

「いや~ミニスカっていうか…あの婦警さんが綺麗な人だったんだよ。なんか沢山のミニカーを引き連れて、ロボットみたいな怪人にキックしてたとこ見かけてさ!ビックリするあまり、オレの脳細胞もトップギアになっちゃったよ!」

 

「……真司、お前何を言ってるんだ?」

 

来禅高校二年四組の朝は今日も平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シドー!シンジ!昼餉だ!」

 

「……」

 

四限目の授業の終了のチャイムが響き渡ると同時に、士道の机に左右からがっしゃーん!と机がドッキングされた。

右は十香、左は折紙である。ちなみに真司の席は、十香の右隣に位置している。

 

「…ぬ、なんだ貴様。邪魔だぞ」

 

「それはこちらの台詞」

 

士道を挟んで、二人は互いに鋭い視線を向ける。

 

「ま、まあ落ち着けって。みんなで食えばいいだろ…?」

 

士道が言うと、渋々といった様子で十香と折紙は大人しく席に着いた。

取り敢えず、また取っ組み合いの喧嘩にならなかった事に士道はほっとする。十香だけならば真司でも抑える事は出来るのだが、二人の喧嘩となるとそうもいかない。真司の事を慕い、他のクラスメートの言う事にも大抵素直に従う十香と違って、折紙を止められるのは実質士道一人である。その為必然的に喧嘩の仲裁役は士道となり、以前のクッキー騒動の様な肉体的ダメージを負うことも少なくない。

故に、今日は戦闘が始まらなかった事に安堵したのだが…その油断が士道の判断を鈍らせてしまった。

自分の鞄から弁当箱を取り出した二人、そして真司に倣うように士道も弁当を机の上に出し、三人と一緒に蓋を開ける。

 

「……」

 

士道・真司・そして十香の弁当の中身を見た折紙が、目をほんの少しだけ見開いたことと、真司が

 

「お!いつもながら士道の弁当は美味そうだな!」

 

と発言した事で、ようやく士道は己の失態に気付いた。

五河家の弁当は、基本的に士道と真司が交代で作っている(といっても真司は基本的に朝が弱いので、弁当は大抵士道が担当して、真司がその埋め合わせに何かの当番を代わる事が多いが)。

そして一般人が家で料理を作る際、大抵の場合は用意する全員分のメニューを統一する。

ましてや、ただでさえ忙しい朝に朝食とは別に用意する弁当を、わざわざ一人分だけ別メニューになどするはずもなく、士道も真司も、ここにはいない琴里も同じメニューの弁当を持っている。

つまり何が言いたいかというと……

 

「ぬ、な、なんだ?そんな目で見てもやらんぞ?」

 

急遽必要になったもう一人分の弁当―――十香の弁当も、士道たちと全く同じ物が入っていた。

 

「どういう、こと?」

 

折紙は怪訝そうに三人の弁当を見比べながら士道に問いかける。

 

「こ、これは…実はあれだ。真司には悪かったけど、今朝はちょっと疲れてて…そう!朝、弁当屋で買ったんだ。それで、偶然十香もそこに…」

 

「そ、そうだったのかー!そう言えば、どこかいつもの士道の弁当と違うなーって思ったんだよなー!あはは…」

 

ようやく事の重大さに気付いたのか、真司も士道の言葉をフォローしようとする。しかし折紙はそれを

 

「嘘」

 

とバッサリ切り捨て、裏返っていた士道の弁当箱の蓋を持ち上げた。

 

「これは今から百五十四日前、あなたが駅前のディスカウントショップにて千五百八十円で購入したのち、使用し続けている物。弁当屋の物では無い」

 

「な…なんでそんな事知って…?」

 

「それは今重要では無い」

 

「いや、鳶一さん、それすげえ重要だと「五河真司、あなたは黙ってて」いや、黙ってろってそんな…「黙ってて。次は無い」……はい」

 

折紙の発言は明らかに問題があると思った士道と真司だが、彼女の有無を言わせぬ調子に気圧されてしまい、二人揃って何も言えなくなってしまう。

 

「むう、さっきから三人で何を話しているのだ!仲間外れにするな!」

 

状況をよく理解出来ずに置いてきぼりになっていた十香が、横から不満げな声を上げる。

と、そのとき。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――

 

街中にけたたましい警報が鳴り響き、ざわついていた教室が一気に静まりかえる。

 

「………」

 

折紙は一瞬逡巡の様なものを見せながらも、即座に席を立ち、あっという間に教室を出て行った。

恐らくASTの一員として、精霊の元へ向かったのだろう。―――彼女たち(せいれい)を殺すために。

と、そこで教室の入口から、ぼうっとした様子の声が響いてくる。見ると、白衣を纏った令音が、廊下の方を指さしていた。

 

「…皆、警報だ。すぐに地下シェルターに避難してくれ」

 

生徒たちはみな彼女の指示に従い、次々と廊下に出て行く。そんなクラスメートたちの様子を見て、十香は首を傾げた。

 

「ぬ?シドー、皆どこへ行くのだ?」

 

「あ、ああ……十香は知らないんだっけ。シェルターだよ。学校の地下にあるんだ」

 

「シェルター?」

 

「ああ。取り敢えず説明は後だ。オレたちも行くぞ、十香」

 

「ぬ、ぬう」

 

十香は残っている弁当を名残惜しげに見ながらも、士道や真司と共に立ち上がった。

そして、三人が他のクラスメートたちの後に付いて廊下に出ようとしたところで。

 

「…シン、真司。君たちはこっちだ。…フラクシナスへ向かう」

 

士道と真司は令音に首根っこを掴まれた。令音は他の生徒に聞こえないように声を潜めながら、二人に説明する。

 

「…昨日の今日だ。今後の事についてシンの方は結論は出ていないかもしれないが…だからこそ、君には精霊と、それを取り巻く現状を見ておいてほしいんだ」

 

「……分かりました。行きます」

 

「オレも行きます。そもそもオレはその為にこっちの世界に来たんだし。士道たちの身の安全はオレに任せて下さい」

 

令音は二人の答えを聞くと、眠たげな半眼のまま小さく首肯し、生徒たちが全員列に並ぶのを見てから、昇降口の方を向く。

 

「…二人ともありがとう。では急ごう。空間震まで、もうあまり時間も無い」

 

「は、はい」

 

「しゃッ!分かりました!…あ、そう言えば十香ちゃんは?一緒に連れて行かないんですか?」

 

真司は、他のクラスメートの様子を眺めている十香の方に目を向けながら令音に問いかける。それに対する令音の答えは二人の予想したものとは異なるものだった。

 

「…ああ。十香は皆と一緒にシェルターに避難させてしまおう」

 

「え?それでいいんですか?」

 

士道の言葉に令音は「うむ」と頷く。

 

「…力を封印された状態の十香は普通の人間とそう変わらない。それに、精霊とASTの戦いを見て、自分の時の事を思い出されても困る。…言っただろう?こちらとしては出来るだけ彼女にストレスを蓄積させたくないんだ」

 

「ああ!なるほど~!」

 

「いや、でも…」

 

完全に納得した真司とは対照的に、士道の方はまだ少々不安そうな様子を見せる。が、生徒たちを避難させるために教室へやってきた岡峰教諭から、早く避難するよう声をかけられ、迷っている時間が無いことを悟る。

 

「…ん、捕まっても面倒だ。行こうか」

 

「分かりました…。岡峰先生!十香をよろしくお願いします!」

 

「は、はい!?え、あ、はい。それはもちろん」

 

「シドー…?」

 

十香が、少し不安そうに眉を歪めてくる。

 

「十香、いいか?先生と一緒にシェルターに避難しててくれ」

 

「シドーは、シドーはどうするのだ?」

 

「オレは…ちょっと大事な用があるんだ。先に行っててくれ」

 

「!あっ、シドー!」

 

「五河くん!?あっ、真司くんの方の五河くんと、村雨先生まで!?一体どこへ!?」

 

心配そうな二人の声を背に聞きながら、士道と真司と令音は校舎の外へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たわね。精霊はもう出現してるわ。令音、用意を」

 

三人がフラクシナス艦橋に着くなり、艦長席に座った琴里からそんな言葉が飛んできた。

 

「…あぁ」

 

令音は小さく頷くと、艦橋下段のコンソールへと座り込む。

 

「うぉ…やっぱり何回見ても慣れないな。街がこんなになってるなんて」

 

艦橋のメインモニタに映し出されている光景を見て、真司は思わず呟いた。

だがそれも無理のないことであった。吹き飛ばされた建物の残骸に、深く抉れた地面。まるで、その部分だけ空間が削り取られた、とでも言うべき光景が広がっていた。

 

「まあ、これっばっかりはそう簡単には慣れるもんじゃないだろうな。とは言え、今回は比較的小規模なんじゃない?」

 

「え?これで小規模!?」

 

真司と士道には、秀一が何を言っているのか理解出来なかった。それが二人の顔に出ていたのだろう。補足するように琴里は二人に説明する。

 

「よく思い出してみなさい、30年前にユーラシア大陸を襲ったアレを。ま、今のところあそこまで大きな空間震は他に起きてはいないけど、街一つ丸々消し飛ばすくらいの大きさだったらしょっちゅう起きてるでしょ。今回の規模はたかだか数十メートル。これ以上小さな空間震なんて、まず起きないでしょうね」

 

「いや、そうは言っても…そう簡単に割り切れるものじゃ無いだろ」

 

頭では理解出来ても、そう簡単に切り替えることなど出来ず、二人は顔をしかめる。

と、そこで士道は、映し出されていた映像に違和感を感じた。

 

「なあ、今日って雨降ってたか?確かさっきまでは晴れてたと思うんだが…」

 

「あら、士道にしては鋭いじゃない。この雨は精霊が出現してから降り出したもの…正確に言えば、精霊が出現したから(・・・・)降り出したものよ。今回出現したのと同じ精霊が現れたときには、必ず雨が降るの。ほんの数分前まで雲一つ無い快晴だったとしてもね」

 

「雨…。あっ!それに小規模の空間震って…」

 

真司と士道の脳裏に、一人の少女の姿が浮かび上がった。

 

「なあ琴里…もしかしてその精霊って…」

 

「多分二人の考えている通りよ。―――画面拡大出来る?」

 

琴里が艦橋下段のクルーたちに指示を飛ばすと、すぐに映像がズームして、街の真ん中に出来たクレーターに寄っていく。そして、そのクレーターの中心に立っていた少女は、二人が思い描いた姿と完全に一致していた。

ウサギの耳のような飾りが付いた緑色のフード。青い髪と、右手に装着されたコミカルなパペット。

その姿は、二人が昨日見たものと全く変わっていない。

 

「彼女が今回のターゲット、『ハーミット』よ」




設定
強さ比較(戦闘パート)
ライダー=エレン≧精霊(完全・ただし反転体は除く)>精霊(封印後)≧折紙>AST
強さ比較(日常パート)
折紙>>>>>>>その他
ベルトさんが語る『日常パートの折紙』
「士道が絡んだ時の彼女は、ドライブのタイプデッドヒートとタイプテクニックを足したような感じだ。いかなるときもクールかつ的確に障害を排除し、時には誰も制御出来ない程に暴走する。とてもデンジャラスだ(>o<)」

こんなイメージで書いてます。
お読みいただいてありがとうございました。ご意見、ご感想などお待ちしてます。


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デパートでの再会

お久しぶりです。今回もまた間がかなり空いてしまいました。
話に直接絡んではこないですが、今回は龍騎の設定に関して独自解釈が入っています。
…全然関係無いですが、ドライブのハート様ってなんであんなにイケメンなんでしょうか。組織のトップが敵にきちんと頭下げたり、変身前を襲うのは無粋だと見逃してくれたり…。人間以上に「人間としてこうなりたい」って理想像ですやん。
それでは今回もよろしくお願いします


「ふぅ…ここでいいのか?」

 

フラクシナス下部に設えられた転送装置で地上まで送られた士道は、右耳に装着した小型のインカムに向かって声を投げた。

 

『ええ、精霊も建物内に入ったわ。二人とも、よろしく頼むわよ』

 

「…おう」

 

「…了解」

 

二人は少し緊張した様子で答えると、インカムから手を放した。

二人は今、商店街の先に聳える大型デパートの中にいた。

十香の件でも実感した事だが、ASTの主要装備であるCR-ユニットは屋内での使用には向いていないらしい。ASTも『ハーミット』こと四糸乃が建物に入ったのを確認しているはずだが、ラタトスクによれば、すぐに建物を破壊して突入してくるという可能性は低いらしく、士道たちは最低でも数分から数十分の間は手を出されずに行動出来る。逆に言えばそのわずかな時間こそ、彼らに与えられた貴重なチャンスということだった。

 

「それで琴里…四糸乃ちゃんは一体どの辺りにいるんだ?それに蓮も」

 

士道はあたりを見まわしながら、インカム越しに琴里に尋ねる。

どうやら二人が送られた階は、ワンフロアまるごと家具売り場らしい。

 

『蓮に関しては判断しかねるわね…。静粛現界の時にしか接触してない可能性もゼロではないし。今のところ外にはASTしかいないけど…まぁ、来るとしたら十中八九ミラーワールドからでしょうね。真司には分からないの?』

 

「残念だけど、オレたちが分かるのはモンスターの出現だけだな」

 

『そう…なら仕方ないわ。出来る限り用心だけはしておいて頂戴。それと、四糸乃に関しては…来た!二人とも、目標の反応がフロア内に入ったわ!』

 

不意に響いた琴里の声に、二人は身体を緊張させた。

それとほぼ同じタイミングで、二人の目の前に件の少女が現れる。

 

『君たちも、よしのんをいじめにきたのかなぁ?』

 

「おわ!ビックリした!」

 

『あれ~?誰かと思ったら昨日のお兄さんたちじゃない』

 

二人の顔をまじまじと見た後、パペットが器用にぽん、と手を打ってくる。

 

「あ、ああ。覚えててくれたんだな」

 

『そりゃーねぇ。お兄さんは昨日、蓮くんと一緒にお話したからね~。それに、そっちのお兄さんなんて、変身しちゃってたじゃない』

 

「おー、あれは他の人には内緒でな」

 

『おっけーおっけー。そこんとこはー、このよしのん(・・・・)の口の固さを信用しちゃって大丈夫だよー』

 

「おっ、サンキューよしのん!そうしてくれると……よしのん?」

 

危うくスルーしてしまいそうだったが、少々パペットの言葉に違和感を感じ、真司は思わず尋ね返す。

確か昨日の士道や蓮の話では、彼女の名前は『よしのん』ではなく『四糸乃』だったはず。

自分の聞き違いかとも思ったが、パペットの

 

『んー?よしのんはよしのんだけど…それがどうかしたのー?』

 

という言葉を聞いて、聞き違いでは無かった事をすぐに理解した。

 

(おい、どういう事なんだよ士道、琴里?あの子の名前は『四糸乃』ちゃんじゃ無かったのか?)

 

(お、オレに言われても…オレだって混乱してるんだから)

 

真司は小声で士道に尋ねるが、士道の方も同じ疑問を感じていた。士道は必死で昨日の蓮との会話を思いだそうとするが、ほとんどが自分や蓮に関する話で、四糸乃に関する話をした記憶は皆無に等しかった。今になってみると、もしかしたら蓮は意図的に彼女に関する話を避けていたのかもしれない。

 

『二人とも落ち着きなさい』

 

慌てる二人の耳元に、インカムを通じて琴里の声が聞こえてくる。

 

『蓮が嘘をついていない限り、彼女の名前が四糸乃というのは間違いないわ。それに、彼女に関して他の事は話さないくせに、名前だけ嘘の物を教えるというのも考えにくいし。よしのんというのは、もしかしたらあだ名か何かかもしれないわね』

 

「あだ名?」

 

『ええ。ここまでよく喋るひょうきん者なら、その可能性も無くは無いでしょ?それこそ考えにくいけど、蓮に付けてもらったとか。……それに、もしかしたら本名を知られるのが嫌って可能性もあるわ』

 

琴里のその言葉に、真司と士道は同じ事を思い出した。先月、十香と出会った時の事である。

出会った当初、名前を持たなかった彼女は、その事に触れられた時に悲しげな表情を見せた。

その後再開し、士道が彼女に『十香』という名前を付けたときには、とびきりの笑顔を見せた。

まだ四糸乃個人や、精霊そのものに対する情報が少ない上に、先の十香の一件もある。現段階では、琴里の言った「何らかの理由で本名について触れられたくない」という説をそう簡単に片付けるわけにはいかなかった。単なる考えすぎならばそれでいいのだが、もしヘマをして彼女の機嫌を損ねてしまっては、その後信頼を築く上で大きな障害になってしまうからだ。

 

『それか、よしのんってのはそのパペットの名前かもしれないわ。それに蓮が呼んでいたのを聞いていたとはいえ、まだ向こうからは名乗ってないのに、こっちが勝手に本名で呼ぶのはあまりいい考えでは無いわね』

 

『…シン、真司。もう名前を知っているのに歯痒いかもしれないが、攻略の中でさりげなく本名を聞きだしてみてくれ。…ただし、あくまでさりげなく、チャンスがあったらでいい。無理に聞こうとしたり、名前を聞く事に集中しすぎても本末転倒だからね。もし名前を聞かずとも行けそうだと判断したら、そのまま攻略を進めてしまって構わない』

 

「「わかりました」」

 

二人は琴里と令音からの指示を受け、一旦通信を切り上げる。

 

『やー、それにしてもお兄さんたち、珍しいところで会うねー。ぁっはっは、おにーさんたちみたいなのは歓迎よー?どーもみんな、よしのんの事嫌いみたいでさー。こっちに引っ張られて出てくると、すーぐチクチク攻撃してくるんだよねぇー』

 

言ってパペットが、またもわははと笑ってみせる。

 

「いやいやいや!笑い事じゃないでしょ、よしのん!それって大丈夫なのか!?」

 

パペットの大笑いに反して笑えない話の内容に、真司は思わず慌てふためく。

 

『おやおや~?心配してくれるなんて、おにーさんなかなか優しいねー。えーっと………ごめんね、お兄さんなんて名前?』

 

「え?…ああ、そういやオレはまだ名乗ってなかったな。オレは五河真司。んでこっちが…」

 

『そっちのお兄さんは士道くんだよねー?おっけー、しっかり覚えたよ』

 

「オレの名前も覚えていてくれたのか。ところでよしのん、よしのんってのは…」

 

士道は出来る限り自然な流れで、よしのんに名前について尋ねようとする。が、残念ながらその試みは失敗に終わった。

 

「!二人とも、話は一旦切り上げて!」

 

(な!?真司、なんでこのタイミングで…って、もしかしてモンスターか?)

 

(ああ…ごめん士道。お前がせっかく名前を聞けそうな絶好のタイミングだったんだけど…かなり近…)

 

士道と真司は再び小声で言葉を交わすが、真司が全てを言い終わる前に、三人の前にモンスターが現れる。

刺々しいその肉体は青い体色をしており、細見の人型モンスターではあるものの、全身を覆うその鎧のような棘のせいで幾分かゴツく見える。頭部からは長い触角が後ろへ伸びており、その手には大きなブーメランを握っていた。カミキリムシ型モンスターのゼノバイターである。

 

「うわっ!いつもより音が鳴ってから出て来るまでが早い!士道、よしのんを連れて逃げろ!!」

 

「わ、分かった!よしのん、行こう!」

 

『わーお!強引に手を引くなんて、士道くんたらダイターン!』

 

真司は士道たちとゼノバイターとの間に立ちふさがり、士道はその場を真司に任せ、四糸乃の手を引いて走り出す。二人の去り際、よしのんの全く空気を読めていないセリフがその場に響き渡った。

 

「ははは…緊張感無いなぁもう。さて…あっちは頼れる兄弟に任せて、オレはオレの仕事をしなくちゃな」

 

じりじりと距離を詰めてくるモンスターを警戒しながら、真司はデッキを取り出し鏡を探す。

元々ここは大型デパート。鏡として使えそうな物は沢山あり、真司もすぐに壁にかけられた姿見鏡を発見出来た。モンスターの出現から発見までがいつもより早かったのも、恐らくそこらじゅうに鏡があるこの状況が原因だろう。

手にしたブーメランを振り回して斬りかかってくるゼノバイターを躱し、真司は鏡にデッキをかざす。

 

「変身!しゃッ!」

 

真司を仕留めようと追いかけて来ていたゼノバイターだったが、彼が龍騎に変身したのを見てその足を止める。そして戦うのは得策では無いと考えたのか、少し離れた場所に設置されていた別の鏡へと一目散に逃げ出し、その中へと飛び込んだ。

 

「ちょっ!おい待て!」

 

このままゼノバイターを逃がすわけにはいかない。龍騎は慌てて、変身に用いた姿見から、ミラーワールドへと入って行った。

 

 

 

 

 

「なっ!?蓮!?」

 

ミラーワールドへ入った龍騎は、目の前の光景に困惑していた。

逃げられないと判断したのか、先にミラーワールドへ来ていたゼノバイターは、ブーメランを構えて戦う意思を示している。そこまではいい。

問題はその背後だ。仮面ライダーナイトが、ゼール系モンスター二体を相手に戦いを繰り広げていたのだ。

 

「!またお前か…という事は、やはり四糸乃もここに…くっ!邪魔だ!!」

 

ナイトも龍騎に気付いたらしい。龍騎はドラグセイバーを召喚し、ゼノバイターとの間合いを測りながら、ナイトに大声で問いかけた。

 

「おい蓮!そのモンスター、この階にいたのか!?さっきは何も感じ無かったけど」

 

「いや、違う。こいつらはオレと戦いながら移動してきただけだ。途中他のフロアにも行ったが、もうここにいる連中以外はモンスターはいないはずだ。……それより馬鹿かお前は」

 

「へ?」

 

「大声を出すから…ほら、行ったぞ」

 

蓮がそう言うと同時に、真司からは死角になっていた物陰から、ギガゼールが二体飛び出してきた。

咄嗟の事に、龍騎に隙が生まれる。そしてその隙を逃さず、ゼノバイターは龍騎にブーメランを投げつけた。

 

「うわ!っててて…」

 

幸い致命傷にはならなかったものの、まともに攻撃を食らった龍騎は吹っ飛ばされてしまう。

しかし、モンスターたちの攻撃は止まらない。龍騎が立ち上がろうとしたところに、今度はギガゼールがドリル状の刃の付いた槍を振り下ろす。龍騎は咄嗟にドラグセイバーを拾い、これを防いだ。

 

「おい蓮!危ないならちゃんと言えよ!」

 

「大声を出すから気付かれるんだ。大体、そっちから何体見えていたのか知らんが、油断していたお前が悪い」

 

二人が口論を続けている間も、四体のゼールたち、そしてゼノバイターの攻撃は止まらない。

本来、ゼール系のように同族で固まって行動しているモンスター以外は、他のモンスターと協力して戦うという事は無い。これは恐らく、ミラーモンスターたちに「餌として狙いを定めた人間を執念深く追いかける」「ライダーと契約したモンスター以外は、基本的にモンスター同士で共食いを行わない」といった習性や、「ミラーワールドの外では短い時間しか活動できない」という制約があるため、自分が確実に餌を手に入れるために、お互いに不要な干渉を避けているからだと思われる。

もし仮に、複数のモンスターが同じ人間を餌として狙ってしまうような事があっても、人間がモンスターより強いという事は有り得ない上、ミラーワールドへ引きずり込めばそれでもうその人間は終わりだ。モンスター同士で餌の取り合いにはなれど、共闘の必要性など全く無いのである。

だが、今は状況が違った。龍騎、そしてナイトを共通の敵とみなした彼らは、互いに協力して二人へ襲い掛かる。龍騎とナイトが気付いた時には、既に場は二対五の乱戦になっていた。

 

「……はぁ。オレまでとばっちりを受ける事になるとは」

 

「人に意地悪な事言うからこうなるんだよ!ていうか、そもそもその四体は元はお前の相手だったんだろ!」

 

「仕方ない。手伝え」

 

「だからその態度!話聞けよ!」

 

龍騎とナイトは戦いの手を休めることなく、背中越しに互いに言葉を投げかける。何も知らない人が聞けば、余裕があってふざけているかのようにも思えるやり取りだが、本人たちは至って真剣であった。

そして彼らは気付いていなかった。自分たちがいつの間にか連携しながら戦っていた事にも、その連携がどんどん上手くなっていっている事にも。




なかなか思うように話が進まないですね…。次回はもう少し話が進むように努力します。
いつも更新が遅く、楽しみに待って下さっている方には申し訳なく思っています。もうすぐ夏休みに入るので、なんとか時間を見つけていきたいとは思っているのですが…。
お読みいただいてありがとうございました。ご意見、ご感想などお待ちしています。


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