『信長の庶兄として頑張る』 (零戦)
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第一話改

書き直し。色々と設定も変えました。


 

 

 

「お、あったあった」

 

 大阪の日本橋筋商店街(でんでんタウン)近くの中古同人ゲームショップに青年は買い物に来ていた。青年は『戦極姫3 ~天下を切り裂く光と影~ 遊戯強化版壱ノ巻』を手にしていた。

 青年はレジでカネを払い、中古同人ゲームショップを後にした。

 

「あいつから薦められて戦極姫3をしたけど中々良かったし続きも買えて良かったわ。帰ったら早速プレイしてみよ」

 

 青年はウォークマンを聞きながら帰るが、彼は家に二度と帰る事はなかった。

 

「え……?」

 

 青年は轢き逃げで地面に叩きつけられて死亡したのだ。

 

(……エロゲー買いに来て死亡とか……やってられんな。せめて畳の上で……)

 

 青年は野次馬が集まって青年を見ているのを消え行く意識の中でそう思った。そして青年は闇の中に呑み込まれた……はずだった。

 

 

 

 

 

「……人生って何が起きるか判らないよなぁ……」

「どうされた兄様よ?」

「いや何でもないよ吉法師」

 

 青年は川で釣りをしていた。青年の隣には長い赤髪をした少女が同じく釣りをしている。名前は吉法師、吉法師は後に有名な織田信長の幼名である。

 

「(……織田信長って男だよなと思った奴、俺もそうだと思ったよ。だがこの少女はほんとに吉法師なんだよな……そして俺の今の名は織田信広だし……てかこの信長って戦極姫3の信長だよな!? あれか? ラノベとかによくある戦国時代にタイムスリップしました。でも登場人物は大半が女だよテヘペロ☆とかなのか!?)」

 

 夢だと思ったが夢じゃない。あの時、日本橋の轢き逃げで青年は死んだと思った。だが気付けば今度は戦国時代にいたのだ。しかもただの戦国時代ではなくエロゲーの戦国時代にだ。

 

(……というより表現的にはあれだな。織田信広に憑依したと言えばいいな。歴史上の織田信広は信長の兄だけど、母親は親父である織田信秀の側室(母親は判らない)なため家督相続の権利は信長にある。そして信広の最期は長島の一向一揆で大木兼能と一騎打ちをして討ち死にしてしまう筈だ。まぁ……とりあえずはだ……一向一揆で討ち死にはしないようしつつ信長の助けをしようと思う。俺に大名のような能力は無いと思うしな。それに信長可愛いし最期は裏切りとかさせたくないしな。というより戦極姫3なら光秀を何とかしないとな、真面目過ぎるとヤバイと思うし……)

「兄様、糸引いてるぞ」

「お、掛かったな(ま、今は信長と釣りを楽しもう)」

 

 青年――織田信広はそう思い、竿を引っ張るのであった。

 

 

 

(最近、兄様の雰囲気が変わったと思う。何時もは私を見て恨めしそうに見ていた。恐らく家督が継げないと知っていたのだろう)

 

 吉法師は釣りから帰った後、自室でそう思っていた。信広は吉法師より生まれが早く、普通なら織田家の家督は信広が継ぐ筈である。

 しかし、信広の母親は信秀の側室であるため家督の権利は吉法師より下であったのだ。

 

(でも……急にそんな事をしなくなった。それどころか私に優しくしてくれる。この間は一緒に鶏の肉を食べたりした……兄様の中で何か変わったのかもしれないな……)

 

 吉法師はそう思い、横になるのであった。そもそも信広に青年が憑依したので変化は当然だった。

 そして信広は自室で今後の事で悩んでいた。

 

「……せめて硝石、火薬は作らないとあかんよなぁ。大砲も鉄じゃなくて青銅砲だな。それか青銅砲が出来るまでは木砲にするか……幕末みたいに反射炉作って鉄製にしてみるのも手か……でも反射炉の燃料は石炭だしなぁ。石炭は九州や北海道だよな……代替として亜炭で出来るか?」

 

 信広はそうブツブツと呟いている。筆を持って紙に書いて忘れないようにしているが、誰かに見つかってもその時代の人間には分からない単語ばかりである。

 

「……とりあえず亜炭等は採掘だけしてみるか。身近にやれそうなのは……硝石、火薬作りか。誰かに頼んでみる……うーん」

 

 信広が唸っていると、何か思い付いた。

 

「……あいつに任せるか」

 

 信広はそう言って直ぐにその人物のところに向かうのであった。

 

 

 

 

 信広の少年時代? 語る事は特にないから。(震え声)なお、信広は既に元服はしている。そして月代(さかやき)もしている。毛抜きで抜かされようとされたが、信広自身は断固拒否して剃ってもらう事にした。それを聞いた父である信秀は「貴様には武士の心は無いのか」と怒られたが「剃るだけでとやかく言うのは武士の心也か?」と言い返して親子喧嘩にまで発展したのはご愛嬌かもしれない。信広曰く「痛いもんは痛いんだよ」との事だ。

 それと吉法師も元服をして信長の名に変えている。信長も元服して更に可愛くなり胸も成長してでかくなっているので益々女になっている。

 信広曰く「米と味噌汁、おかずくらいなのにどうやってでかくなるんだよ」との事だ。

 

(これが後に第六天魔王になるとは誰が思うのか? 第六天魔王は穴子さんで十分だな)

「どうされましたか信広様?」

「いや何でもない」

 

 そして信広は那古野城へと戻ってきた。信広は先日まで今川の捕虜となっていたのだ。理由は第四次安城合戦で今川の侵攻に耐えきれずに降伏したからである。信広を捕虜にした今川は信秀にある交換条件を出した。

 今川の元に行く筈だったが家臣に裏切られて織田家にいた松平家の竹千代(後の徳川家康)と交換する事である。

 織田信秀もその条件を呑み、信広と竹千代の交換が行われて那古野城に帰ってきたのだ。

 

「兄様!!」

「おわ、どうした信長?(胸が当たってますよ信長さん……)」

 

 城門のところにいた信長が駆け寄ってきて信広に抱きついた。表面上は抱きついた信長に驚いているが、内面では抱きついた信長に慌てている。

 

「兄様が捕縛されたと聞いた時は驚いたぞ」

「済まんかったな信長」

 

 史実を知っているなら信広は事前に行動して捕縛されずに済んだと思う。しかし信広はあえて何で捕縛された。というのも暫くは史実通りに動く予定だからだ。

 今、歴史を変えると信広自身の歴史も大いに狂うかもしれないし信広の討死も早まるかもしれないからだ。

 

(まぁ……せめて斎藤道三は助けたいから義龍が道三を討つ前に動く予定にするか。それに聞いたところによると道三も女性で胸もデカイらしいが……)

「よく生きていてくれた……」

「なに、たまたま天が俺に味方してくれたからだ。ま、親父殿にはこってり怒られたがな。生き恥を晒したとかな」

「父様に何を言われても気になさるな兄様。父様は古い体質の人間だから」

「……親父殿には言うなよ。泣くぞあの人……」

 

 尾張に帰ってきた信広は末森城にいた信秀に挨拶をした。信秀はあまり言わなかったが、ただ「よくぞ戻ってきた」と言うだけだった。

 

「そんな事では家督は信行に持って行かれるぞ?」

「……平時なら信行の方が良いかもしれんよ兄様」

「………」

 

 信行とは信長の妹である織田信行の事であり、母親の土田御前に大層溺愛されている。今の信長は史実通りにうつけの格好をしているのでうつけの信長よりも信行を溺愛するのも仕方ないかもしれない。

 

「それでは兄様、釣りに行きましょうぞ」

「それは構わないが道具は?」

「犬千代が用意しておる」

「用意がいいな。釣れたら今日のメシにでもするか」

 

 俺は笑い、信長と小姓の前田犬千代(後の前田利家。そして女性)と共に川釣りをして鮎を五匹釣った。

 

 

 

 そして数日後、信広は信長を連れてとある山の麓に来ていた。

 

「……兄様、何か臭わないか?」

「まぁその場所に向かってるからな。手拭いで鼻を押さえておけ」

 

 信広は信長にそう言って自身も手拭いを鼻に押さえて奥に進む。その後ろを信長が付いていくと数人の人がいた。

 

「長秀、何をしているんだ?」

「これは信長様。このようなところへ……」

 

 二人を出迎えたのは織田家の家臣丹羽長秀だった。

 

「これは何だ長秀?」

「……宜しいので信広様?」

「構わんよ」

 

 三人は十数軒ある小屋の一軒に入った。

 

「こ、これは……」

「硝石を作る硝石丘だ」

 

 小屋の中に小さな小山が存在していた。小山には人馬の糞尿やヨモギ、シソ、ツユクサ等の植物が積み重なっている。

 

「このような小屋が尾張に約三十は存在している。小さい小屋だがな」

「尾張に三十も!?」

「他にも民家の床下の土を取って硝石を作っている」

「……驚いたよ兄様。それで兄様は何をする気だ?」

「何を? ……そうだな」

 

 信広は信長の問いにニヤリと笑う。

 

「お前の夢を手伝ってやる」

「……ククク、流石は兄様だ」

 

 信広の言葉に信長は少しキョトンとするが、直ぐにニヤリと笑い小屋を後にするのであった。

 

 

 

「あ、臭いから風呂入れよ」

「承知した」

 

 

 

 

     おまけ

 

「あ、兄様。お握りを作ってきたのだが……」

 

 釣りをしてる最中、信長はそう言って笹の葉でくるんだお握りを信広に見せる。

 

「なら一つ……ぐ……」

 

 お握りにかぶりついた信広だったが顔をしからめた。

 

「信長……塩入れすぎだな……」

 

 信長が作ったお握りにはかなりの塩が含まれていたのだ。

 

「そ、そうか。済まなかった……」

 

 信長のアホ毛がシュンと萎れているのを視認した信広は信長の手から大量に含まれた塩お握りを取る。

 

「次は上手く作ればいいよ」

「そ、そうか!! ならまだあるから食べてくれ」

「………」

 

 信長は顔を赤らめながら信広に竹皮に包まれた多数のお握りを渡した。

 

「(……今日は厄日なのかもしれんな)」

 

 信広はそう思いながらも信長の名誉のためお握りを全部食べるのであった。

 

 

 

 

 




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第二話改

 

 

 

 

「大変でございます信広様に信長様!!」

「どうした犬千代?」

 

 何時ものように信広は信長と川釣りをして那古野城へ帰る途中、犬千代達近習が馬に乗って信長の元にやってきた。

 

「の、信秀様が亡くなられました!!」

「……父様が?」

「急いで城にお戻り下さい!!」

 

 そして犬千代に急かされて信長と信広は慌てて那古野城へと戻った。

 

「父様が亡くなったとはどういう事か!?」

「……流行り病にございます」

 

 駆けつけた平手の爺様が信長達に説明する。

 

「(確かに史実でも信秀は流行り病で末森城で急死しているが……)爺様、亡くなったのは末森城か?」

「その通りです信広様」

「(……やはり史実通りだな)……家督を継ぐのは信長だな?」

「はい、生前の時からそうなっています」

「うむ。爺様には悪いが信長の家督相続を俺は支持すると他の奴等にも伝えてくれ」

「……御意」

 

 爺様は頭を下げて部屋を出た。そして残ったのは信広と信長だけだ。信長はさっきから一言も発していない。

 信広が信長に視線を向けると、信長は顔を床に向けて涙を流していた。

 

「……早すぎる……早すぎる父様。父様、私はまだ父様が必要だ……」

「落ち着け信長」

 

 信長はそう言いながら泣き出した。声を押し殺して泣いているが信長らしいかもしれない。

 

「だって兄様……父様が……」

「確りしろ信長!!」

「!?」

 

 信広はきつめの声で涙を流す信長に言う。

 

「親父殿が亡くなった時点でお前は織田家の家督を相続しているんだ。一家の大黒柱がそれでどうする!! お前がそんなんでどうする? 犬千代達を路頭に迷わせる気か? もう親父殿はおらん、お前が織田家の長なんだ織田上総介信長!!」

「………!?」

 

 信広の言葉に信長は手拭いで涙を拭き取る。信長の表情は覚悟を決めていた。

 

「……済まなかった兄様」

「……それで良い。それじゃ夕餉するか」

 

 そして信広と信長の二人は遅めの夕餉をとるのであった。それから数日後、信秀の葬式が行われた。

 

「信長様はまだですかな平手殿?」

「はぁ、某も来るようにと知らせたのですが……」

「やはり家督は信行様にするべきではないですか?」

「………」

 

 平手の爺様はまだ来ない信長にハラハラとしていた。そして漸く信長が場にやってきた。

 

「の、信長様が参られました!!」

「おぉ……」

 

 信長は正装で場に現れた。信長の格好にその場にいた者達が唖然としていた。

 

「(あの大うつけが正装で来るとは……今まではうつけの姿で我等を欺いていたというわけか)」

「(へぇ……姉様もちゃんとするのね。これは油断出来ないわね)」

 

 信長に不満を持つ者達はそう思った。後に稲生の戦いの際に柴田勝家が信長の陣営に加わるのもこの行動が一因となっている。また、信行は信長を見て評価を改めると共に警戒するようになった。そしてその影では信広がホッと溜め息を吐いていた。

 

(史実通りじゃなくて良かった。信長の奴、いつも通りで行くとぬかすから説得に時間が掛かったわ)

 

 

 

~~数刻前~~

 

「……信長」

「何だ兄様?」

「……今日は親父殿の葬儀だぞ信長。何でいつもの城下町に向かう格好をしている?」

「父様だから問題は無い」

「問題大有りじゃど阿呆!! 直ぐに正装に着替えろ!!」

「あだ!?」

 

 信広は怒鳴って信長の頭に拳骨を食らわした。思ったより痛かったのか、信長が信広を睨んでいたが信広は無視をして犬千代に視線を向ける。

 

「犬千代、信長を正装に着替えさせろ」

「し、しかし兄様……」

「しかし案山子もあるか!! さっさと正装に着替えてこい!!」

 

 なおも渋る信長に信広は再度、拳骨を投下して信長は渋々ながら正装に着替えて葬儀に参加したのだ。

 

「まぁ……とりあえずは成功かな」

 

 信広は他の者達から隠れたところでそう呟いた。家督を継がないと外に知らせるために葬儀には来ていたが、目立たないようにしていた。信広は既に信秀と最後の別れを済ましていた。

 

「……親父殿、違う信広ですが御世話になりました」

 

 信広は信秀の棺に45度の敬礼をした。そして数日後、信広と信長は何時ものように川釣りに来ていた。

 

「………」

「どうした信長?」

 

 釣りをしていると信長が信広の膝に腰を下ろしてきた。

 

「……暫くこうさせてくれ」

「……分かった」

 

 そう言って信長が信広に背中を預けてきた。信長の髪がフワッと信広の鼻を擽る。

 

(色っぽくなってきたもんだな……。まぁ俺からしてみればまだまだ子どもだけどな)

(むぅ、反応しないな。お慶にこうしたら反応すると言っていたが……まさか兄様は後ろを寺の奴等に……いやそんな筈はない)

 

 何やら悶々と考えている信長だった。

 

 

 

 

「ほぅ、三河から来た商人か」

「へぇ」

 

 那古野城の城下町に信広は一人で出掛けていた。

 

「どんな品物があるんだ?」

「三河で栽培した木綿綿でせぁ」

「木綿綿か……木綿綿……木綿綿……木綿綿?」

 

 その時、信広は思い付いた。

 

「どうしやした旦那?」

「……なぁ親父」

「は、はい」

「親父が今持っている木綿綿、全て俺が買い取る」

「へ?」

「全て買い取ると言ったんだ。何かあるのか?」

「い、いえ。何でもありません」

 

 そして信広は商人から木綿綿を全て買い取り城の部屋に戻ると何やら作業をし始めた。

 

(また何かしている……)

 

 信広の近習は諦めた表情をしていた。そして物が完成すると信長の元へ向かった。

 

「おーい信長ー、布団作ろうぜー」

「……何を言っているんだ兄様?」

「布団。まぁもう作ったんだがな」

 

 そう言って信広は信長に自身が作った布団を見せた。

 

「何だこれは?」

「布団だ」

「……中には何を仕込んでいるんだ?」

「木綿綿が入っている。冬は暖かくして寝れる」

「……私の分はあるのか?」

「勿論ある」

「なら作って構わん」

「相分かった」

 

 こうして尾張で布団が大流行し、後に尾張式布団と呼び名されるがそれはまだ先の話であった。

 

 

 

「出来たか?」

「はい、此方です」

 

 信秀が没してから数年が経った。今のところ織田家は平穏だった。また、平手の爺様は史実では天文二二年に自害するが今のところ自害していない。

 信秀の葬儀の時に信広が信長を説得して史実みたいに灰を親父殿の位牌に投げる事はせず、ちゃんと正装をして葬儀の参列させた。

 この行動により信長をうつけだと思っていた者達の評価を変えさせる事に成功した。そのため平手の爺様が自害するような事は起きていない。

 今のところ先の事もあり信長を認める者は多くなっているが、それでも信行を押す者は少なからずおり信行が謀反をすれば争いが起きるのは必須であった。

 それはさておき、信広は鉄砲を製造する鍛冶場に来ていた。来た理由というのも新型種子島の開発に成功したからである。

 

「(上手く出来たか……流石は変態国家の日本だ)」

「信広様?」

「ん、済まない」

 

 新型種子島をじっと見ていて不審に思った鍛冶師に呼ばれて慌てて信広は鍛冶衆の一人から新型種子島を受け取る。この新型種子島は信広の知識を元に未来の技術を組み込んだ種子島だ。

 新型種子島は外見から変わっていた。命中率が上がるように銃床が開発された。敵を照準しやすいよう照星(しょうせい)と照門(しょうもん)が付けられた。そして一番の特徴は銃身にライフリングが刻み込まれている事だろう。螺旋状の溝は鍛冶師達も難点だったが三条がギリギリだった。

 時間をかければ四条や五条のライフリングの銃身が出来るだろうと思うが時は戦国の世である。いつ尾張が攻め来られるか分からないのだ。(信広は知っているが)

 そのために信広は三条で妥協した。やり過ぎると歴史が変わるのではないかと疑った。(ライフリングの製作時点で歴史は変わっているが)

 また、新型種子島の弾丸はミニエー弾を製造するよう鉄砲鍛冶衆に依頼していた。また銃の製造は信秀にも秘密とされての開発だったが、その結果、マッチロック式を除いてはほぼチート銃になった。

 その他にも、大量生産しやすいよう部品数を少なくしたり、そして最大射程距離は約七百メートル、有効射程距離約三百メートルと比較的に長くなり、これはどの種子島よりも射程距離は長かった。

 そもそも、この開発を言い出した信広はオタクである。一重にオタクと言ってもその種類は数多くあり、信広はその中でもミリタリーの分野に手を染めていた。所謂ミリオタであった。

 そのために種子島にライフリングを刻んだりミニエー弾の開発をしたのだ。

 

「故障などは無いか?」

「試し撃ちで十発撃っていますが故障はしておりません」

「ん。生産の方はどうか?」

「今の状況ですと月五~十丁が良いところです。難点なのが螺旋状の溝です。三条との事ですが、螺旋状の製造で時間が掛かります」

「むぅ……それが難点か(鋳型を作ってみるのも手だな)……まぁ螺旋状は仕方ない、それで我慢するか」

「ありがとうございます」

 

 信広はそう言って鍛冶場を後にして那古野城へ向かった。那古野城へ向かうのは信長に会うためである。

 

 

 

 

 




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第三話改

 

 

 

 

「それは本当か兄様?」

 

 那古野城で信広は信長に謁見していた。信長の表情はまさに驚いた表情である。

 

「うむ、新型種子島が量産されたら天下を取る日も近いぞ」

「種子島の購入は減らして新型種子島の増産の手配をしよう」

「……それとな信長」

「何だ兄様?」

「この種子島の開発は信長。お前にしといてくれ」

「なーーーッ!? ど、どういう事だ兄様!!」

「そのままの意味だ信長。敷いてはお前のためだ」

「私の……ため?」

「お前が皆を欺いてうつけとしていた。そのためまだお前に対する評価は低い方だ」

「……それは否定しないな」

「親父殿の葬儀でお前が正装してきたおかげで評価は最低じゃないんだ。それだけでも御の字だな」

「……それで新型種子島の開発を私に……か」

「妹の信行がお前に不満を持っているのは承知しているはずだ。この種子島で信行派からどれだけの人員が避けるかによる」

「……判りました。種子島開発、私が承ります」

「……感謝する信長様」

 

 信広は信長に頭を下げて部屋を退出した。

 

 

 

「……兄様には困ったものだ……」

 

 信広が部屋から出るのを確認した信長は思わずそう呟いた。信長自身、昔から信広には何かと良くしてもらっている。

 

「(よく二人で釣りをして魚を捕ったものだな。また兄様と釣りに行かねばな)」

「あらぁ、どうしたのノブちゃん?」

「お慶か。いやなに、兄様には困ったものだとな……」

「ヒロちゃんが何かしたの?」

 

 信長の部屋に来たのは犬千代の義理の甥に当たる前田慶次だ。この前田慶次は所謂道楽者に近い。色々な簪をしたり上半身ははだけ胸の乳首が見えないよう南蛮から取り寄せたベルトをしているだけだ。信長はその慶次を武将にしているが理由は「まぁ面白いから武将にした」との事だ。

 

「新型種子島開発の功績を私に譲るだと」

「あらあらヒロちゃんらしいじゃないの」

「まぁそこが兄様の良いところかもしれんな」

「……フフン」

「どうしたお慶?」

「嬉しそうねノブちゃん。乙女の顔をしているわよ」

「か、からかうなお慶」

「あらあら、ごめんなさいね」

 

 慶次の指摘に信長は顔が赤くなるのを自覚しながら慶次から視線を反らす。

 

「そういえば最近、新しい小姓を拾ったらしいわね」

「あぁ、サルのような女だからサルと呼んでいるがな。このサル、草履を懐に入れて温めておいたとか中々目に付く女よ」

「それは面白いわね」

 

 信長は暫く慶次と談笑をして午後の一時を過ごすのであった。

 

 

 

 それから数日後、新型種子島が武将達の前に披露され全ての功績は信長になり武将達は信長の評価を上げ始めた。

 

「やはり信長様はうつけではなかったようですな」

「左様。我等を欺いていたとか」

「とすると織田家は安泰かもしれませんな」

 

 他の者達がひそひそと話しているのを信広が聞き耳を建てて聞きながら自室に入る。

 

「俺が修正をしていなかったらどうなっていた事やら……」

 

 もし、信長が史実通りの行いをしていれば信行の謀反は進み最悪は暗殺であろう。

 

「(兎に角信行暗殺は阻止しないとな。信行はまだ小さいし判断能力も危うい)……何とかしないとな」

 

 信広はそう呟いて城下町に赴いた。

 

 

 

「……何だあれ?」

 

 城下町の道の真ん中で女性がうつ伏せで倒れていた。女性を心配なのか不審がってるのか人々がざわめきをしている。

 

「あ、信広様」

「説明してくれ」

「急にバタリと倒れまして……皆は毒にでもやられたのかと噂してます」

「……取り合えず検分するか」

 

 民から説明を聞いた信広は倒れている女性に近づいて仰向けにした。女性の服装は黒い忍装束で長くて白い襟巻きを首に巻いており如何にも忍だと言う格好だった。それに日ノ本の民とは思えない南蛮人のような金髪と青い目。鉢金を付けら左目の上の方には水色と白色の折り紙(千代紙)の風車が付いていた。

 

「……うぅ……」

「気付いたか?」

「……ぁ……」

「ん?」

「……お腹空いた……」

(……わけがわからないよ)

 

 そう思う信広だった。取り合えず信広は女性を拾い、自身が目的地だった飯屋に連れて行った。

 そして半刻、信広の目の前には一心不乱に飯を食べる女性がいた。女性は先程倒れていた女性である。

 

「ぷはぁ!! ……いやぁ一週間ぶりの飯は美味いものだ。特にこの黄色の食べ物は美味いな」

「あぁ、それは目玉焼きだ」

「目玉焼き?」

「あぁ鶏の卵を使った料理だ。この目玉焼きを白米を盛り付けた茶碗に載せて黄身を潰す」

 

 信広は白米を盛り付けた茶碗に目玉焼きを載せて黄身を潰す。潰された黄身がジワリと白米を黄色くしていく。

 

「そして醤油をちょろっと振り掛けて混ぜる。白身も細かくしたら食べる。これが美味いんだよ」

 

 通称目玉焼き丼を食べながら女性に言う。女性も頷いている。

 

「確かにこれは美味いね。けどこれが闘鶏の卵とはね……」

 

 戦国時代、鶏は闘鶏等食用としては看做されなかった。だが現代人が憑依した信広は食用とする事にした。(後に正親町天皇を通して鶏を食用と看做す事が決定される)

 また、信広は醤油の製作をもしていた。していたと言っても史実の江戸中期まで主流だったたまり醤油であるが……。

 

「目玉焼きや玉子焼き食べてたら醤油を入れたくなる。だから作ったんだよ」

 

 そう独白する信広だった。なお、この醤油は後に尾張醤油と呼ばれ、信長の重要な資金源にもなった。

 

「そろそろ話してはくれぬか? 御主は何者だ?(何となく予想はつくが……)」

 

 信広は女性にそう問う。対する女性も分かっていたのか信広に視線を向けた。

 

「私の名前は風魔小太郎」

「……北条の忍の頭領じゃねぇか……」

「……になる筈だった女だよ」

「どういう事だ?」

「風魔小太郎とは初代の名前でね。北条家の忍の頭領は襲名で風魔小太郎を名乗っているんだ」

 

 女性はそう言いつつ目玉焼き丼に醤油をかけて食べる。まだ食べるのかよと信広は内心思ったが口に出さない事にした。

 

「風魔小太郎を決めるのは里の長老達。私の他にも風魔小太郎を名乗れる候補者はいた。でも私には負けるよ、何せ私は里が出来て以来の優秀な忍なのさ」

「その優秀な忍が何故此処にいるんだ?」

「……まぁあれだ。派閥争いに負けた」

「ぁ~成る程な」

 

 女性の言葉に信広は納得した。派閥争いは織田家の水面下で起きている。信長派と信行派だ。

 

「それに私は南蛮人でね。偏見もされていたから余計にね」

「……そうか」

「次期頭領の座も他の忍になったし抜け忍になって他国を放浪としていたんだよ。そしてあそこで力尽きて倒れてた」

「……(何だかなぁ……)追っ手は来ないのか?」

「駿河辺りまでに五回程来たけど全て返り討ちにしたよ」

「………(……忍か……)」

 

 ハッハッハと豪快に笑う女性。対して信広は何か考えていた。

 

「それで何処かに宛はあるのかい?」

「いやないね。ブラリブラリと風の赴くままってね」

「……なら織田家に仕官しないか?」

「……やはりただ者ではないと思っていたけど、織田家の家臣かな?」

「織田信長の庶兄の信広だ」

「……(;゚Д゚)」

 

 織田家の家臣と思っていたが、実は身内でしたのバラしに女性は唖然としていたがやがて笑いだした。

 

「ハッハッハ……織田の身内がこのような庶民がいるところにおるとは織田家は中々面白いものだな」

「そこが織田家の面白いところだ」

「ふむ……よし分かった。織田家に仕官しよう」

「そうか、それはありがたいな」

「ただし、仕官するのは主君は君だ」

「……俺の下か?」

「うむ、君の下だと面白そうだ」

「……まぁ良いか(次期風魔小太郎と言われた実力なんだし少々の事は目に瞑るか)」

「あぁそれと、名は何と言う?」

「撫子だ」

 

 そう思う信広だった。兎も角、信広は忍を手に入れる事が出来た。

 

 

 

       ~~おまケーネ~~

 

 

 

『キャー撫子様ー!!』

「ん? 何だあの人だかりは?」

 

 とある日、信広が城下町に赴くと女性達の人だかりがあった。その人だかりの中心には忍の撫子がいた。

 

(原作通り、女性にモテてるな。レズの気でもあんのか?)

「おや我が主君じゃないか。少しばかり願いがあるんだが……」

「おぅ」

「おカネを貸してほしい」

「……この間、五貫渡したよな?」

「団子屋の娘の親が借金をしていてね。全部渡したんだ」

「……はぁ、無駄遣いはするなよ」

「無駄遣いはしないさ。全ては皆のためにね」

『キャー撫子様ー!!』

 

 撫子がウインクすると周りにいた女達が目をキラキラしながら嬉しそうに叫ぶのであった。

 

(まぁ能力は申し分ないからね……許容範囲内許容範囲内……)

 

 そう思う信広だった。

 

 

 

 

 




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第四話改

 

 

 

 

「誰何?」

「犬千代です」

「入れ」

 

 とある日の夜半、物音に気付いた信広が誰何をすると相手は犬千代だった。

 

「信行様から書が届いています」

「信行から?」

 

 年の差からあまり面識が無いはずの信行からの書に信広は些か戸惑いつつも文を見る。

 

「……あの馬鹿……」

 

 信行からの書は簡単に訳すと「御姉様を討ちましょ兄様」であった。

 

「犬千代、至急信長様に伝えろ。信行が謀反を起こす」

「何と……判りました。直ぐに向かいます」

 

 ちなみに信広は居城を持ってない。織田信光が存命なので信広が城主になる必要は今のところない。

 

「兵を集めよ!! 信行を討つ!!」

 

 信行謀反を聞いた信長の行動は早く、僅かではあるが七百あまりの手勢の兵を揃えた。

 

「これはこれは信広殿」

「おぉ丹羽殿、兵糧の方は抜かり無いですかな?」

「勿論ですぞ」

 

 戦の準備の中、信広は城の米倉で丹羽長秀と話していた。この長秀は前々から信長に仕えていた。

 

「しかしあれですな。信広様が薦められた麦飯は健康に宜しいようですな」

「うむ、いつ戦があるか判らんから白米より麦飯にしておくのが良い」

 

 白米も良いが脚気に気を付けないといけないからだ。特に豊臣秀吉の死因も脚気も一因であると言われ、更に江戸時代でも脚気は流行した。

 また明治の日露戦争の時でも白米を導入した陸軍も多数の患者を出した。ちなみに海軍は麦食を導入していたから脚気の患者0である。なお、陸軍の軍医の一人に森鴎外がいた。

 

(蕎麦の導入も早めにしておくかな。そば粉で麺はもう少し先らしいが、早めにしよう。何故なら俺は蕎麦が好きだから。(断言)勿論拉麺も好きだけどな)

「信広殿、信長は勝てますかな?」

「心配するな長秀殿。戦は数では決まらんものよ」

「成る程」

「まぁ鉄砲で指揮官を潰せば後は烏合の衆だがな」

「ハッハッハ。これは一本取られましたな」

 

 信広と長秀はそう笑いあっていた。そして翌日、面白い事が起きた。

 

「何? 勝家が我等に付くと?」

「は、手勢千名を従えて清洲に向かってきます」

 

 史実だと信行側に付いた柴田勝家であったが何と信長側に付いた。恐らくは葬儀の件や新型種子島の件で信長の評価が変わったのだと思われる。

 

「ククク。信行の奴、今頃は末森城で震えているだろう」

(怖いぞ信長……)

 

 柴田の参戦に気を良くしてニヤリと笑う信長に信広は溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

「もう~勝家が裏切るなんて予想外だよ」

 

 一方の末森城では信長に謀反を起こした信行がプンスカと怒っていた。信行の予想では柴田勝家も信行側に参戦すると思っていたからだ。しかし、実際に勝家は信長側に参戦してしまった。信行の想定外の事だった。

 

「信行様、此処は籠城なさるか土田御前様を通して助命するかです」

 

 信行に味方する林秀貞はそう具申した。隣にいる林通具も頷いている。兵力の差があるため最早そうするしかない。

 

「それは最後の策だよ。とりあえず御姉様に痛撃だけは食らわして助命するよ」

「判りました」

 

 柴田がいれば信行側は勝てたかもしれないと信行側は思っていたが史実では負けて林通具が討死している。

 

「……のぅ通具よ」

「何じゃ?」

「我等は少し信長を過小評価していたのかもしれんな」

「……だろうな。だが我等は信行様に忠誠を誓っている。刀折れ矢尽きようとも従うのみだ」

「うむ」

 

 林兄弟はそう頷きあったのである。そして両軍は稲生で衝突をした。後に稲生の戦いと呼ばれる戦いだ。

 

「突っ込めぇい!! 信行様のために信長を討ち取るのだ!!」

 

 林通具が先頭に立ち信行軍が突撃する。

 

「兄様、鉄砲隊を!!」

「うむ。鉄砲隊構えッ!!」

 

 この時信広は信長の鉄砲隊を指揮していた。信長曰く「新型種子島をよく知っているのは兄様」との事だ。今いる鉄砲隊は新型種子島四丁、種子島三十丁だ。

 

「撃ェッ!!」

 

 三四丁の種子島が火を噴き、たちまち十数人を薙ぎ倒す。

 

「鉄砲隊は下がれ!! 全軍突っ込めぇい!!」

『ワアアァァァァァーーーッ!!』

 

 信長の叫びと共に一斉に兵達が駆け出した。そして斬り合いになる。此方が敵を斬れば敵も味方を斬る。まさに乱戦である。

 

「敵の大将を狙え!! 味方を支援するのだ!!」

 

 信広は鉄砲足軽達にそう指示をして自身も新型種子島を持ち弾丸を装填し照準して射撃をする。他の鉄砲隊も交互になるよう射撃をしている。

 

「……引け引けェッ!!」

 

 そうしているうちに信行軍が退却しだした。やはり柴田勝家がいない信行軍は烏合の衆であった。林兄弟がいるが兵力が無ければ意味は無い。

 

「追撃だ!! 信行がいる末森城を包囲するのだ!!」

 

 合戦に勝利した信長軍はそのまま信行が籠る末森城を包囲した。

 

「信行に降伏を促すか、それとも……」

 

 陣内で信長はそう悩んでいた。

 

(敵とは妹だしな……史実の信長も身内にはかなり甘かったらしいしな。その分、敵は滅ぼすけど)

「申し上げます!!」

「うむ」

 

 そこへ使い番が陣内に駆け込んできた。

 

「土田御前様が御到着されました!!」

「何? 母上が?」

「吉法師!!」

 

 そこへ信長の母親である土田御前が陣内に乗り込んできた。そして結果から言うが土田御前は信行の助命を申し上げた。信長もこれを了承して末森城に使者を派遣して降伏を勧告。

 信行もこれを受け入れ末森城を明け渡して信行の身柄は一旦信長が預かる事になった。そして信長軍は末森城に入城した。

 

「とりあえずは終わったな信長」

「だがまだ末森城の城主を決めなければならんぞ兄様」

「信光殿で良くないか?」

「叔父上は那古野城主だ。他に手が空いているのは……兄様のみだ」

「……俺にやれと? 正直申すが俺に内政はあまり自信が無いぞ」

「構わぬ。最初は失敗してもいい。私もそうであった」

「………(それは本当なのか? 俺が知っている限りでは成功しているよな? 長槍とか鉄砲の購入とかさ……)分かった」

「それに何か新しい物を作っているではないか兄様? それを試すのも宜しいのではないですか?」

「……あれか(まだ数台しか出来てないけど……まぁそれも踏まえてやるか)信長様、末森城主引き受けましょう」

「大義である」

 

 結果、信広は末森城主になった。

 

 

 

 

「末森城主就任、真におめでとうございます」

「楽にして構わんよ長秀」

 

 信長が兵を引き上げてから数日後、長秀が信広に就任挨拶をしている。長秀は信広を補佐するために信広の家臣となっていた。

 

「堅苦しいのは俺も好かん。まぁ今日は飲もうじゃないか」

「左様ですな」

 

 その日の夜、信広は長秀と遅くまで飲んでいた。それから翌日、軽い二日酔いの信広は長秀と共に近くの農村に来ていた。

 

「これが千歯扱きという物ですかな?」

「あぁ。木製の台に付属した足置きを踏んで体重で固定し、櫛状の歯の部分に刈り取った後に乾燥した稲の束を振りかぶって叩きつけ、引いて梳き取る」

「信広殿は凄い物を作りましたな」

「たまたまだ。だが普及させるかは微妙だな」

「と言いますと?」

「千歯扱きは扱箸に代わる物だ。扱箸の脱穀は戦や病で夫を亡くした未亡人の貴重な収入源だ。千歯扱きはこの労働を潰すかもしれん」

「ふむぅ、我々から見れば画期的な物ですが農民――未亡人から見れば厄介者ですな」

「最初は少数の生産をして見極める必要があるな……」

 

 千歯扱きを普及すれば未亡人をどうするかが焦点である。無闇に取り扱えば農民達から信長への支持が無くなるのは必須であった。

 

「……歩き巫女に変装して各国の情報を集めてもらうかな」

「ほぅ。まるで忍の者ですな」

「そうそう忍……って忍雇うか」

「はい?」

 

 信広の言葉に長秀は唖然としていた。

 

「これからの戦は情報が大事になる。だから忍は必要なんだ」

「左様ですか。ですが撫子殿がおりますが……」

「いくら撫子が優秀な忍だろうと限界はある」

 

 そう言う長秀であったが表情はあまり釈然としていない様子だった。時代が時代かもしれないのだろう。

 

「とりあえず帰るか」

「御意」

 

 信広達ら農村の人達に礼を言って末森城へと戻り、急ぎ伊賀へ使者を派遣した。

 

「それで税だが……」

「やはり五公五民でしょう。もしくは北条氏のように四公六民をやれば……」

「俺が尾張の大名だったならそれで良いかもしれんが、実際は信長だ。信長に合わせよう」

 

 信広のところで四公六民、他のところは五公五民だったら農民達は信広の元に集まり他の税収は極端に悪くなるだろう。信広はとりあえずは五公五民に併せておいた。

 

「判りました。裏作は如何しますか?」

「そこまでは取らん。裏作まで取れば一揆になるわ」

 

 裏作は農民の貴重な食糧であり収入源でもある。

 

「俺達の食事も健康のために麦飯するから。それに鶏の肉や卵も食用として認めるから食え」

「それは良うございますな。しかし信広殿、鶏や卵は仏の教えでは禁じられております」

「構う事は無い。俺や信長も遊んでる時によく食べてたからな」

「た、食べてたのですか!? ……よく見つからなかったものですな」

 

 長秀は驚きながらも少し呆れた表情をしていた。

 

「一応お触れは出しておくが、食べるのは自由にしておく」

「承知しました。しかし信広殿は色々と御存知ですな」

「ん、ま、まぁな。堺等にコッソリ派遣したりして聞いたりしからな(やべ……)」

「成る程」

 

 信広は咄嗟に誤魔化した。しかし真実は言えないので出来るだけ誤魔化しておく事にした。とりあえず政策は未来の知識を活かしておく。それから十日後、伊賀に送った使者が忍を連れて末森城に帰ってきた。

 

「そちが忍か?」

「ほっほっほ、某は元忍です。老いましたので、代わりにこの者がやりまする」

「………」

 

 翁が手をポンポンと叩くと一人の忍が現れて信広に頭を下げる。

 

「名は飛龍。中々の働きをする忍ですぞ」

「そうか。何れは織田に忍軍団を創設する。その時は軍団の中核を頼むよ」

「は、ありがたき幸せ」

「ほっほっほ。それはそれは、我々の能力を買っておいでですな」

「戦はただ勝つだけではない。いかに味方の戦力を損耗しないで済むかだ。場合によっては敵の後ろで攪乱もしてもらう。それが忍の一つの役目……じゃないかな翁よ?」

「ほっほっほ、否定はしませんぞ。飛龍よ、よき者に巡り会えたと思うぞ」

「は」

「そうだ。御礼に千歯扱きをやるよ」

「ほぅ。何ですかなそれは?」

「あぁ、実はな……」

 

 後に伊賀から感謝として忍五人が送られた。男女の忍であるが五人とも優秀な忍だった。

 

「ところで信広殿、信長様に忍を雇うと言いましたか?」

「……忘れとった」

 

 

 

 

 




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第五話改

第五話はあまり変えるところはなかったので少しの修正のみです。


 

 

 

 

「信広様、只今美濃より戻りました」

 

 夕餉の最中、飛龍が美濃から戻ってきた。

 

「うむ。飛龍は夕餉を食べたか? まだなら一緒に食べるか?」

「そ、そんな真に恐れ多き事です」

「そ、そうか? (未来のように普通に友人感覚で食事するのは難しいか。年が近いから良いと思ったが……まぁ無理に勧めるのは止めるか。信長達に衆道と思われる……)なら報告を聞こう」

「は、美濃ですが日に日に斎藤道三と息子義龍との仲は悪くなっています。義龍側が兵を集めている情報もあり、恐らく戦が起きるかと……」

「近々か?」

「はい」

「……判った。一日の休みをやる。休み明けは再び美濃に行ってもらう」

「御意」

 

 そう言って飛龍が姿を消した。

 

「長秀を呼べ」

「御意」

 

 控えていた近習にそう言って信広は急いで夕餉を済ませた。

 

「長秀、参りました」

「うむ。長秀、今から那古野に行くから支度しろ」

「い、今からですか?」

「火急の件だ」

 

 驚く長秀を他所に信広は支度をして外に向かう。用意していた馬に乗り込み、長秀と共に那古野城へ向かった。

 

 

「信長はいるか!!」

「ちょ、ちょっと誰よあんた!!」

 

 那古野城に行き、城に入り信広が廊下で叫びながら歩いていると一人の女が叫んだ。足軽の鎧を着た女性だが、褌が見えている。

 

「信長は何処だ?」

「まずはあんたから名を言うべきじゃないかな?」

「こ、これ御主。此の方は……」

「構わん長秀。それは失礼した女。俺は織田信広だ」

「え、織田信広って……信長様の……」

「兄だ。庶兄だがな」

「ひえェ!? と、とんだ御無礼を!!」

「構わん。俺が先に名乗ってなかったのが良くない。長秀、今何かあったか?」

「さて、儂は何も見てませんぞ?」

「そういう事だ」

「は、はい」

 

 ガタガタ震えている女性に信広はそう言った。

 

「兄様、サルに何をしているので?」

「ん、いたか信長」

 

 その時、騒ぎを聞き付けた信長が漸く来た。

 

「それよりも女子にサルというアダ名を付けるな」

「私がどうしようと勝手だ。そいつはサルに似ておるしな」

「ふむ……」

 

 信広は視線をまだ震えている女性に向ける。

 

「……そんなにサルに似ているのか? 俺には綺麗な女にしか見えんがな」

「……へ?」

「ハハハ、そいつは私のお気に入りだからやれんぞ兄様」

「あのな……まぁいい、火急の件だ」

「……部屋に入れ」

 

 信長に促されて信広は一人で信長の部屋に入る。

 

「それで火急の件とは何か? まさか私に夜這いでもするのか?」

「ふん、俺からしてみれば信長もまだまだ子どもよ。それよりも……美濃で動乱が起きるかもしれん」

「……子細を」

「俺が雇った忍からの報告でな。斎藤道三と息子義龍の仲がここ最近悪いとの事だ。義龍側が兵を集めている情報もある」

「……蝮は勝てると思うか?」

「蝮に反感を持つ国人は多いと聞く。それに息子義龍はかつて美濃の守護大名土岐氏の血筋を組む者と噂がある。明日の光を見たいなら義龍側に手を貸すのが道理だろう」

「……そうか」

「だが持久戦に持ち込めば勝機もある」

「……我等が美濃に攻めこむか……」

「道三殿には何処かの城で粘ってもらうか、もしくは命を助けるために俺の忍を使って救出して尾張に迎えるか……だな」

「……美濃への足掛かりは欲しい」

「じゃあ道三殿は何処かの城で粘ってもらうしかないな。落城寸前に尾張に落ち延びさせるがいいな?」

「無論だ。私から蝮の一筆書いておこう。その方が蝮も判るだろう」

「判った」

 

 信長から書状を貰い、信広はとりあえずそのまま末森城に帰る事にした。

 そして二日後、飛龍に信長の書状を持たせて使者として美濃に向かわせた。

 

 

 

「……そう、やはり戦になるのね」

 

 鷺山城で斎藤道三は使者の飛龍から信長の書状を渡され一目するとそう呟いた。

 

「相判ったわ。持久戦の構えに移るけど、間に合わない場合は尾張に向かうわ」

「御意」

 

 飛龍は道三に頭を下げて部屋を退出した。

 

「……私も読みが甘かったのかもしれないわね」

 

 誰もいない部屋で道三はそう呟いた。翌日、道三は挙兵のために兵を集め始めた。

 しかし、義龍は道三の動きを読んでいた。義龍の周辺には約一万七千程の軍勢を揃っていたのだ。しかも義龍側には西美濃三人衆も加わっていた。

 

「年を取りすぎたかのぅ御袋殿。全軍出陣じゃ!! 鷺山城を御袋殿の墓場とするぞ!!」

 

 義龍は稲葉山城で挙兵し鷺山城へ進軍したが道三は間一髪で鷺山城を脱出した。

 

「……史実と同じか。撫子、済まぬが急ぎ美濃へ行き道三殿を救出せよ。飛龍も美濃へ行き義龍軍の後方を撹乱しつつ道三殿を救出の援護をするのだ」

「御意」

「私に任せろ」

 

 飛龍からの報告を聞いた信広は直ぐ様撫子と飛龍に指示を出す。

 

「長秀、兵を集めろ。美濃へ行き道三殿の撤退の援護をせねばならん」

「し、しかし信広様。勝手に兵を集めては、まず信長様に御報告を……」

「清洲には俺が行く。長秀は尾張美濃の国境に兵を置け。道三殿を討ちたい義龍が深追いをしてくるはずだ。そこに襲い掛かれ」

「……判りました。某、奮闘しましょう」

「頼むぞ」

 

 信広は直ぐに支度をして清洲に向かった。

 

 

 

「……そうか。だが私から軍は出せんぞ」

「判っている。東には今川義元がいるからな」

 

 信長の本体が動けば駿河・遠江の今川義元が尾張に攻めてくるのは必須であった。故に信長は動こうとはしなかった。

 

「兄様、末森から何人出す気で?」

「末森の六百全員だ」

「心得た。此方はお慶と四百を出す」

「感謝する信長様」

 

 信広は信長に頭を下げて退出した。そして二刻が過ぎた時、慶次が軍勢を連れてきた。

 

「御待たせヒロちゃん」

「うむ、それなら行くか」

 

 信広と慶次、兵四百は清洲城を出撃して尾張美濃の国境へと向かった。国境に向かうと既に長秀の先発隊が布陣していた。

 

「長秀、様子は?」

「は、既に道三殿は保護してあります」

「何?(早くないか?)」

 

 長秀の言葉に驚いている信広を他所に長秀が道三殿を連れてきた。

 

「斎藤道三です。この度は真にありがとうございます」

「道三殿、楽にしてよろしい。堅苦しいのは抜きだ」

「……フフ、ありがとうね」

 

 道三殿はそう言って信広にウインクした。子を生んでいるはずなのに色気がある。

 

「(うむ……マジで可愛いよこの人。てか胸でかいよねぇ)道三殿を保護したならもうこの場所にいる必要はないな。直ぐに陣払いをする」

「御意」

 

 到着したばかりではあるが、道三を保護出来たので此処にいる理由は最早なかった。そして軍勢は清洲に戻り、そこで一晩泊まる事にした。

 

「はぁいヒロちゃん」

「ん? どうした慶次」

 

 信広がそろそろ寝るかと思い厠に行こうとして廊下を歩いていた時、慶次に声をかけられた。

 

「ヒロちゃんが溜まってないか来たのよ」

「お前な……」

「ヒロちゃんもそろそろ良い人を見つけないとね」

「煩い。それと誘うような格好をするな。他から見たら間違われるぞ」

「フフ、欲情したのかしら?」

 

 慶次が誘うように信広の背中に自分の胸を押しつけてきた。

 

「なら相手してくれるか?」

「え――きゃ!?」

 

 信広は慶次を咄嗟に抱き締めて唇と唇が当たる寸前まで近づける。

 

「ひ……ヒロちゃん……」

「……嘘だよ慶次」

 

 突然の事に顔を真っ赤にしている慶次に信広はニヤリと笑う。

 

「カッカッカ、早く寝ろよ慶次(エロいなぁ慶治は)」

 

 信広はそう言って厠に行くのであった。そして信広が聞こえないところで慶次は「……熱くなったじゃないの」と言っていたらしい。

 

 

 

 

 




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if短編 こんな織田家は嫌だ

今回は二本立てです。


 

 

 

 岐阜城、その城主は第六天魔王と呼ばれる織田信長である。その岐阜城に今日、一つの軍団が帰還した。

 

「織田信広、只今戻りました」

「大儀であったぁ兄上よぉ」

 

 岐阜城の天守で織田信長は庶兄である織田信広と面会していた。信長の傍らには正室の濃姫と近習の森蘭丸がいた。

 

「信広様も如何ですか?」

 

 濃姫は人間の頭蓋骨を半分にした器に酒を注いで信長に渡す。

 

「貰うが普通の茶碗でくれ」

「あら、残念ですわ」

 

 濃姫はクスクスと笑い、茶碗に酒を注いで信広に渡す。

 

「兄上よ……余は一月で伊勢を落とせと言うた筈ぅ。何故二月も掛かった?」

 

 信長はジロリと信広を睨み付けた。

 

「伊勢なら半月で落としたぞ。南蛮の大筒を改造した国産大筒は役に立った」

「なら一月半、何をしていた?」

 

 言葉次第では首をはねるという表情をしていたが信広は平然としていた。

 

「紀州攻略してたけど」

「………」

 

 信広はそう言って茶碗に注がれた酒を飲む。流石に一気には飲めないが腹に酒が染み渡る。

 

「紀州……雑賀衆と根来衆を引き込んだか」

「根来衆の杉の坊一門は武将待遇で鉄砲隊を率いてもらう。勿論雑賀衆もね(正規雇用だな。本願寺の戦力を引き裂いたし)」

「両衆は鉄砲の扱いは一級品ですわね」

 

 濃姫はそう補足をして空になっている信長の器に酒を注ぐ。

 

「……上出来であるな兄上よぉ」

「信長に比べたら俺は非才よ。それと雑賀衆の雑賀孫一が俺の側室になるから」

「……信広様、直虎様が怒りませんか?」

「……既に殴られたから大丈夫だ」

 

 濃姫に指摘に信広は目線をそらした。

 

「俺よりお前らも子を作れ」

「ふん、奇妙がおるわ」

「側室の子だろ。お前と濃姫の子を作れ」

 

 信広は溜め息を吐きながら残りの酒を飲み干す。

 

「それじゃあ俺は戻るぞ」

「次は六角ぞ」

「信長なら一捻りだな」

「フハハハ。兄上には武田の備えをしてもらおうぞ」

「承知した」

 

 信広はそう言って退出した。

 

 

 

 

「……はあぁぁぁ~~~……あいつと対面するだけで胃が痛くなる……」

 

 岐阜城の屋敷で信広は茶を飲みながら溜め息を吐いた。

 

「ま、原作と比べたら魔王化は下がってるから良いのかな?」

 

 信広には憑依した未来日本人がいた。信長の幼少期に信広は信長に「天下は覇道ではなく王道でするもの」と教えていた。それに堺の南蛮に接触して大筒を購入して鉄製にして国産化していたりする。

 

「まぁ……大丈夫だろ」

 

 そう呟く信広であった。

 

 

 

 

 

『こんな織田家は嫌だその二』

 

 

 

「では信広殿は我々と同じ未来の日本人と?」

「そうです。まさか自衛隊がタイムスリップとは思いませんでしたが」

 

 清洲城の一角で織田信広と的場一等陸佐はそう話していた。事が起きたのは数日前、突如清洲城内に謎の武装集団が現れたと伝えられた信広が清洲城に向かうとそこには陸上自衛隊がいたのだ。

 

「陸上自衛隊第三特別実験中隊を指揮します的場一等陸佐です」

「織田信長の庶兄の織田信広です。そして貴方方と同じ未来の日本人です」

「……はい?」

 

 的場は思わずそう呟くのは当たり前の事だった。

 

「未来の日本に帰還出来ると思いますか?(戦国自衛隊1549じゃねぇか……)」

「……無理に等しいですな。しかし、今川が織田家の傘下で信長は女性とは……」

「他にも斎藤道三も女性です。自分は此処は平行世界の日本だと思います」

「平行世界……」

「小説等によくあるでしょう? ですが的場一佐、貴方方はこれからどうしますか?」

「……分かりません」

「……宜しければ我々と天下を取りませんか?」

「信広殿……織田家とですか?」

「はい、既に自分がある程度の歴史を改変していますしいっそのことやりませんか?」

「………」

「まぁいきなり言われても仕方ないですよね。一月の時間はあげますのでゆっくりと考えて下さい」

 

 そして一月後、的場一佐の部隊は織田家の加入を表明した。

 

「分からんから兄様に任す。兄様が未来の日本人とはな」

「承知した。まぁ俺は俺だ」

「フハハハ、それもそうだな兄様」

 

 そして陸上自衛隊――天導衆を加えた織田家は天下統一に向かう。

 

「燃料はどうしますか信広殿?」

「相良油田の辺りを織田領にしたので燃料は問題ありません。あの油田はゴミを取り除けばそのまま使えますから」

 

 天下統一後に陸上自衛隊の特殊編成部隊が現れた。

 

「天下統一……え?」

「森三佐、来て済まないが我々は残る。部下の中には家族も出来た者もいるし私もこの世界に骨を埋める」

「」

 

 

 

 

 今、物語が始まる(始まりません)

 

 

 

 

 

 




戦国BASARAと戦国自衛隊1549のコラボでした。
言っておきますが続きはありませんので。

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没 足利ルート編

if短編の恋姫編は「原作主人公を死なせんな」というメッセが複数来たので削除しました。
代わりに没ルート編を出します。
if短編恋姫で何故最期は自爆なのかは松永久秀を真似たからです。


 

 

 

 

 

 時は慶応四年一月三日、日本史上の大規模な内乱である戊辰戦争が京の鳥羽伏見で勃発した。

 これが後の戊辰戦争の緒戦である「鳥羽伏見の戦い」である。

 経過を説明すると、三日の夕方には下鳥羽や小枝橋付近で街道を封鎖する薩摩藩兵と大目付の滝川具挙の問答から軍事的衝突が起こり、鳥羽方面での銃声が聞こえると伏見(御香宮)でも衝突、戦端が開かれた。

 このときの京都周辺の兵力は新政府軍の約五千名(主力は薩摩藩兵)に対して旧幕府軍は約一万五千名を擁していた。

 鳥羽では総指揮官の竹中重固の不在や滝川具挙の逃亡などで混乱してしまい、旧幕府軍は狭い街道での縦隊突破を図るのみで、優勢な兵力を生かしきれず、新政府軍の弾幕射撃によって前進を阻まれ、伏見では奉行所付近で幕府歩兵隊、会津藩兵、土方歳三率いる新選組の兵が新政府軍(薩摩小銃隊 )の大隊規模(約八百名)に敗れ、奉行所は炎上した……筈であった。

 

 

 

「申し上げます!! 伏見奉行所未だ燃えず!!」

「ぐぅ……何故だ!! 何故奉行所が落ちんのだ!!」

 

 物見からの報告に新政府軍の指揮官がそう叫ぶ。伏見奉行所では新撰組、幕府歩兵隊、会津藩兵が激しく抵抗していたのだ。

 

「そ、それが幕府軍は我等と同じスナイドル銃やエンフィールド銃を多数装備しているようです!!」

「な、何ぃ?」

 

 兵士の言葉に指揮官が驚いた。

 

 

~~伏見奉行所~~

 

「ハッハッハ、薩摩の奴等は中々攻められないようだな」

「源さん、笑う暇があるなら撃って下さいよ」

 

 急造陣地の中で着込襦袢、襠高袴、紺の脚絆、後鉢巻、白の襷を着て高らかに笑う新撰組六番隊組長井上源三郎に一人の青年の隊士はそう言った。

 

「ハッハッハ、生駒(いこま)には叶わぬな。それじゃぁ儂も撃つとするか!!」

 

 井上は生駒と呼ばれる隊士にそう言ってエンフィールド銃を構えて引き金を引いた。弾丸は見事に敵薩摩兵の頭を撃ち抜いて薩摩兵が地面に倒れる。

 

「薩摩の奴等が大砲を持ってきたぞ!?」

 

 他の隊士の叫びに生駒と呼ばれた隊士はゆっくりと急造で構築した陣地から覗くと、新政府軍側は四斤山砲を五門を持ってきているのが見えた。

 

「砲手を狙え!! 奴等に撃たせるんじゃないぞ!!」

 

 井上組長の叫びに生駒や他の隊士もエンフィールド銃を構えて新政府軍側に弾丸を放つが、新政府軍側も負けずに撃ち返してくる。そして四斤山砲が砲撃を始めて折角作った急造陣地を破壊した。着弾付近にいた兵が爆風で吹き飛ばされている。

 

「も、最早持ちそうにありません!!」

「……生駒、やむを得んが後退するぞ。薩摩の奴等め、鳥羽側から援軍を持ってきたようだ」

「……そのようですね。全員第二陣地まで後退するぞ!! ほら、しっかりしろ!!」

 

 生駒は近くに倒れていた負傷隊士の襟を左手で持ち、右手で負傷隊士のエンフィールド銃とエンフィールド銃の弾丸が入った弾箱を持って引き摺るように後退する。

 

「砲弾が来るぞォ!! 伏せろォ!!」

 

 その時、新政府軍側が砲撃を始めた。生駒も伏せようとした瞬間、何と砲弾は生駒の足下に着弾して爆発したのである。

 

「しま――」

「い、生駒ァッ!!」

 

 生駒は爆風で吹き飛ばされていた。ジェットコースターみたいな浮遊感があると思ったら地面に叩きつけられた。

 

「が……(せ、背中が……それに前も……)」

 

 生駒は叩きつけられて背中を強打し前は砲弾の破片が腹や脚を傷つけたり食い込んだりしていた。特に右腕は破片が当たって肉がもがれ、骨まで見えていた。

 

「(う、動けない……)」

 

生駒は身体を動かそうとするが痛くて動けないし血がドクドクと出て辺りを血の池にしている。

 生駒自身も死が近づいているのが分かる。瞼が重くなっていくのが実感している。

 

「生駒、しっかり――」

 

 近づいてきた井上組長の声が段々と聞こえなくなってきたのを生駒は感じた。

 

(……また死んだなぁ……二回目の死亡か。ついてないよなぁ……)

 

 

 

 

「……虚しいものだな。栄華を誇った足利家今では地に落ちておる」

 

 京の二条御所。その場所で一人の女性がそう呟いた。女性は複数の刀を帯刀している。

 

「大丈夫です。義輝様ならやれます」

 

 女性の傍らに控えていた花の刺繍をし、濃い紫の着物を着た女性が帯刀している女性に言う。女性はそれを聞いて微笑む。

 

「ありがとう幽斎」

 

 女性は礼を言うと視線を庭に向ける。そして瞬きをした瞬間、庭に武装した男が倒れていた。

 

「な―――」

 

 女性は思わず息を飲み、隣にいる着物の女性に視線を向ける。着物の女性も唖然としているのは一目瞭然だった。

 

「……乱破……か?」

「乱破にしては服装が派手過ぎませんか義輝様?」

「確かにのぅ……。よし、幽斎。こいつを布団に寝かしてやるのじゃ」

「宜しいのですか?」

「構わぬ。乱破なら首をはねればよい」

 

 そして二人は男を寝床に寝かせるのであった。

 

「……しかしこの鉄砲は何じゃ? わらわはこのような鉄砲は見たことが無いのぅ」

「私もです義輝様」

 

 二人は鉄砲を見るのであった。

 

 

 

 

「……ぅ、此処は……知らない……天井だな」

 

(電波受信したんだ、仕方ないだろ。それより此処は何処だ?)

 

 そう独白将和だが襖が開いて二人の女性が現れた。

 

「目が覚めたようじゃな」

 

 将和は女性の顔よりまず胸に視線が行ってしまう。それほど大きかったのだ。

 

「ふ、二つの巨大な桃がある!?」

「桃……!? き、貴様!!」

 

 将和の言葉に気付いた女性が咄嗟に胸を隠す。

 

(てか今気付いたがかなりエロい服装だなおい)

 

「貴方は誰ですか? 乱破ですか?」

「乱破じゃない。俺は京都守護職、会津藩預かり新撰組六番隊隊士生駒将和だ」

「京都守護職?」

「会津藩預かり?」

『新撰組?』

「へ?(新撰組を知らんだと?)此処は……京だよな?」

「そうじゃ。此処は二条御所じゃ」

「二条御所……じゃあ戦は!?」

「戦? 何の戦じゃ?」

 

(何の戦ってお前……冗談はやめてくれよ)

 

「薩長軍と幕府軍の戦に決まっているだろ。薩摩と長州が同盟を結んで徳川幕府を潰そうとしているだろ?」

「徳川幕府……だと?」

「………」

 

(ん? 今変な事でも言ったか俺?)

 

「……貴様、わらわの前でふざけているのか?」

「ふざけてないぞ。さっきまで鳥羽伏見で戦闘していたんだぞ」

「……義輝様、どうやら私達と彼との間で何らかの誤解が生じているようです」

 

 そこへ濃い紫の着物を着た女性がそう言って将和に視線を向けた。

 

「まず自己紹介からしましょう。私は細川幽斎です」

「はぁ、細川幽斎……ん?」

「わらわは足利義輝じゃ。足利幕府の第十三代将軍じゃ」

「……ファ!?」

 

(……何て言ったこいつら? 確か細川幽斎と足利義輝?)

 

「……足利義輝って暗殺されたよな?」

「暗殺? どういう事じゃ!?」

「ちょ、ま……」

 

(襟を掴むな。掴んだらあんたの胸が当たる……)

 

 抱き寄せられた将和だが心の中ではそう思っていた。

 

「義輝様落ち着いて下さい。とりあえずこの生駒から事情を聞く必要があります」

「……それもそうじゃな」

「それは此方もだがな」

 

(一体何がどうなっているんだ……)

 

 将和はそう思ったが混乱するばかりであった。

 

 

 

「……つまりじゃ、お主は三百年後の日ノ本から来たというわけじゃな?」

「あぁ、俺もにわかに信じがたいがな」

 

 将和はの目の前にいる女性――足利義輝にそう説明した。

 

(しかも聞けば大名達も半分以上は女武将らしいしな。俺が歩んだ歴史と全く違うんだが……いや幕末にいたあの時点で歴史は変わっているな)

 

 将和は元々平成の日本人だ、幕末の日本人じゃない。将和は平成の日本で交通事故に巻き込まれて気付けば幕末の新撰組の屯所にいた。その時に沖田組長に危うく斬られかけたのは些細な事だ。そして新撰組に、幕府に協力する事にした。

 元々歴史好きだった将和は史実より新撰組の強化をしたりしてエンフィールド銃やスナイドル銃を購入して戦力の強化を行っていた。それでも隊内から銃配備は不満の声が噴出していた。(土方さんや永倉さん等。というよりほぼ全員)それで最初に将和を保護してくれて何かと御世話になっていた源さんこと井上源三郎のところで実験的に配備する事になった。

 そして鳥羽伏見で六番隊が奮戦していた……というわけである。

 

「……未来の日ノ本がそのような状況になっているとはのぅ」

「……にわかに信じられません」

「俺もあんたらが足利義輝と細川幽斎とは信じられんよ」

 

(何処のエロゲーだよ……)

 

 そう思う将和だった。

 

「それで生駒、お主はこれからどうする気だ?」

「……正直分からん。未来に帰れたらいいが、下手をすればずっとこの戦国時代にいることになるからな」

「……そこで貴方に提案です」

「何だ細川?(何か嫌な予感が……)」

 

 将和はある程度の予想をしながら細川に聞いた。

 

「帰る手段が見つかるまで義輝様にお仕えしませんか? 勿論俸禄も出します」

「幽斎?」

「義輝様、私はこの人の事は信用していません。ですが、この鉄砲や服装から見て時代が違うのは判ります。幕府を建て直すには一人でも味方は必要です」

「……鉄砲の事は判るが……のぅ」

 

 そう言って義輝が将和に視線を向けてジロジロと見る。

 

「……判った。お主さえよければわらわの家臣になっても良い」

 

(……少しムカつく言い方だが……仕方ないかもしれんな。それに……いや今言うのはやめておくか)

 

「判りました。足利義輝様の家臣になりましょう」

 

 将和は義輝に対して頭を下げた。こうして将和は足利義輝の家臣となった。

 

「もう夜か。今日は飲むとするかの」

「二日酔いはやめて下さい義輝様」

「……義輝は飲んべえかよ……」

 

 その日の宴会はどんちゃん騒ぎになったのは言うまでもない。後に細川から幽斎と呼び捨てで構わないと言われた。久しぶりに笑う義輝様を見て嬉しかったみたいだ。

 

 

 

「頭いてぇ……」

「……うぅ、飲み過ぎじゃのぅ……」

「だから私は言っていたはずです。飲み過ぎないようにと」

 

 将和が水を飲んでいると幽斎が溜め息を吐きながらそう言ってきた。

 

(まぁ幽斎の言葉には一理あるしな)

 

「それはさておきじゃ……これからわらわ達はどうすればよいのじゃ?」

 

 水を飲んでいる義輝が将和に視線を向けて言う。

 

「ぶっちゃけると義輝様の暗殺まで普通に過ごせば良いと思います」

「……それはわらわに死ねと言うのか生駒!!」

「落ち着いて下さい義輝様。死ぬのは偽装です」

「偽装だと?」

「はい。それまでは戦力を整えるのが先決でしょう」

「……戦力とな?」

「まぁ……全部ぶちまけると……室町幕府は一旦滅んで新しい幕府を作り上げるのが妥当なんです」

「新しい幕府じゃと?」

「今の室町幕府を建て直しても滅亡を先伸ばしするだけです。それならいっそ滅ぼして天下統一をしてから新たに幕府を作るのが……」

「……それしか無い……のじゃな」

 

 義輝が無念そうな表情で呟いた。今の状況だとそうするほかないからだ。

 応仁の乱以降、幕府の権威は落ちており溜まりに溜まった垢がいっぱいな状況だ。

 

「……仕方ない。納得せざるえまいのじゃな」

「……済みません」

「構わん。それよりわらわは誰に殺されるのじゃ?」

「確か松永久秀の息子の松永久通、三好義継、三好三人衆が決行したはずです」

「松永久秀の息子久通? 松永に息子なんぞいたか幽斎?」

「聞いた事ありません義輝様。松永が密かに婿を

とっていたなら別ですが……」

 

(ん? 松永が婿をって……おいおい)

 

「まさか松永って……」

「女性です」

「(;゚Д゚)」

 

 流石の将和も唖然とするしかなかった。

 

「すみませんが、全国の大名達の性別を教えてくれませんかね?」

 

 将和はそう聞くしかなかった。二人は少々首を傾げつつ将和に教えた。

 

「……松永久秀は女か。それに三好長慶や三人衆もか……(……なんつう世界だ)」

 

 将和はそう思た。二人によれば他に確認しただけでも尾張の織田信長、越後の長尾景虎や甲斐の武田晴信なども女性との事だ。

 

「生駒の世界の武将は男なのですか?」

「女武将もいる事はいたが、極まれに近いな」

 

(……武将全員を女性に仮定しておくか)

 

「話はずれたから戻すが……暗殺されるまで戦力は整える。後鉄砲の購入及び職人を引き抜いて自主生産するだな」

「鉄砲の生産か……」

「堺から鉄砲の職人を引き抜ければいいが、最初は購入するのが得策だと思う」

「どちらにせよ銭は必要じゃな。だが肝心の銭は少ない」

「……当分は少数購入だな」

 

(将軍家の名声は地に落ちてるな……。銭の収入もあまり当てに出来ないかもしれんな)

 

「屋敷もいざというときに備えて隠し通路を作っておいて脱出しやすいようしとくべきだな」

「うむ、松永の動向も気になるものじゃな」

 

 三人はそのように計画していくのであった。

 

 

 

 

 

 

――後書き――

 

 没ルートの足利ルートでした。

 

 主人公が椿の代わりになると思うので原作みたいに北からではありません。史実の義昭の経路のようになりつつ信長より前に美濃を攻略して半兵衛を調略しようとしたら藤吉郎に調略され安藤守就が怒って半兵衛を勘当して西美濃三人衆が義輝に味方して信長とぶつかるというところまで思案しましたが信長ルートにして残念ながら没になりました。




御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m


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第六話改

 

 

 

 

「兄様、京へ上洛するぞ」

「……尾張の軍勢は弱小って知っているか信長?」

「違う、大軍を率いてではない。軍勢は百人程で将軍義輝と謁見するのだ」

 

 五日後、清洲に呼ばれた信広にいきなり言ったのだ。なお信長の上洛は永禄二年(1559年)と永禄十一年(1568年)である。

 

「だが何故上洛を?」

「なに、剣豪将軍と唄われた義輝がどのような者か見たいのもあるが……諸国の牽制も兼ねている」

「……弱小の尾張でもやろうと思えば上洛は出来る……と?」

「そのようなものだな」

「ふむ、それで将軍に土産は?」

「銭三千貫、金五十枚、銀三十枚だが……」

「銭をもう千貫と金銀三十枚を用意出来ないか?」

「……それくらいなら用意は出来る。が、それを何に使うのだ?」

「お前を天下取りにするためだ。と言ったら許してくれるか?」

「……アッハッハッハッハ!! 分かった兄様、銭は二千貫まで用意する。何せ硝石の銭を他に回せるおかげである程度は楽だからな。後は兄様の腕次第よ」

「……真に感謝します信長様(工作で色々と他にも用意するか)」

 

 そして信広をも加えた上洛一行は三日後に清洲を出立した。その間に尾張を纏めるのは慶次と長秀だ。京へ到着したのは尾張を出立して二週間が過ぎていた頃であった。

 

「……二条御所で謁見じゃなくて斯波家の邸宅か……」

 

 史実でも斯波家の邸宅を改修して住んでいたみたいである。

 

「織田上総介信長、堅苦しい事は言わん。此度の上洛は何じゃ?」

「……将軍家を助けるためでございます」

「嘘をつくのは良くないのぅ上総介。まぁ表向きはそうしておくのじゃ」

「………」

 

 義輝と謁見が終わった信長が酷く疲れていたのは少々驚いた。

 

「兄様……義輝様の殺気は生きた心地がせん」

「……塚原ト伝から指導を受けていた一人だからな(多分俺だったらチビりそうだわ)」

「私は京見物をするが兄様は?」

「俺は少し用事がある」

「うむ」

 

 信広は信長と分かれると数人の供を連れてある屋敷に赴いた。

 

「織田三郎五郎信広です」

「ふむ……尾張のうつけと称する兄かのぅ」

 

 信広は関白である近衛前嗣(後の近衛前久)と謁見していた。

 

「して磨呂に何用でおじゃるかな?」

「……銭二千貫、金銀三十枚、米と麦を各三十石を近衛家に寄付致します」

「……後ろ楯が欲しい……かの?」

「その通りでござる。東には東海一の弓取りである今川義元がいますので……」

「ふむ……あい分かった。うつけ殿に伝えてほしい。困った事があれば協力するとな。あぁそれと尾張守を正式に名乗られよ。斯波家は京におるのじゃ、もはや斯波家に尾張を統治する力は無い。そこのところは任せるのじゃ」

「は、感謝します近衛様。それと寄付も少量ですが……」

「うむ、期待するおじゃ(しかし織田信広かや……この繋がりは逃すわけには行かぬでおじゃるな。めぼしい娘を信広に嫁がせて織田家の仲介役になれば……)」

 

 とりあえず関白との謁見は無事に終わったのである。貴族は今でこそ権威を失いつつあるがまだその影響力はあるところはあるのだ。しかし、信広の用事はまだ終わりではない。

 

「済まんがもう一件行く」

「御意」

 

 供にそう言って別の屋敷に向かう。

 

「織田三郎五郎信広です」

「細川藤孝です。して何用ですか?」

 

 挨拶をする二人。細川藤孝は史実でも足利義昭を支えた人物の一人である。その細川藤孝に信広は用があった。

 

「今から言うのは某の独り言です」

「独り言……?」

「……三好長慶の家臣である松永久秀……何かと危ない輩のようです。松永は平気で人々を驚かせる暗殺をするかもしれません」

「……それは……まさか……!?」

「あぁ、今のは某の独り言ですからな。最近惚けがありましてなぁ。細川殿は何か聞きましたか?」

「……いえ、何も聞いてません」

「さて、お茶も馳走になりましたので此れにて。今度は茶の作法を習いたいですな」

 

 信広はそう言って細川殿に頭を下げて立ち上がり部屋を後にした。

 

「……ありがとうございました」

 

 部屋を出る時に細川殿はそう言った気がした。そして信長一行は京から尾張へ戻るのであった。

 

 

 

「道三殿の服装が助平だと?」

「儂はそう思いませぬが、下の者には溜まる服装でしょうなぁ」

 

 長秀は苦笑しながらそう言う。

 

「(まぁあの服装はエロいと思うがな。)まぁ道三殿はな……。兵達のために欲求を吐き出す部屋を作るか」

「どうなさるので?」

「戦で夫を失った未亡人を主に集めて小屋を作る」

 

 ぶっちゃけて言えば慰安所である。千歯こきで未亡人がする役目が無くなったから農村では多数の未亡人が暇になってるらしい。

 

「それと小屋の掃除等は徹底しろ。両方が病になったら洒落ならんからな」

「兵は欲求を吐き出して女性は代わりにカネを受け取る……ですか」

「それで構わないなら雇え。無理なら別の方向を考える(相手の意見は尊重しないとな。後々五月蝿くなりそうだしな……)」

 

 

 

 

 そして季節は初夏、信広は清洲城に来ていた。清洲城に呼ばれたのは信長から火急の件と言われたからである。

 

「(……まさか桶狭間か?)」

 

 信広はそう思いつつ評定に参加した。

 

「皆に集まってもらったのは他でもない。遠江、駿河に潜らせた者から今川が米や武具の購入が激しいと報告してきた」

「……ではいよいよ今川義元が京へ上洛すると?」

「恐らくはな」

「しかしこれは由々しき事態ですぞ信長様。直ぐに兵を……」

「分かっておるわ鬼五郎左。直ぐに兵を集めよ!!」

 

 こうして信長の号令で戦の準備が始まった。

 

「今川の目的はまず、鳴海城と大高城を奪回するはず。そのため鳴海城周辺には丹下、善照寺、中嶋砦を大高城周辺には丸根、鷲津砦を築いて相互の連絡を遮断している。丸根砦には佐久間盛重と兵五百、鷲津砦には兵三百が入っている。善照寺砦には佐久間信盛と兵三百、中嶋砦には梶川高秀と兵三百五十、丹下砦には水野帯刀と兵三百がおりまする」

「では信長様の本隊にいるのは……」

「約二千也」

「二千では戦になりませんぞ!!」

 

 長秀がそう言ってくる。確かに僅か二千だけで今川に太刀打ち出来ないのは確かであろう。

 

「ならばやる事はただ一つ……そうだろう信長?」

「……奇襲しかないな」

 

 信広の問いに信長はニヤリと笑う。

 

「では何処で……?」

「それは長秀や兄様にも教えられんな。今川の物見が紛れ込んでるかもしれんしな」

「……あい分かった。信長に秘策有りならそれに従うまで」

「その通りです」

 

 そこで軍儀は終わったが信広は信長に呼ばれて信長の自室に赴いた。

 

「兄様、暫くは私と共に行動してくれ」

「……兵力の集中的運用するためか?」

「今回は織田家の命運をかけた戦。兵力は予め私のところに集めておきたい」

「……分かった。勝家達にも伝えておく」

 

 こうして信広は清洲で暫く寝泊まりをする事になった。

 

「信広様、こんな部屋で良いのですか?」

「構わんよ藤吉郎。寝れば十分だ」

 

 信広は藤吉郎に連れられて小さい部屋に入っていた。畳四、五畳くらいの小さな部屋である。

 

「何かあれば知らせます」

「あい分かった」

 

 藤吉郎が出た……と思ったら数分すると信長が入ってきた。

 

「……添い寝してくれ」

「……はいはい」

 

 そう言って信広と信長は背中合わせで寝る事にした。

 

(断ったら多分殺される)

 

 そう思った信広だったが、密着してふと気付くと信長の身体が震えていた。

 

「……なぁ兄様、勝てると思うか?」

 

 布団に潜り込んだ信長が信広にそう聞いてきた。

 

「……大丈夫だ吉。お前なら勝てる」

 

 振り返った信広はそう言って信長の頭を撫でる。信長は信広に撫でられて一瞬だけ嬉しそうな表情をしたが信広と視線が合うといつものキリッとした表情になる。

 

「……撫でるな馬鹿者」

(そう言うけど、嬉しそうですよね? まぁ良いか)

 

 その後、大の字で寝ている信長の脚が信広の脇腹に直撃して悶絶したが、翌日の信長の表情はイキイキとしていたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

      おまけ

 

 

 

「今日のノブちゃんは嬉しそうね。何か良いことでもあったの?」

「まぁ……良いことがあったな」

 

 慶治の指摘に笑う信長。

 

「それじゃあヒロちゃんとヤれたって事かしら?」

 

 ニヤニヤする慶治だったが、対して信長の表情は暗かった。

 

「……まさかヒロちゃん……」

「……添い寝だけで手を出してくれなかった。どうしようお慶?」

「……まさか長秀とそういう関係じゃあ……」

「よし、長秀は切腹とする」

「それは本気で止めなさいノブちゃん」

「でも……頭撫でられた」

(脈あり……かもね)

 

 二人の間でそのような会話があったような。

 

 

 

 

 




貴族に目を付けられた信広でした。御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m


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第七話改

 

 

 

 

「申し上げます!! 今川勢が国境を越えて尾張に侵攻してまいりました!!」

 

 数日後、清洲城に物見がそう報告してきた。

 

「いよいよ来たか。それで今川勢の数は?」

「凡そ二万五千にございまする!!」

「あい分かった」

「御免!!」

 

 報告を終えた物見が去っていく。それを尻目に軍議が行われる。

 

「今川勢は二万五千か」

「話に聞いていた四万とは大分違いますな」

「だが我等の兵力は二千だぞ権六」

「それは分かっておる」

「……それで先方は?」

「恐らくは三河の小娘でしょう」

「……竹千代か」

 

 松平元康は史実通りに戦に参加していた。史実だと元康は桶狭間の合戦時は大高城にいた。

 そして史実通りに今川勢は西進して沓掛城に入った。そのまま今川義元は松平元康の三河勢を大高城に兵糧を届けさせるのであった。

 

「どうする? 籠城するか?」

「籠城して今川勢が素通りすると思うか? それなら出撃する方が良い!!」

「僅か二千でどう戦うというのだ!! 最早籠城しかあるまい!!」

 

 清洲で軍議を開いていたが家臣達は紛糾していた。織田が取るのは二つ、籠城するか出撃するかの二択である。

 

「殿、殿は如何なされますか?」

 

 家老の林秀貞が信長に問う。対する信長は欠伸をすると立ち上がった。

 

「……もう今日は遅い。皆も早く寝ろ」

 

 信長はそう言って場を後にした。残っている者達は溜め息を吐いた。

 

「……織田も終わりかのぅ」

「縁起悪い事を言うな権六。大丈夫だ、我等が勝つ」

「……殿には勝算があるので?」

「そう言う事だ。殿が落ち着いているのに我等が慌ててどうする。果報は寝て待てと言うしな」

「……分かりました。今日はもう終わりにしましょう」

 

 そう言って軍議は終了した。そして卯の刻、寝ていた信広の部屋に藤吉郎が飛び込んできた。

 

「の、信広様!!」

「んが、どうした藤吉郎?」

「の、信長様が敦盛を舞って出陣しました!!」

「何!? それで数は?」

「信長様を含めて僅か六騎です!!」

「……あの馬鹿。行動するにしても少なすぎ……いや今はそう言っている場合じゃない。直ぐに追う、藤吉郎も来い!!」

「御意!!」

 

 信広は念のために武具を付けて横になっていたから着替えるのは兜だけだった。着替えを済ませた信広は藤吉郎から握り飯と竹の水筒を受け取り馬に乗る。

 

「藤吉郎、後ろに乗れ」

「え、え?」

「今は一刻の猶予も無い。早く乗れ!!」

「は、はい!!」

「信長の行き先は?」

「熱田神社に向かいました!!」

「よし、準備が出来た者から熱田神社に向かえ!!」

 

 俺は準備が出来た騎馬三十騎を従えて熱田神社に急いで向かった。

 

「……(凄く……おっぱいが当たっている……と思ったか? 残念、鎧があるから分からん!!)」

 

 藤吉郎を後ろに乗せてるから背中におっぱいが当たっている……という事はない。

 そんな事もあり信広達が熱田神社に到着すると既に三桁程の兵が集結していた。

 

「遅かったな兄様」

「お前が早すぎんだよ、藤吉郎も放っといて」

「なに、サルなら必ず来ると思うからな」

「信長様……」

「褒めてはいないと思うぞ藤吉郎」

 

 何故か感激している藤吉郎に信広はそう言った。そして熱田神宮で戦勝祈願を行った。そのまま織田勢は鳴海城を囲む善照寺砦に入り軍勢を整えた。

 

「兵の数は?」

「二千八百です」

「申し上げます!! 丸根、鷲津砦が陥落致しました!!」

 

 物見がそう報告してきた。史実なら丸根砦で佐久間盛重が、鷲津砦で織田秀敏が討死している。

 

「丸根砦の佐久間盛重様、鷲津砦の織田秀敏様討死です!!」

「(……やっぱりか……)」

「……丸根に鷲津……義元は大高城へ向かう気か?」

「丸根と鷲津は大高城を圧迫する役目でもあった。なら急ぐか?」

「……確信的な情報が欲しい」

「だが時間を無駄にしてはならん」

「それは分かっている兄様」

「申し上げます!!」

 

 そこへまた物見が報告に来た。

 

「今川勢本隊は沓掛城を出て大高城方面に向かいつつあり!!」

「……よし、出陣だ。義元が大高城に入城する前に叩く!! だがもう少し近づく、このまま中島砦に向かう!!」

 

 織田勢は善照寺砦を出陣した。

 

「防備の兵はどうする?」

「……大量の幟と兵五十で守ってもらう」

「……空城にするわけか」

「兎に角急ぐぞ」

 

 織田勢は鷲津砦に近い中島砦に向かった。

 

 

「申し上げます!!」

 

 中島砦に到着すると物見が報告に来た。

 

「佐々政次様、千秋四郎様討死!!」

「討死!? どういう事だ!!」

「信長様出陣の報に意気上がり単独で今川勢前衛に攻撃、両名とも討死しました。残存兵は散り散りになり遁走!!」

「先走りしおってからに!!」

「済んだ事は仕方ない林。今は義元を討つのみだ」

「申し上げます!!」

「何じゃ?」

「今川勢本隊、桶狭間山にて休息中也!!」

「これは好機!!」

 

 物見の報告に信長が立ち上がった。

 

「直ぐに桶狭間山に出陣する!!」

「御意!!」

 

 織田勢は中島砦に入るも直ぐに桶狭間山に向かった。その行軍途中、雨が降ってきた。

 

「これは正しく義元を討てとの天命だな」

「あら、ヒロちゃんも珍しく天に願ったのかしら?」

「熱田神宮に戦勝祈願しているんだから当たり前だろ慶次」

 

 カラカラと笑う慶次に信広はそう言う。

 

「全軍に下知だ。分捕りするな、全て切り捨てにせよ!!」

 

 先頭を行く信長がそう叫ぶ。桶狭間山に進軍中、雨はますます強さを増してきた。

 

「こりゃあかなりのどしゃ降りだな」

 

 だが桶狭間山に到着すると雨は段々と小降りになってきた。

 

「今川の陣営が見えた!! 全軍突入せよ!! 雑魚に構うな、狙うは義元の首ただ一つだ!!」

『ウワアアアァァァァァーーーッ!!』

 

 信長の叫びに兵達は雄叫びをあげて今川の陣営に突入を開始した。

 

「な、何じゃこの声は!?」

「敵じゃ!! 織田の軍勢が攻めてきたぞ!!」

「俺の槍は何処じゃ!!」

 

 突然の奇襲に今川勢は混乱している。よく見れば今川の兵達は酒を飲んでいた。酒を飲んでいるとなると酔いが回り身体はふらついている筈である。

 

「よし、我等も行くぞ長秀!!」

「御意!!」

 

 信広と長秀は槍を持ち突入する。

 

「おりゃ!!」

「ぎゃ!?」

 

 槍を足軽の胸に突き刺して足軽は絶叫をあげて地面に倒れる。地面には足軽の血が流れ出して血の池を作る。

 

「今川義元は何処だ!! この織田信広が御相手致す!!」

「織田の重臣だ、討ち取れ!!」

 

 足軽達が信広に群がろうとするが、何処からか現れた苦無が頭や胸に突き刺さって倒れる。

 

「信広君には手出しさせぬ」

「済まぬ撫子。飛龍、奴等を混乱させろ」

「御意」

 

 助けてくれた撫子に信広は頭を下げて飛龍に指示を出す。消えた飛龍に信広は前に視線を移す。

 

「さぁ出てこい義元!! 俺が御相手致す!!」

 

 信広はそう言いつつ槍を使い足軽の命を刈り取る。

 

「義元様には近づけさせん!!」

 

 その時、武将らしき人物が騎馬で来た。

 

「我は井伊直盛也!! 殿には近づけさせん!!」

 

 

 

 

 




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第八話改

 

 

 

 

 

 

 

 

「我は今川家家臣井伊直盛也!! 殿には近づけさせん!!」

「今川の重臣か。我は織田信広也!! 御相手致す!!」

 

 信広と井伊直盛は互いに槍で突き刺そうとするが、二人ともそれを避ける。

 

「そりゃ!!」

「ぬん!!」

 

 一瞬早くに信広は直盛の胸を突き刺そうとしたが、直盛は身体を捻り槍は空を斬るが直盛が信広の槍を掴んだ。

 

「むむむ」

「ぐぐ……(……これは我慢の比べ合いになるか? なら此方が動くまで!!)おりゃ!!」

「な、しま――」

 

 信広は今出せる力で直盛を落馬させた。槍は中程でボキッと折れたが信広は気にせずそのまま直盛の胸に突き刺した。

 

「ガハ!?」

 

 突き刺された直盛が口から血を吹き出し、膝を地面に付けた。信広は刀を抜き、直盛の首筋に刀身を添えた。

 

「何か言い残す事は?」

「……次郎法師の子どもを見れなくて無念だ」

「……次郎法師……って(次郎法師は確か井伊直虎だよな? てことはこの井伊直盛は直虎の親父か?)確か次郎法師は婚約者が井伊直親と聞いていたな。そして義元に謀反をかけられ信濃に逃亡するが信濃で正室を迎えたらしいな」

「ほぅ……よく知っておるな小僧よ?」

「情報は大事だからな。……なぁ井伊直盛、これも何かの縁だ。次郎法師を俺の側室に迎えてやろうか?」

「……ハッハッハ!! 戦場で娘に求婚か、織田の人間は中々面白いものよのぅ」

「なぁに、戦は織田が優勢だ。最早今川はやられたも同然也」

 

 輿で逃げようとしていた義元だが、輿が壊れたため馬で逃げようとしている。護衛に三百ばかりの兵がいるがその周りを信長達が包囲していた。

 

「……今川の栄光もこれまでか。義元様の首が取られる前に……頼む婿殿」

「承知した義父殿。撫子、警備を頼む」

「任された」

 

 撫子が辺りを警戒しながら信広は起き上がって座る直盛の後ろに立つ。敵の首を取る時が一番警戒しなくてはならない。

 

「……御免!!」

 

 そして信広は刀を降り下ろして直盛の首を斬り落とした。

 

「見事だ信広君」

「うむ。……今川家家臣、井伊直盛は織田信広が討ち取った!!」

 

 信広は大声を出して周りにいる者に伝えた。

 

「して義元は何処だ?」

「まだ交戦しているよ。中々厄介な事だ」

 

 撫子の指差す方向にはまだ信長達は義元の兵三百と交戦していた。

 

「俺達も続くぞ!!」

「御意」

 

 信広は馬に乗り、槍を持って駆けた。まぁ直ぐに着くが。

 

「矢を射掛けよ!! 敵兵を削ぎ落とせ!!」

 

 信長が叫び、弓隊が矢を放つ。矢は次々と義元を護衛していた兵に命中して命を刈り取る。

 

「射掛け続けろ!!」

 

 弓隊は交互に放ち、今川の戦力を削り続ける。そして信長が叫んだ。

 

「今だ、押し潰せ!!」

「突撃!!」

 

 戦力が削れたところを信長が見逃さずに突撃を命令、今川の兵はあっという間に地面に倒れていく。

 

「おのれ尾張のうつけの分際で!! 海道一の弓取りであるこの儂を討とうなど……」

「御館様を御守りするのだ!!」

「服部子平太推参!! てやァ!!」

「グゥ!?」

 

 信長の馬廻である服部一忠(通称子平太)が隙を突いて義元の脇腹を槍で突き刺した。

 

「ぬぅ!!」

「ガ!?」

 

 しかし義元はそれを気にせず子平太の膝を斬り、負傷した子平太は地面に倒れる。

 

「毛利新助推参!!」

 

 同じく馬廻の毛利良勝(通称新助)が駆けつけて義元を右袈裟斬りで斬りつけた。

 

「ガアァァァ!!」

「グ!?」

 

 致命傷を浴びた義元は最期の足掻きとばかりに新助の左指を食い切った。口に新助の左指を加えた義元はふらふらと少し歩いたと思うとバタリと倒れた。

 

「敵将今川義元討ち取ったりィィィーーーッ!!」

 

 その声は桶狭間の戦場に響いた。

 

「お、御館様が討たれただと!?」

「もう逃げるしかねぇ!!」

「に、逃げろ!!」

 

 義元が討たれた事を知った今川の兵達は次々と逃げ出した。

 

「……終わったな信長」

「……勝ったな兄様」

「あぁ……勝ったぞ」

 

 この時の信長の表情は嬉しそうだった。

 

「嬉しいぞ兄様!!」

「うぷ!?」

 

 感極まった信長が思わず信広を抱き締めるが当の信広は信長の鎧が当たって痛かった。信長も直ぐに自分がした事を思い出して顔を少々赤くしつつ場を整えた。

 

「さて、問題はこの後だな」

「直ぐに今川勢に使者を出す」

 

 それからの織田軍は行動が迅速だった。史実より四日早くに沓掛城を攻略して近藤景春が敗死して一帯を一挙に奪還した。鳴海城は岡部元信が抵抗していたが義元の首級と同じく討ち取られた井伊直盛、松井宗信、由比正信等の首級と引き換えに開城した。

 それと大高城を守っていた松平元康は大樹寺を経由して岡崎城に入城したらしい。

 

「これで今川の命運は終わったも同然だ」

「いや、信長。今川に降伏を促して我等の傘下に入るよう説得しよう」

「どういう事よヒロちゃん?」

「駿河の上には誰がいる?」

「……甲斐の虎か」

「そうだ。海が欲しい甲斐の虎の事だ、義元の跡取りである氏真が幼いから直ぐに駿河に侵攻する。その後は三河、尾張に……」

「侵攻を阻止するために早めに織田の傘下へか……」

 

 清洲に戻った後の軍議で信広は信長にそう主張した。

 

「……上手く行くか?」

「太原雪斎がまだ生きているだろう? 彼女とは一応顔見知りだから俺が使者として説得してみる」

「……分かった、死ぬなよ兄様」

「ふ、信長が天下統一するまで死ねんわ」

 

 信長の言葉に信広は笑う。

 

「ついでに三河に寄ってくれ。竹千代と同盟を結ぶ」

「念には念をか。分かった、信長の目的は西だからな」

「まずは美濃攻略だ」

 

 そして信広は護衛五十名と共に(撫子と飛龍もいる)駿河の今川館へと向かうのであった。

 

 

 

 

「今川家家臣の太原雪斎です」

「織田信長の兄、織田信広です」

 

 今川館で今川家の跡取りである今川氏真も加えて太原雪斎と会っていた。

 

「……久しぶり……ですな」

「えぇ、あの時は安祥城でしたね」

「はい」

 

 信広と雪斎との出会いは城代として安祥城に赴き安城合戦で捕縛された時である。

 

「最初は驚きましたね。私の本陣に攻め込んできたと思ったら白旗を掲げての降伏でしたからね」

「はは、一矢報いようとした結果です」

「なら貴方は一矢報いました。何せ私が驚いた事ですから」

 

 雪斎の言葉に信広は苦笑する。しかし直ぐに両者の顔つきが変わる。

 

「昔話を……しにきたわけではないでしょう信広殿? 今川家は貴殿方織田に降れと?」

「……今川の惨状を甲斐の虎が黙っていると思いますか? 甲斐の虎は海を欲しています」

「その事は十分承知しています」

「領土はそのまま安堵です」

「……随分と信長は気前が良いですね?」

「信長は東に一切興味がありません。まぁ強いて言うなら某は相良と榛原辺りが欲しいですが(相良油田あるしな)」

「?」

「いえ、此方の話です。兎も角、信長は東に一切興味がありません」

「その言葉に嘘偽りは?」

「ありません。必要なら某が切腹しましょうか?」

「……貴方が腹を切る事ではありません。腹を切られたら信長の怒り心頭で怖いですから。分かりました、私も幼い氏真で血筋が途絶えるのは良くありません。織田に降伏し、傘下に加わりましょう」

「……御決断、真に感謝致します」

 

 信広は決断した雪斎に頭を下げた。こうして史実とは異なり今川家は織田に降伏してその傘下に加わる事になった。

 

 

 

   おま慧音

 

 

『数ヵ月後の今川家』

 

「失礼します雪斎殿」

 

 今川家家臣の朝比奈泰朝は今川館で政務をしていた。

 

「どうなされた泰朝殿?」

「雪斎殿で処理して頂く政務を持ってきました」

「そちらに置いて下さい」

 

 泰朝は書簡類を机の上に置いた。

 

「……義元様が戦死なされて早数ヶ月。今川の中は暗雲が立ち込めています」

「……だろうな。私が氏真様に代わり独断で織田の傘下に入った事で私に不満を持つ者はいるであろう」

「ですが私は織田の臣下に入った事は賛成です。今川は義元様に頼りすぎていた面がある。後継者の氏真様がいると言ってもまだ幼いですからね」

 

 泰朝はそう援護する。確かに上には甲斐の虎である武田晴信が控えており、義元亡き後の駿河、遠江を狙おうと虎視眈々としていた。

 しかし、今川が織田の傘下に入った事により織田の援軍を受けやすいようになっていた。

 更に雪斎は越後の龍である上杉輝虎(後の上杉謙信)と密かに連絡を取り、信濃方面に攻め込む気配を見せるよう展開していた。

 この動きに晴信も容易に駿河に侵攻するのが出来ず足踏み状態であった。

 しかし、外は良しとしても内はまだ安全ではなかった。独断で織田の傘下に加わった事を良しとしない家臣もおり、雪斎の警戒はまだ続いていた。

 

「今が堪え時だな……っとそろそろお腹が空いたみたいだな」

 

 その時、隣の部屋から赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。雪斎は隣の襖を開けると布団に寝ていた赤ちゃんが泣いていた。

 

「よしよし……」

「……可愛いものですな」

「私の子だ。良い子に育ってくれるさ」

 

 雪斎はそう言って赤ちゃんの乳をあげる。流石の泰朝も視線を反らして見ないようにする。

 

「しかし乳母を自らするとは……」

「私の子だ。決めるのは私だ」

「そうですか……ところで名前は決まりましたか?」

「あぁ……芳菊丸にする」

「その名は義元様の……」

 

 芳菊丸とは義元の幼名であった。

 

「父親と同じ名を付けた」

「父親……まさか父親は!?」

 

 雪斎の言葉に泰朝は何かに気付いた。雪斎が子を生んだのは桶狭間の合戦が始まる前日であった。今まで病と称して公の場に出ていなかった雪斎が子を生んだのは家臣達にも動揺があり、しかも伴侶がいたと雪斎から聞いておらず、家臣達の間では捨て子を拾ったのか襲われたのではないかと噂されていた。

 

「他の者には言うな。お前だから話せる」

「そうですか……」

「あの時……野盗に襲われ家族をも失った時、義元様と初代様に拾って頂いた時から義元様に好意はあった。そして去年の時、一回限りの閨を共にしてもらった。その時に出来た子だ」

「………」

「この子には血筋の事は言わないつもりだ。今川の後継者は氏真様ただ一人のみ」

「……分かりました。貴女がそうならば某は何も言いません」

「……感謝する泰朝」

 

 雪斎はそう言って子に乳をやるのであった。なお、この子は元服時に母親の名である太原雪斎の名を貰い三代目の太原雪斎となり氏真と生涯を共にするのはまだ先の事である。

 

「それともう一つ報告があります」

「何ですか?」

「遠江国井伊谷の井伊直親に松平と内通の疑いがあると小野道好からの報告です」

「……臭うな」

「やはりですか?」

「ですが証拠はありませんし今の今川家は三国志の状態ですから」

 

 雪斎は井伊氏を犠牲にして今川家の統率を図るつもりだった。

 

(確か井伊家には婚期を逃した次郎法師がいましたからね。追放という形で信広殿に保護してもらいましょう。別に信広殿が次郎法師を側室にしても構いませんし……)

 

 今川家を残すためなら何でもしようとする雪斎であった。

 

 

 

 

 

 




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第九話改

 

 

 

 

「私の子を産んでください」

「御断りします」

「なん……だと……」

 

 今川館での会談後、信広は遠江井伊谷の国人である井伊氏を訪ねた。ぶっちゃけ井伊直虎を側室に貰おうとした。直虎の婚約者の井伊直親は既に正室に迎えていたし直盛殿の約束を守ろうとしたんだが……。

 

「信広様と父直盛は口上での約束のみ。書状があれば私も頷きますが。第一、父を討った者に嫁ぐのが嫁ぐ者の心情を御知りですか?」

「( ; ゜Д゜)アバババババ」

 

 直虎の隣にいる直親が直虎の言葉に慌てている。まぁ嫁くれって言っているのに嫁(予定)が「だが断る」な状態なので慌てるのも仕方ない。

 

「……分かりました。では此度の事は記憶から消しておいて下さい」

「い、いやあの信広様……」

 

 そう言って立ち上がると直親が何か言いたげだった。

 

「ハッハッハ、心配なさるな直親殿。断られたくらいで貴殿方を消すくらいしませんよ。まぁいきなり来たらそうなるでしょうし」

 

 信広は少し意味深な事を言う。恐らく直親殿は切腹させられて御家断絶されると思っていたんだろう。信広はそのような事はしないと改めて言った。

 

「それではお騒がせしました」

 

 信広は直親と直虎に頭を下げて井伊氏の館を後にした。

 

「宜しかったのですか?」

「構わんよ。向こうの言い分も一理ある」

 

 飛龍の問いに信広はそう言った。

 

「(でも……勿体無いなあのオッパイは……直虎(次郎法師)はでかかった。信長くらいの大きさだろうな)ま、所詮は口上だからな。仕方ないよ」

 

 この時の信広は予想もしなかった。半年後、岐阜城にて再び面会するなど……。

 そして尾張に帰る途中、三河に立ち寄り松平元康に織田への同盟を打診した。

 

「如何ですかな松平殿?」

「……暫く考えさせて下さい。それと三河も桶狭間の合戦後、不安定が続いて私に従わない国人が多数います」

「……では同盟の話はそれから……と?」

「はい。ですので信長殿に伝えて下さい。松平は尾張に侵攻する気はないと」

「……分かりました。しかと御伝えします(まぁとりあえずは尾張に侵攻しないと表明しているし問題はないな。それだけでも御の字か)それと駿河・遠江が武田や北条に侵攻された際、道の通行を許可願いたい」

「分かりました。許可致します」

 

 そして信広は大役を終えて尾張に戻った。

 

「……であるか。御苦労だった兄様」

「(……何か機嫌が悪そうだな)はは」

 

 ブスッとした表情をしている信長だが、慶次がソッと信広に耳打ちをした。

 

「ごめんねヒロちゃん。ノブちゃん、美濃攻めに失敗してるから機嫌悪いのよ」

「美濃攻め?」

 

 慶次の話によると信広が駿河へ向かった後に信長は美濃攻めを表明して佐久間信盛に墨俣に築城を下命した。しかし築城を察知した斎藤側の猛攻により佐久間は撤退して築城は失敗。次いで柴田勝家が築城したが、これも斎藤側の猛攻で撤退したのだ。

 

「(……という事はそろそろ藤吉郎がやりそうだな。墨俣一夜城と言われてるらしいが創作との事もあるし……)成る程な」

「道三が生きているし義龍に離反した武将も増えてきたのが美濃攻めの原因なのよ」

「西美濃三人衆の調略は?」

「後一歩のところだったんだけど、墨俣で連敗したから少し警戒しているわ」

「成る程な……」

「信長様!!」

 

 そこへ藤吉郎が意を決した表情をして信長の前に出た。

 

「どうしたサル?」

「……あたしにやらせてくれませんか?」

「墨俣の築城をか?」

「はい!!」

「……分かった。やってみろ」

「ありがとうございます!!」

(……ふむ)

 

 

 

「信長」

 

 藤吉郎が去った後、信広は信長の部屋に訪れた。

 

「どうした兄様?」

「柴田と佐久間を貸してくれ。後鉄砲隊もな」

「……サルの支援ですか?」

「まぁな。藤吉郎も張り切るのは良いが失敗した二人の事も考えないとな」

「……あい分かった。頼む兄様」

「任された」

「出陣するまで時間はあるだろう。饅頭でも食べないか?」

「貰うよ」

 

 そう言って信広は饅頭にかぶりついた。

 

 

 

 それから二日後の夜半、藤吉郎は墨俣にいた。

 

「さぁ皆、早く築くよ!!」

 

 藤吉郎は配下の川並衆を使い、墨俣の木曽川上流で城の部品を予め組んでおき夜半に墨俣まで一気に運んできたのだ。

 藤吉郎と川並衆は寝ずに城を組み立てていくが川並衆の数は約百余りと数が少なく八割方完成の時に夜明けとなった。

 

「これじゃあバレるのも時間の問題……早くしないと……」

「藤吉郎!! 稲葉山城から敵兵が来るぞ!!」

 

 見張りをしていた川並衆の一人が叫ぶ。義龍は藤吉郎の築城に気付き三千の兵を出していた。

 

「……此処までなの……」

「お、尾張方面から兵が来るぞ!!」

 

 諦めかけた藤吉郎だったがまた新しい報告にキョトンとした。

 

「柴田勝家推参!! よくぞ持ちこたえたぞサルよ!!」

「同じく佐久間信盛推参!!」

 

 柴田勝家と佐久間信盛が騎馬を率いて義龍軍に突入した。

 

「え……まさか援軍!?」

「ようやったな藤吉郎」

「の、信広様!?」

 

 藤吉郎の前に現れたのは信広だった。

 

 

 

「柴田と佐久間が防戦している。その間に砦を完成させろ」

「は、はい!! 後一息だよ皆!!」

 

 信広の言葉に藤吉郎は慌てて川並衆に指示を出した。

 

「鉄砲隊用意!! 柴田隊と佐久間隊を援護する!!」

 

 新型種子島と旧種子島と新旧種子島を持つ鉄砲隊が義龍軍に照準を合わせる。

 

「狙うは足軽大将や侍大将等の指揮官だ!! 雑魚には構うな!! 撃ェ!!」

 

 新旧種子島が一斉に火を噴いて義龍軍の兵を地に触れ伏せる。

 

「間を空けさせるな!! 続いて撃ェ!!」

 

 後方に待機していた鉄砲足軽が構えて引き金を引く。五射目程で義龍軍の負傷者を増える一方だった。

 

「引けェ!! 引くのだ!!」

 

 信広達援軍の猛攻に耐えきれず、義龍軍は退却を始めた。

 

「……勝ったか」

 

 退却していく義龍軍に信広はホッと安堵の息を吐いたのであった。藤吉郎も昼前に城を完成させ信長は美濃攻略に一歩踏み出すのであった。

 

 

 

 

「墨俣築城、大儀であったぞサル」

「は、これも柴田様や佐久間様、信広様のおかげであります!!」

「サル顔の女と思っておったが……中々肝っ玉が座っておりますわい。ガハハハハ」

「某も侮っておりました」

 

 藤吉郎の言葉に勝家が豪快に笑っている。墨俣の一件で藤吉郎を認めたみたいだ。勝家の隣にいる信盛も頷いている。

 

「であるか。サル、墨俣築城の褒美として武将に取り立ててやろう」

「あ、ありがとうございます信長様!!」

 

 藤吉郎の武将は誰も反対する者はおらず、此処に織田家武将木下藤吉郎が誕生した。

 さて、墨俣に城を築いた織田軍だったが、攻勢に回っていない。

 

「信長様、今孔明と呼ばれた竹中半兵衛を此方に組みましょう。さしもの義龍も降参するかもしれません」

「であるか。ならやってこいサル」

 

 藤吉郎が半兵衛の調略を主張したから稲葉山城への攻撃はしていなかった。

 

「あ、信広様」

「どうした藤吉郎?」

「信広様も来てくれませんか?」

「何処にだ?」

「竹中半兵衛の家にです」

 

 

 

 

 




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第十話改

 

 

 

「それで半兵衛ちゃん、僅か十六人で稲葉山城を占領したんですよ」

「ほぅ、それは凄いな」

「そうでしょ信広様。あ、それと卵を持ってきました?」

「言われた通りに持ってきたぞ」

 

 竹中半兵衛の家に向かう最中、信広は藤吉郎から半兵衛の話を聞いていた。

 

(……稲葉山城占領は義龍じゃなくて龍興の時だぞ? だが憑依者の俺がいるというイレギュラーな事が起きているのかもな……いや、今川を織田に降伏させた時点でイレギュラーなのかもしれないな。俺が知っている歴史も何処まで自信があるか分からんな)

「あ、この家なんですよ」

 

 馬に揺られて信広と藤吉郎は山の麓にある小さな家を訪ねた。

 

「来たよ半兵衛ちゃ~ん」

「……また来たのですか~」

 

 中から現れたのは一人の女性だった。かなりの色白だがちゃんとご飯を食べているのだろうか?

 

「半兵衛ちゃん、この前より顔色が良いね」

「……は?」

「はい~藤吉郎さんが教えてくれた麦飯や玄米、生姜等に変えたら大分血行も良くなったと医師も言ってくれました」

(……この顔色はかなり良くなったのか? まぁそこは言わないでおくか)

「それでそちらの方は?」

「これは失礼した。某、織田信長の庶兄の織田信広であります」

「これはこれは御丁寧に。こんな山奥まで御足労ありがとうございます。私は竹中重治です。半兵衛とも言われています。まぁ立ち話でもあれですからどうぞ中へ」

 

 半兵衛に言われて信広と藤吉郎は半兵衛の家にお邪魔した。

 

「どうぞお茶です。私は生姜湯ですが」

「これは忝ない」

 

 信広と藤吉郎がお茶を貰うと藤吉郎が口を開いた。

 

「半兵衛ちゃん、私が此処に来たのはもう分かってるよね?」

「……織田家に来い……でしょう。ですが藤吉郎さん、私は幼少から身体が弱いのですよ」

「でも今は大分良いでしょう?」

「……昔から私を診断していた医師は大分良くなっているとの事です」

「なら――」

「藤吉郎さんがしてくれたのは有りがたいです。でも私は斉藤家に仕えています。私は義を通したいのです」

(信広様も何か言って下さい)

「(分かった)ふむ……竹中殿、率直に言いますが斉藤家に明日はあると思いますかな?」

「……現状では無いです。南に織田がいます」

「その斉藤家は王手です竹中殿。墨俣に我々は砦を築きました、此処にいる藤吉郎のおかげでね」

「……随分と危険な賭けをしましたね」

「そうですな。ですが賭けは成功しました。竹中殿、貴女を此処で朽ちらすのは少々惜しい。某も貴女は天賦の才だと思います」

「ヌフフフ~そんな事はありませんよ」

「いやいや今孔明と言われているのですよ。謙遜されては困ります」

 

 謙遜する半兵衛に信広は苦笑する。

 

「半兵衛ちゃん、半兵衛ちゃんに教えた料理は信広様に教えてもらったんだよ」

「そうなのですか?」

「……うむ(まぁ藤吉郎が勝手に半兵衛に教えたみたいだがな。俺はそんな事知らんしな。とりあえず話に合わせよう)」

「……信広殿、それなら貴方は私の命数を延ばした事になりますね」

「まぁ……な」

「つまり私は織田家に義がある……と言うのですか藤吉郎さん?」

「ま、そういう事だね」

「(……そーなのかー。思わず宵闇の妖怪の真似をした俺は悪くない……多分)」

「……命の義は斉藤家よりも重い……ですか。分かりました、藤吉郎さん。織田家に仕えましょう」

「ホントに半兵衛ちゃん!?」

「はい、ただし藤吉郎さんに仕えます。それで宜しいですか信広様?」

「構わんよ竹中殿、信長には俺が言っておく」

「半兵衛で構いませんよ」

「それと半兵衛ちゃん。今日は鶏の卵を持ってきたよ」

「……まさか俺が作るのか?」

 

 こうして信広と藤吉郎は竹中半兵衛という軍師を手に入れた。あまり信広はしていないが。というより卵を使って目玉焼きと卵焼きを料理したに過ぎない。

 

「藤吉郎さんが私を出し抜くとは思いませんでした」

「いやぁ、信広様が一緒じゃなかったら無理だったよ」

 

 墨俣砦に向かう途中、二人はそう話していた。その信広はというと……。

 

(長秀に命じて身体に良い献立を半兵衛用に考えないとな。玄米とかだな)

 

 

 

 

「半兵衛を藤吉郎の軍師に? 勿論許可するぞ」

 

 半兵衛を織田に引き込んだと報告を受けた信長は満面の笑みで信広にそう言った。

 

「それでは稲葉山城を取るとするか」

 

 信長は三日後に稲葉山城の攻略を表明し、信広は信長の許可を得て飛龍を稲葉山城の偵察に差し向けた。

 

「無理はしないようにな」

「御意」

 

 飛龍が稲葉山城へ向かって二日後、飛龍がある報告をしてきた。

 

「何!? それは誠なのか飛龍!!」

「は、誠です」

「……分かった、御苦労だ飛龍。明日の総攻撃にはまた働いて貰うからゆっくりと休んでくれ」

「御意」

 

 飛龍に休憩を与えて信広はそのまま信長の元へ赴いた。

 

「どうした兄様?」

「信長……今、忍から報告が来たんだが……義龍が急死したらしい」

「……裏は?」

「俺の忍の報告しかない。だが、俺の忍は優秀だから敵の策略に引っ掛かる筈がない。総攻撃前に降伏の使者を出してみよう」

「……とりあえず総攻撃の前に降伏の使者を出す。それで拒絶するなら……踏み潰すまでよ」

「……あぁ(魔王になるなよ信長……)」

 

 そして翌日、稲葉山城に降伏の使者が赴いた。

 

「(降伏すれば城兵の命は全て助けるとしてるし血筋を残すなら降伏してほしいがな……)降伏勧告に参りました」

「降伏致します」

「( ; ゜Д゜)」

 

 使者の前に現れたのは斎藤義龍ではなく十を過ぎた女の子だった。

 

「……斉藤義龍殿は如何なされた?」

「……父義龍は昨日急死しました。父に代わり斉藤龍興が一色家の当主になりました」

「……左様でしたか」

 

 こうして稲葉山城は開城して戦国大名斉藤氏は織田の軍門に下った。

 

「道三、捕虜の龍興は貴女に預ける」

「ありがとうございます信長様」

 

 流石に道三も公の場ではちゃん付けをしない。この後、美濃三人衆は信長の配下になる事になる。

 そして美濃三人衆も史実通りに信長に人質を出すのが遅れていたが、信長は笑って許した。

 夕刻、稲葉山城を攻略した祝いとして織田・斉藤の家臣が飲んでいた。

 

「互いに思うところがあるだろう。しかし、今日から天下を目指し手を取り合うのだからいがみ合いは今日で無くそう」

 

 信長はそう言って自ら徳利を持ち日本酒を御猪口ではなくご飯が盛っていた茶碗に並々に注いでそれを一気に飲み干した。

 そして旧斉藤家家臣一人一人に酒を注いだ。信長の行動に旧斉藤家家臣達は涙を流し信長に忠誠を誓うのであった。

 

「……飲み過ぎたかな」

 

 宛がわれた部屋で信広は水を飲んでいた。飲み過ぎて酔いを醒まそうとしていたのだ。そこへ道三殿が部屋に入ってきた。

 

「信広ちゃん、龍興ちゃんの助命をしてくれてありがとうね」

「……何の事ですか道三殿?」

「信長ちゃんから聞いたわ」

(……あのお喋りめ)

「降伏してくれるなら兵の命も無駄に死なせずにすみますからね」

「……ふふ、そういう事にしておくわ」

 

 道三殿はそう言って信広に近づいて――。

 

「ん……んぅ……」

 

 道三殿は信広にキスをしていた。

 

「……これはお礼よ信広ちゃん」

 

 道三殿はそう言って笑い、信広の部屋を出ていった。

 

「……惚れてまうやろ……」

 

 思わず某芸人の真似事をしてそう呟いた信広であった。なお、その光景を信長が見ていた。

 

「……やりおるな道三。ならば!!」

 

 信長は小姓を通じて信広を天守閣に呼び出した。

 

(もう小細工は兄様に通用しない……なら一気にやるしかない!!)

「夜中に何か用事か信長?」

 

 何かの決意を固めた信長の元に何も知らない信広が部屋に現れた。

 

「………」

「ん?」

「兄様!?」

 

 覚悟を決めた信長は信広の元に駆け寄って抱きつこうとした。しかし、信長は転けた。擬音があったならばビターン!!と顔を思いっきり強打した。

 

「だ、大丈夫か信長!?」

「うぅ……」

 

 流石の信広も心配して駆け寄る。

 

「痛いところは無いか?」

「………」

「ん?」

「……おんぶしてくれ」

「ファ?」

 

 信長の言葉に目が点になる信広だったが、やがて信長をおんぶして襖を開けて外に出た。夜中の空は数多くの星々が誕生した時の光を何億光年の距離を経て二人の元に来ている。

 

「綺麗だな信長」

「……そうだな」

「今の日ノ本はあの星々のように分かれている。吉、お前なら天下統一が出来る。俺が天下統一するその日まで支えてやる(……何かプロポーズのような気がするが……気のせいだな)」

「……ありがとう兄様。だがな兄様、統一するその日までじゃなくて統一後も私を支えてほしい」

「――」

 

 信長は信広の言葉にクスリと笑った。月明かりに照らされた信長の笑顔に信広はドキッと心臓が高鳴った。

 

「……そうか」

 

 信広はその高鳴った『何か』を押さえつつ信長の頭を撫でるのであった。

 

 

 

 

 その頃、全国の戦国大名達が目指す場所の京ではある事が起きていた。

 

「おのれ賊どもめ!!」

 

 京、二条御所。室町幕府第十三代将軍足利義輝は謎の兵力に押し寄せられ居住している二条御所で奮戦をしていた。

 

「此処を何処だと思うておる、将軍家じゃぞ!!」

 

 義輝はそう叫ぶのであった。

 

 

 

 

 




信長にフラグを建てる信広でした。
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第十一話

 

 

「おのれ賊どもめ!!」

 

 京、二条御所。室町幕府第十三代将軍足利義輝は謎の兵力に押し寄せられ居住している二条御所で奮戦をしていた。

 

「此処を何処だと思うておる、将軍家じゃぞ!!」

 

 義輝はそう叫びつつ名刀三日月宗近を振るい雑兵の首を刈り取る。血飛沫が義輝に降り掛かるが義輝は気にしなかった。

 

「遅くなりました義輝様」

「幽斎、来てくれたか!!」

 

 そこへ武装した細川幽斎が兵を率いて義輝の救援に来た。

 

「このまま脱出しましょう。此方の兵は僅かに三百、勝ち目はありません」

「……分かった。落ち延びようぞ」

 

 義輝と幽斎は謎の兵力に攻撃されながらも二条御所を脱出して京から近江に近い山奥の廃社に移動した。

 

「それにしても幽斎、よく駆けつけてくれたのぅ」

「……以前より注意を呼び掛けた者がいましたので準備はしていました」

「そうか……其奴には感謝せねばならんな。ところで幽斎、これからどうする?」

「……とりあえず越前に向かいましょう。京は既に敵の手中です」

「……あい分かった。朝倉は逗留を許してくれると思うが京へ進軍してくれると思うか?」

「……越前の後ろは一向宗が治める加賀です。残念ながら……」

「……とりあえずは越前に参ろう。後の事はそれからじゃ」

 

 こうして義輝一行は越前へ落ち延びていった。

 

 

 

「……義輝は死なずに行方を眩ましたわけね」

「も、申し訳ありません!!」

「……次は無いわよ」

「はは!!」

 

 夜半、何処かの屋敷でそのような話が行われていた。部下は女性に頭を下げて退出した。

 

「……義輝が死ねばどうなるか見物だったけど行方不明じゃ仕方ないわね」

 

 一人残った女性はそう呟いた。

 

「良いわ。私に刃向かうなら潰すまでよ」

 

 女性は薄ら笑いをするのであった。

 

 

 

 

 

「織田信広、末森城取り上げとする」

『………』

 

 稲葉山城で皆が集まる中、信長は信広に向けてそう言った。他の者達はいきなりの事に固まっている。何せ兄である信広に城の取り上げをしたのだ。

 

「織田信広、大垣城に与える。家臣には斉藤道三、氏家直元を付ける。なお長秀はそのままとする」

『………』

 

 頭の回転が早い者は信長に意図に気付いた。

 

「……御意」

「それと……信行」

「は、はい」

 

 末席にいた信行に信長が声をかけた。声をかけられた信行はいきなりの事に少し緊張している。

 

「織田信行、末森城を与える。家臣には平手の爺を付ける」

「御意にございまする」

「確りと信行を教育してくれ爺」

(……成る程な。信行の復帰を認めたのか)

 

 信広は平伏している信行に視線を向けて納得した。

 

「それと今日から稲葉山城を岐阜城と改名する」

「岐阜……明の大陸の古代に存在した周王朝の文王が岐山によって天下を平定したのに因んでか……」

「その通りだ。城下町の井之口も岐阜とする」

 

 そして評定後に信広は信長の部屋を訪れた。

 

「兄様……急な取り上げと与えるをして済まない」

「構わんよ信長。最初は驚いたけど信行の事で納得したよ」

 

 信広は信長にそう言っておいた。信長は史実でも身内に甘かった。

 

「俺を大垣城に移したのは浅井と六角の牽制か?」

「うむ、稲葉山城攻めの時に浅井が怪しい動きをしていたしな。それと兄様、大垣城に移るには竹千代との会談が終わってからにしてほしい」

「……竹千代というと……松平……漸く同盟か?」

「竹千代も漸く三河を統一したらしいからな」

 

(……東には織田に降った今川もいるけど……まぁ良いか)

 

 そして数日後、同盟締結のため松平一行が岐阜城に到着した。

 

「お久しぶりです信長殿」

「久しいな竹千代」

 

 二人が懐かしそうに話している。話している元康の後ろには二人の男女が控えていた。

 

「その者達は?」

「はい、私が幼き頃から従ってきてくれた者達です」

「石川数正です」

「天城颯馬です」

 

 視線を向けられた二人が信長に挨拶するが信長は二人を見てふむと呟くと元康に視線を向けた。

 

「元康、この二人を私にくれないか? そなたらも私の直臣にならないか?」

「そ、それは……」

「おや、私に逆らうのか竹千代? まぁ逆らったところで三河が蹂躙されるだけだからな」

(脅すんじゃない。とりあえずは……)

「ど阿呆!!」

「ぷげら!?」

 

 信広は信長の頭を殴っておいた。元康はいきなり殴った信広に目を見開いた。

 

「あんまし脅してやんな。殴るぞ?」

「も、もう殴っているじゃないか兄様……」

「これは殴るの数に入ってないから数えてない。あぁ松平殿、そちらの二人から取るような事はしませんので」

「……では他から取ると?」

「松平殿は三河を統一したばかりです。なので暫くは内政を重点的にしてもらいたい。そこで武将の派遣を願いたいのです」

「……分かりました」

「それでは信広様、どの武将を?」

 

 天城が言ってきた。

 

「……本多忠勝を派遣してもらおうか」

「忠勝……をですか?」

「ぶちまけて言うが尾張の兵は弱小だからな。鍛練してはいるが兵より将の数が足りんのよ(後の事を考えると勝家と張り合う感じにしたいしな)」

「それで忠勝をですか……」

「そういう事だ」

「……分かりました。忠勝を派遣します」

「感謝致す松平殿」

 

 こうして織田・松平同盟(後に徳川に改名)は無事に締結されたが信広に殴られた信長の機嫌が悪かったのは言うまでもない。

 

(まぁちゃんと謝っておいたが……その代わり団子を奢らされた。懐が寒くなったよ……)

 

 そして信広は道三と長秀、氏家直元を引き連れて大垣城に入城した。

 

「それで信広様、今後は……」

「暫くは内政だろう。開墾だよ開墾」

「千歯こきはどうしますか?」

「勿論投入する。それと鍬も新しく作ってみた、持ってこい」

「御意」

 

 信広はそう言って近習に『あれ』を持ってこさせた。

 

「これは……」

「備中鍬だ」

 

 信広は長秀達に歯が三本の備中鍬を見せた。

 

「既に五十本を生産して付近の村に配布しておいた。数日中に様子を見に行くがな」

「これなら耕しやすいですな」

「実験したが湿り気のある土壌を掘削しても、金串状になっている歯の関係で歯の先に土がつきづらいのが利点だな」

「へぇ……面白いわね。でも信広ちゃん、どうして備中なのかしら? 別に美濃鍬でも良くないかしら?」

「備中は古来より鍬等を貢納しているからな。それにあやかって付けた」

 

 後に備中を攻略して普及させた際、備中の民に感謝され信広を祀る神社が出来たとか……。

 そして数日後、信広達一行は備中鍬の様子を見に村に訪れた。

 

「どうだ鍬の具合は?」

「これは織田様。配布された鍬は頗る働きをしています」

 

 信広は名主と村役に挨拶をした。

 

「今までの鍬より湿り気がある土壌を耕しても土が鍬に付きづらく耕しやすいです」

「それは良かった。鍬の協力をしてくれたから今年のこの村の税は三割で構わない。残りの七割は農民達の物だ」

「あ、ありがとうございます!!」

 

 信広の言葉に村役が頭を下げる。

 

(内政はちゃんとしておかないと破滅するからな。特に一揆とか一揆とか一揆とかさ。大事な事なので二回言ったからね)

 

 信広は農民達の一揆を恐れた。農民の一揆は歴史を語っている。正長の土一揆、山城国一揆、加賀一向一揆は特に歴史の教科書やテストにも出る程有名である。(作者が小学生の時のテストにも出た)

 また、元康の三河でも史実の1563年から1564年の半年程に三河一向一揆が起こり敵からも「犬のように忠実」と半ば揶揄される形で評価された三河家臣団の半数が門徒側に与する事態があった。

 

(武田信玄じゃないけど、農民は手厚く保護をしないとな……)

 

 信広はそう判断した。そしてそれが功を成すのはまだ先の話であった。

 

「それじゃあ戻るか」

 

 それから二月程時が経つと信広に面会したい者がいると言ってきたので信広は面会者に会う事にした。

 

「……お久しぶりでございます信広様」

「……久しいな次郎法師」

 

 面会者は次郎法師(井伊直虎)だった。

 

 

 

 

 

 




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第十二話

 

「お久しぶりです信広様」

「久しいな次郎法師」

 

 信広は頭を下げる次郎法師にそう言う。

 

「……今は次郎法師ではありません。井伊直虎です」

「(……は?)……済まん、どういう事だ?」

「……今の井伊家当主はこの井伊直虎であります」

「……前当主の井伊直親はどうなされた?」

「前当主の直親は……松平と内通の疑いありと言われ朝比奈泰朝に攻められ……戦死しました」

「(……ありぃ~……歴史早くね?)それで……次郎法師が当主になったと?」

「はい。領地も没収となり一族も散り散りに四散しました」

「……ハッキリと言わないか次郎……井伊直虎?」

 

 信広は直虎を見つめた。直虎も覚悟を決めたのか口を開いた。

 

「御願いでございます。私は側室にして構いません。井伊家を信広様の家臣に!!」

「……近くに松平もいただろ? 何故俺だ?」

「……私の顔を知っておられたのが信広様だからです」

「(……はぁ)……あい分かった、井伊家は俺の直臣とする。ただし、今のところ側室の件は置いとけ」

「……私が断ったからですか?」

「一旦諦めた嫁の話が出て俺の心の整理がつかん。それに父を討った俺に嫁ぐが嫌なのだろ? 未練がたらたらなのは承知している。だから俺がお前を惚れさせる。俺は普通に恋がしたいからな」

「……フフ、分かりました。なら私を見事惚れさせて下さい」

 

 信広の言葉に若干頬が赤くした直虎は信広にそう言うのであった。

 

「……信広様、せめて二人で話してくれませんか? 某もちと恥ずかしいのですが……」

「俺も恥ずかしいわ!!」

 

 信広は傍らにいる長秀にそうツッコミを入れておいた。こうして直虎が直臣として俺に仕える事になった。ちなみに直虎は道三未満信長以上のデカさだと追記しておく。

 何がデカイか? 自分で考えるんだな。

 

 

 

 

「……硝石丘作るか」

 

 直虎を直臣にしてから数日後、昼餉を食べている時に信広はふとそう思い付いた。

 

「直ぐに長秀を呼んでこい」

「(また何かする気ですか……)御意」

 

 信広は近習にそう言って味噌汁を口に付けた。程なく長秀が来た。

 

「御呼びですか?」

「おぅ、いきなりだが美濃にも硝石丘作るから」

「……やるのですか? 確かに美濃は織田の支配下になりましたが……」

「何れは硝石は全国規模で作られる。なら作っても構わんだろう(白川郷・五箇山の合掌造り集落とか有名だからな)」

 

 信広はそう思い美濃にも硝石丘を作る事にした。

 

「とりあえず五ヶ所程硝石を作る場所にする。そこは関係者以外は立ち入り禁止にしておく」

「その方が宜しいですな。もし他国に漏れたりすればかなりの危険です(……つい最近まで敵国だった美濃にもう作るとは……恐ろしい人だ)」

 

 長秀は内心、信広を怖れた。もし、信広が今川や武田にいれば織田など一捻りだったに違いない。だが信広は織田の陣営にいる。なら長秀が行う事はただ一つのみ。

 

(……全力で信広様を補佐するのが某の役目)

 

 長秀はそう決断していた。なお、信広は長秀の変化に気付かず、導火線の製造も考えていたりする。

 兎も角、改めて長秀は終生信広に忠誠を誓うのであった。

 

「お久しぶりです信広様」

「おぉ、田吾作殿か」

 

 ある日、面会者がいるとの事で向かうと元忍びである田吾作がいた。

 

「今日参ったのは千歯扱きの事です」

「おぅ、どうであった?」

「かなりの物です。おかげで収穫は早くに終わり、くの一を筆頭に修行をより良く励めました」

「そうか、それは良かった」

「それでその御礼としまして信広様に忍を提供したいと思います」

「何と、それは真か田吾作殿?」

「真であります」

「それは有り難いぞ田吾作殿」

 

 信広は思わず田吾作殿に近寄り握手をした。それほどの事だ。

 

「あ、ありがとうございます信広様。これ、お前達」

『は』

 

 田吾作殿が手を叩くと五人の忍(男三人、女二人)が現れた。

 

「この五人は今日より信広様の忍でございます。飛龍と同様に御使い下さい」

「感謝します田吾作殿。そうだ此方も御礼として備中鍬を差し上げます。是非御使い下さい」

「ほぅ、信広様の事ですからかなりの物でしょうな」

「千歯扱きにも負けぬ代物です」

 

 信広も御礼に備中鍬を差し上げた。田吾作殿が喜んだのは勿論の事だ。

 なお、後に伊賀は攻略対象になるが信広が口添えをして攻略は回避され信広が交渉して降伏、織田家の特別直轄地になる。それと五人の名前は佐助、烈風、彗星、紫、霊夢である。……なお、紫と霊夢は大きい、何が大きいかは自分で調べてくれ。

 

「とりあえず撫子を隊長にした忍軍団を結成だな。七人だけど」

「七人なれど我々は千の兵に匹敵します」

「良し、ならば俺にその力を見せてくれ」

『御意』

 

 七人は信広に頭を下げるのであった。

 

「あ、それと撫子は次期風魔小太郎とまで言われてるから稽古してもらえば?」

「ほぅ、それは是非ともお願い致します」

「私、新しい子猫ちゃんを見つけようとしたのに……」

 

それから暫くのち、信広は岐阜城に赴いた。

 

「美濃に硝石丘作るなら私に言え」

「……忘れてた」

 

 いきなり機嫌が悪い信長を宥めるのに一刻掛かった。

 

「それで……火急の件とは?」

「……将軍義輝が行方不明と聞いているな?」

「無論だが……まさか見つかったのか?」

 

 信広の問いに信長は頷いた。

 

「今は越前の朝倉に逗留中との事だ。そして義輝から使者が来た。京に上洛して幕府復興の手助けをしてほしいとな」

「……京へ行く大義名分は出来たが……最早室町幕府は機能してないぞ」

「義輝も分かっていると思うがそれでも……一分の望みをかけてる……のが妥当だろう」

 

 信長はそう言っていつの間にか信広の後ろに回って腰を降ろして背互いに中合わせをしている。

 

「……兄様、上洛出来ると思うか? 畿内には三好長慶がいる。兄様の正直な意見が欲しい」

「……難しいところだな。唯一此方で有利なのは季節関係無く兵を出せる事だし」

「……そうか」

「それか早めに近江を取って三好を牽制するかだな」

「南北どちらだ?」

「早めに南でゆっくりと北だな。案外三好と六角が手を結びそうな気配だ」

「……あい分かった。その方向で行こう」

「……考えなくて良いのか?」

「サルの半兵衛もそう言うだろう」

 

 史実だと信長は北近江の浅井長政に妹の市を嫁に出して同盟を組んで南近江の六角氏を攻めた。だが、松平、今川を傘下にしている時点で浅井と手を結ぶという利用価値は低かった。

 

(……この世界だと浅井攻めは別に構わんな。長政は女みたいだし同盟をするメリットはあまり無いしな……)

 

「兄様は浅井を任せる。私は六角を攻める」

「二方面作戦か……」

 

 史実のミッドウェー海戦みたいだが……まぁ失敗はしないだろう。なお上杉や武田は相変わらず川中島で戦っている。

 

「……承知した。浅井は任せろ、六角は任したぞ信長」

 

 信広はそう言って信長の頭を撫でる。

 

「……撫でるな馬鹿者」

(そう言うが信長さんや。貴女のアホ毛がブンブンと回ってますが何か? ……まぁ追求したら怒りそうだから止めとくか)

 

 

 

 

 

――おまけーね――

 

「私に言わんでどうする?」

「済まん信長。御詫びに何かしてあげるが……」

「御詫び……」

 

 そう言って信長が信広の膝に乗って身体を預けてきた。

 

「……信長さんや?」

「これが罰だ。暫くそうしてるんだな」

 

 そっぽ向く信長だった。

 

「う~狡いですよ信広様ぁ~」

 

 少しだけ開いた襖から藤吉郎が涙を流しながら見ているのであった。

 

 

 

 

 




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第十三話

 

 

 

 

「久し振りじゃな信長よ」

「は、息災で何よりです義輝様」

 

 岐阜城で信長と義輝が面会をしていた。

 

「聞けば……京の将軍は病弱の義栄となっている。主体性が無く恐らくは三好による完全な傀儡将軍だろうのぅ」

 

 義輝がそう言って溜め息を吐いた。しかし、義輝の眼は何かを訴えていた。

 

「……三好家は織田が駆逐しましょう」

「期待しているのじゃ」

 

 信長からそう言ったのは義輝の面目を保つためであった。そして信長は諸将を集めさせた。

 

「……各々方、我々はいよいよ上洛する。上洛軍は六万五千、そのうち一万五千を庶兄信広を大将に浅井を攻める。残りの五万は私を大将に六角を攻める」

 

 信長は諸将にそう説明をしていく。俺の軍には大垣城にいた道三殿、直元、長秀、直虎が列ねている。

 

「それと竹千代のところから来た本多忠勝は信広の軍に加える」

「宜しいのですか?」

「忠勝を指名したのは兄様だ。何か異論は?」

「……ありません」

 

 そして信広は忠勝と共に大垣城へ戻る。

 

「本多忠勝でござる。拙者、頭の才はなく槍働きしかないでござるが一生懸命頑張るでござる」

「織田信広だ、気長にしてくれ……と言いたいが直ぐに仕事をやってほしい」

「何の仕事でござる? 兵の鍛練でござるか?」

「それもあるが、工作をしないといけないからな……」

「?」

 

 そして大垣城に戻ると信広達は作業に入った。

 

「これまでに何個出来た?」

「凡そ百個です」

「……ギリギリまで作る。忠勝、竹を節間ごとに切って一ヶ所だけ紐が入る穴を開けてくれ」

「御意……ですが信広様、これは一体……」

「……城攻めの歴史が変わる武器になるかもな」

 

 信広は忠勝にそう言った。そして数日後、上洛の命令が発せられ信広は北近江方面大将として第一目標に佐和山城の攻略をする事にした。

 

「佐和山城に降伏の使者を促す。無駄な戦は避ける」

「ですが拒否すれば……」

「無論、落とすまでよ」

 

 馬に乗りながら信広は長秀にそう言った。使者は直ぐに佐和山城に向かった。

 

 

 

 

「……降伏の使者だと?」

 

 佐和山城で磯野員昌は降伏を促す文書を読みながらそう呟いた。この時、佐和山城には美濃を警戒して磯野員昌の他に海北綱親、藤堂高虎の武将と五千の兵力がいた。

 

「ふざけおって……我等浅井を愚弄する気か!! 陣触れじゃ!!」

 

 文書を一目した磯野員昌は激怒して降伏を促す文書をビリビリに破いた。

 

「ですが磯野殿、我等の兵力は五千。織田は大軍を要していると聞きます。此処は籠城して小谷城からの援軍を待つべきでは……」

 

 そこへ副将の藤堂高虎が反対意見を出した。

 

「ふん、尾張の兵は弱小じゃ。大軍など恐れにる足らん」

「その通りじゃ」

 

 同じ副将の海北綱親が磯野員昌に賛成する。

 

「陣触れじゃ!! 尾張の兵など一捻りしてやろうぞ!!」

「……は!!」

 

 そして佐和山城の浅井軍は降伏を拒否して出陣するのであった。

 

 

 

「佐和山城は降伏を拒否か……ならやるまでよ。長秀、兵を三隊に分ける」

「分けるのですか?」

「うむ。右翼隊は道三殿に直元、左翼隊は長秀、中央は忠勝に直虎と俺だ」

「鶴翼の陣ですかな?」

「いや……違う。この陣は確実に敵を殲滅させるんだよ」

 

 直元の言葉に信広はニヤリと笑う。長秀達は信広の笑みに疑問を持ったが大将の命令なので従う事にした。

 

「中央隊が先にぶつかる。途中、俺が討たれたと偽の情報を流して敗走という名の後退をする。左右の隊はあらかじめ左右に伏せさせておき、機を見て敵を三方から囲み包囲殲滅する。お前らは上手く隠れておけよ」

「つまり……信広ちゃんが囮となるわけね?」

「最初はな。左右隊が攻撃を始めたら中央隊も反転して攻撃に転ずる」

 

 ぶっちゃけ……史実の島津が使った釣り野伏せである。この戦法は島津は元より、類似例では史実の立花道雪と高橋紹運が天正六年(1578年)の柴田川の戦いで秋月種実と筑紫広門を撃退した。

 他にも文禄・慶長の役にも釣り野伏せにて明軍を撃破している。

 

「上手く行きますか?」

「中央隊が要点だ。上手く敗走するようにしておかないとな。そこで撫子達の忍だ」

「仕事だね。やるからには全力を尽くすよ」

 

 信広はそう言って傍らに控える撫子に視線を向ける。視線を向けられた撫子はそう言う。

 

「撫子達は合戦が始まれば戦死した敵兵の鎧を剥ぎ取って浅井兵に成り済まして敵大将に俺が負傷したとか討たれたとか言って報告してやれ」

「御意」

「何か質問は?」

『………』

「(……無いみたいだな)無ければ行こう。損害は少なくして勝つぞ」

 

 こうして織田軍は兵を三隊に分けて中央隊が先に進軍を始めた。そして翌日の昼頃、両軍が対峙する。

 

 

 

「織田の兵力は?」

「物見によれば約八千と……」

「八千か……尾張の兵が弱小と考えれば五分五分かもしれんな」

「ですが伏兵がいるかもしれません。此処は慎重に期すべきでは……」

「伏兵と言っても精々数百だろう。此処は一気に押し潰して敵の士気を弱めるのが先決かと思います」

 

 磯野と海北は藤堂の具申を取り下げ突撃する事にした。藤堂の具申も理にはなってはいるが、礒野と海北には尾張兵が弱小という先入観を持っていた。そのため二人はこの後に起こる悲劇を予想していなかった。

 

「突撃せよ!!」

『ウワアアァァァァァーーーッ!!』

 

 磯野の短い命令は足軽達にも非常に分かりやすい命令だった。足軽達は雄叫びをあげて突撃した。

 

 

 

 

「放てェ!!」

 

 織田軍の鉄砲隊五百名(新種子島百丁)が引き金を引いて浅井兵の命を刈り取る弾丸を放つ。

 弾丸が命中した浅井兵はバタバタと倒れていく。信広はそれを見つつ隣で準備万端の忠勝に視線を向ける。

 

「忠勝、まだ足軽を薙ぎ倒すなよ?」

「分かっているでござる。槍働きでしか使えないでござるがちゃんとするでござる」

(……不安だ)

「本多隊、突撃するでござる!! 敵は全て薙ぎ倒すでござる!!」

「やっぱ分かってねぇじゃねぇか!?」

 

 信広の叫びを尻目に本多隊が雄叫びをあげて突撃していくが……。

 

「……紫、敗走する時は忠勝にちゃんと伝えてくれ」

「御意です」

「……念には念を押しておこう。忠勝ぅ……頼むからちゃんと動いてくれよ……」

 

 

 

 

 合戦に入って半刻、織田の陣営にある報告が舞い込んできた。

 

「信広様討死!! 信広様が討死なされました!!」

「御大将討死!!」

「信広様が討死なされただと!? 一旦後退するぞ!!」

「おいおい、御大将討たれたとよ」

「あちゃーなら逃げるしかねぇな」

 

 織田の足軽達は浅井兵との斬り合いを止めると徐々に後退を始めた。織田軍の異変に馬上の磯野も直ぐに気付いた。

 

「織田の様子が可笑しい。後退しているように見えるな」

「申し上げます!! 敵大将織田信広が此方の矢を受けて負傷、後退している模様です!!」

 

 そこへ兵が報告に来た。報告に礒野の目が見開いた。

 

「織田信広を負傷させたか!!」

「磯野殿、これは好機かもしれません。突っ込みましょう!!」

「うむ、全軍追撃せよ!! 織田軍を蹴散らせ!!」

『ウワアアァァァァァーーーッ!!』

 

 浅井軍は後退していく織田軍を追撃する。織田軍は統率が取れず、部隊が混乱状態だった。礒野はそれを好機と捉えて更に追撃命令を出した。そしてそれが起きたのは浅井軍が追撃する途中だった。

 

『矢を射掛け(なさい)よ!!』

 

 突如、左右から大量の矢が浅井兵に襲い掛かったのだ。矢を受けた兵がバタバタと倒れていく。

 

「こ、これは……」

 

 次々と倒れていく浅井兵に磯野が唖然とする。そして後退していた筈の織田中央隊は突如反転して浅井軍に襲い掛かった。

 

「ようこそ浅井軍。そしてさようなら」

 

 信広はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 




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第十四話

 

 

 

「ようこそ浅井軍、そしてさようなら」

 

 信広はニヤリと笑い、傍らにいた忠勝に視線を移す。忠勝もまだ暴れ足りないのか自身の得物である蜻蛉切をブンブンと回してムフーと息を吐いていた。

 

「忠勝、武士の情けだ。浅井軍の止めに刺してやれ」

「御意でござる。本多隊突撃でござる!!」

「 突 撃 」

 

 そして忠勝が本多隊を率いて浅井軍に突撃していく。

 

「さて……後は殲滅されるだけだぞ浅井軍?(急に作った釣り野伏せだが皆がちゃんと動いてくれてるから一安心だけどな。いやいや流石は有名な武将達だ)」

 

 

 

「浅井軍には武を自慢する者はおらぬでござるか!! この本多忠勝が御相手致すでござる!!」

 

 忠勝がそう叫びながら蜻蛉切を振り回しながら浅井軍の足軽の首を刈り取る。刈り取られた首無しの死体は傷口から血が噴水のように噴き出しつつ重力に引かれて地面に倒れる。

 血はドクドクと流れて地面を染みさせ地面の色を変えていく。

 

「ば、化け物だ……」

 

 忠勝の行為に浅井軍の足軽達は腰を抜かしていた。あまりの出来事に失禁している者さえいる。

 

「狼狽えるな!! あやつを囲み一斉に襲いかかれ!! 数で挑めば勝てる!!」

『オ、オオォォォーーーッ!!』

「……ハアァァァァァーーーッ!!」

 

 足軽大将の言葉に足軽達は忠勝の周りを囲み襲い掛かる。しかし忠勝はただ一振りで足軽達を薙ぎ倒した。

 

「……それだけでござるか?」

「ヒイィィィ!?」

「な、なんて奴だ……化け物だ逃げろ!!」

「逃げるが勝ちだ!!」

「こら!! 逃げるな!! 逃げる奴はころ――ぐぇ!?」

 

 忠勝に恐怖した足軽達が足軽大将の言うことを聞かずに逃げ出していく。足軽大将達は必死に止めようとするが逆に足軽達に討ち取られたりしている。

 

「この海北綱親が御相手致すぞ!!」

「それは感謝致すでござる」

 

 そこへ副将の海北綱親が現れて忠勝に斬りかかる。

 

「おりゃァ!!」

「ふん、その程度でござるか!!」

 

 一合目は忠勝が海北の槍を避け、二合目で忠勝の槍――蜻蛉切が海北の首と胴を離れさせた。首が無くなった海北は後ろめに倒れて馬から落馬した。

 

「敵将海北綱親、本多忠勝が討ち取ったでござる!!」

 

 

 

 

 忠勝の怒号は戦場に響いた。副将を討ち取られた浅井軍の様子が慌ただしくなってきた。

 

「員昌様、このままでは……」

「……くそ!! 全軍引けェ!! 引くのだ!!」

 

 浅井軍が死地を脱出しようともがいでいる。しかし一人、また一人と倒れていき浅井軍はその数を減らしていく。

 

「磯野殿は早く佐和山城へ!! あたしが囮となります!!」

「……済まぬ藤堂!! 一点集中の血路を開け!!」

 

 磯野は近習や残存兵と共に何とか血路を開いて佐和山城へ向かい出す。残ったのは藤堂以下直率数百の兵である。

 

「突撃する!! 狙うは織田信広の頸のみだ!!」

『オオォォォーーーッ!!』

 

 藤堂以下の兵達は雄叫びをあげて信広の陣営に突撃を敢行した。

 

 

 

 

「信広様、お逃げを」

「構うな!! 鉄砲隊は射撃しろ!! それと忠勝はどうした!?」

「逃げる浅井兵を追い掛けています!!」

「直ぐに呼び戻せ!!」

 

 十数人の鉄砲隊が射撃してくれるが数人の騎馬武者を転がすのみだった。後は突撃してくる浅井軍と衝突した。

 

「そこにいるのは敵将織田信広とお見受け致す!! あたしは浅井家家臣藤堂高虎也!! その頸頂戴致す!!」

「信広様には触れさせません!!」

「行くな直虎!!」

 

 隣にいた直虎が馬を走らせて藤堂に向かう。信広が止めようとするが直虎は聞く耳を持たない。

 

「貴様に用には無い!!」

「きゃ!?」

「直虎様!!」

 

 藤堂が直虎を落馬させ直虎の家の者が直虎を助ける。

 

「おりゃァ!!」

 

 そして藤堂が信広に槍を投げた。

 

(投げた!? 俺死ぬぞ!!)

「信広君!!」

 

 そこへ撫子が苦無で槍を叩き落とした。

 

「済まぬ撫子(マジで助かった……)」

「ちぃ、ならば!!」

「む」

 

 そして藤堂が抜刀したのを視認した信広も咄嗟に太刀を抜刀した。藤堂が馬を走らせて信広に斬りかかろうとするが信広は太刀で受け止めて鍔迫り合いとなる。

 

「ぐ……」

「ぐぐ……」

「(予想以上に藤堂の力が強い……だけどなァ!!)負けて……たまるかァ!!」

「く!!」

「信広君!!」

 

 何とか力を振り絞って押し返した。そこへ撫子がまた加勢して苦無を投げた。苦無は藤堂の太刀が折れさせる事に成功した。

 

「………はぁ」

 

 折れた太刀を見た藤堂は深い溜め息を吐くと納刀して馬を降り地面に座り込んだ。

 

「些か邪魔が入ったがあたしの負けだ。好きに頸でも討つといい」

「……捕縛しろ」

 

 信広の言葉に足軽達が直ぐに藤堂を縄で捕縛した。

 

「信広君、勝負の邪魔をして済まないね。ですも信広君が死ねば……」

「いや、良くやったよ撫子。あのままだと俺は死んでた。助けてくれてありがとう撫子(流石忍、次の給料は上げておこう)」

 

 信広はそう言って撫子を褒めた。

 

「……褒めてくれるなら俸禄を上げてくれないか?」

「……また借金か?」

「紫達からのだよ……」

(……前言撤回しようかな……)

 

 信広は深い溜め息を吐いたのであった。

 

「それより敵はどうした?」

「は、方角からして佐和山城へ逃げたと思われます」

「……道三殿達と合流して佐和山城へ向かい包囲する。包囲してから改めて軍使を出すか」

「もう一度降伏を促すのですか?」

 

 直虎が驚いた表情をして信広を見ている。

 

「城を無駄に破壊したくないし無駄な血を流したくないんだ(戦後を考えると優しくしないと……)」

「………(優しいのか優しくないのか分からない)」

 

 直虎はそう思った。兎も角、二度目の降伏を促す軍使が佐和山城に向かう事になった。

 

 

 

「……生き残りは二百も満たぬ……か」

 

 佐和山城へ戻った磯野は被害の報告を聞いて落胆していた。将の損失も大きかった。海北は本多忠勝に首を取られ、藤堂は捕縛されたと聞いている。

 

「……藤堂の言う通り小谷からの援軍を待つべきであったか……」

 

 礒野は後悔した。しかし後悔しても失った者は帰ってこないのだ。

 

「……やむを得ん。佐和山城から撤退して小谷に戻る。全ての責任は儂が持つ」

 

 磯野はそう決断して残存兵と共に佐和山城から脱出して小谷城へ向かうのであった。軍使が来たのは磯野達が脱出した後であった。

 

「……佐和山城に兵はいないだと? 籠城する気はないのか?」

「恐らく籠城するだけの兵力は無いのでしょうな。先程の合戦で粗方討ち取りましたからなぁ」

 

 信広の言葉に長秀はそう繋げるように言った。まぁ敵がいないならそれで良い。

 

「なら佐和山城に入城するか」

 

 そして信広以下織田軍は進軍して佐和山城に入城した。

 

「長秀、城にある全ての井戸を調べてくれ」

「と言いますと?」

「杞憂かもしれんが、敵が進軍を遅らせるために井戸に毒を投げてるかもしれんしな」

「承知つかまつった」

 

 長秀は直ぐに井戸を調べに入った。しかし井戸に毒は入れてなかったみたいだ。毒を投げる時間はあったかもしれないがそこまで思考できなかったのかもしれない。

 

「信長に戦況報告をしよう。使者を出せ」

「御意」

 

 そして使者が信長の元に向かったが……。

 

「は? 観音寺城が無血開城?」

「観音寺城ってそんなに防備は弱かったのか?」

 

 聞けば史実通りの戦になっていた。箕作城と和田山城が落とされると六角親子は甲賀郡に落ち延びたらしい。

 そのおかげで他の十八の支城は蒲生賢秀の日野城を除いて降伏。蒲生も後に降伏した。

 

「それで信長様は美濃三人衆と交代して此方に向かえとの事です」

「何故だ? そう簡単に代えてはならんだろう?」

「……京に三好がいます」

「……何だと?(確か三好は長慶が死んで衰退する筈……まさか?)つかぬ事を聞くが……三好長慶は生きているのか?」

「御健在ですが?」

 

(……そうだよな。歴史が変わってるなら他のも変わってそうだな)

 

「……分かった。直ぐに信長の元へ行こう」

 

 そして信広達は佐和山城から出立した。しかしこの時、京ではある事が起きていたのであった。

 

「……三好軍が引き上げたじゃと?」

「如何なさいますか?」

 

 物見の報告に近衛前嗣は一瞬無言だったが直ぐに命令を出した。

 

「信長の元に使者を遣わす。三好で何かあったのかもしれぬ」

 

 

 

 




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if未来編 黒船来航

注意。
今回の友人に依頼されて執筆したif未来編になります。また執筆する時に内容が違っているかもしれません。


 

 

 

 未来、戦国の世が過ぎて二百年あまり日本は織田政権(大坂幕府)の元で平和な世となっていた。

 しかし嘉永五年、日本と国交を結んでいたオランダとイギリスからアメリカが条約締結を求める国書を持ち艦隊で日本に来航する事を報告した。

 報告は長崎奉行から幕府に伝えられ、時の老中主座阿部正弘は第十四代将軍織田信政に報告した。

 

「……既にオランダとイギリスの二か国と国交を結んで貿易を行っているから普通にやれば良い」

「はは」

「だが、念のために海軍には出撃待機をせよ」

「御意」

 

 日本はオランダとイギリスとの貿易を盛んに行っていた。大坂幕府が開かれた時、初代将軍の信長はキリスト教を布教させ日本を占領しようとしたポルトガルとスペインに宣戦を布告しフィリピンを占領、ルソン総督を斬首して削いだ鼻を塩漬けにして送らせたのは有名である。(その際に琉球、台湾を占領して日本の領土としている)その結果、幕府が開かれた当初からキリスト教を布教しないと公約したオランダと貿易を行った。後にイギリスもこれに加わる。

 日本は二か国から医学、造船、軍事力を取り入れ1700年代からは反射炉が史実より早くに日本で作られ鉄製の大砲が作られたりしている。

 それらはさておき、信政の指示で幕府海軍は訓練日を増やしたり新型艦の建造を急がせた。

 そして代将マシュー・ペリー率いるアメリカ合衆国海軍東インド艦隊は嘉永六年五月二六日に薩摩藩が支配下に置いている琉球王国の那覇沖に到着して停泊した。

 この時ペリーは首里城への訪問を打診したが琉球王国は史実同様に拒否した。ペリーはそれを無視して武装した兵員を率いて上陸し市内を行進しながら首里城まで進軍した。これがペリーの最大の失態であり

 

「アメリカは条約締結ではなく日本に戦争する気だったか!!」

 

 琉球王国の国王である尚泰王は二八日に琉球王国でただ一隻の戦列艦を直ぐに薩摩藩に派遣して状況を報告。薩摩藩第十一代藩主島津斉彬は阿部正弘にアメリカの領土侵攻を報告した。

 

「信政様……」

「アメリカはオランダやイギリスとは違うというわけか。阿部、早馬を走らせて各藩に下命せよ。直ちに出撃待機だ」

「御意」

「それと陛下に宣戦布告をを宣言してもらおう」

 

 信政はイギリス商館長を呼び出してアメリカに宣戦布告の文書を渡してもらうよう依頼した。

 

「河野司令官」

「はは」

 

 信政は幕府海軍司令官河野通安を呼び出した。

 

「作戦はどうする?」

「恐らく敵艦隊は淡路と紀伊国間の紀淡海峡を通過するでしょう。その時に幕府及び四国、中国の大坂級戦列艦と信長級大型帆船を海峡の神島から出撃して敵艦隊を包囲、大坂級戦列艦で砲撃しつつ信長級大型帆船で体当たりを敢行、そのまま移乗攻撃をして斬り込みをします」

「うむ、斬り込みには海軍陸戦隊かね?」

「陸戦隊と島津隊にしてもらおうと思います。丁度共同訓練で島津隊二千名が紀伊にいますので」

「相分かった。それではアメリカを歓迎してやろうではないか」

 

 信政はニヤリと笑った。それからペリーの東インド艦隊は七月八日に紀淡海峡を通過しようとした時、イギリス船が現れ会談を求めた。

 サスケハナに乗艦したイギリス商館長はペリーに英文で執筆した(信政直筆)宣戦布告の文書を渡して下艦して直ぐに艦隊から離れた。離れたのを十分に確認した河野司令官は全艦に突撃を命令した。

 

「に、日本の戦列艦です!! 二十隻はいます!!」

「何だと!?」

 

 戦列艦は五十門艦の戦列艦だったが幕府海軍は保有していた十六隻全艦を投入していた。他にも長州藩、土佐藩も四隻ずつ投入して敵艦隊を包囲するべく後方に回り込んでいた。

 

「目標先頭艦、撃ェ!!」

 

 艦隊の先頭を航行していた旗艦サスケハナに砲撃は集中した。混乱した隙を突いて信長級大型帆船(ガレオン船)が日本最強の島津兵を乗せて四隻に次々と衝突。移乗攻撃の斬り込みを敢行した。

 

「な、何が起きたんだ一体……」

「チェストォ!!」

 

 状況が全く分からないままマシュー・ペリーは島津兵に斬られ戦死した。四隻は瞬く間に捕獲され播磨に移された。その後、イギリスを通してアメリカに塩漬けにされたペリーの鼻と信政の文書が届けられた。

 

『琉球に上陸したのは我が日本を武力を持って占領すると判断し貴国に宣戦を布告した』

 

「サムライと交渉する時に力押しは有効ではないと申し上げました。それを貴殿方が無視した結果がこれです」

 

 イギリス代表の言葉に第十四代大統領フランクリン・ピアースは唖然としながら塩漬けにされたペリーの鼻を見ていた。

 

 

「今回の事件は幕府に罅が入り室町や鎌倉のように滅びるのは確実だろう。なら今の安全のうちに政権を天皇陛下に返上するべきだな」

「は」

「信長」

「……ここに」

 

 信政に呼ばれた信政の子である信長が頭を上げた。信長は初代将軍と同じ名前であり、信長自身も女性だった。

 

「私は将軍職をそなたに譲り隠居する。そして陛下に政権返上をせよ」

「御意」

「……済まぬな信長。初代様のような立派な将軍になってくれればと同じ名を頂戴して頂いたのに御主で終わらせるはめになるとは……」

「いえ父上、初代様も頷いて認めてくれるでしょう。『信長から始まり信長で終わる』です」

「ハハハ。こやつめ言いよるわ」

 

 信政達は苦笑する。

 

「朝廷の事は近衛家に任せよ。何やら岩倉と申す者が目障りだが心配ないだろう。それはそうと御主の祝言がまだであったな」

「父上、それは……」

「伊勢藩主の信広と良い仲と聞いておる。少々話があるから今度連れて参れ」

「……はは(信広は生きて帰れるだろうか……)」

 

 内心、そう思う信長だった。その後、信政は将軍職を信長に譲り信長は第十五代将軍に就任した。就任したと同時に信長は天皇陛下に政権返上する大政奉還を上奏した。

 しかしその後の王政復古の大号令(史実と同じ内容)が発せられ織田家は朝敵になり戊辰戦争が勃発するがそれはまだ先の話である。

 

 

 

 

――後書き――

 

友達に黒船来航編書いてくれと言われたので色々と妄想しながら書きました。実際にこうなるかは分かりませんよ。

 

 

 




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第十五話

 

 

「三好軍は京から撤退する」

「な!? そ、それで良いのか姉さん!!」

「構わない一存」

 

 河内国、飯盛山城。この城の主の名は三好長慶である。三好長慶はそれまで本拠地だった摂津国の芥川山城から飯盛山城に移動していた。

 なお、現在この芥川山城は飯盛山城と共に大阪府下では最も規模が大きい城跡で遺構の残存状態は良好で戦国時代の典型的な山城である。(作者も行きたいけど遠い。飯盛山城は三回ぐらい行ったけど)

 それはさておき、この飯盛山城には三好長慶の他にも多数の武将がいた。

 それが長慶を姉と呼ぶ弟の十河一存である。渾名として鬼十河と呼ばれている。

 他にも三好家を支える三好三人衆の三好長逸(みよしながやす)、三好政康(みよしまさやす)、岩成友通(いわなりともみち)、そして松永久秀がいた。

 

「織田は前将軍義輝公を京に据えるために上洛してきた。それを拒む理由は我々には無い」

「だが姉さん、義輝公が謎の軍勢に襲われて行方不明じゃないか。織田と共に来たのは本当に義輝公本人なのか?」

「一存さ~ん、流石に織田もそこまで馬鹿では無いと思いますよ~」

 

 岩成友通が一存の意見をやんわりと否定した。

 

「もし義輝公が既に亡き者なら弟の義昭を将軍にと上洛してくるはずです~」

「……確かにな」

「ですから義輝公生存は真実でしょう」

 

 隣にいた三好長逸も頷いている。

 

「もしもに備えて淡路にいる義栄公が第十四代将軍に就任しているが……将軍職を返上してもらう必要があるな」

「義栄公は病弱気味ですから将軍職に耐えられないのは確かですね」

「久秀、悪いが義栄公にそう報告をしてくれ。義栄公には就任当初の日に私から言ってある」

「……分かりました。直ぐに淡路へ向かいましょう」

 

 長慶に言われた久秀は頭を下げた。

 

「それと京の治安が落ち着き次第、私は上洛する。その間の業務は一存に任せる」

「うげ……」

「フフ、心配するな一存。長逸達にもやらせる」

 

 長慶はそう笑い、三好軍は京から撤退するのであった。

 

 

 

「……このままじゃあ面白くないわね。甲斐の虎を餌に動かしましょうか」

 

 

 

 

「……三好が京から撤退したか……」

「間違いないか兄様?」

「撫子達は優秀な忍だ。間違うはずがない」

 

 この時、織田軍は東福寺に陣し、義輝は東山の清水寺に、細川幽斎は宮廷の警護に従事していた。

 

「……なら京に入ろう」

「分かった、直ぐに準備させよう」

 

 こうして織田軍は義輝を引き連れて京に入った。そして信長はこの時、足軽達の御触れとして『一銭切り』を出した。

 この一銭切りは実際に行われた。京の民から銭を盗んだ足軽を信長自らが斬首して、やるのは本気だと言う事を自軍に教えさせた。

 この軍律により京で織田軍が狼藉を働いたというのは無くなった。誰もが信長を恐れたからだが……。

 

(まぁ信長本人も何もしなければ普通にしてるしな。この間も足軽と一緒に賭博してたからぶん殴っておいたが……)

 

 この時、京の往来で信長を引っ張る信広が目撃されたらしい。しかし、資料が乏しいので後の世の創作だと言われている。

 

(まぁ問題はこれからだな)

 

 信広はそう思うのであった。それはともかく、信広は義輝が仮居住している清水寺に呼ばれた。

 

(はて……何かしたのか?)

 

 信広は義輝が来るまで思考していたが結局分からなかった。

 

「織田三郎五郎信広であります」

「うむ、わざわざ此処まで来て済まないのぅ」

「いえ」

「それで御主を呼んだのは他でもない……御主のおかげでわらわはの命が助かった。本当にありがとう」

「よ、義輝様!?」

 

 義輝はそう言って信広に頭を下げたのだ。勿論、信広が驚いたのは言うまでもない。

 

「あ、頭をお上げ下さい義輝様」

「御主が幽斎に警戒を促してくれたおかげで兵を集める事が出来た。正に感謝の極みじゃ」

「は、ははー!!」

 

 義輝の言葉に信広は平伏をする。

 

「それでじゃ。信広よ、わらわの家臣にならぬか?」

「義輝様の……ですか?」

「そうじゃ。御主の将軍に対する忠義を見定めてじゃ」

「………」

 

 いきなりの事に信広は暫し唖然としたが、やがて意を決したように口を開いた。

 

「……義輝様、申し訳ありませんが辞退させて下さい」

「……その理由は何じゃ?」

 

 義輝は少し殺気を出して信広に視線を向ける。信広は義輝の殺気に押され、冷や汗がポタリと畳に落ちた。

 

「……某は信長を支えたいと思います」

「ほぅ……」

 

 義輝の殺気が更に強くなる。信広は気を失いかけたが血が出る程唇を噛み締めて耐えた。

 

「信長は優秀であります。しかし、優秀し過ぎて家臣達は信長の言葉を理解するのに苦労しています。某は信長を理解していますので信長が発する命令は全て分かります。ですが、分からなければ信長は容赦なく切り捨て家中は不穏な気配となりやがては誰かが謀反を起こすでしょう」

「……それを防ぐためわらわには仕えぬ……と申すのか?」

「は、それに某は幽斎殿のような優秀ではござりませぬ。某には些か荷が重すぎるのであります。それともう一つ、義輝様の家臣になれば他の者より将軍家は織田に助けてもらい政をするのかと疑われます」

「……そうか、なら今回は御主の事は諦めよう(わらわは諦めたわけではないのじゃ)」

「(何か引っ掛かる……)ははー」

 

 とりあえず今回は義輝の家臣への加入は見送られた信広であった。ただ、信広本人は義輝の家臣になる気はなく、むしろ義輝の冗談だと思っていた。

 しかし、義輝は冗談ではなく本気であった。

 

「美濃に戻る?」

「あぁそうだ。義輝公の上洛は一応成功した、それに国を長く開けすぎると甲斐の虎が気になる。甲斐の虎が攻めいるような情報もある」

 

(そう言えば史実の信長も武田信玄を怖れていたな)

 

「それじゃあ俺は佐和山か?」

「いや兄様は京の警護を頼む」

「京の警護?」

「……義輝公の命令だ。京の治安が回復するまで誰かの警護を頼むとな……勝家やサルは警護より戦の方が向いているし頼れるのは兄様くらいだ」

「警護の意味を理解するのが分かるのは長秀や道三殿くらいだしその配下を持つのは俺……それで俺にか」

「承知してくれるか兄様? 本当なら全軍でいた方が良いが……」

「心配するな吉」

 

 信広はそう言って信長の頭を撫でる。撫でられた信長は一瞬驚いたものの、撫でられる感触に目を閉じる。

 

「南近江は既に織田の支配下だ。そこに兵を置いておけば大丈夫だ」

「……分かった。美濃の状況が分かり、事が済み次第京に戻る」

 

 そして織田軍は信広を大将にした五千の部隊を京の治安維持のため残して全軍を美濃に帰還させるのであった。

 義輝は二条城に入らずに本圀寺を仮御所としていた。やはり謎の軍勢に襲われた事もあり警戒をしていたのだ。

 そのため、信広も陣を本圀寺を本陣としていた。

 

「それでは評定を……道三殿と龍興殿はどうした?」

 

 寺の一室を借りて警護の段取りをしようとしていた信広はふと道三と龍興がいない事に気付いた。

 

「実は龍興殿が腹を下しまして寝込んでおります。道三殿はその付き添いです」

「腹を下す……?」

「は、どうやら水が当たったようで……」

 

(……生水でも飲んだのか……安全な水を確保しないとな……俺も腹を下したくないし……)

 

「長秀、瀬戸物が作れる職人を至急呼べ。それと紙と筆を用意しろ」

「は?」

「良いから用意してくれ」

「ぎょ、御意」

(また何かする気だな)

 

 部屋を退出する長秀を尻目に家臣達はそう思った。そして用意された紙に信広は筆を取ってサラサラと絵を描いていく。

 職人が来たのは昼を過ぎた頃だった。

 

「御主が瀬戸物の職人か?」

「は、さようでございます」

「御主を呼んだのは他でもない。瀬戸物ではないが土器を作ってほしい」

「土器を……でありますか?」

「うむ、説明が苦手な故に絵で説明する。これを見てくれ」

 

 信広はそう言って職人に絵を見せた。絵はV字をした土器だった。

 

「このような土器を作れと?」

「うむ、底は穴を開けておくのだ。上は物が入りやすく、下は出にくいようにな。手始めに数日以内に一個作れ。出来具合では三百個の製造を頼む。無論褒美は出す」

「はは、分かりました」

「あぁそれと、土器から水が漏れないように頼むぞ」

「はは」

 

 そう言って職人を下がらせる。長秀は不安そうに口を開いた。

 

「今度は何を始めるつもりですか?」

「……腹を下さないようにするためだ」

 

 信広はそう言うしかなかった。

 

「それと俺が言う物を用意してくれ」

 

 

 

 

「此方です」

「うむ、御苦労であった」

 

 数日後、信広は職人から製作した土器を受け取り土器を見る。

 

「長秀、用意した物はあるか?」

「此処に」

 

 長秀が用意したのは炭、砂、小石だった。

 

「少し移動しようか」

 

 信広はそう言って寺の外に出た。付き添うのは長秀達である。

 

「長秀、持っておけ」

「は、はい」

 

 土器を長秀に持たせた信広は土器の中に炭、砂、小石、砂、小石の順で入れていく。

 

「信広様……重いです……」

「下に置くなよ」

 

 信広は水が張った桶と空の桶を用意して空の桶を長秀が持つ土器の下に置き、水が張った桶を土器の中に注いだ。

 

「これは……」

「南蛮からの情報でな。水の中に蟻より小さい生き物が多数いるみたいだ。生水で飲むと腹を下す原因の殆どがそれみたいだ」

 

 注いだ水は底が開いた穴からチョロチョロと下に置いた桶に落ちていく。

 

「この過程で水の不純物を出来るだけ取り除いておく。もう一回するか」

「は、早くして下さい信広様……」

「代わってやれ直元」

「は、はい」

 

 そして信広はもう一回水の濾過をした。

 

「長秀、調理をする者にこの水を二刻ほど沸騰させろ」

「御意」

 

 長秀が濾過した水が張った桶を持ち調理場の方へと向かった。

 

「今したようにあのような土器を三百を作ってくれ。あぁそれと、陶磁器で掌に掴めれる丸い物も作ってくれ」

「はぁ、分かりました」

 

 そして信広軍はこの土器を行軍は元より城や足軽達の家の標準装備としたのは言うまでもない。

 何せ濾過をして濾過した水を二刻ほど沸騰しただけで腹を下す者が少なくなったのである。

 

「済まなかったな道三殿」

「どうして謝るの信広ちゃん?」

「龍興殿が寝込むまでこの水の事は忘れていた。俺の失策だ」

 

 夜遅く、道三の部屋を訪ねた信広は道三にそう言って頭を下げる。

 

「頭をあげて信広ちゃん。龍興はたまたまだったのよ。貴方はこの軍の将なのよ、そのような事で頭を下げるのは将として失格よ」

 

 道三は信広にそう諭した。今は織田の家臣であるが、その前は美濃の蝮と詠われた斎藤道三である。

 

「……そうか、なら今の事は秘密にしていてほしい」

「フフ、信広ちゃんの秘密を握ってるのね」

 

 道三はそう言って微笑む。まるで蛇が獲物を見つけて捕食するかのような微笑みである。

 その微笑みに信広は一瞬呑まれかけた。そして背筋にゾクッとした感触を感じた。

 

(味方であるのが頼もしいくらいだ。敵なら……負けるかもな)

 

 改めてそう認識する信広だった。

 

 

 

 

 




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第十六話

 

 

 

 大和国、信貴山城。今で言う奈良県生駒郡平郡町にあった山城である。

 築城主は木沢長政であるが、今は三好家の松永久秀が城主で本丸には四層の天守櫓が建っていて松永久秀は築城の才覚も備わっていた。

 

「京にいる義輝を討つわ」

 

 家臣達が集まった中、久秀はそう宣言した。

 

「姉上、何故また義輝公を……」

「長頼、貴方は黙って久秀の言うことを聞いていれば良いの」

「……御意」

 

 久秀の弟である長頼の言葉に久秀はジロリと長頼を睨んで反論をさせなかった。

 

「義輝は本圀寺を仮御所としているわ。貴方に九千の兵を預けるから本圀寺を攻撃しなさい」

「ですが姉上、此処の守備は……」

「久秀が三千で守備するから問題無いわ」

「……御意」

「それと、旗は紅白の旗を用意しなさい。松永の家紋ではなく紅白の旗よ」

「御意」

 

 そして松永長頼を総大将とした部隊が密かに信貴山城から京へ出立した。久秀は三好家の目を部隊からそらすため筒井順慶が城主の郡山城へ三千の兵を率いて向かう。

 松永久秀の侵攻を確認した筒井順慶は籠城戦を行おうと決断した。だが、久秀は郡山城を包囲しただけで攻撃を行おうとはしなかった。

 言わばチラ見状態だった。そのおかげで長頼の部隊は筒井順慶に気付かれずに大和国から京へと向かう事が出来た。

 その京であるが、京には治安維持を目的とした信広の約五千の兵が駐留しており本陣は本圀寺である。

 本圀寺の南には天智天皇陵であり、信広はそこに本陣としようとしたが義輝が「本圀寺で構わない」と言ったので本圀寺となった。

 信広は部隊を三つに分けて羅城門に忠勝、直元、道三と兵二千、清水寺に長秀と兵二千、そして本陣の本圀寺に大将信広と兵一千が駐屯していた。

 隊を三つに分けたのは義輝からの要請だった。

 

「京の治安維持を優先するのじゃ。本圀寺には少数で良い」

「(あんたの弟が史実で襲われたというのに……)……御意」

 

 こんな感じで信広は隊を三つに分けていた。信広の治安維持部隊は京の民からは頗るほど受け入れられていた。

 

「狼藉をした者は斬首。無論俺の近習であろうと容赦はするな」

 

 信長が先に出した一銭斬りを信広は忠実に守っていた。

 

「(旭将軍の二の舞にならなくて良いのぅ)京の治安が守られるなら満足じゃ」

 

 物見から報告を聞いた近衛前嗣はそう安堵した。そうした中での事だった。

 

「申し上げます!!」

「どうしたこんな夜半に……」

 

 本圀寺の一室で就寝していた信広は物見の大声に飛び起きた。

 

「何処かの軍勢が宇治方面より押し寄せて参ります!!」

「(遂に動いたか……)治安維持部隊を呼び戻せ!! 軍勢の旗は?」

「……紅白の旗で御座ります」

「何……?」

「紅白の旗御座ります。それしか分かりませぬ」

「家紋は?」

「それが一切有りませぬ……」

「……御苦労。急ぎ部隊を呼び戻せ」

「御意!!」

 

 信広は直ぐに鎧に着替えて義輝の元へ赴いた。

 

「義輝様、何処かの軍勢が本圀寺に押し寄せて参ります!!」

「な、何じゃと!?」

 

 義輝は寝間着のまま飛び起きた。

 

「急ぎ脱出する準備をなされませ。某は防戦準備に入りまする」

 

 信広は義輝の返事を待たずに寺の外に出た。外には多数の騎馬武者達が勢揃いしていた。

 

「……何処の軍勢か?」

 

 信広は太刀に手を伸ばしたが、軍勢から一人の女武将が姿を現した。

 

「私です信広様、明智十兵衛光秀です」

「おぉ光秀か。してその軍勢は何だ?」

「は、若狭国衆の者です」

「山県源内でござりまする」

「同じく宇野弥七でござる」

 

 光秀に促されて二人の武将が信広に頭を下げる。

 

「義輝様警備のために参加を促して帰ってきたところです」

「ふむ、そう言えば義輝様がそう言っていたな」

 

 光秀と信広が最初に出会ったのは信長が美濃に帰国する前だった。

 

「光秀は朝廷の伝があるから京にいる方が良い」

 

 信長はそう判断して本圀寺に残らしていた。無論、信広にしてみれば妹を後に殺害する者である。

 

(……普通に接しておくか。光秀が信長の怒りの矛先にならないようにしないとな……)

 

 信広から見た光秀は真面目の部類に入るので自由奔放な信長と反りが合わないと判断している。

 

「信長のあれの振る舞いははもう気にするな。お前が責任を感じて不満を溜め込む必要はないからな。何か相談があればいつでも聞いてやる」

「は、はぁ……」

 

 端から見れば光秀を口説いているような光景だが信広はそんなの気にしている場合ではなかった。

 それは兎も角、光秀は信広と共に義輝の警備をしていたが義輝は信広を気遣い、警備を負担するため光秀に命じて国衆に警備の依頼をしたのだ。

 その到着が丁度今日であった。

 

「よし、早速済まないが本圀寺周辺に防御陣地を築くから兵を動員してくれ。寺の畳を使っても構わん」

「御意」

 

 山県と宇野は兵を指揮して陣地の構築に当たる。

 

「信広君」

「撫子か」

 

 撫子が天井からシュタッと現れた。先に使者を送ったが、念のために信広は撫子にも使者役として長秀に遣わした。

 

「長秀達と合流出来るか?」

「残念ながら無理だね。清水寺方面に別の軍勢が現れて現在防戦中だよ。送られた使者も別の軍勢に殺されてる。紫が使者の死体を確認している」

「何!?」

「だから京からの援軍は完全に不可能だね……しかも清水寺から此方へ通じる道は謎の軍勢が押さえている」

「……撫子、命令を下す。紫、霊夢の二人は長秀の元へ向かえ。長秀を臨時の総大将とし羅生門の兵をも纏め、一刻で突破出来るなら合流せよ。一刻過ぎても無理な場合は近衛前嗣の屋敷に向かい屋敷及び畏き所の警備に当たれ。飛龍と烈風は近衛前嗣に事情を説明しろ。俺が一筆書く。撫子と彗星、佐助は直ぐに信長に報せろ」

「だがそれだと信広君の傍に誰も……」

「今は一刻の猶予も無い。直ちに急げ!!」

「……御意!!」

 

 撫子はそう頷いて姿を消した。

 

「さて……聞いていたな光秀?」

「は」

「此処は一刻だけ全力で死守する。今のうちに逃げる準備をしておけ」

「ですが長秀殿達を置いて行くような……」

「なら名案はあるのか光秀?」

「それは……」

 

 信広の指摘に光秀は躊躇してしまう。

 

「全ての責はこの信広が取る。だから心配するな」

「……御意」

 

 そして信広は近衛前嗣に手紙を一筆認めて飛龍と烈風が近衛の屋敷に向かう。その間にも軍勢は本圀寺まで十町まで接近していた。寺の前は畳や米俵を楯にした防御陣地が構築されていた。

 

「掛かれェ!!」

『オオオォォォォォーーーッ!!』

 

 そして軍勢は本圀寺に攻撃を開始した。

 

「鉄砲隊構えェ!!」

 

 信広の号令の元、鉄砲隊が敵兵に照準を合わせる。

 

「まだ撃つなよ」

『………』

 

 鉄砲隊の兵は緊張しながら構えている。ある兵など緊張し過ぎて汗がダラダラと流れていたほどだ。

 

「まだまだぁ……」

『オオオォォォォォーーーッ!!』

 

 敵兵は雄叫びをあげつつ本圀寺に接近してくる。そして二町ほどになった時、信広が叫んだ。

 

「撃ェ!!」

 

 鉄砲隊の兵は次々と引き金を引いて鉛の弾丸を放つ。鉄砲は全て新型種子島の事もあり二町からでも射撃は出来た。敵兵は倒れた仲間を見る事もせずに突き進む。

 

「弓隊、竹筒矢に火を付けて放て!!」

 

 弓隊が矢に節間毎に装着した矢の紐に火を付けて山なりに射角を取って敵兵に射つ。射たれた敵兵は倒れるが数秒して突如爆発して近くにいた兵を負傷させた。

 

「ぎゃ!?」

「な、何だ!?」

「身体が爆発したぞ!!」

「妖の仕業か!?」

 

 敵兵達は騒然としているが騒ぐのも無理はなかった。

 

「ククク、方法は汚いが敵の士気は削れるな」

 

 騒然としている敵兵を見ながら信広はそう呟いた。先程弓隊が放った竹筒には火薬と数発の弾丸を混ぜていた。それに導火線で火を付けて矢を放つ。

 後は敵兵に命中してもしなくても勝手に爆発していくので敵兵の士気が低下するのは当然の事である。

 

「長頼様、兵達の士気が著しく低下しています。このままでは……」

「く……僅か千しか満たない奴等を九千の軍勢が押し潰せんのか!?」

 

 部下からの報告に長頼はそう叫ぶ。このままでは姉の久秀の怒りが激しくなるのも無理はなかった。

 

「……やむを得ん、一旦後退して戦力を整える。法螺貝を鳴らせ!!」

 

 戦場に法螺貝が鳴り響き、謎の敵兵――松永軍は一旦後退するのであった。

 

 

 

 




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第十七話

 

 

「逃げると申すのか織田信広よ!?」

「その通りであります義輝様。観音寺城には我が方の武将が守護しておりますのでそこで信長様の援軍を待つべきです」

「漸く京へ舞い戻ったというのに……わらわにまたも京から逃げろと?」

「その通りですが何か?」

「………」

 

 光秀は義輝に一歩も引かない信広に唖然としていた。

 

「貴女が怒っただけであの軍勢に勝てると思いですか? そんなふざけた事は厠に捨ててさっさと引きますぞ」

「お、御主は……わらわは将軍であるぞ!! 猫のようにするなど……」

「黙らっしゃい!! 問答無用!!」

「ガフ!?」

 

 義輝は自身を引きずる信広に文句を言おうとしたが、信広が問答無用で腹に一発叩き込んで気絶させた。

 

「………(;゜Д゜)」

「さっさと引きのくぞ光秀。それと済まぬな幽斎」

「いえ、義輝様なら駄々を捏ねるのは想定内でしたので黙らしてくれたのは私としては有りがたいです」

 

 頭を下げる信広に幽斎はそう告げるのを尻目に光秀は思った。

 

(信広様……貴方も人の事言えないと思います)

 

 それは兎も角、義輝や信広以下の生き残りは本圀寺から南近江の観音寺城を目指した。

 この時、観音寺城には森可成と佐々成政の両武将と四千の兵がいた。

 

「何、信広様が!?」

「はい」

「承知した。この森可成が救援に向かおう。そなたらは急ぎ殿に知らせよ」

「では此れにて御免!!」

 

 撫子と彗星、佐助は両武将の前から消えた。

 

「森殿、某も参ろうか?」

「いや、佐々殿はこの城を御頼み申す。儂らが行けば六角の残党がこの城を乗っ取るかもしれん」

「成る程……なら半分の二千の兵で」

「うむ、必ず信広様や義輝様はお救い致す」

 

 森可成は直ぐに軍勢を整えて観音寺城から急ぎ本圀寺に向かうが道中の大津で後退する信広の部隊と合流出来た。

 

「御無事で何よりです信広様」

「うむ、長秀達を救いたいが此処は観音寺城に向かう」

「御意」

 

 こうして一応ながらの危機を脱した信広だった。

 

 

 

 

「何!? 義輝公が襲撃を受けているだと!!」

「御意」

「(……兄様!!)恒興!! 直ぐに二万五千の軍勢を整えて出陣させろ!!」

「あ、信長様どちらに!!」

「無論京だ!!」

 

一方、撫子の報告を聞いた信長は直ぐに小姓の池田恒興に二万五千の軍勢を整えて向かわせろと言うと馬廻衆十騎ばかりだけを率いて岐阜城を飛び出したのだ。

 

「の、信長様!?」

 

 恒興から信長の出陣を聞いた藤吉郎は前田慶次に連絡して自身も丁度集まっていた三百騎を率いて信長の後を追った。

 

「んもぅ、あたしばっかり貧乏くじを引かせて……覚えておきなさいよヒロちゃん」

 

 慶次は溜め息を吐きながら後詰めに回り、残りの軍勢を率いて観音寺城方面へと向かうのであった。

 

 

 

 

「兄様!?」

「ん、来たか信――ぐへッ!?」

 

 信長は二日かけて観音寺城に到着して、信広を見つけると思わず人目を無視して抱きついた。(史実の六条合戦でも三日かかる行程を二日かけて到着している。その時には信長の陣夫が数人凍死したりしている)

 

「お、おい信長……」

 

 抱き締めてくる信長の身体は冷えていた。それも無理はない、今の月日は一月八日であり何処かの幻想の世界では氷の妖精とふとましく黒幕で白岩さんが元気に遊んでいる冬である。

 

「……とりあえずは湯に浸かって身体を暖めてこい」

「……兄様もだ」

「は?」

「私を心配させた罰として私と湯に入れ」

 

 信長はそう言って信広を掴んでズカズカと出ていったのである。一連の行動に側にいた成政と可成、光秀はというと……。

 

「……漸く世継ぎが出来ますかな?」

「いやどうですかなぁ。信広様は奥手の方ですからなぁ……」

「(;゜Д゜)……それで良いんですかお二方?」

「「あの二人の仲の良さは尾張中の者が知っとるよ」」

 

 呑気な事を話す成政と可成を他所に光秀はまたも唖然としているのであった。

 

 

 

 

「心配させて済まなかったな信長」

「……兄様が無事なら構わん」

 

 信広は信長と風呂に浸かっていた。湯船に浸かる信広の右隣には信長が座っており、身体を信広の方向に向けていた。

 

(今なら総統閣下の気持ちが分かるな。信長のおっぱいぷる~んぷるん!! だな)

 

 遥か未来のベルリンに総統官邸の地下壕に籠るちょび髭の総統閣下を思い出しつつ信広はそう思っていた。

 

「長秀や道三達を近衛やかしこき御方の警護に回せたのは上出来だ。だが……」

「……織田信広は戦を放棄して逃走した……と思えるな」

「……あぁ。無論、兄様がそんなつもりでしたとは思えない」

「ハハハ、信長からそれを聞けて俺は安心したよ」

「だが家臣達はどう思うかだな」

「処罰は?」

「……大垣城を取り上げ、佐和山城に移動。一月の謹慎……私が出せる最大の譲歩だ。第一、兄様を討てとなると今川が我々に反乱するぞ」

「……まぁそんなところだな」

「それに兄様は貴重な戦力の一人だ。易々と追放など出来はしない」

(史実だと戦死するけどな……)

 

 信広はそう突っ込もうとしたがやめた。

 

「それは兎も角、背中を洗ってくれ兄様」

「あぁ」

「あぁそれともう一つ罰を追加しよう。此方を向け兄様」

「何だ信――んむ!?」

「ん……ちゅっ……はむ、ちゅく……」

 

 信長は一瞬の隙を突いて信広に口吸い(キス)をしていた。なお、舌を入れてる模様。

 

「……信長……」

「……兄様、今は答えを言わないでくれ」

「……分かった」

 

 そして二人は何とも言えない雰囲気の湯であった。ちなみに、信長はなおもあらゆる手で信広に色仕掛けをした。信広はその色仕掛けに性的欲求が生まれたが き あ いで捩じ伏せた。

 

「……兄様は衆道なのか?」

「違うわど阿呆」

 

 そう思う信長に断じて違うと反論した信広だった。そしてその夜中、信広は撫子を呼び出した。

 

「心配かけたな撫子」

「いやなに、信広君が無事で何よりだよ」

「そうか。それで一つ御主ら忍に仕事を頼みたい」

「は、何なりと」

「烈風や紫達の誰でも良いが、堺に赴き南蛮人の商人と接触して『―――』『―――』の設計図若しくは現物を購入……最悪盗んでも構わん」

「……魚の餌でも構わないか?」

「構わん。酒に酔って転落死はよくある事だ」

「御意、直ぐに人選に掛かるよ。堺の魚はたらふく御馳走が食えるかもね」

「今回は汚れで済まぬ。三貫を特別に出すから皆と飲んでくれ」

「御意。ありがとうございます」

 

 撫子はそう言って屋根裏から消えていくのであった。

そして慶次の軍勢が観音寺城に到着してから翌日、信長は義輝を伴い再び京に上洛した。軍勢は少し荒れている本圀寺に陣を張った。

 

「信広、先日はそなたに申し訳ない事をしたのぅ」

「いえ、気にしておりません義輝様」

 

 義輝に呼ばれた信広は本圀寺の一室でそう話していた。

 

「……信広、一つ御主に聞きたい」

「何でありましょうか?」

「わらわは二条御所、本圀寺と命に危機があった……本来、将軍を暗殺するなど到底有り得ぬ事じゃ」

(鎌倉幕府の三代将軍源実朝、室町幕府の六代将軍足利義教等は暗殺されてますよ)

 

 信広はそう思ったが義輝の前なので口には出さなかった。

 

「最早……室町の権威は無いと思えるか? 御主の言葉が聞きたいのじゃ」

「さすれば……もう商人が店を閉じようとしているくらいです」

「……そうか」

 

 信広の言葉に義輝は目を閉じた。幾分か時間が経つと義輝は目を開けると信広に視線を向けた。

 

「……あい分かった。大儀であった」

「……はは」

 

 そして信広は部屋を出ると、廊下には細川幽斎が控えていた。

 

「これは幽斎殿」

「……信広殿、義輝様に正しく教えて下さりありがとうございます」

「……後は気付くかどうかです」

「もう室町は気付いているので?」

「そこは気付いているでしょう。某が言いたいのは『返還してその後をどうするか』です」

「……そういう事ですか」

 

 信広の言葉に幽斎は合点がいったように頷いた。

 

「私はその日まで立ち合いましょう」

「……分かりました」

 

 信広は幽斎に頭を下げた。そして信広は信長から下された処分のため佐和山城へ戻った。

 

「長秀、道三殿、忠勝、苦労をかけて済まなかったな」

「いえいえ、かしこき御方の警護が出来ましたので拙者の良き思い出になりましたわい」

「そうよねぇ」

「あの時は仕方ないでござる」

 

 三人は信広の謝罪のそう答えた。

 

「ま、一月は暇だからゆっくりしてくれ」

『御意』

 

 信広はそう言って城の座敷牢を訪れた。座敷牢には一人の浅井側の武将がいたからだ。

 

「久しぶりだな藤堂高虎」

「……織田信広……大将自らお出ましとはな」

「カッカッカ、今は暇だからな」

 

 信広は笑いながら床に座り高虎に視線を向ける。

 

「なぁ藤堂。四の五は言わん、織田家に降らんか?」

「……浅井を裏切れと申すのか?」

「その通り。隠居したのに口を出す者の家に未来があると思うか?」

「!? ……よくご存じで」

「某の手元には優秀な忍がおるからの。どうだろう支えぬか?」

「………」

 

 信広の言葉に高虎は目を瞑る。幾分か経つと目を開き正座をして信広に視線を向けた。

 

「……お仕えします。ですが少々御願いがあります」

「聞こう」

「浅井久政様、長政様の助命を願います」

「それは織田が浅井に侵攻すると見越してか?」

「その通りです」

「……あい分かった、そうしよう。念のために書名しておこう」

「感謝致します」

 

 こうして藤堂高虎は信広の家臣となった。

 

「信長の家臣じゃなくて良かったのか?」

「直臣より陪臣の方が楽です。それに信長殿は会った事ないので」

「……あ、そう」

 

 なお、高虎は非常に優秀な人材であった。

 

「政は高虎に任せようかな」

「それは駄目です」

 

 信広の呟きに頭を押さえながらそう答えた長秀であった。そして謹慎処分になってから三日後、信広は鉄砲鍛冶を呼び寄せた。

 

「騎兵銃……じゃなくて騎馬でも持てる鉄砲を作ってくれ」

「今の鉄砲では駄目なので?」

「俺自身がやってみたが長い。銃身を短めにやってみてくれないか?」

「分かりました」

 

 そして後に完成するのが永禄式騎銃であった。この永禄式騎銃は射程距離は新種子島より短いが従来の種子島よりかは長いので騎馬隊は元より足軽鉄砲隊にも使用されるのがしばしばあるのであった。

 

 

 

 




とりあえず信長とは一歩前進したかな。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m


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第十八話

とりあえず改訂は終了。次からは新作です


 時は六条合戦から数日後にまで戻る。

 

「……義輝を逃がしたですって?」

「弁解の余地もありませぬ」

 

 大和国信貴山城の茶室で松永久秀は弟である松永長頼から報告を聞いていた。

 

「……戦況を詳しく教えなさい。貴方が分かる限りで良いわ」

「御意。然らば……」

 

 長頼は久秀に六条合戦を詳しく説明した。

 

「竹を付けた矢が爆発……ねぇ」

「恐らく竹の中に火薬を詰めてあるのかと……」

「……ふぅん」

 

 久秀は何かを思い付いたかのように目を細める。

 

「……長頼」

「は」

「貴方の失敗は目を瞑るわ」

「はは(姉上は何か面白い物でも見つけたのだろう)」

 

 久秀の態度の変わりように長頼はそう思った。

 

「何時でも出掛ける準備はしておきなさい。下がっていいわ」

「はは」

 

 長頼は頭を下げて退出するのであった。

 

「……織田……ね。面白くなりそうね」

 

 誰もいない部屋で久秀はそう呟きながら自身が持つ茶釜の平蜘蛛を使い茶を点てるのであった。

 

 

 

「謹慎が終わって今は近衛様の屋敷にいます」

「誰に言うておるのじゃ?」

「ちょっと電波を受信したので」

「??」

 

 一月後、謹慎が解かれた信広は信長から再び京の警護を任されて今は近衛前嗣の屋敷で茶会をしていた。

 

「しかし……このわらび餅は美味いものじゃな」

「某が好きな餅の中でも上位にあります」

 

 信広と前嗣は茶を飲みつつわらび餅を食していた。

 

「前嗣様には我が兵を救って頂き真にありがとうございます」

「なんのなんの。御主と妾の仲じゃでおじゃ。それにの、畏き所の住まいにも警護してくれたおかげで畏き所も織田には好印象でおじゃる」

(マジかよ!?)

「それはそれは……」

「それでなのじゃが……」

「如何なされた?」

 

 急に申し訳ないという表情をする前嗣に信広は少し嫌な予感が駆け巡った。

 

「……信広殿……貴族の娘を……嫁にしないか?」

「……(;゜Д゜)」

 

 前嗣の言葉に信広は唖然とした。

 

「……いきなりの話ではありますが何故に?」

「警護の件じゃ。畏き所の警護をした時にえらく御主の事を気に入ったのじゃ。その時に是非とも娘を御主に嫁をとな……」

「……(;゜Д゜)」

「無論、妾達は全力で阻止をした。そんな事をすれば織田が危機になるのは間違いない」

「……確かに」

 

 他国から見れば織田家が畏き所を脅しているような展開である。もしそうなれば史実の織田包囲網並かそれ以上の事が起こりそうである。

 

「妾達の説得で畏き所も妥協して貴族から……となっておるのじゃが……無理かの?」

「(……事が重大過ぎる)信長と相談をしたい」

「それは無論じゃ。よく考えてほしい」

 

 信広は挨拶もそこそこに前嗣の屋敷を後にして信長に元に向かった。この時信長は清水寺に居住していた。

 

「………」

(機嫌悪いなぁ。しかもあのキスの後だから余計に太刀が悪い)

 

 信広から報告を受けた信長は機嫌が悪かった。しかめ面をしている上、頭部のアホ毛がブンブンと振っていた。

 

「……兄様はどうしたい?」

「……朝廷との結び付きを持ちたいなら婚姻すべきだが……」

「……あい分かった。兄様に任せる」

「……なら婚姻しよう。ただし俺じゃないぞ」

「どういう事だ?」

「あぁ、少々俺にも考えがある」

 

 信広は信長にそう告げて翌日に再び前嗣の屋敷を訪れた。

 

「前嗣様、残念ながら某にはまだやるべき事があります。なので……」

「……そうか、済まぬな信広殿」

「あいや暫く」

「ん?」

「某はまだ嫁は持ちませぬが、織田家一族の者でなら……」

「真でおじゃるか!?」

「はい」

 

 信広は自分ではなく、身内の者にした。その身内の名は織田長益、後に有楽や有楽斎と称される者だ。

 信長の弟であるがこの長益、茶に目がなかった。所謂数寄者である。

 茶に精通していた事もあり他の貴族との顔見知りが多くまさにうってつけの存在だった。

 

「(信広殿ではないのが残念でおじゃるが……これはこれで好機でおじゃる)信広殿、嫁の方は任せるでおじゃる」

「はい」

 

 こうして長益の婚姻が決定した。なお、両者の仲は非常に良かった事を記しておく。

 

「それと……畏き所にも謝罪の書状を送ります。前嗣様は済みませぬがお渡しを御願い致します」

「心得たでおじゃる(今回は身内の者だが……儂はまだ諦めておらぬぞ信広殿?)」

 

 信広が書いた謝罪の書状を読んだ畏き所は信広に好感を持たれた。後にこの書状は国宝にまでなるがそれはまだまだ先の話だった。

 

「それとでおじゃる。妾のように織田家に好感を持つ者もおれば持たない者もおる」

「………」

「妾の物見が水面下で得た情報では信長の妹に接触しようとしているかもしれないでおじゃる」

「!?」

 

 前嗣の言葉に信広は目を見開いた。

 

「気を付けてほしいでおじゃる。今、織田家が分裂すれば……」

「忠告、感謝します前嗣様」

 

 信広はそう言って前嗣に頭を下げるのであった。

 

(とりあえず信長に相談だな)

 

 

「……厄介だな」

「あぁ、流石に貴族も一枚岩じゃないって事だな」

 

 信長と信広は二条城の信長の一室で話をしていた。

 

「信行の周りの監視が必要だな。兄様の忍では無理か?」

「撫子達は今、三好の動向の諜報に行っている。今いるのは上の天井にいる紫だけだな」

「むぅ……流石に一益で見張るのはな……それに一益は伊勢攻略に携わるから無理だな」

 

 一益とは滝川一益の事である。

 

「……一つ案がある」

「何だ兄様?」

「甲賀の忍だ」

「……成る程」

 

 頭の回転が早い信長は信広が言いたい事が分かった。

 

「この件は兄様に任せる」

「あい分かった、直ぐに行動しよう。紫」

「は」

 

 天井裏から紫がシュタッと降りてきた。

 

「御主は甲賀に向かい、甲賀の忍と接触してくれ。行けるか?」

「御意」

「一筆書く、それを届けてくれ。それと手紙は真実だから信じてくれと言って舌噛んで自決するなよ。手紙を若衆にでも渡したら引き上げろ」

「御意」

 

 信広は信長から筆と墨を借りて紙に何かを書く。書き終わると紫に渡して紫はそのまま甲賀に向かった。

 

「織田家からの忍じゃと?」

「は、忍はこの手紙を携えており、渡すと直ぐに帰りました」

 

 甲賀は惣を形成して全ての案件を多数決の合議制にしていた。若衆からの報告に乙名達は織田家からの手紙を一目した。

 

「なんと……」

「これはまた……」

 

 乙名達は一目して驚きの表情をしていた。

 

「手紙には何と……?」

 

 若衆の一人が意を決して乙名に問う。

 

「我等に服従せよとだ」

「な!?」

「いくら織田でもそれは……」

「待て待て。話は最後まで聞け」

 

 騒ぐ若衆達を押さえる。

 

「服従したら今まで通りで良いとな。ただし、複数の忍を登用するのが条件だと」

「それが条件ですか?」

「信じられんな……」

「罠ではないでしょうか?」

「御主らの信憑性も分かる。だが、名目上甲賀を治めるのは織田信広との事だ」

「あの織田信広ですか!?」

「なんと……」

 

 またしても若衆達が騒ぎ出した。忍の世界で織田信広の事は有名であった。

 曰く、信広は忍の重要性を他の大名達よりも理解している事、忍を信頼し自分が考えた農具を提供している事等々忍の人間には好評価だった。(伊賀者がそれとなく農具を甲賀にも提供したりしている)

 そして信広を心酔する者も現れてくる。

 

「信広なら……我等を悪いようにはせんと思う。どうじゃろうか?」

『……服従しましょう』

「よし、なら手土産に六角親子を捕らえて信広様に渡そうぞ」

 

 多数決にはならない全会一致の賛成であった。これ以降、伊賀と甲賀は織田家の直轄地となる。

 甲賀の惣がそうしている頃、二条城では騒然としていた。

 

「……サル、それは真実か?」

「真実です信長様。三好家家臣、松永久秀が降伏してきました」

『………』

 

 藤吉郎の報告に信長達は驚きを隠せなかった。何せ三好家の重臣が降伏してきたのだ。お供は僅かの者しかおらず降伏は本当のようであった。しかも寸鉄の一つすら持っていなかった。

 

「なら会おう」

「信長様!?」

 

 信長の言葉に長秀が驚くが信長は平然とした。そうして松永が信長達の前に通された。

 

「三好家家臣、松永久秀です」

「松永久秀か。御主には悪い噂しか聞かぬが相当悪どい事をやっておるようじゃのう」

「あら、どんな噂でしょうか?」

「そうさのぅ……て「例えば……二条城の襲撃とか?」何?」

「………」

 

 信長が久秀が東大寺を焼いた事を言おうとしたが信広が口を開いた。信広の言葉に久秀は少しだけ眉を動かした。

 

「それに本圀寺の襲撃も疑われてますな」

「……本当か兄様?」

「………」

 

 信広の言葉に信長は真偽を問う。対して久秀は何も言わない。

 

「俺の忍は優秀だ」

「だそうだが……返答は如何にだ久秀よ?」

「……その通りよ」

『………』

 

 久秀の告白に勝家や藤吉郎達は自然と刀に手を沿える。しかし信長は勝家達に視線を向けて「控えろ」と告げる。

 

「それを告白して最悪殺されるかもしれないのによく言えたものよのぅ?」

「あら、言っても私は生きているわ」

 

 二人が自然と喧嘩腰になるが信広が信長の肩を叩いて場を整える。

 

「……まぁ良い。それで降伏の証には御主の信貴山城か?」

「はい、それと此方を……」

 

 久秀は何かを入れた木箱を信長に差し出す。それを藤吉郎が代表して開ける。

 

「室町三代将軍足利義満が所有していた九十九髪茄子。これを信貴山城との降伏の証です」

「……ほぅ」

 

 信長は目を細めて九十九髪茄子を見つめていた。

 

「……良かろう。降伏を認めよう」

「信長様!?」

「控えろ長秀」

 

 またも驚く長秀に信長は手で制した。流石に主君に文句は言えず、誰も久秀の降伏を容認しようとしたが……。

 

「……足りんな」

「……何が足りないので?」

 

 信広の言葉に久秀はそう返した。

 

「九十九髪茄子は確かに素晴らしい唐物茶入だろう。だがもう一つあるだろ?」

「……何の事です?」

「あるんだろ……平蜘蛛釜?」

「………」

 

 信広の言葉に久秀は殺気を出して睨み付けた。

 

「その表情……あるんだな? ならあるなら出せ」

「貴方のような輩に差し出す事は無いわ」

「……クク、何か勘違いしていないか松永?」

「……どういう事かしら?」

「俺は一言も差し出せとは言っていない。あるなら出せと言ったんだ。つまり……機会があるなら一度見せてくれないか?」

「……それなら構いませんよ」

「あい分かった。なら俺も降伏を認める」

 

 こうして久秀は織田家に降伏した。

 

「……勝手に話を進めるな兄様」

「いや、こうしないと後々の事があるからな」

「後々の事?」

「久秀の事だ。俺達の前では臣従すると言ってるが織田家が危険になれば直ぐに裏切る。それで平蜘蛛釜で降伏するかを聞いておく必要があったんだ」

「……なら平蜘蛛釜は諦めるしかないな」

「まぁ久秀は一旦信貴山城は取り上げだろな」

「……三好の事もあるな」

「その事は久秀と相談だな」

 

 そう話す二人であった。

 

 

 

 




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第十九話

 

「久秀、貴様は暫く信貴山城から離れよ」

「……三好の事ですね?」

 

 久秀が信長に降ってから翌日、信長と久秀、信広を加えた三人で信長の部屋にて内密の話をしていた。

 

「久秀殿、御主の事を鑑みれば降伏の事が三好に伝われば首を討ちに信貴山城まで来るのは明白だ。それに筒井も三好と手を組んで攻めるかもしれん」

「……筒井には遅れを取りませんが手を結ばれば厄介になりますわね。それに寺社勢力も」

(奈良は平城京や藤原京もあった寺社勢力も強いんだよなぁ…よく筒井や寺社勢力相手に戦えたものだな)

 

 内心にそう思う信広である。

 

「そこでだ……大和の寺社勢力と手を結ぶ」

「……何?」

「良い手ね」

 

 信広の言葉に久秀は成る程と頷いたが信長はジロリと信広を睨んだ。

 

「考えがある。今は俺を信じてくれ」

「……あい分かった」

(……ふぅん)

 

 二人のやり取りに久秀は何かを確信した。その後、信広と久秀が二人で話し合っていた。

 

「筒井は臣従すれば領土安堵にしておく」

「拒否するならば潰すまで……ね」

「何か不満でもあるのか」

「そんなのじゃないわ。これも戦国の世の運命(ざため)ね。それと信広殿」

「何か?」

「織田家は貴方の手腕に掛かっているわよ」

「……どういう意味だ?」

「貴方は織田家は信長が中心となっていると思っているようだけれど、果たして本当にそうかしらね?」

「………」

「まぁこれは織田家の問題だろうけど」

「それとも俺を此処で殺して織田家を狂わせるかい?」

「それはそれで楽しそうだけれど平蜘蛛が割られそうだからやめておくわ」

 

 久秀はそう言って温くなったお茶を飲む。信広もお茶を飲むが味を楽しめなかった。そして数日後、信広はある書状を携えて密かに清水寺に赴いた。

 

「ほぅ織田の者でも身内が来るものとは……」

 

 清水寺のとある一室で信広は興福寺から赴いた僧と面会をしていた。

 

「して……我等とは何をやりたいので?」

「……大和国は織田家が抑えます」

「ほぅ……」

「興福寺はそれに協力してもらいたいのです」

「……我等に利は?」

「これを」

 

 信広は書状を僧に渡した。僧はそれを受け取り、内容を一目すると目が見開いた。

 

「これは……!?」

「織田家からの朱印状です。それに織田家の朱印状を認める関白近衛前嗣公の書状もあります」

 

 信広は僧に織田家の朱印状と近衛公の書状を渡す。織田家の朱印状には興福寺に一万石の安堵が書かれていた。

 

「信用ならぬのであれば右大臣花山院家輔、左大臣西園寺公朝の書状もあります」

「これは……」

 

 書状を持つ僧の手が震えていた。いくら今では力が無い朝廷でもその権威は未だ衰えてはいなかった。

 

「また、大和国が無事に織田家の物となれば感謝の証として倍の一万二千石を増やします」

「……分かりました。直ぐに話し合いましょう」

「良い返事を期待しています」

 

 信広はにこやかに答えた。そして興福寺は織田家に協力する事になる。

 

「上手くいったみたいね」

「あぁ。僧どもは我等に口出しせずに念仏を唱えて日ノ本の繁栄を祈れば良い」

「……一向衆は潰すつもりかしら?」

「完膚なきとまでは言わんがある程度の影響力は削り、京に寺を二つ用意するつもりだ」

「二つ……」

 

 茶を飲む久秀の口角が上がる。この茶室には久秀と信広の他にも信長がいた。

 

「やはり織田家に降伏したのは良かったみたいね」

「それは良かった」

「でも肝心の当主は不満そうね」

「……私としては完膚なきまで殲滅したいがな……」

「やれば出来るでしょうね。でも人間には不満を吐き出せる拠り所が必要なのよ」

 

 わらび餅を食べる信長に久秀は信長の茶碗に茶を入れつつそう答えた。

 

「……仕方ない……か。その方針で行こう」

「御英断、真に感謝致します信長様」

「此処ではそのような事はせんでよいぞ兄様」

「貴方達は面白いわね」

 

 信広達の会話に久秀は面白そうにクスクスと笑う。

 

「でも……時としてはそれが諸刃の行為になるわよ」

「……だろうな」

 

 久秀の言葉に信広は溜め息を吐くのであった。

 

「京周辺は兄様に任せる。その間に私は尾張周辺を押さえるため伊勢に攻め込む」

「……北畠はどうする?」

「臣従せよと書状を送るが臣従するならそれで良し。拒否するなら攻めるまでの事よ。それと平行して一益が伊勢に調略をかけている」

「兵力は?」

「今川と竹千代から兵を一万ほど。我等で二万を出す。兄様には二万と久秀の兵力でやってくれ」

「私の兵力は凡そ一万二千になります」

「……京周辺からも兵を集めるか」

 

 信広はそう呟いた。そして数日後、信長は岐阜に引き上げた。信広は京に残り三好の動きを牽制する事になる。

 

「取り合えず兵を集めるか」

 

 信広は京や山城国で兵を募集、集まった五千の兵は京を守護する御親兵となり初代司令官には近衛前嗣が兼任で就任したが、実際に指揮をとっていたのは別の人物だった。

 この御親兵は約二百数十年後には近衛師団に改称される事になる。

 

「京の守護は任せるぞ義治殿?」

「お任せ下され」

 

 信広は三代目司令官に就任した六角義治にそう言う。六角親子は信長が京への上洛時に抵抗したが呆気なく敗走して甲賀に逃げ込んだが甲賀の忍は六角親子を捕らえて信長に差し出して所領安堵してもらっていた。六角親子の処遇にどうするか悩んだ信長だったが前嗣の口添えで京で監視付の保護をする事になった。

 そして御親兵が創設され前嗣が初代司令官に就任したが戦素人の前嗣では無理な事なので直ぐに信広に司令官が就任した。

 当初は信広も「近衛師団ktkr!!」と喜んでいたが、大和や三好の事もありおいそれと京を離れる事が出来なかった。そこで信広は軟禁状態の六角親子に目を付けたのだ。

 信広は六角親子と面会し、御親兵司令官を六角義治に任命した。当初は義治も織田の謀略で邪魔な自分達を暗殺するのでは疑心暗鬼したが前嗣の茶会で「殺すなら初めから殺している。貴殿方を朽ちらせるのは惜しいと思った次第まででござる」と信広がそう言ったので義治は司令官就任を引き受けた。

 なお、父親の承禎は義治を補佐する形になっている。

 

「信長は憎いが信広殿は別だ」

 

 後に義治はそう洩らすのであった。それは兎も角、後ろ(京)の守りを固めた信広は大和国攻略に乗り出す……筈だったがそれに待ったをかけるように京へ上洛をする者がいた。

 

「……御元気そうで何よりでございます」

「……久しぶりじゃのぅ……長慶よ」

 

 二条城で義輝は京へ上洛してきた三好長慶と面会していた。義輝は長慶にジロリと少々の殺気と視線を向けた。対して長慶は義輝の視線に冷や汗をかいた。

 

「わらわが京から離れている間、御主は何やら面白い事をしていたよの」

「………」

「はて……何じゃったかな幽斎?」

「……義栄を第十四代将軍にしたそうじゃが……」

「我等は草の根を掻き分けてでも貴女様を探しました。しかし――」

「よいよい。わらわが見つからねば新しい将軍を建てねばならぬからな」

 

 途端に義輝は殺気を四散させて部屋にホッとした雰囲気が流れた。

 

「まぁそれも直ぐに無くなるかもしれんがの」

「はい?」

「いや、何でもないのじゃ」

 

 義輝と長慶の面会は難なく終わり、長慶は部屋を出た。廊下を歩いていると目の前に一人の男性が現れた。長慶を見た男性は長慶に頭を下げ、長慶に道を譲った。

 

『………』

 

 一瞬の交差だったが二人は互いに相手の力量を見た。

 

(あの男……一存並、いや……)

(はぁ~……可愛い、綺麗な女性だな。でも中々の面構えだし貴族の娘でもない……なら三好長慶かもな)

 

 両者は何も言わずにその場を後にするのであった。後に長慶と長い付き合いになる最初の出会いだった。

 

「おぉ来たか信広」

「茶会で呼ぶのは構いませんが……先程の女性は何方ですか?」

 

 信広が呼ばれたのは義輝と幽斎の三人での茶会だった。幽斎から茶が入った茶碗が信広の前に置かれ、幽斎に会釈をして右手で茶碗を取り上げ、左手の平の上に置き、右手で時計回りに少し茶碗を廻して茶碗に口を付けた。

 

「三好長慶じゃ。何じゃ? さては長慶に惚れたかのぅ?」

「ハハハ、かもしれませんなぁ。出来れば戦場(いくさば)で会いたくはありませんな」

「……ほほぅ」

 

 信広の言葉に和菓子を食べていた義輝が目を細める。擬音があればキラーン☆としていたかもしれない。

 

「ふむふむ……成る程のぅ」

(……何か地雷踏んだような気が……)

 

 ヌフフフと笑う義輝に信広は嫌な予感を覚えたのであった。そして雪も解けて桜の季節になった四月、信広は二万の大軍を率いて一路大和国へ向かった。

 目的地は筒井順慶が籠る郡山城であった。

 

 

 

 

 

 




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第二十話

 

 

 信広が大和国へ侵攻する一方で、信長も伊勢国へ侵攻していた。信長はまず北伊勢の八群を手中に収めるために国人領主の神戸具盛、長野具藤を調略しようとしたが二人は共に降伏を拒否して徹底抗戦の構えを見せた。

 

「ならば討ち滅ぼすのみよ」

 

 降伏拒否の報告を聞いた信長はそう言って軍を進めた。この時、織田側は信長軍四万五千、三河松平軍五千、今川軍一万を率いていた。(松平軍大将天城颯馬、今川軍大将岡部元信)

 

「伊勢長島は迂回しましょう」

「……一向宗か」

「御意。無理に攻めれば一向宗の火が付きまする」

「……相分かった」

 

 天城颯馬の具申により先駆けを任された滝川一益は一万の兵を率いて桑名、朝明、三重群をあっという間に攻略した。また、一益の先駆けには木下藤吉郎と配下の川並衆も加わり北伊勢の国人の調略を行った。

 

「合戦して血筋が途絶えるより降伏して血筋を途絶えないようにした方が良いよ」

 

 藤吉郎はそう言って北伊勢の国人達に説得させ、これにより北伊勢の国人は次々と信長に降伏をして頭を下げるのであった。

 

「桑名城を伊勢攻略の本陣とする」

 

 桑名城に入城した信長は諸将の前でそう告げる。

 

「次は神戸具盛の神戸城だ」

 

 信長はそう言って滝川一益、藤吉郎、天城に神戸城攻略を命じた。約一万五千の部隊は一路神戸城に進撃した。

 一方の神戸具盛は籠城の構えを見せて北畠具教に援軍を要請した。

 

「さて、どう攻めるかな……」

「兵糧攻めだと大河内城から北畠の援軍が来るのは明白です」

「だが強引な城攻めは兵の損耗を招く事になる」

「三方向の同時攻撃はどうですか?」

「……一益殿」

「どうした藤吉郎?」

 

 何か思い付いた藤吉郎は一益に視線を向けた。

 

「火薬を使いませんか?」

「……成る程。流石は木下殿です」

「ほぅ火薬か」

 

 藤吉郎の言葉に天城と一益は納得した表情を見せて頷いた。

 

「いや、これでは軍師の肩書きなど入りませんね」

「なに、我等織田家には大量の火薬がありますからな。その認識がなければ兵を進めるところでした」

 

 苦笑する天城に一益はそう言う。

 

「(やはり信広殿は稀代の……いや唐の伏龍に匹敵するかもしれない)なら時間差での城攻めにしては如何ですか?」

 

 天城は内心、信広に評価を上げながら一益にそう具申する。

 

「時間差……というと?」

「城攻めは夜中として一益殿が大手門を攻撃する間に自分と木下殿が南大手、西大手から攻撃するのです」

「それは良い」

 

 天城の策に一益は頷き了承した。そして軍を五千ずつに分けて丑の刻(二時頃)、一益の軍勢が大手門に襲い掛かった。

 

「掛かれェ!!」

『ワアァァァァァーーーッ!!』

 

 一益の号令の元、兵達は雄叫びをあげて一斉に大手門に向けて走り門を破壊しようとする。勿論神戸側もそれを見逃さずに必死に防戦していた。

 

「防げ!! 矢を放て!!」

 

 神戸側も大手門を破られまいと弓矢を放ち、少数の鉄砲で防ごうとするが五千の兵の波に耐えきる事は不可能に近かった。

 そして藤吉郎の部隊は南大手、天城の部隊は西大手にひっそりと待機していた。

 

「向こうも我等の存在に気付いていますね~」

「ま、やるだけだよ半兵衛ちゃん。よし、木下隊、突撃ィ!!」

『ワアァァァァァーーーッ!!』

 

 木下隊も藤吉郎の号令を受けて南大手に突撃を開始した。

 

「来たぞ、防げ!!」

 

 神戸側も矢を放ち防戦するが、南大手に藤吉郎達が取り付いた。

 

「火薬箱を仕掛けて!!」

「任せな藤吉郎!!」

 

 川並衆が江戸時代の千両箱に似た箱を四、五個ほどを門の下に置き、穴が開いた上部に五尺ほどの導火線を入れ込み鉄砲の火縄で導火線に火を付けた。

 

「付けたぞ藤吉郎!!」

「なら逃げるよ!!」

 

 藤吉郎達はあっという間に南大手から逃げた。その逃げ様に神戸城の足軽達は笑いあっていたが南大手で爆発が起きた。

 

「な、何だ今のは!?」

「雷が落ちたんじゃないのか!!」

 

足軽達が南大手を見ると南大手の門は爆発で吹き飛ばされていた。

 

「突撃するよ!!」

『ワアァァァァァーーーッ!!』

「ふ、防げェ!!」

 

 再度突撃してくる木下隊に神戸側は防戦しようとしたが、門が吹き飛ばされて足軽達は先程の爆発で木下隊を恐怖していた。

 

「さっきのはあいつらの仕業じゃないのか!?」

「ならあいつらは妖術でも使うって言うのか? そんな奴等に勝てねぇよ!!」

「逃げるが勝ちだ!!」

 

 遂には持ち場を逃げ出す足軽や木下隊に降伏する者まで出てきた。

 

「い、いかん。これでは最早……」

 

 神戸側の侍大将は南大手を破られ占拠する木下隊を見てそう呟いた。

 一方の西大手や大手門でも火薬箱を使っての門破壊はなされ、神戸城はほぼ大手の状態だった。

 

「殿、三大手は既に破壊され織田の軍勢が殺到しております。最早……」

「……そうか」

 

 家臣からの報告に具足姿の神戸具盛はゆっくりと頷いた。

 

「皆の者、大儀じゃった」

 

 神戸具盛は降伏を決意、重臣が使者となり滝川一益の陣営に向かい降伏を打診した。

 

「相分かった。神戸具盛及び一族は助命致す故心配せぬでほしい」

「……感謝致す」

 

 戦闘は明朝には終わっていた。一益の軍勢は数時間で神戸城を占領したのであった。

 

「これで北伊勢はほぼ手中か……」

 

 桑名城で報告を聞いた信長はそう呟いた。

 

「ノブちゃん、もう一度北畠に降伏勧告を送ってみる?」

「そのつもりだ。まぁ拒否すれば殲滅するまでだな」

「……その事で関白から書状が来てるのよ」

「……見せろ」

 

 慶次が何故(深くは聞いてはいけない。良いね?)か胸から書状を出して信長に渡した。

 

「……成る程」

「関白は何て?」

「北畠の助命だ」

「それで助命するの?」

「する。近衛から北畠家は元は公家の氏族だから捕縛したら京へ追放して近衛らが手を回して公家に戻らせるそうだ。まぁ自刃したら仕方ないがのと書いてある」

 

 信長はそう言って慶次に近衛からの書状を見せる。

 

「それなら仕方ないわね」

「あぁ。全くもって面倒な事だが……北畠に降伏の使者を遣わせろ」

「御意」

 

 信長は傍に控えていた恒興にそう言って直ちに降伏の使者が大河内城に赴いた。

 

「さて、どう出るかしら?」

「さぁな。それは具教に聞かぬばならんよ」

 

 慶次の問いにそう呟いた信長だった。そして大河内城から使者として家城之清が桑名城を訪れた。

 

「……和睦……だと?」

「はは、我が主具房は和睦をしたいと……」

「断る」

「な――」

「私は書状に記したはずだ。織田に降伏せよとな!! 和睦は応じかねる。拒否するなら一族もろとも晒し首にするとはよぅ具教に伝えろ!!」

 

 家城之清は信長の怒鳴り声に慌てて桑名城を後にした。

 

「籠城すると思うか慶次?」

「具教に聞くしかないわね」

 

 信長の問いに慶次はそう答えた。前に尋ねた時と今回は反対だった。そして大河内城では北畠具教が悩んでいた。

 家督は嫡子の具房が継いでいたが実権はまだ具教が握っていたのだ。

 

「……降伏しか……あるまいか」

「侵攻に来た軍勢の他にも尾張に二万の後詰めが備えていると噂されてます。また、志摩国に九鬼嘉隆の軍勢が海上から上陸すると言う噂も……」

「むぅ……」

 

 大河内城では具教と具房がそのように話していた。

 

「また、具政殿が織田側に寝返っています。父上、信長を追い返せる力は最早……」

「……やむを得まい……か。之清、再度織田に赴いてくれ。降伏すると伝えてほしい」

「御意」

 

 そして家城之清は再度桑名城を訪れて信長と面会し北畠の降伏を伝えた。

 

「デアルカ。本来なら北畠親子の首で許すが……関白様から助命が来ておる。一族は全て助命とし伊勢から追放で許す」

「はは!!」

 

 その後、北畠一族は伊勢から追放され関白の手引きにより京で公家として舞い戻るのであった。なお、北畠の事を聞いた信広は「三瀬の変のフラグ消失乙」と呟いたそうである。

 ちなみにこの北畠、もう一回程色々なフラグがあるのだがそれは後々に判明する。

 伊勢を無事に平定した信長だったが一方の信広はどうだったであろうか?

 

「それでは先に私どもが救援に来たと偽って入城すると?」

「左様。大和国に太平の世をもたらすため等々と入城すれば筒井も興福寺の力には逆らえますまい」

 

 信広の陣内に訪れた興福寺の僧に信広はそう答えた。

 

「分かりました。直ぐに行動を移しましょう」

 

 僧はそう言って興福寺は行動を開始した。

 

「何ですって? 興福寺の僧兵が?」

「はは、手勢三千を率いて筒井家に御味方致すと……」

「まぁ、それは吉報ですわ。織田信広……松永久秀を討ちたい時に邪魔をするとは……許しませんわ」

 

 この時、筒井順慶は松永久秀を討つために軍勢を整えて郡山城に布陣していた。

 

「織田なんぞ直ぐに蹴散らして松永久秀を討ち果たしてみせますわ」

 

 フフフと笑う順慶だった。

 

 

 

 




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第二十一話

 

 

「……怪しいやろ」

 

 郡山城で興福寺の僧兵が合流して色めき立つ城内で筒井家の将である島清興(通称左近が有名。以後は左近)はそう呟いた。

 からくり好きで南蛮の部品を使って製作したカラクリ左近という武器を使う左近であるが戦略、戦術にも精通していた。

 

「僧のハゲどもが救援に来るかいな」

 

 左近は嫌な予感を覚えつつ順慶に具申をした。あまり興福寺を信用するなと。しかし順慶はそれを一蹴した。

 

「元々興福寺は大和の守護を担うような事をしていましたわ。織田なんぞに興福寺が屈するわけありませんわ」

 

 だが順慶の予想は否定されていた。興福寺は既に織田家に頭を下げていたのである。いくら興福寺でも朝廷や畏き所の圧力を受けてツルピカの頭を織田に頭を下げるものだ。しかも二万石あまりの領地を朝廷からお墨付きも効いていた。

 興福寺の僧兵が合流してから二日後、信広軍は郡山城を包囲していた。

 

「……どうなっても知らんで……」

 

 左近はそうぼやきつつ城内を警備する事にした。そして大手門に行くと数人の興福寺の僧兵が門に何かの箱を置くと直ぐに何処かへ行った。

 

「何やあの坊主ども……」

 

 左近はそう愚痴りつつ箱を見た。箱の傍に火が付いた紐があり、火は徐々に箱の中に入ろうとしていた。

 

「……アカン!!」

 

 左近は直ぐにその場を離れようと今来た道を引き返した。その瞬間、箱が爆発して左近は吹き飛ばされて気絶した。気絶した左近を尻目に大手門の門は破壊されていたのであった。

 

「信広様、合図です!!」

「全軍、掛かれェ!!」

 

 大手門の爆発に好機と判断した信広は全軍に攻撃を開始させた。そして破壊された大手門に忠勝の部隊が斬り込みをかけた。

 

「てやァァァァァッ!! 忠勝の槍の味、存分に味わうで御座る!!」

 

 忠勝は馬上から得物の蜻蛉切を振るいつつ筒井兵を吹き飛ばしていく。また、小太郎達忍びも火薬箱を使って他の城門を爆破させていた。

 

「小太郎殿、南門等を爆破させてきたで御座る」

「よし、なら他の部隊の援護に回ろう。死者は一人でも少なくしないとね」

「御意」

 

 忍び達は再び闇に潜む。一方で筒井順慶は城門爆破に焦っていた。

 

「織田家……城門を爆破するとはやりますわね。急いで防戦するのです!!」

 

 筒井兵達は信広軍に負けじと応戦するが、味方だった筈の興福寺の僧兵が突如、筒井軍に攻撃を仕掛けて来たのである。

 

「順慶様、興福寺の僧兵どもが裏切りました!!」

「何ですって!?」

 

 家臣からの報告に順慶は驚愕していた。

 

「おのれ興福寺!! 直ぐに対処しなさい!!」

「はは!!」

 

 しかし、僧兵は前もって郡山城に入城していた事もあり何処の場所にでも僧兵が点在していた。そのため僧兵に二の丸が占拠される事態も起き、遂に僧兵は本丸と天守台を占拠してしまう。

 

「この裏切り者!!」

 

 縄で捕らわれた順慶は僧兵達を睨み付けるが僧兵達は知らぬ顔である。僧兵達は此処で直ぐに順慶を信広に渡せば良かった。

 

「五月蝿いなこの女」

「まぁ落ち着け。それにこの女、中々の持ち主じゃないか」

 

 僧兵達は順慶の身体を見つめる。その身体は一般の女性より豊かな物であった。

 

「まぁ……ちょっとばかりな」

「あぁ。頂いても構わんだろう」

 

 僧兵達の視線に順慶は背筋が凍った。

 

「な、何ですの……」

 

 順慶は思わず後退りをするが僧兵の手が順慶の服を破いた。その破いた衝撃で順慶の豊満な胸が見え僧兵達の性欲を増長させる。

 

「キャアァァァァァ!?」

「暫くは楽しませてもらおうか」

「イヤ……イヤァァァァァ!!」

 

 順慶に僧兵達が群がり、その悲鳴は虚しく天守に響き渡るのであった。

 

 

 

『………』

 

 織田の陣営は異様な雰囲気に包まれていた。信広の御前には順慶と気絶していたのを捕縛した左近の二人がいた。しかし、順慶の様子はおかしかった。

 

「(明らかにレイプ目じゃねぇか……)直虎、直ぐに風呂を用意して筒井殿を綺麗に差し上げろ」

「御意」

 

 直虎は順慶を連れて下がる。そして信広は左近に頭を下げた。

 

「島殿、此度は申し訳なかった」

「……いや戦で破れたらああなる事もあるとウチは認識してたわ」

「いやそれでもだ島殿。此度は申し訳なかった。彼女に取り返しの付かない事をした」

 

 そして信広は左近に土下座までした。土下座までした信広に流石の左近も目を見開いたのである。

 

「……あんた織田の大将やろ? そんな易々と土下座までしてええんか?」

「信長が天下を取るためなら俺は土下座までしてやるよ」

 

 信広の態度に左近は好奇心を覚えた。

 

「……さよか。そんならええよ」

 

 左近は好奇心を覚えつつ一旦はその場を後にするのであった。そしてそれを見ていた久秀はクスクスと面白そうに笑っていた。

 

「軽蔑したか久秀?」

「いいえ、改めて貴方は面白い人物だと認識したわ。それで順慶に乱暴した僧兵はどうするのかしら?」

「無論、生まれて来た事を後悔させるまでよ」

 

 久秀の言葉に信広は殺気を周囲に出しつつそう言う。久秀は信広の殺気を浴びても気持ち良さそうにしていた。

 

「外道にまで堕ちない事を祈るわ」

「そこまでするかよ」

 

 久秀の言葉に苦笑する信広だった。そして順慶を強姦した僧兵達は縄に縛られながら信広の前に引き摺り出された。

 

「……四の五は言わん全員の首を刎ねろ。地獄に落ちろ糞野郎ども!!」

 

 太刀を抜いた信広はそう言って一人の僧兵の首を刎ねた。それを合図に足軽達が僧兵の首を刎ねたのである。

 

「刎ねた僧兵の鼻を削いで興福寺に送ってやれ」

 

 削いだ鼻は直ぐに興福寺に送られ、翌日には興福寺から別当自らが謝罪に来た。

 

「申し訳有りませぬ。我等は織田に逆らうのは本意には有らず!!」

「……郡山城の攻略を支援してくれたのは確かだ。それに順慶に乱暴した者は既に我等が首を刎ねた。それで水に流そう」

「あ、ありがとうございます!!」

「だがな別当。次にいらぬ事をしてみろ……興福寺という物が大和国から無くなるからな? それを覚えておくのだ」

「は、はは!!」

 

 これ以後、興福寺が織田に逆らう事はなかった。後に発生する一向一揆では大和国の一揆を直ぐに押さえて大和の安全を図るまでする事になる。

 それは兎も角、一先ずの戦を終えた信広は具足を外してとある部屋に赴いた。その部屋は筒井順慶がいた。

 

「……気分はどうだろうか? いや、やはり優れんか」

「いえ、左近から事の顛末を聞きました。ありがとうございました」

 

 順慶はそう言って信広に頭を下げる。

 

「いや俺は何もしていない」

「そんな事ありませんわ。わたくしのためにして下さったのです。感謝しますわ」

「いや俺は……」

「いえいえ……」

 

 そんな会話が数回繰り返すと不意に二人で笑い出した。

 

「おかしいですわね」

「そうだな」

「……信広殿、いえ信広様、筒井家は織田家に降伏します」

「……あい分かった」

 

 順慶が正座して信広に頭を下げ、信広はそれに頷いたのであった。

 

「何か望みはあるか筒井?」

「わたくしは陪臣で構いませんが、左近は直臣にして下さい。彼女は貴方の策をある程度読んでいましたわ」

「(やはりか……流石は島左近か)そうであるか。俺もまだまだよの」

「必要ならわたくしからも一筆書きましょう。左近はわたくしのような者より信広様のような壮大な方に付くべきですわ」

「クク、褒めても何も出んぞ」

 

 そして二人は暫く談笑するのであった。

 

 

「どうだろうか? 俺の直臣にならないか?」

 

 信広は順慶と談笑した後、左近の部屋に訪れていた。来訪の用件は直臣への誘いである。

 

「………」

 

 しかし左近は正座したまま黙っていた。信広はあれこれ言ってみるが左近は反応を示さない。

 

「(やっぱ引き抜きは無理か……)分かった。そなたに感状を出すので好きにしたらいい」

 

 信広は左近に頭を下げて部屋を出ようとする。

 

「……信広殿」

「ん?」

「貴殿は天下を取れる御方やと思う。何故に信長に託そうとするんや?」

「……あいつは人付き合いが苦手な奴だ。直ぐに上から目線になるけどな、それでも根は優しい奴なんだ。だから俺が裏から支えてやるんだよ。あいつのためなら俺は土下座もしてやるし虐殺もしてやる」

 

 信広は照れくさそうにそう言った。その仕草に左近はアッハッハッハと笑い出した。

 

「ヒー、ヒー……やっぱ面白いなあんた」

「そんなに面白いか?」

「あぁ、面白いわ……よっしゃ、あんたの家臣になったるわ」

「どういう風の吹き回しだ?」

「まぁええやん。俸禄はこれくらい頂戴や」

「……多くないか?」

 

 左近が示した額は他より多かった。

 

「カラクリ左近の維持費や購入費も含めてや」

「……まぁ良いか」

 

 そして島左近及び筒井順慶は織田家に臣従するのであった。

 

 

 

~~~おまケーネ~~~

 

「あら筒井順慶じゃないの。生きてたの?」

「あーら松永久秀じゃないですの。相変わらず貧相な身体ですわね」

「……なまくさ坊主どもに襲われたくせに」

「貧相な身体で言わないで下さるかしら?」

「……何だかんだで仲が良いな」

 

 二人のやり取りにそう思う信広だった。

 

 

 

 

 




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第二十二話

 

 

「……織田が大和をほぼ攻略した。残るは久秀の信貴山城だ」

 

 河内国の飯盛山城で三好長慶達は評定をしていた。

 

「当の松永本人はどうしたんだ?」

「弟長頼によれば病に伏していると言っています」

「ふん、本当に病なのか?」

 

 三好長逸の言葉に長慶の弟である十河一存は怪しそうな表情をしている。

 

「本当は裏切って織田に与してるんじゃないか?」

「一存、そんな言い方は良くないぞ」

「けど姉さん!!」

「一存」

「……分かったよ」

 

 長慶の言葉に一存は渋々と従う。

 

「私は信貴山城に赴こう」

「姉さん!?」

「心配するな一存。久秀は裏切らない」

 

 多分此処に信広がいたら「裏切ってるよ。オンドゥルルラギッタンディスカー!!」と言っているかもしれない。

 

「一存、私がいない間の政務は任せたぞ」

「げ」

「フフ」

 

 嫌そうな表情をする一存に笑う長慶だった。そして長慶は僅かな供を連れて信貴山城に向かうのであった。

 一方、信貴山城には城主である松永久秀の他に信広がいた。

 

「これが平蜘蛛か……割ったら駄目だよな?」

「割ったら貴方の四肢を生きながら切り落とすわよ」

「デスヨネー」

 

 二人はそんな事を言いながら話をしていた。普通は二人は敵同士なのであるが久秀は既に織田に頭を下げて降伏をしており実質大和国は織田家の物になっていた。

 

「ふむ美味いな。やはり茶器が変わると美味くなるものなのか……」

「貴方も茶器の気狂いになる?」

「ははは、勘弁してくれ。信長が怒りそうだ」

 

 久秀の言葉に信広は苦笑する。

 

「それで……次はどうするのかしら?」

「……信貴山城を攻める」

「フフ、私を殺すのかしら?」

「表向きはな。そうしないと大和国を攻略した事にならない」

 

 裏では大和を攻略しても表で攻略しないと三好に怪しまれるのは必須だった。そのために信貴山城を攻める必要があったのだ。

 

「それで表向きは降伏してほしい久秀」

「勿論よ」

 

 久秀はそう言って笑い茶を飲む。そこへ長頼が部屋に入室した。

 

「姉上」

「どうしたの長頼?」

「今、長慶様が姉上に見舞いに来ました」

「……何でやねん……」

 

 思わずそう呟いた信広である。しかし久秀は何食わぬ顔で告げた。

 

「通しなさい」

「……おいおい」

「大丈夫よ。私の言葉に上手く合わせなさい」

「はいはい」

 

 そして長慶が現れた。

 

「久しいな久秀」

「これはこれは長慶様、このようなところにわざわざ……」

「なに、少し大和の情勢が気になったから来たまでだ。病に伏せていると聞いたが大丈夫か?」

「えぇ。今日は具合も良いので」

「そうか……貴殿は……」

 

 そして信広に長慶が視線を向ける。

 

「此方、織田信長の庶兄信広殿ですわ」

「(ちょ、おま……)織田二郎三郎信広でございまする」

「三好孫次郎長慶だ」

 

 信広が長慶に頭を下げ、長慶も信広に頭を下げたが両者とも雰囲気は固かった。

 

「久秀……何故織田家の者がこの信貴山城にいる?」

「フフ、簡単な事ですわ長慶様。私はそこの織田信広から調略を受けていたのです」

「ほぅ……」

(ちょ、おま……俺の人生オワタか……)

 

 色々と暴露している久秀に信広は内心人生を諦めていた。

 

「それで裏切るのか久秀?」

「いえいえ。私は長慶様に恩義がありますので裏切りませんよ」

 

 長慶の言葉に久秀はクスクスと笑う。

 

「流石に手ぶらで帰って頂くのもあれなので茶会をしていたのですよ」

「そうなのか?」

「え、えぇ」

 

 いきなり長慶が信広に視線を向けてきたので信広は少し驚きながらもそう答えた。

 

「なら私も同席しても構わないか? 一度久秀の茶を飲みたいからな」

「構いませんわ。信広殿も構いませんこと?」

「ア、ハイ」

 

 何故か逆らえないと思った信広はそう頷いた。そして三人での茶会が始まった。

 

「……どうぞ」

 

 久秀から差し出された茶碗を長慶は洗練され、一切無駄のない所作と完璧な作法で茶を飲む。

 

「………(綺麗だ……)」

 

 ただ茶を飲むだけの長慶の姿に信広はそのように思っていた。

 

(俺の中でも信長に並ぶヒロインに連ねているだけでもあるな)

 

 ……よく分からない考えの信広だった。

 

「結構なお手前でした」

(アカン)

 

 完全に負けていた信広だった。

 

「……信広殿」

「……何か?」

「織田家は何を目指すのか?」

「……天下」

 

 信広は長慶を見据えてそう断言した。

 

「天下の先に何を求むのか?」

「……民の平和。そして外の海へ」

「外の海?」

「俺にとって天下統一は前半にしかない。後半は外の海へ進出する事だ」

「外の海に……」

「世界は広い。日ノ本の統一で満足していたら駄目だ。それにキリスト教の事もある」

「キリスト教? 彼等が何かあるのか?」

「……彼等の表の目的はキリスト教の布教だ。しかし裏の目的は違う」

「裏の……目的?」

「……日ノ本を南蛮の物にする事だ」

「……何?」

「奴等はキリスト教を布教させて国を取っていく。俺が仕入れた情報では既に外の国の多くが南蛮に占領されている。南蛮がよく漂着する九州ではよく人拐いがあるそうだ」

「人拐い……まさか!?」

「確信的な情報ではないがな」

「……信長はそれを知ってて天下を?」

「いや、あやつは知らんだろう。だが何れは知る」

「……怖いお人だ。何故そこまでして信長の裏になろうとする?」

「……今の世を治めるのは信長しかいない。三好だろうと足利だろうとな」

 

 信広はあえて長慶を挑発させる言葉を発するが、長慶は平然としていた。逆にクスクスと笑っている。

 

「近畿を治める三好に幕府の足利に喧嘩を売るとは……余程の馬鹿なのか」

「ククク、馬鹿で結構だ」

 

 信広はそう言って茶を飲む。

 

「……では戦は全力でやらねばならないな」

「元よりそのつもりだ。鬼十河やら松永がいるのは苦労する」

「フフ、その言葉はそっくり返そう。本多忠勝がいては一存も苦労するだろう」

 

 長慶はそう笑って立つ。

 

「行くのか?」

「今日は久秀の見舞いだ。長居をしていると久秀から病を貰うからな」

「あらあら」

「では信広殿。貴方と次に会うのは戦場になるだろう」

「あぁ。俺としては祝言の場で白無垢を着て俺の隣にいてほしいがな」

「な――!?」

 

 信広の言葉に長慶は急速に顔を赤く染める。

 

「ハッハッハ。してやったりとはこの事だな」

「~~失礼する」

 

 笑う信広に長慶は反論せずにその場を後にするのであった。

 

「……貴方って馬鹿?」

「馬鹿は余計だ」

 

 信広は久秀の言葉にそう言って茶菓子を口の中に放り込む。

 

「ま、私には関係ないわ」

 

 そう言って茶器を片付ける久秀。

 

「……南蛮の話は本当かしら?」

「俺の仕入れた情報が正しければな。だが人拐いは確かにあるらしい」

「……貴方ならどうする?」

「高札を出す。人身売買は我が領内において禁ずる。破る者は一族郎党なで斬りだ」

「織田家の領内に出てる高札じゃない」

「具申でもあるか?」

「無いわね。人拐い等は私の美に反するわ」

「お、おぅ」

「それで表向き降伏した私はどうなるのかしら?」

「……済まないんだが、三河に行ってほしい」

「三河に?」

「……三河で一向一揆が発生したんだ」

 

 三河の一向一揆は史実通り発生していた。(年数は違うが……)

 

「颯馬、数が多すぎるよ」

「落ち着いて下さい家康様。今は信長様に援軍を乞うのです」

 

 岡崎城では徳川家康(松平元康から改名)があたふたしているが、軍師の天城颯馬が冷静に指示を出していた。

 

「鎮圧のために家康が援軍を要請している。自由に動けるのは久秀しかいないんだ」

「……仕方ないわね。貸し一つよ」

「凄い貸し一つになりそうだ」

 

 信広は溜め息を吐いた。そして京に戻った信広は清水寺にてとある者と面会した。

 

「鈴木重秀です」

「織田二郎三郎信広だ。雑賀孫一とも聞いたが?」

「雑賀孫一は雑賀衆や雑賀党鈴木氏の棟梁や有力者が代々継承する名前です」

「そうか」

「書状にて内容を拝読しました。本願寺と手を切り織田と契約してほしいと……」

「雑賀の鉄砲の腕を見込んでの事だ。それに家臣にも取り立てる」

「!?」

 

 信広の家臣の言葉に重秀は目を見開いた。

 

「我々を家臣にして下さると!?」

「うむ。同じく根来衆もだが、それに家臣になってくれたらこの種子島をやろう」

「こ、これは……まさか!?」

 

 信広に渡された種子島を見て重秀は驚いた。織田軍が使用している魔改造されている種子島だったのだ。

 

「これを我々に……?」

「家臣になってくれればね」

「……他の者と話がしたい」

「良い返事を期待しています」

 

 紀伊国に戻った重秀は直ぐに他の有力者達と話し合い、織田家に仕官する事にした。また根来衆にも声をかけて根来衆も織田家に仕官する事になる。

 これにより本願寺の兵力は大幅に削れるのであった。

 

 

 




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第二十三話

一日から仕事をしているので更新は遅くなると思います。


 

 

 

 

 

 伊勢を攻略した信長は意気揚々と京に向かっていた。その頃大和国では信広の三万の軍勢が信貴山城を包囲していた。

 

「信広様、松永は降伏しました」

「うむ、久秀はどうした?」

「茶器に火薬を積めて爆死をしました」

「……そうか」

 

 直虎からの報告に信広は目を背ける。

 

「……後味が悪い戦だが……仕方ない……か」

「……そのようですね」

 

 信広と直虎がそう言うが隣にいた女性――久秀が頭を押さえていた。

 

「何の芝居よそれ?」

「久秀!? 生きていたのか!!」

「残念だったわね……罠よ……って何言わせるのよ」

 

 見え透いた三文芝居をする三人だった。なお、久秀の台詞は紙に書いて直虎が久秀に見えるに見せていた。(作成したのは信広なのは言うまでもない)

 

「先駆けをしたのは?」

「島左近と筒井順慶です」

「あの二人か……まぁ良いか(ある意味で鬱憤晴らしてそうだな)」

 

 そう思う信広だった。久秀爆死は直ぐに三好に伝わった。

 

「久秀が爆死……なぁ」

「どうした一存? 胡散臭そうな表情をしているぞ」

「いやさ姉さん、本当に久秀は死んだのか? あの久秀がだぞ?」

 

 飯盛山城で長慶達はそう評定をしていた。

 

「しかし茶釜に火薬を詰めて爆死するのは久秀らしいと思うぞ?」

「それはそうだけどさ……」

 

 一存の勘は当たっていた。久秀は生きており爆死などしていない。今は三河に向かっている途中である。

 

「まぁいないなら仕方ない。作戦は練り直しだ」

「……分かったよ姉さん」

 

 長慶の言葉に一存は渋々と言う。その後、長慶は自室にいた。

 

(……死んではいない……だろうな。恐らくは織田信広に助けられたか、それとも始めから仕組んでいた事か……)

 

 長慶は始めから久秀が生きていると信じていた。ただ家臣が生きているのに嬉しい感情はあまり出なかった。

 

(あいつは何れ私の寝首を掻くつもりだったと思うが……信広の存在だろうな)

 

 長慶はそう思っていた。

 

「……ククク、中々の奴じゃないか」

 

 長慶はそう言って笑うのであった。その信広はというと……。

 

「褐色火薬が出来たか」

「御意にござりまする」

 

 清水寺で信広は撫子からの報告を受けていた。褐色火薬は日本でも明治二十年に採用されて無煙火薬が出るまで大砲などに使われていた。銃身にライフリングが刻まれたライフル銃は旧式の火縄銃などと違い銃弾と銃身の間に隙間がほとんど無い構造をしているため、銃の内部圧力が過大にならないようにするために、黒色火薬よりも燃焼速度の遅い火薬が必要となったことから黒色火薬を改良して開発されたのである。

 木が完全に炭化して黒くならないうちに焼き止めて作った褐色木炭を使用することで燃焼速度を遅くしている。 黒色火薬より使える代物であろう。

 

「出来た物は部隊に配備させるか」

「雑賀孫一の部隊にもかい?」

「当たり前だ。裏切ると思っているのか?」

「まぁね」

「大丈夫だ。雑賀衆が裏切れば彼等の傭兵としての信頼は無に等しい。傭兵というのは一度の負があれば誰も信用はしない」

「本願寺を裏切っているぞ?」

「本願寺とは傭兵関係だけだ。何のために傭兵期間が終わる寸前に会談したと思っている?」

 

 信広と雑賀孫一が会談したのは雑賀衆と本願寺との傭兵期間が終わる一月前だった。

 

「その雑賀孫一達はいないようだが?」

「紀伊を攻略している。紀伊は雑賀と根来、熊野水軍で統括する。表向きは俺の領地だが、実質治めているのは彼等だ」

「……信広君は領地に興味はないのかい?」

「今は良い。ある程度織田の領地が増えない事にはな」

「……ある程度の領地?」

「畿内、東海道、東山道、北陸道は取っとかないとな」

「……信広君だと早い月日でやりそうだ」

「何を言っている撫子。最終目標は日ノ本という国家の建設だ」

「……やはり君に仕えてよかったと思うよ」

 

 そう言って笑う撫子だった。その後、信長率いる四万五千の軍勢が京に到着した。

 

「大和国攻略、大義であった」

「はは」

「これで三好と決戦になるだろう」

 

 信長は清水寺で諸将を集めてそう言い放つ。

 

「我が軍は七万五千の兵力。今のうちに三好を叩くのが最善だ」

「兵は年中駆り出せますが弱いのは難点ですね~」

 

 信長の言葉に半兵衛がそう指摘する。確かに尾張の兵は最弱と呼ばれるほどであった。

 

「……一つ、策がある」

「信広さんの事ですからあれですかね~?」

 

 信広の言葉に半兵衛が目を細めて信広に視線を向ける。対して信広もニヤリと笑った。

 

「信長……お前には少しの間だけ恥を忍んでやってもらう事がある」

「構わない。勝てる策なのだろう?」

「まぁ引き分けまでには持ち込めるだろう」

「なら信広に……兄様に任せよう」

 

 信長はニヤリと笑うのであった。信広は直ぐに作戦を説明した。

 

「軍を三個に分ける。信長、俺、道三殿を大将とする」

「あら、私を大将に?」

「戦の経験は我々より上ですし引き際も理解出来るはずです。是非ともお願いしたい」

「……そこまで言われたら私もやるしかないわねぇ」

 

 道三はニヤリと笑う。それぞれの補佐には信長には半兵衛と慶次、道三には左近、信広には長秀である。

 その夜、信広は自室にいると道三がやってきた。

 

「何かありましたか道三殿?」

「信広ちゃんに聞きたくてね。どうして私に大将を押したのかしら?」

「それは先程説明した通りです。というより織田家で大将並の人材がいないのが現状です」

 

 信長の弟である信包や信興はいたが、まだ実戦を其れほど経験しておらず信長の与力として信長の部隊にいた。

 

「それなら武将並で絞ると道三殿が良好となった次第です。それに道三殿は大名をしていた強者、道三殿なら安心出来ると考えた次第です。まさか辞退をするので?」

「そうじゃないわ。どうして私に拘ったのかその本心を聞きたかったのよ」

「……道三殿に配慮が足りませんでしたな」

「良いのよ信広ちゃん。その代わり……」

 

 道三はニヤリと笑って信広のとある場所に手を重ねる。

 

「……冗談は止めてくれないか道三殿?」

「あら? 私は本気よ信広ちゃん。それに……私を助けてくれた御礼がまだだったわよね?」

 

 道三はそう言って信広の背中にその豊満な胸を押しつける。道三がふぅと信広の耳に吹き掛けて信広の思考を奪う。それに道三の熟しそうな女の匂いが信広の鼻腔を通り、信広の脳を刺激する。

 

「……止まりませんよ?」

「フフフ、楽しみね♪」

 

 道三のその言葉を聞くや否や、信広は道三と口吸い(キス)を交わしてそのまま押し倒したのである。ちなみに、信広は憑依してからこの時まで性的欲求をしていない。というよりも仕事に忙しくて遊女のところに行っている暇なんてなかった。コップにギリギリまで水が入り、溢れんばかりであり決壊寸前のダムのように溜まりに溜まっていたのであった。

 後に道三は「朝は起きれず、昼餉まで腰が抜けていた」と侍女に語るがその表情は幸せそうだったという。対して信広も「十発目からは数えてない」と道三の態度に不審に思って聞きに来た長秀に対して意味深長な言葉を残しているのであった。

 

 

 

 翌朝、目を覚ました信広がまず最初に見た光景は目の前に裸の道三が信広に腕枕をしてもらい寝ている姿だった。

 

「………(とうとうやっちまった。いやまぁ遊女にヤる機会なかったからこの歳まで童貞だったけどさ……前世も含めると魔法使いの歳を越えてるよな)」

 

 信広はそんな事を思いつつ、道三の頬を撫でる。撫でられたのかニマッと微笑む寝ている道三だった。

 

(……やっべ、すっげぇ可愛い。何かムラムラしてくるんですが……)

 

 信広はそんな衝動を押さえつつ静かに着替えて部屋を出た。厠にでも行こうとしたところ、突然飛龍と烈風が現れた。

 

「信広様、おめでとうございます」

「……見てたのか?」

「我等が警護をしているところに道三殿が来たのでその……」

「まぁ良い。それに関しては済まない」

「しかし安心致しました。殿が男色かと思い、我等は覚悟を決めていたところでした」

「……お前らの俸禄は撫子に渡した方が良いな?」

「直ぐに消えますので勘弁してほしいです」

「ならこの事は記憶から消せ。良いな?」

「御意」

「我等は何も見ておりませぬ」

 

 二人はそう言って消えるのであった。

 

「……あいつらも此処に来てから大分打ち解けたな」

 

 そう呟く信広だった。部屋に戻ると道三はいなかったが後に会うと少しだけ頬を染めて笑うのであった。

 そして道三と関係を持った数日後、準備を整えた信長の軍勢は京から山崎方面に進軍を開始した。

 その情報は直ぐに長慶にも伝わった。

 

「……出陣だ。信長の首級をあげるぞ」

『オオォォォ!!』

 

 長慶は事前に兵力を備えていた事もあり、六万九千の軍勢を飯盛山城から山崎方面に急行した。

 後にこの戦いは天王山の麓だった事もあり天王山の戦い、山崎の戦いとも呼ばれるのであった。

 

 

 

 




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第二十四話

久々の更新


 

 

 

 

「申し上げます!! 織田の軍勢は凡そ五万也!!」

「五万……」

「少ないですね。事前の情報では約七万はいるはずです」

 

 物見からの報告に三好三人衆の一人である三好長逸はそう告げる。

 

「五万だろうが蹴散らせば良いじゃない」

「でも約二万の所在を知りませんとね~」

 

 三好政康の言葉に岩成友通はそう牽制する。むやみやたらの突撃は敵の有利になるだけだ。

 

「どうする姉さん?」

「……敵の出方が分からない。此処は――「申し上げます!!」」

 

 長慶が言葉を発しようとした時、別の物見が現れた。

 

「苦しゅうない」

「織田の残りは京にいる模様です!!」

「それは本当か!?」

「は、逃げようとしていた織田の雑兵を捕らえ近江の浅井が朝倉と共に佐和山城に攻勢を掛けた模様で京に二万の軍勢を残したとの事です」

「……姉さん」

 

 十河一存は長慶に視線を向ける。

 

「……一存、お前に任せる」

「分かった。全軍に通達、出陣だ!!」

 

 長慶は軍事面を弟一存に頼っている面があった。そして一存は出陣を決断した。

 

「……任務完了」

 

 長慶に報告をした物見はそう呟くと何処からともなく消えるのであった。

 三好軍六万九千の軍勢は一存隊を先頭に突撃を開始する。対して織田軍は鶴翼の陣で迎え撃つ。

 

「三好軍が突撃してきます!!」

「鉄砲隊、射撃しろ!!」

 

 本陣で信長はそう叫ぶ。直ぐに鉄砲隊が横隊で戦闘隊形を取り、射撃を開始する。

 鉄砲の鉛玉が三好軍の雑兵の命を刈り取るが鉄砲の数は僅か三百、全てを撃退は出来なかった。

 

「槍隊用意!!」

 

 柴田勝家が叫ぶ。槍隊は鉄砲隊の前に出た。

 

「掛かれェ!!」

『ウワアァァァァァァァァ!!』

 

 槍隊は一斉に走り出して三好軍と戦闘を開始する。

 

「申し上げます!! 山崎の麓にて激しい撃ち合いとなりたる模様です!!」

「あい分かった」

 

 伝令からの報告に長慶は頷く。戦闘が開始されてから三十分は両軍とも互角の戦いをしていた。

 特に十河隊と柴田隊が激しい撃ち合いをして両者とも負傷する羽目になる。しかし一存は負傷した左腕の傷口に塩を刷り込んで消毒し、藤の蔓を包帯代わりにして傷口に巻いて再び戦場に舞い戻ったのである。

 

「この鬼十河を舐めるんじゃねェ!!」

 

 一存は槍を織田の雑兵の胸に突き刺す。槍の刃は雑兵が着ている鉄の胴鎧を突き抜けて心臓を一刺ししてその命を刈り取る。

 

「次はどいつが相手だ!?」

 

 槍を振り回しながら叫ぶ一存だった。一存の奮戦により織田軍は徐々に押され始めた。

 

「申し上げます!! 味方の被害は甚大也!!」

「ぐぅ……勝家はどうした!?」

「十河一存との戦闘で負傷、後退をしておりまする!!」

「……勝家が負傷だと!?(ちぃ、予想外の出来事だが……上手く策はいけるかもしれんな)」

 

 信長はそう考えながらも馬上から指示を出す事にした。

 

「全軍に後退を指示しろ!! 紫」

「は」

 

 信長は忍の紫に視線を向ける。

 

「忍を動員して偽の情報を与えてやれ」

「御意」

 

 紫が頭を下げるとフッと姿を消したのであった。

 

「申し上げます!! 織田軍は後退しつつある模様です!!」

「後退しているだと?」

「は、織田の家老である柴田勝家が負傷して士気が低下した模様です」

「長慶様、これは好機かと存じます」

 

 三好長逸は長慶にそう具申した。

 

「うむ、出来るだけ信長には打撃を与えておきたい。一存に伝令を出せ。信長に打撃を与えろ」

「御意」

 

 直ぐに伝令が十河隊に向かい、十河一存は更に前進をして織田軍を蹴散らそうとする。十河一存の突撃に織田軍は完全に戦線は崩壊していた。

 

「既に戦線は支離滅裂です!! このままでは十河一存の軍勢が此方に押し寄せて参ります!!」

「支離滅裂だと!?」

 

 十河一存の奮戦により織田軍はばらばらで纏まりがない支離滅裂の状態になっていた。

 

「~~撤退だ。撤退するんだ!!」

「引きのくのですか!?」

「このような状態でどう戦線を建て直すつもりだ!! さっさと引きのくぞ!!」

 

 信長はそう言って馬を走らせて近習や馬廻衆と共に逃げた。文字通り逃げたのである。信長が逃げた事は織田軍の雑兵がそう言いながら逃げるのを三好軍の雑兵が聞いて直ぐに長慶に伝えられた。

 

「この報告が真であれば我が三好は更に有利な戦になると思います」

「うむ。追撃しよう(しかし……何だこの胸騒ぎは?)」

 

 長慶は追撃命令を出しつつ、心の奥底ではそのように思っていた。そして追撃には十河一存隊が先頭となり織田軍を追撃する。

 

「雑兵には構うな!! 目指すは信長の首級だ!!」

 

 一存は槍を振り回しつつそう叫ぶ。そして織田軍は逃げ、三好軍が追撃する舞台は整った。

 

「信長が逃げた? アハハハ、愉快だわ♪」

「もう~政康ったら~」

「………(何だ……何だこの胸騒ぎは?)」

 

 逃げた信長を笑う三好政康を岩成友通が諌める中、長慶はそう思いつつ馬を走らせようとした時、ある人物を思い浮かべた。

 

『今の世を治めるのは信長しかいない。三好だろうと足利だろうとな』

 

(織田……信広!?)

 

 信貴山城で出会った信広を思い出して身体が震えた。それは背中に大量の氷を入れられた感触だった。

 

「一存に伝令を出せ!! 直ちに引くのだ!!」

「長慶様?」

「信長に……いや信広にしてやられた!! 信広め、まさか信長を囮にするとは……」

「……まさか長慶様、信長は……」

「急げ!!」

 

 長慶は何かを言おうとする三好長逸の言葉を遮り、腹から声を出す。慌てて伝令が一存の隊に赴くが時既に遅く長慶の本陣にも聞こえる大量の鉄砲の音が鳴り響いたのであった。

 

「一存ァ!!」

 

 長慶が奏でる悲痛の叫びに鉄砲の音は嘲笑うかのようであった。その一存であるが突如の奇襲攻撃を受けていた。

 

「左右から鉄砲での挟み撃ちだと!?」

 

 実際には味方に当たらないよう射撃位置を微妙にずらしているが……それは兎も角、伏兵が装備していた新旧種子島は約千五百丁である。つまり約千五百発のミニエー弾と鉛弾が十河隊に撃ち込まれたのである。

 そして十河一存はミニエー弾の餌食になってしまった。

 

「ガアァ!?」

「一存様!?」

 

 ミニエー弾は一存の左腕を後に切断させる傷を負わして一存は落馬して地面に倒れる。それを見た近習が駆け寄ろうとしたが種子島の流れ弾を食らい、近習も倒れていく。

 

「……敵は混乱しているな。忠勝」

「は」

 

 草むらから見ていた信広は傍にいた忠勝に視線を移す。

 

「蹂躙せよ。ただし敵将は捕らえろ」

「難しいでござるがやってみるでござる」

「信広様、私も忠勝隊に加えて頂きたく存じまする」

「直虎をか?」

 

 直虎の出陣要請に信広は忠勝に視線を向けると忠勝は頷いた。

 

「直虎殿は某が鍛えたでござる。必ずや活躍するでござる」

「……あい分かった。行け直虎」

「御意!!」

「忠勝隊、行くでござる!! ただひたすらに蹂躙でござる!!」

『オオォォォォォォーーッ!!』

 

 忠勝の叫びと共に忠勝隊三千の足軽達が雄叫びをあげで突撃を開始した。

 

「……高虎、良通、信包、信興」

 

 信広は控えていた四人に声をかける。

 

「我等も行こうか。長慶のところにな」

 

 そして七千の兵は別のところに向かう。一方の反対側にいる道三達一万も突撃を開始していた。

 

「先頭は十河一存の部隊ね」

「あれだけ乱れてたら統率は取られへんな。恐らく十河一存が負傷でもしたとちゃうんか?」

「成る程ね。それだと納得するわね」

 

 道三はそう言って混乱している十河隊に視線を向ける。

 

「それじゃあ突撃よ。三好に決定的な打撃を与えるわよ」

 

 道三隊も満を持して突撃を開始した。長慶の本陣では場が混乱していた。

 

「一存を救え!! 何としてでもだ!!」

「落ち着いて下さい長慶様!!」

 

 半場錯乱に近い長慶を長逸が諌める。しかし長慶は我を失っていた。

 

「長慶様、御免!!」

「カハッ!?」

「政康!?」

 

 暴れる長慶に三好政康が長慶の腹を殴って気絶させた。

 

「長逸、あたしが殿を務めるわ。一存隊の吸収は不可と見るべきよ。織田の軍勢が来るわ」

「……分かりました。友通、行きましょう」

「はい~。政康さん~? 死んだら長慶様がもっと悲しみますからね~?」

「それくらいあたしでも分かっているわよ」

 

 政康はそう言って笑い、自身の部隊に向かう。

 

「兼仲、悪いけど此処があたしらの死に場所よ」

「カッカッカ。それはそれは良い戦になるでしょうな」

 

 政康は七条兼仲とそう笑うが兼仲は自身の近習を密かに呼び寄せた。

 

「……時期を見て政康様を救え。儂の事は気にするな、政康様が死なれては困る」

「兼仲様……」

「良いな?」

「……御意」

 

 近習は兼仲の言葉に頷いた。そして退却をする長慶達を追い掛けようとする信広軍の前に政康隊が立ちはだかるのであった。

 

 

 

 

 




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第二十五話

お久しぶりです。
ローマ掘りで資材や資源が消えていく……


 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「信広殿、殿部隊を確認した。三好政康と七条兼仲の部隊だ」

 

 高虎が信広にそう報告をする。

 

「三好政康と七条兼仲……殿だな」

「三好本隊は高槻方面に引いているようです」

 

(ゲームや漫画だと長慶はブラコンに近い性質だが……となるとやはり……)

 

 そう考えていた信広はある考えを呟いた。

 

「長慶は気絶したか指揮出来ないほどに錯乱しているかだな」

 

 信広はそう判断した。そしてその判断は当たっていた。政康に気絶させられた長慶は長逸や友通に抱えられて撤退していた。

 

「うーん……一当てしたら反転するか」

「良いのか?」

「まぁ一応十河隊は壊滅状態だからある程度の目的は達せられただろう。そこまで追撃する必要はない。忠勝隊と合流してから攻撃するか。それまでは追いかけるだけで良い」

 

 伝令からの報告で忠勝と直虎は負傷していた十河一存を捕らえて治療させ、忠勝隊三千は此方に向かっていた。

 

「ただ敵が攻撃前に決死の突撃をしてくるかもしれないから備えだけはしといてくれ」

「御意」

 

 そして信広の予言かは分からないが、殿の三好政康隊、七条兼仲隊は信広に突撃を開始した。

 

「構えェ!!」

 

 足軽鉄砲大将の叫びに新旧種子島を装備した足軽鉄砲隊が突撃をしてくる両隊に照準する。

 

「放てェ!!」

 

 ミニエー弾と鉛玉が次々と放たれて突撃する三好の雑兵の命を刈り取る。鉄砲隊が放つと直ぐに弓隊と交代する。

 

「放てェ!!」

 

 そして先程の鉄砲隊同様に三好の雑兵の命を刈り取っていく。

 

「突撃よ!! 目指すは織田の首級のみよ!!」

「掛かれェ!!」

『ウワアアアァァァァァーーッ!!』

 

 しかし三好隊は死に物狂いの戦いをした。種子島の弾など気にせずに斬り込み、果てていく。その散り様に信広の兵は恐怖した。雑兵の血を顔に浴びた七条兼仲は己が持つ棍棒を振り回し信広の兵をあの世へと送る。

 

「ば、化け物じゃ……」

 

 後に生きて帰った兵は七条兼仲に対する評価はそれだった。だがそこに槍を携え馬上する高虎が現れた。

 

「七条兼仲だな?」

「御主は?」

「織田信広様が家臣、藤堂高虎也。その首頂戴致す」

「フン、我が首取れるものなら取ってみよ!!」

 

 そして両者が斬り合いをする。一合、二合と両者は槍と棍棒でやりあうが軍配は高虎に上がる。棍棒を振り回す兼仲に高虎は槍を左腕に突き刺した。

 

「ぐッ!?」

「貰った!!」

 

 痛みで左手の棍棒を落とした兼仲に好機と判断した高虎が兼仲に飛び付き、そのまま落馬させた。

 

「み、見事也……」

「御免!!」

 

 馬乗りの高虎は小刀でそのまま兼仲の首に刺したのであった。

 

「敵将七条兼仲、藤堂高虎が討ち取った!!」

 

 高虎の叫びが戦場に響き渡る。その兼仲が討ち取られた言葉に三好隊の動きが一瞬鈍くなる。

 

「今だ、押し返せェ!!」

 

 その一瞬を見逃さなかった信広は三好隊の攻撃を押し返させる。そして兼仲を討たれた三好隊は勢いに衰えが見えてきた。

 

「政康様、もうこの辺りかと思われまする」

「……でしょうね。貴方達も逃げなさい。此処はあたしが引き受けるわ」

「いけませぬ!! 我等は兼仲様より政康様を生きて帰らせろと仰せられておりまする。此処は我等にお任せ下さい!!」

「兼仲が……」

 

 兼仲の近習の言葉に政康は驚くが、近習達は急かした。

 

「政康様は急いでお引きのきを。我等が食い止めまする」

「でも……」

「我等雑兵は代えはありますが将である貴殿に代えは無いのですぞ!!」

「……分かったわ」

 

 近習の言葉に政康は踵を返して数人の馬廻と共に撤退を開始した。

 

「生きて……帰って……」

 

 小さくなる近習達の形に政康はそう呟いた。そして彼等が帰って来る事はなかった。

 

「七条兼仲は討ち取ったが三好政康には逃げられたか……此処等が潮時だな。全軍撤退せよ。信長達と合流する」

「御意」

 

 法螺貝が鳴り、信広隊は部隊を纏めて信長隊と合流するのであった。

 

「兄様の策は見事に当たった。大儀だ」

「はは」

 

 信長の本陣で信広は信長に褒められ頭を下げる。

 

「それでこれからどうする兄様? このまま芥川山城を攻めるか?」

 

 信長は更なる追撃を思案していた。芥川山城は長慶が飯森山城に居城を構える前の城だった。

 

「とりあえず撫子達を出して様子を見よう(俺の勘が当たっていたら恐らく城には……)」

 

 そして撫子達を芥川山城に放ち、大休止となった。

 

「ところで十河一存はどうした?」

「左腕を弾丸で撃ち抜かれていたようだ。医師も切断した方が良いと言って左腕を切断したそうだ。何せ骨も砕かれたらしい」

 

 信長が信広の問いに握り飯を食べながらそう答えた。なお、塩おにぎりである。

 

「今は止血して後送している。会う機会はあるだろう」

「そうだな(戦が終わったら会ってみるか)」

 

 大休止が終わり、織田軍は軍儀を再開していた。そして漸く撫子達が芥川山城から帰還した。

 

「ただいま戻ったよ信広君」

「どうだった芥川山城は?」

「もぬけの殻だ」

「もぬけの殻だと?」

「うむ。恐らく飯盛山城に戻ったんじゃないか?」

 

 信広は紫達にも視線を移すが皆頷いていた。

 

「……よし、なら芥川山城に入城しようか」

「……少しは周りを調べるとか言えよ……」

「ハッハッハ、兄様ならやってくれるだろう?」

(当たり前なような表情で言うなよ……)

 

 信長の言葉に信広は声に出さずにそう思った。そして芥川山城だが、撤退した三好本隊も当初は芥川山城に入城して防戦をと思案していた。

 しかし、三好長慶の心身はかなり疲労しており何とか撤退してきた政康も含めて軍儀をした結果、芥川山城は放棄して飯盛山城にまで撤退していたのだ。

 そのため、芥川山城はもぬけの殻だったのである。そして織田軍は威風堂々と芥川山城へ入城した。

 

「城代はサル、お前に任せる」

「うぇ!? あ、あたしがですか信長様?」

「うむ。そろそろサルにも城は必要だろう」

 

 農民出身(此処では農民出身としてます)藤吉郎に城代を持つ資格は十分にあった。何せ竹中半兵衛の調略や墨俣城の構築など実績は多々ある。

 

「任せたぞサル」

「はい!! お任せ下さい信長様!!」

 

 藤吉郎は意気揚々と頷いたのである。

 

「だがそうなると藤吉郎にも立派な名前が必要だな」

「ん? 兄様は何か良い姓でも浮かんだのか?」

「うむ。良ければ藤吉郎に授けようか?」

「は、ありがとうございます信広様!!」

「権六の柴、長秀の羽の二つを取って羽柴秀吉はどうだ?」

「羽柴……秀吉……」

「ガッハッハッハ。某の姓をサルにあげるとは信広様も中々のお人ですな」

「ふむ、良い姓ですな。秀吉、大切にするのじゃぞ」

「……はは!! この羽柴秀吉、有り難く頂戴致しまする!!」

 

 藤吉郎――羽柴秀吉――は涙を流しながら信広に頭を下げるのであった。そして信広はというと……。

 

(まぁ、権六との確執が怒らないよな? 俺から姓を授けた事にすれば両者の面目を立つしな)

 

 史実を知る人間にとっては秀吉の羽柴フラグはある意味での関門かもしれない。

 

(大丈夫だろ……多分)

 

 どうにも確信が持てない信広だった。それは兎も角、織田は芥川山城を占領した事により摂津への足掛かりを踏めたのであった。

 

「直虎、此度は大儀だった」

「はは」

 

 京へ帰還した後、居住している清水寺で信広は自隊での、論功行賞をしていた。

 

「侍大将一つ、足軽大将二つの首級を挙げたのは真に喜ばしい。そこでだ」

 

 信広はそう言って直虎に視線を向けた。

 

「伊勢の空いた領地に井伊家を構えろ。漸くお前に領地を与える事が出来た」

「……はは!! 有り難き幸せであります」

 

 頭を下げる直虎だが、畳には数滴の涙が落ちていた。

 

「それと次――」

 

 信広はそれを尻目に論功行賞を行うのであった。それから数日後、信広は信長と共に二条城にいる義輝に招集された。

 

「ふむ……兄様、何かしたか?」

「俺は何もしとらん。お前、また京の町で博打でもしたのか?」

「わ、私はそんな事しないぞ!!」

「……なら俺の目を見ながら言え。目が泳いでるぞ」

 

 そうしているうちに義輝が入室してきた。平伏する二人に義輝は頷いた。

 

「実はな、今日二人を呼んだのは他でもない」

(……何だ?)

「……わらわは今日を以て将軍の位を退く。わらわの代で室町幕府を終わらせる」

「「……はい?」」

 

 義輝の言葉に二人は思わず同時にそう呟いたのであった。

 

「言葉通りだ。室町幕府は今日で滅亡だ!!」

「「……はあぁぁぁぁぁーーーッ!!」」

 

 義輝の宣言に二人の叫び声が二条城に響き渡るのであった。

 

 




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第二十六話

 

 

 

 

「実はな、今日二人を呼んだのは他でもない」

(……何だ?)

「……わらわは今日を以て将軍の位を退く。わらわの代で室町幕府を終わらせる」

「「……はい?」」

 

 義輝の言葉に二人は思わず同時にそう呟いたのであった。

 

「言葉通りだ。室町幕府は今日で滅亡だ!!」

「「……はあぁぁぁぁぁーーーッ!!」」

 

 義輝の宣言に二人の叫び声が二条城に響き渡る。

 

「……いやいやいや、ちょっと待ってくれません義輝様。頭が追い付いてません、えっと将軍の位を退くと?」

「うむ。退いて幕府を消滅させる。最早幕府に力が無いのは分かったからのぅ。それならば今のうちに将軍職を返上した方が良い。あぁ、既に畏きところには伝えておいたのじゃ」

「~~~」

 

 信広は頭痛がしてきたと思った。そして信広が次にとった行動は……。

 

「この……大馬鹿野郎!!」

「あいた!? な、何をするのじゃ!!」

 

 義輝を殴る事だった。なお、傍らにいた信長は信広の行動に唖然としている。

 

「何をするもないだろ!! 何で今の段階で将軍職を返上するんだ!! 今、将軍職を返上してみろ、織田家が幕府を潰したと他の大名から認識されて織田が包囲されるかもしれないだろ!!」

「それは承知済みじゃ」

「何……?」

 

 信広はジロリと義輝に睨む。

 

「三好を撃退したのじゃ。畿内の支配は織田に移り変わったと見て良い」

「それで何で将軍職返上に繋がる?」

「……羨ましかった」

「ん?」

「わらわは小さな頃より逃げ回り、いつしか人を信じられなくなった。だが御主達はいつも仲良く笑いあうほどの主従関係じゃ。羨ましくて憎いと思ってしまうほどじゃ」

「……それで?」

「織田なら日ノ本を任せられると思った。だがただで退くわけにはいかん。ならせめての抵抗をしたまでじゃ」

「……兵を挙げるとかは考えなかったのか?」

「阿呆。今の幕府の力で兵を挙げれるわけなかろう」

「まぁ、そうなるな」

「だから将軍職の返上なのじゃ」

「理になっている……のか?」

「まぁ良いじゃないか兄様」

 

 納得しない信広に信長は苦笑しながらそう言う。

 

「室町最後の将軍からの試練だ。受け取ってやろうではないか」

「……気楽で良いよな……」

 

 ハッハッハと笑う信長に信広は溜め息を吐いた。それは兎も角、義輝は陛下に将軍職を返上して室町幕府はその日を以て消滅するのであった。

 

「ところで信長よ。わらわを雇わぬか?」

「ほぅ、足利を織田で雇うのか?」

「わらわは剣の腕前は上手いからのぅ」

「腕前だけだろ……ちょっと待て。まさか今回の事は剣を振りたいだけじゃないだろうな?」

「……何の事かのぅ? わらわは前線で刀を振り回したいとかは思ってはおらぬのじゃ」

 

 信広にそう指摘された義輝は視線を明後日の方向を見て素知らぬ顔をする。

 

「……ちょっとこいつ琵琶湖に沈めようか。撫子達は手伝ってくれ」

「任された」

「そんな事をしたらわらわは死ぬじゃろ!?」

「心配すんな。お前の事は三日で忘れてやるから」

「忘れるな!!」

「まぁ良いじゃないか兄様。織田を拒む者がいるなら踏み潰せば良い!!」

 

 信長は豪快に宣言をする。そしてなし崩し的に義輝は身分を隠して信広の元で仕える事になる。なお幽斎は信長の直臣となっている。

 

「忠勝と組ませると暴走して収拾がつかなくなるから馬廻衆にしておくか」

 

 悩みの種が増えた信広は深い溜め息を吐いたのであった。そして信広は清水寺で一人の武将と会った。

 

「怪我の具合はどうかな十河一存?」

「まぁまぁって具合だな」

 

 信広は捕縛した三好の重臣である十河一存と面会していた。一存は白の寝間着を着ていたが、部屋に風が吹いて一存の左腕部分がヒラヒラと靡く。

 

「左腕が無いが不自由は無いか?」

「そうだな……静養しているから鍛練が出来ないのが不自由だな」

「ククク、そうか鍛練はなぁ……」

 

 一存の言葉に信広は苦笑する。

 

「それで……三好はどうなっているんだ?」

 

 先程までとはうって変わって一存の表情が真剣な表情に変わる。

 

「……はっきりと言えばガタガタだな」

「……そうか」

 

 織田との戦い後の三好は家中内でガタガタであった。長慶は十河一存が生死不明な事もあり心労で飯盛山城で寝込む日々が続いている。

 政康達三好三人衆は長慶に代わって取り仕切っているが、家中内は寝込む長慶に愛想を尽かし次々と離反が相次いだ。

 特に四国の三好長治は異父兄の細川真之と手を組み、讃岐の国人・香川氏、香西氏らと共謀して三人衆に反旗を翻し、瞬く間に讃岐を手中に治めた。それに呼応するかのように阿波の国人までもが三好家から離反してしまい、三人衆は本拠地阿波の援軍を得られなくなって畿内で孤立していた。

 

「三好長治の父親は三好実休は姉さんの弟でもあり俺の兄だ。長治は心の中で姉さんの事を恨んでいたかもしれないな……」

 

 一存は溜め息を吐きながらそう言う。

 

「それで織田は三好をどうする気なんだ?」

「俺としては降伏を促して三人衆とかを確保したいけどな。うちのは頭が固いのが多すぎる」

「あぁ、俺とやりあった柴田は固そうだな」

(忠勝とかもだけど言わんとこ……)

 

 口には出さない事にする信広である。

 

「それで姉さんの身柄はどうなる?」

「別に?」

「……は?」

「いやまぁ織田で将として働きたいなら登用するぞ。勿論お前もな」

「……それで良いのか?」

「筆頭の信長があんなんだからな」

「……苦労してそうだな」

「随分と苦労してる」

「そうか……俺も久秀には苦労したな……」

 

 何故か愚痴る話し合いになる。

 

「まぁそれはさておき、俺としてはちゃっちゃと畿内を確保したいわけだ。そこでだ十河一存、お前飯盛山城に俺と行かないか?」

「……降伏を促すのか?」

「お前の顔を見たら長慶も元気になるだろ。そうなると戦局も理解出来て素直に織田に頭を下げるだろう」

「まぁ姉さんは頭の回転が早いからな。それにこれだけの状況なら下げるのが適格だ、俺も普通に下げる。ただし、条件がある」

「……謹んで承ろう」

「俺を織田の武将として前線に出す事だ」

「……今のお前は片腕だぞ?」

「片腕だからどうした? 俺は武人だ、死ぬなら戦場で死ぬ。左腕が無くてもまだ右腕がある。右腕がやられようとも口に得物を加えて戦う。例え断られようとも俺は戦場に出てやる!!」

「……それを聞きたかった」

 

 信広はニヤリと笑う。

 

「十河一存の身柄は俺が預かる。お前の武勇を俺に見せろ」

「おうよ!!」

 

 両者は互いに笑いあうのであった。そして信広は信長に飯盛山城に行く事を告げる。

 

「兄様自ら赴くのか?」

「あぁ。長慶は一度会っているからな」

「頭を下げる勝算は?」

「……五分五分だろうな。上手く行くとは限らないからな」

「……分かった。出陣の用意はしておこう」

 

 信長はそう言った。そして信広は一存や護衛の撫子達と共に飯盛山城に向かうのであった。

 

 

 

 

「一存さん!? 生きて……いたんですね……」

「おぅ長逸。済まなかったな」

 

 十河一存生存を聞き付けた三好三人衆の一人である三好長逸が大手門まで駆けつけた。

 

「今までどちらに?」

「織田の捕虜になっていてな」

「捕虜……まさかその後ろの方々は……」

「織田信広だ。三好長慶に会いに来た」

「……一存さん」

「うん……姉さんはいつもの部屋だな?」

 

 何かを察した長逸は頷き、一存は飯盛山城に入城する。信広もその後に続く。

 

「姉さん!!」

 

 一存が勢いよく長慶がいる部屋の障子を開ける。寝込んでいた長慶はいきなりの声に首を動かして視線を一存に向けて目を見開いた。

 

「……一存……?」

「おぅ、十河一存だ。戻ったぞ姉さん」

「……一存ァ!!」

 

 長慶は飛び起きて一存に飛び付く。そして左腕が無いことに気付く。

 

「左腕が……」

「織田の鉄砲でな。それで姉さんに会わせたい奴がいる」

 

 一存はそう言って信広に視線を向けた。

 

「お前は……」

「会うのは二度目だな三好長慶。織田信広だ」

 

 信広は一旦は別の部屋にて待機して改めて呼ばれた。

 

「……お前が此処にいるということは織田に頭を下げろという事だな?」

 

 少し窶れてはいるが、覇気が戻った長慶は信広にそう問う。二人の他には三好三人衆に一存がいる。

 

「あぁ、三人衆や一存達から情勢は聞いたと思う」

「長逸達には迷惑をかけたと思う。済まない」

「大丈夫ですよ~長慶様~」

「ちょっと大変でしたが……」

「あたしはいつも通りよ」

「政康は政が出来ないからですよ~」

「何ですって!?」

 

 そう言い合う三人衆に信広は苦笑する。長慶も苦笑していた。

 

「三好長慶、降伏……してもらえないか?」

『………』

「………」

 

 信広の言葉に場は静まり、視線を長慶に向ける。

 

「……一存はどうだ?」

「……ここいらが潮時だと思う。現に俺は織田側の使者として来てるからな」

「まぁ、そうだな」

「長逸達は?」

「残念ながら……」

「四面楚歌ですから~」

「あたしも仕方ないと思います」

 

 長慶は視線を信広に向けて姿勢を整える。

 

「織田信広、三好家は織田家に降伏する」

「御英断……感謝致します」

 

 畿内を押さえていた三好家は織田家に降伏した。その報は諸国に巡るのであった。

 

 

 

 




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第二十七話

お久しぶりです。アルファポリスの作品に集中していました。


「……三好が織田に負けた……ですか」

 

 甲斐国の躑躅ヶ崎館、甲斐を治める戦国大名である武田信玄は畿内からもたらされた一報に目を細めた。

 

「は、その後三好長慶は織田に降伏した模様です」

「……どう思いますか勘助?」

「……三好は畿内は元より四国の阿波、讃岐を所有しております。その三好が織田に頭を下げたとなると兵力、資金はかなりの物になりますな」

 

 軍師として信玄を支える山本勘助はそう分析した。実際にほぼその通りであり織田は三好を取り込んでいた。しかし思い通りにならないのもある。それが四国であり前話でも記載したが四国の三好長治は異父兄の細川真之と手を組み、讃岐の国人・香川氏、香西氏らと共謀して三人衆に反旗を翻し、瞬く間に讃岐を手中に治めた。それに呼応するかのように阿波の国人までもが三好家から離反してしまい、三好家の本拠地である阿波、讃岐は敵対していたのだ。

 信長は三度の降伏を書状で促したが阿波と讃岐は降伏を拒否して徹底抗戦の構えを見せて淡路島を攻略した。

 

「降伏しないなら攻撃するまでよ」

 

 二国の対応に信長は素っ気なくそう言った。信長は三好三人衆に淡路島の奪還を命令、三万五千の兵力を得た三好三人衆は淡路島に強襲上陸して三好長治の軍勢を淡路島から追い落としたのである。

 

「……織田信長……備えなければなりませんね。ですがやはり今の当面は謙信ですね」

 

 信玄はそう呟くのであった。その一方で織田側はどうしていたかというと……。

 

「畿内で残っているのは一色か……」

「それより浅井を片付けたい」

「そうですね~美濃尾張からの道は伊勢伊賀を通して行けれますが難所もありますし近江は平らげてはと思います」

 

 信広の意見に半兵衛が賛成をしていた。場所は二条城の隣、妙覚寺で評定をしている。

 

「近江となると……高虎、首尾は如何に?」

 

 信広は視線を高虎に向ける。向けられた高虎は一礼してから口を開く。

 

「水面下での交渉で磯野員昌、宮部継潤、朽木元綱が降伏を打診してきました」

「うむ、領土安堵はしてやろう。寝返りはいつか?」

「織田が浅井を攻める時にです」

「デアルカ。なら浅井攻めを最優先とする」

「一色はどうする?」

「向こうから仕掛けてくるまで放っておこう」

 

 信長は一色の対応は向こうが仕掛けてくるまでは何もしない事にし先に浅井を片付ける事にした。そして信長は五万四千の兵力を以て佐和山城を拠点に北近江攻略に乗り出すのであった。

 

「織田が来るだと? 朝倉と組んで返り討ちにしてくれるわ!!」

 

 織田侵攻を小谷城で報告をうけた浅井久政はそう激昂した。

 

「でもお父様、織田は三好をも組み込んでいるし勝ち目はないよ」

「何だと? 貴様は黙っておれ長政!!」

「うぅ……」

 

 激怒する久政に長政はそう言われ、その場を後にする。そこへ家臣の宮部継潤が長政に声をかける。

 

「殿」

「あ、継潤。ごめんね、お父様を説得させれなくて……」

「構いませぬ。それより殿に朗報があります」

「朗報?」

「は、此処ではあまり……」

「分かった。あたしの部屋で聞くよ」

 

 二人は長政の部屋で話し合う。

 

「先に謝罪致します。申し訳ありませぬ」

「……その様子からして継潤は織田に降ったんだね?」

「……はい。久政様には……」

「それ以上は言わないで継潤。あたしがお父様の幽閉を解いたのが間違いだったんだ。お父様は悪くないよ」

「……は。それで織田側は降伏すれば長政様、久政様は助命すると……」

「……継潤。織田が攻めて来たらあたしはお父様を連れて出陣するよ。継潤はその間に小谷城を占拠して」

「殿……」

「……あたしが出来るのはこれくらいだよ」

 

 長政はそう言って笑うのであった。そして織田軍は浅井・朝倉連合軍と姉川の河原にて対陣した。朝倉は朝倉景健を総大将にした八千の援軍を送り、三万の兵力となっていた。

 

「朝倉が援軍として来るなら問題ない。この戦は勝てるぞ!!」

 

 久政はそう近習に漏らしたが当の朝倉はそんな気はなかった。

 

「三好を吸収した織田では朝倉に勝ち目はない」

「そうなの宗滴?」

「えぇ。我が朝倉は越前一国のみ。織田はそれ以上です」

「うーん、宗滴がそう言うなら仕方ないよね。でも浅井に援軍を送ったよね?」

「頼まれたので出しただけです。景健には危険と判断したら撤退しろと言い含めています。それに水面下で織田に密使を送りました」

「分かった。それなら宗滴に任せるね、それじゃ蹴鞠してくるよ」

「あ、義景様……はぁ」

 

 後を任された宗滴は溜め息を吐きながら今日も政に励むのである。それは兎も角、信長は隊を二つに分けた。

 

「浅井・朝倉連合軍の側面を突く。光秀、やれるな?」

「御意」

 

 信長は光秀に一万の兵力で側面攻撃をさせる事にし、光秀を総大将に忠勝、道三、西美濃三人衆の武将も参戦し夜半のうちに信長隊から分離して姉川の上流付近に待機した。一方で信長の本陣は信広の他に三好長慶、高虎、直虎、島左近、筒井順慶が布陣していた。

 

「掛かれェ!!」

『ウワアァァァァァァーーーッ!!』

 

 信長の号令と共に足軽達は雄叫びを上げて浅井・朝倉連合軍に突撃していく。対して浅井・朝倉連合軍も同様で両軍は姉川で激突した。

 

「押せェ!!」

 

 織田軍は数を頼りに浅井・朝倉連合軍を攻め込むが連合軍は攻勢を凌ごうと必死である。

 

「種子島を織田軍に放て!! 中央突破してやる!!」

 

 浅井家家臣の遠藤直経が種子島隊に指示を出して二百丁の種子島が織田軍の中央部隊を蹴散らす。遠藤をその隙を逃さなかった。

 

「行くぞ!! 目指すは信長の頚だ!!」

 

 遠藤直経は手勢二千を率いて中央突破を計ろうとする。しかし、織田軍もそれを許さない。

 

「敵が中央突破を仕掛けてくるぞ!! 鉄砲隊構えェ!!」

 

 信広の鉄砲隊八百がすかさず新種子島を構えて攻め込む遠藤隊に照準を合わせる。

 

「撃ェ!!」

 

 距離三百で八百発の弾丸が次々と発射されて遠藤隊に襲い掛かる。そしてその内の一発が遠藤の左太股を貫通した。

 

「グハァ!?」

「直経様!?」

 

 馬に跨がっていた直経は落馬こそしなかったものの、得物の槍を手放してしまう。直経の負傷に気付いた近習達が直ぐに直経の周りを囲み直経を守ろうとする。

 

「俺に構うな!! 突撃するんだ!!」

 

 近寄る近習達に直経はそう叫ぶ。その間にも遠藤隊は織田軍に突撃していくが信広の種子島隊に阻まれてしまう。

 

「直経様、お味方の被害は甚大でございます!!」

「ぐぐぐ……」

 

 伝令の報告に直経は顔を歪めた。突撃する機会は既に失っていたからだ。

 

「……直ちに引き退く」

「はは!!」

 

 直経は悔しそうな表情をしながら後退するのであった。

 

「何!? 直経が後退しているだと!!」

「は、伝令によりますれば突撃はしましたが織田軍の種子島で直経様が負傷して後退したとのございます」

「えぇい腑抜けめ!!」

「お、お父様。押さえて、負傷したんだから仕方ないよ」

「黙れ長政!! 御主は黙っておれ!!」

「………」

 

 久政の怒号に長政は口をつぐんだ。今の久政は激昂して判断が付かなかった。

 

(このままじゃ……)

 

 意を決した長政が口を開こうとした時、本陣に一人の伝令が雪崩れ込んできた。

 

「も、申し上げます!!」

「何じゃ?」

「そ、側面から織田勢が攻めて参ります!! その数凡そ一万です!!」

「な、何じゃと!?」

 

 伝令からの報告に久政は驚愕した。そして徐々に聞こえてくる雄叫びの声。

 

「ふ、防げ!! 防ぐのじゃ!!」

 

 久政は慌てて迎撃の命令を出すが、それはあまりにも遅すぎた。

 

「我は本多忠勝でござる!! 雑魚に用は無いでござる、将は出合え候でござる!!」

 

 一番槍は忠勝であり、光秀の側面隊は浅井軍と激突するのであった。

 

 




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特別編

 

 

 

 

 

 織田家が日ノ本を統一してから十年と九年の時が過ぎていた。天下統一をした織田信長は征夷大将軍を朝廷から承り、江戸に江戸城を大坂に大坂城を築いて江戸城にて幕府を開いていた。なお、今は職を信行に譲り自身は大御所となっている。

 

「伊達及び奥州の大名は蝦夷の住民と協力して蝦夷を開発せよ」

 

 大老(信長達の夫)に就任した信広は伊達政宗達にそう命令をして奥州の大名達は蝦夷を開拓していた。後の歴史を考えて早めに千島や樺太を手中に治めたい考えであった。

 更にはガレオン船十五隻を使用して琉球、台湾をも攻略中だった。後に琉球と台湾は嫁の実家である島津の領地となる。

 

「兄様、民の暮らしはどうだ?」

「それはお前がいつも見ているだろ? 気付くと町で博打しているんだから」

 

 信長は相変わらずであり、気付けば江戸の町で博打をしていたりする。信広に言わせてみれば何処の暴れん坊将軍である。ちなみ負け越しているらしい。

 

「奇妙もいると勝てるんだが……」

「奇妙も巻き込むんじゃない」

 

 信広と信長の子である奇妙丸(後に信忠)はスクスクと育ってはいるが、性格は信長に多少似ていた。信長の子は奇妙を長男に次男茶筅丸、三男三七がいる。

 

「ふむ……博打が出来んならやる事は一つだな兄様?」

「……昼間からするんじゃない」

「………」

 

 着物を脱ごうとする信長に信広は溜め息を吐いたが、信長は信広の態度に気に食わなかったのか無言を貫いた。

 

「どうした信長?」

「……昨日は誰とした?」

「……早雲と道三、慶次」

「一昨日は?」

「秀吉と氏康、忠勝」

「その前は?」

「宗麟と紹運」

「その前は?」

「晴朝、信綱、時茂、高虎、通直、直虎」

「その前は?」

「義弘、義輝、隆信、長慶、政康、良直」

「その前は?」

「順慶、左近、宗滴、義景、長慶、政康」

「その前は?」

「早雲、氏康、撫子」

「申し分はあるか?」

「……ありません」

 

 信広は信長に土下座をしていた。それはもう立派な土下座である。

 

「全く……大体は兄様が陛下の御冗談を間に受けるからこの有り様だぞ」

「てめ、陛下の目を見て言え!! あの目は本気だぞ!! 陛下の落胤の娘と正室だぞ!! 俺の胃が死ぬわ!!」

「その後もその落胤の娘とちょくちょくと会っているそうだな?」

「………」

 

 信長の指摘に信広は冷や汗をかきながら視線を反らした。

 

「し……支援しているだけだ」

「そして源氏物語か? 確かまだ齢十五だったな?」

「何でそうなるんだよ!! そりゃ近衛とかはそうなるように願っているけどよ!! 俺の胃の心配をしろよ!! わざわざ久秀から指南書を借りて書き写してもいるんだぞ!!」

 

 相変わらず三河にいる久秀に信広は頭を下げて指南書(セックスのハウツー本)を借りて写本して皆と頑張っていた。(意味深

 

「それならまだ聞くぞ? 大名からビードロ職人に転向したはずの宗麟が何で側室にいる?」

「……暴漢から助けたらそのまま居着いた」

「……よし、もうヤるぞ」

「ちょっと待てェ!!」

 

 怒鳴る信広を信長は無視して事を始めるのであった。そんな様子をたまたま通りかかった二代目将軍の信行は溜め息を吐いた。

 

「……信広お兄様に政で相談したかったけど、二刻は無理そうだね」

 

 そして小性に暫く部屋に入らないよう指示を出すのであった。そんなある日、京都所司代村井貞成が大坂城の秀吉の下へ訪ねてきた。

 

「……これは本当なの貞成?」

「御意でございます」

 

 貞成の報告に秀吉は溜め息を吐いた。貞成が差し出した糾問書は公家の乱脈ぶりが書かれていたのだ。

 

「……これはあたしの判断じゃ無理だね。信行様行きだよこの事案は……」

「直ぐに早馬を……」

「分かっているよ」

 

 直ぐに大坂から江戸へ早馬が向かわれるのであった。大坂からの早馬に信広は何事かと思ったが糾問書を見て溜め息を吐いた。

 

「……これはアカンやろ……」

 

 思わず前世の関西弁が出てしまう信広だった。

 

「(そういやこの事件があったな……)……信行、どうする?」

「どうするも何も……これはやるしかないよ」

「うむ、公家の乱脈ぶりが白日の下に晒された。それこれは好機だ」

「何が好機なの御姉様?」

「幕府による朝廷への介入は元より公家の制御にもなろう」

 

 そして信行は決断した。

 

「天子様に関白を通じて報告しましょう」

 

 糾問書は時の関白である九条忠栄は届けられた。一目した忠栄は糾問書に書かれた人物に激怒する。

 

「これが……これが公家のする事か!!」

 

 忠栄は直ぐに広橋兼勝の屋敷を訪れて事の真相を問いただした。話を聞いた兼勝は泣きながら忠栄に語る。兼勝の娘は関係者だったからである。

 

「忠栄殿、何卒……何卒娘の助命を……」

「……全て御決めになさるのは天子様です」

 

 泣きながら忠栄に懇願する兼勝に忠栄はそう告げ、兼勝と共に京都御所へ赴いた。

 

「天子様の女御に恋を仕掛けるはこれ邪恋にあらずや!! 玉座に仕える女官と姦婬に及ぶはこれ不忠の極みにあらずや!!」

「御前でござりまするぞ」

「御前ならばこそ言上つかまつる!! 宮中の不祥事とは正しくこの事でござる!!」

 

 忠栄はそう言って貞成の糾問書を元関白の近衛信尹達に見せる。

 

「これなるは所司代村井貞成の糾問書にござりまする」

 

 糾問書に信尹達はまさかという表情をする。そこへ響き渡る鈴の音。忠栄達は天子様――後陽成天皇に頭を下げる。

 

「忠栄、読み上げよ」

「………」

「名指しで良い」

「………」

「忠栄」

「は……」

 

 そして忠栄は糾問書を読み上げる。糾問書に書かれた参議烏丸光広は声を荒げる。

 

「ぬ、濡れ衣じゃ!!」

「静かに!!」

 

 声を荒げる烏丸に信尹はそう告げる。

 

「………」

 

 糾問書を聞いた後陽成天皇は無言のまま立ち上がり、その場を後にするのであった。

 

「関わった全員を捕らえよ」

 

 貞成は直ぐに行動を開始して姦婬に関わった公家と女官達を捕らえた。しかし、左近衛少将猪熊教利は露見した事を知るや一路九州へ逃れた。

 

「猪熊教利を捕らえよ!! 草の根を分けて何としても捜すのだ!!」

 

 信広は九州の三大名である龍造寺隆信、立花宗茂、島津義久に命じて猪熊教利捜索を命じたのである。

 

「関わった者どもは全員死罪を処せ。例え女官であろうとだ!!」

 

 激怒する後陽成天皇は忠栄にそう命じた。しかし、この時従来の公家の法には死罪は無かった。忠栄は自ら江戸城に赴き、信行達と相談をする。

 

「死罪だな」

「死罪です」

「死罪しかなかろう」

 

 三人は死罪で賛成していた。

 

「しかし女官をも……」

「女官は尼で手を打ちましょう。どうやら猪熊は言葉巧みに女官達を誘い出したようですからな」

 

 信広の言葉に忠栄は内心安堵の息を吐いた。兼勝との約束も何とか守れそうだからだ。

 

「天子様には某も赴いて説得しましょう」

「感謝致します」

 

 そして信広は忠栄と共に京へ赴いた。

 

「信広、此度は済まない」

「いえいえ、陛下の役に立てればと思い、参りました」

「女官達は助命して尼にしろと?」

「陛下、死罪にするのは簡単ですが、未来での陛下の評価を考えますと全員を死罪にとは難しいかと……」

「未来か……」

「は、寛大な処置をすれば後の世の人々も陛下の温情に心を打つでしょう。ですが一歩間違えれば小泊瀬稚鷦鷯尊(おはつせのわかさざきのみこと。武烈天皇)のように何を思われるかは分かりませぬ」

「ふむ……あい分かった。信広らの通りにせよ」

「はは」

「済まぬな信広」

「いえいえ、構いませぬ」

 

 そして九月、日向で潜伏していた猪熊が捕らわれ京へ護送されてきた。同月二三日、所司代村井貞成より以下の処分が発表された。

 

『死罪 左近衛少将猪熊教利

 牙医兼安備後

 左近衛権中将大炊御門頼国

 左近衛少将花山院忠長

 左近衛少将飛鳥井雅賢

 左近衛少将難波宗勝

 右近衛少将中御門宗信

 参議烏丸光広

 右近衛少将徳大寺実久

 

 恩免 新大典侍広橋局

 権典侍中院局

 中内侍水無瀬

 菅内侍唐橋局

 命婦讃岐』

 

 となった。恩免となった女官達は全員が尼となるのであった。後に幕府は公家の乱脈ぶりを憂慮し公家衆法度、更に禁中並公家諸法度が制定するのである。

 

「はぁ……帰りに大坂城の秀吉のところに行って秀頼の顔でも見るかな」

 

 事件で疲れた信広は大坂城に赴き秀吉と秀頼に会うのである。

 

 

 

 

 

後書きという名の舞台裏

 

猪熊事件とは簡単に言えば公家達が陛下の女官達と乱交するという事件です。これを聞いた後陽成天皇は激怒します。「全員死罪」とかなり激怒していたらしいです。ニコ〇コにある葵徳川三代でこの事件を扱っているので興味ある人は見ては如何でしょうか?

葵徳川三代も面白い




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第二十八話

宗滴は責任感有りまくるだろうなあと思ってたらこうなっていた(白目


 

 

「側面を突かれたな久政め」

 

 浅井の状況を見ていた朝倉景健はそう呟いた。

 

「如何なさいますか殿?」

「如何も何も引き上げる。浅井に義理は無い、宗滴様も浅井が崩れたら逃げろと仰っていたからな」

「景健様、景紀様が参られました」

「通せ」

 

 程なくして宗滴の義弟の朝倉景紀がやってきた。(戦災孤児を宗滴が拾って育てていた)

 

「景健様、陣払いは完了しています」

「流石は宗滴様の義弟だな」

「いや、宗滴様には敵いませんよ。新八郎殿は?」

「先程撤退の伝令を出した。間もなく動くであろう」

 

 そして朝倉軍は対峙していた織田の別動隊である筒井順慶の部隊から離れていくのである。

 

「引きましたわね」

「ほんまですな」

 

 順慶の他に島左近もいたが、別動隊は五千しかいなかった。

 

「うちらはどうします?」

「朝倉軍の離脱を見届けてから本陣に加勢しますわ」

 

 万が一、朝倉に加勢されては困るからだ。そして朝倉軍の離脱を確認した順慶は信長隊と合流して浅井軍を攻撃するのである。

 

「織田軍の側面による攻撃で戦線が持ちませぬ!!」

「ぬぬぬ!?」

 

 伝令からの報告に久政は怒髪衝天する勢いだった。更に伝令から新たなる報告が舞い降りる。

 

「朝倉勢離脱していきます!!」

「な、何じゃと!?」

 

 朝倉軍の離脱に久政は茫然としていた。頼みではないが流れを変えれるとまでは思っていた朝倉軍がまさかの戦線離脱である。

 

「全軍に通達!! 直ちに小谷城へ引き上げるよ!!」

 

 茫然とする久政を尻目に長政は撤退の指示を出していた。久政は直ぐに我に返る。

 

「な、長政……」

「お父様、残念だけどこれまでだよ。小谷城へ撤退します」

「……分かった」

 

 長政の言葉に久政は渋々と頷き、浅井軍は敗走して小谷城へ目指す。しかし、小谷城の門は固く閉ざされていた。

 

「こ、これはどういう事じゃ継潤!!」

「見ての通りですよ久政様。某は既に織田へ降伏しています」

「な、内通していたと言うのか!?」

「その通りでございます。某の他にも朽木元綱殿、磯野員昌殿も降伏してございます」

「何じゃと!?」

 

 継潤が櫓を通して語る言葉に目を見開く久政。

 

「えぇい裏切り者めが!!」

「お父様、もうこれまでだよ。素直に織田に降伏しよう」

 

 怒り狂う久政に長政はそう告げる。しかし久政は拒絶した。

 

「黙れ長政!! 御主は儂の言う事を聞いておればよい!!」

「………」

 

 そう叫ぶ久政に長政は遂に決断した。

 

「皆、お父様を取り押さえて」

『御意』

「こ、これ!? 何をする貴様ら!!」

 

 久政は近習達に馬上から引き摺り降ろされた。

 

「長政!! 貴様……」

「黙れ浅井久政!! 貴方は浅井家当主ではない、浅井家当主はこのあたしだ!!」

「長政……」

 

 決断した長政に久政は何も言えなかった。それを見た継潤は素早く門を開けた。

 

「御無礼しました殿」

「良いよ継潤。それと悪いけど織田への使者を御願い。浅井家は織田家に降伏すると伝えて」

「御意」

 

 継潤は直ぐに信長の本陣の赴いた。

 

「そうか、浅井は降伏するか。なら横山城の攻撃も取り止めよう」

「は、ありがとうございます」

 

 この時、織田軍は丹羽長秀を総大将にした横山城攻略の部隊が横山城を包囲していたのだ。

 横山城も使者が赴き、城主の三田村国定、野村直隆、大野木秀俊らは降伏して開城するのであった。それを見届けた信長は小谷城へ入城した。

 

「浅井親子か」

「は」

「………」

 

 信長の問い掛けに長政は答えるが久政は無言だった。

 

「久政、貴様は竹生島で隠居していろ。長政、貴様の沙汰は追って知らせる佐和山城にて謹慎していろ」

「はは」

「……は」

 

 信長の言葉に両人は頭を下げた。その後、久政は長きに渡り竹生島で隠居生活を送る事になる。小谷城の浅井が降伏した事により朽木等も織田に降伏を打診して織田は北近江を完全に攻略したのである。

 

「浅井は降伏したみたいだね」

「えぇ」

「なら私達も降伏しよっか」

「……そんな簡単に言わないで下さい義景様」

 

 朝倉の居城である一乗谷城で義景は宗滴達重臣とそう話していた。

 

「でも宗滴は戦わないでしょ?」

「それはそうですが、家臣達の前でそうとやかく言うのはやめて下さい」

「うん、分かった」

 

 兎も角、朝倉は織田に頭を下げる事が決まり、使者として朝倉景紀が派遣されたのである。

 

「兄様、いつ朝倉と繋がりが?」

「アホ。流石に朝倉家との繋がりはない」

 

 信広は苦笑しながらそう返した。

 

「義景が来ないのはやはり一向衆か?」

「は、本来であれば義景様自ら上洛して信長様に面会すべきでありますが加賀国の一向衆がおります故……」

「……信広(人前では呼び捨て)、私の名代として越前に向かえ」

「御意(成る程、朝倉に恩を売るのか)」

「ありがとうございます(流石は信長か)」

 

 そして信広と朝倉景紀は越前へと向かうのである。無論、景紀は密かに宗滴に使者を出していた。

 

「……やられたな」

「どういう事宗滴?」

「本来、降伏するなら私と義景様が信長の元に赴くのです。ですが北には一向衆がいます。此方が動けば向こうも動く。そこで信長が我々に恩を売ったのです」

「恩?」

「来れない臣下の朝倉にわざわざ主君の信長が出向いたのです。素直に頭を下げるしかありません」

「良いんじゃない?」

 

 義景はあっけらかんにそう告げる。

 

「朝倉では織田には太刀打ち出来ない。まぁ加賀や若狭があっても負けは確定だけど、織田に痛撃を与えられたけどね」

「……その通りです(たまに鋭くなるのは良いが常にこうであってほしいものだ)」

 

 宗滴は内心、溜め息を吐くのである。そして一乗谷城に信広が訪れる。

 

「信広殿、越前までよくお越し下さった。私は朝倉太郎左衛門尉宗滴でございます」

「織田三郎五郎信広でございます」

 

 宗滴と信広が挨拶をする中、信広は宗滴が生きていた事に少々驚いていた。

 

(史実だと宗滴は桶狭間前に亡くなるけど、原作は女性だったな)

 

 そこへ義景が入室した。

 

「私が朝倉孫次郎義景です。信広殿、越前まで遠路遙々とお越し下さり感謝しています」

「いやいや、両家の発展のためなら何処へなりと某は参ります」

 

 そして和やかに会談をしていると義景がすくっと立ち上がる。

 

「信広殿、退屈してきたから蹴鞠でもしませんか?」

「……はぁ」

 

 にこやかに笑う義景に宗滴は溜め息を吐く。信広は義景の言葉に一瞬唖然とするが、苦笑した。

 

「分かりました義景殿。お付き合いしましょう」

 

 そして二人が庭で蹴鞠を始める。なお、蹴鞠とは簡単に言えば鹿皮製の鞠を一定の高さで蹴り続けてその回数を競う競技である。

 

「行きますよー信広殿!!」

 

 義景が鞠を蹴る。信広は鞠が地面に落ちる前に右足で鞠を蹴り、自分の目の高さまで上げるとそのまま五回ほどリフティングをして義景に向けて軽く蹴る。しかし、義景は信広の行為に唖然としていたため鞠が自身の胸に当たり地面に落ちた。

 

「義景殿……?」

「……凄いですよ信広殿!! まさか信広殿も蹴鞠を精通していたとは知りませんでしたよ!!」

「お、おぅ(前世でサッカーの授業時にリフティングの練習があったから出来たんだけどな)」

 

 義景が興奮しながら信広に歩み寄る。信広にしてみれば前世の学校でサッカーの授業時にリフティングの練習をしていたので言わば慣れていた。

 

「私も負けませんよー!!」

 

 そして義景が満足するまで信広達は蹴鞠をするのであった。

 

「信広殿、申し訳ありません」

「いやいや、気にしておりません。久しぶりに良い汗をかきました」

 

 夜、宛がわれた部屋で信広は宗滴から蹴鞠の件で謝罪を受けていた。

 

「(汗……そうだ)信広殿、汗をかいたのなら汗臭くなるでしょう。お風呂に入られては如何ですか?」

「そうですな」

 

 宗滴の言葉に信広は何も考えずにそう頷いた。なお、この時代の風呂は蒸し風呂(今で言うサウナであり、当時の風呂は蒸し風呂。当時の風呂は蒸し風呂と湯の二通りがあった)である。

 そして信広が蒸し風呂に入っていると笹の葉を手に持つ宗滴が入ってきた。

 

「そ、宗滴殿?」

「せ、せめての御詫びです……」

 

 風呂の湯気に当たったのかは分からないが顔を赤くする宗滴。なお、宗滴の状態は胸にサラシを巻いて褌を穿いていた。(信広は湯帷子を着用)信広は目のやり場に困りつつも風呂を楽しむ。

 しかし、宗滴は混乱していた。

 

(思わず朝倉の面目を潰すのはと思い行動したが……恥ずかしすぎる。それに信広殿の背中が大きく見える)

 

 宗滴はマジマジと信広の背中を見つめて頬が赤くなるのを感じる。既に室内の湯気で身体は熱くなっていたが更に熱くなる。宗滴は倒れそうになるが何とか踏ん張って笹の葉で垢を擦り落とすのであったが風呂を出た時点でのぼせており気を失ったのである。

 

「宗滴殿!? 誰かあるか!!」

 

 着替えた信広が一向に出てこない宗滴に不審に思い、中に入るとのぼせて倒れていた宗滴を発見した。信広は近習達を呼び、自身は手拭いを水に濡らして宗滴の首、脇の下、足を冷やす。そこへ近習達が何事かと駆けつけて宗滴を近習達に引き渡すのであった。

 

「申し訳ありませんでした」

 

 気が付いた宗滴は信広に再度謝るのであった。

 

 

 

 




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第二十九話

 

 

 

 さて、朝倉を臣下に加えた織田家は更なる領土拡大を目指す。

 

「若狭は朝倉に譲ろう」

「それは加賀と上杉の押さえへの対価か」

「うむ。流石に越前一国ではな……」

 

 飯盛山城に戻った信広は信長達と評定をしていた。しかし、信長の様子が少しおかしい。耳を触ろうとするが何故か止め、止めたと思えばまた触ろうという繰り返しだ。重臣達も何事かと思ったが何も言わなかった。

 ただ、信広は(あぁ、多分あれか)と思っていた。

 

「丹波、丹後は取る。光秀、調略は抜かりないな?」

「はい、丹波の波多野氏は調略中でありますが、丹後の一色には無視されています」

「フン、どうせ四職の筆頭だとか云々抜かしているのだろう」

 

 信長は苦虫を潰したような表情をする。余程権力に笠を着たのが気に食わないのだろう。

 

「光秀、丹後の調略を急がせろ。一色は蹂躙してやろう」

「少しは落ち着け」

 

 気に食わない表情をする信長に信広はそうピシャリと言う。

 

「光秀、丹後の調略は急がず焦らずにな。性急すれば身を滅ぼす羽目になる」

「御意」

「………」

 

 その後の評定の信長は終始納得していない様子だった。評定後、信広はある物を持って信長の元に訪れた。

 

「納得いかないか吉?」

 

 信広は信長の幼名で呼ぶ。

 

「フン、時代の本流に乗れない者なんぞ捨て置けば良い」

「お前は良いかもしれんがいつか寝首をかかれるぞ。ただでさえ織田は大きいんだ。その分の恨みは甚だ大きいぞ」

「フン……」

 

 信長はそっぽを向く。今日の信長のアホ毛は萎れていた。

 

「光秀が優秀で期待しているのも分かるがやり過ぎるなよ。光秀の性格だと溜め込む部類だ」

「……今度からは気を付けよう」

 

 信広の言葉に信長はそう答えた。そっぽを向いたままだが……。

 

「それと吉……寝転がれ」

「……何だいきなる?」

「耳の中が痒いんだろ?」

 

 信広はそう言って竹で造った耳掻きを取り出す。

 

「……分かった」

 

 信長が評定をしている時の行為は指で耳の中を掻こうとしていたのだ。だが家臣達の手前でもあるので掻こうにも掻けなかったのだ。

 

「それじゃあするぞ」

「……うむ」

 

 信長は頭を信広の膝に乗せて膝枕(男の膝枕です、はい)の形になる。そして信広は耳掻きの匙を右耳の中にゆっくりと入れる。

 

「……ん……うぅ……」

 

 耳の中に耳掻きが入った信長が悶える。カリカリカリと耳垢を掻きあげられる細かい振動に悶えたようだ。なお、耳垢には湿った湿性耳垢と乾燥した乾性耳垢の二つがある。

 

「我慢してろよ」

 

 信広はそう言って外耳道にへばり付く耳垢を匙の先っぽで掻き剥がしていく。

 

「ん……」

 

 信長は耳垢が掻き剥がれていく刺激に悶える。

 

(だから悶えるのはやめてくれって……)

 

 信広は信長の声に悶々とするが耐えてとある耳垢を掻き剥がした。

 

「あひィ!?」

 

 信長の身体がビクンと震えた。

 

「……オホン」

「此処が痒みのところか」

 

 信長は顔を真っ赤にして咳をする。信広は納得してその場所周辺の耳垢をカリカリカリと剥がした。

 

「~~!?」

 

 ビクンと震える信長だが今度は我慢をして声を出さなかった。

 

(我慢する信長……ちょっと良いと思った俺はもう末期かもしれんな)

 

 信広はそう思いながら片耳の耳掻きを終わらせた。

 

「……終わったのか?」

 

 若干、トロンとした表情をする信長。

 

「いや、まだ片方があるだろ」

 

 信広はそう言って自分側に向きを変えさせて信長の左耳に耳掻きを入れる。そして信長はまた悶えるのである。

 

「ん……んぅ……んふぅ……」

(だから悶えるのはやめてくれ……)

 

 そう思う信広だった。しかし、襖の外では三人の女性が信広と信長の行為を見ていた。

 

(ふむ……耳掻きか)

(こ、声がいやらしく聞こえるのは気のせいでしょうか……)

(あらあら、信長ちゃんたらちゃんと信広ちゃんとやれてるじゃない)

 

 上から義輝、直虎、道三の三人である。最初は義輝が信広に稽古でもしようと訪れたが、信広が信長に耳掻きをしているのを見て影から見ているとそこへ稽古帰りの直虎と道三に出会して三人で見ている状況である。

 それはさておき、両方の耳掻きを完了させた信広だがいつの間にか信長が眠っていた。

 

「全く……寝顔は可愛いのにな……」

 

 信広はため息を吐きつつ、信長が起きないようにこっそりと部屋を出るのであるが……。

 

『………』

 

 部屋を出たところで先程の三人と視線が交差する。

 

「……見てたのか?」

『………』

 

 信広の言葉はうむ!という表情をして頷く。どうしたものかと悩む信広に義輝はニイィと笑みを浮かべた。

 

「信広よ、信長と同じ事をしてくれたらわらわは何も言わぬぞ」

「同じ事……って耳掻きか?」

「うむ」

「あ、私もです」

「そうねぇ、私もね」

 

 義輝の言葉に賛同する直虎と道三。

 

「(耳掻きするだけで良いのか?)まぁ三人がそれで良いなら……」

 

 こうして黙ってもらう代わりに信広は三人の耳掻きをする羽目になる。なお、やはり三人とも悶えて信広のゲージが溜まるのであった。

 それは兎も角、諸国にはそろそろ一つの悲報がもたらされていた。

 

「幕府が無くなったと?」

「は、義輝将軍自らが将軍職を朝廷に返上して野に降ったと……」

 

 毛利氏の居城である吉田郡山城で毛利元就は物見からの報告に眉をピクリと動かす。稀代の知将とまで呼ばれる元就は眼鏡をくいっと上げて頭の回転を早くする。

 

「隆元、元春、隆景」

 

 元就は三人の娘を呼び寄せる。

 

「我々毛利は博多奪還に動きますよ」

「……将軍の横槍が無いからですね?」

 

 元就とまではいかないが、知将の隆景は元就の意図に気付いた。元就はまだ博多を諦めていなかったのだ。元は尼子、大内らの家臣だった元就だが調略により陶隆房を味方につけ、厳島の戦いで大内義隆らを捕縛して追放した。

 追放したまでは良かったのだが、その義隆を保護したのが豊後の大友宗麟である。宗麟は元就を賊軍であるとし義隆を博多に移させた。博多は元々大内氏が所領していた地域である。

 宗麟としてはそのまま博多を確保したかったが、後ろから操れば問題ないとした。そのため、毛利と大友の間では博多を巡る激しい戦いが行われていたのだ。

 

「これには織田へ感謝の気持ちが絶えませんね」

「でもお母さん、変な噂を聞いたんだけど……」

「あら、どんな噂かしら?」

「……尼子経久が生きてるという噂があるの」

「……狐め、生きていそうね」

 

 元就はそう呟くのであった。

 

 

 

 




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短編

何とか終戦記念日に間に合いました


 

 

 季節は夏、信広は居城である岐阜城にて政務をしていた。

 

「……暑いな……」

 

 信広は団扇を扇ぎながらそう呟いた。気温は何度か分からないがそれでも暑いものは暑いのだ。

 

(平成だと真夏日はヤバすぎるからなぁ)

 

 信広はそんな事を思いながらパタパタと団扇を扇ぐ。

 

「……そうだ、泳ぐか」

 

 信広はそう呟くといそいそと自分の政務を終わらせると城下の長良川へと赴いたのであった。

 

「信広、行きまーす!!」

 

 信広は釣り道具を川原に置くと褌一丁で長良川に飛び込む。なお、ちゃんと体操はした模様。

 

「あ~気持ち良い~」

 

 信広は平泳ぎ等で約一時間ほど堪能する。そこへ声がかかる。

 

「信広様ー!!」

「ん? 秀吉か」

「狡いですよ信広様。一人だけ涼を求めるなんて!!」

「狡いのかよ……ならお前も泳げば?」

「……その手があったか!?」

 

(……大丈夫だろうか……)

 

 そう思う信広を他所に秀吉はそそくさと足軽の鎧を脱いで黒の褌と同じく黒のサラシを胸に巻いて川に飛び込む。

 

「ぶはぁ!! 水が気持ち良いですね!!」

「深いところもあるから気を付けろよ」

 

 水に沈んでから顔を出す秀吉。信広は深いところに行かないよう秀吉に釘を刺す。

 

「やだなぁ信広様。溺れないですよ」

「織田家の武将が川遊びで溺れ死ぬのは沽券に関わるぞ」

「まぁ……そうですね」

 

 信広に指摘された秀吉は深いところには行かないように泳ぐ。信広は河原に置いておいた釣り道具に手を伸ばして釣り針にミミズを刺して川に投げ入れる。

 

「釣りですか信広様?」

「おぅ。たまには釣りもしたくなる」

 

 釣りをする信広を見て秀吉が川から上がる。信広の釣竿は未来のような釣竿ではなく木で作った釣竿だ。

 

「川並衆の皆とよく釣りをしますね。鮎を塩焼きにして食べるのが美味しいですよ」

「そいつは良いな。薪を取ってくるから竿を見といてくれ」

「御意」

 

 信広は近くの木で薪を取りに行く。秀吉は竿をクイックイッと操り、釣り針を餌だと錯覚させる。そして魚はそれに食い付いた。秀吉が持つ木の竿がビクッと反応した。

 

「来ましたよ信広様!!」

「よーし、上手く合わせろよ!!」

「分かってますよ……」

 

 秀吉は無理に引っ張らないように力を合わせる。信広も薪は放っておいて秀吉の後ろに近づく。秀吉が石で滑っても支えるためである。

 

「んぎぎぎ……」

「もう少しだ秀吉!!」

「んがあァァァァァ!!」

 

 そして秀吉が渾身の力を振り絞った結果――バキッと釣竿が折れた。

 

『あ』

 

 折れた釣竿を見て唖然とする二人だが、魚と格闘していた秀吉は折れた際の余波で折れた釣竿を持ちながら信広を倒れ込む。更に間が悪いのか、信広も腰から下に力を入れてなかったのでそのまま二人一緒に倒れた。

 

「いた!?」

 

 信広の背中に河原の石が当たる。

 

「ご、ごめんなさい信広様!!」

「あ、あぁ大丈夫……って、前を隠せ!!」

「前……ってきゃ!!」

 

 倒れた拍子に秀吉の胸に巻いたサラシが緩んで秀吉のピンク色の物がチラリと見えていた。

 

「……見ました?」

「何の事かな? サラシから桃色に近いのは見えてないぞ」

「……見てるじゃないですか!!」

「不可抗力だ!!」

 

 そう言い合う二人。しかし、そこに声がかかる。

 

「ほぅ、サルと川遊びとは兄様も余程サルと遊びたいようで……」

『の、信長(様)!?』

 

 二人が振り返れば仏頂面な信長が腕を組んでいた。その様子から今でも噴火しそうな勢いである。

 

「あ、あたし用事を思い出したので!!」

 

 秀吉はそう言うやいなや一目散に逃げ出した。残るのは信広と信長だけである。

 

「……久しぶりに川遊びをするか?」

「……うむ」

 

 信広の言葉に信長は小さく頷くのであった。なお、満喫した模様である。

 

 

 




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第三十話

 

 織田家が天下統一を着々と進める中、他家ではどうだったであろうか。

 南の九州では島津貴久は薩摩を統一後大隅にその手を伸ばしていた。島津にしてみればかの源頼朝より薩摩、大隅、日向の守護職に補任された経緯があるので旧領三州を取り戻すのは悲願である。

 そんな貴久だが居城である清水城で駄々を捏ねていた。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ!! 政務多すぎる、俺も皆と遊びたい!!」

「……お父さん、あまり皆を困らせないで下さい」

 

 駄々を捏ねる貴久に歳久が溜め息を吐いてそう告げる。他の姉妹も貴久の駄々に少々飽きていた。

 

「仕方ないでしょお父さん。お父さんが島津の家督を継いでるんだから仕事が多いのは当たり前でしょ」

「それでも皆と遊びたい!!」

 

 他国から怪力と称されるが内心はそう呼ばれるのを嫌がる義弘は貴久にそう言う。しかし貴久はそう言い返す。

 

「もうお父さんったら。あまり言うと私怒るわよ~」

「そうだよお父様。あたしも怒るよ」

 

 長女義久と四女家久は貴久に最後通告をする。

 

「うん、俺が悪かった」

 

 怒られると思った貴久は直ぐに機嫌を治して政務に取り掛かるのである。四姉妹はそれを離れたところから見て溜め息を吐く。

 

「お父さんも、もう少しちゃんとしてほしいなぁ」

「あらぁ、今のお父さんも良いけどね」

「……でも毎回駄々を捏ねるのは困ります」

「それはそうだね歳ちゃん」

 

 四姉妹はそのように話していた。

 

「早く三州を戻して普通にしたいね」

「そう上手くいくかは分かりませんが……」

「義久姉様は何か案とかないの?」

「そうねぇ……」

 

 家久からの問いに義久は幾分かは悩んだ。

 

「……やはり三州を取れる大義名分が必要でしょう」

「結局はそこに行き着くのよねぇ。でも今の幕府に力は無いわよ」

「いえ、幕府は最後の将軍義輝が返上しています」

「えェ!? 幕府無くなったの?」

「元から力無いから無くなっても良いんじゃない?」

 

 何気に毒舌な家久である。

 

「そして今、中央にいるのは三好を撃ち破り吸収した織田家です」

「織田家?」

「はい、本拠地は尾張ですが駿河の今川を撃ち破ってからは調子が良いようです」

「ん~、ならその織田家に後ろ楯をしてもらおうかしら?」

 

 義久は三人にそう告げる。

 

「でもその織田家って役に立つの?」

「織田家は対等な同盟として三河、越前としています。臣下のとして今川がいますし三好の大部分も吸収していますからかなりの大国は間違いないです」

「それなら良いんじゃないないかな?」

「そうしましょう」

 

 こうして島津は織田家に後ろ楯としてもらうよう使者を送る。なお、見返りは砂糖とか珍しい物である。

 そして肥前では龍造寺隆信がかつての主家である少弐氏を攻めてこれを滅ぼしていた。

 

「これで宿願とも言える肥前統一は出来たわね」

 

 龍造寺隆信は居城佐賀龍造寺城(別名村中城)で家臣の龍造寺四天王と話していた。

 

「今は内政をして国力を整えるべきでしょう」

「そうですね~軽率に動けば身を滅ぼしかねないですね~」

 

 龍造寺の知恵袋と称される鍋島直茂は隆信にそう具申する。同じく円城寺胤も慎重論を唱える。

 

「ま、それが妥当ね。それと龍造寺の肥前所有を正当化したいけど……」

「幕府が無くなったのが辛いですね」

「もー、足利の将軍も肥前を統一するまで待っててほしかったのに!! 織田家許すまじだわ!!」

「あいや暫く」

 

 そう怒る隆信だが直茂が諫める。

 

「どうしたの直茂? 何か案でもあるの?」

「幕府が存在しない以上、龍造寺の正当化を出来るのは朝廷しかありません」

「朝廷……ねぇ」

「朝廷に力はありませんが権威はあります。此方から朝廷に献金をして殿の肥前守を認めてもらうのです」

「……その手があったわね。直茂、朝廷に使者の用意を頼むわ」

「御意。直ぐに取り掛かります」

「献金も此方が重すぎず軽すぎないように頼むわ」

「御意(織田家にも要請してもらうか)」

 

 龍造寺も動き始めた。そして――。

 

「この九州の地に楽園を築きましょう」

 

 豊後国の臼杵城で大友宗麟はそう宣言していた。大友氏は豊後は元より肥後の北部、豊前、筑前まで支配下としており九州統一は大友宗麟が一歩進んでいたに等しい。

 そんな宗麟は端から溜め息を吐いているのが車椅子に座る立花道雪と高橋紹運である。

 

「……宗麟様には困ったものです」

「うむ……しかし気にしすぎては気が参るぞ道雪」

「分かっています。それと北部九州の動向ですが……」

「……爆発する可能性は大だ」

「……そうですか」

 

 道雪は視線を誰かと話している宗麟に向ける。宗麟の前には一人の宣教師がいた。

 

「フロイス様、共に楽園を作りましょう」

「はいソーリン様」

 

 ニコニコと頭を下げる宣教師ルイス・フロイスは誰にも気付かれないように口をうっすらと笑みを浮かべるのであった。

 さて、九州はこのように九州三国志が着々と進む。対して四国も入り乱れていた。(中国地方は前回したので無い)

 

「んー」

「何してんだお嬢?」

 

 伊予国の湯築城で河野氏の河野通直は唸っていた。

 

「ん? 伊予をどうするか悩んでるのよ」

「おいおい、お嬢が伊予を治めてるだろ?」

 

 村上通康は悩んでいる通直に首を傾げる。

 

「今の現状じゃあ謀反が相次いでいるでしょ。何処かの勢力に保護をしてもらうか臣従するしかないわよ」

「それはそうだが……保護してもらうなら毛利か?」

「毛利は中国と博多以外に興味は無いわよ」

「じゃあ大友か?」

「私としては織田ね」

「ほぅ織田か……」

 

 通直の言葉に通康は成る程と頷いた。

 

「三好の兵力も吸収しているし丁度良いと思うわ」

「成る程ねぇ。ま、俺はお嬢に従うだけだ」

 

 通康はそう言うのであった。他の地域では関東だと一大勢力の北条早雲と常陸の佐竹義重、安房の里見義堯による三つ巴が展開されていた。

 奥州では中陸奥にて伊達政宗が出てきたが相変わらずの合戦(プロレス)である。

 

「……なぁ兄様、九州の島津等から同盟や援助してほしいと要請来ているが……」

「ブッ!?」

 

 岐阜城で久秀、長慶らと茶をしていた信広だったが信長の言葉に思わず茶を吹き出していた。

 

「汚いじゃない」

「おま、そんな事言って……いや、何か拭く物を……」

 

 とりあえず畳を拭く信広である。そして場を整えると改めて信長に問う。

 

「それで九州の大名が支援を要請と?」

「最南端の島津、龍造寺だな」

「……島津は支援だな。龍造寺は……官位か」

「肥前所有の正当化を朝廷に認めてもらいたいのだろう」

「関白様に申し上げておく。それと島津の支援だが交易もするのだろう?」

「勿論だが……何かあるのか?」

「……島津に唐芋があれば欲しいと言ってくれ」

「カライモ? 何だそれは?」

「唐の食物だが美味しいとは聞いている。荒れた畑でもある程度の育てで収穫出来る代物だ」

「ふむ……それは凄いな」

 

 信広の言葉に長慶は感心したように頷いた。

 

「でもそう簡単にくれるかしら?」

 

 久秀がフフッと笑う。

 

「まぁ大丈夫だろう。無理なら商人経由からでも手に入れられると思うしな」

 

 島津も了承して交易が始まり唐芋は苗の他に現物が唐経由で信広の元に届けられたのである。

 

「ほぅ、十もあるのか」

「それでどう食べるのだ?」

「焚き火が一番だな。とりあえず作るから」

 

 信広は長秀らと共に枯れ枝や葉を集めて焚き火をして灰の中に芋を入れて葉っぱを乗せて更に焚き火を続ける。

 

「信広様、火攻めでもするのですか?」

「いや違うから」

 

 鍛練から帰ってきた直虎にそう勘違いされる信広だったが何とか焼き芋が出来上がる。

 

「……ん。久しぶりに食べる焼き芋は格別だな」

 

 信広は焼き芋を半分に折り、皮を剥いて一口食べる。口の中に甘い味が広がる。

 

「ほれ信長。熱いから気を付けてな」

「う、うむ……」

 

 信広から焼き芋を貰った信長は息を飲むと焼き芋にかぶりつく。

 

「……美味い」

「な?」

「なら私も……」

「……私もね」

 

 長慶や久秀達が次々と焼き芋にかぶりついていく。

 

「あ、あんまり食べ――」

 

 信広が何かを言う前に焼き芋は全て信長達がペロリと食べてしまった。

 

「ん? 何か言ったか兄様?」

「……あまり食べ過ぎると太るんだが……」

『―――!?』

 

 信広の言葉に信長達が驚愕の表情をすると信広や長秀を放っておいて話し合う。

 

「信長、何個食べた?」

「……三つだ。長慶は?」

「……二つ。美味しかったものだから……」

「とりあえず鍛練して余計な物を落とすべきね」

「そのようですね。私、もう一度鍛練しないと……」

 

 そして信長達は武具を持って鍛練所に行くのであった。

 

「……女って行動が早いな」

「そのようですな」

 

 後片付けをする信広と長秀であった。

 

 

 

 




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第三十一話

遅くなりました


 さてさて、織田家ではその占領地域を拡げていた。三好三人衆は四万の兵力で阿波に上陸してあっという間に三好長治を駆逐して讃岐に追いやった。阿波は元々三好の勢力なので阿波の国人達はたちまちのうちに織田家に降伏したのである。

 また北の方角では丹波の波多野氏が織田家に降伏していた。光秀の調略によるおかげである。しかし丹後の一色は無視していたので波多野晴通を案内人として三万の軍勢が丹後を蹂躙した。

 

「軍律はしっかりと守るように。人を殺せば私自らはねます」

 

 総大将の光秀はそう言って軍律を徹底させた。そのおかげで丹後の人々が織田家に臣従する速度が早まる事になる。

 なお、一色義道は捕らわれたが近衛の口添えによる京に逃れた。これにより戦国大名としての一色氏は滅びたのである。

 

「一色の後は誰にするか……」

「現地では光秀の声が高いぞ」

「馬鹿を言うな兄様。光秀にそう簡単に国持ちには出来ん」

「………」

 

 信長の言葉に光秀は残念そうにするが信広は口添えをする。

 

「そういう意味ではないぞ光秀。信長にしてみたら小飼いのお前を遠い地に行かすのは嫌なんだよ」

「む、むぅ……」

 

 そう指摘された信長は光秀から目線をそらすが頬は赤かった。

 

「……ありがとうございます信長様」

「……うむ」

(……全く)

 

 微妙な立ち位置の信広だった。結局、話し合いの結果は柴田勝家を丹後の大名にする事だった。

 

「有り難き幸せ!!」

「あくまでも仮だ。粗方片付ければ別の場所を用意する」

「はは!!」

 

 信長の言葉に頭を下げる勝家だった。

 

 

 

 

「最近の織田は調子が良いようですね」

 

 甲斐国の躑躅ヶ崎館、甲斐を治める戦国大名である武田信玄は京から来た書状に微笑む。

 

「しかし殿、何故京の貴族が武田の書状を……」

「此処に連ねている貴族の者は織田を憎む者ばかりです」

「……まさか京の貴族どもは……」

「……どうやら私に信長を討てとの事です」

 

 山県昌景の言葉に信玄はそう言うと軍儀に参加している者達に緊張が走る。

 

「信長は悪政を敷いていると?」

「乱破の報告ではそのような事はないです。私に書状を送ったのは織田の支配を拒む者からですよ。どうやらこの人達は日ノ本が変わる事を良しとしないようです」

「……如何なさいますか?」

「……一度だけ貴族の思惑に乗りましょう。私としても計算外な事は起きていますから」

 

 桶狭間の後、信玄は義元亡き駿河を攻略しようとした。しかし、今川氏真が織田に降伏――臣下入り――した事により今川は兵力を武田に回す事が出来た。

 

「要注意は織田信広……ですね」

「何か言いましたか殿?」

「いえ、何でもありません」

 

 昌景の問いにそう答える信玄だった。さて、信玄にも目を付けられた信広であるが……。

 

「はぁ……」

 

 自室の部屋で裸になっていた。自室に敷かれた寝床には道三が信広と同じく裸で寝ている。二、三回戦程していた模様であった。

 

(最近、道三のアプローチが増えてるなぁ)

 

 初めて道三と夜を共にして以降は一週間に一回だったが最近は二日に一回と信広を求める道三だった。

 

(まぁ問題は無いかなぁ……)

 

 そう思う信広だったが足音が聞こえてきた。

 

「信広様、義輝様が稽古をしないかとの事です」

「な、直虎?」

 

 部屋の前に直虎が来た。

 

「?? どうかされましたか信広様? も、もしや敵の忍びが――」

「あ、馬鹿――」

 

 直虎は信広の言葉を遮り、勢いよく障子を開けた瞬間、信広を見て一瞬唖然とした後、急激に頬を赤めて悲鳴をあげようとしたが咄嗟に信広が手で口元を塞いで悲鳴は出なかった。

 

「……済まん、気を付けておけばよかった」

 

 信広の言葉に直虎はコクコクと頷いた。なお、急いで着替えたようである。

 

「……まぁ、内緒にしといてくれ」

「は、はい……」

「そんで義輝様か。行くか」

「………(背中、大きかった……)」

 

 信広は直虎と共に鍛練所に行くのであった。なお、直虎は終始無言だった。

 

 

 

「兄様、伊予の河野から伊予一国を条件で臣従したいと来た」

「……讃岐と土佐を攻略するからその兵を出したら認めるだな」

「それが妥当だろうな。四国を抑えれば九州や中国を牽制出来る」

「うむ。河野にはそう言おう」

 

 信長からの返書に河野通直は顔をほっこりとさせた。

 

「よし、これで河野は生き残れるわ」

「讃岐と土佐を攻めないとな」

「まぁそれくらいなら問題ないわね」

「後はお嬢の嫁入りだな」

「な――!?」

 

 村上の言葉に通直が顔を赤くする。

 

「な、何を言ってるのよ!! 私はまだ嫁にはいかないわよ!!」

「そう言うけど、そんなのあっという間に過ぎちまうよ。さっさと嫁入りするのが手だ」

「――もう!!」

 

 通直は顔を更に赤くしながらプンスカと怒るのであった。

 

(全くお嬢も強情だねぇ、先の一手を読まないと)

 

 通康は溜め息を吐いて南蛮人から貰った海賊船の船長が被る帽子を脱いでパタパタと扇ぐ。

 

(河野が生き残る事は確定したんだ。後は河野の血筋を引く子どもをお嬢が産んでもらわにゃあ困るんだ)

 

 通康は内心そう思う。

 

(出来れば織田家の誰かでもいい。信長を裏から支える信広でもな。やり方は少々あれだが信長を支えているのはそれだけ忠誠心があるからだ)

 

 四国にいる通康でも信広の事は耳に入っていた。

 

(お嬢を信広の正室でも側室にして織田家の中にジワジワと河野の影響力を増しらせるのも手だがやり過ぎるのは禁物だものなぁ。だが案外とお嬢と信広はお似合いかもしれんなぁ)

 

 通康はそんな事を思いながら思案するのであった。そんな事を思案させられていた信広はというと……。

 

「申し訳ありません信広様。雑賀の皆を止められなくて……」

「いや重秀が気にする事じゃない」

 

 信広は紀伊攻略の総大将として孝子峠を移動していた。そもそもの発端は雑賀衆の内部分裂だった。重秀が織田家に与したが雑賀衆の内部では反織田の者も多く、遂には土橋守重を筆頭に信長に反旗を翻して本願寺側に付いたのである。

 

「兄様、三万の軍を出すから雑賀衆とのけりをつけろ。他の者から援軍を出しても構わぬ」

「……御意」

 

 信広にしてみれば信広が雑賀衆を織田に与させたのでその責任を取れと信長の意思表示だった。信広は大和にいた筒井や島達にも兵七千を率いれ、更に河内飯盛山城にいた長慶ら兵六千も率いれて紀伊に進軍したのである。

 

「さて…… 頑張るか」

 

 信広はそう呟いた。

 

 

 




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