【TF3ブルー万丈目回の鬱エンドを打破すべく続きを書いてみた】 (ノウレッジ@元にじファン勢遊戯王書き民)
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デュエル開始前、もしくは謀略について

 デュエルアカデミアを買収するべく動き出した万丈目グループ。その御曹司三兄弟の三男坊、万丈目準と、そのタッグパートナーの手によってアカデミア内部で次々と実力者達が倒される事数ヶ月。やがて卒業式の日、プロデュエリストのエドとヘルカイザーすらも下した万丈目グループは、とうとうデュエルアカデミアを手中に収めた、かに見えたのだが……?



「フハ、フハハハハハハハハハハ! やったぞ、とうとうデュエルアカデミアが! 万丈目グループのものに!!」

「よくやったぞ、準!」

「これで我ら万丈目グループが世界を掌握できるぞ!」

 

 デュエルアカデミアのデュエルリングに響く高笑い。それは万丈目グループと一部のオベリスクブルーにとっては栄光の福音、そしてそれ以外の者にとっては最悪を知らせる悪魔の嘲笑だった。

 実際の悪魔はもっと酷い笑い声だったな、と万丈目準のタッグパートナーを務めた赤帽子の少年、コナミはぼんやりと思った。――その背中にアカデミアの皆の恨みとも絶望とも知れぬ視線を受けながら。

 

『コナミ君、見損なったよ……』

『酷い、信じてたのに!』

『嘘だ、こんなの嘘だぁ!』

『もう駄目だ、お終いだぁ……』

『クビは、クビは嫌ナノーネ!?』

『何でだよ、何でこんな事になっちまったんだよ!』

 

 奇跡と凡庸の少年、コナミは。

 

 

 

「くひっ」

 

 

 

 不気味に笑った。

 そうとも知らぬ万丈目準は、契約書を手にコナミに話しかける。

 

「お前も子分にしてはよくやったな。さあ、この契約書にサインしてお前も万丈目グループの一員になるのだ」

「フッフフフフ……、クックククク……!」

「ど、どうした?」

 

 突如奇妙な声を上げるコナミに戸惑う万丈目。そこに一瞬の隙が生まれた。

 素早くコナミは万丈目の手から書類を引っ手繰るとそれを紙片になるまでビリビリに散り散りに引き裂き破り去ったのだ。

 

「な、貴様何を!?」

「いっひひひひひ、可笑しくって腹痛いわぁ! 万丈目、お前面白い奴だな。本当に俺の事を子分だなんて思ってやがって!」

「何!? どういう事だ!!」

「まだ解らねぇかぁ? そんじゃ面白ぇモン見せてやるよぉ! じゃんじゃじゃーん!」

 

 一堂、大仰な動作にて急展開な事態について行けず、呆気に取られる。だがコナミは構う事無く帽子から一枚の書類を取り出し見せびらかした。

 

「何だ、それは……」

「これかぁ? これは海馬社長が、『俺が万丈目グループの代表とデュエルして負けたらデュエルアカデミアを渡す』っつー事が書いてある契約書だよ!」

「何!? あのヘボプロデュエリスト共を倒せばアカデミアが手に入るのでは無いのか!?」

「ヘボプロデュエリストォ? 誰それぇ? 本当のアカデミアを守るデュエリストは俺だよ。

 鈍いなぁ、まだ解らないのかよ。さっきまでのエドとヘルカイザーも、鮫島校長に知らされた相手も、俺と海馬社長で用意した偽物だよ! 本当のアカデミアを守るデュエリストはこの俺、コナミって訳だぁ」

「何、だと……!?」

「ジャンジャジャーン! 今明かされる衝撃の真実ぅ! いやぁ、本当苦労したぜ。阿呆な子分演じて詰まらねぇ協力までしてさぁ……。

 しかしまあお前は単純だよなぁ。俺がヘコヘコしてたら俺の事を全部信じちまうんだからなぁ!

 アカデミアを買収するぅ? 万丈目グループの一員んん? ウッヒャハハハハハハハハハハ! ま、楽しかったぜぇ、お前との主従ごっこ! アカデミア買収完了目前、おめでとうございます、万丈目準様! ウッヒャハハヒヒハハハハハハ!」

「う、嘘だ! 貴様はこれまで俺様の忠実な部下として――」

「ひゃははははははははははっ! じゃあ言ってやる! これまでのデュエルのほぼ全ての場面で、俺の力を借りずに勝てたケースがあったかぁ?

 翔と隼人とのデュエル、『マスター・オブ・OZ』を迎え撃った『収縮』!

 大地と剣山とのデュエル、『ディノインフィニティ』を潰した『禁じられた聖杯』!

 明日香とクロノス先生とのデュエル、『古代の機械巨人』の攻撃を防いで次のお前のターンに回した『ネクロ・ガードナー』!

 エドとヘルカイザーとのデュエル、『キメラテック・オーバー・ドラゴン』を利用した『ディメンション・ウォール』!

 フヒッ、反論は無いよなぁ? あの俺のカード達が無かったら、大事な大事なデュエルで負けてたもんなぁ!?

 ありがとうよ、俺のサポートに(かま)けて自分が強いと錯覚しててくれてよぉ! ひゃっはははははははははははははははははっ!」

 

 長々とした台詞によって、皆は漸くコナミの目的を知った。

 万丈目にずっと付き従っていたのは彼の慢心を誘うため。そしてそのデッキの内容を探るため。アカデミアを乗っ取るという作戦にて、テレビの集まったこの場を最終防衛ラインと考えれば、運命の勝負を後回しにする事はできない。そう、例えこの場にあるデッキがコナミの知り尽くしたものであっても。

 

『……わざと汚名を被っていたのね』

『そしてアイツの絶好調のタイミングで突き落とす、と』

『性格悪いわぁ~』

『まるでスパイなんだな』

『そんな意図がまさかあったとは……』

 

 そしてアカデミアを手に入れるにはコナミにデュエルで勝たなくてはならない。そう、彼が傍にいて知り尽くしたデッキで(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「き、貴様、万丈目グループの一員になりたくないのか!」

「いらねぇよ、ンなモン! 勝手に子分だ部下だと好き勝手言いやがって。挙げ句の果てに万丈目グループの一員だぁ? ザけんなよテメェ。俺は! このデュエルアカデミアが大好きで! 守るために! わざとヘボデュエリストであるお前の下にいたんだよ! ……あわよくば、お前を改心させるためにな」

 

 最後の言葉は聞こえなかったらしく、怒りの沸点をとうの昔に越えた準はコナミに怒鳴り散らした。

 

「貴様ぁ! グループを馬鹿にするだけじゃなく、俺を糠喜びさせた上に騙していたのか!

 許さん、許さんぞ! デュエルしろ、コナミ! 俺様は貴様に勝利し、このアカデミアを今度こそ手に入れる! 万丈目グループの覇権のために!」

「良いぜ、元々そのつもりだ。何なら俺が負けたら一生テメェの奴隷にでもなってやるよ」

「ほざけ、貴様如きに負ける俺様では無いわ! そんな条件をつけるのならば、俺が負けたらこのアカデミアに万丈目グループは永遠に関わらない事を約束してやる!」

「おい準! 兄者!」

「やらせておけ。組織経営には博打もある。それにこんな大事な一戦で負けるようでは、準はその程度だったという事だ」

 

 冷静さを失った万丈目。

 策が上手く決まって余裕綽々のコナミ。

 海馬瀬戸からの電話で真相を知った鮫島校長が、アナウンスを入れる。

 

『あー、あー。それでは、このデュエルアカデミアの命運を賭けた、本当のデュエルを開始します!

 万丈目君が勝てば、デュエルアカデミアは万丈目グループの物となり、コナミ君が勝てばそれは回避されます。それでは両者、正々堂々のデュエルを……』

「行くぞ、コナミィ!」

「来い、万丈目ぇ!」

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

コナミ:LP 8000

万丈目:LP 8000

 




全4話構成
毎日お昼の12時に更新です


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激闘、或いはAパート

「先んずれば人を制す、先攻は俺様が貰うぞ! 俺様のターン、ドロー!」

「ご自由に」

「俺様は『終末の騎士』を召喚! この召喚に成功した時、デッキから闇属性モンスターを1体墓地に送る事が出来る! デッキから『ネクロ・ガードナー』を墓地に送る!」

 

 

終末の騎士:ATK 1400

 

 

 万丈目お得意の闇属性の戦術。デッキが変わっていない事に、取り敢えずコナミは一安心。

 墓地に闇属性モンスターを送り、それを利用して戦況を優位に進める。十分想定の範囲内だ。

 

「更にカードをセット、これでターンエンド。さあ、貴様のターンだ! 覚悟しろ、たっぷり後悔させてやる!」

「やれるモンならやってみな、何ターンその威勢が続くか楽しみだ。俺のターン、ドロー!」

 

 手札は充分。あいつを倒すのに何の問題も無い。

 

「相手のフィールドにモンスターが存在し、また俺のフィールドには存在しない時、手札の『サイバー・ドラゴン』は特殊召喚できる!

 続いて俺は『霊滅術師 カイクウ』を通常召喚! 『カイクウ』が存在する限り、相手プレイヤーは墓地からカードを除外できない!」

「何ィ!?」

 

 呼び出されるのは機械の龍と保健室の人体模型のような僧侶。万丈目のダークデッキは墓地リソースに頼るため、除外を封じられると行動がかなり制限されてしまう。

 しかも、『カイクウ』の能力はそれだけでは無い。

 

 

サイバー・ドラゴン:ATK 2100

霊滅術師 カイクウ:ATK 1800

 

 

「バトルだ! 『サイバー・ドラゴン』で『終末の騎士』を攻撃! “エヴォリューション・バースト”ォ!」

「ぐぅっ!」

「まだまだぁ! 続けて『カイクウ』でダイレクトアタック!」

「ぐわぁぁ!」

 

 

万丈目:LP 8000→7300→5500

 

 

 青白い光線で黒い騎士が焼き払われ、不気味な呪文が万丈目の周囲に爆弾の様に着弾して起爆する。更にダメージが入った瞬間に『カイクウ』の目から万丈目のディスクの墓地目掛けて光が飛び出した。

 

「な、何だ!?」

「カードのお勉強不足だぜ、エリート野郎。『霊滅術師 カイクウ』が相手に戦闘ダメージを与えた時、相手の墓地からモンスターカードを2枚まで除外できる。俺はこの効果で『ネクロ・ガードナー』と『終末の騎士』をゲームから除外する!」

「な、なん……だと……!?」

 

 デュエルディスクの墓地ポケットから吐き出される万丈目のカード。これで、彼の墓地からカードは無くなった。

 削られたライフは2500ポイントと少なくはない上に墓地のカードは空っぽにされた。相当な痛手である。

 

「あらららぁ? 万丈目くぅん、ちょっとイケて無いんじゃなぁ〜い?」

「う、五月蝿い! やる事が無いならさっさとターンエンドせんか!」

「へぇへぇ、俺はカードを伏せてターンエンド!」

「貴様、俺を甘く見るなよ……。俺様はいずれ、このアカデミアを超エリート養成学校にし、支配する男だぞ!」

「知らねぇよ。俺はただデュエルが大好きなだけだ。デュエルの思い出が沢山詰まっているこの“今の”デュエルアカデミアも、な」

「下らん! 雑魚の掃き溜めなど唾棄して然るべきだ! 貴様のエンドフェイズに永続罠『闇次元の解放』を発動! ゲームから除外されている自分の闇属性モンスターを特殊召喚する! さあ働け、『ネクロ・ガードナー』!」

 

 

ネクロ・ガードナー:DEF 1300

 

 

 万丈目の呼び声に応えて覆面をした鎧武者が現れる。恐らく元々は墓地から除外して攻撃を無効にできる『ネクロ・ガードナー』を使い回すために投入していたのだろう。

 

(……ってか、アレ入れたの俺じゃん)

「俺のターン、ドロー! フハハハハハッ! 感謝してやるぞ、貴様が勧めてくれた2枚のカードが、俺様を手助けしてくれるのだからな! 『ネクロ・ガードナー』をリリースして『邪帝ガイウス』をアドバンス召喚だぁ!」

「げ!」

 

 鎧武者と入れ替わるように現れるのは黒いマントを羽織った山羊角の悪魔。重厚な体で降り立つと、時空の歪みを僧侶へと放つ。

 

 

邪帝ガイウス:ATK 2400

 

 

「『ガイウス』はアドバンス召喚に成功した時、フィールドのカードを1枚除外する。俺は貴様の『カイクウ』を選択! しかも除外したカードが闇属性モンスターなら、相手プレイヤーに1000ポイントのダメージを与える!」

「っ!」

 

 

コナミ:LP 8000→7000

 

 

 チッ、とコナミは舌打ちした。『カイクウ』が除外された事で、万丈目の除外戦術が復活してしまった。しかもこれで再び墓地へ『ネクロ・ガードナー』が置かれてしまい、攻撃を防ぐ手立てが生まれてしまう。

 デュエルにおいて計算違いはよくある事だが、この状況は痛かった。

 

「さあ『ガイウス』、『サイバー・ドラゴン』を、奴の雑魚モンスターを蹴散らせ!」

「くぅっ!」

 

 

コナミ:LP 7000→6700

 

 

「フハハハハハ! 少しは分かったか、俺様と貴様の格の差を!」

「ああ、痛い程な」

「そうだ、それで良い。今なら土下座して非礼を詫びれば俺様専属の下働き程度で許してやるぞ?」

「……勘違いするな、エリート気取り。この程度で勝ち誇るテメェの阿呆さ加減が身に染みて分かったってだけだ」

「減らず口を……。ターンエンドだ!」

「俺のターン!」

 

 チラ、と手札を見る。自分の手札は万丈目と同じ4枚。ここを逆転するのに充分な手がある。

 

「俺は『クリッター』を召喚し、魔法カード『強制転移』を発動! お互いのフィールドに存在するモンスターをそれぞれ1体ずつ交換する。俺は『クリッター』をくれてやる!」

「何、だと……っ!? くっ、俺様は『邪帝ガイウス』だ……」

「へへ、攻撃力2400のモンスターをありがとさぁん、と!」

 

 

クリッター:ATK 1000

 

 

 コナミの発動した『強制転移』は、状況に応じて極めて凶悪な効果を発揮する。

 相手のエースモンスターを奪ったり、攻撃力の低いモンスターを押し付けて的にしたり、特に今回の様に互いの場にモンスターが1体ずつしか存在しない場合はコントロール奪取に近い効果になるのだ。

 

「更に永続罠『闇次元の解放』を発動、お前が除外した『霊滅術師 カイクウ』を帰還させる!」

「何っ、貴様もか!? ならばここで墓地から『ネクロ・ガードナー』を除外して効果発動! このターン最初の攻撃を無効にする!」

「そう、先んじて除外するしかお前には無い!」

 

 

霊滅術師 カイクウ:ATK 1800

 

 

「バトル! 『カイクウ』で俺の『クリッター』を攻撃!

 そして無効にされた後にお前の『ガイウス』で攻撃! たっぷり喰らいやがれぇ!」

「ぐわぁぁぁあああっ!?」

 

 

万丈目:LP 5500→4100

 

 

 予め除外されていた黒い鎧武者が僧侶の攻撃を止めるが、続く山羊角の悪魔の波動は防ぐ手段が無く、万丈目は吹き飛ばされた。

 墓地にはモンスターがいないため『カイクウ』のダメージを通す必要の無い状況が、コナミには棚ぼた的な状況となったようである。

 

「『クリッター』の効果発動。このモンスターがフィールドから墓地に送られた時、デッキから攻撃力1500以下のモンスターを1体手札に加える。攻撃力0の『ファントム・オブ・カオス』を手札へ」

「ぐ、ぐぅ……。猪口才(ちょこざい)真似を……!」

「戦線を維持し途切れさせないのは基本だろ。そんな事も忘れちまったか? カードを伏せてターンエンドだ」

「ナメるなぁ! 俺様のタァーンッ!」

 

 コナミの作戦通り、順調に冷静さを失っていく万丈目。再び墓地は空っぽになり、ライフもジワジワと離されて行っている。

 万丈目の戦術そのものは別に悪手では無い。だが彼のデッキや戦術を知り尽くしたコナミが相手では分が悪すぎたのだ。

 

「準、何をやっている! 負ける事は許さんぞ!」

「ここで負ければ笑い者な上にグループが世界を手にする野望がどうなると思っている!」

「分かってるとも、兄さん達!」

(煩ぇ外野だ……)

「魔法カード『闇の誘惑』を発動! デッキから2枚ドローし、手札の『キラー・トマト』を除外! そして魔法発動『封印の黄金櫃』! デッキからこのカードを除外し、2ターン後に手札に加える!」

 

 デュエルの「デ」の字もロクに知らない外野の癖に、とコナミは密かに悪態を吐く。

 このターン、万丈目の手札はドローした事で6枚。自分は2枚で、内1枚は相手も知っているカード。引っ繰り返そうとするのならばいくらでもできるだろう。

 

「俺様は『ライトニング・ボルテックス』を発動! 手札から『炎獄魔人ヘル・バーナー』をコストに、貴様の表側表示のモンスターを全て破壊する! 消し飛べ、雑魚モンスター、裏切り者のモンスター!」

「げ!?」

 

 言ってる側から、とぼやきながらコナミは降り注ぐ雷のフラッシュから目を庇うために腕で顔を覆う。

 金色の電撃に焼かれ、人体模型のような僧侶も奪い取った悪魔も、根刮ぎ焼かれてしまった。

 

「更に『ダーク・グレファー』を召喚!」

 

 

ダーク・グレファー:ATK 1700

 

 

「このモンスターは手札から闇属性モンスターを墓地へ送り、デッキからも闇属性モンスターを墓地へ送る事ができる! 手札から『ダーク・ホルス・ドラゴン』を墓地へ送り、デッキから『速攻の黒い(ブラック)忍者』を墓地へ送る!」

「これで闇属性モンスターが……!」

「そうだ! 墓地に『ガイウス』、『黒い忍者』、『ダーク・ホルス』の3体の闇属性モンスターが揃った事で、俺様は手札から『ダーク・アームド・ドラゴン』を特殊召喚できる! 現れろ、この俺様の最強の(しもべ)!」

『GAAAAAAAAAAAAAAAA!』

 

 万丈目の呼び声と共に出現する、漆黒の巨龍。全身を物々しい兵器で武装しており、赤く輝く眼がコナミを、まるで獲物を見つけたように爛々と光る。

 闇属性モンスターのリーサルウェポンが、満を持しての登場だ。

 

 

ダーク・アームド・ドラゴン:ATK 2800

 

 

「ふはははは! 見たか、これが俺様の最強モンスターだ!」

「隣でデュエルしてる時に嫌って程見たよ。大抵は『闇の誘惑』とかのために使われてたけどな」

「減らず口を! 『ダーク・アームド・ドラゴン』の効果発動! 墓地から『ダーク・ホルス・ドラゴン』を除外し、貴様のリバースカードを消し去ってくれるわ! “ダーク・ジェノサイド・カッター”!」

「トラップ発動、『針虫の巣窟』! 自分のデッキからカードを5枚墓地へ送る!」

 

 

【送られたカード】

『ゴブリンのやりくり上手』

『闇より出でし絶望』

『非常食』

『生者の書-禁断の呪術-』

『天魔神ノーレラス』

 

 

 漆黒の龍から放たれた黒い丸鋸がコナミの罠カードを切り裂く。

 これでコナミのフィールドは正真正銘の空っぽだが……。

 

「バトルだ、『ダーク・アームド・ドラゴン』と『ダーク・グレファー』でダイレクトアタック!」

「ぐぅぅぅぅぅっ!」

 

 

コナミ:LP 6700→3900→2200

 

 

 振るわれた龍の巨腕と闇の剣撃を正面から受け止め、激しい土埃を舞い上げながら後退りするコナミ。襲い来る衝撃に歯を食い縛って耐え抜くと、フゥーッ、と大きく息を吐いた。

 

(かなり、削られたな。だが!)

「フハハハハハハッ! 分かったか、これが貴様の実力だ。所詮俺様の足元に這い蹲るのがお似合いだ!」

「……哀れな」

「何ぃ!?」

「哀れと言ったんだ。テメェの左手を見てみろ」

「左手……、ハッ!?」

 

 言われるがままに見た自らのデュエルディスクを着けた腕の手。そこには何も無かった(・・・・・・)

 

「『封印の黄金櫃』、『ライトニング・ボルテックス』、『炎獄魔人ヘル・バーナー』、『ダーク・グレファー』、『ダーク・アームド・ドラゴン』、『ダーク・ホルス・ドラゴン』。ククク、使い切っちまったなぁ、手札を!」

「……っ!」

「さあ、やる事が無いならターンエンドしろよ。お前もさっき俺にそう言ったよなぁ?」

「た、ターンエンド! 図に乗るなよ、雑魚め! 俺には『ダーク・アームド・ドラゴン』がいるんだ、そしてその効果はまだ後2度使用できる! 俺様の勝利に揺らぎは無い!」

「そうかな? 俺のターン、ドロー!」

 

 確かにダムドは強力なモンスターだ。回数制限の無い破壊効果に加え、28打点も備えている。

 だがそれが活きるのは自分のターンのみ。返しの相手ターンでは何の効果も持っていないに等しい。

 さぁ、反撃と行こう。

 

「手札から『鳳凰神の羽根』を発動! 手札を1枚墓地に送り、俺の墓地にある『生者の書-禁断の呪術-』をデッキの1番上に戻す!」

 

 墓地ポケットから魔法カードが吐き出され、それをデッキの1番上に置く。

 これで下準備は整った。

 

「手札から『ファントム・オブ・カオス』を召喚し、その効果を発動。墓地の効果モンスター『天魔神ノーレラス』を除外し、能力をコピーする!」

 

 

ファントム・オブ・カオス→天魔神ノーレラス:ATK 0→2400

 

 

「何!? まさか!?」

「『針虫の巣窟』の時点で俺のデッキが【アンデットファンカスノーレ】だと気付くべきだぜ、エリート野郎」

 

 コナミの場に生まれた黒い影が、墓地に眠る破滅の天使を形作る。【ファンカスノーレ】は召喚が難しい『天魔神ノーレラス』の効果を『ファントム・オブ・カオス』でコピーして使う事で、召喚コストを踏み倒す戦術だ。

 『ファントム・オブ・カオス』は戦闘ダメージを与えられないデメリットを持つものの、『ノーレラス』の効果を使うと自滅してしまうため殆ど気にならないわけである。

 

「コピーした『ノーレラス』の効果発動、ライフポイントを1000払う事で、このカードを含めた互いの手札とフィールドのカードを全て墓地へ送り俺は1枚ドローする。“ジ・エンド・オブ・キングダム”!」

 

 

コナミ:LP 2200→1200

 

 

 フィールドの地面が黒いモヤに覆われ、そこが穴のように全てのカードが沈んでいく。極めて強力なリセット効果を前に、闇の鎧龍は抵抗空しく沈んでいった。

 

「ドロー!」

 

 墓地に『ノーレラス』の効果をコピーした『ファントム・オブ・カオス』の力で送られたカードはフィールドのカードのみ、そして新たに1枚手札が増える。この時のために、デッキトップにこのカードを戻しておいたのだ。

 

「さて、さっき俺が戻したカード、覚えてるよな?」

「くっ!」

「『生者の書-禁断の呪術-』、発動! その効果でお前の墓地のモンスター1体を除外し、俺の墓地からアンデット族を復活させる! お前の『ダーク・アームド』を除外して蘇れ、『闇より出でし絶望』!!」

『ギジョァアアアアアアアアアアアア!』

 

 戻し、発動したカードは蘇生の一手。相手の墓地のモンスターを除外する効果を併せ持つ事で、強力な不死の存在である陽炎が如き悪魔を呼び起こした。

 

 

闇より出でし絶望:ATK 2800

 

 

「行け! ダイレクトアタックだ!」

「ぐぉあああああああ!!」

 

 

万丈目:LP 4100→1300

 

 

 暗黒の爪がエリートを引き裂き、強烈な衝撃波を生み出す。

 これでライフはほぼ互角、フィールドの状況から僅かばかりコナミがリードしている状態だ。

 

「ターンエンド」

「ぜぇ……、ぜぇ……、おのれ……貴様……っ!」

「息が上がってるぞ、万丈目。そろそろ限界なんじゃないか? ライフは残り1300、手札と場にカードはゼロ。その状況でどう勝つつもりだ?」

「う、るさい! ドロー!」

 

 とは言え、コナミのライフも残り1200と差は100しかない。次、大きなダメージを受ければアウトだろう。

 

「……、くっ! モンスターをセット! ターンエンド!」

「俺のターン! バトル! 裏守備モンスターを攻撃!」

 

 幸いにもドローしたカードは戦況を逆転し得るカードでは無かったらしく、相手の場には守備モンスターが1体生まれたのみ。コナミも引いたカードでは追撃を仕掛けられないらしく、即座に攻撃に移る。

 影のような悪魔の目からビームが放たれ、伏せられていた青い宝箱型モンスターを粉砕した。

 

「『暗黒のミミック LV1』のリバース効果、カードを1枚ドローする!」

「カードを伏せて、ターン終了だ」

 

 ちょっとマズい、とコナミは顔を顰める。

 相手のカードを一掃して直接攻撃を仕掛けるまでは良かったが、追撃に失敗した。早めに倒さねば、今度はこっちが不利になるだろう。

 焦りの感情を浮かべぬよう赤いキャップを被り直す少年をよそに、再び万丈目にターンが回る。

 

「俺様のターン、ドロー! この瞬間、『封印の黄金櫃』の効果で除外されていたカードが手札に加わる! そして今加えたカード『強欲な壺』を手札から発動! デッキから新たに2枚ドローする!」

 

 アカデミアの学生用特別ルールでは、何種類かの禁止カードの中から1枚だけデッキに入れる事が許可されている。『強欲な壺』の他、『ミラーフォース』や『天使の施し』もその1種だ。なお十代もまた『強欲な壺』をチョイスしたのは言うまでも無い。

 逆に『死者蘇生』等、禁止されているカードが対象から外されてフリーになっている事もある。

 

「装備魔法『D・D・R』を発動! 手札を1枚コストに、除外されたモンスターを帰還させて、このカードを装備させる! さぁ戻って来い、『ダーク・ホルス・ドラゴン』!」

『キヒョァアアアアアア!』

 

 

ダーク・ホルス・ドラゴン:ATK 3000

 

 

 万丈目のフィールドに、先に墓地に送られダムドの弾丸になった黒い翼竜が帰還した。

 攻撃力ばかりに目が行きやすいが、相手ターンのメインフェイズに魔法カードが発動した時、自分の墓地からレベル4の闇属性を蘇生する効果も忘れてはならないだろう。

 しかも、彼のプレイングはまだ終わらない。

 

「この瞬間、手札から墓地へ行った『深淵の暗殺者』の効果! 墓地から自身以外のリバースモンスターを手札に加える! 選択するのは『暗黒のミミック』! こいつはそのままセットだ!」

「ほう……」

 

 上手い戦術だ。これでまたリバース効果でドローできる。手札が不足している彼には願ってもないだろう。

 

「バトル! やれ、“ダークネス・メガ・フレイム”!!」

「『闇より出でし絶望』が……、っ!」

 

 

コナミ:LP 1200→1000

 

 

「ハハハハハ! どうだ、例え追い詰められても決して負けん! まぐれや偶然でライフを減らされようと、最後には必ず勝つ! それがエリートだ!」

「ならば速攻魔法『デーモンとの駆け引き』をオープン!」

「何ぃ!?」

「レベル8以上のモンスターがフィールドから墓地に送られたターン、デッキからこのモンスターを呼び出す! 現れよ我がデッキ最強モンスター、『バーサーク・デッド・ドラゴン』ッ!」

『キシャアアアアアアアアア!』

 

 

バーサーク・デッド・ドラゴン:ATK 3500

 

 

「こ、攻撃力3500ぅ……!?」

「お前のデッキに、こいつより強いモンスターはいない。そして『バーサーク・デッド・ドラゴン』は相手モンスター全てに1度ずつ攻撃できる。モンスターが複数いても意味は無い!」

 

 上級モンスターを倒した筈なのに、そこに現れるのはそれより更に強い屍の竜。

 万丈目のデッキや戦術を知っているからこそ投入された、このデッキの切り札だ。

 

「か、カードを伏せてターンエンドだ!」

「行くぞ、俺のターン! まずは墓地の『馬頭鬼』のモンスター効果を発動!」

「何!? そんなモンスター、いつの間に墓地に!?」

「あったのさ、こいつを墓地に送るチャンスがたった1度だけな!」

 

 相手に気付かれず墓地に送るには、手札から捨てるのが最も有効だ。

 このデュエル中、手札コストを払ったのは1回だけ。『鳳凰神の羽根』を発動した時だけである。

 

「『馬頭鬼』は自身を墓地から除外する事で、墓地に眠るアンデット族を呼び起こす事ができる! 蘇れ、『闇より出でし絶望』!」

『グジャアアアア!』

「チッ、またそいつか!」

 

 

闇より出でし絶望:ATK 2800

 

 

 大地の底から再び姿を現す影のような悪魔。これでコナミの場には強力なモンスターが2体揃った。

 対する万丈目もモンスターが2体いるが、片方は攻撃力では劣る上に片方は守備表示。形勢は明らかである。

 

「さぁバトルだ! 『バーサーク・デッド・ドラゴン』で『ダーク・ホルス・ドラゴン』と裏守備モンスターへ攻撃! 焼き払え、“バーサーク・フレイム”!!」

「速攻魔法 『異次元からの埋葬』! 除外されている『ネクロ・ガードナー』、『キラー・トマト』、『ダーク・アームド・ドラゴン』を墓地に戻す! がはぁぁあああ!?」

 

 

万丈目:LP 1300→800

 

 

「が、ぐ……っ、『暗黒のミミック LV1』の効果発動……! カードを1枚、ドローするっ!」

「そして『闇より出でし絶望』でダイレクトアタック! これで終わりだ!」

「させ、るかァ! 『ネクロ・ガードナー』を除外して、その攻撃を無効にする!」

 

 紅の炎弾に焼かれ、灰となる黒の翼竜と青の宝箱。

 トドメの一撃こそ防がれたが、これでライフは逆転した、最早コナミの優勢はほぼ盤石である。

 万丈目は手札が2枚あるのみで場にカードはゼロ。コナミの手札は1枚だが、フィールドには2体の強力なモンスターを従えている。デュエル終盤に於いて、この差は大きい。

 

「ターンエンド。この瞬間、『バーサーク・デッド・ドラゴン』は自身の効果で攻撃力が500下がる」

 

 

バーサーク・デッド・ドラゴン:ATK 3500→3000

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぐ、クソッ! 俺様のターン、ドローだ!」

「……悲しいな、万丈目」

「何?」

「お前、今の自分の姿を見てみろよ。ライフは残り800、場は焼け野原、墓地だって荒らされた。さんざっぱら格下と蔑んだ相棒に騙されて利用されてボコボコにされて、それがお前の言うエリートか? お前の覇道は、デュエルは、そんな苦しくて悲しいモノで良いのか?」

「黙れ、黙れ黙れぇ! デュエル界を征して万丈目グループの名を轟かせる! それが俺の道! 俺様の覇道! そこにデュエルが楽しいだの面白いだの、そんな幼稚な発想なんざ要らん! エリートとは常にデュエルで弱者を踏み砕いて我が道を貫き、その名を輝かせる者だ! 貴様のようにデュエルを楽しむ等とほざく軟弱な奴に、万丈目グループの邪魔はさせんぞ!!」

「はぁ……」

 

 コナミは大きく溜息を吐いた。落胆でも侮蔑でもなく、哀愁の念を込めて。

 悲しい奴だ、と。デュエルでは無く勝利の妄念に執り付かれた悲しい男、それが彼の目の前にいる。

 奴が勝てばこのアカデミアは奴らの手に落ちる。しかし負ければきっと、どこにも居場所が無くなる事だろう。勝ちだけに拘るというのはそういう事なのだ。

 

「カードが泣いているぜ、相棒。お前が組んだデッキが悲しむ声が聞こえないのか」

「煩い、耳障りだ、喋るなゴミめ! カードを1枚セット! これでターンエンド!」

「苦し紛れか、それとも起死回生の一手か。俺のターン! マジックカード『ソーラー・エクスチェンジ』を発動! 俺は手札から『ライトロード・ドラゴン グラゴニス』を墓地に送って2枚ドロー、その後デッキの上から2枚を墓地に送る!」

 

 デッキトップから『カオス・ソーサラー』と『光の援軍』が消滅し、手札が交換される。

 あの男にはデュエルに対する情熱も志も無い。あるのはただ、自分の属するグループの覇権のみ。デュエルはそのための足場としてか思っていない。

 彼は挫折を知らずにここまで歩んで来たのだろう。どこかで手酷く敗北し、自分の力だけで這い上がるような経験をすれば、より良いカリスマ性を獲得してエリートになれたであろう。しかし今の彼は敗北も失敗も知らない、エリートという空っぽの称号だけで立っているようなもの。

 それは――縋っているモノが無くなった時、非常に危うい状態になる危険性を含む。己の足で立てなくなる尊厳破壊の未来は、いくら彼がヒトデナシの高慢ちきであっても、流石に避けたかった。曲がりなりにも数ヶ月タッグを組んだ相棒だったのだから。

 

「バトルだ! 行け、『闇より出でし絶望』!」

 

 だからここでその空ろなプライドを折る。そして地獄の底からも這い上がれる程のガッツを発揮して欲しい。

 コナミはそんな思いを顔には出さず、無慈悲を装って万丈目にトドメの一撃を叩き込む。

 

「させるかぁ! 罠発動『ドレインシールド』! 攻撃を無効にして、ダメージの数値分回復する!」

「何!?」

 

 だが闇の衝撃波は虹色の障壁が吸収し、癒しの光へと変換された。ここで回復カードを引いていたとは、何とも悪運の強い。

 

 

万丈目:LP 800→3600

 

 

「『バーサーク・デッド・ドラゴン』!」

『ゴァアア!!』

「ぬゎあああああっ!!」

 

 

万丈目:LP 3600→600

 

 

 続けて死霊の炎が直撃するも、回復したライフを前に削り切る事には失敗。差し引き200のダメージに終わってしまった。

 これで仕留めるつもりだったのだが、この失敗は結構痛い。

 

「耐えられたか……、粘るじゃねぇの」

「当然、くっ、だろうが! ぜぇ、ぜぇ……、俺様はエリート! ぐっ、貴様程度に膝をつく事は有り得ん!」

「そうは言ってもとっくにグロッキーだろ。俺はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 伏せ札を追加で場に置き、攻撃を警戒しておくコナミ。

 これで防御が足りるかどうかは運次第。しかも中々分が悪い賭けだろう。

 今、コナミの残りライフは1000ジャスト。場には2体モンスターがいるが、その片方『バーサーク・デッド・ドラゴン』はこの瞬間更に攻撃力が下がる。

 

 

バーサーク・デッド・ドラゴン:ATK 3000→2500

 

 

 そして万丈目のターンが再び回って来た。

 奴のデッキは把握している。あれだけ掘り進めれば、そろそろあのカードが来てもおかしくはない。

 

「行くぞ、ドローッ!!」

 

 引いたカードを見て、男はニヤリと笑った。

 どうやら良いカードを引き当てたらしい。

 

「フ、ハハハハハハハハハ! とうとう来たぞ、やっと天がエリートたる俺様に勝利をもたらした! 随分と能天気でノロマだが、勝ちは勝ちだ!」

「引いたか、あのカードを……!」

「そうだ! 魔法カード『終わりの始まり』発動!!」

 

 ざわっ、と会場が湧いた。

 彼が発動したのはドローソースであり、デュエルモンスターズに於いてドローできるカードはいくらでもある。

 ただし枚数が問題だ。大抵のドローソースは同じ枚数の手札交換、または条件次第で2枚デッキから引くが……。

 

「自分の墓地に闇属性モンスターが7体以上いる時、その内5体を除外する事で新たに3枚ドローできる!」

 

 真っ黒と見紛う黒い背景に黒の魔法陣を描いたこのカードは、墓地リソースと引き換えに3枚という驚異的な枚数のハンドアドバンテージをもたらす。カードの種類が星の数程もあるデュエルモンスターズであろうと、3枚も引けるカードは殆ど無いと言えば強さが分かるだろうか。

 万丈目の墓地にいる闇属性モンスター、合計8体が半透明のホログラムで浮かび上がる。

 

『邪帝ガイウス』

『ダーク・グレファー』

『ダーク・ホルス・ドラゴン』

『速攻の黒い忍者』

『暗黒のミミック LV1』

『深淵の暗殺者』

『キラー・トマト』

『ダーク・アームド・ドラゴン』

 

「俺様はこれにより、『ダーク・グレファー』『キラー・トマト』『速攻の黒い忍者』『ダーク・アームド・ドラゴン』『ダーク・ホルス・ドラゴン』を除外! 新たに3枚ドローする!!」

「わざわざダーク・ホルスを除外したか……、2枚目の『闇次元の解放』か『D・D・R』をドローするつもりだな?」

「フン、その通りだ! ドロー!!」

 

 万丈目のデッキは残り半分程。それだけデッキが圧縮されていれば、どちらかを引ける確率は充分ある。

 そして今の魔法カード発動に伴い手札は5枚にまで回復した。果たして引いたカードは……。

 

「……チィッ、使えんデッキだ!!」

 

 響く舌打ちと八つ当たり。どうやらどちらもドローできなかったらしい。

 

「だが魔法カード発動、『死者蘇生』!」

「何!? ここで『死者蘇生』だとっ!?」

「墓地から蘇れ、世界を焼き尽くせ、『炎獄魔人ヘル・バーナー』!! その効果で貴様のモンスターの数×200、攻撃力がアップだ!」

『LuWoooooooooooooooooo!!』

 

 

炎獄魔人ヘル・バーナー:ATK 2800→3200

 

 

 エリートの手によって場に呼び出されたのは、炎属性の悪魔。『終わりの始まり』に干渉しないカードだから忘れていたが、現段階ではこれはこれで手強いモンスターである。

 

『攻撃力3200!?』

『でも、これで攻撃されたってライフは残るッス!』

『まだ勝負は終わりじゃない、が……!』

『ああ、万丈目の手札はまだ残っているぜ』

 

「終わりじゃないんだろう? 続けろよ」

「当然だ! 更に装備魔法『巨大化』を発動! 貴様よりライフが少ない時、装備モンスターの元々の攻撃力を倍にする!」

 

 火炎の悪魔は更に強化され、より大きくなった。

 ただでさえ巨大な蜥蜴のような見た目で不気味なのに、人間の何倍も大きくなった事で更に薄気味悪い存在になり、コナミを見下ろしている。

 

 

炎獄魔人ヘル・バーナー:ATK 3200→6000

 

 

「攻撃力、6000……! 『ダーク・ホルス』を維持せずライフを減らしたのはこれも目的にあったからか!」

「どうだ! 貴様よりライフは一時下になったが、それでも先に貴様をゼロにしてしまえば問題は無い! いよいよこのアカデミアが! デュエルの全てが! 万丈目グループの手中に収まる時が来たという事だ!!」

「っ……」

「くたばれコナミ! 貴様は2度とデュエルに関われると思うなよ!」

 

 炎の魔人と屍の竜が相対する。

 攻撃力の差は3500、残りライフ1000のコナミでは受け止めきれない。この状況、まさに敗色濃厚と言えた。

 

「『ヘル・バーナー』、あのドラゴンごと奴を灰にしろ!! “ヘルバーニング・デスブラスター”!!」

『コナミ!』

『コナミさん!』

『コナミ君!』

 

 悪魔の口が白く赤く光り、超高熱のエナジーがそこに集約される。

 集まった熱はそのまま一閃の光線となって屍の竜を捉え、余す所無く焼き尽くし、大爆発を巻き起こした。

 攻撃力の差はコナミのライフを越えており、そのままそのライフを直撃。ライフが無くなった事を知らせるブザーが――

 



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決着、或いはBパート

コナミ:LP 300

 

 

 鳴らなかった。

 

「ン何ィ!?」

「ふぅ、間一髪」

 

 額の汗を拭いながら、爆炎と粉塵の中よりコナミが姿を現す。

 

「な、何故だ! どうして貴様のライフが残っている!?」

「へっ、俺は攻撃を受けた瞬間、こいつを発動していたのさ」

 

 完全に噴煙が消えると、コナミのフィールドには1枚の罠カードが表側表示で存在していた。

 名前は『援護射撃』。攻撃を受けた時、味方モンスターの攻撃力を仲間に加えるコンバットトリックのカードである。

 

「こいつで『バーサーク・デッド・ドラゴン』に『闇より出でし絶望』の攻撃力を加えたんだ。よって攻撃力は2500+2800で5300、つまり受けるダメージは700に減ったっつーワケだ」

「くっ、このくたばり損ないが!」

「それだけじゃないぜ、エリート野郎」

『Guu、Voooooooooo……!!』

「な、どうした、『ヘル・バーナー』!?」

 

 ニヤリとコナミが笑うと同時、炎の悪魔の体は縮み始めた。

 最初は見上げる程の大きさがデュエルフィールド以上の巨躯に、そして今は人間よりも小さく頼りない程の小柄な蜥蜴となってしまったのである。

 

『コナミのもう1つの狙いは、ライフを万丈目より下の数値にする事!』

『装備魔法『巨大化』は、相手よりライフが上の時、デメリット効果が発揮されるわ!』

『そっか、装備モンスターの攻撃力が半分になる効果か!』

『コナミ君のライフが下回った事で、万丈目君は自分のカードの呪いを受ける事になったッス!』

 

 

炎獄魔人ヘル・バーナー:ATK 5800→1600

 

 

 貧弱な姿と化した煉獄の魔人。対するコナミの場にはまだ、攻撃力2800のモンスターが残っていた。

 勝負は、どうやら決したようである。

 

「ぐ、が、ぁあああああああ!! おのれ、おのれコナミ!! エリートたる俺様の子分の分際で、何の血統も無い、由緒も無い雑魚の分際で!! よくも、よくもよくもよくもっ!!」

「由緒? 血統? エリート? そんなのデュエルに何の関係があるんだ? デュエルは1対1の真剣勝負、自分の組んだデッキで戦うものだ。そんなもの、デュエルが始まったら何の役にも立たない!」

「黙れ、黙れぇええええ! 手札3枚を全てセット、ターンエンド!!」

「俺の――、タァーンッ!!」

 

 引いたカードは、コナミが自分のデッキに入れておいた禁止カード!

 

「マジック発動、『天使の施し』! 自分のデッキからカードを3枚ドローし、その後2枚捨てる! 捨てるカードの1枚目は『ライトロード・ハンター ライコウ』! そして2枚目は『ゴブリンのやりくり上手』!

 更にトラップ発動『ゴブリンのやりくり上手』! このカードは1枚ドローでき、自分の墓地にある同じ名前のカード名の枚数だけその枚数を増やす! そしてドローした後、手札を1枚デッキの1番下に戻す効果を持つ! 今、俺の墓地に同名カードは2枚! よって再び3枚ドローして、1枚をデッキに戻す!」

 

 素早く手札を交換・補充するコナミ。

 これでハンドは3枚、万丈目を倒すには充分だ。

 

「速攻魔法『サイクロン』発動! お前の伏せカードの内、真ん中のカードを破壊する!」

 

 緑のカードから突風を呼び出し、伏せられたカードを吹き飛ばす。天井まで巻き上げられた『漆黒のトバリ』はブラフの役目を見事果たしつつ、爆散して消えていった。

 

「そして俺は『ライトロード・マジシャン ライラ』を召喚し、モンスター効果発動! 自身を守備表示にし、こっちから見て右のリバースカードを破壊する!」

「ぐっ!」

 

 

ライトロード・マジシャン ライラ:ATK 1700→DEF 200

炎獄魔人ヘル・バーナー:ATK 1600→1800

 

 

 続けて手札をもう1枚引き抜き、そこから光の魔導士が召喚される。

 追加の援軍は魔獣の力を僅かに上げたが、万丈目の伏せた『魔法の筒(マジック・シリンダー)』を破壊する形で更に相手を追い込んでみせた。

 

「さぁトドメだ! 行け、『闇より出でし絶望』! “ダーク・デスペアー・ミアズマ”!」

『攻撃力の差はジャスト1000!』

『万丈目君のライフは600ッス!』

『この攻撃が通れば勝ちよ!』

 

 絶望の悪魔が口から闇のビームを放ち、勝負を決めに行く。

 これが通れば小さくなった蜥蜴型の悪魔を焼き尽くし、これで決着になるが……。

 

「……けるな」

「!」

「ふざけるなぁ! リバースカードオープン!」

 

 相手もまだ終わってはいなかった。

 最後の意地を通すべく、リバースカードを開けるためにエリートはディスクのボタンを乱暴に押し込む。

 

「永続罠『魂粉砕(ソウルクラッシュ)』!」

「そ、『魂粉砕』だと!?」

「ライフを500払う事で、互いの墓地のモンスターを1体ずつ除外する! この効果により俺様は『暗黒のミミック』と『ファントム・オブ・カオス』を除外!」

「そしてこれでお前のライフは……!」

「そうだ、貴様のライフを再び下回った事で『巨大化』の効果が切り替わるというワケだ!」

 

 

万丈目:LP 600→100

炎獄魔人ヘル・バーナー:ATK 1800→6000

 

 

 彼が発動したのは、お互いの墓地からモンスターを1体ずつ除外する罠カードだった。だが除外1回につき500ポイントのライフコストが要求され、しかも自軍に悪魔族がいないと使えないという使い辛さが目立つ。当然、こんなカードをコナミは入れた覚えが無い。万丈目が勝手に投入したのだろう。

 

『また攻撃力が6000になりやがった!?』

『マズいわ!』

『こ、コナミ君!!』

「これで攻撃力は再び俺様のモンスターの方が上! 貴様の負けだ、無様に尽き果てろゴミめ!!」

 

 迎え撃つため、炎の悪魔は口から灼熱の焔を吐き出し、闇のビームと衝突させる。

 再び6000の攻撃力を得た『ヘル・バーナー』により、このデュエルの趨勢は完全に決まった。最早コナミにこの攻撃力を逆転する術は無く、自分のモンスターを守るカードも伏せられていない。攻撃力が1ポイントでも上回っていれば勝てない、デュエルの非情な世界は容赦なくコナミのモンスターにも牙を剝いた。

 

「……ふっ」

「何がおかしい!」

 

 だが。

 

「助かったよ、お前の最後の伏せカードがそんなカードで。もしダメージステップに使うカードだったら俺の負けだったぜ」

「寝言をほざくな! 負けを認めろゴミクズが! 往生際が悪い!!」

「いいや、負けるのはお前だ万丈目! 手札から、速攻魔法発動!」

「無駄だぁ! 今度こそくたばれぇ!!」

 

 炎と闇が爆煙を生み出したと言うのに。

 

「これで……、これで俺様こそが、この学園の支配者……、俺様こそ……!」

 

 

コナミ:LP 300

 

 

「が、ぁ、貴様、また……っ!?」

 

 互いのライフポイントは一切変動していなかった。

 

「何故だ……、何故だぁ! 何故まだ生きている! 何故死んでいない! 今の自殺でライフが残ってる筈が無い! 不正をしたかカスが!!」

「不正? してねぇよボケ。フィールドをよく見てみな!」

「フィールドだと……!?」

 

 もうもうと立ち込める煙が晴れ、コナミの場の状況が見えて来る。

 そこにいたのは2体のモンスター、戦闘を行う前後で数は変動していない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<コナミのフィールドのモンスター>

 

闇より出でし絶望:ATK 2800

炎獄魔人ヘル・バーナー:ATK 5100

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただし、立っているモンスターの種類は変化していた。

 光の魔導士の代わりに、そこには数秒前まで自分の下僕だった悪魔が、主人である筈の自分を睥睨していたのである。

 

「な、ん……だと……!?」

 

 『ヘル・バーナー』は相手モンスターの数だけ強化されるが、味方モンスターの数だけ攻撃力が500ポイント弱体化する短所を持つ。それでも『巨大化』の恩恵、何より残り僅かなライフの前では意味が殆どない下降値であった。

 

「速攻魔法『エネミーコントローラー』。相手モンスターの表示形式を変更、または自分モンスター1体をリリースして相手モンスターのコントロールをターンの終わりまで得る。俺は2番目の効果を使い、お前の『ヘル・バーナー』を奪ったんだ。これでバトル自体が成立しなくなり、ダメージも破壊も無くなったんだよ!」

「馬鹿な、有り得ない、ふざけるなぁあああああああ! 俺が、俺様が貴様なんぞに、敗北する筈無い! デュエルを穢したなコナミィィイッ!!」

「だから不正なんざしてねぇよ。デュエルディスクがそれを証明しているさ」

 

 デュエルディスクには不正を検知して警報を鳴らすシステムが備わっている。何のエラーも吐き出さないという事は即ち、このデュエルにイカサマは一切無いという事だ。

 

「万丈目、これが力を得るって事だ。金を出し強いカードを買う。暴力で強いカードを奪う。盗んで強いカードを自分の物にする。成程確かに、強いカードを得られればデッキは強化されてデュエルにも勝ちやすくなる」

 

 だが、とコナミは続ける。

 

「それは、力を得た『だけ』だ」

「何……!?」

「得ただけの力は簡単に離反する。目を離した瞬間にどこかに消える。敵の策謀で呆気無く寝返る。得て、自分の血肉になってないのなら、それには何の意味も無い、ただの暴力なんだよ。この『ヘル・バーナー』のように、な」

「戯言を!」

「理解できないならそれで良いさ、お前を改心させられなかった俺の落ち度だ。だから――お前の覇道を、俺はここで叩き壊す!」

 

 コナミが指差すと、蜥蜴型の悪魔が口を開き炎を滾らせる。

 

「自分の力で自爆しちまいな! “ヘルバーニング・デスブラスター”!!」

「がぁああああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 それはそのまま万丈目へと、元主人へと突き進み、今度こそ過たずライフポイントをゼロにした。

 

 

万丈目:LP 100→0

 

 

「がぁ、ぁ、……っ」

「万丈目、カードを愛さなかったお前の負けだ!」

 



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デュエル終了、そして……

 会場は、一瞬にして歓声に包まれた。

 その全てが、コナミの勝利に喜ぶ声なのは言うまでもない。

 

『勝った! コナミが勝ったんだ!』

『やったッス! やったやったぁっ!』

『これでデュエルアカデミアが万丈目グループに買収される事も無くなった』

『私のクビも繋がったノーネ』

『一時はヒヤヒヤしたザウルス』

『何はともあれ、これにて一件落着ね』

 

 業火に焼き尽くされ、万丈目のライフは尽きた。

 更に互いの手札はゼロ、ライフも殆ど残らなかった接戦の末の決着。故にここでデュエルの腕やデッキの構築で勝因敗因を語るのはやめておく。

 万丈目の負けた理由は“デュエルを見てなかった事”だ。

 自分の覇道の道具としか見ず、グループの駒としてしか戦わず、挙句にカードは紙切れという発想しかない。彼は常に勝利の後の栄光にしか目を向けておらず、過程は面倒な障害程度にしか思っていなかった。デュエルに真摯に向き合う事をしなかった者に対し、カードが応える事は無い。

 

「さて、約束だったな。俺が勝ったらお前らは手を引く。まさか今更反故にするなんて言わねぇよな、エリート様?」

「ぐ、く……ぅっ!」

 

 文句無しの敗北。往生際の悪い彼とて、流石にここで負け惜しみを吠える程では無かったようだ。

 そして当然、横槍を入れるのは彼の兄達だった。

 

「準、ここで敗北するとは何というザマだ!」

「お前、この局面で失敗する事が何を意味するか分かっているのか!」

「それは……っ!」

「もう良い! お前に期待した我々が愚かだった!」

「兄者、今からでも学園の買収を――」

「そこまでだぜ、お兄さん達よ」

 

 だからコナミもまた横槍を返した。

 敗者に無意味な追い打ちを入れさせないために。

 

「万丈目は、弟さんは立派に戦った。戦って負けた。勝負の場に立たなかったアンタらにあーだこーだ言われたくないね」

「口を出すな小僧! これは我ら兄弟の話だ!」

「いいや出すね、俺だって当事者だ。それとも何だい、アンタ達はレアカードを送るなりデッキレシピに口出しするなりしたのか? そのデッキは3人で作ったものなのかい?」

「それは違う! だが準は我々の未来を背負って――」

「俺はさっき言った筈だぜ?」

「何?」

 

 

 

 

 

「デュエルが始まったら、血統もエリートも関係無い。デュエリスト同士の戦いでしかない、ってな」

 

 

 

 

 

 デュエルに必要なものは多くある。

 強いカード、確実に勝てるようなデッキ、本人の運、戦術、揺れないマインド、熱い血潮。

 だがそこに血筋や金は無い。政界と財界を支配する彼らには分からないだろうが、デュエルに運命を託すとはそういう事なのだ。

 

「戦ってない奴が口出しをするのは、フーリガンやクレーマーと何も変わらない!」

「撤回しろ! 今のを撤回しろ貴様!」

「悔しかったらアンタらがデュエルディスクを構えろよ、ここはデュエルの学園なんだぜ?」

「もうやめろコナミ!」

「万丈目……?」

「やめてくれ……」

 

 万丈目は悲痛な表情で歯を食い縛り、次男とコナミの口喧嘩を止める。

 敗北の悔しさ、勝者に庇われる屈辱、それ以上に兄と対戦相手の争いは何よりも精神に堪えたようだ。

 

「……良いだろう、これ以上は何も言わない。どの道、約定でアンタらのグループはもう学園に干渉できないんだからな」

「分かってる……、そういう条件でデュエルしたからな……」

 

 ふらりと立ち上がる三男坊。

 その目には未だコナミへの敵愾心と、次は勝つという闘志があるのが分かった。

 

「強くなって、別のデッキになってまた勝負しに来い。次はもっと面白いデュエルにしようぜ」

「……ふん、デュエルが楽しい等という世迷言、次こそ言えないようにしてやる」

 

 その台詞だけ捨てるように吐くと、万丈目は黙って歩き去った。その後を2人の兄が追いかける。

 背中には「二度と来るな」「クソ野郎」「デュエリスト失格」等の罵声がかけられるが、それを意に介する事無く男は姿を消した。

 

「悪いな、万丈目」

 

 そんな彼の心中は如何程のものか、コンビを組んだコナミですらも推し量る事はできない。

 あいつはいつだって自分の野望とグループの発展を求めてはいたが、己の胸中を曝け出した事は一度だって無かったのだ。

 故にコナミは彼に同情しない。万丈目が同情を求めていない事は確かだったし、やった事は他者への弾圧に他ならない。パートナーだったとしても、それを揉み消す事は叶わないのである。

 タッグパートナーを失ったコナミは、静かに独り言ちた。

 

「相棒として、お前が悪の道に落ちるのだけは止めたかったんだ。どうしようも無いお前と組んで改心させられないまま今まで来てしまった、俺なりの責任って奴だ」

 

 コナミにとって重要なのは楽しくデュエルができる、それだけである。

 だから本音を言えばアカデミアが万丈目グループの物になろうが、海馬コーポレーションが手放そうが、それはどうでも良いのだ。

 それでも、このまま買収が進みきれば待っているのはエリート養成学校となったアカデミア。そこに楽しいデュエルは無く、アカデミア関係者は万丈目達に怒りを向けるだろう。その時、万丈目は再び『エリートとしての(楽しくない)デュエル』を行う。それは、あまりにもデュエルを知る者としては見過ごせない事である。

 世界のどこか、自分の手の届かない場所でそれが発生するなら仕方ないと割り切れた。だがよりにもよってそれが目の前で、パートナーの手で起きてしまうのは止めたい。

 

(デュエルが出来れば、俺は何でも良い。嗚呼、逆説楽しくデュエルが出来ないってぇのはお断りなんだ。例えばパートナーが道を踏み外すのを止められない後悔を抱え続けるとかな。それが万丈目、テメェみたいなアホでもだ)

 

 自分の中で結論を下すと、コナミは右手の親指・人差し指・中指を束ね、万丈目が去った方へと突き出した。

 

「ガッチャ。次はお互いにとって楽しいデュエルをしようぜ、万丈目」

 

 

END




コナミ君は良く言えばデュエル馬鹿、悪く言えば刹那的かつ後先考えないタイプの人間(多分)です
ルートによっては、楽しいデュエルができるのなら未来や仲間すら切り捨てる非情さを持ったデュエリストです

少しでも未来に頭を働かせれば、或いは頂点にまで上り詰めたブルーサンダーと戦う楽しさに目を付けられれば、こういった未来に行けるのではと思い、何年も前に執筆しました
少しでもお楽しみ頂ければ幸いです


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