狩りゲー世界転生輪 (時守 暦)
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ループ序盤
1話


こんにちは、時守と申します。
某所で投稿しているSSに行き詰まり、討鬼伝極にハマって色々情熱を思い出したり面倒臭くなったりしたので書いてみました。
常にエターフラグが立っているSSですが、お慰みになれば幸いです。


 

謎月謎日

 

 この度、一つの発見を機会にして日記をつける事にした。

 色々な状況確認や考察も兼ねるつもりだ。

 今日の日記は、かつての事を出来る限り思い出して書いておこう。

 

 自分は今…というより以前から、ちょっと信じられないような環境に居る。

 具体的には、終わらない二次創作臭がプンプンするような環境に放り込まれている。

 所謂、二次創作ではよくある『転生』とか『トリップ』に該当する。

 理由は今以て不明である。

 胡散臭い神だの悪魔だのに出会った覚えも無いし、前世の記憶はあるが死んだと思しき記憶も無い…寝ている間に死んだのなら別だろうが。

 

 この状況に放り込まれてふと気がついたのは、何やら走っている真っ最中だった。

 何を書いているのか全く分からないと思うが、そうとしか言いようが無かった。

 

 最早オボロゲな記憶によると、普通に生活して買い物に行こうと自転車に乗った筈なのに、次の瞬間には生き(誤字ではない、死にそうだった)も絶え絶えになりながら何処ぞの山道を集団で走っていたのだ。

 どういう事なのか混乱しかけたが、すぐにそれどころではなくなった。

 背後から獰猛な嘶きが聞こえ、振り返ってみると巨大なイノシシが追いかけてきていたのだ。

 それはもう、混乱がどうのという以前にとにかく力の限りに走った。

 

 気がつけば、俺はキャンプの中でぶっ倒れていた。

 自力で逃げ切ったのか、それとも周りに居た人達の誰かが助けてくれたのかは、未だ定かではない。

 そして起きたら起きたで、状況説明も無しにまた再び訳の分からない重労働に即座に借り出された。

 逆らう気力も無く、こんな訳の分からない苦行というか拷問付き処刑(最初のイノシシから逃げるマラソンもだ)を強いる運命に有らん限りの罵詈雑言を叩きつけ、それら全てを乗り切れたのは奇跡以外の何者でもない。

 

 いや、訂正。

 俺があの処刑を乗り切れたのは、周りに居た同士諸君が「ええぃ、この貧弱め!」「どうしてこんなんでハンターになろうとしたんだ!」「起きろ!起きないとドスファンゴの牙をお前のケツに突き込むぞ!」「おっと、それは俺に任せてもらおうじゃないの」等と毒づきながらも助けてくれた、あの熱い助力があったからこそである。

 …そう言えばあの後ケツが妙に痛かったような気がするが、あれはきっと筋肉痛だ。

 

 

 

 もうちょっと書いておくつもりだったが、後はシゴキが続いた後、狩りデビューにしくじって死ぬだけだったし、なんかホモ通り越してガチゲイっぽい声が脳裏に再生されてきたんで、今日はもう寝る。

 夢を見ませんように。

 

 

 

 

謎月謎々日

 

 ケツに突っ込まれる夢はみたが、相手が美少女だったような気がするからセーフと思っておく。

美少女の名前が準ニャンとか言われてた気がするが、どっかで聞いたような気が?

 

 昨日の続きだが、理由や経緯はともかく、あの獄門は所謂ハンターになる為の訓練だったらしい。

 記憶が途切れまくって時間がどれくらい経過していたのか分からないが、とりあえず俺はミソッカス扱いでハンター訓練所を卒業した…と思っていたら、あれはハンターになる為の体作りでしかなかったらしい。

 本当の訓練所はこれからだ。

 

 それはともかく、ハンターであるハンター。

 狩人である。猛獣を狩るのである。

 なんでそんな物に志願した事になっているのやら。

 

 それはともかく、きっとライオンとか相手に銃をブッパするんだろうなぁ、と思っていた。

 そう言えばあの獄門では散々あのイノシシにケツを狙われたし、絶対ハントしてやる。

 

 …で、武器の扱いについて学ぶ訳だが……ここで俺はようやく違和感を持った。(正確に言えば、違和感ばかりで何がおかしいのか基準がおかしくなっていた)

 何せ扱う武器が、刃物やら鈍器やらばかり。

 遠距離武器もあるにはあったが、弓やらボウガンやら…銃はどうした銃は。(後日、猟銃を目にはしたが、何でボウガンの方が強力なんだ)

 

 そしてハンター訓練所初の座学で、ようやく確信を持った。

 狩りの相手はモス、ファンゴ、ランポス、etc etc…。

 しかも地名がメゼポルタ。

 

 ここはモンスターハンターの世界だった。

 この辺で俺は改めて、『これは夢だこれは夢だ』と暗示をかけ始めたのである。

 

 まぁ、普通に現実だった訳だが。

 初めて殺したのは、モスでもない普通の食用動物だった。

 生物に刃を食い込ませるのに慣れさせる為の訓練だったんだが、その後吐いた。

 そして殺した動物を調理して食べるところまでがワンセット、慣れるまで確か1週間くらいだったか。

 

 おかげで何とか闘技場の弱らせたランポスくらいなら勝てるようなった。

 

 

 それから色々勉強させられ(テンパってたお蔭で、辛かったという記憶しかない)、何だかんだでルーキーハンターミソッカススグシヌゾとして卒業。

 同期達に「気張れよ死ぬなよ!」「悪い事は言わないから田舎帰って畑仕事しろって!充分体も鍛えられたろ」「多少はイイ男になったぜ」「死なないようにな。お前と組んだら足引っ張られて俺が死ぬから組まないぞ俺」等々、罵声と心配が入り混じったコメントを多数いただいた。

 色々殺意が沸くことも言われたが、実際俺の成績はそんなもんだったし、別にハンターとして生きる理由も無い。

 

 …と思っていたが、先立つものが無いのでハンターやらざるを得なかった。

 そして同期の皆の心配通り、ミソッカスで注意力散漫で野生のカケラも無かった俺は、モスを仕留めたところにファンゴの体当たりを喰らい(メチャ痛かったけど重症で済みそうだった。ハンターとして鍛えられた事に感謝)、崖から放り出された辺りで記憶が途切れた。

 普通に死んだと思われる。

 

 

 ここまでが最初の1回目だった。

 

 

 

 

神無月仏滅日

 

 他人事のように死を確信して、意識が途切れてまた目が覚めた。

 どんな偶然によって生き残ったのかと思ったら、周囲の景色が一変していた。

 なんかもう、別の地域に移動とかそんなレベルじゃない。

 

 だってついさっきまで、自然(の猛威)溢れる森林の中に居た筈なのに。

 世界的に見ても、やたらデカくて高い塔がある程度で、建物なんかレンガや藁が精々だった筈なのに。

 

 超が幾つ着いても足らないほどに荒廃しまくった、コンクリートジャングルのド真ん中に居た。

 そして俺は、小型(と言っても人間くらいはあるが)の名前も知らないモンスターの群れのド真ん中に居た。

 

 ハンター訓練所じゃこんな連中の事は教わってない、なんて暢気に考えていたら、速攻で体を何かが貫通した。

 痛みを感じる前に倒れ、また意識が途切れた。

 多分食われたんだと思う。

 

 

 

 

 

 と思ったら、またも目が覚めた。

 またも景色が変わっている。

 荒廃しまくっているのは確かだが、今度は何というか取り留めないと言うか和テイストと言うか。

 

 考察や観察は後回しにして、速攻で近くのボロ屋に隠れた。

 またモンスターに囲まれているとか御免蒙る。

 

 今度の場所は、とりあえず空がおかしな様子だった。

 なんか竜巻とかも見えたし。

 そこら辺にチラホラと、これまた教わっていないけど見知ったモンスター…ヒョロヒョロの手足に膨れた腹、小さいけど角がついた醜い顔。

 あれは伝承に聞く、『餓鬼』という奴ではなかろうか?

 またも知らないモンスター、しかも自然現象が明らかに不自然。

 知らないモンスターが居てもおかしくないし、自然現象にしたって風やら何やらを操る伝説級のモンスター(古龍とか)の事は聞いた事がある。

 と言うか前世ではモンハンフロンティア勢だった…周囲の人のレベルが高くて自分が低すぎて、拗ねてやめてしまったが…ので、そういうのが居るだろうとは思っていた。

 

 が、これはどうも違うように思えるのだが…。

 と索敵と隠密を繰り返しながら進んでいたところ、唐突に体が重くなり、心臓やら何やらがバックンバックン言い始めた。

 それでも何とか進んでいたが、途中で力尽きた。

 

 

 そしてまた振り出しに戻る。

 気がつけば、またブルファンゴに追われて走っていた。

 今度は混乱が先に来てしまい、つい立ち止まった。

 ブルファンゴの牙がケツに…とはならなかったが、代わりに普通に踏み潰されていかれた。

 

 ケガで済んだ事に、同期から教官までかなり驚かれた。

 「頑丈さだけなら、ルーキーハンター並みじゃないか?」と言われた。

 まぁ、ミソッカススグシヌゾ扱いでも訓練所卒業しましたから。

 

 

 今日はこの辺にしておく。

 明日からは考察も少し入れたい。

 

 今日の酒のツマミは、オニマツタケにゲンコツ米。

 

 

 

 

 

 体力が漲って眠れなくなった。

 

 

 

某月忘日

 

 あれから暫く混乱のドン底に叩き込まれていたが、何とか復調。

 初回と違い、訓練所ではそこそこの成績で卒業できました。

 『そこそこ』止まりなのは、この頃の俺はまだ野生を持っていなかったし注意力散漫も直ったとは言いづらかった。

 何より、死んだと思しき経験を短時間で3度も経験した為、実技で体が震えてまともに戦えない時期があったからだ。

 

 どうやって乗り越えたかって?

 ……先輩方に連れて行ってもらったんですが、異性の肌って効果抜群なんですねガチで。

 危うくハマる所でした。

 精神的には、エロい事より添い寝の方が効いた気がする。

 

 「男同士の突き合いもイイもんだぜ?」と遊びに誘ってくれた同期も居たが、酒だけなら注ぎ合おうもとい付き合おう。

 

 

 それはともかく、死んだと思ったら別の所に居る、しかも初回同様ブルファンゴに追いかけられる状況にまで戻るという謎現象について調べてみた。

 言うまでも無く、成果は無かった。

 そりゃそうだ。

 時間や空間を操るようなモンスターは、伝承を含め確認できなかった…まぁ、訓練生に閲覧許可される資料の範疇なので、知らないだけかもしれないが。

 

 本命の調査は、あのモンスターだ。

 3つ目の和風な場所に居た、仮称餓鬼。

 アレなら前世の知識も含め、多少は知っている…詳しい訳でもない一般人の聞きかじりでしかないが。

 

 

 『餓鬼』

 所謂亡者であり、仏教関係の怪物。

 常に腹ペコであり、元は生前に贅沢をした人物が地獄に落ちた為にこうなったとか。

 

 

 

 …何の参考にもならん。

 しかし、アレがこの通りの餓鬼だとするなら、明らかにモンスターハンター的ではない。コラボがあるならともかく。

 という事は、あの場所はこのモンスターハンターワールドではないという事だろうか?

 こういうモンスターは居ないか、と教官に聞いてみたが、「新手のチャチャブーか?」と言われた。

 アレがチャチャブーだと言うなら、何故に下半身が葉っぱではなく布切れなのか。

 チャチャブーには葉っぱ一枚でヤッタ!ヤッタ!と踊ってほしいものだ。

 

 

 

 それはともかく、あれが本当に餓鬼だとするのなら、一つ連想される物がある。

 前世ではモンスターハンター同様にプレイしていた、『討鬼伝』というゲーム。

 ひょっとして、あの場所はその世界ではないだろうか?

 隠れ進んでいたにも関わらず、突然倒れてしまったのも、それならば納得がいく。

 確か討鬼伝では、『異界』と呼ばれる場所の中は瘴気で満ちており、鍛えたモノノフ…プレイヤー達にも長時間行動できないとなっていた筈だ。

 

 これが正しいとした場合、2つ目の場所は?

 死ぬ度に何処かに移動させられるとしたら、ここもまた別の世界だろう。

 

 あの時、俺を包囲して食ったと思しきモンスターの特徴を出来る限り思い出してみる。

 念のためにこの世界の資料も当たって見たが、それらしいのは居ない。

 あの時の場所は、コンクリートの建物が乱立し、なおかつそれが傾いたり壊れたりしていた。

 つまりは文明が崩壊した場所?

 で、モンスターが沢山。

 …あのモンスターの外見からして。

 

 

 

 心当たりあるぞ。

 ゴッドイーターだ。

 

 

 

 

 

 

 最近、前回の狩りのケガの為、狩りを休んでいるのでヒマで仕方ない。

 だからこうして考察やら回想やらを日記代わりにしている訳だが…うぅむ、こうして思い返すと色々あるものだ。

 

 

 

一狩月行日

 

 さて、昨日の日記に書いた時点から今まで、何度か死と転移を繰り返して今に至る訳だが。

 ここまでで、当時からの推測や考察を纏めてみよう。

 新たな発見があるかもしれない。

 

 

①どうやら、死ぬとモンスターハンター・ゴッドイーター・討鬼伝の世界を点々とするらしい。

②世界を移動した場合、最初の状況に戻る。(MHなら訓練所、ゴッドイーターならアラガミのど真ん中、討鬼伝なら異界の何処か)

③世界移動直後にブルファンゴに踏まれてもケガで済んだ事から、身体能力はある程度受け継がれると見ていい

④この世界から抜け出すには、ストーリークリア、或いは寿命で死ぬのが必須?

 

 

 …うむ、現在分かっている事と大差ない。

 と言うか、①はほぼ確定。

 どうやら移動順序も固定っぽい。

 

 ②がマジできつかった。

 MH世界はまだいい。

 転移直前に気を失っていた為、ブルファマラソンゴ(ブルファンゴとマラソンを合わせたが語呂が悪い。お蔵入り)に激突されたり、打ち所が悪くてその時は男として半分死んだりしたが。

 それでも③身体能力がある程度受け継がれる為、訓練所くらいなら余裕でクリアできるまでになった。(お蔭で現役ハンターが訓練所で何をしている、と言われたが)

 

 だがゴッドイーター世界はどうだ。

 毎回毎回アラガミのド真ん中に出現するハメになった。

 アラガミは詳しい理屈は忘れたが、ゴッドイーターか、同じアラガミでないと傷つけられないのだ。

 そして移動直後の俺は基本的にスッピンである。

 徒手である。

 …相手をどれだけ攻撃しても無効、相手沢山、援軍無し、敵増援あり。

 この状況から、5~6回に一度は逃げ切れるようになるまで、どれだけデスルーラならぬデスワープを繰り返したか。

 

 更に、討鬼伝世界に至ってはクソゲーどころの話じゃない、マゾゲーマーでもなきゃこんなのやってられん。

 敵の数が比較的少ないのはいいのだが、大型鬼にカチ合った日には結界っぽい何かのために逃げる事も出来なくなる。

 オマケに異界の中は常に流動している為、「前回はこっちの道でよかったな!」とか思っていると、突然全く知らない場所に放り出される。

 しかも時間制限付き。

 リアルラックがSOS団の団長並みに無いとどうにも出来ません。

 

 それでも慣れと言うのは恐ろしいもので、有る程度どうにかなるようになってきた。

 ゴッドイーター世界では、逃げ切るだけなら何とかなる。

 討鬼伝世界も、時間制限さえなければ大型鬼だって隠れてやりきれる。

 

 いつだったか、一度狩りの途中だったゴッドイーター達に助けられ、拠点まで連れ帰ってもらった事があった。

 討鬼伝世界も、前々回に初めて異界を抜けて、人里まで辿りついた。

 どっちも人間の生息範囲ギリギリのところにしか棲めなくて、襲撃にあって死んだけど。

 

 

 

 

 さて、日記開始から5日も経ってしまったが、本題(つまり回想ではなく今からの事)はここからだ。

 前回、討鬼伝世界の異界を彷徨い、瘴気にやられてデスワープした俺だが、その時に幾つか拾っていたものがある。

 何故って、人里に辿りついても先立つ物が無いなら何も出来ないからだ。

 金…というか換金アイテムがあれば、人間の生息地域の中側に住めるようになるかもしれないし。

 

 で、その換金アイテムが、MH世界の私物入れの袋の中に転がっていたのだ。

 もしやと思って掘り返してみれば、GE世界で適当に拾った金属とかも幾つか。

 GE世界は逃げるのに必死で、物資を集めるような余裕は無かったからなぁ。

 それはともかく、どうやらこの私物入れ、GE世界・討鬼伝世界と繋がっているのかもしれない。

 原理は分からないが、とりあえずここにMH世界の装備を入れておけば、GE世界や討鬼伝世界にも持っていけるかもしれない。

 

 死ぬのを前提に考えるのはどうかと思うが、使える物は使う主義だ。

 取り敢えず、今回のMH世界では、それなりに生き延びて異世界でも使えそうな道具を揃える事を目的にしよう。

 武器…だとアラガミとか傷付けられる気がしないから、盾がいいかな。

 そうなると、ハンタースタイル的に考えて、今回使う武器は片手剣になるか。

 使いやすい武器だし、悪くないと思う。

 

 

 話は変わって、考察の④についてだが…正直な話、検証方法さえ思いつかない。

 ストーリークリアと銘打っているが、ゴッドイーターは確かバーストに加えて2まで出ていたし、追加のエピソードもあった。

 討鬼伝も、続編だか追加版だかが出るという話があった筈。

 更にそこから続編が出てもおかしくは無い。

 そもそもモンスターハンターに至っては、ポータブル版ならともかくフロンティアはストーリーなんぞあるのかというレベルだ。

 大体からして、ストーリークリアって定義が分からない。

 一定期間を過ごせばいいのか、それとも何かしらのイベントを起こせばいいのか。

 嫌だぞ、シオが月に行ってサヨナラなんて欝イベントが必須なんて。

 エンディングが変わってもクリアと見なされればいいんだが。

 

 と言うか、死ぬのは嫌だ。

 デスワープするのは別にいいんだけど、死ぬ…文字通り死んで無になってしまうのは嫌だ。

 むしろ検証しない方がいいような気がしてくる。

 極端な話、このままデスワープを繰り返していれば、寿命や文字通りの死とは無縁な気がする。

 閉じ込められているのではあるが、死なないのは確かだ。

 心の何処かで、『だったらこのままでいいじゃないか』と思っている自分も居るのだ。

 

 

 

 

 この考察は一端止めにしよう。

 ヘタに自分の現状に納得してしまえば、そのままズルズルと流れていってしまいそうだ。

 明日からの方針も一応決めた事だし、今日はもう寝る。

 

 

 




討鬼伝極をやりつつ、密かに書いていた。
投稿したのは酒と徹夜の勢いです。
よし、明日目覚めた後に後悔するぞ。


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第2話

HR月★1日

 

 

 前回の狩りのケガも回復し、久々に狩りに行ってきた。

 結果は、ケガもしたが上出来と言っていい。

 いつぞやの訓練時に散々追っかけまわされた恨みは晴らしたぞイノシシ野郎。

 ギルドの連中に持って行かれなければ、ボタン鍋にしてやったものを。

 

 しかし、盾の使いにくさは計算外だった。

 よくよく考えてみれば、片腕で持って動きを阻害しない程度の小さな盾。

 これでモンスターの攻撃を真正面から受け止めるとか、難易度以前に怖すぎる。

 すっかり忘れていたが、訓練所での教官の教えを思い返してみると、盾はあくまで補助と言われていた。

 片手剣ではなくランスかガンスにすべきだったか。フンガー

 

 とは言え、使い始めたばかりなのだからこんな物だろう。

 どんな技術でも、熟達しなければ使い物にならない。

 もう暫く片手剣で続けてみよう。

 

 取り敢えず、麻痺剣でも目指すとするか。

 

 

 

HR月素材集めはまだ楽日

 

 ふと思いついて、解毒薬を購入した。

 まだ厄介と言う程強い毒を持つモンスターにはお目にかかってないが、デスワープした先で使えるかもしれない。

 GE世界ではどっちかと言うと回復薬の方が使えそうだが、もし討鬼伝世界で解毒薬が使えるなら、あの世界の攻略難易度はググッと下がるだろう。

 

 討鬼伝世界の瘴気は、ひょっとしたら毒と同じなのではないか?と考えついた訳だ。

 一定時間で無条件に倒れるのではなく、異物が体を蝕んで段々と動けなくなり、死に至る。

 こう考えると、瘴気は毒と同じものだ。

 ただ、MH世界の解毒薬は非常に優秀で、モンスターからの毒だろうがフグの毒だろうが、あっという間に治してしまうのだが……こちらの毒は物質的な物、瘴気は精神的・或いは呪的な物だったとしたら、効果はあるのだろうか?

 試してみないと何とも言えない。

 

 尚、フグの毒とか即死するわ…と思っていたのだが、生憎ハンターは特別な訓練を受けているのでそうそう死にません。

 考えてみりゃ、それも納得。

 モンスター達から猛毒を受けても、ダメージは受けるものの平然と動き回り、挙句体力さえ尽きなければ自然治癒し、あまつさえベースキャンプで寝れば即回復。

 これだけ免疫力だか抵抗力だかがあるなら、大抵の毒では死にはしない。

 

 嘘みたいだろ?

 これ、ルーキーハンターの普通のスペックなんだぜ…。

 

 モンスターよりモンスターらしい、ハンターの所以であった。

 

 

 真面目な話、ハンターの頑強さは肉体のみによる物じゃない。

 飲み込んだ薬品を体内で即座に分解吸収する、或いは数秒間の眠りだけでもそれなり以上の休息が取れるような、秘伝の肉体操作術があるのだ。

 簡単に言えば、「力を強く篭めるための呼吸」とか「寝る前に瞑想をすれば、短時間で良質な睡眠を取れます」とかの超上位バージョンだ。

 鍛え上げた肉体と肉体操作術を合わせて、初めてハンターはハンターたるスペックを発揮できる。

 狩人×狩人で言う念に相当するものだと思う。

 

 実際、ベースキャンプで少し休むだけで体力が大きく回復するのは、神経から脳味噌から内臓から、何から何まで徹底的に休眠させて(一歩間違えれば仮死状態レベル)、夢も見ないし刺されても気付かないくらい深い眠りに陥るからだ。

 これが無ければ、ハンターだって普通の人の3倍くらい頑丈なだけである………あれ、こう書くとハンターが普通の人っぽいな。

 でも3倍とかとっくに人外の領域です。

 

 ちなみにこの肉体操作術、メチャ難しいが誰にも出来る物である為、ハンター以外に漏らしたら即ギルドナイトがすっ飛んでくるそうな。 

 闇系のお仕事怖いのでこれで(リアル話)

 

 

 

神月死んだ日

 

 油断してデスワープした。

 ハンター生活、そこそこ上手く行っていたんだが…。

 やはり俺には致命的に向いてない。

 だが、このデスワープ地獄から抜け出す為には、どの世界でも戦闘能力が必須と思われる。

 ヘタクソはヘタクソなりに、上達せねばなるまい。

 幸い、文字通りの死という最悪のペナルティは俺には適用されないのだ。

 

 ちなみに、今回のデスワープの原因はカニだ。

 デカいカニではなくて、ヤオザミの方。

 一狩り終えた疲れで砂浜に座り込んだら、下からブスっと刺されて終わった。

 マジ痛かった。

 …痛かったで終わる辺り、俺の痛覚もいい加減麻痺しているようだ。

 

 

 現在、GE世界の廃墟でこの日記を綴っている。

 幸いというべきか、常に持ち歩いていた私物入れの袋の中に、回復薬が3つ、解毒薬が10個、支給用閃光玉が2つ。

 武器は持って来れなかった。

 これはそういうシステムになっているのだろうか?

 それとも、最後に刺されてのたうち割っていた時に武器を放してしまったからだろうか?

 盾はある。

 持つのではなく、腕に装着するタイプだったから、自然と付いて来たのだろうか。

 鎧も一緒についてきた為、武器を放してしまったのが原因と思われる。

 

 

 それはともかく、とにもかくにもアラガミ…ようやく思い出したが、オウガテイルだった…に囲まれた状況からも、比較的楽に脱出する事ができた。

 鎧が重装備ではなかったので、動きを阻害しにくかったのが良かったのだろう。

 盾も鎧も、アラガミの攻撃を有る程度防ぐ事が出来た…相変わらず盾はあんまり使いたくないが。

 特に閃光玉の効果は素晴らしかった。

 大勢で追いかけてきた所に、ポイッとやると猛烈な効果を発揮してくれた。

 アラガミに通常の物質での攻撃が通じない事を考えると、武器よりもこういった道具を持ち込んだ方がいいかもしれない。

 ゲーム的に比較して、GEのトラップはMHに比べて全体的に効果が短かった筈。

 ひょっとしたら、MH世界の罠ならより長くアラガミを封じられるかもしれない。

 少なくとも、閃光玉の効果はMH世界での効果と遜色無かった。

 …GE世界のスタングレネードを見た事が無いから、比較はまだ出来ないが。

 

 

 

神月地獄日

 

 今まで、この世界では逃げる途中で大抵アラガミに殺されていたので気付かなかったが…GE世界で最大の敵が発覚した。

 空腹だ。

 何せ超荒廃して自然らしい自然がロクに残っていないこの世界だ。

 人間達の生息範囲の中ならともかく、その辺に食べられる物がある筈が無い。

 あるのはコンクリートと土とよく分からない金属ばかり。

 あとアラガミは食えない。

 倒せないし、死んだアラガミは程なくして何かよく分からないけど解けて消える。

 残飯にありつく事すらできない。

 

 以前のように討伐に来ていたゴッドイーター達に遭遇できればよかったのだが、運が悪いのか逃げている方向が悪いのか、今まで一度しか遭遇できてない。

 とは言え、今回は収穫もあった。

 アラガミから逃げまくって高いところ(今日記を書いているココだ)に逃げ込んだのだが、おかげで周辺の地理をある程度把握できた。

 廃墟ばっかで、何処を見ても似たような景色しか見えないが…取り合えずこの日記に地図を書き込んでおこう。

 この建物は高いから遠くからでも見えるし、太陽と照らし合わせて考えれば方角と大雑把な位置くらいは掴めるように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くにゴッドイーター達と思しき集団を発見。

 だが帰るところだったらしく、今から行っても間に合うまい…車で走り去ってしまった。

 しかし、ゴッドイーター達の集合場所は確認できた。

 恐らく、以前は逃げ惑ってあそこまで行っていたのだろう。

 今度からは、あそこを目指して逃げるとしよう。

 GE世界にデスワープした時の太陽は常に同じ位置にあって、この建物がここにあるから。

 

 デスワープ直後は、太陽を背にして進めばいいのか。

 うむ、これは大発見だ。

 

 だが今回はもうこの手法は使えない。

 一応、明日もあそこに人が来る事を期待して、行って見るつもりなのだが。

 なんつぅか空腹で動ける気がしない。

 日記を書くのも一苦労で、いっそこのノートを食ってしまおうかと真面目に考えている。

 あまつさえ、建物の下の方でヴァジュラと思しき大型猫が咆哮をあげている。

 どう考えても逃げ切れる気がしない。

 

 

 

 

 

 

赤光月大凶日

 

 結局空腹で目を回し、気がつけば討鬼伝世界の異界の中に居た。

 幸いというべきなのか、空腹は収まっていた。

 肉体の能力は引き継がれるが、状態は引き継がれないのか?

 よく考えて見れば、状態まで引き継がれるようなら普通に死体が出来上がっているだけか。

 

 しかし、あれ程の空腹のままこの異界の中に放り込まれるとなると、文字通り餓鬼にでもなった気分だな。

 

 ともかく、MH世界ではまだ必要も無いのに満タンに詰め込んでいた解毒薬を試してみた。

 効果の程は今ひとつ不明。

 だが、いつもなら既に異界の影響が出始めている頃だと思うのだが…もう一日様子見してみよう。

 

 ところで、今日の飯はどうしようか。

 この異界の中は、変質したり枯れたりしている物が殆どとは言え、植物はある。

 つまりは食える。

 その辺をウロウロしている鬼も、餓鬼やフヨフヨ浮いて燃えているお面くらいなら、盾を鈍器にして殴り殺す事もできそうだ。

 しかし、鬼って食えるのか?

 骨ばってて美味しくはなさそうだが、奴らが食えるならこの世界での行動時間もかなり長くなるだろう。

 

 物は試し…といいたい所だが、鬼の方はもうちょっと後にして、飯は植物のほうにしよう。

 植物も毒だった時のため、解毒薬の準備は万全だ。

 

 

 

 

 

赤光月禍日

 

 喜ばしい事に、解毒薬は異界の瘴気にも有効のようだ。

 訓練を受けた、この世界のハンター…モノノフ達でも長時間は異界に居られないと言うのに、既に一日以上が経過している。

 ただし、解毒薬はもう使い切ってしまった。

 有効ではあるが、2日でこれでは効率が悪すぎる。

 解毒薬を使うタイミングをギリギリまで見計らえばもう少しいけるかもしれないが、それでも伸びて半日程度だろう。

 漢方薬を加えても、どれ程保つやら。

 MH世界で、毒を無効化する装備を作った方がよさそうだ。

 

 異界を彷徨っていたら、なんか石碑を見つけた。

 これってアレか、ゲームではタマフリ(だったっけ?)や体力を回復してくれたあの石か?

 それとも、オオマガドキが起こる前の石碑が名残として残っているだけか?

 取り敢えず祈っておいたが、あまり効果は期待できない。

 

 ひょっとして異界の出口が近い?と思ってウロウロしたものの、例によって流動してしまったらしく、あの石碑も見当たらなくなってしまった。

 ランダムダンジョンにも程がある。

 

 

 そろそろ、今回は時間切れのようだ。

 瘴気に犯されて体が動かなくなる、特有の感覚が膨れ上がってきた。

 

 ところで今思いついたんだが、オオマガドキって確か扉とやらを開いて、時間の因果がどうのこうのって話だったと思う。

 ひょっとして、俺がこんな訳の分からないループに囚われているの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HR月★1.2日

 

 

 日記を書いている途中にデスワープして早々、ブルファンゴに激突された。 

 以前の恨みは牡丹鍋にして晴…できなかったな、そう言えば。

 今度は最初から食料目的で狩って、珍味として心臓とキンタマ喰らってくれる。

 精がつくらしいからな!

 あの時のオネーサンにまた相手してもらいに行こう。

 

 肝臓を生で食って亡くなる人も多いらしいが、ハンター的には無縁の話だ。

 何でも食えるようになったのは、この世界に来てから数少ない嬉しい事ですな。

 

 例によって訓練所を結構な好成績で卒業。

 ハンターに向いてないと自負する俺でも、経験を積めばこれくらいの事はできるようになるらしい。

 

 さて、今回のMH世界での目標は、毒を無効化する装備の作成と、空腹対策か。

 毒対策は、防具で手っ取り早く揃えてしまおうかと思ったのだが、よくよく考えるとそれってどんな相手でも対毒装備で行かなきゃならなくならね?

 現実で縛りプレイやれる程剛の者ではない。

 毒対策は、アクセサリというかピアスでどうにかできないか調べてみよう。

 

 あと問題は食料だ。

 こんがり肉はガチで美味いし、比較的嵩張らない上に腹も膨れるので、持って行くのはこれにしたい。

 生肉と肉焼きセットを持っていけば、合計20個は私物入れ袋に入れられる。

 …こうして書くと袋の大きさとか容量が非常に不可解になってくるのだが、入るものは入るのだから仕方ない。

 

 あ、魚もあったな。

 持って行くのは肉焼きセットじゃなくて、よろず焼きのほうにするか。

 

 

 

 

HR月★★/2日

 

 ハンター生活は順調だ。

 あまり無理をしないように心掛けている。

 今はまだ、チームを組んだりせずにソロで活動中だ。

 こっちの方が腕が上がるような気がする。

 

 それにチームを組んで絆が深まったとして…デスワープしてMH世界に戻ってきたら、それら全ては無駄になる。

 俺の記憶には残るだろうが、他の連中にとっては単なる妄想、知りもしない事になってしまう。

 それが辛い…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実を言うとあまり気にしてはいないが。

 元々他人に執着するタチではないので、他人になったら他人になったでちょっと寂しがって終わりである。

 

 それよりも、もっと切実な問題によってチームが組めなかったりする。

 何せ今の俺は、訓練所を卒業したばかりの新米ハンターなのだ。

 だと言うのに、俺は幾つかの装備を既に手に入れてしまっている。

 ルーキーでも無理をすれば手に入らなくもない装備なのだが、それにしたって訓練所卒業の3日後に持っていられる代物ではない。

 

 ハンターのギルドは、基本的にハンター同士での素材譲渡を禁止している。

 理由は色々あるようだが、要するに自分の身の丈にあった道具を使えって事なんだろう。

 

 そう考えると、最初のブルファンゴとのマラソンはいいチャンスだ。

 皆がブルファンゴから逃げる為に、後ろに居る俺なんぞに目を向けるような余裕は無い。

 だから跳ね飛ばされた後に、さっさと装備を外してしまえば、手に入らない筈の装備を持っている事には気付かれない。

 

 そういう訳なんで、「組まないか」と誘ってくれるツナギ装備(ブルージャージー装備なのだが、何故かそう見える)の同期には悪いが、暫くソロでやっていきます。

 

 ちなみにブルファンゴマラソンの最中に外した装備は、どう見ても入らない筈の袋の中に入っている。

 ガチで四次元ポケットのような気がしてきた。

 

 

 

HR月親の怒り日

 

 前回日記から少し間が空いた。

 と言うのも、暫く夜中にガタガタ震えるのが止まらなかった為だ。

 対毒装備を整えるのに金が必要だったもんで、ちょっとした依頼を受けたのだ。

 …飛竜の卵をとって来るっていう依頼をネ!

 

 マジで後悔した。

 死んだらワープするだけと割り切ってたつもりだけど、やっぱ殺されるのは怖い。

 というかリオレウスマジコエェ。

 一攫千金は地獄への片道切符だと心得ましょう。

 

 何とか逃げ切って依頼達成したけど、暫くオネーサンに癒してもらって儲けが吹っ飛びました。

 もう寝る。

 

 

HR月コゲ肉日

 

 ハンター活動復帰。

 当分地道にやろうと思う。

 実際のところ、金だけあっても素材が無ければどうしようもない事に気がついた。

 しかし、実際どうしたものだろうか、毒対策のピアス。

 

 記憶を探る限り、所謂剣聖のピアスとか超絶のピアスとか、一つ身に着けていれば一つ以上のスキルを発動できる装備があった事は覚えている。

 が、毒のピアスなんぞあっただろうか?

 仮にあったとしても、高レベルのピアスのオマケ程度でしかない気がする。

 

 しかし、耐毒程度ならそれ程難しい物ではないと思う…あくまでゲームを元に考えるなら、だが。

 ちょっと武具屋に聞いてみよう。

 

 

 

HR月気分が悪くなる味だった日

 

 毒のピアス自体は作れるらしい。

 と言うより、材料と金さえあれば、オーダーメイドの装備を作る事は珍しい事ではないようだ。

 ただ、オーダーメイドとなると設計やら何やら、0から始めないといけないので、普通の装備よりも高価になるし手間がかかるし、物好き以外はやる意味が無いとか。

 設計して料金を見積もってもらうだけでも手間賃がかかるらしい。

 

 今回の場合は、耐毒スキルさえ発動できれば、後は何でもいいというピアスなので、いっそ何でもいいからピアスに耐毒玉をつけてはどうかと言われた。

 しかし、それでもピアスオンリーでスキルを発揮させるのは難しい。

 ピアスにせよ玉にせよ、それだけで耐毒を発動させようと思うと、まだちょっと届かないレベルの装備である。

 

 何か別の手を

 

 

 

 

 

 

 

 身も蓋もない方法を発見した。

 デスワープする際に持って行っている私物入れの袋だが、これって何故か鎧とかも平然と入れられるんだよな。

 だったら最初から、これに耐毒装備を幾つか入れておけばいいじゃない。

 よし、これ採用。

 あんまり使わなくなったイーオスヘルムとかあるから、これを詰め込んでおこう。

 

 

 

 詰め込んできた。

 毎回思うが、この袋は何なのだろうか?

 最近は常に身に付けるようになっているが、この日記を付け始める前は手放した状態で死んだ事だって一度や二度ではない。

 だが、デスワープをした時には常に手元にあるようになっている。

 武器等は持っていないとデスワープについて来ないようなのに、この袋だけは例外のようだ。

 

 正直な話、便利ではあるが不信感もある。

 そもそもからして、見た目30センチもない袋なのに、回復薬やら解毒薬やら、採掘してきた鉱石やらが幾つも入る時点で不自然なのだ。

 他のハンター達を見ても、こんな袋は持っていない。

 明らかに超常現象的な代物だ。

 四次元ポケットよりは、ドラクエの『ふくろ』っぽいが。

 

 使える物は何でも使うが、コレについてはあまり信用しすぎない方がいいかもしれない。

 デスワープそのものに何か関係があるのかもしれないし、裏に何が潜んでいるか分かったもんじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

神無月亡日

 

 ランポスにやられてデスワープした。

 いや、久々に本気で苦しかった。

 ランポス一体一体はどうって事なく狩れるようになってるんだが、やっぱ油断と数の暴力がアカンわ。

 討伐ついでに採取していたら、木々の陰から近付いてきたランゴスタにブスッと刺され、即麻痺った。

 そこにランポスがやってきて、珍しい事にすぐに襲い掛かって来ずにわざわざ仲間を呼びやがった。

 しかも麻痺が解ける前に、喉元を問答無用で食いちぎられちゃ生命力もクソも無いわ。

 

 それはともかく、今度はGE世界である。

 文字通り死ぬほど苦しい思いをしてデスワープしたが、直後に即逃げ出すのは既に条件反射の領域に入っている。

 スタート地点のオウガテイルが動き出す前に包囲網を抜け、持っていた片手剣の効果を試しつつ(やっぱりダメージは無い。バランスを崩させるのが精一杯)、逃げ惑う事約3時間。

 防具と閃光玉があれば、かなりの確率で逃げ切れるようになってきた。

 

 予め決めておいた方向に突っ走り(途中で道に迷ったが)何とか討伐に来たゴッドイーター達に遭遇する事が出来た。

 

 

 

 

 

 そして今、俺は何故か檻の中で日記を書いている。 

 しかもこの檻、どう見ても人間サイズの檻じゃない。

 絶対アラガミを捕獲しておく用の檻だろ。

 つまり俺=アラガミ扱い?

 

 あまつさえ、持っていた私物入れの袋を取られてしまった。

 この日記帳だけは死守したが。

 

 何故?

 ホワイ?

 

 

 




×狩りゲー世界転生論(かりげーせかいてんせいろん)
○狩りゲー世界転生輪(かりげーせかいてんせい わ)

だからと言ってどうしたという事も無い。


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第3話

 

 

神無月望日

 

 前回はこんな事は無かったよなぁ。

 普通に難民として扱われて、支部の外にある居住区に外れに棲まされたんだが。

 

 と思っていたら、なんか檻の上の方に窓が開いて、お偉いさんらしい二人が現れた。

 で、

 

 

「はじめまして。このような形での対面となる事をお詫びしよう。

 私はこの極東支部の支部長、ヨハネス・フォン・シックザールだ」

 

「ペイラー・榊だよ。

 よろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 頭が凍った。

 この二人、確かGEの登場人物だ。

 そして支部長がまだ健在って事は、少なく見積もってもGE本編の真っ最中からそれ以前?

 

 取り敢えず挨拶を返し、自分は一体どういう経緯でこの檻に入れられているのか尋ねてみた。

 

 すると、予想通りに俺はアラガミか、或いは犯罪者の類と思われていたらしい。

 何で?と思っていると、まぁ有る意味納得と言うか。

 

 このご時勢で、アラガミがウロウロしている地域をゴッドイーターでもないのに歩いていて。

 しかも見慣れない…と言うか思いっきり鎧を着て、神機でもない剣を持っている。

 あまつさえ、鎧には結構な血が付いていた…デスワープする前の俺の血と、狩りをした時の獲物の血だ。

 

 うん、逃げるのに精一杯で気付かなかったけど、どう少なく見積もっても不審者だな。

 

 

「さて、本題に入ろう。

 私達は、君がアラガミだと考えていた訳だが、どうやら違うらしい」

 

 

 まぁ、人間ですから。

 ハンターだけど。

 

 この檻に入れられる前、ちょっとおかしい位に計器(だと思っていたけど、多分アレは拘束具だ)を付けられて検査されたが、それで俺がアラガミではないという事は証明されたらしい。

 ペイラー博士が素でツッコミ入れる程に、おかしい位に鍛えられていたが。

 

 ならば一体何者なのか、と私物入れの袋の中や剣を調べてみたところ、今度は技術者達が仰天したそうだ。

 明らかに異常な道具の数々。

 回復薬は、医学的な根拠は全く解明できなかったが、傷を負ったモルモット(文字通りのネズミのようだ)に与えて見たところ、明らかに活力を取り戻した。

 解毒薬も同様、生物の体内に入った毒の殆どを、時間はかかるが種類を問わず中和してしまう。

 その程度の効果で済んでいるのは、ハンター秘伝の肉体操作術が合わさっていないからだろう。

 

 閃光玉に至っては、ボールの中に数匹の蟲の死骸(光蟲)や石ころ(陽光石)が入っているだけなのに、衝撃を与えるとスタングレネード顔負けの閃光が放たれる。

 しかも、その蟲や石は専門家に問い合わせても全く分からない程の未知の物だった。

 

 剣も同様で、未知の鉱物が使われている上、構成している素材の一部に明らかに獣の牙が打ち込まれている。

 しかも、その牙は信じがたい事に、生きた恐竜・或いはそれに近い生物から得たものと思われる。

 ちなみに持っていたのはヴァイパーバイト。

 麻痺剣便利です。

 

 …うん、話に聞いているだけだと、何が何だかわからんね。

 技術者達は喧々囂々しているが、もう何を言っても推測どころか妄想の領域にしかならないので、直接確かめに来たそうな。

 

 俺としても別に話す事自体は問題ない。

 別に知られて困る事でもない。

 ああ、でもこの世界のストーリーについて知っているような事を仄めかしたら即始末されるかも。

 だがデスワープするだけなので、問題ないっちゃ問題ない。

 ただ、できれば暫くこの世界で暮らしたいものだ。

 

 と言う訳で、モンハン世界の事をぶっちゃけてみた。

 流石にすぐには信じられないようだったが、ペイラー博士が何やら頷きまくっていた。

 多分、話の整合性とかを検証しようと……いや、あの性格なら好奇心に従ってるだけの可能性が…。

 

 と言うか、これってひょっとしてアレか、喋ってたのにアラガミ扱いって…。

 俺がシオと同じ特異点だか何だかと思われていたんだろうか?

 

 

 

 

 

神無月BAR日

 

 

 取り敢えず人間なのは確かだし、特に反抗的な態度も取らなかったのが幸いしたか、極東支部の客人扱いで滞在する事になった。

 でも多分、監視とか付いてるんだろうな。

 そう考えると、日記をつけるのも危険な気がする。

 MH世界に居る時から、あっちの文字に慣れる為に日本語とMH世界言語を混ぜこぜで使っていたのだが、意外なところで防諜効果が出たようだ。(ごつごうしゅぎ)

 

 さて、それはともかくこれからどうするべきだろうか。

 暫くこの世界に滞在する事になるだろう。

 前回と違い、フェンリル内部に住む事になったので(監視しやすいからだろう)襲撃にあってお陀仏とはならないと思う。

 

 現在は客分として迎えられているが、それはいつまでも続くものではないだろう。

 物資に余裕のないこの世界では尚更だ。

 未知の素材・物質の研究という事で、私物入れ(返してもらった)から幾つかの道具を提供しているが、それにも限りがある。

 デスワープに備えるため、イーオス装備は早めに返してくれと頼んでおいた。

 

 

 

神無月婆日

 

 

 ジャイアントトウモロコシばっかりだ。

 自然が壊滅しているのは見て知っていたが、甘く見ていた。

 肉野菜魚各種、より取り見取り(ただし自力調達)だったモンハン世界が懐かしい。

 こんがり肉持ってきておいて、本当に良かった…。

 

 しかし、食うべきかな?

 食料が少なかったのは、討鬼伝世界も同じだ。

 前回はそこらの野草を食って飢えを凌いだが、全部の野草が食える訳でもないだろう。

 うーむ、ここは温存するべきか…

 

 

 

 いいや、ケチケチ言ってラスボス戦までラストエリクサーを持って行くのが俺のパターンだった。

 しかも使わない。

 温存ばかり考えるとキリが無いし、食っちゃえ食っちゃえ。

 と言うか放っておくと腐りそうで怖い。

 何故か腐らないのがモンハンクヲリテヰだけども。

 

 

 

 

神無月歯日

 

 

 前回の日記から、少し間が空いた。

 と言うのも、暫く悩んでいたからだ。

 

 先日、シックザール支部長に呼び出された。

 思ったより早かったけど、客分扱いも終わりかな?と思ったら、ちょっと違う。

 何と客分から一転して、「ゴッドイーターにならないか」というお誘いだった。

 

 言いたい事は分からないではない。

 資源・人材を遊ばせておく余裕がないこの世界だし、これでもヘッポコとは言え俺もハンター。

 狩りをする事に抵抗はないし、一般人よりは慣れている。

 それに、P(何番だっけ?)ナンタラ偏食因子を投入すれば、アラ不思議。

 昨日までは一般人の貧弱君だった彼が、たった一日でクソ重たい神機を振り回しながらアラガミと戦えるパワフルGOD EATERに!

 怪しいを通り越して誇大広告で訴えられそうなフレーズだが、これはガチで効果があるから困る。 

 

 これを、ハンターとして鍛えられた俺に投入したらどうなるか?

 元が鍛えられていた場合、偏食因子の効果もやはり大きく期待できるらしい。

 3つの世界で生き抜く事を考えるなら、ステータスは幾ら高くても足りない。

 だってG級とかクリアできる気がしないし。

 

 それに、GE世界のシナリオに関わるには、ゴッドイーターになるのは必須だろう。

 

 でもなー、正直今回は狩りとかオヤスミしたい気分やねん。

 何度も何度もデスワープ繰り返して荒んでるから、暫くゆっくりしたいねん。 

 ゴッドイーターにならんでも、ドカタにでも使ってくれれば結構役立つと思うぞ。

 

 

 何より、何か嫌な予感がするんだよな。

 何度も死を繰り返したからか、MH世界では仕事の受付をした時に「あ、これクエスト中に死ぬんじゃね?」的な感覚が時々走るようになった。

 勿論ハズレの時も多いが、このカンに従って色々備えて、何とか生き延びた事が何度もあった。

 そのカンによると…。

 

 

 

 

 

 ゴッドイーターになる   ⇒ 死ぬ

 ゴッドイーターにならない ⇒ 死ぬ

 

 

 

 

 せめて分岐しろよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

神無月憂鬱日

 

 

 どっちも死ぬなら、やってやれだコンチクショウ。

 今度GE世界に来た時には、ゴッドイーター達と会う時には鎧を外して一般人として潜入すっかんな!

 

 という訳で、明日にゴッドイーターの適合試験が行われます。

 何でも極東死ぬ…もとい支部初の新型の神機を使うとか。

 

 

 

 

 あれ、それってGEの主人公なんじゃね?

 いあいあ、いやいや待てよ。

 もしかしたら…というよりヒジョーに有り得る事だとは思ってたけど、俺にアレをやれと?

 ウロボロスを単独討伐したり、雨宮リンドウが抜けた穴を埋めてリーダーやったり、なんか感応現象しろと?

 「生きる事から逃げるなぁぁぁ!」の名台詞を、死んでも死なない身で言えと?

 もしその時には、服は水着で顔にはキグルミを希望したい。

 

 ムチャな話だ。

 ミッションについては、多分何とかなる。

 デスワープで何度もスタート地点に戻るとしても、経験で有る程度はカバーできるし、私物入れに武器とか入れておけば、所謂「引き継いで最初から」だって出来るだろう。

 

 が、カリスマと言うか信頼については話は別だ。

 元々他人に執着しない性格な為か、他人からも信頼をあまり寄せられた事は無い。

 

 うぬぬぬ……仕方ない、もう流れに任せる。

 と言うかカンが正しいのだったら、どっちにしろ死んでデスワープだ。

 その後の世界の事なんぞ知らん。

 

 こんがり肉食ってもう寝る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シックザール支部長月視点日

 

 

 ある日、私に奇妙な報告がされてきた。

 「人間なのかアラガミなのか分からない奴を発見した」と。

 それは姿形は人間なのだが、ゴッドイーターでもないのに立ち入り禁止地点を一人で動き回り、あまつさえ血糊がついた鎧と剣を装備していたそうだ。

 意思疎通も可能で友好的であった為、現在は捉えて各種検査をしているそうだ。

 

 この報告を聞き、私は内心で色めきたった。

 探し続けていた特異点となるアラガミが、こちらの手に転がり込んできたのでは?と思ったのだ。

 

 だが、それはぬか喜びだった。

 単なる人間だったのだ。

 

 むしろ騒いでいたのは検査をした者達だった。

 気持ちは分かる。

 私も昔は研究者だったので理解できるが、この男の体は異常だ。

 鍛えるという言葉では足りない程に鍛えぬかれ、生身だと言うのにゴッドイーターに匹敵しかねない身体能力を持っている。

 内臓の各種数値も、体全体が異常な程に活性化されている事を示していた。

 

 これに興味を示したのは、私よりもペイラーだった。

 彼が目を真ん丸に見開いて絶叫する姿など初めて見た。

 写真か動画に撮って保存しておきたいくらいである。

 

 更に、今度は彼の持ち物の検査に及んだが、これまた異常。

 こちらには私も興味があった。

 明らかにこの地球上には居ない生物の素材が幾つも見られたのだ。

 

 一体彼は何者なのか?

 私は直接対面してみる事に決めた。

 

 

 

 

 

 ペイラーを伴い彼と面談した結果、驚くべき事を言い出した。

 何と彼は、こことは違う別の世界からやってきたと言うのだ。

 世迷言と一蹴するのは簡単だが、あの持ち物の素材を説明するにはそれくらいしか考えられないのも事実。

 

 同時に、この世界の事も幾つか聞かれたので説明した。

 彼の持ち物から推測される文明レベルでは、恐らく理解できない単語を意図的に含めてだ。

 

 

「…ペイラー、どう思う?」

 

「そうだね、嘘は言っていないんじゃないかな」

 

 

 同感だ。

 少なくとも嘘ではないだろう。

 

 

「だが、全てを話している訳でもない」

 

「だろうね。

 彼の持ち物からして、恐らく技術水準は中世より幾らか進んだ程度だろう。

 僕達の文明とは、別の方向に進んでいる可能性は高いけどね。

 だけども、彼はこの世界の事について随分あっさりと受け入れたようだ。

 アラガミ、ゴッドイーター、偏食因子、神機…。

 これらについて質問はあったけど、ひどくあっさりと理解した。

 この世界でさえ、初めて公表された時にはかなりの混乱があったのに」

 

「聞くだけ聞いて、実際は理解してないだけという可能性も無くは無いが…」

 

 

 それは考えない方がいいだろう。

 どうやら彼の人物は、腹芸は苦手なようだ。

 聞いた通りの世界の聞いた通りの人物なら、人間相手に化かしあいをするような機会はそうそう無いだろうから、当然と言えば当然か。

 

 何れにせよ、そう危険な人物ではないようだ。

 理性もあり、基本的には温厚…突然檻に入れられても、無意味に喚いたり暴れたりしなかった点からもそれが伺える。

 事情を説明して謝罪を入れておけば、強い反感は持たれまい。

 

 とは言え、何かを隠しているのは確かだ。

 手元において管理し、監視だけつけておくとしよう。

 

 

 

「ヨハン、彼の持っている物を研究させてもらうよ。

 出来る事なら、あのノートにも目を通したいんだけど」

 

「…好きにしろ。

 映像記録で確認したが、そもそもあのノートに書いてあるのは殆どが未知の言語だったろう」

 

「僕らが使っているのと同じ言語もあったよ。

 接続語がかなり見られた。

 話の文脈から追っていけば、未知の言語が何を示しているのか、ある程度は推測がつく。

 う~ん、それにしても別の世界からやってきたのに、どうして同じ言葉と言語を使っているのか…実に興味深いねぇ」

 

 

 …すまん、こうなったペイラーは私でも止められん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、ふと気になってペイラーに状況を尋ねてみた。

 

 

「ああ、彼、どうやら計画の事を何か知ってるみたいだねぇ」

 

「…何?」

 

「彼が部屋で日記を書いているのを監視カメラの映像で見ていたんだけどね」

 

 

 …監視を命じたのは私だ。

 今更プライバシーがどうのとは言うまい。

 

 

「彼、独り言が多いんだよ。

 それと同時に書いていた文章を組み合わせて考えると…どうも未来がどうの、塩がどうの、特異点がどうのと…。

 デスワープだとかよく分からない言葉も多いけど、計画の内容か、それに準じるものを知っているのは確実だと思うね」

 

「………そうか」

 

 

 報告しろ、と言いたくなったが、ペイラーは傍観者…スターゲイザーだ。

 それに彼は部下ではあるが、同士ではない。

 これくらいなら、正直に言った分だけ安いものだろう。

 

 

 それにしても、どうしたものか。

 思わぬところから障害が現れた。

 

 彼が別世界から来たのは確かなようだし、何処かと連絡を取り合っている様子も無い。

 何処で計画の事を知ったのかは気になるが、それ以上に拡散の可能性を潰さなければならない。

 彼が何処かの回し者であると疑っている訳ではない。

 だが、私を探っている者…例えば雨宮リンドウ…に取り込まれる可能性もあるし、それ以上にありそうなのが特に意識もしないでポロッと口を滑らせてしまう事だ。

 彼には人間に対する危機感が少ない。

 

 

「どうするんだい?」

 

「………決まっている」

 

 

 既に血塗られた道だ。

 だが、ただ死なせるのは惜しい。

 

 

「ペイラー、新型神機の適合者を探していたな?

 彼の神機の適正はどうだ」

 

「高くも無く低くもなく、かな。

 普通の神機なら何とか適応できるかもしれないけど、新型は厳しいといわざるを得ないね」

 

 

 まさか、とも言わないし、止めようともしない。

 例えそれが人倫に悖る事でも。

 そして私も止まらない。

 

 

「もし適合しないなら、それまでの事。

 適合するなら、かなりの戦力になると期待できる」

 

「ゴッドイーターになりたくない場合は?」

 

「それでも構わん。

 だが、フェンリルはゴッドイーターの設備だ。

 見られてはならない物も多くある…。

 周辺の居住区に移動してもらう事になるだろう」

 

 

 居住区で残っている場所は、外壁が脆い辺りの家しか無いがな。

 

 

 

 さて、この奇禍、如何に出るか。

 彼からゴッドイーターになると了承の返事が来たのは、翌日の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今、彼は施術室の前に居る。

 出来る事なら、適応に耐え抜き、私の下でその力を振るって欲しいものだ。

 

 彼の価値は、その戦闘技能だけではない。

 異世界の情報も興味深いが、私としては彼らハンターが持つ秘伝の肉体操作術とやらに興味がある。

 恐らく、彼の体をあそこまで鍛え上げたのも、その操作術の恩恵が少なからずあるだろう。

 また、監視と同時にバイタルチェックも行っていたが、彼の眠りは異常な程深く、そして心身を癒している。

 短時間で充分な急速を取れる睡眠方法が広まれば、ゴッドイーター達の負担はかなり軽減されるだろう。

 

 それらの技術を是非とも教えてもらいたいものだ。

 短時間では概要しか聞けそうになかったし、秘伝だけあってそうそう教えてくれそうになかったので、無理に聞き出そうとはしなかったが…惜しい事をしたかもしれんな。

 概要だけでもあれば、ペイラーなら存外再現できたかもしれない。

 

 何れにせよ、彼がこれから適応を乗り切れるかどうか、だ。

 私が案内した施術室に入ろうとする彼に、最後に一言だけ投げかけておく。

 

 

「一つだけ言っておく。

 …君は独り言を言うクセを治したほうがいい」

 

 

 君自身の為にも。

 …では、幸運を祈る。

 

 

 

 

 

 




書き溜め尽きました。
あと、感想がログインユーザーからのみになっていたので訂正しました。


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第4話

 

凶星月厄日

 

 デスワープして討鬼伝世界へ来た。

 今は耐毒装備で身を固め、その辺の廃墟に隠れて日記を書いている。

 

 どうやら適合試験に失敗したらしい。

 しかし、思ってたより苦しくなかったな。

 苦しさ自体は身悶えするよう物で、こっちの世界に転移した後も暫く悶えていたんだが。

 アレならランポスに喉元食いちぎられた時とか、ドスファンゴに体当たり食らって体中ボロボロになった時とか、人間やめてハンターボディになる為の魂から改造されるような特訓の方がキツかったぞ。

 …比較対象がおかしいのか?

 

 ともあれ、デスワープしたという事は死んだという事で、あの状況から死ぬ理由なんて一つしかあるまい。

 にしても、あの後あの世界はどうなるんだろうか?

 主人公=極東支部初の新型ゴッドイーターである俺が失敗に終わって……あ、ひょっとしたら実は俺は主人公じゃないとか?

 俺の失敗を元に研究して、そこから現れたのが真の主人公こと…えーと、神薙だったっけ?

 

 まぁ、もう確認もできない事だ。

 次回にGE世界に行く事があったら、新型の情報にだけは耳を済ませておくとしよう。

 

 

 

 

 日記を書いている途中、気付けば独り言を喋っていたようだ。

 声を聞きつけて、小型の鬼が何体か近付いてきていた。

 支部長にも独り言を治したほうがいいって言われたし、気をつけるとしよう。

 

 さて、今回は耐毒装備のおかげで時間制限はほぼ無し。

 食料も私物入れに充分入っている。

 ヴァイパーバイトもある…どこまで効果があるかは分からないが、流石にアラガミみたいに全く効果なしではないだろう。

 後は運を天に任せ、異界の出口を探して彷徨うのみだ。

 

 運がいいならこんな状況にはなってないと思うが、逆に悪運が強いからこんな風になっているとも言える。

 要するに運なんて考えずにとにかく進めって事だ。

 何か発見があったら、細かく日記に書き込んでいこう。

 

 

 

凶星月災日

 

 

 異界を彷徨い、早五日。

 そろそろ食料の備蓄も尽きてきた。

 その辺の野草を食いつつ温存してきたが、限度というものがある。

 

 と言うか肉や魚を焼いてた匂いで鬼が誘き寄せられるとか、計算外だった。

 あいつら普通の食い物も食べるのね。

 

 ところで、おかしな事が幾つかある。

 まず、俺の身体能力が妙に強化されているような気がする。

 ゴッドイーターの適合試験を受けたからか?

 ナンチャラ因子のせいか?

 でも適合できなかったからデスワープした訳だし…。

 理由は今ひとつ分からない。

 でも役得だと思っておこう。

 

 そして次の疑問。

 本日の昼間、色違いの餓鬼を発見した。

 これは多分アレだろう、英雄の魂を取り込んだ餓鬼って奴だ。

 ゲームではミタマを求めて何度惨殺した事か…結局目当てのミタマは出なかったが。

 

 アレを倒せば、ミタマが手に入るだろうか?

 

 周囲に大型鬼の姿も無かったし、この世界の敵の実力を測っておきたかった事もあって、後ろから思いっきり殴りかかった。

 ヴァイパーバイトで散々斬り付けた結果、麻痺も攻撃も効くには効くが、どうもイマイチ。

 何というか、物質を斬っている感触よりも、液体に斬りつけているような感じが強い。

 これが気のせいでないのなら恐らく、純粋な物理力より、霊力とかそんな感じのオカルトパワーが必要なのだろう。

 何せ相手は、生物学的なモンスターではなく、魂だの何だのに属するバケモノだ。

 やはり、ミタマを宿す必要があるのだろう。

 

 

 

 と、ここまで考えたとき、根本的な疑問に気がついた。

 俺、ミタマを宿せるのか?

 それは訓練…修行って言ったほうがそれっぽい…次第でどうにかなるにしても、複数のミタマを宿すには稀有な才能が必要だった筈。

 

 俺がムスビノキミ役だとは限らないが…仮にそうだったとした場合。

 ゲームの中の主人公のスキルが、必ずしも俺に宿る訳ではない。

 カリスマもそうだし、GE世界で新型の適合試験に失敗した事からも、それは明らかだろう。

 

 ミッションはまぁ、周回を繰り返してトライアンドエラーアンド物資溜め込みを繰り返せばどうにか出来ると思う。

 人間関係も、極端な話、俺が主人公役にならなくても誰か代理を見つければいい。

 ゲーム内の人間関係をそっくりそのまま再現する必要なんか無い。

 

 が、討鬼伝のストーリーだけは話が別だ。

 オオマガドキを起こすのは鬼の側で、人間の集団の中で手を打ってもとても届かない。

 オオマガドキは、どうしようも無く起こってしまうだろう。

 そしてオオマガドキを鎮める為には、ムスビの君としての力…幾多の英霊の絆を紡ぐ力、即ち複数のミタマを宿す力が要る。

 これは探したところで見つかる物だろうか?

 見つかったところで、それがモノノフである可能性は?

 もしモノノフであったなら噂くらいにはなっているだろうし、そうでなければ霊山辺りの秘密兵器として隠蔽されている可能性が高い。

 

 

 

 いや待て、一つだけ可能性はある。

 もしも俺に複数のミタマを宿す力が無くても、それだけの絆を紡ぐ方法が。

 だけど実現できるか?

 

 実現できなければ、実現できるまでに貶めるまで。

 よし、メモしておこう。

 

 ミタマはモノノフの一人につき一つが基本。

 なら、それだけの器を用意すればいい。

 一人で一つしか宿せず、大勢のミタマが必要なら、数百人のモノノフを用意し、それらの絆を結べばいい。

 

 まだ思いつきで、具体的な方法なんて思い浮かばないが、こういった方法があるのだとメモしておけば、いずれ役に…立つといいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

凶星月仏滅日

 

 相変わらず、異界の中の道はサッパリ分からない。

 流動が激しい時は、後戻りさえできない。

 袋小路と袋小路が繋がって、道がなくなる事さえあった。

 道のない道を行くのはかなり疲れる。

 

 でも、多少の発見もあった。

 耐毒装備をしているのに、僅かではあるが瘴気に犯される感覚があった。

 まさか耐毒装備が効いてないのか…と思ったが、どうやらちょっと違うらしい。

 どうも、異界の中には特に強い瘴気が溜まっている所があって、そこでは耐毒装備では処理しきれなくなるらしい。

 もうちょっと上等な装備ならどうにかできるかもしれないが…でも今の装備のスキルって毒無効であって、半減じゃないんだよなぁ。

 装備が上等になっても、発動するスキルが同じなら、これ以上の効果が発揮されるか微妙な所だ。

 

 推測だが、瘴気の強いところはやはり強い鬼が出やすい所なのだろう。

 実際、デカいクモ…ミフチだかマフチだかの姿が見えた。

 アレならやり過ごすのは比較的簡単だ。

 厄介なのは空を飛ぶタイプの奴。

 

 

 取り敢えず、瘴気の強い所は極力避けて行こう。

 多分流動も激しい場所だろうし、なるべく安定した道を通りたい。

 

 

 

 

 

凶星月安楽死日

 

 

 完全に食料が尽きた。

 調味料も尽きた。

 その辺の野草を食って飢えを凌いでいる。 

 

 ついでに、ついに鬼に手を出した…食料的な意味で。

 率直に言ってマズい。

 いやもうマズいとか言う以前に気分が悪いわ色々な意味で。

 

 仕留めて食った鬼は餓鬼だったのだが、肉はついてないは骨はやたら硬いは、オマケに食ったら何か恨めしい声が聞こえてくるは。

 しかも食ったら瘴気に犯される感覚が強い。

 耐毒装備でも、流石に食った毒は防げないのか。

 ゲームではドクテングダケの毒も防げたような気がするが…やはり完全に防ぐには、オカルトっぽいパワーが必要なのだろうか?

 

 どっちにしろ、背に腹は変えられん。

 折角ここまで来たんだし、何も掴めず飢えて死ぬのは御免だ。

 行く所まで行ってやろうじゃないの。

 

 

 

 

凶星月地獄日

 

 

 気のせいか、周囲の景色が変わってきた気がする。

 それに瘴気の濃さも和らいできたようだ。

 ひょっとして出口が近いのか?

 瘴気の弱い道を辿ったのが良かったか?

 

 前回、人里に出た時はどうだったっけか…逃げるのに必死だったし、瘴気にやられてたからよく覚えてない。

 

 

 

凶星月極楽日

 

 

 ついに異界を抜けた。

 安心して、その場で倒れてしまうところだった。

 

 周囲に人が暮らしている形跡は無いが、幾つかの足跡ならあった。

 形からして武装した具足のようなので、ここは恐らくモノノフが異界に出入りするのに使っている道なのだろう。

 つまり、この道で待っていれば、人と遭遇できる可能性は高いって事だ。

 

 正直な話、もう動くのも億劫だ。

 異界の傍には危険な動物も野盗の類も多分居ないだろう。

 幸い、異界は広がってはいないようだし……GE世界と同じ轍を踏まないように鎧と武器を仕舞い込んで、もう寝ると言うか気絶。

 

 

 

 

凶星月煉獄日

 

 

 前回日記から暫く間が空いた。

 と言うのも、人里に運び込まれていたからだ。

 予想通り、俺が居た所はモノノフ達の通り道で、ぶっ倒れていた俺を見つけて慌てて里に運んだらしい。

 

 この里はマホロバの里と言うそうだ。

 ゲームでは聞いた事の無い里である。

 ついでに言うと、以前辿りついた里とも違う場所だ。

 あそこの名前は……なんだったかな、なんか北の方の里だったのは覚えてるんだが。

 

 そしてビックリ、俺が居た異界は単なる異界ではなく、あずまの国があった場所の異界だそうな。

 

 何故あそこに倒れていたのか、という問いに対しては、

「普通に暮らしていたら、突然目の前が真っ暗になって、気がつけば変な荒野に居た。

 バケモノは居るし倒れそうになるくらい息苦しいので、必死で逃げ回っていたらあそこに出た」とだけ言った。

 

 里の人達は、随分と親切にしてくれた。

 そして異界やら何やら、彼らにしてみれば常識そのものな事も懇切丁寧に教えてくれた。

 

 と言うのも、どうやら彼らは俺がその手の知識が全く無い、一般人だと思っているらしい。

 実際この世界の常識なんぞカケラ程度しか知らない訳ですが。

 

 

 話を聞いてみて色々分かったのだが、討鬼伝の世界は、元々は俺の前世の世界と同じくらいには文明が発達していたらしい。

 だがオオマガドキで全てが異界に沈んでしまい、残ったのは古来から鬼達と戦ってきたモノノフ達の里だけ。

 食文化やインターネットと言う偉大な技術も、今や残骸すら残っていない。

 

 モノノフ達は、言っては何だが異能者の集団だ。

 鬼という存在を世間一般に知らせない為もあり、外の文明と交わる機会は極端に少なかったのだと言う。

 当然、それらの存在を外の文明の中で生きてきた一般人(つまり俺)が知っている筈も無く。

 そして、突然起こったオオマガドキによる破滅なんぞ、それこそ何が起きたかサッパリだと思われているらしい。

 

 とにかく、今はゆっくり休みなさいという事だった。

 事実、俺も正直疲れている。

 毒は装備のおかげで殆ど遮断されていたとは言え、瘴気の海の中に何日も居た。

 加えて、まともな栄養が取れなかった上に、なんだか分からない鬼まで食った。

 暫く心身ともに休んだ方がいいだろう。

 

 これからの事は、その後考えよう。 

 

 

 

 

 

鶴亀月滑った日

 

 数日ほど心身共にゆっくりし、美味しい和食に舌鼓を打つこと数日。

 いかん、このままではニートになってしまう。

 

 真面目な話、医者からはもう暫く安静にしてほしいとは言われている。

 肉体面では回復したようだが、異界の瘴気の影響力を甘く見てはいけないそうだ。

 まぁ、瘴気って実際には毒ガス同然だし、言いたい事は分からないでもない。

 

 が、ずっと世話になってばかりという訳にもいかない。

 今は病人扱いされているので据え膳下げ膳の生活だが、いつまでも甘やかしてくれる訳ではない。

 GE世界程ではないにしても、この世界だって余裕は無いのだ。

 

 取り敢えず、異界を放浪している間に拾った各種ガラクタが幾らで売れるか聞いてみた。

 ………まぁ、節約すれば2~3日は飯が食えるな。

 所詮は拾い物だし、こんなモンだろう。

 

 

 ついでに、里の中を歩いてみたんだが…どうすっかな、手に職を付けられそうにないです。

 と言うのも、昔ながらの(と言うと失礼かもしれないが)人の手による職人芸で、人里の流通が保たれているからだ。

 例えば服を作るのには、ミシンなんか当然無いから手縫いオンリー。

 しかも道具も気軽に作れる物ではなく、異界の鬼達から集めた素材で道具を作っているそうな。

 他にも、外の世界では廃れて名前さえ知られなくなったと思しき、古き良き不便な道具が沢山ある。

 

 …技術で飯を食ってくのは無理だな。

 単純な肉体労働なら自信がある。

 伊達にハンターやってない。

 

 

 

鶴亀月後ろの○太郎日

 

 肉体労働には自信があったが、まだ安静にしていろと働かせてくれなかった。

 いつまで寝てればいいんだ。

 実は心配されているんじゃなくて軟禁されているんじゃないか、と思ってしまった。

 失礼失礼。

 

 と言うか、今日はモノノフについて色々聞いていたのだが、コレ失敗だったかもしれない。

 何が失敗だったって、質問の順番と言うか。

 

①俺の他に、あずまの国から脱出してきた人は居ますか?

 ⇒ 残念ながら、君だけだ。(ご家族や友人も、もう…)

 

②鬼を倒すには、どうすればいいですか?

 ⇒ モノノフの修行をして、ミタマの力を借りる事だ。(…復讐、か?)

 

③モノノフと言うのは、俺でもなれますか?

 ⇒ 生き延びたのに、鬼と戦えば命を捨てる事になる。(知人が全て死んでしまって、ヤケになっているのか)

   折角拾った命なのだ、戦う事ではなく生きて次に繋げる事を考えろ。

 

 

 

 …()の中は推測だけど、多分間違ってないんじゃねーかな…。

 いや確かにご家族ご友人とは全く別の世界に来てしまいましたが、復讐とか出来る状況じゃないんですが。

 別に鬼にやられたって訳でもないし。

 

 モノノフになれるか確認したのは、討鬼伝のストーリーに関われるかどうかの問題だし。

 オオマガドキに沈んだあずまの国から生きて抜け出してきたのは、討鬼伝の主人公だけ、という話だった筈。

 勿論、知られてないだけで他に居るか、或いは後から誰か抜け出してくる可能性はあるが、GE世界での事も考えると、俺に主人公役の立ち位置が回ってくる可能性は非常に高い。

 

 

 さて、どう思われているかはさておいて、モノノフになる事事態は特に問題ないようだ。

 厳しい修行が必要で、仮にそれを全うしたとしても、そういう血筋の人…古くからモノノフとして続いている家系の人に比べると、その力は格段に落ちるらしい。

 …という事は、原作主人公は一体…?

 単なる一般人からの突然変異か、それとも過去に現人神こと日本の象徴の血筋でも入っていたか…或いは、素質は普通の一般人だったけど、ミタマの方に選ばれた結果がアレとか?

 

 何にせよ、暫くはモノノフとしての修行はおろか、労働さえさせてもらえそうにない。

 どうしたものか…。

 

 

 

 

 

 

鶴亀月宵闇日

 

 

 説得は諦めた。

 何故にそんなに硬い意思で阻むのか、と言いたくなるくらいにモノノフにならせてくれそうにない。

 

 …と思っていたら、意外な所から助けが出た。

 いや、助けと言うか逆に原因だった訳だけども。

 

 俺の治療をしてくれた医者の人が、俺にモノノフの技術を伝えないようにと触れ回っていたらしい。

 一体何故?と思ったら、実は新手の鬼なのではないかと警戒されていたようだ。

 GE世界に引き続き、またかよ…と思っていたら、こっちにも一応理由はあった。

 

 異界の中で、餓鬼を殺して食ったのだが、これが原因で俺の体の中に瘴気が紛れ込んでいるらしい。 

 だから人間の姿をしているけど鬼の気配があるってんで、怪しまれていたとか何とか。

 いや、殆どの人は純粋に労わってくれてたみたいなんだけどね。

 

 これを話してくれたのは、体の中の瘴気が抜けてきて、弱い鬼でも存在を保てないくらいに瘴気が弱ってきたからだそうだ。

 ただ、瘴気の濃さは弱くても、量がえらく多い為、他者からの干渉でこの瘴気をどうにかするのは難しいとか。

 正直、自分では全く自覚がありません。

 

 で、この度、正式にではないが、モノノフとしての訓練を少しばかり教えてもらえる事になった。

 いわく、体の中に取り込んだ瘴気は、徐々に弱くはなるが自然に全て無くなる事は無いのだそうだ。

 だから自分で浄化しないといけない訳だ。

 つまりは、ゲームで言う鬼祓を自分に対してかけるって訳だな。

 

 これをやっておかないと、体の中が瘴気に徐々に犯され、体が動かなくなっていったり、寿命が縮んだり、最悪(よっぽど強い瘴気じゃないとコレはないが)鬼と化してしまう事すらあるらしい。

 どれもデスワープすれば直るような気はする。

 

 今回教えてもらえるのは、鬼祓だけだ。

 他の戦いの為の技術は、全く教えてもらえない。

 …どうやらまだ、復讐の為にモノノフになりたがっていると思われているらしい。

 別に戦えるようになったからって、一人で異界に突撃するような真似はしないって…。

 

 とは言え、戦闘能力必須な身の上だし、モノノフ達の訓練風景を見て、ちょっと盗んでみるとしますかね。

 

 

 

 

 

鶴亀月魔羅日

 

 

 あたまいたい

 

 

 

 

鶴亀月知恵熱日

 

 

 

 また日記に間が空いた。

 と言うかマジ頭イテェ。

 モノノフの訓練が、予想外な方向に辛すぎる。

 

 鬼と戦う技なのに、何だって座学がメインになるんだ。

 いや、俺だけなら分かるんだ。

 実際に戦う為の訓練じゃなくて、自分の瘴気を鬼祓する為の訓練なんだから、それだけに特化するのも分かる。

 呪文と言うか祝詞みたいなのを覚えなきゃならんのも分かる。

 

 が、何故に他のモノノフ志望の若者達も座学から始まってるんだ。

 普通、こういうのは肉体を作り上げるのが優先か、最低でも同時進行なんじゃないのか。

 

 こういう責め苦は初めてだ。

 モンハン世界でも座学はあったけど、体が資本と言わんばかりの実技に力入れまくってたし。

 GE世界に至っては、まず最初に生きるか死ぬかの適合試験があって、訓練はそこからという始末。

 座学オンリーで腰が痛いよ。

 

 理屈は、一応説明してくれてんだけどね。

 

 曰く、鬼と戦うにせよ鬼を祓うにせよ、本来人間に備わった力ではそれに足るだけの力は無い。

 なので、他の何かから力を借りてこなければならない。

 神仏とか、ミタマとか。

 

 で、どういう相手からどういう力を借りるのか。

 それをしっかり理解してからでないと、モノノフの修行は無駄になってしまうらしい。

 

 

 それで、実際の戦いの最中に、力を借りる為の長ったらしい祝詞なんぞ唱えていられるヒマがある筈もなく。

 それを補う為にモノノフ達に伝わっているのが、二つの技術。

 ゲームで鬼祓をする時にプレイヤーの回りに出る、文字の羅列…えーと、名前を間違って覚えているかもしれないが、経文唱だ。

 あれを出すのは人間自身の力で、それを回す事によってお経を一回唱え、神仏から力を借りる為の呪文とする…ってマニ車かよ。

 一回転する度にお経一回、ゆとりニルヴァーナ万歳ってか。

 

 それから武芸に関しても、同じような事が言える。

 人間が持っているオカルトパワーだと、小型ならともかく大型の鬼を退治するのは非常に難しい。

 これも神仏・英雄から力を借りねばならない訳だが、長ったらしい祝詞なんぞ(ry

 経文唱と同様に、別のもので念仏を再現しているのだそうだ。

 

 例えば、今日教わった(そしてまともに思い出せる数少ない)例だと、不動明王とか。

 この場合念仏じゃなくて真言(一字咒)となるらしいが、この力を借りるのに

「ノウマク サンマンダ バザラダン カン」

(あまねき金剛尊に礼したてまつる。ハーン)   と唱えると言う。

 達人ともなれば、これをより簡略化し、「カン」の一言で力を発動させる事も出来るらしいが、それは置いといて。

 

 これらの呪文を、体の動きや武器の動きで再現するらしい。

 昔から刃物は呪物の一面を持つと聞いた事があるし、手を使って印を結べるなら足を使って結べてもおかしくは無い。

 要するに、例えば太刀を構えるのであれば、下記のようになる訳だ。

 

 

太刀を握る手で(ノウマク)

抜く際の刃の軌跡で(サンマンダ)

抜いた後の構えで(バザラダン)

そして斬りつける動作で(カン)

 

 

 勿論、こんな事がそう簡単に出来る筈が無い。

 例えて言うなら、儀式をしながらケンカをしろと言っているようなものだ。

 体の動かし方に大きな制限ができるし、集中力だって二分されてしまう。

 しかも、この辺はまだよく教わってないが、何かしらのルールを破るとあっという間に効果が発揮されなくなってしまうらしい。

 これが出来るのは、古来から鬼と戦い続けてきたモノノフ達が効率的な動きを纏めて伝えてきたのと、文字通り呼吸と同じレベルで体がその通りに動く、延々と繰り返される修行があってこそだろう。

 

 うーむ、俺に出来るのかな。

 仮に出来たとしても、他の世界に行った時に動きに制限が出来るのは困る。

 

 取り敢えずは、鬼祓に集中するか。

 つまりは明日からまた座学だ。

 そしてこれらを覚えたら覚えたで、経文唱の文字を出す為の精神集中。

 つまりは座禅で、座ったままなのは変わらなかったりする。

 

 

 

 




朝晩で出勤⇒店の立ち上げ中にネタ(死に方とも言う)を考える⇒忘れる

教えてくれゼロ、俺はこれを何度繰り返せばいい…。
ギアスで忘れないようにしてくれぃ。


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討鬼伝世界1ーMH世界1ーGE世界1~よく死ぬ~
第5話


 

篭目月とかなくてしす日

 

 

 ガチ知恵熱が出て、それでも勉強を止められず。

 文字を見るだけでも苦痛になってきた為、日記をつけることすらしなかった数週間が過ぎ去った。

 

 何とか座学は終わり、明日からは経文唱を出す為の修行だ。

 ちょっと聞いてみたが、滝に打たれるとか炎の道を歩くとか本当にやるらしい。

 ……正直に言おう。

 ハンターボディにその程度ではダメージは無い。

 いや流石に炎はダメージあるんだけど、回復量がパネェからすぐ治る。

 ベテランともなれば、リオレウスの炎の直撃を食っても平然と動き回れるくらいだからな!

 

 こっちについては、多分そう遠くない内に会得できそうだ。

 何せ瞑想は得意だからな。

 瞑想=無になる。

 つまり何も考えない、浮かんでくる雑念を排除する。

 ここで活躍するのが、ハンター秘伝の肉体操作術・休眠編。

 体を操作して内臓やら神経やら徹底的に休める訳ですが、これを微調整する事でアラ不思議。

 意識はあるけど何も考えない(考えられない)、擬似的な瞑想状態に入れます。 

 

 一度見せたところ、モノノフでもそこまで深い瞑想状態になれる奴は殆ど居ないと言われた。

 正確に言うと瞑想じゃないんだろーけどね。

 

 

 

 それはともかくとして、生活費はどうしようか。

 鬼祓の為の勉強漬けの日々が数週間続き、もう病人扱いという訳でもなく。

 そろそろ動いてもいいよ、と遅まきながらに医者から告げられたのだが、どうやって稼ぐべきか…。

 

 聞いた話じゃ、手練ならともかく、一般のモノノフって給料少なそうなんだよね。

 皆、何かしら副業を持ってるらしいんだが……。

 

 

 

篭目月しすのあんこくきょう日

 

 

 何とか経文唱を実現できた。

 だがまだ不安定で、充分な知識が無ければあっと言う間に崩れ去ってしまう代物だ。

 おかげで毎日、寝る前の復習が欠かせない。

 これくらい真剣にやってれば、学校のテストも楽勝だったろうに。

 

 それはともかく、里の流通状況に関してだ。

 とにかく食い物が問題。

 やはり自然の殆どがオオマガドキで沈んだ為、食糧事情が非常に苦しくなっているらしい。

 野菜や食べられる野草の類だって、そうそう育つ訳じゃない。

 

 …そう考えると、1度クエストに出たら収穫が出来るようになっているモンハン世界の農場って異常だな。

 植えて、下手すると一日で収穫可能とか、どの世界で考えても異常な気がするが。

 

 が、異常であってもこれは非常に有効なアイテムだ。

 育つのが早い秘訣が、植物にあるのか、土壌にあるのか、それとも肥料にあるのかは分からない。

 が、もしもこれをモンハン世界から、他の世界に持ってこられたらどうか?

 ひょっとしたら、二つの世界の食糧事情を多少なりとも改善できるかもしれない。

 

 

 でもなー、デスワープしたらそれって全部無意味になるんだよな。

 そう考えると無駄な労力だ。

 いや、ひょっとしたら俺が死んだ後、世界は続くかもしれないから無意味じゃないのか?

 でも俺にメリットは……各世界でMH世界の植物を食えるようになる、くらいしかない。

 

 でも力の種とかならドーピングアイテムでもあるし……。

 この件は、一度試して見てからだな。

 おれ自身に直接的なメリットが無くても、食糧事情改善に使える新種の植物としてなら高値で売れるかもしれん。

 

 

 

 

篭目月荒日

 

 日々、鬼祓の訓練を続けている。

 大分サマになってきた、と太鼓判を貰った。

 体内にある瘴気を浄化する、とはよく言ったもので、体が段々と軽くなっていく気がするし、何となくだが空気も美味い。

 

 思えば、久しぶりに特に命の危険の無い、マッタリとした日々だった。

 あの猛勉強だけはまるでマッタリしてなかったが、自分で命をかける必要が無いというだけで、こうも気楽になるものか。

 

 もういっそ、このままこの世界に永住できないものか。

 …無理だろうなぁ。

 放置しておけば、オオマガドキが再びってな事になりかねない。

 そして俺はまたモンハン世界に逆戻り、と。

 

 切ないお話だ。

 どちらかと言うと、腹も切ない。

 最近どうにも妙に腹が減る。

 瘴気が無くなったから、体が過剰に健康(というのも妙な表現だ)になっているのだろうか?

 

 まだ働かせてもらってない居候の立場なので、2杯目をそっと出す。

 シャケうめぇ。

 

 

 

篭目月神日

 

 オニギリ最高。

 モンハン世界は素材自身が美味いけど、なんつーか味付けが大味なんだよな。

 タツジン!なレベルのキッチンアイルーならまた話は違うらしいけど、俺のレベルじゃそんなの雇えません。

 

 やはりハンターだのゴッドイーターだのモノノフだの言う以前に(ハンターでしかないけど)、俺は日本育ちの日本人という事か。

 和食が美味いのなんのって。

 幾らでも食える気がする。

 

 と言うかマジで最近腹が減りすぎ。

 一応医者に相談したところ、鬼祓の影響でそういうのが出た例はあるそうだ。

 事に俺の場合、異界の中に居た時間が長かった為、体が回復の為の栄養を欲しているのではないかとの事。

 うーん、まぁ分からないでもないけど、もう里に来てから一ヶ月以上経ってるんだぞ?

 今更じゃないかなぁ…。

 

 

 

篭目月化日

 

 

 どう考えても異常だ。

 体内の瘴気はほぼ全て祓われているらしいのだが、それに比例するように空腹が襲ってくるようになった。

 今日など、立っていられない程の眩暈に襲われて、折角のバイト初出勤が潰れてしまった。

 俺が異界に居て、体が弱っているかもしれない事は結構知れ渡っていたので、無責任となじられるような事は無かったが…こんな調子だと、冗談抜きで寝たきりになるんじゃないだろうか?

 しかし、一体何が原因で?

 

 明らかに瘴気が原因ではない、もっと他に何かある。

 専門家によると、やはり鬼の仕業ではないかと言う事だ。

 確かに、打鬼伝のストーリーの中には、夢を操ってメインキャラの一人を行動不能に追いやった奴が居た。

 瘴気ではなく、アレと同じような特殊能力だという線は大いに有り得る。

 夢を操る鬼が居るなら、病気を操る鬼が居てもおかしくない……黒谷ヤマメでも居るのか?

 是非とも合ってprprしてみたいものだ。

 

 待てよ、黒谷ヤマメが居るなら、同じ鬼のパルパルとか勇儀の姐さんとかスイカも居るんだろうか?

 …漲ってくるな!

 

 でもこの世界の鬼だしなぁ…。

 ミズチメなんて「嬉しくないおっぱい」なんて仇名されてたくらいだし、美少女のままで出てきてくれるんだろうか…。

 

 お粥食ってもう寝る。

 ウメボシが素晴らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

HR月猪日

 

 

 目が覚めたらモンハン世界のキャンプだった。

 久々にマジで訳が分からない。

 「マラソンの最中に、バテるのでも倒れるのでもなく寝る奴は初めてみたぞ」と教官に呆れられた。

 ぬぅ、顔面踏んづけられたみたいで、足跡が取れん。

 今度はどうやって食ってやろうか。

 

 それはともかく、一体何故に?

 ワープしているって事は死んだって事か?

 確かに体はしんどかったが、死ぬようなレベルじゃないと思うんだが。

 即死間違いなしの呪詛でも喰らったか?

 それともまさか、一つの世界に時間制限があるってんじゃなかろうな。

 …でもモンハン世界ではもっと長く居た事もあるし、そもそも2ヶ月にも満たない時間制限じゃ、ストーリークリアは時系列的に無理だ。

 

 となると、やはり何かの切欠で死んだのか。

 ハンターボディに並大抵の毒は効かないから……眠っているところを一突き?

 でも理由が無い。

 毎回ご飯をお変わりしてたから、食糧難を危惧されてサクッとやられたとか?

 

 うーむ、本気で分からん。

 

 

 

 

 

 

HR月鳥竜日

 

 

 理由は分からないが、デスワープしちゃったものは仕方ない。

 例によって訓練所をサクッとクリアして(各種記録を塗り替えた、将来有望なハンターと言われた))素直にハンター生活を営んでいるが、どうにも捨て鉢になっている感は否めない。

 でもそりゃーねー、仕方ないよねー。

 折角手に入れた、一時のものとは言え平穏な日常を、意味も因果も不明な病気だか呪いだかにかかってサクッとデスワープ、獣と死と肉が隣り合わせの食うか食われるかなモンハン世界に強制リターン。

 不貞腐れもするってもんである。

 

 だがそこはそれ、討鬼伝世界で受けてきた鬼祓の修行は無駄ではなかった。

 瘴気の無いこの世界では使いどころがなさそうな技術だが、世界を超えても術だけはちゃんと起動できた。

 これを忘れないよう、寝る前に日々鬼祓の訓練を行っている。

 …同期ハンターはおろか、アイルーにだって見せられない。

 いや、信頼の深まったアイルーなら、黙っててくれるとは思うが。

 

 次に討鬼伝世界に行った時、多少は有利になるかもしれない。

 異界の中で使えるかもしれないし、モノノフになりやすくなる…といいな。

 

 

 さて、捨て針になっている俺は、慰めてもらうために(一方的に)顔なじみのオネーチャンと戯れてくるとしよう。

 何だかんだで周回をこなす毎に会いに行ってるもんで、最近仕事用の顔とプライベートの顔の見分けがつくようになってきた。

 上手い事背筋に指を沿わせて擽ってやると、ちょっとだけ本当にエロい顔してくれるのだ。

 ……ちょっとだけね。

 わかってたけどね、お仕事の相手としか見られてないし、素人童貞だからテクなんてまるで無いし、いつもいつも初対面からだから、顔馴染みなんてなってないって。

 

 ちょっと泣いた。

 

 

 

HR月鳥魚日

 

 泣いても哀しくても癒されるもんだなぁ。

 慰めてもらったら、なんか元気出てきたよ。

 飯食って寝て異性の肌、これに勝る薬は無い。

 

 という訳で、暫く地道にハンター活動してました。

 非常に順調、と言うかルーキーとしては破格の評価を貰っています。

 まぁ、流石に何度も繰り返しているだけあって、ドスランポスやらババコンガやらの相手は慣れたもの。

 クソと屁には慣れたかなかったが、残念ながらそれでも慣れちゃうのが人間なのよね…狩りの間だけ、汚れを気にしなくなるってだけなんだが。

 

 ともあれ、この評価は、俺の基礎能力が底上げされているのが大きい。

 腕力体力耐久力、その他諸々がメッチャ高くなっている。

 今なら大剣をハンマーのように扱える気がするぜ。

 ……目指すは大剣をヌヌ剣みたいに使うところだが、流石にそりゃ夢を見すぎか。

 何よりも振り回してる間に自分に当たる。

 

 それにしてもこの強化、ゴッドイーターの適合試験の賜物か?

 でも失敗したしな…。

 

 ともあれ、もう暫く地道にハンターやります。

 一攫千金な話は死への片道切符、それは強化された今でも変わりなし。

 死にたくなければ安全パイ。

 

 

 

 

HR月鳥獣日

 

 

 先日あんな事決めといてなんだが、逆にそろそろ適当な時期でもある。

 前回までの繰り返しを考えれば、むしろ遅いくらいである。

 つっても、遅い早いを判断するのがゲーム準拠だから、今ひとつアテにならんが。

 先輩方に聞いてみたところ、「確かにお前ならそろそろいいだろう」と激励をいただいた。

 

 正直な話、これに関して俺自身の判断は殆どアテにならないと思っている。

 何度もデスワープを繰り返して死への恐怖心が薄れてしまった身。

 急激な、理由の分からないパワーアップと、繰り返しによる慣れで、脅威度の判断基準が滅茶苦茶になってしまっている。

 

 が、だからこそ行っておきたい。

 自分の実力を測りなおす事もできる。

 そして今回の相手は、公式にも認められるハンターの登竜門。

 いつになるにせよ、受けない訳にはいかない相手だ。

 

 

 

 そう、今度のクエストの相手は、皆大好きイャンクック先生である。

 

 正面から戦うべきか。

 それともありとあらゆる準備をしてから行くべきか。

 常識で考えれば後者なんだが。

 

 

 

 

 と言うか、ここってメゼポルタ、つまりはフロンティアなんだよな…。

 もしかして進んでいけば、クエスト「先生の最盛期再び」とか「大先生」とか出てくるんじゃあるまいか。

 

 

 

 

 

 是非とも画面越しに挑戦したいものである。

 画面越しにな(←ここ重要)

 

 

 

 

 

 

 

 

ハンター月念日

 

 

 うん、サックリと負けました。

 と言うか思い返すと情けなくなってくる。

 流石は先生と言うべきか、それとも俺の阿呆さ加減を罵るべきか。

 先生を侮る者は先生に泣かされるとハンターの格言にマジであるのだが、心の底から納得した。

 

 正直な話ナメてました。

 逆に先生に銜えられてベロンベロン嘗め回されました。

 ペッと吐き出されて、マズいもの舐めたと言わんばかりのリアクション。

 おのれ。

 

 

 真面目な話、原因不明のパワーアップで高い評価を得た…なんて思ってたが、そんなもん微々たるものだと気付かされた。

 まー普通に考えてだ。

 相手が人間の二倍以上あるドデカい恐竜を、ちょっと力が強いだけの人間が受け止めるとかそりゃー無理だわな。

 最低限オーガ並み、そうでなけりゃ竜玉世界で生きていけるくらいにならんと。

 …竜玉世界とか聞くと、他には紅玉世界とか天鱗世界とか思い浮かぶな。

 ドラゴンボールの代わりがモンハンで言うレアアイテム。

 レーダーあっても見つけられんわ、物語始まらないわ。

 

 

 という訳で、先生に踏まれて噛まれて張り倒されて、命からがら逃げ帰って参りました。

 それでも2~3日で復活できる生命力は我ながらスゴイと思うんだ。

 実際、訓練所で本当に評価されていたのは、身体能力とかではなく、この頑丈さだったらしい。

 これだけ頑丈なら、クック先生に多少蹴っ飛ばされても生きて帰って教訓にできるだろう、と。

 ハンター先輩達の観察眼は侮れん…。

 

 

 いや、それなりに準備していったんだよ?

 でもその準備も、根っこが想定外じゃ意味がない。

 具体的に言うと、真正面からクック先生(下位バージョン)と渡り合える事を前提にしてるとか、今思うとどんだけ自惚れてたのかと。

 

 慰めてくれた(not 体)女性の先輩によると、これは一種の通過儀礼だそうだ。

 相手が先生にせよダイミョウザザミ辺りにせよ、これを経験しない奴は大抵早死にするとか。

 ちなみに彼女はバカコンガ(クソヤロウ!)で通過儀礼したそうだ。

 ハイライトが消えた目とかリアルで初めて見たわ。

 お蔭で先輩は、今となっては泥の中に潜伏するのも肥溜め脱出も平然とやってのける、MH世界版山中鹿之助みたいない扱いを受けているらしい。

 

 

 ともかく、何とかクック先生から逃げ出せたのだ。

 暫くはリベンジの為、クック先生の研究をしようと思う。

 

 

 

ハンター月燃日

 

 ぬぅ、情報が手に入らん。

 と言うか教えてくれん。

 

 これも通過儀礼の一種らしいが、ホンマかいな。

 確かに、他人に聞くよりまず自分で観察しろって理屈は分かる。

 そうでないと初見の相手に対応できなくなるからな。

 

 が、だからって有効な対応方法を一切教えてくれないってのは流石にやりすぎじゃなかろうか。

 「それだけ期待されているって事だ」って言ってくる先輩も居るが、命の危険が高まるような期待は御免蒙ります。

 と言うか、真面目にハンターの生存率に関わると思うんだがなぁ…。

 

 

 理由はともかく、教われないなら考察と調査あるのみだ。

 

 

 画面越しではなく実際に見るイャンクック先生は、何というか…言っちゃあなんだが、グロテスクだった。

 別に先生自身がキモいという訳じゃなくて、生物特有のグロさがある。

 考えてもみてほしい。

 イャンクック先生は、基本的に爬虫類面だ。

 しかもデカい。

 例えば蛇やトカゲが人間サイズにデカくなって、しかもそれが感情的…ではないにせよ、ヌルヌル動くのだ。

 円らな瞳はデカすぎてギョロッとした目にしか見えなくなったし、顔面が動くときには皮膚の下の筋肉が動いているのもある程度見て取れる(顔の殆どは嘴だが)。

 

 アレだな、二次元だと人気が出る漫画を、3次元のドラマにしたら惨事にしかならないのと同じ理屈だ。

 二次元には体温も、歩くたびに響く振動と音も、何か食った後だと思しき血の染みも、そしてグレートした直後で後始末もされてない匂いも無いから人気出るんだよ。

 

 

 

 先生の顔付きはともかくとして、とにかく重い。

 巨体に見合った重量と質量があり、体当たりなんぞ食らった日には冗談抜きで車に跳ねられた以上の衝撃を受ける。

 引退した先生でこれだもんなぁ…もっとデカい、モノブロスとかだとどうなる事か。

 アカムに至っちゃ足踏みだけで塵も残さずペタンコになりそうだし、増してラヴィエンテ辺りなんぞ近づける気がしない。

 

 あと爬虫類らしく、体温は低かった。

 鱗に覆われているが、意外と硬くない。

 全力で殴りつければ、何とか通るレベルだった。

 

 それよりも脅威なのは、前述した質量と、そしてシッポである。

 尾と言うのは基本的に筋肉の塊であると聞いた事はあるが、これで張り飛ばされると洒落にならない衝撃が来る。

 盾がぶっ壊れるし(修繕できたからいいけど)、肩が脱臼一歩手前になるし、何でハンターの皆さんはこれに耐えられるんだ?

 肉体のスペック自体は、俺のほうが上のはずなんだが…装備か?

 それとも技術か覚悟か?

 

 このままだと俺は、イャンクック先生以上に厄介なモンスター達を相手に、一度でも攻撃を受けたら即アウトなハンターマストダイと言う、悪魔も泣き出すようなクエストを続けていかねばならなくなる。

 流石にそれは御免蒙る、と言うかデスワープから抜け出せる気がしない。

 

 もう一度訓練所で訓練を受けなおすか?

 それとも…。

 

 

 

 

ハンター月ター○ゃん日

 

 

 クック先生と戦うにあたり、まず重要な事は攻撃を受けない事。

 そして次に、確実に急所を狙う事だ。

 出来る限り、一撃離脱が望ましい。

 

 と言うのも、ゲームとリアルでは大違いで、とにかく攻撃力が高いのと、巨体故の生命力が厄介すぎる。

 人間で言えば、急所でもない部分をペチペチ叩かれたからと言って、死に至る事がないのと同じである。

 

 という訳で、重要な血管とか狙って刃を振るい、出来れば足とか骨折させるとやりやすくなる。

 逃亡防止の為に、翼は無力化しておきたいが…そういえば音爆弾が効いたな。

 逃げるときにはコレを使おう。

 怒り状態をどう避けきるかが問題か。

 

 

 にしても、なんか体の調子がおかしいな?

 以前と同じように、最近妙に腹が減る。

 段々体が重くなってくるような気もする。

 プラシーボ効果ならいいんだが、これが本当だったら?

 

 やはり、俺の体に何かが起きているのだろうか。

 どっちにしろ、こんな体調でクック先生に再戦を挑むとか、自殺と変わらない。

 一度医者に見てもらうか。

 

 

 

 

神無月悪日

 

 

 いきなりデスワープは酷いと思います。

 と言うか、またかよ。

 折角クック先生との戦いに備えて、色々準備したと言うのに。

 

 やはり俺の体に何かが起きているのは確定のようだ。

 討鬼伝世界ならいざ知らず、モンハン世界では呪いなんぞあるまい。

 いや、ミラボレアス装備という呪われていそうな代物はあるんだが、接触もしてない相手を遠距離から殺せるような物騒な奴は多分居ない。

 居たとしても、あんな下位ハンターしか居ないトコには居ないだろう。

 心当たりがあるとすれば、イャンクック先生とやりあった時に、鶏インフルエンザでも貰ったんじゃないかって事くらいだ。

 しかしインフルエンザで過剰に食欲が沸くとは聞いた事が無いな。

 

 

 と言う訳で、今回も無事GE世界にて、狩りに出ていたゴッドイーター達と遭遇できました。

 勿論、ちゃんと鎧と剣は仕舞い込んでいる。

 初めてゴッドイーター達に会ったとき同様、流民として扱われました。

 あの時と同じ住居を宛がわれ、こりゃー暫くしたら襲撃にあってお陀仏だ…と思ったので、住居を使わずその辺で野良暮らしを始めます。

 意外とご同輩は多いです。

 

 

 

神無月膳日

 

 野良暮らしを始めた訳だが、ここで意外と重宝された。

 だってここの連中、サバイバル技術なんて殆ど持ってないもの。

 こちとら、ハンター仕込み…というかハンターのサバイバル技術を何度も使っているのだ。

 モンハン世界とは自然環境が大分違う為に使えない技術も多いが、ちょっと工夫すれば水を確保する技術等は結構ある。

 

 しかし、気になるのは突然のデスワープの事だ。

 アレをどうにかしない限り、どこで生きてどんな功績を積んだって、何も分からないまま元の木阿弥。

 しかし一体どうしたものか。

 自分の死体を検分するような真似ができない限り、死因を予測する事しか出来やしない。

 しかも検証がほぼ不可能とかフザケンナ。

 

 だが心当たりはある。 

 鬼祓だ。

 アレを始めるようになってから、体の違和感が沸いてきた。

 討鬼伝世界では鬼祓の練度に比例するように体が重くなっていったし、モンハン世界でも鬼祓を続けていたら謎の食欲と倦怠感に襲われた。

 鍵は多分、そこにある。

 

 とりあえず、暫く鬼祓を止めてみよう。

 どっちにしろ、ホームレスの中で集団で生活している為、誰にも見られず鬼祓の練習をする時間なぞ確保できないのだ。

 

 そうそう、意外なイベントが明日にある。

 何と健康診断だ。

 何でもコレの結果から戸籍やら何やらを作っているらしく、極東支部が義務として進めているらしい。

 受けたところで何の損も無いと思うが、反対する人は結構多いらしい。

 

 ま、俺は特に含むところも無いし、受けて見るとしますかね。

 




むぅ、もうちょっと淡々とした話にしたいかも。


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第6話

お下品なネタが増えてきますので注意。
R-15を付けるべきか…。


 

 

神無月非日

 

 

 フェンリルに入る事になった。

 どうしたこうなった、どうしてこうなった。

 

 しかも支部長と直接ご対面とか何事ですか。

 今回は目を付けられるような事なんぞ、何もしてない筈なのに!

 

事の起こりは恐らく、と言うかまず間違いなくあの健康診断だ。

 健康診断自体は全く問題なかったと思うのだが、翌日にいきなり極東支部につれてこられた。

 

 一体何故なのか。

 確かに人としてちょっとオカシイくらいに鍛えられた上、謎のパワーアップを遂げ、そして更には何も無い空中に文字を具現化させて意味も無く回転させるという厨二大歓喜の特技を持っているとは言え、俺はいたって普通の一般人の筈。

 ん? 何か違和感を感じたが…まぁいい。

 

 

 …ああ、そういやデスワープするという点では俺は普通の人間じゃないな。

 それでも状況に翻弄される一般人の域を出ないのが辛いところだが。

 

 

 それはともかくとして、今回の対面はちょっとばかり威圧的なものだった。

 何故?と思っていたら、こんな一言が。

 

 

「君は何処に所属していたゴッドイーターかね?」と。

 

 

 

 はい?って普通に聞き返した。

 俺はゴッドイーターじゃないんですが(ハンターなんですが)と返したら、すっとぼけようとしたと思われたらしく、支部長が朗々と語り始めた。(現実に存在する人間の話し方に、こんな表現を使う事になるとは!)

 

 曰く、先日の健康診断の結果、俺の中にPナンタラ因子が発見された。

 そして因子を持つのは須らくゴッドイーター。

 つまり俺はゴッドイーターだ。

 

 いや、言いたい事は分からんでもないよ?

 実際、Pナンタラ因子を投入されるのはゴッドイーターになってアラガミと戦う人間だけだそうだ。

 ついでに言うと、ゴッドイーターの数や名前は厳しく管理されているらしい。

 何せ、因子の投入に耐え切れば、貧弱君だってアラガミと戦える肉体を手に入れられる。

 リスクはデカイが、それを超えればちょっとしたスーパーマンの出来上がりだ。

 それが好き勝手に暴れだせば、そりゃーヒドい事になるだろう。

 事実、昔(と言うほど昔でもなさそうだが)そう言った事例はあったらしい…そのゴッドイーターはアラガミに『死体』を食われたそうだが。

 

 それはともかく、逆を言えばPナンタラ因子を投入されるには、何処か設備の整った場所でゴッドイーターになるしかない。

 闇医者を頼ろうが非合法な手段に訴えようが、まず他に方法は無い。

 そして俺の体には因子がある。

 つまり俺はゴッドイーターだ、と。

 

 

 何で?

 ほわーい?

 

 確かに俺は適合試験を受けたよ?

 でもその後デスワープしたからには、適合に失敗して………待て、そういや体がパワーアップしたのってあの時からだったよな。

 適合には失敗して、デスワープして……その後に適合成功した!?

 

 いや、まさか…でもそう考えると辻褄が合う。

 突然のパワーアップも、その後の突然のデスワープも。

 

 考えてみれば、デスワープ前には共通して、眩暈と、何より空腹を覚えていた。

 あれは多分、アラガミ化しかけていた為だ。

 因子の侵食を抑える為には、理屈はよー分からんが腕輪と、そこから注射される薬物…というか因子が必要だった筈。

 

 とにかくアラガミ化を抑える腕輪は必須だ。

 畜生、これが原因だったのか!

 パワーアップの代償に、とんでもないリスクが付きまとってるじゃないか。

 何せこの因子があるのはこの世界だけ。

 なんたってアラガミから発見された代物なんだから。

 

 実にクソッタレな話だ。

 つまりゴッドイーターとして活動し、その間に因子を山ほど溜め込んでおかないと、どの世界でもタイムリミットが設けられてしまうって事じゃないか。

 

 あの時安易にゴッドイーターになろうとした自分をブッ殺してやりたいもんだが、殺したところで俺の場合はデスワープするだけだ。

 ともあれ、デスワープしてしまった前回と違い、今回は最初から偏食因子に適合している。

 ストーリークリアを目指して、ゴッドイーターになってもいいだろう。

 

 身元不明な点には、目を瞑ってもらうしかないが…。

 

 

 

 

 

 と思っていたら、「問題はそこではない」って?

 何と、俺の因子は明らかに、対新型神機用に調節された、特別の因子だったようなのです!

 ……ちょっと、それ俺聞いてない。

 確かに新型の神機で適合試験するとは聞いたけど、普通の因子じゃなかったの?

 と言うか普通の因子とどう違うの?

 

 

 ともあれ、新型の神機の事は機密事項だったそうな。

 従って、それに対応する為の因子も当然機密に属する。

 そして新型神機を使える者は極数人で、それらの所在は全て判明している。

 ちなみにこの極東にはまだ一人も居ない。

 

 なら、俺は何故その因子を持っているのか?

 

 

 

 

 そりゃ、上手く行ってりゃ俺が極東初の新型神機の使い手になってましたからね、主人公の立ち居地的に。

 アンタラに投与されたからですよ。

 

 なーんて言っても世迷言以外の何者でもないよ。

 これはアレか、伝説のシチュエーション、「何処かの非合法研究所でモルモットにされていたが、ブッ潰して出てきた」を使うべきなのか。

 そんだけの武力があるなら、全部潰さず証拠に一人くらい掻っ攫っとけと思った事があるが、この場合の証拠って何がある?

 ぶっちゃけ証拠って言っても偽造になる訳だが。

 

 と言うか、この世界のご時勢で人の目が届かない謎の研究所とか、それこそアラガミに嗅ぎ付けられて全滅するのがオチなんですが。

 いや、だからこそモルモットでぶっ潰したシチュエーションが使えるのか?

 研究施設がアラガミに襲われたんで逃げ出してきた、と。

 

 よし、この路線で行こう。

 駄目だったとしてもデスワープするだけだ。

 今はまだ、この世界で惜しむ物は特に無い。

 

 

 

 

神無月費日

 

 

 結論から言うと受け入れられた。

 信じている様子は全く無かったが。

 

 ともあれ、不本意な流れを辿りはしたが、これで俺もハンターかつゴッドイーターである。

 次の世界でモノノフになれる事を願う。

 三足の草鞋か…。

 三つ目の草鞋を三つ目の足に付けるのか。

 サイズが問題だな。

 

 それはともかく、やはり俺の能力自体は他のゴッドイーターと一線を画しているらしい。

 だからと言って、楽観する気にはなれないけどな。

 モンハン世界で人体の非力さと偉大さをよーく学んだ身としては。

 

 新型神機の扱いにはちょっと戸惑ったが、面倒なら使い慣れない銃形態を使わなければいいだけの事。

 いや、使うと使わないとでは効率がダンチなんで、ちゃんと練習してるけどね…実戦で。

 

 と言う訳で、何だかんだの内に、何となく原作ストーリーの流れに乗ったようだ。

 ちゃんとしたゴッドイーターとして活動するなら、チュートリアルを受けさせてくれと頼んだ甲斐があった。

 モルモットにされてたから、実戦経験とか無いんですー……少なくともアラガミ相手はね。

 

 いや訂正、結構あったわ。

 最初のアラガミの群れから逃げるのもバトルには違いない。

 

 

 ともかく、俺は新入りゴッドイーターとして扱われる事になった。

 そして、同時期にゴッドイーターになった男と一緒にチュートリアルもとい訓練を受ける事になった訳だが。

 

「ガム食べる?…あ、切れてた」

 

 これでピンと来た。

 こいつ、藤木コウタだ。

 (死亡)フラグをナチュラルに立て、何の疑問もなく普通に(死亡)フラグをクラッシュしながら、(彼女)フラグに恵まれず、遂にはゴッドイーター2にまで生き残った猛者じゃないか。

 

 ん? という事は、初の原作キャラか!

 テンションが……男じゃ上がらんなー。

 横乳さんか下乳さんならウナギ上りだったろうに。

 と言うか冷静に考えれば、初の原作キャラは支部長と博士じゃないか。

 

 などと、思っていたから超不意打ちだった。

 雨宮ツバキ教官。

 

 …改めて見ると、スゴイ格好してますなー。

 何という谷間、何という露出度!

 そしてそのズボンは何ですか!?

 横が見えてる上に、それサイズ合ってるんですか?と言いたくなる程にウェストの位置が低い。

 もうちょっと低ければ、『ケ』が見えちゃうんじゃないかと思わず妄想してしまうくらいに。

 下着を通り越して一気にケは無いだろう、と思われるかもしれないが、素肌が見えてる横腰には下着らしい布は確認できなかった。

 …これで本当に履いてなかったら痴女認定待ったなし。

 

 どう考えても年齢は三じ…もとい熟女の領域に入っていると言うのに、見て分かる程にお肌がスベスベです。

 人によってはイタイ判定だすかもしれないが、俺としてはご褒美です。

 

 写メできなかったのが残念で仕方ない。

 いいオ○ネタになっただろうに。

 

 そんな猥談を、同じく真っ赤にして目を逸らしていたコウタと話していた。

 水商売のオネーサンが相手とは言え、経験がある素振りを見せたら「アニキ」と呼ばれそうになった。

 

 

 

 

 

神無月陽日

 

 

 俺は一兵卒というか、普通のゴッドイーターとして扱われる事になったようだ。

 普通に狩りをして、普通に飯食って寝る。

 チュートリアルは昨日で一通り終わっているので、後は実戦あるのみだ。

 

 最近の一日の流れとしては、こんなカンジだ。

 

 朝起きる。ジャイアントトウモロコシを食う。

 体を軽く動かす。

 そのまま神狩り行こうぜ!

 戻ってきたら神機を動かす練習。

 コウタと会えば、最近の成果について話したり、バガラリーとやらについて語られたり。

 夜になったら宛がわれた部屋に戻り、鬼祓の練習。

 そしてハンター式熟睡方法で寝る。

 

 

 いたって普通に生活しているつもりなんだが、最近「何者だあの新人」的な視線をよく向けられる。

 一体何だと言うのだ。

 そりゃ普通のゴッドイーターより体力あるし身体能力も高いが、やってる任務はまだ小物…オウガテイルとかコクーンメイデンの討伐くらいだぞ。

 初任務に同伴無しで出かけた事については、メチャ説教喰らったが。

 神機を上手く変形させられずに戸惑っていたら、ザイゴートから集団リンチ喰らったが。

 そして2分くらい仮眠(ハンター式)を取って全快したが。

 

 ストーリー的にも、まだリンドウさんやサクヤさんにも会ってない。

 モンハン世界で学んだ俺はコツコツ堅実派になったのだ。

 横乳様にお目にかかりたいからと言って、キークエストだけ受けるような無謀な真似はしない。

 

 一体俺が何をしたと言うのだ。

 

 

 

神無月妃日

 

 雨宮教官から、直々に「休め」の命令が出た。

 一体なんぞ?と思ったら、訓練に熱心なのはいいが、休むのも訓練の内だと。

 そりゃ分かりますけど、俺そんなに無理してませんよ?

 

 と言ったら、鉄拳貰った。

 そして俺の生活態度について延々と説教を喰らった。

 何が悪かったって、昨日も一日の流れを書いたけど、こんな風に悪かった。

 

 

 朝起きる。(日が昇る前に起きる)

 ジャイアントトウモロコシを食う。(2キロを2分で平らげる)

 体を軽く動かす。(日が昇る頃にランニングを始め、8時頃まで走り、その後2時間ほど素振り)

 そのまま神狩り行こうぜ!(シャワーを浴びたら休みもせずに出撃、昼頃には帰還。ケガをしていても医務室にすら行かないのに、何故か無傷になっている)

 戻ってきたら神機を動かす練習。(帰還後、やっぱり休みもせずに各種訓練を延々と繰り返す)

 コウタと会えば、最近の成果について話したり、バガラリーとやらについて語られたり。(猥談を誰かに聞かれていたっぽい)

 夜になったら宛がわれた部屋に戻り、鬼祓の練習。(草木も眠る丑三つ時まで)

 そしてハンター式熟睡方法で寝る。(睡眠時間が平均で約2時間)

 

 この生活を、かれこれ2週間程毎日続けていた訳だ。

 …俺としては特に負担を感じてなかったから気がつかなかったが、確かにデスマーチ認定されても仕方ない。

 と言うかこれで負担を感じないって、改めて俺の生態がヤバい。

 俺としては作業っしょと言わんばかりにこなしていたんだが。

 そりゃ周囲の皆さんから、得体の知れない生物を見る視線も貰うわ。

 

 多分、ハンター能力+ゴッドイーター能力+鬼祓による体内の陰鬱とした気の浄化とか、その辺の相乗効果だろう。

 うむ、実に過剰に健康だ。

 

 

神無月秘日

 

   

 休みを取ったら、やるコトが無い…。

 ぬぅ、俺っていつからこんな仕事人間になったんだろうか。

 ヒマなのと金が無いの、どっちか一つだけならまだ耐えられんでもないが、両方は無理だ。

 ゴッドイーターの給料、月末にならないと出ないんだよな。

 出たってまだ研修生みたいな扱いだから、そんな大した額は貰えそうにないが。

 

 となると、どうやって下半身を処理しよう。

 モンハン世界では、ルーキーであってもそれなりに稼いでたからオネーチャンのところに行くのも大した苦労は無かったんだが。

 自分で処理するしかないのかなぁ。

 うーん、ちょっと虚しい。

 

 それはともかくとして、ツバキさん(訓練時以外は名前呼びでいいと許可を貰った)が部屋まで様子を見に来てくれた。

 何でも、俺みたいに休み時間を削って訓練を続ける奴は前例があったらしく、そいつは無理に休みを取らせると情緒不安定になったんだそうだ。

 俺も同様に、アラガミに対するトラウマやら何やらを忘れる為に、無理して訓練を続けている…と思われたらしい。

 

 素で違う、疲労的にもまるで問題は無いと知られた時、ツバキさんにも「何者だコイツ」的な視線を向けられたが。

 なんか気まずくなったので、支部長達にも話した「非合法の研究所で」云々を、そーいう設定だから納得してくれと話した。

 いや、本当に「そういう設定だから」って言ったんだよ?

 話し始める前にも、「これデッチ上げだから」って言っといたんだよ?

 話の内容だって、ちょっと注意深く聞けばすぐデタラメだって分かるように、色々な矛盾を突っ込んでおいたんだよ?

 

 でも信じられてしまった。

 どうなってんの。

 

 俺の異常な身体能力やら耐久力やらを鑑みるに、話通りではないにせよ近い境遇にあると思われたらしい。

 が、そこで慰めなんて選択肢をしないのがツバキさん…慰められても困るけどさ。

 「激励の必要があるなら発破をかけてやろうかと思ったが、お前は本当に気にしてないようだしな」とオットコマエに笑っておりました。

 

 

 とにかく、俺が本当に平気だと言うのはご理解いただけた。

 が、やっぱり休みは取らなければならないらしい。

 他のゴッドイーター達に不審に思われる事もあるし、「人件費が洒落にならないから」。

 

 …研修生の間は、ゴッドイーターの給料は時給制だったらしい。

 ほぼ丸一日訓練してれば、そりゃ時給もエラい事になるよ。

 と言うか、勝手に自主訓練してても給料が出るとかマジですか。

 普通、雇用側が定めた時間帯内でしか給料貰えないと思うんだがなぁ…。

 

 あと俺の部屋にツバキさんの残り香が漂ってて素で理性がヤバいんですが。

 帰り際に見えたヒップラインが実に悩ましかった。

 

 トイレ行って来る。

 

 

 

神無月否日

 

 

 休みは取ったので、堂々と狩り&訓練できるな!なんて思ってたら、やっぱり「何者だコイツ」的視線は減らなかった。

 

 と言うか、ストーリーをすっ飛ばして何故かソーマと組まされた。

 別に問題ないけどね、最近の任務は他のゴッドイーター達との顔合わせ的な意味が強いみたいだし、次の任務ではまた別の人と組んでもらうって言われてるし。

 ちなみに順序をすっ飛ばしてソーマに会った為か、「エリック上田」とは遭遇しなかった。

 ちょっと残念。

 

 それはそれとして、ソーマ君割と面倒くさい。

 とにかくコミュニケーション能力が低い、と言うか無い。

 確か偏食因子を投入されて産まれてきて、他の人と色々違うんだっけ?

 壁を作るのは勝手なんだが、それを狩りの場まで持ち込まないでくだしぁ。

 

 掛け声しようよ頼むから!

 スタングレネードとか使う時、普通合図出すでしょ!?

 回復柱とか設置したら、ホールドトラップ設置したら、知らせあおうよ!

 別に仲良くして軽口叩けって言ってる訳じゃないんだからさぁ!

 

 コイツ、本当にシオを任せて大丈夫なんだろうか…。

 

 

 

 それはともかくとして、リンクバーストについてちょっと記しておく。

 これの維持時間って一人一人違ったっけ?

 アラガミを捕食してリンクバーストレベル1になったんだけど、妙に長く続いたような気がする。

 同時に捕食したソーマより長かったんだが…確か、ソーマってリンクバースト時間が普通の人より長くなかったっけ?

 ゲーム内で実際に検証した訳じゃないが、ストーリーでそう言われる一幕があったような気がする。

 

 それはともかく、アレはイイな、リンクバースト。

 力が溢れてくる。

 劇的に戦闘力が違ってくるっていうのもよく分かる。

 何というか体全体が活性化しているし…気分はちょっとした界王券だ。

 リンクバーストの光を赤くできないかな、とソーマに言って見たらガン無視されたが。

 

 ただでさえ強くなるリンクバーストが、俺の場合ハンター身体能力とゴッドイーター身体能力の相乗効果でエラい事になる訳だ。

 制御にしくじって、建物に人型の穴を開けるくらいにな!

 八つ当たりにコンゴウをバスターソードで思いっきり斬りつけたら、チャージクラッシュでもないのに一撃で顔面が壊滅状態になってしまった。

 

 ソーマが目を丸くして、「まさか…」とか何かブツブツ言ってたんだが、何事だろうか?

 

 

 

神無月避日

 

 今日はリンドウさんとの初任務でした。

 勿論名台詞いただきました。

 

「死ぬな」

「死にそうになったら逃げろ」

「そんで隠れろ」

「運が良ければ不意をついてぶっ殺せ」  

 

 四つです、はこっちからツッコミ入れてみた。

 ちょっと優越感。

 

 それはともかく、俺と支部長との関係(これで支部長が女なら妄想のネタになるのに!)について、ちょっと探りを入れられました。

 特に腹を探られて痛いことも無いので、素直に「在野で見出されて、そのままゴッドイーターにされました」とだけ言っておいた。

 そういやあの人、支部長の計画を探ってるんだよな。

 …いっそ暴露してみるか?

 いや、それはまた今度でいいだろう。

 こういう選択肢を気軽に取れるのは、デスワープの有り難い所だ。

 

 

 それはそれとして、流石というか何というか。

 NPCだと今ひとつパッとした感じのしなかったリンドウさんですが、リアルだと強い強い。

 ステ改変されてる俺よりも素早いし、一体倒すのにも僅かな時間しかかけてない。

 と言っても相手はオウガテイルだけだったけど。

 単純に、判断力とか動き方の効率で、遥か先を行かれているんだろう。

 これは是非とも学びたい所だ。

 

 

 

神無月毘日

 

 今度はサクヤさんと初任務でした。

 テンション上がりすぎて、出動前に強引に鎮めましたよ…ふぅ。

 賢者モードでなければ、立ってるから立つに立てなくなった自信があるね。

 

 流石はゴッドイーターの横乳担当、どことなく上品な言動も合間って、スゴい破壊力でした。

 が、俺の目が惹きつけられたのは、実を言うと横乳ではなかったりする。

 では何処か?

 サクヤさんはいっそ見事な程に露出度が高い。

 ヘソだってモロ出ししてるし、スリットは深すぎてナマおみ足がチラチラ見えるし、強い風が吹いた時なんか思わず(見え…なかったッ!)と心の中で絶叫してしまいそうになるし、、服は体の前面を隠して紐を首の辺りで括って支えているだけ。

 

 ここで重要なのは最後の一つ。

 そう、服で隠しているのは『前だけ』なのだッ!

 そしてッ、俺はその『背中』に惹きつけられたッ!!

 胸でも、尻でも、脇でも、うなじでもなく、『背中』だッ!

 

 無駄な筋肉なんか全然ついてない、実にスラッとした背筋でございました。

 思わず舌を這わせたくなってくる。

 イカンイカン、この人、リンドウさんの彼女。

 寝取り寝取られの趣味は無いし、セクハラは日記の中だけにしないと。

 

 

 

 そういや任務中にデカいネコを見かけたような気がするが、オラクルバレットで目玉に集中砲火してさっさと逃げたから問題ないよね。

 サクヤさんでテンション上がりすぎてよく覚えてない。

 

 

 

 

 




最近テレビが突然暗くなります。
別チャンネルにしても暗いままなので、どうやらバックライトの故障な様子。
買い替えを考えよう…と思っていたら、今日はいい調子。
どうなってるんだろう?


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第7話

 

 

神無月疲日

 

 昨日はサクヤさんにヒジョーに失礼な文章を書いてしまったので、今日はちょっと真面目に。

 …でもあんな格好をしてるのも悪いと思うんだ…。

 

 それはともかく、そろそろ俺のGE世界での戦い方も確立できてきた。

 一言で言えば『奇襲』、これに尽きる。

 各種スペックが上がっているとは言え、元はどんくさくて警戒心の足りなかった俺の事。

 真っ向勝負ではいつドジを踏むか分かったものじゃない。

 なので、事前に討伐対象・近くに現れる可能性が高いアラガミの情報を集め、それに有効な武器を作る為の素材集めの狩りに奔走し、そして地理を頭に叩き込む。

 勿論、バレットエディットも活用している。

 必死に記憶を掘り起こして、所謂内臓破壊弾とか脳天直撃弾を再現しようとしています。

 

 実戦では、相手に気付かれないように近付いてチャージクラッシュ(相手によっては銃の乱射やショートブレード等の集中攻撃)、強力な一撃を叩き込んでから離脱。

 逃げ切れないならスタングレネードやホールドトラップを使い、行動不能になった相手をメッタ切りにしてまた逃げる。

 要するに、相手に何もさせない。

 ゲームでゴッドイーターをやっていた頃、アクションゲームがヘタッピだった俺がソロパーフェクトを取る為に考え抜いた結果の戦法だ。

 アレに比べれば、アイテムを使ってもいいし、仲間を連れて行ってもいいし、ダメージを受けても(痛いけど)いいのだから、ナンボか難易度は低い。

 獣道だって、無理をすれば通れない事はないしね。

 

 こういう奇襲ばかりでカタをつけていると、予想外の乱入とかに対処できなくなりそうだ。

 それに、GE世界のアラガミに比べて、モンハン世界のモンスターはタフなんだよなぁ。

 なんというか、アラガミは一定条件の攻撃(つまり同じアラガミやゴッドイーターによる攻撃)しか受け付けないけど比較的脆くて、モンハン世界はどんな攻撃でも通じはするけど生命力がハンパないって感じ。

 あまりGE世界の奇襲に慣れないようにしないと。

 

 

 

神無月匪日

 

 この世界の盾、ムッチャスゲェ。

 モンハン世界では使いづらかった盾だが、こっちの盾はハンパネェわ。

 どうやら構造からして全く違うらしい。

 まぁ、剣⇒銃⇒盾と3段変形する時点で、モンハン世界の盾とはまるで違うとよく分かるが。

 

 取り回しやすい盾だと、モンハン世界ではモンスターの攻撃を盾で受け止める事すら難しかった。

 攻撃の軌跡に、先んじて腕に付けられるくらいの大きさの盾を割り込ませないといけないからね。

 上手くそれに成功しても、衝撃は逃がせない。

 裂傷を避けられても、衝撃でやられるのがよくあるパターンだった。

 

 が、こっちの盾は違う。

 どうやら、発達した物理学に基づいて衝撃を受け流すような構造になっているらしい。

 盾…俺が使っているのはバックラーな訳だが、これの内部にはバネやら何やら、なんか小難しい名前の技術が使われていて、軽量・変形可能・そして衝撃を吸収する、トンでも盾になっているらしい。

 技術者のリッカさんが、得意げに語ってくれた。

 うむ、頬にオイルがついたままのドヤ顔カワイイです。

 

 

 そもそも、神機の剣や銃は充分に使い込まれているのに、何故か敵の攻撃を肩代わりする筈の盾だけまるで使用の形跡が無かった為、不審に思ったリッカさんに問い詰められたのが始まりだった。

 そこでモンハン世界で得た教訓を元に、「盾は使いづらい」説を披露。

 が、上記のように論破された上、ツバキ教官まで呼ばれてしまった。

 

 「教導の間に、盾に関しても教えたが?」と冷たい目で見られました。

 ゾクゾクしましたが、あれは性的なゾクゾクじゃなくて鬼教官に対するゾクゾクだな…。

 もんのスゴい罵声を浴びせられながら、再訓練を受けた。

 

 

 うーむ、この技術、モンハン世界に持っていけないかな。

 盾のサンプルと設計図があれば、モンハン世界の盾も使いやすくなるだろうに。

 …でも他の連中は、特に不便とか言ってなかったっけなぁ…やっぱり使い方に問題があるんだろうか?

 今度デスワープして訓練所に戻ったら、盾の扱いについて集中して講義を受けて見るか。

 

 

 この際だから、神機についても書いておく。 

 ゲームでの設定の神機がどうだったかは覚えてないが、何というかグロい。

 クック先生を初めてナマで見た時の印象に通じるような、なんか生物的なグロテスクさがある。

 捕食形態なんか、その極みだ。

 もしもハンターとしての経験がなかったら、戦闘中でも思わず手放していたかもしれない。

 

 それはともかくとして、神機。

 基本的にゴッドイーターは、自分に合った神機を選択して、一つに絞って強化していくらしい。

 特化型が強いのはお決まりのパターンだ。

 

 が、そこはそれ。

 俺の場合は死んだって大したペナルティは無いのだから、色々試してみる事ができる。

 という訳で、ゲーム同様、刀身部分を色々付け替えていたのだが…これがまた予想外。

 

 

 なんと、神機に刀身や銃、そして盾を『食わせて』いるのだ。

 手に持つ部分がまずあって、そこからなんか黒々と言うかグログロとした、生物だか機械だかよく分からない部分があって。

 そこに刀身の刃のない部分…刀で言えばナカゴ(漢字忘れた)の部分…を近づけると、グワッと食いつく訳だよ。

 そしたら、その状態で動かなくなる。

 この得体の知れない部分が、顎の力だけで刀身を固定しているのだ。

 しかも、アラガミを思いっきり斬りつけてもビクともしないレベルで。

 同様のやり方で、銃や盾も固定される。

 

 

 うん、訳が分からない。

 顎の力というのは、人体で一番強い力なのだと聞いた事はあるがなぁ…。

 ちなみに、一度食いつかせると、離させるには特別な薬品が必要らしい。

 

 これに使われている偏食因子の加工は比較的簡単なので、理論上、大抵の物は食いつかせられるのだが、それもアラガミ関連の物でないと、大抵の場合は神機に食い尽くされてしまうらしい。

 少なくとも、ナカゴの部分は神機に対抗できる素材にする必要がある訳だ。

 

 

 

 

 うーん、これ、他の世界の武器を食わせたらどうなるかな。

 アラガミ関連の素材じゃないと食われる、のが理論上の結論な訳だが…討鬼伝の素材はどうだ?

 説明に『この世のものではありえない』と書かれた素材が幾つもあったし、ひょっとしたらオカルトパワーでアラガミ細胞の力を無効化できるんじゃないだろうか。

 モンハン世界にはその手の神秘はありそうにないが、逆にアラガミ細胞程度に食われるとは思えないバケモノがゾロゾロ犇いている。

 

 試してみる価値はあるな…。

 

 

 

 

 

神無月ひ日

 

 

 とりあえず、手元にあったモンハン世界の武器で試して見ようとして…リッカさんに超絡まれた。

 むぅ、ちっぱいでも絡まれるといいカンジ。

 いいニオイよりもオイルのニオイの方が強かったが、この子はそっちの方が萌える。

 

 それはともかくとして、武器防具交換の為の薬品だって無限じゃないのだ。

 基本的に装備を変えない奴ばかりとは言え、そうそう在庫は無い。

 と言うより、そういう連中ばかりなので、あまりストックしていないのだそうだ。

 

 そもそも、ゴッドイーター達は装備の交換を自分でやる事が少ない。

 結構工学的な知識が要るし、繰り返しになるが装備を変えないスタンスがメインだからだ。

 そこで敢えて自分でやろうとしている俺に、興味を持ったらしい。

 

 何とか誤魔化そうとしたが、無駄だった。

 何をしようとしているのか教えろ、じゃないと薬品は渡さない。

 と言うかむしろ横流しに相当するから、どっちにしろ渡せない。

 でも私を巻き込んで興味を沸かせれば、実験の一環として付き合おう。

 

 大体そんな感じの会話だった。

 うーむ、反論できん。

 人間相手の策謀だの議論だのは、全然やった事なかったなぁ。

 口先三寸じゃ、そこらのょぅι゛ょにも負けるんじゃなかろうか。

 

 

 オウガテイルが相手なら、幼生から死掛けまで、挑発の鳴き声で激昂させられるようになったんだが。

 近いうちにコンゴウも出来そうな気がする。

 …そういや、これ披露したあたりから「何者だコイツ」みたいな顔向けられるようになった気が……。

 生き物の声真似はハンター必須技能だぞ?

 誘き寄せから誤魔化しまで幅広く使える便利な業だ。

 

 

 

 とにかく、相手が上司だろうとなんだろうと口外しない事を条件に、モンハン装備を見せてみた。

 ……あの時のリッカの狂乱は、あまり思い出したくない。

 リッカでこれだから、前の世界でのペイラー博士の反応はもっとスゴかったんだろうなぁ…。

 あの糸目を真ん丸にして、錯乱のあまり踊りだしたら面白いのに。

 

 

 で、リッカさんに偶然手元にあった素材の一部(主にダイミョウザザミの素材)をボッたくられたが、取り敢えず実験開始。

 神機と言えど、一度食いつかせてから、食いつかせたナカゴを侵食するには少々時間がかかるらしい。

 流石に実験中の神機で任務に出る気にはならないし、訓練尽くめで無闇に溜まってしまった休暇を消費するか。

 

 またツバキさんにムチャをしていると思われるのもなんだしね。

 

 

 

 

 

 

 あと、ょぅι゛ょと書く時にι(イオタ)の読み方を即思い出せる自分って一体どうなのだろう。

 この時代のエリナに会って、リンクバースト(下半身)したら俺はどうすればいいのだろうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 濃縮バレット射出?

 流石にそこまで壊れてねぇよ。

 

 

 

 

神無月匪日

 

 

 明日まで休暇。

 

 リッカさんから実験の途中経過を教えてもらった。

 やはり普通の素材を神機に食いつかせても、徐々に食われるだけのようだ。

 その間だけなら普通に使えない事も無いが。

 

 なので、もしも別世界の武具を神機に食わせる場合、加工してゴッドイーター世界の素材で出来たナカゴと一体化させる必要があるようだ。

 しかしそれをやった所で、アラガミに通じるだろうか?

 アラガミの体を傷付けられるのは、アラガミ細胞を供えた物質だけだ。

 それも加工でどうにかなるのか?

 

 渡した素材を使って、リッカさんが何かイイ空気吸いながら実験しまくってるようだが…榊博士に気付かれないようにしてくれよ、頼むから。

 

 

 

 

 ところで、ツバキさんがまた様子を見に来てくれた。

 特に疲労の問題は無いと分かってもらえてるんだが…と思ってたら、訓練所に連れて行かれて盾の使い方を一からチェックされました。

 ヒマだったからいいけどね、鬼教官モードにもいい加減慣れてきた。

 

 で、実はツバキさんも休みの日だったらしく、ついでだから一緒にメシ食ってきました。

 色々と面白い話が聞けた。

 リンドウさんとサクヤさんの過去エピソードとか…………サクヤさんのあの格好は、どーもツバキさんから影響を受けたっぽいとか。

 この世界の露出癖は感染でもすんのだろーか?

 

 この際だから、ちゃんと下着履いてるのか聞いてみようかと思ったんだが……うん、普通に考えてセクハラだし自殺行為だから止めといた。

 リッカさんと興味深い実験もやってる事だし、まだデスワープはしたくない。

 

 

 

 

 

神食月苛日

 

 

 次の月に変わった。

 ゴッドイーターでも月末月初って忙しいんだね。

 普段意識してなかったけど、フェンリルって元々は企業なんだよな。

 そりゃ棚卸しもするわ。

 ゴッドイーターの殆どがこの作業に借り出され、アラガミの対処に遅れが出るとかいう笑えない笑い話もあるくらいだ。

 ちなみにソーマ辺りは、忙しい時期になるとコッソリ出撃して色々な作業から逃れているとか。

 おのれ、次からは俺もそうしよう。

 

 あー、面倒臭かった。

 酒飲みたい。

 でもこの世界の酒、あんまり美味くないんだよなぁ…。

 モンハン世界のホピ酒が懐かしい。

 討鬼伝世界じゃ日本酒があったけど、一応病人かつ居候扱いなので呑めなかった。

 

 

 

 にしても、企業が世界の盟主状態とか何処のアーマードコアだっつの。

 ……ネクストがあればアラガミも楽に倒せるかなぁ…でもアラガミ細胞無いだろうしなぁ。

 

 

 

 

 よし、リッカさんが別世界の素材で何か作れるようになったら、とっつきを作ってもらおう。

 構造と言うか理屈自体は簡単…杭を火薬とかで突き出して勢いよく打ち込むだけ…だから、出来ない事はないだろう。

 もしバスターソード扱いになるのであれば、チャージクラッシュ×パイルバンカー×ハイドアタックで通常の20倍(多分)パワーという素敵コンボが出来上がる。

 将来的にはこれにブラッドアーツも乗せたいところだ。

 

 ACだと遠距離武器に散々梃子摺らされる武器だが、生憎こっちでは相手はアラガミだし、複数人で行けば相手に接近するのは決して難しくない。

 

 これをゴッドイーター達が揃って使っている所を想像すると……うん、なんかツマラン。

 とっつきはスーパーウルトラハイリスクで、リターンはハイであるくらいが面白い。

 接近しやすくなって扱いやすくなっちゃったらロマン武器じゃない。

 

 

 

 

神食月袈日

 

 リッカさんにパイルバンカーの事を説明してみたら、物凄い勢いで食いつかれた。

 でも今は素材の実験で一杯一杯らしい。

 二兎追うものは一兎をも得ずの精神を忘れてはならない。

 

 なら榊博士に持っていくかなー、と考えていたら、別の整備班の人が作らせてほしいと名乗り出てきた。

 …ああ、この人アレだな、ってすぐ思ったよ。

 技術バカってーか、よくあるマッドと言うか。

 突き抜けてるタイプじゃないけど、自分の興味のままに只管突撃していく人種だ。

 一目で分かる。

 だって目の輝きが尋常じゃなかったもの。

 

 

 こんな人種に、ロマン武器の開発なんか任せたらどうなる事か。

 いや、ロマン武器じゃなくなっちゃいそうなんだが、なんかこうカッコイイのは変わらないし。

 ……いや待てよ、ああいう人だからこそ、接近が用意になってしまったとっつきを、ロマン武器として実現してくれるかもしれない。

 近付きやすくなった代わりに、とんでもない別のリスクが発生するとか。

 

 よし、明日会ったら、火力はトンデモないけどとにかく扱い辛い武器にしてくれと頼んでおこう。

 

 

 

神食月蚊日

 

 

 さて、休暇も終わったので任務である。

 コウタがコンゴウを初討伐しに行くので、それに付き添ってきた。

 俺はとっくに討伐しているので特に緊張も何もなかったが、コウタがえらく緊張していた。

 何でも、出てくる前にツバキさんから発破をかけられたらしい。

 

 つまり、これでしくじったらツバキさんの鬼教官指導を一から受ける事になる、と。

 ……ま、確かにキツいよな…。

 

 こんなメンタル状態で大丈夫か?と思っていたが、妙なところでリラックスしてしまったようだ。

 俺が「ツバキさん」と呼んでいるのを聞いて、ビックリ仰天されてしまった。

 本人から許可を貰って呼んでいる事を教えたら二度ビックリ。

 メシまで一緒に食った事を知って、バガラリーからビックリマンにジョブチェンジしそうな勢いだった。

 危うく「アニキ」から「オヤッさん」に敬称が変化するところだった…いやアニキも呼ばせてないけど。

 

 まー確かに、普段は教官と言うか指揮官としての顔しか見せない人だしね。

 

 

 

 で、今回はコウタがメインだから、補助に抑えようとしたんだけど…意外と難しいのな。

 と言うか、俺って問答無用で相手を無力化するやり方ばっかりしてきたから、動き回る相手を抑え込むのが苦手らしい。

 うーむ、こんな所で弊害が出るとは。

 

 コウタの動きは、結構慣れたものだった。

 あれならコンゴウも、一人で討伐は難しいにしても、それなりに動ける前衛が居れば普通に勝てるだろう。

 流石は死亡フラグを歯牙にもかけない男である。

 …でも戦いの前に妹とか家族の話をするのは止めなさい。

 

 

 

神食月可日

 

 

 リッカさんから実験の結果と、例の整備員からパイルバンカーの設計図が出来た事を伝えられた。

 …えらい早いな。

 

 とりあえず、渡したダイミョウザザミの素材は無駄にはならなかったようだ。

 その堅さと軽さに注目した結果、武器よりも盾にした方がいいと結論した。

 「君は盾を軽視しすぎなんだから、これくらいでいいんだよ!」と言われたが…まぁいい。

 それに、武器にしようとすると素材が少し足りそうになかったそうだ。

 

 

 でも実際スゴいよコレ。

 重さは普通のシールド並みなのに、大きさはタワーシールド級。

 モンハン世界の盾と違って、内部に衝撃軽減の為のクッション機能も加えられている為、上手に防御できたら殆どダメージを喰らわずにすむ。

 惜しむらくは、元の素材が素材なだけに火やら熱やらが苦手って事かな。

 これは是非とも、次の世界にも持っていきたい。

 

 それからパイルバンカーについてだが、徹夜しながら昼寝して(整備はサボらない)書き上げた突貫工事の代物だった。

 細かい部分はこれから計算しなおして手直しするんです、と言っていたが、それにしたってエラい早いな。

 

 で、注文どおり、火力トンデモ、扱い厄介な武器に仕上げてくれそうだった。

 何でも、これを神機に付ける場合、クリアしないといけない点が2つあるそうで。

 

①パイルバンカーの反動に耐えられる神機の構造と人体

②杭を打ち出す為に、銃撃に使うオラクルを使わなければいけない。

 つまり銃の変わりに取り付ける為、遠距離攻撃ができなくなる。

 

 

 …なるほど、こりゃ扱いが厄介になりそうだ。

 火力の変わりに銃が使えなくなって、嫌でも接近戦をしなければならないとは。

 実に素晴らしいな!

 

 設計図をコピーさせてもらえないか?と聞いたのだが、人に渡すのは恥ずかしいそうだ。

 出来上がったら、誰にも見せない事を条件にコピーをくれるって。

 

 

 

 

神食月下日

 

 シユウを適当に狩る日々を過ごしていたら、ロシアから新人が来ると話を聞いた。

 特にストーリーを進めた覚えはないんだが……まぁゲームの中じゃないんだし、俺が何もしなくても時期になれば来るかな。

 誰から聞いたって、また一緒にメシ食ってたツバキさんからだよ。

 ちょくちょくメシ食ったり情報交換したりしてます。

 

 …リンドウさんから「頼むぜ」って言われたの、ひょっとしてこの事か?

 お互い特にそういう意識はなかったと思うんだが…むぅ、ちょっと期待してしまうじゃないか。

 

 それはともかく、アリサか…最初はえらくツンツンしていた記憶がある。

 ……よし、面倒だからリンドウさんに押し付けてしまえ。

 所属的にもあの人が現リーダーなんだから。

 

 

 

 

神食月歌日

 

 朝起きて運動(ラジオ体操)してジャイアントトウモロコシ食って牛乳飲んで運動(出撃)してジャイアントトウモロコシ食って牛乳飲んで運動(訓練)してジャイアントトウモロコシ食って牛乳飲んで鬼祓の訓練してシャワー浴びて寝る日々。

 …こう書くと、ちょっとだけ閣下になった気分になれるな。

 

 こうしちゃ居られない。行くぞコウタ、出撃だ!

 

 …毎日出撃に付き合わせていたら、コウタがミッション中にバガラリーの台詞と思しき言葉を、イッちゃった目で口走るようになってきた。

 どうかしたのだろうか?

 ミッションだって、いつも通りに罠やらスタングレネードやら不意打ちやらで、相手に殆ど行動させずに速攻で倒し続けたから、そんなに負担になってないと思うんだが。

 短ければ一戦が2~3分で終わる事もあったし。

 そう言う場合、「もう一戦いけるな!」と言って日に4~5回出撃していたのがまずかったか?

 そういや、「一気に終わるって言ったって、ちょっとでもしくじったらお終いなミッションばっかりじゃないかー!」って言われた事もあったな。

 

 何か悪い事した気がしてきた。

 でも、あの程度でしくじったらお終いってなぁ…。

 ルーキーにはそう思えたんだろうか?

 そう言えば、俺も最初の頃はちょっとした事で動揺して死にまくってたし……うん、感覚のズレがある事を認識した。

 どれくらいズレてるのかはよく分からないけど。

 

 

 

 それはともかく、明日はゴッドイーターの下乳・ストッキング担当が到着するらしい。

 今の内に鎮めておこう。

 ツバキさんの尻と谷間を思い出しながら、トイレ行ってきます。

 

 

 




せっきゃくぎょうにはさんれんきゅうとかじごくです。


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第8話

 

神食月貨日

 

 リアルのツンデレはウザいだけです。

 特にツンしかない初期の頃は。

 しかし最初からデレを見せていればそれは単なるチョロインである。

 

 うーん、鎮める必要なかったかな?

 いや美人だしカワイイし露出度高いし、男として嬉しい相手ではあるんだ。

 でもツンケンした雰囲気で全部台無しです。

 デレたところを想像すると破壊力高いけど、想像は想像でしかないんだよね、今のところは。

 

 

 細かい会話やストーリーなんか覚えてないけど、特筆するところは無かったんじゃないかなぁ。

 妙に厳しいと言うかライバル心満載な目を向けられるのも、コウタがドン引きされるのも。

 

 とにもかくにも、明日から暫くはリンドウさんやアリサ達と共同任務だ。

 

 「という訳で、今までのように好き勝手に、日に5回も6回も出撃できなくなるからな」

 

 マヂですかツバキさン!?

 じゃあその時間を訓練に当てます。

 

 …ここで引くようでは閣下にはなれんな。

 いや、引いたように見せかけて偽造……いっそ偽造せずに秘密で出撃…。

 

 隣でアリサが「これは極東支部の冗談なんだろうか?つまらない」みたいな顔をしていた。

 やはり俺の出撃回数は間違っているらしい。

 

 

 

 

 

 

 そういえば、結局今までエリック上田とは遭遇しなかったなぁ。

 アナグラ内でも見かけないし。

 …という事は上田してしまったのか、それとも前田か後田か下田か…下根田ではないと思うが。

 すまないエリックさん。

 恨むなら巡り会わせを恨んでくれ。

 

 

 

神食月価日

 

 

 アリサと初任務。

 うーん、ツンケンしてるし、やたらと張り合おうとしてくるんだけど、ソーマよりはやりやすい…かな?

 だって誘導しやすいし。

 スタングレネードとか使う時、一応合図出してくれるからね。

 

 動物の形をした雲を探せ、というのもやっていたようだ。

 

 

 

 

 

 やっている間に、俺一人でターゲットを半殺しにしてしまったが。

 すまないリンドウさん、手加減って苦手なんだ。

 だって奇襲して即ブッコロが俺のパターンだし。

 適当に痛めつけて、後は二人が来るまで逃げ回ってました。

 

 アリサには微妙な顔をされてしまった。

 ドン引かれているのだろうか。

 リンドウさんが俺を指差しつつ何か話していたが、内容は聞こえなかった。

 

 

 そのままアナグラに戻って、いつも通りにトレーニングに精を出していた。

 最近はこの光景もアナグラの人達は見慣れてきて、何時の間にやら訓練場の主扱いされてしまっている。

 色々と動きを試したり、只管素振りしたりを続けていたんだが、ふと気がつけばなんかアリサが呆れた顔で見ていた。

 

「いつもこんな事をしているんですか?」

 

 と聞かれたので、いつもはまた出撃してる時間だから、こんなに長くやってないと答えた。

 まぁ、出撃終わってからまたトレーニングする訳ですが。

 

「…ひょっとして、一日に5回も6回も出撃するって…」

 

 事実です、と答えたらドン引きされた。

 フラフラと後ろに下がって、扉が閉まった。

 開いてみたらもう居なかった…見回すと、尚も後ろ退りで進んで角を曲がるアリサが見えた。

 それ程か。

 

 

 

 

 

神無月卦日

 

 アリサ達と共同任務に励む事数日。

 一日に一回しか出撃しないから(そして速攻で終わらせるから)暇を持て余す今日この頃。

 そのヒマは殆ど訓練で潰す訳ですが。

 

 リッカさんから聞いたのだが、一日に何度も出撃していた為か、俺の取ってきた資材が倉庫を圧迫しているらしい。

 まだ立場上、中型以下の素材しかないが、それでも多すぎる為に問題になりかけているとか。

 流石にそれはオーバーだと思うんだけどなぁ…。

 余りすぎた素材は、実験にでも何でも好きに使ってくれ、と言ったら抱きしめられた。

 役得役得。

 

 それはともかく、俺には裏技がある。

 そう、私物入れの袋という裏技が。

 モンハン世界で手に入れた武器防具も、ダイミョウザザミの素材も、何故か入ってしまうドラクエの『ふくろ』めいたこの私物入れ。

 予想通りというか、アラガミの素材も余裕で入りました。

 

 と言うか、考えて見れば幾つか入れておくべきだったな。

 別の世界の技術で、アラガミ細胞をどうにかできないか、何らかの形で利用できないか試してみるべきだろう。

 幸い、個人に支給されたアラガミの素材はどう扱おうと自由である。

 流石に横流ししたりすると罰せられるが、袋に入れておくだけなら問題ない。

 横流しするとしたら、別の世界に移動してからだ。

 

 

 この袋にはあんまり頼りたくないが、今更だしな。

 

 

 

 

神食月Ka日

 

 思えばGE世界に妙に長く滞在しているものだ。

 それだけ長く生き延びているという事だが。

 アラガミ化を防ぐ薬品も、それなりに溜まってきた。

 しかし世界移動後にどれだけ保つ事やら…。

 エライリスクを背負ってしまったものだ。

 

 それはそれとして、最近のアリサはあまりつっかかって来なくなった。

 どうやら俺の言う事に反発しても、単に誘導されるだけだと気付いたようだ。

 いや、別に俺が言葉巧みって訳ではなくて、俺の指示の反対の行動をするという読みやすいライバル心の成せる技な訳だが。

 あとオウガテイルの声真似でシユウを誘き寄せた時の、「この人本当はアラガミなんじゃないですか」「言うな、俺達も最近疑問を捨てられないんだ」という会話はしっかり聞こえていたからな。

 

 それはそれとして、そろそろパイルバンカーの設計図が出来てくれないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

凶星月鼓日

 

 

 油断した。

 昨日の「妙に長く滞在しているものだ」がフラグだったか?

 と言うかイベントが…。

 

 今回のデスワープの原因だが、ちょっと話の筋を大幅に乱してしまった結果と言いますか。

 アレだ、ミッション名は忘れたけど、リンドウさんがMIAになるあの場面だ。

 

 俺が受けたミッションが片付いた後、あっちこっちからヴァジュラの鳴き声が聞こえてきてた時点で、「あれ?」とは思ったんだ。

 そんでもってリンドウさんとアリサに遭遇した時点で「ああ、やっぱりあのシーンか」とは思ったんだ。

 ……でも正直な話、あのシーンの詳細なんか覚えてない。

 どこをどういう流れでアリサが錯乱して、リンドウさんが黒爺猫とやり合う事になったのかも覚えてない。

 

 

 だから、ヴァジュラどころかプリ…プリ……プリティー・ヴィマーラ?に囲まれるとか超予想外でした。

 いや、流石にアレはどうにもなんねーよ……スタングレネード沢山持ってきてたから、逃げに徹すれば何とかなったかもしれない。

 よく考えれば、モンハン世界から持ってきた閃光玉やらトラップだってあった。

 が、正直俺はかなり動揺してしまっていた。

 以前から危惧していたが、奇襲だけで敵を片付けまくっていたので、こう言った突発的事態に弱くなっていたらしい。

 これは鍛えなおしだな…。

 

 で、何だかんだの内にアリサが錯乱してドカンした訳だが。

 

 

 

 

 

 リンドウさんを庇ってしまいました。

 

 

 

 「あ、そう言えばこの後、リンドウさん死んでまうやん!」とか脳内で方便を使っていたら、アリサがなんか叫んだので、こらアカンと思って咄嗟に立ち位置交代。

 そしてドカン。

 吹っ飛ばされて、何故か同時に建物の崩落が……落っこちてくる瓦礫が視界一杯になって。

 俺の意識はこの辺で途絶えている。

 ま、普通に死んだろうな。

 仮に運良く瓦礫の下敷きになってなかったとしても、気絶しているところをヴァジュラか黒爺猫に食われてジ・エンド。

 そんなトコだろう。

 あそこはリンドウさんを庇うより、アリサを誤射(故意)するべき場面だったな。

 

 うーん、不覚……何が不覚って、ようやく完成しそうだったパイルバンカー設計図を持って来れなかった事だよ!

 あの後皆がどうなったかより、そっちの方が気になってしまう。

 デスワープを繰り返しているからか、それとも生来こういう性格だったのか、どちらにせよ人として不出来である。

 

 

 さて、死んでしまったものは仕方ない。(生きてるけど)

 今回の討鬼伝世界では、解毒薬とかは殆ど無いけどイーオス装備が袋の中にある。

 コレを使って、さっさと異界を脱出するとしよう。

 

 さて、前回同様瘴気の弱いところを進んでいくつもりだが、どうなる事か…。

 

 

 

 

 

 

凶星月湖日

 

 今のところ、上手い事進んでいるっぽい。

 あまり強い瘴気に晒される事も無く、大型の鬼も見かけない。

 …しかし、瘴気の強い弱いは体感でしか判断できないんだよなぁ。

 時には瘴気に晒されている間に道が変わって戻るに戻れなくなる事もあるし。

 

 鬼祓も頻繁に行っているので、瘴気はあまり体には溜まっていないと思う。

 今回は鬼を食ったりしてないし。

 とは言え、予想外のタイミングでデスワープしたから、備えがあまり無いのも事実。

 モンハン世界からGE世界に飛んだ時だって、予兆に全く気付かなかった…というか矢鱈と腹が減ってたから、こんがり肉はもう全部食べてしまっていた。

 今手元にある食材は、GE世界で支給されたジャイアントトウモロコシくらいだ。

 味気ない。

 

 

 

凶星月孤日

 

 ふと思ったのだが、討鬼伝世界はどの時代なんだろう?

 時代と言うか、ストーリー上の進展状況の事だけど、

 

 瘴気の渦が酷いところでは、地理が変わる所か別の時代にすっ飛んでしまう事もあった筈。

 今回も異界から無事出られたとして、前回と同じ年代に出るのか?

 と言うか前回マホロバの里に出た時は、いつの年代だったのか?

 うーん、記憶に無い。

 

 もしもこの異界を抜けた時、別々の年代に出る事もあるとすれば……どうするべきだろうな?

 ストーリークリアを考えるのであれば、同じ時代に出た方がいいだろう。

 そこからどうやってモノノフになって、ウタカタの里に行くかは…まぁ、後で考えるとして。

 

 別の時代に飛んだ場合は…飛んだ先次第か。

 何十年も前だとしたら、根回しをしておく事は出来るかもしれないが、それまで現役で居られるかどうか。

 膝に矢を受けてしまいそうな気がヒシヒシとする。

 

 まぁ、とりあえずこれに関して考えるのは止めておこう。

 仮に別の時代に出るのだとしても、任意にコントロールできる見込みは無い。

 そもそも、瘴気が酷い所は避けて通っているのだから、上手く進めば前回と同じ年代に出られる…と思おう。

 

 人里に出たらとにかく情報収集かな。

 

 

 

凶星月古日

 

 何とか異界を抜けた。

 が、前回と違って人の足跡とかが見当たらない。

 …どうやら、人里とは遠いところに出てしまったようだ。

 

 が、それで挫けるようではハンター(兼ゴッドイーター)ではない。

 異界の中は鬼やら瘴気やらが渦巻いていて危険極まりなかったが、ここから先は単なる自然だ。

 ハンターのサバイバル技術を持ってすれば屁でもない。

 まぁ、流石にこの辺の動植物を全て知っている訳ではないから、ある程度はニオイとかカンで危険な物を感知する必要はあるが。

 

 となると問題は、ここからどうやって人里を探すか、だ。

 討鬼伝世界では、モノノフ達が守っている地域の外は殆ど異界に沈んでいるらしい。

 つまり、ここは里と里の間のどこかと考えられる。

 東は異界だったから、真っ直ぐ西に進むか。

 

 

 

凶星月児日

 

 川を見つけた。

 川辺に人が集まるっていうのはお約束だよな。

 

 川を一通り調べてみたが、瘴気で淀んでいる事も無く、何より人が使ったと思しき道具が川上から流れてきた。

 早速川を遡ってみる事にする。

 …川上から流れてきたって、カワカミンとか流入しそうで怖いな。 

 

 

 あと熊が出た。

 勿論速攻で逃げたが、考えてみれば惜しい事をしたかもしれない。

 昔ならいざ知らず、ハンターにとって熊とは割りと弱い相手だ。

 具体的に言うとアオアシラとか…流石に上位なら話は違うが。

 武器だって持っているのだし、仕留めて生肉にしてやった方がよかったかもしれない。

 

 

 …いや、ここは逆に考えよう。

 自然の殆どが異界に沈んだこの世界、単なるクマでも絶滅に瀕しているのだと。

 つまり俺は天然記念物を食料にせずに済んだのだ。

 

 また見かけたら食料にするけどな。

 

 

凶星月戸日

 

 

 日が落ちたので焚き火を起こして休んでいたら、遠くの山の中腹に灯りが見えた。

 山を上らなければ辿りつけそうにないが、どうやらあそこに人里があるらしい。

 

 今回も何とか生きて人里に辿りつけそうだ。

 どんな里だろうか?

 マホロバの里は物凄く親切な里だったけど、全部の里にあんな余裕があるとは思えない。

 閉鎖的な里だってあるだろうし、口減らしが必要な里もあるかもしれない。

 

 門前払いの可能性も考えておくべきか?

 ここから見える灯りの数を見る限り、そう大きな里でも裕福な所でも無さそうだ。

 

 何か取引材料になる物があるといいのだが…。

 労働力になる、とかは考えない方が良さそうだ。

 マホロバの里では病人扱いされていたが、そうでもなければ働くのは当然の事。

 それ以上の何かが必要だ。

 

 熊を狩ってそれを渡す?

 これもアウト。

 一夜の宿を借りる程度なら問題ないだろうが、永住するとなると熊肉<俺が居る事による消耗の図式が出来上がる。

 

 

 うーん…回復薬とか回復錠を渡す?

 アホみたいに効果があって即効性があるけど、初見で信じられるような代物じゃないし、副作用を疑われるのは間違いない。

 回復錠に至っては、多分ゴッドイーターでないと効果が無い。

 何かオラクル細胞か何かを投与する事で、体を活性化させて回復させるとか、そんな感じの代物だった筈だ。

 

 

 

 …いや、これならいけるかも。

 もう異界に沈んだ実家に伝わっていた、秘伝の薬…という設定の解毒薬。

 これが異界の瘴気にも効果があるのは自分の体で実証済みだし、モンハン世界に行けばそんなに貴重な物でもない。

 これのお蔭で異界から抜けてこられた、と言えば、結構説得力も出るだろう。

 

 

 最終手段として、瘴気を防ぐ装備を渡す事も考えたが…これは止めておいた方がいい、多分。

 そうそう切りたい手札ではない。

 物が物だけに、逆に警戒を呼びそうだ。

 

 対策としてはこんな所か。

 さて、後は実際に里に行ってからだな。

 

 

 

 

凶星月虎日

 

 予想通りというか、あまり歓迎はされなかった。

 しかし門前払いにされる程非情でもなかったらしく、解毒薬等は渡さずに済んだ。

 あまり好意的な目で見られている訳ではないし、ここに住むのはいいが働いてもらう、とも通告された。

 ま、当然の事かな。

 

 閉鎖的な里のようだ。 

 この里は、キカヌキの里と言うらしい。

 暮らしに余裕があるようには見えなかったし、モノノフと思われる人達も影を感じさせた。

 …多分、誰かが殉職したのだろう。

 モンハン世界で、何度かああいう顔を見た事がある。

 

 

 …そこへ来た余所者、か。

 何となく予想はつくが……俺の仕事は、モノノフとして働け、とか?

 生き残るなら素質あり、そうでなければ元通り。

 

 ……寂れた里って、こんなカンジなのかねぇ。

 それだけ余裕が無いって事なんだろうが……。

 

 

 

 

凶星月炬日

 

 流石にモノノフになれってのは見当違いだったらしい。

 その分、重労働を任されている。

 

 モノノフになれとは言わないのか、と聞いてみたところ、なってもいいが労働のノルマは軽減されないとの事。

 考えてみりゃ、一朝一夕でモノノフになれる筈なかったね。

 捨石にするにしても、まともに動けない一般人(と思われている)では肉盾にもならない。

 

 さて、どうしたもんか。

 マホロバの里と違い、この里は良くも悪くも俺に無関心のようだ。

 余所者なんだし、求められた作業をこなしているなら何も言わないって所か。

 

 労働のノルマはハンターボディを持ってしても少々キツい物があるが、逆に言えばそれまでだ。

 余力は残るし、気力は……まぁ、自分で言うのもなんだが、GE世界で取り憑かれたように(この世界だと洒落にならん)狩りとトレーニングを繰り返していた俺が、この程度で力尽きる筈も無い。

 と言うか、俺はどうしてあんなに延々と出撃しまくっていたんだろうか…。

 

 とにかく、モノノフとしての技術を学ぶのに、障害らしい障害は無い。

 鬼祓だけしかできないってのも何だし、一丁学んでみるとしよう。

 英雄の魂を宿せたらいいね。

 デスワープした先にも付いて来てくれたら、相談相手もできるだろう。

 

 でも、俺につく英雄って誰だろうか。

 ちょっと想像もできんなぁ…。

 

 

 

凶星月股日

 

 モノノフに教えを請うてみたが、あまり乗り気ではないようだ。

 戦力が増えたほうがいいのでは?と言って見たが、「付け焼刃の素人なんぞ邪魔になるだけだ」とけんもほろろに返された。

 ま、実際その通りだと思うけどね。

 それでも尋常ではない鍛え方をしているのは気がついていたようで、体力にだけは太鼓判を貰った。

 

 そのほか、鬼祓に必要な神仏に関する知識を多く持っている事をアピール。

 そっち方面のマニアだったと主張した。

 

 その他、異界を歩いている間に拾った異界漂流物(結構高値で売れる)を渡したりして、何とか説得。

 自力で鬼祓を会得できたら、モノノフとしての鍛え方を教えてやる、と確約させました。

 

 フハハハ、普通に考えればアレを自力で会得するのはまず不可能だが!

 生憎俺はとっくに会得済みなのだよ!

 不可能だと思って難題を出したつもりだろうが、どうだ、アテが外れてガッカリしたか先輩。(COBRA調に)

 

 とは言え、流石に初日から再現するのは怪しまれる。

 一ヶ月…いや一週間くらいの間を空けよう。

 それでも充分早すぎるとは思うが、チャンスを逃したくない。

 アラガミ化を抑える為の薬剤も、何か月分もある訳ではない。

 タイムリミットは限られている。

 

 本当に、厄介な性質を抱え込んでしまったものだ。

 3つの世界でストーリーを全部クリアするには、どれだけアラガミ化抑制因子が必要になるのやら。

 何かしら、別の手段を考えた方がいいだろうが……ゴッドイーターの仕組みは、殆ど知らない。

 次にGE世界に行った時、サカキ博士に相談してみるか。

 偶にはループの事を人に話してみるのもアリだろうし。

 

 

 

凶星月壷日

 

 一週間程で、鬼祓を見せてみた。

 モノノフさんは目を丸くしていた。

 とにかく、これで約束通りモノノフとして鍛えてもらえる。

 「それだけ才能があるなら、自分でやった方がいいんじゃないか?」と言われたが、無理な物は無理だ。

 事に、モノノフの武芸は神仏から力を借りる為の祝詞の役割もあるので、勝手気ままな型で剣を振るう訳にはいかない。

 どの構えがどの祝詞に相当するか、ちゃんと教えてもらわないと、全く鍛錬にならないのだ。

 

 さて、肉体面での強化は省かれる。

 ここまで鍛えこんでいるのは、モノノフでもそうそう居ないとの事。

 まぁ、ハンターな上にゴッドイーター要素で強化されてますから。

 

 となると、後は武芸の訓練と、タマフリ…宿した英雄から力を借りる為の訓練な訳だが、生憎俺にはまだ英雄なんぞ付いていない。

 そもそもどうやって訓練するのだろうか?

 英雄の力を借りなければ鬼と戦う事は難しく、鬼を倒さなければ英雄は宿らない…つまりその為の訓練もできない。

 難儀な話である。

 

 まぁ、餓鬼とかその辺をウロウロしている雑魚の鬼くらいなら、英雄の力が無くても勝てる事は勝てる。

 実際狩って勝って食ったし。

 でもそれで英雄のミタマに当たる確立はどれくらいやら。

 考えただけでも気が遠くなる。

 

 とにかく、明日からはモノノフさん…堅悟さんと言うらしい…との訓練だ。

 早めに身に着けないと今後に関わるし、今日は早いところ寝よう。

 

 

 

凶星月糊日

 

 堅悟さんと訓練中。

 筋は悪くないらしい。

 が、一流どころになるのは恐らく無理、だそうだ。

 ま、GE世界でもモンハン世界でも、武器を選ばずやってきましたからね。

 何処ぞのガングロマッチョでフィギュアとかも投影できそうなの弓兵のように、使い手にはなれても担い手にはなれそうにない、と。

 

 それはともかく、今日は武芸の基礎の他、ミタマについて教わった。

 ゲーム同様、6つのスタイルがあり、それぞれ使える力が違う…と言うより、恐らくミタマにスタイルがあるのではなく、モノノフの力の引き出し方に6つの型があるのだろう。

 この辺は堅悟さんの考察も含むが……英雄・偉人として伝えられているミタマ達だが、「え、この人がこんな力持ってるの?」と思うような部分も多い。

 

 例えば…清少納言。

 平安時代の女性作家で、枕草子を書いた人…だったと思う。 

 討鬼伝で言えば、『世に興味の種は尽きまじ』の人だ。

 ゲームでは治癒強化によって散々お世話になった方だから覚えていたが、よくよく考えると清少納言に治癒能力とか、何処にその要素がある?

 創作関係の力を引き出せるならともかく、清少納言が医者のような働きをしたとは、聞いた事が無い。

 ひょっとしたら生前に、誰かの看病くらいはした事があるかもしれないが、医者と言うには弱すぎる。

 

 彼女から治癒の力を引き出せるのは、恐らくモノノフの力の引き出し方…というより使い方の問題なんだろう。

 要するに、ミタマは単純にエネルギーゲインとしての性質が強く、それを引き出して形にするのがモノノフの術だ。

 だから無理をすれば、スタイルが防のミタマでも攻の力を使う事はできる…この辺はゲームとは違うところだな。

 

 でもあくまで無理をすれば、だ。

 自分にもミタマにもどんな影響が出るか分からない。

 あまりやりたい手段ではないな。

 

 ちなみに、堅悟さんのスタイルは防だった。

 名前からして堅そうだもんな。 

 

 

 

 




辛い一日が終わった…。

チキショー、人が足りねーよ!
接客云々の精神論技術論より、人手が重要だと思う今日この頃。


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第9話

今回は外伝、、GE世界の人達の視点です。
…リッカさんの視点も入れたかった…。


 

 

雨宮ツバキ月視点日

 

 

 今日、シックザール支部長から新人を直で任された。

 確かに新人の教育も私の仕事だが、支部長から直と言うのは初めてだな。

 しかも新型に適応した新人か…。

 どうにも色々と『ワケ有り』の新人のようだが、そんな事は関係ない。

 どんな事情があろうと、ゴッドイーターになったからには、戦えるようにしなければならない。

 

 とは言え、全く何も知らされないというのも面白くない。

 シックザール支部長については、弟のリンドウも何やら探りを入れているようだし、気にかけておいた方がいいだろう。

 奴が何を探っているのかは知らないが、自己責任ではある……それで切り捨てられる程、私も非情にはなってないつもりだ。

 

 

 さて、肝心の新人だが……何者だコイツは?

 肉体の鍛え方に関しては私以上だ。

 確かにゴッドイーターになる事で、肉体面では色々と強化される。

 元の肉体が強ければ、その強化具合が跳ね上がるのも事実だ。

 それにしたってコイツは異常すぎる。

 

 だが、それに反して神機の扱いは一般人レベル。

 ただ只管に鍛えただけの男だとでも?

 分からん奴だ。

 とは言え、大きなアドバンテージである事には違いない。

 後は慢心しないよう、性根を徹底的に正しておかんとな。

 こういう輩は、それくらいで丁度いい。

 

 そう言えば、私の神機を使う事になった、藤木コウタも同時に教育しなければならんな。

 面倒だし、私の神機を持って無様な真似をされるのも癪だ。

 二人まとめて、特別コースで鍛えておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練自体は上々……すぎる。

 元の能力が高い分、実戦投入も早くなった。

 …というより、たった一日で特別コースのノルマをクリアされるとは思わなかった。

 どうなっているんだ、アイツの体は。

 これでは性根の鍛え直しが出来んが、ノルマをクリアされた以上、手元においておく事はできない。

 それが出来る程、戦力が足りてないのだ。

 

 警戒の仕方や戦いの基本的な考え方は叩き込んだが、どれ程保つか…。

 せめて任務に同伴する人間を選んでおくか。

 

 それと、藤木コウタの訓練度合いは普通と言っていい。

 元が一般人であったのだから、上出来な方か。

 知人の伝手で入手した、海兵隊式罵り手帳(新兵訓練編)も試してみたが…ふむ、悪くないな。

 初日から目のハイライトが消える程度には効果的だ。

 今後も活用していくとしよう。

 

 

 

 

 奴が卒業してから数日。

 ゴッドイーター達の週報を確認していると、奴の名が出てきた。

 どうやら、初戦は無事に達成できたらしい。

 だが問題なのはこれからだ。

 一緒に行ったゴッドイーターが、教育をしてくれるといいのだが…と思っていたら。

 

 

 

 

 ちょっと待て、何故初任務からたった一人で出撃している。

 

 

 

 

 私は大森タツミが同伴するよう手配しておいたぞ。

 ……初任務が訓練が終わった当日!?

 なるほど間に合わん筈だ。

 

 

 …ではない、オペレーターは止めなかったのか!?

 無事だったからまだ良かったものの、これは厳罰物だ。

 オペレーターも、この大馬鹿者もだ。

 やはり一日では性根を叩きなおせなかったか。

 私もまだまだ甘い。

 ……特別コース等と生易しい事は言わん。

 激辛コースの準備をしておこう。

 ただの激辛ではない、かつてこの辺りがまだ無事だった頃に行き付けだった泰山のマーボー豆腐(通常外道マーボー)並みの辛さだ。

 

 今度はノルマを達成しても逃げられんぞ。

 新人への教育ではなく、開いた時間を使っての訓練だからな。

 

 

 さて、奴は今何処だ。

 ……出撃中?

 チッ、間の悪い…。

 

 …何?

 本日『3度目』の出撃中?

 

 

 

 嫌な予感がしたので、改めて週報に目を通す。

 

 訓練が終わった初日に出撃。

 それ以降も大森タツミと組むまで、単身出撃を繰り返す。

 二日目には二度出撃するようになり、三日目には三度出撃するようになり、この一週間で非公式な物を含めれば最高7度出撃した。

 

 大森タツミからの評価は良い。

 攻撃・防御を確実にこなし、敵を分断して対処する。

 新人とは思えないくらいだが、先走りする気があるのが難点。

 

 

 ……あの大馬鹿者、大森タツミには黙って出撃していたな?

 恐らく、大森タツミは初回に同伴した時だけの評価だ。

 

 色々と言いたい事はあるが、何故こうも出撃ばかりしている?

 あの動きからして、ゴッドイーターとしての訓練を受けた事はなかっただろう。

 つまり戦いに慣れていない筈なのだ……いや、それにしては妙に貫禄があったが。

 

 どんなに浮かれた馬鹿者であってもアラガミと直に対峙すれば、命の危険を感じ取る。

 被捕食者であった頃の本能が刺激されていると言われているが、そのプレッシャーは小型のアラガミであっても相当なものだ。

 新人が平然と、しかも一人で耐えられるような代物ではない。

 

 基本的に、ゴッドイーターの出撃は一日に一度だ。

 そうでもなければ、ベテランであっても神経が保たないからだ。

 こういう奴は…今までにも居たな。

 こんなご時勢だ。

 アラガミに対する復讐心で動く者も、或いはトラウマを抱えてそれを紛らわせようとする者も、捨て鉢になっている者も珍しくない。

 そういう奴は、無理に休ませると逆に不安定になっていたものだが…。

 

 

 こういう時は逆に考えるのだ。

 不安定になってしまってもいいではないか、任務中ではないのだから。

 そして何よりも、不安定になっているのなら、徹底的に躾けて安定させればいい、と。

 どっちにしろ激辛コースは確定しているのだ。

 徹底的にやらせてもらおう。

 

 とにかく、まずは休みを取らせないと話にならん。

 今日の夜に直接命令しに行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 全く平気だと主張する大馬鹿者に拳を叩きつける事、合計4度。

 ここまで懲りない奴も珍しい。

 そもそも疲労と言うのは、本人の自覚無しに溜まっていくものだ。

 体感できる疲れよりも、そちらの方がよほど恐ろしい。

 

 そもそもからして、コイツの睡眠時間は短すぎる。

 充分な休息を得ずに、集中力を発揮する事などできはしない。

 

 そもそもそうでなくても、許可を得ずに出撃する事は明確な規定違反だ。

 無理矢理休ませる事にした。

 

 

 一日休みを取らせて、激辛コースをたらふく叩き込んでやる為に、奴の部屋へ向かう。

 訓練に入る前に、少しばかり話をする必要がある。

 奴がどんな精神状態になっているか見極めておかないと、生かさず殺さずのラインが維持できないからな。

 

 更に、自分にどれ程疲労が溜まっているのか明確に分からせる為、メディカルチェックも受けさせたのだが……何故平常値しか出ないんだ?

 医学的に考えて、平常でいられる筈が無い。 

 精神的にも肉体的にも、たった2週間とは言え疲労は溜まっている筈だ。

 だと言うのに、何故に不調どころか体力気力共に漲っている状態と判断されるのだ?

 診断を担当したペイラー博士が突然ヤブになったか、それとも機械の誤作動かと思ったが…………前者は意外とありそうな気がするな…。

 

 

 メンタルチェックの為、幾つか話題を振ったのだが……とんでもない爆弾が出てきた。

 非合法の研究所でのモルモット…か。

 成程、ありえない話ではない。

 ゴッドイーターという技術が生まれた頃は、そういった例が幾つもあったと聞く。

 私の知る限り、その全てはアラガミを制御しきれず内側から崩壊したらしいが、人間と言うのはそれで懲りるようには出来ていない。

 まだしぶとく活動を続ける研究所があってもおかしくないし、新しく発足する研究所もあるだろう。

 

 何も、全てを話しているとは思っていない。

 話した内容にも矛盾が幾つもあったし、デッチ上げだと本人も言っている。

 が、そういった背景があるのであれば、コイツの阿呆みたいに高い身体能力にも説明はつく。

 研究所やモルモット云々はともかくとして、体を弄られた事があるのは確かだろう。

 

 普通なら、精神を病んでもおかしくないのだろうが……コイツは本当に気にしていないようだ。

 そういう風に精神にも細工をされたのか、それとも生来の気質なのか…。

 良くも悪くも、この男はこの状態で安定してしまっている。

 例えマインドコントロールを受けているのだとしても、ヘタにそれを解けばどうなるか分からない。

 

 これには迂闊に手が出せん。

 もう暫く観察し、見極める必要がある。

 観察している事に気付かれないよう、納得したフリはしておく。

 

 だがどっちにしろ休みは定期的に取るように。

 疲労を貯めないに越した事はないし、周囲のゴッドイーターに妙な影響を与えかねない。

 自主訓練中でも給料が出るので、人件費がヤバイと嘘を吹き込んでおいた。

 

 

 

 

 部屋から出る時、尻を凝視されているのを感じたが………ふむ、私もまだまだイケるらしいな。

 指揮官としての私はともかく、雨宮ツバキ個人としては悪い気はしない。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の任務では、ソーマ・シックザールと組むように手配した。

 私も詳しい所までは知らないが、ソーマに生まれつき『何か』があるのは、殆どの人間が薄々気付いている。

 それ故に孤立し、自身でもそうしようとしていたが…同じような境遇(と思われる)の大馬鹿者と行動させれば、多少の改善は望めるかもしれん。

 

 その次は愚弟と組ませる。

 愚弟には、大馬鹿者の様子を観察しておくように厳命した。

 シックザール支部長と何らかの協力関係にあるのでは?という疑念もあったが、それ以上に精神的に大丈夫なのかが問題だ。

 

 愚弟からの報告では、特に問題は無い。

 向上心はあるが強すぎるものではないし、大馬鹿者なりに自分のペースと言う奴を守ってやっているようだ。

 …うーむ、マインドコントロールではなく、素であの性格なような気がしてきた。

 

 

 続いてサクヤと組ませる。

 …帰ってきたら即、自分の部屋に突撃していた。

 あの切羽詰った顔付きと、少し走りづらそうなのは………………ふっ、若いな。

 

 

 などと考えていたら、ヴァジュラと遭遇した挙句に、目を潰して逃げてきたという報告。

 ひっくり返るかと思った。

 

 

 

 

 

 その後も、暫く観察を続けた。

 精神的なことに関する心配は、既にあまり持っていなかったが、この大馬鹿者には別種の心配をせねばならない。

 他のゴッドイーター達から、奴の奇行の報告がぞくぞくと上がってくる。

 

 

「回復錠を使った後、謎のポーズをとっていた」

「コンゴウを一撃で部位崩壊させた」

「アラガミが破棄された建物に逃げ込んだら、何処からか取り出した爆薬で建物ごと粉砕した」

「どんなケガを負っても、5分くらい休んだら殆ど治っている」

「リンクバーストの時間がやたら長い。しかもスピードがつき過ぎて、壁に人型の穴を開けた」

「整備士を相手に盾使いづらい説を語り、あっさり論破されていた」

「休みは取るようになったが、相変わらず日に4回は出撃している」

「オウガテイルを鳴き真似で挑発した挙句、マジ泣きさせて退散させた」

 

 

 もはやワケが分からんな…。

 と言うか、盾は生命線だからあれ程訓練させたと言うのに(一日だけだったが)。

 やはり躾けが必要か。

 そうでなくとも、ノルマを達成したとは言え、たった一日で充分な訓練が出来る筈がない。

 暫く盾の使い方を叩き込んでやるとしよう。

 あの大馬鹿者は任務が終わった後にも延々と訓練しているし、休めさせる意味でも、食事くらいは一緒にしてみるか。

 …普通、上司が一緒の席だと尚更休まらないだろうが、アレにそんな神経は無い。

 

 

 

 

 

 暫くそうしていたら、愚弟から「やっと身を固める気になったか」と言われた。

 阿呆が。

 

 お互いそういう気は無かったと思うし、仮にあったとしても、私は指揮官だ。

 一ゴッドイーターと過剰に近付く訳にはいかん。

 ………頻繁に一緒に食事をしている時点で、今更のような気がしてきたな。

 

 それに、何時ぞや尻を見られていた事を思い出す。

 ……………む、むずがゆいな…。

 こんな感覚は、当の昔に捨て去ったつもりだったが……人間の機能として当然のものではあるし、そうそう捨てられるものでもないか。

 寝苦しい夜(意味深)が増えそうだ。

 

 

 

 

 

 

オマケ月他の人の視点日

 

 

ソーマ・シックザール

 

 いきなり名指しでコンビを組まされた。

 1~2日だけの事だし、名前を覚える必要もねぇだろう。

 

 しかし、何だって俺と新人を組ませる?

 しかも、奴が在野で見出してゴッドイーターにしたらしいが…まさか、コイツも奴の息がかかっているのか?

 …気にいらねぇ。

 

 

 動き自体は特筆するような事はなかった。

 新人にしちゃ筋はいいと思うが、それだけだ。

 あっちも俺にどうこう言う気はないようだったし、気楽と言えば気楽なものだ。

 …死なない程度にフォローくらいはしてやるかと思っていたが、それも不要。

 

 だが、俺には一つ気になる事があった。

 奴のリンクバースト、あれは何だ?

 強化パーツを使っている訳でもないのに俺よりも長く続き、しかもあの破壊力。

 チャージクラッシュでもないのに、一撃でコンゴウの顔面を粉砕した。

 …勢い余って壁にぶつかってたのは、どうでもいい。

 

 …まさか、コイツも俺と同じバケモノか?

 クソッタレ共が、俺という前例を見て同じモノを作ろうとしてもおかしくはない。

 ……ムナクソ悪い話だ。

 という事は、俺とコイツを組ませたのも、『同類』だから、か。

 

 余計な世話だ。

 ……少し探りを入れるか?

 もしもコイツが俺と同類だったら………俺はどうする。

 

 

 

 

竹田ヒバリ

 

 ええその、何ていうか苦手な人です…。

 いえ、悪い人ではないんです。

 私が何かされた訳でもありませんし。

 

 ただその、止められないというか、恐れ多くて止めちゃいけない気がするというか…。

 彼と初めて話したのは、ミッションの受付の時です。

 雨宮指揮官が、新しく入った人の教導を終えたと聞いていたので、多分翌日くらいに誰かと一緒に出撃するんだろう、と思っていたんです。

 

 でも、まさかの当日出撃。

 しかも先輩方の誰も一緒じゃないって……。

 

 勿論止めました。

 初めての出撃なんですよ、そもそも何処に行けばいいのか分からないんじゃないですか?

 いくら教導が終わっても、ちゃんと戦えるようになるまで危険な真似をしちゃいけません。

 

 他にも色々、言葉を尽くして止めましたとも。

 ミッションだって、私が受諾しないと受けた事にはならないんですから。

 …だから、私さえ頷かなければ、単身出撃で初ミッションなんて、ムチャな事にはならないと……そう思っていました。

 

 

 

 

 

 何故に出撃しているのですか!?

 しかもログを見ると、確かに受付した記録がありますし!

 私、記憶にないんですけど!?

 と言うか、説得している途中から記憶が飛んでいるのですが!

 監視カメラに残った映像を見てみると、暫く抵抗した後に確かに受付しています。

 でもやっぱり記憶にありません。

 意味不明です。

 

 …後日、雨宮指揮官からお叱りをいただきました。

 当然の事ではあるんですが、何故か理不尽な気がします。

 

 

 それ以降も、同じような事が続きました。

 ムチャをするなと説得しても、気がついたらミッションを受理してしまっています。

 例外はタツミさんと一緒に出撃した一回だけ…これは純粋に私が止めなかったからですね。

 

 一人での出撃も難なくこなしていたので、そこは目を瞑るとしても。

 日に二度も三度も出撃を繰り替えすようになり、その受付をする度に記憶が飛びます。

 ええそうです、頭の中でずっと「受けたらいけない受けたらいけない」と繰り返していても、止めようとしている内に、ふと目を合わせてしまった時に……何となく止めてはいけないような気がしてきて、その辺りからスーッと意識が遠くなって…。

 

 まるで何かに取り憑かれているようで……。

 

 取り憑かれていると言えば、気のせいか、一昨日あの人の後ろに、軍服を着た誰かが見えたような…。

 ……………お祓いって、何処でできるんでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 監視カメラで一昨日の画像を見てみたら、軍服を着ていた誰かは百田ゲンさんでした。

 もう引退している筈ですが、何故に軍服を…?

 

 

 

 

 

アリサ・イリ(略)

 

 見れば見るほどおかしな人です。

 体はこれ以上無い程鍛え上げられているのが見ただけで分かりますが、それだけでは説明がつかない能力の数々。

 なんですか、あのオウガテイルと会話するように鳴き真似を交わしていたのは。

 オウガテイルが泣いたなんて、話にも聞いた事がありませんよ。

 

 私と同じ新型機に適応したゴッドイーターが居ると聞いていたので、密かに対抗意識を燃やしていたのですが……何というか、妙な方向に突っ走っています。

 これに対抗しようとは思いません。

 ドン引きもいい所です。

 アレはゴッドイーターではありません。

 もっと恐ろしくて混沌とした何かです、きっと。

 

 初めて彼の実力を見たのは、ミッションに行った時です。

 リンドウさんとバカな話をしているのを聞いて、私は苛立っていました。

 これから任務だと言うのに。

 アラガミを前にして、何故そうも気楽にしているのか。

 

 …苛立ちに任せて色々言いましたが、全て受け流されました。

 挙句、心を落ち着かせる為に動物に似ている雲を探せと言われる始末。

 ワケがわかりません。

 …隊長命令なので、一応従いましたが………その間に一人でターゲットを半死半生にされてしまいました。

 

 遠めに見ましたが、不意打ち・罠・スタングレネードの、卑怯を通り越していっそ芸術的な戦術とさえいえるコンボでした。

 

 

 …正面から戦って強さを見せなさいよ!

 …この密かな対抗意識(←本人は密かなつもり)は何処にぶつければッ!?

 同じ新型神機使いでも、私の方が優秀だと見せ付けるつもりだったのに。

 肩透かしもいい所です。

 

 ですが、僅かな時間で、一人で、無傷でターゲットを追い詰めたのも事実。

 それだけの実力はあるのでしょう。

 

 そんな事を考えていたら、リンドウさんに「アナグラに帰った後のあいつの様子を見てみろ」と言われました。

 笑いながら…でしたが、どう見ても引き攣った笑顔です。

 

 …彼が気になったのではなく、飄々としたリンドウさんにあんな顔をさせる理由が気になって、彼を探していました。

 訓練場で神機を振るっているのを見つけたのですが……最初は特に見るべき所は無いように思えました。

 何故なら、彼が行っているトレーニングは、基礎も基礎、ゴッドイーターとなって、誰もがすぐにこなす訓練だったんです。

 「今更こんな事を?」と疑問に思いましたが……疑問は更に膨れ上がりました。

 

 何故なら、彼はその基礎を延々と繰り返していたのです。

 それこそ、何時間も何時間も。

 幾つか種類はありましたが、それも同じ基礎。

 普通、ゴッドイーターなら(私が知っているゴッドイーターはロシアの人ばかりですが)、ルーキーどころかトレイニーでもないと、こんな事はしません。

 

 意味が分かりませんでした。

 目が合ってしまったので、思い切って「いつもこんな事をしているのですか?」と聞いたところ、

 

「いつもはまた出撃してる時間だから、こんなに長くやってないな。

 まぁ、出撃終わってからまたトレーニングする訳ですが。」

 

 

 …つまり、いつもは二度も三度も出撃している、と?

 しかも帰ってから、単調なのにキツすぎて体力よりも精神が磨耗すると言われているこの訓練を延々と?

 と言うか。

 

 

「…ひょっとして、一日に5回も6回も出撃するって…」

 

「事実です」

 

 

 

 ……ドン引きしました、生涯でこれ以上は無いと確信する程。 

 そりゃリンドウさんの顔も引き攣るワケです。

 やっぱりこの人、ゴッドイーターを超越した何かです…少なくともその卵です。

 つい、必死で距離を取ろうと練習した事もないムーンウォークで逃げ去ってしまいました。

 この一件から、淀みなく後退しつつ銃を放つ技法を会得してしまったのですが……あまり嬉しくありません。

 

 

 とにかく、リンドウさんが見せたかったのは、多分コレです。

 私の対抗意識に気付いていて、それを打ち消そうとしたのでしょうか?

 彼は努力しています。

 アラガミに復讐する為に死に物狂いだった私でも、彼に比べれば…。

 

 彼はゴッドイーターとして…………訂正、ゴッドイーターではない何かだと思うので言い方を変えて…………アラガミを狩る者として、私よりも数段先に居ます。

 昨日までの私なら意地を張って認めなかったでしょうが、これ程のものを見せ付けられては対抗意識すら消えてしまいます。

 

 ですが、疑問も一つ。

 何故に基礎の基礎である訓練ばかりなのでしょうか?

 返ってくる返答で頭痛が起こる事を覚悟し、問いかけました。

 

 

 

 

 そして教えられたのは、一つの奥技。

 彼が目指す…いえ、そんなつもりは無いのかもしれませんが、彼が進む道の先の先にあるであろう、神業。

 誰もが通り過ぎた筈の最初の一を徹底的に磨き上げる事で、何者にも勝る絶技を得る。

 そのものではありませんが、同じような境地を目指しているようです。

 

 

 確か………ヒャクシキカンノン、と言っていましたか。

 

 

 いつかきっと、彼は辿りつくのでしょう。

 私達では、想像すらできない何処かへと。

 ……それに比べ、私は……何を………?

 

 

 

 …やめましょう。

 私の意志は一つだけです。

 あのアラガミを、いつかこの手で……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤木コウタ

 

 

 

「ゴメン、出演拒否。

 思い出すだけで色々と削れる」

 

 

 

 ガーデルマンさんの領域は遠い。

 

 

 

 

 

 

 



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討鬼伝世界2ーMH世界2ーGE世界2~死ににくくなってきた~
10話


 

凶星月雇日

 

 武芸は問題ない。

 やはり問題は、ミタマの力の引き出し方だ。

 鬼祓が出来ているなら、後はミタマを宿して引き金となる感覚を覚えるだけ…らしいのだが、試す事もできないから困っているのだ。

 

 それはそれとして、少なくとも今回は討鬼伝ストーリー開始の数年前らしい。

 ウタカタの里も有名ではないし、その辺で光の柱が立ったとか、オオマガドキがまた起きかけたとか、そういう話は全く無い。

 うーん、これってどうなんだろうな?

 討鬼伝の主人公は元は一般人…かどうかは知らないが、異界に沈んだあずまの国からたった一人脱出してきたという設定だった筈。

 つまりモノノフとしての心構えや知識がまるで無い状態だったとして……。

 異界に居た影響が体から抜けて回復、そしてモノノフとしての訓練を受け、霊山からの指示でウタカタへ…。

 

 …モノノフとしての訓練にどれくらい時間がかかったか、が問題かな。

 体の回復に関しては、一般人だと仮定すると1~2ヶ月かかってもおかしくない。

 それだけ安静にしていると当然肉体も弱る。

 そこからリハビリして、鬼と戦えるまでに鍛え上げ、地獄の座学や実技を受けて…。

 

 多分、ウタカタにやってきた主人公はモノノフとしてはヒヨっ子だったろう。

 ミタマすら持っていなかったのだし。

 つまり訓練終了⇒即最前線へ異動。

 なんちゅう人事だ。

 二次元の話だからまだ分かるが、こんな人事を大真面目に下しているなら霊山の連中は阿呆だろう。

 

 …そういえば、霊山ってどんなところだろうか?

 霊山ってあるくらいなんだから、まず山だよな。

 それからモノノフ達の総本山…なんだけど、裏を返せば恐らく最前線から最も遠い場所って事になる。

 でもかなりの数のモノノフが詰めてるっぽい。

 

 …ん、それって無駄なんじゃね?

 そりゃ本部の守りは必要だろうけど、霊山に戦力を集める理由は無いのでは?

 

 

 うーむ、霊山がよくある腐敗した上層部に牛耳られているのか、それとも割とまともに機能しているのか。

 堅悟さんに聞いてみるか。

 

 

 

 

凶星月炬日

 

 堅悟さんは霊山に行った事はないらしい。

 俺と同じように、モノノフの先輩に修行をつけてもらい、霊山の許可を得て正式にモノノフになったそうだ。

 俺も同じような形になるんだろう。

 

 …堅悟さんが話している時の視線の動きからして、その修行をつけてくれた先輩と言うのは、恐らくもう殉職してしまっている。

 

 堅悟さんは、霊山に対してあまりいい印象を持っていないようだ。

 これは又聞きになるようだが、霊山の上層部は割りとまともな人間が多いらしい。

 叩き上げのモノノフも居れば、戦力を数字として割り切る非情な参謀も居るらしいが、とにかく割とまともに動いているとの事。

 トップに立つ、神垣の巫女のカリスマが凄まじいとかなんとか。

 

 巫女、巫女か………萌えワードだな。

 

 しかし、やはりモノノフも人間。

 トップはマシな人材が揃っていても、人間関係の拗れはあるらしいし、人が集まれば拗れは加速度的に酷くなる。

 特に霊山から出た事のないモノノフ達の中には、「何この踏み台か噛ませ犬の宿命を負ったような奴」みたいな連中も居るらしい。

 

 以前にマホロバの里で教えてもらった通り、モノノフとなるには血筋も重要だ。

 別にそれが無ければできなくなる訳ではないが、何年も前から続いてきた所謂名家もある。

 そういう連中は体質がモノノフに適応しきっているのか、一般人からモノノフになった人間より、強いタマフリが使える傾向にあるらしい。

 その為、自分達は選ばれたモノノフなのだとツケあがる事も多いとか。

 

 

 

 

 ちなみにそういう連中は、身の程を叩き込む為に極悪任務に放り込むのが通例らしい。 

 それはもう、新人達からしてみれば『討鬼伝』や『千鬼万来』レベルの任務に。

 稀に偶然クリアしてしまい、更に付け上がるのも居るらしいが。

 

 

 

凶星月小日

 

 明日から暫く、モノノフとしての修練は中止。

 食料を狩り入れる時期になった為、農作業の手伝いに借り出される事になった。

 堅悟さんも、ここ最近は俺の修練に付き合って、自分の修練や任務がちょっと溜まっているそうなので、そちらをこなして来るとの事。

 

 農業って、狩りとは別のしんどさがあるんだよな。

 体力的には問題ないが、精神的というか神経的にちょっと辛い。

 

 とにかく、折れとしても里の食料が足りなくなるのは困る。

 早めに終わらせるよう、尽力しますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔禍月痔日

 

 ようやく農作業が終わった。

 一ヶ月近くかかっちゃったよ。

 

 暫く労働を共にしていたのが良かったのか、里の皆さんにも割りとフレンドリーに声をかけてもらえるようになった。

 閉鎖的な傾向がある里だからなのか、内側に入ると逆に親切にしてもらえるっぽい。

 代わりに、なんか粘着質な隣人が出来たような気分にもなったが…いやいや、折角仲良くなれそうなのだから、不満は言うまい。

 多分、村八分…とは言わないまでも、今までちょっと孤立して、それはそれで気楽な状態だったから、その反動でそう感じるだけだ。

 きっと。

 何かやらかしたら、即座に里にそれが触れ回っているとか無い…よね?

 

 

 それはともかく、問題がある。

 アラガミ化の抑制剤が切れてしまった。

 ぬぅ、まだ修練の途中だと言うのに。

 

 このままでは、そう遠くない内にアラガミ化してしまうだろう。

 具体的な時間は分からないが……抑制剤が切れたのが今日で、確か以前の討鬼伝世界・モンハン世界では…どれくらいの時間で兆候が出ただろうか?

 空腹を感じ始めたら危険。

 それまでは意外と時間があったが、本格的に腹が減り始めると、後はすぐだったような気がする。

 

 アラガミ化…すると、多分俺はこの世界では新種の鬼として処理されるだろう。

 モンハン世界なら、新手のモンスターか。

 それまでにどれくらい被害が出るかは分からないが、流石に気分がよくない。

 村の中で大暴れすれば、一ヶ月も作業を手伝った収穫物に被害が出るかもしれないし、堅悟さんは人に化けた鬼に気付かず修行を施す=技術の漏洩をしてしまった間抜けなモノノフとして扱われかねない。

 ちょっと仲良くなった里の人達にだって、死傷者が出る可能性はある。

 

 

 …なんか心配する順番が人としてどうかと思う順番だったんだが、まぁいいか。

 空腹を感じるようになったら、異界に行くか。

 堅悟さんには悪いが、新人が血迷って一人で突撃したって設定で。

 長くて一週間も毒対策無しで異界を彷徨っていれば、その間にアラガミ化するか、さもなきゃ瘴気の影響でデスワープするだろう。

 堅悟さんには、余計な荷を背負わせてしまうなぁ…。

 

 …よし、実は俺は不治の病にかかっていて、それが再発して死期が近いのが分かったから、一匹でも多くの鬼を殺したかったとか、そんな設定で行こう。

 不治の病はある意味間違いではないし、この里に来てから医者にかかった事はないので、病があっても無くても分からない筈。

 どっちにしろトラウマ抱え込ませてしまうような気はするが、どうしようもないんだから仕方ない。

 

 

 モンハン世界でも同じ事をせにゃならんのかな…。

 まぁ、クエストや任務で失敗してデスワープする時と違って、事前に兆候が分かるのがせめてもの救いだ。

 その間に準備が出来るからね。

 その代わりデスワープ不可避な訳だが……。

 

 

 

 

魔禍月除日

 

 武芸の鍛錬は、着々と進行中。

 太刀・槍・手甲・弓・鎖鎌・ヌヌ剣、一通りの所は治められました。

 里によっては、これに加えて銃やら金砕棒やら薙刀があるらしいが、堅悟さんから教えてもらえるのはこれだけだ。

 

 実際の立ち回りはこれから学ぶ事になるけど、腕の振り方とか重心とかには問題なし。

 そして神仏の加護もしっかり得られているらしい。

 

 …と言われてもなー。

 神仏ったって、俺神様も仏様も信じてないし。

 でも力を貸してくれるんだから、この世界の神様仏様小にゅ…龍姫様は太っ腹のようだ……最後の一人は太っ乳と言ってあげた方が喜……いや皮肉にしかなんねーな。

 とにかく、これなら鬼に切りつけても充分効果はある、との事。

 武具は特別な物ではないが、それは別に問題ない。

 つまり使うのがこの世界の物であれ、モンハン世界の物であれ、ちゃんとした型に沿って切りつければ、効果は出る訳だ。

 異界の攻略が大分楽になりそうだ。

 

 

 

 

 

魔禍月慈日

 

 

 何か知らんが、アラガミ化がえらい早いようだ。

 腹が減ってイライラする。

 うーむ、ひょっとしてアラガミ化は普段の生活習慣に影響されるのだろうか。

 今回のあんまり美味いもの食ってないしなぁ…。

 ちゅーか、それに影響されるんじゃアラガミの細胞ってグルメ細胞みたいじゃないか。

 

 

 

 アカン、それだとあの世界は救われん。

 だって美味い物無いじゃん。

 小松シェフだって料理の素材に困るよきっと……………いやでもあの人ならひょっとして…アラガミでも食えるようにしてくれるかも……。

 

 とにかく、今回はどうやらそろそろ限界らしい。

 里の中でアラガミ化する訳にはいかないので、明日辺りに異界へ行こうと思う。

 問題は堅悟さんだ。

 追ってきたらどうしよう。

 あの人、ぶっきらぼうだけど割りと普通にいい人だからなぁ…。

 俺が血迷って異界に突撃したなんて知ったら、追ってきかねない。

 

 最悪、目の前でアラガミ化しかねないな。

 そうなった場合、俺を殺してトラウマを負うか、俺に殺されるか…。

 いや、アラガミは同じアラガミやゴッドイーターの攻撃しか効果がないから、前者は無しか。

 となると、上手く逃げ帰ってくれか、そもそも遭遇しない事を祈るしかない。

 

 思い切り異界の奥深くまで進めば何とかなるか…。

 今までとは違って、瘴気の濃い所に突き進んで見るか。

 それで倒れるのだとしても、瘴気で倒れるかアラガミ化で倒れるかの違いでしかない。

 結局はデスワープして『はじめから』である。

 

 

 

 

魔禍月G日

 

 現在、異界の中で筆を取っています。

 堅悟さんには、一服盛って出てきました。

 悪いとは思ったけど、いい手が見つからなかった。

 一応遺書(みたいなもの)も残してきたし、後に残る傷跡が最低限になる事を祈る。

 

 …だったら遺書なんか残さないほうがよかったか?

 いっそ真っ向からぶった切った方がよかったか?

 丸っこい刃はもっと痛いと言うし。

 

 さぁ、今から鬼達を、これから鬼達を、殴りに行こうか。

 手甲をつけて。

 お~らお~らお~らら~(YAH YAH YAHのリズムで)

 

 …異界の近くを歩いていたら、偶然入ってしまってそのまま帰ってこなかった、の方がマシだったかもしれない。

 ……もう考えても仕方ないか。

 とりあえず、デスワープするまで小型の鬼を狩りまくろう。

 ひょっとしたらミタマが出てくるかもしれない。

 

 

 

 はらへった…。

 

 

 

 

 

魔禍月蒔日

 

 異界を彷徨い、はや三日。

 なんかおかしい。

 

 瘴気の濃い所を進んでいるのだが…まず周りの風景がおかしい。

 いやおかしいのは前からなんだが、何というか支離滅裂だ。

 今までの異界は、滅茶苦茶ではあったが雰囲気的には統一されていた。

 火山みたいな所に、ハラヘッタ雪なんか降らなかった。

 でも今は降ってくるし、そもそもなんか宇宙空間みたいなトコもあったし。

 

 これは本格的に、時間移動とかもしているのかもしれない。

 

 

 それと、おかしな点は他にもある。

 人目を気にしなくてもいい場所に来たし、神機を使って鬼相手に戦えるか、試して見ハラヘッタようとした。

 だが、どうにも神機の調子がおかしい。

 上手く形態変化しないのだ。

 何とか銃には変えられたのだが、どうもバレットを撃っても出力が弱い気がするし、コレ暴発するんじゃね?って様子も垣間見えた。

 確かにこの世界に来て以来、整備なんか全くできなかったが…それとは違う気がする。

 

 OPが尽きたので、四苦八苦して剣状態に戻す。

 こっちは普通に使えるようなのだが……正常に作動していると言うより、鈍器として使える棒になっているだけって感じだ。

 この分だハラヘッタと盾も同じ要領で使えそうだが、こっちの変形にはかなり手間がかかりそうなので試すのは止めた。

 

 使ってみた結論から言うと、神機での攻撃は鬼に有効なようだ。

 元々それなりに通じはしていたが、モノノフとしての武芸を使って切りつけると、効果が段違いだ。

 やはりオカルトパワーが重要らしい。

 堅悟さんの元での修行の効果を実感できて、少し嬉しい。

ハラヘッタ

 

 が、バスターブレードを使っているのはちょっと誤算だった。

 一応剣に該当するので、太刀としての武芸で戦っているのだが……太刀とクソデカくて重いバスターブレードじゃ、同じように振り回せる筈が無い。

 残心→ハラヘッタ解放なんかできやしない。

 だって剣を収める鞘も無いし、あったとしてもこのデカさでは鞘に収めるのも一苦労だ。

 ショートブレードかロングブレードを使ってれば、もう少し楽に戦えただろうに。

 

 金砕棒として扱った方がよさそうだが、堅悟さん使った事無いらしいしなぁ…。

 どっちにしろ今から修行を受けられる筈も無し。

 何とかコレで進んでいくしかない。

 

 

 それと、おかしな点はもう一つある。

 ハラヘッタハラヘッタハラヘッタ腹が減ってる。

 そろそろアラガミ化してもおかしくない。

 なのに、このハラヘッタ状態が2日続いて、それ以降進行していないようだ。

 

 ちょっとずつ進行している感覚はあるんだが、明らかに遅い。

 ついでに言うと、「あ、ハラヘッタがちょっと進んだかな」と思う時には、二つの共通点がある。

 

 一つは、神機が比較的正常に作動してくれる事。

 もう一つは、鬼祓を行ったハラヘッタ直後だと言う事だ。

 餓鬼を何度か倒して、その後に気がついた。

 

 

 これって一体どういうハラヘッタだ?

 この二つがアラガミ化に関係があるとして、係わり合いがありそうな点は?

 

 

 ハラヘッタハラヘッタハラヘッタ

 

 

 空腹で頭が回らない。

 何でもいいから、とっととデスワープしてくれ。

 

 もういい、試しに鬼払を続けてみる。

 鬼祓とアラガミ化進行に関係があるなら、これでデスワープするだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HR月飢日

 

 

 デスワープして、訓練所の教官からマジで怒られてしまった。

 例によってドスファンゴマラソンの真っ最中に出た訳ですが、空腹が限界だった俺はその場でドスファンゴを仕留めてナマで食いついてしまったのだ。

 空腹は最高の調味料って言うけど、限度があるな…火も通してない、血抜きもしてないドスファンゴはマズかった。

 食ったが。

 

 訓練生達にはドン引きされた。

 アリサは居なかった。

 「ワイルドじゃないの」と、毎回親切にしてくれるブルージャージの同期さん、アンタ懐広いね。

 名前は確か、A.BEEさんだっけ?

 ジョウダンハンブンデ「ケツヲホラレテモイイ」トカイッタラ、ナニカイジゲンノキキガカイマミエタヨ。

 

 実際はそんなに空腹じゃなかったようなのだが。

 デスワープ前がアラガミ化で空腹を感じまくっていた為、こっちの世界に来て正常な状態になっても精神が空腹状態のままだった。

 そして胃袋の中は、特に空腹ではない。

 なんだろうねコレ。

 満腹中枢か飢餓中枢が壊れてんのか、それとも想像妊娠ならぬ想像空腹とでも言うのか。

 

 

 それはそれとして、やはり鬼祓とアラガミ化は関係あったらしい。

 これの考察も必要だが、その前に一つ記録しておく。

 

 

 ミタマが宿りました。

 

 

 多分、異界でアラガミ化した状態で暴れまわったんだろう。

 人にカチ合っていない事を祈るばかりだ。

 

 ともあれ、これで俺もちゃんとしたモノノフ(無許可かつ誰も知らない)って訳だ。

 何というか変な感じだな、自分の中に誰かの魂が居るってのは。

 集中と言うか意識を自分の中に向けると、そいつの存在を感じ取れる…どころか、自分の中でどんな風に過ごしているのか見えるというか。

 

 さて、俺についたミタマって一体どんな英雄だ?

 デスワープしても一緒に来てくれるようだし、相談相手になってくれるかな?

 だとしたら俺の境遇とか、討鬼伝の今後のストーリーについて全部話したほうがいいか?

 

 等々、色々考えてみたのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 ミタマが『のっぺら坊』って何よ。

 

 

 

 いや餓鬼とかだったら、「あ、ひょっとしてアラガミ状態で丸呑みでもしたのかなー」とか思えたかもしれないよ。

 でものっぺら坊って何さ。

 妖怪じゃん。

 英雄じゃないじゃん。

 むしろ鬼の側じゃん。

 討鬼伝の敵キャラでも、こんな奴居なかったじゃないか。

 どっからどういう経緯でこんなモン宿ってんだよ。

 普通に妖怪じゃないか。

 ムスヒノキミじゃなくて百鬼夜行の主にでもなれと言うのか。

 確かに前世のジィ様はぬらりひょんみたいな顔だったけど。

 名前?

 確か近衛近右衛門っつーて、マホラなる学園の学園町をやっていたとか………すまん、日記に書く冗談じゃなかった。

 ジィ様は俺が物心つく何年も前に戦争で他界していて、バァちゃんの事しか覚えとらんわ。

 遺影の顔も典型的な日本人顔だった。

 

 で、ミタマの話だが。

 のっぺら坊だけあって、目鼻もなけりゃ口もないから会話すらできない。

 昔話ののっぺら坊なら、蕎麦屋やってて「こんな顔ですかい」くらいは言えたというのに。

 

 外見も正直、パッとしないと言うか掴み所が無いと言うか。

 寺の坊主みたいな格好をして、何故か提灯を持っている。

 目玉が無いのに灯りが要るのか?

 

 暫く観察していても、その辺をフラフラ歩き回って、唐突に止まってぬぼ~っと棒立ちになるだけ。

 自意識があるのか不安になってくる。

 妖怪ウ○ッチ風なら、まだカワイイとか思えたかもしれないが…不気味さしか感じない。

 

 耳はあるから声は聞こえるだろう、と思って声をかけても反応なし。

 これについては、俺がちゃんと声を送れているかにも疑問があるので、実験が必要だ。

 

 

 とりあえず、ハンター生活しながらミタマの力を引き出す訓練かな…。

 アラガミ化については幾つか仮説が浮かんでいるので、今回はその検証も兼ねよう。

 つまり、今回のハンター生活はあまり上位を目指さず、準備を進めようって事だな。

 

 

 

 

 

 

 

 だがつまらん。

 GE世界のパイルバンカーの野望はまだ燻っているのだ。

 アレに使えそうな素材を片っ端から集めていこう。

 

 …どっちにしろ、まずクック先生に勝てるようにならんとな…。

 

 

 

 

 

HR月植日

 

 ミタマに関するアレコレはともかくとして、だ。

 アラガミ化に関する考察を一つ。

 

 現状、アラガミ化の進行に深く関わっていると思しき要素は二つある。

 一つは食べる物。

 トリコみたいな話だが、美味い物を食べていれば、それだけ進行が遅れる。

 討鬼伝世界で、前回はアラガミ化が妙に早かったが、前々回は抑制剤無しでも二ヶ月くらいは余裕があった。

 空腹の兆候が出始めると危険だが、そこに至るまでは普段の食生活である程度対応できるのかもしれない。

 

 それに、モンハン世界では未知の食材が沢山ある。

 ひょっとしたら、モンスター達の中には、それこそ抑制剤代わりになる『何か』を持っている奴も居るかもしれない。

 …神機やアラガミ細胞なんてこの世界じゃ全く分からないだろうから、自分で全部解明せにゃならんのが辛いところだ。

 あとフルフルとか食いたくねーしな…。

 

 

 そしてもう一つが、異界の瘴気である。

 アラガミ化の兆候を感じて異界に篭っていた訳だが、そこから妙に進行が遅くなった。

 体感なので勘違いかもしれないが、他にも根拠はある。

 神機が正常に動かなくなった事だ。

 

 異界の中は何かと物理法則が違ってくる事もあるらしいし、精密機器が動かなくなるのも分からないではない。

 理由はともかくとして、神機はこの世界に移動した後も、少し動きがおかしかった。

 ひょっとしたらと思って鬼祓をしてみたら正常に戻る。

 

 …これはつまり、アラガミ細胞的な何かが、瘴気によって動作を邪魔されている証拠ではなかろうか?

 神機とは調整されたアラガミであり、つまり普通じゃないとは言え生物である。

 毒だって効果はあるし、麻痺る事もある。

 瘴気は生物には基本的に有害なのだから、神機に作用してもおかしくない。

 

 アラガミ細胞が瘴気によって侵食され、一時的とは言え機能しなくなる。

 …そういえば、アラガミ化の影響で理性とSAN値がガリガリ削れてたから気付かなかったが、体がいつもより重かった気がする。

 という事は、ゴッドイーターによる強化は異界の中ではあまりアテにしない方がいいのか?

 でも異界の中を彷徨ってた頃は、あまり気にならなかったし…。

 アラガミ化の兆候が出始めると効果が強く出るとか?

 

 考察というか屁理屈は色々立てられるが、分からん…。

 

 

 とにかく、今回のMH世界では鬼祓の練習は控えめにしよう。

 デスワープ時に体の状態異常は元に戻るみたいなんだが、神機がこっちに来ても動かなかった所を見ると、瘴気は一緒についてきているのかもしれない。

 つまり、俺の体には瘴気がある程度残っている可能性があるってことだ。

 それが鬼祓で清められると、アラガミ細胞による侵食が始まる。

 この仮説が正しいのであれば、鬼祓をしなければ当分はアラガミ化しない。

 

 ……どれだけ長く生き残れるかが問題だな。

 パイルバンカー用の素材集めを譲る気は無い。

 

 

 

 




リアルでちょっと辛い事があったので、気晴らしに投稿。
接客業は…辛い…。

そして感想とか評価は嬉しい。
よっしゃ、これであと2日くらいは戦える!(敵=客の図式が出来上がりかけている俺の脳をどうにかしないと…)


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第11話

2連休なので投稿。
ただしその後のシフトの薄さが異常+目玉イベント日なので地獄が待っています。


HR月 ̄日

 

 

 狩りは順調だ。

 クック先生へのリヴェ~~ンジを目標に、日々準備を進めている。

 例によって、今回もソロプレイ。

 下半身もソロプレイばっかりだ……準備の為に金かけてますから、いつものオネーチャンのところに遊びに行けない。

 

 さて、チームを組まない理由だが、神機を試してみたいからである。

 この世界では明らかにオーパーツなこの武器が、モンスター達にどれ程効果を発揮するのか。

 何体かに試しているのだが、銃は非常に有効だった。

 OPさえあれば…つまり神機で切りつけていれば…弾数制限なし、連射機能はこの世界のボウガンや弓とは比べ物にならない。

 エネルギー弾と言うこの世界では未知の攻撃なので、痕跡を隠す必要があるのがネックだな。

 

 …しかし、アラガミを切りつけた訳でもないのに、何でOP回復するのかな…。

 アラガミとこの世界のモンスターには何か関係でもあるんだろうか。

 

 

 次に有効なのは盾だ。

 ランスやガンスの盾に匹敵するようなサイズなのに、軽く、瞬時に変形させられるから動きを阻害しない。

 しかもリッカさん曰くのナンタラ構造によって、衝撃を殆ど吸収してくれる。

 思わず崇めてしまいそうな神性能である。

 

 

 で、一番問題なのが剣。

 バスターブレードで縦斬横斬のデンプシーやってる訳だが、今ひとつ攻撃力不足である。

 手にとって持ち比べてみたが、純粋にこの世界の大剣の方が重い…つまり質量がある、叩き付けた時の衝撃が大きい。

 

 アラガミに比べて、この世界のモンスターは純粋にタフだからなぁ…。

 GE世界の近接武器をこっちで使うなら、チェーンソーとかドリルとか、あの辺の機械ならではの武器を用意した方がよさそうだ。

 

 

 ちなみに捕食は今のところ無意味っぽい。

 流石にリンクバーストできなかった。

 

 

 

 それから、以前から練習し続けていた結果が実を結んだ。

 ミタマから力を引き出す事に成功したのだ。

 アラガミ化を抑えられるかの実験の為、鬼祓を控えめにする事にしていたので、ちょっと時間がかかってしまった。

 

 ノッペラボウというこのどう考えても英雄とは真逆に位置するこのミタマ。

 相変わらず意思疎通が出来ているのか、今ひとつ不明だが…ミタマとしての協力はしてくれるらしい。

 

 と言っても、現在成功しているのは治癒の力だけだ。

 全ミタマから共通で引き出せる力なので、ノッペラボウがどのスタイルに適しているかも分からない。

 うーん、討鬼伝世界ではどうやって調べているのだろうか?

 

 冗談で水見式やってみたけど、本当に冗談だった。

 何も起こらない。

 

 まぁ、治癒だけでも大きな戦力になるのには違いない。

 回復薬等と違って、飲み込んだ後にハンター秘伝の肉体操作術を使う必要も無い…つまりあのポーズをとる隙が消える。

 これはデカイ。

 鬼祓は暫く止めにして、GE世界と討鬼伝世界で色々試してみるとしますかね。

 

 

 

 

 

 

HR月マツタケ日

 

 やはりミタマの力が引き出せるようになったのは大きい。

 回復の隙が殆ど無くなっただけで、これほど狩りが楽になるとは。

 

 他にも討鬼伝世界特有の戦闘スタイルによる効果は非常に大きい。 

 相変わらずノッペラボウがどのスタイルに適しているのか不明なので、、適当にスタイルを変え続けているが…効果が非常にデカい。

 ゲームでは、タマフリをしなくても、それぞれのスタイルそれぞれに効果があった。

 俺の置かれている環境では、向き不向きはあっても一つのミタマで全スタイルを実現可能なワケだが……。

 

 これがまた凄まじい。 

 スタイルが『攻』であれば、鬼祓という動作を挟まなければならないが、スタミナの回復が早くなるし、走っている最中でもある程度スタミナが回復する。

 『防』であれば、ダメージの軽減…強烈な攻撃を喰らっても、仰け反りすらせず耐える事が出来るし、実質的なダメージはゼロ。

 この分だと、リオレウスのバックジャンプブレスくらいなら素で耐えられそうだ。

 『癒』では、毒を受けた時に自分を殴ったら、すぐに毒が治ってしまった。

 個人的に使いづらいスタイルもあるが、それを差し引いても充分すぎる効果と言えるだろう。

 

 その他、タマフリによる効果に至っては、もう語る気もしないくらいだ。

 例えば…『攻』のスタイルによる、軍神招来。(まだタマフリできてないけど)

 当たる攻撃の全てがクリティカルヒットになるという、時間制限付きとは言えトンデモない代物だ。

 これを、大剣の通称デンプシーロールと合わせるとどうなるか?

 手数の多いヌヌ剣と組ませたら?

 

 ……言うまでもないわな。

 とは言え、どっちの効率が良いかは検証の必要があるが。

 

 

 モンハン世界が、いっぺんにヌルゲー化してしまったような錯覚を覚えた。

 

 が、そこで勘違いするのは、以前の俺だ。

 クック先生に負けた事で学習した俺は、一味違う。

 確かに、ミタマと神機の力で、攻略は格段に楽になったと言えるだろう。

 

 が、逆に言えばその程度なのだ。

 更に言えば俺がドンパチやっているのは、この世界で言えば下位もいい所。

 引退後(若い個体だから、ヤンチャする前?)のクック先生にすら、一勝もしていない。(挑んだのは一度きりだが)

 ミタマを得て、下位のスタート地点とも言える位置で、『楽になった』程度の効果しか発揮できてないのだ。

 

 この世界には、上位、そしてG級という領域が控えている。  

 しかも地名がメゼポルタなので、恐らくはフロンティア基準。 

 ヘタをすると、ラヴィエンテに挑む事すら考えなければならない。

 

 …それを考えると、現状得られた効果なぞ、焼け石に水もいいところだ。

 これで満足しているようでは、話にならない。

 

 かつて前世で、世○樹の迷宮をプレイしていた頃に得た教訓だが、スキルとは連動させてナンボである。

 出来る事ならパーティ全員のスキルを連動させるのが理想だ。

 どんなに強力なスキルでも単発では大した効果は発揮できない。

 バフ・デバフをかけ、相手の弱点を突き、最大火力の一撃を最大効率で叩き込み、更に単発で終わらないようフォローを視野に入れる。

 ここまでやって、ようやくスキルはその真価を発揮し始める。

 

 連動させねばならない。

 使い方を研究せねばならない。

 

 幸い、俺は三つの世界の技術を同時に学べる立場にある。

 連動させられるスキルの幅も、その数も段違いだ。

 残念ながら俺は凡才なので、変わったスキルの使い方はできないだろうが…それでも、これを使いこなせるようになれば、どれ程の力を発揮できるか。

 これこそが、ストーリーオールクリアを目指すのに必須の技能であると確信している。

 

 

 

HR月オニオン日

 

 唐突でなんだが、ハンターとゴッドイーターの違いはどんな所があるだろうか?

 狩りをする相手が違う。

 使う道具が違う。

 なる為の方法が違う、etc etc。

 

 色々な相違点があるが、肉体という一面におけば、大抵の項目はハンターの方が上だろう。

 手術で強化されたゴッドイーターより、鍛え上げたハンターの方がスペックが高いというのは皮肉にも思えるが、それはそれとして。

 その肉体について、ハンターが明らかにゴッドイーターの足元にも及ばない点がある。

 

 即ち、ジャンプ力。

 

 非常識極まりない体をしている癖に、ハンターの平均的なジャンプ力は常人より少し高い程度しかない。

 まぁ、重装備かついでそれだけジャンプできれば充分すぎるという見方もあるが、それを除いてもゴッドイーターのジャンプ力は凄まじい。

 助走も無し、神機を持った不安定な姿勢から、平然の成人男性の頭よりも高く跳躍する。

 使っている神機のパーツによっては、人類の夢・二段ジャンプすら可能となる。

 リンクバースト状態なんぞ、言うに及ばず。

 

 さて、これがハンターとしてどんな効果を齎すかと言うと。

 

 

 

 

 

 正直、現状ではあまり意味が無かったりする。

 

 まぁ、飛び掛ってくるドスランポスより高く飛び上がって、逆に上から飛天御剣流龍槌閃という浪漫技を実現できたのは嬉しかったが。

 最初は「モンハンにあるまじきジャンプという行為だが、これで高いところの部位破壊も楽になる」とは思っていたのだ。

 …最近は操虫棍なる武器も出ていたそうだが、生憎P2Gの上位までしかクリアしてない。

 どんな武器なのか、想像もできん……情報を集めてはみたのだが、どこぞの工房で試作品が作られているらしい、というレベルでしかない。

 

 それはともかく、ちょっと考えてみよう。

 ジャンプをするという事は、それだけ不安定な状況に自分を置くという事だ。

 リンクバーストすら出来ない今では、空中で進行方向を変える事はできない。

 飛び上がるのはいい。

 だが、その状態で体当たりなり、尻尾回転攻撃なりを受ければどうなるか?

 …空中に居るのだから、そのまま吹き飛ばされて衝撃を逃せる筈……なんて考えた奴は、野球のボールに土下座すべきだ。

 今日の経験から基づいて、俺はもう土下座した…野球無いから、その辺のボールにだけど。

 

 吹き飛ばされる=それだけの衝撃を身に受ける、なのだ。

 俺の体が空気染みて軽いのならともかく、人間一人分+鎧の重さがそのまま反動となる。

 自分から飛んで衝撃を軽くする、なんてのはそれだけの体捌きを咄嗟に出来る人の特権だ。

 

 

 

 とは言え、ある物を使わないのも勿体無い話だ。

 高いところへ一足飛びに飛び乗れるし、話に聞いた飛び乗り攻撃というのも出来る。(まだ大型と遣り合ってないけど)

 ゲーム的な制限が無いこの世界なら、敵の体を蹴って更に飛ぶというスタイリッシュな技も出来るかもしれない。

 

 …そうさな、ミタマの『空』スタイルの空蝉辺りと組み合わせれば、何とか使えるか。

 早いところクック先生にリヴェェェェンヂして、色々と試してみたい所だ。

 

 

 

 

HR月アップル日

 

 

 何だかんだで、もう数ヶ月。

 それだけの時間をアラガミ化抑制剤無しで過ごしているワケだが、アラガミ化の兆候は殆ど感じられない。

 美味いメシのおかげなのか、それとも鬼祓を自重しているからなのか。

 

 …にしてもなんだな、最近は自分の体の中に瘴気があるのが分かるようになってきた。

 なんつぅか気分が悪い。

 腹の中に毒素のカタマリみたいなのがあるんだから、それで気分良くなってちゃそれはそれで問題だが。

 

 それはともかく、どうやら体の中の瘴気は、鬼祓で徹底して清めておかないと、徐々に膨れ上がるらしい。

 これが瘴気自体の性質なのか、それとも普段の生活によるストレスとかそんな感じのによって増幅されているのかは分からない。

 どっちにしろ、コレのお蔭で体の能力が一部低下しているのは事実である。

 …まぁ、それでもちょっと疲れが溜まっているんじゃないかって程度だが。

 

 

 さて、GE世界で念願のパイルバンカー装備を作る為、素材を集めつつクック先生へのリヴエンヂの準備を進めていた俺だが。

 この度、クック先生討伐のクエストが解禁されました。

 いやー、結構時間かかったね。

 ミタマの実験やら素材集めやらで道草食いまくってたからだが。

 

 それでも全く問題ないのだから、このモンハン世界は実に気楽である。

 ストーリークリアを命題とするなら、登場人物達との交流や、裏で蠢く策謀に嫌でも関わらなきゃならん。

 が、この世界ではそれが無い。

 あっても精々、超巨大モンスターやら、殺した人間の体から装備まで自分の鱗に溶かし込んでいると言われている、祖龍の襲撃くらいだ。

 ……策謀の必要が無い分、ボス級の難易度が洒落にならない事になっとるな…。

 

 話が反れた。

 クック先生へのリヴェンジが、正式に準備が整ったこの度。

 

 

 

 

 

 

 まだ挑戦しません。

 

 

 だってパイルバンカー用の素材、まだいいのが集まってないし。

 やっぱりなー、下位で初期じゃ良さげな素材が無いっすわ。

 どの素材がいいのかサッパリ分からないから、フィーリングだけで判断してますが。

 

 やっぱりこの段階だと、マカライト鉱石が限界かな…。 

 でも幾らこの世界の素材つっても、このレベルだと科学的な合金の方が強い気がするなぁ…。

 

 

 

 とりあえず、クック先生とのバトルはこの世界のご飯を充分堪能するまでお預けです。

 前の討鬼伝・GE世界のメシがアレだったから、もう美味いのなんのって…。

 

 

 

 

 

 

 

HR月モロコシ砲日

 

 明日、クック先生に挑みに行く事になりました。

 ……うん、勝てばいいんだ勝てば。

 

 今までずっとソロプレイヤーだったもんで、誘われたらクエスト内容も確認せずにホイホイついていってしまったのだ。

 俺のバカ…。

 

 まぁ、あいつら訓練所で同期だったしな…。

 最近は平然とクリアできるようになったからそうでもなかったが、初期の頃はよく世話になってたもんだ。 

 現状、あの連中の装備とか動き方を見るに、クック先生と遣り合ったら本気でヤバイ。

 人数揃えばまず勝てた、ゲームの中の先生とは違うのだ。

 

 …というかあの連中、ロクに装備も整えずに何考えてんだ?

 割と真面目な連中だったから、俺にタカリをするワケでもないようだし…。

 

 

 ………しゃーない。

 別の世界戦(多分)とは言え、世話になった同期の桜を見殺しにしちゃ人道にもとる。

 この際だし、ソロプレイヤーは一時休業して、連中の面倒を見てみるとしますかね…。

 

 

 えらそうな事書いてるけど、まだクック先生に勝ってないんだよ!

 明日生き残れるか!?って話だよ!

 

 

 

 

 

HR月ホピ酒日

 

 今日も元気だ酒が美味い!

 肋骨2本くらいイッてるけど美味い!

 

 はい、クック先生に大勝利でございます。

 いやー、やっぱ4人がかかりだとタゲが分散して楽だね!

 ヘイト管理とかサッパリだったけど。

 と言うか主にダメージ与えてるのが俺だけだったけど。

 

 勝利の直後、遺体となったクック先生に敬礼して「ありがとうございましたぁ!」って叫んでたら変な目で見られたよ。

 そんな顔してんじゃない、お前らだってクック先生に薫陶を受けただろうがぁ!

 今のままじゃ進めないって叩き込まれたろうがぁ!

 礼をせんかい!

 起立! 礼! 着席!

 

 パーティ組んでるから、モンハン世界の装備に限定されてました。

 こんな時の為に、この世界の素材オンリーでの装備を組んどいてよかった…。

 GE世界の物と違って、盾が殆ど使えないのが難点だったが……使えない盾なら、最初から持たなきゃいいじゃない。

 という訳で、今回はハンマーで行きました。

 眩暈テラ美味しいです。

 

 

 さて、勝つには勝ったが、ちと問題あり。

 一緒に組んだ3人組なんだが、結構ダメージ受けちゃってます。

 肉体的にも、精神的にも。

 

 ハンター訓練所を卒業して、今まで特に問題なくやってきたらしい。

 まぁ、受けたクエストの殆どが小型モンスターの討伐、それ以外は採取じゃね。

 ドスランポスとやりあった事もあったようだけど、それも3人がかりで、動き自体は訓練所での模擬戦で知っていた。

 トラブルがなければ、まぁクリアできるよね。

 

 …ここまで問題なくやってこれたんだから大丈夫だろう、と思っちゃったのね。

 これもハンターの通過儀礼です…俺もそうだった。

 おかげで危機感が薄れて、クック先生相手にご覧の有様です。

 ヤケを起こして突っ込んで行こうとしたのを、蹴っ飛ばして援護に回らせました。

 

 今頃はそれぞれ反省会中かな。

 ハンターを続けるつもりがあるなら、当分はモンスターを狩る事より素材を集めて装備を整えるようにお説教しておきました。

 一応、俺もパーティ組んでもいいとは言っておいたけど…あの仲良し3人組の中に入るのは、ちょっと疎外感があるなぁ…。

 ま、あいつらの選択次第だね。

 

 

 さて、念願のクック先生装備でも作ってもらって、眺めてニヨニヨしながら寝るとしよう。

 ちょっと鍛冶屋に行ってきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 装備一式作るなら 一回の狩りで 足りる筈も無し

 

 

 

 

 

 

 

 

HR月酒と肉日

 

 うん、冷静に考えればそうだよね。

 先生本体はギルドに回収されちゃったし、そこから至急された幾つかの素材だけで、全身を覆うくらいの大きさの装備が作れる筈なかったわ、しかもフロンティア仕様。

 …今日からまたクック先生に挑む日々が始まるぉ…。

 ちなみにイッていた肋骨は、酒呑んで肉食って牛乳2リットル呑んで寝たら完治していました。

 カルシウムは大事だ。

 

 さて、真面目な話、どうしたものか。

 先生の動きや習性は、個体差はあるものの大体把握できている。

 効果的な戦い方も分かってきた。

 最初の奇襲に成功すれば、体力の半分くらいは削れると思う。

 痺れ罠、落とし穴、閃光弾、音爆弾、更にGE世界から持ち込んだスタングレネードにホールドトラップ。

 特にスタングレネードの効果は期待できる。

 閃光の強さ、音の大きさではモンハン世界の閃光玉・音爆弾に劣るが、これが同時に襲ってくるのだ。

 しかも、クック先生の弱点は大きな音。

 同時に叩きこまれれば、気絶くらいはするのではなかろうか。

 

 で、問題はアレだ、結局一人での戦いだって事だ。

 おかげでモンハン世界の盾も銃も使い放題なのだが、ミスった時のカバーが無い。

 と言うか、格上の武装も無いのにフロンティア仕様に一人で挑むもんじゃないな。

 

 一人しか居ないから、ターゲットを分散させる事もできない。 

 そして何より、出費が嵩む。

 一度の狩りで閃光玉音爆弾トラップ使いまくってたら、とてもじゃないが報酬が追いつかない。

 しかも、スタングレネードやホールドトラップはこの世界では手に入らないのだ。

 

 

 …いや、そうでもないかな?

 閃光弾も音爆弾も構造自体は単純だし、ちょっと工夫すれば同じ効果は出せるかも…。

 極端な話、同時に投げるだけでも効果が跳ね上がるのが期待できる。

 

 明日ちょっと試してみよう。

 

 

 あの3人組は……暫くハンターを続けるか考えたいって言ってたしな。

 ケガは既に治っていた……あいつらもやっぱりハンターだなぁ。

 続けるつもりはあるみたいだが、現状ではやっていけないって事に気付いたようだ。

 ……ま、ハンター続けるにしても、現状のまま連れて行くワケにはいかんわな。

 

 

 

 

 

HR月野菜とチーズ日

 

 何とか勝った。

 タマフリの治癒と、銃撃戦を駆使しての勝利。

 やはり近代兵器は強い。

 盾も使いやすい。

 変形機能万歳。

 

 ただ、やっぱり刀身がねぇ……GE世界物じゃちと弱い。 

 刀身の交換自体は、刃を神機に食わせてやればいいだけなのだが、そのために必要な薬剤が無い。

 …GE世界で手に入れておくべき道具が、また増えた。

 

 クック先生の遺体に不可思議な傷跡があったんで、ギルドの人達に首を傾げられたが、適当に誤魔化した。

 ……まさか、新種の古龍が居るとかの噂にゃならんよな…。

 まぁその時はその時か。

 最終手段デスワープを使えば、後の事なんか知りませぬ。

 

 

 ああ、そうそう。

 クック先生装備を作りに鍛冶屋に行った時に気付いたんだけど、各素材の加工方法を覚えておく必要がありそうだ。

 神機を強化するにはGE世界でアレコレやってもらわないといけないワケだが、いかに科学技術が進んで(滅びかけているが)居るとは言え、未知の素材を即座に使える訳ではない。

 素材の性質を解明し、どんな物質と組み合わせるか模索し、そして実験する。

 …この繰り返しが必要な訳だ。

 だがこれをやった所で、全てが成功するワケではない。

 当然、失敗して素材が無駄になってしまう事だって多々あるだろう。

 そして素材を仕入れるアテは無い。

 …やってられますかっての。

 

 幸い、余程難しい素材でなければ、加工方法そのものは公開されている。

 肝になる部分は例外らしいが、それでもデータがあるのと無いのでは雲泥の差だ。

 書物になっているらしいので、手に入れて袋に突っ込んでおく事にする。

 

 

 

 

 

 結構高かった。

 が、中々面白い…。

 

 

 

 閃光玉と音爆弾の同時使用の効果は、まぁまぁだった。

 音に特に弱いクック先生相手にあれでは、実用性は今ひとつ期待できそうにない。

 

 

HR月黄金酒日

 

 ようやくクック先生装備一式が整いました。

 GE世界に持っていけるだけの素材も完備。

 さて、次は何を目指すべきか…。

 出来る事なら、GE世界・討鬼伝世界の技と連動させられるスキルがあるのが望ましい。

 

 色々と考えてみたが、俺の戦闘スタイルが基本的に奇襲なのは変わらない。

 真正面からの戦闘に関しては、パニックを起こさない、逃げ切れる、最低限この二つを維持する事を考える。

 そうなると、使えそうなスキル系統は…。

 

 

①相手に気付かれにくくなる。

②リスクを負ってもいいので、問答無用で倒す為、火力を爆発的に高める。

③トラップ・麻痺等の拘束効果を高める。

 

 パッと思いつく辺りでは、これくらいだろうか。

 

 現状、モンハン世界にせよGE世界にせよ、選択肢は非常に制限されている。

 比較的選択幅があるのが、ノッペラボウという意味不明なミタマ。

 ミタマの強化なんぞ俺はできないから、スキルではなく戦闘スタイルを選べるだけだ。

 …こいつ、相変わらず俺の中でフラフラしてるだけなんだよな…。

 強化したら違ってくるのだろうか?

 

 で、色々試してみた結果、ノッペラボウはこれと言って得意・苦手なスタイルは無さそうだ。

 …ノッペラボウって特徴が無いって意味でもあるんだが…いやこれは逆に特徴的だよねぇ…。

 

 ともあれ、どのスタイルを使っても同じなら、遠慮する事は無い。

 その場に合わせたスタイルに変えさせてもらおう。

 一つのミタマで全スタイルを利用可能…しかもスタイルを変えるには引き出し方を変えればいいだけなんで、戦闘中にも変更可能。

 ゲーム的に考えれば、何そのチート、に見えるだろう。

 

 が、しかし!

 だがしかぁし!

 それではタマフリの効果が弱いのだ!

 

 例えば分かりやすい『攻』の渾身。

 気持ち威力が高まったかな?

 

 例えば移動速度を強化する『韋駄天』。

 騒ぐほどの速度じゃない。

 

 例えば全ての攻撃を無効化する、『天岩戸』。

 4~5秒保てば上出来。

 ちなみにまだ上手くタマフリできず、5~6回に1回成功すればいい方だ。

 

 最もお世話になる、全ミタマ共通の治癒。

 …回復量が1割くらいに減ってしまう。

 

 まぁ、これに関しては戦闘中にスタイルを突然変えたら、の話なので、最初から同じスタイルを貫けばそれなりに効果が出る。

 戦闘中のスタイル変更は却下だな。

 

 

 

 …話が反れた。

 どっちにしろ、この世界では一足飛びに装備を整える事はできないし、当然それに従ったスキルしか揃えられない。

 とにもかくにも、この世界でハンターとして活動し、装備を整えていくしかない。

 当面は………確実に戦う事になり、かつヤバそうなのと言えば、やはりティガレックスか。

 ……麻痺ハンマーの準備を進めよう。

 バインドキューブにはお世話になりました。

 

 

 

 

 

 

 




最近、仕事中にどうやって主人公を死なせるかについて考えるのが日課です。

閲覧数が一気に増えた件について。
…なるほど、これがキングクリムゾンか…。


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第12話

 

 

HR月長寿ジャム日

 

 

 エイム力が足りない。

 専ら接近戦ばっかりしてたから、狙いをつけるのが上手くできない。

 神機の銃形態も、ゼロ距離射撃ばっかりやってたからなぁ…。

 ガノトトス辺りを相手に、暫く遠距離攻撃の練習をする。

 

 しかし何だな、猟銃よりも強いボウガンとか意味不明です。

 …そう言えば、討鬼伝世界にも銃を使うモノノフが居るらしい。

 その戦い方を覚えれば、モンハン世界でも同じ事が出来るかもしれない。

 逆に、モンハン世界の技術を討鬼伝世界で使う事も?

 ……どっちにしろ、銃での戦い方を覚えなければ。

 

 さて、ボウガンや弓で狩りに行く為に………ガンナー用のクック先生装備を整えに行きます。

 またお世話になります、先生。

 

 

HR月猛牛バター日

 

 うぅむ、自分でやっといてなんだが、本当にガノトトスを釣り上げられるとは思わなかった。

 …と言うか、既に4回ほどガノトトスを狩ったのだが、普通に釣り針を垂らしているだけでは引っかからなかった。

 そりゃ当然だよね。

 

 いくら好物のカエルが目の前にブラ下がってるからって、野生動物が周辺の警戒を怠る訳ないじゃない。

 しかも、釣りポイントで普通に釣竿垂らしてれば、そりゃ丸見えになって当然だわ。

 釣りポイントでずーーーっとジッとしていれば、見失ってくれるかもしれないが…いかに釣りポイントと言っても、野生のど真ん中。

 ランゴスタは飛んでくるし、後ろからホーミング生肉が頭突きかましてくるし、周囲を警戒しないと話にならない。

 

 一度目は、釣り糸を垂らしていたら即見つかって、飛び掛ってきた。

 二度目は横這いになって釣り糸を垂らしていたら、後ろからホーミング生肉に踏まれてガノトトスに気付かれ、生肉諸共にウォーターカーターで吹っ飛ばされた。

 

 3度目の挑戦で、事前に周囲の敵を掃討し、葉っぱや木切れ等で迷彩し、ついでに水を土煙で濁らせて、ようやく釣り針に食いついた。

 が、問題だったのはそこからだった。

 ガノトトスのデカさを考えればすぐ分かるだろうが、重いってレベルじゃねぇ。

 あのデカいのが、全力で泳ぎ回って抵抗するんだ。

 そして、考えてもみて欲しい。

 俺の体重と、ガノトトスの体重、どっちがどれほどデカいのか。

 

 …さて、ここでちょっと想像してみよう。

 今となっては遠い昔のオボロゲな記憶になりつつある……いや、やっぱそこまでじゃないわ……前世の車。

 車と人間をロープで繋ぎ、綱引きしあったらどうなるだろうか。

 いや、オーガとかアンチェインとか孫悟空とか、あの手の人間(?)は別として。

 

 

 

 …危うく、逆に釣られて一呑みにされるところでした。

 あの時、釣り糸が切れた反動で対岸まで吹っ飛ばされてなかったら、どうなっていた事か…。

 デスワープには慣れたけど、食われる恐怖は勘弁だ。

 

 

 で、ここで俺はようやっと気付いた。

 単なるカエルでは釣り上げられないのだと。

 釣りカエルって普通のカエルと分けてるくらいなんだから、そりゃ何か仕掛けているのも当たり前だ。

 この世界の事だし、特に何もしなくても素でそういうカエルが居る可能性もあるが…。

 

 ヒントは眠り肉や麻痺肉。

 肉に薬をかけてそんな機能を付けられるのだから、カエルにだって出来る筈。

 捕らえたカエルを捕獲用麻酔玉の中身に漬ける事3日間。

 出来上がったのが真・釣りカエル太郎である。

 これに食いつけば、即座に麻痺・睡眠…とは言わないまでも、それなりに動きは鈍る筈。

 出来れば中に爆弾でも仕込みたかったが、生憎カエルサイズでは爆竹程度しか詰められない……カエルに爆竹とか、無邪気で無慈悲な小学生みたいだな。

 

 ここまでやって、4度目の挑戦でようやく釣り上げられたワケだが……この話、他のハンターにしたらホラ話扱いされてしまった。

 何故?

 

 

 

 

 

HR月ゲンコツ米日

 

 調べて見たところ、ガノトトス=釣り上げるというのはこの世界では非常識極まりない事らしい。

 冗談半分の御伽噺に残っていたり、漫談で使われる事はあるが、実際は…お察し。

 

 まぁ、幾らハンターが頑丈で強力だからって、常識で考えりゃそうなるわな。

 実際、特性釣りカエルで動きを鈍らせていたとは言え、一歩間違えれば逆に釣られるレベルだったのは間違いない。

 ついでに言うと、釣った瞬間に釣竿はお陀仏していた…ムチャ振りに耐えてくれてありがとう。

 やっぱりゲームと現実は違うわ。

 

 しかし、折角釣り上げた訳だし、試行錯誤の結果をホラ話扱いされるのも面白くない。

 という訳で、ホラ話扱いしたハンターと、証人2人を連れてガノトトス討伐に行きます。

 

 …ま、実際、釣り上げてどんなメリットがあるかって言われると辛い所だけどね。

 大樽爆弾一つ分くらいの威力があります、たって証拠が無い。

 無理矢理釣り上げられば怒るのは当然だし、ダメージとかショックはあるが……ああ、水場に居るガノトトスを引っ張り出せるってのもあるか。

 ま、音爆弾の節約にはなるかな?

 

 

 

HR月アブラフグ日

 

 どやぁ…

 

 

 という訳で、一本釣りして見せました。

 流石に唖然とされた。

 まさかこの世界で「何者だコイツ」的視線を受けるとは思わなかったよ!

 もっと非常識な連中が、モンスターでなくても山ほど居そうなのにね!

 

 …この分だと、他にも色々と調べておいた方が良さそうだなぁ。

 モロコシ砲なんか作った日には、フザけてんのかとツッコミくらいそうな気がしてならない。

 

 ま、後はボウガンやら弓やらの集中砲火でサクッと狩りましたが。

 やっぱ4人がかりだと楽だね。

 

 それはそれとして、迂闊に真似されて失敗されても寝覚めが悪いので、釣りカエルの作り方を教えておいた。

 

 

 …魚拓を取ってみた。

 家に飾っている。

 

 

 それはそれとして、最近…というか今回も前回も、オネーチャンの所に遊びに行ってなかったのに気がついた。

 充分に貯蓄はあるし、ちょっと行ってきますか。

 

 うーむ、しかし何だな。

 いつもいつも決まった相手というのも……顔を覚えられてるワケでもなし。

 たまには他の人もアリ、か?

 

 まぁそれは追々考えるとしても、最近ふとした拍子に「恋人とか欲しいなぁ」と考える事がある。

 一人が苦にならない性格とは言え、やはり環境が環境だし、誰かに縋りつきたくなっているんだろうか?

 でもデスワープしたら、全部オジャンだし…それで完全に死ぬならまだしも、次の週で全く無かった事になっているだろう。

 そう考えると……寂しさとか辛さより、徒労の方が強く感じられる。

 

 

 要するに、やっぱり面倒くさいって事だ。

 

 

 

 

HR月プレデターハニー日

 

 

 モロコシ砲はちゃんとあって、使われているらしい。

 解せぬ。

 

 それはそれとして、以前に世話した3人組がハンターとして復帰するらしい。

 改めて礼を言いに来たと言うか、決意表明しに来たと言うか。

 

 でも俺と組むのは暫く待って欲しい、と言われた。

 動きのレベルや装備が違いすぎるから、今組んでもタカリにしか見られない。

 …猟団って事にしとけばいいと思うが、まぁ本人達の判断だ。

 何も言うまい。

 

 暫くは、俺に言われた通りに簡単なクエストを続け、装備を整えるつもりのようだ。

 その間に、訓練所で受けた事を反復しなおすとか。

 …それこそ師匠や教官が居た方がいいと思うけどね。

 

 ま、それも含めて自己責任だ。

 これ以上首を突っ込む気は無い。

 自立できたと自分達で自信を持って言えるようになったら、猟団を組んでほしいと言われた。

 おk。

 

 

 ちなみに3人組の内訳は、

 

①特攻癖がありそうなヌヌ剣使い(男)

②目付きが鋭くて①にヤンデレてそうなヌヌ剣使い(女)

③頭の良さそうなブレーキ役(時々アクセル)のヌヌ剣使い(男の娘)

 

 と言う、どっかで見たような気がする3人だ。

 ……折角集まってんだから、ヌヌ剣ばっかりじゃなくて役割分担しろよ。

 まずはそこから見直しなさい。

 

 

 

 あと、「ガノトトスを釣り上げたって聞いたけど、何やったんだ?」とも聞かれた。

 文字通りの事しかしていませんが、何か?

  

 魚拓を見せたら戦慄された。

 

 

 

 

HR月ぶたせんべい日

 

 狩りは順調。

 同じ相手を何度か狩って装備を整えてから、次の相手に向かう…を繰り返している。

 アラガミ化の兆候も見られない。

 …いや、ちょっと腹が減りやすくなってるか?

 単に食欲の秋だからか?

 

 うーむ、ガノトトス仕留めて刺身か焼き魚にしたいね。

 ムニエルでも可。

 

 でも今日のターゲットはバサルモスだった。

 ゲームでは大抵同じ場所に隠れていたし、動き回る範囲も限られていたから発見は容易だったが、どっこい現実はそうはいかなかった。

 狩りに行く場所は、毎回同じ場所じゃない。

 初めて行く所だってあるし、前回行った所でも地形が変わっているなんてよくある事。

 …ゲームでも火山とかが、昼と夜で地形が変わってたが……ホントにどうなってるのやら。

 

 ともかく、そんな場所で岩に擬態したバサルモスを探すのは大変だった。

 適当にその辺の岩をガンガン蹴っ飛ばしながら進んでいたのだが、何故か火薬岩が一発蹴っただけで大爆発するし連鎖するし、メラルーに調合書かっぱらわれるし、エライ目にあった。

 まぁ、その爆発でバサルモスがノソノソ出てきたのは…助かったと言えば助かったか。

 ミタマスタイル『防』のガードゲージが満タンでなかったら、即1乙レベルのダメージだったけど…。

 あと、爆発で地形がちょっと変わってしまったらしく、溶岩と追いかけっこをするハメになった。

 ハンター的に考えて、溶岩に触っても火傷で済むかもしれんが…いや流石に火砕流はなぁ。

 …あ、地形が変わる原因はこれか?

 

 そんなトラブルで疲労困憊だったのに、仮眠も取らずにバサルモスを討伐した俺を褒めてくれ。

 今日はガチで疲れた……。

 

 

 

HR月スパイスワーム日

 

 同じ調子でバサルモスに挑むのは、ちょっと辛い。

 幸い、一度戦ったので、バサルモスの詳細な情報を閲覧する権利を得られた。

 それによると…バサルモスが隠れる場所には、幾つかの条件があるらしい。

 まず、ある程度広い場所。

 続いて、周囲に火薬岩がある傾向が強い。

 

 そして、周囲に自分の擬態用岩よりも大きな岩が無い。

 つまり、その近辺で一番デカい岩が怪しいという事だ。

 理由については分かっていない。

 擬態するのなら、同じくらいの岩が沢山あった方が効果が高いだろうに…。

 

 ひょっとしてアレか?

 噂になると、もとい比べられると恥ずかしいし…とかか?

 アレは人間で言えば男性のアレみたいなもんで、自分よりデカいのを見るとつい萎縮してしまうとか?

 だとすると何という猥褻物陳列罪だ。

 

 

 さて、見つけるのも面倒だが、狩るのも当然面倒くさい。

 いやもうホントに堅いんだアイツ。

 イイ感じのガンナー装備が作れなかったんで剣士装備で行ったんだが、ガンランスが通じにくい。

 突きが効き辛いようなら弾かれない砲撃で、と考えて行ったんだが…よく考えれば、砲撃はアカラサマに火属性だ。

 そっちの方が効き辛いか? 

 いや、武器毎に砲撃の属性違ったっけ?

 でも見た目爆発なのに、氷属性とかありえな…いやでもこの世界だし。

 属性耐性どうなってたっけ?

 うーん、脳内Wikiはアテにならん。

 

 でもこのデッカイ盾は結構使いやすいな。

 全身で受け止める形になるから、割と踏ん張れる。

 流石にガス攻撃は受け止められないけど…。

 

 

 防御面では悪くない。

 やはり問題は攻撃面だ。

 ガンナー装備が満足に作れない今、ふくろに大樽爆弾を50個くらい突っ込んで持っていくくらいしか思い浮かばない。

 しかし、あんなに火薬岩がゴロゴロ転がってる所でそんなにボンボン爆発させていたら、間違いなく地形が変わってしまう。

 勢い余ってデスワープするオチが目に見えるようだ。

 クエストが終わったからって、余った爆弾で皆してドカーンなんてリアルでする筈がない。

 

 うーむ、どうしたものか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 考えるのが面倒になってきた。

 神機でガンガンぶっ放してしまえ。

 刀身はこの世界では弱いが、神機なら剣士装備で遠距離攻撃ができるからな。

 

 

 

 

 

 

神無月B日

 

 ですわーぷ~。

 

 しくじった。

 すまないハンター3人組。

 偉そうな事言っといて、こっちが先に死んでしまったよ。

 と言うかアレは避けられねーよ…。

 

 都合、4度目のバサルモス討伐に行った時の事だ。

 いつも通りにバサルモスを探し、近隣で一番デカい岩を蹴っ飛ばして歩いていたのだが…火山の火口近くに来た時、それは起こった。

 適当に蹴っ飛ばした岩の一つが、火薬岩だったのだ。

 …そう、その近辺で一番デカい岩を蹴っ飛ばしていたのだが、それが火薬岩。

 岩がデカければ、爆発の威力も範囲も高くなるのは予想できるだろう。

 

 …その岩だけでもそれなりにキツかったが、耐えられた。 

 周囲の岩にも幾つか火薬岩が混じっていて、そっちの連鎖も耐えられた…初回にバサルモスを討伐に行った時の爆発の方が強かったくらいだ。

 

 が、それによって崩落するとか幾らなんでも予想外だよ。

 天上が落ちてきたとかじゃなくて、立っていた岩盤が盛大に割れて、そのまま俺諸共に火口へボッシュート。

 咄嗟にミタマのスタイル変更して、韋駄天やら縮地やら使いまくったんだが、間に合わなかった。

 崩れ落ちた岩盤の頂点まで駆け上って、崖に向かってジャンプ!

 だが届かない!

 

 …うん、まぁ、良く考えれば有りえない事じゃないかもしれないな。

 

 あの編、バサルモスやらショウグンギザミやら、多分時期によっては成体になったバサルモス…グラビモスも、しょっちゅう埋まったり土の中を通って移動したりしているんだ。

 地盤がボロボロになっててもおかしくない。

 そこへ来て、最近俺がバサルモスと連戦して、何も考えずに神機の銃形態をブッパしまくったからなぁ…。

 流れ弾が火薬岩に誘爆したのも、一度や二度じゃなかった。

 

 とは言え、火山の震動にも耐える岩盤が、それだけで崩れ落ちるというのも考え辛い。

 何か他に要因があったか、それとも運悪くそういう形の岩盤になってしまったのか。

 

 …でも、あの揺れはなんかちょっと違うような気がするなぁ。

 小さな地震しか体験した事がないとは言え、これでも地震大国日本で育った身だ。

 どっかの展示で、「地震を体験してみよう」って言うので大きめの奴をやってみた事もあるし、なんかこう……?

 

 今度モンハン世界に行ったら、あの時期の討伐は少し休んで様子を見てみるか。 

 

 

 さて、今回のGE世界だが、例によってオウガテイルの群れを適当に捌き(神機があると楽だね)、討伐に来たゴッドイーター達と無事に合流できた。

 あと5分遅かったら、もう帰ってたところみたいだったが……まぁ、そうなったらそうなったで徒歩で向かうまでだ。

 携帯食料だって使ってなかった分があるから、今回は割りとイージーモードだったな。

 

 で、その時のゴッドイーター……て言うかコイツがエリック上田じゃないか!?

 前回もこの人だったか!?

 くそ、覚えてねぇ。

 折角の有名人(?)との初邂逅が…。

 

 

 ええい、とにかくだ、エリックさんだと帰り道中でも上田してしまいそうな気がしたので、別のゴッドイーターにクック先生の素材を一つ渡して、「支部長か偉い博士や技術者の人に、これを見せてください」とお願いした。

 この世界では有りえないモンスターの素材だ。

 幾らか興味を惹けるだろう。

 もしあちらから接触が来たら、前回同様、アラガミに襲われた違法研究所から逃げ出してきた設定で話を進めるつもりだ。

 渡したクック先生の素材は、その研究所からかっぱらってきた証拠品扱い。

 

 違法研究所云々はともかく、ゴッドイーターはアラガミ化抑制剤を手に入れなければそう遠くない内にアラガミ化し、周囲に被害を撒き散らして処分される。

 こちらの言い分を信じるかはともかく、その一点だけは議論の余地があるまい。

 新入りゴッドイーターとして参入して、抑制剤を溜め込むつもりだ。

 結局、モンハン世界では何が原因でアラガミ化しなかったのか、分からなかったしな…。

 

 

 現在は、難民として宛がわれた小屋の一室でこの日記を書いている。

 初回と違い、二人での共用部屋だ。

 一家に一つ家を用意していたら資材が足りないので、この辺では共同生活が当たり前なのだとか。

 ううむ、GE世界ではアナグラで暮らすか、ホームレスやってたので知らなかったぜ。

 

 

 

 

神無月E日

 

 計画通り。

 

 クック先生の素材に興味を持ったフェンリルが接触してきた。

 が、榊博士が直接一人で出向いてくるのは予想外だったよ。

 その点で既に計画通りじゃないな。

 

 と言うか、この辺にはフェンリルに反発してる人が結構居るのに、一目でお偉いさんと分かる格好してきていいのかね。

 …聞いてみたら、みんな親切に道を開けてくれたり教えてくれたりしたそうだ。

 きっと、このいつもニコニコしている(ように見える)細目から、マッドオーラとかが出てたんだだろうなぁ。

 関わっちゃいけないって、向き合った瞬間に分かるもの。

 計画通りと言いつつ、俺も逃げたい。

 ちなみに一夜を共にした(同じ屋根の下で寝ただけだが)同居人は、博士の来訪と同時にダッシュで逃げた。

 

 で、身の上話は適当に。

 例によってまるで信じられていなかったけど、博士としては残りの素材やら色々データやらが取れるなら、そっちが優先だったらしい。

 裏取引のような形になったが、俺もフェンリルに所属するゴッドイーターという事になった。

 ちなみに裏取引のついでに、アラガミ化抑制剤を多めに支給してもらえるよう手配してもらう。

 

 それと今回は、俺は支部長ではなくペイラー博士の直属という形になるらしい。

 フェンリルの上下関係はイマイチ覚えていないが、これってどうなるんだろうか?

 支部長の下って事は、多分原作の主人公やリンドウさんのように、特務を押し付けられる形になるのだろう。

 …でも榊博士の下だと、もっとキワモノ的な任務を押し付けられそうだ。

 なんだ、どっちも変わらないじゃん。

 

 少なくとも、今回でストーリークリアが出来るとは思っていない。

 なら支部長ではなく博士の下に居た方が、技術的な恩恵やフィードバックを受けやすいだろう。

 ……と思っておこう。

 

 

 ああそれと、フェンリルに所属してアナグラに引っ越す時、現地の方々の何ともいえない目が居心地悪かった。

 反発はしていても、その中でもっと安全な(ように見える)環境を得られるなら、自分も行きたい…ってトコか。

 人間の社会のややこしさよなぁ…。

 

 

 

 

神無月G日

 

 素材を幾つか渡して、それに関する活用方法を書かれたメモを渡す。

 このメモ、モンハン世界で買った鍛冶技術関連の本な訳だが、当然モンハン世界の文字で書かれている。

 翻訳して転記しなければならないのだが、専門用語がメチャ面倒臭かった。

 

 さて、それは置いといて。

 博士は暫く素材に夢中で、こっちに面倒な仕事を押し付けて来る様子はない。

 ま、俺がどれくらい使えるのかもまだ分かっちゃいないからね。

 だから、「ヒマだから適当に出撃してますよ」って言ったらアッサリOKもらえた。

 ついでに、「博士の直属で、特務って形ならチュートリアルも飛ばせますか?」って言ったらこれもOK。

 以前はヴァジュラとかとやり合えるレベルだったし、その少し前から慣らしていくとしよう。

 

 

 ……前回では、ツバキさんとそこそこ仲良くなってたんだよなぁ。

 でもデスワープしたから当然それもオジャン。

 むしろバッタリ会った時、不審人物を見る目で見られた。

 報告にない新人・新型使い・しかも榊博士直属と、怪しい要素テンコ盛りだから無理もないんだが…ちょっと傷つく。

 

 あとチュートリアルをすっ飛ばしたから、教導に託けて谷間と尻とウェストラインを鑑賞できなくなってしまった。

 それなりに友好関係を築いてからでないと、セクハラにしかなるまい。

 なるべく自重しよう。

 

 

 

 …盗み見して夜の有事に備えるけどな!

 

 

 

 

神無月Z日

 

 なんかしらんけど、GE世界だと出撃が捗る。

 モンハン世界だと、クエストを受けるのは基本的に一日一回、多くて二回だった。

 何せ移動に時間がかかるので、朝受けて戻ってきたら既に夕方、夕方受けて戻ってきたら既に深夜になってしまう。

 それでもほぼ毎日クエストに出ていたが。

 ちなみに一般的ハンターは3~4日に1回が平均らしい。

 あくまで平均的な、であるので、凄腕ハンターや所謂ギルドナイト級の猛者は、平然とこれを超越するらしいが。

 

 それに比べて、GE世界のミッションは車を使えるし、ミッションの現場は比較的近場が多いので、移動に時間がかからない。

 ターゲットの頑丈さも、モンスター達と比べるとちょっとばかり脆い傾向がある。

 だから奇襲に成功したら大抵はそのまま終わり。

 時間もかからない、体力も使わない。

 ことに今回のGE世界は、榊博士の直属という大義名分と言うか特権がある。

 立場的には新米ゴッドイーターの俺だが、この特権を使えばある程度上のミッションにも出撃できるのだ。

 

 

 だからと言って、初出撃からコンゴウとグボログボロとシユウを一気に仕留めて来たのはやりすぎだったか?

 いやでも初期ミッションだし、そこまで鬼畜ミッションって訳じゃないぞ?

 こいつらも分断して奇襲して、動きを止めてメッタ斬りにして、スタングレネードとかで動きを封じてから銃で蜂の巣にしただけだし。

 手順さえ間違えなければ、初期装備…は言い過ぎにしてもちょっと強化した装備なら、誰でもクリアできる程度だった。

 

 戻ってきたら、なんか畏怖の目で見られているような気がする。

 …それともアレか、ミッションの内容よりも、榊博士の直属というのが怪しいからか。

 どっちもありそうだ。

 

 

 それはそれとして、どーもテンションがおかしい。

 モンハン世界に比べて、妙にアドレナリンが出ているような…テンション高くなってる感じ?

 キャラクターメイクの声が全然違う人なのだろうか、ゲーム的に考えて。

 

 …真面目な話、この微妙に浮かれた気分は何とかした方がいい。

 狩りの最中に、軽挙妄動に走ってしまいそうな気がする。

 

 なーんかね、中二病的に右腕が疼くっつーか、むしろ腕輪から得体の知れない何かが注入されているような気が…。

 

 

 

 

 




…ほほぅ、レイジバースト。
………え、PS4でもプレイ可!?
う~~む、これは本格的にPS4を買うべきか…。
アサシンクリードもPS4だしな。

だがその前に新しいテレビを買わねばならぬ。
うぅ、出費が…。


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第13話

 

神無月N日

 

 

 やっぱテンションがおかしい。

 ノリと勢いのまま、昨日は一日の最高出撃数を軽く更新してしまった。

 うーん、何というか俺の意思じゃなくて、アラガミを喰いたがっている神機に操られている気分になってきた。

 考えて見れば、神機はアラガミしか食べないよう調整されたアラガミだ。

 それが討鬼伝世界・モンハン世界と、数ヶ月に渡ってアラガミを喰ってない状態だったのだ。

 モンハン世界ではアプケロスに喰いつかせてみたが、直後にペッと吐き捨てていたし、絶食状態にあったと言っていい。

 こんがり肉すら吐き捨てた辺り、その名に恥じない偏食ぶりである。

 …食い物を粗末にしやがったので、一晩酢に漬ける刑に処したが……翌日のニオイが文字通り酢っぽくなって、実に使いづらかった。

 

 …成程、『なんでもいいからアラガミ喰わせろ』の一念で俺を操っているのか。

 侮れん。

 

 

 それはそれとして、榊博士に素材研究の進み具合を聞いてみた。

 クック先生の素材以外にも、裏取引の為色々と渡していた。(それらを見せた時の表情は、文字通り垂涎という奴であった)

 それを博士は、幾つかの技術者チームで研究させている。(勿論本人も研究している)

 そこの人達には、俺が違法な研究所に居た事は教えているそうだ。

 

 現在、主に研究しているのは怪力の種や忍耐の種。

 サンプルが多く、最も早く実用化できそうで、かつ効果も実用的だというのが理由。

 まぁ、飲み込むだけで一時的とは言え筋力アップするからね。

 そう聞くと、得体の知れない非合法薬品みたいな気がしてくるが。

 

 しかもゴッドイーターでなくても使えるから、普及すれば怪力の種は力仕事とかも楽になるし、忍耐の種は有事の際に多少は身の安全を高められる。

 何より育つのが早いので、食料的な意味でも優秀。

 …かと思ったのだが、どうやらこの世界では栄養が足りていないのか、育てるのは一筋縄ではいかないらしい。

 あっという間に育つか枯れるかするので、育成自体に時間は掛からないらしいが…成功率が少ない。

 うーむ、こりゃ飛龍のフンでも持ってきておけばよかったか?

 でも、必要も無いのにふくろにフンを詰めておくのはちょっとな…。

 せめてミミズか肥やし玉か。

 

 

 

 …ちなみに怪力の種はちょっと辛めで、忍耐の種は酸っぱい。

 

 

 

 

神無月H日

 

 人間関係的によろしくない。

 と言うか警戒されているのかソロで出撃ばっかりしているからなのか、遠巻きにされていて誰も話しかけてくれません。

 うーむ、基本的に他人に自分から関わる事って無かったから、こっちからどう近付けばいいのか分からない。

 何か切欠でもあればいいのだが…。

 

 

 あと、受付のヒバリ嬢から「少しは休まないと駄目ですよ」と心配されてしまった。

 まぁ、普通じゃ考えられないペースで出撃してるからな。

 でも無理です。

 神機の食欲に操られているので、体が勝手にアラガミを食べに行こうとするんです。

 

 言って見たら冗談だと思われたのか、クスクス笑われてしまった。

 …うーん、前回は何やら得体の知れない妖怪を見るような目で見られていたような…?

 何かやったっけ?

 異様な出撃回数っていうのは、今回も変わらないし。

 

 

 あと、ヒバリ嬢との仲をタツミさんに疑われた。

 そういえば貴方、ヒバリ嬢にご執心でしたね。

 いや、普通に世間話してただけですよ?

 それだけで疑って突っかかるのは男としてどうかと。

 …うーむ、前回一緒に出撃した時は、普通にいい人で、ゴッドイーターとしても凄腕だったんだけどな。

 人間ってのは妙な欠点を持つものだ。

 

 

 

 

 

神無月Q日

 

 

 ミッションを終えて牛乳飲んだ後に部屋に向かって歩いていたら、見知った顔を見つけた。

 以前GE世界でパイルバンカーの設計を頼んでいた、あの技師だ。

 なんだかえらく不機嫌と言うか不景気な顔をしていらっしゃる。

 

 …アレは欲求不満が溜まってる目だな。

 彼らの性格からして、シモの欲求不満は自分で処理できるけど、情熱の欲求不満は完全燃焼しないとどうにもならないだろう。

 

 という訳で、世間話を装って話しかけてみた。

 最初は仕事の邪魔だと鬱陶しそうにされたものの、パイルバンカーの話をすると…ホレ食いついた。

 俺が違法研究所に居た(事になっている)のは知っていたらしく、そこでの知識だと言うとちょっと複雑そうだったが。

 

 以前、ちょっとだけ見せてもらった設計図(未完成)に書いてあった走り書きを、オボロゲな記憶と言葉で伝えたところ。

 

「うん? 何故そこで便秘なんて言葉が………ああ、あの機能の略か」

「それは多分、衝撃拡散の為の機構だ。そんな使い方をするとは、新しい……惹かれるな」

「遠距離武装が不可能に? それによって得られる火力……分かっているじゃないか」

 

 等と、ロクに形にもなってない情報から物凄い勢いで全体を予測していた。

 言葉の7割くらいが褒め言葉だったが、自分自身を褒めているなんて予想もできんだろうな。

 

 ともあれ、これを作った人は、同じ違法研究所で働かされていた技師で、恐らく既に亡くなっている(と言う設定)で伝えておいた。

 かなり残念そうにしていたが、すぐさま立ち直り、「アンタの意思は俺が継いでみせる!」などと宣言。

 速攻で仕事を終わらせ、設計図を描きに行ってしまった。

 一応、俺にも完成した設計図のコピーをくれと約束させたのだが…アテになるかな。

 

 

 

 

 

 

神無月P日

 

 あれから2日。

 もう設計図を描き終わりやがった。

 前回はかなり時間がかかっていた筈だが…下地があるだけで、こうも違うのか。

 

 しかも前任者(お前だよ)に対抗意識を燃やしたらしく(自分に対抗意識というのも変な話だが)、偏った機能を更に激化させやがった。

 以前に設計されていたパイルバンカーは、その多大な火力の変わりに、銃が仕えなくなるという極端な代物だった。

 

 じゃあ今度は何か?

 盾が使えなくなるのか、それとも刀身が短くなるのか。

 

 

 

 

 

 

 クッソ重たくしやがった。

 

 

 

 

 

 そりゃ理屈は分かる。

 何かに物体をぶつける場合、その衝撃を高めるなら、簡単な手段がコレだろう。

 物理的な運動エネルギーの法則、つまりK=1/2MV二乗って式を鑑みるに、一番効率がいいのはスピードを速める事だと思うが。

 炸薬の衝撃で杭を打ち出しているのだし、これ以上を求めるのは難しい。

 となれば、重さを求めるしかあるまい。

 重くするだけなら、そういう合金を使うなり、デカくするなり色々方法はある。

 ……それを充分な速度で打ち出す為の方法は、限られると思うんだが。

 

 とにかく、この技師、極端から極端に走るというか走ったら極端を通り越してでも進み始めると言うか。

 こんなモン装備してたら、無条件に鈍足スキルが5個くらいついてしまいかねん。

 しかも掟破り(ゲームGE的に考えて)の重複効果有り。

 ステップしまくって、ようやく歩いているグボログボロに追いつけるくらいのスピードしか出せそうにない。

 しかも遠距離武器が使えないのは相変わらず。

 

「その分、当てたらボルグ・カムランだって一発部位破壊だ!」ってやかましいわ。

 部位破壊どころか、当てる所を選べば千切れ飛びそうな威力じゃねーか。

 反動だけで使い手のゴッドイーターがリンクエイド必須状態になっちまう。

 

 でも俺ならもうちょっとだけ機敏に動ける、と思う。

 何だかんだでハンターボディ×GE強化×ミタマの韋駄天は伊達じゃない。

 何より、元々相手の不意をついて、そのまま何もさせずに倒すスタイルだ。

 ちょっとくらい動きが鈍っても、キマれば一撃必殺の武器があるなら十二分に活用できる。

 

 よし、出来上がったら試作品でもいいから渡してくれ。

 テスターやっちゃる。

 

 

 

 

 

 

 と言ったら「マジで!?こんなイカれた代物なのに!!」って自分で言ってた。

 自覚があるだけ救いがあるのか、それでも作るだけ業が深いのか…。

 

 しかもその後、

 「衝撃を余さず叩き込む為、捕食機能を応用して敵を捕まえる機能を考えている。ただし一度捕まえたら自分から離れる事はできない」

 「チャージで攻撃力を高められる。ただし生命力もスタミナもガンガン消費する」

 「相手の攻撃を利用してカウンター。ただしミスったら即リスポーン」

 「一度のミッションで使えるのは一度だけ、と言うか作るのに超苦労するのにアイテム同然の使い捨て」

 等々、何考えてんだテメーと言いたくなる案を聞かせられ続けた。

 …………でも使えない事もないんだよなぁ…。

 

 

 あと、完成した暁には俺に名前を付ける権利をくれるそうだ。

 テスターの礼と言っていたが………うーん、どうしよ?

 なんかGE世界に来ると閣下みたいなレベルで出撃するようになっちゃうし、いっその事A-10とかスツーカとか名付けるべきだろうか。

 

 

 

神喰月T日

 

 

 すっかり忘れてたが、神機の刀身をモンハン世界の武器にできないか?

 武器を徐々に食われるのを覚悟の上なら、現在でも出来ない事はない。

 現状、解決方法としては、刀身のナカゴ部分だけをGE世界の素材にする事。

 或いは、討鬼伝世界の、物理法則を無視した素材に変える事。

 どちらも一朝一夕ではできそうにない。

 今でも榊博士達は怪力の種とかを研究しているのに、これ以上の面倒事(歓迎されるとは思うが)を持ち込むのはいただけない。

 二兎追う者は、逆に誘い込まれて集団リンチを喰らうのだ。

 

 とは言え、このまま待っているのも癪だ。

 近接武器はGE世界の物より、モンハン世界の物の方が強力な傾向があるし、これに成功すれば随分攻略が楽になるだろう。

 自分でどうにかできないか?

 ……うーん、簡単な整備くらいは出来ると思うが、これって研究の領域だしな…。

 ヘタな物を神機に食わせて、不調が出ても困る。

 出撃ができなくなるじゃないか。 

 閣下だってスツーカ無しでは出撃しなかったと言うのに!………してないよね?

 そーゆーのはどっちかと言うと船坂さんの領分だよね?

 

 ともあれ、現状はやめておくべきだろう。

 GE世界のミッションは、当面は問題なくこなせるレベルしかない。

 油断したり事故ったりしなければ、前回と同じくらいの所までは生き残れると思う。

 榊博士からのムチャ振りがあれば別だが、あの人は研究に意識が行ってるから暫くは大丈夫だ。

 

 

 

 それはそれとして、例によって空いた時間を訓練所で潰していると、藤木コウタがハイライトの消えた目で歩いているのが見えた。

 …ああ、もうそんな時期か。

 ツバキ…もとい、雨宮教官にシゴかれている真っ最中らしい。

 うーん、前回同様に連れ回してみようかと思ったんだが…こりゃ暫くは無理そうだな。

 

 仕方ないんで、大変だろうけどしっかりしろと牛乳飲ませてやった。

 

 

 

神喰月R日

 

 新しい月に突入。

 そして今回は出撃して棚卸しその他の月末業務から上手く逃げられました。

 その分、他の人に皺寄せが行く形になっちゃうが……うーん、なんだこの罪悪感。

 

 それは置いといて、今回は今のところ、殆どの原作キャラに接触していない。

 リンドウさんや横乳…もといサクヤさんと共同任務も行ってないし、ソーマとも会ってない。

 リッカさんは研究に時間を取られて、接触できるようなタイミングが無い。

 エリックさんは…なんか知らんけど、まだ生きてるし。

 雨宮指揮官に至っては、半ば不審人物を見るような目を向けられるままだ。

 

 …どうしてこうなった!?

 どうしてこうなった!?

 

 

 

 まぁいいけど。

 

 あまり人に心配されたりしない分、狩りにもホイホイいけるから気楽なもんだ。

 いや、流石にヒバリ嬢には心配されるけどね?

 「やめろ榊博士! ぶっとばすぞ!」されたから気晴らしに、と言ったら、涙目で気の済むようにしてください、でも無事に帰ってきて…と言われました。

 実際は拘束されて改造どころか、完全に放置プレイなんですがね。

 

 

 

神喰月T日

 

 

 今日も今日とて、出撃を繰り返す日々。

 …したらヴァジュラと当たりました。

 あーこれはアレだな、ゲームだとサクヤさんと一緒のあの任務だな。

 そういえば、前のGE世界でも当たったような…………駄目だ、サクヤさんのセクスィーな背中しか思い出せん。

 いや、脚線美とかうなじとか、その辺は普通に思い出せるんだが。

 

 

 さて、今更ヴァジュラなんぞ何するものぞ…とは言わないが、屠ってきました。

 かなり梃子摺った。

 前回は…ああそうだ、目玉潰してさっさと逃げたんだっけ。

 いくら文字通り目を狙ったからと言って、弱い現在の武装でもそれだけのダメージを与えられるんだから、多分弱いか若い個体だったんだろう。

 

 逃げ切るにせよ、一人だとちょっとキツそうだったし、このままストーリーが進めば、また錯乱アリサ+プリ……プリ………ブリリアント・ヴィラスーラ?の群れにカチ合うのは間違いない。

 ……間違いないよね?

 このまま誰とも接触せずに、気がつけば原作キャラが壊滅してたとか無いよね?

 …阻止せねば(使命感)

 

 とにかく、どっちにしろヴァジュラとはいつかやり合わないといけない相手だ。

 という訳で、トラップホールドで足止めしてメッタ斬り、ホールドが解ける前にササッと逃げて、見失った所に奇襲。

 更に恒例のスタングレネード+トラップ+状態異常弾の嵐で、半殺しにまで追い込んだ。

 

 残りの半分は正面激突。

 かなり手強かったが、どうにかこうにか勝利した。

 と言うか、あのマント一体なんじゃい。

 どう見てもヒラヒラしてて防御力もクソも無いのに、こっちの攻撃を殆ど弾きやがる。

 アレのおかげで銃撃の8割くらいを弾かれた。

 素直に足とか狙ってればよかったなぁ……やっぱりエイム力が足りん。

 

 

 

 

 あと、弱いとは言え単独でヴァジュラを狩ったと知られてかなり驚かれた。

 何、回収した素材の中にシッポが無い?

 結合崩壊できなかったからですよ。

 

 …え、俺の枕?

 いや形が似てるだけッスよ。

 大体、アラガミって死んで暫くしたら解けて消えますがな。

 シッポだけ残ってる筈ないでショ。

 

 

 

 

 

 …素材は何故か残るけどね?

 

 

 

 

 

 

 

神喰月S日

 

 

 快眠快眠。

 …いや、ハンター式熟睡法がよーく効いてるだけですよ?

 

 それはそれとして、本日リンドウさんと接触しました。

 ……特務の真っ最中のリンドウさんとな!

 

 うーん、強い強いとは思っていたが、マジでウロヴォロスを単独で狩るとは…。

 流石にアレに割って入れるような実力は無いので、見物してました。

 いざとなったらリンドウさんを連れて離脱するつもりだったけど、無用な心配でしたな。

 

 終わった後に声をかけてみたら、やっぱり警戒されてるようだった。

 榊博士の直属ってだけで、どうしてこんなに警戒されにゃならんのですかねぇ……。

 

 

 

 え、何?

 俺が博士に改造されて、同類を増やそうとしているって?

 

 

 

 

 笑えねージョークだなオイ…。

 

 お近づきの印に、残り少ないこんがり肉をプレゼント。

 ふっ、ジャイアントトウモロコシとは比べ物になるまい!

 何せこの世界じゃまず手に入らない、天然物の食材だ!

 何、ビールのツマミにいい?

 分かってんじゃないの。

 ヤキトリもいいが焼肉もいいよな。

 

 帰り道に(微妙に距離を取られながら)雑談してたんだけど、どーも新型神機使いがもうすぐ極東支部に来るらしい。

 この前コウタがヒィヒィ言いながら初期訓練してたのに、エライ早いな?

 と思ったら、なんか俺の存在が妙な形で関わっているようだ。

 

 新型神機使いは、現在極東支部に俺一人。

 ただし、どこぞの研究所から脱走してきたとかいうアカラサマに怪しい人物で、実力はかなり高い。(新人にしては)

 所属は榊博士直属。

 …そう、榊博士直属である。

 なんかもうそれだけでデンジャラスな空気が漂ってくるが、この場合問題なのは、例え支部長であっても直に命令する事はできないって点だ。

 勿論、直にでなければ命令はできる。

 組織の系統上、俺は榊博士に指示を受けたらそちらを優先する事になるし、それに対して罰則を与える権利は支部長であっても無い。

 

 でもって、榊博士は支部長の同志ではない。

 友人ではあるらしいが、それぞれ思惑がある。

 例えば俺に支部長が何らかの命を下したとしても、榊博士が何か曲解した伝え方をしたり、成果を隠蔽する事も充分可能。

 と言うか、ゲームでもやってたよね、シオの存在を思いっきり隠して。

 

 そんな訳で、支部長も自分の陣営を強化しようと、新型使いを懐に招きいれようとしているらしい。

 

 

 

 ……メンドクセェ!

 

 ぬぅ、モンハン世界はこーいうのが無いから気楽なんだよね…。

 

 

 

 

 別れ際、リンドウさんが何か閃いた顔してるのが気になった。

 

 

 

 

 

神喰月P日

 

 

 例によって狩りと訓練と牛乳で一日を過ごし、提出物は限りなく手抜きして過ごす。

 ……うん、手抜きはイカンね、手抜きは。

 

 提出物は、上司に渡す物だから、最低限のクオリティは必要だよね。

 上が榊博士で、細かい事を全然言ってこないからって、手抜きしたらしっぺ返しを喰うのは自分と周りの人なんだよ。

 

 

 

 

 

 アリサが部下に配属されます。

 

 

 

 

 うん、いきなり何を言ってるのか分からないと思うが、俺も分からない。

 と言うか、この前のリンドウさんの話じゃ、支部長が自分の部下にする為に呼んだんじゃないんですかね?

 何で俺と同じように、榊博士の下についとんの?

 

 どうなってんだと思って、提出物の履歴を見直してみたら……ああうん、確かにそーいう要請書が来てて、俺も了承印を押してるね。

 くそ、手抜きした奴の中に紛れ込んでたのか!

 

 しかし、コイツが何で俺のところに来てんの?

 普通、リンドウさんの所に回される書類じ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかと思って確認したら、やっぱりリンドウさんが俺に押し付けてやがった。

 あの別れ際、思いついてたのはコレか。

 

 いや、理屈は分からんではないよ。

 リンドウさんはどっちかと言うと反支部長派というか、色々探りを入れている立場だ。

 彼からしてみれば支部長派の勢力が増えるのは歓迎できないだろうし、新型神機使い同志なら組みやすいんじゃないか、って事もある。

 俺も新入りとは言え、そこそこ名が売れているらしい(改造されたと言う名がメインのようだが)しそれなりに実力もあるから、新入りを任せても問題ないっちゃ問題ないだろう。

 

 にしても、どーなるんだコレ?

 原作でアリサがリンドウさんの下に配属されたのは、まず間違いなく暗殺狙い。

 オオグルマとか言う、どう見ても陵辱用キャラの汚ッサンを最初から付けていたのだから、まず間違いないだろう。

 ストーリー的に問題が………ああ、別に無いのか。

 同じ班でなくても、例のミッションでカチ合えばいい。

 上手くリンドウさんを狙えなくても、錯乱したアリサが足を引っ張れば、戦況は格段に厳しくなる。

 リンドウさんの性格からして、自分が殿になって他の皆を逃がそうとするのは、予想に難くない。

 よしんば失敗しても、支部長のリスクは小さい。

 アリサが精神的にゴッドイーターとして不適格とされようが、オオグルマが掛けている洗脳までは気付かれないだろう。

 アラガミが異様に集まっていたのは事故、或いは観測班の不手際という事になり、支部長自身には殆どダメージ無し、か。

 

 やれやれ、そうそうシッポをつかませてくれそうにないな。

 

 

 

 ま、当面の問題は、あの反骨心というかライバル心が旺盛なアリサに、どうやって言う事聞かせるかだね。

 

 

 

 

神喰月D日

 

 アリサにいう事を聞かせる方法…。

 

 歓迎会?

 却下。

 初回はツンケンしているアリサが素直に受けるとは思えないし、そもそもマトモな知人が居ない俺が『会』なんて開ける筈も無い。

 

 

 

 かなしくなんてないやぃ。

 

 

 

 

 

 上司命令?

 多少は効果があるかもしれない…前回でも、何だかんだでリンドウさんの命令に従ってはいた。

 が、恐らく繰り返すと効果が薄れると思われる。

 命令は、時を選んでお使いください。

 ……なんかガンダムでそーいう場面があったような無かったような。

 

 んじゃどうする。

 原作でアリサがデレるのは、リンドウさんを死なせてしまった後、主人公がフォローしてからだ。

 要するに、決定的を通り越して致命的な挫折を犯し、その後に寄る辺とならねばならない?

 …いろんな意味で面倒な。

 

 挫折と言ったってどうすりゃいいのだ。

 ミッションに一度や二度、失敗した程度で心が折れていてはゴッドイーターもハンターもモノノフもやっていけない。

 これは生き延びているゴッドーイーター全員に言える事だろう。

 

 んじゃどうする?

 それ以上の挫折……心を追い詰める。

 ストレスをかける。

 しかし人為的にそれをやるとなると…。

 

 女性にあらゆる意味で屈辱・ストレスを与える方法となると、真っ先に思い浮かぶのはR-18なアレだ。

 しかしアレは進んでやりたい物ではない…二次元ならともかく。

 ある意味この世界も二次元なのかもしれないが、俺的には惨事もとい三次元である。

 それどころか、デスワープを繰り替えす事を考えると四次元ですらあるかもしれない。

 

 ともかく、レ○○は却下だ、セクハラもアウト。

 万一実行したとして、バレた日にはあらゆる方面から粛清されてしまう。

 

 しかし、それなら他に方法は?

 うーん、こう言う時……そうだ、あまり参考にしたい相手じゃないが、汚ッサンことオオグルマはどうしてるんだろう?

 催眠だか洗脳だか知らないが、アリサを操っているとなるとコイツを外して考える事はできない。

 ゲームでは確か、何か薬品で朦朧としているアリサに、映像

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、その手があったか。

 

 

 




人が足りなくて休祝日が怖い。
10月から頼りになるアルバイトさんが2人居なくなっちゃってもっと怖い。

片付けが遅くなって夜3時は当たり前です。
(何時に帰っても、朝6時くらいまで呑んでますが)


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第14話

少し性的な話が入るので注意です。
R指定にする程ではないと思います。

あと流石にチョロインにしすぎて反応が怖い。


 

神喰月Y日

 

 月日が流れるのが早いのか、それとも支部長が根回しした結果か。

 アリサが極東支部に配属されました。

 

 で、原作ヨロシク、かつ前回同様、皆がラウンジに集まった時に紹介された。

 俺の下に付くと知って、不満そうな鋭い目付きを向けられたのだが…俺としてはそれよりも気になる事があったので、無視していた。

 

 

 

 まだ生きてたんですね、エリック上田さん。

 

 ちなみにこの名前、既に極東支部で流通している。

 俺が度々「エリック上田さん」と呼びそうになり、それが伝染していってしまったらしい。

 しかも上だ上だと言われた為か、ふと気が付けば上に視線を向けるクセができてしまったとか。

 苦情を言われた事がある。

 だがそのお蔭で(?)生き延びているんだから、むしろ感謝してほしい。

 

 あと、よくよく考えなくてもツバキさんとエリック上田さんとリンドウさんとコウタ以外は、全員初対面である。

 …意外と多い気がするが、ツバキさんには相変わらず不審な目で見られているし、コウタは牛乳くれた人と言われてようやく思い出したみたいだし、相変わらず人間関係が上手く行ってない。

 

 

 紹介が終わった後、俺にアリサを押し付けた事についてリンドウさんに文句を言ったら、書類の内容を確認してないお前が悪い、と超正論で迎え撃たれた。

 畜生、自分だって書類仕事溜め込みまくって手抜きしてるクセに。

 だがそう言われると反論できぬ。

 腹癒せに、リンドウさんの部屋のビールを思い切りかっぱらってやった。

 

 …どうやったかって?

 ミタマの『隠』のタマフリにはね、『隠行』とか『不動金縛』とかがあるんだよ。

 ………おかげで、フェンリルに流れる怪談に『祟ってから酒を奪っていく怨霊』の噂が追加されてしまったがな!

 …ちなみにこのフェンリルに流れる怪談、所謂7不思議が7つくらいあって(←誤表記じゃないよ)、榊博士に改造された怒りをアラガミにぶつける改造人間の話もあるらしい。

 …………どうやら怪談は、現在進行形で増え続けているようだ。

 

 よし、次は隠行で姿を見せずにこっそりゴッドイーター達を支援して、『死んだゴッドイーターが尚も戦い続けている』という話を追加してやろう。

 

 

 それはそれとして、明日はアリサと合同任務だ。

 お互いの腕がどれくらいのものか、把握しておいた方がいいだろう?といったら、挑発と受け止められてしまったらしい。

 まぁ好都合だが。

 

 さて、明日からまた狩りの日々だ。

 神機のメンテも終わったし、今日はちょっと牛乳と酒(カルーアミルクではない)を多めに呑んで寝る。

 

 

 

 

 

神喰月Q日

 

 

 さて、アリサと合同任務に励む訳だが。

 うん、反骨精神旺盛すぎるが、流石に腕はいい。

 見たところ、攻めに傾倒しすぎる傾向はあるが、これは恐らくアラガミに対する恨みや憎悪からだろう。

 内心はともかくとして、動きも的確ではある。

 何というか、実戦をまだ殆ど経験してない優等生って感じかな。

 

 

 

 

 だがそんなスタンスを維持できる余裕はやらん。

 

 

 

 最初の雑魚ばかりの狩りが終わった後、ヤマジュン的な顔をして俺は言った。

 

 

「やるもんじゃないの。

 これならもう一戦行けるよな?」

 

 

 勿論、アリサはまだまだ行けると言った。

 実際、苦しいような狩りじゃなかったしな。

 

 

 そしてもう一戦行った後、俺はまた言った。

 

 

「やるもんじゃないの。

 これならもう一戦行けるよな?」

 

 

 アリサは少し息を乱しながら、まだ余裕だと言った。

 まぁ、コンゴウを一体狩っただけだしな。

 

 

 そしてもう一戦行った後、俺はまた言った。

 

 

「やるもんじゃないの。

 これならもう一戦行けるよな?」

 

 

 マジで?みたいな顔を向けながら、アリサは無言で頷いた。

 まぁ、シユウをフルボッコにしただけだしな。

 

 

 そしてもう一戦行った後、俺はまた言った。

 

 

「やるもんじゃないの。

 これならもう一戦行けるよな?」

 

 

 アリサは引き攣りながら頷いた。

 まぁ、グボログボロを3体ナマスにしただけだしな。

 

 

 そしてもう一戦行った後、俺はまた言った。

 

「やるも(ry」

 

 

 アリサは意地になったように頷いた。

 まぁ、オウガテイルの群れを殲滅してたら、グボログボロとコンゴウが突っ込んで来ただけだしな。

 ちょっと梃子摺ったが、これくらいなら余裕余裕。

 

 

 そしてもう一戦行った後、(ry

 

 

 アリサは疲労困憊になりつつも頷いた。

 

 頃合と見たので、ヴァジュラを狩りに出た。

 遣り合ってる最中にアリサが錯乱したので、ミタマスタイル『癒』にして誤射かまして強制的に状態異常(錯乱もこれに含まれるらしい)を治した後、メッタ切りにした。

 流石に手強い。

 アリサが度々錯乱して足を引っ張るので、尚更だ。

 が、ここが正念場である。

 俺は(←俺はね?)まだ余裕があるし、イケるイケる。

 

 

 そして何とか一戦終えた後、俺はこう言った。

 

 

「今日はヴァジュラを後3体狩るから」

 

 

 アリサは崩れ落ちた。

 が、容赦しない。

 汚ッサンが映像でアリサにストレスを与えつつ暗示をかけるなら、俺は更にその上を行こう。

 映像なんてチンケな事は言わねぇ、逃げるに逃げられないマジ物を突きつけようではないか。

 

 流石にヴァジュラは手強いが、ミッチリ準備していたのでイケるイケる。

 

 

 泣き喚いたり錯乱したり、誤射を受けて正気に戻ってまた錯乱してモンハン的キックを叩き込まれたりモンハン的大剣切り上げを誤射されてフライハイするアリサを連れ、ヴァジュラ3体を仕留める。

 トラウマと強制的に向き合わされたアリサは、目のハイライトが消えていた。

 

 でもヴァジュラを狩れるようになってるんだから収支黒字だよね!

 

 

 

 更にアリサに告げる。

 

 

「明日からもこれくらいのペースで行くよ。

 あと獣剣欲しいから、主にヴァジュラ狩りでね」

 

 

 アリサは廃人になったかのように、ピクリともしなかった。

 …いや生きてるよ?

 

 

 

 要するに、前の世界でコウタにやったのと同じ事だ。

 過剰に狩りを続け(俺的には普通だが)、更に相手をトラウマの象徴であるヴァジュラにする事で、徹底的に精神を疲弊させ、そこを躾けなおす。

 上手くすれば、意外とこれで洗脳も解けるのではなかろうか?

 

 コウタは何故か目が空ろになってバガラリーの台詞を呟くようになったが、かなり上達したのは間違いない。

 前回のツバキさんも『えらく精神的にタフになった』と褒めていた。

 同じ環境に叩き込んで、死ぬに死ねない状況に追いやってやれば、トラウマなんぞ対して気にならなくなるだろう。

 …それが出来ないからトラウマって言うのかもしれないが、人間の精神なんぞ適当極まりないものだしな。

 

 万一失敗していたとしても、支部長の手駒になりそうなのが一人消えるだけなので、俺的にダメージは無い。

 まぁ、あの下乳が消えるのは人類の損失だと思うがね。

 

 

 

神喰月D日

 

 こうしちゃいられない、アリサ、出撃だ!

 

 何、体調不良? 疲れが抜けてない? 筋肉痛?

 

 

 

 出撃すれば直る。

 さあ、お前も牛乳を飲んで出撃だ。

 

 ああ、川を渡る時には特に気をつけるように。

 

 

 

 

 

 

 …そういやアリサってロシア人なんだよな。

 つまり閣下的に言えば、イワンと言うか敵な人種になるような……まぁいいか。

 閣下はそんな事は気にすまい。

 戦場でなら無双しても、流石に一般人を虐殺はしないだろう。

 ちょっとばかり態度が厳しくなるかもしれないが。

 

 

 

 という訳で、宣言通りにヴァジュラを片っ端から狩る日々です。

 例のリンドウさん死亡シーンを乗り切る為にも、敵勢力を削っておく事は無駄にはなるまい。

 

 その分アリサが死んだような目になってるが、計画通りだから別にいいや。

 無駄に反抗もしてこないし。

 

 ふと思いついて、狩りが終わって朦朧としているアリサに、「三つ数えると正気に戻るんだ。あいん、つばい、どらい」と吹き込んでみる。

 これで洗脳が解けたら笑いものと言うか儲け物というか。

 

 そうそう、オオグルマの汚ッサンに初対面。

 半分意識が無い状態のアリサを見て絶叫してました。

 あれも演技なのか?

 何れにせよ、あの人を操る技術を是非とも教えてほしいもんである。

 …いや悪い事には使わないよ?

 カウンター技術の為とか、純粋に後学の為にだな。

 

 

 一応主治医?らしいオオグルマから、アリサをこれ以上狩りに向かわせられないとドクターストップが入った。

 なので榊博士に頼んで診察してもらい、まだ問題ない領域だと医学的根拠を(偽造して)提出。

 明日からまた狩りの日々だお!

 狩りに行く前に話した感触からして、まだ反骨精神は擦り切れてない。

 休んだら多分復活する。

 もうちょっと追い詰めておかないとな。

 

 大丈夫大丈夫、まだイケるまだイケる。

 前回のコウタだって、これくらい追い詰められてから一気にレベルアップし始めたんだから。

 ……そうだったような気がする。

 まぁとにかくもう一狩り行って来る。

 

 

 

神喰月F日

 

 最近、アリサが同情的な目で見られているようだ。

 初対面の時のツンケンした態度で反発を買っていたようだが、それ以前に俺に連れまわされる姿が不憫すぎるとか。

 ……うん、計画通り。

 

 が、誰からも助けは来ない。

 ヘタにアリサを休ませると、次に誰が連れまわされるか分かったもんじゃないからだ。

 うん、冗談めかして(目は本気で)ヒバリ嬢に言っておいた甲斐があった。

 

 リンドウさんレベルなら、俺に連れまわされても平気だろうが…アリサを押し付けてきたのは誰でしたっけね、と言って黙らせている。

 一応、ちゃんとした考えがある事も告げているので、様子見に回ってくれたようだ。

 

 

 それはそれとして、アリサが来た事から考えると、そろそろ例のリンドウさん死亡シーンが近いと思われる。

 前回はあそこで死んだんだよな。

 今回は同じミスを犯すような真似はしないつもりだが、何せ相手がプリティ・魔羅(こうかくとムスコが小さいと書いているようだが、アレは一応雌型らしい)にゼウス・痘痕?がゾロゾロという嫌な感じに豪華なメンバーだ。

 正面からやり合う愚は極力抑えるつもりだが、それで生き延びられるかと言うと…かなり厳しい。

 しかもアリサが錯乱したらツッコミ入れなきゃならないし、出来る事なら居合わせたメンバーも一人も死なせないと言う厄介な枷が付いてくる。

 

 …リンドウさんどーすっかなー。

 あの支部長の事だから、今回暗殺できなかったとしても、似たような状況を作り出す事は難しくないだろう。

 今回の一件を防げばそれで解決、という訳にはいかない。

 だからと言って、支部長に狙われてるんで死んだ事にして逃げてください…なんて説得力が無い事夥しい。

 証拠らしい証拠が無いのはまぁいいとして、狙われているのはリンドウさんだって百も承知だろう。

 むしろあの人の事だから、支部長の腹を探り出すいい機会と思ってもおかしくない。

 

 

 

 

 

 なんつーか、ここへ来てストーリーを改竄しようとする事の難易度の高さが分かってきた気がする。

 何かの小説で読んだ事があるが、「明日の朝に太陽が東から昇る事を知っていて、それを止められるかい?」って奴だ。

 多少の差異はあっても、デカい流れは変えられないのだろうか?

 

 

 いやいやそんな事は無い。

 望んだとおりの結果を得るのが難しいだけで、変えるだけならもっと簡単なのだ。

 具体的には、こっちから支部長を暗殺するとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やるか?

 

 

 

 

 

 

神喰月L日

 

 

 煮詰まったおかげでちょっとトチ狂いそうになった。

 反省反省。

 その手の手段は、もっと効率的にやらないと。

 まだ人間を殺した事は無いしな…少なくとも俺としての意識がある間は。

 

 アリサが精神的に死にそうになってる? 知らんな。

 コウタも前の世界で精神的に死にそうになった? 生きてたんだし、デスワープしてリセットされてんだから知らんな。

 

 大体、今はまだ技術者の方々がパイルバンカーやら、別世界の素材を神機に組み込めないか研究中なのだ。

 少なくとも、そのフィードバックを受け取らない限り、支部長を殺して後は知らん、みたいな手は取れない。

 よくよく考えれば、支部長をどうにかしても、終末捕食をどうにかしないと結局地球ごとお陀仏だし。

 

 やれやれ、正に明日の朝に太陽が東から昇る事を知っていて…だ。

 

 

 

 

 でもそんな事に関係なく、神機がアラガミを喰わせろとせっついてくるので出撃です。

 いい塩梅にアリサがグロッキーになってきました。

 さて、コウタはここからバガラリー化して強くなったけど、コイツはどうかな?

 

 …あと2~3日連れ回したら休暇をやるか。

 鞭ばっかりじゃ慣れてしまうからな。

 

 休みと言っておいて朝駆けかまし、「起きろ!起きろ!起きろ!マ○ズリやめ!パンツ上げ!ブラは要らん!」とかやってみようかと思ったが、素でセクハラだし隣人に迷惑なので止めた。

 

 

 

 

神喰月&日

 

 休暇の日だ。

 神機もメンテが必要だったので、アリサと同時に休暇を取った。

 

 「出撃しないなんて珍しいですね。

  明日は雨ですか?」

 

 とヒバリ嬢に言われたが、赤い雨なら降るかもしれんな。

 ヒバリ嬢と仲良くトークしている事に嫉妬して突撃してきた、大森さんの血の雨だが。

 

 まぁそれはともかくとして、やる事も無いし、アリサの様子が気になったのでちょっと部屋まで行って見る。

 偶然会ったリンドウさんから、アリサが口から煙吐いて倒れていると聞いたからだ。

 むぅ、コウタはもうちょっと耐えたぞ。

 家族の名前を延々と呟きながらだけど。

 

 で、実際様子を見に行ったら……錯乱された。

 

 「もう逆らいません勘弁してください」と、ロシア語なのに何故か伝わるくらいの様相だった。

 速攻で『隠』のミタマの隠行を使い、発見されにくくしたが……どうやらこのタマフリ、声までは防げないらしい。

 その結果、新人ルーム近辺に響き渡る女のすすり泣く声、なる怪談が追加されてしまった。

 まぁいいや。

 

 とにかく、無駄な反抗心を叩き折るのには成功したらしい。

 一喝したら、マジ泣きから啜り泣きにランクダウンしたし。

 

 

 さて、ここからどうしよう。

 自尊心を叩き負っといてなんだが、これ程にダメージを受けているとは思ってなかった。

 ここでリタイアされても困るし…。

 

 とにかく一日休ませた。

 腹減ってるとロクな事を考えないだろうし、ふくろから取り出した残り少ないこんがり肉を差し出す。

 あとホピ酒。

 

 

 半泣きのまま、あぐあぐと肉を頬張るアリサには妙な可愛さがあった。

 

 

 

神喰月 H日

 

 

 下乳には勝てなかったよ…。

 

 

 

 という訳でヤッてしまいました。

 いやホントどうしよう。

 ちなみに現在、アリサの部屋で日記を書いています。

 

 アリサ?

 俺の隣で寝てるよ。

 

 ちなみに初めてだったようです。

 …催眠までかけられる状況にあったというのに、あの汚ッサンは何もせんかったのか。

 ………熟女趣味だったのかな?

 

 

 

 

 自尊心というか反骨心を叩き折る所までは、確かに計算通りだった。

 多少やりすぎていたのは認めるが、それも許容範囲だった筈だ……俺の立場にしてみれば、だが。

 

 天然物の肉(ただしモンスター)というアメを与えたのも、悪くはない選択肢だったと思う。

 とにかく腹を満たそう!と言うのは古典的ながら有効的な手段だ。

 美味い物を食ってれば、それだけで人間は幸せな気分になれる。

 

 

 

 そこに酒があればもうこの世の極楽な訳だが…ここがミスった。

 

 酒を未成年に飲ませたらアカン。

 …そういや、俺今何歳だ?

 この妙な状況に嵌る前は未成年だったように思うが、何だかんだで1年以上はこのループの中に居るしな…。

 

 

 それはともかく、俺としてはホピ酒は、今となっては普通のジュース同然の代物だった。

 モンハン世界には、明確な未成年の飲酒禁止法なんて無かったしな。

 だからアリサにも普通に飲ませてたんだが……ちなみにアリサは酒だと気付いていたっぽい。

 試しに一口飲んでみて、エラい美味かったからカパカパと。

 まぁ、コイツもこの世界では口にできない天然素材の酒だしな。

 

 で、気が付けばアリサはもうベロンベロン。

 絡み上戸の気質があるらしく、肩を組んで色々とブチ撒けてきた……リバースじゃないよ!

 

 んで、あと泣き上戸の気質もあるっぽい。

 昔の話とか、冗談抜きでトラウマっぽい話もされた。

 例の両親死亡シーンとかについても。

 で、色々と慰めたり、最近のアリサの動きの評価とかを話していたら、俺に対する好感度が妙に高い事に気がついた。

 

 

 話は変わるが、どうにもアリサは他者に依存する傾向が見られる。

 これがオオグルマの催眠の一環で作られた性格なのか、生来のものなのかは分からないが……。

 最初は反抗していたものの、今となっては張り合えるような相手ではないと分かりきってしまった。

 俺を超える事も出来ず、排除する事もできない。

 そんな時、アリサはどうするか?

 

 

 俺に対する劣等感を、『尊敬』という言葉に置き換える。

 あれだけ疲弊する狩りについて来れたのも、途中からは恐らくこの感情の動きのなせる業だろう。

 本人がどこまで自覚してるのかは分からんが…と言うか観察した結果にすぎないから、合っているかどうかは分からんが。

 

 

 こう言っちゃなんだが、マトモな心理の働きじゃない。

 考えてもみればいい。

 仮に、言葉に表せない程厳しい教官が居るとして、その人に教えて貰えた事は、一生を左右する問題で勝利の鍵となる代物だったとしよう。

 その教官に、訓練を受けている真っ最中の生徒が、感謝や好意など抱くだろうか?

 答えは否だ。

 どんなに素晴らしい事を教えていたとしても、それを実感できなければ意味が無いし、例え実感できたとしても苦痛は苦痛。

 正常な精神状態なら、好意を抱くなどまず有りえない。

 

 

 いや、この際それは重要じゃない、後回しでいい。

 とにかく、酔っ払ったアリサがあまりにベタベタ引っ付いてくる上、まぁ何だ、服とかアレだろ?

 …ここの所タマってたし、誘惑につい乗ってしまいました。

 

 

 うーむ、そのつもりは無かったとは言え、酒に酔わせて女性(しかも年齢が年齢)と関係を持つ…か。

 一応合意の上だったとは言え、突き出されても文句は言えんな。

 覚悟だけは決めておこう。

 最悪デスワープする可能性も考えて、パイルバンカーの最新版設計図だけはコピーしておこう。

 

 

 

 ちなみにアリサの部屋は『まだ』キレイだった。

 朝から晩まで出撃し通しだったから、汚すようなヒマが無かったらしい。

 

 

 

 

 

神喰月Y日

 

 張り飛ばされた。

 まぁ仕方ない。

 

 

 神機で殴られた。

 まぁ仕方ない。

 

 

 誤射姫並みの誤射を叩き込まれた。

 射撃とIEのコンボで。

 まぁ仕方ないが、せめてミッション中にしなさい。

 

 

 パシリにされた。

 まぁ仕方ない。

 

 

 試作中のパイルバンカーを奪ってきて、ケツに叩き込まれかけた。

 それ撃ったらアリサの方がくたばるから止めなさい。

 あと奪ったパイルバンカーは謝罪の上返却しておくように。

 アッハイ、謝罪と返却は俺がしておきます。

 

 

 …こんな調子が一日続いて、とりあえず許してもらえました。

 アリサも記憶が残っていたらしく、合意の上だったのは確かだし…と。

 代わりに、責任とってくださいと叫ばれた。

 色々な意味で顔を赤くしていたが。

 

 オーケイ、俺でよければいくらでも。

 ……これって人生の墓場?

 素人童貞卒業して即墓場?

 …でも俺の場合デスワープするとフラグリセットだしな…まぁ死んだらそこで終わり、よりマシだが。

 

 

 と言うか、こんな事になってしまった為か、アリサの依存の傾向が強くなっているような気がする。

 ミッション中でもゲームのAI…通称駄犬アリサよろしく、何かと合流しようとする。

 まぁ、今のレベルのミッションなら問題ないんだが。

 

 

 昼はまぁ、アリサはいつも通りだ。

 無駄な反骨心を叩き折ったから、狩りのペースは少し落としているが、それでも一日に3~4回の狩りに付き合わせている。

 今ではヴァジュラを相手にしても、挙動がロボットダンスっぽくなるだけで、普通に戦えている。

 これなら、洗脳にだけ気をつけておけば、リンドウさん死亡シーンも乗り切れるかな?

 

 

 

 で、夜は………まぁ、お互いそーいう事に興味津々の年齢だ。

 うむ……モンハン世界でいつもお世話になってたオネーチャンとはまた違った感触。

 青い果実を喰う感じ。

 素人DTだったとは言え、それなりに経験を詰んだ身なので、今のところリードできている。

 

 それでも我がビッグキャノンを受け入れるのは、アリサにはまだまだ辛いらしい。

 

 

 びっぐきゃのん(笑)と笑ったそこのアナタ。

 知ってますか?

 人間の体で、鍛えられない場所なんか無いんだヨ?

 そしてハンターボディは尋常じゃなく鍛えられている。

 …いや、流石にハンター訓練所でそんなトコまで鍛えた訳じゃないんだが。

 と言うかハンター訓練所でそんなのやってたら、男女問わず盛り場みたいになってしまう。

 

 マジな話、ナニに血を送り込む為の…つまり膨張させる為の…血管が内股部分にあって、そこの筋肉とかは充分に鍛えられている。

 更にミル○ング手法とか言うトレーニングで長さも増大……ループに入る前、高校生の頃に調べてやってたんだけど、ガチで効果あったんだよなぁ。

 トレーニングやめたら戻っちゃったけど。

 

 とにかく、以前は貧弱でちっちゃかった俺も、今ではムッチャ鍛えられ、デカくなっているのである。

 角度や硬度もスゴイぜ!

 …ま、他の人と比較した事がある訳じゃないがね。

 

 

 

 




○=キ。
ちなみに効いたのは実体験。

思うに、接客業は難しいが、それ自体は難易度は高くない。
ただ、お客様の中に混じっている、自称客という名の○○の為に敷居が高くなっているだけなんだ。


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15話

時間が無いので、感想のレス返しはまた今度にします。


 

 

神喰月W日

 

 今日の分の狩りは終わり、明日は神機のメンテナンスなのでオヤスミ。

 アリサもオヤスミ。

 

 後は分かるな?

 

 

 

 

 にしても…ここ数日間ほどアリサとイタすようになって思ったのだが。

 俺はアリサをラブっているという訳ではないのだろうか?

 カワイイとは思うし、依存ともいえる好意を向けられるのは嬉しいし、お水の人以外でハジメテの相手という事もあり情は沸いていると思う。

 ただ、その根っこが愛情よりも性欲や征服欲なような気がする。

 愛すると言うよりは愛でる、愛でると言うよりは愉悦する…の方がしっくり来るような。

 

 だって二人でデートとか、そういう姿が想像もできない。

 元々他人に無関心なタチだったし、誰かを好いている自分自体が想像できない。

 

 …デスワープの事を考えると、そっちの方が都合が良かったんだろうが……どうにも後ろめたさを感じる。

 しかもそれで興奮してしまう辺り、俺って最低のクズね。

 

 …流石に自分で自分を罵倒しても興奮せんな。

 

 

 まぁいいや。

 愛でているのだろうと愉悦しているのだろうと、俺なりにアリサを好いているのは確かだ…少なくとも今この時は。

 あれこれ考えず、イチャコラネチョヌチョするとしよう。

 

 

 

 

神喰月U日

 

 

 例の整備員から、試作品のパイルバンカーを渡された。

 …なんで作り手に榊博士も含まれていますかねぇ?

 あの人、確か怪力の種とかの研究で忙しかった筈なんですが。

 興味の為なら、睡眠時間も食事も削っても不思議はない人種とは言え…。

 

 ともあれ、性格的にアレな人が設計して、性格的にヤバい人も関わった為か、エライ物々しい代物になってしまった。

 モンハン世界の素材も幾つか使っているが、何処にナニがどう使われているのかは聞いてない。

 と言うか専門用語の嵐で理解できなかった。

 ただ一つ言えるとすれば、虫が防具の材料になるモンハン世界の神秘は、この世界でも有効らしいという事だけだ。

 

 ともあれ、早速テストだテスト。

 アリサにかなり心配されたが、この浪漫は止められない、止めてはいけない。

 

 念の為にミタマを防スタイルにし、タマフリ『堅甲』を発動。

 天岩戸にしようかと思ったのだが、アレは難しいし、何よりダメージ完全防御だから反動がどれくらいなのかテストできない。

 

 更にモンハン世界の全身鎧まで持ち出して、「何処から持ってきたんだい、それ」「何のコスプレで…え、本物?」というツッコミを黙殺。

 忍耐の種を呑んで、体力増強剤を3つ使用。

 現状、これが最も防御力が高いスタイルである。

 

 

 

 

 で、実験場まで向かったんだが……重い。

 マジ重い。

 動きが鈍すぎる。

 これ、ハンターボディ×GE強化の俺でなければ、まず一人では持ち運べないレベルだ。

 アリサも試しに持ってみようとしたが、うんうん唸っても殆ど持ち上がらなかった。

 …後ろから、屈んだ時に突き出された尻やらスカートの下やらを鑑賞していた俺は悪くない。

 持ち上げようと体を捻った時に、こう、ミニスカートのヒップがフリフリとだな…。

 

 うむ、いいラインだった…。

 ツバキさんとは違ったセックスアピールを感じるな、と思っていたら、アリサにジト目で見られていた。

 いかんいかん。

 

 

 

 さて、肝心のパイルバンカーの試射だが。

 

 

 

 

 

 訓練室がなんか停電しました。

 撃った瞬間に意識が半分くらい飛んでたのだが、気が付けば銃口を向けてすらいなかった訓練室のガラスは粉砕され、銃口の正面だった壁にはエラい破壊跡があり、標的となっていたオウガテイル(の剥製?)は微塵も残っておらず、実験に立ち会っていた人々は一人しか意識を保っていなかった。

 …榊博士は一応常人なんだからともかく、訓練されたゴッドイーターのアリサでさえ三半規管をやられて目を回していたと言うのに。

 パイルバンカーを設計したあの技師だけが、大笑いしながらパイルバンカーの改良点をメモしまくっていた。

  

 何で平然としてられるんだ。

 あらゆる意味で、現状の最硬装備で使った俺は、反動で動けなくなっていた。

 いやマジで体全身が痺れて動けなかった。

 体力増幅剤も使っていたと言うのに、ライフの8割近くを持っていかれた気分である。

 しかもダメージではなく、マガツキュウビが使う殺生石みたいに最大HPの方を削られたような気さえした。

 幾らなんでも、威力デカすぎでしょう……というか、威力よりもバックファイアが酷すぎる。

 最高硬度の俺じゃなかったら、確実にリンクエイドが必要なレベルだ。

 

 

 騒ぎを聞きつけてやって来たシックザール支部長に、超説教されました。

 減給とか罰則とかも喰らって、更にパイルバンカーの開発は凍結、試作品は没収されて何処かの倉庫で埃を被る事になってしまった。

 …だがあの様子だと、榊博士も巻き込んでコッソリ作り上げるだろうなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、こっそり回収してふくろに仕舞い込んでいる試作品の名前をどうしようか悩んでいます。

 …もう日替わりで名前変えちゃ駄目かな。

 日替わりといわずとも、デスワープする毎に名前を変えても誰も困らない気がするし。 

 

 

 

 

 

 

神喰月F日

 

 なんちゅーか、こんな事を言うのは自分でもどうかと思うのだが、オオグルマの汚ッサンがアリサに手を出さなかった理由が分かったような気がする。

 どういう経緯を経たものであれ、アリサの好意は非常に強い。

 それはもう、依存がどうのと言うのを議論する気も無くなるくらいに。

 向けられている当人が言うのもなんだが、アレはもういっそ崇拝とか心酔とか表現した方がいいくらいだ。

 

 口では何だかんだいいつつも、俺の要求は殆ど受け入れる。

 おかげで耳年増なガキの妄想みたいな事を片っ端から………いや、それはともかくとして。

 やっぱりアリサのこの性格は、催眠による調整が大きいんだろう。

 

 で、こういう好意ではないにせよ、『アリサを好きに操れる』という立場にあの汚ッサンは居た訳だ。

 …誰かを思い通りに出来るという全能感は、下手な麻薬よりもタチが悪そうだ。

 あの汚ッサンは、アリサの肉体を弄ぶような直接的な快楽より、この全能感の方にハマったんだろう。

 正直な話、俺もちょっとハマりかけている。

 冗談でやったペットプレイが………いち、にの、さんで『お手』『お座り』はもう完璧だ。

 

 

 それはそれとして、最近アリサはオオグルマには接触させてない。

 昼間は狩りと訓練、夜はまぁ、二人の時間と。

 別に、欲望に身を任せきっている訳ではない。(全く無いとは言わないが)

 オオグルマが使っていた催眠は、多分、何度も繰り返して掛け続けないと続かないタイプの物だ。

 原作ゲームを元に考えると…アリサは一度、オオグルマの催眠に逆らう事に成功している。

 アリサの精神力による物かもしれないが、俺としては催眠が予想以上に薄れていた、という線が強いと思うのだ。

 

 どっちにしろ、アリサを他の誰かに好きにされるのは何だかムカ着火以下略。

 

 

 とは言え、一応立場的には主治医だからなー。

 アリサも特に不信感を持っている訳じゃないし、接触が防ぎきれる訳じゃない。

 二人きりにしなければ催眠はかけられないだろうから、何かと乱入するようにするのが関の山か。

 

 オオグルマからの接触が増えてきたら、多分それは催眠狙い。

 つまりリンドウさんの暗殺が近いと考えていいだろう。

 

 

 

 それまでは、今までどおりの狩り暮らしか。

 …戦場の後は色々と昂ぶるっていうが、アレは本当だな……アリサの感度も興奮度合いも上がってるから、反応が分かりやすい。

 何処をどうつつけばいいのかよーく分かるので、コッチのテクも進歩してるっぽい。

 

 でもなー、やっぱり独学になるから、教本というかハウツー本が欲しいよな。

 アリサも段々気持ちよくなってきてるみたいだけど、まだ仮の後の興奮や雰囲気とかに酔ってるからって側面が強いし、まだ一番上まで上り詰めた事は無い。

 アラガミが現れる前の書籍とか動画なんて、殆ど残ってないらしいしなぁ…。

 

 

 

 

 

神喰月U日

 

 久々のソロ狩りだー!

 アリサが居ないから梃子摺るが、その分多く出撃してきたぜ!

 

 …ちなみにアリサは月のお客様でお留守番す。

 

 

 よく考えると、これってヤバくね?

 と思ったら、案の定オオグルマが主治医として接触してきたらしい。

 うーん、休暇じゃないからどっちにしろ狩りには行かなきゃいけなかったんだが……サボッた方が良かったか?

 

 まぁ、催眠されてしまった(多分)ものは仕方ない。

 今日はちょっと激しい夜にして、寝物語に『あいん、つばい、どらい』をやってみますか。

 

 

 

 あと、最近アリサと二人で居ると、道行く人々に微笑ましい目で見られたりする。

 それ以上に多いのが壁ドンしたいと目で語っている人々な訳だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凶星月身日

 

 

 デスワープ。

 また同じところで失敗しちゃったよ。

 

 …あの黒爺猫、いつか殴っ血KILL。

 

 

 

 油断はしてなかった。

 幾つか想定外の事はあったが、それも対応可能な範囲の筈だった。

 それでも失敗してしまったのは、単純に俺のミスもあるが、それ以前に、敵が強力すぎると断言しよう。

 

 大体の流れはこんな感じだ。

 

 汚ッサンからの接触もあったし、次の任務が食材もとい贖罪の町近辺だった事もあって、「ああこりゃ来るかな」と思って準備していた。

 で、予想通りにミッション終了後にリンドウさんグループにバッタリ会って、ヴァジュラの遠吠えが多数。

 アリサが錯乱しないかと思って様子を伺っていたが、若干呼吸が速くなっていたものの、落ち着いていた…やっぱり動きはロボットダンスっぽくなっていたが。

 

 で、あれよあれよと言う間にプリキュア・ヴィヴィッドの群れに囲まれる。

 丁度良く殆どの奴の目がこっちを向いていたので、全員に合図してモンハン世界式閃光玉。 

 目がくらんでいる間に脱出しようとするものの、黒爺猫が出現。

 リンドウさんが囮になり、同時にアリサが暴発しそうになるものの、日々仕込んでいた「お座り!」で正気に戻った。

 

 

 …この為に仕込んでたんだよ、本当だよ?

 まぁ、これで戻らなければミタマスタイル『癒』でド突いて治すつもりだったが、効果があるかは……でも「お座り」よりは効果ありそうだな。

 どっちにしろ正気に戻ったんだから、別にいいけど。

 それよりも、こんなので洗脳が弾かれたと知った時のオオグルマの顔を見てみたいもんだ。

 

 

 それはそれとして、アリサが正気に戻ったのはいいものの、今度はプリキュア・オールスターズが眩暈から復帰。

 俺とアリサが他の皆と分断されてしまった。

 しかも俺らの相手が黒爺猫…。

 そして俺達、教会の中。

 

 …リンドウさんが死亡した状況じゃないですかヤダー!

 出入り口は封鎖されてはいないんだが、その道を黒爺猫が塞いでるのでどうしようもない。

 

 

 とにかく、この群れを統率している黒爺猫をどうにかしないと話にならない。

 だからと言って、黒爺猫は俺等が勝てるような相手じゃない。

 原作でも、負傷して一人だったとは言えリンドウさんでも負けた相手だし、現に向き合った時の威圧感が半端ではなかった。

 

 が、今の俺には、コイツをどうにかできる(かもしれない)一発技がある。

 そう、一度使ったら行動不能確定のパイルバンカー君だ。

 

 暫定的に、彼の名を『杭』と名付けたいと思う…ネーミングセンスは気にするな、なんか天啓が来てしまったんだから仕方ない。

 

 とにかく杭以外に通りそうな攻撃は無い。

 無論、ミタマの『迅』スタイルを考慮に入れてもだ。

 素早い逃げ足を得る為に、このスタイルにしておいたんだが……せめて『防』『隠』にしときゃよかったと気付いたが、後の祭だ。

 

 杭を何処から出したのかと聞きたそうなアリサを前衛役に、クッソ重い杭を叩き込もうとした訳よ。

 狭い場所で巨体に暴れられると、逃げ場が無いのでとんでもなく苦労するものなのだが、今回ばかりはそれが有り難い。

 逃げ場が無いのはあちらも同じなので、超がつく鈍足状態でも接近はできた。

 

 何度か前足で、嬉しくない(しかも強烈過ぎる)猫パンチを食らうも、アリサの援護のお蔭で何とか密着。

 渾身の一撃が叩き込まれました。

 

 そして俺もぶっ倒れました。

 …やっぱ浪漫武器じゃなくて、これ自爆装置だな……使えるように色々考えてるけど。

 多分アリサも三半規管をやられて倒れていたと思うのだが、何とか動けるようになっていた。

 

 

 どんな奇跡なのか、老朽化していた教会は杭の反動に耐え切った。

 ゴッドイーターの訓練所ですら機能停止したのに…これが神のご加護と言う奴か?

 それともゲーム的に考えて壊れないからか?

 

 とにかく、黒爺猫が倒れて、アリサが俺をリンクエイドしようとして…まだ黒爺猫が動き出した。

 俺とアリサが気付いた時にはもう遅い。

 黒爺猫は既に電撃のチャージを完了していた。

 

 俺を庇おうとしたアリサに声をあげるヒマもなく、ピカッと光って。

 そして俺は討鬼伝世界の、ここに居る。

 

 

 

 

 

 

凶星月診日

 

 流石に丸二日ほど落ち込んだ。

 あの状況では、アリサも死んだろう。

 あの時の装備で、黒爺猫の(しかも確実に怒り状態の)電撃を叩き込まれて、無事で居られる筈が無い。

 仮に無事だったとしても、もうあのアリサには会えそうにない。

 

 うーん、予想されていた事ではあったけど、恋人と分かれさせられた悲しみと言うより、可愛がっていたペットが居なくなってしまった苦痛的な感情が過ぎる辺り、要するに俺ってそういう人種なのだろうか。

 

 

 それにしても、まさか杭の直撃を喰らっても、まだあれだけの生命力があるとは…。

 どうしろと言うのだ、まったく。

 ボルグ・カムランなら一撃粉砕でも、黒爺猫には通じないとでも?

 いやでも腹に穴開いてたしな……衝撃が足りんのか。

 

 …それもあるが、多分最初の一発を撃った後、メンテもせずに使ったのが悪かったんだろう。

 思い返してみると、訓練場で放った一発よりも大分弱かった気がする。

 しかし最大火力だったらだったで、奇跡的に耐えていた教会がそれこそ崩落したような気がする。

 

 

 あんな風に弱体化してるんだったら、脇腹に叩き込んだのがいかんかったか、リスクを承知で脳天を狙うべきだったか。

 と言うかあの黒爺猫、絶対に上位依頼の奴だって。

 あんなのがストーリーモードで出てきたら、勝てる気がせん。

 

 アレとは真正面からぶつかるのは愚策以外の何者でもないな。

 今度のGE世界ではアレはリンドウさんに何とかしてもらうしかなさそうだ。

 不利な要素を極力取り除いておけば、リンドウさんなら多分自力でどうにかできるだろう。

 

 

 

 

 さて、それはともかくとして、現在は異界の中を彷徨っております。

 なんか妙に瘴気が強いような気がするんだが…まさか強い鬼が近くに居るのか?

 でもそれらしい姿は見えないな…。

 

 あと、なんか俺の中のノッペラボウのミタマが、妙に元気になっているんだが。

 相変わらず何も喋らないし、ふらふら歩いているだけなんだが、妙に足取りが軽い。

 雰囲気も心なしか、ちょっと明るくなっている気がする。

 

 何故?

 多分、このミタマはこの世界の異界の中で俺に宿ったものだから、ある意味ここはホームなのかもしれんけど…。

 でも多分、このミタマも鬼に食われてここに居たんだろうし、もしそうだとしたら厳密な意味ではホームではなくて…。

 

 

 

 あ、そうか瘴気か。

 人間にとっては毒でも、妖怪にとってはこれくらいの瘴気なら心地よいのかもしれない。

 ちょっと試してみる。

 

 

 

 

 

 

 瘴気の濃い方向に行くと、やっぱり反応を示す。

 どうやらノッペラボウにとって、瘴気は居心地の良いものらしい。

 注意深く観察してみると、俺の中に溜まった瘴気を吸い上げているらようだ。

 

 …これってどういう事なんだろうか?

 瘴気を食わせてやれば、ノッペラボウは元気になるのか?

 という事は、タマフリもパワーアップするのか?

 いや、そもそも俺の中に残してある瘴気は、アラガミ化を抑え込むのを期待して残しておいた代物だ。

 体の中にあれば、ある程度は増殖するようなので、多少喰われても問題ないと言えば問題ないのだが…。

 

 

 考えても仕方ないか。

 こっちからノッペラボウの行動を制限する事はできないんだし、届いているかも分からない声をかけたところで、反応があった試しはない。

 何か発覚したら、そのときに対応するしかない。

 

 

 とりあえず、人里を目指さないとな。

 

 

 

 

凶星月魅日

 

 異界の脱出に成功。

 例によって見知らぬ場所だ。

 

 …にしても、『隠』のミタマが地味に便利だ。

 何度か大型鬼に見つかりかけたが、何とか逃げ切れた。

 ミフチ程度なら戦えば勝てるかもしれないが、油断は禁物。

 最初の一度くらいは、出来れば先輩モノノフとかと一緒に戦いたい。

 ……そう考えると、何で俺はモンハン世界で、初めて戦う相手でも毎度毎度ソロなんだろうか。

 そりゃ神機とか異世界の物は隠した方がよさそうだが、初戦の一度くらいはモンハン世界の装備で行けばいいだけなのに。

 

 まぁいいや。

 

 

 とにかく人里人里。

 

 

 

 

凶星月彌日

 

 うー、人里人里。

 今人里を求めて全力疾走している僕は、デスワープを繰り返すごく一般的な男の…子じゃないな。

 強いて違うところをあげるとすれば、男に興味がある訳ねーだろ。

 

 余計なネタ入れたら、なんかケツがむずがゆくなってきたので中断。

 ……ふと思い返して日記を見たら、初回から男の娘に掘られる夢とか見てナニやっとんだ俺は。 

 いや実際にはやってないが。

 ……アリサの締め付け、良かったなぁ…。

 

 

 さてそれは置いといて、今回はどうしよう。

 堅悟さん曰く、一応モノノフとしての修行は8割方終わってるらしい。

 残りの2割はミタマを宿す事とタマフリだと聞いていたので、練度はともかく修行は終わっていると思っていいだろう。

 

 モノノフでもない一般人がどうしてそんな事が出来るのか?

 ………。

 

 ケース①。

 既に壊滅した里で、モノノフの修行を受けていた。

 まだ届出などが終わっていなかった為、モノノフを管理する霊山にも知られていない。

 

 …そこそこ説得力はあると思う。

 壊滅した里で…という所以外は、特に嘘はついていない。

 問題は、壊滅した里がどんな所にあって、本当にそれらしい場所があったのか…だ。

 「ここ数年、里が壊滅した例は無い」と言われればそれで疑われるかもしれない。

 

 

 ケース②

 元は一般人だったが、どうやらモノノフの血を引いていたらしい。

 実家に伝わっていたよく分からない技術が異界の鬼達に有効だったので、それで生き延びられた。

 ちなみに伝わっていたのは技術だけではなく、妙な武器と防具(モンハン世界の奴)も。

 

 ……説得力は今ひとつ、かな?

 オオマガドキで異界に沈んだ世界の中で偶然生き延びたのが、モノノフの血筋で、しかも現役で使えるような技術を保っていた家系。

 いくらモノノフが人知れず鬼と戦う為の集団だったとしても、外に流れている人は居ただろうから、そこは問題ないとして。

 可能性的には非常に低い。

 …が、オオマガドキから生き延びただけでも十二分に低確率だしな……。

 逆に、こういう技術を持っていたから生き延びたんだよ!って感じで説得力が出るか?

 

 

 

 ………うーん……ここはケース②で行こう。

 説得力云々は受け取り手の解釈に任せるとして、こっちのプランなら別世界の道具が使えるのがいい。

 残念ながら、神機は瘴気のおかげで正常作動しないので、ふくろにしまっておくが。

 出所を聞かれても、「実家に伝わっていたので、詳しい話は知らない。これはモノノフの道具ではないのか?」で白を切りとおす。

 

 

 よし、決めた。

 

 

 

 

 ところで、この辺は自然がまだ豊かだな。

 喰える物が沢山ある。

 具体的には、遭遇した熊とか。

 この世界じゃ天然記念物並みなんじゃないかと推察した事があるが、知らんな。

 俺の栄養になれ。

 

 

 

 

凶星月観日

 

 

 足跡を見つけた。

 これは多分……馬、かな?

 しかも一匹ではない。

 どう見ても5匹以上、下手をすると10匹以上が群れを成して走った跡だ。

 

 …ここ、獣道じゃないよな?

 どう見ても、アスファルトとかではないけど、森の中で舗装された道だよな?

 こんなトコを野生の馬が駆け抜けるとは思えん。

 騎馬で森の中は自殺行為だって、あっちこっちの漫画で言われてる。

 

 

 仮に馬じゃないとしても、複数の生物が統率された状態で駆け抜けたのは間違いなさそうだ。

 異界の外に妙な鬼が飛び出てきてるんだったらともかく。

 

 うーん、何事だろう。

 馬を使ったと仮定して考えるが、この世界では馬は多分貴重だ。

 馬に限らず、家畜は殆どが貴重だろう。

 それを複数所持している集団が居て、一直線に駆け抜けて行った。

 

 

 

 

 どう考えても有事ですね。

 

 まさか山賊の類ではないと思うけど……だってそれなら、こんな風に足跡を残すような事をするとは思えないし。

 この世界でそれだけの力を持っている集団っつーたら……やっぱりモノノフか?

 

 

 うぅむ……とにかく、この足跡の先に人が居るのは間違い無さそうだ。

 異界に向かっている足跡なのかもしれないが、その時は逆行するか、異界から出てくるのを待てばいいだけの話。

 追いかけてみますかね。

 

 

 

凶星月み日

 

 

 人里到着。

 今回の里はロウマンの里というらしい。

 ……ロウマン、ろうまん、ろまん…浪漫?

 

 観察する限り、割と豊かな里のようだ。

 食料も充分ありそうだし、住んでいる人達からも何処かマホロバの里と似たような印象を感じる。

 

 それはともかく、ナニやらエラい事になってしまったようだ。

 里に辿りついて、守衛の人に見咎められた。

 素直にバケモノだらけの世界から脱出してきました、と伝えたら……うん、簡単な持ち物検査の後、医者に通されるのはいい。

 精神科医であっても納得できる……普通に元モノノフらしいお医者様だったが。

 

 

 それはいいんだが……なんかお偉いさんらしい人が出てきたよ?

 なんか頭に角が付いてる兜を被ってる、ヒャッキタイの隊長とか言う、相馬さんなる人が面会に来ました。

 

 本当に異界から逃げ延びてきたのかと問われた後、頷いたらいきなり抱き付かれました。

 ついぶん殴って距離を取り、ケツを庇って警戒していたら……なんか男泣きに泣き出した。

 

 ゲイの人なのか?

 拒まれたのがそんなに傷ついたのか?

 そーいう人に特に偏見は無いつもりだが、いきなり求愛して受け入れられると思う方がどうかしとるぞ。

 

 意味がわかりません。

 




暫くは討鬼伝世界の話を進めます。
オリジナル展開状態ですが…。

月末で徹夜
呑まなきゃなってられないんで、朝8時まで呑んでる
12時ごろに起床
17時に出勤したら、「業者さんと上司が来るから、朝5時まで居てね。やる事は沢山あるから、ヒマはしないでしょ」
人が居ない為、出勤時間の半分くらいをフォローで使い潰す
朝6時くらいまで仕事
呑まなきゃやってられるかと、朝9時まで呑んでる
14時ごろに起床
今から出勤

…これでまた朝まで居ろ、とか言われたら流石にキレそう。
ハンター式熟睡法、マジ欲しい…


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討鬼伝世界3~試行錯誤~
16話


時間と金を盛大に無駄にした気がするので、マジでヘルプ。
技術的な問題になるので、「やった事あるよ」って方が居たら教えてください。
あとがきで。
…普通に考えれば無理なんだよなぁ…いくら同タイトルとは言え、ハードが違うし。
ファミコン版DQ4のデータを、リメイク版に使えないかって言ってるようなものだし。

→アンケートに抵触するかも、という意見をいただいたので、活動報告に移します。
ご迷惑をおかけいたしました。

うーん、それにしても討鬼伝世界の話は反応がちょっと鈍いかな…?
一時期はモンハンを置き去りにした、なんていわれてたけど、これが知名度の差か…。


凶星月巳日

 

 一晩経って落ち着いた(意味深は無い!)相馬さんが謝罪に来た。

 微妙に警戒しつつも話を聞いてみたところ、相馬さんはオオマガドキで異界に沈んだ人を助けようと、何年も奔走していたらしい。

 オオマガドキどころか、鬼に関する知識が殆ど無い一般人のフリをして話を聞いていたんだが……成程、随分と苦労した人らしい。

 やはり生き残りは居ないのかと心が折れかけていた正にその時、俺が里に辿りついて(俺が追ってきた馬の足跡は、やはり彼らの隊の足跡だったようだ)居ても立っても居られず訪ねてきて……そして実物を見て抱擁&号泣に至る、と。

 

 成程、衆道でないのは納得した。

 だが殴り飛ばしたのは後悔してない。

 「それは忘れてくれ」と冗談交じりに言われたが、男に抱きつかれた記憶なんぞ言われんでも忘れるとも。

 ただし相馬さんをからかうネタになりそうな時には思い出すが。

 

 

 その後、どうやって生き延びたのか聞かれて、考えておいたバックストーリー通りに、実家に伝わっていた妙な技術でどうにかした、と答えた。

 そしてその技…つまりモノノフの技を披露。

 更に「腹の中に変な人が居るみたいな感じがするんだけど、これって何だろう」と続けてみた。

 

 「モノノフの血筋が、外にも続いていた…しかもミタマまで宿しているだと!?」と説明口調で驚かれた。

 オーバーアクションな人だな。

 自分を英雄と言っていたりするし……中二病か?

 でも雰囲気は歴戦だし、金砕棒を持っていたからちょっと動きを見せてもらったが、小細工無しの実力なら俺より数段上に居るのが分かる。

 もし戦う事になったら、正面からだと勝ち目が無い。

 無論、神機やモンハン世界の道具を考慮に入れて、だ。

 あの独特の強者の雰囲気は、リンドウさんに通じるものがあるな。

 

 ちなみにツバキさんみたいなタイプは、強者の雰囲気よりも厳しい女教師的雰囲気だ。

 外側だと厳しいだけだが、懐に潜り込めばエロスが見えてくる。

 

 

 それは兎も角として。

 相馬さんに、色々とモノノフとしての知識を教わっている。

 と言っても、まだモノノフとしての…と言うより、この世界の一般常識だ。

 オオマガドキにより突然異界に引きずり込まれて生き延びた(という設定になっている)俺は、何故世界がこんな事になってしまっているのか、サッパリ知らないのだ。

 ……うん、まぁ色々と知ってはいる訳だが、それもゲーム内の話。

 ゲームにも描写が無く、記憶にも無い事は知識に無い。

 

 

 金砕棒の扱いについても聞いてみた。

 モノノフになるつもりなのか?と言われたが、まだ特に考えてない…と返しておいた。

 ストーリークリアを考えるならモノノフにならざるを得ないのだが、異界から逃げ延びた昨日の今日でいきなりモノノフになる、は無いだろう。

 

 

 

凶星月味日

 

 モノノフになるにせよならないにせよ、暫く安静にしておくよう言われた。

 俺としてもグータラできるなら異存はない。

 GE世界の俺だと異存はありそうだが……アレは神機の食欲に引きずられているっぽいからなぁ。

 

 相馬さん率いる百鬼隊は、暫くロウマンの里に留まるそうだ。

 俺という生存者が見つかったのだし、この近辺の異界に同じように生き延びている人が居るのではないか?と考えているようだ。

 

 さて、俺としてはどうするべきか。

 正直な話、討鬼伝世界ではストーリーに全くと言っていい程関われていない。

 主人公がウタカタの里に到着するところから話が始まっているのに、そのウタカタの里に辿りつく事さえ出来ていない。

 どうしてもウタカタの里でなければならないのか?という疑問はあるが、二度目のオオマガドキに最も深く関われる可能性が高いのは、やはりウタカタ。

 となると、まずはウタカタの里へ行くルートを確保せねばなるまい。

 

 毎回毎回、異界から出たら違う場所に居るため、何処に行っても通じる『何か』が必要だ。

 俺がモノノフとしてウタカタに辿りつくには?

 

 

 ゲームでは確か、ストーリーが始まった直後、霊山からの書状が届いた筈だ。

 主人公をウタカタの里のモノノフに任命する、みたいない書状が。

 

 書状…か。

 その線で考えてみるかな。

 

 例えば俺が、今回の討鬼伝世界で発行された任命書を持っていたとする。

 それは次の世界でも有効か?

 正直、微妙な所だ。

 任命書が本物だったとしても、人事異動と言うのは書類一枚で出来る物ではないだろう。

 霊山でしかるべき処置を取っていて、更に新人が行くという連絡もウタカタの里に届けておく必要がある。

 

 それが無かった場合、どうなるか?

 霊山の手配ミスだと思われるか。

 それとも、書状が偽者だと考えられるか。

 どっちになるかは微妙な所だが、どっちになるにせよ、俺という存在は霊山には登録されていない。

 一度疑われ、所在を調べられれば怪しまれるのは間違いない。

 

 例えば結構エライ人らしい相馬さんに書状を作ってもらって、次のループで使ったとしても…問い合わせられれば、「いや、知らんぞそんな奴」の一言で終わってしまうだろう。

 

 

 これをどうにかしようと思ったら……霊山にツテを作る?

 いやいや、作ってもデスワープすれば元の木阿弥。

 となると………霊山の誰かの弱みを握って、秘密裏にモノノフとして登録させる!

 いや、秘密裏にする必要は無いな。

 外の世界…異界に沈んだあずまの国から脱出してきた、モノノフの血を引く生き残り。

 多少強引でも、事実として認知させてしまえば後はどうとでもなる。

 

 

 

 これが良さそうだが…どうやってその弱みを握るかが問題だな。

 霊山に行くなら、相馬さんに頼んで連れていってもらえばいい。

 そーだな、実家にあった資料の中に、「レイザン近辺に住んでいたモノノフの血筋」を引いているって記述があった事にすればいいだろう。

 親類縁者が全て異界に沈んだ今、遠い親戚になるかもしれないが係累が要るなら会ってみたい、と言えばいい。

 相馬さんは結構な人情派のようだから、多分連れて行ってくれるだろう。

 

 ゲームには登場しなかった霊山も見てみたいし、意外といい考えかもしれない。

 よし、他の代案も思いつかないし、今回はこれで行こう。

 

 

 

 

 

凶星月Me日

 

 

 相馬さんに話したら、あっさりとOKを貰った。

 いや横文字は使ってないが。

 

 実際のところ、相馬さんにとっても渡りに船だったらしい。

 と言うのも、百鬼隊の本来の仕事は、オオマガドキの生き残りの捜索ではなく、あくまで鬼の討伐。

 鬼を討ったら、本来ならすぐに次の任地へ向かうのだが、相馬さんが生き残り捜索を主張して、暫く同じ場所に留まるようにしていたらしい。

 

 が、もう数年間も探し続けていると言うのに、生き残りは誰一人見つからない。

 最近では、捜索を打ち切れという命もチラホラと降りそうになっていたそうだ。

 生き残りは絶対に居る、と信じていたし、相馬さん個人としても、異界で何やら探し物をしているらしい。

 色々な意味で、捜索を打ち切られるのは困る。

 

 そこへ来て俺の登場。

 俺を霊山に連れて行き、生き残りという証拠を見せて捜索続行の圧力をかけるつもりらしい。

 …いや、別に俺を取引材料にするとか、そーいう事気にしなくてもいいですよ?

 俺だって色々黙って利用するつもり満々なんだから。

 むしろ、俺一人連れ帰ったところで、どれだけ圧力を掛けられるかの方が心配です。

 

 

 

 と言うか、場合によってはデスワープの事も話して協力を仰ぐつもりだったのだが、流石にこれは言えない。

 よく生きていてくれた、心が折れそうだった…と神妙な顔で語る相馬さんに、実は話した身上は全部でまかせで、異界から脱出したのは事実だけど何度も死んでやり直しているんです…とは流石に言えない。

 それでも生き残りには違いない、と言ってくれそうではあるんだが、俺の場合は死ぬに死ねなかっただけだし、そもそもこの世界にデスワープしてくる前はどうなっていたのかも分からない。

 極端な話、オオマガドキで死んだ、この世界の『俺』に憑依したのか、それとも生きている最中に意識を則っているのか、或いは何も無い所に問答無用でワープしてきたのか。

 

 モンハン世界を基準に考えるなら、俺が憑依する前にも『俺』が居るようなのだが、逆にGE世界はあれだけのアラガミの群れの中で何やっとんじゃいという話になる。

 しかも、デスワープ直後のアラガミの群れは俺に気付いていないし。

 

 とにかく、今回もデスワープの事は黙っておこう。

 最低でも、ウタカタの里へのルートを確定できるまでは。

 

 

 

 

凶星月壬日

 

 出発の日し、霊山へ向かっている途中です。

 ロウマンの方々、お世話になりました。

 一人一人お礼参り(物騒な意味じゃないよ)したら、色々励ましのお言葉をいただいた。

 皆良い人だった…。

 

 さて、百鬼隊の馬に乗って霊山へ向かう訳だが、生憎俺は馬なんぞ使った事は無い。

 モンハン世界での移動は専ら徒歩かネコ車かガーグァ車くらいだった。

 

 そもそも色々重要な立場に居るらしい百鬼隊と言えど、予備の馬なんぞ宛がわれていないらしい。

 となると当然、誰かの後ろに乗せてもらう事になる訳ですが…いやいや相馬さん、「俺の後ろに乗れ」「霊山での家はこっちで手配してやる。暫くは生活費も出せるだろう」ってどんだけ気を使ってくれるんですか。

 最初に抱きつかれたけど、衆道疑惑が微妙に蘇るじゃないですか。

 まぁ、女性隊員の後ろに乗って、ビッグキャノンがオッキしちゃったら色々な意味で気まずいので、素直に乗ったけど。

 

 今は途中にある里に寄って一夜を凌いでいる。

 このままのペースで行けば、明日の夕方頃には到着するそうだ。

 

 と言うか、さっきから気になってたんだが、何処に行くにしても百鬼隊の誰かが近くに居るんだが…。

 気配を消しているようだけど、モンハン世界の獣に比べればまだ甘い。

 これって保護なのか?

 いやでも過保護すぎないか、幾ら唯一の生き残りを見つけたと言っても。

 それとも…監視?

 怪しまれるような人間だという自覚はあるが、怪しい事なんかしたっけか…?

 今回の討鬼伝世界では何もしてないと思うんだが。

 

 まぁいいや。

 とりあえず和食美味しいです。

 サンマの塩焼き最高。

 

 

 

凶星月御日

 

 やって来ました霊山。

 ……本気で山だな、しかもかなり険しい。

 山のそこかしこに寺っぽい建物が立っている。

 上に行けば行くほど豪華と言うか細かい装飾が見られるから、上の建物はお偉いさん用なのだろう。

 そして麓には一般人用らしい家屋が多数、と。

 何処の山だ、これ。

 

 

 元が日本のようだから、地形自体は……異界に飲まれてない所は、変わってないと思うんだが。

 日本の霊山っつーたら、富士山とか比叡山とか……ああ、そう言えば何処だったか忘れたが、そのまんま霊山(りょうぜん)って山もあるんだって聞いた事があるな。

 

 流石に富士山は無いだろう。

 見た目からして形が違う。

 んじゃ何処だ、と聞いてみたが……モノノフが呼んでる名前じゃなくて、世間一般で呼ばれてる名前で答えてくれい。

 ナカツクニとか何処から何処を指してるのさ。

 県名が分からん。

 ちなみにかつての学校での地理も古典も大の苦手科目だった。

 

 

 それはともかくとして、相馬さんに言われた通り、あれよあれよと言う間に住居を宛がわれ、そこで暮らす事になった。

 暫くは生活費も出るので、それが尽きる前に身の振り方を決め、職に手をつけなければならない。

 オオマガドキ前の技術の知識が幾つかあるのだが、それを職に出来ないか?と聞いた所、それを活用・実用可能なら出来るかもしれない、との事。

 確かに、実現可能か分からないアイデアだけを出してれば金を稼げる程、世の中は甘くないわな。

 

 ついでに、相馬さんから隊長格の会議の場で、幾つか発言してほしい、と頼まれた。

 色々世話になってますし、それくらいならお安い御用です。

 精神的なプレッシャーはキツいけど。

 

 

 

 

 さて、霊山にやって来たはいいが、ここからどうやってウタカタの里へ向かうか。

 ロウマンの里に居る間に相馬さんに動きを見てもらい、新人のモノノフとしてはかなり上位の腕前だと太鼓判を貰った。

 つまり下の上。

 そしてウタカタの里は最前線だ。

 …前にも同じ考察をしたが、最前線に下の上を配属させるとは思えんのだがなぁ…。

 何かの梃入れが必要か。

 

 

 

 

凶星月箕日

 

 この世界にも新聞はあるらしい。

 バックナンバーも含めて何冊か買ってみた。

 ……うーむ、モノノフの活躍ばっかり書かれてるな。

 任務に失敗したとか、お偉いさんの不祥事とか、そーいうのは全く見られない。

 信憑性はどれくらいのものか…。

 いい事ばかり書かれている時点でお察しかな?

 

 

 暫く霊山を歩き回ってみたが、流石に豊かと言うか大きいというか何というか。

 マホロバ、キカヌキ、ロウマンの里を全部合わせても霊山の規模には及びそうにない。

 これだけ大きな集落なんだから、所謂『裏』とかトラブルの種も転がってると思うんだが……流石にそんな都合よく遭遇はできない。

 

 結局、有効な策は全く見つけられなかった。

 やはり、モノノフとして登録されて、自分からウタカタへ志願するしかないのだろうか?

 

 そういえば、明日は相馬さんに頼まれた会議の日だ。

 早めに眠って、英気を養うとしよう。

 

 

凶星月看日

 

 会議に出たけど、ナニヲイッタカオボエテナイヨ!

 狩りとは別の精神的プレッシャーだった…。

 あー、疲れた。

 

 終わった後に、相馬さんに何か不味い事を言ってなかったか確認してみたが、「いや、よくやってくれた」と笑っていた。

 よく笑う人だ。

 

 疲れたから今日はもう寝る。

 

 

魔禍月3日

 

 取材が来た。

 霊山新聞?

 え、ナニゴト?

 

 

 

魔禍月未日

 

 取材の翌日には、新聞に俺の事が載っていた。

 流石に何処に住んでいるのかとか、具体的な姿絵とかは無しにしてくれたようだが。

 

 妙な気分になりつつも読んでみると、相馬さん率いる百鬼隊が、異界を彷徨っているオオマガドキ前の生き残りを発見し、そして強力な鬼との死闘の果てに俺を救い出した事になっていた。

 …俺が女だったら、完璧な英雄譚だったろうに。

 

 えらく脚色されているが、ムキになって否定するような物でもない。

 何より無理に否定したら、俺がその助け出された本人だとばれてしまう。

 たった一人の生き残り、なんて面倒なレッテルは御免蒙る。

 ……いや、それで回りに永遠にチヤホヤしてもらえるなら、有りかもしれんが。

 

 

 代わりに、赤青の女の子が二人訪ねてきた。

 青い方が姉、赤い方が妹らしい。

 この二人も霊山新聞の記者だと言っていたが、昨日も別の人が取材に来ましたが?

 いや、取材とは言えカワイイ女の子とお喋りするチャンスなんだから、遠慮なく受けましたが。

 

 聞いてきたのは、既に霊山新聞に載っている事についてばかり。

 ヘタな対応をして波乱を呼んでも不味いかな、と思って、新聞に載っていた通りの事を適当に答えていたのだが。

 二人から真剣な表情で、「本当の事が知りたい」と頼み込まれてしまった。

 

 

 俺って押しに弱いのね。

 前々回のリッカさんの時もそうだったし……出撃してない時の俺は、割と弱い。

 

 

 どっちにしろ、相馬さんに色々と世話になっているのは事実なので、迷惑をかけないように約束した上で本当の事を話した。

 なにやらショックを受けているようなので、逆にこっちから聞いてみる。

 

 何でも、彼女達の父親は霊山新聞社の社長なのだそうだ。

 小さな会社だった頃は色々な事を載せていて、それを見るのが彼女達も大好きだったそうなのだが、最近おかしくなってしまったらしい。

 会社は急激に成長して大きくなり、しかし新聞に載るのはモノノフの活躍ばかり。

 小さな事なら色々と載せもするが、霊山に都合の悪い情報は一切省かれている。

 

 最初はそういう事もあるか、と思っていた。

 モノノフ達が活躍しているのは事実だし、英雄譚は大抵の時代で人々が好むものだ。

 何だかんだいって会社だから、売り上げを気にしなければいけないのも分かる。

 

 だが、それはどんどん顕著になっていって。

 ついに疑念を抑えきれなくなり、新聞に載った俺のところに来た。

 ……まぁ、普通に考えれば、異界に沈んだあずまの国から抜け出してきた生き残りとか、まず疑うよな。

 しかもオオマガドキから既に数年経過しているのだから。

 

 でもそれは(一応)嘘じゃないんだな、これが。

 

 

 それでも二人にはショックだったらしい。

 大好きだった父親の新聞が変わってしまった事に、涙まで流していた。

 …ヘタに騒ぐと面倒な事になりそうだったので、明後日の方向を向いて涙を見ないようにしていました。 

 女をスマートに泣き止ませるような、リア充専用のスキルなんか無いよ。

 

 

 

 

 

魔禍月ミ日

 

 昨日は結局、二人とも泣き疲れて寝てしまったので、布団に放り込んでおいた。

 過ちは無い。

 流石に初対面の女の子二人に妙なマネをする度胸は無い。

 

 朝起きたら、二人とも照れくさそうにしていた。

 まだショックは長引いているっぽいが、多少はスッキリしたらしい。

 妹の方には、妙なマネをしなかったか冗談交じりに警戒されていたが……ま、仕方ないか。

 

 それはそれとして、新聞社の娘なら、ウタカタ行きに使えそうなネタが無いか相談してみた。

 何故ウタカタのような最前線に行きたいのかと首を傾げられる。

 

 血縁者がそこに居るかもしれない…と答えるのは簡単だったが、あれだけ「本当」を知りたいと言っていたこの二人に嘘を吐くのは躊躇われる。

 かなり鋭い子達のようだし、妙な嘘を吐いてバレたら好感度大幅ダウン間違いなし。

 詳しいことは言えないが、と前置きして、近い内にウタカタで大きな騒動がある可能性が高い、と告げた。

 それにモノノフとして参戦したい。

 

 色々とツッコミは入ったが、取材の礼という事で知恵を出してくれた。

 流石に新聞社が持っている情報…特に脅迫のタネになりそうなの…は教えてもらえない。

 当然か。

 守秘義務があるし、そもそも脅迫の材料を人にホイホイ話す子じゃない。

 と言うか話したら人としてどうか、という話になる。

 

 

 それはともかく、流石に霊山の新聞社の娘だけあって、モノノフの制度とかにも結構詳しい。

 …何というか、やっぱり霊山も人間の集まりと言うか、結構いい加減な所もあるらしい。

 とにかく成果第一主義と言うか、もし何かしらの間違いが起こっても、原因追求したり再発防止策を練るより先に、それをどう利用できるかを考える傾向があるようだ。

 勿論、全員が全員そういうタイプではないのだろうが……トップにその傾向が強いらしい。

 

 組織としてどうなのか?とは思うが、この世界は状況が状況だから無理もないのかもしれない。

 起こった問題の根っこを見るより先に、目の前に迫った鬼を斬らないと、改善する前に全滅しかねない。

 それだけ追い詰められているって事だ。

 

 で、そんな状態な訳だから、事後承諾とか、「起こってしまった間違い」が非常に有効らしい。

 …つまり、俺が勝手にモノノフ名乗ってウタカタに行って、それが間違いだったと分かっても「別にいいからそのまま戦わせとけ」って事になると?

 それでいいのか、それだけでいいのか。

 色々考えてた俺は一体なんだったんだ。

 

 

 

 とは言え、そうなるとしてもモノノフとしての身分証明書は最低限必要だろう……ゲーム的言えば、人物札か?

 それと、俺の手元に任命書があると説得力が増す。

 どっちにしろ、認められる必要はある。

 アラガミ化を抑える抑制剤が続いている内に、何とか身分証明書を手に入れなければ。

 次回も霊山までこれるとは限らないし、相馬さんという強力なツテを手に入れられる可能性はもっと低いのだ。

 

 

 

 

 

 

魔禍月深日

 

 忙しいところに申し訳ないが、相馬さんを訪ねた。

 よく来てくれた、と例によってオーバーなくらいに歓迎してくれる。

 …ソッチ系なのか、疑惑が膨らむが……単にこの人、オーバーアクションがクセになっているだけか?

 

 唐突に謝罪された。

 ナニゴトかと思ったら、霊山新聞の記事の事だった。

 「お前が会議で言い出した事とは言え、見世物のように扱ってすまない」だそうだ。

 

 ………え、言い出したの俺なの?

 

 

 記憶に無いんで、適当に誤魔化して流した。

 そしてモノノフになる事も伝える。

 

 

「そうか…やはり決意は固いようだな。

 俺としては、安全な場所で平和に暮らしてほしかったが……無理な願いか」

 

 

 

 

 

 ………なぁ俺、本気で会議で何やったんだよ!?

 この分だと、余計なトラブルのタネを撒いていそうで怖い。

 と言うより確実に撒いている。

 くっ…これ以上のトラブルを避ける為に、デスワープも思慮に入れるべきか。

 いやいや、せめて身分証明書と任命状を手に入れるまでは…。

 




…某むとうけいじ絵の催眠エロゲがエロいな。
こう、ねちっこい感じの事前準備の描写がだな…。



よし、催眠の上書きって事で次ループのアリサに使おう!
…やるならR-18にして別で投稿しないといけませんね。


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17話

皆様のアドバイスに感謝を。
そしてそれを生かせない時守に呪いを。


 

魔禍月魅日

 

 

 記憶に無い言動に色々と危機感を覚えつつも、何とかモノノフとして認められた。

 試験みたいなのはあった。

 鬼祓や、攻撃にオカルトパワー(霊力ね)をちゃんと乗せられるか、そんな所だ。

 一応一通りの事はできている訳だし、試験の難易度自体はそう高くなかった。

 

 と言うより、「ミタマを宿してタマフリが出来る時点で、合格率は8割以上と思っていい」とは相馬さんの言。

 

 少し心配だったのが、何のミタマを宿しているのか聞かれる事だった。

 …皆して英雄の魂を宿してるのに、俺だけ妖怪の魂を宿してます、なんて言えないよ…。

 でも、それを聞こうとするのはモノノフ的にはルール違反だそうな。

 理屈はよく分からないが、昔から続いている決まりごとらしい。

 無理に理由を付け加えるなら、例えば史実で関係のある英雄が二人揃ったとして、その関係が上司と部下だったり、或いは敵対した二人だったりしたら、無用な軋轢の元になりかねないから…とか?

 

 ふむ、そういう事なら、ひょっとしたら俺みたいな前例も、知られてないだけであったのかもしれないな。

 今度調べてみよう。

 

 

 さて、細かい事はともかくとして、これで正式にモノノフになった訳だが、いきなりウタタカに行ける訳ではない。

 暫くは研修期間として、霊山で弱い鬼を討つことになる。

 任地を決められるのは、その後だ。

 相馬さんから先んじて、「何処か希望地はあるか?」と聞かれ、何やら昔風の地図を見せられたのだが……そーか、里の配置ってあんな風になってたんだな。

 うん、これをしっかり記録しておけば、何処に出ても歩いてウタカタの里に向かえそうだ。

 

 

 それはともかく、ウタカタを希望すると妙な顔をされた。

 何故、と言われても……まぁ確かに、見ず知らずの土地よりは、世話になったロウマンの里を希望するのが自然な流れか?

 でもなんか妙に迫力あったな…。

 ウタカタの里は相馬さんにとって、何か曰く付きの場所なんだろうか?

 

 とりあえず、希望した理由は俺の中のミタマがそこに行きたがっているようだから、とでっち上げた。

 当のミタマであるのっぺらぼうは、相変わらずボーッとしてウロウロするだけの日々を送っている。

 ミタマと会話できる例は、結構あるらしい。

 具体的な言葉まで伝えられる者は少ないが、何となくイメージが伝わってくる事はあるとか。

 

 ……ノッペラボウからそんなイメージ、送られてきた事は無いんじゃが……俺の素質や能力の問題か?

 それとも英雄と妖怪の差か?

 

 それはともかく、一応納得してもらえた。

 モノノフとミタマは切っても切り離せない関係だ。

 上下関係があるようなものではないが、その意見を無碍にする事はそうそう出来ない。

 確約はできないが、進言はしておいてくれるそうだ。

 

 

 さて、どうなる事か。

 

 

 

 

堕陽月得日

 

 新しい月に突入。

 これで討鬼伝世界にやってきて、約2ヶ月が経った。

 新記録だな。

 

 アラガミ化抑制剤にも余裕はある。

 何度も異界に潜っているのが良いのだろうか?

 やはり、体の中に瘴気をある程度残していると、アラガミ化が抑制されるらしい。

 これは大きな発見だ。

 

 ついでに言うと、俺の中にある瘴気をノッペラボウが喰っている訳だが……本当に何の意味があるんだろうか?

 単なる嗜好品扱いか?

 それとも、喰い続ければパワーアップするのか…。

 ノッペラボウによく似た妖怪で、その上位バージョンって言うと…………尻目?

 

 尻目…のっぺらぼう同様、顔は無い。

 顔は無いのだが、実は尻に目がついている。

 人に会うと全裸になり、ケツについている目をピカピカ光らせて人を驚かせるという。

 

 

 

 

 

 …いや、ケツに目がついている事も驚きだろーけど、どっちかと言うといきなりストリップ始める事に驚くんじゃねーかな。

 と言うか目がついてるからなんじゃいって話になるけど。

 あとトイレとかどうしてるんだろう。

 

 

 

 いやいやいや、問題はそこじゃない。

 落ち着け、本当に尻目になると決まった訳でもないんだ。

 案外、顔のパーツが一つずつ出てきて、実は英雄でしたーなんて事もあるかもしれない。

 うん、あるかもしれないという事にしておこう。

 

 

 それはともかく、研修の任務は順調にこなしている。

 まだガキやオニビのような雑魚ばかりが相手だが、研修ならこんなものだろう。

 モノノフにとっては雑魚もいい所だが、一般人にケが生えたような新人にとっては油断できる相手ではない。

 意外と爪や牙は鋭いし、オカルトパワーを乗せて殴らなければ、殆どダメージが通らない。

 初陣でパニックになったモノノフが逆にやられてしまいそうな事も結構あるらしい。

 

 ちなみに、俺は一人で異界に潜っている訳ではない。

 百鬼隊の一人が、教官としてついてきてくれている。

 「色々世話になっているからな」と相馬さんが派遣してくれたのだが、いやお世話になってるのこっちなんですけど。

 百鬼隊って忙しいんでしょ?

 何でそこまでしてくれる訳?

 ……やっぱりアレな疑惑が…。

 

 

 つい口に出して呟いてしまったのを、百鬼隊の人に聞き咎められた。

 疑惑とはどういう事か、何についての事か?と問い詰められたので、相馬さんを貶す意図は無い事を強調した上で正直に言った。

 ………唖然とされて、一発殴られた。

 

 そして根堀葉堀聞き出された。

 ………ご腐人だったらしい。

 

 

 

 

 相馬さんの人間関係にエライ事のタネを植え付けてしまったような気がするが、知らん。

 恩知らずと言われるかもしれんが、デスワープすれば全て無しだ。

 …いや、真面目にさ、色々便宜を図ってくれるのは感謝してるし、それもようやく見つけた生き残りだから、って事で納得はできる。

 が、何故に自分の隊から態々派遣してまで、教官役を務めてくれているのか。

 会議で俺が何かやらかしたのだとしても、幾らなんでも過剰だ。

 

 で、引っかかったのが、百鬼隊のご腐人が、疑惑云々の呟きに食いついた事。

 ………監視されている?

 それに気付いたと感じたから、あのご腐人は過剰に反応した?

 

 

 しかし何故?

 俺は一体何をした?

 

 

 

 

堕陽月獲日

 

 暫く考えてみたが、やはり監視される理由が分からない。

 相馬さん自身が、俺を疑いたがっているとは思えない。

 棚ボタ的に遭遇したとは言え、ようやく見つけたたった一人の生き残り。

 自分達がやっている事が、無駄ではないという証明。

 それを自分から台無しにしたいとは思わないだろう。

 

 監視をしていたのは、百鬼隊の一人だけではない。

 日常を気をつけて過ごしてみれば、大抵は近くに百鬼隊の誰かが居る。

 …個人がおエライさんの命を受けているのではなく、百鬼隊全体での監視、か。

 

 益々どうなっているのやら…。

 

 

 

 それはともかく、モノノフになったので、色々と資料閲覧の許可が出ている。

 研修が休みの日は、ダラダラしているか、資料を見て回っている。

 何せこの世界はオカルト満載。

 デスワープに関する手がかりがあるとすれば、恐らくは他の2つの世界ではなくこの世界だろう。

 異界によって時間や空間が滅茶苦茶になっている事もあり、そう言った点に関する資料もあるかもしれない。

 

 毎回霊山に来れる訳ではないから、この機会を逃す訳にはいかない。

 吸収できる技術や知識は、概要だけでもいいから片っ端から吸収しないと。

 

 だからそう、偶然見つけた真言立川流っぽい解説書を読みまくっているのに他意は無いんです。

 しかも、オカルトパワーを普通に操るモノノフだけあって、世間一般に残っているのとは違うような色々と秘された解説書まである。

 お……おおぉ、こんなのまで……こりゃ現代まで残せるような代物じゃないよ。

 日本人の業は深い。

 

 また今度のループでアリサに………ああ、覚えてない、と言うより会ってもいないんだったな。

 ちょっと沈む。

 

 

 

 そうそう、霊山のモノノフ先輩達と知り合った。

 キカヌキの里の堅悟さんに聞いていた、いけ好かないようなモノノフも居るには居るが、基本的にいい人が多いようだ。

 ちょっと荒っぽいけど。

 

 「生き残りだかなんだか知らないが、外の人間がモノノフになれるのか? 引っ込んでろよ」みたいな事も言われたが、表情に侮蔑が全く無かった。

 死地に向かうような事をせずに穏やかに暮らせ、と言いたかったらしい。

 …なんで態々そんな言い方するかね。

 名家(らしい)特有の気取った意識と心配が混ざり合った結果か?

 

 

 

 

堕陽月画日

 

 

 何だかんだで、研修は終了。

 任地に向かう事になる。

 

 相馬さんが色々やってくれたらしく、任地はウタカタ。

 流石に相馬さんもついて来る、とは言わなかったので、多分ここでお別れになるだろう。

 木綿殿と大和殿によろしく頼む、と言われたが……それって確か、ウタカタのお頭と受付嬢じゃなかったっけ?

 やっぱり何か関係があるのか。

 書状も届けるように言われたし………ぬぅ、封がされている。

 中身が見れない。

 

 

 

 ……はっ、気がつけば今、ナチュラルに人の手紙を盗み見しようとしていた!?

 …倫理観が大分壊れてきてるなぁ…。

 

 

 

 

 …到着すれば、ようやくストーリー開始の時期……だと思う。

 任命状と一緒に、人物札も貰った。

 これがあれば、次のループでも正式なモノノフとして、ちょっと強引ながらもウタカタに転がり込めるだろう。 

 …にしても、人物札ショボいな…。

 名前と似姿、本人からのコメントが一つあるだけだ。

 まぁ、ゲームみたいに戦績を自動でカウントするような物であっても困るが。

 

 出発前に、時々顔を出していた新聞社の二人にも一言告げておく。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え、なに?

 

 

 

 

 

 

 

 いっしょにくる?

 

 

 

 

 

 

堕陽月柄日

 

 えー、出発です。

 例によって世話になった皆さんに挨拶した後、ウタカタ目指して霊山を旅立ちました。

 ……徒歩で。

 

 

 

 …………新聞社の赤青姉妹も一緒に。

 いや本当に、どうしてこうなったんだろう。

 そりゃ、この二人とはそこそこ仲が良かった。

 時々取材と称しては家に来て、愚痴りあったりする程度には。

 

 惚れた腫れた掘られたの仲とかそーいう事は全く無いし、友人と言うのにもちと弱い。

 だと言うのに、何を考えてこの二人は俺と一緒に来ているのだろうか?

 

 ついでに言うと、旅慣れている訳でもない。

 長距離を歩くと疲れを見せるし(それでも歩く根性はある)、野宿の仕方も全く知らないようだ。

 …いや、妹の方は意外と慣れてるかな?

 

 

 野宿の時に何のつもりなのかと聞いてみると、なんでも「本当」に触れる為に、最前線かつ霊山の影響が及ばない里に行くのだそうだ。

 以前から似たような事は考えていたのだが、その時にタイミング良く(悪く?)俺がウタカタに行く事になった。

 顔見知りだし、丁度いいから便乗してしまえ、という訳ね。

 

 ただし、殆ど突発的な行動なので、準備らしい準備はまるでしていない。

 …せめて路銀くらいは持って来いよ……何、お小遣いは少ない?

 霊山新聞の手伝いで稼いだお金しかない?

 知るか。

 

 あとその格好で行く気か?

 旅装束とか無いの?

 …普通の服とどう違うのかって?

 そりゃー、汚れても破れても問題ないとかそれくらいの認識でいいさぁ。

 

 

 いやメシくらいは食わせてやるけどさ。

 旅は道連れ世は情け容赦なく鋼のごときスタンスで当たりつつ飼い殺しって言うし……具体例としてアリサを挙げよう。

 …おい、何でご飯のイノシシ仕留めただけで「何者だコイツ」な目を向けられにゃならんのですかねぇ?

 ボタン鍋とか最高だぞ。

 ドスファンゴどころかブルファンゴよりずっと脆いから、軽く狩れました。

 

 なに、野鳥の卵を食べるのは可哀想?

 そんな事言ってるヒマがあったら、安全に喰えるかの心配をしなさい。

 俺は平気だけどな、ハンターボディ的に。

 

 毒蛇?

 いや、こいつ毒ないよ?

 毒があってもちゃんとした調理が出来るから大丈夫。

 ハンターたる者、食料の現地調達から調理まで出来て当然。

 具体的には、よろず焼き機があればボタン肉だろうが熊の掌だろうが生魚だろうが、こんがり美味しく焼けるのだ。

 

 心配するな、人間は異界の枝とか鬼とか食っても生きていける。

 腹の底から鬱陶しい声が聞こえるようになるが。

 

 ……ん?

 紛う事なき実体験だぞ?

 俺が異界の中から逃げ延びてきた事、忘れてないか?

 

 

 

 

 

 あと、何か知らんが夢見が悪い。

 な~んか狩りの夢を延々と見ている……ような覚えがある。

 ハンター式熟睡法を使ってるから、夢なんぞ見ない筈なんだが…。

 

 

 

堕陽月餌日

 

 「た、旅を舐めてたっす…」と青い方が言うのを聞き流して、4日程。

 無事ウタカタの里に到着した。

 ようやくゲームの本筋に入ってこれた感じだな。

 何度目のループだろうか…。

 

 守衛に任命状を見せ、里の中に入る。

 モノノフが……大和の頭と桜花さんが出迎えてくれた。

 

 おお、討鬼伝の初原作キャラだよ。

 ここまで来るのにマジ長かった…。

 

 

 俺の事はしっかり伝わっていたらしく、「聞いたぞ、異界の中で生き残ったんだって?」と聞かれた。

 とりあえず「餓鬼は生のニンジンより不味かったです」と答えた。

 桜花さんは微妙な顔をして、大和の頭は「それは大変だったな」と笑ってた。

 

 大和の頭に相馬さんからの書状を渡して、そのまま家へ。

 新聞社の二人は、取材の為についてきたという事で適当に誤魔化した。

 …んだが、流石にこの二人の住処までは用意してない。

 

 俺の家に住む事になってしまった。

 ………何、このエロゲ展開。

 

 まぁいいや。

 メシ作るのは任せる。

 

 

 

 なんて言ってたら、初っ端から襲撃である。

 雑魚ばっかりだったから良かったが、これが日常…やはり最前線という事か。

 

 と言うか、霊山で戦っていた頃から思っていたが、どうにもリズムが悪い。

 ゴッドイーターにしろ、ハンターにしろ、倒した相手から素材を剥ぎ取るのは常だが…ちょいと時間がかかり過ぎるように思える。

 戦いの場で、素材の為に動きを止めれば命を落としかねない。

 …どうせ、暫くは雑魚の相手ばかりだ。

 戦闘中の鬼祓に適したタイミングを探すとしよう。

 

 

 

 

 それより重要な事だが、俺の身に新たなミタマが宿る事は無かった。

 ゲーム内なら、初陣でミタマが一つ確定だったはずだが……やはり、俺にムスヒノキミとしての立場は無いか?

 

 

 代わりに、妙に俺のミタマのノッペラボウが飛び跳ねているんだが……なんだろうな、これ。

 桜花さんや大和の頭にも、「随分とミタマが喜んでいるようだな」と言われたが、微妙な所だ。

 

 

 他に、秋水、樒、たたらさんに会ったが、特に書くような事は無かった。

 秋水に「何でも聞いてください」みたいな事言われたので、喰える鬼は居ないかと聞いたが………総じて不味い、とマジレスされて終わった。

 …そうか、不味いのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 そして天狐を鍋にしたい。

 カワイイ?

 可哀想?

 

 

 いいかよく聞け。

 ハンター的にはな、カワイイは正義だが、美味しいは絶対的正義なんだよ。

 

 

 

 

 

堕陽月会日

 

 樒さんに話を聞かせてもらった。

 と言うのも、ミタマの専門家なら、我がミタマであるノッペラボウの事も何か分かるのではないか、と思ったのだ。

 

 しかし、具体的な情報は聞けなかった。

 何でも、ミタマとなるのは基本的に人間のみなのだそうだ。

 魂のあり方だか何だかに基づいているらしいが、詳しいことは理解できなかった。

 

 という事は、何か?

 うちのノッペラボウは、やっぱり実は英雄のミタマだったりするのだろうか。

 

 いやそれよりもおかしいのは、ミタマは武器に宿すもの、という所だ。

 ゲームでも使う武器によって、装備できるミタマの種類が違っていたが……それを言ったら、俺は一体どうなる?

 討鬼伝世界の武器は勿論、モンハン世界の武器を使っていた時も、神機を使っていた時も、平然とミタマの力を使っていた。

 これは妖怪と人間の差なのだろうか?

 

 

 

 それはそれとして、GE世界と同じような事をやってみた。

 つまり、たたらさんにモンハン世界の素材を見せてみたのだ。

 素材を一つ一つ手にとって確認していたが……ありゃ職人の顔だな。

 ドスの効いた声で、「おめぇ…どっからコイツを持ってきやがった」と聞かれたときには、思わず最敬礼してファーザーとか呼びそうになってしまった。

 技術者という点ではともかく、鍛冶師…精神とかを篭められる鍛冶師という点で見れば、恐らくGE世界は勿論、モンハン世界の職人より上なのではなかろうか。

 この人に杭君を見てもらいたいもんだが……暫くはやめておくか。

 折角正規の手法でウタカタの里にやってこれたのだ。

 怪しまれるような真似は、次回に回せばいい。

 

 暫くは、この世界での戦い方を確立させるのが優先だ。

 

 

 

 

 

 

 

 おい新聞社の赤いの、味噌汁濃いぞ。

 何、フグも蜂も食べられるんだから濃いくらいで文句言うな?

 味は重要だぞ味は。 

 

 

 

 

 

堕陽月慧日

 

 

 「本当」に触れたい、とか言って付いてきた二人は、どういうツテを辿ったのか、万屋でバイトを始めたようだ。

 流石に俺にたかりっぱなしになる気はなかったらしい。

 ま、「本当」なんてのは苦い物と相場が決まってるんだし、箱入り娘のままでいるようじゃ話にならんな。

 

 俺は俺で、モノノフとして雑魚の鬼達を狩る日々を過ごしている。

 正直な話、雑魚は武器防具の素材としては殆ど価値が無いのだが、俺が注目しているのはその性質だ。

 鬼祓で消える…浄化できる事からも分かるように、鬼というのは基本的に瘴気のカタマリらしい。

 

 モンハンのような生物学的に有り得ない存在ではなく、ゴッドイーターのようにアラガミ細胞という無敵だが物理的な遺伝子を持っている訳ではなく、オカルトパワーの結晶である。

 今はまだ何の変哲も無い爪や牙にしか見えない素材であっても、『物理的にありえない』、『この世の物では有り得ない』性質を持っている可能性は多分にある。

 

 また、俺の体のPナンタラ偏食因子の働きを瘴気が阻害している事から分かるように、恐らくこの世界の武器はアラガミ達にも有効だ。

 打撃や斬撃で殺すのではなく、恐らく毒を打ち込んで徐々に弱らせるような戦い方になるだろうが。

 

 何れにせよ、順調と言えるだろう。

 ガキ、ノヅチ、オニビ、ササガニ……雑魚が相手なら軽いもんだ。

 長時間異界の中に居ると、倒れてあの世行きだから、そうそう繰り返し出撃はできないのが難点だ。

 

 

 

 

 

 

 なんていうと思うてか。

 

 こっちには異界の瘴気=毒を無効化する、モンハン世界の装備があるのだ。

 コイツがあれば一週間くらい屁の河童よォ!

 ちなみにこれを見せたら、桜花さんがガチで取り乱した。

 予想はしてたが、ガチでモノノフの常識を覆す代物だったらしい。

 何処でどうやって作った、と問われたが、実家に伝わっていた、てっきりモノノフの標準装備だと思っていた…で押し通した。

 

 研究すべき…と思っているようだったが、幸いあちらから黙っていると協力を申し出てくれた。

 オオマガドキ前の、俺の生家の形見になるから、無理に取り上げるような真似はしたくない…と。

 

 

 ええ人や。

 GE世界の技術者達なら、嬉々としてカッ攫っていきそうなものを。

 

 ま、この装備が通じるのは相手が雑魚だからだ。

 対毒装備はあまりレベルの高い物は揃えてない。

 今後襲来が予想される最初の鬼…ミフチに通じるかどうかってとこだ。

 

 

 

 

 ま、そんな事ぁいいから出撃じゃヒャッハァァァー!!

 素材寄越せやぁぁぁ『この世の物では有り得ない』系の奴をよオォォォォ!!!

 

 

 

 

 

堕陽月ぇ日

 

 大和のお頭から、調子はどうだと聞かれた。

 ウス、桜花さんのおかげで好調ッス!

 あと出撃時に度々木綿さんにお世話になってます!

 初対面の時、「ユウさん」じゃなくて「モメンさん」って呼んでマジサーセン。

 

 それはともかく、俺の中の瘴気について問い詰められた。

 普通、モノノフは任務が終わって帰還したら、体に溜まった瘴気を完全に浄化させる。

 そりゃそうだ、なんたって瘴気は毒なんだから。

 それを体の中に留め続けていると、寿命は縮むは体は侵食されて重くなるは、更に酷い時には二日酔いが丸一日続くような感じになっちゃって、使い物にならなくなるらしい。

 だと言うのに、何故に俺は瘴気を常に体に留めているのか?

 

 

 

 

 

 

 

 ……あの、俺はそれ無いんですけど。

 確かに異界から出られずに彷徨っていた頃は、段々体が重くなっていって、窒息死するみたいに力尽きてましたが…体の中の瘴気をある程度の量に抑えるようになってからは、特にそういった兆候は無い。

 

 俺が体に瘴気を留めているのは、アラガミ化を抑制する為なんだが…それを言ったら、折角の初ウタカタ到着がどう流れてしまうか分からない。

 せめて大型鬼との戦いを経験するまでは、原作と同じ流れを維持したい。

 

 それはともかく、咄嗟に口から出た返答は以下のようなものだった。

 

 

 

 何年も異界の中を彷徨っていたので、瘴気に体が慣れてしまったらしい。

 むしろ瘴気が無いと体に力が漲らない感じだ。

 なんつーか、ホラ、某不死騎団長的に。

 内側の瘴気に負けまいと、体が根性出してくれる感じで。

 

 

 

 実際は根性出すんじゃなくて、内側のノッペラボウが喜んでるんだが。

 

 どうやら瘴気は長い時間触れ続ける事で体に耐性が出来るようだし、暫くこの状態を続けてみようと思うのだがどうか。

 

 

 某不死騎団長云々は流石に首を傾げられたが、「…興味深い論ではあるな」と言われた。

 モノノフとしても年単位で異界の中に潜って生き続けてきた人間なんて例が無いらしいし、毒を飲み続けて耐性を作る訓練もあるらしいし。

 そういう事もあるんじゃないか、と追求を留めてくれた。

 ただし、お頭が危険と判断したり、これ以上は続けられないと判断した場合、『理由と状況を問わず』それを止める事を約束させられた。

 

 ……抑制剤も充分残ってるし、別に問題はないんだが………なーんか気になるなぁ…。

 

 

 

 

 




主人公が会議でナニをしたか?
少佐とだけ言っておく。


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18話

セクハラトーク多めにつき注意。
異論は認める。


 

堕陽月依日

 

 

 本日は桜花さんはお出かけ。

 代わりに新キャラ登場。

 鎖鎌の人と槍の人…初穂と息吹だ。 

 …あのー、鎖鎌の人、悪いけどあんまり近付かないでもらえません?

 戦闘中だと分銅が危ないし、平時でもカマがうっかり刺さりそうなんですが。

 というか槍にせよ鎌にせよ、鞘くらい付けろよ。

 

 と言うか、「私の方がお姉さんなんだからね」って言われても……俺の方がお姉さんだったら怖いじゃないか。

 カマ的な意味で。

 

 初任務は軽いものだった。

 二人の動きを見てたけど、結構強いな。

 でも相馬さん程じゃないし、状況次第だけど多分桜花さんの方が場数を踏んでると見た。

 

 息吹(呼び捨てでいいと言われた)の場合、個人の能力よりも連携能力の方が高いかな?

 雑魚の掃討中でも、いつでもフォローに入れる立ち居地をキープしていた。

 

 初穂は…なんだ、そのお転婆だな。

 ミニスカートで空を飛ぶ…しかもニーハイ、絶対領域付き。

 健康的な色気にございます。

 

 

 それ以上の事は、現状ではちょっと分からない。

 相手が雑魚ばかりだし、追い詰められるような状況も無いからね。

 

 

 

 

 そうそう、忘れちゃいけない神木について。

 見事に育ったデカい木の近辺に社を見つけた。

 ゲームでは、ここに神木の主が居て、ハクと引き換えに色々アイテムをくれたものだ。

 金欠状態の今は、要求されるハクもバカにならんかもしれんが……。

 

 生憎と、肝心の神木の主の声が聞こえない。

 当然見えもしない。

 やはり、俺にそっち系統の能力は無いようだ。

 ゲームの中でも、神木の主の声が聞こえるのは主人公一人だったしな…。

 

 とは言え、見えない聞こえない=居ないと断定するのは短絡的すぎるだろう。

 お賽銭程度なら家系の負担にもならないだろうし、暫く社の掃除とお参りを続けてみるか。

 何かアイテムが手に入れば儲け物だ。

 

 

 

 

堕陽月回日

 

 

 ここ数日ほど、初穂の任務を手伝っていた。

 俺の任務?

 受けた初日に終わらせたよ。

 まだ雑魚ばっかりだし、そんなに難しい内容じゃなかった。

 

 初穂に「あれだけの量を、たった一日で?」と驚かれたが、そこはそれ、ちゃんとタネも仕掛けもありますよ。

 初穂が梃子摺っていたのは、異界の中で長時間活動できないのが原因だ。

 ある程度戦果をあげたらすぐに引き上げ、体から瘴気が抜け切ったらまた出撃。

 そりゃ時間もかかる。

 

 それに対して、俺は瘴気を無効化する装備を持っているし、何より体に瘴気を宿し続けた結果、本当に瘴気に免疫が出来てきているらしい。

 丸一日異界の中で狩りをしてもピンピンしていられるのだ。

 

 これを話すと、「そんな訓練方法が…。 負けちゃいられないわ!」とマネしようとしたのだが、大和の頭に怒られていた。

 ついでに俺も、余計な事を伝えるなと怒られた。

 …まぁ、わざと毒を飲んでるようなものだし、何より実証できた技術じゃないからな。

 確かに進んで伝えるようなものじゃないか。

 

 

 あと、大型の鬼について初穂に聞かれた。

 何度か見た事あるぞ。

 異界を彷徨っている間に、ミフチやらヒノマガトリやら、遠くから見た事がある。

 「どんな奴だった!?」って聞かれたが、遭遇した時は瘴気で死掛けてる時だったし、遠目からじゃよく分からなかったからなぁ…。

 

 

 というか、この会話はどう考えてもフラグだよな。

 確かゲームでも、そろそろ最初のミフチが出てくる頃だろうし。

 

 

 手伝ったおかげで、初穂の任務は割りと早く終わった。

 

 

 

 

堕陽月ヱ日

 

 ハイやっぱり来ましたねミフチ=サン。

 

 なんか済し崩しに初穂に連れられて出撃しましたが……3人がかりだったし、問題なく終わったと言えば終わった。

 初穂がちょびっと涙目になったりしていたが、嬉し涙なので問題ないだろう。

 大和の頭からお一人前だと認められたし…つまり出撃数が増やせるんですねヤッター。

 

 

 が、うーん、なんかこう、ちょっと思ってたより問題が深刻だな。

 ミフチが強かった、とかそういう問題じゃない…いや、ある意味それに近いんだが。

 

 まず、例によってミタマは何も得られなかった。

 ゲームで言えば、確かこのミフチ戦は1章の終わりで、誰だったか忘れたがミタマを得るのが確定の戦いだった筈だ。

 何度も確認した事だが、俺には複数のミタマを宿す才は無いっぽい。

 そうなると、どうやって二度目のオオマガドキを防げばいいのやら。

 

 

 もう一つの問題は、狩りのスタイルの問題だ。

 俺の戦い方は奇襲が基本。

 相手が動けない状況を作り出し、そこから抜け出される前に全火力を集中して一気に仕留める。

 拘束時間に限りがある以上、「高火力を長時間運用・維持できる」よりも「短時間しか保たないが、更なる超高火力を叩きだせる」という、特化型の装備・戦術構成になるのは当然の帰結だったろう。

 …これ、一発で仕留め切れなかったら後が無い、一か八かの博打なんだが……ハイリスクハイリターンである。

 

 ともかく、小型の鬼やGE世界のアラガミ、モンハン世界の下位のモンスターくらいならともかく、大型の鬼が相手の場合はどうか?

 大型の鬼は、3つの形態を移行する。

 

 ①外殻に覆われ、いかなる攻撃もその生命力を削る事は出来ない、通常状態。

 ②外殻を剥ぎ取られ、一時的に生命力が剥き出しになったマガツヒ状態。

 ③追い詰められ、生命力が剥き出しだが凶暴化したタマハミ状態。

 

 ②と③は行動パターンの違いがあるだけなので、この際同じものとして考えていいだろう。

 問題は①と②……大型鬼を倒すには外殻を剥ぎ取り、そして攻撃を加えるという2段階のステップが必要なのだ。

 

 部位破壊すれば、その部分は生命力がむき出しになって、①の状態でもダメージは通るのだが…どちらにせよ、部位破壊・攻撃という2段階が必要なのは代わりない。

 しかも鬼は部位破壊された部分も再生する事ができる為、一度攻撃の手を休め、破壊した部分を鬼祓で浄化しないといけない…つまり、計3ステップが必要になってくる。

 

 正直言って、非常に相性が悪い。

 短時間で超高火力を叩き込むのが俺の今の戦法なので、奇襲をかけた場合、

 

①いきなり襲撃。超高火力フルファイア開始。外殻は削れるが、ダメージ通らず。

②外殻が削れてマガツヒ状態突入。ダメージは通り始めるが、息切れが近い。

③息切れ。そこそこダメージは通ったが、まだ敵は健在。しかもタイミングが悪いと、破壊した部位を再生される。

 

 

 

 てな事になりかねない。

 と言うか、実際今回の戦いでなった。

 

 うーむ、奇襲でなくなるので最大効率は発揮できなくなるが、大型の鬼と戦う場合、超火力掃射のタイミングを見計らわなければならない。

 せめてマガツヒ状態になった時か、部位破壊して攻撃が通るようになってから仕掛けないと。

 

 モンハン世界の上位くらいに行くまでは、現在の火力超特化型で充分だと思ってたんだが…意外な所で見直しの必要が出てきた。

 うーむ、どうしたものか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

堕陽月ゑ日

 

 神垣の巫女に会った。

 確か桜花の妹で、ゲームでは天狐と戯れている所に遭遇し、そのまま天狐が家に…という流れだったのだが。

 

 

 天狐に警戒されています。

 どうやら、「鍋にしたい」とか前々から考えていたのがアカンかったか。

 丁度、よろず屋にバイトに行こうとしていた青いのが通りかかって、そっちに懐いてしまったのだ。

 

 で、結局天狐はウチに来る事になった。

 赤い方も似たような警戒のされ方をされていたのだが……そこはそれ、話し合いでどうにかなりました。

 

 どうやって話したかって?

 オウガテイルをマジ泣きさせる、俺の鳴き真似スキルを舐めるなよ。

 具体的な言語はともかく、抽象的な意思を伝えだけの会話なぞ造作もないわ。

 

 ま、それでも完全に警戒が解けたワケではないようで、天狐は専ら青いのにくっついて行動しているようだ。

 よろず屋にマスコットが出来たと噂になっていた。

 

 

 さて、それは置いといて、明日は新しい任務だ。

 先任の二人と合流して鬼を討て…って事だが、残ってるのは確か、手甲の富獄、ヌヌ剣で天狐大好きの速鳥、そしておっとり系説明係かつ癒し系おねーさんの那木、だったか。

 ゲームの通りに進むなら、居るのは富獄と那木だろう。

 お世話になったものだ……特に那岐なんか、冗談抜きで那岐の援護無しではゲームクリアできなかったレベルだ。

 

 確か、この二人のときに出てくるのはアレだ、風属性の虎っぽい奴。

 先日から発覚した、戦闘スタイルの問題も解決できてないんだが…どうするべきかな…。

 

 

 

堕陽月獲日

 

 

 何とか生還。

 やはり今の戦闘スタイルでは、大型の鬼との戦いは辛い。

 

 富獄さんの攻撃力と那木さんの援護と、那木さんの谷間と富獄さんの筋肉と、そして何より那木さんのおっとり系癒し巨乳がなければヤバかった。

 特に那木さん、その物腰と谷間は反則です。

 …あの腰付きもいいよね!

 超テンション上がりました。

 

 …俺って、テンション上がりすぎで余計な事を考えない方が上手に動けるっぽいなぁ。

 いつだったかのGE世界で、サクヤさんと一緒にヴァジュラに遭遇した時もそうだった。

 あの時はサクヤさんのセクスゥィーな背中にテンションがダダ上がりで、勢いのままにヴァジュラの目玉だけ潰してさっさと逃げたんだっけか。

 ……思い返すと、あの時点の俺がよくヴァジュラの目を潰すなんてマネができたものだ。

 今回も気が付けば、かなりダメージを受けつつも、富獄さんと一緒にカゼキリをフルボッコにしてしまっていた。

 

 

 まーそれは置いといてだね。

 今回同道した二人なんだけど、意外な事が幾つかあった。

 

 まず富獄さん。

 筋肉ムキムキで男臭く笑い、なおかつ喧嘩っ早い熱血漢。

 …みたいな印象があったんだけど、意外な事に、近くに居てもそんなに暑苦しさを感じることは無かった。

 汗のニオイとかも殆どしないし、何というか存在感はあるんだが、無闇に自己主張してない感じがする。

 注意深く感覚を鋭くしてみると、この人、日常的に気配を消しているようなのだ。

 何だってそんなマネを?と思って聞いてみると、「ほぉ、気付ける程度の力はあるんだな」ってニヤリとされた。

 ……何となく、稽古相手としてロックオンされてしまったような気がするが…。

 

 富獄さん、結構面倒見が良くて、他人に気を使うタイプだったらしい。 

 同じモノノフはともかく、一般人からは厳つい容貌のせいで怯えられる事もあったとか。

 その為、ある程度気配を消して、無駄な威圧を振りまかないようにしているらしい。

 

 うーん、こういう気遣いが出来る人だったとは…。

 面倒事を避ける為だ、って言ってたが、気遣いの人だという評価には変わりない。

 だが同時に、力強く熱血漢でもある。

 うむ……ついアニキと呼んでしまいそうになった。

 

 富獄さんは気遣いの人、ちぃ覚えた。

 

 

 

 そして何より意外だったのが、那木さんである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未亡人だそうです。

 

 

 

 

 

 

 その一言で、つい当人の境遇とか考えずにエロ萌え路線に思考が走ってしまいました。

 

 ああうん、まぁある意味納得したよ?

 あのおっとりとした大人っぽい雰囲気もそうだし、上品な物腰も、無邪気ながらもそこはかとなくエロスを感じさせるあの笑顔も。

 これがエロゲなら、人妻か未亡人でなければ詐欺というものだ。 

 万が一、女子○生だとか言われた日には無理すんなコールの嵐である。

 ……なんか背筋が寒くなってきたな。

 異次元から弓矢(鬼千切)で狙われているような気がする。

 

 

 とにかくアレだ、旦那さんもモノノフだったらしく、二人は名家同志の許婚だったらしい。

 が、その名家も8年前のオオマガドキで滅んでしまった…許婚の男も。

 名家によくある政略結婚なのか、那木さんは夫になる筈だった男の顔も知らないらしい。

 

 …それって未亡人になるのかな……実際には結婚してなかったんでしょうに?

 ………うん、未亡人って事にしとこう。

 響きが何か似合っててエロいし。

 

 

 あれ?

 しかも旦那さんの顔を見た事もないって事は、初夜とかそーいうのもしてないワケで。

 

 

 

 

 

 

 巨乳手付かず未亡人大和撫子モノノフ(しかも女医)!?

 

 

 

 

 なんか終わクロ辺りに似たような設定のキャラが居たような。

 …ちくしょー、本人に失礼な妄想でも、思いついてしまったらテンション上がっちゃったじゃないか!

 一狩行ってくる!

 

 

 

 

 

 

堕陽月会日

 

 

 雑魚を20~30匹狩って落ち着いた。

 お頭からも「いい加減休め。体調管理が出来ないなら、どれだけ強くても半人前以下だ」と言われてしまったし、そろそろ一休みして、ちょっと真面目に考えてみようと思う。

 

 

 昨日はあまりの属性に一気に成層圏までつきあがってしまった気分だったが、よくよく考えてみると…。

 

 巨乳手付かず未亡人大和撫子モノノフ(しかも女医)。

 

 この際本人に失礼とかそういう倫理観は置いといて、確かにジャンルとしては有りだと思う。

 

 

 だが、エロスとしてはどうか?

 

 

 未亡人にせよ人妻にせよ、そのエロスは多少なりとも本来の夫に抱かれ、異性を知っているというのが前提だと思うのだ。

 例えば新妻というジャンルを鑑みるに、まず最初に初々しさを感じる者が多いと思う。

 だが初々しくても、ちゃんとヤる事はヤっているのだと考えると、どうだ、初々しさに隠されたR-18シーンが浮かんでくるだろう。

 翻って、実際はナニもしてないとなると……それは新妻ではなく、精々が婚約者程度ではないか?

 それはそれで滾るが、今焦点を置いているのは人妻新妻未亡人の話だ。

 

 このように、人妻・未亡人というジャンルに関するエロスは、本来の旦那の『お手付き』であると言うのが大前提となっていると思うのだ。

 愛する旦那の痕跡を塗り潰して好みに仕立て上げて奪うにせよ、嘗ての性の悦びから遠ざけられて欲求不満が溜まった所を『突く』にせよ、まず誰かが手をつけていないと話が成り立たない。

 トリッキーな所では、結婚→初夜の間に奪ってしまうという荒業もあるが。

 

 

 

 更に付け加えると、女医という言葉から感じるエロスは、やはり妖艶なものが基本となっている。

 いや、これは俺の偏見であると自覚した上で言うが、「ナース」であれば患者(エロゲ的な意味で)として弄ばれたりリードされるのも有り、逆に医者として調教するのも違和感は無い(エロゲ的な意味で)。

 だがしかし、これが『女医』となると、途端に優位に立たれてしまうような錯覚を感じる。

 それと言うのも『ナース』という所謂助手的立場の役に比べて、『女医』というのは一国一城の主…とまでは言わないが、助手を従える、世間的な地位を持っている人間に思える。

 故に、『女医』という役職には自身と実力を持ち合わせた大人の女、妖艶な才色兼備なイメージが付きまとうワケだ……繰り返すが、あくまでエロゲ的なイメージだ。

 

 で、ここに大和撫子という清純を象徴するような言葉を入れるとどうか? 

 大和撫子。

 今は(ほぼ)亡き、古き良き女性の象徴。

 女性の出世が悪い事とは言わないが、男としては自分を立ててくれるヌカヅケの嫁、という存在に一度ならず憧れる事だろう。

 大和撫子というのはその象徴であると言えよう。

 でしゃばらず、可憐で、清楚で、尚且つ貞淑。

 

 悪くはない。

 むしろ良い。

 

 が、この二つが同時に存在すると、どうしてもそのイメージが反目しあってしまう。

 

 妖艶な大和撫子。

 成程、確かにそそられるものがある。

 だが中途半端に合一するくらいなら、どちらか一つの属性に徹底して進むべきだ、と俺は思う。

 異論は認める。

 

 

 ハイレベルで融和している存在はあるが、(俺の知る限り)それはそのキャラでの魅力であって、二つのジャンルが共存した故の魅力とは少し違うように思う。

 

 要するに、この『巨乳手付かず未亡人大和撫子モノノフ(しかも女医)』というジャンル…相反する要素が詰め込まれすぎて、素材の力を打ち消しあってしまっているのではないかと思うのだ。

 

 

 

 うぅむ、これで那木さんが単純に、巨乳人妻モノノフ(女医)くらいであったら迷わずエロゲ登場人物のモデルにするくらいだと言うのに…。

 

 

 

 

 

 

 まぁ、那木さんがカワイイからどうでもいいんだけどね、ぶっちゃけ。

 ジャンル云々の戯言は、多少は思うところもあるが、所詮は戯言。

 あの深くて柔らかそうな谷間と笑顔のギャップは、核兵器以上の凶器だ。

 ゲーム製作会社も、あの登場シーンの谷間には相当力を入れたと見える。

 

 細かい分析や理屈より先に、目の前にある美と萌えとエロスを愛でない者が真理には辿り付ける筈がない。

 全てはそれからである。

 現実>理屈の方式は、どんな状況にあっても覆しようのない真理なのだ。

 

 

 

 

 

 真面目に考えるんじゃないかって?

 …真面目だよ?

 今後の狩りのスタイルを考えるときより、よっぽど真面目だったよ? 

 

 エロスを真面目に語らずして、何が男か。

 

 

 

 

 

 

堕陽月荏日

 

 

 暫く雑魚を狩る日々が続いている。

 うーん、雑魚が相手じゃ今ひとつ参考にならないな。

 大型の鬼との戦い方は、シミュレートで探るしかないか?

 

 と言うか、那木さんと一緒の任務が続いたから、あの笑顔に癒され谷間に茹で上がりで忙しい。

 富獄のアニキから、何度拳の突っ込みを貰ったか。

 このお気遣いの紳士(筋肉)、ソッチ系の視線に意外と厳しい。

 くそぅ、妄想も視姦もできないじゃないか。

 

 

 任務の後、ちょっと話していたら那木さんの説明が始まった。

 そういやこの人、説明魔だったな…。

 先に富獄さんが退散したので、説明を聞きつつじっくりと鑑賞させていただきました。

 ふっ、これがあれば説明魔なんて怖くない、むしろご褒美というものよ。

 

 

 

 …富獄さんに、その視線はやめろとケリを入れられました。

 説明の時だけは勘弁してくれるあたり、やはりお気遣いの紳士だ……誰に対する気遣いかはともかく。

 

 

 

 さて、それは置いといて、いい加減に狩りのスタイルの問題をどうにかしなければなるまい。

 ミフチの時もカゼキリの時もそうだったが、どうにも火力不足だ。

 しかも部位再生を防ぐ為、鬼祓を度々しなければならない。

 そうなると、総攻撃の最中でも一度離れて攻撃の手を休めなければならない為、非常に効率が悪い。

 再生される前に仕留めきるだけの火力は、現在の所無い。

 神機が異界の中で正常に作動しない以上、杭君にも期待できない。

 根本的に戦闘スタイルを見直す必要がある。

 

 

 あまり難しい運用が出来ない俺としては、以下の通りで考えている。

 

①「防」のミタマと回復薬等で徹底的に生存力を高めてゴリ押し

②現在のスタイルから、火力を落として継戦能力を高める

③モンハン世界のガンナー武器を使って、遠くからチクチク攻撃……これの場合、この世界の銃の使い方を覚えなければいけない。

 

 

 共通して言える事は、どれもスキルを活用しなければまともな形にならないという事。

 この点で考えると、使うべき武器防具はモンハン世界の物がいいだろう。

 武器防具自体も強力だし、何よりスキルが様々だから応用が利く。

 

 討鬼伝世界の防具は、一式揃えても特定属性の防御力が上がる、くらいしか効果を得られない。

 まぁ、ミタマの方にスキルがあるのだから、防具にまでスキルがあったらトンでもないことになってしまいそうだ。

 今正に、そういうスタイルを作り上げようとしているのだが。

 

 

 と言うか、問題なのはミタマのスキルだ。

 のっぺらぼうと言う、あからさまに小妖怪(伝承ではムジナやらタヌキやらが化けているとされる)であるこのミタマ。

 一体どういうスキルを覚えるのやら。

 霊山で調べた所によると、正体不明のミタマを宿した者の前例はあるが、結局それが何だったのかは分からず仕舞い。

 隠し通したのか、それとも本当に誰にも感知できなかったのかは微妙な所であるが、どちらにしろ資料が無かった。

 

 樒さんが頼めば、ハクと引き換えにより力を引き出せるかもしれないが……金が無い。

 樒さんがボッタクリなのか、それとも本当にミタマの力を引き出すのに相応の金というかハクが必要なのか。

 ……微妙な所だな。

 英雄の魂の力を引き出すのに、金で済むなら安いものだ。

 本来なら何年も修行しなければならないだろうに。

 

 厄介なのは、スキルを覚えさせていられるのは三つまで、という制限だ。

 一度覚えさせたら変えられない、忘れさせたら鎮魂してレベル1からやり直しというこの面倒臭さ。

 まだやった事の無かった討鬼伝極では、ストーリーが進めば自由にスキルを組み替えできるようになるらしいが……それにしたって、オオマガドキを超えなければならない。

 

 

 そういえば、ノッペラボウのレベルアップまであとどれくらいだろうか?

 雑魚とは言え結構な鬼を狩ったし、そろそろ強くなってもいいと思うんだが。

 …そういえば、ゲームでは経験値が充分溜まっても、樒さんに頼まなければレベルアップはしなかったんだっけ。

 ちょっと行ってみよう……多分あの人なら、ノッペラボウの事が分かっても騒ぎはしないだろう。

 

 

 

 




たまには本当に、「お客様の怒りはご尤もです」みたいなクレームも来る。

だが店長を出せ店長を出せと何がしたいのか…。
会っても文句を言うだけなんだから、相手が誰でも変わらないのに。

そして対応したスタッフよ、どうすればいいのか分からないのは仕方ないとして、相手が怒っているのに愛想笑いは怒りを煽るだけだ…。



Vitaで討鬼伝のストーリーを確認中。
那木さんの谷間シーンが綺麗になってたのはオッキものやった……ふぅ。
これだけでもVitaで続ける価値はあるかもしれんなぁ…。


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19話

前回のあとがきについてちょっと反省。
>会っても文句を言うだけなんだから、相手が誰でも変わらないのに。
苛立ってたけど、この言い方は無いな…いかんいかん。

相変わらず無線で四苦八苦中。


 

 

 

堕陽月娃日

 

 

 ノッペラボウがレベルアップ。

 尻目にはならなかった。

 

 ま、最悪『このミタマは強くならないわ』なんて可能性も考えていたので、最悪の事態は回避できたか。

 経験値は結構前から充分に溜まっていたらしい。

 勿体無い事をした。

 

 さて、このミタマがレベルアップで何を覚えたのかと言うと。

 

 

 

「回避距離」

 

 

 

 ……ちょっと待て、それモンハンのスキルと違うか?

 

 

 討鬼伝世界の妖怪が、何でモンハン世界のスキルを覚えるんだよ。

 似たようなものを覚えるとしても、そこは「健脚回避」だろう。

 俺と一緒にモンハン世界に行ったから、その時に覚えたのか?

 でもモンハン世界でもまだ使った事のないスキルだぞ。

 

 

 いや、便利なスキルだから文句は無いんだ。  

 実際に試してみたら、今までよりもずっと長い距離を前転だけで移動できた。

 手甲も使ってみたんだが、ステップの距離が明らかに長い。

 

 そう言えば、GE世界で盾使いにくい説を語っていた頃、回避バックラーとか作ってたな。

 神機が動かないから今は試せないが、ステップ距離↑と重複させたらどうなるか試してみたいものだ。

 更にモンハン世界の防具による回避距離をつければ……流石にこっちは重複しないか?

 

 

 実にいい物覚えてくれた。

 精々が忍び足【小】くらいだと思っていたのに、意外な収穫だ。

 ノッペラボウだと侮っていたが、実は意外と強力な妖怪だったりするのか?

 うーむ、分からん。

 分からんが、少なくともノッペラボウを育てても無駄という事は無さそうだ。

 ミタマのレベルアップはこの世界でしか出来ないのだし、暫くこれに重点を置いてみるか。

 

 結局、火力不足と戦闘スタイルの問題は未解決のまま。

 ノッペラボウが何故この世界以外のスキルを覚えるのかも不明のままだ。

 

 

 

 

 ………ミタマが別世界のスキルを覚えるなら、俺自身もやってやれない事はない。

 ミタマといえども元は人間。

 名人も人なり、我も人なり、何しに劣るべきと思ふて……なんだっけか、葉隠れの一説だったのは覚えてるんだが。

 とにかく、元が人間であるなら、同じ人間である俺にできない理由はない。

 やってやろうじゃないか。

 

 これを機に、モンハン世界、GE世界、討鬼伝世界の戦闘スタイルをミックスし始めるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訂正、よく考えたら俺のミタマは妖怪だった。

 

 

堕陽月衛日

 

 神垣の巫女を見かけた。

 なんか護衛がついていて、物々しくて話しかけられない。

 まぁ、そんなに接点無いしね。

 

 それはそれとして、大和の頭が「こちらから攻勢に出る」と宣言した。

 こっちとしても守りより攻めの方が得意だから構わないんだが、まだ戦闘スタイルを確立できてない。

 ……考えていても始まらない。

 大型の鬼も何体かいるみたいだし、色々試してみるか?

 

 

 

 それはそれとして、青いのと赤いのが、なにやら新聞を作っているらしい。

 バイトの合間にちょくちょくあちこちに取材をしてたようだ。

 見せてくれ、と言ったら完成するまで絶対に拒否!だそうな。

 …恥ずかしがってるのか?

 いや新聞なんて人に読まれてナンボだし、それは無いか。

 妙な事書いてんじゃなかろうな。

 

 

 

 

堕陽月荏日

 

 クエヤマ討伐。

 弓を使ってみたんだが、うん、楽な方だった。

 

 図体はデカいが動きが鈍く、突進とジャンプ攻撃にだけ気をつけていれば単なる的だ。

 さて、今回の戦いで、モンハン世界の弓使い的動きと、討鬼伝世界の弓での動きをミックスしてみた訳だが……課題は多くあるものの、悪くはない。

 

 鬼との戦いは、その性質上、攻撃する時の型が制限される。

 神仏英雄に力を借りる為の祝詞の詠唱を動きで行っている為、迂闊に崩す訳にはいかないのだ。

 

 が、逆に言えば迂闊でなければ崩してもいいし、オカルトパワーを乗せなくてもいいのなら、幾らでも混ぜられる。

 それに、一言で神仏と言っても数多あるのだ。

 使いたい動きに適した祝詞を探し、それに合わせて体の動かし方をアレンジすれば、充分オカルトパワーを乗せられる。

 

 

 今回試した組み合わせは、次のようになる。

 MHの連射+討鬼伝の呪矢。

 連射された矢にホーミング性能がついた。

 流石に呪矢だけで撃った時ほど追尾はしないが、その分攻撃力はかなり高い。

 

 討鬼伝の印矢+曲射。

 白いモヤモヤ(正式名称を習ったのだが忘れた)が付いた部分に曲射で打ち込んでみたところ、付いていたモヤモヤ全てが誘爆した。

 何度か試したが、誘爆する確立はかなり高いようだ。

 前述の組み合わせとどちらが攻撃力が高いかは微妙な所である。

 

 

 …うーん、弓の場合、討鬼伝の技×モンハンの技より、モンハンの技+討鬼伝の技の方が強いかな?

 技は違うが動きは似ているので、目立った効果が分かりにくい。

 手元にモンハン世界の瓶も無いし。

 その分、混ぜあわせるのは楽だったが。

 

 次は接近戦の武器を混ぜ合わせてみるか。

 扱いやすいと討鬼伝では評判の太刀と、太刀厨という言葉が生まれる程に周囲に迷惑をかけるモンハンの太刀。

 …いや、俺はモンハンの太刀好きだよ?

 気刃切りとか切り下がりとか使わずに、踏み込み斬り・突き・切り上げの3種類ばっかやってたけど。

 だって気刃斬りとかに比べると、モーションが短いからリスクが少ないんだもの。

 

 とにかく、この二つがどうなるか……明日の任務はカゼキリだ。

 ちょっと不安はあるが、やってみるとしよう。

 実際に使う武器はモンハン世界の太刀で、動きの基本は討鬼伝世界、混ぜられそうな時にモンハン世界の太刀の動きを混ぜる。

 ミタマスタイルは……安全策をとって『防』で。

 

 

 

 

 

堕陽月重日

 

 ヤバい。

 これイイ。

 メッチャ使える。

 

 今回使った戦闘スタイルとしてはこんな感じだ。

 まず通常攻撃で、モンハン的太刀ゲージ…練気を貯める。

 時期を見て、討鬼伝的技の残心を発動。

 攻撃を続けている内に練気がマックスになって、攻撃力アップ。

 

 練気は攻撃を当てられない時間が続くと減少が始まってしまうのだが、そこはそれ、距離を置かれても残心解放によって繋げられる。

 もし刀傷をある程度相手に付けられているなら…ゲーム的に言えば赤になっていれば…残心解放で怯み確定。

 攻撃のチャンスに気刃斬りを当て、更に気刃放出斬りに繋ぐ。

 

 気刃斬りを残影心状態でフルで当てられれば、あっという間に赤刀傷確定という素晴らしさ。

 

 ちなみに気刃放出斬り時に相手に残心が付着していた場合、納刀時に残心解放が発動。

 全力で斬った相手が、刃を納めると同時に崩れ落ち、「またつまらぬ物を斬ってしまった…」とかの浪漫技も使える。

 

 

 …MHP3の気刃大回転斬りだったら更に攻撃力を高められたのだが、それは今後の課題である。

 

 とにかく火力が高いのに加え、残心を上手く使えば敵の動きを止められるから、敵の攻撃の出を潰すもよし、動き出そうとする敵を更に留めるも良し。

 

 何でこんなに相性がいいのか?と思ったら、多分アレだ。

 モンハンのゲージ、練気ゲージと言うだけあって、気…モンハン世界では漠然としていたオカルトパワーを練り上げる代物だ。

 しかし、討鬼伝世界ではそのオカルトパワーを明確に認識し、操る術を心得ている。

 これのお蔭で、一つ一つの攻撃に載せられるオカルトパワーの質が上がったんだ。

 相手を切りつける事によって、オカルトパワーが跳ね上がっていく。

 

 特に残心、残影心は攻撃の際にオカルトパワーを相手に侵入させ刀傷を作り、合図と同時にドカン!って技だから、練気の影響がスゴイのなんのって。

 

 …切れば切る程攻撃力が強くなり、同時に離れても遠隔攻撃で乙るとか、酷い循環だ。

 

 

 逆に使いにくいのが、モンハン世界の切り下がりだった。

 討鬼伝世界は、妙に範囲攻撃が多いからなぁ…。

 多分、自然の中で生活しているから無闇矢鱈と破壊を振り撒けないモンハン世界のモンスター達と違い、この世界の鬼達は環境破壊上等でやってくるからだろう。

 

 

 とにかく、これにミタマのスタイルを工夫して加えていけば、かなりの戦力になるだろう。

 戦闘スタイル確立したと言うにはまだ穴が多いので、ここからは要工夫だ。

 例えば残心・残影心を使っているとスタミナがあっという間に削られていくのだが、これを迅スタイル等で軽減するとか、或いは攻スタイルのタマフリで回復させるとか、色々選択肢はある。

 

 よし、暫くはこれを研究しよう。

 その間に、他の武器の組み合わせも考えて見る。

 

 

 

 

堕陽月娃日

 

 モンハン的双剣と、討鬼伝的双刀。

 同じ両手武器だが、動きや立ち回りは非常に違う。

 

 モンハン的ランスと討鬼伝的槍も違うが…まぁ、洋風ランスと和風槍じゃそもそも別物か。

 

 それはともかく、ヌヌ剣でのミックスを考えてみた。

 モンハン世界のヌヌ剣の特徴と言えば、やはり鬼人化、真鬼人化だろう。

 攻撃力が跳ね上がり、スーパーアーマー付与、そして乱舞。

 一時期は乱舞厨が増産される程に強力だったが、何時の間にやら調整されていた。

 適当に乱舞してるだけじゃ、ティガあたりで詰むしね。

 

 対して、討鬼伝的双刀の特徴は、空中からの攻撃と、斬・突の二つの攻撃属性か。

 それと移動しながら攻撃できる疾駆と、回天……某柔拳は関係ない。

 …冷静に考えると、回天って物理的におかしいよね。

 あの姿勢でグルグル回るのはまぁいいとして、刃筋も立てず、遠心力だけで敵にダメージ与えてるようなものだ。

 …あ、オカルトパワーで攻撃するんだから、物理はそこまで重要じゃないのか?

 

 

 うーん、ミックスするには相性が悪い…というより選択肢が少ないか?

 そもそも空中攻撃が特徴と言っても、俺の場合はゴッドイーターの脚力があるから、大剣担いでても飛び上がれる。

 となると、二つをミックスする意味を出すとなると地上戦。

 ……鬼人化で討鬼伝的双刀の攻撃力強化、くらいしか思い浮かばないな。

 

 

 ああ、モンハン的双剣には刃打ちなんてのもあったか…どっちにしろ攻撃力強化だな。

 だが討鬼伝的双刀に、乱舞を上回る火力があるかどうか…。

 無いのであれば、ミックスと言うよりモンハン的双剣がメイン、討鬼伝的双刀が精々補助という、面白みのない結論になってしまう。

 もう一工夫欲しい。

 

 

 

 

 

 

堕陽月恵日

 

 やはり実戦に勝る修行は無い。

 

 という訳で、双剣奥義・開☆眼!

 

 と言っても、まだ原型が出来ただけでマトモに使いこなせてないが。

 昨日の考えの時点では、鬼人化関係の業を使って攻撃力アップくらいしか思いつかなかったが、もっと単純で分かりやすい組み合わせがあった。

 

 ズバリ、モンハン的乱舞+討鬼伝的疾駆。

 

 移動しながら攻撃する疾駆に、超火力の乱舞を組み合わせた、単純ながらも高性能(になりそうな)技である。

 モンハン的乱舞最大の欠点は、途中でそのモーションと止められない事だ。

 だからタイミングを選んで乱舞を始めないと、手痛いウンターを喰らってしまう。

 

 

 …いや、これゲームシステム的な話に見えるかもしれないが、リアルでもそうなのだ。

 そもそも、鬼人化と言うのは(あの世界では細かい理屈は解明されてないが)、アドレナリンを過剰に発生させる事で、肉体の力を限界以上に引き出すものだ。

 実際に俺も使った事が何度かあるが、頭に血が昇ってイケイケモードになる代わりに、周囲の状況が見えにくくなる。

 

 でもって、双剣を振るう事についつい没頭してしまい、周囲の状況が見えなくなるのだ。

 要するに、刃の感触に酔ってる内に距離を離されたり、反撃食らうのね。

 

 だがここに、最初から移動を続けているという条件が入ったらどうだろう?

 流石に立ち止まっての攻撃より、威力は落ちる……と思いきや、どっこい。

 ゲームシステム的に考えて、疾駆中の攻撃は通常弱攻撃と同じ威力なのだ。

 リアルで考えれば、それが出来る程に体幹を鍛え、刀を振るのに支障がない動きを模索したのだろうが…。

 

 これを洗練させていけば、走りながら乱舞の勢いで斬りつけるという、通り魔……いや触れる者を片っ端から切りまくる、狂人みたいな技が出来るだろう。

 …表現は自分でもどうかと思うが、例えば逃げる相手に追随しながらの乱舞とか、相手が攻撃の予兆を見せたら斬り付けつつ脇を縫って回避、そのまま戻ってきて更に乱舞とか。

 あと雑魚の間を縫うように走り抜け、止まると同時に納刀、「またつまらぬ物を斬ってしまったVer.2」のセリフの後に敵がバタバタ崩れ落ちる…なんてのも可?

 

 夢が広がる。

 

 

 まぁ本当に難しいのは、走りながら刀を乱舞の勢いで振るう事ではなくて、アドレナリンバリバリの状態で相手の攻撃をちゃんと見る、という点なのは変わりない。

 走るという動作を付け加える事で、刃の感触への没頭感を薄めるのがミソである。 

 その分攻撃力はちょいと落ちるが、使い分けできれば戦術が広がる。

 いや、むしろ目指すべき境地は、使い分けではなく同時使用!

 止まっているなら超火力、しかも任意で移動も可能という境地。

 

 後はスタミナ回復を徹底的に追及すれば、常時乱舞疾駆状態という事もできるか!?

 …流石にそれは夢の見すぎかな。

 少なくとも当面は…。

 

 

 

 

 よし、モンハン・討鬼伝太刀の研究をメインに、双剣・双太刀の研究をサブとしよう。

 近距離ばっかりに偏っているが、弓×弓の扱い方が今ひとつだったんで仕方ない。

 

 …どうすっかな……このままメイン・サブの研究に没頭するか、今までは似たような武器同士の掛け合わせだったから、今度は全く違った武器を掛け合わせた運用を考えてみるか…。

 さて、どうなるかな?

 

 

 

 

 

 

HR月ガブラス皮焼き日

 

 

 一人では…無理だったよ……という訳で、久方ぶりのデスワープです。

 うーむ、折角戦闘スタイルの研究が進み始めていたというのに。

 

 にしても、何だな。

 今回は何がアカンかったのだろうか。

 

 今回のデスワープは、戦いに勝てなかったからこうなったのだ。

 確か、ストーリー的に言えば…確かアレだ、ウタカタの里を一人で防衛するシーンだった筈だ。

 

 いきなり鬼達が集団で襲撃かましてきやがって…………ゲームではどうなったっけ?

 俺は群がる鬼を片っ端から切りまくって……確か、ミフチが2体にカゼキリが1体、それを斬った後にクエヤマが1体、雑魚に加えてヒノマガトリまで出てきた。

 ヒノマガトリの時には既に意識が朦朧としてたが、あの甲高い声は間違いないと思う。

 

 

 しかし、どうしてあんな事になった?

 あくまでゲームのストーリーを基準として考えるが、あのシーンで出てくる大型鬼はミフチだけだった筈。

 一人じゃキツいが、新しい戦闘スタイルを使い始めた俺なら勝算は充分にあった。

 勿論、まだ十全に使いこなせていない事を考慮に入れても、だ。

 

 事実、ミフチだけならそうそう苦戦はしなかったし、早々と沈める事ができた。

 問題だったのは、そこからの援軍だ。

 モンハン世界・討鬼伝世界の回復アイテム・罠・ドーピングアイテム各種を片っ端から使いまくって、ようやくクエヤマまで倒した。

 ヒノマガトリが出てきた時には、冗談抜きで満身創痍だ。

 

 

 …最初のミフチ以外は、どうして出てきた?

 他の場所に散った、皆の防衛線が破られた…というのは考えにくい。

 なんだかんだで凄腕揃いだ。

 仮にメンバーの中で誰かが破られたにしても、それが一斉に俺の場所に来るとも考えにくい。

 そもそもヒノマガトリの初登場シーンは、里が襲われた後だったと思うのだが…。

 

 

 

 …駄目だ、分からん。

 ゲームのストーリをもう少し思い出してみるか。

 

 

 

 

 

 そうそう、今回はブルファンゴと相撲を取りました。

 押し出しで俺の勝ち。

 牙を折ったのはスマンかった。

 

 

 

 

 

 

HR月リュウノテールのしょうが焼き日

 

 

 訓練所で色々やってる内に思い出した。

 確かあのウタカタ防衛のシーンでは、なんかケッカイセキだかケッカイシだか何だかを砕いて、神垣の巫女に負担をかけながら、結界を強く大きくして鬼の侵入を防ぐ…と言う話だった。

 それが無かった……何らかの理由で遅れた?

 でも何で?

 

 確か……そうだ、秋水が提案して、負担が大きすぎると姉の桜花が反対して、そんで神垣の巫女が押し切る…と、こういう流れだった筈。

 これらのどこかで流れが変わった?

 うーむ、分からん…。

 

 確かアレだ、神垣の巫女は表面ではともかく、内心では自分の命を削って結界を張り続ける事に疑問を覚えていた筈。

 ちょっとした切欠で、保身の方向に転んでもおかしくないが……。

 

 ……分からんな。

 次のループでは、神垣の巫女に近付いてみるか。

 ゲームでも重要人物だったし、仲良くしてればイイ事あるかもしれない。

 できればお付き合いもしたいものだ………アリサの一件を考えるに、これも性欲とか支配欲とかなんだろうなぁ。

 

 

 

 そういえば、結局禊場を一度も使わなかったな。

 …だってアレ寒いんだよ。

 てっきり風呂みたいなもんかなー、と思ってたんだけど、水は冷たいし、数珠とかついた白装束着ないといけないし。

 まぁ、褌一丁でないだけマシだが…。

 

 あれは夏にやるべきだ。

 原作ではどうだったか知らないが、俺がウタカタに到着したのは春の初めくらい。

 まだ風が冷たかった。

 

 …最後の防衛線の時くらい、禊やっとくべきだったかな…。

 でも一人じゃなぁ……そりゃ、一緒に入れるくらい仲良くなった女の子は居なかったけど。

 

 

 

 それはともかく、今回のモンハン世界のテーマは二つだ。

 一つ目は、3つの世界の戦闘スタイルをミックスした戦術の模索・確立。

 もう一つは、前回のループで起こった、火山の謎の地震の原因だ。

 

 …いや、謎も何もあの地震は俺がドンパチしまくったせいだと言われると、反論できないんだが。

 とにもかくにも、あの揺れには何かあると、俺の当てになるのかならないのか微妙なカンが騒いでいる。

 どっちにしろ、暫くは戦闘スタイルの模索をメインにやっていく事になる。

 

 討鬼伝世界と違い、この世界の相手は完全に物理的なモンスターだ。

 神仏の力を借りる事に拘る必要は無い。

 調整もしやすいと言うものだ。

 

 

 訓練所の教官に少し見せてみたら、得体のしれないものを見る目で見られた。

 まぁ、この世界にはオカルトパワーなんて無いしな…。

 太刀の残心、残心解放なんか敵が何故突然ダメージを受けるのか分からないだろう。

 

 故郷に伝わっていた技術だと証して誤魔化した。

 教官からは、どんな影響が出るか分からないし、余人に再現可能であるかも不明な為、あまり人に見せないようにと言われた。

 ……つまり今回もソロですね分かります。

 

 

 

 最近、どの世界でも出生について嘘吐きまくってるな。

 …こんなんだから、百鬼隊にも警戒されてたんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、そういや新聞社の青いのと赤いのの名前覚えてないや。

 

 

 

 

 




レイジバーストに加えて、アサシンクリードユニティ、オマケに12月にアサシンクリードローグだと…!?
執筆の時間がッ…!


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20話

ようやくVita版のアップデートが出来ました。
家の無線では結局何処が悪いのか分からなかったので、Wi2に契約してアクセススポット。
皆様、本当にありがとうございました。
次のアップデートに備える為、これからも原因は追究していく所存であります。

Vita版の画像があまりにきれいなので、現在そっちをやり直し中。
初回はキークエストばかり進めて梃子摺りまくったので、ちゃんと防具を調えながら進めます。


 

外伝月百鬼隊相馬視点ただし少佐シーンは無いよ日

 

 

 俺の名は相馬。

 百鬼隊の三番隊隊長、死んでいった仲間達の願いを背負い、鬼と戦う英雄だ。

 

 オオマガドキの戦いから、もう8年。

 あれから俺は、鬼と戦いながらも異界に沈んだ隊員達を探し回り、同時に外の世界の生き残りを探し続けている。

 

 7年かけて、見つかっていない隊員はあと一人…というところまで辿りついた。

 しかしその一方で、外の世界の生き残りは痕跡すらも見つからない。

 

 生き残りは絶対に居る。

 そう信じて探し続けた。

 だが、何処に行っても見えるのは、鬼達に荒らされきった異界の廃墟のみ…。

 

 居ないのか?

 生き残りは居ないのか?

 オオマガドキを生き延びていたとしても、外の国が異界の中に沈んで、もう8年。

 鍛えられたモノノフでさえ、異界の中に居られるのは半日が限度。

 生き延びている可能性は………いや、0でない以上はまだ目はある!

 

 異界の中で時間を越えた例もあるし、同じように飛ばされているかもしれん。

 ひょっとしたら、奇跡的に瘴気の免疫を作る事に成功し、鬼達から隠れて生き延びているかもしれん!

 だから俺は生き残りを探す。

 

 

 あのオオマガドキで、皆が死んでいったのが無駄ではないと示す為にも。

 

 

 

 

 

 そう信じ続けて、8年間異界を彷徨ったが……キツいな。

 誰にも言えんが、最近は心が折れかけているのが自分でも分かる。

 最初は「次の異界こそは!」と思っていたが、「ここもか…次もなのか」と、諦観気味になっていた。

 

 …次の里は、ロウマンの里か。

 願わくば、痕跡の一つでも捕らえられるように…。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えて、異界に赴く前に旅の疲れを癒していると、ロウマンの里が突如騒がしくなった。

 鬼の襲撃……ではないな。

 殺気立った気配が無い。

 

 何事か?と思った時に、慌てた部下から報告が上がってきた。

 

 

 

 

 異界から脱出してきた生き残り…!?

 

 

 疑問を抱くヒマすらなく、俺はその場に駆けつけた。

 そこに居たのは、見慣れない洋風の格好をした、一人の男。

 体のそこかしこに汚れの後や血の後が見える。

 

 

「療養中に済まない。

 俺はモノノフの、百鬼隊の隊長を勤めている相馬という者だ。

 失礼だが、異界から逃げ延びてきたと言うのは本当か!?」

 

 

 面食らった様子だが、頷かれた。

 …この時の俺の醜態は、あまり思い出したくない。

 思いっきり殴り飛ばされたようだし…。

 

 と言うより、さっさと忘れろ。

 

 だが、それだけの感動があったのも事実だ。

 

 

 無駄ではなかった。

 俺達が見つけ出して助けたのではないが、生き残りは確かに居た…!

 一人居るなら、まだ他に居る可能性はある。

 

 諦めかけていた心に、力が漲ってくるのが分かった。

 ああ、これでまた俺は戦える。

 折れかけた剣ではなく、皆の願いを背負う英雄として戦える。

 

 

 とは言え、最近強行軍ばかりだったのも事実。

 霊山からも少しは休めと指示が来ていた事だし、この里で少し休ませてもらうとしよう。

 

 他の隊員達にも、彼と話す機会を与えてやりたい。

 自分がやっていた事は決して徒労ではないと、実感させたい。

 その達成感は、何よりも人間を動かす動力となるだろう。

 

 

 しかし、気になるのは異界の中でどうやって生き延びたのか、だ。

 異界の中は瘴気に溢れ、生物にとっては息をするだけで毒を取り込むのと同義の世界。

 モノノフでさえ、瘴気に耐え切れず、鬼祓による浄化も間に合わず、体調を崩す者は珍しくない。

 それが8年間も?

 ……何か理由があるのだろうか。

 

 

 

 

 

 そう考えていたら、彼のほうから相談してきた。

 そもそも一体、これはどういう状況なのか、と。

 成程、彼は中つ国の外…というより、元はモノノフが表舞台に立っていない世界で生きていた住人だ。

 鬼だのオオマガドキだの、想像すらしなかっただろう。

 

 会話の取っ掛かりとしては丁度いいし、色々と教え込む。

 …随分素直に信じるな……まぁ、鬼を何年も見ながら生き延びたのであれば、それもおかしくはないが。

 その時にどうやって生き延びたのか聞いてみたのだが、これが仰天。

 

 

 モノノフの技を会得しているのを見せ付けられた。

 しかも、名前は分からないがミタマまで宿している。

 外の世界の人間が?

 何故?

 

 詳しく聞いてみたが、実家にモノノフの技が伝わっていたらしい。

 成程、いかにモノノフと言えど、ずっと表舞台と交流が無かった訳ではない。

 何かと閉鎖的だったのは否定できないが、過去には外の世界に流れていった者も居たと聞く。

 何を隠そう、俺の2~3代前の家長の兄も、外の世界の人間の婿になってモノノフを引退したとか何とか…。

 

 という事は、存外コイツは俺の従兄弟なのかもしれないな。

 …流石にそれは夢を見すぎか。

 

 

 

 

 そこまでは良かったのだ。

 驚きはしたが、疑念を持ってはいなかった。

 

 

 

 そう、疑念だ。

 ようやく見つけた生き残りに、今の俺は疑問を抱いている。

 見つけた生き残りが、モノノフの血筋だったから?

 違う。

 確率的には確かに天文学的かもしれないが、有り得ない話ではない。

 むしろ、そうであるからこそ生き延びられたのではないか、という論が成り立つ。

 

 では何が問題だったのか?

 

 少し見て欲しい、と言われた、彼の実家に伝わっていたというモノノフの技が問題だった。

 聞くところによると、彼の実家には幾つかのモノノフの技と、それに由来するものと思しき道具が幾つかあったらしい。

 

 道具の方は、この際いい。

 よく分からない代物が多くあったが、外の世界にはこういった物が結構あったと聞いた事がある。

 なんと言ったか………たしか、『こすぷれいあ』だったか?

 『こすぷれいあ』は、国の中心近くで主催される大きな政(マツリゴト)に密かに参加し、秘伝の装備を身につけその威を振るう世間一般のニンゲンには縁遠い者達の事だったと聞く。

 非常に大きな集団で、全国各地にその関係者が居るにも関わらず、その実体は一般的には知られていないとか。

 彼の実家とやらも、その『こすぷれいあ』であるなら、これらの道具にも納得がいく。

 

 

 

 

 だが、あの武芸は何だ?

 彼の習熟度は、別に構わない。

 荒削りな部分は多いが、独学で学び、異界で磨いてきたと思えば、おかしい程ではない。

 

 何が問題なのかというと……『新しすぎる』のだ。

 

 俺達モノノフが使う武芸は、鬼を相手にする為のものだ。

 『鬼』というと、外の世界の人間は古風な印象を抱くかもしれないが、とんでもない。

 

 確かに古い鬼ほど強力な力を持つ傾向にあるが、鬼は常にその姿を変え性質を変え、進化を続けている。

 それに対抗する為、我々モノノフの技も常に進化を続けている。

 

 彼が見せた技の幾つかには、つい最近普及した独特の技が、幾つも盛り込まれていた。

 あれが2~3代前の先祖から伝わった技?

 

 

 

 馬鹿な。

 

 

 

 あの型は2年ほど前に、オオマガドキの激戦の中で急激に磨き上げられたモノノフ達の技を結集し、分析して作られた最新の武だ。

 もし本当に、2~3代前…つまりは10年以上前にあの型が普及していたのなら、オオマガドキの被害がどれだけ抑えられた事か。

 

 あの時に、あの時に、あの………時に……この技術を、俺が知っていれば……あいつらは、少なくとも6人死なずに済んだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 取り乱した。

 以上の事から、俺は疑念を持った。

 

 最初は、実は何処かの里の生き残りなのかと思った。

 だが、彼の服装を見るに、俺が知る限りの里の中で生きていた訳ではなさそうだ。

 

 彼が外の世界の生き残りである事は、間違いないと思う。

 だがその反面、彼は俺に何かを隠している。

 疑いたくはない。

 疑いたくはないが、目を逸らす事のできない矛盾を目にしてしまった。

 

 ならば、彼を見ねばならない。

 疑いもあるが、彼に対する疑念を払拭する為にこそ、彼を観察せねばならない。

 …俺は、百鬼隊の部下達に、密かに彼を監視するよう命を出した。

 

 

 

 

 

 暫くの間、彼を見続けたが、やはり怪しいと言えば怪しい。

 日記を付けているようだが、この国の言葉ではない……いや、これは別におかしくは無いのか?

 異界に沈む前の外の世界では、異国の言葉を皆が学んでいたと言うし…。

 

 それに、奴の体の中にある妙な瘴気は何だ。

 普通、鬼祓をする事で完全に払える筈なのだが。

 

 俺の金砕棒の扱いに興味があるようなので見せてやったが、モノノフになるつもりなのだろうか?

 本人はそう細かい事まで考えてないと言っていたが、まぁ普通は確かにそうか。

 訳も分からず異界に沈められ、ようやく脱出してきたのだ。

 今後の事をすぐに考えられる筈も無い。

 

 

 …ふむ、ならば、暫く生活の面倒を見ることを条件に、霊山に連れて行くのも有りか

 不審な点はあるが鬼の回し者という訳ではないだろうし、会議で生き残り本人を見せれば、探索を中断しろという上層部への牽制にもなる。

 彼を利用する形になるが………借りはいつか返すとしよう。

 

 

 

 

 

外伝月霊山新聞社美麻視点日

 

 

 ども、霊山新聞社の青いのこと美麻っす! 

 妹の赤いの、もとい美袖共々お見知りおきを。

 

 …って言っても、正式な新聞社の記者じゃなくて、お手伝い扱いっすけどね。

 まぁ、そっちの方がいいのかもしれないっすね。

 というのも、そもそも私達のお父さんが霊山新聞社の社長なんすけど、これがどうもおかしい。

 最近、急に会社も大きくなって、新聞も沢山売れ出しました。

 

 でも、その記事が何処かおかしい。

 以前のように、霊山であった小さな出来事や、霊山の幹部がやらかしたあれこれを載せるんじゃなくて、とにかくモノノフさん方の活躍ばかり。

 いや、それが本当の事なら、別にいいっすよ。

 こんなご時勢っすから、暗い話よりも英雄譚が欲されるのは分かりますし、新聞社としても売上げを確保できないと倒産してしまいます。

 

 だから、モノノフさん達の記事ばかりになるのは、ちょっと残念だけといいんっすよ。

 でも、最近はそれだけに留まらず、「これ、本当なの?」と思うような記事ばかり。

 私と美袖も、お手伝いとして記者の真似事をする事もあるんすけど、私達が聞いてきた話と食い違うような記事が多くある。

 

 これは……何すか?

 お父さんが作る新聞は、変わってしまったんすか?

 新聞に、嘘を載せているんすか?

 

 そんな疑問を抑えきれなくなってきた頃、美袖がちょっとした情報を持ってきたんす。

 用事があってお父さんの部屋に行ったら、偶然、霊山から来た伝達事項を聞いてしまったとか。

 

 何でも、『霊山のモノノフ筆頭部隊である百鬼隊が、異界を彷徨っていた外の世界の生き残りを発見した』という記事を載せるように…という命令だったとか。

 ……これは、本当の事っすか?

 オオマガドキで世界が一変してしまってから、もう8年。

 中つ国以外の国の生存は疑問視され、今となってはもう諦められていた程っす。

 それが、今更見つかった?

 

 

 普通に考えれば、嘘っすね。

 でも美袖は、『これは本人から言い出した事だ。 奴がモノノフとなる事も、己の情報を使ってモノノフの士気を上げる事も、だ。 あの男は只者ではない。 凄まじい気迫、堂々とした振る舞い……まるで歴戦のモノノフを相手にしているようだった』という言葉も聞いていたんす。

 少なくとも、外の世界の生き残り…と主張している人は存在する。

 

 となれば、確かめに行くしかないっしょ!

 美袖と一緒に、その生き残りに取材に出かける一団を尾行して(こういう時の美袖は異様に頼りになる…)、居場所を突き止め、翌日に突撃する。

 

 幸い、取材は受けてもらえたっす。

 いい人っすね、この生き残りさん。

 

 

 

 

 

 でも、分かった事は……やっぱり、お父さんは新聞に嘘を載せているって事でした。

 外の世界の生き残りなのは本当だったみたいっすけど、それ以外は嘘っぱち。

 …情報操作を自分から言い出した、って所も聞いてみたんすけど……今思うと、なーんか反応がおかしかったっすね?

 

 でも、あの時はお父さんの新聞が変わってしまった事が哀しくて、それどころじゃなかったす。

 ついその場で涙を抑えきれなくなってしまって……気がつけば、朝になるまで泣きとおしていたようっす。

 …生き残りさん、女の涙を見ないフリするのはいいんすけど、流石に放置はどうかと思うっすよ?

 

 

 

 

 ま、それはそれとして。

 お父さんの新聞が変わってしまったのは分かったけど、それで何ができる訳でもなく。

 美袖と一緒に、何か出来る事はないかと頭を悩ませ、時々彼の家に押しかける日々を送っていたっす。

 取材のお礼に彼の相談に乗ったりもしましたが……なんでウタカタに行きたいんすかね?

 

 

 …近い内に大騒動が起こるかもしれない?

 何すかそれ?

 どういう意味っすか?

 嘘を吐かなかったのはありがたいっすけど、それはそれで意味が分からないっす。

 

 

 でも、ウタカタっすか…。

 あそこなら霊山の手も及びにくいし、本物のモノノフ達に触れるのも難しくない。

 ……なんて事を考えていたら、美袖の方から「ウタカタに行こう」と提案。

 いやぁ、血が繋がってなくても姉妹っすね。

 考える事は似たようなものっす。

 

 

 しかも奇遇な事に、彼も希望通りにウタカタに行くって話しを聞きました。

 これは何という渡りに船!

 旅は道連れ世は呉越同舟、折角だから一緒にいかせて貰うっすよ!

 

 

 

 

 

 

 

 この後、旅をナメてたツケを受けて蛇を食べるハメになったり、何故か彼と同居する事になったりしたんすが…それはまた別の話で。

 

 

 

 

外伝月大和視点日

 

 俺は大和。

 ウタカタの頭を務めている。

 

 ここ、ウタカタは最前線だけあって、鬼の襲撃が無い日の方が珍しい里だ。

 それでも里の皆は逞しく生きているし、それを守るモノノフ達も手練が多い……俺にしてみればまだまだ未熟者ばかりだがな。

 

 さて、この度霊山から指示を受け取った。

 新人をここに送るので鍛え上げろ、という旨だ。

 

 こちらとしても、人手が増えるのはありがたい。

 というより、以前から増援を要求してはいたが、正直な話通るとは思っていなかった。

 霊山の連中は、頭が堅いからな…。

 ウタカタを捨ててでも霊山を守り抜こうとしているのが透けて見える。

 

 馬鹿者共め。

 確かに霊山はモノノフの本拠地であり、あそこを潰されれば全ての里が瓦解する。

 だが逆に、周囲の里があるからこそ、霊山を含む一帯の結界が守られていると何故理解できんのか。

 

 …話が反れたな。

 ともかく、問題はこの新人だ。

 

 新人が突然最前線に放り込まれて生き延びれるかという問題もあるが、それ以上によく分からないのがこの新人の素性である。

 伝令では、「外の世界の生き残り」「異界の中から自力で脱出してきた」「モノノフの血筋を引いており、家に伝わっていたモノノフの技も一通り習得している」「小型の鬼の相手なら充分戦える」とある。

 ……生き残りがいたのは、別にいい。

 確か相馬が、8年前から生き残り捜索の任についていたしな……一人とは言え、生き残りが居たのは喜ばしい。

 それが何故モノノフとして戦おうと思ったのかは知らんが…。

 

 とにかく、話に聞いただけではとても信じられん内容だ。

 事実、話を聞いた桜花も「本当なのですか?」と首を傾げたくらいだ。

 これが事実なのか、それとも霊山の阿呆共が「そういう事にしておけ」と言っているのか…。

 後者だとすれば、その意図が掴めん。

 

 

 何れにせよ、戦力が増える事自体は歓迎だ。

 現在、里に居るのは桜花だけなので、教育を任せる事になるが……暫く気にかけておくとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新入りがウタカタに到着した。

 なにやら二人ほど連れが居る。

 特別な関係という訳でもないようだが……単に道連れになっただけか?

 わざわざ霊山から最前線に来るとは物好きな。

 

 新入りは相馬から手紙を預かっていた。

 幾分懐かしく思いながら目を通すと……新入りに気をつけろ?

 

 …ほう、外の国の生き残りなのは事実……しかも自力で異界から脱出したのか。

 だが、モノノフとしての技術を受け継いでいて……しかしそれが新しすぎる。

 

 ふむ……相馬が態々手紙を送ってきた理由はこれか。

 確かに明らかな矛盾がある。

 しかも、ようやく見つけた生き残りを相馬が疑っている辺り、他にも根拠はあると見た。

 

 確かに、俺としてもおかしいと思う点はある。

 桜花は気付かなかったようだが、外の世界の人間にしては、あの新入りは鍛えられすぎている。

 オオマガドキ以前、何度か外の世界の人間と触れる機会があったから分かるのだが…彼らは言っては何だが、とにかく貧弱だ。

 鍛えられている『ぼでぃびるだぁ』なる職種の人間も、殆どが戦いに耐えられるような鍛え方はしていなかった。

 あの新入りが例外なだけという見方もできんではないが…。

 

 

 まぁいい。

 どちらにせよ、援軍としてよこされた事には違いない。

 暫くはその働きを見て、奴の本性を見極めるとしよう。

 

 桜花には知らせない方がいいだろう。

 芝居は苦手な奴だし、余計な疑念は剣を曇らせる。

 

 やれやれ…見方を疑いたい訳ではないが、これも頭の務めか。

 願わくば、奴が敵でない事を祈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奴がウタカタに到着してから、暫くが過ぎた。

 働きは上々と言っていいだろう。

 怪しげな行動を取っている訳でもないし、里人に何かする事も無い。

 強いて言うなら、神木に祭られている社の手入れをしているくらいか。

 …神木はウタカタにとって生命線と言える木だ。

 近付いた時には最初は警戒したが、不自然な動作も見受けられん。

 ……単に社を掃除するだけか?

 それはそれで感心な事だが…。

 

 それはそれとして、天狐が怯えているのはいただけんな。

 あの食料を見る目をどうにかした方がいいか…。

 天狐だけならともかく速鳥辺りが暴発しかねん。

 

 

 

 

 

 

 

 更に暫く時間が流れた。

 正直、警戒するような事は無い…と結論が出かけているが、最近になって妙な動きをし始めた。

 化けの皮が剥がれた…という事ではない。

 妙に長時間、異界で戦っていたり、鬼達から取れる素材を集めているようなのだ。

 素材を集めて鍛冶等に使う事もあるが、奴にそのような技術は無いし、依頼が出ている訳でもない。

 何に使うつもりなのやら。

 

 いや、それよりもおかしいのは、奴が異界に潜っていられる時間だ。

 鍛えられたモノノフでさえ、1時間も潜っていれば限界が来るというのに、奴はその2倍も3倍も潜り続ける。

 しかも、戻ってきたら戻ってきたで、異界の瘴気を体の中に宿している。

 

 瘴気は常に完全に祓っておかねば、その身を蝕む毒と化す。

 これはモノノフの常識だ。

 

 

 何を考えているのか問い詰めたが………長い異界暮らしを続けていたので体が慣れた?

 瘴気が無いと逆に力がわかない?

 あと、『ひゆんける』とは誰の事だ。

 

 

 …そういう事もある、のか…?

 常識では考えられん事だが、そもそも異界で何年も生きた時点で常識外れだ。

 免疫の一つでもできない事には、生き延びるどころか逃げ惑う事すらできんだろう。

 

 判断しかねる。

 とは言え、里の中に瘴気を持ち込むのが好ましくないのは変わりない。

 任務帰りのモノノフ達は必ず鬼祓を徹底し、体を浄化してから里に入るし、瘴気を孕むような鬼の素材は厳重に管理されている。

 

 ………ここで止めさせるのは簡単だが……何かが引っかかる。

 俺の勘に過ぎないが、無理にやめさせると、とてつもなく厄介な『何か』が動き出すような…。

 

 気のせいと切って捨てるのは簡単だったが、どうしてもそうする気になれなかった。

 …俺が危険と判断したら、理由と状況を問わず止める事を条件に、続行を許可した。

 

 暫く泳がせる。

 俺も、相馬同様あの新入りに疑念を持ち始めていた。

 

 

 

 

 

 

 それから暫くして、奴が初穂や息吹と共にミフチを討ち果たし、一人前と言えるようになって。

 富獄、那木と共に任務に向かうようになってからも、特に怪しいと言える挙動は見せず。

 

 なにやら新たな武器の使い方を試行錯誤しているらしい、と聞いた頃だった。

 

 

 

 里の鐘が鳴り響く。

 それも、いつもとは違う…普段以上に大規模な襲撃を知らせる鐘が。

 

 …疑念やらなにやら、小難しい話は棚上げだ。

 生きて帰れ、

 必ず、全員で。

 

 




少佐は…少佐シーンは俺には無理ッス。
ネタで書いた事はありますが、手に負えませぬ。


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MH世界3~奇行~
21話


公衆無線LANだと、遅すぎてPSPのアップデートに使えない…。
何だよダウンロード時間120分って。
映画でも見て待ってろってか?
やはりどうにかして、自宅の無線を使えるようにしないと…。
もう諦めて無線LANルータ買おうかな…でも高いしな…。


 

 

 

HR月ポポの姿焼き日

 

 

 例によってソロでハンターとして活動を始める…訳だが、その前にちょっと寄り道。

 前回臨時でパーティを組んだ、3人組に声をかけた。

 何となく巨人になりそうな感じがする、3人組の中心人物は、「これから毎日モンスターを駆逐しようぜ」みたいな事言って息巻いてたが、放置しておいたら前回と同じようにクック先生に当たり、下手するとあの世行きになるのが目に見えている。

 

 訓練所ではそれなりに付き合いがあった事もあり、話しかけても邪険にはされなかった。

 一応、あまり先を急がず防具をしっかり調えるよう忠告しておいたし、もし大型モンスターと戦う事になりそうだったら、俺もやってみたいんで声をかけてくれ…と頼んでおいた。

 どれだけ効果があるのかは、神のみぞ知る…と言ったところである。

 

 

 話は変わるが、今回のループでは訓練所の教官が面白い話を持ってきた。

 何でも、とある研究所(というとゴッドイーター世界を思い出すが、この世界にだってある)の職員が、自分達が作った新しい武器の性能テストをしてくれる人を探しているらしい。

 まさか?と思ったら…やっぱり来たよ、スラッシュアックス。

 他にも研究中の武器が何種類かあるらしいが、今回俺に来たのはスラッシュアックスだけだ。

 

 何で俺に、しかも今回に限って?と疑問に思ったところ、研究もテスター募集も前からずっとあったのだそうだ。

 しかし、幾ら研究を進めても実戦で使ってみなければ改良点は分からないし、そうなるとテスターが必要になる。

 だがテスター、つまりハンターとしては実戦で得体の知れない武器なんぞ使いたくない。

 つまりテスターをしてもらうには信用度、武器の信頼性が必要だ。

 しかし信頼性を高めるには…と堂々巡りになってしまう。

 

 だったら尚更、何故俺に?

 …苦い顔で、教官は「まだ新人だから、『事故』が起こってもそう珍しくないから」だそうだ。

 本当なら、こんな話を受けさせたくは無かったのね。

 でも何処かからの圧力がかかってきた、と。

 

 うーん、この世界でもやっぱりそういうのは在るのか。

 …ま、こっちとしては全く問題はない。

 本当に事故が起こってもデスワープするだけだし、そもそも信頼性云々を言うくらいなら、GE世界のマッド連中が作った杭君を(勝手に)使ってない。

 

 だからそんな心配しないでくれよ、教官。

 どっちにしろ、別の世界の戦闘スタイルをミックスして試していくのだから、そこに武器の種類が一つ増えたって大した差は無い。

 ついでに言うと、モンハン世界なら神機も正常に動くから、装備・スキルの選択幅が異常に広がっているのだ。

 どこから手を付けたらいいかすらわからない。

 

 

 …とりあえずの目標は、GE世界の黒爺猫討伐だな。

 ぶちのめす時には、アリサの仇と叫んでやろう。

 …多分、その時には生きてるアリサが横に居ると思うけどな。

 

 

 

 

HR月リオレウスの卵焼き日

 

 暫くソロで、かつスラッシュアックスを使って活動する事になった。

 スラッシュアックスのテスターを引き受ける代わり…と言ってはなんだが、他の武器を研究している施設への連絡先を教えてもらう。

 今回のループではスラッシュアックスのみになるが、次のループからはまた別の武器…例えば操虫棍…等のテスターを希望するのも悪くない。

 

 

 さて、今日はスラッシュアックスの特徴把握に費やした一日だった。

 ゲームとほぼ同じ能力を持っているようで、剣モードと斧モードの2種類があり、剣モードなら固定されているが瓶を使う事で特殊効果を発揮し、そして切り札である属性解放突き………俺が言えた事じゃないが、ネーミングセンスが無いというか語呂が悪いというか。

 生肉を貯めるついでに色々試してみたが、俺は特に斧モードのぶん回しと相性がいいようだ。

 ミタマにせよスキルにせよ、火力重視で選ぶ傾向があるし、一度相手を動けなくしてしまえば、大火力・スタミナ消費を抑えるスキルによって、一撃一撃がデカいのに延々と続く攻撃…という反則染みた攻撃が可能となる。

 

 一撃一撃を必殺…とまでは言わないまでも、クリティカルヒットに近い領域に押し上げる事が出来るスキル構成。

 

 

 

 

 

 成程、非常に強力だ。

 

 

 

 

 だが、これではいけない。

 確かに強力だろう。

 でも、これでは奇襲をかけて0か100かの一発勝負をしていた頃とまるで代わりが無い。

 ただ火力が上がっただけだ。

 

 

 ここから先を生き抜こうとするなら、この戦闘スタイルを根本的に変えなければならない。

 奇襲で、自分のリスクを徹底的に減らし、痛みや怪我を受けず、瞬時に敵を倒す……そんな『格下を殲滅するような』或いは『格上に何もさせないような』戦い方ではなく、『全てを同等と認めて全力を尽くせるような』。

 そんな戦い方を覚えなければ……いや、そういう世界に身を浸さなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから『火事場』とか『力の解放』とか『ランナー』とか、アドレナリンが出るっぽいスキルを組み込もうと思う。

 テンション高くなれば侮りも恐れも消えるってもんよ。

 

 ん?

 覚悟とかそーいうのを決めるんじゃないかって?

 

 アホ言え。

 

 覚悟だか信念だか知らねーが、ちょっと心構えを変えたつもりになっただけで、何が変わるというのだ。

 大体心構えなんてものは日常生活をどう生きているかの象徴であって、心の強さを表すもんじゃない。

 腹をくくっただけで何かが変わると思うのは、青春時代の思い込みの名残にすぎない……すまん、自分でも何言ってるのかイマイチ分からなくなってきた。

 

 そんなオボロゲな物に解決策を求めるから、世界で勝っていけないんだよ。

 いや、世界で勝っていこうと思ったら、ある程度以上はそのオボロゲな物を形にせにゃならんのだろうが。

 

 どっちにせよ、俺程度のレベルじゃ求められる有効な解決策は、精神論じゃなくて物理論だ……或いは性進路か?

 エロい事考えてれば、なんか俺って上手く動けるみたいだしな。

 下半身的に考えれば、むしろ動きにくくなりそうなもんだが。

 

 

 

 

 ともあれ、暫くはスラッシュアックスと、各世界の戦闘スタイルを片っ端から混ぜてみるとしよう。

 

 

 

 

 

 

HR月ガノトトスのカルパッチョ日

 

 

 改めて思うが、ふくろが便利だ。

 それはもう、ゲームシステム的に考えれば反則と言ってもいいくらいに。

 

 何か知らんけど容量制限が無いし、明らかに袋の入り口よりも大きい鎧や武器も入れられる。

 つまり、予備の武器や鎧を持ち歩ける。

 安全な場所さえ確保できれば、装備を換装する事も出来る。

 弱点が違う相手に非常に有効である。

 

 いつだったか、『ふくろにはあまり頼らない方がいいかもしれない』なんて考えていたが、これは無理だ。

 依存症になってしまう。

 

 という訳で、一度のクエストで色々と武器を変えながら戦っています。

 新しく使い始めたスラッシュアックス、神機、討鬼伝世界の戦い方をミックスした太刀など、片っ端から実験中。

 

 

 …なんだな、モンハン世界のモンスターって、とにかくタフで力も強いんだけど、他の世界に比べると特殊効果に弱い感じがする。

 残心解放とか、不動金縛とかがよーく効くようだ。

 完全に物理的なモンスター達なので、オカルトパワーの類に弱いんだろうか?

 

 

 

 それはそれとして、ミックスした戦い方についてちょっと問題がある。

 今のハンターランクくらいの相手なら、そんな大した事じゃない…と言うより、今の俺なら道具と身体のスペックでゴリ押しで充分勝てる。

 だが、正直な話、スペックに振り回されているのが現状だ。

 

 武器や戦闘スタイルの選択肢が非常に増えており、またゲームのシステム的な制限も無いに等しい為、思いついた行動の殆どは武器やスキルの組み合わせで実現できる。

 モンハンの大剣を持ってジャンプする事も、相手の体を蹴って更に飛ぶ事も、大量の爆弾で一気に爆発する事も、ランスの盾を構えながらボウガン撃つ事だってできる。

 

 …はっきり言うが、こんがらがっています。

 戦闘スタイルの模索が、完全に手探りでやっていくしかない。

 何かモデルや指針になる物があればいいんだがな…。

 

 

 

 

HR月アオアシラの掌スープ日

 

 クック先生にお参りに行ってきた。

 かなり楽に狩れるようになってきているが、先生を粗略に扱うなど許されぬ。

 狩った後の最敬礼は既に恒例行事となっています。

 

 それはそれとして、クック先生との戦いの間に閃いた。

 と言うより教えてもらったのだ。

 

 「どういう戦闘スタイルを作るか」で考えるから悩むのだ。

 「何を相手にするか」で考えて、それに適した戦闘スタイルを作り上げるのだ。

 これはスキル構成を考える上での基本だったが、俺は見事にそれを忘れていた。

 

 狩りの間に言われたような気がしたのだ……「お前は何を狩る為にそのスキルを作り上げたのだ!?」って。

 流石先生!

 一味違うね。

 

 

 さて、クック先生の授業を無駄にしない為にも、改めて考えねばなるまい。

 現状、目標としているのは黒爺猫の討伐だ。

 確かゲームでは、奴の弱点属性は「神」となっていた。

 モンハン世界には無い属性だ。

 強いて言うなら「龍」が近いのか?

 

 それから物理攻撃では斬撃が比較的効きやすく、銃撃は……貫通属性だったか。

 こっちの攻撃の殆どを弾くマントは、破壊した後だと貫通銃撃にやたら弱くなっていた記憶がある。

 

 …杭君の攻撃属性は何だろうか?

 パイルバンカー……杭を突き刺している訳だから貫通だと思うんだが。

 となると、前回にあの一撃で仕留めきれなかったのは、杭君の威力が落ちていただけでなく、マントに阻まれたという可能性もある。

 …どうだったっけ……無我夢中で杭君を押し付けて引き金を引いたから、イマイチ記憶にない。

 

 杭君にもリベンジの機会をあげたいところだし、その辺から考えてみよう。

 …結局杭君に拘る辺り、ロマンを捨てきれない。

 

 

 

 

 

 まず杭君の威力を100%発揮できる体勢にしなければならない。

 よくよく考えると、プリプリザエモン・ヴィジュアル系(本格的に名前が思い出せない)も周囲に多数居る訳だし、そっちも考えないと。

 黒爺猫を一撃必殺できたとしても、杭君の反動で動けなくなってちゃ逃げ出す事もできなくなる。

 

 つまり、杭君の反動を軽減しなければならない。

 …できそうなのは……GE世界スキルのノックバック軽減。

 ミタマスタイル「防」の天岩戸。

 スーパーアーマーで考えると、モンハン世界は鬼人化もあり……ああ、でもあれはヌヌ剣の技だしな。

 神機は片手じゃ持ちきれないから、ヌヌ剣は重量的にキツい。

 他の装備でもやってやれない事はないが、あそこまでの効果は期待できない。

 

 黒爺猫達の動きを止めるのはどうする?

 閃光玉、スタングレネード、トラップ、不動金縛に……そういや虎剣作ってたな。

 ああ、別に一人でやる必要は無いのか。

 何人か別の人もいるだろうから、先に渡しておいて…問題は閃光玉が他の人の視界まで焼かないかって事か。

 

 

 武器や道具は置いといて、アレを相手にどういうスタイルで戦う?

 相手は恐らく上位の黒爺猫。

 攻撃力は、あの時点では反則モノと思った方がいい。

 例えミタマスタイルの「防」や 防御力を上げるスキルを大盛りにしていたとしてもどれだけ耐えられるか。

 となると、相手の攻撃を全て避けるくらいで考えて、なるべく短時間で倒せるやり方………。

 

 

 

 

 

 結局奇襲じゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

HR月古代魚の塩焼き日

 

 

 煮詰まった。

 考えてみれば、最近戦闘スタイルの模索で狩りばっかりしてたな。

 ちょっと気分転換に行って来よう。

 

 

 

 

 ふふふふ、この世界で気分転換と言えば、狩り、酒とメシ、そして異性!

 狩りばっかりしてて貯蓄も結構溜まってるし、豪遊するべ。

 

 そして最後には、馴染み(一方的に)のオネーチャンとゆっくりと…。

 うむ、討鬼伝世界で読み込んだ、真言立川流(ガチオカルト版)を実践する時が来た!

 今までは客としか見られていなかったが、これで口説き落とせれば……!

 

 あの解説書には雰囲気の作り方とか、エロい事以外のマニュアルもしっかり乗っていたし、慣れればイイ線いけると思うのだよ!

 さー、何はともあれ酒だ酒だ!

 ホピ酒じゃない、偶には高級でレアな酒を飲みに行くぞ。

 

 

 

 

 

 

 

HR月ダイミョウザザミのカニ鍋日

 

 

 うむ、堪能した堪能した。

 いい酒ってのは素人にも分かるものなんだなー。

 思いっきりメシ喰って、前後不覚一歩手前になるまで呑みまくった。

 

 まー随分とスッキリしたもんだ。

 …オネーチャンについては、ちょいとショックだったけど。

 ちゃんとしたお相手いるらしいわ……それ以上突っ込んだ事は聞かなかったが。

 

 やっぱ俄仕込みのエロテクで人を口説ける訳がないね。

 エロゲじゃあるまいし。

 

 いや、あの真言立川流のあの解説書が嘘っぱちだったって事じゃないんだ。

 ただ熟練度の問題もあるし、そもそも「ちょっと気持ち良くしてやれば、それで靡いてくれるだろう」なんて考えは人を馬鹿にしているにも程がある。 

 そっち方面で堕とすなら、もっとドップリ漬けないとね。

 

 そもそもからして、あの解説書によると気持ちよさ=興奮、つまり精神状態の高揚が基本である。

 指先の技術やら腰の動きやらは小細工で、それ以上に気持ちよくさせようと思ったら、相手の性癖を引き出して満たすのが基本だ。

 そしてあのオネーチャンは仕事でそれを満たす側、俺は満たされる為に行ってる側だ。

 感情的な一線を越えられないのも納得である。

 

 

 とは言え、知ってると知らないでは結構な差が出た。

 オネーチャンの反応も結構違ったし。

 うーむ、従順なアリサで試してみたかった…。

 

 

 ま、オネーチャンとはビジネスライクに行きますか。

 よー考えたら、源氏名も覚えとらん。

 要するに、初めての相手だったって程度の思い入れしかなかったんだ。

 うん、そーいう事にしとこう。

 

 

 

 

HR月ホーミング生肉の香草焼き日

 

 

 さて、色々スッキリしたところで、黒爺猫討伐に関する構想を、ゲリョスを狩りながら考える。

 …死んだフリが意外に厄介だ。

 ゲームと違って本当に倒れてるのか分からない。

 まぁ、そういう時は遠距離から砲撃しまくってる俺ですが。 

 

 

 とりあえず、ブチ抜くべきは脳天だ。

 アラガミと言えども、文字通り脳みそ爆砕されては活動できないだろう…修復可能かは別として。

 そういやあいつ、結合崩壊したら頭が結構脆くなったな…うん、こいつで行こう。

 

 

 モンハン世界で、同じような相手は居ないだろうか?

 練習台にしたいんだが。

 近そうなのと言えば……牙獣種辺りかな?

 雷とかはともかく、四速歩行で飛び掛ってきたり、猫パンチしたりするし。

 

 

 

 …ぬぅ、リフレッシュしたからか、妙なイタズラ心が沸いてきた。

 考えてみれば、前回は色々遊んでたんだよな……ガノトトスを釣り上げようとしたり。

 うし、何かできないか探してみよう。

 

 

 

 

 さし当たって、ドスランポスを足代わりにしてみた。

 ジャンプ力は高いが、脚力はイマイチ。

 鳴き声で交渉すれば、意外とイケるもんだ……タツジン級の鳴き真似と、相手より確実に強いというプレッシャーが必須だが。

 

 

 

 

HR月ランポスの姿焼き日

 

 

 ちょっと変わった依頼を受けた。

 潮島の生態調査だ。

 なんでもこの島、最近見つかった場所らしく、危険はそう多く無さそうなのだが、どんな生物が居るのか不明らしい。

 

 …潮島っつーたら、確か……ゲームでは洞窟があるだけの小さな島だったっけ?

 マングローブみたいな木が沢山あって、ド突くと虫の巣が落ちてきて…触れると毒になったな。

 

 あそこのモンスターと言えば、確かゴゴモア…跳緋獣か。

 デカいカニみたいなのも居た気がするが、アレはMHF的に一度しかやってないからよー覚えとらん。

 あいつ、なんかオーラを纏ってパワーアップしたっけな。

 記憶によると、子連れであり、その子供に害が成されたら怒ってパワーアップするんだっけ。

 

 …子供か。

 別に狩る事自体には躊躇いはないんだが、生態系への影響の方が不安だな。

 潮島は大きな島じゃないし、もしゴゴモアが島の主として君臨していたとするなら、跡継ぎの有無は島の今後を分ける。

 カチ合ったとしても、戦闘は避けたいところだ。

 

 記憶に残るイメージによると、そう好戦的な相手じゃないと思う。

 無論、ゲームでのイメージは想像以上の産物にはならないし、そもそも野生の中で生きている以上、好戦的以前に命がけの戦いの日々は当たり前な訳だが。

 少なくとも、ラージャンみたいに超攻撃的生物という訳じゃなかろう。

 子供を殺された事によって、穏やかな心を持ちながら以下略とかに目覚めてれば別だが。

 

 もしそんなん居たら勝てる気がせんわ。

 ラージャン以上に某野菜ネーミング一族だわ。

 

 真面目な話、潮島には今のところ人間の手が入っていない。

 ベースキャンプだってまだ作ってないレベルだし、勿論農作物だの建物だのだって無い。

 無理に人間の生息範囲に数えなくてもいい場所だ。

 わざわざ恨みを買いにいく必要は無い。

 ……ご飯として狩って喰うのは、恨みを買う範囲にないよな?

 

 

 

 

HR月跳緋獣のレバ刺し日

 

 潮島。

 なんちゅうか、イメージよりも高低差が大きい。

 木の根が好き勝手に育っている事もあり、平らな地面が殆ど見えない。

 ここだけなのか、これが潮島の平均的な状態なのか…。

 

 

 それはともかくとして、調査の一環として木に登った。

 木を叩くと落っこちてくる虫の巣がどんなモノなのか調べるつもりだったが……それよりも先に、立派な木の蔦が目の前にぶら下がっているわけで。

 ならばやらない訳にはいくまい。

 

 

 

 

 あー、ごほんごほん。

 

 

 

 

 あ~~~~あぁ~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ターザンしてたら、同じように移動してた跳緋獣と目があった。

 目を真ん丸に見開いてガン見されてた。

 

 気まずいってもんじゃなかった。

 

 

 

 

 とりあえず、予想通り好戦的な奴では無さそうだ。

 お腹も満腹だったようだし、子供に何かした訳ではない。

 お互いを警戒しつつ、あ~~あぁ~~~~で遊んでいた(俺は一応調査の為だ!)が、互いに殆ど干渉しなかった。

 

 残念ながら、鳴き真似スキルではまだコミュニケーションが取れなかった。

 もっと鳴き声をよく聞いて分析しないと。

 

 

 

HR月ドスガレオスのみそ焼き日

 

 珍しい植物のサンプルを幾つかと、跳緋獣の抜け毛や生態に関するメモ。

 島の地図に、魚や木の実。

 一日で調べられる事はこれくらいか。

 

 つかず離れずの距離でゴゴモアを監視してたら、親ゴゴモアの上に乗っているココモアにジッと見つめられていた。

 試しに手を振ったりしていたら、マネして手を振り返してきた。

 美味そ、もといカワイイ…。

 

 …ふむ、猿と同じように、モノマネする習性がありそうだ。

 

 餌付けできないかと思ったが、流石に在る程度接近するとゴゴモアに威嚇される。

 もっと時間が必要そうだ。

 

 だがもう調査の時間は終わり。

 戻らねばならない。

 

 

 

 …折角こんなプライベートビーチみたいな場所に来てるんだから、泳ぎたかった…。

 まぁ安全が確保されてない海で、素っ裸で泳いでた日にゃーロアルドスとかに食いつかれてデスワープがオチだが。

 

 島から出て行く時に、ゴゴモアがひっそりと林の中から見送ってくれた。

 …手を振っている子供はともかく、親のほうは「結局あいつは何だったんだ?」とか考えてそうだったが。

 

 

 

 

 危険度がどれくらいか分からなかった為、報酬は出来高性だった。

 ま、そこそこかな…。

 

 

 

 

HR月フルフルの霜降り肉ステーキ日

 

 メゼポルタに帰ってきたら、大騒動になっていた。

 いきなりラオシャンロン襲来とか、どうなってんの。

 

 何でも、近所の火山から突如出現したらしく、既にメゼポルタに接近を許してしまっているらしい。

 専門家によると、ラオシャンロンは非常に寿命が長く、それに比例するように休眠期間も長い為、恐らくメゼポルタが出来る前から埋まっていたものと思われるそうだ。

 …住民やハンターにしてみれば、んな事ぁいいから対処法を教えろ、てな話だったが。

 

 

 と言うか、半ば忘れかけてたけど、これってアレか?

 前回俺が体験した地震の原因か?

 

 あの辺でラオシャンロンが埋まって休眠してて、そろそろ起きるか~って頃に火薬岩をドカンドカン言わせてたのが目覚まし代わりになってしまったのか?

 どんだけの確率だよ…。

 

 と言うか、火山で埋まって休眠ってどうなの?

 溶岩とか大丈夫なん?

 上手く溶岩さえ避けていられれば、地熱で暖かそうな寝床ですね。

 

 

 それはともかく、とにかくラオシャンロンを撃退せにゃならぬ。

 歩くスピードは遅いし、寝起きでハラが減ってるのか、その辺の岩とか食べながら進んでいるようだが…何故かメゼポルタに一直線コース。

 やはり本体の動きは鈍いから、チクチクやってりゃ死ぬ事はないと思うが、メゼポルタに被害が出る前に食い止められるかが問題だ。

 ガンナーの武器もそれなりに揃えているが、ゲームとリアルは違うしな…。

 

 弓を使って討鬼伝スタイルミックスで行くべきか、ボウガンに見せかけた神機を使うべきか。

 …いいや、どっちも持っていっちゃえ。

 

 




実家の犬が寝たきり寸前…。
もういつお迎えが来てもおかしくない年齢です。
…11月ごろに一度帰って、撫でてやりたいな…。


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22話

書いてる途中で、いろんな意味で主人公がウザッたくなってきました。
これでどうやって主人公を殺すかの思索にも、一層力が入るというものよ。


 

HR月ラオシャンロンの鱗で岩盤焼肉日

 

 現在、ラオシャンロンと交戦中。

 と言っても俺一人でやってる訳じゃなく、メゼポルタのハンターが総出で交代しながら攻撃を加えています。

 ラヴィエンテ戦をもっと小規模にしたような感じかな?

 

 今の俺は、本日2度目の食事&一休み中って訳。

 人によってはこの間に装備を変えたりもする…俺も最初はボウガン(に見せかけた神機銃形態)、次に太刀を試してみて、今度は弓のつもりだ。

 

 

 ラオシャンロンの発見から接触まで時間がなかった為、防衛壁も粗末な物しか作れていない。

 撃龍槍の設置は間に合わなかったし、バリスタだって無い。

 体当たり2発もあれば完全に瓦解されそうな防衛壁が突破されれば、メゼポルタはもう目の前だ。

 

 それは絶対に阻止しなければならない…と言っても、やれる事はもうやってるからなぁ。

 このまま続けるしかない。

 

 そうそう、3人組ハンター達に再会した。

 また前回と同じく3人がかりでヌヌ剣使ってるみたいだが、ちゃんと防御は整えているようだ。

 うむ、一言言っておいた甲斐があった。

 

 で、既にイャンクック先生に洗礼を受け、何とか乗り越えたらしい。

 ……誘ってくれって言っといたじゃんかよぅ、と恨めしげな目をしたら、何とビックリ。

 今は3人組ではなく4人組らしい。

 訓練所を卒業して間もなくして、4人目…馬面のハンターが仲間に加わったんだそうだ。

 ああ、既にパーティメンバーは限界な訳ね…。

 

 

 馬面の少年、この3人結構無鉄砲だから、抑え役を頼むよ。

 

 

 

 

 

 それはそれとして、新米ハンターの間で俺って結構有名らしい。

 訓練所の成績とか○○を狩った、とかじゃなくて、ほぼソロで活動している上、ランポスを足代わりにするは、ガノトトスを釣り上げるは、常識では考えられない事ばっかりやってる奇人として。

 …まぁ、確かにちょっと変わった事をやってる自覚はあるけどね。

 今日も今日とて、ハンター的には「無いわー」と言われているジャンプを使ってラオシャンロンの体を駆け上がり、開幕早々対巨龍爆弾を食わせてやった。

 しっかり素材もゲットしてきました。

 更に、予め貯めておいた神機のバレットをゼロ距離射撃でフルバースト……ラオシャンロンの背中に乗ってだから、誰かに見られる心配もありません。

 うーむ、相手がデカすぎるからか、イマイチ効いた気がせんな。

 

 あと、時間稼ぎという意味では太刀も結構有効だった。

 モンハン世界の太刀だけなら効果的では無さそうだが、生憎俺には討鬼伝仕込みのオカルトパワーがある。 

 刀傷を充分につけてやり、キンッ!と納刀して残心解放すれば、送り込んだオカルトパワーがラオシャンロンの動きを一瞬だけ止めてくれる。

 本当に一瞬だけなのだが、例えば片足だけに集中して刀傷を作り、そして歩く為に片足立ちになった所を、キンッと。

 上手いタイミングでやれば、バランスが崩れてダウンを取れる。

 …下に居ると普通にヤバいが。

 強走薬を使えば、スタミナも気にせず影残心も使い放題だ。

 

 訓練所の教官には、あまり見せないように…と言われちゃいるが、事が事だけにそうも言ってられんだろ。

 …上級ハンターとかがもっと居れば、隠したままで居られたんだろうが…生憎殆どが留守だった。

 

 

 

 馬面の少年が唖然としてて、3人組が「噂は本当だったんだな…」って顔してた。

 時に馬面の少年、この仲良し3人組と一緒に居て、疎外感とか覚えたりしないかね?

 …メンタル強いな。

 

 

 さて、メシも喰ったし、そろそろ休憩時間は終わりだ。

 ラオシャンロンの襲来は次ループからでも同様に起こるだろうし、今の内にしっかり対策を試しておかないとな。

 

 

 

HR月ガレオスの出汁日

 

 

 何とか撃退完了。

 ちょっとメゼポルタにも被害が出たようだが、あのレベルが相手でこれなら楽なもんだろう。

 俺としても、一人で撃退しろと言われるならともかく、集団戦で相手をする場合のセオリーもなんとか確立できた。

 

 が、それはそれとしてちょっと問題が出てきた。

 俺個人としての問題だ。

 

 ハンター達の前で色々とハッスルしすぎた為か、上位のハンター達に目を付けられたっぽい。

 曰く「戦力的な意味ではまだまだだが、汎用性と意外性がナイス」。

 

 

 …俺、これでもゴッドイーターパワーやらミタマパワーの恩恵を思い切り使っとるんじゃが…。

 

 

 

 だが、侮られての評価ではない。

 何人か上級ハンターの平均的レベルの人にも会ってみたが、こりゃ勝てない。

 ガチで強い。

 

 上位以上のハンターはバケモノか。

 他の世界でも強い奴は圧倒的に強い…例えばGE世界ならリンドウさん、討鬼伝世界なら相馬さん…が、この世界の人達はとにかく天上知らずだ。

 ゴッドイーターやモノノフ達と違い、特殊というかトリッキーな能力は持っていないが、基礎スペックとそれを使いこなす能力が段違いに高い。

 「上手い」だけでなく「強い」。

 

 そして何より、この世界にはありえない筈の現象を「意外性」の一言で済ませて受け入れる神経がスサマジイ。

 むしろマネしようとしてるんじゃなかろうか………特に教えなくても再現できそうなのが怖い。

 

 

 

 …もういっその事、戦い方の開発を上位ハンター達に預けてみるか? 

 考えてみりゃこの世界の戦い方や技だって進歩するんだし、MHFで言う「天の型」「嵐の型」だって比較的最近出来上がったものだろう(多分)

 となりゃ、「オカルトの型」……いやさ「魂の型」とかが出来上がってもおかしくない。

 

 それが広がった結果どうなるかは分からんが…いざとなったらデスワープで高飛びするまでだ。

 それにどうなるにしても、「オカルトパワーを使われ続けた結果、モンスター達が免疫を持った上に進化した」なんて事にはならないだろう………フラグ立った?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HR月シェンガレオンの味噌煮込み日

 

 あれから暫く間が開いた。

 …まず最初に懺悔しておくが、すまないアリサ。

 2つの意味で。

 

 えー、まず最初の一つの失敗はだな。

 ……ユニスさんと仲良くなってしまいました………ええ、意味深的な方面で。。

 ん、誰だかわからない?

 MHFでは、ログインした直後の場所にある総合受付担当の、ショートカットで銀髪の人だよ。

 あとヴォルガノススキー。

 

 いやね、実は先日のラオシャンロン撃退の一件の後、メゼポルタ総出で宴会が開かれたんだわ。

 宴会というか慰安と言うか、報酬代わり、あと多少なりとも被害が出たので、その補填金を稼ぐ目的もあったんだろう。

 それが上手くいったかは定かではないが、とにかく俺はそれなりに撃退に貢献し、かつハンター達の前で色々荒業をやっていたので、一際目立っていたらしい。

 つまり、祭り上げるのには最適の位置にいた訳だ。

 

 まぁ、ハンターとして知名度があがるのは悪い事ではないし(度が過ぎなければね)、祭り上げると言ったって精々宴会の間だけだ。

 いい酒くれるし、色々と割引してくれるから、素直に祭り上げられた。

 

 で、一緒にラオシャンロンと戦ったハンター達も巻き込んで飲み比べとかやってたんだが……つい、ハッチャけすぎてしまったようだ。

 別に記憶が飛ぶほど呑んだ訳じゃない。

 ただ理性が半分ほど螺旋を描いて天に昇っていっただけだ……それはもう、亡者が成仏したかのようにウツクシイ軌跡を描きながら。

 

 呑みまくって不必要なまでに陽気になったハンター達と騒いでいたら、ヒーローインタビューとか言いつつ何人かの女性が混ざってきて、これがまた最初っから出来上がっている方々で。

 酔っ払い同士の意味不明なテンションで意気投合して。

 そして宴会が終わりの時間に近付いたので、二次会三次会四次会……えーと、確か全員グロッキーになったのが7次会で、潰れたやつらを引きずりながら(途中で落っことして放置したりもしたが)9次会あたりまで続けたっけか…。

 いや9次会って言っても、別に場所を9回変えた訳じゃないし、普通に呑んでる最中でも「よーしこれから○次会だぞー」とか言ったら、何も変わらなくてもそういう事になっちゃったんだが。

 

 ともかく、潰れたり放置したりパーティメンバーが送っていったり、暗がりに連れ込まれてゲイっぽい声が聞こえてきたりしたが、気がつけば残っているのはユニス嬢と俺と……あと何人か居たような気がするが覚えてない。

 全員そろってもうベロンベロンだった訳だが、家に帰るのがめんどいとか言い出したユニス嬢をそのままお持ち帰りしてしまった訳だ。

 

 で、そのままお互い延々とバカ笑いしながらベッドに飛び込んで、プロレスごっこに至る。

 そのままアヤマチ。

 …で、俺は何を考えてたのか、馴染みのオネーチャン相手では上手くいかなかった、真言立川流っぽいテクを片っ端から試してみて……相手がリラックス(と言うか警戒心もなくなってた)状態だったのが良かったのか悪かったのか。

 見事にユニス嬢は、中毒状態になってしまったようだった。

 

 オネーチャンを相手に試した時は、「ちょっと気持ちよくなったら靡くなんて考えは相手を馬鹿にしてる」と思ったのだが、例外はあるのか…?

 

 

 アヤマチから始まるラブもあっていいとは思うが、何か洗脳したような気がヒシヒシと。

 いやそれよりも問題なのは、『中毒』状態だって事なのだ。

 俺のやり方が悪かったのか、上手く行き過ぎたのか、それともユニス嬢にそういう気質があったからなのか、暫くナニしないと禁断症状が出るらしい。

 先日なんぞユニス嬢が家に入りこんでいて、狩りから帰ってきたら即座に押し倒された。

 あの時の眼光は、モンスターよりも野獣していた。

 独特の喋り方のリズムも、切羽詰ったように早口になり、息も荒く力も強く、冗談抜きで捕食されるかと思った。

 まぁ、ナニが始まれば従順になったが…。

 

 

 

 すまぬアリサ。

 もうあの時のお前には会えそうにないが、浮気してしまった。

 …アリサの時も、まともな経緯を経たとは言いづらかったなぁ…。

 

 さて懺悔も済んだ事だし、気を改めてユニスの体を弄びますか。

 オカルトパワーも盛り込んだエロテクで触ったり煽ったりしてやると、実に素晴らしい反応が返ってくる。

 

 

 

 

 

 …あ、もう一つ懺悔が済んでなかったな。

 アリサ…いやそう言えばコウタもか。

 無理なペースの狩りにつき合わせて、本当にすまなかった。

 

 現在、上位のハンター達に誘われまくって、下位でまだティガも倒していないというのに、上級狩りに付き合わされています。

 出撃ペースはどうって事ない(俺にとっては)のだが、敵がマジで強い。

 硬いしタフだし火力高いし、上位ハンター達の援護があっても負けそうなレベルだ。

 

 この一週間で、上位イャンクック先生に始まり、ヒプノック、リオ夫婦、アクラ・ヴァシムにヴォルガノス、ベルキュロスとまでやりあった。

 どいつもこいつも奇襲だけじゃ倒せないくらいにタフだから、嫌でも真っ向勝負になってしまう。

 唯一の癒しは、採取クエストだったんだが……先生がフラフラ歩き回ってたんで気が休まらなかった。

 

 本当にすまない、アリサ、コウタ。

 俺にとっては普通にやれるミッションでも、お前達にとってはこんな苦行だったんだな……。

 

 

 

 ところで、このMH世界には元の世界と同じ宗教は無いようなのだが、似たような言葉は伝わっている。

 「神様は乗り越えられない試練は与えない」。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり、神はこう言っている。

 

 

 

 「大丈夫大丈夫。まだイケるまだイケる」と。

 

 

 

 

 

 さぁ張り切って、明日は初の大連続狩猟行くぜ!

 アリサもコウタもかなり追い詰められてから飛躍的に腕が上がったからな。

 俺もこのパワーアップのチャンスを逃す手は無い。

 

 それに何より、限界ギリギリをつれまわされる側の感覚を味わったから、よりワンランク上のギリギリラインを見極められそうだ。

 ナニ?

 チキンレース?

 しくじったら即お陀仏?

 その通りですが何か?

 

 

 

 そろそろ自分でも疲れが高じてアドレナリンが過剰供給され始めているのが分かるからな!

 もうちょっと続ければ実に楽しいランナーズハイ気分が楽しめるだろう。

 

 

 

 

HR月尾晶蠍の爪揚げ日

 

 うーむ、狩りの腕は大分上がってきたと思うのだが、やはり上位ハンター達にしてみれば「そこそこ」止まりらしい。

 勿論、ミタマその他の恩恵を考慮に入れてもだ。

 

 この前、雪山をウロウロしている時にティガレックスを見かけたんだが……大きさからして下位だった……、ちょっと梃子摺る程度で普通に勝てるな。

 …いかんいかん、慢心こそ達治を殺す最大の敵だ。……達治誰だよ、タツジンだよ。

 

 

 

 上位の人達に連れ回されるのが一段落したので、久々に自宅で休憩中。

 ベッドでユニスが色々汚れたまま寝てるけど、まぁいいよね。

 連続狩猟でヴォルガノスを狩ったんで、鱗をお土産にしたら超喜んで色々サービスしてくれました。

 

 

 が、受付嬢のルール的には受け取る訳にはいかないらしい。

 確かに素材の横流しになるからな…。

 

 

 

 ちなみに下位ハンターを上位依頼に連れ出すのは、ルール的にギリギリセフトなのだそうな。

 …アウトでもなくセーフでもなくセフトな辺り、実にシビアである。

 

 

 それはそれとして、上位素材を管理したり、気付いた点をノートに纏めたりしている途中、一つおかしな事に気がついた。

 俺の中のミタマことノッペラボウが、なんか新しいスキルを覚えていた。

 

 …何故?

 ミタマの力を解放するには、樒さん…に限らず、巫女にアレコレやってもらわなきゃならない筈。

 それに該当する人物は心当たりが無い。

 まさか、モンスター達にそういう能力が……あったら多分、すぐ分かる。

 この世界のモンスターはオカルトパワーに弱いし、ミタマの力を解放できる程の『何か』を宿しているなら、斬った感触で感知できると思う。

 

 となると…自力?

 いやこの自力って、俺の力になるのか、それともノッペラボウの力になるのか微妙な所だ。

 どっちにしろ心当たりは無い。

 

 …いや待てよ、延々と連れ回される苦行の中で、精神がトランス状態にまで持ち込まれたとしたら、どうだ?

 オカルトパワーを発揮するのに、精神の集中は必須だ。

 トランス状態…というよりランナーズハイ状態は、極限の集中状態と言えない事も無い。

 それが切欠になって、ミタマの力が解放された…?

 

 

 

 

 …一見筋が通っているように見えなくもないが……微妙な所だ。

 

 

 

 

 それにもう一つ問題が。

 以前、ノッペラボウが覚えたスキルは、MH世界の回避距離だった。

 で、今回はと言うと…。

 

 

 

 

 剣の達人。

 

 

 

 

 …これ、GE世界のスキルだよな?

 

 

 

 

 いや、この際GE世界のスキルなのはいい。

 最初に回避距離を覚えた時点で、成長したら討鬼伝世界以外のスキルを覚えるかもしれない、と言うのは予測されていた事だ。

 

 だが、このスキル…正直言って、使いどころが難しい。

 この効果は(ゲーム基準で考えれば)「近接武器での攻撃時にヒットエフェクトによってダメージが増減する」。

 つまり、打撃攻撃を与えた際、クリティカルヒットなら効果倍増、それなら効果半減。

 

 慣れたプレイヤー…もといハンターであれば、成程強力だろう。

 だが未知の相手ではどうか?

 弱点が全く分からない相手を討伐しに行く場合は?

 持っていく装備が運良く相手の弱点をつける物ならいいが、そうでなければ勝利の可能性は一気に低くなる。

 

 それだけではない。

 現状の接近戦用装備だと、例えばバサルモスのような相手をする場合はどうだ。

 全身が非常に堅く、一定以上の切れ味を持った武器でなければ弾かれる。

 一部の攻撃なら、弾かれずに武器を振り切る事もできるのだが、それにしたって急所に当たった事にはならない。

 バサルモスの場合、弱点である胸を露出させるには、その外殻を破壊しなければならない訳だが……ここで剣の達人のリスクである、「急所意外に当てたら効果半減」が響いてくる。

 ただでさえ堅い外殻を、弱体化補正が入る攻撃で破壊せねばならないのだ。

 

 或いは、明確な弱点が無い相手であったら?

 

 

 使えないとは言わないが、極端なスキルだ。

 ……ミタマのスキルって、オンオフできないんだよなぁ…。

 

 代わりに、弱点を明確に突ける相手への攻撃力、殲滅力は一気に跳ね上がったと言っていいだろう。

 具体的な効果はこれから検証する必要があるが、使いこなせば途方も無いプラスになるのは間違いないだろう。

 

 上手い活用方

 

 

 

 

 

 

 

     ユニスが起きて、続きを誘っているのでこれまで

 

 

 

 

 

 

HR月ロアルドスの竜田揚げ日

 

 弱点が無いなら、弱点を作ればいいじゃない。

 

 

 

 …それが出来るなら苦労はしねぇよ。

 弱点とは言わないまでも討鬼伝世界には幾つか相手の防御力をダウンさせる技があるから、これを試してみたんだが…駄目か。

 手甲の赤熱化と、ミタマ隠スタイルの秘針を試してみたのだが、剣の達人の効果範囲には含まれないようだった。

 

 ただ、弱点を突けた時の効果は本当に凄まじい。

 モンハン世界だと、物理的に明確な弱点を持っている相手は珍しいので、属性攻撃で弱点を突く事になるが…この前なんか、大剣の溜め斬り一発でレウスのシッポが千切れとんだ。

 そこまで強力な武器使ってた訳じゃないのに。

 

 …あれ、でも待てよ?

 GEのゲームシステム的な話になるけど、あのゲームのクリティカルヒットは確率じゃなくて、「何処にどの属性を当てたか」で決まっていたような気がする。

 武器にも会心率なんてステータスは無かったし、そもそもクリティカルヒットが確率で発生すると言うなら、剣の達人は会心率が桁外れに高確率でないと、とても使い物にならないだろう。

 今まで何の疑問もなく、3つの世界のクリティカルヒットを混同していたが…ひょっとしなくても、別物?

 

 

 …ちょっと試してみよう。

 ミタマスタイル「攻」の軍神招来を使えば、全ての攻撃がクリティカルヒットになる。

 これが剣の達人にどう影響されるか…。

 

 もしも、GE世界で言うクリティカルヒットが、他2つの世界のクリティカルヒットと別物だった場合…。

 GE世界的クリティカルヒット(つまり弱点攻撃)×他2つ世界のクリティカルヒット(軍神招来による、100%の会心率)×剣の達人というコンボも可能かもしれない。

 

 

 

 

HR月ユニス嬢の女体盛り日

 

 

 ユニスの連休が近いので、この際だから何処かに遊びに行く事になった。

 やはり泊りがけがいいかな?

 

 …いや、ユニス……ヴォルガノスを見に行きたいって、狩りでもないのに狩猟区に入れないから。

 水族館にも居ないって。

 大体この世界の水族館、水族館というよりは中が見える生簀じゃないか。

 

 でも、海に行くっていうのはいいかもなー。

 ユニスの水着も拝めるし、この前の潮島では全く泳げなかったし。

 ちゃんと安全が確保されている海でなら、思いっきり泳いでみたい。

 ……そういえば、3つの世界で泳げる海があるのって、多分この世界だけだよな。

 そのクセ、GE世界では水着とか売ってるんだから妙なものだ。

 ………プレイ用か?

 

 ユニスも、最後に海に行ったのは随分前らしい。 

 …泳ぐよりも釣りの方が好きらしいが、まぁそれならそれで構わない。

 水着が拝めなくても、のんびり釣竿を垂らすのもいいだろう。

 普段は採取クエストで釣りをする事はあっても、常に回りに気を張ってるし。

 

 よし、今から旅館の予約だ!

 温泉もあれば尚良し!

 

 …なぬ?

 海の近辺の旅館に温泉は無い?

 いやでも探せば…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユニスが言った通り、温泉のある旅館は無かった。 

 代わりに、ユニスおススメの旅館に泊まる事になった。

 手続きは、事務仕事ついでにユニスがやっておいてくれるらしい。

 

 よく旅館の名前まで覚えてたなーと歓心したら、「受付嬢は……伊達じゃない…?」と何故か疑問系で胸を張られた。

 ……最近、ちょっと育ってきてるような気が…。

 それはともかく、流石は受付嬢。

 この世界の受付嬢は、幅広い知識と教養が必要とされる人気職だと聞いていたが…事実だったらしい。

 ちょっとユニスを見直した。

 

 

 

HR月モスのトンカツ日

 

 遊びに行く約束がフラグでデスワ~~~……してないよ!

 しそうになったけどしてないよ!

 いや、モンスターに襲われたんじゃなくて、運搬中に大樽爆弾Gが落下しそうになったのだから洒落にならない。

 一発くらいなら耐えられると思うが、連鎖したらミタマ「防」でも防ぎ切れそうにない。

 

 ふー、危なかった。

 昨日、ミタマ「賭」の実験でおみくじ大凶が出たのがやばかったか?

 

 狩りそのものは順調に終わった。

 今日の相手はガノトトス。

 

 …うん、アレだな。

 コイツは近接武器で狩ろうとしちゃアカンわ。

 今までは距離を取って遠距離から貫通弾で狩っていたので楽だったが、接近戦となると意外と厄介だ。

 巨体だから攻撃力高いしタフだし、何よりあの瞬発力は何だ。

 本当に水棲生物なのかアイツ?

 水の中では、普段は足なんぞ殆ど使わないだろうに……使わない部位は退化するもんだぞ。

 

 地上で戦った時、よもや本当に亜空間タックルを使うとは思わなかった。

 一瞬本気でナニが起きたか分からなかったよ。

 短距離とは言え、視認すら難しい速度で間合いを詰めてのタックル。

 こんなおっそろしい技持ってたとは…。

 

 唯一の救いは、超速度で間合いをつめた後、実際にタックルする前に速度を落とす事だろうか。

 多分、あの速度のままでタックルしたら、止められずに確実に転倒してしまうからだろう…。

 そのまま行けば、転倒する代わりに殆どのハンターを一撃必殺できる、とんでもない攻撃が出来上がってしまうが。

 

 とにかく、ガノトトスとやり合う時には遠距離確定。

 どうしても接近戦でやるなら、あのタックルに対して何か防衛策を設けねばなるまい。

 

 

 

 

 

 さて、そんな小難しい話は後回しにして、明日から旅行だ!

 海だ! 水着だ釣りだ!

 勿論夜はシッポリと!

 

 ユニスも今日は自宅に帰って旅行の準備をしているし、こっちも色々と準備がある。

 …夜に使う為のアレやコレやを密かに持っていかねばな。

 

 

 

 

 

 まぁ状況によっては昼にも使うが。

 街中で。

 

 

 

 と言うか、人間の欲望って業が深いな…科学技術なんぞロクに発達してない世界なのに、R-18御用達のアレやコレやはしっかり作られてるんだから…。

 

 



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23話

HR月ヤオザミのカニ鍋日

 

 実に快晴。

 過剰な程に。

 真夏日和だねぇ……ちょっとくらい雲があっても良かろうに。

 

 熱中症にならないよう、麦藁帽子を被ったユニスと馬車に揺られて数時間ほど。

 穏やかながらも単調な道程にユニスが飽きてきた頃を見計らって、セクハラ…と言うか服の下にちょっと仕込みました。

 恨みがましい目をして腿を抓られましたが、最終的に悦んでいたので良しとする。

 

 セクハラして遊んだのは、道中の1時間だけだ。

 爽やかかつ健全な旅行もそれはそれで楽しいしね。

 …そういうのがあった方が、いざドロドロした事をする時に落差が楽しめるでしょう。by 霊山にあった解説書。

 

 

 

 という訳で、健全に旅行を楽しみました。

 KENZENじゃなくて、普通の健全に。

 

 ユニスはやっぱり泳ぐよりも釣りの方が好きらしく、水着の上にパーカーを羽織って砂浜から投げ釣りしていた。

 俺は軽く泳いだ後は、近場から適当に食べられるキノコとか拾ってきて、ユニスが釣った魚と一緒に料理してた。

 二人で軽く酒飲みながら食べて、日が暮れる前に旅館へ撤収。

 

 旅館の飯は美味かった…流石にユニスがオススメするだけの事はある。

 先輩の受付嬢に教えてもらったらしいが、お土産買って行かないとな。

 

 と思ったら、止められた。

 俺から、と言うのは止めておいてほしいそうだ。

 ユニスが買ってきた、という形にすると。

 

 どういう事かと思ったら、ユニスは最近、受付嬢の中で少々嫉妬されているらしい。

 別にイヤガラセがある訳ではないが、そうなりそうな可能性は潰しておきたいらしい。

 つまり、「私のオトコからのお土産だぞ~」とは言いたくないそうな。

 何故に…と思ったら、アレだ。

 

 

 

 

 皆様、出会いが無いらしい。

 

 

 

 

 要するに一人だけ男作りやがってコンチクショウって事?

 まぁ、俺もこんな状況に来る前は独り身で彼女居ない暦=年齢だったんで、理解はできるが。

 と言うか、あの人達って朝から晩までクエストの受付窓口に立ってるからなぁ…。

 そりゃ出会いも無いと言うか、そもそもいつ休んでるんだって話である。

 

 そんな訳で、嫉妬されつつもユニスは「ふふふ…」と意味深な笑いを漏らしつつ、優越感を感じているらしいが。

 …ま、程々にね。

 

 

 さて、明日は遠泳の約束もしてるし……今日の夜は激しい方向じゃなくて、ねちっこくネトネトした、中年オヤジっぽい方向で楽しもうと思う。

 さっきから、風呂から上がったユニスが上気した顔でチラチラ見ている。

 焦らすのもこれくらいでいいだろう。

 

 と言うか俺が我慢できん。

 旅行の夜の醍醐味解禁じゃー!

 

 

 

 

 

 

 その前に枕投げな。

 

 

 

 

HR月ドスゲネポスの卵チャーハン日

 

 

 昨晩も今日の昼も、それぞれ堪能させていただきました。

 いやー、エロもいいけど健康的な運動もいいね!

 エロもある意味健康的な運動だけど、昨晩のは健康的ではあっても不健全かつ背徳的だ。

 

 さて、今日はちょっと健康的に遠泳して、アオカン…は人が居ない場所を確保できなかったので無し。

 青姦は人が居るけど人目が無い場所に限る…。

 まあ、個人的な拘りはともかくとして、ユニスと一緒に気が済むまで泳いだ。

 ビーチの伝統・キャッキャウフフもしてみようかと思ったが、お互いにキャラじゃないので自重。

 それよりも、ダイビングについて話したらユニスが食いついた。

 と言うのも、水の中に長時間潜れる装備と言うのは、一般には普及していないらしい。

 

 …まぁ、鍛えに鍛えたハンター連中は生身で潜ってるしな…。

 しかも肺活量が波紋使いかってレベルだし。

 

 う~ん、という事は酸素ボンベとか開発したら一攫千金のヨカーン?

 …ハンター向けに戦闘用の頑丈な装備にするか、それとも安全が確保されたビーチの観光用にするかが問題だな。

 まぁ両方開発すればいい訳だが。

 俺にそんな知識がなくても、GE世界に行けば多分簡単に設計図が入手できるだろう。

 あの世界に泳げる海があるのかはイマイチ分からないが、過去にそういう技術があったのは確かだろうし。

 

 

 まぁそれはそれとして、ユニスとしっぽり楽しみました。

 健全から、スパイスとしてエロスまでもう満喫しまくった。

 泳ぐだけ泳いで、力尽きて(俺の場合は30秒くらいで治まるスタミナ切れだが)砂浜に寝転がったり、回復するまでイチャイチャしたり。

 船をチャーターして、腰が抜けたユニスと二人羽織状態で釣りしたり。

 

 それはもう、色々と。

 

 

 ……で、薄々予想してたけど……まぁ、そういう事っぽいなぁ…。

 

 

 

 ユニスも確信を持ったっぽいし…。

 ……ま、いいか。

 取り敢えずはこの旅行を楽しもう。

 お互い、今は好きあってるのは事実なんだからね。

 

 

 

 

HR月リオレウスの姿揚げ日

 

 この2日間海ばっかりだったので、地上を散策してみた。

 観光地らしく、喰い歩きできる店が沢山ある。

 

 うーん、もう少し来る時期が遅ければ、祭が開催されていたらしいのだが…残念。

 ユニスは独特な喋り方のリズムを除けば、ガイドとしても優秀だった。

 しかし受付嬢の仕事に、観光地の名物の知識が何処で必要になるのかは疑問である。

 

 観光名所を幾つか回り、武器職人達が槌を振るっているシーンや、風光明媚な光景を堪能する。

 …だが沈んでいく夕日がヴォルガノスみたい、という意見には同意しかねるぞ…。

 確かに海を溶岩と見立てれば、夕日がヴォルガノスの頭の先端と言えなくもないが。

 

 …今日は普通に健全なお付き合いだった。

 夜はこれからだが、特にアブノーマルな事は無しの方向で。

 …ユニスから欲しがれば話は別だが。

 

 明日は昼からメゼポルタに帰る。

 まぁ、中々楽しめた旅行だったんじゃないかな。

 帰った後、どうなるかは……微妙な所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HR月ガブラスの刺身日

 

 

 メゼポルタに帰ってきたら、大騒動になっていたVer.2。

 今度はシェンガオレンかよ…。

 えらく短期間でデカブツが襲来してきたな。

 

 接敵はまだだが、早ければ明後日にはメゼポルタに到着してしまうだろう。

 勝負は明日だ。

 現在戦線と砦を構築中。

 ラオシャンロンの時と同じように、殆ど機能の無い即席の砦になるだろう。

 

 

 …シェンガオレンは確かアレだ、ゲームでは公式狩猟試験になってたと思うが……常識的に考えれば、放置すれば街に多大な被害を及ぼすようなモンスターの討伐を試験にする訳がない。

 試験をする時に都合よく出現する訳でもないだろうし。

 どちらかと言うと、撃退に貢献した結果、ハンターランクが上がる…の方が正確な表現なんだろう。

 

 さて、シェンガオレンと戦う為の準備は殆ど整っているからいいとして…。

 

 

 

 

 

 ユニスの事だ。

 いや別にフラれたとかそーいう話ではない…誰だ、今異次元から舌打ちが聞こえたぞ。

 

 …とは言え、ある意味それに近いか? 

 おかしな話かもしれないが……なんで俺がユニスをこんなに気に入ってるのか、旅行中に理解した。

 

 

 ユニスは俺と同類だ。

 他者に対して心の底から心配をする、情の深い一面を持っている反面、誰かをラブの意味で好きになる事は多分無い。

 …これについては在る意味納得だけどな…あまりに情が深い人間が、ハンターみたいな死亡率の高い職業の受付嬢を続けていけるとは思えない。

 

 

 俺と付き合っているのも、恋愛感情によるところは殆ど無くて…まぁ切欠が切欠だったから無理もないが…、単純に気持ちいい事が出来るから、そうしないと禁断症状が出るからだ。

 一緒に過ごしている内に、或いはネチョしている間に互いに情が移っているのは事実だが、それはどちらかと言うと道端で犬や猫が懐いてきているのを見ているような感情だろう。

 俺が別れ話を切り出したり、或いは居なくなったりしても、悲しみはするだろうが、それが長続きする事はないだろう。

 …どちらかと言うと、禁断症状をどうするかで悩みそうな気がする。

 

 そんなユニスだから、俺としても気楽に付き合っていられる。

 デスワープした後、あれからユニスがどうなったのかとか、悩まずに過去の事にできる。

 

 ユニスを馬鹿にしていると思われるかもしれないが、この辺についてはユニス自身も自覚している。

 事実、旅行の帰りにこんな会話があった。

 

 

「ま、楽しめたかな」

 

「…あなたと…同じ程度、には…。

 ……でも、やっぱり」

 

「あー……うん、確かに…。

 嫌いになった?」

 

「別に…そっちこそ…」

 

「俺は別に……まぁ、付き合い始めた切欠が切欠だし。

 本当にいいのか?

 変な言い方だけど、大人のオモチャ扱いだろ」

 

「…お互い様…。

 それに…お互いに、こんな扱いだけど……私なりに好きではある」

 

「…お互いにね」

 

「じゃあ…これまで、通りで」

 

「ん、おっけー」

 

 

 

 …まぁ、そんな訳で納得ずくの上でお付き合いを続ける事になりました。

 続けていけば、いつかはどっちかからラブが出てくるかもしれないし。

 

 …俺がデスワープした後に備えて、オカルト式の自慰のやり方を教え込んでおくか……それで乱れる所も見てみたいし。

 

 

 

HR月キリンの腿肉のタタキ日

 

 シェンガオレン戦は弓に限る。

 足を無理に破壊しようとしなければ、後は火力の問題でしかない。

 

 今回もラオシャンロン戦同様、ハンター総出で攻撃しまくっている訳だが、前回に比べると気楽なものだ。

 何故って、今回は上位ハンターが結構居るからな。

 だから今回は、普通に弓を射掛けまくって、一般ハンターに埋もれようと思っていたんだが……。

 

 

「よう、今日は何をやらかすつもりなんだ? ユニスサントクッツキヤガッテモゲロ」

 

「またトンでもない事するんだろ? 期待しているぜ。 モゲロモゲロモゲロ」

 

「奇人の名を貶めるなよ…。 トッコウシテバクハツシテシマエ」

 

「偶には俺に突き合ってくれてもいいんじゃないの。 ウホッイイハンター」

 

「おっ、久しぶりだな! 一緒にシェンガオレンを駆逐しようぜ!」

 

「死ね。氏ねじゃなくて死ね。 ユニスサントイチャイチャシヤガッテ」

 

 

 ……超期待されておりました。

 くっ、芸人魂が騒ぐ…!

 俺芸人じゃないのに!

 

 

 

 畜生、やったらぁ!

 

 

 という訳で、崖の上からシェンガオレンの口に大樽爆弾Gをダンク!

 超!エキサイティン!!

 

 …まばらな拍手が虚しかった。

 もう慣れたのか!

 ダンクしてから一緒に爆発しなけりゃ笑いは取れないのか!

 流石に地上からのジャンプじゃ、シェンガオレン本体には届かないよ!

 

 

 他に何かあるかなー。

 持ってきたの弓だからなぁ…………あまり派手なアクションが無い……あ、そうだ。

 討鬼伝世界の呪矢を使って、変態的軌道を描く矢はどうよ?

 ……意味不明な現象には見えるだろうけど、派手さが無いな……あ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪矢に小タル爆弾を吊るして、複数同時発射。

 試してみたら上手くいった上手くいった。

 何個か着弾前に爆発したんで、まるで花火のようになってしまった。

 爆発の中から飛び出て、煙を引きながら飛んでいく矢も中々カッコイイ。

 板野サーカス乙。

 爆炎に色が付いてれば完璧だったんだがなー。

 

 まあ、驚きの声は上がったので良しとする。

 …大タル爆弾Gダンクの方が派手だと思うんだけどね?

 

 

 

 

HR月チャチャブー族に伝わるキノコ料理日

 

 上位ハンターが揃うと、流石に撃退が楽だ。

 シェンガオレンはアッサリと逃げていきました。

 

 が、問題はそこではない。

 ラオシャンロン、シェンガオレンと短期間に続けざまに襲撃された。

 しかも話を聞いてみると、奴らは同じ方向から来たそうだ。

 ラオシャンロンは近場の火山に埋まっていたからまだ分かるとして、シェンガオレンも同じ方向から来たのは偶然なのだろうか?

 

 …確かラオシャンロンって、ミラボレアスから逃げているって設定があったような…。

 災厄の先触れって呼ばれるガブラスは、もう狩猟地区によっては日常的に見かけるレベルになってるし。

 

 

 …やっぱ来るかな?

 いやでもいきなりミラは無いよな…。

 災厄ってミラに限らず、古龍全般の事だと思うし。

 

 古龍研究所や観測所から情報をもらえればいいんだけど。

 研究所・観測所からの古龍の情報は、基本的にハンターランクによって閲覧を制限されている。

 これをハンターがムチャをしない為・住民の混乱を避ける為と取るか、古龍の情報を独占していると取るかは場合によると思うが…。

 仮に俺の予想通りに、古龍が大挙して押し寄せてくるとなると……住民の混乱どころじゃ済まないよなぁ…。

 

 

 

 なぁ、机の下で咥えこんでるユニス、何とか情報を取れないかな?

 

 

 

 

 無理、だそうな。

 まぁ、受付嬢で優秀って言っても、それで特別なコネが出来る訳じゃないしな…。

 むしろ優秀だからこそ、ルールに外れるような情報漏洩は出来ないか。

 

 それに、どっちにしろ今の俺では知った所で何もできない、か…確かに。

 俺よりもずっと腕のいいハンターは何人も居るし、そっちの人達が対処に当たる事になる。

 …うーん、自分でやらなきゃイカンと思い込んでたか。

 

 しかしそうなると、ストーリークリアはどうなるのだろう?

 デスワープの繰り返しから抜ける方法だと考えていたんだが…。

 

 

 後回しでいいか。

 先の見えないMH世界より、他の2つの世界をどうするかが先決だ。

 問題は簡単に片付く物からさっさと片付けるといい、と何かで読んだしな。

 

 

 

 

 

HR月ユニスのわかめ酒(蜜入り)日

 

 ふぅ。

 自分で悶えるユニスも中々…。

 とりあえず、これで俺がデスワープしたとしても、悶死する可能性は減ったと思う。

 と言うかオカルト式性行為、タチが悪すぎる…。

 

 これだけ好き勝手やっといて何だが、多分アレは相手の方にも心得を求めるタイプだ。

 お互いに吸い尽くされないよう、溺れないようにコントロールしながらナニするのが本来のやり方なんだろう。

 …その辺の解説は、すっかり忘れてしまったが。

 

 その分、相手を一方的に蹂躙するとなると、これ程効果的な術は無いと思われる。

 相手にも心得る求める、というのは、それだけ強力な証拠なんだしな。

 

 さて、今日から10日間ほど遠征だ。

 ユニスにも禁断症状が出ないようにタップリ詰め込んできたし、心置きなく行ってこれる。

 今回は、どっかで聞いた事がある村……もうぶっちゃけてしまえば、ポッケ村に遠征です。

 

 ああ、あの名作が思い出される……ダンナさんの心眼くだちぃ。

 ダンナ酸でも可。

 

 遠征して何をするのかと言うと……調査である。

 調査であるのだが……実際に何を調べろと、明確に指示されてない。

 

 

 なんだそりゃ…と思うだろう。

 俺だって最初は思った。

 が、依頼主の名前を見て嫌でも理解せざるを得なかった。

 

 だって古龍観測所だったし。

 

 古龍観測所、文字通り古龍…古龍に限らず危険なモンスターの居場所や生態を遠距離から観測し、その危険を知らせ、或いは研究所に情報を流す。

 それが調査を依頼するなんぞ……。

 

 

 ここに古龍が来るって言ってるようなものじゃないか。

 ゲーム的に考えれば、ここはMHP2…つまり数多の古龍に襲われる、とんでもない村だ。

 ……いや、他のタイトルでも古龍が山ほど出てくる事を考えると、このポッケ村に限った事じゃないかもしれないが。

 

 メゼポルタならまだいい、例え古龍に襲撃されても、腕のいいハンターが何人も居る。

 だがポッケ村は…。

 ゲームの設定通りなら、ハンターと言えるのは主人公と、精々が教官くらいだったはず。

 

 

 

 …援軍は期待できない。

 この調子だと、10日の遠征という期間も当てになるかどうか。

 

 …ユニス、すまんが戻れないかもしれない…。

 

 

 

 

HR月ポポカツ日

 

 嘆いてばかりもいられない。

 とりあえず情報を集めたところ、当面問題になっているのは、ゲーム同様ティガレックスらしい。

 地方による個体差もあるから何とも言えないが、下位のティガなら問題ないと思う。

 

 さて問題の古龍だが……ゲーム通りなら、アカム銀行…もといアカムトルム、ウカムルバスに、ミラボレアス3種。

 ……うん、勝てる気がしないね!

 というか俺下位なんだけどG級相手が前提とかどうよ。

 

 

 どう考えても太刀打ちできない。

 そもそも下位ハンターだから、依頼を受ける事もできない。

 勝手に出撃するという裏技、或いは採取に行ったら道に迷って…という嘘も仕えなくはないが、どっちにしろ遭遇して5分も経たない内にGE世界に飛んでいるシーンしか想像できん。

 俺にやれる事があるとすれば、アカム・ウカム・ミラその他古龍種の情報を少しでも集め、G級ハンターをこの村に派遣してもらうよう促すくらいだ。

 

 さし当たって、調査をスムーズにする為、問題になっているティガレックスを片付けるとしよう。 

 

 

 

 ああ、そうそう。

 G級受付嬢のシャーリーさん、ナイスバディも実にG級でした。

 ユニスが居なければお近付きになりたかったが…まぁ無理か。

 あの人、多分ユニス以上に受付嬢のプロだわ。

 

 

 

 

 

HR月ファンゴの肉じゃが日

 

 

 ティガはサクッと片付きました。

 

 

 

 が、2体居るなら居ると言ってよ受付嬢!

 …何、確認が取れていなかった?

 マジかよ…。

 

 まぁ確かに、この村のハンターは教官くらいだったし、調査にも限界があるのは分かるけどさ。

 固まって行動していたんじゃなくて、バラバラに動いてたし、良く似た個体だったし、分からないでもない。

 

 

 一体を追い詰めた辺りで、2体目が掟破りの乱入かましてきやがって、流石に2体同時はヤバかった。

 ゲームと違って、流石に逃げるのも一筋縄ではいかない。

 モンスターのマップ移動に制限なんぞないし、ティガレックス自身も結構鼻がいいのでしつこく追いかけてくる。

 …かなーり怒ってたなぁ…ひょっとしてあのティガレックス達、夫婦だったりするんだろうか?

 ………卵とか産んでないか、調査が必要だな。

 

 

 ともあれ、閃光玉・煙玉で姿を見えなくして、嗅覚を潰す為にこやし玉をぶつける。

 …GE世界に行った時に、怪力の種の栽培に使えるかと思ってたんだが…意外な所で使い所が来たもんだ。

 その後、ティガレックスに見つからない場所で暫く様子を見てたんだが、ずーっと一緒に行動していた。

 

 …となれば、ここはアレだ。

 二虎競食の計、だったか?

 それとも単なる仲間割れ作戦か。

 

 

 まず、ティガレックスに比較的近いところに居たポポを一体倒す。

 勿体無いので生肉をちょっとだけ剥ぎ取って、小型爆弾を幾つかドン。

 この音で近寄ってきたティガレックスを、隠れて狙撃。

 肉を目の前にして気が立っていたティガレックス達は、後ろからドツかれて敵かと思い…しかしそこには何も居ない。

 気を取り直して食べようとすると、また後ろからド突かれる。

 

 ちなみにここで活躍したのは、討鬼伝世界の呪矢。

 ちょっと距離が離れていても、目視できればホーミング性能の高い矢がすっ飛んでいってくれるのだ。

 

 

 そしてティガレックス達は思う訳だ。

 「この肉を独り占めしようと、もう一体のティガレックスが邪魔をしている」と。

 そこから先は、もう酷いもんだった。

 仕掛けておいてなんだが、夫婦の絆を引き裂いてしまったかもしれんな…。

 

 

 元々気性が荒いティガレックス2匹とは言え、これ程上手く行くとは思わなかった。

 一体はかなりボロボロの状態だったので、お互いに深手を与え…とはならなかったが、残り1体になったのなら何の問題もない。

 そのまま討伐して終了だ。

 

 …高いところから攻撃するのに、神機銃形態の脳天直撃セガサ…もとい脳天直撃弾がかなり使える。

 上手く調節してやれば、崖の上から自由落下方式で狙撃…なんて事も出来るかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あと、ティガレックスの鳴き真似は難しいね。

 声の大きさ的意味で。

 普通の唸り声でもかなり大音量でないと通じないよ。

 

 

 

 

HR月モノブロスのハツの焼肉日 

 

 

 ティガレックスが片付いたので、村は結構賑わっている。

 俺も結構チヤホヤされたんだが……すまない、本当に問題なのは片付いてないんだ。

 とは言え、それを言っちゃう訳にもいかない。

 名目上、俺はティガレックスを狩る為に派遣された…という形になっているらしいしね。

 

 それにチヤホヤされると言っても、所詮は下位ハンター。

 受付嬢達は苦笑していた。

 …そーだね、上位に行くと下位ティガより手強い先生とか居るもんね。

 

 下位が許されるのは小学生までだよねー。

 ……小学生がリアルの狩りをやれるんならな!

 あと子供の方がゲームスキルが高い事は稀でもなんでもなくよくあるらしい。

 

 まぁ、上位認定されている地域はちょっと遠いから、村の景気が良くなったのは事実なんだが。

 

 

 

 で、肝心の古龍の調査なんだが…どうしたもんだろうねー?

 イの一番に見つけたのは、クシャルダオラだ。

 と言っても目視した訳じゃなくて、天気予報(アイルー提供)を見ていたら、散発的に猛吹雪が吹き荒れる地域があるそうな。

 しかもその地域が、徐々に移動してポッケ村に近付いているとか。

 

 …次に発見したのは、ヤマツカミらしい痕跡だ。

 これまた実物を目視した訳ではないが、雪山の山頂(クシャルダオラの抜け殻っぽいのがあったんだが…ひょっとして脱皮の為にここに来ようとしているのか?)で双眼鏡を使って色々見回していた時だ。

 ポッケ村の方向を向いた時、偶然窓に移るシャーリー嬢の着替えシー……もとい!

 

 とある山に目を向けた時、なんと言うか……山が陥没しているのが見えた。

 他の部分は木々があったりなだらかな傾斜だったりするのに、そこだけまるでクレーターのように凹んでいる。

 ラージャン辺りが地面を思いっきり殴りつけた…にしては広範囲すぎる。

 クレーターの外側に、何かが壊れた形跡も殆ど無い。

 …つまり巨大な何かがあそこにクレーターを作り出し、そして浮遊して去ったと考えるのが一番納得できる。

 

 ……うんヤマツカミですねきっと。

 

 

 他には…これってひょっとして?という程度の、確証が無いモノなら幾つか。

 …ミラボレアスの形跡でも見つかれば、一発でG級ハンターを派遣してくれると思うんだが……ああ、でもそんなに近付かれてたら、ハンターが来る前に滅ぼされるな。

 アカムやウカムは、伝承としてはここに残ってるんだけどな…流石に証拠が無い。

 メゼポルタの竜神族の長老に聞けば、かつて戦ったアカム…いやウカムの方だっけ…?

 とにかくアカムウカムがまだ仕留め切れずにこの辺で休眠している、と証言してくれるかもしれないが、再活動を始めると言う点については証拠は無い。

 

 うーん、どうしたもんかな。

 古龍の情報だって、たった二つだけど得られたのは間違いない。

 特にヤマツカミの痕跡は、適当に双眼鏡で見回してたらピンポイントで目に入るという幸運の賜物だ。

 これ以上をどうやって求めるか…。

 

 

 




おかげさまで、ようやく無線LAN環境を構築できました。
アドバイスをくださった皆さま、本当にありがとうございました。
やはりモデムにルーター機能が付いてなかったのが原因っぽいです。
ブリッジ機能じゃ使えないのかなぁ…。


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24話

ようやくアップデートできたので、GE2防衛班の帰還をやってみる。

…討鬼伝に比べて速い!
ジャンプじゃなくてダッシュがしたいんだって!
アイテムのボタンはそれじゃない!
ガードコマンドが違うって!

…うん、狩りゲーではあっても完全に別系統だと認識しました。


HR月雌火竜の尾(逆鱗付き)の生姜焼き日

 

 確かポッケ村に出てくる古龍っつったら、クシャルダオラ、ヤマツカミ、ナナテオ夫婦、ラオシャンロン、オオナヅチ、キリン、そしてミラトリオ。

 …なんでアカムウカムが古龍じゃないのかはともかくとして、こいつらを探すのはどうするべきだろうか。

 クシャとクトゥルフっぽい蛸はもう痕跡を見つけたからいいとして。

 

 オオナヅチを探すのはまず無理だろう。

 何せ透明になってるんだし、痕跡らしい痕跡を残しそうにない。

 

 こいつらの中で比較的痕跡を残しそうな奴…。

 

 まぁ筆頭はラオだよな。

 こいつは痕跡がどうとかいうレベルじゃないが。

 

 ミラボレアスは無理。

 遭遇した時点で、痕跡も残さず吸収されるら……そういえば、アイツとやり合うのはシュレイド城とかいう場所だったよな。

 何処にあるかだけでも調べてみるか。

 その周辺で村が消えていた、なんて事になったらまず大当たりだろう…あまり考えたくないけども。

 

 キリンは古龍にしては弱いのか、他の生物が逃げ出さない………ああ、そうか。

 古龍が近付くと他のモンスターは一斉に逃げるから、そういうナワバリの大移動が起こってる所を探せばいいのか。

 多分、ティガレックスが村の近くに出没したのもその為だろうし…。

 

 上位認定区画のギリギリまで近付く事になりそうだが、明日からはこれで行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

HR月この天鱗をどう料理すべきか…日

 

 

 前回の日記から、ちょっと間が空いた。

 と言うのも、上位認定区画ギリギリで色々と観測していたからだ。

 ベースキャンプに一週間近く篭りっきりなのは流石に辛かった。

 

 ユクモ村なら温泉に浸かりたいところだが、生憎この村の温泉は村のド真ん中でしかも露天だ。

 いやもう露天というか吹き曝しなので、入ろうとしたら公衆の面前でマッパにならねばならない。

 なんだこの露出用露天風呂。

 まぁ、どっちにしろ気温が低い為に、温泉の温度もあまり高くないのだが。

 既に単なる池である。

 

 それはともかく、やはりと言うべきか、モンスター達のナワバリ移動が始まっているようだ。

 今回や雪山や火山をメインに調べていたのだが、上位認定区画から下位区画へ移ろうとするモンスターが多数確認された。

 小型だけではなく、大型もだ。

 

 …そうなると、下位区画に上位モンスターが居座るという恐ろしい話になってしまうのだが。

 まぁ、上位区画の中でも弱い個体が流れてくるだろうから、ちょっとばかり初心者に厳しくなる程度で済む…とは思う。

 当面、ナワバリ争いに敗れた傷も癒えてないだろうし。

 

 

 それはともかくとして、これらを報告書にまとめ、古龍観測所に送った。

 これで依頼は完了である。

 古龍研究所が満足するかどうかはまた別の話だが、とりあえずメゼポルタに帰還する。

 …そういや、調査にかかりっきりでユニスに手紙も書いてないな。

 10日間……出立前に色々やって充分満足させていたが、禁断症状が出るか微妙な所だ。

 自分で慰め…もとい鎮める方法も教えはしたが、どれだけ効果があるのか検証もしないとな。

 

 明日の朝に出立する、と聞いて、村人達から幾らか餞別をもらった。

 こういう感謝は有りがたい。

 もう俺にできる事は無いが、なるべく早くG級ハンターが派遣されてくれますように。

 

 とは言え、G級達も上位ハンター達も、今はあちこち古龍の調査の為に飛び回っているらしいしな…。

 …最近メゼポルタにデカブツ襲撃が連続したから、そっちが優先されるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神無月鯖日

 

 

 

 …デスワープ。

 

 

 クソッタレが…。

 

 流石に今回のは本気で頭に来たぞオイ。

 と言うか俺が何処かから戻ってきたら、その度にメゼポルタが古龍に襲撃されてるってのはどういう巡りあわせだ。

 これがフラグとか主人公力というものか?

 遠まわしに言ってクソ喰らえだ。

 

 

 しかも今回は防衛に失敗したらしく、被害が……ユニスも行方不明と聞いて、つい頭に血が昇って特攻を掛けてしまった。

 

 

 …今度の相手はデカブツではなく、ルコディオラ…確か伝承では、光る粉塵とか呼ばれてたっけ。

 デカブツ襲来が続いた為、どうやら砦の増設をしていたようなのだが、それが裏目に出たらしい。

 MHFでの登場シーンよろしく、遠方から滑空して襲来し、砦を素通りしてメゼポルタに乱入、大暴れ。

 …これは流石に防ぎようがない。

 しかもメゼポルタのハンター達にとっても、ルコは初めて見る相手だった。

 上位ハンターが何人か居れば話は違ったかもしれないが、それこそ他の古龍に対応する為にあちこち飛び回っている。

 

 で、有効な反撃をするどころか、防衛陣を組む前に大暴れされてあの有様という訳だ。

 

 

 

 …にしても、頭に血が昇って突撃するとは…。

 自分自身でも意外だった。

 ユニスが死んだと決まった訳ではなかったし、仮に死が確定したとしても、俺としてはそこで激昂するよりも割り切って被害を減らす方向に動くと思っていたんだが。

 

 だって俺だし。

 人としてどうかと思うような、恋人を精々ペット程度にしか感じない外道だし。

 ………逆か?

 恋人が死ぬよりもペットが害される方がキレるのか?

 

 

 そもそも、そんなにユニスが気に入っていたのか?

 それとも、滅茶苦茶になったメゼポルタが?

 

 

 ……いずれにせよ、もうどうしようもできない事だ。

 デスワープしてしまった以上、またMH世界に戻っても全てがやり直し。

 ユニスも生きているし、メゼポルタも壊滅はしてない。

 今度は阻止できるように動くとしよう。

 

 …こうやって即座に割り切れる辺りが、人としてどうかと思う点なんだが。

 

 

 

 

 さて、それはそれとして。

 今回は苛立ちのままにオウガテイル達を虐殺して、そのままゴッドイーター達に合流。(上田さんも居たヨ!)

 宛がわれた部屋で日記を書いています。 

 

 今回は、特に何も考えてない。

 ユニスとの蜜月(ただし微妙に冷戦状態)に舞い上がってて、今後の事なんて考えてなかったからなぁ。

 まぁ無難に、前回同様違法研究所の生き残り云々で潜り込むとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 るこでぃおらはハメころす、これかくてい。

 

 

 

 

 

 

 

神無月秋刀魚日

 

 前回同様、適当な素材を渡してみたら榊博士から接触が来た。

 …だから要人がスラム一歩手前の場所を一人で出歩くなというのに。

 

 さて、ゴッドイーターになるまでの経緯はほぼ前回と同じだから省くが、今回はやってもらわなければならない事がある。

 この世界で作られ、黒爺猫に一発カマして以降出番が無かった杭君のメンテナンスだ。

 

 アリサの仇(この世界ではまだ生きてるけど)を取る為、黒爺猫にも大ダメージを与えられる最大攻撃力と言えば、相変わらずこの杭君なのは間違いない。

 違法研究所で研究されていたが、抜け出すときにティン!と来たのでかっぱらってきた…と称して、メンテを頼む。

 アッサリ引き受けてくれたが……えらく素直に通ったな。

 何か企んでるのか?

 …あの博士は常時あんな顔なんで、確信が持てない。

 

 そういえば、今回のループではアラガミ化抑制剤が切れなかったな。

 期間で言えば、今までで最高記録だったんだが…やはり美味いモノか瘴気がアラガミ化を抑制しているのか。

 とは言え、大分少なくなってきたのも事実。

 今回の世界で補充しておくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてそれはともかく出撃だ。

 無断で。

 

 

 

神無月リュウグウノツノガイ日

 

 

 久々にリンクバーストしたけど、イイもんだなー。

 MH世界で上位中盤にある程度慣れた為か、不意打ちに拘らなくても下位のアラガミなら普通に屠れるようになっていた。

 これでリンクバーストの高揚感も合間って、無双状態です。

 

 先ほど榊博士に呼び出され、明日からゴッドイーターとして正式に登録され、任務を受けられるようになる…と伝えられたのはいいんだが。

 予想もしてないタイミングでイベントがあった。

 

 そう、角を曲がるときにツバキさんとぶつかってラッキースケベ…な訳がない。

 ツバキさん…もとい雨宮教官程になると、曲がり角では無意識に気配を探ったり、誰か来ているようなら突き合わないようペースを調節するようなのだ。

 これ、当時は気付かなかったけど前々回のループで見てた。

 

 

 んじゃ何があったのかと言うと…榊博士に、直に問い詰められたのだ。

 杭君のメンテナンスをしている時に気がついたんだけど、と前置きされて。

 

 

 

「これは何処の『僕』が作った作品だい?」

 

 

 と。

 

 

 

 

 いやもう素で聞き返しましたよ。

 トボけるとかそう言う次元じゃなくて、博士が何を言っているのか本当に分からなかった。

 間の抜けた声を返す俺に、博士は淡々と説明した。

 

 

 どうも、メンテの為に預けた杭君が悪かったらしい。

 一流の技術者は、設計を見ればそれを作った者の事が分かる、みたいな話を聞いた事があるが…そういう話じゃなかった。

 

 このGE世界の技術者の伝統として、作った物に技師の名前を刻んでおく、というのがあるらしい。

 技師なりの自己主張なのか、それとも何かあった時に製作者を特定する為の処置なのかはともかくとして…。

 杭君にも、その例に漏れず何人かの名前が刻んであったそうだ。

 ただし目に見える外側ではなく、内部の中枢付近の部品に、フルネームで、日付までつけてキッチリと。

 

 

 …そりゃ不審に思われるわ。

 刻んである名前は全て極東支部の実在の人間。

 日付は数ヶ月分とは言え未来の日付。

 刻んである部分はそう簡単に手出しできるような部分じゃない。

 イタズラにしては大掛かりすぎる上手が込みすぎている。

 

 オマケに、榊博士は完全に確信を持っていたらしい。

 

 

「技術者の矜持にかけて断言しよう。

 これは確かに『僕達』が作ったものだ。

 設計の思想も、フレームに残る細かいクセも、ついでに刻まれた名前の筆跡も、全てが確かに僕達のものだ。

 だが、僕はこれを作った覚えは無い。

 それも当然かな?

 この刻まれた日付は未来のものだ。

 僕は未来に…数ヶ月内にこの子を作るんだろうか?」

 

 

 …こんな感じでジーッと見つめられながら淡々と語られました。

 かーなり怖かった。

 

 

 

 で、どうしたかと言うと……とうとうやっちゃいました。

 別世界の事も加えて、デスワープの事、多少なら未来の事が分かるのも話してしまった。

 

 …よもや打ち明ける人第一号がこの細目マッドとは………ヒロインが相手ならまだ格好がつくのに。

 

 流石に榊博士も一度には事態を飲み込めなかったらしく、暫く情報の整理をしたいと言っていた。

 また近い内に呼び出しがくるだろう。

 

 それまでに、相談したい事柄を纏めておくか。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出撃しながらな!

 ひゃっはーーーー!

 

 

 

 

 

 

 帰ってきたら復旧済みだったが、停電があったらしい。

 

 

 

神無月鮪日

 

 

 うむ、やはりこの世界に来ると出撃が捗る。

 この如何にも世紀末な世界のせいか?…2071年だが。

 それともやっぱり神機がアラガミ食わせろと叫んでいるのだろうか。

 

 突然登録された謎のゴッドイーターが、アホみたいな出撃率を叩き出し、日々それを更新し続けていると評判になっています。

 MH世界の上位に揉まれたからなー、もう下位依頼の相手は大抵狩れるぞ。

 しかも今の俺には、ミタマスキル『剣の達人」付きだ。

 弱点を付けない敵になると苦しくなるが、ミッションに出現する相手は説明文を読めば大体分かる。

 しかも下位のミッションなら、相反するような属性持ちはまず出てこない。

 …うん、ただでさえ短時間で片付いていた任務が、更に短縮されましたよ。

 

 最近はハンター式熟睡法の改良に成功して、半分寝ながら戦うという荒業も会得しました。

 眠りつつ狩りをしているので、後はメシさえ食えれば延々と狩りを続けられるぜ。

 

 相手が雑魚だから出来る事だけどな……居眠りハント、駄目ゼッタイ。

 ……ハタから見たら、ダメージ受けた端から超速度で回復するという制御ユニット・プラーナを凶悪にしたような感じになってるんだろうなー。

 代わりに受けるダメージが3倍になるけど。

 

 

 それはそれとして、榊博士に相談したい事を纏めてみた。

 

①このデスワープからの脱出法…流石に博士でも、現在あるだけの情報では解決できそうにない。

②杭君のパワーアップ&メンテナンス方法

③神機の装備に関するアレコレ

 

 

 現状、こんな所かな。

 ③は色々ありすぎて、どういう手順で相談するかが問題だが。

 とりあえず、神機の近接武器を、他の世界のものにできないかを相談してみよう。

 神機は銃形態は強力だが、近接武器は他の世界の物に比べるとどうにも貧弱なんだよなぁ。

 

 

 

 ん?

 神機の近接武器を、他の世界のに……って事は例えば討鬼伝世界の手甲を神機にできれば、アラガミをオラオラできる訳か。

 いいね。

 神と名の付く相手を拳で殴る。

 14歳くらいの少年が喜びそうなシチュエーションだ。

 

 そして俺も大好きだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 榊博士から呼び出しが来た。

 情報の整理が終わったらしい。

 明日の話がどうなるか、こればかりはやってみなければ分からない。

 

 

 

 

神無月鯛日

 

 結論から言うと、全面的な協力を得られた。

 マジで!?と思うだろうが、事実だ。

 …ただ、俺の事は支部長にも知られてしまっているらしい。

 一体何故?と思ったら、あのマッド早速杭君の試し打ちしてやがった。

 なるほど、この間の停電はソレか。

 それが切欠で、支部長にも俺の事を知られてしまったと…。

 

 

 …「デスワープとやらがあるからいいじゃないか」ってそういう問題じゃねーだろ!

 と怒ったら、ここでまさかのマッドからの常識人的指摘が入った。

 

 続きがあるからと言って、死を前提に考えている俺が言う事じゃない、と。

 ……まぁ、確かにそうだ。

 明確な「終わり」ではないとは言え、死は死だ。

 それを平然と受け入れて、それまでの積み重ねがリセットされても平然としていられる俺は、自覚できる程度にはイカれている。

 それが順応の結果だと言う事を差し引いてもだ。

 

 

 

 まぁいい、バレてしまったものは仕方ない。

 俺が大なり小なりイカれているのも、とうの昔に自覚はあった。

 ここからどうするかを考えよう。

 

 

 俺が未来の知識を持っている…ひいてはアーク計画の概要を知っているというのは、支部長も承知の上だ。

 普通なら速攻で消されそうなものだが、幾つかの条件と引き換えに榊博士が取り成してくれたらしい。

 

 即ち、「今回のループで計画の邪魔をしない事」。

 

 …リンドウさんの事もシオの事も、全く関与せず黙ってみていろ、という訳だ。

 さもなくば、榊博士からの協力は一切打ち切られる。

 

 「我々にとっては最初で最後の1回だが、どうせお前にとっては、何度もある繰り返しの内の一度にすぎない。安いものだろう?」という訳だ。

 反吐が出るね。

 特に俺の、ループを前提としたイカれた考え方を正確に突いてくるところが。

 

 だが現状、これを呑むしかない。

 もうアラガミ化抑制剤も残り少なく、体の中の瘴気だけではアラガミ化を抑えきれそうにない。

 感覚で分かる。

 

 この契約の元で、今回はどれだけ動けるか…。

 ……黒爺猫をブッ○スつもりだったが、これって契約の範囲に入るかな?

 微妙なところだ。

 

 

 

 

 

 さて、それはそれとして後で考えるとして。

 

 今までの悩みだった幾つかの事案を、榊博士は簡単に解決してくれた。

 やっぱ頭良くて地位があって技術的にイカれてる人は違うね。

 嫉妬する気も起きないや………ところでこの人、性欲とかあるんだろうか?

 生物学的に反応はしても、欲望とか別の次元で考えてる節がアチコチに見えるんだが。

 

 

 解決してくれた事案その①だが、まず杭君。

 これは技術者達の有志を募ってメンテナンス&改造中。

 出所は適当に誤魔化したそうだが、例の技術者が大ハッスルして改良中らしい。

 誰を代表者にするか決める為に設計図を渡し、読み解く速度を競わせていたらしいんだが……「この思想は俺にそっくりだ!」とか言って、あんにゃろうは一両日どころか3時間で全てを把握してきやがったらしい。

 …まぁ、世界は違えど設計者本人だし、設計図を読み解かせようとしたらある意味当然の帰結かもしれないが……うーん、この情熱……いや、もうここまできたらこう呼ぶべきだ。

 

 その欲望!素晴らしいッ!!と。

 

 

 いやもうホントそれくらいしか言えねーレベルだよ…。

 アンタ=前回本人の意思を引き継ぐ、いやもう凌駕すべく物凄い勢いで改良しまくっているらしい。

 前回も、前々回のあの人の意思を引き継いで、設計図以上の実物を作ってた人だったが……今回も前回以上の代物を作ってくれそうだ。

 多分次のループでもその次のループでもその次の次の次の次の以下略でも、脳汁ダダ漏れにしてでもその前の回を越える代物を作ろうとする人種だ。

 

 

 

 頼むから、威力よりもメンテナンス性とか撃った後も動けるような方向で改良してくれよ。

 まぁ威力だけ叩き上げても、それはそれでロマン力が上がるので構わんが。

 

 

 

 

 次に解決してくれたのは、神機の近接武器の扱いだ。

 他の世界に比べるとどうにも貧弱でドリルとかチェーンソーとかその辺の機械機械した昨日を盛り込まないと他の世界では使えそうになかったんだが。

 これを解決するには、2通りの方法があった。

 一つは今まで俺も考えていたように、他世界の武器をアラガミ素材と混ぜ合わせて、新たな武器を作る事。

 これなら神機に、近接武器の刀身が侵食される事はない。

 

 

 

 そしてもう一つの解決方法は、近接武器のナカゴを保護する為のカバーを作る事。

 なるほど、言われてみればアッと驚いてしまうほど簡単だった。

 刀身を一つ一つ作ろうとすると材料も必要だし、何よりGE世界でしか研究も変更もできない。

 しかし、刀身を差し込む部分だけを作ればどうか?

 無論、取り付け取り外しが簡単かつ手荒く扱っても壊れないようなそんな絶妙な機能は必要になってくるだろう。

 しかし成功すれば、神機一つでどの刀身にも対応できるような代物が出来上がる。

 

 …まぁ、神機に差し込んで使うような刀身じゃなけりゃ使えないけどね。

 …あれ、そうなるとGE2のスピアーとかハンマーとかどうやって使ってたんだ?

 アレはどう見ても神機に接続されちゃいないだろう……コードとかで繋いでるにしても、あれだけ振り回せば体に絡まるのは避けられない。

 あの辺を応用できれば、手甲型神機とかも実現できそうなんだが…。

 ………調べたいところだが、あれはまだ時期的に考えて開発されてない。

 

 様子見だな。

 

 

 

 

 

 更に、別の世界でリンクバーストできない点まで簡単に解決してくれた。

 リンクバーストは、そもそも神機がアラガミ…自分と同種の細胞を喰らう事で活性化する現象だ。

 レベル2、レベル3のリンクバーストともなると別の理屈が必要になってくるらしいが、この点については置いておこう。

 

 要するに、神機に“生きた”アラガミ細胞を食わせればいいのだ。

 単なるアラガミの素材を喰わせようとした事は、何度かあった。

 だが食いはするがリンクバーストは発動しない。

 何故かというと、その細胞が既に死んで、活動を止めているから。

 アラガミ以外の素材に至っては、その場で吐き出す始末だ。

 

 “生きた”細胞というのは…まぁ細かい定義を除くし、俺が元居た世界の定義とは異なると思うが、アラガミ細胞の場合は他者を取り込もうとする事だ。

 そして神機は、生きたアラガミ細胞のみを喰らうよう調整されている。

 死んでいるアラガミ細胞を、神機は喰わない。

 この辺を、神機の武器としての技術に応用しているらしいのだが、その辺はまぁいい。

 

 とにかく、生きたアラガミ細胞を食わせればいい。

 それはまだ活動しているアラガミからしか確保できないのだが、ここへ来て常識外の素材がそれを覆した。

 

 いや、常識外ではなく、文字通り世界の外の素材と言うべきか。

 

 

 討鬼伝世界の、物理法則を無視した素材が。

 

 

 

 榊博士が取った手法は単純なものだった。

 討鬼伝世界の素材と、アラガミの素材を混ぜ合わせる。

 そして食わせる。

 それだけだ。

 

 詳しい理屈は聞いてないが、「この世の物ではありえない」系の素材を混ぜ合わせると、アラガミ素材が異様な反応を示すらしい。

 恐らく、討鬼伝世界の素材の性質がアラガミ素材に伝染しているのだろう、と言われているが、この辺の検証は定かではない。

 

 例えば、討鬼伝世界のカゼキリから取れる素材の「風塵」。

 金色の粉塵を巻き上げて、ずっと吹き続けるつむじ風………想像しづらいだろうが、小さな風の玉っぽい何かの周りを、金色の塵が回っているものだ………を、GE世界の適当な素材に混ぜ合わせる。

 すると、その素材は何もしなくてもずっと微小な風を吐き出し続ける素材になり、なおかつアラガミ細胞は活性化を始めるのだ。

 

 …オカルトパワー全般を、所謂「気」…生命力のようなものだと仮定するなら、素材を混ぜ合わせた事で気が伝播し、それによってアラガミ細胞が活動を始める…という事も考えられる。

 

 

 理屈はともかくとして、死んだ筈のアラガミ細胞は、討鬼伝世界の素材によって活性化される。

 これを神機に食わせてやると、リンクバーストの出来上がりという訳だ。

 

 更に付け加えると、これによって異世界の素材を神機に食わせる事が可能となった。

 これを喰わせ続けていれば、神機がそれらの素材に適合し、何らかの形に進化する事も……例えばアラガミとは関係ない相手を喰らう事でリンクバーストするようになる可能性も考えられるらしい。

 

 まぁ、これに関しては「ひょっとしたら」というレベルだ。

 それより、そこまで神機が進化した場合、既存の神機と同じ扱い…例えばメンテナンスとか…でいいのかという問題も発生する。

 そこに至るまでのデータが残っているならともかく、デスワープしたらそれらのデータは全てオジャンだ。

 何らかの形で保存しておく必要がある。

 

 

 

 

 




いつかある分岐点。









おや? ミタマ・のっぺらぼうのようすが……!


=>そのまま見ている
  BBBBBBBB


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GE世界3~性と生と死の交流~
25話


マジ疲れた…。
接客業に限らず、水周りのトラブルは恐怖です。
トイレが使えなくなる上、自分達ではまずどうにもできない事が原因である事が多い。
どんな職場でも、トイレだけはキレイにしておかなければならないのですね…ガクッ


 

 

 

神無月鰯日

 

 

 諸々の問題を解決したり放置したりしてるが、今回のGE世界はどうしたものか。

 経緯はどうあれ、アーク計画等には干渉しないと契約してしまった。

 バカ正直に遵守する必要はないかもしれないが、リスクがデカすぎる。

 下手に反抗する素振りを見せれば、榊博士からの協力も打ち切られてしまう……。

 仮に契約を破って干渉するとするなら、最高のタイミングで横から殴りつけねばなるまい。

 

 にしても、支部長にしてはちょっと契約が曖昧すぎないかね?

 俺もどこまでやっていいのか分からないし、どんな制限があるのか明確じゃないから、妙な所で干渉してしまいそうなんだが。

 

 とりあえず、今回のループでの目的は、黒爺猫をブッ潰す事だ。

 それ自体は支部長の計画には何の関係もない…と思うのだが、リンドウさんの暗殺という意味では思いっきり関わっている。

 でもこれは別にアーク計画には含まれないよな?

 と言う事は、リンドウさんを救出しつつアリサの仇をヤッちゃってOK?

 

 アリサの洗脳をどうにかするのは?

 多分、支部長にとってアリサは手駒以上の物じゃないだろう。

 オオグルマ辺りは、自由に出来るオモチャとして(書いてて腹が立ってきたぞ、あの汚ッサン)として執着があるかもしれないが。

 アリサを催眠から解放する…方法はともかくとして、それを成した場合、アーク計画への干渉と看做されるか?

 

 

 

 ……ぬぅ、やっぱり明確な線引きがない分、どこまでやっていいのか全く分からん。

 もしやこれが支部長の狙いか?

 それともこうやって悩んで、どこまで動くか見極めようとしてるのか?

 

 

 

 …分からないし、現状で出来る事は無い。

 何せアリサが渡来してくるのだって、少なくとも数週間は先の事だ。

 世の中事前準備ほど大切な物はないと分かっちゃいるが、コネやツテもロクにない現状で、どれ程の事が出来るやら。

 事前準備と言うのなら、次のループに備えた方がまだマシか。

 

 

 

 

 

 まぁいいや。

 俺のオツムはそんなに出来がよくないし、あまり考え続けても休むに似たりで終わるのがオチだ。

 とりあえず体動かしに行こう。

 腹ごなしも兼ねて、グボロ・グボロを5~6体ナマスにしときますかね。

 

 

 

神無月平目日

 

 

 とりあえずツテを増やす事にした。

 アーク計画に関係ない、誤射姫様とかジーナさんとかなら文句も言われまい。

 ……いや、男と仲良くするのも勿論あるよ?

 タツミさんとかブレンダンさんとか。

 単にヤローよりもそっちと仲良くしたいってだけです。

 

 とは言え、半ばコミュ症っぽい俺から話しかけるのもムズカシイなぁ。

 やっぱりミッションに同行するところから始めるか。

 

 …うん、誤射姫さんなら多分簡単に一緒に行けるだろ。

 誤射されたくない人と交代すればいいだけだ。

 時期的に考えてまだ新人だろうし、ベテラン(ただしちょっと怪しい)が随行するのは不自然でもなんでもない。

 

 ……あれ、よく考えたら俺が誤射されますね?

 ゲーム的にはダメージは無かったけど、念の為にミタマを「防」にするか、「迅」にして空蝉を発動させておくとしよう。

 

 ジーナさんは………ゲーム的に考えて、何が切欠で誘えるようになったっけ……。

 よく覚えてない。

 

 

 

神無月烏賊日

 

 カノンさんと一緒の任務の交代を申し出たら、即諾された上に感謝までされた。

 デビューして一週間と経っていない筈だが、既に誤射姫様の名は轟いているらしい。

 

 …そして一緒に居たジーナさんに、「そういう趣味?私も撃ってあげようか」なんて言われましたよ。

 撃たれるよりも斬る方が好きです。

 突くのが好き?

 それは好きとかいう領域を既に通り越したナニカだ。

 

 何でこの二人が一緒に居るのかと思ったら、揃って甘いもの好きで気が合うらしい。

 ちなみに俺は塩っ辛いツマミになる物の方が好きだ。

 

 で、問題のミッションの方なんだけど……ジーナさんは流石の凄腕だ。

 ゴルゴのようにアラガミを撃ち抜いておられる。

 遠距離から一発でズドン。

 生憎一撃必殺にはならないが、それでも相当なダメージを与えられる。

 

 そして我らが誤射姫様は……うん、まぁ、何だその、まだルーキーだからか、思ってたよりはマシだったと言っておこう。

 あくまで火力的な意味で…そして誤射される側の意見としての「マシ」であって、誤射率がマシという意味ではない。

 性格的な意味での豹変も、まだテンパッたトリガーハッピー状態で納得できる範疇だ。

 

 

 恐らく、性格的な意味でも火力的な意味でも、どんどん深刻になっていくと思われる。 

 ………どうにかした方がいいのかな。

 キャラ的な持ち味が消される……のは気になるが、生死がかかった問題だしな。

 でもどうすりゃいいんだろうな…。

 

 ちなみにジーナさん的には、カノンさんの豹変は『アリ』らしい。

 自分が誤射されにくいスタンスに居るからと言って、恐ろしい話である。

 ジーナさんが掲げている、「アラガミとの生と死の交流」という価値観から見ると、カノンさんの豹変は「新たな交流の形」と見えるそうなのだが…………うん、頭で考えるのはやめよう。

 

 

 とりあえず、この二人と合同任務した結果、微妙に気に入られてしまったっぽい。

 また一緒に行こう、と裏カノンさん流のお言葉で誘われました。

 曰く、「ちゃんと吹き飛ばしておかないと、スッキリしないでしょう?」

 ……既に誤射ではなく確信犯となりつつあるようだ。

 

 

 ちなみに誤射姫様(裏)のセリフから分かるように、今回は何とか避けきりました。

 ミタマの空蝉がこんなに有難かった日は無いよ…。

 

 でも逆に考えると、空蝉を使って攻撃を無効化した場合、かなり使えるアシスト要員だった。

 何故ってホラ、俺はスキル「剣の達人」を持ってるから、嫌でも相手の急所を狙わないといけない訳だ。

 そうなると、当然急所を狙う為、アラガミの急所の前に立つ事になる。

 で、攻撃してたらそこを狙って誤射(と表現しておこう)が飛んでくる訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

 だが空蝉空蝉。

 

 オカルトパワーで俺を素通りした誤射は、まあ、なんという事でしょう。

 匠の手なんか全く入っていませんが、味方を吹き飛ばす筈だった誤射が、アラガミの急所を的確に捉えたナイスアシストに!

 

 

 

 …俺じゃなきゃ出来ないし、一度の戦闘で限りがある戦法だけどね。

 と言うか、この傍から見ると謎の現象のおかげで、裏カノン様の興味をいたく惹いてしまったっぽい。

 墓穴掘った。

 

 最終的には、俺が何故か誤射を無効化できるのを察して、ジーナさんまで誤射上等で撃ってきてた。

 ……茨の道に踏み込んでしまったようだ。

 

 

 

 

神無月デビルフィッシュ日

 

 榊博士から、データベースに潜り込める認証キーコードを教えてもらった。

 が、もうすぐこのキーコードは変更されてしまうらしい。

 意味ないじゃん、と思ったが、「次の回だと役に立つかもしれないよ」みたいな事を言われた。

 

 確かに。

 認証キーコード自体は正式なものだから、次回のループでコレを使えば、誰にも気付かれずに機密情報を閲覧できるかもしれない。

 何でそこまでしてくれるのかは、疑問のままだったが…。

 

 とりあえず、今回も変更されるまでは少しばかり時間があるようなので、データを片っ端から閲覧してみる。

 重要な計画に関するデータもあったようなのだが、生憎と脳筋ならぬ脳狩人の俺には殆ど理解できんかった。

 

 代わりに、どうでもいいデータを一つ見つけた。

 フェンリルに所属する人達の、色々なデータが載っているデータベースを見ていた時だ。

 このデータベース、ゴッドイーターとして登録された時期は勿論、生年月日、国籍、健康管理の為に各種診断の結果等が記録されている。

 

 …プライバシーの侵害と言うか普通に違法行為だな、今考えると。

 しかしあの時は、カノンさんとジーナさんのバストサイズの差が分かると思ってつい何も考えず………あかん、組織人として完全にアウトだ。

 

 

 

 と、ともかく。 

 偶然、俺はとあるオトコのデータを見つけた。

 「なんだ男か」と思うかもしれないが、まぁなんちゅーか、これが非常に納得がいくデータでね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オオグルマの汚ッサン………インポテンツだったのか……。

 

 

 アリサが処女だった理由が、ようやく分かったよ…。

 

 

 しかもよく分からんが、精神的な物じゃなくて神経性系の障害だか、血管の破損による物理的なものらしい。

 多分、これがコンプレックスになって、最悪の形で拗らせてしまったんだろうなぁ…。 

 

 記録を遡ってみると、生来の物ではないらしく、何かの事故でこうなってしまったらしい。

 そして、失われたオスとしての快楽だか矜持だかの代わりを求め、いつしか人を操る催眠の道へ。

 オスとしての機能の代替とするかのように、人を操る性癖に目覚め、その技術を支部長に見出されて今に至る…か。

 

 

 …男として同情すべきなのかなぁ、この歪んだ男に…。

 アリサを弄んでいるのは許さんし、性癖に目覚めた切欠なんぞどうでもいいんだが……。

 それに同様の症状の人が、皆こんな道に迷い込む訳でもない。

 生来の邪悪だったのかは知らないが、でも現在は陵辱用の汚ッサンとしても欠陥品の烙印が押されてしまっている。

 

 

 

 

 ……まぁどうでもいいや。

 機を見て、その歪んだ道からサクッと解放してあげよう。

 ………そういや俺、まだ人を殺した事は無いな。

 少なくとも俺としての意識がある間は。

 

 

 

 

 

 

神無月イソギンチャク日

 

 杭君復活ッッ! 

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ! 

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ! 

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ! 

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ! 

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ! 

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 カノンちゃんおっぱい大きい!

 杭君復活ッッ! 

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ! 

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 杭君復活ッッ!

 

 

 超ハイテンションで喜んでいたら、ミッションでもないのに出てきた裏カノンさんに蹴りを喰らった。

 そんなにうるさかったか。

 だが全く気にならない。

 

 おお、復活した杭君のこの輝きを見よ!

 そしてジーナさんのうなじを目に焼きつけよ!

 

 パワーアップした杭君は、アレだ、なんかもうスゴいぞ!

 早速試しに行こうとしたら、榊博士を初めとする技術班一同にとっ捕まった。

 ちゃんと説明を聞いていけ、だそうだ……言ってる事は尤もだが、あれは解説したいだけと見た。

 

 

 

 まず最初にやった事は、連射性の向上。

 と言うより、一発撃ったら即メンテナンスどころかオーバーホール必須では話にならないので、2発目以降も1発目同様の威力で撃てるようになった、というのが正しい。

 意外とまともな改造だ…と思われるかもしれないが、どっちかと言うと元が酷すぎたのが、何とか使えるレベルになったってだけである。

 だからコレについては、改造というよりバグ取りと表現するのが正しい。

 

 

 次に注目すべきは、やはりコレだろう。

 杭君は銃パーツ扱いだと言うのに、掟破りのチャージクラッシュ機能付き。

 とは言っても、リンクバースト状態じゃないとチャージクラッシュは使えないという制限があるが。

 そしてリンクバースト状態でも、一発でも放ったらその場でバーストが切れてしまう。

 よく分からないが、リンクバーストするエネルギーを全てチャージに注いでいるらしい。

 

 将来的には、現在研究中のオラクルリザーブ機能…ああ、GE2であったアレね…も付け足したいそうだが、まだ基礎研究段階らしい。

 

 

 更に、貫通力を格段に上昇させた、杭のドリル化。

 …杭君と呼ぶべきかドリル君と呼ぶべきか微妙なところだ。

 これに関しては、俺としては少々異論があるような無いような。

 武器としての性能に関しては全く文句は無いのだが、杭君…つまりパイルバンカーは無骨かつ小細工無用なその形状にこそ魅力があると思っている。

 そして打ち出される杭は、ただ金属のカタマリであるべきだ。

 

 威力は上昇するだろうし、別種のロマンを感じはするのだが……うーむ、パイルバンカーという完成された一つの形を崩して、そこにドリルを融合させる…。

 新境地、か…?

 賛否両論あろうな。

 

 が、威力が格段に上昇するのは間違いない。

 何せこの取り付けられたドリル、あちこちに噴出孔があり、そこからオラクルパワーを噴出す事で超速度の回転と、凄まじい貫通力を実現している…そうだ。

 まだ試してないから分からん。

 とにかく、とてつもない貫通力のドリルが、パイルバンカーの勢いで叩きつけられる訳だ。

 …これって、物理学的にはどうなんだろう?

 なんかよく分からんが、バランスを調整するのに6徹したとか聞いたが。

 

 

 

 だが問題もある。

 このドリルのおかげで、非常に狙いが定めづらくなる。

 

 例えば猛烈に振動する機械を手に持ってみれば分かるが、ただ震えているだけの筈なのに、体全体がそれに連動するように震えてしまう事があるだろう。

 それと同様、パイルバンカーを通してドリルの回転による慣性が、ムッチャ伝わってくるのである。

 

 重いんだよ! 回るんだよ! 暴れっぱなしなんだよォ!!てな具合に、ドリルの超回転のおかげで神機をマトモに持っていられない。

 

 

 

 

 そこで登場するのが、3つめの改造。

 捕食機能を応用した、喰らい付いたら離さない……その名も「すっぽん機能」である!

 …オイ誰だこのネーミング。

 

 ……まぁ、名前からして一発で分かりそうな気はするが、要するに捕食機能の顎で相手に喰らいつき、雷が鳴るまで…というより電気信号で合図するまで食いつき続ける機能である。

 コレで相手を捕まえておけば、多少暴れられても密着状態を維持でき、殆ど狙いをつける事なくパイルバンカー…いやさ、ドリルバンカーを叩き込めるという代物である。

 更に相手を完全に捕まえ固定しておく事で、吹き飛ばして衝撃を流される…という事態も防ぐ事ができる。

 

 

 

 

 

 

 

 うむ、結構な改造をしてくれたものである。

 

 

 

 

 

 ところでこの日記を読んでいる諸君。

 以上の改造点を鑑みて、何か気付く事はないだろうか?

 個人的には、検討がつくまで上記の日記を読み返し、そして読み進んで欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何、特別な事じゃない。

 よ~く読み込まないと気付けない事では、断じて無い。

 

 

 そう、この3つないし4つの改良点にはとある共通点があるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 使い手の安全面を一切考慮していないって共通点がな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうだね、諸君の推測は当たったかね?

 

 と言うか攻撃力アップの前に、一発撃ったら使い手の方が動けなくなるって欠点をどうにかしろよ!

 俺じゃなけりゃリンクエイド必須な反動だったのが、俺でも下手すると棺桶行きにランクアップしてるじゃねーか!

 

 すっぽん機能も、相手に密着状態を維持すると言えば確かにその通りだが、逆にこっちから咄嗟に離れる事ができない。

 スイッチを押して電気信号を流せば、すっぽん機能は解けて離れる事はできるんだが、どっちにしろ一拍分の遅れが出る。

 

 お前ら何考えてこんな物作り上げたんだって言いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてお礼を言いたい。

 ありがとう、遠慮なく使わせていただきます。

 

 

 反動はミタマ「防」の天岩戸でどうにかすればいいしね。

 あー、でもそれだと「攻」の渾身と軍神招来を付けられないなぁ。

 …もうちょっと鍛えてみるか。

 いつかはこのドリルバンカーを、片手で扱えるようになりたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

神無月メバル日

 

 

 早速試し撃ちしてみました。

 流石に一人で行って反動で動けなくなるとデスワープ確定なので、ジーナさん・タツミさんと一緒です。

 カノンさん?

 流石にこの状況で誤射されてもな…。

 

 タツミさんには「え、撃つの? 本気で? いや正気で?」って真顔で聞かれた。

 生憎、俺は割りとイカれてるもんで、本気で撃ちますよ?

 

 で、天岩戸をかけて無傷のシユウに試し撃ちしたんだけど。

 

 

 

 

 うんまぁ、グロ画像を通り越して何も残りませんでした。

 あと衝撃で近場の岩場が崩れ、大音量の為にジーナさんとタツミさんがひっくり返り、驚いたアラガミ達が続々と寄ってきましたとも。

 

 全速ダッシュで逃げる俺達の会話は、こんなもんだったような…。

 

 

「お前、アレ撃っといて平気なのかよ!? シユウが跡形も無いぞ!」

 

「ピンピンしているわね……でもあまりアレは使わない方がいいわ。

 あの威力では、アラガミとの対話もできない…」

 

「ちょっとした小細工してるんで、反動のダメージは無しです。

 いいから走れ!」

 

「いやもう何でもいいから撃つな、あんなのホイホイ使ってたら嘆きの平原が崩壊すヘヴァ!?」

 

「ああっ、タツミさんが!?」

 

「何となくイラッと来たから。 それじゃあ、アラガミと生と死の交流を深めてきて」

 

「くっ、アナタの犠牲は無駄になるようなならないような! ヒバリさんには代わって声をかけさせていただきます!」

 

「させるくぁぁぁぁぁーーー!!」

 

 

 

 …うん、結構余裕だったね。

 

 ちなみに今回のテスト、チャージクラッシュは勿論、すっぽん機能も使いました。

 性能テストは一番強い状態で、一番堅い敵に。

 これ常識…俺的には。

 

 

 性能テストの結果を榊博士に報告すると、もうちょっと調整したいという事でドリルバンカーを取り上げられました。

 もう少し衝撃の方向性とかを調節して、周囲に無駄な衝撃をバラまかないようにしたいとか。

 

 …あくまで「周囲に」であって、「使い手に」ではないのはミソだ。

 まぁ、確かにあの無駄に撒き散らされる振動や衝撃をどうにかしないと、撃つ度に家屋が崩れ落ちたり、地形が変わったり、外敵を呼び寄せる原因になってしまう。

 これは今の内にどうにかしておかないと。

 別世界に移動したら、改造なんて出来ないからな。

 

 

 

 

 

 榊博士に「使い手を防護する機能はつけないのか」と聞いたら、迷いなく「つけない」と断言されました。

 何故そこまで拘る。

 

 

 

 

 

 

 

神無月イソギンチャク日

 

 日々是出撃。

 カノンさんやジーナさんやその他と出撃を繰り返す日々を送っていたら、何時の間にやら藤木コウタがゴッドイーターとしてデビューしていた。

 それを知ったのは、コウタが一人前の試験としてコンゴウを狩りに行くのに随伴した時だ。

 

 …俺の出撃ブートキャンプも経験してない筈だし、大丈夫かなー?と思ってみていたが…うん、そこそこ。

 前のループの時に比べると若干弱気な動きだが、それは慎重さの裏返しだ。

 時間をかけて、確実にコンゴウを討伐していた。

 

 OKOK、充分合格範囲だよ。

 

 

 狩りが終わってから少し話たんだが、コウタは俺の事を知っていた。

 朝から晩まで出撃し、自ら誤射姫と同行しながらも殆ど誤射を受けない謎のゴッドイーターとして。

 一部のゴッドイーターからは、おかげで誤射から解放される、と神の如く崇められているそうだが……さすがにそりゃ盛りすぎだろう。

 道を歩いていたら、五体投地から礼拝された事ならあるが。

 …俺自身じゃなく、誤射姫様のオマケみたいな扱いなのは気のせいだろうか?

 

 

 それとドリルバンカーを見せてみたら、目を輝かせていた。

 ふむ…流石バガラリーに耽溺する男。

 ロマンを分かっているじゃないか…俺、バガラリー見た事ないけど。

 

 でも「使うか?」と聞いたら「死ぬから止めとく」と真顔で断られた。

 …同志が出来る日は遠いようだ。

 

 

 

神無月海月日

 

 ジーナさんは甘いものも好きだが、辛めの酒も好きらしい。

 最近はウィスキーがお気に入りだとか。

 

 逆にカノンさんはアルコールは苦手と言っていた。

 呑めない事はないらしいのだが、頭がボーッとして、記憶が半分飛ぶらしい。

 そして飛んでいる間は、どうやらかなりハチャメチャな言動をしているとか……恐らく、裏カノン様が出てきていると思われる。

 …あれ、この人何歳だっけ……まぁいいか。

 

 と言う訳で、昨日は飲み会でした。

 コウタの一人前祝いという名目で奢ってやってたら、何時の間にやらジーナさんとカノンさんが参加していた。

 流れで奢る事になってしまった……まぁ、出撃ばっかしてるおかげで、金は有り余ってるんだが。

 

 

 …いいセリフだよな、金が有り余ってるって……。

 

 

 さてそれはともかくとして、酒が入ると記憶が飛んで、女性とアヤマチ…というのが俺のパターンだったが、残念というか何というか、今回は無しです。

 記憶が飛ぶ程呑んでないし、一緒に居たジーナさんもカノンさんも好感度が足りてないだろう。

 

 コウタとアヤマチ?

 ある訳ねーだろ…。

 

 それにしても、やっぱりこの世界の食べ物はちょいと味気ない。

 そう言えば、GE世界で栽培しようと怪力の種とか持ってきてたんだっけ。

 確か、前回で研究してもらった時は、土地の栄養不足で中々育たなかったんだよなぁ。

 

 こやし玉…は、そいうやティガ2体を相手にした時に投げてたな。

 補充を忘れてた。

 他に肥料として使える物……ああ、釣りミミズがあったか。

 うーん、コイツも研究してもらうかな?

 食糧事情の改善は、榊博士や支部長だって望む所だろう。

 

 よし、相談してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 釣りミミズの生態が思った以上に謎だった。

 

 

 




>bbbbbbbbbbbbbb

のっぺらぼうのへんかがとまった。





という訳で、のっぺらぼうが何になるかは、早ければ多分3~4話くらい後に分かると思います。


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26話

今回はちょっと短めです。

GE2レイジバースト…来年2月か。
という事は11月はアサシンクリードの月だな。

今気付きましたが、ハーメルンって一部だけ文字を大きくするのは無理みたいですね。


 

 

神無月ワカメ日

 

 食料改善の研究を依頼してから数日。

 何やら支部長が裏で色々と動いているっぽい。

 アーク計画の内容を知っている身としては、いつ消されるか気が気でない。

 

 正直な話、今の俺は支部長にとっては爆弾以外の何者でもないだろう。

 未だに消されて無いのが不思議なくらいだ。

 妙な素材を提供しているとは言え、それらは使い方すら確立されておらず、研究したところで対アラガミにどれだけ効果があるか、分かったものではない。

 

 支部長の要請で、秘伝のハンター肉体操作術も伝えてはいるが、体得した者は居ないし、医学的に解明された訳でもない。

 

 時々、トチ狂ってこっちから暗殺しかけようか、とまたしても考えてしまう始末だ。

 

 

 

 

 なので、支部長に呼び出された時、ついでに何故さっさと始末しないのか聞いてみた。

 

 真正面から聞くことか、と呆れられたが、答えてはくれた。

 

 

 

 

 

 ただしよく分からない。

 

 だってあの人、妙に遠隔な表現や比喩(しかも暗喩)ばっかりで、意思疎通を図る気があるのか疑うレベルなのだ。

 頭のいい人…榊博士みたいな人なら理解できるかもしれないが、脳筋ならぬ脳狩の俺には、謎のポエムを綴っているようにしか聞こえない。

 

 数少ない、理解できた部分はこの辺だ。

 前後の文脈と、どう繋がるのかは理解できなかったが。

 えーと確か…。

 

 

「自分と同じものしか認められないのなら、人間は淘汰されるだけ」

 

「私とは全く違う道を行く君ならば、違う方法を見つけられるのではないか……恐らく、何度も何度もデスワープとやらを繰り返した、私の預かり知らぬ世界で、だろうがね」

 

「私もロマンチストだという事だ」

 

 

 

 …うん、何が言いたいのかサッパリ分かりません。

 が、やはり何時消されてもおかしくない。

 そういう状況にあるぞ、と何度か警告されました。

 それは俺に対して有効な脅しになっていないが、それをすれば確実にこのループの支部長から敵が一つ消える。

 支部長にとって重要なのは、「俺を殺す事」ではなく「障害が消える事」だからね。

 殺害が有効な手段である事は間違いない。

 

 

 それはそれとして、どうやらアリサがこっちに送られてくるようです。

 今回は俺の部下じゃなく、リンドウさんの配下になります。

 …前回も、本当だったらそうなってた筈なんだよな。

 俺がリンドウさんに接触したのが切欠で、押し付けられただけで。

 

 今回はリンドウさんには接触できない。

 そういう契約だから仕方ないが、従ってアリサを連れ回す事もできないって事だ。

 …どうなるかな…。 

 

 

 そう言えば、俺がアリサと前回関わりがあった事は…知られてないよな?

 榊博士にも話してないし。

 

 

 という事は、アリサが暗殺の道具にされる事を知っている…のを、支部長は知らない訳で…いや、予測はしてるか。

 どうすっかな…。

 前回のアリサの仇を討つのが今回世界の目標だったけど、下手をするとリンドウさん死亡場面に居合わせる事ができないかもしれない。

 だからと言って、今からリンドウさんに接触するのも無理、アリサと接触するのも契約に抵触する。

 下手な事をすれば、それこそ即座に消される。

 

 ……偶然を装うしかないか。

 幸い、俺は今でも一日の8割を出撃に使っている変人ゴッドイーターとして知られている。

 現場に網を張って、それらしいタイミングを見計らって出撃するしかない。

 

 ……あまりアテにしたくないが…MH世界では、遠征から帰って来る度にメゼポルタが襲来されていた、あの巡り合わせの悪さ(良さ?)に賭ける。

 

 

 

 

 

神無月コンブ日

 

 

 アリサが来た。

 …ちょっと期待してたんだが……やはり、前回の記憶は全く無いようだ。

 デスワープに道連れならず。

 残念なような、こんなワケの分からない状況に巻き込まずに済んでホッとしたような、ああもうやっぱり会えないんだなと割り切れたような。

 

 気配を殺して影から見ていたが、極東支部の新型使い…つまり俺…にライバル意識を持っているようだ。

 この辺、当然と言えば当然だが相変わらずだなぁ。

 

 が、生憎こっちから接触するとヤバそうです。

 用事があるなら、そっちから来なさい。

 それなら支部長に対する建前も立つ。

 

 ……前回アリサの面影を思い出してなんかいないぞ。

 通りかかったジーナさんに、「知り合いの子…?」と聞かれたけど、知らない人ですね。

 似てるだけで。

 

 にしても、やっぱりツンツンしてるな。

 孤立しなけりゃいいんだが………。

 

 

 

 

神喰月海ブドウ日

 

 新しい月に突入。

 月末の棚卸しから逃げ損ねた。

 

 月末月初のドタバタも一通り終わり、また狩りに行く日々です。

 よくジーナさんとカノンさんも一緒に行くんだが……この二人、連日連続の狩りにも結構ついて来れる。

 

 普通は、ミッションは長くても1時間程度なんだが…その程度では二人にとっては物足りないらしい。

 まぁ、ジーナさんはアラガミを打ち抜くのが趣味だし、裏カノン様に至ってはねぇ…。

 要するに「もっと撃たせろ」という事か。

 

 まぁ、流石に最初から最後まで…午前中に出撃して、日が落ちた後まで…突きあってくれる事は稀だ。

 何だかんだで体力使うのは確かだしな。

 気力は充分だが、体力とアイテムとご飯が足りない。

 

 ともかく、連日一緒に狩りをしているから、随分仲良くなったと思う。

 下半身的な意味はないが、色々な意味で。

 

 

 …ええ、単純に仲がよくなったって事もありますし、それ以上に誤射がね…。

 空蝉で誤射から逃れた後、誤射を再び無効化できるようになるまで、タイムラグがある事に気付かれたっぽい。

 裏カノン様が、明らかに狙って撃ってきておられる。

 

 ジーナさんはジーナさんで、「撃っても無効化される人間…つまり撃ち抜いても問題ない人間……だけどそれでは生と死の交わりは産まれない…でも撃ち抜ける時もある…………これは…生と死ではなく、現と虚構の交流…? ………新しい…惹かれるわ…」とか何とか、俺を撃ち抜く事に別の意義を見出しているっぽいし。

 

 

 …仲良くなったと言っていいものか……まぁいいか…。

 表カノンさんと居る時は、素直に心が休まります。

 クッキー美味しいです。 

 

 

 

神喰月甘エビ日

 

 

 オオグルマの汚ッサンが到着しました。

 …こりゃ、いよいよVS黒爺猫の日が近いか?

 とりあえず、榊博士に申請して、メンテ中だったドリルバンカーを返してもらう。

 ……また何か改造しようとしてたっぽい。

 

 まず第一の目標は、アリサの仇な黒爺猫討伐だが…流石にその為に、無駄な人死を出すのも憚られる。

 幸いと言うべきか、奴を殺るチャンスは一度だけではない。

 荒廃した世界を探し回らなければならないが、ストーリー的に考えればココで逃しても後でブチ当たる。

 

 最悪、次のループで仕留めるという選択肢もある。

 無理に仇討ちに固執して、次のループで「俺とアリサとリンドウさんの仇ぃ!」「「死んで無いよ!?」」なんて事にならないようにしよう。

 

 

 関係あるかは微妙な所だが、暫く俺・カノンさん・ジーナさんの3人でチームを組むように命令が下った。

 まぁ、今でもその3人で活動してたようなものだが……何の為に態々?

 所属班が違うから、事務処理が面倒だったんだろうか?

 

 

 

 

 

 ああそうそう、忘れてた。

 昨日、ソーマとエリックさんと合同任務しました。

 この組み合わせで分かるだろうが、「上田!」……もとい「上だ!」のミッションだ。

 で、どうなったかって?

 

 

「華麗に「エリッ  BANG!  ……」………」「よろしくお願いします、上田先輩、ソーマ先輩」

 

 

 以上だ。

 超広範囲攻撃やアホみたいなホーミング性能の攻撃ならともかく、仮にもMH世界上位ハンターの狩りについていける俺が、来るのが分かってるのに反応できない筈ないだろ。

 

 ロクに狙いを付けずに銃撃迎撃余裕でした。

 おっこちてきたオウガテイルに上田先輩が潰されていたが、そこまで知るか。

 

 

 

 

神喰月大王イカ日

 

 上田さんに礼を言われた。

 「これを使って、更に華麗に闘ってくれたまえ」と柄入りのシャツを渡されたんだが…どー見てもロックというか…パンクというか…。

 とりあえず貰ってはおいたが、「いざと言う時にとっておきます」と適当に誤魔化した。

 と言うか、鎖とかアクセサリがジャラジャラついてるんで狩りの時はどっちにしろ着れない。

 音でアラガミに気付かれるわ。

 

 さてそれは置いといて、先日アリサが何やら頭を抱えているのを見かけた。

 サクヤさんが丁度近くに居て…相変わらず艶かしいお背中である…、どうかしたのかと聞いていた。

 それを気配を消しつつ盗み聞きさせてもらったのだが……どうやらこの数日間、俺を探していたらしい。

 

 同じ新型使いなので見てみよう(つまり敵情視察か宣戦布告)、と思っていたのだが…いつ探しても出撃中出撃中出撃中。

 一体いつなら居るのかと聞いてみたが、ヒバリさんから帰ってきた答えは「あの人は一度出撃したら、下手をすると日が変わるまで戻りませんよ」………冗談かと思ったそうだが………そういや最近そんな感じになってたな。

 寝ながら狩りをする技術を身につけたんで、睡眠に必要な時間が更に少なくなってたからなぁ…。

 

 ならばと夜討ち朝駆けで俺の部屋を訪ねてみたそうだが、これまた居ない。

 …まだ狩りから帰ってきてないか、面倒事の気配を探知した俺が居留守を使ってるかだ。

 扉越しに気配を探っても、ハンター式+タマフリの隠密を使った俺は察知できまい。

 

 周囲の人に聞いてみる…という手段は、今のアリサでは取れないだろう。

 ツンツンして、懸念通りに孤立しかかってるみたいだし。 

 

 避けられているのか…という悩み以前に、一体どういう人物なのか頭を悩ませているらしい。

 それを聞いたサクヤさんは……うん、何とも言えない顔でした。

 アリサの近くに居るメンバーで接触があるのと言えば、今はコウタくらいだしな。

 サクヤさんも、奇人変人と呼ばれるような事しか知らないだろう。

 

 

 

 

 よし、ほっとこう。

 

 前回と同じ…いや、それよりも更に苛烈な手段で心をヘシ折っていいならともかく、延々と突っかかられるのは御免だ。

 オオグルマの催眠は……うん、その内どうにかするか。

 前回のアリサとは完全に別物とは言え、放っておくのも後味が悪い。

 

 

 …あー、でもどうやって催眠解くか考えてなかった。 

 

 

 

 

 

神喰月深き者日

 

 榊博士から、ちょっと素材狩ってきてほしいと通達があった。

 場所は鎮魂のハイジ。

 ……こう書くとブランコに乗ってるロリが思い浮かぶんだが……アルプスじゃなくて鎮魂だ。

 何に乗ってるんだろう。

 

 と言うか、あそこ寒いんだよなぁ。

 ホットドリンク持っていこうかな。

 

 

 …いや、問題なのはソコじゃない。

 何か知らんが、俺のハンター的な勘が、メッチャ警報を鳴らしている。

 イベント発生か?

 この状況、このタイミングで発生しうるイベントと言えば…。

 

①予想して無い敵の襲来。

②シオとバッタリ。

③リンドウさん暗殺騒ぎ。

 

 …やっぱり③…か?

 でも場所が違う。

 ………いや場所くらい……だけどヴァジュラの群れをそうそう誘導できるもんか?

 ああ、偶然ヴァジュラ達が廃寺の方に行った結果か?

 

 ……どっちにしろ、何かあるのは確実だ。

 フル装備にして、カノンさんとジーナさんにも用心するように伝えておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神喰月ウミケムシ日

 

 予想通りにリンドウさん暗殺騒ぎだった。

 何とか全員生還。

 

 仇は討ったぞアリサ…。

 ただ、今回のアリサはゲーム同様に錯乱して寝込んでしまった。

 

 …うん、あの時の裏カノン様の誤射は神懸かっていたな。

 思わず状況も忘れて、サクヤさんが拍手して、ジーナさんが便乗して打ち抜くくらいに。

 

 狩りが終わってから、疲れた体に誤射撃って…もとい、鞭打って幾つか確認したんだが。

 そもそも今回のミッションは、榊博士から出されたものではなかったらしい。

 本人に確認したところ、そのような依頼は出していないと言われた。

 …狩りに行く前に、こっちから確認しとくべきだったな…。

 

 では何処からか?というと、ヒバリさんに頼んで情報を見てもらったが…何らかの伝達ミスがあったとかなんとか。

 ヒバリさんは恐縮しまくってたが、どう考えても支部長の仕業だろう。

 どっかでデータベースの改竄でもしたか?

 

 ともかく、リンドウさんと纏めて俺も始末するつもりだったっぽいな。

 何らかの行為が契約違反とみなされたか、それとも単にこれ以上放置しておけないと言うだけか。

 …こりゃ色々と気をつけたほうがよさそうだ。

 いっそ極東支部から出た方が安全かもしれない。

 

 狙われたリンドウさんも、支部長がこれ程明確な殺害を目論むのは予想外だったようだ。

 今までは、お互いにシッポを捕まえようと探り合っていたが、利用し利用されの範囲を出てなかった…まぁ、この辺の事情は本人から聞いたワケじゃなく、推察しただけなんだけどね。

 これからどうするのかは分からないが……多分、また支部長の計画を探り続けるんだろう。

 

 

 ……どうしたものかと思ったが…支部長も俺を殺そうとしてきたみたいだし、バラしちゃってもいいよね?

 うん、今度話そう。

 

 

 あと気がついたんだが…どうも俺達がリンドウさんの任務にカチ合うように仕組まれたのは、暗殺をより確実にする為っぽい。

 …もっと正確に言うなら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     誤射姫様が上手い事足並みを乱してくれるだろう、って目論みで。

 

 

 うんまぁ、誰だってそうなると判断する。俺だってそうなると判断する。

 誤射が俺に集中してたから良かったものの(一発アリサに向かったが)、そうでなければプリン・ヴィータ達との乱戦で、まず間違いなく死者が出ていただろう。

 …これも、築き上げた信頼関係とかの成果って言っていいんだろうか…。

 

 

 

 

 それと、黒爺猫を殺った辺りから、ジーナさんの目付きが妙に熱っぽいんですが

 裏表のカノンさんからも「すごい! 尊敬します!」みたいな事は言われたんだが、ジーナさんのはそんな次元じゃない。

 あれは獲物を狙う女の目ですわ…。

 自意識過剰?

 いいや分かる、俺は詳しいんだ……とまでは言わないが、まぁ、特殊な経緯とは言え前回アリサ・ユニスと付き合った経験があるからな、この手の視線もある程度判別がつく。

 

 うーん、ただ…異性として見られている、というのもあるけど、もうちょっと違った視線も入っているような気が…?

 …まぁ、そうなったらそうなったで別にいいか。

 ジーナさんなら、そうそう死にはしないだろ。

 

 ソレよりも先に、今後の支部長への対応を考えなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




テレビ、とうとう買い換えました。
痛い出費だ…というかサイズ間違えて、以前のよりも1回り大きくなってしまいました。
迫力あるからいいんですけど、ちょっとボヤけて見えるかな?


GE2レイジバースト……誰か…ロミオ君にも生き延びるチャンスをあげてくだちぃ…。


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27話

む…新世界中の迷宮も11月か…。


・・・おや!? のっぺらぼうのようすが・・・


 

 

 

 

神喰月サクヤ視点日

 

 リンドウが、最近危ない橋を渡っているのは知っていた。

 シックザール支部長が掲げる、エイジス計画…その裏にある『何か』を探る為、危険な任務についている事も。

 

 彼を心配しない日はない。

 リンドウは凄腕で、どんな状況からでも生き延びてきたけれど、それがいつまでも続くとは限らない。

 どんな強者でも、切欠一つで死に至る……それがゴッドイーターよ。

 

 そうでなくても、シックザール支部長の裏に何かがあるというなら、迂闊に近付けば暗殺される可能性もある。

 リンドウはそれを承知で秘密を探っていたのだけれど……私は手伝えなかった。

 秘密を探るのには、シックザール支部長の直属のゴッドイーターとして動く必要がある。

 特務という、並みのゴッドイーターなら死の宣告同様の任務を単独でこなさなければならない。

 口惜しいけれど、今の私にそこまでの力量は無かった。

 

 

 だから、私は私にできるやり方で、リンドウを援護している。

 例えば、特務以外の任務のサポートをしたり、最近手を焼かされているアリサの面倒をみたりしてね。

 

 

 正直に言えば、こんな日が来るのは覚悟していた。

 仮にもゴッドイーターをやっているのだから、命がかかった戦いは当たり前で、突然の不利もあって当然。

 

 

 だけど……。

 まさか、こんな狭い場所で、ディアウス・ピターとプリティヴィ・マータの群れに囲まれるなんて…。

 

 事の起こりは、私、リンドウ、アリサの3人で任務に出た事だ。

 アリサの態度も大分軟化してきたし、その任務自体は問題なく終わったのだけれど……問題はその後だった。

 

 

 任務が終わり、さぁ帰ろうと言う時になって、同様に任務に来たというジーナ、カノンちゃん、そして奇人変人と名高い彼の3人と鉢合わせした。

 一つの区画で、別々のチームが任務についているなんて…これは本来ありえない事。

 嫌な予感を感じたわ。

 

 そしてその予感は、すぐに現実になった。

 突然響き渡る、複数のアラガミの咆哮。

 既に絶滅してしまった、ライオンを思わせる声。

 私自身も何度も聞いたその声は、最悪な事に、一つが明らかに低く、他の声の幾つかは甲高い。

 この時点で、ディアウス・ピターとプリティヴィ・マータが居る事は確定した。

 

 しかも囲まれている。

 アラガミと戦う際の鉄則は、複数の相手を同時にしない事。

 いくらゴッドイーターとしての機能で強化されていると言っても、人間とアラガミ…特に大型のアラガミとのスペックの差は歴然としている。

 格上を相手に、脆い人間が乱戦するなど、自殺行為もいいところだ。

 

 こちらの戦力になりそうなのは、私、リンドウ、ジーナ。

 奇人変人と名高い彼も多分戦えると思うけど、どれくらいなのかは検討もつかない。

 アリサは、技量的にはそれなりに戦えるのだけど……先日一度ヴァジュラに会った時、体が震えていた。

 恐らく何かトラウマがあるのだろうから、精神的にはガタガタだと思った方がいい。

 

 …カノンちゃんは、まぁ、その、ねぇ?

 

 

 相手が悪く、状況が更に悪すぎる。 

 だけど、そんな泣き言を言っている暇は無い。

 一刻も早く、ここから逃げ切らないと。

 

 

 だけど、逃げる間もなくディアウス・ピターが、廃墟の寺の上から姿を現した。

 …まずい、この威圧感。

 ただのディアウス・ピターじゃない。

 年経て経験を詰んだ、強力で狡猾な群れの主だ。

 …それも当然か。

 そうでもないと、これだけのヴァジュラ達に気付かれずに包囲される筈が無い。

 統率力も抜群……イヤになってくるわ。

 

 

 この時、私はアラガミ達に気を取られ、アリサの様子が加速度的におかしくなっている事に気付けなかった。

 ディアウス・ピターの咆哮と同時に襲い掛かってくる、牙と爪と雷と氷。

 

 更に、襲い掛かられる瞬間に使われた、彼が使った異常なまでに強力なスタングレネード。

 …目を背けて閉じていても、頭がクラクラしたわ。

 それでも、アラガミ達の7~8割の動きを封じられた。

 

 逃げるなら今!

 

 リンドウとアイコンタクトして、即座に撤収命令を出す。

 各自、目が眩んでいるヴァジュラ達の隙間を擦り抜けて走りだす。

 

 怒りの咆哮が聞こえて目をやれば、閃光の効果から回復したディアウス・ピターが飛び掛ってきた。

 狙いは…スタングレネードを使った彼。

 離れていた分、閃光の効果が弱かったのだろうけど…余程頭にきたんでしょうね。

 

 彼は素早く避けて(あんな重そうなパイルバンカーを持っているのに、よく身軽に動けるものだ)、周囲のプリヴィティ・マータを盾にして逃走を試みる。

 同じように、不意を突いてリンドウが影から接近し、ディアウス・ピターに斬り付けた。

 

 私とジーナさんは、まだ動けるプリヴィティ・マータを最小限の狙撃で片付け、逃走経路の確保。

 アリサとカノンちゃんが逃げ切れ次第、私達も……。

 

 そう考えていたのだけど、ここで最大の誤算が起きた。

 

 

 

 

「いやああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 突如、アリサが乱心する。

 リンドウの援護をしようとしていたのか、ディアウス・ピターに向けられていた銃口が、リンドウに向かっている。

 

 

 

 この瞬間ほど、世界の全てがスローに感じた事は無い。

 あのままアリサの銃弾が放たれれば、リンドウに当たるにせよ避けるにせよ、致命的な隙が生じてしまう。

 それをディアウス・ピターは見逃さない。

 

 

 

 

 

 死ぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 リンドウが死ぬ。

 

 

 

 嫌だ

 

 

 

 

 

 ここから援護はできない、間に入ったヴァジュラが邪魔になる

 

 

 

 

 そんなのは嫌だ。

 想像するだけで吐きそうに、叫びだしそうになる。

 

 

 

 

 彼も攻撃を凌いだばかりで動けない

 

 

 

 

 いやだ

 

 

 

 

 ジーナは私より遠い

 

 

 いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

 

 

 

 

 

 かみさまたすけて、ああだめだかみさまはあらがみだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンドウがしぬ

 

 

 

 

 ありさのじゅうこうが

 

 

 

 りんどうにむいて

 

 

 

 

 ひきがねをひくのが、みょうにゆっくりはっきりみえて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トチ狂ってんじゃないわよ!!」

 

 

「へっぷぁ!!!???」

 

 

 

 

 爆音、倒れ伏すアリサ。

 

 

 

 

 

 驚きながらもディアウス・ピターにカウンターを喰らわせるリンドウ。

 

 

 

 

 ああ、よかった生きてた。

 

 

 

 

 

 とりあえずアリサを回収。

 …プスプス煙が出ている……それとさっきの悲鳴は女の子としてどうかと思うわ。

 

 

 

 

 

 ……後になって思う。

 あの誤射を放った時の、カノンちゃん(裏)に後光が差して見えた…単に位置取りの関係で、偶然彼女の後ろに太陽があっただけだけども。

 

 ありがとう、そしてごめんなさいカノンちゃん。

 貴方に銃を教えたのは、決して間違いなんかじゃなかったようね。

  

 見事なタイミングでの誤射(故意)だったわ……故意じゃ誤射じゃない?

 旧世界にはこんな言葉があったそうよ。

 

「一発だけなら誤射。

 ただし食品偽造は下手人万象滅尽滅相。

 魔改造しまくってフルファイアでも可」。

 

 後半はよく分からないけど、この際重要なのは前半だけよ。

 ……普段の誤射数はカウントしない方向で。

 

 

 とにかく、一難は去ったものの、危機的状況には変わり無い。

 アリサを担いだ私…あ、カノンちゃん持ってくれる?

 お願い。

 

 アリサを担いだカノンちゃんは、戦闘行動どころか逃げるだけで精一杯だし、そろそろヴァジュラ達も回復してき始めた。

 私とジーナで道を作ってはいるけど、これ以上の圧力が来たらもう保たない。

 

 リンドウは…ディアウス・ピターとの応戦で手一杯。

 彼の援護があって、何とか凌いでいる状態だ。

 それでも、ディアウス・ピターの顔面が結合崩壊しているのは流石というべきかしら。

 二人とも、周囲のアラガミの攻撃を受けながら戦っているので、大分傷がついている。

 

 

 このままだと、回復したアラガミ達総出で蹂躙される。

 

 だけど、どうしたら…さっきの強力なスタングレネード、もう一発無いの?

 

 そう問いかけようとした時だった。

 

 

 

 

 

 彼から、異常な『何か』を感じ取った。

 圧迫感とでも言うのだろうか。

 思わず状況も忘れて、一瞬目をやる。

 慌てて我に返ったけど、目を取られていたのはアラガミ達も同じだった。

 

 

 

「おい待て、何するつもりだ止せ!」

 

 

 リンドウの叫びも他所に、彼は叫ぶ。

 

 

 

 

「ここでコイツを殺らなきゃ、どっちにしろ全滅確定だ!

 俺の最後の切り札、見せてやる!」

 

 

 切り札?

 彼の代名詞にもなりつつある、あのパイルバンカーの事だろうか?

 だが駄目だ。

 アレは確かに強力だが、それでもディアウス・ピターを仕留められる程ではない。

 むしろ、その後反動で彼が動けなくなり、荷物が増えるだけになってしまう。

 

 やめさせようとリンドウが動くが、もう遅い。

 

 

 突如彼の動きはボロボロの体とは思えない程に鋭く速くなり、ディアウス・ピターに急接近する。

 すれ違い様に捕食してリンクバーストし、ディアウス・ピターの……正面に陣取ってチャージクラッシュの溜め!?

 

 当然、ディアウス・ピターは彼の体を食いちぎろうと噛み付いた。

 ああ、だめだ、しんでしまった。

 

 

 

「大丈夫。

 理屈は分からないけど、避けてる」

 

 

 え、ジーナ?

 …本当だ。

 確かに食いつかれた筈なのに、何事もなかったかのようにチャージを続けている。

 

 もう一度食いつこうとするディアウス・ピターの動きが、突如止まった。

 ホールドトラップ、何時の間に!?

 

 ディアウス・ピターが動けない瞬間を見逃さず、神機がその顔面に喰いついた。

 明らかに通常の捕食形態よりも、強く太い顎がディアウス・ピターの体を固定し、そしてパイルバンカーの輝きが一際強くなる…チャージ完了だ。

 

 

 

「怪力の種・リンクバーストLv1・筋力増強剤、科戸ノ風に空蝉の重ね掛け、結合崩壊した顔面を狙って剣の達人、その他諸々…。

 現状考えられる限りの攻撃力とスピードアップ!

 

 見さらせ俺の生き様!

 こいつが俺の魂(1回だけ3倍のダメージを与えられる、気分になる)の一撃だッ!

 

 アリサの仇ィィィィ!!」

 

 

 

 

 死んで無いわよ。

 あと撃ったのはそのアラガミじゃなくてカノンちゃんよ…個人的には助かったけど。

 

 

 

「本邦初公開!

 

 

 

 

 

 奥義!   

 鬼『杭』千切 ~其は人生の穴を意味もなく掘っては埋める一本の杭~  !!!!!」

 

 

 

 

 

 血走った目で、肺の中の空気を全て吐き出すような咆哮から叩き込まれる、殴りつけるようなパイルバンカーの一撃だった。

 正直な話、あの瞬間の事は目に焼きついているが、思い出しても何がどうなったのか殆ど理解できない。

 神機を両手で持ち、体全体を連動させ、接触の瞬間にパイルバンカーの杭…よく見たらドリルだったけど…が発射される。

 

 

 

 

 

 

 やった事は、これだけだった筈。

 パイルバンカーの機能として考えれば、無茶苦茶もいいところよ。

 形状から考えて、相手に密着させた状態から引き金を引くものだと思うのだけど…わざわざ殴りつける瞬間に発射する意味が分からない。

 

 と言うか、気のせいでなければあの時のパイルバンカーは、よくわからない『何か』が轟いて迸ってうねっていたように思うのだけど。

 

 

 …何が何だか分からないのだけど、その効果は絶大なんてレベルじゃなかった。

 

 

 何せ、ディアウス・ピターの上半身が、まるごと引き千切られたのだから。

 …シユウを跡形もなく爆砕させたという話は聞いていたが、シユウとディアウス・ピターでは頑丈さが段違いだ。

 しかも、年経た強力な個体であるなら、その差は比較する意味さえ見失う程。

 

 それを、たったの一撃で…絶命させた上、直接触れたワケでもない上半身を、勢いのままに下半身から引き剥がす?

 冗談ではない。

 パイルバンカーの機能もそうだが……あの一撃は、従来のゴッドイーターのどんな攻撃とも一線を画す一撃だった。

 

 …引きちぎられた部分の内臓が見えない角度だったのは幸運だったわ…グロ画像なんて、好んで見る物じゃないもの。 

 

 

 

 

 驚き、戸惑いはしたけども、状況はそれを許してくれない。

 

 ディアウス・ピターが倒れたのはいいが、それと同時に「彼」も凄まじい消耗をしたらしく、動けなくなってしまっていた。

 …リンクエイドでどうにかなる範囲だというのが信じられない。

 反動だけで、爆裂四散しそうな破壊力だったのに。

 

 とにかく、リンドウにリンクエイドされた彼…それでもロクに動けない為、リンドウが担いだ…は、ボスが死んで戸惑っているアラガミ達に向け、先ほどのスタングレネードを片っ端から放り投げ始めた。

 最初にそれをやれ…と言いたくなったけど、すぐに理解できた。

 あの閃光と音響は強力すぎる。

 何とか生還できたけど、まだ耳鳴りがする。

 こんなのを最初から乱発していたら、耳が聞こえなくなって連携がとれなくなってしまうだろう。

 

 とにかく、群れの混乱が収まる前に、何とか私達は撤退する事が出来た。

 彼にはお礼を言って、その後ムチャをしないようにキツく言っておかないとね。

 

 

 アリサはカノンちゃんの誤射(強弁)で倒れたまま、昏倒して目を覚ましていない。

 医務室で今も眠っている。

 様子がおかしかったけど、今は目が覚めるのを待つしかない…。

 カノンちゃんが「わ、私のせいなんでしょうか…」と、人を殺してしまったような表情をしていたけど…確かにおかしな話よ。

 ゴッドイーターの銃撃は、オラクルの特殊な性質を利用して、同じゴッドイーターには効かないよう調節されている筈だけど……ああ、衝撃は受けるけどダメージは無いという意味でね?

 

 

 

 それにしても、あの攻撃は何だったのかしら。

 オニクイチギリ、と言っていたけど…鬼を食いちぎる一撃?

 相手は神だけど、言い得て妙ね。

 その後に言っていた、人生を掘っては埋める云々はよく分からないけど。

 

 

 あの攻撃には皆驚いていた。

 特にジーナの目が、任務前とは全く違っていたものになっていたわ。

 耳鳴りでよく聞こえなかったけど、確か帰りにこんな事を言っていたような…。

 

 

「素晴らしいわ……生と死の境界線で現れた、生の輝き全てを注ぎ込んだような、絶対的な死を与える一撃だった…。

 あれこそ、きっと生と死の交流の果てを象徴するもの…。

 

 ……ふふ……胸が…ざわめく……いえ……濡れるわ…」

 

 

 …何が?

 いや私も経験者だし、何がかは分かるんだけど…。

 

 

「いい人を見つけた…」

 

 

 

 

 …何か物騒な方向も込みで、彼にロックオンしてしまったようね。

 二人に幸運を祈るわ…。

 

 

 

 とにかく、今日はもう私もリンドウも限界よ。

 

 

 

 

 

 …よく生きていてくれたわ、リンドウ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

神無月鯨日

 

 えー、支部長への対応をどうするかとか以前にだな。

 妙な事になっている。

 

 最近影が薄かった、ミタマののっぺらぼう。

 何が切欠なのかよく分からないが、またパワーアップしたようです。

 

 で、覚えたスキルがまた問題。

 MH世界、GE世界のスキルを覚えたので、今度こそは討鬼伝世界のスキルを覚えるだろう…と思っていた。

 それは確かに的中したのだが。

 

 

 「特化・強化」ってナニ?

 

 討鬼伝にはそんなスキル無かったぞ。

 いやあるにはあったが、「防特化・○○」「攻特化・○○」みたいに、ミタマスタイルをそれにしている場合、特殊な効果が付くヤツが。

 でも単なる特化、というのは無かった筈だ。

 

 ここへ来てオリジナルスキル?

 …かと思ったのだが、どうやら違ったらしい。

 ある意味オリジナルではあるのだが……どうやら、ミタマスタイルをどれかに確定し、暫く時間が経つと、単なる「特化・強化」がそのスタイルに対応した特化になるらしい。

 攻スタイルにしていれば、渾身強化・周囲。

 防スタイルにしていれば、防特化・突破。

 迅スタイルにしていれば、空蝉強化・二段

 癒スタイルにしていれば、癒特化・手当…と言った感じで。

 ちなみに、各スタイルに変更して発動される特化スキルは固定らしい。

 

 

 …この現象って、討鬼伝世界的にはどうなんだろうか?

 ゲームと違い、ミタマのスタイルは使い手の引き出し方によって変えられる。

 それと同じ現象だとすると、他のミタマでも同じように「特化・強化」のスキルがあるんだろうか?

 

 討鬼伝世界的には、他人のミタマについて質問するのはあまり良い行為ではなかったので、聞いた事が無い…。

 いや、それ以前に霊山にあった資料を思い返してみるが、「特化・強化」というスキルは無かったように思う。

 のっぺらぼう特有のスキルだろうか?

 のっぺらぼうと言うのは、自分の特徴を持たない人間を揶揄する言葉でもある。

 特徴が無いから、全部のスタイルに使えるスキルを使える……子供騙しの理屈だな。

 

 

 まぁいい、とにかく便利なスキルである事には間違いない。

 

 ついでに言うと、今回レベルアップした切欠も検討が付く。

 まず間違いなく、鬼杭千切だろう。

 黒爺猫を仕留める為に死線を潜り、昂ぶりのままに全力以上の力を振るおうとしたあの時。

 多分、一種のトランス状態になった事が切欠だ。

 

 あの時の事を思い返してみると、どうも俺、あの時から迅特化スタイルの空蝉強化・二段を使っていたっぽいんだよね。

 黒爺猫の正面に立ってチャージをした、あの時だ。

 一発目の黒爺猫の攻撃は、空蝉で無効化できた。

 そしてその後、ドリルバンカーを叩き込んだワケだが……全力での一撃にしては、反動が少なすぎたのだ。(それでもリンクエイド必須だったが)

 正直な話、あの一撃の反動で体の内臓や骨がグチャグチャになるくらいの覚悟はしていた。

 だが、実際にはリンクエイドされたら何とか動ける程度のダメージしか無い。

 あの時、我知らず発動していた空蝉強化・二段の効果だろう。

 反動の殆どを、空蝉で無効化したからその程度で済んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ……うん、ここまではいいんだ。

 特化という謎スキルも便利だし、それによって幾つかの事も説明がつくようになった。

 主にドリルバンカーの反動があの程度で済んだ事についてだが。

 

 

 

 ああ、すまない。

 前置きが長くなってしまったね。

 そう、『前置き』なんだ。

 特化の話もミタマのレベルアップ条件の話も、前置きなんだ。

 

 んじゃ、のっぺらぼうのナニが一体問題なんだって?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 増えてるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 のっぺらぼうがふえてるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のっぺらぼうが3にんにふえてるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 なにいきなり増えてんだよ増えるならせめて一人ずつ増えろよ一人から3人ってディグダからダグトリオかこのやろうおまえなんてふえるワカメで充分だ!

 「おめでとう! ディグダはダグトリオにしんかした!」ってやかましいわコンチクショウ!

 どっかでB弾幕が飛んだのを受信したぞ!

 

 

 疲れる…。

 とにかくこののっぺらトリオ、妙に活動的になっている。

 3人揃って遊んで(?)いる事も多いようだし、揃ってふらふら歩き回ったり、意味もなく組体操したり、ミタマを覗いている俺を煽っているとしか思えない動作を延々と繰り返したり……うああああ、思い出しただけで胃が荒れるウザさだ!

 酒! 飲まずにはいられないッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ノンドルバアイカ! 1.5!

 

 

 …少し錯乱していたようだ。

 真面目な話、どうもこののっぺらトリオだが…最初ののっぺらぼうが分裂してできたっぽい?

 現在、3つのスキルを習得していたワケだが…スキルを見てみると、一体一体が一つ一つのスキルを保持している。

 単純に考えて、新しいのが2体出てきたんじゃなくて、元々居た1体が元になって3体になったんだろうが…。

 

 これってどういう事だろうか?

 と言うか分かりきってはいたが、分裂するとか人間のミタマじゃねーな。

 いや、そうでもないか?

 これも一種の分霊だと思えば…討鬼伝世界でも、ミタマを分かち合う事は出来た筈。

 となると、増える事自体はおかしい事じゃないのか。

 

 ただその増えたミタマが、相変わらず俺の中に留まって、しかもスキルをバラバラに持っているのはおかしい。

 人間のミタマと妖怪のミタマの差か?

 分からん…。

 

 

 

 

 だがしかし待てよ。

 理由はどうあれ、俺の中に3体のミタマが宿っている事には変わりない。

 もしも、何らかの条件により(例えばスキルを3つ覚えるとか)、のっぺらぼう達がどんどん増殖していくとなると、どうだろう?

 

 …ポケットを叩くとノッペラボウが三つ、か。

 ネズミ算式に増えていって…最終的には俺の中に数えるのも億劫なのっぺらぼうが……しかも集団組体操でヤグラを作ったりマイムマイムを踊ったり…………想像するだけで気が狂いそうになる。

 SAN値が削れる…。

 

 

 し、しかしだ。

 もしもこの想像が現実になってしまえば、討鬼伝世界をどうにかできるかもしれない。

 数多のミタマを従えて、その絆を結ぶ事で、討鬼伝世界最大の山場であるオオマガドキを封じる。

 つまり、複数のミタマを宿す事ができない(のっぺらトリオはもう纏めて一体扱い)俺でも、ムスヒノキミの役割を果たせるかもしれないのだ。

 

 問題は、これが実現可能かどうかと、のっぺらぼうをそこまで増殖させるのにどれくらい時間がかかるかって事だな。

 これについては、地道にやっていくしかないだろう。

 3体同時にレベルアップして増殖するようなら、3×3で9人、さらに増殖で27人になるかもしれんし。

 

 

 ……ウザいってレベルじゃない。

 SAN値直葬確実である。

 ああ、考えるのもイヤになってきた…。

 

 

 

 

 

 

 今日はもう休もう。

 いつもなら出撃しまくってる時間だけど、神機と杭君がメンテナンス中だから何もできない。

 

 

 支部長への報復として、リンドウさんにアーク計画の事を話そうかと思ったが、なんか知らんがリンドウさんを見かけない。

 サクヤさんに聞いたら、特務に行っているそうなんだが…昨日の今日で、か?

 お互い、暗殺しようとしたって事は気付いている筈なんだが……それで釘を刺しに行ったか?

 狙うなら自分ひとりを狙え、巻き込むな……なーんて言ったところで、支部長が素直に聞く訳ないわな。

 それで聞くような支部長だったら、最初から暗殺なんて狙わないよ。

 目的のためなら、何処までも非常に徹するタイプだ、あの人……俺を暗殺に巻き込もうとしたのだってそうだしな。

 

 

 ………特務に行ったのは、「まだ完全に反旗を翻す気は無い」ってアピールか?

 しかし一人でとは幾らなんでも…でも普段の特務も一人でやってるっぽい。

 連続で暗殺を狙われる可能性は?

 

 …昨日のような大掛かりな罠は、恐らく無い。

 そうそう準備できるもんじゃない。

 ただ、大きな罠を潜り抜けた直後ほど隙が生まれるのも事実。

 ……リンドウさんなら大丈夫…と思うしかないか。

 

 特務が「転校」もとい転任になりませんように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 鬼『杭』千切 ~其は人生の穴を意味もなく掘っては埋める一本の杭~
 オリジナル技です。
 ~ 一本の杭~までが正式名称なのは言うまでもない。 

 その内、主人公の保持技能一覧とか作った方がいいかも…。


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28話

やっぱ一部の阿呆が、接客業の難易度を釣り上げている…。
人のフリ見て我がフリ治せ。
コミュニケーション能力が只管低い時守ですが、あんなジジイには絶対になるまいと誓いました。
なるべく良い客で居たい。



 

 

神喰月鮫日

 

 リンドウさんはまだ帰ってきてない。

 が、無事なのは事実のようだ。

 ヒバリさんにも確認を取ってもらい、アナウンスに返事があるところも見た。

 リンドウさんは俺にも気をつけるように、と密かに告げていたが…まぁ確かに、支部長にしてみれば俺は爆発寸前の爆弾か。

 

 さて、あっちからのリアクションは今のところ無いが、どうしたものか。

 アーク計画の真相をいきなりブチ撒けるという手もあるが、これは何が起こるかわかったもんじゃないな。

 仮にやるとしても、アリサが目を覚ましてからにしたい。

 前回ループ時の俺とアリサの関係に気付かれているかはともかくとして、眠ったままのアリサは俺にとってもリンドウさんにとってもアキレス腱だ。

 最悪、意識の無い状態で人質にされかねない。

 ツンケンして、旧型使いを見下す言動を取っていたアリサを好いている者は殆ど居ないだろうが、それでも人質を何の躊躇いもなく見捨てられるかというと、これまた怪しい。

 

 

 

 さて、そうなるとアリサを目覚めさせるイベントだ。

 新型同士の感応現象が必要になってくる。

 確かあの現象では、互いの過去を垣間見てしまうって話だったと思う。

 ……あれ、主人公が一方的に見てしまうんだったか?

 ゲーム的に考えると、狩りゲーの主人公に過去なんか無いしな。

 

 まぁ、とにかく。

 この際、アリサを目覚めさせるのが第一優先事項だ。

 別に俺の過去を覗き込まれても、特に問題は無い……黒歴史を穿り返されるような事でなければな!

 ああ、中学時代に書いたノートをの内容をふと思い出してしまったような居たたまれないカンジ……まぁ、今でも頻繁に黒歴史を量産している訳ですが、人生なんてそんなもんだよね。

 そんなもんだよね(強弁)

 

 

 

 仮にループの事を知られてしまっても、正直大した問題は無い。

 一番知られてはいけない、支部長や博士にはもうバレているんだし。

 ……前回のアリサの記憶を見られた時には、妄想の一言で押し通そう。

 ドン引きレベルじゃ済まない程ドン引きされて好感度もマイナスブッチギリになるだろうが、このまま眠らせ続けるよりマシだ。

 

 

 

 という訳で、早速行ってきた。

 確か腕輪をしている手を接触させればいいんだよな。

 都合よく、オオグルマも席を外しているようだったので(ツラ見たら何かやらかしかねん)早速試してみたんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何も起こらぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 何故?

 

 

 

 

 

 

神喰月ダツ日

 

 

 支部長との接触を避けながら、榊博士に相談に行く。

 博士ー、カクカクシカジカ四角い音速丸ってカンジなんすけど、これどういう事っすかねー?

 

 

 

 

 3秒で答えが返ってきた。

 

 

 俺の神機適合率が低すぎるらしい。

 なるへそ、神機同士の感応現象は確かに理論上成立すると言われているが、それには互いに高い適合率が必要だった。

 俺はそれには届いてないって事か…。

 

 そうなるとアリサをどうやって叩き起こそうか。

 

 

 いや、それ以前にちょっと待て。

 確か最初にゴッドイーター適合試験を受けた時、支部長からはその辺について何も言われてなかったぞ。

 リスクが伴うのは聞いてたが、俺の神機適合率については何も聞いて無い。

 旧型の神機の適合率には充分だそうだが、新型になると7割以上の確率で失敗するのが目に見えている適合率だったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 あれ、ひょっとしてあの時のループで、俺って支部長に謀殺されてた?

 

 

 

 

 

 まぁいいか、今となってはもう分からない事だし、ゴッドイーターパワーはどっちにしろ必要だったし。

 

 さて、アリサをどうするかという問題に戻るが。

 そもそもからして、アリサはどうして眠り続けているのだろうか?

 

 確かにオオグルマの催眠によって精神的に色々と揺さぶられたと思うのだが、逆に言えば精神のみの問題だ。

 肉体的には、裏カノン様から渇を入れられた(銃撃)だけでしかない。

 眠り続ける理由としては浅いと思うんだが。

 

 単純に考えれば投薬か。

 それとも眠っている間に、更に催眠の重ね掛けか?

 少なくとも、催眠の重ね掛けは今のところされていないと思う。

 ゲーム基準によると、オオグルマの催眠はハーブだかお香だか知らないが、何かを焚き込めてアリサを朦朧とさせ、その時に映像と声で暗示を刷り込んでいた。

 

 だが、アリサが眠っている医務室にはそれらしい痕跡は無い。

 一般人が感知できないだけでなく、ハンターである俺の感覚からしても、痕跡すら感知できない。

 昏睡状態に陥ってからまだ2日目だし、それを考えるとまだ何も仕掛けて無いのは…分からないでもないか?

 バイタルデータに変化が訪れてから催眠をかけるのかもしれん。

 

 

 

 何れにせよ、このままだとアリサはいつ目が覚めるか分からない。

 さっさと身柄を確保してしまいたいが、医務室には一応カメラもあるし、何より意識不明の人間を介護できるような場所は、極東には他に無い。

 意識が戻らないと、下手に身柄を確保してもそのまま衰弱死という可能性もある。

 …ミタマ癒でドツいても、たんこぶができるだけだったしな…。

 

 

 

 洗脳解除…洗脳解除………上書きならやったけどなぁ。

 心をへし折って上書きするにしても、アリサが起きてなければ不可能だ。

 MH世界でユニスに色々試した、邪法ギリギリの房中術も、結局はリラックスと強い刺激のコンボで暗示を仕込む技術。

 これは起きて無くてもできない事はないようだが、効率は落ちるし時間もかかるし、何より昏睡している美少女に性的イタズラをする必要がある。

 想像すると滾ってくるが、暗示が成功する前にオナ輪…もといお縄になるのがオチだ。

 

 

 うーむ、何かいい方法が無いものか…。

 MH世界にも、睡眠の解除アイテムは流石に無い。

 蹴っ飛ばせばそれで起きてたからな。

 

 

 榊博士としても、アリサの昏睡はどうにかしたいようだが、原因が特定できないとどうしようもない。

 診察は主治医であるオオグルマがしているので、アイツが報告書を誤魔化してしまえば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ、簡単じゃないか。

 

 オオグルマを排除して、臨時の医者として榊博士に頼めばいいんだよ。 

 原作でもオオグルマはアラガミに襲われて死亡って事で、一時姿を隠していたが……そのまま永遠に隠れてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

神喰月クリオネ日

 

 早速行動開始。

 オオグルマはアリサの主治医だが、それだけをやっていられる訳ではない。

 病人や怪我人は、人間が絶滅でもしない限りは決して絶える事は無いのだ。

 当然、オオグルマもアリサ以外の人を診たりもする。

 

 都合のいい事に、何ヶ月かに一度の、一般人達の一斉検診がある時期であり、その担当の一人がオオグルマだった。

 ふむ……ちょっと担当区域を変更するように細工。

 

 どうやったかって?

 ジーナさんにお願いしました。

 代わりに、好きなだけ狩りに付き合うように条件を出されたが……ジーナさん、どんなツテを辿ったんだろうな。

 

 と言うか、最近ジーナさんによく狩りに誘われます。

 しかも、かなり強敵揃いの狩りに。

 流石に軽く狩れるような相手じゃないんで、結構ギリギリ。

 リンクエイドの世話になった事も、世話した事も一度や二度じゃないです。

 

 うーん、なんか様子が変だな?

 確かにジーナさんはアラガミとの生と死の交流を掲げているけど、こんな自殺志願一歩手前の事はしてなかった。

 まるで何かを求めて、生き急いで…或いは死に急いでいるようだ。

 このまま行くと、またあの時同様ヴァジュラの群れに囲まれるようなオチが待っている気がする。

 

 …どうにかせんと。

 

 

 

 さて、それはともかく、オオグルマ排除の準備はとりあえず整った。

 人を殺す事になると思うが、忌避感すら感じてない辺り、本格的に壊れているな、俺。

 自分の思考や言動に気をつけておかないと、素で道を踏み外して深みに嵌りかねん。

 気をつけねば。

 

 

 

神喰月セイウチ日

 

 突然で何だが、フェンリル本部の周辺には一般人の居住区が広がっており、更にその周りをアラガミを拒む為の防壁が囲んでいる。

 普通、ゴッドイーターではない人々はこの居住区に住む訳だが、全員が全員そこに居る訳ではない。

 

 フェンリルやゴッドイーターに対して何らかの反感を持っている人は多く居る。

 具体的な形にして反抗を示す人は少数だが、逆に言えば少数とは言え確かに居るのだ。

 分かりやすく、最も多い反抗の形としては、防壁の『外』に住む事で、自分はフェンリル達から与えられる庇護なんか要らない、と言外に示す事だ。

 それでフェンリルが何かしらの被害を蒙るかは知らないが。

 

 そういう離れた所に居る人達にも、身体検査は義務付けられている。

 無論、素直に従う訳が無いが、それでも行かなければならないのが面倒くさい所だ。

 車で30分以上かかるのだから、かなーり離れている。

 むしろそんな所で生活していて、どうやってアラガミ達に襲われずに済んでいるのか真面目に疑問だ。

 

 …まぁ、実際は襲われて全滅するか逃げ切って別の場所で暮らすか、らしいが。

 

 

 さて、この離れた所に居る人達の検査だが、今回はオオグルマが担当となっている。

 言うまでもなく、小細工の結果だ。

 あからさまに面倒臭そうだったが、担当した経験があるのだろう。

 

 

 

 でももう担当しなくていいよ?

 

 

 

 やった事は単純。

 診察の為のルートを調べて、事前にMH世界のこんがり肉を幾つか配置しておきます。

 これでニオイに釣られたアラガミ達が寄ってきて、かつ餌の取り合いでピリピリしてくれます。

 

 次に、オオグルマが使う車の下に、こっそりこんがり肉を括りつけておきます。

 そしてタマフリ「隠密」を使い、俺は車の上に張り付いておきます。

 

 

 適当な頃合を見計らって、タイヤをパン!

 

 

 そして俺だけ逃げる。

 後になって死体の確認もちゃんとした。

 

 ああ、オオグルマは一人で移動してたんで、巻き添えは無いです。

 もし誰か居るようなら、そいつだけ抱えて逃げるつもりだったが。

 

 

 

 

 

 

 罪悪感は、沸かないな。

 胸っつーか腹の辺りに、ちょっと気持ち悪い感じのカタマリがあるような気はするが、それだけだ。

 自分の手でやってりゃ、もっと違ったのかね?

 その場合、どうやればアリサを目覚めさせられるのか無理矢理聞き出してたと思うが……あんまりアテにはできない情報だろうな。

 妙な形で歪みきってる分、くたばる瞬間までアリサを自分の意のままにしようとするだろう。

 デタラメな情報しか得られそうにない。

 

 

 

 

 ま、やっちまったもんは仕方ない。

 問題が出るようなら、次のループで考えよう。

 

 

 

 

 

 

神喰月ペンギン日

 

 オオグルマの死亡はそれなりにニュースになった。

 が、言っちゃ悪いがこの世界ではアラガミによる被害は日常茶飯事だ。

 一人で検診に行かせた管理体制などは問題になったが、逆を言えばそれだけだった。

 記録を見る限り独り身だったし、家族も…死んでいるのか縁を切っているのか分からないが…居なかったし、騒ぎそうなのは…精々アリサくらいか。

 そのアリサもお昼寝中なので、どうという事もなく過ぎていく。

 

 結局、オオグルマの代わりにアリサの主治医に当てられたのは、名前も知らない一般の医者だった。

 ま、何でもかんでも榊博士が担当できる訳じゃないし、当たり前か。

 新型使いのデータは貴重なので、ある程度口は突っ込めるらしいが。

 

 

 支部長から何か報復があるかな?と思って身構えているのだが、今のところソレも無い。

 リンドウさんと話をしようとしていたんだが、これまた姿を見ない…マジで転任したんじゃなかろうな?

 …通信の返答とかはあるので、多分支部長が俺と接触させまいと、特務を連続して押し付けているんだろう。

 どうしたもんかな…特務というだけあって、何処に出向しているのかも探りだせない。

 

 

 

 それはそれとして、ジーナさんが何やら末期だ。

 強い相手、強い相手、ヤバイ状況にどんどん突っ込もうとしている。

 俺を連れて。

 

 流石にカノンさんと一緒に居る時は自重してくれているようなんだが…代わりに3人で出撃する事になると、強い敵とヤバい状況と誤射の嵐で俺が地獄だ。

 

 

 一体何がしたいのか、ジーナさんに直接聞いてみたんだが……あの、ポエムは勘弁してください。

 高尚過ぎて俺のような低レベルの人間には理解できないっす。

 

 

 

 ただ、どうも鬼千切に拘っているような感じがする。

 そう、鬼千切だ。

 よくよく考えたら、モノノフとしての修行以来ロクに使っておらず、ふと気付いて日記を読み返せば、使った記録は一度も無い。

 あまつさえ、鬼杭千切というオリジナル技が登場し、全く日の目を見ていない哀れな技だ。

 

 ジーナさんの目の前で使って、グボロ・グボロを真っ二つにしてみたんだが、「確かに強い……でも、あの時の輝きはこんなものじゃなかった…」と不満顔。

 どうやら、鬼千切ではなく鬼杭千切の方にご執心らしい。

 ここでも日の目を見ないか、鬼千切…その内名前がオチ千切に変わらなきゃいいんだが。

 

 

 つーか、使い勝手としては鬼千切の方がずっと優秀だけど。

 だって鬼杭千切は破壊力こそ桁外れのバランスブレイカー状態だけど、使ったらまず俺が死ぬし、単発でしか使えないし、使ったらまず間違いなく死ぬし、使おうとすると動きが超もっさりになるし、死ぬし。

 じゃあ何で殆ど使わなかったんだろう、今まで………。

 

 

 

 

 

 ま、いいか。

 

 

 とにかく、ジーナさんは鬼杭千切がご所望、と。

 しかもできれば生死のかかったギリギリのシーンで見たいので、ヤバイ任務に俺を連れまわしてた訳ね。

 だが生憎といろんな意味でリスクがデカいので、ホイホイ撃てません。

 そんなに撃ってほしいなら、なんか別の対価をください。

 

 

 …しかし、これどうにかしとかんと、マジでヤバいな。

 鬼杭千切の為だけに、余計なリスクを負っている。

 ジーナさんも自覚の上でやってるんだろうが、このままだといつ破綻するか分からない。

 

 どっかで止めさせないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神喰月ラッコ日

 

 

 

 止 め ら れ る 気 が し ね ぇ 

 

 

 何がジーナさんをそこまで駆り立てる。

 何を言っても独自の理屈で論破される…というか言葉のキャッチボールをしてくれない。

 俺もコミュニケーション能力低いけど、ジーナさんは別の意味で低いな。

 まぁ、アラガミを打ち抜くのが最も好きなコミュニケーションという時点でお察しかもしれないが。

 

 正直な話、もうヤバい領域に足を突っ込んでいる。

 MH世界で、下位ハンター状態で上位ハンター中盤の狩りを体験してきた俺がこう感じる時点で、どれくらいのギリギリ綱渡りを続けているか分かってくれると思う。

 最近はカノンさんまで付いて来るようになったんで、何とか回っているが…。

 いや、誤射回避を考えないといけないんで、カノンさんはプラスマイナス0かな?

 

 

 ジーナさんは、「あの時ほどじゃないけど……段々と輝きが強くなってきてるわね」と言っている。

 鬼杭千切は使ってない。

 何度か使ったのは、普通の鬼千切の方だ。

 それが強くなってるって……ひょっとしてこの人、霊力とか感知できるのか?

 鬼千切には確かに強い力が篭められているし、霊力は負荷…命の危機を感じると、それに反発するように強くなる性質がある……小宇宙と同じ理屈だな。。

 ひょっとして、ジーナさんのあの眼帯は狙撃の為じゃなくて、見てはいけないものを見ないようにする為…?

 

 

 でも聞いてみたら、幽霊は信じていない、どころか存在しないと断言された。

 死んでも終わりでないのなら、それは死ではない。

 ジーナさん的には、幽霊という存在は生と死の交流を破綻させかねない、あってはならない存在らしい。

 …俺はどうなんだろうね。

 

 

 

神喰月トビウオ日

 

 何だ、最近鬼千切を使う度に、ジーナさんが言うところの輝きが強くなってきている…つまり霊力が一時的とは言え、危険を感じてブーストしている訳で。

 そうなると、当然ならが何度も何度も身の危険を感じている。

 …生存本能が疼いて、性欲を持て余していたのですが。

 

 

 

 ……そう、『いた』のですが。

 

 

 

 

 ヤッちゃいました。

 いや合意の上だけど。

 アリサやユニスのように、心をへし折って、とか酒で前後不覚になって、ではないけど。

 

 なんというか、生存本能バリバリで色々と溜まっていたのは、俺だけではなかったらしい。

 うん、ミッション帰りにね……ジーナさんとヤッちゃいました。

 アラガミが周囲に居るかもしれない状態でのアオカン……。

 

 すっげー刺激的ではあったな。

 我に返るとよく無事だったと思うが。

 

 しかし、毎度毎度どうしてこう、過程をすっ飛ばして体の関係に行きつくかね。

 と思っていたら、ジーナさん的にはそうでもなかったらしい。

 毎度毎度の死線ギリギリの出撃が、彼女的にはデートだったとか。

 えらく分かりにくい愛情表現っすな…。

 

 楽しくなかった?

 

 

 …いえいえ、ご心配なく。

 限界ギリギリのアドレナリンバリバリで楽しませていただきましたとも。

 

 

 …「そう、よかった」ってちょっとだけ微笑まれたら何も言えねー!

 デレキタ!

 ジーナさんデレktkr!

 これでかつる!

 

 

 クールなのにめっちゃカワイイ!

 

 

 

 

 

 

 

 つくづく普通の経緯での恋人と縁がねーな。

 …ハンターだのゴッドイーターだの、普通の職業じゃない人ばかりだから当然か。

 

 

 

神喰月シャチ日

 

 そーいう関係になってからも、ギリギリの出撃は続くんですねジーナさん。

 と言うより、ジーナ的にはデート同然なので、むしろこうなってからの方が出撃は激しくなった。

 やっぱりどげんかせんといかん。

 

 あと、更に問題発生。

 出撃の後、大抵俺達は気配を殺しながらナニしていた訳だが…よーく思い出してほしい。

 俺達は、「3人」のチームなのだ。

 

 

 

 …カノンさんに見られてしまいました。

 流石に直でヤッている時に目が合った訳じゃない。

 ただ、ヤッた後に合流した時、顔を真っ赤にしてあうあうと挙動不審になっていただけだ。

 …うん、確定ですね。

 ちなみにミッション終了後だったので、表カノンさんだったと思われる。

 

 ジーナさんは一見平然としてたけど、若干歩くのが早足だった。

 

 

 

 そんな事があっても、外でヤるのが止められません。

 ジーナさんも俺も、このスリルにハマってしまっている。

 …まぁ、もしヤッてる状態で万が一の事があって、死体を発見されたら……物凄く気まずい事になってしまうだろうけど。

 

 そーいう行為は室内だけにしよう、って話もしたのだが、ミッションに行って本能が滾ると、つい流されてしまう。

 ちなみにジーナさん、アッチのテクも結構なモノがありました。

 なんというか、直接性感を刺激するようなのじゃなくて、言葉や雰囲気で煽っていくのがウマイと言いますか。

 ナニしている間にギュッと抱きしめたら、耳元でエロい囁きをしてくれるんだが…これがまたゾクゾク来ます。

 耳ナメとかもしてくれるんで、唾液で濡れたところに息が当たって……いかん、漲ってきた。

 

 漲ってきたついでに書いとくが、ジーナさんマジ美脚。

 足で捏ねられてついドキーンとしてしまうくらい美脚だった。

 あの足なら躊躇わずに舐められるね。

 実際、物静かに見えて、ナニの時は女性上位と言うか女王様っぽい態度だし。

 

 

 

 

 まぁ、そこから逆転してヒィヒィ言わせるのが楽しいんですが。

 流石に洗脳術まがいの真言立川流オカルトバージョンは、室内でしか使えません。

 声とかエラい事になるしね。

 まぁ、ソッチも気に入ってくれたみたいだが。

 

 

「アナタになら、蹂躙されるのも悪くないわ…」

 

 

 とピロートークの時に漏らしてくださいました。

 

 

 

 ああもう、滾って治まらなくなってきた。

 酒持ってジーナさんの部屋に行ってきます。

 

 

 

 

 

神造月ハト日

 

 

 新しい月に突入。

 新記録だな。

 

 忘れてた訳じゃないが、アリサは未だに眠ったままだ。

 本格的に理由が分からない。

 催眠にしては長続きしすぎだと思うし、投薬はもうされていない筈。

 まさか、腕輪を通してゴッドイーターとしての何かに細工をされたのか?

 

 

 リンドウさんともまだ会えないし、支部長に至っては何時の間にやらドイツか何処かに出向している始末……なに、リンドウさんも同行している?

 おーい、俺を放置しといていいのか?

 ウサギはほっとくと寂しくて死んじゃうんだぞー。

 デマらしいが。

 

 真面目な話、支部長が俺を意味もなく放置しておくとは思えない。

 リンドウさんと一緒に葬ろうとしたのを、「単なる偶然、事故だったのだ」で済ます気もないだろう。

 となると、単純に考えて…俺を放置しておいても、問題ない理由がある?

 アーク計画の事を知っているのに?

 それを周りに…………漏らしてないな。

 

 よく考えてみれば、俺はリンドウさんにしか話そうとしていない。

 他の人達に対して話したらどうなる?

 …エイジス計画の裏……。

 

 一般人が知ったところで、何もできない。

 ゴッドイーターに知れ渡ったら……分裂が起きるな。

 肯定派と否定派、そして信じる派と信じない派で。

 

 …しかも証拠らしい証拠も無い。

 終末捕食云々なんぞ、一ゴッドイーターからしてみれば、「ナニソレ」って話だし、むしろ信じる人の方が少ないか。

 しかも、それに必要なのが特異点…知性を持ったアラガミ、と来れば…御伽噺にしか聞こえないか。

 

 なるほど、明確な証拠を掴まれるまでは、俺が何を喋っても妄言にしかならない。

 唯一の例外は、アーク計画に裏がある事を悟り、そしてその裏を探れる立場にあるリンドウさん。

 リンドウさんと接触しない限り、支部長にとって俺は現段階では無視できるリスクだって事か。

 

 それはそれでムカつくな…次のループでは、榊博士から貰った認証コードで片っ端からデータをダウンロードしておく事にしよう。

 

 




最近、ちょっとずつ主人公が強くなってきたので、どうやって死なせるかに苦心する日々。
うーむ、GE世界がやたら長く続いてしまう。
今度の討鬼伝世界は、本格的にストーリーが始まる頃なので、もうちょっと念入りにしたい。

…ストーリーが無いMH世界が、一番やりにくいです。
原作、ゴッドイーターにした方がいいかなぁ…。


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29話

どうも、時守です。
最近、前書きでの愚痴が多すぎるとご指摘いただきました。
ご迷惑をおかけし、申し訳ございません。
今後は自重するようにいたします…でも時々は見逃して…。


 

神造月タカ日

 

 

 ジーナとのミッション帰りのナニがまだまだ続いている訳ですが……なんか、カノンさん毎回覗いてるっぽい。

 ナニの最中に視線を感じる事もあるし、何より荒い息がハンター聴覚に聞こえてきている。

 それどころか、こう、クチュクチュと湿ったナニカを掻き回すような音まで。

 しかも帰る時には、顔が赤いままだし、何ていうかハンター嗅覚で分かってしまう。

 

 ……妙な性癖に目覚めさせてしまったっぽい。

 と言うか、多分カノンさんも毎回の生命の危機で『性欲を持て余す』していたんだろう。

 それが、俺らの情事を見た事でなんか開花しちゃったと。

 表か裏か知らないが、どうしたもんだろうか。

 

 

 

 それはそれとして、暫くシオ…まだ名無しだろうが…を探してみようと思う。

 終末捕食を引き起こす要である、特異点。

 これを確保できれば、誰かにアーク計画をバラした時にも説得力が出るし、何より支部長へのイヤガラセになる。

 ゲームストーリーには今回は介入しないって約束だったけど、もう知らん…流石に暗殺されかけて、黙っていられん。

 

 仮にシオ(仮名)を確保できたとして、アナグラに匿うべきだろうか。

 榊博士なら協力してくれると思うが、それでもアナグラは支部長の手の下にある事には変わりない。

 事実、ゲームでは何時の間にやらシオの存在に気付かれ、非常停電という手段でカモフラージュを剥がされた。

 非常停電自体は、多分コッソリと予備の電源でもなんでも細工しておく事で回避できるだろう。

 ……いや、シオを匿っている部屋だけ電源が入っている状態でも、ほぼ確信を持たれる事には変わりないか。

 

 

 

 非常電源を、複数の場所に配置すれば……いや、どっちにしろ匿うとしたら榊博士の下だ。

 確信とはいかないまでも、限りなくそれに近い疑惑を持たれる。

 この案も却下。

 

 

 

 …よし、放し飼いにしよう!

 野良猫だって餌付けすれば、ご飯の時間には毎回そこに来るようになるんだし。

 大丈夫だろ。

 

 

 

 

神造月ハゲワシ日

 

 

 シオを探して出撃し、帰る前にジーナとしっぽりしつつカノンさんに覗かれる日々。

 あれから何度か、黒爺猫とやりあいました。

 やはりあの時の黒爺猫は上位の敵だったらしく、普通に会う奴らは楽…とは言わないまでも、鬼杭千切を使う必要もない相手だった。

 状況があの時ほど絶望的じゃないってのも大きいけどね。

 

 …ジーナとしては、鬼杭千切が見れない事が不満なようだが。

 代わりに、黒爺猫を鳴き真似で挑発するので勘弁してください。

 ……これ、あの暗殺騒ぎの時に使ってたら、もうちょっと…いや無理だな、完全に囲まれてたから、俺に一斉攻撃がくるだけか。

 

 

 さて、シオの探索だが、全く成果が上がっていない。

 ハンター感覚は勿論、強化パーツを使ってユーパーセンスやら、モノノフの鬼の目やらも使って探しているが、見つかるのは通常のアラガミばかり。

 

 当然と言えば当然か。

 ゲームでは、リンドウさんを助けた時も、主人公達の前に姿を現す時も、鎮魂の廃寺だったのでその近辺を探していたのだが…シオがずっと同じ場所に居た保証なんて無い。

 そもそも、いつから鎮魂の廃寺に居たのかも分からないし、産まれた時期だって不明だ。

 

 正直、雲を掴むような……或いはネッシー(懐かしい…)とかビッグフットとか探すような気分である。

 

 

 うーん、これは……ただ探すんじゃなくて、狩り出すべきか?

 榊博士がやったように、周囲のアラガミを狩り尽くして……いや、それは今やってるのと同じ作業だな。

 そんじゃ罠を仕掛けるか。

 痺れ生肉なり、眠り生肉なりを中心にして、MH世界式…じゃなくてもいいので、落とし穴を仕掛けよう。

 落とし穴の下には、ペイントボールがたっぷりと。

 

 落ちればペイントボールの色が付き、あちこちに痕跡が残る。

 足跡から推測すれば、中に人間型のアラガミが居たのかは予測できる。

 

 …自分でやっといてなんだが、落とし穴と言うか抜けだらけな作戦だなー。 

 

 

 

 

 

神造月コウモリ日

 

 

 落とし穴作戦中止。

 引っかかった形跡があり、幸いにも雪で痕跡が消えてなかったので追ってみたんだが……ゴッドイーターが合流地点としている場所に続いていた。

 しかもよく見ると、ペイントボールの色が残った足跡は、裸足ではなく靴だった。

 

 うん、どう見てもゴッドイーターが引っかかってますね。

 …まず第一に考えなきゃいかん事だったよ…。

 MH式落とし穴と違って、普通の落とし穴は誰でもかかるんだよ…。

 モンスター相手にばかり落とし穴を仕掛けてたんで、気付かなかった。

 

 死者が出なかった事と、下手人がバレなかった事が救いです。

 

 

 上田先輩が、苗字・上田、名前・穴画になってしまったそうです。

 すまぬ先輩。

 流石に悪いと思ったんで、以前貰ったパンクな服着て上田先輩の狩りに付き合いました。

 

 

「フッ、流石に華麗だね!

 僕が選んだ服を着こなしてくれるだけの事はある!」

 

 って言ってたけど、動くたびにジャリジャリ音がしまくって鬱陶しかった。

 アラガミの気を引いてしまうし…。

 

 しかしなんだな、上田先輩、意外といい腕をしている。

 派手な格好をしているから何かとアラガミに狙われているのに、何だかんだで攻撃を凌ぎきっていた。

 本人は華麗に戦っているつもりなのかもしれないが、戦術自体は…誤解を恐れず書くなら、泥臭い戦法だ。

 

 堅実で、粘りがあり、そして敵をひきつける…意図してやっているのかは分からないが、何と言うかナイトみたいな戦い方だな。

 それでもメイン盾とまではいかないのが辛い所だが。

 …なんでこの人、オウガテイルの奇襲に対応できなかったんだろうなぁ…。

 まぁ、ゲームと違って急所を食いちぎられれば一発お陀仏だから、そういう意味では不思議じゃないんだが。

 

 

 

神造月飛行機日

 

 

 榊博士から依頼があった。

 今度はちゃんと本人に確認したから、支部長の陰謀って事はないだろう。

 

 で、依頼の内容だが…シオの捜索、ではない。

 シオをおびき出す為の、食料削りでもない。

 

 なんでも、最近鎮魂の廃寺近くで奇妙なアラガミを見た、という報告が相次いでいるらしい。

 アバドンとかではない。

 ついでに言うと、間違っても人型といえる形ではないので、シオでもないようだ。

 

 堕天種とかでも出来たのかな?

 と暢気に構えてはいられない。

 

 なんか知らんが、ヤバイ感がスゴイ。

 久々に第六感にビンビン来る。

 マッポー的アトモスフィアを感じる。

 実際、人間世界は終末捕食で終わる寸前だけど。

 

 これはフルメンバーで挑むべきか?

 俺と、ジーナと……カノンさんはどうするかな。

 最近、カノンさんの誤射が酷くなってるんだよな。

 誤射の回数が増えたとか、よく吹き飛ばされるとかじゃなくて……いや、誤射だけじゃなくて、動き自体が全体的に不調になってるのか。

 一体ナニが原因…て考えるまでもないわな。

 

 裏カノン様も、意外とウブだったらしい。

 なら最初から覗くなって話だが、表カノンさんはパッと見、耳年増タイプと言うか…好奇心に抗えなかったんだろう。

 で、アテられて自分でスるようになって、表も裏も暫く熱中していたけど、ふと我に返って…まぁ、色々と葛藤中。

 大方、こんなトコだろう。

 

 

 ん~~、しかし裏カノン様にも意外な弱点が…。

 …………これ、もしも表にせよ裏にせよ、例の洗脳まがいの房中術をかければ…ある程度、誤射をどうにかできるんじゃないか?

 少なくとも、俺に対してだけは。

 

 

 ………ま、やめとこうか。

 今はジーナと突きあってる身だし、浮気したらゴルゴされるのがオチだ。

 性癖的な意味でのゴルゴならともかく、物理的、ひいては生死的な意味でのゴルゴは御免蒙る。

 精子的な意味でのゴルゴもOK…ジーナが色々コスプレとかプレイとか協力してくれるなら早○の汚名も覚悟の上である。

 

 

 

 それはともかくとして…とにかく、神機を万全の状態にするとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凶星月ノヅチの蒸し焼き日

 

 

 予想というか予感通りにデスワープ。

 何ですかありゃぁ…。

 

 

 ちょっと情報を整理してみる。

 まず第一に、やはり謎のアラガミとやらはシオではなかった。

 

 最初は普通の狩りだった。

 謎のアラガミなんて、姿形も見えない。

 

 鎮魂の廃寺近辺は、先日のリンドウさん暗殺騒ぎの時に集まった、ヴァジュラやプーリ・マダーが多く居るので油断できない。

 とは言え、群れで来られなければ何とかなる。

 誘いこみ、一体一体を潰していった。

 

 異変が起きたのは、5~6体目のヴァジュラを釣った頃だったか。

 ヴァジュラを誘い込んで、さぁ金出せ…じゃなくって命と素材を差し出せ、とジーナと一緒に挟み撃ちにしようとしたのだが。

 

 ジーナの援護が来ない。

 何事!?と思う間もなく、俺も理由が分かった。

 神機が動かない。

 体がなんだかムズムズする。

 

 これは後から気付いた事だが、身体能力もかなり落ちていた。

 とにかく神機…というよりドリルバンカーが重くて、まともに動けないくらいに。

 で、どうなったかって言うと…もう泥沼と言うか、狩る側と狩られる側が逆転してしまった。

 

 いくらゴッドイーターと言えど、神機がなければちょっと身体能力が高いだけの、ただの人。

 俺の場合はハンターボディにミタマという+アルファがあっても、相手はよりにもよってアラガミだ。

 通常の武器では、傷付ける事さえできない。

 

 今思えば、神機を放り出してでもさっさと撤退するのが正解だったんだろう。

 杭君を捨てる、という断腸の決断をしてでも。

 

 だがもう遅い。

 俺は神機に拘りすぎて、ヴァジュラの攻撃を避け切れなかった。

 それが全てだ。

 

 

 

 …ジーナ、無事に逃げ切ってるといいんだが…。

 カノンさんを連れてきてなかったのが、せめてもの救いか。

 アリサも眠ったままなんだよなぁ…。

 ああ、後味悪い…。

 

 

 

 

凶星月ガキの骨でスープの出汁日

 

 

 ジーナがどうなったのかも気になるが、それ以上に問題なのが、あの突然の神機の停止だ。

 一体何が原因なのか。

 

 実を言うと、的中しているかはともかくとして、心当たりはある。

 神機の突然の停止…というより、動作を妨害されたようなあの感じ。

 ゲームの中でも、同じような現象があった。

 

 即ち、GE2に登場した、感応種による干渉だ。

 しかし、そんな事が有り得るのだろうか?

 ゲームでの設定はよく覚えてないが、アレは確か赤い雨…つまり新しい特異点を探そうとする地球の意思だかなんだかが関係していたと思うんだが。

 新しい特異点もなにも、あの時点では旧特異点…つまりシオだ…も生きてるだろうに。

 いや、何かの切欠で別のアラガミにパックンチョされてしまったのなら話は別だが。

 

 

 単に、他の地域のアラガミが移動してきた、というならまだ話は分かる。

 だが、感応種の場合はなぁ…イベントをスキップしたというか、時系列がおかしいというか。

 

 実際、感応種らしきアラガミも、居るには居たのだ。

 ヴァジュラの攻撃を避けるのに必死だった時、視界の端にちょっとだけ見えた…というより、それに気をとられて致命傷を喰らったんだが。

 

 オウガテイルとザイゴートを合体させたようなヤツだった。

 オウガテイルの上にザイゴートが乗っていたとかじゃない。

 そもそも大きさが違う。

 

 大きさ自体は、ザイゴートを少し大きくした感じで。

 羽が生えて空飛んでた。

 

 そして、ザイゴートであれば卵みたいな形をしている部分が、オウガテイル。

 見間違いでなければ、オウガテイルの顔の部分が、ザイゴートに張り付いている人っぽい部位だった。

 何より、フワフワと浮きながら、赤いナニカを延々と放ち続けている。

 

 明らかに、感応種が能力を使っている時のナニカだよなぁ?

 

 

 あんなヤツ、GEBにもGE2にも居なかったぞ。

 オリジナルのアラガミか?

 アラガミは進化が著しい生物だから、俺の知らないアラガミが出てきてもおかしくはないが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやちょっと待て。

 あの、神機が動かなくなった時に感じた違和感……あのムズムズとした感触。

 あれは、討鬼伝世界で他者からオカルトパワーの行使を受けた時と、同じ感触じゃないか? 

 今までオカルトパワーを浴びたのは、那木と一緒に狩りに行った時に治癒してくれたのと、まだモノノフとしての訓練を受けてなかった頃の、瘴気の治癒くらいだが……あの独特の感覚は、よく似ているような気がする。

 

 つまり、アレは感応種による感応能力ではなく、アラガミが霊力を会得して、使うことを覚えた…?

 …これ、マジだったら洒落にならないぞ。

 GE2のブラッドみたいに、感応種に対抗できるだけの人員は揃ってない。

 人間とアラガミのパワーバランスが、一気に崩れる恐れがある。

 

 仮にこれが正しいとすると…何故アラガミがオカルトパワーを?

 あの世界に、オカルトパワーを行使できるヤツなんか居ない筈………俺を除いては。

 

 

 という事は、俺が原因?

 

 …心当たりは、あるな。

 タマフリを何度も何度も使っていたし、鬼千切りやら、何より鬼杭千切でぶった斬ったアラガミの死体をそのままにしていた。

 死体自体は溶けて消えていくが、正確に言えば「溶けて、消えたように見える」だ。

 例えば地面にアラガミの体が染みこんだとすると、それに付着していた霊力も、恐らく染みこむだろう。

 そして、何でも…文字通り、コンクリートだろうが地面だろうが…食べるアラガミが、その部分を喰ったとしたら?

 

 いや、或いは鬼杭千切で倒した黒爺猫を、周囲のヴァジュラ達が食ったとしたら?

 

 霊力が付着した『何か』を食い続ければ、霊力を身につけたアラガミが現れてもおかしくない。

 

 

 

 …これが当たってるとすれば、一大事というかまだマシな方というか。

 つまるところ、俺がタマフリを使い続ける事で、アラガミに新たな力を与えてしまうかもしれない……全クリできる気がしないのに、縛りプレイの開始である。

 まだマシな所は、世界規模で広まる危険が少ない所か。

 あの世界で霊力を使えるのが俺だけなのだから、俺がタマフリを抑えていれば、そうそう広まっていく物でもない筈。

 

 

 ……どっちにしろ検証はできない。

 次回ループに持ち越しか…。

 

 

 

 

 

 

 

凶星月ヒノマガトリの唐揚げ日

 

 

 とにもかくにも、今はこの異界を脱出して、ウタカタの里に行かないと。

 ウタカタに上手く潜り込めるかは、前回ループで入手した、霊山からの書状の効果にかかっている。

 当然、今回の霊山はそんな指令を出してないどころか、俺の存在さえ知らないから、正式な命令ではない訳だが…そこは上層部のゴタゴタの余波、と思ってもらうとしよう。

 

 

 今回の目標は、鬼の群れの襲撃超えだ。

 正直な話、これに関しては武力を上げてどうこう、では無理だろう。

 どんなに強くなっても、俺は一人しか居ない。

 数で来られれば圧し留められないし、前回を鑑みるに、あれだけの数の大型鬼をどうにかできる自信は無い。

 かといって、鬼の襲撃自体を起こさせない…のは不可能。

 こっちの攻勢を逆手に取られたのは、単なる切欠だ。

 それがなくても、襲撃は多少遅れた程度で必ず起こっただろう。

 

 となると…ゲームのストーリーに従って動くようで少々つまらないが、神垣の巫女に結界を張らせる、しかないか…。

 でも、前回はどうしてそうならなかったのか?

 やはり、結界を広げると自分の命が削れるので躊躇った?

 

 それとも秋水が提案しなかった?

 

 

 うーん、分からん。

 二人に接触したら、暫く様子を見てみるか。

 

 

 

 

凶星月クエヤマの肉の鍋日

 

 

 異界を脱出できた。

 あんまり強い敵が居る訳でもなし、妙な冒険心を発揮しなければ、これくらいなら余裕である。

 

 抜けた先は、例によって何処だか分からない雪の中。

 とにかく人里に行かないと、ウタカタへの道も分からない。

 特徴的な形の山でもあれば、そこである程度居場所の検討もついたかもしれないが…何も見えん。

 

 適当に歩いているが、今のところ人の痕跡や川は見当たらない。

 と言うか、思いっきり雪景色で何も見えない。

 

 雪が降る程寒いところなんだから、多分北側に居るんだろう…という事で南下する。

 太陽が見えて方角が分かる事だけが救いだ。

 

 シオを探すために造った強化パーツでユーバーセンスを発動させてみた。

 意外な事に、鬼達が何処に居るかは分かったが…地図までは分からない。

 MH世界で、地図スキルを持った装備を作ろう。

 …アレ、聞いた所によると、単純に地図を持っていっているのではなく、スキルによって研ぎ澄まされた感覚を使って、周囲の地形を予測している物なんだそうな。

 まぁ、ゲームと違って毎回同じ場所で狩りをする訳じゃないからな。

 ソレも納得か。

 

 

 

 というか寒い。

 偶然残っていたクーラードリンクが尽きる前に、何処か拠点を見つけなければ。

 

 

 

 

 

凶星月ミフチの串焼き日

 

 一晩を何とか凌いで歩いていたら、断崖絶壁にぶち当たった。

 上を見てみたが、頂上が見えない。

 仕方ないので壁に沿って歩いていると、洞穴発見。

 

 これ幸いと入ってみたんだが、これまたおかしい場所だった。

 人が使った後があるのはいい。

 何年も前の痕跡だが、焚き火の後やら、凍っていたが武器防具が収納されている箱とか。

 

 それより何よりおかしいのは、この洞窟、何というかキレイ過ぎる。

 キラキラしているんじゃなくて、瘴気の穢れ的な意味で。

 異界の中でなくても、生物が生息している所には多少なりとも穢れが産まれる物なんだが、これが全くと言っていい程見られない。

 洞窟の中には、コウモリやら虫やらもちゃんと生息しているというのに。

 

 と言うのも、どうやらこの洞窟、結界石で出来上がっているらしいのだ。

 人里を守る結界を張るのに使う、あの石だ。

 自然に出来上がる物なんだろうか?

 

 しかも、奥深くまで続いているようだ。

 そろそろクーラードリンクも尽きそうだし、このまま外の探索を続けても凍えてデスワープするだけだ。

 今日はここで一晩明かして、奥まで進んでみようと思う。

 

 これだけ強烈に清められている洞窟なら、鬼の脅威は無いだろう。

 

 

 結界石、ちょっと削って持っていくか。

 何かに使えるかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 寝る前に少し調べたのだが、この洞窟、つい最近人が居た形跡があるような…。

 気のせいか?と思える程度の痕跡なので、正直言って確証は無い。

 本当に人が居たとしても、また戻ってくる保証は無い……座して待つのは死ばかり、かな。

 

 

 

 

凶星月オニビの火で焼肉日

 

 結界石の洞窟を探索中。

 本日の探索で判明した事は二つ。

 

 一つは、なんだかミタマっぽい力を感じる…なんか霊力が漏れてる場所がある。

 これは何だろう?

 ちょっと穿り返してみたが、何も分からない。

 結構深い所に、霊力の元が埋まっているようだ。

 何だろうな、これ…。

 

 気にはなったが、生憎と食料にもあまり余裕が無い。

 調べるのはまた機会があったらにしよう。

 

 で、もう一つ分かった事だが…この洞窟、以前に誰かが抜けていったっぽい。

 あちこちの分かれ道の壁に、矢印が削り込まれている。

 幾つかの分岐点では、矢印の上に×が掘り込まれ、別の矢印が刻まれている。

 …どうやらここを抜けていった人間は、手探りでルートを探していったらしい。

 

 誰だか知らないが、お蔭で洞窟を抜けられそうで感謝する。

 …或いは、以前に居た人同様、道半ばで果ててしまうかもしれないが。

 

 

凶星カゼキリの腿肉香草焼き日

 

 警戒しながら進む事、約1日。

 無事に結界石の洞窟を抜け、何処とも知れない森の中に出る事ができました。

 ありがとう、見知らぬ先人よ。

 

 さて、寒さという脅威も無いし、その辺の獣を狩って食料貯蓄も十全。

 あとは人里を目指すだけだが、さて、どっちに行くべきか。

 とりあえず南下を続けてみよう。

 

 

 

 

 

 

 と思っていたら、一日が終わる頃に里らしき物が見えた。

 正確に言うなら、人里から出る煙が、だが。

 アレは火事とかじゃなくて、炊事とかのための煙っぽいな。

 

 

 

 と言うか、アレはウタカタの里じゃないか?

 えらいご都合主義なような気が……まぁいいか。

 

 途中で見つけた川で適当に体を洗って、旅してきたモノノフとしておかしくないような姿に着替える。

 さて、上手く入り込めるといいが…。 

 

 

 

 

凶星月ミズチメ焼き日

 

 

 やはり、着任の際にちょっとゴタついた。

 まぁ当然だよな。

 一応正式な(前回ループではね)任命書を持っているとは言え、霊山からの事前連絡は全く無し。

 「聞いて無いぞ」てな話も、当然の事である。

 その辺は「あれ? 話が違うぞ」って顔をして、自分も戸惑ったように見せて、何とかシラを切り通し、居着く事になりました。

 ヤマトのお頭からの「本当だろうな?」ってプレッシャーが結構強かった。

 

 更に、アラガミ化を抑える為に体に瘴気を残しているので、これまた怪しまれた。

 これは鍛錬で、このおかげで異界に長時間潜っていられるようになった、と言い張ってなんとか押し切ったが。

 

 

 不審を感じられているし、多少警戒されているのも事実だが、それ以上に戦力を確保できるなら、この際なんでもいいっぽい。

 それだけ、鬼との戦いがギリギリのラインになってきているという事だ。

 事実、この頃から襲撃が徐々に激しくなってきて、最終的にはあの大攻勢だ。

 

 

 ま、実際、正規のルートで潜り込んだのではないとは言え、ちゃんとモノノフやるつもりだ。

 なんだかんだでお人好しが多いから、あんまり妙な事しなけりゃすぐ受け入れられるだろう。

 

 誤算だったのは、住居である。

 前回ループというかゲームストーリーでは、使われていなかった住居(よく考えたら前に住んでいた人はどうなったのか)を宛がわれ、事前の連絡もあったので、ちゃんと掃除もされていた。

 …が、今回は違う。

 思い切り汚れているというか何が何だか分からない器具で溢れていると言うか。

 皿や碗と言った日用品もあるし、棚には無造作に掛け軸がかけてあるし、仏像があるし何に使うのか分からない金属の細い棒があるし。

 しかもその全てが、物凄い勢いで埃を被っている。

 というかこの家、絶対家庭内害虫とか居るだろ。

 …その程度で騒いでちゃハンターなんぞやっていけないが、清潔ではないな。

 

 これは…片付けるのに、結構苦労しそうだな…。

 纏めて燃やすか埋めるかした方が良さそうだ。

 

 

 

 桜花さんが手伝ってくれるらしいが、蜘蛛の巣を見て引き攣っていた。

 …指摘したら刃を抜かれそうだった、と言うか俺の背後で抜いて斬ってた。

 …見なかったことにしてあげよう。

 

 




暫くリアルが忙しくなりそうなので、投稿速度が遅れる事になりそうです。
討鬼伝極も、もうちょっと素材を集めて、ストーリー確認の為引き継いで最初からやりたいので。


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討鬼伝世界4~色に溺れ、エロに走る~
30話


ちょっと間が空いて申し訳ありません。
試行錯誤しつつ思い出しつつ討鬼伝やってます。
無限討伐任務ェ…。


 

凶星月ダイマエンの唐揚げ日

 

 丸一日かかって、ようやく家が片付いた。

 と言うか、置いてあった諸々の品の中に、外の世界(つまりオオマガトキで沈む前の世界)の物が幾つかあったような。

 CDコンポとか、電源もCDもない状況じゃ使い物にならないから、そのまま捨てたけど。

 

 他にも、厳重に管理されている筈の、鬼の体の一部が出てきたり、ハク(金)が出てきたり、何故か瑞々しい状態の果実が出てきたり…なんだろうな、この果物。

 妙に強い霊力を感じるんだが。

 

 

 桜花さんに聞いてみたら、「ひょっとしたら、神木に生っていた実じゃないのか?」との事。

 …いやいや、アレってかなり前から枯れてる状態では?

 そういえば、あの社の掃除もやり直しか。

 狩りをするのは苦しくはないが、こういう地味な作業のやり直しは結構心に来るなぁ…。

 

 ともあれ、幸運にも今日は襲撃は無かった。

 この片付けを毎回やるのか…流石に面倒だな。

 

 何かこう、一気に片付けられる裏技は無いもんか。

 要らない物を全部持ち出して燃やす、埋める、或いはふくろの中に入れてしまう…いや、ふくろの中は無しだな。

 なんとなく、中で得体の知れない何かが化学変化おこすような気がする。

 

 他に空いてる家は無いらしいし…はぁ、仕方ないか。

 

 

 

 それはともかく、暫くは小物の鬼達の襲撃続き。

 桜花さんと一緒に行動し、初穂と息吹と会い、ミフチとやり合う。

 その後は富岳の兄さんと那木さんと顔合わせして、カゼキリの狩りか。

 

 俺をどれくらい警戒しているかによって、多少会う順番が変化するかもしれないが、別に問題は無い。

 数で来られない限り、このレベルの鬼にはそうそう負けないしな。

 

 さて、明日は里の皆への顔合わせだ。

 

 

 

凶星月オンモラビの氷のカキ氷日

 

 顔合わせ。

 事前に「新しいモノノフが来る」という話が通ってなかったので、ちょっと怪訝な顔をされたが、概ね問題なく終わった。

 その後に襲撃があったが、まぁガキだったし、語る程の事でもないだろう。

 

 

 問題があったのは、樒さんだ。

 …あのミステリアスさと上乳と肩やうなじは確かに問題だが、そっち方面の話ではない。

 

 樒さんは、ゲームであった通りにミタマ達の声がよく聞こえるらしい。

 ミタマ達が楽しそうにしているのが好きなので、どんどん連れてきてほしい…と主人公に頼んでいた覚えがあるが、その反面、ミタマ達が騒ぎすぎて夜に眠れなくなるという中々の苦労人だ。

 しかし、俺は複数のミタマを宿す事はできない……のっぺらトリオは三体一組扱いでいいだろ……ので、そういう事は言われない…と思っていたのだが。

 

 

 挨拶周りに行った時、眉を顰められてこう言われた。

 

 

「あなた、随分と沢山のミタマと一緒にいるのね」と。

 

 

 しかも、

 

 

「沢山居すぎて、何を言っているのか分からないわ…。

 真夏の蝉の中に居るみたい」

 

 

 

 …どゆこと?

 

 のっぺらトリオを3人と数えるにしても、そんな風に例えられる程の数じゃないだろう。

 確かにたった3人とは思えないほどのウザさを見せるが。

 そもそも、のっぺらトリオは声なんか全く出してない…いや、これについては俺が聞こえてないだけという可能性もあるのだが。

 

 モノノフとしての適正が低いので、自分のミタマがどんな物なのか分からない、調べてくれませんか…と言ったら、1000ハクを取られた。

 まぁいいけどさ、それくらい…。

 

 調査の結果、通常のミタマとはあらゆる意味で違う、としか分からなかった。

 …まぁ、種族からして違いますが。

 

 しかも巫女さんのお世話にもなってないのに、2度ほど勝手に力を解放しましたが。

 更に言うなら分裂なんて離れ業までやりやがったが。

 

 

 結局、のっぺらトリオに関しては、今後も研究してくれるらしい。

 樒さん自身も、今まで見た事の無いミタマに興味があるらしいので、ハクは要らないそうだ。

 

 

 

 そして更に告げられたのが、俺が感知できてないミタマが、俺の傍に何体か居るらしい、という事だ。

 …ミタマって、人に宿るもんじゃないのか?

 樒さんに聞いてみたら、前例はあるそうだ。

 

 と言うより、モノノフ達は大抵、自分の武器にミタマを宿している事から分かるように、ミタマは人体ではなく物質に宿る事もできるらしい。

 それに、鬼に食われる危険度は高いが、肉体に宿らずミタマだけで存在できない事もない…ぶっちゃけ幽霊以外の何者でもないが。

 そんな状態のミタマが、俺の周りに幾つか居るらしい。

 武器だけではなく、防具や、俺が普段持ち歩いている色々な物に宿っているとか…。

 

 

 …ちょっと待てよ、てぇ事は何か。

 アレとかアレとかアレとか、濡れ場から黒歴史まで色々見られ続けているって事か!?

 

 

嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ち着いた。

 見られちまったもんは仕方ない。

 濡れ場する時は、誰かに見せ付けているプレイと割り切って考えよう。

 ……祟り殺されねーよな、俺…。

 

 

 にしても、妙な話だ。

 ゲームの主人公は、数多のミタマを宿す力を持っているからこそ、見込まれて、ムスヒの君となったのだと思っていたが。

 その力の無い俺に、何故憑いてくるんだろう?

 いや待て、憑いてきているのが、ゲーム同様のミタマとは限らない。

 案外、英雄ではなくのっぺらトリオ同様、妖怪のミタマかもしれないし。

 

 一体どういうミタマが集まっているのか、これも調べてもらう必要がありそうだ。

 それに、もしも集まっているミタマ達に力を借りる事ができれば、強い助けになるだろう。

 

 

 

 

 ちなみに、集まっているミタマ達よりも、のっぺらトリオの方が万倍うるさい…との事だった。

 解せぬ。

 

 

 

 

凶星月アメノカガトリの鶏スープ日

 

 鬼の襲撃を適当にいなしつつ、前回同様息吹と初穂と顔合わせした。

 「霊山の連中の連絡不備だったって? 振り回されて大変だな」って同情されましたが、うん、思いっきりウソなんだスマヌ。

 

 雑魚狩り自体には、そんなに語るべき事はない。

 コンビを組んでいく事もあれば、一人で行く事もある。

 だが、幾つか収穫もあった。

 

 今まで、異界の中では瘴気の為に全く動作しなかった神機が、僅かではあるが動いているようなのだ。

 完全に作動している訳じゃなくて、こう、形態変化させようとすると、一部が動いて一部が引き攣ってピクピクするんだけど、結局変化できないままって感じで。

 多分、GE世界で神機やパイルバンカーに討鬼伝世界の素材を混ぜたのが効いているんだろう。

 榊博士も言っていたが、このまま素材を混ぜ続けたり、アラガミ細胞と瘴気を含んだ物を食べさせ続ければ、神機が進化して異界の中でも正常に使えるようになるかもしれない。

 アラガミ素材はふくろの中にタップリ詰め込んでいるので、後はこの世界の素材集めだな。

 

 

 

 狩り続けていたら、「何でそんなに長時間、異界に潜っていられるの?」と初穂に聞かれた。

 瘴気を体の中に残す訓練法を伝えようかと思ったが、前回はそれで大和のお頭に怒られたからな。

 ノーコメントノーコメント。

 

 それとすっかり忘れていたが、ウタカタの里には、銃の使い方も伝わっているらしい。

 キカヌキの里では、堅悟さんは使い方を知らなかったし、実物も持ってなかった。

 銃はMH世界・GE世界でも応用が効きそうな使い方だし、覚えておいて損は無い。

 銃使いが居ないので、大和のお頭から指導だけ受ける事になるが…ま、一丁覚えてみますかね。

 

 

 

 

凶星月ドリュウの串焼き日

 

 銃の指導を受けた。

 討鬼伝極で追加された武器だったので、どんな物かと思ってたが…なんというか、弾の種類と使い道を覚えないと話になりそうにない。

 しかし、結構面白いな、コレ。

 基本的に狩りのスタイルは剣士側だったが、ガンナーの楽しみにも目覚めた気がする。

 

 と言うか、この世界の銃、他の2つの世界に比べて、明らかに射程が長い。

 雅の領域で、対岸に居る餓鬼を打ち抜く事だって出来た。

 連射力でこそ劣るが、このリーチを上手く使えば、GE世界ハイドアタックによる攻撃→距離が離れているので気付かれない→またハイドアタックというチクチク削る戦法も出来るかもしれない。

 

 その他、相手の体に流れる霊脈を霊視して、そこを打ち抜くことでダメージを増加させる…。

 これは多分、討鬼伝世界以外の敵にも有効だ。

 やり方は簡単、鬼の眼を軽い感じで使うだけ。

 体力消耗も殆どないし、初見の相手でも相手の弱点を明確に視認できる。

 

 地味に便利、地味に火力を底上げできそうな技術だ。

 最終的には、GE世界の銃…連射力ならコイツが随一…を使って霊脈にゼロ距離連射したり、MH世界のライトボウガンで速射にも適用できるだろう。

 

 それと、榴弾投擲…爆弾を投げて、打ち抜いて爆発させる技(微妙に難しい)だが、この発想は無かったな。

 榴弾を打ち抜く弾の種類で効果が変わる。

 例えばMH世界の氷結弾を打ち抜いたりすれば?

 氷結弾は貫通弾と同じ飛び方をするので、一ヒットの威力が低い傾向にある。

 なので体の小さな相手、薄い相手には不向きだったが…これを、貫通ではなく爆発によるダメージに変える事ができる。

 戦術の幅、弱点をつける幅が広がった訳だ。

 まだまだ研究が必要だが、これは非常に大きいと言える。

 

 ああ、そういえばヘビィボウガンには、圧縮リロードなんてのもあったよな。

 アレを榴弾に使えば、更に威力が増すのではないか?

 夢が広がるな。

 

 

 

 

凶星月ワダツミの姿焼き日

 

 初穂の任務を手伝った。

 まぁ雑魚ばっかりで、銃の練習も兼ねて遠くからチクチク撃ってばかりだったので、大した怪我もない。

 ちょっと眼精疲労な気分だが。

 

 ただ、初穂にはセコく見えたらしく、「男らしくないわね」って言われてしまった。

 勝手に言ってろ……だが、確かに現状ではそう言われても仕方ない事しかしていない。

 安全領域から、近付かず、殆ど移動もせずに撃ってるだけなんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 うむ、フラストレーションが溜まる。

 と言うかやっぱり剣士装備が好きだ、撃つより斬りたい。

 斬りつつ撃ちたい。

 

 

 という訳で、ちょっくら狩りに行ってきます。

 確か前回でもゲームストーリーでも、ミフチが俺達の後を追って来た筈。

 今回は後ろに気を配っていたが、そんな気配は無かった。

 

 しかし近くまで来ている事は確かな筈。

 ちょっとぶった斬ってきます。

 なに、一人前と認められてないモノノフは戦えないし任務を受けられない?

 知らんな。

 俺は哨戒任務の途中で偶然ミフチにブチ当たり、結界に閉じ込められて逃げられなくなっただけだ。

 

 

 

 

 

 

 

凶星月ツチカツギの海亀スープ日

 

 

 快勝快勝。

 だが半人前が一人で勝手に任務に行くなと激怒されてしまった。

 欲求不満が溜まってたねん、しゃあないねん…なんて言ったら、それこそどんな罰を受けるか分からないから殊勝にしてたが。

 

 しかし切欠はどうあれ、ミフチに勝てるんだからとりあえず一人前、という扱いになった。

 …初穂がちょっと焦ってるっぽいな。

 良くない傾向だ。

 

 

 うーん、やっぱり放置しとくと危ないよなぁ。

 自分でやっといてなんだけど、後から来たやつに追い越されるって精神的にかなりダメージくるし。

 泣くのがイヤなら歩けとは言うが、足元見ずに走ってちゃコケて崖から転落するだけだ。

 

 実力的には……言っちゃなんだが、大和のお頭が言うように初穂は半人前、よくて2/3人前ってトコか。

 ちょっとした切欠で、一人前への壁を突破もするし、逆に転げ落ちてオジャンにもなる、危険な領域にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぶーときゃんぷはじまるよ~~~。

 

 

 

凶星月クナトサエの陸亀サラダ日

 

 意外と早く折れた。

 いや、心じゃなくて初穂の体の方が。

 

 別に再起不能になったとかじゃない。

 単に異界の瘴気で行動限界を超えられなかっただけだ。

 

 そーかー、ブートキャンプにはそれが邪魔だったな。

 俺と同じように瘴気に慣れるにしても、すぐに効果が出る訳じゃない。

 それに狩っているのも雑魚ばかりだし、効果は今ひとつか。

 

 

 ならば対人戦でブートキャンプだ。

 人間相手は俺も殆ど経験がないから、色々といい経験になるだろう。

 

 

 さて、一部期待している部分がないとは言わないが、ここで注意。

 アリサと同じ徹を踏んではいけない。

 具体的に言うと、心折・酒・ベッドイン。

 ベッドが無くて敷布団だけど。

 

 

 

 

 それはそれとして、初穂のブートキャンプ帰りに神垣の巫女……橘花に会った。

 天狐も一緒だ。

 今度は鍋の具として見ないよう、日々腹を満たしていた効果もあって、ちゃんと懐いてくれた。

 家に居着いている……メシとか何をやればいいのかな。

 酒飲ませても大丈夫なんだろうか?

 一人酒も嫌いじゃないが、二人で飲むのも好きだ。

 

 秋水に聞いてみよう。

 

 …そうだった、そういや橘花だけじゃなくて、秋水にも注意しておかないとイカンのだった。

 しかし真面目な話、秋水と話すのは情報が欲しい時くらいだ。

 仕事中だと割り切っているのか、秋水は私語をまるで漏らさない。

 …いつ休んでいるのか、真面目に心配になる。

 いつも何かの書類や書物に眼を通しているし、朝から晩まで受付所の定位置に居るし、アンタ腰悪くしても知らないよ?と言うか“ぢ”になってるだろってレベルである。

 

 …それだけ心の壁が厚いって事か。

 尚更、何かしらの接触が必要だ。

 俺に利用価値を見出すだけにせよ、或いは他の何かを見出すにせよ。

 

 橘花と秋水の二人が、結界を躊躇わず張るに値する価値をつけねばならない。

 …こうやって、打算で動いている人間が、そんな人望を持てるかどうかは別として、ね。

 

 

 

凶星月ゴウエンマ食ってクールー病日

 

 

 

 初穂を適度に叩きのめしつつ、鬼をバカスカ打ち抜く日々。

 …なんか楽しくなってきた。

 ジーナさんの言う、生と死の交流ってこういう事か?

 

 

 それはそれとして、この天狐、何処から来たんだろうな。

 服飾とかしてる時点で、どう見ても野良じゃない。

 いくら天狐が賢いからって、帽子やら袋やらはその手じゃ作れんだろうに。

 …それとも、村人と物々交換でもしてんだろうか?

 

 

「お前は何処から来たんだ?」って聞いても、理解はしてるっぽいが答えてくれない。

 キュイキュイ鳴き真似してれば、ある程度は意思疎通もできるが…。

 任務に行く時に連れて行った事があるんだが、案外使える。

 流石に戦力的な意味ではないが、(多分)野生の動物だけあって、植物とかの素材を見つけるのがやたら上手い。

 負けてられんだろ、ハンター的に考えて…とか思って採取しまくってたら、医療班と顔なじみになってしまった。

 

 普通のモノノフじゃ見つけにくい薬草とかでも、ハンターでもある俺なら話は別だ。

 異界に長時間潜っていられるから、長く広く探索できるしね。

 

 

 

 それはそれとして、明日は新たな任務。

 前回と同じと考えれば、巨乳手付かず未亡人モノノフと、お気遣いの紳士さんだろう。

 …さて、巨乳手付かず未亡人モノノフの谷間を目に焼き付けるため、今から瞑想しておくか。

 禊でもいいかもしれない。

 

 

 

凶星月オカミヌシのこんがり肉日

 

 禊程度じゃ俺の煩悩は流せませんでした。

 矢鱈冷たい水に浸かるだけになっちゃったよ。

 

 

 さて、今日の狩りのお相手は予想通りカゼキリ。

 今ひとつ馴染みきらない銃スタイルのおかげで少々梃子摺ったが、普通に勝った。

 黒爺猫に比べりゃ、範囲攻撃もそう広くないし、楽な部類だ。

 これが上位に行くと、鬼の範囲攻撃も広く…というか酷くなっていくので、かなり洒落にならない事態になってくるが。

 

 

 

 

 と言うかだな。

 那木さんが来てないってどういう事よ!?

 討鬼伝のお色気担当(多分自覚無し)が…俺の癒しが……!

 精神的な意味でも、ダメージ的な意味でも癒しがないぞ。

 

 那木さんの変わりに来たのは、何故か速鳥だった。

 別に嫌いじゃないよ?

 ニンジャ好きだし。

 ゲームでも高所攻撃に不動金縛りに秘針に、かなり使えるキャラだった。

 

 お気遣いの紳士の赤熱化攻撃とのダブル弱体で、ナイスコンビネーションだったし。

 

 

 だが那木さんと比べると、どちらが優先すべきか語るまでもあるまい。

 この怒りをカゼキリにぶつけ、ついでに帰りに単独行動して見かけたクエヤマを単騎撃破。

 …ま、デカいだけの雑魚だからね、アイツ。

 怒りのぶつけどころとしてはちょうど良かった。

 

 

 

 

 

 また単身でムチャをするなと怒られた。

 うるせぇ、俺の乳返せ。(那木さんの乳です)

 

 

 

凶星月浄土の蓮華のてんぷら日

 

 

 なんか知らんが、速鳥に付きまとわれている。

 ニンジャを使って俺の身辺調査か?と思ったのだが、どうやら違うっぽい。

 仮にも凄腕(だよね?)のニンジャが行う尾行じゃないぞ、コレ。

 何かと強い視線は感じるし、そもそも姿を見せるのも忌避している感じはないし、気のせいか勘違いでなければ、むしろ憧憬の念さえ感じるんだが。

 

 

 うーむ、分からん。

 

 …考えても分からないなら、考えないのがいいだろう。

 むしろ先に考えなきゃならんのは、秋水と橘花にどうやって接触するか。

 そして那木さんの谷間ゲフンゲフン、今はそっち方面は無しだ。

 

 友好的な関係を築くに当たって、信頼を培う方法は二つ。

 一つは劇的なイベントを通じて…言い方はどうかと思うが、所謂吊り橋効果で一気に信頼を築き上げる。

 しかし、これは劇薬を投与するのと同じような行為である上、所詮は一時的な信頼だ。

 普段の付き合いの中でボロが出て、あっという間に幻滅されてしまう可能性も高い。

 

 もう一つのやり方は、日常のちょっとした事の積み重ねで、じっくりと信頼を築いていく。

 平穏な生活の中であるなら、こっちが順当な方法と言えるだろう。

 だが当然ながらこの方法は時間もかかるし、一定以上の信頼を得ようと思うと途端に難しくなる。

 

 後者の方法で信頼を築きつつ、前者で壁を突破する…というのがストーリー的に考えて王道か。

 

 しかし繰り返すが、残念ながら時間がない。

 時期的に考えて、大和の頭がそろそろ攻撃に転じようとする頃だ。

 ゲームでも前回でも、それを逆に利用された……利用できる程の戦力と頭が、敵側に揃っている。

 

 やってられんね。

 

 

 

 煮詰まってきた。

 ちょいと気分転換するか…。

 

 禊にでも行ってくる。 

 天狐も誘ってみよう。

 

 

 

凶星月『この世の物ではありえない』系の素材のごった煮日

 

 禊しても、水辺でパチャパチャ遊んでいる天狐を眺めるくらいしかなかった。

 集中しただけで妙案が浮かぶなら、誰だって瞑想の達人になろうとするさ。

 

 そしてどうでもいい事に気付く。

 …速鳥のヤツ、俺の家に住み着いた天狐をみたいから死力を尽くして任務を終わらせてきやがったな…。

 あいつ、すっかり忘れてたが病的な天狐スキーだったっけ。

 

 どこの誰から聞いたのか知らないが、天狐の為に鬼を瞬殺したであろうその根性には頭が下がる。

 …で、俺を付回してると思ったのは、天狐を見つめてただけだったのか。

 道理で大和のお頭や桜花さんの目が生暖かいと思ったよ。

 

 そして時折感じる憧憬の視線は、多分キュイキュイ鳴き真似して天狐と意思疎通っぽい事をしている俺への憧憬だ。

 おかげで速鳥からは好意的に見られているようだが…妙なところで妙な形に役に立つな、このハンターの基礎スキル…。

 

 

 はーぁ、それにしてもちょっと肌寒いな。

 流石に夕方から丑三つ時まで禊してれば、風邪も引きそうになるか。

 まぁ単に半分寝てただけだが。

 

 ここは一つ、最後に残ったMH世界のホットドリンクでも飲んで暖ま

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これクーラードリンクじゃん。

 雪原を彷徨ってる時に寒さ対策として呑んでたけど、これクーラードリンクじゃん。

 道理で異常に寒い筈だよ。

 クソッ、初心者ハンターみたいな失敗して、しかもそれにまるで気付いていなかったとは……また黒歴史を量産してしまった。

 それを日記に書くあたり黒歴史以外の何者でもないが、まぁ愚痴だって何だって言葉や文章にすると発散できるからな。

 うん、これは正常な自己防衛本能だ。

 以上、簡潔、問題なし。

 

 

 …それはともかくとして、一人で禊するのも退屈だな。

 いっそ滝の水が逆流するくらいのイベントでもお

 

 

 

 

 

 

 

 

 逆流  逆流   遡る  デスワープ いやそれは置いといて いやそれこそが 逆行?

 

 

 

 

 あった。

 秋水をこっち側に引きずり込む取っ掛かり。

 

 確か秋水は、8年前のオオマガドキで見捨てられた北の地の仲間達を助ける為、時間を逆行する術を探していた筈。

 そして主人公をその実行部隊の一員としたいと考えていた。

 それが実行可能なのかは置いといて、俺には秋水を引き付ける、何よりも重要な要素を持っている。

 

 

 即ち、デスワープ。

 一回死ぬたびに別の世界に移動するが、移動した先の場所と時間軸は常に同じ。

 つまり俺は限定的ながらも時間を遡っているのだ。

 原因も理屈も全く不明、解明できると言うなら俺が教えてほしいくらいだ。

 

 これを研究すれば、或いは?

 

 では、秋水に信じさせる方法は?

 簡単なのがあるな。

 この先秋水が、陰陽方の間者としてどのような方策を取ろうとしているか、言い当てる。

 そしてそれを「かつて俺が経験してきた事の一つ」だから知っていると言うのだ。

 別世界の素材や技術も見せれば、合わせ技で信憑性は出てくると思う。

 

 

 

 ゲームのように、秋水から信頼を寄せられる事は無くなるだろう。

 だが構わない。

 俺にとって重要なのは、絆を結ぶ事ではなく、このループから死なずに脱出する手段を確保する事だ。

 その為に、ストーリーを確実にクリアできる道筋を…可能な限り、心や精神、絆という不確定要素の強い要素ではなく、単純で確実な、誰がやっても同じ結果を求められるであろう道筋を探し出す。

 途中で何度か死んでも、誰に見限られても、望んだ結果が得られるなら構わない。

 

 




コタツや毛布を出すために洗濯して干してたら雨が降った。
夜だったから寝てて全く気付かなかった。
やっぱり昼間に干さないとな…。

あと討鬼伝世界の敵は食えそうなやつが居なくて困る。


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31話

PS4買いました。
ただしアサシンクリードが出るまで、欲しいソフトが無いのでオアズケです。
代わりに世界樹の迷宮2体験版ダウンロード。

…また執筆時間が…。

…ん?
え、ウソ? 体験版には利用回数制限あるの? マジで?
スリープモードならいいのか…こりゃ10日以上点けっぱなしになるかもなぁ…。


 

 

凶星月浄土の蓮華のピクルス日

 

 

 早速秋水に話を持っていった。

 流石にいきなり全てを話して信用されるとも思えないので、「過去に遡ったと思われる現象に心当たりは無いか」と問い掛け、話の取っ掛かりにした。

 案の定、表面は普段と変わりなかったが、「何故そんな事を?」と聞き返してきた。

 普段の秋水なら、「残念ながらありませんね」或いは「世迷言を…」くらいの返しはする。

 

 充分興味を惹けているようだ、と判断し、話を続けた。

 まぁ、これが例によって嘘八百というか、適当な出任せだらけだったんだが。

 

 えーと確か、俺はモノノフとしてウタカタに派遣される前に、記憶が不明瞭になっている時期があって。

 その時期を境に、霊山での俺の立場があやふやになっていたり、何処から持ってきたのかも分からない素材が部屋に転がっていたり、覚えのない傷跡が出来ていたり、或いは既視感に襲われるようになったり。

 

 当初は気のせいかと思っていたのだが、ウタカタの里に到着してから既視感は日増しに強くなり、あまつさえ何処から出てきたか分からない素材は、ウタカタに来てから戦った鬼の素材だったり。

 挙句、最近既視感を通り越して、予知夢っぽいのを何度も見る。 

 秋水がなにやら神垣の巫女に色々吹き込んでたり、鬼が塔を作ってオオマガドキがどーのオンミョウガタがどーの。

 

 予知夢にしちゃ、何時の間にやらあった素材が説明できない。

 となると、やはり未来から過去…つまり現在…に何かしらの流入があったとしか考えられない。

 もしくは、単なる妄想か。

 

 

 

 

 

 というデッチ上げを話した訳だ。

 流石に全面的に信じた訳ではなさそうだが、秋水にも幾つかの心当たりはあったのだろう。

 このまま行けば、神垣の巫女を揺さぶる為に色々としかけるつもりだっただろうし、秋水自身が陰陽方の間者。

 まだ策らしい策も仕掛けてない状況でソレを言い当てられたのだ。

 それなりのインパクトはあったと思う。

 

 

 結局、その後色々と質問され、調べてみると結論されて話は終わった。

 

 …さて、とりあえず、秋水にとって俺はまだ亡くす事のできない研究材料となったのは間違いないだろう。

 これで、少なくとも例の大攻勢の時に、結界を張る提案をする事は確定として……後は橘花さんか。

 ううむ…どうしたもんかなぁ。

 

 

 

凶星月樹氷の枝の漬物日

 

 樒さんに聞いたが、俺の周りに複数のミタマがあるのは間違いないらしい。

 が、俺自身は勿論、他のモノノフにもそれは探知できないようだ。

 普通、ミタマは何者か…つまりモノノフ…に宿れないと、例え鬼を討って魂を解放しても、あっという間に持っていかれてしまうらしい。

 ならば、俺に宿っていないのに、何故俺の周りに居る(らしい)ミタマは向こう側に持っていかれないのか?

 やはり普通のミタマではないのだろうか。

 …冗談抜きで百鬼夜行の可能性が出てきたな。

 疑問も不安も尽きない。

 

 ところで、富獄の兄貴に空を飛ぶ鬼について聞かれた。

 …空飛ぶモンスターなら珍しくもなんともないんじゃが……鬼は、確かダイマエンだったか。

 作中屈指のクソモンスターと名高いヤツだったもんだ。

 

 

 それはそれとして、大和の頭が遂に攻勢に出る事を表明した。

 問題はここからだ。

 前回と同じなら、暫しの雑魚狩りの後、攻勢を逆手に取られてクエヤマとやりあい、その後大攻勢…。

 

 さて、どうしたもんか。

 逆手に取られるのが分かっているなら、わざわざそれに乗ってやるのも業腹だし、ストーリーを鑑みても戦略的不利を招き入れる意味は無い。

 

 

 

 

 

 だがそんな事よりも那木さんとまだ会ってないんですが!?

 討鬼伝屈指の清楚さと色気を併せ持つ那木さんカムバック!

 

 そうか速鳥とポジションが入れ替わっているのだな!

 ならば尚更、大攻勢で死ぬわけにはいかん。

 ウタカタに来た以上、一度以上はあの谷間を拝まねばな。

 よし、目標変更。

 当初は大攻勢を乗り切ることだったが、那木さんを参拝する事を目標に。

 

 

 

 

 

凶星月鉄重石で出刃包丁日

 

 

 カゼキリやらミフチやらを適当に狩る日々。

 大和のお頭に志願して、俺も桜花さんと同じ囮役になる事になった。

 渋い顔をされたが、はっきり言えば囮としては俺の方が適役だ。

 純粋な剣の腕では桜花さんに勝てる気がしないが、銃・剣の両方を使えるし、瘴気の中での行動限界が他者と比べて段違いに長い。

 それと、これはお頭達は知らない事だが、異界の中を何度も何度も隠れて逃げ回っていたのは伊達ではない。

 何処に隠れやすそうな場所があるかはすぐに分かるし、食料も植物から鬼の肉まで、現地調達・調理も可能。

 ふくろの中には幾つもMH世界の回復アイテムのストックがあるし、継戦能力・生存力ならウタカタの里でも随一と自負している。

 

 

 ところで、異界に行く時は天狐を一緒に連れて行く事にした。

 コイツ頭がいいし、いざ事があった時に「この手紙を持って、ウタカタまで戻れ」って言えば、救援が来るのはかなり早くなるだろう。

 食料を見つけるのも上手いし、何故か鬼の攻撃にはまるで当たらないし、連れて行って損は無い。

 

 …天狐、本当に何で当たらないんだろうな…空蝉でもかかってるのか?

 あと、天狐の性別だが………分からなかった。

 

 性別・秀吉ならぬ性別・天狐か。

 速鳥なら即納得するだろう。

 

 

 

 できる事なら、こちらが先に桜花さんか俺を潰そうと出てきたクエヤマを発見し、罠を張りたいところだ。

 …ま、単なるクエヤマなら、どうとでもなると思うけどな。 この前も単身撃破したし。

 

 

凶星月ノヅチとドリュウ肉のミンチでハンバーグ日

 

 狩りばっかりってのも何だから、速鳥に少し相談してみた。

 天狐を持っていったら即座に相談に乗ってくれたが、代わりに意識が天狐に集中してしまってたな…。

 まぁ、結果的にはソレでよかったようだが。

 

 

 相談したのは、『洗脳』についてだ。

 そう、GE世界のアリサの問題だ。

 今の俺のやり方では、心をへし折って18禁して洗脳上書きする以外に手がない。

 その点、ガチ忍者だった速鳥なら、その辺の知識もあるのではないか?と考えた。

 

 速鳥は誤魔化そうとしたようなのだが…最初、天狐に意識が行ってつい「心当たりはある」と言ってしまったのが運の尽き。

 慌てて「いや、やはりないな」と言い繕ったが、天狐の円らな瞳を盾に迫った事で敗北した。

 

 悪用しようと思えば、ナンボでも悪用できる技術だからな…他人に伝えたがらないのもよく分かる。

 今はまだ、速鳥ともそんなに強い関わりがある訳じゃないし。

 

 

 それはともかく…速鳥に教えてもらった洗脳法は、何というか、忍者マジコエェ。

 えげつない。

 俺の場合は力技で心を圧し折ったり、オカルト版真言立川流もどきで色々と刷り込んだりしてたんだが、速鳥から教わったソレはもっとタチの悪い代物だった。

 薬物使うのは当たり前、他者との関わりを操って誘導するのも在り、使うだけ使ってポイする為の破滅への囁きを隠す術、所謂『心の隙間』ってヤツを無理矢理に作り出した上そこに付け込む術、言葉と詳細を濁されたがNTRとしか思えない術。。

 この分だと、拷問の手法も相当なものがあるだろう。

 いやホント、忍者マジで怖い。

 NINJAよりも、こういう権謀術策に長けた忍者の方が怖いと感じた一日だった。

 下手すると、速鳥一人で里の中をグッチャグチャに出来るんじゃないかな…。

 

 

 まぁ、流石にそれは考えすぎか。

 それをやるには速鳥だと良心が邪魔をするだろう。

 ザッと聞いた手法についても、思い出すだけで僅かに顔を顰めていたし、聞いた限りでは良心によって動きがちょっとでも鈍れば、効果が半減する手法ばかりだった。

 

 …多分、そこをカバーする為の精神的コントロール術とか、或いは難易度を下げる為のマイルドな手法(つまりは罪悪感を誤魔化す)もあるんだろうが…それは教えてもらえなかった。

 教えてはならないと思ったのか、それとも知らないだけなのか。

 …速鳥は下忍っぽかったし、後者かな?

 重要な術の核を下忍に知らせるとも思えん。

 

 

 ま、洗脳する方の手法はともかくとして、だ。

 アリサの状況…恐らく薬物・香・言葉と映像によって、長期間の洗脳を受けている。

 流石に薬物や香の種類が分からないと正確な事は言えないが、効果のありそうな解除法、無理のない上書き方法を幾つか教えてもらった。

 実際に試してみない事にはなんとも言えないが、これ以上を求めるのは酷か。

 

 流石に昏睡状態に陥っている人間を強制的に叩き起こす術はない。

 ならば、リンドウさん暗殺騒ぎの前に、こちらから洗脳解除を仕掛けるべきか。

 

 

 

 

 うん、効果が無かったらやっぱりR-18の覚悟で行こう。

 決してそっち方面に行きたがっている訳じゃないぞ、ホントだぞ。

 

 

 

魔禍月ミズチメのジャーキー日

 

 新しい月に突入。

 …よくよく思い返してみると、前回討鬼伝世界で言えば、まだ霊山に居る時期だ。

 だと言うのに、既に大和のお頭は反攻作戦を宣言している。

 …やはり俺が主人公的立ち居地に居るからか? 

 俺が里に来た辺りからストーリーが進み始めるのだろうか?

 疑問は尽きない。

 

 そういや、霊山新聞社の青いのと赤いのは元気にしているだろうか。

 時期的に考えると…父親の新聞が変わってしまったのを確信して、ショックを受けている頃かもしれない。

 だからと言って俺が何かできる訳じゃないが。

 

 

 さて、それはそれとしてクエヤマ来ました。

 多分ストーリーミッション。

 桜花さんじゃなくて、俺の方がぶち当たった。

 結局、罠らしい罠は大樽爆弾Gくらいしか設置できなかったんだが…それはまぁいいとして。

 

 以前から思っていた。

 桜花さんは、何を以て作戦を逆手に取られた、と判断したんだろうか?

 確かにクエヤマという大型鬼を、囮になった桜花さんに差し向けてきた。

 が、クエヤマ自体は珍しい鬼ではない。

 確かにウタカタでは今まであまり出現してなかったようだが、桜花さんは戦闘経験もあるようだったし、秋水に言えば資料も出してくれた。

 

 俺の感覚で言えば率直に言って、囮役をしていたら、その辺の大型鬼が引っかかったってだけなのだが。

 まぁ、一応当初の予定通り、天狐に文を持たせて、鬼が俺達の反攻作戦を利用しようとしているっぽい、と里に伝えた。

 

 これはクエヤマをサクッと始末して帰ってきてから知った事だが、桜花は先に里に帰ってきており、同様の懸念を大和のお頭に伝えていたらしい。

 丁度そこへ、天狐が同じような内容の懸念が書かれた文だけ持って帰ってきたもんだから、俺がヤバイ!という話になったとか。

 

 …で、俺の援護の為にお気遣いの紳士やら速鳥さん達が駆けつけようとしたと。

 でも当の俺は既にクエヤマをサクッと斬って、帰ろうとしていたところだった。

 …入れ違いになりました。

 途中で催して、茂みに入っていった辺りで入れ違ったのか?

 それとも偶然見かけたケルビ、もとい鹿を仕留め様として森に入った辺りか?

 はたまた途中で昼寝したのが悪かったのか。

 

 

 

 行動限界時間ギリギリまで俺を探してくれてたとか…。

 無事帰ってきていると知った後、拳と手裏剣が飛んできました。

 

 

 

 

魔禍月カゼキリの睾○の養命酒日

 

 

 俺の知らん間に、神垣の巫女がクエヤマの素材を使って千里眼の力を使っていたらしい。

 …間違えて、一緒に持って帰った鹿の肉の残留思念を追ってしまい、俺に仕留められる映像をみそうになったそうだが…いや、そこまで責任持てないよ。

 と言うかその素材、一応俺の私物って扱いになってんですけど…なんで勝手に持って行くのさ。

 

 …許可は取った?

 ……そういえば、夢現になんか貸して欲しいと言われたからOKしたような覚えが…。

 …まぁいいや。

 とりあえず鹿肉は返してくれ、喰うから。

 

 

 で、やっぱり明らかになる鬼の頭の存在。

 そいつをどうにかせにゃならんのね。

 

 …ところで、橘花さんがなんか俺に怯えてるように見えるんだが……どうやら鹿の肉の残留思念を追った時、俺に仕留められそうになったのがトラウマになりかけているっぽい。

 いや俺のせいじゃねーよ、刀を納めなさい桜花=サン。

 

 しかし大丈夫かね…俺に苦手意識持って、それで結界を張るおが遅くなった、なんて事にはならないよな?

 まぁ、里の生死がかかった状況でそんな事言い出すとは思わんが……上手く誑かしてくれよ、秋水=サン?

  

 

 

 

 

 

魔禍月殺生石で土鍋日

 

 

 大量発生したササガニとミフチを狩りに行ったのですが。

 

 アイエェェェ!?

 巨乳手付かず未亡人モノノフ=サン!?

 巨乳手付かず未亡人モノノフ=サンナンデ!? エロイ!

 

 という訳で、那木さんと遭遇いたしました。

 流石に弓一人、後衛オンリーで大型鬼の相手は梃子摺っていたらしく、ピンチを助ける形になった。

 

 相変わらず見事な観音様…だとR-18な下の方になっちゃうので、母性の象徴的な意味で菩薩様と言っておこう。

 雰囲気から体つきから物腰まで、ご立派サマにビンビン来るなぁ。

 

 

 それは置いといて、真面目にこの時期に何で?

 てっきり、速鳥と登場シーンが入れ替わってるものと思ってたから、大攻勢の後に顔合わせだと考えていた。

 …いやでも、ゲームのストーリー的に考えると、こっちの方が違和感無いな。

 

 何せ敵の一大攻勢だというのに、味方が全員揃ってないとか、盛り上がりに欠けるにも程がある。

 

 

 となると、前回の速鳥はこの時期にナニをしとったんじゃ?

 天狐と戯れてたのか?

 …いや、天狐に触ろうとすると緊張しまくって、その緊張が天狐に伝わって逃げられるから、精々が遠くから見守るくらいか。

 

 何らかの理由で、里を離れていたんだろうか。

 それなら、あの大攻勢がやたら大勢で襲ってきた理由も、納得できないではない。

 速鳥一人が欠ける事によって、一人一人の負担が増して、それが積み重なってあの結果…か。

 

 

 しかし、そうなると速鳥があの時来なかった理由は何だろう?

 …分からんな。

 

 まぁいい。

 そんな事より重要なのは、那木さんでアレをやらねばならぬ。

 

 

 はい皆さんご一緒に~

 

 

 

( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°

↑                                          |

└――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――┘

 

 

 

 

 

魔禍月冬虫夏草の塩漬け日

 

 ふぅ、落ち着いた。

 昨日は一晩中腕を振り続けていたから、腕が痛いっていうか眠い。

 

 と言うか、今日は那木さんが訪ねてきた。

 ( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°が落ち着いた後でよかった…。

 昨日、危ないところを助けていただいたお礼に来たそうなのだが、それで男の一人暮らしの家に上がりこむってちょっと無用心すぎませんかね?

 お人好しなのか、それとも多少の事があっても何とかできる自信があるのか。

 

 …ふむ、物腰を改めて観察してみると、接近戦の心得は多少程度あると見た。

 弓を平然と何度も引けるくらいだから、腕力も結構あるみたいだな。

 だがその程度。

 一般人ならどうにかなっても、モノノフが相手じゃ分が悪いだろうに。

 

 

 

 流石に正面切っての視姦はしない。

 セクハラは脳内だけ、リアルではダメゼッタイ。

 アリサやユニス?

 如何なる行為も相手が喜んでいる限り、セクハラにはならぬ。

 

 

 まぁ、那木さんはちょっと説明ネタを振ってやると、あっという間に夢中になるから気付かれずに視姦し放題なんだが。

 と言うか真面目な話、ちょっと無防備すぎないか?

 男からどういう目で見られているのか、自覚はあるんだろうか…。

 俺ほどアカラサマじゃないにしても、那木さんをそういう目で見ている里人は居るぞ?

 

 …ここは一つ、男のサガというものを教え込む必要があるな(ゲス顔)

 と言うのは冗談だ。

 機会があったら遠慮なくヤルが。

 

 

 ……討鬼伝世界に来て以来、ナニしてない為か欲求不満だな…シモネタが多い。

 

 

 

 それはそれとして、最近ちょっと悩んでいる。

 初穂の事だ。

 ブートキャンプが今ひとつ上手く行かない。

 俺の対人戦スキルが足りない為か、それとも休憩時間が多すぎるのか。

 狩りのブートキャンプと違って、今ひとつ勝手が分からん。

 

 富獄の兄貴に扱いてもらおうにも、どうにもあの人、お気遣いの紳士過ぎるというか、お子様に甘いと言うか。

 武術を教える時は情けが最大の邪魔になるって聞いた事があるが、正にそれだ。

 自分に対しては徹底的に厳しくなれるようだが、他人に対しては…というタイプだ。

 実にお気遣いの紳士である。

 

 速鳥は鬼達の指揮系統を辿り、指揮官役を探す為に里を出ている事が多い。

 時間的に考えて、初穂の訓練をつけている暇は無い。

 

 那木さんは……まぁ、なんだ、見た目からしてそーゆーのが出来そうにないし、多分戦術とかは教えてくれるが、説明魔の顔が出て別の意味でグッタリするブートキャンプになる光景しか思い浮かばない。

 

 とにかく、初穂はまだ半人前状態。

 しかも俺という後進に追い抜かれて、焦っているのが目に見えている。

 だからこそ大和の頭も半人前扱いしているんだろうし、初穂もある程度はそれに気付いているようだが、そんな理屈一つで焦りを収めさせられる訳がない。

 それで治めさせられるなら、一人前を通り越して自分を完全にコントロールできる、人外の領域に片足突っ込んでいる。

 

 話の進み具合、時期からして、そろそろ大攻勢も近い。

 アレは里の戦力総出で、各方面から押し寄せる鬼達を叩き潰さなきゃならんから、初穂も一人で戦う事になる。

 そこで一皮剥けてくれれば良し。

 最低限、五体満足で生き延びてもらいたい。

 …だが、現状からしてそんな楽観をしていられないのも事実。

 

 どうしたものか…。

 

 

 

 

 

魔禍月磨き砂を固めた砥石日

 

 

 もうすぐ節分だ。

 確か、ツイナの日…だっけ?

 その日はお祭と言うか任務を休んで祝う日らしいが、これまでのパターンから行くと…そういうイベントの日に、何も起きない筈が無い。

 今回の大攻勢は節分か?

 

 確か、前回では……ようやく霊山から出るかどうか、って頃だな。

 うん、やっぱ前回のスケジュールはアテにならん。

 

 それはそれとして、任務帰りに節分について一悶着あった。

 初穂が「鬼は内、福は外」と言い出した件だ。

 まぁ、確かに一般的には逆だわな。

 昔のモノノフはそうだったらしいが……というか確か元居た世界でも、そういう地域はあるって聞いた事があるぞ。

 

 でもモノノフの場合、「鬼は討ち」の方が正しい気がするね。

 しかし大和の頭、「初穂と親しかったから頼む」って言われたって……親しい?

 まぁ、頻繁に訓練して叩きのめしてますが。

 それで実力は上がってきてると思うんだが、最近表情に陰りが見えるようになってきたんだよな。

 多分、何度も何度も叩きのめされ、一度も勝ってないから、プライドが傷ついて自信がなくなってきてるんだろうが…。

 

 

 中途半端にブートキャンプやった結果がコレか。

 本来のブートキャンプなら、落ち込んだりするヒマがない勢いで叩いたり叩き潰したり叩きなおしたり叩き斬ったり叩き上げたりタタキ喰ったりするからな。

 

 マジでどうしよう。

 

 確か初穂は、40年前に神隠しにあって、現代に飛ばされたんだっけか。

 普通に過ごしていた筈なのに、ふと気付けば両親は死に、世代は代わり、唯一残っている繋がりは里と、変わり果てた(ショタ→おっさん)大和の頭だけ。

 …なるほど、改めて考えてみると、これはキツいな。

 特に最後のが。

 

 

 

 

 

 

 

 ところで俺は唐突に異世界×3+デスワープに放り込まれても平然と適応してしまったんだが、俺はオカシイんだろうか?

 今も寂しいとか心細いとか、まるで感じない。

 狂ってきている自覚はあるが。

 

 

 

 

 

 真面目な話、初穂に関しては力技でどうにかできる段階じゃなさそうだ。

 苦手な手法だが、話だけでもしてみるか…。

 

 

 

魔禍月熱い石でIHヒーター日

 

 

 初穂と話した。

 …が、俺が特に何か言った訳じゃない。

 話された内容も、オボロゲに記憶に残っている内容と大差なかった。

 大したリアクションも取れなかったし、歓心が薄いとか他人事扱いだとか言われてもおかしくない。

 

 

 正直な話、初穂が勝手に話して勝手に立ち直ったって感じだな。

 …いや、立ち直ってはいないか。

 外面を何とか繕えるようになっただけだ。

 そうでないと、うれしくない乳ことミズチメの夢患いには引っかからないだろう。

 

 なんつーか、思ってたより根が深そうだな…。

 これが思春期か。

 

 

 

 

魔禍月天狐の毛製のエプロン日

 

 

 日記を読み返してみたんだが、どうも最近イマイチパッとしない。

 欲求が不満しておる。

 なんかこー、ドカンと一発皆の度肝を抜けるようなイベントでも無いだろうか。

 

 考えてみれば、MH世界では度々何かやらかしては奇人認定を受けていたし、GE世界では朝から晩まで出撃して変人認定を受けていたし、俺はひょっとして奇行でウサを晴らしていたんだろうか?

 とりあえず、ここでも何かやってみるか…。

 

 何をやるかな。

 この世界だと、敵と戦うとしたら瘴気の中だ。

 当然、訓練を受けたモノノフ達しか入れない。

 オーディエンスに欠けるなぁ…。

 

 とりあえず、異界をブラブラしてみるか。

 ここ近辺で一番派手にやらかすとなると、例の大攻勢の時だろうし…罠を仕掛けるのによさそうな場所でも見繕っておくか。

 

 

 




明後日の朝に一度実家に戻ります。
予想よりも長い休みをいただけました…犬を撫でよう。
そして色々食ってダラダラして世界樹の迷宮やって、眼精疲労になりつつ体重+3キロしよう。


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32話

ちょっと実家でしんみり。
詳細は活動報告で。
興味ないといわれりゃそれまでだけども。



現在気になっているPS4ゲーム。
アサシンクリード (発売日が本社研修だよ!)
新世界樹の迷宮2 (多分アサクリに夢中)
ゴッドイーター2 (どちらかと言うとVita)
ドラゴンボールゼノバース (…DBは地雷も多いしな…)
東方projectファンシリーズ (…え、なに? どういう事なの?)
ペルソナ5 (情報はよ)

数え上げるとキリが無いが…龍が如く0もな…。
ギルティギアはマイキャラ(ヘタ)のジョニーもディズィー(人妻)も居ないから…あとポチョムキンはいつからああなった。


魔禍月ノヅチ・不浄の刺身日

 

 色々仕掛けたりしたが、とりあえず節分。

 挨拶回りとか面倒くさいな。

 豆(怪力の種とか古代豆)食って恵方撒き食って酒呑んで寝てりゃいいじゃないか。

 …最近、日本酒ばっかで飽きてきた。

 ビール呑みたい。

 集合して「鬼は外、福は内」とかやってらんね。

 

 …まぁ、鬼を祓うモノノフとしては、開祖であるムスヒノキミにも関連する追儺の日をおろそかにする訳にはいかん、と言うのも分からんではないが。

 

 

 それはそれとして、大攻勢が起こるとしたら今日、という予測の元、真昼間から日記を書いている。

 先ほど、挨拶回りの途中に橘花さんに願われて、里を一緒に回ったんだが…これってデートイベントなのかね?

 しかしそれらしいフラグなんぞ欠片も立っていなかったし、実際色っぽい展開も初々しいTo裸撫流もあざといラッキースケベも無かったぞ。

 

 里を見て回った後は、初穂と同じように何かよく分からないうちに勝手に納得していたんだが。

 で、その後で本部への緊急呼び出しと来た。

 

 

 …これから俺も本部に顔を出すんだが、まぁ愉快な話ではなかろうな。

 半ば俺が仕向けたようなものかもしれんが、例の結界の話か?

 確かゲームの中では、大攻勢の最中に結界が展開されてたような覚えがあったが……となると、やはりこれからだ。

 無事に乗り切れるといいが…。

 

 

 

 

魔禍月ワダツミの胃袋で冷蔵庫日

 

 

 なんとかなった。

 と言うより、想定していたよりも大分楽だった。

 

 結局、昨日の呼び出しは、結界の強化についてだった。

 それによって巫女の負担が増し、命を削るというのもゲームの通り。

 前回はこのイベント、無かったんだよな。

 

 と言うか秋水よ。

 そんな荒れるのが分かりきってる提案をしておいて、そこから続けざまに「そうも言っていられないようですよ」、俺一人が残った状態での襲撃に対して「やはり来ましたか」じゃねーよ。

 鬼がこのタイミングで襲撃してくるって分かってましたよー、って言ってるようなもんじゃないか。

 何故その辺の事を追求してないのだろうか…。

 

 まぁ、誰も追及しないなら後で俺が追及するまでだが。

 

 

 

 

 それはそれとして、その後の襲撃してきた鬼達との戦いも、多分ストーリーと大差なかった。

 雑魚を潰して、ミフチを斬って、その後の掃討戦。

 行きがけに橘花さんから結界子の欠片を持たされたんだが、あんまり意味なかったよーな気がする。

 

 …というかあの状況でも普段と変わらない笑みを浮かべて「お疲れ様です」という木綿さんの胆力がスゲェよ。

 鍛えればいい狩人になったろうに。

 

 

 雑魚はまぁ、雑魚だし、そう多くなかった。

 大型の敵は、精々がミフチ一体。

 ぶっちゃけ、もう何度も狩った状況である。

 やはり、前回あの状況をどうにかできなかったのは、速鳥が居なかった分、討ち取れなかった敵が増援として押し寄せてしまったからだろう。

 それに対して、今回はミフチ一体のみ。 

 イージーモードとルナティック、マストダイくらいの差がある。

 

 

 と言うかだな。

 一つ、これまでにない利点があった。

 

 前回も気付いてなかったんだが、ミフチとやりあったのは里のすぐ傍。

 つい先日まで、結界に守られていた領域だ。

 その結界を壊して鬼達が攻め込んできた訳だが、つまりそこはまだあまり瘴気に汚染されていない場所なのだ。

 

 

 それがどうしたかって言うとだな。

 そこでならGE世界の神機が使えるんだよ。

 

 神機の中に巣食っている瘴気を定期的に祓ってやる必要があるが、それでもその威力は抜群だった。

 銃を使いつつミタマや神仏の力を借りる、モノノフ特有の戦い方にも慣れてきていたし、霊脈を狙撃してダメージを水増しするのもお手の物。

 

 …ミフチがダウンした瞬間に渾身・軍神招来かけて、霊脈に向かってオラクルバレット+霊力連射。

 更に霊脈に神機を押し付け、ゼロ距離からインパルスエッジとかやってみた。

 モノスゲー威力でした。

 あっという間にミフチの足が何本か削れとんだ。

 

 後は剣形態の神機で切りつける訳だが、ミフチの足は斬属性が弱点。

 これがもう剣の達人が乗るは、渾身軍神で攻撃力アップに100%会心が乗るはで、もう過去最高記録レベルの瞬殺劇だった。

 

 きもちえがったー。

 

 他の皆が駆けつけてくれている、と言われたが、むしろこっちから加勢に行く余裕すらあった。

 残念だったのは、折角造った各種トラップが日の目を見なかった事。

 

 …ま、こっちはこれからも狩りが続くんだし、機を見て使っていくとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああだがそれよりもナニよりも、敵の増援の可能性を考慮して、杭君をブッパできなかったのが何よりも口惜しい!

 アレさえ使えていれば、ミフチなんぞ余裕で粉微塵、開始3秒で任務成功、橘花さんには「モノノフって何なんでしょう」って目で見られていたに違いないのに!

 ああ、杭君を打ちたい撃ちたい討ちタイうちたいuちたいうううううううううううううう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 にしても…年に一度の休日であろうと、鬼が来れば容赦なく出動なんだよなぁ。

 ああ、仕事ってホント面倒くさい…。

 いやいや、仕事と思うから面倒なんだ。

 狩りだと思え。

 GE世界にでは毎日だったぞ。

 ルーデル閣下魂を宿すのだ!

 

 

 

 

 

堕陽月クエヤマの胃袋で生ごみ用ゴミ箱日

 

 大和のお頭が霊山に向かった。

 何をする気なのかよーわからんが……いやちょっと待て、これヤバくね?

 俺が正式なモノノフじゃない、そもそも登録自体されてないって事がバレるんじゃ……まぁ大丈夫か。

 仮にバレたとしても、この状況で貴重な戦力を削るようなマネはしないだろう。

 多分。

 

 ……木綿さんが大和のお頭の弁当を作るとき、にんじんをたっぷり入れようって提案したのがバレてなければな。

 

 

 

 と言うか、後の事を任せるって言われたって、俺に何をしろと。

 大和のお頭って、普段どんな仕事してるんだ?

 皆の纏め役、指揮官ってのは分かるんだが、普段は本部のド真ん中で腕を組んで一日中突っ立っているだけだ。

 …まぁ、指揮の方は桜花さんが引き受けてくれるらしいんで、俺は例によって敵を狩り続けるだけでいい訳だが。

 

 …大丈夫かね?

 なんか表情に影があるというか…まぁ、どう考えてもこの間の結界騒動の時、橘花さんと揉めたのが原因だと思うが。

 「私は…神垣の巫女なのよ」って一言だけ言って去っていったが。

 

 橘花さんも橘花さんで、なんか前よりも若干表情が硬い。

 桜花と揉めたからか、それとも…それだけ結界の維持が負担になっているのか。

 ちょっと愚痴を聞いてきた。(本人には愚痴のつもりはないかもしれんが)

 

 

 ところで、今日も那木さん成分を補給した。

 説明を聞き流し、適当な所で質問を挟みながら視姦するのもいい加減慣れてきた。

 そろそろ見るだけじゃなく触ったり舐めたりニオイを嗅いだりしたいところだが、それは脳内だけにとどめておこう。

 

 …最近よく那木さんの説明を聞いている(ように周囲からは見えている)ので、同情の視線で見られているようだ。

 

 

 

 

堕陽月アメノカガトリでクリスマスチキン日

 

 物見隊が襲撃を受けたので、那木さんと一緒に救援に行ってきた。 

 相手、雑魚鬼ばっかりなんじゃが…。

 確かにそこそこ数は居たけど、こいつらに襲われてヤバイって、物見隊は一般人と大差ないんだろうか?

 まぁ、エース級のモノノフがそうそう居ないってのは分かるが。

 

 それと、物見隊の負傷者の手当てをする時に、那木さんから昔の話を聞いた。

 医者として働いていた時期もあったが、友人の手術に失敗して、それ以来他者の傷の手当をしようとすると手が震えるようになった、と。

 

 

 

 

 

 …凄惨な過去に茶々を入れるようでなんだが、それならタマフリの女神ノ社なり武神ノ砦なり使えばいんじゃね?

 少なくとも今回は、手術が必要な怪我人は居なかったんだし。

 何なら薬だけ作ってもいい訳だし。

 

 

 

 

 

 

 そう言ったら、目を丸くして「きょ、驚天動地の発想にございます…」と言っていた。

 いや、アンタ普通に戦ってる途中で使ってるじゃないか。

 

 そんな訳で、手当てを手伝ってた訳だが……今度は襲撃と来た。

 上から襲撃?

 ああはいはい、ヒノマガドリだね。

 

 

 里に仕掛けておいた投石器が火を噴くぜ。

 …ダメージは与えられたが、流れ弾の石…もとい岩が民家に幾つか穴を開けた。

 頭下げて回って、修理した。

 

 

 

 橘花さんが倒れた?

 …ちょっと洒落になりそうにないので、モンハン式元気ドリンコを飲ませておいた。

 体力消耗はこれで誤魔化せるだろう。

 狂走薬の方にしようかと思ったが、アレはアドレナリンバリバリで疲れが気にならなくなるだけで、実際は体に負担かかるしな。

 

 

 そして今回も異界の外での戦いだったから、神機が使い放題だった。

 ゼロ距離射撃気持ちいい。

 

 桜花達に見られて、その銃は何だ?と聞かれたが、死んだ知り合いが造った秘密兵器だと言っておいた。

 

 

 

 

堕陽月ナキサワの唐揚げ日

 

 

 橘花さんが倒れたのは、心臓に負担がかかった為らしい。

 で、その特効薬にキツネ草とやらが必要だと。

 …それって美味しい?

 

 

 …ああそう、マズイのね。

 良薬だからね。

 

 

 それはともかく、那木さんが橘花さんの治療に当たっていいのか悩んでいたので、ちょっと発破をかけてみた。

 ゲームでは何と声をかけたか覚えてない(というか一言二言で悩みやトラウマが晴れれば苦労は無い)ので、オリジナルで言ってみる。

 

 

 

 つまり、「死んで元々」と。

 

 

 いくらなんでもそれは酷すぎます、とチョップを食らった。

 流石に不謹慎すぎたか。

 

 でも事実は事実、このまま放っておけばまず間違いなく死んでしまう。

 それなら正しい診察が出来ている自信がなくても、とにかく動いたほうがマシ…とは割り切ってくれたらしい。

 

 二人で出撃して、キツネ草自体は実にアッサリと見つかった。

 残り少なくなっていたようだが、ハンターにかかればこんなものよ。

 クエヤマが出てきたけど、もうアレについては上位でもない限り語る事もないな…。

 タマハミ状態で腹に口が開いてたから、桜花さんが作ったオニギリモドキを放り込んだくらいか。

 …アレを看病の為と称して、病床の橘花さんに食わせようとしていたのだと考えると、肝が冷える。

 

 なんか妙なタイミングで大和のお頭が戻ってきたが、それはまぁいい。

 さて、何はともあれ、キツネ草と那木さんのおかげで、橘花さんの様態は落ち着いた。

 那木さんも嬉し涙を流して、ストーリー的に考えればこれでトラウマも多少は拭えたかな?

 

 

 …で、イイハナシダナー的シーンだってのに、なんでまた大量に敵が襲ってくるかね?

 敵の陣営と時期を考えると、ひょっとして前回の大攻勢はコイツか?

 てっきり、この間のミフチを狩ったのがそれだと思ってたんだが…。

 

 まぁいいや。

 今回は負けん!と意気込んで出撃し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以前仕掛けた罠に、敵の群れが勝手にかかって半壊していた。

 

 

 

 

 …うん、元々大攻勢の為に仕掛けた罠だったし、結果オーライ!

 火薬とか薬品の量が多すぎてちょっと地形が変わったが、問題ないよね。

 久々に汚ねぇけどデカい花火あげてスッキリしたわ。

 

 今となっては、周りの皆からの「アブねえ奴…」という視線も既に快感。

 ただ、爆死していく鬼達を眺める表情を見られなかったのは正直助かった。

 白目剥いて誰得レベルの恍惚としたアヘ顔していた自覚がある。

 もうちょっと近くで見ていたら、興奮のあまりオニンニンから白いシーシー通り越して血尿すら出ていたかもしれん。

 

 

 

 別にいいじゃないか。

 労せずして勝てるんだし。

 爆弾の爆発音に驚いて、昏睡してた橘花さんも飛び起きたんだし。

 

 起きた橘花さんはすぐに結界を張りなおしたので、ヒノマガドリが呼び寄せる雑魚鬼に侵入される恐れも消えた。

 後は片手片足が吹っ飛んだヒノマガドリを狩るだけの、簡単なお仕事でした。

 

 

 

 

 

 

 

堕陽月タケイクサの脳(珍味)日

 

 何とか一段落、かな。

 当初の目的だった、大攻勢の乗り切りも完了した。

 那木さんを見て( ゚∀゚)o彡°( ゚∀゚)o彡°もやった。

 

 

 うん、これでいつデスワープしても……いや良くねーよ。

 やはり今回の成功の鍵は、レギュラーキャラが全員揃っていた事と、秋水に俺の利用価値を示しておいた事、そして何より火薬の量だろう。

 ……ふぅ、思い出しただけで賢者モードに突入してしまいそうになる。

 このやり方…特に火薬の量…ならば、次回からも大攻勢を防ぐ事ができそうだ。

 

 となると、次の展開についてだが…実を言うと、あまり覚えていなかったりする。

 この後はアレだ、一人一人に焦点を当てた話が展開されたと思うのだが…どういう順番で、どんな話の流れだったか思い出せない。

 

 …覚えているのはただ一つ。

 

 

 

 

 「毎度毎度、『お前なら大丈夫だ、後は任せた』なんて言いつつ単身出撃してんじゃねぇ』って事だ。

 

 

 そう、確かゲームのストーリーでは、なんか因縁がある相手とか状況が出てきて、それに対して誰かが一人で先走る、なんてのが繰り返されていたような気がする。

 …ふむ、対策をかけておくか。

 

 

 単身無断出撃は厳罰に処す、とか。

 

 

 ……いや駄目だ。

 これだと俺も迂闊に狩りにいけなくなる……バレなきゃいいのか。

 うん、単身無断出撃したら、色々実験台にしたり秋水に引き渡したり、そーいう制度を定めてみよう。

 大和のお頭に提案してくる。

 

 

 

 

 

 ところで、橘花が訪ねてきた。

 命を救っていただいたお礼…と言ってたが、それはいいから男の家に一人で上がりこむなと。

 …いやまぁ、それだけ信用してくれてるんだと思うことにしたが。

 

 で、またちょっと愚痴と言うか本心を聞いた。

 本当は神垣の巫女の力が忌まわしかった、自分だけ命を捨てるような宿命を呪っていたと。

 …まぁ、実際キッツい役目だわな。

 でも文字通り生死を賭して斬った貼ったしてるモノノフになれば、自分で道を切り開いていけるという理論はどうかと。

 

 大抵は切り開けなくてデスるしな。

 

 

 なんかそんな事を話していたら、驚いたような顔をされ、次いで納得したような笑顔。

 俺の会話に何を見出したかは知らんが、琴線に触れたのであれば何よりだ。

 

 

 でもあんまり溜め込むのもよくないので、気晴らしの方法を幾つか教えてみた。

 日向ぼっことかでもいいし、釣りでもいい。

 金を賭けなきゃ、博打だっていいだろう。

 流石に狩りは教えなかったが、興味津々のようだ。

 

 …総じて、何と言うか『巫女っぽくない事』に興味が強いらしい。

 これはまだ巫女の力と立場を受け入れて切れてないからなのか……まぁ、命を削る役職を受け入れろって方がムチャな話だが。

 

 巫女っぽくない事ねぇ………。

 

 

 

 

 やっぱ神垣の巫女は処女じゃないとあかんのかな? 

 

 

 

 

 

堕陽月マフウの手羽先日

 

 大和のお頭から新しく指示が出た。

 鬼の指揮官の居場所を探る為、ミタマに残った残留思念を辿る、らしい。

 

 …辿るのはいいんだけど、どうやってミタマを連れてくるんだ?

 本来主人公が居る位置に、俺が居る。

 俺は複数のミタマを宿せないから、鬼を討ってミタマを解放したとしても、そのまま連れて行かれてしまうのがオチだ。

 

 なので、樒さんに協力要請を出した。

 樒さんはモノノフではないが、ミタマについては専門家だ。

 ミタマを繋ぎとめる事は不可能ではないらしい。

 つまりは暫く護衛任務、という事になるな。

 

 

 …で、俺が隊長?

 マジで?

 …微妙に不安そうな顔を向けられとるんじゃが。

 

 

 

 

 里の周辺の罠?

 そりゃ仕掛けなおしたよ。

 今度は火力を抑えて、捕縛→急所をスナイプをコンセプトにして。

 

 だって罠は有効だって証明されたじゃないか、この間の大攻勢で。

 使える物は使わなくてどうする。

 

 それに敵が罠かにかかって勝手にくたばっているのを見れば、「どやぁ…」って顔にもなるじゃないか。

 相手が同じ人間ならまだしも、決定的に相容れない鬼が相手なんだし。

 

 

 

 …若干妙な顔をされたが、そういう発想が出来るから、一時隊長を任せてみるのだ、だそうな。

 まぁ、確かにモノノフは罠とか全然使ってなかったみたいだしな。

 新しい戦術が出てくるかもしれない、という期待(と不安)があるって事か。

 

 そういう事ならやってみましょう。

 ハンター仕込みの狩りの技術、見せてあげましょうか。

 

 

 

堕陽月インカルラのつくね日

 

 ミタマ奪還作戦中。

 樒さんを連れて異界に潜る訳だが、流石に樒さんは長時間活動できない。

 瘴気にそこまで耐えられないらしい。

 だからどの討伐も、速攻任務並みのスピードでこなさなければならない。

 

 別に問題ないけどね。

 トラップで捕縛+専制ダメージ、ついで動けなくなった敵をフルボッコだからそれこそ速攻で終わる。

 

 

 で、任務が終わったら、最近は橘花(呼び捨てでOkと許可貰った)に色々と遊びを教えている。

 意外とお転婆というか、運動神経は無いけど結構行動力がある。

 …かくれんぼの為に、ハンターの隠密技術を教え込もうとしているんだが…意外と筋が良かった。

 これをある程度身につけられれば、コッソリ抜け出して護衛無しで里をフラフラする事もできるだろう。

 

 …技術の出所は秘密にしておくよう頼んだ。

 桜花さんに「橘花に何を教え込んでいる!?」とか斬られたくないしね。

 

 それはともかく、新しい鬼の発見情報。

 那木さんとお気遣いの紳士と俺のトリオ。

 久々のチームな気がするね。

 

 ストーリー的に考えれば、多分コイツを倒せば新しいミタマが手に入るし、ストーリーも進行するだろう。

 どんな奴だったっけな…出発前に、秋水に資料を見せてもらおう。

 

 

 そうそう、那木さんも随分と明るくなった。

 いや元々暗くはなかったんだけど、医者としての再起の道が見えてきた為か、いっそう朗らかに笑うようになった。

 …主に説明中に。

 

 

 

堕陽月餓鬼の角で爪楊枝日

 

 

 敵はツチカツギだった。

 改めて見ると思うが、どうやってコイツは雪原を泳ぎ回ってるんだ?

 MH世界でも、砂の中を泳ぐ奴は居ても…………いや、堅いはずの地面を平然と掘り返して突き進んでくる奴も居るし、今更か。

 

 で、仕留めたと思った後、まだ生きてたツチカツギに不意を撃たれそうになったんで、那木さんを庇った訳ですが。

 

 

 あのー、那木サン?

 そこまで介抱せんでも、俺あれくらいは普通に平気ですよ?

 危うく心臓を貫かれるところだった?

 いやまぁその、咄嗟に庇っちゃったのは否定しませんけどね?

 急所は外して受けたし、そうでなくてもちゃんと防御体制とってたし、そもそもミタマ『防』スタイルだったし。

 

 

 ちょっと派手に血が出て頭が揺れただけで、ダメージ殆ど無いんですが。

 …はい、お医者様の言う事を聞いてじっとしてます。

 ルーデル閣下魂が疼かない限りは。

 閣下の魂が騒いでしまえば、例え那木=サンの乳であろうと止められぬぅ!

 

 はい静かにしてます。

 

 

 

 …まぁ、安静にしてるのはいいんですが、真面目に過保護すぎでは?

 それだけ不安と言うか、それこそ自分を庇った誰かがその為に死んでしまうってのは色々な意味で負担なのは分かりますが。

 …俺だって、一度庇われた為にそいつが死んじゃったからなぁ…具体的には、黒爺猫の電撃から俺を庇ってアリサが。

 思い出したら腹立ってきたんで、次のGE世界ではナマス斬りにしてやろう。

 杭君使って一撃で楽になるようなマネはさせねぇよ。 

 

 

 にしても…これってアレか?

 アレ的な意味で脈在りと思っていいんだろうか?

 明らかに、医者としてではなく個人的な感情が混じった介抱のような気がするんだが。

 触診とかしてる時も、度々女の顔になりかけてるんじゃが。

 

 

 

 

 

 

 

 押し倒してみるか?

 どうせ捻じ切られてもデスループするだけだし…。

 

 

 

 

 

 いやいや、流石にそれはちょっと。

 色々溜まってるからって、性犯罪者にはなりたくないよ。

 半ば今更のような気もするが。

 

 ま、仮にナニカするにせよ、現状じゃ無理だわ。

 毎日橘花が見舞いに…遊びに?…来るからな。

 ちなみに最近は花札に嵌っている。

 キリッとした顔で「はなみざけです!」とか言ってるが、それは盃じゃなくて菊のカス札だ。

 

 

 




…どうせ終わりが殆ど見えてないんだし、新しいゲームを買ったり体験版で気に入ったりしたゲームをみつける度、番外編(基本夢オチ)を挟んで1つか2つスキルだけクロスさせるのはどうだろう。


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33話

アサシンクリードプレイ中。
…これ、PS4に記録されてるんだよな…。

世界樹の迷宮2も予約しました。



 

堕陽月オンモラキのチキン日

 

 

 那木=サンはエロかった。

 いやエロというよりエロスだったかもしれん。

 

 やっぱり脈在りだったようだ。

 やったぜ。

 

 看病と称して、色々な所を触られたり、流れで押し付けられたりしてね?

 つい堪えきれずに…ね。

 押し倒した訳じゃないよ。

 

 

 

 看病するなら、一緒に風呂にも入るか?って聞いてみただけだよ。

 

 

 

 真っ赤になって頷く那木が実に可愛かった。

 巨乳手付かず未亡人モノノフさんが、巨乳積極的なのに奥手未亡人モノノフさん(未開通)にジョブチェンジしました。

 

 なんというか那木、思い込んだら一直線と言うか、色事になると暴走するタチだったらしい。

 

 なんかもうお互いに色々とprprしたりskskしたりしまくったのだが、まだ最後の一線は越えてない。

 意外と思うか?

 それともヘタレと罵るか?

 

 

 そのどちらにも、俺はこう返そう。

 

 

 

 那木はこうやって弄った方がカワイイのだ、と。

 

 

 

 いやもう本当にね、色々と頑張ってるのがよーく分かる。

 「どこで覚えたんだ、そんな誘惑の仕方」ってくらいに色々と、シャ~ルシャルシャル妾の子とか歌いたくなるくらいにあざとく誘惑してきます。

 ただし本人的には羞恥心を堪えながら、一杯一杯でやっているらしく、もう顔から肌から真っ赤になってプルプル震えている。

 アレを触らせてみた時なんぞ、耳元で指パッチンすれば卒倒しそうなくらいにテンパっていた。

 アソコを指でこねくり回してみた時に至っては、あやうく呼吸困難を起こす所だった。

 焦らしてから絶頂させれば、それで気絶してしまい、翌日になって「気絶しなければ行きつくところまで…」と落ち込んだりもする。

 

 ソレさえなければ、美しいかエロいかのどちらかが満点で似合うというのに、その一点だけでモノスゲーカワイイに変わってしまっている。

 素晴らしい。

 これを愛でねば人ではない。

 

 

 

 要するに、俺は必死で誘惑しようとする那木を、飛びついてくる子供をあしらって遊ぶよーに愛でている訳だ。

 例え心を弄ぶ外道と言われようと、向こう一週間はこのまま、ToLoveるなラッキースケベを演じつつ那木(名前で呼んでほしいと言われた)をヤキモキさせる所存である。

 

 

 

堕陽月うごめく泥土で土のアイスクリーム日

 

 那木が色々と積極的になって、今日で六日目。

 つまり明日は本番の予定である。

 この6日間、堪能した堪能した。

 

 赤くなりつつ擦寄ってくる那木。

 色々な事に上せそうになりつつ、風呂場で背中を洗ってくれる那木。

 俺の正面に脚を崩して座って、大事な所が見えそうで見えないくらいにチラチラさせる那木。

 偶然を装って押し倒して乳に触ったら、蒸気を吹きそうな勢いで赤くなって目がグルグル状態になる那木。

 唇が触れ合いそうになった瞬間、橘花が遊びに来て(最近よく那木と居ると乱入してくる)飛びのく那木。

 看病のためと言って添い寝を申し出た那木を、布団の中でペッティングしまくって、腰砕けになった那木。

 

 

 

 

 その他諸々、しっかりと心の秘密USBに保存いたしました。

 USBなのは接続端子だけで、実際はハードディスク並みの容量があるがな。

 

 

 

 

 

 それはそれとして、那木の色々な姿を堪能しているうちに、ちょっと疑問を持った。

 今更と言えば今更だが…なんか、キャラが違うんじゃね?と。

 俺の勝手なイメージと言ってしまえばそれまでだが、なんというかこう…那木は体はエロいが清楚で、色事には弱くて、そうでなければちょっと赤くなりつつも受け流してスルーするような感じだったと思うのだ。

 なんつーか、古式ゆかしい大和撫子と言われておバカな厨坊のガキが想像する、都合のいい妄想の中に登場する女のよーな。

 

 …流石にそれは自分でも言いすぎだと思うが、那木が自分から男にアタックするというのは、なんかイメージと違うような気がするのだ。

 そもそも、男にアタックしたり誘惑したりできる程異性の視線を意識できているなら、谷間やら太ももやらがチラチラ見えるあんな服装は着ていまい。

 そういうのに慣れている人はともかく、那木は顔が近付くだけで頬が赤くなる純情さんでもあるのだ。

 

 大体、このあざといアタック方法を何処で覚えたのか?

 実践したことがないのは、そのたどたどしさでよく分かる。

 恐らく、誰かからの知識の伝聞と言う形で知ったのだと思うが。

 

 

 

 

 

 

 なんて事を考えている間に、丁度那木がおかずのお裾分け(金平牛蒡うめぇ)に来たので、それとなく誘導尋問してみた。

 

 

 

 

 

 実家から教わったとかマジですか。

 

 

 

 床の作法?

 否定はしないけど、それとはまたちょっと違うぞ。

 

 

 戦国時代とかでは、ちゃんと上手くいくように性教育し、更に初夜では隣で聞き耳立ててつつ夜襲に備えるという天然羞恥プレイが当然だったと聞くが。

 それの発展系なのだろうか?

 

 まぁ、誘惑されてクラッとし、その場で一線を越えそうになった事は何度かあったし、夜の営みを頻繁かつ円滑にして夫婦仲を上手く行かせる、と考えれば、分からんでもない。

 那木には死んだ許婚が居たらしいし、名家が割れる危険を回避する為に、そういう知識を教え込んだ、と。

 

 

 

 

 

 

 よくやった!

 

 

 と褒めてやろう。

 そして名も知らぬ、那木自身も顔すら知らない許婚よ。

 お前の嫁予定だった那木は、俺がしっかりとNTRして幸せにするからな。

 はっはっは。

 

 

 

 

 

 

 …NTRしても、相手が嫉妬やら悔しさに悶える姿が想像できんな。

 その分罪悪感もないから、まぁいいけど。

 

 

 

 それはそれとして、那木の積極的さの理由がまた酷いというか何というか。

 

 一言で言ってしまえば、 適 齢 期 と言う奴だ。

 

 那木の名誉(?)の為に記しておくが、那木はまだそんな年じゃない。

 率直に言って、それで何故にあんな雰囲気が出せるんだって言いたくなるくらいに若い。

 …モノノフ以外の価値観で言えば、だが。

 

 上記のような、床の作法やら何やらを大真面目に教えている事からも分かるように、モノノフの…特に名家の価値や常識は、時代に置き去りにされている部分が多いようだ。

 何せモノノフという存在自体、表舞台には殆ど立たず、外の世界の情報や技術をほぼシャットアウトして存在しつづけたのだから、それも無理はないだろう。

 で、昔の価値観という事は、その分結婚やら何やらの年齢も速い。

 一般的モノノフならばともかく、名家であれば10代前半から婚姻は当たり前、産まれた時から許婚が決まっているの珍しくないとか。

 …一体いつの価値観なんだ。

 

 

 今ひとつ納得できないが、とにかく那木は本人+名家の感覚で言えば、既にギリギリな年齢らしい。

 加えて、本来の許婚だった名家はかなり地位の高い家だったらしく、それに尻込みしてかアプローチをかけてくる人も殆ど居ない。(尻込みしてたのは那木自身に対してだと思うが)

 半ば諦めかけていた所に、俺というターゲットが降って沸いたらしい。

 

 そこそこ強い(経済的にも)、恩人、吊り橋効果もあろうが那木自身の好感度もそれなり以上に高い。

 ラストチャンスに有料物件(に見えるらしい)とあれば、そりゃ玉砕覚悟で仕掛けもするか。

 

 

 実にオイシイ獲物ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 要するに喪女の危機感が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

堕陽月希望の凱歌を磨り潰して抹茶塩日

 

 

 なんか余計な事考えて記憶がとんだ気がする。(←朝書いた分)

 

 

 

 

 

 

 

 ↓寝る前の分

 

 

 

 ……ふぅ。

 

 

 お い し か っ た ・ ・ ・ 。

 

 

 

堕陽月愛の誓いのドレッシング(意味深)日

 

 

 という訳で、那木は巨乳積極的なのに奥手未亡人モノノフさん(専用)に再びジョブチェンジ…いやクラスチェンジしました。

 いや~、一週間色々と熟成させたのを差し引いても、非常に美味だったわぁ。

 形ッ色ッ味ッ感度ッ全てが一級品ッ!

 

 …なんかこんなセリフを前世の格闘漫画で見た気がするが、よう思い出せん。

 何れにせよ、那木の体は隅から隅まで…とは言わないが、美味しくいただきました。

 

 まだ尻とか脇とか色々残ってるから、それは今後の楽しみである。

 初っ端から過激な事しまくって、慣れさせても面白くない。

 

 

 那木はアレだ、予想通り布団の上でも狩りでも尽くすタイプだったが、それと同時に羞恥系のM属性だ。

 元々、実家の教育で思いっきり耳年増になってたのが大きいんだろう。

 つまりこうだ。

 

 

 知識  = 豊富(誇張含む)

 羞恥心 = 極大(知識が先走っている為?)

 体つき = 熟れててエロい

 感度  = 開発中(敏感気味・羞恥心のおかげで倍率ドン!)

 性格  = お淑やかで男を立てる

 性癖  = 奉仕系かつMの気あり

 経験  = 一面の雪景色に好きなように足跡を刻むが如く

 興味  = 覚え始めてムッツリ

 

 

 

 

 

 何このエロゲに都合のいい女。

 洗脳じみたオカルト版真言立川流で弄りまくったアリサでさえここまで…ここまで………いや、意外といい勝負かもしれん。

 アリサは絶対服従状態になっちまったが、方向性が違うだけでアレさは同等か?

 

 絶対服従はアリサに被ってしまうから……どう仕込もうかな。

 やっぱり奉仕を伸ばすか?

 

 

 

 

 そうそう、ちょっと意外なことがあった。

 オカルト版真言立川流だが、那木にも心得があったようだ。

 これも実家から作法の一環として教えられたようだが…何分、経験値が0だったから、これに関しては拙いのなんのって。

 なんというかこう、処女にスゴい事を要求したら真っ赤になって拒否られたんで、無理矢理押し倒して実行させたような感じ?

 

 抵抗を踏み潰して蹂躙する楽しさに目覚めました。

 性犯罪者にならないよう、注意注意っと。

 

 今まで?

 抵抗を踏み潰すんじゃなくて、味を覚えさせて自分から受け入れさせる楽しさでした。

 

 

 それはそれとして、例の真言立川流もどきだが、やはり相手にも心得があって真価を発揮するものらしい。

 房中術の真骨頂と言うか、お互いの間でエネルギーを循環させて増幅させて、気持ち良くなりつつ気を充実させるっつーか。

 「争いは同じレベルの者同士でしか発生しない」というが、現状ではそれと同じだ。

 那木が持っている拙い受け手としての備えをブッチして、興奮やらエネルギーやらの坩堝に叩き込むだけの結果にしかならない。

 それはそれで興奮するからいいんだけど、やっぱりお互いに備えをして、じっくりとエネルギーを循環させ続ける方が気持ちよくなれるようだし、その恩恵も大きいようだ。

 

 でも流石にそういう心得があるか聞くのも気が引けるし(相手によっては叩き斬られる)、仮に知っていたとしてもどうやって教えてもらうのやら。

 …暫くは那木を弄びつつ、習熟させるよう訓練しますか。

 

 

 この場合、最大の敵は難易度よりも俺のSっ気だな。

 

 

 

 

堕陽月淡雪のカキ氷日

 

 

 日中は樒さんを護衛しつつ狩りをし、夕方は橘花と遊び、夜から朝は那木とイチャネチョする日々が続く。

 なんつーか、那木ってば弄り甲斐があるなぁ。

 ちょっとくらいムチャ言っても、何だかんだで受け入れてくれるし、そういう自分に酔ってる節もある。

 だから気兼ねなくヒワイな提案もできる。

 

 まだ拙い手で震えながらも、手淫やら口淫やらおずおずとやってみてくれる。

 まだ性的な刺激よりも、それをしている那木を眺めて愉悦する方が多いけどね。

 

 特に反応が良かったのは、やはりと言うべきか羞恥系。

 天狐の不思議そうな目に見つめられながら、色々と囁きつつ最奥をコツコツしてやると、必死で声を抑えて布団を握り締めながらクネクネと。

 いやー、スゴイ締まりだった。

 今度は皆が寝静まった夜中に青姦しよう。

 

 

 さて、那木とのアレコレはまた今度記録するとして、今後の行動だ。

 ブッ倒したツチカツギは、やはりミタマを宿していたそうだが、そのミタマからは何も読み取れなかったらしい。

 暫くは樒さんを護衛する日々が続きそうだ。 

 

 

 

黄昏月トリガーハッピー×自動装填日

 

 

 新しい月に突入。

 思えば長く居るもんだ。

 …討鬼伝(無印)の話って、確か時系列的には半年くらいの話だったっけ?

 ソースは覚えてないが、どこかでそんな事を聞いた気がする。

 

 となると、約半分?

 折り返し地点か?

 

 …まぁ、あんまアテにはならんが、半年くらいになったら鬼達がオオマガドキVer.2の再現間近だと覚えておこう。

 

 

 ところで、今日はなんか唐突に防衛班だか物見班だかが襲われたと知らせが入ってきた。

 深刻な事態なのは分かるが、「またかよ」と思ってしまった俺は人としてどうか。

 

 だが実際、今まで何度か物見班が襲われはしたけど、小型の鬼ばっかり相手だったからなぁ。

 それでも一般兵にとってはとてつもない脅威なのか。

 最初から、曲りなりにも戦う術や逃げ隠れする術、そしてデスワープという死を回避する最終手段を持っていた俺とは違うのだろうか。

 

 ま、それは置いといて、その知らせを受けて半狂乱になっていた里人が一人。

 多分襲われた班に恋人か何かが居たんだろう。

 で、それを聞いた息吹が血相変えてすっ飛んで行った。

 タイミング悪く、他の皆が任務に行ってて不在だったからな。

 

 絶対に助けるから待ってろ、と言い残して。

 …意気込みは買うと言うか見習うべきだろうけど、ねぇ…。

 

 

 どうやら初のキャラエピソードは息吹かららしい。

 …それは分かったが、一人でいきなり出撃するなと。

 

 …とは言え、今回についてはそれが正解か。

 班が襲われ、文字通り一刻が生死の明暗を分ける事態だ。

 息吹もなんだかんだでエース級だし、一人で行ってもかなりの戦力になるだろう。

 

 強いて言うなら、医者役の那木を連れて行ったら文句なしだ。

 …誰も居なかったから、無理な話ではあったけど。

 

 

 

 

 だが現実は非常。

 半狂乱になっていた里人の恋人は、既に亡くなっていた。

 以前から仕掛けていた罠が上手く作動し、怪我人を減らす事くらいはできたようだが、死人は防げなかった。

 

 他人事のように記している、俺がおかしいんだろう。

 本当なら、息吹のように責められて落ち込む、或いはそれ以上に沈み込むのが普通なのかもしれない。

 息吹に限らず、怪我人の治療はできても、力及ばなかった那木のように、またトラウマが再発しそうになるのかもしれない。

 

 だが俺は本当に、他人事としか感じなかった。

 言っちゃ悪いが、ハンターとかやってる上、デスワープを何度も経験してると、死ぬのも文字通り給料の内に思えてくるし。

 

 ただいつものように狩りを終えた報告をして、死者に少しばかり祈っただけで、後はいつも通りだった。

 違う事と言えば、息吹に声をかけられなかった事と、再発しそうになったトラウマから逃げるかのような那木を慰めるだけだった。

 

 

 

 

 

黄昏月集中力×溜め動作速度UP日

 

 

 息吹がグレた。

 いやこの表現はどうかと思うが。

 

 酒に溺れて色々忘れようとしているようなので、ホピ酒とビールと日本酒と、あとなんだかよく分からない素材+桜花が造った卵焼きを焼酎にした酒をチャンポンして渡してやった。

 これで一発でドリームランドにご招待である。

 …目を回しておきだした後、なんかデカ階段と門を夢に見たとか言ってたが、それは潜らないように。

 

 さて、ここからどうしたものか。

 那木は何とか落ち着いたが、息吹はもう暫く立ち直りそうにない。

 まぁ、那木の手術に続いてトラウマ直撃だったみたいだしな。

 例の里人のヒステリー…恋人を亡くした悲しみをこう表現するのは流石に酷いが…がそれに追撃をかけたみたいだし。

 

 正直な話、立ち直るのかって事に関してはあまり心配していない。

 ゲームで立ち直ったからではなくて、逆にトラウマのおかげで嫌でも立ち直っちゃうタイプだ、あれは。

 

 確かに今は酒飲みまくって桜花にも殴られるだろう…ケツ触ろうとしたようだが、よくぞ生きてた。(木綿と橘花に手を出さないのは生存本能のためか?)

 が、目の前で人が死ぬとなれば、血相変えて反射的に止めるだろう。

 そりゃ人として当然だろ、と思うかもしれないが、まぁ要するにそれくらいのレベルで、他者を生還させる為に戦う事が身に染みているだろう。

 

 まぁなんだ、一言で言ってしまえば、信念……というより、長い間持ってきた執着は、そうそう捨てられないってだけの話だ。

 いつになるかは分からないが、時期に立ち直るか、最悪修羅場のときだけでも戦力になってくれるだろう、多分。

 

 むしろ、心の整理がつくまでは酒に溺れさせておいた方がいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 決して、男の事だから真剣に考えられないとか、そーいう事じゃないからな。

 

 

 そういや、この2~3日橘花が来てないな。

 死者が出た事で自粛でもしてんだろうか?

 

 

 

黄昏月健脚回避×ステップマスター×回避距離日

 

 

 今日の任務はモグラ叩きだった。

 地面を潜って移動する、雑魚のドリュウ(土竜)を片っ端から潰していったんだが、まぁなんつーか鬱陶しいなコイツ。

 丁度、ドリュウを100匹対峙しろとかいう依頼が出てたから、タイムリーと言えばタイムリーだったが。

 

 それはともかく、息吹がグレる切欠になったあの物見班襲撃の件だが、どうやら雑魚に襲われただけではなかったらしい。

 息吹が到着した時には既に姿が無かったらしいが、大型の鬼が一体居たとか。

 そういや、ゲームのストーリーでは息吹の恋人が死んだ時の鬼とか、そんな事を聞いた気がする。

 

 今回、息吹とそいつの顔合わせは無かった……さてどう影響するか。

 息吹はまだ、その時の鬼の事を知らないらしい。

 自分を責めて、里人にも攻められて、それどころじゃなかった、って事か。

 

 しかし、どういう鬼だったかな。

 たしか討鬼伝の前半…所謂下位ミッション段階での大型鬼は、そう多くなかった。

 まず既にやりあったミフチ、カゼキリ、クエヤマ、ヒノマガトリ。

 

 残っているのは確か…ボス扱いだったトコヨノキミ、指揮官だったゴウエンマ、そして頭にくる鬼としてトップクラスの奴だった、ダイマエン…は確か富獄の兄貴の相手だったか。

 んで、やっぱり作中屈指のメンドくてつまらないと評判だった、なんかヘビ女っぽい奴。

 道場の仇名で呼ばれる陸亀。

 最後に、ヘビはヘビでもなんか武器とか持ってた奴。

 

 後は弱点と攻撃属性が違う亜種ばかり、だったと思う。

 DLする追加分の方までは把握して無いけども。

 

 ちなみにこの辺の敵からは、あまり資料が無いらしい。

 秋水曰く、鬼にも階級や住み分けが明確にあると考えられており、上位の鬼ともなると中々人前に姿を現さないらしい。

 そして現れた場合、よっぽど腕のいいモノノフが揃っていない限り、目撃者どころか生存者ゼロになるパターンが殆どだとか。

 

 

 

 う~~ん、どんな敵だったか思い出せねーな…。

 何故か逆立ちという行為が連想されたんだが、本気で思い出せん。

 鬼が逆立ちすんのか?

 何のために?

 東方プロジェクトで、厄神のお雛さんがクルクル回ってるようなものか?

 しかし可愛げもなければ人気も出ないぞ。

 

 あと……なんだ?

 目から怪光線?

 

 ……意味が分からん……妖怪だ…いや実際鬼か。

 

 とりあえず、生き残った物見班から情報収集してみるか。

 

 

 

 

黄昏月早食い×グルメ日

 

 よく覚えてないが、とりあえず新しい大型鬼との戦闘が予想される。

 ゲームストーリー的に考えれば、新たなミタマの入手が確定しているだろう。

 最近ちょっと忘れがちだったが、鬼の指揮官を探す為にミタマを探してるんだったか。

 

 …どうすっかな。

 タイミングや内容を考えれば、これも息吹のキャラエピソードの一つだろう。

 ゲームストーリー的に考えれば、キャラエピソードの終了時にミタマが手に入るか、或いは先日物見隊が襲われた時に本来は大型鬼と遭遇していて、その時にミタマが手に入ったか…って所だろう。

 でもなー、初見の相手とやり合うのに、護衛対象を連れて行きたくないっつーか。

 どうしたものか…。

 

 

 

 

 

 




番外編で短編を出して、スキルだけクロス…ちょっと試してみようと思います。
時間があればね!

あとがき…に短編を持ってくるのはマズいかな。


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第34話+外伝1

明日は新世界樹の迷宮2の発売日です…って世界樹の迷宮Ⅴ発表となもし!?
明日から暫くアサクリと世界樹でロクに執筆できなくなります。
書き溜めもこれで全部です。

世界樹発売記念という事で、後書きに外伝を載せてます…全く関係の無いゲームが舞台ですが。
SSとは言え、後書きの小説で恐れ多い事書いてしまったなぁ…。
何のゲームが舞台か分かるのか、ちょっと不安です。


にしても、今回のアサクリはよく死ぬな…微妙に操作方法も変わってるから戸惑います。
収集は後回しにして、そろそろストーリー進めるか。


黄昏月オートエイム×速射日

 

 

 

 秋水とちょっと下世話な話をした。

 以前疑問に思った、「神垣の巫女は処女ではないといけないのか」という奴だ。

 無論、桜花や橘花本人は勿論、那木やお頭が近くに居ない事を確認した上で。

 

 

 結論から言ってしまうと、処女でなければならない。

 驚いた事に、処女喪失して力がダウンする事態を防ぐ為、興味を持たせないよう性教育すらしない場合もあるらしい。

 

 

 …やはり巫女という立場にある以上、神聖性は必要な物らしい。

 カリスマとかの理由ではなく、術や能力の行使に明確な影響が出るそうなのだ。

 無論、大抵の場合は悪い方向に。

 

 普通、モノノフの里では神垣の巫女はその一生を、閉じ込められるようにして過ごすらしい。

 護衛付きとは言え、ある程度自由に出歩ける(そして抜け出す術を俺が教えている)この里の方がおかしいらしいのだ。

 

 まぁ、懸念があるのは分からないでもない。

 神垣の巫女などという肩書きがついても、殆どの人は単なる女性。

 しかも、閉じ込められている為、十人中9人くらいは世間知らずのお嬢様だろう。

 

 …もしも悪意を持って接触された場合、どうなるか?

 容易く心を乱され、或いは物理的に『膜』を奪われる事だって考えられる。

 

 実際、秋水が陰陽方の間者として橘花を揺さぶり、この里を瓦解させようとするなら、橘花を襲って色々と尊厳を奪ってしまうのが、最も簡単な方法だろう。

 

 

 

 そうでなくても、世間知らずのお嬢様が、ちょっとした切欠で誰かに惚れてしまったら、どうだろう?

 極論になるが、行き先は二つだ。

 

 Aなんやかんやで結ばれて合体・子作り。

  神垣の巫女の力ダウン。

  子供が生まれる辺りで、陣痛やらつわりやらで集中力が殺がれ、結界が弱って里がアボン

 

 Bフラれる、或いは結ばれる見込みがない事に気づく。

  失恋の痛みで精神力超ダウン。

  結界パリン。

  アボン。

 

 

 …うん、そら波風立てないように閉じ込めもするわ。

 それはそれで色々と積もる物はあるだろうけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、先日橘花が「那木さん達が夜にやっている遊びについて」の本を借りにきたそうなのだが。

 …どーやら那木とのお遊びが見られていたらしい。

 

 橘花は性教育を殆ど受けてないタイプらしく、「あれはどんな遊びなんでしょう?」と首を傾げられた秋水は、気まずいなんてものじゃなかったらしいが…。

 いや、だからって桜花に言いつけるなよ?

 言ったら色々とこっちもバラすからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄昏月生存本能×逆鱗日

 

 

 前にも気付いた事だが、橘花は「巫女っぽくない遊び」に色々と興味を示す傾向がある。

 それが神垣の巫女という立場から開放されたがっているからなのか、それとも単にやってはいけないと言われた事に引かれるタチなのか。

 

 

 

 

 

 

 どっちにしろ、触りだけ知ってしまった子作りに興味津々っぽい。

 

 と言うか、あの隠密技術は一体どうなっとんのだ。

 確かにハンター仕込みの狩りの技術を幾つか教えたし、「中々筋がいいでござるな」って言ってた速鳥も悪ノリ(?)して気配を隠す方法とか教え込んでるのを見た事がある。

 しかし、那木と晩飯~パコパコ中とは言え、俺に全く気付かせないってどういう事?

 先日の秋水の話を聞いて、注意深く外の気配を探って、ようやく橘花に夜の生活を覗かれているのに気がついたぞ。

 

 

 橘花の行動を聞き込みして推理してみるに、こういう流れだ。

 

 

 

 ①俺から隠密技術を学んだので、ちょくちょく抜け出して遊びに出るようになる。

 ②那木と俺が一緒に過ごすようになって、なんか乱入する頻度が増えてきた。

 ③驚かせようと、夜中に抜け出して遊びに来る。目撃。

 ④秋水のところに行って調べてみて、更に興味が沸く。

 ⑤また覗きに来ているうちに、隠密が上手くなる。

 

 

 …好きこそ物の上手なれ、とは言うけどさぁ…。

 これは酷い…。

 

 

 というか、マジな話どうしたものだろうか。

 この際倫理観とか切り離して考えるけど、これってかなりリスクが高い状況だ。

 釣り橋効果に代表されるように、性的なものにせよ生命の危機からのものにせよ、興奮というのは錯覚の元になりやすい。

 

 これが元で、橘花が俺に対して懸想している、と思い込んでしまったら?

 …もう那木とくっついている俺に対して。

 

 

 つまりアレだ。

 先日の日記の、Bルートに進んでアボン!

 

 マジでこの可能性、かなり高い。

 何だかんだで遊びやら色々教え込んでいたから、多分橘花にとって一番親しい異性は俺だ。

 ゲーム的に考えても、討鬼伝のヒロインポジションだったと言える…いや嫁ポジションはともかくとしてさ。

 

 それに、以前あった陽動の際、お守りだといって結界石の欠片を持たされて出撃したが…効果の程はともかく、これってなんだか物語のワンシーンぽい感じがするでしょ。

 つまりヒーロー役=俺、ヒロイン役=橘花。

 

 そういう風に一度自覚してしまえば、実体がどうであれ認識がズルズルと引き摺られ、そして感情はそれに従って芽生えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 つまるところ、俺はその辺を上手い事宥めてやらねばならぬ訳だ。

 肉体関係についても興味津々で覗いている橘花を。

 

 

 

 

 

 さとをききにさらさないためだから、ふたまただってしかたないよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え、那木=サン?

 どうしたの……いやこれは浮気とかじゃなくて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妾?

 

 

 

 

 マジで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄昏月激運×おみくじ日

 

 

 取り乱した。

 那木がお妾さんOKとか言い出すから、煩悩が暴走しちゃったじゃないか。

 おかげで那木が一日足腰立たなくなってしまったが、それは置いといて。

 

 何処まで都合のいい女みたいな人なんだ、って思ったが、よくよく聞いてみるとそうとも言い切れなかった。

 一応、お妾さんOKなのは事実なのだが、単純に浮気公認とか公認の愛人とか、そーいうのじゃない。

 

 妾というより、側室と表現するのが正しかった。

 流石、戦国時代っぽい価値観の名家である。

 

 ただし、勿論無条件に認められる訳ではない。

 男性側の甲斐性だって重視されるし、誰でもいい訳じゃない。

 那木が教わってきた価値観においては、幾つかのルールがある。

 

 

 特に今回は、側室になる可能性があるのは橘花という形になる。

 そう、神垣の巫女が側室、という訳だ。

 那木の家は名家だったが、神垣の巫女を側室…つまりは第二夫人と考えた場合、その釣り合いは取れるのか?

 

 俺には名家の名や立場の重さとかはよく分からないのだが、それでも神垣の巫女が超重要人物だって事はよく分かる。

 どーも聞いた話だと、一般的な地位としては神垣の巫女>名家なので、正室側室の地位がそれで逆転すると…周りがうるさいっぽい。

 

 地位的な問題に焦点を絞って考えても、俺は単なる一介のモノノフに過ぎない。

 それが名家のお嬢様と神垣の巫女を侍らせるような真似が許されるとでも?

 

 

 

 ……別に許される必要もないけどな。

 桜花が厄介なだけで。

 

 とにかく、色々とルールがあり、正室・側室間では下克上などを防ぐ為か、色々なルールが定められているらしい。

 仮に橘花を妾にするのであれば、それを遵守しないと那木が許してくれそうにない。

 これは下半身で説得、なんて手段は使えそうになかった。

 妙な所でルールに厳しい。

 

 …多分、子供の頃からの教育に加えて、やきもちとか独占欲とかもルールに厳しい理由の一つだろうけど。

 浮気されるよりは妾の方がマシだけど、どっちにしろ気に入らない。(ってレベルじゃないと思う)

 でももしやるのであれば、ちゃんとこのルールに則ってください、って所か。

 

 

  

 

 

 

 

 

 ……面倒だから隠れて関係を持つか?

 

 

 

 

黄昏月罠師×不動金縛日

 

 

 色々と先走りそうになったが、橘花の意思確認が最優先だ。

 エロい事に興味があるだけなら、失恋云々の心配もないから無理に側室にする必要もない。

 

 何も気づいてないフリをして、橘花のところに遊びに行ってみたんだが…むぅ、判断に困るな。

 ちょっと目と顔を赤くしながらも、普段のように振舞っている……寝不足気味なだけのようだ。

 こりゃ昨日も覗きに来てたな…。

 今のところ、精神的ダメージを受けている訳ではなさそうだ。

 

 とりあえず、即座に結界が弱って里アボンはないと思う。

 そんならどうすっかな…。

 俺だって羞恥心はあるし、あんまり隠れて見続けられるのも愉快とは思わない。

 …ジーナさんの時はカノンさんに覗かれてたけども。

 

 だからと言って「覗くな」と直に言うのもな…。

 

 

 

 

 何より、下世話な本心を暴露するが、これはチャンスだ。

 何のチャンスって、そりゃカワイイ子を合法的(?)に手篭めに出来るチャンスだ。

 那木一人で満足してない訳じゃないが、男としてチャレンジ精神が疼く。

 具体的には3Pとかハーレムとかやってみたい。

 

 男なら一度はそう願う……そう思うでしょう、アナタも!?

 

 

 

 しかし切欠をどうしたものか…。

 夜は那木と一緒に居るからチャンスは無い。

 というか那木を弄ぶのに忙しい。

 

 となると、やっぱり狩りから帰ってきてから夕飯の辺りが狙い目か。

 ……禊でも誘ってみるか?

 ゲーム的に言えば、誘うにはまだ好感度が足りないと思うが、そこは好奇心を擽ってやればなんとか補えると思う。

 

 だが一気に押すのは禁物だ。

 今はまだ、性への好奇心が優先されている状態。

 そういう事をしたいと思う程、俺は異性として好かれてないだろうし、何よりまだまだ恐ろしいだろう。

 

 

 

 

 

 よし、『自習』を教えよう。

 

 

 

 

 

黄昏月カリスマ×隠密×忍び足日

 

 

 穢れを清めるための禊場でワイ談というのも中々オツなものだ。

 軽口風にちょっと話題を振ってみたら、結構な勢いで食いついてきた。

 

 で、「人の居る所で話す事じゃないから」と言いくるめて、桜花の目を盗んで二人で禊場へ。

 水で濡れた白装束が目に毒ですなw

 視線を逸らしているフリをしつつ、しっかりと鑑賞させていただきました。

 

 そして決意を新たにしました。

 ゲッスい決意を。

 

 

 

 

 さて、ところで以前、『神垣の巫女は処女でなければならない』と秋水から聞いたワケだが。

 精神的な問題以外でも、『膜』の有無で術の効果が左右されるため、色恋の問題を差し引いてもヤッてしまう訳にはいかない。

 今後のオオマガドキ防衛線もあるし、討鬼伝極のストーリーにも突入するなら、どんな鬼が出てくるか分からない。

 里の結界を弱体化させる訳にはいかないのだ。

 

 

 だが膜さえ無事ならナニしても問題ない訳で。

 

 

 

 

 

 通常の『自習』に加えて、『尻』での行為もある事を教えておきました。

 

 

 

 人によっては、普通の交わりよりも気持ちよくなれる、と。

 多少のトレーニング法も教えてみた。

 

 橘花は仰天してたが、ちょっと想像していたのを見逃さない。

 興味アリのようです。

 まぁ、ソッチ系はちゃんと準備しないと、清潔さに問題があるんだけどね。

 那木で実演して見せてやれればよかったんだけど、流石にそうすぐには受け入れられるくらいにはなってない。

 

 とりあえず、腸内洗浄に必要な薬品は渡しておいた。

 何でそんな物持ってたかって言うと、以前アリサやユニスを相手に色々とやってた時の残りである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これで『自習』が進んで、快感を覚えれば、いざ事となった時もソレほど抵抗は無いと思う。

 尻穴狂い(処女)の巫女……アリだと思います!

 俺の手で開発していくのもいいけど、自分で開発させて、出来上がったのをいただくのもイイと思います!

 

 よっしゃ、これをご馳走になるまではデスワープする訳にはいかんな!

 最大の敵は那木と桜花である事は言うまでもない。

 

 

 

 

黄昏月騒音×笛吹き名人日

 

 

 ふと今までの日記を読み返して思ったのだが、何で俺はこんなにゲスい思考を平然とするようになっているんだろうか?

 微妙に記憶から薄れつつある、デスワープに巻き込まれる前の世界では、特に特徴も無い一般人だった。

 天然とか人としてどうよ、とか言われた事はあるが、少なくとも異性に対してこれ程積極的というか捕食者的な行動はしてなかった筈。

 

 何が切欠で、こんな風に人を獲物としか見てないような生物に成り果てたんだろうか?

 色事の味を覚えた…というか脱DTしたのは、MH世界での水商売のオネーサンが切欠だった。

 あの頃はまだ、比較的純情な素人チェリー君だったと思う。

 

 次に関係を持ったのは…アリサか。

 しかしアリサをああまで洗脳した時点で、かなーりゲッスい思考になっていた気がする。

 …そうだ、よくよく考えれば素人チェリーだった俺が、アリサの方に下地があったとは言え、あんなに人を支配できるものだろうか?

 

 洗脳紛いの真言立川流オカルトバージョンを身に着けたのは、アリサとくっついた次の討鬼伝世界だったしな…。

 だが真言立川流の技術が、俺を外道に導いた技術の一つなのは間違いなかろう。

 

 

 心当たりがあるとすれば、アレだ。

 

 どこぞの平安時代から続く無手の流派は、その技術を習得する間に精神を作り変えて、修羅と化してしまうと言う。

 これも一種の洗脳なのかもしれんが、同じような事は一定以上の技術を持つ者は必ず通る道だろう。

 例えば武術なら、多少の痛みや緊迫感に耐えられるような精神に。

 例えば芸術なら、雑念を消し飛ばして対象となる何かに集中できるように。

 例えば医術なら、怪我や病気の凄惨とも言える光景を目にしても、冷静な診断ができるように。

 

 その技術に必要な精神の有り様を、必ず何処かで叩き込まれる。

 それと同じ事が起きたんじゃなかろうか。

 つまり、真言立川流のマニュアルを読んだあの時か、それとも自然と狩りを続ける事を考えるようになった、あの頃か。

 

 昔は普通の純情(失笑)ボーイだった俺が、このループや狩りの緊張感に耐えられる精神を得る為、何処かで適応した結果が今の俺なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがこんな事はどうでも良かった。

 目の前に据え膳が出来上がりつつあるのだから、出来上がるのを待たないでどうする、出来上がってから食べないでどうする。

 出来上がる前に食べるのも一興。

 

 それに比べれば、俺が生まれつきゲッスい人種なのか、それとも何らかの切欠で歪んでこうなってしまったのかなぞ、どうでもよいわ。

 

 んじゃ何でこんな考察をしてたのかってーと、単にヒマだったからだ。

 

 

 

 

 

 

黄昏月おおげさ×怒日

 

 息吹が中々立ち直らない。

 ちょっと不安になってきた。

 

 何だかんだで普段の討伐(雑魚狩りだが)には、酒気を帯びつつ(どう見ても二日酔いである)もちゃんと出ているみたいなんで、俺達の負担が増える訳じゃないが…動きがどうにもぎこちないし、精彩を欠く。

 やはり精神的に安定していないようだ。

 

 そろそろ、物見班を襲った大型の鬼と遭遇しそうなものだが…。

 結構厄介な奴だったような気がする。

 メンバーが十全な体制なら勝てるだろうが、不安要素があるとな…。

 

 

 代わりと言ってはなんだが、良い(と思われる)知らせもある。

 ここの所、神機に討鬼伝世界の素材とGE世界の素材を食わせ続けていた訳だが、神機が進化しようとしている……ような気がする。

 異界の中、瘴気が宿ったままでも、徐々に動くようになってきているっぽい。 

 もう間もなく、討鬼伝世界で杭君が活躍できるようになるだろう。

 鬼杭千切なら、大抵の鬼を瀕死にまで追い込めると思う。

 ただ、一発撃ったらほぼ行動不能確定だもんなぁ…。

 そこだけはどうにかしないと。

 

 ところで、今日は「古」の領域での任務だった。

 だからどうしたという事もないんだが…なんというか、琴線に触れた。

 あの、転がってるデカい土偶…あれはイイ。

 なんかイイ。

 とても素晴らしいナニカを感じる。

 ハニワ(特にアリスソフト産)もいいけど、土偶もいいよね!

 

 

 

黄昏月オートガード×オートエイム日

 

 大和のお頭から話があった。

 何でも、眠ったまま目を覚まさない人が増えているらしい。 

 その数、何とこの里だけで何十人。

 …労働力が削れる、看病のために人手を割かれる、と考えただけでも、その被害は甚大だ。

 ウタカタの里は、決して大所帯じゃないからな…労働力が減ると、生活に直結する。

 特にメシのクオリティに。

 うむ、それは天地がひっくり返ってでも…否、ひっくり返してオオマガドキを起こしてでも防がねばなるまい。

 

 里の人達に話を聞いて回ったところ、どうやらこれは夢患いなる病気だと知れた。

 名前だけ聞いたところで、原因も対処法も分からんのじゃ意味が無いが。

 那木も、速鳥も過分にして聞いた事がない病だそうだ。

 

 

 

 

 と言うか、オボロゲな記憶の中で、これは初穂イベントだとあるような。

 確か、あのクッソ面倒臭いヘビだかカタツムリだかよーわからん鬼の仕業だった筈。

 あまつさえ、初穂が思いっきり夢わずらいにかかってしまったよーな。

 

 昔の資料を掘り出してきた秋水曰く、百日夢ともいい、やはり鬼によって夢の中に閉じ込められてしまっているらしい。

 取り戻したい過去に囚われていたり、昔に戻りたがったりしていると、この鬼の術にかかってしまうとか。

 

 

 …初穂はキャラエピソードで夢患いになってしまうとして……息吹、まだ立ち直って無いぞ。

 大丈夫なのか?

 流石に息吹と初穂の二人が抜けるのは痛いな。

 

 

 

黄昏月匠×ボマー=クリーパー日

 

 案の定だよ。

 初穂が夢患いにかかってしまった。

 昨日、またちょっと強めにブートキャンプやって、余計な事を考える余裕をなくしておいた方がよかったか?

 息吹もついでに。

 

 …息吹は、ちょっと立ち直り始めたかな?

 やはりと言うかなんというか、目の前で仲間が死にそうになってるのに、平然と不貞腐れるような根性はなさそうだ。

 「何で俺は夢患いにならない」「いつの間にか本当に適当に」とかブツブツ言ってたが、ケツを蹴っ飛ばしてやると意外と動き始めた。

 無理だと思っても無力だと思っても、刻まれた喪失の痛みで嫌でも動いてしまうらしい。

 

 …両肩を掴んで(つまり逃げられないように固定して)、片足をブラブラさせつつ「あんまりしみったれてると、今度はダブルボールを喪失しますよ?ご希望ならスティックの方も」と真顔で言ったのがよかったのだろうか?

 

 …でも本調子には程遠いな。

 

 

 

 

 

 

 

 追記 橘花はしっかりと「自習」に励んでいるようです。

 雰囲気や腰つきがちょっと変わってきました。

 

 




    外伝





 これは夢、かなぁ?
 いつものように狩りを終えてイチャネチョして、家で眠った筈なんだが、気がつけば………なんか…別の世界っぽい所に居るんだが。

 一体何事だ?
 とりあえず落ち着くために日記を書いてはいるが、そもそも周りの景色がおかしい。
 なんというか、荒野だ。
 荒地だ。
 しかも誰も居ない。

 …マインクラフト世界にでも迷い込んだか?と思ったが、地面を何度か蹴ってみても砕けない。
 仕方ないので、誰か居ないか(或いは食える獲物が居ないか)探して歩いてみよう。












 街を見つけて、宿を借りた。
 見つけたのはいいんだが、なんというか……一部の住民がすごく、世紀末です…。

 モヒカンは当たり前、日本人離れした体格で、一見して悪役だと分かる服装、勿論斧だって完備している。
 街中だからか、バイクは無いようだが。

 という事はここはアレか、世紀末なのか。
 北斗無双辺りの世界か。
 それとも世紀末バスケの方か?
 昔はRPGもあったと聞くが。

 もしここで何か学ぶとするなら、北斗神拳よりも南斗の方だな。
 バケモノ相手なら、秘孔を突くより単純な斬撃の方が効果があるだろう。
 いや、討鬼伝世界の鬼の眼で霊脈を見極めて殴れば、そうでもないか?
 それに、目を覚まさせる秘孔とか覚えれば、GE世界のアリサの催眠にも簡単に対処できそうだ。


 ま、とりあえず暴れている野獣達を追っ払うか。
 上手くいけば、恩を売って暫く宿代がタダになるかもしれない。

 …にしても、なんだか腕がウズウズするな。
 狩りに行ってないから、体が疼いてるのか?
 人間狩りでもしたいのかな?







 野獣を追っ払うのは簡単だった。
 意外と強かったが、行動が単純だ。
 ちょっと罠にかけてやれば、すぐ行動不能になる。

 最終兵器・銃と剣の使用も考えたが、流石にウッカリ人間に直撃させたり手加減を間違えると後が面倒になりそうだったから見送った。
 討鬼伝世界の手甲でオラオラしましたよ。








 そしてウッカリしちゃったのは神機に食わせました。
 アラガミ素材と一緒じゃないと、神機は食わないからな…。
 貴重なアラガミ素材が…。

 


 …にしても、北斗世界って女の野獣なんて居たのかな。
 アメリカンコミックスに出てきそうな感じのマッチョ・嬉しくないボンテージ姿だったから、特に躊躇わずにブン殴れたけど。
 おっぴろげジャンプに、赤熱化攻撃をカウンターで当てたりね…何処に当てたかは言うまでもあるまい。
 ばっちぃ。


 ん~~、しかし何か違和感があるな…。







 野獣達が襲撃してきた。
 まぁ、爆弾が大活躍したと言っておこう。

 死んだかな?と思って見に行ったんだが…一体を除いて、全て倒れていた。

 そう、一人ではなく、一体を除いて。
 …なんだったんだ、アレ?
 人型のモンスターが出たよ、人型の。
 GE世界のシユウくらいの大きさか。

 移動スピードが意外と速く、ちょっと梃子摺った。
 まぁ速いのは移動スピードだけで、攻撃に関しては動き回ってりゃまず当たらなかったし、頻繁に動くような奴じゃなかったから後ろに回って惨殺余裕でしたが。

 最終的にはオラオラついでに蹴りまくってトドメを刺したが、北斗世界にあんなモンスター居たかな?
 いや、蒼天の拳の方には妖怪だか神仙だか分からん爺さんが出てきてたり、獣と見紛うような雑魚キャラが居たり、そもそも2メートル3メートルくらいありそうなデカブツが居たりで、モンスターが居たって『放射能の影響だろ』で済ませて誰も文句言いそうにないが。

 と言うか北斗世界じゃ拳法家はそれこそモンスターみたいなもんだしな。

 まぁ、勝ったからいいんだが…その後、街の人からお礼に宝箱を貰った。
 …何故に宝箱?
 というかポケットから出したように見えたんだが。

 くれると言うなら素直に貰おう、と思って宿に戻って開けてみた。


 中に入っていたのは、小さなカードが2枚。
 金になるトレーディングカードとかかな?
 絵柄を見ようとして手に取ったところ、突然そのカードが右腕に吸い込まれてしまった。
 そしたら右腕が何やら光だして、力が漲ってきた。
  
 イベント発生?
 奥義取得イベントですねわかります。

 だが奥義よりヒロインより上手いメシと酒が欲しいです。



















 そして今、俺は謎の幻覚に苛まれている。
 立っていられないくらいの眩暈がして、実際にベッド(に行ったつもりだが多分床だ)で眼を閉じているというのに、幻覚は否応なしに脳裏に浮かんでくる。
 
 さっきブチのめした野獣(男女におデブ)やら、子供くらいの背の高さのシワクチャの爺さん達(5色のヒーロースーツを着ている)やら、弁髪のチャイニーズのカンフー服とか、改造人間っぽいのとか、あまつさえマントを羽織った覆面ゴリラやらが揃いも揃って踊り狂う幻覚が。

 ああ、意識が遠くなる…眩暈もそうだが、この踊りのバカッぽさがSAN値を削る。
 というかロクに動けん状態なのに、俺はどうやって日記を書いてんだ。
 やはりこれは夢なのか。


 ノリのいいコメディチックな音楽の幻聴も聞こえてきた。
 何だか聞き覚えがあるような…。

















 お、おれの……

 俺の





 俺の




 俺の



 俺の


 俺の

 俺の
 俺の右手は……大山倍達…。


 外伝:GOD HAND編


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35話

どうも、遅くなりまして時守です。
前回投稿から一週間以上、音沙汰無くて申し訳ないっす。
ちょっとアサシンクリードと目の痛み(日光が目に写るだけで痛いとか洒落にならん)と世界樹でhageるのに忙しくて、全然執筆してませんでした。
ちなみに比率は、2・1・7くらいかな…。

今回のアサクリはイマイチ爽快感が無い気がする…あっという間に死ぬし。
これはアレですね、カウンターで正面からやるんじゃなくて、真っ当に不意打ちするアサシンをやれって意味ですかね。

そして世界樹のボスは…取り巻きの方が厄介やん…。


 

 

 

 

 

黄昏月心眼×忍び足=覗き魔日

 

 なんか変な夢を見た気がする。

 よく覚えてないけど、ナニカが踊りまくっていたような…。

 ミズチメが術を使って、俺に何か見せたんだろうか?

 僅かに記憶に残る印象だけで言えば、延々と見せられてたら百日どころか2日で発狂して魂を食われるようなイメージがある。

 …ミズチメ、何の夢をみせたのか覚えてないが、マジでブッコロス。

 

 

 

 ふと気が向いて、ノッペラトリオのスキルを確認してみた。

 

 

 

 

 

 いつの間にかミタマの組み合わせスキルが発動していた。

 普段あまり意識しないが、ゲーム原作では「攻」ミタマ3つを揃えたり、特定のミタマを組み合わせたら発動したアレだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも発動しているスキルが、「ゴッドリール:ゴッド☆土下座」と「ゴッドリール:ゴッド本塁打」ってナニよ? 

 と言うか夢の中で何があった。

 あまつさえ、よく分からんけど使うにはゲージ(何の?)が必要っぽくて、「ゴッドリール:ゴッド本塁打」はゲージが足りないから使うに使えない感じがするんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よく分からん、と言うか分かりたくない。

 忘れよう。

 

 

 

 桜花がミズチメを発見したと、報告が入った。

 のはいいんだが、先日物見隊を襲った鬼に追われているとの事。

 これから迎撃に向かう。

 

 …その鬼ってアレだよな、多分息吹の因縁の鬼。

 強い弱いはこの際問題ないとして…息吹が暴発しないかが心配だ。

 ゲームストーリーでは、ギリギリまで不貞腐れていて、我慢できなくなってようやく立ち直った…みたいな記憶がある。

 しかし、今の息吹はちょっと違う。

 この間のダブルボール喪失の脅しが効いたのか、精細を欠いても何だかんだで素直に桜花救出に向かっている。

 

 

 ……で、その状態で恋人の仇の鬼に初遭遇か。

 ヤバいかな…。

 今の息吹は、中途半端な状態で失意と立ち直りの間で揺れている状態だ。

 吉と出るか凶と出るか、正直予想がつかない。

 

 …最悪、息吹を張り倒して戦線離脱させる事も考えておこう。

 まったく、何がどう影響を及ぼすか分かったもんじゃないぜ。

 

 

 

 

 

 

黄昏月魂特化・継続×集中=スパロボ日

 

 何とか勝利、救出成功。

 

 だが予想通り、息吹の動揺というか暴投が凄かった。

 タケイクサとの遭遇が、それ程に衝撃的だったらしい。

 

 しかも桜花に追いついたのが、追い詰められ、あわや致命的な一撃を加えられそうになった決定的瞬間である。

 何処か投げ槍(槍の鬼千切ではない)だった息吹が、血相変えて半狂乱になりつつ突撃した。

 多分、恋人の死亡した瞬間と被ったんだろう。

 術だの技だのを放り出したような、体ごと槍でぶつかっていく体当たりだった。

 

 おかげで桜花は何とか生き延びたが、息吹のダメージが大きすぎた。

 槍も折れかかっていたようだったし、あれで無事戦闘を終えられたのは奇跡に近い。

 那木が診察したそうだが、暫く絶対安静にしておかなければならないらしい。

 

 …まぁ、あっちこっちから血を流してたり、吐血した様子からして内蔵にも相当ダメージ入ってるみたいだし。

 しかも、これでトラウマを乗り越えられたのかと言われると、それも怪しい。

 確かに鬱病みたいに塞ぎ込んだり、精細を欠くのは何とかなったようだが、今度は逆に躁が入ったように見える。

 一言で言えば気負いすぎだ。

 ちょっとでも他人が危険に晒されれば、過剰反応して援護に向かう……自分の事を疎かにしてでも。

 バランスが取れてない。

 

 ……どう考えてもトラウマ乗り切れてねぇよ。

 むしろ死にたがりが出来上がっちゃったよ。

 

 言っちゃなんだが、そのおかげでタケイクサとの戦いは色々な意味でギリギリだった。

 そのおかげで桜花が助かったって事を差し引いても、だ。

 

 

 正直な話、これをどうにかしないと息吹を戦力として数えたくない。

 どっちにしろ、絶対安静状態なんだが……いや、あの反応を見るに、怪我を圧して出てきてしまう可能性もあるか?

 

 …そうなった時は、富獄の兄貴に期待かな。

 戦闘終了後だって、息吹のダメージがもうちょっと軽ければ殴りかかりそうな形相だった。

 流石お気遣いの紳士、息吹の精神状態もしっかり見抜いておられる。

 

 しかし、これで暫く息吹は戦線離脱か。

 ゲームではなかった展開だな。

 無事に切り抜けられるといいんだが。

 

 

 …というか日記を読み返すと、2度目の泡沫の里入りで、一気に無印討鬼伝ストーリーの1/3くらいは進んでるかな。

 順調と言えば順調だが、今後が怖いな。

 いや、息吹がこんな調子な時点で順調とは言いづらいかなぁ…。

 

 

 

 

黄昏月錬金術×グルメ=メシマズ死すべし慈悲はない日

 

 兎にも角にも、ミズチメ討伐に向かう。

 里で百日夢にかかった人は、昏睡してそろそろ100日に至るそうだし、時間が無い。

 

 

 …ふと思ったんだが、100日って約3ヶ月だろ?

 俺が来てから大体それくらいなんだが、眠ったままの人なんて聞いた事ないぞ。

 

 

 …まぁ、鍛えられたモノノフでもないと、1ヶ月保たないって考えておこう。

 そもそも寝たきりで1ヶ月保つっていう方が驚きだ。

 意識不明者につけるよく分からん機械とか、栄養補給のための点滴とかも全く無いのにね。

 詳しい医術の知識が無い俺としては、そういう人達に民間療法…もっと言えば、科学的ではない迷信…の処方を施しているように見える。

 でも実際に効果があるから、寝たきりで1ヶ月保ってる訳だしな。

 侮れん、と言うよりは俺の無知かな。

 

 

 さて、それはそれとして、これからミズチメ攻めだ。

 なんだってヘビだかカタツムリだかの鬼に、取ってつけたように夢を操る能力なんぞあるのか分からんが…ああ、そう言えば眠り状態にする攻撃とかあったな。

 ミズチメが叩き斬れば、初穂は目を覚ますのだろうか?

 いやでもミズチメって一言で言っても、一体じゃないしな。

 桜花が見つけたミズチメが、初穂に術をかけた個体とは限らんし。

 

 

 

 

 

 

 

 考えるだけ無駄か。

 ゲームじゃ桜花が見つけた奴を斬ればどーにかなった気がするし。

 これはあれだな。

 

 斬れば分かる、と言う奴だな。

 半人前の庭師的に考えて。

 

 よし、じゃああの足だかヘビだかよー分からん部分を輪切りにして食って

 

 

 

 

 

 

 

 

 思いついた。

 ミズチメが夢を操る能力を持ってるってんなら、体の部位の床かにそれを司る器官がある筈。

 それを確保して上手く媒介にしてやれば、GE世界で昏睡したアリサを叩き起こせるんじゃないか?

 デスワープして次回の討鬼伝世界に来たとして、同じように百日夢にかかった初穂をそれによって叩き起こし、ミズチメ攻めに参加させる事もできるかもしれない。

 

 幸い、鬼の部位と言うか素材は、本体が消えてもその性質を失わない。

 明らかに物理法則を無視した反応を示す。

 夢を操る部位を特定して、霊力を流し込んでやれば何かしらの反応はあるだろう。

 

 

 

 

 

 

 夢の内容を操れるのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢の中なら橘花のロストバージンも、夢じゃないと言うか夢と言うか。

 

 しかも他人の夢を自由に操れるとするなら、深層心理に影響させ放題である。

 つまり息吹に何かいい夢見せてやって精神を安定させるとか、夢の中でオニャノコに狼藉しまくって精神的に調○してしまうとかも可能。

 ガチで洗脳だけど。

 

 

 と言うか仮に可能でもそうそうすぐには使えまい。

 ヘタをすると、夢を見せた相手がそれこそ百日夢にかかってしまう事も考えられる。

 この辺は秋水に頼んで研究だな。

 

 

 

 

 

 …ん、ちょっと待てよ?

 仮に鬼の司令官…ゴウエンマだったか?…の体に、他の鬼に指令を出す器官があったとしたら、それを確保すれば他の鬼達にこっちから指示を出す事もできるのか?

 ツチカツギとかの、地面に潜る溜めの部位を使えば、人間も地面を泳げるようになるとか?

 ……流石に夢物語に思えるなぁ…。

 

 

 

 

 

 

黄昏月アスリート×ランナー×絶倫=エロゲ性能日

 

 あ、危なかった…。

 ミズチメ、案外侮れねぇ。

 

 いや本体自体は強くてタフなんだけど、それはそこまで特筆する事じゃなかった。

 火力で言えばGE世界の黒爺猫の方が高い感じだったし、タフさで言えばMH世界の上位連中の方が余程頑丈だった。

 

 ヤバかったのはアレだ、タマハミ状態になった時に外す、背中に背負った殻。

 放っておくと大爆発を起こすのをすっかり忘れてた。

 ヤバイ感じにピカピカ光り始めたのを見つけて、咄嗟に出撃者全員で集まって浄化したんだが、アレが爆発していたらと思うとゾッとする。

 俺一人ならデスワープするだけだからいいんだが(橘花をまだご馳走になってないから、良くはない)、那木達はなぁ…。

 

 と言うか、やはり息吹が戦闘不能になった穴がデカい。

 と言うのも、俺を含めて戦力が3人分しかなかったのだ。

 

 初穂は昏睡状態。

 息吹は絶対安静。

 

 残っているのは俺、桜花、那木、速鳥、富獄。

 この内、里の防衛に回ったのが桜花と速鳥だ。

 ここ最近、里にちょっかいを出される事が多かったんで、防衛を2人以下にはできなかった。

 帰ってきた時に聞いたが、実際に2匹ほど大型鬼の襲撃があったらしい。

 しかも、別々の場所から同時に進行してきたと。

 

 …搦め手を使って一人行動不能にし、その元凶を叩こうと戦力を出した所へ奇襲をかける、か。

 鬼ってのは存外知恵が回るらしい。

 

 まぁ、そっちはお二人さんがどうにかしてくれたのでいいとして。

 

 

 

 今回のミズチメ退治は、ちょっとフルスロットルで行ってみた。

 具体的にどうとは言わないが、MH世界の太刀やら鎧やらを持ち出して(素材からして違うので、この世界の太刀よりずっと強い))、とにかくミズチメを切り刻んだ。

 言うまでもなく、夢を操る器官を確保しようとしての事だ。

 どれがその機関なのか分からなかったので、とにかくバラバラにしようとした。

 腕を切り落とし、足のヘビをバナナのよーに輪切りにし、頭から脳天を叩き切り、腹を割いて内臓を引き裂き、首を跳ね、嬉しくない乳を削ぎ落とし……もしもあれが人間だったら、確実に発行禁止のスナッフムービーになっていた事だろう。

 ちなみにバラバラにした部位は、予め持ってきていた極大風呂敷に包んで持って帰ってきた。

 …鬼の部位からも血って出るのな。

 風呂敷が真っ黒になっちゃったよ。

 

 最初は富獄の兄貴も「おお、やる気じゃねえか」なんて言ってたのが、数分もせずにドン引きするくらいだった。

 那木も気のせいか、ミズチメを同情するような目で見ていたし、狩りしている時の間合いが普段より2割り増しで遠かった。

 そんなに怖かったか。

 …それとも、思わず「俺のオモチャもとい仲間を返してもらうぞ」と熱血系主人公のようなセリフをはいたのはマズかったか。

 

 

 まぁ、ありとあらゆる能力を全て攻撃に傾けた上、GE世界やMH世界の攻撃力アップアイテムを徹底的に注ぎこみまくったからな。

 後は杭君が動いていれば、生涯で2発目の鬼杭千切を放てそうだったくらいだ。

 相手が下位の鬼なら、そりゃ溶けるように潰れるわ。

 

 ヤバい薬物を複数使って使ってドーピングしたような気分だ。

 正直後遺症が怖い。

 少なくとも筋肉痛は確実だ。

 

 

 で、ミズチメをバラバラにしたのはいいんだが、やはりと言うべきか肝心の初穂が目を覚まさない。

 他の人達は起きたのに。

 呼びかけようが蹴ろうが冷水をぶっかけようが吊るそうが効果なし。

 あまつさえ、病人に対してムチャをするなと那木からお叱りをいただいてしまった。

 

 現在、持って帰ってきたミズチメの部位を秋水に見せて、夢を操る機関がどこなのか調べてもらっている。 

 もしもこれで見つからないようなら……色々とかき集めた、ワサビとかカラシとかトウガラシとかの出番かな。

 …何処に塗りつけようか…。

 

 

 

 

 

黄昏月神医×欲張り=その言葉が聞きたかった日

 

 さて、いよいよもって初穂にワサビを塗りこむしかなくなってきたかもしれない。

 …いや別にやりたいって訳じゃないよ?

 

 よくよく考えてみれば、ゲームではどうやって初穂は目を覚ましたんだっけか?

 夢を操れるような術を持ってる人間は居ない。

 できそうなのと言えば樒さんくらいだが、直接聞いてみても首を横に振られた。

 じゃあ一緒に居るらしいミタマでどうにかできないか、と聞いてみても、やっぱり無理だそうだ。

 

 …よー考えてみれば、討鬼伝のプロローグと言うかチュートリアルで、ミタマ達が主人公に夢を見せとらんかったか?

 いきなりゴウエンマと戦いになった覚えがあるんだが。

 …まぁ、仮に俺が百日夢を煩って目が覚めなくなったとして。

 

 起こしに夢の中に入って迎えにくるのが、物々しい鎧やらヒゲやらつけまくったむさくるしい英雄達だったら、逆にそのまま永眠したくなるだろうな。

 イケメンだったら蹴りを入れ、美人だったら起きる前にお近づきになれないかと…なんて事を言ってたら、那木に抓られた。

 いや那木、冗談だって。

 

 

 真面目な話、ミタマ達が迎えに行っても、初穂が目を覚ますとは思えない。

 初穂が眠り続けているのは、過去に戻りたがっているから、その時代の思い出に浸り続けているからだろう。

 となると、目を覚まさせるのに必要なのは、過去よりも強い現在の絆と考えられる。

 縁も所縁もない英雄が迎えに行ったところで、言葉一つ届くか怪しいものだ。

 

 

 最後のエロゲ的手段として、オカルト版真言立川流も考えた。

 性交を通して霊力とか色々やりとりする訳だから、それで意識の中にも入り込めるんじゃないかなー、治療だから那木も多目に見てくれるんじゃないかなー、最近女の事ばっかり考えてるなー、と思ってたんだが。

 

 別の意味で那木から駄目出しが出た。

 オカルト版真言立川流は、快楽によって互いのエネルギーを増幅させる術。

 例えそのエネルギーが霊力という特殊な物であっても、眠っている人間の意識に作用するような物ではないそうだ。

 

 

 ぬぅ。

 

 

 

 

 

 

 

黄昏月煽り効果×カリスマ=釣り師日

 

 納豆とかニンニクとか油とか鬼の素材とか混ぜ合わせまくって、シュールストレミングを再現できないか実験していたところ、秋水から「夢を操る部分を特定できた」という知らせが入った。

 …シュールストレミングをナニに使うつもりだったかって?

 言わせんじゃねえ、気付け薬として初穂に食わせるんだよ。

 

 …富獄の兄貴が、「初穂をオモチャって言ったのは本気だったんだな…」とちょっと引いていた。

 

 

 それはともかく、夢を操る部分というのはミズチメの角だったらしい。

 捻りもクソもないな。

 しかし、戦った時に斬り刻みすぎたらしく、角の欠片がもうちょっと必要らしい。

 仕方ないな、明日狩りに行くか。

 

 ただ、角が揃ったとしても、初穂の夢の中に入り込めるかは話は別だし、そもそも入り込めたとしても上手く初穂を引っ張り出さないと意味が無い。

 …ま、やってみるしかないね。

 

 

 

 さて、今日は那木でどう遊ぼうかな。

 ……橘花の気配もするな…相変わらず隠行がやたら上手い。

 ナニを見せ付けようか。

 やっぱ尻関係の実演かな。

 まだ開発段階だけど。

 

 

 

黄昏月大吉×オートエイム=にんっしん日

 

 手分けしてミズチメを狩ってきたが、まだもうちょっと角の数が足りない。

 それでも、あと2~3戦すれば充分だ、と秋水が言っていた。

 明日か明後日には揃うだろう。

 

 ところで、狩りから帰ってきたら、橘花に禊に誘われた。

 …風呂(?)に男を誘うとは、随分と積極的というかエロくなったものよのぅ。

 

 やはりと言うべきか、昨日見せ付けた那木とのアレコレについてだった。

 どうも、自分がやっている『自習』と色々違ったのが気になっているっぽい。

 いや、勿論橘花は自分が『自習』をやっているなんて言ってないし、覗き見に気付かれている事も知らないんだが、色々聞いてくる辺りでね?

 「前に言っていた『自習』は、そんなに気持ちのいいものなのですか?」って。

 

 具体的な方法を語ると、ふんふんと顔を赤くして鼻息をちょっと荒くしながら聞き入っていた。

 

 

 

 

 …もうちょっと時間を置いて、もう一度行き詰ったら……それを切欠にして、「やり方を直接教えてあげる」に持っていけるか…?

 

 

 

 

 

黄昏月捕食時体力回復×体力自動回復=グルメ細胞日

 

 ミズチメの角が集まった。

 さて、後は誰が霊力を流し込んで、初穂の夢の中に入り込むかだが…俺としては、大和のお頭がいいと思う訳よ。

 何故って、40年前も現在も何だかんだで繋がりがある、唯一の人物だからな。

 

 が、そういうと逆に、「だからこそ、40年の差を見せ付けてしまう」と言われた。

 他にも色々とお互いに理由をつけてみたのだが、何故か他の皆からも俺が推薦されてしまった。

 

 …こう言っちゃなんだが、俺は初穂とそこまで仲良くないぞ?

 むしろライバル視されていたのをいい事に、オモチャ扱いもとい人権もクソもない弟子扱いと言うか。

 組み手やら何やらに突合せ、ついでに鍛えているようなもんだった。

 

 …正直自信はないけど、この空気で断固拒否するのもなんだな。

 どっちにしろ、GE世界に行ったら、アリサを起こす為に俺がやらなきゃならん訳だし。

 

 という訳で、覚悟が決まったのでこれから実践に入る。

 どうか上手く起きてくれますように。

 

 

 

 

 

 

黄昏月はらへり×死神=白玉楼の亡霊日

 

 疲労困憊…とまではいかないが、ちょっと狩りを見送るレベルになるくらいに疲れた。

 眠る初穂を前に、ミズチメの角に霊力を注ぎこみまくった訳だが、効果は今ひとつ…というか夢を操れているという実感は無い。

 やはり鬼の部位を通して人間が夢を操る、なんてのは机上の空論だったのだろうか?

 眠る初穂の耳元で「背が縮~む背が縮~むちっぱーいちぱーい」とか囁き続けた方が効果があっただろうか?

 

 

 …いや、そう決め付けるのは早計だ。

 確かに夢を操る事はできなかったようだが、変化はあった。

 ある程度霊力をミズチメの角に送り込んだ辺りから、眠る初穂の様子に変化が生じたのだ。

 

 とは言え起きる兆候などではなく、眉を寄せてう~んう~~んと魘されはじめたのだが。

 正直な話、これは迷った。

 変化が生じたとは言え、どう見ても良い変化ではない。

 だって魘されてるんだし。

 

 これはやめておくべきか、初穂の精神力とか魂を逆に衰弱させているんじゃないか?という意見もあったのだが、それに反対したのは秋水だった。

 またお前か。

 

 しかし意見には耳を傾けるべきものがあった。

 

 夢患いは、戻りたい過去や取り戻したい何かの夢を見せて、そこから帰りたくないと思わせる事に要点がある。

 つまり、衰弱していく体や魂とは裏腹に、甘く居心地のいい夢を見続けているのだ。

 当然、魘されるという事など無くなる。

 逆に安らかな、それこそ放っておくと天寿を全うしたと思われそうな寝顔が夢患いの特徴だ。

 

 だが、魘されているという事は、どうだ?

 夢の中が居心地悪くなっているという事だ。

 精神的にストレスが溜まっていくのは避けられないだろうが、どっちにしろ放っておけば死ぬだけだ。

 それなら、このままストレスを与え続ければ、夢の中から嫌でも抜け出そうとするようになるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 夢から抜け出せないとか、ホラーゲームみたいな話だな。

 初穂がパジャマ一丁で、二足歩行する羊におっかけられている姿が目に浮かんだ。

 

 

 

 …あ、そういやアレも浮気とかの話だったな。

 

 

 

 

黄昏月きまぐれ×ひらめき=紙一重日

 

 女の子の歯軋りとか、幻想が砕けますな。

 まぁ今更だけど。

 女は心も体もファンタジーだが、幻想は既に遥か遠くに置き去りにしてきましたよ。

 具体的にはアヴァターとかいう異世界に。

 

 …つまり根源に幻想を持ち続けているという意味ですが。

 

 

 とにかく、初穂の魘されようが酷くなってきた。

 …もうミズチメの角に霊力送ってないんだけどな…一体どういう夢を見てるんだ。

 

 真面目な話、どうしたものか。

 初穂は半人前扱いされているし、事実一人前と半人前の間をフラフラしているような実力だが、それだけでも戦力が減るのは辛い。

 ただでさえ、息吹の怪我だってまだ治っちゃいないのだ。

 これ以上戦線離脱者が出たら、戦力以前に人手が足らん。

 

 しかしこの方法以外に手は思いつかない。

 いっそ橘花の千里眼だったか?(他者の視界を盗み見る術だ)とかで、初穂の夢の中を見られないかと考えたんだが、桜花がそれを許しそうにないし、そもそもそういう術じゃないので夢の中身は見れないらしい。

 

 

 

黄昏月運気×大吉×幸運=ラッキーマン日

 

 

 朝起きたら、初穂が簀巻きになって逆さで燻され、周囲で謎の祈祷が行われていた。

 何を言っているのか分からないと思うが、俺も何が何だか分からなかった。

 頭がどうにかなりそうにはならなかった…。

 とりあえず逆さになった状態で回転するように仕向けた。

 初穂が割りとマジ泣きしてたが、起きてるんだからまぁいいだろ。

 

 

 話を聞いてみると、今朝方まで魘され続けていたのが、突然跳ね起きて、錯乱して暴れまわっていたらしい。

 被害は民家の壁×1、瓶×3、天狐の朝ごはん×1.秋水の眼鏡×⑨、大和のお頭に生ニンジンぶっこみ、富獄と息吹の顔に足跡、各種道具×6。

 結構な被害である。

 天狐のご飯を蹴散らされた速鳥がマジギレして簀巻きにし、そこからあれよあれよという間に吊るされてカム着火。

 初穂を囲んでやっていた謎の祈祷は、ウタカタに伝わる悪霊払いの儀式だそうだが…懲罰も兼ねた火炙りと見た。

 

 

 と言うか散々燻して回して南国少年風にイケニエ!イケニエ!!しておいてなんだが、何でいきなり起きとるのん?

 昨日までのイタズラの準ゲフンゲフン苦悩は何だった訳?

 

 解放されて、ちょっと焦げて煙を出しつつ、青い顔で「夢の中に戻りたくなった」とorzしている初穂にそう声をかけてみると、無言で殴りかかってきた。

 10分ほど適当にあしらって、ようやく出てきた言葉は「起こしてくれた事には感謝してるけど、人の思い出の夢に何してくれてんのよ!」だそうだ。

 いや知らねーよ。

 確かにミズチメの角に霊力送ったのは俺だけど、一体どんな夢見てたんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢の中でのっぺらトリオが散々遊びまわっていたらしい。

 そりゃ魘されもするわ、錯乱もするわ。

 

 

 どう考えても俺のせいですね本当に申し訳ありませんでした。

 訴えられたら負けるレベルである。

 だが黙秘権を行使します。

 

 …お詫びに今度団子でも作ってやろう。

 MH世界の取っておきの材料を使った奴を。

 

 

 

 

 

 しかし、何故にのっぺらトリオが?

 のっぺらトリオは依然として俺の中に居る。

 初穂の夢に出てきたのは偶然なのか…或いは顔が無いだけで別の個体なのか。

 ああ、ミタマだったら分霊って線もあるな。

 

 仮に分霊、或いは別の個体だった場合……初穂が目を覚ましても、まだのっぺらトリオが初穂の中に居る事になる。

 ……あいつ、ちゃんと寝られるのかなぁ…。 

 

 




番外編どうしようかなぁ…。
幾つか候補はあるんですが、あんまり使えるスキルを覚えさせるのも…。


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36話

ぬぅ、風邪引いた。
37.9度だから、インフルではないと思う。
鼻水が鬱陶しくてゆっくり眠れない。
初穂が祟ってるのだろうか?

特に遅い夜勤+メンテ日で生活リズムが狂いまくったからなぁ…。

新世界樹の迷宮2、とりあえずクリア。
まだ上層がありますが、そっちはのんびり続けましょう。
そして放置状態のアサクリ…。



 

 

 

黄昏月カリスマ×空気=空気清浄機

 

 

 うー、寒い寒い。

 最近ホントに寒い。

 夜は抱き枕が無ければ寝られないくらいに寒い。

 無論生きてる抱き枕ですが。

 

 最近は那木の腰振りダンスもイイ感じになってきた。

 最初は騎乗位にせよ対面座位にせよ、男の上に跨って自分から動くのをはしたないと恥ずかしがっていたが、最近は随分味を覚えてきた。

 まだ恥ずかしがってはいるんだが、弱いところを2~3度擦り上げて後は微妙にずらしてやると、俺を気持ちよくさせようとするご奉仕スタイルから、ついつい自分が気持ちよくなろうとする欲望スタイルに変わってしまいそうになる。

 それを堪えてご奉仕スタイルを貫こうとしている訳ですが、体はついつい……そーいう葛藤を見ていると…なんというか、愉悦?

 快楽に溺れそうになりながら尽くしてくれる女って素晴らしいね!

 

 最近は失神するまで弄んで、そのまま抱き合って眠るのがデフォルトです。

 おかげで朝の湯浴みが大変だけど。

 

 

 それはそれとして、予想通り初穂は最近寝られてないらしい。

 百日夢で寝すぎたからじゃないか、って意見もあったんだが、ウトウトし始めるとすぐにのっぺらトリオの夢を見て飛び起きてしまうとか。

 …やっぱり分霊が宿ってるのか?と思ったんだが、樒さんに見てもらっても妙なミタマは宿って無いようだ。

 

 …というか、のっぺらぼうなんて妖怪のミタマがあるのか、何処から来たのかなんて疑問まで出ている。

 …そういや、ゲームと違って何のミタマが宿っているのかを聞くのは、マナー的にアウトなんだっけ。

 

 少し迷ったが、俺のミタマがのっぺらトリオである事を白状した。

 どっちにしろ、俺が霊力を送り込んでこうなったんだから、原因の一つではないか?と考えられるのは目に見えてたしな。

 

 初穂の反応は、列海王ばりの駄々っ子パンチだった。

 秋水とか樒さんはキュピーンと興味で目を光らせていた。

 

 他の人達からは、「妖怪のミタマ…?」「いや、それよりもこれは分霊という奴なのか?」「勘違いしているだけで、ちゃんとしたミタマなんじゃねえか? コイツはそっち系の感知力が低いし」など、首を捻られていた。

 幸い、あまりマイナス感情は持たれなかったようだが、本気で首を傾げている。

 

 

 

 さて…それはそれとして、どうやって初穂を安眠させようか。 

 流石に女の子の顔に寝不足で隅が出来るのは不憫だもんな。

 

 

 

 

 気絶させるか?

 それとも捕獲用麻酔玉か?

 

 

黄昏月罠師×釣り師=香具師

 

 とりあえず、ネムリ草を磨り潰して渡しておいた。

 眠り生肉にしょうかと思ったが、流石に生で食えとは言えないし。

 

 …ところで、睡眠薬の致死量ってあんまり多くないんだよな…。

 一応用法・量を守って呑むようには言ってあるが、大丈夫だろうか?

 

 

 さて、それはそれとして、今後の事だ。

 キャラクターエピソードがあったと思われるのは、那木、息吹、初穂。

 残っているのは桜花、富獄の兄貴、速鳥の3人。

 

 誰がどの順番でエピソードが起こるのかは覚えて無いし、仮に覚えていたとしてもその通りに行くとは限らないが…どっちにしろ、一つ問題がある。

 息吹はまだ全快してないし、初穂は今ひとつ殻を破れない上に睡眠不足。

 つまりは戦力が足りてないって事だ。

 

 この状況で、先走って単騎出撃なんぞされた日には、それこそ勝てるものも勝てなくなってしまう。

 という訳で、大和のお頭にちょっとした提案。

 

 最近は巡回中に大型鬼に奇襲を受ける事も少なくない。

 よって、単騎での出撃・無断出撃を固く禁ずる。

 もしも破った場合は厳罰(日替わり)に処す。

 

 

 

 提案したら、了承はもらえたものの、「真っ先に厳罰に処されるのはお前ではないか?」と言われた。

 ……ぬぅ。

 

 

 暫く狩りは一日一回に抑えないと…。

 ストレスが溜まるなぁ…。

 誰で発散しようか…。

 

 

 

 

 

黄昏月今日の厳罰・シュールストレミング試作品一気飲み日

 

 風呂場で失禁にまで追い込んでおいてなんだけど、やっぱり狩りの欲求は性欲じゃ解消しづらいみたいだな。

 かと言って、昨日提案したのを今日ナシナシみたいにするのもどうかと。

 

 まぁ、基本的にモノノフは一人で戦いに行く事って無いんだけどね。

 何せ部位破壊しても、それを鬼祓いしなけりゃ何度でも再生されてしまう。

 そして鬼祓いするには、結構長い時間動きを止めなきゃならない。

 絶好の的だ。

 それをフォローする為、常に二人以上で狩りをする。

 一人で狩りをするのは、大型の出現がまず考えられない時とか、何らかの理由で戦力の分散が避けられない時くらいだ。

 

 

 

 それはそれとして、息吹の見舞いに行ってきた。

 もう動ける程度には回復して、リハビリに励んでいるらしい。

 頑丈だなオイ…割と真面目に死掛けて、まだ一週間も経ってないぞ。

 

 ただ、前も思ったが、他者の危険に過剰に反応するようなら、正直言って前線には出したくない。

 物見隊の護衛にでも……いや駄目だ、それこそ自分より明らかに弱い、体を張って守らなきゃいけない相手が増えすぎる。

 過剰反応を繰り返して、遠くない内に潰れる未来しか見えない。

 

 

 幸いだったのは、息吹が自分のそうした状態を理解できる程度には落ち着いたことだろうか。

 落ち着いただけで、過剰反応してしまいそうなのは変わってないが。

 

 「この厄介な時に、足を引っ張ってすまないな」って言ってたが、まぁ結果的には桜花はそれで生き延びたんだしな。

 無理せず大人しくしとけ。

 

 …そうですか、「この精神状態じゃ、ちょっと難しいな…」ですか。

 事実、いてもたっても居られず、リハビリがオーバーワークギリギリになってきているらしい。

 まぁ、オーバーワークになってでも戦力に復帰してもらわないと、割と真面目にピンチなのも事実だが。

 

 精神状態のリハビリはなぁ…。

 速鳥に協力してもらって、催眠術とか誘導でもかけるか?

 しかし以前速鳥に聞いた、ニンジャエゲツないよニンジャな方法は効果が極端すぎるっぽい。

 0が100かの結果になりそうだ。

 つまり、またしても潰れるか、不安定な精神状態でも戦いだけはできるようになるか。

 

 …やってもあんまりメリットが無いな。

 速鳥は引っ掻き回したり利用する系の洗脳方法しか知らなかったし。

 

 

 

 うーむ、どうしたもんか。

 

 

 

黄昏月今日の厳罰・ゴッド本塁打(この時だけゲージが足りなくても使えます)日

 

 

 初穂と手合わせ。

 富獄の兄貴も手伝ってくれたが、やはり一人前と半人前の一線を越えられて無い。

 本人もそれを自覚しているのか、焦っているようだ。

 

 というかそれ以前に寝不足のようだ。

 「あののっぺらぼう連中を切り刻んでやるわ!」と気炎をあげている。

 よし応援するぞ頑張れ。

 

 …「あんたのミタマでしょうが!」って怒られた。

 言いたい事は分かるが、あのウザさを鑑みるに、切り刻んでくれるならやってくれと言うのも当然だと思うんだ。

 

 というか真面目な話、どうも俺ののっぺらトリオが分霊として宿っている訳じゃないらしい。

 初穂が未だにのっぺらトリオの夢を見るのは、単純にそれだけイメージが強く焼きついてしまったからだと思われる。

 つまるところ、初穂が夢の中でのっぺらトリオを斬ろうが焼こうが煮ようが、目鼻口を鎌で刻んでつけても本体には全く影響が無い。

 なんか呪術でも使えば別かもしれんが。

 

 故に、初穂が夢の中でのっぺらトリオを切り刻むメリットがあるとするなら、それは気晴らし。

 のっぺらトリオを下す事で、「こいつらなんか大した事ないわ」と意識を変えて、悪夢を見なくなるようになる…かもしれない。

 

 

 というか、夢の産物とは言えのっぺらトリオは初穂から逃げ切れるのか?

 

 

 

 

 

 

 行動の一つ一つがウザすぎて、冷静に行動できなくなってしまうらしい。

 うん、それを我慢できるようになれば、精神的に一皮剥けると思うぞ。

 修行だと思って頑張れ。

 

 と言ったら、「他人事だと思って…」と恨みがましい目を向けられた。

 

 

 他人事じゃないぞ、のっぺらトリオの本家は俺の中だぞ。

 俺の中で、今でもウザい行動ばっかしてるんだ。

 

 

 

 

 

 俺?

 

 無理せず無茶せず、狩りの途中なら怒りを相手にぶつけ、八つ当たり対象が居ないならシカトして終わりだが。

 と言うか連中、煽りを無視できればいい狩りの練習相手になるんだよな。

 なんか知らんけど、妙に錬度が高いし…。

 

 改めて思うと、のっぺらトリオは何者なのだろうか。

 

 

 

黄昏月今日の厳罰・富獄の筋トレをノンストップで目の前で見続ける日

 

 のっぺらトリオの事も暴露した事だし、ちょっと本腰入れて調べてみる事にした。

 相談したのは、秋水、樒さん、そして那木。

 

 まず第一に問題なのが、そもそもこれは本当にミタマなのか…というのが、樒さんからあげられた。

 そもそもからして、本来ミタマというのは神道用語で魂を指す単語である。

 確かに妖怪にも魂があるのかもしれないが、………と、ここまで珍しく樒さんが語っていたのを覚えているが、詳細は忘れた。

 隣の那木が説明を変わりたそうだったが、樒さんは実にマイペースである。

 

 

 

 えー、とにかくだ。

 のっぺらトリオには、通常のミタマと違うところが幾つもあるのだそうだ。

 何よりも樒さんが注目している…というより疑問に思っているのは、のっぺらトリオの『声』だ。

 

 ミタマというのは要するに幽霊で、そしてモノノフに宿って力を貸せるような幽霊は、ちゃんと自我も維持している。

 魂だけの存在になっているので、例え晩年(つまり鬼に食われた時)に何かしらの理由で口が利けなくなっていたりしても、テレパシー的な何かで意思疎通が可能だ。

 そして樒さんは俺達と違って、ミタマの声がよく聞こえる。

 少なくとも、修行中だった頃はともかく、今となっては会話できないミタマは居ないらしい。

 

 だと言うのに、のっぺらトリオからは声を聞き取る事すらできないと言う。

 何よりおかしいのは、のっぺらミタマの1体につき、大量の声が混じって聞こえてくるという事。

 ミタマは元が一人の人間なのだから、そこから聞こえる声も当然一人の筈。

 

 …そういえば、前にも同じ事を言われたな。

 のっぺらトリオは騒々しいミタマで、近くに居ると真夏の山の中でセミの鳴き声を聞いてるみたいだって。

 

 

 

 単純に考えれば、のっぺらトリオが声帯模写か何かで複数の声を出しているか…いや、これは無いな。

 声色をいくら変えても、聞こえる声は精々3つ、錯覚しても4つか5つだろう。

 無数の声が同時に聞こえる、という事にはならない。

 

 

 なら、無数の声が同時にする=それだけのミタマ(或いは言葉を発するナニカ)が、そこに居る?

 のっぺらトリオの中に?

 

 ……ありえなくもない…のか?

 3体に分裂するという離れ業も、実は元々3体以上の群隊だったと考えれば、それ程不思議でもない。

 そんなミタマが存在する事事態が不思議だが、それを言ったら魂だの鬼だの3つの世界を転生だのの方がよっぽど不思議だ。

 

 

 秋水からは、少なくともそのようなミタマの事例は知る限りでは無い、と意見が出た。

 ただ、事例が無い=有り得ないではないし、理論上は無くも無いそうだ。

 ミタマというのは不定形な存在だ。

 生前の人格こそ維持しているものの、肉体が無いので、物理法則に縛られない。

 つまり、一箇所に同時に何体も何体も存在する事ができる。

 まぁ、そうでなければゲームの主人公は300以上のミタマを同時に宿すなんて事はできないわな。

 それと同じような状態だと仮定すると…?

 

 秋水曰く、「推測になりますが…例えば幾多のミタマを宿した人物が、死んでミタマになったら、一緒に居たミタマ達と混ざり合うかもしれません。 そしてその内の一人が表に出ている状態…」

 途中で口を濁して尻すぼみになったのは、推測ではなく妄想の領域だから、口にするのが憚られた…だそうだ。

 

 うん、確かに明確な筋道立てた想像とは言い難い。

 樒さんも、「ちょっと考え辛いわ」みたいな顔してたし。

 

 しかし、どんな経緯でそんな風になったにせよ、のっぺらトリオから何十人どころか何百何千(樒さん曰く、それくらいはガチで居そうらしい)という声が聞こえるのは事実。

 となると、やはりのっぺらぼうの中に、それだけのナニカが居るのだろう。

 

 益々正体がわからなくなってきたな…。

 

 

 

 

 

 

黄昏月本日の厳罰・自分でアッー!日

 

 知恵熱が出たので、任務も夜の遊びもちょっとオヤスミ。

 那木が看病してくれました。

 

 でも「いつも任務と夜伽の事しか考えてないからそうなるんです」ってヒドくね?

 

 

 橘花が丁度遊びに来て、看病中と知ってちょっと残念そうだった。

 …那木との間に微妙な緊張感を感じた気がする。

 

 

 

 

 

黄昏月本日の厳罰・桜花の料理の実験台+トイレ使用禁止日

 

 昨日は俺も那木も休みだったので、ちょっと多めに任務をこなす。

 休んだ分、他の人達に負担をかけたからな。

 しっかり働いて返さなければなるまい。

 

 しかし、やはり息吹が復帰できてないのはかなり痛い。

 GE世界では、狩りのデスマーチが日常と化していた俺には然程問題は無いが、他の皆には徐々に疲れが溜まっていっているようだ。

 まぁ、鬼の襲撃を、昼夜問わずたった6人で食い止め続けているんだ。

 そりゃ疲れもする。

 物見隊とかも居るけど、偵察はともかく戦闘はできないからなぁ。

 

 

 

 それはそれとして、橘花から少し相談したい事がある、と真顔で言われた。

 それを桜花が影から見ていたらしく、「何故私ではなくお前に…」とorzしていた。

 

 …橘花が俺に相談するっつーたら、やっぱ『自習』の事だろうしな…。

 そりゃ姉には聞けんわ。

 だからって男相手にするのもおかしな話だが。

 

 

 桜花の精神的ダメージは、結構大きいみたいだ。

 フラフラしながら去っていったと思ったら、橘花に何かと構おうとし、「何か困っている事はないか」など、頻繁に繰り返していた。 

 橘花も戸惑っているようだったが……すまん、俺にはどうにもできん。

 せめて相談には乗ろう………いや、この場合乗らない方が橘花の為になるのか?

 でも中途半端な知識のまま放置しておくと、それはそれでヤバそうだ。

 

 …突っ走るしかないか。

 今更悩む事事態がお門違いだしね(開き直り)

 

 

 

黄昏月本日の厳罰・里の中心で自分の性癖を叫ぶ日

 

 桜花が沈んだままだった。

 やっぱり相談されなかったらしい。

 親しい人ほど話せない事はある…と言ってはおいたが、嫉妬の篭った視線で見られた。

 

 うーむ、あれが女の嫉妬と言う奴か。

 女の嫉妬は鬼より怖いと言うが、マジだなあれは。

 本気で憎まれているんじゃないだろうか、って思えてきたぞ。

 

 

 よくよく考えてみれば、そういう嫉妬を受けた事ってないな。

 何だかんだでデスワープするまでは大抵上手く付き合ってたし。

 男からの嫉妬は何度か受けたが、それとはまた別の感じだ。

 

 チャチャっと任務を済ませ、桜花や那木が別の任務に行っている間に相談を受ける。

 例によって禊場で。

 

 

 

 

 で、相談内容だが。

 

 

 

 

 

 

 我慢できずに『自習』を頻繁にやってしまうのだけど、これはおかしいのか?

 

 

 

 

 

 

 具体的にはほぼ毎日、朝起きた直後、お昼の休憩時間、風呂場、そして寝床。

 

 

 

 

 …おおぅ、思った以上に嵌っていたようだ。

 

 

「あまりにはしたないので、我慢しようとしても…疼いてつい……」とか破壊力高すぎでしょう。

 何よこのエロ巫女。

 俺が仕向けておいてなんだけど、それを差し引いてもエロすぎでしょう。

 

 拙いながらも既に感じるようになっているらしい。

 イッた事は?と聞いたら、何処にですか?という定番の返答。

 まだその領域には至っていない。

 

 という事は多分、快楽は得られるようになっているが、中途半端な状態までしか行けずに悶々としちゃってる訳ね。

 そりゃ頻繁に弄りたくもなるわ。

 

 中途半端に慣れている状態だからそうなる。

 と教えたら………「じゃ、じゃあもっと『自習』すればいいんですか?」だって。

 恥ずかしがってるけど、あれは建前ゲットして浮かれてる顔だわ…。

 

 

 

 

 

 が、ここでもう一押しするのが最近(最近?)ゲッスい俺である。

 

 

 そもそも、こーいう事は本来一人でやる事ではない。

 いや自慰という意味では一人でやる事なんだが、交合っつー意味ではね?

 

 ちゃんと二人でやった方が、慣れも開発も快感(←ここ強調した)もよく捗る。

 そしてここには開発(する側…だけの筈)の経験者も居る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で、禊場で橘花の尻を弄くりまわしてきました。

 ナニは使わず、指か舌とかまでだけど。

 

 上半身には触れて無いし、キスとかも無し。

 尻オンリーで、前も今回はノータッチだった。

 それでもあそこまで乱れるんだからスゴイな。

 

 

 

 

 

 

 

 橘花の下半身を丸出しにさせて、岩に上半身を乗せて腰尻を後ろ(ちょっと上向きに)突き出させるスタイルで。

 自分で弄る時、どの辺が気持ちいいのか自白までさせて。 

 恥ずかしいのとか感じるのとかで、気絶一歩手前の橘花を夢中にさせるのは実に愉悦だった…。

 

 

 

 「す、すごいです…じぶんでするのと、ぜんぜんちがいます…」とか、最後までイイセリフ出してくれるわぁ。

 まぁ、穴を弄るだけじゃなく、事前に腰から太ももから、念入りにマッサージして準備したからそれも当然だけど。

 

 

 終わった後は後で、俺の下半身に目がチラチラと。

 夜の覗き見はもう常習犯だが、明るいところで近くで見た事は無かろう。

 …何度か同じ事をしていれば、多分「お返しに」とか言って那木の見よう見まねで手でしてくれるかもしれん。

 

 

 途中経過の確認も兼ねたけど、よくぞ一人であそこまで開発したもんだ。

 こりゃ思ってた以上に天性のエロっ娘だな。

 

 

 

 が、しかし残念な事に、今回はオーガズムまでには到達できませんでした。

 まだ開発しきってないとは言え、俺もまだまだ甘いな…。

 

 橘花には、「もうちょっと慣れてから同じ事をすれば、多分悶々とするのをスッキリ解消できる」と教えておいた。

 実際、肉体的にはまだスッキリしてない、途上の段階だ。

 肉欲の炎は燻ったままだろう。

 絶頂しなけりゃ解消できない、絶頂すれば解消されるってもんでもないが、どっちにしろ解消されてないのは事実だしな。

 

 

 という訳で、また桜花と那木の目を盗んで禊場に行こうな、と約束した。

 こっそり尻を撫でながら。

 

 コクコクと頷く橘花は可愛かった…この時の表情は、想像にお任せします。

 

 

 

 

 

 

 ふむ、これが忍ぶ恋という奴かな?

 

 

 

 

 

 

 帰ってきた桜花にスゴい目で見られているので、今日はもう家に引っ込んで寝る。

 




体調不良のせいか、新世界樹やる気にもならない…もう歳かなぁ…31だもんなぁ…。


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37話

どうも、お久しぶりです。
最近新世界樹2で詰んでいる時守です。
率直に言うと、工夫するのが面倒になってきた。
とりあえずレベルは80台、3竜は赤だけ残し、30階のボスも目前なんですが、ちょっと現状じゃ勝てる気がしないなぁ…。
一度アサシンクリードに戻って、その後クラシックモードで始めようかな?


 

黄昏月蜂蜜日

 

 富獄の兄貴の様子がおかしい。

 任務の帰りにバッタリ会ったんだが、なにやら石を見つめて黄昏ていた。

 しかも後ろから近付いた俺と初穂に気付かず、木の葉流体術・千年殺しをまともに受けるありさまだ。

 

 …いや流石に冗談だけどね。

 むくつけき男のケツに突撃して喜ぶような趣味は持ってない。

 

 でも、接近する俺達に気付かなかったのは本当だ。

 道端で一人佇んで、手に持った小さな石を見て……ああ、そうだそうだ。

 

 思い出してきた。

 あれ、確か富獄の兄貴のキャラエピソードで出てきた、なんか光る石だ。

 片割れと近付くと光り初めて…そうだ、その片割れを鬼が飲み込んでたんだっけ。

 

 何の切欠もなく、昔を思い出して黄昏れるような人じゃないし…光ったのか?

 空を飛ぶニワトリの襲来か?

 

 

 ゲーム的に考えれば、そろそろ状況に進展があってもおかしくない…というか進展しないとおかしい頃合だ。

 あのデカいチキンを倒せば、チキンナゲットを…じゃなかった、鬼の指揮官の居場所を知っているミタマが手に入るんじゃなかろうか。

 という事は樒さんを連れていかないとな。

 

 

 だが何よりも先に………トラップ再作成だ。

 

 

 

 

 

 

黄昏月生クリーム日

 

 

 富獄の兄貴に蹴りを叩き込まれた。

 鳩尾にストレートをお返しした。

 膝蹴りの返礼、頭突きの応酬、地獄突き、金的狙い、くすぐり噛み付き抓って目突き…流石にその辺で大和のお頭に止められた。

 あとドサクサに紛れて桜花に蹴っ飛ばされたような気がするが、偶然か?

 

 

 

 …いや、流石に悪かったとは思うよ? 

 

 でもそもそもの元凶は、一人でニワトリを相手にしようと向かった富獄の兄貴だぞ。

 因縁の相手だってのは分からないでもないが、いちいち一人で出撃するんじゃないよ。

 

 里の戦力を見てみろ。

 ただでさえ息吹がまだ完治してなくて限界ギリギリだってのに、勝手に行くなよ。

 死ぬつもりで行くんじゃねえ、とか言っても、富獄の兄貴が抜けてる間に襲撃があったらどうすんだよ。

 

 

 

 

 それじゃなくて、あのトラップについて怒ってる?

 落とし穴の底に犬の糞を入れまくった理由?

 

 そりゃ一大決戦に行こうって時にクソ塗れになれば、気力も萎えるからに決まってるじゃないか。

 臭いからどっちに行ったかすぐ分かるし。

 

 

 

 

 

 

 いや流石に悪いとは思ってるけどさぁ!

 フン塗れの足で蹴るなよ!

 

 

 もとい、一大決戦なのは分かったから一人で行くんじゃないよ!

 「俺の全てをかけて、俺の仲間を取り戻す!」んだったら、今の仲間も使えよ!

 あんたの仲間も、「俺の全て」の一部だろうが!

 

 

 

 

 

 

 そんな按配で、クソ塗れになりつつ罵り合いました。

 

 

 

 

黄昏月熱燗日

 

 

 ギスギスしてます。

 富獄とギスギスしてます。

 

 元々、コトがあっても後引くような性格じゃなかったんだが……余程腹に据えかねたらしい。

 クソ塗れになった事か、それとも一大決戦に汚物を塗りたくった事か。

 

 だが謝らぬ。

 

 

 …那木からも「あれはやりすぎです」と言われはしたが……いや、自分でもトラップ作ってる間に思いついて、これはどうよ…と思ったよ?

 でも、こうすれば山中鹿之助でもなきゃ確実に止まるよなー、とかちょっとしたネタになるよなー、とか徒然なるままにヒグラシが泣きつつてふてふのたりのたりかな。

 

 そして気がつけば罠は犬のフン付きで完成していたんだ。

 

 

 

 と言うか、俺はどこから犬のフンなんぞ持ってきたんだ。

 里にも何匹か居るが、どう考えてもそれより多かったぞ。

 MH世界のモンスターのフンとかは使ってなかったみたいだし…。

 

 

 まぁいいか。

 

 とにかく、富獄の仇討ち相手が里の近くに居る事は間違いない。

 しかも、富獄の証言を元にすると、ヒノマガドリと同等かそれ以上の飛行能力を備えている。

 以前、ヒノマガトリに上空から攻撃されて結界を破られたように、里の結界は上からの攻撃には比較的弱い。

 

 どっちにしろこれを放っておく訳にはいかないので、討伐隊が組織された。

 と言っても、例によって人手不足の真っ最中なので、俺、桜花、初穂、富獄の4人だけ。

 残りは里の護りを担当する。

 

 

 明日出発するんだが……大丈夫かね、マジで。

 

 いや、人選の意味は分かるんだ。

 富獄は当事者だし、桜花はエース級。

 俺を同行させたのは、富獄と一緒に任務に行かせれば、蟠りも多少は解れるだろう、という考えだろう。

 息吹はまだ完全回復してないから論外として、そうなると里の護りの候補は那木、初穂、速鳥となる。

 

 那岐と初穂は、基本的に遠距離での戦闘。

 壁役が必要となる訳で、そうなると必然的に速鳥は里の守護組だ。

 

 その後初穂が選ばれた理由は………ここらで一皮剥けてもらいたい、かな? 

 それとも任務先でも那木と俺がイチャついてるのがウゼェ、だろうか?

 …微妙なトコだな。

 

 

 

黄昏月麦焼酎日

 

 

 勝つ、には勝った。

 あのクソニワトリ……リアルでやりあったらゲーム以上にクソでやんの。

 

 なによあの火力。

 デカくて爆発する岩バカスカぶん投げてくるし、羽のリーチが異常に長いし、ヘタレウス並みにワールドツアー…いやそこまで広くないから日帰り旅行くらい?で飛びまくるし、ちょっと目を離すと土を食って羽を生やすし。

 思わず「俺も土食おうかな…」と思っちゃったじゃな烏賊。イカイカ。

 流石に神機に食わせる程度に自重するが。

 いやでも土を食材にするのは世界的に見れば珍しい事じゃないらしいしな…。

 調理法を理解していれば、ケカツ(飢饉)や食糧難の時に役に立つかもしれん。

 

 MH世界なら、その手の場所もありそうだな…逆にGE世界は広まってないと思う。

 よし、M世界の料理法と食材を使って、GE世界の食糧事情に革命を起こすぜ!

 

 

 しかし何だな、富獄の双子石がダイマエンに近付くと、胃袋の中にある筈なのに何故か腹から光が通過して来たんだが。

 いやそれは物理的な光じゃなくて霊的な光だから、で説明はつくが…それよりも、何年も前に食ったってのに、まだ腹の中にあるのか?

 クソとかせんのだろうか。

 

 

 

 話が逸れた。

 

 ともかく、何だかんだで勝ちはした。

 おかげで初穂も一線を越えられた……ような気がする。

 

 が、俺と富獄の間はなぁ…。

 桜花ともそうだが、なんかギスギス…とまでは言わないが、上っ面の付き合いって感じがするままだ。

 

 一緒に行った4名全員が何度も何度も戦闘不能になったが、その半分くらいはお互いの足の引っ張り合い…とまでは言わないが、フォロー不足、連携の拙さによるものだ。

 ヘタすると、富獄一人で行ったほうが勝率が高く…いや、それは流石に言いすぎか。

 

 とにかく、どうにもイヤな感じがする。

 …討鬼伝世界での話は割りと順調に進んでいると思っていたんだが……そうでもなかったのだろうか?

 

 

 

 それはともかく、樒さんが宿した新たなミタマから、鬼の指揮官の居場所が割れたらしい。

 炎に包まれる森、倒れた仁王像…で武の領域ね。

 物見隊も派遣され、実物が確認されている。

 

 今すぐ…という意見も出たのだが、ダイマエンとの戦いの疲労はかなり洒落にならない。

 疲労が抜けるまで、1日猶予を置く事になった。

 …体を休めるというのもあるが、多分、やる事を全部やって腹を括っとけって事なんだろうな。

 

 

 

 ならば早速那木と丸一日イチャついて…と思ったら、その前に無くなった友人の墓参りに言ってくるといわれたよ。

 半日くらいで帰るって。

 

 ガーンだな。

 出鼻を挫かれた…。

 

 

 しかたない、新品の褌でも買いに行くか。

 スゲーッ爽やかな気分で戦いに臨めるように。

 

 

 

黄昏月黄色い水日

 

 

 那木が帰って来る前に、橘花が尋ねてきた。

 何の用ってまぁ、簡単に言っちゃうと明日の決戦の事だ。

 流石に橘花も不安らしい。

 

 まぁ、色々不安に思う要素は多いわな。

 敵は強い…あのクソニワトリ以上の強さだろうし、なんか仲間内ですれ違ってる感じがするし。

 今も橘花と桜花の間で、微妙に距離感が…。

 はっきり言って、人に言えないような事を教え込んで実践させてる俺が原因な訳ですが。

 

 こういう不安を姉の桜花でなくて俺に打ち明けにくる辺りからして、二人の関係の皹を現している気がする。

 でも正直、どうしようもないんだよなぁ…。

 少なくとも今日一日でどうにかなる事じゃない。

 

 

 

 と言うか、桜花<尻弄りの図式が成立しかかってんだから、そりゃどうしようもないわ。

 少なくとも橘花が落ち着くまでは。

 

 

 という訳で、那木がまだ暫く帰ってこないのを確認して、風呂で尻弄りと洒落込みました。

 誘えば赤くなりつつもホイホイ付いてくる辺り、随分抵抗が無くなったものである。

 この前弄ってやったのが、そんなに気持ちよかったか?

 

 ほれほれ、ココか?

 ココがええのんか?

 んん?

 

 と日記を書きつつ、おしりペンペン体勢で俺の膝の上に居る橘花を現在進行形でいぢくっています。

 前よりもちょっと激し目に。

 …風呂で色々弄んでいる最中、逆に小指を俺の尻に入れようとしてきたのを怒っている訳ではないぞ。

 いや、「色々気持ちよ…もとい教えてくださっているお返しをしようと思ったんです」って理屈は分からんではないが。

 

 

 膝に感じる乳の感触もグッドである。

 

 にしても、前に弄ってやった時とは、柔らかさが一回り分くらい違うな。

 どうやら前回の講義の後、一層熱心に自習に性を出していたらしい。

 

 これなら…ちゃんとした『準備』をしておけば、次回は本当に最後までイケるかもしれないな?

 

 

 

 

 耳元で囁いてみたら、キュゥッと締まって、ビクビク痙攣した。

 『前』の方も随分と濡れている。

 どうやら橘花も期待しているようだ。

 

 よっしゃ、鬼の指揮官を討ったら、挿れるからな?

 

 橘花は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 橘花が帰って、少ししたら那木が帰ってきた。

 ちゅー訳で、それからはほぼ一日新婚さんゴッコしてました。

 那木の裸エプロン…はエプロン無いからできなかったんだよなぁ、残念。

 

 代わりに裸割烹着というのを試してみたんだが…コレはコレでいいな。

 背中から尻のラインが特に。

 なんというか、同じ新婚さんでも時代が違うっつーか、昭和っぽい感じの独特のエロさが…。

 実にセクハラのし甲斐がある。

 

 日中はセクハラに留めて焦らしに焦らし、那木の気が逸れた瞬間に襲い掛かってヒィヒィ言わせました。

 うん、スッキリ!

 決戦に影響が出るとアカンので、足腰はちゃんと立つ程度に収めたし、房中術によってエネルギーも万全。

 よし、これならゴウエンマ一体くらい何とかなる!

 

 勝つ!

 勝って橘花の尻を掘る!

 そして行く行くは那木と橘花を並べて味比べじゃあ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HR月二兎を追ったら逆襲された日

 

 

 

   ですわ    ぷ

 

 

 …思えばデスワープも久しぶりだな…。

 ああ、ついに死んじまったか…。

 

 畜生、勝ってりゃ橘花の尻だったのに……!

 あまりの怒りと悔しさに、例によってMH世界の最初に追っかけられているブルファンゴをフルボッコにしてしまった。

 …俺はあまりおぼえて無いのだが、尻がどうのと叫んでいたらしい。

 そしてブルファンゴのケツを掘ろうとしたとか。

 

 

 

 …いや、それは流石に誇張だろ?

 ウソだといってくれよ、同期のA.BEEさん……ウソだって言ってくれ誰も「ブルファンゴより、俺のを試してみないかい?」なんて言ってほしくねぇよ!

 

 

 

 

 

 

HR月注意一秒、死は永遠日

 

 A.BEEさんの目が洒落にならない光を帯びていたので、超頑張って特例として飛び級…つまり普通より物凄く速く訓練所を卒業しました。

 ハンターパワーもゴッドイーターパワーもモノノフパワーもフル稼働させたから、それくらいの成績を叩き出すのはそう不可能じゃなかった。

 

 さて、A.BEEさんが訓練所を卒業しないうちに、なるべく遠くへ行かなければ。

 俺の本能が叫んでいる。

 今回のあの人はガチだ、隙を見せると寝ている間にケツを貫かれかねないと。

 

 少しばかり考えたい事もあるし…どこ行くかな。

 

 

 

 よし、この際だ。

 前回出張はポッケ村だったし、観光も兼ねて、ユクモ村の方に行って見よう。

 シリーズ順的に考えて。

 

 

 

 

HR月逃げるが戦略的勝利だが敵前逃亡は死罪日

 

 A.BEEさんが俺を追おうとした場合に備え、ミスリードを山ほど作って、はるばる来たぜユクモ村。

 山野を抜けての移動中にジンオウガと遭遇したが、さっさと逃げた。

 

 

 とは言え、俺って何故か色々と奇人変人として目立つらしいからな…それも楽しむようにはなってるが。

 あまり人前に出ていると、噂になってA.BEEさんに気付かれてしまう可能性がある。

 

 なるべく人前に出るのを減らすかな。

 

 

 

HR月心機は一転、体は七転八倒日

 

 さて、ハンターとしての着任の手続きも終わったし、狩りは明日から始めるとして、反省会だ。

 

 結局、ストーリー的には無印討鬼伝の折り返し地点…下位クエストの最後に当たる、ゴウエンマとの戦いに勝てなかった訳だ。

 確かに強かったが、正直な話、狩るだけならどうとでもなる相手でもあった。

 …あの時点でのウタカタの里の戦力を結集し、犠牲を前提とすれば、だが。

 

 だが、結果は壊滅…というか、俺ともう一人が死んだだけなので、残りが全滅したのかは分からないが、壊滅と言っていい惨状になったのは間違いない。

 

 

 

 で、肝心の敗因だが……ぶっちゃけ俺だ。

 と言うか、今までやってきた事の集大成が、悪い意味で出たっつーか…。

 

 まぁ、恐らくこの一言で分かってくれるだろう(MH世界GE世界討鬼伝世界の人が分かるかは知らんが)

 

 

 即ち

 

 

 

 

 

  誠氏ね

 

 

 

 

 

 そして俺=誠である。

 自業自得である。

 

 

 

 まぁもう何となく察してくれたと思うが、要するに那木と桜花に、橘花にやってた事がバレた。

 しかもゴウエンマとの戦いの真っ最中に。

 

 いやね、殴り飛ばされてゴロゴロ転がって、桜花がそのフォローに入ってくれたんだけど。

 

 

「まだやれるな!?」

「応、橘花の尻の処女奪うまでは死なんよ!」

 

「……何?」

「あ」

 

 

 …こんな感じで。

 昂ぶりすぎて、いらんところで最悪の軽口を叩いてしまった。

 

 これだけだったらまだ何とかならん事もなかったんだが、桜花がキレて大声出し始めて、そこから那木にも伝わった。

 …怒るとマジで怖いよ。

 特に遠距離攻撃が怖いよ。

 

 で、皆のフォローというか回復役に回っていた那木が役を外れた事で、一気に劣勢になった。

 狩りの真っ最中に修羅場っている(ガチで斬りかかって来た・射抜いて来た)俺達を見限って、他の面々はゴウエンマと戦うも、抑えきれず。

 

 突進で包囲網を突破された先に俺と桜花が居て、プチン。

 

 

 以上だ。

 

 うむ、改めて考えるとこれは酷い。

 と言うか、思い返してみると、ガチで男としてクズなんだけど俺。

 なんであんな風になってたのん?

 他人事みたいに言わせてもらうけど、冗談抜きで引くわ。

 

 ガチで吊るか?

 死んでお詫びするか?

 そうすりゃA.BEEさんに狙われないところに行けるし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …いや駄目だ、そうしたところで、今度はGE世界で同じ事になるだけのような気がする。

 アリサかジーナさんか、結局ナニもできなかったツバキさんか、或いはちゃん様あたりかは知らんが、色欲に溺れて誰かを道連れにする未来しか見えん。

 

 

 

 ならばここで生きるしかあるまい。

 デスワープのおかげで、どうやったって死ぬ方法が見つからないんだから。

 

 ここは一つ、一念発起して修行と行くか。

 そしてその中で、俺の精神を叩き直す!

 

 今後どうなるにせよ、このループの中で狩りの腕は必須だ。

 

 と言うか、そもそも…狩りの腕が鈍っている。 

 先日ジンオウガから逃げる時にも感じた事だが、肉体のスペックは好調だ。

 だがそれを操る俺の精神というか集中力が、今ひとつ鈍くなっている。

 

 よくよく考えれば、那木と関係を持って以来、日中は最低限の狩りばかりで後は色事ばかりしていた。

 しかも、任務にしたって周囲に生命の気配が殆ど無い異界ばかり…。

 幾つもの生命の中を駆け巡る事で培った感覚が、鈍ってしまうのも当たり前だ。

 

 うん、やっぱり修行だ修行。

 修行に色恋は禁物にござる…とは言わないが、マジな話、色欲に流され溺れるようでは話にならない。

 欲望との付き合い方、発散のさせ方、抑え方をちゃんと学び取らなければ。

 

 

 

 

 

 

 でも橘花の尻はいつか奪う。

 

 

 ちゃんと全員納得させる形でな!

 

 

 

HR月七度転んでも八回起きるとは限らない日

 

 要するに、隠していたのが最悪だった。

 二股云々の問題もあるが、誠実さという点で俺は全く信用が無かった。

 自業自得と言い切ってしまえばそれまでだが、俺はこの点を軽視しすぎていたようだ。

 

 ゲーム的な視点から語るが、討鬼伝のストーリーは絆のストーリーだ。

 信頼による分霊というミタマの分け与えもそうだが、とにかく『何か』と『何か』を結ぶ縁…つまり絆が重要視されていたように思う。

 コジツケと言われればそれまでかもしれないが、過去の英雄から未来の英雄までをムスヒノキミが結ぶ事でオオマガトキを回避したように。

 

 言葉は何でもいいから、仲間内で結ばれていなければならない。

 可能であれば信頼関係で、そうでなくても友情、愛情と言った関係で。

 

 ところが、あの時の俺はどうだっただろうか。

 その時その時に起こるイベントを捻じ伏せただけで良しとし、仲間達と本当に信頼を築く事を怠った。

 その結果がアレである。

 

 息吹は早々に戦線離脱状態になり、妹を弄ばれた桜花が逆上し、浮気を知った那木が張り付いた笑顔で射てきて、そして他の面々は俺達を戦力にならないと割り切って敵に向かった。

 もう少し強い絆で結びついていれば、仮に俺が橘花に同じような事をして桜花が逆上したとしても、何らかの形で歯止めがかかったと思う。

 

 多分。

 

 要するに、俺の失敗は必然だった訳だ。

 

 

 

 で、本題というか問題だが…信頼というのは、どうすれば築けるのだろうか?

 一朝一夕には行かないだろうし、大きなイベントなんぞ無くても日々の積み重ねこそが信頼に繋がるとは言う。

 だが具体的にどうしろと言うのだ。

 

 先の理論をマルッと無視するような結論になってしまうが、見えない信頼とやらを作り上げるより、とにかく単体としての戦力を上げ、一人であっても寄せる敵全てを切り伏せられるようになる方が手っ取り早いと思うのだが。

 幸いにして、討鬼伝世界には所謂G級のような理不尽のカタマリレベルの敵は居ない。

 勝つだけなら、俺がもうちょっと精進すれば出来るようになる、と思う。

 

 問題はオオマガドキをどうやって止めるかだが、こればっかりは頭を捻ってもどうにもなりそうにない。

 そもそもオオマガドキの事自体、俺は殆ど知らないのだ。

 想像に想像を重ねても、妄想同然の結論しか出てこない。

 

 

 

 

 とりあえず、暫く狩りに集中する。

 装備も1から…とまでは言わないが、使う道具のランクも落とし、体の錆をどうにかしないと、何をするにも話にならん。

 

 

 よし、そうと決まれば依頼だ依頼。

 まずドスぷーさんから行こう。

 そしてそのままドスジャギィやらドスファンゴやらの討伐へ。

 相手は然程厄介な相手じゃないが、所謂連続狩猟の形式で行く。

 つまり補給無し。

 それでもまだ余裕がありそうなら、また別のターゲットを探そう。

 

 乱入してくる奴にだけは気をつけておこうかな。

 

 

 

HR月河童の河下り(アトラクション満載)日

 

 ドスぷーさん、ドスジャギィ、ドスファンゴは余裕。

 だったので、村に帰ったら速攻で次の依頼を受けた。

 

 受付嬢の…えーと、双子のどっちかに「休まないの?」って聞かれたんで、「今ちょっとレベル上げ中」と答えた。

 そしたら幾つか依頼を紹介してくれた。

 「レベル上げなら、これくらいのムチャはしないとね」って言われたんだが……うん、確かに普通の新米ハンターにはキツいレベルかな?

 だが生憎俺には余裕なのだ。

 確かにハンター訓練所を卒業したばっかりだが、何だかんだで一時期ポッケ村上位レベルでもやってたからな。

 

 という訳で、紹介された依頼は初日にサクッとクリア。

 ジンオウガの乱入から適当に逃げつつ、クルペッコ、ウルクスス、ドスフロギィを2日かけて撃破。

 次のターゲットはボルボロス。

 ちなみに2日かかったのは移動時間が殆どだ。

 その間、村には帰らず食料はその辺でハントし、寝床はベースキャンプと野宿。

 

 うーん、屋根の無い場所で寝るのも久しぶりだな。

 野生ってカンジ。

 

 

 

 

 にしてもなんだな。

 クルペッコは、こう…気のせいと言うか狩りの腕が以前と比べて上がっているのかもしれんが(体は鈍っているが)、どうにもクック先生に比べて貧弱な気がする。

 詳しいランク付けとかは知らないが、俺の認識としてはユクモ村のイャンクック、という扱いだった。

 

 だが実際に会ってみれば、体格は小さいし、その分体当たりとかシッポの攻撃も比較的弱い。

 炎を使うのは同じだが、爪を打ち合わせて火花を散らすのと火炎液とじゃ火力が違う。

 鳴き声で演奏してパワーアップするのは驚いたが、正直…クック先生とは比べ物にならん。

 

 うーん、なんかなー。

 昔あれだけ梃子摺った先生が居ないっていうのが、なんか寂しい…。

 

 

 




自宅で大根サラダ作ってたら、ピーラーで右手の中指をサクッと行きました。
マジイテェ…というか指って横から見ると丸みを帯びてますよね。
でもそれが斜めに真っ直ぐになってるんだ…新品とは言え切れ味いいな…。

最近、雨や雪で布団が干せません。
皆どうやって対処してるんだろう…。


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MH世界4~極端から極端へ。山篭り編~
38話


最近、またアサシンクリード始めました。
おお…武器防具が違うと、確かに難易度が段違いだわ…。
でも理想を言えば戦わずに暗殺したいんだけどなぁ。


 

 

HR月二度ある事は三度あり、三度やらかす事はもう直せない日

 

 

 ガーグァを手懐け、アイルーを雇った。

 名前は覚えてない。

 そして彼らに期待する役割は、猫飯とかじゃなくて単なる伝令役である。

 

 

 ここ数日間ほど連続狩猟で色々狩っていた訳だが、それが終わると当然ながらユクモ村に戻って新しい依頼の手続きをせにゃならんかった訳だ。

 しかし、これが存外面倒くさいというか時間の無駄と言うか。

 

 回復薬の類はその辺から材料を集めて備蓄を作ればいい。

 流石に武器防具を作るのは自力じゃ無理なので村に戻らなければならないが、初期のクエストで作れるような武装を態々作りに行く理由は無い…神機から普通の武器まで、そこそこ揃っているのだ。

 別に村に戻らなければならない理由は無いのだ。

 

 

 そこで俺は閃いた。

 

 まず俺がクエストを2つ受ける。

 うち一つをこなし、キャンプで手紙を書く。

 俺が書いた手紙と一部の素材を持って、ガーグァに乗ったアイルーがユクモ村の受付所に走る。

 受付嬢達は、アイルーが持ってきた素材を討伐の証拠とし、クエストを成功と認定する。

 

 続いて、受付嬢オススメ(色々な意味で)の依頼を手紙で書いてもらい、その手紙を持ってアイルーが俺に指定された場所…つまり次の狩りの場所だ…に戻ってくる。

 その場での依頼を片付けたら、最初の依頼と同様に素材と手紙をアイルーに渡して、俺は次の狩場へ。

 

 うむ、これで一々村に帰ることなくクエストの受諾が出来るな。

 最初に提案した時は正気を疑われ、自殺なら志願せずに遠くでやってくれと言われ、門前払い状態だったが。

 

 それでも受付嬢だけでなく、もうちょっと上の人達にも何とか渡りをつけて(前回ループ時にスラッシュアックスのテスターをやった時の連絡先が役に立った)、あくまで自己責任って事で了承させた。

 ちなみにアイルーへの報酬は、持たせた素材の中から一部を拝借してもいいというもの。

 ガーグァへは…まぁ、適当な餌とかな。

 ちょっといい物食べさせてやろう。

 チョコボの育成みたいに、海の上とか渡れるようになったら笑えるね。

 

 

 

HR月天網恢恢アテにならず日

 

 周りに人が居ない。

 ちょっと寂しい。

 

 でもモンスターなら山ほど居る!

 ちょっと寂しくなんかないさ狙ったり狙われたりで、楽しすぎて狂っちまいそうだ!

 狩人だって泣き出すさ!

 

 ま、ちょっとハイテンションと言うか、情緒不安定になってるのは認める。

 最近なんつーか、独り寝が寂しくて…人のぬくもりが欲しくなる。

 性欲的な意味の方向で。

 

 まぁ、一週間ばかり山篭りしてもなー。

 思い返せば、討鬼伝世界じゃ一ヶ月以上も毎晩毎晩爛れた遊びに耽っていたし、いきなり禁欲したらそりゃペースも狂うわ。

 ま、仕方ない。 

 これも性欲に溺れてない、真っ当なハンターになる為の修行だと割り切ろう。

 

 

 狩り自体はスゲェ順調だ。

 幾ら村に戻らず連戦していると言っても、まだまだ相手は下位。

 乱入にさえ気をつければ、現段階では梃子摺りはしても勝てない相手は居ない。

 

 むしろ、他に誰も居ないから好き放題やれる。

 いや、流石に討鬼伝世界で鬼の群れを纏めて吹っ飛ばしたような、大規模環境破壊はしないけど。

 

 そういう意味じゃなくて、ハンタースタイル、ゴッドイータースタイル、モノノフスタイルを好きなように使えるって事だ。

 今まではどの世界に居ても、ある程度周囲との関わりやしがらみはあったからな。

 あれを見られると厄介、これを知られると怪しまれる…そういった邪魔な関係が何も無い。

 

 

 

 実に楽しい。

 前にもこういうミックススタイルを作り出そうとして試行錯誤、しっちゃかめっちゃかになっていたが、それを含めても楽しい。

 なんつーかこう、狩り脳に戻ってきた気分?

 

 シモの欲求不満を感じているが、何となく体が浄化されているような、淀んだ何かが抜けていっているような気がする。

 とりあえず、リハビリは順調だと思っておこう。

 

 

 

HR月バカと狂人は紙半重日

 

 人里に戻らず狩りを続ける事、はや一週間。

 別に不便は無いが、暖かい風呂にだけは入れない。

 丁度いい容器も無ければ、一々湯を沸かすような手間もかけられないからな。

 

 ふと思いついて、水を入れた容器に炎属性の武器を浸してみた。

 一時間ほど放っておいたら、水が温かくなっていた。

 おお、湯沸かし器代わりになる。

 これは便利。

 だが一時間かけてこの程度の温度では、風呂には使えそうにない。

 どっちにしろドラム缶みたいな容器が無いが。

 

 でももっと強力な炎属性の武器ならイケるかも。

 と言うか、斬った所に高熱を加えるような現象になるから、上手く使えば料理にも応用できるかもしれん。

 となると、雷属性とか氷属性、水属性の武器はどうなるんだ?

 武器ではなく防具だったら?

 

 …今ある武器防具は、まだまだ現役で使う物ばかりだ。

 お古になったら試してみよう。

 

 

 

HR月悪貨は良貨を潰すとできる日

 

 他のハンターチームとカチ合った。

 幸い諍いに発展するような事は無かったが、少し不審な目で見られていた。

 まぁ、ユクモ村には全く顔を出してないからな。

 自称ハンター(密猟者)かと思われたかもしれない。

 不審なら、受付嬢に問い合わせてくれと言っておいたが。

 

 

 …自分で書いておいてなんだが、この世界で密猟ってワリに合わないよな、絶対。

 よっぽど腕に覚えの在るハンターなら別だが、それなら普通にハンターやった方がいいだろう。

 …ま、身分や出自を問わない筈のハンターを続けていけないくらいに、後ろ暗い事があったなら別だが。

 

 

 うーん、でも少しドジッたかな?

 一週間ぶりの人間だから上手く会話できなかったと言うのもあるが、ひょっとしたら神機を見られたかもしれない。

 剣モードにしていたから、新手の太刀のテスターをしていたと言い張ったんだが……どうも、捕食形態を一瞬だが見られてしまったっぽい。

 当然捕食形態で使っていたからには、獲物にも食いちぎられた後がある。

 

 …イビルジョーでも居ると思われたか?

 それはそれで面倒になりそうだ。

 

 まぁいいか…何を言われても知らん振りしてよ。

 

 

HR月お客様は紙様です(お札的な意味で)日

 

 そう言えば、メゼポルタは今頃どうなっているんだろうか?

 確か前のループでは、最初にやりあった大型は…ラオシャンロンだったか。

 俺が何処かに出向して、戻ってくる度に大型に教われてたっけな。

 

 …仮に俺がメゼポルタを出て、そのまま戻らなければどうなるのだろうか?

 大型にはやっぱり襲われるのだろうか。

 単純に考えれば、襲われるよなぁ…俺一人の存在が、大型襲撃の確率に関わってるとは思えんし。

 

 まぁ、ラオシャンロンに関しては、アイツが眠っている火山付近で俺がドンドン派手な花火をかましまくっていたから、と言うのもあるが。

 

 実験の為に放置しておく…のは心が咎める。

 何せあそこには、今はもう面識すら無いとはいえユニスが居る。

 一度は恋人(と言うにはちと歪だったが)だった相手を見殺しにするのも気分が悪い。

 

 …でも行くに行けない。

 A.BEEさんの事を差し引いても、ユクモ村は完全に別の地区だ。

 率直に言って遠すぎる。

 こっちに来る時は、都合よく大型船やら何やらがあったから、乗り合わせたんだよなぁ…。

 ユクモ村は言っちゃ何だが田舎だし、交通の便はあまり良くない。

 田舎からメゼポルタに行くとなると、どれだけかかるか。

 

 と言うか前回のジンクスを考えると、俺がメゼポルタに行ったらそれこそそのタイミングで襲撃が起こってしまう気がする。

 …仕方ない、情報だけは集めておこう。

 

 受付嬢への手紙に、メゼポルタに大型の襲撃があったら教えてほしい、と追記した。

 

 

 

HR月故郷とは遠くにありて帰れぬもの日

 

 受付嬢から手紙が戻ってきた。 

 メゼポルタ襲撃を教えるのはいいけど、遠いから情報が入ってくるのが遅いそうな。

 …仕方ないか。

 迂闊にこんな辺境まで来たのが悪い。

 教えてくれるだけでもありがたいと思っておく。

 

 それはそれとして、受付嬢から進められるクエストが、段々キツくなってきた。

 なんかハンターランクもどんどん上がってきているらしいので、この分だとそう遠くない内にジンオウガ討伐の依頼が来そうな感じ。

 

 確かジンオウガを討伐したら、ユクモ村でお祭があったよな。

 アレには参加したいなー。

 久々に風呂に入りたいし、酒も浴びるように呑みたい。

 

 …いや、呑みたいけど酒には要注意だ。

 そこからまた間違いを犯して、色欲にズルズルと堕ちて行っては、こんな所で山篭りしている意味が無くなってしまう。

 ヤるならちゃんと理性を保って、その後もお互いちゃんとした距離感を保てるように、だ。

 

 …でもその場になったら、ついヤッちまいそうなんだよなぁ…。

 やっぱり修行っつっても、単に禁欲するだけじゃ駄目なんだろうか。

 酒の無い状態で禁酒が出来るのは当たり前、異性が居ない状態で色欲に溺れないのは当たり前。

 重要なのは、酒があって異性も居て、手を触れる事もできて、なおかつ溺れないって事か。

 

 …どんな聖人だよ。

 いや聖人じゃなくて普通の人なのか? 

 普通の人でも、酒は呑めてもそれで生活を滅茶苦茶にしない、異性とイチャネチョできてもそれで身を滅ぼさないってのは普通にできてる事だしな。

 ああでも、それも常識的な生活の中でであって、それで身持ちを崩した例なんぞ幾らでもあるし…。

 うーむ…。

 

 

HR月人生万事塞翁が災い日

 

 またハンター達とカチ合った。

 前とは別のハンターだ。

 

 それは別にいいのだが、今度はカチ合った状況がちょっと問題。

 どうやら新人のハンター達らしいのだが、カチ合ったのは何とジンオウガに追われている真っ最中。

 アレか、初の乱入イベントのアレか。

 別にMH的主人公じゃなくても、遭遇する事は充分考えられる状況だしな。

 

 例によってハンターは4人組みだったらしいが、突然の乱入に対処できず、バラバラに散って逃げようとしたらしい。

 誰かがやられても、振り返らずにそのまま逃げると決めて。

 …まぁ、いきなりあんなモノに出くわして、パニックになったり、力量差を考えずに挑みかかったり、或いは一塊で逃げようとして一網打尽にされるより、余程いい選択ではある。

 特定個人を生贄にしようとしなかったのもいいカンジ?

 

 が、やはりその内1人は運悪くジンオウガの攻撃の直撃を喰らってしまい、逃げ損ねたのだとか。

 

 

 

 放っておくのも寝覚めが悪いし、助けに行った。

 そのまま狩ってしまおうか?とも思ったのだが、人命救助が優先だし、足手纏いをかかえて勝てるとは思えない。

 準備していた閃光玉と煙玉で霍乱し、倒れていたハンターを担いでさっさと逃げた。

 

 

 しかしジンオウガにやられた傷は深く…と言うか生きてるのが不思議なくらいだった。

 出血量がハンパない。

 どう見ても致命傷ですコンチクショウ。

 あと帯電やられがこっちにまで移って来た。

 

 折角助けたのに、死なれても困る。

 幸い人目の無い状態だったので、モノノフパワー(ミタマの癒)やら取っておきだった秘薬やらで治療してやった。

 どっちか片方じゃ、治りきらなかったなぁコレ…。

 

 そのハンターは、無事だった3人が連れて帰った。

 何度も礼を言われた。

 人助けした後は気分がいいね。

 

 

HR月自他業自得日

 

 

 なんかジンオウガに追い回されている。

 この前の獲物(ハンター)を横取りしたのが、そんなに気に入らなかったか。

 それとも足止めの為に、前足の小指を思いっきりハンマーでドカンとやったのが頭に来たか……6回くらいだっけ。

 こやし玉使わなかっただけ、ありがたいと思って欲しいものだ。

 

 だが当然、そんな理屈が通じる筈も無く。

 

 もういっそ逃げようか、それとも逆に狩ってくれようか。

 逃げる…のは却下だな。

 相当頭にきているようだし、どうやらアイツはナワバリを追い出されてきたクチだ。

 現在の居場所にあまり執着を持ってないようだし、逃げたらそこまで追いかけてきそうな気がする。

 

 んじゃ逆に狩るか?

 …そろそろクエスト受けられる時期だし、受付嬢に一筆書いておこう。

 今のままじゃ、狩ってもタダ働きだからな。

 

 

 

HR月他人のフリ見て我が不利愚痴る日

 

 ジンオウガを相手に一日逃げ回って粘った。

 しかし帰ってきた受付嬢からの返事は、「ハンターレベルが少し足りない為、クエストは受諾できない」だった。

 ガッデェェ~~~ム。

 乱入扱いになるので、別枠で報酬は出してくれるらしいが。

 と言うか、この場合乱入したのはどっちだろうな?

 昨日逃げ帰ったハンター達のクエストに乱入したジンオウガ、そしてそこに更に乱入する俺。

 

 

 

 しかし無駄ではなかったな。

 カンも随分戻ってきたし、むしろなんかこう、レベルアップした感じがする。

 長時間鉄火場に身をおいた事で、体の淀みが完全に抜けて、むしろ反動でより高い領域に来れたような。

 単なる錯覚かな?

 

 と思っていたら、本当にのっぺらトリオがレベルアップしていた。

 今度覚えたスキルは、MH世界の抜刀術【技】・GE世界のハイドアタック・討鬼伝世界の特化・強化(これだけは原作には無かったスキルだ)の2つ目。

 

 どうもこののっぺらトリオ、一体一体がそれぞれMH世界・GE世界・討鬼伝世界のスキルを専門に覚えるっぽい。

 相変わらず正体不明だなこいつら。

 あとウザさが更にパワーアップしているが、これについては正直筆舌に尽くし難い。

 と言うか、何をやっているのか思い返すだけで、机代わりに使っているベースキャンプの箱を叩き壊してしまいそうになる。

 

 まさか道具も無しに空まで飛ぶようになるとは…いやあれは飛ぶと言うか漂うと言うか。

 

 

 

 

 

 ……忘れよう。

 思い出したら苛立ちのあまりに、木を一つ粉砕してしまった。

 

 

 さてそれは置いといて。

 ジンオウガだが、間抜けな事に仕留め損ねてしまった。

 あと一歩のところまでは追い込んだんだが、「タダ働き…」という呟きが脳裏を過ぎり、つい動きが止まったところで逃げられた。

 …一応報酬出るから、タダ働きじゃないんだが…。

 と言うかこれで逃げられたら、それこそタダ働きになってしまう。

 

 …手負いの獣は厄介なんだがな…。

 

 

 

HR月「君ならできる」というのは責任の丸投げ日

 

 とある野菜ネーミング種族は、穏やかな心を持ちながら激しい怒りによってスーパーな野菜人に目覚めるという。

 同じ理屈かは知らないが、MH世界には同じような怒りによって(アレが穏やかな心を持っているとは思えんが)スーパーな感じになり、更にオーラが赤く変わって野菜人4な感じになる種族が居る。

 

 

 

 

 だからってジンオウガまでスーパー化する事はないだろうがよぉ。

 

 

 いや、スーパー化っつってもモノ自体は単なる超帯電状態なんだけどね。

 それがずーーーーっと解けないのよ。

 しかも怒り状態も延々と続くし、疲労にもならない。

 キリンみたいにバカスカ落雷かましてきたし。

 ヘタに殴ると感電するし。

 …触れるだけであの状態なら、捕食攻撃なんぞ喰らった日には体が痺れて抵抗すらできなくなりそうだ。

 

 立ち上がるのが異常に早いから、ぶっとびにゃんこボンバーも殆ど隙を晒さなかったし。

 部位破壊したら、そこから電撃が垂れ流しになるし。

 斬っても斬っても撃っても、ダメージが無いみたいで怯みもしなかったし。

 河に電撃流してガチンコ漁法みたいなマネまでしてやがった。

 戦闘中に川の中に叩き込まれた時、全力ダッシュで離脱したぞ。

 

 何より厄介だったのは、アホみたいな超スピードだ。

 とんでもない勢いと反射神経で、ティガレックス並みに暴れまわる。

 漫画やラノベでよくあったような、神経とか筋肉に電流流して超筋力を発揮…みたいな真似してたっぽい。

 実際にそれで超筋力が発揮できるかは疑問だが。

 

 もうちょっと知能や知識があったら、某ビリビリの得意技みたいな超電磁砲とか使ってきたんじゃないだろうか。

 

 なんだあの反則。

 勝ったからいいけどさ…死骸になってもまだ帯電が解けてなかったんだけど。

 のっぺらトリオの新スキルと、いい塩梅にカンが戻ってなかったらもうデスワープしてたところだぞ。

 

 

 

 多分、手負いの状態で逃してしまったのが悪かったんだろう。

 逃げる時にかなり怒っていたようだし、それ以上に怯えているようにも見えていた。

 一晩、痛みと怒りと恐怖に襲われ続けた結果…生存本能が盛大に刺激され、新しい力に目覚めたってトコか?

 

 そんな都合のいい事(都合悪いが)があるのだろうか?

 それだけの才能を備えた特異個体だった……いや、これも考えにくい。

 ナワバリを追われてきたあのジンオウガは、同じジンオウガの中でも比較的弱い個体のはずだ。

 だからこそ、いの一番にナワバリから移動してきたんだろう。

 

 …そういや、以前のGE世界でもアラガミが俺の霊力吸って進化してたっぽいな…。

 関係あるかな?

 でも、死骸のジンオウガを探ってみても、俺の霊力を取り込んだ形跡は無かった。

 

 うーん、分からんな。

 様子見するしかない。

 

 これも一種の、特異個体とか剛種クエスト扱いになるんだろうか?

 さしずめ進化個体…いや、それなら特異個体と同じ扱いになるよな。

 

 

 とりあえず、ユクモ村とギルドに連絡しなければ。

 ユクモ村はジンオウガのせいで流通が滞ってた筈だし、モンスターの事については専門家に任せるべきだろう。

 とは言え、信じてもらえるかは疑問だが…。

 

 

 

HR月ウルクスス転げたイビルジョーのシッポ(死亡確定)日

 

 ジンオウガの死骸を守って一晩明かした。

 別に強敵に対する礼儀とかじゃない。

 強敵っつーなら、メゼポルタで上位の依頼に引っ張られた時の相手の方が余程強かった。

 …あっち、フロンティア仕様みたいだしな…。

 

 単にそこらのモンスターに死骸を漁られるのが嫌だっただけだ。

 なるべく状態のいい死骸をギルドに見てもらって、調査してもらわなければいけない。

 この現象が他のジンオウガにも起き得るモノなのか、その情報を得なければオチオチ狩りにも赴けなくなる。

 

 流石に一晩過ぎたらジンオウガの帯電は解けていた。

 少し触れてみて、素材も規定量分は剥ぎ取ったのだが、酷いものだ。

 体中がズタズタだ…特に体の内部が。

 いや俺が斬ったり殴ったりしたのもあるだろうが、やはり昨日のジンオウガのスピードは、体に負荷をかけて実現させていたのだろう。

 

 よくもまぁ、こんな体であそこまで動けたものだ。

 …神経と言うか、痛みを感じる部分に致命的な欠損があったんじゃないだろうか?

 よくよく考えてみれば、いくらジンオウガが雷を宿しているとは言え、容量ってものはある筈。

 そうでなければ充電なんぞする必要も無いだろう。

 

 一晩痛みと恐怖と怒りに襲われ、意味も無く延々と充電を続け……過剰に溜まった電撃が痛みを感じる機関をマヒさせ、限界を超えた筋力を発揮させた。

 生命の危機をこれ以上無い程感じ取った結果の奇跡、と言っていいんだろうか。

 なんか動物奇想天外にでも出てきそうな話だな。

 

 だが生命の奇跡というには、ちょっとな…。

 何せこれはどう見ても自爆だ。

 例え狩人の俺を倒して生き延びたとしても、体はズタボロ、帯電機能だってそう遠くない内に限界を迎えただろう。

 生き延びる為というより、相手を道連れにする為の状態と言える。

 …だが万が一、その状態で生き延びて、スーパー状態(仮名)に適応したのなら…。

 

 

 

 

 ま、上位ハンターが梃子摺るくらいにはなるんじゃないかな?

 

 

 そこまでパワーアップしても、相手によっては軽く狩られてしまうのがこの世界の怖いところだ。

 

 だがまぁ、俺だって獲物に対して何の感慨も沸かない訳じゃない。

 狩った命に対する感謝もするし、ソレを無駄なく糧にしようとも思う。

 

 でも研究材料にはなってくれ。

 ギルドの人達が来たようなので、今日はここまで。 

 

 




最近、PCの調子がおかしいです。
以前から画面が虫食い状態になったりしてましたが、どうやらそれはディスプレイの解像度を調節すればよかったようなのですが。
まだ時々虫食いが発生するし、何も動作させてない状態から頻繁にフリーズするし、今日なんか画面が極彩色になってフリーズしました。
グラフィックボードかな?

使い始めて、まだ3~4年くらいだけどなぁ…。
そろそろ買い替えの時期かなぁ~でも高いしなぁ~。
修理に出すにしても、年末年始が終わってからですね。
今出すと修理が長引きそうですし、何より接客業的には地獄の年末年始。
仕事終わって帰ってきても、心の癒しが無いなんてやってられません。


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39話

新年明けまして10日もたちましたがおめでとうございます!
仕事とゴロゴロするので忙しく、未だに初詣にも行って無い時守です。
ようやくPCが帰ってきました。
5万の出費は痛い……皆様もデスクトップPC内部の清掃は忘れずに…。




 

HR月収入先に立たず日

 

 幸い、ギルドの人達には信じてもらえた。

 外よりも内側がボロボロになったジンオウガの異様な死骸で、普通の戦いではなかったと一発で分かったらしい。

 意外と歴戦の勇士だったようだ。

 でも上位になるとアイテム届けてくれないよね!

 

 

 ジンオウガの死骸を持って帰ったギルドの人達によると、今回のような例は無いではないらしい。

 フロンティア仕様の特異個体とかね。

 ただ、このような辺境(開拓地以外で、と言った方が正確だ)で目撃された前例は聞いた事が無いし、そもそも特異個体は上位以上の個体しか見つかっていない。

 弱い固体が新たな能力に目覚めた例は無いそうだ。

 

 これは単に、特異個体と化したばかりの若輩者が見つかってないだけなのか、それとも新たな力に目覚めるのには何らかの制限が必要なのか、この辺はまだわかっていないそうだ。

 とりあえず何かしらの新しい事実が分かったら伝えてくれるらしいが…どこまで知らせてくれるのかな?

 ジンオウガを倒した事はともかく、特異個体(?)だった事は伏せて置くように厳命された。

 

 命令される筋合いは無いと思ったが、まぁ組織的に考えてハンターの上司みたいなもんだしな、ギルドって。

 そもそも公言する理由も無いし。

 何よりもまず、切欠が無い。

 だって山篭り(海にも火山にも砂漠にも行くが)ばっかりしてて、他者との触れ合いってものがまるで無いからな。

 …よく考えてみれば、今の俺はボッチか?

 流石にちょっと辛いな、精神的に。

 

 今度の祭で、友達作れないかな…。

 

 

 

 

HR月男なら、倒れる時は前屈み日

 

 

 ジンオウガに関する考察はこれくらいにして、お祭お祭。

 次の依頼を持ってきたアイルーとガーグァが、受付嬢からの手紙を持ってきてくれた。

 内容は、ジンオウガを倒した事へのお礼と、ユクモ祭開催のお知らせ。

 ゲームでもそうだったように、ジンオウガが居なくなった事で流通が回復し、経済効果を狙ってお祭が始まる。

 ヒーロー扱いなので是非来てほしい、と書いてあった。

 

 …下位の中ボス(?)を倒しただけでヒーロー扱いとは、なんかフクザツだね。

 

 

 が、流石に一日二日では準備が追いつかないし、仮に追いついたとしても、決定⇒開催の期間がたった1日では、どれだけの客が訪れるやら。

 祭と言うのは宣伝しなければ意味が無いのだ。

 

 という訳で、祭は5日後となった。

 狩場の移動中に遠目でユクモ村を見たが、明らかに活気付いている。

 賑やかそうで何よりだ。

 

 祭と言うのは準備も楽しいものだからなー。

 上手く行かなかったり運営の邪魔をするバカが出ると死ぬほど苦労するが。

 

 それはともかく、俺も祭の準備をしなければなるまい。

 俺は運営側ではなく客の側に回る訳だが、そうなるにしても最低限のルールは守らねばならない。

 あまりムチャな事をするつもりはないが(なのに奇人変人と呼ばれていた不思議)、それ以前に今の俺には問題がある。

 

 

 

 体が汚いという問題が。

 

 

 狩りの後は大なり小なり汚れているもんだが、連続クエストをするようになってからロクに風呂に入ってないからな。

 ニオイを消す為に水浴びくらいはしていたが、今の俺は多分、石鹸でゴシゴシやっても中々泡立たないくらいに汚れているだろう。

 祭の際には温泉にも入る予定だし、しっかりキレイにしておかなければ。

 

 それに、立場的には俺は村を困らせていた元凶を倒した人である。

 そんなのがヨゴレだらけで見るに耐えないハンターじゃ、ユクモ村だって盛り下がるしな。

 

 …滝行でもして、汚れを落とすとしよう。

 にしても、祭の日まで何してようかな。

 

 

 

HR月胃の中の蛙、生きてる心地せず日

 

 何してようかも何も、狩り以外にする事なかったね。

 でも狩りすれば水浴びした意味が無くなるし。

 

 という訳で、狩りではなく観察をメインにしてみた。

 モンスターにせよ動物虫魚鳥その他諸々にせよ、向き合えば大抵狩るか狩られるか、逃げるか逃げられるかだ。

 狩りの最中にも相手を観察するが、こうして観察のみと言うのは殆ど無かった。

 

 そんなに面白い発見は無かったが、やっぱり個体差があるな。

 クルペッコを密かに観察しつづけ、ここ最近使ってなかった鳴き真似を使って、狩猟笛を使わず自前で演奏効果を出せないかと試してみたが…やっぱ無理だわ。

 これで効果があったら、狩猟笛の立場が無くなるしね。

 

 以前は鳴き真似でランポスやら小型アラガミやらを半泣きにさせていたものだが、どーも今ひとつ効果が薄い。

 メゼポルタ近辺のモンスター達とは、言語(鳴き声?)が根本的に違うようだな。

 それとも、久しぶりだから上手くできてないんだろうか?

 どちらにしろ練習が必要だ。

 

 よし、まずはクルペッコから行こう。

 上手くすれば、呼び寄せに使う鳴き真似を解析して、何が来るのかを予測したり、上手いタイミングで邪魔できれば呼び寄せを阻止できるようになるかもしれない。

 

 

HR月下手な考え、3乙に似たり日

 

 流石に一朝一夕には鳴き真似を会得できないね。

 しかし、同じクルペッコでもえらく個体差があるのが居たのが気になる。

 

 上位領域近くをフラフラしていたクルペッコだった。

 

 別に、特に大きかったとか、色が違ったとかではない。

 殆どのクルペッコは、鳴き声の大小や高低が違っても、似たような鳴き声だったんだが。

 その中に一体だけ、明らかに違った声を出すクルペッコが居た。

 

 いや、訂正。

 違った声『も』出すクルペッコだ。

 

 普通の鳴き声を出せない訳ではない。

 だが違った声を出す頻度の方がずっと高く(しかも幾つもの種類の鳴き声を出す)、意味も無くあちこちで鳴き声を上げていた。

 求愛かナワバリの主張でもしてるのかと思ったが、違うっぽい。

 軽く声をあげた後は、特に何をするでもなくフラフラと別の場所に移動する。

 

 暫くそれを繰り返していたと思ったら、上位領域に入っていってしまった。

 追えなくなったが、双眼鏡で見る限りでは、上位領域の浅い所で同じような行動を繰り返していたっぽい。

 ちなみにそのクルペッコの狩りは、下位領域で安全に行っていた。

 戦闘能力は、普通の下位クルペッコ程度だと思う。

 

 狩りの動きを見る限りでは、鳴き声以外に普通のクルペッコと違うところは無い。

 アレは何なのだろうか?

 暫くアレを追いかけてみるのもいいかもしれない。

 

 

HR月南無八幡大こんがり肉G日

 

 例のクルペッコが妙に気になるが、とりあえず祭りだ祭り。

 ちゃんと体も洗ったし、ヒゲとかも剃ってそこそこ見られる顔になったと思う。

 

 そして誓いも改めた。

 この祭で、酒を飲むのはいいが異性的な意味での間違いを起こさないと!

 …いや同性ならいいって事じゃないよ、今何かA.BEEさんに尻を見られたような寒気がしたんだが。

 

 …まさか追いついてきたのか?

 有り得る…もしそうだったら、どうする?

 狩場に篭っていれば、逃げ隠れはできるがいざ見つかったら誰かに助けを求める事もできん。

 逆に祭に行っていれば、見つかりやすいかもしれんが、助けを求められる。

 更に言えば、木を隠すなら森の中…人ごみの中にアサシン風に紛れていれば、何とかやり過ごせるかもしれん。

 

 …やっぱ祭りに行くか。

 敵情視察は重要だ。

 

 最悪、ギルドとかに指名手配してもらう事も考えよう。

 俺が言ったからって即そうなる訳じゃないだろうが、それでも要注意人物として認識してもらう事くらいはできるだろう。

 

 という訳で、ミタマのスタイルを「隠」にして祭りにいってきまーす。

 

 

HR月食べろ、飲め、遊べ、死後に快楽は俺の場合はある日

 

 酒じゃー。

 酒じゃー。

 

 メシじゃー。

 

 踊りじゃー太鼓じゃー転がるダルマじゃー。

 

 温泉じゃー。

 

 花火……のあとになんかアイルーが墜落してきた。

 妙にキレイな花火があったと思ったら、きっと一緒に打ち上げられてたんだな。

 花火職人の鑑って事で、カクサンデメキンを進呈しておいた。

 今度はそれ持って打ち上げられてくれ。

 

 

 

HR月暴飲暴食乱獲暴性日

 

 懐かしい人に会ったなー。

 バッタリ会ったポッケ村のシャーリーさん(相変わらず見事な胸部装甲です)。

 バッタリ会った、前回恋人のユニス(相変わらず見事なヴォルガノススキーです)。

 バッタリ会った、脱DTを果たさせてくれた水商売のオネーチャン(やっぱり名前を思い出せない)

 

 皆さん、お仕事はオヤスミですかい?

 

 

 …ま、皆からしてみれば、完全に見ず知らずの他人なんだけどね。

 ユニスと会った(すれ違った時に顔を見ただけだが)時は、深くにも少し目尻が熱くなった。

 ……あの時は、生きてるか死んでるか分からなかったんだよなぁ。

 

 しかし、俺はどうすりゃ良かったんだろうな。

 時期を考えれば、メゼポルタではもうラオシャンロンが目を覚まして襲来してきてもおかしくない頃だ。

 …なんとか、ユニスをメゼポルタに帰らせないようにはできないだろうか。

 

 古龍の襲来を予言したところで、信じる者は誰も居ない。

 それが見ず知らずの、所詮は下位の一ハンターのいう事であれば尚更だ。

 

 いっそ、以前と同じようにユニスを調○して離れられないように……いやしかし…。

 悩んでいる間に、ユニスを見失ってしまい、結局何もできなかった。

 

 

 

HR月

 

 2~3日ほどウジウジしながら狩りを続け、ようやく踏ん切りがついた。

 ユニスの事は、もうどうしようもない。

 そもそもメゼポルタはユクモ村とは比べ物にならない大都会で、その分ハンターだって多い。

 無論、俺とは比べ物にならないくらいの凄腕ハンターだって珍しくない。

 彼らが居れば、きっとメゼポルタは無事だろう。

 

 …でも襲撃されまくったしな…ルコディオラ一匹であの有様だったしな…。

 

 

 

 

 なんだかなー、やっぱ吹っ切れてないなー。

 と言うか、以前の俺と比べて、どうにも奇人変人度が落ちているというか、行動力が無くなってるような気がするな。

 前の俺なら、ユニスをメゼポルタに帰らせない為に、運行している船を沈めるなり、その辺のモンスターを煽りまくって帰り道を塞ぐくらいはやった気がする。

 そして周囲の被害なんぞお構いなし。

 ……改めて思うと酷いな。

 社会的に考えれば、今みたいに大人しいほうがまだマシっぽい。

 

 さて、これからどうするべきか。

 狩りを続けるのは勿論だが、ユクモ村から移動するべきか?

 しかしどうやらA.BEEさんはこっちには来てなかったらしいし、ジンオウガを倒したといっても所詮下位。

 この前の妙な鳴き声のクルペッコも気になるし、山篭りを続けるか。

 目標は上位。

 

 確か…ユクモ村のボス級は、アカムにウカム、アマツなんたらに…それからスネ夫ことアルバなんとか。

 他にも古龍は結構居たよな。

 確かミラボレアス連中は居なかったと思うが。

 

 ………いつかやりあうのかなぁ…。

 

 

HR月

 

 祭が終わって二日酔いも抜けて、再び狩場でクエストに精を出している(自分で性欲処理する的な意味でも)俺だが。

 ベリオロスやらパプルポッカやらとやりあった頃から、狩場付近で出くわしたハンターに声をかけられるようになった。

 狩りの手伝いをしてくれ、と言われる事もあるし………何故だか拝まれる事もあった。

 

 何故?

 

 いや、拝まれたのは初めてじゃないけどさ。

 具体的にはGE世界で、カノンさんの誤射を引き受けていた時とか。

 しかし今回は何かやったか?

 確かにジンオウガを倒して村の危険を排除したかもしれんが、それだって単なるハンターの仕事だろうに。

 

 

 あまつさえ、一部の人からは「仙人様」なんて呼ばれ始めているらしい。

 誰が仙人だよ。

 どこでどうしてそんな風に呼ばれるようになった。

 

 

 

 

 

 そう言っていたら、ハンターの一人が教えてくれた。

 何でも、以前ジンオウガに追われていたハンター達が、俺の事を色々広めてしまったらしい。

 ……つまりは、どう見ても1乙どころか即死確定だったハンターを、秘伝の薬とおまじないっぽいナニカで見事無傷にしてしまった、不思議な術を持っているハンターだと。

 

 余計な事をしおって…。

 

 

 で、普段人前に全く出ずにずっと狩場暮らしを続け、ユクモ村ハンター協会名物・双子の受付嬢からのムチャ振りも平然とこなし続ける。

 その…ストイックさ? それともストレートに不審さ? と不思議な回復術が合間って、山の中で暮らしている仙人のようだ、と言われ始めたらしい。

 

 …まぁ、確かに人前に顔を出さずにソロ狩りばっかしてる俺を怪しむのも分からんではないが。

 件の、俺の事を広めたハンター達も、一応恩人である俺が不審者扱いされるのが我慢できない、と言う理由で広めたらしいんだが……ぬぅ、文句を言いづらくなってしまった。

 

 殆どのハンターは、不思議な回復術の事なんぞ信じていないようだが、ベテラン達は「長くハンターをやっていれば、そういう事もあるさ」とウソだと断じても居ない。

 そこそこ腕の立つハンターだし、顔を合わせたら協力要請するのもアリ…くらいの認識か。

 ま、それくらいならいいだろ。

 

 回復術だって、そうそう披露する必要は無い。

 ハンターたる者、大抵の傷は秘伝の肉体操作術でどうにかなるものだ。

 あの時はそれすらできない程に傷ついていたから応急処置したが。

 

 どうにもならなさそうな時だけ、GE世界・討鬼伝世界の術や道具を使って、なるべく人目につかないようにする。

 それくらいでいいか。 

 

 

 

 

 

 

 

 よくよく思い出したら、祭の時に酔った勢いで腰の悪いおじいちゃんとかに、体力回復とかの術を使っていたような気が…?

 

 

 

HR月

 

 もう余計な事考えるの止めにした。

 仙人でも牛魔王でも好きに呼べばいいさぁ!

 

 という訳で開き直って狩りを続けます。

 ディアブロス、パプルポッカ、ラングロトラと遣り合って、次はティガレックス、続けてナルガクルガです。

 

 ナルガとやり合うのは初めてだっけか。

 確かティガはアレだ、ポッケ村に行った時に初だっつーのに2頭同時に相手にしたっけか。

 今思い出してもアホかって話だったな。

 同士討ちさせたとは言え、よく勝てたもんだ

 

 さて、今回のティガも雪山での戦闘だ。

 ゲーム版じゃ「ティガレックスが転げるドジっこキャラになってしまった」なんて言われていたが、さてどんなものか。

 

 

 

 

HR月

 

 ティガレックス撃破。

 実物見ると、転げても萌えキャラにはならないなぁ。

 

 それはそれとして、ちょっと気になる事があった。

 戦ったティガレックスは、どうも手傷を負っていたようだった。

 それ自体は別にどうって事は無い。

 いくら絶対強者なんて呼ばれるティガレックスでも、天敵は居るだろうし、他のモンスターと戦って傷を負うなんて珍しくもないだろう。

 だが、その傷の様子が問題だ。

 

 明らかに人間がつけた傷ではない。

 爪痕、噛み跡、それに炎に……乾いたモンスターのフン。

 多分ババコンガのフンだ。

 しかし爪痕も噛み跡も、ババコンガのものとは全く違う。

 よく見れば炎の跡もあった。

 

 …傷跡の新しさから見るに、複数のモンスターに、同時に襲われた…と思われる。

 だがそんな事があるのだろうか。

 一つの種族…例えばバギィ達のような、ボスモンスターが同じ系統の下っ端を統率するならまだ分かる。

 が、この傷跡から見るに、ティガレックスを襲ったのはババコンガ(フン)、ベリオロス(爪痕)、ドスバギィ(噛み跡)、クルペッコ(炎の跡)。

 …ハチミツのらしきモノの欠片も見つけたから、ドスぷーさんもいたかもしれない。

 

 これだけバラバラの種族が、同時にティガレックスを襲う?

 仮にそうだとしても何故?

 普通、このレベルのモンスター達なら、ティガなんぞに立ち向かうなんて選択肢は取らない。

 接近を感知した時点でさっさと逃げ、逃げられなくても隠れるなり何なりして、とにかく逃げの一手を討つ。

 当然だ、立ち向かったところで勝てる戦力差ではない。

 

 だと言うのに、何故?

 

 

 

 思い出すのは、以前見かけた妙な鳴き声のクルペッコ。

 …アイツを本格的に調べたほうがいいかもしれない。

 

 面倒事の予感がするなぁ。

 

 

 




いやー、参った参った。
書こうと思っていた展開から、外伝の草案まで全て忘れてしまいました。
内容の確認とかから入るので、次の投稿は遅れそうです。


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40話

また風邪ひいた…大垣の冬は寒い。
と言うか昨日病院で熱を計ったときは36.6度、今日計ったら37.5度。
なんで病院言って薬飲んでるのに熱がでるんだろうか…。
やっぱついつい酒に手が伸びたのが…。
それとも残っていたチゲ鍋を食っているのが原因か?
ビールの代わりに炭酸レモンを買ってきておけばよかった…。




 

 

HR月ハンターの狩りもさじ加減日

 

 さて、ティガも特に問題なく撃破できた事だし、そろそろ本格的に上位を目指してみようかと思う。

 と言っても、ここ…辺境のユクモ村での上位だ。

 メゼポルタ、つまりフロンティア仕様の上位とはレベルが違う。

 

 …今気付いたが、開拓地って辺境より田舎なような気がするな。

 

 それはともかくとして、俺っていつの間にか集会所クエストもこなしていたらしい。

 どーやら双子の受付嬢が、オススメの依頼としてこっそり混ぜていたようだ。

 いやまぁ、修行には丁度いいから別に問題ないんだが。

 ちゃんとクリアできたし。

 

 普通なら4人がかりで達成する集会所クエストを一人でやってるのも、仙人様扱いの原因かもしれんな。

 だがその仙人様も、上位でどこまで通用するやら。

 ここの所、飛躍的に腕が上がっているという自信はあるが、それによって足元を掬われるのもまたお約束。

 

 何よりも、あの妙なクルペッコの姿が見えない。

 だがその影だけはそこかしこに発見できる。

 

 上位領域から傷だらけで逃げてきたと思われるモンスターの死体。

 時折聞こえる、複数のモンスター…特に、あまり強くないとされているモンスター達の雄叫び。

 それらが、徐々にだが増えてきているように思える。

 

 付け加えて、普段と違う行動を取ろうとするモンスターをよく見かける。

 精々、主食ではないものを食べているとか、意味も無くグルグルとその場を回るとか、その程度の話だが……これが何かの予兆である事は明白だろう。

 

 動物が普段と違う行動を取る事は、例えば地震や津波、天災ではなくても何かしらの災厄の前触れである、というのはこの世界であってもよく言われている事だ。

 『ただの動物』でさえそうなのだ。

 か弱い……人間と比較してどうとかは、この際慮外として……か弱い動物は、『その程度』の災厄に怯えて普段と違う行動を取る。

 ならば、動物とは一線を画する程のモンスター達が、普段とは違う行動を取るというのは…一体どれ程の災厄の前触れなのだろうか。

 

 

 

 

HR月酒は百薬のキング日

 

 なーんて考察してみたけど、よく考えりゃこの世界は天災だらけだからな。

 考えたって仕方ない。

 モンスターに古龍に、ワケの分からん自然災害…それも古龍の仕業の可能性はあるが…も山のようにある。

 何が出ようが、人間がやる事は、ハンターがやる事は一つ…いや二つか。

 日々の糧を得る為に獲物を狩って。

 そして降りかかる災害に、力の限りに対抗する。

 どっちかが出来なきゃ死ぬだけだ。

 

 ちゅーか、この世界で俺が考えられる最大の災害なんて、それこそ空想以上の何者でもない。

 大地が全て砕けるような大地震とか、何の脈絡も無くこの星に直撃する大隕石とか。

 こう言っちゃなんだが、この世界最大級のモンスター…ミラルーツ、ラヴィエンテ、ナ…ナ……ナパームデス?

 …アレがモンスターならそれこそ天災どころの話じゃねーが、とにかく海に居るデカい奴でさえ、ハンターが数と質を揃えればどうにかできる未来が見える。

 

 抵抗できるなら抵抗して、それで駄目ならそれまでだ。

 

 

 …これって、俺がデスワープのせいで消滅しないって思ってるから、こんな結論なのかね?

 デスワープから解放されて、同じようなモノを見た時、俺はどんな事を思うんだろうか。

 

 

HR月雨後の虫=繁殖期日

 

 

 妄想や考察はともかくとして。

 暫くの間、狩りをしながらあっちこっちのモンスターを観察していたんだが、なんかギルドから指令が来た。

 細かい事を言うと、もうちょっとフクザツなルートを通っての指令らしいんだが、仙人様が俗世に関わると思うなよ。

 …思いっきり関わりまくるけどさ。

 

 で、真面目な話。

 ここ最近ユクモ村近辺で相次いでいる、モンスター達の異常な行動について調査せよ、との事だ。

 しかもギルドから派遣されるハンターと一緒に。

 

 

 

 

 ハンターと一緒に。

 

 

 ハンターと一緒に!

 

 

 

 よし、これで俺はボッチじゃないな!

 任務が続く間は!

 そして任務が始まるまで1ヶ月ほど間があるが!

 

 

 

 

 …まぁそれはともかくとして。

 真面目な話、送られてくるのはそれなり以上の信用と実力を持つハンターらしい。

 所謂ギルドナイト程じゃないが、少なくとも信頼という意味ではギルドやハンターの中でもトップクラスだとか何とか。

 

 でもなー、何でそれを俺につける?

 俺は…まぁそこそこ腕はいい方だと思うけど、それも下位…しかも最前線たるメゼポルタではなく、ユクモ村での基準。

 …実際のところ、俺の狩りの腕をどれくらいのところにランク付けすべきか、迷うんだよなぁ…。

 GE世界じゃ結構凄腕だと思うし、討鬼伝世界でも下位のボスに負けた(という表現にしといてくれ)けどそこそこやれると思う。

 でもMH世界じゃ上を見上げるとキリが無く、ヒヨッコ扱いされても妥当なくらい…。

 

 ……俺の評価はともかくとして、だ。

 少なくとも今の俺は、「ギルドナイト程じゃないが」なんて表現を使われるようなハンターの相方を務められるだけの実力は無い。

 

 

 んー……仙人様、が過剰評価された?

 いやでも狩りの痕跡を見れば、その筋の人にはレベルを把握されちゃう程度だしな…。

 となると………俺の妙な技術を盗みに来た?

 

 

 …ありえんではないが、ギルドナイト一歩手前級が動くには弱いと思う。

 

 …むぅ、分からん。

 

 

 

 

 

HR月柳は緑花には毒あり日

 

 

 もっと単純な理由だった。

 延々と狩場に篭ってるから、モンスター達のおかしな行動について一番目撃している人だろう、ってだけだった。

 うわー、考えすぎというか自意識過剰ハズカシー。

 

 

 

 

 

 でも何故にレジェンドラスタが来る。

 

 

 いや、多分レジェンドラスタ、だけどね。

 名前になんとなく聞き覚えがあるし、助っ人としてあちこちで活躍しているハンター…つまりラスタ。

 来るのは弓使いのナターシャさんだそうな。

 

 …女か。

 

 いや、男より嬉しいんだけどさ……俺の前科を考えるとな…。

 まぁ、それをどうにかする為に山篭りなんぞ続けていたワケだし、逆に成果を試すいい機会と考えるか。

 それに、レジェンドラスタの実力にも興味はある。

 

 …だが性格的にまともなんだろうか。

 何となく「お前が言えたことか」と誰かに思われたよーな気もするが、まぁそれはいい。

 反論もできん。

 

 だがこの世界、どーにも強い奴ほどどっかおかしいというかブレーキが壊れてる傾向にあるからな。

 漫画やゲームのお約束みたいな感じで。

 …SYU☆ZOみたいな奴だったらいいかもしれんな。

 ユクモ村の冬はマジで寒いし。

 あーでも女性版SYU☆ZOになるのか……容姿によってはアリだな。

 暑苦しい?

 見目麗しい女性ならOKです。

 

 

 …山篭りの成果があまりでてない気がしてきた。

 いやいや、欲望を抑えて制御する事と、男として枯れることは別物だ。

 まだセーフまだセーフ。

 

 

 さて、真面目な話、レジェンドラスタという大物が来るのであれば、こちらとしても調査の準備を進めておかねばなるまい。

 業績に張り合うつもりはないが、いざ同行してまるで役に立たず、「仙人なんて言われてるけどこんなものか」なんて冷たい目を向けられると……別にゾクゾクしねーな。

 そーゆー雰囲気のプレイならともかく、仕事の能力を軽視されて喜ぶような趣味は持ち合わせてない。

 

 にしても、どこから調べるか…。

 下位領域はほぼ歩き回って、何処に何があるかは大体分かってる。

 自然の姿が文字通りそのままって事はまず無いが、大きな岩やら木やら、そうそう変わらないモノも結構あって、それらは把握してる。

 ……その中でおかしな事、おかしなモンスターか。

 

 先日のクルペッコにも遭遇できないし…やっぱ、上位領域に行くしかないか。

 

 

 

 

 

HR月当たって砕けるくらいなら当てて砕け日

 

 

 上位に行くに当たって、当然試験がある。

 仙人扱いされてる俺だって例外じゃない。

 

 試験のクエストを受ける為に、村に久々に戻ったんだが……なんつーか甘く見てたよ。

 俺って一応、村の人々にとってはジンオウガを倒した英雄だったのね。

 祭の時だけかと思ってたら、未だ英雄扱いは続いていたようだ。

 

 

 

 と言うより、なんかお年寄りの救世主扱いされてる気がする。

 まーご老体にゃこの寒さは堪えるよなぁ…産まれた時からだって言っても。

 

 『癒』のミタマが大活躍だ。

 この世界のお年寄りには健啖な方々が多いが、それにしたって体力だけはどんどん下がっていく。

 体力の低下は万病の元であり、復活を妨げる最大の要因だ。

 それを、ある程度とは『癒』のミタマは覆せる。

 

 ……なんか色々言ってるけど、要するに湯たんぽとか温泉代わりに使われてるんだよ!

 お供え物とか言ってお礼をちゃんとくれるからいいけどさ。

 

 受付所では受付所で、珍獣を眺めるような目で見られるし…実際珍しい事は否定しないが。

 「明日は槍が降るか、ジンオウガの群れが押し寄せるかも」ってそれは言いすぎだろ。

 

 あんまり見世物扱いされるのもなんだしな…もうちょっと村に顔を出すか。

 あのおじいちゃんとおばあちゃんのギックリ腰・リュウマチの様態も気になるし。

 

 それに、一ヵ月後とは言え相方が出来るんだ。

 今までのように原始人同然の日々ではイカンだろう。

 キレイマッサラで汚れ一つ無いハンターなんぞ信用できんが、コミュニケーションを円滑にする必要もある。

 体を清潔に保つ事は病気を防ぐ事にも繋がるしね。

 

 

 

HR月案ずるより狩るが易い筈が無い日

 

 さて、やってきました大砂漠。

 上位依頼を受けるため、砂クジラこと自演・漏らん…もといジエン・モーランを狩りにきました。

 いやー、大砂漠に来るのは初めてだけど、妙な気分だわ。

 水平線…じゃなかった地平線が見える勢いでただただ広いし、砂が細かすぎて風で蠢き、冗談抜きで海に居るような気分になる。

 

 こんな広いところから、ジエン・モーランを探しだせるのかねぇ…。

 大体この辺、って情報は貰ってるんだが、目印らしい目印が殆ど無いし、砂漠に船で出たらそのまま迷子になってしまいそうな気がする。

 

 そうそう、その船も不思議な物だ。

 船って言うと海や川のもの、って意識があったんだが、そうでもないのね。

 イメージ的にはアレだ、草の生えた坂を、ダンボールをソリにして滑っていくような……いや、形が船っぽくて帆がついているから船に見えるだけで、実はソリそのものなんだろうか?

 

 あの船だかソリだかを一人で動かさなきゃならない、と聞いた時は「船頭雇えよ」と素直に思ったものだ。

 だがよりにもよってジエン・モーランなんてデカブツを狩りに行くのに付き合うような船頭は居ないらしい。

 

 ま、いいけどさ…他のハンター達もちゃんとやってるから、俺にだって出来ない事はないだろう。

 船を動かすには、ちゃんとした操縦方法とかを覚えないといけない。

 

 …ひょっとして、これは筆記試験の代わりなんだろうか?

 狩りの腕だけじゃ上位にいけないって事なんだろうか?

 だとしたら文句を言うワケにも……。

 

 

 

 

 

 

 いや、よく考えりゃ自分ひとりでやる理由なんぞ無かったわ。

 多分、ハンターの一人が舵取りを担当し、他のメンバーが狩りを担当する、と言うのが本来の形なんだろう。

 となるとソロの俺はどうしたもんか。

 一応聞いてみたが、他にジエン・モーラン狩りに付き合ってくれそうなハンターは、今は居ないらしい。

 旅行やら殉職やら、或いは単にハンターランクが足りないかで。

 

 

 という訳で、俺は結局一人で船を操作して、一人で砂クジラを狩らなければならい訳だ。

 今日一日、習熟訓練って事で船を動かしてみた感じだと、動かすだけならどうとでもなる。

 同時に狩りを続けなければならないってのがな…。

 

 雇ってるアイルーでも連れてくれば、まだマシになったか?

 …居ても舵に手が届かないか。

 

 とりあえず、一番問題なのは、この広大な砂漠(今更だが、この世界の地理はどうなっとんのだろうか)でお目当てのジエン・モーランとちゃんと遭遇できるか、だな。

 

 

 

 

HR月シェンガレオンの背から飛び降りる(ハンターなら誰でもできます)日

 

 船で進む事、丸一日。

 目当てのジエン・モーランが居る場所はここから更に半日ほど進んだあたりにある。

 何だかんだで目印が少ない大砂漠を進むのは不安だったが、上手く想定したルートを進めていたようだ。

 今は夜になり、帆を畳んで錨を降ろし、船を止めて日記を書いている。

 

 慣れない測量で自分の位置を測るのは不安だった。

 あまりに不安なので4回くらい図りなおしたんだが、一度目は俺は火山に居て、二度目は地中に埋まっていて、三度目は何故か月の裏側くらいまでぶっとんでいた。

 四度目に至っては、なんか緯度経度が虚数(二乗したらマイナスになる、実際にはありえない数値)になってたし。

 不安ってレベルじゃねぇ、明らかに間違いだらけだ。

 

 星の角度を測り間違えたり、単純に計算間違いをしていたり…慣れない事はするもんじゃないが、これをちゃんとモノにしないと、討伐してもちゃんと帰って来れないかもしれない。

 現在、計画通りの場所に居ると分かったのは、偶然近くを飛んでいた気球が教えてくれたからだ。

 

 

 

 

 

 

 偶然、なぁ…。

 この世界で飛んでる気球って、基本的に古龍観測所の気球なんだよな。

 で、それが飛んでるって事は、近くではないにせよ観測できる距離に古龍が居る可能性があるって事で…。

 

 …ジエン・モーランだといいなぁ。

 古龍と戦ってる最中に別の古龍が乱入とか冗談じゃぬぇぇぇよ…。

 

 と言うか、古龍の種類にもよるけど、船とか簡単に壊され……壊され…………

 

 

 

 ジエン・モーランの体当たりを食らっても、まだ耐えられる船だ。

 大抵の古龍じゃ、問答無用で沈められるような事は無いな。

 と言うか城壁並みの防御力と耐久力を持つ船って普通にスゴいんですけど。

 

 ふむ、そうと分かれば後はちゃんと狩れるかどうかだな。

 幾つか対策を立ててはいるが、こればっかりは実際にやってみないと分からない。

 ま、いつもの事だ。

 

 

 しかし、超大型と一人でやりあうのは初めてだな。

 以前のラオシャンロンとかシェンガオレンとかとやりあった時は、何故か知らんが奇人変人扱いされていたんだよな。

 …今回は無いよね?

 ギャラリー居ないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

HR月飛竜終われずんば卵を得ず日

 

 メッチャ疲れた。

 ジエン・モーランがタフだったのもあるが、それ以上に操舵に疲れた。

 

 船ってのはさー、風や波に煽られて、常に進路や方向を変えてる訳よ。

 で、ジエン・モーランみたいなデカブツが泳いだり潜ったりしたら、それだけでデカい砂の波は起きるし、風だって起こる訳でね。

 船を飛び越えやがった時なんて、きっと俺の目は死んでいたに違いない。

 大波、大風、大砂に岩、更に体勢を立て直すヒマを与えず体当たりというフルコースだった。

 

 咄嗟に…というかヤケクソで船そのものにミタマの空蝉をかけるのが成功していなかったら、間違いなく船が転覆していた。

 と言うか、一度なんて飛び越えるのを失敗して、危うく船の上に落っこちてきそうになった。

 アレが一番ヤバかったな…。

 猛ダッシュで操舵輪に駆け寄って(よく考えれば、あの時も船そのものに空蝉やら韋駄天やらをかけていたような)下敷きになるのを免れた。

 

 

 それ以外にも、度々進路が逸れてジエン・モーランから船が離れそうになる度に、操舵輪まで駆け戻って進路を調整し、ぶつかりそうになっては駆け戻って調整し…。

 ジエン・モーランを斬ってる時間より、走っている時間の方が長かった気がする。

 当然、そんな様で充分な攻撃を与える事などできず、決戦場では防御を捨てて只管に攻撃した。

 それはもう、特攻染みた勢いで。

 

 …あの時、ジエン・モーランが爆弾で怯んでいなかったら、船が破壊されてたな。

 丁度いい場所に転がっていった打ち上げ爆弾に感謝を。

 

 

 

 …にしても、打ち上げ爆弾程度であんな風に全身を硬直させて怯むとは…。

 

 やはり『タマ』に直積したのだろうか…。

 それともケツの穴にでもホールインワンしたのか。

 

 

 

 ところで、ジエン・モーランから採掘が出来るって聞いてたので、鉱脈(?)を掘りつくす勢いで穿り返していた訳だが…ちょっと深く掘り進んだ時に、紅い玉を見つけた。

 …ジエン・モーランに紅玉剥ぎ取りなんてあったっけか…?

 

 と言うか妙なオーラというか霊気を感じるんだが…。

 

 

 

 

HR月背より腹(特に胃袋)日

 

 紅玉(仮)は古龍研究所に没収された。

 代わりに充分な報酬を貰ったからまぁいいのだが、ハンター的に考えるとレア素材>超えられない壁>金なんだよね。

 ま、使うアテも無かったし、今は良しとするか。

 …でもそんなに金貰っても、山篭りしてる身としてはあんまり意味が無い。

 活用しようにも伝手が無い。

 

 …やっぱ納得いかなくなってきた。

 真面目な話、この世界で霊力を扱うようなモンスターは一度も見ていない。

 あの異常なジンオウガも、奇妙な鳴き声のクルペッコも、それらしい痕跡は全く無い。

 

 …古龍だからか?

 でもラオシャンロンはやっぱり霊力なんか…いやいや、古龍種ってのは人間の手に負えず、既存の生態系に分類できないモンスターの総称だ。

 そう考えると、霊力を使うモンスターが居てもおかしくないのか?

 

 だけど、ジエン・モーランと戦っている間、霊力(妖力?)を感じる事なんて一度も無かった。

 あの妙な紅玉を取り出した時も、ジエン・モーランは特に何も感じていないようだったし…。

 ひょっとして、単に背中に張り付いていた鉱石だったのか?

 確か紅玉というのは、リオレウスとかが生きている間に、色々な物質が体内で結晶化したもの…だった筈。

 そう考えると、あの紅玉も泳いでいる間に集まって固まった結晶…いやでもそれに霊力が宿るかな?

 

 

 …考えてみれば、古龍研究所の対応も妙と言えば妙だ。

 あの後調べてみたが、やはりジエン・モーランから紅玉が採取された、という記録は今のところ無い。

 新しい素材を大発見!て事で、研究材料に是非ほしい…って事だったのかもしれないが、それにしたって強引すぎる。

 基本的に、採取した素材はハンターに所有権がある。

 例え新しい素材を探り当てようが、伝説の古龍の天鱗だろうが、討伐の後に一度手に入れてしまえば、ハンターギルドと言えど強引に取り上げる事はできない。 

 その分、一定量までしか剥ぎ取りしてはいけないルールがある訳だが。

 

 それは古龍研究所であっても、王族であっても無視する事はできないルールだ。

 勿論、ハンターギルド自身でさえも。

 

 だがあの研究所の使いの対応は、それらをマルッと無視するようなものだった。

 口八丁手八丁で俺を誤魔化して、かっさらって、強引に対価を押し付けて消える。

 …訴えれば、特に労さずして勝てるような案件である。

 

 

 でもアレ、一見すると普通の紅玉…どころか、砂やらなにやらで汚れてたから石ころにしか見えないぞ。

 俺が紅玉だって分かったのも、ちょっと磨いたらそこだけ赤い玉になったから。

 その後、すぐに狩りが続行されたんで、あっという間に汚れ塗れになった。

 

 

 …アレを、普通の人なら2~3年遊んで暮らせるくらいの対価をポンと出すような代物だと、誰が思う?

 それも、場合によってはギルドや王国を初めとした、関係各所にハイオク満タンで火種をブチ込むような暴挙(ちょっと誇張入ってるかもしれんが)まで犯してだ。

 

 

 …あの研究員、何か知ってるのか?

 ヤバげな黒幕系キャラか?

 調べられっかな……一度だけなら接触の切欠を作る事はできそうだ。

 あの紅玉っぽいのを強引に、俺の承諾無しに奪っていったとクレームをつければ、どんな形であれ反応はあると思う。

 

 でもそうなると、反応を待つために暫く狩りを休んで、村で暮らす事になる。

 …まぁ、お年寄りの相手がいやな訳じゃないけどさ。

 

 




最近アサクリやってないな…。
ストーリー忘れちゃいそうだよ。


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41話

アサシンクリード、何とかクリア。
レベル低い装備でゴリ押ししましたよ。
さて、次はGE2レイジに備えるか、アサクリをもうちょっとやってみるか…再度ストーリー殆どやってないんだよなぁ。
いやそれよりも、レイジバーストはVitaにすべきか、PS4にすべきか…。


 

HR月膳は急げ、だが食うのはゆっくりと日

 

 仙人様が上位に上がられた、って事でちょっと宴会。

 どっちかと言うと、俺をダシにして騒ぎたかっただけって気もするが。

 

 ジエン・モーランの体からはかなりの鉱石やら何やらが取れて、村にとっちゃ臨時収入があったようなものだ。

 まだまだ景気も回復しきっている訳じゃないから、それも狙いか。

 

 で、例によって延々と酒飲みながら、おじいちゃんおばあちゃんの体を治していたりした訳ですが。

 今回もなんとか、女絡みのアヤマチは犯さずに済みました。

 …なんだか舌打ちが聞こえた気がするな。

 

 それはともかく、宴会時に周囲に居たのって、ご年配の方々と、ロリロリしい雰囲気の受付嬢二人、あとはほぼハンターばっかりだったからな。

 アヤマチの犯しようがなかったって言った方が正しいか。

 ロリも嫌いではないが、リアルに手を出すとバックベアード様に祟られてしまう。

 偶にはいいよね、って言われるかもしれないが。

 

 

 それはともかくとして、ユクモ村の村長に初めて会った。

 正確に言うと、前の祭の時に礼を言いに来ていたらしいが、全く覚えてない。

 ぬぅ、竜人族の和風しっとり系美人さんだ。

 でもちょっと化粧が濃…いえ何でもありません。

 それでも美人さんには変わりないです。

 

 是非ともお近づきになりたかったが、そこはそれ、ちゃんと一線を引いていたようだ。

 助かった…。

 

 で、竜人族ってのは大体長生きしてて、その分知識も豊富な人が多い。

 ひょっとしたらと思って紅玉の件も尋ねてみたんだが、心当たりは無いそうだった。

 だが古龍研究所の職員の対応には眉をひそめており、村からもクレームをつけてくれるそうだ。

 更に、同じ竜人族に心当たりが無いか当たってくれるとか。

 「英雄殿への恩返しとしては軽すぎますが」と言ってたが、充分すぎます。

 

 

HR月断じて行ってもモンスターは之を避けず日

 

 村長さんから、「事態が進展したらお知らせします」と言ってくれたので、狩りを再開する。

 今日は各種アイテムの補充に専念し、明日から上位クエストです。

 フンドシ締めてかからないとな。

 メゼポルタに比べればマシだろうけど、下位と上位は完全に別物だ。

 あのクルペッコの事も気になるし、暫くは慎重にやるとしよう。

 

 まずはクマさんから初めて、牡丹鍋…じゃなかったドスファンゴ、ドスジャギィにドスフロギィ、ボルボロス、ロアルドス、クルペッコてトコかな。

 上手くやれば、3日後にはクリアできるだろう、多分。

 まぁそれも上位クエストの難易度次第だ。

 途中での撤退も視野に入れておかないとな。

 

 

HR月食べかかった○○○日

 

 思っていたよりはマシだった。

 まぁ、中型までの感想だけど。

 明日からは大型とやり合う事になる。

 浮かれていられない。

 

 それはともかくとして、やはり上位と下位は雰囲気からして違う。

 …というより、何か雰囲気がおかしい気がする。

 何処で何を狩っていても、見られているような感じがする。

 

 これが上位の普通、って言われるとそれまでなのかもしれないが…。

 ああ、それとも狩猟環境不安定ってヤツかな。

 だとすると戻り玉が欠かせない。

 流石に現状でイビルジョーとかが乱入してきたら、逃げの一手しか取れん。

 

 

 

 …フラグを立てる事で、予め精神的に備えを作っておくのだ!

 そーいう事にしとこう。

 

 

HR月身を捨ててこそ、ガノトトスに食われる瀬もあれ日

 

 イビルジョーは出なったが、小型の魔物が大挙して押し寄せてきた。

 あれはあれでヤバかった…数の暴力は洒落にならん。

 

 やっぱ狩猟環境が色々な意味で不安定だな。

 と言うか、アレって所謂スタンピードか?

 ヒューマノイドタイフーンじゃなくて、レミングス的な。

 

 でも明確にこっちを狙ってきたしな…しかも同じ種族の群れじゃなくて、複数の種族が同時に。

 そして、何度か聞こえた妙な声…やっぱアレか、あの妙なクルペッコか?

 

 もしそうだとしたら厄介だな。

 多分、今日のは様子見だ。

 以前から何度か見ているモンスターの死骸から察するに、中型以上のモンスターも同時にかかってくる事が考えられる。

 …目を付けられているかもしれん。

 

 幸い、明日の狩猟はここを一度離れて、別の狩場での狩猟になる。

 ここへ戻ってくる時には、姿を隠してコッソリと入ってくる事にしよう。

 

 今日あった事は、ギルドにも手紙で報告しておく。

 

 

P3G月逃げるが勝ちでもクエスト失敗日

 

 狩りばっかやって人里から離れてたから、月が変わっているのに気付かなかった。

 それはともかくとして、何とか予定通り3日で終了。

 次のターゲットは何かな。

 自分で選んでいるんじゃなく、受付嬢からのススメで受けてるからな…。

 

 と言うか、レジェンドラスタ(多分)のナターシャさんが来るまでもう少しだ。

 …例のクルペッコを狩るのは、ナターシャさんが来てからの方がいいかな?

 現状で判明していて発見できそうな、妙な動きをするモンスターだし。

 

 先に倒してしまうよりも、実物を見てほらった方がいいだろう。

 スキルアップを考えると、俺一人でやるべきなんだろうが……正直な話、思っていた以上に厄介そうだ。

 無理に一人で狩る事はするまい。

 

 GE世界、討鬼伝世界の事を考えると、他の誰かとの連携能力も鍛えておいた方がいいしね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、それって狩りの腕よりも先に磨くべきじゃね?

 信頼関係に直結する的な意味で。

 

 

P3G月飢えては獲物を選ばず生で食う日

 

 連携能力を磨こうったって、仲間が居なけりゃムリだよね!

 うん、今回ユクモに来て一人で山篭り生活やってるのはA.BEEさんに追跡されない為だし、仕方ない事だよね!

 時々頼まれる助っ人も、既にあるチームの連携に割り込むと反ってリズムを崩すだろうし!

 

 

 …レジェンドラスタって顔が広そうだよな。

 俺の事を漏らして、何処かからA.BEEさんに嗅ぎつけられる事もあるかも…。

 口止めをお願いしましょうかね。

 

 それはそれとして、受付嬢から送られるクエストが、また遠慮がなくなってきた。

 最近は上位に上がったばかりという事で、ちょっと控えめ難易度(と、好意的に考えれば表現的無いでもないような気がする)だったが、容赦なく面倒な案件を投げてくるようになっている。

 まぁ、最初にそれを望んだのは俺なんだけどね。

 あいつらも「自殺なら遠くでやって」みたいな事言っといて、容赦なくヤバいクエストを突きつけてくる。

 最初に言っていたように、自殺する気ではないと分かってからは尚更だ。

 段々クエストに殺意を感じるようになってきているが、受付嬢は紹介しているだけでクエストを出しているのはギルドや依頼人だしな。

 …イイ笑顔でムチャ振りしてくる様子が目に浮かぶが。

 

 どう考えてもロリドSである。

 アリだと思う。

 だが殺意を覚えたハンターは数知れずだろう…。

 妄想を加速させた変態紳士はもっと多いだろうけどね。

 

 

P3G月キリンは老いてもケルビに勝る日

 

 上位ナルガクルガを続けて狩っていたら、村長さんから連絡が入った。

 ジエン・モーランから取れた例の紅玉の件だ。

 しかし進展があったというよりは、手の討ち様がなくなった、と言った方が正しいだろう。

 

 紅玉を掻っ攫っていった研究員が行方不明になったらしい。

 どう考えてもあの紅玉関係です本当にありがたくありません。

 

 古龍研究所の方も、寝耳に水だったらしい。

 紅玉の事自体、報告を受けていなかったとか。

 

 行方不明になった研究員は、真面目で堅実、特に欲を掻こうとしない、コツコツタイプの人間だったとか。

 それが突然失踪。

 家宅も調べてみたそうなのだが、一切手付かず。

 財布すらもそのままだったとか。

 

 普通、何らかの理由があって姿を消すとしても、財布くらいは持っていくだろう。

 金銭は人間社会において必需品。

 無くて困る事はあっても、あって困る事は滅多に無い。

 

 という事は…考えられるのは3パターン。

 

①失踪は本人の意思ではなく、誰かに拉致された。

 

②はした金が要らないくらいに大きな収入がある。

 

③財布を取りに行く時間も惜しいほど、大慌てで失踪した。

 

 …これだ!っていう証拠も推測もできんな。

 よく考えれば、その辺の街道を進んでる時に唐突にモンスターに襲われて腹の中…って事も充分考えられる。

 

 古龍研究所の対応としては…俺に謝罪、追加で詫びの品を送る事で、これ以上の騒ぎの拡散を食い止める、って所か。

 まぁ、事が事だからな…。

 ヘタに騒ぎを大きくすると、ギルドやら国やらが入り乱れて大混乱に陥る可能性もある。

 失態を隠すといえばそれまでだが、妥当な対応だと思う。

 

 これをネタに色々と請求するようなら、多分こっちを潰しにかかってくると思う。

 だがこっちとしては、物品や金はどうでもいいから、あの紅玉の情報がほしい。

 …と伝えはしたんだが、古龍研究所にもそれらしい心当たりは無いそうだ。

 もしも手がかりが見つかったら、さわりだけでもいいので教えてほしい、という事で話がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …日記を読み返して思ったんだが、俺もあの紅玉を妙に気にかけてるな。

 おかしな事があったから、と言われればそれまでだけど…。

 

 

 追記 明日にはナターシャさんが来るらしいので、今日は村にお泊り。

 

 

 

 

 

P3G月ガノトトスの川流れ日

 

 

 破壊力高いヨ、ナターシャ=サン。

 

 谷間が、ヘソが……よく見える。

 いや、あんまりジロジロ見ると失礼だし警戒させちゃいそうなんで、気合と根性で目を逸らしましたけどね。

 しっかりバレているっぽい。

 冷たい視線をいただきました。

 うう、初っ端から好感度マイナス…。

 

 それでも仕事は仕事と割り切ってくれたのはありがたい。

 初日は自己紹介(名前を覚えてくれたかどうかは定かではないが)と、ここ近辺でおきているモンスター達の異常な行動についての情報を伝える事で終わった。

 明日から狩りと採取、調査に移る。

 

 パッと見た目、クールビューティ系の無口系っぽい人に見えるが、接してみると普通によく喋る。

 しかもビューティではあるが、あまりクールではない。

 どっちかというと高飛車系だ。

 

 

 にしても、ユニス、ジーナ、そしてナターシャ=サン。

 銀髪率高いね。

 

 

P3G月食後の一狩りと書いて休みと読む日

 

 

 流石のレジェンドラスタ。

 実力がパネェです。

 装備の差もあるだろうが、俺が梃子摺る上位のリオレウスとかをバタバタ打ち落とす。

 それにエイム力が本当にハンパない。

 動いているモンスターの急所に当然のように当てるし、回避から攻撃へのタイムロスが全くと言っていいほど無い。

 

 あー、やっぱ俺ってまだまだヒヨッコだな…。

 

 

 さて、ナターシャさんが弓を使う後衛だったんで、俺は太刀を使ってみた。

 突進とかを食い止める事を考えるとランスの方が良かったんだが、俺の場合はちょっと違う。

 突進だろうがワールドツアーだろうが、討鬼伝式の残心解放(赤)で止められるのだ。

 

 実際、何度か披露してみたんだが、意外と好評だった。

 威力がどうとか、相手の動きを阻害できるとかじゃなくて……なんつーかその、キンッという納刀時の音と共に敵が崩れ落ちるのがイイとか。

 本人もえらく美しさやセクシーさに拘っているみたいだし、要するにカッコイイから評価してるのだろう、

 ちなみに少し聞いてみたところ、ナターシャさん的には、 美しさ > セクシーさ > 超えられない壁 > カッコよさ > 省略 > 最下層 > ハンマー振り回してる暑苦しい誰か だそうな。

 …多分同じレジェンドラスタの事なんだろうけど、ハンマーの人ェ…。

 

 

 …にしても、納刀時にせよ鍔鳴りにせよ、音がするようなのはまともな手入れもできてない証拠なんだがなぁ…。

 討鬼伝式の場合は、音を媒介にして刀傷を解放するんで、ある意味仕方ないと言えば仕方ない。

 

 

P3G月強敵と書いてレア素材と読む日

 

 「そこそこ使えるわね。上位に上がり立てにしては美しいわ」くらいの評価は貰った。

 はぁ、と反応に困っていたところ、危うく尻を射抜かれそうになった。

 どうやらナターシャさん的にはかなりの高評価を出したつもりだったらしい。

 

 にしても、昨日も思ったが、狙いの付け方がマジでスゴイ。

 今日はグラビモスを狩っていたんだが、全身の岩と岩の隙間を狙い打って、部位破壊もしてないのに内側の急所にダメージを与えていた。

 ゴルゴ並みのスナイプ力だ。

 

 関心していたら、得意絶頂になって色々と話し始めた。

 防具についてスキルがどうでもいいってのは流石にどうかと思うが、ナターシャさんの言う弓の美しさってのは、分からなくもないような気がする。

 

 「美しく華麗な者は、アクセク働かないの。

  ここぞという時、ムダなく一発で仕留めるのよ」

 

 と言っていたけど、これは俺の戦闘法にもいえる事だ。

 俺のはナターシャさんみたいにスマートじゃないが、相手に余計な事をさせず、一気に全火力を集中して討伐する、というのが俺の基本スタイルだ。

 相手の生命力が矢鱈高くて成功した事は殆ど無いが、モンスターの喉元や心臓を一撃で切り裂いて仕留めると、ドヤァ・・・って感じになる。

 

 話をしている時に、丁度飛び掛ってきたドスジャギィを避け様にスパッと切り裂いて、「こんな感じですよね?」と言ったら「今の動きは、そこそこ美しかったわ。まぁまぁね」だった。

 ウラガンキンを相手に鬼千切りも披露したのだが、こっちは「力尽くで斬ってるみたいだから」で不評だった。

 うーむ、もっと切れ味を鋭くするべきか?

 鬼千切りの質を変えられるようになれば、もうちょっと戦闘の幅も広がりそうだ。

 

 

 

P3G月過ぎたるは火事場が心配性になるが如し日

 

 狩りの途中にちょっとミス。

 ナターシャさんが怪我をしてしまった。

 まぁ、それは別にいい。

 女性である前にハンターだ。

 傷を付けられた事は頭にきているみたいだが、ハンターってのはそういう仕事だしね。

 

 でも「さっさと治しなさい。出来るんでしょう?」と探るような目で見られた。

 治したけどね。

 やっぱ、このMH世界に有り得ない能力は奇異の目で見られているらしい。

 でもまぁ、気味が悪いものを見るような視線じゃなかったのは有りがたい。

 ハンター的に考えれば、使える物は何でも使え、だから当たり前の結果だったのかもしれないが。

 

 

 で、問題だったのはだ。

 「服も一緒に治しなさい!」

 

 …ムチャゆーな。

 癒のミタマでも服は治せないよ。

 あ、でも防御力低下と考えれば、ウチケシの実で何とかなるんじゃないかなー。

 

 …いや無理だったけどね。

 冗談で言ってみたら、危うく射抜かれかけた。

 それだけ服飾に拘っているのか。

 

 

 

 思い返すと、狩場の中を歩いているのに、ナターシャさんの服はきれいなままだ。

 流石に木々の葉とかは付いているが、汚れが殆ど無いし、擦り切れが全く無い。

 …こんな細かい所でもレベルの差が出るんだな…。

 

 それはともかくとして。

 倒したばかりのベリオロスに腰掛けて、服のセクシーさの重要度について延々と語られた。

 セクシーさが重要なのはわかるよ?

 だって俺が嬉しいし。

 

 ……だからって、GE世界の服装について話したのは失敗だったかもしれない。

 何気なくポロッと零した一言に、思いっきり食いつかれた。

 

 別段不都合も無いと考えたので、アリサ、サクヤさん、ツバキ教官の服を絵に描いて教えた。

 …ジーナさん?

 いやその、セクシーさの方向が違うというかクローズアップしてほしい場所がナターシャさんとは別と言うか。

 要するにバストサイズが…いや、だからこそ教えるべきだったか?

 無印仕様なら素晴らしい谷間が、2仕様なら下乳に加えて乳の穴まで見えたかも…。

 

 ま、時期を見て伝えてみるか。

 ちなみに先に伝えた服装の反応は、下記の通りだ。

 どれが誰の評価なのかは記すまい。

 

「へぇ、分かってる子が居るじゃない」

「それはセクシーじゃなくて痴女でしょ…」

「うーん…もうちょっとアレンジすれば…」

 

 ただいえる事は、ナターシャさんの判断基準がわからないって事だけだ。

 

 

 

 着てくれるならどれでも嬉しいけどね!

 

 

 

P3G月1・2・3・4・午後の達人ビール日

 

 ナターシャさんとの会話ばっかり書いてたが、調査は真面目にやってました。

 問題になっているモンスター達の奇妙な行動もそうだが、あの妙なクルペッコが関係していると思しきモンスターの死骸も発見した。

 大型モンスターを、小~中型の複数のモンスターが同時に襲い掛かったと思われる跡。

 ナターシャさんもレジェンドラスタになって長いそうだが、聞いた事が無い現象らしい。

 

 ついでに、例のジエン・モーランの紅玉についても聞いてみた。

 やはり心当たりは無いそうだったが、見方を変えてみてはどうか、という助言をもらえた。

 

 つまり、紅玉ではなく全く別の物質。

 そして新発見だった事ではなく、全く違う事が問題、か。

 

 

 成程、具体的なアドバイスにはなっていないが、一考の余地はある。

 流石にビューティホーである。

 

 

 

 さて、ナターシャさんへの感謝の言葉(ナターシャさんはセクシーでビューティフルな素敵なレディです!)を矢でペチペチ叩かれつつ20分くらい続けて叫ぶハメになったのはともかくとして、言われた通りにちょっと見方を変える…いや、戻す?…してみようと思う。

 

 そもそも問題は、だ。

 新しい紅玉、素材が発見された事ではない。

 古龍の体の中で結晶化した紅玉というのは貴重なのかもしれんが、所詮は紅玉だ。

 …所詮、なんて言い方をすると、素材を求めるハンター達に集団リンチを喰らいそうだが。

 

 

 では何が問題だったのかと言うと、次の二つ。

 

①古龍観測所の研究員の不可解な行動。

②あの紅玉モドキから霊力が感じられた。

 

 これらである。

 ①については調査の報告を待つ以外に何もできないので置いといて、②はどのようにヤバいのだろうか。

 

 まず真っ先に思いつく事は、前回のGE世界でデスワープした時と同様、そこらの一般モンスターが突然霊力を扱えるようになる事だ。

 それによってどれくらいの能力アップが齎されるかは未知数だが、少なくとも人間に有利な効果は現れないだろう。

 俺も最初はそうだったが、霊力というのは耐性の無い人間にとっては妖力…討鬼伝世界で言えば異界の空気と同じだ。

 吸い込み続ければそれだけで心身…いや、体よりも精神に異常が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっとまて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊力は耐性のない人間にとっては害で、この世界の人間に基本的に耐性は無い。(ナターシャさんを見る限りだと、上位級のハンターなら気合で跳ね返せるっぽいが)

 で、あの紅玉モドキからは霊力が感じられた。

 

 そして霊力とは、何かしらの意思の力が宿っている。

 

 

 と言う事は。

 

 

 

 失踪した研究員は、あの紅玉もどきに宿っていた霊力に魅入られ操られたんじゃないか?

 

 いやいやマテマテマテ茶ウメェ、仮にそうだったとしてももうちょっと考えよう…妄想しようとも言うが。

 この推測が大当たりだったとしてだ、あの紅玉にどんな意思が宿ってるっての?

 ジエン・モーランの紅玉に宿る意思………泳ぎたい、食べたい、交尾したいくらい?

 でもそんなのに魅入られたからって、研究員が失踪するか?

 もし失踪してたとしても精々砂の海でバタフライしてる姿しか思い浮かばないよ。

 或いはデルクス辺りを口説いて、逆に餌的な意味で食われてるか。

 

 …あの時、もうちょっと紅玉の霊力を探れてればな…。

 でもあんまりいい感触は無かった。

 

 

 その手の霊力を持っていそうなモンスターって何かあるかね?

 古龍はどれも規格外モンスターだが、逆に言えば規格外であっても自然体系の中の一モンスターに過ぎない。

 食物連鎖の中で、それを超えて霊力…つまりは執着、恨み、辛みを残すモンスター?

 

 

 

 

 

 

 

 

 居る。

 俺も詳しい設定というか生態は知らなくて、かつて産まれた世界で(多分二次創作からの派生だろうが)そういう話を聞いたモンスターが。

 

 

 

 

 

 言うまでも無い。

 黒龍・ミラボレアスだ。

 

 危険度で言えば人類存続の危機クラス…これはユクモ村近辺に潜んでいると思しきアルバトリオンも同じようだが、何がアカンって黒龍の皮膚がな…。

 倒したハンターの装備やら人体やらモンスターの死骸やらを体に溶かし込んでいるという、リアルに考えたらグロ画像確定の生態。

 もしそれが事実なのであれば、そりゃ死者の念が凝り固まって紅玉に霊力の一つや二つは宿るだろう。

 

 

 

 

 …え、じゃああの紅玉がミラのモノだとした場合、それは事実って事?

 

 

 

 いやいや落ち着け、アレはジエン・モーランから取れた紅玉だし。

 ミラのじゃないし。

 

 仮にミラのだったとしても、それってミラボレアスの体から排出された小さな紅玉が砂漠に落ちて、それを泳ぎ回ってるジエン・モーランがたまたま体にくっつけて、更にそれを俺が掘り当てたって事だろ?

 こんなの、ラッキーマンだろうが闇に降り立った天才だろうが千年パズルを持つ神の引き(ぶっちゃけイカサマ臭い)だろうが引き当てられねーよ。

 …いや、そうでもない…のか?

 『俺が』引き当てたって考えるから有り得ない確率に思えるのであって、いつも何処かで誰かがブチ当たる可能性があったのだと考えると………うん、ありえなくは無い、ように思える。

 

 

 だが仮にそれが大当たりだったとして、アレの効能はいかがなものだろうか。

 雑多な恨み辛みが結晶と化して紅玉になったとして、人の意識に干渉すること自体はそんなに不思議じゃない。

 呪いのホープダイヤとか、あの手の物と同じと思えば。

 でも、人の意識を操って特定の何かをさせる、なんて事があるのだろうか?

 精々が自殺に追いやるとか、或いは憎悪を煽ってテロに走らせるとか…?

 

 うーむ、分からんが、そっち方面の情報も集めておくか。

 

 

 

 




最近、グリルの火がすぐ消えるんで焼き魚や串焼きが出来なくて困る。
…ゲームの中の肉、取り出せねぇかなぁ…。


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42話

ふむ…デスループ物としては、もっと頻繁に死なせないといけないような気がしてきました。
そーいや元はと言えば、もっと短いスパンで話を区切るつもりだったんだよなぁ…。
やっぱりアレか、エロを絡めた辺りからそれが崩れ始めたか…あれ、普通に序盤の事だ。


 

P3G月溺れる者はナバルデウスに掴まる日

 

 俺も多少は弓を使える、と零したら、強制的に次のクエストの武器が弓になってしまった。

 弓二人ってバランス悪いな…まぁガノトトスが相手だからいいけど。

 

 ところで、俺の弓の使い方って、基本的に討鬼伝世界の弓なんだよね。

 以前からMH世界の弓のビンを組み合わせて使ってるんだけど、動作と言うか…メタ風に言えばモーションと内部数値?

 何かと討鬼伝世界の弓の方が使い勝手がいい。

 

 使用する武器のタイプに影響されないんで色々と戦略を立てやすいし、攻撃手段も多彩だからな。

 その代わり弓自体はMH世界の物の方がダントツで強力なんだが。

 

 

 それで言われた通りに色々と弓での技を見せてみたんだが…番え射ちがえらく気に入られてしまったようだ。

 理由はいうまでも無いだろう。

 見た感じと言うか演出が割りとキレイだからだ。

 着弾した所から、噴水みたいに矢の雨が飛び出すからな。

 ダメージソースにするには威力が低いんだけど、そこはナターシャさんである。

 美しさ優先だった。

 

 

 だが、他の弓の技に関しては「磨けば光りそうだけど、美しくない」とキッパリ言われた。

 俺の腕が悪いっていうのもあるだろうけど、多分印をつけてのホーミングとか、あの辺がイマイチ美意識にそぐわないっぽいな。

 

 ナターシャさんの美意識の基準が、ちょっとだけ見えてきた気がする。

 簡単に言えば、一筆入魂ならぬ一矢入魂と言うヤツだ。

 討鬼伝世界で同じ名前のスキルがあったが、あれとはまたちょっと別。

 

 多分、モンスターと対峙して、弓を構え引き絞って放つ…この一瞬の極限まで研ぎ澄まされた集中力が、ナターシャさんの美意識の根っこだろう。

 一瞬、一発、一撃…色々な物を一つに纏めて、余計な物を取り去って、完成された絵画や動画のようなシンプルさ。

 そして最初から最後まで、射手の手と意識によってのみ左右される結果。

 そういうのをひっくるめて、美しさと言っている・・・のだと思う、多分。

 そのワリには服装はシンプルじゃないが、そこら辺は趣味の領域だろう。

 

 まぁ、そういった美意識からしてみると、オートでホーミングする呪矢とかは今ひとつ受け入れ難いらしい。

 ただ、利便性が高いのは認めていたし、上手に飛ばせれば演出効果も高いので、この辺は使い方次第である。

 

 

 

 

 

 つまり見た目を上手く使って演出すれば、某フつくしい魔闘家・鈴木のレインボー・サイクロンが(あまり効かないという結果も含め)再現できるかもしれませんな。

 ところでSFC時代、あの漫画を原作にしたゲームで専用のBGM(あまつさえ歌詞まで作られている)に、信じて送り出された彼女並みにド嵌りしていた記憶が蘇ったんじゃが…。

 確か題名が、「イクぞ!(シリヲカソウ) 僕らの鈴木の唄」だったっけ?

 ・・・カタカナの部分が何か違った気がするな。

 生かすぞ、だったっけ?

 …これもちょっと違う気が。

 

 

 うおおおお、頭の中でエンドレス!

 聞かなくなってから十年以上、この世界の濃度の濃いゴタゴタを超えて、尚も無駄に高い再現度でBGMが垂れ流しに!!

 ああイカン聞きたい歌いたい叫びたいナターシャさん風に替え歌したい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身悶えしていたら背後から脳天を射られました。

 避け損ねて矢鴨みたいになったまま日記を書いてるけど私は元気です。

 

 

 

 

 だがそんな事よりも、俺の地力が低いのが最大の問題だと断言された。

 短期間であろうと、自分のパートナーが弓の扱いが下手なのが我慢できないらしい。

 レジェンドラスタとして活動している時なら自重もしたようだが、今は調査のための一介のハンター。

 猛烈なスパルタで弓の扱いを叩き込んでくれておりますれば。

 

 

 

 弓の扱いよりも、尻を狙った矢を避けるのが上手くなった一日目。

 

 

 

 

 

P3G月獣欲、業を制する日

 

 

 ヤワラって素晴らしい二日目。

 

 

 いやなんというかもう、底力ってスゲェわ。

 何があったって、雪山での調査中に、崖の近くでキャンプして肉を焼いてたんだが・・・そのニオイに引き寄せられたらしいティガに奇襲を食らった。

 

 「この際生肉でもいいかな」と思う程度には空腹を堪えつつ、こんがり肉を焼いてた俺に飛び掛ってきたんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして気がつけばティガレックスの顔面を腕と脇でホールドし、バックドロップ・・・というより巴投げの要領で崖に放り出していた。

 逆さまに落っこちていくティガレックスに、俺もナターシャさんも唖然としていたよ。

 落下した結果、首の骨をやっちゃってティガはお陀仏。

 潰れたトマトになってなかったのは流石と言うべきだろうか。

 

 とりあえず、こんがり肉はGな感じに焼けたので、美味しくいただきました……ナターシャさんに取られたけどね。

 この恨み忘れるものか。

 

 

 

P3G月幽霊の正体見たりチャガナブル日

 

 弓を討ったり射られたりしつつ、上位領域を探索し続けた結果。

 そろそろ本格的に、何か起きそうだ。 

 ナターシャさんのカンもそう叫んでいるらしいし、俺の首筋と霊感もチリチリする。

 

 これまで調査を続けてきたが、正直な話、あまりめぼしい成果は上げられていない。

 確かに普段とは違う行動をしているモンスターは多かったが、その原因は不明だし、行動にしても大騒ぎするようなものでもない。

 以前やりあったようなジンオウガ異常個体のような奴らもいるかと思ってたんだが、それも無し。

 

 …こういうパターンだと、大抵トンでもないのが控えてるんだよな…。

 嵐の前の静けさが静かであればある程、嵐は大きくなる。

 

 一端武器を弓から太刀に戻す。

 普段は文句を言うナターシャさんだけど、今回ばかりは一言二言で終わった。

 

 二人で手分けしてアイテムその他を徹底的に準備し、有事に備える。

 この1件を乗り切れば、何かしらの進展は得られると思う。

 それでナターシャさんの任務も終わり、って事になるのかね。

 ちょいと寂しいが…まぁ、そうも言っていられんか。

 デスワープでもしてしまったら、それこそナターシャさんとは会った事も無いって事になってしまうし、逆にナターシャさんだけが…なんてことになったら寂しいとかいうレベルじゃない。

 何とか生き延びるとしよう。

 

 

 

 

 

P3G月意地を張るより食い意地を張ればアラガミに至る日

 

 凡その予想はしていたが、やはり来た。

 モンスターの群れの襲撃だ。

 小型・中型モンスターがメイン、その他数体の大型モンスターだったが、その数と種類が圧巻だった。

 この辺で出てくる中型以下のモンスターが全種類居るんじゃないかってレベルの。

 

 一体一体は大した事はないが、妙に連携を取ってきたし、倒しても倒してもキリが無かった。

 まぁ、それ自体は予測されていた事だ。

 大型モンスターを複数の中小型モンスターが倒そうと思ったら、数の力に頼るだけでは足りない。

 何らかの理由で、明確な指示の元に統率されているのではないか、というのは、俺とナターシャさんの調査から出た、予測のような確定事項だった。

 

 ただ、思っていたよりもずっと大規模で、大勢だったというだけで。

 

 

 弓は大勢を相手にするのには向いてないんだよなぁ…、

 引き絞ってタメて、狙って放って逃げて…しかもほぼ定点攻撃。

 ナターシャさんもやり辛そうだった。

 

 それでも本人の力と装備の力の相乗効果で、最大タメしてない拡散弓でザコを一掃するのは凄かったが。

 

 

 さて、それはそれとして。

 俺も延々と斬りまくって、なんとか攻勢を退けられた。

 幸いと言うべきか、狙いはあくまで俺とナターシャさんだったらしく、討ち漏らしがユクモ村に向かってくるような事は無かったようだ。

 ハンターを狙い打ちにしてきたというのも問題だが、それ以上に問題なのは、この異常事態の原因だ。

 

 

 仕留め損ねたが、やはりあの異常なクルペッコが居た。

 アレの声に従って、襲ってきたモンスター達は連携を取っていたように思える。

 

 半ば予想はしていた事だが……統率型クルペッコとでも呼ぼうかな。

 しかし、ナターシャさんはこの名前に首を傾げていた。

 名前が率直過ぎるとか美しくないとかではなく、どうにもシックリ来ないらしい。

 何か違和感があるそうだ。

 

 

 呼び方の是非はともかくとして、思ったより自体は差し迫っているようだ。

 今回襲ってきたモンスター達は『上位』で、俺達が襲われた場所は上位に近い『下位』の領域だった。

 あのクルペッコの目的や生態は分からないが、上位下位の領域を超えさせるような強制力があると見ていい。

 狩猟環境不安定ってレベルじゃない。

 ヒヨッコのハンターの仕事に、上位モンスターが突然出現する可能性が出てきたのだ。

 それが繰り返され、範囲が広がっていけば、ユクモ村がモンスターに直接カチコミを喰らう未来もそう遠くないだろう。

 

 ナターシャさんが帰る前に、あのクルペッコだけは仕留めなければ。

 

 

 

P3G月錆びてもクシャ日

 

 色々と逸っていたが、ナターシャさんに蹴っ飛ばされて、一日休みを取らされた。

 …何とか落ち着いたよ。

 落ち着きすぎて、シモとアルコールが欲求不満になってる事も自覚しちゃったが。

 

 

 欲求不満はともかくとして、今回の襲撃で、あのクルペッコの手駒は大分減った筈だ。

 あれだけのモンスター達が一度に倒れれば、生態系に深刻なダメージが入る事すら考えられる。

 あのクルペッコがどれだけの数を、どれくらいの時間をかけて編成したのかは分からないが、体を休めて、そして間を置かずに追撃をかければ、仕留めるのはそこまで難しくない筈だ。

 

 

 

 

 だが何故にこんなにフラグが建っている気配がするのかッ……!

 

 

 

P3G月ミラボレアスの呪いも信心から日

 

 統率型クルペッコを追いかけて、上位領域のキャンプでお泊り。

 美人で露出度高いおねーさんと、星空の下でお泊り。

 …色気のある展開が欲しくなってきますね。

 いや、ナターシャさんはお色気たっぷりなんだけど…ちょっと残念美人のケがあるが。

 

 それはそれとして、やはり上位領域のモンスター達が少し少ない気がする。

 やはり先日の一件で、数を減らしているのか。

 

 …それはそれで厄介な話だ。

 今回襲ってくる敵が少ないのはいい事だが、統率型クルペッコが残った戦力を手元に集めている可能性があるし、何よりも生き残ったモンスター同士で縄張り争いが激化する。

 焙れたモンスターが人里に向かってくるかもしれない。

 厄介な事になったものだ。

 

 

 それはそれとして、ナターシャさんがいつになく厳しい顔をしている。

 あんなに厳しい顔をしているのは、毎朝の服装チェックの時くらいだ。

 

 何事かと思ったら、「殺気が溢れかえっている」だそうだ。

 確かに、俺も妙な圧迫感を感じている。

 霊力とかじゃなくて、なんといえばいいのか……迫ってくる壁?

 助けてくれぇ!

 …じゃないな、そんな無機質な感じのじゃなくて、もっとこう、雑多な何かが大挙して押し寄せてきているような。

 

 もっとこう、ヒステリックな何かが感じられる気がする。

 …理屈で言えば、統率型クルペッコも無傷ではないし、以前の狩りよりは楽になるかもしれない。

 上位領域の何処かに潜んでいる統率型クルペッコの痕跡も、既に掴んだ。

 

 だが手負いの獣は何とやらと言うし、やはり楽には行きそうにない。

 

 

 この按配だと、太刀よりも大剣の方が良さそうだ。

 盾になる、攻撃範囲が広い、そして通称デンプシーという延々と続く攻撃もある。

 溜め斬り?

 GE的チャージアタックもあって有効なのは確かだが、今回はザコ敵がゾロゾロ出るのが予想される為、動きが止まるのは良くないし、あまり一撃だけの火力を高めても意味がなさそうだ。

 只管に高火力の一撃より、そこそこ火力の在る手数の方が優先される。

 

 

 

 景気付けというか心を落ち着かせるには異性の温もりが定番なんだが、水浴びしているナターシャさんをこっそり見学しちゃ駄目かなぁ…。

 そこそこ好感度はあると思うし、狩りの後の昂ぶりが上手く噛みあえばおヘソくらい触らせてくれるよーな気がします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P3G月カエルでガノトトスを釣り、ガノトトスでラギアクルスを釣る日

 

 

 今日も元気だ酒がウマイッ!!

 

 最近禁酒してたけど、今回ばかりは解禁ッス!

 流石に今度ばかりは死ぬかと思ったッス!

 隣で達人ビールをカパカパ呑んでるナターシャさん諸共、本気で死ぬかと思ったワイ。

 

 G級並みの実力を持つナターシャさんでも、まさか上位でここまで死を身近に感じるとは思わなかった。

 そう言わしめるくらいの死地だった。

 

 何があったのかって言われると、あった事は単純。

 前回同様、小~中型を中心にした群れに襲われただけだ。

 無論、あのクルペッコに率いられた連中で、その数自体は以前よりは少なかった。

 そして散々苦労したが、問題のクルペッコを仕留める事もできた。

 

 

 予想外だったのは、あのクルペッコ……想像していた以上にタチが悪かった。

 

 

 そもそも、アレを「統率型」クルペッコだと思っていたのが間違いだった。

 ナターシャさんが統率型クルペッコという呼び名に対して違和感を持っていたのは、多分この為だ…どんだけカンがいいのやら。

 

 で、あのクルペッコが統率型ではないなら何かというと……そうだな、「煽動型」クルペッコ、とでも表現すればいいんだろうか。

 

 どう違うのか?と言うと…まぁ文字通り、あのクルペッコはモンスター達に指示出しなんぞしていなかったって事だ。

 あのモンスター達の群れは、一つの命令系統で動く群隊ではない。

 文字通り烏合の衆と言えるだろう。

 

 だが烏合の衆と言えど、数が集まり、勢いを増せば郡以上の脅威になる。

 例えば……あーアレだ、中世ヨーロッパやら戦国時代やらで流行ったような、暴徒と化した民衆の一揆やら革命やらをイメージすればいいと思う。

 軍略も戦略も戦術も無しに、被害が出ようが誰を途中で弾き飛ばそうが、鍬やら斧やら握り締めて、血走った目での集団スタンピード。

 

 コエェよ。

 強いとか弱いとか言う以前にマジ怖い。

 

 しかも、煽動型と銘打たれたのは伊達ではない(銘打ったのは俺だが)

 煽動というのにも色々あるが、ここで重要なのは二つ。

 周囲の人々(この場合モンスターだが)を煽り、行動を起こさせる事。

 そして、自分の気持ち(建前の場合も多々あるが)を周囲に伝染させる事だ。

 

 指示していたと思えていたのは、これだったんだろう。

 大型のモンスターを狩る、ハンターを逆に狩るというのがどういう感情と損得の元に行われる行為なのかはともかくとして、小型モンスター達が強者である筈の大型モンスターを恐れず立ち向かう。

 …というよりは、自分達の被害を考えずに押し寄せる。

 

 死兵の群れが押し寄せるようなもんだ。

 そりゃ大型でも負けるわ。

 

 

 

 そして最もタチが悪かったところは、あのクルペッコ自身はまるで煽られていないって事だ。

 つまり、煽るだけ煽って周囲のモンスターを死兵に変えたら、自分自身はその場でドロン。

 ケツ捲くって逃げるのだ。

 そして遠目から死兵と獲物の様子を伺い、勝ったならそれで良し、勝てなければまた周囲を煽って死兵を作る。

 

 …そして自分自身はほぼノーリスク、無責任な逃走。

 

 

 

 本気でタチが悪い。

 弱肉強食、食って食われてナンボの世界で善悪の概念を持ち出しても仕方ないが、あのクルペッコは間違いなく「悪」だろう。

 自分がリスクを少なくして獲物を仕留める為に、周囲のモンスターの命を使い捨てにしているようなもんだ。

 効率はいいだろうが、生き延びる為の工夫だと褒める気にはなれない。

 煽られるのが小中大型モンスターを問わない辺り、話に聞いた狂竜病よりタチが悪い。

 

 これはアレだな、吐き気を催す邪悪呼ばわりされても仕方なかろう。

 

 

 

 

 いやー、しかしあのクルペッコを仕留めたナターシャさんの連射はマジで凄かったわ・・・。

 レジェンドラスタの真髄を垣間見た感じだった。

 死兵が少なくなってきて、新たな兵を補充する為に姿を見せた煽動型クルペッコ。

 丁度そのタイミングで、俺がモンスターの突進を止め損ねてナターシャさんがフラアウェ~イして、しまった!と思ったよ。

 でも空中で回転して体勢を立て直し、続いて突進してきたドスファンゴの背中を蹴って悪魔も泣き出しそうなエネミーステップ。

 そして空中からの一点集中超連射。

 

 見事に煽動型クルペッコの喉元を何本もの矢で射抜いて見せた。

 しかも明らかに弓のリーチから外れているくらいの長距離から。

 

 

 

 あれは俺には無理だわ…。

 討鬼伝世界の呪矢とかを使っても、あれほどの威力と正確性を併せ持った連射は無理だわ…少なくとも今は。

 

 ナターシャさんとは色々と美しさについて語り合ったり(ちょっと意味深)した仲だが、あれほどの美しさは無かった。

 そりゃ褒め称えもするよ…。

 だが、本人的には敵の攻撃を受けてのカウンター、という時点でお話にならないらしい。

 褒められるのは悪い気はしないみたいだが、今ひとつ不満げだった。

 

 

 

 ま、それにしたってG級並み(とナターシャさんは言っている)の厄介なクエストをクリアしたのだ。

 お祝いに呑んだって構うまい。

 

 しかしナターシャさん、酒に強いねー。

 以前からたまーに、話題に飲み比べで負かして下僕にされた誰かの話を聞いてたから、呑み比べの誘いはのらりくらりと避けてるけど。

 丁度、村長さんが通りかかったので、身代わりにしてみた。

 …こっちもかなり強い。

 さすがは竜人族。

 

 

 

 

 ああ、それにしても…ナターシャさんとの仕事も、そろそろ終わりか。

 異常な行動の原因だったと思われる煽動型クルペッコも倒した。

 煽動型が産まれた原因が分からないのは…気になるが、異常個体は珍しくないらしいし。

 

 

 寂しいが…ま、元々のスタイルに戻るだけだな。

 ナターシャさんには、俺がここに居る事は秘密にしてもらうよう念押しした。

 A.BEEさんに見つかって追い回されるのは御免蒙る。

 幸い、ナターシャさんは「腐」の方面には美しさを全く感じないタイプの人のようだから、密告する心配もないだろう。

 

 さて、俺も日記はこの辺にして、もうちょっと呑むかな…。

 

 

 

 

 

P3G月一狩り万銭日

 

 

 予想通り、ナターシャさんのお仕事終了が近いそうだ。

 それはいいんだが、宴会が終わっても何度も呑み比べに誘われるのは何故だろう。

 確かにナターシャさんは美人でビューテホーで女王様っぽい人だけど、俺は下僕呼ばわりされてゾクゾクするような感性は(あまり)持ってないよ。

 

 それはともかく、「残り少ない期間だけど、もっと弓の美しい扱いを仕込んであげるわ」ってまたスパルタが始まっている。

 キツいと言えばキツいが、まぁ許容範囲内かな。

 と言うかこれ、ナターシャさんに弟子入りしたって事になるんだろうか。

 

 

 

 にしても、何だな。

 先日の煽動型クルペッコとやりあった辺りから、俺の中のノッペラミタマ達がちょっと騒いでいる。

 死線を潜った事で霊力が昂ぶってたみたいだから、もうちょっとでパワーアップできそうな感じだったんだが…生憎、今回は何も無しのようだ。

 残念。

 

 

 

 

P3G月狩心あれば獲物心日

 

 

 トロピカルヤッホーーーーーー!!!

 

 ナターシャさんが、帰っていってしまったよ…いや別にそれでハシャいでるんじゃないよ。

 弓の扱いのスパルタ特訓も、かつてのツバキ教官とかの特訓に比べれば………あれ、よく考えたらあんまり辛くなかったな………まぁ、とにかくそこまでキツくなかった。

 

 んじゃ何でこんなにハシャいでるかって?

 

 

 

 

 

 

 

 去り際に ナターシャさんが  頬にキスしてくれました。

 

 

 

 

 

 

 「短い間だったけど、結構いい線行ってたわよ。 これは餞別ね」

 

 とか言って、チュッと。

 

 おおおおお、なんだこのむず痒い感じ。

 もっとエロエロで過激でヒワイで退廃的な事を、かつて……特にアリサやら那木やら橘花やらに散々散々散々散々ヤりまくっていたというのに!

 あの頃とは違う、そしてあれらに匹敵するくらいの高揚がッ!

 なんかこう、甘酸っぱい感じの高揚がッ!

 

 そして颯爽と踵を返して、ガーグァ車に乗り込んでいったナターシャさん。

 耳とか頬が赤くなってたのを見逃しませんでした。

 ひょっとして、頬とは言え初チュー?

 流石に聞ける状況じゃなかったけど。

 

 

 …これはアレだ、期待してよかったんだろうか?

 もっと積極的に言い寄っておくべきだったんだろうか?

 

 

 

 

 

 いやいや、待った待った。

 男としてそうするべきだったのかもしれんが、何の為に山篭りしてたのか思い出せ。

 A.BEEさんから逃げる為というのもあるが、そもそも前回の討鬼伝世界でのように、色欲に溺れない為だったろう。

 いくらナターシャさんに脈アリと見たとて、いきなり色恋性愛に突っ込んでどうする。

 

 …惜しい。

 どうかんがえても色々な意味で惜しかったが、ここは修行の成果が出たと思っておくか。

 それに、がっつかないからこそ、ナターシャさんの好感度が高くなったんだと思うし。

 

 

 

 でもやっぱ惜しい…。

 

 

 

 




寒くて運動しに行く気にならない…。
早く春にならないかなぁ。
そうなったら眠くて運動しに行く気になれないけど。


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43話

ほほう、GE2レイジバースト体験版が2月初旬発売と。


すみません、ちょっとだけ愚痴と本音を。
仕事ですけど、頭のおかしな客多すぎ。










そしてそろそろアリサを弄びたくなってきた。


 

 

 

P3G月情けは狩りの為ならず日

 

 ナターシャさんが去って独り身になった俺は、またしても狩り場に篭る仙人生活に戻っております。

 色々と気になる事はあるし、暫くとは言え二人行動だったから、独り身の寒さが身に染みるが……その寂しさを狩りにぶつけるとしますかね。

 折角ナターシャさんから色々教わったんだし、しっかりモノにしてレベルアップせねば。

 そして今度ナターシャさんと会った時には、正面から堂々と口説けるように……いかんいかん、色即是空空即是色…意味は知らんけど。

 

 

 さて、それはともかく狩りの調子は悪くない。

 悪くないと言うよりは……うん、悪いって程ではないんだが、良くしようがない感じだ。

 先日倒した煽動型クルペッコの為か、生態系がメッチャクチャになってしまっているようだ。

 煽られ、向かってきたモンスター達を、かなりの数を切り捨てた。

 それらのモンスター達が持っていたナワバリを巡って、モンスター達が争っているようだ。

 この機に自分のナワバリを拡大しようとしているのか、それとも他所から入り込んできたモンスターが居るのか…。

 

 モンスター達のナワバリ争いが一段落するまで、暫く手を出さない方がいいかもしれない。

 調査に専念する事にした。

 

 

 

 

 専念する事にしたんだが……そういう時に限って何か起こるのが世の常だ。

 ナワバリ争いで混沌とした状態になっているのだし、何が起こっても不思議は無い。

 

 

 

 

 

 

 と言うかぶっちゃけイビルジョーっぽい痕跡発見。

 …メッチャクチャ状態のこの狩場に、あの悪魔のゴーヤが乱入して大丈夫かね…。

 本気でナニカの種族が滅ぶんじゃなかろうか?

 

 

 

 

NTD3DS月狩り制限時間矢の如し日

 

 新しい月に突入。

 俺は相変わらず、イビルジョーを始めとした各種調査の真っ最中だ。

 しかし妙である。

 イビルジョーの痕跡は確かにあるのに、追いかけていっても姿が見当たらない。

 代わりに、途中まで進むと、なんかこう……すっごいイヤな気配を感じる。

 

 いや気配と言うか……気のせいでなければ、あれは霊気じゃないか?

 ヤバい気配だけはビリビリ伝わってくるのに、姿が見えない。

 ……なんか、こう……煽動型クルペッコ以上にヤバそうなんだよなぁ…。

 

 

 

NTD3DS月過ぎたるは準備不足に勝る日

 

 霊力を感じるのが気のせいではなかったら?と考えて、ジエン・モーランから取れた紅玉の事を思い出した。

 村長さんに問い合わせてみたところ、例の失踪した研究員の足跡を追っているところらしい。

 しかし、これがまたおかしな話らしく、砂漠で俺から紅玉を掻っ攫った後、あの研究員は…どうやらユクモ村付近に向かって来ていたらしい。

 

 だがこんな小さな村で、その研究員の目撃情報が無いというのもおかしな話だ。

 そもそもからして、こんな小さな何も無い村を訪ねてきてどうする。

 隠れるにしたって、隠れ場所すらないよ。

 

 という事は、研究員(或いはそれを操っている紅玉)の狙いは他のもの。

 村の外にある何か、か。

 強いて言うなら、何時の間にやら経営されていた農場にある、古龍骨を使わないと採掘できないあのデカい剣か…?

 

 でもあそこに常駐しているアイルーからも、誰かが来たという話しは聞けなかった。

 …まぁ、普通は古龍なんて来ないからな。

 古龍骨だって手に入らないやな。

 

 しかし、そうなると益々分からない。

 研究員は村付近に来て(恐らくは村に入りもせず)、何をして何処に行ったのか…。

 謎は深まるばかりである。

 

 

 

NTD3DS月背よりハラワタが美味日

 

 レジェンドラスタが二人来た。

 …いや、ホント寝耳に水なんですけど。

 

 来たのはキースという太刀使いの男…というか武士っぽい人と、フローラと言う片手剣使いの女性。

 一体何用でこんな辺境まで?と聞いたところ、単に他の仕事の帰りに寄っただけとか。

 …なんだよ、ラスタとして来てた訳じゃないのね。

 

 ただ、狩りを手伝ってはくれるらしい。

 え、ナニソレ?結局どういう事?と思ってよくよく聞いてみたところ、そもそもこの二人がユクモ村を訪れたのは、フローラさんの先輩こと、ナターシャさんに俺の話を聞いたかららしい。

 フローラさんは、先輩が珍しく他人の事を好意的に話しているのを聞いて興味を持って。

 キースさんは、同じくナターシャさんから俺の独特の太刀の使い方を聞いて興味を持った。

 更に言うなら、手をかざしただけで傷を癒す特殊能力にも興味があるとか。

 

 それでユクモ村まで寄り道してみたはいいのだけど……なんか、狩場の雰囲気がおかしい。

 妙な圧迫感を感じたそうだ……二人曰く、「まるで古龍でも出る前みたいな」「強敵が現れる予兆にゴザル」。

 

 …ひょっとしてこの二人、あの漂ってる霊力を感知してないか?

 

 まぁとにかく、二人としてはこのヤバそうな雰囲気を放っておけないらしい。

 ただ、よー分からんがレジェンドラスタの制約があるらしく、自分達だけでは狩りはできない。

 なので、俺に雇われたという形にしよう…という事になったらしい。

 

 

 

 …で、お値段は如何ほどで?

 

 

 

 

 

 

 

 

NTD3DS月損せず得も取る日

 

 

 異界のお金で1,000エン足らず、って安いと思っていいのかな。

 いやでも異界のお金って普通手に入らないし…。

 

 俺?

 俺はほら、GE世界でもう使われなくなった旧貨幣とかを都合よく集めてたりね。

 あと自分でもすっかり忘れてたけど、「ふくろ」の一番奥に何故か元の世界の財布が詰め込まれてたり…。

 …いやその、実際のところ、どこをどうやって契約したのか今ひとつ覚えとらんですハイ。

 元々契約というのもある意味建前ではあるので、二人とも融通を利かせてくれたんだと思うけど。

 

 

 とにかくだ。

 このヤバげな状況で、レジェンドラスタが2人居るのは本当に有りがたい。

 念のために色々チェックしてみたが、キースさんに衆道の嗜みは無いみたいだし。

 

 代わりにキースさんに俺の太刀の使い方を見せる事になってしまったが、それはまぁいい。

 フローラさんに、ナターシャさんがどんな活躍をしたのか延々と語る事になったけど、まぁそれも良し。

 

 問題は、この二人が居る間に、あのヤバげな気配の元をどうにかせにゃならん、という事である。

 煽動型クルペッコみたいなのが、また出てこないとも限らない。

 

 

 

 

 ところでナターシャさんに、「ちゅー」されたのは黙っといた方がいいだろうか?

 

 

 

 

NTD3DS月美味い物食わす人にお礼しよう日

 

 キースさんにちょっとシモ系の話を振ってみた。

 大した理由は無い。

 久々に男同士のワイ談もいいんじゃないかと思っただけだ。

 

「ハレンチでござるぅぅぅぅぅ!!!!」

 

 と叫んで何処かに駆け出した。

 …それ、アンタじゃなくてバサラ…いやまぁいいけどさ。

 とにかく、キースさんにそっち系の話はアカン、と。

 

 

 

 それはともかく、狩場に溢れている違和感や圧迫感についてだが、キースさんとフローラさんは検討はついていたらしい。

 曰く、この感じは古龍・オオナヅチ…だと思う、そうだ。

 

 成程、確かに古龍であればこの強烈なプレッシャーも納得できるし、オオナヅチが姿を消していれば、そうと意識して無い限りまず見つけられないだろう。

 しかしオオナヅチにしては違和感があるとか。

 何度かオオナヅチと戦った事があるらしいのだが、基本的にオオナヅチはこんなプレッシャーを放たない。

 考えてみれば分かる事だが、姿を隠すのは自分の存在を隠し、気取られない為だ。

 あんな気配を放っていては、姿を隠す意味なぞ無くなってしまう。

 姿を隠しながら、自分の存在を誇示するような気配を放つ意味が分からない。

 

 考えられるのはオオナヅチではない何かが原因である事か……自分の意思では、この気配を抑えられない?

 でもそんな事あるのかな…。

 

 もう暫く調査が必要だ。

 

 

NTD3DS月メゼポルタに入っても慣れた狩りスタイルは崩すな日

 

 フローラさんが天然だ。

 別に悪口言う訳ではないのだが、話していると話題が明後日の方向にカッ飛んでいく。

 真面目に狩りの話をしようとしていた筈なのに、気がつけばナターシャさんを称える事になっていた。

 先輩として慕っているらしいけど、どんだけナターシャさんが好きですねん。

 いやまぁ、確かに高飛車キャラだけどアレで意外と面倒見がいい所はあるし、美人だし、分からない事はないけどさ。

 

 あと、よくセリフを噛む。

 しかも真面目な話をしている時に限って。

 今日も姿の見えないターゲットについて3人で話していた時、「閃きました! きっとアチェパ…!」って叫んで噛んだ。

 噛んで舌が痛かったのか、それとも単に恥ずかしかったのか、暫くプルプル震えていたと思ったら、突然何処かに駆け出してしまった。 

 一体何を閃いたのか、何を言いたかったのかは謎のままだ。

 「きっとアチェパ」っていうのは、「きっとアレは」を噛んだのだと思うが、どっちにしろ言おうとした内容には一切触れられて無い。

 

 付き合いがそれなりに長いらしいキースさんは、「そっとしておくのが武士の情けにござる」と言って心配してなかったから、大丈夫だとは思うけど…。

 

 

 

 

 寝る前にはフローラさんは、何時の間にやら戻ってきていた。

 

 

 

NTD3DS月朝令暮破日

 

 上位ラングロトラがフルボッコにされたまま放置されていた。

 鈍器で散々ドツき回されたみたいだ。

 いや、鈍器は鈍器なんだけど、ハンマーや狩猟笛にしては獲物が小さいみたいだ。

 …というか、これ片手剣のシールドバッシュ…。

 

 ジト目でフローラさんを見ると、空を見ながらヘタッピな口笛を吹いていた。

 どうやら昨日の、ここぞという所で噛んだ悔しさと恥ずかしさをぶつけていたらしい。

 …クエストでもないのに狩猟するのは、あまつさえ中途半端に手負いの獣を作って放置するのは、ハンター的にはご法度なんだが…。

 ひょっとして噛む度にやってるんじゃあるまいな?

 

 

 

 のヮの

 

 

 じゃねーよ。

 

 

 ところで、また妙な動きをするモンスターを発見した。

 今度はクルペッコではなく、ティガレックスだ。

 大きさや力強さを見るに、どうやら下位のティガレックスのようだが…それがフラフラと上位領域に入っていくという時点で普通ではない。

 

 しかも、何度か吼えるのを見たが、通常の咆哮とは少し違う。

 離れた所に居たため断定はできなかったが、あの咆哮には霊力…だったのかは分からないが、何かしらの力が乗せられていたような気がする。

 

 

 …今度はティガレックスが煽動型になるのか?

 それはちょっと洒落にならんな…。

 しかし、下位とは言え食物連鎖の中において、強者・捕食者と言えるティガレックスに、煽動なんて能力が必要だろうか?

 まだ煽動型だと決まった訳ではないが、仮にそうだった場合…どうにも不自然さを感じる。

 自然の中で生き延びる為に進化したのではなく、なんというか……外付けっぽい?

 

 よくよく考えてみると、あの煽動型クルペッコだってそうだ。

 突然変異と言ってしまうのは簡単だが、単なる声マネから一気に進化しすぎてないか?

 

 でもなぁ、生物に外付けの機能を付け加えるなんて事できるのかね。

 見たところ、体を改造されたって訳でもないようだったし…。

 

 

 

 仮に、仮にだ。

 

 あのティガレックスと、煽動型クルペッコ、そしてオオナヅチと思しきプレッシャーの主…。

 ひょっとしたら、未だに発見できないイビルジョー。

 これらが何かで繋がっているとしたら、それは何だ?

 共通しているのは、異常な能力と行動のみ。

 

 う~~ん…分からん…。

 

 

 

 

NTD3DS月経験豊富な先輩は金の剣を持ってでも探せ日

 

 太刀の扱いについて、キースさんとちょっと揉めた。

 まぁ、明らかに普通のハンターじゃ使わない力使ってるからな。

 それは別にいい。

 流派の違いって事で納得してくれた。

 

 

 が、これは俺だけではなくハンター全般に言える事らしいが、太刀の扱いが全くなってない!だそうな。

 太刀を使った戦いという意味ではなく、普段の手入れ、礼儀礼節、その他諸々が全く見受けられないとか。

 

 …うーむ、そう言われると確かに。

 刀(太刀とは微妙に別物だが)はハンターにとって、大事な武器では在るが道具以上の物じゃないからな。

 手入れだってしてはいるが、精々が砥石を使って研ぐくらいだし、本格的な手入れは専門家に預ける程度しかできない。

 あまつさえ、「道具」を扱うのに、至上の宝石を相手にするような礼儀何ぞ払う筈も無い。

 

 特に俺の、納刀時の音とかが我慢ならなかったようだ。

 普通は自慢げに鳴らすようなものじゃない、と言うか手入れもできてない未熟者の証だからなぁ…。

 あと、狩りが終わって寝床に帰った時、道具入れにホイッと投げたのも。

 

 それが切欠で、色々と愚痴が噴出してしまったようだ。

 フローラさんの「格好いいじゃないですか!」って援護も、火に油を注ぐだけだ。

 

 ハンターは武士ではないって事は分かっていても、我慢ならなかったか…。

 ま、一晩くらいは愚痴きいてやるとしますかね。

 

 

 

NTD3DS月桃栗3年、狩り100乙日

 

 

 一晩愚痴を聞いたら、何とか治まってくれた。

 何となくだが、キースさんの武器にかけるアツいオモイを受け取ったような気がする…。

 これがペルソナ辺りならコミュニティが出来てるカンジだ。

 

 真面目な話、キースさんの強さの秘密の一端はここにあるんじゃなかろーか。

 あの人、気の練り上げがスゴイ。

 ゲームで言えば、2,3度敵を攻撃しただけで錬気ゲージが即マックスになる感じだ。

 それくらいに集中して、武器を振るっているんだろう。

 その思い入れを築き上げているのが、普通のハンターなら気にもしないような、武器に対する礼儀や丁重な扱いの数々と言う訳だ。

 

 考えてみれば、討鬼伝式の霊力の扱いだって、そういう仰々しい動作をしたり、事前に禊をして身を清める事で効果を高める事例はある。

 意外な所から繋がってきたな。

 …キースさんに、霊力の扱いを教えてみようかな?と思ったんだが…残念ながら、「拙者のようなケツの青い未熟者には、過分な業にゴザル」って言われたよ。

 霊力という脇道に逸れるより、純粋に太刀の技術を極めたいって言いたいんだと思うが……アンタがケツの青い未熟者だってんなら、俺はどうなんだよ。

 そこらの太刀使いが門前払いランクになってしまうわ。

 

 

 

 それはそれとして、フローラさんが一計を案じていた。

 遅々として進まない調査に業を煮やしたらしい。

 あのプレッシャーの主を焙りだそうとしているようなんだが……あの天然さんの作戦とか、全くいい予感がしないな。

 せめて森に壊滅的な被害が出ないように祈っておこう。

 

 

 

NTD3DS月回復薬の切れ目が命の切れ目日

 

 モスフェイクという装備を知っているだろうか。

 文字通り、モスの頭をかたどった装備だ。

 他にもドスランポスの頭だったり、デカいイノシシの頭だったり、どう見ても仮装にしか見えない装備が色々ある。

 さてここで問題なのだが、これらのようなモンスターを象った装備は、頭部にしか無いのだろうか?

 

 いやいや、そんな筈は無いメジャーではないし、実用性も低いが、体の方の装備もある。

 しかも、防御力とかを重視したものではなくて、カモフラージュをメインに作られた装備が。

 多分、これはゲームには出てこなかっただろう。

 もしもゲームに実装されていたら、フル装備にしてしゃがめば、そのモンスターに擬態できるとかの機能がついたかもしれない。

 

 そーだな、もう記憶に薄っすらとしか残ってないが、スタジオズブリ(…こんな刺した擬音みたいな名前だったっけ?)が作っていた物の怪王女(…もうちょっと和風だったような)のキャラが似たような事してたな。

 獣の皮を被って動く事で、獣の目と鼻を誤魔化すっていう。

 

 

 話が逸れたが、要するにフローラさんの作戦はそれだった。

 モンスターに化けて狩場を徘徊すれば、何か普段と違う発見があるんじゃないかって事だ。

 天然さんが考えたとは思えない程度には、マトモな作戦だった。

 

 

 

 

 

 よりにもよって子供のイビルジョーに化けよう、なんて言い出さなければね!

 

 

 

 フローラさんがイビルジョーに拘った為、あちこちの狩場に出向いてイビルジョーを探してます。

 しかも子供…最小金冠でもいいけど。

 どっちにしろ、俺も上位に入ってそこそこの狩りをこなしてるけど、イビルジョーってまだ戦ってないんじゃが…遭遇すらしてないよ。

 しかも何で子供?

 

 

 

 大人のイビルジョーだと、大きすぎて3人がかりでも化けられない?

 …いや、そりゃそうだけどさ…。

 

 

 「本当はゴーモンにしようかと思ったんだけど、この近くには居ないから」って言ってたが、ゴーモンって何だゴーモンって。

 そんな生物をムダに痛めつける為に産まれてきたようなモンスターが居るのか。

 

 

 キースさんは逆らうだけムダと思っているのか、それともこれも修行の内と考えているのか、特に反論する事もなく狩りをしている。

 俺ももうちょっと反論したかったが、「じゃあ他にいい考えがあるんですか?」って言われると何も言えなかった。

 唯一言えた、イビルジョーに拘る事はないんじゃないかって反論は……。

 

 

「でもイビルジョーって何だか可愛くありません?」

 

 

 という謎の言葉に叩き潰された。

 カワイイ…?

 アレが…?

 

 ディスプレイ越しにしか見たことは無いけど、とてもそんな形容詞が当てはまるナマモノには見えなかったが…。

 ゴーヤっぽいのがカワイイ?

 ……分からん…。

 

 

 

NTD3DS月蓼食うモンスターも好き好き日

 

 幸か不幸か、イビルジョーは相変わらず見つからない。

 フローラさんのイビルジョーに対する執着も、ご飯食べたら大分薄れていた。

 

 …でも真面目な話、モンスターに化けるというのは有効やもしれん。

 プレッシャーの主がハンターを警戒して姿を見せないというなら、ハンターではなく獲物を装って行ってみよう。

 

 そういう事になったので、モス・ポポ・ファンゴの皮を調達した一日でした。

 チョイスの理由は、食物連鎖で頻繁に食われる側であり、一人で化けられるタイプ。

 …至極どうでもいい事だが、この3種はフローラさん的にはあまり可愛くないらしい。

 

 

 

 

NTD3DS月冬は曙、凍土とかマジ死ぬ日

 

 フローラさんは意外と欲望に素直なようです。

 食欲とか睡眠欲とか。

 …性欲も割りと。

 

 いや、何があったかなんて言わないよ?

 別に俺とナニかあった訳じゃないし、ましてキースさんとハレンチでござるぅぅぅしてた訳でもないし。

 

 …ただね、昨日の夜中にトイレに起き出した時に……なんだその、一人遊びの声がね…。

 ついつい(ミタマの隠密まで使って)聞き耳を立ててしまった俺に罪は無いと主張する。

 

 なんというか、結構旺盛でいらした。

 まぁ、ここ暫く何だかんだで狩りばっかりだったし、狩りの後の火照りや疼きを持て余してたんだろう、多分。

 

 ただねー、イタしてる時にねー、先輩先輩って……ナターシャさんの事ですよね?

 マジでソッチ系の趣味の人だったの?

 

 

 

 と思っていたら、「やっぱり先輩は好きだけど、あんまり気持ちよくならないよ…」って聞こえて。

 今度は俺やキースさんの名前で再開した。

 …俺がオカズにされる所に立ち会う日が来るとは…。

 

 

 その場で突入してイロイロやってみたかったが、修行の成果で何とか抑え込めました……トイレ行く方が先だったしね。

 

 でもアレやな、異性として見られてはいるが、恋人とかそーいうのはあんまり考えてなさそうだな。

 口説いていけば、セフレくらいにはなれるかもしれない。

 

 

 

 

NTD3DS月モスを笑う者はモスに死ぬ(一話冒頭参照)日

 

 

 突発的かつ無意味なエロイベントにも心を乱されず、モンスターに化けて狩場をウロウロする事2日。

 これで何もなければ、フローラさんにちょっかい出してみようかなー、なんて思ってたんだが……起きましたよ、イベント。

 

 それもとんでもない厄ネタを予感させるのが。

 

 適当に狩場をウロウロして、時々擬態にひっかかって飛び掛ってくるティガとかナルガとかを張り倒し、段々面倒くさくなってきた頃だった。

 何となく崖の上に立って、風を感じつつ格好つけてみたりしていたんだが……ちょうど崖の真下をウロウロしていたベリオロスが、突然死んだ。

 

 

 

 見つけたのはキースさん。

 「ちょ、ちょっと見るでゴザル!」っていきなり大声出すから何かと思った。

 で、気配を消しつつ下を覗き込んだら、周囲に何も居ないのに、ベリオロスが血を噴出して倒れて、そしてエライ勢いで削れていった。

 

 

 何を書いているのかサッパリだと思うが、俺もマジでサッパリだった。

 …でもなー、あそこになぁ……何か居るのはすぐ分かったよ。

 姿が見えないモンスター…ま、オオナヅチだと思うよな?

 俺達も、あのプレッシャーの主がオオナヅチだって仮定して探し回ってたんだから。

 

 だけど、フローラさんとキースさんが、「あれはオオナヅチじゃない」と言い出した。

 そもそもオオナヅチはベリオロスを襲ったりしないらしい。

 言われてみれば、確かにオオナヅチのメインウェポンは舌。

 口の形からして、獲物に喰らいついて肉を引きちぎる感じはしない。

 

 

 んじゃ、アレは何だ?

 

 

 

 

 

 信じられない話だが……あれはイビルジョーだ。

 

 

 

 

 

 姿は見えない。

 でもよく見ればその足跡らしきモノもあったし、何より僅かに残ったベリオロスの残骸に付着していた毛やら鱗やらを見たところ、間違いなくイビルジョーのものだとレジェンドラスタ二人から証言が出た。

 

 

 

 姿の見えないイビルジョー?

 なにそれコワイ。

 

 

 

 

 そしてもう一つの問題は……イビルジョーが零したと思われる、『霊力』。

 この世界のモンスターは持っていない筈の力が、あのイビルジョーの居た場所から感じ取れる。

 

 

 

 ……この世界で霊力を持ってるヤツって言ったら…俺、(ひょっとしたら)ミラボレアス、そして…行方不明になっているジエン・モーランから取れた紅玉。

 

 

 

 厄介な事になってきた…。

 

 




うーむ…外伝どうしようかな…。
アサシンクリードで鷹の目を会得させるか、新世界樹の迷宮2やって変身をコントロールさせるか…。
いや、少なくとも変身はGE2RBの内容次第。


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第44話+外伝2

GE2RBの配信が始まるまでのヒツマブシになれば幸いです。


NTD3DS月花より薬草日

 

 

 流石にこりゃヤバい、って事で一度村に戻ってきた。

 フローラさんもキースさんも、相手が相手だけに深刻な表情だ。

 

 見えないってだけでも厄介なのに、相手はイビルジョー。

 理性もクソもなく目に付く全てに喰らいつく、なんて言われている暴食の権化だ。

 今は狩場を彷徨っているようだが、運が悪ければ村に乱入する可能性だってあるし、何処か全く別の地域に流れて行って行方不明になってしまう可能性だってある。

 

 …というか、今正に行方不明になってる可能性もあるんだよな…。

 アレを討伐しに行くとして、どうやって見つけようか。

 いや、毀れた霊力を辿れば、俺は何とか見つけられると思うんだけど…。

 

 

 

 とりあえず具体的な対策はあの二人に任せるとして(聞き耳立ててたら、盛大に話が明後日の方向に逸れて行ってたが)、俺は霊気に元について考えてみた。

 まず、この世界に基本的に霊力は無い。

 これは今のところ大前提だ。

 しかしその大前提を覆したのが、あの紅玉。

 

 あの紅玉は、そこらに転がっているものか?

 ノー。

 紅玉自体珍しいが、それを抜きにしても他の紅玉に霊気は宿っていなかった筈。

 なら、この世にたった一つとは言わないまでも、そうそうお目にかかれるモノではないとして……それが同じ場所に二つ?

 いやいや、考え辛い。。

 

 となると、イビルジョーから霊力が漏れているのは、あのイビルジョーこそが、紅玉を現在持っているって事か?

 そう言えば、紅玉を持ち逃げした古龍研究所の研究者も、ユクモ村近辺で行方を晦ませた。

 で、以前に推察したとおり、紅玉が研究者の意識を操っているとしたら…。

 

 

 恐らく、古龍研究所の研究者は、既にイビルジョーの腹の中だろう。

 そして紅玉に宿る霊力によって、イビルジョーは……ひょっとしたら煽動型クルペッコも……本来では持ち得ない、異常な能力を得た?

 あー、でも煽動型クルペッコは違うか。

 あの紅玉が発見される前から煽動してたっぽいし…いやでも、あの頃はまだ統率型っぽかったような。

 …突然変異のクルペッコが元々居て、それが霊力を受けて更に煽動型になってしまった?

 

 

 …検証のしようが無い。

 

 

 でも、イビルジョーが紅玉を持っている(腹の中にあるのかもしれんが)のは確かだろう。

 そうでもなければ、突然イビルジョーが霊力を纏ったり、姿を消したりする理由が無い。

 …イビルジョーも、研究員同様に紅玉に操られている可能性もある。

 しかし、そうだとしたら紅玉の目的は何だ?

 モンスターに異常な能力を与えて強化する……まぁ、真っ先に被害を受けるのは人間だよな。

 というより、被捕食者全般が被害を受ける。

 

 何せ、よりにもよってイビルジョーだ。

 突然変異な訳でもないのに、生態系を狂わせる程の食欲を持った文字通りのモンスターだ。

 下手な古龍が力を得るよりもタチが悪い。

 

 …そう考えると、煽動型クルペッコとも一つ共通点が出来るな。

 両者とも、生態系に甚大な被害を与える可能性が高いって事だ。

 煽動型クルペッコは周辺のモンスターを暴走するレミングスに変え、イビルジョーは外敵の心配が殆ど無い状態で、その異常な食欲を満たす為に行動できる。

 

 

 

 …共通点と呼ぶには少々コジツケが過ぎるかもしれないが…。

 

 

 そういや忘れかけてたが、あの妙な動きをするティガレックスはどうなった?

 ひょっとしたら姿の見えないイビルジョーに食われてたりしてな。

 

 

 

 

NTD3DS月G級ハンターにも狩りの誤り日

 

 

 フローラさんの発案で、他のレジェンドラスタも呼ぶ事になった。

 と言うか俺が完全に除け者にされる事が決まってしまった。

 話の途中でリタイアさせる事になってしまった、とフローラさんは申し訳なさそうだった。

 しかし普段の天然気質とは全く違った表情で、これはもう決まりだと言い切った。

 

 いや、理由は分かるよ?

 フローラさんキースさん、ナターシャさんを見れば、今の俺はレジェンドラスタの人達には遠く及ばない事は簡単に分かる。

 姿の見えないイビルジョーなんてとんでもない代物を相手にするには、どう考えたって、どんなに下駄を履かせたって力不足だ。

 霊力やGEパワー、神機と言ったこの世界にない力を考慮に入れても、だ。

 

 それなら、足手まといになるのが目に見えている俺を無理に連れて行くより、確かな腕を持っている他のレジェンドラスタを2人呼んで、レジェンドラスタ4人組で挑んだ方がいい。

 何か色々と制約があるらしいレジェンドラスタだが、その分抜け道も多いって事か。

 

 しかしなぁ…なんかこう、納得がいかない…。

 これがゲームの話なら、多分主人公的立ち位置に居る俺が関わらなきゃ話にならんと思うのだが。

 でもこれってリアルの話だし。

 

 「ヤツはこの手で!」と言うほどの因縁も無い。

 いや、確かにあの紅玉を掘り出したのは俺だけどね?

 

 

 そうやってモヤモヤして拗ねている顔がカワイイ、って言われてもこれは嬉しくないなぁ。

 

 

 

NTD3DS月損して得とっても±0日

 

 レジェンドラスタを呼んで、到着するまで3日ほどかかるらしい。

 それまでの調査に協力する事は認めてもらった。

 

 ちなみに新しく来るのは、ナターシャさん…ではない、残念ながら。

 姿が見えず、よく動く相手には防御力が高い方がいい…という事で、ガンナーは無し。

 となると防御も固められて、盾にしても心が痛まな…もとい、壁役を任せられる人がいい、という事で、タイゾーさんなるガンランス使いと、エドワードさんなるランス使いを呼ぶそうな。

 ちなみに、盾にしても心が…の部分はキースさんである。

 表現はともかく、女性の背に隠れるなど男としてあってはならぬ、とかそんな話なんだろーか。

 まぁ、女性である前にハンターではあっても、言われてみると気にならないでもないか…。

 

 

 さて、それはともかくとして、例のイビルジョーが居るらしき周辺を探りまわってみた。

 キースさんが言うには、「ほぼ予測の範疇」との事。

 何がどう予測の範疇なのかよー分からんかったが、要するに行動範囲が大体予想通り、という意味らしい。

 イビルジョーは食べ物を求めてフラフラ彷徨う習性があるらしいのだが、周囲に多くの食べ物があるなら、無闇に移動する事は無い。

 通常のイビルジョーの食欲なら、暫くは移動する事は無さそうだ。

 

 うーむ、俺は毀れ出た霊力を基にしてイビルジョーを探そうとしてるんだが…流石にレジェンドラスタはパネェな。

 姿が見えないだけなら、案外経験則だけでどうにかしてしまえるんじゃないかと思えてきた。

 

 ま、それでも楽観は禁物。

 できる事はやってお

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきティガレックスの遠吠えが聞こえた。

 普通の声じゃない。

 明らかに霊力が乗ってる。

 

 以前に見たあのティガレックスか?

 明日は遠吠えが聞こえた方向の調査に行ってみる。

 

 

 

 

NTD3DS月百聞は一狩りにしかず日

 

 ????

 

 ティガレックスは確かにいた。

 霊力を宿していたと思われるヤツが。

 ただ、前のヤツとは別物っぽいんだよなぁ…。

 明らかに大きさが違う。

 

 で、このティガレックス…発見した時には、既に食われていた。

 イビルジョーか、他のティガレックスかは定かじゃないが……まさかと思って近辺を調べまわってみると、微弱ながら霊力を宿したモンスターが多数。

 …恐らく、死んだティガレックスの残骸を喰らって霊力を得たのだろう。

 

 という事は、あのティガを倒して食ったヤツは、もっと強い霊力を得ている筈。

 

 

 

 

 まさか、あの紅玉の狙いはコレか?

 何かのモンスターに食われて取り込まれ、霊力を宿させる。

 その体の一部を食うか何かして、他の生物が霊力を得る。

 そして霊力を得たほかの生物を、紅玉を取り込んだモンスターが食う事で、更に強い霊力を得る。

 

 …いずれは怪物が出来上がりそうだ。

 ああ、それでイビルジョーなのか?

 際限なく霊力を持った獲物を取り込めるように。

 そして、霊力を溜めて溜めて……ひょっとしたらミラボレアスのような古龍になる?

 …流石にこれは想像というか妄想の領域だな。

 あんまり外してない予感はあるが。

 

 

 

 

 

 まぁいい。

 イビルジョーになったのが偶然なのか必然なのかはともかくとして、やる事は一つだ。

 無論、討伐である。

 

 

 

 でも俺は参加させてもらえないんだけどね!

 

 

 真面目な話、イビルジョーだけを倒しても、ここら辺のモンスターに宿っている微弱な霊気は消えないんだよな…。

 どうしたもんだろうか。

 

 

 

NTD3DS月3乙の功名日

 

 レジェンドラスタが到着した。

 …予想に違わず、濃い人達だなぁ…。

 

 タイゾーさんはまだいいよ。

 突然英語で叫んでハッスルしたり、やたら暑苦しい理論をムダに爽やかに語るだけだから。

 …というかこの人、明らかにSYU☆ZOっぽい。

 実際、この人が到着してからちょっと寒さが和らいだような…。

 或いはビ○ーズブートキャンプでも可。

 

 だが問題はエドワードさんだ。

 なんというか言動が高貴すぎる、のはいい。

 話しづらいが悪い人ではない…と言うより、所謂ノーブレス・オブリージュを体現しようとしているような人だ。

 紅茶談義にはついていけないし、価値観の違いに戸惑いもする。

 

 

 

 

 

 だが本当に問題なのは、言動の端々からにじみ出る、何と言うかその……特殊な趣味の片鱗が…。

 

 今日だって、到着早々に温泉に入りに行った。

 一応、状況を詳しく説明しようと思ってついていったんだが……何故赤フンドシ?

 ムダにヒラヒラと棚引かせて、我が肉体に恥じる所など一つも無い!と言わんばかりに仁王立ちしていた。

 このクソ寒いユクモ村で、フンドシ一丁で仁王立ちしていた。

 

 

 温泉入れよ。

 と言うかフンドシにしたって異常に面積が少ないの付けやがって。

 そしてポージングするな。

 

 

 

 

 …なんかこう色々と不安になる人達だ。

 動きや武器防具の扱いを見るだけでも、俺じゃ及ばない相当な手練だというのは分かるんだけどさぁ…。

 

 

 

 

NTD3DS月無い回復薬は使えない日

 

 やっぱりアナタも参加しなさい…なんて事は言われず、レジェンドラスタ4人での討伐と相成りました。

 ま、当然かな…釈然としないけど。

 

 姿の見えないイビルジョーだが、詳細を聞いても「それくらいなら、4人揃えば勝てるさッ!」と叫んでいた。

 カウンターと防御突きで大体どうにかできる、だそうな。

 …楽観的とはいえ、一応考えてんのね。

 

 エドワードさんは……「姿が見えない…それでは誰にも見てもらえない。 だが逆に考えるんだ。 姿が見られないからこそ、いつでも何処でも脱ぎ放題」………片鱗じゃなくて露出癖そのものが出てきてるんだが…。

 

 これに天然のフローラさんと堅物のキースさんが加わる。

 

 

 

 

 

 うん、独り身での狩りがいかに気楽かよく分かるな。

 俺はあの中には入っていけない一般人だよ。 

 ちょっと特殊な力を持ってるだけで、あそこまで俺のキャラは濃くない。

 

 

 …討鬼伝世界でヒャッハーしてた頃の俺なら入っていけたかもしれん。

 この世界に来てから、ちょっと大人しすぎかなぁ…。

 A.BEEさんに怯えて隠れてたもんなぁ…。

 

 

 

 さて、それはそれとしてどうするか。

 無理についていっても足を引っ張ってしまうのは確定だ。

 それはゴメンだから………普通に待ってるのも面白くないな。

 

 よくよく考えてみれば、仙人と異名を付けられる程に山篭りしていたのに、最近はレジェンドラスタさん達と一緒に村に戻って休んでたからな。

 よし、山篭り再開だ!

 

 そうと決まれば、皆に一言くらい挨拶しておかねばなるまい。

 フローラさんとキースさんには世話になったし、タイゾーさんとエドワードさんには強敵を押し付ける訳だしね。

 では、ちょっと行ってきて今日は寝ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 挨拶に行って戻ってきたんだが、ヤバい。

 いや挨拶自体は穏やかに済んだんだけどね。

 

 フローラさんが「討伐が終わったら、今まで手伝ってくれたゴホウビあげるよ~」って。

 こう足を軽く持ち上げてフトモモの辺りをチラチラ見せながら。

 

 そして俺の股間を意味ありげに見つめながら、ニコッと。

 普段の天真爛漫な笑みとは違い、少し艶っぽい笑顔でした。

 

 

 

 

 

 

 何故?

 確かに俺をオカズにしてたみたいだが(そして声の質からして処女っぽかった)、何故唐突にお誘いを?

 そんなに好感度高かったか?

 

 いやそれよりも問題なのは、「帰ってきたら続きをしようね」なんて死亡フラグだよエビチュさん!……間違ったミサトさん!

 でもどっちのフラグだ!?

 普通に考えればフローラさんだが、相手が見えないイビルジョーとは言え、レジェンドラスタ。

 ゲーム的に考えればどれだけ攻撃を受けても死なない乙らないゾンビみたいなハンター。

 それがそうそう死ぬとは思えん。

 死亡フラグを考慮に入れても、だ。

 

 となると、俺か?

 明日からまた山篭りするつもりだったが、そこで何かに会うのか?

 まさか透明イビルジョーに直撃?

 確か、今は凍土のあたりに居るようだったんだが…。

 

 

 

 …嫌な予感がする。

 狩場に向かうのは止めよう。

 明日でイビルジョーの討伐が終わったら、フローラさんを出迎えなきゃいかんし。

 

 ……あれ、普通にお誘いを受ける方向で考えてますね? 

 

 

 

 

 …まぁ、「帰ってきたら『続き』をしようね」、だからねー。

 ソコまではもう触られちゃったり触り返したりねー。

 フローラさんにも火がついちゃったみたいだから、最低限そこは逃げずに受け止めたり打ち込んだりしないとねー。

 

 

 

 

NTD3DS月五十狩百狩日

 

 

 レジェンドラスタの方々が、見えないイビルジョーの討伐に向かいました。

 …出発前から見えなくなる頃まで、実に騒がしい一団でございました。

 

 俺は昨日の死亡フラグの予感もあり、ユクモ村に臨戦態勢で待機しています。

 ただ待っているだけというのもヒマなので、日記を書いてる訳ですが。

 

 最近は村で過ごしていた時間も長いからか、仙人様扱いはあまりされていない。

 おじいちゃんおばあちゃんも、あんまり何度も頼むのも悪いと思ったのか、通ってくる頻度は落ちている。

 その分楽になっているらしいので何よりだ。

 

 

 話は全く変わるのだが、メゼポルタについて。

 以前、受付嬢達に何かあったら教えてほしい…と伝えてはいたのだが、今のところめぼしいイベントは無いそうだ。

 一度、メゼポルタの近くでラオシャンロンが発見された事はあったのだが、進行方向は全く別。

 メゼポルタに一切被害は出なかったらしい。

 

 

 …なんだかなー、やっぱり俺が居たからあんなに連続して襲われたんだろうか?

 あのままいくと、ルコディオラどころか、それこそミラボレアスとかアマツマガツチとか呼び寄せかねなかったんだろうか。

 

 

 

 そう考えると、見えないイビルジョーの問題も切欠は俺だったっぽいし…。

 冗談抜きで、俺は疫病神か?

 そうだとしたら、本気で何処か人里離れた場所に山篭りするしかないんだけど。

 

 

 

 

 

 

 …今、村の近くからティガレックスっぽい遠吠えが聞こえた。

 そーだねー、そーいえば最初に見つけた霊力付きティガレックスはまだ発見できてなかったんだよねー。

 

 これが死亡フラグっぽいな…行ってきます。

 俺、帰ってきたら禁欲とか忘れてフローラさんをヒィヒィ言わせるんだ…。

 

 

 

 

 

神無月3乙すれば口無し日

 

 やっぱムリだったよこんちくしょう。

 畜生、フローラさんとのアレやコレやが……。

 妄想だけだが、ナターシャさんとの3Pまで計画に入れていたというのに。

 

 霊力付きティガがホントに洒落にならんかった。

 亜種より強力かつ広範囲の咆哮が特に。

 

 念のために耳栓(大)も付けていったと言うのに、まさか霊力の波で物理的(霊力で?と思うかもしれないが、とにかく無理矢理抑え付けられる感じだった)に動きを阻害してくるし。

 あの霊力咆哮のおかげで、霊的なエネルギーに耐性のある俺以外のハンターは、まとめて使い物にならなくなってしまった。

 体が痺れて動かなくなってしまったのだ。

 ゲーム風に言えば、エリア全体に問答無用で麻痺の効果が出るとかフザケンナ

 

 

 

 

 

 まさかとは思ってたが、あの煽動型クルペッコみたいな真似までしてきやがった。

 と言っても、死兵増産するのではなく、周囲の虫モンスターとかが異常な興奮状態になって、俺に突貫してくるくらいだったが。

 どっちにしろ、ティガレックスを相手に足止めのモンスターが居るとか、冗談ではない。

 

 煽動型とは違うな……突撃型…いや、カミカゼ型ティガレックスか?

 実際、突っ込んでくる他のモンスターは自爆や同士討ちお構いなしだったし、当のティガレックスの飛び掛りとかに巻き込まれて散ったモンスターも少なくなかった。

 

 

 最近ご無沙汰だった神機を持ち出し、鬼杭千切りまで使ってようやく仕留めた。

 鬼杭千切りの反動で動けなくなった所に、ティガレックスの最後っ屁の咆哮を喰らって吹っ飛ばされ、そして興奮状態で突進してきたアイルーの自爆に巻き込まれてお陀仏。

 …あのネコ、次の世界で三味線にしてくれる……。

 

 にしても、やっぱり鬼杭千切りは使いどころが難しいな…。

 攻撃力は絶大なんだけど、当てる事自体が難しいし、それ以上に使った後の反動がデカすぎる。

 ハンターハンターで言えば、使った直後に絶状態になってしまう。

 それさえなければ、アイルーの自爆にもまだ耐えられた。

 

 

 

 

 そしてデスワープ直後もまともに動けない状態だったから、今更オウガテイルの群れに死ぬほど苦戦しましたよ。

 危うく一日分も日記をつけずに、討鬼伝世界に飛んでしまうところだった。

 神機も反動でかなりのダメージを受けてたから、半ば壊れかけ状態になっちまってるしなぁ…。

 早い所、ゴッドイーター達に合流しないと。

 万が一、合流し損ねたら?

 

 

 流石にここから極東支部までの距離を、アラガミとの戦闘を避けながら進むのはキツイ。

 

 

 

 

 

 

 さて、ちょっと気分を切り替えるか。

 フローラさんとのナニができなかったのは痛恨だし、ナターシャさんとの甘酸っぱいメモリー(矢でケツを狙われた事ばかり覚えてるが)が無かった事になってしまったのは悔恨だが、そればかりに拘っていられない。

 次のループで会ったら口説いてみよう……健全なお付き合いになるか、泥沼になるかは置いといて。

 

 今回のループでの最大の問題だったのは、言うまでも無くあの紅玉だ。

 A.BEEさんも問題だったが、方向性が違うのでスルー。

 極端な話、アレさえなければ多分、上位依頼の中盤くらいまでは充分いけたと思う。

 それだとステキな出会いが無くなってしまうが、今はそこは置いとこう。

 

 MH世界のモンスターが霊力を持つ事が、あれほど厄介だとは…。

 しかし考えてみれば、納得いかなくもない。

 霊力は生命力だ。

 なら、ムダに生命力に満ち溢れまくっているあの世界のモンスターが霊力を使えるようになれば、とんでもない量や質の霊力を発するようになるだろう。

 

 その対策は、何か?

 

 

 

 

 

 

 

 簡単だな。

 発生させなきゃいいんだ。

 

 あの時期あの場所でジエン・モーランと戦わなければ…いや、戦ったとしても掘り出さなければ、そもそも問題は起こらない。

 別の誰かが掘り出すんじゃないか?という可能性はあるが…俺の居ないメゼポルタが平和だったことを考えると、同じように俺が居なけりゃ発掘されない、という可能性も高い。

 もし次のループで、俺以外がアレを掘り出したような形跡が見られたら……その次のループからは、俺が紅玉を回収して、そのままふくろに入れておくとしよう。

 

 

 

 さて、今日はこれくらいにして、休むとしよう。

 明日の朝早く移動して、上田もといゴッドイーター達に拾ってもらわないと。

 

 

 

 

神無月売り言葉に狂竜病日

 

 無事、帰還するゴッドイーター達に合流。

 もう言い訳と言うか捏造も慣れたものだ。

 アッサリと居住区へ連れて行ってくれた。

 …と言うか、上田さんを適当におだてれば疑念とか放り出してくれるんで、非常に簡単なミッションである。

 

 とは言え、面倒なのはここからだ。

 何かしらの手段で、新型神機を持っているゴッドイーターとして不自然なく入隊しないといけない。

 前みたいに、潰れた実験施設のモルモットだった設定で行くか?

 でもそれだと色々な方面から怪しまれたし、行動に制限がつくし、何より注目が(特定の要らん人達から)集まってしまう。

 

 

 

 …よし、ここは討鬼伝世界みたいに、次回以降のループに備えてちゃんとした任命書みたいなのを偽造しとくか。

 この世界は討鬼伝世界と違ってデジタル技術が活きている。

 極端な話、理屈さえ合ってればそう簡単には不正は露呈しない。

 

 そして今、俺には榊博士の権限を一時的に使えるコードがある。

 以前ループの事を榊博士に話した時、「次回以降のループなら、これは使えるだろう?」と渡されたコードだ。

 いやぁ、どう使えばいいのかなーとか悩んで忘れかけてたアイテムだけど、これは便利だわー。

 榊博士一人を丸め込む事ができれば、その権限を使い放題とかヤバいわー。

 そして榊博士を丸め込むのに理屈は要らない、ただ別世界の材料とか投げてやればいい。

 そうすりゃ好奇心のままに突っ走って、色々な事を棚に上げてくれる。

 

 …ちょっと楽観しすぎではあるけどね。

 

 

 さて、そうと決まればまず最初にやる事は一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オオグルマの汚ッサンが日本に来る時のタイミングと経路を特定・操作して暗殺するぜ。

 

 

 




 ここは一体どこやねん。
 
 と言う訳で、多分また夢を見ているっぽい。
 俺は確か……そうだ、MH世界で普通にクエストこなして寝た筈だ。

 そしたら突然この夢。
 いや夢って大抵唐突な物だけど。
 でも明晰夢にしたって唐突過ぎないかい?

 今俺が見ている夢は、多分元の世界がモチーフになっている夢だ。
 でも、行った事もない外国で、少なくとも景気がとても悪そう。
 道行く人達の格好からして、現代でないのは確実だ。

 うーん……なんちゅーか、ヨーロッパっぽい?
 言葉は…何とか通じる。
 相手が言っている事は何故か分かるし、更に俺の言葉は何故か片言になっているようだが、通じてはいるようだ。
 …まぁ、夢に理屈を求めても仕方ないか。

 とりあえず、赤い服を着た官憲っぽい連中に絡まれました。
 …普通に剣とか銃とか持ってるな。
 
 警察とかだったらヘタに逃げるのも振り払うのもヤバいし、増して夢の中とは言え捕まるのもなぁ…。
 でも捕まるのも無理は無い。




 だって街のド真ん中で大剣持って鎧まで着込んでるからね。



 そりゃ普通は問答無用で職質だよ。
 夢の中とは言え、抵抗があるな…なんて思っていたのも束の間。
 
 警察の方から、いきなり剣抜きやがった。
 こっちが抵抗もしてないのに、いきなり抜刀とは何事か。
 ひょっとしなくても、実は警察じゃない?
 よく分からんが、職質と言うよりはインネン付けられてた感じだったし…。

 ま、そーゆー事なら遠慮は要らない。
 斬りつけてきたので、鎧の手甲で軽く弾いて(剣はナマクラ、腕はボンクラ…)、持ってた大剣で軽~~~~く張り倒してあげました。
 …色々粉砕した感触や音がしたけど、呻いてるから生きてるよね!

 ……ところで、周囲が騒がしくなってるけどなんじゃろ?
 知らん間に、周囲の一般市民(だと思う)が剣持って、さっきぶっ飛ばしたエセ警察と同じ格好してる連中と斬り合ってるし…。
 
 うおっ、鉄砲とかアブネ!
 でも鎧に傷一つ付けられませんでした。
 …なんかムカつくから、お前は拳な!
 前歯が何本か折れる程度で!


 …なんか際限なく騒ぎが大きくなってるな。
 今度は青い服来た警察っぽいのまで乱入してきたし。






 逃げるか。










 さて、適当な路地裏に逃げ込んで、鎧を脱いだ。
 どうやら一般市民でも剣を持ってるのが居るようなので、大剣から目立たないようにヌヌ剣に切り替える。
 服はインナーになるが…なんか半裸でフラフラしてるオッサンとかも居るし、妙な事をしなければ目立たないと思う。

 後は…有事の際の飛び道具として、小物を幾つか。
 討鬼伝世界でタタラのおっさんに作ってもらった趣味の産物もある。
 夢なんだから、使っても無くならないね!


 さて、どうしたものか。
 夢とは言え、衝撃とかダメージ、痛みは普通に感じるっぽい。
 下手な事をして、死ぬほど痛い激痛とか味わいたくない。
 まぁ、デスワープする度に味わっている訳ですが。


 


 とりあえず街をブラブラしてみたが、やっぱ景気が悪そうだな…。
 人は結構多いんだが、飢えてる人が多そうだ。

 反面、建物とかはかなり立派な物が多い。
 何かの教会みたいな所もあって、入ってみたが…ステンドグラスの装飾が見事なもんだ。
 素人目にも、かなりの値打ち物だと一目でわかる。

 …ワリと新しい、そうでなくても手入れされている。
 という事は、それだけそっち系の仕事があるって事だよな?
 仕事があるのに、景気が悪そう…。

 ……経済とかよく分からんが、健全な状態じゃないってのは分かるな。



 さて、目が覚めるまでの間、どうしようかねぇ。
 



 どうせ夢なんだから、普段やらない事がしたいよな。





 …あの建物、高いな。







 よじ登ってみるか。













「いたぞ、あそこだ!」

「止まれ市民!」

「殺人者を逃がすな!」


 その途中にコレだよォ!!


「オイ、殺人者って一体何したんだよ!?」

「いいから走れ!」


 だから!
 誰を殺ったのか知らんけど、それは横のコイツだって!
 なんか暗器っぽいので喉元をブスッとやってたんだって!
 俺は大剣でブッ飛ばしただけで死んでないって! 多分!
 
 俺はちょっと建物によじ登ろうとしたら、偶然その場にバッタリ居合わせただけの、この夢を見ている人だって!


 …うん、普通に考えりゃそれで無関係を主張したって誰も信じないよね。

 にしても、この横で走ってるにーちゃんの身軽なこと身軽なこと。
 俺もゴッドイーターパワー(具体的には身長を超えるくらいのジャンプとか)が無ければ追いつけそうに無い。
 普通の人間なら追ってこれないだろうってルートを選択して走ってるのに、何故かこのにーちゃんは平然と付いてくる。
 俺を追いかけてるんじゃなくて、俺と同じように普通の人は通れない道を通って追っ手を撒こうとしてるみたいなんだが。
 しかもどれだけ走っても、ロクに息切れしてないようだ。
 どんな体してんねん、夢の中とは言え。


 で、結局壁を越え屋根を走り、ふくろの中にあった煙幕玉とか使って、それでもまだ追いかけてきて、何処か高い所に追い詰められて。



「…俺だけなら逃げられるが、君はどうする」

「俺一人なら逃げられるアテは、2つほどある」

「そうか。
 なら幸運を祈る」


 敵が迫ってくる前に、にーちゃんは更に高い所に上っていった。
 …どうする気だよ、一体。

 まぁいいや。
 モドリ玉モドリ玉。






 緑色の煙が晴れても、俺は何処にも戻れなかった。
 追いかけてきた衛兵達の「何がしたかったんだ、コイツは?」という視線が痛かった。

 …とりあえず、モドリ玉での逃走はムリ。
 となるともう一つの手段を使うまで。


「あっ、おい何をする気だ!」

「I can FLLYYYYY!!!」


 叫んで屋根の上から跳んだ!
 自殺じゃないよ!
 ハンターはな、密林のベースキャンプにあるクッソ高い崖から、かち上げ状態で落下してもダメージ一つ負わずに生きてるのさー!




 落下中、隣で落っこちてきてるさっきのにーちゃんと目が合った。
 お互い目を丸くしていたと思う。




 無事着地。
 周りの人から何だ何だって目で見られたが、構うもんかい。
 いやそれよりも横のにーちゃん!


「ふぅ…これは驚いた。
 まさか地面に直接落ちても平然としているとは」

「藁に落ちたから平気って理屈もどうかと思うぞ、にーちゃん。
 ………藁?」


 ………………… い ー ぐ る だ い ぶ 


「アルノ・ドリアンだ。
 …少し話さないか?
 巻き込んでしまった侘びもしたい」


 …アサシンクリードォォォォォ!!??!?!??

 い、いや落ち着け。
 アルノのにーちゃんの目が明らかに不審者を見る目だが、落ち着け!
 アサシンクリードって言っても、アルノなんて名前の主人公は俺は知らない。
 モブのアサシンって可能性もある。
 …でもあのシリーズ、毎年発売されてんだよな…。

 俺は別にアサシンやテンプル騎士じゃない、単なる流れの一般人だ。
 ちょっと特殊な力を持ってるだけで、狙われる要素は無い筈!
 それに狙われたって夢だしな、うん夢だよな夢夢。


 …よし。


「一杯奢ってくれるなら付き合おう、友よ。
 何せ遥か遠く、東方から流れ着いたばかりで、ここの事を何も知らなくてね」

「東から来たお客人か。
 ならばこのフランスを代表して歓迎しよう。
 …この時勢でなければ、諸手を挙げて歓迎できたんだがな」


 あ、ここフランスだったの?












 アルノの奢りでメシ食って。



「さて、友よ。
 君は一体何者だ?
 あの高さから落ちて平然としてられる、俺についてこられる脚、そして人の体を優に超える程のジャンプ力。
 とても常人とは思えない」

「俺?
 俺は……あー、そうだな、ここの言い方に合わせて言うと…」



 ハンター、じゃ分からないしな…。
 ゴッドイーターとかもっと分からない。
 モノノフ……モノノフ…の方が分かりやすいと思うが………よし、ここはこうしよう。
 どうせ夢だし、そこまで深く考えなくてもいいだろ。
 俺は趣味に走る。


「俺は…忍者かな」

「ニンジャ?
 なんだ、それは」

「東方の島国の………暗殺者、アサシンみたいなもんかな」

「…ほう?」


 フランスのどの時代だか分からないが、NINJAは伝わってないらしい。
 まぁ、多分今頃の日本って鎖国とかしてるだろうしね。


「忍者にも色々ある。
 人ごみに紛れて情報収集や工作を行う者も居れば、鍛えられた技と体を持って敵地に忍び込み、暗殺に従事する者も居る。
 俺はちょっと特殊な忍者でな。
 普通の人には無い能力を幾つか持っていて、それを使う忍者だ。
 普通は見えない物が見えたりする事もある」


 つまり霊力とかミタマとか鬼ノ眼の事な。
 アルノのにーちゃんは何やら考え込んでいたようだが、


「さっき飛び降りて平気だったのも、その能力と言うヤツか?」

「いや、アレは単なる肉体操作術。
 難しいが、能力とかは必要ない。
 俺の持ってる能力は……そうだな、限定ではあるが、攻撃が当たっても当たらなかった事にしたり、体力を回復させたりするものかな。
 …ああそうそう、普通の忍者はこういう道具を使ったりもするな」


 ふくろから出した、手裏剣を手渡してみた。
 …実用性を考えず、タタラさんに作ってもらった趣味の一品だ。


「投擲用の道具か…。
 なるほど、回転させる事で威力を増すのか」

「刃を増やして、毒を塗ったりもする。
 生憎と、ソッチ系統の訓練はあんまり受けてないけどね」

「…俺も厳しい訓練を詰んだつもりだったが、その上を行きそうだな」

「あー……どうだろ」


 確かに厳しかったが。
 デスワープ直後は、未だにブルファンゴに追い掛け回されるし。
 返り討ちにした事もあるが。


「とは言え、『同じ』アサシンとしては、その技に興味がある。
 …君を招待したい」

「…は?
 同じ?
 招待?」


 …な、なんか面倒事の予感が…。


「俺もアサシンなのさ。
 ようこそ、遥か遠く東方より来たりし、同胞よ。
 今度はフランスを代表してではなく、フランスのアサシンとして歓迎しよう」






 …忍者は暗殺者でアサシンだが、教団のアサシンじゃねぇよ!!






 しかし俺もアサシン教団には興味がある。
 どうせだから行ってみよう。





 …アサシンでもない者を、教団本部に連れてきたとかでなんか一悶着あったみたいだが、詳しくは知らない。
 ただ言える事は、俺と教団の間で色々と技術交流が出来上がってしまったという事だ。

 まさかアルノに霊力の素質があるとは…。
 霊力を使うと、見つかりにくくなったり、身体能力が上がったりする。
 本人は「メレーブースト」「ライフブースト」「ステルスブースト」とか呼んでいた。

 体力回復とか、動きを早くする術(言うまでも無くミタマだ)を見せたりしたが、特に驚かれたのは「堅」のミタマだ。
 何せガードゲージをしっかり回復させてれば、ステルスアサシンの直撃を食らってもほぼ無傷で反撃できるからな!

 …アルノ以外にも、素質があったのがちょくちょく居るらしい。
 教団では最近、東方から伝えられたNINJAの秘術として霊力ブーム、忍者ブームが到来しているとか。

 ちなみにアルノが最初に興味を持った、飛び降りても平気な術…これは霊力には関係ない、ハンター式肉体操作術だが…はあんまり流行らなかった。
 必要となる肉体の土台が厳しすぎるそうだ。

 ………アサシン教団は、どうなってしまうのだろうか…。





 俺?

 俺が身に着けたのは…イーグルダイヴだよ。
 ハンターの俺が覚えても意味ねーな。




 …あと、なんか最近目がおかしいな…。
 討鬼伝式の鬼ノ眼が進化して鷹の目になろうとしてんのかな。
 …鬼から鷹か。
 なんかランクダウンしてるような気がする。


 しかし…一体いつになったら目が覚めるのやら…。

外伝:アサシンクリードユニティ編


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GE世界4
45話


最近、ゲームするよりもSS書いてるほうが長い…。
GE2RB体験版が出たと言うのに…。
ありゃ、特別ミッションの方までいっちゃったら、個人エピソード勧められないのかね?

ゲームはPS4で買うことにしました。
PSPでは分からなかった、ちょっとした表情の変化とかよく見えるんですよねー。
おかげで主人公が、銀さん衣装なのに目がイキイキしているという違和感が倍増しているのですが。



 

神無月据え膳食わぬようではハンターの体は保たない日

 

 今回は結局、色々ブチ撒ける覚悟で榊博士に接触する事にした。

 うん、本当はね、着任指令とかを偽造するつもりだったんだけどね……俺にそんな技術は無かったよ。

 狩りが上手くなってもハッキングとかが上手くなるわきゃーねーよなー。

 

 まぁとにかく、榊博士のコードで某所からログインし、伝言を残しておいた。

 

 

 そしてオオグルマの汚ッサンの来日予定日とルートは確定済みだ。

 あんチキショーに出番はやらん。

 アリサを弄んでいいのは俺だゲフンゲフン

 

 支部長の手駒を削るんだから、この際遠慮はせん。

 …今度はアラガミに任せるような事はせずに、直接手を下すかな……殺すって実感がないのは色々な意味で恐ろしいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日記を書いてたら博士がもう来たよ。

 相変わらず好奇心で釣ると速いね。

 

 結論から言うと、消極的な援護を得られた。

 簡単に言うと、フェンリルに所属するのには手を貸すけど、それ以外の事はしないよ、って事だ。

 

 マジで?

 いや、スターゲイザー…傍観者としてはそれが正常な選択なのかもしれんが…。

 それだけでなく、何かが気に障ったらしい。

 

 ……まぁ、分からなくもないんだけどな。

 俺のループと、それを前提としている考え方は、一部の人達にはとても受け入れづらいものだろう。

 自分達はたった一度、たった一つの命で懸命に生きていると言うのに、俺は何度死んでも次があるし、何度でも同じシーンを目にする機会を持っている。

 そりゃ頭に来るだろう。

 

 尤も、榊博士が気に触ったのは、ループを自分からバラして協力を仰ぐという行為っぽいが。

 以前ループをバラした時は、榊博士の方から問い詰めてきて、そして腹を括ってバラすって形だったしな。

 …自分からバラしたのが気に入らないのか、それともそれを良しとした選択が気に入らないのか…。

 

 どっちにしろ、榊博士からの協力は今回はアテにしない方がよさそうだ。

 

 

 

 

 あーあー、どうしようかなー。

 鬼杭千切りに使ってる杭君の改良とかねぇ。

 アレ、榊博士なら狂喜乱舞して弄り回すと思ってたんだけど。

 協力が仰げないんじゃ仕方ないか。

 

 

 …弄らせてって言っても触らせてあげないボンゲ!

 

 

 

 

神無月ハンター多くして狩り楽になる日

 

 

 とにもかくにも、ゴッドイーターとしてフェンリルに所属する事には成功した。

 誰か書類とか辞令関係に強い人と接触して、次回以降にも使える辞令を捏造せにゃならんが、それは後回しでいいだろう。

 

 さて、そうなるとまず何をしたものか…。

 前回の死因は、霊力で成長したと思しき感応種モドキだったか。

 これ自体は、霊力をホイホイ使ってなければ多分発生しないだろう。

 前のMH世界の山篭りのお蔭で、霊力無しでも大抵のシーンは切り抜けられる力がついたと思う。

 ストーリーが終盤になったりハプニングがあれば話は別だが、少なくともリンドウさんMIAシーンは、生き延びるだけならどうとでもなりそうだ。

 

 …前回、俺は何をしてたっけ?

 ジーナさんとイチャイチャ(と言う名のミッション)をしてたのと…誤射姫様がスニーキング自☆慰してたのと…ああそうだ、シオを探してたんだっけ。

 それに、結局アリサが昏倒したままだったっけか…。

 

 アリサについては、多分大丈夫だと思う。

 暗示をかけていたオオグルマを闇に放り込んでしまえば、例のシーンでも暴発は…しないと思う、多分。

 仮に眠りについてしまっても、討鬼伝世界で初穂を叩き起こした要領で、のっぺらミタマを送り込んでやれば起きるだろう。

 後遺症とか知らんけど。

 

 その為に必要な討鬼伝世界の素材も、ちゃんと持っているし、これについては大丈夫だろう。

 …後はまぁ、流れに沿って…かな。

 以前と同じように、延々とミッションに出撃してればいいか。

 

 ま、当面は例のリンドウさんMIAシーンの対策でいいか。

 あそこがどうなるかによって、俺が取れる選択肢が随分と変わってくる。

 前回は何とか全員生き残り、リンドウさんとはそれ以来会っていなかった…何処か別の場所を飛びまわらされてたんだっけ。

 

 これは正直、戦力的に大きなマイナスだ。

 極東に残ってくれるといいんだがな…。

 

 となると、やはり『死んで』もらうか。

 あのシーンでMIAになってもらって、何処かに潜伏してもらう。

 その間にシオを探してもらうのもいいかもしれん。

 食料に関しては、むしろフェンリルに居るよりもイイ物を提供できる自信がある。

 何せMH世界の山篭り中に色々と溜め込みまくったからな。

 

 後はアラガミ化を抑制する因子だけだが、これは今のうちに横流しルートを作っておくとしよう。

 

 

 

神無月ハンター多くしても即3乙す日

 

 支部長との挨拶を経て、初任務へ。

 支部長は色々と察しているようだったが、突っ込んではこなかった。

 多分、ある程度警戒して俺の裏づけとかを取ろうとするとは思うが…まぁ徒労だな。

 それでもあまり俺を意識する事はないと思う。

 今回の俺は、得体の知れない研究所のモルモットでも、異世界からの来訪者でもなく、榊博士の取り成しによって、単なるゴッドイーター一兵卒としてフェンリルに所属しているからな。

 新型使いだけど、新型使い一人で何が出来るって話だし。

 

 それをどーにかしなけりゃならん訳ですが。

 

 さて、それはともかくミッションミッション。

 神機にエサを食わせてやらにゃなるまい。

 GE世界以外では、アラガミの素材と一緒に普通の食べ物やらモンスターの肉やらを一緒に食わせてたからな。

 おかげで多少は雑食性になりつつあるが、偶には100%アラガミ肉を食わせてやろう。

 

 …おお、なんか神機が張り切っているような気がする。

 鬼杭千切りの反動でかなりガタが来ているが、それよりもメシが食いたいか。

 

 それじゃ、ちょっとミッション行って来ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと我に帰って気がついたら、ミッションとか関係無しに半日くらい狩りしてた。

 神機よ、そんなに嬉しかったか。

 

 

 

 

神無月大樽爆弾G倉庫で火遊びする日

 

 最初だから普通にオウガテイル相手のミッションを受けたんだが、それで半日帰らなかったので心配されていたらしい。

 まぁ、確かに新入りでも、長くても2~30分あれば終わる任務だよな。

 死んでなければ。

 

 それなりの経験を持つゴッドイーターとして登録されているので、同伴者も居なかったからね。

 

 …で、ミッションとは関係無しに色々狩ってきた素材を見せたら呆れられた。

 なんですねん、ちょっと遠出してネコとゴリラをシメてきただけじゃないですか。

 両方とも雷使う奴だったけど。

 

 ん?

 雷使うゴリラは接触禁忌種?

 近くに居るだけで大騒ぎになる?

 

 …いやそんな事言われても知らんし。

 遠出したから近くには居なかったと思うよ。

 

 

 

 

 一人でハガンコンゴウを狩れるレベルのGEって事で、暫くソロ任務に当てられました。

 他にヤバそうなアラガミが居ないか調べて来いって。

 

 …調べるのは別にいいけど、俺…またボッチ?

 MH世界と違って、GE世界では他のキャラ達と色々関わらなきゃいかんのですが…。

 

 

 

 

 仕方ないか。

 どっちにしろ、命令が無くても一日の半分くらいは延々と狩りしてるんだし、他の人たちとの接触の機会が少ないのは最初からだ。

 

 もういっそ開き直って、黒爺猫でも探しますか。

 今なら、リンドウさんMIAシーンの黒爺猫でもそこそこ勝率があると思う。

 それなりに手傷を負わせて逃げるだけでもいい。

 そうすれば、リンドウさんも一対一で逃げられない状況になっても何とかできるだろう。

 

 それと、運がよければシオとも会えるかもしれないしな。

 

 

 

神無月桃栗三年、天鱗10年日

 

 朝起きる。

 朝飯食って、弁当作って(残り物詰め合わせ)もらって、牛乳持って出撃。

 夜中に帰って寝る。

 

 

神無月昨日が今日の続きだったら時系列バラバラ日

 

 昨日と同じだった。

 

 

神無月今日は昨日の続きであるが、同じ事が起こるとは限らない日

 

 …昨日と同じだった。

 

 

神無月牛乳がウマイ日

 

 牛乳がウマイ。

 

 

神無月継続は退屈なり日

 

 同じ事の繰り返しだったんで、飯の前と寝る前に体操を追加してみた。

 あと、メンテ担当から「いい加減本格的にオーバーホールさせろ!」って苦情が入った。

 

 

神無月寝耳にウォーターブレス日

 

 俺が持って帰って来る素材専用の倉庫が出来たと聞いた。

 前にもあったけど、早いよ。

 

 それはともかくとして、流石に接触禁忌種はそうそう見つからない。

 まぁ、流石にスサノオやらテスカポリトカやらは苦労しそうだから好都合と言えば好都合なんだが。

 

 

 

 それはそれとして、例によって俺は変人として知られるようになってしまったようだ。

 全く休み無く、ほぼ一日中出撃している。

 サボッたりしているのではない事は、持って帰って来る素材を見れば一目瞭然。

 

 …そろそろ雨宮指揮官から、休めの指令が来る頃か?

 別に休んでも問題は無いが、神機がもっと食いたがってるっぽいんだよな。

 …食いすぎで太ったり、また普通の素材を食わなくなったりしないよね?

 ダイエットも兼ねて、他の素材も食わせておくか。

 

 

 

 

神無月3乙への道は、うっかりで固められている日

 

 黒爺猫、発見!

 …だけど、群れで行動してやがる。

 流石に一人であの群れを抜けて、黒爺猫を仕留めるのはムリだ。

 取り巻きを一匹一匹減らしていくか。

 上位個体は黒爺猫だけで、他のは下位っぽい。

 群れから少し離れたやつに奇襲をかけて、成功したらそのまま暗殺、しくじったらすぐに逃げる。

 

 幸い、今日は成功した。

 成果はヴァジュラ3体。

 明日はプリマヴェール・マタンゴを狙おう。

 

 あの規模の群れならすぐには移動できそうにないし、仮に移動されたとしてもハンター仕込みの追跡術がある。

 再発見にそんなに苦労はしないだろう。

 

 

神無月軒貸してショバ代請求する日

 

 プッチンプリン・ファータが2匹、ヴァジュラが2匹。

 そろそろ警戒が厳しくなってきた。

 

 群れが削られていけば、普通はこうなるよな。

 初日で警戒度が上がってないのが不思議なくらいだ。

 

 まだまだ群れは残りが居るが、大分戦力を削れた。

 これ以上は引き際、奇襲の機を見誤るとエライ事になるな…。

 

 …よし、追跡だけして、ちょっと時間を置こう。

 二重尾行にも注意しないと。

 で、警戒が解けてきた頃に一刺し。

 それからはまた尾行。

 

 

 

神無月好奇心は猫を殺す、物欲はハンターを殺す日

 

 そういや、黒爺猫って接触禁忌種だったっけ。

 それを探すようにって言われてたのに、発見しても報告してないな。

 

 …まぁいいか。

 あの黒爺猫はシックザール支部長か、汚ッサンの息がかかっている可能性がある。

 リンドウさんMIAシーンに使う手駒は、あの黒爺猫であってくれた方がいい。

 戦力も削ってるし、相手が黒爺猫だと分かってれば準備もできる。

 

 もしも今、発見の報告をして、討伐の指令とか、逆に手を出すなとか言われると…戦力を削る事もできなくなる。

 

 

 

 とは言え、少し休みをとらなきゃいかんな。

 ようやく神機の食欲が一段落したみたいで、時間を忘れてミッション狩り狩り狩り狩りって事が無くなってきた。

 今はミッション狩り狩りって程度だ。

 

 で、食欲が落ち着いてきたら、流石に本格的に神機のダメージが…。

 よく考えてみれば、この半ばボロボロ状態の神機でハガンコンゴウとか猫とか狩ってたんだよな…。

 今更ながらに恐ろしいマネしてたんだなーと思えてきた。

 道具の不調や買い替え時に気付かないのは三流以下の証拠だが、その道具の方が先に狩りをしたがってんだよねぇ。

 …ま、文字通り道具に使われてるようじゃ、どっちにしろ三流以下だけど。

 

 とにかく、休暇休暇…。

 

 

 

神無月案ずるよりも準備するが大事日

 

 突然、雨宮指揮官から呼び出された。

 休暇中だというのに。

 

 何事かと思ったら、誤射姫様を任された。

 何を言っているのかわからねーと思うが、またしても誤射の恐怖と戦わねばならない事だけはよく分かった。

 

 真面目な話、この人選の意図は分からんでもない。

 出撃してばっかりの俺に、枷をつけようって事だろう。

 弟子と言うか面倒を見ないといけない部下が居れば、ミッションに出撃したまま延々と帰って来ない…という事は無くなるだろう、と。

 

 そして部下が誤射姫様だというのもミソ。

 出撃すればする程、誤射を浴びる可能性が増える。

 誤射がイヤなら、ミッションが終わったらさっさと帰って来いと言う訳か。

 …要らん知恵を回すなぁ…。

 

 

 引き合わされた誤射姫様…本人に許可貰ったし、カノンでいいか。…は、率直に言って初々しかった。

 ミッションにも、まだ数回しか出撃してないそうだ。

 …それでも俺の枷役に選ばれるんだから、ホント誤射が酷そうだなぁ…。

 いや、単なる俺の邪推って可能性も考えられるんだけど。

 

 

 まぁ、どっちにしろ俺の神機がオーバーホール中だ。

 色々改造されまくって普通の神機と全く別物になってしまっている為、整備班の人達も梃子摺っているらしい。

 頼みの綱の榊博士は手伝ってくれないし(参加したそうにしていたそうだが)、磨耗した部品が特注品で、代わりが無いって部分もある。

 暫くは休暇と言うか、お互い色々と知る為に(意味深は無い)話し合うとしよう。

 

 …そう言ったら、拍子抜けしたような顔をされた。

 俺をどんなナマモノだと思っていたのか、問い詰めたいところである。

 

 

 いや、確かに神機無しでも中型のアラガミなら翻弄できるけどね。

 回避に徹して、逃げる事だけ考えれば、黒爺猫…はキツいけど、多分何とかなる。

 そこをカノンに攻撃させれば(ミタマの空蝉で誤射を誤射じゃなくする必要はあるが)、俺は素手でもミッションクリアできるし。

 最悪、同士討ちさせるとかの手もある…こっちはあんまり上手く行く気がしないが。

 

 

 

 

神無月笑う門でもモンスターが来る日

 

 誤射を少しでも避ける為、身軽なショートソードを基本装備にする。

 訓練用の武器を使って、連携の訓練をした。

 

 ちなみに俺の神機はオーバーホール…いやもう修理の為に持ち出し厳禁だが、訓練するだけなら本物の神機に拘る理由は無い。

 アラガミ細胞なんて全く関係ない、形と重さを模しただけの単なる鉄の塊のショートソードが、訓練所にあった。

 …まぁ、使う人なんて殆ど居ないんで、「何でそんな物の事を知ってるんですか?」と言われるくらいの代物だが。

 伊達に訓練所の主と呼ばれてないわ。

 

 

 で、カノンの動きなんだが……新兵…いや、トレイニーの領域だ。

 実戦ではなく訓練だからか、裏カノン様の片鱗も見えない。

 

 でも確かに誤射…じゃないな。

 命中率事態が酷い。

 無理も無いといえば無理も無い話だ。

 話を聞いてみると、ゴッドイーターになる前は完全無欠の一般市民。

 訓練だって、雨宮教官にシゴかれはしたものの、最低限の時間しか受けられなかったらしい。

 

 近接武器は、刃筋とか間合いとか細かい事を言わなきゃ、ワリと感覚で扱えるんだが、ガンナーはなぁ…。

 充分な経験を詰んだならともかく、最初は適正がモノを言う。

 エイム力なんぞ、普通の生活じゃ育まれない類の能力だしな。

 

 銃のクセを理解して、体に構えを染み付かせ、反動に負けず弾を真っ直ぐ飛ばせるようになるのが第一段階。

 スタンダードな構えから、銃口を操作して敵を狙えるようになるのが第二段階。

 動いている状態や不安定な体勢から、直感で狙えるようになるのが第三段階ってところか。

 

 あくまで俺が受けてきた訓練の基準だが、ここまでは充分な訓練を受ければ誰でも辿り付ける。

 ここから先は、『狙う』ではなく『当てる』になったり、狙いを定める時間を限りなく短縮するとか、経験以外の適正や才能が必要になる分野だ。

 

 余談になるが、初めて銃を撃つ人の命中率は意外と高いらしい。

 一発目は反動とかサッパリ分からないから、素直に構えて撃つので真っ直ぐ飛ぶ。

 二発目以降は反動に備えて体が硬直したり姿勢が崩れてしまい、その為に命中率が落ちるのだそうだ。

 そこから体を反動に慣らしていき、徐々に真っ直ぐ飛ぶようになり、命中率が上がってくる。

 

 

 …単純に考えれば、カノンの命中率が低いのは同じような理由だろう。

 オラクルバレットは実弾に比べると反動は少ないが、やはり強化されているとは言え女性の細腕。

 まだ完全に反動に慣れきってないのだろう。

 

 ゴッドイーターの場合は、それに加えて銃身が大きい。

 目線の高さに銃を合わせて狙いをつけるのが難しいので、尚更体感で狙いをつけなければならない。

 

 

 となると…まずはただ只管、訓練所で動かない的に当てさせ続ける?

 反動が体に慣れるのには、GEパワーもあるからそう時間はかからないだろう。

 そうだな、少しずつ的を増やしていって、最初は動かさないでおこう。

 立ち居地を決めて動かず、決まった姿勢から幾つかの角度に向けて真っ直ぐ飛ばせるようにする。

 

 まずはそこからやってみよう。

 

 

 

 

 そしてカノンに告げた。

 

 

「訓練は退屈だぞ」

 

「はい、頑張りま……たいくつ?」

 

 

 厳しいぞ、と言われると思っていたらしい。

 まぁ普通はそうなんだが。

 

 

 

 

神無月モンスターは死して素材を残す、ハンターは3乙しても何も残さない日

 

 昨日決めた通り、移動もさせず、的を動かしもせず、ドンバンドンバン撃たせ続ける。

 予想通り、反動には半日くらいで慣れたようだ。

 なので、後はこの角度にはこの構えで撃つ、この角度ならこの構えで撃つというのを体に覚えこませるだけだ。

 そしてそれ以外の角度では撃たせない。

 

 …で、結局延々と打ち続けるだけになる。

 カノンはこの辺で、昨日言った「訓練は退屈だぞ」という言葉の意味を理解し始めたらしい。

 そしてそれが意外と辛い事だというのも。

 

 オラクルバレットの反動は、一発二発なら大した事は無い。

 が、何時間も打ち続けるというのなら話は別だ。

 構えを体に染みこませる為に、延々と撃つだけ。

 腕には疲労がちょっとずつ溜まってくるし、それ以上に精神が…。

 

 積み重なっていく疲れを堪えながら、代わり映えのない作業。

 刺激も無い。

 辛いだけの苦行と感じても仕方ない事だ。

 

 

 ただ、それを一日中やってたおかげで、正面と左右45度に対する構えは大分サマになってきた。

 右、左、右、真ん中の順で撃たせてみたが、それなりに早く狙いをつけ、全弾命中とは言わないまでも、それなりの命中率を見せた。

 ふむ、明後日には神機が戻ってくるそうだから、それまでは続けるか。

 

 

神無月三十六計、モドリ玉にしかず日

 

 午前中は昨日の復習。

 午後は角度を変えて続行。

 

 カノンが体力以上に精神的に疲れた顔をしてるが、効果が実感できている為か、反抗はしてこない。

 腕が筋肉痛?

 それくらいなら大丈夫。

 マジでヤバいと、力が入らないどころか翌日になっても感覚が無いから。

 デスループ開始直後の実体験である。

 あの時は立つ事もできなかった…ケツだけ痛くて、栗の花のにおいがした気もするが…。

 

 

神無月メラルーに追いマタタビ日

 

 夕方まで復習に当てて、夜までは的を順番に射抜かせる訓練。

 最後には、移動させてから撃つ訓練。

 …そこそこ効果は出たと思う。

 

 後は実際にやらせてみなければ分からない。

 

 

 

 …んだけど、気のせいか?

 最後の方、ちょっと様子がおかしかったような…。

 

神無月命あっての逆鱗マラソン日

 

 神機が帰ってきたんで、早速カノンと一緒にミッションに出た。

 まぁ、問題はなかったな。

 

 

 

 用心して空蝉使ってたから。

 

 

 

 そう、使っちゃったんだ。

 よくよく考えてみりゃ、誤射姫様と呼ばれていたAI、前ループの時は、命中率事態は悪くなかった。

 ただ斜線上に誰が居てもお構いなしに引き金を引いていたのが問題で。

 

 俺が真に訓練するべきは、そっちだった。

 命中率じゃない。

 いや命中率も悪かったから、それも訓練しなきゃ敵に当てる事もできないんだが。

 要するに俺は、命中率を上げる事で誤射率も上げてしまった訳だ。

 

 

 そして本当の問題はここからだった。

 

 俺の訓練は退屈な時間だったろう。

 退屈な時間を無理矢理にでも続けさせられ、逃げられない状況に陥った場合、人はどうするか?

 ストレスの捌け口を探そうとする。

 充分ストレスが発散できなければ、プッツンしてしまうことも考えられる訳だが……。

 

 ちょっと話は変わるが、ガンパウダー中毒というのを知っているだろうか?

 何かの創作で見ただけなので、本当にそういうのがあるのかは知らないが、火薬に含まれる成分が麻薬の働きをする、というものだ。

 そして中毒となった被害者…確か紛争地帯の少年兵だったか…は、銃を撃つ事で、飛び散る火薬の成分を摂取する。

 銃を撃たなきゃ中毒症状に苦しむ、というものだったと思う。

 

 …うん、多分コレなんだ。

 カノンに出たのは。

 最後の一日、様子がおかしいような気がしたのは、決して気のせいではなかった。

 

 オラクルバレットに火薬は使われて無いが、薬品でなくても麻薬のような効果があるものがある。

 銃声と破壊だ。

 それが麻薬?と思うかもしれないが、ここで重要なのは要するに「刺激」だ。

 退屈で、しんどいだけの時間から自分を連れ出してくれる刺激だ。

 

 破壊にせよ大音量にせよ、人間の本能を揺さぶる強い刺激だ。

 

 カノンは元は温和な性格をしていたのだと思うが、この訓練の間にその刺激に対する心地よさを見出してしまったんだろう。

 おかしな事ではない。

 精神的負荷から逃げようとする、正常な反応だ。

 

 

 

 

 ただそれが、超がついても足りないくらいに適正があったと言うか無かったと言うべきか。

 何れにせよ、俺は目覚めさせてはならないモノを目覚めさせてしまったようだ。

 幸い、まだ裏カノン様は出てきていないが、バレットを撃つ度に(無意識だろうが)口元が僅かに笑うのを見てると、時間の問題って気がする。

 

 

 

 でも俺が何もしなくても目覚める訳だし、別に何も変わらないよね?

 最悪、デスワープしてなかった事に…。

 

 

 

 




外伝のアサクリ編も一応執筆中です。


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第46話+外伝3

発売までに、あと1回くらいは投稿できるかな…。
仕事でミスってテンション落ちなければ多分。

最近、肉肉しい食生活してたから、野菜スープ作ってみました。
作りすぎた。


神無月ネコ(ヴァジュラ)の皮を被る日

 

 経緯はどうあれ、カノンは戦えるようになり(俺が相棒でなければ誤射確定だが)、正式に俺とコンビを組む事になった。

 カノンからの好感度は…まぁ、頼れる先輩という所だろうか?

 俺の施した特訓のおかげで命中率があがったのは事実だし。

 

 救いがあるのは、まだ裏カノン様が明確に出現していない事だ。

 もっと強いストレスや危機感が必要なのか、それとも別に何か切欠があるのか…。

 

 

 何れにせよ、今後裏カノン様がご光臨なされる可能性は非常に高い。

 今は俺ができるだけ庇い、誤射もしないように小細工しつつ動いているけど、永遠にこのコンビが続く訳じゃない。

 異動だってするだろうし、ひょっとしたら誰かが追加されてトリオになるかもしれない。

 そんな時、カノンの誤射癖をそのままにしておくと……。

 

 

 

 うん、ゲーム以上に悲惨な未来が見えるな。

 カノン自身も、組まされた相手の方も。

 

 

 しかしそれをどうにかできる自信は無い。

 いや、出来る限りの事はするし、結果がゲームの通りになると妄信している訳ではないが。

 

 

 

 

 それ以前に俺は俺の保身を優先する。

 つまり、この後何処で誰に誤射しようと、とりあえず俺に誤射させない事が最優先。

 …別に間違った事してないよな?

 方法論の問題だ。

 

 結果的には俺の保身そのものだけど、いきなり誤射を全部治そうとするんじゃなくて、「この人が居たら引き金をひいてはいけない」みたいな特定の条件を刷り込みする方が簡単だろう。

 そして後は、「この人も駄目」「この人も駄目」「この人も駄目」で増やしていけばいい。

 

 上手く行かなかったら、単に俺も誤射の脅威に晒されるだけ。

 そんなに不公平な話でもないと思う。

 

 

 さて、どうやって躾け…ちょうきょ…もとい刷り込みするかな…。

 裏カノン様が出てくる前に種を仕込んでおかないとヤバそうだ。

 

 

 

神無月メゼポルタで逃がしたモンスターをドンドルマで討つ日

 

 カノンが居る為、軽い戦闘を2~3戦して終わり。

 「普通のゴッドイーターは、連戦したりしませんよぅ」とか言ってたが、出来るんだから問題ない。

 カノンだって普通についてこれたじゃないか。

 昨日はちゃんと休みだって取ってるし、疲労も溜まってない。

 

 ……このままコウタやアリサにやったようなブートキャンプいくか?

 レベルアップはしそうだが……いや、止めておこう。

 ストレスを与えすぎて、それこそ裏カノン様が出てくるような気がする。

 まぁ、出てきてしまったら諦めて普通にミッション続けるだけだけども。

 

 

 んー、しかし本当に、どうやって撃ってはいけないという意識を仕込むかな。

 洗脳はできるが方法が非常に限られる。

 ことに、性を絡めた手段に偏っている為、出合って間もない特別な関係でもない相手には使えない。

 

 

 

 となると……?

 

 

 

 

神無月縁の下の回復役日

 

 昨日は連戦したのでカノンは休み。

 俺?

 言うまでも無かろう。

 

 

 さて、神機の慣らしも兼ねて適当にデカブツ狩ってきたんだが(ヒバリさんが唖然としてた)、帰りに食堂でカノンが潰れてるのが見えた。

 いや、別にぺちゃんこになった訳でもタイラナムネになった訳でも、アルコールのニオイに溺れている訳でもないが。

 

 とにかく、どうやら昨日の疲れがドッと押し寄せてきたらしく、ケーキを前に突伏して動かない。

 …ケーキを遠ざけようとすると呻いた。

 甘いものが好きか。

 そういやお菓子作りが趣味だったっけ?

 妙なところだけ女の子している…いや妙な所じゃなくて真っ当な所だけ?

 

 

 

 

 そうか、菓子……甘味か…。

 

 

 

 

 

 餌付けするか。

 

 

 

神無月モドリ玉が無ければ、乙って戻ればいいじゃない日

 

 甘いものが正義か。

 ならば辛いものは真理か。

 少なくとも酒は神だ。

 この世知辛い世の中で、僅かに口にするだけでイヤな事を忘れとってもいい気分にさせてくれる。

 神がこの世界で齎す、数少ない物理的な奇跡である。

 

 その後、頭が割れそうに痛もうが吐こうが、溺れて惨めな末路を通ろうが、全く慈悲を与えないのも実に神らしい。

 

 ともかく、甘いものには中毒症状があると言う。

 それがどれくらい強いものなのかは知らないが、美味い物が中毒になるのは元日本人たる俺の身に染みている事だ。

 ことに、この世界のメシはマズい。

 凄腕の料理人が揃っている上、比較的上質な食料が手に入るからフェンリルではそこそこの味を楽しめるが、この荒れ果てた世界でちゃんとした作物はそうそう育たない。

 

 当然、砂糖の類は天上知らずに貴重品になっていく訳だ。

 これがお菓子作りにどれほど影響を与えるか、考えるまでもないだろう。

 恐らくカノンも、菓子作りに携わるなか、日に日に遠い存在になっていく砂糖に何度も何度も歯噛みした事だろう。

 

 

 駄菓子菓子!

 

 俺の場合は違うッ!

 伊達にMH世界・GE世界・討鬼伝世界と転々としていないッ!

 この世界ではもう無いに等しい珍味も!

 カノンが求めてやまない砂糖もッ!

 幻想的な味(ヤバいマッシュルーム的な意味で)がする食材すらッ!

 全てこの手もといふくろの中に収めているのだッ!

 

 今回は榊博士の協力も得られそうにないから、サンプルとして取っておく理由もない。

 これを使ってカノンをスイーツイ……ゲフンゲフン、スイーツジャンキーにしてくれる!

 

 そして俺に誤射する毎に、供給される砂糖その他の量が減っていくのだー!

 

 

 ころしてでもうばいとる?

 

 フハハハ、出来る物なら、止めてくれるがいい!

 いやホントマジで止めて。

 

 だがこれからは裏カノン様の襲撃に備え、色々と防御策を練るからな!

 返り討ちにして抑え付け、見せ付けながらセクハラしつつ目の前でクッキーを貪り食ってやろう!

 

 

 よーし、そうと決まれば話は早い!

 カノンはまだ食堂で突伏しているようだから、鼻先に天然モノ(MH世界産)を突きつけてやろう。

 どんな反応をするか楽しみだ。

 

 

 

 

神無月医者の不養生、鍛冶屋の錆び包丁日

 

 カノンよりも周囲の反応がヤバかった。

 この世界、天然モノの砂糖は思っていた以上に貴重らしい。

 

 カノンの鼻先にブツを突きつけてやったら、「て、ててててて天然の砂糖ですかああああーーー!?」と大絶叫。

 周囲から一気に注目された。

 

 偶然食堂に着ていた、金への執着で有名なカレルさんとか、どう好意的に見ても金塊を狙う強盗の目だった。

 もしも手に入れたなら、彼の場合は食べずに転売していたことだろう。

 

 …特に厨房の方々からの視線がヤバかった。

 冗談抜きで殺してでも奪い取ろうとしている殺気を感じた。

 

 厨房のオバサマ方には優先して幾らか渡す条約を締結した。

 リーダーの方にはお子さんが居て、この子も料理の道を志しているそうなので、きっと喜ぶだろう、との事。

 名前は確か、ムツミちゃんだったか?

 ……GE2で聞いた名前のような気が……でもメインキャラじゃないよな……黒蜘病にかかる子だったっけ?

 よく思い出せない。

 とりあえず、赤い雨には絶対触れないようにと伝えておいたが、何のことだかよく分かっていないようだ。

 俺も分からない。

 

 

 …それはそれとして、「私(俺)にもよこせ」という視線を結構な頻度で感じる。

 特に強い視線を感じて咄嗟に視線を辿ったら、同じく咄嗟に柱の影に隠れた…あの影のヒップラインは雨宮指揮官だな。

 相変わらず悩ましいスタイルをしていらっしゃる。

 

 ううむ、やはり極東だからか?

 ジャパニーズの美味いモン大好き魂が、ここまで根付いているのか?

 

 

 …賄賂に使えそうだ。

 次のアイテムはカレー粉(モドキ)とかどうだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よろず屋に商談を持ちかけられたが逃げた。

 

 

 

 

神無月KENZENな精神は不健全なまでに鍛えられた肉体に宿る日

 

 カノンがスッゴイ真剣な顔で、お菓子を作りたいので今日は任務を休ませてほしいと言い出した。

 …これ、普通の企業とかで言ったら説教通り越してクビものじゃなかろうか…。

 まぁ、俺は別に構わんけど。

 8割以上狙った結果だし、これで上手く行けば裏カノン様が俺に逆らわなくなる第一歩だ。

 

 菓子作りに鬼気迫る表情で……いや、なんか違うな……そう、神の領域に踏み込もうとする求道者、聖者の如き澄み切った表情のカノンを放置し、俺は(シバく)狩りへ。

 カノンさんは厨房にお菓子作りに行きました。

 そうするとなんという事でしょう、搬入口から人が入れそうなくらいに大きな桃……いや、ここで桃はあんまり面白くないな…もうちょっと捻りを…。

 

 ……人が入れそうなくらいに大きなアルダーノヴァが…………。

 

 

 捻ってみたけどやっぱり面白くない。

 やはり俺にユーモアは無いようだ。

 

 さて、小粋な駄冗句は置いといて、カノンは割りと計画通りに動いてくれてるようだ。

 討鬼伝世界で速鳥に習った、ワリとエゲツない感じの情報操作や意識誘導の効果もかなりのもの。

 …性行為による洗脳よりも、こっちの方が効率いいな。

 

 

 

 

 

 

 ……上手くやってれば、オオグルマから洗脳によるNTRも可?

 イ○ポになって代償行為として洗脳に手を染めてるんだから、そこから同じ洗脳で奪ってやったら拠り所を無くしてそれはもう愉快な顔に…。

 

 

 …いかん、思考がかなりゲッスい感じに引きこまれた。

 俺はアリサを手駒にして愉悦したいんじゃない、手篭めにして可愛がりたいんだ。

 ここんトコ間違えたらアカンよ。

 

 

 

 ともかく、カノンは俺に多大な恩義を感じているようだ。

 それは大げさにしても、「絶対に隊長(俺だ)に誤射しません!」と勢い込んでいる。

 

 …某グラサンヒゲの司令のように顔の前で手を組んで、「こちらには君に、定期的に砂糖を供給する用意がある。ただし、その量がどれ程になるかは君の誠意次第だ…」とかやってたのが原因か?

 近くに居た人に、「おい、まさか誤射を治すためだけに…?」と聞かれて、こっそりドヤ顔しながら「その為の、砂糖です」とか言ったからか?

 …この辺で、周囲からの圧力がかなり増してたんじゃが…。

 まぁ確かに、一ゴッドイーターの誤射を治すためだけに、江戸時代のコショウより貴重な砂糖を定期的に渡します、なんて聞かされれば無理もないか。

 同じ量の黄金より貴重とか、なんかもうね…。

 

 

 よく考えなくても一攫千金だ。

 これ、討鬼伝世界でも出来るかな?

 

 

 

 

神無月雷光虫を見てジンオウガを見ず日

 

 宣言通り、カノンは俺に誤射をしないように慎重に立ち回っているようだ。

 俺がカノンの邪魔にならないように上手く動いているのもあるが、今のところ誤射はしていない。

 すぐ横を掠めていった事はあるが、むしろカノンの方が顔を青くしていた。

 そんなに砂糖がほしいか。

 

 昨日作ったというお菓子もお裾分けされたんだが、結構なお手前で。

 MH世界の色々な味を食べなれてなかったら、こっちが餌付けされていたかもしれない。

 

 先日は、俺がミッションから帰って来るまで、出撃口の横で待っててくれたんだが…律儀と言うか何と言うか。

 周囲からのお菓子を狙う視線が怖かった、とはカノンの談だ。

 ツバキさんからの視線に屈して、一つ渡してしまったとかナントカ。

 

 

 さて、カノンの誤射抑制はこの路線でいいとして、これから何をすべきかね?

 最近、カノンにかまけていたので、ターゲットにしていた黒爺猫の群れは見失ってしまった。

 群れがどんどん減っていくのに相当な警戒心を持ったらしく、かなりの大移動をしたようだ。

 今から見つけるのは、相当骨が折れる。

 

 それに加えて、新人であるカノンと正式に組んだ為、接触禁忌種の捜索任務から外された。

 まぁ、普通に考えてルーキーを連れて、交戦=死と思われている連中と接触しろなんて言わないよな。

 

 当面、カノンをスキルアップさせながら……そうだな、この際だから整備班や開発者達に少し話を聞いてみるか。

 GE2にあったようなリンクサポートとか、まだ実現されてないアイデアが色々あるだろう。

 リンクサポートにしたって、リッカさんが何年も研究して、ようやく(血の力という不確定要素があって)実現できた筈。

 眼を通しておくだけでも、何かいい拾い物があるかもしれない。

 

 

 

 

 …ん?

 

 血の力って、要するに感応種と同じ力だったよな?

 で、前のループで、その感応種が何故か出てきて、しかも使っているのは霊力で…。

 血の力に必要なのが強い意思という点でも、霊力と血の力は非常に近しい性質を持っていると予測できる。

 

 と言う事は……リンクサポート、俺だけが使う分には問題ないんじゃないか?

 

 

 

 

 

神無月ゴッドイーター、オラクル溜め易くエイムし難し日

 

 無理だった。

 リンクサポート自体はアイデアとして認められているし、その雛形の設計図も一応出来てはいる。

 が、まだ実際に作った訳ではないし、何よりも俺が勘違いしていたようだ。

 

 リンクサポートの理論上、使用不能なのは「リンクサポートをしながら、神機を武器として使う」事。

 神機を単なるリンクサポート要因とする分には、血の力だの霊力だのは必要ないみたいだ。

 まぁ、血の力にせよ霊力にせよ、まだこの世界では認められていない力だ。

 そんなのを使う前提で設計する筈が無い。

 

 

 とは言え、収穫が無かった訳ではない。

 「あのとんでもない神機の使い手」という事でリッカさんを初めとした整備班・開発者達には顔を覚えてもらえたようだし、アイデアとして暖めている幾つかの案件も見せてもらえた。

 まだ理論上の話でしかないものが殆どだったが…。

 

 ちょっと気になる物があった。

 何でも、神機には基本的に、幾つも拘束具が付けられているそうなのだ。

 何故?と言われれば、神機と言えどもアラガミだから。

 アラガミしか食わない偏食に調整してあるとは言え、極限の飢餓に追い込まれれば、何でも食べるようになってしまうかもしれない。

 そうでなくとも、神機は無機物ではない。

 意思を持っているかはともかくとして、生物なのだ。

 生物が何もせず、一生を不動で動くとは考えにくい。

 なので、暴走に備えて拘束具を何重にもつけている。

 

 拘束を解いたらどうなるのか?

 神機の状態にもよるが、まず考えられるのが暴走だ。

 特にアラガミが目の前に居たら、食欲を満たす為に使い手の意思を無視して…或いは使い手をアラガミ化させてでも、それに飛び掛っていく事が考えられる。

 この点については、神機が出来上がって間もない頃、幾つか事例があったそうだ。

 

 

 だが、この暴走を抑え込めたら、どうだろう?

 拘束具で抑え込むのではなく、神機を暴走させ、しかしそれをコントロールできたら?

 …理論上は、暴走して色々な出力が上がった神機を自在にコントロールできたなら、リンクバースト以上のパワーアップになるのではないだろうか。

 

 

 

 …まぁ、机上の空論もいいところだろうが…どうにも気になる。

 

 神機がアラガミ、或いは動物的な本能に基づいて行動(捕食)するのであれば、それを抑える方法も同じ事。

 動物と同じように、俺が主だと認めさせればいい。

 暴走しようとするバカ犬を、忠犬に変える訳だ。

 

 

 ここで思い浮かんだのは、MH世界のレジェンドラスタ・キースさんだ。

 彼が使っている武器は神機ではないが、単なる太刀だった。

 しかしその太刀を、武士独特の異様なまでの丁重な取り扱いをする事で、2~3度斬るだけで錬気ゲージマックスというアホみたいな能力を実現していた。

 …あれは…今考えると、それだけの精神力・集中力を持っているだけでなく、太刀の方がキースさんに力を貸していたのではないか?

 霊力も無ければ妖怪や神も居ないMH世界であっても、あれだけの精神力を持った人に、アレほど大切に扱われ続けていれば、微弱ながらも九十九神の類になってもおかしくない。

 

 …想像と言うよりは妄想の領域だが、要はそれと同じ理屈だろう。

 恩義、忠誠、恐怖、欲望……何でもいいから神機に自分を認めさせる。

 そうすれば神機は拘束具を外しても暴走…はするが、使い手のコントロールに従ってくれる、と。

 

 

 霊力や九十九神云々はぼかしてこの案を話してみると、数名がなんか興奮していた。

 まだアイデアだけで、具体的な方法は全く思い浮かんでいなかったらしい。

 「神機に自分を認めさせる」というアイデアが天啓だったとか。

 研究して、成果があれば教えてくれると約束してくれた。

 

 

 

 

神無月今のは通常弾ではない。メテオだ日

 

 またカノンを連れて連続ミッション。

 最近では3~4回の連戦でも文句を言わなくなってきた。

 誤射は…まだ完全に治ってはいない。

 

 今日は2回食らった。

 「砂糖が減っちゃう!」とカノンは顔を青ざめていたが、まぁ上出来な方だろう。

 供給量はしっかり減らすが。

 そろそろ他のチームとの合同任務を試してみてもいい頃か…。

 

 幸い、カノンの誤射癖はまだそんなに広まっていない。

 俺との訓練をこなすまで、そもそも敵に真っ直ぐ弾を飛ばす事すら困難だったんだから、それも当然か。

 うーん、何処と組んでみるかな。

 まだ他のチームに対する誤射がどうなるか分からないんで、後々面倒になりそうな人達は御免蒙る。

 

 となると……リンドウさんとかサクヤさんかな。

 ジーナさんでもいけそうだが、なんか妙な反応起こしてとんでもないモノが目覚めそうな気がする。

 誤射姫様が生と死の交流とか言い出したら洒落にならん。

 死を担当するのが主に味方になってしまう。

 

 

神無月神機の歯を、60歳までに20本残そう日

 

 今後の繋がりの事も考えて、リンドウさんに協力を打診した。

 二つ返事でOKを貰えたが、リンドウさんも丁度新人の付き添いに出るところだったらしい。

 …って、新人ってコウタ?

 ああ、もうそんな時期か。

 

 既に2~3度任務についているらしいが、動きは…まぁ、やはり新人と言った評価らしい。

 「姉上の教導を受けて心が折れてないのは、素直に評価する」だそうだが…そんなに辛かったか?

 …一般人には辛かったかもしれんな。

 俺はどうって事なかったが。

 

 任務に先んじてコウタと顔合わせしておこうかと思ったが、今日は休みの日で、家族に顔を見せに行っていたようだ。

 …フラグとしては低レベルなものだが、相変わらず死亡フラグをナチュラルに立てるヤツ…。

 ゲームの初プレイ時は、きっと殆どのプレイヤーが「コイツそろそろ死ぬんだろうなぁ」と思っていたんだろうな。

 その強運を、上田に分けてやってくれ。

 

 

 

 

 すっかり忘れてた。

 上田はどうした。

 

 

 

神無月尻を蹴飛ばすのもガーグァの縁日

 

 

 出撃前に調べたが、上田さんはまだ生きているようだ。

 危ない危ない…流石に見殺しは後味が悪い。

 一応、毎回アナグラまで連れて行ってくれる恩人だ。

 できるだけ助けるとしよう。

 …運よく例のシーンにブチ当たったらな。

 今回は何が悪かったのか、「上田」の名前が広まってないから、上を警戒する癖もついてないっぽいし。

 

 

 さて、肝心のミッションについてだが……うんまぁ、コウタは予想通りだな。

 リンドウさんも言ってたが、まだまだ新人。

 一人での討伐は難しいし、ちょっと慌てるとすぐに弾が明後日の方向に飛んでいく。

 これからに期待、だな。

 

 リンドウさんも、同じガンナーかつほぼ同期のカノンと会わせる事で、成長と言うか刺激を期待したらしいし。

 ……刺激ねぇ…。

 

 

 

 

 そして我らがカノンの方だが……なんというかその……リンドウさんが「なにごとだ」と平仮名で呟くくらいに豹変した。

 そう、満を持しての裏カノン様ご光臨である。

 …予想はしてたんだが、正直あのタイミングは予想外でした。

 

 何があったって?

 

 討伐開始⇒発見⇒即降臨、以上。

 

 いやぁ見事な早撃ちだった。

 前衛後衛に分かれてとは言え一塊になって進んでいたんだが、先頭のリンドウさんがザイゴートを発見して、「いたぞ」と声をかけたと思ったら、「ぞ」が終わる前に既に発砲。

 リンドウさんを掠めて弾が飛んでいった。

 当のカノンは「風穴開けてあげる!」といつの間にやら裏ヴァージョンにチェンジ済み。

 そして唖然としている俺達を残し、どんどん前に出てバンバン撃ち込んでいた。

 

 …一応ね、誤射は無かったよ?

 最初のリンドウさんを掠めた一発も、当たってはいなかった。

 リンドウさんが冷や汗流すくらいに、至近距離を掠めたが…。

 

 その後は、コウタは唖然としていて殆ど動けなかったし、俺は誤射に巻き込まれそうだったからガンナーモードでやってたし、リンドウさんは「俺の出番はないなぁ」なんて言いつつ周囲を警戒していたし。

 そしてカノンはガンナーなのに先頭で暴れてたし。

 

 

 

 …裏が出てきてしまった事はしゃーない。

 因果律的に考えて決まっていたレベルだ。

 しかし、あの突撃癖はいただけんな。

 

 裏をどーにかするのはもう諦めて、そっち系に行くか。

 いや、誤射しないって事を考えると、いっそ接近戦させるか?

 …威力は高そうだが、旧型神機じゃ盾が使えない。

 新人に勧める戦術じゃないな。

 

 

 

 

 

 裏カノンさんについて?

 リンドウさんとコウタに色々言われたけど、俺だって見たのは初めてだよ。(棒)

 

 

 

 

神無月金の切れ目がガンナーの切れ目日

 

 色々聞いてみたが、カノンは裏バージョンだった時の記憶が殆ど残っていなかった。

 最初、リンドウさんがザイゴートを発見して、「攻撃しないと!」と思ったところまでは記憶がハッキリしているらしい。

 そして構えて、照準を合わせて、引き金に指を……かけた辺りから記憶がない。

 やっぱり、文字通り引き金を引くのがトリガーか。

 

 ん? 

 なら、どうして俺と二人で出撃した時は発動してなかったんだ?

 …この辺にカギがありそうだな。

 何とか裏バージョンと話ができればいいんだが…。

 

 となると、他の誰かと組んでもう一度出撃か。

 俺以外に誤射をするかどうかも確かめたいから、前衛(と言う名の生贄)が要るな。

 …そういや、裏バージョンの状態で俺に誤射するかも確かめないといかんのか。

 まぁそれはミタマの力でどうとでもなるが。

 

 …誰を生贄にするかなぁ…。

 こっちに来たばかりのアリサとかならあんまり心が痛みそうにない。

 むしろカノンを、逆らってはいけない相手と認識させるのも手か。

 

 でも来日するのはもう少し先だ。

 …小川シュン?

 色々とつっかかってくる面倒なタイプだった気が………ああ、そうか。

 

 

 

 

 上田さんにすればいいんだ。

 同じチームに組み込めば、上田するのも防げそうだし、誤射実験もできる。

 正に一石二鳥。

 当の上田さんは自分が上田するなんて分かる筈もないから、当人にしてみりゃ災難以外の何者でもないけどね!

 

 この世界で最初に会った時は、俺を回収してくれるチーム。

 ループ内で何度か会った時には、ソーマと組んでいたり、或いは名前も知らないゴッドイーター達と組んでいたりと、厳格な所属は無さそうだ。

 このチームに組み込むのは、そう難しくないだろう。

 

 

 

 いざとなったら、雨宮指揮官に砂糖の賄賂も辞さない。

 

 




外伝
 続・アサシンクリード編



 なんか最近、教団内でアルノの地位と言うか立場がヤバいらしい。
 何やってんだ、アイツ。

 この前、教団に美人のねーちゃんを拘束プレイしつつ連れてきたのは参考にさせてもらおうと思ったが、やっぱりアレか?
 神聖なアサシン教団で、猥褻物陳列罪でもしたのか?
 それともセクハラか?

 庇ってやりたいところだが、俺はあくまで技術提供者に過ぎない。
 霊力・忍者ムーブの火付け役としてそれなりに影響力はあるようだが、部外者にすぎないしな。

 最近会ってないし、何やってんのかも分からない。
 …というか、俺は日々の糧を得るのに集中しててそれどころじゃない。
 教団への技術提供の恩恵でそこそこ資金はあるが、ずーっと暮らしていける程じゃないからな。



 技術提供の見返りは、資金だけではなかった。
 こちらにもアサシンの技術を幾つか教えてもらったのだ。
 今更覚えても、あんまり意味が無いと思っていたイーグルダイヴ…よく考えてみれば、どんな所から飛び降りても、狙った場所にピンポイントで降りられる。
 その他、ステルス技術…人ごみの中に入り込んで姿を隠したり、草むらの中で座り込んで隠れたり。
 この辺は要練習だが、極めて行けばモンスターにも通じるかもしれない。
 大型ならともかく、小~中型ならカバーアサシンとかで一撃必殺できるかもしれん。



 …というか、マジでこの夢はいつまで続くのやら。
 単なる夢じゃないのは確かだが、いきなり3つの世界とは関係ない世界に放り出されてもな…。



 それはともかく、今のフランスは色々と追い詰められていて、革命一歩手前らしい。
 難しい事はよく分からんが、治安的にも経済的にも超荒れていると言うのは分かる。

 革命ねぇ…関わってもロクな事にならない未来しか見えんな。
 そもそも部外者の俺が土地の問題に首を突っ込んでもロクな事はなかろう。

 と言う訳で、いっその事日本を目指して旅に出ようかと思う。
 元の世界とは違う世界だろうし、そもそも年代も違うが、それでも故郷は故郷だ。
 と言うか味噌汁飲みたい、米食いたい。
 この時代の日本で、豪族やら商人やらでもない俺が白いめしを食えるとは思ってないが。


 うん、そうと決まれば、思い立ったが吉日だ。
 このままシルクロードを通って日本まで行ってやるか!
 旅に必要な物は、大体揃ってる。
 食料は砂漠でもなければ現地調達も出来るし、問題は足だな…。
 馬やラクダでも買うか。

 ああ、そう言えば、教団で世話になった人達に挨拶しておかなきゃ。
 シルクロード近辺にも教団は居るだろうし、そっちの方にも霊力ムーブを吹き込むのも面白いかもしれない。
 結果がどうなるかなんぞ知ったこっちゃないがね!

 …俺の存在も、先駆者達にとっては既知の範囲内なんだろうか?
 まぁ、会う事なんか無いだろうからどうでもいいけど。


 そういう訳で、なんか教団でエラそうな地位に居る人の屋敷にやってきたのだ。
 どうもこの人、テンプル騎士団との和平と言うか一時的な停戦?を考えて色々やってる人らしい。
 そんな人だから、俺の巻き起こした霊力ムーブも忌々しく思っている節がある。

 何故かって?
 そりゃ、アサシンだろうと新しいオモチャを手に入れれば使ってみたくなるさ。
 「新しい力を得た今なら、テンプル騎士団を一気に駆逐できるんじゃないか?」という意識が徐々に広がり始めているらしい。
 アサシンも結局は人間って事だね。
 信条には、そーいう事すんなって解釈できる文があるみたいだが、文章一つで人の意識を抑え込めるんなら犯罪も革命もありゃしない。
 
 

「ちわーっす。
 ミラボーさん居ますかー?」

「む、君か。
 …呼び鈴を使いたまえ。
 どうかしたのかね?
 これから客人を迎える予定があるのだが」

「これはどうも。
 唐突に悪いんですが、そろそろ故郷に帰ろうかと思いまして」

「ほう?
 随分と急だな。
 そういう事なら、上がっていくといい。
 この後、ベレックも来るのだ。
 一言告げてやってくれ」

「それじゃお言葉に甘えて。
 …あのオッサンも俺を嫌ってるっぽいし、居なくなると聞いたら喜びますかね」

「別に君を嫌っている訳ではないさ。
 苦々しく思っているのは、君が齎した霊力に浮かれる教団の意識だ」

「余計な事しやがって、て訳ですな。
 …ところで、アルノにも顔を見せておきたいんですが、何処に居るかご存知ない?」

「さて、具体的な居場所までは。
 …最近のアルノは独断が過ぎる。
 正直な話、このままではアルノを教団から破門しなければならん」


 …ブラックフラッグの海賊も、船沈めるは略奪するはで好き放題やってたのに、破門なんて話は出なかったがなぁ。
 時代の問題もあるだろうが、アサシン教団の判断基準はよう分からんわ。


「ところで、帰路の目途はたっているのか?」

「いや、観光しながらフラフラ行きますよ」

「無計画だな…まぁ、君がそれで言いと言うなら何も言うまい。
 だが気をつけろ。
 テンプル騎士団が君に目をつけている」

「…騎士団が?」

「まぁ当然だろうな。
 アサシンが突然、妙な技術を使うようになった。
 それを齎したのは君だ。
 対抗する為に自分達も、と思ってもおかしくない」

「ミラボーさんで抑えてくれんかね」

「難しいな。
 私は橋渡しをしようとしているが、騎士団に直接的な影響力がある訳ではない。
 それに、教団にせよ騎士団にせよ、フランスならともかく他の土地まで命令をいきわたらせるのは難しい。
 何より、一時的な停戦にせよ、ある程度の戦力均衡は必要だ……ああ、別に君を騎士団に差し出すという意味ではないぞ」


 電話もない時代だし、無理もないか。
 とは言え、そうなると帰路の間もあんまり気を抜かない方が良さそうだな。
 テンプル騎士団に付けねらわれるって可能性は考えてなかった。
 うーん、他の土地のアサシンへの紹介状でも書いてもらって、そっちを頼るか?
 でも、そうなると教団と騎士団の泥沼の戦いにドップリ浸かってしまいそうだしな…。

 色々世話になっといてなんだが、教団にも騎士団にも入る気はしない。
 小難しい理屈や、ややこしい信条を説かれても、どんなに高尚な理念を聞かされても、それを受け止めるだけの器は俺には無い。
 小さなコップにタライの湯を注ぐように、溢れて毀れて、ついでにコップの底の穴から流れ出て終わりである。


「…部外者が無礼な事言いますが、アルノに限らず、皆が信条を受け止め切れてないような気がしますね」

「ほう?
 確かに無礼だが、興味深い見識だな」

「む、ベレックか」


 おおう、背後に立たれて気付かなかったよ。
 これがあるから、ミタマは常に堅のガードゲージマックス状態にしている。


「で、その意味は?」

「大した根拠がある訳じゃないですが……確か、『許されない事など無い』でしたっけ?
 アレだけとっても、多分皆別々の解釈をしてると思う。
 実際、最初に信条を聞かされた時は、手段を選ばなくていいって事だと思ったし」

「そのような意味ではない。
 大体、その一文だけを抜き取っても、我々の信条は」

「いや待った待った、勘弁してくれ。
 そういうややこしい信念みたいなの聞いても、俺は賛同できない。
 悪いけど、俺の受け止められるスケールじゃないよ。
 問題にしてるのは、ベレックさんがそう考えてても、他の人達まで同じ考えとは限らないって事だ。
 信条の意味をちゃんと解説している訳でもないんだろう?」

「それよりベレック。
 彼は故郷に帰る事にしたそうだ」

「何?」


 ベレックの視線が向けられる。
 …やはり、あまり好意的ではない気がする。
 特に今日は。


「ま、色々と教団には世話になったから、顔見世に回ってるんだよ。
 後で教団本部にも行っていいかい?」

「…ああ、いいだろう。
 ところでミラボー。
 悪いが急用が出来た。
 少しばかり話をしたかったのだが、また今度にしよう」

「そうか?
 私も無理をして予定を空けたのだが」

「だったら休んでれば?
 ミラボーさん、忙しいんだろ」

「そういう訳にもいかんのが、責務ある立場というものだ」


 …なんだこの、妙な感じ。
 急用が出来た?
 今の今まで、普通にミラボーさんを訪ねてきたのに?

 …確か、ベレックさんは鷹の目は使えても、霊力は使えなかったな。
 顔も視線もこっちに向いてない。





 鬼ノ眼!











 何も言わず、そのまま今日はお暇した。 








 翌日、俺は急いでアルノを探し出した。
 緊縛プレイしてた赤毛のねーちゃんも一緒で、何やら急いでいるようだったが、「ミラボーさんがヤバい」と言うと足を止めた。
 
 ベレックさんが、ミラボーさんを殺そうとしている。
 ただし証拠は何も無い。

 流石に信じられなかったようだ。
 ただ、アルノと同じように鷹の目で読み取った、と言うと、少しばかり説得力が出たらしい。



 最近、俺の鬼ノ眼が進化してきている。
 鷹の目になって微妙にランクダウンするかと思ったら、訳の分からん進化をしやがったようだ。

 鬼ノ眼で見えていた霊力はそのままに、鷹の目のように重要な『何か』が光って見えたり、調子がいい(悪い?)時には過去視やら、(アルノの鷹の目もそうらしいが)人の記憶まで読み取ってしまう。
 流石に透視や未来視はできないが、なんかもう普通の目じゃなくてワケの分からん魔眼になりつつあるんじゃなかろうか。
 直死とか車輪眼とかになっても俺は驚かない。


 それはともかく、流石にミラボーさんが殺されそうになっているのを放置して行っちゃ寝覚めが悪い。
 あの人には色々と世話になったのだ。
 アサシンの教義がどうの、テンプル騎士団との関係がどうのは俺は知らん。


 
 アルノとねーちゃんと、3人で行動開始。
 ねーちゃんはテンプル騎士団所属らしいんだが(なんか色々ややこしい事情があるみたいだが、聞き流した)、まぁいいか。
 組織レベルじゃ不倶戴天でも、個人レベルなら上手くやれるんだろう。


 アルノは教団本部へ何やら工作。
 ねーちゃんはミラボーさんに何やら用事があるらしい。


 そして俺はと言うと………影ながらミラボーさんの護衛だ。
 ミラボーさんはあんまりアサシン系統の技術は強くないらしい。
 政務畑の人みたいだしね。









 そしてカバーアサシン食らいました。
 ガードゲージが無ければ即死だった…。
 名前も知らないアサシンだったが、暗殺される側に回るとコレか。
 恐れられるワケだ。

 どうやらベレックさんの仕業…かどうかは分からないが、俺の暗殺命令が出ているっぽい。
 護衛に回っているのを発見されたかな?

 ぬぅ、まさかアサシンに狩られる側に回るとは。
 気配を探ろうにも、街中だから雑多すぎて殆ど分からない。
 仕留めにかかってくる直前くらいにしか、敵意も見せない。
 常に鬼の眼タカの目を使い続けなければいけないから、かなり疲れる。


 厄介な…。










 そうこうしている内に、アルノの教団での工作が終わったらしい。
 具体的に何をしたのかは聞かない。

 すまんが、流石にこれ以上首をつっこめない。
 アサシンマジ怖い。
 ミラボーさんも現段階では何とか無事だったし、俺はもう旅立とうと思う。

 不義理ですまない、と頭を下げたが、アルノは「元は教団での不始末さ。遠い隣人とは言え、元々手伝ってもらう義理さえなかったんだ。気にするな」と言ってくれた。
 


 ミラボーさんの無事を祈りつつ、東へ向かって出発する。
 もういい加減、夢も覚めそうにない……。









 と思っていたら、パリを出た辺りで意識が遠く…。
 と言うかこの視界の歪みはアレだ、シンクロ解除のような………。

 アレか、ゲームで言う決められたストーリーの場所から離れたからか?
 夢が覚める…。





外伝:アサシンクリードユニティ編


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47話

ようやくGE2RBの発売だー!
明日は早起きして、朝一番に買いに行くぞ!
……今日、思わず呑みすぎて夜更かししなければね。
どんなに早く帰れても深夜2時ですから…。


 

 

 

神無月ウマイもの食わす人はいい人だ日

 

 

 砂糖を使うまでもなく、上田さんと同じチームになる事はできた。

 だがソーマも一緒だ。

 

 

 

 別に問題はないが、何故?

 

 

 と思ったら、ソーマと上田さんのチームも2人だけで、俺達も2人。

 4人体勢が基本なので、組ませてしまえ、という事らしい。

 

 ソーマはあからさまに迷惑そうで、カノンにもかなりつっけんどんに返していた。

 カノンもカノンで怯えていたし………うーん、これは誤射実験台1号が、上田さんじゃなくてソーマになるフラグ?

 だが自業自得ですな。

 

 そして上田さんは相変わらずマイペースだ。

 この調子だから、コミュ力0のソーマと組まされてたっぽいな。

 ナイス人選。

 

 

 そんじゃ、明日は早速狩りに出るとしますかね。

 ソーマが単独出撃するんじゃないかと不安だったが、そこは上田さんが保証してくれた。

 あれで意外とルールは守るんだよ、と。

 

 …まぁ、あんまり違法出撃したりしてると、減給されるしね。

 ソーマでも生活するのに金は要るし、その辺は分かってるのかな。

 多分、命令とかルールとか無視して暴走しまくって減給を喰らい、次の給料日まで水で凌いだ経験とかあるんだろうなぁ。

 

 

 …俺?

 俺はちゃんとミッション受けてから出撃してるよ。

 帰り道に散歩したら、予定外のアラガミに会ってるだけで。

 

 上田さんには、カノンには暴走したり誤射したりする気がある事を伝えておいた。 

 ソーマは既に去っていたので伝えられなかった。

 

 

 

神無月カウンターと乙は紙一重日

 

 案の定、ソーマが誤射った。

 そして上田さんも誤射った。

 

 俺は誤射られなかった。

 

 うむ、とりあえず実験の第一段階は成功だ。

 ソーマから色々文句を言われたが、ツンケンした態度だった事と、伝えようとした時にはさっさと何処かに行っていた事を突いてスルーした。

 「アレはそんなレベルの問題じゃなかっただろうが!」と言ってたし、主張はよーく分かるが無視。

 カノン本人にも文句を言っていたが、相変わらずソーマに怯えているらしく、「ごめんなさいごめんなさい」で会話が成立してなかった。

 

 いいじゃないか、死神って仇名をカノンが肩代わりしてくれるよ。

 

 …この分だと、誤射に巻き込まれないように単独行動が増えるかもしれんな…。

 

 

 

 上田さんは…「いやいや、凄かったね!」と笑っていた。 

 引き攣っていたが。

 今回のミッションで上田は無かった。

 ……誤射の事を考えると、後画……いやもう文字通り「五車賀」になるかな?

 いや、頻繁という事を考えると「五車多」?

 新しいな。

 

 

 裏カノン様と話す事はできなかったが、とりあえず俺に誤射しないようにしているのは確かだ。

 餌付けは上手くいっているようだ。

 

 計画通りなら、これから誤射をしてはいけない人物を増やしていく予定だったが………後回しになるな。

 別に「まぁいっか」なんて思ってる訳じゃない。

 裏カノン様がどう考えているか確認しないと、迂闊に手が出せないだけだ。

 

 

神無月秋の古代米は嫁に食わすな日

 

 何度かミッションをこなして、裏カノン様と話す事ができた。

 餌付けはかなりの深層心理まで影響を及ぼしたらしく、「甘味の為なら!」と言って俺にだけは誤射をしないようにしているらしい。

 裏でも甘いものは好きなのね。

 

 さて、しかし困った事になった。

 裏カノン様が出てきてまだ数回しかミッションをこなしてないんだが、銃の衝撃や破壊に刺激を求めていると思っていた彼女は、別の物に興味を持ってしまっていたようだ。

 

 つまり誤射られた味方があげる悲鳴に。

 ついでに言えば敵の悲鳴と断末魔も。

 

 別に殺したい訳じゃないが、なんというかこう……綱渡りしてる人を後ろから脅かしたいと言うか、綱を揺らして慌てふためくサマが見たいと言うか…。

 いや結果的に死の危険をバリバリ与えている訳だが、そのギリギリのラインでもがいて足掻く様がたまらないと言うか…。

 

 

 ……これ、俺のせいなのかなぁ?

 前のループとかでもここまであからさまだったんだろうか?

 

 

 

 躾けねば。

 手段を問わず。

 

 

 

 

神無月腹が減っても狩りはしないとメシ食えない日

 

 流石にヤバすぎるので、自重していた手段を解禁する。

 性行為による洗脳も已む無し。

 これは欲望に溺れているのではない。

 大事の前の小事である。

 その小事の中にちょっとばかり欲求不満を解消する手段が含まれているだけである。

 

 とは言え、そこに至るまでの手段をどうしたもんか。

 今までは酒の勢いで成り行き任せに関係を持ったり、特にモテ男でもなかった筈の俺に向こうからアプローチをかけてきてくれたんだよな。

 思えばこちらから積極的に迫った記憶は無い。

 だが今回ばかりはそんな事は言ってられない。

 

 

 

 

 だから正面から口説かず、一番手っ取り早い酒に頼る。

 

 

 まぁ、そうでなくても命がかかってる職場の上官と部下で恋愛関係ってヤバそうだしな。

 体だけの関係ならいいのかって話になるが。

 

 唐突に酒に誘っても怪しまれるな。

 何が丁度いい区切りの時に…そうだ、一人前のゴッドイーターの試験として、コンゴウ辺りの討伐があった筈。

 それをカノン主導でこなせれば合格。

 で、祝い酒……待てよ、カノンって何歳だったっけ?

 …二十歳にはなってなかったな……未成年の飲酒はイカン。

 

 

 何?

 何故麦茶に炭酸を混ぜてるのかって?

 アルコール入ってなくても、雰囲気で酔う人って結構居るんだぜ。

 

 

 と言うか、本当に飲まなきゃいかんのはカノンじゃなくて俺だ。

 能動的に迫る為に。

 しくじったら色々な意味で大惨事になるが。

 

 

 

 しかし、躾けるにしてもどういう方向で行く?

 形はどうあれ、欲求の抑圧というのは大きなストレスだ。

 そしてストレスはまず間違いなく、裏を悪化させる。

 味方が足掻き呻くシーンを見たい、と明確に言い放った訳じゃないが……形や良し悪しはどうあれ、「あの人は撃ってはいけない」を過剰に盛り込むのは望ましくない。

 いや、そんな事言ってる場合かって意見はよーく分かるんだけどね?

 それじゃ根本的な解決になりませんよね、霧が深い的なカンジで。

 

 マジな話、あまりにストレスを蓄積させると、裏どころか表カノンが暴発してしまう可能性も考えられる。

 アレだ、確かGE2の個人エピソードで、回復弾を使うようになってから他のメンバーにも喜んでもらえるようになったけど、禁断症状みたいに手が震えだしたという記述が…。

 

 

 …益々手遅れに思えてきた。

 と、とにかく、無理に溜め込むと、裏と表が逆転するくらいの事は覚悟しておいた方が良さそうだ。

 なので、無理に抑制するのではなく、味方よりもアラガミの断末魔や叫び声に愉悦する方向に躾けてみようと思う。

 

 …それだと止める人が居ないな…。

 もっと悪化しそうだが、それでも味方の悲鳴に愉悦するよりは…。

 

 

 

神無月先達のハンターは初心者装備をしてでも探せ日

 

 カノンの為にあれやこれや考えているうちに、何時の間にやらコウタが一人前になっていた。

 この前バッタリ会って話した所によると、横乳様(俺にとっては背筋様だが)の付き添いで、コンゴウ討伐に臨んだらしい。

 なんかいつもより早くね?

 と思ったら、カノンに色々刺激されたらしい。

 

 

 

 …負けてたまるかではなく、足手纏いになったら諸共に吹っ飛ばされそうだって意味で。

 まぁ、強くなったのはいい事だ。

 それに、俺のブートキャンプを受けるよりはマシだろう。

 

 いやそれよりも、あのコウタが横乳様(背筋様)を語る目はは、アレだ、思春期の少年が憧れの女教師を語る目と言うか…。

 うんまぁ、失恋確定だし、本人も気付いて無いし、バガラリーの方が優先度が上って時点で恋や愛ではなく憧れなのは確定だが。

 ガンバレ、コウタ。

 リンドウさんが例のミッションでMIAすれば、ワンチャンあるかもしれないぞ。

 阻止するけど。

 

 

 

 そして未だに春がこないツバキさんに南無阿弥陀………今寒気がした。

 更に「だったらお前が春告性(リリー・ホワイトマッディネス)になっちゃえよ!」と電波を受信した。

 ちなみにマッディネスはmuddinessで「濁り」だ。

 

 

 さて、それを聞いた(コウタが一人前ってトコだけね)カノンも色々頑張り始めた。

 しかし頑張れば頑張るだけ増えるのは、五車多さんとソーマとアラガミの悲鳴だ。

 何でお前だけ平気なんだ、って絡まれた。

 餌付けの事を話したら、五車多さんは滅多に頼らない実家の伝手を伝って、色々調味料を取り寄せようとしているらしい。

 必死だな。

 

 ソーマは………まぁ、単独行動しようとしてるんだけどね……俺のハンター感覚から逃げられると思うなよ。

 ちょっとでも痕跡残したら追跡するぞ。

 …決して、前のループでのコミュ障っぷりに手を焼かされた仕返しじゃないからな。

 

 誤射にさえ眼を瞑れば……誤射にさえ!……、カノンの腕はしっかり上がってきていると言える。

 位置取りも段々スムーズになってきたし(確実に当てられる位置取りで、味方を阻害しない位置取りではない)、撃てる角度も増えてきて、何よりテンパらず、エイム力が上がってきている。

 敵の…いや、的の急所を的確に射抜き始めた。

 うーん、やっぱ素質と言うかポテンシャルは高いんだが、ネタ的な意味ではなしに。

 

 だが誤射がどうしようもない。

 いや、それをどうにかしようとしている訳だけど。

 

 

 …もうちょっとしたら、コンゴウ討伐を任せてみてもいい頃か。

 誤射対象さえいなければ、充分すぎるほどの腕前になりつつある。

 他の二人は…誤射に晒されないとあれば、喜んで送り出してくれるだろう。

 

 

 

神無月ゲス、外道を笑う日

 

 話は変わるが、榊博士からは本当に接触が無い。

 あの好奇心の塊が俺の神機を放置するってだけでも意外だ。

 それだけ俺が気に入らないのか。

 

 まぁそれはいいんだが、そうなると支部長の動きも全く分からない。

 汚っさんの来日予定だけはほぼ確定してるんで、暗殺に支障はないんだが。

 

 アリサに繰り返し暗示を与える必要がある事を考えると、そう長くは離れていられない筈。

 アリサはあと1~2週間くらいで来日する、と思う。

 その間、支部長の眼を掻い潜る準備をしておかないと。

 

 難しいが、大丈夫!

 俺はなんか何時の間にやら、人ごみに紛れ込んだだけで気配や存在感を消す、ガチアサシンのような特技を身に着けていたからな!

 監視カメラの類の隙間を抜けるくらい訳はない。

 やろうと思えばMH世界の狩場の草叢に座り込むだけでも気配を消せるぜ!

 

 …なんか妙な夢を見た頃から使えるようになって、その頃から鬼の眼が妙に進化したような気がするんじゃが……まぁいいか。

 現状、3つの世界を転々としてる理屈さえ分かってないんだ。

 そこから更に別の世界なんて事になったら、もうそれこそ解明できる気がしなくなってしまう。

 

 そんな事より、次回もちゃんと使える任命状を手に入れる事の方が重要だ。

 しかしどーしたもんか。

 事務員のヒバリさんを丸め込めばなんとかなる気はするんだが、あの人普通に優秀だしな…。

 おかしな事を頼んでも、ホイホイ受けてくれるとは思えない。

 

 

 

 

 

 

 あ、でも一つツテというか他のヤツに対する脅迫材料があったな。

 汚っさんに、イ○ポだというのをバラされたくなければ、令状を偽装しろって方法が。

 

 まぁその後始末する訳ですが。

 ……いや、やっぱりコレも却下だ。

 脅した程度で素直に従うとも思えん。

 確実に何か仕掛けられる。

 

 他の方法…………雨宮指揮官に賄賂?

 普通に考えれば無理だが、前に砂糖を見る目を考えると、案外…。

 

 

 

 

神無月ハンターじゃ、ハンターの仕業じゃ!日

 

 いざとなったら逃げるつもりで雨宮指揮官に相談してみた。

 無論、賄賂の備えもバッチリだった。

 

 要らなかった。

 

 

 

 「うん? 特殊な事情だとは聞いているが、貴様の着任辞令は降りているぞ。 コピーでも何でもすればいいだろう。 社外秘だがな」

 

 

 だって。

 そうだよねー、榊博士に便宜を図ってもらったとは言え、ゴッドイーターとして正式に着任している以上、辞令自体は出てるに決まってるよ。

 いくら榊博士でも、一声出すだけで俺を企業に就任させられる筈がない。

 採用通知とか異動命令書は受け取ってないけど、企業内部ではそういう手続きがしっかり進んでいるに決まってる。

 そこから取ってくればよかったのか…。

 このデータを榊博士のアカウントで流せば、それだけで俺は何処かから異動してきたゴッドイーターになれる。

 チョチョイと文面を弄って流せば、新入りゴッドイーターとして入り込む事も可能だろう。

 

 いやはや、世の中意外な所に答えが転がっているもんだ。

 

 

 雨宮指揮官にお礼として砂糖を…とか言ってみると、一瞬眼の色を変えたが、そっちの方が怒られた。

 そんな高価な物をやりとりするようでは、それこそ賄賂に繋がりかねない、弁えろと。

 …まぁ、実際賄賂として使うつもりだったしね。

 

 

 

神無月装備を揃えて物理で(四人がかりで)殴れ日

 

 着任辞令を入手した。

 よし、これで次回ループからももっと楽にゴッドイーターになれるぞ。

 

 そろそろ榊博士のアカウントのパスワードが変えられる頃だ。

 今のうちに、情報を漁るだけ漁っておこう。

 

 さて、それはそれとして、明日はカノンのコンゴウ討伐任務。

 余程のトラブルでもない限り、討伐自体は問題ないだろう。

 

 問題なのはこちらの方だ。

 カノンの一人前祝いとして、ちょっとした宴会・酒の勢いでエロするつもりだったんだが……酒が足りん。

 と言うか弱い。

 モンハン世界の素材から違う酒ばっかり呑んでたからか、こっちの酒で酔える気がしない。

 

 しかしコンゴウ討伐指令はもう決まった事だ。

 …素面でやるしかないか…。

 このまま放置だけはできん。

 

 

神無月人生は重いタマゴを抱えて段差を飛び降りるが如し日

 

 討伐成功。

 が、個人的に2つ程ちょっと気になる事があった。

 討伐中、妙な気配を感じた。

 探索しても何も見つからず、気のせいか?と思ったんだが……ふと気付いて、鬼ノ眼を使った。

 

 何で鬼ノ眼がアサシンクリードの鷹の目みたいな事までできるようになってんの?

 

 敵の耐久力とか部位破壊できる所が見えるのは以前のままだが、なんか他にも色々と見えるようになっている。

 

 …雪原に、裸足の足跡が、金色に光って見えるんじゃが……。

 これはアレか、とうとうシオと遭遇か?

 とは言え、カノンが居る現状のままで追いかけるのは望ましくない。

 確保しても、隠蔽できるだけのスペースも無い。

 口惜しいが、今回は引き下がった。

 

 

 

 そしてもう一つの問題は……何やらカノンの心の内が、ちょっとだけ見えてしまったのですが…。

 これはアレか?

 前に夢に見たアサシンクリード世界のタカの目が、本当に使えるようになってるのか?

 いや、ステルス技能が使えるようになってた時点でおかしくも何ともないが。

 確か俺の知っているタカの目と違って、相手の記憶を読み取るような真似もできると……あ、あ、アル…ル? アル………ト? そうだ、アルノが言っていた。

 

 真偽の程や理由はともかくとして……読み取ってしまった記憶によると、カノンの俺への感情は…敬愛。

 裏カノンの感情もほぼそれに順ずる。

 俺を相手にして、時々ロマンスを想像して悦ってしまう程度には、好意的で異性として見られているようだ。

 ただ、年齢が年齢だけに、恋に恋している側面が強いが。

 

 

 これからカノンの一人前祝いにメシ奢ってやりにいくのだが……これならいける、か?

 サブイボが立ちそうだが、少女マンガ風に進めれば何とか…。

 

 

神無月木を隠すなら、ヤマツカミの腹の中日

 

 カノンは大人になりました。

 昨晩は気絶してしまったのでピロートークは無し。

 朝の挨拶は「け、けだものです…」で、目を逸らした後に「すごかったですぅ…」だった。

 フルバーストものの破壊力である。

 

 

 ふぅ……それにしても、コトに及ぶまで、緊張の連続だったぜ。

 相手が小娘とは言え、まともな恋愛経験の無い俺のリードで大丈夫かと冷や汗ものだった。

 

 まぁ、これで俺も少しは自信がついたかな。

 

 

 ちなみに躾けの方は順調だ。

 まだ一晩しかやってないが、洗脳じみたエゲツない行為の効果は眼を見張るものがある。

 これなら砂糖が無くても、俺に誤射はしないだろう…別に供給をやめる理由もないが。

 

 これからゆっくりじっくり、カノンをしゃぶり尽く…もとい、性癖をコントロールしていこう。

 

 

 

 ちなみにカノンは、ベッドでは最初はウブだけど、感極まったり体力の限界が近くなってきた頃に裏モードになった。

 表とうって変わって奔放な態度だったが、やはり生娘。

 オカルト版真言立川流の前に、好き放題に弄ばれるしかなかったようだ。

 と言うか体がタイマニン並みに火照っている状態で抵抗なんぞ出来る筈もないが。

 

 

 ウブで恥ずかしがりな表を、甘い言葉と卑猥な手管で翻弄する愉悦。

 Sっぽい言動の裏を、焦らしや卑語を使って煽り、Mに染めていく愉悦。

 

 …うむ、またしても欲望に溺れそうだ。

 やはり禁欲だけでは修行の効果は少なかったか…。

 

 

 

 ま、しゃーない。

 破滅しない程度に乗り切ろう。

 その為の修行だったんじゃないかと言われると反論もできんが、こうなっちまったものは仕方ない。

 

 と言うか、真面目にカノンの方が心配だ。

 今日はまだ色々と浮かれているようだが、冷静に考えられるとな…。

 

 ロマンスとスイーツと形だけの格好良さを凝縮したような、一昔前の(この世界だと相当前だが)三流少女マンガみたいな展開から、いきなりハードな抜きゲーの世界に引きずり込んだワケだし。

 ふと我に返った時、恥ずかしさやら理想との乖離やらで悶えなければいいのだが…。

 まぁ、そこに付け込んでまた洗脳するんだけどな。

 

 

 

神無月人の乙見て、笑ってる間に自分が2乙する日

 

 カノンが一人前になった事で、ソーマからも五車多からもお祝いが貰えたそうな。

 …ソーマがそんな事するなんて意外どころの話じゃないが、いい加減誤射をどうにかしようと本気で思っているらしい。

 そこで五車多から聞いた、甘味によって好感度を稼げば撃たれない…というのを実行しようとしているらしい。

 

 だが渡し方がツンデレもいいとこだ。

 「フン…」とかそっぽを向きながら、ポイッと何処かで買ってきたらしいチョコを投げ、そのまま去っていく。

 お前は何処の中二病全開………いや、それ以前に思春期の男の子だ。

 

 逆に五車多は相変わらずハイテンションで、実家から取り寄せたらしい色々な物を渡していた。

 …のだが、なんかカノンと俺を見る目が生暖かかったような…。

 ひょっとして気付いた?

 この日のカノンはまだ痛みが抜けきってないし、腰もガクガク言ってたんで殆ど動かなかったんだが…。

 マイペースな割りに、意外と鋭いヤツ。

 

 

 そして、カノン本人は……お祝いをもらえて嬉しそうだったのはともかくとして。

 しっかりナニの味を覚えたようだ。

 二人っきりになると、チラチラと視線を送ってくる。

 低い声で呼びかけると、ビクッとなって顔を赤くし、モジモジと足を刷り合わせる。

 

 稀に裏が出てきて、グラビアみたいなポーズでお誘いもある。

 

 

 …うむ、洗脳は順調だ、という事にしておこう。

 

 しかし、ここで欲望のままに突っ走っては討鬼伝世界の二の舞だ。

 そもそもヤリすぎで任務に出られないなんて本末転倒。

 限度…というか「待て」を覚えさせよう、犬の躾け的に。

 

 

 

神喰月早寝大食い日

 

 新しい月に突入。

 何度もやってれば棚卸しも慣れたもの。

 事前の準備が大事だね。

 

 カノンの躾けを考え始めた早々、新型来日の情報が走った。

 そうか、アリサが来るのか。

 

 

 

 

 …駄犬をカノンと並べてみたいが、自重自重。

 

 

 さて、そうなるとやはりリンドウさんの班に配属かね。

 何とか繋ぎを作っておきたい。

 ……ツンツン全開状態のアリサを驚かせてやろう、と言えばあっさり組んでくれそうだな。

 リンドウさんもカノンの豹変に唖然としてたし。

 きっと「ドン引きです…」が出るだろう。

 

 ちなみに汚っさんの暗殺準備は着々と進んでいる。

 拷問云々は考えてない。

 同じ外道の俺が天罰与えるなんて噴飯モノだし、何よりも手が止まりそうだ。

 

 今まで数えるのも億劫なくらいにアラガミ・モンスター・鬼、普通の動物その他諸々を仕留めてきたけど、少なくとも無駄に痛めつけた事、嬲った事は一度も無い。

 そんな余裕は無かったからだ。

 しかし、今度の相手はまず余裕とは言え、無駄に苦しめて愉悦するような趣味は無い。

 ……あまりに苦しんでいるところを見ると、妙な仏心が沸き上がるかもしれないし。

 「これだけ痛めつけたんだから、もう歯向かわないだろう」なんて思ってしまうかもしれない。

 

 余計な事をせず、問答無用で命を刈り取る。

 

 

 

神喰月ミラボレアス装備もポポ装備から日

 

 よくよく考えたら日記に危ない事を書いている。

 殺人者は何故だか手記や日記をつける事が多く、それが原因で捕まった奴も多いと聞くが…。

 

 まぁ今更か。

 …よくよく考えたら、よく日記を今まで誰にも見られなかったもんだ。

 普通人に見せるようなものじゃないし、他人のを勝手に見るようなものでもないが、容赦なくやりそうな人が結構居るんだよなぁ…。

 そんな時の為に、3つの世界の言葉を複合して書いてる訳ですが。

 

 

 さて、カノンも動けるようになった事だし、4人で出撃。

 相変わらず俺以外には容赦なく誤射るなぁ。

 …よく考えれば、洗脳もまだロクな暗示を仕込んでない。

 まだ俺への服従を刷り込んでる最中だから、「○○は撃ってはいけない」「味方の悲鳴より敵の悲鳴」にはノータッチなんだ。

 

 うん、すまない、五車多、ソーマ。

 もうちょっと耐えてくれ。

 と言う訳で狩りに行こうか。

 

 

 

神喰月

 

 五車多とソーマがちょっとお疲れ気味のようだ。

 まぁ、あの誤射の嵐じゃな……と考えていたら、半分は俺にも責任があるそうな。

 

 …すっかり忘れてたけど、普通のゴッドイーターって連戦しなかったよね。

 昨日はカノンだけを連れて行ってた頃のノリで、4人纏めて5~6回くらい連戦したからな。

 しかも、俺は平気だけど他の二人は誤射を警戒しつつ戦わなきゃならない。

 そりゃー疲れる。

 

 しかも俺も、「俺とカノンだけでも4連戦いけるんだから、4人揃ってれば10回くらいイケるんじゃね?」みたいなノリで次から次へと狩りに行った。

 途中でソーマに疲れた顔でド突かれてなかったら、本気で2桁突破していたと思う。

 

 おかげで今日は、俺以外の3人はオヤスミです。

 カノンは連戦にはそこそこ慣れてたし、誤射の警戒も必要なかったから(流石の裏カノンも自分に誤射はしない…)気力に余裕はあったんだけど、俺がベッドでダウンさせてしまいました。

 そろそろ「味方の悲鳴より敵の悲鳴」系の暗示を仕込んでもいいかもしれない。

 

 

 さて俺は俺で勝手に狩りに行くぜ!

 モンハン世界の山篭りのおかげで、長丁場も連戦も慣れたもの。

 昨日は「予定外のアラガミが接近しています」祭だったけど、はっきり言ってまるで疲れてない。

 霊力すらも使っていないというのに!

 

 あの山篭りでの修行は、煩悩肉欲関係よりもこっちの方に覿面だったようだ。

 今日は廃寺方面に行こう。

 またシオの足跡とか見つかるかもしれない。

 

 

 

 …ビッグフットとかのUMAを探してる気分になってきた。

 

 




次の外伝は何の世界にしようかな…。
最初のゴッドハンドはともかく、アサクリは普通に使えるスキルを付けちゃったし、また使おうにも使えないスキルを付けたいです。



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48話

ヒャッハー、GE2RBじゃー!
大画面で最初からやってるぜー!

…こうして見ると、ナナの服ってスゲェ…。





 

神喰月悪事は狂走薬を使ったかの如く千里を走る日

 

 

 ふと思ったが、カノンが誤射をしなくなったら五車多が上田に戻ってしまうな。

 この名前の為か、今のところ上田するイベントは無い。

 …五車多の安全の為にも、「五車多だけは撃っていい」と刷り込むべきだろうか?

 

 

 まぁ、さすがにじょうだんだが。

 にっきでのよびかたひとつで、うえだしなくなるわけないじゃない。

 いちおうりあるではえりっくせんぱいとよんでいるのに。

 

 …いや、上田ならまだしも五車多を広めるのは流石にねぇ…カノンも傷つくし。

 

 

 それはともかく、アリサ来日…したらしい。

 予想通りリンドウさん預かりになり、ツンケンした雰囲気を振り撒いているとか。

 

 カノンも一度会ったが、「旧型は旧型なりの仕事をしていればいいと思います」なんて例のセリフを言われたとか。

 ……相手がアリサとは言え、俺も可愛がっている部下にそんな事を言われて黙っているほど温厚ではないが……この場合は言う事はただ一つ。

 

 遠からず一緒にミッションに行くから、とびっきりの誤射を覚悟しておくように。

 

 

 さて、それじゃ汚っさんの歓迎の準備に行きますか…あの世への歓迎だけど。

 

 

神喰月人の口に戸が立てられないので始末する日

 

 小細工完了。

 後は汚っさんの来日を待つばかり。

 

 それはともかく、やはりリンドウさんもアリサには手を焼きそうだと思っていたらしい。

 鼻っ柱を叩き折ると言うか、インパクトの強い一発を考えていたようだ。

 新入りの顔合わせという建前で、カノンを連れて合同ミッションを提案したら、イイ笑顔でOKをくれた。

 きっと俺の笑顔も結構なものだっただろう。

 はっはっは、極東支部は魔窟だぜ?

 その洗礼を受けるがいいわ。

 

 

神喰月クルペッコも鳴かずば撃たれ…いややっぱ撃たれる日

 

 明日は合同ミッションだ。

 それはいいんだが、なんかアリサが突っかかってきた。

 …なんちゅーか、子猫がピィピィ鳴いてるようにしか見えない。

 

 アリサ的には同じ新型使いの俺にライバル心を燃やしていたようなのだが、生暖かい目で眺められているのに気付いたのか、捨てセリフを吐いて逃げていった。

 アリサの新たな弄り方を見つけた瞬間である。

 喜ばしい事だ。

 

 ま、それも相応の実力差があってこそ、か。

 以前アリサが部下になった時にはわざわざ心をヘシ折らなければならなかったが、今は誘導するなり迫力一つで動かすなり、どうとでも出来る。

 …相手が、強がってて新型使いとは言えルーキー以外の何者でもないからな。

 これだけ長くハンターやってれば、それくらい出来て当たり前なのだが。

 

 

 ところで、以前に話した開発グループの人達が何人か話しに来ている。

 無論、杭君にご執心の例の整備者もだ。

 今日来た人は、オラクルリザーブ…GE2のブラストの機能を研究している人らしい。

 新型神機のデータを取らせてほしい、という事だったんで、少しばかり付き合った。

 

 「理論上は…イケる!」と言ってたから、案外近いうちにオラクルリザーブが解禁されるかもしれない。

 ……仮に解禁されたとして、カノンに教えるかどうかが問題だな。

 俺は……一層強く暗示を仕込んでおけば大丈夫だと思うが、流石に他の皆が不憫だし…。

 

 まぁいいか、教えちゃえ。

 

 それよりも、次のループに備えてその技術のデータを貰っておきたいな。

 何か進歩があるか、形になったら教えてくれ…と言ったところ、渋い顔をされた。

 どうも、自分の成果を掠め取られるんじゃないか?と思ったようだった。

 心外だし、そもそもデータだけあっても理解できる頭は無いが……無理も無いといえば無理もないか?

 特許が出れば、モノによってはセレブの仲間入りが出来るらしいし。

 

 そう考えると、ほいほいデータを見せてくれるリッカさんや研究員達の方がおかしいんだろうか。

 いくら共同研究者とかに当たるとは言え…。

 

 

神喰月リオレウスの威を借ろうとするミラボレアス、人呼んで黒レイア日

 

 リンドウさんとアリサの合同任務の日だった。

 アリサは相変わらず相手を選ばずツンケンしているようだが、俺には苦手意識があるらしい。

 生暖かい目がそんなにイヤか。

 

 そしてミッションに出かけていく俺達を、コウタが念仏を唱えながら見送り、五車多が十字を切り、ソーマが目元を伏せて見送っていた。

 見送られるアリサはワケが分からないようで、「極東っておかしい…」とこっそり呟いていた。

 無論、その言葉が半日ほど後で、全く違う意味で繰り返されたのは言うまでも無い。

 

 

 要するに『洗礼』を受けたわけだ、モロに。

 リンドウさんの「空を見て、動物に似た雲を探せ」は別にいい。

 開始早々、「私が一番上手くアラガミを狩れるんだ!」とばかりに切りかかっていくのも、別に構わない。

 その後、ブライトさんばりの修正パンチが入っただけだから。

 

 実際に入ったのは、修正パンチどころじゃなかったが。

 言うまでもなく、誤射直撃である。

 

 ナニが何だか分からないアリサを他所に、ドゥンドゥン撃ちまくるカノン。

 若干遠い目をしつつも、カノンの射線上に入らずアラガミを狩るリンドウさん。

 何故か誤射されない俺。

 そして何故か誰もカノンの凶行に何も言わない。

 

 アリサが混乱しているうちに、一度目の狩りは終わってしまった。

 

 

 アリサが混乱から立ち直って(至極最もな)苦情を言う前に、次の戦闘へ。

 裏モードのままのカノンが(ガンナーなのに)戦闘きって突っ込んでいき、俺がフォロー。

 リンドウさんは相変わらず誤射を受けてないのは流石である。

 

 そして同じように斬りかかるべきか躊躇したアリサに、流れ弾が。

 まぁ、しっかり避けてたが。

 

 

 更に3回連戦して、ようやく裏カノン様が引っ込んだのを見て、アリサは戦々恐々していた。

 まぁ、以前に色々言われたお返しといわんばかりに、誤射で片付けていいのかと言いたくなるくらい誤射っていたからな。

 しかもアリサがギリギリ対処できるか出来ないかのラインを狙って。

 誤射を食らって、余裕で避けられた筈のアラガミの攻撃に冷や汗かいたのは、一度や二度ではないだろう。

 おかげで裏表問わず、カノンの神機の方針が自分の方に向くと、即座に回避体勢に入ってしまうようになった。

 

 と言うか、コレ普通に新人イビリの領域じゃなかろうか…。

 

 

 

 でも構わずに連戦連戦。

 敵との戦いと味方からの誤射の警戒に、アリサもあっという間に疲弊してしまった。

 

 

「ちょ、ちょっと、何処まで連戦するつもりなんです!

 任務はもう終わっているでしょう!?」

 

「いや、幾つか纏めてミッション受けてきたから。

 4人揃ってるし2人は新型だし、15戦くらいは軽いって」

 

「隊長が行くなら、私も行くよ。

 全部打ち抜いてあげる!」(←裏カノンのセリフです)

 

「まぁ、普通じゃないがやってやれない事はないな」(←余裕でタバコふかしてるリンドウさん)

 

 

 

 そして絶句しているアリサに俺から一言。

 

 

「こんなもん、極東支部では日常茶飯事だぞ」

 

 

 特に俺の班ではな。

 

 

 …アリサに続けて声をかけたリンドウさん曰く、

 

 

「真に受けるな。

 ここまでイカレてるのはこいつらだけだ。

 頭がおかしくなるだけだぞ」

 

 カノンの誤射を平然と避けながら、サソリをバラバラにしてたアンタが言う事ですかね、リンドウさん。

 …にしても、大分腕をあげたつもりだったが、リンドウさんにはまだ及ばないな。

 そこそこ食いつけるくらいには、力量差は縮まっていそうだが。

 

 

「極東っておかしい…」

 

 

 うん、狂いでもしないとやってけないトコだからね!

 でもそこは「ドン引きです…」にしてほしかったかな!

 

 

 

神喰月狂気の沙汰も金次第、できれば血液も日

 

 アリサのツンケンが大分和らいだようだ。

 丸くなったと言うよりは、「コイツもイカれてる人種なんだろうか?」と考えて、あまり強気に出れなくなっているっぽい。

 まぁ、実際イカレた奴はおおいからな。

 守銭奴も居れば、生死の緊張感を楽しむスナイパーも居るし、乱立する死亡フラグを平然とへし折る猛者は居るし。

 …その死亡フラグをヘシ折る奴を見て、「平凡な人って、こんなに安心するんだ…」なんて呟いていたが。

 そいつが平凡かどうかは意見の分かれるトコロだぞ。

 将来は隊長クラスまで上り詰めるしな。

 

 まぁ、当のアリサだって下乳担当ストッキング担当くぎゅぅぅぅじゃないけどツンデレ担当と、結構な変人具合なんだが。 

 

 

 

 尚、露出狂疑惑はこの世界では珍しく無いのでカウントしていない。

 

 

 色々とアリサを意図的に凹ませたが、どっちにしろこうなるのは時間の問題だったと思う。

 それくらい、新入りであるアリサとベテランメンバーとの差は大きいし、極東支部は変人だらけだ。

 ちなみに個人的には、変人筆頭は榊博士だと思っている。

 

 

 それはそれとして、明日は汚っさんの来日予定日だ。

 特にアクシデントも無し、既に準備も整っている。

 明日は公休日なので、こっそり抜け出しても文句は言われない。

 もし問い詰められたら、「ヒマだからアラガミ狩ってきた」と言えば厳重注意と減給くらいで済むだろう。

 実際、暗殺の帰りに適当に狩ってくるつもりだし。

 

 あー、でもいつもより軽めにしとくかな。

 初めて直接人を殺す事で、精神的にブレが出ないとも限らない。

 さて、どうなる事やら。

 

 

 

神喰月他人のフリ見て我が乙笑え日

 

 ササッと抜け出したが、その直前にカノンが俺の部屋の前でウロウロしていたのを見かけた。

 冬眠前のクマみたい…というのはちょっと悪いか。

 おめかししてたんで、どうもデートか何かのお誘いだったようだが……悪い事をしたかな。

 

 あとチラッと見えたブラの色からして、中身もかなりオトナ仕様っぽかった。

 

 …残念だが、今回ばかりは付き合えん。

 

 

 ついでにアリサの様子もちょっと見てきたが……まぁ、こっちは大丈夫そうだ。

 何処にイカレた変人が潜んでいるのかとビビっている節はあるが、結果的には人間的に丸くなったように見えるらしい。

 今までの悪い態度の蓄積がある分、あまりいい感情は向けられて無いようだが、これ以上悪化もしそうにない。

 それはそれで自分が取るべき態度に悩んでいるようだが。

 「オオグルマ先生に相談したい…」とか呟いているのが聞こえた。

 

 …アリサの反応を考えると、ちょっと刃が鈍るかな…多少鈍っても、即死しなくなるだけで結果は変わらないが。

 

 

 さて、そろそろ出発するとしよう。

 懺悔は聞かないししないよ、汚っさん。

 

 

 

神喰月恋は思案の外、狩りは思案が8割咄嗟が2割日

 

 ミッション成功。

 流石に多くを語る気にはならない。

 実際、特別な事をした訳ではない。

 それこそ某ゲームのアサシンがするように、すれ違い様にトスッとやって歩いて帰ったような感覚だった。

 

 帰り際の狩りでも、特に精神の乱れは見えなかった。

 

 でも夢に出た。

 イヤな笑顔で出てきやがったからまたサクッとやったが、何度か夜中に起きる事になってしまった。

 カノンのところにでも行こうかな?と考えたが、今から行ってもヤるくらいしかスる事が無い。

 昼間はロマンチックなデートを求めてきたのを空振りさせといて、ストレス発散の相手だけさせると言うのは幾らなんでも不誠実が過ぎる。

 

 弱すぎる酒を飲んで、酔った気分になって無理矢理眠った。

 と言うかハンター式睡眠法を繰り返して朝を待った。

 

 にしても、意外と動揺してたのかね?

 狩りの時に精神的に乱れが感じられなかったのは事実だし、夢以外に

 

 

 

 

 

 

 

 夢?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もしやと思って、久々にのっぺらミタマを意識してみる。

 

 

 

 のっぺら顔に墨で汚ッサンの顔書いてやがった。

 そしておちょくるように踊ってやがる。

 

 

 

 

 

 物理的に殴れないのがホントに…・・・!

 夢の中で刺したのに全くダメージも見られないから、多分アレは本当に単なる夢だったんだろう。

 こいつらが切欠だっただけで。

 俺を慰めるとかストレス発散させようとか、そんな意味があってやって『いない』のはこれ以上無いほど確信がある。

 

 …ここの所考えてなかったが、こいつら本当に何なのだろうか?

 いつも俺の中に居るんだから無理も無いといえば無理もないが、とにかくやりたい放題、何が起きようと他人事。

 物理的に何かをするだけの力は無くて、本人達に出来る事と言えば限定された場所(つまり俺の中)での無言の意思表示のみ。

 そしてただ只管にウザい。

 

 …うーん、なんだこのカンジ……どっかでそんな奴と付き合いがあったような…。

 何処かで……そうだ、多分ずーっと会ってない。

 仮に思い出せたとしても、そいつがどうしてのっぺらトリオになってるかって疑問も出るが。

 

 

 まぁいいや。

 結局、人間一人を直接手にかけておきながら、俺は本当は殆ど動揺してなかったって事だ。

 人としてどうかと思うが、今更だな。

 何度も死にながら生きている時点で、俺は狂ってるワケだし。

 

 特に討鬼伝世界の時は色に狂ってたし。

 狂ってる方が楽しい事もある。

 

 

 

神喰月トコロ変われば弱点も攻撃方法も変わる日

 

 アリサがラウンジで凹んでいた。

 今度はサクヤさんとの女子力の差でも見せ付けられたか?と思っていたら、原因は俺と言うか汚っさんだった。

 うん、この前暗殺したしね。

 後始末もしといたから、アラガミに襲われたって事になってるが…そりゃ落ち込むわ。

 

 実態はともかく、アリサにとっては信頼できるドクターだった。

 「相談したい」なんてボヤいたしな………魔窟での人間関係を相談されて、どんな反応をするのか見てみたかったが。

 

 

 さて、どうしたもんか。

 アリサがこのままなのは…まぁ、別に不都合は無い。

 言っちゃなんだが、死人なんぞ出て当然の世の中だ。

 放っておいても、影は残るが立ち直るだろう。

 

 傷心に付け込んで、いいようにする?

 …それはアカンやろ。

 殺人付きマッチポンプとか最悪ってレベルじゃない。

 もしもバレたら……いや、それについては汚っさんの所業を調べて、バレるまでに暴露してしまえばいいか。

 ショックは受けるだろうが、その辺は更に傷心に付け込んでどうにかする。

 

 それよりもカノンと二股になってしまうのが問題だ。

 今でさえ、表カノン裏カノンと考えると、ある意味二股状態なのに。

 討鬼伝世界と同じ徹は踏まない。

 

 

 とは言え、完全に放置しておくのも不人情な話。

 まだ人間関係の修復もできてないようだから、気にかけてくれるのなんてリンドウさんくらいだしな。

 ちなみにそのリンドウさんは、自室で酒を飲んでいるようだ。

 サクヤさんが向かうのを見たから、多分今日はオタノシミだろう。

 

 

 

 …まぁ、狩りに誘うくらいはいいだろう。

 

 

 

 

 

 カノンにまだ怯えてるようだけど。

 

 

 

神喰月乙らぬ先のモドリ玉日

 

 アリサを巻き込み、何度かミッションをこなした。

 その度に誤射に晒され、同様に誤射られる五車多とソーマの間に妙な友情が芽生えたような気がするがどうでもいい。

 そして俺だけ誤射されてないので、「こっちから!」とばかりに何度か流れ弾が飛んできたが、ショートソードで適当に弾いたからやっぱりどうでもいい。

 

 ちなみに五車多は、アリサに対して悪感情を持っていないようだ。

 ツンケンしていた頃には顔を合わせてなかったようだし、変人に怯えるようになってからは……うん、まぁ、体中にイレズミしてる見た目からして変人だからな。

 悪態もつけなかったらしい。

 

 ソーマに至っては、アリサが何を言っても無視しているシーンしか想像できん。

 

 まぁ、誤射という名の絆で結ばれている今となっては、ワリと普通に口を利いているようだが。

 

 

 

 さて、それはそれとして、ソーマから「アリサの様子がおかしい…お前が目をつけとけ」と言われた。

 意外とお気遣いの紳士している。

 でも具体的な事は何も言わなかったんで、五車多に話を聞いてみると、アラガミとの戦いの最中に、不自然な動きと言うか表情と言うか……妙なタイミングで体が強張っていたりするらしい。

 むしろ、アラガミとの戦いが終わり、「私、今日、誤射が少なかった気がします!」「えー……」「いやいや、ないよ…」「ヘヴィだぜ…」とかそういう会話の最中にもふっと不安定な様子を見せるとか。

 

 班長と言うか隊長の俺も、狩りの中で唐突に硬直するのは気づいてはいたが……てっきり誤射を警戒してのものだと思っていた。

 しかし戦いが終わった後でも、となると話は違ってくる。

 

 ……なんかイヤな予感がするな。

 暫く様子を見るか…。

 

 

 

 カノンに相談してみるか?

 いやでもこれからデートだし、その最中に深刻かつ他の女の話題を出すのはな…。

 別に今からでなくてもいいか。

 と言うかカノンから有効な情報を得られる気がしない。

 

 

 

神喰月一狩り終わった即乱入、狩ったら狩ったでまた乱入日

 

 カノンは色々勉強していたらしい。

 …18歳以下の筈だが、HowTo本とか何処から手に入れたのやら。

 ま、それは何時何処の時代でも、禁止されていても流通はあるわな。

 

 躾けついでに色々仕込んでいくつもりだったが、自分で勉強してるんならもうちょっと好きにさせてみる。

 

 

 それはそれとして、アリサの様子が更におかしくなってきた。

 医者からは特に異常は無いと診断されたようだし、念のために見れる範囲でカルテも見せてもらったんだが……。

 

 

 討鬼伝世界で速鳥から聞いた洗脳誘導その他の方法の中に、同じような症状が出る手法があった。

 肉体的に異常は無いが、あからさまに精神的に不安定になる。

 つまり依存対象の喪失、並びに封じ込めていた恐怖や罪悪感などのタガが緩む事による、得体の知れない圧迫感。

 

 速鳥から聞いた手法では、対象を依存させて利用するだけ利用し、後は放置すれば勝手に精神的な平衡を欠いて自滅する、効率的だが邪法の術…という話だったか。

 

 …これらを考えると……成程。

 

 

 汚っさんの洗脳は、アリサを思い通りに操る為だけでなく、アラガミへのトラウマや恐怖を抑え込む為のモノでもあったんだろう。

 それを繰り返しかけられる事によって、アリサはトラウマを気にせず戦えるようになっていた。

 

 考えてみれば、幼いアリサの目の前で、親を食い殺したのは黒爺猫…だが、アラガミ全体に恐怖を抱いてもおかしくはない。

 

 で、その感情を抑えていた暗示がかけられなくなった為、トラウマが徐々に復活しだしている。

 戦いの最中に、前後に体が強張るのはその為だろう。

 本人に自覚があるかは分からないが。

 

 

 どうすっかな…汚っさん殺っちゃったから、もうどうやって暗示をかけてたのか分からない。

 カノンと同じように物で釣って意識を誘導できればいいんだが、アリサにはこれと言って釣れるような物が無いんだよな…。

 

 

 

神喰月ハンターは食わねば楊枝せぬ日

 

 アリサも自分の不調を自覚して、焦っているようだ。

 簡単な任務だったが、何度か一人で出撃し、体が強張るのをどうにかしようとしているみたいだ。

 

 が、恐らくそれは逆効果だ。

 汚っさんにかけられた暗示が解けかけている今、アラガミに繰り返し出会う事は、より強くトラウマを想起させてしまうだけ。

 緩みかけている恐怖や悲しみのタガが、一層外れやすくなってしまう。

 

 暗示によってトラウマが抑え込まれていたアリサは、それによる感情や恐慌と向き合った事が殆ど無いんだろう。

 暗示をかけられる間、映像や音声で何度も見せ付けられていたらしいが、殆ど意識を持たないままでは慣れもしないし心構えだってできやしない。

 むしろ汚っさんは、暗示をかけやすくする為に、トラウマを意識させないように誘導していたんだろう。

 

 

 とにかく、アリサがやっている事は、時期尚早が過ぎる。

 トラウマと同じ状況にあえて身を置く事で、「もう同じ事が起こっても大丈夫なんだ」と認識していく治療法もあるらしいが、現状ではとても「大丈夫」とは言えない。

 これからトラウマの発露がどんどん酷くなる可能性だってあるのだ。

 最低限、体が強張った時のフォロー役が要る。

 

 

 

 

 

 そう言えば、支部長はどう考えているんだろうか?

 アリサを呼び寄せたのは、リンドウさんの暗殺の為だと思っていたんだが……でも考えてみれば、その為にわざわざ貴重な新型をロシアからぶん奪ってくるか?

 何かしらの裏取引があったんだと思うが…。

 ひょっとして、汚っさんを呼び寄せる方がメインだった?

 手駒として使える汚っさんの傍に、暗殺に使えそうなアリサが居て、渡りに船だったとか?

 

 

 どっちにしろ、アリサコントロールの要だった汚っさんが居ない以上、暗殺には別の方法を取ってくる可能性がある。

 警戒しておかないと…。

 

 

 

神喰月ショウグンギザミの耳に念仏日

 

 アリサが日に日にヤバくなっていく。

 一目見て分かるくらいの絶不調だ。

 

 とりあえず捕まえて、一人で任務に行くなと何度も言った。

 が、アリサの所属は俺の隊とは違う。

 俺に指揮権なんぞある筈が無い。

 

 アリサは相当焦っているようで、聞く耳持たずといった感じだった。

 

 

 

 

 なので、フォローに着くようにカノンに命じた。

 

 

 

 ようやく大人しくなった。

 カノンはアリサの反応に涙目になっていたが、誤射の記憶が殆ど無いので手のつけようが無い。

 

 

 

 真面目な話、アリサもカノンもこのまま放置しておく訳にはいかない。

 カノンはこのままR-18から躾けていけばいいとして、アリサはまず自分の現状を把握させなければ、トラウマ克服も見込めそうに無い。

 

 メンタルケアのやり方なんてサッパリ分からないが…元々人間の精神なんて、何が切欠でどうなるか、全く分からんしなぁ…。

 それでも「あれは厳禁」「これは致命的」「そっちは微妙」なんて指標があるだけでも随分助かるんだが。

 今ひとつ不安だが、速鳥仕込みの誘導術を参考にして、逆算でやってみるしかないか…。

 

 とは言え、ケアするにしても相手に話す気がなければどうにもならん。

 本当の医者とかであれば、焦らずじっくりと、患者が話す気になるまで待つんだろうが……それをやっていたら、まず間違いなくアリサは死ぬ。

 今でさえ、ザコのアラガミと戦うのが精一杯なくらいなのだ。

 中型が…或いはヴァジュラタイプが乱入でもしてきたら、逃げる事もできずに死ぬ未来しか見えない。

 

 …今の記述でフラグが立ったな。

 

 

 

 




暫くは、出勤前はGE2RB、終わった後は執筆になりそうです。
更新が遅れると思いますが、ご容赦ください。


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第49話+外伝4

酒とつまみに金をつぎ込みすぎた…。
安いつまみを考えます。
ごぼうの唐揚げとか結構安く作れておいしいです。

あと鶏皮を程よく焼いて、カレースパイスと塩コショウで食べるのもオススメ。


神喰月名は体を現し、体は名を作り変える日

 

 俺・カノン・アリサ・五車多の4人組で任務。

 ソーマ?

 五車多とジャンケンして勝ってたのを見たよ。

 

 4人組なら、集団心理とかそんな感じので安心感があるのか、アリサも比較的動けるようだった。

 それでも納得してないのは、やはり一人になると動けなくなると自覚しているからだろうか。

 

 

 

 そして予想通り、黒爺猫と遭遇した。

 

 

 やりあったんじゃなくて、ビルの上から顔を覗かせた程度だけどね。

 アリサが崩れ落ちなかったのは、ワリと真面目に褒めていいと思う。

 予想通り、例の上位個体だったし…。

 

 …以前、群れを狩ってた頃に姿を見られてたら、この場で戦闘開始だったろうな……地味に危なかった。

 

 

 

 とにかく、ヤバい個体が居るって事で帰還して報告。

 ひょっとしたら俺、現在のチームを離れて、また接触禁忌種探しに当てられるかもしれんな…。

 

 それはともかくとして、流石に黒爺猫(上位個体)のプレッシャーは堪えたらしい。

 五車多はアナグラに帰るなり、「今日はこれで上がらせてもらうよ」と言って一人去っていった。

 帰り際にちょっと聞いたのだが、今日は妹…という事はエリナか…の誕生日だったらしい。

 その為、ミッションが終わったら家族のところに顔を出す予定だったとか。

 

 …何気に死亡フラグ成立&ヘシ折ってたのね。

 それに、五車多にとってもショックは大きかったようだし、安心したら家族の顔を見たくなったんだろう。

 

 

 で、残った俺達はそのまま宴会に突入した。

 俺の奢りで。

 

 新人二人にあのプレッシャーはきつかったみたいだからな…。

 最初は食欲が無さそうだったんだが、俺の奢りと知った途端に甘い物ドンドン頼みやがって…。

 最近は食堂のオバチャマ方には天然砂糖を横流ししたりしてるから、スイーツの味が無駄に上がっちゃってるんだよ。

 

 

 で、何故かリンドウさんが差し入れと称して持ってきてくれたビールを飲み始めて…。

 今は2人とも程よく酔っ払い(未成年の飲酒ゥゥゥゥ!!!)、色々と愚痴っている最中でございます。

 酔ったアリサが、昔あった事とかボロボロ零している。

 ついでに頼りにしていた先生(汚っさん)が居なくなったと泣いていた。

 

 一応リンドウさんに何考えてんだって言ってみたら、上位個体と遭遇したと聞いて心配して見に来てくれたそうだ。

 ルーキーがトンでもないのと突然遭遇する事は時々あるらしく、それでショックを受けてしまう事も珍しくない。

 そこで酒というのは、そのショックを忘れる為の最もスタンダードな手段だとか。

 

 …言ってる事は分かるし、理屈にかなってないでもないが、なんか納得できん。

 

 

 ともあれ、ホロ酔い通り越して理性が飛びつつあるっぽいが、とりあえず帰ってきた時よりも元気になってるし、止める必要も無いか。

 体重?

 死ぬほど運動しているゴッドイーターやハンターに、そんなモン気にする必要があるとでも?

 

 

 そろそろ食堂もお開きの時間なんで、宅呑みに移行する。

 アリサの部屋は宴会できるような状態じゃない(酔いに任せて自己申告した)ので却下。

 俺の部屋はなんかカノンが反対した。

 カノンの部屋なら、まだスイーツの作り起きがあるって事で、そっちで呑む事になった。

 

 …甘い物ばっかりってのもなんだな。

 いざとなったら、ふくろからオツマミ出すか。

 

 

 

 

 

 それにしても、なんかこう、既視感があるなぁ。

 なんだっけ……。

 

 

 部下で…。

 

 心が折れかけてて……。

 

 

 酒呑んで……

 

 

 

 

 

          あ

 

 

 

 

 

 

神喰月イイ奴と書いてバカと読み、お人好しと書いて悪党と読む日

 

 

 えー、討鬼伝世界で色々な意味で醜態を晒した為、自分の自制心とか理性とかの弱さを克服すべく、MH世界で山篭りという名の修行に励んでいた俺ですが。

 その途中で、修行の仕方を間違えたと感じるようになりました。

 色欲に溺れない為と称して他者との付き合いを極限まで減らしていましたがが、色欲の対象が近くに居なければ色に溺れる筈も無し。

 結果として自制心を鍛えるどころか、欲望を溜め込んでしまうようになりました、と。

 

 欲望を溜め込む云々はさておくとしても、本当に俺が学ばなければならなかったのは、色欲を抑える方法ではなく、付き合い方だ。

 破滅ギリギリの道をフラフラフラフラする歩き方ではなく、適度に発散し、適度に抑え込む事で、破滅しない程度に楽しむ方法だった。

 

 

 と言う訳で、ちゃんとした効果が得られる修行をしていなかった俺は、またまた二股…いや、表カノン裏カノンも一人ずつとして数えるなら、三股男になってしまいましたとさ。

 

 

 …まぁ、前と違ってそれなり以上に打算を含んでるのが事実だよ?

 男として、尚更最悪だけど。

 

 

 アリサの洗脳と言うか調教方法なら、以前のループでよーく分かっている。

 汚っさんが長年暗示をかけてきた結果だったのか、当時は真言立川流オカルトバージョンも速鳥仕込みの誘導術も無しに、立派な忠犬……デスワープ時に俺を庇った辺り、ホント忠実だった……になったくらいだ。

 今やれば、カノンと『おんなのたたかい』をしないように刷り込むくらいは簡単だ。

 

 カノンにしたって、表は割りと躾けを素直に受け入れるから、「良い船だね!」しないようにする程度はできると思う。

 裏カノンは……奔放の一言で済ませるのもどうかと思うが、昨晩の態度からすると、あまり気にして無いようだ。

 自分の相手をしっかりシているなら、あまり細かい事を言う気は無いらしい。

 …裏カノンの態度は、『表』のカノンに対するスタンスでもあるんだろうか?

 

 

 カノンの裏表の考察はまた今度にするとして、うん、まぁそのなんだ。

 

 

 もう言うまでも無いと思うけど、ヤッちゃったワケだ。

 

 しかも3P。

 精神的には4Pでもある。

 

 

 …しかも、前と同じ徹を踏まないように、仲違いや嫉妬に関する暗示・躾けを速攻で徹底的に施した。

 流石に嫉妬を完全に抑え込もうとすると難しいし、上手く行ったとしても二人のストレスがマッハなので、嫉妬すら自分の欲情に転換してしまうような方向で。

 つまり、嫉妬するよりも先に「私にも」と思ってしまうように暗示を施した。

 ……こんな都合の良すぎる暗示が使える辺り、やっぱりオカルト版真言立川流は紛れもなく邪法である。

 都合がいいから使うけど。

 

 

 

 …色々と後悔する部分はあるが、今朝方まで右手にあった弾力と、左手にあった柔らかさを思い出すと、後悔はしてもコレはコレでアリだと思える。

 流石に起きた直後は色々とパニクっていたり、カノンに張り手を貰ったりしたが、人間関係が一気に破綻する事は無いと思う。

 そういう暗示も刷り込んだし、何より経験も霊力への耐性も殆ど無い生娘にとって、オカルト版真言立川流は麻薬のようなものだ。

 

 中毒性があり、一度味わえば忘れられず、度々思い出し、「もう一度」とつい思ってしまう。

 本当に麻薬並みにタチが悪い。

 どう考えてもエロゲ仕様(しかも陵辱系抜きゲー)だ。

 

 

 

 

 と言うか討鬼伝世界の霊山よ、あんなタチの悪い技術が書かれた本を普通の書庫にしまっておくんじゃない。

 

 

 

 とにかく、暫くカノンのご機嫌取りをする必要はありそうだし、アリサもフクザツそうではあるが、とりあえず問題は無い。

 3人揃って、酒に泥酔しての盛大な自爆だと思ってるみたいだし。

 時期を見て誘えば、有耶無耶に持ち込める。

 

 

 で、当面の問題だったアリサのトラウマは、これを機会にしっかり封印させてもらいました。

 と言うか、そうじゃなければ流石に据え膳だからってホイホイ食べないよ……ウソ臭いけど、本当だよ。

 

 とりあえず、当面の間はトラウマで動きが止まる事は無いと思う。

 また黒爺猫とかヴァジュラタイプに直撃したら話は変わってくるだろうが、ザコ相手なら普通に戦える筈だ。

 

 これも確認しないといけないが…流石に今日すぐには無理だな。

 加減したとは言え、足腰ガタガタだろうし、そもそもまだ『破った』ばかりだから痛むだろうし。

 それにこんな形での初体験になってしまったから、俺への感情も複雑なものがあるだろう。

 最初は一緒に行かず、サクヤさん辺りに同行してもらって調子を見てもらうとしよう。

 

 

 

神喰月

 

 

 エリックからパンチを貰った。

 ソーマから蹴りとチャージクラッシュを食らった。

 久々に強烈な誤射を叩き込まれた。(主語をつけるまでもない)

 そして砂糖を容赦なく減らす。

 

 

 今読み返して思ったんだが、エリックって誰だったっけ?

 

 

 

 

 あ、五車多の事だった。

 素で忘れてた。

 

 とにかく、チーム内での俺の立場が色々とヤバい。

 仕方ないっちゃ仕方ないのだが、何で知ってんの?

 

 

 

 そうか、酔っ払った状態でカノンの部屋に歩く俺達が目撃されていたか。

 そしてその翌朝、カノンとアリサが仲良くダウン。

 理由は頭痛や吐き気ではなく腰痛。

 うん、どう考えてもアウトですな。

  

 

 さて、どうしたもんか…。

 アリサについてはリンドウさんや、丁度一緒に居たサクヤさん、それから一応コウタにも様子見を頼んでおいた。

 前から気にしてはいたようなので、「多分大丈夫になってるから」と言うと首を傾げたが、承諾してくれた。

 サクヤさんの視線が冷たかったが。

 

 

 リンドウさんからの差し入れも一因なので、未成年にビールを持ってきた事もチクッてみた。

 どっちにしろその場に居た責任者は俺なんだから、人のせいにしないようにと怒られてしまった。

 むぅ、信用度がマイナスだ。

 

 

 ちょっと狩りはオヤスミにするか。

 別に俺一人で行ってもいいんだけど、あんまり平然としているのも何だしな。

 エリックからも、「アラガミなんぞ狩っている暇があったら、彼女らに対する誠意の示し方でも考えたまえ」なんて言われる始末。

 外見の割りに正常な思考をする人だ。

 

 

 

神喰月ブタに真珠(と書いて「飛ばないブタはただのブタ」と読む)日

 

 

 カノンは既に割り切っているっぽい。

 まぁ、たった一晩とは言え、そういう暗示を裏表両方に散々刷り込んだからな。

 

 あの夜の反応を思い返すと、むしろ見られる楽しみに目覚めかけているので、アリサが居るのもそれはそれで…とか考えているっぽい。

 誰も居ないところで、あの夜の事を思い出してニヤけているのを目撃した。

 

 前のループでも、野外で自分を慰めてたみたいだからな…露出の気はやはりあったらしい。

 ま、元々この世界って、露出狂疑惑じゃない女性の方が少ないからね。

 デフォルトだね。

 

 で、アリサの方も…とりあえずアラガミとの戦いで、動けなくなる事は無くなっているらしい。

 上手く暗示が効いているようだ。

 最低限の条件はクリアしたと言っていいだろう。

 

 では、この先どうする?

 

 

 

 

 

 むぅ、何も考えてなかった。

 トラウマ自体はそのままなので、徐々に精神的な耐性を付ける必要があるが…それよりも先に、人間関係を修復せねば。

 どんな形でもいいから決着をつけないと、色々な所から(特に女性)の視線が痛い。

 

 

 

神喰月枯れ木も山火事の賑わい日

 

 五車多が情報を持ってきてくれた。

 「本当なら、僕が手を貸すのはお門違いだと思うんだけどね」と、皮肉も一緒に。

 では何で教えてくれたのかと言うと……なんかヤバそうだったから。 

 

 マジありがとうございます五車多さん。

 お礼と言ってはなんですが、このループでアナタを決して上田させません。

 

 

 五車多さんが教えてくれたのは、「カノン君とアリサ君が連れ立って歩いているのを見た」だった。

 

 それだけ?と思うかもしれないが…時期が時期だ。

 酒に酔って、不本意な形で『初めて』を奪われたアリサと。

 奪った男の恋人(とカノンは思っているだろう)のカノン。

 

 実に良い船が建造されそうである。

 戦艦になるか駆逐艦になるかは分からないが。

 

 冗談抜きで流血沙汰も覚悟した。

 

 

 

 覚悟したんだが……探し出した時には、二人で仲良く話し込んでいた。

 アリサの方はまだ複雑そうだったが、それについてもカノンが愚痴を聞いているようだった。

 よく分からないが、勝手に和解してしまったらしい。

 

 

 

 

 でもだからって、俺とも和解した訳じゃないんだよね…。

 

 

 

 

神造月知らぬ仏より見知った肉日

 

 

 新しい月に突入。

 棚卸しはスムーズに行くようになったがやはり面倒くさい。

 逃げたソーマにはいつかお礼をしようと思う。

 

 それはそれとして、カノンが一緒にミッションに行ってほしいと願い出てきた。

 別にそれ自体はおかしくない。

 元々同じ隊なんだし、一緒に行かない方が問題だ。

 

 が、俺と二人だけで、と言うのが…。

 ソーマも五車多も「さっさとケリをつけて来い」とばかりに我関せず…自業自得とは言え、ちょっと怖い…。

 

 

 

 

 そしてアリサが一緒だなんて、もっと聞いてなかったよ!

 アレだけ好き放題に弄んでおいてなんだが、気まずいってレベルじゃねえ…。

 アリサも他人行儀と言うか距離を測りかねてる感じだし、カノンだけが妙に楽しげなのが気にかかる。

 一体何考えてんだろうか…。

 

 ミッション出撃前に、日記も兼ねて辞世の句でも書いておこうかと思ったが、気の利いた句なんぞ思いつかない。

 精々が、「討鬼伝世界と同じ徹を踏んだなー、進歩してないなー」と思っただけだ。

 

 …何が何でも生き抜く覚悟を決めておこう。

 

 

 

 

神造月石橋を叩いて試すくらいなら、舗装して渡れ日

 

 丸く収まりました。

 と言うか治めました。

 

 結局、カノンは別に何かを企んでいた訳ではなかった。

 俺にもアリサにも、特に誤射もしなかった。

 ただ「3人仲良く行きましょう!」みたいなノリでミッションに誘ったらしい。

 

 アリサと俺との間で気まずい空気が流れていたが、ミッションとあらば話は別だ。

 俺はいつも通りにサクサクと狩って行き、アリサも…戸惑いとかはあるみたいだが、動きに問題は無さそうだった。

 

 そして悪くは無いが良くもない、微妙な空気のままでミッションは終了。

 

 

 

 

 

 

 そのまま何故か俺の部屋で3Pに流れ込んでしまった。

 と言うか、どーやらカノンの真の狙いはコレだったっぽい。

 前回の3Pで、見られながらよがる快感に目覚めてしまったらしい。

 裏カノンがあっさりと白状してくれた。

 

 よくよく考えてみれば、前ループ時でも覗き・野外・常習犯という見事なコンボを決めていたしな…。

 裏カノンの奔放さは表カノンと表裏一体と考えれば、ある意味当然の成り行きかもしれない。

 そういう素質があったんだろう……はっきり明記してしまえば、男に悦ばれるようなヘンタイの素質が。

 

 

 そしてアリサはアリサで、あの時にかけた「嫉妬やらなにやらを欲情に転換してしまう暗示」が発動。

 あれよあれよと言う間に、淫靡な空間に引きずりこまれてしまった訳だ。

 

 俺もこの際だからと、この関係を受け入れるようにと暗示をかけたり、快楽を刷り込んだりと…。

 要するに二股公認するように、色々とヤッちゃった訳だ。

 

 そうでなくとも、「私一人じゃ受け止め切れません…」みたいな事をカノンがボヤいていたが。

 

 結局のところ、下半身のタフさだけで認めさせたようなもんだな…。

 公認だから討鬼伝世界と同じ結果にはならないと思うが、酷い話だった。

 

 

 

 だがこうなっちゃったからには、遠慮する必要は無い。

 表裏カノンもアリサも、思い切り染め上げてやる。

 

 

 

 

 それにしても、リンドウさん暗殺騒ぎはまだ来ないんだろうか?

 やはり汚っさんが居なくなったから、新しいチャンスを伺ってるんだろうか…。 

 

 

 

 

 

 …リンドウさん暗殺、ね。

 あの時、アリサは俺を庇ったんだよな…。

 前回は寝たまま起きなかったし…。

 

 

 別に、今回肉体関係を持ったからって訳じゃないが……それこそ、同じ徹を踏まないようにしないとな。

 

 

 

神造月「くっ、殺さないでください!」日

 

 とりあえずカタはついた。

 色々視線が厳しいところも残っているが、これは自業自得なんで仕方ない。

 カノンは相変わらず、チームで動く時は誤射しまくっている…まぁ普段通りだ。

 

 アリサは頻繁に俺やカノンと組んでミッションに行こうと誘ってきた。

 終わった後にナニしているのは言うまでもない。

 

 五車多からはこれについて色々小言を貰っているが、彼が本当に言いたかったのは二言だけだ。

 

 「僕の妹には近付かないように!」

 「そして羨ま妬ましいぞッ!!」

 

 …ま、彼も思春期の男だったという事だ。

 ソーマは興味無さそうだった。

 「ひょっとして、ED?」って聞こうかなーと思った瞬間、溜めも無しにチャージクラッシュが飛んできた。

 はい、何も言いません。

 

 

 

 さて、色々あって結局色欲に溺れるゲッスい奴になってるが、とりあえず当面の問題は無くなった。

 となると、次の課題はリンドウさんMIAシーン、特異点…シオの確保。

 霊力による感応種モドキは、今回殆ど霊力を使っていない(誤射対策くらいだ)から出現しないだろう。

 

 MIAシーンは…黒爺猫の群れでなければ、どんな手を使ってくるか分からない。

 シオの確保は………ああ、今回は榊博士からの協力も依頼も無いからな…。

 こっちで勝手にやるしかないか。

 匿う場所の準備も含めて…。

 

 いや、よく考えたら、シオをこっちで確保する必要は無いんじゃないか?

 俺が何かしなくても、榊博士はアラガミとの共存という夢を見て、シオを確保した筈。

 最終的には支部長に奪われてしまうが、そこに横槍を…入れられるかな…。

 しかし、こっちでシオを匿えるという確証が無いのも事実。

 何より、シオが特異点として覚醒したりしても、俺には全く手の打ちようが無い。

 

 それなら何も知らないフリをして…そうだ、支部長が不在の間に人型のアラガミの噂でも流すか。

 そうすれば、榊博士がゴッドイーター達を動かして、勝手に確保してくれるだろう。

 

 うん、ワリと現実的な考えに思えてきた。

 シオに関してはこの方針で行こう。

 

 

 

神造月狩って武器の手入れをして、装備の構成も考え直せ日

 

 当面、できる事が無い。

 リンドウさん暗殺対策にしてもシオ確保にしても、できる事が無い。

 いつ来るかも分からない時期をじっと待つというのは、意外と厳しいな…狩りの間だったら、あんまり苦にならないんだけど。

 

 とりあえず、最近は狩りを続ける毎日だ。

 終わった後はカノンと遊んだりアリサで遊んだり、KENZENなデートなんかもしている。

 時々不KENZENで退廃的な遊びにも耽っているが。

 具体的には最近ちょっと縄とか試し始めた…うむ、奥が深くてよく締まる。

 

 …一応、付き合っている二人(裏も入れれば3人)は公認の仲なので、ギスギスしないように気を使っていれば、討鬼伝世界のように痴情の縺れでnice boatする事は無いと思う。

 

 

 カノンの意識改変は、正直言って梃子摺っている。

 ワリと暗示にかかりやすいタイプなのだが、どういう訳だか「○○は撃ってはいけない」のような暗示には非常に抵抗力が強い。

 ……「どういう訳だか」もクソもないような気もするが。

 逆に、「味方の悲鳴より敵の悲鳴」系は非常に効果が高かった。

 

 効果が高すぎて、裏カノンが「もっと近くで断末魔を聞きたい」と言い出す始末だ。

 ガンナーだというのに、接近戦を試行錯誤しようとしている。

 

 …でも悪くはないんだよなー。

 まだ動きがぎこちないからリスクとメリットが釣り合ってないけど、回避と接近の練度次第では…。

 

 ゼロ距離射撃だから誤射のしようが無い上、避けられる事もまず無い。

 バレットエディットで、リーチを捨てて破壊力に全振り。

 

 この二つが上手く組み合わされば、多大な火力を得られる事だろう……誰しもが忘れているが、衛生兵なのにねぇ…。

 戦術が慣性すれば、次のループでも、上手くやれば洗脳無しで誤射を減らす事ができるかもしれない。

 これは研究の価値ありだな。

 

 

 アリサはと言うと、予想外…というより思った以上に精神が安定したようだ。

 やはり長年暗示をかけられてきたからなのか、操られている状態…いや、依存対象が居る状態?…に慣れているんだろうか。

 ともあれ、多少のツンデレ気質は残っているが、従順…を通り越して都合のいい女になりつつあるような気がする。

 

 都合がいいのは良いんだが、それはそれで面白くないなぁ…。

 キャラの持ち味が消えてしまうと言うか何というか。

 

 ………それに、今更な事を言い出すが、アリサを都合のいい道具扱いする気はない。

 同じ外道である事は否定できんが、汚っさんと同じ扱いになるのは心外だし……何より、以前に関係を持った時の事がな…。

 どうも俺は他人を心底から愛しいと思う事が無い人種だ、というのは自覚があるところなのだが、それでも俺なりにアリサを大事にしていたのだ。

 何より、俺を庇ったアリサの最後と、前回昏睡状態だったままのアリサのイメージがチラつく…。

 

 どうにも、今元気にしているアリサが眩しく思えてしまうんだよなぁ…。

 

 

 

 感傷に浸るのはともかくとして、やる事が無いなら暫く戦力増強に努めよう。

 リンクサポート、オラクルリザーブ、先日聞いた神機の暴走制御…実現できたら狩りが格段に楽になる技術は幾つもある。

 …他の世界で使う事を考えると、リンクサポートは後回しだな……専用の機械が必要になるから、別世界じゃ使えない。

 

 

 




外伝月 酔って一晩で書き上げました日



 ここ何処よ。
 例によってまた夢をみているっぽいんだが、マジで何処よ?
 田園っつーの?
 稲とか植えてる畑があるんで、何となく日本っぽい…そして田舎っぽい。 

 それはいい。
 食料が豊富で、実に結構な事だ。
 
 うん、食料が多いのはいい事だ。
 多少獣に食われたって、飢える事も無いし、わざわざ危険を犯して討伐する必要も無い。






 だが獣よりもヤバそうなASHIGARUが居るのは何事だ。

 何故ローマ字かって?
 足軽じゃねーんだよ、明らかに。
 普通の足軽じゃ。


 確かに、一見すると戦国時代とかによく出てきそうな、下っ端の兵隊っぽい格好をしている。
 三角形の…多分陣笠って奴…カサと槍、和風の鎧に草履。
 そしてワラワラ群れている。

 うん、どっからどう見ても足軽だ。
 だがその行動は明らかにASHIGARUだ。

 ナニやってるかって?



 合体攻撃してんだよ。
 モブキャラザコキャラにあるまじき、合体攻撃なんだよ!
 なんか地位の高そうなのが号令を出すと、2~3人で一組になって合体してんだよ!

 2~3人ならまだ可愛い方で、大人数で足を掴み捕まれして大きな輪になり、車輪のように転がっていくとか、人間ピラミッドしたと思ったらガチーン!なんて効果音が聞こえて防御力が跳ね上がったり!
 仕舞いにゃ、槍を芯にして3人くらいで縦に繋がり、グルグル回って大竜巻すら起こす始末!
 物理法則を無視するにも程があらぁ!

 …ハンターでゴッドイーターでモノノフの俺が言えた事じゃないけどね。


 と言うか、こいつら本気で何者だ?
 足軽って、確か本来は特に訓練とか受けてない農民、一般人だよな?
 それがこんなマネが出来るってんなら、ここの農民は既にNOUMINだ。
 
 うーん、こんな連中ばっかりだったら、黒船が来たって軽く叩き返しそうだなぁ…。
 竜巻が起こせるんだし、津波くらいは起こせるんじゃね?


 んで、何の因果かインネンか…(自業自得だとするならば、真っ先にエロ関係のご乱交の因果が浮かんでくる)…あるのか知らないが、俺もそのASHIGARU部隊の一人らしい。
 だが合体技なぞ………









 できたよ。



 司令官が謎の掛け声を出したら、勝手に体が動いて合体技に参加していた。
 竜巻を起こす奴だ。
 …スゲェ、あれは新感覚だったぜ…。
 人間ってその気になれば、冗談抜きで竜巻起こせるんだな…。
 練習すれば、俺一人でも竜巻起こせそうな気がしてきた。


 それは幾らなんでも錯覚だって?

 いやいや、やっぱ人間ってスゲーわ。
 ヘタなアラガミとかモンスターとか鬼とかよりよっぽど上に行けるナマモノだね。
 実体験付きで確信したよ。

 ちなみにその実体験っつーのは、俺達が竜巻起こした事じゃなくてだな。





 今目の前に迫っている、鬼みたいな顔したじーさんが、その竜巻を軽くぶっ飛ばしてくれちゃった事なんだよね。



「ちぇすとーー!!!」

「しぬぅぅぅう!!!!」

「ちぇすとちぇすとちぇすとー!」

「いやああああああ!!!!」

「見えん…現が見えん…ちぃとも見えん…」

「なら俺もみるなああああ!!!」

「おお、手応えがあるのが居るのぉ…示現流完成の礎となるがよか!」

「謎の食通さんこの人止めてぇぇぇぇ!!!」

「雲耀の速さまで昇っていくどぉぉぉ!!!!」


 …このような攻防を、10分くらい延々と行っております。
 言うまでもなく俺は逃げる側だ。
 生きているのは夢ゆえのご都合主義の為だろう。



 てゆーかこの爺さんアレだ、戦国BASARAの島津のじっちゃんじゃねーか!
 俺好きなキャラというかマイキャラだったよ。
 
 でもそれが襲ってきてるって悪夢どころの話じゃないんですがね!
 作中で色々なキャラに「鬼島津」なんて呼ばれて畏敬を祓われていただけあって、洒落にならん実力だ。
 逃げ回りながら狩りの要領で色々仕掛けてみたんだが、文字通り一刀両断。
 シビレ罠も叩き潰され、閃光玉は一気に突っ込んできて視界の外にホームランされ、ミタマの金縛りは霊力すら感じられない一喝で無効化され、神機に至っては食いつかせようとすると怯えて拒否する始末だ。
 冗談抜きでバケモノだ、このジジイ。
 勝てる気がせん。
 狩りなんて戦い方は、相応の実力差か付け込む隙が無きゃ意味を成さないのだと骨身に染みた。


 畜生、どうせ会うなら女性陣か、小早川氏と会って鍋について語りたかった!
 小早川氏にこんがり肉を食わせたら、なんかハンターとして覚醒しそうなのに!

 小早川秀秋&アイルー天海様のモンハン二人道中マグマグの旅にご期待ください!
 


 …現実逃避はともかくとして、さっきから必死こいて逃げ回り、隙をついては小細工しかけているが、もう限界だ。
 道具は尽き、手札は全て切り、更にこれだけ逃げ回って反撃までしているからか、この爺さんまるで油断や慢心が見当たらない。

 そしてついに袋小路に追い詰められてしまった。


「ふぅぅ…ここまでのようじゃの…。
 逃げ回るのは情けなかとが、面白かったぞ」

「そう思うなら見逃してくれませんかねぇホントに!
 次の戦場でも目一杯逃げ惑って楽しませますんで!」

「それでも兵(つわもの)か。
 終の奥義で屠ってやるけん、冥土で誇りんしゃい」

「俺の場合死んでも死なないんですけど!」

「死なんというなら、それを見せてみい!
 いくどぉ!」


 ブーッとベルセルクのドラゴン殺しみたいな武器に酒を吹きかけて、大上段の構え。
 …ていうか、雷が迸る。

 もしかしなくてもこれはアレか!
 「示現流 断岩」か!?
 隙が多すぎだが、当たれば大抵の敵はお陀仏のあのロマン技か!?

 だがそれなら避けられるかもしれん。
 あの一撃は振り下ろしの一発のみ、威力を高める為に次の攻撃へのコンボとか攻撃範囲を犠牲にしまくった一発。
 唐竹割りだと考えると、まだ避けやすい一発の筈…!


 一か八かだヤケクソだ、どうせ死なないやってやる!
 鬼ノ目!
 鷹の目!
 そしてミタマの空蝉!

 一発避けたらすぐに逃げ






















 俺に認識できたのは、振り下ろされた一発が体を2分割して、意識が消えていく僅かな間だけだった。
 空蝉すら効果を発揮できないとか、マジで人間業じゃねえ…。

 その僅かな間に、この妙な目は断岩を刻み付けていた。
 動き、太刀筋、呼吸に体裁き、全て記憶している。



 だからって出来るかこんなもん!
 レジェンドラスタの斬撃が可愛く見えるレベルだよ!
 基礎技術レベルが違いすぎて話にならん!
 
 こりゃ鬼杭千切でも遠く及ばんな…。




 夢から覚めてから試してみたが、代わりに槍を軸にしてグルグル回転する大道芸を覚えた。
 練習すれば、竜巻とは言わないまでも扇風機の代わりくらいは出来るかもしれない。


外伝:戦国BASARA編


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第50話+外伝5

仕事が終わってビールを買って帰ったら、穴が空いていた。
どうやら自転車の籠に入れている時に、ネジか何かに当たって破れたようです。

なんという悲運!

GE2RBは、螺旋の樹が出来たところまでいきました。
もうちょっとで新展開だけど、その前にマガツキュウビがな…あれ、ストーリー編じゃなくなったんでしたっけ?


神造月ヘタの考え、食えぬ食料に似たり日

 

 ゴッドイーターには、それぞれノルマがある。

 一定期間の間に、これだけミッションをこなさなければならない、というノルマだ。

 細かい制度は省くが、名ばかりのゴッドイーターなんぞ居ても害悪以外の何者でもないからな。

 ゴッドイーターであるってだけで、食料の供給を優先的に受けられたり、居住区どころか部屋を用意されたり…これで仕事しないってんなら、追い詰められてる人類の余裕をガリガリ削る寄生虫以外の何者でもない。

 

 ま、ちゃんと仕事しないと、偏食因子を抑える薬剤も貰えずに、アラガミ化して死ぬ未来しか見えんけどな。

 そう言えば、また次の世界に行った時の為に薬剤を溜めておかないと…。

 

 

 それはともかくとして、俺達のチームにも当然ノルマがある訳だ。

 だが殆ど意味無い。

 俺とソーマだけで普通に達成してしまっている。

 

 ちゅーか日々是狩日の俺だけで9割、以前より丸くなったとは言え単独出撃上等絶対アラガミ殺すマシーンなソーマで7割。

 残った二人は適当に出撃してるだけでも、俺とソーマのどっちかは一緒に出ているので、軽く4割。

 合計で考えると、ノルマの2倍くらいの仕事をしている訳だ。

 しかし給料は据え置き。

 

 何かが間違っている気がするとボヤいたら、ヒバリさんに「あなた方の出撃頻度と勝手にアラガミ迎撃に向かう回数以上におかしな事などありません」と断言されてしまった。

 むぅ、自覚があるから困る。

 

 

 

 まぁそれはともかくとしてだ。

 ノルマさえ達成しているなら、フェンリルからは特に文句は出ない。

 極端な話、たった一日でノルマを達成したら、その後はダラダラダラ食っちゃ寝食っちゃ寝してても問題は無い訳だ。

 

 カノンは勿論、アリサも結構ムチャなペースの狩りについてきている。

 新型使いと言えど、まだまだルーキーなアリサのノルマなんぞ知れたもの。

 とっくにノルマは達成している訳だ。

 

 

 だと言うのに、俺の個人的な狩りにも付き合ってくれるのは素直に有りがたい。

 戦力的に必要ないとか、KYかつキチクな事は言うまい。

 感謝はデートとベッドで示しているが。

 

 

 …で、その『個人的な狩り』についてだが、要するに未だに研究中であるリンクサポートその他の研究協力だ。

 本来、研究協力の為にミッションを受けるゴッドイーターはあまり多くないらしい。

 研究と言えば聞こえはいいが、実際は役に立つかどうか…どころか、実現できるかどうかも分からない謎機能やら、判明したところで何の意味もなさそうなアラガミの生態やらを弄繰り回す道楽だ。

 それに命をかけてまで協力するよ!という物好きが居ないのも、無理も無い話だ。

 

 だから、俺達3人で協力すると言い出したら、それはもうあっちこっちから依頼が殺到してきた。

 俺としては普通の狩りの延長でしかなかったんだが、二人にはちょいとキツかったかな…ノルマに追われてる訳でもないし。

 

 

 

 しかし、二人とも、研究中のテーマの中に個人的に興味を引かれる物を見つけたらしい。

 カノンはオラクルリザーブ。

 アリサは……なんか、対アラガミ用の防壁やら、住居がどうの………ひょっとして、GE2でちょっと出てきたサテライトの原型か?

 

 まぁ、俺としても各種研究が進むのは有りがたい。

 今回ループで実用化に辿りつけなくても、データがあるだけでも次回ループの役に立つかもしれん。

 

 と言う訳で、明日も3人で狩りに励むのだ。

 その後ののアソビがどうなるかは、その時のテンション次第だね。

 

 

 

神造月食えよやぁぁぁぁ!日

 

 

 榊博士が、相変わらず細い目で俺の神機のメンテナンスを見つめていたのが見えた。

 …普段通りのポーカーフェイスと言うかアルカイックスマイルというか、誰しも思う感想だが某神隠しの主犯並みの胡散臭さをたたえた笑みだったんだが…なんとなく悔しそうに見えた。

 やっぱりいいオモチャに触れないのが残念なのか?

 それとも、研究協力者が出たのに、俺が中心だから協力要請しないとか考えてんのか?

 

 ま、何でもいいか。

 とりあえず、研究素材を集めて回る日々。

 噂では整備班の殆どが、整備そっちのけで自分のやりたい研究にフィーバーしているという話だったが…流石に整備を放り出す事はしてなかったようだ。

 

 で、段々と幾つかの研究が形になってきている。

 オラクルリザーブはその雛形が出来てきたらしいし、アリサが気にしていた対アラガミ用壁は……理論だけなら、ちょっとずつ組みあがってきているらしい。

 …ただ、それが出来上がるまで生きてるかどうかだよな…。

 俺が死んでデスワープしたとしても、二人には完成と実用化を見届けてほしいもんだ。

 

 

 

 ところで、カノンがアリサも誤射しなくなっていた。

 暗示の手応えは無かったんだが…。

 何故?と思って聞いてみたら、二人に顔を赤くして誤魔化された。

 

 

 

 ベッドで尋問してみたら、誤射したら夜の優先権を譲るとか、そーいう条約が締結されていたそうな。

 俺が砂糖で餌付けしたのと同じ事をやった訳ね。

 誤射がなくなればそれで良し、受けたら受けたで俺を一時的にでも独占できる、と。

 結構強かだな。 

 

 

 正直に白状したゴホウビをあげました。

 

 

 

神造月胃袋から生焼け肉が逆流する!日

 

 厨二病が誇張無しにに命に関わる、文字通り死に至る病だったらどうなっているだろう。

 少なくとも日本人の7割は、闘病生活すら送らず死滅し、残った3割の内半分以上は死に至ると知りつつも更なる重病化を引き起こし、更に残った半分は生きる楽しみの9割以上を失い、更に更に残った半分は特効薬や対処法を知りつつも自ら望んで感染し、更に更に更に半分はアラお得死んでも厨二病パワー(と書いてロマン回路と読む)パワーで地獄の底から舞い戻ってきたぜとなり、更に更に更に更にあらまぁなんとお目が高い、更に更に更に更に更に更にリンドウさんがMIAでござる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時の間に!

 いや、確かに時期的に考えれば、暗殺イベントはとっくに終わっていたとしてもおかしくないけど!

 今日の夕方に伝令が走り、ミッション中に行方不明になったリンドウさんを探せ、という指示が来た時にはひっくり返るかと思った。

 

 一体何故?

 そりゃリンドウさん程の凄腕であっても、いつどんな切欠で、例えば弱いアラガミ代表格であるオウガテイルにだって上田されてもおかしくはないが…。

 

 少なくとも、アリサは昨日から自室のベッドで熟睡中だ。

 彼女を使った暗殺ではない。

 せめてどういう状況だったか確認しようとしたのだが、何でも特務の最中だったらしく、ミッションの内容すら知らされて無い。

 ただ嘆きの平原付近でのミッションだった、というのが知らされただけだ。

 

 

 極東きっての凄腕が、まさかのMIA。

 明確な死は確認されていないが、皆が動揺している。

 肉親の雨宮教官は、一見動揺していないように見えるが…僅かに体の動かし方にムラがある。

 

 恋人のサクヤさんも、雨宮教官程ではないが落ち着いているように見える。

 …誤魔化しが甘いな。

 握った手の爪が、肌を突き破りそうになってる。

 

 

 さて、どうしたものか。

 リンドウさんを探すのは文句無い。

 ゲームのストーリー通りであれば、リンドウさんはアラガミ化しつつある時にシオに遭遇し、助けられる…という流れだ。

 しかし、そのストーリーでは贖罪の街がその場所だった。

 そもそも、リンドウさんが腕輪を失う程の致命傷を負い、なおかつその体をアラガミに食われていない…という奇跡的な確率に縋らなければならない。

 

 普通に考えて、まず無いだろ。

 致命傷を負ったゴッドイーターなんぞ、放っておくだけで抵抗どころか呼吸もしない体になってしまう。

 そんなお昼ご飯確定な獲物を、どうして放置して去っていくというのだ。

 満腹?

 アラガミって満腹になるのか?

 むしろ、文字通り地球を食い尽くすまで満腹になりそうにないイメージなんだが…終末捕食的な意味で。

 でもイメージ的にはイビルジョーの方がよく食ってる感じがするな。

 

 

 

 

 話が逸れた。

 とにかく、リンドウさんを探そう。

 どっちにしろ探索指令は出ているんだ……恐らく、短時間で打ち切られるが。

 その間に探し出せれば…………あまりメリットは無いな?

 そりゃ生きてるに越した事は無いが、少なくともGE無印終了時点まで関わるとは思えんし。

 上手い事シオと遭遇して、自我が残ったり、アラガミ化を制御できてれば、対支部長への強力な駒…もとい仲間になってくれると思うんだが。

 

 ま、探すだけなら問題ない。

 何時の間にやら会得していた、タカの目っぽい鬼ノ眼がある。

 一度はシオの痕跡だって見つけたんだし、『そこに居た』と確信できる場所を見つけさえすれば、後は光る足跡か何かで追っていけるだろう。

 そして『そこに居た』場所はハンター感覚で見つける。

 

 

 ……なんか相性いいな、この能力と感覚。

 

 

 

 

神造月許されぬ事など無い。故に二股もイエイエナンデモアリマセン日

 

 

 リンドウさんが居たと確信できる場所は、簡単に見つけられた。

 そこに居たアラガミは、どうやらウロボロスのようだった。

 デカブツなんで、足跡一つ見るだけでも簡単に推察できる。

 

 が、そのデカブツは普通に叩き切られたようだ。

 単独で狩れる相手って原作か何処かで言ってたが、マジだったんだな…。

 

 …俺はどうかな?

 痕跡から見るに……やってやれない事はない、か。

 いっそジエン・モーラン級のデカさなら、もっと簡単なやりようが…いや、この世界でそのサイズが出たら余波だけで建物とか山とか崩れて戦うどころじゃねーわ。

 

 

 ともかく、その後の足取りを追う事は難しくなかった……途中まで、だが。

 

 

 何だ、あれ。

 

 リンドウさんが帰還の途中…だと思うが、突然大量のアラガミに襲われていた形跡がある。

 しかも、形跡から推察するに……というか、タカの目が見せた過去視からするに、誰かを庇って戦っていた?

 

 でも誰を?

 ゴッドイーターじゃない。

 どうも、誰かを抱えて動いていたらしい。

 いくら常人とは一線を画した身体能力を得たゴッドイーターと言えど、人間一人を抱えて動くのは至難の業だ。

 

 適当な重さの石とか荷物を抱えて実験した結果、多分14歳前後の……女の子?かなぁ…。

 荷物を持って重さを調節しながら、何度も同じ場所でステップを繰り返す様子を「ついに狂いましたかね?」「それだけリンドウ君のMIAがショックだったんだろう」「………」なんてコメントしつつ見ている我がチームに、ちょっと殺意が沸いたりもしたが。

 

 

 しかし、14歳…14歳前後ねぇ……を抱きかかえて…?

 ちょっとアブない妄想が走るのは、散々ヤりっぱなしなのに欲求不満だという事にして。

 

 その年齢で……女の子で………そして、突然大量のアラガミに襲われる。

 

 

 

 

 

 

 

 GE2のナナ?

 

 

 いや、まさか…。

 しかし、不自然なくらいに突然集まったアラガミとか…。

 そもそも仮にナナだったとして、何故ここに?

 血の力だって、目覚めてなんていないだろうに。

 

 ナナはこの時期だと、マグノリア・コンパス…だったか?

 後にブラッド隊員となる者を集めている、孤児院に居る筈だ。

 血の力に関しては……どうだろ、ナナの場合、やろうと思えば無理矢理叩き起こせなくもない気がする。

 ゲームでも喚起の力が引き金になったにしても、トラウマを刺激されて暴走したようだし。

 

 それ以前に、リンドウさん暗殺ともなれば、まず間違いなく支部長の仕業だ。

 支部長が、将来のブラッド隊員として育てられているナナを、マグノリア・コンパスから引っ張ってくるのか?

 …できなくは無い、気がする。

 新たにゴッドイーターとして招聘すれば、フェンリルの支援を受けているマグノリア・コンパスも断りきれないかもしれない。

 それをラケル博士が承諾するかが、一番の疑問だが。

 

 

 

 よくよく考えてみれば、血の力というのは現段階でどう認識されているんだろうか?

 今までは誰も知らないと思い込んでいたが、案外そうでもない気がしてきた。

 

 少なくとも、GE2の黒幕だったラケル博士はその力を確信しているだろうし、その為に何年も前から準備してきた筈。

 ラケル博士の実家がどれくらい力を持っているかよく分からないが、フェンリルだって妄言を相手に移動要塞を作れる程の資材は出さない。

 

 

 

 …落ち着け。

 ひょっとしたら、本当はナナではなく全く違う女の子で、アラガミが寄ってきたのは何かしらの薬剤による誘引という事も考えられる。

 

 まずはリンドウさんだ。

 乱戦になった後の事は、痕跡が殆ど消えているので追いかけるのは難しい。

 別の痕跡を探さないと。

 

 

 

 

神造月井の中の蛙、ガノトトスに食われず日

 

 

 冷静になって考えてみたが、やはり支部長の仕業…なんだろうなぁ。

 ナナなのかどうかはともかくとして、恐怖や混乱で動きが取れない子供を一人抱え込むのは、相当なハンデだ。

 そこへ乱戦が来なければ、リンドウさんなら生き残れたと思うが…タイミングが良すぎる、というか悪すぎる。

 

 リンドウさんを始末する為だけに、何の関係も無い幼い子供を巻き込むのか?と言うか気分の悪い問いかけはあるが、何せあの支部長だ。

 人類の未来の為と言い切って、覚悟完了しちゃってるあの支部長だ。

 そもそもアーク計画が発動した日には、幼い子供どころか人間の殆どがお陀仏する。

 今更躊躇うとは思えんな。

 

 

 で、予想通りに探索任務が早々に打ち切られそうになっているようだ。

 あっちこっちから反発の声が上がっているが、撤回させるには至らない。

 支部長の影響力の強さ故、かな。

 

 とは言え、勝手に探す分には文句を言われる筋合いも無い。

 特に俺のチームは、ミッションのついでにウロウロしては遭遇したアラガミを討伐したり、偶然近くに居た別のチームを助けたりしているんだから。

 …それはそれで別の意味で問題な行為なんだけどね。

 トータルでは利益になってるし、ヘタな事をすると助けられたチームとかが色々言い出すんで、黙認されてる感じ。

 

 その俺達の自主探索までは掣肘が入らないのは、リンドウさんの死を確信しているからか?

 まぁ、どう考えたって普通はお陀仏、或いはアラガミ化が決定してる状況だもんな…。

 タカの目を使った探索でも、痕跡がまるで見つからない。

 アラガミの腹の中に入ってしまったのなら、そりゃ痕跡も見つからないが…いや、血痕とか服の喰い残しはあるかもしれないな。

 

 

 考えてみれば、誰かが死んでいるかもしれない状況と言うのは…初めてに近い。

 近い状況と言えば、MH世界でメゼポルタがルコディオラに襲われた時くらいか。

 あの時はユニスが死んでいるかもしれない、と思ってその場で暴発しちゃったからなぁ…。

 

 それ以外の時は、誰と一緒に居ても大体死ぬのは俺が先だった。

 唯一の例外は、ヴァジュラの雷撃から俺を庇って、一緒にお陀仏したと思しき以前のアリサだけだ。

 とにかく、誰かが先に死んで俺一人が残されるって状況には縁が無かった。

 これは幸運…と思うべきだったのかな。

 

 まぁ、その幸運も尽きてしまったかもしれないが。

 

 

 

 結局今日も、リンドウさんの手がかりは無し。

 シオが居た形跡も無かった。

 

 

神造月アイ! キャン! ハーント!日

 

 今更なんだが、俺が汚っさんを殺った事、支部長に気付かれて無いよな?

 自分で暗殺したからか、自分が暗殺されるって事も割りとリアルに考えられるようになってきた。

 証拠は残ってないと思うし、誰にも気付かれずにやったつもりだが……ああ、ちょっと不安。

 でも俺の場合、文字通りの死、ジ・エンドにはなりそうにない。

 どちらかと言うと、カノンとアリサで両手に花の状況を失う方が怖い。

 

 

 あと、表カノンが最近Sっ気にも目覚めつつあるのがコワイ。

 俺に対してじゃなくて、俺に弄ばれてるアリサに更にちょっかいを出してヒィヒィ言わせる事を楽しんでいるっぽいんだが……まぁ、裏カノンの存在を考えると、素質があるのは何らおかしい事ではないな。

 

 

 さて、それはそれとして、予想通りあっという間にリンドウさん捜索任務が打ち切られた。

 正式に命令として出されてしまっては、ゴッドイーターにはどうしようもない。

 逆らったら給料が減る恐れもあるし。

 

 

 大体、こっそり探そうにも、俺でさえ未だに手がかり一つ見つけられないのだ。

 当てもなく、あるかどうかも分からないものを探すのは、精神的にも体力的にも非常にキツい。

 余程強い縁か思いいれでもなければ、探索の手が徐々に衰えていくのも仕方ないだろう。

 …それに、死者ばかり気にしていると、今度は自分が死者になってしまう業界だからな。

 

 

 

 俺も探索は続けるつもりだが、次の事を考えなければいけない。

 つまるところ、特異点の確保、隠蔽。

 

 なんだけど…よくよく考えたら、それって解決策になってない気がする。

 終末捕食を引き起こす為、支部長はずっとシオを探し続けるだろう。

 「見つからないから諦める」なんて戯言を抜かす筈が無い。

 

 

 

 と言うか、どうすりゃクリアになるんだろうか?

 そもそも終末捕食を防げばいいのか、要するに?

 

 だが終末捕食自体は、特異点が存在する限り必ず起きる。

 アーク計画とは、そのタイミングを人間側で操作し、そして終わるまで一部の人間だけでも宇宙に逃がして生き延びさせる、というものだ。

 

 もし、特異点が居なくなったら?

 …意味無いな。

 また別の特異点が出るだけだ。

 それこそ、GE2の赤い雨みたいな弊害を伴って。

 

 アーク計画を阻止するとしたら、「その計画は不可能だ」と立証して支部長も信じさせなければいけない。

 だが計画が無くても、何時になるかは分からないが終末捕食は起きる。

 更に言うなら、終末捕食が終われば、恐らくアラガミは姿を消すだろう。

 

 代案を出すとしたら、アラガミが居なくなり、人類をより多く存続させ、なおかつ終末捕食もしっかり防がないといかん訳か。

 この世界の仕組みをぶっ壊せとか、ムチャな話だ。

 そんな方法があるんなら、とっくに支部長とかがやってるっての。

 

 

神造月楽しすぎて、腹減っちまいそうだ!日

 

 赤い雨で思い出した。

 よく考えたら、GE2では終末捕食はもう起こらなくなったって話じゃないか。

 螺旋の樹がどうのとか、どっちにしろジュリウスが戻ってこなかった事しか覚えてないが、終末捕食を起こさせない手立て自体はあったんだな。

 確か、ジュリウスが特異点として螺旋の樹の中に居るから新しい特異点も発生せず、終末捕食も起こらないんだっけ。

 正確に言うと、終末捕食は起こっているが、螺旋の樹の中で留まっている。

 

 これと同じ事をすればいい訳だ。

 アラガミは世に残る事になるが、実現できれば終末捕食による人類全滅は無くなるし、アーク計画も実行不可能にはなる。

 …問題はその方法と……恐らく、シオがジュリウスの立ち居地になり、事実上の生贄にならなきゃいかん事と……仮に螺旋の樹が出来上がった場合、それをぶっ壊されたらまた捕食が起きるんじゃないかって事かな。

 

 ま、あくまで予想だ。

 まずは実現できる方法を探さなければどうしようもない。

 だが、研究できるだけの頭脳を持った榊博士は、俺に手を貸してくれないと断言しているし、支部長は敵側。

 …他の博士………ラケル博士と、色っぽいねーちゃん?

 ……も、敵側か。

 

 こりゃ次回ループで榊博士に相談するしか手がないかな。

 それまでは、役に立ちそうなデータとかを片っ端から集めるとしようかね。

 

 

 

 

 

 ところで、アリサと着衣パコパコ(無責任館長に非ず)してて思ったんだけどさー、この世界で露出狂疑惑持ちが多いのって、資材不足で充分な衣類が支給されないから、って言われてた覚えがあんのよ。

 でもね、GE2を思い出してみ?

 アリサはちゃんと体を隠せる服を着てるのに、何故か一番上のボタンだけ留めて、ヘソとか、角度によっては下乳とか見える格好してたのよ。

 …やっぱ露出狂…。

 

 それ以前に、女の人は露出が多いのに男は普通に体を隠す服着てんだぜ?

 男女両方に、等分に服が支給されてるとすれば、やっぱり露出が多くなる筈がない。

 それ以前に、男の方に多く衣類が渡されてるとなれば、色々と反発が出るだろう。

 露出してヤバい部分が多いのは、男よりも女なんだから。

 

 セクハラ騒動でフェンリルが崩壊しそうだな。

 

 

 




外伝月 緑色日



 今度はまた、毛色の違った夢を見ているようだ。
 見渡す限り不毛の大地。
 空はどんよりと曇って、なんかビルの残骸っぽいのが砂に埋もれているのが見える。
 かなり遠いな…。

 しかし何ちゅうか、遠近感が狂う。
 砂漠と倒壊したビル以外何も無いんで、ビルが妙に小さく感じる。

 いやそれよりも問題なのは、だ。
 俺が全く動けないって事なのよね。
 金縛りになったみたいに、ホントに体がピクリとも動かない。
 と言うか手足の感覚が無い。

 …ヤバくね?
 この夢、普通の夢じゃないみたいだし、このままだとヤバくね?
 …ま、大丈夫か。
 いつぞやの夢じゃ、鬼島津のじーちゃんに真っ二つにされたけど、精神以外のダメージは無かったもんな。

 でも兎に角退屈だし、動けない状態ってのは精神的によろしくない。
 何とか動けないかと身じろぎとか試してみたんだが……妙な金属音がするのと、体が何処かに繋ぎとめられているような感覚がある。
 

 …ひょっとして、俺、拘束されてる?


 うわぁい、嫌な予感!
 拘束してやる事なんて、拷問か分解か改造かイメージプレイだけじゃないか!

 おぅふ、何とか自由になろうとガチャガチャやってたら、体の中を弄くられているような気がしてきたよ!





 …って、あれ?
 何か…遥か遠くで光ったような………いや、見間違いじゃない!
 何かが空を飛んでくる!
 バカが戦車でやってくる!

 鳥か!? バカか!? ヨロイか!?
 いや違う、あれは…








 かいぞうにんげんがあーまーどこあでとんできた!




 そして同時に、俺の体がフワッと浮き上がる感覚。

 嫌な予感がして、くるくるとその場で回ってみると。


 丸くて緑色の目みたいなのがついてるボールが、ひーふーみー………5個。
 …5個?

 ちょっと待て、これってもしかしなくてもアレだよな、かえってきたへんたいだま。
 でもあれって確か6機あった筈。

 1機足りない。
 そしてついさっきまで身動きがとれず、今も手足の感覚が無い俺。



 すれ違うボールに映し出される俺の姿は、やっぱりボールだった。



 そりゃ手足の感覚が無い筈だよ、動けない筈だよ!



 ってああ、言ってる間にアーマードコア…ネクスト…と交戦!
 腕前はどんなもんだ!?
 ドミナントだったら生き残れる気がしないんですが!?


 あ、何か通信を傍受した。


『あんなものを浮かべて喜ぶか、変態共が!』

『ありがとうございますッ!』

『ブヒィ!』


 …心底いらないものも傍受してしまったようだ。

 とか言ってる間に、もう残りは俺一機だよ!
 やっぱドミナントかよ!

 ぶ、武装!
 武装は何がある!?
 えーと移動用のフロートユニットに、クイックブースト。
 …あれ、確かヤバい粒子を撒き散らすキャノンと、アサルトアーマーがあった筈なのに…?


 残った機能は2つ。







   自爆。






















    変形。





 そしてまた要らん呟きが傍受される。


『ふっ、まさかあの1機が本当に残るとは』

『運命とはなかなか良いセンスをしているようだ』

『さあ諸君!
 本来ならお目見えするどころか、開発を禁じられた我々の熱意と趣味と技術の結晶のお披露目だ!
 会社を騙して開発してたから、披露したらお叱りが出る前にさっさと逃げるぞ!』

『オス、有給休暇の手続きは万全です!』

『よろしい!
 ソルディオス・オービット改め、変形人型決戦兵器!

 チェーンジコジマシーン!』


 ガタガタと動いて、球形から何やらゲッターなカンジの人型になろうとしている俺の体を感じつつ思う。


 …よし、他のへんたいだまとの合体が無いだけマシだな!




 どっちにしろ武器が無いから、サイバイマン式に飛びついて自爆しかできねぇんだよ!


 俺の最後に、ネクストが泣いた! 
 じゃあの。






















 起きてから冷や汗流しながら試してみたら、アサルトアーマー撃てそうだった。
 慌てて中止した。


 コジマは、まずい…。


外伝:アーマードコア編


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51話

やっと防衛班エピソードまで漕ぎ付けました。
そしてサリエル堕天とアイテールがマジでウザい…。
ダンシングザッパーがあると楽、と聞いて使ってみたのですが、必要なレベルまでブラッドアーツを育ててなかったんで余計に苦労した…。


 

 

神造月空腹無くして、満腹のカタルシスはありえねぇ日

 

 

 ストーリーを思い返してみた。

 時期を考えると、ゲームの中では…リンドウさんがMIAになってからの時間を考えると、アリサのリハビリか、或いは、リンドウさんを食った黒爺猫を狩った頃だろうか。

 そして黒爺猫の腹の中から腕輪が見つかり、サクヤさんはそれを元にしてエイジス計画、アーク計画の正体に迫っていく…というルートだったように思う。

 

 しかし、今はリンドウさんを殺ったと思われるアラガミは見つかっていない。

 ひょっとしたら、俺の知らないところで誰かが遭遇しているのかもしれないが、少なくとも腕輪がサクヤさんの下に戻っている事は無さそうだ。

 一見落ち着いているように見えるが、頻繁に(俺の半分以下の頻度だが)出撃するサクヤさんは、仇を探しているんだろう。

 

 

 …そういや、リンドウさんの代わりのリーダーはどうなるんだ?

 ゲーム通りに行けば俺になると思うし、自惚れでなければ勤められる自信もあるが(だが前討鬼伝世界の失態と、現在精神的三股中の事を考えると、ガッタガタになる気もする)、今の俺は別働隊の隊長。

 榊博士の下に居る訳ではないから、支部長ならやろうと思えば引っこ抜けるだろうが……しかし、まだ一度も会った事のない相手を、特務を任せるような相手に任命するとも思えん。

 仮に隊長に任命するとしても、最重要機密である計画に関するような任務は任せない筈。

 

 …いや、○○を狩って来い、というだけなら計画に関して知らせる必要も……でも、それだと特務にしなくても普通にミッションの指令をすりゃいいだけだし…。

 

 

 

 

 

 よし、ここは一丁、俺がリンドウさんの代わりになって、色々と探ってみるか。

 危険はデカいが、アサシンっぽい技術を駆使すれば何とかやれると思う。

 

 カノン達は……申し訳ないが、巻き込むか。

 俺が色々探り始めたと気付かれたら、どっちにしろチームごと巻き込んでしまうのがオチだ。

 ソーマが居るからって、手心は期待しない方がいいな…。

 

 と言うか、よく考えたらむしろソーマの方が首を突っ込んできそうだな。

 色々複雑なようだが、支部長と対立する立場にあるし…。

 

 アリサとカノンは…多分、ついて来てくれると思う。

 色々仕込んだし。

 

 問題は五車多だな。

 妹を溺愛しているようだが、アーク計画の真相を知って、どういう反応をするのかが分からない。

 五車多一人なら、迷い無くこっちに付いてくれると思うが、アーク計画が上手く行けば、妹のエリナにはアラガミの居ない世界をプレゼントできるかもしれない。

 …微妙な所だ。

 

 ともかく、計画と現状を探る事から初めてみよう。

 

 

 

 

神造月薄い本をアツく!hageしく!香ばしく!日

 

 探ると言っても、何処からどう探ればいいのか分からない。

 知恵者の榊博士は協力してくれないし、情報を集めるのに使っていた榊博士のアカウントは、既にパスワードが変更されてしまっている。

 サクヤさんを巻き込む事も考えたが、デメリットがデカすぎると判断した。

 リンドウさんの死に不信感を持って色々探っている為、下手な接触はこっちも警戒されてしまう。

 

 なので、思い切ってソーマに色々と話をしてみました。

 

 

 

 

 そしたらループの事まで色々と話すハメになってしまった。

 

 

 

 いや、正直ソーマを甘く見てたわ。

 厨二病を拗らせた脳筋キャラみたいな奴のくせして、妙な所で鋭い事鋭い事。

 最初はアーク計画に関する事だけ話すつもりだったんだが、予想外のタイミングで問い詰められて、あれよあれよと言う間に…。

 弁が立つ訳じゃないんだが、肝が据わってるから、一度違和感とかに気付かれると誤魔化しが通じないんだよ…。

 

 よく考えてみりゃ、GE2では博士みたいな仕事してたからな…頭が悪い訳じゃないんだろう。

 

 

 が、ループに関しては半信半疑………いや、半ば以上は事実でもウソでもどっちでもいい、と言ったところか。

 それよりも、俺がソーマの出生の事を知っていたり、知性を持つアラガミであるシオの事の方が重要だったようだ。

 

 出生については、俺がどうこう言うつもりが無い上、ある意味それ以上にイカレた身の上だと知って何も言わなくなっていたが……シオに関しての反応が凄かった。

 曰く、「ありえない」と。

 その他諸々、「ふざけてんのか…!」「ケンカ売ってるなら買うぞ」等々、ヤンキーみたいな発言も多数。

 

 ソーマ君はツンデレだからねー。

 現状、見ず知らずのアラガミなんぞソーマにとっては敵以外の何者でもないし、そういう反応なのも無理は無い。

 具体例を教えてやりたいところだが、生憎と俺もまだシオと遭遇した事は無いし、ソーマと戯れているトコロだって見た事無い。

 

 

 

 だからシオと会った後、暫しのツン時期を経てから、ロリコン疑惑が沸く程可愛がっていたと捏造してみた。

 

 

 

 別の意味で信じようとしなかった。

 

 

 

 まぁ、シオに対する態度はともかくとして、アーク計画に関しては信じてくれた。

 内心でどう考えているかは今ひとつ想像が付かなかったが、阻止する方向で動くのは確かだ。

 

 ソーマと支部長の間に特別な繋がりは期待してなかったが、やはり親子という事か…俺が知らない情報も、幾つか持っていた。

 ちゃんとした情報源ではなくて、「あの時のアイツの言動が引っかかる」「この辺りで特務が多い」とか、その程度の情報だったが。

 それでも、支部長の行動の一端を知れるのは有りがたい。

 

 

 ソーマから色々話を聞いて、資材の流れ等の裏づけを取ったところ、やはりアーク計画用の宇宙船(だと思う)は完成寸前らしい。

 後は特異点であるシオを手に入れれば、終末捕食も実行可能、と。

 

 うーむ、限りなくギリギリな状態だ。

 いつシオが見つかって、捕縛されてもおかしくない。

 と言うか、ゲームを見る限りだと、放っておいてもエイジスに誘きよせられるだろう。

 

 以上の事から、やはりシオの確保が急務であり、殺害は新たな特異点を生むだけなので意味は無い、と結論付けた。

 ソーマはそれでもアラガミ絶対殺すマンやってるが、実際にシオを目にして殺せるかな?

 …一応用心しておくか。

 俺が要らん事吹き込んだおかげで、意固地になっててもおかしくない。

 

 

神造月食べる阿呆に狩る阿呆、同じ阿呆ならこれでギャラはおんなじ~日

 

 ソーマと一緒にシオ探し。

 今日は他の皆は休日である。

 本当は俺達も休みなのだが、日頃から無闇矢鱈と出撃しまくっている俺とソーマだ。

 今更何も言われなかった。

 

 いや、「ちゃんとミッションを受けて行ってくれるだけマシ」と言われた。

 スマヌ、ヒバリさん。

 だが散歩ついでの狩りは止めない。

 

 

 さて、以前にも鎮魂の廃寺でシオの痕跡を見つけたので、今回もそこで捜索。

 …したのだが、見つからない。

 まぁ、考えてみればわざわざあんな雪が降り積もる、ヘタな所で寝たらアラガミでも即死しそうな場所に、好き好んで居るとも思えんな。

 別の場所も快適とは言えないだろうが、鎮魂の廃寺は別格だ。

 

 ならばと思って、リンドウさんがMIAした付近で捜索。

 …この辺に痕跡が見つかれば、ひょっとしたらリンドウさんとも遭遇しているかもしれない。

 そうなれば、リンドウさん生存(アラガミ化)の痕跡も見つかり、シオも見つかり、万々歳…というのは流石にちょっと都合が良すぎか?

 

 

 

 

 

 と思っていたんだが、普通に痕跡見つかったよ。

 

 

 何故だ!?

 前に探した時はタカの目まで使って探したと言うのに、見つかったのはリンドウさんとアラガミの乱戦の後だけだったのに!

 

 やはりアレか、ソーマが一緒だからか?

 因果律だかゲームのシナリオだかで、定められているとでも言うのか?

 ……あー、なんか微妙にありそうだな…。

 今までだって、多少の誤差はあっても大きな流れは変わって無いし……でも、それは偶然とかによるものじゃなく、事前の流れが既に出来上がっていたからだったと思うんだが。

 

 うーむ、分からん。

 この辺は次回ループで検証してみようか(覚えてたら)。

 

 

 シオの痕跡を追いかけて、一晩野宿。

 アナグラには連絡を入れておいた。

 …ヒバリさんが「お、おとこのひとがふたりきりでのじゅく…」とか動揺しながら激しく首を横に振っていたんだが。

 微妙に腐ってる?

 だが腐界に落ちまいと抵抗しているようですな。

 

 

 

 シオをとっ捕まえたら、二人きりじゃなくなるんですがね。

 ロリ一人にムッツリ(ソーマ)が一人、色ボケ外道(俺だ)が一人。

 …薄い本を書くべきか。

 漫画は無理だが、小説なら書けない事もないぞ。

 

 

 

神造月案ずらぬなら3乙がオチ日

 

 はっけーん。

 …今までの探索の苦労は何だったんだ。

 得体の知れない力(修正力とかストーリーとか)が関係ないんだとしたら、きっとソーマが何か妙なフェロモンとか出してるんだ。

 そうでなければ納得できない。

 

 思わず口に出したら蹴られた。

 

 でもまぁ、とにかく進展したのは間違いない。

 ソーマも実物のシオを見たら、随分と毒気を抜かれたようだ。

 支部長の計画を邪魔する為に、見つけたらその場で狩るとか考えてそうだったのにねぇ。

 

 

 …と言うか、マジでシオって何か妙なフェロモンでも出してるんじゃないか?

 確かにカワイイ。

 小柄だし、適当に狩ってきたアラガミのコアをあげただけで素直に懐いてきたし。

 

 が、こう言っちゃなんだが、初見のシオはそこまでカワイイというカンジではなかった。

 小動物的な可愛さというよりも、野良犬のような可愛さと言うか。

 

 

 よーく考えてみてほしい。

 皆、シオの姿を思い浮かべる時、多分ちゃんと服を着て、体の汚れもちゃんと落としている姿だと思う。

 まぁ、服についてはボロ切れバージョンで思い浮かべる方も多いかもしれないが、それにしたって汚れまではあまり想像しないだろう。

 

 でもなぁ、今までずーっと人に接さず、サバイバルしてきたシオだぞ?

 服と言うか襤褸切れだって返り血、汚れ塗れで無茶苦茶な色になってるし、ニオイだってキツい…女の子のニオイじゃなくて、獣臭だよコレ。

 それに髪型もザンバラで、何より目がね…。

 食欲で殺意がブーストされているのか、初めて見た時はティガレックスかと思ったくらいだ。

 乱れた髪の間から覗く眼光がスゴイのなんのって。

 俺達が人間ではなくアラガミだったら、問答無用で食いついてきただろう。

 

 

 そんな野良犬のような状態なのに、俺が思ったのは(多分ソーマも)まずカワイイ、だった。

 いや、そりゃー野良犬にだって可愛げはあるよ?

 モンスターに比べりゃ、いろんな意味でカワイイよ。

 普通にカワイイモンスターも居るけどさ……ちょっと変わったところではヴォルガノスとか……ユニスの影響でヴォルガノスが可愛く見えてしまう時がアリマス。

 

 

 にしても、あの状態のシオを可愛いと思うのはなぁ…。

 仮にそういう機能や能力があるにしても、一体何の為だ?

 ソーマが矛を収めてくれたから、こっちとしては好都合だが……。

 

 

神造月注意一秒、乙0秒日

 

 とりあえずシオが懐いてくれたんで確保(事案ゆーな!)したんだが、これからどうしよう。

 アナグラに連れて帰るのはマズイ。

 官憲のお世話になってしまう。

 そうすると知性を持ったアラガミであるシオは、速攻処分か、実験体扱いか、そして何より終末捕食行きだ。

 ブタ箱にブチ込まれているよーでは、阻止する事もできん。

 

 脱獄して救出作戦となると、随分とハデになるぞ。

 フェンリル相手にテロとゲリラ戦で渡り合う、絶望的な戦争の始まりだ。

 

 …探し出しておいてなんだが、結局この先を考えていなかった。

 ソーマと二人揃って、「俺達ってバカだなぁ」と溜息を吐いていた。

 

 

 

 

 色々話し合った結果、二人が交代で世話をする事になった。

 匿う場所が見つからなかった為、当分は野宿を覚悟しておく。

 世話をしない方はアナグラに戻り、通常任務に当たる。

 言ってみれば二重生活という奴だ。

 

 いっそ、どちらかがアナグラの生活を捨ててシオに付きっ切り…というのも考えたんだが、ソーマは支部長にとって色々な意味で重要人物だ。

 ソーマが否定しても、それは変わらない。

 アラガミに対する重要戦力でもあり、子供でもあり…多分、アーク計画が成功したら、次の世界へ繋ぐ希望でもある。

 そんなソーマが突然居なくなれば、それは放置される筈が無いだろう。

 正直、本腰入れて調べに来るフェンリルを欺ける自信は無い。

 

 ならば俺は?

 ……俺が居なくなったら、カノンとアリサがどうなるか、考えるまでもねーじゃん…。

 誤射姫様が暴走を始め、アリサはトラウマがまた顔を出し…。

 

 

 

 

 そしてそれが限界に来た辺りで、ょぅι゛ょに付きっ切りの俺にバッタリ遭遇するワケだよ。

 

 

 

 修羅場ってレベルじゃねぇ。

 俺もそうだが、巻き込まれるシオも生き延びれる気がしない。

 

 そんならもう、事案覚悟で野外で飼うしか無いじゃないか。

 

 とは言え、俺もソーマも狩りの為に頻繁に外出するとは言え、いつまでも気付かれない訳じゃない。

 何かしら対策を考えないと…。

 …木を隠すなら森の中。

 アラガミを隠すならアラガミの中だが、それじゃ手懐けた意味が無い。

 

 となると……人として居住区の中で育てる、か。

 

 

 

 

 

 

 まともな服すら着ないシオを?

 

 

 

 うん、無理。

 …リッカさんを巻き込んでみるか。

 ゲームでも確か服を作ってくれた人だし、アラガミ探知機とかを掻い潜れる場所を知ってるかもしれない。

 

 

 

神造月例え納得いかなくても、獲物が居ればそこは狩場である日

 

 リッカさんとは割りと仲がいい。

 あくまで研究の協力者として、だが。

 

 俺が色々協力して、リンクサポートの研究が進んでいる為、そのお返しだと言って協力してくれる事になった。

 知性を持つアラガミにも興味があるらしい。

 

 …引き受けてもらっといてなんだけど、そんなに軽くていいのか?

 形はどうあれ、アラガミを庇おうとしているんだし、場合によってはアナグラに引きこもうとしてるんだぞ?

 バレたら即処分…懲戒どころか処刑モノだ。

 

 そう言ったら、「研究者が違法スレスレの実験をやるのは、珍しい事じゃないよ」って言って笑ってた。

 …いや、だからスレスレどころか普通にアウト…。

 と言うか研究者ってそういうものなのか?

 確かに榊博士とか、シレッとした顔で普通にアウトな事を裏でやってそうなイメージだけど。

 

 …思えば趣味人が集まってるっぽい、ここの研究班も結構…。

 何せ、俺が色々テコ入れしたとは言え、杭君を作り出した連中だ。

 全員がヤバいとは言わないが、テンション次第で妙な方向に突っ走ってもおかしくない。

 

 

 

 ちょっと怖い考えになってきたが、ともあれ協力者が出来たのは有りがたい事だ。

 兎に角、アラガミ用の服から作ってもらおう。

 採寸とかの為に、一度シオに会ってもらう事になった。

 

 

 

神造月「射線上に入りなさいって、私言ったわよね」日

 

 リッカさんの初見の感想は、やはり「カワイイ」だったそうな。

 やっぱり妙なフェロモンでも出してるんだろうか。

 そうでもないと、アラガミ絶対殺すマンのソーマがそう簡単に気を許すとは思えんし…。

 

 当のソーマは、シオに纏わりつかれて戸惑っているようだった。

 アラガミなら即殺すが、俺から色々聞いている為に殺すに殺せない。

 見た目は…まぁちょっと野生児風だが、フェロモン(?)のおかげで妙に可愛く見える。

 懐かれて嬉しいのではなくて、単に持て余しているんだな。

 

 

 リッカさんと一緒に、暫く影から覗き見してました。

 ほっこり。

 

 

 

 気付かれて追い回されたけどな!

 

 

 

 最初、リッカさんはシオに警戒されていたが、餌付けしたら素直に懐いた。

 チョロすぎぃ!

 でも精神的には赤子同然状態なんでこんなもんか。

 

 とりあえず服を作るのには問題なさそうだ。

 素材はちょっと面倒なのがあるが、俺とソーマで分担すれば充分。

 採寸も上手くいったので、服が完成すればとりあえず最悪の事案は…免れるよね?

 ょぅι゛ょの拉致監禁とか、育児放棄とか、虐待とかは言われないよね?

 

 後は何処に匿うか、だが……リッカさん曰く、普通のアラガミとは違うのか、フェンリルが使っているアラガミレーダー(原理は知らん)にはひっかからないそうだ。

 特異点だからか?

 それともアラガミレーダーの検出方法の問題か?

 

 ともあれ、そういう訳なんで、人間の常識さえ教え込めば外部居住区で暮らす事も可能らしい。

 …常識さえ教え込めば。

 

 ヒッジョーに難しい話ですな。

 シオの学習能力が非常に高いとは言え、ここに居るのはコミュ障のソーマ、ワリといい人だが機械オタク気質のリッカさん、そして何故か非常識人として名高い俺。

 ただでさえ常識というのは人によって違うし、当たり前の事ほど言葉にして伝えるのは難しい、そして実感させるのも難しい。

 

 人が少ない…というより、既に皆退去したり全滅したりしたゴーストタウンに住まわせる?

 そこが家…というか巣だと認識させれば、少なくともこちらから探さずには済む。

 でもゴーストタウンだと、いつアラガミがやってくるか分からない。

 何かの拍子に目撃されたら、怪しい奴が居ると騒がれる事即確定だ。

 

 

 うーむ…とりあえず、今日は一晩シオと一緒に泊まりだ。

 代わりにソーマがアナグラに戻る。

 カノンとアリサには、特務の類で今日は戻れないと伝えておくよう頼んだ。

 

 …伝えるのはいいが、「手を出すなよ」ってワリとマジな顔で言われたよ。

 ……そりゃ、実績考えると言われるのも無理はないが…たった一日で、随分とお気に入りになったようだな。

 そのまま突き進んで、紳士力を高めていってくれ…ヘンタイと名の付く紳士かどうかは微妙なところだが。

 

 

 

神造月質より量、量より美乳(異論は認める)日

 

 たった一日で、どれだけ情緒と理性が成長したのやら。

 「オナカスイタ!」以外にも、「ヒマダ!」と何度も叫ぶシオ。

 叫んではあちこち出歩こうとするので、目が離せない。

 機動力のある赤ん坊とか悪夢です。

 

 叱ろうにも、叱って理解できるだけの知性は無さそうだ……頭が良くても、善悪の区別がついてそうにない。

 下手な事をすると、反発して逃げ出そうとする可能性がある。

 仕方ないので、シオを楽しませる事で暴走を抑えようとした。

 

 エロス的な意味じゃないよ?

 ふくろから幾つか調味料を取り出して、「料理」というスキルを見せ付けてみた。

 まぁ、調味料以外の材料はアラガミ素材だったが。

 

 

 

 シオが更なる食い意地に目覚めた。

 

 

 

 終末捕食の起点となる特異点だけあって、元々食欲旺盛だったが、一口噛み付いてビックリ。

 そのままガツガツと食い始め、おかわりまで要求してくる。

 

 

 

 摩り下ろしてないワサビすら平然と食らう辺り、味覚が人間と同じなのかは疑わしいが。

 立川のジョニーなら、間違いなく天使がスッ飛んでくると言うのに。

 

 

 満腹になったらなったで、またヒマだと騒ぎ始める。

 ええい、幼児のように昼寝でもしてキョヌーに育てばいいものを。

 

 

 仕方ないので、即席手品で遊んでやった。

 

 

 

 ぶっちゃけ、殆どがタマフリだが。

 

 瞬間移動(ミタマ・空)したり、斬れてな~い(ミタマ・堅)したり、地面から撃ちあがる花火(ミタマ・魂の連昇)したり、突然目の前から消えて(ミタマ・隠の隠行)みたり色々やったんだが……なんかシオ、霊力を認識してないか?

 「おー?」とか首をかしげながら、虚空に手を伸ばしてプラプラしてんだけど…その辺、俺の霊力が何らかの形で飛び散った辺りなんだよね。

 

 …これ、ヤバくね?

 前回はGE2にもなってないのに感応種が出てきたくらいだ。

 同じくアラガミであるシオが、これに反応して何らかの変異を起こしても不思議じゃない。

 霊力を使う特異点………ぬぅ、何がどうなるか分かったもんじゃないな。

 

 元々、感応種の出現を危惧して霊力を使うのは控えていたし、シオを楽しませるだけに使うのも控えた方がいいだろうか…。

 そうなると、シオを何かしら別の手段で楽しませないと。

 うーん、子守は初めてなんだよなぁ…。

 

 

 子守…子守…子守歌。

 

 

 そうか、歌か。

 まぁ試してみるか。

 

 

 

 

神造月TO・TSU・GE・KI・ハンターハート!!日

 

 

 目指せ、シオの熱気BASARA計画!

 …あれ、なんだかスゴイ顔した爺ちゃんに一刀両断にされるイメージが浮かんだよ?

 

 まぁいいか。

 ともあれ、歌はリリンが生み出した文化の極みである。

 原初にして今尚続く、心も体も奮い立たせる本能のリズムである。

 

 幾つか適当に歌ってみたが、相当に気に入ったらしい。

 何度も何度もアンコールされ、ソーマが戻ってくる頃には喉が枯れるかと思った。

 

 そういや、ゲームでもシオは歌を歌ってたな。

 別れの歌だったらしいが、どんな歌だったんだろうか。

 

 …それがエンディングの内容を暗示していたと言うなら、もっと別の歌を教えた方がよかったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え、何を歌ったかって?

 

 

 日本全国○飲み音頭だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソーマだけじゃなくてリッカさんにも殺されるかと思った。

 

 

 よく考えたら、日本中がアラガミに食い荒らされて各地の名酒どころじゃないんだよね。

 そりゃヌッ殺されるわ。

 

 

 

 ちゅーか俺が逆にアラガミヌッコロしたくなってきた。

 畜生、ようやく酒の味が分かる人間になってきたと言うのに、生まれ故郷の酒がコレか!

 討鬼伝世界の酒は地域限定でしか手に入らんし!

 

 ぬああああぁぁぁ、酒の為にもアラガミマジ駆逐すべし!

 

 




今度の外伝は何処にしようかな…。
候補としては、今のところこんなカンジ。

九龍学園
デビルメイクライ
東京魔人学園
ストリートファイター2
聖剣伝説レジェンドオブマナ
ジャングルの王者ターちゃん

あと1個既に書きあがってますが、能力的に会得させるタイミングを考えなきゃいかんんので保留…。


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52話

ちょっと中間管理職の気分。
協調性の無い、しかも自覚の無い部下って厄介なのね…。
自分は悪くないって言い張るのも分かるんだけどさ、組織やチームの一員である以上、他の人がやらかしたら自分も頭下げざるを得ない。
それを自覚せず、庇われている自覚も無いってのは、チームとしては癌かなぁ…。


つまりはこの主人公ですな!


 

 

 

「味は涅槃マユリ味ダヨ!」月「なん……だと……」日

 

 

 ↑

 

 気が付いたら書いてたが、この日付なんだよ?

 

 

 ソーマと交代してアナグラへ。

 それはいいんだが、なんか妙に討伐依頼が多くない?

 まぁ、俺にとっては呼吸をするかの如くこなせる量だけどさ。

 

 と言うか、マジでヤバいアラガミが増えてきている。

 他人が受けたミッション内容とか、閲覧するにはそれなりの権限が必要なんだが、あちこちのツテを辿ればそれも想像できないことは無い。

 例えば、各人の神機のコンディションとかね。

 

 

 これは一体どういう事か?

 極東地区は元より対アラガミ戦線の最前地区だったが、それを考慮に入れても異常な状態だ。

 俺達が、新入りからベテランに評価が変わり、それに伴って任されるミッションも変じた…訳じゃない。

 明らかにその辺に居るアラガミの質が代わってきている。

 オウガテイルばかりだったのが、ヴァジュラテイルも混じってきているし、局地適応型のアラガミが普通にウロウロしている。

 …雪山に適応したアラガミが、煉獄の地下街とかに出没して勝手に衰弱したりもしてるんだが。

 

 よく考えたら、あの地下街も謎だな。

 なんでマグマなんぞに浸されているのだ。

 近くに火山でもあったんだろうか…。

 

 それはともかくとして、カノンとアリサに心配されていた。

 特務って事で、何も話してなかったらしい。

 ま、実際どう話せばいいのやら、って話だしな。

 口下手のソーマが色々と言い訳するより、黙ってシャットアウトしたのは正解だろう。

 

 俺としても何をやってるか話す訳にもいかないので、やっぱり特務の一言で押し通した。

 特務って完全に機密事項だしな…。

 知った方も知らせた方も、後がヤバい。

 あまり危険は無いが、普通のゴッドイーターにはできない任務だ、とだけ教えておいた。

 

 

 

 唐突に出てきた裏カノンに、「女のニオイがするわ」と囁かれたのにはビビッたが。

 リッカさんも協力してくれてるから、そのせいだろう、と誤魔化した。

 

 

神造月「私の能力の名は……ラディカル! (ガンパレ的) “ゴ” ッドスピィィィィィィィーーーーーーードッッッッ!!!!」日

 

 今日は午前中はデート、午後から狩り。

 シオにメシを食わせる為にも、色々狩って確保しないとな。

 …原則、アラガミの核はフェンリルに提出しないといけないんだが……普段からアホみたいな量を狩ってるから、そこからちょろまかしても気付けないだろ。

 普通に横流しだが。

 …気付かれると厄介な事になるが、そう長くは続かない筈。

 シオが特異点として覚醒してしまう前に打開策を見つけ、カタをつけないと…。

 

 しかし、実際方法が無いんだよなー。

 リンドウさんなら、もう少し突っ込んだところまで計画を調べてたかもしれないが。 

 

 

 

 …ん?

 

 今、もうシオと会って、大分言葉も覚えている。(普通の言葉じゃなくて、シオ語で話さなきゃいかんが)

 ひょっとしたら、リンドウさんの事について聞けるんじゃないか?

 

 

神造月ヘンタイと紳士は紙一重日

 

 ソーマと交代。

 何か進展はあったかと期待したが、そっちは何も無い。

 男女の仲的な意味でも無い。

 …保護者としてはデレてきたっぽい。

 

 服が完成したんで、リッカさんも一緒に行った。

 着せるのに一悶着あったが、割愛。

 ちゃんとした服を着て、ついでに体も拭いて汚れをとったシオは、率直に言って可愛かった。

 これはフェロモン疑惑とか関係無しに。

 

 褒められていると知って気分を良くしたシオは、歌い始めた。

 

 

 日本全○酒飲み音頭を。

 

 

 

 ソーマとリッカさんに追い回された。

 ついでにシオも追いかけてきた。

 

 

 それはともかく、シオにリンドウさんの事を知らないかと聞いてみた。

 リンドウさん、なんて言っても分からないだろうから、特徴を言ってみたんだが…リンドウさん、よく考えたら明確な特徴って無いよなぁ。

 美形は美形だけど、シオには顔の良し悪しなんて分からないし、髪の毛は極東人(日本人)の平均的な黒だし。

 ゴッドイーターは何人も居るし、殉職者だって沢山居る。

 

 仕方ないので、「あの辺りで死に掛けていたゴッドイーターと会わなかったか?」みたいな形でしか聞けなかった。

 で、答えはYES。

 詳細を聞いて(非常に抽象的な表現しかしないので、翻訳が必要だったが)、リンドウさんっぽい事を確認した。

 

 

 そして、一緒に居た子がナナっぽい事も。

 当時、シオは食料を求めてその辺をフラフラ歩き回っていたようなのだが、突然何かに呼ばれているような気がしたのだそうだ。

 特異点として…ではないと思う。

 まだ覚醒の予兆は全く見られない。

 

 で、その呼ばれているような気がする所に行ってみたら、そこには死にかけている…男女。

 そうだよな…ナナを守っていたと思われるリンドウさんがMIAで、ナナだけが無事の筈が無い。

 マグノリア・コンパスである程度の軍事教練は受けている筈だが、血の力の誘引が暴走状態って事は、精神的にガタガタな状態だったんだろう。

 戦うどころか、体がまともに動かなかっただろう。

 

 結局、アラガミの殆どを倒したものの、二人揃って致命傷(リンドウさんは腕輪を失ったようだ)を負い……自分を呼んだ事への興味から、シオが助けた。

 今は、シオが「わーーっ!」した(シオ語で、アラガミ化を抑える処置をした…だと思う)後、二人を鎮魂の廃寺まで運んだ。

 そして食料を探すため、二人を置いてその場を離れたのだが…戻ってきたら居なかった。

 野良のアラガミが何体か居たらしいので、逃げたのだろう。

 ひょっとしたら、その野良アラガミも誘引で引きつけられたのかもしれない。

 

 

 …これだけの話を聞くのに、丸々一日かかりました。

 

 

神造月他人の狩り見て我が狩りに活かせ日

 

 とりあえず、リンドウさんもナナも生きてるっぽいな。

 鎮魂の廃寺付近か…。

 よりにもよって、何故あそこに。

 あんなところで暮らしてたら、体温が低くなって冬眠⇒永眠してしまう。

 

 どっちにしろ、逃げたんだったらその場には…?

 もうちょっと暮らしやすい所に行くと思う。

 暮らしやすい…と言っても、外の世界だしな。

 食料とかもう無いに等しい。

 それこそ、アラガミを喰いでもしない限りは。

 

 それに、腕輪を失い、ナナは恐らく司法取引で囮・枷として引っ張られた。

 ナナを返すのも危険、自分は戦闘能力をほぼ失い、仮に支部長が追撃をかけたら殆ど反撃できない。

 

 

 となると……?

 

 

 

 

 灯台下暮らし、か。 

 

 

神造月狩りに落ちず、人生に落ちる日

 

 アナグラ周辺の居住区か、フェンリルの庇護下に置かれる事を拒んで独立しようとしている集落。

 恐らく、リンドウさんとナナはこのどちらかに居る。

 

 聞き込みは難航している。

 「片腕を失った男か女かは居ないか」と触れ回っているのだが、俺達がゴッドイーターだというだけで反感を買う。

 この世界を滅亡に向かわせずに圧し留めているのは確かにゴッドイーターだが、人間の感情にはそんな事は関係ないらしい。

 フェンリルの庇護下にありながら、食料改善のデモやら何やらをしようとする集団も居るくらいだしな…。

 

 何も、フェンリルの庇護を受けているのだから全面的に従えとは言えないが、今の彼らは「与えられている」立場だ。

 そこへ改善要求をすると言うのもね…。

 この世界には、衣食住を確約する基本的人権なんぞ無いんだ。

 嫌な言い方になるが、彼らの要求は自分達の立場を弁えずに、もっと寄越せと言っているようにも見える。

 無論、彼らからしてみれば、最低限の物資を要求しているだけで、それ以外の事は自分達でどうにかしようとしているんだろう。

 彼らの最低限と、フェンリルの最大限、その差が生み出した軋轢だ。

 回避のしようが無い。

 

 それに比べれば、フェンリルの庇護下から抜け、自力で生活しようとしている人々は違う。

 自分達の事だから、自分達でどうにかしようとするのが当然。

 そんな風に体現しているように見える。

 

 フェンリルから何も受け取らない。 

 だから何も指示される謂れは無い、という訳だ。

 確かに筋は通っている。

 

 …ま、これはあくまで強者の理屈だ。

 自力でアラガミと戦える力を持ち、食料をそれなり以上に確保する術を持ち、生活していくだけなら困らない。

 あまつさえ、「死」という絶対的な現実から遠ざけられ、やり直しの機会すら持っている。

 そういう意味では、俺はこの世界の何よりも、絶対的な強者と言えるだろう。

 

 …多分に、俺のような一介のハンターが語るべきではない、政治的要素が含まれていたようにも思えるが、とにかく俺が言いたいのは…別に非協力的だからって、彼らに対して腹は立たないって事だった。

 

 

 

 フェンリルという、この世界の経済的支配者から離れるだけあって、彼らはゴッドイーターに対しても排他的だ。

 だからこそ二人が隠れ家とするのだろうが、どう探したもんだろうか。

 腕輪を隠して接触してみたが、右腕の手首を隠しているというだけで、ゴッドイーター疑惑には充分すぎる。

 

 仕方ないので、拡声器とか使って、「ビールの人、ビールの人ー。『箱舟計画』の単語に心当たりがあったらコッチ来なさい」と大々的に呼びかけてみた。

 いやはや、フェンリルの影響が強い外部居住区じゃ使えない手だね。

 排他的だからこそ、こんなに大っぴらにしても伝わらないって訳だ。

 

 だが、結果は…今日は音沙汰無し。

 

 

 しかし逆に、あそこならシオを置いておけるかもしれない。

 フェンリルの影響が無いし、良くも悪くも変わり者(何せ、自分から比較的安全な地を出て、自力で生活を確保しようという連中だ)なので、一際変わり者のシオが入り込んでも違和感が無い。

 とは言え、間諜の類が居る可能性はあるか。

 リンドウさん探しついでに、その確認だな。

 

 

神造月後ろ足でフンを飛ばす日

 

 ソーマが色々拗らせている。

 シオが隠れられそうな場所を見つけた事を伝えたら、相変わらずの鉄面皮ながら渋い顔。

 実際の場所を教えたら、「あんな所に置いておけるか!」と激昂する。

 「そんなにシオが大切か」と言ってみれば、「そんなんじゃねえ! コイツをそんな所に置いたら、何が起きるか分からねぇだろうが!」と顔を赤くして叫ぶ。

 

 

 めんどくすぇぇぇい。

 

 

 とは言え、流石に今のまま預けるってのは無いよなぁ。

 非常識なのは…まぁ、荒野でアラガミに襲われたショックで記憶が一部飛んだとか、精神的な疾患を抱えているとかで誤魔化せない事も無いと思うが

 シオ本人が、自分の生い立ちや能力を隠さなきゃいかんって事をまるで理解できてない。

 食料だって、シオが食べるのはアラガミだけ。

 …隠し通せるとは思えない。

 

 預けるなら、あそこに居るリンドウさんとナナを見つけて、二人に監督を頼まなければ。

 あの二人なら、シオに「わーーっ!」された恩もあるから、そう無碍にはしないだろう。

 

 

 そういう訳なんで、今日も狩りを終えてから特務と称して単独行動を取り、集落を探し回る。

 若干絡まれる事もあるが、逆に脅し返した。

 アラガミと毎日やりあってるゴッドイーターに、武力による脅迫や絡みが通じると思ってんの?

 まぁ、実際に殴りあいに発展したら、不始末を起こしたって事で上から何か言われるかもしれんけど。

 

 

 それはそれとして、有力な手がかり発見。

 妙にアラガミが増えた地区。

 そんなトコで独立しようとしても、襲われて全滅する以外の未来は見えないが、本人達にしてみれば勝算があるからやってるんだろう。

 フェンリルの庇護下に居るのが、文字通り死んでも御免だって事なのかもしれないが。

 

 とにかく、ある集落で、微弱な霊気が漏れた痕跡がある。

 霊力=この世界の血の力と考えると、恐らくこれはナナだろう。

 …というか、ちゃんとコントロールできてるとは思えんのだが…。

 今だって徐々にアラガミを引きつけているようだし、このまま何かの切欠で暴走したら…集落全滅、運よくナナが生き残ったとしても更なるトラウマ。

 

 誘引の事に思い当たっているなら、リンドウさんは人が多い所に来るとは思えないが…まぁ、戦闘能力なくなってるからな。

 一時的な避難なのかもしれん。

 

 とにかく、その辺の事はリンドウさん達を探し出してからだな。

 そういう訳なんでソーマ、明日はお前が探索だ。

 余計な面倒起こすなよ?

 

 

 …あと、シオを手放したくないからって探さないのもナシね。

 

 

神変月一寸先は乙日

 

 気が付けば新しい月に突入していた。

 シオとリンドウさん探しに気を取られ、クソ忙しい月末月初をエスケープしてしまっていた。

 カノンにメッチャ怒られた。

 

 それはともかく、リンドウさん探しは…まぁ、順調と言っていいだろう。

 実際、ソーマがまともに探しているとは全く思ってなかったし。

 微弱な霊気の後を辿っていくと、2~3個の集落を移動しているようだった。

 誘引対策で、一箇所に留まらないんだろうか?

 

 ちなみに間諜探しは、全くの手がかり0だ。

 まぁ、この時代じゃなぁ…。

 スパイするにしたって、敵地に忍び込んでどうこうって訳じゃない。

 連絡にしたって、ボタン一つで行える。

 特別な技術や目印が無いんだよね…。

 スパイったって、そんな重要度の高い所じゃないから、普段見聞きした事を話せばいいだけだろうし。

 

 鷹の目を使えば、怪しい機械を持っている人とかは分かるんだが、日頃から持ち歩いてる筈が無い。

 

 

 とにかく、スパイ探しは難しい。

 

 

 さて、今日も狩り⇒リンドウさん探しな訳だが、カノンとアリサに問い詰められてしまった。

 流石に不信感が拭いきれなかったらしい。

 五車多も問い詰めようかと悩んでいたようなのだが、ソーマを信用しているから、と言って口を挟んでこなかった。

 …流石ですエリック先輩、見た目よりずっと分別がある。

 

 で、シオの事は伏せて、リンドウさんが生きているかもしれない事を説明した。

 だがリンドウさんのMIAには不自然な点が幾つもあり、大っぴらに捜索しては、見つかったとしても…場合によっては、俺達ごと暗殺される可能性もある。

 

 「暗殺」と聞いて悲鳴をあげそうになったカノンを黙らせて、リンドウさん探しを手伝ってくれるよう頼んだ。

 水臭い、何を今更…と言われたが、まぁ結果オーライか。

 

 シオの事もバレなかったしな。

 

 

 

 

神変月時は金と素材なり日

 

 

 危うくシオの事を嗅ぎつけられそうになった。

 昨日の今日で何やってんだ、と言われるかもしれないが、「あれ、でも整備士のリッカさんはリンドウさん探しに協力してるんですか? 暗殺の危険があるのに?」と言われてね…。

 突然言われたんで、言い訳…というか建前が用意できなかった。

 別に整備しの技術や仕事を軽視する訳じゃないんだが、確かに整備士が必要な理由って無いんだよね。

 シオの服の事が無かったら、俺だって巻き込む気は無かったし。

 

 そんで浮気を疑われた。

 …まぁ、仕方ないよなぁ。

 現時点で、精神的には三股だもんなぁ。

 

 事実、「あれ? ちょっといい雰囲気?」みたいなムードになった事はあったけど、リッカさんは意外と仕事の虫と言うか花より団子より仕事と言うか。

 何だかちょっとフラれた気分にはなったが、まぁ普通に考えて自分から三股男の4つ目の股になろうとは思わんよな。

 いや、リッカさんなら意外とアッケラカンとして、「ちゃんと私の相手もしてくれるならいいよ」とか言ってる気もするが。

 

 

 納得させる為に丸々一晩かかったけど、安いもんだよね?

 と言うか愉悦しまくったんで俺の方が色々な意味で元気になってしまったよ。

 

 

 

 とにかく、同時に3人動けるようになったので、リンドウさん達が居ると思われる集落を、それぞれ分かれて調査する。

 俺のところはハズレだった。

 アリサもハズレ。

 で、帰ってきたカノンのポケットに、「明日の16時に鎮魂の廃寺で」と書かれた紙が入っていた。

 

 …気付かれずに入れたリンドウさん(多分)を流石というべきか、カノンが隙だらけだと思うべきか…。

 

 

 

神変月三乙に報酬無し日

 

 リンドウさんと接触。

 ようやく見つけた。

 

 接触したのは俺一人だ。

 ソーマはまだシオのお守があるし、アリサとカノンが居てはシオの事を話せないので、悪いが置いてきた。

 勿論納得してなかったんで、意図的に足腰立たなくしてきた訳だが。

 リッカさんは、アナグラで色々とアリバイ工作をしてくれている。

 いやはや、世話になりっぱなしだね。

 研究に協力してくれるお礼だって言ってたけど、研究資料は俺も貰ってるからな…。

 

 

 それはともかく、リンドウさんは相変わらず飄々とした顔で、何でもないかのように現れた。

 ちょっと無精ヒゲが生えてるが、アナグラと違って生活環境なんか整ってないからな…無理も無い。

 あと、ちょっと臭う。

 

 やはりと言うべきか、腕輪…どころか肘から先が無くなっていた。

 …あー、でもこれは片腕のバランスの崩れにも大体対処できるようになってるな。

 武器さえあれば、大抵のアラガミは狩れそうだ。

 

 

 最初は警戒されていたようだ(アーク計画の事を仄めかして探してたからな)が、腰を据えて話をした。

 アーク計画の正体を、俺達もほぼ突き止めている事。

 終末捕食を起こす為の特異点…シオの事。

 ついでに、今までどうしていたのかも聞いた。

 

 大体は予想通りの行動をしていたらしい。

 ウロヴォロス討伐の帰りに、荒野で何やら茫然自失している少女…特徴を聞く限り、やはりGE2のナナだった…を発見。

 それと同時に異様にアラガミが集まってきて、逃げ切れずにナナを庇いながら乱戦に突入。

 自分の口癖通りに隠れたり逃げたりしていたものの、どれだけ隠れてもあっという間に見つけ出される。

 

 とうとう捌ききれなくなって、腕輪を破壊され、致命傷…。

 意識が遠くなり、もう駄目かと思ったら…気が付けば何処かの家屋に居た。

 白い少女を見た気がするが、イマイチ覚えていない。

 意識がハッキリした時は、野良アラガミがどんどん接近してくる時で…傍で同じように眠っていた少女を抱え、逃げた。

 散々追い掛け回されたが、何とか撒いて、近辺の集落に紛れ込んだのだそうだ。 

 

 …それがナナから発せられる、得体の知れない力の為だと気付いたのは、落ち着いてからだった。

 

 

 リンドウさん自身も整理できてない状況とかがあったので、情報交換。

 そもそも、リンドウさんは腕輪を失った自分が、アラガミ化しない事を不思議に思っていた。

 それが特異点であるシオ…リンドウさんの記憶にある、白い少女の事だと伝えたら、一度会ってみたいと言い出した。

 助けてくれた礼もしたいし、特異点とやらを一度確認しておきたいそうな。

 

 

 それは別に構わないんだが…リンドウさんなら、大を生かす為に小を殺す、とか言ってシオを斬ろうとはしないだろうし。

 そもそもシオを斬ったとしても、次の特異点が産まれるだけなんで、実際は僅かな時間稼ぎにしかならない。

 小を殺して小しか得られない。

 

 

 ところで、ナナらしき少女は一体何をしているのかと言うと…相変わらず呆然自失としたまま、殆ど動かないらしい。

 とんでもない、精神的なショックを受けたのか、それとも薬物投与の類か…。

 ナナの過去やマグノリア・コンパスの胡散臭さを考えると、どっちもありそうなのが嫌な所だ。

 

 

 …俺が目印にしていた微弱な霊力の痕跡を考えるに、そんな状態でも誘引の力は発動しているようだな。

 放置しとくと、色々な意味でヤバいか…。

 

 おでんパンでも作ってくるか。

 それで駄目なら………年齢的にヤバいが、いつもの手段でどうにかしてみよう。

 …青い果実か……ヤベ、背徳感で滾ってきた。

 

 

 ナナを一目見たんだが、幼い割りに色気のある体しとる。

 でも、空虚な表情で全部台無しだ。

 これは笑ってもらわんとなぁ…。

 

 あと、まだゴッドイーターになっていないのか、腕輪はしていなかった。

 

 

 

 

 

神変月正直の頭にルーデル閣下が宿る日

 

 ソーマと交代…する前に、集落に寄ってリンドウさんとナナに接触。

 おでんパンを突きつけてみたところ、自失状態からは回復した。

 代わりに思いっきり泣き出してしまったが。

 

 

 

 どうしろと言うのだね。

 

 

 

 何だ何だと集まってきた人達が見たのは、泣き崩れながらおでんパン食ってる少女と、その保護者として認識されていたリンドウと、泣くな泣くなと宥めようとしながら、更なるゲテモノ(一般人から見たおでんパン)を取り出す俺。

 うむ、訳が分からなかった事だろう。

 誘引の力が発動しなかったのが幸いだな。

 

 リンドウさんから「お前、そんな物食べさせてどうするつもりだったんだ…」と言われてたのが、まさかのこの反応。

 戸惑っていたようだったが、「それとこの子に、何か関係があるのか? この子が何処の子なのか、知ってるのか?」と問い詰められた。

 知っているというか、大体の所属しか知らないんだが……答えようとしたら、ナナがビクッとした。

 …怯えている。

 自分の所属を知られる事?

 ……そこに戻される事?

 

 咄嗟に適当な事を答えた。

 ヘタにつついて誘引が発動しちゃ、エライ事になってしまう。

 目を離すと、いつ何処で発動するか分からないし…シオに会いに行くのに、ナナも一緒に連れて行く事になった。

 

 

 で、車で移動中、泣きつかれたナナが眠っている間に所属の事を話した。

 

 フェンリルの養護施設である、マグノリア・コンパスに居る筈で、そこで特殊なゴッドイーターになる為の訓練を受けていた…筈。

 アラガミを引き寄せる特殊な力があり、幼い頃にそれを発動させ、母親を含む何人ものゴッドイーターを全滅に追いやってしまった過去がある。

 また、その特殊な力…誘引は、多分トラウマを刺激すれば無理矢理引き出す事もできる。

 

 

 …リンドウさんから見ても、やはり支部長の陰謀のようだ。

 トラウマを刺激して、誘引を発動させたまま呆然としているナナをリンドウさんの帰還ルートに放置し、罠にかけるつもりだったか。

 

 だが、それだけだと所属を明かそうとした時の怯えが説明できない。

 それについてはリンドウさん曰く、「捨てられたんじゃないか、って思ってるんだろう」だそうだ。

 成程、コントロールできない誘引なんぞ、アラガミを呼び寄せる疫病神以外の何者でもないし、それを自覚したんのなら捨てられたと思っても無理は無い。

 

 

 …そこまで色々把握している(おでんパンとか明らかに個人の思い入れがある物だしね)俺にも疑惑の目を向けていたが、とりあえず反目する程ではない。

 

 

 差し当たり、シオに誘引の力をどうにかしてもらえんかな。

 リンドウさんのアラガミ化だってどうにかできたんだし、シオに「わーーっ」してもらえば封印くらいは出来るんじゃなかろうか。

 

 

 




次の外伝は九龍学園に暫定。
そして後書きの発言がアンケートみたいになってしまった事に少し反省。
一応、あの夢にもちゃんとした(?)理由や設定や括りがあるので、何でも出す訳には行かないです。

括り?
時守が実際にプレイした事があるかって括りですよ…。
ですんでダークソウルとか無理ですマジゴメンなさい…。


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第53話+外伝6

GERB2、難易度14までクリア。
おいおい、反則だろ…だが良し!
久々にあんぐり口を開けて画面に見入ってしまいました。
追憶の○○○よりも、こっちの方が嬉しいや。


神変月準備を怠る者久しからず日

 

 

 ソーマはアナグラへ戻り、リンドウさん・ナナ・俺とシオの4人で一晩明かした。

 帰ろうとするソーマにシオがダダを捏ねてたが、それは置いといて。

 生きていたリンドウさんと、無言のやりとりをしてたが、それも後回し。

 

 「おー、元気だったかー!?」とシオがリンドウさんとナナに声をかけていた。

 最初は人間を警戒してたのに、随分と慣れたものだ…実際に接していたのなんか、俺を含めて3人程度だろうに。

 

 二人はシオの予想外の反応(そもそもナナはシオが誰なのか、何なのかサッパリ知らないが)に戸惑っていたようだが、そこは天真爛漫、謎フェロモンで第一印象を「かわいい」にしてしまう、ある意味ロリコン製造機のシオだ。

 特にナナはあっさりと仲良くなってしまった。

 

 …でも、ナナの顔にはちょっと陰りがあるなぁ…。

 どういうやり取りでマグノリア・コンパスから出されたのか知らないが、多感な少女にはすぐに立ち直れるような問題じゃないか。

 

 …いっそ、ここでシオとリンドウさんと一緒に暮らさせるか?

 嫌な言い方になるが、誘引の力が暴走しても、多分最小限の被害で済むし。

 

 

 そうそう、ナナの誘引をシオが封じる事は不可能だった。

 と言うか、誘引とか血の力自体、シオがサッパリ理解してないし、アラガミ細胞とはまた別系統の能力みたいなんで、特異点の能力でパパーッ…と言うのは無理らしい。

 残念。

 

 

 あと、流石にナナもリンドウさんも寒そうだったので、ふくろに入っていたホットドリンクを何本も渡しておいた。

 久々に異世界のアイテム使った気がするな。

 

 

 

神変月獲物は天下の回り物日

 

 サクヤさんに締め上げられた。

 マジで怖かった。

 後ろで見てるカノンとアリサは、「黙ってたお前が悪い」と言わんばかりの顔で放置だった。

 足腰立たない状態にして置いていった意趣返しも兼ねているようだ。

 

 

 そーだねー、確かにねー。

 リンドウさんの無事が確認できたのに、理由はどうあれ恋人のサクヤさんに知らせないとか…この二人がほっとく訳がなかったよ。

 口封じもすっかり忘れてたし。

 

 だがそれで実姉のツバキさんの名前が出てこないのはどうかと思うが。

 

 

 まぁなんだ、今日はリンドウさんとッサクヤさんの水入らずで、ツバキ指揮官には明日にでも伝えるとしよう。

 リンドウさんの所に連れて行くのはいいんだが、サクヤさんは色々と目を付けられている可能性がある。

 偽装工作として、出撃のタイミングをずらして出かけた。

 俺が先に出撃して、いつも通りに帰りにブラブラ狩っていたら、サクヤさんと偶然会って、ついでに付き合ってもらった…というシナリオだ。

 どれだけ効果があるかは分からんが。

 

 偽装に必要な分のアラガミを狩り、現場で合流したサクヤさんと一緒に、一路シオ達の下へ。

 感動の再会シーンは……まぁ、何だ、実にアダルトだったと言っておこう。

 

 涙ながらに抱きついて、キスをするくらいならいい。

 ナナとシオが興味津々だったが、これくらいなら何も言わない。

 

 舌を入れるのも、別にいい。

 ナナが顔を赤くしながらガン見して、「うわぁ~うわぁ~」と小声でハシャいでいたが、ちょっと過激なドラマと大差ない。

 

 だが幾ら感極まったからと言って、そのまま押し倒しておっぱじめるのはどうかと思う。

 ここ、雪が降ってるくらい寒いんじゃが…平然とアオ姦に持ち込む辺り、やはり露出慣れしているんだろうか。

 

 

 顔を隠したナナが指の間からチラチラ見て…興味を持ったシオが近付こうとするのを、ソーマと二人がかりで無理矢理止めた。

 教育に悪いですよ。

 …ソーマがシオに「なぁなぁ、あれどうやるんだー?」って聞かれて、いろんな意味で苦虫を食いつぶしたような顔をしていた…助けを求める視線を感じたが、生憎それどころじゃなかった。

 

 

 デバガメしているカノンとアリサを発見しちゃったからな!

 

 

 どうやらサクヤさんの跡を追ってきたらしい。

 俺が二人をリンドウさんと接触させたがらない事を不審に思ったのだろう。

 サクヤさんと示し合わせてついてきたのかどうかは分からないが、とりあえず修羅場なのはこの時点で確定したと言っていいだろう。

 

 何せ二人も少女を囲っているところを目撃されてしまった訳だからな。

 一人はソーマの嫁だが、どっちにしろ囲っていたのは事実。

 

 

 今はこうして、微かに聞こえてくる喘ぎ声をBGMにして日記を書いている訳だが、すぐ後ろから極大の2つのプレッシャーと共に、「そろそろ遺言状は書き終わりましたか?」という声と、神機の作動音が聞こえる。

 ソーマは覗きに行こうとするシオを止めるのに手一杯だし、ナナは…声だけでも聞き取ろうと、耳を……ネコの耳みたいな髪の毛も……ピクピクさせているようだ。

 

 いつものように下半身でノックアウトして誤魔化そうにも、流石にここは寒いし、シオとナナの前でおっ始めても、ソーマの掣肘が入る事間違い無し。

 

 結論、救いの手は無い。

 

 

 

 

神変月昔取ったボウガン日

 

 えらい目にあった。

 まぁ、自業自得と言えば自業自得なんだけど。

 

 結局、シオの事も話す羽目になってしまったし…。

 終末捕食云々の事も話した……流石にナナには聞かせなかった。

 一応機密事項だもんな。

 違法な手段で探り出したのは俺達だけど。

 

 半信半疑だったようだが、とにかく事は命に関わるような機密事項。

 現時点で出来る事も無いに等しいので、とにかく黙っておくように、と伝えておいた。

 

 色々な意味で顔が青くなっていた。

 まぁ、文字通り世界の終わりが間近にあるって聞かされればな…。

 アラガミだって世界の終わりみたいなもんだけど、現状で抵抗する事は出来ている。

 

 正直、想像できるってだけでも大したもんだと思うけどなー。

 俺なんか、ディスプレイ越しとは言えGE1・GE2の終末捕食を目にしてるのに、今ひとつピンと来ない。

 阻止しようとしているのも、どっちかと言うとこのループを抜け出す手段になるかもしれないからだ。

 

 

 

 それはそれとして、五車多先輩が爆発した。

 いや爆裂四散した訳でも、カノンの誤射がとうとう人死を出した訳でも、上田されてしまった訳でもない。

 うちの班で、リンドウ生存やら何やらの件で皆動き回っているというのに、自分がハブられている悲しみが天元突破してしまったらしい。

 

 ああ…うん、考えてみりゃそうだよな。

 人に知られるのは最小限でいいとか思ってたんだけど、先日カノンも知っちゃったし。

 ハブってたのに気付かなかったわ…。

 

 意外と寂しがり屋な五車多先輩を慰めるため、久々にチーム全員で出撃した。

 …しかし、これを話すのはちょっとなぁ…。

 人間性を疑う訳じゃないが、善意で余計な事をしそうな気がヒシヒシとする。

 GE2のエミールの同類っぽいし。

 五車多先輩はなぁ…本人がやりたがらないかもしれないが、実家の金とコネという俺達には無い武器があるからなぁ…。

 

 よし、誤魔化そう。

 終末捕食や特異点の事はボヤかして、リンドウさん生存の事だけ伝える。

 ただ、リンドウさんのMIAには陰謀の疑いが多数あるので、まだ生存を皆に伝えるのはマズいから隠していた、という事で。

 

 

 

神変月「無理を通して道理を蹴っ飛ばすんだよ!」日

 

 リンドウさんの生存を隠す事について、五車多先輩は以外な程素直に理解を示した。

 伝えた時も大騒ぎするどころか、自分から周囲に人の目が無かったか確認したくらいだ。

 

 曰く、金持ちの間では時折こう言った陰謀が蠢く事があるらしい。

 嘆かわしい話だ、と大仰に額を抑えていたが、それ以上に表情が沈んでいた。

 …ひょっとしたら、五車多先輩もそういった陰謀に巻き込まれた事があったのかもしれない。

 

 ともかく、リンドウさんが無事だという事を、ツバキ教官に伝えないと…と思っていたら、何と五車多先輩からストップがかかった。

 確かに肉親に速く伝えたい(今まで黙っといてなんだけど)のはよく分かるが、同時にそれは暗殺した側からすれば最も予測しやすい事でもある、と…。

 そういう意味で言えば、サクヤさんに伝えた事すら早計だったと言えるだろう。

 

 実家の「そっち方面の」ツテを辿ってみて、そういった監視網がまだ健在か確認するから待ってくれ、との事だった。

 外見に反したモラリストの性格から更に反した…加えて言うなら、五車多、上田と呼ばれるネタキャラのイメージとは合反した…冷徹とさえ言える判断力。

 実に意外な一面である。

 

 案外、この世界の金持ちも、内憂外患と言えるのかもしれない。

 

 

 

 ところでふと思いついたんだが、ナナって血の力の事は知っているんだろうか?

 体つき(この発育は反則だろJK)を見たところ、軍事教練の類を受けているのは確実だ。

 マグノリア・コンパスで仕込まれているんだろう。

 

 しかしそのマグノリア・コンパスはラケル博士の息がかかった孤児院で、ブラッドとの関わりも深い。

 ひょっとしたら、血の力の事を聞かされているかもしれない。

 

 …だが、迂闊に聞いて大丈夫かな…。

 捨てられたと思っているかもしれない、というリンドウさんの見解が思い出される。

 ヘタに刺激すれば、それこそ心の傷が開いて誘引の力の暴走が起こるかもしれない。

 

 この世界の霊力は、恐らくモンハン世界よりも強い…いや、多い?…違うな……うん、顕在化しやすい、これくらいが丁度いい表現か。

 つぅか、理屈だけで言えばモンハン世界が霊力でもダントツの筈なんだよなぁ…。

 霊力ってのは生命や魂の力って言われてるくらいだし、桁外れの生命力を持ってるモンスター達なら、相応の霊力を持ってても不思議じゃない。

 …まぁ、オカルトパワーじゃなくて、霊力のエネルギー源を文字通り生命力に極振りしてるんだろうけど。

 

 むしろ、アラガミが多くても自然の生命が少なくなっているこの世界で、血の力なんてオカルトパワーが出現するのが不思議なくらいだ。

 

 ちょっと話は逸れたが、血の力がどういう物なのか直接見て、ある程度慣れれば、こちらから干渉する事もできると思う。

 お、これってひょっとしてGE2主人公の「喚起」か?

 …まぁそれは置いといて、繰り返すが「ある程度慣れれば」こちらから干渉できそうだ。

 つまり、ナナの力が暴発したとしたら、こちらから初見で対処するのは難しいという事だ。

 

 一度見ておければ、ある程度対策は立てられる。

 ひょっとしたら…本当に、ひょっとしたらだが、初見で対処できない事もないかもしれん。

 ついでに言うと、本当に「喚起」の力の真似事が出来れば、GE無印のメンバー・時期に、ブラッドアーツを広めるという荒業だって可能かもしれん。

 

 

 

 だがリスクがデカすぎる。

 

 

 

 

 もししくじったら、両手に花の状態からデスワープしちゃうじゃないか!

 

 

 というのは流石に冗談だが、成功の目も無いのに博打はできんよ。

 人の心の傷を素手で弄くろうとするようなもの…。

 

 

 

 …よく考えたらそれ、思いっきりアリサにやってたわ…。

 我ながら自覚以上の外道になっとるな…。

 

 

 

 

神変月狩りのアップデートも75日

 

 珍しいものを見た。

 コウタが何故か自棄酒していた。

 

 おい、お前今未成年とちゃうか?

 …いやまぁ、何も言わないよ。

 顔見れば何があったか、何となく分かる。

 

 失恋してら。

 

 そう言えば、憧れとは言えそういう感情をサクヤさんに持ってたっぽいんだよな…。

 何だ?

 告白して正面からフラれたか?

 それともリンドウさんを思い出す顔でも見て、勝てないって思っちゃったか?

 

 …後者みたいだ。

 しかもサクヤさんへの想いを自覚したのも同時っぽい。

 自覚、即失恋。

 

 これは…キツいな。

 

 とりあえず食え、食うのだ。

 空腹じゃ何考えても前向きな結論は出てこない。

 アルコールについては見逃してやるから、モンハン世界産の生命力に無駄に満ち溢れたメシを食え。

 

 

 

 …多分サクヤさん、まだリンドウさんの所に居るんだろうなぁ…。

 パコってるかはともかくとして。

 益々コウタが哀れに思えてきた。

 

 まぁいい、とにかく食って泣け。

 失恋の痛みを忘れられんと言うなら、再び俺ブートキャンプで心の痛みがどうこう言ってられるレベルじゃないトコまで引きずり上げてやるから。

 

 とは言え、ちょっと見ない間に随分と腕を上げていたようだ。

 多分、サクヤさんにいいトコ見せたくて頑張ってたんだろうが……うん、青春の痛みを乗り越えて、がんばれ青少年。

 

 

 

 

 

 

 酔いつぶれてコウタが眠った時、なんか全身の筋肉がバンプアップしていたような気が…まさかモンハン世界のメシの効果か?

 トリコのグルメ細胞じゃあるまいし…。

 

 

 

神変月艱難汝を狩人にす日

 

 いざとなったら即気絶させるつもりで、ナナに少し話を聞いてみた。

 「血の力」というのを知らないか、と。

 

 なんというか…気配がザワッとした感じはしたが、何とか誘引は発動しなかった。

 しかし、逆に首を傾げられたのには驚いた。

 どうも、ナナにとって「血の力」と言うのは一般常識…とは言わないまでも、態々確認するようなものではない、という認識らしい。

 

 ゴッドイーターにとっては、大抵の人は知っている物だと思っていた、と。

 

 …つまるところ、何か?

 マグノリア・コンパスでは、この世界のこの年代状態からしてみれば、文字通りのオカルトパワー…怪しげで不確かな力といえる「血の力」或いは「ブラッドアーツ」の事が普通に伝えられているって事か?

 あー、でもゲームじゃGE2の始まりの時、ナナはイマイチ「血の力」がどういう物なのか理解してなかったっぽいが。

 

 うーん、よく分からん。

 しかしあの「ザワッ」とした気配のおかげで、誘引の発動の予兆くらいは感じ取れるようになった気がする。

 勿論、すぐ近くに居ればの話だが。

 

 

 

 ところで、話をしてた時にシオが偶然近くに居たんだが、「お?」って顔をしてた。

 最近表情豊かになってきたんで一概には言えないが、ひょっとして霊力か誘引に反応した?

 

 …まぁそれは置いといて、アラガミを引き寄せるのが誘引で、特異点にも有効なんだったら、実は神機にも有効だったりするんじゃないか?

 神機が自分で動くことはできないから意味無さそうだけど…。

 …神機…もアラガミで……ゴッドイーターの中にあるナンタラ偏食因子も、アラガミみたいなもので…。

 

 ………ちょっとアラガミ化を防げるかもしれない策を思いついた。

 今のうちにシオに「わーっ」してもらえば、腕輪が壊れてもアラガミ化しなくなるんじゃないか?

 

 

 ああ、でもリンドウさんは結局アラガミになってたしな。

 シオが無印EDで月に行ってしまったから、アラガミ化を止めていた命令がなくなってしまったんだっけか。

 無駄だとは思うが、一度試してもらおうかな?

 このループでは無駄になったとしても、次回ループで案外役に立つかもしれない。

 

 

神変月月にジンオウガ、夕日にナバルデウス日

 

 試しに「わーっ」してもらったが、やはり効果は無さそうだ。

 腕輪を失った訳でもないから、体感だけどね。

 

 それよりもリッカさんが反応した。

 前から研究していた、「神機の制御を外して100%の力を出す」という技術だが、シオが持つアラガミを細胞をコントロールする力を使えば、ノーリスクで普段から発動状態にできるんじゃないか?

 …可能っぽくはあるんだが……シオがあんまり細かい事とか理解できてないから、どう命令すればいいのか分からない。

 だが、命令によって制御されつつも、拘束を受けてない神機というレアな状態のデータが得られた。

 神機100%状態の実現に、ググッと近付いたそうな。

 

 

 ソーマと交代し、一緒にアナグラに戻ったと思ったら、もう研究室に引っ込んでしまった。

 もうちょっと語りたかったが…いや、別に三股状態から更に増やそうって訳じゃないよ?

 

 

 ところで、支部長が何やら別の支部に出かけていったそうだ。

 多分、アーク計画…対外的にはエイジス計画…の事で何かあるんだろう。

 別の支部に行ったのが、建前であるエイジス計画の用事なのか、アーク計画の根回しなのかは分からないが。

 

 …動くとしたら今、か?

 支部長が居ないからって、エイジスの守りが緩くなる訳じゃないだろうが、トップが居ないとなると多少なりとも動きは鈍る筈。

 だが、忍び込んだとして何をする?

 

 …エイジスの中にあるのは、確か…終末捕食の始まりになる、ドでかいアラガミの…なんだっけ、アルダーノヴァ?

 あれを破壊できれば、アーク計画はオジャンになるだろうか。

 しかしアーク計画がぶっ壊れても、終末捕食は避けられない。

 シオが特異点として覚醒するのは、そう遠い話ではないだろう。

 ゲームの流れを元に考えるなら、長くて数ヶ月…。

 

 そう考えると、アーク計画を潰す事は、逆に人間が一部でも生き延びる可能性を詰んでしまう事になる。

 アーク計画を潰そうとするのは、シオを犠牲にしない為であって、計画自体がおかしな物ではない…小を捨てて大を生かす、という代物であっても。

 …この場合逆かな?

 犠牲になる数と生き残る数を考えると、大を捨てて小を生かす事になるね。

 

 

 とにかく、今アルダーノヴァを傷付けて得られるメリットは少ない。

 仮にエイジスに忍び込めたとしても、恐らく厳重な警備の奥に眠っているアルダーノヴァへの破壊工作は難しいだろう。

 ループする内に、忍び込む機会もまたあるだろうし…今回は見送るか。

 

 

 

神変月寝耳にウォーターカッター日

 

 事態急変。

 

 シオが特異点として覚醒したっぽい。

 ソーマとリンドウさんがちょっと目を離した隙に、シオが失踪したと連絡があった。

 偶然ナナがその寸前の姿を目撃していたらしく、「体中に光る模様が見えた」との証言がある。

 

 マヂか。

 

 かなり慌てていたソーマだが、タイミングがいいのか悪いのか。

 シオの向かった先は、恐らくエイジス。

 アルダーノヴァがある、終末捕食の始まりとなる場所だ。

 

 アーク計画の中心人物である支部長は出張中で、どんな手段で戻ってこようと、少なくとも2日はかかる場所に居る。

 支部長が戻ってくるまでに、エイジスに忍び込み、シオを探し出して脱出しなければならない。

 リスクが高いって事で、侵入を見送る事にしたばっかりだと言うのに。

 

 行き先が分かっている事でソーマを落ち着かせ、取り急ぎエイジスへの進入経路を調べる。

 ゲームでは確か、アナグラの地下の通路から入り込んだっぽいが、そのルートは使えない。

 シオは確実にそのルートを使ってないからだ。

 

 一番警戒すべきは、追いつけない事ではなく、すれ違う事。

 追いかけているなら、前方と、ミスリードだけ気をつければいい。

 シオに…特異点状態のシオにはミスリードなんぞ考える頭は無いだろうから、前方だけ気をつければいい。

 

 しかし万一、シオよりも先に侵入してしまう形になれば、後ろと前の両方を気にかけなければならない。

 それに、最初から内側に入り込んでしまうと、シオが何処から進入してどのルートを使っているかも分からない。

 

 その点、(多分)シオと同じように外部から接触し、なんか知らんが過去視も可能になった鬼ノ目(と言うかアサクリ版鷹の目)も使って調べた方が追いつきやすかろう。

 

 冷静に考えれば、エイジスに直接乗り込んだ訳ではないかもしれない。

 ゲームでも、一度覚醒の兆候が現れて姿を消したが、また別の場所で遭遇した事があった。

 

 だが楽観するには弱すぎる要素だ。

 とにかく、エイジス近辺を探して、シオの足跡を……いや、それなら失踪した場所から足跡を辿った方がいいか。

 エイジス近辺はソーマに任せよう。

 本人は嫌がるだろうが、一応支部長の息子という立場もあるし、特務を請け負っている事も割りと知られている。

 人間と揉めそうになっても、立場と特務を盾に誤魔化しとおせるかもしれん。

 

 シオがエイジスに向かったのだとしたら、どっちにしろ合流する事になるし…。

 よし、サクヤさんにも連絡して、ソーマのサポートについてもらおう。

 で、俺とリンドウさん、カノンとアリサは狩りの建前でシオを捜索する。

 

 この際だから、五車多も連れて行こう。

 ヘタに知らせると余計な事をしそうだから秘密にしてたが、事がここに至ってはその意味も無い。

 もしもこのまま終末捕食一直線だったら、戦力を出し惜しみする意味が無い。

 

 

 

 

 と言う訳で、五車多を巻き込んで、リンドウさん達の下へこれから直行する。

 シャワーを浴びて「さぁこれから!」だったタイミングなのは、俺としてもお二人さんとしても不本意極まりない事だが、事態が事態だ。

 …一発だけ、と思ったことも否定しないが。

 

 ああ、でもその前に、研究班の各所を巡って、集められるだけデータを集めておこう。

 

 

 




 さて、ここは一体何処だろう。
 目が覚めたら…というより、夢を自覚したら既に何処ぞの洞窟の中だった。
 いや、洞窟じゃないか?
 見たところ、地面は荒れてるけど明らかにタイルだし、柱はあるし、なんかよく分からん彫刻とかあるし。
 妙なギミックっぽいのもあるんで、遺跡…かなぁ?

 しかもウロウロしていたら、ボロボロの古代遺跡っぽい所に出たり、逆にメタリックな近代的な部屋に出たりする。


 あと、明らかに普通じゃないモンスターがウロウロと。
 まぁこいつらを倒すのは別に苦じゃない。
 人型の奴も居るけど、明らかに普通の人間じゃない。
 明確に俺を狙ってくるし、数も強さも大した事は無い。
 倒した奴らから剥ぎ取りしてみたが、どうやら火を通せば食えるっぽいし。

 ただ、デカい扉の先に居る奴らだけは別格だ。
 アレを狩るなら、入念な準備が要る。


 でもなぁ…狩るのは別にいいんだけどさぁ、あいつらなんか言葉を喋るのよ。
 しかも俺に分かる言語で。
 主に人型に近い奴と、デカブツだけだけども。
「ツマハドコダ」とか言われた時なんか、あまりの後味の悪さにふくろから大根だして「それをツマにしろ」とか言ってしまったくらいだ。
 穴を開ければオ○ホになるぞ。

 なのに会話は成り立たない。
 こっちの言葉を理解してないのか、それとも聞く耳持たないだけなのか…。
 

 まぁ、どっちにしろ狩るけどさ。
 中には何故か上質な牛肉なんぞ剥ぎ取れる奴も居たし。

 そうこうして彷徨ってる内に、妙な蝶を見つけた。
 …明らかに霊力がある。
 いや霊力だけなら、この夢ではあっちこっちから感じてるんだ。
 でもコイツは明らかに桁が違う。



 そういや、どっかの地域では蝶を佃煮にするって聞いた事あるな。

 霊力が強い虫みたいだし、食ったらパワーアップするかも…。




 なんて思っていたら。




「こんにちは…」



 …きょぬーの怪しいマダムの霊が現れた!


「色々な物を食べてきたけど、逆に食べられそうになったのは初めてよ…新鮮ね…」


 ご尊顔を拝見したら、今度は性的な意味で食べたくなりましたよ、そのおっぱいを。
 非常に怪しい人だけど。

 いやホント怪しい。
 美しいは美しい人なんだけど、紫色で派手なドレス、そして何より パピ! ヨン! と叫びたくなるようなマスク。

 むぅ…本人に備わっている気品が無かったら、SMクラブ辺りの人かと疑ってしまうところだった。


 なんかよう分からん人だけど、とりあえず先人(誰だよ)達からは、マダム・バタフライと呼ばれているらしい。
 やっぱSMクラブっぽい…いや突っ込むまい、世の中には蝶々婦人というオペラだってあるんだ。
 それに、本人が名乗っているんじゃなくて、他の人から呼ばれているだけのようだから。



 それはそれとして、マダムは食料と引き換えに、色々なアイテムをくれるのだそうだ。
 まぁ、こんなトコに居れば、まともな食料はまず手に入らないし、貴重品扱いだよな…。

 どんな物が欲しいのか聞いてみたところ、ラインナップに統一感が無い。
 
 蝙蝠の翼やヘビの皮から始まり、鍋やラーメン、プリンにゼリー。
 例外として、なんかの剣とも交換してくれるそうな。
 
 そしてその代わりとしてくれる物は……お面、壷、子供の落書き、オモチャの飛行機……その他、用途が分からない悪趣味な物も多数。



 そして何故か銃弾(本物っぽい)。









 ………苦労してんだな…。


 そうか…きっとこの遺跡だか迷宮だかの何処かで、何も食べられずに飢えて死んでしまった人の霊なんだろう。
 その怨念や執念が形を取り、しかし自分では食料を手に入れられないから、その辺で拾ったオモチャを物々交換しようとしているんだ。
 どう考えても、ヘビの皮とかと銃弾は等価交換じゃないと思うが、まあこの遺跡の中に、口径の合う銃が落ちてるとは限らないしな。
 そう考えると、銃弾であってもオモチャと大差ないか。

 OKOK、おいちゃんに任せんしゃい。
 ふくろの中には沢山食い物が残ってるぜ。
 こんがり肉Gだって、結構在庫はある。

 食ってみんしゃい!








 未知の味のお礼に、と色々なガラクタを貰った。
 持ってても使い道が無いのだが、好意を無碍にするのも悪い。

 そのままふくろにしまおうとしたら、マダムが首を傾げた。


「アナタは《宝探し屋》ではないの?」


 と。
 ええまぁ、なんかいきなりここに放り出されただけの一般人ですが。
 むしろ宝探しよりも狩りが生業ですが。

 何かツッコミが聞こえたような気がするが、どうでもいい。

 要するにアレですか、その《宝探し屋》っていうのは、遺跡を捜索するインディージョーンズみたいな人?
 あと、その辺をウロウロしているモンスターを倒し、調理し、食ってしまうらしい。
 ナニソレどんなハンター?

 更に特筆すべきは、その特殊能力だとか。
 右手にナニカ、左手にナニカを持ち、それを合わせてゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ…ヘル&ヘヴン!
 じゃなかった、それらを合わせると、「カンパーウンド!」という謎のSEが発生し、新たなアイテムが登場しているのだとか。

 例えば、ヘビの皮と蝙蝠の羽を調合すると、媚薬が出来上がるとか。


 はっはっは、そんな錬金術師みたいな謎スキル、当然のように保持していますが何か?
 だってハンターですもの。
 熟練者なら、大剣カチ上げを食らって空を舞ってる時だって、余裕で薬草+アオキノコ+ハチミツで回復薬Gを10個くらい作れますぜ。





 だからその媚薬調合について、もうちょっとkwsk。






 で、そのカンパーウンドが何すか?

 ほほぅ…このお礼にくれたアイテムは、色々便利なオーパーツの材料になると?



 …オーパーツ?





 …ま、そこは後で聞くとして、それじゃあカンパーウンドするのに必要な、もう一つの材料は?
 へー、この遺跡(やっぱり遺跡か)の何処かに転がっていると。
 それはちょっと興味が出てきたけど、何と合成すればいいのか、基準になる物が分からんな…。



 時にマダム・バタフライ。

 当方には、先ほど出した食材以外にも、コレとコレを組み合わせた新たな料理とか、色々な味を提供する用意があるのですが。
 特にこのMH世界産の通称狩人弁当なぞ、体力が増えたりスタミナが増えたり攻撃力防御力が上がったりと、新世界の味覚を味わえると思いますよ?
 アイルーでも連れてれば、幸運になったり爆破が上手になったりする味も出せたのですが。 







 何と調合すればいいかも教えてもらい、今居るメタリックな遺跡…訓練所というらしいが…をクリアすれば、報酬として特別な調合素材が手に入るとも教えてもらった。
 中には、遺跡の外…というか3つの世界で調達できそうな物もある。
 ふむ、ここは一丁頑張るしかあるまい。




 おぅ、ラストのデカブツ2体厄介すぎんよー。










 夢から目を覚まし、適当な所から取ってきた蛇の皮と蝙蝠の羽を合わせてみたところ、カンパーウンドとSEが聞こえた。
 媚薬も出来た。

 …まぁ、調合とプレイのレパートリーが増えたと思っておくか。





 オーパーツについては、ブツはあるけどなぁ…。
 マダムから教わった、永久電池の作り方を試してみたが、上手くいかなかった。
 夢から現実世界に持ってきたから、オーパーツの力が失われてしまったのか、それともこの世界の素材ではできないのか…。
 まぁ、とりあえずふくろに仕舞い込んでおくか。









 この時の俺は知らなかった。
 オーパーツをカンパーウンドする能力を得た事で、MH世界の錆びた剣とかを素材に調合できるようになった事を…。


外伝:九龍妖魔學園紀編


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外伝7+第54話

今回の外伝は月 前書きにあるよ!日



 今日も元気だメシが美味い。
 賄い食でも美味い。
 MH世界並みに美味い。

 という訳で、例によって夢を見ている(明らかに普通の夢じゃないが)俺は、何だかよく分からないけど料亭で働いています。
 いや料亭って言うか定食屋っつーか、とにかくレストラン?

 何故こんな所で働いているのかは記憶に無い。
 そもそも、この店の名前すら記憶に無い。
 なんか知らんが、何度確認してもあっという間に忘れ去り、間違った名前だけがポンポンポンポン浮かんでくる。
 …それで一度も怒られていないのはどういう事じゃろか…。


 まぁとにかく、この店はメシが美味くて素晴らしい。
 店長はちょっと所じゃなく無愛想でぶっきらぼうだが、メシウマ・きょぬー・ちょっと褐色の、なんか色々と滾るオネーサマだ。
 しかも割りと無防備。
 実に働き甲斐があるね。

 とは言え問題が無い訳じゃない。
 店長が非常に無愛想なんで、お客様方からは、メシが美味い一方で非常に居心地が悪いと言われていた。
 ま、そこは俺が接客面を代わればいいだけの話だ。
 俺は店長ほど料理が上手い訳じゃないんで、これは単純に役割分担の問題だね。

 そしてもう一つの問題は、食材の問題だ。
 なんかよく分からんが、この店は珍しい食材を使う事をウリにした、珍味の店らしい。
 昔の偉大な料理人のレシピを参考にしているらしいが、そのレシピも殆どが失われており、残ったレシピを再現しようにも、食材が中々手に入らないとか。

 なんでそんな物をウリにしようとしたし。
 …まぁ、店長の家の事情とかもあるらしいんで、あまり突っ込む気はないが。


 ともあれ、その食材というのは、この国の中でも一部にのみ生息する生物を食材としているらしい。
 そこから食材を取ってくればいいのだが、危険も大きく、普通に仕入れようとすると確実に赤字になるとか。
 なもんで、ウリにしている珍味が提供できない、となりそうな事も多々ある。





 そこで「だったら俺が取ってきますよ」と言っちゃったのが悪かったのだろうか。


 俺としてもこの店長の料理の腕やレシピは、是非学びたかった。
 幾つかは教えてもらったが、店長の領域には遥か遠い。
 その人が食材が無いから腕を振るえない、というのは正直見たくない姿だ。

 聞いた所によると、その手の食材を持ってきてくれる人達も居るらしいのだが、なにやら本業とやらが忙しく、今は食材を取りにいけないらしい。
 となりゃ、俺が一肌脱ぐしかあるまい。
 なに、夢の中でもハンター技術は健在だ。

 という訳で、「…取りに行く? お前が?」と、お前は何を言ってるんだ的な顔をする店長から食材の在り処と、どんな奴から採れるかを聞き出し、一路狩場へ。
 狩場に入っていく時に、なんか衛兵が居たんだが……アサシン技術も健在なので、サクッ…じゃなかった、普通にステルスしてやり過ごした。
 密猟者とか言われるのはイヤだしね。


 ちゅーか、なんだココ。
 明らかに生態系がおかしいんだが。
 アルマジロが居るのはいい。
 おかしな蝶とかフクロウが居るのもおかしくない。
 鹿が同じ道を延々と行き来してるのも、むしろ罠にかけやすいから素晴らしい。
 だがあのデカい動く花は何だ。



 まぁ、サクッと狩ったが。
 鹿より弱かったし。
 リオレウスどころか、ドスジャギィ2~3匹の方がまだ厄介だわ。
 あと、もうちょっと先に進んだら、ちょっとデカ目の恐竜っぽいのも居た。
 まぁ、これもサクッとね。
 確かにタフだったが、ティガレックスに比べりゃかわいいもんだ。
 色違いのもうちょっとデカいのも居たが、あれは…ちょっと準備が居るな。
 採取用の今の装備じゃ、罠とか色々使わないと厳しいわ。
 赤字になる。

 もうちょっと深いところまで行くと、シャボン玉っぽいナマモノとか明らかにおかしい火を噴くトカゲとかがワラワラ居る。
 この辺は前準備次第かな…各種強化+ハイドアタックで一撃必殺できるかどうかが、赤字になるか黒字になるかの境目だ。

 という訳で、適当な所までソロ狩りしてたんだが、そろそろ帰ろうとしたところで、俺を探しに来たという5人組とカチ合った。
 何でも、店長が俺を心配して、この狩場の専門家達に捜索を頼んだのだそうな。
 …まだ一晩しか経ってないぞ?
 それで捜索願いって、店長は心配性…え?

 「こんな迷宮に踏み込んで一晩も経てば、普通は心配する」って?

 …いや、確かに通路は迷宮っぽかったけど…こんな所で?
 油断すれば危険だが、言い換えれば油断しなければ一定以上の警戒心と実力を持ってればそうそう乙らないぞ。

 そう言ったら何か微妙な顔をされ、「恐竜やトカゲが何体か死んでいたが、お前がやったのか?」と問われた。
 イエス・オフコース。
 あれくらいなら朝飯前よ。
 お肉持ち帰って店長に焼いてもらうであります。

 …約一名、ちっこい嬢ちゃんが目が輝いた。





 結局、その人達と一緒に帰り、店長に「心配させるな!」と叱責を受けた。
 むぅ、折角食材を持ち帰ったというのに。

 それはそれとして、狩場の専門家の方々から、遺跡の探索を少し手伝ってほしいと頼まれた。
 遺跡?
 インディージョーンズみたいな大冒険すんの?
 ワクワクするね。

 何の縁も所縁も無い俺に頼むのは心苦しいが、何やら厄介なモンスターが居て、そこを通れないのだそうだ。
 …俺としては別に構わない。
 コレでもハンターなので、モンスター(今更ながら、あの狩場に居たのは動物ではなくてモンスターだったんだな…アルマジロと蝶が?)を狩るのは本能みたいなものだ。
 見ず知らずのモンスターとやりあうとか、心臓に悪いがスッゲェドキドキするね。
 ハンターの本能か。

 ただ、そうなると店がな…。
 店長無愛想で、客は居心地悪そうだし。一人にさせると不安でござる。


 …といった事を口にしたら、麺棒で一発ド突かれた。
 この際だから続けて言ってしまう事にする。


「店長にとって、料理は人に自分を認めさせるための武器でしょう。
 そしてここは料理屋だ。
 武器を突きつけられて、心穏やかに美味い飯食える人がいますか?
 飯を美味いと思えますか?」


 …なんかえらいショックを受けていた。
 ……その状態でメシ食う奴も、居る所にはいるけどね。
 俺も、今更銃とか突きつけられた程度で動揺するような神経してないし。
 何せフレンドリファイアしても、ダメージ自体は無いからな!
 ゲームシステム的に考えて。

 ともあれ、専門家の方々…冒険者と呼ばれているらしい…には色々と世話になっているし、俺自身もOKしているので、休みの日等に協力するのは構わないそうだ。
 ただ、何やらショックを受けている店長とか、ソロで冒険者さん達全員分以上の食材を狩ってきた俺にショックを受けている店長とか、こっそり笑顔の練習をしようとしている店長とか、店長の厳しい視線を受けて恍惚としている名も知らぬ女性客とかが気になったが…まぁいいや。



 で、冒険者さん達の本業とやらに付き合い、寂れた遺跡を探索した。
 確かに割りとデカブツのモンスターとかが居て厄介ではあったが、その程度だ。
 天上から迫ってくるクモに梃子摺っていたようだが、火を嫌うようなので松明を使ってモンスター達を誘導し、罠を使って襲撃してくるタイミングをずらし、適当な所でクモの巣に火をかけて全滅させる。
 えらくデカいクモもいたが、同じく罠・火・その他諸々を駆使して動けなくさせ、後は遠距離からチクチクと削るなり、首を跳ねるなりご随意に。

 「いいのかなぁ?」って顔をされたが、障害に対して義理人情礼節を重んじる理由は無い。
 楽に勝てるなら、それに越した事は無い。



 という訳で、遺跡の最深部らしき場所(階段とか何も無いし)まで辿りついたんだが…なんか変な雰囲気だ。
 霊力…とも違う何かで部屋が満たされているような気がする。


 と思っていたら、冒険者の一人の人がなんか妙な反応を。
 何も無い空間と話し始めた……と思ったら、おいなんだコレ。
 俺にも微妙に何か聞こえるぞ。
 途切れ途切れだけど、微妙に不吉な内容のような気が………て、な、何ぞ!?

 今度は部屋に満たされていた空気だか力だかが、渦を巻いて流れ込んで、冒険者の人と………俺ェ!?



 

 体が痛む。
 なんか妙な活力が噴出してくる。

 て言うか、体が物理的・外見的に変わって行くんですが。


 「君も!?」とか言ってる冒険者の人、アンタも?
 と言うかよく考えたら、ここまでの道中で普通に変身してましたね!
 てっきり全身鎧の早着替えだと思ってたけど、マジに仮面ライダーみたいな変身だったとは。



 ぬぅ…なんかよく分からんが、変身できるようになってしまったらしい。
 と言うか、腕が妙に疼くと思ったら、ゴッドイーターの腕輪が…………ちょっと待て、まさかこの変身ってアラガミ化!?
 


 あれ、でも気が抜けたら普通に人間体に戻ったぞ。
 …異常な空腹を感じる気配もないし、偏食因子の暴走って訳じゃないのか?
 しかも再度変身も…自由自在とは言わないが、また変化できるような感触がある。
 冒険者の人や、GEBのリンドウさんみたいに腕が戻らなくなってる訳じゃなさそうだし。

 代わりに、「こんな事は」「一体どういう」「災厄が」とか、色々切羽詰った声が聞こえた気がするが、どんどん遠くなってもう何も聞こえなくなった。

 訳が分からん。

 むぅ……まぁ夢だしな。
 明らかに普通の夢じゃないが、夢って事にしとこう。
 最近は夢でみた色々なスキルが何故か使えるようになっているが、もしこれでアラガミ化がコントロールできるようになれば儲け物だ。

 さし当たって、あのデカい蜘蛛(半分人型)を店長の所に持っていって、食えるかどうか聞いてみよう。













 店長が試作した微妙な味の料理を食っていたら、どんどん意識が遠くなっていく。
 他の人達は微妙な顔だが普通にしていたから、料理がどうこうって訳じゃない筈。
 ああ、夢が覚めるのか。



 
外伝:新世界樹の迷宮2編


神変月101回目の正直日

 

 

 おかしい。

 例によって妙な夢を見て、それでなんか出来そうな気がしてるんだが、それとは別件でおかしい。

 

 リンドウさんと五車多も一緒になってシオの痕跡を追いかけていたんだが、なんかこう……違和感がある。

 予想通りというべきか、特異点として覚醒したらしいシオは、エイジスにまっすぐ向かっているようだ。

 それを追うのを拒むように、面倒くさいタイプのアラガミがワラワラ沸いてきてんだが、それはどうでもいい。

 感応種でもない限り、殆どの相手はスルーするかハイドアタックで始末して終わりだ。

 

 しかしだな…その、なんつぅの……妙な感じが消えない。

 何処からから見られているような、普段意識しない所に誰かが触れているような…。

 

 

 

 

 その感覚が何なのか分かったのは、五車多が神機の異常を訴えた事からだった。

 動かない訳ではないが、普段の動作と比べると、様々な動作がぎこちなく、そして重い…と。

 俺にはわからなかったが、カノンとアリサが頷いた。

 神機と腕輪を失ったリンドウさんは、「何か体がザワザワするカンジ」と言っていた。

 

 …神機が揃って異常を生じる。

 そして俺の神機だけ平然としている。

 

 となると、『感応種でもない限り』なんて言ってたら本当に出た?

 しかし、前回感応種が出現したのは、俺が霊力を使いまくっていたからで、今回は…カノンの誤射を避ける程度にしか使って

 

 

 

 

 いや居る。

 居るぞ、思いっきり使ってたのが、そして使ってそうなのが。

 

 ナナの誘引と、GE2のジュリウスの『統制』だ。

 

 誘引は暴発して、大量のアラガミに関与した。

 ジュリウスの『統制』がどんな物なのかは今ひとつ分からないが、そもそもGE2の黒幕であるラケルの望みは、終末捕食によって世界をリセットする事だ。

 その引き金をジュリウスにしようとしたのは…恐らく、こういっては何だが「趣味」なんだと思う。

 

 極端な話でもなんでもなく、ラケルは終末捕食が起これば、後はどうでもいいんだろう。

 そして、今正に、ジュリウスという人口の特異点候補ではなく、天然の特異点が存在する。

 ならばちょっかいを出さない筈が無い。

 

 支部長が何を計画していたのか、奥までしっかりと知っていたし、現状、後はシオを確保するだけって状況だったのも知ってるだろう。

 そして、リンドウさん暗殺の為にナナを貸し出し、死んだと思っていたところに…誘引の再発。

 何者かに助けられた、という可能性を思い浮かべる事は、そう難しくあるまい。

 …まぁ、あの狂人だし、筋道立てて推測したというより、直感や思い込みで行動したと言われても信じられるが。

 

 

 とにかく、今感じているこの感じは、ジュリウスの『統制』なのだろう。

 どういう形で作用しているのか、何が目的で発動させているのかは分からない。

 ジュリウスがどれだけ超人染みていても、今はまだ恐らく訓練途中の段階で…ラケルがちょっとその気になれば、幾らでも操れるだろう。

 

 まさか、感応種を出現させて俺達を邪魔する為に?

 …いや、流石にそれは自意識過剰が過ぎるが…まぁいい。

 ひょっとしたら、今まで準備してきたのが天然終末捕食で無駄になりそうだから、適当に遊ばせてみようってだけかもしれんし。

 

 今重要なのは、シオを確保するまでに感応種が出てくる可能性が沸いた、って事だ。

 俺はともかく、他のメンツが心配だな。

 エイジスの方にも出てたりしたら、ソーマとサクヤさんがガチでヤバイ。

 

 進行方向もエイジスに一直線のままだし、余計な索敵とかせずに直行するか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凶星月バサルモス酢~日

 

 

 …ですわぁぷ。

 

 

 何だよあれ…。

 いや何って終末捕食な訳だけどさ。

 

 エイジスに忍びこもうとした俺は、先に来てあちこち探し回っていたソーマとサクヤさんと何とか合流できた。

 合流できたんだが、その後がな…。

 

 何がきっかけでバレたのか、警備兵やら何やらと揉めそうになって……反応が遅れた。

 

 終末捕食が発生したのだ。

 と言っても、それが終末捕食だと気が付いたのは、こっちにデスワープしてからだけどさ…。

 

 エイジスの奥の方から、こう…何かドロドロしたよく分からないのが物凄い勢いで溢れてきて、通路を埋め尽くした。

 咄嗟に避けて、全員で逃げようとしたんだが、勢いが強すぎた。

 多分、鉄砲水とか洪水ってあんな感じなんだろう。

 溢れてきたドロドロを避けきれずに、一緒に居た全員がご臨終だ。

 

 

 …色々やってきたつもりだったが、結果としては最悪のものになってしまった。

 

 シオが特異点として覚醒し、そのまま自意識が戻らず、本能のままに終末捕食が開始。

 しかも誰にとっても予想外…いや、ラケル博士は予想してたかもな…なタイミングだったから、アーク計画による一部の人類救済すら行われず。

 恐らく、終末捕食はあのまま広がり続け、世界を飲み込んでリセットしてしまったのだろう。

 

 

 クソ、最悪の気分だ。

 なんつーか……何処のエヴァンゲリオン(無印)劇場版だよって話だ。

 前回の討鬼伝世界は、イベントをクリア…というか流すだけ流して、好感度が足りずにバッドエンドを迎えた。

 だが今回のGE世界では、ストーリークリアに必要なフラグを全く立てられず、具体的な行動に移ることも出来ず、俺達と支部長とで足の引っ張り合いをした結果、当然の成り行きとして全滅エンドに入ってしまったようだ。

 どっちも後味は悪いが、前者はまだ「こうすればよかった」という指針があるのに対し、後者は「この問題を解決しないと話しにならない」が山となっている。

 方針が明確な分、前者の方がまだマシだ。

 

 

 ホント、どうすりゃ良かったんだか…。

 

 

 

 …いや、言ってても仕方ない。

 両手に花が失われたのはいろんな意味で残念だが、その分は………前回いただき損ねた、橘花の尻で補うとしよう。

 

 

 …いや流石に冗談だけど、まぁ流れ次第でね…。

 前回と同じ徹は踏まないつもりだが、そのつもりで行動した結果が公認二股だったしさ。

 

 

 

凶星月nice ship日

 

 

 なんだかな…色々と考えながら歩いてるんだが、どうにも異界を上手く渡れてない気がする。

 普段通り、瘴気の濃さを見て進んでいた筈なんだが、どんどんおかしな方向に進んでしまっている…ような気がする。

 元々異界はおかしな所だらけだから、本当に気のせいなのかもしれないが。

 

 

 それはそれとして、久々に討鬼伝式の戦闘方法も試してみた。

 つまり、武器や体捌きで神仏英霊への祝詞を唱え、力を借りる方法だ。

 型を思い出すのに少し手間取ったが、うん、やれるやれる。

 

 むしろ、前回よりも随分と強くなっている自覚が持てた。

 MH世界の山篭りの成果なのか、武技はともかく集中力は以前と段違い。

 そしてGE世界での素早い戦闘に慣れている為か、鬼達の動きが鈍いの何のって。

 

 考えてみれば、ゲームの話ではあるが、モンハン・GE・討鬼伝では、スピードって点ではGEがダントツだったんだよなぁ。

 そのGEのスピードの動きで、討鬼伝世界の鬼達と戦うとなると…お察しである。

 相手が一つ動作する間に、チャージクラッシュを2発くらい叩き込める。

 

 ま、その分、討鬼伝世界の鬼は、攻撃のリーチや範囲が洒落にならんのだけどさ。

 

 

 

 

 そんな事を考えてたら、大型鬼と遭遇。

 ミズチメかよ面倒クセェ…。

 

 

 

 と思ったら、割と簡単にナマスに出来た。

 やっぱ動きが遅いわ。

 神機も、最初の頃と違って異界に適応して、瘴気の中でも動くようになってるからなー。

 単純な狩りだけで言えば、前回阿呆みたいな理由でしくじったゴウエンマまでならまずクリアできそうだ。

 

 

 

 

凶星月和平の使者でも狩りはする日

 

 

 異界を彷徨ってるんだが、やっぱり今回は妙な所に迷い込んでしまっているっぽい。

 今までなら、何とか異界の外への道を見つけられる頃合の筈なんだが。

 

 とは言え、このまま進む以外に選択肢は無い。

 適当に進んだって、妙な所に流されるのは変わりないからだ。

 

 

 しかし、異界の中とは言え何もせずに(襲ってくる鬼を斬っているが)進むだけと言うのも気が滅入る。

 なので、久々にのっぺらミタマの事について考察してみる事にした。

 あの連中について考察したって、真面目に考えるだけ無駄なような気もするけど…まあ、暇つぶしになれば良し。

 

 

 

 そもそも、だ。

 あののっぺらトリオ達は、本当に英雄のミタマなのか?

 …否。

 断じて否。

 あんなウザい英雄とか嫌だ。

 

 冗談はともかくとして、ミタマの専門家である樒さんにも理解不能なミタマ。

 近くに居るとただ只管にうるさく、何千もの蝉に囲まれているような気分になるそうだ。

 

 この事から、俺はのっぺらミタマが何かの『群体』であると考えている。

 では、一体何の群体なんだろうか。

 

 ミタマが俺に宿ったのは、討鬼伝世界の異界で、俺がアラガミ化して大暴れしている時だろう。

 気が付けばMH世界にデスワープし、そして気が付けば宿っていた。

 つまる所、どの鬼から解放したミタマなのか、そもそも真っ当な方法で俺に宿ったミタマなのかすら分かっていない。

 

 だが手がかりはある。

 

 ミタマが覚えるスキルだ。

 のっぺらトリオ…最初は一体だけだったので単なるのっぺらミタマ…が覚えるスキルは3種類に分けられる。

 攻撃系とか防御系とかではなく、もっと単純に、討鬼伝世界のスキル、MH世界のスキル、GE世界のスキルだ。

 

 …今更言い出すのもどうかと思うが…のっぺらミタマが討鬼伝世界のスキルを覚えるのは分かる。

 だが残りの2つの世界のスキルを使えるのは、明らかにおかしい。

 最初にスキルを覚えた頃は、どうなってんだと首を傾げていたが、そのままスルーしちゃったんだよな。

 

 多分、これがカギだ。

 

 つまり、のっぺらトリオはそれぞれ、MH世界の『何か』、GE世界の『何か』、討鬼伝世界の『何か』がそれぞれ集合した物だと考えられる。

 だが、その『何か』とは何だろうか。

 多分、どの世界にも存在する共通の物で、そして集合してのっぺらミタマという存在を取れる程度にはオカルトチックな何か?

 

 だが討鬼伝世界以外は、オカルト的なパワーが極端に低い。

 MH世界は霊的パワーを丸ごと物理防御や生命力に変換してるような所だし、GE世界に至っては滅びる寸前なんで、生命や魂の力なんぞ語るまでもないくらいだ。

 MH世界では、唯一確認されているのが(俺が確認しているのが、だが)ジエン・モーランから掘り出した、明らかにヤヴァイあの紅玉くらい。

 紅玉一個だけでは、群体になる筈も無い…あの紅玉が、群体を作れるくらいの数で存在するとか考えたくねーっす。

 

 

 うーむ、何かあるかな…。

 共通点が見つからない。

 

 3つの世界に共通していて……スキル、スキルか。

 そういや度々妙な夢を見て、その度におかしなスキルを覚えてんだよな。

 のっぺらミタマが覚えてるのか、それとも俺自身が覚えてるのかはよく分からんが。

 

 幾つか覚えている夢もあるが、その中ではロボット物から世紀末物まで様々だ。

 あれらにも同じような共通点があるかもしれない…。

 

 そういや、デスワープ前にもまた妙な夢を見た気がする。

 なんだっけ……なんか…変身できるようになった気がするんだが…。

 

 

 …益々分からなくなってきた。

 強いて言うなら、(3つの世界と、覚えている夢に限定すれば)どれも俺がゲームとして知っているタイトルだ、という事くらいか。

 

 

 

 

 ん?

 

 

 んんー?

 

 

 何かこう………そうだ、前にもこんなカンジでひっかかる感覚が…。

 

 あの時は確か…のっぺらトリオがどんな奴かってのを考えてて…口が利けなくて顔が見えなくてウザくて沢山居て…? 

 何処かでそんな奴らを知ってるような気がしたんだが…。

 

 そんでこれらの世界に共通点として存在する…?

 

 

 

 ああ、なんだこの…なんだこのモドカシイ!

 あとちょっと、あとちょっと歯車が噛み合えば、のっぺらトリオの正体がわかりそうな気がするのに!

 

 

 このクシャミが出そうで出ない感じが!

 舌にひっついた髪の毛が取れそうで取れない感覚が!

 屁が出そうで出なかった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、なんか異界の中で人と遭遇したんですが。

 

 

 

 

凶星月灯台デモクラシー日

 

 

 異界の中でバッタリ会ったのは女だった。

 …いや、だからどうするって訳じゃないんだけどさ。

 

 何やら錯乱して、よく分からん被害妄想っぽい事を喚きだしたので、とりあえず気絶させた。

 …異界で普通の人を放置しとくと、瘴気で死ぬんだが……この子もかな?

 

 明らかに一般人ではない。

 

 何せ、体の半分くらいが鬼のように変質しているんだから。

 瘴気に犯された体が変質したのか?

 とりあえず、解毒薬は飲ませておくか。

 まだまだストックはあるし、無駄なら無駄でそれで構わない。

 

 

 ひょっとして、討鬼伝世界の本来の主人公だったりするんだろうか?

 本来なら異界から抜け出せる筈が、俺が異界に入り込んだおかげでバタフライエフェクト的な何かでこうなってしまったとか?

 見た目だけで言えば、悪の組織の女幹部って感じなんだが、さっきの狼狽振りは虐めにでもあってトラウマが作られてしまった少女のようだ。

 

 …まぁ、とりあえず起きるまで待って話を聞いてみるか。

 どうせこのまま進んでも、妙な所に出るのがオチだ。

 

 …ああ、それにしてもこの子に会ったせいで…って訳じゃないが、分かりかけてたのっぺらミタマの正体がまだ分からなく…。

 日記を見れば何を手がかりにして辿りつきかけてたのかは分かるんだが、どういう形で繋げようとしていたのか分からない。

 非常にもどかしいが、また考え直すか…。

 

 

 

 

 あ、女の子起きた。

 

 

 

凶星月たまにはBBAもいいよね!日

 

 

 女の子の名は、虚海というらしい。

 なんかリングネームっぽいと言うか、お坊さんみたいな名前だな。

 と思っていたら、本名は千歳と言うらしい。

 

 本名すぐ名乗るなら、もう一つの名前に意味はあるのん?

 

 と思ったが、突っ込めなかった。

 なんというかこの子、情緒不安定だ。

 昨日も錯乱してたが、意識を取り戻して多少落ち着いてからも、明らかに張り詰めたような追い詰められているような、そんな雰囲気が伝わってくる。

 

 

 とりあえず、ある程度距離を置きながら自己紹介。

 怯えた顔で、「何もしないのか」と問われた。

 

 いや、別に何も…と返したら、「嘘だッ!」……いきなりL5発症されても。

 そこからまた一人で錯乱し始めた。

 みんなみんな、私を虐める。

 私は妖怪なんかじゃない、正義のモノノフだ…と。

 

 

 

 ん、この子モノノフなのか?

 

 

 その辺は後で聞くとして、何となく事情は分かった。

 確かにこの子の半身は、一見すると妖怪……鬼にしか見えまい。

 モノノフやってたが、鬼との戦いで呪いでも受けて変質してしまい、迫害されている…って所か。

 

 そりゃ不安定にもなるわな。

 みんなの為に戦っていたのに、体は鬼になっちまい、周囲はテノヒラクルー。

 異界を一人で彷徨っていたところを見ると、里から追い出された事すら考えられる。

 まぁ、里に瘴気の塊を置いておくのは危険というのも理解できるけどさ…。

 

 

 だがどんな事情があれ、異界の中で騒いで鬼を引き寄せるのは御免蒙る。

 寝とれ。

 

 

凶星月敵は煩悩寺にあり日

 

 起き抜けの千歳に、「騒いだら拳な」と言ったら、怯えた顔で頷かれた。

 …情緒不安定のこの子にはちょいと酷だったかな…。

 

 とりあえず、静かになったから良し。

 なんか知らんが、近くに大型鬼が沢山居るっぽいから静かにしてなさい。

 

 

 …怯えられている。

 うーむ、どうしたものか。

 昨日の推測が正しいのだとしたら、この子が怯えているのは俺にだけではなく、人間その物に、だろう。

 迫害にあって、精神的負担が潰れる寸前まで膨れ上がった状態だ。

 言葉一つじゃ意味は無い。

 

 

 なら………試してみるか?

 どうせデスワープしても、今のところ惜しいものは無い。

 

 

 

 という訳で、ちょっとゴッドイーターの腕輪を外してみた。

 

 

 

 

 アラガミ化…する前に!

 

 

 

 

 

 こないだ見た夢でできるような気がしたんで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変 ッ !  身 ッ !

 

 

 

 

 

 

 仮面ライダー アラガミ!

 

 

 

 

 

 でけました。

 

 という訳で千歳、俺もあーたと同類デス。(棒読み)

 

 

 

凶星月我輩の辞書は欠陥品だ。不可能という言葉が載ってない日

 

 むぅ、夢でアラガミ化がコントロールできるようになるとは……しかも自在じゃないけど元に戻れたし。

 っとに、俺が何度アラガミ化でお陀仏した事か…。

 

 

 

 

 考えてみればそんなに多くないな。

 2~3回くらいしか死んでないや。

 まぁ、アラガミ化って普通多くて一回だけど。

 

 

 ま、便利だからいいか。

 と言うか、そろそろあの夢も何なのか、ちょーっとずつ検討がついて来ている。

 多分、のっぺらトリオの正体と密接な繋がりがある。

 

 後はのっぺらトリオの正体だけ判明すれば、色んな事が明らかになりそうなんだが……そういや、もうちょっとで気付けそうな所で千歳に遭遇して、分からなくなったんだよな。

 むぅ、後でセクハラしてくれる。

 

 

 

 

 あかん、この妙に安らいだ顔の寝顔を曇らせる事はできん。

 

 千歳は俺が同類だという事を知って、随分と落ち着いたようだ。

 別に俺は迫害された経験は無いが、人外だという自覚はある。

 見た目人間でも、この世界の人間からしてみればゴッドイーターは妖怪一歩手前だろうしね。

 

 同類なら迫害しないって理論は通じないと思うが、まぁ精神安定剤にはなるだろう。

 

 しかしどうしたものか。

 異界で出会った初めての子だから、できる事なら人里にまで連れて行きたい。

 …ああ、この子は討鬼伝ストーリーの主人公ではないな。

 元々モノノフだったみたいだし。

 だがそれにしたって、やっぱり放置するのも気分が悪い。

 

 

 どうすっかなー、ウタカタの里なら受け入れてくれるような気はするんだわ。

 最前線だし、とにかく人手が足りなかったから。

 でも千歳の方に拒否反応が出る気もする。

 

 

 

 …ま、本人の意思確認が第一か。

 出合ってから今まで、寝る(気絶)か錯乱するか泣くかのどれかだったから、まともに話を聞けてない。

 

 

 

凶星月爆弾岩という名の地雷を踏む日

 

 

 ようやっと落ち着いて話が出来た。

 それでもヘタな事を言うと、また錯乱しそうだから気が抜けん。

 

 千歳の境遇は、大体予想通りだった。

 ちなみに虚海というのは、もういっそ世捨て人として生きていこうか、と絶望していた時に、今までの自分を捨てようとしてつけた名前らしい。

 実際に名乗ったのは、これが初めてだとか。 

 

 成程、精神が一番不安定な時期だった訳ね。

 もうちょっと前か後に出合っていれば、あんまり苦労しなかったかもしれない。

 

 だが、不安定だからこそ誘導もしやすいんだがね…。

 

 

 ところで、鬼(というかアラガミだが)に変身し、元に戻る方法を教えてほしいと言われた。

 どうやら自分の体を治したいらしい。

 しかしなぁ、俺だってどういう理屈でやってるのか今ひとつ分かってないんだよ。

 この前見た夢だと、何か強い力が俺の中に流れ込んできて、それによってアラガミ化・元に戻るのができるようになってるんだから…多分、俺の体の中にある力が偏食細胞の侵食を抑え込んでるんだと思う。

 或いは逆に、侵食を押し返す事で人間に戻ったり。

 

 

 …仮に千歳が出来るとしても、あまりお勧めはできんな。

 そんな荒業に、何度も体が耐えられるとは思えん。

 文字通り、肉体を一気に改造してるようなものだ。 

 ヘタをすると、文字通り肉体が崩壊してもおかしくない。

 俺だって、デスワープすればある程度体の異常が戻るのでなければ、使いたいとは思えない。

 

 だがそれでも、千歳にとっては希望にはなったらしい。

 つまるところ、自分の人間としての霊力を高めて、体を侵食している鬼を押し返す、追い出す。

 出来るのか?

 仮に追い出したとして、失われる体の補填はどうするのか?

 疑問や欠点は尽きないが、今は言うまい。

 それを補う為に、研究や技術は存在する。

 

 何より、折角希望を見出した事で安定した精神を、また突き落とす事もない。

 

 

 

凶星月月に叢雲、華に風って優雅そうだけど、「好事魔多し」の意味日

 

 

 これからどうするつもりなのか、と聞かれたので、素直にウタカタの里に行くつもりだと伝えた。

 俺もいい加減特殊な身の上だし、いっそ正直に吐いてしまうか?と思ったのだが、それはそれで面倒な事になりそうだ。

 前ループで確保したものだけど、ちゃんとした任命書もあるもんな。

 

 千歳は俺と一緒に来るそうだ。

 人に拒絶される恐怖はまだあるし、モノノフに対して複雑な気持ちを持っているようだが、それ以上に同類の俺と一緒に居たいらしい。

 元に戻る手がかりにもなりそうだしね。

 

 まぁ、ウタカタなら多分大丈夫だろう。

 最初は流石に警戒されるし、監視も付けられるかもしれんが、そこはそれ。

 速鳥仕込みの誘導術……は、アテにしない方がいいな。

 当の速鳥に確実に感知されるし。

 

 橘花に近付くのも、最初はやめた方がいいだろう。

 おかしな事をするつもりは…ナニするつもりはあるけど…ないけど、千歳をつれている時点で確実に不審者だ。

 大人しくしていた方がいい。

 

 

 ま、いいか。

 旅は道連れ、世は情け、渡る世間は鬼ばかりってね。

 鬼は数える気にもならん程居るんだから、情けで行動したっていいだろう。

 こうやって懐いてくる子が、カワイイと思える程度には…ゲッスくなってるな。

 依存してくる子を見て愉悦できる程度には。

 

 

 別に手ぇだしてないぞ、セクハラだってしとらん。

 

 

 

 まぁなんだ、結局シオは特異点として終末捕食っちゃったからな…今度は最後まで面倒見れりゃな。

 

 

 どっちにしろ、異界から抜けなきゃ話にならん。

 

 

 

凶星月絵に描いた素材日

 

 

 ちょっとおかしな事があったので、千歳と細かい所まで確認。

 千歳はオオマガトキの事を知らなかった。

 何年か前に「門」が開き、そこから鬼が大量出現、世界の殆どは異界に沈んでしまった。

 モノノフが知らない筈が無い。

 

 

 アレェ?と思って色々と話し込んだところ、アイェェェェ!?と叫びたくなる事実が判明した。

 

 

 

 千歳、少なくとも50年以上前の人間だ。

 異界の性質を考えると、ひょっとしたら逆に俺が50年前に迷い込んだのかもしれんが。

 

 千歳は人に追われて異界に逃げ込み、そして時間を越えた。

 ウタカタにも初穂という実例が居るから、素直に信じられるが…どんだけ不運だよ、千歳…。

 

 

 「呪いかも…」と言ってたが、その体を考えるとワリとありそうで困るな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょい待ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「イヅチカナタは時空や因果を食らう鬼だったから、時間を越える呪いがあっても…」ってどういう事よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのイヅチカナタって鬼の、時空や因果を食らうってトコをkwsk。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ループの原因は、こいつか?

 

 

 




GE2RBですが、プラーナ使ってゴリ押しばっかりしてたから、腕が鈍りまくっております。
あと高難易度任務を甘く見てた。
装備が揃ってなかったとは言え、ザイゴートの空気玉一発で前回状態から9割持ってくとか何よw


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討鬼伝世界5
第55話+外伝8


討鬼伝極のPS4版とな?
うぅむ…大画面で那木さんの谷間とか、鬼ノ眼を使って裾の内側とかを凝視できるのは惹かれるが、追加要素が無いのはな…。

GE2RB、何とかマガツキュウビをクリアしました。
ダミアンさんのリンクサポートと、C.C.ジ・エンド二連発による奇襲が決め手だった。
ブラッドレイジを使えばもうちょっと楽に勝てたと思うけど、すっかり忘れてました。

そしてハガンコンゴウに半壊させられた。
なんだあのエテ公!

…おっ、3月下旬にGE2RBアップデートか。
しかも残された神機のリビルドにソート機能…イイネ!



凶星月工事間多し日

 

 

 鬼達が妙な力を使ってるのは知ってるし、鬼が元になって作り出した異界は時間空間を無茶苦茶にしているから、時間を操るような鬼が居るんじゃないかってのは、前々から思っていた事だった。

 ループの原因として、一番考えられる連中でもあった。

 だが、少なくとも霊山の記録にはそれらしい能力を持った鬼は確認できなかったし、仮に時間空間を操るにしても3つの世界を転々とする理由にはならない。

 だからあんまり意識してなかったんだが…。

 

 

 千歳から聞かされたイヅチカナタの話は、それらを裏付けするようなものだった。

 曰く、 「イヅチカナタヨリ来タリテイヅチカナタヘ去リシモノ」。

 時の狭間を回遊し、英雄の存在を感知するとそこへ出現。

 他の鬼達を呼び寄せ、時間…というより、あるべき歴史の流れを無茶苦茶にして去っていく。

 

 この鬼、相当に強力な鬼なのだが、それよりも厄介なのが、因果や時間を侵食するという特性。

 因果と言うのは、要するに原因と結果だ。

 過去の原因があり、途中経過があり、結果という今がある。

 これを侵食されると……例えば原因を侵食されると、何が切欠だったのか分からなくなる。

 途中経過を侵食されれば、それまであった流れを認識できなくなる。

 結果を侵食されてしまえば、人は「今」が文字通り見えなくなって、過去の記憶に浸るようになってしまう。

 

 …これがどういう事なのかは、正直言って俺には分からない。

 今書いたのだって、千歳からの受け売りだ。

 

 だが、千歳が言っているような能力・性質を本当に持っているのなら……途中経過を侵食され、気が付けばある日突然、見ず知らずの場所に立っていた、なんて事もあるんじゃないだろうか?

 具体的には、散歩や買い物に出ようとしていたら、突然異世界で大イノシシに追いかけられていた、とか。

 

 ゲームで言うストーリークリアがループから抜け出す方法だと思っていたが、ひょっとしたらコイツを倒す事こそが…?

 

 

 

凶星月モンスター狩るべし。ジヒはアル日

 

 

 色々考えを纏めていたら、何とか異界を抜けられた。

 例によって見覚えの無い場所に出ている。

 

 さぁ、どうやって人里を探そうか…と思ったら、千歳がメルヘンな事を言い出したでござる。

 鳥を呼んで、探してもらう?

 …動物と話ができる?

 

 じゃあその鳥、ヤキトリにアッハイスミマセン

 

 

 

 

 

 まぁ、便利な能力を持ってる事で。

 俺もオウガテイルやランポスなら出来ない事はないが…そういや、その手のスキルを最近あまり使って無いな。

 GE世界じゃ小細工しなくても狩れる相手が殆どだったし、そもそもあの世界には野生の動物とかほぼ残ってないからなー。

 

 それはともかく、今回は幸運にもウタカタの里の近くに出られたようだ。

 近くと言っても、一番近い里がウタカタってだけで、歩いて3日はかかるけど。

 

 とりあえず里に向かうが、千歳が手を握ってきた。

 表情から読み取れるのは、ドキドキしている……というより、単純に恐怖。

 …やっぱり、人が怖いのか。

 だがこのまま野宿を続けて暮らしていく訳にはいかないし(出来ない事もないが)、放っておけばオオマガドキVer.2であの世行き確定。

 

 どっちにしろウタカタに行かなきゃならん。

 同じお陀仏するにしても、それまでの暮らしを向上させたいしね…何より、野宿じゃ酒が確保できん。

 

 

凶星月千里の道も狂走薬でカッ飛ばす日

 

 

 歩き続ける事3日、食料確保の為に獲物を狩ろうとしたら泣く千歳に止められる事8度。

 食物繊維ばっかりで腹に溜まらん。

 健康的ではあるが、オーガだって健康的な物ばかり食うのが健康な訳ではないと言っている。

 …あんな鬼が出てきたら、俺は逃げるぞ。

 

 とにもかくにも、ウタカタが見えてきた。

 ここから先は、狩って知ったる…もとい、勝手知ったる他人の庭。

 かつてこの辺を罠だらけにした挙句、鬼の大群が押し寄せた時に盛大に「汚ねぇ花火だぜ」したのは伊達ではない。

 …あの爆破の恍惚を思い出すと、つい顔がニヤけそうになるが、我慢我慢。

 

 

 とりあえず、何でもない普通のモノノフのフリをして進む。

 ふくろから取り出した、モノノフの武装を見て千歳が首を傾げていた。

 …そういや、他人の前であからさまにふくろを使ったのは初めてだな。

 明らかに入る大きさじゃないのに、平然と取り出してれば疑問も沸くか。

 だが無視。

 

 

 

凶星月ネタバレすると仏の顔が三つ全部消える日

 

 

 ウタカタに到着。

 到着と同時に、任務に向かおうとしていた桜花と息吹にバッタリ会った。

 丁度、門から出てくる所だった。

 

 桜花には「何者だ?」って凄まれた。

 まぁ、あっちにしてみれば、見慣れないモノノフ…しかも誰かが異動してくるという話なんか通ってないからな。

 怪しむのも、無理は無い。

 

 そして息吹だが……半分鬼の外見もなんのその、千歳をナンパしていた。 

 前回がアレだったから、微妙に腑抜けと言うか三枚目なイメージがあったが、そこまで落ち込んでない状態だとコレか。

 千歳の境遇を想像して、あまり過度に接近しなかったのもポイントが高い。

 落ちぶれ……いや、精神的に失調してなければいい兄貴分だったんだな。

 

 

 ま、とにもかくにも、大和の頭の所に案内された。

 俺の着任の話が通ってないかの確認だったようだが、当然の如くそんな話は無い。

 が、俺が取り出した指令書には、確かにウタカタに向かえと書いてある。

 

 「大方、霊山の連中の不手際だろう」で片付けられてしまった。

 信用ねーな、霊山…。

 現場と上層部の関係はこういうのがお約束だが、これで上手く回る訳ないんだけどな。

 それに付け込ませてもらってるんだから、文句は無いが。

 

 

 さて、俺の方は問題ない。

 何だかんだで戦力が足りてないので、モノノフが一人でも増えるのは大歓迎だそうだ。

 

 問題だったのは千歳の方である。

 千歳はモノノフ…ではあるんだが、それを証明する物が何も無い。

 モノノフは普通、何処に所属するモノノフなのかを刻んだ認識札を持ち、それを身分証とするのだが、千歳はそれを持っていなかった。

 

 それに加えて、半分鬼に浸食されたような体。

 

 怪しまれるのも無理は無い。

 

 

 無理は無いんだが、そこは器のデカい大和の頭と、最前線だというのに陽気に生きるウタカタの人々だった。

 元モノノフに、呪いを受けたと思われる体、そして人に怯えている…。

 同情的にならない筈がなかった。

 

 

「大変だったろう。 まずはゆっくり休め」と、暖かい言葉を投げてくれました。

 道行く時にすれ違った里の人達も、最初はギョッとするものの、明確な嫌悪や敵意は飛んでこなかった。

 代わりに戸惑いの視線を集めていたが。

 

 まぁ、だからと言って疑われていない訳ではない。

 世話、案内という名目で桜花が監視についているし、宛がわれた家はゲームのような里の中の家ではなく、里の外れの小さな小屋だ。

 ちなみに俺も同居する事になりました。

 

 ま、こればっかりは仕方ない。

 千歳が敵だとか味方だとか以前に、里の内部に鬼の体を持った千歳を長居させる訳にはいかないのだ。

 

 千歳はやはり辛そうだったが、一応納得はしているようだった。

 今までのように石を投げつけられないだけマシだと思っているのか、それとも同類の俺が居るからまだ耐えられるだけなのか。

 視線を集めている時も、ビクビクしているのが伝わってきた。

 手を繋いでなかったら、逃げ去っていたかもしれない。

 

 

 手を繋いでいる俺達を、生暖かい目で見ていた桜花だった。

 

 

 

凶星月人はパンのみに生きるに非ず。ちゃんとお肉も野菜も食べなさい日

 

 さて、とにもかくにもウタカタに潜り込む事はできた。

 後は鬼を倒しつつ、オオマガドキ阻止に向かって動いていく訳だが…実際、どうしたものかね?

 

 前回は鬼を倒してストーリーを進める事と、巨乳手付かず未亡人モノノフに色々仕込む事と、橘花の尻を開発する事にかまけていたら、良い船な結果を迎えてしまった。

 色恋沙汰はともかくとして、鬼を倒すだけではオオマガドキは防げそうにない。

 

 ゲームであったように、多くのミタマを結び、その力を持ってオオマガドキの「門」を閉じる。

 それに必要なのは、多くのミタマを宿す力…なんだが、望んで手に入るような物ではない。

 別の手段を探さなければならない。

 

 真っ先に思いつく手法としては、オオマガドキが開く場所を特定し、それを行う鬼・或いは基点となる物…確か、何かの塔だったか?…を破壊してしまう事。

 やってやれない事はないと思うが、これには俺がもっと強くならねばならないだろう。

 前回は…足の引っ張り合いがあったにせよ、下位ボス程度に負けてしまったんだから。

 

 

 まぁ、そういう即物的な方法で行くにせよ、ウタカタのモノノフ達との精神的な触れ合いは必須だろう。

 信頼関係を築き、それぞれが抱えている鬱屈を晴らさなければならない。

 

 ウタカタの守りと結束は固いように見えて、そうでもない。

 純粋な戦力なら非常に高いが、医者役の那木はトラウマから手術などが出来ず、初穂と息吹は精神的揺さぶりに弱く、富獄のアニキは仇討ちに目が向いていて、桜花が守りたいのは橘花だけ。

 橘花は橘花で、気丈に振舞ってはいるが、自分の運命を呪っている。

 秋水に至ってはスパイである。

 

 安定していると言えるのが、大和の頭と速鳥くらいなのだ。

 謀略をしかけられれば、あっという間に空中分解しかねない。

 

 

 …人間関係が致命的にヘタ…というか、まともな関係を築いてこなかった俺が、それをどうにかせにゃならん訳だ。

 

 

 ムリポ…と投げ出したいところだが、一応策はあるにはある。

 何も、俺が中心にならなくてもいいのだ。

 何の因果か、今のウタカタには千歳というイレギュラーが居る。

 しかも、心に傷を負った、悲劇のヒロインと言ってもいい子。

 

 

 俺ではなく、この子がウタカタの中心になればいい。

 脛に傷を持つモノノフ達と、鬼に蝕まれたモノノフの少女。

 少女はモノノフ達と暮らし、時に共闘していくうちに徐々に希望を取り戻し、そんな少女の必死の頑張りに当てられ、ウタカタのモノノフ達は自分の過去の傷と向き合うようになる。

 

 

 なんとも心温まるお話で。

 脚本・演出が俺な時点で、お寒いストーリーにしかならないと思うが、やってみる価値はあるだろう。

 少なくとも、俺のようなイカレたヒトデナシを中心にするより目はある。

 

 よし、今回の俺は裏方・一戦力に徹するか。

 初めての試みだから、どこまでやれるか分からんが…。

 ちゅーか、トラウマ抱えた少女を社会復帰させるとか、どんだけ苦労するか分かったもんじゃないけどな。

 

 

 

凶星月「ご存知、ないのですか!? 超時空モノノフ☆千歳ちゃんです!」日

 

 さて、手始めにまずは千歳をモノノフデビューさせたいと思う。

 本人も、初めてあった時に「自分は正義のモノノフ」みたいな事を言ってたし、 人間恐怖症になりつつあっても、多分まだモノノフでいたいんだろう。

 比較的穏やかかつお人よしが多いウタカタの里でも、基本的には働かざる者食うべからず、みたいな風潮があるしな。

 

 しかし問題は、千歳自身がどこまで戦えるのかだ。

 なんかよく分からんが、動物と話ができるという速鳥垂涎の能力を持っているとは言え、異界の中ではまともな動物なんぞ殆ど居ない。

 

 武芸の方はイマイチで、どっちかと言うと術寄りだ。

 こっちはかなり使えるらしく、ミタマの力を借りなくても鬼に有効打を与えたり、動きを制限したりできるらしい。

 治癒の術…も使えるには使えるらしいが、鬼に浸食された体で人の体内に干渉するような術は避けたいとの事。

 まぁ、術に瘴気が混じりかねんからな。

 

 

 とにもかくにも、千歳としてもモノノフとして活動する事に異は無いようだ。

 鬼に浸食された体になってからテノヒラクルーされた事もあり、思うところはあるようだが、この里に受け入れられるなら…と、ちょっと頑張ってみるつもりらしい。

 里を案内されて回った時、ワリと暖かな対応をされたのが効いているようだ。

 

 

 俺も適度に出張って、鬼を討たなきゃな。

 …その「適度に」が一番難しいんだが。

 自惚れでも何でもなく、今の俺は制限無しでやればゴウエンマまでならほぼ確実に狩れる。

 ウタカタ到着直後の鬼達…クモや虎っぽいのなんぞ、それこそミタマも鬼祓いも無しにフルボッコにできる自信がある。

 ミタマ在りなら、ストーリーであった大攻勢もデカブツを片っ端から討ち取れるだろう。

 アサシンのステルス技術とゴッドイーターのスピードで敵陣深くに一気に入り込み、攻撃力を徹底強化してハイドアタック。

 これだけで、少なくとも敵の体の部位は半分以上破壊できる。

 後は敵を霍乱しながら逃げ隠れし、再び真正面からハイドアタック。

 注意事項は、足を止めない事かな。

 

 

 

凶星月「我々の業界 でも ゴホウビです」日

 

 

 武器防具を適当に弱めのやつを選び、ザコ狩りへ。

 今回出るのは、息吹、俺、千歳の3人だ。

 今までだと桜花が最初の教育係、見極め役を任されていた筈だが、どういう変化だろうか?

 単に、人に怯えている千歳には、ノリの軽い息吹の方が接しやすいとか、そういう理由かもしれんが。

 

 狩りの成果は、まぁ上々と言っていいだろう。

 俺は今更小型鬼なんぞ片手間でも倒せるし、千歳は術士タイプなので接近せずに戦う。

 息吹はベテランのモノノフ。

 油断さえしなければ、遠距離攻撃を持ってない小型鬼を相手に怪我をする要素は無かった。

 

 

 「その歳で、大したもんだねぇ」と関心する息吹に団子を奢ってもらい…千歳はおはぎだった…、本日は終了。

 

 

 終了なのだが……ぬぅ、物足りん。

 何も毎日毎日狩りしなければ生きていけないという、泳ぐのを止めたら死ぬマグロやカツオみたいな生態してる訳じゃないが、中~大型ばっかり相手にしてたからな。

 餓鬼じゃイマイチ…。

 

 また勝手に抜け出して、クエヤマでも探すか?

 ああ、しかし今は千歳と同居してるから、確実に気付かれる。

 そうでなくても、俺を精神安定剤代わりにしている千歳は、何かと俺と一緒に行動したがるからなぁ…人里に居る時は特に。

 ヘタに姿を消すと、狂乱…とまでは行かないが、そのタイミングで人に会ったりすると拒絶反応が起こるかもしれない。

 

 千歳をプロデュースすると決めた訳だし、暫くは我慢我慢。

 

 

 

凶星月「神は死んだ。カニは食える」日

 

 息吹について何度か雑魚狩り。

 既に「使える」奴らだと認定されたらしく、狩りのレベルがトントン拍子に上がっていっている。

 と言っても初戦下位だが。

 

 ただ、俺に向けて微妙に警戒の視線が飛んでいるような気がする。

 そりゃ、不法な手段で潜り込んだのは確かだが…そんなに警戒するか?

 おかしいと思って、千歳がザコを遠距離からBANGBANGやってる間に尋ねてみた。

 

 すまんな、と一言謝られて、俺の実力が分からないから、と言われた。

 着任の指示書には、俺は新米モノノフとして書かれていた。

 が、いざ戦わせてみれば、小型鬼とは言え一撃で、それこそ片手間に、あまつさえ殆ど音を立てずに片付ける。

 ミタマも既に宿しているし、樒さんに聞いてみたら「強い力を感じるわ。 …そしてうるさいミタマ…」とコメントされた。

 

 肩書きと実力が噛み合ってない。

 別人が入れ替わっている可能性も考えられたが、識別札に記録されているのは間違いなく俺。

 ならば、肩書きを偽っているのか?

 何故?

 そもそも偽っても、実力を隠す様子が全く見られない。

 

 

 

 

 …まぁ、そりゃ確かに怪しまれるか。

 特に深い考えがあった訳じゃないしなぁ…。

 なぁなぁで済ませて、実績で信頼を作る、くらいにしか思ってなかったわ。

 

 しかし、どーすっかな。

 息吹は「ま、そんなに深く疑ってる訳じゃないけどな」って言ってたが、疑われているのは事実。

 俺が疑われると、千歳にも余波が行くかもしれん。

 あまり好ましい展開ではないな…どうしたものか

 

 

 

凶星月「竜退治も鬼退治もまだまだ飽きない」日

 

 今日は4人で任務だった。

 千歳、桜花、初穂(今回は初対面)、俺。

 

 初穂は相変わらず「私の方がお姉さんなんだからね!」といった調子で、千歳の外見にも特に触れなかった。

 むしろ握手までしていた。

 多少表情を作っている節はあったが、今まで会った里の人達の中でも一番友好的だったと言えるだろう。

 

 千歳はドンドン踏み込んでくる初穂に戸惑っていたようだったが、悪い気はしてないようだった。

 むしろ初穂を「おねえ…ちゃん」と、躊躇いがち&恥ずかしそうに呼んで感激させていた。

 うむ、あれはカワイイ。

 顔が半分鬼でもカワイイ。

 

 今となっては初穂を素直に「お姉ちゃん」と呼ぶ里人なんぞ居ないからなー、初穂も感無量だった事だろう。

 橘花に姉さまと呼ばれている桜花を、ちょっと羨ましそうに見ていた事もあったっけ。

 

 しかし、千歳が何かを思い出したように遠くを眺めていたが、何だったんだ?

 故郷に姉でも居るんだろうか。

 ……ああ、でも千歳の故郷に居るって事は多分、変化した千歳を見て…?

 

 

 この考えはまたにしよう。

 

 

 さて、一方狩りだが、相変わらずザコばっかり。

 性欲ならぬ、狩欲を持て余す。

 いや本当に、ガチで退屈だ。

 鬼に侵略されている側としては、小物を間引くのも重要だと言うのはわかるんだけどね。

 

 妹分が出来て張り切っている初穂とは裏腹に、俺は半ば惰性で狩っていたようなものだ。

 桜花に注意されてしまった。

 

 

凶星月「昨夜は……楽しめなかったようで残念ですね」日

 

 

 昨日と同じ、4人組で任務。

 困った事に、俺は初穂に受けが悪いようだ。

 桜花にだって良くはないが、桜花は任務だと割り切ってくれる。

 

 初穂にしてみれば、ようやくできた妹分が懐いている(と言うか依存している?)相手な上、明らかに手を抜いていてやる気無しに見えるのに、腕自体は自分より遥か上。

 そりゃ気に入らないだろうよ。

 

 …俺自身としては、俺に対する好感度が低いのは…ちょいと辛いが、今回は割り切る。

 それよりも千歳に好感度を集中させたい。

 今回の俺は影でいい。

 

 

 

 ところで、任務の帰りがけにミフチの気配を感じたんで、フルボッコにしたんじゃが…衝動的にやっちまったが、初穂の見せ場を奪ってしまった形になるな。

 思い出してみれば、前回も同じようにミフチを一人で潰してしまったおかげで、初穂がいつまでも一人前と認められずに焦るようになってしまっていた。

 

 フォローが要るな…よし、千歳に行かせよう。

 上手く行けば千歳の好感度アップだ。

 認められずに焦るのではなく、妹分の前で格好付ける為に奮起してくれるといいんだが。

 

 

 今回の初穂は、シスコン成分強めで何となくギャグキャラルートに進みそうな気がするし、千歳に「頑張って!」って言われりゃ鼻血吹いてハッスルしてくれるだろう。

 …ヒロインルートは、今回も無しかな…。

 おませさんだけど、懐いてきたら結構カワイイと思うんだけどなぁ…。

 

 

 

凶星月「それはひょっとしてギャグで狩ってるのか!?」日

 

 息吹が前衛、初穂がヒットアンドウェイ、千歳がバックアップ。

 結構バランスよく回っている。

 

 ちなみに俺は暗殺&奇襲。

 デカブツが近くに居る時は、率先してこっそり狩っています。

 息吹はその辺に気が付いているみたいだが、何も言わない。

 まぁ、デカブツって言ってもまだミフチくらいしか居ないからね。

 

 

 とりあえず、俺が居なくても回るといえば回るし、初穂の悪感情が溜まっていく事になるので、俺は一端別の班に組み込まれる事になった。

 千歳は不満そうだったが、俺にばかり懐いて依存されても困るし、一緒ではないのは任務の間だけだ。

 家は相変わらず里の外れの小屋なんだから、帰れば会える。

 

 

 で、俺の新しい所属は那木…さんと一緒か?

 と思ったら、何故か速鳥と同行する事に。

 

 まぁ、別にいいけどね?

 まだ疑いが晴れた訳じゃないのかね。

 大和のお頭は、単純に俺の戦闘スタイルが速鳥と似通った所があるから、って言ってたが。

 確かに速鳥の隠形はモノノフの中ではちょっとマネできないくらいのレベルで、その為に単独行動を任せられていた。

 ヘタに同行者をつけると、持ち味や機動力が激減するからな。

 でも俺なら大丈夫、と。

 

 うーん、別に不満は無いけどさぁ。

 やっぱり那木さんと一緒の方が、心に潤いが…具体的には資格的な癒しが……。

 でも前回あれだけイチャネチョしたとは言え、浮気した上にそれが原因でガメオベラしたし、ちょっとどんな顔して会えばいいやら。

 

 

 ま、とにかく速鳥だが、相変わらず素っ気無いと言うか、余計な事を喋らない。

 最初はこんなもんだったな…。

 そうだ、確か前の時は、天狐とコミュニケーションをとる方法の代わりに、洗脳やら誘導やらの手法を教えてもらったんだっけか。

 

 ま、速鳥の攻略方法は非常に単純だ。

 お仕事モードにさせなければ、意外と気のいい話せる奴なのだ…口下手の癖して。

 そしてお仕事モードにさせない為には、天狐を見せてやるだけでいい。

 鬼の討伐の最中にさえ、視界の端に常に天狐を捉えているのだから、その執念はいっそ見事と言えるだろう。

 

 

 という訳で、ウチの天狐を………あ、そういえばまだウチには天狐は居なかったな。

 確か、橘花と初めて会う時に天狐に会って、懐かれたり怯えられたりするんだっけ。

 

 天狐はどうするべきかなぁ。

 ストーリーの中心を千歳にする計画を立ててはいるが、天狐までそこに加える必要も無いように思う。

 天狐は単なるマスコット扱い(任務や素材集めを助ける役割もあったが)で、ストーリーには関わらなかったと思うし……未プレイの討鬼伝続編じゃ分からないが。

 

 …よし、やっぱ千歳に付かせよう。

 千歳なら天狐と明確に会話できる。

 鳴き声による大体の意思疎通しかできなかった俺と違って、もっと細かい所まで分かるだろう。

 俺じゃ精々イエスノー、非常に大雑把な形を現す単語しか分からないんで、天狐が普段ナニを言っているのか非常に興味がある。

 

 もしも俺に懐いてきたら、家に連れ帰って千歳と一緒に世話すればいいか。

 

 

 速鳥に、「貴殿と共に来たモノノフとは、どのような少女か」と聞かれたんで、「ちょっと人間恐怖症。代わりに動物と話ができるらしい」と答えた。

 文字通り目の色が変わる光景を初めてみた気がする。

 

 

 




 さて、例によって夢を見ているようだ。
 ここは一体どこだろう……とは、今回は思わない。
 何せ俺が居る所は、マイホームだからだ。

 マイホーム。
 しかも一軒家。
 風呂もトイレも完備、エアコン…は無いけど暖炉はあるし、窓を開ければ風通しも良い。
 庭付き。
 家賃も要らない。

 別の意味で夢見たいな物件である。

 俺はここで、日々(夢の中だが)のんびりとした生活を送っている。
 庭にはデカい木があって、そこからは奇抜な形の野菜や果物が取れる…時々肉も取れるような気がするが、あれは実際に肉なのか、肉によく似た野菜類なのかは疑問が尽きない。
 食ってみれば中々に美味かった。

 野生の獣も幾らか居て、そいつらを仕留めて食料にしたり、毛皮を衣服その他に利用する事もある。
 モンスターに比べれば、貧弱だし殺意は弱いし、本当に楽なものだ。
 仕留めず捉えて、農場に入れる事もある。
 つい先日も、黄色くて耳がデカイ……和名『ウサギ?』なるナマモノを捉えて突っ込んだ次第だ。
 

 そんな生活を…刺激の無い、だが穏やかな生活を、どれだけの間一人で続けているだろうか。
 たった一晩の夢の中とは思えない程、長くこの家で暮らしている気がする。



 とは言え、ずっと一人だった訳ではない。
 家族が一人居て、俺はその弟…の筈だ。
 夢のシチュエーションに突っ込みいれても無駄だが、どんな人だったか、兄だったか姉だったかさえ覚えてない。

 とにかく、以前は同居人が居て、ある日突然そいつは旅に出たのだ。
 じーっと郵便ポストを眺めていたら、「何処か他の土地が見たくなった」とか言って、この家を俺に任せて旅立ってしまった。
 少しばかり寂しさを感じもしたが、数日もすれば何をするにも他人に合わせなくていいという環境にあっさりと馴染んでしまった俺だった。

 さて、旅に出た俺の同居人は、別に死んでいる訳でも、音沙汰無しになっている訳でもない。
 時折妙な土産を持って帰って来る事はあるし、旅している先から手紙が届く事もある。
 …「ポストとは、他の人が居て初めて意味があるものだな」と旅立つ前に言っていたが、結局使っているのは自分じゃないか。


 ともあれ、俺は時折…そしていつの間にか…ポストに挟まれている元同居人の手紙を楽しみにしつつ、毎日農業したり酪農したりして日々を過ごしている。 
 …実際、これが農業だって主張したら、本業の方々が激怒しそうなくらいに楽々でユルユルスローペースな毎日だが、まぁ人に怒られるような環境でも無し、別にいいだろう。
 何せご近所さんといわれて真っ先に思い浮かぶのが、デカい木とその辺の動物オンリーだ。
 北海道やアメリカのド田舎だって、物理的な意味でもうちょっと人付き合いがあると思うぞ。


 そうそう、時折訪れる生活のアクセントとしては、元同居人の知人だという客人が挙げられる。
 これがまた、姿形から性格、元同居人との関係まで様々だ。
 モッフモフーのケモッケモーの獣人も居れば、何処からどう見ても人間にしか見えないのに、なにやら宝石的な種族だという人も訪れる。
 この前なんか、デカい老亀が訪ねてきた。
 幸い、腹は満ちていたので鍋にはしなかった。

 あまつさえ、「生前」に世話になり、「死後」に再会し、「蘇生後」に色々教わっている、なんてわけがわからないよ!な人まで居た。

 その客人を持て成して、旅先であの阿呆が何をしているのか聞くのが、最近の専らの楽しみだ。
 あの阿呆は行く先々で揉め事に首を突っ込んでいるらしく、最近では一部の人達から『英雄』なんて呼ばれだしているらしい。
 世界を滅ぼそうとした悪魔退治に、年経たドラゴンの悪巧みを阻止し、最近では滅んだ筈の宝石的な一族を纏めて蘇…っと、これは秘密だった。
 帰ってきたらからかい倒してやろう。
 …アイツがこれだけの事に関わってるんだから、やった事が言葉通りだけの筈がない。
 裏でもっと面倒くさい何かと関わっている筈だ。
 精々茶化して、余計な力を抜いてやるとしよう。



 それから、アクセント…というにしてはちょっと微妙だが、二階の鉢植えのサボテン。
 …どーもコイツ、俺が見てない間に二足歩行しているような……気がするんだが、流石に気のせいだよなぁ?
 でも動いているのは確かっぽい…。
 何せ、俺以外は誰も居ない筈の家の中、ちょっと目を話した隙にサボテンの近くのノートに書き込みがされてるんだから。

 なんか知らんが、元同居人が旅先でやらかしたアレコレについて色々コメントがついている。
 しかも俺が聞くより先に。
 俺が手紙を受け取るよりも先に。
 ……これは命の危機を感じるべきなんだろうか?

 しかし、このスローペースな生活に慣れてしまった為か、どうにも危機感が沸かない。
 むしろ次のコメントを楽しみにしている始末だ。
 サボテン以外の誰かがマイホームに入り込んでいるとしたらそれはソレで問題だが、何となく大丈夫のような気がしなくもない。



 さて、そんな長閑な生活を送っている俺だが、流石に退屈になる時もある。
 何だか満たされた気分で、食うか寝るか編み物とかするか、そんな日々を送っているんだけどね…やっぱり狩りしてた現実に比べると、どうにも刺激に欠けるというか。
 それが良い日々ではあるんだけど…まぁなんだ。


 俺も、終わりと出口が見えないループに、やっぱり疲れていたんだろう。
 異性の肌の温もりもない、本能を満たす狩場も無い、こんな生活に妙に心が安らぐのがその証拠。


 そんなスローペースな毎日に、時々だが妙に焦りを覚えてしまう時がある。
 何だろうな、この…「こんな事をしている場合じゃないんじゃないか」って焦燥感は。



 そんな時は、家に飾られているオモチャの庭を眺めて心を落ち着かせる。
 別にこれに特別な思い入れがあるって訳じゃないんだけど、何となく落ち着くんだよねー。
 元同居人が持ってきた土産が殆どなんだけど、大きなボードの上に家や船や森のオブジェクトが配置してある。
 それを机の上に置いて、じーっと見ていると何となく心が安らぐ…というか、眠くなってくる。
 そのまま眠気に身を任せれば、夢の中(既に夢の中だが、その中で更に夢をみている)でオブジェクトの中に入って、大冒険の始まりだ。
 半ば以上は、元同居人の話を元に作られた夢だろうけどね。
 アイツから聞いた話と被るところが多くてなぁ…。

 …ん?
 思い返すと、アイツから話を聞いた時、「お前から聞いた夢の内容と、展開が殆ど一緒だったぞ」と言われた事が何度かあったような…。
 予知夢?
 
 まぁ、今更そんなもん出来ても、あんまり驚きはしないが。
 


 そんな訳で、超スローペースの日常と、微妙に大冒険している夢の夢で、満ち足りた日常を送っています。
 最近では、何をどうやったのかあの元同居人が鍛冶の工房まで作りやがったので、包丁とか作ってみるのもいいかもしれない。









 ところで、マイホームの背後に つい先日までは明らかに存在してなかった、文字通り雲を突くような大木が出来ているんじゃが、アレは一体何事だろうか?
 しかも元同居人が、アレに昇ると息巻いてるし…。








 その後、暫く生活していたら、普通に目が覚めた。

 よもやと思って確認してみたら、やはりふくろの中にMH世界でさえ見られないような奇抜な(メルヒェェェンと称せ無くも無い)野菜果物が幾つか入っていた。



 あと、なんか疲れたナー、と思った時に、マイホームの夢をいつでも見られるようになったっぽい。
 これがナニカの能力なのかはイマイチよく分からんが、まぁ和むし回復が早まるみたいだからいいか。





 え、なに?
 アーティファクト使いの能力でマイホームを具現化させている?
 ………あの夢の中で、終ぞきいた覚えは無いんじゃが…アーティファクトって何ぞ?
 ああいや、そういやゴミ山で人形がそんな事言って襲ってきた…夢を見たような気がしなくも…。





外伝:聖剣伝説~Legend of Mana~ Side:Home編


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56話

最近、なろうでSSを漁るのがマイブーム。
受け付けない奴も多いけど、意外とレベルが高いのが揃ってる。
特に書籍化された奴が。
何だかんだで大御所というべきか…。


 

 

凶星月呼んでますよ、ラヴィエンテさん日

 

 速鳥の隠形が冴え渡っていた。

 どう考えても、天狐と話が出来る千歳に会って、教えを請いたいからだ。

 ニンジャの癖して、私欲で動いた方が動きが冴えるとは不可解な。

 まぁ俺だって他人の事は言えんが。

 素人DTを卒業した今となっては、良くも悪くも落ち着いてしまって(欲望はむしろ落ち着かなくなっているが)そんな事はなくなったが、かつてはGE世界でサクヤさんの背中を見ただけでテンションが上がり、ほぼ初期装備状態のまま、無意識状態のままにヴァジュラの目玉を潰すなんてマネもやっていたものだ。

 

 …アノコロノジュンスイナオレハドコヘイッタンダロウナ…。

 

 

 まぁ、直接触れて貪る方が好きだからいいけどね。

 

 さて、速鳥に頼み込まれ、千歳と引き合わせる事になった。

 別に問題は無い。

 速鳥は性格的に問題があるような人種じゃないし(駄目ニンジャといわれる程度に天狐が好きなだけで)、千歳にとっても人間関係を構築するのに、難しい相手じゃないだろう。

 動物と話が出来るという、速鳥にしてみれば「ころしてでもうばいとる!」ぐらいの能力を持ってる事だし、むしろ崇拝されるのではなかろうか。

 

 好意を向けてくる相手と関係を築くのは、そう難しくない。

 …千歳の人間恐怖症さえ克服できれば。

 その人間恐怖症も、初穂をお姉ちゃん扱いしている間に大分マシになってきていると思う。

 速鳥も、次のステップに進むには丁度いい練習相手だろう。

 

 

 

 

 ところで、その速鳥だが、ちょっと気になる事を言っていた。

 任務を暗殺・暗殺・ハイドアタック・ダブルアサシンその他で影さえ捉えさせずに終わらせて、里に帰ってきたんだが…妙な動物が居る、と言っていた。

 専ら鳥とかリスとかキツネとかの小動物らしいが、それらは普段、里の奥の方まで入り込んでくる事は少ないのだそうだ。

 言われて思い出してみれば、前回のループでも里の中で天狐以外の獣を見た事は少なかった…別に俺が鍋にしちゃった訳でもないのに。

 主に獣達は、里の外周部で生活していたように思う。

 

 なのに、自分達をジッと見ているような視線を感じる、と。

 

 

 

 

 …千歳が俺を監視してんじゃないよな?

 アイツが動物を操って、俺に何かおかしな事が無いかじっと見続けているとか。

 

 いや幾らなんでもねーよな…でも千歳ってマシになってきてはいるけど、相変わらず俺に依存してる節が多く見られるし…。

 ヤンデレっぽい気配はないけど、とにかく見ていないと不安って考えも無いでは無いし…。

 

 

 

 

凶星月我が体に一本の杭あり日

 

 

 動物についてそれとなく訪ねてみたが、速鳥の弟子入り志願をあしらうのに必死で、それどころじゃなかったようだ。

 …結局押し切られていたが。

 

 後になってボヤいていたが、どうも同様に、誰かに動物との喋り方を教えた事があるっぽいな。

 「ホロウお姉ちゃんと違って、筋が悪すぎる」って。

 まぁ、俺が教えた時も、速鳥の口調は最悪の一言だったが。

 

 ともあれ、一応弟子入りした訳だし、速鳥も千歳グループに組み込めたと見ていいだろう。

 後は那木さんと富獄の兄貴、そして桜花。

 橘花は…まぁ、実働グループに入ってないから、今回は考えない方向で。

 

 

 時期を考えると、そろそろ那木さんとのグループに異動になる筈だ。

 ひょっとしたら初穂が付いていきたがるかもしれんが、それはどうでもいい。

 次に遭遇するのは、前回と同じ流れなら…カゼキリか。

 ひよっこには辛い相手だが、千歳は結構戦いなれてる感じがするんだよな。

 

 最初こそえらく不安定だったが、最近では慢心もなく、的確なバックアップに勤めているようだ。

 息吹から聞いた評価なんでちょいと甘口かもしれないが、事実怪我は無いようだし、こっそり覗きに行った時にはちゃんと周囲への警戒も怠らない優等生っぷりだった。

 接近戦に難があるので単独行動は難しいが、ヘタをすると初穂より上に居るんじゃなかろうか?

 

 曲りなりにも最前線のウタカタで半人前とは言えモノノフやってる初穂と並ぶくらい。

 …霊山のヘタなベテランより強いかもしれん。

 一体何処で何と戦ってたんだろうか?

 あれか、前に言ってたイヅチカナタか。

 

 

 そうそう、そのイヅチカナタについて聞いてみたかったんだ。

 あんまり思い出したくないようなら無理強いはしないが、千歳が帰ってきたら聞いてみるか。

 

 

 

凶星月「獲物の名を言ってみろぉ!」日

 

 イヅチカナタについて聞くつもりだったが、ビックリ。

 もう那木さん・富獄の兄貴と組んで、もうカゼキリと遭遇したそうだ。 

 流石に苦戦したらしく、怪我…は那木さんがミタマで直してくれたようだ。

 帰って来るなり、メシも食わずにバッタリ眠ってしまった。

 

 それはそれとして、里に帰ってきた千歳を迎えにいった(那木さんと富獄の兄貴にはこの時初対面だった。「始めまして」と頭を下げた那木さんの谷間を見て、色々思い出してしまった)んだが……何か知らんが、秋水がえらい驚いていた。

 アイツが表情を隠せない程驚くって何事だ?

 しかも千歳を見て。

 …そういやあいつ、全滅した北の生き残りで、過去に戻ってそれを覆す手段を探してるんだよな。

 何か関係があるのか?

 いやしかし、千歳は50年前くらいから異界に迷い込んで、初穂同様に時間を飛ばされてきたみたいだし…北の地に関係があったとは思えんが。

 

 

凶星月「初めて狩りの相手ではモンスターではない! この俺うわ何をする本当に狩らないでぇぇ!」日

 

 秋水が千歳に探りを入れているっぽい。

 あからさまではないが…アイツが積極的に人に関わりに行っている時点で、何か意図があるのは明白だ。

 しかし、何を探ってんのかねぇ?

 

 アイツの目的は過去に戻る事な訳だが、千歳がそれに何か関係あるのか?

 確かに時を超えたようだが、過去に戻ったのではなく未来に飛んだ。

 そもそも千歳が初穂同様時を越えた事は誰にも話してない。

 千歳が話したのかもしれんが、少なくとも秋水にその情報が届くとは思えん。

 ウタカタの人達は律儀で口が固いからな。

 

 今だって、千歳を「頑張ってくれてるのに、里の外れに住まわせてすまねえ」なんて言いつつ、大根とか肉とか色々持ってきてくれるくらいだ。

 …俺との関係が、夫婦と認識されているのか、兄妹と認識されているのか、非常に微妙な所である。

 

 

 …里人に親切にされて、対応に戸惑っている千歳にホッコリするのはともかくとして。

 秋水が何を気にしているのか、イマイチ分からん。

 最近安定してきたとは言え、悪意に触れればすぐにひっくり返ってしまう可能性は高い。

 橘花にしようとしているように、千歳を唆そうとしているのかもしれない。

 

 …こっちから踏み込むか。 

 前に確か、過去に戻ったと思われる現象をエサにして、秋水と繋がりを作った事があったな。

 今回も同じ手で行くか。

 

 

凶星月「ファイナルアンサー? ……………………………………………………………残念! 討伐ゥゥゥゥゥ!」日

 

 すっかり忘れていたが、イヅチカナタについて聞いてみた。

 あまりいい顔はしなかったが、改めて千歳は語ってくれた…んだが。

 

 何故か、何時何処で戦ったのかについては言葉を濁している。

 別に疑ってる訳じゃないし、後ろめたい事があるとは思わんが、ウタカタのモノノフ達の例に漏れず千歳にはまだ他に秘密にしている事がありそうだ。

 

 で、千歳がイヅチカナタと戦った時の話だが、何でも当時の戦力を結集した一大決戦だったらしい。

 中心となったのは、「オビト」「ホロウ」という二人の人物。

 

 ホロウについては、千歳はあまり知らなかった。

 えらく懐き、姉として慕っていた相手のようなのだが、何処で生まれたとか、個人プロフィールが全く分からない。

 と言うか、聞いた事はあるのだが、イマイチ理解できなかったとか。

 ただ言える事はイヅチカナタを長年追っていて、当時のモノノフ達にその存在を伝えたのも彼女らしい。

 

 オビトは当時のモノノフの中心人物とも言える人で、死者と語らう能力を持っていたそうだ。

 …あれ、それってミタマを使えるモノノフなら、人によるけど普通に出来るんじゃ……ああ、別にミタマに限らないのね。

 趣味は友達を増やす事。

 ……「俺はこのモノノフ全員と友達になる男だ!」とか言ってたんだろうか?

 フォーゼ乙。

 

 

 しかし、そんな一大決戦があったんだったら、記録が残っててもよさそうな物だが…。

 そう思って調べようかと思っていたら、「イヅチカナタに因果を食われて、記録に残ってないかもしれない」だと?

 面倒な鬼だな…。

 だが俺にとっても重要なファクターになりそうな鬼でもある。

 是が非でも情報は欲しい。

 特に次のループに入るとまた千歳に会えるか分からないから、何処で調べられるかの取っ掛かりだけでも掴んでおきたい。

 

 

 

凶星月「君は準備してもいいし、せずに狩りに行ってもいい」日

 

 本日も速鳥と任務…の筈だったのだが、予定が変わった。

 天狐と遭遇した。

 

 そして橘花とも遭遇した。

 

 

 おおう、今更になって罪悪感が……それ以上にまたヤバイ欲望も沸いてきたが。

 今度こそあの尻を…二股かけなきゃ多分イケなくはな…ゲフンゲフン。

 

 とにかく、今回も天狐は俺に懐いてくれた。

 受付所に行こうとしたら天狐がチョコチョコ後ろをついてきて、それを目撃した速鳥の覆面が赤く染まっていた。

 天狐見ただけで吐血すんなし。

 

 そして「師匠に通訳してもらうでござろおじゃ!」とか語尾を崩壊させつつ目を血走らせていた。

 そんなに天狐と話したいか。

 ちなみに相変わらず滑舌が最悪なので、速鳥の天狐語は殆ど通じなかった。

 俺はまぁ、簡単な意思疎通なら相変わらずできるし。

 

 そういう訳なんで、速鳥は天狐を連れて千歳の所に行かせた。

 あのまま任務やらせても、なんかやらかすのがオチである。

 

 

 さて、そういう訳で一人の任務。

 と言ってもミフチ1体の討伐だけなんで、ウタカタで一人前扱いされてりゃ、一人でも普通にこなせる内容である。

 そこへ来て、3つの世界のパワーを持つ俺である。

 神機を使っていた事もあり、文字通り瞬殺だったと言えよう。

 

 

 

 

 まぁ直後にカゼキリ2体が襲ってきたけどさ。

 

 丁度いいと言えば丁度良かった。

 前から試そうと思っていた、変身!した状態でのスペックを試しておきたかったんだ。

 速鳥を千歳の所に行かせたのも、変身を見せない為だったし。

 ついついやりすぎて、試すヒマもなくミフチを潰しちゃったし。

 

 初実験を実戦でやるべきではないと分かっちゃいるが、これがロマンとお約束だ。

 

 

 で、実験結果ですが……マジパネェ。

 洒落にならんですよアラガミ化。

 パワースピード生命力に反射神経、全体的に滅茶苦茶跳ね上がる。

 しかも感覚もそれに適応するのか、普段の何倍ものスピードで動いているのに、普段通りの感覚で動ける。

 …と言ってもまだ完全に動けてる訳じゃないし、なんか慣れれば…一時的に更に3倍くらいの速度で動けないか?

 気のせいかな…。

 

 あまつさえ、オートヒーリング機能まであるらしく、ちょっとくらいダメージ受けてもあっという間に治ってしまう。

 

 更に、使っていた神機を取り込んだのか、その特徴を反映した技まで使える。

 つまり捕食、盾、銃、剣の形態に右腕を変化させる事ができた。

 しかも攻撃には、神機の性質…要するに属性攻撃が乗るっぽい。

 更に捕食したら、アラガミ相手でもないのにリンクバースト・アラガミ弾(アラガミ相手じゃないから仮称だが)まで使える。

 

 …あれでリンクバーストできるって事は……ひょっとして受け渡し弾を出して、それに追いつく事ができれば自分で自分をリンクバースト3にまで持っていけるんじゃないか?

 

 

 

 ちなみに左腕は、帯刀していた武器…つまりモノノフの太刀に変化させられるようだ。

 複数の攻撃属性を同時に持っていける事になるな。

 素で二刀流状態だからか、モンハン式鬼人化だって普通にできてしまった。

 しかもスタミナ消耗が殆ど無い。

 

 それと、これは今回試してないんだが、左腕からはエネルギー弾とか出せるっぽい。

 エネルギー弾と言うか、属性攻撃のエネルギー波?

 ファイアウェイブとかそんな感じの何か。

 

 そして体全体だが、どうも纏っていたモノノフ用の鎧に影響を受けているらしい。

 全体的に耐性・硬度が上がり、しなやかさも備えていた。

 

 

 無論、ミタマの使用も可能。

 これも全体的に効力が跳ね上がっていた。

 今回は魂スタイルで出撃してたんだが、全開溜めしてないと言うのに連昇が阿呆みたいな威力になっていた。

 

 …なんかのっぺらトリオがえらいハシャいでいるんだが。

 この分だと、またスキルが増えてるかもしれないな。

 と言うか、変身中にのみ使えるスキルとかあるかもしれないが…流石に今回はそこまで調べられなかった。

 

 

 更に言うなら、まだ把握してない能力が幾つかあるっぽい。

 体感だが、体の中に幾つかスイッチがあるような感覚がある。

 

 

 うーむ、どんなバケモンだよコレ。

 MH世界の上位中盤くらいならやっていけそうな気がしてきたぞ。

 ぼくがかんがえたさいきょうのあらがみじゃないか。

 

 

 ただ、やはり長時間の運用は難しいらしい。

 カゼキリ2体は軽々屠れたんだが、元に戻った時の体力消耗がスゴイし、多分一定時間が過ぎると問答無用で戻ってしまうようだ。 

 その後、どれくらいの期間かは分からないが、暫く変身できない。

 

 それに、これだけ強力な力を、『夢で見た』なんて理由だけで使えるようになってるんだ。

 絶対何かある。

 確実に、何処かに隠れたデメリットがある。

 具体的には…そうだな、使う度に寿命が縮むとか(ループの中で考えても仕方ないが)、使い続けると偏食因子がゴッドイーターの腕輪でも抑えきれなくなってくるとか?

 元に戻れなくなるってのは、割とありそうな話だよね。

 

 

 

 それとなぁ……なんか、変身中に緑色の粒子がばら撒かれてたんだが。

 ……まさかとは思うが、アレ、前に夢に見て試したらできそうだったアサルトアーマーが思い起こされる。

 

 …コジマは…まずい…。

 

 

 

 とりあえず、一度自分が持っている能力の一覧を作って整理した方が良さそうだ。

 はぁ、面倒臭いなぁ…。

 とりあえず疲れたんで、今日はもう帰って寝る。

 

 

 

凶星月「コロンビア」日

 

 アラガミ化の研究・練習は必要だが、普段の狩りでは使用を禁止する事にした。

 下位が相手じゃ圧倒的すぎて、慢心の元にしかならん。

 

 それはそれとして、千歳と那木さん・富獄の兄貴のチームは上手く稼動しているようだ。

 先日のカゼキリにしても、再戦した時はもっと余裕を持って勝てたらしいし、穏やかな那木さん・ぶっきらぼうに見えてもお気遣いの紳士な兄貴のおかげで、人間恐怖症も完治しつつあるようだ。

 帰ってきてから、楽しげに今日はああだった、こうだったと色々語ってくれる。

 

 俺の方はどうだったか、と聞かれる事もあるが…どうって言われてもなぁ。

 この程度のレベルじゃ、正直何を相手にしても大差ないわ。

 小型の鬼ばっかりだし…。

 

 

 しかし、そうも言っていられんか。

 そろそろ大和の頭が、囮を出してからの反撃作戦を提案する頃だ。

 囮になるのは、俺か、桜花か、それとも速鳥かの誰か一人になると思われる。

 

 今までと同じなら、そこで遭遇するのはクエヤマか…。

 そこそこ慣れたモノノフなら、一人でも退治するのは難しくない。

 今までどおり、「作戦を逆手に取られた!」なんて言われても、慌てて救出に向かう必要だって無い筈だ。

 「こっちはいいから、そのまま里の守りを固めてくれ」ってやった方が余程効率がいい。

 

 …俺一人が囮ならね。

 となると…囮に志願するか。

 いや、いっそ作戦をこっちから提案するか

 大和の頭だって、反撃の時期を待っているだろうし、このままだとジリ貧だというのはとっくに理解しているだろう。

 

 

 

凶星月(モンスターの口が)「くぱぁ」日

 

 

 作戦自体は受け入れられた。

 だが俺が囮役なのは却下された。

 

 何故に?

 こう言っちゃなんだが、こなせるだけの力量はあるし、隠密や単独行動も速鳥と同程度には出来る。

 更に、普通のモノノフに比べると、瘴気の中で長時間活動可能と、囮に一番向いてると思うんだが。

 

 

 そう言うと、大和の頭は「それは否定しない。だが、お前が囮役になると、それを覆す不利益が出かねん」との事。

 え、何?

 まだ不審人物って疑われてんの?

 

 と思ったら、もっと別の理由だった。

 千歳だ。

 

 俺はもう充分安定してきていると思っていたが、それは俺が居る時だけだったらしい。

 他者に接する事に慣れてきているのも事実だが、俺が居ない時は根本的な部分が不安定になっているとか。

 なのに俺が、危険と分かりきっている囮役なんぞやっていたら…。

 

 不安になるくらいならいい。

 ヘタをすると、自分も行くとウタカタを飛び出して追いかけかねない。

 

 …それ程かよ…どんだけ俺に依存してるんだ。

 誘導した訳でもエロい事で刷り込みした訳でもないのに、こうまで懐かれるのは初めての経験だ。

 ちょっと理由が分からない。

 

 

 人徳?

 

 

 ハハッ、このループが始まって以来一番面白くないジョークだな!

 まぁ、追い詰められてた所に(形はどうあれ)頼れる同類を見つけりゃ、そうなっちまうのも仕方ないのかねぇ。

 

 

 しかし、そういう事なら仕方ない。

 千歳も俺と同じで、普通の人より瘴気に耐性はあるが、敵に囲まれるような状況になるとあっという間に追い詰められるタイプだ。

 精神的にじゃなくて、戦闘スタイル的に。

 千歳を連れて囮役は務まりそうにない。

 

 となると、次に準備すべきは次善の策だ。

 俺からしてみれば、囮作戦を逆手に取られる事はほぼ予測されている事なのだから、こっちが本命の策だが。

 

 どうするかな…。

 桜花にありったけの爆薬を持たせて、囮に食いついた鬼を諸共にドカーーーン!!!

 

 

 …いや流石に非人道的すぎるだろう。

 桜花を囮どころか、文字通り鉄砲玉にしている…いや大砲玉?

 

 それに非効率的にも程がある。

 仮に上手くいったとしても、大量の物資(火薬)を消費し、釣れるのは恐らくクエヤマ、しかも下位。

 ウタカタのモノノフなら、2~3人居れば安定して狩れる相手である。

 

 

 冗談はともかくとして、囮はブラフ、攻めてくる鬼達をトラップで撃墜…が妥当な所か。

 あれ、それ前ループ時にもやったぞ?

 しかも火薬をあるだけ詰め込んで大爆発させて、恍惚としてた思い出が………。

 

 

 

 

 

 

 思い出したら滾ってきた。

 今回も派手にブッ飛ばそう。

 

 

 

 

凶星月「ぅゎマガティガっょぃ」日

 

 ウタカタ周囲に罠をしかける事は、囮作戦にトラブルがあった時の備えになるだけでなく、里の守りを固める事にも繋がる。

 という建前で、罠を仕掛ける許可をヤマトのお頭からもらった。

 建前と言っても、あながちウソじゃないけどね。

 特に今回は、千歳と一緒に里の結界ギリギリの場所に居るから、襲撃があったら真っ先に被害を蒙るのは、俺達の住居だ。

 千歳も自分でちゃんと結界張ってるが、あまり多くの力を注げないから、そこそこ程度の効果しか期待できない。

 

 粗末なボロ屋だが、里の人達が率先して直してくれたし、今では結構居心地のいい空間になってるからなー。

 壊されるのは腹立たしい。

 

 という訳で、トラップトラップ。

 

 

 

 ……さて、ここに里で売っている塩と、タタラさんが鍛冶に使っている硝酸があります。

 この二つを両手に持ちます。

 MH世界式調合とはちょっと違う感じで、二つを合わせて「カンパーウンド」……「硝酸塩」が出来ました。

 更にこの硝酸塩を、里で流通している「和紙」と合わせて「カンパーウンド」……「ニトロ剤」が出来ました。

 そしてこのニトロ剤を、里で普通に使っている「酢」と合わせて「カンパーウンド」……「ニトロマイト」が出来ました。

 

 ……いや、最後のは単に使い切った酢の壷(瓶より壷が主流なのだ、この世界)の中にニトロ剤入れただけなんだけどね。

 

 他にも、サンマの塩焼きとかと壷をカンパーウンドすると、何故か異常に強力な退魔効果を持った破邪爆弾になる。

 尚、ネーミングセンスに異論は受け付けぬ。

 なんか知らんがカンパーウンドが聞こえた瞬間に、この名前だと決まってしまった。

 …例の夢のせいだろうけどな…。

 

 しかし鬼にメッチャ有効だった。

 ダメージは流石に与えられないが、嫌がって逃げる素振りがある。

 

 つまり、相手を誘導する爆弾と、大爆発する爆弾が揃った訳だ。

 そして俺には、モンハン世界のシビレ罠・落とし穴といったトラップや、GE世界の挑発フェロモンがある。

 アラガミ用に調整された挑発フェロモンが鬼にも効くかは分からんが、効かなければ肉か何かで代用しよう。

 

 つまるところ、これはアレだ。

 

 ピタゴラ爆破スイッチだ。

 アルゴリズム体操ー!

 

 

 一人でやっても虚しいので止めた。

 とにかく、突っ込んでくる敵を誘導し、集め、纏めて爆破できる訳だ。

 無論、最後の爆破スイッチは鬼に押させる方向で。

 映像記録を取れないのが残念で仕方ない。

 

 




次の外伝は無双モノ…と思っていたのですが、イマイチ上手く書けない…どうしよう。


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57話

GE2RBの攻略本を買いました。
攻略本っつーよりデータベースだなこりゃ。

さて、そこでダメージ計算式とか明らかになったんで、一つ企画を思いついたり。
何処を狙えば効率的にダメージを与えられるとか、スキルがどういう感じでダメージに影響するとか、事実上丸裸になったアラガミ達。
そこで、予め与えるダメージを計算し、可能な限りダメージを高める武器・スキル構成その他を計算。
出来る限り各アラガミに特化した装備を作り出し、最小限の攻撃回数でアラガミを沈める。
理想を言えば、超消音+ハイドアタックで一撃必殺、アラガミを片っ端から暗殺して「これそーいうゲームじゃねーから」といわれるような動画を作りたくなった。




計算式をエクセルで作ってみたが、想定通りの数字がでない。
面倒くさくなって挫折した。


 

 

凶星月人間は狩る為に考えるアッシーである日

 

 さて、囮作戦開始である。

 と言っても、しばらくは桜花が一人で異界をウロウロするだけだ。

 その間に俺は罠の設置。

 いやはや、こうしてザクザク穴掘ってると童心に返るねぇ。

 千歳も手伝ってくれているから、なんか泥遊びしている気分だ。

 

 尤も、子供の頃は竹槍やパンジースパイクなんぞ仕掛けられなかったが。

 

 

 さて、問題は火薬の量か。

 ぶっちゃけ大樽爆弾Gでいいような気もするが、どうせなら睡眠爆破も狙いたい。

 ピタゴラ爆破スイッチの途中に、麻酔玉……いや、眠り草をそのまま…いっそ眠りナイフにすべきか…。

 

 …もっと凝りたいところだが、囮作戦がいつ逆手に取られるか分からない。

 この場合、一定以上の質に拘りすぎて間に合わなくなるのは愚の骨頂。

 

 とりあえず地雷は埋めまくったから、最低限の守りは出来るだろう。

 地雷に塩とか混ぜたし、多少は魔除け効果もあるかもしれない。

 代わりに残された数少ない自然がエライ事になるが。

 

 

凶星月「貧乳が希少価値なら、巨乳はなんだと言うの? 言ってみなさい、ただし迂闊な事を言うと生と死の交流で死一択にしてあげるわ」日

 

 千歳が落ち着かない。

 どうやら桜花を心配しているようだ。

 いつもウンウン唸って、アラガミ化…もとい、鬼化した体を元に戻そうとしているんだが、気もそぞろ。

 無理に続けても効果ないと思うぞ。

 

 という訳で、気晴らしに二人で散歩に出た。

 逢引?

 まぁそれでもいいさ。

 

 後ろを天狐もチョコチョコ歩いてくる。

 千歳曰く、「あそびにいくならぼくもいく、だって」だそうな。

 ご飯も食べられるなら尚良し、だとか。

 ま、食い歩き…は無理だな。

 ウタカタの里は割りと豊かだが、規模が小さい。

 茶屋なんぞ2~3個程度しかない。

 適当に弁当でも持ってピクニックに行った方がよかったかな。

 

 そう思い始めた時、橘花に遭遇した。

 例によって、前回尻を弄りまくった事を思い出して色々噴出してきそうになったが、なんとかセーブ。

 久しぶり、と声をかけたんだが、お付の護衛に阻まれてしまった。

 

 と言っても、悪意があっての事ではない。

 俺のすぐ傍に居た千歳が、神垣の巫女に触れるのはあまりよろしくないからだ。

 まぁ、鬼と巫女だしな…。

 万一、瘴気が橘花に何か影響したら、里全体に影響が出る。

 

 護衛達は千歳に悪意や警戒心を持っている訳ではないし、むしろ悪いと思っているようだったが、仕事として割り切っているようだった。

 

 

 だが、それを言われた千歳が更に沈んでしまった。

 ウタカタに来てから、何だかんだと親切にされていたから、久々の隔意のダメージがでかかったのだろう。

 

 それを払拭したのは橘花だった。

 いや、明確に何をしたって訳じゃなくて、橘花と千歳の気があったというか、桜花を心配している点で意気投合したと言うか。

 何だかよく分からない内に、仲良くなってしまっていた。

 

 

 …前から思ってたが、千歳って妙なカリスマがあるというか、ウタカタの人に好かれてるな…。

 やっぱり彼女が本来の討鬼伝主人公なんじゃないのか?

 

 

 

凶星月「最終奥義! ZENTEN!をよく考えればMH世界ハンターは普通に使っている」日

 

 また秋水が千歳の周りを探っているっぽい。

 でも探るっつってもな…異界に入って飛ばされる前、千歳が何処にいたのか、どの時代に居たのかもよく分からんし、調べようがないと思うんだが。

 事実、秋水は千歳の出身がどうとか、以前は何をしていたとか、そういった事を調べているのではなさそうだ。

 どっちかと言うと……千歳の周囲で、何か妙な事が起きてないかを調べている?

 

 …よく分からんな。

 何を問題にしているんだ?

 この時期の、ゲーム立場で言う主人公に大した期待とかも寄せていない秋水が動く理由と言えば、例の滅びた北を取り戻す事くらいだろうが…それに千歳が関わるのか?

 

 

 …暫く泳がせるしかないか。

 どっちにしろ、陰陽方…だったか?の間諜だっていう証拠も無い現状で、秋水を追い詰められるとは思えん。 

 一応注意するように言っておくか。

 

 

 

凶星月酒の一滴、(獲物の)血の一滴。

 

 予想通り、囮作戦が逆手に取られた(桜花談)ようだ。

 だが救援の為、里の守りを疎かにする訳にもいかない。

 ただでさえ、たった数人のモノノフで里をずっと守っているのだ。

 

 …と言うのが、前回の理屈。

 今回はちょっとだけ事情が違う。

 何せ、今までは居なかった千歳という戦力が居る。

 人手が一人分だけでも多いという事は、作業効率が段違いなのだ。

 加えて、俺があっちこっちに罠を張りまくっているので、防衛力も向上している。

 

 …いや、前回も結局助けに行ったけどさ、それでも戦力配分はギリギリだったらしいんだよ。

 よく覚えて無いし、日記にもそこまで詳しく書いてないが。

 とにかくそういう訳で、今回はそこまで危ない橋を渡らなくても、普通に救出作戦を展開できる。

 

 そのメンツが、まず千歳。

 千歳が行くなら姉の自分も、と名乗りをあげた初穂。

 そして桜花が重症を負っていた時の為の那木……まだトラウマ拭ってないから治療はできないかもしれんが。

 

 でもって俺。

 救出が上手く行けば桜花も加わって……おお、初の5人体勢。

 

 …女だらけやな。

 素晴らしい事だが。

 

 だが激しく針のムシロ。

 初穂は相変わらず俺にライバル意識バリバリみたいだし、那木はホラ、前回の負い目(とイロイロな感触)を思い出して、後ろめたさがね…。

 千歳は千歳で妙に張り切っている。

 …そういや、先日橘花と意気投合してたよな…桜花が心配だって。

 橘花の分まで頑張ってやろう、とか考えてるんだろうか?

 

 …まぁなんだ、ハンティングモードに入ってしまえば、そんなもん気にならなくなるが。

 と言うか、さっさと狩りを初めてしまおう。

 クエヤマ自体はどうでもいいが、確かこいつの素材を使って橘花が千里眼を使い、鬼の頭領の存在が明らかになったんだ。

 素材を持ち帰らなきゃならん。

 

 さて、日記も書いたし、武装もOK。

 いっちょ狩りに…じゃなかった、桜花を助けに行きますか。

 

 

 

凶星月花にクシャルダオラの例えもあるぞ、SAYONARAだけが人生だ日

 

 クエヤマじゃなかった。

 ニワトリが居た。

 ヒノマガドリが。

 

 おーい、お前が出てくるのってウタカタが鬼の総攻撃受けた時じゃなかったっけ?

 なんでいきなり出てくるのさ。

 まぁ、狩ってやったから別にいいけど…。

 

 でもちょっと梃子摺ったな。

 強さ自体は大した事ないんだが、羽と足を全部叩き斬ってやったあたりで、空に逃げやがった。

 MH世界で言う、空の王者(笑)のワールドツアー連発だった。

 

 結局、千歳がなんかよく分からない呪縛の術でニワトリ(の癖して空を飛ぶとは…)を引きずり落として、総攻撃をかけた。

 きっとペル○ナの総攻撃のように、髑髏の煙が上がっていた事だろう。

 そうしてヒノマガドリは、ズダ袋より酷いボコられ具合になってしまったとさ。

 

 ちなみに桜花に「クエヤマとか出なかった?」と聞いたら、「出たが、一体だけだったから普通に倒せたぞ」と返された。

 やっぱりそういう認識なのね、クエヤマって。

 

 

 さて、とりあえずヒノマガドリの素材を持って返って、出迎えてくれた皆に無事を告げる。

 とりあえず全員無事で一息ついたところに、橘花がやってきた。

 

 桜花の無事を喜び、助けてくれた俺達…特に千歳…に感謝。

 うむ、仲良きことは美しきかな。

 

 

 それはそれとして、ヤマトの頭の命令で、橘花はその場で千里眼の力を使った。

 帰ってきて早々ではあるが、時間を置けば置くほど千里眼の力が効き辛くなるから仕方ない。

 

 さて、何だかんだで橘花が神垣の巫女の力を使う所を初めて目にするワケだが…何と言うか、実に神秘的だ。

 祝詞も勿論だが、力を使う時の橘花には独特の雰囲気がある。

 神聖で、静謐で、清らかで………。

 

 

 

 

 だからこそ汚したくなるんだがね。

 

 

 

 そして俺はそーいう劣情を隠しつつ、コッソリとタカの目を使って力を使う様子を見せてもらった。

 見せてもらったが…よく分からんし、マネできそうにないな。

 霊力の動きがワケの分からん事になっている。

 

 ともあれ、ヒノマガドリの素材からでも、鬼の指揮官の存在は探れたようだ。

 それどころか、大体の場所まで見当がつけられた、と来た。

 クエヤマの素材とは何が違ったんだろうな?

 …単純に強さ弱さの問題か、それとも他に何かあるのか…。

 まぁ、言える事はだ。

 

 

 鬼の陣営でも、クエヤマは残念な子扱いっぽいって事だ。

 

 クエヤマェ…。  

 

 

 

 

魔禍月「レベルを上げて貫通(メガテン3仕様)付きで殴れ」日

 

 さて、鬼の頭領の居場所はある程度絞り込めた。

 ゲームの順序で言えば、主人公と速鳥の初対面の時期だな。

 しかし初対面どころか、既に弟子入りを済ませてしまっている。

 

 …任務の合間合間に天狐語講座を受けている速鳥だが、その出来はいっそ哀れになってくる程だった。

 そう考えると、千歳は既に里のモノノフ全員と顔を合わせているワケだな。

 保護欲を刺激するのか、大体の人には好意的に受け入れられている。

 …あの鬼の姿さえなければ、恐らく今頃は里のアイドル…いや、天狐と並ぶマスコットとなっていた事だろう。

 

 まぁ、「だからいいんだ!」というハイレベルな里人も居るが。

 …俺?

 

 俺が今更そんなモン気にするとでも?

 シモに男のが付いてたって、女の方があれば多分イケるよ?

 完全な男の娘は……どうだろ。

 ループ始まりの頃になんか掘られたような気がするんだが、きっと気のせいだ。

 

 

 とにかく、だ。

 実を言うと、千歳との距離感に若干戸惑っています。

 いや、別にいきなり反抗期が来たとか、そーいう訳じゃないのよ。

 相変わらず、俺に依存している節はあるが、むしろ俺としてはそっちの方がやりやすい。

 …今まで関係を持ってきた異性の殆どが、ナニで依存されてるような状態にしてたからな!

 

 言葉にすると最悪であるな。

 

 それは置いといて、千歳は徐々に立ち直り始めている。

 ウタカタの人達は「もうちょっと警戒した方がいんじゃね?」と言いたくなるくらいにお人好しで親切だし、日々の任務の間にモノノフ達とも信頼関係を築いていっている。

 ヤマトの頭や桜花も、監視、怪しんでいるのは既に建前だけと言っていい。

 初穂は千歳に「おねえちゃん」と呼ばれる度に発奮してドンドン腕を上げているし、橘花とは物理的接触は禁じられているが、時々一緒に茶屋で団子を頬張っているのを見かける。

 

 最近は自分から里の中をフラフラ歩き回る事も増えたし、他人に対する恐怖症も殆ど発動しなくなってきた。

 

 …なんだな、俺の時とはいろいろな意味で随分な差があって、ちょっと凹む。

 限りなく自業自得だけど。

 

 

 それはともかく、そんな風に立ち直ってきた千歳だが、夜は必ず家に帰ってきて、俺が居る事を確認してから眠る。

 昨日は任務が長引いて夜中まで帰れなかったのだが、千歳は明かりも点けずにずーっと俺を待っていた。

 暗い部屋の中で、身じろぎもせずに。

 

 もう寝ていると思って静かに戸を開けて入ったら、いきなり鬼が暗闇の中から飛び出してきて、危うく斬りつけそうになった。

 飛びついてきたのは勿論千歳で、勢いのままに俺を押し倒して…何も言わずにガタガタ震えていた。

 何を言っても反応無し、震え続けて…10分くらいしたら、そのまま寝落ちしてしまった。

 

 …俺がちゃんと帰って来る、一緒に居られると思える間は安定している。

 だが一度それが崩れると、言葉も出せない程に狼狽してしまうようだ。

 

 

 ふーむ…どうしたもんか。

 いっそ男女の関係に持ち込んでしまえば、いつものペースでやれるかもしれん。

 だがそれはアカン。

 それだと俺に依存ルート一直線になってしまう。

 物語の中心人物としてプロデュースすると決めた千歳が、精神的に俺に付きっ切りでは、仲間達との信頼関係構築に支障が出るのが目に見えている。

 

 じゃあどうする?

 逆に突き放す?

 ……精神崩壊まで行かないよな……nice boatで済むかな?

 一緒に死んで、とか。

 

 アカン。

 

 

魔禍月「半ズボンが許されるのは、小学生までだよねー!」「…むしろ脂ぎったオジサマの方が…」「え゛」日

 

 色々悩んだが、結論。

 俺には依存させる技術があっても、依存させない技術は無い。

 立ち直らせる技術はもっと無い。

 

 そもそも、こうまで依存されているのは、恐らく俺が『同類』だからだ。

 鬼(アラガミだが)に姿が変わる同類。

 この世にたった一人の同族だから、失ってしまう事をこうまで恐れる。

 

 だから、仮に千歳が鬼から元の姿に戻れたら、この依存も大分マシになるんじゃないだろうか。

 鬼から、胸を張って人間と言える、誰が見ても人間にしか見えない体に戻れたら。

 

 仮に俺が居なくなったとしても、「人間」という同類は居るから、一人ではない。

 …いや、別に代わりが居るなら失ってもいいとか、そーいう事じゃないけどね。

 千歳の依存の根っこにあるのが、自分が人間ではないというコンプレックスと、孤独への恐怖なら、これで立ち直れる…のかな?

 

 まぁ、どっちにしろ千歳の姿を元に戻す方法を確立せにゃならんが。

 

 

 最初っから他力本願もどうかと思うが、このループ内で研究できそうな人つったら…那木さん、秋水に、樒さんくらいか。

 しかし秋水は何やら嗅ぎまわっているようで信用できんし、那木さんの本分は医者。

 樒さんは…どうだろ?

 

 なんかこう、そういう能力が得られるような、都合のいい夢とか見ないかなー。

 

 

 

魔禍月「そんな事よりおうどん食べさせたい。七味山盛りで」日

 

 追儺の日が近い。

 前回は、確か追儺の日に鬼の大群の攻勢が来たんだっけか。

 確か…うん、最初の攻勢だから、ミフチがメインのやつだ。

 

 今回の戦力は、前回よりも一人分多いし、しっかり罠も仕掛けているが、油断はできない。

 確か、普段は追儺の日に初登場するヒノマガドリが、一足先に登場しているくらいだからな。

 

 ヘタをすると、この時点でダイマエンとか覚悟しておいた方がいいかもしれない。

 そうなると富獄の兄貴が突っ走って面倒な事になりそうな気がするが、こればっかりはな…どんな相手が来るか分からんし。

 前回同様、犬のフン付き落とし穴とかで止めたら、また揉めるに決まっている。

 

 

 

 ああそうそう、初穂が「鬼は内、福は外」について言い出した。

 そういや、こんなイベントあったな。

 前回は何だか分からない話をされて、勝手に立ち直っていたが……今回は落ち込みすらしなかった。

 

 千歳も「鬼は内、福は外」説に賛同したからだ。

 そういや、千歳も50年以上前のモノノフみたいだし、初穂と同じ事を言ってもおかしくはないんだな。

 初穂は「ああ、千歳は話が分かるわねー!」とか言って、飛びついてスリスリしていた。

 随分と腕を上げているようだし、大分シスコン化が進んでいると見た。

 

 代わりにヤマトの頭が、「まさか千歳も…?」とか言ってたが、別に50年以上前のモノノフだと知れたからって問題はないわな。

 

 

魔禍月「(月光蝶のスイッチを)ポチっとな」日

 

 

 攻勢が来た。

 おい、追儺の日は明日だぞ。

 

 …まぁ、毎回攻勢が追儺の日である理由はないし、別に2~3日前後しても不思議は無いのだが。

 その為なのか、秋水の「結界強化の提案」はされなかった。

 前回と違い、秋水にとっても予想外だったんだろうか?

 最近は、前回と違って何やら千歳を嗅ぎまわるのに忙しいようだし。

 

 …ストーカー一歩手前だな。

 だがあの性格からするとあまり違和感は無い。

 

 まぁ、とりあえずモノノフ総出で出撃だ出撃。

 相手がミフチだとタカを括ってたら痛い目を見そうだし、一丁行くか!

 

 

 …の前に、千歳に何か精神安定剤やらにゃならんかな。

 先日の帰りが遅くなった時の恐慌が微妙に残っているのか、俺と離れたがらない。

 今まではちゃんと、別々の組になった時も討伐やってたんだけど…タイミングが悪かったか。

 

 撫でる…程度じゃ効かなかったんで。

 

 

 

 物陰に連れ込んで、額にキス。

 

 

 俺にあるまじきキザさと言うかウザい仕草だったが、千歳には効果覿面だった。

 真っ赤になっていた。

 

 

 

 …出来心で追撃。

 

 

 

「帰ってきたら、続きをしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …死亡フラグですよエビチュさん!

 そういや以前のMH世界で、フローラさんに同じ事言われて俺がデスったね!

 惜しかったよ畜生!

 

 でもまぁ、取り合えず不安は吹っ飛んだようだ。

 と言うかそれどころじゃなくなったようだが。

 …逆に、ちゃんと落ち着いて戦えるのか?

 

 一緒に行く那木さんと富獄の兄貴にフォローを頼んでおいた。

 

 と言うか、俺って結局こっちのやり方に流れるのね…それが一番得意(と言うか慣れている)やり方だから仕方ない…のか?

 どっちにしろ、俺はいつか良い船してデスワープする日が…前回がそんな感じでしたね、ハイ。

 

 

 あと、真っ赤になって戻ってきた千歳を見て、初穂が服の裾を噛んで嫉妬していた。

 

 

 

 

魔禍月「鬼! 悪魔! ちひろ!」By ルカ・ブライト日

 

 

 攻勢はあっさり撃退できた。

 何と言うか、拍子抜けだ。

 

 そりゃ、鬼のホームグラウンドである異界の外、しかもモノノフのホームグラウンドである結界のすぐ傍での戦いだった事もあるよ。

 千歳という新戦力もいたし、各方面から「お前が仕掛けた罠が非常にエゲツない件について」とのコメントを頂いた事もある。

 MH世界で、反省すべく山篭りを続けて、腕を上げたって自覚もある。

 

 しかしそれを考慮に入れても、ちょっと弱すぎやしませんかねぇ?

 ちなみに、予想通り従来とは違った鬼が出てきたが、それでもミフチが二匹、マフチ一匹、ヒノマガトリが1匹止まり。

 動き自体は殆ど変わってないから、時間はかかったもののほぼ無傷で完勝。

 アラガミ化する必要さえなかった。

 

 なんだが…ちょーっと気になるんだよなぁ。

 

 マフチはともかく、ミフチ2匹。

 あいつら、妙に消耗していたような気がする。

 

 足も2~3本欠けてたし、誰かとやりあったんだろうか?

 と思ったが、他のグループに聞いてみても、自分達が相手をした大物はキッチリ仕留めた(そしてやはりミフチとヒノマガトリくらいしか出なかった)らしいし…考えてみれば、小物達の数も前回と比べると少なかったような気がする。

 ヒノマガトリは、小物を引き寄せるんだか生み出すんだか、そういう能力があった筈なんで、もっと餓鬼辺りが多くてもおかしくないんだが。

 

 

 おかしな事と言えばもう一つある。

 おかしな鳥が居た。

 別に鬼だとか霊力を感じるとかではないんだけど、普通鬼が近付いただけで逃げようとするのに、何故か空を回遊し続けていた。

 ヒノマガドリが飛ぶ余波で落ちそうになってもいたが、それでも留まっていた。

 

 もしやと思い、戦場付近…特に鬼達の進行ルート…を調べてみれば、おかしいくらいに動物の足跡が見られた。

 

 

 

 千歳が何かやったのか?

 いや、確かに動物を使役して、鬼の霍乱とかをやったって話は聞いてるんだが、あんな里から離れた所まで?

 しかも、里から離れた場所で、大型鬼数体が暴れた形跡がある……おそらくは、討ち果たされている。

 

 

 …なんだな、おかしな感じだ。

 ミフチ2体の損傷と、この戦闘の後からして、俺達の知らない『誰か』が防衛線に参加していたのは間違いないと思う。

 それも、恐らく貢献度で言えば、間違いなくトップに躍り出るレベルで。

 鷹の目を使って痕跡を辿ってみたが、一人で、あまつさえ本来なら前衛が必要な術者タイプ。

 

 相当な手練だな……。

 

 

 しかし一体誰が……ヤマトの頭は指揮を取っていたから違う。

 秋水も戦闘は専門外。

 橘花もだ。

 

 樒さん……は、何か隠し玉とか持っていそうな雰囲気はあるが、アリバイがある。

 当時は橘花と一緒に結界の強化に努めていたとか。

 

 じゃあ誰だ。

 しかも動物達の動きの後を見ると、千歳同様に動物を使役できる奴?

 そんなの居るのか?

 

 

 ヤマトの頭に報告すべきか?

 

 

 

 

 

 

 …さて、色々と考えを巡らせて誤魔化してはいたが…最大の問題から目を逸らせなくなってきた。

 

 

 いつも通り、二人とも無事に家に帰ってきているワケだが……緊張した様子で、こっちをチラチラしている千歳。

 

 

 「続き」、どこまでやっていいんだろうか…。

 今日は追儺の日だから、襲撃がこない限りモノノフは一日休み…時間が必要以上にあるんだが……。

 

 

 

 

魔禍月「僕達の勝利は! 約束されている!」By エクスカリハ゜ー日

 

 アイドルや巫女が、処女…それ以前に異性との付き合いが全く無い、なんて幻想を頭から信じているつもりは無い。

 が、それを信じて…心棒して…いる人は多いし、そういう現実的な部分がイメージダウンに繋がると言うのは多少は分かる。

 実物がどうあれ、「きっとこうなんだ」と想像したキレイなイメージこそが、アイドルの人気の源なんだろう。

 それだけに、それが壊されてしまった時のイメージダウンは計り知れない。

 

 そして今、その問題は俺に…正確に言うなら千歳に…降りかかっている。

 俺が一方的に、千歳をウタカタの里のアイドル・マスコットに仕立て上げようとしている訳だが、周囲から見た千歳の基本的な印象は、「頑張りやの女の子」だ。

 加えて言うなら、「幼い」女の子。

 それが強く保護欲を掻き立てている。

 

 しかし、これが「女の子」から「女」になってしまったらどうなるだろう?

 祝福される?

 まだ早い、と窘められる?

 俺が呪われる?

 と言うか悪評は全部俺に来るような気がするが、とにかく千歳のイメージがどんな変化を起こしてしまうか分かったものではない。

 

 

 

 いや、最後の一線は越えてないんだけどね?

 幸いと言うか残念ながらと言うべきか、千歳は自分の体を見せる事にまだ抵抗があるらしい。

 羞恥心的な意味ではなく、鬼の体への嫌悪感的な意味で。

 

 ふーむ、実際どうなっているのか、ちょっと興味はあったんだけどな。

 まぁ、そんなに見たいなら、マスクドライダーアラガミ!して自分の体をいじってみればいいか。

 千歳が躊躇っているのに、無理に見せてくれと言う程強い興味じゃない。

 

 

 で、結局「続き」はディープキスと、ちょっとだけペッティング。

 …年齢で考えると、条例に引っかかりそうな話だが、この世界にそんな条例は無い。

 服の上から、上半身しか触ってないし。

 ちなみに鬼になってる方のおっぱいは固かった。

 鬼の肌だからか…反対側のおっぱいは小振りだが柔らかかった。

 千歳はスレンダー美人タイプだな。

 肉感的な感じはあまりしないが、くびれの辺りのラインが実に美しく悩ましい…服の上からの感触でしかないが。

 

 あと、未開発ながら、耳が性感帯と見た。

 性感帯なだけでなく、精神的に不安定だからか、囁きによる刷り込みが非常に効きやすい。

 今回は「大丈夫」とか安心させる言葉ばかり囁いていたが、卑猥な言葉を囁き続ければ、それだけで興奮が止まらなくなるような体質にも変えられそうだ………いや、ウタカタのアイドルにするんだからやったらアカンて。

 

 

 

 …例の真言立川流は、多分に人間の体の方には通じる。

 ただ、それが鬼になっている体にどんな影響を与えるのか、慎重に把握しなければならない。

 一応、鬼の体の方にも霊力は流し込めるんだが、人間の体(或いは肌、霊脈)が全然違って、思うような反応を引き出せないって感じなんだよね。

 

 逆に言えば、体に霊力を流し込む事は出来るし、ポイントさえ分かれば人間の体と同じように、反応を引き出す事も、エネルギーを供給する事も……ひょっとしたら、鬼の体を治したりする事も?

 …うん、思わぬ所から解決方法が出てきたかもしれない。

 

 

 

 いや、口実が出てきたなんて考えてないよ。

 ワリと真面目に研究しようかと思ってるんだよ。

 

 …その手段が、ワリと爛れた手段だっていうのは認めるけど。

 一線を越える気は無いし。

 

 

 あれ、でもそうなると千歳の感情は?

 依存相手、キスして、「続き」もして…それで一線を越える気無し、将来そういう関係を考えているのでも無し?

 

 ………もっと最悪だったかもしれん。

 

 



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第58話+外伝9

最近、GE2RBをやる時間が減っている…。



魔禍月「ぎゃおー、狩っちゃうぞー」日

 

 大和のお頭が、霊山に向かった。

 なんか色々やってくるらしいが、前回も結局何をしたのかは聞かず終いだった。

 

 襲撃の翌日にはお頭が霊山に向かった為か、秋水も結界強化の提案は出さず。

 最高責任者無しで決められるような問題じゃないもんな。

 

 千歳と橘花は、えらく仲良くなっていた。

 桜花を助けに行った時の事が効いたか?

 それとも天狐効果で仲良くなったか?

 

 結界の強化提案とかが無い為か、特に気負っているような様子も無い。

 良い事ではあるかもしれんが、これまでのパターンを考えると……今は良くても、今後何処かで(それも面倒なタイミングで)問題が噴出すだろう。

 精神的な問題は、早期解決しておかないと拗れに拗れて、狙ったようなタイミングで爆発する。

 どの世界でも大体そうだったけど、討鬼伝世界では特にその傾向が強いように思える。

 

 しかし、こっちからプレッシャーをかけるのもな…。

 悪役っぽい振る舞いになってしまうのは別に構わないが、上手くやれるかが問題。

 秋水みたいにネチネチしたやり方は専門外だ。

 エロエロするかサクッと狩るのが俺の領分だし。

 

 

 …折りを見て、一度正面から聞いてみるか?

 橘花の性格からして、直接何かをしようとしない…或いは悪意を感じない…限り、妙な質問をしても他人に話す事はないと思う。

 

 そうだな、代わりと言っちゃ…いや、詫びも兼ねて、幾つか遊びを教えよう。

 前回のループの時に色々教え込んだおかげで、(エロ以外にも)橘花が気に入った遊びが幾つかある。

 とにかく巫女っぽくない事に興味を示す傾向があったっけな。

 それも、今の自分の立場から抜け出したいと思う願望の表れなんだろうが…。

 

 まぁ、細かい理屈はいいか。

 前回の時、俺と那木さんとの情事を覗く為とは言え、隠密行動がえらい上手くなったんだよなぁ…。

 今度は本格的に仕込んでみるか?

 案外、俺や速鳥を凌ぐくらいの隠密を身につけたりしてな!(ピコーン)

 

 

 …手動でフラグが立つ音を書くもんじゃねーな。

 

 

魔禍月「狩れないものなど、まだまだある!」日

 

 禊場が完成した。

 俺が知らない間に、千歳が色々走り回ったりしていたらしい。

 まぁ、正義のモノノフを自称するだけあって、人の為に動くのは苦にならないみたいだしね。

 その相手が、異形と化した自分を快く迎えてくれた里の皆だというのなら尚更だろう。

 

 …ただなー、禊場を作りたいって言ってた奴がなぁ…確かに、モノノフの役に立つし、水風呂とは言え風呂場ができれば皆便利になるって思ってたようではあるんだが…それと同時に、邪念がな…。

 桜花や那木さんの禊シーンとか期待してたっぽい。

 多分、これは前のループの時もだろう。

 

 そして今回は千歳の禊シーンも期待されているっぽい。

 

 

 

 よし初穂ちょっと手伝え。

 

 

 

 

魔禍月「人類は3乙方式を採用しました」日

 

 神木に男が吊るされていたらしいが、詳しいことは誰も知らない。

 男を炙って…もとい、燻していた焚き火の方なら心当たりがあるけどね。

 知りたきゃ神木の主にでも聞きなー。

 原作主人公(?)である俺も、原作主人公かもしれない(?)千歳も神木の主の声は聞けないけどな!

 

 …千歳も声を聞けない辺り、やっぱり主人公ではないんだろうか…。

 でもカリスマ性が…ああでも主人公に動物と会話する能力もなかったし、千歳にも複数のミタマを宿す力は無いし…?

 

 そういや、今回のループでは神木にお供えとか全然してなかったな。

 今更でなんだけど、久々にやってみるか。

 

 

 それはともかく、前回通りの流れになるなら、今度は那木さんのキャラエピソードの始まりだ。

 物見隊が襲われ、その治療をしようとしたが、トラウマから出来ず、それを主人公(前回の俺)に話す。

 

 …というか、那木が医療できない状態って事を桜花は知らなかったんだろうか?

 そりゃおいそれと人に話したい内容ではないだろうが、いざと言う時に医者が「実は手術ができないんです」なんて事にならないよう、出来ないなら出来ないで話だけでも通しておくべきだと思うんだが。

 大和の頭しか知らないのか?

 

 まぁ、前回同様ミタマの力で治療する方法を教えておくけど、それはあくまで一時凌ぎにしかならない。

 橘花の問題と同じで、何処かでちゃんと解決しておかないと、厄介なタイミングで牙を剥くだろう。

 とりあえず、桜花と那木さんで、今後の事について話し合いという名目で場を作ろう。

 水を向けてやれば、トラウマの事はともかく手術ができない現状の事は自分から話し出すだろう。

 そこでミタマを使った治療方法を教えればいい。

 

 

 

魔禍月「狩るですよー」日

 

 

 目論見は大体上手く行った。

 予想通りトラウマの原因については話さなかったが、手術ができない事は伝えたし、ミタマを使った応急処置のやり方も教えられた。

 桜花は…手術ができない事については、むしろ納得していた。

 

 深い知識と高い技術を持っている筈の那木さんが、モノノフとしてしか扱われず、医者としての扱いを受けない事を疑問に思っていたらしい。

 という事は、恐らく大和のお頭は那木さんのトラウマを知っているんだろう。

 だから医者の領分に首を突っ込ませず、モノノフとしてのみ動かしていた。

 

 …なんだかなー、仮にもチームと言うか組織としてそれでいいのかとは思うんだが。

 大和のお頭は、考えも無しにそんな事をする人じゃないし…。

 

 まぁ、とりあえず解決に向けて動くとしますかね。

 と言ってもどうしたものか。

 

 前回の流れは…そうだ、橘花が結界強化の影響で倒れたんだっけ。

 で、それで治療の為に必要な薬草を探して……どうなったっけ?

 ゲームでは確か、どのシーンだったか覚えてないが…ウミガメの鬼を倒した後、油断した所に主人公が一撃食らって…それを必死に治療して、トラウマを完全に拭い去ったんだっけ。

 

 

 

 

 ああそうそう、思い出した。

 薬草を探して橘花が立ち直った後、本格的な大攻勢があったんだっけ。

 前回は、仕掛けておいた罠に鬼達が勝手に嵌って爆裂四散してたから、印象に残ってなかったよ。

 覚えているのは、大爆発に恍惚としていた事だけ…いかん、思い出したらまたトリップしそうだ。

 

 で、ウミガメの鬼…ツチカツギとやりあうのはその後だ。

 

 

 …前回及び、ゲームの内容にある程度沿って進むとすると…今度の大攻勢で出てくるのは、空を飛ぶ鬼。

 比較的脆い、結界の上部から襲われたんだったか。

 今回もそれで来る、ただし前回の鬼達とは違うメンツで来るとなると……長時間空を飛べる鬼と言えば、ダイマエン。

 富獄の兄貴の因縁の相手だ。

 

 

 

 …仮に、その状況で富獄の兄貴が一人で向かってしまったら?

 里を危険に晒してまで一人で行くとは思いたくないが、一途な人だしな…。

 

 

 

 

 そうなってしまったら正直、状況をひっくり返せる気がしない。

 里の防衛の要である結界が破られれば、術者の橘花にもダメージが入り、ヘタをすると昏倒…前回でも同じように倒れたから、可能性は高い。

 

 で、ノーガード戦法を強いられている所に、重要な戦力である富獄の兄貴が一人抜け、各員の負担は増大。

 千歳が居ても、正直カバーしきれるとは思えない。

 相手がヒノマガドリ程度なら何とかできるが、その状況でダイマエンが相手じゃな…連れ戻しに行く事も、助けに行く事もできやしない。

 

 

 となると……ふむ。

 杞憂で終わればいいが、予想される危機に対してあらゆる準備をするのがハンターの在り方。

 一丁、出来る限りの根回しをしてみますかね。

 

 

 

魔禍月「健康マニアの…焼き鳥屋さんよぉ!」日

 

 千歳を通じて、橘花と那木さんを集める。

 今後の任務の事に関して、ちょっと相談があるという名目。

 話した事は、大体次のような感じだ。

 

 一つ目の案。

 まず、橘花が張っている結界に関してだが、今後、攻勢が強くなる鬼に破られる、或いは傷付けられる可能性がある。

 そうなると橘花に負担がかかる。

 現状、結界を肩代わりする事は誰にもできないので、せめて負担が増した時の為の準備をしたい。

 負担が増した際に起こり得る症状を調べ、それに対する薬を作れないだろうか。

 

 

 まぁ、要するに、前回は橘花が倒れてから…タヌキ草? キツネ草?を取りに行ったんで、今のうちに確保しておこうって話だ。

 と言うか、橘花が倒れたら一大事なのに、それに対する準備をしない筈が無い。

 …まぁ、あの薬草はほぼ絶滅してたという話だったし、準備しようにも出来ない状態だったのかもしれんが。

 

 

 二つ目の案。

 結界の上部は脆い。

 ならば、空を飛べる鬼…先日から飛び回っているヒノマガドリとか…が狙ってくるのは予想できる。

 脆い部分を集中攻撃されては、橘花の負担も一気に増えるし、もしも破られまいとしてそれで倒れてしまった日には、それこそ結界がなくなってしまう。

 なので、もしも上からの攻撃があった場合、逆に結界上部を開き、誘い込む事はできないか?

 

 という事だったんだが、流石にこれは却下された。

 神垣の巫女や一介のモノノフの一存で出来る事ではない。

 橘花の負担が減るという点を強調して、大和のお頭の代理を務めている桜花に相談すれば何とかいけるかもしれないが…。

 

 むぅ、もしもこれで鬼を誘い込む事ができたら、ダイマエンが出てきたとしても富獄の兄貴が一人で突貫する事は無くなると思ったんだが。

 こっちの里に近付かせるとは言え、ホームグラウンドで戦うからこっちが有利になるし、援軍にも行きやすい。

 

 そして橘花の為の薬を作っておく案だが、これは那木から問題があると言われた。

 と言っても、予想通りに材料であるキツネ草がもう残っていない、という話だったが。

 しかしそこはそれ、前回採取に行った場所を、俺がしっかり覚えている。

 どんな特徴のあった草かもしっかり覚えている……普通の人から見れば、その辺の草と大差なかったけどな。

 ハンターになってからという物、野草やら魚やらの細かい種別が簡単に見分けられるようになったもんだ。

 

 

 という訳で、ちょっと那木さん手伝ってくれぃ。

 俺じゃ薬は作れんからな。

 いや調合は出来るしカンパーウンドも出来るんだけど、それだと薬の皮を被った別の何かになりそうな気がしてならんのだ。

 

 

 

魔禍月「訳が分からなくもないよ!」日

 

 キツネ草は問題なく採取できて、薬も普通に作れた。

 が、別の問題を誘発してしまったよーな気もする。 

 

 いや、イベントの流れがどーのとか、そういう問題じゃないのよ。

 橘花がね…考えてみりゃ、昨日の提案にしたって、橘花の負担が増える事を前提に考えてるんだよな。

 確かに、橘花に何かあった時の備えをしておくのは必須事項なんだが、それを橘花に知らせてしまったのはミスだったかな…。

 

 自分の運命を呪っている橘花に、図らずもその現実を改めて突きつけてしまった。

 つっても、どうすりゃいいやら…。

 突きつけてしまった現実は、現状ではどうしようもない現実だ。

 

 

 

 

 …ああ、なんか…思い出すなぁ。

 まだこのループに入る前の事、いやそれよりももっと前。

 とある病気真っ最中、文字通り14歳だった頃の俺が嵌ったゲームと言うか世界観というか小説と言うか。

 

 その一節に、こんなのがあった。

 不思議とハッキリと思い出せる。

 ……もしもあの夢を見るのなら、何のスキルを会得するかね?

 靴下…ありそうで怖い。

 

 ともあれ。

 

 

「不幸な女性のために戦うのであれば、ただ勝てばいいというものではありません。

 不幸な女性のその心に光を灯さねば、なんの意味もない!」

 

 

 ああ、そうだ。

 全くその通りだ。

 俺は紳士じゃないし万能執事でもないし、色々な女性を私欲のままに貪っていた外道だが、今この時はよく分かる。

 きっと3日もすれば、また分からなくなるだろうけど。

 

 どうすれば、心に光を灯せる?

 心が救えるのは心だけだが、心を救えるのも心だけ。

 

 

 

 

 

 

 …なんか妙な意識がインストールされたような気がする。

 具体的にはメルヘンで気障で微妙に中二病っぽいのが。

 

 まぁ、ループに入る前の昔の事を思い出したから、微妙に意識が引きずられたんだろうけどなー。

 もしもあの辺のゲームの夢を見てスキルを得られるなら、精霊手とか天才とかよりも、OVERSシステムがいいね。

 世界の謎とかサッパリだったけど。

 

 

 さて、今日はこれくらいにして、たまには何も考えずに懐かしい思い出に浸ってみるか。

 

 

 

魔禍月「マリア様が目から怪光線出しながら見てる」日

 

 微妙にホームシックにかかった気がするが、多分気のせいだ。

 楽しめたからどうでもいい。

 ついでに千歳に色々物語として語ってみたが、ウケは良かった。

 

 それはともかく、橘花だ橘花。

 根本的な対処は難しいし、できれば千歳にどうにかしてもらいたいから、取り合えずの応急処置をしよう。

 要するに気晴らしの方法を教える。

 

 個人的には前回同様、尻の穴を弄る方法を教えてやりたい所だが、同じ徹を踏むのは御免だ。

 …でも、今回は誰かとそういう関係になってるワケじゃないし…いや千歳とそういう関係になりかけてるんだけど…。

 

 

 とにかく、エロい事オンリーでストレスを解消するのも、健全とは言えない。

 機会があればそっち方面を仕込むとして、とりあえず前回気に入っていた遊びを幾つか教えよう。

 そう言えば、気配の消し方を本格的に仕込む事も考えてたっけな。

 

 …遊びと平行して教えてみるか。

 

 

 

 

魔禍月「こんなの絶対可笑しいよ」日

 

 

 水切り、紙飛行機、木登り…後は、細い通路(田んぼと田んぼの仕切りとか)の上を歩く。

 軽く教えた遊びはこれくらいか。

 特に木登りが気に入ったようだ。

 服が汚れてしまうので、昇る時は普段の服じゃなくて汚れてもいい服でやるように。

 

 木登りはまだ一人では木に登れず、最初はどうすればいいのかもサッパリ分かってなかった為、俺が手本を見せて、手伝ってやった。

 そこそこ高い所まで上ったんだが、橘花はそこからの景色がえらく気に入ったらしい。

 確かに、普通に生活してちゃそうそう見られる光景じゃないよな。

 

 と言うか神木に登るとか、普通に考えて実にバチ当たりである。

 今日からお供えとか手入れとかするから、許してくだしぁ。

 

 ちなみに、ある程度の高さまで来たら飛び降りるのも気に入ったらしい。

 と言っても、1メートルあるか無いかの高さ程度だけど。

 ああ、なんか懐かしいなー。

 子供の頃は、無闇に高い所に登ったり細い道を歩いたり、そこから飛び降りて度胸試しとかしてたっけ。

 

 

 

 バレて桜花にガッツリ怒られた。

 

 ヘタな事言うと拗れるんで、この場は素直にお叱りを受ける。

 申し訳なさそうな顔をしていた橘花だが、すれ違い様にポケット…は無かったんで、服の裾に「次はバレずに抜け出す方法を教えるから」と書いた紙を仕込んでおいた。

 

 

魔禍月「狩人にリタイアは無いのだー!」日

 

 橘花に遊びを教えよう2日目。

 …遊びに行ったら、「まさか翌日に来るとは思いませんでした」と呆れられた。

 確かに警備がちょっと厳しくなってたが、アサシンめいたステルス能力がある俺には無駄の一言よ。

 

 しかし抜け出すだけならどうとでも出来るが、身代わりも用意してない。

 不在がバレたら確実に疑われるので、橘花の私室内で気配の消し方を教え込んだ。

 ふむ…やっぱ筋がいいな。

 

 今日教えられたのは、初歩の初歩だけ。

 家の中で歩く時にでも試してみるといい。

 ああ、流石に付け焼刃じゃ桜花辺りには通じないから気をつけるように。

 

 

 

 

 

 さて、それは置いといてだな…。

 

 

 

 性欲を持て余している。

 

 

 「いきなり何じゃい」と思われるかもしれな……いや、「いつもの事だろうが」と思われるかもしれないが、これにはちゃんと理由がある。

 千歳とね……寝る前の『スキンシップ』を毎日やってるんだよ。

 この前の攻勢が終わって、「続き」をした訳だが、あれから毎晩毎晩求められて…。

 やっておかないと、ゆっくり眠れないらしい。

 

 …最近、ディープキスと上半身の愛撫だけでも気をやるようになってきてるんだよな…敏感すぎね?

 

 

 まぁ、千歳の体を元に戻せる可能性がある訳だし、そういう意味ではこっちとしてもやらなきゃいけない事ではあるんだが。

 

 いや、一線は越えてないよ?

 千歳も相変わらず肌を見せるのを嫌がっているし、ペッティングも上半身しかしていない。

 でも、だからこそ性欲が持て余されると言うか…ぶっちゃけ、俺の方が発散されてない。

 突っ込んでないし。

 

 …仕込むか?

 手と口だけでも仕込むか?

 いや、超時空シンデレラモノノフとしてプロデュースしている千歳にそんな事をして、スキャンダルの種を作るワケには…いや、それを言ったらキスとペッティングも…。

 

 千歳は性的な知識はあまり持っていないらしく、男の性欲がどういう物なのかも分かってないようだ。

 出さなきゃ治まりがつかないって事も知らないし、ナニが固くなるって事も…どうも詳しい事までは知らないっぽい。

 なので、俺が我慢している事にも気付いてない。

 

 …気付かれたら、千歳の方から「どうすればいいの?」くらいは言ってくると思う。

 正直、我慢できる自信がない。

 

 

 どーすっかなー。

 普通に考えれば、所謂水商売、遊郭…とまでは言わないまでも、お金とってエロい事する職業の人は居ると思うんだが。

 しかしこのウタカタに入ってから、それらしいものは見た事がない。

 まぁ、前回は那木さんとエロエロしてて、探す必要なんか一切無かったんだけど。

 

 そっちに行って発散すれば、耐えられると思う。

 

 

 

 

 …『スキンシップ』の時に、千歳に「泥棒猫の匂いがする」とか言われないよね?

 ハイライトが消えた目で、あの可愛らしい恥らった表情が一気に消えて、それはもう能面のような、氷のような表情で…。

 

 

 …想像するのやめよう、なんか怖くなってきた。

 昨日と今日でさえ、橘花に構い倒していたのに妬いていたっぽいし。

 

 

 とにかく、『そっち系』の商売はウタカタの里じゃ見当たらない。

 小さな里とは言え、人類最古の職業が一切無いとは信じられない話だな。

 独り身のモテない男は、どうやってDT卒業すりゃいいのだ。

 

 

 となると、何処かでソロ活動?

 …それなら場所は山ほどある。

 と言うか、里の外に出て、まだ異界に飲まれてない場所に行けば、まず他人には見つからないからな。

 

 

 よし、任務の帰りにでも、ちょっと寄ってみるか。

 でもなー、正直治まる気がしないなー。

 

 

魔禍月「アイェェェェ!? 悪魔アイルー!? 悪魔アイルーナンデ!? チート禁止!」日

 

 ソロ活動とか久々すぎて、なんか懐かしかった。

 ちゃんとヌケた。

 

 

 だが治まらない!

 

 何故だ!?と思ったが、たった一言で済んだ。

 

 物足りない。

 

 

 …ええ、そりゃそうでしょうよー。

 MH世界では禁欲という指針があったからまだ耐えられたものの、GE世界じゃカノンとアリサで散々散々散々エロエロヌチュヌチュぐぽぐぽしたからなー。

 今更ソロでやったって、満足できる筈ないでしょう。

 何と贅沢な話!

 ループに巻き込まれる前の俺が知ったら、マスクを被って暴れだしそうな話である。

 

 

 うぅむ、ウス=異本的に考えて、樒さん辺りが影でこっそりやってないものか…。

 

 

 

 

 

 そんな事を考えてから里に帰ったら、樒さんの店の前を通りかかる時、「変態…」と絶対零度の視線で呟かれた。

 マジごめんなさい。

 そしてありがとうございます。

 

 …え、普段はクソやかましくて何を言っているのか分からないのっぺらトリオ達が、声を揃えて教えてくれた?

 余計な事しやがって……というかこのトリオども、やっぱり知ってる気がする。

 

 それはともかく、どうするかなぁ。

 中途半端に放出したからか、ムラムラ感が強くなってる気がする。

 

 

 …自分の所業を他者のせいにするような理論で何だが、ウタカタにそういう空気とか呪いが含まれているって事は無いよな?

 前回の時だって、何だかんだいいつつ普通に鬼畜ルートに入ってたし、今回だってふと気が付けばそっち方面に進もうとしている自分を発見するし。

 GE世界の時は…ある程度狙って動いたことは否定しないけど、二股になったのは半ば成り行きのようなものだった。

 どっちにしろ最低だが。

 

 

 

 

 

 さて、そんな事を考えておりましたらですね。

 ストーリーが進みましたよ。

 すっかり忘れてたけど、2度目の鬼達の進行です。

 

 予想通り、空を飛ぶ鬼が上空から仕掛けてきました。

 

 

 

 しまったぁ!

 結局、薬しか準備できえてねぇ!

 

 

 

 そしてダイマエンだよ!

 予想通りだ、やったね富獄チャン!

 

 




 はて、今度は一体何処じゃろな?
 えらく荒れた場所に居る。
 
 …というか、この空気は覚えがある。
 夢の中だったが、これはアレだ、戦国BASARAと同じニオイだ。
 戦場か、戦場跡の感じだね。

 という事は、戦国無双か三国無双辺りか?

 少し離れた場所から、えらい怒号が響いてきている。
 大人数がぶつかりあう気配もする。
 ふーむ、どうやら戦も終盤らしいな。


 ……なんだが、これってかなりヤバい。
 バケモノみたいな気配がビリビリ感じられる。
 いや、むしろこれって人間の気配じゃねーよ。
 文字通りの怪物怪獣の気配だよ。
 だって、さっきから響いている声…と言うか咆哮が、明らかにモンスターのものだもの。
 しかも超が付くほどデカい奴。

 おい、三国か戦国無双じゃなかったんかい。
 …まぁ、でっかいカラクリ兵器とか、それこそバケモノみたいな武将とか居るから、そいつらなのかもしれんけど。


 …どうする?
 ただの夢ではないとは言え、所詮は夢だ。
 行ってみるか?
 バケモノとやりあってる軍は、明らかに壊滅寸前だろう。
 

 …見捨てるのも忍びない、か。


 よし、行くぞ!







 そういう訳で、気配を殺してステルスしながらやってきたのだ。

 …まぁ何というか。
 マジであかんな、これ。

 ある程度近付いた時に分かったけど、明らかに三国や戦国無双じゃない。
 なんだあのデカブツ。
 アホみたいにデカい龍……いや、ヘビ? 大蛇? が6匹くらい…いや、この角度からじゃ見えないが、やっぱり8匹か?
 ヤマタノオロチでも出てきてんのかい。

 あかん、ありゃ勝てんわ。
 動き自体は単調のようだけど、溜め込んでる妖力の量が桁違いだ。
 どれだけやっても、消耗戦で負ける未来しか見えん。

 さて、アレには気付かれないように動くとして、壊滅しそうになってる軍は?

 …居た。
 遠目じゃよく分からんが、追われてるな…。
 ……追いかけてる連中が、人間じゃないっぽいんですが?
 とりあえず合流してみるか。

 人間側に?
 バカ言っちゃいけない。
 助ける手段も心当たりが無いのに、そっちに混ざってどうするんだ。


 変! 身!


 こっそり追いかける側に混ざります。





 あっさり紛れ込めた。
 ボスクラスのが居そうに無い軍団に紛れ込んだんだが、流石に最初は驚かれたよ?
 この…妖怪?達、白髪で角で肌が青いって以外は、殆ど普通の人間と変わりない見た目をしてるから。
 それに比べると、俺はなんかトゲトゲしてたりデカい武器とか腕から生えてたり、まぁ装飾過剰だこと。

 「あいつらを確実に仕留める為に、お頭から送り込まれた」と言ったらあっさり信じたけどね。
 あんまり頭良くないのかな?
 まぁ、どう見ても人間に見えないからかもしれないが。


 さて、追いかけてる人間達だが、もうボロボロだ。
 中でも目を引いた3人は…なんだ、強いっちゃ強いが、纏まりの無い連中だな。
 中国風の鎧と槍で大暴れしているにーちゃん、何となく学者っぽい格好をしてチャクラムを使ってるガキンチョ、それに…これも中国風?の仕立てのいい服を着た、剣を使うにーちゃん。

 この3人が軍の中心人物らしいが…何なんだ、この集団?
 格好とかには殆ど共通点が見出せないが、コンビネーションは見事だ。
 3人が固まって、まるで1人の人間のように入れ替わり立ち代り攻撃したかと思えば、3人バラバラに動いて互いの隙をフォローする。
 相当戦い慣れしているようだ。


 しかし幾ら強くても、この状況じゃな。
 兵士達の士気も下がっているようだし、あっちこっちから敵(つまり俺が居る妖怪軍)の援軍が出て、退路も断たれつつある。


 これは…流石に助けようが無いか?
 いや、閃光玉とか爆弾とか乱舞すれば…ギリギリ行ける?



 とか考えていたら、ちょっと離れた所から謎の発光と声。
 ほほう、誰だか知らんが、そっちに行けば助かるのか?

 よし、乗った。






 追い詰められている人間の軍の前に躍り出る。
 おっ、3人組のにーちゃんの目の前か。
 丁度、妖怪軍の攻撃を凌いで、あと1手あれば確実に殺せるって状況だ。 


「司馬昭殿ッ!」

「よっしゃー、新入り、殺っちまえ!」


 槍のにーちゃんが、こっちのにーちゃんの隙を見て声を上げる。
 ま、確かに殺される瞬間にしか見えんがな。

 そして悪いね、妖怪軍の皆様。


「ファイアウェイブ!」


 燃えろー。


「ちょっ、おい新入り、何でこっちに火を噴くんだ!」

「新入りじゃねーよ、一応人間側なんでね!」


 はぁ!?という前後からの声を他所に、更に炎を振り撒いて、妖怪軍の進入ルートをシャットアウト。
 そして槍のにーちゃんの一閃を、腕の形を変えた盾で受ける。
 …洒落にならんな、これ。
 島津のじっさま程とは思わんけど、牽制メインの一撃でこれか。


「貴様、何者だ!
 妖怪だというのに妖怪を裏切るとは、何たる卑劣!」

「おいおい、助力しようっていうのに酷い態度だね。
 そもそも俺は妖怪じゃない。
 人間だよ」

「何!?
 ならば尚の事、何故妖魔達から「まぁまぁ馬超さん。 今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ」む、半兵衛殿…」


 …なんか、さっきから微妙に聞き覚えのある名前が続いてんな。


「とにかく力を貸してくれるみたいだし、この状況で俺達を騙したって意味ねえだろ。
 一応、助けられた恩もあるしな。
 得体の知れなさで言ったら、こっちに来いって言ってる光だって似たようなもんだ。
 ここは信じてみるのも一手じゃないか?」

「むぅ…確かに、妖蛇も迫っている今、詮議している時間は無いか。
 貴様、今は何も言わんが、妙な事をすれば我が槍が貴様の体を貫くぞ」

「へいへい、疑い深いというか思い込みが激しいというか。
 そんじゃ行きますか」



 そういう事になったのだ。



 いやー、このにーちゃん達スゴイね。
 霊力とか特別な力は持ってない…いや、使い方を知らないように見えるのに、気迫とか気合とかで物凄い事やってるよ。
 突きで真空波を生むは、敵の体でサーフィンするは、軽~く人間の頭を超えるくらいに飛び上がるは…。
 しかも気合を全力で解放したら、相手の攻撃が当たっても平然と持ちこたえ、武器を思いっきり振り回して相手をブッ飛ばす始末。
 やっぱこれアレだよ、戦国無双と三国無双の無双技だよ。

 …無双にあんな妖怪とかデカい蛇とか出てきたっけか…。


 俺?
 俺は専ら炎を撒き散らして、追っ手を防いでいた。
 …鬼ノ目タカの目で、3人の戦い方を観察しながら。
 なんというか…3人に妙な繋がりが出来てるように見えるな。
 絆とかそーいうんじゃなくて、エネルギーを共有していると言うか…。

 
 そんな感じで、敵の大物に追いつかれそうになったりもしたが、何とか光の下へ到着。



 そして気がつけばワープしていた。
 今度は何処?

 そしてバチョーさん、そろそろ警戒解いてくれませんかね?



 かぐや姫を名乗る童女にイロイロ話を聞いていたんだが、その辺で意識が薄れ始めた。
 結局なんの夢だったんだ…。







 …そんな夢を見て目を覚ましたんだが…過去、最大級にヤバい技を覚えてしまったような気がする。
 ヤバすぎて試してもみてない。

 どんな技かって?
 それは……。



 のっぺらミタマを2体まで召還・具現化して、3人がかりで戦うという技だよ。
 あのクソウザいのを1体でも具現化させてたまるかぃ!


外伝:無双OROCHI編


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59話

最近、GE2RBがブラッドアーツ習得の作業と化しつつあったので、久々にRPGに手を出しました。
もんむす・くえすと!RPG。
単純なRPGですが、結構面白い…。
ただし逆レはイマイチ受け付けず。
やっぱり女の子をアヒンアヒン喘がせる方がいいなぁ。

そんな事を考えていたら、月一回の缶・瓶回収日を忘れてました。
既に1.5袋溜まっているので、来月の回収日までには3袋くらいになってると思われます…。


 

 

魔禍月「つかもうぜ! 竜玉紅玉天鱗その他諸々!」日

 

 はー、全く冗談じゃないっての。

 鬼はやたら多いし、富獄の兄貴は暴走するし、物凄い攻撃(だと思う)でやっぱり結界壊されて橘花が倒れるし、桜花が狂乱一歩手前になって千歳の修正パンチで冷静になるし。

 何とか凌げた。

 

 倒れた橘花に関しては、元々用意していた特効薬が効いた。

 今はもう意識も戻り、明日の朝にはすっぱり起き上がれるようになるだろう。

 ただし、それまで…いや、あと2日は結界を張らずに体を休めた方がいい。

 それくらいに、結界を壊されたダメージは大きかった。

 無理に結界を張っても、不安定な代物が出来上がるだけだ。

 

 ま、デカブツは大体狩れたんで、ゆっくり養生しんしゃい。

 

 

 

 真面目な話、今回はスピード勝負の大博打だったと言っていい。

 もしもダイマエンを仕留めるのがもう少し遅かったら、大乱戦に持ち込まれて里を守るどころじゃなかっただろう。

 

 結界を壊したダイマエンを見て、富獄の兄貴が暴走した。

 と言っても、降りてこないとどうにもできなかったんで、空に向けて奇声……もとい咆哮をあげるくらいしかできなかった。

 「いいから防衛に行くぞ!」と言っても、全然聞かなかった。

 まぁ、空を飛ぶ敵を、結界の無くなった里の上に放置しておけないってのも確かなんだけどさ。

 

 吼えてる富獄の兄貴を見かねたのか、それとも単純にどうにかした方がいいと思ったのか、ここで千歳登場。

 富獄の兄貴に声をかけ、一瞬ならばダイマエンの動きを止められる、と言った。

 一度地面に落としてさえしまえば、後は狩ってしまえばいい。

 

 独力でやる事に拘っていた兄貴だが、地面に落とさなきゃどうにもならないのは分かっていたんだろう。

 千歳を信じて、霊力を溜め始めた。

 

 

 で、ここで桜花の号令。

 どっちにしろダイマエンを放っておく訳にはいかないし、結界の無くなった里に向けて鬼達がどんどん進行してきている。

 富獄抜きでその進行を圧し留めるのは不可能に近い。

 

 ならば、全員でダイマエンを一気に仕留め、返す刀で鬼の侵攻に対処する、と。

 

 富獄の兄貴は色々言いたそうだったが、頭が冷えて状況が把握できたのか、千歳に「頼む」と言ったっきりだった。

 …千歳が、文字通り花も恥らうような笑顔で「自分だけでやりたいんだったら、私も手を貸さないからね」と言ったのは戦慄ものだったと思うが。

 

 

 結論から言えば、作戦は上手く行った。

 千歳が全力で、空を飛ぶダイマエンに金縛りをかけ、落下した所に総攻撃。

 

 久々の出番に、鬼千切が泣いています。

 

 いやーもう、いっそ哀れになるくらいのフルボッコでした。 

 本来なら4人組が基本チームなのに、里のモノノフ総出でズダ袋みたいな有様にしてしまった。

 部位破壊⇒倒れる⇒部位破壊⇒倒れる⇒そろそろゲージが溜まっている頃なので鬼千切⇒部位破壊⇒以下ループ。

 

 ゲームじゃトップクラスにクソな敵だと評判だったのに、何もさせずに狩ってしまいましたよ。

 翼を再生するヒマすらやらなかった。

 

 強力な鬼でも、数の力には適わなかったよ…。

 

 その後、ダイマエンの腹に囚われていた人々の魂が解放されて…非常に綺麗な光景ではありましたが、そんなもん見てる暇があったら鬼達の侵攻を抑えろという話である。

 感傷に浸る暇も無く、押し寄せる鬼達を斬って斬って斬って爆破して暗殺して落として吊るして暗殺して射殺して同士討ちさせて、ようやく何とかなった。

 物量が一番の脅威だね。

 ダイマエンを一方的にボコれたのも、数の力だったし。

 

 

 とりあえずピークは凌いだようなので、今は交代で休憩しながら前線を押し上げているところだ。

 里の近くまで侵攻していた鬼達も、戦力の中心だったらしいダイマエンが倒れた事で、てんでバラバラに動くようになり、今はどんどんその数を減らしている。

 一応、また空を飛んで襲われるのを警戒して、千歳が里についている。

 飛んできたら、また金縛りをかけて地面に叩き落すワケね。

 …ま、そうでなくても、上空のダイマエンを、空を飛べないレベルの金縛りにかけた事で、霊力をかなり消耗していたのだ。

 千歳が居れば橘花も落ち着くだろうから、暫く一緒に居てやってほしい。

 

 

 

 さて、そろそろ俺の休憩時間も終わりだし、準備をするかね。

 

 …ちょっと気になる事もあるしな…。

 

 

 

 

 

魔禍月「ジョワッ!(スワヒリ語でおk)」日

 

 

 里周辺の敵は全て掃討した。

 橘花も回復し、改めて結界が張りなおされて、一安心である。

 後は討ち漏らしが無いかの見回りのみ。

 

 余談だが、やはり結界を破られた橘花の容態は、見た目よりもずっと悪かったらしい。

 薬の準備と、その後すぐに体を休ませた事が功を奏して早期に回復できたが、無理に結界を張っていたら寿命が縮んだか、或いはまた倒れて結界が消えていたかもしれないとの事。

 

 その辺の事に関して、橘花や桜花から礼を言われたりもしたが、それはちょっと置いといて。

 

 

 

 この大攻勢への反撃だが、やはり前回の攻勢の時と同じく、ウタカタのモノノフ以外の者が参加していたようだ。

 俺達が里周辺で戦っていた頃合に、別の場所…異界近くで、知らない術者が暴れていた形跡があった。

 うーむ、凄腕だな。

 結構な量の鬼達が押し寄せただろうに、立ち回りの後に乱れが殆ど見受けられない。

 どうやら無理に鬼達を圧し留めようとせず、自分に追いすがってくる鬼達を各個撃破したっぽいが、それにしたって鬼達に囲まれて冷静かつ堅実に動いていたのは間違いない。

 

 …ウタカタにある程度近付いた辺りで、姿を晦ませたな。

 

 その後を通過した鬼達のおかげで霊気の痕跡が乱れている。

 どっちにしろ、これだけの術者がそうそう足がつくようなマネをするとも思えんが…これは追えないな。

 

 一体何者だ?

 前回も今回も、ウタカタの防衛に(不本意なのかもしれないが)参加しているのだから、敵ではないと思う。

 しかし姿を見せてない。

 ゲームの登場人物に、それらしいのが居たか?

 ……いや、居なかったように思うな。

 討鬼伝のゲームに出てきた登場人物は、現在ウタカタに居るモノノフ達と関係者達で全員だったように思う。

 名前だけ出ていて、登場して無いキャラクターとか居るかもしれんが、そこまでは覚えてない。

 

 ああ、でも確か俺がループに入る直前くらいに、討鬼伝極が出るって話が出てたんだよな…。

 そっちの登場人物までは覚えてない。

 

 どっちにしろ、これだけ手練なら前回も気付いたと思うんだが…いや、山篭りのお蔭で色々レベルが上がったから気がつけるようになったのかな?

 

 

 それに、今回もやはり、動物達が色々動き回った跡が見えた。

 千歳ではない。

 千歳は今回の戦いでは、里から離れてない。

 

 

 

 

 …術者で、千歳同様に動物を使役する力を持っていて、凄腕で…?

 うーん、どう考えても千歳の影が被るなぁ。

 千歳の師匠とか血縁者じゃないのか?

 いやでも千歳は50年以上前の人間だし…。

 一度聞いてみるか?

 

 

魔禍月「もし、僕が悪魔でも。狩らないでいてくれますか」日

 

 聞いてみた。

 心当たりは全く無いらしい。

 

 千歳の家族(あまり思い出したくなさそうだった)にも同じような能力を持っている人は居なかったらしいし、兄弟の類も居ない。

 しかし、前回・今回に影で力を貸してくれた人については、「きっと正義のモノノフよ! 人知れず戦っているのよ!」と目を輝かせていた。

 その手の思い込みをすると、後で現実を付き付けられてがっかりするのがオチだぞ…。

 そもそも影ながら戦う理由もメリットも無い状況じゃないか。

 

 だが言い出せなかった。

 キラッキラした子供みたいな目が眩しすぎた。

 あんまり夢を見せすぎて、もじ実物にあった時のそのイメージを押し付けようとするなら問題だが、子供が夢を見れない世の中なんて希望も何もあったもんじゃないよな。

 うん、暫く好きにさせよう。

 

 とは言え、千歳は妙な所で思い込みが強いというか、極端から極端に走る節があるから……影のモノノフから、こっちに意識を向けさせるか。

 具体的には、いつものスキンシップで。

 

 

魔禍月「君は討伐してもいいし、捕獲してもいい」日

 

 桜花に報告。

 何故黙っていた?と言われたが、確信を持ったのは今回だしな。

 前回だけだと、通りすがりって可能性もあったし。

 

 聞いてみたところ、桜花にも心当たりは無いらしい。

 里には斥候部隊やら医療部隊やら、エース級のモノノフではなくても、戦える(抵抗できる、というレベルだが)人は意外と多いのだが、それほどの手練ならばとっくに主戦力として使っている。

 

 となると、益々誰だ?

 敵ではないとしても、姿を見せない理由が分からん。

 と言うか、この辺で里を使わずに生活するとなると、結構難易度高いぞ?

 俺みたいなハンターなら、野生動物とか軽く狩れるからいいけどさ。

 

 前回の攻勢の後、味方してくれた影のモノノフの痕跡を求めて野山をうろつき回ったが、それらしい痕跡は何もなかった。

 焚き火の類の跡もなければ、動物を仕留めて食らった跡も無い。

 どうやって生活してんだ。

 

 

 確かに気になるが、無理に捜索しようとすると刺激する恐れがある、というのが桜花の見解。

 そりゃ確かにそうだが…味方してくれてる相手をわざわざ探ると言うのも不義理な話ではある。

 しかしながら、本当に味方なのかという事も確認せにゃならんワケで。

 

 最近は大人しくしているようだが、秋水だって陰陽方のスパイだか

 

 

 

 

 

 そういや、秋水が千歳の周囲を嗅ぎまわってたよな。

 最近はやってないみたいだが……具体的な時期は、前回の攻勢の頃だったか?

 いや、それとも千歳と那木さんの禊シーンを期待していた男が木から吊るされてた頃だったっけ?

 

 …秋水が多少リスクがあるくらいで、調査を諦めたとは思えん。

 あいつの執念深さは筋金入りだからな。

 という事は、何かしらの結果を掴んだ?

 それとも調査する必要が無くなった?

 

 そう思って、横目+タカの目で秋水を観察してたんだが……資料のページを捲るペースが落ちていたな。

 あいつ、影のモノノフに心当たりがあるんじゃないのか?

 

 だが確証も無いし、正面から聞いてもはぐらかされるだけ。

 千歳も秋水とはあまり接点が無いから、心を開いているワケでも、そこまで期待をかけている訳でもないだろうし…。

 取引の必要があるな。

 

 取引材料は、前回同様に時間を遡ったと思しき現象……と、もう一つ。

 イヅチカナタに関する情報だ。

 存在すら定かではない、資料が残っているのかも分からない存在だが、少なくとも千歳は実物と遭遇しているらしい。

 時間の間を回遊する鬼。

 もしもその力を利用できれば、過去に戻る事も可能なのではないだろうか……字面だけで考えればね。

 

 秋水が信じるかどうかはともかくとして、もしもそれらしい資料を見つけた時、教えてくれれば御の字だ。

 千歳の話じゃ因果を食らうって事だったんで、例えば本とかにイヅチカナタの事を誰かが書きとめていても、それが消えてしまうって事も考えられるが…まぁ、何もしないよりはマシだろう。

 少なくとも千歳の記憶は食い残されているのだ。

 探せば痕跡くらいはあるかもしれない。

 

 

 

魔禍月「カンカンカン!カンカンカン!10連こんがり肉焼いても生焼け肉食うな!」日

 

 皆の都合がつかないので、ちょっと単独任務。

 なんだが、こういう時に限って新種の鬼に襲われるのが世の常である。

 

 新種と言っても、知識としてだけなら知ってる奴だったけどね。

 クトナサエ…何か違うな。

 クサトナエ…クナトサエ……とにかく、陸亀みたいな鬼だった。

 

 背中の砲塔から撒き散らす瘴気の塊は厄介だったが、それだけだ。

 動き自体はそんなに速くないので、攻撃を欲張りすぎなければそこまで梃子摺る相手ではなかった。

 単独任務だったから、仮面ライダーアラガミ!も暴れ放題だったしね。

 

 が、問題だったのはその後だ。

 変身!した瞬間、誰かがひどく驚愕した気配を感じた。

 

 恐らく、気配の主は以前から問題にしていた、影のモノノフだろう。

 

 俺としては誰かに見られた事よりも、それ程近くに接近されながら、全く気付けなかった方がショックだったが、それはどうでもいい。

 俺に気付かれた事に気付いたのか、気配の主はすぐさま離れていった。

 陸亀モドキを全速力で叩き潰し、後を追いかけた。

 

 気配に気付き、撤退されてから30秒くらい経っていたが、そこはタカの目と鬼の眼とハンター追跡技能を持つ俺である。

 何処にいた、という具体的な場所さえ分かれば、痕跡を追って(と言うかもう過去視のレベルになっているが)気配の主を追うなど朝飯前だ。

 

 事実、追跡自体は難しくなかった。

 俺を撒く為に色々と小細工…所謂戻り足とか、術を使ったミスリードとか…を幾つもバラ撒いていたが、全部看破して…あとちょっとの所まで追い詰めたのだ。

 

 

 が、忘れちゃいけないのが、俺達が居たのは異界の中だという事だ。

 まだ瘴気が少なく浅い場所でならともかく、異界の中は常に流動し、形を変えている。

 影のモノノフが逃げた先が、流動してしまった。

 こうなるともう追うに追えない。

 

 

 しかし……手がかりらしきモノは、見つけるには見つける事が出来た。

 最初に気配に気付いた場所近くに、小さな髪飾りが一つ。

 驚いた拍子に落としたのか、隠形には不向きと判断して切り捨てたのかは分からないが、これが影のモノノフの持ち物である事は確かだろう。

 

 …これを元に、影のモノノフの正体を割り出さなきゃならんのか…。

 ウタカタで手に入るものとは限らないし、素直に橘花に千里眼使ってもらった方が確実かなぁ。

 でもそれは桜花が反対するだろうし、先日倒れたばかりの橘花に負担をかけて結界に影響が出ても困る。

 

 

 

魔禍月「竜ハントはもう飽きた」日

 

 

 たたらさんに、例の髪飾りを見てもらった。

 珍しい素材、力が宿った髪飾りではないが、えらく古い製法で作られた鈴らしい。

 その製法を使う事に何か意味はありそうか?と聞いたが、「ワシがそんな事を知るか」と一蹴された。

 まぁそりゃそうよね。

 

 ただ、タタラさんが知る限りでは、この飾りを使った特別な儀式などは聞いた事が無く、そもそもこの髪飾りに使われている製法に必要な設備がある場所は現存している里の中には無いらしい。

 残っていた設備は全てオオマガドキで異界に沈み、少なく見積もっても作られたのは数年以上前で、既に異界に沈んだ里の中。

 

 …更に注目すべき点として、この髪飾りは酷く古い。

 俺では年代は分からなかったが、タタラさんの見立てでは、作られてから数十年以上経っているとか。

 

 ふむ……これらから考えられる事は?

 

 

 

 

 分からん!

 

 

 まぁ、影のモノノフさんは、相当な年寄りか、古い道具を受け継いでつかっているって事だよな。

 それが何じゃいと言われればそれまでだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰って発見した。

 この髪飾り、千歳がつけてるのと同じ奴じゃね?

 

 

魔禍月「狩りに出会いを求めるのは間違ってはいないと思う」日

 

 千歳に頼んで、持っている髪飾りを貸してもらった。

 「ヘンな事に使わないでよ」って、お前下着とか借りたワケじゃないんだからさぁ…。

 まぁなんだ、いつもポニーテールだけど、ロングの千歳もかわいいよキラッ

 

 それはともかく、タタラさんにこの髪飾りを見せにいった所、「なんだこりゃ」とのコメントを頂いた。

 

 俺には今ひとつ分からないが、髪飾り一つにしたって、作った者の技量や癖が出るのだという。

 色や艶は勿論、素材を加工し削った後や、色々な痕跡が残る。

 タタラさん程になると、手にしただけでそれをある程度把握できるのだとか。

 職人の世界だね。

 

 それはともかく、千歳が持っている髪飾りと、拾った髪飾り。

 そこから見受けられる癖や痕跡その他諸々が、全く同じなのだという。

 

 精密機械で大量生産できるようになった時代ならともかく、少なく見積もって数十年以上前に、そんな設備があるとは思えん。

 つまり人の手で、真心篭めてドモホルンリンクル…じゃなかった、一つ一つ仕上げていっていた時代のモノ。

 そんな時代のモノなのに、全く同一の髪飾りと言っていい。

 

 率直に言えば、ありえない程に似ている…いや、タタラさんから言わせれば、全く同じ物が二つある、というレベル。

 人間で言えば、体の構造から性格、趣味思考まで全て同じ人間がもう一人居る…ドッペルケンガーみたいなものだ。

 

 もしもこれを意図して作り出したのなら、その腕は自分の及ぶところではない、とまで口にした。

 

 

 ぬぅ…確かに人間って、極めれば精密機械以上の作業が出来るようになるんだが、タタラさんにここまで言わせるとは…。

 だが、もう一つ可能性はあるっちゃある。

 机上の空論レベルだが……アレだ、所謂タイムパラドックス的な。

 

 今この里に居る、千歳。

 それが何らかの理由で…例えば異界の中で迷子になって…過去に戻り、それから影のモノノフとして密かにウタカタに戻ってきているとしたら?

 ここにある千歳の髪飾りと、影のモノノフの髪飾り…同じ物が二つ存在する理由にはなる。

 

 コジツケだけど…。

 

 

 

 ん? 

 コジツケではあるが、これってよく考えたら秋水が千歳に執着する理由にならないか?

 過去に戻る事が秋水の目的で……影のモノノフと繋がっている疑惑がある。

 そして影のモノノフが未来の千歳(と言うか過去に飛んだ千歳)だとすると…千歳が今後、タイムスリップする可能性が高い。

 秋水としては、その現象は是が非でも目にしておきたい(或いは共に過去に連れて行ってほしい)現象だろう。

 

 …秋水が千歳を調べまわってたのはコレか?

 いやでも、最近は調べなくなってたみただし…。

 

 邪魔者が入らないタイミングを見計らって、尋ねてみるか。

 幸い、前回も何だかんだで過去に遡ったと思しき現象(出任せだが)で協力体制を築く事には成功している。

 余計なハプニングさえなければ、多分何とかなるだろう。

 

 

 

魔禍月「剣の極意は、近付かずに狩れ」日

 

 

 千歳が怪我をした。

 いやモノノフやってりゃ怪我なんぞして当たり前なんだが、割と重症…の一歩手前だったとか。

 重症なのか軽症なのかハッキリせーや、と思うが、まぁ怪我なんてそんなものだよな。

 命に関わるのが重症、行動に関わらないのが軽症なら、命に別状が無くて後遺症が残るのは中症になるのか?

 普通に重症だと思う。

 

 重軽傷の基準はともかくとして、詳しい話を聞いてみると、ゲームイベントで言う那木さんクライマックスシーンっぽい。

 ツチカツギと遭遇して、勝ったと思ったらまだ動き、不意打ちで主人公が那木さんを庇ってダメージ。

 倒れた主人公を、トラウマを振り切った那木が治療してハッピーエンド(もうちょっとどころじゃなく続くんじゃ!)だった筈だ。

 

 事実、前回もそんな感じだった記憶がある。

 まぁ、俺のときは対してダメージ無かったのに、那木が婚活も含めてやたらアグレッシヴになってそこから男女の関係になったんだが。

 

 で、今回だが…ぶっちゃけ、大したダメージは無かったらしい。

 不意打ちを受けて那木が慌てはしたものの、攻撃を受けたのは鬼の体となった部分。

 千歳が気に入らなくても、防御力はヘタな鎧を凌ぐ一級品である。

 

 頭を揺さぶられた感じで昏倒こそしたものの、少なくとも後遺症が出る事は無い、と那木さんからお墨付きが出た。

 今は念の為、無理に起こさず里の診療所で眠っている。

 

 千歳が無事だったのは喜ばしい事だが、これってキャラクターイベントとしてはどうなんだろうな。

 前回とゲームを考えるに、那木さんのトラウマはここで振り切られている。

 しかし、今回の千歳は倒れこそしたものの非常に軽症。

 医者として診療こそしているだろうが、多分手術の類はしていないだろう。

 それこそ、以前伝えたミタマの治療だけで充分だった可能性もある。

 

 うーん、ちょっと分からないな。

 手術が無くても、トラウマさえ乗り越えれば那木さんは優秀な医者に戻れるだろうし。

 まぁ、今度聞いてみるかな。

 

 

 

 さて、それはそれとして、ちょっとした発見があった。

 千歳が倒れてると聞いて、急いで診療所に行って…まぁ要するに、見舞いにきたワケだが。

 

 とりあえず、聞いていた通り傷は無さそうだし、霊力的にもおかしな所はないので一安心。

 なんだが……別の問題が出た。

 

 

 なんというかね。

 

 

 千歳の下半身の辺りにね、テントが出来てんのよ。

 

 割と厚手の布団を押し上げる勢いで、テントが出来てんのよ。

 

 

 思わず捲ってしまった俺に、何の非があろうか。

 

 

 

 

 …で、まぁ、テントは思ったとおりのモノだった。

 うぅ~む、こりゃヘタなご立派様よりご立派様やでぇ…。

 

 

 これは所謂アレだ、男性の朝立ちに相当する現象だろう。

 毎日、俺の隣の布団でおっきしていたんだろうか?

 

 …よくよく考えれば、大抵の場合千歳は俺より早く起きているし、寝ている時も仰向けではなく、横向きかうつ伏せで寝ているところしか見た事がない。

 なるほど、単純だが簡単な隠蔽方法だな。

 

 

 しかし、おっきくなっているという事はそろそろ千歳の目が覚めるかもしれない。

 もうちょっと探求してみたいところだが、ここは引き下がるとしよう。

 念のため、千歳を横向きに寝かせて…何か言われたら、寝相だと言えばいい…よし、完了。

 撤退。

 

 

 

 




次の外伝は……聖剣伝説LOM Side Travelか、北斗無双あたりかなぁ…。
プロット無いけど。


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第60話+外伝10

もんぱらクリアしました。
ベリーイージーモードで。
逆レシーンは、おねだりしたアリスとバーニィさんだけです。

ところで、もんぱらの外伝を書いているのですが…やっぱ逆転無しにすべきかなぁ…。
深くまで描写する訳じゃないから、逆転も何も無い気もしますが。

逆転無しだからこそのもんむすという見方もあれば、原作で逆転無しだからこそ覆して上位に立つのが楽しいという意見もある。
理想郷の「望むところだ!」はその点凄かったですね。
逆転無しのまま、結果的に逆転状態w

ところで、最近は外伝を別作品として切り分けるべきか、少々悩んでいます。
そうすればR-18系統の話も遠慮なく書けるようになりますが、本編の方で外伝を小ネタにもしているので、「ここに外伝が挟まるので、ブラウザバックして見てきてください」というのも店舗が悪い。
特に仮面ライダーアラガミ!が出来るようになる夢は、あそこに挟んでおかないとワケが分からないだろうし…。
どうしたもんでしょう。





堕陽月「新春隠し芸大会 BYモンスター」日

 

 

 前から新しい月に入ってたのに、気付かなかった。

 そういう事ってあるよね?

 新年に変わったばかりの時とか、書類に去年の数字を書いてしまったとか。

 

 ま、それは置いといて、千歳は無事に目を覚ました。

 モノノフ達みんな一安心である。

 那木さんも、何がどうなったのかよく分からんが、トラウマを振り切れたようで、千歳だけでなく他の人々の治療にも携わっていた。

 とりあえず、那木さんのキャラクターエピソードはクリアしたと思っていいだろう。

 トラウマを乗り越え、千歳にも充分な信頼を預けている。

 八方丸く収まった、という奴だ。

 

 

 さて、そうなると次のストーリーに対する準備をしておかねばならない訳だが、それよりも先に問題がある。

 千歳の事だ。

 

 別に千歳がナニした訳じゃないが、先日の診療所で知ってしまった驚愕の事実。

 即ち、千歳がフタナリだという事。

 

 恐らく、千歳が「スキンシップ」を上半身でしかしようとしないのは、これが理由だろう。

 鬼の体を晒す嫌悪感もあるのだろうが、それ以上にナニが生えてるのを知られたくない、と。

 まぁ、年頃の乙女なら分からなくも無いな。

 

 それに加えて、恐らく千歳のナニは鬼に浸食された結果できあがった物だろう。

 千歳にしてみれば、異形化し、変化してしまった自分の象徴であり、女性として本来存在しない恥辱的な部位である訳だ。

 そりゃ知られたくもあるまい。

 

 

 別に俺としては、全然問題ない。

 そりゃ千歳がタチというか突っ込む方と言うか俺の尻を掘る方に回るなら話は別だが、千歳は身も心も女の子なんだし、別に忌避感は無い。

 普通の男のナニを掴めと言われれば嫌悪感の方が強く出るが、千歳なら問題ないな!

 むしろ女性の感覚と男性の感覚を同時に受けた千歳がどうなるのか、見てみたいくらいだ。

 

 

 …性的な方面に話が流れていったので、ちょっとストップ。

 とりあえず、千歳がフタナリな事で問題はあるか?

 

 ……別に無いな。

 

 誰かに見せるワケでもなし、トイレ以外で使うワケでもなし。

 別に秘密にさせておいても問題は無い。

 「スキンシップ」も、無理に現状以上の事をする必要はないんだし。

 

 

 ただ、ちょっと俺の欲求不満が溜まり続けてるだけでね?

 

 

 

 

堕陽月「拳銃(ボウガン)は普通の武器だ!」日

 

 

 大和の頭がいつのまにやら里に戻ってきていた。

 が、何が変わる訳でもないな。

 桜花が頭領代理役を降りたんで、一介のモノノフとして戦場に出られるようになったくらいだ。

 

 

 千歳が退院したので、一緒に散歩。

 「ちょっと油断した」と言ってテヘペロする千歳にデコピンかまして思うのだが……あのツチカツギ、どんだけ死んだフリが上手いんだよ。

 前回の俺の時も、何だかんだで俺・那木さん・富獄の兄貴の不意をついて攻撃してきたし。

 俺が速攻で仕留めた時と違って、今回は千歳・那木さん・富獄の兄貴の3人とも、真っ当な戦闘体制・意識を持って臨んでいた筈。

 それを、勝利を確信させる程の死んだフリで謀って、逆に一撃。

 この3人の戦い方なら、恐らくトドメは富獄の兄貴の鉄拳だろう。

 つまり、富獄の兄貴にとっても、仕留めたと判断できる程の手応えがある一撃を受けている。

 

 死んだフリどころか、普通に死んでるよ普通。

 他のツチカツギは、死んだフリもしなければ、倒れた後に驚異的な生命力を振り絞って反撃、なんて事もしてこない。

 あのタイミングで現れるツチカツギだけの個性なんだろうか?

 まぁ、鬼にだって個性があっても全くおかしくはないんだが。 

 

 

 ところで、フラフラ散歩していたら、何時の間にやら神木の前に来ていた。

 先日からちょくちょく手入れとかしているんだが、あそこって基本的に誰も来ないんだよな。

 

 

 

 つまり、診療所ではできなかった「スキンシップ」も誰にも見られないという事だ。

 一応言っとくが、今回は俺じゃなくて千歳から誘ってきたんだからな。

 

 キスから始まって、例によって上半身のみのペッティング。

 千歳からイイ声が出始めたところで……ガサッと。

 

 

 ええなんていうかね、アイドルが逢引シーンを盗撮された事に気が付いた心境でしたよ。

 千歳も赤くなっていた顔を別の意味で赤くして、バッと離れて。

 

 

 そして、草叢からカラスが飛び立った。

 

 

 

 千歳は「なんだ、カラスか…」と、ホッとしたようないい所に水を刺されてご立腹のような顔をしていたが…俺はちょっと違った。

 こんな所にカラス?

 いや、居る事自体はおかしくないんだが、この距離で大人しくしていたのが気になる。

 これくらいの距離になれば、もっと早くに飛び立って逃げている筈なんだが。

 

 …しかも、そのカラスは木の上に止まってまたこっちをジッと見ていた。

 ……明らかに普通のカラスじゃない。

 例の影のモノノフか?

 人知れず戦い続ける影のモノノフ(仮)がデバガメか?

 …そういや、先日のコジツケで、影のモノノフ=未来の千歳という図式が浮かんでるんだよな。

 これがマジだったら、どーいう目で見られている事か…。

 

 

 

 

 

 

 あと、カラスのお蔭で千歳に気付かれなかった橘花=サン。

 木陰でホッと一息ついてるのを見逃してないからな?

 どうやら先日教えた隠形を使って、お忍びで里を歩き回ってる時、俺達を発見して後をつけてきたらしい。

 ちょっと見ない間に、本格的に腕をあげやがって…。

 

 …前回の那木さんの時といい今回といい、橘花には天然のデバガメ体質でもあるんだろうか…。

 

 

 

堕陽月「タカリと窃盗犯は死すべし。ジヒはナイ。ただしメラルーだけはギリギリ許す」日

 

 

 困った事になった。

 個人的には嬉しくもあるのだが。

 

 いや、ナニがこまったってさぁ……橘花が、「昨日、千歳さんとしていた事は何だったんですか?」とダイレクトに聞いてきたんだよ。

 …そういやまともな性知識なかったんだよね!

 前回も那木さんとの秘密の遊び(本番シーン)を見た挙句、それについて知りたいからと秋水に直接聞くようなお嬢さんだった。

 

 さて、どうしたもんだろうか。

 気分的には、鴨が葱背負ってやってきたというか、アイルーが食材持って厨房に押しかけてきたと言うか。

 ぶっちゃけ、前回同様に色々教え込んで染め上げるチャンスである。

 

 が、それでは前回と同じ徹を踏む事になる気がしてならない。

 いや、もっとダイレクトにNice Boatする未来さえ見える。

 

 だがこのチャンスを逃したくは無い。

 前回、開発するだけ開発して、結局いただく事ができなかった橘花の尻。

 チャンスが巡ってきたのだから、今度は是が非でもいただきたい。

 

 だが、千歳がなぁ…。

 

 

 俺と千歳の中は、俺が気付かなかっただけで里では既に公認の中になりつつあるらしい。

 プロデュースがどうの、アイドルの幻想がどうのと色々考えてたが、年頃の男女が二人っきりで里の外れの小屋に住んでればねぇ。

 恋人と見るか夫婦と見るかで意見が分かれているそうだが、とにかく俺達はそういう関係だと認識されていた。

 うん、常識的に考えりゃそうだったね。

 

 まぁ、それに反対しているのは初穂だけで、アイドルの幻想にも特に傷はついていなから別にいいんだが。

 

 

 ともかく、だ。

 問題なのは、千歳が俺と橘花との関係を知ってしまった時だ。

 また精神的に不安定になるのも問題だが、もっと物理的な危険も考えられる。

 本人だけじゃなくて、千歳を信頼しているモノノフ達からムラハチ食らう可能性だって考えられる。

 那木さんとか、絶対激怒するよなぁ…。

 前回の最後、浮気がバレて笑顔で矢を射てくるシーンが思い出される。

 

 富獄の兄貴だって、何だかんだで千歳のおかげで仇を取れたようなもんだし、初穂に至っては……「千歳を泣かせるような奴は去勢してやるわ!」とか叫んで、妙なブーストかかった状態で襲い掛かってきそうだ。

 桜花だって、妹をツマミ食いされて黙ってる訳が無いし…。

 

 

 

 もう八方塞がりな感じだね!

 

 …ここで、「そもそも二股とかしようとするな」という、真っ当な意見を述べるフトドキモノなんぞ居ないとは思うが、一応付け足しておく。

 俺のムラムラは!

 

 全ッ然解消されてないんだよぉぉぉぉ!!!!

 

 千歳と「スキンシップ」をするようになってからというもの、事実上のスンドメスンドメスンドメ!

 下半身を使ったスキンシップは一切無し!

 俺のシモを触ったら、自分のシモも触らせないといけないと思っているのか、千歳に色々お願いしても断固拒否される!

 

 自分で処理してもこのムラムラが治まらない、そこへ来てカモネギだぞ!?

 誰だって食いつこうと必死になるわ!

 

 

 

 とにかく、手を出さないという選択肢は無い。

 俺の欲望が限界だ。

 

 

 2番目に最悪の手段を用いてでも…。

 

 

 

 

堕陽月「エンディングに入る前に泣いとけ」日

 

 

 2番目に最悪の手段。

 即ち逆ギレ。

 千歳がヤらせてくれないからこうなったんだ!の理論。

 

 …あながち間違った事でもないんだが、色々な意味で最悪だった。

 

 ちなみに一番は言うまでも無く、相手の意思を一切無視する犯罪行為だ。

 

 

 まー何ぞヤるにしても、すぐに出来るもんじゃない。

 前回だって、橘花にヤリ方を教えて実践させて、自分からヤられたいと思うくらいに熟成させてたんだ。

 同じ徹を踏もうとしているのだとしても、特に前準備も無しにイタダキマスイタダキマシタで終わっちゃ、色々な意味で不完全燃焼だ。

 

 前回同様、ヤり方だけ教え込んで、それで食えなくなるなら…まぁ、それで良しとしよう。

 

 

 

 

 それはともかくとして、ストーリーの話に移る。

 前回及びゲーム内容を考えれば、次に出てくるのはタケイクサ…ピンチになると何故か逆立ちする、実にファンキーな鬼である。

 アイツが息吹にとっては因縁の鬼で、そいつとの戦いで恋人を亡くしたんだっけか。

 

 それに続いて初穂が百日夢にかかり、「何故自分は戻りたい過去があるのに眠らないのか」という疑問を持ち、そこから精神的に崩れていったんだっけ。

 

 

 ただなー、今回の襲撃を思い出すと、ゲームや前回の襲撃とは、現れる鬼が違ってるからなぁ。

 富獄の兄貴の仇だって、従来のタイミングよりも随分前倒しになったし、タケイクサが本当に出てくるのか、さっぱり分からん。

 ついでに言えば、タケイクサが出現した時は物見隊が襲われてたが、いつ何処で襲われるのかも見当がつかん。

 

 可能であれば、物見隊の被害も防ぎたい。 

 息吹の精神的ダメージを和らげるという事もあるが、そうでなくても被害は少ない方がいい。

 小さな里だから、物見隊だって補充するのに一苦労なのだ。

 

 

 

 そうだ、千歳に頼もう。

 最近すっかり忘れていたが、千歳は動物を使役する能力を持ってたな。

 鳥でもキツネでもいいから、物見隊に付けさせよう。

 タケイクサには、瘴気をばら撒いて異界を拡張する役割がある…と記述があった気がする。

 ゲーム通りにタケイクサが来るとするなら、恐らくそれは異界の外か、あまり瘴気が深くない場所に現れるだろう。

 その辺りなら、動物達もまだ活動できるだろう。

 

 

 

堕陽月「何だか知らんが! とにかく狩る!」日

 

 千歳は二つ返事で引き受けてくれた。

 何でも、以前……まだ体が変質する前、イヅチカナタを追っていた頃は、同様に動物達を監視や警戒役にしていたそうだ。

 道理でやけに手馴れていると思った。

 

 まぁ、動物を連れて行くようにと言われた物見役達は、微妙な顔をしてたが…。

 そりゃクマを連れていけって言われたら、役に立つのかよりも襲われないかの方が気になるよな。

 千歳がお礼の先払いとして、でっかい魚(サーモン?)を渡してたから、大丈夫だと思うけど。

 

 しかし、やはり心配だな。

 そういうのが物見班の仕事ではあるんだが、これでしくじって動物達まで死んでしまったら、千歳がどれだけ悲しむやら…。

 かといって、物見班の仕事に付き合うのもな…。

 行くのはいいんだが、全部の班に付き添う事はできないし、結局信じて待つしかない。

 

 

 あ、そうだ。

 カンパーウンドして、退魔爆弾とか山ほど持たせておこう。

 多少はマシになるかもしれない。

 

 

 

 話は変わるが、ちょっと秋水と話してきた。

 以前、千歳を調べまわっていた事について問いただしたんだが、流石に尻尾を見せない。

 ちょっと悪意のある言い方で、「半身が鬼の姿のモノノフ。怪しむのも当然でしょう。ここの里の人達はお人よしが過ぎるので、僕がその分疑っているのですよ」だそうだ。

 まぁ、言いたい事は分からんでもない。

 千歳どころか、偽モノノフ(?)の俺まで普通に受け入れられてるからな。

 

 結局、千歳については何も分からなかったそうだ。

 ここ数年で死亡したモノノフは多いが、その中に動物を操る異能を持っている者は確認されていないし、増して何処かの里で体を鬼に浸食されたモノノフだって確認できない。

 最も、それらを一つ一つ克明に記録できるような情勢ではないので、あくまで「確認できない」レベルの話でしかないが。

 

 ついでに千歳の体を元に戻す方法についても調べてくれたらしいが、これは成果無しだった。

 

 

 ふーん、と納得した風に見せかけて、ここで別の方向から一口。

 

 

 

「じゃあ、千歳がこの後、過去に戻るかもしれない、って話も無いんだな?」

 

 

 そう言ったら、口先では「何の話ですか?」と言ったが、目付きが変わった。

 意外とコイツ、ポーカーフェイスが出来ないな。

 目力強くなってるぞ。

 

 ついでに言えば、いつもの秋水なら「何の話ですか」ではなく「何を言っているんですか」と言うだろう。

 微妙なニュアンスの違いだが、明確な違いだ。

 「何の話」と言っている時点で、別の話ではあるが意味のある話だ、と言う意味だ。

 「何を言ってる」なら、そもそも意味のある話じゃない、意味が見出せない話。

 

 …ま、言葉の内容についてはコジツケみたいなものだが、とにかく。

 秋水が尻尾を出した。

 

 そこへ一気に畳み掛ける。

 里ではまだ、俺、千歳、桜花、大和の頭くらいしか気づいて無い、影のモノノフの存在と、その能力。

 それらがどうしても、千歳に被る事。

 …そして、現段階では知りようも無い筈の、秋水と陰陽方との繋がり、そして過去へ戻って北の地を救出する目的の事。

 

 まぁ、実のところ半分くらいはハッタリだった。

 秋水が間諜である事は事実だし、その目的を知っているのも事実。

 影のモノノフ=千歳疑惑がある事も事実。

 

 だが、それらを結びつける決定的な証拠が無い。

 なので、ちょっとした事から怒涛の勢いで理論展開して畳み掛け、勢いで押し切ろうと思ったのだが。

 

 

 

 アカンかった。

 

 いやぁ、流石にメガネかけてる陰険秀才枠だけの事はある。

 余計な事を言わせないように、反論の糸口を捕まえさせないように、クーガー兄貴まであと3歩くらいの勢いで喋りぬいたと言うのに、話の後からキッチリ要所要所に反論かましてきやがった。

 

 

 

 結局、秋水には弁舌じゃ勝てないので、四の五の言わずに切り札を出せ、という事がよく分かった。

 つまるところ、過去に戻ったと思しき現象について話せ、という事だ。

 

 もう今後のループでは、秋水に最初っから全部ブチ撒けてしまおうかなぁ…。

 

 

 

 とにかく。

 

 ループについて話した為か、秋水もそれなりに本腰入れてこちらの話に付き合ってくれた。

 ループの原因が千歳から聞いたイヅチカナタにあるかもしれない、と言うのが効いたのだろうか。

 別にウソは言ってないぞ、確信が無いだけで。

 

 

 色々聞かれたりしたが、まぁ目的は達成したと言っていいだろう。

 予想通り、秋水には影のモノノフに心当たりがあるらしい。

 近い内に会わせてくれるらしいが、条件を出された。

 

 対面するのは俺と秋水のみで、誰にも知らせない。

 そして、影のモノノフについて口外しない事。

 

 

 …それ自体は構わないんだが…やはり、単純な味方という訳ではないんだろうか?

 とりあえず、秋水からお呼びがかかるのを待ちつつ、息吹のイベントに備えるとしますか。

 

 

 

堕陽月「狩ろうと思った時! 既にその準備くらいまでは終わっている! 「狩りに行く」なら使ってもいい!」日

 

 今日も今日とて普通に狩りを終えて、別の班で出動している千歳が帰って来るまで里をブラブラ。

 前はこんなに時間を持て余さなかったなぁ。

 帰ったら那木さんとイロイロする準備に余念がなかったし、それ以上に前回は普通のモノノフでは考えられないペースで狩りを続けていた。

 今回は、千歳をプロデュースする為に、常軌を逸した狩りは見せないようにしてるからな。

 

 代わりに橘花と遊ぶ事にした。

 里の茶屋で団子を頬張っている所に遭遇したんだが…周囲に護衛の姿が無い。

 また抜け出してきたらしい。

 色々と問題にされてはいるらしいが、最近では「どうせあそこの茶屋だろう」とパターン化された事もあって、多少は長く出歩けるようになったらしい。

 まぁ、里の中でそうそう危険に遭遇する事って無いしな。

 そう考えると、護衛の意味が分からんが…。

 

 

 里の中を出歩くようになって、橘花は多少明るくなったように見える。

 閉じこもってばかりだと気が滅入るのは当然として、やはり自分が守っている里の営みを直接見られるのは、気分的にもいい事なんだろう。

 後は、お気に入りの遊び(木登り&飛び降り)が出来て、文字通りストレス発散になっているとか?

 

 今日も今日とて、団子と茶をシバいた後に、何か新しい遊びは無いかと尋ねられた。

 …んだが、顔がちょっと赤いなぁ。

 

 そういや、この前千歳とキス&愛撫してた所を覗き見てたんだよな。

 そして、あの遊びは何だったのかと聞かれて誤魔化したっけ…。

 ………よし、教え込もう。

 二股とかもう後回しでいいや。

 ムラムラが煮詰まって、このままだと色々な所で暴発してしまいそうなんだ。

 今後の出来事に冷静に対処する為にも、発散しないといけないと思いマス、まる!

 

 

堕陽月「おっぱいがあっても色気が無けりゃ意味ねーな」日

 

 流石に初っ端から尻は難易度が高い。

 自分でする、普通の少年少女に必須の発散方法も。

 

 何より、それを教えた所で、俺が突っ込める訳ではないんで、ムラムラは発散されない。

 

 

 

 なので、手で男のナニをナニする方法を教えます。

 

 

 

 と言ってもこれまた難易度が高いので、かなり誘導したけどね。

 

 話は変わるが、橘花は千歳に対してコンプレックスを持っているようだ。

 仲がいいからこそのコンプレックスだと思うが…劣等感と言うか、羨望と言うか。

 

 橘花は自分の境遇を呪っている。

 そして自力で道を切り開いていくモノノフに憧れを持っている。

 今までは桜花がその象徴だったのだろうが、今はそれよりも身近な友人として千歳が居る。

 

 見た目、自分と同年代(多分中身も同年代)、エース級として戦場に出られるモノノフであり、異形にも関わらず里人との関係は良好。

 また、よく里の中を走り回っているところを見かける。

 

 橘花にとっては、自分が手に入れられない物を全て持っているように見えるだろう。

 事実かどうかは関係ない。

 そう見えているなら、そうだと思い込んでしまうのが人のサガだ。

 

 

 仲がいいのは間違いない。

 だが、それと同時に本人も気付かないウチに溜め込んでいくモノがある訳だ。

 

 そこに、付け込む隙がある。

 

 

 「千歳には出来ない事を、自分がやってのける」という誘惑。

 友達と呼び合い、憧れ妬んでいた千歳ではできない事を、自分がやっている。

 

 それが橘花のタガを外す切欠になった。

 

 

 初めて教えられた性的知識に目を白黒させ、他人のナニに触れる事に抵抗を見せ、しかし「千歳はやってくれない」という言葉に釣られて。

 顔を真っ赤にしながら触れてくる橘花は相変わらず可愛らしかった。

 

 しっかりヌいてもらいました。

 一回だけだったけど、かなりスッキリしたよ…。

 

 そして次のステップへのタネを植え付ける事も忘れない。

 しっかりと、女性が自慰する場合のやり方も教えておきました。

 あの分だと、数日中に好奇心に負けて試してみると見た。

 

 

 

堕陽月「チート寄生トレイン垢バンは当然の出来事、驚く事もないが許されない」日

 

 

 エロにかまけていたら、とうとう来ましたよ息吹のキャラエピソード。

 物見隊が大物の鬼に襲われたと聞いて直行。

 息吹が一足速く出発していたが、多分モノノフの恋人がどうの、というゲームと同じイベントがあったんだろう。

 

 幸いというべきか、千歳がつけていた動物達や俺が渡した退魔爆弾とかが多少は効果があったのか、物見隊の損害は前回よりはマシだった。

 重症3、意識不明2、軽症は残った全員(動物含む)。

 そして意識不明2の中に、息吹に頼んだ人の恋人が居たらしい。

 

 まぁ、生きてたんだからセーフだよな。

 前回は死んでしまって、錯乱して息吹に当たったようだったが、今回はセーフ。

 意識不明の重態だから無事とは言えなかったが、今は既に診療所に運び込まれて手術を受けている。

 生き残れるかは微妙な所だが……仮に死んでしまったとしても、流石にそこから息吹に矛先が行く事は無いだろう。

 息吹は結局死なせてしまった、と落ち込むかもしれないが、追撃が無いのは大きな差だ。

 

 

 

 さて、問題になりそうだったもう一つの案件。

 どの鬼が来るかって問題だが…予想通りというか、前回とは違った鬼が来ていました。

 本来なら、息吹の因縁の鬼であるタケイクサだった筈なんだが………マガツイクサがきていました。

 

 

 お前かよ。

 

 

 見た目が色しか変わらないから、息吹も最初はタケイクサだと勘違いしてたくらいだよ。

 俺だって、マガツイクサの攻撃を見てようやく気付いたし。

 息吹は息吹で、腕を3本くらい切り飛ばした後で、ようやく「違う…あいつじゃない…?」と気付いてた。

 

 と言うか割とマジで厄介だったんですが。

 考えてみりゃ、マガツイクサって上位依頼で出てくる鬼だもんな。

 ストーリー的に下位の現状で出てきちゃ、敗北確定イベントでもなけりゃパワーバランスが崩壊している。

 

 

 まぁ、それでも勝てはしたんですけどね。

 

 

 

 姿を見せずに支援してくれていた、影のモノノフのおかげで。

 で、戦った後、とうとう影のモノノフが俺の前に姿を見せた訳ですが。

 

 

 いやもう、俺ちょっとナニが何だか分からない。

 今日はもう、千歳とスキンシップしてから寝て、明日状況を整理する。

 

 あと思いっきり2回もビンタされて、割と痛い。

 

 

 

堕陽月「ブゥ~メランブゥ~メラン戻ってこない事もあるだろう」日

 

 

 影のモノノフ(千歳命名)について。

 今回のループで初めて現れた、正体不明の人物。

 ウタカタの里が鬼の大規模な攻勢に見舞われた際、人知れず防衛に参加していた。

 痕跡からすると、敵から離れて戦う術士タイプで、千歳と同じ動物を使役する力を持っていると思われる。

 また、千歳と全く同じ髪飾りを付けていたようだ。 

 

 この人の存在に気付いているのは、俺、千歳、報告を上げた桜花と、多分桜花から報告が行っているであろう大和のお頭。

 そして、この影のモノノフと繋がりがあると思しき秋水のみだった。

 

 秋水を問い詰め、影のモノノフと引き合わせる事を確約したものの、正直言って会ってどうするのか、という疑問はあった。

 影のモノノフ=未来の千歳、という疑惑もあったので、万が一それが事実なのであれば、近い内におきるであろうタイムスリップに対しても対策を練らねばならなかった。

 

 

 そして、とうとう昨日対面した訳だが………千歳があんなクールビューティになるんですかね!?

 

 

 

 冗談はともかくとして、矢張りというべきか、影のモノノフは千歳だった。

 ただし、現在里に居る千歳と違い、タイムスリップしてウタカタに流れ着いたり俺と出会ったりする事は無く、人々の悪意や迫害を身に受けながら、50年以上を生き抜いてきた千歳。

 別の世界線の千歳、って事でいいんだろうか?

 でも今は同じ世界に居るけどね。

 

 ちなみに、多分まだこっちの千歳は知らないんだろうが、体の成長・老化が止まっているらしく、表情を除けば外見は千歳と瓜二つだった。

 何せ本人な訳だし、ドッペルケンガーもビックリのソックリさん度合いだった。

 

 ややこしいな。

 あっちの千歳は虚海と名乗っていたし、この呼び方にするか。

 

 しかも虚海は陰陽方だと言う。

 ひょっとして秋水の上司かと思ったんだが、それはちょっと違うらしい。

 そもそも陰陽方は、ちゃんとした組織ではなく個人の集まりと言った方がいいらしいけど。

 

 

 本当なら色々と聞いたり、協力関係を打診したりしたかったんだが、虚海はあまり話をする気は無いようだった。

 今回も、本当なら姿を現すつもりはなかったとか。

 ウタカタの里の防衛にこっそり参加していたのも、千歳という存在が興味深かったからで、ウタカタを守る為ではない。

 

 

 …千歳に比べるとえらくポーカーフェイスなんで、イマイチ感情が読み取れなかったが……千歳に対して複雑な感情があるのは確かだろうな。

 別の歴史(?)を歩んだ、いや歩んでいる自分。

 しかも自分とは違い、ウタカタの里という居場所を得て、自分が散々苦労した原因である異形も変わらないのに、自分だけは受け入れられている。

 

 何故だ。

 何故自分はこうならなかった。

 虚海と千歳と、何処が違うのだ。

 

 

 その一方で、多分こうも思っているんだろう。

 

 手の届かなかった夢見た場所が、そこにある。

 自分自身ではないが、ある意味自分がそこで暮らしている。

 自分では歩めなかった道を進んでいるのなら、そのまま進ませてやりたい。

 「自分」が辛い目に会うことを喜ぶ理由など無い。

 ならば、「自分」が二人居るという珍しい現象も興味深いし、ウタカタに少しばかり手を貸してやってもいいか。

 

 

 …虚海の目的はまだ分からないが、多分こんな所だろう。

 

 

 ちなみに、本来なら顔を見せるつもりは無かったのに、姿を現した理由はコレだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『私』というものがありながら、神垣の巫女となにをやっとるか!」

 

 

 

 

鬼側の手でビンタが飛んできた。

 スゲェ痛かった。

 

 …この前、手のやり方を教え込んだ時に見られていたらしい。

 そういや、神木の前で千歳とおっ始めた時も不自然なカラスが居たな……デバガメしてやがったな?

 

 しかし、それでこの反応という事は。

 

 

 

「ああ、経験無いのか」

 

 

 

 2発目のビンタが飛んできた。

 

 

 




 さて、また夢を見ているが、今度は一体ドコじゃらホィ。
 何だか見覚えがある感じの荒野である。

 …夢をみるようになった頃の、アレか?
 最初の夢(外伝)と同じ世界か?
 そういえば、あの時はまだ単なる夢としか思ってなかったんだよな。

 実際、あれでなんかスキルを習得した気分にはなっていたが、「ゲージが足りなくて使えません」状態だったし。
 得意技はイオナズンです、みたいな。


 しかし、ちょっとこの荒れようはあの時の夢とはワンランク違うような気がするな。
 あの夢に関しては、最後の謎の踊りのイメージが強すぎて、よく覚えてないが……空気もひどく乾燥しているし、何だか排気ガスっぽいと言うか…。

 別の世界なんだろうか?




 と思っていたら、敵キャラ出現。
 …やっぱあの時と同じような敵が出てきた。
 男ばっかりだったけど、格好は似たり寄ったり。




 ま、今更そんな雑魚にどうこうされる訳がなく、サクサク狩りましたが。



 とりあえず、何も無い廃墟に一人突っ立っていても襲われるだけだ。
 どっか水とか飲める所ないかなー、とウロウロする事にした。







 雑魚の集団に襲われる事数回。
 掛ける1.5イコール返り討ちにした数。
 襲われた直後に半殺しにしたら、潜んでいた敵兵が1/2の確率で襲ってきた。

 で、その3割くらいがバイクに乗っていた。

 そして目の前で見ず知らずのにーちゃん達が轢き殺される事、6人くらい。
 そのまま襲ってきたのでバイクごと叩き壊したが、思えば勿体無い事をしたかもしれない。
 奪えば足にするなり、ガソリンに火をつけて走る爆弾にするなり出来ただろうに。


 ま、やっちまったものは仕方ないんで、そのままウロウロしていたら、雑魚集団のボスらしき奴にブチ当たった。
 他の奴に比べても、図体がでかいんだが…まぁ、言っちゃなんだが人間の能力の域を出ないな。
 それなりに小知恵も使うタイプの奴だったみたいだが、俺に見ず知らずの人間を人質にしたって通じないし。
 
 人質にされた人、悪いね。
 まぁ殺される前に助けてやったんだから、それで良しとしてくれ。
 あとブン投げた大樽爆弾の爆発に巻き込まれて生きてる辺り、アンタ結構グレイトだぜぇ…。(CV.ワカモト)



 ところで、このデカブツなんだが…モヒカン頭に、なんかNとか書いてあるんだけど。
 意図が分からんな。
 N…N………そういや、他の雑魚もNが書いてあったような……集団と言うかチームを現しているのか?



 そんな事を考えていたら、なんか勧誘された。
 いやチームNじゃなくて、別の集団に。


 ……言っちゃ何だが、弱そうで没個性な集団だ。
 チームNに比べると体が小さく、服は灰色のツナギっぽいのに皮の帽子その他で個性無し(と言うより「まとも」と表現した方がいいんだろうが)、手には小さな棍棒やら細い槍やら、そして何よりアクが無い。

 どうやら自警団か何かの集団らしく、さっきの連中を一蹴した俺を見込んで、一緒に戦ってほしいそうな。
 ちなみに人質ごと爆弾でドカーンしたところは、都合よく見ていなかったらしい。


 まぁ、俺としても好き好んであいつらみたいなのと無償で戦いたくはないし、集団に属していればそれなりのメリットはあるだろう。
 給料出るそうだし。







 という訳で、このヒョロっちそうな連中の集団に加わる事になった俺ですが。
 早速襲撃……ではなく、何故か会議に参加させられております。

 重要な会議らしいので、面倒…もとい新参者の俺が参加していいのか?と遠慮しようとしたのだが、「打開策が見えない状況なのだ。とにかく意見が欲しい」との事で、逃げられなかった。
 しかし、重要な会議だっつー割には、俺何も情報を知らされてないんじゃが。

 本当に面倒だなぁ…ウトウトしている間に、夢が覚めんものかしら。



 そんな事を考えていると、数人が会議の場に入ってきて席に着いた。
 ……なんか…こう、よく見るまでもなく一人一人違う人だっていうのはよく分かるんだが……なんだこの、うーん……誰を見ても同じに見えるというか、影が薄そうと言うか…ぶっちゃけ、物凄いモブキャラ…いや、モブキャラを通り越して背景臭が…。


「全員揃ったな?
 それでは第二十七回目の会議を始める。
 だがその前に、この度から我々に加わってくれた彼を紹介しよう」


 あ、俺ね。
 ハイハイ。


 適当に自己紹介して、それぞれ名乗ってもらったんだが…ぬぅ、覚えられん。
 と言うか覚える気にならん。
 なれん。
 何だと言うのだね。



「さて、今回の議題だが…従来通り、我々の認知度についてである」


 認知度?
 つまりこの集団は知られてない?
 うむ…さも在らん、この背景臭ではな…。

 と言うか、この人達って自警団じゃないのか?
 有名になる必要あんの?
 確かに、自警してるやつらが多く居れば、その周辺での犯罪者への抑止になるかもしれんが。






 …と、思っていたが、事はそんな程度の話ではなかった。



 ドン!と突然地面(会議と言っても、小さなテントの中で地面座りだ)が強く叩かれた。 
 何事!?


「くっ、何故だ、何故なんだ!
 どうして我々は、全く注目されないのだ!
 それに比べて、奴らときたら…あんなにも有名で、代名詞とさえいえる表現すら持っているのに!」

「気持ちは分かるが、落ち着け。
 猛ったところでどうにかなる問題ではないのは、身に染みているだろう。
 まずは、それぞれ意見を出し合ってほしいところだが…我々の意見は、今までの会議でほぼ出尽くしているからな。
 君の意見を聞こう」


 いきなり俺かよ。
 初参加の会議で、趣旨もよく分かってないのに発言を求められてもねぇ。


「正直、何について話し合ってるのか今ひとつよく分からないんだが……まず誰に、どういう層に自分達を知ってもらいたいのか、明確にした方がいいんじゃないのか?」

「ほう……確かに、今までは我々の存在をアピールする事ばかりに目が行って、対象をどうするかと言うのは二の次だったな」

「対象を特定し、それに見合った方法で喧伝する…理に叶っている」

「素晴らしいな。 君には軍師の素質がありそうだ」



 …二十何回も会議続けてて、この程度の意見も出てなかったんかい。
 大丈夫かなこの連中…。



「では、手始めに青少年に対象を絞る。
 まずは、奴らと我々の相違点を考えてみよう。
 何故、彼らは奴らの事を知っていて、我々の事を知らぬのか。
 一体、奴らの何が青少年達の琴線に触れ、記憶に残るようになったのか…だが」

「あー、すまん、一つ質問。
 さっきから「奴ら」が目立ってばかりいる、と言ってるようなんだが、「奴ら」って具体的に誰なんだ?
 それに、代名詞と言える表現って?」

「む、すまん、説明が足りなかったな。
 奴らというのは……そうだな君をスカウトした時にも戦っていただろう。
 例えばあの時の、Z……ZEEDのような野獣達だ。
 代名詞、と言うのはそのままズバリ、『モヒカン』の事だ」



 …………Z?





 ああ、アレはNじゃなくてZだったのか。
 Zが横向きになってNね、ハイハイ。
 と言うかZEED?

 モヒカン、野獣、ZEED……………北斗の拳ワールド!?
 という事は、この連中は…北斗の拳ワールドの、味方のモブキャラ達?

 と言うかZEEDって確か北斗の拳の記念すべき、北斗神拳でひでぶった第一ザコキャラじゃないか!
 ちょっと待て、まさか俺がケンシロウ役!?
 いやでもケンシロウがこんな会議に出るとは思えないし……まぁ夢だからいいか。
 万が一伝承者クラスと会う事があったら、サインでも貰ってから戦うだけ戦ってみよう。
 拳王様の一撃を食らったら、夢の中でもデスワープしそうだけど。

 まぁ落ち着け、伝承者との戦いによって夢の中でもトラウマを負うかもしれないという可能性からは目を逸らし、ちょっと考えてみよう。
 なんか俺もこの会議にちょっとだけ興味が出てきた。 



「奴らときたら、知っての通り無法の限りを尽くす犯罪者の群れ。
 ああいう連中が居るから、世の人々は日々を怯えて暮らさねばならぬ」

「それに抵抗する我々は、無辜の民達の盾と言えるだろう。
 無論、力不足な面があるのも承知している。
 我々は専門の拳法家達のような、超人的な力は持っていないからな…」

「しかし、だからと言って我々が全く注目されないのはおかしくないか?
 別に注目を集めて有名になりたいとは思っていないが、居ないような扱いをされるのには納得がいかん。
 野獣達は「モヒカン」の一言で、その姿や行動まですぐにイメージされると言うのに、我々のような自警団と来たら、「え、そんなの居るの?」のような反応を返される事も珍しくないのだ」



 なるほどね。
 俺も北斗ワールドの味方モブなんて、居たかどうかすら全く覚えてないからなぁ。
 命がけで戦ってるのに、そんな扱いじゃ納得いくまい。

 しかし、どうしてそこまで目立たないのか?
 まずは奴らこと、代表としてZEEDの連中とこいつらを比較してみよう。




・体格:野獣に比べて小さい。鍛えているのかもしれないが、無闇にムッキムキな野獣との比較効果でモヤシに見える。

・武器:体が小さいので、扱える武器の大きさも小さくなる。迫力に欠ける。

・人数:野獣の方が圧倒的に多い。

・能力:武器・体格の差の為、「我々自警団が10人くらい集まれば、野獣の一人や二人!」レベル。

・容姿:全員似たり寄ったり。自警団はむしろ顔を隠している場合さえある。
    野獣にも同じ事が言えるが、あちらは全体的に奇抜かつ野蛮そうな印象を受ける。世紀末ルックという名称すらある。
    ファーストインプレッションという点で、完全に野獣側の勝利。

・名前:自警団。名称無し。敵キャラは一応グループ名がある場合が多い。

・行動:野獣は荒野にヒャッハーと叫ぶ。自警団は「うおーーっ!」くらい。
    野獣は襲撃し強盗する。自警団は防ごうとするが、大抵力不足で殺される。
    野獣は武器の斧を舐める。自警団は武器を手入れしているのかよく分からない。
    野獣は暇を持て余すと奇行・蛮行に走る。自警団は歩き回る。
    野獣は悪党。自警団は正義の味方っぽい。

・知恵:自警団の勝ち……なのか? 野獣は悪党なので、意外と小知恵や悪知恵を使う奴が多い。

・死に様:味方モブキャラ達が倒されるのは、大抵野獣の一撃によるものなので、血飛沫が舞う。
     野獣は北斗神拳や南斗聖拳で倒されるので、顔が個性的に変形したり、気持ちよくなったり、三枚に卸されたりする。

・環境:自警団は、世紀末救世主にカメラが行く為、まず画面に映らない。
    写ったとしても、世紀末救世主の強さを際立たせる為の野獣達の、その強さをアッピルする為の虐殺(される)負けシーンくらい。
    野獣は世紀末救世主にひでぶうゎらばされに行く為、死ぬ瞬間とかは画面に映る。

・生息地域:自警団は地元にしか居ない。野獣は全国各地に出没する。

・技:自警団は武器で攻撃するくらい。モヒカンは「みろ!おれさまの北斗神拳を!」或いは「突撃! 南斗人間砲弾!」





 なるほど。
 こりゃ目立つ筈無いわ。
 俺だって、モヒカンとか言われりゃ北斗の拳のザコキャラがすぐ思い浮かぶけど、味方の名無しキャラとか言われても全然イメージが沸かないし。
 モブキャラ臭を通り越して、背景臭がするのもむべなるかな。
 なんか哀れになってきた。

 しかしこれを目立たせろってムリゲーじゃろ。
 この世界に人達にも、例えば画面の前の誰かさんにも、まず注目されねーよ。
 仮に目立たせようとするなら、死に様を工夫するしかあるまい。

 死んでいく間際に…遺言とかじゃすぐ忘れられそうなんで、奇抜な発言や悲鳴を上げるとか。
 死んだ後のポーズをボン・ダンスじみたものにするとか。
 
 しかし、流石に死ぬ前提の方法で注目を集めろ、とも言えず。


 既に会議ではなく、目立たない事への愚痴大会となりつつある彼らを眺めていた。














 ふと目が覚めてみると、なんだか自分に才能があるような気がしてきた。
 具体的には『体力の才』が。
 …クエストやミッションを100回くらいこなせば、体力がちょっとだけ上がりそうな気がしないでもない。

 こんなのより、南斗人間砲弾を覚えたかったな…。
 列車砲の方でもいいが。

外伝:北斗の拳(特に北斗無双)編


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61話

最近ちょっとスランプ気味です。
もんくえばっかりやってるからかもしれませんが。
そういや4月末くらいにバージョンアップするみたいですね。 
周回プレイも可能っぽい。

久々にゲームサイトを巡ってきましたが、興味はあるけど発売まで時間がかかるのが多いなぁ。
スターオーシャンにモンハンRPG(画像はあんなもんだろうな…)デビルメイクライのスペシャルエディションその他諸々…。


 

 

 

堕陽月「狩人なんかに、絶対に負けない!」日

 

 

 影のモノノフこと虚海は、また姿を消した。

 どーも里の近くに居るっぽいんだが、中々捕まえられない。

 差し当たり、手を貸してくれていた礼くらいはしたいんだが。

 

 まぁ、積極的に敵対も味方もしない(味方しているが)ってスタンスのようだし、無理に距離を詰めるのも悪いか。

 何処かその辺に、礼の文でも付けて食料とか置いていけば持っていってくれるかな。

 その前に動物達に食われる可能性の方が高いけど。

 

 

 さて、もう一つの問題の方に移ろう。

 橘花が早くも好奇心に負けて試してみたらしい……いや、こっちの問題じゃなかった。

 

 息吹のキャラエピソードの事だ。

 とりあえず、虚海の影の手助けもあって、物見隊に死者は出なかった。

 重症で寝たきりになっていた者も居るが、とりあえず命に別状はないとの事だ。

 

 おかげで息吹も、里人から罵声を浴びせられる事もなく、命だけは助かった、と胸を撫で下ろしていたようだ。

 …命に別状がないだけで、後遺症は残るかもしれんのだが…正直、それを言い出したらキリがない。

 後遺症が無くても重症を負った、重傷じゃなくても軽症を負った、軽症が無くても危険に晒された……より良い結果を求めれば、延々と自分の不足を見せ付けられるだけだ。

 

 ともかく、息吹の精神状態が酷い事になってないというのはいい事だ。

 いい事なんだがな……。

 

 精神的な鬱屈を抱えたまま放置していると、必ずそれが吹き出てくるのがこの世界のパターンだ。

 根本的な解決、という奴をしないと意味がない。

 

 ただなぁ……それをどうやって解決するか、なんだよな。

 前回は力尽くで、表面的にだけ立ち直らせた。

 ゲームだと…どうだったかな。

 初穂のキャラエピソードと絡んで……そうだ、百日夢にかからずに更に落ち込んで……どん底状態だった時に、里人から「あの時は御免なさい」と言われて?

 そんで何かの任務…確かもう一回タケイクサが出てきたと思うんだが…で再起したんだっけか。

 

 極端な見方をすれば、色々な物が信じられなくなって精神的にボロボロになり、それでも「誰かが危ない」と聞くと反射的に立ち上がろうとする自分を発見して?

 もう一回やってみよう、って気になったんだっけ。

 

 …精神的な再起と言うかトラウマ克服に、ドンゾコまで落ち込まないといけない、という法則はないと思う。

 ただ、自分が抱えている鬱屈を直視してしまえば、そりゃ落ち込みもする、というだけで。

 そして、抱え込んでいる鬱屈を理解せずに、精神的トラウマを乗り越えるのは難しい。

 …結局、まず間違いなく落ち込むのは変わりない。

 

 …百日夢に対する息吹の反応が、どう出るか…だな。

 前回やゲームほど落ち込んでいないから、「どうして俺は夢にかからない」となるか、それすら分からない。

 

 

 ああ、全く以てどうしたものやら。

 

 

堕陽月「そのモンスターをブッ壊す!」日

 

 千歳と橘花の間で、微妙に火花が散ってる気がする。

 相変わらず仲はいいんだけどね?

 

 ちなみに桜花はと言うと、妹に同年代の友人が出来た事を素直に喜んでいる。

 俺の時と違って、特に嫉妬はしていないようだ。

 理由としては、姉妹間での確執が出来るようなイベントが起きてない事と、性別の差だろうか。

 あと千歳の人徳。

 

 それに加えて、前回も嫉妬されるようになったのは、「お遊び」の事について積極的に聞いてくるようになった頃だったしなぁ…。

 

 

 それはともかく、二人で一緒に居る時は、相変わらず冗談を言い合ったり、一緒にお茶を啜ったりして長閑なものだ。

 しかし一人一人になると、千歳は以前より積極的にくっついて来るし、日中でも「スキンシップ」のお誘いがあるし。

 橘花は橘花で、もっと色々な「遊び(健全なのも不健全なのも)」を知りたいと、アレコレ聞いてきたり、そのお礼と称して手でナニしてくれたり。

 

 そして俺と3人一緒に居る時は、こう…微妙な距離感がな…。

 二人とも俺に近付こうとしているんだけど、牽制しあっているようないないような…。

 特に、どっちか一人と一緒に居た時に、もう一人が合流すると、その傾向が強くなる。

 

 千歳は「これは私の」とでも言いたげにくっつこうとすれば、橘花は「アナタにはできない事をしてるんですよ」みたいな僅かな優越感を見せる。

 それでいて、決して険悪にはなってないんだが……ここで油断するのは自殺行為だよな。

 精神的な問題を先送りにすれば、一番厄介なタイミングで爆発する。

 この法則が当てはまるのは、俺自身だって例外ではない。

 

 このまま放置していた日にゃ、どんだけ派手な修羅場に発展するか分かったものではない。

 最低限で考えても、千歳+橘花+桜花+里の皆様+虚海という、物凄いメンツからのお怒りを受けるだろう。

 

 だからと言って、今更二人との関係を切るのも不可能。

 千歳は随分安定してきたとは言え、相変わらず俺に依存している節が見られるし、いきなりスキンシップをしなくなったらどうなる事か。

 橘花にも色々教え込んでいる挙句、手で処理までしてもらったのに、「ハイサヨナラ」なんて事になったら…精神的にどんだけダメージが出る事か

 少なくとも、里の結界に影響が出るのは確実だろう。

 

 

 一時の欲望に従った結果がコレか…。

 切る事も出来ず、無かった事にする事も出来ず。

 これが責任とか業という奴だろうか。

 

 

 

 これを八方丸く治める(こういう考えをしている時点で、責任を取ろうと思ってはいない気がする)方法は、俺には一つしか思いつかない。

 

 

 やってやれない事はないと思う。

 GE世界だって、何だかんだで3人で仲良くヤッてたんだし。

 

 

 つまるところ、「3人公認ならナントカなるんじゃね?」って事だが。

 

 

 

 こんな事を考えつつ散歩してたら、空を飛んでる鳥がフンを落としてきた。

 …どうやら虚海に監視されているらしい。

 

 

 

 

堕陽月「全裸プレイは廃ゲーマーの証」日

 

 

 色々考えてみたんだが、ふと気が付いた。

 俺って、ウタカタの里にとって明らかに毒じゃね? 癌じゃね?

 

 なんだかんだで、ループ初期時から数え、ウタカタの里に辿りついてモノノフとして戦う事、3度目。(それ以前はウタカタに来れなかったり、モノノフじゃなかったり)

 初回は攻勢を受けた時、ミフチその他に勝てずにバッドエンド。

 2度目は那木さんと懇ろになったのはいいが、橘花にまで手を出そうとし、挙句各キャラエピソードを中途半端な形で終わらせて、ゴウエンマ戦で仲間割れ。

 そして今度の3度目は、またもや欲望に流され、橘花と千歳を手篭めにしようとして、二人の間に微妙な空気を構築させてしまっている。

 

 本来の主人公役の姿も見えないし、放っておいたら確実にオオガマドキVer.2でデスワープ確定だと思っていたから、ずっと関わってきていたが…いっそ、完全に放置した方がよかったのだろうか?

 それとも、虚海のように影のモノノフに徹するか。

 

 

 

 ま、やるとしてもあくまで次回以降。

 今回のループは、千歳と橘花をナントカ丸め込まなければ。

 責任とって、ちゃんと公認にさせなければ。

 

 とは言え、具体的にはどうしたものかな。

 要は二人で俺を共有するのに、抵抗がない状態にするか。

 エロい事に夢中にさせて、文句を言う気が無くするか?

 

 …後者は難しいな。

 何度も似たような事をやってるが、アレはオカルト版真言立川流があってこそ。

 素の状態の俺のテクは、そこまで高くない…と思う。

 比較対象が居ないんでよく分からない。

 

 で、オカルト版真言立川流は千歳には効きにくいし、橘花には使いにくい。

 千歳は鬼の体に阻まれて霊力が通りづらいし、神垣の巫女である橘花にヘタな事をすれば結界に影響が出る。

 反則技は使えないって訳だ。

 

 とは言え、アドバンテージがない訳ではない。

 オカルト版真言立川流を使い続けていたからか、エロい事した相手の事は、ある程度感情を把握できるようになっている。

 房中術の基本は相手を観察する事、と何かで聞いた事があるが、これがその成果だろうか。

 

 

 ともかく、和解ルートがない訳ではない。

 そこに至るまで、どうすればいいのかもある程度は見えている。

 ただ、暫くの間は下準備の為、手を打つ事が出来ない。

 その下準備の間に、修羅場爆発しない事を祈るしかない。

 

 

 

 

 

 成功したら成功したで、別の意味での修羅場が出来上がるのが目に見えてんだけどな。

 

 

 

堕陽月「人生とは重き卵を背負うてリオレウスに追われるが如し」日

 

 橘花と千歳に仕込みを続けて暫く。

 幸いと言っていいのかは分からんが、最近の里は平和なものだ。

 

 順番通りに来るなら、次は初穂のイベントだ。

 順番通りなら、な。

 

 これまでの鬼の出現を考えると、今回のループは従来の鬼達とは違うパターンで出現している。

 仮に、今回出現するのがミズチメではなかった場合、どうなる?

 …夢を操るのは、ミズチメの固有能力の筈だ。

 仮に、これでミズチメではなくゴウエンマ辺りが来たら?

 

 とりあえず前回のリベンジをするのは確定として、百日夢にはかからないだろう。

 ミズチメの亜種であるカガチメ辺りなら、同じ能力を持ってるかもしれんが…。

 

 

 

 

 

 よく考えてみりゃ、ミズチメが狙うのは初穂だけじゃなかった。

 初穂が倒れる前から、何人か百日夢を患う人が居た筈だ。

 

 少しばかり調べてみるか。

 と言うか、次回からはウタカタについたら真っ先に調べよう。

 

 

 

 

 

堕陽月「チャットは狩りの潤滑油」日

 

 結論から言うと、矢張りミズチメが居るっぽい。

 既に何人か百日夢らしき症状が出ている…一ヶ月以上前から。

 

 

 

 

 

 原因探せよ。

 

 

 

 

 

 百日夢って、この里のじーさんでも知ってたぞ。

 そりゃ医者にしてみりゃ珍しい奇病なのかもしれんが、ちゃんと資料だってあるんだし。

 

 …ともかく、ミズチメが居るなら、前回同様地下水脈を辿った先に居る可能性が高い。

 いきなり言っても根拠が無くては相手にされそうにないので、秋水に頼んで資料を作ってもらった。

 

 …あの様子は、俺が本当に未来から戻ってきた(実際はループだが)のかの試金石になる、とか考えてるツラだな。

 これで本当にミズチメないし夢を操るような鬼が居れば、先日俺が言った事にも信憑性が出る、と。

 

 

 で。

 30分くらいで秋水が作ってきた資料を持って、大和のお頭の所へ行ってきた。

 大和のお頭も、百日夢については手を討とうとしていたようだった。

 だが、里の守りやら何やらで中々手が出せなかったとか。

 …うん、まぁ、防御を削るのは確かに命取りだけどな。

 何だかんだで最近、大規模な攻勢が2度もあったし、迂闊なタイミングで調査に出れば、カウンターを食らって里が壊滅しかねなかったのは事実だし。

 

 

 しかし、ミズチメの居場所は見当がついた。

 物見隊を向かわせるそうだ。

 

 …実のところ、ヤマトの頭は相当にこの百日夢が気になっていたらしい。

 鬼の搦め手が里に侵入してきている事も気になるが、この病は、戻りたい過去がある者が非常にかかりやすい。

 そりゃ人間誰しも色々後悔を抱えているから、誰だって過去に戻りたいと思いはするだろうが……そういうレベルじゃない奴が一人居る。

 

 言うまでも無く初穂だ。

 そういえば、初穂の事情を聞くのは今回は初めてだな。

 何せ文字通りタイムスリップして、色々な物を一度に失ってしまった身の上だ。

 そりゃ過去に帰りたいと思わない方がおかしかろう。

 

 そしてそんな初穂は、最近メキメキと腕をあげて一人前扱いされるようになってきた、里の重要戦力だ。

 ただでさえ人数ギリギリのこの里で、初穂が百日夢にでもかかってしまったら…。

 

 また大きな攻勢をしかけられてしまったら、初穂が欠けた分だけ守りが薄くなる。

 今度はまず間違いなく防げないだろう。

 

 だから、早めに百日夢をどうにかしたがっていたみたいなんだが……。

 

 

 

 ニヒルな顔で「フッ」と笑って、「だが、要らぬ心配だったかもしれんな」と付け加えた。

 

 

 …どういう意味?

 

 

 

堕陽月「あまりモンスターを理解できるとは思わない。わかるのは、狩りやすいか面倒くさいかだけだ」日

 

 ミズチメ発見。

 秋水の作った資料通り(半分以上、俺が喋った内容通りだったが)に、地下水脈の先に居たそうだ。

 秋水が「ふむ」と俺を見ていたがそれは置いといて。

 

 

 早速討伐に出る事になった。

 参加するのは、言いだしっぺの俺、千歳。

 そして千歳が行くなら、と名乗りを上げた初穂と、何故か息吹も。

 

 …何だかよく分からんが、息吹は「千歳には随分元気付けてもらったからな」と笑っていた。

 俺の知らないところで何があったのかは知らないが、先日の一件の時に色々励ましでもしていたんだろうか?

 

 と言うか、よくよく考えてみれば大丈夫か?

 息吹は……まぁ、精神的に安定した状態だからいいとして。

 初穂はゲームでも百日夢にかかっていたし。

 千歳に至っては、よく考えてみりゃ初穂同様、タイムスリップしてこの時代に飛ばされてるんだった。

 おまけに、鬼の体という忌まわしい(特に穢れたバベルの塔が)体。

 

 過去に戻りたいと思っているのは、初穂よりも千歳じゃないのか?

 

 …場合によっては、行動不能になった千歳を抱えて一時撤退も視野に入れるべきかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、そんな心配は全く無かったようだ。

 

 ミズチメ速攻撃破。

 今回のループに入ったすぐ後、千歳と出会う前にも微塵切りにしたっけな。

 あの時は神機を使っていたが、もう下位のミズチメなら通常武器だけでも圧倒できるようになっていたらしい。

 油断は禁物だが。

 

 で、任務帰りに、「こんな心配をしてたんだよ」みたいな話をポロッと零したのだ。

 そしたら揃って呆れられた。

 

 

 初穂曰く、「昔に戻ったんじゃ、千歳と離れ離れになっちゃうじゃない」。

 

 

 …シスコン魂で、既に心の問題を振り切っていたらしい。

 ………千歳を里のアイドルにしようとしてたのは、確かにこういう効果を期待しての事だったんだが…なんか納得いかんな。

 

 息吹も息吹で、「ま、確かに戻りたくない訳じゃないが、今にも守りたい奴や、手を貸してやりたい奴らは居るんでな」。

 …やっぱ千歳か?

 

 そして千歳は千歳で、「一緒に戻ってくれるなら、それもいいかも」。

 …この子の場合だけは、多分俺だよな。

 

 要するに3人とも、過去は大事だが、現在居る「誰か」を失ってまで戻りたいとは思えない…という事か。

 大和のお頭も、こういう人間関係を把握していたから心配してなかったんだろうか。

 

 初穂に「アンタ人間関係に鈍いわね」とか言われてしまったが、全く反論できん。

 特に、千歳が俺から離れようとするところなんて想像もできないわ、と(裾を噛みながら)言われてしまった。

 ぬぅ、確かに説得力がある。

 

 

 うーむ、やっぱ他の誰かを主人公役に押し上げた方がいいんだろうか。

 いや、これは千歳が可愛くて頑張っているからの結果なのか?

 

 

 

 ともあれ、息吹と初穂のキャラエピソードはこれで終わりかな。

 今ひとつ盛り上がりに欠ける気もするが、スムーズに解決すりゃどんなトラブルもそんなものだろう。

 

 

 

 さて、そうなると……前回の流れに沿えば、富獄の兄貴のエピソードなんだが、もう先日の大攻勢の際に終わっちゃってるんだよね。

 ならば、次はいよいよゴウエンマに前回のリベンジか……或いは、またストーリーの順番が狂って、速鳥か桜花のエピソードが来るか。

 

 

 

 どっちにしろ、千歳と橘花の修羅場回避が優先だった。

 

 

 

 

堕陽月「天は狩人の上にモンスターを作らず」日

 

 虚海に用事があったんで、一人で任務に出た。

 連絡方法が無いんで、誰も居ない異界近くで大声で呼ぶくらいしかできない。

 まぁ、近くに不自然な動きをしている動物が居れば、多分それが虚海の使役する動物なんだが……ひょっとしたら千歳が使役してるんじゃないか、とも思えるんだよな。

 

 とにかく、さっさと一仕事終えて、大声で呼んだのだが…出てきてくれない。

 近くに動物も居たし、伝わってるのは間違いないと思うんだが。

 

 むぅ、確かに積極的に交流を持つ気は無いような事を言ってたが…。

 

 

 仕方ない、ちょっと強引に呼び出すか。

 

 

 

 

 

 

 という訳で、都合よく里をフラついていた橘花と神木にシケ込みました。

 ほほぅ…計画通り、しっかりと自習を進めているようですな。

 と言うかもうかなりハマッていると見た。

 

 まぁ、ただでさえ色々と抑圧される立場に居る上、ヤりたい盛りの年齢だもんねー。

 女の子だって、一度知ってしまえば逃げられませんわ。

 

 さて、橘花に色々吹き込みつつ、しっかり俺も処理してもらいまして。

 

 

 こうすりゃ怒った虚海が自分から姿を現す筈。

 

 

 

 

 尻でそーいう事する人も居るんだぞ、その場合こーいう準備が必要なんだぞ…という所まで教えて解散。

 流石に絶句していた。

 前回同様、色々と誘導しておいたから、暫くしたら試し始めるんじゃないかな。

 道具はちゃんと揃えてるぞ。

 

 

 

 そしてまた里の外に出て、虚海を呼ぶ………前にドロップキックを喰らった。

 ビンタを23…2、3発ではなく二十三発…発叩き込まれたところまでは覚えているが、そこから先は数えてない。

 鬼側の手を握って拘束し、蹴り上げようとしてきたので股間を死守、残った一方の手でパンチパンチパンチだったが、その程度の筋力で俺をどうこうしようとは脇痛し。

 

 まぁ、怒り疲れて話を聞いてくれるようになるまで、かなりかかったけどね。

 俺の顔より、千歳の拳の方が心配になるくらい殴られた。

 俺?

 ダメージ大目に見積もって10くらいかな。

 

 で、まぁ話をする前にも、色々と(至極真っ当な)文句を言われたんだが……いたいけな少女に楽しみを教えるのはいいが、如何わしい道に誘い込むなとか。

 千歳という者がありながら、浮気するなら不能にする呪いをかけるとか。(限りなくマジな顔だった)

 そして虚海を呼び出すためだけに、純真な少女を弄ぶとか外道もいい所だと。

 

 

 

 うん、言いたい事は痛いほど分かる。 

 

 

 

 

 でもな、それだって元はと言えば千歳がスンドメばッかするからなんだよぉぉぉぉぉ!(逆ギレ)

 

 千歳より性的な知識があるみたいだから、筋違いだと分かっててもブチ撒けるけどな!

 俺は毎晩、千歳とあーいう事をしてるんだよ!

 でも下半身にはお互いノータッチ!

 出すに出せないこのもどかしい感覚、虚海に分かるか!?

 分かるまい!

 

 

 

 

 

 

 いや、分かるんだよな?

 

 

「は?」

 

「分かるよな、お前なら。ご立派様を持ってるお前なら!」

 

「な、何を言って…・・・いやちょっと待ておんしまさか」

 

「元はと言えば千歳のせいだしなぁ!」

 

「………………!!!!(反論より先に逃げようとする)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっちまった。

 挿入まではしてない。

 

 

 

 

 そして千歳に真言立川流を通用させる術を見つけた。

 

 

 

 まぁなんだ、ご立派様を通して霊力とか送ってやれば、充分効くみたいでね?

 

 

 

 

 

堕陽月「狩りに失敗が無いと、人生に失敗する」日

 

 

 昨日は帰ったら、スキンシップの時に千歳が首を傾げていた。

 「何か、知ってるけど知らないようなニオイがする」だって。

 

 …やっぱ、ヘタな相手とヤッてたらハイライトが消えた目フラグだったな。

 

 

 さて、虚海を腰砕けにさせたお蔭で少しは発散され、冷静になったけどどーしたもんか。

 欲望抜き…いや、ちょっとだけ込みで判断するが、千歳にせよ橘花にせよ虚海にせよ、関係を切る事は不可能だと言っていい。

 

 千歳も橘花も、もしも今の関係を切ってしまえば、精神的に不安定になって自滅するのが目に見えている。

 虚海に至っては、最悪の手段を使ってしまった形になるからな……しかも泣き寝入りするような性格じゃない。

 繰り返し行為を続けて、暗示やら何やらで縛り付けないと、確実に反乱(支配下においている訳じゃないんで、この表現もおかしいが)を起こす。

 

 結局、スッキリしたのはいいが、状況をややこしくしただけだった。

 いい加減学習しろよ俺、と思うが……学習したところで欲望に流されるのは目に見えてるなぁ。

 

 

 

 それはともかく、虚海にイヅチカナタの事について詳しく聞いてみた。

 

 あまり話したくない様子だったが、そこはそれ、まぁ押し倒して色々やってる状態で聞き出したから。

 話さないなら、このままヤッちまうぞ、とか普通に脅迫というか犯罪である。

 まぁ今更だが。

 

 と言うか、マジで全くそーいう経験が無かったようで、色々弄り回したらアッサリと喋ってくれた。

 頭が朦朧としてたようだが……。

 まぁ、50年以上経験無しの喪……もとい処女がいきなりオカルト版真言立川流、しかも本来なら女性には存在しない部分から叩き込まれれば、正気を保つほうが難しいか。

 

 

 

 実際のところ、虚海もイヅチカナタについて詳しい訳ではなかった。

 この50年以上、色々と資料を探ってみたが、因果を食われた為なのかロクなデータが残っていなかったらしい。

 

 ただ、イヅチカナタが現れる場所には、「翡翠の乙女」というのが現れるらしい。

 「ホロウ」という名らしきその少女は、何でも時間を飛び越える能力を持っており、それを使ってイヅチカナタを追いかけ続けているそうな。

 歴史の変わり目に英雄が現れ、英雄に釣られてイヅチカナタが寄ってきて、それを追いかけてきたホロウが、現地の人達と協力してイヅチカナタを追い返す。

 しかし追い返した時には、既に因果の多くを食われ、誰もホロウの事を覚えていない。

 例外は、人ではなく書物に残された数行の文章と、因果を食われる前に未来に飛ばされた千歳と虚海のみ。

 

 

 ホロウ、ねぇ…。

 そういや千歳が前に、「ホロウお姉ちゃん」とか言ってたな。

 

 

 そして虚海の目的は、そのホロウに会う事だった。

 時間を飛び越える力を持っているなら、虚海を元居た時代に戻す事も出来るかもしれない。

 それを使って、元の居場所に戻る。

 

 

 

 

 その為に、これからウタカタ付近で起こるであろう、オオマガドキを利用しようとしていた、とな?

 

 

 

 それはちょっと聞き捨てならんな…。

 

 

 

 

 と思ったが、そう大それた事を考えていたのではないらしい。

 オオマガドキが起こるなら、それを防ごうとするモノノフ……英雄も出現するかもしれない。

 なら、それに釣られてイヅチカナタが現れ、それを追って翡翠の乙女…ホロウとやらが現れるかもしれない。

 

 自分から特に手を出すような事はせず、状況に任せるだけのつもりだったようだ。

 本当かよ?とは思うが、千歳という存在一つで計画を取り止めにする辺り、確かにそう大した執念は持っていなかったのだろう。

 或いは、ホロウが本当に来るとは思っていないのか…。

 

 オカルト版真言立川流で色々弄りまくった為か、虚海の精神状態もある程度把握できるようになっている。

 ハッキリ言えば、絶望……というより、諦念に満ちていた。

 既に生きているのも惰性に近い。

 元の時代に帰りたい、という唯一残った願いに引きずられるように動き続けているだけだ。

 それも、本当は時間を遡って帰る方法があるとは思えていない。

 万が一にもホロウに本当に出会えたら、万が一にも本当に時間を遡る力を持っていたら…。

 その万が一の望みを捨てられず、ただ生きている。

 

 …キッツいなぁ。

 

 

 何がキツいって、虚海の境遇もそうだが、俺もいつか同じ事になるかもしれないってのが。

 このままループから抜けられず、何をやっても、何を成し遂げても、デスワープするたびに全てがリセット。

 親しかった相手から見ず知らずの他人を見る目を向けられ、ただ機械のように狩りを続けて…。

 

 他人事じゃないんだよな。

 

 

 

 まぁ、いつかはそうなるかもしれないってだけだから、今から考えても仕方ないね。

 余計な事を考えると、尚更そんな風になっちまいそうだし。

 



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第62話+外伝11

展開に行き詰る⇒衝動的にエロで誤魔化す⇒ふと気が付けば文字数だけ増えて展開が進んでいない。
…つまりエロは文字数稼ぎだったんだよ!
割とマジで。
でも書かなきゃ欲求不満になるし、何より展開優先してたら味気なくなるし。
エロをフレーバーにするのはいいんですが、装飾過剰かと自分でも思い始めた今日この頃。

ところで、小学生だった頃はクロコダインはずっと緑色だと思っていました。
ピンクのワニだと知った衝撃…。


追記 GWで職場が繁忙期になる為、暫く更新が遅くなる可能性があります。
現在0.8話分くらいの書き溜めがありますが、展開に詰まっているため書きあがるのが遅くなると思われます。
…デスワープでリセットしちゃおうかなぁ…。


堕陽月「悪法も法であるが、チートプレイヤーはゲーマーではない」日

 

 里の外に行って、虚海を呼び出した。

 今日は素直に出てきた。

 若干以上に距離を開けられ、臨戦態勢だったが。

 

 …まぁ、あんな事したんだしな。

 暗示の効果がまだ残っているからだろうけど、素直に出てきてくれただけありがたい。

 

 それはともかく、鬼の指揮官について知らないか?と聞いてみた。

 最初は「素直に教えると思うか?」と言っていたのだが、ナニを扱くようなジェスチャーをしたら、顔を赤くしたり青くしたりしながら教えてくれた。

 ……と言うか虚海よ、お前腰が引けてるぞ。

 ビビッてる的な意味ではなくて、オッキして真っ直ぐ立てなくなってる意味で。

 

 思い出したのか?

 ナニをされたか思い出して、興奮しちゃったのか?

 さぁ言って見なさいお兄さん怒らないから!

 無理矢理オトコの人の部分を弄られて、気持ちよくなっちゃったの思い出して興奮しちゃいました!

 今もオトコの人の部分をオッキさせちゃってますと!

 

 

 

 

 

 なんかよく分からん陰陽術の必殺技っぽいのを喰らった。

 割とマジで痛い。

 まぁ、ツッコミとしては及第点かな。

 

 

 「何故に千歳はこんな奴に懸想しておるのか…」とorzとして嘆いていたな。

 

 

 エロネタはともかくとして、鬼の指揮官の居場所は大体予想がついているそうだ。

 更に、オオマガドキの触媒となる『目印』も、どの辺りに作られるか見当がついているとか。

 

 …マジで?

 イヅチカナタ、ホロウが現れるとしたらその場所だから、最初から探していた…なるほど。

 

 その情報は是非欲しいな。

 はっはっは、無駄な抵抗をせずに素直に話しなさい。

 それともアレか、またオトコの部分を以下略されたいか?

 あんまり続けてると、また理性がキレて処女奪っちゃうぞ。

 

 そろそろ訴えられたら素で極刑の領域に入っているなーと思いつつ、そんな事を言ったら。

 

 

 

 

 

 

「わ、私が何年生きていると思っているのだ!?

 年齢=伴侶居ない暦なんて事がある訳がなかろう!

 処女賭けてもいいぞ!」

 

 

 

 

 

 ………。

 

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

 つまり処女なんですねそして賭けて負けたんだからいただいてもいいですね!

 

 

「いい訳が無かろうが!

 ちょっ、おまっ、コッチ来るな!

 不能の術をかけるぞ!」

 

 

 と言いつつ顔がちょっと笑ってるぞお前。

 無理矢理願望アリ?

 エロい意味じゃなくて、鬼の体も気にしない人に、「いいから俺のモノになれ」って言われたいタイプ?

 

 ちなみに今回の機会を逃したら、経験できる見込みはありそうで?

 

 

「強姦されそうなのを機会とは言わぬわ!

 ええい、私を甘く見るでない! 

 この体さえ戻れば、男の一人や二人…!

 

 ……も、戻れば…きっと………多分…」

 

「ちなみに虚海より50年近く若い千歳は、チューからおっぱい触られてビクンビクンまで毎晩経験している訳ですが」

 

「ゲフゥ!?

 い…いや、それだ!

 元は同じ千歳なのだから、元に戻れば!」

 

「戻ったところで、あんな無邪気になれると思う?

 自分の年齢を考慮外にしても」

 

「…思わない」

 

 

 …こっち系統で弄ると、微妙にポンコツになるな、虚海って。

 マジで50年間オトコ無しだったんだろうなぁ。

 下手すると比喩も誇張も抜きに、友達の一人も居なかった可能性がリアルにある。

 微レ存どころかかなりの確率で。

 

 

「まぁ何だ、お前さんかなり前途に絶望してるみたいだし、理由は知らないけどいつ死んでもおかしくないって思ってるだろう?

 顔付きで分かるよ。

 だったら一回くらい経験してみたらどうよ?

 少なくとも、俺は鬼の体だろうと気にせんよ?

 実際、体で知ってるだろ」

 

「……………」

 

 

 こんな文句で割りと真面目に迷う辺り、割と本気で経験が無い事を気にしているっぽい。

 と言うより、今まで無かった感情の揺れ幅に戸惑っているんだろうか?

 ずっと一人だけ、語り合う友も無く、望むことは自分が居た時代への帰還のみ。

 思い出すのは、自分に降りかかってきた悲惨な運命と悪意のみ…。

 

 そんな状態から、良くも悪くもマイペースを保てない人間を相手にして、精神的にブレているようだ。

 単純に、他者からの好意(?)に慣れていないとも言える。

 

 よし、もっと揺さぶってやれ。

 なんか千歳とは別の可愛さが見えてきた。

 

 

 

堕陽月「ヒプノックは眠らな…いや普通に寝る」日

 

 

 口説けなかった…もうちょっと押しが足りなかったか。

 途中からなんか、虚海を弄ることに目的が摩り替わっていた気がするが、可愛かったからまぁいいや。

 うーん、先日襲い掛かった悪印象が無ければ、ベッド(敷布団だけど)インまで行けたかもしれんが…いや、それだと虚海のペースを乱せずに、精神的ガードに阻まれるな。

 結果オーライと思っておこう…。

 

 ただし自分が強○魔になりつつある事は肝に銘じなければ。

 いよいよ自棄になってきているか、狂ってきてるのかもしれん…。

 

 

 それはともかく、虚海に頼んで秋水経由で情報を流してもらった。

 鬼の指揮官…ゴウエンマの居場所だ。

 

 今回の鬼の出現パターンを見るに、ストーリーの通りに出現する訳ではない。(今のところ、鬼の種類が違うだけで大筋は同じだが)

 だったら、わざわざ守勢に回ってあっちが仕掛けてくるのを待つ理由は無い。

 まぁ、元々のストーリーだってゴウエンマを討つ為にこっちから仕掛けるタイミングだったが、それはどうでもいい。

 とにかく、秋水の得体の知れない情報網から入った情報を元に、鬼の指揮官討伐に向かおうっちゅう話である。

 

 今日は物見隊が情報の確認に行っているので、明日か明後日には出撃の号令が下るだろう。

 

 

 

 み な ぎ っ て き た。

 

 

 

 前回の根本的な原因は俺の行動にある…というか今回も同じ徹を踏みそうだ…にあるとは言え、物理的な原因を言えばあの赤鬼さんだ。

 デスワープさせてくれやがった屈辱は忘れてない。

 それ以上に、勝てば橘花の尻ゲットだったのに、プチッと潰してくれやがった恨みが燃え盛る。

 

 マジ泣きさせるくらいに叩き潰してくれる。

 泣いた赤鬼なんぞメじゃないくらいに号泣させてやる。

 具体的には弁慶の泣き所を徹底的にブン殴る。

 あと足の小指も狙う。

 指にミタマスタイル「隠」の秘針を叩き込んで、ささくれみたいにしてやろう。

 股間を狙うのはトドメの一発で充分だ。

 ダメ押しに鬼杭千切で脳天ごと吹き飛ばしちゃる。

 

 

 ……色々想像してみたが、痛めつける事に執着は感じられないな。

 単純に前回負けたのと橘花が食えなかったのが気に入らんだけだわ。

 

 うっし、リベンジリベンジ。

 

 

黄昏月「触らぬエスピナスに祟り無し」日

 

 ここで敢えて死亡フラグを立ててみる。

 ゴウエンマを張り倒したら、俺、千歳を押し倒すんだ…。

 

 一応言っておくが、エロのみの為ではない。

 それが主目的なのは言うまでも無いが、千歳の体を人間ボディに戻す事ができるかもしれないからだ。

 

 千歳は里に来た頃から…正確に言えば、初めて会って変身!を見た時から、同じやり方をすれば人間の体と鬼の体の変化をコントロールできるのではないか?と考え、色々と試行錯誤している。

 色々試しているが、主なやり方は人間ボディの霊力を高め、鬼のボディの霊力を極力抑える事で、鬼に浸食されている部分を押し返そう…という目論見だ。

 まぁ、残念ながら上手く行っているとはとても言えない状況なのだが、その最大の理由は鬼の体の霊力のみを抑える、という事が出来ないからだ。

 右手を全力で握り締めながら、左手だけ消力並みに脱力しろって言うんだから、そりゃ難易度が高いのも当たり前だ。

 

 そこでオカルト版真言立川流の出番である。

 エロースを目的に使いまくっているが、元々は互いの霊力を送り込み循環させ、それをコントロールする為の技術である。

 循環させる霊力を増幅させる事もできれば、吸収する事も出来るし、鎮める事も出来る。

 体の一部だけの霊力を小さくさせるというのは初めての試みだが、理論上は可能。

 

 それが出来なかったのは、鬼の体の霊的防御力に阻まれ、霊力を送り込む事が出来なかったからだ。

 が、先日虚海を襲った際に、ご立派様を通せば充分に霊力を送り込める事が発見された。

 千歳はご立派様をひた隠しにして触れさせないようにしているので、知られていると気付いたらショックを受けるだろう。

 一大決戦を前に、精神的同様を与えるのは望ましくない。

 

 なので勝った後に奇襲をかける。

 口で「気にしてない」と言ってもショックなのには変わりないだろうから、押し倒して実演します。

 人間ボディに戻れるかもしれない、と言うのもちゃんと説明しなくちゃな。

 

 

黄昏月「エロ装備は滅びぬ! キリン娘やナルガ娘こそが人類の夢だからだ!」日

 

 予想通り、鬼の指揮官の居場所が確認され、討伐に出る事になった。

 今回のメンバーは、千歳、富獄の兄貴、那木さん……息吹…になるトコだったけど、ギリギリで俺。

 

 HAHAHA、そういやそうだねー。

 主人公的な立ち居地に居た前回ループまでの俺と違って、今回の主人公は千歳だもんなー。

 人が増えればポジションが余りもするし、人間関係の中心が千歳になってるんだから、特に強い絆で結ばれたメンバーになるのも当然だろう。

 具体的にはキャラエピソードをこなしたメンバーに。

 

 ふぅ、危うく蚊帳の外になっちまうトコだったぜ。

 油断できんな。

 

 さて、これから出撃なんで、今日の日記はこれまで。

 前回の雪辱戦だが、それに囚われて勝手な行動をするようでは話にならない。

 余計な事を考えず、狩る事だけを考えよう。

 

 

黄昏月「命は刈り取るもの」日

 

 

 とりあえず、里に戻ってからやったのは、千歳の胴上げだった。

 ちょっと悲鳴あげてたけど。

 

 ヒャッハー、快勝快勝!

 

 

 …とはいかなかったよ。

 いや、ゴウエンマ自体はちゃんと狩れたよ?

 正直言って、思っていたよりは強かったが、想定内の強さだった。

 

 前回と違って余計な事も考えず、火種になるような事も口にせず、富獄の兄貴とツートップで前衛、千歳と那木さんがバックアップをこなした。

 それはまぁ、良かったんだが…ゴウエンマがタマハミ状態になった辺りから、一気に状況がややこしくなりやがった。

 

 仲間を呼んだのだ、あの野郎。

 

 戦略的には確かに間違ってねーよ。

 負けそうになっても逃げもせず、討たれるまで戦おうとする方がおかしいのだ。

 そういう意味では、確かにあのゴウエンマは指揮官だった。

 

 負けそうになったから戦力補充…いや戦力の逐次投入は愚策の代表例だが。

 

 

 …違う、か?

 よく考えれば、奴は仲間を呼ぶような仕草はしていなかった。

 にも関わらず、次から次へと今までやりあった鬼達のオールスターズ…。

 ミフチからダイマエン、マガツイクサまでバカスカ出てきやがった。

 せめてタケイクサまでにしろっつの。

 

 待ち伏せされた?

 

 …鬼にも知性がある……別に不思議じゃないな。

 モンスターにだって程度の差、方向性の差はあれ知性はあるんだし、鬼が頭を使っても何もおかしくない。

 大攻勢だって、考えてみれば上空から結界に奇襲をかけたり、そもそも足並みそろえて襲ってくるって時点で多少は頭を使っている。

 むしろそこそこ頭がいいと考えられる上位の鬼でも、一体ずつでしか行動してないのがおかしいくらいだ。

 いや、複数討伐任務とかあるけどさ。

 

 うぅむ……分からん。

 実際、もしも今回のループで何かしらドジったとしたら、次回どうなるのかも分からん。

 また鬼の出現する順番が滅茶苦茶になるかもしれないし、当然千歳に会えるかどうかだって分からない。

 …多分、虚海の方は確実に居ると思うんだが…。

 

 

 …正直、考えたい可能性ではない。

 他人にあまり興味を持たないタチの俺だけど、このループの中で出会い別れ、そして忘れられる事があっても平然としていられるのは、「忘れられても会う事はできる」からだと思う。

 例え誰かが死んでしまっても、デスワープすればまた次のループで会う事が出来る。

 あっちからすれば赤の他人でも、また新しく縁を繋ぐ事はできる。

 

 でも千歳は違う。

 

 どれくらいの確率かは知らないが、千歳は異界に追い込まれてこの時代に跳んできた。

 そして規則性も無く動き、変わり続ける異界の中で俺と会う。

 …これがどれくらいの確率なんだろうか。

 

 デスワープした直後は、俺の知る限り、認識する限り、全てが同じ条件だった。

 人の名前や居場所、物が置かれている場所、全てが同じ。

 だが異界だけは違う。

 常に流動を続け、最初の一瞬だけは同じでも、その後どう変わっていくかは全く見当が付かない。

 こちらから探し出す事も難しい。

 

 二度と会えないかもしれない。

 …それこそ、このループを抜け出してしまえば、二度と。

 

 

 

 だからってループを抜けるのを止める気はないけどね。

 ウダウダ考えたって仕方ないや。

 いつもの俺なら、2~3日落ち込んで勝手に立ち直るだろう。

 もしそれで効かないくらいに本気でショックを受けるんなら、まぁ、俺も誰かに執着を持つようになってきたって事だろう。

 それ以上の事は考えないでおく。

 怖くなって動けなくなりそうだ。

 

 

 

 

 そんな事より、今夜の準備だ!

 予定通り押し倒すぜー!

 

 

 ちなみに今日の晩飯はヤツメウナギその他精力増強メニューです。

 滾ってるのは俺だけじゃなくて千歳もだろうなー。

 さっき風呂から上がった時、中腰になってソソクサと布団に入っていくのを見たぞ。

 「今日は疲れたから、もう寝るね」と言ってたが、さっきからモゾモゾしっぱなしだ。

 

 俺も一風呂浴びれば、夜も更けて丁度いい時間帯だ。

 フィーバーしよか!

 

 

黄昏月「買い物した時に支払い額が777とかだとちょっと嬉しい」日

 

 千歳は一日オヤスミです。

 何があったかなんぞ言うまでもあるまい。

 美味しく頂きました。

 

 押し倒したのは事実だが、ちゃんとOK貰ってからヤッたので、そこら辺を誤解しないように。

 そりゃ、最初は抵抗されましたよ?

 いつも通りのスキンシップだと思ってた時は、いつもより反応が大きいくらいで抵抗は無かった。

 

 

 

 なので、不意を付いて千歳のナニを速攻で握り締めました。

 そりゃーもう、目茶目茶ビックリしてましたよ。

 それも当然か。

 嫌われると思って隠していた部分を、見られるどころか直接触られてるんだもの。

 パニックになりそうになっている所に付け込んで、囁き+オカルト版真言立川流inご立派様。

 一言二言囁いた時点で、あっという間に果てましたよ。

 白いのもちゃんと出ました…千歳の寝巻きの中で、だけど。

 

 まぁ何だ、千歳の場合無理はないんだが、三擦り半はどうかと…。

 イッた直後は敏感だから、そのまま責めこんだけど。

 潤滑油も沢山あったし……白いやつが。

 

 

 そのまま千歳に…なんだその、愛の囁き? 口説き文句?みたいなのを色々吹き込んでたんだが、流石に明記はするまい。

 キャラじゃないし、なんか妙に恥ずかしい。

 今まで関係を持った女達にもピロートークとかで色々言ったが、なんかそれとは別の恥ずかしさだった。

 …どんな事をいったとしても、相手のナニをシコシコしながらじゃ滑稽にしか写らんだろうけどな。

 

 

 

 溜まってたからかもしれんが、やっぱり千歳のだったらシゴくのにも嫌悪感は無かったな。

 口とか使えと言われると、流石にまだ躊躇いがあるが。

 

 しかし、布団の中が二人分の白いのでエラい事になってしまったのは誤算だった。

 とりあえず洗濯してはいるが…やっぱ処分するしかないかなぁ?

 赤い染みが付いたトコだけ記念にとっておくのは…アリか?

 

 あと、洗濯しているところを鳥が見ていた。

 …虚海にも伝わってるな、これは。

 

 

 

 ま、何はともあれ、千歳とそーいう関係になりました、っと。

 

 

 …さて、色々気になる事はあると思うし、ひょっとしたらこれ以上エロ表記は要らんと思っている方も居るかもしれないんで、話題を変えます。

 結局はエロにたどり着きそうだけど。

 

 

 

 今朝方、秋水と橘花が何やら会話しているところに遭遇した。

 逢引?と思ったが、秋水にそんな甲斐性はねーな。

 事実、こっそり聞き耳立てていたところ、聞こえてくるのは色気とは全く逆の話だった。

 

 秋水は俺の知らないところで、何やら橘花にプレッシャーをかけていたらしい。

 ゲームとは違って、あからさまな動きが無いので気付かなかった…。

 心理戦だと考えると、水面下で動き回る事には全く違和感が無い。

 目に見える動きがなかっただけで何もしてないと判断したのは、明らかな俺のミスだな。

 

 

 だが、それも効果が無かったらしい。

 橘花は俺が知らないところで、しっかり成長していたようだ。

 

 ゲームの話とは少し違うように思う。

 もう殆ど覚えてないが、ゲームでは主人公の行動言動によって、迷いを晴らされていたようだが…今回の橘花は違った。

 

 千歳と会った。

 里を自分の足で歩き回れるようになった。

 姉や護衛達も渋い顔をするが、それを認めてくれるようになった。

 里の皆と言葉を交わすようになった。

 お気に入りの遊びも出来た。

 

 

「以前まではずっと、朦朧としたものを守る為の役割でしかありませんでした。

 でも、今は私が力を振り絞る事で守れる物が何なのか、よく見てよく知っています。

 気晴らしもできるようになりましたし、辛い事もありますけども。

 それらの全て…とはいいませんが、それらが成り立っている一部に、私の力が間違いなく関わっている。

 だから、今は私の役目も誇りに思います」

 

 

 …だそうだ。

 

 ……親が無くとも子は育つ、プレイヤーが居なくてもNPCが育つって言うのかねぇ…。

 立派になったもんだ…。

 

 

 

 

 

 その後秋水が余計な事言いやがったんで、修羅場を向かえる可能性が高くなったがな!

 あの野郎、先日の決戦の後に、俺が精の付くもの沢山買い込んでる所を目撃してやがった。

 そして「戦の前後は昂ぶるのが益荒男の性質らしいですよ」と。

 

 …千歳とヤッたのがバレてるな、こりゃ。

 声をかけられる前に、ソソクサとその場を後にしました。

 

 

 

黄昏月「んほぉぉぉぉ! 麻痺らせてスラッシュアックスでブンブンきもちぃぃぃぃ!!!」日

 

 

 千歳復活。

 今日からまた任務である…俺とは別の班だけど。

 色惚けてヘマをしないか、それだけが心配である。

 実際、思い返しては顔を赤くしたり頭を振ったり、動物に話しかけて奇行を繰り返している。

 …まぁ、千歳の場合、動物とガチで話ができるので、それは奇行に入らないかもしれないが。

 

 だが動物に対して惚気たり、エロい事のやり方を聞いたりするのは充分奇行に入ると思う。

 望みどおり次はバックでやってやろう。

 

 

 

 それはそれとして、橘花がちょっとヤバい。

 物陰から覗き見したんだけど、なんかこう…物腰はいつもと変わりないんだけど、プレッシャーを感じる。

 桜花がたじろぐくらいの気迫を放っている。

 

 …こんな事言うとガチのクズ野郎なんだが、俺って橘花と恋人とかって関係じゃないんだよな…健全な遊びとエロい遊びのやり方を教えて、代わりに色々ヤッてもらっているだけだ。

 どっちかと言うと、橘花の方が浮気相手なくらいで。

 まぁ何にせよ、俺の保身の為にも里の為にも、千歳の為にも橘花(の尻)の為にも、この般若モドキをどうにかせにゃなるまいて。

 

 

 博打になるが、仕掛けるなら今がチャンスだ。

 千歳は色ボケて舞い上がって浮かれているので、他への注意が疎かになっている。

 橘花も橘花で、嫉妬(?)という劇薬を飲み干して不安定…扱いを一歩間違えれば爆発するが、上手く制御してやれば一気に事を進められるだろう。

 

 0か100かの大博打だな。

 いや、俺の手腕次第なんで、運に関わらないから博打じゃないか?

 どっちがマシかは微妙な所だ。

 

 さぁ、鬼女が出るか蛇(オトコのアレの象徴でもある)が出るか。

 




~~外伝~~


 唐突だが、この世界(夢)にはバトル○ァックと言う競技が存在する。
 ルールは色々あるのだが、簡潔に言えば男女間でエロい事をし、相手を絶頂させた方が勝ちと言う。
 正にソレナンテエロゲな競技であるが、参加者(バトル○ァッカー)は男女問わず世界中に居る。
 アホみたいな話だが、当事者は大体真剣である。
 男性側としては、水商売にお世話になる感覚で参加するのも珍しくないが。

 元は対等なルールの下に競っていたのだが、どういう訳だが男性側競技者が非常に弱く、今では男性は時計代わり。
 女性に一方的にエロい事をされ、時間内に絶頂しなければ男性側の勝ち…というルールに成り下がってしまっていた。

 これについて、男性を不甲斐ないと罵るのは酷であろう。
 どうやらこの世界の男性は、そういうもの……性的な事に関しては、女性の下位に位置するもの、という風潮があるようなのだ。
 とある世界のとある時代では、「女性は貞淑であれ、男性の後を三歩下がってついていくのが美徳」みたいな価値観があったように、男性は女性に押し倒され、弄ばれるのが美徳…のような観念がある。



 のかもしれない。



 この世界の価値観は置いておいて。




~~バトル○ァッカー特集より~~


 最近、このバトル○ァッカーに超新星の如き参加者が現れた、という噂が流れている。
 その参加者は男性であるのだが、なんとバトル○ァックに際して従来通りの搾り取られる側として参加するのではなく、時間制限なし、互いに性的な行為を同時にし合い、何と女性を絶頂させて勝利しているのだ。

 最初は単なる噂、デマとしてしか扱われなかった。
 しかし徐々にその噂は広がり、事実「彼には負けたわ」と公表するバトル○ァッカーが現れるようになった。
 信じ難い事に、彼は例え絶頂して敗北したとしても、すぐに間を空けずに再戦を挑み、勝利をつかむ事すらあったと言う。

 ただ、敗北したバトル○ァッカーに対して何度も追撃を加える……所謂、死体蹴りをする癖があるという悪評もあるが、それに関してはバトル○ァッカー達は顔を赤らめて口を噤むのみである。

 悪評が事実かデマかはさておいて、その超新星のバトル○ァッカーが存在する事は既に明白である。
 彼はバトル○ァッカーの頂点に立つべく、世界各地を旅し、バトル○ァッカー達と手合わせ…もとい(Pi-)合わせを繰り返しているらしい。

 また、恐ろしい事に、彼はバトル○ァッカーだけでなく、野生のもんむすとさえ交わり、同様に相手を絶頂させて勝利を認めさせる事を繰り返しているらしい。
 これは、或いは何かの修行なのだろうか?

 失われたルールに則って戦い、男女の役割を逆転させるが如き、謎のバトル○ァッカー。
 
 その正体は一体何者なのか。
 彼は何の為にバトル○ァッカーになったのか。
 我々にできる事は、その道の先に何があるのか、見届ける事だけである……。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~






 まぁ、ぶっちゃけ俺の事なんだけどね。


 今回はまた珍妙な夢を見ている。
 ていうかぶっちゃけ淫夢以外の何者でもない。

 夢っつーのは過去の記憶やら願望やら心配事やらがゴチャゴチャになって 見る物という説が定番だが、俺の場合何かのゲームとかの世界にマジで行ってる節があるからなぁ…。
 これが単なる夢なのか、それとも本当にこういう場所に行ってるのか、或いはもっと別の何かなのか…推測するしかにぃ。


 まぁ小難しい話は置いといて、だ。


 この世界の夢を見始めた時は、とうとう欲求不満が積もりに積もってマジで狂い始めたかと思ったもんだ。
 気が付いた時には、その辺の原っぱで呆然と突っ立っていたんだが、なんというか狩人の本能と言うかね…野生のモンスターが狙いを定めている気配がして、ふっと臨戦態勢になってから気が付いたんだ。
 


 でもね、それで襲ってくるのがもんむすってのは予想外だったよ。
 何よアレ。
 おっぱいとか下半身とか、性的なところ丸出しで襲ってくるんですけど。

 まぁ、その時は普通に撃退しようとしたんだけど。
 種族的な話はともかく、能力的にあの程度でモンスター娘を名乗ろうとは笑わせる。
 せめて地上に出たドスガレオスに勝てるようになってから来い。

 人間っぽい部位に戸惑いつつも、まぁ襲ってきてるんだし狩っても文句言われないよね?とか思いながらフルボッコにしてたんだが。


 命乞いに、エロい事してきた。
 というかオニンニン触って逆セクハラしてきた。
 ヤルのと引き換えに、命を見逃してやった。



 …なんか俺の方がスッゲー悪人みたいな気がするが、今思うとあの時のもんむすはかなり切羽詰っていたんだろう。
 こちとら、モンスター達とは狩るか食われるかの関係にいるガチ狩人の端くれだ。
 相手が俺を喰らおうと襲ってくるなら、容赦なんぞする訳がない。
 人間部分だけを見ればカワイイ女の子だったんだが、俺はマジで狩る気で戦っていた。

 後から知った事だが、この世界でもんむすを殺そうとする男は非常に少ないらしい。
 まぁ何だ、もんむすに襲われて敗北しても、逆○イプかまされてエロい事されるだけらしいしな…。
 体力的な意味で死にそうになる事はあっても、マジで殺される事はそうそう無いとか。
 むしろ、連れ去られた後に新しい家族を連れて戻ってくる事の方が多いそうな。

 ワケワカメな世界である。

 まぁ、平和なのはいい事だ、という事にしておこう。
 何十年か前までは、なんかこの世界の代表的宗教が「そういうのアカンよ」とかやってたらしいんだが、どうでもいい。
 神仏に力を借りるモノノフでもある俺が言うのもなんだが、宗教とかにのめりこみすぎるとロクな事にならんし。
 もんむすを相手に宗教戦争とか御免蒙る。




 …話が逸れた。

 とにかく、俺は夢を見始めた時に襲ってきたもんむすを返り討ち寸前まで追い詰めた訳だ。
 そしたら「ヤッてもいいから見逃して?」という(多分割りと命がけの)交換条件。
 俺としても、人間っぽい部位を持ち、意思疎通も可能な生物を狩るのはちょっと気が引けた。
 相手が男だったら迷わず狩ってたけど。

 で、まぁリアル世界で欲求不満が溜まっていた俺は、ホイホイ誘いに乗っちゃった訳だ。

 後になって、それは相当な自殺行為だって知ったけど。
 普通の男がやったら、搾り取られて完全敗北ルート確定だったらしい。
 前述したように、「男性は女性に押し倒され、弄ばれるのが美徳」みたいな暗黙の倫理みたいなのがあるらしいし。




 が、そこはそれ。



 俺には、かつて討鬼伝世界の霊山で発見し、エロ欲求…もとい好奇心の赴くまま読み耽り、挙句その後のデスループの間中ほぼ皆勤賞と言ってもいいくらいにお世話になり続けた、オカルト版真言立川流があるッ!



 まぁ、それでもドロドロ(エロ的な意味『のみに非ず』)の泥仕合になったんですけどね。
 何発ヤッたか、数える気にもならん。


 いやー、もんむすってエロ的な意味で凄いわ。
 と言うか、この世界の女ってなんか妙な加護でも受けてるんじゃなかろうか。
 それ位に、エロに抵抗が無くて名器でスゴいテク持ってる女性(もんむす含む)が多い。

 最初にやりあったもんむすとのエロは、もうヤッてるんだかヤラれてるんだか分からなくなるくらいに、お互いドロッドロになったもんなぁ…。
 はじめの一歩の青木さんもビックリの泥仕合っぷりだったよ。


 …なんだな。
 今までオカルト版真言立川流のおかげで、下半身無双できてたんだが…やっぱりまだまだ脇が甘いってのを実感したわ。
 どんなに詳細で優れたマニュアルがあっても、実践する者の近くにレベルの高い比較対象が居なかったり、対等の立場で語り合える相手がいなけりゃ、独学以上のものは得られないんだね。
 それを自覚した俺は、行く先行く先で出会うバトル○ァッカーやもんむす達と片っ端からヤリ続け、技術に磨きをけてきた訳だ。
 必死になってヤッたからこそ、色々とレベルアップを果たす事ができたんだろう。


 そういう訳で、俺はこの世界をフラフラ彷徨いつつ、話に聞いたバトル○ァッカー達と戦い、そこで得られた景品など売って生活&旅費の糧にしている訳だ。
 勿論、各地で出会ったもんむす達と○ァックして、レベル上げするのも忘れない。
 生活の為なんだからね!
 …まぁ、自分の技術が未熟なのが我慢できないっていう妙な職人魂と、エロ根性が入りまくっているのは認めるが。





 さて、そんなこんなで旅を続けていて、(長い夢だ)バトル○ァッカー特集のみならず、もむす達の間でも噂されるようになってきた俺だ。
 まぁ、会って戦うもんむす達に散々誘惑され、誘惑に勝ったり負けたりし、負けたら負けたでバトル○ァック(野試合)に微妙に負けつつ勝ってきた俺だ。
 いやぁ、もう何度ヤッたりヤラれたり、ヤッてるのかヤラれてるのか分からなくなった事か…。
 旅路の間に出会ったもんむすとの戦いは、8割以上がバトル○ァックによる決着だと言ってもいいくらいだった。


 何だかんだで、エロ系統の技術が上がってきたのは確かだろう。
 バトル○ァッカー業界内でも、期待の超新星として噂されているみたいだし。
 実際、とある町に立ち寄った時など、現地のバトル○ァッカーの方から出向いてきて戦いを挑まれたくらいだ。
 絞り取ってばかりで、欲求不満だったのかな?


 んで、俺はとある田舎…よく分からんが、宗教の聖地だか発祥地だかのイリアスなんちゃら、という村に訪れている。
 別に深い訳があった訳じゃない。
 単に新たな金蔓もといバトル○ァッカーを求めて歩き回っていたら、偶然ここに来ただけだ。
 そしてこの地のバトル○ァッカーにも問題なく勝利。

 むしろバトル○ァッカーとしては低レベルな相手であった為、今までの旅で培った技術を総動員して逆にアヒンアヒンよがらせてみた。
 バトル○ァッカーとしてみれば死体蹴りに相当する行為だが、癖になってしまったらしく、この村に居る間は毎晩でも相手をしてもらいたいと頼み込まれた。
 うむ、まだまだ試したい技術は沢山あるぞ。




 さて、問題はここからだ。

 

 この村のバトル○ァッカーさんに衣食住性的な意味でお世話になっている俺ですが。

 なんかショタっ子に弟子入り志願されました。




 そして幼馴染らしきムチムチ棍棒シスターっ子が、それに反対して痴話喧嘩を繰り広げております。
 オタノシミは終わった後だったからまだいいものの、ピロートークが滅茶苦茶だよ…他所でやれ。








 翌日。

 結局、ショタっ子…村の勇者の子供だというルカ君に、弟子入り志願されている。
 宿屋の仕事はどうした。
 幼馴染のソニア嬢は不機嫌そうで、隙あらばルカ君を連れ戻そうとしているようだ。
 神官の修行はどうした。
 あとその格好のドコが神官だ。




 どーしたもんかなー。
 
 別に技術を教える事自体は構わない。
 俺が苦労して生み出した術じゃない。
 習得だって、好きそこモノのナントヤラで、半ば遊んでいたら自然に身に付いたようなものだった。
 まぁ、この夢の中では割とリアルに生命とプライドの危機なんで、かなり真剣に取り組んだが。

 ルカ君は邪な目的で言っているのではなさそうだ。
 彼は近い内に旅に出るらしい。
 そんな時に、噂のバトル○ァッカーと思しき(だってここのバトル○ァッカーを好き放題に弄んでたし)俺が来訪し、運命的なものを感じたと言う。


 旅をすればもんむすに襲われ、負ければエロ的な意味で絞り殺される寸前まで行ってしまうこの世界。
 もしもその世界で、敗北したとしてももんむすを性的な意味で屈服させる術を持っていれば、それは非常に強力な武器になるだろう。
 たとえ何かしらのミス…選択肢のハズレとか、コマンド入力ミスとか…があっても、逆転して勝利してしまう可能性すら出てくる。
 つまり、エロ技術はこの世界では非常に有用なものなのだ。


 しかし、ソニア嬢のこの態度……。





 ふむ。

 ルカ君を連れて帰ろうとするソニア嬢を制止し、初歩なら教えるのも構わない、と伝える。
 喜び勇むルカ君を他所に、










「まぁ待ちんさいソニア嬢。
 ルカ君が下心をちょっとしか持っていないのは、君だって分かるだろう」

「分かるかぁ!
 こんな所に居られないわ!
 私はもう行く!
 ルカなんてもう知らない!」


 うむ、激昂している。
 さて、ここでサッと耳元に一言。


「ルカ君が積極的になるかもしれないぞ?」

「………kwsk」


 ほほぅ、引っかかった引っかかった。
 よっしゃ、この子も難しい理屈が苦手な脳筋っぽいし、ラッシュで押せ押せ。


「なぁぁぁぁに、難しい理屈じゃない。
 人間たるもの、どんな物であれ力を持てば試したく、振るいたくなる物さ。
 例えそれが倫理観に微妙に反する、男が女をヒィヒィ言わせるエロテクであってもな?
 ところで、ここでルカ君がそれを覚えたらどうなるだろうな。
 折角頑張って覚えた技術だ。
 今後どう使うかはともかくとして、まずはどれくらい身に付いたか試してみる必要もあるよなぁ?
 ああ、それ以前に練習相手だって必要だっけか。

 ところで、この村にそういう練習に付き合える相手ってどれくらい居るんだろうなー?
 もんむすにいきなり挑んだら、まず間違いなく敗北するよなー?
 出切れば人間並みに理性と引き際を心得ていて、同年代の女の子がいいんじゃないかなぁ。
 そーいう経験が無いなら、なお良し。
 バトル○ァッカーだとレベルが違ったり、職業意識が強すぎて一方的すぎるだけだしなー。

 ああ、どこかに丁度いい幼馴染枠のカワイイ子とか居ないかなぁ!?」(注:小声です)


「……………」

「攻めを覚えたルカ君はどれくらい化けるかな。
 鈍感系から肉食系に変わるかもしれないな。
 勿論体力的にも鍛えるから、強く逞しくタフになる事だろう。
 乙女心…については俺も専門外なんで教えられないが、その分観察力を鍛える事はできるぞ。
 嬢ちゃんが何を考えてるか、0.05%くらいは分かるようになるんじゃないかな。
 つまり君の感情にちょっとくらいは気が付いて、女性として明確に意識するようになるかもしれない。

 そしてちょっとずつ君を意識し、口説こうとするようになるルカ君。
 さぁ想像するんだ!
 甘酸っぱいラブコメの日々を!
 君がこっそりバレバレな変装をして買ってコソコソ読んでいる、パンチラを見せるようなToラブるストロベリーラブひなI’sな日々を!
 そして君がOKを出した瞬間、それはエロエロで退廃的な日々へと変わるだろう!
 お互い拙い動きでのロマンチックな初体験!
 翌日に顔を合わせて、どんな顔をすればいいのか分からず、しかしラブい気持ちだけ暴走する甘酸っぱさ!
 そして恥ずかしがりながらも、エロい事の感覚が忘れられずにおずおずと互いに差し伸ばされる手!
 場所とシチュエーションによっては、外での行為にすら発展するやもしれん!」(注:小声です)


「…………………(想像して悶々とし始めているようだ)

 
「さて、その時上に乗っているのはどっちだろうな?
 エッチぃ事が上手になったルカ君が、誰かさんをアヒンアヒンとよがらせているのかな?
 それとも、エッチに自信をつけたルカ君を誰かさんが押し倒して、「どっちが上だか教えてあげるわ」とか言いつつ搾り取ってるのかなぁ!?
 どっちだと思う?
 例えば君ならどうなると思うよ!?
 ああ、勿論日替わりプレイだってオッケーだぞ!!
 それともよがらされた後で女性用のテクを学んでみるか?
 勝って負けて勝って負けて、S役とM役を交代する退廃的なプレイだって世の中にはあるぞ!?」(注:小声です)


「…………………………………………………………(茹ってきている。だがトリップしているようだ)」



 ふはははは、セクハラそのものの発言だが、真面目な顔して聞き入ってるな!?
 顔が赤くて想像してるのが目に見えるぞ。



 この数分後、ソニア嬢は「ちゃんと教わりなさいよ! 何を教わったのか、私にも教えなさいよ!」と顔を赤らめつつ撤退した。
 うむ、いいセクハラだった。
 ま、あそこまで煽ったんだから、なるべく恋路に協力はしてやるか。
 恋路じゃなくて色路のような気もするが、ルカ君は鈍感系っぽいしな。
 精々煽って仕込んで、他人の色恋沙汰として見物させてもらおう。


 そうだな、この手の技術を人に教えるのは初めてだし…実践しているところを見学させるのも癪だな。
 萎えそうだし。
 
 よし、ちょっとマニュアル本でも作ってやるか。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー



 後に、サキュバスすらも退ける『バトル○ァッカー:三淫』と呼ばれる3人の人間が、この時この村に居た。
 祝福なき勇者にしてバトル○ァッカー、生涯で敗北したのはただ一人。攻守共にバランスの取れた技術、ルカ。
 ムチムチした体と、本当に神官修行していたのか疑いたくなるようなエロいコスチュームで誘い受けからのカウンターを得意とした、ソニア。(ルカとしかバトル○ァックしなかったそうだが、唯一ルカに精もとい土をつけたバトル○ァッカーである)

 そして最後に、三淫の頂点、他の二人の師匠と詠われる『記す事さえ憚られる』という凄まじい攻撃と嬲りの技術、そして体力を持った、名を抹消されたバトル○ァッカー。
 世の何処かには、彼が残した『オカルト版シンゴンタチカワリュー指南書』なる技術書があるらしいが、その本が発見される事はなく、後のバトル○ァッカーの間で幻の書として語り継がれていく事になる……。














 そんな長い夢を見て目が覚めた。
 なんか色々エロ系統の技術がものっそい発達した気がする。
 それはもう、ヘタすると精神崩壊まで持っていける程に。

 まぁ、エロ系統の技術って、8割以上が雰囲気作りとかだしな…新しい手法を思いつくだけでも技術の充実には違いない。


 あと、ふと気付くと夢の中で書いてルカ君やサニア嬢に渡した、オカルト版真言立川流の指南書:初歩が手元にあったんだが……そういやコレ、霊山で見た奴をなるべく忠実に書き記した奴なんだよな。
 どうすっかな…。




 などと思っていたら、任務中に異界で落として行方不明になってしまった。
 …多分、あのまま異界を流れに流れて、どっかで霊山にたどり着くんだろうな…そしてソレを俺が読み、実践し、またあの夢を見て書き記し、また落として…の無限ループ。
 うーむ、なんで本で読んだだけの技術が異常に体に馴染むのか、疑問に思ってはいたが…こういうカラクリだったのか。
 未来の俺が過去の俺の体験談から書いた本だったんだから、そりゃ体に馴染むはずだわ。


 と言うか、よく考えればこの本、素で過去にタイムスリップしてるな。



~外伝・もんむすくえすと パラドックス編~


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63話

春ですなぁ(夏日和だけど)
…頭のオカシイ客が増えて困る…割とマジで。

今日も今日とて、我侭言いやがるのが来た。

…と思っていたら、よくよく考えてみたら、それは当然の要求で、こっちとしても飲んで当然の話だった。
なんちゅーか……その、自分が相手の話を聞かないクレーマーになったような気分になって、非常にハズカシイです。



ふと読みたくなった。
…ハイループD×Dが…無い…だと…?
え、どういう事なの?


 

 

黄昏月「の…のみすぎた…」日

 

 結論から言うと蛇が出た。

 引っ張り出された。

 俺の蛇だ。

 

 で、鬼女(千歳)を丸め込むのに、橘花も手伝ってもらう事になった。

 ナニがどうしてそうなったかって?

 …まぁ、なんだ。

 

 橘花の性癖は、まだまだ序の口だったって事だ。

 正直言って、俺も甘く見ていた。

 

 昨日、言葉巧みに神木の元へ連れ込み(殆ど何も言わなくても、付いてくるというか押しかけてきそうだったが)、以前と同じように手でしようとするところまでは、想定通りだった。

 嫉妬に後押しされて、もう少し先…口をつけようとしたのも、想定の範囲内だったと言える。

 

 だが、恐る恐る口を付けた橘花に、「こんないやらしい事をするなんて、橘花はワルイ子だなぁ」と囁いた辺りから風向きが変わってきた。

 明らかに橘花の顔付きと手付きが変わり、躊躇いがちだったのが貪るようになり、命じられれば嬉々として従い…。

 

 

 と言うか、ロクに調○もしてないのに、物凄い○隷っぷりだった。

 

 

 

 たった数分の行為だったというのに、それはもう、清楚なのに娼婦と言われても…いや、いっそ狂人と称されても誰も反論できないくらいのエロさ(流石にその片鱗までだったが)を漂わせるようになった。

 こう言っちゃなんだが、前回橘花の尻を食い損ねていてよかった…。

 そうでなければ、尻ではなく前でヤッてしまい、里の結界に影響が出たかもしれない。

 

 

 

 ええそりゃもう、食いましたよ食い尽くしましたよ、『ぢ』になってないか心配するくらいで。

 と言うかむしろ俺が食われてたんじゃないかと思うくらいだった。

 

 

 …どんだけ抑圧されてたんだろうなぁ。

 神垣の巫女として育てられてきた中で、生来の性癖が歪められたのか、増幅されたのか。

 本人も知らずに膨れ上がっていたソレは、自分で慰めるという行為を切欠に表に出始め、自分で尻を弄り回すという背徳的な行為で本格的に大きくなり…。

 

 今回、嫉妬という後押しを受けて自らそういう行為に乗り出して……完全に火がついた。

 天性の素質と、精神状態と、抑圧からの解放の3乗で、トンでもないものが出来上がってしまったようだ。

 よくよく考えてみれば前回だって、殆ど自己流で、自分で挿入可能なくらいに尻を開発してた。

 変態的な行為にのめり込むのは、嫉妬が無くても生来のものだったのかもしれない。

 

 

 

 今の橘花は表向き全く変わりはないし、自分がひどく変化したという自覚も、不思議と無いようだが……一度トランスしてスイッチが入ってしまえば、背徳的な行為や自らの尊厳を犯すような行為で快感を得る、桜花が知ったら発狂しそうなレベルのド○態になってしまう。

 正直な話、鬼の精神攻撃とかかかってるんじゃないかとガチで疑った。

 実際、正気を失った人間特有の虚ろな目だったし。

 

 が、どうやら完全に素のようで。

 

 

 色々な意味でヤバいかなぁ、とは思いつつも、とりあえず好都合なので利用する事にしている。

 

 

 どうするのかって?

 

 そりゃーアレだ、今の橘花は、一度スイッチが入ればエロい事や淫靡な事、マトモではない事に興奮するアレな子だからな。

 3Pだって、尻の処女を失った直後に提案した時点で、一層発情してたくらいだ。

 

 

 二人で千歳を手篭めにしようと言ってみたら、そりゃーもう凄かった。

 想像するだけで物凄いコトに。

 しかも千歳にナニがついてるコトを話したら……まぁ、なんだ、シャワーと言うか、ワンコだったら嬉ションというか。

 

 

 …橘花の痴態を記すのは、この辺にしておこう。

 正直、万言を尽くしてもあのサキュバスのような雰囲気を伝えられるとは思えん。

 

 まぁ、暫くは計画を実行に移す事はできないけどな。

 橘花のエロさが予想外に凄すぎて、手綱を握る為に暫く躾けに専念しないと、濡れ場になったら一人で突っ走りかねない。

 そうでなくても、(すっかり忘れていたが)千歳の鬼の体に神垣の巫女が直接触れると、瘴気が感染して里の結界に影響が出る可能性がある。

 普通に触れるだけでもヤバいのに、粘膜系の接触なら尚更だ。

 場合によっては、出した白いのを飲み込む事だってあるだろうし。

 

 その辺の対策も必要だ。

 幸い、既に千歳にオカルト版真言立川流を通用させる方法は確保している。

 それを使って、鬼の霊力を極限まで抑え込む。

 …元は千歳の体を人間に戻す為の術なんだけど……まぁ、データ集めの一環ってコトで。

 

 

 

黄昏月「ポンコツキャラが妙に可愛く感じる」日

 

 鬼の指揮官を討った事で、残った鬼達がバラバラに行動を始めた節がある。

 対応するのは面倒だが、組織だって襲ってくるのに比べれば、やりやすいもんだ。

 ただ、ゴウエンマを倒したって事は、ストーリーで言えば後半…上位の鬼がチラホラ姿を現しつつある。

 

 今はまだ、マフチとかワダツミくらいだが、段々と大物が出てくるようになるだろう。

 …しかし、指揮官のゴウエンマとは言え、下位の鬼に上位の鬼が従ってたんだろうか?

 ゴウエンマ自体、倒した奴以外にもチラホラ目撃情報があるし…そいつらは指揮官ではないんだろうか。

 まぁ、船頭多くして船リヴァースマウンテンを超えると言うし、一箇所に指揮官が沢山居てもあまりいい事は無いと思うが。

 

 

 上位の鬼とやりあうのは…ああ、そういやマガツイクサとやりあったっけ。

 だが実際初めてに近い。

 今出てきている連中なら、まぁ普通に狩れるが……属性の変化が、思っていたより厄介だな。

 

 上位の鬼は、下位の鬼の亜種…全体的な能力の底上げに加え、攻撃属性や弱点属性が変化している訳だが、攻撃属性の変化に伴う状態異常が鬱陶しい。

 例えばヒノマガトリなら、体に火が付いても(普通はこの時点で大惨事だが)動き回れるし、前転とかすれば消すことはできる。

 が、アメノカガトリになると、受ける状態異常は麻痺。

 まず回避もできず回復もできず、間違いなく追撃を喰らってしまう。

 

 同様に、体を凍らせる凍結攻撃、何よりも単純に気絶させやすい大威力の打撃など、こちらの行動を制限するような行動をとる傾向が見られる。

 ゲームのようにミタマを取替え引換えして、耐性をつけられればいいんだろうが…生憎、のっぺらミタマ達が覚えるのは専ら攻撃系統の能力ばかりだ。

 MH世界の装備なら、防げそうなスキルは幾つかあるんだが、この世界で使うと素の防御力がかなり低くなるんだよなぁ。

 物理的には3つの世界で一等賞なくらいに頑丈なんだが、反面霊力的な防御力が極端に低い。

 まぁ、あの世界はオカルトパワーが殆ど無いので、当たり前と言えば当たり前の事かもしれないが。

 

 

 その辺の考察は、また今度にしよう。

 

 

 

 

 任務帰りにだな、虚海から呪いを受けてるカンジがします。

 そーだねー、もう完全にいい訳もできないくらいに橘花とヤッちゃったもんねー。

 …しかし、思ってたより呪いの威力が弱いな?

 

 

 

 と思って呼び出してみたんだが……なんというか、虚海は精神的にボロボロだった。

 俺の暗示に抵抗できず、素直に呼び出されるくらいに。

 俺にかけている呪いの効力が殆ど発揮できないくらい、精神的に乱れまくっていた。

 

 ナニがそんなにショックだったかと言うと…。

 

 

「あ、あんなに……あんなになるのか…!?

 あの神垣の巫女が、あんなに……!?

 という事は千歳も…!?」

 

 

 …どーやら先日の、橘花の痴態がショックだったようだ。

 それに関しちゃ異論は無い。

 あの変貌振りには、俺もマジでビビッた。

 そういう風になるように仕込んでおいてなんだが、普段が清楚なだけに、ギャップが凄まじい。

 増して、虚海はアレだ、年齢=彼氏居ない暦な上、50年以上友達居ない暦な猛者だ。

 初めて見たナマナマしくエロエロしく、何よりも退廃的なアレにショックを受けるのも無理はない。

 

 「キャベツ畑」や「コウノトリ」を信じている可愛い女のコに、無修正のポルノどころか問答無用に実体験をさせたらこんなカンジだろうか。

 尤も、虚海はキャベツ畑なんて信じるタマではないけども。

 

 

 

 と言うかアレだ、あの時の橘花は、前に夢にみたもんむすみたいな雰囲気だったぞ。

 あの夢を見てからエロ系スキルが上達していたんだが、それを持ってしても危うく逆に食われそうになるレベルだった。

 

 

 

 それに加えて、千歳が完全に一線を越えたのもショックの一因だろう。

 見守っていた孫や娘が大人になってしまったのがショックなのか、それとも自分だけまだ経験が無いのがショックなのかは微妙なところだが。

 

 

 

 

 …うん、どっちにしろ暗示をかけなおさなきゃいかんよな。

 今だって、大して効いてないとは言え呪いを俺に使える程度には、暗示は薄れてきてるんだし。

 

 

 

黄昏月「エロ同人に使われるモンスターの選別に偏見を感じる」日

 

 速鳥から報告が入った。

 何でも、鬼が妙な塔を作っているらしい。

 調査の為に近付いたものの、大型の鬼に見つかってしまった。

 そして結界を張られてしまい、近付くに近づけなくなってしまったとか。

 

 偵察という意味では、一人で忍び込んだのはおかしい選択じゃなかったと思うが……ま、引き際を誤ったか。

 塔の情報を持ち帰ったという意味では、偵察の効果は充分だったと思う。

 が、秋水から「その塔をどうにかしないと、オオマガドキが起こる」という話を聞かされて…結果的には、塔に近寄れなくなってしまった事で、里を危機に追いやってしまった…と感じているようだ。

 

 あー、こりゃ速鳥のキャラエピソードだな。

 さてどうしたものか。

 

 詳しいことは覚えてないが、とにかく討鬼伝ストーリーの伝統というかワンパターンと言うか、「俺一人で片付ける!」みたいな単独行動をしてたのは覚えている。

 千歳とも、今まであまり深くは関わっていないようなので、多分展開もそう変わらないだろう。

 …いや、そういや天狐と話す為に弟子入りしてたっけな。

 充分すぎるほど関わりがあったわ。

 

 

 よし、速鳥がゲーム通りの行動をするかはまだ分からんが、千歳に頼んで「一人で戦いに行ったら破門にする」とか言っておいてもらおう。

 流石にそれで完全に止められるとは思わんが、動揺してくれれば儲け物だ。

 見透かされている、と思えば無謀な行動への抑止にもなるだろうし、師匠である千歳に心配されているとなれば、多少は心が落ち着くかもしれない。

 

 

 

 さて、キャラエピソード自体はどうするべきか。

 色々やっておくつもりだが、速鳥の独断は恐らく防げまい。

 他のメンバーと違い、隠密の技術が段違いだ。

 その気になれば、里の誰にも気付かれずに出撃するのはそう難しくあるまい。

 無論、俺が単独行動を警戒して張り込んでいたとしても、だ。

 

 以前、富獄の兄貴を汚物付きの落とし穴にハメて出撃を阻止した事があるが、同じ手は通用しそうにない。

 

 

 何より、阻止するメリットが非常に少ない。

 結局のところ、速鳥が出撃して赴くのは、件の塔を守る結界を張る鬼の元。

 そいつらは倒さなければならない鬼だ。

 

 ついでに言えば、正確な場所が今ひとつ不明なので、まず偵察を出す必要がある。

 そしてその偵察に最適なのが速鳥本人と来たものだ。

 要するに、速鳥が何を考えて、どういう精神状態で向かうかはともかくとして、とにかく速鳥が一人で行動、その後に本隊が加勢…という形になると思われる。

 

 今回の…いや、今回も…エピソードで問題になるのは、速鳥の単独行動そのものではない。

 速鳥の焦り、余計な気負いを持った精神状態の方である。

 

 

 確か、任務で幼い子供を殺さなければならず、それを良しとせずに裏切ったんだっけ。

 どうすれば良かったのか…なんて安易に言える事じゃないよな。

 子供を殺せばよかった、なんてのは論外。

 子供を殺すような連中は、後ろから斬られても文句は言えない……汚れ仕事を担当する忍びに対して言える事か。

 

 と言うか、そもそもどうしてそんな状況になったのやら。

 この人間がギリギリまで追い詰められているご時勢で、わざわざ子供を殺す理由……まぁ、真っ当な理由でない事はすぐに分かるが。

 大方、裏仕事の目撃者の口封じの一環だろう。

 

 

 

 …速鳥の行為の是非についても、任務の善悪についても、俺から言えるような事は無い。

 俺が何を言っても、所詮は外様が嘴を突っ込んでいるだけだ。

 今回も、千歳を突っ込ませて高みの見物が一番いいやり方だろうか。

 

 しかしなぁ……打算尽くな事を言っちゃ悪いが、速鳥ばかりは千歳ではなく俺の側に引きこんだ方がいいと思う。

 別にヤローにどうこうする訳じゃないが、あいつは人間関係の誘導やら洗脳やらに関しては、俺に師匠に当たる。

 千歳と橘花の正面衝突を避ける為の小細工を幾つも施しているが、速鳥が見ればすぐに気が付くレベルだろう。

 いきなり間者認定はされないと思うが(と言うか、秋水が似たような立場に居ると自白したばっかりだ)、怪しまれる。

 

 もしもおかしいな、と思われたとしても、ある程度の信用を以て見逃されるくらいの信頼関係は築きたい。

 だからと言って、具体的にどうすればいいのかも分からない。

 ゲームのストーリーはオボロゲにしか覚えてないし、前回も速鳥のキャラエピソードまで到達できなかったので、詳細な情報も無い。

 ……ぶっつけ本番で行くしかないか。

 

 

黄昏月「自室の壁に穴があいた(実話)」日

 

 とにもかくにも、結界を張った鬼達が異界のどこかに隠れてしまったようなので、それを見つけ出さない事には話にならない。

 しかも、2体の鬼は両方とも初めて見るタイプの鬼。

 厄介な事だ。

 

 千歳には「先走ったら破門」宣言をちゃんとしておいてもらって(えらいショックを受けた顔をしていたらしい)、こっちも速鳥の行動に注意しておこう。

 お頭に頼んで、速鳥とチームになった。 

 何かと背負い込みがちな速鳥の焦りを察知していたらしく、「しっかり見ておいてくれ」と頼まれた。

 

 事実、速鳥は相変わらず無口だったが、その質が違う。

 普段は微妙に壁を作りながらもこちらを気にかけているのが分かる(或いは沈黙が気にならない距離を保つ)のだが、今は黙っていても僅かな焦燥が伝わってくる。

 距離の取り方が、普段より雑だしな。

 

 

「ところで速鳥、標的の鬼ってどんな奴だった」

 

「…一体は、亀だ。

 動きは然程速くないが、背中に砲塔らしきものがあった」

 

 

 ああ、クナトサエね、陸亀。

 武器防具の馴染み稼ぎ道場の鬼。

 確か、そいつが速鳥のキャラエピソードのボスだったか?

 亜種の方が来る可能性もあるが。

 

 

「もう一体は…下半身が蛇、上半身は人型で、複数の腕を持つ鬼。

 腕にはそれぞれ武具を持ち、それで地面を割って岩を飛ばしてきたな。

 こちらの動きは中々速かった」

 

「へぇ、随分観察してんだな」

 

「この程度、どうという事は無い。

 貴殿であれば、もっと詳細な情報を得られたであろう」

 

 

 いや、俺の場合はゲームの敵キャラとして知ってたからなんですけどね。

 まぁ、狩りを延々と続けている内に、初見の相手でも外見からある程度戦闘の傾向を予測できるようにはなってるけど。

 

 

「そういう外見なら、恐らく足跡を見分けるのはそう難しくないな。

 後は異界の中で上手く足跡を見つけられる事と、それが向かった先が異界の流動に紛れてない事を祈るだけ、か」

 

「いや、恐らく異界の流動に関しては心配ない。

 奴らは結界の傍から離れられない筈。

 鬼が異界の流動をどう感知しているのかは分からんが、恐らくは地続きの場所に隠れ潜んでいる」

 

「つまり、追いかけっこと言うよりは隠れんぼか。

 そっちの方が得意だよな、忍びとしては」

 

「……拙者は、忍びではござらん」

 

 

 

 …地雷踏んだ?と思ったが、気付かないフリをして。

 

 

「そうか?

 んじゃ俺がアサシン仕込のタカの目追跡術で追いかけますかね」

 

「あさしん?」

 

「西洋のな、暗殺者の一派だよ。

 俺自身は暗殺者じゃないんだが、前回のオオマガドキが起こる前、ちょっとした事で知り合ってね。

 ちょっと刺されたり、お互い高い建物の上から身投げしたりしたけど、なんか意気投合しちまって…お互い色々技を教えあったりしたもんだ」

 

「平然と無茶な事を…。

 いや、それ以前にモノノフの技を流出させるのは御法度だ」

 

「ギャーギャー言うなって。

 …このご時勢だ。

 連中が海の向こうで生き残ってるかなんて、もう分かりやしない」

 

「……かも、しれんな」

 

「それ以前に、あいつらちょっと内紛してたみだしな…。

 俺が技を教えた奴も、教団……ああ、アサシン達の事だけど……掟を破って破門寸前だったみたいだし。

 

 アイツの師匠は師匠で現在の教団は堕落した、みたいな事を言って頭を暗殺して挿げ替えようとしてたし。

 ああ、その頭ってのは、怨敵の組織とアサシン一派の和平…或いは一時的な休戦を実現しようとしてた人だ。

 お互い恨み募っているだろうが、延々と終わりの無い消耗戦を続けるくらいなら……って事かもしれんな。

 で、アイツの師匠はそれを『出来る訳がない』と言い切って…実際、長年の戦いの中で同じ事が何度かあったらしいが、全て破綻したそうだ」

 

「………」

 

 

 夢の話、ではあるんだけどな。

 どう考えたって普通の夢じゃないし。

 

 速鳥としても、他人事ではないだろう。

 …もっと直接的にやっちまったが。

 

 

「その、教団とやらはどうなったのだ?」

 

「わかんね。

 トップの暗殺は何とか防いだんだが、俺が付き合えたのはそこまでだ。

 こんな言い方をするのもなんだが、俺が首を突っ込むのもお門違いな話ではあった。

 外敵との戦争も、いつ火蓋が切られてもおかしくない状態だったし。

 

 …正直、戦争が止まってたとしても始まってたとしても、オオマガドキで滅んでないかは微妙な所だ。

 あいつら、霊力とかサッパリな連中だったし…」

 

 

 普通にウソだ。

 殆ど使い方を知らなかったが、教えれば使えるようになったし、あの世界にはオオマガドキの影響は無い…よな、多分。

 

 

「本音を言わせてもらえば、あの時のアサシンの頭には恩があったから助けようとしたけど、敵の組織と和平が出来るとは俺には思えん。

 個人間での協力は可能かもしれないが、あの組織達は規模が大きすぎた。

 組織間で条約締結できても、一部の人間の暴走からの飛び火で、あっという間に大戦争だ。

 そういう意味じゃ、最初から無理な和平をさせようとしなかった、あいつの師匠にも理はある。

 …大きい目で見れば、助けない方がよかったのかもしれん。

 もう確認する方法なんて無いけどな」

 

「…………」

 

 

 速鳥は少しばかり考え込んだようだった。

 

 が、異界を進むうちに、仕事モードに切り替わったようだ。

 大型鬼…強さで言えば下位…を適当に散らしながら進んだが、生憎今回は標的の鬼お痕跡は発見できなかった。

 

 

 異界に潜っていられる時間のリミットが迫ったので、一端撤退する時、速鳥がぼそりと呟いた。

 

 

「…先ほどの話に出た御人だが……何故、掟を破られたのだ?」

 

「詳しい話は聞いてないが…惚れた女の為っぽかったな。

 しかも、その惚れた女ってのが幼馴染で、しかも敵対組織の一員で、周囲に裏切られて孤立してるとかワケの分からん状態になってた」

 

「………」

 

「組織に所属しながら、結局は個人であり続ける訳だ。

 アイツ自身は教団から破門されても、惚れた相手の為に動くんじゃないかな。

 教団に入ったのもその為だったらしいし……本当だったら、同じ組織に属したかったんだろうが、血筋が問題だったらしい。

 

 …言いそうだな。

 『俺はアサシンでも騎士団でもない。 俺はアイツを守る者だ』なんてね」

 

 

 その時には、是非とも髪をピンピンに逆立たせてオーラを出しながら言ってほしい。

 

 

 

黄昏月「大型連休なんてキライだ(接客業側)」日

 

 今日も速鳥と鬼探し。

 あんまり時間は残されてないそうだが、具体的なリミットが分からないというのは意外と神経に来るもんだ。

 虚海なら鬼達の居場所を知ってるんじゃないかと思ったんだが、塔の場所は分かっても、結界を張った鬼達の行く先までは見ていなかったそうだ。

 まぁ、虚海的にはオオマガドキがおきた方が都合がいいんだもんな。

 本人も最近忘れがちになっているようだが。

 

 

 

 ただでさえ、俺以外のモノノフは異界の中に長時間留まれない。

 俺一人で探索を担当してもいいんだが、そうなると速鳥がそれこそ暴走しそうなんだよな…元は自分の失態だ、とか言い初めて。

 

 そういう訳で、適度に休みつつ速鳥を監視してなきゃならん。

 まぁ、幾ら焦っていると言っても、殆ど行動できない状態で異界に突入するような真似はしないだろう。

 フラグと言えばフラグだが…仮に今から突撃したとしても、5分動き回れるかどうかだ。

 それを超えれば、その場でバッタリ倒れて何も出来ないまま鬼のエサ。

 精神論じゃどうにもならない、物理(霊?)的な問題だ。

 

 そういう訳なんで、里に戻って休む速鳥を他所に、千歳とイチャついてきます。

 速鳥のところには、天狐を向かわせてある。

 俺もそこまで細かい意思疎通ができる訳じゃないが、「あいつが元気なさそうだから、励ましてやってくれ」くらいなら伝えられる。

 今頃、速鳥は自分の膝の上に乗って来た天狐に触れるべきか触れまいべきか、物凄い脂汗を流しつつ葛藤している事だろう。

 

 

 

 さて、そーいう訳で二人っきりデスよ千歳サン!

 今日はボールの方も遊んであげよう!

 千歳の女の子の部分の弱いところは一通り把握したから、ソッチ方面にド嵌りしちゃうんじゃないかという心配も無用!

 むしろ男女の同時攻めにハマらないかの方が心配ですなw

 

 何、不謹慎なんて言う事はないさ!

 お互いにオカルト版真言立川流で、霊力がアップするから、むしろ決戦の前準備としては妥当なくらいだ!

 ついでに言うと、鬼の体を元に戻す事にも繋がるし!

 

 そっちを触られたら、抵抗する気がなくなるくらいに仕込むからな!

 

 

 

 

 ……例えば、橘花に握られても、条件反射でその気になってしまうくらいにな。

 

 



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64話

お、お待たせしました…マジで難産でした。
演出の関係上、外伝を特急で一本書き上げるハメになってしまいました。
正確に言うと外伝じゃありませんし、今回の投稿にはついてませんが。



 

 

 

黄昏月『大抵のエロゲに、ハーレムルートってあるだろ? …女が全員もんむす級だったらどうなると思う?』日

 

 

 ふぅ、美味しかった。

 いや千歳から出る白いのは味わってないけどさ。

 

 ところで、間者と暴露した秋水に対する処遇で桜花と大和の頭が揉めているのを見た。

 桜花としては、さっさと排除してしまいたいところだろう。

 俺も知らない所で、橘花にプレッシャーをかけてたみたいだし。

 

 が、俺としてもそれをされると、イヅチカナタの情報とかが入ってこなくなってしまう。

 と言うか、秋水を見捨てると俺にもとばっちりが来そうな気がする。

 色々知ってて泳がせてたのは、俺も同じだし。

 

 橘花から、桜花を諌めるように言っておくべきか?

 妹からの言葉なら、全く耳を貸さないという事はないだろうが…秋水がプレッシャーをかけていた本人なんだし、その本人がいいのだと言えば、姉であってもそれ以上口を挟めないだろう。

 …良くは思わないだろうけども。

 

 

 そんな訳で少し橘花と相談(+イチャネチョ)して、里をフラフラしていたら、千歳が妙な顔をしていた。

 何があったのかと思ったら、速鳥に何やら過去話をされたらしい。

 …ゲームイベントと同じかな?

 そして速鳥はと言うと、結界を張った鬼探しに向かってしまったそうだ。

 

 ………一人で。

 

 

 オイイィィィィ!?

 

 速鳥ィ、そこは仲間と一緒に行くべきシーンじゃないですかねぇ!?

 千歳は千歳で、それこそ断られてもついていきそうなものですが!?

 

 

「大丈夫だよ、信じてあげて」

 

 

 …いやそう言われてもねぇ。

 そりゃ、速鳥の腕は信じてますよ。

 凄腕だし、前回は引き際を誤ってしまったけど、今回もそうなるとは思わないし。

 

 しかし、俺が心配なのは精神的な問題の方だ。

 一人で行くのはこの際いいとして、それで速鳥の迷いやら焦りやらは吹っ切れるのだろうか?

 

 ああ、ゲームでは一体どうなっていただろうか。

 元々あんまりアテにできる内容ではないとは言え、情報があると無いとでは大違いだ。

 

 

 どっちにしろ、今から追いかける事はできそうにない。

 普通のモノノフならともかく、速鳥のような隠形や足跡の抹消に長けた相手だ。

 しかも異界の中…。

 今から探し回っても、行き違いになるのがオチだ。

 

 うーむ、これがゲームなら、出撃して速鳥に追いついて、しかもそういうときに限って大物に襲われてピンチな状態な訳だが。

 そうそうスマートに話は進まんな…。

 一応、医療班とかに準備してもらっといた方がいいか。

 

 

 

黄昏月「久々の第三者視点が難しい」日

 

 速鳥からの連絡はまだ無い。

 一日中異界に潜ってる訳じゃないだろうに、成果が無いなら無いで戻ってきてもよかろうに。

 少なくとも、探索した辺りには標的は居ないという成果は確保できてるんだし。

 

 やっぱ心配ではあるんで、虚海に協力を求める事にした。

 前回呼び出した時もそうだったが、橘花が見せた痴態の為にまともな精神状態に戻ってないっぽい。

 そこまでショックか。

 

 まぁ、確かに昨日のイチャネチョは、なんか妙な固有結界とか出来上がってんじゃねーかと思うくらいにエロい空気を漂わせていたが。

 

 ……そろそろ本格的に、虚海に手を出すべきかなー?

 今でさえこの状態なんだし、何だかんだでヤッてしまったら従順になるような気がする。

 

 …ま、ヤルならヤルで、千歳をどうにかしてからだな。

 今でさえ割と綱渡りだと言うのに。

 

 

 しかし、この状態だと速鳥の援護に向かわせるのも難しい。

 と言うか、術者の虚海がこれだけ動揺していると、戦力として数える事すら難しいだろう。

 

 が、これに関しては、虚海の方から「余計な事はせん方がよいぞ」とストップがかかった。

 妙に神妙かつシリアスな顔をしているじゃないか、虚海のクセに。

 

 …口に出したら「どういう意味じゃ!」と蹴りを喰らった。

 効かぬ。

 

 

 それはともかく、速鳥について、俺は根本的に勘違いをしているのだと言う。

 速鳥の過去については、虚海は動物を通して話を聞いていたらしいが……。

 

 俺は速鳥の精神的問題を、過去に味方を裏切った事に起因しているものだと思っていた。

 だから自分には味方、仲間を作る資格が無く、誰も自分に寄せ付けずに居るのだと。

 

 それも間違いではないが、虚海が言うには見るべき場所が少し違うのだと言う。

 速鳥の孤独の原因となっているのは、裏切りの行為そのものではない。

 

 それが、所謂『義』のある行為だったのか、正当な行いだったのかという迷いこそが、速鳥の迷いの原点だ。

 

 

「鳥を通して話を聞いていたのだがな…千歳と話をしていた時、ふと零したのよ。

 『どんな義があって、幼い子供を殺めるのか』とな。

 妙なもんよの。

 汚れ役を引き受ける忍びが、義などというものを求める。

 いや、汚れ役だからこそ求めるのやもしれん。

 己の行いに義があるからこそ、穢れる事を厭わない。

 例え人道に背く行為であろうと、それが義の為であるなら耐えられる。

 

 …逆を言えば、義があるならばどのような行為でも行える、耐えられる。

 あの男はそういう人種よ。

 生来のものか、躾けられたのかは知らんがな」

 

 

 なんか語られてるんだが…義、ねぇ。

 正義だ悪だはともかくとして、要は自分の行動を支える骨みたいなもんだろうか。

 

 

「故に、その義が見出せなんだあの男は、抜け忍となった。

 だが、その先にも義は見出せぬ。

 当然だろうな。

 それまで持っていた義は、飼い主から与えられたものよ。

 それを放棄したところで、新たな義を見出す事なぞ出来るものか。

 …出来ないように、躾けられているであろうしの。

 

 結局のところ、あの男はずっと迷い続けておるのさ。

 己の行いは正しかったのか。

 そこに義はあったのか

 

 仲間を裏切った事ではなく、己の行動の成否こそが、奴の原点だ」

 

 

 …と、大体こんな事を語ってくれた虚海だが…まぁ、確かに思い当たる節は無いではない。

 速鳥が欲しいのは、言ってみれば『自信』か。

 能力ではなく、選んだ選択肢が正しかったという自信。

 

 でもなー、そんなモンどうしようもないジャン。

 逆に、仲間を殺して裏切って抜け忍になった事に胸を張られたらどうすりゃいいんだ。

 

 千歳は信じて待つ、と言ってるが……やっぱ千歳のカリスマというか人徳に期待するっきゃないかなぁ…。

 

 

 

黄昏月「アトピーで首筋と膝裏が痛痒い」日

 

 速鳥が里に戻ってきた。

 結界を張った鬼の居場所を携えて。

 息吹としては、今までずっと一人で任務をこなしていた速鳥が、俺達と連携を取ろうとしているのが意外だったようだが…。

 

 本当は狼煙を上げるつもりだったようなのだが、行動限界時間が近いので一端切り上げてきたそうな。

 

 

 ま、そっちの方が良かったんじゃねーの?

 対象から一時目を離す事になるが、その分十全に準備をして挑める。

 

 大した怪我も無いようだし、無事で何よりだ。

 千歳に「おかえり」と満面の笑みで言われて口ごもっている。

 …むぅ、今だけは何も言わんが……こりゃ動物語の師匠を超えて、冗談抜きで信仰の対象になりそうだな。

 

 

 

 さて、そういう訳で俺、千歳、速鳥、那木さんで出撃。

 結果は……まぁ、普通に勝ったとしか言いようが無い。

 だって相手カメだし。

 道場主だし。

 まぁ、背中の砲塔から脳天目掛けてホーミングする弾を撃つのは鬱陶しかったけどさ。

 

 

 で、なんか知らんが色々吹っ切れているようで、メデタシメデタシ?

 うむ、蚊帳の外だ。

 

 と言うかよくよく考えてみれば、虚海から聞いた速鳥の悩みの原点って、誰でも持ってる事じゃんか。

 自分の行動が正しいかどうかなんぞ誰が考えても分かる訳ないさー。

 「これでいいのか」と「これでよかったのか」の葛藤は、何処で何やっててもあって当然のモノだしな。

 それを『悩み』とか『トラウマ』に分類して、解消しようって方が間違いだわ。

 

 

 んじゃ虚海の昨日の語りってなんだ?

 

 

 

 

 

 

 まぁ、虚海だしな。

 戯言か。

 

 

 

黄昏月『もうとっくに気付いているだろうが、日付ネタは既にネタ切れだ』日

 

 

 さて、結界を張った鬼の片割れは倒したが、もう一体残っている。

 異界の深いところまで潜り込んでいるらしく、探すのに手間取っている状態だ。

 

 

 話は変わるが、桜花から「橘花を見なかったか?」と訪ねられた。

 生憎見ていなかったので首を横に振ったのだが、最近少し気になる事があるらしい。

 護衛もつけずに里の中をフラフラと歩き回るようになった事については……既に諦めているらしいのだが。(それで橘花が明るくなったのも事実だし)

 最近、その頻度が増しているとか。

 

 それ自体はいいのだが、咳き込んだりする事が多く、里をフラフラしているのを目撃された時も、散歩的な意味ではなく、眩暈的な意味でフラフラなのを目撃されているとか。

 大人しくしているように、と繰り返し伝えているらしいのだが……随分とアグレッシヴになったものである。

 まぁ、元凶は大体俺だけど…。

 しかし体調不良なのに出歩くのは歓心できないな。

 

 

 大方、ここに居るんだろーなー…と思ってやってきた神木の根元。

 例によって例の如く、誰も居ない寂れた場所で、橘花は座っていた。

 

 

 …震えながら。

 

 

 俺と目があった瞬間、雰囲気が変わった。

 まぁ、なんだその、アレな行為をしようとしている、と一発で分かるカンジにね?

 

 ただ、震えは止まっていなかった。

 その状態のまま、橘花から珍しいくらい積極的に求めてきたんで、しっかり受け止めた訳だが……欲望に流された訳じゃないぞ?……確かに桜花の言うとおり、体調はよくないようだ。

 それどころか、精神状態も揺れている。

 

 ヤッてる途中で、橘花が呟いた自覚があるかどうか。

 

 

「何故、こんなにも死ぬのが恐ろしいのでしょう」と。

 

 

 そりゃ、俺みたいな特殊な状況でもなきゃ、死ぬのは怖いのが当たり前だが……とりあえず、こう言っておいた。

 

 

 

「そりゃ、死んだらこーいう事も出来なくなるし、一緒に千歳を手篭めにする計画だってオジャンになるんだから、怖いのは当たり前さね」

 

 

 

 

 …言っといてなんだが、「なるほど!」みたいな顔をされるとは思わなかった。

 まぁ、死んだら何もできなくなる、っていう意味じゃ事実ではあるんだけども。

 

 さて、サカるだけサカッて後始末したら、随分落ち着いたようだ。

 異性の肌は、精神的な特効薬になるからなぁ…ちゃんと用法を守っているかは微妙なところだが。

 

 落ち着いたところで話を聞いてみたのだが、里の結界にかかる力が増大しているらしい。

 つまりは秋水曰く、オオマガドキが近付いている、と。

 それに伴い、鬼の力が強くなり、当然結界を破ろうとする力も強くなる。

 それが橘花の体に影響を与えているらしい。

 

 

 どうしたものか。

 オカルト版真言立川流のおかげで、多分ゲームとかに比べれば、橘花の体調はいい方なんだろう。

 エロい事するのと一緒に、霊気も増幅させてるからな。

 結界の強度だって上がっている。

 

 が、所詮は気休めだ。

 四六時中エロい事ばっかりできるならまだしも、霊力の増幅だって一時的なものに過ぎない。

 早い所カタをつけなければ、橘花の体調はどんどん悪くなっていくだろう。

 

 

 …根本的な解決策って奴を実行する前に……。

 

 

 前回みたいに、熟しに熟した果実(橘花の尻)を取り逃がすのは御免だな。

 よし、一緒に千歳を手篭めにする計画を前倒しにしよう。

 

 

 …提案しといてなんだが、イイ笑顔で頷く橘花がちょっとコワイ。

 

 

 

 

 

黄昏月『マジカル(PI-)持ってもんむすくえすとの世界に……そう言えば行かせたな』日

 

 相変わらず、もう一体の鬼の居場所は掴めない。

 が、探索してない場所は残り僅かだ。

 一番に候補が上がっているのは、夢患いを仕掛けてきたミズチメが居た辺り。

 何でも、瘴気が溜まりに溜まって、猛毒の沼みたいな状況になってるらしい。

 

 入り込めば、鍛えられたモノノフであっても、短時間で行動限界がやってくる。

 

 

 

 が、俺ならもうちょっと長く探索できる。

 一人で行く事になるだろうから、瘴気や毒を無効化するMH世界の装備とかも使えるしね。

 普通のモノノフよりも瘴気に強いと言うのは、ここの皆にも知られていた事だ。

 前回ほどじゃないが、ちょくちょく連続で狩りに行ってたら、普通にバレてしまった。

 別段隠すような事でもないからいいのだが。

 

 そういう訳で、一度俺が探索に向かう事になった。

 

 もうオボロゲにしか残ってない記憶で、桜花が単独出撃した覚えがあるんで、一応釘を刺しておいたんだが……「何を言ってるんだ」みたいな顔をされてしまった。

 確かに橘花の体調は心配ではあるが、問題の鬼が本当にそこに居るかどうかも分からないのに突撃するような真似はしない、だそうだ。

 鬼の居場所が分かっていれば、それこそモノノフ総出で倒しに行くに決まっている。

 わざわざ一人で戦っても、勝機が薄くなるだけだしね。

 

 

 とりあえずは安心、かな?

 

 

 

 

黄昏月『ダンジョンにトイレを求めるのは間違っているのだろうか』日

 

 探索の結果、それらしい痕跡を発見。

 もうちょっと追いかければ鬼の姿を視認まで出来そうだったが、恐らく気付かれただろう。

 瘴気の奥に入り込んでおきながら、こっちを待ち伏せしようとしている節が見られた。

 恐らく、何処か狭い道の出口等の逃げようが無いで待ち構え、こっちを見つけると同時に奇襲するつもりだろう。

 

 予測さえできれば、カウンターは可能。

 奇襲というのは相手の予測してないタイミングでやるから奇襲なのだ。

 待ち伏せしているという事は、常にそちらに注意を向けているという事なので、閃光玉でも投げ込んでやればまず間違いなく直撃するだろう。

 準備もしないといけないし、一度戻ってきたんだが…。

 

 

 予想外の事が起きていた。

 

 

 別の任務についていた千歳が、帰り際に虚海と遭遇したようです。

 …何をやっとんじゃアイツ!

 

 幸い、どういうタイミングで会ったのか、虚海の事を知ったのは千歳だけらしい。

 色々混乱していたようだし、あまり余人に聞かれたい話でもない…まずは家に帰る。

 

 

 いや待て、ちょっと詳しく話を聞かなければならぬ。

 まずは、まずはそう、虚海がワザと姿を見せたのか、それともポンコツ状態でドジッて姿を見せたのか、だ。

 ああ違う、それよりも同一人物同士が顔を合わせて、タイムパラドックス的な何かが起こらないかの方が心配だ。

 

 という訳で千歳、虚海はどうして……え、何?

 虚海の事を知ってたのか?

 影のモノノフの事を知ってたのか?

 

 …だ、黙っててスマンかったが、知ってた。

 どうして教えなかったのかって、そりゃ時間の因果とかそんな感じのが無茶苦茶になって、それが原因でオオマガドキとか起こってしまうんじゃないかと………え、そこじゃない?

 

 

 

 

 

 千歳のナニがついてるのを知ってたのは、虚海にセクハラしたからなのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ち、違うぞ、それは素で違うぞ。

 あれはほら、鬼の攻撃を受けて寝込んだ事があったろ、あの時に見舞いに行ったら、丁度オッキしてたんで…………セクハラしたのは否定しないのね?

 

 …トラップだったか。

 ………さ、最後まではやってないぞ?

 

 

 

 

黄昏月『甲斐性ってあっても無くても甲斐性無しって言われるんだね』日

 

 歯型が沢山付きました。

 うう、今日はあの瘴気の中で討伐だと言うのに。

 

 ええ、何とか痴話喧嘩は一晩で収まりましたよ。

 何だかんだでね、俺に依存しているのは相変わらずだったんで、最終的には縋りつかれて泣き喚かれました。

 

 「捨てないで」って……ざ、罪悪感が……。

 

 一晩体で説得して、ようやく落ち着きました。

 まぁ、何とかなって良かった…。

 虚海との事を聞きたいが、今日は任務だし、落ち着いてからにするか。

 虚海に直接聞く方がいいかもしれんが…今虚海に会いに行くと、千歳がまた狂乱しかねん。

 

 どっちにしろ、任務が終わってからだな…。

 と言うか、まず第一に千歳を泣かせた事を隠し通さなきゃならん。

 じゃないと里から総スカン喰らって俺が死ぬ。

 と言うか、ヘタすると後ろから矢とか拳とか色々飛んでくる。

 

 既に目が赤いが……夜のオタノシミを頑張りすぎた、と言えば通せるかなぁ?

 歯型もその一環って事にしとけば、なんとか…。

 

 

 

 …「千歳になにさせてんのよ!」って鎖鎌が飛ぶだけか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、出発前に橘花から「例の計画、帰ってきたらいきますか?」と囁かれたんだが。

 …うん、イイネ。

 淫蕩モードの橘花を充分躾けられたとは言えないが、完全に制御できるようになっても面白くないし。

 

 罪悪感?

 いいスパイスですが何か?

 

 でも橘花、人目のあるところでそういう雰囲気を出すのは止めなさい。

 表情は見せてないとは言え、桜花が「目の錯覚か…?」みたいな表情してるから。

  

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で、ササッと終了。

 いつもより行動限界が短かったので、全火力で仕留めました。

 ちょっと時間が足りなくなりそうだったんで、神機を取り出してシュートシュートシュート大樽爆弾G鬼杭千切。

 それは何だ、と聞かれましたが、以前速鳥に話したアサシン一派から貰い受けたもので、詳しい事は知らないとシラを切りました。

 

 桜花が先走りはしなくても、ちょっと焦り気味な節は見られたが、自覚して自制もしているようだった。

 それはいいんだが…結局、これで桜花のキャラエピソードは終了という事になるのかな?

 

 ゲームの話に沿うなら、桜花は自分を犠牲にしてでも鬼を倒そうとするものの、残された橘花はどうなる、という話だったような。

 

 

 

 …大丈夫そうだな。

 帰り際に千歳と桜花が話してたんだが、「橘花さえ無事ならそれでいいと思っていたのに……私も欲張りになったものだな」と笑いながら言っていた。

 里に帰った時、「ただいま、橘花」と笑いかけていた。

 橘花も「はいっ!」といい笑顔で答えたもんだ。

 

 

 

 

 その30分後には、同じ笑顔のままで、千歳を手篭めにする計画を俺と一緒に実行しようとしてんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、橘花はタイミングを見計らって登場する事になっているので、家の外で聞き耳立てております。

 さぁ、いつも通りにスキンシップ兼実験の時間ですよ~。

 今日は鬼の体の霊力を極限まで抑え込んでみるから、体が動かないように固定します。

 

 

 具体的には(抵抗できないように)縛ります。

 

 

 という事を言おうとしたところ、虚海の事について話を聞きたいと言われました。

 …まぁ、気になるのは分かるし、俺も本当だったら聞くつもりだったんだが……コッチ優先で。

 

 色々言いたげだったが、矢張りと言うべきか、求められたら拒まない千歳。

 これも依存のせいだろうか?

 

 

 細かい考察はともかくとして、宣言した通りに縛ります。

 目隠し?

 ……趣味だよ。

 

 (本当は入ってくる橘花に気付かれない為だけど)

 

 

 さて、とにもかくにも準備は整った。

 後は鬼の体の霊力を抑えつつ、いつものように頭が蕩けてまともな判断ができなくなるまで追い込むだけだ。

 途中で橘花と入れ替わって、タイミングを見計らって目隠しを取る。

 あとは…その時の千歳の反応次第だが、橘花を受け入れるまで弄ばせてもらおう。

 

 ヒャア、漲ってきた!

 

 

 

 

 

黄昏月『ははは、こやつめ(殺)』日

 

 

 いや~スゴかったなぁ。

 千歳と橘花に搾り取られるかと思ったぜ。

  

 結論から言えば、作戦成功。

 既に千歳は3Pの虜だ。

 多分、いつものオカルト版真言立川流に加え、淫魔のような橘花の空気に当てられたのだろう。

 最初はショックを受けていたものの、暫く弄ったり焦らしたりしていると、もどかしさに耐えられなくなったようだった。

 そこで橘花がお口でイタズラ。

 今までされた事がない感覚で一気に陥落。

 後はもう理性も何もなく、3人揃って貪り合うだけだった。

 比率的には千歳の総受けが一番多かったな。

 千歳の一番のお気に入りは、背後から抱きかかえられて女の部分を俺に抉られつつ、男の部分を橘花にしゃぶられるプレイだ。

 

 ま、後で一発殴られたけど、どっちかと言うと照れ隠しの一発だったし、橘花と千歳がもっと仲良くなって、以前のような微妙な緊張感も消えてるし、何とか里の結界にも影響なし…と言うか、むしろ強くなっていた。

 なんちゅーか、腰回りが充実しているカンジで?

 結果オーライかな。

 

 と言うか、明らかに千歳は橘花の空気に当てられて、ブレーキとかストッパーが壊れた節がある。

 そうでもなければ、いくら気持ちいいからと言って、浮気をあんなにアッサリ許す筈が無いだろう。

 

 

 さて、明日にはオオマガドキを呼ぶ例の塔の破壊作戦が始まる。

 正直な話、オオマガドキを防ぐ方法自体は見つかってない。

 ゲームのように、多くのミタマを従えて、ムスビが…なんだっけ? とにかくその方法は使えない。

 が、少なくとも今回に限っては勝機有りだ。

 速鳥が塔を見つけた時点では、ゲームと違い、塔に充分な力が溜まりきってない上体だった。

 つまり、力が溜まりきる前に塔を破壊する、という選択肢が残っているのだ。

 

 破壊工作の為、各種爆弾は可能な限り取り揃えた。

 後は間に合うかどうか、時間の勝負。

 

 

 

 …なんだけどなぁ。

 どーにも引っかかる事がある。

 

 仮にこれで成功したとしたら、それで討鬼伝世界のストーリーは一応クリアとなる訳だ。

 確か続編の討鬼伝極が発売された筈だから、そっちのストーリーに行くのかもしれないが、そうなった場合俺は、デスワープはどうなるんだろう?

 一番イヤなのが、クリアしたら即デスワープ(デスではないが)して、もう1回この世界に来た時は初めから、というパターンだ。

 

 …まぁ、そんな事はクリアしてから考えるべきなんだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それと、千歳と虚海がどうやって会ったのか聞いてみたのだが、単なる偶然らしい。

 少なくとも千歳側から見ると、任務帰りにちょっと動物を見かけたので、寄り道したらそこでバッタリ。

 …虚海も動物を操れるからな……仕組んだと見れない事もないが…。

 

 で、お互いパニクッたらしいのだが、虚海の最初の発言が「私はお前の未来だ」と言われて、更に混乱。

 「あなたは何を言ってるんだ」と素で言い返したそうな。

 「ノォォォォ」とどっちがマシかな。

 

 で、その後言われた事は、俺に気を許すな、と。

 …気を許さないどころか、完全に依存しまくってんですけどね。

 ああ、そういや虚海は俺と橘花が一緒に、千歳を手篭めにしようと計画してたのを知ってたっけ。

 つまりそれに注意しろ、と。

 ……偶然顔を合わせたんで、何もしないのも気まずいから一言伝えただけなのか、俺へのイヤガラセと言うか反抗心で計画的に行ったのか…。

 

 まぁいいや。

 今夜3人がかりで問い詰めよう。

 

 

 

 という訳で、折角だから虚海も3人がかりで初体験させてあげようと思うんだが、どうだろう?

 前に迫った時、微妙に嬉しそうな顔してたから、多分抵抗は最初だけで済むと思うんだが。

 

 相談してみたら、橘花からは「知らない人ですけど、未来の千歳さんなら多分…イヤではないと思います」と乗り気な返答。

 千歳からは「……未来の私ェ…」と頭を抱えられた。

 取り合えずOKらしい。

 

 



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MH世界5
第65話+外伝12


今回は外伝付きだよ~。
ふと気が付けば、章のタイトルとか変更するのをすっかり忘れていた罠。

あと最近気がつきましたが、マイページの検索ってタグの検索であって、題名とかだと引っかからないんですね。
ユーザー登録してかなり立ちますが、今更気がつきました。


黄昏月『このジンオウガ 真面目な強さ』日

 

 虚海のアレは、マジでうっかりだったらしい。

 虚海ェ…。

 ちなみにその虚海は、こっそり俺達の家に運び込んで、そのまま熟睡中だ。

 まぁ、初体験から一晩張り切ったからな。

 体力も消耗しているだろうし、起きても腰が抜けて動けないだろう。

 

 

 さて、ヤる事もヤったし、今日はとうとう決戦だ。

 オオマガドキを呼ぶ塔を破壊できるかどうか。

 

 今回出てくる鬼は、恐らくトコヨノオウ。

 強力な鬼ではあるが、その地力以上に厄介なのがマガツヒ状態の突進だった。

 突進後にも止まらず、延々と走り回るフルマラソンが死ぬほど鬱陶しかった。

 ゲームでは、後日行動パターンが修正されたと聞いているが…さて、どんなものやら。

 

 ゲームと違い、わざわざ隙を見せてくれるとは思えない。

 まぁ、それなりに対策は準備しているけどね。

 

 さて、行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 えー、現在、モノノフ総出で鬼と戦闘中です。

 うん、予想通り、ボス格はトコヨノオウだった。

 が、控えとしてダイマエンとかゴウエンマとかヤトノヌシとか、強力な鬼達がガン首揃えて襲ってくるとは予想外だったよ。

 

 あまつさえ、トコヨノオウの後ろに、良く似たもうちょっとデカい鬼…多分トコヨノオオキミ…が居たような。

 

 「ここは任せて先に行け!」して、ラストバトルに「待たせたな!」しようかと思ったんだが、ガッチリ結界とか色々小細工して通せんぼしてきやがるので、鬼達を順次倒していかなければ進めない。

 しかし、初っ端から全員で攻撃しようものなら、疲弊した隙を付かれて押し返される。

 なので、交代で鬼と戦い、今は俺は休んでいる訳だ。

 

 普通、こういう交代制はもっと人数が居ないと出来ないのだが、幸か不幸か鬼達は自分達の結界を維持する為に動けない。

 だから各個撃破も出来るし、交代で休む事も出来る。

 …まぁ、あんまりダラけてると、隙を突いて結界を解除して襲ってくる可能性もあるので、気は抜けないが。

 

 そもそも、結界を張る鬼が少なくなってきたら、恐らくこれ以上は足止めにならないと判断し、一斉に襲い掛かってくるだろう。

 本当に厄介なのは、その辺りからだ。

 ぬぅ、徒党を組むとか面倒な。

 

 

 

 ある意味じゃ、当然と言えば当然か。

 そもそも新種の鬼が現れるとして、初遭遇の時に一体で出てくるとは限らない。

 増して、今回は鬼達にとってもオオマガドキを賭けた一大プロジェクトだろう。

 そりゃ総力を挙げて防衛もする。

 

 

 遠目に見える問題の塔は、大分エネルギーが溜まっているらしく、赤い光を帯びている。

 とは言え、まだ光ってない部分もあるし…半日くらいはまだ余裕があるか。

 しかし、ここで敵の布陣を抜いて塔を破壊できなかったら、出直してこれる程の余裕でもない。

 

 

 こりゃ、本当に切り札出さなきゃいけないっぽいな…仮面ライダーアラガミのデビュー戦か。

 胸が熱くなるな。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてッ世界…じゃなかった、戦う順番は一巡したッ!

 という訳で、再び休憩中です。

 

 うーん、よろしくないな。

 敵がちっと多すぎる。

 つい先ほど、ザコ鬼を生み出していたヒノマガトリと、瘴気を広げようとしていたタケイクサを潰したんで、大分マシになるとは思ったんだが、代わりに今度は背後からミフチやらマフチやらが迫ってきている。

 狩るだけだったら充分なのだが、そっちに手を取られて塔に迫るスピードが落ちてしまっている。

 

 仮面ライダーアラガミ!すれば蹴散らす事はできそうなんだが、アレって継戦能力が低いと言うか、短時間しか保たない上に時間切れになったらダウンしてしまう。

 このタイミングでやったとしても、最後のトコヨノオウとトコヨノオオキミ(やっぱり見間違いじゃなかった)に到達した辺りでバッタリだ。

 もうちょっと慣れれば、時間切れになった後ももっと動けると思うんだが……今更言っても詮無い事か。

 

 大樽爆弾Gは、塔を破壊する為の手段だから、あんまり使いたくないしな…。

 いくらアラガミ化しても、純粋な破壊力では大樽爆弾G以上は出せそうにない。

 と言うかあのバカでかい塔を、人間サイズの攻撃で壊せる気がしない。

 

 

 にしても…気のせいかな?

 あの塔に近付く度に、な~んか背筋がゾワゾワするというか、覚えのある気配を感じて体が冷えてくると言うか……恐怖?

 いや敵に対する恐怖があるのはいつもの事なんだが(信じられないかもしれないが、あるのだ)、こう……単純な恐怖じゃなくて………そうだ、トラウマ?

 まだこのループに入って間もない頃、場慣れもせず実力もノウハウもなく、へっぴり腰でモンスターと初めて対峙した時のような、本能的な恐怖と言うか…。

 

 でも、何でこんなタイミングでそれを思い出すんだ?

 

 なんともイヤな予感というかフラグであるな…。

 

 これ以上考えても仕方ないか。

 そろそろ休憩時間も終わりだ。

 この分だと、あと1~2回は休む機会がありそうだな。

 

 さて、もう一丁やるか!

 

 

 

 

 

 

 

 3度目の休憩中。

 戦いが始まって、半日くらい経過している。

 ザコは大分片付いた。

 

 鬼の指揮官らしいゴウエンマも合計3体潰れたし、あっちも疲弊してきているようだな。

 大将と総大将のトコヨコンビはまだ全然動いてないが。

 

 と言うか皆戦いに夢中で気付いてないのか?

 奴らの背後にある塔だけど、大分赤い光が強くなっている。

 ……しかも、鬼を倒せば倒すほど、それに比例して光が灯っていくような…。

 

 これってアレか?

 俺らを潰せればそれで良し、もしも負けても自分達を贄にしてオオマガドキを開くとか、そういうパターンか?

 いや、よそう。

 俺の勝手な推測で皆を混乱以下略。

 そうでなくても、気にして攻撃の手を休めたら、押し潰されて負けるのがオチだ。

 光が灯りきってしまっても、塔をぶっ壊せば何とかなるだろう、多分。

 

 トコヨコンビを仮面ライダーアラガミで戦える距離まで捉えるのももう少しだ。

 奴らがどれくらい強力な鬼かは分からんが、とりあえず短期戦で決めるつもりでいく。

 皆も休み休み戦っているが、いい加減限界が近い。

 

 

 

 …そして、塔に近付けば近付く程、俺の背筋が冷えている。

 何が起きるか分からんが、絶対ロクな事じゃない。

 

 

 

 と言うか、気のせいか……じゃない。

 さっきから、視界の中で妙な光が踊って見えるんだが。

 …これに気付くのは3度目だ。

 妙な表現になるが、気付いたのは3度…つまり戦闘中にも2度は気付いた。

 でもその度に忘れていた。

 狩りに集中したから?

 

 まさか。

 

 鬼の新手の攻撃かもしれないのに、意識を逸らすどころか、忘れる筈が無い。

 

 

 

 クソ、さっきから何かおかしい。

 妙な悪寒や光だけじゃない。

 さっきからモノノフ全員の連携が乱れてきている。

 近くで戦っているのに…それこそ視界の中に居る筈のに、フォローを忘れたように個人個人で目の前に鬼にばかり攻撃している。

 

 俺もこうやって日記を書いているが、よくよく考えればおかしなものだ。

 いくら交代で休憩しているとは言え、コトはそんな悠長な事を言っていられる状況じゃなくなっている。

 だと言うのに、どうして俺は加勢に行ってないんだ?

 

 

 

 加勢に行こう。

 

 

 

 

 

 何処へ?

 

 誰の?

 何を相手にしての?

 

 

 

 ああ、そうそう。

 トコヨコンビが標的だったっけ。

 

 

 

 …いやいや、他のメンバーへのフォローが要るだろ。

 誰と誰が居たっけ。

 ああ、こういう時こそ日記を読み返そう。

 

 ゆっくり読みたいところだけど、パラパラ捲って……とりあえず千歳、サカキ博士、イャンクックね。

 モノノフの皆ってこんな名前だったっけ?

 ま、とにかくここに居る人間の援護をすりゃいいんだし。

 

 

 んじゃ行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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HR月『怪しい術で街中にユメ(虚構)とキボウ(虚淵)を振りまこう』日

 

 

 デスワー……ぷ?

 

 いや本当に何が起こったの?

 気が付けばMH世界の訓練所のテントで寝てたんだけど。

 なんか尻が痛い…。

 そういや、起きた時に誰かが出て行った形跡があったな。

 見舞いにA.BEEさんが来てくれたが……あの人じゃない。

 もっと小柄で華奢な誰かが居たようだ。

 

 A.BEEさんが「先を越されたか」とか言ってたが、誰が居たんだ?

 

 

 

 

 

 と言うか何がどうなってデスワープ?

 死んだ覚えはおろか、戦った覚えさえないんだけど。

 でもこの状況に居るって事は、死んでワープしたって事だよな?

 

 一体何が?

 そうだ、確か……うん、オオマガドキを防ぐ為、モノノフ総出で出撃!って話になったんだよね。

 で?

 

 

 …その後、気が付いたらここに居た。

 日記を読み返してみると、塔を破壊する為の戦いはやっていたようだな。

 サッパリ記憶にないが。

 

 と言うか、日記の内容の最後の方がイミフなんですけど。

 なんか身に覚えの無い戦いとか光が舞ってるとかそれを忘れるとか、モノノフの皆の名前を忘れるとか、何故かイャンクック先生をモノノフ扱いしているとか。

 ちゃんと思い出せるぞ。

 千歳、那木さん、初穂、息吹、富獄の兄貴、速鳥、初穂。

 

 …千歳、か。

 デスワープしちまったって事は、もう会えないのか?

 いや、そうと決まった訳じゃない。

 次に討鬼伝世界に行った時に探さないと……肉体関係になるのも、アラガミ化を見せれば多分割りと簡単? 

 色ボケした内容はともかくとして、例え千歳が居なくても虚海は居る筈だしな。

 

 分かれた(会えなくなった)って実感が無いからか、千歳についても思ったよりショックを受けないな。

 相変わらずの薄情者ってだけかな?

 

 

 それはともかくとして、極め付けに意味が分からないのが最後のヤツ。

 文字?

 記号?

 何かを書きなぐろうとしていたようだが、それが何なのか分からない。

 まぁ、日記に書こうとしていたんだから、多分文字なんだろう。

 何かの絵を描こうとした…訳じゃないと思う。

 緊急事態だったとしたら、悠長にスケッチしてる余裕なんぞ無いだろ。

 

 この日記は3つの世界の言語をミックスして書いている訳だが、同じく緊急事態なのであれば、恐らく一番体に馴染んでいる日本語が出る筈。

 となると、最後のイミフな記号だかなんだかよく分からないのは、日本語…カタカナ?

 

 イス゜?

 いや、イズ。

 

 

 …イズ?

 伊豆?

 IS?

 いず?

 射ず?

 

 

 意味が分からん。

 

 

 

 

HR月『酒の代わりに煎餅とお茶が美味い』日

 

 ハンター訓練所はさっさと卒業する事にした。

 が、その前に暫く情報を整理したい。

 訓練所に居る間は、行動方針とか考えなくていいからな…思索に集中できる。

 訓練を鼻歌交じりにこなせるなら、だけど。

 

 日記を読み返してみたが、幾つか予測が立った事がある。

 まず、俺が塔を破壊するまでの戦いを覚えていない理由。

 これについては、恐らく戦いの最中に舞っていた光を、度々忘れていたのと同じ理由だと考えられる。

 オオガマドキが起こる戦場で、記憶を奪うような『何か』があった。

 連携が崩れていったのも恐らくは同じ理由だろう。

 他の皆も、自分達が誰と一緒に、何と戦っているのか、分からなくなっていったのではないだろうか。

 で、そのまま記憶を奪われ続けて、日記を書く暇もなくなって、アボン、デスワープ?

 

 ……やっぱり何も思い出せんな。

 

 

 で、その記憶を奪った原因だが…やはりアレか。

 イヅチカナタか?

 結局、千歳や虚海から聞いた僅かな情報しか得られなかった鬼だが、因果を奪うだか記憶を奪うだか、そのまんまな能力があるらしい。

 日記を読み返してようやく思い当たった事だが、討鬼伝世界最後の『イズ』は、イヅチカナタの『イヅ』の誤字だと思われる。

 発音する分には同じだし、ヅとか普段あんまり使わないし、咄嗟だったら間違えるのも無理はない。

 

 しかしなんだな、という事は、俺はイヅチカナタに遭遇している訳か?

 恐らくは直接対面して…でも初見だけじゃ分からないから、その時ひょっとしたら千歳が傍に居て、ソイツがイヅチカナタだと教えてくれたのかもしれない。

 だが、オオマガドキでイヅチカナタとやらが出てくるのか…。

 オオマガドキは扉とやらを開いて、何かを呼び込もうとする現象だと聞いていたが、ひょっとしたらイヅチカナタを呼ぼうとしていたんだろうか?

 

 

 そういえば、千歳の鬼ボディはイヅチカナタの呪いを喰らったから、だったよな?

 俺も遭遇したんだし、体が変化したりしてないかな?

 今のところ、自覚できるようなモノはないが…後でアラガミ化も試してみるか。

 

 

 …女の子にアレが生えたんだから、男の俺が呪いを受けたら二本になったりしないかなぁ。

 

 

 とりあえず、イヅチカナタとか言うのには要注意としか言えない。

 オオマガドキを防げなかったら、イヅチカナタが来ると思っていればいいだろう。

 …千歳というアイドルを以てしても、オオマガドキは防げなかった。

 矢張り、何らかの方法でムスビとやらを行う必要があるだろう。

 そのムスビも、ゲームでオオマガドキを防ぐのに使われた手段というだけで、具体的な事は何も分かってないのだが。

 ただ、多くのミタマが必要な事は確からしい。

 

 …オオマガドキが、時間の流れを滅茶苦茶にしてしまうものなら、ムスビはそれを防ぐ、正すもの?

 単純に考えれば、生きた時代の違う英雄達を揃え、時代の流れに沿って何らかの結びつきを作り、歴史や時間の崩壊を防ぐ…のか?

 

 駄目だ、見当もつかん。

 今度の討鬼伝世界では、樒さんに相談してみるか。

 

 

 

 さて、それはそれとして、今回のMH世界ではどうするべきかな。

 前回はA.BEEさんに目を付けられたし、精神を叩き直そうと思ってユクモ村で山篭りしてたっけな。

 そして霊力が篭った妙な紅玉を見つけて、そこから妙な事件が発生しはじめた。

 

 あの紅玉は気になるが…正直言って、もう一度見つけられる気がしないな。

 文字通り、砂漠の中から小石を一つ探すようなもんだし。

 

 

 前回の山篭りは…精神的にはあんまり意味なかったな。

 結局、どの世界でもエロに走っているし。

 ただ、狩りについての実力は随分上がった。

 今なら、メゼポルタでも充分通用しそうな気がする。

 フロンティア仕様でも、多分上位までは素で行けるだろう。

 

 よし、今回はメゼポルタで何処まで行けるか試してみるか。

 

 

 

 

 

MH月『使えなくなっていたコンロが使えるようになっていた。焼き魚とヤキトリだ!』日

 

 訓練所はサクッと卒業。

 さて何から狩ろうか……とか考えてたんだが、ちょっと面白そうな話を聞いた。

 メゼポルタの近くに、一つ村を作るらしい。

 何でまた?と思ったが、どうやらメゼポルタを更に広げる為の前準備だとか。

 

 理由はともかくとして、村を一から作るのか?

 鉄腕的なアレか?

 

 実に興味深い。

 俺としても明確な目的も持たず狩り暮らししているとダレてしまいそうだし、このプロジェクトに一丁参加してみるとしますかね。

 

 

 




 戦場は膠着状態に陥っていた。
 多くの結界を張っている鬼達と、その向こうに見えるアンバランスな赤い塔。
 そこを目指すモノノフ達。

 激戦である事は言うまでもないだろう。
 モノノフだけでなく、鬼達の戦力も相当なものだ。
 だが、両者とも全く引こうとしない。

 分かっているのだ、この戦いが自分達の望みを叶える唯一のチャンスである事を。


 両者共に被害が増える。


 鬼達はその数を徐々に減らし、モノノフ達は倒れこそしないものの、傷つき、その力を徐々に失い始めている。
 鬼が倒れた事で結界が消え、その分モノノフ達は塔に近付いている。
 このまま進めれば、遠からず塔に辿り付くだろう。

 それを嫌った為かどうかは分からないが、鬼達は増援を呼んだ。
 別の場所から鬼達を呼び寄せ、モノノフ達の背後を強襲させたのだ。

 しかし手練のモノノフ達は円陣を組み、これを防ぐ。
 増援達は数こそ多いものの、そこまで強力な鬼ではなく、背後を守るモノノフ達に殲滅されていった。

 だが、それでも前方、進軍しようとするモノノフの戦力が削れた事には変わりない。
 塔に迫る速度は落ち、疲労や傷が加速度的に増えていき、天秤は徐々に破滅へと傾きつつあった。



 だが、それを何度も覆す声がある。



「もうちょっと!
 皆、頑張って!」


「「「おお!!」」」


 幼いとさえ言ってしまえる、少女の声。
 それが張り上げられる度に、モノノフ達は何度でも奮い立った。
 暢気に日記を書いてる奴も居たが。

 彼女がモノノフ達の中心である事を示すかのように、彼らの円陣は彼女…千歳という鬼の体を持った少女を中心にして組まれている。
 まるで一個の生き物であるかのように、綺麗な円を崩すことなく、彼らは戦っていた。



 その円が乱れ始めたのは、一体何が切欠だったのだろうか。
 鬼の数は減っている。
 塔への距離も縮まっている。

 だが、確実にその連携は乱れ始めていた。
 それに最初に気付いたのは、円の中心に居た千歳だった。


「那木さん、回復お願い!
 初穂姉、出過ぎだよ下がって!」

「承りました!」

「お姉ちゃんに任せなさい!」


 声をかけ、陣が崩れないように注意する。
 しかし、おかしいのはその後だ。
 初穂は下がっても、またすぐに突出するようになり始め、那木も自分から回復を施す事が少なくなっている。
 二人だけではない。
 息吹や富獄、桜花は目の前の敵を倒そうとしているが、他者からの援護をまるで考えてないような戦いぶり。
 速鳥もまるで、他者を信用しなかった頃のように自分一人で戦おうとしているかのようだ。

 千歳が誰よりも頼りにしている男は……暢気に日記を書いている。
 休憩時間も終わりだったので、蹴っ飛ばして戦わせた。


(おかしい…おかしいよ、これ。
 皆の足並みが、急に乱れてきている。
 塔まであともうちょっとなのに!)


 千歳の心が焦燥で埋まりはじめる。
 どうにかしないと、と思っているが、原因が分からず、対策はただ声をかけ続けるしかない。
 しかも徐々にだが千歳の声に耳を貸さなくなっているようにさえ見えた。

 このままでは、連携を断たれて……敗北する。
 それはモノノフ達の、ウタカタの、人の世の終わりを意味した。


「なぁ、千歳…さっきから、なんか光ってないか?」

「え?
 光…あ、本当だ」


 焦りで埋め尽くされようとしていた心が、声をかけられてふと冷静になる。
 たった一言でこうまで落ち着くのだから、自分もいい加減依存しているな…と自覚しつつ、周囲を見渡してみた。
 鬼達の攻勢を凌ぐのに手一杯で気付かなかったが、確かに光が舞っている。

 明らかに自然のものではない、モノノフ達が発しているものでもない。
 一見すれば綺麗だが、何処と無く不吉な綺麗さを感じさせる光。
 それが、ゆっくりと空に昇って行っている。

 …空へ、正確にはオオマガドキを開くための塔の上へ。


(あれ?
 なんだかこれ、見た事がある。
 なんだっけ…)


 ひどく特徴的な光景なのに、すぐには思い浮かばない。
 …何故だか、ひどく嫌な気持ちになる。
 
 体の半分が疼く。
 鬼の体が、何か喚きたてようとしているかのような…。


 そこまで考えて、ようやく気付いた。


「まずいよ!
 イヅチカナタが来てる!」


 すぐに思い出せなかったのも当然だ。
 嫌な気持ちになるのも当然。

 この光は、千歳がまだ元の時代に居た頃に最後に見た光景。
 千歳にとっては苦難の始まりとなる鬼の体にされ、孤独に生きる事になる切欠になった光景だ。
 もしもまた、別の時代に飛ばされたら?
 今度は残り半分の体も、鬼に変えられてしまったら?


 …確実に、壊れる。
 絶望で心が死んで体も死ぬか、人であった事を忘れて身も心も鬼と化してしまうかもしれない。

 そんな未来を想像しかけて、頭を叩かれた。


「おい、ち………千歳?
 これイヅチカナタの仕業なのか?」

「う、うん…多分。(私の名前に疑問符がついてる…)
 でも、どうしてここに…」

「理由は後でいい。
 俺もさっきから皆の名前が思い出せなくなりそうなんだが?」

「…それがイヅチカナタの力なの。
 因果や繋がりを食って、自分の力に変える。
 おまけに、仲間同士の因果を食べられたら、他人になっちゃうから…」

「連携も信頼関係も無くなってしまう、か。
 話に聞いた以上に洒落にならんな…。
 しかも、既に俺達の因果も相当食われてる」


 既にモノノフ達は、ほぼ単独戦闘に突入している。
 連携も何もあったものではない。
 モノノフ達だけではない。
 結界を張っていた鬼達も、守備は不要と判断したのか、それとも因果を食われて塔を守る役目を忘れたのか、てんでバラバラに暴れ始めていた。
 動いてないのは、最奥に居るトコヨノオウとトコヨノオオキミだけだ。

 千歳がまだ正気で居られるのは、恐らく体に宿したイヅチカナタの鬼の力の為だろう。
 何よりも忌々しい体が、最後の手助けになるとは皮肉なものだ。
 ……多分その千歳とオカルト版真言立川流で交わりまくった誰かさんにもその力が宿っているのだろう。


「…多分、もうすぐ皆には私達の声も聞こえなくなると思う。
 それまでにどうにかしないと」

「…幸い、塔までの道は空いている…か。 
 博打をするぞ。
 単騎駆けだ」

「皆はどうするの!?」

「もう時間がないんだろ?
 俺だっていつまで正気で居られるか分からん。
 皆を守るのに時間をかけて、その間にオオマガドキが始まったら完全にアウトだ。
 幸い、鬼達が連携して襲ってくる訳じゃないようだから、皆の力量なら生き延びるだけなら何とかなる。
 最悪、塔だけでも壊してオオマガドキを防ぐ」


 千歳の顔は、苦虫を噛み潰したようなものになった。
 言っている理屈は分かる。
 だが、千歳は『正義のモノノフ』なのだ。
 損得勘定で…例えそれが勝利する為のものでも…味方を危険に晒したまま進む事を、心が受け付けてくれない。
 例えそれが、身も心も依存しきっている相手の言葉であってもだ。


「単騎駆け……一人で行く気?」

「そう言ってるだろ…と言いたい所だが、違う。
 駆けるのは千歳、お前だ」

「私が?」

「多分、俺よりも長く正気で居られるだろうしな。
 俺はあの2体の鬼を全力で潰す。
 その間に塔まで走って、爆弾使って纏めてブッ飛ばせ」


 そう言って、何処からともなく取り出す大樽爆弾と、更に大きな大樽爆弾G、その他諸々に加えて、運搬用のリヤカーまで。
 重さを考えれば小娘一人に運べるようなものではないが、鬼の体の力なら充分運べる…ちなみに本来なら牛に引かせるモノだった。

 千歳は考え込む。
 確かに、この状況をどうにかできるとしたら、それくらいしか手段が無い。
 あの塔を破壊すれば、オオマガドキは止まり、イヅチカナタも消える…だろう、恐らく。
 そうすれば因果を食われるのも止まり、皆に声が届くようになる。
 食われた記憶が戻るかどうかは博打だが、少なくとも互いの存在を認識して戦うようにはなるだろう。


「……あの2体を相手にして、生き残れるんだよね?」

「おう、どっちにしろ短期決戦になるからな。
 全力で行く」

「……あ」


 『変身』。
 千歳は初めて会った時を思い出した。
 異形の体、明らかに格が違うと分かる霊力。
 どれ程の力を振るえるのかは聞いた事が無かったが、誰よりも信じる男が切り札として切ろうとしている。
 それだけの力はあるのだろう。

 もう、その札を信じるしかない。
 やり切った上での結果を信じるしかない。



「…分かった、覚悟を決める」

「そんなマジな顔するなよ。
 ……名前も思い出せなくなり始めてるけどな…好きな話だったろ?
 『ここは俺に任せて先へ行け』ってヤツさ」

「嫌いな話にさせないでよ。
 …行って来る」

「おう、俺も行くぜ」


 千歳はリヤカーに手をかけ、走り出した。
 それと同時に、背後で力強い『変身!』という言葉が響く。

 そして今までとは一線を隔する霊力の高まり。
 2体の鬼があげる咆哮と、激突の音。

 振り返らずに、千歳は駆けた。




 爆弾は重かったが、鬼の力を持って駆け抜ければ然程時間はかからない。
 むしろ、悪路を走って爆弾がポロリもあるよ!しないかの方が怖かった。
 詰み方がよかったのか運が良かったのか、幸い流れ弾に当たりそうになりつつも塔まで辿り付く。



「よし、後は爆破するだけ…」


 爆弾を設置しながら、チラリと後ろに目をやる。
 …よく見えないが、トコヨノオウとトコヨノオオキミがマガツヒ状態になったのが見えた。
 と思ったら、背中に生えた翼のようなものが突然粉砕される。
 尻尾や腕の武器などは、とっくの昔に切断されていたようだ。
 炎やら氷やら雷やら色々出ているようだが、本人の姿は全く見えない。

 あと、何やら体に悪そうな緑色の光がドカンドカンと爆発している。

 …距離と遮蔽物(鬼達の体)の問題もあるが、どうやら見切れない程のスピードで動き回っているらしい。


(…まだ3分も経ってない筈なんだけどなぁ)


 鬼と化した(千歳は知らないがアラガミ化だ)姿での全力がアレか。
 最初から使っていればよかったんじゃないか、とは思ったが、やはりモノノフの仲間に鬼の体を晒すのは抵抗があったのだろうか?
 いや、それよりも時間制限があるのだった、と思い出し、せっせと爆弾設置を続けるのだった。



 程なくして爆弾設置完了。
 …塔の赤い光が強くなっている。
 空に立ち上っていく光も多い。


(早い所、爆破爆破…火種は無い。
 『その辺の小石を適当にぶつければ爆発する』って言ってたけど、爆弾ってそういう物かなぁ)


 首を傾げながらも、素早く距離を取って投石準備。
 …その瞬間に気が付いた。
 
 異形の塔が崩壊し始めている。
 爆発させたのではない。

 空に奇妙な渦ができており、そこに吸い込まれるように登っていくのだ。
 設置した爆弾も、それに釣られるように塔の上に転がり堕ちていく。

 最早一刻の猶予も無い。
 もう少し距離を取りたかったが、千歳は石を放り投げた。






 激しい爆発の衝撃に煽られながら、千歳は見た。
 異形の塔の根元がゴッソリと抉り取られ、塔の赤い光が失われるのを。
 空に空いた渦が消え、塔の先端部付近が自分に向かって倒れてくるのを。



 無言でダッシュした。






「い、生きてる、私生きてる……!」


 よりにもよって直撃コースだったので、かつてない程全速力で走った。
 何とかオオマガドキを防げたようなのに、こんなんで死んだら死に切れない、という執念の賜物か。
 どうにかこうにか千歳は塔を避けきった。


「皆は…」


 激しい動悸と呼吸に耐えながら、これできっと大丈夫……と、千歳は顔を上げた。




 空に昇る光が乱舞している。


 何故、と問うよりも先に、千歳の視界にそれが飛び込んできた。


 空から現れた巨大な触手を持つ鬼が、人間の姿に戻って動けなくなったモノノフの前に立っているのを。


「知ってる…知ってるぞ、お前の事!
 そうだ、俺はお前と何度も遭遇している!
 あの時も、あの時もあの時もいつもいつもいつも!
 お前は」


 鬼の前で、正気を失ったかのように叫び、逃げようともしない男。
 走り出そうとした瞬間、全身から『何か』が抜け落ちる。

 何もかもが見えなくなり、何もかもを思い出せなくなる。


(因果を、取られた…)


 それ以上何も思う事はできなかった。
 因果と、それ以外の何か…或いは全て…を食われる感覚すら、徐々に薄くなっていった。


 

外伝:討鬼伝デスワープ編


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66話

千歳はいつかまた出したいです。
出したいですが…今回 まだその時と場所の指定まではしない
そのことをどうか諸君らも覚えておいていただきたい。
つまり…我々がその気になれば千歳の再登場は
10年20年後ということも、SS終了1話前ということも可能だろう…ということ…!



 

 

MH月『昔のゲームをまたやろうとして起動させたら、急に面倒になる事って無い?』日

 

 

 新しく作られるギルド支部のギルドマスターに任命されてしまった。

 何故だ。

 いや俺一介のハンターなんですけど。

 色々規格外なのは認めますが、人を纏めるとかそっち系はサッパリですよ?

 むしろ組織の毒にしかなりませんよ?

 

 

 

 志願したハンターが俺一人しか居なかったらしい。

 なんという…。

 

 まぁ気持ちは分かるけどな。

 メゼポルタと違って、防壁城壁も無い野外で村を作る。

 その危険度は言うまでもない。

 意味も無く無謀なマネをするハンターが居るかって事だ。 

 

 まぁ、半ば不意打ち気味とは言えもう契約してしまったし、ギルドマスターと言ってもお飾りだ。

 実際の業務は、一緒に送り込まれるギルド見習いのパピ嬢がやる事になる。

 …のだが、まだガキだしなぁ…手伝う事になるんだろうなぁ。

 

 ハンターについては、開拓が軌道に乗っていけば増えていく事だろう。

 

 

 

 と思っていたのだが、それ以前の問題だった。

 「最近メゼポルタ近辺のモンスターの様子がおかしいから、ついでに調べて来い」って何じゃい!

 モンスターの様子がおかしいって、それ火山で寝ているラオシャンロンとかが起きる前触れじゃないのか?

 他にも色々襲ってきたしな……俺がメゼポルタに居た時、と言うか回に限って。

 

 普通、ちゃんとしたハンターを出して調べさせるだろ…人手が足りないのは分かるが。

 

 

 

MH月『朝風呂浴びて、朝から酒飲むこの至福ッ…!』日

 

 なんか地主の娘さんと顔を合わせた。

 中々タカビーな感じのお嬢さんである。

 そしてデコが眩しい。

 名前はニケ嬢。

 付き人?のムルカ君から、不運オーラが漂ってるな。

 そして竜人族?アイルー? 種族がよく分からない、ポイクリ爺さん。

 

 最近のモンスターの行動がおかしいので、調査するように依頼しにきたらしい。

 へいへい、お仕事お仕事。

 

 

 ま、最初って事で、普通のランポスとかが相手だった。

 まぁ、いきなりティガとかがウロウロしているような所を開拓地にはせんわな。

 そもそもメゼポルタの近くだし。

 

 ただ、肉食の筈のランポスが、その辺のジャンゴーネギとか食ってる、ねぇ…。

 どう考えても厄介事の前触れですな。

 だからギルドも、開拓ついでに調べておけ、なんて無茶振りをしたんだろうけど。

 

 

 とりあえず、ギルド支部の仕事はパピ嬢に任せてみた。

 子供に丸投げ?

 違うな、見習いとは言え専門家に任せたのだよ。

 そもそもギルドなんて言ってても、居るのは俺一人だし。

 

 …まぁ、ダメなようなら手伝うつもりだったのだが、そこは子供と言っても見習いか。

 手際よくとは言えないにしても、それなりに仕事のやり方は知っているらしい。

 

 とりあえず、俺は一介のハンターとしての活動に専念する。

 その辺の食える物とかを調べていたんだが、何故かキノコが丸ごと無くなっていた。

 

 付き人君が激昂していた。

 よく分からんが、キノコが好きらしい。

 まぁ、特産キノコはマジで美味いから分からんでもないが。

 

 結局、キノコが消えた原因はババコンガだった。

 …一体だけのババコンガが、この近辺のキノコを食い尽くす?

 考え辛いな。

 原因になってたと思われるババコンガは狩ったが、もう少し調べてみる必要がありそうだ。

 

 

MH月『告訴も辞さないって言うけど具体的に幾らかかるんだろう』日

 

 今日もギルドと言いつつ俺一人で狩り仕事~。

 内容はどうって事ないのだが、量が多い。

 色々採取してきて、村の設備を作ったり、畑を作ったり……。

 

 それってハンターの仕事なのか?というモノまである。

 

 

 ……いや、普通のハンターだって農場経営してるし、養蜂設備を作ったりしてるな。

 自分でやってるか、経営状況まで見てるかはともかくとして。

 

 ともあれ、自分の力量にそれなりに自信を持っているハンター兼ゴッドイーター兼モノノフとしては、正直ちょっと物足りない状況なのは否定できない。

 なので、雑魚狩りするにしても、ちょっと集中してやってみる事にした。

 普段は一々意識せずに攻撃しているが、一発一発を意識し、刃筋を立て、急所を狙い、体重移動、呼吸法、位置取りとタイミングなど、普段は身体能力に任せて強引にやっていた事まで気を配る。

 「丁寧に狩る」という感じだろうか?

 

 普通のハンターは、そこまで一撃を意識する事は少ない。

 それも当然で、牽制や回避の前転などにまで一々気を割いていたら、集中力が保つわけがない。

 狩りの基本は相手に集中、残った部分で周囲を警戒、だ。

 そもそもからして、最高で最大の一撃よりも、威力はそれなりでも手数が多く、小回りの効く攻撃の方が多用されているんだし。

 細かい事に拘る一撃より、多少チャンスを逃しても問題ない乱打。

 それが大抵のハンターの選択である。 

 

 

 流石に一朝一夕では成果は上がらないが、やってみると矢張り違うものだ。

 一撃一撃の威力や効率が、明らかに違う。

 今日は太刀を使ってドスランポスを狩っていたが、手応えが違う、避けた後の攻撃しやすさが違う、錬気が溜まるのも早い。

 …最終的には、単なる攻撃に、溜め攻撃くらいの威力を載せたいものである。

 

 

 

MH月『EDFを買うか、アサクリのやりこみするか迷っている』日』

 

 ヒマに任せて狩りを続けていたら、危うく生態系を崩してしまうところだった。

 乱獲乙。

 

 …というのは流石に冗談だ。

 パピ嬢から「普通じゃないペースなのですよー!」と言われたが、俺一人で狩りつくせるようなら、とっくにこの近辺は人間サマの天下になっている。

 生活の為の地区こそ確保できたが、外は相変わらずモンスターパラダイスヒャッホーゥである。

 

 

 ところで、なんか血相変えて地主のお嬢と爺さんが(ただし本人は余裕そうに)やってきたんだが。

 何?

 飛竜種?

 リオレイア?

 

 

 

 はぁ、そんな大変な事かね?

 なんて言ったら一喝されてしまった。

 ああ、そういやそうだったよな。

 俺自身は普通に狩ってたからまるで感じなかったが、リオ夫婦って強い部類に入るモンスターだったっけ。

 しかもメゼポルタはフロンティア仕様っぽいし。

 

 オマケに、ここに居るハンターはたった一人。

 訓練所を卒業したばかりのヒヨッコ(…自分で言っててどうかと思うな…)。

 普通に考えれば絶望的だろう。

 

 地主の嬢ちゃんは、悲壮な覚悟を決めて自分も戦いにいくつもりだったようだ。

 と言うかついて来た。

 俺一人でいいって言ってんのになぁ。

 

 ハァ、それにしても村の開拓を始めて一週間も経ってないってのに、いきなりリオレイアの襲来ね。

 …運が悪いのか、それとも単に俺に引き寄せられてるカンジなのか…。

 

 

 

 

 リオレイア?

 

 いや、F仕様とはいえ下位の、しかも手負いのリオレイア相手に今更梃子摺れと言われても。

 地主の嬢ちゃんは、初めて飛竜種を見て足がガクガクしていたが、『聖水』が出なかったのは素直に大したものだとおもう。

 なんだかんだで狩場のすぐ近くまで来てたし。

 

 

 狩りを見てた爺さんは、「ホッホッホ、やはりのぅ」とか一人で頷いていた。

 ものっそい高下駄履いてるけど、歩きにくくないの?

 デフォルトで竹馬とか、遊び心を忘れない爺さんだな。

 

 

 

 ところでこのリオレイアの死骸はどうすんだ?

 いつも狩ってからギルドに任せっぱなしだったから、どこに売るとか何に使うとかサッパリなんだが。

 

 パピ嬢、任せた。

 

 

 

MH月『MHFが無料でHR100までプレイできるってマジ?』日

 

 

 あのリオレイアは手負いだった。

 で、背中に砂漠っぽい砂がついていた。

 口の中も調べてみたんだが、ガレオスっぽいものも歯に挟まっていたし、多分間違いないと思う。

 

 つー事は、単純に考えて砂漠にリオレイアをそこまで追い詰める奴が居た、って事か。

 仮に戦ったとするなら、追い詰めはしたが仕留め切れなかった……と考えると、多分相手も下位レベルの奴だと思うんだが。

 

 

 という訳で、調べに行く許可をください。

 

 

 と言ったらパピ嬢と、別のギルドのお偉いさんから駄目だしを喰らった。

 

 パピ嬢曰く、「今のウチのギルドに居るハンターは、マスター一人なのですよ。そのマスターが居ない間に何かあったら、村は全滅なのですよー!」だそうだ。

 …ぬぅ、俺しかハンターが居ない影響がこんな所に出てくるとは。

 

 そして別のギルドのお偉いさん……後から、メゼポルタ開拓を任されている人だと知らされた……曰く、「無理にギルドマスターとしての立場を押し付けた君には申し訳ないが、君は既にハンターではなくギルドマスターなのだ。自分の立場を考えて行動したまえ」との事。

 色々説教されたんで半分以上頭から飛んでいるのだが、そもそも狩人が砂漠に行って狩りをする為には、ギルド…支部ではなく本部…の許可が必要だ。

 そしてそのギルド支部が砂漠に関与する事が許される為には、一定の条件があるらしい。

 簡単に言えば、人数、それまでに上げてきた実績だ。

 

 まぁ、ある筈ないわな。

 人数は俺一人のままだし、実績は…手負いのリオレイアをやったというのだけはあるが、それ以外には精々ドスランポスくらい。

 一人のハンターがどれだけ優秀だったとしても、それ以外のハンターが使い物にならない(と言うか居ない)のでは、ギルドとしての能力は皆無と言っていい。

 

 

 が、だったらこう言わせてもらいたい。

 「人手を寄越せ」と。

 建物はそこそこ作れた。

 人が住める環境ではあるし、数人程度だが住んでいる事は住んでいる。

 が、最低限の人数しか居ないんだよ!

 

 ハンターだって、「君にギルドマスター任せた!」とか言っておきながら、所属者無し・一からスカウトしろとか無茶振りどころじゃないだろーが!

 せめて最初の人手くらいは揃えてくれよ!

 狩りどころか村の形をやっと保っているような場所に、好き好んでハンターが所属するもんかい。

 

 畜生、今日はもう寝る!

 こうなったらヤケだ。

 明日からガンガン開拓しまくって、後始末はパピ嬢を通して立案者に押し付けてやるもんね!

 

 

 

MH月『窓を開けて昼寝するのが気持ちいい季節』日

 

 文句を言っても始まらない。

 とりあえず、狩りをこなさない事には、調査どころか生活も侭ならぬ。

 

 という訳で、ランポスドスランポス、ドスファンゴなどを狩って実績を積む日々です。

 砂漠に行けるようになるのは何時の日か。

 狩りの回数と量が異常と言われるようになって久しい俺だけど、それは狩りに費やせる時間があってこその話。

 今は村の設備を作ったり直したり、パピ嬢から「サインだけでもお願いするのですよー」と言われた書類を相手にせねばならない。

 ユクモ村の時のように、朝から晩まで狩場に篭りっぱなしとはいかないのである。

 

 仮に篭りっぱなしだとしても、実績ってのは大前提からして複数人…それも4人以上で詰むものだ。

 しかもそれは猟団の最低人数。

 ギルドともなれば、1つ以上の猟団+猟団に所属してないハンターを抱えているのが当たり前なので、最低でも5人。

 平均的な人数で言っても、12人がギルド支部の最低人数…らしい。

 この辺はパピ嬢から聞いた話だが。

 

 翻ってみるに、この現状…。

 ここで腐らずに元気に仕事をするパピ嬢には、頭が下がる思いだ。

 お子様だからとバカにはできぬ。

 プロ意識という点では、間違いなく俺以上だろう。

 

 …書いてて自分が情けなくなってくるな。

 

 

 ともかく、俺一人がハッスルしても、目標となる実績が高すぎて(多すぎて?)時間がかかり過ぎる。

 やはり人を集めねば…。

 

 

 

 と思っていたら、朗報が来た。

 なんと、物好きなハンターが一人所属してくれるらしい。

 

 マジで!?と思ったが、ハンターとは名ばかりの、訓練生だそうな。

 おいおい、ルーキーですらない、訓練生かよ。

 ハンター訓練所はどうした?

 

 …何でも、飛び級できる程に優秀なハンターの卵、らしい。

 いやでも卵だろ?

 

 他のハンター候補生達と力量が違いすぎる為、経験を詰ませる意味でも俺の所に寄越した…か。

 まぁ、確かに今のところランポス達程度しか相手にしないから、訓練生でも仕事はこなせると思うよ?

 

 だからって、ギルドマスターの仕事を押し付けた上、人手を寄越せと言ったら訓練生…。

 これって仁義に悖る話だと思わんかね?

 そう思っていたのだが、パピ嬢から実も蓋もない突っ込みが来た。(パピ嬢も怒っていたが)

 

 曰く、「実績も無い、他にハンターも居ない、生活すら侭ならない村に所属してくれるハンターなんて居ないのですよ…。多分、この人を飛び級の代わりに所属させるのが精一杯だったですよ…」だそうだ。

 ぬぅ、ムカつくのには変わりないが一理はあるか。

 

 逆に、これ以上のハンターを要求して叶えられたとしても、「仕事がありましぇーん」なんて事になりかねないのも事実。

 むかつく話だが、落とし所として妥当なのも事実…か。

 

 仕方ない。

 いつか意趣返しはやってやるとして(既に問題を押し付ける気満々だったが)、やってくるトレーニーがなるべく優秀な子である事を祈りますか。

 

 

MH月『エアコンガンガンにかけた部屋でカップ焼きそばに唐揚げにお好み焼に大根サラダにトンカツにてんぷらに豆腐にヤキトリにエビフライにモヤシに枝豆にちくわに煎餅に生ビールに(あと3行くらい続く)』日

 

 意識改善…というか、狩りの時の体の動かし方の意識だが、ちょっとずつだが改善されている…と思う。

 何せ我流だし、回りに見てくれる人が居ないからよく分からん。

 爺さんは実力とかがイマイチ分からんし、他の皆は素人ばかり。

 ついでに言うと、爺さんにしても、霊力やら何やらはサッパリ分からないようだ。

 「お前さんから、おかしな圧力を時々感じるのぅ」みたいな事を言ってたから、霊力自体は感知していると思うが。

 

 

 それはそれとして、例のリオレイアの件だ。

 砂漠に何か異変があるっぽい、と言うのは開拓責任者に報告しておいた訳だが、責任者もそれで何もしていないのか…というと、そんな事は無い。

 俺が直接調査に赴くのは却下されたが、そのまま放置しているようでは職務怠慢もいい所だ。

 

 全く知らないハンター達が、調査を担当しているらしい。

 うーむ、ちゃんと仕事してるのはいい事なんだが、なんか面白くないな。

 俺の仕事を横から誰かに掻っ攫われた気分。

 

 責任者にしてみればルールを守って仕事をしているだけで、請け負ったハンターにしてみれば文字通り依頼を受けただけなんだろうが…。

 いっそ無断で……いやアカン、ヘタな事するとギルドナイトに闇系のお仕事されてしまう。

 

 ここはまだ焦るような場面じゃない。

 そもそも、仮にこのメゼポルタ開拓が、俺の知らないモンハンゲームだったとして、主人公の立ち位置にいるのは…俺か、恐らく訓練所からやってくるハンターのどちらかだろう。

 以前メゼポルタに居た時も、俺が離れて帰ってきた時にばかりデカブツや古龍の襲来を受けていたし、俺か主人公のどちらかが関与しなければ、ストーリーが進まない可能性は大いにある。

 

 ……つまるところ、俺が面倒事を引き寄せる疫病神って意味でしかないけどね…。

 

 

 真面目な話、今の俺はギリギリでメゼポルタに滞在していると表現できる。

 以前と同じように、俺の存在を切欠として古龍やデカブツが連続して襲来してくる事も充分考えられた。

 

 で、そうなった場合、ウチはどうなるかって話だ。

 城壁に守られている訳じゃない、防衛戦力のハンターは俺一人+後日来るであろう新人さん。

 …ラオシャンロンとかシェンガオレンとかなら、進行ルートに入らなければ問題ない。

 入ってれば……ウチに被害が来る前にハンターギルドが動いてくれるかが肝だな。

 

 クシャルダオラとかの古龍だと、正直防げる気がしない。

 倒すだけならできるかもしれんが…結局、古龍とやりあったのってラオシャンロンくらいなんだよなぁ。

 ルコディオラにも我を忘れて突撃した事があったが、普通に負けたし。

 

 

 うーむ、何かいい方法ないかな…。

 アラガミ化すれば倒すだけなら何とかなるかもしれんが、この世界のモンスターって他の世界に比べて異様にタフだからな。

 大火力で一気に攻撃しても、時間制限までに倒しきれない可能性が否定できん。

 少なくともラオシャンロンは無理だ。

 という事は最悪の可能性…ミラボレアスとかもキツいだろう。

 赤いのとか白いのとか、アラガミ化した俺があと4人くらい必要な気がする。

 

 

 …やっぱ、アラガミ化に慣れが必要だな。

 使った後に動けなくなってしまうのは、前から問題だと思っていたし、慣れれば克服できるタイプの問題だ。

 一番手っ取り早いパワーアップ方法だろう。

 暫くは一人で狩りを続ける事になりそうだし、今のうちに変身に慣れておくか。

 

 

 

MH月『まぐろ大明神  刺身でいいかな?』日

 

 地主の嬢ちゃんが元気を取り戻してきたようだ。

 まぁ、リオレイア程度でどうこう言ってちゃ、これからやって行けんわな。

 十中八九、ラオシャンロンの襲来は確実。

 恐らくはそれから古龍種やデカブツが連続してくる。

 メゼポルタの危機百連発とか洒落になってません。

 

 それはともかく、砂漠に調査に行って来いと言われましたが、行けないもんは行けません。

 文句があるなら、ハンターギルドに直接言ってくれ。

 元々無茶を言われてるのはこっちなんだし、地主の娘としての権限でどうにかできんかね。

 

 ああそうですか無理ですか。

 地主の権限 < 越えられない壁 < ハンターギルドな訳ね。

 まぁ、この世界でハンター居なくなったら一大事と言うか、モンスターに抵抗する方法が無くなるからね。

 当然と言えば当然か。

 

 

 …もし、今度またリオレイアとご対面したら、動ける自信ある?

 いや虚勢はいいから。

 その思い出しただけで足がガクブルしちゃう姿が既に答えだから。

 

 やれやれ、大丈夫かねホントに……いや、確かにモンスターと対峙する必要があるのは俺であって、地主の娘が出張らなきゃいけない理由はないんだけどね。

 しかし、それでも立ち向かいたいというなら話は早い。

 

 

 君も今からハンター見習いだ!

 一緒に狩りに行って、モンスターの迫力に慣れましょう。

 

 イヤ?

 

 なぁに、そんなに遠慮する事ぁない!

 どっちにしろ、所属してくれそうなハンターだって新人以前の訓練生が一人だけなんだ!

 また大型モンスターとか来たら、どっちにしろ君も借り出されるだろう!

 

 リオレイア程度に怯えるような状態のままだと、今度は足が震えるだけじゃなくて、何か漏れたままで死体を晒す事になるぞ?

 液体じゃなくて固体の方をな。

 人間、マジでビビると冗談も誇張も抜きで漏らすぞ。

 ガチで。

 

 

 

 

MH月『偽乳特戦隊?  ……おぅ、ポーズとってみろよ』日

 

 リオレイアもイヤだが漏らすのもイヤだ。

 そんな我侭な嬢ちゃんの為に、密林…誰が名付けたのか知らんが、練磨の密林と呼ばれている…でデカブツを探しています。

 

 初心者向けと言われる密林だが、行くとこ行けば色々居るぞ?

 メゼポルタ広場から向かってた密林だって、クック先生からデカいカニからそれこそリオレイアまで、ゾロゾロ居たからな。

 ホントこの世界の生態系は地獄だぜ。

 

 まぁ、いきなりリオレイアを見つけるのも難しいし、やはりクック先生から始めよう。

 同じ飛竜種だし、トラウマ克服には丁度いいんじゃないか?

 

 

 そんな訳で、ギャーギャー騒ぐ嬢ちゃんを引っ張ってきたのだ。

 むぅ、パピ嬢は同じようにリオレイアを近くで見ても平然としているぞ?

 …何、「マスターがあっという間に狩っちゃったから、怖がる暇もなかったのです?」

 まぁ、別にいいけどさ。

 パピ嬢は自分の実力分かってるから、単身でモンスターに挑もうとか考えないだろうし。

 最初からさっさと逃げるなら、それも賢い選択だ。

 

 

 

 しかし、道すがら嬢ちゃんをモンスターと戦わせてみたんだが……弱いなぁ…。

 いや、素人にしちゃいい線行ってると思うよ?

 才能と言うか、恐怖に反発するような負けん気が非常に強い。

 ループが始まったばかりの頃の俺より強いんじゃなかろうか。

 

 でも、それでもモンスターを追い払うのがやっとだ。

 体は脆いし、筋力はひ弱だし、何よりハンターと違ってスタミナも怪我も、回復力が低い。

 俺は最初オチコボレであっても、一応訓練をやり遂げて、秘伝の肉体操作法とかが体に染み付いてたからなぁ。

 ハンター秘伝の肉体操作法の効果がよく分かる。

 迂闊に漏らしたら即ギルドナイトがすっ飛んでくるというのも納得の性能だ。

 

 しかし、それはそれとしてどうしたもんか。

 俺だって闇系のお仕事されたくない。

 正直に言えば、ギルドナイトと戦って勝てるだなんて、欠片足りとも思えない。

 無論、アラガミ化もミタマもGEパワーも含めてだ。

 

 嬢ちゃんを戦力として数えるのは無理かなぁ。

 モノノフの戦い方だって、ミタマがあってこそだし…自分の持っている霊力だけじゃ、精々体がちょっと頑丈になる効果しかない。

 そもそも精神的な修行が必要なんだが、あの嬢ちゃんが大人しく座禅なんぞ組むとは思えん。

 

 アレだ、狩人なだけに、霊力を思いっきり叩き込んで無理矢理目覚めさせる方がまだ目があるよ。

 普通はそんな事しても痛いだけだけどな。

 俺も力加減とか分からんし。

 

 

 

 さて、今日は結局カニとサルとイノシシと戦いました…嬢ちゃんがな。

 流石に小さいほうの奴だけど。

 ヒーコラ言いながら逃げ惑ってたが、生きてる辺り人間の可能性って奴を実感するな。

 

 ちゃんと大怪我しないように、死なないようにフォローはしてたよ?

 それでも常識的に考えて虐待と言うか死刑一歩手前だったのは否定できんが。

 

 あと、帰ってきたら付き人の幸薄い人が労ってくれたんだが……俺のにだけ毒キノコ満載だったんだが。

 これは嬢ちゃんの命令での意趣返しか?

 それとも俺を殺っとかないと嬢ちゃんが死ぬと思っての行動か?

 或いは、この子は異様に毒が好きみたいなんで、一回転してよかれと思ってやってんのか?

 

 まぁ、ハンターにこれくらいの毒は効かないけどな。

 放っておいても治るし、寝れば即座に回復するし。

 

 

 にしても、どうしたもんかねぇ。

 戦うのが無理でも、逃げるくらいは出来るようになってもらいたい。

 …一般人がリオレイア相手に逃げ切るってのはかなり難易度高いが、そういう状況なんだと諦めれ。

 メゼポルタの野外に住むというのは、そういう事だ。

 

 

 

 メゼポルタ。

 

 メゼポルタ……MHFか。

 

 

 

 …そういや、MHFにはモンスターをペットに出来る機能があったような…。

 

 




という訳で、予想している方も多いと思いますが、メゼポルタ開拓記始めました。
とりあえずエスピナスまでは狩った。
しかし、この分だとストーリーで出現するのはクシャとかラオとかくらいまでかな…。
よし、なんかもっと面倒なのを乱入させよう。


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67話

新しいハンター?
無論、メゼポルタ開拓記の初期メンバーです。
脇と太ももが眩しいね。


 

MH月『仕事中に思いついて忘れてしまったネタ達ェ……』日

 

 

 ふと思う。

 今回のMH世界は、あんまり欲求不満になってないな…性的な意味で。

 

 明確にヤりたいと思う対象が近くに居ないせいだろうか?

 パピ嬢はお子様だし、嬢ちゃんは…まぁ、美人になるとは思うが、名前で呼んでないあたりでお察しである。

 まぁ、仮にも組織運営の長…お飾りだが…たる者が、安易にそういう関係になるのもどうかと思うがね。

 ハニトラがヤバすぎる。

 

 ともあれ、ここの所嬢ちゃんを鍛えると言うか生かさず殺さず生死的な意味でヒィヒィ言わせていたのだが、最近ちょっと思うところが出てきた。

 この村で俺が出来る事は狩りばかりだと考えていた。

 が、狩りオンリーではここの生活は成り立たない。

 

 では、何が必要か?

 

 足りないものは色々あるが、まずは必要なのが食料だ。

 即ち、狩りで得る肉だけでなく、野菜とか魚とか。

 人間、食い物が安定してれば大抵のところで生きていけるもんである。

 物理的な危険が無ければだけどな。

 

 

 とにかく、俺は農場を経営する事にした。

 幸いと言うべきか、一定の功績を挙げたハンターは、自分の土地を持つ事が珍しくない。

 自分の土地と言っても、実際にはギルドから貸し出されている訳だが…俺の場合は違う。

 何せここは未開拓の土地だ。

 後にはギルドに対価を貰った上で委譲するのが決まっているようなものだが、現在は俺の土地と言っても過言ではない。

 

 

 つまり、農場の設備やら何やらを一から作らなきゃならぬ訳だが。

 

 ともあれ、ちょっと本格的な感じで農場を目指してみる。

 アイルー達の助けもないのが苦しいところだが、その分自分の実になると思って割り切ろう。

 そしてこのMH世界で色々な種や肥料、作物を確保しておき、GE世界ではスローライフを送るのだ。

 農業革命なのだ。

 

 

 で、正直全て手探りでやるのも覚悟していたのだが、ここで意外な人物が力になってくれた。

 これまでパピ嬢へのセクハラ(頬を突くくらいだが)しか存在意義が認められていなかった、種族不明の爺さんことポイクリ氏だ。

 

 一見するとボケボケした爺さんなのだが、これで結構侮れない人らしい。

 少なくとも、長年生きてきて溜め込んだ知識はバカにできん。

 ボケが始まりかけている予兆も見られるが。

 

 色々忘れているところや、技術の新旧がゴッチャになって噛み合わない部分もあるが、おかげで農場作りは大分楽になった。

 

 

 

 …農場の牛や馬代わりに、リオレイア使えないかなぁ。

 

 

 

 

MH月『最寄のコンビにが潰れて、行き付けの焼き鳥屋が来月で終わる orz』日

 

 

 農場でリオレイアとか飼えないか…と言ったら、ポイクリ爺さんに百年速い、と言われてしまった。

 狩るだけならどうとでも出来ても、飼えるだけの設備もなく、それ以前にメシも用意できない。

 うん、確かに百年速いわ。

 

 

 生き物を飼うのって大変だね。

 討鬼伝世界の天狐は普通に自分でメシも取ってきてたけど。

 …同じ要領で出来ないかな。

 寝床に帰って来るように、そこらの一般人にジャレつかないようにだけ躾けて、飯は勝手に狩って来いとか。

 それで飼っているといえるかは微妙なトコであるが。

 

 …そんな事をボヤいていたら、「あんたらモンスターを舐めすぎなのよ…」と地主の嬢ちゃんがゲッソリしていた。

 まぁ、モンスターの脅威を身に染みこませる為に、散々触れ合わせたからな。

 冷静になってみれば、俺にとってはどうという事のない相手でも、一般人にとっては地主の嬢ちゃんと同じく、触れ合うだけでゲッソリしてしまう(或いはゴッソリ血肉を持っていかれそう)な相手なんだよな。

 ランポスだって、ハンターでなければ倒すのに相当な被害が出そうだ。

 だって恐竜だし。

 

 

 …恐竜か。

 改めて考えると、少年時代のロマンが蘇るな。

 飼うのはドスランポスでもいいような気がしてきた。

 いや、でもやっぱロマン的にはデカい方がいいなぁ…。

 恐竜もいいけどドラゴンもいい。

 甲乙つけ難いとはこの事か。

 

 どっちもデカい爬虫類と言ってしまえばそれまでだけど。

 

 

 まぁ、飼うだけの設備が無いんじゃ所詮は夢物語だ。

 だが話は単純。

 設備が無いなら、作ればいいじゃない。

 村をもっと拡張すればいいだけの話じゃない。

 

 つまりはもっとお仕事しろという事だ。

 さぁ、今日も密林の探索だ!

 

 と言っても、そんな珍しいモンスターが出てくる訳じゃないし、これも一種のスローライフかね?

 

 

 

 

 何?

 

 イャンガルルガと遭遇するようなライフはスローライフじゃない?

 

 はっはっは、どこぞの片耳個体ならまだしも、フロンティア仕様とは言え下位のガルルガなら充分スローライフだよ。

 俺にとっては。

 

 嬢ちゃんにとってはどうだか知らんがね!

 これも地主の娘の仕事と割り切りたまえ!

 

 

 

 …絶対違う、と喚き散らされました。

 実際違うから困る。

 

 

 

 

MH月『酒のツマミに金をかけすぎ』日

 

 

 地主の嬢ちゃんが漢泣きしていた。

 なんか空に向かって感謝を叫んでいた。

 

 …壊れたか?

 ショック療法で直すか?とか考えていたんだが、1時間くらいしたら治ったようだった。

 

 何をそんな狂気乱舞(誤字にあらず)していたのかと問うてみれば、ようやくこの村に新人ハンター(訓練生だが)が到着するらしい。

 ほほぅ、それは喜ばしいな。

 何だかんだで好き勝手狩り放題してたから、砂漠に行く為に必要な実績は殆どクリアできている。

 訓練生ハンターを鍛えがてら狩りをしてれば、そう遠くない内に砂漠の調査に向かえるだろう。

 

 

 だが地主の嬢ちゃんの喜びはそっちではなく、「これで耐久サバイバル訓練から解放される!」だった。

 そんなにモンスターと張り合うのがイヤだったか。

 まぁ、素で命がかかった訓練だったしな。

 

 と言うか、実はアレってハンターギルドにチクれば即刻解放されたんだけどね?

 地主の娘といえど、一般人には違いないんだ。

 その一般人を、ハンターが率先してモンスターの前に放り出すとか、そりゃ殺人と変わらないよ。

 チクれば即刻ギルドナイト…とは言わないまでも、警察?衛兵?っぽいのが飛んでくるよ。

 

 何でそんな事をしたかって?

 …上手く行けば「一人でこんな事やらせてんじゃねえ! 人手を寄越せ!」って強烈なプレッシャーになるんじゃないかと思って。

 ま、現状ではいざ事あらば、地主の嬢ちゃんも剣持って突撃せにゃならん状態なのは変わってないからな。

 最低限、リオレウスと向かい合ってもちゃんと動けるくらいの実力を持つまで訓練は続けるよ?

 

 

 チクる?

 別にいいよ、バレても俺の代わりになるハンター居ないみたいだから。

 開拓そのものがポシャるか、或いは代わりをやりたいってハンターが出てくるくらいまで開拓してからお縄になるかのどっちかだし。

 開拓がポシャれば困るのは地主の嬢ちゃんを筆頭とした、村で頑張ってる皆さん。

 代わりのハンターが出てくるくらいまでお縄にされないなら、当分先の事。

 

 …普通に最低な事を言ってるが、まぁとにかくお前も戦力なんだ。

 諦めんしゃい。

 

 

 

 

 ちなみに、パピ嬢はこの辺の事を承知の上だったりする。

 と言うか、地主の嬢ちゃんを鍛えつつ、問題行動によってギルドにプレッシャーをかけるという案自体、パピ嬢からのものだ。

 サラッと俺以上に鬼畜である。

 

 話した時には顔が引き攣っていたが、これくらいせにゃこの村は回らない、という事をパピ嬢は俺以上に知っている。

 何せハンターギルドへの交渉やら何やらを一手に引き受けているから、どの辺がどれくらいヤバいとか数字として把握しているのだ。

 

 

 

 何を言ってるのか分からない?

 いや、新人ハンター一人が来たって、君が耐久サバイバル訓練に叩き込まれるのは変わりないって事だよ?

 

 

 

 

 物凄い勢いで落ち込んでいた。

 

 

 

MH月『煎餅美味ぇ』日

 

 訓練生ハンターさん、ごらーいじょー。

 

 いやいや、こんな何も無い所によく来てくれたね。

 大丈夫?

 実はハンターズギルドから詐欺られたりしてない?

 

 …あ、大丈夫?

 そりゃ良かった。

 

 ほほぅ、確かに何も無い…ヘタをすると仕事も無い所だけど、初期の内から発展に貢献していれば、後々のリターンが大きいと踏んだ?

 何より、そこから這い上がれれば確実に上位に通用するレベルのハンターになれる?

 なるほど、ちょっと夢見がちな所はあるけど、しっかり計算して行動しているのか。

 イイネ。

 

 

 履歴書代わりにハンター訓練所での成績を見せてもらったのだが、幸いと言うべきか素質を感じさせるくらいの力はあるようだった。

 メゼポルタの訓練所ではなく、何処かの村の訓練所で頭角を現し、そこへ目をつけたギルド職員がスカウトした。

 

 得意なのは大剣。

 防御能力に定評がある。

 

 元気印で明るい行動派ハンターだ。

 

 名前はエシャロット。 

 ……なんだかラッキョみたいな名前だな、と言ったら蹴りを貰った。

 

 

 ま、移動の疲れもあるだろうし、初日はゆっくりしてくれ。

 皆との顔合わせもあるし………訓練生を駆け出しハンターレベルに押し上げる為に、暫くは耐久サバイバル訓練の日々だからな。

 

 久々にデスマーチの始まりだ!

 心配すんな、好物の元気ドリンコなら見ただけでゲップが出そうな量を確保しておくから。

 

 

 

 

MH月『コタツをしまったら、部屋が3倍広く見えた』日

 

 

 唐突でなんだが、この世界でハンターの訓練所というのは世界各地に存在する。

 それぞれ別のカリキュラムが組まれていくようなのだが、最終的に排出されるハンターのスペックは大体同じだ。

 同じなのはスペックであって、注意力とか行動指針とかはそれぞれだが。

 

 ともかく、その中でもメゼポルタの訓練所…つまり俺が居た所だ…は名門に当たる。

 無論、名門出身=スゴイハンターという訳ではないし、むしろ辺境にある訓練所の方が、その地方独特の武器を扱っていたり、メゼポルタに無い技を幾つも持っている事は珍しくない。

 むしろ、そう言った意味ではメゼポルタの訓練所はレベルが低い…とは言わないが、教えてくれる武器の数は少ないと言えるだろう。

 

 ハンターランクが上がれば、所謂『秘伝』を教えてくれる事もあるのだが、それは訓練所の役割ではない。

 

 

 では、何を以てメゼポルタの訓練所を『名門』と証するのか?

 

 

 それは、メゼポルタ訓練所を卒業したハンターは、11種類の武器を均等に扱えるようになるからである。

 まぁ、個人の好みや性格の為に、「使いこなせる」とは限らないが、どの武器を持ってもそれなりの行動が取れるレベルに仕上げられる。

 メゼポルタ以外の地域に行って、その地方独特の武器を持っても、ある程度は迷わず使えるようになれる。

 基本をしっかり叩き込んでいる訳ですな。

 

 ちょっと考えれば分かると思うが、どの武器を使うにせよ、必要な技術、必要な筋力はそれぞれ違ってくる。

 それらを全て平行して鍛えて教え込むのだから、そりゃ名門と呼ばれる筈だ。

 

 同じような『名門』のハンター訓練所は幾つかあるらしいが、其れは置いといて。

 

 

 

 何が言いたいかっつぅとだね、エシャロット嬢は『名門』訓練所出身じゃないんで、大剣くらいしか使えません。

 代わりに幾つか、俺も知らない特技を持ってるっぽいが。

 

 

 

 おい、『得意なのは大剣』じゃなかったんかい。

 素直に大剣専門って書けよ、せめて。

 

 何?

 就職活動する時、履歴書にマイナス要素を書くか?

 ……そう言われればそうだな。

 

 

 

 とは言え、これはちょっと予想外だった。

 まぁ、まだ初期の初期でしかないから、大剣オンリーだって別に問題はないんだがな。

 

 どうすっかなー。

 ハンター秘伝の肉体操作術は一通り使えるようなので、大剣使いとしてのみ考えれば特に問題はない。

 鍛えようにも、既に一定の完成度に至っている体を改造するようなやり方は知らん。

 

 新しいハンターが来るのを期待するのは論外。

 エシャロット嬢は一応俺の部下って形になるんだし、見捨てるような事はできん。

 ちゃんと鍛えて、レベルアップさせるのが上司の役目だ。

 本人もやる気充分みたいだし、放っておいても育ってくれそうな気はするけどね。

 

 

 

 んー、でもなぁ。

 やっぱデカブツとかカニとか相手にする時は、飛び道具やハンマー使った方がいいと思うんだよなぁ。

 手馴れた武器が一番安心できるとは言え、相性ってのはあるし。

 

 

 …いや待て、飛び道具はともかくハンマーはアレだ、GE世界にはロングブレードなのに破砕属性の…そうだ、墓石之大剣?みたいなのがあったな。

 ああいうの、出来ないかなぁ。

 大剣の刃を潰して、鈍器として使えばカニへの攻撃は『効果は抜群だ!』にできそうな気がする。

 その内試してみるか。

 

 

 

 

 そうか、刃潰さなくても峰で殴ればいいだけか。

 

 

 

 ともあれ、エシャロット嬢は大剣使いとしてレベルアップさせるしかない。

 相性が悪い相手とはなるべく戦わせないか、やらせるにしても格下を相手にさえて、やり辛さをしっかり理解させてからだ。

 

 

 

 

MH月『面倒くさいが口癖になっている……元気ドリンコ(酒)飲んで頑張ろう』日

 

 

 エシャロット嬢、元気ドリンコ飲んで張り切ってます。

 朝一番は、日の出に向かってラヂヲ体操した後で、俺と並んで飲んでます。

 俺の場合は牛乳だけどね。

 

 最初のお仕事はランポス数体の討伐。

 一緒に行って、気配を殺して戦いを見てたけど、これなら充分及第点だ。

 

 「何でギルドマスターだけランポスに襲われないの?」と言われたが、まぁヘイト管理と言うか、視界に入らないようにしてると言うか、そもそもミタマの『隠』で視界に入っても認識されない状態になってるというかね。

 

 

 とは言え、流石にちょっとオカシイくらいに攻撃されないんで、まさか…と思って久々にのっぺらトリオの様子を見てみた。

 やっぱりレベルアップしてやがったよ。

 アレか、討鬼伝世界でイヅチカナタと遭遇したとか、そういう理由か?

 それとも千歳の置き土産か?

 

 で、レベルアップの結果だが…例によって3つの世界のスキルを一つずつ覚えた。

 まずGE世界のスキルだが……『消音』だ。

 多分、これによってモンスター達に気付かれにくくなっていたんだろう。

 ……ヘイトをこっちに向けさせないという意味で、『癒し効果』とかかと思ったんだが……よく考えればあり得んな。

 俺が癒し系?

 

 

 

 

 

 はっ

 

 

 

 

 

 癒し効果じゃなくて、あるとすればイヤらし効果だろ。

 そもそもあれ、GE2のスキルだし。

 …もしも使えるようになるなら、GE2の場合スキルよりもブラッドアーツを覚えたいね。

 

 

 次に討鬼伝世界のスキルだが、これは今までと同じ、ミタマスタイルによって効果が違う特化・強化の三つ目だ。

 どのスタイルで何の強化が発動するかはまだ検証中である。

 

 そして最後にMH世界のスキルだが……俺の知らないスキルだ。

 「適応撃」という……多分、俺の知らないモンハンのスキルだと思うんだが。

 MHFかな?

 最後にやってから、随分とバージョンアップしているようだし…。

 

 一度、この世界でどんなスキルが確認されているのか、調べてみる必要があるな。

 

 

 

 それはともかく、大剣限定とはいえ、思ってたよりエシャロットが動けるのが嬉しい。

 ただ、この分だとデカブツやらちょっと強いモンスターを初めて見た時の衝撃に耐えられるかがキモだな。

 

 どっちにしろ、暫くは雑魚狩り(エシャロットの力量からしてみたら真剣勝負だが)を続けて、装備を整えさせねばなるまい。

 ハンター間での装備の貸し出しは、基本的に禁止だからな。

 

 

MH月『冷蔵庫の中身を(ツマミ的な意味で)掃除中』日

 

 エシャロット嬢が少しダウン気味だ。

 実際の狩りは、この村に来てからが初めてだったそうだし、よく保った方か。

 むしろ素人にケが生えたようなエシャロット嬢にデスマーチをさせようとしていた自分の考えにこそ戦慄を覚える。

 

 が、当のエシャロット嬢本人は、元気ドリンコ飲んでまだまだやる気らしい。

 アレか、ハンターでもないのに先輩風吹かせている地主の嬢ちゃんを見返してやりたいのか?

 色々扱いた結果、ヘタな駆け出しハンターよりも狩りが上手になっちまったからな。

 まぁ、それでも肉体的な強度が非常に低いんで、どんなに弱いモンスターが相手でも綱渡りになっちまうのだが。

 

 

 

 

 それはそれとして、非常にヒマだ。

 夜が特にヒマだ。

 

 何でって、娯楽が無いんだよ。

 狩りは楽しいを通り越してライフワークだけど低レベルだし、何よりも食い物も無けりゃ酒も無い。

 女は居るには居るけどな…。

 ガキと弟子(部下)と地主の娘。

 手を出したらロリを通り越してペド認定受けるか、権力的な意味で面倒な事になる未来しか見えない。

 

 酒を大量に買い付ければ、ヒマを潰す事はできるかもしれんが、生憎とそこまで資金が無い。

 訓練所を卒業したばかりのハンターとしては破格の稼ぎを得ているのだが、ギルドとして考えれば赤字と黒字の間を行ったりきたりしているレベルでしかない。

 

 女を買いに行く…久しぶりに水商売のオネーチャンに会いに行く事も考えたが、どう考えたって酒の値段<<<水商売の値段である。

 コストパフォーマンスで言っても酒に軍配が上がるのは間違いない。

 

 …それでも行きたくなるのがオトコの欲望、女の魅力というものなのは否定できんが。

 

 

 

 ともかく、この際だから酒を一から造る事とかできんかね?

 ポイクリ爺さんなら、いい知恵出してくれそうな気がする。

 本人も酒好きだし。

 俺が元居た世界では酒の無許可製造は禁止されているとかよく分からん状態だったが、こっちにそんなルールは無い。

 ん? 売らなきゃいいだけだったっけ?

 …よく覚えてないな。

 

 

 

 

MH月『仕事中だけ体調悪くて、帰り時間になったら復調するってあるよね』日

 

 

 エシャロット嬢を少し休ませて、その間に装備を整えさせてやる。

 本来なら装備の選択も自分でやらなきゃならないのだが、この状況でそれを言うのも酷だろう。

 狩りの腕自体は、初心者だけあって感覚を掴めばある程度まではグイグイ上がる。

 暫くはこの調子でいいだろう。

 

 ところで、エシャロット嬢の肉体操作法は、俺が知っているものとは少し違うようだ。

 彼女が訓練を受けた訓練所で変化したものなのか、それとも生来のものなのかは分からないが…どうも、自力で忍耐の種みたいな効果を生み出せるらしい。

 日に何度もできるようなモノではないようだが、体得できればかなり強力な武器になるだろう。

 

 とは言え、エシャロット嬢もどうやってるのか、イマイチ理解してないようだし…。

 機会があったら、エシャロット嬢の居た訓練所を訪ねてみるのも悪くないか。

 

 

 それはそれとして、ポイクリ爺さん、やはり酒の造り方も知っていた。

 とは言え、多分俺が元居た世界の酒の造り方とは随分違うんだろう。

 だって、材料に使ってるものが明らかに違うし。

 マカ漬けの壷で出来た酒とか、あんまり呑みたいもんじゃないな…結構美味かったが。

 

 

 農場の経営も、軌道に乗ったとは言いづらいが、まぁ順調と言っていいだろう。

 怪力の種での公式チート(?)金稼ぎは、この世界でも有効のようだ。

 値崩れとかしないんだろうか?と疑問に思っていたのだが、どうやらこの種、米やジャガイモ並みのチート作物のようである。

 食って良し、加工して良し、アイテムとして使って良し。

 成長速度で言えば米やイモを遥かに超える。

 地域にもよるが、ご家庭の食卓には当然のように怪力の種のスパイスが調味料として並んでいるとか。

 ポイクリ爺さんから聞いた話によると、一時期は調味料を通り越して、この種が人間の主食になっていた時期もあるらしい。

 

 一説によると、その頃から人間の能力が少しばかり上昇した、と言われている。

 怪力の種や忍耐の種を常食する事によって、筋力等の水準値が増したんだろうか。

 

 パネェ。

 

 

 こりゃマジでGE世界に持っていかなきゃならんな。

 以前に持っていった時は、確か土壌か何かの関係でこの世界でやる程育たなかったが……今度は肥料も持っていくとしよう。

 

 

 

MH月『ハンターの場合、狩りに行く時体調が良くて、終わって帰る頃になったら体調悪くなるんだ』日

 

 装備を新調したエシャロット嬢、ご満悦。

 だが歌うな。

 履歴書に記載されている、ハンターズギルド主宰第47回のど自慢大会 最下位は伊達ではないのだぞ。

 と言うか素でジャイアンだコイツ…。

 当時、観客の皆様(特にご年配の方々)が天に召されなかったか、真面目に心配になるくらいだ。

 

 と言うか、お前が狩場で歌ったらなんか色々寄ってくるじゃないか。

 寄って来たモンスター達から「ウルセェぞ!」って意思が感じられたぞ…。

 

 

 そして偶然お空の上に居たイャンクック先生にマジ泣きした。

 まさか落下するとは…。

 

 流石にそのままお亡くなりにはならなかったが、怒り状態から戦闘に発展した。

 そりゃそうだ。

 いきなり先生を相手にするハメになってエシャロット嬢がパニクっていたが、しっかり戦闘はできていたので問題ない。

 流石にまだ一人で先生を狩れるレベルじゃないので、俺も手伝ったけどね。

 

 

 と言うかアレだな、音爆弾の代わりになりそうだな。

 代わりにパーティメンバーにダメージが来るが。

 

 …砂漠で歌うなら、アリかな?

 あのクソ鬱陶しい魚類共がバタバタ飛び出してのた打ち回るのを想像すると、実に愉悦である。

 最終的には、アカムのソニックブラストを迎撃させてみたいが……マイクがあれば出来る気がする。

 そこまで行くと普通に人間兵器だね。

 

 ……音痴の事で弄るのはこの辺にしとくか。

 エシャロット嬢が微妙に傷ついているっぽい。

 

 

 

 ところで、エシャロット嬢と地主の嬢ちゃんがなんか仲良くなっていた。

 「アンタもアイツに無茶振りされたのね」だって。

 ダレノコトダロウナー。

 

 いや、エシャロット嬢にはまだあんまり無茶させてないぞ。

 先生だって、エシャロット嬢が歌ってたら突然おっこちてきただけだし。

 危うく俺が下敷きになるところだったけど。

 

 まぁ、仲がいいのは良い事だし、無粋なツッコミする必要もないだろう。

 どっちにしろ、もうちょっと下地が整ったらデスマーチに突入するのは確定事項なんだからな。



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68話

ディスガイア買おうかな…でもちょっと財布が厳しいしな…。
やっぱ無料のスペランカーが先か…。

最寄のコンビニは移転して床屋になり、今度は行きつけの焼き鳥屋が閉店してしまうそうです。
生活満足度大ダウン…。


 

MH月『エアコンこそが神器』日

 

 ようやく砂漠に調査に行く許可が下りた。

 全く遅すぎだっつぅの…とボヤいたら、パピ嬢が「ハンターがたった二人のギルドで、もう砂漠にいけるって、記録更新なのですよ」だそうな。

 そりゃそーだろーよ、そもそもハンターが二人しか居ないギルドなんて殆ど無いんだから。

 

 ま、それはともかくとして、エシャロット嬢も基本は充分になってきたし、暫く砂漠にシケ込もうかね。

 

 クククカカカカカカカ、ガレオス共!

 ゲームでもリアルでも散々邪魔をしてくれた恨み、ここで晴らしてくれる!

 という訳で存分に歌うように。

 

 

 

 

 ん?

 いや、恨み辛みは別としてだな、あいつらの肝ってツマミにピッタリなんだよ。 

 この間、ポイクリ爺さんと共同で作った酒が出来上がったから、試飲するにしてもつまみが欲しいんだ。

 エシャロット嬢にも領主の嬢ちゃんにもお裾分けするから、手伝ってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で、ちょっと行って来たんだが…まぁ、ドスガレオスはいいんだ。

 しっかり準備していったし、ライトボウガンで徹鋼弾とか音爆弾とか大樽爆弾とか、使いまくったから特にピンチも無かった。

 エシャロット嬢の歌は…怒ったドスガレオス『には』効かなかったな。

 何に効いたのかは、この表現から逆算してほしい。

 

 魚竜の肝も充分取れたし、ポイクリ爺さんと宴会でそこそこ盛り上がった。

 

 

 ところで、なんか突然イャンクック亜種が乱入してきたんだが。

 あんな所に亜種なんて居たっけ?

 まぁ、居るのはいいんだが……MHFに乱入とか洒落にならんっす。

 

 今回はまだ良かったよ?

 エシャロット嬢の音波兵器が両方にも取り巻きにも非常によく効いた。

 エシャロット嬢本人にも精神的ダメージが行っていたが。

 

 ちゅーか、あの嬢ちゃん、ハンター秘伝の肉体操作法を変な形で使ってないか?

 あそこまで無茶苦茶な音程と音量を鑑みると、常人の肉体じゃ実現不可能だと思うんだが。

 

 

 

 MHFのモンスターのタフさ加減で、しかも弱点がバラバラの敵。

 乱入されるのを想定さえしていなかった、なんて言われたらもうクソゲーか廃人向けの領域だろう。

 …「この程度なら」ってアッサリクリアする廃人が沢山居そうだけどな!

 

 乱入されたって逃げればいいと言われればそれまでだし、無理に相手をする事は無い。

 

 しかしなんだな、考えてみれば自分から連続狩猟を仕掛ける事はあっても、乱入されたのは数える程度しかないな。

 まぁ、GE世界に行けば、ほぼ確定でリンドウさん暗殺シーンで乱入を受ける事になる訳だが。

 

 

 ともかく、暫くは乱入を前提に行動した方が良さそうだ。

 俺の運の悪さと言うか疫病神的な意味での引きの良さというか、そんなカンジの何かが「今回のMH世界は乱入祭だお!」と叫んでいる気がしなくもない。

 むしろこっちから発見次第狩りに向かってくれようぞ。

 

 エシャロット嬢?

 …まぁ、これも一種のスパルタって事で。

 出来る限り巻き込まれないように配慮するが、狩りは水物だからな。

 

 

MH月『フェイス・クラ……フラッシュ! Byカグツチ』日

 

 地主の嬢ちゃんから、オアシスに居座るダイミョウザザミを倒して奪還してこいと依頼を受けた。

 別に奪還するのは構わないけど、何だっていきなり?

 行商とかの人が使うとか言ってたが、あそこを通るのか…。

 

 時期によっちゃアイルーやらメラルーやらの溜まり場だぞ。

 …あいつらの巣に行けば、いい物略奪できるかもしれないな。

 

 

 

 ま、結局目当てはオアシスで泳ぐのだったみたいだが。

 ホットドリンク常備しないと、泳いでる間にお陀仏すっから気をつけろよ~。

 

 あと、真珠をコッソリ持っていかないように。

 ハンターギルドに見つかったら、横領と判断されて闇系のお仕事されちゃうからな。

 

 そして予想通りにありましたよ乱入が。

 なーんでガノトトスがオアシスに向かってくるかなぁ!?

 アイツが居るのは、地底湖と砂漠の川だろうに。

 

 オアシスっつっても、人が立てるくらいの深さしかない。

 大きさなんて言わずもがなだ。

 ガノトトスが生活できるような所じゃないだろう。

 だと言うのに、ダッシュでオアシスに向かってきていた。 

 

 フロンティア仕様の、湖に戻る時のダッシュは流石に効くなぁ…。

 出会い頭に跳ね飛ばされて、死ぬかと思った。

 俺もまだまだ未熟だなぁ。

 足音自体は聞こえていたのに、「何だぁ?」とか思ってる間にキリモミフライアウェイ。

 「「「マスタァァァーーー!?」」」というパピ嬢・領主の嬢ちゃん・エシャロット嬢の声が、なんかもうドップラー効果付きで聞こえていた。

 

 …頭に来たんで、そのまま狩ったよ。

 エシャロット嬢にも手出しさせずに、ミタマの力もGEパワーも思いっきり使って。

 人目が無ければ、アラガミ化もリンクバーストも確実に使っていた。

 

 カニはもう瀕死状態だったんで、そのまま捕獲。

 ガノトトスは……まぁ、何だ、水場に入れない魚が強いと思うか?って話でね。

 攻撃力は高いけど、水のブレスも無いし、手の届かない所にも逃げないし。

 

 と言うか、魚だけあって砂漠の日差しは辛いらしい。

 放っておいても体のヌメリというか湿り気が消えていき、衰弱していったのがよく分かった。

 なんつーか、ミミズをコンクリートの上に放置したらこうなるんじゃないかな…。

 

 

 

 それはともかくとして、結局あのガノトトスは何だったんだろうか?

 乱入があるのは想定内だし、もうちょっと人選と言うかモンスターの種類を選べなかったのかと思うが、それはともかく。

 

 ガノトトスが水場から出てきて、オアシスに走ってきた理由は何だ?

 いや、俺の不運とか、ナニカが引き寄せているとか言われればそれまでかもしれんが、念のために川と地底湖の様子を見に行ってみた。

 なんか……おかしい。

 

 魚が殆ど居ない。

 居る魚は、力尽きかけているのか泳ぎにも力が無く、近くに虫も鳥も居ない。

 異様な程に静かすぎる。

 

 風による波紋すら殆ど無いって、雰囲気出すぎでしょう。

 

 どうなっとんじゃ、これ。

 異常の原因として真っ先に思い浮かぶのは、やはり古龍。

 砂漠の古龍と言えば、テオ・テスカトル、ナナ・テスカトリ、クシャルダオラに…後何が居たっけ?

 

 しかし、どっちにしろこいつらは地上での活動を主としている。

 川に突入してどれくらいの活動が出来るかは分からないが、ガノトトスにしてみれば川や地底湖に居た方が安全だろうに。

 …水や川の中に、ガノトトスが逃げてきた原因がある?

 

 

 しかし、川の中に古龍……何か居たっけ?

 ラギアルクス、ナバルデウスくらいしか思い浮かばない。

 あいつらだと、とてもじゃないが川に入ってくる事は出来そうに無い。

 

 うーん……やっぱり、俺の不運が原因なんだろうか?

 

 

 

MH月『みんなでスペランカーをダウンロードしたけどプレイしてない』日

 

 ガノトトスの事に関しては、ハンターギルドに報告しておいた。

 しかし流石に原因に心当たりは無いようだ。

 川と地底湖の様子から、確かに何かありそうだというのは分かってくれたからいいのだが。

 

 ちなみに、俺達が砂漠に来れるようになるまでの間、色々なハンターが調査してくれていたようなのだが、成果と呼べるものは殆ど上がっていなかったらしい。

 いつも通りの、時々デカブツが現れては商隊が襲われたり、ハンターがガレオス絶滅を訴えたり、山菜ジジィがボッタクリしたり、猫に大樽爆弾を担いで追いかけられたりする、ごくフツーに危険な砂漠だったらしい。

 

 うむ、至って平常運転だな。

 

 

 やはり、俺かエシャロットの存在が鍵か。

 パピ嬢か地主の嬢ちゃんって可能性もあるが……。

 付き人君とポイクリ爺さん?

 

 鍵では無いな。

 あの二人に重要なポジションが回ってくるとしたら、ピンポイントで妙な特技や知識を持っているか、何かが必要になってそれを探し回っても全然手に入れられない時、全く関係ないところから偶然それを手に入れてくるとか、そーいうポジションだ。

 

 

 

 暫く、モンスターの異常な行動祭になりそうだな。

 

 

  

 

 

 ところで、久しぶりに夢を見た。

 何処かの世界に行ってるっぽい夢じゃなくて、なんというかこう、おぞましい夢だ。

 

 のっぺらトリオの夢だったんだが……今更なんだけど、あいつら一体何なんだろうな?

 あの存在感というか独特の気配をしっかり感じていたので、単なる夢じゃなさそうなんだが…。

 

 えー、どんな夢だったかをまず記録していこう。

 

 最初に見えたのは、のっぺらトリオがいつも存在している空間…つまり俺の中だ。

 が、何故かしらんがこの空間がボロボロで、ワームホールとかそんな感じの穴あきだらけだったのだ。

 

 そして、ここでのっぺらぼうの登場。

 のっぺらトリオではない、別ののっぺらぼうだ。

 外見は瓜二つだったように思うが、確か別の場所にのっぺらトリオが存在していたからな。

 すわ、四体目か、のっぺらカルテットに進化か!?

 

 と思いきや、そののっぺらぼうはすぐに消え去った。

 しかも俺の空間(?)に空いていた穴を一つ消してだ。

 中には、のっぺらトリオに吸収された奴も居たように思う。

 

 そしてまた新しいのっぺらぼうが現れ、同じように穴を一つ消して自分も消えた。

 それが延々と繰り返されて、俺の空間の穴はすっかり消え去ってしまった……たった一つ、一際大きな穴を残して。

 

 その穴は他の穴とはどうにも違うらしく、なんというか……安定していると言うか、不自然に穴を開けられたのではなく最初から穴が空いていたような、そんな印象だった。

 どうやら、消えていったのっぺらぼう達は、その穴を通って俺の空間の中に入ってきているようだった。

 

 

 それはいい。

 いや良くはないんだが、その後が最悪だった。

 思わず、「あの穴の先は何処に繋がっているんだ?」とか考えてしまったのが切欠だったのか、俺の意識は否応無しに穴の向こうに押し流された。

 …なんかこう、真っ暗な空間に、よく分からん星とか物凄い数があった。

 頭上(上限も分からない無重力空間だったが)に、なんか寺みたいなのが見えた気がするが、一瞬だったのでよく分からん。

 …もしや、あれが噂に聞くニンジャスレイヤーのキンカク・テンプルだったりするのだろうか。

 

 それはともかく、その暗闇の無重力空間に………数える気にもならない程のノッペラミタマが蠢いていた。

 なんつぅかさ…生理的にものっそいアレな光景だった。

 

 ハンターとして自然の中を走り回ってると、普通の人なら顔を顰めるようなものでも、慣れてしまって眉をひそめる程度になるもんだ。

 動物の糞とか、よく分からない粘液とか、Gとか…………スパロボに出演してる方じゃないぞ、黒いスーツの招かれざる客だ。

 

 まぁ衛生上の問題とか、危険性は気にするが、それ以上の意識は持たなくなる。

 カンタロスだのランゴスタだの、昆虫特有の無機質さ(という表現もおかしいが)で迫ってきても、眉一つ動かず叩き潰している自覚はある。

 羽がもげようが足が取れようが、痛みってものを感じないのかと思うくらい…………あ、これ昆虫だけじゃなくてモンスター全般に共通するな。

 尤も、大型モンスターは痛みを感じないというよりは痛みに強いって感じだけど。

 

 

 あー、ちょっと思い出したくなくて現実逃避気味に話をそらしていたが、本筋に戻す。

 とにかくアレは気色の悪い光景だった…。

 それこそ、樹液に群がるカブトムシやクワガタの群れ、虫のコロニーを見た感じと言うか………ああ、アレだ、ガキの頃に一度見た、遺跡探検教授の映画。

 真っ暗な洞窟を進んでいる時、ふっと明かりをつけたら壁から床から天上まで虫の大群。

 ああいう感じだ。

 あのレベルでのっぺらミタマが蠢いていました。

 

 虫じゃなくてもホラ、外見が完全に一致している奴らが一箇所に数える気にもならないくらいに揃っていたら気持ち悪いだろ。

 総人口=スミスの世界(アンダーソン君、お帰り……やっぱ「おかえり、アンダーソン君」の訳の方がいいな)の人口密度を10倍くらいにしてみればいい。

 

 

 うん、衝撃のあまり、悲鳴を上げながら飛び起きてしまった。

 デスワープに巻き込まれてからも含め、生涯で初めての経験である。

 

 

 

 あー、とにかく。

 アレが単なる夢ではないとしよう。

 

 見たものをそのまま信用し、解釈……いや、直訳するとなると、こうなる。

 

 オデノカラダもとい内部はボドボドタった。

 そこを、なんか最初から空いてた穴…というか道?を通ってのっぺらミタマがやってくる。

 そしてオデノカラタ゛を直して消えた。

 穴の先には、のっぺらミタマがイヤになる程居る。

 

 

 

 …今更でなんだが、本当にこいつら何なんだろう?

 ナニカの群体というのは間違い無さそうなんだが…よくよく考えてみれば、こいつらが群体であるというなら、郡を形成する為の破片達が複数居て当たり前。

 つまり、のっぺらトリオ以外にも、群体となったのっぺらミタマが居てもおかしくないし、逆に群れにならないのっぺら達が居てもおかしくない。

 

 よくよく考えてみれば、元祖のっぺらぼうがのっぺらトリオに分裂したのだって、しっかりと確認した訳じゃないのだ。

 ひょっとしたら、あの穴を伝って、別ののっぺらぼう達が俺の中に入ってきただけかもしれない。

 

 まぁ、それはいいんだ。

 思うところはあるが、のっぺらトリオが俺の中に居る事自体はもう気にしない事にした。

 

 内部がボロボロだったのも、コジツケでいいなら説明はできる。

 あの空間は、俺の内部であり、精神的、霊力的な領域だ。

 あそこに干渉できるとすれば、討鬼伝世界の力だろう…MH世界やGE世界では、物理的な力しか無いからな。

 

 多分、イヅチカナタに記憶や因果を奪われた影響で、あんな風にボロボロになってしまったんだろう。

 

 

 が、それをのっぺらぼうが直しているのはどういう事だ?

 あいつらに何故そんな力がある?

 

 いや、それよりも何よりも。

 のっぺらぼうがあの穴を塞いでいたという事は。

 

 

 

 

 俺の内部の空間『=俺の一部』は………のっぺらぼうで構成されていると?

 まさかの細胞=のっぺらぼう説?

 

 と言うか俺の体=のっぺらぼうの集まり説?

 

 

 

 

 

 

 そんな酷な事はないでしょう………デスワープが始まって以来、ショックで寝込んだのなんて初めてだよ…。

 最初に死んだ時でさえ、次のGE世界では平然としていたのに……まぁオウガテイルに速攻で食われたけど。

 

 

 

MH月『SFC時代のゲーム実況が意外と面白い』日

 

 

 精神的ショックから立ち直る方法その1。

 

 

 狩りだ。

 狩りをするのだ。

 やきうもいいけど狩りをするのだ。

 

 

 という訳で新しい依頼が来た。

 乱入前提で準備する辺り、エシャロット嬢もパピ嬢も随分慣れたもんである。

 

 正否は分からないが、悪夢のような説に気付いてしまった俺の立ち直りの為にも、手応えのあるモンスターの乱入を希望する。

 全身全霊を持って返り討ちにしてくれよう。

 今ならラオシャンロンの首だって落とせる気がするぞ、アラガミ化するが。

 冗談も誇張も抜きで荒神、荒御霊と化すレベルで。

 

 

 

 ↓後日追記分

 ギルドの観測班から聞いたのだが、この日記を書いていた頃、砂漠に出現していたアクラ・ヴァシムとかディアブロスとかが揃って逃げ出していたそうな。

 

 

 

 

 さて、今日は地主の嬢ちゃんからではなく、単純に砂漠で採取のお仕事だ。

 陽光石が足らん。

 

 しかしクエスト内容が採取でも、やっぱり乱入はあった。

 ドスガレオスはまだいい。

 元々砂漠に住み着いてるからな。

 

 

 だがドドブランゴが出てくるのは納得がいかん。

 しかも、下位にしてはえらく手応えがあったし。

 

 砂漠にドドブラ?

 ああ、そういや亜種が旧砂漠あたりに居たっけな。

 という事は、アレは砂漠に出てきたばかりの、これから亜種になるかもしれない個体だったんだろうか? 

 普通のドドブラに比べて生命力も強かったし、特におかしな理屈は無いな。

 

 しかし、それだけ強い力を持っているのに、何故ナワバリである雪山から出てきたのか。

 そういや、遭遇してから狩るまでずーっと怒りっ放しだったな。

 いや、強くはあったが割と速い時間で片付いたから、怒りが収まるヒマがなかっただけかもしれない。

 砂漠に適応してないから、雪ブレス・砂ブレスも使えず、遠距離攻撃の雪玉投げも岩投げも使えない。

 地面に潜ろうとして、落とし穴に嵌ったババコンガみたいな有様になってたし……。

 

 

 …あの時のガノトトスはどうだったっけ?

 怒りのままに狩ったから、あんまり観察してなかったんだよな。

 

 

 ま、とりあえず気分は良くなったからいいか。 

 俺=ノッペラボウで出来ている説、コジツケではあるんだが、俺の中では異様な説得力を持っている。

 なんかこう、本能的に事実だと分かっちゃってるんだよねぇ…。

 

 単なる錯覚だったらいいんだけどさ。

 

 

 

 

MH月『せんべいってコーヒーに合うのか…?』日

 

 なして砂漠にバサルモスが居るねん。

 まぁ、今更だけどさ。

 

 最近色々狩れるようになって、自信をつけてきているエシャロット嬢には悪いが、ここらのモンスターはMHF仕様にしてはちょいと弱い気がするな。

 雑魚は…まぁ、雑魚だから普通として。

 今回のバサルモスにせよ、ドドブラにせよ、ガノトトスにせよ、本来自分が居るべきではない場所に来たモンスター達だ。

 

 言ってみれば、奴らはホームグラウンドではなくアウェイで戦っている。

 人間が水中で魚竜と戦っているようなものである。

 中にはそんな状態で古龍をブッ飛ばすようなバケモノも居る世界だが、こっちがどれだけ有利な環境なのかは理解できるだろう。

 

 その辺はエシャロット嬢にも伝えてあるんだが、やっぱ実感が無いんだろうなぁ。

 まだまだ新米ハンターなんだし、モンスターの脅威に晒されているとは言っても、保護者の俺も居るし、何より勝てる環境を整えてから挑ませている。

 それが当然と言えば当然なのだが、そんな状況でしか狩りをさせていない為に、奴らの真価を実感できていない節がある。

 一人で狩りをする、背中を預ける相手が居ないのがどういう事なのかも。

 

 ピンと来ない、と本人も言っていたし。

 

 

 うーん、どうすっかなぁ。

 

 正直、一人で狩りをさせるのは、まだ怖い。

 過保護と言われるかもしれないが、現在のこの近辺は乱入祭状態だ。

 普通に狙ったターゲットだけを狩れるならともかく、2対1は色々な意味でキツいだろう。

 

 んじゃ、恒例のデスマーチか?

 下地はそろそろ出来上がってきてるし。

 …いや、でもアレって結局のところ、徹底的に効率追求して、相手に奇襲をかけ、何もさせず反撃も許さず一気に倒しきるというのを連続してやってるだけだしな。

 モンスターを狩る技術は身につくし、しくじったら即お陀仏か泥仕合というプレッシャーを受けて精神的に頑丈になるかもしれないが、モンスターの脅威という意味では実感できそうにない。

 

 ………危険を承知で、一人でやらせてみるしかないのかなぁ。

 で、コッソリついていって……乱入が、来るか?

 いや、来たとして、乱入したモンスターは俺とエシャロット嬢のどっちに向かう?

 

 

 …「主人公」がどっちなのか、検証できそうだな。

 

 

 

MH月『風が強すぎて、洗濯物ごと物干し竿が落下する』日

 

 

 練磨の密林で、エシャロットの初単独クエストです。

 まぁ、距離を置いてコッソリ見物してたんだが。

 

 

 そしてやっぱり乱入来たよ。

 でも、俺とエシャロットに一体ずつ突撃してくるのは予想外だったよ。

 ソウダネー、現実には乱入が一体しか来ないなんてルールはないもんねー。

 

 …もうちょっと考えて行動せにゃならんな…。

 

 とは言え、乱入で襲撃されたエシャロットの底力が見れたのは嬉しい誤算だった。

 エシャロットに迫ったのは単なるイャンクック先生だったが、追い詰められながらも何とか撃退してみせた。

 討伐でも捕獲でもなく、単なる飛竜種相手に撃退というと今ひとつな戦果に思えるが、エシャロットが実際の狩りを初めてからの時間を考えると大殊勲と言っていいだろう。

 装備だってまだ充分に鍛えてないし、MHF仕様って事を考えると下位のイャンクックだって何気にタフだ。

 

 最後の最後には自爆型(精神的な意味で)音波兵器に頼ったようだが、最後の溜め斬りは見事だった。

 多分に力任せの一撃だったが、破壊力という意味ではルーキーとしては破格だろう。

 

 

 

 …前々から思ってたんだが……エシャロットに限らず、各世界の協力者に、別の世界の力を渡す事はできないだろうか?

 ゴッドイーターパワーは、抑制剤が無いから浸食の危険…というか末路が確定しているから置いといて。

 

 MH世界には霊力を。

 GE世界には、霊力とMH世界の装備や素材を。

 討鬼伝世界には装備と素材……いや、技術力?

 

 ………うむ……どうなるかサッパリ予想がつかんな。

 MH世界はモンスターも人間も物理特化っぽいから、そもそも体得できるか微妙なところ。

 GE世界は、GE2の血の力とやらがあるようだから、霊力は何とかなりそうだ。

 素材の扱いについては、あっちの技術に合わせる為の研究が必要だろう……リッカさんもカニの素材を扱うのに四苦八苦してたしな。

 討鬼伝世界は………そもそも何を渡すべきやら。

 技術に関しては、あっちでも再現可能な技術を洗い出さなきゃいかん。

 

 考えるだけでも面倒な話ではあるが、その結果を持ってループできるのであれば、全世界クリアに大きなプラスになると思う。

 

 

 

 

 …クリア、クリア…か。

 

 実のところ、あんまりこのループから抜け出そうと思ってないんだよね、今は。

 

 なんだかんだで狩りは楽しいし、こう言っちゃなんだが元居た世界よりも馴染んでいる自覚はある。

 元居た世界では絶対に出来ない経験も山ほどできる。

 腕一本で世間を渡っている自信や、命賭け…俺の場合はそう言っていいのか微妙だけど…の修羅場を潜った後の生の実感、ディスプレイ越しに妄想するしかなかった女性達と親密な関係になったり。

 

 目下のところ、元居た世界よりもずっと魅力的なんだよね。

 狩りという名の暴力に中毒になっている自覚もある。

 元の世界に帰ったとしても、退屈で窮屈な世界に復帰・適応できる気がしない。

 この世界は実力さえあれば、かなり居心地がいいんだ。

 

 このループから解放される手段を確保しておいて、飽きるかイヤになるまでは現状維持…が希望かな。

 我ながら虫のいい話であるな。

 

 




うしおととらアニメは7月からか…。
OVAは全巻見た(カマイタチ編だけは記憶が曖昧ですが)が、どうなる事か。


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69話

体重が+1キロ。
微妙に気になる。
女性が体重で一喜一憂する気持ちが、これを10倍くらいした感じなんだろうか…。

だが酒と間食は止めない。


 

 

MH月『太ってきたけど酒がやめられない止まらない』日

 

 エシャロットがいい塩梅に動けるようになってきたんで、本格的に一人で狩りを任せてみようと思う。

 とは言え、大物狩りにはまだ早い。

 イャンクック先生を相手に、自前の音波砲を頼ってようやく撃退レベルだしな。

 新人としては破格だが、言い換えれば一人前とはまだ認められない。

 

 …いや、半人前に一人で狩猟に行かせる方が無茶なんだけどね。

 MHFは複数人前提だから尚更だ。

 

 あと一人二人でいいから、ハンター増えないかなぁ…。

 レジェンドラスタのナターシャさんとかフローラさんとか来てくれないかな。

 ナターシャさんなら、メゼポルタに華麗な技を持つ弓使いが居る、とか噂を流せば来てくれる気がするが……華麗かねぇ?

 魅せ技なら幾つか持ってるし、前回ループでナターシャさんにある程度認められるくらいまでは上達できた。

 ナターシャさんの好みも把握しているし、いざ「見せてみろ」と言われても、満足はともかく失望させない程度の自信はある。

 

 …まぁ、ナターシャさんがそもそも今メゼポルタに居るかどうかも分からんのだけどね。

 噂を流すだけ流しておいて、引っかかればそれで良し、そうでなければ特に損失も無し。

 そんなトコでいいでしょ。

 

 他のレジェンドラスタは………うん、フローラさんとかはいいんだけどさ。

 ユクモ村で会った面子の濃さを考えると、迂闊に顔を合わせない方がいいような気がするんだ。

 会うなら会うで、こっちも芸風を鍛えねば呑まれてしまう。

 

 …後付の理由としては、エシャロットが怯えないかと思って……上位に行くと、人として大切な何かを失ってああなってしまうんじゃないか、とか思われないかな。

 

 …ん、何、ポイクリ爺さん?

 「お主も相当なもんじゃぞ」?

 

 いや自覚はあるけどあそこまでじゃねーよ。

 他の2世界ならともかく、モンハン世界は人間もモンスターもいろんな意味でブッ飛んでる奴ばかりだから、俺はまだそこまでのレベルじゃないよ。

 

 …パピ嬢と地主の嬢ちゃんに、「「ないわー」」と手を振られてしまった。

 …まぁ、そう思いたければ思ってりゃいいさ。

 一般人をランポスの前に放り出すという暴挙が、世界規模で見ればまだまだヌルい方だって理解できないなら、それもいいだろう。

 

 エシャロットにはイヤでも理解させるけどな!

 地力もいい塩梅に整ってきた事だし、特別コースことデスマーチに行こうか!

 なぁに心配すんな、デスマーチにもレベルがあって、今回は最低レベルで行くから!

 都合のいい事に、この前砂漠でバサルモスを倒したおかげで、沼地にいけるようになったばかり。

 見ず知らずの土地で野生のカンを磨くのだ!

 

 

 

 

MH月『ただ只管次の休日が待ち遠しい』日

 

 はい、そんな訳で逃げようとするエシャロットをシビレ罠にかけて拉致ってきました霧窟の沼地。

 当然ながら、メゼポルタやポッケ村、ユクモ村の沼地とはまるで地形が違うし、とにかく広いです。

 ゲームでは全部同じ地形だったような気もするが、流石にクエストごとに全く違う地形を用意しろ、なんて無茶な話だからね。

 

 ん?

 村にハンターが居ないと、何か会った時に対応できないんじゃないかって? 

 何を今更。

 俺とエシャロットが一緒に狩りに行ってた時、村に誰か残っていたと思うか?

 

 

 …「そう言えばそうだった!」と、今更ながらに村の守りが空ッケツだった事に気付いたエシャロット。

 という訳で、村の守りを多少でも堅固にすべく、色々と仕掛けております。

 既に村の周囲の森は、俺の特性トラップが満載のキルゾーンと化しているのだ。

 爆弾使わないだけ自重している。

 

 ちなみに罠のお手入れは、存在すら忘れられがちなムルカ君に任せております。

 あの子、ハンターじゃないけどそれなりに心得はあるんだよね。

 ポイクリ爺さんの薫陶の賜物のようだが……アマチュアの域を出ないのは仕方ないだろう。

 ムルカ君の本領は、毒の研究っぽいしな。

 

 …で、そのムルカ君の様子が最近ちょっとおかしいんだが……思春期か?

 

 

 

 こら、話そらして逃げるな。

 一人前のハンターになるなら、デスマーチは避けて通れない道だぞ。

 絶対ウソ?

 何を言う、大連続狩猟とか普通にあるだろうが。

 

 確かにアレは一般ハンターになってからやるもんだが、経験しておくに越した事はないぞ。

 心配するな。

 場所も相手も下位だし、元気ドリンコだけはメッサ持ち込んだから。

 

 回復薬とかコンガリ肉とか持ち込まずに、元気ドリンコだけで袋が一杯になるくらいにな! 

 

 という訳でデスマーチサバイバル下位編始まるよー。

 

 

 

MH月『冷蔵庫を整理しようと決めた』日

 

 ユクモ村ではアイルーとガーグァを手懐けて、クエスト完了の知らせと次のクエストの紹介状を貰ってきていた。

 が、この場所では開拓に託けて狩り放題。

 クエストをわざわざ受けてくる必要すらない。

 本来ならクエストを受けずに狩りをするのは、乱入などを受けた際の正当防衛を除いて密漁扱いになるのだが、「開拓中」という建前の元狩り放題である。

 ぶっちゃけ、パピ嬢の一筆でその辺の手続きをすっ飛ばせます。

 まだ開拓が始まったばかりだからこそ出来る荒業だね。

 

 さて、まずは食糧確保だ!

 毒の沼地と言っても、食えるものはそこら中にあるぞ。

 毒があれば抜けばいい、抜けないならスキルで毒を無効化して食えばいい!

 

 生き物には須らく食う方法があると思え!

 ドスファンゴだろうがランゴスタだろうがババコンガだろうが、たんぱく質には違いない!

 ロイヤルカブト?

 男の子的にロマンだが食え!

 

 寝床はモンスターや動物の後を尾けて探せ。

 雨が当たらない程度の場所を見つけたら、体を冷やさないように毛皮とか使って暖を取れ。

 ん?

 毛皮が無い?

 だからモンスターの後を尾けろって言ったじゃん。

 仕留めて防寒具にすりゃええねん。

 寝床に居るモンスターも仕留めれば、素材も寝床も防寒具もウッハウッハやぞ。

 

 生態系が崩れる?

 生き残ってから言え!

 時には後先考えない行動も必要だぞ!

 

 

 初心者だし、まず教えるのはこれくらいかね?

 中級になると、寝ながら周囲を警戒する感覚とか、手に負えないモンスターの対処法とかも教えにゃならんし。

 

 

 さーて、今回はどんなモンスターが乱入してくるのかな?

 それを捌くのもサバイバル訓練の一環です。

 

 

 

 

 

 

 

 折角狩った肉をゲリョスに盗られた?

 盗られる方が悪い。

 

 晩御飯はのりこねバッタの佃煮に決定だね。

 

 …俺?

 俺も同じメニューだよ。

 道具も食料も、ちゃんと仲間内で分配するに決まってるだろ。

 食料を奪われたのはエシャロットのミスだが、空腹のハンターの横で一人だけ肉貪ってりゃ仲間内に亀裂が入っちゃうでしょうが。

 まぁ、寄生が相手なら渡さないけどさ。

 

 という訳で、俺も肉とか狩ってません。

 お前が狩れなきゃ、肉は食えないぞ。

 虫料理で胃袋誤魔化そうぜ。

 

 

 

MH月『よく死ぬなぁ、先生…』日

 

 

 今度はメラルーに、折角釣った大食いマグロを奪われたらしい。

 取り返そうとしたが、丁度ゲネポスの麻痺牙が当たってシビシビしてたとか。

 生きてるだけありがたいと思いなさい。

 

 …いや俺じゃないよ、痺れたエシャロットに飛び掛るゲネポスを弓で長距離狙撃したのは俺じゃないよ?

 多分ね?

 

 …矢に小樽爆弾がついてた?

 そしてストックしてあった爆弾が一つ減ってる?

 

 ……うるせーな誰がやったんだっていいじゃねーかコノヤロウ!

 女?

 

 …この女郎!

 ジョロウじゃなくてメロウ!

 魚みたいだな!

 

 とにかく、今日はドキドキキノコとげどく草のソテーです。

 げどく草多めなんで、ちょっと舌がピリピリしても全部食いきれば毒にはなりません。

 人間そうそう死にやしないよ。

 いや毒キノコとか実際はマジヤバイけどね。

 俺達ハンターだし。

 毒喰らっても放っておくか寝るかすりゃ治るし。

 

 ハンターとしてのスペックをフルに活かすのだ!

 

 

MH月『好きな食べ物は好きな酒と一緒に味わいたい』日

 

 …また食料奪われた?

 ババコンガ?

 

 おいおい、狙ってやってないよな?

 …ちゅーか、この流れ…。

 

 ゲリョスから始まり、メラルー、ババコンガ……この分だと、明日はゲリョスの亜種が出るか。

 いやそれはいい、それはいいんだ。

 

 いいんだが……なんか知らんが、食料とか盗むモンスターが連続して出てきている。

 この流れだと……まさか、ゲリョス亜種の次はオオナヅチが来る?

 古龍か…こんなトコに来るかな?

 でも開拓地だけあって、稀に妙なモンが見つかるしな…。

 

 オオナヅチは姿を現す…というか見えるようにしている事が殆ど無いから、何処に居てもおかしくないんだよなぁ。

 

 

 しかし古龍、古龍ね。

 やりあったのはラオと、勝てなかったがルコディオラだけだな。

 

 …襲われた時の準備だけはしておくか。

 最悪、アラガミ化して全力で暴れれば、逃げる時間くらいは稼げると思う。

 最初はむしろ狩りに行くけどね。

 流石に半人前を抱えた状態で、古龍種とやりあう気はしない。

 

 

 今日のご飯は、毒沼の水をろ過して作った水炊きです。

 ちなみに毒沼メニューは、全てムルカ君の直伝です。

 毒が好きなのか毒を食うのが好きなのか…。

 

 

MH月『シェルターが見られないので、Janeからギコナビに移行しようと思う』日

 

 予想通りゲリョス亜種が来た。

 こりゃマジでオオナヅチが来るかもしれん。

 

 とりあえず、サバイバル訓練は本日で終了とする。

 エシャロットも色々図太くなってきたしね。

 なんだかんだで狩場で数日過ごした事で、周囲への気の配り方や道具の現地調達方法、何よりも野生のモンスターの脅威がどういうものか、身に染みてきたようだ。

 当初の目的は達成したと言っていいだろう。

 

 以前デスマーチをやった時は、鼻っ柱や反抗心をへし折る為だったり、強制的に狩りのスキルを身につけさせる為だったり、色々あった。

 今回は狩りではなく、生き延びる方法を叩き込む為だったので、狩りキチにはなってない。

 狩りキチになる(する)のは、中級以降である。

 

 

 さて、撤退撤退。

 背後に注意…いや、背後だけじゃなくて気配に注意だ。

 オオナヅチだったら、真正面に居ても気付けなくたっておかしくないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラグ?

 しっかり立っていましたが何か?

 

 

 流石に古龍は厄介だったわ…。

 いや、目に見えないってのはどうとでもなるのよ、俺の場合。

 スタミナを使うとは言え、鬼の目やらタカの目やらで、姿だけ隠しても簡単に見つけ出せる。

 

 

 …むしろ見つけてしまったのがアカンかった。

 それが無ければ、後ろから舌でド突かれて肉を盗まれる程度で……程度で……………食い物の恨みは忘れんぞ…。

 

 とにかく、あれ?と思って鬼の目を使ってしまったのが悪かった。

 モロに目があった。

 

 

 …アレだな、トカゲだけどアイツ、結構表情豊かだわ。

 

 

 即座にエシャロットをブン投げて戦闘に突入。

 虚空に向かって暴れ始めた俺を見て、「やっぱり狂ってる人だったの!?」と思ったらしいが、ちょっと詳しく言ってみろ。

 やっぱりって何だ、「とうとう狂った」じゃなくて狂ってるって現在進行形か。

 

 

 とにかくエシャロットを村に戻らせ、警戒態勢を取らせると共に、医者を呼んでくるように命じた。

 色々ゴネてたが(精神科医ですか!?じゃねーよ)、俺が吹っ飛ばされたり血が出たり、ペイントボールを山ほど叩き込んで形が浮かび上がってきた辺りで、ようやくオオナヅチに気付いたらしい。

 加勢しようとしてきたが、足手まとい以外の何者にもならんからなぁ…装備がアレじゃ、何処切りつけたって弾かれるよ…溜め斬りでもダメージが通るか怪しいもんだ。

 

 なんやかんやで助けを呼びに行かせて……ようやく人目が無くなったんで、全力モード。

 アラガミ化しました。

 

 

 色々あったが、アラガミ化の性能向上は底が知れない。

 生命力が増幅されるからか、霊力やスタミナの昂ぶりが冗談抜きで天上知らずだ。

 常時鬼の目使用状態になれるから、オオナヅチの姿は丸見え、何処が弱点かも視覚的に理解できる。

 ミタマの力もブレーキが外れたみたいに常にかかった状態なんで、クリティカル(勿論、GE世界の剣の達人との相乗効果もアリ)がガンガン出るは、攻撃力自体が底上げされてるは、あまつさえ相手に与えたダメージの何割かがそのまま俺の活力になる。

 多少攻撃を受けたって、ゴリ押しで回復できる訳だ。

 毒も効きやしねぇ。

 

 流石にオオナヅチが吐き出す、謎の粘液は避けたけどな…ゲームだと、スタミナが最低まで減る上にメシも食えなくなるアレだろう。

 

 幾つか属性攻撃も打ち分けてみたんだが、火・氷・雷の3種はでは氷が有効だった。

 やっぱアレか、古龍だったし、龍属性くらいしか効かない可能性も考えてたんだが…。

 どっちにしろ、早急に龍属性装備を求めねばなるまい。

 アラガミ化した時に持ってた装備で、使える能力が大幅に変わるからなぁ…。

 

 

 

 …とは言え、流石に古龍というべきだろうか。

 3つの世界の中で最もモンスターがタフなこの世界でも、群を抜いて生命力が高い。

 アラガミ化して総攻撃したと言うのに、仕留めきれなかった。

 いや、総攻撃と言ったって、全力を使い果たしたらアラガミ化解除の後に完全に動けなくなって死が確定するから、余力は残したけどね。

 

 

 

 ともかく、何とか撃退までは持っていけた。

 尻尾は叩き切れたんだが、透明化は無くならなかったな。

 角の方を壊さなきゃいけないんだっけ?

 それとも両方だったか?

 そもそも壊せるところだったっけ?

 かなーり強く、続けてぶっ叩いたのに…。

 

 まぁ、尻尾が切れたって事は、かなり追い詰める事が出来たって事だろう。

 下位とは言え、MHF仕様の古龍を一度でそこまで追い詰めたってのは、割とスゴイ気がするな。

 …まぁ、廃人どころかちょっと慣れた人種でも、その気になれば撃退どころか討伐余裕って奴らがゾロゾロいるのがこの界隈だが。

 

 

 まぁ、とりあえず俺は無事に帰還。

 エシャロットも村も無事。

 オオナヅチの尻尾を確保してきた(小さい…)から、古龍が近くに居る事も証明できた。

 まぁ、オオナヅチの生態は殆ど分かってないし、ギルドの一部からは「本当にオオナヅチの尻尾か? 未発見なだけのモンスターじゃないのか?」って声も上がっているらしいが、それならそれで大きな発見には違いない。

 

 なんにせよ、俺は暫く療養する事が決まってしまった。

 怪我自体は大した事ない(アラガミ化してたから防御力も高かったし、再生力は更に高いのだ)のだが、古龍…古龍に限らず、未知のモンスターは未知の病原菌を持っている恐れがあるらしい。

 接触感染の恐れもあるので、暫くはテントに閉じこもって一人暮らしという訳だ。

 一週間にも満たない期間と言われはしたが……その基準、どうなってんだろうな?

 

 この世界は回復薬みたいな効果の高い薬や、身につけるだけであらゆる毒に耐性をもてるようなシロモノこそ多いようだが、医学が発展しているかと言われるとなぁ…。

 

 

 …実際、俺も何か感染していないとは言い切れないんだよな。

 大抵の傷や状態異常は寝てりゃ治るのがハンターだが、古龍が持ってる妙な病原菌にまで効くかは怪しいものだ。

 そもそもハンターだって、風邪とか引いて体調を崩す事だってある。

 

 考えてみりゃ、なんだかんだで今までずっと何かやってた状態だったからな。

 一週間くらいなら、文字通り寝て食うだけでダラダラした生活を送ってみるのもいいかもしれない。

 

 エシャロットも充分動けるようになってきたし、パピ嬢に通す依頼の難易度を制限させれば、そうそう命を落とすような事もないだろう。

 …………近くにオオナヅチが居なけりゃな。

 

 

 

 

 

MH月『酒の呑みすぎで体が重い』日

 

 寝たきり生活一日目。

 率直に言って暇である。

 

 働かずに飲む酒が美味いのも確かだが、なんかこう、充実感が足りん。

 いつからこんなにワーカーホリックになってしまったのだ。

 

 日記に書く事も殆ど無い。

 のっぺらトリオがデスワープに関して色々考えてもみたのだが、集中力が続かず30分もするとメシの事を考えていた。

 

 

MH月『つまみの食いすぎで体重が重い』日』

 

 食っちゃ寝生活2日目。

 体が鈍りそうだ。

 一人でシャドーボクシングとかしてみたが、虚しかった。

 

 

MH月『運動の後は飲み食いしたくなる』日

 

 ダラダラ生活3日目。

 趣味も異性も居ないと、こんなに退屈なもんか。

 まぁ、接触感染の恐れがあるってんで隔離されている現状、女性が居たってナニもできんが。

 

 

HR月『運動したら財布が軽くなる』日

 

 酔生夢死生活4日目。

 気が付けば新しい月。

 この世界はいいな、棚卸しとか面倒な仕事無いし…。

 

 

HR月『ようやくJane Styleでシェルターが開けた。今まで何度も同じ設定をした筈なのに何故?』日

 

 あまりに退屈すぎて、狩りの禁断症状が出そうな五日目。

 

 エシャロットが様子を見に来てくれたが、様子も何も暇で暇で仕方ないだけだ。

 むしろエシャロットの方が順調なのかと言いたい。

 

 正直、オオナヅチに襲われたりしないか心配していたのだが、今回はフラグは立っていなかったらしい。

 見えない古龍を全力で警戒している事もあり、無茶な戦いは控えられている。

 一人でクエストに出ると8割くらいの確率で乱入されるそうなのだが、今のところとんでもないバケモノが来る訳ではなく、その場に居てもおかしくないモンスターの出現に留まっている。

 …それはそれでおかしな話だけどな…乱入率8割って時点で。

 

 

HR月『2chみてると』日

 

 時間の感覚が分からなくなってきた6日目。

 

 

 

HR月『稀に体を動かしたくなる』日

 

 めでたく退院(?)の7日目。

 長かった…ホンットーに長かった…!

 

 退屈は人を殺せるって言うけど、アレはマジだね。

 

 皆で退院を喜んでくれた。

 約一名、「また狩りに付き合わされるのね…」と凹んでいたのも居たが。

 

 特にパピ嬢がテンション高く喜んでくれたよ。

 …俺の事も心配だったそうだが、判子押さないといけない書類も溜まってるみたいだからね。

 

 よーし、それだけ済ませたら、復帰記念に3日くらい狩りまくっちゃうぞ~。

 

 

 

 

HR月『ストーリークエスト・グラビモスクリアー』日

 

 久々だから狩りは楽しいね。

 ちょっと体が鈍ってるけど、これくらいならすぐに戻る。

 

 日記を書いてる暇も惜しい。

 禁断症状はまだまだ治まってないぜ!

 夜の狩りじゃー!

 性ではなく生的な意味で狩りじゃー!

 

 エシャロット、俺に続け!

 

 

 

HR月『冷蔵庫の整理なんかできなかったよ』日

 

 狩場にお泊りした。

 流石に徹夜で狩りはしない。

 

 

 

 夢を見た。

 しかものっぺらトリオの夢だ。

 のはいいんだが、エシャロットが同じ夢を見たのは偶然か?

 

 

 いや、それにしては…本人が気付いているか微妙だが、時々緑色の光る体に悪そうなナニカをチラホラ振り撒いていたような…。

 

 これってアレだよな、俺もいつの間にか使えるようになってたアレだよな?

 でも、エシャロットがそれを使えるようになってるのはどういう事だ?

 確かに同じ寝床で寝てたが、それで使えるようになると?

 

 以前に見た夢…俺=のっぺらぼうの群体という悪夢を踏まえて考えてみよう。

 のっぺらぼうが俺の空間とかのっぺらトリオに融合していた事を考えると、沢山居るのっぺらぼうの中で、ごく一部ののっぺらぼうが特殊な力を持っており、それが融合する事によって新たな力を得る…というのは、根拠こそないが筋としては破綻していないように思う。

 が、それが俺以外の誰かに流出ーあてぃるとーするとはどういう事だ?

 のっぺらぼうが、俺以外の誰かに取り憑いたとでも?

 

 …正直に言えば、ありえない事ではない。

 そもそものっぺらぼうの生態だって殆ど分かっていないのだ。

 何が起こっても可笑しくは無い。

 

 だがのっぺらぼうがこの世界…というより、「俺の空間」に入ってくる為のルートは、「俺の空間」の中にある穴である筈…あの夢が全て正しいとすれば、だけどな。

 「俺の空間」を基点にして、俺にのみ影響を齎すなら納得できる。

 だが、他の誰かにまで影響を及ぼせるのか?

 仮に可能だとすれば、俺の中に入ってきたのっぺらぼうが、何らかの手段で俺以外の誰かに感染している事になる。

 

 イヤ待て、確か……聞きかじりだが、心理学だったか、型月的設定だったかではアレだ、人間の意識は全て根っこで繋がっているとかそんなのがあった筈。

 阿頼耶識、だったっけ?

 集合的無意識とかそんなの。

 それを考えると、俺を経由しなくても直通で俺以外の誰かにのっぺらぼうが入り込む事も不可能ではない?

 或いは、一端俺に接続し、それから深層心理に潜って他者に乗り移る?

 

 よく思い出してみれば、以前討鬼伝世界で夢患いにかかった初穂に、いつの間にか潜り込んでやがったし…。

 

 

 うぬぅ………仮に、仮に、狩りにだ。

 これでエシャロットが、体に悪くてアーマーと名付けられてるくせに実際は爆発攻撃的なアレを使えるようになったとしよう。

 環境破壊は確かに問題だが、巨大ロボットの出力でもなく、精々世界に二人程度のアレ粒子。

 こう言っちゃなんだが、環境破壊の規模としてはごくごく小さいものだと思う……多分。

 アレ粒子がどれくらい残るかとか、正確なところを知っている訳じゃないからなんとも言えないけど。

 

 その粒子の力は、恐らくストーリークリアに非常に大きなプラスとなるだろう。

 

 

 そして、今回はアレな粒子を使えるようになったことが収穫だったが、どんなのっぺらぼうを送り込むか決められるようになれば、各世界の人々に、別の世界のスキルや技術を送り込んで覚えさせる事ができるようになるかもしれない。

 

 

 

 しかし、それでいいのか。

 それでいいのか?

 

 考えてもみろ!

 

 

 それをOKするという事はだな!

 

 

 

 のっぺらぼうを人に取り憑かせる事を良しとしたという事なんだよ!

 

 

 毎晩毎晩、アレのクッソウザい奇行の夢に魘されるんだぞ!

 俺みたいな神経が図太いのか、狂ってるのでなければ不眠症でノイローゼコース直行だわ!

 そんな酷な事は無いでしょう!

 

 

 

 だがロマンもある。

 

 

 エシャロットはガード性能が高く、そして大剣使いなので溜め攻撃も可能なのだ。

 ……ガードは剣任せにして、溜め斬り時にアレ粒子も使えないだろうか…。

 上手く行けば強烈なダメージに加えて、毒とかの状態異常に出来る気がする。

 

 

 …机上の空論はともかくとして、まずは本当にエシャロットが緑色のアレを振り撒いているのかの確認だ。

 アレって環境に対しても人体に対しても猛毒だった筈。

 ヘタするとエシャロットがアレ漬けになってしまいかねん。

 

 

 

HR月『ロマンでエネルギーは補給できるが、栄養は補給できない? 母乳というのもロマンではないかね?』日

 

 …錯覚だったのかなぁ?

 エシャロットを狩りの途中に観察していたのだが、緑色の光は全く発見できなかった。

 

 本当に気のせいだったのか、それとも…エシャロットに宿ったのっぺらミタマが、出さないようにコントロールしたのか。

 それとも、のっぺらミタマが既に離れてしまったから、発光現象が全く起きなくなったのか。

 …ちょっと断定できないなぁ…。

 

 まぁ、再発しない、そもそも勘違いだってんならそれに越した事は無い。 

 よりにもよってコジマだったから問題だっただけで、別の力をエシャロットが得る分にはそれこそ不都合は無いんだし。

 

 とりあえず、一週間屋内に閉じこもりっぱなしだった鬱憤は晴らせたし、そろそろ帰るか。

 

 

 

 え、何?

 依頼?

 

 俺が休んでた間に溜まった奴?

 沼地でドスイーオス、ゲリョス、ギョウグンギザミにドドブランゴ?

 

 

 …この3日間で全部狩ったよ。

 今は素材を持ってエシャロットが鍛冶屋に行ってるが。



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70話

ディスガイア始めたんで、更新速度が落ちるかもしれません。


 

HR月『ディスガイア5プレイ開始』日

 

 今度は雪山にいけるようになった。

 鬱憤晴らしに暴れたら何時の間にやらいけるようになっていたので、正直盛り上がりに欠けるな。

 と言うか今更ながらに、ドドブラが沼地に来ていた時点でおかしいのだが。

 砂漠は…まぁ、亜種という前例があるから、ギリギリ納得できるが。

 

 雪山……雪か。

 MH世界じゃ当然のように見てきた(特にポッケ村だと)んでもう何も感じなくなってたが、子供の頃は雪が降るだけでハシャいでたっけなぁ。

 ……よし、一丁童心に返ってみるか!

 

 余った木材を板状にして2本。

 杖の形にして2本。

 お粗末極まりないが、スキー板の完成だ。

 コイツで雪山の天辺から滑り降りてやろう。

 何、フライハイしてもハンターなら着地余裕だ。

 流石にスキー板を持ったままだと上手く着地できそうにないんで、空中でパージする必要がありそうだが…最悪、ゴッドイーター式二段ジャンプがある。

 

 さぁ、雪山へゴー!

 人生初のスキー体験だ!

 

 

 

 

 板切れ持って何をする気なのか、と聞かれたんで答えたら、変人を見る目で見られた。

 まぁ、分からんではないけどね。

 この世界ってスキーみたいなスポーツはあまり盛んではないようだし。

 当然っちゃ当然で、スキーできる程に雪が降って、かつ傾斜の場所なんぞ、モンスターが跳梁跋扈する未開の地に決まっている。

 そんな所でスキーするとか、普通に考えれば自殺行為以外の何者でもない。

 滑り出せればそれなりに機動力を確保できるとは言え、小回りは効かないしバランスは悪いし、モンスターにしてみれば走り続けるドスファンゴを相手にしているようなものだろう。

 ちょっと強い奴、頭のいい奴が出てきたら、簡単に先回りされてしまう。

 

 ポッケ村みたいな万年雪が降ってる地域ならともかく、メゼポルタみたいな場所でスキーが流行る筈も無い。

 

 だが俺はやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やってきた。

 クエストそっちのけで雪山の天辺まで駆け上り、そこからスキー板で滑り出した。

 ついてきていたエシャロットとパピ嬢が唖然としていたが、まぁ今更だし。

 

 初めてやったが、結構楽しいもんだな!

 何だかんだで走るよりも速いし、冷たい風が気持ちいい。

 

 

 ただ、舵取りミスって崖から大ジャンプするハメになったけどな!

 オリンピックに出たら、金取れるんじゃないかと思うくらいの大ジャンプだった。

 しかも断崖絶壁からだったし。

 飛んだよ、スッゴイ飛んだ。

 

 なんちゅーか、本当に初体験だった。

 鳥になった気分だったよ。

 ジャンプとか、崖から飛び降りるのともまた違った感覚だった。

 足元に地面が無い、地面に向かって落ちるのではなく限りなく上昇していく感覚。

 

 スゲー。

 

 久々に本気で感動した。

 

 

 

 

 

 そして飛んでいく軌跡のド真ん中に討伐対象のフルフルが居たんで、勢いを乗せて思いっきりブン殴りました。

 秘儀、フライングスタンプ(溜め3)!

 

 持ってたのがハンマーでよかった。

 太刀とかだったら勢いに負けて折れそうだし、大剣だと流石に空中で振り回せる気がしない。

 

 不運なフルフルは、哀れ「ミンチよりひでぇや」状態になって落ちていきましたとさ。

 空飛んでる間に思いっきり殴られるなんて、想像もしてなかったろうなぁ…。

 

 

 結局、無事着地したのは山の麓近くの森だった。

 エシャロットとパピ嬢とはベースキャンプで合流。

 流石に怒られるかなー、と思っていたんだが、至極アッサリしたものだった。

 

 …いやさ、別に心配かけさせたかった訳じゃないんだけど…そんなに平然としていられるのもなんか納得が…。

 そう言ったら。

 

 

「今更マスターが、あの程度でどうにかなるなんて、誰も思ってないのですよ」

 

「ハンターたる者、どんな高所からどんな体勢で落下しても、平然と着地できて当然って教えたのはマスターじゃない」

 

 

 …そうでした。

 しかもエシャロットは着地の肉体操作術を習得できてなかった為、何度か練磨の密林の崖から突き落としました。

 手本を見せる為にエビゾリジャンプとかガノトトスの舞いのポーズとか車田落ちとかやって見せたっけ。

 無論見事に着地したよ?

 顔面から落ちても、下が砂だったから殆どダメージ無かったし…ハンター的に考えてね?

 

 今更スキーのジャンプで心配される筈ないか。

 

 

 

 

 地主の嬢ちゃんにスキーの事を話したら、割と興味がありそうだった。

 流行る筈も無いと思っていたが、それは率先してやる人が居なかっただけなのかもしれない。

 これから雪山での開拓もあるんだし、ある程度場所と安全を確保できたら、大々的に広めてみるのも面白いかもしれないな。

 

 

 

HR月『筋トレ再開』日

 

 さて、雪山でのクエスト第一弾が思いのほかアッサリと(俺にとっては)終わってしまったので、ついでに色々調査してきた。

 密林、沼地、砂漠の例を見るに、居る筈のないモンスターが出現するか、居るモンスターが異常な行動をとっているかの2択、或いはその両方。

 

 …今回の場合、前者のようだ。

 俺が大ジャンプしてフルフルを撲殺している間に、エシャロットが雪山を捜索し、気になるものを拾ってきた。

 採掘してきたさびた大きな塊も気になるが、それよりもえらいオレンジ色の羽。

 明らかに雪山の生物ではない。

 保護色的に考えて。

 

 オレンジ色のデカイ羽…つまり鳥…って事は、ヒプノックか?

 また妙なところに来てやがるなぁ…。

 

 

 まぁいいや、どっちにしろ鶏肉と羽毛には変わりない。

 狩って生活の糧にするまでだ。

 

 しかし鳥、鳥…鶏か…。

 いやアレがニワトリかどうかはともかくとして、元の世界の漢字としてはニワトリと書いてトリと読むことがあるしな。

 

 ニワトリの血抜きって知ってる?

 俺も元の世界のやり方は話に聞いた事しかないんだが、逃げて走り回っているニワトリの首を上手に跳ねると、体だけが走り続ける事があるそうな。

 …生命で遊ぶつもりはないが…これによって血抜きが楽になるとかなんとか。

 

 

 いや、あくまで豆知識だよ?

 そりゃ首を狙うのは狩猟においても非常に有効だけど、逃げる鳥龍種の首を跳ねるとか普通に難しいし。

 動きを止める方法は幾つかあるが、それだと意味が無いし。

 

 

 

 とりあえず狩りに行くか。

 

 

 

 

HR月『メゼポルタ開拓記が行き詰った』日

 

 

 ヒプノックの狩りに行ったら、ゴゴモアを見つけた。

 パピ嬢が「そんなバナナ」とか言いながらキュウリ食ってたが、それはどうでもいい。

 

 実際そんなバナナな話だよな。

 ゴゴモアは暖かい所に生息している生き物だ。

 以前、潮島に調査に行った時に観察してた事もある。

 あいつら元気にしてるかなぁ…去り際に、ココモアの方が手を振ってくれたっけ。

 そういやバナナ食ってるところも見た事あるな。

 

 …いやバナナはいいんだバナナは。

 

 ゴゴモアがこの辺に居るって事が問題なんだ。

 しかもバナナ持ってたし…。

 

 

 まぁ、バナナについてはその辺の行商でも襲ったか、元居た場所から携帯食として持ってきたんだろう…暖かい地方からかなり離れた場所だが。

 

 真面目な話、何故にゴゴモアがここに?

 しかもなんか怒ってるようだった。

 ハンターも居なければ外敵も居ないのに。

 子供の方のココモアも、親と一緒に居たからその線で怒っている訳ではない筈。

 

 やはり食料を探してここまでやってきたのだろうか。

 だが、ゴゴモアが過ごしやすい場所なら、それこそ練磨の密林から樹海まで、より取り見取りの筈なんだが。

 まぁ、俺まだ樹海には行けないけど。

 

 …密林を避ける理由がある?

 いや、確かにゴゴモアの巨体だと、潮島みたいに木と木の間をアーアアーする事はできないかもしれないが、気候と食料だけを考えても、雪山を選ぶようなメリット・デメリットがあるとは思えん。

 古龍でも居なければ……そういや居たな。

 結局何処に行ったか分からなくなってるが。

 

 

 そういえば、砂漠で狩ったドドブランゴも終始怒りっぱなしだったな。

 ハンターが居たからだと思っていたが…ひょっとして、アイツも相手が居ない状況でも怒りっぱなしだったんだろうか。

 今回のゴゴモアみたいに。

 

 明らかな異常だよなぁ…。

 まさか、GE2の感応種みたいな奴でも居るのかね?

 確かその場に居るアラガミを、全部活性化状態にさせるアラガミが居たよな。

 

 しかし、それらしい気配は無い。

 感応種の力=霊力だと仮定した話だが、それだけ広範囲に能力を使えば、俺にだって感知できる。

 ユクモ村の最後にやりあったティガも、明らかに霊力持ってたしな。

 

 

 

 …ま、とりあえずゴゴモアの存在は報告しておくとしよう。

 まず間違いなく狩る事になるだろう。

 生きる為に生来の場所から出てきたのであろうが、子を守る為に暴れているのであろうが、残念ながら関係ない。

 俺達の糧になってくれ。

 

 

HR月『納豆は焼いても美味い』日

 

 予想通り、ゴゴモア討伐のクエストが来た。

 子供と一緒に居る姿を見て、パピ嬢がちょっと躊躇いがちだったが…悪いがそれでも狩らせてもらった。

 子供云々を言うなら、今まで狩ってきたモンスター達だって同じ事だ。

 

 何より、ゴゴモアだけでなく、ココモアの様子もおかしかった。

 本来なら温厚で、親にひっついているばかりの筈のココモアが、妙に行動的だった。

 雪山という見知らぬ土地、しかも生態から言えばアウェイそのものである筈なのに、好き勝手に歩き回る、見つけた獲物(ギアノスとかではなく、フルフルベビーとか)を追い回す。

 何より、外敵と会っても逃げるどころか、怒り状態になって立ち向かいやがった。

 

 そう、怒り状態だ。

 

 普通の怒りじゃない。

 親のゴゴモアが子供を傷付けられた時のような、オーラを纏った怒りだ。

 

 こいつらラージャンじゃないかと、割と真剣に疑った。

 まぁ、ココモア程度の力じゃ、オーラを纏ったところでギアノスにも勝てやしなかった。

 ゴゴモアの方が同じくオーラをまとってカッ飛んできて、ギアノス達をなぎ払ったが…。

 

 

 とにかく、ココモアも異常だった。

 行動の異常もそうだが、子供の状態なのに、何故か発現させている赤いオーラ。

 

 そして、それに連動するように立ち上った、ゴゴモアの赤い…というかいっそ禍々しいくらいの赤黒いオーラ。

 親も異常なら子も異常だ。

 放っておく訳にはいかないし、可能であれば遺骸を調べて原因を突き止めなければならない。

 

 それでもパピ嬢は躊躇ってたようだったが、それを説得したのはエシャロットだった。

 意外な一面を見たな…。

 

 

 

 結局、ゴゴモアもココモアも狩って、ギルド…俺達のハンターギルドではなく、もっと上のギルド…に遺骸を受け渡した。

 流石にあんまり気分がよくない。

 いつだったかの潮島での、ココモアの円らな瞳を思い出す。

 

 だがそれはそれ、これはこれ。

 これもハンターの仕事だ。

 

 

 

 

HR月『自作シーザーサラダ(温泉卵抜き)が美味ェ』日

 

 

 確かに子供を狩るのは気が引ける。

 狩人として、次代に繋がる芽を根こそぎ奪うのはルールに反する事かもしれない。

 

 だが、この場合はそれは適用されない。

 居る筈のない場所に居て、生態系に影響を与えかねない力を持っている。

 

 何より、ココモアだけを残しておけば、親を奪われて人間に恨みを持った凶獣を作り出す事になってしまう。 

 ハンターは単なる狩人ではない。

 モンスターの脅威から、人間を守るからこそハンターである。

 

 そして、狩人であろうとハンターであろうと、子供の獣を狩る以上に犯してはならない絶対のルール。

 それが、『意味の無い情に流される事』なのだ。

 

 

 

 昨日、パピ嬢を説得したエシャロットの言である。

 

 …新米ハンターとは思えぬ、エシャロットの性格にも似合わない見事な語りだった。

 実際、受け売りだったらしいが。

 

 昔、エシャロットをモンスターから守ってくれたハンターが、今のパピ嬢と同じようにモンスターの子供を殺さないで、と言ったエシャロットに告げたのがこの言葉だったらしい。

 彼女がハンターを目指すようになった切欠の言葉でもある。

 

 感謝はしている、反発もしている、意味のない情けなんかじゃないと叫びたかった。

 だけど自分には何の力もなく、ただそのハンターに守られただけ。

 なら、自分はもっと強いハンターになって、同じように誰かを守って、彼とは違う選択をしよう。

 

 

 「そう思ってたんだけどねー」と、元気ドリンコを自棄酒のように飲むエシャロットだった。

 

 

 ま、そうだろうなぁ…結局同じ選択をせざるを得ない状況だったし、今まで何度も同じ選択を…無意識ながらに…していたのだと気付いたんだろう。

 今まで戦ったモンスター達の後ろに卵があったり、腹が膨れていた事だって一度や二度じゃなかった。

 それに気付いても、剣捌きにブレが出なかったのは……何かしらの折り合いは、既につけていたんだろうか?

 

 

 その言葉に対して、逆に悩んでいるのがパピ嬢と付き人君である。

 パピは…まぁ仕方ないだろ。

 何度も狩りについて来ているとは言え、モンスターや自然に直接触れ合っていた訳じゃない。

 自分の立ち居地をどうするべきか、悩んでいるらしい。

 

 付き人君は…こっちは何を悩んでるのか、本気で分からんな。

 パピ嬢と同じ問題ではない。

 正式ではないとは言え、彼もハンターの卵だ。

 この辺の線引きはできている。

 

 

 まぁ、パピ嬢の問題は、駆け出しハンターなら一度はブチ当たる問題…かな?

 普通、モンスター相手にそんな事を考えてられる余裕なんぞないからな。

 中途半端に安全な場所から狩りを見ているからこその悩み、なのかね?

 

 俺の結論としては、『その場その場で考えろ』としか言えない。

 

 なんでもかんでも同じ理屈で解釈しようとするからややこしくなるんだ。

 普遍的なルールに従ったって、それが正解かどうかなんて後にならんと分からん訳だし。

 目の前の事を一つ一つ処理していくしかないとかナニソレメンドクセ

 

 もうちょっとテキトーに生きればいいのにな(俺は適当すぎると誰かに言われてそうだ。命に関するスタンスよりも、存在そのものが。)

 まぁ、テキトーな考えで狩られる方はたまったもんじゃないだろうけどな!

 

 

 …いや、テキトーに狩られようが真剣に狩られようが、負けりゃ死ぬのは同じだがね。

 

 

 

 

HR月『今度ソーセージを唐揚げにしてみるんだ』日

 

 付き人のムルカ君が悩んでいると思ったら、アレだ。

 思春期特有のアレだ。

 

 身近に思っていた女の子が大人になっていく。

 それに比べて僕はなんだろう…的なアレだ。

 

 まぁ、この場合の『大人』は『女』になる的な意味ではなくて、ハンター的な意味である訳だが。

 

 俺も覚えがあるなぁ。

 ループが始まる前だったと思うが、学生時代にやる事もなく古本屋で立ち読みしている時とか、妙に焦りが募ったりしたもんだ。

 将来の展望なんて無い、他の誰かに比べて自慢できるモノもない、社会に出てやっていける自信も無いのに、こんな所で俺は何故時間を浪費しているのかと。

 そう感じるのが限って夕暮れ時だったんで、『逢魔時』とはよく言ったもんだ、と感じたんだ。

 

 モノノフ的に言えば、その程度で『オウマガトキ』『オオマガドキ』とは片腹痛いってもんだが。

 特に、記憶から失われているとは言え、オオマガドキを一度は経験した身としてはね。

 

 

 ま、今にして思うと、間違ってはいないが、単なる錯覚だったと思うけどね。

 自信なんて誰だって持ってない、他者に大して唯一無二で天下無双なんぞある訳が無いのが当然。

 将来の展望に至っては、所詮は現状から妄想できる未来に過ぎない。

 持ってても意味が無かったくらいだ。

 

 

 ちゅーか、こんなデスループに巻き込まれるような展望なんぞあってたまるかい。

 

 

 まぁ、妙に説教臭く(…というよりは独り語りっぽく)なってしまったが、とにかく付き人君…ムルカ君は、ちょいとばかり焦り気味だ。

 なまじっか、ハンターの世界に首を突っ込んでいる為だろうか?

 言っちゃ悪いが、ムルカ君はハンターとしてはアマチュアだからな。

 

 年齢を考えれば、毒に関する知識は相当なものだと思うんだがなぁ…本人は趣味(或いは生き甲斐)と言い切っているから、それを特技とは今ひとつ思えないらしい。

 難儀なやっちゃな…。

 

 まぁ、無茶をしなけりゃ問題はない。

 『はしか』みたいなものだ。

 超えれば二度とかからない…なんて戸愚呂弟みたいな事を言う気はないが、解決されなくてもそれなりに折り合いはつくってものだ。

 

 

 

HR月『布団は干すが掃除はしない』日

 

 

 一狩り終えて帰ってきたら、ガノトトスの討伐依頼が来た。

 しかも緊急討伐依頼だ。

 単なるガノトトスではあるんだが、まぁ、地主の嬢ちゃんが何故か突撃してったらしいから、助けに行ってくれとの事。

 

 責任感が強いから、ったってそんな無謀をするようでは……やはりデスマーチに再びデスマーチに付き合わせて、力量ってものを教え込むしかあるまい。

 

 

 単なるガノトトスなら捕獲して刺身にしたいところなんだが、また例によって乱入なり異常な行動なり、面倒事の予感がする。

 今回のガノトトスは、捕獲したものか途中で目を覚まして暴れだしたらしいのだが……。

 おかげで、運んでいた人達がピンチになっているらしい。

 なる程、嬢ちゃんが突撃して言ったのはこれが理由か。

 

 だがデスマーチ。

 

 今までのモンスターのように、住処から自分で出てきた訳じゃないんで、居ないはずの所に居る訳じゃない。

 そういう意味では、最近の異変とは関係無さそうだ。

 

 それに、既に他のハンターが捕獲している相手だから、討伐にせよ捕獲にせよ、報酬にイマイチ期待ができん。

 ま、とりあえず乱入に備えて、行ってくるとしますかね。

 

 

 

HR月『自炊はするが台所の掃除が…何より残った調味料が…』日

 

 

 嬢ちゃん無事、エシャロット無事、パピ嬢も無事、俺も無事。

 

 

 ただしキリンに遭遇しました。

 どーも雪山で見慣れない奴(ガノトトス)が暴れてたんで気になって見に来たみたいだった。

 

 

 マジかよ…古龍は二度目だよ。

 まぁ、キリンの場合は古龍つーても、周囲の生物が逃げ出さないからな。

 強さもそれなりなんだろう……と思っていたら地獄を見るのがこの業界である。

 

 見た目は思わず見とれてしまう程キレイなんだが、動きは速いし角以外は硬いし雷バカスカ落としてくるし。

 いくら俺だって、雷を見てから避けられるような反射神経は持ってないよ。 

 

 人目があったから変身もできなかったし、装備だってガノトトス向け…ぶっちゃけ雷属性だ。

 無理だって普通に。

 

 延々と襲い掛かってきやがったんで、仕方なくやりあった。

 地主の嬢ちゃんとパピ嬢は、ガノトトスと一緒に即座に退避させた。

 キリンのスピードについていくのはキツいから、警護対象が居るとそれこそ何もできん。

 エシャロット、嬢ちゃん達の護衛。

 俺はキリンの足止め。

 

 誰も居なくなったんで変身してやろうかと思ったんだが、時間切れになると動けなくなるの、まだ解決できてないんだよなぁ。

 

 

 という訳で、久々に奇行に走りました。

 

 

 まず、キリンと距離を取り、断崖絶壁を背にして立ちます。

 そして大樽爆弾を構えます!

 雷を纏って突進してくるキリン!

 大樽爆弾で受け止める俺ッ!!

 爆弾に突き刺さる雷付きの角ッッ!!!

 

 

 

 大・爆・発。

 

 

 吹っ飛ぶ俺と、角が砕けてタタラを踏むキリン。

 見事な放物線を描きつつ(自分でいうのもなんだったが)、爆風に吹っ飛ばされて崖からフライアウェイ!

 

 落ちていく瞬間、キリンが怒っていたのが見えたが……ハハハハ、俺はもう既に崖から離れて落下中だ!

 追い討ちをかけようにも手が届くまい!

 そして人間はこの高さから落下したら死ぬんだよ!

 お前が攻撃すべき相手はもう居ないのだぁぁぁぁぁ!

 

 

 …まぁ、要するに最後っ屁と、俺が死んだと思わせる偽装工作を行った訳だが。

 

 まさか落下してる最中に落雷直撃が来るとは思わなかったよ。

 そういえば、ハンターに居る所にピンポイント落雷とかありましたね…。

 

 落ちた先が雪山麓の湖でなければ即死だった…。

 

 

 

 あと、爆発で吹っ飛んだキリンの角だが、どーいう確率なのか、皆を護衛して下山していたエシャロット嬢の脳天に直撃したらしい。

 噴水みたいに血が出たそうな。

 




外伝、暫くやってないなぁ…。
書くより先に、どの話に何の外伝がついてるのかも編集せんと…メンドイ。


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71話

ディスガイア5、20分程度でレベル+30ってどういう事なの…?
このレベルアップにハマったら、廃人への道が開かれるわけねw
俺は途中で飽きると思う……多分。



 

 

HR月『怒りの日の獣殿をTSしてみたら人気でそうなんだけど手に負える気がしない。誰かやってくれ』日

 

 キリンの角に八つ当たりしていたエシャロットだが、素材として一級品なのは確かなんで、私物化したらしい。

 まぁ、別にいいけどな。

 俺が回収できなかった角だけど、別に所有権がある訳じゃないし。

 拾った素材は拾ったハンターのものだ。

 

 にしても、古龍3体目かぁ……ラオシャンロンはこの際カウント外。

 一体目はルコディオラ、頭に血が昇って突撃して死亡。

 2体目はオオナヅチ、変身して撃退するが討伐には至らず。

 3体目はキリン、角を折ってやったが撃退されたのはむしろコッチだ。

 

 うーむ…なんかこう、ここまで来ると一回勝っておきたいよなぁ。

 勝ってでも狩ってでもいいけど、明確な勝利が一度も無い。

 

 キリンも再度調査に行ったら、既に姿を消していた。

 ぬう、モヤモヤするべ。

 

 

 

 ところで、今度は樹海にいけるようになった。

 なんだかんだで、あっちこっちで異変が起こってて、どこに原因があるのか分からない。

 

 

 

 ところで、ここの所地主の嬢ちゃんが何やら走り回っているようだ。

 ジョギングとかではなくて、人を集めて色々作ったりしているらしい。

 

 付き人君に聞いてみたところ、何やら落ち込んだ様子で教えてくれた。

 

 何でも、モンスターに襲われた時の為の設備を作ろうとしているらしい。

 設備だけではなく、一般の人間でも最低限の抵抗はできるよう、柵を強化し、固定砲台(と言っても弓とか投石だが)を作り、有事の際の避難マニュアルなども草案しているとか。

 

 どうやら、先日の雪山での一件で、ハンターとしての自分の能力に見切りをつけたらしい。

 そりゃ正式な訓練も受けてないんだから、充分な能力が無いのは当たり前だが、其れは置いといて。

 

 何処まで効果があるかはともかくとして、いい試みだと素直に思う。

 今だって、時々村はずれの畑にモンスターが侵入してきて、苦労して作った作物を食っていく事がよくある。

 俺かエシャロットが居れば撃退できる(エシャロットは大型の撃退は無理だが)んだが、夜中とかに来られるとなぁ…。

 最初は俺特性の地雷とか仕掛けてたんだけど、物資の消費が激しすぎた。

 

 もういっそ、寝ながらモンスターを撃退する技でも身につけられないだろうか。

 戦士のパジャマ着て、屋外に突っ立ったまま寝ればいいのか。

 風邪ひくわ。

 

 それはともかく、嬢ちゃんの考えが形になれば、村に侵入するモンスターも減るだろうし……いざ事あった時、多少はマシになるかもしれん。

 最近の異変じゃ、モンスターが居る筈の無い場所に移動してきてるからな…。

 今はまだ大事にはなってないが、強いモンスターが移動してきて弱いモンスターが追い出され、そのモンスターが別の場所に移動して…を繰り返すとどうなるか。

 

 

 一番弱いモンスター…つまり小型から中型のモンスターが、居場所を失って…或いは食料を失って、大群で出てくる可能性がある。

 強い弱いで言えば、10の雑魚より1の大物が怖いこの世界だが、手の届かない所で暴れられるとなると話は別だ。

 

 上手く行くといいんだがな…。

 

 

HR月『布団の中で妄想すると、寝るに寝れなくなる』日

 

 

 狩りが順調なのはいいんだが、最近なんか物足りない。

 よくよく考えてみれば、最近は力押しの狩りばっかりだったなぁ。

 いや、敵の攻撃を見切って避けて反撃して、という基本的な事はやってたんだけど、それ以外に工夫らしい工夫をしていなかった。

 精々がキリンに追いかけられた時の、爆弾ガード…というか微塵隠れの術?くらいだ。

 

 まぁ、それで相手を狩れるようになってるんだから、それだけ腕が上がっていると言えなくもないが……ハンターの本領は、本来は工夫だ。

 準備を整え、標的を狩りやすいフィールドに誘い込み、道具を駆使して弱点を狙い…というのが、俺の考えるハンターのイメージだ。

 

 『仲間と協力して』という一文が入らない辺り、俺もいい加減重症である。

 

 

 

 まぁとにかく。

 ちょっとハンターっぽい事したくなった訳だよ。

 

 

 

 という訳で、エシャロットを連れて釣りに行きました。

 釣り上げるのはガノトトスだけどな!

 黄金魚も釣ったけど。

 

 

 エシャロットが現実逃避してたが、ボケッとしてると異次元タックルが来るぞ。

 すっかり忘れてたが、ゲームと違ってこの世界では、ガノトトスを釣り上げるなんて冗談にしか聞こえないんだっけ。

 釣りカエルが開発されてないんだよなぁ。

 

 つまり、製法を知っているのは俺だけ。

 ……村の特産品として売りに出せないかな?

 流石にガノトトスを釣り上げられる、なんて触れ込みはそうそう信じられるもんじゃないだろうから、何かしら証拠をつけるか、何人かに目撃させる必要がありそうだ。

 

 …やっぱ面倒くさいな。

 パピ嬢に任せるか。

 俺はハンターであって商売人じゃない。

 いや、パピ嬢だってギルドマスター見習いであって、商売人じゃないけどさ。

 

 

 

 で、やっぱりあったよ乱入。

 今度はパリアプリア。

 呑竜だったっけ?

 ゲームでもあんまりやり合った事ないから、どんな生態してたか思い出せん。

 雪山に出るような奴だったか?

 

 

 

 なんつーか…エシャロット曰く『強いよりもバッチいモンスターだった』だそうだが、まぁ確かに。

 テカテカとヌメってるのが一目でわかったし、リバースするし、リバースをぶつけようとしてくるし。

 しかも食った肉が気に入らなかったら暴れだす。

 タチの悪い酔っ払いみたいな奴だな。

 鳴き声も…なんかこう、咆哮はともかくとしてシャックリみたいに聞こえなくも無い。

 

 

 なんというか、劣化版イビルジョーみたいな相手だったなぁ。

 似ているのは食欲だけかもしれんが。

 少なくともイビルジョーは食ったモノを吐き出すなんて事はしないか。

 

 下位個体だったからか、それ程強くないのは救いだった。

 ヘタに攻撃に当たると病気になりそうだけど。

 リバースさせるような攻撃は控えた方がいいな。

 なんか知らんけどリバースすると動きが速くなっていたし、倒すだけなら余計な物を食わせない方が良さそうだ。

 

 

HR月『ディスガイアの敵強い…頭使わんと…』日

 

 樹海探索中。

 

 エシャロットも連れて、また一週間ほど泊り込みだ。

 随分野宿に慣れたなぁ、エシャロット…。

 最近じゃ、まだ教えてもいないのに寝ながら周囲の気配を探れるようになったようだ。

 

 にしても、この樹海はなんつぅか魔窟みたいだな。

 メゼポルタに比較的近い場所にある樹海だと言うのに、そこに生息するモンスターの数と種類はアホみたいに多い。

 冗談抜きで開拓地、未開の地のようだ。

 

 ちょっと探せばリオ夫妻をはじめ、デカい虫…というかランゴスタの女王だろアレ。

 ヒプノックにイャンガルルガ、エスピナスにデュラガウアは勿論、ゲームであったようなチャチャブーの集落まである。

 ティガレックスが居ないのが不思議なくらいだ……まぁ、アイツは小回りが利かないから、樹海のように障害物が多い場所は苦手なのかもしれないが。

 こりゃちょっと探せば、リオの亜種や希少種も居るかもしれんな。

 

 まぁ、流石に探して会いに行こうとは思わない。

 だが、ここの開拓は一筋縄ではいきそうにないな…。

 

 

HR月『レベル上げしたら一気に楽になった』日

 

 樹海の探索を始めて4日目だが……やっぱ人手が足りん。

 樹海みたいな場所だと特に。

 

 とくかく広いし、モンスターが隠れる場所が山ほどあるし、モンスター以外の生物の気配で溢れてるからなぁ。

 進むのにも結構苦労するんだコレが。

 予想外に厄介だったのが、チャチャブーの奇襲だ。

 とにかく隠れるのが上手い上に、それこそハンターが獲物を狩るかのような、明らかに急所を狙った攻撃を放ってくる。

 小さくて小回りが利いて、何処にでも隠れられる上、存外に素早くてタフ。

 あまつさえ、最初の一撃をこちらが凌いだら、とても追えないような細い道やルートを通って逃げてしまう。

 

 むしろ、暗殺者と表現した方が近いんじゃないかと思うくらいだ。

 と言うか、冗談抜きで狩猟民族だろアレ…。

 数が揃えば、リオくらいなら撃退できるんじゃなかろうか。

 

 よくよく考えてみれば、奴らは樹海で集落を作り、生活しているのだ。

 巨大生物に終われるなんて日常茶飯事だろうし、そういう意味では、むしろ人間よりも狩猟技術・サバイバル技術は高いのかもしれない。

 侮れん…。

 

 ふむ、最近やってないが、ドスランポスの声真似とかである程度意思疎通はできたんだよな、俺。

 チャチャブーとも交流を持てないかな?

 

 

 

 それより先に、エシャロットに声真似を会得させる方が先だろうか。

 あいつの音痴っぷりと肺活量なら、リアルにモンスターの咆哮(大)を再現できる気がしてならない。

 現状、少なくとも相手によっては音爆弾と同じ効力を出せるんだからな。

 

 

HR月『効率的なレベル上げないかなぁ…』日

 

 

 新発見。

 エスピナスの近く…それこそ密着しそうなくらいに近いところが、意外とキャンプに向いている。

 

 いや、エスピナスって怒るとヤバいけど、普段は温厚なんだよ。

 只管に寝てばっかだし。

 あんだけ寝てると、近くに居るだけでこっちまで眠くなってくる。

 

 キレたら見境ないけどな。

 

 そんなんだから、起こすのを恐れてか、小型モンスター達もあまり近寄らない。

 エスピナスを起こさないようにしてさえ居れば、割と安全な寝床が手に入るのだ。

 場合によっては、背中に乗って移動する事さえ出来る。

 空を飛ぶ時は、ちゃんと捕まってないといけないけどね……落下してもハンターなら無傷だ。

 これも自然を味方につけているって言うのかね。

 

 まぁ、時々エスピナスと他の大型モンスターのナワバリ争いに巻き込まれるけども。

 あと腹が減ってるとエサとして狙われる。

 

 

 

 以前考えていたリオレウスペット化計画だが、エスピナスの方が簡単なような気がしてきた。

 何せリオ夫妻に比べて温厚だ。

 妙な扱いをしなければ、寝てるかフラフラ歩き回っているだけだからな。

 

 まぁ、どっちにしろ大型モンスターを飼えるような施設は無いから、夢のまた夢だけどね。

 ペット狙ってみようかなぁ。

 だけど、ドスランポス程度じゃ飼ってもあんまり意味が無い。

 人間に比べれば強い力を持ってはいるけど、飼育にかかる手間を考えると…農耕馬として使うのはなぁ…。

 

 以前にポイクリ爺さんにも言われたが、生物を飼うって事を甘く見てはいけない。

 用済みだからポイ、なんて持っての外だ。

 

 

 

 さて、それはともかくとして。

 

 ここ暫く樹海で探索を続けていたワケだが、リオ夫妻の巣が発見された。

 と言うか、エスピナスを付回していたらその先にあった。

 どうやらこのエスピナス、意識してか知らずかは不明だが、リオ夫妻の巣を荒らしてしまったらしい。

 いや、荒らすと言うか不在の間に乗り込んで寝ていただけのようなんだが。

 

 リオ夫妻が戻ってきたところに、危うく遭遇してしまうところだった。

 エスピナスがグースカ寝ているのを尻目にさっさと隠れて様子を伺っていたんだが……いやぁ、なんというか神経が図太い事。

 自宅(?)に上がりこまれているのを見て怒ったリオ夫妻が攻撃を仕掛けていたんだが、平然と寝てやがんの。

 大樽爆弾を叩き込んでもまだ寝てる、って話は聞いた事があったが…リオ夫妻の突撃や火球を受けても平然としてるのは、流石におかしいだろう。

 ゲームであれば、モンスター同士の攻撃は理不尽なレベルで無効化されるが、これは現実だ。

 小型モンスターが、ハンターや外敵と戦って疲弊したモンスターにトドメを刺すという話も結構ある。

 

 つまり、リオ夫妻の攻撃も、妙な補正無しでエスピナスにダメージを与えている筈なのだが……。

 

 …いくらMHF仕様とは言え、いくらなんでも、頑丈すぎねぇ?

 コイツ、本当に下位か?

 色は緑だから亜種じゃない。

 剛種は………アレは特徴が違うのではなくて、単純に強いタイプって意味だったっけ?

 ゲームのMHFはそこまでやってなかったんで覚えてない。

 

 アレが上位ないしG級だとすれば、理屈は通るっちゃ通るんだよね。

 一説では、古龍とナワバリ争いやって勝ったなんて話があるような飛竜だ。

 そんなのが現れれば、暴れられる前に普通のモンスターは逃げるだろう。

 そして暴れだせば、そこに異変の現況があると分かる。

 

 しかし、エスピナスは大人しい。

 モンスターは一目散に逃げ出したが、当のエスピナスが大人しくしたままなんで、異変の元凶だと分からなかった、とか…。

 

 

 ちょっと苦しいか?

 あいつが上位個体だって事も、予測に過ぎない。

 他のエスピナスを見た事が無いから、判断に困るな…。

 

 何にせよ、アイツのおかげでリオ夫妻が苛立っているのは事実だ。

 エスピナスを排除してリオ夫妻を宥めるべきか、それともリオ夫妻の方を倒す方が確実か。

 微妙な所だ…。

 

 

 今回の狩りは、ここで一端終了としよう。

 村に戻って、パピ嬢と地主の嬢ちゃんにも報告しないとな。

 

 

 

 

HR月『Wikiで調べる ⇒ 20分後、そこにはレベル+30(3桁突入)された主人公の姿が…』日

 

 

 そういえば、メゼポルタの火山に眠っているラオシャンロンはどうなった?

 異変の元凶として第一候補に挙がる奴だが、今までの時間軸で言えば、もう活動を始めていてもおかしくないと思うんだが。

 俺がメゼポルタに居ないから、襲来が無いのだろうか?

 

 もしもそうだとするなら……むしろこの村の方に襲来してきそうでコワイんだが。

 

 

 ところで、エシャロットが「長期休暇が欲しい」と言い出した。

 狩りのペースには慣れてきてるし、休みもちゃんとあるだろう?(樹海の中での休みだったが)

 体調管理はハンターの義務みたいなもんだから、休暇も自分で管理するもんだから、休みを取るのは問題ないが…いきなりなんぞ?

 

 何でも、同期で訓練所を卒業したハンターから手紙が来たらしい。

 ここの所全く顔を見せてなかったし、皆の腕がどれくらい上がっているのかにも興味があると。

 

 そういう事ならいいよ、行っておいで。

 ついでに何人か勧誘してきてくれると助かる。

 

 

HR月『散髪の時間がもったいない…』日

 

 エシャロットが居ないんで、久々に独りで狩り。

 別に寂しいとも思わないが、やっぱ人手があった方が楽だな、とは感じる。

 

 パピ嬢に「久振りに二人っきりで狩りなのですよ」と言われたが、色っぽい展開は期待できんなぁ。

 パピ嬢から好意を向けられてるっぽいが、どっちかと言うと家族への感情と、ハンターという職業への憧れの混合状態っぽいし。

 まぁ、口説けばイケると思うけど、流石にお子様すぎる。

 見た目も中身も、千歳よりも更に年下だもんなぁ…。

 

 ま、それはともかく、樹海をウロウロしていたら、ちょっと気になるモノを発見した。

 デカい足跡。

 いや、足跡自体は珍しくないんだが、形がな…。

 

 結構大きな足跡で、4足、形、サイズ、歩き方、そして尻尾を引いたと思われる跡からして……多分、オオナヅチだと思うんだが。

 

 オオナヅチが足跡を残すか?

 ゲームのシステム的には、足跡なんて無かった。

 しかし現実では、場所にもよるが大型モンスターは大抵足跡…そうでなくても爪痕とか…が残る。

 

 が、姿を消しているオオナヅチは隠れるのに特化しているのか、沼地のような場所でなければ足跡なんぞ殆ど残らない。

 事実、先日やりあったオオナヅチは、足場が悪くぬかるんでいる沼地にいたと言うのに、ロクな痕跡を残していなかった。

 目の前にいた時も突進を避けた時も、足跡は全くできなかったのだ。

 

 原理はともかくとして、痕跡ができたら折角隠れている意味が半減してしまう。

 存在を悟られない為に、痕跡を残さないような能力があっても全くおかしくないが……何故、今回に限って?

 

 尾を引きずった跡を見るに、多分先端がチョン切られている…先日俺とやりあったオオナヅチだと思われる。

 う~ん、尻尾が欠けてバランスが崩れたのか?

 でも戦った時は、尻尾が無くなった後も足跡は付かなかったし……。

 

 移動の仕方も、オオナヅチらしからぬ強引な物だったように見受けられる。

 幾つか木を薙ぎ倒した形跡があった。

 結局、足跡は途中の川に差し掛かったところで途切れ……アイツ、泳げるんだろうか……、タカの目を以てしてもそれ以上追いかける事はできなかった。

 

 

 異変なのか何なのかよく分からないが、とりあえずこの近辺にオオナヅチがまだ居るのは確からしい。 

 気が抜けんな…。

 

 

 

HR月『ソーメンばかりは飽きる』日

 

 エシャロットが帰ってきた。

 微妙な顔して帰ってきた。

 

 何か合ったのが丸分かりだ。

 いつもの無駄に元気ドリンコな……もとい、無駄に元気フルブーストな笑顔が曇っている。

 分かりやすいな、こいつ…。

 

 

 俺が聞いてもはぐらかされたし、パピ嬢が聞いても「なんでもないよ!」と空元気だったんで、ポイクリ爺さんとムルカ君に探りを入れてもらった。

 どうやら、同期のメンバーに会いに行ったはいいが、少しばかり仲違いしてしまったらしい。

 しかも原因が俺だとか。

 

 

 言っちゃなんだが、メゼポルタの新米ハンター達の間で、俺は割りと悪い意味で有名らしい。

 曰く、『訓練所を卒業したばかりで全く実績も実力も無いのに、コネでギルドマスターになった奴』。

 

 …ギルドマスターつっても、開拓地のお飾りなんですがそれは?

 「パピちゃんに仕事を任せっきりなのは事実じゃろう」と言われるとグゥの音も出ないな。

 「しかもニケをモンスターの前に放り出しますし。ヘタしなくても重罪物ですよ」と言われるとグゥの音も出ないが、ムルカ君が相手の場合はヘッドロックが出るな。

 しかも開拓地で、人も全然集まってないって事は伝わってないらしい。

 悪事千里を走ると言うが、噂って悪い事ばっかり広まっちゃうもんな。

 

 

 しかも、聞こえてくる成果は新人らしからぬモノばかり。

 リオレウスを単身撃退したとか、ガノトトスを一本釣りしたとか、あまつさえ古龍と遭遇して尻尾を叩き切ったとか。

 

 何一つウソなど無いのだが、確かに訓練所を出たばかりの新米ハンターがそんな事をやれるか、と言いたくなるな。

 コネでギルドマスターになったと思われている事もあり、完全にホラ吹き野郎と思われているらしい。

 どーりでハンター募集しても全然集まらない訳だ。

 

 

 

 で、そこに所属しているエシャロットを、同期のメンバーが心配していたらしいのだが……当のエシャロットにしてみれば、噂は法螺どころか完全に事実。

 コネでギルドマスター云々は、単に人が居なかったから押し付けられただけ(仕事はパピ嬢に押し付けているが)。

 「新人なんて絶対ウソだ」と常々思っていた事もあり、周囲の認識を正そうとするついでに色々愚痴を言ったりしたらしいのだが、そっちの方こそ信じられなかったらしい。

 狩場に一週間泊り込みだの、エスピナスに乗って飛んだだの…。

 

 仮に事実なら事実で、どう考えたって自殺志願者かキ○ガイの所業でしかない……まぁ全部事実で俺の仕業なワケですが。

 

 「エシャロットがウソを言うとは思わないけど、流石にそれはちょっとな~」って顔をされたんで、エシャロットも意地になったらしい。

 急遽4人でガノトトス討伐のクエストに向かい、俺直伝・釣りカエルで実際にガノトトスを釣り上げて見せたそうな。

 更に、川に戻ったガノトトスに対しては、自前の音波砲まで使って見せたとか。

 

 あいつも結構やるようになったなぁ…。

 

 

 で、そこで更に問題発生。

 いや問題と言うのもおかしいかもしれんが、とにかく一緒に狩りに行ったハンター達のレベルが低いらしい。

 装備もそうだが、それ以前に動きが遅い、段取りが悪い、狙いが悪い、周囲への警戒が薄い、その他諸々。

 

 つい先日までエシャロットと同程度の能力…というか訓練所を卒業したばかりのルーキーだったのに、2ヶ月もしない間に随分と差が出来てしまったらしい。

 それだけレベルアップしているのだ。

 デスマーチ(初級)とかでヒィヒィ言いながら訓練をこなした結果なんだし、恥じる事も無いんじゃね?

 と思ったんだが、チームワークが乱れそうなのがイヤだとか。

 

 確かに、突出した戦力が一人だけ居ても、連携が乱れるっちゃ乱れるが……ずっと一緒にいたとかならともかく、エシャロットはここ暫くで急激に成長した形になってるし。

 即席教育だったのは否定できんな。

 俺とエシャロットくらいしかハンターが居なかったから、連携能力がロクに鍛えられてない。

 

 

 仲良し4人組だったそうだから、このまま疎遠になったりしないか、逆にエシャロットに追いつこうとして無理をしないか心配なんだろう。

 …以上、ポイクリ爺さんとムルカ君の漫才によってエシャロットから聞きだされた情報でした。

 

 

 

 

 どうしたもんかねぇ。

 

 いや、俺がコネでギルドマスターやってると思われるのは、別にいいんだ。

 新人が中々入ってこないという弊害はあるけど、恐らく近い内に発生するであろうラオシャンロン戦辺りで、精々派手に暴れて汚名返上すればいい。

 この手のデマは、実際に覆して見せないと晴れようがない。

 無理に掻き消しても、再発するだけだ。

 

 が、エシャロットはなぁ…。

 話を聞くに、かなり仲のいい同期の仲間だったようだし、それが失われるかもしれないってのは大問題だろう。

 俺のようにデスワープで消えてしまう事前提の人生を送っている訳でもなし、狩りという命がけの現場で迷い無く背中を預けられる人間は、確実に一生モノの宝だろう。

 だからと言って、エシャロットに気を使って加減しろ、なんて言うのもおかしな話だし…。

 

 

 多分、その3人は今でも、エシャロットから聞いた俺の話については半信半疑だろう。

 相当なレベルアップを果たしていたエシャロットだが、それを踏まえても俺の奇行(自分で言うのもなんだが)はウソ臭いものばかり。

 万人に信じさせるのは不可能、エシャロットの知り合いだけでも信じさせるのは難しいだろう。

 

 

 …これが逆に、ベテランハンターくらいの経験を詰んでいれば、「そういう事をやる奴も居る」って思うようになるんだが。

 人間にせよモンスターにせよ、奇行をあげればキリがないからなぁ、この世界…。

 

 素人ではなく、玄人ほどイカれた噂を信じやすいってのもおかしな話だが。

 

 



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72話

すみません、後書きでちょっと愚痴りますので、そこだけ飛ばしてください。
文章にして人目に晒すと楽になるって本当なんだな…。


 

 

HR月『目を閉じて筋トレすると、筋肉の動きがより分かりやすい…気がする』日

 

 エシャロットからの朗報です!

 村に移住してくる人が1人居ます!

 

 …と言っても、ギルドから派遣された職員なんだけどね。

 エシャロットがメゼポルタのクエスト受付所に顔を出した時、ギルドのお偉いさんから伝えられたそうだ。

 どんどん成果を上げて開拓を進めているから、今のままだと人手が足りなくなるだろう…という話だった。

 

 正直言って、遅いよ!と叫びたいくらいだったが、まぁ人が来てくれるだけマシか。

 ギルドの人は、俺達が狩った獲物の成果を自分達で確認しているので、エシャロットから聞いたハンター達のようにホラ吹き扱いはしていないらしい。

 が、それでも開拓地送りなんて、普通に罰ゲームである。

 中々希望してくれる人が現れなかったらしいが……その人は何でまた希望してくれたのやら。

 

 …貧乏くじ引いたのかね?

 まぁ、折角来てくれるんだし、詮索はするまい。

 来てよかった、と思ってくれるように頑張るとしますか。

 

 

 

 

HR月『ソーメンだと思ってたらソバだった』日

 

 エシャロットの友人関係をどうするかと考え込んでいたら、本人の方から提案が来た。

 友人を村に呼んでいいか、というものだ。

 ここに住むとかの話ではなく、自分達が作っている村を見てもらいたいらしい。

 

 確かにガワだけはそこそこ出来上がってきたもんな。

 しかし、どー考えてもそれはワザマエ…もといタテマエ。

 「信じられないなら、マスターの奇行を実際に見せよう!」って考えが丸見えだ。

 

 自分の言う事が信じられなかったからムキになっているのか、それとも村を作っている皆の努力がナメられているのが我慢できないのか。

 

 まぁ、どっちにしろ断る理由は無い。

 二つ返事でOKを出した。

 

 

 …さて、エシャロットの友人達が来たら、何をするべきか。

 エスピナスに乗ってまた飛ぶのもいいが、アレはエスピナスの機嫌次第だからな…。

 ドスランポスくらいなら、その場で従わせられるか。

 鳴き真似で交渉して、肉を代価に足代わりに使うくらいは出来るぞ。

 ユクモ村では、実際にガーグァを手懐けたし。

 

 だがそれだけではパンチが足りん。

 

 歓迎の一発撃が何か無いモノか……ありもしなかった芸人魂が無性に疼いて困る。

 スベるのはイヤだが、何もしないのはもっとイヤだ。

 既にエシャロットが、ガノトトスを釣り上げるという大技でハードル上げてやがっからな…。

 

 う~ん……奇行…奇行…ネタが欲しい…。

 

 

 

HR月『ゴムの伸びたパンツやズボンを履いて、「ちょっと痩せた?」と思ってみる…虚しい』日

 

 ギルドから派遣された職員と、エシャロットの友人達がやってきた。

 早いな。

 フットワーク軽すぎぃ!

 まだネタも無いのに!

 

 ハンターはまだ分かるよ。

 こっちに移住してくる訳じゃないから、装備を纏める必要もない。

 お気に入りの装備だけ持ってくればいい。

 道中でモンスターに襲われても、自分達で対抗できる。

 

 が、ギルドの職員は違う。

 この村に住み込みになるから、私物を持ってくる必要だってある。

 道中の護衛は…まぁ、エシャロットの友人達が偶然一緒になったから省けるとして。

 

 

 

 と言うか、見知った顔なんですけど職員サン!

 特徴的な髪型。

 微妙にイントネーションがおかしい言葉遣い。

 眠そうな目と、腰から下げたヴォルガノスのアクセサリ。

 

 

 ユニスじゃん。

 

 以前のループでは彼氏彼女の関係だった。

 まぁ、胸張ってそう言える関係だったかと言うと、微妙にそうでもないが。

 お互い、本当に他人を好きになるって事が無さそうな人間だったからね…。

 

 お互いに酔った勢いでイタして手篭めにし、そのまま弄ぶというか愛でると言うか、そーいう関係だったと言ったほうが正しい。

 それでもお互いの事は理解して、それなりにイイ関係を築いていると思えた。

 

 

 

 

 

 今では俺の方しか覚えてないけどね!

 

 

 

 

 ループの為とは言え、これは色々な意味で気まずいな。

 GE世界や討鬼伝世界もそうだったんだが、なんというか…分かれた彼女と再会したら、相手がキレイサッパリ自分の事を忘れていた、ような?

 これで彼氏が居たら、立ち直るのに時間がかかりそうだな。

 まぁ、幸いにしてフリーのようだが。

 

 何で分かるかって?

 今となっては一方的にとは言え、ユニスの事は性格から体までよく知ってるからな。

 あれで結構、アクセサリとかには気を使うタイプだし……主にヴォルガノス系のアクセサリだが。

 俺と付き合っていた時期の装いや姿勢と比べれば、少なくとも現在深い関係のある相手が居るかどうかくらいは検討が付くよ。

 

 

 すっごい気まずいけどね。

 あっちにしてみれば、初対面のオトコにそんな事を見抜かれている、知られているなんて気分が悪いってもんじゃないだろう。

 

 …あんまり接触しない方がいいのかなぁ。

 今日初めて顔を合わせた時は、何とかビックリした顔も隠し通せたと思うけど。

 

 いやでも折角きてくれた職員兼住人を避けるような事はしたくない。

 それ以前に小さな村というか集落だから、避けて生活しようと思ったら、それこそ狩猟に出ずっぱりにならなければ。

 …出来ない事もないけどさ。

 

 そういや、前回ループでも1回だけ会ってたんだよな。

 会ったというか人ごみの中ですれ違った程度で、ユニスにしてみれば俺の顔さえ認識してなかっただろうけど。

 

 

 

 …色々考えてみたが、結局のところはいつも通りか。

 デスワープして、全てリセット。

 アリサの時も那木の時も、ジーナさんやら橘花やらの時だってそうだった。

 俺が気にしててもしゃーないわ。

 

 

 …今にして思うと、前回討鬼伝世界の橘花と千歳のコンビはヤバかった気がする。

 あのまま成長させていけば、最終的には二人で俺のケツの穴を狙ってきたんじゃあるまいか…。

 

 

 

 ま、ユニスとは機会があったらまたドロドロした仲になるのも良し、そうでなければ良き隣人を目指し、最低でも仕事上での信頼を得られる事を目指しますかね。

 

 

 それよりも、ユニスと一緒にやってきたエシャロットの友人達の方が優先か。

 今は全員揃って、酒飲みまくってグースカ寝ている。

 ユニスの歓迎会も兼ねて、派手に宴会したからなぁ。

 

 明日からは、今日使った分の食料を補填する為、狩りに精を出さなきゃなるまいて。

 精々噂に違わぬ奇人っぷりを発揮させて、エシャロットの友人関係がいい方向に向くよう祈るとしましょう。

 

 

 

 

HR月エシャロット視点日

 

 

 おはよう!

 私はエシャロット。

 メゼポルタの開拓中の村で絶賛ハンター活動中の、元気印の新米ハンターだよ!

 好きな物は元気ドリンコ、嫌いなものは私を音波兵器扱いするギルドマスターかな!

 

 いつかブッ飛ばすよ。

 

 子供の頃、迷子になった私は通りすがりのハンターに助けてもらったんだ。

 そのハンターさんとは一悶着あったり色々あったんだけど、自分もあんな風に誰かを助けられるハンターになるんだ!って思って頑張ってきたんだ!

 

 だから、訓練所を卒業したばかりの時に、メゼポルタのギルドの人に「助けを求めているハンターが居るんだ」って言われて、二つ返事でこの村に所属する事になったんだけど……思い返すと、騙されたような気がするね。

 確かに人手が足りないからって、パピちゃんやギルドマスターは困ってたみたいだけど、私が助けたかった状況とはちょっと違うと言うか。

 それにギルドマスターだって、私と同じで訓練所を卒業したばかりの筈なのに、とんでもない腕利きのハンターだった。

 私の助けなんて要らないんじゃない?とかなり本気で思ってしまうくらいに。

 

 アレで駆け出しハンターっていうのは絶対にウソだと常々思っている。

 

 

 でもハンターとしてレベルアップするチャンスなのは確かだよね! 

 実際、ギルドマスターについて狩りをするようになってから、どんどん自分が強くなってるのが分かるから!

 その自信が危ない、っていうのも含めてね。

 

 ま、それくらいの成果がないと、この村ではやっていけないよね。

 なんだか知らないけど、素直に狩猟が終わった試しが無いし。

 予定外のモンスターが乱入しまくるし、しかも最初っから最後まで怒りっぱなしな事も珍しくないくらいだし。

 もう、ホントにワケがわからないわよ。

 

 

 

 それはおいといて、人としてはちょっとアレなマスターだけど、ハンターとしての腕は本気で信頼している。

 噂に聞くG級とかギルドナイトにもなれるんじゃないの?と思ったんだけど、マスターには真顔で否定されてしまった。

 

 「あそこまで突き抜けるのは、実力的にも性格的にも無理」って言ってたけど、そういう人達と会った事があるのかな? 

 実は元ギルドナイトで、経歴を隠して一般ハンターに身をやつしているとか?

 そう考えると、訓練所を卒業したばかりなのにあんなに強かったり、いきなりギルドマスターになってる説明もつくね。

 

 ま、本当にそうだったとしても、それで何が変わる訳じゃないよね。

 マスターは私達のギルドマスター。

 とっても強くて、時々…いや頻繁…常に…えーと、とにかくヘンな事をやらかす、見ていてとってもドキドキするハンターです!

 人としてはどうかと思うけど。

 …なんとなくだけど、マスターは色に溺れて転落するタイプに思えるなぁ。

 

 と言うか、ムネがドキドキするというかドキがムネムネするって表現した方が正しい気がする。

 

 

 そんなマスターに連れられて、私やパピちゃん、それにニケちゃんもよく狩場にやってきています。

 本当はやっちゃいけない事の筈なんだけど、マスターが「笑顔がステキならなんだって大丈夫!」と言い切ります。

 うん、それなら大丈夫だね!

 一時期ニケちゃんが死んだような笑顔になってたけど!

 

 

 それにしても、開拓って面白いんだね!

 元々はレベルアップの為にギルドの人たちが持ってきた話を受けたんだけど、今はそれ以上にこの村が好きになってきてるよ。

 何から何まで自分達でやらなければいけない状況だけど、こう、自分達でやってるんだ~っていう実感が物凄くある。

 普通のハンターは、きっと農場の設備を一から作るなんて事やらないよね。

 それは職人の仕事だし。

 まさか、ハンターになってから最初の仕事が狩りじゃなくて、農場作りだとは思わなかったよ。

 今となっては、農園の柵や農具は勿論、簡単な家だって建てられちゃうようになったんだ。

 ハンター引退しても、大工としてやっていける…というのは、流石にちょっと言いすぎだけど。

 

 

 えー、そんな状態だから、私もこの村がどんどん好きになってきてたんだ。

 

 だから、かなぁ。

 メゼポルタの皆に再会した時、マスターや村がどんな風に思われているのか聞いて、本当にショックだった。

 

 マスターがホラ吹き?

 コネでギルドマスターになった、ハンターの風上にもおけない奴?

 

 バカ言っちゃいけないよ。 

 そりゃ、マスターは信じられないような事をよくやるよ。

 信じられないのも仕方ないとは思う。

 

 だけど、マスターはそれ以上に村を頑張って発展させようとしてるんだ。

 見ず知らずの相手だからって、そんな風に侮辱されていいような人じゃない。

 それが私の友達なら尚更。

 

 尊敬……どっちかと言うと畏怖だけど……しているマスターを、噂だけで友達が判断して、嫌悪するのはとてもとても哀しい事だ。

 

 だから、久しぶりに会った同期の皆との狩猟そっちのけで、マスターがどんな人なのか必死で伝えた。

 

 

 

 

 余計信用されなかった。

 

 かなーりショックだったけど、改めて考えてみると当然の結果だったような気が…。

 いやでも幾つか実例を見せたのになぁ。

 具体的には、その後に皆で狩りに行った密林で、崖の上から飛んで平然と着地してみたり。

 野宿している間にも、寝ていたのにモンスターの襲来にすぐに気付いたり。

 

 何より、マスター直伝のガノトトス一本釣り!

 いやー、挑戦するのは初めてだったけど、上手くいってよかったわ。

 失敗したら逆に釣り上げられてパックンチョ、なんて事もあるらしいし。

 マスターが一回、本当に丸呑みにされかけたんだって。   チッ

 

 

 

 その甲斐あって、「ホラ吹きを庇う事ないでしょ」から、「エシャロットがこんな風になってるんだし、いくつかは本当かも…」くらいに改善された。

 その代わり、皆が私を見る目が、得体の知れない怪物(になりつつある)を見る目になってる気がするけど…。

 

 いや、確かに一気に成長した自覚はあるよ?

 マスターに散々狩りに付き合わされたし、訓練所卒業当時では考えられない事も幾つかできるようになった。

 その筆頭が、皆にも見せた高所からの無傷着地なんだけどね。

 

 今ひとつ原理の分からない、ハンター式肉体操作術で実現してるんだけど…あんな事ができるようになるなんて、訓練所では全く教えてくれなかった。

 メゼポルタとかの、所謂「名門」の訓練所なら出来て当然らしいんだけど、色々な意味でカルチャーショックを受けた。

 

 と言うか、あんな事をホイホイ教えていたら、ハンターになる前に訓練生の8割は墜落死すると思う。

 それを出来るようになっちゃった、私も私だけどさ。

 

 それだけじゃなくて、他の皆との狩りの腕が、明らかに差が付いていたのもショックだった。

 みんな駆け出しハンター、いや訓練生のハンターだったから、上とか下とか考えない、気楽な狩り仲間だったのに。

 

 嫌いになった訳じゃないんだけど、みんなの動きに不満を感じるようになってしまった。

 動きが遅い。

 判断が遅い。

 狙いが甘い。

 段取りが遅い、準備が足りない、緊張感が足りない、警戒がなってない、その他諸々。

 

 みんなの腕が鈍っているとかじゃない。

 明らかに私一人が別格(と言ってもルーキーの中では、だけど)になっていただけだ。

 

 だからって、私がアレコレ言うのも空気が悪い。

 と言うか悪くなった。

 皆、上も下もない関係だった、つい先日まで同レベルだった私から、上から目線(に感じられたのかもしれない)でアレコレ指示されて、気分がいい筈が無い。

 

 

 

 強くなったのは喜ばしい事の筈なのに、私は疎外感を感じていた。

 

 

 

 でもそんな事で拗ねる私じゃない!

 元気ドリンコ飲めば、マイナス思考も一発矯正!

 5本くらい一気飲みして水腹になっちゃったけど、解決策も思いついたからモーマンタイ!(マスターが教えてくれた言葉だけど、どこの方言だろう?)

 

 

 考えてみれば当然の事だったよね。

 私一人が強くなったのが悪いなら、皆で強くなればいい!

 (デスマーチの道連れが欲しい訳じゃないよ!)

 ハンター的に考えて、腕が上がるのは大歓迎だし!

 (人外への道、皆で飛び込めば集団自殺!)

 

 みんなを村に招待しよう。

 私達が作っている村を見て欲しいっていうのもあるし、ひょっとしたら一人くらいは村に留まってくれるかもしれないしね!

 

 さぁ、帰ったらマスターに相談してみよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相談したらOKを貰えたのはいいんだけど……やるかどうか迷っていたらしい、デスマーチ中級編の開催が急遽決定されてしまったわ。

 勿論、私も皆も強制参加枠。

 

 その名も、「ドキッ! 丸ごとレベルアップ!! 奇襲だらけの密林サバイバル大会」。

 色々な意味でヒドいタイトルだけど、デスマーチ初級編を卒業した私としては、嫌な予感しかしないタイトルだ。

 

 初級編が、自然の中で生き延びる為の訓練だったから…今度は多分、強い敵を狩る為の訓練か、乱入してきた強敵を煙に巻く訓練だと思う。

 …最近、狩りに行けば乱入祭な私達だけど、流石に訓練に丁度いいような相手が乱入してくる保証なんかない。

 

 という事は…。

 

 

 

 

 

 モンスター役のマスターが、奇襲をかけてくるって事だよね…。

 

 

 すっごいイヤな予感がして、まさかと思って聞いてみたら、見た事もないような輝く笑顔を見せてくれた。

 …笑顔は大事だけど、不安をぶっ飛ばすのにとっても大事だけど!

 人を何よりも不安にするのも笑顔だなんて、知りたくもなかったよ!

 

 泣けてきた!

 元気ドリンコもう一杯!

 

 …プハッ、よし笑顔!

 

 

 ものっそい不安になったけど、ロクでもない事にしかならないという確信もあるけど!

 その分、みんながレベルアップするから問題ないよね!

 ちょっと恨まれるのも覚悟の上さ!

 

 まぁ、真面目な話、多分マスターの事だからあれやこれやの奇想天外な手段で奇襲しまくってくると思う。

 最低限、断崖絶壁の上からの急降下(マスターが尊敬している『かっか』って人のモノマネらしい)と、チャチャブーみたいに地面に埋まるドドン・ジツは確定している。

 それを見れば、マスターの関して流れている噂が……デマじゃなくて事実だってイヤでも理解できるでしょ。

 噂がウソじゃなくて、事実だと証明するのに苦労するのも珍しい…。

 

 

 とにかく、皆には悪い事をしたと思っているけど、私達のマスターをバカにしていた報いと思ってもらおう。

 噂話しか判断基準が無かったんだから仕方ないとは思うけど、それだけを元にして情報の裏付けを取らなかったのは事実だ。

 そんなんじゃ、巷で流れているモンスターの俗説とかに踊らされて、エライ目にあっちゃうよ?

 私だって、討伐対象のモンスターに限らず情報収集は怠らなくなっちゃったからね。

 ま、コレも訓練の一環って事で。

 

 

 

 

 

 

 

 皆が村にやってきた!

 ギルドから派遣された職員さんも一緒!

 私が何も言うまでもなく、派手な歓迎会になったよ。

 それだけ歓迎してるんだよね。

 何せ、移住希望者なんてずーっと話にも出なかったんだから。

 

 ユニスさんっていう、ヴォルガノスがとっても大好きな人だった。

 あのアクセサリ、何処で売ってるんだろう…。

 あとマスターの知り合いなのかな?

 顔を見た時、ちょっとだけど驚いていたような…。

 

 そうそう、私の同期の皆も紹介しておかないとね!

 

 一番、ランス使いのシルキー!

 ガラス細工の加工が趣味だよ。

 

 二番手、弓使いのナモナ!

 とにかく楽しい事が大好きで、狩りの時も面白いかどうかが最優先!

 マスターと混ぜたらどうなるのか、メッチャ不安だね!

 …パピちゃんと一緒に、絶対阻止の方向で動いてます。

 

 三番手、ヘビィボウガンのクラリス!

 よく居酒屋でお酒呑んでるよ。

 飲み仲間の3人と一緒に居る時に話しかけたら、絡まれるから注意してね!

 

 

 そして私を加えた4人で、新人4人衆。

 …歓迎会でハメを外しすぎて、村の備蓄がかなり消えてしまいました。

 こ、これって私達のせい…?

 

 いや、確かに歓迎会するんだからって事で、予め食料その他は多めに溜め込んでいたし、終わった後にも補充にいくつもりだったけど。

 この分だと、マスター主催の「ドキッ! まるごと暗殺! 気が付いたら人が少なくなっている密林ホラー大会」ついでに、生肉とか狩らなきゃいけなくなりそう…。

 マスターの妨害に怯えながらか…。

 

 

 うん、皆のトラウマにならない事を祈ろう。

 まぁ、トラウマになったらなったで、狩りの時はイヤでも油断しなくなる…と言うか油断『できなくなる』から、結果オーライなんじゃないかな、うんきっとめいびー。

 

 

 

 

 

 そういう訳なんで、今日は同期の皆と一緒に狩りです。

 皆もちょっと食べ過ぎたと思っていたらしく、食料備蓄を手伝うのに文句は無いそうです。

 

 でもそれがサバイバル訓練の一環っていうのは、よく分かってない顔をしていた。

 

 まぁ、そりゃそうだよね。

 食料が目的だって言っても、モンスター達の相手をする事には変わりないんだし、その真っ最中に妨害染みた事をするなんて、ハンターは勿論人としてどうかってお話だ。

 命がかかった現場で無駄に茶々を入れたり、面白半分でおふざけをされるようなものだ。

 歓迎なんかされる筈ないし、むしろ排除されて当然。

 

 …でもね、マスターがやると、茶々とかおふざけとか、そんなレベルじゃなくなるのよ。

 「モンスターと戦っている時には邪魔をしないから」と言ってたけど、そもそも戦うまで保つかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案の定、戦う前に全滅してしまった。

 

 練磨の密林に踏み入って10分後、既に脱落者1名。

 奇襲は3度受けて、その内2度は何とか防ぐ事ができた。

 ついでに言っておくと、マスターが奇襲をかけたのは、私達…もっと正確に言うなら、他の3人…が死角のモンスターに気付かず、攻撃されそうだった後。 

 そのモンスター自体はマスターがこっそり狩っていた…というか音も立てずに暗殺していた。

 つまり、形はどうあれマスターは私達を助けていた訳だから、後から文句を言われても、「本物のモンスターに奇襲されるよりマシ」というタテマエが成り立つ訳ね。

 …パピちゃんの発案かな?

 ヲノレ ヨケイナコトオ

 

 ともあれ、一度目の襲撃は明らかに手抜き。

 ガサガサと音を立てて、これから襲撃しますよっていうのを教えてたから、奇襲と呼べるかも怪しい。

 私達が気付かず通り過ぎてから音を立てたんで、警戒する皆を他所に、私が迷わず攻撃。

 私はマスターがそこに居るって気づいてたからね。

 マスターは私の大剣を受け流して、私達を狙っていた(勿論マスターが暗殺済み)ランポスの死体を指差して、また茂みの中に消えた。

 

 二度目の襲撃は、ファンゴの大群だった。

 どこからあんなに連れてきたのやら。

 あと先頭を走っていた大きなファンゴ(ドスファンゴじゃないと思う)の右目に刀傷があったように見えたんだけど、マスターの仕業かな?

 ちなみにそのファンゴの背中に乗って、腕組みして支えも無しに平然と直立していたのが印象に残っている。

 唖然としている皆に対してボウガンで一撃。

 私が弾いてガードした。

 ファンゴの群れは、そのまま走り抜けていき、直線状にいたイャンクック(背後から狙われていた)に突撃していった。

 

 

 三度目の襲撃は崖の上から。

 ここまで来ると、皆マスターがどういうナマモノなのか理解していたんで、しっかりと周囲を警戒していた。

 でもまだ甘い。

 警戒が緩いし、何よりマスターの奇行を考えると、単に武器防具を構えてりゃいいってもんじゃない。

 

 殺気がした(マスターの隠密レベルを考えると、明らかにわざとだ)んで上を警戒。

 崖の上から私達を狙っていたらしいババコンガが転がり落ちてきた。

 それと同時に、マスターが崖上からフライアウェイ。

 唖然としているナモナの背後に着地すると、有無を言わせず首をキュッと。

 

 …モンスターに例えれば、首筋に噛み付かれたようなものだ。

 まず一死。

 

 ナモナを担いで、マスターはまた消え去った。

 急いで追ったけど見つからなかった。

 

 流石にナモナに何かするとは思わないから、多分ベースキャンプに寝かせているんだろう。

 一端戻って合流しよう、という結論になった。

 

 

 そしてキャンプに戻るまでの間に、シルキーが消え去っていた。

 今度は私も気付かなかった。

 これで2死。

 私もまだまだ甘い。 

 

 隠れる場所が多い密林の中に居ては、奇襲を防げる筈も無い。

 ベースキャンプに向けて、クラリスと二人でダッシュする。

 のだけど、当然それは予測されていたらしく、人間向けの落とし穴が幾つか仕掛けてあった。

 …シビレ罠を使わなかったのは気遣いなのかな?

 いやでも私も一回喰らっても平気だったし…。

 

 とにかく、落とし穴を避け損ねたクラリスは、今度は空高くに舞い上がっていった。

 どうやら穴の中に何か仕掛けがあり、それが発動したらしい。

 空に消えていくクラリスの足に、ロープが付いていたのが見えたから…多分、何処かの木とかに結わえておいて、木の弾性とかを利用したんだろう。

 3死。

 クエストだったら報酬無しだ。

 

 その後、狙撃を2回受けた(避けたら近寄ってきていたランゴスタやカンタロスに直撃した)けど、何とか無事にベースキャンプに戻れたよ。

 キャンプには3人がちゃんとして、もう起きていた。

  

 

 

 

 正直に言えば、「こんな状況で狩りなんかやってられるか!」って状態だったと思う。

 実際、人間に襲われながらモンスターと戦うなんて気が狂っている所業だ。

 

 でも、皆の意見は真逆だった。

 

 「やったろうじゃないの!」とはクラリスの言。

 

 意地になってたんだろうね。

 内心実力を疑っていたマスターに軽々と叩きのめされて、悔しいやら恥ずかしいやら、といったところか。

 

 私としては反対する理由は無い。

 どうせ近い内にこのデスマーチは強制参加確定事項だったんで、道連れが増えるのは素直に嬉しい。

 友達を地獄に連れ込んで嬉しいのかって意見もあるだろーけど、これが友情パワーってやつじゃないの?

 マスターが言ってたユデリロンによると、色々な形の友情があるらしいし。

 

 ま、実際私としては、マスターへの認識も改めてくれるし、また一緒に狩りにいけるようになるくらいにレベルアップしてくれるんだから、否がある筈ないよね。

 

 さて、そういう訳で張り切っていこうか!

 マスターの奇行に惑わされないように、気をメッチャ強くもっていこう!

 例え脈絡も無く地面の下から這い出てこようと、ドスガレオスと一緒に湖で泳いでいようと、鳴き真似でイャンクックと意思疎通していようと、何の前触れもなく古龍と戦っていようと動揺したら負けだからね!

 

 

 

 

 

 古龍は流石に無かった(前例はあったけど)けど、飛竜となら戦ってたよ。

 イャンクックじゃなくて、陸の女王の方と。

 …うん、火球をハンマーで打ち返したって、今更あんまり驚かないね! 私はね! 皆は唖然としてたけどね!

 

 

 

 結局、私も含めて一人につき10回以上死んで、今日のサバイバル訓練は終了となった。

 精根尽き果てたみたいだから、明日は村でオヤスミかな。

 皆はメゼポルタ所属のハンターだから、いつまでも村に居られる訳じゃないし。

 

 

 私は明日もまだ訓練続行だけどね!

 皆も早く復活して精進しないと、また私だけ強くなっちゃうZO★

 

 

 ……疲れたから今日はもう寝るよ。

 

 

 

 

 




UFOキャッチャーで取れないから金返せとか言う客、初めて見たわぁ…。
しかも断ったら怒鳴り散らすチンピラ。
色々理屈ごねてたけど、別のテナントだから設定とか知らんつーの。

あの性格でどうやって生活してんだろうなーと呆れて軽蔑してましたが、ふと思いつきました。
金の問題はともかく、アレって課金したけど欲しいカードが出なかったオンゲプレイヤーの気分なんじゃね?と。

確実に出る!と(勝手に)確信して課金。
出ない(景品を取れない)悔しさを運営(店舗)に向ける。
当然相手にされない。
もっと怒る(そしてカードは出ない)


或いはこうか。


モンハンで激レア素材出ねぇ!
いや出た!
でも見間違い。
が、それを認めず「いーや確かにあった!バグだ!謝罪と買収を要求するニダ!」
一人で騒いで、ネットのレビューでゲームを貶す。


行動の如何はともかく、俺だって実生活には意味も無いゲームに熱中して一喜一憂しているし、ゲーセンの何百円かで大騒ぎする人の事を強く言えない気が…。


…でも思いつきはしたけど、やっぱ欠片も同情できんわ。


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73話

前回は失礼しました。
何とか立ち直れました。
ありがとうございます。



さて、EXP+900までは作れたし、目指すか…修羅。
しかし、悪しき憑依心はクリアしたが、修羅出現の為のクエストの適正レベルが分からないなぁ。
キリちゃん一人だけ2000くらいなんだけど、行けるかな…。



 

HR月『唐揚げが3日でカビだ…orz』日

 

 

 サバイバル訓練一週間経過。

 と言っても、最後まで喰らいついて来たのはエシャロットだけだったが。

 エシャロットの友人達は、2日目途中でダウンし、その後何やらメゼポルタギルドからの呼び出しが来たらしく、そのまま帰っていった。

 呼び出しがくると分かっていれば、2日目は参加させずに休養させてたんだけどな。

 

 まぁ、10秒後の事なんて分かる筈もないし、もしもの話をしても仕方ないけどさ。

 

 

 にしても、世間一般のハンターはアレが基本レベルなんだろうか?

 俺だってループ最初の頃は、自分で言うのもなんだが今のレベルに到達するなんてとても思えないような貧弱君だったが。

 一般ハンターの実力がどれくらいなのか、基準が分からん。

 明確に数字で表せるようなもんじゃないのは事実だが。

 

 こう言っちゃなんだが、俺の奇行に戸惑っていた部分を差し引いても、何と言うか、鈍い…。

 そしてスタミナが少ない。

 事実、エシャロットがこの村で生活するようになって、目に見えて尤も伸びたのはスタミナだ。

 最初の頃は長時間労働が苦手でヒィヒィ言ってたのにな。

 

 

 

 それはさておいて、ギルドから来た受付嬢…ぶっちゃけユニスだが、流石にいい仕事をする。

 パピ嬢もよくやってくれていたが、やはり見習いだったからなぁ。

 流通が格段に良くなった。

 パピ嬢が落ち込んでいたがユニスに言わせるとたった一人でここまで保たせていた方が余程スゴイ、らしい。

 幾らか社交辞令も入っているだろうが、年齢を考えるとパピ嬢はマジで優秀だもんな。

 

 その代わりに、パピ嬢に仕事を丸投げしていた俺には冷たい視線が飛んでくるが。

 

 まぁ仕方ないよな…その分俺は狩りで頑張っていたとは言え、それは所詮日常の延長に過ぎなかったし。

 自業自得だ。

 かつては付き合っていた関係のユニスからそんな目で見られるのは割りと辛かったが、流石にもう慣れた。

 別人だって折り合いもついたしね。

 だからって、蔑まれてOKって訳でもないけど…。

 

 

 

 さて、諸々の事は後に回すとして、サバイバル訓練中に気になる事が幾つか出てきた。

 例によって例の如く、妙な行動を取るモンスターだ。

 エシャロット達を狙っていたんだが、なんかこう、普段と雰囲気が違った。

 イャンクックとかはエシャロット4人組でも対処できそうだったけど、なんかヤバい予感がしたので何もさせずに狩っていた。

 …というか、イャンクックを初めとした大型のモンスターが、エシャロット達に気付かれなかったって時点で異常確定なんだけどな。

 

 霊力…なのかなぁ?

 それらしい気配は無かったし、倒した奴らを回収しても霊力が宿っていた形跡は…まぁ、普通の生物程度で、特に強い訳じゃなかった。

 

 

 

 

 その代わりに、倒したら口から僅かに黒い煙みたいなのが出てきたけどね!

 ビクンビクンとヤバげな痙攣も始まったんで、即座に頭を跳ねた。

 

 

 

 おい、これってヤバくね?

 霊力がどうの、オオマガドキがどうの、終末捕食がどうの以前の問題じゃね?

 

 これってアレだろ、明らかに狂竜症!

 実物を見た事もなければ、ループ前のゲームでも見た事は無い、ついでにロクな文献も読んだ事はないが、確か人間にも感染し、モンスターがかかると倒した後に復活するようになるんだっけ?

 洒落にならんって。

 問答無用で仕留めて正解だった。

 

 狂竜症っていうくらいだし、他のモンスター達がおかしな行動をとる理由はこれだったんだろうか?

 ゲームではどんなモンスターがかかっていたか覚えていないが、人間にかかるくらいなんだから、全モンスターに感染してもおかしくない。

 

 …もしも、集団感染なんて事になったら……とんでもない量のモンスターが、村に襲い掛かってくる可能性も?

 冗談じゃないよ。

 

 

 と言うか、この狂竜ウィルス、確か…ドアラ・ゴモラ? 

 いや、スクリーミング・ゴア?

 ゴア・ドグマ?

 

 とにかくそんな感じのモンスターが振り撒いていた筈。

 俺の記憶には無いが、ゲームで1匹そんな奴が出てきたとしたら…まず間違いなく亜種や上位種が居る事も考えられるな。

 

 

 ああ…モンスターの異常の原因の検討はついたはいいが、絶望感がハンパ無いんですけど。

 

 

 

 

HR月『朝には9時まで寝られて夜は早く帰れるようになったけど、自由時間が減った』日

 

 暫く考えてみたが、そもそも狂竜ウィルスを振り撒いているモンスターは何処に居るんだろうか?

 密林、砂漠、樹海、その他色々な所にそれらしい痕跡があった。

 あちこちを動き回っているのか?

 それとも一箇所で感染したウィルスが、感染に感染を重ねてあちこちに振り撒かれたのか?

 

 どうにも分からん。 

 それに、狂竜ウィルスに感染していたモンスター達は、確かに感染してはいたが、手傷を負っていた者は居なかった。

 単に偶然近くにいたモンスターに感染しただけで、獲物ではなかったんだろうか?

 

 

 とりあえず、パピ嬢とユニス…さんに頼んで、狂竜ウィルスについて資料を取り寄せてもらう。

 二人とも何でまた、って顔をしていたが…。

 なーんかヤバいカンジがするんだよな。

 

 いや、狂竜ウィルス自体もヤバいんだけど、なんかこう…致命的な勘違いをしているような気がする。

 まず、本当にウィルスがゴアの仕業なのか、その辺りから調べないといけないっぽい。

 

 

 幸い、ウィルスの資料自体は簡単に手に入るそうだが、それは一般公開されている範囲まで。

 どのようなモンスターがウィルスを振り撒いているのか、またどのあたりに生息しているのかは記述があったが……この近辺には生息していない筈。

 ああそうそう、 ちゃんとした名称はゴア・マガラだった。

 

 コイツも遠い場所から流れてきたんだろうか?

 それにしては生息地から距離がありすぎる。

 しかし狂竜ウィルスとしか思えない現象が発生しているのも事実な訳で。

 

 考えてみれば、今まで遭遇した異常な行動を取っていたモンスター達も、ウィルスの影響を受けた結果だったんだろう。

 ガノトトスは湖から出て砂漠を走り回り、ドドブランゴは単身で雪山から飛び出し……ひょっとしたら、痕跡を残すようになったオオナヅチもこの為か?

 流石に古龍にまでウィルスが効くかは怪しいところだが…ゲームではどうだったっけ?

 

 

 

 とりあえず、ゴア・マガラの痕跡を探してみるか。

 それに、モンスター達の奇行の原因が狂竜ウィルスだったとして、ウィルス自体を確認できたのはまだ一度だけだ。

 コレが原因だと決め付けるのも良くないかもしれない。

 

 

HR月『メゼポルタ開拓記、そろそろストーリーの新しいのでないかな』日

 

 領主の嬢ちゃんが、最近また忙しく走り回っている。

 以前から手がけていた、有事の際の避難マニュアルや防衛用の柵などの作成が一段落したんで、暫く大人しかったんだが。

 

 何をやってるとのかと思えば、なんと撃龍槍とバリスタを作りたい、ときたもんだ。

 バリスタはともかく、撃龍槍は何処に取り付けるつもりだよ…。

 

 どうやらユニスからそういう設備の話を聞いて、村にも作りたいらしい。

 まぁ、確かにバリスタの扱いは一見簡単だし、攻撃力も高い、一般市民でも扱えるように見えるからな。

 が、それにはどうしたって一つの前提が必要になる。

 

 腕力だ。

 

 バリスタの矢は重い。

 しかもデカい。

 普通の人間なら、一人で持ち上げるのも一苦労なくらいに。

 

 幾らバリスタが勢い良く矢を発射しても、それだけの質量がなければモンスターには通じないんだろう。

 それを持ち上げて正確にセッティングし、更にそれを乗せた台を素早く動かして照準を合わせる。

 

 …数人係でやっても、結構キツいよコレ?

 

 

 撃龍槍の使い勝手の悪さは、もう言うまでもないだろう。

 一発の威力は高くても、再装填に何十分もかかる上、完全な固定式。

 モンスターが何処から攻めてくるか分からないんじゃ、設置のしようがない。

 せめてモンスター達を誘導する為の塹壕でもあればいいんだが…それにしたって、空を飛んでくるタイプの相手には通じないしな。

 移動式で威力と重さを落とした簡易撃龍槍を作ろう、って話も聞いた事はあるが…生憎、まだ開発されたとは聞いてないな。

 よく考えりゃループしている訳だし、そりゃ研究も三歩進んで三歩下がる状態だろうさ。

 

 

 とは言え、小型モンスターを相手にするなら、砲台や塹壕の設置は有効かもしれない。

 小型で空を飛んでくる奴なんか、虫系統くらいだし。

 こちらの身を隠す為に使ってもよし、モンスターに対する落とし穴として使っても良し、或いは普段は水を入れておいて生活用水にするのもいいかもしれない。

 

 …モンスターに対する落とし穴にするなら、かなり深く掘らないといけないけどな。

 ランポスの跳躍力は甘く見てはいけない…そこまで深く掘ると、今度は人間が扱い辛いか。

 うーん、一人でハンターやるなら慣れてるけど、弱兵を纏めて戦わせられるようなノウハウは持ってないなぁ…。

 

 嬢ちゃんの行動は一考に価するとは思うが、今の俺じゃあんまり手伝えそうに無いな。

 素人考えでやると逆に利用されたり、無理に作った設備が簡単に壊れたりって事は充分すぎるほど考えられる。

 陣地や工作ってのは、それだけで専門の兵科が出来上がるくらいに重要な物だろうし…。

 

 専門家を呼ぶべきか?

 でも専門家なんているんだろうか。

 …ユニスに心当たりが無いか、話を聞いてみよう。

 

 

 

 

HR月『日差しの下で昼寝するのが気持ちいい』日

 

 流石にユニスにも心当たりは無いようだ。

 まぁ、その手の工作兵とか専門家となると、ハンターじゃなくて軍…つまり王家とかが持ってる騎士団になるみたいだしな。

 ハンターギルドといえど、一国を相手にしちゃ分が悪いか。

 それも、発展途上の小さな村の為じゃ同考えても天秤がつりあわん。

 

 うーむ、しかしそうなるとどうしたものか。

 嬢ちゃんが折角頑張ってるんだし、実現すればそれなり以上の効果が見込めそうな政策だ。

 人材が見つからないの一言で潰してしまうのは惜しい。

 

 誰か監督してくれる人が見つかるまで、手探りでもやっていくべきかな。

 ただでさえ遅い開拓が遅れる事になるけど、まぁ今更だし。

 

 

 それはそれとして、ムルカ君がちょっと心配だな。

 以前からあった葛藤のようなものが、一層強くなっているようだ。

 だからって、一人でクエストに挑むようなマネをしないのは非常に助かる。

 ポイクリ爺さんから、モンスターの脅威を徹底的に教え込まれている事と、何よりも無駄に危険を犯す事がどんなに愚かしい事か、叩き込まれているんだろう。

 

 仮にムルカ君が絶賛葛藤中の、青春の悩みを解決しようとしたとして、死線を潜る事はそれに何の影響も与えないからな。

 本人の中には何かしらの影響を及ぼすかもしれないが、はっきり言ってしまえば自己満足の領域でしかないし。

 錯覚は意外と重要な物だけどね。

 

 とは言え、放っておくのも不義理な話ではあるか。

 俺が青少年を導くいいOTONAであるとは天地を連続サマーソルトさせても言えないが、気晴らしくらいにはなるんじゃね?

 

 という訳で、今度のクエストに誘ってみました。

 

 

 

 

 したらユニスまでついてきました。

 丁度ヴォルガノスの依頼だったカラネ…。

 いいのか?

 ハンターでもない一般人を狩りに連れていくのを見過ごして。

 パピ嬢は見習いって事でギリギリセーフだったとしても、正式な受付嬢…つまりギルドの職員であるユニスが規則違反を見逃す事になるんだぞ?

 

 生ヴォルガノスを見る、又とないチャンス?

 …ああそうだった、コイツも結構私欲で動くタイプの人間だった…。

 俺と同じで、本当に好きなのは自分のみってタイプだからか、基本的に自分の欲求には素直なんだよな。

 だからこそ、以前のループで体から始まった関係を平然と受け入れていたんだし。

 

 

 しかし、ヴォルガノスか。

 火山、火山…。

 

 ラオシャンロンが休眠している火山とは別の火山だが…嫌な予感がするなぁ。

 

 

 

 

HR月『ちょっとずつノンアルコールビールに復帰』日

 

 

 生ヴォルガノスでユニスがメッチャ喜んだり、火山にしか生えない珍しいドクキノコを見つけてムルカ君が有頂天になったりしました。

 それはいいんだが……イヤな予感的中だよぉ!

 

 ヴォルガノスが思いっきり狂竜ウィルスに感染してやがった。

 流石の攻撃力とタフさにかなり梃子摺ったが、エシャロットと二人係でなんとか狩った。

 

 のはいいんだが……倒した後に、体がビクンビクンと動き始めて、体がなんか変質して行って…第二ラウンドとなりました。

 

 変質するヴォルガノスを見て、ユニスが悲鳴をあげていた。

 だがあれは恐怖の悲鳴とかじゃなくて、カワイイ(?)ヴォルガノスが異様な姿に変わっていくのがショックな悲鳴だったようだ。

 相変わらず神経が図太い。

 

 

 エシャロットが1回乙ったが、何とかなった。

 狂竜ウィルス患者を相手にするのは初めてだな。

 

 ユニスやパピ嬢は、以前に資料の取り寄せを頼んだからか、ヴォルガノスの様子を見てピンと来たようだった。

 が、生憎話をしている暇はない。

 俺達ハンターならウィルスに対して耐性もあろうが、一般人のユニス・パピ嬢・ムルカ君では、感染したらどうなるか分かったものではない。

 やっぱ、一般人を狩場に連れてくるのは危険なんだなぁ…。

 

 ユニスは生ヴォルガノスが見られてご満悦だったけど。

 

 

 それはともかく、猫車に賄賂を渡して一般人組を下山させた。

 狂竜ウィルスに犯されたヴォルガノスは厄介だった。

 動き自体はあんまり変わってないんだが、意識が朦朧としているのか、普段とは違ったタイミングで違う行動を取る。

 マグマの中に居ると錯覚していたのか、地面の上で泳ごうとしていたのはチャンスだったけど……這いずりと泳ぎは別モーションなんだな。

 

 あと、動きが妙に速くなったり、遅くなったり…油断してると、妙なタイミングで攻撃が飛んでくる。

 

 

 助かったのは、体が軟化していた事か。

 一部は逆に硬くなっていたようだが、正直言ってなぁ……攻撃しても、普段以上に痛みを感じているのか分からないような状態だった。

 普段は硬い鱗に阻まれてダメージが通りづらい感触だったが、発症状態だと体は柔らかいんだが、痛覚が麻痺してるっぽいと言うか。

 一度蘇った事もあり、痛みを知らないゾンビを相手にしている気分だった。

 

 ああ、そういえば霊力による攻撃が普段よりもよく通った気がするな。

 理屈が分からん。

 

 

 

 結局、第二ラウンドは俺達の勝利と言うより、ヴォルガノスの時間切れって印象だった。

 途中から明らかに動きが鈍っていたし、最後は突進で止まり損ねて、壁にぶつかって動かなくなったし。

 

 

 色々と気になる事はあったが、まず一番に確認しなければいけないのは、このウィルスの感染源が近くに居るかって事だろう。

 ゴア・マガラが居るんじゃないかと思って探し回ってみたんだが、痕跡すら発見できなかった。

 そもそも、ヴォルガノスが居たのは溶岩の中なんだよな……溶岩の中でも感染するのか?

 

 

 他にも小型モンスターを何体か狩ってみたり、生息数を調べたりしてみたんだが、こっちは手がかり無し。

 そういや、ゴア・マガラって古龍だっけ?

 古龍が居たなら、キリンみたいな奴でもない限りモンスターは逃げるよな。

 

 大型モンスターも居たが、流石にヴォルガノスとやりあった後に手を出そうとは思わない。

 …いずれにせよ、恐らくヴォルガノスがウィルスに感染したのは、そう昔の事ではないだろう。

 ゴア・マガラの手掛かりが得られるとしたら、恐らくこの火山。

 

 暫く調査の必要がありそうだ。

 

 

 

HR月『各クエストでの全会話も再現できるようになると尚嬉しい』日 

 

 

 今日も今日とて、火山でゴア・マガラの痕跡探し…と思っていたら、突発イベントが起きた。

 いや乱入とかじゃない。

 もう乱入は突発イベントどころかデイリーイベント扱いだし。

 俺もエシャロットも、あって当然くらいの感覚になってるし。

 

 あ、でもこの前のヴォルガノスの時は乱入は無かったな。

 第二ラウンドはあったけど。

 

 

 

 それはともかく、ユニスから聞かされた。

 火山…いや俺達が行っている火山じゃなくて、メゼポルタ近辺の火山が噴火したそうな。

 

 マジで噴火だったらエラい事になる。

 距離が距離だから溶岩とかは大丈夫だろうが、火山灰とかが飛んできてもおかしくない。

 農園の野菜に影響が出そうだ。

 

 それに、火山近辺のモンスターの移動も起こり、縄張り争いが激化、破れたモンスター達が人里に近付く事だって考えられる。

 

 

 

 …ここまで書いといてなんだが、多分噴火じゃねーな。

 ユニスもギルドからの速報で届いた以上の情報は知らないし、ギルドの方も噴火(?)を確認したのは数時間前って話だ。

 まだ色々な確認も終わってないだろう。

 

 

 が、俺だけはその火山に何があるか知っている。

 言うまでもないだろうが、噴火したと言われている山は、以前俺が火口に落っこちてデスった山…というかラオシャンロンが休眠している山だった。

 こりゃー目を覚ましたっぽいなぁ。

 噴火したっていうのは、多分ラオシャンロンが地中から出てきた時に、爆弾石がぶつかり合って誘爆したんだろう。

 

 …今度はどうなるのかな。

 メゼポルタに向かうのか、それともこの村が進行ルートになるのか。

 こっちに来るとしたら、ギルドはどう動くだろう。

 メゼポルタ直撃コースなら間違いなく動くだろうが、ウチの村はまだ開拓中。

 規模で言えば、必死こいて村を守る利益があるかどうかも怪しい。

 

 ゲームではなくこの世界のラオシャンロンの撃退は、ハンターを何人も動因する大仕事だ。

 ギルドの支出だってバカにならない額だろう。

 

 そこまでやって、討伐ではなく撃退。

 しかも進行ルートを逸らしただけで、ラオシャンロンはまた何処かへ移動していく。

 その先に村があるかどうかは運の問題で、あったとしたらそこにラオシャンロンに対応できるハンターがいるかどうかも、やっぱり運。

 

 

 …改めて考えてみると酷い話だな。

 何処へ流れて行ってどんな被害を出したとしても、当方は一切関知しません、と。

 まぁモンスターの行動に責任とれって言うほうが無茶だけどさ。

 

 

 

 はー、まぁ何はともあれ、近日中に呼び出されると思ってた方が良さそうだな。

 エシャロットにも準備をさせておくか。

 

 しかし、ヤバいイベントの前兆を発見したとほぼ同時にラオの目覚めか…偶然、なのか?

 本当にゴア・マガラが居たとして、流石にラオシャンロンの休眠にまで関与するとは思えないんだが…。

 

 ああ、ウィルスで錯乱したモンスターが爆弾石をドカン!て可能性はあるかも。

 

 

 

 

 ところで、唐突ながらちょっと新技を覚えてしまった。

 モノノフ式金砕棒術、その名も「剛打」。

 

 こいつは槍や弓なんかと違って正式に使い方を教わったワケじゃないんで、上手くできるてか不安だが……いつぞや討鬼伝世界で、相馬さんに世話になっていた頃に見た技だ。

 相馬さんに俺の動きを少し見てもらった時、ついでだからと金砕棒の使い方をちょっとだけ見せてもらっていたのだ。

 いや、日記に書いてた覚えはないけどね。

 

 これは相馬さんの得意技で、思いっきり力を溜めた一撃を敵の攻撃に当て、逆に弾き返してしまうという大技だ。

 よく分からんが、上手く行くと体に力が漲るとか何とか。

 

 あの頃は相馬さんも、俺がモノノフになるのにいい顔してなかったし…何度か型を見せてもらっただけで、訓練のやり方も分からなかった。

 それを、大剣を暇潰し…もといトレーニングで振り回しているうちに、偶然似たような事が出来たのだ。

 ためしに大剣の斬り上げをバサルモスの羽に上手く当てたら、その場でバランスを崩してひっくり返ってしまった。

 しかも、短時間ながらも鬼人薬でも飲んだかのように体が火照り、事実攻撃力が少し上がっていた。

 

 どっちかと言うとハンマーの方が形状・性質的に近いと思うんだが、大剣でもできない事は無いようだ。

 ただ、この剛打…ゲームで実際に使った事は無い。

 討鬼伝の続編でそういう技があると聞いたような気はするが、実戦でどう使われるのかはまだよく分からない。

 使いどころも分からない、メリット・デメリットも今ひとつ不明。

 そしてちゃんと出来ているのか、モノマネにしかなってないのかも分からない。

 

 …新技獲得、じゃなくてその取っ掛かりを見つけた程度だな。

 

 

HR月『夜はエアコンかけて厚手の布団』

 

 

 案の定、火山の噴火ではなくラオシャンロンのお目覚めだったようだ。

 あまりにもメゼポルタに近いところで突然出現したもんだから、ギルドはてんやわんやの大騒ぎになっているらしい。

 

 意外だったのは、ラオシャンロンの進行ルートが、この村を外れていた事。

 正直、直撃も覚悟していたんだが…。

 

 

 ただ、気になる事が一つ。

 何の因果か因縁か、バタフライ効果の為なのか、現在のメゼポルタにはラオシャンロンの生態を詳しく研究している、その分野での第一人者が居るそうな。

 速報にその人のコメントが乗っていたんだが……なんでも、ラオシャンロンは何かを探しているように見える、のだそうだ。

 

 前回やりあった時はどうだったかなぁ…ラオシャンロンの顔色なんぞ分からないからな。

 オオナヅチの表情は割りと分かったけど。

 

 

 ラオシャンロンが何かを探す……ミラボレアスか?

 確かラオはミラから逃げている、という話もあったと思うんだが、何も起きている間は延々と逃げ続けている訳でもあるまい。

 大体どこまで逃げればいいんだ。

 確かにこの世界の大陸はアホみたいに広いけど、逃げ続けてればいずれは海にだって出る。

 …ラオって泳げるんだろうか?

 

 

 しかし、仮に探しているのがミラボレアスだったとして…どうなんだろうな。

 見つからなかったら逃げるのを止めるのか?

 そもそも、ミラボレアスが何処にいるのか分からなければ、どっちに向かって逃げればいいのかも分からない。

 ミラボレアスから逃げる為にミラボレアスを探すとかもうワケがワカらん。

 

 

 …でも、ラオシャンロンが他に探すものって何がある?

 エサ…はその辺の岩石食ってるらしいし、目を覚ましたばかりで新しい寝床を探すとも思えん。

 となると………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんかこう……もうちょっとで閃きそうだったんだが、ユニスが来て思考が中断してしまった。

 体で責任取らすぞこんちくしょう。

 

 

 それはともかく、予想通りギルドからの召集がかかった。

 俺は既に準備オッケー、エシャロットにも準備させておいたから、いつでも動ける。

 村の戦力がなくなってしまうのが心配だが、そこは地主の嬢ちゃんが動いていた有事の際のマニュアルをアテにさせてもらおう。

 

 さて、どうなる事か…。

 

 

 

 



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74話

うーむ、モンハン世界が長引いてますな。
そろそろ一区切りしたいところですが……たまには全くエロ無しのループもいいかな。
次がエラい事になるかもしれませんが。


 

 

HR月『寸志をボーナスと言って渡すのはどうかと思う。いや貰えるだけ在り難いご時勢というのは分かるんだけど』日

 

 流石に自分達の寝床の町に関わる事だからか、ハンター達の対応は早かった。

 速報がでてたった2日程度だと言うのに、もう迎撃の準備が整いつつある。

 

 急拵えとは言え既に砦が出来ている辺り、大工としてもやっていけそうな按配だ。

 勿論俺も手伝った。

 

 あんまり居心地はよくなかったけどな…。

 例の、コネを使ってマスターになったという噂が結構広まっているようで、冷たい視線を結構感じた。

 有象無象の視線なんぞどうでもいいし、ベテランは俺を見て「ああ、やっぱりコネってのはデマだったんだな」と話しかけてきてくれる人も居たけどな。

 やっぱある程度実力があると、他人の実力も見抜けるものだ。

 

 

 …まぁ、それでも残っている冷たい視線の主には、今回のラオ討伐で精々改めてもらうとしよう。

 冷たい目から、真ん丸の目に変えてやるぜ。

 エシャロットもそれを楽しみにしている節があるな。

 以前村にやってきた彼女の友人達とも会ったが………うん、トラウマになりかけ程度で済んだようで何よりだ。

 あれから随分鍛えこんだみたいだしね。

 

 でも「私達の道連れを沢山作ってね」ってどういう事?

 他の連中にもサバイバル訓練させたいの?

 

 

 さて、それはともかく、今回は何をしようか。

 以前やりあった時は、奇人扱いされていたから期待に応えて、爆弾ダンクと神機と、体を直接駆け上がって対巨龍爆弾アタックに…ああそうそう、討鬼伝世界式太刀の残心開放で、何度も動きを止めてやったっけ。

 折角だし、エシャロットも音波兵器としてデビューさせたいところだ。

 しかしそれだけだと、エシャロットにのみ評価と視線が行ってしまう。

 どうせならコンビ技を決めたいな。

 

 合体技か……。

 音を使った合体技、何があるかなぁ…。

 

 

 

 

 幾つかアイデアは出たものの、再現の方法までは思いつかなかった。

 仕方ない、素で行くか。

 

 

 今回のラオシャンロン戦では、専ら弓やボウガンが主役となる。

 まぁ、幾ら図体がデカイからって、剣で斬り付けられる範囲は限定されてるからな。

 比較的斬り易く、ダメージも通りやすい体の下は、ダウン時にまとめて圧し潰される可能性が非常に高い。

 増して、その限られた部分に密集して武器を振るえばフレンドリーファイアの連続である。

 

 大多数のハンターが遠距離攻撃を選択するのは、当然の結果と言えるだろう。

 近接武器を使っている者も少しは居るが、効果の程は推して知るべし。

 

 

 という訳で、俺は接近戦タイプにします!

 

 いや、エシャロットがまだ弓をマトモに使えなくってさぁ。

 不肖の弟子を一人で接近戦やらせるのも忍びないし。

 まぁ、やり様はあるからね。

 ハンターだけでなく、ゴッドイーターでもモノノフでもある俺だから出来るようなやり方も多いが、エシャロットだって出来ない事はない筈。

 ベテランハンターなら……できなくはないだろうが、無理に危険を犯すとも思えん。

 もっと余裕のある時にチャレンジして、「おっ出来た。でも無理にやってもあんまり意味ないなぁ」くらいで終わるんじゃないかな。

 

 

 

 とりあえず、エシャロットがどう戦えばいいのか困っていたので、軽くお手本をば。

 まずゲームに倣って、溜め斬りで腹を狙うのがセオリー。

 で、頭を狙って、所謂デンプシー…縦斬りと横斬りやね。

 ただ、ゲームと違って歩く速さも一定ではないし、後ろから遠距離攻撃組の流れ弾も飛んでくるんで、そこも上手く対処する事。

 具体的には、自分に当たりそうな流れ弾だけ大剣で切り払う。

 コバンザメみたいに、ラオシャンロンの体の下側、或いは足の裏側に掴まれば、大抵の攻撃は当たらないぞ。

 

 この辺までが、ハンターの基本戦術ですな。

 

 

 では次にゴッドイーター的に。

 まず目の前でジャンプします。

 ラオシャンロンの鼻先を蹴って二段ジャンプします。

 そして眉間に大剣を思いっきり叩き付ける。

 ゲームで言うとジャンプ強攻撃ね。

 

 更にジャンプを繰り返して、背中に登って恒例の剥ぎ取り&爆弾設置。

 ここまでは前回もやった。

 

 ここからが今回の新型だ!

 以前の時と違い、神機にアラガミ以外のモノを強制的に食わせ続けたおかげで、今ではモンスターの肉を食わせただけでもリンクバーストできるようになっているのだ!

 誰の目も届いてないラオシャンロンの背中の上で適当に齧らせ、リンクバースト開始。

 ピカピカ光りながら、反撃が来ない場所でラオシャンロンの背中を殴りまくっております。

 稀に流れ弾…というか命中する矢とかが飛んでくるけどね。

 

 

 そして最後にモノノフ式。

 ついこの前偶然体得した剛打(だと思う)。

 見事大成功でした。

 ラオシャンロンの足踏みに合わせて思いっきり叩き込んでやれば、なんと2~3発でダウンという凄まじさ。

 ダメージはあまり無いようなんで、相手をスタンさせる技なのかね?

 それとも、まだ上手く出来ていないだけだろうか。

 事実、剛打を当てはしたし、相手の攻撃を跳ね返してはいるが、あの時のように体の中から漲ってくる力が無い。

 

 

 

 ん?

 エシャロットもやってみたのか?

 コツ?

 

 

 向こう脛を狙う事かな。

 小指でも可。

 

 

 ラオシャンロンの背に上がるのに、ジャンプ力が足りない?

 バリスタでも使え。

 自分が弾代わりになれば割と飛べるぞ。

 ハンターだから、落っこちても無傷だしな。

 

 

 

HR月『寸志の事は前の前の会社の話です。あの頃より今の方が遣り甲斐はある』日

 

 ラオシャンロン戦は、まぁ順調と言ってよかった。

 俺が何度も何度も剛打で転ばせるもんだから、砦に辿り付くのに予測の何倍の時間もかかっていた。

 

 と言うか、あれだけ転ばせても俺に見向きもしなかった辺り、やっぱりミラボレアスから逃げていて、それ以外の事は眼中に無いんだろうか?

 相変わらず生態が謎な古龍である。

 …左右が崖になってる一本道じゃなかったら、転ばされるのがイヤになって方向転換してくれたかね?

 

 

 俺に向けられる視線も、改善……うんまぁ、改善はされている。

 少なくともコネだけでギルドマスターになったと思われてはいないようだ。

 向けられる視線の質が、明らかに違う。

 

 …まぁ、冷たい視線から、例によって奇人変人に向けられる視線になっただけだが。

 

 大剣使いやハンマー使いからは、剛打のやり方を教えてほしい、と何度か言われた。

 …つってもなー、俺もイマイチよく分かってないんだ。

 剛打の本来の効果である、攻撃を跳ね返す事によるパワーアップも、今日は2回だけしか発動しなかった。

 何か他に条件があるのか、それとも俺のやり方が間違っているのか…。

 

 

 それはそれとして、よく考えたら、前回のラオシャンロン戦で奇行を繰り返した結果、上位ハンター達に目をつけられてしまったんだっけ。

 今回も目をつけられはしたが、一緒に行かないかと誘われるような事は無かった。

 インパクトが弱かったかな?

 

 …と思ったが、「ギルドマスターを連れ回すワケにはいかんからねー」と上位ハンターが笑ってた。

 そういやそうだったなー、俺って少人数のギルドとは言え、ギルドのトップだったっけ。

 

 

 …仕事はパピ嬢とユニスに丸投げしてっけど。

 バレたらまた冷たい視線が飛んできそうだな。

 

 

 

 

 まぁ、それはともかくとしてだな。

 ちょいとヤバい事になった。

 今ここでやってるラオシャンロン戦の事じゃない。

 散々転ばせて時間稼ぎしまくったから、色々と余裕のある状態ではあるんだが、それでもデカブツのタフさは圧倒的だ。

 決着、或いは進路を逸らすまでに、かなり時間がかかる。

 

 

 何が言いたいかってーと、この場でラオシャンロンの相手をしているハンター達は、当分動けませんよって事。

 

 

 

 

 

 

 そして我が開拓村近くに、今度は村直撃コースの2体目が出たって事だよこんちくしょう!

 

 

 と言うか何、何なのさ一体!?

 古龍が2体同時襲撃とかアホか!?

 しかも前の時はこんな事無かったぞ、コースに関わらず2体目なんか出なかった!

 

 あーもう、考察している暇も惜しい!

 こんな奴(ここに居るラオ)とやりあっていられるか、俺は帰るぞ!

 ハンターとしては一度受けたクエストを投げ出すのは躊躇われるが、俺はあの村の責任者でもあるんだ。

 何とか一人でも2体目のラオの進路を逸らしてやる!

 

 

 

 

HR月『通勤時間で疲れない事が、社会を渡っていくコツ…なんだろうか?』日

 

 リアイア扱いでもいいから、って事でラオシャンロン戦を抜けて、2体目ラオシャンロンの元へダッシュしました。

 いや流石に自力で走ってきた訳じゃないよ?

 その辺でとっ捕まえたドスファンゴに延々とダッシュさせて乗り継いできたんだよ。

 エシャロットも相乗りして。

 

 見送ってくれた何人かのハンターが唖然としていたが、どうでもいいや。

 

 

 まぁ、それはともかく。

 2体目ラオシャンロン、黒かった。

 亜種かよ…。

 

 

 

 

 

 黒?

 

 

 ちょっと待て、ラオシャンロン亜種って青くなかったか?

 でもどう見ても、紛う事なき真っ黒いラオシャンロン。

 光の加減によっては、青は黒より黒く見える事はあるが、アレは間違いなく真っ黒だった。

 休眠から目覚めたばかりで、地面に埋まっていた時の汚れが落ちてないのか?

 いや、どう見てもそんなレベルの黒さじゃなかった。

 

 新種か?

 所謂、剛種の類か?

 

 そういえば、通常種のラオに比べると、行動も何処か変わっていたような…。

 何も無い所で立ち上がろうとしたり、ラオシャンロンとしては初見な事に、目の前にあった障害物(岩とか、逃げ遅れたモンスターとか)に噛み付くような行動を見せていた。

 偵察に行った俺とエシャロットも認識していたような…?

 そんで、こっちに向かって顔を伸ばそうとしていたような?

 

 

 …なんだコレ。

 意識して思い返すと、ラオシャンロン通常種と行動が違いすぎる。

 幸い村まで距離があったからまだいいが、ひょっとしたら積極的に攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

 

 

 しかも、しかもだ。

 突然のラオシャンロン出現に、近所の小型モンスターから大型モンスターまで絶賛大騒動中です♪

 古龍とか怪獣がいきなり出てきたら逃げ惑うのは分かるけどさぁ!

 ラオシャンロンは進行ルートに立たなきゃ何もしねーよ!

 そんなにパニックになって、散り散りに逃げなくてもいいよ!

 というか逃げてもいいけど、村の方に来るなって!

 村に来るとむしろラオシャンロン直撃コースだから意味ねぇよ!

 

 

 …まぁ、言うだけ無駄だよね。

 モンスター達にはラオシャンロンの生態なんぞ知識が無いだろうし、そもそも自分達の何十倍の怪物が居て、「近くを通りますけど害はないですよ」なんて言われたって素直に頷ける筈が無い。

 隣で実物大ゴジラがお茶飲んでて、平然とその横でメシ食ってられるかっつー話だ。 

 

 しかし厄介な…。

 逃げてきたモンスター達が村に乱入しようとするから、片っ端から撃退しなければいけない。

 地主の嬢ちゃんが作っていた、柵やら固定砲台やらが大活躍だ。

 村人総出で遠距離攻撃しまくって、何とか村への侵入を防いでいる。 

 まぁ、それでもモンスターを倒しているんじゃなくて、脇道に逸らすような効果しか無いが。

 

 これは、何れ柵が破られる事も考えなきゃならんな。

 イャンクック先生辺りが逃げてきたら、柵なんぞ体当たり一つで壊されてしまう。

 となると、エシャロットを村の守りに残して、比喩も誇張も抜きに俺一人でやらなきゃならん訳か。

 

 以前村に来たエシャロットの友人達が、向こうのラオシャンロン戦が終わったら駆けつけてくれるらしいが、それまでどれくらいかかるやら。

 

 

 …アラガミ化でどうにかできるか?

 いや、相手がタフすぎて仕留め切れる確率は0と言っていい。

 変身時間は以前に比べると伸びているが、タイムアップしたら即ゲームオーバーだ。

 

 うーむ、あの亜種が通常種より極端に柔らかかったりすりゃ、ワンチャンあるけども…。

 

 

 

 

HR月『近所の焼き鳥屋が閉店しちゃったし、ちょっと離れた焼肉屋にでも行こうかな』日

 

 

 柔らかかったよ!

 驚きの結果だね!

 

 

 

 …というかマジで驚いた。

 うん、一戦交えた結果、色々な事が分かってお兄さんちょっと混乱気味です。

 

 

 えーとですな、まずは特に意味の無い事から。

 多分、メゼポルタの方に出た1体目のラオシャンロンだけど、専門家が「何かを探しているよう」って言ってたが、アレ当たりだわ。

 こっちのラオを探してたんだ。

 夫婦なのか兄弟とかなのかは分からんが、休眠前は一緒に行動してたんじゃないのかね?

 で、起きたら「あれ? あいつ何処いった?」みたいな。

 

 ラオシャンロンだって繁殖活動する事はあるだろうし、二対一緒に行動する事があっても不思議は無いな。

 

 

 まぁ、それは検証もできそうにないから置いといて。

 

 

 2体目ラオシャンロンに近付いた時に分かったんだが、体が黒いというのがまず間違いだった。

 近くで見ると、なんというか…ラオシャンロンの表面が、ゾワゾワ動いているのが分かってね。

 とりあえず一発ブン殴ってみたら、そこから波紋が広がるみたいに黒いのが晴れて…下には青い表面が見えました。

 

 どうなってんのかと何発か殴ってようやく分かったんだけど、このラオシャンロンは黒いラオじゃない。

 普通のラオシャンロン亜種の体表を、黒いモノが多い尽くしているんだ。

 

 

 

 

 

 そんでその黒いものってのが、濃縮された狂竜ウィルスっぽい。

 

 

 

 

 なるほどねー、感染源はコイツか。

 多分、休眠期に入る前に何かが原因で感染し、眠っている間に体内でウィルスが繁殖しまくったんだろう。

 いや、ウィルスって呼ばれてても実際はリンプンやら何やららしいけど、まぁとにかくそれらがラオシャンロン体内の何かに影響を与え、長いオヤスミの間にそれが増殖してしまったと。

 古龍に効くとは思えない狂竜ウィルスが、ラオに…ひょっとしたらオオナヅチ辺りにも感染したのは、増殖中を繰り返していく間にウィルスが変異したからじゃね?

 宿主のラオにも影響を与える為に、より強力なウィルスに進化したとか。

 或いは、狂竜ウィルスの元であるリンプンを、元々ラオの体内に居たウィルスが取り込んでしまったとか。

 

 そういや、狂竜ウィルスに感染したモンスターには、霊力による攻撃の効果が高かったな。

 ひょっとして、2頭目が目を覚ましたのは、近くで強い霊力を振るっていた俺が居たからか?

 俺が目覚まし時計代わりになってしまったのか?

 

 …2体のラオシャンロンが休眠前に一緒にいたんだとしたら、多分こんなカンジじゃないかなー。

 

 

「うーん、俺ちょっと気分悪いわ」(亜種)

「また妙な物でも拾い食いした?」(通常種)

「妙な物も何も、俺達はその辺に落ちてる岩くらいしか食わないじゃないか」

「手に取らずに直接食べるから、拾う事すらしないわね」

「竜なのに犬食いするんだよな、四速歩行の場合それが当然だけど」

「そういえばそろそろ休眠期だし、もうこの辺で休む?」

「悪いけどそうしてくれ。

 起きたらまた一緒に火薬岩でも食べに行こう」

「えー、アレ歯ごたえ悪いからキライ。

 海まで行って塩漬けの石食べようよ」

「塩分取りすぎると血管キレやすくなるぞ。

 じゃ、俺ここで寝るわ…」

「私冷え性だから、火山の辺りでぬくぬくして寝るね。 オヤスミー」

「おやすみー。同じくらいの時期に起きれるといいな…うっぷ、マジで気分悪くなってきた。もう寝よ」

 

 

 そして同じくらいの時期に起きる。

 ただし一方は寝る前に食ったナニカのおかげで機嫌最悪、二日酔い状態。

 

 

 

 そりゃ一体どんな逆奇跡だよふざくんなあぁぁぁwせdrftgyふじこlp

 

 

 

 

 と、とにかくあのラオシャンロンをどうにかせにゃならん。

 一戦交えてきたんだが、通常ラオと同様に剛打でバランスを崩せるのが救いだな。

 ただ、狂竜症のモンスターの常と言うか性質と言うか、行動のスピードにバラつきがあるのが厄介だ。

 妙に早く足を下ろしてきたかとおもえば、逆に異様にゆっくり上げる事もある。

 タイミングが狂って、剛打が上手く決まらない。

 転ばせられるくらいに上手く決まるのは、5~6回に1度くらいだろうか。

 その分、倒れたら起き上がるのに時間がかかってるんで、トントンかな…。

 

 しかし、時間稼ぎはできるが、実際どうしたものか。

 狂竜症状態って事は、まともに理性が働いているとは思えない。

 どれだけ時間を稼いでも、それこそゾンビのようにノロノロと進行を続けて、このままでは村に直撃してしまう。

 しかも援軍は期待できない。

 

 一人でこのラオシャンロンの息の根を止めるなり、歩行不可能にしなけりゃならんのか。

 もうちょっとこう、痛覚が生きてればまだやりようもあるんだが…。

 スーパーアーマー状態ってホント厄介だな。

 相手が人間よりも、何倍もの生命力を持ってる相手なら尚更だ。

 

 

 

 嘆いていても仕方ない。 

 仕留めるなり足だけ斬り飛ばすなりするにせよ、突破口がなければ話にならない。

 ちょっと整理してみよう。

 

 とにかくアホみたいにタフで、散々攻撃したのに怯みさえ一度もしなかった。

 バリスタのような強力な武装はあるにはあるが、数が少なく、何より村近辺にしか設置されていない。

 普通のラオシャンロンに比べて、凶暴性が増しているように見える。

 鼻先をウロチョロしていると、首を伸ばして食いついてくる………うん?

 

 

 という事は、昨日もそうだったけど、俺の事を認識しているって事だよな?

 しかも何度も食いつこうとしてきたから、少なくとも目の前にあれば食いたいモノか、或いは排除したいモノ。

 

 つまり、俺を囮にすれば進行ルートを逸らせる可能性も微レ存?

 

 

 そういや、さっきの妄想が正しかったとすれば、もう一匹のラオはコイツを探してるんだよな。

 いや妄想が正しいってそりゃどんなレベルの仮定だよって話だけど。

 

 でも、2体のラオシャンロンは何かしらの関係があるのは確かだと思う。

 非常に近い位置で眠っていた2匹の同族、片方に呼応するように目を覚ました。

 しかも片方は何かを探している素振りを見せている。

 

 …問題はどうやって合流させるかと、合流させたとしたらどうなるかだな。

 仮に友好的な関係だったとしても今は片方が狂竜症状態だ。

 諍いに発展する可能性は大いにある。

 

 

 …ラオシャンロン同士の大喧嘩か。

 あの巨体がぶつかりあう…。

 

 

 

 胸が熱くなるな。

 あの巨体がぶつかりあって撒き散らされる余波はエライ事になりそうだが、古龍2体の激闘という歴史的衝撃的、東宝的なシーンが展開されるやもしれん。

 

 

 

 

 燃えてきた。

 

 

 

 

 どっちにしろラオシャンロンのルートを村から引き剥がさなければならないのだし、チャンスがあったらもう一体の方に仕向けてみよう。

 メゼポルタに近いところで大暴れされるかもしれんが……怪獣映画とはそーいうもんだろう。

 誰も居ないところで怪獣が暴れたって、注目されないよ。

 

 実際に生活している人にとっちゃ、怪獣映画を見るノリでそんなイベント起こされちゃ溜まったもんじゃないだろうけども。

 それでもこうでもしないとウチの村がやばいのだ。

 

 

 

 

 

HR月『夜勤終わって、明日は早いというのにお気に入りの作品が沢山更新されているときの悲鳴』日

 

 

 1体目のラオシャンロン、つまりメゼポルタの方の奴は上手く撃退できたらしい。

 喜ばしいお話だ。

 

 

 

 撃退されたラオシャンロンが、こっちに向かってなければな!

 

 

 何となく予想できていたとは言え、なんという悲運…。

 メゼポルタのハンター達にしてみりゃ、単に襲い掛かる火の粉(と言うか山)を払っただけなんだろうが、それでも文句の一つも言いたくなってしまう。

 

 地主の嬢ちゃんとパピ嬢が頭を抱えていた。

 そりゃそうだよねー、ラオシャンロン1体でも持て余してるってのに、もう一体が襲来。

 しかも恐らく、撃退された事で手傷を負って凶暴になっていると思われる。

 

 

 …凶暴になってるなら好都合か?

 

 乾坤一擲の大博打として、2頭のラオシャンロンを争わせる策を提案してみた。

 地主の嬢ちゃんの頭痛が酷くなったようだが、ポイクリ爺さんはむしろ楽しそうだった。

 ムルカ君は…頭痛薬を煎じていたな。

 

 パピ嬢はと言うと、暫く悩んだ後に「やるのですよ!」と吹っ切れて笑顔を見せてくれた。

 目からハイライトが消えていたが。

 

 ちょっとパピ嬢の将来が心配になりつつも、やると決めたら行動は早かった。

 幸い、ラオシャンロン出現によるザコ敵達の大パニックも一段落したらしい。

 エシャロットは村に近寄るモンスター達を、昨日から今日まで延々と薙ぎ倒し続けて疲労困憊だったが、元気ドリンコを5本ほど流し込んだら復活した。

 お腹からちょっとイヤな音が鳴ったが。

 

 まぁ、俺に向かってあれだけ罵詈雑言を放ちながらトイレに向かえるんだから、大丈夫だろう。

 

 先の約束通り、エシャロットの友人達もこっちに向かってくれているようだ。

 それまで時間を稼ぐか、ルート変更させるだけなら多分なんとかなる。

 希望が見えてきた。

 

 

 

 なお、この時のラオシャンロンを争わせる策が、強敵を互いに争わせるが結局周囲に被害が振り撒かれて元の木阿弥、という意味の『二竜競食の計』として後世に伝わるかは、定かではない。

 

 

 




モンハン世界が長いなら、後書きで外伝作ればいいじゃない。
ネタが無い。
恋姫無双世界で龍でも狩らせようかな…。
それとも、P3世界で何とか主人公を救済させてみるか…。


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75話

戦国BASARA4皇、どうしようかな…と思っていたら予約してしまっていた。
PSストアでの予約だと、日付変わった瞬間にプレイできるっぽいね。
酒の勢いって怖い。
2chの前評判を見てみると、ちょっと早まった気が……基本的に辛口な所ですし、他者の評価がどうあれ楽しんだ者勝ちなのは分かりますが。

あと気になってるのはレイギガント…ちょっとGEっぽい?
でもシステムはRPGっぽいし…。
横島をあの世界に放り込む人、絶対出てくるだろうな…煩悩の一言だけの為に。

幻想の輪舞を衝動買いしたはいいものの、霊夢ルートクリアしてそこでストップ。
ぬぅ、思ったように動けん…。


 

HR月『ほうじ茶も中々…』日

 

 

 提案しといてなんだが、1体目のラオシャンロンがこっちに近付いてきてなければ、2体目ラオシャンロンをメゼポルタの方に向ける理由なんぞ無かったんだよな。

 まぁ、世間一般じゃラオシャンロンを誘導するなんて事が出来るとは思われてないんで、仮にメゼポルタの方に行ったとしても、偶然で済まされるとは思うんだが。

 今回それが可能になったっぽいのは、狂竜ウィルスのおかげだし。

 

 とにかく、誘導自体は何とかなりそうだ。

 届きそうで届かない位置をウロチョロする事でラオシャンロンの噛み付きを誘発させて、体の方向を少しずつズラす。

 時には剛打なんかで転ばせて、無理矢理方向転換させる事もあった。

 挙動が安定しないから、折角ルート修正してもアッサリ元に戻ってしまった事もあったが、何とか村への直撃は避けられそうだ。

 

 

 そして、妙な所で役に立ったのが、エシャロットの全力音波砲だった。

 二人して囮をやっている時、中々食いついて来ないのに業を煮やしたエシャロットが、半ばヤケクソで全力全壊絶叫したんだが……なんと、これに応じるようにラオシャンロンが首を伸ばしてきたのだ。

 その後、何かを探しているように首を左右上下に動かし、咆哮。

 

 もしやと思って少し距離を置いて試してみたところ、エシャロットの声の元に向かうように方向を変えた。

 どうやらエシャロットの絶叫を、同じラオシャンロンの咆哮と間違えているらしい。

 エシャロットの声がそれだけ規格外なのか、それとも狂竜ウィルスで頭が朦朧としているからなのか…。

 

 何度も使えないのが欠点だな。

 エシャロットが割りと落ち込むのもそうだけど、それ以上に喉が保たない。

 文字通り全力で叫ぶので、カラオケなんぞメじゃないくらいに喉に負担がかかるのだ。

 ハンターであってもキツいくらいに。

 

 

 

 ともあれ、エシャロット大手柄である。

 本人は嬉しく無さそうだが、妙に役に立つんだよな、コイツの音痴っぷり…。

 

 今日はエシャロットの喉が限界だからこれ以上同じ手段は取れないが、何度も剛打で転ばせて時間を稼ぎ、明日になったらもう一度。

 連日喉を酷使するので、元気ドリンコだけでなくハチミツも飲ませておこう。

 元気ドリンコグレートにはならないが。

 

 さて、どうなる事か…。

 

 

 

 

HR月『やり込みに向いてない性格』日

 

 

 エシャロットの尊い犠牲のおかげで、ラオシャンロンの進行ルートは完全に村から逸れた。

 何とか一安心だ。

 そしてラオシャンロン達は、このまま真っ直ぐ進めば確実にカチ合うルートに乗っている。

 狂竜ウィルスに犯されている方は、まっすぐ進むかどうかが一番心配な訳だが。

 

 

 エシャロットはというと完全に喉がダウンしてしまい、応援に駆けつけた彼女の友人達+ハンター達に面倒を見てもらっている。

 大声出すのって、結構疲れるもんね。

 しかしながら申し訳ない事に、少なくとももう一回シャウトしてもらわねばならぬのだ。

 ラオシャンロン達が近付いた時に、互いの存在に気付くように叫ばねばならぬのだ。

 そうでないと、近くまで来たはいいが、すれ違って終わりなんて事になりかねない。

 そうなってしまったら、今度はウィルス付きラオシャンロンがメゼポルタに、通常ラオシャンロンがこの村に来て、再び防衛戦開始である。

 

 

 まぁ、それでも先ほどまでよりはマシな戦いになると思う。

 エシャロットの友人達が、こっちに残ってくれるみたいだしね。

 

 とりあえず、ラオシャンロンがルートから外れないように監視。

 微調整だけなら囮作戦で間に合うので、そっちは俺が勤めよう。

 折角駆けつけてくれた皆さんには、あんまり見せ場がなくてすまないとは思う。

 

 が、狂竜ウィルスラオシャンロンは是非とも見ていっていただきたい。

 真面目な話、俺の気付かない事に気付く人も居るかもしれないし、そもそもこの辺では狂竜ウィルスなんぞ全く見られなかった。

 それを俺一人が存在を主張し、あまつさえ古龍…ラオシャンロンの体全体を覆うように発生していたなんぞ、いくら主張しても信じてもらえないだろう。

 目撃証言が、もっと沢山必要だ。

 

 

 さて、このまま順調に進めば、ラオシャンロン同士の激突まであと2~3日といったところか。

 ラオシャンロンがルート変更した事によって、一段落ついていたモンスター達のパニックが再度発生する可能性もある。

 防衛戦の準備を整えておこう。

 

 

HR月『世界大戦』日

 

 

 大☆惨☆事

 

 

 

 

HR月『なんでもない日万歳! 何故なら余計なイベントが無くて労力が少ないから』日

 

 

 結論から言おう。

 二龍競食の計、上手く行ったといえなくもない

 

 他のハンター達の協力の下、軌道修正も上手く行き、ラオシャンロン2体を鉢合わせさせる事が出来た。

 そこで2頭のラオシャンロンの間で、どんなやり取りがあったのかは不明である。

 が、互いに呼びかけあうように何度も咆哮を繰り返していたのが印象に残っている。

 

 「古龍が2頭揃うところなんて、見た事も聞いた事もない。これを見逃すなど、研究者としてあり得ん」とか言いながら、何時の間にやら合流していた学者さん達によると、何らかの意思疎通があり、友好的なものから徐々に険悪な状態に変わって言ったのは明らかだと言う。

 そんな事は見てりゃ想像がつく…と言いたかったが、流石に本職は一味違う。

 ラオシャンロンの細かい動作や首の動きなど、様々な根拠となる要素を一緒に解説してくれた。

 

 まぁ、それが何かの役に立ったかと言われると返答に困るが。

 

 

 

 ともあれ、目論見通りに二頭のラオシャンロンは激突した。

 最初に攻撃をしかけたのは、やはり狂竜ウィルスに犯されている方だった。

 暫くノロノロと攻撃を続け、もう一方のラオシャンロンが困惑するようにそれを避け続けて…暫くしてから怒りの咆哮。

 反撃が始まった。

 

 そこから先は正直、説明する気がしない。

 文章にするより、映画を見ろと言った方がいいだろう。

 2頭の巨獣がぶつかりあったら余波がどうなるか、正直甘く見ていた。 

 

 開始3分くらいで、周辺がそれはもうヒドい事になったので、残って観察すると言い張る学者を掻っ攫って全員撤退。

 戻ろうとする学者連中に蹴りを入れて黙らせつつ、遠くから観戦していたのだが……ラオシャンロンについて、ハンターが知っている事は本当に少ないのだな、と実感した。

 

 まさかアイツにあんな攻撃方法があるとは…。

 他のハンター達も目を丸くしていたよ。

 もしも砦の防衛戦であんな攻撃をされていたら、一溜まりもなく全滅の憂き目をみたことだろう。

 巨体を活かした見事な攻撃だった。

 

 

 

 正気を疑うような方法だったんで、描写はしないけどね!

 SAN値が削れる。

 

 

 

 狂竜ウィルスに犯されている方も同様に繰り出していた事からして、同種での縄張り争いなどで使う技なのかもしれない。

 ほら、キッシンググラミーとか鹿のボクシング的なアレだ。

 

 

 …そんな事をしていたから、かな。

 爪や牙で傷口を幾つも作っていたし、『独特の縄張り争い方法』で少なからず粘膜的接触もあったから…。

 

 

 もう一頭のラオシャンロンにも、狂竜ウィルスが感染してしまったよーです。

 

 

 

 

 どんだけ強力なんじゃい!

 

 いや、確かにラオシャンロンが休眠中の頃から、そこかしこのモンスターに感染してたから、不自然じゃないけどさぁ!

 正常だった方のラオシャンロンの体が、徐々に黒く染まっていくのは冒涜的光景だった。

 あっきらかに禍々しい物に浸食されているのが、よーく分かったよ。

 オッコトヌシがタタリガミになるシーンをリアルにしたらあんなカンジじゃないかな。

 

 

 …ドスファンゴに感染しないかな。

 

 

 動きも遅くなったり速くなったり、微妙に狙いが逸れたりして、ウィルスはラオシャンロンをあっという間に狂わせてしまったようだった。

 …これ、人間に感染しなくてよかったなぁ…。

 古龍すら狂わすウィルスなんぞ、人間に感染したら即発狂か即死だろ。

 或いはバイオハザードだ。

 普通の狂竜ウィルスならともかく、コイツは古龍の体内で変異したウィルス……流石にハンターでもゾンビ状態になるかもしれん。

 ラオシャンロンの戦いで、周囲に血とかも飛び散っていたので、そこから広がっていかなかったのは間違いなく幸運だったと言えるだろう。

 

 

 まー、おかげで2頭の狂竜(誤字に非ず)が文字通り力尽きるまで 丸々一昼夜暴れまわる事になっちまったがな!

 

 

 

 本来だったら、どっちか一方が撃退されて、村にもメゼポルタにも当たらないルートに逃げると思ってたんだよ。

 でも狂竜ウィルスのおかげで理性やら生存本能やらがマヒってしまったのか、鱗が剥がれようが部位破壊(ハンター的な意味じゃなくて、骨折とかの意味で)されようが、痛みを感じてないかのように目の前の相手に噛み付いていく。

 最終的には、「骨格ってなんだろう」と思うような状態になっていた。

 どうやら異常発揮される筋力だけで体を動かしていたらしい。 

 スゴイね、生物。

 

 

 それにしても、コレ、人間に例えたら…仲の良かった親友だか恋人だかの片方に一服盛って狂わせて、もう一方を殺させたって事になるのか?

 それとも両方に毒を盛って、夫婦に殺し合わせた挙句に、残った方もこれから仕留めようって話?

 

 

 

 …考えるの止めよ。

 どっちにしろ、残った一体の相手をこれからせにゃならんのだ。

 

 生き残ったのは、ウィルスに犯されてなかった方。

 いや、もう完全にウィルスに包まれてるんだけどさ。

 

 やっぱり狂竜ウィルスを受けるとパワーアップするって訳じゃないのかな。

 戦いにくくなるし、攻撃力も高くなるのは事実だけど、やっぱり体は柔らかい部分が多くなるし、何よりスタミナとかがどんどん削れていっているように見える。

 まぁ、狂走状態にもなっているっぽいから、疲れを自覚できてなさそうだったが。

 

 無理矢理体を動かさせてるようなもんだし、生物としてバランスが取れている通常状態の方が強いのかね?

 

 

 

 

 

HR月『掃除すれど掃除すれどビールの空き缶片付かず』日

 

 

 ラオシャンロンとの戦闘に突入した訳だが、何故か俺がリーダーを勤めている。

 いや、分からなくはないよ?

 何だかんだでここに一番近い場所…つまり開拓村のギルドマスターは俺だし、2頭のラオシャンロンとやり合っている内に、コネでギルドマスターになったという噂も払拭されたようだし。

 

 10人以上ハンターが居るから、纏め役が必要ってのも分かるしね。

 

 

 とりあえず、今回の戦いでは主に遠距離攻撃でどうにかしないといけない。

 接近戦も出来なくはないが、通常のラオシャンロンを相手にするのとは危険度が段違いだ。

 ヘタに近付いて返り血でも浴びたら、古龍を狂わすウィルスが感染する危険がある。

 

 でもなー、やっぱり接近戦は必要だった。

 狂竜ウィルスに感染すると、モンスターの体の弱い部分・強い部分が逆転するとかいう話があったが、正にソレだ。

 ラオシャンロンをガンナーで対処するなら、貫通弾で急所を狙うのがセオリーだったが、これがまるで効きやしない。

 表皮は柔らかく変化しているんだが、肝心の体内が物凄く頑丈になってるんだよな。

 単純にダメージを感知できなくなっていたんだと思うが。

 

 とにかく、急所と言えるような生命に直結する部分は殆ど効果なく、ただ只管外皮を削ってダメージを与えるしかなかった訳だ。

 

 

 ラチが開かなかったので、最終手段としてちょっとグロい方法を取った。

 まず、ラオシャンロンの体には、先ほど倒れたラオとの戦いで出来た傷が幾つもある。

 それもかなり深い傷だ。

 抉れている部分すらあった。

 

 その抉れている部分が狙い目だ。

 まず、防護服(と言っても防毒スキルがついてるだけだが)を着て、その傷の位置まで進みます。

 

 そして持って来た爆弾を、傷口に無理矢理詰め込みます!

 グチャグチャとかビチャビチャとか聞こえたけど気にしない。

 

 

 ドカーン。

 

 …割とグロい事になった。

 ウィルス撒き散らないかなこれ…。

 

 

 まぁ、それを何度か繰り返した事によって、何とかラオシャンロンを動けなくできた。

 元々、ラオシャンロン同士の争いであちこちの骨が折れていたようなので、体を無理矢理動かしている筋肉さえ断ってしまえば動けなくなるのも道理である。

 その後も暫くジタバタと、釣り上げられたガノトトスのようにもがいていたが、半日ほどすると動かなくなった。

 

 体が黒く染まっていっていたのも徐々に止まり、見間違いでなければ、ゆっくりとだが通常の色に戻りつつある。

 もう一頭の、最初から感染していた方は死んでも体が黒いままだったんだが…いや、表皮をド突けばそこだけ色は元に戻ったんだけど。

 という事は、こいつらに感染しているウィルスは、宿主の命とは関係なく活動できるのだろうか?

 

 謎が深まるが、考察や研究はハンターの仕事じゃないしな。

 とりあえず、2頭ラオシャンロンという危機を退けた事を喜ぼう。

 

 

 

 

 

 

HR月『ペットボトルも片付かず』日

 

 ラオシャンロンを退けただけでなく、結果的に2頭も討伐した事で、メゼポルタではお祭り騒ぎになっているらしい。

 まぁ、稀に見る大イベントだったもんな。

 その中心近くに居た人物という事で、俺も結構持ち上げられているとか。

 

 英雄扱いするから祭に参加してくれね?みたいな打診もあったんで、村の皆や地主の嬢ちゃん達と一緒に行く事になった。

 まーなんだ、唐突な下ネタで申し訳ないが、そろそろ俺も性欲を持て余していたでな。

 

 MH世界に居ると、妙に健全に狩りばっかり(それはそれで不健全かもしれないが)の生活を送っていたが、まぁやっぱり溜まるモノは溜まりますわ。

 ラオシャンロン戦が久々の鉄火場だったし、生存本能とか生殖本能が盛大に刺激されてしまったようだ。

 

 ムラムラしますよ。

 

 

 まぁ、だからって流石に村の連中に手を出す訳にはイカン。

 エシャロットは弟子だし、パピ嬢はお子様だし、地主の嬢ちゃんは年頃だけど立場もあるし。

 まぁ、あんまりそういう目で見れない相手だ。

 エシャロットが大剣を振り回してる時の脇とか、ちょっと目が吸い寄せられたけど。

 

 ユニスとだったらそういう仲になれるかもしれんが(ちょっとばかしアルコールとかイリーガルスレスレの手法を使う事になりそうだが)、以前とはちょっと状況が違う。

 何せ、極小(弱小とはプライドにかけて言わぬ)ギルドのトップと、その会計士(その他諸々を兼ねる)だ。

 個人的な付き合いが始まってみろ。

 あっという間に公私混同が多発するわ。

 

 そうでなくとも、俺もユニスも欲望に流されやすいタチなんだし…。

 以前は一介のハンターと一介のギルド嬢で、周囲にストッパーになる人が沢山いたから良かったものの…。

 

 

 まぁとにかくだな、前恋人(俺にとっては)のユニスが近くに居て、色々慕ってくれる美少女…美幼女が居るのに悪いが、俺は新しい出会いを探します!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの、エシャロットさん、何故に俺にトラップを?

 友人達の助けを借りたとは言え、この俺の不意を付くとは、やるようになったものよ。

 ラオシャンロン戦で一皮剥けたか。

 

 

 何、俺を一人で放置してたら、絶対ロクでもない事になる?

 酒が無くてもあの奇行なんだから、酒が入ったらメゼポルタが半壊するくらいは否定できない?

 そしてパピ嬢の恋路の味方?

 

 

 

 失敬な、レジェンドラスタやG級連中じゃあるまいし。

 精々人間一人から、多く見積もっても10人くらいの人生がルナティックな難易度になる程度だよ。(オカルト版真言立川流にド嵌りして、将来の展望がアカン事になる程度で)

 そしてパピ嬢は……まぁその、二次元の話ならともかくリアルでロリを相手にするのは罪悪感がハンパ無いと言うか、エレクチオンしないと言うか…。

 

 

 シビレ罠に眠り肉に落とし穴から頭だけ出して、更に周囲に爆弾とか遠慮ねーな。

 

 

 

 

 

 まぁ全部ミタマのタマフリで無効化して逃げたがな!

 

 

 その夜、祭そっちのけで俺達の追いかけっこが繰り広げられたのは言うまでもない。

 祭そっちのけと言うか、酔っ払ったハンター達が俺を追いかけ始めて、人狩りの様相を呈していた。

 

 

 

 

 そしてまさかこんなトコでナターシャさんに捕まるとは思わなかったよ!

 

 

 

 

 

 

HR月『ていうかまともに掃除してないじゃん』日

 

 デカい山場も超え、時間的にも3ヶ月前後。

 真面目な話、いつものパターンならそろそろデスワープの時期であるな。

 

 まぁ、この開拓村を遺して逝くとか、心残りを通り越して無念極まりない話だから、死力を尽くして抵抗する所存だけど。

 だが、もしもこのループがイヅチカナタに監視されて、或いは操作されているモノだとしたら、無理矢理にでもデスワープさせられる可能性はある。

 対抗の準備だけはしておくか。

 

 

 

 それはそれとして、ナターシャさんの事だ。

 てっきりお祭り騒ぎに乗じて何となく俺を捕まえたのかと思っていたが、どうもキッチリ狙いをつけられていたらしい。

 

 あの変人を捕まえるなんて、流石レジェンドラスタ…と言われて機嫌が良さそうだったんで安心していたが、フェイントだった。

 近くの酒場に連れ込まれ、物凄い勢いで説教を受けてしまった。

 

 

 何についてって、弓についてだよ。

 ラオシャンロン戦を捌いた実力は評価するが、だからこそ弓の扱いに我慢できなかったとか何とか。

 

 

 

 …あ~、確かになぁ…あの弓の扱い方はナターシャさんにとっては許されざるやり方だろうな。

 一撃必中、無駄を徹底的に省いて標的の急所を射抜く事を美学にしているナターシャさん。

 それに対して、今回俺が指揮したやり方は、下手な鉄砲も数討ちゃあたる……いや、狙わなくても当たるから、戦いは数だよ兄貴!の方か?

 でもそうでもしなけりゃ、遠距離攻撃で狂竜ラオシャンロンにダメージが通らなかったんだから仕方ないじゃないか。

 

 が、そんな事はナターシャさんには関係なし。

 よりにもよって『俺が』そういう指示を出したのが、何より気に入らないらしい。

 

 ナターシャさんの説教事態は半ば聞き流していたんだが、ビビッたのはここからだ。

 

 

 

 

 俺がどこかで、ナターシャさんに非常に良く似た使い手から手ほどきを受けていた事を見抜いていた。

 

 

 いや、流石にループの事とかは言及されなかったけど、「少なくとも私と同等かそれに近い実力を持っていて、限りなく同じような理念を持った誰かに訓練を受けたでしょう?」と。

 俺の弓ダコとか、何処に立って何処を狙ったかとか、道具の使い込まれ具合とかで、そいつの実力やどんな訓練をつんだのか、大体予想がつくらしい。

 

 

 知ってはいたが……レジェンドラスタ、パネェ。

 

 

 まぁとにかく、そういう訓練を受け、それなりの実力を持った俺が、その美学を思いっきり足蹴にしたのが我慢できなかったとかナントカ。

 状況が状況だったのを差し引いても。

 

 状況を分かってるんなら言ってくるなよ、とは思うが、前回ループで会ったキースさんの刀に対する拘りとかを思い出すと、この徹底した姿勢こそがレジェンドラスタ達の実力を形成する一端なのかもしれん。

 まぁ、ヘタな事を言って拗らせるのも何だったし、適当に話を合わせておいた。

 前回散々鍛えられたから、ナターシャさんが何を言いたいのか、どういう理念を持っているのか、それをどんな表現で現すのを好むのか、把握しているからな。

 

 

 で、ある程度意識して合わせているのは気付かれているだろうが、ナターシャさんにしてみれば、初見の相手なのに異様に話が合う訳で。

 色々テンションが高くなって、酒をガンガン飲みながら語っている。

 

 

 …俺を追いかけてきた、エシャロット達も巻き込んで。

 唐突に始まった、一般ハンターにはレベルが高すぎる弓の講義を強制的に聞かされているが、為になるから聞いていきなさい。

 これ、ギルドマスター&先輩ハンター&ラオシャンロン戦の英雄の命令ね。

 

 と言うか、この人本当に酒豪ってレベルじゃねーわ。

 ウワバミと言えば酒飲み・底なしの事を表するが、この人ヤマタノオロチレベルだ。

 ……この世界に合わせて言えば、ラヴィエンテレベルかな。

 

 話が分かる新米ハンター(この人から見た俺の事ね)が現れて上機嫌になって、折角だからとヒヨッコハンター(エシャロット達)にも講義してくれてるんだが、酒に強すぎる。

 いや強いというのもあるんだが、酒癖が悪いのか、絡み酒なのか…。

 エシャロット達がどんどん前後不覚になっています。

 折角いい事沢山言ってるのにねぇ…。

 聞いてる相手が俺だけじゃ意味ないよ。

 

 

 

 

 

HR月『でもペットボトルや空き缶の回収が月1回はちょっとキツい』

 

 妙に長いなー、と思ったら、既に2晩過ぎていた。

 ナターシャさん語りすぎィ!

 

 と言うか、それだけ飲み続けて平然としている辺り、アルコールで酩酊する機能が麻痺してんじゃないかと思えてきた。

 エシャロット達は、最初は聞いていたものの這う這うの体で逃げ出し、お説教(既に独演会)を受けているのは俺一人。

 俺も流石に限界が近かった。

 

 解放されたのは説教が終わったからではなくて、飲み屋の酒が全てカラになったからだった。

 勿論、当日仕入れで入ってきた分も含めて全部。

 しかも4軒ハシゴした。

 酒量もそうだが、支払いがエラい事になっていた。

 しかし平然と払えるレジェンドラスタの甲斐性がスゴイ。

 

 

 で、まぁなんか…村に来てくれる事になりました。

 何故?

 ホワイ?

 

 いや嬉しいけどね?

 

 

 弓の講義にせよ酒にせよ、私にここまでついてこれた人は初めてだ、とか言って笑ってた。

 弓はともかく酒はなぁ…。

 いやでも、探せば同じくらい飲る奴が居そうなのがこの世界だけど。

 

 弓の講義が中途半端な所で終わってしまったため、不完全燃焼らしい。

 開拓村に来て続きをやると言い出した。

 

 レジェンドラスタとしての活動はいいのか?と聞いたのだが、今期のノルマは既に終わっているそうな。

 それでもルールがあるから全面的に狩りを手伝う事はできないそうだが、それ以外は自由。

 エシャロットに講義しようと、農場に専念しようと文句は言われないらしい。

 

 こっちとしては問題は無い。

 むしろレジェンドラスタが滞在した開拓村って事で、住民の増加すら見込めるかもしれない。

 エシャロットは未だに大剣しかマトモに扱えないが、ナターシャさんに任せれば一端の弓使いになれるだろう。

 前の俺みたいに射抜かれるかもしれんが。

 

 

 

 …あ、一個問題あったわ。

 

 祭でナニも発散できなかったんで、下半身を持て余しております。

 そこへ来てナターシャさんだろ?

 露出度高め、ナイスバディ、そして前ループではキスだけしてくれた、ナターシャさんだろ?

 しかも、立場的にもナニする関係になったとしても(多分)問題ない。

 

 ………肉欲に走るか?

 いやしかしこれでも威厳…はなくても畏怖はされているギルドマスターとしては、性的な目で見れる相手が来たらすぐに流れるというのはちょっと…。

 




ふと気が付く。
今までのループで恋人ポジションになったキャラ達は、エロ的な意味で全員未経験。
…一人くらいは経験豊富な人を入れるべき…いや、ジーナさんは明記してなかったかな。

うーむ、レジェンドラスタとかG級ともなれば、それなりの年齢になってるだろうし、付き合いだってあるだろうし…ナターシャさんを経験済みすべきか、それとも0から10まで独占状態にするか…。


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76話

ナターシャさんに対する反応が予想通り過ぎて草不可避ww

バサラ発売まであと僅か。
失望しなけりゃいいんだけども…。
しかし発売前に休みが入ってもなぁ…発売直後に休ませてほしかった。
スパロボ休みってマジであるんだろうか?

ううむ…休みは何をしようかな…某同志の部路魔がを購入すべきか否か…。

22日が昼番、23日が夜番なので、22日が終わったら食料買い溜めして日付が変わるまで寝ます。



 

 

HR月『魚の目が治らない』日

 

 俺も変人と言われて久しいが、レジェンドラスタはそれ以上だって事をすっかり忘れていた。

 弓について語りだすと止まらないのは知ってたが、自分の美貌についても同じくらいに語る人だった。

 実際セクスゥィーでフつくしいのは異論無いんだが、こうまで語られると割と残念な人に見えるね。

 村に来て三日目にして、彼女の高笑いが目覚まし時計代わりになりつつある。

 

 これに対するエシャロットのコメントが、「おだて易い」な辺り、結構黒く染まってきていると思う。

 

 にしても、こんな性格だったっけ?

 もうちょっとこう…自分の事よりも弓について語る人だったような。

 前回は弟子扱いだったからか?

 

 ま、それはいいとして、エシャロットが色々と大変な目にあっているようだ。

 まず、エシャロットの格好がナターシャさん的にイマイチらしい。

 いや、可愛いし似合うっていうのはナターシャさん的にも異論ないようなんだが、ナターシャさんの美意識的に、服装は黒が基本、らしい。

 よく見てみるとゴスロリだもんね。

 

 そんな訳で、エシャロットを着せ替え人形にして遊んでいる。

 これは別にいいんだ。

 辟易としている面も見えるが、エシャロットだって女の子。

 キレイな服を着るのはイヤではないようだ。

 

 …パピはというと、頭のあの被り物を取る取らないでナターシャさんと反目し、レジェンドラスタと気迫で張り合えるというある意味スゴイ将来性を見せてくれた。

 将来はバラライカの姉御並みの傑物になるやもしれん。

 ……俺が頼んでも絶対外さないんだよな、あの被り物…。

 中に一体ナニがあるというのだ。

 

 

 …それについて話が及んだ時、地主の嬢ちゃんが黙り込んでガタガタ震えてたんだが……謎だ。

 

 

 ………まぁアレだ、俺が言うのもなんだけど、恋に恋する少女は強いって事にしとこう。

 恋に恋の当事者にされてる俺がいうのは、いろんな意味で侮辱的だとは思うんだがな。

 

 

 話が逸れたが、エシャロットはやっぱりエラい目に会っている。

 「私の弟子の弟子が、弓を使えないなんてあり得ないわ!」とか言ってるんだが……弟子って俺の事だよな?

 んでその弟子がエシャロットだよな?

 

 いや、確かに前ループでナターシャさんの弟子みたいなものだったし、エシャロットは俺の弟子ですけどね。

 何時の間にこのループでも弟子になったのやら。

 

 祭の時?

 

 酒に潰れてたら下僕決定だったけど、最後まで意識を保って話を聞いてたから弟子?

 …ちなみに、飲み比べで勝ってたら?

 

 

 

 旦那さん候補?

 マジ?

 

 

 

 …あー、話が逸れた。

 エシャロットの事だった。

 大剣しか扱えなかったエシャロットが、目覚しい勢いで弓の腕を上げている。

 そりゃ上がりもするだろう。

 というか上がらなきゃやってられんだろう、あんなスパルタ…。

 

 俺も大概厳しかった自覚はあるけど、其れはどっちかと言うと奇行につき合わせていたからこそ。

 ソレに対して、ナターシャさんのスパルタ具合は真っ当なやり方って感じがする。

 何でもありの俺と、正道を行く…いや、いかせるナターシャさん。

 ただし密度は段違い。

 無論、彼女の方がずっと厳しい。

 

 

 がんばれ、エシャロット(他人事)

 

 

 

 

NTD3DS月『肩の後ろの2本のゴボウの真ん中にある脛毛の下のロココ調の右』日

 

 

 新しい月に突入。

 なんか妙に長いというか密度の濃い前月だった…。

 

 …ナターシャさんより酒が強くて狩りが上手い人ねぇ…。

 居るのかな?

 いや、この世界なら居てもおかしくないんだけど、遭遇率を考えるとね…。

 お局様にならないか心配だ。

 

 俺が!って思わなくもないんだが、まぁ言うまでも無く愛情云々よりも肉欲前提のお話だし、そもそも酒で勝てる気がせん。

 

 や、待てよ?

 よく考えてみりゃ、仮面ライダーアラガミ状態になったら状態異常とか普通に弾けるし、ほとんどの傷もその場で治るよな。

 酔いだってその場で醒ませるんじゃね?

 急激にアルコールを分解したらそれはそれで危険そうだけど、そこはアラガミボディに期待するって事で。

 度々トイレに行くフリをして、変身してリセットすれば…。

 

 

 …ちょっと真面目に考えてみるかな。

 反則技に頼ってる時点で、真面目もクソもないといわれりゃそれまでだが。

 

 

 

 ところで、今回死ぬとしたら原因はなんだろう? 

 いつものパターンなら、そろそろデスワープの時期だ。

 時間的にも約3ヶ月過ぎているし、2頭のラオシャンロン撃退・討伐という大イベントもこなした。

 

 順調のように見えるが、毎回「アホか」と思うような死因でデスワープするからな…ラオシャンロンの目覚めに巻き込まれて、火口に落下するとかね。

 

 今回は、痴情の縺れ…は無いと思う。

 モンスターとの戦いにしたって、まだそんなにヤバい相手が居る場所まで踏み込んでないし、ナターシャさんという大きな戦力もできた。

 エシャロットも順調に腕を上げている。

 

 モンスター以外の死因……病気か天災?

 それとも、さっき考えたインチキが原因での急性アルコール中毒?

 

 

 

 うぅむ……ただ一つ断言できる事は、まともな死因じゃないって事だろうな。

 

 

 

NTD3DS月『ゲームに飽きると執筆が捗る』日

 

 

 なんという急展開!

 村への移住希望者が急激に増えているらしい。

 

 何故に?

 まさか、前回のラオシャンロン戦で俺を見込んで?

 

 

 

 …ちげーよ、ナターシャさんが暫くここに滞在すっからだよ。

 うん、分かってたけどね?

 

 奇人変人とレジェンドラスタ(セクシー担当)じゃ、どっちに軍配が上がるかなんて考えるまでもねぇよ。

 誰だってそうする。

 俺だってそうする。

 フルフル亜種だってそうする……主に人体についてるフルフル亜種だが。

 まぁ、中にはハンターよりも同じフルフル亜種に飛び掛っていく奇特な奴も居る訳で。

 

 

 …村に来たいって言ってる人の中に居るんだよね……A.BEEさんが。

 

 

 どうすっかなぁ、コレホント…。

 戦力で言えば、間違いなくプラスだ。

 俺と同じ時期のハンター訓練所出身、駆け出しとは思えないくらいの強キャラなんだ。

 しかも、なんか知らんが(という事にしておく)モンスター達を本能的に怯えさせる『ナニか』を持っているらしい。

 自然界では同性愛とか珍しくなかった筈なんだが…。

 ウソか本当かは知らんが、ハンター訓練所に入る前に、リオレウスすらビビらせたという話を聞いた事がある。

 隣でリオレイアが首を傾げていただか、熱い視線を注いでいただか、何やらウス=イ岩に壁画を刻んでいたとかいう話もあったが、流石にこりゃ吹きすぎだろう…と思っておく。

 

 

 …しかし、村に来るのは女性だけじゃない。

 A.BEEさんの標的になりそうな、イイ男とイイ男候補だって居る訳で。

 そこでA.BEEさんが野放しにされた日にゃ、村が別の意味での開拓地となってしまう。

 パピ嬢が新たな境地を開拓してしまったら、俺はきっとデスワープして全リセットも辞さないぞ。

 

 地主の嬢ちゃん?

 アレはセーフ…ムルカ君が泣くかもしれないが。

 

 

 

 と言うか、自意識過剰でなけりゃ、一番危険なのは俺だ。

 前回ループで狙われた実績もあるし、言っちゃなんだが移住希望の中では、能力的には最高値だという自信もある。

 …ま、その実力にしたって、ナターシャさんを見てると「俺、思い上がってたなぁ…」ってなるけどね。

 

 前回弟子扱いだったんで、それなりのレベルにまで昇れたと思ってたが、訂正する。

 俺がハンターの中でそこそこ名を知られたのは奇行故であって、実力によるものじゃなかった。

 ユクモ村付近で上級ハンタークラスになったからって、それで世間で通用する訳じゃないんだ。

 

 G級、レジェンドラスタ…そして開拓地の上級ハンター。

 俺はようやっと開拓地上級ハンターの足元までにじり寄ったくらいでしかなかった。

 やっぱおかしいわ、この世界…。

 

 

 

 と、とにかくだ。

 A.BEEさんが来るのは、もう避けられん。

 A.BEEさんの事を知らないパピ嬢が、もう移住OKを出してしまってる。

 仮に俺がその場に居たとしても、恐らく止められまい。

 ギルドマスターといえど、開拓村にやってくるハンターを拒む権利なんぞ無いのだ。

 

 前回ループと違い、責任ってものが出来てしまっているので、とんずらぁ!が出来ないのだ。

 とりあえず、全力でA.BEEさんに抗う準備だけはしておこう。

 

 おい、俺の中ののっぺら連中!

 全力で手を貸せよ?

 もしも俺がA.BEEさんに捕食されるような事があったら、道連れにしてやる。

 俺の中にA.BEEさんのアバターだか分体だかが産まれて、お前らを襲いに行くからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壮絶な抗議と、少ないながらも「熱烈歓迎」と書かれた旗を掲げるノッペラ軍団の夢を見た。 

 

 

 

 

 

NTD3DS月『卵かけご飯に練り梅はちょっと…』日

 

 

 A.BEEさんが来た。

 元気そうで何よりだ。

 だがにじり寄って来るな。

 

 今回ばかりは、エシャロットやパピ嬢を盾にしてでも接近を阻止せねば。

 A.BEEさんは女性や子供に手を上げるような人じゃないよね?

 ナニかやらかした子ならともかく。

 

 

 

 意外というかなんというか、A.BEEさんは性癖以外は割りとマトモな人だった。

 流石イイ男というべきか、仕事…狩りに限らず、農業や柵の修理とかも真面目にこなすし、人当たりもいい。

 ロマン満載のアレな装備をしている女性ハンターに対して、まるで邪心が感じられないから、信頼も厚い。

 ハンターとしての腕は、言っちゃなんだが新人の中では中~上ってところか…俺と違って奇行に走らない、真っ当な強さだ。

 

 …ただ、時々モンスター(雄)を見る目がオカシイとかいう話は上がっているが、直ちに問題はない。

 むしろモンスターの方がビビって狩りやすくなるから、現状ではメリットしかない。

 …俺以外にはな!

 

 幸か不幸か、居住民の中にはA.BEEさんのおメガネに適った男は居ないらしい。

 もうモンスターだけ狙ってろよ、と言いたいね。

 

 

 とりあえず、戸締り強化しとくか…。

 いや待て、身代わりにムルカ君とかポイクリ爺さんを置いておくのはどうだろう?

 ムルカ君…はまだイイ男の範疇には入っていないと思う。

 どっちかと言うと青い果実と言うか、成長段階と言うか。

 

 逆にポイクリ爺さんは……物理的に入るのかね?

 アイルーよりも体が小さいんだけど。

 

 いや、身代わりにするんなら女性にするのが一番確実なんだけどね。

 A.BEEさんなら手を出さないだろうし。

 …ただ、流石にそれはちょっとどうよ、と思うが。

 これでも多少の良心は持っているのだよ。

 

 

 

NTD3DS月『魚の目が治りかけている』日

 

 初日。

 流石に最初っからA.BEEさんが夜襲をかけてくる事は無かった。

 ただ、村を夜中に歩き回っていた形跡があったから、多分地形とかの把握を優先したんだろう。

 夜襲の為か、それとも真面目な仕事の為かは分からないが。

 

 狩りに誘われた。

 これに行くのは、まぁ問題ない。

 お互いハンターなんだし、モンスターの目前でおっぱじめる程危機感がない人じゃない。

 

 でも狩場でお泊りは禁止ね。

 俺だってギルドマスターとしての仕事があるんだ。

 今まで投げっぱなしだったって?

 だからそのツケが押し寄せてきてるんです、この前のラオシャンロン戦の後片付けだってあるんです…という事にしておく。

 

 

 察してちゃんと仕事を持って来てくれるパピ嬢マジ天使。

 ユニスさんがそれに乗じて、ギルドマスター以外の仕事も押し付けてきてるんだけど、これはまぁ仕方ない。

 それこそ今までのツケって奴だ。

 

 

 

NTD3DS月『牛肉よりも豚肉派』日

 

 

 ナターシャさんが敵側についた…のか?

 俺の狩場でのサバイバル方法に興味があるって言われたんで、ホイホイついていってしまった訳だが…先に狩場にA.BEEさんが到着していたよ。

 ぬぅ、「ここに居るって事は、ギルドマスターの仕事は終わったんだろう? 俺も興味があるし、一緒にイかせてもらうぜ」……微妙にイントネーションがアレだが、本人は訛りだと主張している。

 

 こうなってしまえば、もう断る事はできない。

 あまり強硬に拒むのも、ギルドマスターとしては褒められたもんじゃない…性癖はどうあれ、A.BEEさんは一介の真面目なハンターなんだから。

 

 

 いや、味方を襲う疑惑があるハンターを真面目なハンターと評するのはどうかと思うんだが。

 それでも被害届の類が出ているって話は聞かないし、ひょっとしたら俺の自意識過剰でしかないんだろうか?

 ゲイだかホモだかの性癖には変わりないようなんだが、同性愛者=犯罪者、レ○プ魔という図式は偏見でしかないんだし。

 同性愛者だって理性はあるし、好みだってある。

 『ヤりたくなる』と『手を出す』では全く別物だ。

 誰彼構わず、力尽くで手を出そうとする…というのは、道行く人を全員犯罪者だと断じる行為に等しい。

 

 …理屈ではね?

 ループしている間に、何度か「俺はノンケでもry)」のセリフを聞いた覚えがある身としては、その理屈を素直に信じられないが。

 ……一応明記しておくが、これまでのループでも襲われた覚えはない…距離を取ってたし。

 

 

 

 ちなみに、ナターシャさんがA.BEEさんに向ける評価は、「まぁまぁね」の一言だった。

 弓使いじゃないから興味がないんだろうか?

 

 

 それにしても…ちょっと懸念がある。

 考えたくも想像したくもない事なんだが……オカルト版真言立川流の事だ。

 ヤバいレベルの秘術書だけあって、「え、マジでこんなのやるの?」と思うような事も結構書かれている。

 俺ですらドン引きするような内容だってある。

 

 …そして、ケツを掘られる場合の『オタノシミ方』の方法まで書かれていた。

 「幾らなんでも、コレは使わないだろ」と思ってたんだが……意外とそうでもなかった。

 前ループで那木とかが、表面を撫で回したり、指を差し込んできた事が………まぁ何だ、嫁に掘られるなら許容範囲というかなんというか。

 

 

 期せずして、そっち系の技術もある程度は覚えている。

 …もしもA.BEEさんに掘られてしまったとして……オカルト版真言立川流の術は、A.BEEさんに通じるのか?

 通じてしまうのか?

 今まで何人もの女性をコレで弄んできたけど、受身側になったらどうなるのか?

 あまり考えたいこっちゃないが……A.BEEさんがオカルト版真言立川流の虜になる?

 つまるところ、他のイイ男に目もくれずに、俺ばっか狙われるようになる?

 

 

 

 冗談じゃない。

 

 ありとあらゆる意味で、徹底抗戦の覚悟を決めよう。

 

 

 

NTD3DS月『天然水のヨーグリーナが意外と甘い』日

 

 

 狩場に泊り込み3日目。

 狩りは順調。

 例によって例の如く乱入が発生したのは問題だが、今度の奴は特に狂竜ウィルスの兆候もなく、俺・レジェンドラスタ・イイ男が揃って梃子摺るような相手でもなかった。

 乱入の回数が問題だったけどな……デカブツ4体、中型7体で2桁の大台に乗っていた。

 

 …ただ、心配は心配ではあるんだよな。

 例の狂竜ラオシャンロンが闊歩したのは、ここからもう暫く進んだ辺りだ。

 倒した場所も近いし、ウィルスが拡散して残っている可能性が否定できない。

 モンスター達は我先にと逃げ出していたから、残っているとすれば生物の体内よりも、薙ぎ倒された木々や、風に乗って飛ばされた微細なウィルスのみだと思うが…。

 

 二人にも話はしてみたが、流石にそれは自分達ハンターではどうにもできない、だそうだ。

 自然の浄化力に期待するしかない。

 …浄化するどころか、繁殖してモンスターが適応してしまう可能性もあるが。

 

 暫く付近を歩き回ってみたが、ウィルスらしい痕跡は発見されず。

 むしろ、それよりも動物やモンスター達の縄張り争いが激化の一途を辿っていた。

 …ある程度安定していた野生の勢力図が、ラオシャンロンの出現で一気に崩れたからな。

 逃げ出して戻ってこなかった奴、逃げている最中に何かに捕食された奴、戻ってきたはいいが元のナワバリを強力なモンスターに奪われてしまった奴。

 大人しく元通りになる筈が無い。

 10回以上も乱入をうけたのは、この為なんだろう。

 

 

 正直な話、この状態の狩場付近で泊り込みするのは勧められない。

 普段であればモンスターがまず近付かない、ベースキャンプにすら乱入される危険があるからだ。

 見張りを立てればいい、ってもんじゃない。

 ハンターやってると感覚が狂いがちだが、自然というのはマジで怖いのだ。

 

 

 

 ちゅーかA.BEEさんを見張りにしても、見張りになる気がしない。

 ナターシャさんが見張りしてても、A.BEEさんが近くに居るんじゃ安眠できる気がしない。

 そして俺が見張りしてたら、やっぱり休めない。

 

 ……2~3日の徹夜ならナントカなるけどさ……流石にこの状況の狩場でそれは無いよ。

 睡眠不足が原因でデスワープとか笑い話にもならね。

 

 

 

NTD3DS月『理由をつけてはジムをサボる』日

 

 ラオシャンロンの体内で突然変異した狂竜ウィルスは、人間にも感染するのか?

 いや、変異前のウィルスがハンターに影響を及ぼすんで、それ自体に違和感は無い。

 が、理性を奪うような効果があるのか?

 

 それが問題だ。

 

 通常ウィルスに感染し、発病したモンスター達は、明らかに理性に異常をきたしている。

 だが、ハンターは違う。

 肉体的に異常は発生するが、理性は……まぁ、多少の差は出るかもしれないが、保たれたままだ。

 

 ならば、古龍をも蝕むウィルスならばどうか?

 人間の体は、そして理性はどうなる?

 正直な話、通常ウィルスが少々変わった程度で、古龍を狂わせる程の変化がおきるとは思えない。

 古龍というのはそれ程に強力な存在だから。

 

 しかし、事実狂わせていた。

 ならば、素人考えになるが、可能性は二つ。

 一つ目、ラオシャンロンが眠り続けている間、ただ只管に変異を繰り返し続け、通常ウィルスとは一線を画する…いや、全く別物へと進化した。

 二つ目、『生物を狂わせるウィルス』から、『ラオシャンロンを狂わせるウィルス』…つまり標的のみにしか効果が無いが、標的にだけは効果は抜群だ!になる特化型へと変わったか。

 

 

 二つ目の推論には少し矛盾が出る。

 ラオシャンロン以外にも、狂竜ウィルスに感染したモンスターは居たからだ。

 だが、結局のところ生物の能力はキャパシティに縛られている(多分)。

 海を泳ぐ魚が空を飛ばない(トビウオみたいなのはともかくとして)のは、生物としてのキャパシティを、水中で生活する為に使っているからだ。(恐らく)

 人間がひ弱(ハンターの事は考えない)なのは、繁殖力と道具を使う器用さ、そして理性にキャパシティを振っているからだ(めいびー)

 

 だとするなら、通常ウィルスはどうやってラオシャンロンを狂わせる程の影響力を得たのか?

 単純に考えれば、他の生物へ干渉する力を全て捨て、ラオシャンロンにのみ適合する事で、それだけの力を得たのだと思われる。 

 ならば、他のモンスターに影響するのはおかしい。 

 増して、通常ウィルスでも影響を与えられない、ハンターの理性を奪うような事は考えにくい。

 

 

 一つ目の推論では?

 …あり得る、かもしれない。

 変異がそこまで短期間に進むというのは、あり得るのだろうか?

 ……あ、ラオシャンロンが長期間休眠していたんだから、時間事態は腐る程あったのか。

 

 それほどに強力なウィルスだとするなら、流れ出た片鱗のみでモンスターを狂わせるのも不思議ではない。

 つまり、同様にハンターの理性にも何かしら影響を与える可能性が否定できない、という事だ。

 

 

 一番の問題は、少なくとも今この場には、これを検証する方法が無いって事なんだよな。

 もしも、このまま『変異ウィルスに感染したハンターは、理性を奪われる』という事実を立証できなかった場合…………A.BEEさんが終わるかもしれん。

 

 

 

 長々と現実逃避してきた訳だが、この際だからもうちょっと逃避しようと思う。 

 ドアの向こうから聞こえる、ナターシャさんとA.BEEさんの声は激化の一途を辿っているしな。

 ただしナターシャさん優勢で。

 

 「私が目をつけてたのに、醜いバラなんかに渡すものですか!」って……いや言ってくれるのは嬉しいんだけど、状況が状況だからA.BEEさんの方を助けにゃならんのですが。

 

 …ナンカを竹刀で叩くような……いや、アレは多分、矢切りの音だな……音が聞こえてくる。

 A.BEEさんの声は…追い詰められては居るが、なんというかギャグチックなのでもう暫く放っておいても大丈夫だろう。

 バラとゲイは違うとかなんかよく分からない叫びが聞こえてくるし。

 

 

 じゃあもうちょっと逃避。

 

 ここまで書けば何があったか、何となく予想できるかもしれないが…要するに、狩りを終えて村に戻った夜、A.BEEさんの夜襲があった。

 狂竜ウィルスに感染している事は、間違いないと思う。

 黒い靄が体の近くを漂っていたからな。

 何処で感染したのかは分からないが、矢張り狩場付近でウィルスが残っているらしい。

 

 だが、前述したように通常の狂竜ウィルスに、ハンターの理性を奪うような能力は無い。

 だったら変異したウィルスなら?

 もしもそんな力があるとしたなら、A.BEEさんの夜襲は狂竜ウィルスに狂わされた為で、多少は酌量の余地があるのではないか? 

 

 

 事実、A.BEEさんの様子は少しおかしかった。

 何せ、自分の体に纏わり付いていた狂竜ウィルスの黒い霧に気付いてなったくらいだ。

 そしてそれを指摘しても、「そんな事より」

 

 

「 や ら な い か 」

 

 

 の一言で済ませてしまった。

 仮に性欲を持て余していたとしても、明確な異常を放っておくようなハンターじゃない筈なのに。

 

 …ええまぁ、全力で抵抗しましたとも。

 狩場で安眠できなかったんで、帰って来るなり昼寝して、そして寝すぎて夜に眠れなくなっていたのが幸いした。

 あの分だと、寝付いたままだったら知らない間にケツの処女を散らしていたかもしれん。

 ……処女だよな、俺?

 

 怖い想像はともかく、騒ぎを聞きつけて見物に来たナターシャさんと、部屋の窓からジャンプで逃げた俺がカチ合った。

 で、明らかに暇潰しのネタを探していたナターシャさんに説明を求められたんで、助けを求めたんだが…思い返すと、俺かなりみっともない顔してた気がする。

 恐怖で幼児退行すらおこしていたのではなかろうか。

 

 

 面白そうな顔をしていたナターシャさんだったが………顔が、一瞬で鬼の顔になった。

 女は怖いっていうけど、このループで一番それを実感した表情だったよ。

 きっとイヅチカナタなんて、アレに比べりゃ怖くもなんともないね……千歳と会えなくしてくれた礼はキッチリするけども。

 

 ともかく、般若と化したナターシャさんは、目にも留まらない速度で俺の部屋に(俺が飛び出してきた窓から)ダイレクトエントリーし、まだ中に残っていたらしいA.BEEさんと言葉にするのも憚られる剣幕で乱闘を始めた(らしい。怖くて部屋の中を見れない)

 

 いくらA.BEEさんと言えど、レジェンドラスタが相手では手も足も亀も出ないらしく、一方的な殴打の音が響いてくる。

 …響き、すぎている。

 明らかに人間相手に出していい音じゃない。

 某ボクシング漫画風に言えば、「実に理に適った殴り方だ。人間を撲殺する為の!!」くらいの表現がされる感じで。

 

 

 これは、流石に放っておくとA.BEEさんがエラい事になってしまう。

 個人的にはA.BEEさんの象徴だけ無力化してほしいんだが、そんな事言ってられそうにない。

 だがA.BEEさんがこのまま撲殺されてしまえば、少なくとも今回ループで俺の安全は保証されるな。

 

 いやいや、それじゃナターシャさんの経歴に殺人罪というレッテルが貼られてしまう。

 しかもちょっと特殊な痴情の縺れという動機で。

 多分、正当防衛も適用されないよなこの場合…。

 それに、A.BEEさんだって狂竜ウィルスに狂わされた(かもしれない)ので、酌量の余地はアリだろう。

 

 だがこの状況で、ヒートアップしているナターシャさんを止めるには、それなりの根拠のある言葉が必要だろう。

 物理で止める?

 イヤだよ怖いよ。

 

 …オカルト版真言立川流で止める?

 ……ナターシャさん、未経験っぽいから翻弄はできるだろうけど…その場合、A.BEEさんの目前で盛る事になる。

 確実に、交わって動けない状態のところをバックアタックしてくるじゃないか。

 

 

 とにかく、そろそろA.BEEさんも動けなくなっている頃みたいだし、ナターシャさんを何とか一時停止させねばならない。

 A.BEEさんに酌量の余地がある事を認めさせて、落ち着いてもらわないと…。

 

 

 

 

 だが、もしも狂竜ウィルスに理性を奪う能力が無く、全て自分の意思だったら……或いは、『変異したウィルスで理性が飛んでいたんだ(棒読み)』だったら………処す? 処す?

 

 

 

 



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77話

MH編があと2~3話続きそうです。
えらく長くなったなぁ…。

戦国BASARA、予想はしてたけどそこまで大きな違いは無いようです。
最初から全キャラ開放状態だったのは驚きましたが。
まぁ、まだ島津のじっちゃんしかプレイしてないんで、そうそう違いが無いのは当然かもしれませんが。


 

NTD3DS月『理由をつけては暴飲暴食』日

 

 

 エシャロットと友人勢が、物凄く楽しそうだった。 

 実に晴れやかな笑顔で、新聞(ご当地新聞。住民の一人が趣味で作っている)を渡された。

 

 

 ギルドマスターを巡る、レジェンドラスタと新人ハンター(♂)の骨肉の争い?

 

 

 

 

 処す。

 

 

 ある意味間違ってないから、余計に処す。

 くそ、書き手が♂だったらそれこそA.BEEさんへの贄確定だというのに!

 

 ええい、村総出で煽りにきてやがるな。

 昨日の大騒ぎは村中に聞こえていたらしく、皆が単なるデマではないと判断している。

 

 例外はパピ嬢くらいだが、物言いたげな目でコッチを見るな。

 美人(ただしマナ板)になるとは思うが、これがなくともパピ嬢をそーいう目で見るには幼すぎる。

 

 

 A.BEEさんはというと、流石に昨日の今日では動く事もできない程ブン殴られたらしく、隔離されて療養している。

 隔離されているのは、性癖云々ではなく変異した狂竜ウィルスの影響があるかもしれないからだ。

 このまま再度兆候が見られなければ、長くても一週間くらいで解放されてしまうだろう。

 

 ナターシャさんはというと……同じく隔離状態だ。

 と言うか、この場合は自分の意思で引きこもっていると言った方が正しいと思う。

 二次感染した危険もあるから隔離常態なのは間違いないんだが、近くまで行って部屋の中の気配を探ってみると、なんか身悶えする声がよく聞こえてくる。

 …とりあえず、新聞を部屋に放り込んでおいた。

 もっと身悶えするか激怒するかは神のみぞ知る。

 

 

 さて、村に来たハンター達に、暫くはあの近辺の狩場は使わないように指示を出したら、俺も隔離されないとな。

 その間に流言飛語が治まってくれるといいんだが…。

 

 

 

NTD3DS月『ピザにはビールかコーラか』日

 

 隔離されている状態でも、同じ隔離病患者に会えない事はないんだよな。

 それはそれでどうかと思うが、医学的にあまり発展してないからね、この世界。

 

 そういう訳で、お隣さんのナターシャさんの所へ行ってみる。

 A.BEEさんは……流石にダメージが大きかったのか、日がな一日寝息を立てているようだった。

 部屋の外から気配を探っただけなんで、正確な所は分からんけども。

 

 で、ナターシャさんは……1日経って落ち着いたのか、部屋に快く入れてくれた。

 どうやら弓と髪の手入れ中だったようだ。

 …なんか落ち着いてるな。

 ひょっとして隔離にも慣れてる?

 

 

 そう聞いたら、レジェンドラスタたる者、未知の相手と戦う事は珍しくないらしい。

 そういう手合いと戦い、何らかの感染が疑われる事もよくあると言う。

 なる程、慣れている訳だ。

 

 

 何はともあれ、まずは礼を言う。

 A.BEEさんに掘られなかったのは、ナターシャさんのおかげです。

 

 …微妙に嬉しくない礼の言われ方だ、との事。

 まぁ、内容が内容だからね……ちょっと視点を変えてみれば(TSしてみれば)、ならず者(♀)に抑え込まれてセクハラされていた少女を、美形ハンターが助け出した、と言えなくもないんだが。

  

 よくよく考えてみれば、ひょっとしたらナターシャさんも狂竜ウィルスに影響されていた可能性はあるんじゃないだろうか。

 こう言っちゃなんだけど、あの夜のナターシャさんの攻撃性は普段よりもずっと強かった。

 俺もナターシャさんもA.BEEさんと同じ場所をウロウロしていたんだし、ウィルスに多少なりとも影響されてないとは言い切れない。

 だから、A.BEEさんがあれ程ダメージを受けるくらいに延々と殴り続けたのでは?

 

 

 そう言うと、ナターシャさんは否定した。

 たとえウィルスが影響していたとしても、明確に自分の意思だった、と。

 ウィルスに影響された事を認めないプライドなのか、それともウィルスを言い訳に使っていないのか。

 どっちと取るかは微妙な所だったが…。

 

 仮に前者だった場合、変異ウィルスにハンターの理性を狂わす効果があると認める事になるのだが、それはまぁ置いといて。

 

 

 

 …踏み込むべきなのか非常に迷った。

 あの時に聞こえた、「私が目をつけてたのに、醜いバラなんかに渡すものですか!」という言葉について。

 目を付ける…というかバラ?

 バラっつーとアレだよね?

 百合の対義語みたいな意味でのバラだよね?

 

 この世界に薔薇族なんて言葉があるのかは分からないが、ナターシャさんが花を指して醜いと言っている時点で通常の意味じゃあるまい。

 植物的な意味でのバラが美しいかどうかには賛否あるだろうが、ハンターとしての考え方だと食えるか使えるかの視点が先に立つ。

 美的な意味ではあまり語られないし、ナターシャさんは……植物の美しさよりは弓についての美しさを語る人だし。

 

 

 ともかく、あの時理性が無くなっておらず、明確な意思の元に叫ばれた言葉だとするなら、その真意は?

 夜襲…というかもう率直に夜這い表現するが、A.BEEさんが俺に夜這いをかけた事に何故そんなに怒ったのか?

 

 無いとは思うが、無いとは思うが。

 

 

 

 ま さ か ナ タ ー シ ャ さ ん も 俺 の ケ ツ を 狙 っ て い る の で は 。

 

 

 

 

 久々に連射で射抜かれた。

 だが、阿呆な事を言った甲斐はあった。

 怒ったナターシャさんから失言を引き出せたからだ。

 

 「狙ってたのは「前」の方よ!」と。

 

 直後に失敗したと気が付いて、何事も無かったかのように紅茶を飲んでたが、顔が赤いし手が震えていた。

 だがここで手心を加えるようではハンターとは言えぬ。

 

 わざとらしく「前?」と聞き返し、「忘れなさい」と毅然と言い切るナターシャさんに「下ではなく?」「しっ…わ、忘れなさい!」顔が赤い。

 調子に乗る。

 ああ、久々に性欲を暴走させつつあるな。

 

 

「ナターシャさんが相手なら、前なんぞ幾らでもOKですが。

 レディと違って、野郎のは初物でもない限り減る物じゃありませんし」

 

「ふぁ!?

 は、はつ…じゃなくて!?」

 

「ええまぁ、ギルドマスターになる前に色々ありまして。

 あ、一応言っておきますけど、今はそういう事する相手は居ませんよ。

 村の皆と関係を持つのも、立場上まずいですし。

 ですので、欲しければお気軽にどうぞ」

 

「き、気軽にするものではなくてよ!

 例えアナタが初ではなくても、その…そういう事には慎みを持ちなさい。

 例え規模は小さくてもアナタはギルドマスターよ。

 所謂ハニートラップを仕掛けられる可能性はあるわ」

 

「今まで何度も返り討ちにしてきましたが「か、返り…!?」気をつけます。(ウソだけど)

 そうでなくとも、男と違って女性のそーいう事は減りますからね」

 

「なにが…何が減るの?」

 

「希少価値とかじゃないすかね。

 あと破れる部分もありますし。

 少なくともファーストキスは、いい思い出にしたいでしょう」

 

「………」

 

 

 む、黙った。

 動揺しているのを自覚したか?

 だが揺さぶる。

 

 格上のセクシーハンターにセクハラする…この愉悦から逃げられない!

 いかん、暴走しているッ!

 

 

「後はまぁ、下世話な話ながら『初体験』もそうでしょう」

 

「ッ…!?」

 

「ハンターやってると、こう言っちゃなんですがいつ死ぬか分かりませんしね。

 まぁ、男でも女でも一度は体験しておきたいってのはあるでしょうね…。

 酒と違って、相手が居ないとできませんし。

 だからと言って、適当な相手は御免蒙る。

 これは!と思う相手を見つけても、帰って来ない事だってあるかもしれない…」

 

「……アナタ…私で遊んでいるでしょう?」

 

「いいえ、これは愛でているんです」

 

「それは可愛らしい物を眺める時の表現であって、美しい物を鑑賞する時の表現ではないわね」

 

「知ってますか?

 セクシー&ビューティ担当が顔を赤くして取り乱している時の……ギャップ萌えを」

 

 

 

 

 そんな按配で、ええもう堪能しまくっていましたよ。

 この世界に来てから、やっぱ色々と溜め込んでいたんですなぁ。

 顔を赤くしながらプルプル震えるナターシャさんは実に可愛かった。

 たわわな一部も震えて眼福だった。

 

 

 そんな風に楽しみすぎていたからかなぁ。

 まーたブレーキ掛け損なっちゃったよ。

 

 

 何が原因だったんだろうか……レジェンドラスタには出会いが無いのかと聞いた事?

 それともナターシャさんから滲み出る、残念美人の気配について触れた事?

 『経験済み』の人からは、ナターシャさんには無い美しさや色気が見えると嘯いた事?

 

 …どれをとってもほぼセクハラだが、兎に角俺は引き際を誤った。

 ナターシャさんの目が据わっていた事に気付かなかった。

 

 

 

 気が抜けていたのは否定できない。

 反応を楽しんで愉悦しまくって、動きに反応が遅れた。

 いや、反応どころか視認すらできなかった。

 

 

 ほんの一瞬…それこそ瞬きした後には、もう捉えられていた。

 正面でワタワタしていた筈のナターシャさんに、ガッシと肩を両手で掴まれた。

 

 

「いい度胸ね。

 気に入ったわ。

 奪うのはこの場でしてあげる。

 …腹をくくった女に怖いものなんて無いのよ」

 

 

 …あの、そこは最後にしてあげる、では?

 いやそれだと俺がフラれる意味合いになりそうですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズキュウウゥン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NTD3DS月『SSから性欲が…(作者に)逆流するッ!』日

 

 隔離中に暇を持て余していたら、パピ嬢が訪ねてきた。

 仮にも隔離状態なんで、直接顔を合わせて話す事はできない。

 なので扉越しの話になった訳だが……あの、なんと言うかパピ嬢、正気か?

 相談を持ちかけてくるのはいい。

 同じギルドの仲間だし、発足当時から二人三脚だったし、一緒の狩場にも連れて行った仲だ。

 相談くらい受け付けるさ。

 

 

 だがなんだって俺に恋愛沙汰なんぞ持ち込んでくる。

 しかも、パピ嬢が好いてるのって俺だよね?……自惚れでなければ。

 

 「マスターなら、どうしても他人に渡したくないものが、知らない人に取られそうになったらどうしますか?」

 

 これはアレか、遠回しな告白とかのつもりなのか?

 渡したくないものって俺?

 …仮にムルカ君辺りだったら、ちゃぶ台返しが炸裂するが。

 知らない人ってナターシャさんの事か?

 …意図が読めなかったんで、とりあえず付き合う。

 

 まぁ、これが恋愛沙汰の相談なら、俺にマトモな返答はできんよな…。

 肉欲ばかりの付き合いだったし。

 いや、それなり以上に情はあったけどね。

 

 と言うか、俺の事を俺に相談するのってどうなん? 

 パピ嬢の事だから、「マスターの事はマスターに聞くのが手っ取り早いのですよ」と、一理あるような無いような事を言い出す気がする。

 

 まぁ、俺の事を聞きたいというなら話すのはヤブサカではない。

 が、迂闊な事を言うとヤバい気がする。

 俺の遍歴は色々とアレだからな……公にされたら、お天道様の下を歩けなくなるよーな類のものだし。

 流石にパピ嬢から軽蔑の視線は受けたくない。

 

 と言うか教育に悪い。

 万が一、妙な部分をパピ嬢が真に受けてしまった日には……行き着くところまで行くと、パピ嬢がコトノハサマのようになるとは……なるとは……デフォルメ調にはなるかもしれんな。

 しかし妙に静かな目で鉈持ってるイメージは簡単に想像できた。

 いや、村を開拓する途中で持ってる所を見たからなんだけどね。

 

 

 どうにも判断がつきかねたし、俺に出来るのはパピ嬢の言葉に極力真摯に答える事だけだった。

 コレで良かったのかねぇ。

 途中で何か閃いたようで、元気になったようではあるんだが……俺の体験談や考え方を元に、パピ嬢が閃いたって時点でヤバい予感がする。

 あれでパピ嬢、結構無茶な所があるからな。

 開拓の始めの頃だって、ルール違反とわかっていながら地主の嬢ちゃんと一緒に狩場に出てたくらいだし。

 

 むぅ……リアルでロリを相手にする気にはならないと思うが、ど~~も妙な予感が…。

 

 

 

 

 ……隣で寝起きにニヤけているナターシャさんのせいか?

 

 昨日?

 いくらレジェンドラスタが腹括ってズキュウウゥンしたからって、色事の経験無しで俺に勝てるとでも?

 パピ嬢が訪ねてきたちょっと前まで、意識朦朧とした状態でもサカってましたとも。

 流石にレジェンドラスタの体力は違うね。

 何度でも出来るよ!

 普通なら腰が抜けてビクビクしながら気絶するような事しても、そのまま続行できるからね!

 

 まぁ終始こっちが優勢なんで、ずっと好き放題に弄んでるだけだけども。

 まだ奉仕も仕込んでないしね。

 

 

 

 それはともかく、ナターシャさんは俺とパピ嬢の話を聞いて面白がっているのが2割、念願の初体験をそれなりに満足できる形に出来た満足感が3割、残りの5割は…思い出して悦ってるな、コレは。

 

 いやぁそれにしても……セクシーだったなぁ…。

 

 

 

NTD3DS月『最近、眠気が取れない』日

 

 エロいだけじゃなくて、妖艶っつーのかね。

 乱れている状態でも、自分を美しく魅せる為の動きが体に染み付いているっぽいな。

 それを突き崩すのが実に楽しいんだが、好きなようにさせて芸術品を独占して鑑賞しているような気分になるのもいいものだ。

 

 と言うかこの人、見られて悦ぶ露出のケがある気がする。

 

 しかし、予想はしてたし、そういう風に仕込もしたんだが……ハマってるね、ナターシャさん。

 口ではなんのかんの言いつつも、隔離中でヒマを持て余しているから、と言って何度も何度も絡んでくる。

 

 しかしナターシャさんの中では恋人みたいな意識は薄いらしい。

 何と言うか……好感度は高いみたいなんだが、行きずりの男、とも違うし……セフレ?でもない。

 相棒と言うには俺の格が足りないし、ナターシャさんもそのつもりは無いっぽい。

 

 体を預けてもいい程度には認めている、と表現すればいいんだろうか?

 お互い束縛しない程度と言うか、さん付けを止めない距離感と言うか。。

 

 

 

 …それはそれとして、ちょっと今日はヤバかった………またしてもA.BEEさんの命が。 

 別に何かやらかした訳じゃなくて、タイミングが最悪だったんだよ。

 ナターシャさんが俺の部屋に来て、いざこれからってタイミングで…動けるようになったA.BEEさんが謝罪に来た。 

 

 一緒に居る時を狙ってきた訳ではないようなんだが、ナターシャさんの機嫌が急降下したのは言うまでもないだろう。

 殺気をものともせずに入ってきたA.BEEさんが最初にした事は、見事なDOGEZAだった。

 さすがイイ男、謝罪にも全力だ。

 

 ナターシャさんも流石に一発目から躊躇い無くコレは予想してなかったようで、毒気を削がれた。

 好きなように罰を与えてくれ、と言われたんだが…その前に、結局あの時理性は正常だったのか?という疑問が残る。

 

 俺とナターシャさんは、自覚できるような狂いは無かったと思っている…ナターシャさんをからかいまくってヤッちゃったのは、まぁいつもの事だし…が、あの時のA.BEEさんは明らかにおかしかった。

 医者の診断はあったが、あの変異ウィルスがどういう物なのか分からず、発病者も1人…多く見積もっても、俺達を含めて3人だけ。

 前例が無いので、狂っていたかどうかは自己申告で判断するしかない。

 

 …何を言っても疑わしく思えるけどね。

 イイ男たるもの言い訳しない、とか言ってウィルスによる狂化の事を黙っていてもおかしくないし、逆に狂化に耐えられたのに建前にして襲ってきたという事も考えられる。

 だからと言って聞かない訳にもいかない。

 仮にもギルドマスターが、酌量の余地がある者の声に一切耳を傾けないような事はできないし、何よりウィルスはまだ狩場付近に残っている可能性があるのだ。

 二次災害、三次災害に備える為にも、情報は必要だ。

 

 

 …処罰は後回しとして、イイ男ではなくハンターとしてのA.BEEさんに問う。

 仮に他のハンター達が同様の症状にかかった場合、どのような被害が予想されるか?

 暫く考え込んだA.BEEさんの答えは、次のような物だった。

 

 

「長期的な被害は、恐らくないだろう。

 俺も狂竜ウィルスについては詳しくないが、発症していたのは確かだ。

 だが、それもボコボコにされて寝ている間に治っちまった。

 感染したとしても、ハンター式睡眠法なら暫く寝ていれば治るだろうな。

 それにしたって、話に聞いたウィルスと比べると、長い時間が必要だが…。

 

 ああ、ハンターじゃない一般人がどうなるかは、俺には保証しかねるな。

 

 行動にどんな影響がでるのかは俺にも断言できないが……正直、あの時は夢見心地だったような気分なのは確かだ。

 現実感が無い、と言ったら分かりやすいか…言い訳に聞こえるのを承知で言うが、あの時は本当に夢を見ている気分だった。

 あんたら、夢の中の自分をコントロールできるかい?

 できる夢だってあるかもしれないが、基本的には夢の中の自分が勝手に動いてるだろ?

 おかしい、と思う事はあっても、夢の中でそんな事を追求したりしない。

 夢の中の自分が勝手に考え、勝手に動く。

 

 …それと同じだ。

 ギルドマスターの部屋に近付いた時には、もっと酷い事になってたしな……幻覚が見えてたんだよ。

 視界にヘンな服を着た、顔のない……ああ、なんといったか………そうだ、ベラベラボー? …違うな。

 うん?

 

 そうそう、そいつだ、ノッペラボウ。

 東の方に伝わるバケモノの名前だが、博識だな、ギルドマスター。

 そいつが何体も視界に湧き出ていて、こっちへこいといいケツを見せて手招きするんだ。

 誰だって夢だと思うだろうさ。

 

 ……?

 どうしたんだギルドマスター?

 

 

 …まぁ、夢だと思っちまったら、あとは欲求と良心の問題だろう。

 夢でなら好きにやっていいと思うか、それとも夢の中でも心が痛くなるような行為をしたくないと思うか…。

 俺は前者だったって訳だ。

  

 ま、何発もブン殴られて、ようやく夢じゃないって気が付いた……ああ、考えてみれば痛覚とかも麻痺気味だったような気がする。

 これは狂竜症にかかったモンスターを見ると、特に不思議はない事だが」

 

 

 

 ……まぁ、ウソは言ってなさそうだ。

 と言うか、のっぺら連中がやらかしているっぽい。

 

 A.BEEさんがのっぺらミタマの事を知ってる筈もないし、特徴を聞いた限りではどう聞いてものっぺらミタマ。

 偶然の一致という事は無さそうだ。

 という事は、狂竜ウィルスには霊的なナニカがあるのだろうか?

 それとも腐ったのっぺらミタマが、妙な情熱を発揮して物理…いや霊的法則を無視して出現したのだろうか?

 どっちにしろタダじゃおかねえ。

 

 だが有効な攻撃方法は……うむむ。

 

 

 

 取り合えず、ギルドマスターの名において、酌量の余地在りと認める。

 ナターシャさんは納得行ってなかったようだが、仮にも組織のトップである俺の判断に口出しすべきではないと、矛を収めてくれた。

 それでもA.BEEさんが俺に近付こうとすると威嚇してたが。

 

 

 

 

NTD3DS月『ようやく布団が干せる』日

 

 隔離終了。

 俺もナターシャさんもA.BEEさんも、特に後遺症・感染・再発などの疑いなしという事で、正式に放免となりました。

 

 ナターシャさんは、なんか妙に意気揚々と…かすかに覚えている記憶にある表現によれば、「キラキラ状態」って言うのかね……「今期のノルマを速攻で終わらす」と言って、村を離れた。

 一週間くらいで戻ってくるから、浮気しないように…と冗談めかして(背後から矢を付き付けられて)キスをして去っていった。

 

 A.BEEさんは、同じくノルマを達成する為、狩りに行ったり迷惑をかけた皆に顔を見せて回っている。

 

 そして俺はというと、一週間分溜まりに溜まった、復興その他に関する書類の処理……を、する予定だったんだが。

 なんちゅーか、ちょっと今恐ろしいモノを見ている気分になる。

 

 いや、別段変わった事が発生している訳じゃないんだ。

 むしろ、起きている事自体は本当に普段と変わらない。

 

 パピ嬢が、ギルドマスターの仕事をしてない俺よりもずっと率先して書類仕事をしていると言う、正常な神経持ってりゃ土下座したくなるような状況なだけで。

 そう、いつも通りなんだ。

 

 

 いつも通り以上に、パピ嬢があれやこれやと世話を焼いてくれる事を除けば。

 

 

 俺だって仕事はしようとしたんだよ?

 ギルドマスターでないと対処できない、判断できないような仕事だって幾つかあるんだから。

 だがそれをパピ嬢に尋ねてみると、「それなら、もう確認して判子を押すだけなのですよ。 それよりもお茶をどうぞ」って言われて。

 実際確認してみたら、特に不備は無い、どころか……俺が却下を出した場合に備えて、腹案を最低でも3つは確保している。

 それも、準備だけしてゴーサインは出してないので、越権行為を行っている訳でもない。

 

 それだけでも相当な仕事量があった筈なのに平然としており、「お腹はすいてないのですか? バナナをどうぞ。 林檎もあるですよ」「お昼寝すると、仕事の効率がよくなるのですよ。 15分くらい横になってください、膝枕してあげるのです」「マスター、こっちの書類ちょっとおかしいのです。訂正しておいたので、確認してほしいのですよ」「ポイクリお爺ちゃん、黙ってください」「マスター、汗が滲んでます。ちょっと暑い日ですから、扇いであげるのです」「目の乾燥はよくないですよ。蒸しタオルがあるからどうぞ」

 

 ………世話焼きな母親か?

 でも、これだけアレコレ言われているのに押し付けがましい感触は全く無く、それどころかふと気が付けば懐に入り込まれているような気分。

 近くに居てもプレッシャーは無く、プライベートスペースに居るのに全く苦にならない。

 …なんちゅうか、もしもパピ嬢がアサシンだったら、何時でも仕留められる状態だ。

 

 幼女に世話される事に居た堪れなくなって、こっちから何かして欲しいことが無いかと聞いても、返ってくるのは精々「頭を撫でてほしい」とか「膝枕して耳かきしてほしい」とか、その程度の事ばかり。

 

 

 何だ?

 一体何が起きている?

 悪い事じゃない筈なんだが、なんだか知らんが悪寒がする。

 エシャロット達に聞いてみようとすると、及び腰になって全力ダッシュで逃げるし。

 パピ嬢の様子をそれとなく伺っていたら、「お見通しなのですよ?」と言わんばかりににっこり微笑まれたし。

 

 

 何かが……何かが起きている…!

 真綿で喉を締め付けるような何かが!

 



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78話

BASARA4皇、そこそこかな。
新難易度天になってから結構面白くなってきた。
やっぱり無双ゲーは鍛えてからが本番のスルメみたいな楽しさですな。

不思議のクロニクルを購入。
とりあえずイージーモードで1回クリアしました。
ツィッターで呟けばアイテムが手に入るらしいので、ちょっと初めてみます。
続けられるようなら、転生輪の更新も呟くようになるかもしれません。

そして間違えて買ったPS4版風の旅人…クリアはしたけど2回もやるもんじゃないなぁ…。
不思議のクロニクルも風の旅人も、ループ物っぽいから外伝には組み込みやすそうだけど。


 

NTD3DS月『実はJOJOネタにはあまり詳しくない。一式揃えたいがスペースが無い』日

 

 暫くランス・ガンス装備で行く事にした。

 物理的な装甲なんてのは、ご親切にも目の前にわざわざ出てきてくれる相手にしか効果が無いが、究極的に身を守れる技術の一つだしな…。

 

 やはり、俺の知らないところで、しかしすぐ傍で何かが起こっているのは間違いないようだ。

 A.BEEさんも、今朝会った時には妙に頭痛を堪えるような表情になっており、「マスター、とんでもないモノを目覚めさせちまったようだな…」とか言って肩を叩いたし。

 何?

 一体何の事なの?

 やっぱパピ嬢?

 ヤバい物目覚めさせてしまって、行き着くところは悲しみの向こう側なの?

 

 と言うか、パピ嬢の将来が別の意味で…いや、二重の意味で心配になってきた。

 一つ目は、男を駄目にする魔性の女として目覚めつつあるって事。

 そしてもう一つは……誰かに、と言うか俺に入れ込みすぎて、手に入らないモノを追いかけ続けて婚期を逃すんじゃないかって事だ。

 

 

 ……ん?

 二つ目の心配は、俺がちょっとその気になれば簡単に回避できるんじゃないか?

 ナターシャさんの怒りを宥めるという超難易度ミッションが待ってるが。

 と言うか、相手がロリという一点が無ければ、他2世界に居た頃の自分なら、迷い無くそうしているだろうに。

 

 ……いやちょっと待て、落ち着け。

 この際婚期の事はいい。

 何年も先の話だし、今までのパターンから言えば俺はその前にデスワープして、すべては無かった事になる。

 …デスワープした後にその世界がどうなるのか、今ひとつ理解できてないけどさ。

 

 

 とにかく、パピ嬢…いやもう嬢とか言ってられなくなってきたレベルなんで、パピの熱視線に必死こいて気付かないフリして仕事する日々である。

 癒し系の筈なのに胃が休まらないとかコレ如何に。

 エシャロット辺りになんか仕掛けて修行兼ストレス発散してみようかと思ったんだが、それもなんか危険っぽい。

 エシャロットと友人達自身は何も思うところはないようなのだが、パピがな……。

 

 なんか、彼女達に吹き込んでいるようでな…。

 

 エシャロット達も、難色を示してはいるようなんだが、遠目で目撃した時にはどう見ても言い包められる寸前だった。

 感情では否と言い続けても、反論を封じられて延々と思想を説かれれば、段々とそれに染まっていってしまうものだ。

 速鳥仕込みの誘導術のお墨付きである。

 

 

 なんかこう…本当に、俺を閉じ込める…いや、囲い込む為の檻が着々と築かれつつあるような気がする。

 それも他ならぬ、幼女ことパピの手によって。

 ょぅι゛ょに養ってもらう駄目男………しかもヘタをすると三色昼寝(抱き枕は女性)付き。

 ある意味憧れはするが、色々な意味で尊厳が…。

 

 

 

NTD3DS月『ゲーム発売までが待ち遠しくて、手に入ったら微妙にやる気がなくなる現象』日

 

 

 パピに余計な事を教えるな、ユニス…。

 いや、相談されたらちゃんと答えたくなる気持ちは分かるよ。

 『オトナの人の仕草を学びたいのですよ!』とか言われて、処女なのを隠してちょっと見得はってみたくなる気持ちも分かるよ。

 でも幼女に男を誘惑する為の仕草とか服装とか話してどうすんだ。

 

 尤も、一番恐ろしいのは、それをある程度とは言え形に出来るパピの方だったが。

 なんだあの……ょぅι゛ょ特有の色気みたいなのは!

 前から「二次元ならともかくリアルはちょっと」と思ってたが、例外ってのはいるもんだな…。

 

 何と言うか、未成熟でツルペタだからこその妙な色っぽさが…。

 何かでロリコン的なキャラが「膝の裏の汗を拭いてさしあげたい」とか言ってたのを覚えてるが、ああいう感じか?

 無防備で無毛な脇とか膝とか!

 

 ああ、でもあのニパッと笑う無邪気な笑顔の裏は感じるな。

 年不相応の、計算高いというかあざとい行動と言うか。

 

 

 …正直な話…今はまだ耐えられる。

 が、あと数年もしたら耐えられるとはとても思えん。

 なんつーかこう、日常のふとしたところで人の理性とか倫理観とか忍耐力をサクッと削ってくる、

 

 ついつい誘惑に負けたくなる気持ちが、自分の中にあるのが自覚できている。

 

 

 

 …ナターシャさーん!

 速く帰ってきてくれ!

 俺をロマンという名の冥府魔道に落とさないためにも!

 

 

 

 

 

 

NTD3DS『決算月の棚卸しほど面倒なものはない』日

 

 

 

 甘く見てた。

 

 何だかんだ言ってもまだ幼女、理性を削りきる程の破壊力もなければ、物理的に逆レ○プできる程の腕力も無いと思っていた。

 薬物の類だって、ほぼ無効化できる体だしね。

 

 …が、使われた手段はそのどれでもなかった。

 搦め手で来た…。

 考えてみれば、一番先に警戒すべき手法だったのに!

 パピが物理で俺に勝てないと分かりきっている以上、「抵抗させない」状況を作り出す事が目的になるのは自明の理だったのに!

 

 

 …盛大にミスを嘆いたが、何も手をだした訳じゃない。

 キスだってしてない。

 ただ、添い寝をOKしただけだ。

 

 …これから先、当分の間…それこそ俺が村に居て、ナターシャさんが居ない時はずっと、という条件で。

 本当に一緒の寝床で寝るだけだ。

 色々と取引材料を準備してきたのに加えて、「これで断ったら、やましい思いを抱えていると認めるのと同じなのですよ?」と来たもんだ。

 逃げ道断ってから交渉するとか、ょぅι゛ょの手際じゃねーぞ。

 しかも一見すると、受けたとしても特にデメリットが見られないような条件で。

 

 

 

 いや、実際デメリットって無い…のか?

 子供の体温って意外と高いからちょっと寝苦しくはあるが、パピに引っ付かれただけで理性が飛ぶ訳じゃない……タマってる状態ならあるかもしれんが、つい先日ナターシャさんを相手に存分にハッスルしたんで、今はその心配は無い。

 添い寝されただけでデメリット?

 …ナターシャさんがちょっとヤキモチ妬いてくれるかもしれんが、逆に言えばその程度だ。

 ここで大げさにデメリットだらけ、なんて考えるようじゃ、それこそパピに欲情していると認めるようなもんだし…。

 

 …?

 そうなるとパピの狙いって何だ?

 俺を手に入れる為に、なんか仕掛けてくるものと思ったんだが。

 

 

 そうそう、パピが添い寝をOKさせる為に出してきた条件は、仕事の事だった。

 まぁ何だ、今までギルドマスターがやるべき仕事も、パピに押し付けてたからね…それを今後も継続するのに、「ご褒美が欲しいのですよ」と言われたら、そりゃ逆らえんわ。

 それも片手間に出来る事で、何か損する訳でもない。

 これでノーと言う奴は相当な偏屈だ。

 

 うーむ…?

 

 

NTD3DS月『耳障りな金属音が耳に残る』日

 

 添い寝はしたが、特に何か仕掛けられた訳じゃなかった。

 文字通り添い寝だけ。

 そして朝になったら早く起き出して、朝食の準備までしてくれた。

 

 ょぅι゛ょに世話されている……今更だけど、なんか本格的にダメ男になった気分に…。

 

 そ、その分狩りの仕事で取り返す!

 書類仕事はパピに勝てないからな!

 

 

 

 という訳で、パピの事は置いといて、ハンターギルド本部からの依頼を受けた。

 依頼内容は、狂竜ウィルスに感染したラオシャンロンが現れた場所の調査だ。

 今回の調査は、主に露払いと言うか偵察と言うか……ギルドの職員達が調べにくるので、その簡単な前準備くらいでいいらしい。

 

 変異したウィルスを蓄積したラオシャンロンが、少なくとも百年単位で眠っていた土地だ。

 ウィルスが残っているかもしれないし、土地に何かしら影響が与えられていても不思議は無い。

 それこそ、ラオシャンロンの目覚める頃になって、狂竜ウィルスに犯されて暴走を始めたモンスター達も居た訳だしな。

 

 2~3日狩場に泊り込みになるが、決してパピから逃げた訳ではないぞ。

 …その証拠に、A.BEEさんも一緒に泊り込みになるからな!

 

 以前、ウィルスに犯されて暴走したA.BEEさんを連れてくのはどうよ?という意見もあったのだが、一度受けているから耐性もついているかもしれないし、何より同じ暴走状態になった時、「前も同じ感覚だった」と自覚できれば、暴走を抑え込めるかもしれない。

 …という事を、新人ハンターの一人が鼻息を荒くして語っていた。

 どう考えてもウス=イ本のネタにしようとしている顔だったが、語る事は尤もだった。

 タチが悪い。

 

 まぁ、A.BEEさんが「汚名を返上する」と言って、今回は色々自重してくれるらしいのが救いだな。

 一度こう言ったからには、イイ男が前言を翻すとは思わん。

 心配なのはウィルスによる暴走だが…とりあえず、前回何かやらかしたと思しきのっぺら連中には注意しておくか。

 

 

 しかし…不思議と自分がウィルスに感染するとは思わんものだな。

 まぁ、感染すると思ってるなら、最初っから現場に近付く筈もないが。

 俺もまだまだ危機管理意識が足りないな。

 

 

NTD3DS月『汗疹が痒い』日

 

 狩場で調査なう。

 メンバーは俺、A.BEEさん、エシャロットの3人だ。

 A.BEEさんの同行を提案した腐ハンターも参加しようとしたんだが、ハンターランク不足を理由に却下した。ザマァ

 

 で、改めて狩場…正確に言うなら、少しばかり未踏の地に踏み込んだ辺りなんだが、えらくデカい陥没を見つけた

 近所に地割れやらなにやらを起こしたような形跡も見られなかったので、どうやらこの陥没がラオシャンロン休眠の跡らしい。

 思っていたより、ずっと深い。

 

 一体どれだけ休眠していたのやら。

 底を調べるのは難しいな。

 地層を少し調べてみただけだが、非常に脆い。

 爆弾でも仕掛けられたら、そのまま崩落して埋まってしまいそうだ。

 

 

 …これ、俺を誰かが暗殺しようとしてるって事は………無いか。

 周囲に人の気配も無いし。

 

 心当たりが幾つかあるってのがナンだけどな……レジェンドラスタのセクシー担当と懇ろになったとか、パピの挙動が最近おかしいとか……ちょっと前の話になるが、一般人(地主の嬢ちゃん)をモンスターの前に放り出したとか。

 ギルドナイトとは言わなくても、粛清騒ぎのネタになりそうなのがな…。

 まぁ、流石にそれは自意識過剰だったようだ。

 警戒は怠らないが。

 

 

 ともあれ、あのラオシャンロンは随分と深いところから這い出てきたようだ。

 ウィルスが残っているとなるとこの奥だろうが、これはちょっと簡単に入ってはいけそうにない。 

 明かりも必要だし、崩落を予防する為の補強とかも必要だ。

 ひょっとしたら、好奇心の強いモンスターが入って行ったり、既に寝床にしてしまっているかもしれん。

 

 ……そんなトコで、もし本当にモンスターとカチ合ってみろ。

 最初の威嚇の為の咆哮で生き埋めになりかねん。

 それが避けられても、体当たりが壁にぶつかったら間違いなくオジャンだ。

 

 とは言え、だからって全く収穫無しで引き上げるのも気に障る。

 欲を掻くのは論外だが、負けず嫌いなのもいいハンターの条件だ。

 周辺のモンスターを何匹かと、土を幾らか、植物をサンプルに。

 湧き水があれば確保しておきたかったのだが、残念ながらこの近辺には無いようだ。

 

 この辺の土が本当に狂竜ウィルスに影響されているなら、その地で育った草木は何かしら影響が出ているかもしれない。

 少なくとも、ラオシャンロンが休眠中にもあちこちでウィルスに感染して狂ったモンスターが居た事から、ウィルスの流出ルートがどこかにあったのは間違いない筈。

 この近辺の草木をサンプリングして、通常の草木との違いを特定し、そしてその違いを元に各地の草木を調べて流出ルートを探して…。

 

 …頭痛くなってくるな。

 

 

 なんかこう、手っ取り早い手段とか無いかな。

 そう言えば、ウィルスによって狂ったモンスターには、霊力による攻撃が通りやすくなってたな。

 という事は、ウィルスに何かしら霊的な要素がある?

 ……もしも、ラオシャンロンが出てきた穴の置くにウィルスの溜まり場的な場所があるとして……そこに霊力を流したら、どうだ?

 少なくともウィルスが居るか居ないかの判断が出来ないか?

 

 

 

 …いや、止めた方がいい、これ最後の手段だわ。

 本当に霊力によって反応があるかも分からないし、そういう性質を持っていたとしても、穴の奥深くに俺の霊力を放ったとして、完全に手から離れた霊力がどうなったか探る、なんて神業染みた技術は俺には無い。

 一番ヤバいのは、放り込まれた霊力をエサにしての大繁殖。

 それこそ、MH世界でバイオハザードが発生してしまいかねん。

 しかもゾンビになるのは人間だけじゃなくて、犬、カラス類にくわえて、モンスターも…。

 ハンターは追跡者辺りになってしまいそうだ。

 モンスターがゾンビになったら、最近流行りの走るゾンビなんぞメじゃないバケモノになってしまう気がする。

 

 走る! 叫ぶ! 飛ぶ! 火だって吐くし雷も落とすし、自分で凍って冷凍保存状態にもなるぞ!

 

 …100年くらいしたら自然解凍されて、未来にまで影響が出そうだね。

 パンデミック通り越して、未来まで続く環境破壊だよ。

 許されざるよ。

 ただしコジマは除く。

 アレは許されないけどなんか許容されてる気がするねん。

 

 

 …上記の走る叫ぶ飛ぶに、コジマを振り撒くを加えよう。

 いやマジでやらないけどね。

 モンスターを改造するとか、環境破壊を通り越して人類滅亡コースだよ。

 

 

NTD3DS月『昼の仕事時間延長はあまり堪えないけど、夜は1時間でもキツく感じる』日

 

 とりあえず、村に戻って一安心。

 感染の疑いがあるんで検査はしたが、今回は隔離は無い。 

 大した成果は持ち帰れなかったが、調査って大体そういうもんだよね。

 

 さて、帰ってきてからそれとなく、パピが普段何をやっているのか周りに聞いてみた。

 予想通りというべきか、先日から動向が変わり始めているらしい。

 以前は「そんなバナナ!」とかなんかの遊びの練習をしていたり、仕事をしていたりしたらしい。

 何も無い時は村を散歩したり、まぁ大体アウトドアでの遊びをしていた。

 

 が、最近は本を読むようになっている。

 ユニスがパピに頼まれて、色々小説(この世界に漫画なんて手間のかかる娯楽は少ない)を取り寄せているらしい。

 本来だったら、頼まれ事を他人に漏らすようなユニスではないのだが……今回ばかりは話が別だった。

 

 

 取り寄せている小説は、元の世界で言う奥様向け昼ドラ系のドロドロ愛憎劇モノだとか。

 次点に多いのが、不倫モノのエロ小説。

 

 

 …頼まれたからって、そんなモノを子供に読ませてんじゃねーよ!

 

 絶叫したが、ユニスは平然としていた。

 むしろ「何言ってるの」みたいな顔をして反論してきた。

 その内容は色々で、アテにしていい物とはとても思えなかったが……全て、たったの一言ですっ飛んでしまった。

 

 曰く。

 

 

 「あの子、アナタの愛人ポジションに収まるつもりよ。しかも公認の」と。

 

 

 それを聞いた時の俺の精神的ショックが、イカほどのものかごりかいいただけなイカ。

 確かに、そう言われるとなんか納得できる事はあるんだ。

 ナターシャさんと何か関係を持ったっていうのには気付いているようだし、それに追いつこうとするかのようにスキンシップを求めてくる。

 しかしナターシャさんと張り合おうとするのではない。

 添い寝の条件だって、ナターシャさんが居ない時だけという条件付だった。

 

 小説とかは多分、どういう場面だと修羅場に発展するかとか、そういう危機回避の為の参考にするつもりなんだ。

 

 

 ヤバい。

 これはヤバい。

 

 ナターシャさんがどうこうじゃない。

 それ以前に、拒否しようとしても間違いなく懐に入り込まれてしまう。

 

 何せ、今日だって「一緒にお風呂」の約束までしてしまったのだ。 

 同じくナターシャさんが居ない時だけで、もし拒否したら……ギルドマスターの仕事を肩代わりしないぞ、と。

 

 

 …ヤバイ。

 パピがボイコット…いや、本来の自分の分の仕事しかしなくなったら、確実にギルドは回らない。

 ただでさえ、最近人が増えててんやわんやになっているんだ。

 

 やはり、組織に向いていないから…と言って、そのままにしていたのが悪かったのか。

 俺が居なくても、パピが居なくてもある程度回るようにしとかないとアカンかったのか。

 

 

 しかも、帰ってきた時に話した感じだと、今から俺にギルドマスターの仕事をさせる気は、更々無いようだった。

 最近と同じように、アレやコレやと世話を焼いているように見せて…いや、実際に世話を焼きながら、俺が片付けるべき仕事を先回りしてガンガン処理してしまっている。

 しかも文句の出せないレベルで。

 

 命令権とかも、お飾りのギルドマスターである自分と、実際に今まで回してきたパピじゃ、重みが違う。

 …どんだけ今までの行動が足引っ張んねん…これが自業自得というもんか。

 

 パピはアレだ、秘書兼愛人になる気か。

 しかもお飾り社長の秘書兼愛人……会社は秘書が事実上支配している。

 社長が社長で居られるのは、秘書に可愛がられているだけ。

 「仕事したいんだけど」と秘書に言ったら、「私が全部やってあげるから大丈夫。 だからこの書類に判子だけ押してね?」…無論、全て処理済チェック済み。

 一見重要だけどやらないくてもいい、別に自分じゃなくても出来る仕事ばっかり。

 

 …それ社長と愛人じゃなくて、若いツバメを囲う図にならね?

 ちょっと想像してみよう……。

 

 

 

 ………熟れたキャリアウーマンとショタだったらまだ絵になりそうだが、ょぅι゛ょに飼われたいと思うような趣味はねぇぞ…。

 

 

 

 とにかく、打開策だ。

 打開策が要る。

 俺一人じゃどうにもならん。

 この分だと、ユニスもパピの味方か…。

 

 ムルカ君…はこの手の問題じゃ色々な意味でアテになら無いと言うか、地主の嬢ちゃんと自分を比べての劣等感と戦っている真っ最中。

 その地主の嬢ちゃんは…知るか、の一言で終わらせそうだな。

 ポイクリ爺さんに至っては、冗談めかした顔で包丁を振り下ろしてきそうな気がする…それともダイレクトに、もぎにくるか?

 

 一番味方に回ってくれそうなのは、やはりエシャロットか?

 弟子だし…でもラオシャンロン撃退祭の時にパピの恋路の味方をするとか言ってたな。

 いや、それなら尚更愛人云々の考えには黙っていられないんじゃないだろうか。

 よし、まずエシャロットから当たってみるか。

 

 クソ、MH世界でまで人間関係に悩む事になるとは…。

 

 

 

 

 

NTD3DS月『エロをすべきか、エロスをすべきか。それが問題だ』日

 

 

 あ   か    ん          。

 

 

 

 ま、まさかエシャロットまで、完全に敵に回るとは…。

 いや、まだ完全にって訳じゃないんだ。

 ただ、パピに取り込まれつつある………「一緒に幸せになりましょう」みたいな、新興宗教みたいな事を言われて。

 パピ一人では愛人に認められないと考えて、メンバー増加も考えているらしい。

 小娘の発想じゃねーぞ…いや、お子様だからこその発想なのか?

 

 エシャロット自身には俺に対する恋慕は無いみたいなんだが、なんか小説とかから得た間違った(間違っているようで間違っていないようで)知識を吹き込まれ、徐々にその気になってしまったようだった。

 要するにアレだ、ハンターとして成功すると出会いが無くなるというか、釣り合いの取れる相手が居なくなってしまうというか、高嶺の花扱いになってしまって、気が付いた時には既に手遅れ。

 この歳になってまだお付き合いもした事ありません、なんて言えずに見栄を張り、お局様になっている自覚もありながらズルズルと…。

 

 

 …妙に生々しい妄想を吹き込まれたようである。

 一例…ナターシャさんが「女」になって、色々変わったのを察していた事もあって、説得力が無駄に増強されてしまったようだ。

 実際、あの美貌と実力でオボコだった理由なんて、それくらいしか無いだろうし…。

 単純にあの性格についていける男が少なかった、という事も考えられるが。

 

 で、そうなってしまう前に、経験だけでもしておかないか?

 相手は師匠なんだから、ソッチ系について教えてもらうのもアリ。

 ハンターなんて、いつ不慮の事故が起こるかわからない仕事なんだから、やれる事はできるうちにやっておくのが吉なのですよ。

 

 

 …こんな感じの事を延々と囁かれていたらしい。

 ぬぅ、人身掌握までこなすとか、恐ろしい子…!

 エシャロットも根が単純だから、段々染まってきてしまったようだ。

 

 おい友人連中、止めろよ!

 友達だろ?

 

 …そういうアナタはギルドマスターでしょ、と言われると返す言葉も無い。

 ギルド内の揉め事は、ギルドマスターで仲裁すべきだ。

 個人個人の揉め事ならともかく………いや、この場合個人でもギルドでもあるからタチが悪いな。

 うぬぬぬ、どうするべきか。

 

 エシャロットの友人達としては、「エシャロットがそれで納得するなら止めない。でもギルドマスターは闇討ちする」というスタンスらしい。

 闇討ちするくらいなら止めろって。

 

 

 

 

 家族に対する愛情だと思ってたが、それがいつの間にかシフトしていたのか、それとも愛情の区別がつかないまま爆走しているのか…。

 どっちにしろ、もう子供の戯言じゃ済まされない領域に来ている。

 

 

 ……今日の交換条件は、キスだったしな…額に。

 勿論拒否できないから飲むしかなかったんだが、やった後に顔を赤くして「にへへ…」とかニヤけているパピが、やたらとあざと可愛かった。

 半ば脅迫的に行為を迫られているのを忘れそうになるくらいに…。

 

 何れ完全に落とされてしまう気がしてならない……ナターシャさん、へーるぷ!

 

 

 

NTD3DS月『消毒って大事。火炎放射器もってこい』日

 

 

 ナターシャさん帰還!

 ナターシャさん帰還!

 ナターシャさんご帰還!

 

 ああ、これでパピの攻勢が一時休まる!

 …その分、裏で動き回るのが見え透いてるけどね。

 

 と言うか、これは恥を忍んで相談すべきなんだろうか。

 仮にも関係を持った相手にイイ格好したいのは確かなんだが、ヘタに隠蔽して長引かせたら……刃傷沙汰まで発展するやもしれん。

 

 

 

 ……もうちょっと後回しで。

 暫くナターシャさんは滞在するみたいだし、ここの所精神的に休まってなかったから…。

 相談するにしても、疲れがとれてからにしよう。

 

 うん、言い訳して先延ばしにしているだけなのは自覚してるけども。

 とりあえずはナターシャさんを労わりつつ癒されよう。

 



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79話

フリカツ(振り返りません勝つまでは)でツイッター使ってるんで、折角だから更新通知でも流してみようかと思う今日この頃。
ところでツイッターって、本名で登録するとマズいんですかね?
5年くらい前に登録して、何が楽しいのか分からずにそのまま放置してたんですが。

アカウントは@timelimit_days です。
罵声や茶化しが飛んでくるようならフリカツ専門にします。


 

NTD3DS月『嫌われ役って必要かもしれないけど、直接関わると好かれない』日

 

 

 パピは本人が言っていた通り、ナターシャさんが居る間は積極的な動きを見せないようだった。

 最悪、本人の前で「今日もお風呂とお布団は一緒でいいですか?」と言われるのも覚悟してたんだが、冗談抜きで公認愛人を目指してるんだろうか。

 

 ん?

 エシャロット達にそういう誘いと協力要請をしてるって事は…ナターシャさん自身にも、何かしらの働きかけがあるんじゃないだろうか?

 

 ……今までの行動からして、直球は無いと思う。

 つまりは搦め手…認めざるを得ない状況に持っていくか?

 ナターシャさんと俺の間に割って入る…というより、反対側にピッタリくっつく?

 それも怒りを買わない形で?

 

 

 …ちょっと想像できんな。

  という訳で、今日はナターシャさんが俺とエシャロットの狩りを検分しに来たので、その時にそれとなく聞いてみた。

 

 

 …「ナターシャさんとマスターとパピで、親子みたいなのです」…………い、いやそれはお前ちょっと…。

 確かに年齢的に違和感は無いが。

 そして言われたナターシャさんも、悪い気はしなかったらしい。

 でもそれってアレだよね……娘だったら、川の字で寝ようと一緒に風呂に入ろうと、風習によっちゃキスしようとモーマンタイって作戦じゃね?

 

 エシャロットも、背中を向けて「うわぁ…」って顔してたし。

 だがそんな顔してる場合か?

 ヘタすると、「エシャロットさんはお姉ちゃんなのですよ!」とか言われかねんぞ。

 年齢的にちょっと厳しいか?

 従兄弟か、よく遊んでくれる近所のお姉ちゃんポジかもしれん。

 

 

 ……そ、それはともかく、ナターシャさん的には、ごっこ遊びであっても割とアリらしい。

 まぁ、レジェンドラスタなんてやってると、そうそう引退もできんだろうしなぁ……妊娠だってそうだ。

 ハンターをレジェンドラスタとして続けるなら、日々のノルマや異変への解決協力要請だってあるだろうから、迂闊に妊娠できやしないだろう。

 擬似的とは言え、家族になれる今が楽しいのかもしれない。

 …その裏では、娘が父親を堕とそうと色々画策している訳ですが…なんだこのドロドロ家族。

 

 い、いや、俺が堕ちなければまだファザコンな娘で済むレベル!

 …やってる事は、父親の会社を掌握しようとしているようなもんで、しかも成功しかけてるけど…。

 風呂上りにマッサージをねだられたけど……しかもご丁寧にもオイルマッサージを。

 そんで例によって仕事を条件出されて、健全な範囲でマッサージしたけど……。

 

 

 

 そんな事を考えながら狩りをしてたら、集中がなってないと射られてしまった。

 後で何か悩みでもあるのか、と言われたが、結局言い出せなかったよ……その後オタノシミになったしね。

 

 

NTD3DS月『ニンニクマシマシ』日

 

 異性の肌は精神的特効薬、といわれているけど、本当だね。

 俺も大分元気になったわ。

 まぁ、俺の場合その特効薬を、悩みを忘れる…ならまだマシで、後回しにする為だけに使ってるのが問題なんだが。

 

 究極解決方法・デスループという反則技もないではないが…。

 解決じゃなくて、無かった事にしてるんだからなぁ。

 

 それは置いといて、狩りの訓練ついでに、例の大穴に行ってみた。

 

 訓練がな…結構キツい。

 この辺は狩りの難易度的には軽いものだったんで、訓練にはあまり向いてないと思っていたんだが……俺が阿呆だった。

 ハンターの訓練というのは、狩りの腕を上げる事が重視されているが、それ以上に注意力を上げる事が重要。

 モンスターの挙動を察知するにも、点在する草木から欲しいものを探し当てるにも、注意力が何よりも重要。

 

 ナターシャさんの注意力は、俺なんぞとは桁が違った。

 村から大穴の間を歩いただけだが、特に気負った様子もない、場合によっては鼻歌すら歌っていたというのに、注意力や観察力……ひっくるめて言えば、「気付く力」が鋭いこと鋭いこと。

 普通のハンターなら無害だからと言って気にしないような虫(ランゴスタとかじゃなくて、何処にでもいるような虫だ)の動向や、土の湿り具合から、天候の推移やモンスターの動向まで見抜く。

 

 いやもうホント、レベルが違う。

 俺も出来ない訳じゃないけど、精度も違うし、何より気軽にやってるのに正解率が段違い。

 この気付く力は、大抵の事に応用が効くだろうなぁ…。

 

 とにかく、見慣れた狩りのレベルが低い土地でも、訓練鍛錬は幾らでも出来るものだと思い知らされました。

 

 

 で、話は変わるんだけど、ナターシャさんがあの大穴を見た途端、盛大に顔を顰めた。

 「よく分からないけど、今すぐ爆破して埋めるべき。 盛大に災厄の予感がする」だって。

 

 やっぱバイオハザードか?

 しかし、もうギルドの職員達が調査を始めてしまってるんだよな。

 土地的にも、俺達じゃないギルドの担当に移ってしまっているし、今更「塞ぐべき」と言っても聞いてくれやしない。

 たとえレジェンドラスタからの一言が添えられていても、だ。

 

 増して、今回動いているのはハンターズギルド本部と、古龍研究所。

 ヘタをすると王国からも出資されてるんじゃなかろうか。

 ここまで来ると、ヤバいとわかっていても中々退けないのが人間…特に人間の集団…である。

 

 もうバイオハザードにならないように祈るしかないんだろうか…。

 

 …ところで、ナターシャさんにそれくらいスゴイ「気付く力」があるって事は……パピの事も実はお見通しだったりしないだろうな…。

 

 

 

NTD3DS月『腹筋ベルトをまた始めた』日

 

 村に戻ってきて、昨日は何もなかった。

 エロイ事もヤバイイベントもなかった。

 ナターシャさんもノルマをチョッパヤでこなした後、そのまま村にきて一晩徹夜でオタノシミ、その後狩りに行ってたもんだから、流石に眠かったらしい。

 

 ちょっと残念。

 …とか思ってたら、ヤバイ方のイベントは密かに進行中だったらしい。

 

 

 パピがナターシャさんの所に、「お母さんと一緒に寝たいのです」と言って潜り込んだそうな。

 

 

 …どっちだ?

 どっちなんだ?

 

 家族ごっこして、お母さん役を微笑ましく引き受けるナターシャさんと。

 「娘以上にはさせないわよ」と極寒の笑みでパピを抱きとめるナターシャさん。

 そしてどっちにしろ黒い企みを、あどけない笑みの下で蠢かせるパピ。

 

 

 …最近、パピに対する評価がとんでもない黒幕みたいになってきたな…それでも愛らしいのが一番の問題なんだが。

 

 

 エシャロットは段々その気になってきているようだし、ユニスは我関せず…というか傍観&ヤバくなったら逃走の姿勢を崩さないし、ムルカ君は自分の甘酸っぱいと言うか青苦い感情を処理するので手一杯。

 ポイクリ爺さんに至っては、「パピちゃんが、パピちゃんが…悪女になってしもうとる…」と毎日涙する日々だ。

 地主の嬢ちゃんは……最近顔を見せないな。

 また何か政策を考えて走り回っているようだ。

 

 地主の嬢ちゃんも化けたからなぁ…。

 暫く顔を見せないと思ったら、この前フラっと出てきて、「この前の騒ぎの報酬って事で、資材をブン取ってきたわ!」とか言って色々持って来てくれた。

 …ただ、そういう快挙も多い分、失敗や浪費も多いんだけどね。

 特に、色々な政策を試している分、支出が激しいのは当たり前だ。

 あの資材を持って来たのだって、実際は村の財政に負担をかけてしまったんで、その埋め合わせみたいなものだったしな。

 

 

 それはともかくとして、その嬢ちゃんが妙な事を言ってたのを思い出した。

 曰く、「村が一つ、一夜にして滅んだらしい」。

 何処の村なのかは分からない。

 よくある与太話ではないか…と思っていたんだが、どうも事実っぽい。

 物資の流通に明らかな乱れが見えたそうだ。

 

 で、その原因がサッパリ分からない。

 村一つを滅ぼすモンスター……規模にもよるが、珍しくは無い。

 先日のラオや古龍は言うに及ばず、ティガレックスみたいな肉食型モンスターだって、村の規模によっては軽く叩き潰すくらいの力は持っている。

 イビルジョーなんか、その典型だろう。

 

 …が、大型モンスターが暴れた形跡殆ど無し。

 ランポスとかが何匹か見つかったが、それも死んでいる……異様な傷跡を残して。

 そして住民は全滅。

 目撃者一人いやしない。

 

 

 

 

 ……何処の村か分からない、なんて言ってた割には、妙に具体的だな?

 しかも目撃者ゼロとか、「その姿を見た者は誰も帰って来れない」のに妙に具体的に姿が伝わっている、怪談話みたいじゃないか。

 

 なのになぁ………なんかこう…霊感に引っかかる。

 あの話を聞いた時には、何も感じなかった。

 今、地主の嬢ちゃんの事を思い出して、ふと連想したら、妙に気にかかる。

 

 霊感だって、第六感、自分の中で関係が無かった情報が突然結びついて起こる、天啓の一種である事に変わりは無い。

 となると、あの時無かった情報と、今ある情報との何かが結びついている訳で。

 

 ………考えてみたが…やっぱあの大穴かな…。

 でも狂竜ラオシャンロンが眠ってた穴と、どんな関係がある?

 滅びた村とやらは、この近所じゃない。

 この近所の村は、全く滅びてなんかいないしね。

 あの穴から変異ウィルスが吹き出て何処かの村に辿りついたと考えるには無理がある。

 

 うーむ……少なくとも近所でおきた惨劇ではないのに、あの大穴に関係があるとしたら…?

 関連性が思い浮かばない。

 …俺一人で悩んでも、これ以上の進展は無さそうだ。

 ナターシャさんとポイクリ爺さんに相談してみるかな。

 俺とは比べ物にならない気付く力を持ってるし、爺さんは長年生きた知恵がある。

 何か見えてくるかもしれない。

 

 

NTD3DS月『爪を切り忘れた』日

 

 流石にナターシャさんもポイクリ爺さんも、大穴と町が消えた噂に関係があるとは思えなかったようだ。

 が、真剣に相談に乗ってはくれた。

 

 ポイクリ爺さんに言わせると、その手の引っかかりを覚えているのが俺だけなのであれば、俺しか持っていない情報がその鍵になる、という事らしい。

 確かに…天啓が情報と情報を無意識に組み合わせる事で訪れる現象なら、その理屈も分からないではない。

 

 が、俺一人しか持ってない情報ねぇ…。

 真っ先に思いつくのは、霊力関係の事だ。

 実際、引っ掛かりを示しているのは霊感だしな。

 

 他に思いつく事と言えば…単独行動している間に得た、何らかの情報?

 正直思いつかないな。

 

 

 とりあえず、霊力関係で考えてみるか。

 

 霊力…霊力…そういえば、大穴に残っているかもしれないウィルス達は、霊力に反応する性質があるのかもしれないんだよな。

 でも、別に俺はアレに霊力を流し込んだり 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん?

 

 

 

NTD3DS月『口内炎なんて嫌いだ』日

 

 

 現地調査しているギルドや古龍研究所の人達に問い合わせ。

 大穴の中に、妙な紅玉が無かったか?

 

 …答えは、無し。

 

 むぅ…違ったか?

 前回ループで拾った、あの人とモンスターを狂わせる、霊力の篭った紅玉。

 まさかアレがもう一つあって、あの穴の中にあるのでは…と思ったんだが。

 紅玉は元々、竜の体内で何らかの物質が凝結したものって話だったし、眠っていたラオシャンロンの体の中で出来上がり、それが排出されてあの場に残っている…と考えられないだろうか。

 それで霊力が宿るかどうかはともかくとして。

 

 一応、それらしいモノが出たら、厳重に隔離するように話はしておいた。

 何せ狂竜ラオシャンロンの体内物質が固まったモノだ。

 それこそ、普通の紅玉と違って、変異したウィルスが巣食っている可能性は非常に高い。

 あの時の紅玉のような性質が無くても、危険物扱いするには充分すぎる。

 

 

 

 これが引っかかる事だったんだろうか?

 う~~ん……どうもスッキリしない。

 

 

 

 真面目な話から一転してナンだが、今日も俺・ナターシャさん・パピの家族ごっこは続いている。

 3人でお風呂に入って、川の字で寝ました。

 

 

 …パピが寝入ったの確認して、すぐ横で声を殺して盛ったけどな!

 どっちから誘いをかけたかは明らかにすまい。

 言えるのは、どっちも我慢できなかったって事だけだ。

 

 そしてパピ、途中から起きてなかったか…?

 ずっと目を閉じてたけど、明らかに顔が赤くなっていたような…。

 

 

 

NTD3DS月『机の上に片付けてない調味料』日

 

 やっぱり起きてたようだった…。

 

 態度には出てないよ?

 マジで表情筋を自由に操れるんじゃないかってレベルで、普段通りのニパーとした笑顔しかしていない。

 ナターシャさんすら欺くポーカーフェイスがマジ恐ろしい。

 

 が。

 俺と二人きりになった途端、その表情が崩れ去った。

 あうあう言いながら真っ赤になって、オロオロオロオロと。 

 

 言ってはなんだけど、和んだ。

 年端も行かないょぅι゛ょにエラいもの…エロいもの見せ付けておいて言う感想じゃないのはわかってるが、やっぱりこうやってワタワタしつつ右往左往しているのがパピの平常運転だよな。

 

 

 

 なんて言ってる余裕はすぐに吹き飛んだけどな!

 例によって仕事の事を条件にして!

 

 

 「パピにも触らせてください」って!

 

 

 

 …受けたよ。

 ああ受けたさ、ギルドの仕事状況が全然改善されてないんだから、受けざるを得ないでしょーが!

 なんかもう自分でも、ギルドの事を言い訳にしてる自覚はあるけどさ!

 どうにも出来んがな畜生!

 

 ああ、女性関係に強いみたいに思い上がってて、その実体がコレか…。

 受けに回るとどうにもできやしない。

 やっぱ俺にとって、人間関係の問題は鬼門だ。

 

 

 追記: 触られてる間にオッキはしたが、白いの出すまではいかなかった事を記しておく。

     あのまま舐められてたりしたら、ちょっとヤバかったかもしれんけど…。

 

 

 

NTD3DS月『オニギリ買って仕事場で食べようとしたら、中身が毀れていたショック。しかもイクラ』日

 

 

 パピは末恐ろしい子やでぇ…。

 今日まで仕掛けてきた色々な事を思い出すだけでも恐ろしいが、今日はそれ以上の戦慄を感じた。

 

 俺にやってたような事を、ナターシャさんにも仕掛けていたらしい。

 エシャロットがコッソリと教えてくれたんだが、パピとナターシャさんが一緒に風呂に入った時(俺が居ない時も二人で入るようになっているようだ)、後からエシャロットが入ってしまったんだそうだ。

 それは別にいい。

 同性なんだし、風呂は3人で入るにはちょっと狭いんで、エシャロットは出直す事になったけど、それも別にいい。

 

 

 パピがナターシャさんの、胸の辺りとか股の辺りを撫でていたんだそうな。

 しかもナターシャさんはちょっと顔が赤かった。

 

 …その場面に遭遇したエシャロットの衝撃はいかばかりか。

 思わず固まってしまったとして、誰が責められよう。

 が、パピから一瞥されただけで、猛烈な悪寒を感じ、ナターシャさんに気付かれる前に超消音状態で撤退したと言う。

 実に懸命な判断である。

 下手すると巻き込まれる。

 

 が、怖いもの見たさというべきか、ヤバい事態になりそうだからちょっとでも情報を集めて撤退しようとしたのか、気配を殺して漏れてくる声を盗み聞き。

 そこで僅かに聞こえたのは、漫画で温泉とかに行った時によくあるアレだ。

 「○○ちゃんおっぱい大きいー!」とか、「腰ほそーい!」とか、「肌がツヤツヤ…」とか、ああいうノリのアレだ。

 アレを母娘のスキンシップにしたカンジの声だったそうな。

 

 ただ、ナターシャさんの声が、なんというか…ちょっと艶っぽいのが気になったと。

 

 後で恐る恐るパピに何をやっていたのか聞いてみたら……。

 

 

「赤ちゃんはどうやって生まれるのが、聞いていたのですよ」

 

 

 …確かにこの世界だと、ちゃんとした保健体育を教える学校なんて無いだろうし、性教育を親がする場合もあるようなんだが(エシャロットもそのクチだったらしい)。

 明らかに分かっててやってるよなぁ…その辺の描写がある本も読んでたし…。

 

 どこまで徹底的にやる気だよ…。

 とんでもないモノを目覚めさせちまったようだ。

 

 

 

 

NTD3DS月『不思議のクロニクル、ボスよりスケルトンが手強い』日

 

 今朝方、バカみたいにデカイ音が鳴り響いた。

 地震でも起きたかと思って、村人が皆飛び出してくるくらいだった。

 

 音の発生地は、どうやら離れた狩場…あの大穴の方角からだ。

 危険な予感がする。

 

 少なくとも、今日一日は調査の為に帰れそうにない。

 朝のうちに日記をつけて、覚悟を決めます。

 調査メンバーは、俺、ナターシャさん、エシャロット、A.BEEさんで、現在村で考えられる最強メンバー。

 他のハンター達は、村の防衛に当たってもらう。

 また狂竜ラオみたいなのが出てきてたら、村に小型モンスターが押し寄せてくる事だって考えられるしな。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 防衛戦じゃあ!

 みなのモノ防衛戦じゃあ!!

 武器を取れ、配置につけ、奴らを村に近づけるな!

 

 

 

 

 

 

神無月『スマホからツイッターにログインできない』日

 

 …デスワープ……。

 なんか久々なような気がするが、振り返ってみれば結局いつも通りの3ヶ月程度だったこの不思議。

 

 それにしても……無念。

 

 デスワープした時は、毎回理不尽な死因だったり、悔しい思いをしていたりしたが、今回はまた格別だ。

 折角開拓してきた村が…住民の皆が…。

 

 

 畜生。

 

 

神無月『自転車のタイヤに空気入れないと』日

 

 怒りと無力感のあまり、一日不貞腐れて過ごしてしまった。

 そしたら、いつもアナグラに連れて行ってくれるゴッドイーター達と合流し損ねてしまった。

 むぅ、仕方ない。

 アラガミ化して近くまで走るか。

 

 

 それにしても、今回の死因はまた滅茶苦茶だった。

 なんつーか、ゲームが違うよゲームが。

 元がカプコンだから根元は同じなのかもしれんけどさ。

 

 事の始まりは、日記にも書いた轟音だったと思う。

 その原因を調査しに行こうとしたのだが、時既に遅しと言うか。

 

 予想通り、大穴があったところが、更に巨大な穴が出来ていた…崩落して埋まりかけていたが。

 それは、まぁいい。

 あそこにあったデカい足跡も、まぁいいだろう。

 

 問題だったのは……。

 

 あそこを調査していたギルドの調査員や、古龍研究所の面々。

 間に合わなかった。

 死んでいた。

 

 

 死んでいたけど生きていた。

 

 

 

 

 

 

 ばいおはざーど!

 

 

 

 いやマジで。

 

 肌は腐ってこそいなかったようだけど、完全に変色し、言葉も分からず、動いてはいるが明らかに生命活動はなかった。

 そもそも、そこに居たゾンビは殆どが体に欠損があり、そこから全く血が流れ出ていなかった。

 腕とか足とかなくなってるのに、平然と(?)動いている時点で異常ってレベルの話じゃない。

 

 流石に皆戸惑ったんだが、いくら呼びかけても全く反応がなかった

 相手がゾンビになったとは言え、元人間を攻撃するのはエシャロットにはキツかったようだ…残りの3人で始末した。

 

 で、ここからが問題だった。

 このゾンビは、数体しか居なかったのだ。

 ここに居た調査隊メンバーは、少なく見積もっても20人以上居た筈なのに。

 半分以上がゾンビにならず、何らかの現象で吹き飛んでしまったと考えても、まだ何体か残っている可能性がある。

 

 そう思って周囲を調査したんだが…大当たりだった。

 活動を停止したゾンビが数体見つかった。

 どうやら、近隣のモンスター…ランポスなど…に襲われ食われたらしい。

 

 …と、ここで待ったをかけたのがナターシャさん。

 ランポスがここに居る、その時点でおかしい、と。

 

 言われて見て気が付いたが、ここには超大型モンスターの足跡があった。

 それが何のモンスターのモノなのかは分からないが、少なくともあそこに居たのは確かなのだ。

 恐らくはあの朝、轟音が響いたタイミングで、巨大なモンスターがあそこに居た。

 だと言うのに、何故ランポスが残っている?

 まともに動けるモンスターなら、虫型などでもない限り、すぐさま逃げ出してしばらく戻ってこない筈。

 例え大型モンスターが居なくなっても、しばらくの間は警戒して戻ってこない。

 事実、ラオシャンロンが出現した時はそうだった。

 

 なら、このランポスは?

 しかもその周辺を調べたところ、弱って動けないようなランポスでもなく、しかも群れをなしている事が分かった。

 

 異常な行動を取るモンスターが、集団規模で居る?

 

 更に言うなら、古典的なゾンビの法則がヤバすぎる。

 ゾンビに噛まれたり、引っかかれたりされたら、そいつは…?

 

 なら、そのゾンビを食ったモンスター達は? 

 

 

 結論から言えば、その懸念は大当たりだった。

 何体か、異常なモンスターが発見された。

 狂竜ラオシャンロンのように体が黒く染まったモンスター達。

 

 

 それだけなら、まだ良かったんだけどな……。

 一体何がどうなったのか、狂竜ウィルス改めゾンビウィルスは、急速なスピードで広まったようだった。

 モンスター達はゾンビ状態になってたんで、あまり動きも速くはなかったし、そうそう普通のモンスターを傷付けられるとは思えないんだが……やっぱり空気感染…いや、関節的な接触感染か?

 そこらの木々に体が触れて、そこにウィルスが残ってたんだろうか。

 

 

 ともあれ、どんどん増殖していたゾンビモンスター達。

 一体一体は動きが非常に遅いこともあって、大した事は無い。

 だが場所が悪い。

 感染したモンスター達は、密林の中に潜んでいる。

 ナターシャさんレベルならまず見落とさないが、それでも万一はあるし、俺達だと戦っている間に見落としてしまう可能性もある。

 

 どっちにしろ、拡散しつつあるウィルスをどうにかするには、それこそ一帯を焼き払って消毒するくらいせねばならない。

 ギルドからの懲罰…それこそ、俺の場合はハンター廃業…も覚悟の上だった。

 一端村に戻り、焼き払うのに必要な道具を揃えようとした。

 

 

 …村に帰還した時には、既にモンスターのゾンビに囲まれていた。

 冗談だろ?

 

 

 幸い、地主の嬢ちゃんが作っていた防壁やバリスタなどを使って村人総出で応戦し、村に入られるのを防いでいたが、多勢に無勢もいいところだった。

 

 

 …思い返してみれば、この時点でおかしかったんだ。

 大穴付近から広まっている筈のゾンビ達が、何故俺達が帰還するよりも早く、しかも大勢で村に居たのか。

 

 だが、あの時は悠長にそんな考察をしていられる余裕もなく、俺達も戦線に加わった。

 幸いだったのは、村人からゾンビ化した者が居なかった事だろうか…ゾンビモンスターに噛まれた者も居らず、俺達から二次感染した者も居なかったようだ。

 

 とにもかくにも、ゾンビ達を撃退しなければならない。

 

 

 …日が暮れるまで、防衛戦は続いた。

 よくもまぁ、弾薬やら矢やらが尽きなかったものだ。

 地主の嬢ちゃんの大手柄だと言っていいだろう。

 

 だが、それも限界が近付き、ハンターはともかく一般人の体力も尽き始めた頃だったか。

 

 あのデカブツが、突然空から襲い掛かってきたのは。

 

 

 天廻龍、シャガルマガラ………だと、思う。

 多分。

 

 襲来した瞬間から何故か怒り狂っていたソイツは、文献で見たものとよく似た姿をしていた。

 ただ、明らかに色が違った。

 白い体に、幾つもの黒い染み……見間違えでなければ、狂竜ラオシャンロンと同じような黒い染みが蠢いていた。

 

 

 空からの乱入で何人かのハンターと村人を吹き飛ばし(生存確認する余裕はなかった)、続いて弱そうだと判断したのか、パピまで狙いやがった。

 咄嗟にナターシャさんが庇うも、その代償として大きな傷を負っていた。

 

 

 その際、パピとナターシャさんが何か話しており、パピが泣きながら、ナターシャさんを「おかあさん!」と呼ぶようになったんだが…なんだったんだろうか?

 多分あれだな、「どうしてパピを庇ったのです…パピは、ナターシャさんからマスターを…」「…ちょっとおいたが過ぎるからって、娘を庇わない母親だと思う…?」とか、そんな会話があったんだろうな。

 

 

 それはともかく、ナターシャさんごとトドメを刺そうとするシャガルマガラに割り込みをかけ、暫くは凌いでいたんだが……段々と体がおかしくなってきたのが分かった。

 

 そりゃそうだよなぁ。

 あのシャガルマガラが、多分ゾンビウィルスの元凶だったんだろう。

 それを相手に斬った張ったしてりゃ、ウィルスに感染しない方が難しい。

 

 徐々に体が動かなくなり、頭もおかしくなりそうだった。

 

 こりゃアカン、と思ったんで、最後の切り札発動。

 久々の仮面ライダーアラガミ!

 

 …だったんだが、残念ながら状態異常は振り切れなかったようだ。

 体が蝕まれているのが分かった。

 間もなく動けなくなり、まともな判断すら下せなくなるだろう。

 こうなってしまえば、残った手段は一つだけだ。

 

 ラオシャンロン戦ですっかり忘れ去られていた悲劇の必殺技、鬼杭千切の発動だ。

 突っ込んでくるシャガルマガラ(仮)に、カウンター気味に叩き込み、充分な手応えを感じた。

 

 

 

 …覚えているのはそこまでだ。

 仮面ライダーアラガミ状態でも、鬼杭千切の反動に耐えられなかったんだろうか?

 元々意識も朦朧としてる状態だったしな…。

 

 充分な手応えがあっても仕留め切れなかったか、仕留めはしたがウィルスに犯された体が限界を迎えたのか、そんな所だろう。

 

 

 …遺されたパピとナターシャさん、そして村が無事である事を祈る。

 



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GE世界5
80話


もう暫くツイッターを続けてみる。
フリカツ?
…一日1プレイかな。

ちなみに現時点で、約3話分の書き溜めがあり、まったくと言っていい程話が進んでいません。


 

神無月『東方幼霊夢で超泣いた。最初のよつばと雰囲気が懐かしい』日

 

 どうせアナグラに連れていってくれるゴッドイーターとは合流できなかったんで、暫く不貞腐れてた。

 三日目で飽きて、そろそろ動こうって気になってきた。

 遺された皆が無事なのか心残りはあるが、それを言ったら今までのデスワープは殆ど心残りだらけだったし、いつもの事だ。

 

 で、この数日の内にツラツラと考えていた…というより妄想していた。

 今回のMH世界の出来事を全て強引に繋ぎ合わせた。

 

 狂竜ウィルスには、変異したもののみなのか、それとも従来のモノも同じなのかは分からないが、霊力に反応する性質があるようだ。

 もしも、MH世界で霊力を多少なりとも感知できる種族が居たとしたら?

 以前の世界で霊力を持った紅玉があった事を考えると、既に廃れたか、使える種族が極端に少なかったか、あり得ないとは言い切れまい。

 

 で、その霊力を感知する能力を、シャガルマガラが持っていたとしよう。 

 シャガルマガラは、狂竜ウィルスで弱らせたモンスターを捕食する性質がある…っぽい。

 つまり、ウィルスを植えつけた獲物が何処にいるのか、感知する能力があってもおかしくない。

 

 かつて、ラオシャンロンが休眠に入る前に、シャガルマガラ(当時はゴア・マガラ?)にウィルスを植えつけられた。

 当時は全く効果がなかったラオシャンロンだが、休眠している間にウィルスは変異し、徐々に体を蝕んだ。

 

 そして出てきた狂竜ラオシャンロン。

 結局は討伐された訳だが、変異したウィルスをシャガルマガラが感知した…つまり何百年も前から目をつけていた獲物を見つけたのだ。

 嬉々として獲物の元へ向かうが、ラオシャンロンは既に討伐済み。

 ウィルスが多く残っているあの大穴へ向かってはみたが、勿論獲物はおらず、逆に残った狂竜ウィルスに汚染されてしまった。

 

 ウィルスに汚染されたシャガルマガラは、獲物が空振りだった怒りをそのままウィルスとして撒き散らす。

 …通常のウィルスと同時に、穴の奥に残っていた変異ウィルスと一緒に。

 更に、八つ当たりに近くにあった村(つまり俺達の村)まで強襲した。

 

 …ラオシャンロンを討伐した俺達が、そこに居る事を知って向かってきたのかは分からんな。

 

 

 

 

 …強引に繋ぎ合わせてみたが、こんなものか?

 ラオシャンロンが休眠していた何百年をシャガルマガラが生きられるのかとか、色々と抜けはあるけども。

 

 

 まぁ、取り合えず考えるだけ考えてスッキリした。

 何の脈絡もなく襲ってきたんじゃなくて、前後にストーリーがあったと思った方がまだモヤモヤしないしね。

 

 

 

 

 さて、今回のGE世界の行動に移ろう。

 いつものゴッドイーター達とは合流できなかったし、アナグラに入り込むのは難しいかもしれない。

 この時期なら使える、サカキ博士の認証コードとかもあるにはあるが、アレは端末が使える場所まで行かなければ意味がない。

 そして端末があるのはアナグラくらい。

 うむ、意味ねぇ。

 

 

 ま、今回はゴッドイーターではなく、一般人として推移を見てみますかね。

 アナグラに入れないんで、まずはフェンリルの庇護下にない人達の集落に身を寄せるとしよう。

 

 

 

 

神無月『東方 メイドさんの日々見て通常テンションに戻ります』日

 

 

 とりあえず寝床を確保。

 と言っても、住民が居なくなってしまったあばら家でしかないが。

 ま、野宿も慣れっこだった身としては、屋根とトイレがあるだけで充分すぎるくらいだ。

 

 住民達も、余計な事に首を突っ込む人達は居ない。

 このご時勢に、天下のフェンリルから離れて生きようって人達だもの。

 脛に傷を持ってるか、GE2に出てきたロミオを助けた爺ちゃん婆ちゃんみたいに、若い世代にいい場所を譲ろうって奇特でお人好しな人達が殆どだ。

 

 …もう殆ど覚えてないが、あの爺ちゃん婆ちゃんは冗談抜きで聖人かって人だったと覚えている。

 探してみるかな?

 

 

 …ともあれ、今回はフェンリルに加わらない一般人。

 だが、ただの一般人で終わるつもりはない。

 MH世界での開拓中、これでもかという程集めまくった植物系アイテム。

 資金稼ぎ用の種は勿論の事、ネンチャク草やら太陽草やら火薬草げどく草ネムリ草、ムルカ君からもらったアオキノコに特産キノコにドキドキノコ、果てはマンドラゴラまでふくろに詰め込んであるのだ!

 以前に研究してもらった時には肥料や土が問題となっていたので、飛竜のフンとかも確保してある。

 

 …流石にフンをそのままふくろには居れずに、堆肥状態にしてあるけどさ。

 

 

 …ふと思ったんだが、ふくろ以外にもループに道具を持って行く事はできてるんだよな。

 俺が身につけていた装備などは、ふくろに入れてもいないのにループについてきている。

 神機に関しては……多分、あれはもう俺の体の一部扱いになっていると思う。

 

 と言うのも、アラガミ化の事があるからだ。

 現在は制御できるようになっているアラガミ化だが、最初は制御の為の薬剤がなくてアラガミ化して死んでたしなぁ。

 多分だけど、アラガミ化した時に腕輪や神機を取り込んだのだろう。

 実際、制御できるようになって何度か変身した時は、いつも持っていた装備が体の一部のようになっていた。

 

 俺の体の一部だから、デスワープしたらふくろに入ってなくてもついてくる、と。

 

 

 ま、それはともかくとして、アラガミ化が制御できるってのは便利なものだ。

 薬剤の投入も必要なくなったし、実を言うと腕輪をしておく必要がない。

 腕輪をしてなければ、ゴッドイーターだと思われる事もない。

 

 …偽装工作にも使えるかもしれん。

 単独任務に向かった時、腕輪を外してその辺のアラガミに食わせてやれば、MIAの出来上がりだ。

 …俺の一部になった腕輪を食ったアラガミがどうなるかは、予想できないけども。

 

 

 

 

 とにかく、今回はGE世界で農業やってみるとしよう。

 可能であれば、食料事情を一変させてくれる。

 あー、でもやっぱりアラガミが寄ってきそうだな。

 今回の俺はゴッドイーターじゃない設定なんで、神機使うのはまずいし……捕縛するだけならまだやり様もあるんだが。

 

 

 ……よし、追い払う時は仮面ライダーアラガミで、正体を隠して行こう。

 

 

 

 

 

 

 

神無月五車多…改め上田、でもないエリック視点

 

 

 僕はエリック。

 華麗なるエリック・デア=フォーゲルヴァイデ。

 何故だかオウガテイルに異様な危険を感じるゴッドイーターだ。

 

 

 唐突ですまないが、少しばかり強調したい点がある。

 それは、僕が『常識人だ』という事だ。

 

 何を言い出しているのか理解できないかもしれないが、まぁ黙って聞いてくれたまえ、僕の華麗なる主張を。

 僕が所属している極東支部には変人が多い。

 今は別行動しているが、同じ部隊の親友にしてライバル・ソーマがその筆頭だろう。

 

 彼は無口で表情が分かり辛いんだけど、いい奴だという事はこの僕が保証する。

 ぶっきらぼうで…少々悪い噂もあるけどね。

 

 彼の行動原理自体は非常に明確で、本人は否定する(むしろ面と向かって言ったら銃撃が飛んでくる)が、彼が自分に人を寄せ付けようとしないのは、何か背負っているモノがあるからだ。

 激戦区に赴くのもその為で、自分の過酷な戦いに他者を巻き込むまいとする、寡黙で華麗な彼の生き様。

 少々アウトロー寄りな性格をしているが、彼はアラガミと戦う者として、非常に倫理的な人物であると言えるだろう。

 …あくまでアラガミと戦う者として、であって、戦う事のない一般人からしてみれば、とても倫理的とは見えないだろうが。

 

 とにかく、彼の行動は素行に隠されて分かり辛いが、ある種「人道的」な行動原理に基づいていると言っていい。

 

 が、そんなソーマも私生活では変人以外の何者でもない。

 無口で他者を寄せ付けないのは仕方ない。

 彼が背負っているものが、自室に居る時だけ消える、という訳でもないのだから。

 

 …彼がおかしいのは、その、アレだ。

 彼の部屋だ。

 

 用事があって何度か入ったことがあるのだが、それはもう酷いものだった。

 物が散らかっているのはいいとしよう。

 武器が片付けられてないのもまだ許せる…危険だが。

 

 だがあの弾痕はなんだ。

 

 射撃訓練を部屋でしてどうする。

 しかも君の神機はバスターブレードで、銃じゃない。

 神機じゃない銃じゃアラガミには効かないから持って行く意味もない。

 

 弾痕は明らかに、射撃の的とは懸け離れた場所に出来ていた。

 

 

 

 …荒れ果てたあの部屋を初めて見た時、ついつい「ロックな部屋だね」と華麗なコメントをしてしまった。

 うん、あれは本当に我ながら華麗だったと思うよ。

 ……あれ以上、悪く言わないコメントなんて思い浮かばないからね。

 

 と言うか、その部屋ってフェンリルの所有物であって、ソーマのモノじゃないんだけど?

 配置変えとかがあったら、別の人が使う可能性だってあるんだけど?

 そもそも部屋をあそこまで壊して何がしたいのかと問い詰めたい。

 小一時間ほど華麗に問い詰めたい。

 

 ……というか、普通はあれだけ宿舎を壊せば、懲罰くらいは当たり前なんだが。

 僕はこれでもフォーゲルヴァイデ家の跡継ぎだ。

 組織を維持・存続させる為、信賞必罰である事くらい理解している。

 ソーマのあの部屋は、どう軽く見積もっても必罰なんだが…。

 給与から天引きでもされているんだろうか?

 あれだけ壊せば、ゴッドイーターの給料であっても半年程度じゃ納まらないぞ。

 

 

 

 …と、とにかく、我が親友にしてライバル・ソーマもそこそこ変人なのだ。

 僕が同じように変人と呼ばれる人種である事も自覚はある。

 この刺青や服装だってそうだが、それ以上に企業の跡取り息子がゴッドイーターとして最前線に居るのだから。

 これについては、我が親愛なる妹・エリナの療養なども関係しているが…それはおいておこう。

 

 僕としては、ソーマを筆頭とした極東支部の変人達に埋もれないよう、多少のキャラ作りもしていかなければならない訳だ。

 かつて、初陣すら経験する前、ゴッドイーターとしての訓練中に自らを鼓舞する為、「華麗に、華麗に」と何度も繰り返し言い聞かせ続けた結果、華麗なる生き様が素で身についてしまったが…これもキャラ作りの一部と言えなくもない。

 まぁ、僕が華麗なのは事実だけどね!

 

 

 

 さて、前置きが長くなったけど、本題だ。

 近頃の戦況は、どうにも良くない。

 いや、それは分かりきっていた事だ。

 ただでさえ少ない上に殉職率の高いゴッドイーター、狩れども狩れども数を減らさないアラガミ、消耗していく資材、荒む人心。

 

 救いがあるとするならば、可憐なるエリナの体調が徐々に回復しつつある事くらいだろうか。

 

 何れにせよ、人類に限らず、アラガミを除くこの星の生命体はジリー・プアー(日本ではこう表現するのだったね)の一途を辿っている。

 僕は華麗なるゴッドイーターであると同時に、フォーゲルヴァイデ家の跡取りでもある。

 だからこそ、一ゴッドーイーターよりも少しばかり視野が広いと自負している。

 

 極東のゴッドイーターは言う、戦線は膠着状態にある、と。

 自分達がアラガミを食い止めている、と。

 確かにそうだろう。

 この僕も華麗なるゴッドイーターの一員として、その意見に異は無い。

 

 ただ一つだけ、ゴッドイーターの殆どが気付いていない事が……資材供給の限界が、徐々に近付いてきているという事だった。

 食料はある。

 味気ないジャイアントトウモロコシばかりであっても。

 風雨を凌ぐ建物も、フェンリルのような立派な施設もある。

 フェンリル以外の人々に、行き渡っていなくても。

 服だってある。

 僕のように露出度が高くなっても、それはそれで華麗なので問題はない。

 

 だが、それはいつまでも続かない。

 今の資材は、アラガミの食い残しを少しずつ集め、強引に形にしているに過ぎない。

 鉄にせよ糸にせよプラスチックにせよ、元になる資源を、旧世界で行われていたように発掘する事ができないのだ。

 植物でさえ、この世界で育つ数は非常に少ない。

 需要に対して供給が追いつかない。

 

 

 ゴッドイーターの尽力により、アラガミとは戦えている。

 小さな輪の中で、輪の中身を食いつぶしながら戦っている。

 だが、『戦えなくなりつつある』。

 

 これをどうにかしようと思ったら、小さな輪を少しでも広げて中身を増やすか。

 或いは、全く新しい輪を見つけなければならなかった。

 

 

 最近、よくそんな事を考える。

 戦っている最中にさえ頭に過ぎる事があり、ソーマには注意力散漫だとゲンコツを貰ったものだ。

 

 だがどうしても頭から離れず、しかしどうしようもない。

 行き場のない熱と不安が溜まっていく。

 華麗なる僕に、あってはならない姿だ。

 …少なくとも、エリナにこんな顔を見せる事はできなかった。

 

 

 

 そんな、ある日の事だった。

 『彼』と出合ったのは。

 …新しい、『輪』が現れたのは。

 

 

 

神無月エリック視点日

 

 

 その日、僕はいつも通りに華麗に任務をこなしていた。

 相方のソーマも一緒だ。

 またいつもの思考に気を取られてソーマに小突かれたけど、それもソーマ、君のフォローを信頼している故だよ。

 

 …いやすまない、言い訳に使うには華麗すぎる言葉だったね。

 意識をとられる事自体、僕にはあるまじき華麗ならざる行為だ。

 

 今日は特に気もそぞろだという自覚もあった。

 その理由かい?

 

 先日ね、父と話をしたんだ。

 エリナの様子とか、会社の経営状況はどうかとか、味気ない事だったけどね。

 その中に、僕の興味を大きく引きつける話題があった。

 

 最近、極東から謎の植物が、何種類か流出しているらしい。

 華麗とはとても言えないシロモノだが、これについて注目すべきなのは、その異様なまでの汎用性だ。

 

 ただの植物と侮るなかれ。

 例えば草…ネンチャク草と呼ばれているそうだが、この植物は文字通り粘着質。

 いわば糊のようなものなのだが、その弾力や強度が異常なのだ。

 そんじょそこらの接着剤とは比較にならない。

 しかも、磨り潰して粉にして使えば(幾つか加工の手間は必要だが)、コンクリートのような物質になる。

 調整次第で簡易接着剤から、ヘタをすると対アラガミ防壁にさえ使える可能性がある、とかなんとか…。

 

 あまつさえ、焼けば食べられる。

 

 しかも、特定の土壌があればあっという間に育つらしい。

 その特定の土壌とやらも、然程珍しいモノではないとか。

 そんな勢いで育って、土地の栄養とか大丈夫なんだろうか…。

 

 

 他にも色々な物が市場に食い込んできている。

 どうやら扱っている者が一つの窓口しか設けていないらしく、その規模は小さなものであるが、様々な視点から注目を集めているらしい。

 まぁ、当然だろうね。

 先にあげたネンチャク草にしたって、明らかに既存の植物とは全く別物だ。

 少なくとも、一般的に出回っている植物図鑑(もう旧世界の事を想像する時にしか使えないシロモノと化しているが)にあるどの植物にも該当しない。

 

 つまり、今まで知られてなかった全く新しい生物…もとい植物の誕生。

 そう、誕生だ。

 知られていなかった、というだけではない。

 断じてない。

 

 既存の植物とは明らかに違った生態系を持った植物なのだ。

 

 

 僕は、これにどうしようもなく曳き付けられている。

 単なる錯覚、早とちりかもしれない…とは考えもしなかった。

 

 

 『新しい輪』だ。

 

 

 この徐々に磨り減っていく世界を打開する何かが、見つかった。

 僕の華麗なるシックスセンスが、絶対的な確信を持って告げている。

 

 幸いな事に、この新しい物資の出所は極東。

 そして何処から出ているのか、偶然手に入れた情報によって目星はついている。

 

 

 

 僕はこの任務が終わったら、物資の出所を見に行くのだ。

 

 

 これはエリック・デア=フォーゲルヴァイデ個人の興味…いや、希望であり、同時にフォーゲルヴァイデ家の跡取りとして当然の事でもある。

 もしも個人的な接触を持つ事ができれば、僕自身も、会社も大きな飛躍を得ることができるかもしれないのだ。

 

 

 

 

 そう、考えていた。

 夢想していたと言ってもいい。

 華麗なる未来を思い描いて、これ以上無い程の無様を晒した。

 

 ビルの上から飛び掛ってくるオウガテイルに、僕は気付かなかった。

 ソーマも間に合わない。

 

 飛び掛ってくる影に気付いて振り返ろうとした瞬間、「ああ、僕がオウガテイルを嫌っていたのは予知でもしていたのかな」と他人事のように思っただけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、彼は現れた。

 

 

 

 

 

NTD3DS月久しぶりにツバキさん視点

 

 

 極東は相変わらず地獄だ。

 だが地獄であっても、私の故郷でもある。

 地獄という意味でも、土地という意味でも。

 

 相変わらず戦況はジリ貧。

 殆どのゴッドイーターは気付いていないが、徐々に破滅が迫りつつある。

 物資の限界、ゴッドイーターは徐々に数を減らしている。

 

 阿呆がやらかした為にゴッドイーターが失われる事もあれば、純粋に殉職した者も居る。

 …引退した後、抑制剤の配布がされず、「処理」された者も居た。

 

 

 …いや、話が逸れたな。

 

 最近は妙な事が立て続けに起こっている。

 見た事もない物資を仕入れてきて、サカキ博士を初めとした一部の研究者が狂乱していたりな。

 

 まぁ、あの連中がおかしなのはいつもの事だ。

 マッドだからしかたない。

 やらかすようなら、容赦なく仕置きするがな。

 

 特に気になっているのは、謎のアラガミの目撃報告だ。

 ここ数週間で急速に噂が広まっている。

 まぁ、妙なアラガミの目撃情報自体は珍しくない。

 新種も居れば見間違いもある。

 

 言うまでもなく、その8割が流言飛語だ。

 ちなみに2割はガチで、新種が出る度に死者が増える。

 

 そして、今回はどうもその2割のようだ。

 目撃情報が多く、その情報も具体的で、しかもある程度統一された内容。

 

 これを放置しておく事はできない。

 どのようなアラガミであれ、相手の情報がないというのは脅威だ。

 

 アラガミの行動は予測がつかない。

 今でこそ、ある程度「このような性質がある」という情報が構築されているが、アラガミとの戦いのノウハウが無かった時期は悲惨なものだった。

 多くの屍の上に、アラガミ達の付け入る隙が見出され、なんとか人類は滅亡を免れている。

 

 

 …今回も、多くの屍が生み出される事になるだろう。

 こんな時は、現役を退いた我が身が恨めしく思える。

 最前線で戦っていた頃は、このようなもどかしい思いをしなかったのに。

 代わりに、常に死の危険に晒される事になるが…。

 

 

 

 ともあれ、まずは目撃されている新種のアラガミの情報である。

 

 昇ってきている報告では、総じて人型であり、その両腕からは剣が伸びている。

 中には、剣が変形して盾になった、という報告もあった。

 また、炎・冷気・電撃などを体から放つ。

 

 その他、奇妙な能力を操り、相対したゴッドイーターが突然金縛りにあった、という話もある。

 ホールドトラップか?

 

 非常に頭が良い…というより、戦術的な行動を取り、目晦まし、隠形、囮、分断して各個撃破など、アラガミとは思えないような戦い方をするらしい。

 妙な話だ、と疑問に思うより先に、脅威が優先される。

 

 もしもこのアラガミが本当にそれ程の頭脳を持っており、尚且つ他のアラガミを統率したらどうなる?

 また、その手法を他のアラガミが多少なりとも学習したら?

 

 

 人間とアラガミのパワーバランスが、一気に崩れ去る。

 

 

 …そして、更に話をややこしくしているのが……このアラガミに助けられた、と主張する何人かのゴッドイーターや一般人だ。

 アラガミを文字通り神の遣いだと主張し、自ら食われに行くような狂信者や、或いはトチ狂って自分はアラガミの王なのだと主張する人種は昔から居た。

 何度か私も『対処』した事もある。

 

 今回もその一種なのかと思ったが…ゴッドイーター達まで、「彼は敵ではないかもしれない」などと言う者が現れている。

 しかも根拠を言わせてみたら、「格好いいから」「ロマンを感じた」「ニチアサが帰ってきた」その他諸々……。

 

 …狂信者に対して通じる理屈ではないのはわかっているが、「理由になってない」と叫んでやりたい。

 

 

 今日も今日とて、エリックが何やら熱弁を語っていた。

 正直な話、看過できるような事ではなかったので、首根っこを捕まえて止めさせたが。

 

 …アラガミを、「味方かもしれない」と考える者をのさばらせる訳にはいかんだろう。

 謎のアラガミが、実際に敵なのか味方なのか、それ自体は関係ない。

 ひょっとしたら、将来…遥か未来で、アラガミとの共存の可能性が芽生えるとして、それが現在どうだと言うのだ。

 

 味方かもしれないたった1体の事を考えて、アラガミを狩る手が鈍ってしまえば、どれだけの被害が出るか分からない。

 これが昔の、人間同士の戦争をやっていた頃であれば、内通の疑いをかけられかねない行為だ。

 しかもそれを広めようとするなど…それこそ憲兵が出張ってくる。

 

 

 しかし、この謎のアラガミが実在するのは、否定しようの無い事実らしい。

 とりあえずエリックに似姿を書かせてみたが……生憎と、私は落書きを華麗と評する審美眼も、抽象画だと言い張る根性も持っていない。

 

 …リンドウに探らせてみるか?

 しかし、いくら奴でも初見の敵が危険な事は変わりない。

 昔に比べれば随分と成長したものだが、やはりな……庇護すべき弟、という感覚をまだ引きずっているのだろうか、私は。

 お互い成人したというのにな。

 

 

 何れにせよ、調査をしない訳にはいかんか。

 可能な限りのメンバーを揃えるとしよう。

 

 

 …アラガミの呼称はどうしようか?

 アンノウン…ではあるんだが、巷では既に、誰がつけたのかわからん名前が知れ渡っているようだ。

 ……別にそのままの名前で構わんか。

 

 

 

 しかし…本当に誰が名付けたのやら。

 エリックの姿絵でも、そこだけ異様に存在感を持って、何なのか分かるように書かれていたから、目に付きやすいのは確かだと思うがな。

 

 

 二本のブレード、変形する盾、炎氷雷と多様な攻撃手段を持ち。

 熟練のゴッドイーター達を翻弄する程に知恵が回り。

 ついでに、時々謎の決めポース?をする。

 

 ……そしてオウガテイルの顔を持った……誰が呼んだか、「マスク・ド・オウガ」…か。

 

 

 

 



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81話

昼頃には投稿しようと思ってたら、二日酔いでダウンしてました。
500mlのアサヒドライを3…いや、4本だったかな?
うーん、肝臓弱くなってきてるな…以前は一日で6本飲んでも余裕だったのに。
なんかサプリメントでも飲もうかな…。


 

 

 

HR月主人公日

 

 

 商売繁盛で笹もってこい、ってか?

 

 MH世界から持ち込んだ色々な素材が、阿呆のような勢いで売れている。

 珍しさもあるんだろうが、食える物を中心に集めたからな。

 

 何より、この世界の素材と比べると、生命力とかが段違いだってよく分かる。

 育ちやすい、繁殖しやすい、利用しやすい。

 そりゃ注目も集めるだろう。

 しかも、この世界ではもう殆ど見られなくなった、天然のモノだらけ。

 

 この世界の物と並べて比べてみると分かるんだが…ナンと言うか、オーラが違う。

 気のせいと言われればそれまでかもしれんが、溜め込んでるエネルギーが違うって気がするんだよね。

 10万円を貯金してるキャッシュカードと、100万円を貯金しているキャッシュカード並みの違いと言うか………あれ、それって本当に気がするだけで、持ち主でも見分けつかないんじゃね?

 

 

 

 …まぁいいや。

 

 それはそれとして、現在俺が身を寄せているのは、フェンリルの庇護下に無い集落の一つだ。

 前ループでは、リンドウさんやナナが隠れていた村だな。

 そこで農業しながら、コッソリと仮面ライダーアラガミ状態であちこち動き回ったりしている。

 変身に体を慣れさせる為の訓練中だ。

 ちなみに装備している神機ははオウガテイル系。

 仮面ライダーオーガならぬオウガだな。

 時々ゴッドイーターに目撃されているが、とっとと逃げているから問題ないだろ。

 

 

 元々排他的な村だったんで、村人にあまり近寄りすぎなければ、あっちからチョッカイを出してくる事もない。

 最近は俺が作った畑(と言うか簡易農園)に入り込もうとした阿呆も居たが、そっちは闇から闇へ葬った。

 …いや、殺してないけどね、俺は。

 アラガミに食われず逃げられたかは知らんけど。

 

 とにかく、そこでMH世界の植物とか色々と育ててみている訳だが、どうも最近有名になってきたらしい。

 この世界で、対アラガミ防壁の外にあると言うのに、何故かアラガミに食い荒らされる事もなく、見た事も無い植物を育てている謎の農園。

 アラガミが寄って来ないのは、仮面ライダーアラガミ状態の練習も兼ねて、付近の奴らを狩りまくったからなんだけどね。

 元々、人が集団で暮らせる程度にはアラガミの少ない場所だったし。

 

 何故だか知らないが、エリックさんがそれを見せて欲しい、と手紙でアポを入れてきた。

 何故にエリックさん?

 

 まぁ、前ループでは同じ班の仲間だったし、何かと世話になってる人だから、見せて欲しいと言われて断る理由も無いが。

 

 

 

 で、約束の日になって、俺は集落から出て出迎えに向かった。

 俺が居る集落は、ゴッドイーターにいい顔をしないからな…放っておくと揉め事の種になりそうだった。

 

 で、少しは慣れたところからちょっと見てたんだが…ソーマと一緒なのね。

 他に人影は無し。

 エリックさんがスパイの真似事なんかできるとは思えないし、本当に興味があるだけなのかな?

 農園という言葉に華麗さでも見出したんだろうか。

 

 ソーマに至っては、エリックさんに無理矢理連れてこられたのがよく分かる表情だ。

 何やら興奮して語るエリックさんに、辟易している。

 

 …ちょっと距離がありすぎて、唇が読めないな。

 むぅ、アリサとかなら唇どころか、体の動きや雰囲気から何を言っているのか何となく想像できるんだが。

 GE世界の中でも、アリサとの仲(意味深)は特に長いからなぁ。

 

 

 

 それはともかくとして、エリックさん興奮しすぎ。

 この辺、フェンリルの対アラガミ壁の外なのよ?

 人間が何人か暮らしちゃいるが、安全って訳じゃないのよ?

 

 

 つまりな……

 

 

 エリックさんの上方10メートルくらいから、オウガテイルが落下してきているんですが?

 

 なんでアンタそんなにオウガテイルに好かれてんのさ…。

 とにかく助けたけども。

 

 

 幾ら俺だって、あの距離を咄嗟に詰められる程素早くない。

 以前から練習していた切り札が、何とか上手く行っただけだ。

 

 

 アラガミ化した時の、まだコントロールしきれていない謎スキルの一つ。

 一瞬だけ超高速で動ける…具体的には1呼吸のうちに3回全く別の行動が出来るくらいのスピードで動ける、その名も安直・アクセラレート。

 アクセラレータ、じゃない。

 某一方通行では断じてない。

 俺はロリコンとちゃうで。

 

 ……パピ嬢を思い出すとちょっと自信がなくなるが。

 

 そのアクセラレートに加えて、ミタマのスキル・韋駄天を使用。

 

 

 とにかく、例によって例の如く上田に改名…いや、戒名を与えられようとしていたところに、超高速で乱入。

 構えていなかったとは言え、ソーマが反応すらできなかった辺り、思った以上に規格外のスピードで動けているようだ。

 

 正にエリックに食いつこうとしているオウガテイルに、銃撃で牽制、ブレードで一撃。

 冷静に、スローモーションの映像を見るように、はっきりと見えた血管(アラガミにもあるのだ)を狙う余裕すらあった。

 

 片手の一撃で両断。

 真っ二つになって地に落ちるオウガテイル。

 …何故か爆発した。

 そして気が付けば、なんかポーズをとっているような体勢に……いや、単に超スピードを止めて勢いを殺す為にこんな格好になっただけだよ!

 

 すぐに距離を取る。

 ソーマが臨戦態勢に入ったのが見えた。

 

 生憎、ソーマとエリックさんを同時に相手にするつもりはないよ。

 なんだかんだで真剣に戦えば強いし上手いし、単独突撃癖のあるソーマをフォローできるエリックさんも侮れる相手じゃない。

 アクセラレートで一気に仕留められれば話は別だが、連発は無理だ。

 このまま戦ったとしても、変身が解けて動けなくなるまで粘られる。

 

 という訳で、近くにあった街頭の残骸の上にジャンプ!

 ついつい両腕を組んで垂直に立つ、所謂ベガ立ち。 

 JOJO立ちしなかっただけ褒めてほしい。

 …いやね、アラガミ化しても間接の稼動範囲は変わらねーのよ。

 関節技が最大の弱点です。

 

 

 ポーズをとっといてなんだが、流石に口を利く訳にはいかない。

 正体を見せるなんて持っての外だ。

 数秒ほど二人と見詰め合った後、大ジャンプ。

 上手いことそこらの廃ビルに入り込み、二人の目が届かない所まで逃げ出した。

 

 

 

 

 

神無月ソーマ視点

 

 …ソーマだ。

 苗字?

 うるせぇ。

 

 なんだったんだ、あのアラガミは?

 いや、本当にアラガミであるかさえ疑わしいくらいだ。

 明確な根拠はないが、どうも…アレはアラガミとも人間とも違う、異質な何かに思えた。

 行動からして明らかに違う…と言ってしまえばそれまでだが。

 

 表情は全く分からないのに、妙に人間臭く感じる奴だった。

 …アラガミに人間味?

 ハッ、バカか俺は…。

 

 エリックの奴は、「助けられた! まるで旧世界の物語にあったヒーローのようだったじゃないか! あの華麗なアラガミは、きっと人間の味方に違いない!」とか騒いでいるが、放っておく。

 相手にしなければ、一週間程度で飽きるだろう。

 

 …そう思っていたのだが、あのアラガミの話は他のゴッドイーター達の間では、最近騒がれている事だったらしい。

 俺は雑談なんか全くしないから、その手の情報には疎い。

 仮に聞いていても、馬鹿馬鹿しいと鼻で笑って終わりだったろうが。

 

 

 それはともかく、エリックが実に騒がしく(率直に表現して鬱陶しく)俺を連行しやがって…。

 名も無い集落から謎の植物その他が輸出されているんだ、とか言っていたが、それが俺に何の関係があるってんだ。

 あんまり騒がしいんで諦めて、子守を押し付けられた気分でその集落について行った。

 

 

 …ああ、まぁ、エリックに少しは感謝してやる気分になったな。

 生野菜か…合成でもなんでもない、土から生えている野菜を初めて見た。

 突然動き出す訳でも襲ってくる訳でもないのに、妙に目が離せなかった。

 

 …農園の一番外側で育てている奴は、引き抜くと叫ぶって言ってたが、冗談……だよな?

 備え付けの耳栓があったのは何か別の用途の為だと思う。

 と言うか、本当に叫ぶような野菜だったら、何で育ててるんだ。

 

 …鳴子代わり?

 何も言う気はしないが…こんな所で育てた野菜を食って、大丈夫なんだろうか?

 

 エリックが試しに一つ食わせてもらって狂喜乱舞していたが、矢張り何か妙な成分でも入っているんだろうか…。

 

 

 …どうでもいい事か。

 俺が関わるような事じゃない。

 あの妙なアラガミと生野菜でテンションがおかしくなっているだけだろうし、放っておくか。

 

 

 …ただ、アナグラへの帰り道で、エリックが夢を見るように語っていたのが印象に残った。

 ゴッドイーターの戦いに迫っている限界。

 食糧供給の限度。

 それらを、ひょっとしたら覆せるかもしれない可能性だと。

 

 コイツは普段は間の抜けた事ばかり言っている癖に、妙に視野が広いからな…。

 アラガミを狩り尽くす事だけ考えている俺とは違う。

 

 …ひょっとしたら、こういう奴がアラガミを滅ぼすのではなく、人間に希望を齎すんじゃないか…そんな妄想染みた考えが過ぎったのは否定しない。

 仮にそうだとしても、この華麗なる阿呆本人ではない事は断言できるが。

 

 

 

 しかし、あの生野菜…特にトマトが美味かった…はいいな。

 ……あそこはアラガミに襲われる事もあるかもしれないし、時々様子を見に行ってみるのはアリか。

 どうしてあの一帯だけ、妙にアラガミが少ないのかも気になるし、何よりあの妙なアラガミがあの辺りに根付いているかもしれないのだ。

 

 今度は逃がさねえ。

 とは言え、最初に現れた時のスピードは脅威だな。

 …ムカつくが、一人じゃ対処しきれんかもしれん。

 

 だが知ったことか。

 …誰の手も借りない。

 俺の傍に居たら、また死ぬから。

 

 

 

神無月ソーマ視点2日

 

 

 意気込んだものの、遭遇しない事にはどうしようもない。

 毎日のようにあの農園に行きたがるエリックに連れられ、あの一帯を歩き回ってみたが、それらしい痕跡すら見つからなかった。

 

 強力なアラガミが居る地域では、「食い遺し」が結構転がっているものなのだが、小型のアラガミが居る形跡くらいしか見つけられない。

 そもそも、見つけても戦わずに逃げようとする可能性もあるか。

 あの機動力だと、逃げを打たれたら追跡するのも難しいな。

 発見されずにこっちが一方的に見つけて、奇襲でカタをつける必要がある。

 

 

 農園をやっている男に、あのアラガミの事を知らないかと聞いてみた。

 しかしまともな情報は無い。

 ゴッドイーターの間での通称、「マスク・ド・オウガ」という名を聞いた時に、何故か顔を引き攣らせてエリックを見ていたが…。

 

 そういえば、あの男も怪しいと言えば怪しい。

 何度か顔を合わせて気が付いたが、明らかに一般人じゃねえな。

 体付きも鍛えこまれているし、何より命の遣り取りを日常としている人間特有の空気を持っている。

 只者じゃないな…仮に戦ったとすると、かなり梃子摺りそうだ。

 

 

 しかし、ゴッドイーターでもないようだ。

 腕輪もしてないし、当然アラガミ化の兆候も無い。

 もしも腕輪が壊れているのだとしたら、こんなところでのんびり野菜を育てていられる筈がない。

 

 所謂、裏世界とか暗部の人間か?

 フェンリル庇護下にない集落に身を寄せるだけあって、脛に傷があるのかもしれんが………どうも、アイツとはややこしい付き合いになる気がした。 

 

 

 それからエリック、油断するな、浮かれるなと何度言わせれば分かる…!

 前回や今回は俺とあのアラガミのお蔭で助かったからいいものの……。

 

 

 

 あと、キュウリの塩漬けが美味かった。

 

 

 

 

 帰ってからもエリックの語りは続く。

 相変わらずウルサイ奴だ。

 やかましいのももう慣れたと思っていたんだが、ここ暫くは前にも増してヒートアップしてやがる。

 農園についても語るが、それ以上にマスク・ド・オウガについての語りが酷い。

 

 先日、ゴッドイーターに片っ端からあの話をして……いや、アレはもう布教と表現した方が……いたところを、雨宮に首根っこを掴まれて張り倒されたからな。

 出会い頭にアイアンクローして気絶まで持って行くとは、俺でも中々できそうにないぞ。

 

 とにかく、他に語れる相手が居ないから俺に捲くし立ててるんだろう。

 俺としても蹴り飛ばしたいが、その程度では効かなくなってきているんだよな…。

 まぁ、俺としても奴の情報が入るのは好都合ではある。

 エリックが自主的に情報を集めてくるおかげで、奴の能力をある程度知る事ができた。

 

 …まぁ、「節操が無い」の一言なんだが。

 桁外れのスピードで動けるのは知っていたが、炎氷雷による遠距離攻撃、二本のブレードと盾、しかも小道具を使ってゴッドイーターの裏を掻くとか。

 どこまで事実か分からんが(何せ情報源が噂話な上、語っていたのが『あの』エリックだ)、何か妙な力でアラガミの動きを止める事ができるとか、ゴッドイーターが攻撃を当てたと思ったら擦り抜けて、実はそれは残像だったとか…。

 

 しかし、ブレード・盾と、遠距離攻撃をする時は体が変身…いや、変形するという話もあった。

 最近では、戦ったアラガミを捕食する姿すら目撃され、しかもその後は明らかにパワーアップしていたとか。

 

 …捕食の時に変形しているのかは分からないが、もしもそうだとすると……まるでゴッドイーターのようだ。

 ブレードは文字通り剣、盾、遠距離攻撃する姿を銃、そして捕食する為の姿がプレデターフォーム。

 話に聞いた新型の神機がそんな機能を持っていた筈だ。

 

 だが、新型神機の使い手は、極東ではまだ一人も出ていない。

 世界規模で見ても、数人程度しか確認されていなかったように思うが……考えすぎか?

 それとも、イカれた科学者共がまたバケモノでも作り出したか?

 俺のようなバケモノを。

 

 いや、実験で作った新型神機を、スサノオのようなアラガミが取り込んだだけなのかもしれん。

 ………どうでもいい事か。

 あのアラガミを殺す為の情報ならともかく、どうやって産まれたかなど考えても意味の無い事だ。

 

 この際なので、エリックに「どの辺りで目撃情報が多いのか探って来い」と言っておいた。

 

 

 

神無月コウタ視点日

 

 

 

 えー、藤木コウタです。

 

 のっけからもえつきたぜ・・・・・・まっしろによ・・・・・・・・。

 

 

 

 いやもう冗談抜きでキツかった。

 雨宮教官のシゴキが容赦ないのなんのって…。

 思わずゴッドイーターになった事を後悔しちゃったくらいだ。

 

 ま、後悔しても止めるって選択肢はなかったけどね。

 俺がゴッドイーターとして働いてれば、家族に優先的に食料とかが行き渡る。

 ノゾミを飢えさせる訳にはいかないし、母さんにだって育ててもらったお返しをしないと。

 

 …初出撃が終わったら、お土産持って帰ろう。

 元気な所を見せておかないとな!

 シゴキで燃え尽きた感があるから、ちょっと休みたいって思わないでもないし。

 

 

 さて、明日は初出撃な訳だけど、バガラリーのイサムみたいに、一丁格好いいトコ見せないとな!

 …なーんて思ってはみるけど、やっぱり怖いや。

 雨宮教官程にはアラガミも怖くないと思いたいけど、その雨宮教官直々にアラガミの脅威を叩き込まれたからなぁ。

 アラガミが怖いのか教官を思い出して震えてるのか、自分でも分からなくなってきた。

 

 初任務は、教官の弟の雨宮リンドウさんと一緒の出撃だ。

 極東ではトップクラスの生還率を誇る部隊らしいんで、初戦で死んでしまう事はないと思う。

 いきなりそんな任務に当てるなんて無茶はないだろうし…。

 

 それにしても…アラガミとはいえ、生き物を撃つんだよなぁ。

 訓練でダミーを撃ちはしたけど、実物は……躊躇わずにやれるかな?

 やらなきゃ死ぬんだけどさ…。

 

 

 

 あー、やめやめ!

 これ以上考えてもドツボに嵌るしかなさそうだ。

 今日はもう寝よう。

 初任務に寝不足だなんて、話にならないや。

 

 

 

 

 

 

 

 雨宮さん…いや、リンドウさんから目にクマができてるぞって笑われた。

 ま、よくある事らしいけどさ…。

 初出撃に緊張して眠れなくなかった新人って、珍しくないらしい。

 

 「そんなに緊張してたら疲れちまうぞ。姉上殿に知られたら再教育コースかもな」って勘弁してくださいよリンドウさん。

 あのシゴキは二度も三度も受けたくないですって。

 ああ、せめて同期で一緒に訓練を受ける奴でもいれば、愚痴も零せるのにさ…。

 

 

 それはともかく、最初の任務はオウガテイル1体。

 群れから逸れたのかな?

 それともボッチだろうか。

 

 生き残るのに大切な事は、相手を観察する事だ。

 アラガミの予備動作をキッチリ見極め、攻撃を避ける事…雨宮教官からの受け売りだけど。

 

 オウガテイルを俯瞰できる位置を陣取れたんで、リンドウさんの許可を得て暫く観察してみた。

 

 なんていうか……やっぱりアラガミも生き物なんだな、って思ったよ。

 その辺に落ちてる石だか草だか食べて、美味しかったんだろうか?

 心なしか尻尾がよく振られているようだった。

 犬の尻尾みたいだな。

 

 食事が終わったら、キョロキョロと周囲を見回しながらフラフラと歩き出していた。

 リンドウさんから教わったんだけど、オウガテイルの視界は意外と広いらしい。

 旧世界で居た動物達にも共通する事らしいんだけど、目が顔の左右についているのは、左右を警戒して捕食者を警戒する為だとか。

 まぁ、旧世界のウサギとかとは違って、360度全方位を視認できる訳じゃないらしいけども。

 これが、大型アラガミの代表格のヴァジュラとかになると、目が顔の前の方についていて、獲物との距離を正確に測る為のつくりになっているんだそうだ。

 

 とにかく、オウガテイルと戦う時には、「後ろから接近しているから大丈夫だろう」なんて思わないようにって事だ。

 それと、オウガテイルは上下への動きを追うのが苦手らしい。

 人間にも共通する事って言ってたけど、頭上というのは大体の生物にとっては死角なんだって。

 

 …本当に……生き物なんだなぁ。

 このまま観察したり、リンドウさんの豆知識を聞いていると、撃つのを躊躇ってしまいそうだった。

 

 

 

 初の実戦。

 正直言って、簡単だった。

 簡単だった筈なのに、無我夢中だったよ。

 

 何度引き金を引いたかも覚えてない。

 リンドウさんに止められて、ようやくオウガテイルの死体に何度も弾を撃ち込んでいた事に気が付いた。

 生き物を殺したっていうショックは、不思議と無かった。

 相手がアラガミだからだろうか。

 

 気が付かない間に終わっていた戦いだったけど、リンドウさんに「速く帰るぞ」って手を引かれて我に返った。

 それから後は、特別な事は何もなかった。

 メシ食ってシャワー浴びて、バガラリー見て。

 

 横になったら、あっという間に寝落ちした。

 

 …実戦だったのに。

 アラガミを一匹倒したのに。

 そんな事、誰も知らないかのように。

 いや、知ってたって何も変わらなかっただろう。

 ここの人達にとって、オウガテイルを一匹討伐するなんて、騒ぐ事でもないんだから。

 

 ただ、俺が初出撃だって知ってたヒバリさんが労ってくれたのが嬉しかった。

 

 

 

 

 

 それからは、暫くリンドウさんと出撃して、時々別の人と組まされた。

 何と言うか………うん、ゴッドイーターになってよかったなぁ。

 目の保養目の保養。

 

 …まぁ、1回出撃した後は、そんな事言ってられなくなるんだけどね。

 例外はサクヤさんくらいだった…あの人以外、皆クセがありすぎ…。

 

 

 

 ところで、組まされたうちの一班なんだけど、なんとも対照的な二人が居た。

 エリック先輩と、ソーマ。

 ソーマだけ呼び捨てなのは…うん、まぁあの態度だしね。

 強いし、助けられはしたんだけど。

 

 あとエリック先輩にも助けられたけど、代わりに「華麗なるエリック先輩」と呼ぶように言われてしまった。

 呼ばないけど。

 

 殆ど喋らないソーマに代わって、エリック先輩が過剰なくらいに話してくれた。

 ソーマのフォローの為なのかもしれないけど、あれはきっと素だ。

 

 それで、最近話題になってる「マスク・ド・オウガ」ってのも教えてくれた。

 と言うか語られた。

 …エリック先輩の相手をソーマから押し付けられた、と気づいたのは帰ってからだった。

 

 まぁ、興味はあるけどさ。

 

 

 帰ってからヒバリさんに聞いてみたら、マスク・ド・オウガは結構有名らしい。

 ただし、所謂デマとか怪談……いや、与太話とかとして?

 

 最近何度も目撃される、人型のアラガミ。

 その存在が正式に確認されれば接触禁忌種指定確定と言われる程の強さなのに、どういう訳かゴッドイーターに対して積極的に攻撃せず、逆に追い詰められたゴッドイーターを助けるような行動を取る。

 アラガミ同士の共食いは珍しい事じゃないが、それは外敵の排除か、或いは食べる為の行為の筈だ。

 だけどマスク・ド・オウガは自分を狙っていないアラガミに攻撃をかけるし、倒したアラガミを食べるでもなく放置する。

 

 そして、まるで幽霊のように記録を残さない。

 

 『これは秘密なんですけど』とヒバリさんが小声で教えてくれた…息が耳にかかって、ちょっとドキドキしたけど。

 

 実は、ヒバリさんもオペレート中にマスク・ド・オウガに遭遇した事があるらしい。 

 と言っても、ヒバリさんの場合はあくまで通信機越しにだ。

 

 俺がまだあった事のない、防衛班部隊のオペレーターを務めていた時、「見た事の無いアラガミが居る」って言われたんだって。

 それで慌てて確認してみたんだけど、レーダーには全く感無し。

 だけど逆に、捕捉していたアラガミの反応が次々と消え、何かが起こっている…と判断して、ゴッドイーター達が現場に急行した。

 

 そこで見たのは、蹴散らされたアラガミ達と……ほんの一瞬だけ見えた、人型。

 当然慎重に追いかけはしたものの、その先に居たのは単なるシユウだったらしい。

 

 映像に残っていないか?と記録を調べてもみたんだけど、どういう訳だか写っていそうなタイミングでノイズが走り、人型の何かが居た!って事は確認できても、詳細までは分からなかった。

 機材の故障を疑われて、メンテナンスもしたんだけど…謎が深まるばかりだった。

 確かに機材は不調だったけど、その原因が分からない。

 部品も故障していたとは思えない状態だったし、制御プログラムとかにも異常は無し。

 

 新種のアラガミ出現、と断定するには根拠が無さすぎたので、純粋にノイズの問題としてその一件は終わってしまった。

 

 

 う~ん……なんだな、アレだ。

 旧世界に似たような話があったような……アッシーだったかヨッシーだったか、ジュラ紀に居た恐竜が秘境で生き残ってるんじゃないかって話だ。

 結局、それが本当だったのかは分からず終いだったらしいけど、これもその手の話かなぁ?

 

 

 ま、いいか。

 話に聞いた事が本当だとすると、ゴッドイーターに対して害は無いっぽいし。

 話の種に覚えておくくらいでいいだろう。

 ノゾミに話してみようかな……いやでもアラガミに対して妙な親近感を持っちゃったら、厄介な事になりそうだし…。

 

 それよりも、無様な姿を見せたら雨宮教官の再教育って方が重要だ。

 もう何度か出撃したら、そろそろ一人でコンゴウを相手にするらしい。

 一人前の試験が、一人で討伐ってところが極東を表している……らしい。

 他の支部から出張で来た人が戦慄してたけど、他の支部ではもっと簡単なんだろうか?

 

 俺もソッチが良かった、と零したら、「露出度は極東がダントツだぞ」って言われた。

 ………うん、ノゾミの為にも極東で頑張ろう。

 

 



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82話

何をしても上手くいかない時ってありますね。
大から小から失敗続き。
横柄な客にやたら当たる。
冷蔵庫には、買う量を間違って詰め込みすぎの酒のツマミ。
なすの煮浸し用の出し汁が冷蔵庫の一角を圧迫していてビールも冷やせない。


時守が今正にそれ!
……今日も出勤したらお説教が2回くらいありそうです。
まぁ自分が悪いんですが。


 

 

神無月コウタ視点2日

 

 バガラリーだ。

 バガラリーだった。

 

 アラガミがバガラリーだった!

 

 

 

 いや、ちょっと待て落ち着け。

 いくら外見がバガラリーだってアラガミだ。

 あんまり浮かれて言い触らしてると、エリック先輩みたいに雨宮教官のアイアンクロー&再教育を受けるハメになってしまう。

 

 とりあえず言える事はアレだ。

 マスク・ド・オウガは実在した!って話だよ。

 

 順を追って話そう。

 

 兎にも角にも、俺は先日、ゴッドイーター一人前の試験に合格…つまりはコンゴウの単騎討伐任務に成功した。

 ミッションの成功より、雨宮教官の再教育から逃げられた事がホッとしたのは言うまでもないだろう。

 

 それで浮かれてしまった、っていうのは否定できないかもしれない。

 幸運にもサクヤさんの部隊に配属されて、ちょっといいトコ見せよう!って思ってたし。

 

 ミッションの内容だって、オウガテイルどころかザイゴートしか居ない、それこそルーキーでも簡単にクリアできるような任務だったしさ。

 

 

 でも、油断大敵って言葉の意味を、俺は理解していなかった。

 相手がどんなに弱くても、人間だってそれ以上に脆いんだ。

 

 見つけたザイゴートが一匹だけだった事もあって、俺はその場でやっつけようとした。

 実際、狙いを付けて、弾を当てるところまではちゃんと出来てたんだよ。

 

 予想外だったのは、それで仕留められなかった事。

 ザイゴートは今まで何度か戦ってたし、これまでの相手なら数発当たれば地面に落ちて動けなくなっていた。

 それだけの数を確かに当てた。

 

 …違っていたのは、アラガミの体力だ。

 今まで俺は訓練生だったから、アラガミの中でも一番弱い部類しか相手にしなかったんだ。

 担当する地域が違えば、アラガミだって変わる。

 同じ種族でも、タフさも違えば行動だって違うんだって、俺はわかっていなかった。

 

 それを理解したのは、予想もしなかった反撃…毒弾を受けた後だった。

 

 新種の苦しさだった…。

 毒ってあんなに苦しいんだな。

 体の中に、あっちゃいけないモノが入ってるんだってよく分かった。

 まだまだ動ける筈だったのに、息が上がって、眩暈がして、痛みと焦りで体が勝手に膝を付こうとする。

 

 一緒に来ていたサクヤさんは少しだけ離れた場所に居て、すぐには助けにこれない。

 たった一匹の、弱っちかったザイゴートがやたら大きく見えた。

 

 

 

 

 まぁ、後で聞いたら思ってた程ピンチじゃなかったらしいんだけど。

 毒にしたって、ゴッドイーターの体なら抜けるのに時間はかからないし、ザイゴートの力はそんなに強くない。

 基本的に獲物を仕留めてから捕食する(考えただけでもゾッとする!)から、生きている間は頭から食われる心配も少ない。

 

 サクヤさんが助けにくる時間は、充分すぎる程あったって事だ。

 サクヤさん曰く、ルーキーが入隊した場合、このくらいの難易度の任務を受けると大抵こうなるらしい。

 通過儀礼と言うか、サクヤさんも意外と確信犯と言うか…。

 

 俺が舞い上がってたのもお見通しだった訳だ。

 結構Sかも…。

 

 とにかく、実際はどうだったかはともかく、俺がノゾミの名前を呼びながら、必死こいて立ち上がろうとしていた時だった。

 

 アラガミが目の前で真っ二つになった。

 サクヤさん?と思ったけど、あの人はガンナーだ。

 打ち抜く事はできても、切り裂く事はできない。

 

 その時の俺にはそんな冷静な判断はできなくて、「助かった…」と思いながら顔を上げたんだ。

 

 でも、そこに居たのは……オウガテイルだった。

 死んだ、と思ったね。

 毒はないけど、オウガテイルはザイゴートよりもずっと凶悪だ。

 爪、牙、尾から出る針…。

 

 助かったと思った矢先にまた絶望の淵に叩き込まれたよ。

 

 

 

 …オウガテイルが、二本足で立ち上がるまでは。

 いや、普通のオウガテイルだって二本足なんだけどさ。

 

 オウガテイルの顔が、何とか立ち上がれた俺の顔よりもまだ上にあるって事に気が付いた。

 二本の足が妙に長くて、そこから胴体が伸びてて、更に両手(これはオウガテイルには無いな)がある事にも気が付いた。

 

 

 人間?

 と思った。

 でも人間の両腕にはブレードなんか……まぁ、これは装備次第って事で。

 妙に生物的な装甲も…これも装備次第でいい。

 オウガテイルの顔。

 ……まぁ、やっぱり装備でいいだろう。

 

 

 

 …今思い返すと、全部装備で説明がつくと言えば付く、かな?

 全身鎧と考えれば……いや、それでもなぁ…。

 

 ともあれ、俺が混乱している間に、そいつ…マスク・ド・オウガは背中を向けた。

 夕日が逆光になっていて、妙にサマになっている。

 背中についていたモフモフとした毛が、マフラーみたいに翻った。

 バガラリーのイサムの退場シーンみたいだ、とボンヤリと思った。

 

 そして一瞬身を屈めると、ドンッ!と音がして消えていた。

 大ジャンプしてどこかに行ったんだと気付いたのは、サクヤさんが駆けつけてくれた後だ。

 

 

 

 

 ミッションが終わってからサクヤさんに超・お説教を受けて、部屋に戻ってようやく冷静になってきた。

 マスク・ド・オウガ、実在したんだなぁ…。

 しかも格好良かったし、メッチャ強いし。

 退場シーンも…よく思い出してみると登場シーンも、まるでバガラリーの1シーンのようだった。

 思い返してバガラリーを見てみたけど、やっぱり動きがソックリだ。

 

 

 ん?

 じゃあマスク・ド・オウガはバガラリーファンなの?

 やっぱりアラガミじゃないの?

 

 姿だけでももう一度確認できないかと思って、ヒバリさんに記録を見せてもらったんだけど、噂に聞いたのと同様に、レーダーにも反応無し、カメラの類では観測できない位置に居た。

 ……ここまで来ると、どう考えてもカメラを避けて行動してるよな…。

 アラガミにそんな知性があるんだろうか?

 やっぱり人間なのか?

 でもゴッドイーターじゃないみたいだし…。

 

 謎は深まるばかり。

 

 

 深まるばかりだけど、とりあえずカッコイイよな!

 ファンになってしまいそうだ。

 いやいや、俺はバガラリー一筋だから!

 

 

 

 でもエリック先輩、グッズ販売とか始めたら教えてください。

 

 

 

 

 そういえば、エリック先輩が「いい所に連れて行ってあげよう!」とか言ってたんだけど…何処だろう?

 ソーマが「お前、またあそこに連れて行く気か」って呆れてたけど、止めるどころか自分も一緒に行こうとしている節があった。

 あの、アラガミと戦う事しか考えてないようなソーマが、エリック先輩が「いい所」と表現する場所についてくる…しかも自分の意思で。

 

 想像がつかない。

 

 エリック先輩の常識というか感性は、俺みたいな一般ゴッドイーターと比べると浮き沈みが激しいんだよな。

 

 華麗華麗と残念な人に見えるけど、考え方や新人に対する接し方はマトモだし、一人で暴走するような事はせずに連携を取るし。

 腕がいいように見えて油断が多くて、常識人のようで度が過ぎかねないシスコン(妹の写真を何度自慢された事か!)で、視野が広いというか「この世界を救うにはどうすればいいか」みたいな事を考えているのに、ごく一般的な事を知らなかったり勘違いして突っ走ったり。

 

 この非常に評価しづらい先輩が「いい所」って言ってるんだから、多分マジで「スゲェ!」って所か、「いや…これ一般人の間では常識なんですけど」って所か、「…死ぬ」のどれかじゃないかな。

 

 

 

 

 

 

神無月ヒバリ視点日

 

 

 今日もオペレーション頑張ります!

 竹田ヒバリです。

 

 最近、巷でウワサのマスク・ド・オウガ。

 最初は私も信じていなかったんですけど、最近はそうも言っていられなくなりました。

 

 最初に私がマスク・ド・オウガに会った…と言っても、直接顔を合わせた訳じゃないんですが…のは、多分半月から一ヶ月前くらいのミッションだったと思います。

 いつも通りにゴッドイーターの皆さんのオペレートをしていたのですが、とあるミッションで1度、予定外のアラガミが接近してきた事がありました。

 その時に戦っていたタツミさん達は、ミッションの相手で手一杯。

 すぐにやっつけて、予定外のアラガミに対処しよう…という事になったのですが、タツミさん達がミッションターゲットをやっつける頃には、予定外のアラガミの反応は影も形もなくなっていました。

 

 近付くだけ近付いて、立ち去ってしまったんでしょうか?

 念のため、タツミさん達に哨戒をお願いしました。

 一部から面倒だ、お金にならないってブーイングが飛んできましたが、これもお仕事です。

 

 それで、アラガミが居たと思われる場所を見に行ってもらったんですが、大型のアラガミが居た形跡はありました。

 …というより、溶けて消える寸前の遺体がありました。

 タツミさん達は、とりあえず捕食して素材の臨時収入にしていましたが、私としては腑に落ちません。

 

 アラガミの反応は、1体だけでした。

 大型アラガミが倒れるにしても、何の前触れもなく死ぬ訳がありません。

 アラガミを倒した『何か』が、近くに居る筈です。

 

 私のオペレートのミスも考え、機材のログを検閲してみたのですが、やはり予定外のアラガミが接近し、そして突然活動を停止しています。

 勿論、ゴッドイーターがその近くに居たという反応もありませんでした。

 

 突然の、アラガミの不可解な死…。

 気にはなりましたが、それ以上調べる事もできず、疑問は日々の仕事に押し潰されていきました。

 

 

 暫くして、別のオペレーターの方との雑談中に、同じような事があった事を聞かされました。

 同時に、誰かが目撃した謎のアラガミ……当時はまだ名前はついていませんでしたが、マスク・ド・オウガの事も。

 

 私がこの話を聞いた時、まず考えた事は真偽の程ではなく、その危険性でした。

 

 突然、アラガミが活動停止するだけならいいのです。

 分断作戦などがある場合、作戦に狂いが出る事になりますが、敵の数が減るのはいい事です。

 

 ですが、その活動停止が間違いだったら?

 突然アラガミが活動停止したので、そちらを無警戒になり…実はまだ活動していたら?

 機材のバグやオペレートの確認ミスで、背後から襲ってきたら?

 

 …結果は言うまでもないでしょう。

 例え都合の良い結果だけ出されていようと、不確定要素を持ち込むのは好ましくありません。

 

 

 

 また、もしも謎のアラガミが実在し、活動停止したアラガミ達と交戦していたのだとしたら、これも非常に危険です。

 何故なら、謎のアラガミはレーダーに全く映らないからです。

 いつ何処に居ても発見できず、そして今のところアラガミ同士の戦闘音すら確認できていません。

 戦闘音が分からないのは、戦っているゴッドイーターの方々に意識が集中しているからだとしても、隠密性、戦闘能力が非常に高い事は予想に難くないでしょう。

 もしもその矛先が、アラガミではなくゴッドイーターに向いたら?

 

 考えるだけで恐ろしいです。

 

 

 懸案事項を纏め、上に報告するべきです。

 とは言え、現状では明確な根拠はありません。

 オペレーター仲間に協力してもらい、アラガミの突然の活動停止のログを集めましたが、まだ弱いです。

 

 …シックザール支部長に直接報告するのでしたら、もう少し調査を進めてからにしないと。

 そもそも、当時の支部長は出張中でしたが。

 確か、新型神機使いをロシアから極東に呼び寄せる為でしたか…暫く帰って来れそうになかったです。

 

 サカキ博士なら、相談に乗ってくれるでしょうか?

 何を考えているのかよく分からない方ですけど、支部長に比べると私達オペレーターと話す機会も多い人ですし。

 

 

 そんな事を考えていた頃だったでしょうか。

 謎のアラガミの目撃情報が増えてきたのは…というより、本格的にウワサになってきたのは。

 

 ですが、目撃したというゴッドイーターの証言を元にログを探してみても、やはり残っている痕跡は突然の活動停止のみ。

 映像記録に至っては、突然ノイズが発生したり、それ以前にカメラの死角を狙って動いているとしか思えない程に記録に残りません。

 偶然で片付けられる話ではありません。

 

 恐ろしい話ですね。

 ノイズ…に関しては、例えばジャミングを強化したものと思えばまだ分かります。

 ですが、カメラの死角を通る?

 つまりこのアラガミは、カメラがどういった装置なのか理解し、まだその動きすら理解している事になります。

 もうこの時点で、本当にアラガミか疑わしいです。

 

 正直な話、今のところゴッドイーターに害は出ていませんが、味方と思って楽観するには不確定要素が過ぎます。

 なのに、聞こえてくる噂話…マスク・ド・オウガと名付けられたのも、この頃からですね…は、謎のアラガミが人間の味方であるかのような話ばかり。

 

 …やはり調査の必要があるでしょう。

 支部長に報告できる程に報告書は纏まっていませんが、一足速くサカキ博士に相談します。

 

 

 

 

神無月ヒバリ視点2日

 

 

 サカキ博士は、マスク・ド・オウガの噂をご存知でした。

 研究室に篭りっぱなしに見えますが、意外と世情に詳しい方です。

 

 調査も既に始めているそうですが、やはり謎のアラガミ…いえ、幻のアラガミとでも評するべきでしょうか。

 直接遭遇したゴッドイーターの証言以上には、情報が集まらなかったようです。

 

 そこで、サカキ博士は考えました。

 出てこないのなら、こちらからおびき出せばいいじゃないか、と。

 

 そしてその方法を、ゴッドイーター達からアイデア募集するそうです。

 

 

 …この辺り、ちょっと違和感があるんですよね。

 サカキ博士が突拍子も無い事を言い出すのは珍しくもなんともないんですけど、それには理由がありました。

 「そんな無茶苦茶な!」と言いたくなるような作戦や指示でも、ちゃんと説明されれば明確に筋が通っていたのです。

 ………常人の神経じゃ、思いつくことすらできないような発想であっても。

 

 そんなサカキ博士が、アイデアを募集する、と言い出しているのが分からないんですよね。

 この人の頭の良さなら、大抵の人が考え出すアイデアはすぐに捻り出せる筈です。

 なのに景品まで用意して、ゴッドイーターだけではなく、極東支部全体に知らせるように、見せ付けるように動いて…。

 

 しかも、これってマスク・ド・オウガが存在しているって、公式に認めているようなものですよね?

 マスク・ド・オウガが本当に人間の味方なのかは未知数です。

 ですが、極東支部ではそういう認識が広まりつつあります。

 

 もしもこのイメージのまま定着してしまったら……もしもマスク・ド・オウガが人間に牙をむいた時、どうなってしまうのでしょうか。

 サカキ博士の狙いは一体…?

 

 

 

 とりあえず、応募されてきたマスク・ド・オウガおびき出し作戦のアイデア整理をしなければなりません。

 残業確定です…。

 

 

 

 

神無月ヒバリ視点3日

 

 

 目にクマが出来てないでしょうか?

 ちょっとお化粧を厚めにしました…うう、お化粧品の値段もバカにならないのに…。

 

 …しかも、サカキ博士…ちょっとヒドすぎです。

 ほぼ徹夜作業になっちゃったのに、実はアイデア募集はついでで、極東の皆さんにマスク・ド・オウガの存在を広めるのが目的だったなんて…。

 

 そのお詫びだったのか、サカキ博士は「何故そんな事を?」という疑問に答えてくれました。

 ちょっと知っちゃったらマズい事だったような気がしますけど…。

 

 

 何でも、知性を持つアラガミの存在は、以前かその存在を確信されていたそうです。

 「特異点」と言われる特殊なアラガミで、現在行われている極秘計画において、非常に重要な意味を持つとか…。

 サカキ博士はマスク・ド・オウガがその特異点なのではないかと考えているようです……ちょっと言葉を濁したので、気になる事でもあるのかもしれませんが。

 

 今までは極秘に特異点となるアラガミを探していたのですが、最近になってマスク・ド・オウガの存在が徐々に広まってきてしまいました。

 こうなった以上、隠し通すのは不可能。

 ならいっそ大々的に宣伝し、万が一にもそのアラガミを殺してしまわないように注意させる…と。

 アイデア募集は思いもよらないアイデアや情報が飛び込んでくるのを期待した方法でしたが、本命はマスク・ド・オウガの宣伝って事ですね。

 

 うーん、筋が通っているようには見えますが……まだ何か隠しているっぽいですね。

 そもそも極秘計画というのが分かりません。

 シックザール支部長が提唱している、イージス計画の事でしょうか?

 ですが、概要を聞いた限りでは、特異点とやらが何処に必要になるのか…。

 

 それに、博士の口ぶりからすると、イージス計画以外にも…恐らくサカキ博士個人としても…何かしら、別の計画が動いているような印象を受けました。

 

 

 まぁ、迂闊に踏み込むと身の危険を感じますので、この辺までにしておきますが。

 

 

 

 ともあれ、ちょっと疲れましたね、精神的に…。

 どこかに出かけて気分転換したいです。

 

 …そういえば、先日タツミさんに誘われた、最近極東(対アラガミ防壁外)で一番ホットな場所…という触れ込みの場所がありましたね。

 最近エリックさんが、マスク・ド・オウガの事と同じくらいに宣伝したり、人を連れて行ったりしているそうで、結構な話題になっています。

 

 今度の休暇中に、私も行ってみてもいいかもしれませんね。

 

 

 

 

 

神無月主人公視点日

 

 最近おかしい。

 と言うか訳が分からない。

 

 ウチの農園が、どう考えても観光地扱いになりつつある。

 エリックさんが毎度毎度やってくるのはいい。

 少し話したが、ウチで扱ってるMH世界の資材に非常に期待しているってんだから、頻繁に様子を見に来るのも分かる。

 

 が、事ある毎に人を連れてきてどーすんだ。

 ソーマを連れてきているのはまだ分かる、チームだからな。

 しかしコウタを皮切りに、、百田ゲンさんやら、ちゃんみお…じゃなかったちゃん様やら、リッカさんやら、前ループで関わった人関わってない人、節操無しにゾロゾロ紹介してくるなよ。

 先日に至っては、リンドウさんとサクヤさんが一緒に乗り込んでくる始末。

 あれ絶対デートだろ。

 しかもエリックさんに紹介されたとか。

 

 一体何がしたいんだ?

 自慢か?

 自慢なのか?

 華麗なる自慢なのか、自慢してるのはエリック先輩のものじゃなくて俺の農園だけど。

 

 

 しかもおかしいのはそれだけじゃない。

 何で俺がマスク・ド・オウガなんだよ。

 あまつさえ、その名前を俺に教えてくれたのが、ゲームでのマスク・ド・オウガの正体と囁かれるエリック先輩とか、もうワケが分からないよ。

 

 そりゃ、確かにオウガテイル装備ではあるよ。

 仮面ライダーアラガミに体を慣らす為、何度も変身してはウロウロしたり野良アラガミを狩ったりしてたよ。

 ゴッドイーターがピンチになりそうな場面を見つけたら、遠くから狙撃したり、乱入しようとするアラガミを事前に狩ったりしてたよ。

 

 ついでに言うと、何かとポーズを決めたような姿勢になってしまうのは、速すぎる機動力を強引に相殺した結果、そういう体制になっただけだ。

 

 俺の存在を探知されると面倒なんで、ミタマスキル「隠」の隠形とか、MH世界のスキル「気配」とか色々重ねて発動させていた。

 レーダーを掻い潜れるかどうかだけが疑問だったが、どういう理屈か知らんが効果はあるっぽい。

 霊力が電磁波とかを吸収したりしてるんだろうか?

 

 カメラに写るのは一層ヤバそうだった。

 姿形が明らかに残ってしまう。

 幸い、カメラがついているのは車等の専門の機材を乗せるようなモノだけだ。

 カメラの角度を見て動けば、短時間なら写角を避けきれる。 

 どうしても難しい時は、霊力をぶつけてジャミング代わりにした。

 

 

 

 尤も、そのお蔭でむしろヤバい事になりかけているみたいだが。

 レーダーの類にも反応せず、ゴッドイーターを翻弄する上に、カメラがどういう物なのかを理解している節がある知恵のあるアラガミ。

 普通に考えれば眉唾モノだと思うが、よりにもよってサカキ博士が「知恵のあるアラガミをおびき出す為のアイデアを募集する」なんて声明を出しやがって、その存在を公に認めたも同然の状態になっているとか。

 

 何考えてんだあの細目マッド。

 

 

 

 と言うか、コレってアレじゃね?

 俺を特異点として勘違いしてんじゃね?

 

 

 

 何と言う迂闊ッ…!

 

 いや、しかしそれならそれで大々的に話を広める意味が分からん。

 特異点を探しているのは、支部長はアーク計画の為、サカキ博士はその対抗策として、人間のアラガミの融和の切欠になるかもしれないとして…の筈だ。

 どっちもそうそう受け入れられるような計画じゃなかろう。

 だから極秘に、リンドウさんやソーマに特務として命じて、特異点…つまりシオを探させていたと思うんだが。

 

 

 ともあれ、危険は危険だがこれは逆に好都合…と考えられなくもない、気がする。

 仮面ライダーアラガミこと、マスク・ド・オウガに注目が集まれば、本当の特異点であるシオの捜索の手は緩む筈。

 

 …あ、でもシオが何処に居るのか分からんな…。

 ゴッドイーターの誰かがバッタリ会って確保してしまう可能性があるのには変わりない。

 何より、シオを見つける事ができずにそのまま放置していれば、遠からず特異点として覚醒して終末捕食一直線。

 前回ループ同様、アーク計画すら発動でずに地球をパックンチョしてしまうだろう。

 

 

 やっぱりシオを探さなきゃいかんな。

 最近、農園経営と変身状態での狩りばっかりで、ロハス的な活動しかしてなかったもんなぁ。

 しかもやってきた観光客(?)達に取れたて野菜を食わせてみたり、ついこの間なんか今まで上げた利益でニワトリまで買ってきてしまった。

 ヒヨコも産まれて順調に育っております。

 無精卵、味的にも利益的にもテラウマス。

 

 ……サルモネラ菌?

 ハンターには通じん!

 ハンターには。

 あと多分ゴッドイーターもギリギリセーフかと。

 

 ただ、ゴッドイーターであってもハンター以外には卵かけご飯が不評なんだよなぁ……外国じゃ生卵はゲテモノ扱いって聞いた事あったが…。

 

 

 

神無月主人公視点2日

 

 例によって来ていたエリックさんから相談されたので、マスク・ド・オウガおびき出し作戦のアイデアを出してみる。

 と言っても、そんな大したモノじゃない。

 好物をエサにしておびき出そうと言う、ゲームで言うリンドウさん誘き寄せ作戦だ。

 

 …捕縛対象である俺が真面目に考えるワケないじゃないか。

 まぁ、どんな素晴らしいアイデア出したとしても、俺が発案元って時点で失敗するのは分かりきってるが。

 

 とりあえず、お土産に卵を渡してお帰り願った。

 囮に使うか、自分で食べるかは好きにしてくれ。

 

 

 ちなみに今日のエリック先輩は、カノンを連れてきていた。

 とりあえずお近づきの印として、MH世界産の砂糖を渡しておく。

 超感激された。

 

 ………前みたいに、誤射が酷いようだったら砂糖を使って対策しておくか…放っておいても俺には被害出ないと思うけど。

 

 

 ところで、先日やってきたコウタが、一人前の試験…コンゴウ討伐の事だろう…を通過できたと喜んでいた。

 という事は、時期的にそろそろアリサの来日ではないだろうか?

 一応主人公的ポジションらしい俺がアナグラに居ないんで、どうなるかは分からん。

 と言うか、こんなに長期間狩りをしない生活は初めて…いや、ループが始まってからは初めてだ。

 どうにも生活リズムが狂うし、時間の流れが速いような遅いような。

 

 

 

 ……このまま気楽なロハス生活もいいが、やっぱあの汚ッサンは放っておけん。

 アリサを好きに弄んでいいのは俺だけだ…というのは冗談と思っておくとして、気に入らないし、生かしておけば何をやらかすか分からない。

 さっさと暗殺したいところだ。

 

 しかし、流石にアナグラの中に入られると厄介だ。

 基本的に医務室に居るだろうからまず出てこないだろうし、今の俺はフェンリルにとっては完全に部外者。

 入り込む事もできないし、ターミナルを通じて情報…アリサと汚ッサンの来日予定を調べる事もできん。

 情報閲覧の為のコードがあっても、端末に触れられなきゃ意味ねーよ。 

 

 やっぱり、アナグラに入る前に暗殺が理想の流れだな。

 それが無理なら……アリサにカウンターの暗示を仕込むか?

 イヤガラセ的に考えても、結構な効果があると思うが。

 オトコの機能を失った代償として求めた暗示が、誰かの手によって無効化される…心の拠り所をヘシ折れるかもしれん。

 

 問題は、それを行うだけの機会と、邪魔が入らない環境が無いって事だ。

 アリサが自発的にここに来るとは思えん。

 極東に来たばかりで色々拗らせているアリサを、エリックさんが連れてこれるかどうか…。

 仮に連れてこられたとしても、瞬間的にかけられる暗示の術は持ち合わせてない。

 エロい行為からの刷り込みは得意だが、それ以外は暗示と言うよりは思考の誘導だ。

 長期間の効果は期待できないし、何よりアナグラに戻ってしまえば汚ッサンの再洗脳が待っている。

 

 さて、どうしたものか…。

 アリサを意図的にMIAさせてこっちで保護(と言うか監禁)する事も考えたが、アラガミ化を抑える方法が無い。

 俺自身は何か知らんウチに制御できるようになってたが、シオがリンドウさんにしたような、擬似コア?だかナンだかを与えられるような能力はない。

 

 エロい事すりゃ移せる?

 前回ループで試したけど無理だったよ。

 

 言うまでもねーが、試したのはリンドウさん相手じゃないからな。

 

 

 

 




書き溜めがそこそこ溜まっているので、久々に外伝書いてみようかなと思います。
お題は昔、そこそこやりこんだゲームです。
ニコ動で実況プレイがあるの見つけて久々にやりたくなりましたが…ハードが実家にしかありません。
でも皆知ってるかな…。
ゴッドハンド並みの隠れた神ゲーだと思うんですが。

外伝の執筆具合で、次話投稿が早くなったり遅れたりするかもしれません。


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第83話+外伝13

突発的に徹夜仕事の可能性が出てきたので、息抜きの為に投稿です。
業者さんの作業終了を待ってる時、感想読むのっていい気分転換になるのよね(チラッ

ま、事前にわかって出勤が遅くなったのが救いです。
何時ぞやなんて、17時に出勤して、業者さんの作業が長引いてそのまま朝8時コースだったし…。

ところで前回、外伝の執筆具合で投稿が早くなったり遅くなったりするかも?と書いたな。
アレはウソだ。
投稿してから2時間くらいで書きあがってしまった…。


神無月リンドウ視点

 

 

 どーも、雨宮リンドウだ。

 ちょっとばかり腕利きな程度で、何処にでも居るゴッドイーターさ。

 強いて他人と違う点を上げるなら、男っけが全く見られない姉上殿より先に結婚しちまっていーのかなーと悩んでる点かね。

 ま、もう暫く気楽な生活したいんだがね。

 

 最近はまぁ、ゴッドイーターの仕事も段々しんどくなってきててなぁ…。

 支部長の事を嗅ぎまわってるのが悪いんだろうか。

 特務もこの頃じゃ、殺意を隠さないレベルになりつつある。

 まぁ、それを何食わぬ顔でこなして戻ってきて、支部長に内心「どやぁ…」って顔してやるのが最近のムーブだ。

 支部長が全然反応を見せないのがつまらないけどな。

 

 真面目な話、サクヤにも心配かけてっからなぁ…。

 引き際を見誤らないようにしないといかん。

 ドジって死んじまったら何にもならないし何もできないし、後を追っかけて首を突っ込みそうな奴まで居る。

 色々な意味で死ねねぇよ。

 

 

 さて、そんなこんなして支部長と水面下で腹ダンスしてるウチに、ロシアから新型使いから呼び寄せられた。

 適合率も高く、能力だって高いエリートだって話なんだが…大丈夫かね?

 

 支部長の息がかかってるんじゃないかって疑いを差し引いても、資料を見る限りじゃこのお嬢ちゃんはルーキーの域を出ていない。

 しかも、訓練開始当初から優秀な成績を収め続けた……言い換えれば、挫折を知らないタイプのルーキーだ。

 

 こう言っちゃなんだが、極東のアラガミは他の地域のアラガミとは明らかに違う。

 とにかく強いは群れてるは、相性が悪い筈のアラガミ同士でつるんで行動しているなんて日常茶飯事だ。

 コンゴウ堕天種と一緒にグボロ・グボロ堕天…ああ、赤い方な…が一緒にいたって珍しくもなんとも無い。

 氷のコンゴウと炎のグボロ・グボロとか、どう考えても一緒に居づらいのになぁ。

 

 まぁ、アラガミが何を考えてるかなんて、それこそ考えるだけ無駄な事だ。

 とにかく、極東のアラガミは行動から個体性能まで、アホみたいに高い。

 

 だから、他の地域でエースと呼ばれる奴が極東に派遣されてきて、そのままの感覚で戦って痛い目を見る、或いは見る事すらできなくなるなんて、それこそ日常茶飯事だ。

 俺の目の前で、目の届かないところで、何度も防いで、それ以上に同じ事が起きている。

 

 …あくまで資料から判断したら、だが…どう考えても負けん気絶頂と言うか生意気盛りというか、顔付きからしてツンケンしてるよなぁ…。

 こりゃ上からの物言いも、対等の目からの話も通じそうにない。

 好きにやらせておいて、上手くやったつもりの所を釈迦の掌の上だった、と思わせるのが一番いいな。

 「お前の行動なんぞお見通しだ」と思わせるのがコツだ。

 プライドが高くても真面目そうではあるし、上手いこと転がしてやれば、その内自分の力量にも気付くくらいの聡明さはありそうだ。

 

 まぁ、要するに暴れさせるだけ暴れさせて、疲れたところを仕留めるようなもんだ。

 暴れさせて被害はないのかって?

 

 無いな。

 何でも受け流してウヤムヤにするには定評があるんだよ。

 どんなに辛い事でも、どんなにヤバい場面でもな。

 

 

 

 

 まーそれはともかく、だ。

 折角の休みだってのに、小難しい事ばっかり考えてちゃ気が休まらん。

 ここは一つ、秘蔵の酒でも飲んでみるとしますかね。

 

 このサクヤと一緒に行ってみた、最近話題の農園で貰ったもんだ。

 この酒がまた安物なんだろうが、ビールとは違った味わいがある。

 ホピ酒って名前らしいんだが、このアルコールが強いのなんのって。

 決して美味いワケじゃないんだが、ビールばっかりってのも飽きるっちゃ飽きるからな。

 

 高級な酒としちゃ、黄金芋酒とか達人ビールなんてのもあると言ってたが、どんなシロモノなのかね?

 残念ながら、あそこの農園では作られてないそうだ(だったら何処で作ってるんだって話だが)。

 

 ま、無駄に高級な酒なんぞ飲んでも、安物に慣れた俺の舌じゃ大した味なんぞ分からんだろ。

 身の程にあった酒が一番って事さ。

 

 その分ツマミに力を入れるとするかね。

 

 

 

神無月リンドウ視点2日

 

 

 ロシアの新型使い事アリサは、まぁ予想した程度にはお転婆さんだった。

 つまるところ、想定の範囲内って事だな。

 実力もそこそこあるし、負けん気も強いが、緩急がついてないねぇ。

 勢い増せ若さ任せってトコだ。

 ちょいと矛先を逸らしてやれば、あっという間に失速する。

 

 害にならないタイミングで失速させてやらなきゃならんがな。

 

 ま、この分なら、アリサ自身が支部長の部下って事は無いだろう。

 立場的な意味じゃなくて、派閥的な意味でな。

 

 となると、胡散臭いのは主治医だっていうオオグルマとかいうオッサンか?

 一見すると、まぁちょいと太めの普通のオッサンだ。

 あれが医者の格好か?という疑問はあるが、衣装について考えるとキリがないからな。

 サクヤや姉上殿も含めて。

 

 そもそも、主治医ってナンだ。

 そりゃゴッドイーターにも医者は必要だ。

 極東にだって何人か居る。

 

 だが特定個人に対する医者は居ない。

 …新型使いのデータ取りも兼ねて、と言われれば納得もできる。

 実際、最初のゴッドイーターが誕生した頃は、当然のように先任の医者だって居たそうだ。

 

 が、それはたった一人じゃない。

 何人もの優秀な医師(或いは研究者)が、最初のゴッドイーターを…或いはモルモットを…あらゆる角度から診察し、サポートしていたそうだ。

 今となっては、それが基になったのか、ゴッドイーターの診察のノウハウも確率されているので、主治医が一人だけ居ても不思議ではない。

 

 ただ、あの支部長がわざわざロシアから呼び出したんだ。

 あの二人の内、どっちかは支部長と繋がりがある筈。

 アリサが無さそうだったら、消去法でオオグルマのオッサンになるんだが………さて、どんな奴なのやら。

 

 

 

 

 

 

 …うーん……一度直接会ってきたんだが……胡散臭いとか、目の光がどうのとか言う以前にな…。

 

 

 

 

 俺はこれでもそこそこ腕は立つ。

 

 修羅場もいくつかぬけてきた。

 

 そういう者だけに働く勘がある。

 

 その勘が言ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 こいつ もうすぐ 死ぬ

 

 

 

 て言うか、かつてないレベルで死相が見えている。

 頭の上にデスノボリがダース単位で見えそうなくらいに。

 手相とか占いとか全然分からないし信じてもいないが、「あ、こいつヤバイ」って思って、それが的中した事は何度もある。

 ヤバイのを凌げたか、手遅れだったかは別として、俺はこのカンを信頼している。

 

 だからって、物理的に目に見えそうなくらいに死相が出る事ないだろうに。

 ありゃ無理だ。

 昔、アラガミが近所に居なかった頃に世話になってた兄ちゃん…通称寺生まれのGさんでも無理だ。

 大喝一つでポルターガイストを鎮めた所を見た事があるが、多分それでも無理だ。

 ちなみにそのGさんは、今では最初のゴッドイーターとか呼ばれてる百田ゲンさんな訳だが。

 

 

 なんだコレ。

 俺が変な特殊能力にでも目覚めたのか?

 それともあのオッサンが、マジモノの死神にでも目をつけられてるんだろうか。

 

 

 むぅ……あの世界から呪われて拒絶されてるんじゃないかと疑うくらいの死臭はともかくとして、どうする?

 助けるべきか?

 

 俺としちゃ、人死にが起きるとわかって放置するなんて冗談じゃない。

 相手が支部長の部下であってもだ。

 こんなワケの分からない、救いの無い世界なんだ。

 敵かもしれないってだけで死んでもいいなんて考えてちゃ、残ってる希望だって摘み取ってしまうだろう。

 

 …暫く張り付いたほうがいいかもしれん。

 ここの所、性急に支部長を探りすぎてたのも確かだ。

 少しばかり大人しくして、クールダウン期間を置くのもいいかもしれない。

 

 あのオッサンが支部長と繋がってるってんなら、近くに居れば監視にもなるし、支部長との連携を邪魔する事もできるだろう。

 その時に何かが起こって、助けられればそれでよし。

 

 

 

 …助けられるかな…正直、俺程度じゃどうにもならん、それこそブッダにでも頼まなきゃどうにもならんレベルの死相のような気がする。

 一体何やったらあんなに呪われるんだ。

 前世で行いが悪かったのか?

 

 

 今回助けたって、ロクな死に方しない気がするぞ…。

 荒野に放り出したら、アラガミホイホイ扱いされるレベルで寄ってきそうな気がする。

 

 

 

 …そういやアラガミホイホイと言えば、あの農園の男が妙な事言ってたな。

 「え、ゴッドイーターの任務って、体力の続く限り連戦したり、道中に見つけた奴もついでに狩ったり、アラガミホイホイして乱入前提で戦うんじゃないのか?」っと。

 

 確かにそういう事もあるが、それは滅多にない、例えば緊急事態…群れのアラガミが押し寄せてきて、背後に通せば被害が出るような防衛戦でもなければ、まず無いぞ。

 日頃からそんな戦いばかりだったら、いくら極東のゴッドイーターでも保たない。

 そんな修羅道まっしぐらな奴居ないって。

 

 

 そういったら、農園の主は何故か頭から地面に突き刺さっていた。

 動きが見えずに、コマ落ちしたみたいに上下180度回転してたが、どうなってたんだろうか?

 

 その後、「極東のゴッドイーターってこんな奴なんだろ!?」って物凄い勢いでまくし立ててきたが、全部的外れだと言い切った。

 大体だな、アイツが言ってるように連戦する事自体がそうそう無いんだ。

 ゴッドイーターのノルマの問題もあるし、何よりも担当時間と担当区域が決められている。 

 無理に出撃してそれを乱せば、どれだけ周囲に影響が出るか。

 ゴッドイーター達の作戦だって不安要素が出るし、神機のメンテナンスだって予定以上に必要になる。

 

 

 

 

 今度は近くにあった棒に捕まって90度の角度を保ち、横にグルグル回り始めた。

 新体操の大車輪って奴だが、横にやるとは器用だな…しかも回転速度が滅茶苦茶速い。

 

 

 

 

 

 過剰に出撃する事も可能ではあるが…まぁ、確かに日に何度も出撃してれば、アイツが言ってたみたいな事にもなるかな。

 

 出撃回数が増えれば、予定外のアラガミが寄ってくる可能性だって高まる。

 あっちで暴れ、こっちで狩ってとやってれば、近場のアラガミだって殺気立って迎撃に来るし。

 全然違う条件のミッションを連続して受けていれば、オペレーターだって追いつけなくなるから、どれがターゲットのアラガミなのか分からなくなる事だってあった。

 そうなれば、目に付く相手を片っ端から葬るしかない。

 

 オペレーターの数と能力だって限られてるんだ。

 過剰に出撃し、他のチームの担当を奪い取れば、オペレーターは即興でそれに対応しなければならない。

 無理に出撃したって、あんまりいい事は無いもんだ。

 

 

 サクヤに言わせると、「必要以上に働きたくないだけでしょ」だけどな…それの何が悪い!

 人間可能な限り怠けたいもんだ!

 

 ………そう言ったら、農園の主は何か叫びながら何処かに走っていってしまった。

 カメンライダーがどうの、八つ当たりがどうの、今なら誰にも迷惑かけないとか聞こえたが……なんだったんだろうな。

 まぁ、帰ってきたら失礼な事を言った侘びとか言われて、あのホピ酒をもらえたから、別にいいんだが。

 

 

 

 

神無月サクヤ視点日

 

 

 橘サクヤよ。

 極東地域でゴッドイーターの衛生兵をやってるわ。

 最近はアラガミの活動が活発的になってきていて、衛生兵も大変なのよ。

 

 ホント、最近はおかしな事ばかりで、気が滅入ってくるわ。

 リンドウは何か危ない事に足を突っ込んでいるみたいだし、ゴッドイーター全体にも妙な噂が広がっている。

 極めつけにおかしかったのは、以前リンドウとデートに行った農園の人の奇行だったけど、アレは被害が出ないから別にいいわ。

 

 真面目な話、ゴッドイーターに広まっている噂…謎のアラガミ、マスク・ド・オウガ。

 これはゴッドイーター達の厭戦気分が元になって作り上げられた話ではないかと思っている。

 単なる見間違いにしては目撃情報が多いから、実在自体はしているんでしょう。

 でも、例え本当に別のアラガミから助けてくれるようなアラガミだったとしても、それで人間の味方だと思うのは早計もいいところ。

 

 アラガミは同士討ち、共食いする事だってあるし、何よりもその行動は予想ができない。

 一見生物が持つ本能に忠実に動いているように見えて、その行動原理は未だに解明されてない。

 人間に味方するような行動をとっていても、それは単なる偶然であったり、気紛れによるものであったりする。

 そんな事は、極東のゴッドイーターなら熟知している筈なのにね。

 

 ずっと激しい戦いが続いて、夢見たいな話にでも縋りたくなっているのかもしれない。

 ここのゴッドイーター達がそんなにヤワなメンタルだとは、到底思えないけども…。

 

 

 おかしな話と言えば、今度新型使いのゴッドイーター……アリサが来たというのもおかしな話かもね。

 極東は最前線だから、使えそうな人材が居れば引き抜いてくるのはおかしな事じゃない。

 でも、発見されたばかりで充分なデータも揃ってない、数も少ない新型使いを、殉職率が世界的に見てもトップクラスの極東に、わざわざ連れて来るかしら?

 フェンリルの性格なら、まずは比較的安全な所でデータを集めそうなものだけど。

 

 しかも、支部長が直接出向いて、ロシアから引き抜いてきた子。

 新型使いを強引に引き抜けば、ロシアとの関係に亀裂が入るかもしれないのに。

 そうまでして連れて来るに値する理由があるのか…それとも、亀裂が入らないように前々から手回ししていたのか。

 

 何れにせよ、間違いなく「ワケ有り」の子って事ね。

 本人がワケ有りなのか、それとも周囲の方なのかは分からないけど…扱いに注意って所かしら。

 とりあえず、同じ女性のゴッドイーターとして、何かと目をかけておきますか。

 

 …あと、私の直感が言っている。

 まず何よりも目をかけないといけないのは、彼女の部屋の方だと…。

 

 

 まぁ、ツンケンしていて他人を寄せ付けない…というより、ゴッドイーターとしての自分に全てを賭けようとしているみたいだしね。

 そうなると、ゴッドイーターの先輩としての言葉は素直に受け取りそうにない。

 全く違った方向から近付くのがいいでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 ハァ…リンドウの私生活もいい加減だらしないけど、私ったらそういう子を世話したくなる性癖でもあるのかしら?

 到着三日目にして、アリサの部屋は混沌と化しつつあった。

 せめて服を床に放り出すのは止めなさい。

 洗濯しないと、辛い目を見るのは自分よ。

 特に極東の夏は蒸し暑いから、何時の間にやら服が汗臭くなっちゃうわ。

 

 ちょっと用事があってアリサの部屋を訪ねたんだけど、チラッと見えた部屋の中を見て、強行突入させてもらった。

 世話焼きと言うか一方的に押しかけた自覚はあるけど、流石にこれは同じ女として見ていられない。

 アリサも多少は自覚があったのか、迷惑そうな顔をしながらも(ちょっと怯えられているような気もしたけど、そんなに私は怖かっただろうか?)素直に従っていた。

 

 …これは、度々様子を見に来た方がよさそうね。

 暫く放っておいたら、また散らかってるのが目に見えるわ。

 

 

 私生活ではそんな感じのアリサだけど、ミッションでは確かに能力は高かった。

 連携能力を除いては、だけど。

 相手がまだあまり強くない部類だというのもあるけど、確かに新型使いというのは強力みたいね。

 近付けば剣、離れれば銃、そして盾。

 

 近距離攻撃、遠距離攻撃、防御を一人でこなす事によって、アラガミのどんな行動にも対処できる。

 勿論、相応の練度は求められるけどね。

 今までの神機使いは、剣使いなら近距離、銃使いなら遠距離を維持する事を求められた。

 それを達成できなければ即敗北…とはいかないまでも、非常に不利な間合いでの立ち回りを求められた。

 私だって、不意を撃たれて接近された時、ナイフ程度でもいいからアラガミに効く武器があれば、と何度思った事か。

 

 牽制程度でも、苦手な距離を克服する道具があるという事は、生存率を跳ね上げる切欠になるでしょう。

 

 

 

 …ただ、今の彼女の行動を見る限り、「仲間の生存率を上げる」事に繋がるかと言われるとね…。

 旧型使いなんか不要、と言わんばかりに突っ走るから。

 実際、リンドウも「旧型は旧型なりの仕事をしていればいいと思います」なんて言われたみたいだし。

 

 …ちょっとムキになって反論するみたいだけど、今ってその旧型使いが最大戦力なのよね。

 新型は強力かもしれないけど、必要な適合率が高すぎて数が揃わない。

 アラガミが数にモノを言わせて襲ってきたら、確実に対応しきれないもの。

 

 ま、しばらくはリンドウに任せておきましょう。

 私は私生活の方からサポートするから。

 こっちもこっちで、暫くはコウタの面倒をみたいといけないものね。

 

 

 

 

神無月サクヤ視点2日

 

 

 今日はリンドウが休暇…多分特務…なので、アリサと合同任務。

 コウタに対しては相変わらずの態度だけど、私がちょっと睨むとそれだけで怯んだ。

 私生活にアレコレ口を出した成果かしら。

 

 掃除しても掃除しても、翌日になると強盗に襲われたんじゃないかと思うくらい散らかるから、最近ちょっと態度が厳し目だったのよね…。

 と言うか本当に片付けなさい。

 虫が出るわよ、虫が。

 

 

 コウタとアリサの間は、よくも無く悪くもなく、と言ったところだろうか。

 コウヤが悪口に対して鈍くて助かったわ…。

 

 任務は特に支障なく進んだ。

 相手はシユウだったけど、コウタも腕を上げ、最近では慢心もしなくなっているし、3人がかりでならそんなに苦戦するような相手でもない。

 またアリサが突っ走ろうとしたけど、予め止めてたし。

 やれやれ…。

 

 

 

 まぁ、ミッション自体は問題なく終わったんだけどね。

 最後の最後で、ケチがついた。

 ヴァジュラとの遭遇。

 

 幸運と言うか不幸中の幸いと言うか、戦う事はなかったわ。

 満腹だったのか、ビルの上で顔から顔だけ出して、そのまま何処かに消えてしまった。

 仮に戦うとしても、コウタとアリサを連れて無事で済むとは思えないから、撤退戦になったでしょうけど…。

 

 それにしても、この辺りにヴァジュラが…。

 これは深刻な問題になりそうね。

 この辺りはまだ経験の浅いゴッドイーター達の練習場みたいな役割もあるから、あまり強すぎるアラガミはいなかった筈なのに。

 群れから逸れて一匹だけ迷い込んできたのか、それとも何かの理由でナワバリが変わって、このあたりに流れてきたのか…。

 

 何れにせよ、討伐の必要がありそうだ。

 

 

 

 そして、もう一つ気になったのが、アリサの反応だ。

 天狗になっていた新米ゴッドイーターが、強力なアラガミに突然出会い、威圧感で鼻っ柱を折られる事は珍しい事ではない。

 コウタだって冷や汗を流していたし、アリサもその類かと思ったのだけど……どうも様子がおかしかった。

 

 ヴァジュラが去った後も、へたり込んで息を荒げ、顔色が真っ青。

 どうにも反応が大きすぎる気がする。

 

 あれは……威圧感に心を折られたというより、トラウマに直面した表情ね。

 同じような表情を、何度か見た事がある。

 ゴッドイーターをやっていれば、死にかけるのも、何とか生き残っても心に傷を負って戦えなくなるのも珍しくない。

 

 ヴァジュラと何か因縁でもあるんだろうか?

 

 もしそうなると、今後のアリサの活動はかなり難しくなってくるわね。

 ヴァジュラは代表的な大型アラガミ。

 数も多いし、亜種だっている…いえ、ヴァジュラの方が亜種なのかしら?

 

 最低限、ヴァジュラを単騎討伐できるくらいの実力が無いと、極東でやっていくのは難しい。

 ……こう聞くと、極東のアラガミ出現率が異常と言われてるのがよく分かるわ…。

 

 繊細な問題ではあるけど、放っておく事もできない。

 とりあえずは調べて

 

 

 

 

 あら?

 

 

 

神無月雨宮ツバキ視点日

 

 

 雨宮ツバキだ。

 相変わらずの日常が続いている。

 つまりは地獄という奴だ。

 

 まぁ、地獄であっても、人間長く暮らせば慣れるものだ。

 トチ狂う奴の方が多いがな。

 

 それはそれとして、サクヤから相談を受けた。

 アリサの事についてだ。

 

 あまりにも単独行動が多すぎるから、再訓練コースで叩きなおしてくれ…という話かと思ったが、違うらしい。

 まぁ、そういった事の指導も、私ではなく上司…この場合はリンドウ…の役割だしな。

 

 そうではなく、アリサのプロフィールの事だった。

 先日ヴァジュラと遭遇した時(すでにその時点で問題だが)、アリサが過剰な程の反応を見せたらしい。

 こんなご時勢だ。

 アラガミに対し、トラウマや狂気的とすら言える恨みを持っている者など珍しくも無い。

 

 だが、それが支部長が引き抜いてきた新型使いとなると話は別だ。

 新型使いのデータは、常に収集され続ける。

 戦闘能力もそうだが、神機への適合によりメンタルに異常が出てないかも検査対象だ。

 

 また、どういった経歴を持っているのかも、ある程度調査される。

 ゴッドイーターになったはいいが、トラウマで全く戦えなかったり、指示を聞かない狂犬であったりする事だって考えられるからな。

 当然、アラガミに対するトラウマを持っているのかも調べられている筈だ。

 

 だが、私は勿論のこと、配属されたリンドウでさえその手の情報は一切知らされていなかった。

 こちらから調べに行くのが筋、と思うかもしれないが、それは間違いだ。

 経歴書にも全くそれらしい記述はなかった。

 

 少なくとも、主治医である筈のオオグルマはこれを知っていた筈だ。

 だが口頭での報告も無し、記入しておく書類にさえ全く手付かず。

 

 

 どう考えても、忘れていたのではなく、完全な故意だろう。

 問い詰めるのは容易い。

 だが、問題は……この事を、支部長も知っていた筈という事だ。

 ロシアから引き抜くに辺り、アリサのプロフィールも見ているし、裏付けも取っている筈。

 だと言うのに、トラウマの事だけを知らなかったとは考えられん。

 

 つまり…支部長がアリサに期待する役割は、ゴッドイーターではなく別の『何か』だったという事か?

 ヴァジュラと戦えなくても問題ない、或いはその方が好都合…。

 

 キナ臭いな。

 偽装工作が非常に杜撰な事を考えると、何か起きるとすればそう遠くない…いや、直近とすら言えるだろう。

 それまでの間誤魔化せれば、それでいいという訳だ。

 そう考えると、今回ヴァジュラと遭遇したのは幸運だったかもしれんな。

 コレがなければ、致命的な瞬間まで対策すら考えられなかっただろう。

 

 

 さて、どうしたものか…。

 一番手っ取り早い方法はアリサを遠ざける事だが、根本的な解決にならない上、そもそも不可能だ。

 支部長直々に引き抜きしてきた人材だ。

 強行手段を取ったとしても、覆しようのない人事である。

 

 ならば、ヴァジュラに対するアリサの恐怖を克服させる?

 成功すればいい戦力になりそうだが、どうやってやるかという問題がある。

 また、ヴァジュラに対する恐怖が無くなったとして、それが近い内に起きるであろう『何か』を防ぐ事に繋がるかは分からない。

 

 多少強引だが、私の手元に置くという方法もあるか。

 能力は高いが、連携能力及び普段の素行に問題あり、再教育が必要…といった理由で。

 「再教育」でヴァジュラのトラウマが消えればそれで良し。

 

 …うむ、この手で行くか。

 

 

 

 




 はて、今度は一体何処じゃろな?
 
 久方ぶりに夢を見ている。
 いや、単なる夢じゃなくて、何処か異世界に飛ばされてる疑惑があるあの夢だ。
 本当に久しぶりだなぁ…何ループぶりだっけ?

 まぁ、それはいいんだが…思いっきり荒野だ。
 しかも、このカンジは……北斗の拳とかじゃなくて、西部劇っぽい?
 何となくだけど。


 ま、夢だからってカンカン照りの荒野に突っ立ってたら気分悪くなってきそうだ。
 どこか街を探してみようかね。


 



 近くにあった丘に登り、そこで見つけたサボテンをスライスして食料と水を確保。
 幸い、近くに街が見えた。
 あまり活気がありそうなカンジはしないが、ゴーストタウンという訳でもないようだ。
 うーん、益々持って西部劇っぽい。
 吹き抜ける風やら、アカラサマな建物やら…少なくとも日本ではないな。

 少なくとも数人、人が屯して動いているのが見える…アレがバイオハザード的なゾンビだったら、正真正銘ゴーストタウンだろうけど。

 …ああ、誰だか知らんが、街に向かって歩いているのが一人見えるな。
 アイツに接触してみるか。
 あのペースなら、走っていけば街に入る前に声をかけられるだろう。




 走った。
 近付いた。
 向こうもこっちに気付いたようだった…結構距離があったと思うんだが。


 そして違和感。



 白い服。
 まぁいい。

 黒目黒髪。
 …西部劇なら金髪や茶髪がメインだと思うが、これは俺の偏見だろう。

 ヒゲをはやしていない。
 …西部劇、ガンマンと来たら渋いヒゲのオッサンだと思うんだが、それこそ偏見か。

 ズボン(?)に括りつけられている、旅行カバン。
 随分と使い込まれているようだ。
 動きの邪魔にならない位置に調整されている辺り、結構な荒事を潜り抜けてきたのかもしれない。


 そして髷。
 髷だ。
 マゲ。
 ちょんまげ。
 ちゃんとした髪型の名前は分からないが、とにかく髪を束ねて頭の上で結っている。

 腰に挿している得物も見逃してはならない。
 明らかに西部劇の夢(世界)だというのに、世界観なんぞ何するものぞと言わんばかりに存在を主張している、刀。

 そう、刀だ。
 剣でもなければレイピアでもない。
 反りもある、鍔もある、明らかな日本刀だ。


 そもそもからして、白い服からして…着流し? いや、胴着?
 とにかく和服だ。
 


 て言うか明らかにサムライだ。
 繰り返すが、西部劇だというのにサムライだ。



「Who are you」

「日本語でおk」

「…………」

「…………」

「…………」

「日本語でお願いします」

「何者だ」



 平然と英語喋るサムライだけど、おkは通じなかったか。
 丁寧に言い直してくれるお侍さんに感謝だ。

 …明らかに幕末あたりの人間なのに、現代日本語が平然と通じる理由は知らん。


「旅の日本人です。
 こんな所で日本人を見かけるとは思ってなかったんで、つい寄ってきました」

「……この男を知っているか」


 マイペースな方ですな。
 紙を受け取って見てみる。

 手配書かと思ったが……単なる似顔絵、か?


「いや、見た事ないな…。
 何かやった人なのか?

 …おいおい、冷たいなぁ。
 折角会った日本人じゃないか。
 俺もあの街に行くんだし、一緒に行ってもいいだろ」

「…好きなようにいたせ」

「んじゃお言葉に甘えて」


 ぶっきらぼうだな。
 でもさっきは日本語に直してくれたし、ツンデレタイプか?
 昔の武士とかは、寡黙かつ仏頂面であるべし、みたいな風潮があったと聞いたが…。

 色々話しかけてはみるが、あまり答えは帰ってこない。
 反応がありそうなのは、刀とか武術に関してなんだが…。


(ヘタに突くとややこしい事になる気がするんだよな)


 今の俺は丸腰だ。
 そこそこ戦える自信はあるが、この男もかなり強い。
 下手に地雷を踏むようなマネはしない方がよさそうだ。





 が、世の中には自分から地雷を踏みに行く奴が沢山居てな?
 

 街についてから、5分と経たずに銃撃戦の真っ最中です。
 まーアレだ、銃を持ってるにせよ多勢に頼るにせよ、相手が自分より弱そうに見えたらチョッカイを出しに行く奴は珍しくもないって事だ。
 チョッカイを出された方は、大抵は実際弱くて、反撃するような奴は少ない。
 だからこそ、弱いもの苛めというのは成立する。

 だがこの男と、ついでに今の俺は反撃するタイプだった。


 あっちはあっちで銃弾を避けて接近し、一刀の元にガンマン(要するにチンピラ)を切り伏せている。
 銃弾を打ち返してる所を見た時は流石に驚いた。

 おー、やったれやったれ。
 相手が弱いと思って無茶苦茶な難癖つけてきたり、鉄砲撃って来るような奴は斬っていいぞ。
 命の尊さ?
 相手に言え。


 ちなみに俺はというと…。


「なんだこのバケモノ!(英語)」

「銃が効かないぞ!(英語)」

「当たってる筈だろう!?(英語)」

「ちょっ、こっちにくるなうわぁあぁぁ!(英語)」


 銃弾なんぞ避けもせず!
 男らしく全て筋肉(とミタマ「防」)で受け止め!

 そこら辺のよく分からん木箱をハンマー代わりにしてぶん殴っています!
 勿論パンチやキックもしてんだけど………ほら、グロ画像…。
 ハンターの腕力舐めるなよ?
 いくら武器の威力が高かったって、それをモンスターに通じさせる勢いで振るってるのはハンターなんだから。

 ま、隣で真剣で切られてモツがはみ出してる死体とかあるから、グロ云々は正直今更だけどね。

 と言うか、銃ってこんなに攻撃力が弱いのか?
 時代が時代だから、あんまり性能が良くないだけか?
 GE世界の銃(神機じゃなくても)とか討鬼伝世界の銃は、もっと威力と射程があったと思うんだが。
 MH世界のは…まぁ、火縄銃もあったけど、一応は基本がボウガンだし。
 それに、討鬼伝世界の銃は長銃だしな。

 …だからって、鍛えてる人間を殺せないような威力というのはどうかと思うが。
 少なくとも、火縄銃とかでも鉄の鎧を貫通するくらいの威力はあったろうに。

 それともアレだろうか。
 普段受けてる攻撃が、モンスターやらアラガミやら鬼やらの大火力攻撃だから、それと比較してショボくみえてるだけなんだろうか。


 まぁいいけど。
 
 そんな事を考えてたら、何時の間にやらチンピラ共は全滅していた。
 …言うまでもないが、ブッタ斬られて 生きてる奴は居ない。
 俺にぶん殴られた方は……どうだろ、別に死んでてもいいやって思って殴ったけど、殺すために殴った訳でもなし。
 運が良ければ生きてんじゃない?
 

 …というか死体どうすんだよ。
 ちゃんと片付けないと疫病が発生しそうなんだが。




 そんな事を考えつつ、一服しようと立ち寄った酒場で、相棒…豪次郎が探していた例の人物について情報があったり無かったり、おかしなガンマンが話しかけてきたり、モノクルハゲが乱入してきて大乱闘になったり。
 酒場が半壊する騒動になっちゃったけど、これ慰謝料とか払わないといかんのだろうか…。
 今手持ちが無いぞ。

 精々、乱闘の最中に手に入れたアフロのカツラとか、近代兵器とか、超弩級手裏剣とか、棺桶とか、回転駆動式とか、その程度しか無い。
 代わりにちょっと労働するくらいでどうにかならんかな…。


 …よく分からんが、ゴールドバーグとかいうオッサンが街を支配していて、炭鉱で強制労働させたり死体を改造したりして色々やってるんだな?
 死体を改造して生きているように動かすとか、時代を無視した技術力だと思うが、慰謝料の為とあらば仕方なし。

 どーも豪次郎が探している男もゴールドバーグの下に居るらしいし、ちょっと暴れてみますかね。
 豪次郎もそれでいい?
 …是非も無しって第六天魔王かアンタは。

 さて、ゴールドバーグを仕留めるだけなら、俺が適当に忍び込んでアサシン(或いはニンジャ)すりゃいいだけなんだが、それだとトップを失ったチンピラ共が烏合の衆になって、あちこちで暴れ始めるだけだ。
 豪次郎が探している男も、多分どっかに消えてしまうだろう。
 最低限、集まっているチンピラ連中を蹴散らして追い散らして勝たなきゃいかん訳だ。

 つまり…アサシンじゃなくて、正面突破が必要な訳ね。
 豪次郎も「望むところ」なんて言ってるし、俺も今回は脳筋スタイルで行くとしますか。 
 ええ、後の事なんか考えずに、ゴールドバーグの拠点ごとぶっ潰す勢いで。



 ところで、基本的に寡黙な豪次郎だが、やはり興味がある事ならそれなりに喋るようだった。
 具体的には、さっきの乱闘での戦いだ。
 俺は豪次郎が刀で銃弾を跳ね返すのを見て驚いたし、豪次郎も同様に、俺が銃弾を受けても平然としているのを見てかなり驚いたらしい。
 まず第一に出てきた感想が、「厳しいが、斬れなくはない」なのはどうかと思うが。


「あれはどういう技術なのだ?」

「カラテは知ってるだろ?
 あれにコツカケとかサンチン立ちなんて技があるんだが、その応用だな。
 鍛えた体を全力で固めれば、銃弾も弾ける。
 ま、もうちょっと威力が上がると流石に無理だと思うが」

「見事な技だった。
 拙者も空手は多少嗜むが、思っていた以上に深いらしい」

「豪次郎だって似たような事してたじゃないか。
 二刀流持って、弾を受けても平然と接近してたし。
 あの時斬られた奴、恐怖で泣き出す寸前の顔だったぞ」

「気迫の問題だ。
 致命傷さえ避ければ、後は気力で体を動かせばいい」

「その理屈はおかしい」

「お主も結構な無茶を言っておるぞ」

「ああ、それにあの銃弾を相手に跳ね返すのが凄いよな。
 正面から一発撃たれたのを弾くだけなら俺もできるけど、正確に撃った奴に戻っていくし」

「あれには少々技量が要る。
 だが、要点さえ使えんでしまえばそう難しくは無いぞ」

「…火の玉とかも跳ね返せるか?」

「どんな火の玉かにもよるが、やってやれない事は無い」

「お前ら両方同類だよ…。
 軍を動かす前に終わっちまった……日本人怖ぇ…」


 最後の一言は、一杯奢ってくれた謎のガンマン(どこぞのエージェントっぽかった)・ラルフのコメントでした。









 後日、サムライの強さと共に、カラテカの脅威がアメリカに語り伝えられる事になったらしいが、夢の話だからよく分からんな。

 ついでに言うと、更に何年か後ではインディアンと白人との戦争で誰かさんが大暴れし、単身で騎兵隊を食い止めたそうな。
 以後、アメリカ各地で「腹を括った日本人に関わるべからず」と実しやかに噂が流れていたとか…。


 ちなみに、例によって例の如く、妙な技術を使えるようになっていた。
 豪次郎に教わったように、火の玉その他を通常攻撃で弾き返せる……んだが、かなり難易度が高い。
 こんがり焼かれながら練習したが、アラガミ状態のアクセラレイトを使ってようやく成功した。
 これを素の状態でやってたのか…サムライってスゲェ。
 
 

外伝:サムライウェスタン編 …と、ちょっとだけ修羅の刻


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84話

絶賛悪い流れが継続中のようです。
今日も今日とてクレーマーがまた一人……とか思ってたんですが、それどころじゃなかった。
お隣さんの店のトラブル・クレーム記録を拝見する機会があったんですが……ちょっと、おかしい人と我侭な人と気が短すぎる人が多すぎやせんか…?
地域ぐるみでコレかよ…。
日本人って、自分達で言うほど温厚でも誠実でもない気がしてきました。

と言うかマジで店側に反撃手段を持たせるべきだと思います、かなり攻撃力と隠密力の高い奴を。
それくらいしないと、自称お客様は立場を理解しないって…。
何処に提案すれば、法案として通るかな…。


 

神無月雨宮ツバキ視点2日

 

 

 どういう訳だか、私に手紙が届いた。

 しかもリンドウ経由で。

 

 ご丁寧に、封にハートマークが使われている。

 ラブレターかと思ったではないか……いやいや、期待などしていないぞ。

 リンドウから「ファンレターだそうだ」と言われて、ちょっと肩透かしされたりなんかしていない。

 

 …うるさいな、私だって女だ…。

 

 それはともかく、何でも最近有名な農園の主からの手紙らしい。

 私はまだ行った事がないんだよな…忙しいし、一人で行っても虚しくなりそうだし。

 エリックの奴はそれでも一度は行ってみるべき、と所構わず布教しているようだが、万一リンドウとサクヤの二人組みと会ってみろ。

 気まずすぎて死にたくなるわ。

 

 

 リンドウが直接持って来たのは、よくしてもらっている農園の主から頼み込まれたからだそうだ。

 普通なら私に届く手紙と言えど、中身を改めて検閲される。

 単なるファンレターなら、検閲されても問題ないだろうに……随分と熱烈なファンレターのようだな。

 他人に読まれると無条件に困る程に…。

 

 

 …単なる嫌がらせや、剃刀メールの類だったらどうしてくれようか。

 

 

 

 

 

 思った以上に熱烈なファンレターだった。

 これは直接会わなければなるまい。

 

 

 決して遅ればせながらやってきた、春の予感に浮かれてなどいないぞ。

 真面目な話だからな……アリサがどういった状況におかれているか、という…な。

 

 

 

神無月雨宮ツバキ視点3日

 

 噂の農園とやらに行ってきた。

 リンドウとサクヤに会わないように、日程を調整してな…。

 

 なる程、エリックがやたら宣伝するだけの事はある。

 あの一帯だけ、妙に生命の気配に溢れている。

 久方ぶりに生き返った気分だ。

 …これで、妙に男女の観光客が多くなければ文句無しだったが……まぁいい。

 

 

 アポ無しで訪ねてみたのだが、私の接近を感知していたかのように、自然に農園の主に出迎えられた。

 偶然か…?

 

 いや、あれだけ鍛えられた人間だ。

 気配の察知くらいはできるだろう。

 武道の心得もあるようだ…重心のブレが全く見られない。

 

 ゴッドイーターではなかったようだが……はて、それにしては纏う空気が…?

 まぁ今はいいか。

 

 あの農園の主、何者だ?

 腹芸が苦手なのはお互い様らしく、思い返すと子供のような遣り取りだったが…奴は重要な情報を幾つも持っていた。

 それも、フェンリルの奥深くにまで入り込まねば知る事ができないような情報だ。

 

 「こんな仕事をしていると、コネツテも重要なもんで。 そこから情報も幾らか入ってくるんですよ」と惚けていたが、その程度で集められるような話なものか。

 

 

 アリサの精神状態と、オオグルマが持つ催眠。

 そして本来居ない場所に居るヴァジュラと、それらが組み合わさった事による結果。

 

 無論、そのまま話を鵜呑みにする事はしない。

 他にも幾つか気になる話はあったが、まず裏を取らねばならないのはこれだろう。

 オオグルマの医師としての経歴であれば、然程苦労する事なく集められる……まぁ、確かにこの程度の話なら、コネツテでどうにかなるかもしれんな。

 ピンポイントで、しかも私が今必要としている情報を持ち出してくるという点を除けば。

 しかも、その洗脳をどうにかする手段まで持っている、と来たものだ。

 

 愚弟の暗殺計画か……誤報だと楽観する気にはなれん。

 その情報の主が、これ以上無い程に怪しい人物だとしても。

 

 奴から聞いた計画は穴だらけ…というより、幾つかの偶然が重ならなければ発動しない、確実性という意味では下の下である計画だ。

 だが、それだけに証拠を残さず、不意を打つという点では多大な効果が期待できる。

 そして、失敗しても損害は最小限で済む…。

 未必の故意、という奴だな。

 

 

 奴が私を通して、何をしようとしているのかは分からんが……いいだろう、暫くは信を置いて付き合ってやる。

 あの農園が、世界的な改革の基になる可能性があるのも事実だしな。

 

 

 

 ついでに、巷で噂のマスク・ド・オウガについても聞いてみた。

 何か知ってるな、アレは…。

 

 

 

 

 

 

 アナグラに帰ってから、超特急で情報を集めた。

 結果は…黒。

 隠蔽されてはいたが、隠し切れなかったようだ。

 

 すぐさま反撃に出たいところだったが、今はまずい。

 オオグルマにしても、支部長の権限で守られている。

 

 まずは奴らの企てを避ける方が先か。

 アリサの暗示とやらをどうにかする必要があるが……流石に催眠術などという怪しげな技能を持つ人間は居ない。

 奴に任せるしかないのか?

 仮にもゴッドイーターの進退を、信の置けない相手に任せるのは危険すぎる。

 さっきは信を置くといったが、それとこれとは別問題だ。

 

 いやまて、催眠術や暗示と言うから怪しげな技能に思えるのだ。

 高位のカウンセリングの類と考えれば、どうだ?

 フェンリルにもそっち系の医者は少ないが、それでも探せば居る事は居る筈。

 なんだったら、エリックのツテを辿ってみるのも在りだ。

 実家の力を頼る事をあまり良しとしない男だが、仲間の為と言えば否というような男でもない。

 

 よし、まずはそっちを当たってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間に合わなかった

 

 

 

 

神無月主人公日

 

 ツバキさん…いつぞやのループ以来の名前呼び…と話をしたんだが、思った以上に時間がなかったようだ。

 既にアリサ達は、ヴァジュラに遭遇していた。

 となると、今後いつリンドウさん暗殺場面に直行してもおかしくない。

 

 支部長達にしてみれば、ちょいとミッションの場所を弄ればそれだけで誘発可能な暗殺だ。

 可能性と言うかパーセンテージの問題で、いつリンドウさんが成仏してもおかしくない。

 いやゲーム通りに行けば成仏どころかアラガミ化して生き残るんだけど、それこそシオがそこに居合わせる確率はイカばかりか。

 

 

 暫く悩んだ末、農園を暫く放置する事も覚悟した。

 ここ暫く、アラガミ化…ゴッドイーター風に言うなら、マスク・ド・オウガの姿で歩き回り、それらしいヴァジュラ及び黒爺猫、プッチ神父・股の群れは見つけてある。

 日中はそいつらの近くで事態の発生に備え、夜は農園の作業、明け方近くになったらハンター式睡眠法で短時間睡眠…こんなトコか。

 

 

 

 

 

 と思っていたら、早速事案しやがった。

 速すぎませんかねぇ!?

 仮にも主人公ポジションカッコカリである俺が居なくても早速発生ですか!?

 いや、確かに俺は現地に居合わせましたけどね!

 

 ツバキさんに話して、まだ2日目ですよ?

 

 

 まぁ、ほぼ徹夜な日々がたった2日で済んだと思えば、こっちとしては悪くはないんですけどね。

 なんかこう、釈然としないと言うかスッキリしないと言うか…。

 

 そんな事言ってられる状況でもなかったんで、問答無用で乱入した。

 アリサの錯乱・発射には間に合わなかったが、結果的に誰も死ななかったから別にいいでしょ。

 アリサも何とか気絶せずに済んだし、結果としては最上位と言っていいだろう。

 

 残念だった事があるとすれば、シオが発見できなかった事か。

 ゲーム通りなら、リンドウさんが死に掛けてる時にやってきて、アラガミ化を止めてくれた筈。

 リンドウさん達が無事に立ち去った後、周囲を探索してみたが、誰も居なかった。

 

 シオに関しては、地道に探すしかないか…。

 サカキ博士や支部長の注意が、マスク・ド・オウガに向いてるのが救いかな。

 

 

 さて、ともあれ無事に乗り切った事は確かだし、これならツバキさんも俺からの情報を信用してくれるだろう。

 全面的に、とはいかないだろうが、今後小出しにしていく情報に信頼が得られたのは大きい。

 何せ、ゲームのストーリーの情報だと、突拍子も無い話がワラワラ出てくるからな。

 信用されていても、そうそう信じられないような話だってある。

 

 

 どの情報から出していくべきか……マスク・ド・オウガに関する情報だけは出せないな。

 つーか出してたまるか。

 

 

 差し当たり、やっぱりオオグルマをどうにかしたい。

 今回は暗殺は失敗に終わり、アリサも昏睡しないままだが、だからこそ次に何をやらかすか分からない。

 間違いなく次の手を打ってくる…それも、自分の自信の根幹である暗示を搦めた方法…のは確実だろう。

 一度だけ暗殺を防いでも、首謀者も放置、教唆犯も放置じゃ意味が無い。

 

 

 

 

 

 と思っていたら、電光石火でツバキさんが動いていた。

 暗殺を防いだ翌日の夕方、ツバキさんが訪ねてきんだが……まずは情報の礼を言われた。

 謎のアラガミことマスク・ド・オウガに助けられたらしい、と言っていたが……いや、俺を関係者じゃないかと疑うのは止めてくれませんかね。

 関係者どころか本人なんでマジで。

 

 ツバキさんも何とか暗殺を防ごうと動き始めていたようなんだが、初動が遅すぎて間に合わなかったらしい。

 

 

 俺の情報源についても怪しまれていたが、今はまだ無理に突っ込んでくる気はないようだった。

 そして、本題だが………汚ッサンの更迭が決まった、という事だった。

 

 

 

 ほわーい?

 

 

 

 更迭。

 鋼鉄じゃないよな?

 汚ッサンを鉄で固めてオブジェにするってんじゃないよな?

 止めはしないけど、即破壊決定だぞそんなモン。

 美女ならともかく、何が悲しゅうて脂ぎった中年男の銅像なんぞ建てねばならんのだ。

 いや、美女を鉄固めするというかコンクリ詰めにするなんてそれはそれで許されんが。

 

 

 結局、真面目に更迭、左遷の類だった。

 この人事についてはアリサが反対しているそうだが、理由が限りなく尤もな物だったため、表立っては言うに言えない…らしい。

 

 尤もな理由ってなんぞ?と思って聞いてみたら、呆れた顔をされた。

 気付いてなかったのか?と言葉にまでされた。

 

 

 

 …うん、聞いてみたら実に尤もな理由だったけどね?

 一言で言えば、職務怠慢。

 それも、命に関わるようなレベルでの職務怠慢だ。

 俺が話した情報を基に色々と調べ上げ、過去に見逃されてきたアレやコレやも引っ張ってきたらしい。

 

 

 まず、アリサが持つトラウマの事を知っていながら、誰にもその情報を伝えていなかった事。

 患者のプライバシーというものは確かにあるが、それを持ち出せる職場ではない。 

 増して、ツバキさんは極東支部の指揮官…汚ッサンにとってもアリサにとっても上司にあたる。 

 それに対して、報告を怠った事が一つ。

 

 

 次に、純粋に医師としての能力が疑問視された事。

 確かに汚ッサンは医師としてそれなりに実績があったらしいのだが、それが今回の1件で疑問視され始めた。

 調べてみたところ、かつては学会でも何かしらの問題を起こした事があるらしい。

 それ自体は別にどうでもいいのだが、本人の専門分野(精神的なアレコレ…暗示の研究の副産物か?)である筈の精神面の治療において、何年もアリサに付き添っていながら、治療の効果が全く見られなかった事。

 本人にしてみれば意図的に治療しなかったんだろうが、それを言い出したらそれこそ更迭どころか解雇、或いは投獄だろう。

 

 

 最後に、今まで何度も不正行為を行ってきた疑いがある事。

 過去のアリサと汚ッサンの記録を洗った結果、アリサが錯乱した事(本当に錯乱なのか、暗示によるものなのかは不明だが)は初めてではないようだった。

 勿論、汚ッサンがそれを知らなかった筈がない。

 そしてそれを隠蔽していた事になる。

 

 

 以上の事より、ゴッドイーター、しかも新型使いの主治医としての資格無し。

 そりゃそうだろうなぁ。

 どれをとっても、医者としての能力、信用の不足を示すモノばかりだ。

 増して、どんな影響が出るか分からない新型使いなんぞ任せられたものではあるまい。

 と言うか普通に免許剥奪だろコレ。

 ニュースになるレベルだ。

 

 よくもまぁ、ここまでスピーディにやれたものだ…と思った居たら、ツバキさんが心無しか得意げに胸を張った……いや、その格好で張られると、バストが強調されるだけじゃなく、スッキリしたヘソとかギリギリな下とか、実に目に毒なんですけどね。

 俺、毒とか殆ど効かない体になってきてるけど…いや訂正、時間経過で治るようになってきてるけど、この毒だけには免疫がつきそうにない。

 

 ま、それはともかく、ツバキさんに言わせるとこれが正しいルールの使い方、なんだそうだ。

 倫理的な意味で『正しい』かどうかは微妙な所だがな、と自嘲してたけど。

 行動の是非はともかく、やった事は政敵を謀殺したようなもんだしな。

 

 

 正しいかどうかはともかくとして、確かにコレなら例え支部長であっても、表立って庇う事はできまい。

 暗殺がどうの、イージス計画がどうの、特異点がどうのと言った夢物語のような陰謀論ではなく、明確に今までやってきた事を元に、汚ッサンを「正当に」排除する。

 闇から闇へ葬る事ばかり考えていた俺としては、盲点の一言である。

 

 …仮にもギルドマスターだった身でありながら、正当なやり方を真っ先に捨ててたのは自分でもどうかと思う。

 

 

 さて、そうなると…アリサと汚ッサンはどうなる?

 更迭って事は、逆に言えば地位が下がる、或いは役職を解かれるだけで済む、という事ではないか?

 フェンリルは一応企業なので、銃殺刑に処す訳にはいかない…のは、建前だろうけど、まぁ分かる。

 

 

 ツバキさんは、恐らくだが、と前置きして続けた。

 

 汚ッサンは恐らく、2~3日中に何処か別の支部へ飛ばされるだろう。

 その途中、『アラガミに襲われて行方不明になる』可能性が高い。

 ただ、その行方不明が、隠れる為に潜るだけなのか、それとも永遠に行方が分からなくなるのかは五分五分…というより、支部長が汚ッサンを切り捨てるかどうかの匙加減次第だろう。

 …ああ、ゲームでもそんなのあったね。

 結局アッチでは生きてたけど。

 

 問題なのはアリサだ。

 精神面に問題あり、という事は今回の一見で明確になってしまった。

 そして信頼していた汚ッサンは問題在りとして引き離される……暗示の事を知らないのが、救いなのかどうなのか。

 

 元々他人を拒絶するような態度を取っていた事もあり(これも暗示のせいだろうか? そうでなくても暗示の影響という事にしてしまえばいいと思うが)、極東支部では孤立気味。

 そうでなくても、突然錯乱する可能性がある人間をチームメイトとして迎えたいと思うような人間は居ないだろう。

 リンドウさんやサクヤさんも、迷惑とは思っていないようだが、そんなアリサが戦場に出るのを許容できる筈も無し。

 

 事実上、居場所が無い状態だ。

 アリサもそれを自覚しているのか、塞ぎこんでいるらしい。

 

 

 

 

 

 

 ふむ。

 

 

 

 

 

 

 

 ……うむ。

 

 

 

 

 一週間くらい後に、精神療養の名目でこっちで預かれない?

 土弄りしてれば、余計な事考えないで済むよ?

 

 

 

 怪しまれたけど、OK貰った。

 

 

 

 

 

 さて……一週間後までに、汚ッサンを始末しに行きますかね。

 

 

 

 

 

 

神無月アリサ視点日

 

 誰が下乳担当ですか!

 ……いえ、失礼しました。

 なんか顔の無い人に囃し立てられる夢を見たもので…。

 

 改めまして、アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。

 …新型使いの、ゴッドイーター……です、今でも、一応…。

 

 

 

 極東に来て、たった数週間。

 それだけの時間で、私の置かれた境遇は何から何まで変わってしまいました。

 ロシアで新型使いとして見出され、それなり以上に優秀な成績を残してきたと自負しています。

 シックザール支部長からのスカウトを受け、オオグルマ先生と共に極東へやってきたはいいものの……本当に旧型使いなのか疑わしい程の戦果を上げる極東の方々や、華麗華麗と大騒ぎしているよく分からない人達に、ドン引きする毎日でした。

 気圧されされないようにと気を張っていたのですが……それが逆に、私と旧型使いを隔てる壁になりました。

 

 それでも私はアラガミを倒せていれば、それでよかったんです。

 パパとママを食い殺したあのアラガミを、いつかこの手で……それだけ考えて、やってきました。

 

 ですけど、その結果は…。

 あのアラガミどころか、同じような形をしているだけのヴァジュラとの相対で、心が折れそうになる有様です。

 それでも私は認めませんでした。

 そこで折れてしまえば、私のやってきた事は全て無駄になります。

 

 …折れる、べきだったんでしょうか。

 意地を張るように戦い続け、やれるんだ、あのアラガミを殺すんだと自分に言い聞かせていました。

 

 ですが…それが、あの事件を生みました。

 

 

 あの日、私はリンドウさんと組んで任務をこなしていました。

 …正直な話、リンドウさんはちょっと苦手です。

 一緒に居ると気が抜けるというか……勢い込んでいたのを削がれるというか…。

 苦手云々を言い出すなら、私生活に踏み込んでアレコレと世話をやいてくれるサクヤさんも苦手なんですが…いえ、感謝してるんですよ、本当に。

 でも何となく逆らいづらい空気があります。

 …思い返すと、上司の指示に従わないという時点で、私って色々と…。

 

 えー、とにかくです。

 普段通りに終わる筈の任務でしたが、偶然サクヤさん達のチームと鉢合わせしました。

 本来、余程大きな作戦でもなければ、複数のチームが同じ区域でのミッションを受ける事はありません。

 この時点で、トラブルの予兆はありました。

 

 ですが、私にはそれを冷静に判断する事なんかできませんでした。

 ヴァジュラの遠吠え…。

 それも複数。

 

 それだけで、私の平静を奪うには充分すぎました。

 戸惑っている間に、あっという間に取り囲まれて……正直な話、そこから先の事は朦朧としています。

 パパとママが死んだ場面が何度もフラッシュバックして…立っているのか座っているのかも分からなくなって。

 

 フラッシュバックする場面のアラガミが、何故かリンドウさんに変わっていって…。

 空を見て雲が。

 アラガミの形をして、危なくなったら探して。

 

 

 

 あ

 

 あああ

 

 

 

 あああああああああべしッ!?

 

 

 

 

 ったた……し、失礼しました…ちょっと錯乱しかけたところを、今私が身を置いている農園の主に叩かれまして…。

 にしても、この衝撃…まるであの時のアラガミから受けたかのような衝撃です…。

 

 …えー、回想を続けます。

 ええ、わかってますって野菜の手入れもやってますよ。

 

 

 

 とにかく、あの時錯乱した私は、何故かリンドウさんに銃を向けていました。

 引き金を引く瞬間、咄嗟に銃口を逸らしましたが…手遅れでした。

 気が付けば、リンドウさんは私が崩落させた瓦礫により、アラガミと教会に閉じ込められ。

 私達は多数のヴァジュラ達に取り囲まれています。

 

 私は、またしても錯乱しそうになりました…その時です。

 

 叫びかけた私は、脳天を思いっきりド突かれました。

 ええ、もうそりゃあ痛かったです本当に。

 錯乱とか、どっかに吹っ飛んでしまうくらい痛かったです。 

 

 今自分が居るのが鉄火場で、しかもそうなった原因は自分だって事も忘れて、まるで寝起きの頭でベッドから降りたら、缶を踏んづけてコケて頭を打った時みたいな気分に……いえいえ、モノの例えです、今ではちゃんと片付けてますよ!?

 

 神機すら離して、頭を抑えてへたり込みましたとも。

 涙目で顔を上げれば…そこに居たのはオウガテイルでした。

 我に返るよりも先に、「こんな場面でオウガテイル?」と思いました。

 だってあの時の私達は、大型アラガミの代表格とさえ評される、ヴァジュラに囲まれていたんですよ?

 まともなアラガミなら、食われたくないからさっさと逃げるに決まっています。

 

 …でも、そのオウガテイルは二足歩行でした。

 というより、オウガテイルなのは顔だけでした。

 

 つまり…。

 

 

「マスク・ド・オウガキターーーーー!!!」

 

「本当に実在してたの!?」

 

 

 コウタとサクヤさんの驚きの声が、妙に遠く聞こえました。

 と言うか、私の頭を叩いたのはマスク・ド・オウガのブレードでした。

 峰打ちだったようですが…どっちにしろ凄く痛い…。

 

 そこから先は、動きが目で追えなかったくらいです。

 気が抜けていた私は勿論のこと、サクヤさんでさえ。

 

 閃光、爆音、血の臭いとヴァジュラ達の悲鳴…。

 気が付けば私はサクヤさんとコウタ庇われていました。

 我に返った時には、ヴァジュラ達は絶命…はしていなかったようですが、殆どが血だらけで行動不能になっていました。

 そしてマスク・ド・オウガはほぼ無傷。

 

 …どんだけ強力なんですか。

 はっきり言って、勝ち目はありません。

 リンドウさんを置いてでも逃げるべきか?という二者択一に遭遇する前に、マスク・ド・オウガは次の行動に出ました。

 跳躍し、事切れた一体のヴァジュラを踏み台にして、リンドウさんが閉じ込められた教会の中に飛び込んだのです。

 

 サクヤさんが悲鳴を上げた事は言うまでもないでしょう。

 あの狭い教会で、超がつく程強力なアラガミが二体…いくらリンドウさんでも…。

 

 

 ですが、こちらも余裕はありません。

 まだ動けるヴァジュラも残っていました…情けない事に、私は動けないままで。

 一人でも生き残らせたいなら、逃げるべき…だったんでしょう。

 

 ですが、全ては私達を蚊帳の外において進んでいきました。

 教会の中から、大きな炸裂音が3度、4度…。

 一際大きな爆発音が響いた後、静かになりました。

 

 そして、教会の割れた窓から、再び飛び出すマスク・ド・オウガ…。

 振り返りもせず、そのまま何処かに消えていきました。

 

 

 

 他のヴァジュラ達が動けるようになる前に、教会に駆け寄って声を上げました。

 リンドウさんに呼びかけたのですが……なんというか、ぴんぴんしていたようです。

 私など、「あれ、この人、私の銃撃に掠らなかったっけ?」と首を傾げた程です。

 

 閉じ込められたアラガミは、マスク・ド・オウガの協力(?)によって難なく殲滅。

 後は脱出し、帰還するだけという状態でした。

 脱出に関しては、残ったOPを全て銃撃に注ぎ込み、一斉掃射で何とか成功。

 その後は全員一斉に退避し、誰一人欠けずに戻る事ができました。

 

 無事にアナグラに戻った後、私は気絶し、丸一日目を覚まさなかったそうです。

 

 

 

 

 ですが、それで問題なしとはいきません。

 私があの時錯乱したのは何だったのか。

 ヴァジュラに関してトラウマがあるのは自覚していますが、何故ああまで…しかもリンドウさんを狙うような事をしたのか。

 言うまでもありませんが、私の評価と信用は吹き飛びました。

 

 ええ、私だってそうです。

 今回は運よく助かり…助けられましたが、いつ混乱してフレンドリーファイヤを起こすか分からないような人間と、誰が一緒に戦いたがるでしょう。

 私だって、自分のせいで人が死ぬかもしれないなんて御免です。

 

 

 …私がやってきた事は、何だったんでしょうか。

 何故こんな風になってしまったんでしょうか。

 

 リンドウさん達の顔を直視できずに、部屋で一晩うなだれていました。

 そして気が付けば何故かオオグルマ先生は解任されて別の支部に飛ばされており、相談できる相手もいません。

 

 …私には、無理だったんでしょうか。

 新型という武器があっても、パパやママの仇を討つなんて。

 

 ゴッドイーターとして必死に頑張ってきたのに、ゴッドイーターにもなれず、戦う事すらできない。

 …私は、これからどうすればいいのでしょうか。

 

 

 そんな時に、雨宮指揮官から指示がありました。

 暫くの間、この農園…今居る場所ですね…で体を休めろ、と。

 

 …見切りを付けられたんでしょうか?

 やはり、もうゴッドイーターではいられないのでしょうか…。

 雨宮指揮官は、精神状態が落ち着くまでここに居るように、落ち着いたらまた復帰してもらう、と言っていましたが…。

 

 理屈ではわかっています。

 今、ゴッドイーターを遊ばせておくような余裕は、世界中を見ても何処にもありません。

 アラガミ化を抑える薬剤だって、無限にある訳ではないのです。

 それこそ、使えないのなら捨石にしてでも戦力にしようとする筈。

 

 新型使いなのであれば、例え戦力にならなくてもデータ収集だけでも充分な価値はある。

 そうなると、私の行動や名前が記録に残る事になりますね。

 新型使いの汚点として語り継がれるかもしれませんね……ハァ…。

 

 

 もしも、私が錯乱した理由の一つに、新型神機からの干渉があったとするなら、それこそ調査しなければならないでしょう……干渉があったら、ですね。

 錯乱したのは私自身の問題だと、わかってますけど…。

 

 

 

 

 考えても仕方ないとわかってはいます。

 何をどう解釈したところで、また錯乱する可能性がある時点で私は使い物にならないんですから。

 

 でも、この農園で何をしろと言うんでしょうか…。

 得難い経験だとは思いますけどね、本当に。

 植物や鉱石には詳しくないのですが、それでも明らかに異常と分かる資材の数々。

 異常ではあっても、天然の植物に触れられる機会なんてそうありません。

 …農園だから、天然じゃなくて人工ですかね?

 

 どういう訳だか、この辺にはアラガミも殆ど寄って来ないようですし、錯乱する心配も少ないのも分かりますが…。

 トラウマを乗り越える為に訓練をしろ、と言われた方が余程分かりやすいです。

 実際、雨宮指揮官なんかは、そういう事も考えていたと仄めかしていましたが……リンドウさんとコウタが雨宮教官の背後で、激しく首を横に振っていたのを覚えています。

 

 

 ともかく、思惑がどうあれ、農園に置いてもらっているのは事実なので、間引きや農園のメンテの手伝いをするくらいなら、文句はありません。

 衣食住…いえ、食住を保証してくれているのですし、農園の主であるあの人には感謝しています。

 仮にも男性一人と同居という事で、警戒もしていますが。

 

 いえ、別に身の危険を感じる訳ではありませんよ?

 お世辞にも紳士とは表せない性格ですが、過剰なスキンシップを求めてくる訳でもなし、イヤらしい視線は……あんまり感じませんね、皆無とは言いませんが。

 何といいますか、病人に向けるような視線…でしょうか。

 それともペットを見るような?

 …どちらにせよ、ある種の屈辱です。

 

 それにしても分からない人です。

 何故にフェンリルの庇護下に入らずに、こんな貴重な農園を続けられるのか。

 出所が分からない植物や鉱石もそうですが、この人の家の中もよく分かりません。

 

 今時何処で使うのか分からない全身鎧(しかも明らかに使い込まれています)や、鉄の塊(触ってみたら鉄ではない何かでした)のような大剣が飾ってあったり、何故かオウガテイルを模したお面が立て掛けられていたり。

 電気も通ってない筈なのに冷蔵庫があると思ったら、冷蔵庫のガワの中に、冷気を発する石が幾つも詰め込まれていたり。

 挙句、どう見ても物理法則を無視して浮いているとしか思えないアクセサリ…聞いてみたところ、イカイなる場所で取れる鉱石で作られているそうですが…。

 他にも分からないモノが山ほどあります。

 

 

 本人の体についても分かりません。

 肉体的には、資格喪失しそうとは言え、私も強化され、訓練を受けたゴッドイーターです。

 単純な身体能力でも、格闘術でも、単なる一般人に遅れはとらない………と思っていたのですが。

 

 この人の身体能力、底が見えません。

 ウソか本当か分かりませんが、襲ってきたオウガテイルを鍬で殴り倒して追い返した事すらあるとか…。

 

 

 何度見ても、本当はゴッドイーターなのではないかと腕輪を探してしまいます。

 本人は、「これがNOUKA見習いの力だ!」とか言ってましたが…NOUKA?

 

 NOUKAってアレですか、крестьянин(クリェスチヤーニン)ですか?

 英語で言うファーマーですか?

 私の知ってるクリェスチヤーニンと違う。

 と言うかアレで見習いなんですか?

 一人前ならヘタなゴッドイーターより強いイメージがあるんですけど。

 

 

 

 

 

 ま、まさか…私はゴッドイーターとしては再起不能とみなされたから、ここで修行してNOUKAとなれと!?

 

 

 

 

 



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85話

皆してNOUKAに反応良すぎィ!
いつもの2倍くらい感想をいただけた上、何故かランキング2位まで浮上してたんですけど!?
わけがわからないよ。

ふぅ、8月のお仕事は後は棚卸しくらいです。
9月中旬には何とか帰省できる予定。

うーん、何のゲーム持って行くかな。
MHXもGEもまだ出てないし、レイギガントは手を出さない方が良さそうだし…。


神無月リンドウ日

 

 

 九死に一生を得た、雨宮リンドウだ。

 いやー、本当あの時ばかりは死んだかと思ったね。

 ホラ、アリサが錯乱して、教会にアラガミと一緒に閉じ込められた時さ。

 

 あの老け顔のヴァジュラ、やったら強力でやんの。

 絶対上位種だぜ、アレ。

 まぁ、アリサには立ち直ってきた頃を見計らって罰ゲームでもやってもらうとしてだ。

 

 色々とヤバい事に首を突っ込んでるから、何れ粛清に来るだろうとは思ってたけど、意外と速かったな。

 何とか生き延びれたが、これからどうする?

 調査続行なのは確定だが、ヘタな事をすると周囲を巻き込みかねない。

 慎重にやる必要があるな。

 

 

 アリサは姉上殿が、何故か農園の主の所に居候させている。

 大丈夫かね?

 あの農園の主は、信用できない事はないと思うが…まぁ、理屈は分かるんだ。

 

 あそこはフェンリルの庇護下にない。

 つまり、例え支部長がちょっかいを出そうとしても、NOと言える場所だ。

 最近注目されている、食糧難を救うかもしれないと言われている農園なだけに、強攻策も取りにくいだろう。

 下手な場所よりも安全だ。

 

 暗殺の首謀者…アリサを操っていると思われるオオグルマについては、もう極東に居ない。

 姉上殿が何処からか得てきた情報で、アリサの主治医を解任されている。

 そのまま別の支部へ異動の命令が来たらしいが…これは支部長の仕業だろうか?

 

 何れにせよ、オオグルマは命令に従って異動するに辺り、道中でアラガミに襲われて死亡したと知らせを受けた。

 ……これは隠蔽工作なのか…とも思うが、俺は違う。

 奴の死を確信している。

 

 先日見えた死相はコレだったんだろう…。

 それに、隠蔽工作にしては、アラガミに襲われたという地点が極東に近すぎる。

 身を隠すなら、確認できる者が誰も居ない場所での工作になるだろう。

 

 外道に情けは無用とは思うが、死人が出るのは嫌いだ。

 念仏くらいは唱えてやるか…真っ当な地獄に落ちれますように、ってな。

 

 

 さて、それはともかく、支部長が極東に戻ってくる。

 アリサを急いで極東から出したのはこの為だろうな。

 オオグルマが居なければ問題ないとは思うが、口封じなんてされないように。

 

 

 恐らく、支部長にとって計算外だった事が幾つかある。

 俺の暗殺もその一つだろうが、これは支部長にしてみれば許容範囲だろう。

 言っちゃナンだが、あの人が任せる特務を任せられるような人材は、まだ育っていない。

 

 あの人が言う、エイジス計画を行う要となる特異点。

 それを今までの特務で、極秘に探していた訳だが……これ、サカキのオッサンが盛大にバラしちまってるんだよなぁ…。

 しかも支部長が居ない間に独断で。

 

 マスク・ド・オウガの噂が広まった事を奇禍として(適当にコジツケて、とも言う)サカキのオッサンが先手を打ったって事だろう。

 傍観者を気取りながらよくやるぜ。

 

 ともあれ、特異点探しは新しいステージに進んだ訳だ。

 極秘に探すのではなく、ゴッドイーターが組織だって特異点…マスク・ド・オウガを探し始める。

 

 特異点……そう、特異点と、『思われている』マスク・ド・オウガを。

 

 

 

 俺も、最初はマスク・ド・オウガの話を聞いた時、特異点だと思ったよ。

 異常な戦闘力は置いといて、人間を全く食べないアラガミ。

 逆に助けるような行動をするアラガミ。

 

 コイツを確保できれば(話を聞いた時は噂の領域を出てなかったが)、支部長にもサカキのオッサンにも一歩先んじる事ができる…ってな。

 まぁ、俺が特異点を保護してたって、活用する事なんて出来ないんだが。

 

 でも違った。

 先日の死に掛けた一件での事だ。

 

 

 

 教会に閉じ込められた俺は、ヒジョーにまずい状況に追い込まれていた。

 あの老け顔ヴァジュラと一対一、しかも逃げる事も隠れる事もできない、ついでに言えば手持ちの回復錠だって殆ど無い。

 

 逃げ隠れできるんなら、苦労はするけどどうって事ない相手なんだけどな…。

 まぁ、やるっきゃない。

 アリサがどうしてあんな事をしたのかはわからないが、あの調子だとマトモに戦えるとは思えない。

 教会の外の皆にも、すぐに逃げるように指示を出さなきゃならなかった。

 

 …サクヤにも、な。

 

 

 だが、指示を出そうとしたその時だ。

 ヴァジュラ達のモノとは明らかに違う、連続した爆音が響いた。

 …教会が崩落しないか、ちょっと本気で心配したくらいだ。

 

 どうした、と声を上げるが、返答は何も無い。

 最悪の可能性が頭を過ぎり、飛び掛ってきた老け顔を咄嗟に避けた。

 

 その瞬間だ。

 教会の割れた窓から、人影が飛び込んできたのは。

 

 ソイツは老け顔ヴァジュラの上に着地するや否や、両腕のブレードを振りかざして斬りつけた。

 正体は不明だったが、咄嗟に味方だと判断して、痛みで仰け反った老け顔ヴァジュラの前足に一撃。

 反撃の雷球を避けた時、飛び込んできた奴が何者なのか、ようやく分かった。

 

 そう、マスク・ド・オウガだ。

 マジかよ、と思いながらも、俺は老け顔ヴァジュラの喉元、アイツは顔面を狙って一撃。

 離れ際に、アイツは腕を大きな口に変えて…明らかに神機のプレデターフォームだ…噛みつき、そして光り始めた。

 …バーストモード、か?

 

 そのまま、目にも留まらないスピードで正面から接近すると、右ストレート(だと思う…杭が打ち出されたような気がするが、よく見えなかった)で老け顔ヴァジュラの顔面を再び殴り飛ばし、首の骨をヘシ折ってしまった。

 ありゃ敵対したくねぇな…。

 

 とにかく、老け顔ヴァジュラを仕留めたあいつは、そのまま無言で背を向けた。

 咄嗟に声をかける。

 

 

「おぅ、誰だか知らないが、助かったぜ。ありがとな」ってさ。

 

 

 それに反応して振り返って。

 

 

「………屠杭典苧佐賀背…」

 

 

 それだけ唸って、ジャンプして外に行っちまった。

 …どうせだったら、外まで連れてってほしかったな。

 

 まぁ、その後何とかかんとか閉ざされた教会から脱出して(動けなくなっているヴァジュラ達に驚いた)、全員一斉に撤退してきたって訳だ。

 

 

 帰ってから、自室で冷静になって考えてみたんだ。

 アレがマスク・ド・オウガ。

 エイジス計画の要になるといわれている特異点。

 

 

 …が、ちょっとここで思い当たった。

 あの時の…マスク・ド・オウガの声。

 スッゲー聞き取りづらかったし、意味を成さない鳴き声の類だと思ってたんだが。

 

 

 屠杭天苧佐賀背

 

 と・くい・てん・お・さ・が・せ

 

 とくいてんおさがせ

 

 とくいてんをさがせ

 

 

 

 

 特異点を探せ。

 

 

 

 

 

 

 

   キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!

 

 

 

 

 

 ビックリした。

 マジビックリした。

 冗談抜きで叫ぶかと思った。

      キェェェェェェアァァァァァァサァァケンダァァァァァァァ!!!ウルサイゾグテイッ!アネウエドノッ!?

 

 

 人間の言葉まで分かるのかよ、あいつ…。

 いや待て、それも重要だが注目すべきはそこじゃない。

 

 

 特異点を探せ、だ。

 

 マスク・ド・オウガが。

 俺達が特異点だと思っていた、あいつがそう言ったんだ。

 自分を探せ、って意味だったのか?

 

 いいや、そうじゃない。

 

 マスク・ド・オウガは、特異点ではない別の『何か』って事じゃないか?

 しかも、特異点とは何なのかを理解している可能性が高い。

 

 本当に、一体何者だ?

 アラガミ…と言われちゃいるが、それも怪しくなってきたぞ。

 

 …まぁいい、とりあえず人間の味方ではあるみたいだし、一端置いとこう。

 とにかく、マスク・ド・オウガは実際には特異点ではない。

 が、俺達は彼こそが特異点だと思い込んでいて、恐らく支部長もそれに引っかかる。

 

 …助けてくれた恩を仇で返す事になっちまうが…スマン、そのまま暫く狙われていてくれ。

 本当の特異点は、こっちで全力で探すから。

 

 

 

 

神無月シックザール支部長視点日

 

 

 どういうことなの……

 

 

 む…んんっ、失礼、ヨハネス・フォン・シックザールだ。

 あまりに予想外の展開に、ついつい頭が呆けてしまった。

 いかんな、人の上に立つ者として、このような失態を見せては…。

 

 しかし、幾らなんでも話が急激に進みすぎではないかね?

 手駒であるオオグルマと新型使いを極東に呼び寄せる為、また、エイジス計画…その裏のアーク計画の梃入れの為、少しばかり極東から離れていた。

 オオグルマ達が極東に向かった後も、少しばかりのトラブルで帰るのが遅れたのも事実だ。

 

 だが、ほんの少し遅れて戻ろうとした矢先に、雨宮指揮官からはオオグルマの解任要求(しかも真っ当な理由で)が飛ぶは、警告程度に抑えようと思っていたリンドウへの妨害はガチの暗殺計画と化していたは、機密にしていた特異点が発見された上に宣伝され賞金首状態になっているは、オオグルマを避難させて隠蔽工作しようとしたら本当にアラガミに襲われて永久に行方不明になるは、もう訳が分からん。

 と言うかマスク・ド・オウガって何だ…旧世界の特撮ではあるまいに…。

 フェンリルの売店にオウガテイルの面が売っている(しかもそれなりに売れている)のを見た時は、思わず心中で遠い目をした。

 

 

 …うむ、やはり愚痴を吐くのも大切な事だな。

 これくらいの地位になり、しかも後ろめたい計画を進めているとなると、懺悔もできなきゃ愚痴も言えん。

 ストレスを吐き出すのは重要な事だ。

 私の場合、女遊びにも現を抜かせんからな…。

 ハニートラップに警戒せねばならん事もあるが、私は今でも妻一筋だ。

 …ヘタな事をすると、ソーマに向ける顔がなくなりそうだしな…今でも父親と思われていないのはわかっているが。

 

 

 やれやれ…しかし、こうなると今後の計画を大幅に修正せねばならん。

 まだ許容範囲ではあるが…本命のアーク計画さえ露呈しなければ、問題はない。

 やってくれたな、ペイラー。

 

 既にマスク・ド・オウガの存在は否定できない程に広まっている。

 極東だけでなく、別の地域にも情報が飛び火し始めている程だ。

 

 こういった情報の飛び火は、一度始まると『全消毒』でもしない限り消える事は無い。

 ならば、存在を肯定し、ある程度情報を弄るとしようか。

 …うまくいけば、マスク・ド・オウガ目当てにゴッドイーターが集まるかもしれんしな。

 

 

 

 さて、まだ幾つか問題はある。

 まずはロシアから呼び寄せたアリサ・イリーニチナ・アミエーラ。

 ロシア支部から貴重な新型使いを呼び寄せておいて、再起不能状態にさせかけている…と言われかねん。

 が、これは彼女の精神状態を明確にせず、対処もしていなかった(私が密かにオオグルマに命じていたのだが)ロシア側の手落ちとして対処。

 

 リンドウはどうする?

 現状、特務を任せられるゴッドイーターは彼以外には居ない。

 今回の一件が警告代わりにはなっただろうが、むしろ私が彼を殺しにかかったと思われているだろうな。

 如何に危険な警告があったとは言え、それで折れるような男ではない。

 元より忠誠心など期待していないが、これからはより慎重な扱いが必要となるだろう。

 とは言え、奴もすぐには動くまい。

 特異点の存在を公にして探している以上、こちらも奴もこれ以上の身動きが取れん。

 …いや、奴は私の計画の裏を探りに来る事は出来るか。

 ガードは既に固めているので、機が来るまでは現状維持だな。

 

 

 

 そして…問題らしい問題にはなっていないが、非常に注目を集めている、謎の農園。

 何故か雨宮指揮官と繋がりがあるらしく、アミエーラもそこに預けられているようなのだが…それはまぁいい。

 アミエーラは手駒として仕込んではいたが、本人は何も知らん。

 例え拷問にかけられようと、致命的な情報は搾り出せない。

 新型使いのデータが取れないのは惜しいがな。

 

 これは是非とも手にしたい案件だ。

 例え私のモノにならずとも、未来に向けて遺せる大きな因子だ。

 アーク計画実行時には、かの農園の主には是非とも方舟に乗り込んでほしいものだ…。

 例え計画が上手くいき、地球からアラガミが消えたとしても、新世界がどのような場所になるのかは私にも予想がつかん。

 人類が生き残ったはいいが、人間の食べられる物が全く残っていませんでした、では意味が無いからな。

 

 

 ふむ…一度、出向いてみるのもいいかもしれん。

 アミエーラは私が引き抜いた人材だ。

 様子を見るとでも言っておけば、建前にはなるだろう。

 なんなら、フェンリル本部の何処かに新たな農園を作るのもいい。

 農園の主が応じれば、の話だが…。

 

 

 

 

神無月主人公日

 

 ツバキさん経由で預かったアリサは、何とか持ち直しているようだ。

 ゴッドイーターとして戦えるか、というと疑問が残るが、少なくとも日常的に錯乱する事は無くなった。

 代わりに、錯乱しそうになる自分を自覚する度、頭を庇っているが……ド突きすぎたか?

 一応ミタマ癒で殴ってたんだが。

 

 ツバキさんも時々、アリサの様子を見に来る。

 立ち直っているかの確認と、俺が妙な事してないかの確認だろうな。

 実際、アリサの洗脳をどうにかしようと思ったら、俺が妙な事するのが一番手っ取り早いんだし…。

 

 そうしない理由?

 ……毎度毎度、洗脳紛いの事ばっかりやってたからな。

 偶には素のアリサを見てみたくなったんじゃないか? 

 差し当たり、アリサを急いで立ち直らせなきゃならない理由もないし。

 

 

 …私見だが、アリサはまだゴッドイーターとして復帰するのは厳しいと思う。

 周囲の人間との軋轢もあるが、それ以前に完全に自信喪失してしまっている。

 極東に来たばかりのアリサの自信過剰な一面は、やはり汚ッサンの暗示によるものだったんだろうか?

 オボロゲだが、「強い子になれるんだ」とか暗示にあった気がするし。

 それを受けなくなった事と、やらかした大惨事が重なって、いい塩梅に心が折れている。

 いっそ、感応現象でどうにかできないか…とも思って、初対面の時に握手を求めて試してみたんだが、やはり不可能。

 

 どーすっかなー。

 ゲームでは暫くの療養の後、主人公にくっついてリハビリしてたけど、今の俺は立場上、それが出来ない。

 ゴッドイーターじゃないからね。

 仮面ライダーアラガミの正体を明かすのも持っての外だ。

 

 ついでに言うと、最近じゃ妙な悩みを持ち始めているようだ。

 一人でブツブツ言ってて、俺が聞いても何でもないと誤魔化されるんだが、なんだ…えーと、く…く……くるすち?になるべきかどうか?

 ロシア語は分からん。

 

 …考えてみれば、ちょっと不義理かな?

 アリサとは何度かアレな関係になってたが、考えてみりゃアリサの母国語の事なんか気にしてなかった。

 平然と日本語使ってたからなぁ…。

 別に恋人の母国語を使えないといけません、なんてルールは無いが、相互理解の一環ではあったろう。

 …簡単な会話くらいはできるように、勉強してみっかな。

 幸い、アリサという練習相手も居る。

 

 

 

 話が逸れた。

 とにかく、なんかアリサはゴッドイーターを続ける自信を失い、なんか別のものに転職するべきなのか、と考えているっぽい。

 ゴッドイーターって辞められんの?

 怖いから止めます、なんて言っても受理されないだろう。

 抑制剤の供給が切られれば、アラガミ化して介錯一直線よ?

 

 と言うか一体何になろうとしてんの?

 最近は妙に農園の手入れに熱心だし、ミミズに慣れようとして非常にイヤそーな顔しながらツンツンしているのも見た事がある。

 

 

 むぅ……なんか妙な方向に突っ走ろうとしている気がするな……まぁ、気が晴れるんならやらせておけばいい。

 こっちには特に損は無い。

 ま、カウンセリングの真似事くらいはしてやりますかね。

 汚ッサンの暗示でツギハギ状態になった精神状態を、独力でどうにかするのは難しいだろう。

 …妙な方向に突っ走ろうとしているのを、止められるかもしれないしね。

 

 

 

 

 さて、アリサの事は置いといて、ストーリーの方はどうしたもんかね。

 リンドウさん暗殺は防げた。

 汚ッサンは始末した。

 特異点は…多分、支部長のサカキ博士もマスク・ド・オウガだと思い込んでるだろうから、シオに手が伸ばされる可能性は低い。

 エイジス計画、並びにアーク計画は準備はほぼ整っている状態だろうが、肝心の特異点が無ければ実行に移す事はできない。

 

 だがタイムリミットがある事には変わりない。

 シオを見つけられず放置しておけば、特異点としての本能が目覚め、前回ループのように意図しない状態から終末捕食が始まってしまう。

 人間と接して知性や情緒を育てなければ、本能に抗う事もしないだろうから、むしろ前回よりもタイムリミットは短くなるかもしれない。

 

 リンドウさんは無事だから、バーストのストーリーは恐らく発生しないだろう。

 立場で言えば、リンドウさんは味方…終末捕食を防ぐという点では…になるだろうから、暗殺シーンの去り際に「特異点を探せ」って言っといた。

 仮面ライダーアラガミ状態だと、スッゲェ喋りにくいのな…声色を変えようとしたのも一因だろうけど。

 ちゃんと伝わったかな?

 伝わってれば、色々と察してくれそうなもんだ。

 

 

 となると、矢張り急務となるのはシオの確保か。

 その方法は…例えばゲームと同じ手は使えるだろうか?

 付近一帯のアラガミを狩り尽くして、シオの食料となる物を消して誘き出す。

 

 …出来なくは無いが、リスクが非常に高いな。

 それだけの勢いでアラガミを駆逐すれば、確実にゴッドイーター達も異変に気付く。

 そこに『何か』が居るのがわかってしまい…『何か』であろうマスク・ド・オウガを捕らえにくるだろう。

 ひょっとしたら、そこでシオと鉢合わせして、本物の特異点を見つけてしまう可能性だってある。

 

 いや、そもそもこれはシオがどの辺りにいるのか、検討をつけていないと実行不可能だ。

 居るかと思われたリンドウさん暗殺シーン近辺にも全く姿は無かったし……何処にいるのか、本気で予測がつかん。

 ウチで作った野菜その他で誘き出す事も考えたが、シオはアラガミしか食べない偏食アラガミだ。

 通常素材(異世界の物も含めて)が囮になるとは思えん。

 

 …やるだけやってみるか?

 この世界の人達が聞いたら、財布の中身を確認して叫びだしそうな話だが。

 なんか知らんけど、予想以上の高値で取引されてるんだよね、生野菜その他…。

 

 GE世界の食糧事情を改革してやる、なんて意気込んでいた俺としては、あまりよろしくない話だ。

 高級食材なんざ、自称食通やセレブが勝手に在り難がってればいいんだ。

 食糧事情を改善しようというなら、もっと安価で、手軽に手に入る形にして広めにゃなるまい。

 

 …まぁ、どう考えたって供給量が足りないんだけどな。

 いくら育つのが速くて手間隙かからないっつっても、極東の人間に行き渡るだけの量だって作れやしない。

 所詮は一区画分の小さな畑なんだから。

 

 

 

 とにかく、シオを確保するのが第一目標。

 アリサも段々と自分で農園の仕事が出来るようになってきたんで、家を開けても問題ないのが嬉しい。

 今までは仕事が終わった後の短い時間しか探索・徘徊に当てられなかったが、これなら2~3日くらい家に戻らなくても大丈夫そうだ。

 

 ここはアナグラと違ってフェンリルの影響下にないから、シオを匿っても騒動を起こさない限りバレる事はないと思う。

 …アリサに事案扱いされなければいいんだが。 

 

 

 

神無月ツバキ視点日

 

 

 雨宮ツバキだ。

 奴の所にアリサを預けてから、時折様子を見に行くようにしているが、何とか立ち直りつつあるようだ。

 とは言え、ゴッドイーターとして復帰できる程ではない。

 

 奴が言っていた、洗脳をどうにかできる方法とやらは?と聞いてみたが、今ひとつ効果が薄いらしい。

 というより、思っていたより洗脳が厄介だったので、一気にどうにかしようと思うと如何わしい手段を取る事になってしまうそうだ。

 却下だ却下。

 自由意志と合意の下にそうなるならともかく。

 というより、それは奴が新たな洗脳を上書きしているだけではないか?

 

 やるなよ?

 フリではないぞ。

 

 さて、それはともかく、折角だからと農園の主に色々聞いておこうと思う。

 奴のコネツテを辿った情報とやらが何処までアテになるかは分からんが、リンドウの一件は確かに事実だった。

 とは言え、一体何を聞いたものか。

 漠然と「危険な出来事になりそうな情報」と聞いても、向こうも返答に困るだろう。

 

 うむ…やはり、最近噂の特異点ことマスク・ド・オウガか?

 以前話した時も、明らかに何か知っているようだったしな。

 最近は、支部長も特異点の存在を明らかにした事もあり、ゴッドイーター達は本腰を入れて特異点を探し始めている。

 特にカレルの奴など、賞金額を聞いてから目の色が明らかに違った。

 

 だが私としては、やはりどうにもひっかかる。

 エイジス計画の何処に、特異点とやらが必要になるのか…。

 私の理解が及ばない専門的な話になるかもしれないが、あの支部長と細目マッドが素直に真実を明かしているとも考えにくい。

 確認をとってみようとしたが、極秘事項という事で私でも閲覧する権限は無かった。

 

 それと、リンドウが探っているらしいエイジス計画の裏とやらも…。

 流石に情報は無いか?

 まぁ、聞くだけならタダか。

 情報の漏洩にならないように、上手く聞き出す必要があるな。

 

 いや、妙に聡い奴の事だ。

 適当な形で合わせてくるか。

 

 

 うん? 

 いや、確かにあそこのメシは美味い(高級食材であっても本人にしてみれば自分が作った物という意識しかないのか)が、それだけが目当てではないぞ。

 ソーマではあるまいし。

 

 …ソーマか。

 以前までの他者を寄せ付けない空気は何処へやら。

 エリックに連れられ、件の農園を何度も渋々訪れている……と思っているのは本人だけで、あそこで餌付けされているのは周知の事実なんだがな。

 

 一度エリックがソーマを連れずに農園に行ったと聞いた時には、本気でエリックを睨んでいたものだ。

 態度は以前と変わらないものの、明らかにソワソワし始めるし、胃袋を鳴らした事もある…極東のゴッドイーターなら、一度は聞いて耳を疑っている。

 愚弟に至っては、「ソーマが好物を前にオアズケされている犬みたいに見えた」とまで言う始末。

 かく言う私も、愚弟に影響されてかソーマに犬の耳を幻視した事さえあった。

 

 子犬というには図体がでかいな…。

 

 

 なんにせよ、本人としては非常に不本意なのだろうが、かつての死神という異名は薄れ、今ではシアン…フランス語で言う犬、という仇名さえ定着しつつある程だ。

 うっかり本人の前で漏らしたコウタが銃撃の的にされかけていた。

 

 私としては、歓迎すべき事だと思うがな。

 ソーマがどう思っているにせよ、人間関係の壁が薄くなれば連携も取りやすくなるだろう。

 自分の周りに居る者は死ぬ、という思いも、何かしらトラウマがあるのだろうが……率直に言うが、その死者の数はゴッドイーターの殉職率と比較してどれくらいだという話だ。

 

 

 

 前置きが長くなった。

 そろそろ行ってみるか。

 

 



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86話

ある休日の朝。
エロい夢を見る。
さぁこれから、といったところで目が覚める。
不貞腐れて二度寝。
幸運にも夢の続きを見れたが、さぁ本番、の直前で目が覚める。
希望を託して三度寝する。


異様なジジイの悪夢を見る。


…このやるせなさを、アリサにぶつけたい!


 

神無月ツバキ視点2日

 

 

 マスク・ド・オウガに関してだけは、一切口を割らんな…しかも口元を引き攣らせて。

 それはそれで、何か自分と関係がある、と肯定しているようなものだが。

 

 ふむ…特異点。

 信じ難い話だが、特異点であるアラガミは人間同様に進化し、また理論上はコミュニケーション…つまり会話などの遣り取りも可能である、とサカキ博士から聞いている。

 マスク・ド・オウガの知性は、明らかに人間並みだ。

 つまり人間並みに『進化』していると考えられる。

 

 独力で?

 確かにありえないとは言い切れない。

 だが人間同様に進化、進歩するというのなら、やはり何かしらの形で対話する相手は必須なのではないだろうか?

 

 もしも私の考えが正しいとするなら…マスク・ド・オウガは、既に何者かと接触している可能性がある。

 その何者かの思惑までは分からんが、知ってか知らずかそいつは特異点を育て上げた。

 それこそ、仮にもアラガミであるというのに、自然に人間を助けて全く疑問を抱かないくらいに。

 

 …いや、人型ではあるが、一見して人間ではないと分かる形をしているのだ。

 まず間違いなく、特異点と知って育て上げたのだろう。

 そいつの目的は分からんが、な。

 

 ひょっとしたら、マスク・ド・オウガの住処…本拠地は、まだそいつの元にあるのかもしれん。

 そう、自分を拾って、育て上げた何者かの元に。

 

 そう言えば、この近所に殆どアラガミが居ない区域があったよな?

 フェンリルの防護壁の外にあるというのに、アラガミ恐怖症になりかけているゴッドイーターを平然と預けられるくらいには、アラガミが居ない区域が。

 

 

 

 …と、言うような確信を、奴の前でプレッシャーをかけながら話していたんだが……なんというか、その、視線が痛い。

 途中までは目を細めて聞いていたというのに、不意に「え?」みたいな顔になり、そこから更に「何言ってんだ…」みたいな、熱の感じられないテンションになった視線が痛い。

 

 うう…ま、間違っていたのか?

 いやしかしまず間違いなく、マスク・ド・オウガの本拠地はここに近い場所にある筈。

 ここの異様なアラガミの少なさがその証拠だ。

 細部はともかく、大筋は間違っていない筈…。

 

 だが、あの視線でちょっと自信が……いやいや、あれは真実を誤魔化す為のフェイクだ、きっとそうだ。

 もしも間違っていたら、アレ賭けてもいいぞ。

 …うるさい、未経験だ文句あるか。 

 琴線に触れる奴が居たら…とか別に思ってない。

 

 

 

 

神無月主人公視点日

 

 

 何とかツバキさんの思い込みを、正体を明かさず解けないだろうか。

 そうすりゃ、かなり前のループでお付き合いし損なってたツバキさんと……。

 

 …まぁ、欲望9割本気1割の冗談はともかくとして。

 真面目な話、どうしたもんか。

 ツバキさんの推測は思いっきり間違ってはいたものの、マスク・ド・オウガこと仮面ライダーアラガミの本拠地がここである事は間違いない。

 間違っているのは致命的な一点…マスク・ド・オウガは特異点じゃないって所だ。

 

 嗅ぎまわられると厄介な事になるかもしれない。

 ツバキさんは指揮官という立場上、ゴッドイーター達を動かしてこの辺を警戒させる事だって出来るんだしな。

 

 だからと言って、ツバキさんを相手にアリサにしたような洗脳紛いの術が通じるとは思えない。

 エロ・悦楽的な意味ではオカルト版真言立川流は通じると思うが、それで相手を意のままにできると思ったら大違いだ。

 中毒性はあるし、刷り込みだって可能だが、悋気が消せる訳でも、自由意志が無くなる訳でもない。

 そんな術だったら流石にホイホイ使わないし、そもそもいつぞやの討鬼伝世界で那木に射られてない。

 

 例えエロイ事して男女の仲、もっと言えばご主人様と(PI-)的な関係になったとしても、指揮官としてのツバキさんは折れそうにない気がする。

 方向性とレベルこそ違うが、ナターシャさんと同類だろあの人。

 

 

 そんな事を考えていたら、アリサからちょっと距離を取られていた。

 なんだ?

 何をドン引きしてるんだ?

 

 …よく分からないけど獣欲を感じた?

 まぁ、否定はせん。

 過ぎ去った過去の、まだ色々と慣れていなかった頃に感じたお姉さんの色香へのトキメキというものを邂逅していただけだ。

 

 

 …理解できなかったらしいがドン引きされた。

 誤魔化せたからいいや。

 

 

 

 

 ところで、今日は珍しい人が来た。

 今まであんまり絡む事は無かった、防衛班のカレルさんだ。

 率直に言って愛想が悪い。

 何故かソーマも一緒に来ていて更に悪い。

 いいから玉ねぎ焼いたの食っとけ。

 

 が、多分カレルさん本人にしてはそれなりに礼節を持って対応したつもりなんだと思う。

 何故って、商談の為に来てたんだから。

 

 カレルさんの事はあまり知らないが、報酬を非常に重視する人だったのは覚えている。

 それが一体何事だ…と思ったら、やっぱり金の話だった。

 カレルさんは病院を経営しているそうな。

 本人に医師としての技術は無くて、経営者って話だが…なんか意外だな。

 ゴッドイーターって副業アリなのか?

 と言うか、カレルさんが経営者って事は、フェンリルとは関係ない病院だよな?

 このご時勢だと、あんまり大きな規模にはできないだろうし、客も豊かな人じゃないと思うが。

 

 ともかく、そこで農園で育てている薬草…それこそ回復薬に使えるような奴や、麻酔代わり、解毒薬とか…を使わせてほしいらしい。

 対価の話もキッチリ持って来ている辺り、相当入れ込んでいるっぽい。

 

 まぁ、こっちとしては別に構わない。

 これまで出荷してきた野菜その他も、決して高値で売っていた訳じゃない。

 それこそ、アリサが値段を知った時は「何でこんなに安く売ってるんですか!? 絶対マージンを取られてます、ボッタクリってレベルじゃないくらい!」と叫び、自費で購入しようとするくらいには。

 出荷していった先でどんだけ高騰してるのやら。

 話には聞いていたが、想像以上だったようだ。

 

 

 カレルさんはカレルさんで、こっちが指定した価格を聞いて絶句し、そして安すぎると激怒してきた。

 金の大事さを懇々と解かれた。

 金で何ができるか、金が無かったら何ができないか、人生…例えば老後や引退後にどんな影響があるか、その他諸々…。

 金で買えない物は山ほどあるが、金で解決できる問題もある。

 金で解決できる問題は、金で解決するに越した事は無い。

 

 …うーむ、単なる守銭奴じゃないんだな。

 言い分は分かるし、俺ももっと高価にして売ってれば、色々な道具を揃えられた、とは思う。

 

 だがこっちにだってそれなりに言い分はあった。

 俺の今回の目的は、この世界の食糧事情その物の改変、改善だ。

 無計画に垂れ流してりゃナントカなるとは思わないが、高価な食材を流通させたところで、一般に行き渡らなければ意味が無い。

 最初は高値で売って、そこから徐々に流通数を上げて、値段を下げていくのが正しい道筋なんだって事も分かる。

 

 が、それをやっていたら、恐らく今回のループが終わるまで…俺が死ぬまでに間に合わないだろう。

 終末捕食が起こったら、どっちにしろ地球人類まとめてオダブツだけど。

 

 流通させている植物は、MH世界のもの…総じて早熟で、繁殖力に優れていて、放っておいてもある程度育つくらいに生命力が溢れている。

 育てようと思ったら栄養が豊富な土が必要になるが、そこはやっぱりMH世界製の堆肥でどうにかなる。

 ついでに言うと、堆肥はそんなに高値では取引されてない……やはり元がフンというイメージだからか、それとも裕福そうには農業に詳しい人間が居ないのか。

 ある意味、食材よりも注目すべき一品なのに。

 

 とにかく、俺が流通させようとしている野菜は、一定の準備を整えれば、何処でも、誰だって育てられるシロモノなのだ。

 一定の準備というのは、決して高くは無い堆肥と水分でどうにかできる……本当の農家が聞いたら、ふざけんなと叫びたくなるような話だが。

 

 そう、俺の本当の目的は、これらの食材を、世界各地で育てさせる事なのだ。

 どれだけ高価な道具があっても、どれだけ広い土地があっても、俺一人…アリサも含めれば二人か…で栽培した量じゃ、食料革命なんかできやしない。

 俺が居なくなっただけで、もうジ・エンドだ。

 

 決して時間はかけられない。

 博打にも近い方法しか思いつかなかった。

 …まぁ、思いっきり負けた訳だが。

 

 安い値段で売り出せば、裕福でない人でも運さえあれば手に入れられるかもしれない、と思って。

 だがその結果は大負け。

 安い値段で売り出しても、勝手に値段が釣り上がる。

 偶然にも、極東付近の一人の男が、値段が上がる前の野菜を買い入れたのだそうだが………食ってそれまでだった。

 種を保存して育てるという事を思いつかなかったようだ。

 

 …という事を、ループやらタイムリミットやらの事を上手くぼかして説明した。

 

 

 そーだよなー、よく考えればそれまでだよな。

 元の世界に居た頃だって、店でトマトとかスイカとか買ったって、種を保存して育てようなんてまず思わないもんなぁ。

 いや、スイカはやるかな?

 

 計画に根本的なミスがあったというか、そもそも「こうなったらいいな」を適当にコジ付けただけで計画にすらなってなかったというか。

 

 それを知られた時、カレルさんにマジで射抜かれかけた。

 金の管理を疎かにするのがそんなに許せんか。

 

 …いや、うん、普通そうだな。

 家系の維持に四苦八苦してる隣で、「ほら明るくなったろう」なんて一昔前の成金イメージみたいな事を実際にされたら、蹴り倒して掻っ攫ってトンズラするわ。

 

 激昂が治まり、カレルさんは暫く考え込んでいたが、薬草その他の対価を下げる代わりに、経営に口を出させろといってきた。

 要するに、「お前に任せておくと貴重な収入源が消えそうなんで、アドバイスしてやるからありがたく思え」って事?

 

 「察しがいい奴は嫌いじゃないが、お前の場合は金銭の杜撰さで大幅マイナスだ」だそうだ。

 つまるところ、そーいう事ね。

 ま、俺としてもアドバイスを貰えるならありがたい。

 MH世界でギルドマスターとしてのノウハウをちっとも溜め込んでなかったからな…。

 今更ながらに覚えておいてもいいだろう。

 

 何せ、こう言っちゃなんだが、俺には「手遅れ」って言葉が極端に少ない。

 デスループを続けていけば、どんな場面だって二度目のチャンスがあるのかもしれないのだから。

 

 さぁ、ご意見番となったカレルさんも一緒に、GE世界の食料改革、再スタートだ。

 カレルさんとしては、放出する食材その他を適正価格…現在、世界各地で取引されている高値の額…で扱いたいのだが、一度設定した価格を急激に変えると厄介な事になるらしい。

 まぁ、何だかんだで俺の農園は弱小勢力だ。

 「何でいきなり高値にしやがった!?」なんて集団で攻めてこられたら、あっという間に干上がってしまいかねない。

 …物理で攻めてくるなら、支部一つ二つくらい叩き壊せる自信があるんだけど。

 ただしマスク・ド・オウガの正体がバレそうだが。

 

 暫くは徐々に値を吊り上げていき、こちらの戦力(資金力)が充分に溜まるまでは小出しにしていく事になった。

 これが経済的に正しい事なのかは分からん。

 何せ、GE世界という限りなく追い詰められた世界での、更にイレギュラーな物を扱っての商売だからな。

 

 

 …ただ、カレルさんの場合…いきなり薬草その他の値を吊り上げると、自分もそれだけの金を支払わないといけないからなぁ…。

 まずは薬草とかを安価で仕入れられる状況を崩したくなかったんじゃなかろうか。

 

 

 

 

 

神無月主人公視点2日

 

 

 商談が曲りなりにも成立して、カレルさんは意気揚々と……訂正、クールな様子で帰っていった。

 いや、クールじゃなくてドライかな?

 少なくともソーマよりはハードボイルドだと思う。

 だってピーナッツ貪り食ってたし。

 

 

 俺とカレルさんが徹夜でなんやカンヤ商談して、アリサがスープ作ってくれる横で静かな寝息を立てていたこの孤高(笑)のゴッドイーターは、最近頻繁に来ては食うだけ食って帰っていく。

 タカリか。

 まぁ、色々あるのは知ってるし、割と洒落にならない事情を拗らせちゃった奴だって事も分かるんで、そこまで腹は立たないが。

 むしろ腹を満たしてやってるが。

 

 …それ、カレルさんに言わせりゃ最高級のフルコース並みの価値があるそうなんだからな?

 いつか恩に着せてやる。

 

 

 

 

 ところでだな、ちょっとゲームのワンシーンを思い出したんだわ。

 シオがソーマにやたらと懐いてたのは、自分と同じアラガミの部分を感じ取ってたからだ。

 確か、「視線を感じた事はないか」みたいな事を聞かれていた、よーな気がする…定かじゃないが。

 

 その視線がシオのものだったというのは、充分にありえる話だ。

 自分と同じ、人間に近いアラガミか、アラガミに近い人間を見つけて、コッソリと様子を伺っていた…ありそうな話じゃないか。

 

 つまり、ソーマのすぐ近くにシオは居るんじゃないかと思ったんだ。

 だから、帰っていくソーマの背後を着けてみた。

 

 

 

 

 

 

 バレた。

 姿を見せないようにしてダッシュで逃げた。

 ソーマだけならともかく、賞金がかかったカレルさんと組まれるとマジでヤバそうだった。 

 

 むぅ、これ多分ツバキさんに報告行くよな…誤解がまた進んでしまいそうな気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところでさ、かくれんぼってやった事あるだろ?

 鬼が相手を探す時、一番見つけにくい場所って何処だと思う?

 …自分の後ろ。

 

 でもって、後ろに隠れている奴が一番見つかりやすいのってどういうシチュエーションだと思う?

 …鬼がいきなりUターンしてくる時さ。

 

 

 

 

 

神無月アリサ視点日

 

 

 事案です。

 事案です。

 

 大事な事だから二度言いました。

 そしてもう一度事案です。

 

 …あのですね、マスター。

 はい?

 いえ、単に農園の主だからマスターで。

 マスターはロシア語、あんまり分からないみたいですし。

 

 ええ、英語で言えばEmployerなんですけど、シショーでもありますし。

 NOUKAの。

 

 …話を逸らさないでください。

 とにかくですね、マスター。

 私はマスターの事を信頼しています。

 

 マスターは未熟者、半人前以下と自嘲していますが、私にとっては立派なNOUKAです。

 しかも世界を変える事が出来るような大きな可能性を秘めたNOUKAです。

 毎日丁寧に畑の手入れをしているのも見ていますし、先日カレルさんと話していた一件を聞いて、何故こんなにも貴重な物を安価で売っているのか、その理由も分かりました。

 私に丁寧にノウハウを教えてくれているのも感謝しています。

 

 男性としても信用しています。

 古来より全国各地でオトコハオオカミナノヨと言い伝えられていますが、少なくともマスターは紳士的でした。

 ここで暮らすようになってから、身の危険を感じた事はありません。

 

 …どうしました、そんなオウガテイルがヴァジュラの雷食らったような………か、顔して。

 ふぅ、また錯乱するところでした。

 

 

 ええ、とにかくNOUKAとしてもシショーとしても男性としても、私はマスターを信用しているんです。

 その上で聞きます。

 

 

 

 

 

 

 真昼間から、マスターが何よりも大事にしている畑の上で、年端も行かない少女を組み敷いていたのは何故ですか!?

 

 

 

 

 何かしら、何かしらの理由があるのですよね!?

 今まで紳士だと思っていたマスターが、実はロリ……いえ、むしろペ○フィリアだったから私に興味が無かっただけとか言いませんよね!?

 もしそんな話だったら、色々と連鎖崩壊するんですが、マスターへの信頼からNOUKAへの決意からこの生活での安らぎまで、本当に色々と。

 

 あ、ひょっとしてこの子、何日か前から畑に入り込んでたんじゃありませんか?

 畑の手入れをしている時、妙な違和感を感じてました。

 何がおかしかったのか分からなかったんですが……そうです、誰かが葉や枝を掻き分けた痕跡だったんですね。

 足跡は流石に残っていませんでしたが…。

 

 

 

 

 しかしそうなると、私としても頭に来るのですが。

 大事な、未熟ながらも手塩にかけた農園に、部外者が土足で入り込んできているんですから。

 

 …で、マスター。

 結局どういう事ですか?

 この白い女の子。

 

 ボロボロの服を着て、マスターに取り押さえられて逃げようとしていたかと思えば、妙に大人しくなってますし。

 と言うかマスターに懐いているように見えるんですが。

 でも一言だって喋らないし。

 

 とりあえずこの子に服を着せないと……ああ、でもサイズが合う服がありません。

 ダボダボでもいいから、私の服で何とか……はい?

 露出度で言えば、今のボロ布の方が低い?

 

 

 

 クッ、割と本気でパンチしたのに、一発も当たらないなんて…。

 

 

 だったらせめて、ボロ布じゃなくてちゃんとしたシーツにしましょう。

 私の使っていいですから。

 

 ああもう、暴れない!

 ちょっとマスター、手伝ってください!

 俺がやるとまた事案される、じゃないです!

 

 

 

 

 

 はい?

 

 

 

 

 …ゴッドイーター顔負けの速さで、扉を叩き斬って逃げ出してしまいました。

 そう、叩き斬って、です。

 見間違えでなければ、右腕から刃が伸びていたように見えます。

 しかも、到底隠しておけないようなサイズの刃が、腕から直に伸びていたような…いえ、これは流石に錯覚だと思いますが。

 

 ただ、あの刃の形、一度見た事があります。

 と言うか間違いでなければ、峰で頭をド突かれた事さえあります。

 

 

 そう、あの時の……マスク・ド・オウガのブレードにそっくり…?

 

 

 

 

 

 

神無月アリサ視点2日

 

 

 えーと。

 マスターから色々教えられて、正直ちょっと混乱してます。

 野菜達に水をあげて、心を鎮めてきました。

 

 

 あの子が、アラガミ…?

 しかも、極東で噂になっていたあの特異点?

 ですが、特異点とはマスク・ド・オウガの事では?

 

 いえ、ひょっとしたらあの子こそがマスク・ド・オウガなのかも。

 だってブレードが同じ…でも流石に体格が違いすぎます。

 あるとすれば、変身能力でもなければ説明がつきません。

 人間と同様に進化しているアラガミが、変身能力なんて持つでしょうか?

 

 まあ、アラガミはどんな進化をしてもおかしくないんで、在り得ないとは言い切れませんが。

 

 

 しかし、あの子が本当にアラガミだとするなら、何故ここに居たんでしょう?

 マスターに懐いているように見えた…見えただけかもしれませんが…のも謎です。

 

 ……マスターから美味しそうなニオイでもしたんでしょうか?

 でもそれなら懐いたりせずに、齧り付くような気がします。

 ああ、ですけど特異点は人を食べないんでしたっけ。

 

 

 

 …いえ、それは置いておきましょう。

 私は極東支部に居た時、特異点にはあまり興味がありませんでした。

 エイジス計画の要になるとは聞いていましたが、私はあのアラガミを討つ事ばかり考えていましたし。

 

 今も、エイジス計画よりもあのアラガミを倒す事の方が重要なのには変わりありません。

 ですが、エイジス計画が上手くいけば、人間にとっての安息地が出来る……これに反対する程、世を捨ててもいません。

 

 

 ですので、特異点(極東ではマスク・ド・オウガと思われていますが)発見の情報をフェンリルに流すべきだと思うのですが……何故かマスターから厳命を喰らいました。

 絶対禁止、と。

 情報一つ漏らすな、と。 

 

 …マスターは何を考えているんでしょうか?

 ひょっとしたら賞金目当て?

 特異点ことマスク・ド・オウガには、多額の懸賞金がかけられています。

 情報を流す事ではなく、完全に捕まえてから引き渡す事で、懸賞金を手にする…?

 

 

 でも、その気になればマスターは出荷する野菜の値段を釣り上げる事もできるんですよね…カレルさんの意見次第ではありますが。

 それに、マスターは目先のお金に釣られる人ではないと思います。

 あんまりいい事ではありませんが、むしろ道具としてのお金にしか興味が無いような……極東では「宵越しの金は持たない」と言うんでしたか?

 一晩明ければ…とまでは言いませんが、何と言うか「持っていけないモノ」としてみているような気がします。

 

 

 …とにかく、マスターが私欲の為に情報漏洩を禁じたとは思っていません。

 ですが、特異点の存在がエイジス計画の要であるのも事実らしいですし……マスターの意向に背いてでも、人類の為に特異点発見の報を入れるべきでしょうか。

 

 

 …いえ、止めましょう。

 非常に矮小な話で申し訳ありませんが、今の私はマスターの好意でここに身を置いています。

 もしもマスターの意向に背いてしまえば…まだゴッドイーターに戻れるとも思えない私は、居場所を失ってしまいます。

 人類の進退に関わる話とわかってはいますが……私は、怖い…。

 

 

 

 まぁ、どっちにしろあの子を捕まえないとどうにもならないお話ですが。

 それにしても、やはりあの子がアラガミだとは信じられませんね。

 やっぱりマスク・ド・オウガが特異点で、あの子に関してはマスターのホラだったりしないでしょうか。

 あ、でもそうなると何故ホラを吹いたかという話になり……それはやっぱり、マスターがあの少女を襲おうとしたペ○フィリアである事を隠すためって事になりませんかね?

 

 

 

 と言うか、今更の話になりますが、一体マスターは何者なんでしょうか?

 特異点云々が真実だったとして、何故にそんな事を知っているのでしょう。

 ゴッドイーターはその職務上、一般人に知らされない事を知らされる事もありますが、恐らく特異点に関する情報は各支部の支部長でも知っているかどうか、というレベルです。

 そんな情報を平然と話すは、出所の分からない謎の植物を育てて世界改革を企んでいるは、もう意味が分かりません。

 

 

 

 

 




不思議のクロニクルの外伝を書こうかと思ったけど、まだノーマルエンドしかみていない。
うーん、もうちょっと真エンドとか見てからだな…。


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87話

東方紺珠伝、届きましたー!
久しぶりの新作だぜイヤッフゥー!
…と思ってイージーモード(きもーいと言わないで)で完全無欠モードクリアしましたが、スッゲェ厳しい…。
特に地獄の妖精が。
コントローラーも効き難くなってるし、買い換えた方がいいかな。

ところで、月半ばくらいに実家に帰省するんですが、旅のお供にルミナスアークインフィニティか、ルーンファクトリー4を考えています。
どっちにするべきか…。
3DSに限定せず、PSvitaでも可。
キャラを死なせるのは苦手だから、トリリオンはパスして…実家に帰ってまでダークな気分になりたくないので、気軽な雰囲気のゲームがいいなぁ…。
出切れば後の外伝にも使えるといいんですが…。


神無月主人公視点日

 

 

 シオ、発見。

 シオ、捕獲開始。

 シオ、取り押さえ成功。

 

 お着替えタイム。

 

 シオ、逃亡。

 

 

 

 ぬぅ…なんだこの、なんだこの……茶番?

 

 そういや、ゲームでも服を着せられそうになって脱走してたよな。

 …ゲームの流れを辿ってる、のか?

 前回ループでも、リンドウさんとナナを相手に似たような事したのかな。

 

 まぁ、とにかくだ。

 俺はシオが、ソーマをコッソリ観察してるんじゃないかと思って、あいつの跡を追い、気付かれて逃げてきた訳だ。

 姿を隠したまま逃げられたのは幸いだったな。

 

 で、家まで戻ってきたんだが……農園をウロウロしていたシオとバッタリ会いました。

 とりあえず捕縛したはいいんだが、アリサにはあらぬ嫌疑をかけられるし、結局扉をぶっ壊して逃げ出すし。

 

 …だが、分かった事が幾つかある。

 シオはどうやら、ソーマではなく俺を観察していたらしいのだ。

 見つけた時、俺やアリサの真似をするように、野菜の葉を弄り回していた…適当に弄っていたようだったが。

 

 何故? と思ったが、それほど不思議はなかった。

 普通のものじゃないが、今となっては俺もアラガミみたいなもんだ。

 ソーマと俺と揃っているのに、俺の方を観察した理由は分からんが…俺は純正のアラガミじゃないし、普通の半アラガミでもないと思うんだが。

 

 いや、だからこそか?

 同じアラガミなのに明らかに違う、そんな俺が気になったのか?

 …分からんな。

 シオは恐らく、まだ人間との触れ合いが全く無い状態だ。

 本来なら死に欠けのリンドウさんを助けて、ちょっとした言葉くらいなら教わっているかもしれないが、そのリンドウさんの暗殺計画を防いだ為に接触の機会は失われている。

 文字通り、シオは真っ白の状態だろう。

 行動にちゃんとした根拠や理屈があるか、非常に怪しい。

 それだけに、シオの行動が読みづらいんだが……。

 

 

 まぁいいか。

 とにかく、シオとの最初に接触は成った。

 アリサが服というかシーツを着せようとしたおかげで逃げられてしまったが、どうやら俺に好意的だってのは確認できた。

 なら、警戒しつつもまた寄ってくるのは予想が出来る。

 …アリサが近くに居る時はどうかな。

 

 今度は背後に気を配っておくか…。

 しかし、アリサじゃないが、確かにあの格好のままなのは無いよな。

 万が一、ゴッドイーター達に目撃されても誤解されないように、怪しくない程度の格好は確保しておきたい。

 ゲームではサカキ博士が発案し、リッカさん達に頼んで服を作っていたが、今回のループではその両方にツテが無い。 

 サカキ博士に至っては、ヘタに繋がりを作ると即座に特異点やマスク・ド・オウガの正体を見抜かれそうな気がする。

 頼むとしたら、リッカさん達かな…。

 

 どうせ頼むなら、前ループ以前に蓄積したデータを渡した方がいいかもしれんな。

 フィードバックも期待できるし、それだけの技術が広まればゴッドイーターの生存率だって上がるかもしれない。 

 問題は乗って来てくれるかどうか、だな…。

 

 一番信用が置けるのはリッカさんだが、一番ホイホイ乗ってきそうなのは鬼杭千切用のパイルバンカーを開発したあの技術者だ。

 でもあの技術者の方は、周りに隠す事なく突っ走りそうだ。

 

 リッカさんか…そういえば、結構前に農園に来てたけど、殆ど話せなかったな。

 この機会に接触を持っておくか。

 この農園に自前の端末は無いが、アリサが持って来た端末を経由してメールを送ればいいだろう。

 通じるとは思わないけど、サカキ博士が以前のループでくれたIDとパスワードで適当なアカウントを偽造して送信。

 

 まぁ、シオ用の服に関しては、やっぱりシオを捕らえてからになるけども…。

 

 

 

 

神喰月リッカ視点日

 

 

 いやー、終わった終わった。

 整備班の月末は地獄だよホント。

 棚卸しもあるし、神機の一斉メンテもあるし、神機以外にも色々と月一回以上の検査をしないといけない仕事が溜まって溜まって。

 普段からちょっとずつ片付けていけばいいとは言うけどさ、私だって色々やりたい事、研究したい事があるんだよね。

 勿論、それにかまけてばっかりで、何処かに不具合が出たら本末転倒なんだけど。

 

 でも、それをどうにかこうにか遣り繰りして、今まで色んな研究を積み重ねてきたんだ。

 父さんの代から研究している課題も、ちょっとずつ、本当にちょっとずつだけど、形になり始めている…と言っても、基礎理論の更に基礎がようやく定まってきた程度だけどね。

 

 こういう試行錯誤を繰り返して、ちょっとずつ大きなモノを作っていく喜びっていうのは、技術者共通のものだと思う。

 そりゃ完成したら名声を得られるとか、金銭的な見返りが期待できるとか、そういった下心もあるけどね。

 言っちゃなんだけど、こういう作業が好きじゃないと、技術者、特に研究者なんてやっていられない。

 

 

 だからこそ、ね…これはちょっと許し難いなぁ…。

 

 

 月末月初の作業が一段落ついて、溜まっていたメールを確認してたんだけど、その中に知らないメールアドレスが混じっていたんだ。

 所謂、迷惑メールって奴かな?と思ったんだけど、フェンリル内部にまでそんなメールを送ってこれるツワモノはまず居ない。

 何より気になったのが、偶然なのか調べたのか、メールのタイトルが私が以前から研究しているテーマについての事だったからだ。

 

 偶然なのか、とは思ったものの、それは考えづらかった。

 だって、父さんの代から研究しているテーマではあったけど、その理論やデータは殆ど注目されていない。

 フェンリルは、机上の空論と断じてしまった…まぁ、そう言われても反論できない段階だって事は事実なんだけど。

 

 とにかく、研究で使っている一部の言葉は、正式に認定されていない、それこそ私しか使っていないような造語さえある。

 その誰にも話してない筈の造語が、そのままメールのタイトルに使われていたんだ。

 

 正直、嫌な予感がしたよ。

 いや、別に論文が流出したって、あんまり困らないんだけどさ。

 どうせ今のままじゃ使い物にならないデータだし。

 

 

 だけど、その予感は大当たりだった。

 ウィルスとかのトラップが無いかを確認してメールを開いたら、そこにあった添付ファイルは…大当たり。

 私が研究していたテーマを、もっと完成に近づけたモノだった。

 ただし、中核となる部分が明らかに削除されている。

 

 そしてメールには一言。

 「これについて詳細を知りたければ、依頼を受けられたし。詳細は某農園にて」とあった。

 

 

 

 

 …うん、確かにこれは興味深いよ。

 あっちこっちのログやら記録やらに、今より未来の日付が入っている。

 捏造や改訂されたものじゃない…捏造したら、必ず何処かでデータの整合性が合わなくなる筈なのに、それが無い。

 つまり、この日付は本物…未来で作られたデータ?

 

 それに、このデータのあちこちに見られるクセ…論文なんかにも、その人特有のクセが出るものなんだけど、それが手に取るように分かる。

 分かる筈だ。

 だって、このクセは私のクセだもの。

 …私じゃない私が、これを作ったの?

 

 いや、それはいいんだ。

 この日付の真贋はともかくとして、是非ともこの資料は欲しい。

 理論の完成に、大きく近付く。

 

 

 

 

 でもね、だからこそ私は許せない。

 技術者のプライドってものを、まるで理解せずにデータを投げてきたこの蛮行が。

 

 さっきも言ったけど、研究者の真髄、真骨頂は、地道な実験と試行錯誤の繰り返しだ。

 革新的な技術とかブレイクスルーなんていうのは、試行錯誤をやり尽くした辺りで出てくる程度で丁度いい。

 先達の積み重ねの上に自分の積み重ねを載せて、次代へ渡していくのが研究者だ。

 

 だけども、こんな風にデータだけ放り投げられて、納得できると思う?

 調べ、試行錯誤する楽しみを奪われた。

 知らない誰か…単純に考えれば、信じ難いけども自分ではない自分…が必死に積み重ねてきた結果を、釣りのエサのようにホイッと放り投げられる。

 

 技術者特有の、いや私特有の感性かもしれないけど……許し難い。

 

 

 いいでしょ、この誘いに乗ってあげる。

 でも、このデータ欲しさにいくんじゃない。

 一発、スパナで殴ってやる為に行くんだから。

 

 確か、あの農園…一度行ったきりだったけど、今はアリサが滞在していた筈。

 新型神機の使い手が、どうなっているのか確かめておくのもいいかな。

 

 よし、善は急げ!

 スパナと、念の為にハンマーとかスタンガンとか用意していくよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 スタンガンどころか事案だった。

 手錠を持ってこなかったのが悔やまれる。

 

 

 

 

神喰月リッカ視点2日

 

 

 えーっと、何がなんだか分からないけど、この子が特異点?

 確かに、人間のように見えて人間じゃないみたいだけど。

 マスク・ド・オウガじゃなかったの?

 

 うーん……ウソ…じゃなさそう…。

 フェンリルに報告しないの?

 まぁ、なんだかカワイイ子だし、フェンリルに渡したら解剖とかされるかもしれないし、通報を躊躇う気持ちも分かる。

 でもやっぱり事案かな…だけど、この子は農園の人に懐いているみたいに見えるし…いや、だからってこれはちょっと…。

 

 

 

  首  輪  は幾らなんでもないと思うんだけど?

  

 

 ギリギリでチョーカーと言い張れない事もないけど、でも長い紐ついてるじゃない。

 思いっきりリードじゃない。

 確かに何処かに結びつけるような事はしてないし、つけられている本人も紐にじゃれついて遊び道具にしているけど。

 

 これが無いと気紛れに何処かに行くのを捕まえられない?

 「ハウス」と「お手」を仕込んでいる最中?

 …いえ、お手はいらないでしょお手は。

 

 そっちはアリサの趣味?

 なんだか子犬みたいでカワイイ?

 …まぁ気持ちは分かるけど……いややっぱり首輪、でもチョーカーだし…と言うか服がボロ布じゃない。

 

 

 ……はぁ、あのデータを送ってきたのはキミで、この子…シオちゃんの服を作ってもらう為?

 それはこの際いいけどさ……ふぅん、普通の服だと嫌がって逃げるのね。

 だからアラガミ素材の服を作る……でも、材料どうするの?

 幾ら私でも、横流し染みた真似はできないよ?

 言っちゃなんだけど、アリサは戦えるようになってる?

 多分、材料を集めている途中でヴァジュラとも交戦する事になると思うけど…。

 

 

 …分かったわ。

 確かに、いつまでもここで暮らせる訳じゃないか…。

 

 でも、すぐにはやっぱり無理ね。

 アリサを戦線に出すかどうかは私達が決める事じゃない。

 雨宮指揮官に許可をとらないと。

 

 それに、戦ったりリハビリしたりはしていないでしょ?

 やっぱり、訓練兵扱いからやり直しって事になるんじゃないかな。

 

 こっちから申請はしておくから、数日中に連絡が来ると思うよ。

 材料が集まったら、私のところに持って来てね。

 それまでは……うん、シオちゃんはこのままって事になるから。

 事案にならないように頑張ってね。

 

 

 

 

 

 うん?

 研究のデータ?

 

 …要らないよ。

 引っ叩きにきたつもりだったけど、面倒になっちゃった。

 

 

 

 

神喰月アリサ視点日

 

 

 ついにこの時がやってきました。

 ゴッドイーターとして復帰する時が。

 

 わかっていた事です。

 そしてそれが望みでもあった筈です。

 ゴッドイーターとして再び戦い、パパとママの仇を討つ事が。

 

 この居場所は…許されるのなら、私の第二のホームと呼びたい…、再び立ち上がれるようになるまでの止まり木であると、わかっていました。

 ここに来た当初は、もう立ち上がれない、もう無理だとずっと思っていましたが……人間って案外しぶといと言うか懲りないですね。

 

 美味しいご飯を食べて、精神的にも肉体的にもゆっくり休んで、気が付けば錯乱しそうになる癖(?)もなりを潜めていました。

 マスターは「汚ッサンに煽られなくなったからかな」とか言ってましたが、汚ッサンって誰でしょう?

 まだ、ヴァジュラと実際に相対した時にどうなるかは自信がありませんが、全く何もできないという事は無いと思います。

 

 …錯乱した時、頭をド突かれる衝撃を思い出せば、なんか冷静になれるようになりましたし…。

 リンドウさんが言っていた、動物の形の雲を探すより効果があります。

 思い出すだけでも非常に痛いですけど。

 

 

 例え錯乱しなくなっていても、楽な道である筈がありません。

 信頼も失われていますし、あの頃の私の言動の為に好感度は限りなく低い。

 ゼロどころかマイナスからのスタートになります。

 

 でも、それくらいで丁度いいでしょう。

 

 

 

 ゴッドイーターに加え、NOUKAとしての修行だと思えば!

 

 見ていてくださいマスター、私は、アリサはやります!

 ゴッドイーターとして、そしてNOUKAとして更なる成長を遂げて帰ってきます!

 ここで学んだ事、そしてマスターへの恩を決して忘れません!

 

 

 …と意気込みはしたものの、出撃しない日はこちらに戻ってくるつもりなんですけど…い、いいでしょうか?

 

 …はい、ありがとうございます。

 少なくとも、私に分けてくれたシモフリトマトの種を育てて収穫するまでは死んでも死ねません。

 

 それに、シオの事も心配ですし。

 ……い、いえ、マスターをペ○だと疑ってる訳じゃないんですよ!?

 どっちかと言うと微妙に非常識なマスターの言動に影響されて、シオが無茶苦茶な事を言い出さないかと心配で!

 

 …あ、自覚はあるんですね…。

 それにしても、頭のいい子です。

 2~3日前に捕まえたばかりなのに、私達の言葉をどんどん理解している…。

 

 でも一番最初に教えた言葉が「オナカスイタ」はどうなのかと。

 まぁ確かに、特異点でマスターに懐いていると言ってもアラガミですから、飢えさせると危険というのは分かります。

 だから空腹を感じたらすぐにそれを訴えるようにするのは、理に適ってはいますね。

 

 まぁとにかく、シオちゃんにお手は教えましたが、まだおかわりを教えていません。

 そういう意味でも、またここに戻ってきます……多分、3日後くらいには。

 

 

 

 それにしても、シオ…どうしていきなり落とし穴に嵌っていたんでしょうね?

 朝起きて農園を巡回していたら、いきなり地面から下半身が生えていて絶句しました。

 畑に植えていたマンドラゴラ辺りが突然変異したのかと思いましたが…。

 

 まぁ、大方農園に潜り込んだ時、偶然落とし穴に嵌っただけなんでしょうけど…そもそもマスター、なんであんな所に落とし穴を?

 ヘタをすると私もかかってたかもしれない位置だったんですけど。

 

 …足跡とかを辿って、シオの巡回ルートに当たりをつけて仕掛けた?

 害獣駆除の技術の一環?

 NOUKAってそんな事まで出来るようになるんですか…。

 

 

 で、私に伝えていなかった理由は?

 修行の一環……?

 日常に配置された危険を、察知できるかどうか?

 

 

 …目を逸らさないでください。

 忘れてたんですね?

 

 全くもう…。

 ま、帰ってきた時には、新しい罠に引っかからないように気をつけますよ。

 それに、わかってますって。

 シオの事はリッカさん以外には話しません。

 ゴッドイーターに戻っても、私はマスターの弟子ですから。

 

 

 それじゃ、新生ゴッドイーターNOUKA・アリサ、行ってきます!

 

 

 

 

神喰月主人公視点日

 

 

 アリサがフェンリルに戻っていった。

 と言っても、フェンリルに個室が用意されているからって、そこでの寝泊りが義務付けられている訳でもなし。

 こっちに戻ってくるのに、特に問題はなかった筈だ。

 

 しかし、アリサが俺の弟子…しかもNOUKAの弟子って…何時の間にそんな事になってたんだ?

 確かに、タダで寝食提供するのも癪だったんで、農園の手伝いとかさせてたが…気が付けば自分からアレコレ聞いてくるようになって、土いじりもミミズも平気になってたが。

 何がどういう経緯でNOUKA志望になってたのかは全くの謎だ。

 

 まぁいいけどさ…。

 何だかんだで立ち直ったみたいだし。

 

 ヴァジュラやトラウマに対する過剰反応(因縁を考えると過剰とは言えないかもしれないが)は、トラウマが全く癒えないように、汚ッサンが延々と突きまわしていた為だ。

 そうでなければ、よくも悪くも時間と共に癒えていく。

 アリサもここ暫く、トラウマとは距離を置いた生活をしていた為か、随分と落ち着いてきた。

 

 …根本的な治療にはなってないと思うけどな。

 それこそ、年単位の時間をかけるか、根本となっている黒爺猫をサクッと狩るくらいの事はしないと。

 

 

 それにしても、今回はアリサと懇ろにならなかったなぁ。

 これから、っていう可能性もあるけど、前ループとかの俺なら同居中に確実に手を出してただろうに。

 時々起こる錯乱の発作に付込めば、簡単に突き進めたぞ。

 

 …ま、いいか。

 偶には真っ当なお付き合いも悪くないだろ。

 問題は、適当なトコで性欲発散させておかないと、シオに手を出すかもしれんって事だが…。

 

 

 そうそう、シオは結局、前回の遭遇から2日ほどして捕獲できた。

 あの後も農園に誰かが入り込んだ形跡があったんで、これはと思って落とし穴を仕掛けてみた。

 単なる穴じゃなくて、そこら辺のアラガミをコッソリ狩ってきて、そのコアをエサとして入れておいた。

 アリサにバレないように狩るのも、いい加減慣れたもんだ。

 

 一度捕まったのに、警戒心無いのかなこの特異点…とか思っていたが、本人にしてみればアレは捕まったのではなかったのだろうか?

 なんか知らんけど俺に懐いてきてたし、考えてみれば最初にシオを組み敷いたのだって、逃げられないように咄嗟に俺が動いてしまっただけで、シオ本人は特に逃げようとしていなかったように思う。

 扉をぶった切って逃げ出したのだって、体に合わないシーツを押し付けられたからだ。

 シオにしてみれば、それほど警戒する理由も無かったのかもしれない。

 

 …でもやっぱりあの格好はなぁ…。

 色気を感じるような相手でも、肉体年齢でもないんだろうが、見事なチラリズムを実現させてしまっている。

 ボロボロの布一丁なので、動けば翻るし、跳ねれば所々破れが広がりそうになるし。

 そのクセ中身の重要な部分はギリギリまで見えないんだから、なんかもうナニカの加護でも受けてるんじゃないかと本気で思っている。 

 それともアレか、特異点は地球の意思に影響されるとかそんな感じで、地球がシオの絶対領域を守っているとでも言うのか。

 

 とにかく、欲情しなくても、ついつい目が行ってしまうのはよく分かると思う。

 人間の目は動く物に吸い寄せられるって言うけど、それと同じ現象だ、多分。

 

 やっぱり早めにどうにかしなきゃならん。

 アリサもゴッドイーターとして動き始めたばかりだし、シオの服が完成するのは暫く先になりそうだ。

 俺の手持ちの素材には、服の材料になる物は無かったしな。

 

 

 …今使っているボロ布なら、シオの不快にはならないんだろうか?

 だとすると、あの布を洗濯してそのまま服に加工……できないな。

 ヘタに洗濯なんかしたら、ボロ布を通り越して破片にまで変わりそうだし、服にしたって元がボロ布じゃ、耐久力に問題がありすぎる。

 あっという間にビリビリだ。

 

 うーん……そうだ、包帯とか使ってみるのはどうだろう?

 布の上から包帯を巻いて、余裕を持たせた上体で間接部分近くを固定する。

 こうすれば擬似的な服の出来上がりだ。

 

 とりあえず試してみるか。

 

 最近はシオ、というのが自分の名前だと認識しているようなんで、呼べば来るようになっている。

 

 

 おーい、シオー。

 

 



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88話

色々ご意見ありがとうございます。
悩んだ挙句、ルーンファクトリー4に決定しました。
3と4で最後まで悩んだのですが、決め手がマヌケすぎた…。

「うーん、どっちにするか…あれ、3って普通のDSソフトやん」

「3DSしか持ってへんわ。こら選択の余地無いな」

「仮面ライダー アマゾーン!」

「…え、3DSってDSソフト使えるん? でももうポチってもうた…」


…マヌケすぐる


 

 

神喰月主人公視点2日

 

 

 

 包帯作戦、上手く…いったのか?

 

 今、俺の前では包帯のオバケみたいになったシオが腹を見せ横たわっている。

 それこそ、昼寝している子犬のようだ。

 

 ただし、自分で包帯に絡まりに行って、見事にこんがらがった状態だが。

 

 

 うーむ、包帯を巻くの自体は大人しくしててくれたから楽だったんだが…その後がな。

 新しいオモチャを見つけた、とばかりに自分から包帯に突撃した。

 未使用の、丸まっている状態の包帯を手にするや、引っ張り出してみたり、無意味に体に巻きつけてみたり。

 

 ああ、倉庫から発見されたカセットテープを、赤ん坊が無意味に中身のテープを引っ張り出して遊んでるのを見た事があるが、あんなカンジかね?

 それに、無意味に包帯を体に巻きつけるようなマネも、子供の頃にはよくやった気がする。

 

 ただ、やり過ぎてシオがCCOさんになっちゃってるけどね。

 流石に顔だけだが。

 

 で、こんがらがった包帯を取ってやると、そこには何がどうなったのか、更に穴が広がってしまったボロ布が。

 ………成功…なのかなぁ?

 

 

 とりあえず、シオは構ってもらえて満足っぽい顔をしていた。

 考えてみれば、一緒に暮らしていたアリサが居なくなっちゃったんだもんな。

 アリサはシオにお手とか芸を仕込もうとして色々スキンシップをとっていたし、シオも寂しいのかもしれない。

 新しいオモチャに突撃したのも、その為かな。

 

 

 …なんてシミジミ思ってたんだが、問題が一つ。

 

 アリサが居た時はね、問題なかったんだ。

 トイレはまず一番最初に教え込んだから、まぁ問題ない。

 寝床も…時々家の外でグースカ寝てるが、基本は屋根の下だ。

 何処で寝ててもボロ布がシーツ代わりになるから、まぁギリギリ問題ない。

 

 

 でも風呂をどうしよう。

 

 狩人にとって、風呂は非常に重要だ。

 精神的な癒しがどうのというのもあるが、ニオイをしっかり落としておかないと獣に気付かれやすくなるし、返り血やら泥やらを放置しておけば病気の元にすらなる。

 俺もその例に漏れず、今回のGE世界でもしっかりと風呂を作らせていただいた。

 まぁ、流石にドラム缶風呂だけど。

 

 土いじりやら力仕事やらで汗泥に塗れる事が多いんで、欧米式入浴が多かったアリサにも、比較的好評だった。

 ただ、アリサが入るようになってからと言う物、野外でやる訳には行かなくなって、超特急で小屋を作るハメになったが。

 

 今まで、シオを風呂に入れるのはアリサの役目だった。

 最初の頃はまだシオも、アリサを警戒していたので、俺が目隠ししたまま一緒に居た(当然アリサも俺も服を着てた)んだが、警戒心が無くなってからはアリサと一緒に長風呂するようになっていた。

 …覗きにいこうかな、と割とマジで考えたのは言うまでもない。

 

 

 ともあれ、シオの風呂どうしよう。

 アリサの話だと、湯船に飛び込むまでは問題ないらしい。

 が、そのまま上せかけるまで湯だっていたり、ハシャいでドラム缶をひっくり返しかけたりなど、正直目が離せないそうだ。

 体がアラガミだから、怪我をしたり、赤子みたいにシャンプーをジュース代わりにして胃洗浄、なんて事はないと思うが…正直言って不安だ。

 どっちかと言うと風呂から出た後が不安だ。

 

 あれで結構気紛れな子だから、風呂上りに夜風に当たりにフラフラと何処かに行ってしまう気がする。

 …ボロ布一丁で。

 しかも自分じゃまだ上手く包帯巻けないし。

 

 それを誰かに見られたとしよう。

 

 

 

 

 見た目幼女。

 格好はボロ布一つ。

 まともに言葉も喋れないが、一見すると人間。

 

 

 ……どう軽く見積もっても育児放棄、並びに虐待。

 ヘタをすると拉致監禁からのヤク漬けによる理性崩壊。

 間を取って、所謂知的障害者(という表現でいいんだろうか)の介護放棄。

 

 

 幾らなんでも洒落にならん。

 フェンリルの庇護下にないこの場所にも、官憲がすっとんで来る。

 そして俺はタイーホされ、この農園はフェンリルのお偉いさんが無理矢理私物化……いやいや、そこはこの際関係ない。

 

 シオが「保護」されるような事にでもなってしまったら、それこそ特異点として利用待った無しである。

 早急に言葉を教え込み、服を揃えねばならない。

 

 

 という訳で、最近シオとは夜中にスキンシップを続けている。

 ただしエロい意味ではない。

 

 夜中に人目を避けて狩りに行くのだ。

 この辺のアラガミは事前に狩りまくっておいたが、それで絶滅している訳でもない。

 シオにとっては貴重なご飯だ。

 何せ、偏食アラガミだけあって、ウチで作った野菜も受け付けないんだから……ちょっとプライドにイラッと来るカンジがあるが、犬にタマネギ食えないのは何でだって怒るようなもんだしな。

 

 この時、俺は人間の姿じゃなくて、仮面ライダーアラガミ状態で行動する。

 人の目につくとマズいからね。

 一応周囲に気を配ってはいるが、人間やアラガミはともかく機械には気配が無い。

 稼動音があれば察知できるんだけど、流石に荒野に唐突に仕掛けられてると、余程近付かないと感知できない。

 

 こんなトコにいきなりカメラなんかある訳ないって?

 甘い。

 極東では今、特異点ことマスク・ド・オウガ探しが大ブームなのだ。

 UMAを探すのと同じノリで、密林や藪の中にカメラを隠しておく暇人が居ないとは限らない。

 

 ま、最近じゃアラガミ化した状態も大分長続きするようになってきたし、そこまで負担は無い。

 戦闘行動を取れば、また別だけど。

 

 それに、アラガミ化状態の方がシオも指示に従ってくれる。

 やっぱり、本能とかが人間よりもアラガミ寄りなんだろうか?

 それとも、単にご飯を食べる時に手伝ってくれる強い相手…つまりは群れのリーダーと認識されているのかもしれない。

 

 問題があるとすれば、カタコトながらシオが話しかけてきた時、アラガミ化状態だと上手く喋れないって事だな。

 アラガミ状態かつ一人で狩りをしてた時は、言葉なんて全然使ってなかったからなぁ…盲点だった。

 だが、何かと話しかけてくるシオに反応を返さないと、それこそサンポ禁止を喰らった子犬のようにショボーンとなる。

 

 ざ、罪悪感が……くっ、今まで存分に残虐ファイト(特に女体で)してきた俺が、今更罪悪感だと…!?

 

 

 ま、女とお子様と小動物は別カテゴリーだな。

 人間の罪悪感や良心なんてそんなもんだ。

 動物を蹴っ飛ばすのに全く呵責を覚えない人間でも、職場のルールを破る事に異常に敏感だったり、その逆だってあるだろ。

 

 

 

 ……でもシオがオンドゥル語を覚えかけていたのは、ソーマに撃ち殺されても抵抗しないレベルの罪悪感を感じた。

 と言うか、アラガミ化状態での俺の言葉ってオンドゥル語なのか?

 リンドウさんにちゃんと伝わってるかな、メッセージ…。

 

 

 

 

 

神喰月リンドウ視点日

 

 

 どーも、お久しぶりの雨宮リンドウだ。

 以前、マスク・ド・オウガに遭遇してから結構な時間が経った。

 その間に色々あったなぁ…怪しいと睨んでいたオオグルマは『転校』ならぬ『転任』……をし損ねて、俺がどうこうする間もなく…。

 まぁ、正直「やっぱりか」と思っちまったけど。

 

 まぁ、なっちまったモノは仕方ない。

 苦渋を感じない訳じゃないが、それを飲み干すのだっていつもの事さ。

 

 

 さて、この所、極東支部の士気は非常に高い。

 支部長が提唱するエイジス計画の要になる、特異点。

 それを探し当てて確保すれば、一介のゴッドイーターには身に余るくらいのボーナスが手に入る。

 そしてそれによってエイジス計画も進歩し、人間は安全な場所を確保できる。

 俺に良し、世間に良しって訳だ。

 …そのエイジス計画が事実なら、だけどな。

 

 あと、最近メシの味が良くなってきたのも大きいだろう。

 これについては、アリサのお手柄かね?

 

 例の騒動の後、アリサは精神的に不安定として戦う事を禁止され、農園に身を預けていた。

 …姉上殿が頼んだらしいのだが、どういう経緯でそうなったかは俺も知らない。

 

 ともかく、アリサはあの言動だったし、当然風当たりも強かった。

 むしろ居なくなって…みたいな無言の雰囲気もあったし、帰ってきた時は露骨に眉を顰める奴も多かった。

 正直な話、俺だってちゃんと戦えるのかと不安に思ったもんだ。

 

 だが、帰ってきたアリサはまるで別人のようだった。

 強気な部分があるのは相変わらずだったが、人と無闇に衝突するような言葉は吐かなくなったし、自分の実力と限界を確かめるように、一つ一つ小さなミッションからこなしていっている。

 まだ認めない、一線から退けるべきでは?という声もあるが、あれなら遠からず認められると思う。

 

 まぁ、今のアリサが表立って何かされたり、何も言われたりしないのは、あいつの手土産も大きいんだけどな。

 本人が自覚しているのかは知らないが、今のアリサは非常に重要な人間になりつつある。

 例の農園の中で生活し、その栽培方法を多少なりとも理解している人間。

 ゴッドイーターではなく、その知識が非常に重要になってくる。

 

 そして、農園から戻ってきたアリサは、当然農園の主とも懇意にしている。

 何度か姉上殿が様子を見に行った事があるが、少なくともそれなり以上に信頼関係は構築されていたようだ。

 つまり……アリサには、あの農園にツテがある訳だ。

 商売の関係ではなく、個人的なツテが。

 

 …アリサがこっちに戻ってきてから3日後、農園からアリサに差し入れと称して幾つもの食材が届いた。

 勿論、世間一般に出回らせれば、それなり以上の高値になる事は言うまでもない。

 宛先がアリサ一人だったんで、独占する事もできただろうが、それを纏めて極東支部の食堂に寄付しやがった。

 …生野菜が食えるってんで、食堂がエライ騒ぎになったのは言うまでもない。

 鎮圧にソーマまで駆り出されていた…えらく気合入ってたな。

 

 まぁ、人間美味いメシが食えるかも、って誘惑の前には無力って事なのかね。

 また差し入れが来ないか、って期待が漂っている。

 

 アリサもそれを自覚しているようなんだが……まぁ、受け入れられる足がかりとしては丁度いいんじゃないのかね。

 釈然としていないようだが。

 

 …そういや、この前演習場で素振りしてるのを見たな。

 でも神機を振るにしては挙動がおかしかった。

 なんかこう…もっと長い物を振り下ろして、地面を切るような………ああ、アレだ。

 昔、近所の田んぼで見た事があるが、アレは鍬を振り下ろす動きだ。

 

 …なんで神機の剣形態持ってそんな事をやってるんだ?

 

 

 

 さて、アリサの事はともかくとして、だ。

 ここ最近、極東全体での特異点……つまりマスク・ド・オウガ……探しが活発になってきている。

 他の支部からも、賞金目当てなのか、それともエイジス計画を少しでも早く稼動させたいのか、ゴッドイーターが流れてくる事もあった。

 ただ、他の支部とはアラガミの強さが極端に違うから、四苦八苦しているみたいだったが。

 

 その分、マスク・ド・オウガの情報があちこちに伝わり、なんかイメージが一人歩きしているようだった。

 一部のゴッドイーターと子供達の間では、「ニチアサ」とも呼ばれているとか何とか。

 

 …その実態はともかくとして、俺は知っている。

 マスク・ド・オウガが特異点では『ない』事を。

 あの時の奴さんの言葉がデタラメであるなら話は別だが…。

 

 マスク・ド・オウガの正体は、俺には分からない。

 だが、何かしら俺達に伝えたい事があるんだろう。

 あの時の言葉のように。

 

 アイツの言葉に従い、俺は本物の特異点を探していた。

 マスク・ド・オウガがゴッドイーターに見つかってしまう前に…もっと言うなら、支部長が特異点ではないと気付いてしまう前に…本物を見つけ出し、確保しなければならない。

 まぁ、見つかったなら見つかったで、本物の特異点をどうするかって問題もあるが…本物がどんな奴なのかも分からないのに、あれこれ言っても仕方ないだろう。

 

 

 

 一番の問題は……あれからずっと本物を探し続けているが、手掛かり一つ見つからないって事だよ畜生め。

 

 

 実際、どうしたもんだろうか。

 いっそもう一度マスク・ド・オウガを探し出して、手掛かりになるものがないか聞いた方がいいんじゃないか?

 マスク・ド・オウガは、姿だけなら度々目撃されているし、情報一つ無い特異点よりは探しやすいだろう。

 ただ、ミッションに出て探すとなると、当然オペレーターにも情報が伝わっちまうから、まともに会話できそうにないんだよな…。

 

 姉上殿はマスク・ド・オウガの拠点に心当たりがあったようなんだが、見当違いだったかもしれんとボヤいていた。

 その拠点とやらは、どうやらアリサが居た農園のようなんだが……。

 

 あそこで生活していたアリサに聞いてみたら、少なくともあの辺でマスク・ド・オウガは見た事がないと言っていた。

 そういや、アリサも一度は実物を見てるんだっけか。

 やっぱ手掛かり無しか…?

 

 あ、でも少し挙動が不自然だったような気がするな。

 特異点…この場合はマスク・ド・オウガ…の事について話した時、一瞬だが「え?」と戸惑った顔をしていた。

 すぐにその表情を隠したが……何か知ってるんだろうか?

 

 …限りなくコジツケに近いが……またあの農園に行ってみるか。

 アリサを預かってもらっていた礼もしなきゃならんし、何処を探せばいいのかも分からんなら、当てずっぽうで探すしかない。

 何処に行っても同じだ。

 

 …よし、行ってみるか。

 

 

 

神喰月アリサ視点日

 

 

 アリサです。

 先日の事ですが、リンドウさんが特異点について私に聞いてきました。

 と言っても、「どう思う?」くらいの非常に曖昧な問い掛けでしたが。

 

 私としては、特異点=半信半疑ながらもシオの事だと思っていました。

 極東で特異点について盛り上がっている事もあり、帰ったらいつかは話に昇るだろう、というのは予想できた事です。

 また、シオの事を漏らすのはマスターの意向によって禁じられている為、何も知らないフリをしようと、事前に幾つかシミュレートもしていました。

 

 

 ですがどれだけシミュレートしても、重要なファクターが抜け落ちてれば何の意味もありませんよ、ええ全く自分の迂闊さに死にたくなりました。

 

 何事か、ですって?

 特異点=シオという認識のままだったんで、極東では特異点=マスク・ド・オウガだって事をすっかり忘れてたんですよ。

 リンドウさんから特異点について話しかけられた時、「どんな奴なんだろうなぁ」「さぁ、見た事ありませんし(シオの事は話せない…)」「え?」「?」「いや、前の騒動の時に助けられたろ」「……あ」

 

 …とまぁ、こんな具合でした。

 うう、思い返しても本当に死にたくなるマヌケさです…。

 何とかその場は誤魔化しましたが、リンドウさんってあれで鋭い人ですし、疑念を持たれた可能性が…。

 

 ヤバイかな、と思って暫くリンドウさんを張っていたんですが(NOUKA見習い仕込の、害獣対処術その一・気配を消してコッソリ近寄る、の応用です)、近い内に農場へ行くつもりのようです。

 何処まで気付かれたのかは分かりませんが、これは大急ぎで知らせた方がいいでしょう。

 あの農園には電話なんて甘えた…もとい、便利な物はありませんので、フェンリルの車を借りていかねばいけません。

 幸い、私はあの農園に世話になっていた身ですので、改めてお礼を言いにいく、と言えば建前上問題ないでしょう。

 

 

 そうして、スピード違反しつつリンドウさんより先に農園に駆けつけたのですが…。

 

 

 

 みたらあかんもんみた。

 

 

 

 

 「マスター、居ますか!?」と扉を開けて踏み込んだ先では。

 

 

 横になった上半身裸のマスターの上で、半裸のシオ。

 しかもシオはマスターの首筋に舌を這わせていて………。

 

 その、マスターの下半身が、その、膨張しているのが…。

 

 

 お、思わず日本語が乱れてしまう程度には動揺してしまいマスタ。

 

 

 し、しししししんじていたのに、このぺどふぃりあ!

 

 

 …久々に脳天チョップを喰らいましたが、どういう事ですか!?

 マスターはょぅι゛ょに興味は無いと断言するから信じていたのに!

 私が去ってから、どれくらいでそんな関係になったんですかどこまでヤったんですかシオを傷物にするなんてマジゲコクジョーですよシオを泣かせてた日にはKAMIKAZETOKKOしてでも地獄に叩き込みますからねこの野郎!

 

 5~6発チョップを喰らうまで叫びまくっていました。

 途中から母国語で叫んでいたらしく、マスターに理解されていなかったのが幸いです。

 ヘタな事言ってたら、確実にオシオキされてました。

 それも精神的に非常にイヤな奴を。

 最低限、ミミズ焼きご飯は確定です…お腹を下す程度で済めばいいんですが。

 

 

 と言うか、真面目にどうなってるんですか一体。

 見間違いでなければ、シオの方が積極的だったように思うんですが。

 お互い半裸なのは、お風呂上りのようですからまだ納得できます。

 

 マスターが全力で抵抗してなかったのは明らかでしたが、シオがマスターを押し倒して抑え付けていたように見えました。

 と言うか、今もマスターにおんぶされながら、肩を甘噛みしています。

 

 …シオって人間を食べないんですよね?

 これを見てると、ちょっと不安になってくるんですけど…考えてみれば、特異点の情報が全て正しいと証明されている訳ではありませんし。

 

 

 マスターが言うには、最近時々こうなるらしいです。

 異常な程に引っ付こうとして、舐めたり触ったりニオイを嗅いだりと(言っておきますが、全て性的な意味ではありません)、まるでマスターの体を調べようとしているかのようです。

 

 しかもこうしている間の記憶は無く、ふと我に返り、また脈絡も無くこの状態になる……いえ、どう考えてもアカンでしょそれ。

 明らかに何かの異変じゃないですか。

 

 とは言え、シオを見せられるような医者も居ませんしね…。

 

 

 マスター曰く、特異点がこうなるのには理由がある筈、との事。

 特異点としての本能に目覚め、意識をなくして行動する(その先に何があるのかは教えてもらえませんでした)事も考えられるし、ふとした拍子に我に帰るのも十分考えられるそうです。

 ですが、もしもシオのこの状態がそれだとするならば、何故マスターにこうもひっつこうとしているのか。

 

 何故、特異点としての本能がそれをさせるのか?

 

 

 

 …分からない事だらけです。

 ですがシオはカワイイので正義です。

 

 

 先ほどふと我に返り、私に気付いて「アリサー!」と飛びついてきたシオを撫でながら思いました。

 

 

 …30分ほどシオと戯れて(随分喋れるようになっていますね)、ようやく用件を思い出しました。

 正直なんかもうどうでもよくなるくらいの衝撃を受けましたが、事がシオの進退に関わる事なのでそうも言っていられません。

 

 こうして戯れて分かりましたが、知能が非常に発達しています。

 見かけ相応…とは言いませんが、幼稚園児くらいの頭の良さはありそうです。

 リンドウさんが来ても、これなら誤魔化せないだろうか?とは思ったのですが、言動はともかく格好が致命的です。

 相変わらずちゃんとした服を着たがらず、マスターが妥協案で包帯でボロ布を巻きつけています。

 

 …信用回復の為の地道なミッションの傍ら、素材を集めてますけど…まだまだ材料が足りないんですよね。

 リッカさんも、何とか素材を減らせないかと四苦八苦してくれてるんですが…。

 

 それに、もしもちゃんとした服を着ていても、さっきの状態になってしまったら即アウトでしょう、特異点云々以前にマスターの社会的立場が。

 

 やはり、シオを連れ出しておくしかないのでしょうか?

 私が保護者役で。

 

 

 …そう言えば、普段はどうしていたんです?

 初期の頃ほどではなくても、色々な人が農園に訪れていますが、その人達にはシオの事はバレてないんですよね?

 …昼間はずっと寝かせてた?

 夜に外に連れ出して運動させてる……。

 しかも、意図はどうあれ首輪でリードを引いて……。

 

 

  じ、   じあん

 

 

 ああそうですか、しおのごはんをかりにいってたんですね。

 いえいえ、疑ってなどいませんよ、ただややこしい言い方スンナと思っただけで。

 

 

 ま、まぁ、今までどおり寝かせておきますか?

 一応、私も傍に居て、さっきの状態にならないように気をつけますから。

 

 …確かにそうですけどね、気をつけたって元に戻せなきゃ居ても意味がないですね。

 じゃあどうします?

 

 ……リッカさんに協力を?

 いや無茶ですよ、そりゃあの人なら協力してくれそうですけど、フェンリルに特異点を連れて行く気ですか?

 特異点じゃなくても、多分アラガミの反応でバレますよ。

 バレたら私達、人類の拠点にアラガミを誘い込もうとした重罪人です。

 デメリットはともかく、失敗する可能性が高すぎます。

 

 

 …外に出しておくしかない、ですか。

 確かに、シオもここを自分の家だと思っているようですし、万一逸れてしまっても帰ってくるかもしれませんね。

 理性を失っている状態には…ならないように祈る以上の事はできませんか。

 分かりました、私が付き添いますから、それでいきましょう。

 

 

 

 ところでマスター。

 シオに圧し掛かられて、マスターのアレが…その、大きくなっていた事について言い訳はありますか?

 

 

 

 



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89話

チッキショーーーーー!!!!!!
外せない仕事が入ったおかげで、帰省が来月になっちまった!
しかも3DSのルーンファクトリー買ってるし、余計な出費がかさんでしまった!
切符と土産を買ってなかったのが、唯一の救いです…。

ううううう、なんかもう先月から色々な意味で悪い流れが…。
ショックなので投稿します。


 

神喰月主人公視点日

 

 

 アリサにヤバいもの目撃されてしまった。

 一悶着あったが、何とか納得してくれたようで結構だ。

 まだ疑われているみたいだが。

 

 デカくなってた理由?

 人間の体ってな、その気やケが無くても、刺激を与え続けりゃ反応するように出来てるんだよ。

 別に直接刺激された訳でもないけどさ。

 パピのおかげで、そのケが全く無いと胸張っていえなくなってるけども。

 

 さて、あの時のシーンだが、前述したように非常にヤバい。

 官憲のお世話になるのも仕方ないくらいヤバいシーンだったが、本当のヤバさはそこではなかった。

 

 

 思い返せば数日前。

 シオを風呂に入れてやり(心頭滅却無念無想、心頭滅却無念無想…)、サッパリしたところで二人で寛いでいた時だった。

 その日はアラガミのコアのストックもあったので狩りにも出ず、シオがウトウトし始めていた。

 そのまま布団に放り込んでやろうと抱き上げた時に…シオが変わった。

 

 最初は単に寝惚けているんだと思った。

 抱き上げた俺に頭を擦りつけ、フンフンとニオイを嗅いでいた。

 chiotなのにネコみたいだな、と思っていたら…首筋をべろんと舐められた。

 

 この辺でおかしいとは思ったんだ。

 シオは基本的にアラガミしか食べない。

 ニオイを嗅げば、ある程度味の想像はつくだろう。

 だというのに、偏食のアラガミが俺を舐める?

 

 疑問に思った次の瞬間には、シオの歯が俺の肩に食い込んでいた。

 突き飛ばしはしなかったものの、咄嗟に後頭部を掴んで引き剥がした。

 

 引き剥がされたシオは、今度は手を伸ばして俺の肩から流れる血を少しだけ拭って、自分で舐めた。

 …そして次の瞬間には我に返って、「ぺっ! ぺっ!」とマズイものを食ったと言わんばかりに吐き捨て、口直しにストックしていたアラガミのコアを食い始めてしまった。

 

 ……なんかさ、こう……被害者の筈なのに、敗北感って言うか…別に処女に血を吸った吸血鬼みたいな反応しろとは言わんけどさ…。

 

 

 

 一晩ほど黄昏て(夜中から明け方なのにな)、ようやく立ち直って、なんだったのかと思った。

 

 たった一度であれば、寝惚けていたで済ませられるかもしれない。

 しかし、その後もシオは何度も同じように意識を失い、また俺に齧りついてきた。

 幸いというべきか、やはり人間は食べられないのか、文字通り捕食されないのが救いだ。

 

 が、その分舐めまわしを多用し始めた。

 肩から始まり、指先、腹、足(爪先じゃねーぞ)、背中…。

 とにかく体中に触れ、味わおうとする。

 男のアレについては、なんか噛みつかれそうな気がするから許してないが。

 

 

 これは一体どういう事だ?

 シオがこうなる原因と言えば、やはり特異点の本能の筈。

 だが、それならシオは真っ先にイージスに向かっていく筈。

 それに、時期としても速すぎる。

 ゲーム及び前ループを基準として考えれば、あと一ヶ月くらいの猶予はある筈なんだ。

 リンドウさんと出会わなかった事に関係があるんだろうか?

 シオがリンドウさんにこんな事をしていたようには見えなかったが…。

 

 

 

 と、最初はシオが性欲(食欲?)に目覚めた事も疑っていたんだが、暫くして更に事態は発展した。

 アラガミ以外は食わない筈のシオが、農園の野菜をツマミ食いしていたのだ。

 …危うくガチ切れするところだった。

 

 何とか冷静になって、感想を聞いてみたが……首を傾げられるだけだった。

 その後も何度かツマミ食いは続いた。

 正直言えば吊るし上げたい衝動に駆られたが、食料になっているのは事実らしく、夜の狩りで食べる量が明らかに減った。

 俺の神機も元はアラガミしか食わなかったのに、色々と無理矢理突っ込んでたら雑食になってきたしな…案外、文字通り偏食なだけで、食えない事はないのかもしれない。

 それとも、アラガミ化で神機を取り込んだから、俺に影響されたんだろうか……いや、雑食になり始めたのは、仮面ライダーアラガミになる前だったな。

 

 まぁ、無駄になっているのでないなら、我慢できない事もない。

 最近じゃ、本格的に近所のアラガミが少なくなってきてるもんな。

 

 ただ、出来のいい生命力に溢れた奴…デカいだけじゃなくて、艶とかもいい奴から取っていくのは勘弁してほしいが。

 本能で選んでるようだが、いい審美眼だ。

 

 さて、毎度毎度唐突な展開で悪いが、この「生命力」ってトコに注目だ。

 コイツがシオの異変のキーワードだった……俺の考察が正しければ、だけどな。

 

 このGE世界において、生命力がある植物なんぞ、無いに等しい。

 皆無とは言わんが、殆どが人工のモノであり、養殖されたモノ。

 また数も少なく、残っているものは何者か(主にアラガミやドロボウ)に危害を加えられないよう、厳重に管理されている事が多い。

 

 しかし、俺が育てているこいつらは違う。

 養殖ではあるが、別世界の生命力に満ち溢れまくった、手の加えられてない植物、生態系。

 明らかに、この世界には…この地球には無い代物だ。

 

 

 そう、ありえる筈のない、異物。

 

 地球に意思があるとしたら、その異物をどう感じただろうか?

 地球意思の代理である特異点、シオの行動がその答えだ。

 

 生命力に満ちた野菜を取り込んでみる。

 生命力…つまり霊力に満ちた俺に引っ付き、血を舐めたりニオイを嗅いだりして調べているのだ。

 無論、シオ本人には自覚も無ければ記憶も無いだろう。

 ただ特異点としての本能で、「なんとなく」野菜を食べてみたり、本能に流されて俺に飛び掛ってきているだけだ。

 

 

 何故にそんな解答に行き着いたかというと、切欠は夜中の狩りの最中だった。

 基本的に好き勝手に行動するシオだが、俺がアラガミ化している為なのか、それとも自分のご飯の為だと理解しているからなのか、狩りの最中は一応指示に従ってくれる。

 が、何の変哲も無いグボロ・グボロを狩った時、変化があった。

 ちょっと遠くに居たから面倒になって、連昇で仕留めたんだが……その途端にシオの雰囲気が変わった。

 グボロ・グボロに猛烈な勢いで食いつくし、その辺に四つんばいになって地面と睨めっこ始めるし、ついには俺にまで噛み付いてくるし。

 一発ド突いたら元に戻ったけど。

 

 それでピンと来たんで、試しに霊気を圧縮してみた。

 予想通り…というべきか、シオはそれに超反応した。

 またしても暴走(?)状態になり、放出した霊気に掴みかかって、何とか手を触れようとしていた。

 暫くバタバタやってたら、霊気が散って、シオが元に戻る。

 

 これでほぼ確定だろう。

 シオ…というより特異点の本能は、この世界に存在しない筈の霊力と、異なる生態系を調べようとしている。

 

 

 まぁ、そりゃそうだよな。

 終末捕食ってのは、要するに地球の意思で行われる、地球上の生命を一度混ぜこぜにして完全にリセットさせ、そこからもう一度始めようって現象…らしい。

 そこに、明らかに入っちゃいけない異物があれば、終末捕食したって上手くいくかどうかわからない。

 もしも異物が致命的な毒であるとするなら、混ぜたはいいが復元できなかった、ってな事にだってなりかねない。

 

 

 …MH世界の素材が満ちたまま終末捕食して再分配されたら、新しく出来上がった世界はMH世界でした…なんて事になるかな?

 流石に其れは無いだろうか。

 試してみたくはあるが…いや、真面目にその可能性を考えてみると、どうだ?

 

 実はGE世界で再分配され、そこから何千年も経った結果がMH世界だった、とか。

 そして俺は3つの世界を転移しているのではなくて、実はタイムスリップをして、遠く離れたた3つの時代を何度も行き来しているとか?

 そう考えると、何度も同じ時間・状況からスタートするのも説明がつく。

 

 …検証のしようがないから、妄想以上にはならないな。

 

 

 さて、それはともかく一体どうしたものか。

 正直な話、シオの前で霊力を使うのは避けた方が良さそうだ。

 また特異点モード(仮名)になってしまうだろうし、何度も繰り返していると戻れなくなってしまう可能性だってある。

 それに、シオを通じて地球意思に霊力の存在を知られてしまったら……ヘタをすると、前ループ時のように霊力を使うアラガミが、世界各地に現れる可能性だってある。

 GE2のメンバーも揃っていないのに、感応種が出てきちゃ手に負えない。

 

 

 上記の事が発覚してから暫く様子を見ていたが、普段から徹底して霊気を漏らさないようにしていれば、シオも特異点モードにはならないようだ。

 垂れ流し状態にはなってないとは言え、やっぱ霊気が僅かに漏れてたからな…。

 それに反応してたみたいだ。

 これにさえ気をつけていれば、恐らくリンドウさんが訪ねてきたとしても、特異点モードになって乱入してくる事は無いと思う。

 言葉の問題も……このご時勢だし、言っちゃ何だが何らかの切欠で気が触れてしまった人だって珍しくはないから、何とか押し切れると思う。

 

 やっぱり問題は服だ。

 これも、気が触れてしまった為に…と主張できない事もないが…。

 

 やっぱり、アリサについて外出させるしかないかな…。

 

 

 

神喰月リンドウ視点日

 

 

 数日前からの予定通り、俺は今農園にやってきている。

 相変わらず、アラガミに襲われた形跡もなく、見事なもんだ。

 

 今更なんだが、何でここはアラガミに襲われてないんだろうな?

 アラガミが極端に少ない地域だって確かにあるが、ここだって極東には違いない。

 他の地区からは地獄と称されるこの極東で、アラガミに襲われないというのはそれだけで望外どころじゃない幸運だ。

 

 

 …なんて事を考えてたら、隣で「奴に協力するモノが居るんだろう…人とは限らんが、な」なんて意味深な事を言うオネーサマ。

 本当は一人で来るつもりだったんだが、何故か農園に行こうとしているのを知った姉上殿が、仕事を一時停止させてまでついてきた。

 …珍しいな?

 仮にも弟の俺が言うのもなんだが、私情を挟まない鉄の女みたいな姉上殿が、役目を放り出してまでついてくるなんて。

 

 勿論、本人が言うには公私混同や仕事を放り出したりしている訳ではなく、ここに重要な用事があるらしいが…それが何かまでは口にしなかった。

 姉上殿も、ここに「何か」があると思っているんだろうか?

 俺の場合は、単なる行き当たりバッタリというか、他に手掛かりが無いからとりあえず来てみたってだけなんだが。

 

 

 姉上殿に協力を求めるって選択肢もあるにはあるんだが、姉上殿の立ち居地というかスタンスが今ひとつ分からないのが問題だ。

 俺が探っている、支部長の裏の計画に全面協力しているとは思わないが、逆に全く関与していないとは思わない。

 姉上殿は、仕事の立場上、支部長と話す機会も多いしな…ヘタな事を教えると、姉上殿経由で支部長に気取られてしまう可能性が高い。

 

 そもそも、俺が探りを入れているのに気付かれたのも、その辺からの可能性があるしな…。

 姉上殿が俺の行動に何も言ってこないのも、信じてくれているのもあるが、支部長とのクッション役を買って出てくれたからだ。

 

 

 

 とにかく、今は姉弟の間と言っても、何でも話せる仲じゃないって事だ。

 

 さて、そんな微妙な距離を保ちつつ、農園の主と話しこんでいた。

 …姉上殿が、妙に意味ありげな言葉を投げかけている。

 この人に何か不審な点でもあったんだろうか?

 いや、こんなご時勢で唐突に農園開ける時点で不審極まりないんだが。

 

 そういや、アリサが居ないな?

 何か知らんけど、俺が出発するよりも前に大急ぎで農園に向かったんだが。

 外出許可を求められて、フェンリルの車を使って、何も無い荒野でも交通ルールを守れといいたくなるようなスピードでカッ飛んでいったのを目撃した。

 車自体は農園の外にあったから、少なくとも来ている筈だが…。

 

 

 ん?

 ちょっと預かってる子が居るから、その子を連れて外に出ている?

 そうか…ちっと羨ましいな。

 預かっているって事は、三食この農園で採れたものを食べられるんだろう。

 

 

 それにしても…気のせいか?

 お前さん、その預かってる子供の世話で疲れてない?

 なんか、前に会った時よりも雰囲気が薄いというか、存在感が無いと言うか…生命力を感じられないような…。

 まぁ、慣れない子供の世話なんかやってれば、疲れもするか。

 大変だな。

 

 

 そんな事を考えていると、姉上殿が「一度フェンリルに来ないか?」と誘いをかけていた。

 …ん、デートのお誘いか?

 と思ったら、なんと支部長からの直々のご招待らしい。

 

 何でまた…と思ったが、考えてみればそう不思議は無いか。

 この農園は、文字通り金の成る木みたいなもんだ。

 手に入れられなくても、ツテくらいは作っておきたいんだろう。

 

 ひょっとしたら、アナグラに小さな畑を作らせるくらいの事は考えているかもしれない。

 

 うーん…俺としては、アナグラに来るのはあんまり勧められないなぁ…。

 直接どうこうされたり、拘束されたりはしないと思うが、相手はあの支部長だ。

 どんな搦め手を使ってくるか、分かったもんじゃない。

 

 しかし、それを承知で誘っているという事は、やはり姉上殿は支部長側なんだろうか?

 いや、あまり熱烈に誘っている様子ではないし、単に支部長からの招待を伝えただけか。

 

 …だが、なんだってそれを受けてしまうかね…。

 

 

 

 

 はぁ…結局、特異点に関する情報も無し。

 ほぼ無駄足だったか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あったよ、特異点が!

 

 

 

神喰月アリサ視点日

 

 

 えー、最悪です、いろんな意味で。

 ドン引きです。

 いや、誰が悪いかと言えば、強いて言うならハシャぐシオを止められずに、リンドウさん達の帰還ルートに近寄ってしまった私なんでしょうけど。

 流石にそれは予想できません。

 ちょっと寄り道、なんて気紛れまで誰が予想できますかね…。

 

 えー、要するにですね。

 リンドウさんと雨宮指揮官に、シオの存在がバレました。

 

 一見すると、普通の女の子にしか見えないんですけどね、服装以外は。

 お二人には一発で見抜かれました……アラガミ独特の気配がある、って。

 何で気付いちゃいますかね…そりゃ、シオはマスク・ド・オウガみたいなブレードをブンブン振り回して遊んでましたよ?

 でもそれって特異点じゃなくて、単にお転婆な女の子にしか見えないじゃないですか。

 

 

 …いや、刃物振り回す幼女って時点で、いやでも注目しますよね……そして注目から見抜かれるに至る、と………あははは、一緒に暮らしてるウチに見慣れちゃってましたよ私ってほんとおバカさん…。

 しかも私と一緒に居る所を見られたおかげで、住処が農園だって事まで見抜かれちゃいました。

 

 ううう、マスター、本当に申し訳ありません…。

 

 

 

 しかし、結果的には良かった…のでしょうか?

 リンドウさんは何故か、巷で特異点といわれているマスク・ド・オウガがそうではないと知っていて、本当の特異点を探していたそうです。

 …以前の対応ミスで気付かれたんでしょうか…。

 リンドウさんは、シオをどうこうする気は無いようです。

 何やら支部長に対抗する為に、特異点を探していたそうですが…支部長と何か確執でもあるんでしょうか?

 

 …あの、マスター?

 何故に雨宮指揮官とアイコンタクトを?

 「言っていいのかコレ?」みたいな事考えてません?

 

 とにかく、リンドウさんはシオを匿う事に賛成してくれました。

 特異点を見つけても支部長から隠す場所が無いし、ここに居てくれるならその方が安全だと。

 

 

 

 問題なのは雨宮指揮官です。

 こんな事を言うのは失礼かもしれませんが、雨宮指揮官は半端じゃない女傑です。

 鉄の女、という表現がこれ程似合う人には会った事がありません。

 

 勿論、頑固なだけの頭でっかちな指揮官ではありません。

 聞けば、仮にもゴッドイーターである私をこの農園に預ける決定をしたのもこの人だとか。

 そういう意味では、私の恩人とも言える人なのですけど……。

 

 そういった、通常では考えられない決定を柔軟に行える方なのはいいんです。

 実際に成果も出ていますし、後から聞けばちゃんとした根拠があって行動している人ですから。

 

 

 ですが、裏を返せば雨宮指揮官に意見するなら、明確な根拠と証拠を元に訴えなければならないのです。

 

 そう、人類の安全圏を確保する、エイジス計画の中枢である特異点…シオの存在を隠蔽する、という事を容認させる為に、相応の理由と根拠を示さなければならないのです。

 ですが、一体どんな事を言えというのでしょう。

 

 少なくとも、私が示せる事は、シオが非常にいい子だという事だけです。

 アラガミなんて関係なく、ちっこくてよく食べて好奇心旺盛でナデナデすると笑って、お風呂に入れると大騒ぎ……あれ、マスターシオのお風呂どうしてたんです?

 ………まぁ、年齢的にギリギリ犯罪ではない…かな?

 合意の上なら。

 と言うか子供の世話をしただけ、と考えるのなら普通にOKですが、以前にシオに襲われていた時の事を思い返すと…。

 

 

 と、とにかく、シオはいい子なんです。

 …でも、シオ一人と人間の安全領域、どちらを取るかと言われると……。

 私なら、多分悩みに悩んだ末、シオを取る事ができると思います。

 後で死ぬほど葛藤するでしょうけど…。

 

 ですが、それはシオと個人的な交友を持っているからこそ言える事。

 この世界の人間の誰もが、一度は経験しているでしょう…全く見ず知らずの他人一人と、友人や家族のどちらを助けるか、という選択は。

 時には他人の数が多かったり、或いは無意識の内に後者を選ぶ事もありますが…。

 

 私だって、もしもシオの事を知らなかったら、名も無いアラガミ…特異点と呼ばれていたとしても…一匹を生贄にして人類の安全圏を築く、なんて言われたら反対なんかしないでしょう。

 そして、雨宮指揮官、そしてリンドウさんにとっての状況が正にそれです。

 

 リンドウさんなら、明確な根拠が無くてもまだこちらの意見に耳を傾けてくれそうですが…雨宮指揮官は…。

 

 

 

 シオを匿うのに充分な理由、そんな物があるのでしょうか?

 

 口を封じる事もできない、説得もできない、従う事もできない。

 できる事があるとするなら、意味があるかすら分からない、ヤブレカブレのKAMIKAZETOKKO…。

 

 …マスター、どうします?

 勝機の有無は関係ありません。

 一戦交えてでもシオを守るなら、死力を尽くします。

 

 

 

 そう、覚悟を決めたのですが、

 雨宮指揮官の表情は、思っていたのとは全く違っていました。

 何か、深く深く考え込んでいました。

 

 

 暫く後、雨宮指揮官とマスターは、二人で話す事がある、と私とシオとリンドウさんを追い出しました。

 

 

 

 …うーん、嵐の前の静けさ?

 婚前交渉ならぬ、戦前交渉でしょうか。

 

 とりあえず、シオから目を離さないようにしておきます。

 リンドウさんがシオを餌付けしてみようとしてますが、まぁ、万が一の為にね。

 

 

 

 

 

 暫くして、マスターと雨宮指揮官との交渉は終わりました。

 どんな手品を使ったのかは知りませんが、シオの存在をすぐに報告する事はしないでいてくれるそうです。

 

 ただし、無条件ではありません。

 一定期間を置いて、エイジス計画に代わる代替案を提示できなければ、特異点としてシオを強引にでも連れて行く、と言われました。

 

 代替案…無茶な事を条件にしてきたものです。

 一介のNOUKAとその見習いに、どうやってそんな物を作り上げろと言うのやら…。

 

 マスター、一体どうするつもりなんです?

 

 

 

神喰月ツバキ視点日

 

 

 ……うん、うん、大丈夫。

 前に農園の主にドヤ顔して語った推論だが、大筋は間違っていなかったから大丈夫。

 私の心は、その程度で傷が付く程ヤワではない。

 

 さて、ちょっと自分を誤魔化しつつも、農園の主と情報交換を行っている訳だが…さて、どうしたものだろうか。

 どうやらアリサもコイツも、あのシオと呼んでいる特異点に情が移っているようだが、それは私を止める理由にはならない。

 薄情な言い方になるが、こいつらにとってどれだけ大事な存在であっても、見ず知らずの私にしてみれば、エイジス計画を成功させる為のファクターとしか見られない。

 例え顔見知りの仲だったとしても、指揮官としての私は同じ判断をせざるを得ないがな…。

 

 しかし、そこに待ったをかけている懸念がある。

 愚弟が調べようとしている、エイジス計画の裏にある『何か』だ。

 

 これでも愚弟の、特に厄介事に対する嗅覚には、それなり以上の信頼をもっているつもりだ。

 その愚弟がわざわざ危険を犯して調べようとするからには、とてつもない厄ネタが潜んでいる可能性が高い。

 それこそ、エイジス計画の要である特異点を見つけても、すぐに報告するのを躊躇うようなネタが。

 

 とは言え、やはりそれだけでは報告しないという選択肢は取れない。

 石頭と言われても仕方ないかもしれんが、それだけ重要な案件だ。

 

 

 

 …なのだが…毎度毎度、この男は何処から情報を持ってくるのやら。

 愚弟が調べようとしているエイジス計画の裏…つまりアーク計画の概要まで知っていた。

 愚弟の命を賭けた尽力が無に帰した瞬間である。

 ちと同情する…。

 

 例によって情報全てを信用している訳ではない。

 が、以前から考えていた「エイジス計画に特異点が必要なのか?」という疑問にも合致する。

 他にも色々と、否定できない材料が揃ってしまっている。

 

 終末捕食とやらにはまだ時間的な余裕はあるようだし、裏付けを取る必要がある。

 

 

 だが、仮にそのアーク計画が真実だったとしても、それが終末捕食を生き延びる現実的な手段である事は変わりない。

 例え、助けられる人間が本当に一部だけだったとしてもだ。

 終末捕食が終わって地球に人類が帰ってきた後、アラガミが消えていると言うのなら、恐らく種の存続と言う意味ではこのまま戦い続けるよりも余程目があるだろう。

 

 故に、アーク計画…世間的にはエイジス計画に代わる『何か』が無いのなら、私はシオを引き渡さざるを得ない。

 そう告げると、「まだ話せないが、心当たりはある」と返してきた。

 

 …ハッタリではない事を望んでおこう。

 

 

 

 

 それはそれとして、シオの事を黙っている代わりと言っては何だが、一度アナグラまで来い。

 先日も言ったが、支部長がお前と話をしたいと言っていた。

 アーク計画で生き延びさせるのが一部の優れた人材のみだと言うなら、恐らくお前はそれに含まれる…いや、それを直接会って判断しようとしているのかもしれん。

 出切ればその時の会話を聞きたいが………。

 

 

 

 

 おい、盗聴器とか何故持っている。

 一体誰に使っていた、誰に使うつもりだった、答えろ。

 確かに私も使って支部長との会話を盗み聞きする事も考えたが、何故準備もせずに現物が今ここにある。

 

 

 

 

 ……ああうん、確かに。

 盗聴器だけあっても、受信機が無ければ単なるガラクタだな…。

 

 尚更なんで持っているのか理解できんが…。

 

 

 



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90話

今回ちょっとした超展開(?)です。
主人公の謎のかなり重要な部分…なのですが、今までロクに伏線を出せませんでした。
唐突すぎるけど許して腸捻転。


神喰月主人公視点日

 

 

 とりあえず当面は何とかなった、か。

 ツバキさんを完全に味方に引きこむ事はできなかったが、立場や状況を考えれば当然だろう。

 アーク計画を防いだところで、世界に平和が訪れる訳でもねーしな。

 

 アーク計画自体、世界に破滅を齎してその後自分が君臨しようってシロモノじゃなく、どうしようもない自然現象が起こるから、何とか生き残りを作ろうって計画だ。

 大の為に小を殺す…逆か?…ようなロジックでも、大小共に道連れになるよりよっぽどマシだ。

 

 

 この辺の取引の内容は、リンドウさんやアリサには教えていない。

 アーク計画の情報を与えて、リンドウさんが支部長を探る動きを止めてしまえば、何か気付かれてしまいかねない。

 悪いが、暫く囮になってもらうとしよう。

 

 アリサには……うんまぁ…言っちゃなんだが、教えた所で何もできんしな。

 下手な情報を与えると、支部長の事もそうだが、汚ッサンの事まで気づいてしまう可能性がある。

 ゴッドイーターとして立ち直りつつある不安定な時期に、下手な事は教えない方がいいだろう。

 それに、アリサの寝床は現状、支部長のお膝元だからな…。

 

 

 さて、それはそれとして、フェンリルに行く事になった。

 長くて2日程度で済むと思うが、その間のシオと畑の世話はアリサに任せなきゃいかんな。

 堂々と理由を話す訳にもいかんから、普通の休日…或いはあるのかどうか分からん有給…の日に来てもらわんと。

 休みの日を潰させて悪いね。

 

 丁度いい機会だし、アナグラの端末で情報ゴッソリ引き出せないかな。

 でも、この時期だと以前のループでサカキ博士から貰ったIDも効かなくなってるかもしれんな…。

 まぁ駄目モトで試してみればいいか。

 

 とりあえず手土産を選らばにゃならん。

 アリサが世話になってるし、まずは食堂の方々への手土産と、なるべく皆で分け合えるモノ…あと支部長にも別個で選んだ方がいいかな?

 

 

 …ツバキさんに、ニラとか山芋とか持っていこうかな。

 流石にすっぽんは無い。

 エロい気分になってくれれば、何時ぞやの『特異点(マスク・ド・オウガ)の飼い主が俺説』を唱えた時の賭け分を…。

 アレ賭けてもいいって勢い任せに言ってたからな!

 大筋は間違ってなかったし、俺の所に特異点が居たのも事実だったから、俺の完全勝利とは言えないが…そこは口八丁と強精効果に期待しよう。

 

 これもGE世界産の、生命力とかに満ち溢れまくったシロモノだからな!

 効果も期待できるぜ! 多分。

 ちゃんとした手順を踏んで薬にすれば、元の世界の強精薬なんぞ目じゃないくらいの効果が出るらしいが……やり方覚えてないんだよなぁ。

 オカルト版真言立川流にも、そっち方面の知識は書かれてなかったし。

 

 

 ま、それは置いといて……色々あって疲れたし、シオと戯れて癒されよう。

 

 そういえば、リンドウさん自身はこれからどうするんだろう?

 俺としては、支部長を探り続けて囮になってもらうつもりだが…。

 

 アラガミ状態の俺に、特異点を探せって言われて、本物の特異点を探していた訳だが……それが見つかった。

 見つかったはいいが、支部長やサカキ博士に渡す訳にもいかず、農園から引き離してアナグラに連れて行く訳にもいかず、シオを始末する事もできない。

 …ひょっとしたら、場合によっては覚悟完了してしまうかもしれないが…その場合、少なくとも俺と戦う事になるな。

 多分アリサも参戦するだろうが、終末捕食による人類滅亡とシオを測りにかけたらどうなるか、微妙な所だ。

 

 

 

 

神喰月主人公視点2日

 

 日程を調整して、俺は今日、アナグラを訪れている。

 随分と久しぶりな気がする。

 まぁ、1つの世界に滞在するのが(と言うかデスワープする間隔が)約3ヶ月程度で、今回のGE世界では既に1ヶ月経っているので、半年以上ここには来ていなかった計算になる。

 実際久しぶりではあるが。

 

 シオと農園の方は、休暇を取っているアリサに任せている。

 シオのご飯も多めにストックしておいたので、飢えて暴走する事はないだろう。

 

 

 

 支部長が何処かと打ち合わせの為、俺との面会時間はもう少し後になるそうだ。

 呼び出しておいて済まない、とツバキさんに詫びられた。

 

 俺としては、それより食堂の狂乱を治めた方がいいと思うんだけどな。

 手土産持ってきたら、あっという間に情報が広まってしまった。

 …以前にアリサに差し入れした時もこんな按配だった、とは聞いていたが…これ程とは…。

 

 

 ツバキさんが食堂の鎮圧に向かい、俺を監視している視線も無さそうだったんで、ちょっとアナグラの中を歩き回ってみた。

 監視カメラがあるので、機密がありそうな所には入れない。

 とりあえず、毎回俺の部屋として割り当てられる部屋に行ってみた。

 どうやら誰かが使っているようだ。

 …特異点目当てに、極東にゴッドイーターが流れてきたって聞いたが、その人かね?

 

 

 それと、情報を引き出す為にターミナルを使いたいんだが……厄介な事に、俺が知る限りターミナルがある場所には全て監視カメラが設置されている。

 幾らかはダミーがあるかもしれないが、まぁ当然と言えば当然の処置だよな。

 機密情報だって入ってるんだし、ゴッドイーターにとってはPCであると同時にATMみたいなもんだ。

 監視しない方がおかしい。

 

 さて、しかしそうなると厄介だな。

 サカキ博士のIDがまだ有効か確かめるだけでも、監視カメラに画像として、ターミナルにはログとして残ってしまう。

 俺がそのIDを打ち込んだ、という事を特定されてしまいかねない。

 何故そのIDを持っている?と尋問されるのがオチである。

 

 カメラがついてないターミナル……いや、あるにはあるな。

 ゴッドイーター各員の部屋に配置されているターミナル。

 …流石にカメラは無い…よな?

 

 しかし、どっちにしろそこを使おうと思ったら、ロックがかかっている部屋に入らなければならない。

 …誰かが部屋に入る瞬間に割入って気絶させるか?

 

 それとも、カメラに霊気をぶつけて一時的に故障させるか? 

 

 

 …いや、よく考えたら協力してくれそうな人が居たわ。

 リッカさんが。

 あの人なら、ターミナルのログの改竄だってできるかもしれん。

 

 

 

 という訳で、ちょっと相談してきた。

 が、残念ながらターミナルのログを弄るのはかなり難しいらしい。

 リッカさんの部屋の端末を使う事はできないって事ね。

 

 代わりに、空き部屋に設置してある端末を使えるようにして、一時的にそこに入れるようにしておく、と言ってくれた。

 ついでに、何か面白そうなデータがあったら取ってきてくれ…だそうな。

 ナチュラルに危ない橋を渡るお方である。

 

 準備に少し時間がかかるので、支部長との会合の後になる。

 さて、どうなる事か…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファッ!?

 

 

 

 

神喰月主人公視点3日

 

 

 えー、ちょっと今ワケの分からない状況に居ます。

 なんつーかその、狩りの最中に溜め切りに行った大剣がバス亭で…防御しようと思った盾がお鍋の蓋だったような……スマン、忘れてくれ…。

 

 えー、まずはですな。

 支部長との会合ですが、まぁいつも通りというか何というか。

 頼むから比喩とか使わずに、もっと直接的に喋ってくれ。

 アーク計画の事を暗示しているんだな、って思うような所は幾つかあったが、正直言って何が言いたいのかサッパリ理解できないレベルだった。

 政治家やマスゴミ相手に答弁してんじゃねーんだからよ……。

 そりゃ、アーク計画の事を大っぴらに語るワケにはいかんのも分かるけど。

 

 適当に返事してたら、よく分からんウチに支部長が納得した顔をして、話が終わっていた。

 ついでに、何かチケットを渡されたんだが……なんぞコレ?

 「機が訪れるまで、持っていてくれたまえ。 使うかどうかは好きにしていいがね」なんて言われたんだけど。

 調べてみたが、少なくとも極東で流通しているチケットじゃない。

 金券にもならん。

 

 …やっぱアレか、アーク計画乗船用のチケットか?

 でもそんなモンを、どうして今この段階で渡すのやら。

 やっぱ支部長が考えてる事は、イマイチよく分からん。

 

 

 とりあえず、支部長との話が終わった後は、リッカさんに会いに行った。

 情報を引き出すのに使える端末の事を聞きに行ったんだ。

 流石というべきだろうか、既に準備はバッチリで、とある空き室を使えるようにしてくれていた。

 ゴッドイーター達に見つからずに移動し、カメラだって何処にあるのか大体予想できたんで、特に問題なく部屋に入り込めた。

 

 サカキ博士から貰ったIDも、まだ変更されてなかったようで、データベースに潜り込む事が出来た。

 

 そこまでは良かったんだ。

 

 

 正直に言おう。

 サカキ博士なのか支部長の子飼いなのか、俺は極東のセキュリティを甘く見ていたらしい。

 

 正しくないID・パスワードでログインが弾かれた時、ロックがかかる、或いはどこかに連絡が行くのは想定していた。

 そこはクリアできていた。

 

 が、例え正規の方法を使っても、ファイルを開いた時に無条件に足跡が残る、というのは考えもしなかった。

 そうだよな、極秘データのセキュリティなら、それくらいやってもおかしくない。

 本当に極秘のデータなら、そもそもデータ化せずに物理的に目視しなけりゃ確認できないような、紙束形式にする事だってあるんだ。

 俺の想定が甘かった。

 

 要するに、重要そうなファイルをサカキ博士のアカウントで開く⇒何処かにその痕跡が書き込まれ、それを見た人が博士に確認を取る⇒いや、知らないね。スパイかな?

 という流れ。

 

 幸いだったのは、監視カメラが無かった事と、年の為に部屋の扉をロックしておいた事。

 不幸だったのは、憲兵の類が部屋の直前に来るまで、俺が気付かなかった事。

 不幸中の幸いだったのは、扉が開かれる前に俺が憲兵に気付いた事だろうか。

 

 

 

 

 

 そして、完全な密室である部屋の中で、逃げる、或いは隠れる場所を探そうとした俺は、ナニがどうなったのか、謎の空間に居る。

 

 いや本当、何がどうなったんだろうか。

 そしてここは何処なんだろうか。

 奇妙な居心地のよさを感じる。 

 まるで故郷に帰ってきたような、「自分が本来居るべき場所に居る」と確信を持ったかのような居心地の良さだ。

 

 上も下もアテにならない、真っ暗な空間の中、遠くで、近くで、いくつもの小さな光が瞬いている。

 感覚を研ぎ澄ませば、あっちこっちに等間隔で並んだ線が見える。

 

 そして、俺の体に向かって3方向……いや、時々4方向から突撃してくるのっぺら(小)達。

 最初は何体か迎撃したんだが、数が多すぎる上、ホーミング性能が高すぎる。

 俺に向かって突撃してきて、激突したのっぺらは、ナンだかよく分からんが俺の体に吸収されていた。

 

 害は無い…と、思う。

 俺の精神的ダメージ以外は。

 

 というより、恐らく俺は「こうやって存在するようになった」。

 

 …ナニを言ってるのかわからないと思うが、俺も分からん。

 ポルポル並みに理解できんが、本能が理解している、多分。

 

 

 

 …この際、整合性だとか誤解だとか正解だとかどうでもいいから、感じている事を箇条書きで記す。

 

 まずのっぺらが気色悪い。

 俺の体はのっぺらの集まりで出来ている。

 

 …ここまでは、以前の妙な夢で何となく気付いていた事だ。

 この辺からが本番。

 

 

 多分、この空間は俺が生まれた場所だ。

 3つの世界のループに巻き込まれる前の記憶もあって、その中にこんな空間があるなんて全く覚えが無いが、それでも俺はここで産まれた。

 GE世界の妙な空間って事じゃなくて……多分、この空間に非常に良く似た性質を持った何処か、が俺のルーツだ。

 

 そんで、流れ込んでくるのっぺらの一人一人…こいつらが、俺の体をちょっとずつ強化していっているようだ。

 うーむ、最初の頃は貧弱君だった俺が、身体能力任せにNOUKAの真似事できるようになったのは、こいつらが原因だったのだろうか…。

 

 

 

 直感に任せて、この空間の中を動いてみる。

 なんつーか言葉にし辛いが、空中に窓口を作るというか……アレだ、何となくできそうだったんで、空間に映像を投影。

 …上手く行った。

 どこをどうやったかは聞かないでほしい、説明に困る。

 本当に困る。

 

 とにかく、俺がイメージした通りに空間にディスプレイっぽいものが生まれ、そこには何処かの部屋が写っている。

 と言うか俺がさっきまで居た部屋だ。

 

 そこには憲兵らしき人物が居て、部屋を荒らしまわっている。

 音は聞こえないが…多分、「何処に行った」「まだ近くに居る筈だ」的な会話をしているんだろう。

 

 つまり、俺は肉体ごとこの空間に入ってきているワケか。

 それも、最後の『あっち側』での行動を鑑みるに、恐らくはターミナルを通じて。

 

 何をどう考えてそれを実行したかは定かではないが、右手でターミナルに触れた状態で、なんつーか…感応現象的な何かを起こそうとした覚えがある。

 それが実現できてしまったって事は、何か?

 俺はターミナルを相手に感応現象を成立させたって事か?

 アリサでさえも成立しなかったというのに。

 

 いや、肉体ごとこの空間に入ってきている時点で、普通の感応現象じゃない。

 ワープの類?

 うーむ…。

 

 

 憲兵が暫く部屋から去りそうになかったので、その間にこの空間の事をちょっと調べてみた。

 遠くでピカピカ光っているナニカと、俺に流れ込んでくるのっぺら以外は何も無い空間だ。

 とりあえず、のっぺらが何処から流れ込んでくるのかを追ってみた。

 

 正直言って気色悪かったが、明らかに異常なこの事態…ひょっとしたら、ループに関する重要な情報が得られるかもしれない。

 

 

 …と勇んで向かってみたところ、のっぺらは空間に空いた穴から流れ込んできていた。

 そーいや夢でもこんなカンジだったな、と思ってより詳しく調べようとしたが、なんかこう…見えない壁に阻まれる。

 次元断絶とか、第三の壁とか、そんな感じか?

 

 またしても出来そうな気がしたんで、ディスプレイ投影。

 …のっぺらの3つの流れの内、2つは成功した……5秒も経たずに消えてしまったが。。

 そこに投影されていた映像は、明らかにGE世界のモノじゃない。

 MH世界と、討鬼伝世界の光景だ。

 

 …う~む…。

 のっぺらが流れ込む穴をルートにして、その先の映像を映し出したようなんだが…つまり、この穴は別の2つの世界に繋がっていて、そこからのっぺらが入ってくる?

 でも討鬼伝世界ならともかく、MH世界にはのっぺらなんて居ないよな。

 

 …いや待て、本当にアレって別の世界の光景か?

 映像が妙に乱れてたせいかと思ってたが、映し出されている生物の動きが不自然すぎる。

 映像が途切れたのだって突然すぎる。

 映像が荒くても映ってはいたのが、まるで誰かがテレビの電源を強引に抜いたみたいに唐突に消えた。

 

 

 …監視されている?

 ここがターミナルの中であるなら、不自然なアクセス経路が発見されて、それを潰される…というのは不思議な話ではない。

 要するにハッキングと、それを防ぐ防壁だ。

 

 

 

 …アカン、ナニがナンだか分からなくなってきた。

 混乱してたけど、混乱を通り越して目の前にある情報すら処理できなくなりつつある。

 憲兵も部屋から去ったようだし、退却するか…。

 

 しかし、どうやったら出られるんだ、ここ…。

 

 

 

神喰月主人公視点4日

 

 

 ワケの分からん空間から、扉を開けるよーな気軽な感覚で脱出して、今の俺は農園に居る。

 アリサが滞在してくれたおかげで、何とかシオも農園も無事だった。

 アリサは休暇が終わったので、アナグラに帰って任務中の筈だ。

 

 代わりにシオの晩御飯のストックが無くなったけどな。

 無邪気に食べてるのがカワイイ、ってアリサがホイホイあげちゃったらしい。

 まぁ、そっちはまた狩ればいいだけの話だ。

 普通の生物と違って絶滅なんかしない(むしろさせたい)相手だから、気兼ねなく狩れるのがいいね。

 

 

 結局、あの空間は何だったのか…。

 恐らくサイバースペースと言うか、電脳空間と言うか、そんな感じの奴だろう。

 唐突にSFチックになったものである。

 

 と言うか、なんだって俺にそんな能力が備わってたのやら。

 あの空間の中で感じたように、俺があそこで産まれたのであれば、まぁ分からないでもないが…。

 

 ん?

 でも、ループが始まったのってMH世界からだよな?

 そうなると、俺がGE世界のサイバースペースで産まれたのと矛盾しないか?

 あの空間で生まれたなら、GE世界か…仮にそこで死んだとしても、討鬼伝世界からループが始まると思うんだが。

 

 

 

 …分からんな。

 幾つか仮説は思いつくが、不愉快な結論ばかりだ。

 

 どうやらターミナル…というより、恐らくはインターネットに繋がる電子機器…を経由しないとあの空間には行けないようだ。

 フェンリル内部に入り込まないと、また試してみる事もできない。

 多分、他の2つの世界に至っては、入り口さえ無いだろう。

 

 出来る事なら、今回のループで色々解き明かしてしまいたいものだ。

 

 

 

 さて、それはそれとして、よく分からんウチに支部長に言質を取られ、極東における農園作りに協力する事になってしまった…らしい。

 らしい、というのは、支部長の話の何処でそれを俺が承諾したのか、サッパリ分からないからだ。

 なんか騙されてる気がするが……まぁ、農園をあちこちに作ると言うなら、俺としては反対する理由は無い。

 この世界の食糧事情の改善、という目的に、少しでも近づけるだろう。

 

 形さえ作ってしまえば、後はアリサに任せておけばどうにかなる。

 その程度には、アリサも熟練度が上がっていた。

 

 

 

 さて、それは置いといて…ツバキさんが家にやってきた。

 そういや、ツバキさんって支部長との話を盗聴器使って聞いてたんだっけか。

 …ひょっとして、支部長の話が分かりづらかったのって、盗聴を警戒してたからでもあるんだろうか?

 どんだけ警戒しとんねん…実際に盗聴されていた以上、警戒しすぎとは言えないが。

 

 ちなみに昼間だから、シオは寝てる。

 

 

 

 ともかく、ツバキさんの用向きは、支部長との話についてだ。

 …ナニがなんだかよー分からんウチにああなってた、と言っても信じてくれない。

 「秘密裏にアーク計画とやらさえ探り出す貴様が、あの程度の会話で混乱する筈があるまい」って………ああうん、言ってる事は分かりますよ。

 実際、探り出そうと思ったら、とんでもなく頭がキレる奴じゃなければ、跳ね返されて『処理』されるだけってレベルの機密だしさ。

 でも俺の場合、最初から知ってたってだけなんだよね…とてもじゃないが説明できん。

 

 

 …まぁ、ツバキさんと敵対する事にはならなくて、良かった良かった。

 支部長に協力する事にはなっているが、それはあくまで畑の拡張その他の事のみ。

 食料の自給率が上がる事に、ツバキさんとしても異論は無かった。

 

 

 …で、その後は「これからどうする?」的な話を(かなり一方的に)された。

 具体的に言うと、出し惜しみせずに隠してる情報全部吐けやオラァ、みたいなカンジで。

 

 …酒飲みながら。

 長い話だし、シラフで話せるような事でもない。

 いや、真面目な話なんだから普通はシラフだろって言われると反論できないけどさ。

 

 実際色々隠してるしな…信用できないだろう、と思って黙ってた奴から、個人的にバラしたくないモノまで。

 後者はともかく、前者を隠したところで全く意味は無い。

 こうやって聞き出そうとしてくるんだから、それなり以上に情報の信憑性を認められたと思っていいだろう。 

 

 とは言え、GE無印についての情報は、もう大した奴は残ってない。

 GEBに至っては、リンドウさんが無事だから発生しない可能性が大。

 GE2は……どうだろうな。

 アレって終末捕食が防がれたから、その代理を探そうとして発生するイベントだったし。

 まぁ、仮に終末捕食を防げた場合、どんな事態が考えられるかってのは、重要と言えば重要な情報だが…。

 

 

 

 赤い雨とか、フライアのモノスゲェ胡散臭い博士とか、悪女的なキャラだと思ってたらヘタレだった赤い方の博士とかの情報は省いて、次の特異点が産まれる可能性がある事を伝えた。

 つまり、今回を凌いでも、根本的にどうにかしない限り、終末捕食の危機は消えない。

 ツバキさんが頭を抱えていた。

 気持ちは分かる。

 人類が生き延びようと思ったら、分の悪い…どころじゃない、勝ち目なんぞ無いに等しい戦いに勝ち続けなければならないのだ。

 

 そう考えると、アーク計画は確かに非常に有効な手段だろう。

 一度終末捕食を終えてしまえば、当分は同じ危機は訪れない。

 代わりに、新しい世界の中で一から生存権を確立していかなければならないが…問答無用で世界が滅びる可能性は激減するんだ。

 

 …俺もシオとかに関係が無かったら、そっちを支持してたかもしれんなぁ…。

 

 

 ウンザリした様子のツバキさんと顔を見合わせ、手元のビールを一気に呷った。

 その辺からは、もう愚痴大会だ。

 ヤケになったのか、意外と酒に弱いタイプなのか、それとも内部情報をこっそりリークするつもりなのかは分からんが、フェンリルの裏事情とかもちょこちょこ話しに出てきた。

 次回ループに使えそうな情報も幾つか…覚えとこ。

 

 

 

 

 

 そんで、まぁなんだ、いい加減予想もついてるだろうが。

 

 

 

 

 

 ツバキさん、美味しくイタダキマシタ。

 



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91話

ルーンファクトリー4とは、本人のレベルよりも各種スキルを上げるのが重要とみつけたり…。
序盤でレベル50くらいなんだけど、これって高いの?低いの?
そしてレベル20を超えてるスキルは拳や歩行、その他数えるほどです。
ちなみに今は溶岩窟で毒と炎に梃子摺っています。
ぬぅ、ダメージでかすぎ…。


 

 

神喰月主人公視点5日

 

 

 ハメを外して酒呑んで、溜め込んでた愚痴も思いっきり吐き出して。

 ついでに、ツバキさんてば深酒にも慣れてなかったみたいね。

 まぁ、いつでもある程度の理性を保ってなきゃいかんお仕事だしね。

 

 いい塩梅に理性のタガが飛んだ辺りで、いつぞやの「アレ賭けてもいいぞ」発言の事を持ち出したら…「うむ、一向に構わん! 持ってけ!」って按配で…スポポポーンって……。

 うん、とりあえずムードは無かったな。

 リンドウさんが知ったら、割とマジで凹むんじゃなかろうか。

 

 

 …まぁ、それはいいんだ。

 ツバキさん美味しかったし、何だかんだで記憶をなくしては無かったんで、合意の上だって事も分かってた。

 と言うか昨晩はアレしてると色々刺激が強かったのか、真っ赤になりながらも酔いが覚めてたみたいだったし。

 ちなみに、その状態から3回戦ほどオネダリされました。

 色々溜め込んでたみたいですなぁ……俺のスペックなら3回どころかおかわり5~6回でも余裕なんでドンときんしゃい。

 

 

 …話が逸れた。

 ともかく、そこまでは良かったんだ。

 

 

 

 

 …シオが乱入してくるまではな!

 

 しかもいつものシオじゃない、霊力を感じて暴走モードのシオだった。

 考えてみりゃたしかにそうだよなー、普通のエロエロするだけならともかく、俺の場合はオカルト版真言立川流を使ってるんだ。

 お互いの体に霊力やらナニやらを循環させて、増幅してるんだよ。

 俺の技術が不十分だからか、それとも元々そういう術なのか、体の外にある程度漏れ出しちまう……うん、房中術で気を漏らすのは絶対にやったらアカン事だから、俺の技術が未熟なんだな。

 或いは、相手に心得が全く無かったからかもしれんが。

 

 とにかく、体の外に漏れた霊力を感知して、シオが乱入してきたんだよ。

 …通常状態やアラガミ状態ならまだしも、流石に繋がってる時にシオに抵抗なんぞ出来なかったよ…。

 

 と言うか、割とマジでヤバいかも。

 いや、初体験に乱入されたツバキさんも色々な意味でヤバいし、見た目ょぅι゛ょに抑え付けられて逆○イプされたのもヤバいし、世間体的な意味でもヤバいが。

 

 一番ヤバいのはシオだ。

 ぶっちゃけ、押し倒されて中に注いでしまった。

 しかも真言立川流を使えるような状態じゃなかったんで、避妊もできんかった。

 

 あまつさえ、霊力がシオの中に残ってしまったっぽい。

 …シオもその霊力に気付いているようで、体に違和感を感じているようだ。

 「なんだかポカポカするぞー」「動きたくなるぞー」とか言ってるが…「おまたがむずむずだー」が一番ヤバいと思う。

 

 おまけにイタした記憶もある程度残っているらしく、「きもちよかったからもっとー」なんて言われてさ…何とかマッサージで誤魔化したんだけど、理性が保つかな……すまぬ、ソーマ…。

 

 …ところで……シオの中に霊力が入ってしまったって事は、特異点の中に霊力があるって事で。

 シオを通じて、霊力を使うアラガミが沢山出てくる予感が満載だ。

 …世間体だってヤバいが……人類規模でテラやべぇ。

 

 

 ついでに、シオと俺を取り合おうとするツバキさんの誘惑もやべぇ。

 まぁ、こっちはホイホイ乗ってしまって構わんのだけど、特異点モードになったシオが乱入してくるよな…どうしよう。

 

 

 

神喰月アリサ視点日

 

 

 ゴッドイーターとして復帰して数週間。

 何とか極東の皆さんからも信頼を回復できたようです。

 ですがまだまだ。

 NOUKAとしての道は始まったばかりです。

 ゴッドイーターでもありますが。

 

 

 それはそれとして、ようやくシオの服が出来上がりました。

 リッカさんに感謝です。

 

 うう、思い返せば苦節数週間…苦節というには短すぎる気もしますが、頑張りましたよ、マスター…。

 そういえば、シックザール支部長から聞いたのですが、アナグラに農園を作ろうとしているそうですね。

 マスターも協力するそうですが…マスターがあの農園から離れるとは思えません。

 やはり、多少なりともノウハウを持ったNOUKA見習いの私が担当になるのでしょうか?

 

 無論、否はありませんが…そこまで信用してくれるのでしょうか?

 あんな事をやらかした私なのに。

 いえ、その信頼を回復する為に今まで一歩一歩頑張ってきたのに、この期に及んで何を言っているといわれればそれまでですが。

 

 

 ともかく、シオに服を着せないと。

 最悪、人に見られても単なる子供…アルビノの子供だ、くらいに思われる程度の格好をさせないと、色々な意味で危険です。

 あの農園にいた私にも、拉致監禁とかの疑いが及ぶ可能性もありますしね…。

 

 では、マスターとシオの所に行くとしましょう。

 …あれ?

 

 車の貸し出しが1件…雨宮指揮官?

 しかも農園に向かったようです。

 何かあったんでしょうか?

 

 雨宮指揮官なら、シオの事も知っていますし、そうそう危険は無いと思いますが…。

 マスターとの謎の取引によって、シオを匿う事にも合意してくれていますし。

 

 ちょうどミッションに出る所だったリンドウさんによると、最近頻繁に農園に通っているとの事。

 「姉上殿にもようやく春来たか…」と遠い目をしてましたが……いや、まさか…ですよねぇ?

 マスターに限って………ペド疑惑はありましたが、ツバキさん正反対の熟…もとい大人の女性ですし。

 

 …まぁ、とりあえず行ってみますか。

 

 

 

 

 農園に着きましたが…珍しく外に誰も居ませんね。

 雨宮指揮官が乗って来たらしい車はあるのに。

 

 最近は観光客ラッシュも落ち着いてきて、度々訪れるのはエリックさんやソーマさんくらいなのですが…。

 それでも、昼間のマスターは大抵農園に居ました。

 細々とした手入れを続けていたら、文字通り日が暮れるんですよね…やる事が多すぎて。

 

 家の中で農具の手入れでもしてるんでしょうか?

 それとも、家の中で雨宮指揮官と秘密の取引中?

 でしたら、迂闊に入って話をややこしくする訳にもいきませんね。

 こっそり中を覗いてみましょうか。

 

 

 まだマスターに通用する程、気配を殺す術は覚えてないのですが…雨宮指揮官には通じるでしょうか?

 他の事に集中してれば、多分…イケると思うのですが。

 

 

 

 

 そんな事を考えつつ、窓に近付くと……その、なんです。

 中から妙な声が漏れてまして。

 

 話し合いにしてはおかしな声だな、とは思いましたよ。

 何の声なのかも、最初は全く分かりませんでした。

 

 ですが、思い当たった時……ええ、ショックでした。

 マスターと雨宮指揮官が、そんな仲だったなんて…。

 

 

 色々考えが浮かびました。

 私がマスターをどう思っていたのか、多少の自覚はありました。

 それが畏敬の念だったのか、それとも恋心なのかは未だに分かりません。

 

 ただ、ショックだっただけで。

 失恋…なんでしょうね、多分。

 

 それでも、ひょっとしたら私の間違いなんじゃないか?と思って、ちょっとだけ窓から覗き込んだんです。

 

 

 

 

 

 ……ええ、結局、間違いなんかじゃなかったって事は、一目で分かりました。

 失恋がどうとかいう以上のショックを受けましたが。

 

 

 マスターと雨宮指揮官が、予想通り励んでいましたよ。

 そこまではいい。

 ショックではありますが、そこまではまだ良かったんです。

 

 

 

 

 シオまで一緒に励んでいるのは、どういう了見ですか!?

 

 

 行為を強要している様子が無いのは救いでしたが、やっぱりペドフィリアだったんですね!?

 いえ、ペド野郎なだけではありません。

 シオのような幼女に手を出した上、雨宮指揮官みたいな売れ残……ん゛ん゛、熟女にも手を出しておきながら、同年代かつ一緒に暮らした私には一切そういうアクションを取らないってどういう趣味ですか!

 ストライクゾーンどうなってるんですか、上と下に異常に広いクセにド真ん中はファウルだとでも!?

 アラガミが現れる前であれば、私にはJK、更に転校生というレアリティさえついているでしょう、しかもマスターから見れば銀髪外人という付加価値付きで!

 

 そんな私に興味が無いとでも!?

 これでも結構自信あるのに!

 

 しかし現実に、目の前には私をスルーして幼女と熟女を貪るマスターの図。

 

 

 

 

 倫理観とか浮気がどうとか、マスターが好きなのかとか、この際どうでもいい!

 ここで引いたら女が廃る!

 

 アリサ、ゴッドイーターとしてでもNOUKAとしてでもなく、女として突貫します!

 年頃の女の子の味を徹底的に叩き込んであげますから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの、マスター…落ち着いたから聞くんですけど、何で私の体を私以上に知ってるんですか…。

 叩き込むどころか、3人纏めて骨の髄までしゃぶりつくされた上、次回調理の仕込までされた気分です…。

 

 

 

 

 

神喰月アリサ視点2日

 

 

 雨宮指揮官とちょっと微妙な雰囲気になりましたが、何だかんだで割り切られてしまったようです。

 雨宮指揮官は。

 私は正直、そこまだスッパリ考えられないんですが…。

 

 ええまぁ、自分から乱入してきておいて何を言う、なんて言われたら反論の余地もありませんが。

 でも、一体何がどうなってあんな事に?

 雨宮指揮官との関係もわかりませんが、シオも分かりません。

 何だかんだでマスターは、色々危ない人だとは思ってましたけど、シオに自分から手を出そうとはしていなかったようですし。

 もっと言えば、雨宮指揮官が二股染みた真似を許すとは思えないんですが…。

 

 はぁ、今現在私との関係も容認しているのを見れば、意外と寛容だとも思いますが。

 

 

 

 …なるほど、またシオが暴走状態になって乱入してきた、と…。

 ………いえいえ、信じていますよマスター。

 現在進行形で。

 過去形がどうだったかはともかく。

 

 しかし、結局あの暴走は一体何なんでしょうか?

 マスターを押し倒したり舐めたりしてるみたいですし、やっぱり犬猫の発情期的な何かなんでしょうか。

 …まぁ、何だかんだでシオもアレを楽しみにするようになっちゃったみたいですし……はぁ、色々言いたい事もありますが、グッと飲み込みましょう。

 正直、私も「無かった事にするから」なんて言われたら、何をやらかすか分かりません。

 スゴかったですし…。

 

 冷静になったら、ちょっと歩きにくくなってきました。

 マスター、一晩泊まっていっていいですか?

 いえ、お誘いとかじゃなくて…拒否はしませんけど…アナグラに帰ったら、すぐに任務に出ないといけないんで。

 この足腰で任務はキツいです。

 

 

 ところで、雨宮指揮官は一体何故ここに?

 馴れ初めについては今度じっくり聞かせていただきますが、何か重要な用事があったのでは?

 ちなみに私は、シオでも着られる服を某協力者から預かってきたんですが。

 

 

 …なるほど、シオに関する例の取引について、ですか。

 終末捕食を阻止する有効な手立て、か…。

 それが、何がどうなってあんなご乱交になったのか不明ですが。

 

 そもそも、ベッドに血の後が3つ……という事は、私もそうですが、二人とも始めてなのに4……いやいやいや、考えない事にしましょう。

 深く考えると、それこそ色々と深みに嵌りそうですし…。

 

 とにかく、終末捕食を防ぐ方法、見つかりましたか?

 

 

 

 

 はい?

 暴走状態は本能に素直になるって事だから、特異点としての本能以上に性欲に素直にさせ………何処の18禁小説ですか! 

 いえ、それが本当に有効だっていうならお手伝いもしますけど!

 むしろさせろください!

 

 

 

 ええ興味津々ですよ私だって初めてだったんです自分から乱入してきたとは言いますけどねそれを差し引いてもあんなのちょっとヒドすぎませんかコウノトリを信じていた子供の頃にAVを見せ付けられた気分ですよしかもメッチャ気持ちよくてド嵌りしちゃって何が悪いですかマスター責任とってください。

 

 

 …とにかく、それしか手段が無いんですか?

 確実性は?

 

 …どっちも分からない、ですか…。

 ……なるべくこっちに戻ってきて、シオに無茶させてないか確認しますからね。

 私も参加しますけどストッパー役だと思ってくださいよ。

 

 雨宮指揮官も、だそうです。

 うーん、ワケが分からなくなってきましたねぇ。

 

 

 

神喰月雨宮ツバキ視点日

 

 

 …初めてが……乱交……しかも躾けられた…。

 3人四つんばいで並べられて後ろから…。

 失神どころか、尿道が緩く……。

 

 

 と言うかあれから何度かやったが、一対一でできたのが数える程度…毎回シオが乱入してくるから…。

 

 

 い、いやまぁうん、前向きに考えよう。

 正直、立場的にも年齢的にも、私も諦めかけていたし、縁を持てた事はいい事だと割り切って。

 昔と違って純潔が問題になるような時代でも無し。

 最悪、シングルマザーという手もある。

 

 

 何より、私事で指揮官としての義務を果たさない訳にはいかん。

 あーいうのは奴の農園の中だけだ。

 …農園の中だけだから、家の外もギリギリ可。

 首輪つけてサンポ…いやいやいや、今は仕事中仕事中、煩悩退散煩悩退散。

 

 これから支部長とミーティングだ。

 万が一にも隙を見せる事はできん。

 

 どうにも、最近の支部長は焦っているように見える。

 出張から帰ってきて、特異点の情報が溢れかえっているのを知った時もそうだったが、最近の焦りはそれとはまた違っているように思う。

 

 …タイムリミットが近い、のか?

 運び込まれてくる資材の量や流れから見るに、アーク計画…に加えて、恐らく保険の意味合いもあるエイジス計画も、準備完了間近だろう。

 後は問題となっている特異点を確保するだけだ。

 

 だがその特異点…マスク・ド・オウガの方だ…が相変わらず見つからない。

 最近では目撃情報すら少なくなってきている。

 仮に捕まえたとしても、特異点ではないから意味が無いのだが……というか、結局マスク・ド・オウガは何者なのだろうか?

 やはりあの農園に居るのではないか、と思うのだが…。

 

 まぁ、それは今度農園に行った時に聞きだすとしよう。

 計画の完成が近いからこそ、鍵となっている特異点が見つからない事に焦る。

 分かる話だ。

 どんなに順調に進んでいても、鍵が見つからなければ画竜点睛、絵に描いた餅に過ぎない。

 

 …が、恐らく支部長はそれ以上に、全く手の届かない所で終末捕食が自然発生するのを恐れているのだろう。

 今でこそ特異点は農園に匿われ、あの手この手で…と言うかシモで特異点の本能に従うのを妨害されているが、逆の見方をすれば、妨害に失敗すれば、いつ本能に従って終末捕食一直線となってもおかしくないという事だ。

 

 支部長も、特異点の生態に関してはそれなり以上の情報を持っている筈。

 時間が経てば経つ程、この瞬間に終末捕食が起きるのではないか…という思いは強まっているだろう。 

 それを殆ど態度に出さない精神力には脱帽ものだ。

 

 …真面目な話、場合によっては私は支部長に協力せねばならん。

 シオとはまぁ、色々と妙な愛着も沸いてはいるが、世界を滅ぼす鍵である事はどうしたって否定できないのだ。

 

 さて、その支部長との話なのだが……

 

 

 

 奴は支部長の話が分かり辛いと言っていたが、私としてはそうは思わん。

 遠回しな表現が多いのは事実だが、それも通常の会話の範疇に入る。

 腹黒い狸共との遣り取りに慣れているから、そう感じるだけかもしれんが。

 

 さて、肝心の会話の内容だが、やはり特異点探しについてと…カルネアデスの板について。

 後者はアーク計画について、私の反応を見極めようとしていたのだろう。

 

 …尤も、知っていようが知るまいが、支部長の御眼鏡に適おうが適うまいが、私の結論は変わらない。

 NOである。

 例え私がアーク計画に賛同していたとしても、その方舟に乗る事は無い。

 方舟が飛び立つのなら、それを護る者が必要だろう。

 私は指揮官として、最後まで現地に留まり、残った死に損ないのゴッドイーター達を指揮するだろう。

 もしも誰一人残らなかったのであれば、方舟に乗り込めなかった誰かを、一人でも生き残らせようとする。

 

 文字通り…例え明日世界が滅びるとしても、私は未来の希望を護って足掻く。

 それだけだ。

 

 

 

 …言い切ったからな…。

 少なくとも、支部長はアーク計画に関する事で、私を重用しようとは思わないだろう。

 味方と言い切れる立場でもなく、だがしかし明確な敵でもない。

 最後まで生き残っていれば、むしろ終末捕食から宇宙船を護る壁になる。

 必要であれば始末するが、リスクを負ってまでではない…というくらいか。

 

 ま、それでいいだろう。

 

 

 しかし、もう一つの話が問題だった。

 エイジス計画の副産物……と支部長は言っていたが、どうかな…。

 

 簡単に言えば、アラガミを呼び寄せる『何か』が出来上がった、という話だ。

 それを使い、特異点を誘き寄せるという策。

 『何か』とやらが何なのかは分からないが、それはこの際置いておこう。。

 ただアラガミを呼び寄せるだけでは、対処できずに食い破られるのがオチだ。

 そもそも、引き寄せられるアラガミの中から、特異点をどうやって探すのだ…いや、確かにマスク・ド・オウガの外見は非常に分かりやすいが、奴はどうも姿を隠す事に長けているようだし。

 

 無論、支部長はこの点も考えていた。

 特異点は、人間と同じような進化を遂げた存在だ。

 無論、サイズも人間と同じ範疇である。

 マスク・ド・オウガの目撃例からしても、それは間違いない

 ならば、人間ほどの大きさしか入れないような場所に、アラガミを誘き寄せるモノを設置して、そこに入ってきたアラガミから狩ればいい。

 人型程度の大きさなら、極東の戦力を上手く使えば充分に対処できる。

 問題は、マスク・ド・オウガの戦闘力の高さだが…何も直接戦う必要はない。

 一度誘き寄せてしまえば、後は出入り口を塞いでしまえばいいのだ。

 エイジス計画に使われている、対アラガミ防壁の余りを使えば、充分に『檻』は作り出せる。

 

 …特異点ホイホイか、要するに。

 

 

 

 さて、どうしたものか。

 あまり日和見な判断はしたくないが、決断しにくい事なのも事実。

 もしもこれで本当にシオが本能のままに動き、捕まってしまうのであれば…私は支部長の決断を支持せざるを得ない。

 奴が示した、何処の思春期の小僧の妄想かといいたくなるような手段が、無効であると証明されてしまう。

 

 …顔見知りの、それも…曲りなりにも肌の暖かさを知った相手を見殺しにするのは本位ではないが…そういう決断をせざるを得ない。

 もう時間はないぞ。

 どうするつもりだ、奴は…。

 

 

 

 …愚弟を奴の味方につけておくか。

 どの道、支部長には疎まれている。

 …その能力を認めていない訳ではないから、仮にアーク計画を始動させたなら、何とかして方舟に乗り込ませようとするだろう。

 だがそれを良しとするようなら、私の弟ではあるまいよ。

 

 私達姉弟は、この世界で戦って、この世界で力尽きるだろう。

 ……理想を言えば、次代に繋ぐ血統を、サクヤの奴に受け継いでほしいものだが…それこそ望み薄か。

 あの小娘がリンドウの傍を離れるものか。

 

 

 

 

 ………うむ、そう考えても壁を殴りたくなる衝動は無いな。

 余裕があるのは良い事だ。

 これがSATORIの境地か……かつての旧文明の中で、SATORIを開いたメシアは上半身を後ろに倒して腕を振り回しつつ銃弾を避けたり、何故か念動能力に目覚めたり、10秒くらいで中国拳法をマスターした等と寝言を抜かすようになったそうだが、まぁどうでもいい。

 

 

 ともかく、タイムリミットはもう近い。

 ……もうちょっと楽しんでおくか…折角訪れた春だし…。

 この際シオやアリサが居てもいいから…。

 

 

 

 

 



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92話

どうも、時守です。
お待たせして申し訳ありません。
実家のお犬様が旅立ってから、暫く何をする気にもなれませんでした。
具体的には運動する気にもなれず、休日は日がな一日自棄酒でした。
加えて、執筆も少々行き詰っておりました。
何とか立ち直れてきたようです。
月半ばくらいに帰省するんで、その時は犬の墓の前でちょっと泣こうと思います。


別の意味で落ち込んだこと。

鬱陶しい客と、面倒くさいスタッフと話す⇒職場の先輩にどういう話をしたのか聞かれ、悪かった点を諭される。

…鬱陶しい、面倒くさいというフィルター越しに考えて、耳を貸さなくなってたのは俺か…。
ちゃんと話を聞かずに、こっちの言いたい事だけ押し付けてました…あの客には立場上言えないんで、黙って聞いて余計にイライラしてましたが。
という事は、頼りにしてるけど一方的にアレコレ言ってくるあのスタッフに対する苛立ちは同族嫌悪だろうか?

割と真面目に反省した一件でした。


 

 

神喰月主人公視点日

 

 

 いい加減、俺の女癖はどうにかならんもんだろうか。

 いや、エッチぃ事は大好きだし、関係を持った相手を俺なりに愛している(噴飯モノかもしれんが)のも事実だ。

 しかし何だかんだで、二股や浮気の常習犯だし(公認も多いけど)、このループに入る前から考えれば、壁ドンどころか山ドン、いやさ星ドンして貫通するくらいイイ目を見ている。

 そーいう意味じゃ直す必要は全く感じないんだが…。

 

 が、何だかんだでそれが大抵死亡フラグに繋がっている気がする。

 浮気がバレたのが原因になって死んだのは、那木に射られて桜花に追われた一回だったと思うけど、MH世界では娘と妻(と言っておこう)を庇って力尽きるは、恋人が古龍の襲撃で死んだと思って突貫かけてくたばるは、憧れの大先輩と関係を持った後にその後輩にオサソイを受けたらそれが死亡フラグだったは。

 GE世界だって、関係を持った相手はアリサ・ちゃん様・ジーナさんとあるけど、結局死ぬ時は一緒に死んでいる…終末捕食でくたばった時は、他の皆も一緒に死んでるだろうけど。

 討鬼伝世界は…まぁ、言うまでもないな。

 那木もそうだし、考えるまでも無く橘花に手を出すと桜花が三角頭の処刑人と化すフラグだし、千歳は…まぁ、死亡フラグじゃないにせよ、結果的にはイヅチカナタとの遭遇フラグになった…のか?

 

 虚海?

 アレはフラグになるほど強力なキャラじゃない。

 むしろギャグキャラチックだった。

 

 巻き添えにしているのか、それとも死亡率の高い世界だからある意味必然というべきなのか。

 

 

 何れにせよ、今回の死因は、痴情の縺れの超上級バージョンだと言っていいだろう。

 別に、関係を持った3人が暴れ始めた訳じゃない。

 そんな事するくらいなら搾り取りにくる連中だ。

 返り討ちにしてるけど。

 それでホクホクしながら(腰をガクガク言わせながら)満足してんだから、別にいいじゃないの。

 デートも……まぁ、農園の中でのデートをデートと言っていいなら、それなりにしている。

 肉体的以外にも、結構イチャついていると思う。

 セクハラ一歩手前だが、相手が嫌がらない限り如何なる行為もセクハラにはならぬ……他人に知られなければな。

 

 

 

 

 でも…加減ってモノをしくじった。

 途中までは順調だったんだ。

 3人とも何だかんだで味を占めてた。

 男女の仲はソレだけじゃないが、多少の事は夜の生活の充実で解消されるってのは事実なんだなぁ。

 

 …ちと話が逸れた。

 問題は、予想はしてるだろうがシオなんだ。

 

 俺とツバキさん、或いはアリサがナニしてると、大抵シオが乱入してくる。

 霊力を嗅ぎつけて暴走状態になっているか、通常モードで気持ちいい事に混ざりにくるかは半々程度だ。

 で、いつぞやツバキさんに語った目論み通り、オカルト版真言立川流の効果か、シオの本能に大分枷をかけられるようになってきていた。

 要するに肉欲>特異点、だ。

 

 ここで重要なのか、『>』である。

 日記だから書ける表現だが、『>超えられない壁>』ではないのである。

 つまりだな…。

 

 

 

 暴走状態でも肉欲に従うようになってたけど、満足しちゃってたらそりゃー、特異点の本能に従うよね、って話である。

 

 

 まだ分からない?

 

 

 乱交で俺、漲るゥァァァアアアア!!!

⇒纏めて可愛がりすぎて全員気絶、俺も寝る(この時シオ、暴走状態)

⇒シオが起きるが暴走状態継続

⇒肉欲は満ちているんで、今度は特異点としての本能に従った。

 

 

 

 

 俺も寝てたんで気付かなかった。

 真っ先に復活したツバキさんがシオの不在に気付いて、力尽くで叩き起こされたよ。

 むしろタマ潰されなかったのがマシな失態だったけど。

 

 

 原因は切腹も許されない程アレな話だったが、事態が一気に動き出してしまった事には変わりない。

 俺としてはシオを探し出して、正気に戻さないといけない。

 アリサとしては、シオを保護して、その後俺を去勢させると吼えている…うん、この際言い訳しないけど、女の子が去勢とかいうんじゃありません、犬猫相手じゃあるまいし…アッハイそっちの方が俺より上等でしたねハイ、

 

 そしてツバキさんは、事ここに至ってしまった以上、終末捕食に対して対策を行わなければならない。

 現在、ただ一つ見出されていたシオの調○という手段が逆効果になってしまった以上、取れる手段はただ一つ。

 

 アーク計画だ。

 

 

 終末捕食が起こるまでに、シオを捕らえられる可能性がどれだけあるか。

 高いか低いかは分からない。

 だが最悪の事態が目の前に迫っている可能性があるなら、手を打つのがあの人の役目だ。

 

 

 最後に軽いキスと、かなり本気のゲンコツを落として穴倉に戻っていった。

 支部長に報告して、アーク計画を超特急で稼動させるんだろう。

 

 最後に「いい夢だったが、オチが悪かったな」と冗談めかした笑い方をしていたのが、心にかなり痛い。

 

 

 …うん、いろんな意味で俺が言えるこっちゃないな。

 ともかく、この責任をどう取るにせよ、行くべき場所は一つだけ。

 

 アーク計画の中心部、即ちエイジス島だ。

 

 シオが正気に戻らず、本能のままに動き続けるのなら、必ずあそこに向かう。

 前回ループだってそうだった。

 あそこには、シオを引き付ける『何か』がある。

 多分……なんだっけ、アルター能力?

 いやアル……アル…今度日記を読み返そう、どっかで名前出てるかもしれん……とにかくGE無印のラスボスの肉体があるんだろう。

 さもなきゃ、終末捕食の際にシオの体を取り込んでいた部分か。

 

 

 ……よー覚えとらんが、イベントシーンの体のデカさに比べて、実際に戦った時の大きさは大した事なかったような気がする…。

 まぁどうでもいいか。

 

 

 ツバキさんの話じゃ、シオ…というか特異点を誘き寄せるための罠を作り出す事も計画されていたらしいが、恐らくまだ実装には至るまい。

 希望的、楽観的観測ではあるが、そうでもしないと探査の手が足りん。

 要するに、シオを捕まえるのに、エイジス島への一点貼りって訳だ。

 

 ツバキさんが支部長に事の次第を(どう報告するのか微妙に興味があるが)告げて、支部長が全速力で動いたとして…猶予があるとするなら、どれだけ見積もっても2日程度か。

 アーク計画の真実を公表するかは微妙なところだが、特異点がエイジス島に入り込もうとしていると伝えれば、ゴッドイーター達の多くは動くだろう。

 表向きの計画であるエイジス計画は、人類の安全地帯を確保する為の重要な計画だし、そうでなくても特異点を捉えられれば一獲千金だ。

 

 …対抗手段として、アーク計画の真実をバラすか?

 だが誰が信用する?

 いや、信用されなくても、エイジス島に乗り込んでしまえば、それに関連する事を目にする事もあるだろう。

 そこでゴッドイーター達が疑心暗鬼になってくれれば、付け入る隙もできるかもしれない。

 …暴動にまで発展するかもしれんけど。

 

 ……考えてみりゃ、アーク計画を完全な形で成功させようと思ったら、真実をバラすのは必須事項なんだよな。

 このご時勢に「宇宙船あるよ、ちょっと旅行行かない?」みたいな事を言われたって、誰がホイホイ来れるというのか。

 終末捕食による世界の危機を明かし、選定されたごく一部の人間が宇宙船に乗り込むまで、それなりに時間が必要だ。

 

 …そういう意味では、まだ時間に余裕はあるか。

 例えシオがゴッドイーター達に捕まって支部長に差し出されたのだとしても、終末捕食はすぐには起こらない。

 シオを殺すのを是とするような言い方でなんだが、例えシオが終末捕食の起点に取り込まれたとしても、そこから挽回する時間はある。

 

 …ゲームの結果を思い出すと、一度取り込まれたらシオを助ける方法は無いように思えるけどな…。

 

 

 考えるのはここまでだ。

 あれやこれやと仮定を並べても仕方ない。

 今全力を注ぐべきは、支部長達、ゴッドイーター達に捕らえられるまえにシオを確保する事。

 そして、どっちにしろ支部長へはツバキさんが報告してしまうだろうから、シオの確保後に身を隠す事だ。

 

 うう、さらば、我が農園…いい人の元に渡ってくれよ…具体的にはカレルさんとか、それなりに付き合いがあったから…。

 でも誰に渡ってもノウハウが殆ど無いんだよなぁ。

 ノウハウを本にしておくような余裕もないし…。

 

 

 

 

 

神変月アリサ視点日

 

 

 流石に今回はどうかと思います、マスター…リアルにシオの命と人類の存続が…。

 エッチで世界を滅ぼした男とか語り継がれますよ、アナタ…。

 …ええ、わかってますよ私だってその一因ですよ、でももしそーなったら私とツバキさんとシオは鬼畜に弄ばれたって言いますからね。

 あんまり間違ってないですし。

 

 

 それはともかく、時間との勝負…正にチキンレース状態でした。

 雨宮指揮官がマスターと袂を分かち(というほど大げさでもなかった気がしますが)アナグラへ戻った後、すぐに私達はエイジス島に向かいました。

 ちなみに足は、私が乗って来た車です。

 レンタル車…というかフェンリルの社用車なんですが……思いっきり私物化してしまいました。

 

 はぁ…この騒動が終わったら、どうなるにせよゴッドイーターとしての復帰は絶望でしょうね。

 前回のリンドウさん誤射事件も合わせ、特異点の隠蔽、しかもそれを確保する為に超重要機密でもあるエイジス島への潜入。

 

 と言うか、今更アーク計画とか聞かされても困るんですけどホント。

 私に黙ってた事、恨みますからね。

 搾り取る…のは無理っぽいから、その内他の事で埋め合わせさせます。

 

 ええ、愛想を尽かす事なんてありませんとも。

 たった数回のアレで、散々躾けられた『忠犬』ですので。

 しっかり可愛がってくださいね、三食オヤツ昼寝にサンポにブラッシング付きで。

 …子供も生んで、専業主婦してあげますから。

 ツバキさんとシオは……まぁ、全部終わったら女の戦いでケリを付けます。

 シオはお子様だし、ツバキさんは理由はどうあれ一度分かれた身の上なんで、私が一番有利!

 

 

 

 

 話が逸れました。

  

 あの後エイジス島に急行し、車は乗り捨てにして忍び込みました。

 流石に警備が半端じゃありません。

 人間相手ならマスター仕込みの隠密術で素通りできるんですが、相手が機械だとね…。

 監視カメラの位置などは、マスターが凡そ予想できるそうなのですが、全てではありません。

 何より、予想できたところで死角を通り抜けられなければ無意味。

 

 もっと怖いのが、所謂ブービートラップです。

 赤外線センサーは、流石にゴッドイーターの目でも感知できません。

 重要な場所には間違いなく付けられているでしょう。

 

 今はまだ、普通の職員達がウロチョロしている所までしか入り込んでいませんが…中枢部に行くとなると、それらを突破しなければいけません。

 

 

 …ですが、今はまだ必要ない…かな?

 シオがここに来ているなら、もっとここは騒々しくなっている筈。

 入り込んできたアラガミを、特異点とは知らずとも捕らえるか排除しようとしたり、或いは捕らえた特異点をどうやって『保管』しておくか、アーク計画を始動させる準備をしたり。

 

 それが無いという事は、まだシオはここに来て居ないという事?

 シオが暴走状態になっているにせよ、通常通りになっているにせよ、エイジス島の防壁を見つからずに擦り抜ける事ができるとは思えません。

 となると、探すべきはエイジス島内部ではなく、その周辺。

 入り込む場所を探して、ウロウロしているんじゃないでしょうか。

 扉を開けて欲しいワンコみたいに。

 

 …ちょっと想像して鼻血が出そうになりましたが……オタノシミの後に暴走状態だったから、多分服を着てないですよね。

 それどころか、ヘタをするとツルツルのおマタ(触って確認しました)から【ブローバック!】が……。

 

 早急に見つけなければ、私の世間体もヤバいかもしれません。

 

 

 

 

 さて、そんな実に保身的な焦りを抱えつつ、エイジス島付近を探索していたのですが…流石にすぐには見つかりません。

 範囲も広いし、何より外壁部分にもカメラその他はあるのです。

 しかも外壁の上の方に取り付けられているので、死角を通ろうと思ったら相当苦労します。

 ご丁寧にも魚眼レンズなので、やたら撮影範囲が広いし…。

 もういっそ海の中でも通った方がいい気がしてきました。

 

 水着?

 持って来てないですよ、そんなモン。

 ゴッドイーターの身体能力でも、服を着たまま泳ぐって結構辛いんですけど…しかも神機持ったまま…。

 

 それに、水に濡れると色々張り付いて透けるんですよね…まぁそれはマスターしか居ないからいいんですが、単純に冷えます。

 ゴッドイーターの体でも、風邪だけは防げません。

 

 しかしシオの為ならエンヤコーロです。

 …コーラだったかもしれません。

 ファンタ……スプラッシュ……サカキ博士が何か開発しようとしていたヤバそうなジュース…ペプシではない。

 

 

 

 

 暫く…半日くらいでしょうか…すると、エイジス島が騒がしくなってきました。

 防壁の外に居ても、案外分かるものですね。

 

 …何かを捕まえようとする気配ではありません。

 まだ探索の段階、ですか…。

 

 本当にシオがここにきているのか、不安になってきました。

 ひょっとして、途中で我に帰って農園に帰ってるんじゃないでしょうか?

 

 もしそうだったら…あれ、これ結構ヤバくありません?

 今、農園には誰も居ません。

 例えシオが戻ってきたとしても、世話する人も居なければ、フェンリルの手から匿う人も居ない。

 

 シオに、自分が追われている自覚なんてある筈もないです。

 もしも入れ違いで戻ってきていたとしたら…そして雨宮指揮官の報告により、農園に憲兵でも来ていたら…?

 

 

 

 

 はい?

 

 …ああ、まぁ確かにそうですね。

 相手が熟練のゴッドイーターならともかく、普通の人だと銃を持っててもシオを捕まえるのは不可能です。

 あれでも肉体的にはアラガミなんですから。

 

 

 …ただし、熟睡していなければ、の話ですね。

 

 

 あ、では途中で我に帰ったはいいものの、迷子になっている場合は?

 

 …子犬でも帰巣本能はある…ですか。

 まぁ、そうなって戻れなくなっていたら、後は私達とフェンリルとどっちが先に見つけるかの可能性の問題ですし、今からできる事はありませんか。

 ですが、真面目な話、一度戻った方がいいかもしれませんね。

 これだけ探して痕跡一つ見つからないとなると、本格的に入れ違いの可能性が出てきました。

 

 

 …は?

 私一人だけ、先に戻れ…ですか?

 マスターはこのまま探すんですか?

 

 それもあるけど、陽動も兼ねる?

 陽動…?

 

 詳しい事は秘密って、それいい加減やめません?

 事態がここまでややこしくなった原因、間違いなくその秘密主義が大きいですよ。

 …後は、何だかんだで盲従してしまう私も、ですかね…。

 

 ええ、地獄の底まで付き合いますよ、忠犬として。

 血の池と針の山を開墾してあげましょう。

 ここまで来たら一蓮托生です。

 

 それじゃ、一度戻ってシオが居ないかを確認したら、すぐに戻ります。

 落ち合う場所と時間を決めておきましょう。

 もしもそこに来れなかったら、フェンリルに捕まったと仮定して行動するって事で。

 

 無線の類も、今となっては迂闊に使えませんからね。

 では、健闘を祈ります。

 

 ん?

 なんですか、この玉?

 …対人用秘密兵器?

 

 

 

 

神変月主人公視点日

 

 

 アリサを見送って10分程。

 もう気配が完全に感じ取れないくらい離れていったようだ。

 

 …ふぅ、もうこれくらいでいいかな?

 

 アリサの提案に乗ったのは、大した企みがあったからじゃない。

 実際、シオと入れ違いという可能性は確かにあったし、農園に戻ってくる可能性だってある。

 フェンリルからのガサ入れが入っているのはほぼ確実なので、そこにシオが居たら……まぁ、考えるまでもないな。

 

 さて、そうなってしまう前に、ここで一つやっておける事がある。

 アリサに言った通り、【陽動】だ。

 

 ただし、アリサにそれを見られる訳にはいかない。

 

 もうお察しだと思うが、マスク・ド・オウガこと、仮面ライダーアラガミ状態での陽動作戦である。

 支部長がシオについてどう聞いているかは分からないが、少なくともゴッドイーター達の間で特異点=マスク・ド・オウガ説はまだまだ根付いている筈。

 マスク・ド・オウガが姿を見せれば、ゴッドイーター達はそっちに注力する筈だ。

 もしもシオが上手く逃げおおせてくれてれば、時間稼ぎになるだろう。

 

 …なるといいなっ。

 

 

 では、カメラの届かない位置に移動して……マスク・ド・オウガ改め、仮面ライダーアラガミ!

 行きます!

 

 

 

神変月ソーマ視点日

 

 

 アイツから極東のゴッドイーターに対して指令が出された。

 ここの所、例の特異点とやらを探して他所から来たゴッドイーター達が増えていたが、その連中に対しても、だ。

 何でも、特異点の住処が見つかったらしい。

 

 …ここの所、例の農園に行ってはメシ食って、腑抜けていたが……あの人型のアラガミは俺の獲物だ。

 別にこの手で倒す事に拘っている訳じゃないが、一度仕留め損ねて放置していたからな。

 キッチリ潰しておかないと、気分が悪い。

 

 それに、アイツが特異点とやらだって事もある。

 エイジス計画にも、その裏で何かやってるらしい計画にも賛同する気はない。

 成功するならそれでいいし、失敗したならどうでもいい事だ。

 

 特異点…マスク・ド・オウガも、俺にとっては単なるバケモノ以上のものじゃない。

 …エリックを助けられた借りは覚えているけどな…。

 

 

 

 とにかく、見つけた以上は狩るまでだ。

 他のゴッドイーター達は、自分が捕まえて賞金を手にしようとしているみたいだが……まず無理だろうな。

 自画自賛する訳じゃないが、俺でも正面から戦えば、勝てるかどうか分からん。

 退くって選択肢はないがな。

 

 一度会った時のあのスピードに対応できるよう、色々と策を練ってはいるが……正直心許ない。

 功に焦った連中でも、慎重にしとめようとする連中でも、あの程度じゃな…。

 他の地域ではエース級なのかもしれんが、極東に来た時点で「お察し」って奴だ。

 まぁ、それで折れずに強くなろうとしている奴しか残ってないけどな。

 

 

 ともかく、特異点は現在暴走状態とやらにあり、エイジス島に一直線に向かってくるか、暴走が止まって住処に戻るかの2択が考えられるらしい。

 胡散臭い奴だが、多分紛い物の情報ではない…と思う。

 特異点とやらを捕らえなければならないのは事実だろうし、居場所を誤魔化してもメリットがないだろう。

 

 極東のゴッドイーターは二手に分かれる事になった。

 一方はエイジス島の警備となり、防衛及び特異点がやってきた場合に確保する役割。

 もう一方は、特異点の住処と思われる場所に急行し確保、居なかった場合は手掛かりを探す。

 そして俺は、住処への急行に組み込まれた。

 

 …のはいいんだが………何でその先がいつもの農園なんだ?

 

 俺もエリックも、これには首を傾げた。

 他のゴッドイーター達も、場所を告げられて困惑しているようだ。

 あの農園の事は有名だったからな…極東の人間なら、一度は訪れようとしただろうし、生活に余裕のある人間なら現に一度は訪れている。

 

 あそこへ踏み込め、と?

 あの農園の主はどうした。

 そう言えば、あそこには……殆ど顔を合わせてなかったから名前が『野菜』としか思い出せんが、あのロシアから来た新型使いも居た筈だが…アイツを通して食材が運び込まれてきたのは嬉しかったな。

 …曲がりになりにも新型使いだし、最近は充分戦えるようになったと聞いていたが…このグループの中には居ない。

 エイジス島の防衛組みに組み込まれたのか?

 しかし、土地勘があるという点では奴以上のゴッドイーターは居ないと思うが。

 

 

 考えている間にも、出撃の準備は進む。

 俺も考えるのを止めた。

 行けば分かる事だ。

 

 

 出撃用の車だけではゴッドイーターを運びきれず、トラックに乗って行く事になった。

 かなりの鮨詰めだ。

 

 ……以前までなら、俺と一緒の荷台だと死にそうだ、と陰口を叩かれていたと思うんだが……なんか最近、妙に生暖かい目で見られているような気がして気分が悪い。

 しかし口にするのも何だかな…。

 

 とりあえず、隣には何だかんだといいつつコンビが長くなったエリックと、その反対側にリンドウが乗っている。

 …リンドウの様子がおかしいな。

 妙に気もそぞろと言うか、何か迷っているような雰囲気がある。

 仮にも隊長のコイツが、慣れた人間なら一目で分かる程に困惑した空気を出すのも珍しい。

 何かあるのか?

 ミッションの場所があの農園だという事以外に、何か…。

 

 

 

 

 農園に着いた。

 もぬけの空だ。

 農園の主も居ないし、『野菜』もとい新型使いのアリサ…エリックから名前を聞かされて思い出した…も居ない。

 周辺を探してみたが、アラガミさえ居なかった。

 勿論、特異点もだ。

 

 命令では、ここに人型アラガミが居る可能性があるので、マスク・ド・オウガでなくても確保しろ、という事だったが…可能性は可能性、という事か?

 しかし農園に誰も居ないのも気にかかる…。

 ここが無くなったらメシが…。

 

 

 

 そんな事を考えていたら、エリックがリンドウと話し込んでいるのを見つけた。

 足元には車の轍がある。

 農園の主は、この車で何処かに行ったんだろうか?

 

 …リンドウが言うには、この轍からして、恐らくフェンリルの社用車だそうだが…何でそんな物に乗っている?

 アリサがここに来るのによく車を使っていたのは知っているが、農園から明らかにアナグラではない方向に向かっている。

 

 …追ってみるか。

 元々アイツ自身、正体不明で怪しい奴ではあったんだ。

 

 それより何より怪しいのは、リンドウの態度の方だがな。

 口も回るし飄々とした態度で真意を隠す奴だが、何を焦っているのか、一人で車の後を追おうとしているのが丸分かりだ。

 何か知っている、この先に何かあると言っているようなもんだ。

 それも、コイツがこうまで焦る何かが。

 

 

 四の五の言うのを無視して、車の後を追ってみる。

 エリックからは行くなら連れて行け、と抗議が来たが、単独行動も文句を言いつつ追いかけてくるのもいつもの事だ。

 リンドウの奴も、結局俺達を止める事を諦めたようだった。

 

 

 

 

 

 暫く車の跡を辿り、人が居ない場所を走る。

 まず最初に見つけたのは、倒されたまま放置されているオウガテイルだ。

 誰がやったのか知らんが、体の半分以上が無くなっている。

 チャージクラッシュはオラクルパレットで吹き飛ばされたんだろうか?

 

 もう暫く追うと、今度はシユウが倒れていた。

 コイツも体の一部だけが消えている。

 倒されてから、あまり時間は経っていないようだ。

 

 

 更に進んで……ソイツを見つけた。

 最初は単なる人間のガキかと思った。

 だが、こんな所に子供一人が居る筈が無い。

 それ以前に、一目見ただけで分かった。

 

 そいつはアラガミだと。

 

 

 

 と言うかアラガミ食ってるシーンに遭遇するとは思わなかった。

 倒したアラガミに、文字通り食いつくシーンに……旧世界の映画みたいだな、とボンヤリ思った事を覚えている。

 

 しかも、そのあとソイツが「あ、りんどうー」なんて言いながら走り寄ってくるんだ。

 もう訳がわからねぇ。

 

 リンドウはリンドウで、そいつの無事を確認してホッとしたのか、大きく溜息を吐いていた。

 …顔見知りか。

 という事はコイツ、特異点の事を知ってて黙ってやがったな?

 何のつもりだ…。

 親父や博士のような腹黒い奴じゃないから、何か企んでいる訳じゃないだろう。

 

 

 …関係ないか。

 バケモノはぶっ殺すだけだ。

 相手が人間にそっくりでも。

 

 リンドウの知人であっても。

 特異点だからどうだって話だ。

 親父の命令にだって、従う気は無い。

 

 

 そんな俺の殺気に気付いたのか、リンドウとエリックが俺に向かって何か声をかけようとした。

 俺は構わず、白い特異点のガキを仕留めようと神機を握る手に力を篭めた。

 

 

 

 その瞬間だった。

 意識を集中させた為に、周囲への警戒が疎かになった。

 

 

「マスター直伝、煙玉!」

 

 

 声が聞こえた。

 咄嗟に振り返ったら、何故か逆に背後から爆風と煙が起きた。

 あのアラガミとの間に何か投げ入れられた、と気付いた時にはもう遅い。

 

 足音もなく走る『誰か』が居て、気がつけばあの人間のようなアラガミも居なくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 何故かリンドウも居なくなっていた。

 エリックは居た。

 

 

 …騒々しかったんで、ちょっと『一緒に居なくなってれば』と思った。

 

 

 

 

 

 




ルーンファクトリー4、微妙に肌に合わない…。
第一章はクリアしましたが、暫し放置になりそうな気がします。
10月2日にゴッドイーターリザレクションの体験版も出るしね!


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93話

討鬼伝2が2016年に発売…だと…?
PV見ましたが、これだけだと内容が分からないなぁ。
DMC4のスナッチみたいなのが出てましたが…。


 

神変月アリサ視点日

 

 

 白娘危機一髪!

 …むかしそういう名前の処刑ゲームがあったそうですが、語呂はよくありませんね。

 黒ヒゲだったら罪悪感も少なそうですが。

 

 

 とにかく危機一髪でした…。

 

 マスターと別れ、一端農園に戻った私ですが、既に時遅く、農園には多数のゴッドイーター達が屯していました。

 我らが可愛い子供達(特にシモフリトマト)が荒らされていなかったの救いです。

 もしも手荒に扱っていたら、シオの事すら忘れて突撃していたかもしれません…。

 

 ともあれ、ゴッドイーター達の様子からして、まだシオは捕まっていないようです。

 しかし、農園のそこら中にシオの足跡があります…やはり戻ってきたのでしょうか?

 ですが、姿が見えない…。

 

 

 …戻ってきたはいいものの、私達が居ない事に気がついて、探しに出たのかもしれません。

 となると…シオも車の事は知っていますから、私達がそれに乗って出掛けたと思って、追いかけた?

 残っている車の轍は二つ。

 ひとつは雨宮指揮官がアナグラに帰る時の轍。

 もう一つは、私とマスターがエイジス島に向かう時の轍です。

 

 本当に私達を追いかけたのか、そうであったとしても、どちらへ行ったのか。

 少しばかり悩んで、私は直感を信じることに決めました。

 

 即ち、私とマスターの痕跡を追っている、と。

 厄介な事に、誰かが既に轍を辿っているようです。

 急がなければ…。

 

 

 

 

 

 

 流石に車で追いかけると音でバレるので、ダッシュで追いかけました。

 引き離される前にシオと追跡者(リンドウさん・ソーマさん・エリックさんです)を発見できた(された、とも言います)のは、幸運だったのか不幸だったのか…。

 

 しかもシオときたら、ここまで来る間に適当なアラガミをツマミ食いしていたようです。

 ご丁寧に、以前から嫌いだったシユウは齧って放置してるし…好き嫌いはいけないと躾けようとしたんですけどね。

 …人間に言い換えれば、生肉とかタマネギに齧り付いている感覚なのかもしれません。

 でもアラガミの調理法とか誰が知ってるんですか…。

 

 ともかく、発見されたシオは、どうやら一度会っただけのリンドウさんの事を覚えていたようです。

 「あー、ひさしぶりー」と言いつつ…あっ、こら近寄るんじゃありません!

 リンドウさんだけならともかく、最近マイルドになったと評判のアラガミ絶対仕留めるマンも居るんですよ!

 エリックさんは……どうだろ、子供に暴力を振るうような人じゃないと思いますが、特異点だしなぁ…。

 

 とにかく、ソーマは既に臨戦態勢に入っています。

 まだ息が整っていませんが、最早一刻の猶予もありません。

 

 懐から取り出したのは、マスターから持たされた煙玉。

 対人用秘密兵器と言われましたが、さてどんな物か…。

 何処に投げる?

 リンドウさん達のすぐ傍…いえ、飛んでくる煙弾を感知されて撃墜される恐れがあります。

 それに、煙玉の目的はソーマ達の目を誤魔化す事ではなく、シオの存在を覆い隠す事。

 

 …よし。

 作戦開始。

 

 まず、シオとリンドウさん達の間を狙って、煙玉を高く放り投げます。

 

「マスター直伝、煙玉!」

 

 こちらに次に叫んで注意をこちらに向けます。

 すぐに物陰を走ってシオに向かう。

 

 煙玉が爆発した音。

 むぅ、流石マスター直伝、火を点けたら粉塵爆発でも起こりそうな具合の煙幕です。

 ゴッドイーター3人組が身構え、煙幕から抜けようとする間に、一気にシオに接近して掻っ攫う!

 

 そのまま走って逃げました。

 

 

 

 

 ふぅ、何とか保護完了。

 「ありさー、どこいってたんだー?」と可愛らしく首をかしげるシオに、なんかこう劣情が沸きましたが、今は言ってる場合じゃありません。

 シオの姿を隠しながら、マスターと決めた合流地点へ向かわないと。

 

 

 

 …そんな事を考えてたら、並走しながら「よう」なんて言うリンドウさんが目に映りました。

 反射的に射撃してしまった私に、罪はあるでしょうか…と言うかまたリンドウさんに向けて撃つ事になるとは…。 

 

 

 

 

神変月リンドウ視点日

 

 

 いやー、もう最近は事態が一気に動きすぎだぜ。

 特異点の事もそうだし、姉上殿がアーク計画の事を知っていたのもそうだ。

 オマケにそれを知ったのがあの農園でシオに会った時で、更にシオの事を支部長に報告したのも姉上。

 

 …姉上殿よぉ、アンタの立場どうなってんだい?

 そりゃ、指揮官としちゃ作戦…というかエイジス計画、アーク計画成功の為にシオの事を報告しなくちゃならんのも分かるよ。

 でも、あの農園の主への義理はどうなる?

 アイツも承知の上だ、と言ってはいたが、行動があっちにフラフラ、こっちにフラフラ、蝙蝠みたいじゃないか。

 

 「事の原因を考えれば、見限りたくもなるさ」なんて言ってたが、その原因も教えちゃくれない。

 ついでに言うと、初めて(だと思う)の春に未練もタラタラなようだった。

 

 とにかく、アーク計画とやらには、正直俺は賛同できない。

 なら、代替案として終末捕食を防ぐ方法を見つけなきゃならん訳だが……。

 

 …特異点を始末する以外に、今のところ何の方法も見つからない。

 とにもかくにも、特異点…シオを探し出さない事には、何もできなかった。

 

 

 半ば状況に流されるままに動いている。

 なら、今はこの流れに乗ろう。

 流れが乱れたチャンスを見逃さずに、濁流から一気に抜けるんだ。

 抑制剤を確保しておこう。

 フェンリルから離反されたと看做されたら、もう抑制剤は手に入れられない。

 そのままアラガミ化しちまうが…抑制剤が無くなるまでにカタを付ける…どんな結果になっても。

 

 

 

 …と考え、暫くは流れに乗っていた。

 支部長からの命令である、農園の捜索にも逆らわなかった。

 幸いと言うべきか、農園にはシオも含めて誰も居ない。

 手荒な真似をせずに済んだ。

 

 車の轍を見つけて、それを追う事になったのもいい塩梅だ。

 ソーマとエリックがついてくる事になったが、こいつら結構話せる奴らだからな。

 …交渉決裂して、戦う事になったら厳しいが。

 やれやれ、アラガミ相手じゃなくて人間相手、しかも顔見知りを相手にする事を考えなきゃならんとは…。

 

 さて、車をゆっくり進める事十分ちょっと。

 何体かのアラガミの死骸…喰い遺しを見て、シオが近くに居る事に確信を持った。

 

 事実、見つけたはいいんだが…相変わらず暢気そうな顔してるな、コイツ。

 

 

 …あかん、やっぱ殺せんわ…。

 少なくとも、ギリギリの瞬間までは…。

 

 

 そうなると、問題になるのは隣の二人。

 ソーマは言わずもがなアラガミ発見=殲滅だし、エリックは…これで意外と決断する奴だからな。

 しかも、『手を汚すのは僕一人で充分だ』みたいに、私心を押し殺して、更にその後は誰にも悟られないように普段のペースを維持するタイプ。

 

 どうやってシオを逃がそうか、この二人を押し留めようかと悩んでたんだが…タイミングがいいなぁ。

 

 

 アリサの声が聞こえたと思ったら、突然の煙幕。

 どういう経緯でここに居るのかは分からないが、シオを確保しに来たのは想像がついた。

 

 …動くならここだ。

 銃撃が飛んでこない事だけ祈って、煙幕の乱れを探す。

 

 見つけた。

 どうやらアリサはシオを掻っ攫って、このまま走り去るつもりのようだ。

 悪いが、俺も便乗させてもらうぜ。

 

 

 

 

 …追いついたはいいけど、アリサからの射撃を喰らうのは2度目だな。

 まぁ避けたけど。

 

 

 

 

 

 

 

神変月雨宮リンドウ視点2日

 

 微妙に警戒されてたが、シオの事について今まで黙秘していた事もあり、何とかアリサは納得してくれた。

 これからどうするのかと聞くと、農園の主…いや、もう農園は接収されるだろうな…と合流するつもりらしい。

 言うまでもないが、俺もついていく。

 断られたって知らないね…いや、断られなかったけどさ。

 

 

 ところで、ナビゲーターとの発信機付き通信機を捨てたんだが、その直前にちょっと情報が入ってきた。

 エイジス島の事なんだが…何でも、あっちにマスク・ド・オウガが現れたらしい。

 

 マスク・ド・オウガが特異点ではないって情報は知らされているんだが、珍しいアラガミなのには違いない。

 何より、エイジス計画…正確にはアーク計画…の邪魔になるアラガミだって事には変わりない。

 もしもアイツが何らかの理由で人間の敵に回れば(そもそもアラガミが人間の味方をしていたのが不思議で仕方ないが)、途轍もない被害が出るだろう。

 仕留められるなら仕留めたい、という事か。

 

 それに、マスク・ド・オウガの正体は結局不明なままだ。

 好奇心もあるかもしれんし、実はあっちが本当の特異点、或いは特異点2号って事も考えられる。

 

 アリサが「マスターがあっちで陽動している筈」と言っていたが……まさか…なぁ?

 しかし、そう考えるとあいつの異常な体力や腕力も説明はつくか?

 下手なゴッドイーターじゃ足元にも及ばない身体能力は、実は元ゴッドイーターで…腕輪が無いのは、破壊されたけど何らかの理由でアラガミ化を免れていた為とか?

 

 …流石にそれは無いか。

 そもそも、マスク・ド・オウガがアイツだとしたら、アラガミ化を免れてないじゃないか。

 それなら、姉上殿が言っていたように、アイツがマスク・ド・オウガを飼い慣らしているって方がまだ可能性がありそうだ。 

 

 

 さて、奴さんとの合流場所とやらに到着した。

 ……のはいいが、姿が見えない。

 アリサの話じゃ、合流できなかったらフェンリルに捕まったものと仮定して行動する…という事だったが、当のアリサは「まさか、マスターに限って…」と不安そうにしている。

 

 だが、言っちゃ悪いがとても逃げ切れたとは思えない。

 エイジス島でどんな陽動を起こしたのか知らないが、あそこの警備の厳重さは侮れない。

 増して、今はゴッドイーター達まで警備についている。

 

 通信で最後に入った情報通り、マスク・ド・オウガにかまけている隙を狙って逃げればワンチャンあると思うが……フェンリルにとっても、アイツの存在は色々な意味で重要だ。

 特異点の事を知っていながら匿っていたと言う点だけで、超が付くほどの重罪人。

 加えて、奴を囮にして本物の特異点…つまりシオを誘き寄せるという手も使えるかもしれない。

 見つかったらそうそう逃げ切れるような状態じゃないだろう。

 

 

 どうする?

 アリサとしてはすぐにでも助けに行きたいようだが、シオを連れて行く事はできない。

 それこそ、飛んで火に入るナントヤラだ。

 行くなら、俺とアリサのどっちかだろうな。

 そして一人はシオの警護兼抑え役。

 

 ま、抑え役はアリサだろうな、この場合。

 俺もシオと面識はあるが、親しいって程じゃない。

 何かあった時、ちゃんと指示に従ってくれるか分からない。

 

 

 とにかく、一度身を隠せる場所を確保せにゃならん。

 出きれば情報を仕入れられる所がいいが…とりあえず、適当な集落にでも潜り込むかね。

 

 

 

 

神変月主人公視点日

 

 

 ドジった。

 現在、俺はエイジス島内部…恐らくは最深部にある一室に閉じ込められている。

 要するに捕まった。

 

 うーむ、アラガミ状態での継戦時間の限界を見誤ったか…なんといううっかり。

 いや、うっかり以前にあれだけ長時間、しかも多数のゴッドイーター達を相手に激戦するなんて、今まで無かったんだけどね。

 アラガミ化した状態での戦いは、大抵短時間で終わってた。

 ついでに言うと、全力を出した後はその場でぶっ倒れるとかデスワープばっかりだった。

 激しい戦闘や運動をすると、変身時間が削れるのか…盲点だったが、基本中の基本だな、ゲーム的に考えて。

 

 まーとにかく、仮面ライダーアラガミやってエイジス島付近で暴れ回り、陽動をかけたのはいいが、自爆してお縄になってしまったと。

 

 現在は随分と懐かしい檻に放り込まれ…確かループ序盤で同じ様な檻に入れられたぞ…、手錠やら何やらで過剰に拘束されてしまっている。

 自殺を防ぐ為か、口さえ開かせてもらえない。

 …あの、トイレに行きたくなる前に、早い所用件を話してほしいんですけど…。

 

 

 檻の向こうの壁に取り付けられたディスプレイには、シックザール支部長が非常に厳しい表情で写っている。

 よく見えないが、後ろの方では何やら研究者なのか技術者なのかよー分からん(そしてマッド臭い)人達が蠢いて騒いでいる。

 …俺の体を検査したのか?

 倒れて気絶している間にここに放り込まれたから、何されたのか分からんが…。

 

 …検査の結果が何か分かったのなら、俺にも教えてほしいな。

 我が事ながら、自分の体がどうなっているのか未だに分からん。

 アラガミ化はまだいいが、のっぺら集合体とか、なんかサイバースペースに入り込めるとか、マジ分からん。

 …でも一番謎なのは、鍛えただけで超人と化したハンターボディなんだよな…。

 

 

 とりあえず、この拘束から抜け出すのは、今は無理だな。

 アラガミ化も暫く出来そうに無い。

 と言うか体がダルくて眠い。

 何か薬物使われた可能性もある。

 

 …支部長の視線が痛いけど、このまま一眠りするか…。

 

 

 

 

 

「起き給え」

 

 

 

 

 

 

「…起き給え」

 

 

 

 

「………誰か目覚ましのベルを鳴らせ」

 

 

 

 ジリリリリリ

 

 

 ファ!?

 

 

「起きたか。 この状況でよく眠れるな」

 

 

 だって寝るしかする事ないやん。

 呼吸がスッゲェし辛いけど。

 

 

「さて、久しぶりだな。

 いつぞやの会合以来か。

 …ああ、口の拘束具を外してやれ。

 自殺はするなよ」

 

 

 しねーよ。

 

 ガチン、と音がして、顔の下半分を覆っていた拘束具が外れた。

 ふぅ、息苦しかった。

 とりあえず。

 

 

「腹減ったからメシとトイレプリーズ」

 

「便所飯というやつかね?」

 

 

 おいやめろバカ。

 

 

「さて、冗談はともかくとして、やってくれたものだな。

 只者ではないと思っていたが、君が特異点を擁護していたとは。

 ……そして…マスク・ド・オウガ」

 

「仮面ライダーアラガミでオナシャス」

 

「生憎、既にデータベースにマスク・ド・オウガで登録され、学術名もついている。

 変更は不可能だ。

 人間に変身するアラガミなのか、アラガミに変身する人間なのか…可能な限り調べたいところだが、生憎時間がない。

 最低限、君が本当に特異点でないのかを調べたが…」

 

 

 支部長はチラッと目を横にやった。

 多分画面の向こうの写らない部分に、何か検査の結果が出ているのだろう。

 

 

「どうやら本当に、特異点ではないらしい。

 君を起点として終末捕食が起こせないかと考えたが、不可能なようだな。

 

 細胞も、マスク・ド・オウガの状態は分からんが、今の君の体は人間そのもの…いや、ゴッドイーターの物だ。

 それでいて腕輪も無ければ抑制剤投与の形跡も無いのに、アラガミ化の兆候すらない。

 いや、マスク・ド・オウガに変わるところを考えると、自力でアラガミ化をコントロールできているのか?

 時間があれば是非ともその仕組みを解明したいところだが…繰り返すが、生憎時間がない。

 

 残念だよ…君程の人間がアーク計画に参加してくれれば、どれ程頼もしく、そして新世界で生きていく人間の力になった事か。

 既に途絶えたと思われていた植物の育成、マスク・ド・オウガとなった時の戦闘力…。

 

 だが、例えどんなに貢献するとしても、新世界にアラガミの痕跡を一つたりとも残す訳にはいかん。

 悪いが、君の方舟への乗船券は無効となった」

 

 

「…話の腰折って悪いけど、方舟に乗る人って検査とかしてんの?」

 

 

「当然だろう。

 性格や思想も考慮に入れているが、身体的な問題はそれ以上に注意している。

 密閉された宇宙船内で感染症なんぞ発生したら、目も当てられん。

 危険物持込など持っての外だ」

 

 

 …という事は、次回ループで方舟に入ろうとしても、検査で弾かれるか…?

 いや、肉体的にはアラガミじゃなくて人間だって言ってたから、仮面ライダーアラガミにならず、普通のゴッドイーターとして振舞っておけばワンチャンあるか…?

 

 

「駄目元で聞いておこう。

 こちらに協力、並びに情報提供する気はあるかね?

 多少でも協力するなら、扱いも考えよう。

 具体的には食事を、内容によっては追加でトイレを」

 

「協力しなかったらここで漏らせ(大)と申すか」

 

「単純だが効果的だろう?

 戦いには耐えられても、精神的な汚辱には耐性が無い人間は多いよ。

 放置しておけばいいから、手間がかからないのもポイントだ」

 

 

 …なんか支部長が妙にはっちゃけているような。

 いや、この程度ではっちゃけているってんなら、MH世界のG級連中は超新星爆発並みだけど。

 

 …ふむ、このはっちゃけ具合からすると…。

 

 

「…もうすぐ死ぬから、威厳なんて必要ないとか思ってません?」

 

「突然何を言い出すのだね」

 

「いや、色々やってて黒幕っぽいけど、私心を殺しての行動みたいなんで」

 

 

 ぶっちゃけ、ゲームのエンディング覚えてるし。

 

 

「君の想像力は評価に値するが、それが正解かはまた別の問題だな。

 もう少し話をしたい所だが、生憎…急用が入ったようだ」

 

 

 またチラリと画面の外に目を向ける。

 …?

 ワザとらしい言動は今更だが、どうにもそれに加えて嘘くさい。

 

 

「既に特異点は我々の手の内にある。

 アーク計画は最終段階に入った。

 身の振り方を考えるなら、今のうちにしておきたまえ。

 それではな」

 

 

 映像が途切れた。

 

 …ブラフ、ハッタリだ。

 支部長にしては下手なウソだ。

 

 もしも本当に特異点が、シオがフェンリルの手の内にあるというなら、態々俺を特異点かどうか、なんて調べる必要はない。

 ハッタリかまして、俺の協力を得ようとしているだけだ。

 

 その筈だ。

 

 

 

(…映像が途切れても、マイクが稼動し続けている可能性はある。

 ヘタな事を言うと、それだけ情報が漏れる。

 独り言もそうそう言えんな。

 

 …むぅ、日記も書けない。

 動けない。

 心を落ち着かせる手段が無い…焦りがあるな、鬱陶しい)

 

 

 あからさまなハッタリの狙いはこれだろうか?

 焦りを一つ吹き込んで放置しておけば、何もしなくても消耗は激しくなる。

 上手く行かないなら行かないで、脱出されないかだけ見張っておけばいい、と。

 

 

 うーむ…。

 焦りはともかくとして、実際どうしたものだろうか。

 

 シオが本当に捕らえられたのかは分からないが、このままここに囚われ続けるのも面白くない。

 脱出しようにも、長時間の仮面ライダーアラガミ化の反動なのか、霊力も大分少なくなっているし、こうもガチガチに拘束されていると縄抜けの術も使えそうにない…最初から使えないけど…。

 

 吹き込まれた焦りも合間って、「多少の情報を流してでも、自由を得た方がいいんじゃないか?」とも思う。

 

 アリサの性格なら、俺やシオが捕らえられたと知れば、フェンリルに反逆してでも助けに来るだろう。

 と言うか、実際シオを確保しに行った時には、フェンリルから切り離されるのも覚悟の上だったようだし。

 

 実力で言えば、今のアリサならそうそう捕まる事はないと思うが、俺を人質にされたら?と言われるとな…。

 ミイラ捕りがミイラになっちまう。

 

 だからと言って何ができる訳でもなく。

 もう一回変身できるようになるまで、空腹を堪えながら寝転がっているしかないのだった。

 

 …便意が無いのは救いだが、この空腹の恨み、必ず晴らしてくれる…。

 

 

 

神変月雨宮リンドウ視点日

 

 

 俺は今、密かにエイジス島に侵入しようとしている。

 勿論一人…で行こうとしていたのだが、サクヤにバレた。

 と言うか、集落にもぐりこんだ俺をよく見つけられたもんだ。

 「リンドウだったら、多分こうする」と予想して動いただけ、だそうだが…そこまで読みきられるのか…将来尻に敷かれるな…。

 

 一悶着あって、ド突かれたのはいいとして、結局二人での進入だ。

 

 目的は、アイツ…元農園の主の奪還だ。

 正直言って、時間が無い。

 

 と言うのも、シオが日に日に特異点としての本能に目覚めつつあるからだ。

 今までは何らかの手段で…例えばメシを食わせたりして…本能を抑え込んでいたのだが、唯一それが可能だった元農園の人が囚われてしまっている。

 このままでは、そう遠くない内に完全な暴走状態に陥り、終末捕食が発生するか…そうでなくても、俺達の制止を振り切ってエイジス島に突撃して、支部長に捕まってしまうのがオチだ。

 

 そういう訳なんで、何とかして農園の主を奪還し、シオを抑え込ませなければならない。

 今はアリサがあの手この手で宥め、農園の主と同じ方法を試してもいるようだが、その効果は今一つらしい。

 …やり方は教えてくれなかった。

 サクヤには話したらしいのだが、「ダメ絶対!」と言われて引き下がらざるを得なかった。

 

 …まぁ、アリサがシオを落ち着かせた後、服が少し乱れたり、色々痕跡が残っていたりしたんで、想像はついてるんだが…確かに俺がやるのもな…。

 と言うか、シオを相手にそういう風に見れないって…。

 

 とにもかくにも、終末捕食を防ぐ…最低限、時間を稼ぐ為にも、アイツを奪還しなきゃならん、て事だ。

 

 しかし、流石にエイジス島は警備が厳しい。

 しかも、既に俺がフェンリルから離反した事は通達されているようだった。

 隊長、しかも特務を負う人間という立場を利用して入り込む事も出来ない。

 更に厄介な事に、その辺を適当に壊して入り込む事も不可能だ。

 

 

 どうすればいいか悩んでいる時、サクヤが進入ルートの情報を持って来た。

 アナグラの地下から、エイジス島へ入り込めるルートがある…か。

 コウタと話をしていた時に、地下道の話が出てきて、それで閃いたそうだ。

 

 しかし、これは進入した後が問題だな。

 ここから入った事に気付かれたら、確実に退路を塞がれる。

 完全に気付かれずにアイツを奪還できるか…もしも無理だったら、施設を壊してでも脱出ルートを作らなければならない。

 

 

 …とは言え、現状、これ以外に方法は無い。

 繰り返すが、もう時間が無いのだ。

 アリサもいつまでシオを抑えておけるか分からない。

 

 今はこの作戦に希望を託すだけだ。

 

 

 

 

 

 結論から言えば、進入は上手く行った。

 どうやら警備が異常に厳しいのは、外周部だけだったらしい。

 考えてみりゃ、アーク計画の正体に気づかれるようなシロモノを設置している場所だ。

 例え警備員だったとしても、そうそう配置できないだろう。

 不安だろうがなんだろうが、外部からの干渉をシャットアウトして、内部はカラっけつにせざるを得なかったんだ。

 だっつーのに、もう使われてないとは言え直通ルートを塞ぎ忘れていたってのがマヌケな話だが…何かの罠だったんだろうか?

 

 とにもかくにも、エイジス島の中には人は殆ど居なかった。

 あるのは監視カメラやトラップと、数人程度の技術者だけ。

 この中から奴さんを探すのには骨が折れるんで、適当に技術者を拉致って尋問にかけた。

 

 まぁ、こんな重要機密を任せられる奴だけあって、随分と骨があったな。

 奴はどこだ、と聞いて、多少痛めつけて吐かせたんだが…まさか4回もウソの場所を教えるとは…。

 こういう侵入者に囚われた事態を想定して、予め侵入者を誘い込む為の場所を作ってあるのは予想していた。

 事実、最初の1回を吐かせるのは簡単だったが、それは迎撃用の部屋だとすぐ分かったからな。

 ウソを吐くのは苦手なタイプだったらしい。

 

 だが、普通は1度それを見破られたら観念するもんだ。

 …ウソを教える度に、あまり大っぴらにはできない手段で痛めつけた。

 

 

 それでも中々本当の事を教えなかったのは、それだけコイツも覚悟を決めてるって事なんだろうか。

 

 ともあれ、何とか救出には成功。

 どうやら監禁されていた部屋を見張られていたらしく、警報が鳴って、シャッターが下りたが……ブチ抜いた。

 対アラガミ防壁並みの壁ならともかく、単なるシャッターなんぞ、ゴッドイーターの前ではダンボールも同然だ。

 

 …農園の主まで、蹴り一発でシャッターを凹ませたのは本気で驚いたが。

 アリサが本気か冗談か、NOUKAはゴッドイーターより強いとか言ってた事があったが、割と洒落にならん…。

 

 

 後はまぁ、普通に脱出できたな。

 かなりの荒事にはなったが、内側から外側への侵攻というのは想定していなかったのか、思っていたよりは楽だった。

 出きれば、アーク計画の証拠となる写真でも撮っておきたかったが…流石にそこまで欲を張れない。

 

 

 一番厄介だったのが、エイジス島から脱出した直後だ。

 何故かって?

 決まっている。

 

 極東の腕利きゴッドイーター達が、エイジス島の警備についてたからだよ。

 多分、特異点確保の為に寄越された人員が、そのまま残ってたんだろうな。

 

 内部で騒ぎが起こって、その原因が俺とサクヤだって事が分かった時、あっちはかなり混乱していた。

 「リンドウさん、何でこんな事を!?」「サクヤさんまで!エイジス計画をぶっ壊す気ですか!?」と、色々言われたんだが…悪いが説明している暇は無い。

 

 

 …今頃、相当モメてんだろうな…。

 俺はともかく、サクヤは人望あったからなぁ…。

 それが反乱なんて起こしたら、そりゃ極東ゴッドイーターに限らず混乱もするわ。

 

 やれやれ、結局サクヤもフェンリルの反逆者になっちまったか。

 アラガミ化の抑制剤も、もう残り少ない。

 部屋に戻ればまだあると思うが、この状況でノコノコ帰ったらとっ捕まるだけだしな。

 

 …お互い、アラガミ化する前にどうにかするしかないか。

 『介錯』なんぞ御免蒙るしな…。

 

 

 

 

 ともあれ、何はなくともシオを抑え込んでもらわないといかん。

 急いでアリサとシオを匿っている集落に向かった。

 

 

 …で、集落の家に入ろうとしたら……サクヤからシャットアウトを喰らった。

 何事?

 




ツィッターにコメントを頂いていたのに、今更気付きました。
…どうやりゃ返信できるんだ、コレ…。


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94話

11日の19時くらいから実家に向かって出発です。
暫し感想返し&更新が滞るやもしれません。
実家の庭にあるらしき、お犬様の墓に手を合わせてきます。

あと、クライマックスシーン付近につき、ゲームのセリフを可能な限りそのまま流用している部分があります。
ご容赦ください。


 

 

神変月雨宮リンドウ視点2日

 

 

 …時既に遅し、か。

 

 シオを抑える手段を確保してきたはいいものの、当のシオが既に姿を晦ませていた。

 抑え役のアリサは何をしていたんだ…と言いたいところだが、ヘタな事を言うとセクハラだと怒られそうなので黙っておこう。

 

 …要するに、一晩明けた今日でも、アリサの腰に力が入らない状態になってる。

 昨日、サクヤからシャットアウトを喰らったのも、部屋の中であられもない格好を晒していたからだろう。

 

 …というか、見かけ幼女にアリサが、性的にノックアウトされたのか…。

 

 

 「アリサ、総受けだからなぁ…」って隣で呟いてた阿呆が居るが…そうか、総受けなのか…。

 …うん、黙って忘れよう。

 

 で、アリサから話を聞いていた(セクハラにならない範囲で)んだが、隣の余計な事を呟いた阿呆が突然慌てだした。

 …しかも、なんか明らかにアレな質問をしている。

 情事というか秘め事と言うか、何で今そんな事を聞く、というような事を。

 

 なんつーか、シオに触れられると、色々な意味でビリビリ来るとか…。

 

 大体こんな感じだ。

 

 

「ちょっと待てアリサ!

 それってアレか、俺がヤッてる時に何度も流し込んでるアレか!?」

 

「ちょっ、マスター何をいきなり「いいから答えろ! シオがアレができるようになってたら洒落にならんのだ! 命令! 答えなさい!」 は、はい! マスターが触った所からビリビリする気持ちよくってビクンビクンするアレです!」

 

 

 …あの、プレイの内容とかを突然語りだされても困るんですがそれは。

 と言うか何がどうヤバいと言うのか。

 特異点がエロい事を覚えたら何がどうヤバいと言うのか。

 

 少なくとも、隣で話を聞いてたサクヤが、ものっそいイイ笑顔で銃を構えているんだけどな。

 

 

 30分後。

 

 

 …いつからこの世界はオカルトが罷り通るようになったんだ?

 『霊力』なんてものを実演されて、正直頭がついていけなかった。

 いや、霊力って言葉だから胡散臭く感じる訳で、生身でオラクル的な何かを使えるようになっている、と思えばまだ納得が…いくか?

 

 アリサは霊力と言われてもよく分からなかったらしく、「NOUKA魔法ですね!」と何やら怪しげな造語で納得していた。

 いいのかそれで。

 

 

 とにかく、この霊力だかNOUKA魔法だかに使う力を、シオが覚えてしまっているらしい。

 …そして、シオ=特異点がそれを使えるようになっているという事は、ヘタをするとその力がアラガミ全体に普及してしまう可能性がある訳で。

 

 更に、その霊力を神機や機械が浴びた場合、動作不良を起こして動かなくなってしまう可能性があるとか。

 事実、霊力とやらをその辺で拾ってきたテレビに浴びせてみたところ、辛うじて動いていたのが完全に動かなくなってしまった。

 …まるっきりのインチキって訳じゃないようだな。

 

 

 …なんでそんなシロモノをシオに教え込んだ、言え!

 

 

 

 ……あ、姉上殿とエロい事をしている時に使っていたら、乱入してきて勝手に覚えた…。

 後半はまだいいとして、前半…姉上殿ェ…。

 

 身内のシモの話って、精神的ダメージでかいのな…。

 なんかもう正直、助けたりせずに放置しとけばよかったような気がしてきた。

 シオが居なくなっちまったってんなら、コイツを助けてもあんまり意味ないし…。

 

 

 

 そんな感じで暫く落ち込んでいたところ、さっき霊力とやらを浴びせたテレビが復調した。

 一度やったら、もう回復しないって訳じゃないんだな…。

 

 

 なんて言ってる場合じゃない。

 復調したテレビには、とんでもない放送が写っていた。

 

 シックザール支部長と、アーク計画…。

 そして鍵となる特異点が手に入り、全ての計画は最終段階に移行した、と。

 

 …すべては手遅れ、か。

 

 と言うか、これって暴動が起きるんじゃないか?

 どこまでこの放送が届いているかは分からんが、極東は少なくとも放送されていると見ていいだろう。

 

 アーク計画は小を確実に生かす為、大を切り捨てる計画だ。

 方舟とやらに乗る資格無しと断じられた人間が、それを素直に受け入れるものか。

 いや、それ以前に方舟に乗れと言われた相手だって話を受けるとは限らないし、この計画を肯定するのか、そもそも終末捕食の話は本当なのか、その時点から混乱が起きる。

 

 …そう、混乱だ。

 何が真実か、誰が味方か分からず、動くに動けなくなっている間に、アーク計画は悠々と進行して行くって訳だ。

 これも計画の内かね?

 

 

 今、俺達が動くとしたら、信じられるのはこの場に居るメンバーだけだ。

 しかも今から計画を阻止しようとしたら、全ての鍵になる特異点…シオを奪還するしかない。

 つい昨日殴りこみをかけ、何とか脱出してきたエイジス島に再び入り込まなければいけない。

 …マジでどうしよう。

 唯一の侵入路だった地下道は、コイツを助ける為に使ったお蔭で封鎖されてるだろうし…。

 

 

 …今から即戻れば、俺らが空けた穴がまだ埋まってないかな?

 

 

 

 

神変月主人公視点日

 

 

 とうとうクライマックス、かな?

 切欠が限りなくアホくさい(自分で言うのもなんだが)事だったが、やっとこさここまで来たってカンジだ。

 終末捕食だったら前回も起こってたが、今回はその一歩手前かつ、アーク計画の真実が知れ渡り、シオが支部長の手の中にあり、それを取り戻しに行くゴッドイーター達。

 多少の差異はあるが、ゲームのクライマックスシーンと同じだろう。

 シーンを再現したからって特に感慨を感じはしないが、もしこれでエンディングまで辿り付けたら、再現したら、このループも一区切りつくんじゃないかな、って気にはなる。

 そうなるとシオが居なくなっちまうんで、後味は悪いけどな…。

 

 ともあれ、事がここに至った以上、グダグダ言ってても仕方ない。

 さぁ、シオを助け出しに行こう!

 

 

 

 

 …え、俺留守番?

 

 霊力が使えるって言っても、ゴッドイーターじゃないから?

 いや俺実は……いや、えーとその…。

 

 

 …え、フェンリルからの地下通路は使えない?

 あー、そりゃそうだよな、今は皆フェンリルからの離反者って事になってるし、ノコノコアナグラに行った日には捕縛されちまうか。

 んじゃどうやって突入すんの?

 

 

 

 …発破!?

 しかもトラックで突っ込んでいく!?

 どこのハリウッド映画だよ!

 

 

 

 …いや、これってある意味好都合じゃね?

 派手に突入してもらえれば、俺が後からコッソリ入り込んで、シオを助けに行く事もできるし…。

 そこんとこどう?

 どっちにしろ、留守番してろって言われても押しかけるよ?

 ひょっとしたら、暴走モードになってるシオをどうにかできるかもしれんし。

 

 …人前でょぅι゛ょとセクロスして社会的に切腹する覚悟もできてるよ?

 

 

 …無用な戦闘は避ける事、ね。

 オーケイ。

 と言うか俺、素手でも下手なゴッドイーターよりは強い自信あるんだけどな…。

 まぁ、ヘタなゴッドイーターがあそこの警備についてる筈ないか。

 極東でも通用するようなトップクラスのゴッドイーターだと生身じゃ分が悪いわ。

 

 

 さて、どうなるにせよ、これで今回のループは終わりかな?

 ゲームでいうストーリーをクリアしたらどうなるのか、初めての実験だ。

 …ここでラスボスに負ける、なんて空気を読まないようなことにならない事を祈る。

 

 

 

神変月主人公視点2日

 

 突入、及び隠れて侵入は成功した。

 あちらもアーク計画については賛否両論、むしろ今からでも妨害しないかって手勢も多く居たらしく、思っていたよりは楽に突入できたようだ。

 …ただ、コウタが完全に支部長側についていたってのは色々な意味でショックだったが…。

 

 今回のループでは1,2回会っただけだったが、結構気になる。

 と言うか、ゲームと違って家族から何か言われたりはしなかったんだろうか?

 …あの表情からして、言われたけども押し切ったのかもしれないな。

 ハラ括ったツラしてやがった。

 放置しとくと、足元を掬われかねんな…スマン、ちょっと気絶してろよ。

 

 

 

 他にも、何人か見知った顔が居た。

 エリックさんはどうやら支部長側に回ったようだ。

 病気の妹…エリナだったか…を方舟に乗せて、自分は最後までそれを護るつもりのようだ。

 逆にソーマは、支部長の計画を潰そうと動き出したようだったが、エリックさんに足止めされていた。

 

 他のメンバーを先に行かせたリンドウさんがこれに割って入り、エリックを2対1で翻弄。

 エリックさんを気絶させて、適当な部屋に放り込んでそのまま先に進んだ。

 

 カノンさんの姿は無い。

 …誤射率的に考えて、居ても現場を混乱させるだけだからだろうか。

 

 意外というべきか順当と言うべきか、カレルさんとジーナさんは計画妨害側だった。

 ジーナさんはゲームでも同じ結論を出していたように思うし、アラガミとの生と死の交流を掲げる人だから、主張的に考えても不思議はない。

 カレルさんは…なんか電話でどっかの病院と言い合っていた。

 

 見かけたのは、大体こんな所かな?

 多分、タツミさん辺りは最後までアナグラで戦うつもりだろう。

 ヒバリさんにいいトコ見せたいってのもあるだろうしね。

 

 

 

 そして、最後に一人。

 この人がアリサ達の前に出てきたら話が限りなくややこしくなりそうだったんで、この一人だけは俺が先回りして対処した。

 

 

 雨宮ツバキ。

 

 

 とっくに現役を退いて、腕輪にも封印がかけれている筈なのに、下手なエースより強いこの人が、神機を持って待っていた。

 

 

 

 

神変月雨宮ツバキ視点日

 

 

 運命の日、とでも言うのだろうか。

 アーク計画は既に最終段階に入り、情報も公開され、あちこちで混乱が起きている。

 そんな状況でも、支部長に『選抜』された次世代への生き残るべき人員は着々と宇宙船に搭乗し、つい先ほど発進した。

 

 …これで後は、終末捕食が発生するのを待つばかり、か。

 「本当にこれでよかったのか?」という迷いはある。

 だがそれももう遅い。

 遅れてやってきた春に浮かれたとか、酷い原因で人類滅亡の危機が現実味を帯びてきたとか、思い返すと紆余曲折あったものの、人類が生き延びる為に最も有効な手段と判断し、私は支部長の計画に手を貸した。

 それが全てだ。

 

 愚弟が阻止の側に立つのは予想していた。

 アリサがシオを犠牲にする事を許さず、妨害に回る事も想定済みだ。

 

 …しかし、あの阿呆がエイジス島で何かやらかして捕まった、というのは色々な意味で予想外だった…何をやったんだ、アイツ…。

 世界滅亡のスイッチを押したのもあの阿呆のようなものだし、今度会えたら気が済むまで折檻してやらねば。

 

 

 …会えたら、な。

 終末捕食が起きれば、少なくとも私は生きてはいないだろう。

 発生地点のすぐ傍で警護に当たっているのだ。

 遠く離れているなら、まだ生き延びる目もあったかもしれんが。

 

 …まぁ、なんだ。

 阿呆は阿呆なりに生き延びろよ。

 もしも輪廻転生とやらが現実にあるのなら、誰かを娶って、私の生まれ変わりを…というのも面白いかもしれん。

 

 はぁ、私がこんな事を考えるようになるとはな…。

 まだ去った筈の春に浮かれているのか、それともこれで終わりだと思って気が抜けているのか。

 

 

 …いやいや、気を抜くのは速い。

 どうやら愚弟達が突入してきたようだ。

 終末捕食が阻止され、戦いが続くのも間違った結論ではないだろうが…私としては阻止せねばならん。

 

 手にしているのは現役時代に使い続けたモウスィブロウではないし、訓練を怠った事は無いとは言え、かつてに比べれば体も錆び付いているだろう。

 だが、それでも足止めには充分すぎる。

 

 

 …特にアリサには絶対負けん。

 年季や実力もそうだが、思い返すと肌のハリとかツヤが……色気とか総合力では決して負けてないとは思うが、年齢だけは勝てん…。

 せめてこっちでは負けん。

 

 

 さて、そろそろ近付いてくる頃合か。 

 まずは狙撃から入るとしよう………!? 奇襲か!

 

 

 

  ガチィン!

 

 

「何者…! お前!」

 

「よっ、後ろからご無礼」

 

「…貴様…何故神機を持っている…」

 

 

 背後から突然斬りかかってきたのは、つい先ほどまで思い出していたあの男。

 私の春…というか若いツバメか?

 飛び去っていったのは私の方だったが。

 

 いや、それはこの際今はいい。

 この男がここに居るのも、理解はできる。

 コイツも、アーク計画がどうのという以前に、シオを犠牲にする事を良しとする筈が無かった。

 生身でゴッドイーターに迫る身体能力があるのも身に染みている(主に腰に)。

 

 だが、腕輪も無しに神機を扱っているのはどういう事だ?

 神機を扱うには、専用の腕輪…使用者の肉体と融合するP53アームドインプラントが必要不可欠。

 しかも、それがあったとしても他者の神機を持てば、適合されずに人体が浸食される。

 

 だと言うのに、目の前に立つ男には腕輪も無く、浸食された様子すら無い。

 腕輪が破壊された?

 いや、それならば急速にアラガミ化が進む筈。

 

 何故、この男は平然と神機を…しかも非常に高い適合率が必要な、新型神機を平然と振り回している!?

 

 

「ん? ああコレ? 実はな」

 

「いや、説明はいい。

 …愚弟達には抜かれたか…まぁいい。

 お前にはここで少し付き合ってもらうか」

 

 

 最後の最後(になるかもしれない)の時に共に過ごすのが意中の男か。

 立場が違うのが少し残念だが、こういうのも悪くない。

 元々、コイツの実力には興味があったしな。

 

 

「遠慮なく潰しに行かせてもらうが…生き残れよ?

 さすがの私も、元恋人を殺したくは無い」

 

「うわーぉ、自分からかかってきといて何て言い草「いきなり背後から神機で斬り付けてきたのはお前だ」…そうでした。

 …ま、それに関しては心配ご無用。

 悪いんだけど、まともに戦いに付き合う気は無いんだよねェッ!」

 

「無理矢理にでも付き合わせるさ!」

 

 

 さて、久方ぶりにやるとするか!

 

 

 

神変月アリサ視点日

 

 

 エイジス島に突入し、ゴッドイーター数名と戦ったり合流したりして、かなり奥まで進んできました。

 マスターの気配が背後から消えています。

 一瞬、雨宮指揮官と対峙しているのが見えましたが…気のせいか、神機を持っていたような…。

 

 …まぁマスターですしね。

 NOUKAにはまだまだ、私の知らない力が秘められているようです。

 

 あっちに関してはマスターに任せておいて大丈夫でしょう。

 何だかんだで雨宮指揮官も未練タラタラだったようですし、仮にマスターが負けたとしても命まではとられないでしょう、多分。

 …負けて、逆レ○プされる可能性?

 できれば間近で見物したいですね。

 

 …煩悩はともかくとして、何とかエイジス島…アーク計画の中枢部と思われる場所に到着しました。

 しましたが…。

 

 

 ……なんですか、このでっかいアラガミ…。

 ん、色合いが一箇所だけ違う………って、シオ!

 

 シオがアラガミの前に吊り下げられています。

 そしてその隣にはシックザール支部長。

 

 …こんな時になんですが、まともな服を着せておいて本当に良かった…。

 

 

「シオ、シオ! しっかりしなさい!」

 

「呼びかけても無駄だ。

 贄は既に捧げられた」

 

 

 振り返る支部長。

 同時に光りだす、巨大なアラガミ。

 

 

「アリサ君か…。

 君がこの場に立つ事になるとは、予想外だったよ。

 リンドウか、我が息子こそが中心となると思っていたが…随分なイレギュラーが居たものだ」

 

「黙れ! お前を親父と思った事なんざ無い!」

 

 

 隣で吼えるソーマ。

 …ひょっとして、計画がどうのよりも、反抗期を拗れさせて私達に味方したんでしょうか?

 まぁ、別にいいですけど。

 

 

「家庭の事情はどうでもいいです。

 アーク計画とか、人類の滅亡も、今は後回しです。

 ウチの子を返してもらいます…」

 

「君はもう少し理性的だと思っていたのだがな…。

 皆も同意見かな?

 アラガミの居ない世界よりも、この特異点を取るのかね」

 

「ま、話の流れって奴もあるしね。

 何より、そのアラガミが居ない世界を見る為に、1,000人以外は全て死ぬんじゃ頷けねーよ」

 

「リンドウに同じく。

 私達が戦うのは楽園の為なんかじゃない。

 後の世代に、胸を張って歩ける道を示す為よ」

 

「新しい世界とやらじゃ、金にどれだけ意味があるか分からないんでね」

 

「御託はいい…ぶったぎってやるから降りて来い…!」

 

 

 主張は見事にバラバラです。

 ついでに言うと、好き勝手に喋ってるから言葉が被っているところが多数。

 でもまぁ、こういう物でしょう?

 ゲームや物語じゃあるまいし、一人一人が順番に喋れるようなコンビネーションも余裕も時間もありませんって。

 

 何はともあれ。

 

 

「そうか、残念だ。

 今からでも方舟への乗船は可能だったのだが…。

 ならば、先に器を返しておこうか」

 

「! シオ!」

 

 

 シオが落下し、頭から地面に激突する。

 慌てて確認しましたが、幸い骨折の類は無さそうです。

 流石アラガミボディというべきでしょうか…。

 呼吸も…してはいるようです。

 

 ですが意識がありません。

 叩いても、オヤツに与えていたアラガミのコアを目の前にかざしても反応が無い。

 目を覚まさない…。

 起きますよね?

 マスターがあの霊力とかいうのを流し込めば、きっと起きる…。

 

 

 

「長い…実に長い道程だった…。

 年月をかけた捕食管理により、ノヴァの母体を育成しながら…。

 世界中を駆け巡り、使用に耐えうる宇宙船を掻き集め…。

 選ばれし千人を運ぶ計画が、今!

 この時をもって成就する!

 

 オオグルマの事、マスク・ド・オウガの事、そしてあの農園…イレギュラーが多くあったが、今度こそ私の勝ちだよ、博士。

 そこに居るんだろう、ペイラー?」

 

 

 …?

 オオグルマ先生の事?

 イレギュラー?

 

 そしてシレッと歩いてくる榊博士。

 …あの、どうやってここまで?

 ここに至るまでの道、まだ反対派と賛成派のゴッドイーターが揉めててかなり危ないんですけど。

 

 

「…やはり遅かったみたいだね」

 

「我々は今この一瞬ですら存亡の危機に立たされ続けているのだ!

 日々世界中で報告されている、アラガミによる被害などまだ緩やかなもの…。

 星を喰らうアラガミ、ノヴァが出現し破裂すればその時点で世界が消え去るのだ!

 そのタイミングは何時だ?

 数百年後か? 数時間後か!?

 やがては朽ちる運命のエイジスに身を隠して終末を待つなど、私はごめんだ。

 避けられない運命だからこそ、それを制御し、選ばれた人類を次世代に向けて残すのだ!」

 君が特異点を利用して行おうとしていた事も、結局は終末を遅らせる事でしかない。

 違うかね? 博士。

 …尤も、博士は特異点に接触する事すら叶わなかったようだが」

 

「…どうかな?」

 

「…博士、どういう事です?

 シオを利用して、何をしようとしていたんですか?

 それに、オオグルマ先生のイレギュラーって…」

 

 

 …場合によっては、榊博士も警戒しなければいけません。

 マッドにシオを利用されるなんて御免蒙ります。

 

 

「…私は、限りなく人間化したアラガミを生み出す事で、「世界を維持」しようと考えた…。

 完全に自律し、捕食本能をもコントロールできる存在として育成していく事で、終末捕食の臨界手前で留保し続けようと試みたのさ。

 尤も、言われたように特異点を確保する事すらできなかったがね。

 だが…」

 

 

 榊博士が、私を見て少し微笑みました。

 …胡散臭いです。

 

 

「だが、知ってか知らずか、アリサ君達は私の試みを実践してくれていたようだ。

 特異点を人間と同じように育て、扱い、愛情を注ぎ…。

 時間さえあれば、きっと終末捕食を防ぐ事はできていただろう」

 

 

 ……あの、マスター、なんていうか凄く恥ずかしいです。

 失敗した原因は時間切れじゃなくてアレなんです…。

 身内の恥ってこんなにキツいんですね…。

 

 

「アラガミとの共存か…。

 昔からそうだ、君は科学者としてはずいぶんとロマンチストすぎる。

 人間の行いを見れば分かるはずだ。

 欲望を、本能を抑え込んだ真に自律的な人間など、これまで一人として存在しなかった事を!」

 

「そうかもしれない…。

 でもそういうキミも、人間に対してペシミスト(悲観主義者)すぎたんじゃないのかい」

 

「少し違うな博士。

 確かに私は人間という存在自体にはとうに絶望している。

 だが、私は知っているのだ。

 それでも人は賢しく生き続けようとする事を!

 アラガミやノヴァと何ら変わらない、その本能、飽くなき欲望の先にこそ、人の未来も拓かれてきたことを!」

 

「…これ以上は平行線だね。

 ともあれ、特異点のコアが摘出されてしまっては…もう私に打つ手は無い」

 

「私を欧州に仕向けてまで時間を稼ごうとしたようだが、すでに勝敗は決していたんだ。

 まさか帰ってきたら、特異点の情報が出回っているとは思わなかったが…無駄だったな」

 

「フ…やはり気付いていたのか…時は君に味方をしてしまったようだね…」

 

「そう悲しむ事はない。

 この特異点は、次なる世界の道標として、この星の新たな摂理を指し示すだろう。

 それは定められた星のサイクル、言わば神の定めたもうた摂理だ。

 そして…その摂理の頂点にいるものは来るべき新たな世界にあっても」

 

 

 床から何かが競りあがってくる。

 …つぼみ?

 どこか花が開くのを連想させるような動きで、つぼみが解けていく。

 

 

 

「『人間』であるべきなのだ!

 そう!

 人間は、いや!

 我々こそが!

 『神を喰らう者』なのだ!」

 

 

 支部長が乗っているクレーンが動き、つぼみの上に移動して……中から出てきたアラガミに、飛び込んだ!?

 

 

「人が神となるか、神が人となるか。

 この勝負、とっても興味深かったけど、負けを認めるよ。

 今や君はアラガミと変わらない…でも君もそれは承知の上なのだろうね。

 科学者が信仰に頼るとは皮肉な事だが…今は君を信じよう、ゴッドイーター達よ」

 

 

 

 …あの、ついでにオオグルマ先生のイレギュラーとかも説明してくれません?

 空気を読んで黙ってますが。

 

 ……まぁ、全ては二の次、三の次です。

 今私が優先するのは、シオの安全の確保と、終末捕食の阻止。

 

 シオ、少しここで待っていてください。

 何とかしてきますから。

 

 




討鬼伝2発売決定もあり、討鬼伝極を再度プレイ中です。
次のループのネタ出しもしなきゃいけませんし。

しかし…ヘタだからそう思うのかもしれませんが、これってアクションと言うよりシミュレーションに近い気がします。
MHと比べても理不尽な当たり判定&攻撃範囲。
こっちの動作はモッサリ気味だから攻撃中に相手にモーションに入られたら基本逃げられない。
攻撃を避けて当てるんじゃなくて、攻撃を耐えて反撃し、どうやって連続で怯ませるか、つまり何もさせずに勝つ事を考えなきゃならんのですよね…。
その証左という訳ではありませんが、モンハンに比べると敵を怯ませて動作中断させる方法が多いです。

GE?
そっちは完全にアクションゲーでしょう、あのスピード感だし…。

どうでもいいですが、先日初めて討鬼伝極でオンラインプレイをやりました。
偶然サーバで組んでくださったお二人様、進行度1の分際でログインして申し訳ありません…人物札みたらほぼ極めてる人だったもんで、そんな人に雑魚狩りつき合わせたかと思うと罪悪感が…。

にしても、強い人の人物札スゴイな…上級の鬼を2分足らずで全破壊してフルボッコ…。
ありがたく使わせていただいております。

もしも討鬼伝オンラインで会ったらよろしくお願いします!
人物札に「狩りゲー世界転生輪執筆中」と設定しましたんで。

と言うかこういう事が可能なゲームなら、
①ストーリーを進める
②平行してオンラインミッションも進める
③強い人のアバター貰って、オンラインで狩りまくって強い装備を整える
④ストーリーが楽々
って出来るんですね。
GERはどうだったかな…。


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95話

ただいま実家から戻りました。
実家の妹が、「直接お別れしたいだろうから」とお犬様の遺骨を取っておいてくれました。
ありがとう妹よ。

エアロバイク買いました。
目指せ一日40分。
暇潰しは討鬼伝とGERとMHXかな。



 

 

神変月雨宮リンドウ視点日

 

 

 ようやくここまで来た。

 色々な意味で予想外な事が山ほどあったが、ここを乗り切れば一段落だ。

 

 決意表明でもしたいところだが、生憎支部長が融合したアラガミはそんなヒマを与えてくれそうにない。

 …それに、サクヤの前で言ってもノロケになるだけだしな。

 

 

「降り注ぐ雨を…あふれだした贖罪の泉を止める事などできん。

 その嵐の中、ただ一つの舟板を手にするのは…この私だ!」

 

「だから一般人にもっと分かるように喋れ!」

 

 

 カルネアデスの板の話なんぞ、よっぽど上等な教育を受けられた奴じゃないと知らないんだよ!

 

 とにもかくにも、戦闘開始。

 

 

 

 …数回打ち合っただけだが、成程強い。

 純粋に火力が高い。

 その分、意外と体は脆そうなんだが…当てるまでが一苦労だ。

 

 この動き、多分支部長の人間としての理性が残っているんだろう。

 普通のアラガミが相手なら、どれだけ強力でも、動き回って霍乱して隙を突く。

 初見の相手でも、同じように動き回り、距離を取り、行動パターンを把握してから切り込んでいくもんだ。

 

 だが、このアラガミは行動パターンを把握させない。

 大火力で一気に押し切りに来ている。

 幾つか手札は見えたが、まだ隠している。

 

 支部長は実戦慣れしてないみたいだが…よくもまぁ、ここまでアラガミの体を上手く動かせるもんだ。

 付け入る隙がありゃしない。

 

 だが、これは「戦う人間」としての強さじゃないな。

 道具を上手く使う人間の強さだ。

 予め武器や攻撃の役割を上手く組み合わせるようにデザインされて、正確なプログラムによってそれを動かし、遺された支部長の理性によって揺らぎを与える…。

 そんな、よくもまぁ成り立ったものだと歓心する程のバランスだ。

 こんなモン、どれだけ繊細に計画しても、机上の空論以上にはならないだろうに。

 

 それを可能にさせているのは、支部長の執念か、それともアラガミ側に宿った『何か』なのか…。

 

 

 

 だが、そんな奇跡も長くは続かない。

 強靭な精神力の賜物だろうが、アラガミ側に宿った何かの産物であろうが、バラバラの要素をツギハギにして、更にスペック差で強引に押し切ろうとしている事には変わりなかった。

 そもそも、俺達ゴッドイーターは一般人よりも強化されているとは言え、相手はその更に上を行くアラガミ達を相手にしてきたのだ。

 自分より強い相手と戦うのが当たり前なんだ。

 

 今も、この厄介なアラガミの動きを把握し、対応できるようになってきている。

 最初の猛攻で決められなかった事が…いや、そもそもこうやって戦いの場を避けられなかった事が、支部長の敗因だ。

 

 アラガミになった支部長も、それを察しているのだろうか。

 それとも単に奇跡のバランスの限界が近付いているだけなのか、徐々に動きが乱れてきている。

 そうなると、『事故』に警戒する必要はあるが、むしろ付け入る隙は増える訳で。

 

 男女に分かれているアラガミの体に徐々に傷が増えていき、髪が、浮かんでいる輪が、装甲が。

 

 そして、ソーマのチャージクラッシュによって、男の部分に致命的な亀裂が入ったとき。

 

 

 

 それが起こった。

 

 

 

『ヌッ   グ   オ  オォぁ」

 

 

 

 アラガミから発せられる声。

 致命傷を受けた苦悶の声かと思ったが…違った。

 

 突然膨れ上がる、異様なプレッシャー。

 思わず一歩下がりそうになった。

 

 

「ぁぁ   ァ  ぁああああああ!!!!』

 

 

 

 プレッシャーは、明らかに目に見える『何か』に変化した。

 苦しんでいるアラガミ…いや、支部長は、体から赤い『何か』を放ちだす。

 

 波紋のようにも見えるそれが広がってくる。

 新手の攻撃かと思い、それぞれ距離を取り、防御体勢を取った。

 俺も赤い『何か』に触れたんだが、ダメージは無かった。

 ダメージは。

 

 最初に気付いた事は、神機を盾形態から剣形態に戻せない事。

 次に気づいたのは、赤い『何か』に触れた感触に覚えがある事。

 

 つまり。

 

 

「霊気!?」

 

「…霊気?

 何言ってやがんだ、リンドウ」

 

 

 ソーマが頭のおかしい奴を見る目を寄越すが、構っているヒマは無い。

 と言うか、俺だって好きで霊気なんて呼んでるんじゃねーよ。

 コレの事を俺に教えた奴がそう呼んでただけだよ。

 

 

「全員距離を取れ!

 コイツを受けると、神機に影響が出るぞ!」

 

 

 赤い『何か』の影響から逃れようと、少しでも離れるが、赤い波はエイジス島を覆おうとするかのように広がっていく。

 最悪な事に、支部長の苦悶の声も治まり、フラついてはいるが行動可能になったようだった。

 

 

『ぬぅ…なんだ、この溢れてくる力は…。

 アラガミには、まだ知られぬ力があったというのか…』

 

 

 やっぱ、支部長が設計した力ではないようだが…この赤い波、あのアラガミの体にも影響を出してくれないものか。

 …無理そうだな。

 今まで与えたダメージは癒えていないようだが、動き自体はスムーズになっている。

 …むしろ、今までよりも素早くなったと思った方が良さそうだ。

 

 オマケに、赤い波は今以て消えていない。

 これがアイツが見せた霊力と同じ物なら、時間をかければまた元通り動き出すだろうが…そんな時間がある筈も無かった。

 剣使いは防御体勢の為に神機を盾にしたまま止まり、銃使いはそもそもオラクルを打ち出す事ができない。

 

 …盾と銃を鈍器に使って戦えってか。

 笑えねぇ冗談だ…。

 

 

「全員、一端下がれ!

 神機は時間が立てばまた動き出す。

 それまで俺と…ソーマが時間を稼ぐ!」

 

「チッ…!」

 

「リンドウ!」

 

「早く下がれ!

 んで神機が動くようになったら、遠距離からの狙撃に徹しろ!」

 

 

 そうでもしないと、戦いようがない。

 この赤い波だって、放出し続けられる訳ではないだろう。

 突然使えるようになった力なんで、支部長もあまり当てにはしたくない筈。

 

 とは言え…。

 

 

『成程、確かに今の私と戦うにはそれしかないだろう。

 だが…追い詰められたこの身だが、防戦一方で凌げるとは思うな…!』

 

「格上が相手でも、余計な色気を出さずに守りに徹すればそうそう負けないもんだぜ?

 泥試合にも慣れてるしなぁ!

 背中は任せたぜ、ソーマ!」

 

「…仕方ない、か…」

 

 

 強がり以外の何者でもないんだけどな!

 

 

 アラガミの髪が振り乱され、俺達に襲い掛かってくる瞬間。

 

 

 

 

 3発の射撃音が響いた。

 今にも襲い掛かろうとしていたアラガミが、バランスを崩す。

 

 

 なんだ、もう神機が回復したのか!?

 と思って振り返ると……そこに居たのは、霊力を使うと嘯く胡散臭いあの男。

 

 

 

 …おい、その神機は誰のだ?

 

 

 

 

 

神変月主人公視点日

 

 

 間に合ったと言うべきか、間に合わなかったと言うべきか。

 俺がエイジス島中心部に着いた時には、既に戦闘は佳境に入っていた。

 既に相手の動きを見切りつつあるゴッドイーター達に、満身創痍とまでは言わないが、あちこち破壊されているアラガミ。

 一発逆転を許すほど、この場に居るゴッドイーター達が甘い訳でもなし、これは大勢は決しただろうか?

 

 それにしても、あれがアルダノーヴァ、そして星を喰らうアラガミ・ノヴァ…。

 思っていたよりデカいな。

 

 だが、これは俺が乱入する必要はないかな?

 放っておいても勝ちそうだ。

 …そうなると、ゲーム版のエンディングに到達…だろうか?

 

 ゲームと違ってソーマとシオに殆ど面識はないが…そうなると終末捕食ってどうなる?

 シオが月まで持って行くのが、無くなるんだろうか?

 

 そして、そのシオはノヴァの下で力なく倒れている。

 …わかってはいたが、間に合わなかった、か。

 ツバキさんからも、既に特異点コアの摘出は済まされている、と聞いていた。

 

 もう急いでも無駄だ、って聞かされたんで、ちょっと寄り道してきたんだが…やっぱりあれって時間稼ぎだったんだろうか?

 アレに突き合いさえしなければ、シックザール支部長がアルダノーヴァに融合する前に、人間ボディを狙撃して終わりにできたかもしれんのに。

 

 

 …ともかく、コアが摘出されてしまっているという事は、あそこにあるシオの体は文字通り抜け殻だ。

 真言立川流で霊力、生命力を流し込み、生命活動を続けさせる事はできるかもしれない。

 だが、恐らく意識は戻らない…宿らないだろう。

 

 …ゲームでもシオの意識はノヴァに宿っていた。

 コアにこそ意識・魂があり、体は器に過ぎない…。

 

 

 …こんな事を考えて誤魔化してはいるが、やっぱり実際に見るとショックだな。

 まだ死んだと決まった訳じゃない、シオの意識を器に戻せる可能性があるかもしれない、と言い聞かせているが…。

 

 

 

 そうやって傍観して、少し距離を詰めた時だった。

 突然膨れ上がるプレッシャー。

 

 これは霊気だ。

 俺の霊力よりもずっと大きな霊力だ。

 

 まさか、と思って覗き込むと、やはりと言うべきか、アルダノーヴァから赤い波動が放たれている。

 …これ、なんかシオの体内に残ってる筈の俺の霊力と似てる気がするんだが。

 

 …ちょっと考えてみよう。

 霊力とは魂の力。

 シオ、特異点の魂はコアに宿っているっぽい。

 コアはノヴァに取り込まれている。

 

 ……まさか、ノヴァが霊力に目覚めた?

 で、GE2の感応波を受けたような感じで、アルダノーヴァまで目覚めた?

 

 しかも、タイミング的に考えると、俺が距離を詰めた瞬間…。

 自分以外の存在の霊力を感知した事が切欠!?

 

 

 …いやいや、この際理由は置いとこう。

 この広がっていく霊力が、外にどんな影響を及ぼすか…いきなり感応種誕生祭とかはこの際考えない。

 

 今一番に考えなければならないのは、この場に居るゴッドイーター達への影響だ。

 予想通りと言うべきか、神機が正常に作動しなくなっているようだ。

 しかも、あの波動を警戒して防御態勢を整えていたもんだから、その状態から動かせない…不意打ちっつーか初見殺し以外の何者でもないな。

 

 リンドウさんとソーマが殿を務めて、一端全員下がる…か。

 思い切った判断をしたもんだ。

 

 …どっちにしろ、俺が乱入するしかなさそうだけどな。

 

 

 

 

 退避するアリサ達の前に姿を見せる。

 

 

「よっす」

 

「マスター!? ツバキさんは!?」

 

「戦いは長引いたけど、切り札が上手く決まってくれた。

 今はあっちで気絶したままだ。

 暴れられても困るから、拘束はしてきたけど」

 

 

 …ウソです。

 戦闘開始と同時に煙幕を使い、いきなりアラガミ化して開幕ブッパ。

 何もさせない、認識させないうちに超高速攻撃でケリをつけました。

 それでもカンで反撃を当ててきたのには…まぁ驚いたな。

 強さ云々じゃなくて、一線から退いてたのにまるで鈍ってなかったって事に。

 

 煙が張れた時、流石にツバキさんも唖然としていた。

 仮面ライダーアラガミを俺が使役している、と考えてはいたが、変身出来るとは夢にも思っていなかったらしい。

 まぁ、この世界観じゃ普通は無いわな。

 アラガミ化=死、或いは介錯だし。

 

 

 …んじゃ、なんでこっちに来るのが遅くなったかって?

 

 ……アレだ、空気を読まずに悪い癖が出たっていうか、分かれたとは言えイイ仲になった相手の話を無碍にはできんかったって言うか…。

 

 

「…拘束……ツバキさんを……。

 ……………(クンクン)………………………………」

 

「一番確実に無力化する方法やったんや…」

 

 

 

 

 アリサのジト目が痛いです。

 要するに色仕掛けに引っかかりました、ハイ。

 

 

 堪え性の無さもここに極まる。

 人類滅亡の瀬戸際で、ナニをやっとったんだろうか…。

 

 まぁ、ツバキさんから聞いた話が本当だったら、今から急いでもシオを救出する事はできないし、急いでもあんまり意味無かったし。

 結局事実だったし。

 ツバキさんを無力化できたはいいけど、気絶まではいかなかったからな…もしも拘束を解いて後ろから強襲されたらと思うと、気が気でなかったのも事実。

 「しっかり無力化しておく事だな」って、色々な意味で意味深なセリフまで吐かれて。

 それに加えて、ツバキさんからの秋波がね…。

 

 

 

 …まぁ、なんだその、「最後に」って言われたし、ちゃんとやっていけばも敵対しないって約束したし。

 

 

 

 

 

 いいシチュエーションでくっ殺プレイできたし。

 縛ってるから尚良し。

 ちなみに、ツバキさんはアラガミ化攻撃では気絶しなかった。

 何故現在気絶状態になっているかはお察しである。

 

 

「マスターへの罰は、極東総出で考えるとして…。

 状況は分かりますか?

 何かいい案でも?」

 

「おう、あるある。

 あの赤い波で神機が動かなくなってるんだろ?

 俺が近くに行けば無効化できるよ」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい。

 そうなると、アナタもあのアラガミの前に行くのよ?

 戦えるの?

 と言うか、腕輪も無いのに神機まで持ってるし、大丈夫?」

 

「大丈夫っすよサクヤさん。

 神機を使える理由は…全部じゃないけど、俺があそこに行けば分かります。

 突入する前にも言ったけど、それなり以上には強いつもりですよ」

 

「まぁ…仮にも雨宮教官に勝ってきたのは事実ですね。

 仮にも」

 

「仮をつけんでもちゃんと勝ちはしたわい。

 …まぁ、反則気味だったのは否定できんが。

 とにかく、あの赤い波は俺が突入前に見せた霊力と同じ物だ。

 アレを打ち消してしまえばいい」

 

 

 

 とは言え、思ったより霊力が強くて、あまり長時間は保ちそうにないし、無効化できる範囲も狭くなりそうだ。

 全員戦えるようにしようと思ったら……まぁ、言うまでも無く変身だわな。

 

 事がここまで至った以上、隠し立てする必要もない。

 後がどうなるかは、またその時に考える。

 

 

「じゃ、ちょっと行ってくるわ。

 かなり驚くと思うけど、援護ヨロシク」

 

「…ハァ…ものすっごく不安だけど、この状況じゃ他に手はないわね。

 しくじらないでよ」

 

「人間性は最悪ですが、マスターがやると言うからには何かしら算段があるんでしょうね。

 常識に適ったモノではないでしょうが…まぁいいです。

 これでもゴッドイーターNOUKAの端くれ。

 今度は大根も育ててみたいので、チャッチャと事態を片付けましょう」

 

 

 

 ゴッドイーターNOUKAなる職業がどんな物かはよく分からんが(俺はハンターゴッドイーターモノノフアラガミその他だし)、とりあえずオンステージ…の前に、アラガミを鬼ノ目で見て霊脈を確認。

 …やっぱり、霊力を使うようになったからか、流れがよく分かるな。

 急所がよく見える。

 

 

 よーく狙って、霊力を篭めて…3発。

 そんでもって霊力で感応波(仮)を打ち消した。

 

 

「お取り込み中失礼!

 これで多分神機は動くぞ」

 

「む…」

 

「おう、無事だったか。

 お前も大概訳がわからん奴だな」

 

 

 のっけから酷い事言われている気がする。

 

 銃弾を受けた支部長は、体の動きを止めて話しかけてきた。

 …霊脈を撃たれた事で、体に違和感が出ているのかもしれない。

 それを把握する為の時間稼ぎかな。

 

 …リンドウさん達も神機の動きを確認しなきゃならんし、乗ってやるか。

 

 

『君か。

 成程、君なら確かにこの力に対抗できてもおかしくない。

 しかし、いいのかね?

 ここで本当に戦うならば、君はどう転んでも真っ当な人生を歩めなくなるだろう』

 

「大丈夫でしょ。

 ここに居るメンバーは信頼できる人ばかりだし、そもそもシオを匿ってた時点で真っ当な人生も何もない。

 そもそも農園だって、アンタが居なくなって誰かが支部長に任命されれば、余計な欲を掻いてチョッカイ出してくるに決まってるんだ」

 

『ふむ、確かにな。

 だからこそ、新たな世界に共に旅立ってほしかったのだ。

 …尤も、君の正体を考えると、それも不可能であったがな』

 

 

 横目でリンドウさんとソーマの様子を確認する。

 神機の操作は問題ないようだ。

 同時に、アルダノーヴァの体も元通り動くようになったらしい。

 思ったより復帰が早い。

 溢れ出る霊力の成せる業か。

 

 

「さて、インターミッションはこの辺にして…。

 ああ、そうだ。

 この際だからリンドウさんとソーマに一言」

 

「なんぞ?

 ホピ酒くれるってんなら喜んでもらうが」

 

「……」

 

「…もし俺がアラガミでも、友達でいてくれますか」

 

 

「……は?」

 

「友達と言った事なんざ無いぞ」

 

「ソーマ、お前さんもうちょっと空気をよぉ…」」

 

『…父親面して言うが、それはどうかと思うぞ息子よ』

 

「と言うかお前友達居るのか」

 

「………エ、エリック…いや俺に友達なんざいらない!」

 

 

 拗れた厨二病にしか聞こえんな。

 ま、それは置いといて…。

 

 

「余計な茶々が入ったが…本邦初公開!

 

 

 仮面ライダー!

 

 

   アラガミッ!

 

 

    変 ・ 身 ッ  !!」

 

 

 特に意味も無く閃光玉と煙玉!

 そして変身終了後に小タル爆弾の爆風で煙を散らす!

 

 そして、姿の変わった俺を見た第一声は。

 

 

「マ、マスク・ド・オウガ!?」

 

「仮面ライダーアラガミだって行ってんだろオラァ!」

 

「ぬぐぉ!」

 

 

 ソーマに大剣切り上げでフライアウェイ。

 俺を友達扱いしないのはいいとして、空気を読まずにネタを潰した罰である。

 

 

 

「…な、なんとまぁ…只者じゃないと思ってたが…まて、姉上は」

 

「あー、ついさっきネタ晴らししたけど、平然としてたから大丈夫だろ」

 

「…ならいいか…」

 

 

 後方支援組みも、流石に唖然としているようだ。

 ……いや、アリサが平然としているのはどういう事か。

 これはNOUKAとは関係ないぞオイ。

 

 

『…とまぁ、こういう訳だ。

 私も初めて見た時は目を疑ったよ。

 元々アラガミ化している為、腕輪が無くても神機を平然と操れる。

 人間として進化したアラガミではなく、アラガミとして進化した人間…なのかもしれんな。

 特異点ではない事が残念なくらいだ。

 その辺りのメカニズムを是非とも解明してみたいものだが………』

 

 

「スゴイスゴイスゴイ!」

「チョッ、ハカセアブナイデス!」

「タダデサエコンランシテルノニ、アナタマデランニュウシタラテガツケラレマセン!」

 

 

『…そこはあっちで興奮しているペイラーに任せておこう。

 それと…万一私に勝ったら、ペイラーに捕まる前にさっさと逃げたまえ』

 

「言われなくても、人体実験は御免蒙る。

 おいソーマいつまで寝てんだ、ドンパチ始めるぞ」

 

「…絶対ェ叩き斬ってやる、テメェ…」

 

 

 緊張感が無い事この上ないが、GE無印における最終戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 上から目線で語るが、支部長はよく戦ったと思う。

 だが、状況が悪すぎた。

 

 如何に霊力という新しい力を身につけたと言っても、その性質も操り方も殆ど分からず、対処法を熟知している俺が敵に居た。

 GE2の感応種のように何らかの形で力を応用できていれば、また結果も変わったかもしれないが…今の支部長に出来るのは霊力を闇雲に放出し、神機の動作を阻害するくらいの事しかできない。

 そして、それを使えば使う程、アラガミの体であっても生命力は消費される。

 新たな攻撃手段を得たと思ったら、それは自分の命を削る術だった。

 しかも直接的な威力はなく、状態異常攻撃…ただしその異常を無効化できる俺が居る。

 

 支部長にしてみれば、踏んだり蹴ったりな事だろう…今回のループの計画の乱れ具合も含めて。

 いや本当に、支部長には悪い事をしたと思ってますハイ…。

 

 

 

 …それはともかく、支部長は新たな力を得たものの、それを無効化され。

 4対1で、動きを見切られて圧されていた所に、更に俺が追加され。

 今までの傷も癒えていない。

 

 どう考えても逆転不可である。

 唯一不安要素があるとしたら、長時間変身・戦闘行為による変身リミットの短縮…要するに時間切れだが、二度も三度も同じ徹を踏む気は無い。

 一気に決める。

 

 

 程なくして、アルダノーヴァは男神・女神共に打ち砕かれた。

 

 

 

 

 

神変月アリサ視点日

 

 

 なんか色々と衝撃的な情報が出てきましたが、とりあえず支部長が乗り込んだアラガミを撃破しました。

 ついでに榊博士も撃破しました…だって構ってると援護なんかできないんですもの…。

 鳩尾に躊躇い無く一発入れて気絶させた時、サクヤさんが何か戦慄するような目を向けてきたのが気になります。

 

 

 ってそれどころじゃありません。

 シオ!

 マスター!

 

 神機を動かなくする赤い波も消えたので、用心しながら近付きます。

 マスターも既に変身を解いて…或いは人間に変身して…戦闘体制を解除しているようです。

 

 

『バカな…この私が…。

 人の業からも目を背ける、こんな愚か者どもに、破れるなど…』

 

「…相変わらず、業がどうの、未来がどうのと、難しい話が好きだね…。

 業だろうと罪だろうと、やらなきゃならんからやるだけさ。

 小難しい議論は他で語れ」

 

『……成程…無頼を相手に、業も何もなかったか…』

 

 

 小さく何かを呟いて、アラガミは倒れ伏しました。

 

 …完全に動けなくなっているようです。

 勝った、んですね…。

 

 

「シオ!」

 

 

 倒れたままのシオに駆け寄りましたが、相変わらず全く動かない…。

 …?

 なんですか、コレ?

 シオの体から、ノヴァに繋がっている触手のような何かが…。

 

 

「アリサ、それに触るな!

 多分、シオの意識やコアを摘出した通路だ。

 それが千切れたら、シオとノヴァの繋がりが完全に経たれて、戻せなくなる」

 

 

 触れようとした手を、慌てて引っ込めます。

 

 ……でも触手は揺れ続けて…違います、島全体が揺れている…。

 

 

「チッ、ノヴァが全然止まりやしないぞ!」

 

「支部長を倒しても、このデカブツは別って事か…しかし、これだけデカいと倒しようが…」

 

 

『…無駄だ…。

 覚醒したノヴァは、止まらない…』

 

「この私が珍しく断言する…不可能です…」

 

 

 ! 支部長!

 …と、頭から血を流している榊博士…。

 

 …わ、私、頭は殴ってないですよね?

 

 

「アイタタ…揺れのおかげで、岩が直撃しちゃってね…何とか目が覚めたよ…。

 それはともかく、溢れ出る泉は…ノヴァが止まる事は、ない…。

 アラガミの行き着く先、星の再生…やはりこのシステムに抗う事はできないようだ…」

 

「ふざけるな!

 そんな事…認められるか!」

 

『…そう、それでいいのだ…。

 ソーマ…お前達は、早く、…箱舟に…ッ!』

 

 

 ビクンと大きく震えるアラガミ。

 明らかに、命が消えかけている…。

 

 

「支部長、あなたは…」

 

『…余計な心配は無用だ…。

 もとより、あの舟に私の席は無い…』

 

「なに…?」

 

『フフ…世界にこれだけの犠牲を強い…愛する妻を実験台にし…息子を過酷な運命に突き落とした…。

 私の席があるとすれば、新世界ではなく地獄以外にはなかろうよ…。

 ああ…もう一つ罪があったな…。

 後の事を…お前達に押し付ける……適任だが…フフ、無責任だろう…?』

 

「親父…。

 クッ…おい博士、本当にどうにもできねぇのか!

 俺は、俺は…!」

 

 

 …博士にくってかかる、ソーマの表情が見えません。

 きっと、自分でも見られたいとは思っていないでしょうけど…。 

 

 

 

「…アイーシャ、すまない…。

 私達は、結局こんな争いの先にしか答えを探せなかった…。

 私達は、君に償えたと言えるのだろうか…。

 他に、方法は無かったのだろうか……。

 

 もしも可能性があるとすれば…」

 

 

 榊博士にの目に釣られて、皆がマスターを見る。

 

 

「私達のあらゆる常識を超えて見せた、彼ならば…。

 神頼みよりも、ずっと儚い希望だし、個人的には絶対にとりたくない手段だけどね」

 

「マスター…」

 

「…………まぁ、心当たりは無いでは無い」

 

 

 …マジで?

 

 

「償い云々はさておいて、ノヴァを止めるだけなら、なんとかなるかもしれん。

 初の試みなんで、なんとも言えないが…」

 

「それでもいい!

 何でもいいからやってくれ!

 親父を、親父に……勝ち逃げなんざ許さねえし、まだ殴ってもいねぇ、言いたい事も山ほどあんだよ!

 このままじゃ、エリックだって死んじまう!

 親父にダチを殺させるなんざ、冗談じゃねえんだよ!」

 

 

 …ソーマがこんなに感情を露にしているのを初めて見ました…。

 もしもまだ意識があったなら、支部長はどう思うでしょうか。

 …もう、完全に事切れてしまっているようですが。

 

 

「…分かった。

 どうなるか分からんが、やってみよう」

 

「というかさっさとやらないと、揺れが酷くなってんだけど!?

 あと…ん~、何か手伝える事ないか!?」

 

「邪魔が入らないようにしておくのと、逃げる準備だけしておいてくれ。

 多分俺は暫く動けなくなると思うんで、最悪の場合は俺とノヴァ、シオをおいてでも逃げる事。

 異論は認めん、いいな!

 アリサ、これは師匠としての命令だ」

 

「ぐ…」

 

 

 ここまで来て、シオを置いて…?

 例えマスターの命令と言えど…でも、このままじゃシオを連れ帰ったとしても、意識の無い…言わば呼吸をする死骸にしかならない…。

 

 

「…分かりました…ですがしっかり帰ってきてくださいね!

 万一逃げたら、マスク・ド・オウガの正体と知られているデータを全て世界中に流します!」

 

「…絶対帰ります」

 

 

 明らかにゲンナリさせてしまいましたが、マスターは再びマスク・ド・オウガ状態になり、ノヴァの元に飛び上がりました。

 その辺の鉄骨を支えとし、額と額(サイズが物凄く違いますが)をくっつけます。

 

 …マスターの体が、僅かに光り始めました。

 あれは霊力の光ですね。

 …霊力を流し込んでいるんでしょうか?

 

 私達とアレする時に使ってた力なんですよね…。

 …という事は、何ですか?

 一見するとそういう行為に見えないだけで、マスターとシオは今現在あそこでPI-していると?

 

 …ドン引きです。

 

 と言うか、さっきから振動が酷くなってるんですが!?

 まさかこれ、ピストンの振動……いや、幾らなんでも今のはシモネタすぎる…。

 

 

 

「…シオ、起きろ。

 シオ、起きろ…起きろ、朝だぞ…。

 

 …? ん、これって……いや、後回しだ。

 起きろ、シオ…」

 

 

 囁くように呟き続けるマスター。

 …む?

 ノヴァの額の色が変わる…。

 

 

『……ん…おはよぅ…』

 

 

 シオ!?

 いえ、ノヴァ…の体から、シオの声…。

 

 

「博士、これは!?」

 

「まさか…ノヴァの特異点となっても、人の意識が…残っているなんて…。

 いや、彼が呼び覚ましたのか?」

 

 

 ふぅ…なにがなんだか分かりませんが、これで一段落でしょうか?

 後は、シオを元の体に戻す事さえできれば…。

 

 

 …あれ?

 

 

 

「ノヴァが…上昇してる?」

 

「シオ!?

 何を…マスター、これどうなってるんですか!?」

 

「榊博士!?」

 

「わからない!

 私にも全然分からん!」

 

「シオ、止まれ、止まれ…必要ない、止まるんだ…!」

 

 

 

『おそら の むこう』

 

『あの まぁるいの』

 

『えへへ あっちのほうが おもちみたいで おいしそうだから』

 

「まさか…ノヴァごと…月へ…持って行くつもりか!」

 

 

 更に上昇を続けるノヴァ。

 マスターの呼びかけにも、シオは寝惚けているような、独白しているような声で、ちゃんと返事をしない。

 

 

「というかアナタ、偏食でお餅なんて食べられないでしょうに!」

 

『えへへ だから たべてみたいの』

 

 

 クッ、突っ込みにだけは反応するとか!

 

 

「おいシオ、何で上がっていくんだ!

 まだ喰いたいもの、沢山あるだろ!

 俺の酒も、ちょっとくらいなら分けてやるから!」

 

 

『 わかるから 』

 

『 いろんなひとに おしえてもらった 』

 

『 いろんな いのちの かたち 』

 

『 たべることも 』

 

『 だれかといっしょに あそぶことも 』

 

『 だれかと おはなしすることも 』

 

『 とっても きもちいいことも 』

 

『 なにかを そだてることも 』

 

『 それが どんなかたちをしてても 』

 

『 みんな みんな いきている 』

 

 

「シオ!

 いいから、戻ってきなさい!

 アナタだって生きてるじゃない、縁起でもない事はやめて!

 戻ってくるのよ!」

 

 

 サクヤさん…。

 

 

 

『 シオも みんなといっしょに いきたいから 』

 

『 だから きょうは さよならするね 』

 

 

「必要ない、必要ない!

 シオ、止まれ!

 行くな!」

 

 

『 みんなのいのち すきだから 』

 

『 えらい? 』

 

 

「え、えらくなんか…ない!

 家出なんて…やめて…」

 

 

『 へへへ そっか ごめんなさい 』

 

『 もう い なきゃ 

 

 

 ああ ノヴァが また上が ていく

 

 

 涙が まらな 。

 抱 かかえ  たシオの体 、光 なって散ってい 。

 

  イジス島 、昇っていく光 包ま ている。

 

 

 

『  から おきにいり った ど 』

 

  そこの 「 わかれ たが ない」 』

 

『 じ  の「かたち」を』

 

『 た   

 

 

 

 

 揺 が酷く る。

 光に包ま  。

 

 

 

 

『     … おいしくなかったら ごめん 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が覚えているのは、そこまででした。

 気がつけば、私達は廃墟と化したエイジス島で横たわり、ノヴァの姿はおろか、シオの体さえ見つからず。

 終末捕食が発生したのかと思いきや、それも無し。

 後日、とある場所から偶然エイジス島が写された映像が見つかったのですが、天井を突き破った巨大アラガミ…ノヴァが忽然と消失した瞬間しか写されていませんでした。

 何故消えたのかも不明です。

 映像自体は、単なるイタズラ・または記録機器のバグとして処理され、秘密裏に葬られました。

 

 エイジス島近辺で抗争状態だったゴッドイーターも、気付けば全員倒れており、戦いは有耶無耶のうちにお流れ。

 アーク計画はと言うと、終末捕食が発生しなかったので、本当に単なる宇宙旅行にしかならなかったそうです。

 

 

 そしてマスターはと言うと…無事なのは確定なのですが、現在行方不明です。

 いえ…逃げたんじゃないと言いますか、逃げたと言いますか…。

 榊博士が目を広げて実験協力要請を延々と続けていたのに耐えかねたと言いますか…。

 

 私としても色々と言いたい事はありますが、それはこの場では語らなくてもいいでしょう。

 ツバキさんとマスターについてのアレコレも多少はありましたが、それより先に極東を統率しなければいけません。

 支部長も居なくなり、アーク計画の是非について争ったゴッドイーター達は表面上は矛を収めましたが火種は燻っています。

 アーク計画・エイジス計画が頓挫した以上、その責任者だった支部長に色々と追及があるでしょうが、そこは死者になっている為、後任となった榊博士が対応しているようです。

 

 まぁ、要するに前途多難だという事です。

 

 

 結局、シオがどうなってしまったのか…私には分かりません。

 死んでなんかいないと思いたい、また会えると思いたい。

 ですが、何故か私はシオが消え去ってしまった事を確信しています。

 

 生きていると、希望を信じる事さえできない程に…。

 

 

 …ああ、そう言えば…あれは夢だったんでしょうか?

 消えていくシオとノヴァ、倒れていく私達の視界の端で、変身したマスターが…突然現れたアラガミに向かっていったのは…。

 

 

 



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討鬼伝世界6
96話


討鬼伝のトロフィー集め中です。
人物札交換がキツすぎる…交換部屋作って放置しよう…。

GE世界から討鬼伝世界への移行が、かなり強引かつカットされてますが、ご容赦ください。


神変月主人公視点日

 

 

 …後味悪いねぇ…。

 と言うか悪すぎだ…。

 

 

 あのイヅチカナタのクソッタレ…千歳に留まらずシオまで喰らいやがった。

 今度は一矢報いてやったが、腹の虫が治まらん。

 

 と言うか、討鬼伝世界どころかGE世界まで出張ってきやがって…やっぱ、このループの原因はアイツか?

 

 

 

 ともあれ、ゲームで言えばシナリオクリアした事には変わりない。

 …ちょっと話を整理しようか。

 

 支部長を倒したとこまでは、まぁいいだろう。

 色々予定外の事はあったし、最後の最後で仮面ライダーアラガミをバラしてしまったが、それについての混乱・情報の流出は、今のところ無い。

 

 動き出したノヴァを止められないかと思い、霊力を流し込んだ。

 ノヴァの中に、俺の霊力を吸収して覚えたシオが居るのなら、どうにかしてコンタクトを取れるかもしれない…と思ったんだ。

 別に失敗しても、シオが勝手に目を覚ます可能性は低くは無かったしね、GK(ゲームのシナリオ的に考えて)。

 

 結果は成功…しかも予想以上の。

 シオをこちらからの呼びかけで目覚めさせる事ができた。

 その時、判明した事実が一つ。

 上手くやれば、俺が特異点の代わりになる事もできるかもしれない…って事だ。

 上手くやれば、ね。

 俺自身は特異点ではなくても、霊力とかを上手く使えば、同じ役割を果たせるって事だ。

 支部長達が俺を検査した時には、霊力なんぞ知りもしなかっただろうからなぁ……それで特異点としては使えない、と判断されたんだろう。

 細かい条件や考察は今度に回そう。

 

 

 その後、シオがノヴァと一緒に月を目指そうとしたのも……個人的には良くないが、ゲームのストーリー通りだと思えば、まぁいいだろう。

 でもな……なんだってまた、そこにイヅチカナタが出てくるんだ?

 

 アイツは討鬼伝世界のモンスターじゃないのか?

 でも、俺の記憶に無いだけで、何度も何度も遭遇している可能性はある…何せ因果を喰らう怪物だ。

 食われた結果、記憶が抹消されていてもおかしくない。

 事実、前ループで討鬼伝世界において遭遇している筈なのに、俺には記憶が残ってなかった。

 

 

 …ともあれ、アイツが出現すると同時に(俺も殆ど意識が飛んでたが)、再度変身して思いっきり捕食してやった訳だが。

 やれたのはそこまでだった。

 アラガミ化も限界に達してたし…。

 

 俺の意識はそこで途絶えた。

 気がつけば、アリサ達と一緒にエイジス島で倒れてたんだが…あの野郎、ノヴァもシオも食っていきやがったな…。

 絶対切り刻んでやる。

 

 …そういえば、アラガミは食った物の性質を取り込む事ができるんだっけ?

 正確に言うと、体の構造を変化させて、それを真似るってやり方だったが…もしも俺にその性質が備わっているなら、あの時にイヅチカナタを捕食した事で、奴と同じような力がついたかもしれない。

 流石にそれは期待しすぎだろうが、多分因果喰らいや記憶の抹消に対して、少しは耐性がついたんじゃないだろうか。

 

 しかし…ちっと分からんな。

 聞いた話では、イヅチカナタは英雄の魂を求める筈。

 何故、シオとノヴァを喰らっていったんだろうか?

 

 

 

 

 

 …色々考えてみたが、答えは出ない。

 どっちかと言うと、今考えなければいけないのは…。

 

 

①榊博士の実験協力(というかモルモットになれ)要請 をどうやって回避するか

②シオという緩衝材が居なくなった事で、激化するアリサとツバキの女の戦いをどうするか

③GE無印のストーリーが終了し、リンドウさんも無事な訳だが、GEB及びGE2までどうなるのか

 

 

 …この3点かな。

 差し当たり①は物理的に逃げ回ってるから、いいとしよう。

 もうちょっとしたら、多分ツバキが博士を抑える側に回ってくれるだろう…あの人が居るとオチオチ極東に戻れない、って愚痴っておいたから。

 

 ③が分からないんだよなぁ…。

 リンドウさんが無事でも、他の誰かが同じようにハンニバル化するだろうか?

 世界の修正力とか、あーいうのも在るには在ると思うんだが、シオが特異点としての力を使ってないと、GEBは発生しないよな…。

 

 まぁ、こればっかりは未来の事だ。

 考えたところで、予測にしかならない。

 

 それらしい事が起きるまで、榊博士と女の戦いから逃げ回りつつ、出来る事をやっていきますかね。

 今度はどこに農園作ろうかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凶星月久々に日付の内容で苦労してるよ日

 

 

 …何だかんだでデスワープ。

 うーん、今回のGE世界は長かった…。

 ストーリークリアの上、その後約1年ちょっと。

 

 一気に最長記録を更新してしまった。

 まぁ、折角だからと極東から離れてブラブラしてた時期も長かったしね。

 結局GEBは始まらず、ハンニバルも出てこなかった。

 

 と言うか、ホント極東以外は平和だった……というより極東が地獄ってマジなのね。

 海外とかあんまり遠いところには行けなかったけど、極東以上に危険な場所なんて全く無かったよホント。

 

 ゴッドイーターとして活動はしてなかったけど、殆どの支部があの練度じゃなぁ…。

 ヴァジュラどころかコンゴウでも大騒動って聞いてたけど、無理もないわ。

 

 まぁ、そーいう所に仮面ライダーアラガミとして乱入してたら、なんか広まっちゃったんだけどね。

 しかもマスク・ド・オウガの名前の方で…。

 まさかアリサが言ってたように、逃げたと判断して情報を広めたのか?と思ったが、それも違ったようだ。

 オシオキ(八つ当たり)はしたけど。

 

 で、その他は…まぁ、人体実験じゃないけど、榊博士その他の研究に協力したりもした。

 特に神機の実験に。

 何せアラガミ化の心配が無いし、ちょっとくらい無茶しても平気な体なんで、色々とツブシが効くのだ。

 おかげでポール型神機の研究が捗る捗る。

 

 コッソリと横流しもしてもらったし、データも貰った。

 代わりに使用データを渡してたけど。

 

 他にも、GE2になってから使えるようになっていた、オラクルリザーブやらステルスフィールドやら、新しい技術を一杯ゲット。

 次回ループになっても、俺一人で使う分には問題ないレベルだし、メンテだって資料があるから技術班の皆さんに任せられる。

 ただ、ブラッドアーツに触れられなかったのは残念だったな…。

 

 と言うか、むしろ何処から何を聞きつけたのか、マグノリアコンパス(GE2でジュリウス達が出身だったあそこだ)から技術指導を頼む、なんて言われたのには本気で驚いた。

 俺が使える妙な力=霊力を、血の力だと思ったんだろうか。

 

 まぁ、断ったけどさ……。

 何でって、新しく作った農園が初の収穫の時期だったから忙しくて。

 速めにGE2に触れられる、いい機会だとは思ったんだが。

 

 

 

 

 …ただ、そんな風に色々やってた日々だったんだが…どうにも捨て鉢になっていた感が捨てきれない。

 思えば、誰かが居なくなったかもしれない、という状況があっても、その後の世界を生きたのは初めてなんだよな…。

 何だかんだで、身内や恋人より先に先に死なれたのが確定した事はなかった。

 「死んだかもしれない」はあったけど、その結論を確かめる前にデスワープしていたし、

 

 千歳の事だって、もう会えないかもしれない、と言う不安はあっても、ループによってまた会える可能性は否定できない。

 それに、あの後すぐにMH世界に移動してたしな…何があったのか未だに思い出せんし。

 …それは今回も同じなんだが、このまま生き続けていれば、ループは無い…つまりシオにも会えない。

 『お別れ』の後、そのまま世界に居続けた事はない。

 

 …シオが居ない、もう会えない、何処に語りかけても何も答えない。

 農園に戻った時も、家が妙に広かった。

 ツバキやアリサと居ても、何だか大事な部分が欠けている気がする。

 

 そんな喪失感をずっと持て余して、なんだか惰性でこの1年を生きていたような気がする。

 日記も全然つけてなかったし。

 

 

 

 …で、気になる今回の死因ですが……その、オラクルリザーブにちょいと欠陥が見つかりまして。

 ストックする事はできるんですが、それを一気に打ち出すとなると、神機の方に相応の耐久力が必要なんですよ。

 で、それを充分にテストした上で、今度は俺が使ってみようって事になった訳ですな。

 

 しかも、極秘裏に、アラガミ状態で。

 

 

 思えばそれが失敗だった…。

 アラガミ状態の頑丈さを過信していた。

 

 俺がアラガミ状態で神機を使う場合、体の一部として取り込んでしまっている形になる。

 加えて、俺自身のオラクルの出力にもブーストがかかるんだわ。

 

 …オラクルリザーブでフルストックした出力に、耐えられる砲身ではあった。

 が、それに加えてブーストした、となると…。

 言ってみりゃ、腕が体内から弾け飛んだようなもんだ。

 いくらアラガミ状態でも、流石に生き残れなかった。

 

 

 ……気のせいだとは思うけど、ラケル博士や榊博士の陰謀だったりしないよな…。

 直接会ってないラケル博士はともかくとして、榊博士に至っては面と向かって「私は君が大嫌いだ」と真っ正直に言われたくらいだし。

 

 

 うん、まぁ…たった1年の間に、色々あったんだわ。

 大体がGEストーリーの余波みたいなもんで、GEBには関係なかったけど。

 アラガミ化の事について皆に追及されて逃げたり(だって自分でも説明なんぞ出来んし)、何だかよく分からない内にエイジス計画・アーク計画を頓挫させた英雄兼重罪人として手配されそうになったり、腕輪が無いのにゴッドイーターとして登録されそうになったり、ゴッドイーターになる代わりに隠密にアラガミを撃破する任務を時々頼まれたり。

 

 勿論、アリサやツバキさんや俺との人間関係ドラマもあるにはあったが……昼ドラを真っ当なドラマとして認定していいのかは疑問である。

 刃物だけは持ち出されなかった。

 銃弾は準備までされていた。

 

 ちなみに、榊博士に嫌いと言われた理由については…グウの音も出なかったよ。

 突然現れた謎の男。

 全ての謎と秘密を見透かし、特異点をその手にし、更にその本能を抑える力を持つ。

 ある時は謎のアラガミとして、ある時は時代にそぐわない農家として世界に影響力を持ち、暗躍を続けた。

 挙句、特異点の制御に失敗して終末捕食の切欠を作り、しかしそれを防いでみせる。

 

 …うん、確かにこうして並べてみると、どこの最低系オリ主だよって話になる。

 それに付き合わされる側は堪ったものじゃないだろう。

 

 全部が全部とは言わないが、アーク計画を破綻させたのは俺だし、シオを匿っていたのも、オオグルマを暗殺したのも俺。

 結果論になるが、全てが俺の手の中にあった。

 必死で計画を成功させようとしていた支部長や、アラガミと共存するという可能性を探っていた榊博士、エイジス計画を成功させる鍵だと聞いて必死で特異点を探し回っていたゴッドイーター達。

 

 それら全てを横目に、俺は全ての結果と結論を一人で出してしまう形になった。

 終わりの体現である終末捕食さえ、(実態はどうあれ)俺が防いだ形にも見えただろう。

 

 それまでのストーリーも盛り上がりも関係ない、ポッと出の新キャラが全てを片付けた。

 とんだデウス=エクス=マキナ。

 

 榊博士って、あれで人の力というか人類の力に拘っていて、「困難を乗り越えるのは、人間の知恵と意思を結集した力によるべきだ」みたいに考えている節があるんだよな…。

 その辺が、支部長に「ロマンチストすぎる」って言われる所以なんだろう。

 俺が今回やったのって、その正反対とも言える行動だったし。

 

 まぁ、だからって博士の陰謀でドカンといった、は考えすぎだろうけど。

 

 

 

 

 

凶星月さて、今回の日付はどんな趣で行こうか日

 

 さて、折角クリアしたGE世界がどうなったのか、シオを喰いやがったイヅチカナタマジブッコロスなど色々と思うところはあるものの、とりあえず現状だ。

 例によってデスワープした後、今は討鬼伝世界の異界を彷徨っている。

 普段なら瘴気が薄い方へ薄い方へと進んでいくんだが、今回ばかりは違った。

 

 前回の討鬼伝世界のループを思い出して、千歳と出合った場所にいけないかと試みていたのだ。

 …が、丸一日彷徨っても、千歳には遭遇できなかった。

 それどころか、瘴気が濃い方に進んでいた筈なのに、何時の間にやら異界から抜け出てしまっていた。

 

 …やはり、千歳にはもう会えないのだろうか?

 あの時遭遇できたのだって、天文学的確率だったんだろう。

 何度も何度も繰り返せば、気が遠くなるくらいの繰り返しの果てに、また会えるかもしれないけど…。

 

 …虚海を探した方が確実か?

 でも俺的には、虚海と千歳は別人なんだよな…性格が違いすぎる。

 

 

 

 ともあれ、ここは何処だ?

 今までも異界から抜けたら、適当な森の中や雪の中、そこから人里を探し回って現在位置を把握、そこからウタカタの里へ向かうってパターンだったが…。

 

 

 何ここ?

 廃墟?

 しかも寒いし、少しだけど雪降ってるし、あっちこっちから小鬼の気配がするし。

 どっかの里が滅んだのかな…。

 でも廃墟を見るに、ここがぶっ壊れたのは大分前のようだ。

 

 人の気配も無い。

 ……けど、足跡はある?

 3人で…揃いの具足の跡……って事は武装してるな。

 モノノフか?

 

 とりあえず追いかけてみるか…。

 

 

 

 

 足跡を追ってみる事半日程。

 あっちこっちで小鬼の掃討をしたらしく、何度も足跡を見失いそうになったが、途中で増えたあからさまに分かりやすい足跡のお蔭で追跡できた。

 うーん、半人前のモノノフか?

 でも一人で小鬼相手とは言え一人で戦ってたみたいだし、どうもミタマの力も使えるっぽい。

 精々、見込みのある新人ってトコか。

 

 ま、とりあえず追いかけますかね。

 

 

 

 

凶星月今までは呟きとか、コトワザのアレンジにしてた訳ですが日

 

 

 行けども行けども廃墟ばかり。

 あと時々沸いてくる小鬼。

 

 徒歩でモノノフ達が来てるんだから近くに里があると思ってたら、途中から馬で走っていきやがった。

 がっでむ。

 

 まぁ、幸いと言うべきか、それでも半日ばかり追跡したら、里が見えてきた。

 見えてきたんだが……なんかこう…物々しいな。

 明らかに武装している門番に、弩が据え付けられてるらしき壁に堀、篝火も炊かれていて、『いつでも出陣できますぜ』と言わんばかりの里だ。

 キカヌキの里だって閉鎖的だったが、ここは閉鎖的かつ攻撃的な印象だ。

 ……キカヌキの里のケンゴさん元気かな…。

 

 でもモノノフには違いないだろうし、いきなり拘束されたりする事はないと思うんだが…。

 

 

 

 …?

 扉が開いて、誰か出てきた。

 

 …女…だけどお偉いさんっぽいな。

 槍を持ってる。

 里長って女でもなれるのか?

 別に女性を軽視蔑視してる訳じゃないが、モノノフってそういう所は古風な風習が残ってるからなぁ。

 霊山に居た時だって、結構面倒なしきたりがあったもんだ。

 

 いや、それとも単にモノノフの部隊長格か?

 

 

 門番へ何か話しかけているが、反応を見る限り、侮られている事はないようだ。

 と言うより、むしろ敬意を払われているように見える。

 

 …お偉いさんと話せるなら、そのチャンスを逃すべきではないか。

 

 隠れていた場所から飛び出すと、すぐに気付かれて門番が身構えた。

 大した錬度だ。

 

 お偉いさんは…槍に手もかけず、自然体のまま。

 だが動揺した様子は無いし、門番からも下がれとは言われないようだ。

 腕に覚え在り、信頼在りって事ね。

 

 

 両手を挙げたまま近付いていくと、お偉いさんが一歩前に出た。

 

 …こりゃモノノフっつーより…狼の類だな。

 実力もそうだが、全身から漂う気迫が只者じゃない。

 

 

「何者だ」

 

「新入りのモノノフです。

 ウタカタの里に行く予定だったんですが、異界でデカブツと斬りあってる間に流されました。

 保護を求めたい」

 

「断る」

 

 

 

 …ハイ?

 

 

「どうやら間者の類ではないようだが、ここはシラヌイの里。

 霊山には属さぬ、独立不羈の里だ。

 そして私は、シラヌイの里長・凛音。

 私の決定だ。

 保護などせぬ」

 

「霊山に属さない…モノノフの里?」

 

 

 そんなモンあるのか?

 

 

「知らぬのか。

 まぁいい…。

 この里には霊山に従う義理は無い。

 また、シラヌイの里は実力主義だ。

 鬼と戦う内に異界で迷うような足手纏いを置いておけば、里全体が危機に晒される。

 故に貴様を置いておく事はせぬ。

 自力で生き延びてみせよ。

 モノノフなのだろう?」

 

「生き延びるだけならどうとでも。

 餓鬼やオンモラキも、やりようによっては食えるし…」

 

「ほう、喰らったのか」

 

「マズかったね、腹は膨れるけどさ。

 あと、腹の中から怨嗟の声が聞こえるようになる。

 

 …ま、入れてくれないってんなら仕方ない。

 現在地だけ教えてほしい。

 対価は…異界をウロウロしているうちに見つけた金塊くらいなら渡せる」

 

「…いいだろう。

 対価も無しに何かを得ようとしない、その姿勢は評価しよう。

 金塊は要らぬ。

 餞別にする程大した情報ではないが、ただでくれてやろう。

 ウタカタの里は、ここから遥か南だ」

 

「サンクス。

 やれやれ、また強行軍か…」

 

 

 シラヌイの里とやらで休めなかったのは結構痛いが、逆に言ってしまえばそれだけだ。

 休んだところでウタカタの里が近くなる訳でもなし、貴重な馬を貸してもらえるとは最初から思っていない。

 面倒だが、テクテク歩いていくとしますかね。

 

 

「さんく…?

 待て、『さんくす』と言ったか?」

 

「?」

 

「さんくす、と言っただろう」

 

「あー…そう言えば英語も伝わってないのか。

 アメリカ…海外の言葉で感謝する、という意味だ」

 

「貴様、霊山のモノノフだろう。

 何故そのような言葉を知っている」

 

「何故って…俺、元々モノノフじゃない一般人だったからだよ。 

 オオマガドキに巻き込まれて、異界からなんとか生き延びてきたんだ」

 

 

 …あれ、この設定だと矛盾が出るか?

 あんまりウソは言ってないが、討鬼伝ゲームの主人公が居ない以上(或いは俺がそれに当たる以上)、異界に沈んだ国からの生存者は居ない事になっているような…。

 

 

「…気が変わった」

 

「うん?」

 

「運を天に任せる気概はあるか?」

 

 

 はぁ?

 

 

「運を引き寄せる気概ならあるぞ。

 故人曰く、『ヒトニウンメイヲサユウサレルトハイシヲユズッタトイウコトダ、イシナキモノハブンカナシ、ブンカナクシテオレハナシ、オレナクシテオレジャナイノハアタリマエ!』だ」

 

「…見事な早口だが、それを全部言わなければいかんのかというおかしさはあるな。

 まぁいい。

 運を引き寄せると言うなら、見事私に勝ってみせろ」

 

 

 やる気か!?

 …と思ったら、懐から取り出したのはサイコロ二つ。

 

 …なんで俺、いきなり博打を持ちかけられてんの?

 一言も喋らない門番さん達は…「ま~た始まったよ」って顔している。

 一人顔色が悪いが…ひん剥かれた記憶でもあるんだろうか?

 

 

「丁半博打だ。

 知っているな?」

 

「偶数か奇数か、だろ?

 どっちが丁でどっちが半だったかは覚えてない。

 …あと、サイコロが丼から出たらチョンボ…だったっけ?」

 

「今回は丼は使わんがな。

 偶数が丁、奇数が半だ。

 どっちに賭ける?」

 

「…チョンボ」

 

「いいだろう。

 では行くぞ」

 

 

 ポイッと上に向かって放り投げられるサイコロ二つ。

 落下してきて…。

 

 

「…チョンボ、だな」

 

「…そのようだ」

 

 

 門番が僅かに驚きの声を漏らした。

 

 サイコロが消えた。

 やった事は大した事じゃない。

 

 理屈は簡単。

 落下してきた瞬間に、手を伸ばして掴み取っただけだ。

 そのままふくろに入れたけどね。

 …ただし、これを超高速やった。

 

 文字通り目にも留まらぬスピードでやるつもりだったが、凛音さんはしっかり反応して、弾こうと手を伸ばしてきやがった。

 思った以上に強いな…。

 が、その程度のスピードなら、アラガミ化状態のアクセラレートで慣れているッ!

 見事に凛音さんの腕を避け、サイコロを掴み取った訳だ。

 

 

「いいだろう。

 暫し里に滞在していけ。

 異論は認めん」

 

「…さっさと消えろと言っておいて、随分な掌返しじゃないか?」

 

「気が変わった、と言っただろう。

 間抜けなモノノフかと思ったが、私の前で堂々と、しかもこの手を掻い潜って小細工が出来るなら、全くの足手纏いにはなるまい。

 …こういう場合は、確かこう言うのだったか?

 

 『うえるかむ』…とな」

 

 

 …英語?

 

 

「あと、賽を返せよ」

 

 

 

凶星月正直、ネタ切れ感が否めない日

 

 

 シラヌイの里にやってきて、今日で3日目。

 

 凛音さんの一声で、俺は賓客扱いになっているらしい。

 しかしタダメシ食わせてくれる筈もなく、軽いものは雑用から、デカければ任務の付き添いまで、色々と走り回る事になっている。

 別に苦にはならないし、一宿一飯の恩義を返す事に疑問も無いが、凛音さんが何故俺を引きとめたのかは分からない。

 ついでに言えば、速めにウタカタに到着して、今回のイベントに備えたいんだが。

 

 

 …今回のループでは、ちょっと本格的にのっぺら連中と、ひいては俺の正体について考えてみるつもりだ。

 今まで何だかんだでなぁなぁで済ませてしまっていたが、GE世界で前触れも無しに発覚した事実が幾つかあった。

 一度、突き詰められるところまで考えてみてもいいだろう。

 

 その為には、ミタマの専門家である樒さんの協力を仰ぎたい。

 

 

 それはそれとして、気になる事はこの里でもある。

 霊山に属さないというのもよく分からんが、凛音さんが「ウエルカム」という言葉を知っていた事が気になる。

 どうでもいい、と言われればそれまでかもしれんが…。

 

 どうやら、彼女は英語をとある一人の住人から聞いたらしい。

 驚くべき事に、その人はオオマガドキに巻き込まれ、奇跡的に生還した一般人なのだとか。

 今は討伐の為、泊り掛けで出かけているので里には居ないが…名前は暦。

 モノノフとしては半人前(凛音さん談)の、薙刀使いの女の子、らしい。

 

 

 

 …ここへ来て生存者にカチ会うとは…。

 どうやら凛音さんは、その暦さんと俺を会わせたいらしい。

 同じ一般人出身という事で、気が合うんじゃないかと思っているようだ。

 要するに、メンタルケアの一環か。

 一般人がいきなりこんな状況に放り込まれれば、いくら気丈に振舞っていたってストレスが溜まるからな。

 

 それはいいんだが、俺としてはその暦とやらが問題に思える。

 オオマガドキに巻き込まれ、奇跡的に生還した一般人…つまり……討鬼伝本来の主人公なのではないか?という事だ。

 今の今まで、俺が主人公的立ち居地だと思ってやってきたが…。

 いや、そうと決まった訳ではないし、別に暦さんが主人公をやらなきゃならない決まりもない。

 新たなオオマガドキを防ぐ為のムスビこそ代替案を用意しなけりゃならんが、前回だって主人公の立ち居地はほぼ千歳のものだった。(そうなるようにプロデュースしたんだが)

 

 そもそも、聞いた話では暦さんは既にミタマを宿しているらしい。

 元が一般人だった事を考えると、大した才覚だ。

 それはともかく、討鬼伝ゲーム版の主人公は、最初はミタマなんぞ宿してなかったんだよな。

 そこは…まぁ、そこまで忠実である必要もないだろうし、演出の一環と割り切れない事もない。

 

 …しかし…調べてみる価値はある、か。

 暦さんとやらと、どれだけ話が出来るかはわからんけどね。

 平和だった元の世界の話にしても、俺が居た世界と何処まで同じか分からないし。

 流行とか元々サッパリだったし。

 

 

 



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97話

GER発売まであと3日。
それまでに討鬼伝のトロフィーコンプができればと思ってましたが、難しそうです。
エアロバイク、1日40分を継続中…。


 

凶星月もうすぐGER発売日

 

 

 暦さん帰還。

 

 …お子様やん。

 いや、モノノフになるのに年齢制限は無いし、下手な男より…というかヘタすると俺より強い女モノノフだって見慣れてるから、侮るような事はせんが。

 

 C学生…いや、ギリギリ高校生…?

 なんて思っていたら、なんと18歳。

 やったね暦ちゃん、R-18できるよ!

 …いや、するつもりは無いけどさ。

 

 何というか実年齢以上に幼く見えるな。

 そんな事を考えてたら、ムスーっとした顔で睨まれた。

 ああ、そんな無駄に柔らかそうなホッペを膨らませて。

 

 凛音さんにも、「そんな顔をするから子供に見られるんだ」とからかわれていた。

 …弄られ系かな?

 

 薙刀使いで、ミタマのスタイルはウタカタだとあまり見られない「空」。

 結構腕はいいが…ちょいと不安定気味?

 まぁそれも仕方ないな。

 一般人がこんな世界に放り込まれりゃ、アリス・イン・ナイトメアな気分を味わえるだろう。

 本当にこれが現実なのか、実は悪い夢なんじゃないかって意味でも。

 

 だからって、多分誰も何もできなかったんだろう。

 繊細な問題でもあるし、この里に居るのは殆どがモノノフか、それに類する人達のようだ。

 彼らにとって鬼は存在して当然の敵であり、その時点で暦が抱え込んでいる孤独感や隔絶を理解できる筈も無い。

 

 つまるところ、本人がそれを…理不尽で不条理でワケが分からない悲劇な現実を受け入れて、克服するしかない。

 

 

 

 俺はそれと同じくらい意味不明な状況を、至極アッサリと受け入れて今に至るワケだが。

 …うむ、正直、暦さんと悩みを共有できる気がしない。

 

 まぁ、それでも会うけどな。

 それがシラヌイの里に滞在する条件だったし、俺も興味あるし。

 もしかしたら、凛音さんの暦さんに対する情けなのかもしれん。

 ついて来れない弱者は切り捨てるのみ、みたいな迫力を漂わせた人だが、情が無い訳じゃなかろう。

 それに、多少なりともこれで暦さんが立ち直れば、シラヌイの里にも収支黒字になるかもしれないからね。

 

 

 

 

 

 

 さて、帰還した暦…呼び捨てでいいと言われた…達の部隊の評定やら報告やらも終わり、実際に話してきましたよ。

 

 うん、予想通り話が合わねぇ。

 JKが好きそうな話なんてサッパリ分からん。

 そもそも暦がこの里に来たのは8年近く前…つまりオオマガドキが起こってそれ程経ってない頃なので、当時10歳の暦がどんな生活をしていたかなんて、想像もつかん。

 精々家に帰ったら宿題、テレビゲーム、庭付きの家に住んでいたなら砂遊び?

 

 盛り上がれたのは、強いて言うならメシの話くらいか。

 和食ばっかで飽きが来る、とか。

 オムレツが好物だそうな。

 

 あとよくわからない長ったらしい名前のパフェを、こんな世界になる前に食べてみたかった…とか。

 

 

 一応言っておくが、暦の食い意地が張ってる訳じゃない。

 一緒にメシ食ったが、まぁ普通の食事量だ。

 鍛えている分、一飯的な婦女子よりは多いと思うが。

 単に盛り上がれる話題が、これくらいしかなかったってだけだ…。

 

 …俺、これでも結構女性との付き合いがあるのになぁ…。

 まぁ、真っ当なお付き合いをしてないから、と言い切られればそれまでだけど…。

 

 

 そんな色気の無い話ばかりしていたが、それでも結構な気晴らしになったようだ。

 「カタカナ混じりで話したのは久しぶりだ」って冗談めかしてたが、ああ、それは結構面倒だよね。

 俺もこの世界で話す時は、なるべく英語とか使わないようにしているし。

 

 

 ちょいとゲームの話も振ってみたが、そっちはサッパリだった。

 どうやら放課後の情熱を部活に全フリした、今時珍しいくらいの健全な小学生だったらしい。

 

 小学生ってモンハンとかゴッドイーターとかしないのかなぁ…。

 そもそも存在しないのか、それとも暦が知らないだけなのかは分からんが。

 

 家族とかについては話さなかった。

 里心がつくっていうか、ヘタに緊張の糸を斬ってしまうとそれこそ再起不能になる可能性がある。

 

 …酒を飲ませてみようかと思ったが、嫌がられた。

 ん?

 年齢的にアカン?

 今この世界にそんなルールは無い。

 

 が、暦はそれでも嫌がった。

 以前に飲まされたことがあるらしいが、単純に不味かったそうな。

 お子様舌よのー。

 機会があれば、カルーアミルクでも作ってやろうかな。

 

 

 

 さて、それはそれとしてこれからどうするか。

 正直な話、暦について興味はあるが、ウタカタの里に行かねばならないのも事実。

 暦は千歳と違って異界の外に暮らしているから、次のループに入ったとしても、シラヌイの里にさえ来られればまた会う事ができるだろう。

 

 …うん、やっぱり出発するか。

 今回のループの目的は、ミタマやら俺の体やらの謎の解明を主題としている。

 これをどうにかしとかんと、気になって昼寝もできやしない。

 夜は寝れるし二度寝も出来るが。

 

 明日、凛音さんと暦に話を通して出発するか。

 

 

 

 

凶星月その2週間後にはアサシンクリード新作日

 

 

 出発の意思を伝えたところ、凛音さんを初めとした何人かのモノノフが惜しんでくれた。

 短い間だったが、実力はそれなりに認められていたらしい。

 …それともアレか?

 雪降ってて食料がロクに育たないこの場所で、鬼を食う方法を広めたのが良かったのか?

 とりあえず餓死は避けられるし。

 

 …しかし、ウタカタで食ったと言ったらドン引きされたんだが、平然と受け入れるなぁ、この里…。

 独立不羈を掲げているだけあって、こういう神経の太さが必須なのかもしれんね。

 

 

 

 

 

 

 で、何故に暦を連れて行けと?

 本人もメッチャ驚いてるんですが。

 

 別に里にとって足手纏いって訳でもないでしょう。

 未熟は未熟でしょうが、充分戦えるくらいの力量はある。

 里の食料とかの備蓄は…充分とは言えないが、それこそ鬼でも食えばいい。

 

 暦を里から離す理由が見当たらない。

 首を傾げていると、暦だけが凛音さんに呼び出されていった。

 

 

 

 …着いてくるってんなら、俺としては否は無い。

 むしろ好都合なくらいだ。

 ウタカタで俺の体に関する研究もできるし、主人公かもしれない暦の観察もできる。

 

 問題は暦の方だな。

 それなりに馴染んだこのシラヌイの里から、訳の分からない内にウタカタの里へ向かわされる。

 疑心暗鬼や後ろ向き思考に嵌ってたら、「捨てられた」と思い込む可能性がある。

 

 …そうなったら、傷心に漬け込んで手懐ける事もできそうだが…仮に暦が主人公だった場合、あまり妙な意識を刷り込むのもな…。

 今のところ、複数のミタマを宿す兆候は無いが、まだ分からん。

 そもそもミタマ自体、そうそう転がってるものじゃないからね。

 

 

 

 それはともかく、暫くしてから顔を合わせた暦は、何だか妙に張り切っていた。

 むん、と言わんばかりに控えめな胸を張っている。

 

 …これ、明らかに何か吹き込まれたよな。

 密命か、何か重大な役目を任すとか言われて張り切ってる顔だ。

 会って数日の俺にこうまで見透かされるんだから、とにかくウソのつけない奴…。

 

 で、凛音さんの事だから、俺がそれに気付くのだって見越しているだろう。

 と言うか、俺じゃなくても気付かない方がおかしいわ。

 …しかし、そうなると凛音さんの狙いが分からん。

 

 暦をウタカタに潜り込ませて、何を狙う?

 ウタカタは最前線という意味では重要な位置にあるが、逆を言えばそれだけだ。

 現時点では、二度目のオオマガドキだって情報すら出てないだろう。

 

 シラヌイの里は霊山から独立している(少なくとも本人達は本気でそのつもりだ)から、霊山に対して密偵を出すならまだ分かるんだが…。

 

 

 

 

凶星月更に月末にはMHX発売日

 

 暦を連れて旅立ってから4日目。

 既に雪が降る地域を抜け、森に入り込んでいる。

 暦も野宿には慣れている為、困っているような事は無い。(メシは壊滅的ではないにせよヘタの一言だが)

 本人に言わせると、「雪が降ってないだけマシ」という話だが。

 

 まぁ、森に入れば食うものには不自由しないからな。

 代わりに時々襲われるけど、返り討ちにして肉にしてるし。

 

 駄弁りながら進んでいたんだが、やはり暦はこの世界を受け入れられた訳ではないようだ。

 過去を懐かしむ…というより過去を過去と思えていないような節が多々見られる。

 在る日目を覚ましたら、元の世界に戻ってるんじゃないか…そんな他愛も無い空想を捨てられないらしい。

 

 精神が不安定になるほど強烈な物ではないようだが、ナニカの切欠で隙が出来そうではあるな。

 秋水辺りが唆したら、本人の性格もあって乗ってしまいそうだ。

 

 …一番唆しそうなのは、俺な訳だが…。

 

 今だって、特に口説こうとか思っている訳じゃないのに、同じ外様出身で前の世界について会話ができるってだけで、好感度がダダ上がりになっているのがよく分かる。

 チョロい。

 いや、それだけ今まで気を張ってたって事なんだろうけど。

 それに、恋愛的な好感度じゃなくて、友人的な好感度だ…多分。

 

 恋愛的であっても別に困りはしないと思うが…死亡フラグの切欠にはなりそうだな。

 と言うか、今回のソッチ系欲求はどうやって発散しよう?

 前ループの時に探してみたんだが、ウタカタの里にお水関係の店って無いんだよな。

 真面目な話、どうやって発散してるんだろうか…。

 

 

 …誰かに聞いてみるか?

 男同士のワイ談も、何だかんだでやってみた事無いし。

 

 

 ………いや、まさか…実はハッテン場とかが………そういや何かの本で、マッチョは意外と受けが多いと……つまり富獄の兄貴が『ぬふぅ』…………考えるの止めた。

 

 

 と言うか、いい加減女癖を本気でどうにかせにゃならんなぁ。

 矯正するとは言わないまでも、付き合い方を覚えないと…でも毎回そう考えておいて、欲望に流されるんだよな…。

 

 …欲望との付き合い方、オカルト版真言立川流に乗ってなかったよなぁ…。

 

 

 

 それはそれとして、今回の討鬼伝世界のストーリーはどう進めるか。

 第一目的がのっぺらミタマの研究・究明なのは変わらないが、最前線かつゲームのステージだけあって、放っておいてもバカスカ揉め事が沸いてくるしな。

 

 もしも暦が主人公役だとするなら、前回のように俺は裏方に徹し、物語の中心として動いてもらうのもいいだろう。

 それこそ、千歳と同じようにプロデュースしてみるのもいい。

 気になるのは、暦のバックホーン…ゲームの主人公には無かった、シラヌイの里とのしがらみと、凛音からの密命(多分)。

 その辺を上手く折り合いをつけて、里の中心になれるかどうか、だ。

 

 贔屓目になるかもしれないが、暦に比べ、千歳はその辺が非常に適任だったように思う。

 体を鬼に変えられた、健気な悲劇の少女。

 他人の為に走り回る事を苦にせず、保護欲を掻きたて、マスコット(動物達)と言葉を交わし、自覚があるかはともかくとして天性のアイドルのような素質を持っていた…と思う、多分。

 きっと某アイドル育成ゲームに出演すれば、トップクラスの性能を叩き出すに違いない。

 プレイした事ないけど。

 

 …話が逸れた。

 とにかく、千歳は初心者プロデューサー向けの高い能力値、高い意欲を持って自分から動いていたが、暦は違うだろう。

 別の方向でのアイドルの素質はあるかもしれんが、残念ながら今の俺には暦をプロデュースしても上手く行くイメージを思い浮かべられない。

 …相手が初穂だけなら、おねーちゃんなり先輩なりの呼び名でどうとでもできそうだが。

 

 

 

 うーむ、プロデュースはともかくとして、単純な戦力だけで考えてみてはどうか?

 暦はそれなりに強い。

 俺もそれなり…少なくともこの世界では、それなり以上と呼べる程度には強いつもりだ。

 

 まぁ、途中までは問題ないだろう。

 瘴気の濃さにもよるが、序盤のミフチなら軽い。

 カゼキリもまぁ余裕。

 クエヤマは残念な子。

 ツチカヅキは手持ちの武器の相性にもよるが、遠距離系を使えるならほぼ確実に勝てる。

 タケイクサはちょいと手間取るが、負ける気はしない。

 ミズチメは特殊能力を警戒する必要があるが、勝てる事は勝てる。

 ヒノマガトリとダイマエンは、飛行能力を封じる事ができれば勝てる…飛び回られるとちょっと手が出せんが。

 

 ゴウエンマは……うんまぁなんだその、仲間内に不和が無ければ勝てるんじゃないかな。

 

 ストーリー上での戦いに問題があるとすれば、やはり味方内での不和、精神的な揺さぶりによる不調、そして物量差。

 物量差は暦も居るし、人手は何とか足りる…とは思うが、油断は禁物。

 誰か一人でもしくじったら、そこからウタカタに攻め込まれるんだからな。

 

 また火薬無双するかな…。

 

 

 

凶星月嬉しいタイトル目白押し日

 

 見覚えのある場所まで出てきた。

 ウタカタの里まで、あと少しだ。

 

 念のために周囲を警戒し続けていたが、不自然な動きを見せる動物は居ない。

 …千歳が居ないのは分かるが、虚海も居ないのだろうか?

 まぁ、前回の虚海がウタカタに留まっていたのは、若い自分こと千歳の様子を見るためだったろうからな…。

 それに、千歳の事を知ったのだって、多分秋水からの何らかの情報が行ってからだろうし、今はまだ居なくて当然かな。

 

 

 道中、暦にさりげなく探りを入れてみたんだが、やはり凛音から何かの命令を受けているようだ。

 反応を見るに、どーも内通者を探せとか、そーいった類のもんだと思うが…内通者…秋水くらいしか思いつかないな。

 でもシラヌイの里がウタカタの内通者を探して、何の得があるんだ?

 残り少ない人間の陣地が奪われれば、その分負担が押し寄せてくるって理屈は分かるが。

 

 しかし、仮に秋水が標的だったとして、どうするかな…。

 人情を切り捨てて考えれば、正直、助けるメリットはあまり無い気がする。

 最終的にはどうなるにせよ、今の秋水は獅子身中の虫だ。

 橘花の押し込めている恐怖や不満を炙りだし、里の結束に皹を入れようとする。

 それが返って、橘花の精神を強くする結果になってしまったとしても、それは結果論にすぎない。

 

 人の心は複雑怪奇、素手で弄り回すには繊細すぎる。

 同じような状況で同じような言葉を投げたとして、同じ結果になるとは限らない。

 

 んじゃ排除?

 汚ッサンと同列に並べるつもりはないが、やってる事はそれと同じだ。

 ストーリー展開上において、秋水が必須の行動をしていた覚えは無い。

 精々が、結界石を砕いて増やし、里の結界を強める提案をしたくらいだ。

 

 が、流石にウタカタの里内で誰にもバレずに秋水を始末できる自信は無い。

 開放的ではあるが、里は狭いし、密室状態であるのは事実だからな。

 もしもそこで唐突に殺人事件なんぞ発生したら、間違いなく新入りの俺達に疑いが向くだろう。

 

 …やはり様子見か。

 正直、討鬼伝のストーリー詳細はそこまで覚えていない。

 オオマガドキを防いだ後、また何か重要な役割があるかもしれんし、排除までする事は無いか。

 

 

 これ以上考えても進展は無さそうだ。

 後はウタカタ到着後に考えよう。

 

 

 

凶星月積みゲーが増える日

 

 ウタカタに到着。

 で、前回同様に「新人モノノフ着任しました」「ん、聞いてないぞ?」「どうせ霊山だろ」「ああ、災難だったな」のコンボが入りましたー。

 が、ここで暦が「ん? 異界で戦っている内に流された、と言ってなかったか?」と余計な事を。

 

 …口止めしてなかった俺が悪いのか?

 まぁ、結局霊山のせいにして誤魔化したけどさ。

 新人が研修中に行方不明になるとか、そりゃ不祥事以外の何物でもないだろう、命がけが当たり前のこの職種でも。

 大方、ウタカタに出発する寸前のモノノフがMIA状態になってしまい、それを隠蔽する為にウタカタ行きの書状やらなにやらを握りつぶしたんだろう。

 

 …という話になった。

 実際の霊山は、そこまで腐っちゃいなかったけどな。

 一部にアカン奴も居た事は居たが、大体は一本筋が入った人だった。

 小悪党や汚れ仕事役だって居たけどね。

 組織の規模の割には、統率取れてて浄化作用も機能してるんだよな、あそこ…。

 それでも現場から離れた事による鈍りはどうしようもないようだが。

 

 とりあえず、二人揃ってウタカタの里に入った。

 話に聞いてなかったモノノフが二人も着任したってんでちょっとドタバタしたが、それだけと言えばそれだけだ。

 モノノフ達は全員出払った直後だったので、大和のお頭直々のお出迎え。

 VIP待遇と言えなくもないだろう。

 …一見すると、ね?

 

 俺についてはまぁ良かったんだよ。

 でも、暦への反応がな…。

 あからさまではなかったにせよ、明らかに「ん?」ってカンジの反応があった。

 

 暦がシラヌイの里から来た、って聞いた時だ。

 考えてみりゃ、シラヌイの里は独立不羈を謡って、霊山に従ってないんだよな。

 それを大和のお頭が知らない筈が無い。

 何故ここに来た?と思われるのも仕方ないだろう。

 実際、何故来たのか俺もわかってない。

 

 暦本人は俺の道案内と護衛、そして修行の為と言っているが、少なくとも最初の2つは明らかに建前だ。

 だって全然道をわかってなかったし。

 野宿にしたって、お世辞にも手際がいいとは言えなかった。

 素人ではない、という程度だ。

 護衛に関してだって、異界にも入らない野山で何から護衛すると言うのか。

 確かに野生動物はある意味脅威だが、俺にとっては食料だ。

 そもそも強弱で言えば、俺の方が暦を護衛する側だ…俺のアラガミ化みたいに、トンデモ世界観の切り札があるなら別だが。

 

 修行については……うーん、建前兼本音?

 シラヌイの里だけでは得られない経験だってあるだろう。

 激戦区という意味では、ウタカタもシラヌイも大差無さそうだけど。

 

 

 ともあれ、霊山の指令があって来た(という事になっている)俺と違い、暦は正式な客人ではない。

 しかも曲りなりにも霊山の指揮下にあるウタカタと、霊山と反目しているシラヌイだ。

 受け入れられるか?という不安はあったし、大和の頭も「そうか…しかし、この里にも余人を置くような余裕が無くてな」と洒落になってない冗談を言うし。

 ちょっと慌て気味に、暦が懐から書状を取り出して渡した。

 …凛音さんからか?

 というか書状があるなら先に渡せよ。

 

 書状を読んだ大和の頭の眉間に少し皺がよった。

 その後、「ふふ…北の女狼め、相変わらずか」なんて言ってたが、知り合いだろうか?

 

 ま、とにもかくにも、俺達は里に迎え入れられた。

 他のモノノフ達とはまだ顔を合わせていない。

 だもんで、里長直々に里を案内されるという、割と胃が痛くなるようなイベントがおきてしまったが、それはまぁいいだろう。

 

 暦と俺の住居は別々だ。

 俺は前回、千歳と一緒に住んでいた里の外れの小屋。

 暦はその更に前のループで住んでいた、ゲームの主人公の家。

 …やっぱ、暦が主人公なんだろうか?

 

 同時に来たというのに、住む家にえらい格差が出来てしまい、暦が申し訳ないと謝っていたが、里外れの小屋に関しては大和のお頭に俺が頼んだ。

 千歳との思い出がある(時期的にまだ無いけど)というのもあるが、何かをする際に誰にも見られない場所が良かった。

 今回ループではのっぺらミタマの謎を追求するつもりだし、その際に変身しないといけない事だってありそうだ。

 人目が無いに越した事は無い。

 

 

 

凶星月執筆の為にGER・MHX優先かな日

 

 暦と一緒に里を巡るつもりだった。

 桜花を初めとしたモノノフ達の帰還は、早くて今日の夕方。

 それまで暦を連れ回し、神木の所にでも連れて行って、声が聞こえないか試してみるつもりだった。

 

 うん、つもりだった。

 …すっかり忘れてたネー、あの家って誰も住まないから物置状態になってたんだよネー。

 

 暦は一晩かけて、家の中の整理をしていたらしい。

 朝方に訪れてみたら、埃塗れで眠っていた。

 …埃を吸いすぎたら喉が腫れるぞ。

 

 と言うか、手伝ってくれと素直に言えばよかろうに…。

 気付かなかった俺達も俺達だけど。

 

 とりあえず、お隣さんのおばさんに、暦を洗っておいてくれと任せ、掃除の続きにとりかかった。

 本当だったらこんな面倒な事を進んでやる気はしないんだが、流石に罪悪感が…。

 俺の時も掃除は桜花と一緒にやってたからな…。

 

 と言うか、確かここの倉庫にオーディオとか外の世界の物が幾つかあった記憶がある。

 使い物にならないからあの時はさっさと捨ててしまったが、暦はどうしただろう。

 郷愁を引き起こすかもしれない物を前にして、どう対処したのか。

 …できればまだ発見してない状態がいい。

 暦が戻ってくる前に始末してしまいたい。

 

 

 

 

 幸い、外のモノだと思われる品はまだ発掘されていなかった。

 捨てるところにも困るんで、とりあえずふくろに入れてポッケナイナイします。

 

 昼頃には暦も起きてきて、一緒に掃除していた。

 手をとらせてしまって済まない、なんて謝ってたが、この家を一人でどうにかしようとするほうが間違いだろ…。

 

 掃除が終わった頃には既に夕方。

 早ければ、そろそろモノノフの誰かが戻ってくる頃だ。

 本部に直行してもよかったんだが、腹が減っていたので茶屋で団子を食っていく。

 腹ごしらえは大事だ。

 今までのパターンからして、先輩モノノフと顔合わせして間もなく、襲撃があるだろうからな…。

 

 

 実際その通りになった。

 任務から帰ってきて、初顔合わせした………何故に息吹?………と一緒に、親睦を深める間もなく出撃である。

 幸いと言うべきか、相手は雑魚だけだった。

 襲撃と言うより、結界の隙間や弱い場所から紛れ込んだんだろう。

 

 息吹は今までパッとしないイメージがあったが、流石にウタカタでエースやるだけの実力はある。

 雑魚を相手に遅れを取る筈も無い。

 

 暦も一人前なのかどうか微妙なところだが、独立不羈のシラヌイの里…しかもあの凛音の下で働いてきたんだ。

 ガキやササガニなんぞに梃子摺る筈も無かった。

 

 俺に至っては言うまでも無し。

 息吹から「本当に新人か?」という疑問の声までいただいたくらいだ。

 ウタカタに来る前は、大型鬼とも何度か戦っています。(という事になっています)

 仕留めた事はありますが、一回しくじって異界に流され、その先でシラヌイの里に出ました。(という事になっています)

 つまりある程度は経験ありです。

 

 ま、要するに楽勝って事だ。

 まだこの程度ならね。

 精神的な揺さぶりも無いし。

 

 

 暫くは、息吹の下について、雑魚狩りをしてもらう事になるそうだ。

 「最前線だと言うのに、雑魚ばかり?」と暦が不思議そうにしていたが、力量も把握できてないのに無茶をさせる気はないって事だろう。

 

 …それに加えて、この近辺の大型鬼は先日一掃したばかりだそうだ。

 「新人が来るって分かってりゃ、丁度いいところで切り上げて出迎えの準備をしたんだけどな」だそうだ。

 

 成程、今までのループでは、大型鬼掃討の人員が途中で居なくなってたから、ミフチを殲滅しきれていなかったのか。

 そんで、残ったやつがゲームストーリーで言う、初穂と二人で倒す奴、と。

 ちなみに前回、千歳と一緒に来た時は、ウタカタの里まで到着するのに時間がかからなかったから、掃討しきれてなかったんだろう。

 

 

 ま、平和なのはいい事だ。

 狩りができないのは退屈だが。

 

 

 

 



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98話

あれ、減ってる?と思ってみてみたら…感想って1,000件までしか保存されないのね…。
今更気付きました。

それはともかく、祝GER発売!
マッタリプレイ中です。
ちょっと風邪気味だから辛いけど…元気な時は、エアロバイクを漕ぎつつプレイしています。
よく動く相手だとキツい。

うーむ、まだ序盤だからか、パッとする攻撃方法が無いな…。
ブラッドアーツに比べると、どうしても決め手に欠ける印象があるし。
むしろ頻繁にプレデターフォームで捕食して、バーストを維持しつつ特殊効果を繰り返し発動させるのがキモかな?




凶星月バレットエディット難しい日

 

 実働部隊長である桜花は、まだ暫く帰ってこれないそうな。

 掃討戦に手間がかかっているらしい。

 手伝いを申し出たものの、里にも守りの戦力は必要だからと却下されてしまった。

 

 里の防衛任務についていると、襲撃が無い限り基本的に退屈だ。

 見回りはするけど、里の中に突然鬼が出てくる訳でもないし、世界観を忘れるくらいに穏やかな里なので、悪さをする奴も居ない。

 …ま、ウロウロして里の人達と親睦を深めるのは重要だよな。

 依頼って形で何か仕事を受ける事もあるし、里の人の困り事を解決するのもモノノフの役目…なんだろう、多分…千歳曰くね。

 

 

 さて、そんな訳で村人との一通りの面通しが終わった訳だが(神垣の巫女は除く)、問題はここからだ。

 

 本名不詳、正体不明、預貯金に余念が無くてミステリアス極まりない、あと肩とおっぱいと目元のホクロが実に妖艶な樒さん。

 

 今回はこの人と関わっていく事になる。

 別に色欲云々じゃなくて、ミタマの研究の為にね。

 今までのループだと、この人と関わった経験は極端に少ない。

 と言うのも、どうも避けられているようだからだ。

 別に俺が何かしたとかじゃなくて、単にのっぺらミタマ達がうるさいからだと思う。

 

 そんな樒さんにどうやってお話するべきかね?

 のっぺら共の声を抑えられりゃいいんだが、そもそも俺にはこいつらが発している声が聞こえない。

 …霊気が漏れないようにすれば、声も止まるだろうか?

 試行錯誤してみるしかないか。

 

 

 とりあえず、試しに会いにいってみたんだが、初対面で顔を顰められた。 

 ちょっと傷つく。

 霊気を漏らさないようにしてもダメか…。

 と言うか、今までだと出会い頭に顔を顰められるほど、酷くはなかったと思うんだけど。

 

 耳を塞ぎながら話をした(ちなみに俺は筆談だった)樒さん曰く、「耳元で爆弾が幾つも破裂し続けているような喧しさ」だそうな。

 …前に聞いた時は、山の中で蝉の声に囲まれているような喧しさじゃなかったっけ?

 ひょっとしてパワーアップしている?

 

 …そういえば、最近のっぺらミタマ達のパワーアップとか、気にしてなかったな。

 後でちょっと様子を見てみよう。

 

 それはそれとして、意外というか何と言うか、樒さんは自分からのっぺらミタマ達の調査の手伝いを申し出てくれた。

 このままだと、うるさ過ぎて日常生活に支障が出そうらしい。

 ウチの馬鹿共が迷惑かけてごめんなさい。

 

 ただ、勿論無料で協力してくれる訳ではない。

 代償としてお金は勿論のこと、色々な鬼の素材を取ってくるように要求された。

 差し当たって最初に持ってくるのは、ミタマが食べたがっているという鬼の素材と、特性の耳栓を作る為の素材だった。

 

 …え、ミタマってメシ食うの?

 

 まぁ、いいけどさ…。

 ちなみにMH世界の耳栓スキルが発動するピアスを持っているのだが、渡しても拒否された。

 耳に穴を開けるとかどんな拷問だ、って。

 まぁ、俺も着けるまではそう思ってたよ…。

 スキルが付かなきゃ、今でもピアスなんぞする気にならない。

 

 さて、次の任務の時に、ちょっと素材を探してみますかね。

 

 

凶星月とりあえず自前で脳天直撃弾を作ってみよう日

 

 

 雑魚狩り続行中。

 素材集めはそこそこ順調。

 

 息吹の様子は、頼れる先輩ポジ…かな?

 軽口を叩くのは相変わらずで、暦としては苦手なタイプらしい。

 まぁ、暦ってクソ真面目だからねぇ。

 別段嫌っている様子が無いのが救いかな。

 

 暦が不満に思っている事があるとすれば、やっぱり敵が雑魚ばかりって事かな?

 別にバトルマニアのケがある訳じゃないが、建前上は修行の為に里に来ている訳だし、多分シラヌイの里では大物ともそれなりにやりあっていたんだろう。

 つまり一人前に近い扱いをされていたって事だ。

 それが唐突に別の里に移された上、一からやり直しじゃ不満にも思うだろう。

 

 …で、その上にちっちゃい先輩までできればね…。

 

 という訳で初穂が里に帰ってきました。

 全く聞いていなかった新たなモノノフに驚かれたが、すぐに俺達に向かって「初穂よ。 私の方が先輩なんだからね!」と胸張って言い放った。

 別に先輩風吹かせてどうこうしてる訳じゃないが、なんだかなぁ…。

 

 前は「私の方がお姉さんなんだからね!」って言ってたような気がするが……まぁ、暦ってこれでも18歳だしな。

 初穂15歳。

 身長差もお察し。(両方ともちっちゃいが)

 

 …これでお姉さんを自称するのは、さすがの初穂も気が引けたか…。

 と言うか、先輩…先輩、なのか?

 俺は何だかんだでモノノフ暦トータル一年ちょっとくらいだから分かるが、暦ってどうなんだろ。

 8年前のオオマガドキを生き延びてシラヌイの里に拾われて…いつからモノノフやってんのかな。

 ま、ウタカタの先輩って意味では間違ってないか。

 

 

 で、暦が律儀にも初穂を「先輩」と呼ぶもんだから、舞いがっちゃってまぁ…。

 千歳の時もそうだったが、ちっとチョロすぎないかい?

 

 …まぁ、俺が先輩って呼んだら、「何か違和感があるっていうか態とらしい…」って言ってたが。

 俺にとってはどっちかと言うと…弟子?

 いつぞやのループで、初穂を鍛えてたからなぁ。

 中途半端な所で終わってしまったが。

 

 「なんか馬鹿にされてる気分になる」とまで言われて、先輩呼びは無しになってしまった。

 そこまで言わんでもええやんけ。

 それともアレか、口元ニヨニヨさせながら物理的上から目線で、見下ろしながら先輩と呼んだのがアカンかったか。

 

 …アカンだろうなぁ、どう見ても小バカにしているようにしか見えないよ。

 

 まぁ、とりあえず暦を後輩扱いしてご満悦のようだから大丈夫だろう。

 実力的には……うーん…ほぼ同等?

 だが、実績がな…暦は曲りなりにもシラヌイでデカブツとやりあっていたのに対し、初穂はまだ。

 先輩後輩の拗れが出来なければいいが。

 …まぁ、そうなりそうだったら、また初穂の特訓に付き合ってやるか。

 前回の千歳の時、お姉ちゃんパワーを発揮して結構な勢いで強くなっていった。

 上手いこと煽ってやれば、一人前の壁なんぞすぐ突破できるだろう。

 …上手いことやれば、ね。

 

 

 

凶星月連射が好きだし、ブラストから乗り換えてみようかな日

 

 相変わらずの雑魚狩り中。

 ヒマだ。

 

 最近は暦と初穂のタッグが出撃している事が多い。

 初穂が一方的に構おうとしているのかと思いきや、暦も結構乗り気なようだ。

 雑魚ばかりが相手な為、欲求不満なんだろうか?

 

 …それとも、初穂を近所のオシャマな妹分のように見ているんだろうか。

 

 どっちでもいいが、時期的に考えるとそろそろ初穂とミフチがカチ会う頃だ。

 カチ会うといっても、跡をつけてこられるんだが…今回はどうだろう。

 初穂と新米モノノフ一人ならともかく、曲りなりにも大型との交戦経験がある暦もいる。

 存外、その場で気付いて戦う事になるんじゃなかろうか。

 

 …別に問題はないな。

 ミフチ一体くらいなら、二人係でどうにかなるだろ。

 初穂がまだ半人前だという事を差し引いても。

 

 

 そういえば、主人公疑惑がかかっていた暦だが、未だに新たなミタマを宿した様子は無い。

 別人なんだろうか?

 それとも、ゲームの方がシステムの都合で複数のミタマを宿すようになっていただけで、実際は…って事だろうか。

 何れにせよ、オオマガドキを防ぐ為の方法を別に探さなければならないようだ。

 オオマガドキどころか、あのクソッタレのイヅチカナタが出てくる可能性すらあるが。

 

 

 さて、一方俺はというと、息吹と組んで異界の浅い部分の巡回がメイン。

 色気がねぇな、とは俺と息吹の共通コメントである。

 俺としては素材集めを主な目的としており、別段不満は無い。

 古銭とかも落ちてるんで、小遣い稼ぎになるし。

 

 

 後は…特筆すべき事と言えば、秋水だろうか?

 暦と時折何かを話し込んでいる姿を目にする。

 そういや、秋水って北から逃げ延びてきたんだっけ…北、つまりシラヌイの里と何か関係があるのか?

 ひょっとして暦とも面識があったのか…と思ったが、里を巡っていた時に「はじめまして」って言ってたな。

 演技…じゃないな、少なくとも暦は。

 

 そうだとしても、秋水が素直に「やぁ奇遇だね」なんて声をかけるとは思えない。

 が……暦の経歴と秋水の目的を考えると、どうにも嫌な予感がする。

 

 秋水の目的は、過去に戻って北の仲間を救うこと。

 悲劇をなくす事、とも言える。

 不条理に奪われ、見捨てられた過去に納得してない、受け入れられてない、そして何より諦められていないのだ。

 

 その是非はともかくとして、その心情は暦にも通じるものがある。

 平穏で、鬼やモノノフなんて物語の中にしか居なかった筈なのに、突然家族や友人も居なくなり、訳もわからず生き延びたと思ったら、今度はバケモノ相手に戦い続ける日々。

 シラヌイの里で話した時、「疑問を感じた事はないか。このモノノフの世界について」みたいな事を言われたっけ。

 

 その時は確か、「疑問があっても、目の前の敵は敵。負けるのは嫌いだから敵を狩る」みたいな事言ったなぁ…。

 

 それが暦にどう受け止められたかはともかく、出来る事なら平穏だった世界に戻りたい、この世界が夢だと言って欲しい…みたいな本心はあるだろう。

 そこへ、秋水が「戻りたくないか」「無かった事にできるかもしれない」「「全てを取り戻したくないか」と吹き込んだら……どうなる?

 

 すぐに飛びつくような事はしないだろう。

 過去に戻るなんて眉唾物(俺の境遇で言うのもなんだけど)だし、そもそも方法だって確立されてない。

 更にその方法を探るのが、人類を丸ごと危機においやるような、オオマガドキを利用しようって寸法だ。

 どんな阿呆でも、信じるような真似はしないだろう。

 

 

 

 だが揺らぐ。

 確実に。

 誰にも知られてない(つもりの)本心を見透かされ、か細くても在り得るかもしれない希望を吊るされて。

 

 

 …秋水に協力する事自体は、好きにすればいい。

 過去だろうが未来だろうが、行けるのなら行けばいい。

 過去だ未来だと呼称したところで、その場所に立って自分が動いているなら、それは須らく現在の今この瞬間。

 今この瞬間を生きている人間が、その瞬間に何かを成して未来を変えようとする事に、何の不都合があるものか。

 

 やれる物ならやってみりゃいいが、それで現在及び未来に支障が出そうなのはな…。

 未来や過去を変えるのはいいが、それで俺達が全滅の危険に晒されるのは許容できん。

 ま、この辺はリスクとメリット、難易度との鬩ぎ合いだな。

 明確な正解なんてありゃしない。

 

 

 …話が逸れたが、暦と秋水の関係は非常に危うい物だと覚えておこう。

 時期的に、すぐに行動する訳ではないだろうが、神垣の巫女に揺さぶりをかける前後辺りが危険かな…。

 

 

 

 

 

凶星月考えつつ弄っていたら、いつの間にか何もせずに仕事の時間日

 

 

 ようやく桜花が戻ってきた。

 随分長い出張だったが、何処に行っていたのやら。

 

 面通しは特におかしな事なく進んだ。

 うーむ、暦は普通に里に受け入れられていると思っていいんだろうか?

 霊山に従わないシラヌイの里の出という事で、警戒する人が一人くらい居てもおかしくないと思うんだが。

 まぁ、ウタカタの連中はやたら人がいいからな…。

 

 しかしなんだな、桜花が居ない間に橘花に言い寄っておけばよかったか?

 別に口説き落とせるとは思ってないが(秋水に揺さぶられている状態なら、付け込めない事もないけど)、信頼を向けさせる事くらいはできたと思う。

 …仕方ないか。

 橘花にはまだ会ってない。

 神垣の巫女の部屋に押しかけようとすると護衛に捕縛される(実力的にはともかく)んで、初対面時は偶然を装うしかない。

 

 …代わりに、木綿ちゃんと話す機会が多かった。

 今までのループであまり係わり合いになってなかった、所謂受付嬢だが…ニンジンのレシピの事で盛り上がりました。

 近くに居た大和のお頭の視線が、二重の意味で圧し掛かってきていたよ…。

 余計な事(好き嫌い的に)をするな、と妙なちょっかいだしたらわかってんだろうな、的な意味で。

 

 余計な事?

 勿論全力でやってやりましたよ。

 俺が知る限りのニンジン利用法をお伝えしています(現在進行形)。

 味だけではなく、気付かれずにコッソリ食わせる為のアレコレも仕込みましょうとも。

 

 ちなみに新発見。

 ニンジンのレシピについて話していると、大和のお頭は寄ってこない。

 そんなにニンジンが嫌いか。

 

 

 

 暦と初穂にニンジン料理を食わせてみた。

 …普通に食えるな。

 初穂は大和のお頭がニンジン嫌いなのを知って、「まだ人参が嫌いなの? 相変わらずねぇ、大和は」とボヤいていた。

 それを聞いて、暦が初穂と大和のお頭の関係を疑問に思っていたな。

 確かに、里長に対して一モノノフ、年下、家柄…というか家族も随分前に……と、大上段に出られるような要素は何も無いよな。

 実際、規律で言えば問題ありな訳だし。

 初穂が大和のお頭にタメ口たたけるのは、ウタカタ自体がその手のルールに緩い事と、大和のお頭がショタ時代もとい少年時代に初穂を姉とみていたからだ。

 …今じゃ娘でもおかしくないくらいに年齢差が逆転して開いてしまっているけど。

 

 別にバラしても問題はないんじゃないかねー。

 と思ったが、初穂の心情的には問題ありか。

 自分が抱えた複雑な事情をホイホイバラ撒く人間は、大体が構ってちゃんだからな。

 そういう意味じゃ、初穂は違うだろう。

 

 …初穂自身は鎌ってちゃんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かいてこうかいしたしのう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凶星月まぁ、じっくり進めよか…日

 

 

 余計なバカ考えて、シオの死に匹敵するレベルのダメージを受けた気分になった。

 

 あれから1週間ほど、日記書く気にもなれなかった。

 割とマジで餓死を狙ったんだが、やっぱ食欲には勝てなかったよ…。

 それはともかく、問題が幾つか発生した。

 

 ミタマの事と…里の人間関係で。

 

 のっぺらミタマの事はアレだ、まぁ元々問題しかないような連中だったが、それに輪をかけてエライ事になってしまった。

 まず、最近全然気にしてなかったパワーアップ。

 何時の間にやら、2つずつスキルを覚えてやがった。

 

 まぁ、それはいいんだよ。

 例によって3つの世界のスキルをそれぞれ覚えて、まぁピーキーではあるけど使い方さえ間違えなければ間違いなく戦力アップしているし。

 いつパワーアップしたのか、イマイチ分からないけど。

 

 何が問題かってーと、のっぺらトリオの性質が一部判明したんだわ。

 ただ、それがまた妙なもんで…本当にミタマなのかも怪しくなってきた。

 元々怪しかったけど、それに輪をかけて。

 

 

 そもそもだ、ミタマっつーのは英雄の魂だ。

 魂の定義が正しいかは追いとくとして、要するに元が生物の肉体に宿っていたものが、それが人格や記憶を維持して(或いは一部欠落があるかもしれないが)、不定形かつ物理的に視認できないエネルギーとして漂っている訳だ。

 しかし、ウチののっぺらミタマは一部、これに当てはまらない部分があるようだった。

 

 まず、そもそも生物に宿っていた物ではないらしい。

 この辺は樒さんの考察や調査の結果で、俺にはサッパリ分からないんだが…なんかこう、のっぺらの構造と言うか感触というか、そういうのが普通のミタマと全く違うらしい。

 エネルギーの絶対量も極端に少なく、恐らく人格・記憶も無いに等しいとか。

 

 

 …あの事在る毎に煽ってくる、時々大騒ぎもしているのっぺらトリオに、記憶はともかく人格が無いって在り得るの?

 そう疑問を持ったんだが、『無い』のではなく『無いに等しい』らしい。

 

 樒さんの言葉を俺なりに翻訳して言うと、人格が『無い』のは単なる人形。

 『無いに等しい』のは、NPC…いや、AI?

 幾つかの行動原理があり、それに従って動いているだけと思われる…だそうだ。

 確かに、最初の頃…俺に宿ったばかりの頃は、何を呼びかけてもフラフラ歩いて、時折立ち止まってボーッとしてるだけだったな。

 

 

 

 

 それが何時の間にやら、あんなに煽り上手になった挙句、空を飛ぶは組み体操するは、他人の夢の中にまで出張するようになっちまって…。

 

 

 

 それについては「学習したんでしょう」というのが樒さんの見解。

 とにかく、のっぺらミタマはエネルギー的にも情報量的にも絶対量が圧倒的に少ないらしい。

 詳しい説明は省くが、AIにしろNPCにしろ、複雑な判断をさせようと思ったら、それだけ思考の為の容量が必要になるって事だ。

 それが、一人の人間(今は疑問を挟むまい)の思考や記憶を持っているにしては、どう考えても少なすぎる…と。 

 

 

 

 それに加えて、更にワケが分からないのは……こののっぺらミタマ、どーも外から俺に憑依したんじゃなくて、俺の「内側」から沸いて出ているっぽい…って事だ。

 いやまぁ、確かに心当たりはあるよ?

 前ループで幾つか判明していた事実…妙な空間で、俺に向かって大量ののっぺらが流れ込んできているとか、俺がのっぺらで構成されているとか。

 

 俺の体がのっぺらで、ミタマものっぺら。

 だったら、のっぺらミタマは実は元々自分の一部だった…って話になっても、そんなにおかしくはないだろう。

 …いや、前提というか根源からしておかしい事だらけではあるんだけども。

 

 

 のっぺらはミタマではなく、俺の一部だった…か。

 GE世界での妙な空間で、俺に流れ込んできていたのっぺら達の事を考えると…ひょっとしてトコロテン方式?

 俺の体に入りきらなくなったのっぺらがミタマという形で俺に取り憑いて、更に後から入ってきたのっぺらに押されて、古いのっぺらが飛び出し、それがミタマに入り込んでパワーアップ。

 

 

 …ぬぅ、なんか妙な気分だ。

 

 ミタマについては、これくらいにしておこう。

 まだまだ気になる事はあるが、調査を始めて間もない時点でここまで判明したんだ。

 そう焦る事はないだろう。

 

 

 

 問題なのは人間関係の方だ。

 言うまでも無く、俺が一番苦手とする分野である。

 

 しかも当事者じゃねーんだよな…。

 ヘタに首突っ込めん…。

 

 何があったかというとだな…なんかよく分からんが、富獄の兄貴と暦が揉めた。

 

 俺は今回ループでは里の巡回がメイン業務だったが、どうやらストーリーは着々と進んでいたらしい。

 突然の新モノノフ着任という事で受け入れ手順に狂いが出ていたようだが、まぁその辺は問題なかろう。

 何時の間にやら那木さんと禊をしていたと言うのは許し難いが、まぁ女同士だから良し。

 

 …そういや、何時の間にやら禊場ができてたな…まぁいいけど。

 

 

 とにかく、初顔合わせの時に発覚した事だが、富獄の兄貴と暦の間に、何かしら因縁があったっぽい。

 那木さんに聞けば分かるかな…いやしかし、俺と那木さんも今回はまだ顔を合わせてないし、ややこしい揉め事を相談してくれるような立場かな?

 結構プライベートと言うか、繊細な部分に関する話のようだし…。

 

 とりあえず、那木パイと富獄の兄貴の顔を拝みに行くか。

 

 

 

 しかし、暦と富獄の兄貴の間にねぇ…。

 余計な因縁があるって事は、やっぱり暦は主人公ことムスヒノキミではないのだろうか?

 …とりあえず、揉め事を仲裁する方が先か。

 

 カゼキリ?

 普通にぶっ飛ばして帰って来たみたいだよ。

 

 

 

 

凶星月ハンマーが意外と有効日

 

 

 できれば那木さんの方に会いたかったけど、先にバッタリ会ったのが富獄の兄貴だった。

 しかも朝っぱらから、汗だくになって武術の練習やってたし…。

 ガチムチ的な意味ではナイスバディですが、超テンション下がります。

 汗臭いし…いや、ニオイ的な意味ではそんなに臭くはないんだけど、イメージ的にね。

 

 「おう、てめぇが新しく来たモノノフの男の方か」って相変わらずのワイルドな笑顔でした。

 オリジナル笑顔で迫ってきたら、俺は逃げるぞ。

 

 挨拶もそこそこに、折角会ったんだから、と一緒に任務に行く事になった。

 残念ながら那木さんは別の任務らしいんで、俺・息吹・富獄の兄貴の華のないメンバーになった。

 

 言うまでもないが、特に問題なく任務は終了。

 まだ1度目の大攻勢の時期も来ていないから、大型鬼もミフチ程度しか出てきてないんだよな。

 

 それはともかく、躊躇いながらも富獄の兄貴に、暦と揉めた事について聞いてみた。

 

 …なんつぅか、思ったよりヘヴィな話だったな…。

 富獄の兄貴が、以前に居た里を護り切れなかったのは知ってたが、救援を出していたとは…。

 考えてみれば、確かに負けそうになれば助けを求めるのは当たり前か。

 

 …それで、都合よく援軍が来てくれるとは限らないのも、当たり前と言えば当たり前…か。

 シラヌイの里は、結局救援には動かなかったらしい。

 理屈ではそうであっても、見捨てられた方が納得しないのも…当たり前、ね。

 頭イテェ…。

 

 

 しかも、富獄の兄貴はなんか一人で勝手に完結しちまってるし。

 ホオズキの里の神垣の巫女こと『ちびすけ』とかの話はされなかったけど、「里を護り切れなかったのは、俺自身が弱かったからだ。それを他人のせいにしちまうとは…人間ってのは本当にしょうもねぇ」…と。

 しょうもないかはともかくとして、富獄の兄貴は暦、及びシラヌイの里に非は無いと考えているようだ。

 それでも揉めたのは…多分、暦が意図せずして地雷を踏んでしまったのか。

 

 あの時は助けに来なかったのに、非常時でもないウタカタに何故ノコノコやってきてるのか…、とでも考えたんだろうか?

 そりゃ頭にも来るよな…例え自分の弱さが悪い、と割り切ってても。

 

 と言うか、割り切ってるからこそタチが悪い。

 富獄の兄貴にしてみれば、この話はそこで終わり。

 余計な事を言って八つ当たりをした自分が悪い、で終了してしまっている。

 八つ当たりした事を詫びる事があっても、逆に暦やシラヌイを責める言葉は、もう二度と出てこないだろう。

 

 これ以上何を言っても、蛇足でしかない。

 例えば暦が頭を垂れて、悪かったと告げても、シラヌイが滅びの危機に瀕して助けを求めてきたとしても、それらは全て別件でしかない。

 

 

 対して、暦はどうだろうか?

 あのクソ真面目な暦だしな…。

 「私の判断じゃない、里長に言え」くらいの逃避ができればいいんだが、そうもいくまい。

 

 実際、その時の暦はシラヌイの里について間もないだろう。

 里長の判断に物申すどころか、居場所さえあるか怪しいくらいだ。 

 

 

 

 …とにかく、富獄の兄貴はもうこの件については終わりだと思っている。

 後引こうとする様子も無い。

 悪かったと思っているから、機会があれば頭を下げる事だってあるかもしれない。

 

 となると、問題なのは暦の様子だ。

 問題を解決しようとする場合、一方からの言い分ばかり聞いてちゃ、話がややこしくなるだけだもんな。

 両方の話を聞いて、意見や証言の食い違いを纏めて、解決案を表示する…。

 

 

 ……アカン、狩れない問題には太刀打ちできる気がしない…。

 

 

 

 



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99話

最近、ブラストからアサルトに乗り換えました。
ちょっとくらい外しても問題ないから、気楽に撃てるのがいいですね。
それとハンマー大活躍です。
通じる奴が意外と多いんだよなぁ。


凶星月朝から遠慮なく酒が呑めるのが至上の幸せ日

 

 予想通りというべきか、暦は結構沈み込んでいた。

 この子もウタカタの里の連中の例に漏れず、精神的な揺さぶりに弱いなぁ…。

 暦はウタカタじゃなくてシラヌイの里のモノノフだけど。

 

 …凛音さんは、これを案じてウタカタに寄越した…ってのは考えすぎか?

 ウタカタに来ただけで、精神的な脆さを克服できる訳もないし。

 

 

 それにしても、やっぱこの世界はさりげなく面倒くさいなぁ。

 ホオズキの里が援軍を求めた当時、シラヌイの里で何があったのか聞かされた。

 

 当時も凛音が里長だったらしく、援軍に応じようとしたそうだが…ちょうどその時、シラヌイの里には霊山からの討伐部隊だか懲罰部隊だかが迫っていたとか。

 独立不羈と言えば聞こえはいいが、本来管理する立場にある霊山にしてみれば、反乱を起こされたようにしか見えないだろう。

 …で、当のシラヌイにしてみれば、見捨てておいて管理者面するな、と。

 

 

 本っっっ当に面倒くさいなぁもう!

 

 

 とは言え、これはこの世界特有の話じゃないよな…。

 GE世界だって同じくらいに追い込まれてるし、配給が足りなかったり、居住スペースが足りない人の分はスラムに放り出している状態だ。

 MH世界も、一見すると表立ってないだけで、ハンターが間に合わずに、或いは負けてしまってモンスターに抵抗できなくなった村はあるだろう。

 

 避けて通れる問題じゃないな…。

 

 

 富獄の兄貴も兄貴だが、暦も暦で面倒くさい。

 どんな理由があったにせよ、シラヌイの里はホオズキの里に援軍を出さなかった。

 見捨てた事には変わりない。

 だから当時シラヌイの里に何があったのかは話さないでくれ、富獄殿の怒りを受け止める事が自分に出来る唯一の事だ…と暦は言っている。

 

 

 

 

 

 …でも当の富獄の兄貴の方が、もう怒りをぶつける気がないんだよねぇ。

 自分が弱かったからだって言い切っちゃってるし。

 そこへ「さぁ、思いのたけをぶつけてこい!」なんて言っても「何言ってんだお前」で終わりである。

 

 試合放棄している相手に、当て身技ばっか発動してどうすんだって話だ。

 …どうでもいいけど、格ゲーの当て身技と実際の当身技って正反対だよな。

 格ゲーのはカウンター投げみたいなもんだけど、実際のは逆に打突なんだし。

 

 

 暦は当時の事実を知らせる気はなく、そもそも教えたところで富獄の兄貴は誰かに責を求める気はない。

 …どうしろと?

 

 

 表面的な仲なら、問題はないだろう。

 富獄の兄貴から突っかかっていく気が無いし、暦も形はどうあれ受身の体勢だから、これ以上の揉め事は発生しないと思う。

 ただ、根っこの繋がりというか、信頼を築けるかどうかだ。

 

 別に全員が全員仲良しこよしでなければならない理由もないが……団結する事で産まれる力は大きいからな。

 前回、何だかんだでオオマガドキの現場まで漕ぎつけたのは、千歳を中心として一致団結していたからだ。

 単に一緒に戦っただけで、ああまで戦力は向上しない。

 実際、千歳の号令一つで明らかに戦意が高揚するは、霊力が回復するは、物凄い効果だった。

 あそこまで行けとは流石に言えないが、一個のチームとして動けるくらいにはしたいものだ。

 

 

 …話が逸れたが、暦と富獄の兄貴には、正直干渉のしようが無い。

 なるべく一緒の任務に行くように仕向け、実績を元に個人と個人の信頼を積み重ねるしかないだろう。

 富獄の兄貴も暦も、誠実さという点においては疑いようも無い。

 自然と信頼は作られる。

 何もしないって結論に落ち着く訳だが…うーん、事なかれ主義。

 

 

 まぁ、間に入っての仲介くらいはするけどさ…最初は多分ハリのムシロだろうな…。

 

 

 

凶星月酒のツマミを何にしようか考えるのが、永遠の課題日

 

 

 なんか、俺の知らない所でトントン拍子にストーリーが進んでいくなぁ、今回は。

 ひょっとして、と思って聞いてみると、暦は何時の間にやら天狐を拾っていた。

 という事は、橘花にも遭遇したか。

 

 初穂との仲も悪くないようだ。

 里に着いて最初に大型鬼…といっても蜘蛛だが…とやりあうイベントも普通にこなし、暦の実力に危機感(?)を持った初穂が、先輩の威厳を保つ為に頑張っているとか…。

 実際、里の広場で稽古をしていた所を見かけたが、随分動きが良くなっている。

 

 那木さんや息吹との仲もいい。

 カタブツのお子様、とも評されているようだが。

 

 富獄の兄貴とも、少なくとも表面上は上手くやっているようだ。

 速鳥とはまだ未遭遇。

 秋水は…よく分からん。

 積極的に話すような間柄ではないようだが。

 

 

 それはともかく、大和のお頭から囮作戦と、倒した鬼の部位を持って帰ってくる様に指令が来た。

 と言っても、俺に任されてるのは主に巡回系だから、デカブツと遭遇しないとな…。

 と言うか、何で俺今回に限って妙に大人しいんだ、自分で言うのもなんだけど。

 相手がまだ雑魚ばっかりだから、狩りたい相手も居ないといえば居ないが…。

 

 

 で、鬼の部位だが、確か橘花に千里眼で探らせるんだっけか。

 とりあえず、その辺の大物を適当に狩っておくかな。

 

 

 

凶星月酒呑んで風呂入って時々エロする日

 

 囮任務と嘯きつつ、普通に寄ってくる鬼を片っ端から狩ってしまった件。

 囮⇒遭遇⇒援軍が来るまでに殲滅、を3回くらいやったら、一人で大丈夫なんじゃないか?と真顔で言われました。

 まぁ、大丈夫だけどさ。

 

 が、なんか…怪しまれてる?

 しかも暦に。

 

 「私と同じ外様で、新米のモノノフの筈なのに、随分手馴れたものだな」って言われたよ。

 富獄の兄貴に「あん? てめぇも外様なのかよ」って意外そうに言われた。

 鬼を狩るのも手馴れているようだし、武器の扱いや鬼払いなども、長年モノノフを続けていたかのように堂に入っている。

 少なくとも、新米ではないと思われていたようだ。

 

 …まぁ、そりゃ曲りなりにも最前線で戦ってましたからねぇ。

 前にもあったが、実力と肩書きの差で怪しまれてしまったか。

 

 怪しまれるのは別にいいんだが…なんか、暦の様子がおかしい。

 留守中の俺の家に上がり込んで勝手に罠にかかってたり、里の巡回中も隠れ(たつもり)つつ俺の後ろを着いて回るようになった。

 何がしたいんだろうか?

 別におかしな物は家に置いてはいない。

 この世界や時期には無いモノは、全て手元のふくろの中にしまってあるから、いくら家捜しされてもな…。

 

 …暫く見物してみるか。

 ゲームの知識にも前ループにも無い人物なんで、どう動くのか、何の為に動いているのか、興味もあるし。

 

 

 それはともかく、持って帰って来た鬼の素材からは、やはり指揮官…ゴウエンマの居場所は探れなかったようだ。

 探る時、俺も橘花と顔合わせした。

 …相変わらずと言うか何と言うか…この時期だと、色々溜め込んだツラしてるなぁ。

 前の時はイマイチ分からなかったが、今なら内面もある程度透けて見える。

 何せ、文字通り尻の穴の皺の数…どころか味…まで知ってる仲だし……今は一方的に、だけど。

 

 そういや、今回の橘花はどうするかな。

 別に一回ヤれちゃったからどうでもいい、なんて思わないけど、前回のように絶対!ってレベルの動機が無いのも事実。

 何らかの遊びを教えるのは、息抜きの為にも必須だろうが…まぁ、成り行き次第でいいか。

 口説けるチャンスがあるとは限らないんだし。

 

 

 ま、もう暫くはストーリーの流れに沿うとしますかね。

 正直、現状だと何もできんし。

 

 

 

 

 

 と言う訳で、のっぺらミタマの研究中。

 と言っても、樒さんの診察を受けて、それによって判明した事を元に仮説を立てているだけなんだけど。

 

 やはり、のっぺらミタマは英雄の魂である普通のミタマとは根本的に別物だ。

 となると、俺がモノノフかどうかも定義が怪しくなってくるが、その辺はどうでもいい。

 肩書きは大事だが、元々真っ当な手段で得た物じゃないしな。

 

 さて、今回の診察で分かった事だが……のっぺら一体一体に、「糸」がついている……らしい。

 勿論比喩表現であり、言ったのは樒さんだ。

 長い糸もあれば短い糸もあり、共通しているのは一体に1本だけである事と、明らかに何処かで引きちぎられている形跡がある…らしい。

 …つまり、のっぺらは元々、何処かに繋がれていた?

 それが切られてしまった事で、どういうルートを辿ってか、漂い続けた挙句に俺の中に流れ込んでくる?

 

 

 …本当にワケが分からんな。

 とは言え今まではワケが分からない、ワケが分からないの連発で、そこで思考が止まってた。

 今回は無理矢理にでもこじつけてみよう。

 

 ミタマ達が通ってきてるルートは、恐らくGE世界で見たあの変な空間。

 所謂電脳空間かと思っていたんだが、それだとGE世界以外でも俺にのっぺらが流れ込んでくる説明がつかない。

 …いや、あの空間自体は電脳空間で、そこに入り込む事によって、のっぺら達が視認できるようになった、と考えた方がいいか。

 

 電脳空間でなくても、常に俺と何かしらの繋がりがある場所から、のっぺら達が流れ込んでくる。

 しかし、電脳空間に入ることによって見えるようになった理由はなんだ?

 偶然そういう性質を持っていたから?

 

 …いや、それだとそもそも俺があの空間に入れた理由が分からない。

 やはりのっぺら達か、或いは俺自身のどちらかに、電脳空間との何らかの関係があるのだろう。

 

 そういえば、俺の体はどうやらのっぺらミタマの集まりで出来ているらしいんだよな。

 色々な意味で普通ではない俺の体が電脳空間に入り込めたのは、その辺に理由がある気がする。

 

 つまり、元々のっぺら達は電脳空間に入り込める性質を持っていて、その集合体である俺の体も、自然とそのようになった…と。

 

 

 仮にこの推論が正しいとすると、のっぺら達は電脳空間か、それに近い場所で生まれ、俺の元に流されてきている事になる。

 

 

 …電脳空間、ねぇ。

 SFチックで漠然とした表現だが、他に丁度いい呼び方が見つからないから仕方ないか。

 

 

 

 さて、ここで、樒さんに教えてもらったのっぺらの性質を考えてみる。

 ①実は中身が空ッケツというか、人格や思考は無いに等しい。

 ②それぞれに糸(?)がついており、何処かと繋がっていた形跡がある。

 

 

 …②についてだが……糸とやらが何処かとの繋がり、接続を示すモノであるなら、それが千切られている理由には心当たりがある。

 我が怨敵、イヅチカナタだ。

 因果、つまりは物事の繋がりを食べる鬼なのだから、のっぺらと『何か』の繋がりを食ってもおかしくない。

 

 人格や思考は、その時に剥ぎ取られたのか?

 うーん……まぁ、その可能性もあるか。

 

 

 結局、のっぺらの正体を解き明かすには、「糸」の繋がっていた先が何処なのかを考えなければならないようだ。

 のっぺら達が繋がっていそうな所……異界?

 いや、異界に居たからって電脳空間に入れるとは思えない………ん…?

 

 

 

 

 

 

 もしものっぺら達が、元々電脳空間に居たとしたら、どうだ?

 

 実も蓋もない考えだが、それなら俺の体が電脳空間に入り込み、適応できたのも頷ける。

 電脳空間から、何故俺の体に入り込むのかは分からないが。

 

 電脳空間に居る、無数の存在。

 何処かと繋がっていた形跡。

 そして何より、顔が分からず、煽るのが異様に上手い。

 

 

 

 

 ………居る。

 というか在る。

 

 ここまでの考えが全て正しいとしたら、という仮定の元にだが…。

 

 

 のっぺら=プレイヤー。

 或いはアカウント。

 

 のっぺらに付いている「糸」の先は、恐らくゲーム機か何か。

 糸が切れているのは……アカウントを削除されたか、それともイツヂカナタが喰らってしまったのか。

 

 …これが正解…かな?

 

 

 

 

凶星月ゲームもしたいしニコ動も見たい日

 

 

 鬼の素材集めもそこそこに、今日も樒さんとのっぺらミタマの正体について議論中。

 なのはいいんですが……樒さん、近い近い近い!

 ああ、なんかお香に紛れて樒さんのニオイが!

 と言うか肩から上が丸出しで、その格好だと谷間が!

 

 またも性欲を持て余す!

 

 俺の体がのっぺらの塊で出来ている、という事を話したところ、「…見せて…」と言って間近で観察されています。

 どれくらい間近かって、鼻息がこそばゆいくらいの距離ですよ。

 「おさわりは…厳禁…」ってそんだけ近けりゃ当たりもしますわ!

 と言うかふにょんとした感触が!

 

 …後になって冷静になると、今までやってきたコトに比べりゃどうって事ないんだけど…そーいう雰囲気じゃないからか?

 一方的に見られるだけってのは経験が無かったな…これが羞恥プレイ、いや視姦される感覚か。

 

 

 …そんな事言ったら、樒さんに大麻で殴られた。

 真面目に考察してるのに茶化されたのが気に入らなかったらしい。

 それでも俺を間近から見るのを止めない辺り、樒さんものっぺらミタマの正体が結構気になっているようだ。

 

 

 …でもさぁ、直接体を見た方がいいってのはわかるよ?

 上半身裸で、文字通り鼻息がかかる距離で凝視されてみろよ。

 時々フェザータッチで触ってくるし、乳首にも触られそうになるし。

 ヘンな気分にもなってくるわ。

 

 でも樒さんの方は平然としてるし、相変わらず眠そうな目付きで殆ど表情が変わらんし…。

 アレだな、S役とか女王様が意外と似合う人かもしれん。

 あの表情のまま足で弄って来られたら、なんか新しい世界の扉を開いてしまうような予感がした。

 

 

 …妄想はこの辺にしておかないと、下半身に呪いをかけられそうだから、一端ストップ。

 

 

 診察結果だが、やはり俺の体は数えるのも面倒なくらいののっぺらミタマで構成されているらしい。

 物理的な肉体はどうなってんだ?と思ったところだが、どーものっぺらが細胞代わりになっているとか。

 …まぁ、60兆も居る訳じゃないみたいだけど。

 

 理由や原理はイマイチ分からんし、最初からこうだったのかも不明。

 多分、ループが始まった辺りか、最初に死んだ辺りでそうなったんじゃないかなー、と漠然と思っています。

 

 

 今日の診察結果はこれだけだけど、樒さんはなにやら気になる事があるらしく、暫く診察(というか触診)を続ける事になったよ。

 

 

 

 

 

 ところで、樒さんに触診されていた時、物陰から暦と初穂と橘花が覗いてたみたいなんだが。

 

 

 

凶星月嗚呼、時間が足りない日

 

 なんか暦が今までとは別の意味で挙動不審になってるんだが、まぁいいか。

 大方、昨日見ていた俺と樒さんの診察シーンを濡れ場か何かと間違ってるんだろう。

 

 …それは別にいいんだが、橘花と初穂も居たんだよな。

 橘花は性的知識がロクにないからな…ひょっとして暦か初穂に直接「あれは何をしてるんですか?」とか尋ねたんだろうか。

 二人が大慌てする光景が目に浮かぶ。

 

 …いや、そっち系の知識が無いなら、それこそ単に診察していただけと思うかな。

 どっちでもいいけど。

 

 さて、そんなこんなしている内に、ストーリーがちょっと進んだっぽい。

 息吹と異界を巡回している時に、桜花にバッタリ会った。

 ちょうどクエヤマと遭遇したところだったようだ。

 

 …うーん、扱いも悪けりゃ運も悪いな、クエヤマって…。

 囮作戦(笑)を逆手にとって奇襲をかけたつもりだったんだろうが、丁度俺達が居合わせるとか…。

 まぁ、桜花の行動限界が近かったんで、先に帰らせたけどね。

 俺と息吹だけでも楽勝だったし。

 

 さて、確かゲームではこいつを倒したらミタマゲットして、素材から鬼の指揮官の居場所が………分からなかったな、そう言えば。

 前回ループでも情報が得られず、鬼の側でもクエヤマが下っ端だって分かったんだっけ…。

 

 なんだかなー、上級の更に上とかに行けばバケるんだろうか?

 このループが始まった時は、討鬼伝の続編はまだ発売されてなかったが…続編であるからには、多分更に上の難易度が用意されてただろうし。

 クエヤマのパワーアップ版ねぇ…。

 更に巨大化するくらいしか思いつかないな。

 クエヤマ改め、ダイダラボッチとか?

 そこまでデカくなると流石に勝てる気がしないな。

 或いはジブリの人面鹿みたいになったりしたら。

 

 

 さて、戯言はともかくとして、この次のストーリーについてだ。

 順序が狂う事もあったが、確か順番的には速鳥との邂逅に…そうだ、もうすぐツイナの日か。

 ぶっちゃけ単なる節分だが、モノノフ的には重要と言えば重要なんだろうな。

 少なくとも、貴重な休日だ……鬼が襲ってこなければ、だが。

 

 そして今回は大規模な襲撃がほぼ確定してんだよなぁ。

 ああ、休みが潰れるって本当に憂鬱だ…。

 

 

凶星月結局GERはPsvitaでしかプレイしてない件日

 

 

 速鳥が挨拶に来た。

 既に暦とは面通ししたようだ。

 

 …なんかな…別にいいんだけどさ、速鳥…暦に気を許しすぎじゃないか?

 曲りなりにも、暦はシラヌイの里…霊山と不仲な里から来たんだし、警戒くらいするだろうなー、と思ってたんだが。

 

 

 ……ああ、コイツ、暦の家に住み着いた天狐に負けたな?

 分かりやすい奴…。

 風貌も合間って、コイツ絶対裏切るタイプのニンジャだ…とゲームの初見じゃ思ったもんだが、天狐狂いを見てそんな警戒心が吹っ飛んだよなぁ…。

 まぁ、それでも裏切る奴は裏切るが。

 実際、子供を斬るのが忍びないから、ってかつての仲間全部斬って逃げたし。

 

 機会があったら、天狐と話す方法を教えてやるか。

 千歳程じゃないが、俺も割りと上達した。

 …その千歳から、「筋は最悪」と太鼓判を押されている速鳥だけど…。

 

 

 それはともかく、初穂が例の「鬼は内」の話で自爆しかけた。

 落ち込まなかったのは、暦の手前で暗い顔を見せたくないのと…俺が援護?で言った、「俺のトコもそうだったぞ」が多少は効いたかな?

 出任せだけど、「鬼は内、福は外」がまだ伝わってる地域は実際にあった…筈。

 

 まぁ、初穂にとってショックなのは、自分が居た場所…ウタカタの里での名残が変わっていた事だろうから、別の場所がそうなってるよ、と言ったところでどれくらい効果があったかは怪しいが。

 

 神木の下で、初穂の境遇の話を聞いた。

 浦島太郎なんだ、と言ってたが…そういや初穂のミタマって浦島太郎なんだよな。

 酷い皮肉だこと。

 ミタマを宿した時、どんな気分だったやら……当り散らしても仕方ないレベルだぞ。

 

 

 …考えてみりゃ、この話は暦に聞かせるべきだっただろうか?

 打算尽くしで考えるのもなんだが、初穂と暦は同じような境遇だ。

 暦は外様の世界から鬼やモノノフが実在している世界へ、初穂は40年後の両親も居ない世界へ、不条理な形で迷い込んできてしまったんだし。

 傷の舐めあいと言うべきなのか、同病相哀れむと言うべきか、それとも意気投合しすぎて舐めあい(百合)となるかは分からんけど、お互いに似たような境遇の愚痴り相手が居れば、色々気も紛れると思う。

 

 とは言え、そうそう話していい事じゃないんだよな。

 暦が外様だって事は知ってるはずだが、今この世界に対する違和感までは知られてない。

 …と、思う。

 

 いや、だって暦って分かりやすいしさぁ…まぁ外様独特の感覚だから、生来のモノノフ関係者が集まるこの里では分かりにくいのかもしれない。

 

 

 

 さて、それはともかくとして、間もなく節分である。

 オヤスミの日の為の鬼の掃討も順調。

 …でもな、休日というのはトラブルが発生するまでの事なんですよ(社畜感…といいたい所だが、この程度ならまだ軽いか?)

 と言うか、俺的には鬼が押し寄せてくるのを知っているので、あんまり休みな気分じゃなかったりする。

 メンドクセェ…が、ぞ雑魚ばかりとは言え存分に狩りの欲求を満たせる貴重な機会だ。

 精々活用させてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 適当に狩りやって帰ってきたら、非常に怪しい場面に遭遇した。

 橘花と秋水が逢引…もとい密談している。

 時期的に考えて、結界子…だっけ?を砕いて、結界を強化させようって相談だろう。

 おーおー、思いつめた顔しちゃってまぁ。

 

 誰か呼んで台無しにしてやろうかと思ったが、話は既に終盤だったようなので意味が無い。

 

 しかし、こうして見ると秋水の悪役っぽさ、パネェな…。

 大悪党じゃなくて、小悪党…というにはちょっとキレすぎるから、狡猾な参謀タイプかな。

 

 

 

 ふむ…いい機会だし、橘花にちょいと気晴らし仕込んでやるか。

 エロ系じゃなくて、外で遊ぶ系統のを。

 

 顔が暗いぞ、と言って強引に連れ出したんだが…うーん、流石に戸惑ってるかな。

 まぁ、元々殆ど顔合わせてなかったしね。

 よく知らない男に強引に連れ出されりゃ警戒もするわ。

 

 …橘花の場合、危機感が殆ど無いから困惑してるだけだけど。

 

 

 

 

凶星月ところで、初穂をヒロインにしようと思ったんだけどどんどんズレていくんだが日

 

 

 昨日は中々スリリングだったな。

 と言っても、ちょっと桜花に斬られかけただけだが。

 今更、ただ斬られた程度じゃ死ねる気がしないなぁ…急所を一突きとか、真っ二つとかそれくらいならともかく。

 

 別に、橘花に不埒な事をしていた訳じゃない。 

 前ループと前々ループで、橘花の尻穴を散々弄り倒した俺が言っても説得力が無いとは思うが、今回は普通に外の遊びを教えていただけだ。

 前回も特にお気に入りだった木登りとかね。

 

 それが問題っちゃ問題かもしれんが、この里の場合は問題ない。

 本来の神垣の巫女はあらゆる危険から遠ざけられる為に、屋敷の中で軟禁状態で日々を過ごすと言う。

 そんな神垣の巫女に、落下死の危険がある木登りなんぞ教えた日には……だが、この里だと自由に出歩けるんだよな。

 大和のお頭の判断らしいが、英断である。

 

 それはともかく、なんだってまた桜花に斬られかけたかってーと…橘花と手を繋いでるところを見られまして。

 

 

 いや逢引してたワケじゃねーよ。

 戸惑ってるのを強引に連れ出したから、その時に手を繋いだだけだよ。

 傍から見たら強引なナンパに見えたかもしれんけど…。

 

 …桜花が斬ろうとした理由って、手を繋いでたのと強引なナンパに見えたの、どっちだろうな…。

 

 

 まぁ、何とか桜花の誤解を(真剣白刃『噛み』で)乗り切って、桜花も巻き込んで橘花と外で遊んだ。

 まー橘花の顔色も多少は明るくなって何よりだ。

 最終的には木の上から夕日を眺めてたな…何処の青春漫画(演出過剰)か。

 

 でもさぁ、桜花…橘花が「姉さまと一緒に遊ぶのなんて久しぶりです」とか言ってるけど、もーちょっとこう…姉妹間でのコミュニケーションを取ったらどうだ?

 モノノフの勤めで忙しいのは分かるけど、精神的なケアとか家族の温もりとかマジ大事だぞ?

 

 と言うか、こいつらやっぱり姉妹だなぁ。

 クソ真面目で、色々と溜め込むところが不必要に似てやがる。

 桜花自身も、メッチャストレス溜め込んでやがった。

 少なくとも、ちょっと一緒に遊んだだけで表情が明らかに変わるのが分かるくらいには。

 

 今までずっとあの表情だったから気付かなかったけど、桜花って基本が仏頂面だったんだな。

 橘花を守らないと、モノノフとしての勤めを果たさないと、って力が入りまくってたようだ。

 それを辛いとは思ってないだろうが、積もりに積もって…かな。

 

 まぁ、ちょっと遊んだだけで全部晴れるほど、軽いストレスじゃないだろうが…むしろ、今までよく潰れなかったもんだ。

 

 そう言ったら、(何故そんな話を橘花の前でする…!)のよーな目をしつつ、「私だって、息抜きや趣味の一つくらい心得ているさ」だそうな。

 それで間に合わないから、そんな顔になってるんだと思うが。

 

 あと、橘花の前でこの話をしたのは、無論聞かせる為だ。

 という訳で橘花、この不必要に真面目なおねーさんの気晴らしの為、もう少し姉妹の時間を作ってあげてください。

 これは立派な精神的医療行為です。

 わがままではありません。

 ウタカタのモノノフ部隊隊長の体調管理の為でもあるので、神垣の巫女としての発言力を存分に使うがよろしい。

 

 と言うか、橘花も溜め込んでるみたいだし、一日で最低1時間は何でもいいから話すようにしろ。

 例え仲違いしてケンカしてる時であっても、だ。

 はいこれ決定!

 

 

 

 

 …と、大体こんな感じだった。

 ふぅ…勢いと成り行きに任せて突っ走ったが、案外落ち着くところに落ち着くもんだ。

 

 確か、今後は桜花の意思に反して、橘花の負担を増して結界を強化する展開になっちまうからな。

 それで気マズい雰囲気になるが…それでも1日1時間の話し合いは続けさせるつもりだ。

 …吉と出るか凶と出るかは分からんけどな…。

 話し合う時間が長ければ解決する、とは限らないのが人間関係の面倒なところだ。

 まぁ、二人きりで話し合うように、とは言ってないんで、間に誰か入るのはアリかな。

 

 

 …本当は、結界強化なんぞさせる間もなく一気に終わらせるのが最上なんだろうが、今後の事を考えるとな…。

 鬼の攻勢はどんどん強くなるから、今の結界だと心許ないのは事実だし、イベントを潰すとどうなるか…。

 いつぞや、那木さんと色欲に溺れていたループでは、イベントをこなす事だけ考えて、その根っこにある問題を放置していた結果がアレだよ。

 …いや、浮気で射られるのと、信頼関係の構築は別物だとは思うけどさ。

 

 やれやれ…余計な事考えずに狩りライフしてられるMH世界が恋しいよ。

 

 



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100話

出勤直前になって気が付く。
雨降ってるけど、そういや傘はこの前壊れたんだった…。


 

凶星月曇りの日は生活リズムが狂う日

 

 

 はい、本日はツイナの日です。

 木綿ちゃん朝っぱらから元気だね。

 …休みの日や遠足の日に早く起きる子供のテンションだな、アレは。

 

 「鬼は外、福は内」を言って回っている時に、樒さんから禊のお誘いを受けた。

 禊をして霊力を活性化させた状態で診察したいらしい。

 まぁ、俺としては断る理由は無いな。

 濡れた樒さんも色っぽいだろうし。

 

 

 そうそう、橘花が里を歩き回っていた。

 …そういや、今までのループでもそんなイベントあったな。

 今回のお供は、暦と桜花。

 …桜花に関しては、話す時間を作れって言った結果かな?

 

 そんな感じで鬼はそと福は内を繰り返し、最後に広場に集まって全員でもう一度。

 …何度かループしてるが、ちゃんとやったのって初めてじゃなかったっけ?

 いや、1回やったか?

 

 と言うか、そろそろ襲撃か、そろそろか…ってずっと待ち構えてたんで、休みの日って気分じゃなかったんだが。

 

 で、まぁ何だかんだで一応平穏に儀式は終わり、そこからは自由時間だ。

 珍しく皆が休みなんだから、一丁モノノフ皆で飲もうぜー、って話になった。

 異論は無いが、この里には飲み屋なんぞ無い。

 いやあるにはあるんだが、あんまりデカい所じゃないし、何より節分という事でお休みだ。

 …休祝日の掻き入れ時にそれでいいのか、と思わなくも無いが…文句言っても仕方ないやな。

 店のルールを決めるのは店であって、客の俺達にそんな権利は無いんだし。

 

 とにかく、モノノフ全員で飲めるような店じゃないんで、本部に酒とツマミもって集まろうって話になった。

 どうせだし、橘花も一緒に飲もう。

 おっしゃ、日本酒しか無い討鬼伝世界に、MH世界産・GE世界産の洋酒やら何やらを持ち込んでやろうじゃないか。

 

 

 

 …ここでハメを外して失敗するのがいつもの俺のパターンだ。

 まぁ、仮に飲みすぎたからって、誰かとベッドインする程親密な関係になってないから大丈夫…だとは思う。

 だがその辺の段階を無駄に軽快にステップアップしていくのが我が人生である。

 ベッドインとは言わないまでも、なんか要らんラッキースケベが

 

 

 

 

 

 

 

凶星月アサクリ新発売まであとちょっと日

 

 

 ラッキースケベ……か…?

 

 いやまぁなんだ、持ち込んだ洋酒が意外と好評だったり不評だったりしてね。

 皆ある程度飲んだり、ちょっとだけ飲んで日本酒に戻ったりしたんだよ。

 

 つまりチャンポン。

 

 医学的に言えば、二日酔いや悪酔いにはあまり関係が無いと言われているが、単純に飲み慣れてない酒を飲んだからだろう。

 ツマミの方も結構好評だったし、酒が勧む勧む。

 

 最後まで残っていたのは、暦と橘花だった。

 酒に強いんじゃなくて、単純にあまり飲まなかったからだろう。

 

 速鳥は前後不覚にならないように酒量を抑えていたようだが、天狐が宴会場にやってきた時点でそっちに夢中になった。

 富獄のアニキは……なまじ洋酒も飲める分、チャンポンが酷かったからなぁ。

 何時の間にやら大鼾をかいていた。

 

 初穂は「お姉ちゃんはお酒だって強いんだからね!」とグィィィ~ッとやって、その場で目を回した。

 那木さんはその介抱をしていた。

 

 息吹は意外と静かに飲んでたな。

 あの状態だと、モノノフのメンバーでは唯一最初から最後までちゃんと意識を保っていた人だろう。

 

 で、桜花なんだが……橘花にお酌をしてもらったのが相当嬉しかったらしく、限度を弁えずにグイグイと。

 そして何時の間にやら前後不覚になっていた。

 

 …これ、よく考えたら昨日鬼が押し寄せてきたらエラい事になってたな…。

 まぁ、デカブツ一体だけなら俺が出ればよかったんだが、物量だけはな…。

 いつぞやのように、火薬トラップ仕掛けてたワケじゃないし。

 

 

 そう言えば、飲み会の途中に秋水が来てたな。

 何か重要な話(多分結界の強化についてだが)をしようとしたが、まともに話が出来る状態じゃなさそうだって帰っていった。

 一緒に飲もうと誘ったんだが…。

 

 

 あー、それはともかくとしてだな、飲み会が終わった後、手分けして潰れたやつを送っていく事になった。

 俺の担当は桜花。

 橘花と同じ家に住んでいるんで、一緒に送っていったんだが、その後が問題だった。

 

 桜花を部屋に運び込んで、俺は帰ろうとしたんだが、やっぱり結構酔いが回っていた。

 それを見た橘花が、「少し休んでいってください」って言ってくれたんだが…まぁ、『アヤマチ』には発展しないだろうと思って、お言葉に甘えさせてもらったんだよ。

 仮に桜花がリバースとかしちゃったら、一人で世話するのも大変だし、と言い訳して。

 

 それが良かったのか悪かったのか…。

 

 リバースの類は無かった。

 無かったんだけどさ……厠を借りて戻ってきたら、エライ事になっていた。

 

 桜花が下半身裸になっていた。

 …うん、それはまぁ、まだいいんだ。

 普通のラッキースケベの範疇だし、食べ過ぎてハラが苦しいってうわ言を言ったらしいんで、橘花が帯を緩めた結果だから。

 そのまま袴が脱げてしまったのも別にいい、誰だって寝苦しければ寝相も悪くなるもんだ。

 

 

 

 

 

 が、何故に自分で尻の穴を弄り回しておるか。

 

 

 

 しかも明らかに手馴れてるし。

 艶っぽい声出してるし。

 

 その場に居合わせた橘花は、桜花が何をやってるのか理解できてない(だって性的知識が殆ど無いし)からオロオロしてた。

 まぁ、そりゃー尊敬する実の姉が、突然不浄の穴に指を抜き差しし始めれば、誰だって気が狂う程驚くわな。

 

 そこへ帰ってきた俺に助けを求めてきたんだが…どうしろと?

 と言うか、ひょっとして桜花が言ってた「気晴らし」ってコレか?

 年齢が年齢なんだからヒッソリと自分でシていてもおかしくはないが、それでもいきなりケツからとか上級者だな。

 …でも見た所、ホトは未使用っぽいし……。

 これも間違った性知識によるものなのか、それとも過酷な修行と戦いの日々による歪みなのか…。

 

 

 何れにせよ、橘花には見なかった事にするよう言い含めておいた。

 アレは桜花がこっそり嗜んでいる『気晴らし』で、普通は人に見せるような物でも語るような物でもない。

 知られたら羞恥のあまり切腹しかねないから、今後は見つけても知らない振りをしてよくように、と。

 

 よく分かっていないようだったが、とりあえず頷いてくれた。

 

 

 …にしても、変な所で姉妹だと感じさせるな…。

 二人揃って尻穴狂いの素質アリとか、どんなDNAしてんねん…。

 

 

 

 とにかく、色々ハプニングもあったものの、節分は襲撃も無く一日を終えたのだった。

 この分だと、多分2~3日中に襲ってくるとは思うけどな。

 

 

 

凶星月GERはまだリンドウさん未帰還日

 

 

 予想通りというべきか、鬼の襲撃があった。

 …で、モノノフは半分くらいが二日酔いで出撃していった。

 桜花も頭が痛そうだったが、それ以外は特におかしな所はなかったんで、『気晴らし』を目撃された事は覚えていないらしい。

 

 俺は特に体調不良は無かったんで、さっさと担当区域の雑魚を潰した。

 一端本部に戻って状況を確認した時に、橘花に結界子を持たされたんだが…そういや前にも貰ったけど、結局使わなかったなぁ。

 

 とりあえず、ミフチが迫ってきてたんで、先にソイツをナマスにした。

 そこから他の皆の援護に回ったんだが……あー、橘花、「すごい…これがモノノフ…」とか感心するのはいいけど、皆ちょっと二日酔い気味であんまり調子出てないからね?

 素人目には激戦に見えても、単に体調悪さのせいで雑魚に余計な手間がかかってるだけだからね?

 …感心してるところに水を差すのもなんだから、黙っといたけど。

 

 

 

 さて、それは置いといて、襲撃を全部蹴散らして、めでたしめでたし…とは行かないのが世の常だ。

 今回はモノノフが対応できたから、襲撃を防げた。

 だが、あれだけの鬼が押し寄せてきたら、とても結界だけでは防げなかったのも事実。

 結界を強化すべきではないか? という案は、当然のように秋水から出された。

 そしてその場で桜花が反発し…橘花が了承した。

 

 これに対する反応は様々だ。

 富獄の兄貴と息吹、初穂は反対。

 速鳥と暦は意外な事に賛成…暦は意外と戦力計算にシビアらしい。

 シラヌイの里の教育だろうか。

 

 那木さんは条件付で賛成。

 あまり負担をかけると橘花がガチで倒れる恐れがあるので、強化するにしても別の方法を取るか、負担にならない程度…つまり気休め程度にするべき、と。

 …気休め程度ならやらない方がマシだよな、この場合。

 橘花の負担がデカくなるだけなんだから。

 実質的には反対だ。

 

 そして俺の判断はと言うと…誠に遺憾ながら、賛成。

 一体一体ならどうとでも出来るが、数を揃えてくるとヤバい。

 しかも次に襲ってくるのは、ストーリー通りなら燃えるニワトリことヒノマガトリ。

 色々差異が出ていた前回に至っては、ダイマエンまで出てきやがった。

 最低限、上空に対する備えが必要だ。

 

 …ヒノマガトリがニワトリなら、ダイマエンはなんだ?

 鷲……いやなんか微妙に格好良くて癪だから、ダチョウかアホウドリでいいや。

 

 

 更に桜花が反発するが、結局のところ、決めるのは大和のお頭だ。

 …で、結論は否。

 

 桜花が救世主を見るような眼差しを、橘花が非難がましい視線をお頭に送っていたが、ちゃんとした計算に基づいた結論だった。

 強力な結界ほど、破られた時のフィードバックは大きい。

 数で押されたとは言え、ミフチにさえ結界は破られかけたのだ。

 多少結界を強化したところで、これから出てくるデカブツ相手に、どれだけ耐えられるか。

 ならば結界は雑魚を阻む為と割り切り、むしろ大物のみを撃退しやすい場所に誘導するほうがいい、と。

 

 んー、まぁ確かに理屈は通ってる。

 でも後付って感じは否めないな。

 今更大和のお頭が情に流されるとは思ってないから、単にそっちの方がいいってカンかね?

 引退したとはいえ歴戦のモノノフだけあって、勘の良さはバカにできない。

 特に『狩り』ではなく『戦』の嗅覚においては、大和のお頭は俺の及ぶ所ではない。

 …8年前のオオマガドキから今に至るまで、いやその前からずっと鬼との戦を続けてきた結果なんだろう。

 

 

 という訳で、結局結界の強化は却下。

 いざと言う時に備え、方法だけでも確立しておく…という事になった。

 まぁ、次善の策は大事だよね。

 

 桜花と橘花は、表面上は今まで通りだが…ちょっとばかり拗れてるかな。

 暫く気をつけておいた方がよさそうだ。

 

 

 

凶星月この分だと、MHXも暫く手をつけられないかも…日

 

 

 暫くぶりになったが、樒さんの診察を受けた。

 ……禊場で。

 

 濡れた肌着に透ける肌色が色っぽいですね。

 肌色っつーにはちょいと色白が過ぎる気もしますが、それはそれでなんか神秘的な感じがします。

 

 樒さんが診察過程で色々触れてくるんだけど、これが禊で体が冷えて敏感になってっからまぁ……エレクチオン!しちゃいましてね。

 …気付かれたけど、全く反応無し。

 せめてビンタの一発くらいしてくれりゃ、あの妙な空気にも耐えられるというのに。

 

 

 真面目な話、体に触れながら霊力を流し込まれたりしてたんだけど、その度に樒さんが首を傾げていた。

 霊力を交換しあって内部を探るなら、一応房中術も出来るよ?と言ってみた。

 …下心があった事は否定しないが、今回のは診察目的だ。

 そもそもOKくれると思ってないし。

 

 実際却下はされたんだが、流派を聞かれた。

 …で、オカルト版真言立川流…正確な名称や流派名は忘れたんで、霊山で読んだ真言立川流の本、とだけ答えた。

 

 「ひょっとして…こんな模様の本…?」と砂に絵柄が書かれたんだが、あー……今となってはもうあんまり思い出せないけど、そんな表紙だったような…。

 

 

 

 

 

 

 はい?

 

 

 

 インチキ本?

 

 

 

 いや、でもアレに書かれてる事実際にやったら、具体的な描写は避けるが(日記を読んでりゃお察しだと思うが)エライ事になったし。

 こんな僕でも彼女ができました、なんてレベルじゃねーし。

 相手にもよるけど、人格改造とかマジで出来るぐらいだし。

 

 

 …本に書かれていた人間の霊力の流れが、まるでデタラメ?

 何故か男側の方だけ、完全に無茶苦茶?

 少なくとも、どっちか一方が人間以外の『何か』でなければ実行できない?

 あんなやり方はできないし、仮にできたとしても内臓をデタラメに引っ掻き回されているようなもの……と言われましても。

 

 実際できるしなぁ…。

 しかも特別な練習とかもしてないし、むしろ最初から誂えたかのように実践できましたが。

 

 

 

 

 

 そんな事言ってたら、「実際にやってみて」なんて言われましたよ。

 誰に言われたって?

 樒さんに。

 誰にやってみるって?

 そりゃ勿論樒さんに。

 

 

 断る理由は無いが…いや、毎回死亡フラグに直結してる事を考えると、断る理由がなきゃおかしいんだが、これって診察の内に入るのかな?

 少なくとも樒さん的には、男女の仲での行為ってイメージは無いっぽいんだが。

 

 

 

 

 

 ん?

 

 結局、オカルト版真言立川流は樒さん相手でも有効でしたよ?

 

 

 

 

凶星月執筆時間は削りたくないしなぁ日

 

 

 樒さんと色々議論したかったんだけど、加減をミスって腰砕け状態にしちゃったのでお休みです。

 

 と言うか、樒さんが使ってたのって、房中術…だよな?

 俺に押し流された形になっちゃったけど。

 

 息も絶え絶えだった樒さん曰く、「確かに実践できてる…人間じゃ無理な筈なのに…」だそうだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 考えてみりゃ、俺って普通の人間じゃないしね。

 ハンターでゴッドイーターでモノノフで、ついでにアラガミ化もしてるし、あまつさえ体は剣もといのっぺらミタマで出来ているし(I am the bone of no face)。

 何より何度死んでも別の世界で生き返るし。

 そりゃ人間じゃねーわ。

 

 という事は、文字通り人間業じゃないから効果が桁違いなのか?

 本来の機能から逸脱した形で快感とかを受け取っているから、色々な意味で耐性が0なのかもしれない。

 つまりアレだ、人間には不可能だからこそ触手プレイがエロいとかそーいう理屈で。

 

 

 あれ、だったらオカルト版真言立川流の指南書、アレは一体なんだ?

 俺みたいな存在が他にも居て、そいつが書き記したのか?

 指南書の内容は、男の側だけ無茶苦茶だったらしい。

 女の側は純粋な人間。

 という事は、俺の同類が居るとすれば男なのは確実だろう。

 

 ソイツが書いた書物を、偶然同類の俺が、あの霊山の書物庫で引き当てた?

 …偶然…と言い切るには、ちょっと確立低すぎやしないかな…。 

 

 

 

 

 ところで、冗談で書いたI am the bone of no faceだけど意外と語呂がいいな。

 誰か続きの呪文書いてくれんかな…チラッ

 

 

 

 

凶星月言いだしっぺの法則というのがあってじゃな日

 

 ゲームストーリーとはちょっと順序が変わって、ツチカヅキ戦なう。

 いや、もう終わったけど。

 と言うのも、ちょっと先回りして橘花の薬を作っておこうって話になってね?

 

 

 例によって死んだと思っていたツチカヅキが最後の抵抗とばかりに攻撃してきたけど、狙われた暦は流転で軽く受け流した。

 美事! 御美事!

 よく対応できたなぁ、って感心したら、「シラヌイの里に居た頃は、敵に勝ったと思って油断したら仲間から拳が飛んできたからな」って、それ虐待じゃ?

 残心を忘れないって意味では有効かもしれんけど。

 

 暦以外は、仕留めたと思って気が緩んだ事を反省した。

 俺はまぁ、気づいてはいたんだけど、何もしなかったからな。

 反省どころか利敵行為、裏切りで銃殺刑されても仕方ないレベルだ。

 

 というか、あのツチカヅキしぶとかったな…。

 トドメの瞬間なんぞ、この場に居るフルメンバー…俺、富獄の兄貴、暦、那木さんの4連続鬼千切りを叩き込んだというのに。

 そして久々に使われたのに描写の無い鬼千切りに乙。

 

 

 

 さて、那木さんイベントがどうなるかはともかくとして、橘花についてだ。

 今回ループでは結界強化は無しとなっているが、それでも元々あまり体は強くなく、結界が砕かれたフィードバックで昏倒する可能性は充分にある。

 なので、今のうちに有事の際の為の薬を作っておけないか、という事を相談した。

 

 無論、反論は無い。

 富獄の兄貴は、先日の結界強化案について賛成した3人からこんな提案が出るのに妙な顔をしていたが、提案自体には何も言わなかった。

 …そう言えば、暦と兄貴の関係はどうなっているだろう?

 フォローをすっかり忘れていた。

 

 暫く観察してみたが、富獄の兄貴から突っかかる事はやはり無く、暦は遠慮がち…と言うのもおかしいかもしれないが、とりあえず自分から何か言い出す事は無い。

 でも多少はマシになってはいる…ようだ、多分、めいびー。

 

 薬を作るのは那木さんに任せる事になるが、これは問題なし。

 那木さんのトラウマになっているのは手術であって、知識を求められたり薬を作ったりする事には特に忌避感は無いようだった。

 

 ただ、薬の原料として必要になる「イキタエ草」……間違いにしても不謹慎だと怒られた……もといキツネ草はほぼ絶滅状態にあり、薬を作ろうにも作れないとの事。

 が、そこはループの知識を持ってる俺である。

 場所はしっかり把握してまっせ。

 息吹との巡回中に見つけたって事にしておいた。

 

 そんじゃ早速取りに行こうって話になって、本日の冒頭に繋がる、と。

 さて、多分次はヒノマガトリの来襲によって、結界が破られる事になる。

 どうなる事か。

 

 

 

凶星月最近、睡眠時間が少し短いような気がする日

 

 特効薬は確保できた。

 さすが那木パイ…いやパイは関係ない、眼福だけども。

 

 それについて桜花・橘花に話しつつ、様子を見てたんだが…やっぱりまだちょっとギクシャクしてるなぁ。

 気のせいか、先日よりもちょっと悪化しているような気が…?

 気のせい、だよな…?

 

 まぁ、ケンカしたところで桜花が橘花の為に戦うのを止めるとは思わないが。

 橘花は…秋水の甘言に耳を傾けてしまうかもしれない。

 

 

 

 ところで、なんか知らんが唐突にお頭が霊山に向かった。

 …木綿ちゃんと仲を深めるならこれがチャンスか。

 まぁ冗談は置いといて、そういや前もゲームストーリーでも出かけてたっけ。

 何をしに行ったのか、最後までわからず終いだったが。

 

 と思ったら、なんか呼び出されたらしい。

 会議の為だそうだが…会議は踊る、されど進まずって感じかね?

 

 しかし、この状況で大和のお頭が居ないのはちょっと痛いな。

 戦力的にはともかく、桜花と橘花の仲がな…。

 公私混同するような桜花じゃないが、事が橘花の命に関わるとなれば話は別だ。

 戦う理由そのものが橘花だからなぁ…。

 しかも微妙に仲が拗れている現状だ。

 

 時に木綿ちゃん、大和のお頭に渡した弁当の中にニンジンは入っているかね?

 …ほう、一見すると無いように見えるが、各種おかずに味を染みこませてあると。

 GJ。

 

 

凶星月飲み過ぎてつぶれてた日

 

 

 樒さんに診察(今回はエロ無し)を受けたり、息吹と一緒に巡回したりする日々。

 桜花と橘花の仲は、順調に拗れています。

 アタマイテェ

 

 

 診察によってまた分かった事もあったんだが、今回は割愛する。

 今重要なのは、巡回の方だ。

 

 

 

 息吹と異界付近を見回っていたら、唐突に物見隊が襲撃を受けて半壊していました。

 

 

 いきなりだなオイ。

 と言うか、部隊の性質上仕方ないとは言え、よく襲撃を受ける部隊だな…。

 

 まぁそれはいいんだよ。

 大打撃を受けていたとは言え、幸運にも死者は出なかったから。

 

 でもよ、なんだっていきなりタケイクサなんぞに遭遇するかね。

 順番で言ったら、結界が破られて那木さんイベントの後だろうに。

 まぁ、順番が変わるのは討鬼伝世界のループじゃ珍しくもないけどさ。

 

 息吹の恋人が死んでしまった時に遭遇した鬼なんだっけ?

 明らかに体に余計な力が入り、強張っていたので、戦わせずに援軍を呼んでこいと言っといた。

 足止めするなら先輩の俺だろ、と主張してたが、問答無用で戦闘に突入した。

 

 早いところ援軍と医者を呼んでこねーと、怪我人が死ぬぞー。

 重傷者が何人か居るから、こっちから運ぶ事もできねーぞー。

 

 …よし、行ったな。

 「戻るまで持ち堪えろよ!」と言っていたが…別に倒してしまっても構わんのだろう?

 

 …この前のI am the bone of no faceといい、ちょっとネタに偏りがある気がするな。

 

 

 さて、格好つけたはいいが、何処までやるかね。(注・や『れ』るかね、ではない)

 勝つだけならアラガミ化抜きでもできない事は無い。

 そもそもまだ物見班で意識がある奴が居るから、変身すると後が面倒だ。

 

 唐突に遭遇してしまったが、タケイクサ討伐は息吹のトラウマ克服に一役買うだろう。

 折角だから息吹に討ち取らせたい。

 

 

 

 

 

 という訳で適当に半死半生まで追い込んで、息吹と救護班を待っていたんだが…。

 命に関わりそうだった重傷者には、MH世界産の回復薬やら討鬼伝世界の治癒やらで何とか応急処置もした。

 

 でも来ない。

 

 遅い!

 ウタカタの里との距離を考えれば、もう3回くらい往復できると思うんだが。

 

 いい加減、逆立ちしたファンキータケイクサの手をぶっ飛ばしてコケさせ、地面と頭をゴッチンコさせる作業にも飽きた。

 既にタケイクサの頭にはタンコブが幾つもできている。

 …コケた時に、結構大きな岩に頭ぶつけてたからなぁ…いい音がして思わず笑ったもんだ。

 タケイクサの表情は、怒りを通り越してなんか泣きそうになってる気がするが…まぁ、鬼だし、気のせいだよな。

 

 と言うか、予想外に簡単だったな…と思ったら、戦力計算を間違っていた。

 そういやのっぺら連中がパワーアップしてましたね。

 道理で攻撃の通りがいいは、被ダメが低いとは思ったわ。

 

 

 

 真面目な話、マジで何かあったんだろうか。

 

 仮に那木さんにバッタリ会って、治療を頼んで辞退された…のだとしても、ちょいと時間がかかりすぎている。

 と言うか俺が応急処置してなかったら、冗談抜きで重傷者達は死んでてもおかしくない時間だ。

 

 嫌な予感がするな…。

 タケイクサはどうせ今後も何度も出てくるだろうし、スパッとやっちまって里に戻るか?

 でも重傷者達どうすっかな…。

 不謹慎な事を言うが、死んでりゃ迷い無く置いてけるんだがなぁ…。

 助けてしまったものは仕方ない。

 

 

 悩んでいたら、とうとう転ばされるのがイヤになったのか、タケイクサが逃げようとした。

 逆立ちを止めて、這いずって進んでいる…ちょっとイジメすぎたかな。

 ブザマだねぇと笑ってやる方が絵になると思うが、仮にもハンターとしては獲物を無駄に痛めつけるのは御法度だ。

 勿論、手負いの獣を逃がすのもよろしくない。

 

 という訳で、息吹には悪いが首を跳ねさせてもらいました。

 成仏しろよ、タケイクサ。

 ちゃんと鬼払いするから、浄化はされるだろうけど。

 

 

 さて、当面の脅威は無くなったけど、どうしたもんか。

 命に別状は無いにしても、無理に動かすとそれこそ危険だし、ここに放置すればまた別の鬼が寄ってくる可能性は高い。

 実際、雑魚の鬼の気配が近くに幾つかある。

 「倒してしまっても構わんのだろう」(別名・俺に任せて先にいけ)をやった以上、明確な根拠も無しにこの場を放り出して里に戻るのも気が引ける。

 

 

 と思っていたら、物見隊の方から里に戻ってくれ、と要請が来た。

 この程度なら自分達は何とかやり過ごせる、だから里に行ってくれ。

 さっきのタケイクサに襲われる前に、空を飛ぶ鬼が里の方に向かっていったのを見た…と。

 

 

 

 そういう事は早く言えよ! と重傷者達に言うのも気が引けるが、ジッサイ早く言うべき!

 

 

 

 まぁ、後から本人達に「嘘からも真は生まれるものですなぁ」って笑われたんだけどね。

 

 

 

 




I am the bone of no face.
体はのっぺらで出来ている。

Sexy is my body, and Libido is my blood.
体は熱を持て余し、心は欲望純度80%。

幾たびのお誘いを断れる事非ず。
I have shaked over a thousand hip.

Unknown to out of ammo,
ただの一度も赤玉は無く、

Nor live out one's life.
ただの一度も甲斐性は無い

Have withstood pain to quarrel many women.
彼の者は常に複数人、女の中で修羅場に狂う。

Yet, those hands will never hold engagement.
故に、その生涯に責任を取る事はなく

So as I pray, unlimited noppera world.
その体は、きっと欲望で出来ていた。


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101話

ヒャッハー!
アサシンクリード発売キター!

という訳でGERはまだ途中ですが、暫しそっちに進みたいと思います。
1日40分間エアロバイク漕ぎつつGERやりますが、現在装備が弱くなってきているので強化中。
とりあえずリンドウさんは帰還しました。


 

魔禍月なんか左目が痛い日

 

 

 タケイクサと俺が戦ってるうちに、里にヒノマガトリが襲来して結界が破られ大わらわになっていようとは、この狩りの転生人の目を以てしても見抜けなんだわ…。

 と言うか、タケイクサをチクチク虐めていた俺が申し訳なくなるくらい、里で戦っていたメンバーは大変だったようだ。

 

 息吹達が助けに来れなかったのも、この為か。

 ちなみに昨日の日記にも書いたように、物見隊が言っていた空を飛ぶ鬼は出任せである。

 里に何か起きているのは間違いないのに、自分達の為に戦力を割かせる訳には…と考えて嘘をついたのだ。

 見事に騙された…クヤシイ!ベツニカンジナイ!

 

 まぁ、おかげで重傷者が2人増えたけど、死人が出なかったので良しとしよう。

 

 

 結局、俺が戻った時にはヒノマガトリは既にトドメを刺される寸前であり、他の雑魚鬼達もほぼ掃討されていた。

 結界を破られた橘花が危険な状態に陥ったらしいが、結界を強化していなかったのが良かったのか、何とか意識を失わずに済み、前もって作っておいた特効薬のおかげで、明日には自由に動ける状態になる見込みらしい。

 戻ってきた意味なかったかなー。

 

 

 そうそう、共にピンチを潜り抜けたからなのか、富獄の兄貴と暦のギクシャクした感じが無くなっている…ような気がした。

 互いに何か言い合った様子は無かったが、それでも死線を共にすれば、何かしら心持が変わる事はある。

 結局何もしなかった俺が言うのもなんだが、まぁ目出度し目出度し、だ。

 

 

 

 

 

 変わりに桜花と橘花の中が拗れてるみたいだけどな!

 

 「やはり結界の強化は必要だったのでは」「あの襲撃ではどの道防げない、橘花の負担が増えるだけだ」「皆さんが命をかけて戦っているのに、私だけ安穏と(ry

 

 ……面倒くさいと叫ぶのも面倒くさい…。

 もう正直関わり合いたくないと思い始めたんだが、流石にそれは無責任だろう。

 この二人は、律儀に一日一時間の話し合いの場を設けているようだし。

 それが返って中途半端な話しかできなくなって、更に拗れているっぽい。

 

 ううむ、どうするべきか…。

 

 

 

 

 差し当たり、「よく生きてたな!」とテンション高く背中を叩いてくる息吹をどうにかしたい。

 結局死者も出ず、物見班の一人の恋人(よく見れば、前ループで死んでた人…ゲームで言えば恋人が死んで息吹を責める人だった)から涙ながらに感謝された。

 主に感謝されたのは息吹じゃなくて俺だったけど、息吹の表情を見れば多少気が晴れているようだった。

 もしもあの状況で俺が乙ってたら、下手すると一生立ち直れなかったんじゃなかろうか。

 …まぁ、一生って言っても、オオマガドキが再発するまでの数ヶ月足らずだけど。

 

 トラウマを克服できたかといわれると怪しいけどね。

 言っちゃ悪いが、物見隊救出については息吹は結局何もできなかった訳だし。

 だが、死者を出さなかったという事で、それなりに信頼は得られたっぽい。

 結果的には、任せろと言っておいた物見隊の負傷者達を放置してきた訳だから、それを差し引いて…の話だが。

 

 

 まぁ、息吹との巡回のお蔭で、ゲームで言う息吹が落ち込むイベントを回避できたと思おう。

 信頼関係もそれなりに構築できているし、いつぞやの様にイベントスルーしただけとは違う…と思いたい。

 

 

 

魔禍月厨二病や魔眼とかじゃなくて、怪我の後遺症だけど日

 

 何時の間にやら、初穂が一皮剥けていた。

 具体的に言うと、旧AIの行動から、強化されたAIに変わったかの如く。

 分銅の使い方がえらく上手い。

 

 むぅ、これはアレか?

 行動パターンが無印討鬼伝から、新発売との話だった討鬼伝極バージョンに変わったのか?

 プレイした事ないから分からんけど。

 

 そして暦と仲がいい…のか?

 相変わらず、暦は俺の後ろをコソコソと隠れて監視しているし、初穂もそれに付き合っているようだ。

 …別に惚れられてストーカーされてる…訳じゃないよな。

 

 

 特に俺と樒さんと話をしている時は、興味津々で覗いてくるんだが。

 …そんなに期待してても、日中からエロい事はしないぞ?

 日中からは。

 

 夜は夜で樒さん的にはミタマがやかましいらしく、あんまり気分や雰囲気が出なくてお流れになる事が多いけどさ。

 

 

 

 それはともかく、当面なんとかせにゃならんのが、桜花と橘花だ。

 イベントの流れ的に、次は冨獄の兄貴のダイマエンか、初穂のミズチメだが…まぁどっちもブチのめすだけなら問題ない。

 ダイマエンは空から引きずり落とさなきゃいかんし、ミズチメは夢患いを解かなければいけないが。

 

 

 結界に関しても、今の決定権は桜花にある。

 里長代理だからな。

 勿論、あまり強権を発動させたり、おかしな判断をすれば大和のお頭が戻ってきた時に問題になるが…今回に関しては難しい問題だからなぁ。

 明らかにおかしい判断でなければ、後から追及される事もないだろう。

 

 で、相変わらず橘花は結界の強化を、桜花は結界強化は不要と言い張っている訳だ。

 あからさまに対立している訳ではないが、夜に彼女達の家の近くを通りかかったら、言い争っている声が聞こえた…と、存在を忘れかけていた秋水が教えてくれた。

 「互いを思うが故に相容れない…皮肉なお話ですね」だそうだ。

 それに異論は無いが、そんな軽い口調と表情で言っても寒々しいぞ。

 むしろ仲違いを見て愉悦している悪党に見える。

 

 どうしたものか…。

 

 

 

 

 

 

 と思っていたら、夜中に桜花がやってきた。

 色っぽい気配は無い。

 と言うか明らかに戦装束なんですけど。

 表情が鬼気迫ってるんですけど。

 

 そんでもって、殺気を向けるのは…鬼じゃなくて俺?

 

 

 …おい、このループでは橘花には何もやってねーぞ。

 

 

 

 

 

魔禍月短期間に2回も目をぶつけて、角膜に傷が入っています日

 

 不動金縛り・ホールドトラップ・麻痺罠・落とし穴・閃光玉・その他諸々、3つの世界の状態異常(毒まで!)を片っ端から叩き込んで、ようやく止まった。

 里のハズレの俺の家が完全に崩壊してしまったが、さっきまでの桜花を相手に生き残った代償と思えば安いもんだ。

 

 で、ようやく落ち着かせた桜花から話を聞いてるんだが……というか聞き出そうとしているんだが。

 何を聞いても、顔を真っ赤にして答えやしない。

 むしろセプクしようするザマだ。

 取り押さえたら今度は舌を噛み切ろうとしたんで、現在口に手を突っ込んで止めています。

 犬にするように。

 

 

 …というかその状態からでも俺の手ごと舌を噛み切ろうとする辺り、マジ狂犬状態。

 

 なんだ、橘花とケンカでもしたのか…と言うと、目付きが厳しくなったんで、これが当たりだろう。

 それがどうして俺を殺そうとするのか……。

 

 と言うか、結構騒いだ筈なのに誰も来ない…と思ったら、何時の間にやら結界が張られていた。

 これは…橘花じゃないな、樒さんか。

 何故ここに?

 と言うか取り押さえるの手伝ってほしかった。

 

 …基本的に荒事しない樒さんには難しいか。

 

 

 

 

 暫くして、暴れ疲れたのかようやく大人しくなった。

 会話が出来るようになったが、解放はできん。

 話を聞かせてもらう間に、また暴走するよーな気がする。

 

 

 さて、ポツポツ話をしてくれるようになったんだが、やはり橘花とのケンカらしい。

 秋水が言っていたように、最近は口論に発展する事も珍しくないとか。

 うーん、話し合いの時間が完全に裏目に出たかな。

 間を取り持つ役も居ないし、頭を冷やしてクールダウンする時間も無かったのが最大の原因だ。

 

 …うん、俺が決めた事が裏目に出たのは分かったが、それだけで斬りに来たんか?

 何か他に言ってない理由があるんじゃね?

 

 

 そう言ったらまた暴れだした。

 まぁ、しっかり捕縛したままだから、もがき出したって言った方が正確か。

 と言うかコイツ、気合で金縛りを抜けやがったよ…鬼だって自力じゃ抜けられねーってのに。

 

 で、また宥める事約1時間、噛み付かれる事2桁以上、間接を外す事7回、間接を外される事4回、こんな夜中に俺何やってんだろという疑問が過ぎる。

 

 

 

 そして何とか話を聞きだそうとしたらまたジタバタし、同じパターンをもう1セット。

 もう疲れたよ。

 パトラッシュ、何だかとっても眠くて面倒くさいんだ…もうゴールしてもいいよね……具体的には桜花をキュッとして。

 

 と言うか、樒さんは相変わらず結界を張ったままのよーだが、何をやってるんだろうか。

 夜でも比較的暖かい季節とはいえ、外に居ると風邪ひきますぜ?

 

 

 まぁ、それはともかくとして、暴れる桜花から幾つか聞き出した言葉の断片。

 曰く、俺が橘花に余計な事を教えた。

 曰く、橘花にだけは知られたくなかったのに。

 曰く、このような恥辱、腹を切るしかない…元凶の貴様を道連れにして。

 

 …うーん?

 橘花とケンカして、どうにもならない程仲違いしたのかと思ったんだが…ちょっと違うっぽい?

 よく分からんが、桜花の知られたくない秘密を、俺が橘花に教えてしまった…?

 

 

 

 

 心当たりは一つしかねぇが……アレ、俺のせいじゃねーよ。

 

 

 酔っ払って、自分でケツで善がってたのアンタやん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 家屋が消し飛びました。

 

 

 

 刀振り回すなよ。

 太刀筋も呼吸も霊気も完全に滅茶苦茶だったから、あれじゃ当たっても斬れないと思うけど。

 

 いやまぁ、確かにそりゃ死にたくもなるわな。

 妹にG・E(ゴッドイーターに非ず)の現場を目撃されて、しかもそれがアブノーマル…。

 どっちにとってもトラウマものだ。

 

 と言うか、なんだ?

 橘花がそれを言ったのか?

 

 

 ……口論がエスカレートした結果、橘花が「姉様なんて! お尻で気持ちよくなってた癖に!」って言われたらしい。

 ………ああ、うん…まぁ、なんだその…すまん、言葉が見つからん。

 

 …?

 いやでも、なんかちょっと引っかかるが…。

 

 ともかく、一度言ってしまったら閊えが取れたのか、桜花は涙ダラダラ流しながら愚痴り始めた。

 …まぁ、見られたのは桜花だけど、そこまで酔ったのは俺の洋酒も一因ではあるだろうし…吹き曝しになった家でなんだけど、愚痴くらいは聞くよ。

 樒さんは相変わらずステルスして結界を張ってるみたいだ。

 そのまま続けておいてくれ。

 

 

 

 

魔禍月再発すると目に光が入るだけでイタイイタイ日

 

 

 もう空が白み始めてるよオイ。

 まぁ、夏だからまだ4時5時だと思うけど。

 結局オールナイトになってしもうたのう。

 まぁ、今日は桜花も俺も休みだからいいけどさ。

 

 愚痴が吐き出る吐き出る…そんなに橘花との擦れ違いがキツかったか。

 

 

 そんな事をやってたら…「姉様!」って声が…。

 まぁ、言うまでも無く橘花である。

 ただし、目が赤くなってて微妙にクマがある。

 そして隣には樒さん。

 

 …ああ、結界張って何やってたのかと思ったら、橘花と一緒にこっそり聞いてたんですかい。

 多分、桜花が何を考えているのか、聞かせてやりたかったんだろう。

 

 …という事は、桜花のケツ趣味は樒さんにも知られたのか。

 まぁいいけど。

 

 

 目の前では、「姉様、ごめんなさい、ごめんなさい…」「橘花…いいや、橘花は悪くない、私が悪かったんだ…」とフツクシイ光景が繰り広げられています。

 まぁ、仲直りはしたようで、良かった良かった。

 とは言え、結界強化についてはまだ問題も残ってるけどな。

 意見が合わずに、またヒートアップする危険はある。

 

 …この状況でそれを言うのも無粋だな。

 

 

 

 

 

 

 だがここでこの空気を粉砕するのが俺クヲリテヰ!

 

 ちょいといいかね橘花さんや!

 

 「あ、はい…すみません、ご迷惑をおかけしました」って、まぁ確かに迷惑っちゃ迷惑だけどね!

 そこじゃなくて、桜花に言った件だけど!

 

 「ご、ごめんなさい…恥ずかしい事だから、気付いてないようにしろって言われたのに…」と、そこは俺には別に謝らんでいい。

 桜花と橘花の問題だ。

 

 で、ちょいと気になった事があるんだけどね、迷惑料代わりにちょっと正直に答えてくれんかね。

 桜花もおk?

 

 

「は、はい…私でいいなら…」

 

「む、むぅ…迷惑をかけたしな…」

 

 

 よし言質とった。

 で、橘花さんや、桜花に言った問題の一言なんだけど。

 

「お尻で気持ちよくなってた癖に!」でええんよね?

 

「…………あ、ああ、一言一句違わずそうだ」

 

「ね、姉様…本当に…」

 

「落ち着け、迷惑料だ、迷惑料…」

 

 

 また暴れだしそうな桜花だが、まだギリギリセーフ。

 …うーむ、俺も徹夜と疲れでちょいとハイになっとるな。

 セクハラが止まらん。

 

 それはともかく。

 

 

 あの桜花を目撃した日、俺は『普通は人に見せるような物でも語るような物でもない。 知られたら羞恥のあまり切腹しかねないから、今後は見つけても知らない振りをしてよくように』と言ったよな。

 

 

「…はい、そう言われましたけど…」

 

 

 …桜花がやってた事が、『気持ちよくなる事』だなんて、俺は一言も言ってないんだが?

 

 

「…は?」

 

「!」

 

 

 普通は尻を弄ったら気持ちよくなるなんて思わんぞ。

 なのにどうして「気持ちよくなってた癖に」なんて言うたのかね?

 

 

「そ、それはその」

 

 

 試したな?

 自分で試してみたんだな?

 そんでハマったんだな、桜花みたいに!

 桜花みたいに!

 桜花みたいに!!

 桜花みたいに!!!

 

 顔が赤いぞ、図星か!

 正直に言って見なさい、お兄さん怒らないから!

 

 

 姉妹で尻に嵌るとか業が深いな!

 いやいや怒ってる訳じゃない、経験も無いのに自分でやって感じられるとかすごい素質だよ素晴らしいね!

 だが自己流はオススメしない、やっぱ不浄の部分を触るだけあって、ちゃんと下準備と洗浄と後始末をしないと感染症の類にかかる危険もあるからな!

 まずはちゃんと爪を切って手入れするんだ、尖ってたり長かったりしたら内部に傷が付く!

 ちゃんとしてるか!?

 してないな!?

 それは良くない、ちゃんとしたやり方を覚えるべきだ!

 

 桜花、お前はどうだ!?

 ちゃんと奥までキレイにしてから突っ込んで「死ね」ですわぁぷ!?

 

 

 

 

 

魔禍月でもゲームはやる日

 

 

 起きたら2日過ぎていた。

 斬られた事と、睡眠不足の合わせ技か。

 デスワープはしていなかった。

 

 起きたら那木さんに得体の知れない物を見る目で見られたんですが。

 だが蔑んだりする様子が無いので、何故斬られたのかは知らないようだ。

 幾ら那木さんでも、理由を知られたらそのまま放置されたろうしな。

 

 まぁ、それでも死ななかったと思うけど。

 傷跡から見て(もう殆ど消えてるけど)、間違いなく殺す気で振り抜きやがったし、ジッサイ普通の人間ならサヨナラ!コースだったろう。

 那木さんが、治りかけのトラウマを抑えて必死で治療してくれたらしいが……すまん、放っておいても多分死ななかったんだ。

 ハンター&ゴッドイーター&モノノフだからね。

 

 まぁ、俺がしっかり助かった事により、トラウマ克服の目途が立ったっぽいから、いいとしよう。

 

 …で、樒さんが気を失っている間の俺を、ジロジロ見回したり、触っていたりしたらしい。

 診察かな?

 医療的な意味ではなく、ミタマ的な意味の。

 今度、何か分かったか聞いてみよう。

 

 

 で、桜花と橘花だが…まぁ、何とか上手くやっているようだ。

 俺をぶった斬った事については…斬った理由が理由だし、追放も半ば覚悟していたが、まぁ、迷惑をかけたのと相殺という事で、水に流してくれるらしい。

 サーセン。

 

 

 

 

 …そして何故か、俺は橘花と桜花の家に居候する事になりました。

 今まで住んでいた家?

 もう廃材しか残ってないよ。

 桜花が散々暴れたからな。

 

 しかし…本気か?

 自分で言うのもなんだが、あんだけセクハラした俺を家に置いておくとか。

 言い触らさないように監視をつける、って言われてもまぁ分からんではないが。

 

 

 一応聞いてみたんだが、やはり言い触らされるかもしれない、という一抹の不安がある事と、二人の緩衝材になる事を期待されているようだ。

 うーん、確かに二人の秘密を知っていて、明け透けに発言できる人材って言うと、俺か…精々樒さんくらいか。

 しかし…これはいつものパターン入ったな。

 色事に溺れて破滅するパターンだ。

 

 

 

 だが姉妹丼の誘惑に勝てぬ。

 勝とうとすら思えぬ。

 

 …ま、今回はクリア目的より、俺の体の謎の解明が優先だし……ま、いいか。

 

 

 

追記

 

 俺が寝込んでいたのは、鬼と戦って手傷を負った、という話になっていたようだ。

 隠蔽されたw

 

 

 

魔禍月涙と鼻水が止まらないのにやるから大変なことになる日

 

 

 桜花と橘花の家に居候する事になった件について、なんか暦が憤慨していた。

 「樒さんとの事はどうするんだ!」って言われたんだが…何の話だ?

 

 …いや、俺別に樒さんと恋人じゃないんだけど。(下半身の交流はしてるが)

 前に暦と橘花と初穂が覗き見てたのって、単なる診察だよ?

 まぁ、密着してたから逢瀬に見えたのも分からんではないが。

 

 

 「気付いていたのか!?」って、尾行が下手すぎるんだよ。

 と言うか、お前凛音さんに何か密命受けてて、しかも最近俺を疑ってただろ。

 内容までは分からんし聞かないが、もーちょっと腹芸覚え……いや、やっぱ覚えなくていいわ。

 要領よくて表情が自由自在な暦なんて暦じゃない。

 ぷくーっとフグみたいに頬を膨らませてこその暦だ。

 

 どーいう意味だってそーいう意味だよ。

 …真面目な話、何を命じられたのか知らんが、少なくとも大和のお頭は気付いてると思うぞ。

 それで放置してるって事は、里の害にはならんと思うが。 

 

 

 まーなんだ、話しても問題ないって思ったら話してくれよ、凛音さんからの任務。

 一応言っておくが、迂闊に言うなよ?

 凛音さんの思惑がどうなのか今ひとつ分からんが、この手の任務は聞いた方にもリスクが出るからな。

 

 

 …と言ってるのに、何故にぺらぺらと話すかね、この子は…。

 俺を信頼できると確信したから、と言ってたが、暦との間にそんなイベント無かったと思うんだが。

 日々の積み重ねの結果と考えるにしたって、そんな誠実な人種じゃないと思うんだが。

 

 

 

 とにかく、暦の任務はウタカタに潜伏していると思われる、間者を炙り出す事、らしい。

 ウタカタに間者?

 陰陽寮の奴だったら秋水だが…。

 

 何でも凛音さんは、近いうちにウタカタで大きな騒乱があると考えていたらしい。

 根拠までは暦も教えてもらってないそうだが、少なくとも凛音さんは何かしらの確信を得ていたようだ…とは暦の談。

 それに関わる何者かが、ウタカタに現れる筈。

 暦はそれを見つけて、監視するのが任務だったと言う。

 

 

 容疑者として考えられるのは、里に現れて日が浅い者か…これから現れる者。

 つまり、現状だと容疑者は俺一択になる訳だが。

 だが、暦は俺ではないようだと主張した。

 実際心当たりは無い訳だが、その根拠を是非とも教えてほしいものだ。

 照れくさいから言わない、と断言していたけど。

 

 

 

 しかし、間者ねぇ…。

 正直心当たりは無いな。

 これから起こる騒動って言うと、第二次オオマガドキか…ストーリーを知らないが、討鬼伝極の何か。

 

 …ひょっとして、暦も極の新キャラの一人だったりするのか?

 いや、それを考え出すと、前ループで会った千歳や虚

 

 

 

 

 ………そう言えば、虚海って千歳が現れてなければ何かやらかすつもりだったっぽいな。

 ひょっとして暦が言う間者ってアイツか?

 

 …秋水を通せば、連絡は取れるかもしれん。

 ちょっと考えてみるだけの価値はあるか…。

 

 

 

 

追記

 

 橘花が俺を家に置こう、と言い出した理由がよく分かった。

 尻の下準備やら後始末やら、あとどーやったらもっと気持ちいいか知りたいからだ。

 こっそり聞かれたんで答えたが…まぁ、どーやら今回も橘花の尻をイタダキマスするのは決まったようだ。

 

 

 

 

追記の追記

 

 桜花にも聞かれた。

 やっぱ我流でやってたから、病気は怖いらしい。

 

 

 

魔禍月まだ再発はしてないと思う日

 

 

 大和のお頭が戻ってきた。

 何の為に霊山に行っていたのか、未だによく分からんが…とりあえず、これで桜花も戦線に出られるようになったな。

 

 さて、代わりって訳じゃないが、そろそろ初穂が百日夢にかかる頃か。

 前回は確か千歳が精神的な支えになって、夢にかからなかったんだっけ。

 

 里の状況を調べてみると、やはりというべきか百日夢だと思われる人が何人か居た。

 とは言え、前回ループと違い寝たきりになっている訳ではないようだ。

 眠りが異常に深く長くなり、放っておくと2~3日起きない事がある。

 ただし、それ以上長引きはせず、起きたら起きたでゆ~っくり休んだお蔭で体も快調、だそうな。

 飲まず食わず状態だから、メッチャ腹が減ってるらしいがね。

 

 そう聞くと、悪い事ばかりではないのかもしれないが……どうなってんだ?

 百日夢じゃないのか?

 

 樒さんに相談してみたところ、やはり百日夢、それもまず間違いなくミズチメの仕業だと答えてくれた。

 ただ、里の結界が強い為、従来の寝たきり状態にまでは及んでいないと思われる…との事。

 

 ああ、確かに今回は結界が壊れたままの状態が殆ど無かったもんな。

 結界のない状態でミズチメが術をかけたはいいが、充分な効果が出る前に結界が再始動されてしまった為、中途半端な効果になってしまったのか。

 とは言え、呪いの一種である事には変わりないし、結界の内外を通じるルートが出来てしまっているのも事実。

 このまま時間が経ってしまうと、徐々に結界の穴を広げられ、そこから崩壊、ないし橘花の負担が増える事にも繋がりかねない。

 やはり迅速な対応が必要か。

 

 今回も、今までと同じ場所にミズチメが居るのかね?

 しかしあそこは瘴気が強く、基本的にモノノフは立ち入らないんだよな。

 そこに何が居るか、何があるか分からないし、とにかくリスクが高すぎる。

 

 

 …そこを調べよう、という話に持って行くには……百日夢の事だけでは足りるか?

 この手の搦め手の術は、早期に対処するに越した事は無いんだが、確証が無いからな…。

 切羽詰ってる訳でもないし。

 

 …まぁ、切羽詰ってないなら、切羽詰るまで準備を整えておけばいいか。

 それに、あそこを調査する建前ならある。

 

 強力な鬼が潜む場所というのは、やはり瘴気も強い場所だ。

 一概には言い切れないが、そういう傾向があるのは否定できない。

 なら、今探している鬼の指揮官が居る場所も、やはり瘴気が強い場所では?という理屈も成り立つ訳だ。

 

 そんなら誰が偵察に行くか、という話だが…まぁ、忍者の速鳥がまず第一候補。

 で、異界での活動時間が長い俺が第二候補なんだが………よく考えてみれば、異界での活動時間の事は、今回のループでは知られてなかったな。

 今までの鬼はさっさとカタをつけてウタカタに帰還していたんで、一般的なモノノフの活動時間のリミットに迫った事すら無い。

 

 うーむ、大人しくしてたら変な所で弊害が出たな。

 まぁ、実際どれくらい活動していられるかを示せばいいだけだが。

 

 

 

 



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102話

忙しい日に職場でちょっと癇癪起こしてしまいました。
「あ゛~~!!」と事務所内で声を上げる程度でしたが、仮にもアルバイトさんの上に立つ人間の態度じゃないな。
前から直せって言われてるし…反省反省。
と言うか複数の案件が同時に来ると異様にイライラするのは何故だろう。

ゲームなら平然と対処できるとゆーのに。
アサシンクリードシンジケート面白い!
ロープ移動が便利すぐる!
でもギャングウォーやってたら、いきなり横っ面をはたかれて何もできないうちに死んだんですけど、これナニ?
QTEでもないようだし…。


MHX、体験版が19日から…だと…、


 

魔禍月朝に掃除をすると目が覚めるらしい日

 

 

 何度か活動時間限界の証拠を見せて、偵察の許可が下りた。

 大和のお頭としても、可能であれば瘴気が濃い部分の偵察はやっておきたかったらしい。

 

 偵察は速鳥とコンビを組まされた。

 別に問題は無いんだが、今までのループに比べると、ちょっと口調が硬いな。

 まぁ、あまり係わり合う機会が無かったからな、今回は。

 暦のように天狐と一緒に住んでいる訳でもないから、尚更だ。

 

 警戒されている…というより、単純に心を開いてない感じだ。

 むぅ、任務帰りに天狐との会話シーンでも見せてみるかな。

 

 

 

 さて、偵察の結果だが、ミズチメが居る事は確認できた。

 やっぱり夢患いを仕掛けているのはコイツだ。

 その場で叩き切る事もできなくはなかったが、速鳥の行動限界が近かったため、今回は撤収。

 後日、討伐隊が結成される事になった。

 

 俺、富獄の兄貴、初穂、暦。

 …初穂が入ってるのは大丈夫かね?

 途中で百日夢が発症して、ぶっ倒れるんじゃないか?

 

 まぁ、そうなったら残りの3人で狩ればいいだけか。

 一応、大和のお頭には、初穂の心境からすると百日夢にかかる危険がある事だけ伝えておいた。

 

 

 

 

 …話は変わるんだが、今の俺は桜花・橘花の家に居候している身だ。

 流石にただ飯喰らいをやるのも何だから、炊事くらいはやっている。

 …というか、討鬼伝世界に居ると和食ばっかりで、しかもウタカタの場合薄味が多いから飽きるんだよな…。

 

 まぁ、とにかくメシ係りをやりつつ、桜花と橘花の仲を受け持っています。

 仲直りしたとは言え、結界強化に関する考え方は相容れないままだしな。

 またヒートアップしてもいかんから、緩衝材になっています。

 頭に血が昇りそうになったら珍しい料理で誤魔化したり、適度に酒を入れさせてグチらせたりね。

 

 

 

 

 おかげで…と言うべきか、橘花の本心もチラリチラリと毀れてきている。

 命を削って結界を張るような役目だ。

 ストレスだって溜まって当然、それを放置しておくから極端な考えに走るんだ。

 

 

 と言うか、私服の二人を初めて見たな。

 ラフな格好だと二人とも無防備というかサッパリしていると言うか。

 刀も持ってないし、何重もの衣装もない、よく分からないアクセサリも無い…。

 うーん、これはこれで素朴な美人感が…。

 

 

 それはともかく、この二人……ちゃんとした安全なやり方を教えてから、益々「息抜き」にド嵌りしたっぽい。

 いや、風呂とかにね…ちょっとだけそーいうニオイが残っていると言うか。

 まぁ普通の人なら気付かないレベルだけど。

 

 ただ、姉妹の直感なのか同好の士(?)のシンパシーなのか、お互い「あ、やったな」「今からするつもりだ」っていうのは分かる…っぽい?

 時々、二人がバッタリ鉢合わせして、気まずそうに目を逸らす場面があった。

 

 そこの所にこっちから関わるつもりは無い。

 幸いと言うべきか、お互いに嫌悪感を持っている様子は無いし、言わない、触れない、聞かないの不文律が既に出来上がっているようだから。

 

 ただ、だからこそ余計に…なんだろうか?

 なんか、好奇心があるっぽい。

 血を分けた姉妹が、どういうコトをしているのか、と。

 

 …普通は身内のそういう話って、ダメージでかいものなんだけどな…。

 良くも悪くも普通の状況じゃないからか?

 

 

 

 

 …興味がある、か…。

 

 

 

 

 つまり上手いこと誘導すれば、姉妹で尻を愛撫しあうシーンもワンチャン…?

 

 

 

 ……じ、自発的に誘導するのはナシで。

 でもそうなったら拒みません。

 例え俺がハブられる、純粋な姉妹百合(使うのは菊門だが)だったとしても。

 

 

 

 

 ただ、今でも時々「正しいやり方」の他に、「別のやり方」とかも聞かれている。

 もっと多いのは、道具…所謂ローションとか、中をキレイにする為の薬とかの調達だが。

 

 そんで、ちょっと推せば触らせてくれそうなレベルなんだよな。

 「正しいやり方を実演する」とかで。

 

 お互いそういう雰囲気というか状況にあるのには気付いている筈なのに、桜花が何も言わないのが予想外だ。

 いつぞやの那木さんのループの時みたいに、「何を教えている!」って斬りにくるのも覚悟してたのに。

 それともアレか、ヘタな事をして桜花・橘花・俺の関係が崩れるのが怖いのか?

 三角関係って訳じゃないが、今の状況は物凄く微妙なバランスの上に成り立っているからな…それこそ、棉ボコリ一つ分の重さで崩壊しかねないくらいに。

 斬りかかったら橘花に嫌われてしまうかもしれない、ついでに「気晴らし」の道具も手に入らなくなるかも知れない、ってトコか。

 

 …まぁ、それを置いておいても、現状で里の戦力を減らすのは悪手でしかないか。

 

 

 あ゛あ゛~~、それにしても同じ屋根の下で美人姉妹が尻で試行錯誤していると思うと、下半身がムラムラするんじゃあ…。

 

 

 

 

 

 よし、樒さんの診察兼お楽しみで尻使わせてもらおう。

 もう開発はしてるし。 

 

 

 

魔禍月起床直後に、前日の晩酌の片付けと掃き掃除日

 

 ミズチメの討伐に出発する…んだが、予想が大当たりした。

 て言うか予想以上に当たった。

 

 里の結界の外に出たからだろうか?

 それとも百日夢の原因のミズチメとの距離が縮まったからだろうか。

 

 初穂が倒れた。

 

 

 

 

 暦まで倒れた。

 

 

 討伐の為に普通に歩いてて、初穂がフラフラ…とし始めた時には、「お?」と思ったんだよ。

 暦はそれに気付かずに先に進んでたけど。

 

 で、初穂がコケて、そのままオネム。

 起きろ起きろって騒いでいるのに、暦はというとそ知らぬ顔で先に歩いていく。

 どうなってんのかと思ったら…こいつ、寝ながら歩いてやがった。

 さっきから黙りっぱなしだったのはこの為かい!

 

 無駄に器用な真似をしおって…。

 多分、シラヌイの里で身に付いた習慣なんだろう。

 休んでいる時でも神経は動いていると言うべきか、それともどんな状況でも少しでも体を休められるように、なのか…。

 

 流石に二人も倒れたのなら、討伐は中止だ。

 幸い、百日夢の名の通り、この呪いは発生してから死に至るまで、それなり以上に時間がかかる。

 3ヶ月くらい放置したりしない限り、二人は死なない…筈。

 

 呪いよりも目覚めさせる方法が確立されてないのが問題なんだが…。

 

 

 

 それはともかく、暦まで倒れるとはな…。

 しかし、考えてみればそれも納得か。

 初穂同様、暦にとってこの世界は全くの異世界同然。

 それを受け入れられてない、かつて平和だった頃の世界に戻りたがっているのは、暦自身も認めている。

 

 「戻りたい過去がある者が発症する」と言う、百日夢の発生条件そのままだ。

 まぁ、そういう人が全員発症する訳じゃないんだろうけども。

 

 

 息吹は……別に落ち込んではいないな。

 ゲームや前とは違って、死人が出て間に合わなかった、その上その恋人に罵られたりしてないからか?

 それとも、里の結界の中に居るから、呪いが阻まれていると思っているからか?

 

 …とりあえず、息吹は里の守りを担当するから、今回は留守番である。

 

 

 

 

 

魔禍月ゴミを片付けたら心なしか部屋が広くなった日

 

 

 倒れた二人は百日夢と診断された……那木さんとか医者の人じゃなく、近所の爺ちゃんに。

 まぁ、正式な病気じゃないみたいだしな。

 呪いの類だから、どっちかと言うと樒さんの領分か。

 

 俺はゲームストーリーやら前ループやらの知識があるから分かっていたけど、他の人にしてみればモノノフが何故か突然ぶっ倒れたようにしか見えない。

 一体何故だ!?と結構な騒ぎになった。

 那木さん達も診察はしたが、サッパリ理由が掴めなかったところに、前述したように近所の爺ちゃんが教えてくれた訳だが…。

 

 百日夢の資料を秋水に探してもらい、原因はミズチメと推測。

 既に場所は割れているので、後は叩き斬るだけである。

 

 

 …しかし大和のお頭よぉ、予想通り初穂が百日夢にかかってしまった訳だが、どうするつもりだったんだ?

 こうなる可能性があるってのは、伝えておいた筈だよな。

 まぁ、あくまで可能性だし、一々気にしてたらモノノフなんぞやってられんってのも分かるけどね。

 相手は鬼だし。

 ミズチメじゃなくても、呪いとか使える奴は珍しくなさそうだし。

 

 

 差し当たり、呪いの元であるミズチメを再度討伐に向かう。

 今度は俺、速鳥、桜花の3人。

 これ以上は里の守りに支障が出る。

 

 まぁ、制限時間が短いと言っても、所詮は下位の鬼。

 叩き潰すのはそんなに難しくなかった。

 

 うん、もう過去形なんだ。

 …昨日、倒れた二人を富獄の兄貴に任せて、俺一人でミズチメ叩き斬ってきてもよかったな、これは…。

 

 

 さて、呪いの元が消えた訳だが、やはり初穂も暦も回復しない。

 眠りは浅いように見えるが……マブタがピクピク動いているし。

 

 ゲームと違って神木の主にも手を貸してもらう事はできない。

 さてどうしたものか…。

 確か以前は、そもそもかからなかったか、のっぺらを送り込んで叩き起こしたんだっけ。

 

 …最終手段だな。

 確かあの時の初穂は、暫くロクに眠れなくなってしまったし。

 初穂もそうだが、暦もヘタするとノイローゼになってしまいかねない。

 

 

 うむ、しかしのっぺらを送り込むという事は、つまりプレイヤーの残骸を送り込むという事か…あくまで現時点での推測が正しければ、だが。

 ……初穂ファンののっぺらを選んで送り込めれば、害は無い…か?

 でもそんなの区別つかないしな。

 

 

 

 那木さん相手だったら、那木パイを間近で見たい奴で募集をかければ大挙して立候補してくる気がするが。

 

 

 暦の場合は……デコか頬?

 

 

魔禍月今後は埃が溜まっている場所を一日一箇所やろうと思う日

 

 

 意外な所から救いの手が出た。

 樒さんだ。

 

 なんか夢渡りだか夢違えだか、よく分からない新技を身につけたらしい。

 その名の通り、対象の夢の中に入ってアレコレしたり、見た夢を解釈して占いみたいな事をするらしい。

 丁度いい実験台、とか言ってたが……他に手段も無いしな。

 

 他にもミタマの力を更に引き出す術も身につけたらしいが、生憎とのっぺらミタマには効かないっぽい。

 ただ、桜花が試しにそれを受けてみたところ、明らかにミタマの力が増したとか何とか。

 …これはアレか?

 討鬼伝極で追加されていた、ミタマの更に上のレベル的なアレか?

 確か最大レベルまで上げたら、一回登録したら消せなかったスキルを選択できるようになるとか、そんな感じだったが…生憎、桜花はそのような事は出来なかったらしい。

 ゲームと違うのか、それとも単に更にミタマを鍛えなければ最大レベルに至らないだけなのか。

 ま、暫く見物かな。

 

 

 しかし、何でまた唐突にそんな事が出来るようになってんだ?

 

 

 

 …俺?

 

 

 

 ああ、そういやオカルト版真言立川流って、房中術だもんな。

 エロい事するテクとしか見てなかったから、すっかり忘れてた。

 房中術の元々の目的って、性と適度に付き合う事によって健康を保って長生きしよう、ってものだ。

 オカルト版になると、互いの霊力とか気とかを交換し合って増幅し、一時的に霊力をブーストしたり、相手の気を吸い取ったり、逆に与えたりできる。

 

 つまり、診察ついでに色々ヤッてたのは、パワーアップを狙っての事だったのか?

 

 

 「それもある…けど、それだけでお触りを許すほど安くない…」だそうだ。

 その後、軽く額にキス…この世界風に言えば接吻…してくれた。

 

 …夢に侵入する術を使うなら、ちょっとでも霊力を増幅させておいたほうが良くない?

 …良くない?

 繊細な術だから、あまり霊力が大きすぎると逆に事故る可能性がある?

 そうですか…。

 

 

 

 

 

 さて、結論から言えば、どうやら成功したようだ。

 まずは暦から。

 夢の中の光景を見る事ができるのは樒さんのみなので、この辺は全て伝聞だが…暦は夢の中で普通に生活していたらしい。

 奇妙な建物と服装、と言ってたが、それ多分オオマガドキで滅ぶ前の世間一般だろ。

 

 暦はそこで、普通の学生として過ごしているらしい。

 実年齢から考えれば、高校3年か。

 

 …ただ、学生のイメージはどう聞いても小学生のものだったが。

 オオマガドキが起こったのが、暦が10歳の頃だもんなぁ…そりゃ中学や高校なんて想像する事しかできんかったろう。

 

 何せ、体育の時間はブルマ着用だったっぽい。

 多分、水泳の時間にはスク水着用だったのだろう。

 ぬぅ、是非とも見てみたかった…。

 

 あと昼飯は給食だったようだ。

 

 

 では、これをどうやって叩き起こすか、だ。

 樒さん曰く、この夢は暦の願望だ。

 願望通りの世界だからこそ、暦はずっとそこに居たいと思い、違和感を感じず居座り続けている。

 なら、暦に「ここには居たくない」と思わせればいいのだ。

 本心からでなくていい、本の一時だけそういう風に感じさせれば、暦が見ている夢の世界は崩れ去る…らしい。

 

 理屈はともかく、そういう事なら話は簡単だ。

 暦の耳元で、延々と囁き続けるだけでいい。

 

 テスト勉強テスト勉強テスト勉強テスト勉強テスト勉強受験受験受験受験受験受験宿題宿題宿題宿題宿題宿題赤点赤点赤点赤点補修補修補修補修居残り居残り居残り居残り小遣いカット小遣いカット小遣いカット小遣いカット内申書内申書内申書内申書授業参観授業参観授業参観授業参観通知表通知表通知表通知表通知表。

 

 

 …あっという間に暦の眉間に皺が寄った。

 息吹に一体何をやったんだ?と聞かれたが…なぁに、学生の天敵を思い出させてやっただけさ。

 

 当時の暦は小学生。

 特に試験勉強とかしてなくても、学校の授業をちゃんと聞いていればテストで80点以上は取れる。

 これはテストの問題を作る会社が、そういう風に作ってるらしいが…とにかく、中学校以降と違い、小学校はテスト勉強なんてそうそうしない。

 期末とかで何時テストがある、というのがハッキリしてないから、尚更だ。

 

 つまり…暦にとって、試験勉強というのは未知の苦しさな訳だ。

 体験した事が無いモノだし、理想の夢の中に再現させてる筈が無い。

 それを強引に体験させてやったのだ。

 

 …暦に経験が無いのに、どうして囁くだけでそんな苦しいイメージが夢に現れるのかって?

 暦自身に経験が無くても、陰気な声で延々と囁かれてれば苦しくもなるさ。

 少なくとも、俺にとってテスト勉強とはこの世の地獄の代名詞だからな…。 

 

 

 

 で、結局延々と囁き続けた結果、汗だくになって暦は飛び起きた。

 樒さん曰く、起きる直前の夢の光景は、見ていて可哀想になるくらい勉強漬けだったそうだ。

 誰だって嫌になるよな、そんな状況だったら…。

 突然異世界に召還されて、これで勉強しなくていいんですねヤッター!な妄想を抱くのだって、一度や二度ではないだろう。

 もうちょっと続けてたら、それこそノイローゼになったかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 

 で、次に初穂。

 夢の中に入り込めたはいいんだが、肝心の初穂が蹲ってまるで動きやしなかったらしい。

 要するに、目を覚ましたくない、夢の中で思い出に浸っていたい、だから何も見ず何も聞かず何もしない、という状態だったんだろう。

 そりゃ呪いが解けても目を覚まさん訳だわ。

 

 とりあえず、全員で片っ端から声をかけた。

 戻って来い、起きろ、その他諸々。

 

 

 結局、決定打になったのは暦と俺の声だったようだ。

 元々ウタカタの里の住人ではなく、かつての里を思い起こさせない、完全な異邦人…だから、か?

 単純に、暦と初穂の仲がよかったからかもしれない。

 何はともあれ、初穂もお目覚めだ。

 

 

 

 

 その後、初穂と暦が以前よりも仲良くなったように見えるんだが……「お姉様」「タイが曲がっていてよ」な関係にハッテンしたかは定かではない。

 

 

魔禍月あとは嫌な生物が出ないのを祈るばかりである日

 

 ミズチメも潰して、ちょっと順番は狂ったが息吹・初穂・那木さんのイベント終了。

 となると、次は富獄の兄貴、速鳥、桜花か。

 ああ、それと鬼の指揮官ことゴウエンマの討伐。

 

 

 ゴウエンマ討伐については、今のところ特に不安要素は見当たらない。

 未だに位置が割れていないが、今までと同じだとすれば武の領域。

 あまりに見つからない状態が続くなら、適当に出撃して、「それっぽいのを見かけた」とでも言い出せばいいだろう。

 

 

 富獄の兄貴に関しては、単独出撃させないように見張っていれば、それで済むだろう。

 良くも悪くも自分で完結している人だから、仇のダイマエンさえ倒せれば、それで一区切りつく筈だ。

 暦とも信頼関係を結べているようだし、ダイマエンを倒した後も、暫くは里で戦ってくれる。

 

 

 速鳥はどうだ?

 …今までのループで何度かデレた(という表現を男に使いたくは無いが)事はあったが、正直何が切欠だったのかよく覚えてない。

 速鳥イベントは確か、あの陸亀だ。

 アレをぶっ潰すの自体はそう難しくない。

 ゲームでも道場なんて呼ばれてたくらいだ。

 

 

 一番ややこしい事になりそうなのが、今回の桜花なんだよな。

 今までのループと違い、里の結界は強化されていない。

 また、橘花と一度仲違いし、切欠はどうあれ本心でぶつかり合い、また仲直りしている。

 意見の相違は未だ解決されていないものの、橘花を守ろうという意思は一層強くなっているだろう。

 

 が、それだけにどう動くのか予想がつかない。

 結界を強化していない分、橘花の体力にはまだ余裕がある。

 …外での健全な遊びによる気晴らしも、屋根の下でコッソリやっている不健全な気晴らしもしているから、精神的にも余裕があるだろう。

 確か桜花のイベントは、オオマガドキを呼ぶための塔を破壊する直前…塔を守る結界を破ろうとしている時だった。

 

 そこで桜花がどう動くか、それにどうやって対応するか。

 

 

 

 …それより何より、俺・桜花・橘花の3人の関係がどう動くかが綱渡りである。

 ちなみに既に関係を持っている樒さんは、三角関係を昼ドラを見ている気分で見物している。

 「振られたら拾ってあげる」と言われているが…ありがたいのかありがたくないのか…。

 

 

 そして肝心の俺達の関係だが…実を言うと、卑猥な事は話くらいしかしていない。

 セクハラじゃないよ?

 むしろあっちから聞いてきてるんだからな、「気晴らし」の正しいやり方を。

 

 2~3日に1度の頻度で、桜花か橘花のどちらかが夜中にコッソリと訪ねてくるんだが、「気晴らし」のやり方を色々聞いて戻っていく。

 二人ともカチ会わないように、無言の取り決めをしているっぽい。

 と言うか、訪ねてきた翌日には「気晴らし」に没頭している節があるんで、その間にもう一人が訪ねてくるんだが。

 

 ちなみに状況は、桜花は道具の使い方を覚えてきて、橘花は一人でイケるようになるまでもう少し…と言ったところだ。

 …橘花は最近アレだ、気持ちよくなってきてはいるらしいんだが、イケない分ムズムズが溜まっているらしい。

 

 

 ですので、今度訪ねてきたら、性感を上手いことランクアップさせる為、お手伝いをしてあげようと思います。

 直接俺が触るか、それとも橘花がシている所をジロジロ視姦しつつ指示を出すかは、橘花の反応次第ですな。

 

 

 …そんな事を考えつつ桜花の相談(ローションの使い方とか)に乗っていたら、「この期に及んで、橘花に変な事を教えるな、とは言わんが…泣かせるような事をするなよ」と釘を差された。

 分かってますよー。

 手を出すにしても、ちゃんとした大義名分を元に出しますよ。

 

 

 …怒って拳が飛んでくるかと思ったら、真面目な顔で問い詰められた。

 ただし俺と桜花の間には、ローションやら張り型やらの淫具が転がっているが。

 ちなみに自作だ。

 

 

「…なぁ、今更聞くが、君は一体何者だ?」と問い詰められる。

 

 本当に今更だ。

 

 

「君が間諜の類だと疑っている訳ではない。

 こんな破廉恥な事を相談できるくらいには、信頼しているつもりだ。

 君のおかげで……切っ掛けはどうあれ、橘花ともよく話すようになったしな。

 

 だが、君が申告していたような新人のモノノフではあり得ない程の実力。

 霊山に向かったお頭が、ついでに君の事を調べたようだが、君が居た痕跡は一切発見されなかったそうだ。

 勿論、隠蔽されたという事を考慮に入れてもだ。

 この前の宴会の酒だってそうだ。

 あれは西洋の酒だろう?

 オオマガドキで日ノ本が異界に沈む前ならともかく、今となっては入手どころか知識としてしか伝わってない。

 他にも色々あるが…その全てが、この世界にそぐわない……そう、違和感、異物感。

 

 君は一体何者だ?

 何処から来て、何をしようとしている?」

 

 

 …エログッズを前にしてこんな話をするのも、どうかと思うけどな。

 まぁ、俺の目的と言えば…やっぱこれだよな。

 

 

 …分かりやすく言うなら、鬼を一匹叩き潰したい。

 何処にいるのかも分からんし、どうやったら引っ張り出せるのかも分からん。

 ついでに言うと、今の俺が隠し玉全部使っても、倒せるかどうか分からない。

 どーにもそいつのお蔭で、俺は妙な状況に放り込まれているみたいなんでな。

 ひょっとしたらそいつの仕業じゃないのかもしれないが、怪しいのはあいつだ。

 

「…名は?」

 

 イヅチカナタ。

 文字通り、何地彼方より来たりて、何地彼方へ去るもの。

 

「聞いた事がないな…文献はあるのか?」

 

 無いに等しい。

 一人だけ、コイツに関して知ってそうな奴が居るんだが、現在行方不明。

 ちなみに虚海の事である。

 

 

 とにかく、俺の標的はその鬼だ。

 そいつがどうも、近いうちにウタカタに現れる可能性がある…らしい(少なくとも前ループの時は出た)。

 ちょっと裏技を使って入り込ませてもらった。

 

「裏技?

 ……確か、君は暦と一緒にシラヌイから来たのだったな。

 シラヌイの里と、何か取引をしたという事か?」

 

 いいや、それは単なる成り行き。

 暦もシラヌイの里の凛音さんも、イヅチカナタの事は話してない。

 …ああ、別に俺はどっかの組織に所属している訳じゃないぞ。

 あくまで個人で行動している。

 

 

 それだけ聞いた桜花は、暫く考え込んだ。

 俺の話を信じるかどうか、迷っているんだろうか。

 

 まぁ、知りもしない、記録にも残ってない鬼を倒す為にやって来たとか、ホラを吹いていると思われてもおかしくないしなぁ…。

 

 

「…そんな顔をするな。

 別に君自身を疑っている訳じゃない。

 仮に今話した事が全て出任せだったとしても、君は里に…橘花に危害を加えるような人間だとは思ってないよ。

 …少し夜更かしが過ぎたな。

 悪いが今日はこれまでにしよう」

 

 

 …ま、信用は勝ち取れたと思っておくかね。

 桜花は立ち上がり、エログッズをしっかり持って自室へ帰っていった。

 

 

 …ところで、橘花にやり方を実践形式で教えるのは、危害に分類されるのかね?

 

 

 

 

 



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103話

MHX体験版だー!
だがGERを先にクリアしないと…そしてアサクリも残っている。
うーん、発売日までプレイしない気がする。


 

魔禍月セクハラを書く時は、酒を飲むことと見つけたり日

 

 

 橘花タンのお尻、相変わらずスベスベナリィ…。

 

 なのはいいんだが、うん、一つ忘れてました。

 前ループの時、エロを体験した橘花がどうなったのかを。

 抑圧してきたモノが噴出して、普段の清楚な橘花とは正反対の、インモラルかつ退廃的かつ背徳的な橘花になったのを。

 

 おかげで実践指導までのつもりだったのが、一気に貫通までステップアップしちゃったよ。

 桜花に声を聞かれないように声を我慢させ、バックから…。

 

 ちゅーかこの子、どうやら樒さんと診察兼房中術をやってたのを見てたみたいだな。

 しかも尻でやってた所を見てたから、あんまり戸惑いが無かったっぽい。

 

 

 まーやっちまったのは仕方ない。

 どうせ俺の事だから、こーなるのは目に見えてたんだ。

 大体、俺じゃなくてもこんな美人から下半身の生々しい相談受けてみろ、誰だって性欲を持て余すし下心だって沸くわ…ドン引きして萎えるレベルでなければ。

 

 

 幸いにして、俺が橘花に手を出す建前はちゃんと出来てるしな。

 

 ヒジョーに胡散臭く聞こえると思うが、これは橘花の為であり、里の為である。

 …である、と言うより、にもなる、と言った方が正しいか。

 

 そもそも、桜花との仲違いにせよ、橘花が溜め込んだストレスにせよ、結界を張り続ける事で橘花に負担がかかり、命を落とすかもしれない、という事が原因である。

 そして、結界とは霊力によって作るものである。

 神垣の巫女の特殊能力とか、結界子の特別な性質とか色々あるが、それでも根っこは霊力、生命力、魂の力の問題だ。

 

 強力な結界を張ることによって負担がかかるのは、それらの出力や絶対量が足りていないからだ。

 

 

 

 

 

 

 だったらそれを注ぎ足してやればいいじゃない。

 

 

 オカルト版真言立川流の本領発揮だよ!

 エロい事にばかり使ってたけど、パワーアップだって出来るのさ!

 ホラ、樒さんだって色々ヤッたおかげでレベルアップしてるだろ。

 実績あり実績あり。

 ついでに橘花の気晴らしも効率アップ。

 

 橘花だって今日はちょっと調子がいいみたいだし、続けていけば結界を強化しても平然としていられるくらいになるよ!

 ただし継続的にヤらないといけないけどね。

 …昨日はヤッてないプレイはまだまだあるよ?

 

 …ちなみに橘花にこの話をしたら、輝かんばかりの笑顔と無言で握手された。

 契約成立。

 

 

 

 

追記

 

 桜花にバレたらまた斬りかかってきそうなんで、対応策は用意しておいた。

 内容?

 

 …前ループの時、俺と橘花の二人で千歳にナニをしたか…分かるな? 

 

 

 

魔禍月酒飲みながら書いたら悪乗りが酷かった。今回じゃないけど日

 

 

 橘花や桜花とインモラルなアレに耽っている間に、なんか話が進んでいた。

 速鳥が謎の塔を発見したそうだ。

 敵に気付かれ、その場で結界を張られてしまったそうだが…。

 

 

 …あれ?

 それってオオマガドキを開く為の塔じゃね?

 まだゴウエンマも狩ってないよ?

 

 富獄の兄貴の敵討ちは?

 

 

 

 

 …イヤな予感がする。

 

 前回、確かゴウエンマとやりあった時、敵が次々乱入してきたっけな。

 待ち伏せされていたのか、指揮官が救援を要請したのかは分からないが、今回も強力な鬼が一箇所に固まっている可能性は高い。

 

 その中にダイマエンが居るとしたら……?

 

 

 

 …富獄の兄貴が独走するかどうかだけが問題だな。

 結界の基点は、以前と同じ……で…?

 

 

 

 

 …あれ、ひょっとして大型の鬼が集まってるとしたら、結界の基点が増えてる?

 うーん、一箇所に纏まってるのとどっちが厄介かな。

 

 

 という訳で、速鳥に詳細を聞いてみた。

 塔を守っていた鬼は、以前と変わらず陸亀とヤトノヌシっぽい。

 結界の基点は、あくまで2つ。

 そしてその背後に、人型の鬼…ゴウエンマっぽいな。

 空を飛ぶ鬼は発見されていないらしい。

 

 

 ダイマエンの動きだけが分からない。

 

 まぁ、どっちにしろ塔は結界によって隠され、結界を張った鬼達も異界に逃げ込んだようなので、探し出さなきゃ話にならん。

 今回は、3体相手は流石に分が悪いと思ったのか、速鳥も無理に戦おうとはしなかったようだ。

 それでも結界張られて引きこもったのだから、結果は同じではあるが。

 

 皆から責められはしなかったが(そもそも塔を見つけたの自体、速鳥の手柄だし)、それでも本人はしくじったと気にしているようだ。

 …速鳥イベントがあるとすれば、これかな?

 まぁ、話くらいはしてみるか。

 

 

 

 

魔禍月R-15って何処まで書いていいんだろう…日

 

 

 とにもかくにも、結界の基点捜索中。

 異界は広くて深くて変動するので、とにかく虱潰しに探し、見つけたら素早く集合して叩くしかない。

 

 都合よくというべきか、俺は隠密技術を評価されて速鳥と組んでいる。

 大型鬼もスルーできるから楽だね。

 モノノフとしては、さっさと仕留めておくのが正解なんだろうけど。

 

 異界の中を進んでいたら、珍しく速鳥の方から話しかけてきた。

 

 

「貴殿のその技は、忍びのものか?」

 

「基本は狩人の技だな。

 暗殺とかに関しては、アサシンから(夢の中で)教わった技だけど」

 

「アサシン?」

 

「西洋の暗殺者集団だよ。

 昔は麻薬みたいなものを使って『他愛なし』してたらしいが、俺と会った時には割りと健全な暗殺者集団だった」

 

 

 思想は一歩間違えるとテロリストやアナーキストだったけど。

 

 

「健全な暗殺者とは、変わった人脈がある…。

 貴殿は暦殿と同じ外様なのではなかったか?」

 

「オオマガドキ前の外様だからって、揉め事や血生臭い集団が無い訳じゃないんだよ。

 別に俺はその組織の人間じゃない、そんな警戒した目をすんな。

 ウタカタで人間相手に使う気は無い。

 …で、どした?

 見た所、速鳥の技も忍びのものみたいだが」

 

 

 速鳥は若干躊躇した後、確かに自分はかつて忍びだった、と過去語りを始めた。

 内容は知っている…というかゲームや前ループ通りだったので省く。

 どんな重要で深刻な話だって、何度も何度も繰り返されればダレるわい。

 

 

「…拙者は、今でも迷っている。

 童を斬らなかった事に、後悔はない。

 だが、仲間を斬って逃げたのは…」

 

「悪いが、その辺に関しちゃ俺には何も言えん。

 ひょっとしたらそのガキがとんでもない悪人のアキレス腱だったのかもしれんし、お家騒動の引き金になりかねなかったのかもしれん。

 単に忍び達に不都合だったから狙われたのかもしれん。

 速鳥だって、その程度の情報しか持ってないんだから、自分が正しかったのかの確信が持てないんだろ」

 

「…………」

 

「無責任な事を言うが…仮に速鳥が間違っていたと分かったとして、それで今から何か変わるか?」

 

「…いや、死人は生き返る事は無い。

 過去に戻る事もできん。 

 言っても詮無い事だと、分かってはいる…」

 

 

 …なんか今日のコイツ、不安定じゃないか?

 いや元々と言えば元々なんだが、前ループ速鳥仕込の誘導術に面白いように引っかかるんだが。

 

 …アレか、ここの所任務で忙しかったから、天狐成分が不足してるのか?

 

 …この際だ、もうちょっと試してみるか。

 

 

「…それでも後悔は止まらない、か…。

 正しいとか間違ってるとかじゃなくて、単に仲間を斬った事自体を後悔してるんじゃないか?」

 

「……そう…かもしれん…」

 

「なら、もう同じ事はしないし、出来ないだろう。

 やろうとする度に、後悔がそれを邪魔する。

 斬ろうとしても手が止まる。

 だから裏切る事も無い。

 仲間を傍に置いていても、速鳥が害する事は無い。

 仲間が傍に居るなら、使うのは当然の事。

 使うのであれば、実績を元にして役職を割り振るのも当然の事。

 それが信頼、信用と呼ばれるのも、当然の事…」

 

 

「………」

 

 

 よくかかる。

 洗脳や誘導に関して、俺の師匠とは思えん程に。

 割と冗談抜きで偽者疑惑を持った。

 

 さて、それはそれとしてどうしたもんか。

 思わず洗脳・誘導してしまったが、那木さんとイチャついてたループを鑑みるに、信頼関係を構築できずにイベントだけ乗り切っていては、里の団結は生まれない。

 何だかんだで今は速鳥以外は結構良好な関係を築けているとは思うが…。

 

 …そもそもからして、信頼関係を構築し、仮にそれが洗脳や誘導によるものだとして、一体どんな問題があるか?という話だ。

 あのループで問題だったのは、人の心の問題を放置していた事そのものではなく、それをスルーする事によって人と人との繋がり、信頼を構築できなかった事が最大の問題だ。

 極端な話、どんな形であれ、信頼・信用を結び、協力し合えるなら、それでいい…のだと思う。

 

 肉体関係…に限らず、政略結婚から始まる愛や、誤解から始まる友人関係だってある。

 問題は、それらが持続し、本物になるか、それとも徐々に薄れて消えていってしまうかで。

 

 正直な話、その「問題」については心配してない。

 ウタカタの連中はいい奴らだし、結束も充分に固まり始めている。

 速鳥がもうちょっと近付けば、放っておいても引きずり込まれるだろう。

 実力的にも申し分ない。

 例え感情が近付く事、信頼する事を否定したとしても、他の連中と協力した方が効率が段違いなのは否定できない。

 忍びとしての速鳥(モノノフだけど)は、感情よりも理性で行動する。

 

 …天狐が絡まなければ。

 

 

 …小難しい事を考えるべきじゃないな。

 誘導も洗脳も、単なる切っ掛けと思おう。 

 後はウタカタの連中と速鳥の行く末に委ねる。

 それが多分、この状況で信頼関係を築く一番有効な方法だ。

 

 

 …そこに俺を含んでいいのかは、未だに分かりかねるが。

 だって色事関係で何度もウタカタ…だけじゃないが、色んなところを引っ掻き回してきたし。

 今だって樒さん、桜花、橘花の綱渡りだし。

 

 

 

 

 さて、速鳥もいい塩梅に洗脳のかかった事だし、そろそろお仕事と行きますかね。

 

 

 

魔禍月表現の限界に挑みたい所だが、文才が無い日

 

 

 昨日・本日共に戦果ナシ。

 明日は休みだ。

 あんまり頻繁に異界に潜っていると、瘴気の浄化が間に合わなくなるからな。

 

 今日は息吹と富獄の兄貴が異界探索で、他のメンバーは里の警備に当たっている。

 色々と準備しなければならない事はあるだろうが、どっちにしろ結界を張った鬼を見つけ出さなければ何もできない。

 

 なので、今日は樒さんとミタマについての話をしてみる事にした。

 何故か橘花も同席している。

 …何故かって言うか、まぁ、橘花とエロエロしてからというもの、よく一緒について来るようになったんだよな。

 この理由を本気で「何故か」と言う気は無いが、単にエッチい場面になるのを期待しているだけだとしても違和感が無いのが、今の橘花である。

 千歳と一緒の時にも思ったけど、橘花タンマジ淫魔。

 神垣の巫女でなければ、確実に初日に処女が無くなっていただろう。

 

 …忘れてると思うけど、神垣の巫女は術の特性上、貞淑・清らかである事が求められる。

 そっちの方が結界やら術やらの行使に適しているだけでなく、色恋沙汰から来る精神の乱れが一番警戒されていることだ。

 

 ま、処女でなくなって結界の精度が落ちたとしても、オカルト版真言立川流でのパワーアップはそれを補って余りあるし、色恋沙汰に関しては……まぁ、今から仕込んでいけばヤキモチ等で失調する事もないように躾けられるだろう。

 橘花を都合のいい女に改造しようとしている、と言われると反論できないが、そもそも今の橘花は恋人(この場合俺だが)が他人とパコパコしていると聞いても、怒るよりも先にどんな事をヤッているのか想像して悦に入るくらいのヘンタイ巫女だ。

 あまつさえ、尊敬する実の姉を取り押さえて18禁するのを手伝おうとしている。

 改造するまでもなく都合が良すぎる。

 

 

 …それは置いといて、樒さんとの話はのっぺらミタマの事だ。

 「診察」はナシと聞いた橘花が残念そうな顔をしていたが、俺の体の話をすると首を傾げていた。

 まぁ、俺=のっぺらミタマの集合体って言われても戸惑うわな。

 ミタマって結局幽霊だし、それが何百も集まって物質的な肉体になるとかワケが分からんだろう。

 

 樒さんとああでもない、こうでもないと話し合っていたんだが、橘花がそれに割り込んだ。

 俺の体に、千里眼を使ってみないか?と。

 

 千里眼ってアレだよな、鬼の指揮官の居場所を知る為に使ってる奴だよな?

 …というか、よく考えりゃ今探している塔と結界を張った鬼も、それで探せばいいんじゃないか?

 ……あくまで思念を辿って視界を借りる術だから、関係するモノが無いと無理?

 なるほど、じゃあ結界の鬼を一匹でも仕留められれば、そこから辿れるかもしれないのか。

 

 それはともかく、千里眼も体に負担がかかるのではないか?

 …ヒメゴトで霊力が強くなってるから大丈夫ですか、そうですか。

 なら千里眼を使った後は、霊力補充の為にもっとヒメゴトしないといけませんな。

 

 

 まぁセクハラ染みた冗談は置いといて、のっぺらに千里眼を使うってアイデアは面白いな。

 ひょっとしたら前ループの時の情報とかが見えてしまうかもしれないが、多分問題ないだろう。

 ループがバレても、今なら大したトラブルにはならない。

 俺、橘花、樒さんの3人だけの秘密にしておけば。

 

 と言うか千歳と一緒に3P(しかも一人はフタナリ)してたのがバレたら、そっちを覗くのに夢中になって終わりな気がする。

 

 

 

 とにかく、一度やってもらう事にした。

 ただし、のっぺら達の正体は見当がついたとは言え、何が起きるか分からないのは変わらない。

 仮にのっぺらに千里眼を使って、元居た場所…インターネット、及びゲームのアカウントからの視点を得られたとして、それを人間が理解できるか?

 人間の視神経にテレビの配線を直結できたとして、それで映像が見られるかって話だ。

 異常な形の信号・刺激を受け取ってしまい、橘花に害が出る可能性がある。

 おかしいと思ったら、すぐに止める事。

 

 樒さんもサポートについてくれる事になった。

 今までなら無理だったらしいが、パワーアップした今なら可能との事。

 …仮にも一介の拝み屋が、神垣の巫女に匹敵する能力を持つってかなりスゴイ事らしいんだが…ホント何者だろうな、この人。

 

 

 

 さて、実際に千里眼を使ってもらうワケだが……なんというか妙な気分だ。

 神垣の巫女の異能が俺に干渉しようとしているのが分かる。

 

 だがそれ以前に、左前には大麻振ってる樒さん、右前には呪文と言うか祝詞を唱える橘花、そして座り込んでる俺。

 …なんかお祓いされてる気分だ。

 実際、通りかかった暦に「何かやらかして怒られてるんだろうか…」って顔をされたしな。

 

 で、肝心の結果なんだが…うーむ、これはどういう解釈をすべきか?

 何かのイメージ、抽象的な映像なのか?

 それとも文字通りの意味での、不思議空間を垣間見たのか?

 橘花も今までの千里眼と感触が違いすぎて、なんとも言い様が無いと言っていた。

 ただ、元が千里眼って事を考えると…やはり物理的なモノを見ているんだと思うが…。

 

 

 

 橘花と樒さんが見たのは、真っ暗な空間。

 そこに絶え間なく雪のように降ってきては消えていく光の粒と、その流れが作る光の道…道は何処かに流れていっているようだった。

 どうやら橘花の千里眼は、その光の内の一つの視界を乗っ取ったらしい。

 

 そして、それを覗き込んでいるような一つの不気味で大きな目。

 

 …真っ暗な空間とやらは、のっぺら達が元々居たサイバースペース、電脳空間だとして…光の粒?

 橘花が千里眼を使ったのは、俺の体…つまり無数ののっぺらに対してだ。

 光の内の一つが橘花の視界の元となったというなら、光=のっぺら=プレイヤーのアカウントと言う図式が成り立つ。

 光が道になって何処かに流れて行っているというのなら、それは俺に向かって流れ込んできている、という事だろう。

 

 

 …でっかい一つの目玉ってナニ?

 うーむ……目玉の親父みたいな感じか?

 それとも某あんな物を浮かべて悦ぶか変態めみたいな感じか?

 そういやいつだったか、夢の中であの目玉になったな。

 

 コジマ粒子なら、物理でない電脳空間だって汚染できる。

 そう思うでしょう…アナタも! 具体的には緑っぽい粒子が出る度に反応しているユーだよユー!素晴らしいネ!ミートゥー!

 

 

 …で、誰かが俺を見てるのか?

 いや、見ているのは俺じゃなくてのっぺら達の元か?

 仮に見ているとして、何をしてるんだ?

 光がキレイだから見物している…訳じゃないよな。

 

 

 

魔禍月だからと言ってR-18を別に書くと負けた気がする日

 

 

 唐突でなんだが、達人のカンってやつがある。

 達人に限らず、ある程度の実力を持ったハンター…それ以外にも医者、技師、ゲーマー、その他諸々…数え上げればキリがないが、とにかく理屈では説明できない直感を感じた事がある人は多いだろう。

 それが正解・不正解かはまた別の話で、その直感が経験や洞察力を元にして導き出されたものなのか、それともセブンスセンシズ(小宇宙に非ず)的な超感覚によって与えられたものなのか…もまた別の話。

 

 とにかく、そういう理屈ではない直感を、俺も感じている。

 

 一体どんな直感なのかと言うと…これが桜花と橘花に関する話でね?

 まぁ、人間関係について俺はお世辞にも達人ところか普通人とさえ言えないんだが……色事関係においては、それなりに経験を詰んだと自負している。

 尤も、それを切っ掛けにして度々破滅している辺り、それこそ普通人とは言えない気がするが。

 

 前置きが長くなったが、とにかく…なんつーか、その桜花と橘花の仲がね、うまい事…『噛み合う』ような気がするんだわ。

 今は仲良くなってはいるが、結界についてのアレコレとか、俺との関係についてのネチョネチョとか、そーいうのでドカンと行く可能性は残っている。

 

 

 

 が、それを…こう…性的な意味でガッチリ噛みあわせてやれば、なんか色々上手く行くような直感がしてるんです。

 

 

 でもなぁ……性的な意味…というより、嗜好的な意味か…?で考えてみてもなぁ…。

 確かに二人揃って尻穴狂いだ。

 そして橘花に至っては、ついこの間一気通貫したくらいだ。

 しかもそれを切っ掛けにして、今では俺と二人きりになるとちょっとした淫魔みたいになる。

 

 この二人が嗜好的にどう噛み合うってんだ。

 どう考えても、変貌した橘花を見た瞬間に桜花が卒倒する。

 そもそも、性癖的に考えても尻と同性愛は別物だ。

 男性諸君も、自分で自慰するか、そこらのにーちゃん(not男の娘)にイタズラされるかで考えりゃ、前者を選ぶと思う。

 

 

 うーん、やっぱり勘違いなのかなぁ…。

 

 

 

 桜花が部屋を訪ねてきた。

 またワイ談の時間だ。

 

 

 

 

 

 ワイ談終了。

 

 今のところ、橘花と関係を持った事には気付かれていないようだ。

 「もしかしたら」くらいには思っているかもしれないが、それと同時に「このままだと自分がそうなるのでは?」とも思っている。

 それを嫌とは思っていないが、どっちかと言うと戸惑っている…かな。

 まぁ、こんな話をするようになった相手を、男女の相手として考えろ、というのもね。

 もう異性として考えないように勤めているんじゃないか、って気がしてきた。

 

 

 だもんで、ちょっとしたイタズラ(という名の死亡フラグ)を思いついた。

 いやぁ、デスワープで便利な所は、どんだけ死亡フラグ立てても終わりが来ない所ですね!

 自分から命を捨てるような真似は感心せんが、ネタの為なら文字通り命張っても問題はないからな、芸人魂的に。

 

 で、ナニをしたかと言うとだな、なんつーか基本的な自慰のやり方でね?

 

 

 好きな人、大事な人を思い浮かべたり、名前を呼びつつスるんだよ。

 

 

 

 基本だよね?

 まぁ、男としては、なんつーかその右手(人によっては左手)が拒否する事もあると思うけどさ、汚すに汚せない感じで。

 女もあるかもしれんけど、悪いがそっちは分からん。

 

 という訳で、桜花が気になる相手って誰だろうね?と耳を澄ませている最中です。

 盗聴?

 いーや、ただ夜の静けさに身を任せていたら色々聞こえてくるだけですよ、ハンター聴覚的に考えて。

 

 

 

 して、結果は…。

 

 

「あぁ、足りない…足りないんです…でも、今夜は姉様が相談に…」

 

 

 …こっちは橘花だな。

 しっかり一人で励んでいるようだ。

 

 うん?

 別にエロい事じゃないぞ、巫女パワーをアップさせる為の訓練だぞ。

 まぁ俺のオカルト版真言立川流に合わせるための訓練である事は否定せんが。

 

 

 さて、それはともかく…。

 

 

「………   …  …!」

 

 

 むぅ、声が小さい…というかくぐもっている、押し殺しているな。

 それだけ躊躇いがある。

 でも試してみた。

 そして止められてない。

 一応最後までやってみるか、じゃない。

 躊躇って抵抗があって、でも「気晴らし」が止められない。

 

 

 …声が聞こえなくなった。

 気配は…息が荒い。

 いつもよりも。

 時間も短かった。

 つまり、想像以上に昂ぶって、アッと言う間に終わってしまったんだ。

 

 声を出す、と言うより名前を呼びつつ慰めるのに躊躇する相手、か。

 

 …翌日以降も繰り返すかが肝だな。

 

 

 

 

 

 

 と言うか、俺はなんだってこんな真似をしているんだろうか?

 いや、色事があるなら即座に飛びつくのが俺のスタンスだけどさ。

 

 

 



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104話

GER何とかクリア!
ラスボスが今までと比べてアホみたいに強かった…。
2発、良くても3発でライフ全快からオダブツとか冗談じゃない。
しかもやたらしぶといし…。
と言うか初のミッション失敗…。

と思ったら、後でデータベースを見てみると「耐久力は高くない」との事。
ほへ?と思ったら、氷・雷なのに使ってるのは炎のハンマー&アサルト&盾だった。
そりゃしぶとい筈だよ…。
2人脱落して回復アイテムも尽き、あと1回倒れたらゲームオーバー状態でようやく勝ちました。

アサシンクリードも、まぁ順調です。
妙な所で妙なバグが多いけど、まぁ敵が棒立ちになってサクサクと真正面から暗殺できるので楽。
あと投げナイフ万能説。

そして次の舞台のMHXですが……うーん…。
いや、面白いんですよ?
まだ体験版初級しかやってないけど。
でも、どうにも画面がね……グラフィックとか解像度に拘って忌避するつもりはありませんが、やはり画面が小さいというのはそれだけで難点になるんだなぁ…。
単純に見えにくいです。
それに、GEや討鬼伝と違ってロックオンなんて甘えた機能が無いから、視点移動をどうするか…。
vitaに慣れたせいか、やりづらいんだよなぁ…。
拡張パッド買えばいいのか?



追記 
後書きでまたちょっと愚痴ります。
ご気分を害されないよう、スルー推奨。
なのに書き込むこの矛盾…。



 

魔禍月速鳥にヘルタツマキとスゴイ・シュリケンを教え込もう日

 

 

 結界の鬼探しに進展があった。

 俺と速鳥が異界をウロウロしていた時に、アマキリに遭遇した。

 …上位鬼とは何度かやりあったが、亜種との遭遇は初めて…いや、いつだったかタケイクサの変わりにマガツイクサとやりあったな。

 

 とにかく、今までの鬼とはちょっと違う気がする、という事で、コイツの素材を持って帰ってきた。

 実際強い霊力を秘めていたんで、コイツならひょっとして…という事で橘花に千里眼を使ってもらった。

 

 神垣の巫女としての力を使うって事で、桜花は心配そうにしていたんだが、橘花は胸を張って「余裕のゆうちゃんです」と言っていた。

 …まぁ、オカルト版真言立川流の恩恵でパワーアップして、実際千里眼くらいなら余裕になってるっぽいけど、そのフレーズは何か違うぞ。

 

 

 で、実際大当たり。

 結界を張った鬼の一体…ヤトノヌシの居場所が割れました。

 砂漠って言ってたから、古の領域だね。

 

 …で、ついでになんか空を飛ぶ大型鬼が朧に見えたとか。

 またヒノマガトリか?って話になってたけど、多分これダイマエンだよな。

 富獄の兄貴の宿敵もとい怨敵です。

 

 ……まぁ、連れていきゃいいか。

 ヤトノヌシと同時に襲ってこられると厄介だが、部隊を二つに分ければいい。

 

 

 

 

 …ん?

 結界の基点は2つ…ヤトノヌシと陸亀…で、そこにゴウエンマもダイマエンも居るとしたら…?

 ダイマエンは確か、指揮官の側近というか侍り役とかいう推測もあった。

 だがダイマエンは、ゴウエンマではなくヤトノヌシの近くに居る。

 

 

 これは…つまり……。

 

 

 

 塔と結界を囮とした、二面作戦の可能性が微レ存…?

 

 

 ヤトノヌシとダイマエン、ゴウエンマと陸亀、どちらかが攻められたら、残りの一方が塔と結界を放棄してウタカタに攻め込んでくる?

 ……どう…かな。

 実現したら本気でヤバいが、実現させようとしているかと言うと…。

 

 わざわざウタカタを責めなくても、結界を守ってオオマガドキを呼び込めば、それで鬼達の戦略的勝利は確定される。

 それを放棄してまで責めてくるとしたら、理由はなんだ?

 

 …自分達では、ウタカタが責めに回ったら防ぎきれない、或いは隠れきれないと判断した?

 確かに、既に塔の存在は知られているし、結界の基点のどちらかが見つかり破壊されたなら、もう一方の破壊も時間の問題だろう。

 だが、前回と違いそうなった理由はなんだ?

 …防ぎきれない、隠れきれない…つまりはこちらの戦力及び索敵力の増加…。

 

 

 …ああ、そういや今回は結界も強化されてないし、割れれてもすぐ再発動したな。

 つまりそれだけ負担がかかってないし、千里眼とかに使える力も残っていると判断されたのか。

 単純な戦闘力なら、前回の千歳パーティの方が高くなると思うが…。

 

 

 どうする?

 何か言ったとしても判断するのは俺じゃなくて大和のお頭。

 敵の二面作戦の可能性を唱えるなら、前回ループとの比較ではなく、別の根拠を示さなくてはならない。

 しかも他人に理屈を示して説得しなければならない訳だから、コジツケじゃ駄目だ。

 

 

 

 

 

 そんな事を考えてたら、大和のお頭の方から鬼の二面作戦の可能性があるのを宣言してきた。

 さすがお頭、全体を見てる!

 が、俺が想定していた事とは少し違った。

 

 大和のお頭曰く、ウタカタに攻め込んでくる可能性もあるが、それ以上に結界の鬼と戦っていたら、そっちに乱入してくる可能性が高いらしい。

 分かれているところを各個撃破しようと攻め込んだら、一気に戦力が集まってくるってワケね。

 しかもウタカタでの戦いと違い、異界の中なので鬼の能力をフルに発揮でき、モノノフは逆に行動時間が短くなる。

 成程、こいつぁ厄介だ。

 

 が、逆に考えれば、結界の鬼か、少なくとも幹部級の鬼が一箇所に集まるチャンスでもある。

 勝利できれば、一気に敵の戦力を削ぎ、更には結界の鬼を始末できる。

 

 勿論、リスクが高すぎるという意見は出た。

 里に鬼が攻め込んでくる可能性も残っている以上、ウタカタのモノノフ総出で決戦とはいかないのだ。

 

 が、そこで効果が出てくるのか、樒さんと橘花のパワーアップだ。

 里を守る結界が強力になれば、その分戦力を割ける。

 

 

 桜花から「結界を強化する気か!?」と反発が出たものの…橘花が実力で抑え込んだ。

 別に荒事に発展した訳ではない。

 

 

「姉様、今の橘花なら大丈夫です。……ハァァッ!」

 

 

 と、某竜玉で気を解放して強さを見せ付ける的な感じの事をやった。

 実際、今までの霊力よりも一回り二回り強くなっており、桜花は驚いていた。

 …強くなった原因がナニかは、語るまでもあるまい。

 

 とにかく、これだけの霊力があるなら、あと1段…いや、2段階結界を強化しても、橘花の命に負担は無い。

 これは樒さんと那木さんの共同診察の結果である。

 二人のお墨付きがあるなら、と渋々桜花納得した。

 

 

魔禍月富獄の兄貴にデンプシーロール…はデフォなので10cmの爆弾を日

 

 結界の強化も終わり、橘花も想定通りピンピンしていたので、さぁ結界の鬼退治だ。

 ヤトノヌシとの戦い…だと、ゲームでは桜花のイベントだった。

 焦りから一人で先走って、結局皆で助けに行くのがストーリーだったが、今回はそうなる理由は無い。

 結界が張られてまだ間もないし、橘花の体力・霊力も充実している。

 仮にこれで桜花が単独出撃する理由があるとすれば……まぁ、最近橘花と俺がやたら仲がいいんで、「構ってくれ!」みたいな感じで突撃するとか?

 ねーよ、いろんな意味で。

 

 で、肝心のヤトノヌシ戦だが…お頭の予想が的中した。

 ヤトノヌシと遭遇して5分くらいした辺りで、ダイマエンのエントリーもとい乱入。

 富獄の兄貴が一緒に来ていたのが、良かったのか悪かったのか…。

 

 …なんというか、富獄の兄貴が新ステージにステップアップしました。

 討伐の優先順位としては、結界の基点であるヤトノヌシが優先だ。

 それは富獄の兄貴も理解しているし、ダイマエンが現れた当初…はともかく、一撃喰らって冷静になった後は、先にヤトノヌシを倒そうとしていた。

 

 が、ダイマエンが横槍を入れる入れる。

 岩石飛ばすは飛び回るは、嬉しくもないヒップアタックしてくるは…討鬼伝屈指のクソ鬼の名に恥じない鬱陶しさだった。

 

 それだけでもいろんな意味でビキビキ来ていたところに、まさかのゴウエンマ乱入。

 掟破りの3体同時討伐とかやってられっか。

 しかも鬼の方が俺達を逃がさないように、狭い結界張りやがって分断もできやしない。

 

 まー「やってられっか」と言ったところで、実際にやらない訳にはいかないし、アラガミ化するか割と悩む時点で俺はまだ余裕があったんだが。

 

 段々追い詰められてきて、アラガミ化の決断をする前に…富獄の兄貴がキレた。

 よっぽど鬱陶しかったんだろうなぁ…しかも里の仇を目の前にして、先に他の連中を倒さなけりゃならんとか、理性で堪えられてるのが不思議なくらいだ。

 

 

 

 乱戦の中、突然ゴウエンマのパンチを足がかりにして頭まで駆け上った富獄の兄貴。

 一体何するつもりかと思えば……何もせずに、ブン殴った。

 それはもう、何の小細工も無し、タマフリすらせずに、無言でブン殴った。

 大振りの一撃だけで、ゴウエンマの顔面を陥没させて、ついでに角と念珠もぶっ壊してダウンまで持っていった。

 鬼の側も、思わず動きが止まったくらいだ。

 

 更に追撃して、ゴウエンマの顔面がボコボコに……最終的には、首から上が頭なのかなんなのか分からない状態だった。

 ただチラリと見えた形相だけが、ゴウエンマよりもよっぽど鬼みたいで怖かった。

 

 

 要するにイライラが頂点を越えての八つ当たりなんだろうが…キレたおかげで、集中力とか霊力とかが一気に跳ね上がったものと思われます。

 意識して精神を集中するんじゃなくて、意識「しなくても」極限の集中状態だったんだろう。

 そりゃ霊力も強くなるわ。 

 

 更にそのまま、本能(?)のままにダイマエンに突撃。

 …強くなってはいるけど、キレてる分まともな状況判断はできそうにないな。

 鬼祓いも忘れて突撃してたし…。

 

 まぁ、残り2体になったんなら話は早い。

 ダイマエンも富獄の兄貴の気迫にビビって逃げ腰だったんで、飛んで逃げられる前に翼だけ鬼千切しておいた。

 後は任せる。

 

 

 で、後は残った3人でヤトノヌシをボコボコにする簡単なお仕事です。

 持ってる棍棒とかは最初の5分でぶっ壊してたし、まーこっちは特に盛り上がり無く終わってしまった。

 

 富獄の兄貴は、なんか今回のブチギレで感覚を掴んだらしく、「あの時程の破壊力は出せねぇが、その分短時間なら冷静に、より強く戦えるぜ」とか言っていた。

 …うーん、イベントを超えてのパワーアップは常道と言えば常道だが…ただそれが苛立ち任せというのはどうかと思う。

 まぁ、強くなったんだからいいけどさ。

 

 

 しかし、俺も随分強くなったつもりだけど、やはり数の暴力ってのは厄介だな。

 特に鬼の場合、部位破壊しても鬼祓いをしないと元の木阿弥。

 敵に1体でもフリーの奴が居ると鬼祓いを邪魔しにくるし、デカブツに暴れまわられるとそれだけで妨害になる。

 普段はこっちが数の力で押してるけど、デカブツが増えると鬱陶しさは二倍どころか相乗効果だ。

 

 うーん、なんかこう…強制的に敵を分断できるような方法があればいいんだが。

 MH世界みたいに障害物が多い所ならやりようはあるんだけどなぁ…。

 

 

 

魔禍月桜花に心刃合練斬日

 

 

 なんか色々と端折ったというか手抜き感は否めないが、富獄の兄貴の敵討ちは成就した。

 鬼3匹を纏めて潰した後、双子石?…なんか近くにあると光る石も確認したし、食われた魂が成仏していく(と思われる)光が昇っていくのも確認した。

 ウツクシイ光景であったとは思うけど、俺としては…光が昇っていく光景は、イヅチカナタの出現を思い起こさせるんで、あんまり気分良くない。

 

 で、富獄の兄貴の今後だが、暫くウタカタで戦う事に決めたそうだ。

 まぁ、オオマガドキを呼ぶ塔をどうにかしないと、何処で戦ってたって纏めてオダブツだもんな。

 それに、ウタカタにも愛着がある…と思いたい。

 

 

 さて、結界の基点は残り一匹、懸念されていたダイマエンも倒し、更に鬼の指揮官であるゴウエンマも討伐。

 敵の待ち伏せ・異界の中にモノノフを引きずり込むという策は大当たりだったものの、それを力技で食い破った形になった。

 もうどっちがバケモノだか分からんね。

 約1名、モノノフでもアラガミでもないハンターアラガミが居るけども。

 

 とにかく、ゴウエンマ・ダイマエン・ヤトノヌシの部位を持ち帰ってきたんで、橘花に千里眼を使ってもらえば、恐らく残りの結界の起点も発見できるだろう。

 後は陸亀を甲羅割りして逆様にしてやれば、塔をぶっ壊すだけ…なんだけど、それが問題だ。

 

 いや、塔自体はぶっ壊せると思うのよ。

 どんなにデカくても、塔は塔…オボロゲに残っている知識と、前ループの最後の日記を読み返すに、ガラクタの寄せ集めで作った塔みたいだし。

 物理的に壊さなくても、溜まっている力を散らしてやればいいと思う。(そっちの方が難しいかもしれんが)

 

 問題なのは、イヅチカナタだ。

 出てくるとしたら、恐らくここ…だと思う。

 そういや、前回の塔には護衛として、トコヨノキミとトコヨノオオキミが居たよな。

 

 今回はどうだろう…。

 ゲームで言えば、ここのボスはトコヨノキミだ。

 しかし、そもそもイヅチカナタはどういうタイミングで出現するのだろうか?

 前々回は討鬼伝のストーリーラスト、前回はGE無印のストーリーラスト。

 同じ場所で出てくる可能性は高いが…。

 

 正直な話、今の状態でイヅチカナタと戦って勝てるか?を言われると、首を横に振らざるを得ない。

 純粋な戦闘力だとどうなるか分からない…そもそもどんな戦い方をする鬼なのかもわかってない…が、今までの記録を見るに、その場に居る者の因果や記憶を奪い、戦闘力どころか認識すらさせない可能性が高い。

 どれだけ戦力を揃えても、戦う前に無力化される。

 これをどうにかしないと、イヅチカナタと戦う事すらできない。

 GE世界だって、イヅチカナタが来ている事に気がついて、咄嗟に全力で一撃カマしたはいいが、そこから先はまたしても記憶が無くなっている。

 

 

 …こりゃ戦闘組には、イヅチカナタの事を話すのは逆効果だな。

 来るかどうかも分からない敵、来たら来たで手の討ちようもない敵だ。

 そんのに備えるより、目の前の敵に集中した方がいい。

 

 代わりに秋水に相談してみるか。

 でも前の千歳の時も相談したけど、大した成果は得られなかったしなぁ…。

 

 

 いや待てよ、だったら樒さんはどうだ?

 なんかパワーアップしたみたいだし、イヅチカナタの力にも抵抗できるかもしれない。

 正直言って、半ばヤケクソの行き当たりバッタリだが、相談するだけなら………無料じゃないな、樒さんの場合。 

 下半身で払えないか交渉してみよう。

 

 

 

 それはそれとして、シモネタ系の話に移る。

 そう、桜花の話だ。

 先日、気になる相手を思い浮かべながらのナニを教え込んだ訳だが、随分とハマったっぽい。

 誰の名前を呼んでいるのか聞き耳を立てていたんだが、生憎声が小さくて聞き取れなかった。

 

 多分、大和のお頭か…意外な所で秋水?辺りかと思う。

 俺の可能性もあるにはあるが……ちょっと状況が特殊すぎて、可能性が高いのか低いのか分からんね。

 

 で、今日は昨日の大乱戦に続いて、桜花も異界で結構暴れまわったんで、ホラ…アレだよ、戦の前後は昂ぶるって言うだろ?

 今日はちょっとイチャネチョ中止にして、耳を澄ませてみませんか、橘花=サン。

 

 …さすが橘花=サンは話が分かる!

 姉のヒメゴトに普通に興味津々とか、そこに惹かれない憧れないけど実に愉悦www

 

 

 

 

 で、予想通りに普段より昂ぶったらしく。

 聞こえてきた声がこちらです。

 

 

 

「ああ…橘花、橘花、橘花ぁ…!

 い、今頃あいつと…ひょっとしたらもう何か…!

 駄目だ、駄目だ許さん、でも橘花…!

 昂ぶる…!」

 

 

 

 ………ああ、うん、まぁ考えてみりゃ予想できた事だったかもしれんね。

 桜花が一番気にしている相手。(考えてみりゃ気にしている「異性」とは言わなかった)

 大事にしていて(大事なものほど壊したい)、綺麗で(綺麗なものほど汚したい)、どうしようもなく護りたい(それを自ら手にかける!)。

 

 しかもあの声からして、橘花が俺に抱かれている…いや、犯されているのを想像してオカズにしてるだろ。

 

 

 

 

 うん……俺が言うのもなんだけどさ、駄目だこの姉妹…。

 なんていうか、駄目だなぁ…本当に駄目駄目だなぁ。

 早くなんとか…なんとか………する必要ある?

 人として重要な何かをブン投げている気はするけど、少なくとも気晴らしの効率は上がってるし、俺は嬉しいというか愉悦できるし、無理に抑え付けるよりもある程度解放させていた方が爆発・破綻の危険は少ないと思う。

 

 

 ちゅーか今まで破綻してなかったのが不思議で仕方ない。

 てか、俺のせいなのかなぁ、コレ…。

 橘花の本性はともかく、桜花の性癖って多分昔っからだろうしなぁ…エスカレートさせてるのは俺だけど。

 

 

 背徳…とは少し違う。

 一種の破滅願望か?

 護りたいと思い続けてきたからこそ、生真面目に生きてきたからこそ、それが裏返った時の衝動が強い。

 

 淫魔の如く変貌した橘花を見て、ひょっとしたら…とは思っていたが、この姉妹…業が深すぎる…。

 と言うかこいつらの親ってどんな奴だったんだろうか…見てみたいような見たくないような…。

 

 

 

 それはそれとして、自分の名前を呼びながらの姉の自慰を聞いて興奮した橘花を鎮めてやらにゃーなるまい。

 

 

 

 

 ふむ…しかし、桜花の性癖がそーいう事なら…以前に感じた、俺の直感も案外…?

 橘花がこの状態だし、ここはこれをこーしてああなって…?

 よし、明日は桜花にあのオモチャの使い方を教えよう。

 まぁ、実際に使うのは暫く先になるだろうけどね!

 

 

魔禍月息吹にハーケンディストール日

 

 

 結界の残った基点探しなう。

 橘花の千里眼はあれど、やはり異界は広くて深い。

 大体の場所は橘花のおかげで判明しているが、すぐには見つかりそうにない。

 

 だが、朗報と言えば朗報か。

 今までよりも大型鬼の抵抗が弱い。

 恐らく、指揮官であるゴウエンマが討ち取られた事によって、鬼の方にも混乱が起きているのだろう。

 今までは何だかんだいいつつも、要所要所に大型鬼が待っていて、そいつらとドンパチしながら異界を歩き回っていた。

 が、今はどうでもいいタイミングで出てきたり、出てきたはいいものの何故か傷だらけだったりで、叩き潰すのは難しくない。

 まぁ、その分事故の可能性はあるし、手傷を負った鬼だと凶暴化していたりする事もあるので、油断は禁物だけども。

 

 残った結界の基点の鬼…陸亀はどう出る?

 文字通り亀のように、結界を守り続けるか?

 

 

 …侮る訳じゃないが、多分守り続けるだろう。

 そして向こうからのリアクションが無い事は、オオマガドキを呼ぶ塔の完成が近いことを示す…多分な?

 隠れていたって見つけられるのは、もう一体の結界の基点が探し出されて潰された事で明らかだ。

 なら乾坤一擲の逆撃に賭ける。

 そうしないのは、隠れていられる僅かな時間で、真の目的が達成される見込みがあるからだ。

 

 …あくまで、陸亀が理性で考えていたら、こうなると思う。

 どこまで理性があるか分からんし、理性があったって冷静かつ的確な判断が出来るのかはわからんけど。

 そもそも俺と同じ理屈で考えてる保証だってないし。

 

 

 

 それはそれとして、また橘花と樒さんの診察を受けている。

 …診察だけで済むのか、という質問にはノーコメントだ。

 割と真面目な診察ではあるしな…だったらノーコメントになる筈が無い、という突っ込みはスルーでお願いします。

 

 

 

 あれから何度か千里眼を受けたんだが、とりあえず前ループの記憶を覗かれた様子は無い。

 好都合なのか不都合なのか。

 

 で、診察の結果なんだが…最初の時と同じ結果しか出ていない。

 と言うより、そこで何かしら問題があって、そこから先を見るに見れないらしい。

 樒さんと橘花の見解では、千里眼を妨げていると思われるものは、二つある。

 

 一つ目は、記憶越しでさえ神垣の巫女の力を阻むような、強大な妖力を持った鬼か、トラウマの存在。

 それが橘花達の力を弾き返している…結果的には、俺自身の抵抗が千里眼の力を妨げている形になるな。

 

 もう一つは、あまり考えられる事ではないが、記憶を遡る「先が無い」事。

 どういう事だかよく分からなかったんで詳細を聞いてみたが…ピンと来ました。

 

 橘花の千里眼の力は、「繋がり」を辿る力だといえる。

 鬼の部位から繋がりを辿り、本体がまだ活動していた頃の記憶を読み取り、またその視界を自分の物のように出来る。

 この「繋がり」は、所謂因果と言い換えられる。

 

 そんで、その因果を食う鬼に、思いっきり心当たりがある訳だ。

 わざわざ名前を挙げるまでもなかろう。

 アレが俺の一部…例えば千歳と一緒に奴と遭遇した記憶…を食いちぎっていきやがったから、そこで繋がりが途絶えて遡れない、と。

 それならそれで、何故電脳空間のところまでは遡れるかが疑問だが…。

 

 そうそう、千里眼をすると、毎回出てくる一つの目玉。

 これをスケッチしてもらったんだが…やっぱこれ、イヅチカナタの目玉だわ。

 目が縦になってるし、間違いない。

 もっと丸っこい目玉を想像してたから分からなかった。

 

 

 ん?

 じゃあ何か、鬼の筈のイヅチカナタが、電脳空間に居るの?

 のっぺら=プレイヤーのアカウントその他説が正しいのだとすれば、この電脳空間ってGE世界や所謂ゲームの世界のものじゃなく、俺が元々居た(んだと思うが最近定かではない)現実世界の電脳空間の筈。

 …イヅチカナタが、現実に居て、何故か元の世界の電脳空間を監視している。

 もうワケがわからんな。

 

 今日の診察は、一端ここまで。

 得られた結果をどう捉えるか考察していると、唐突に秋水に話しかけれた。

 こいつが持ち場から離れるなんて珍しいな。

 座りっぱなしでケツにマメでもできたか?

 

 

 そんな事を考えていたら、「少しお話がしたいのですが」といつもの澄ました顔でのたまった。

 …別に話すの自体はいいんだけど、これまであんまり接触無かったんだよな、今回。

 だと言うのに唐突に接近してきたとなると……陰謀絡みか?

 

 考えてみれば、橘花の気晴らしを超・エスカレートさせた事で、秋水の任務…神垣の巫女を揺さぶって、ウタカタの里をどうにかするという任務はほぼ失敗確定状態だ。

 恨み言を言うために態々近付いてきたとは思わんが…だって恨み言を言うって事は、自分が間者だと認めるようなもんだし。

 

 

 

 

 

 普通に世間話だった。

 と言っても、この世界の世間話だから、鬼との戦いがどうたらこうたらって方面だったけど。

 

 

 内心拍子抜けしていると、それこそが狙いだったのか…何か見透かしたように少し笑った。

 

 そんでもって、「意外と理屈っぽい人ですね」と言われたんだが……理屈っぽい?

 俺が?

 どっちかと言うと、理屈とか放り投げて好き勝手行動した挙句に、後から理屈をこじつける人種だと思うんだが。

 

 

「そうではなく、物事には原因と経過があって、それから結果が出てくると思っているでしょう?」

 

 

 …それ、普通の事じゃねーの?

 

 

「ええ、勿論僕もそれに異存はありません…鬼、という因果や歴史を歪める存在を抜きにすれば、ね。

 これは僕もそうですが、貴方は何かを考察するに際し、原因と経過にも理由を求めるようです。

 石を投げた、石が鳥に当たった、鳥を仕留めたので食べた。

 大体の人はこれだけで終わらせる事を、石を投げたのは何故か、鳥が石を避けられなかったのは何故か、仕留めた鳥をどうやって食べたのか、味はどうだったか、一人で食べたのか…。

 無意識でしょうが、どんどん考えを走らせてしまう。

 それによって得られる物もありますが、反面理屈で説明できない可能性を見落としてしまいます。

 例えば…」

 

 

 誰かさんを追い詰めて心をへし折ろうとしていたら、男ができて変な方向に進化してへし折るどころかタマハガネ級の精神力になっちまうとか?

 

 

「…ええ、そうですね。

 完全に予想外でした。

 色々な意味で…」

 

 

 …おい、想像の内容には突っ込まないでやるから、座ってテントを整えろ。

 意外と初心な奴だな…。

 

 

「生憎と童貞なもので…」

 

 

 …まぁ、その歳だと普通だよな。

 俺が色々な意味でおかしいんだ。

 (あと橘花も…)

 

 

「自覚があって何よりです。

 完全に露呈しているようなので薄情しますが、お察しの通り、僕は橘花さんを追い詰めようとしていました。

 ですが、そこへ予想外の貴方の干渉で、それが完全に叩き潰された。

 僕としては不本意な結末ではありますが、それ以上に興味が沸きまして。

 先ほど述べた、理屈では説明できない可能性…僕にとって、それが貴方です」

 

 

 …理屈では説明できない可能性、ね…。

 確かに、言われてみればそうかもな。

 何かを考察したり推理する時、俺は「偶然」というファクターを殆ど用いていない。

 何かしらの原因があり、そこから結果に至るまで、何かしら理屈をつけようとしてきた。

 「経過」には何かの理由があると信じ込んで。

 

 

 

 …ふむ。

 

 

「その貴方が、思っていたよりも理屈っぽいというのは皮肉ですが…まぁ、世の中そんなものかもしれませんね」

 

 

 陰陽寮の連中も、そんなに理屈っぽいのか?

 少なくとも虚海は……まぁ、正否はともかく理屈っぽいが。

 

 

「そこまでご存知とは。

 これは僕の目的も知られていると思うべきですか…ああ、そういえば凛音さんとも知り合いでしたね」

 

 

 察するに、過去に誰かを送り込む手段が確立されたとして、その尖兵を誰にするかって話か。

 できる所までなら協力するぞ。

 

 

「それはどうも。

 ですが、貴方は少々強力すぎる。

 使い潰し前提の単騎で送り込むならともかく、部隊で送り込み、しかも救出を担わせる訳にはいきません。

 仮にやったら、何もかもが崩壊して滅茶苦茶になる様相しか思い浮かばない」

 

 

 あらま。

 でも納得。

 と言うか最終的には俺が因果崩壊させて、オオマガドキの原因になっちまうような気さえする。

 …意外とありえるかもな。

 

 

「西洋の言葉で、たいむぱらどっくす…でしたか。

 与太話扱いされているようでしたが、興味深い理論です。

 過去に戻ろうとしている僕には特に。

 …さて、今日のところはこれでお暇します。

 ああ、僕の事は伏せておいてくださいね」

 

 

 代わりにイヅチカナタって鬼の情報があったら寄越せよー。

 あと虚海がバカな事やりそうだったら教えれ。

 

 

「どちらも心当たりがありませんね。

 前者に関しては、少し文献を漁ってみます。

 それでは」

 

 

 …テントは治まってからいかないと、歩きにくいぞ。

 

 

「もう治まったから大丈夫です」

 

 

 

 

 

 

 …むう、割とノリで色々情報バラしたが、まぁいいか。

 黙っててくれそうだし、会話の中で得るものもあった。

 

 理屈で説明できない可能性、そして偶然…か。

 イヅチカナタの干渉から、俺の正体に至るまで、必然的な理屈をつけようとしていたのは事実。

 

 …いくつかは必然だったとしても、幾つかの偶然が噛んでいる可能性はある…か。

 可能性の高い低いはこの際関係ない。

 

 とは言え、本当に偶然が噛んでいるのだとしたら、それこそ予測のしようが無いな。

 考える時に、頭の隅においておくくらいでいいか。

 

 




愚痴で気分が悪くなりそうな方はスルーしてください。


問題児だったスタッフが辞めました。
一ヶ月も一緒に働いてれば「いつでも戻ってきてくださいね」「寂しくなるなぁ」くらいは思うのですが、こいつに関しては半年以上働いてたのに「ようやく居なくなったか」としか思わなかったです。
何度か前書き後書きで愚痴った奴…というかスタッフに関する愚痴の9割以上にコイツが関わってたような気が…。

個人的に嫌いな奴なんでフィルターかかってるのは否定できませんが、何で雇ってるのか本当に分からない奴だった…。
何か頼めば文句を言うか「あの人にやってもらった方がいいです」、注意をすれば謝る事すらせずに他人の責任を先に追及しだすか反発する、繁忙期に平然と休もうとする上に部活やらなにやらの都合で休祝日に突然休みますとか言い出す、仕事を最低限だけやったら裏でダベるクセに休憩だけはキッチリ取りやがる、何かあったら辞める辞める。
挙句、手続きの問題で面倒になったからって本当に辞めて(店長がガッツポーズしたのを目撃しました)、有給消化させてくれとか…。
正直、あいつに人件費使いたくないなぁ…しかも有給…。


お見苦しい所をまたもお見せしてしまいましたが、とりあえず居なくなったんで愚痴は今までよりは減ると思います…。


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第105話+外伝14

ヒャッハー!
MHX発売日だー!
配達の到着かゲーム店開店までの暇潰しになれば幸いです。
ちなみに英訳するとkilling time。
…「これから皆さんに殺し合いをしてもらいます」にしか聞こえない。


あと、書いてるときにちょっと酒飲みすぎて、キャラ崩壊してたりエロっぽい話になっていますが、あくまでKENZENなマッサージのお話です。
道具とか書かれてるけどバランスボール的な奴だよ!
二人で乗ってるんだよ!

追記

12月の半ばまでマジで厄介な仕事が入り込んでます。
それが終わったら繁忙期なんで、ちょっと更新が遅れるかもしれません。
モ、モンハンクロスするのに夢中になって遅れるんじゃないんだからね!

アサクリもしないといけんし。


追記の追記
投稿予約した後も編集できることにようやく気付きました。


黄昏月モンハンXまだかなぁ時…じゃなかった日

 

 気がつけばもう3ヶ月目。

 短いのか早いのか…。

 

 さて、もうゲームストーリーの話も大詰めである。

 無印のは、という前提がつくが。

 

 今日の捜索で、残った結界の基点こと陸亀こと道場も発見され、後はぶった斬ってオオマガドキを呼ぶ塔を破壊しに行くだけだ。

 ちなみに基点を見つけたのは暦。

 そのまま交戦も考えたが、無理に少ない戦力で戦う理由も無いし、何より行動限界時間が近かったので戻ってきたらしい。

 今度向かった時に、陸亀がどっかに逃げていた…という事がないよう祈るのみである。

 

 

 さて、そーなると今日は戦の前。

 つまるところ、色々と昂ぶる夜な訳だ。

 万年発情期の俺が言っても説得力が無いかもしれないが、生物学的な本能に基づいた、実に健全な反応である。

 死の危険の前に、子孫を残しておきたいってちゃんとした本能だよね。

 

 …ただ、それを理由に橘花が忍んでくるのは……どう考えても建前に使っているとしか思えません。

 だって尻だし。

 子孫できねーし。

 

 まぁヤッたけど。

 だってオカルト版真言立川流で交わると霊力ブーストされるし。

 パワーアップして損は無いし。

 

 

 いやぁ、相変わらず橘花は飲み込みが早い早い。

 しかも卑猥な事ほど悦んで覚えるもんだから、ついついエスカレートしちゃうんだよな。

 まぁ、アレさ具合で言えば、千歳と絡んでた前回ほどじゃないんだが…その分、ネットリと躾けしています。

 

 しかし…このエロ具合、やっぱ前回はヤバかったな…。

 橘花の手綱を握りきれなかった上、千歳との相乗効果もあったから……あのままエスカレートしていったら、きっと橘花は千歳に俺の尻を掘らせにきていただろう。

 割とマジで。

 今だって、隙あらば指を捻じ込もうとしてみたり、或いは舌を突っ込んで嘗め回してきたり…いやよそう、これ以上の描写は危険だ。

 

 

 …千歳が相手なら、掘られるのもプレイとして割り切るのもワンチャンあるが…。

 

 

 まぁ、それは置いといて。

 じっくり橘花を堪能した訳ですが、実は前の方はまだ処女です。

 破っちゃったら、結界や術の行使に影響が出るからね。

 それを補える程のパワーアップも出来るだろうけど、それならそれで術の調整をしなければいけないらしい。

 日中に樒さんと一緒に調整しているそうです。

 夜?

 気晴らしで忙しいよ。

 

 

 で、今日も今日とて色々ヤッていたんだが…なんかね。

 覗かれてたっぽい。

 

 誰に?

 言うまでもない、桜花に。

 斬りにこなかったって事は、公認と思っていいんだろうか?

 それとも、オカズとして見入って我を忘れてたんだろうか?

 …後者っぽいな。

 大方、橘花の名前を呼びながらの気晴らしが物足りなくなってきて、相談しようと来た時にカチ合ったんだろう。

 考えてみりゃ、普段のペースなら今日は桜花が来る日だったし。

 

 

 ……順調に堕落というか墜落していってるなぁ、この姉妹…そうさせてるのは俺だけど。

 

 

 しかし、桜花がそーいう事になってるって事は……大体準備が整ってしまったなぁ…。

 

 

 

黄昏月仕事が終わったらすぐにモンハンしよか!日

 

 

 陸亀討伐完了。

 これで結界は破れ、塔は丸裸だ。

 幸いにして、塔の完成にはまだ若干の猶予があるらしい。

 まだ赤い光があまり灯っていないらしいからね。

 

 

 …あれ、この場合どうすんだ?

 イヅチカナタが前回現れたのは、赤い光が満ちて、オオマガトキが呼び込まれる時だった。

 じゃあ、それを阻止したら出て来ないのか?

 

 もしそうだったら、どうする?

 モノノフ側をこっそり邪魔して、オオマガトキ完成直前まで粘る?

 …ありえん。

 

 標的であるイヅチカナタが出てこなかったら…………そのままストーリークリアすればいいだけか。

 イヅチカナタとは、このループの中に居る以上いつかはカチ合うだろうし。

 無理にオオマガトキを起こしてまで呼び込む理由は無い。

 むしろ、折角ストーリークリアできそうな機会なんだし、それが成功したらその後どうなるかの方が重要だ。

 GE世界も一応はクリアしたけど、その後死んじゃったもんな。

 

 どっちにしろ、現状じゃイヅチカナタが出てきても、2~3発殴れれば御の字だ。

 オリジナル笑顔の某銃×剣な連中や、周囲の被害を省みない真性の復讐者じゃあるまいし、勝てない戦いに臨むのはハンターのありかたじゃないです。ですです。

 

 

 さて、そうなるとオオマガトキの塔をぶっ壊す算段だな。

 千歳の時は…どうやったんだ?

 日記には何も書かれてない。

 まぁ、塔ってほどデカい物をぶっ壊そうってんだから、爆弾か、さもなければ支柱にになっている部分を引っこ抜くかのどっちかだと思うが。

 

 火薬か…うーん、そんなに量があったっけ?

 ああ、そういや前に討鬼伝世界からMH世界に移動した時、爆弾が大量に減ってたから、やっぱり塔の爆破を試みたんだろうな。

 しかし、一体どれだけ詰め込んだのやら…。

 生憎と、今回は前回ほど大量の火薬を確保できてはいない。

 MH世界じゃギルド長やって、資材も集めてはいたけど、それと同様に消費も多かったからな。

 特に火薬は、戦闘力の低い一般人が雑魚モンスターを追い払う為に多く使ってたし。

 あんまり自分の物にできなかった……一応言っとくが、着服じゃないからな。

 

 

 まぁ、遠目に一目二目見た程度だったが、文字通りガラクタの塔というか山だったからな。

 適当な所を蹴っ飛ばしてやれば、バランスが崩れて落ちてくるだろ。

 霊力やらなにやらが篭っているなら、鬼祓いで浄化する。

 

 これ以上の策は、今のところ無いな。

 

 

 

 

 

 さて、それでは明日の決戦に備え、体を休める……前に霊力をたっぷり補充しないとな!

 橘花、よろしくオナシャス!

 

 

「ええ、こちらこそよろしくお願いします。

 何せ総力戦ですものね。

 里の守りを担当する私も、霊力を蓄えておくに越した事はありません(表情が言葉を裏切っています)」

 

 

 うんうん、後顧の憂いを断つ事は重要だね。

 それにしても、モノノフでもないのにそこまでちゃんと考えられるなんて立派だなぁ、あこがれちゃうなぁ。

 

 

「私も微力を尽くすと、覚悟を決めたまでです。

 …ところで、ものは相談なのですが、姉様なのですけど…(表情がwktkしています)」

 

 

 ああ、やっぱ心配だよな。

 できる事なら、少しでも無事に帰ってこれる確率を上げてやりたいだろう?

 

 

「はい。

 姉様も皆様もきっと勝って帰って来る信じていますが、やはり人事を尽くしてこそ天命が微笑むというものです。

 ここで姉様の力を、一段階跳ね上げられるような手法は無いでしょうか(襖に目がチラチラ向いています)」

 

 

 勿論あるよー。

 橘花も樒さんも霊的に強くなった実績付きだよ。

 で、そこで橘花=サン、こっちからもものは相談なんですけどね?

 橘花=サンも協力してくれれば、より効果が高くなるんですけど!

 

 

「くわしく!」

 

 

 なぁに、霊力を循環増幅させるにしても、単純に一人より二人、二人より三人って話でして。

 まぁそれなりに技術は要るんですが、そっちも俺が会得してるんで問題なしです。

 

 という訳で、桜花=サンが居ればなー!

 桜花=サンが強くなって決戦の勝率も上がって里の守りも磐石になって橘花=サンの霊力が上がって負担がかかるような事もなくなるし、いい事尽くめなんだけどなー!

 

 カーッ、残念だわー!

 桜花=サンが居ればなー!

 

 

「姉様が居ればなー!」

 

 

 桜花=サンが居ればなー!

 

 

「姉様が居ればなー!」

 

「………………」

 

 

 

 無言で襖を開けて入ってきた桜花=サン!

 一体どこから聞いていたんで!?

 

 

「……そ、その口調は止めろ…橘花も真似するな、頼むから…」

 

「えー、でも姉様、楽しいですよ」

 

 

 楽しいのは大事だな。

 まーそれはともかくとして、出てきてくれたって事は、おk?

 

 

「外来語は分からん……し、思うところは色々とある。

 私もこれでも女だ…。

 だが、橘花の為になると言うなら…」

 

 

 別にしなくても勝率十分にあるけどね?(イヅチカナタが出張ってこなければ、だけど…)

 

 

「私も充分に霊力は漲っていますし。

 昨晩とかのおかげで。

 むしろこれ以上力が強まっても、制御に失敗するかもしれませんし(そ知らぬ顔で)」

 

「ぐ、ぐぬ……!」

 

 

 どーした桜花=サン、様子がおかしいぞ。

 

 

「姉様、どうしたんです、そんなに腰といいますかお尻を落ち着かない風にさせて(口元が、口元が!)」

 

「うぐぐぐぐ……」

 

「ところで、先ほど仰いました3人での儀式とは、具体的にどのような行為なので?」

 

 

 ああ、橘花にはまだアレは教えてなかったな。

 桜花にはこの前教えたんだがな、女同士が繋がる為の、前後両方に突き出した玩具がある訳よ。

 一方をまだ橘花も使ってない部分に入れて、もう一方を相手に突っ込むのね。

 

 でもさ、橘花は『前』は使えないだろ?

 そこでちょっと改造して(自作だしな!)、後ろと後ろで8585できるようにだな。

 

 

「わ、私が……橘花を、だと…!?」

 

「(あ、そこで橘花「に」ではなく「を」なんですね)」

 

 

 という事は、この後の流れは……。

 橘花とアイコンタクト。

 心が繋がるって素晴らしいね!

 体も連結するしね!

 

 

「つまり姉様は痛かったりしないんですね!

 私は大丈夫です、それで姉様が強くなって、増して私の霊力も強くなるなら万々歳です!」

 

 

 だよねー!

 桜花、何か問題ある?

 

 

「わ、わたしは……わたしは…!」

 

「ね・え・さ・ま?」(橘花=サンの本性全開の笑み)

 

「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 以下、ダイジェストな感じでお送りしまーす。

 エロっぽい表現があっても、エロじゃないからね!

 あくまで声が出るマッサージと儀式だよ!

 

 

 でも誰かが想像するのは止めないよ!

 

 

 

 

 

 

「き、橘花…本当にやるのか?」

 

「姉様が無事に帰ってくる為ですから。

 私を押し倒して唇を奪った時点で、覚悟を決めてくださいませ。

 …ご指導、お願いいたします」

 

 

 おkおk。

 まずはだな…。

 

 

「……な、何!?

 そんな事をするのか!?

 

 ………実演!?」

 

「はい、橘花も大好きですよ。

 気持ちいいし興奮します。

 その分、儀式の効果も上がりますし」

 

「お……おおお、橘花…そんな、そんな…事を…そんな顔を…」

 

「では、失礼して…姉様、よく見ていてくださいね?」

 

 ほーれ、橘花が大好きなオモチャ(生)だぞー。

 

 

「ああ……う、うぁぁぁ…」

 

「んふっ……姉様?

 どうですか、橘花がこんな事をするのは。

 衝撃的ですか?

 ふふ…私だって、いつまでも子供じゃありません。

 

 姉様も同じ事をするんですよ?

 ふふふ……でも、今は……ねぇ?」

 

 

 橘花と繋がる方が優先だもんなー?

 という訳で、ホレ。

 これを使います。

 

 

「こ、これが件の道具か…。

 おかしな形をしているな……こ…こうやってつける、のか?

 くっ……橘花の目の前で、弄る事になんて…」

 

「自分から付けるなんて、積極的ですね、姉様。

 でも、ちゃんと解しておかないと裂けてしまいます。

 ちゃんと弄ってくださいね?

 私達、じっくり見ていますから」

 

「うっ…く、きつい……ん…」

 

「うわぁ、あんなに広がって…あれなら、すぐにでも受け入れられるんじゃないですか?」

 

 

 いやぁ、入れるだけじゃまだまだ。

 前後運動に耐えられるかどうかはまた別の話だしね。

 

 

「そうですね。

 ですけど、私は大丈夫ですよ。

 …貴方の方が、ずっと逞しくて、昂ぶる形をしていますし」

 

 

 そそるコト言ってくれるね。

 ま、散々好き勝手やったもんなー。

 で、桜花が無事に装備完了したんで、ここからが本番ですな。

 

 さて、俺の儀式のやり方だと、まずお互いが繋がって、そして霊力を循環させてもらう事になります。

 俺は言うまでもないし、橘花もいい加減慣れてきてはいるんだが、いかんせん橘花は基本的に受けの側だ。

 という訳で、まずは桜花と橘花でやってもらって、俺はそのサポートをする形にしようと思う。

 

 さぁ、橘花。

 

 

「はい、承りました。

 …さぁ、姉様。

 『本番』の時間ですよ?」(後ろを「くぱぁ」しています)

 

「あ……あ、ああああ!

 橘花!

 橘花、橘花橘花!

 あぁ、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 おお、桜花=サン暴走!

 夢中で橘花を押し倒して、なれない手付きで組体操しようとしています!

 

 

「ふふ…姉様、可愛い…。

 ほら、ここです、ここですよ…落ち着いて……んっ…」

 

「あ、あぁ、橘花を、橘花を、私が……私がこんな風に…」

 

「ほら、姉様、ちゃんと動かないと効果がありません。

 ちょっとくらい乱暴にしても、橘花は大丈夫です。

 ね?

 ほらぁ…」

 

「う、うわっ、うご、動く!?

 動いて…あっ、ああっ、あ!」

 

 

 

 …うーむ、スゴイな。

 橘花が受けで、桜花が攻めで、実際桜花が動いているのに、追い詰められているのは桜花の方だ。

 橘花が尻に力を入れる度に、道具が動いて桜花が驚いているようだ。

 

 と言うか、そもそも余裕が全然違うなぁ。

 桜花の様相は、童貞が妖艶な娼婦を目の前にした…どころじゃない。

 なんつーか砂漠で遭難して死にそうになってる人が、目の前にキンキンに冷えた水を突きつけられたかのようながっつきようだ。

 実際、動きだってテクニックも相手の様子を見るもなく、ただ衝動が赴くままに必死で腰を動かしているだけだ。

 

 それに対して橘花の方は……うーん、こっちもスゲェ。

 余裕の笑みだ。

 乱暴に腰を叩き付けられているのに、痛みを覚えた様子も一切なく、「もっと激しくしていいのよ?」と言わんばかりの笑みを浮かべている。

 …受け手なのに、明らかに桜花を貪っている…。

 ある意味オカルト版真言立川流の女性バージョンだ。

 

 

 …ま、桜花も夢中で動いて、何度か達した(初めてだってのに、『何度か』にできる辺りが血筋だ)し。

 橘花は一度も達してないようだけど、初めての桜花にそこまで期待できる訳もなし。

 

 さて、俺もそろそろ動くかな。

 橘花ー、そのまま締め付けとけよー。

 

 

「はい…ああ、姉様、顔を見せてください。

 そんなに泣いてしまって……」

 

「だって橘花ぁ…すまない、すまない……。

 こんな、こんな事をしてしまって…こんな事まで出来るようにされてしまって…」

 

「いいじゃないですか。

 それが私と姉様の願いだったんです…。

 さぁ、もう一つの願いが今から叶います。

 ですから姉様、そのお顔を私に見せてください。

 いつもは凛々しいそのお顔が、どんな風に歪むのか…私に見せてください」

 

「え…? あ……」

 

 

 橘花が桜花の腰を掴んで動きを止める。

 筋力では比較にならないけど、儀式の習熟度じゃ橘花が明らかに上だから、この程度なら簡単だろう。

 さて…。

 

 

 それでは俺も、サポートを通り越して『本番』、いきまーす!

 

 

「…!

 ま、まて、私は初めてっ…………~~~!!!」

 

「ああ、姉様…苦しそうで嬉しそうで、涙まで流して…そんなに気持ちいいんですか?」

 

「っ、か、は…!」

 

「羨ましいです。

 私は結界術の調整が終わるまで、こっちはできませんから…。

 もう、姉様ったら初めてなのに、こっちを体験できるなんて」

 

 

 初めて儀式に挑戦させたのに、俺⇒桜花⇔橘花で二本プレイだからな。

 ちょっと矢印が前後するが。

 だって桜花と橘花は尻と尻で向かい合ってて、俺と桜花はナニと前だから。

 桜花の股の間で矢印がMH…じゃなかった、クロスしますね!

 

 そりゃエライ事になってるわ。

 と言うか橘花、普通はこっちを使う方が先だからな。

 

 

 だがどっちにしろ容赦せん。

 霊力がミッチリレベルアップするように、ねちっこくビクンビクンさせて儀式してくれるわー!

 

 

 

 

 

 …とまぁ、そんな感じの儀式でした。

 これ以上書くとR-15じゃ抑え切れそうにないんでここまで。

 …今更?

 

 一応繰り返し(棒読みで)言っとくが、あくまでマッサージと儀式だからな!

 実際、卑猥な言葉や表現は少量しか使ってないからな!

 

 

 

 

 

黄昏月NTD3DSの充電は充分か?日

 

 

 桜花も隅から隅まで…前も後ろも上も堪能して、準備オッケー。

 桜花の足腰が立たない?

 いやいや、そこは仮にも房中術のオカルト版真言立川流。

 気を漏らして疲労困憊です、みたいな事にもならないし、戦うのだって余裕です。

 

 …今まで何度か制御に失敗して、足腰立たなくした事があるのは否定できんが。

 

 まーとにかく、桜花は体の一部が裂けた痛みも治まっており、更に霊力も今までにない程漲って、ついでにそのおかげかミタマがレベルアップしたらしく、樒さんが「ようやく新しい術が試せる…」と喜んでいました。

 どうやら、ゲームで言う討鬼伝極の新要素に到達したようです。

 ミタマの力をより引き出し、更にある程度操作もできるようになったって言ってたし。

 

 そのおかげか、決戦の地へ向かう桜花の奮戦ぶりは目覚しいものだった。

 立ち塞がったミズチメを、脳天から一刀両断してのけた。

 うーむ、3人がかりでの房中術の結果もあるだろうが…スゲェな。

 

 いつにも増して威勢がよく、無駄な力みや気負いも無い。

 昨日の泣きながら腰を振っていた姿がウソみたいだ。

 

 

 …うーん、しかし昨日のアレは……なんだ、その、桜花は桜花でまた違ったアレな本性があったらしいと言うか…いや、これはこの戦いに勝って、祝杯に再び3P、いや4Pする時まで書かないでおこう。

 盛大に脱線する未来しか見えないし。

 ただ一つ言える事は、やっぱ桜花も残念な子だったって事だな…。

 

 

 まぁ、その残念さは、戦の真っ只中である今は微塵も見えない状態なんだが。

 ちなみに現在、既に塔が遠目に見えるところまで来ています。

 やはりまだ赤い光は灯っていない。

 

 つまりまだ余裕があるという事なので、開戦前に少し体を休め、準備をしようって事で小休止中です。

 ま、ここも異界の中には違いないから、2~3分程度しか休憩できないけどね。

 休みすぎて行動限界時間が迫ってくるとかマヌケ話にも程がある。

 

 

 …なんて事を書いてたら、そろそろ休憩も終わりのようだ。

 さて、一丁やったりますかね!

 

 

 

 

 

黄昏月ところで、男と女、どっちでプレイする?日

 

 

 来た、見た、勝った!

 

 …というのは流石に冗談だが、ちょいと拍子抜けしたのは事実だな。

 だって出てきたの、トコヨノキミ一体だけだったし。

 強力な鬼だった事は事実だが、そこは数の力で押し切った。

 ゲームと違って、4人の縛りがある訳じゃないからな。

 鬼は人間相手と違って体が大きい分、5~6人で一斉に攻撃しても同士討ちするリスクは少ない。

 

 まぁ、ハンターとしては4人以上のパーティで行くと誰か死ぬってジンクスもあるが……。

 少なくとも、今回は全員無事だった。

 

 

 幸いと言うべきか、トコヨノキミ戦において懸念していた、初期討鬼伝トコヨノキミ名物・耐久マラソンも無かったし、羽が生えた時なんぞ、富獄の兄貴が掟破りの飛び乗り攻撃かましやがった。

 それはモンハン3rd…いや、4だっけ…?の技ですよ富獄=のANIKI!

 

 背中の羽に捕まって、空を翔るトコヨノキミの頭をこれでもかって程ド突くは、叩き落されそうになったら今度は鬼千切で羽をぶっ壊して逆に叩き落し、 自分はちゃっかり飛び降りて受身までとっていた。

 ようやるわ…いや、前ループとかだと俺も割りと好き勝手やってたが。

 

 で、トコヨノキミを潰した後は、問題の塔だったが…まだ赤い光が半分ちょっとしか溜まっていなかった。

 だからトコヨノキミしか出てこなかったんだろうか?

 いや、確かゲームだと赤い光が空に昇って、そこからトコヨノキミが出てきてたような…。

 

 まぁいいか。

 とにかく、塔の光だが、調べてみたところ、鬼の霊力やら瘴気やらの塊である事が分かった。

 つまり時間はかかるが鬼祓いで浄化できるという事だ。

 

 ここでちょっと仮設を立ててみた。

 ゲームでは数多のミタマを宿したムスヒノキミが、英霊達の力を持ってオオマガトキを防ぐ訳だが…どんなに強い結びつきがあったおして、それだけでオオマガトキが防げるとは思えない。 

 精神力が幾ら強くたって、それだけでサイコキシネスが使える訳じゃないのと同じ理屈だ。

 

 が、ゲームではそれで防いでいた。

 つまり、結ばれたミタマ達が、何かしらの力を発揮して、それがオオマガトキを防ぐ鍵だった、という事だ。

 では、その力とは何か?

 

 単純極まりない発想だが、要するにそれは鬼祓いなのではないか、と思うのだ。

 これはうろ覚えだが、このループに放り込まれる前、討鬼伝極の追加要素で、新必殺技みたいなのがあった。

 プレイヤーとNPCの力を束ねて放つ…新鬼千切り? いや、鬼千切…えーと、真だか秘だかそんな感じのが。

 

 事実、俺も会得はしてないが、霊山の秘術書でそんなのを見た気がする。

 …その直後にオカルト版真言立川流の指南書を見つけたんで、あんまり覚えてないんだが。

 

 とにかく、複数人の霊力を共鳴・増幅させて、既存の技よりも遥かに威力の高い効果を出す、という理論ではあったと思う。

 攻撃にそれが使えるなら、鬼祓いに使えたっておかしくない。

 

 つまり、ムスヒノキミを中心とし、各英霊達が霊力を共鳴させ、それを使って瘴気やら何やらを一掃した…というのが、ムスヒノキミの真実ではないか、と思うのだ。

 正直、検証のしようがないが…少なくとも、霊力を共鳴させて鬼祓いの効果を高めるというのは効果があったようだ。

 その場に居た数人で鬼祓いを試してみた結果、単独でやるよりも遥かに高い効果を発揮した。

 それを使って、塔を浄化してきたのだ。

 

 …ある程度浄化したら、塔を形作る為の力が足りなくなってしまったらしくて、崩壊崩落して死に掛けたけども。

 

 

 

 まぁ、何はともあれ、GE無印に続いて、討鬼伝無印のストーリーも一応クリアだ。

 今後の討鬼伝極のストーリーについては全く情報が無いんで、今後どうなるか油断は禁物だが…。

 

 

 

 とりあえず、桜花と橘花と樒さんで、休日に集まってリ乱パの予定である。

 …なんか微妙に危険な表現になってしまったので明記しておくが、リアル大乱闘スマブラ的なパーティ(内容は鬼ごっこ)の略だからな。

 

 




投稿してなかった外伝を発見したんで、ついでにポーイ。
MHX発売記念ってコトで。



 いつからだろうか。
 長い夢を見ていた…いや、長く眠っていたような気がする。
 確かに眠ってはいるんだろう、これは夢なのだから。

 文字通り、まどろんでいるような生活を、俺は夢の中で延々と続けていた。
 周囲に何も無い、獣以外は誰もいない一軒家で、木々から木の実や果物を収穫し、野菜を採り、周囲の獣から日々の糧を得る夢。
 何度も何度も同じ事を繰り返し、日を数える事を止めてどれだけ経ったのか。
 たった一度の夢の中とは思えない程、その退屈で穏やかで変化の無い暮らしは続いていた。


 妙な安らぎに包まれ、時に退屈に身を浸し……心の何処かに奇妙な熱を持て余し始めた頃、ふと気が付いた。
 そうだ、この家の前にはポストがある。
 ポストというのは、何処かから手紙が送られてきた時の為にあるものだ。
 当然ながら、つまりは手紙を送る人が居るという事で。
 その人は、ココではない何処かに住んでいる。


 一度気になりだしたら、自分でも意外な程に動きはスムーズだった。
 旅支度を整え、家の事を同居人に任せ……はて、俺に同居人なんて居ただろうか? 一人暮らしだったような気がするんだが……俺はまだ見ぬ土地と人を求めて旅立った。

 昨日までは、どれだけ目を凝らしても霞かかって見えなかった道の先にある、僅かに見える町…ドミナの街というらしい…を目指して。





 慣れない旅の筈だったが、苦しくはなかった。
 むしろ、本来居るべき場所に戻ってきたかのように、特に野宿の際は異様なくらいに体がスムーズに動いた。

 時には見つけた洞窟に踏み入ってみたり、道中で盗賊に襲われたりと、危ない事にも随分と首を突っ込んだものだった。
 無論、傷を負った事も死に掛けた事も、一度や二度ではない。

 だが、旅をやめようとは思わなかった。
 例えこれが夢の中であっても。
 ずっと心の中で持て余されていた奇妙な熱……恐らくは冒険心、さもなくば狩魂……を晴らすには、こうするしかないと思っていたのだ。
 事実、旅をしている間、或いは危険に晒されている間は、この熱を持て余す事だけはなかったのだ。



 さて、旅の途中、妙に大きな出来事に巻き込まれた。
 代表的な物を上げれば…ルシェメイアとか言う、噂に聞く(と言うか知識に微妙に残っている)ラヴィエンテを連想させるようなデカい蛇の復活とか。
 奈落から復活しようとしたドラゴンを張り倒したりとか。
 面倒くさい種族…じゃなかった、ジュミ族の復活とか。



 まぁ、大体関係者全員を張り倒して終わったんだけどね。


 アーウィンもエスカデもダナエもマチルダも、瑠璃も真珠姫もレディパールもルーベンスもエメロードもディアナも蛍姫も宝石王もアレクサンドルも、ラルクもシエラもティアマットもメガロードもジャジャラもヴァディスも、ニキータボンボヤジワッツバーンズバドコロナ、ヌヌザック草人…。


 今思い出すと、「あれ、こいつブッ飛ばす必要なかったんじゃね」「絵的に老人虐待か幼女虐待なんじゃ」と思われるシーンも…。
 まぁいいや、とりあえず全員張り倒したら、とりあえず丸く収まったんだし。

 特にアーウィンの一件の関係者は、念入りに張り倒して余計な揉め事を起こさせない領域まで持っていったしな。
 元がガチ殺し合いする幼馴染という非常に面倒くさい関係だったんで、再起不能(リタイヤ)寸前まで張り倒してようやくだよ。
 おかげで全員死にはしなかったが、ちょっと俺に対してトラウマが出来てしまったっぽい。
 まぁいいや。
 あの連中は、散々要らん騒動に巻き込んでくれやがったし。
 しかもドロドロの昼ドラみたいな話に。
 ちゅーか、俺に負けたのだって身内間で散々削りあいやってたからだ。
 足の引っ張り合いほど醜いものは無いです。

 スカッとしない冒険とか嫌いだよ、全く。


 大きな出来事はそれくらいだったんだが、そこまでデカいトラブルじゃなくても、話の種は色々ある。
 ハーピーが引きこもったと思ったら、三流詩人の歌で何故か出てきたり、空に火の玉を打ち上げるとか聞いて見に行ったら花火だったり。

 ま、色々な事に首を突っ込んでいたんだが、その時に幾つかオモチャのような物を貰う事があった。
 アーティファクトというらしいが、使い方はよく分からない。
 というかガラクタにしか見えない。

 何でも、古の世界の記憶を封じたシロモノで、持つ者のイメージが具現化するとかナントカ。
 まぁ、確かにじーっと見てるとナニやら妙なイメージが沸いて来て、ふと気が付けば道の先にそれっぽい場所が出来てるんだが。
 昔はこのアーティファクトを使って大戦争があったらしい。
 ゴミ山の人形がそう言っていた。


 でもやっぱり使い方が分からないからガラクタにしかならない。
 とりあえず、時々ホームに帰って、そこにある箱庭に配置している。

 さて、そんなこんなで行く先行く先で揉め事に突き当たり、関係者一同を善悪関係者考えず片っ端から張り倒していく珍道中だった訳だが(そしてその関係者が度々ホームを訪れているようなのだが)、この度、またしても妙な一件にブチ当たった。
 ぶっちゃけ、ホームに帰って近場の庭で、草人と一緒に昼寝してたら、妙な夢を見ただけなんだが。


 真名の木?がどうのこうの、って夢だった。
 別にその夢がどうこうって訳じゃないんだけど、今までこの夢の中で関わってきた奴、片っ端から張り倒してきたしなー。
 いやぁ、七賢人(一人死んで6人だったらしいけど)はガチで強かった……あらゆる条件整えたのに、よく分からん理論一つでどんな優位もひっくり返されたからな。
 きっと裸エプロン先輩のオールフィクションとか、あんな感じなんだろう。
 勝つには勝ったけど、明らかに勝ちを譲ってもらったと言うか、「はい合格点だよ」みたいな感じだったし。

 とにかく、とりあえずあそこにもナニやら張り倒す対象が居ると見た。
 誰だか知らんが、明日はあの木を登って、誰だか知らんが我が必殺技の餌食になってもらおうかねぃ。



聖剣伝説LOM Side:Travel
第55話の外伝8と対になっています。


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106話

アサシンクリード、一通りクリア。
後はコンプ要素かな。

MHX、ノロノロと進行中。
知らない武器の操虫昆とかチャージアックスとか試してみてましたが…正直、よく分からりません。
操虫昆は虫を敵に取り付かせ、帰ってこさせたらパワーアップ、チャージアックスは攻撃をガードポイントで受けて反撃、というのは分かるんですが…。
…これに加えてスタイルによっても操作が違うとなれば、無理に全般を使おうとするのは悪手ですね。
暫くは、太刀・大剣のストライカー・エリアルをメインにやってみようかと思います。
ロマン的には太刀のブシドーなんだけどな、組み合わせの語呂的に…玄人向けみたいだし…。


黄昏月株という時が妹に見えてしまう、という格言がある日

 

 

 さて、無印クリアしたしこれからどうすんべぇ、と考えていたら、暦が訪ねてきた。

 相談した事があるとの事。

 そういや、この子がウタカタにきても結局あんまり変わらなかったなー、などと考えたが、それはともかく。

 

 最初になにやら礼と恨み節を言われた。

 ミズチメの術にかかった時の事らしい。

 あの一件がどう影響したのやら、この世界でも一歩一歩しっかりと歩いていこうと思えるようになったらしい。

 ただ、あの時の呪詛が余程イメージに残ったのか、今でも時々悪夢を見るそうだが。

 

 それはそれとして、暦の相談は、凛音さんから受けた密命…即ち、内通者の炙りだしについてだった。

 そういやそんな話もあったな。

 すっかり忘れてたわ。

 

 結局、ウタカタの里に来てから約3ヶ月が過ぎ、その間にえらく大事があったものだが、結局内通者とやらは見つかっていない。

 強いて言うなら秋水が陰陽寮の人間だが、これは凛音さんも知っているので除外。

 暦自身、ウタカタの里の人間達を強く信頼・信用するようになっているので、どうにも内通者が居るとは思えなくなっていると言う。

 

 まぁ、それは俺も同感だ。

 主要メンバー達は言うに及ばず。

 戦う力の無い一般人も含めて、内通者が居るとは思えない。

 スパイの類の役目は「まさかあの人が」と思われる事が基本だとは言うが…。

 

 

 結局、今回も虚海は出てこなかったし。

 千歳にも会えないし…。

 

 

 だがまぁ、どっちにしろシラヌイから「戻って来い」とか「どうなってる?」とかの手紙が来た訳でもなし。

 暫くはこのまま、里に居るしかないんじゃね?

 

 

 …「やはりそうなるか…」と納得していた。

 実際他の結論は無いね。

 …討鬼伝の続編の事を考えると、この何ヵ月後かにウタカタの里でもう一騒動起こる可能性は非常に高い。

 そこで新しい誰かが関わってくる可能性もある。

 ちゅーか、確か新キャラ云々の話もあったしね。

 

 しかし、新キャラの誰かが内通者だとして、それがどういう末路を辿るかは微妙だな。

 狩りに連れて行けるNPCキャラだったとしたら、形はどうあれ最終的に死ぬ事は…いや、ジュリウスやロミオみたいな例だってあるし…そもそもリンドウさんだって、バーストじゃない無印時代はリタイヤしたままだったし…。

 と言うか追憶のジュリウスは居たのに追憶のロミオが居なかったのはどういう訳だゴルァ。

 

 

 …話が逸れた。

 とにもかくにも、暦も暫くはウタカタで戦うつもりだそうだ。

 既に大和のお頭にも許可は貰っている。

 凛音さんが何か言ってきても、そっちで対処してくれるそうな。

 …「あいつの事だから、多分何も言って来ないとは思うがな」とも言っていたそうだが。

 ………それって、暦を見放してるって事にならねーか?

 

 うーむ、この期に及んでも、凛音さんの考えが分からない。

 

 

 

 

黄昏月人参をうっかり人妻と見間違えてしまった日

 

 

 ゲームシナリオをクリアしても油断は禁物。

 GE世界じゃストーリーとはまるで関係ないところでオダブツしたからな。

 

 現在、一番死因として懸念されている女性関係は、まぁ…問題ない。

 と言うのも、先日のリ乱パの後の全員揃ってのお遊びで、桜花が想像以上にアレな子だったことが判明したからだ。

 判明してしまったからだ。

 

 

 うーん、なんて表現すればいいんだろうか…。

 一言で言えば……ね、寝取られ趣味?

 最初の時と同じように、橘花と繋がらせてみたんだが…例によって必死で腰を使っていたが、橘花はまだまだ余裕。

 それを見てうわ言を繰り返すたびに、興奮しているように見えたんで、まさかと思って橘花に「俺のとどっちがいい?」って聞いてみたんだが。

 まぁ、返答は言うまでもないだろう。

 で、それを受けた桜花がポロポロ涙を零しながら、ビクンビクンと…。

 

 

 相乗効果かなぁ…。

 本当なら大事で綺麗で可愛い橘花。

 それが俺に汚されきっている。

 そして他ならぬ自分が橘花と繋がって汚そうとしているけど、自分程度じゃ上書きできないくらい俺に染め上げられている。

 それがわかっているのに、自分に出来る事は腰を振るだけ。

 でも腰を振れば振る程、自分ではどうにもできないと突きつけられ、その惨めさが興奮に繋がっている…ようだ。

 

 

 なんでそんなに興奮しているか、分かるのかって?

 まぁ、確かに顔だけ見ればひどくグシャグシャで、とても興奮しているようには見えないだろうが…その、締め付けとか突っ込んだときの具合とかでね、一発で分かります。

 明らかに感触とか熱さ違うもの。

 そのまま続けてちょっと善がらせてやれば、いい声で鳴き始めるし。

 

 

 姉妹レズ×尻狂い×寝取られ趣味とか、業が深すぎる…橘花の方がまだマシ…いや似たようなもんか。

 橘花を解き放ったのは俺だけど、桜花のこの性癖を育てた覚えは無いぞ。

 いや、尻に関してはともかく。

 ……でも名前を呼びながらの自慰とかも教えたし……もしかしなくてもこれ、俺のせいなんだろうか…。

 

 まぁ、切っ掛けはどうあれ、桜花はこの件に関しては牙を折られたも同然だ。

 このまま上手く手綱を取り続ければ、公認三股生活を維持できるだろう。

 オカルト版真言立川流の効果もあってどんどん霊力も強くなっているし、討鬼伝極への準備にもなる。

 生活の潤いもバッチリ。

 いい事尽くしである。

 

 強いて不安材料を挙げるとするなら、これを知った里の男衆が嫉妬の心は父心状態になったり、爛れた関係を持っている事に対して女性陣から女の敵認定されたりしないかって事だが。

 ……でも、モノノフ達の風習だと、妾とかも残ってるみたいなんだよな。

 正式にそっちにできればいいんだが。

 

 …というか、那木さんもこっち側に引っ張りこめるような気がしてきた。

 那木とイチャコラしていたループで聞いたが、かつては許婚が居たが、既に命を落とし、巨乳手付かず奥手未亡人モノノフとなっている。

 そして婚期の遅れも気にしている。(モノノフ基準なので、世間一般ではまだまだ若いが)

 

 言っちゃ何だが喪…いや、いつだったか似たような事考えて、記憶が飛んだよーな気がするし、余計な事は書くまい。

 とにかく、経験無いのを気にしている節もあったし、肉体関係の興味で言えば釣れるんじゃないかなーと思うんだよ。

 

 …とは言え、そうそうモーションはかけられんな。

 これ以上見境が無いと思われると、里の和も乱れそうだし、それ以前に射られる気がする。

 と言うか実際浮気がバレて射られたし。

 

 

 ま、今回の巨乳枠は樒さんにお任せって事で。

 

 

 

黄昏月ゆかりをスーパーで買う時、某BBAだったら全部買い占めるのになと思った日

 

 

 秋水からモノノフ全員にお呼びがかかった。

 今回ループじゃ影薄いんだよな、コイツ…。

 

 それはともかく、秋水の用件は2つ。

 1つはオオマガトキの塔を浄化した際に使った、複数人での同時鬼祓いについて。

 もう一つは、鬼を誘き寄せる方法について。

 

 前者については、どうやらこれを用いた秘術の文献を発見したらしい。

 その名も鬼千切・極。

 複数人の霊力を同期・同調させ、一気に敵に叩き付ける。

 

 …名前からして、討鬼伝極の新要素だな。

 まぁ、覚えておいて損は無い。

 複数人の霊力使いが必要なため、討鬼伝世界でしか使えそうにないのがネックだが。

 

 また、これを鬼祓いに用いる為の術式は、現在研究中だという。

 

 

 そして鬼を誘き寄せる方法については、異界で見つけた怪しげな素材を使い、鬼を里の近くにまで誘き寄せるのだと言う。

 里の近くと言っても、暴れても里に被害が無く、かつ結界の内側(と言うかギリギリ影響下)なので瘴気もすぐに浄化される場所だ。

 要するに、こっちの土俵に引きずり込んで戦う訳ね。

 そして鬼は結界の内側に侵入するだけでもかなりの消耗を強いられるので、自然とその力も弱まっている、と。

 

 なるほどねー、よく考えられてら。

 実験してみた秋水が死に掛けたらしいが…そーいう面白そうな事をするなら、俺も誘えよ!

 

 と言うか実用化はいつだ!

 今回のループじゃ大人しくしてたから、狩欲が溜まってんだよぉぉぉ!!!

 

 

 

 

 

 てな訳で、俺の一存で早速試してみました。

 暦からは「もう少しテストしてからの方がいいんじゃないか?」と言われたが、テストするにしたって被験者が必要だろう。

 俺が被験者になるから、まー休んでなって。

 

 

 

 

 

 

 結果。

 うーん、まぁ…腹6分目、くらいかな?

 一体一体…時々2体同時に来たけど…現れる鬼達は、確かに秋水が言っていたように随分と弱体化していた。

 ぶっちゃけ物足りん。

 だから数をこなして狩欲を満足させようとしたんだが…うーん、やっぱイマイチだな。

 

 

 討伐数?

 さぁ…2桁後半を過ぎた辺りから、数えるの止めたし。

 遠くから実験経過観察という事で見ていた秋水から、「もうその辺にしておいてください」とストップが入った。

 ぬぅ、まだまだ行けるのに。

 備え付けられていた地祇石もまだ使ってないと言うのに。

 

 

 でもこの術はいい術だ…。

 弱体化しすぎてロクに素材が取れないのが残念だが、シミュレーターの類だと思えば充分だ。

 是非とも次のループにも持って行きたい。

 

 俺の趣味だけではない、戦略的な事にも使えそうだ。

 鬼達の大攻勢があった時、この術があれば一箇所に多くの鬼を集める事も出来るだろう。

 一番厄介な、数の力に任せての浸透戦術を妨害する事が出来る。

 大型鬼まで集まったらそれはそれで厄介だけど、大型と言っても時期的に考えれば所詮は下位の鬼だ。

 最悪、集めた火薬で纏めて吹っ飛ばしてしまえ。

 

 

 という訳で、秋水、これどうやってやるんだ?

 異界の中で見つけた素材って言ったが、ウタカタ近辺の異界でも取れるか?

 

 

 

 

 

 

 

 …術を教えてもらったはいいが、大和のお頭から無断で使うなと禁止令が出されてしまった。

 まぁ、強弱はどうあれ、鬼を結界内に呼び込むのは変わらないしな。

 それに、どうやら狩った量が多すぎたらしい。

 浄化しきれなかった鬼達の瘴気が結界内に染み付くところだったとか。

 

 便利な術でも程度を考えて使わにゃならんな。

 ただでさえ、ゲーム無印のシナリオが終了して、これからどうなるか分からない状態なのだ。

 一人で好き勝手狩りをするなんて、いつちょっとした失敗から死亡のコンボが発生するか分からない。

 狩欲も満足とはいかないが、一応満たした事だし、暫くゆっくりしていってね!するとしましょうか。

 

 

 

追記

 

 秋水から無限討伐任務(と名付けられたらしい)の報酬だと言って、えらく大量のハクを貰った。

 こんなに渡して財政とか大丈夫なのかと思ったが、俺が狩った鬼達の素材(殆どが塵芥同然に見えたが)がそれ以上の収入源になるらしい。

 新種の鬼まで発見された、とか言ってたし。

 

 …そー言われてみれば、ツチカツギだと思ってたが、キンキラキンに全然さりげなくない亜種が居たような…。

 飛び跳ねる度に貴金属っぽい何かを撒き散らしてたんで、とりあえず回収してから甲羅ごとカチ割っておいたけど。

 

 

 

 

黄昏月エロは単品でも力を発揮する。だが日常と絡ませるとエロスになる日

 

 

 那木さんからキンキラキンのツチカツギモドキについて聞かれた。

 黄金狢という正式名称が決まったそうだが…狢…ムジナ?

 ムジナって狸だろ?

 いや、アナグマだったか?

 狩った時はテンション上がっててよく覚えてないけど、どう見ても亀だったような。

 

 誰が名付けたかは知らんけど、とりあえず那木さんの興味は、鬼そのものよりも撒き散らされる貴金属にあるようだった。

 確かに宝石とかもばら撒いてたなぁ。

 女性のサガというべきか、キラキラした物が好きらしい。

 そーいや、先日は「かれいどすこぉぷなる物で、宝石が増えると聞きました」とか言って作ろうとしてたけど……まぁ、結果は言うまでもないな。

 それでも綺麗だったから、割と落ち込んではいなかったけど。

 

 

 

 それはそれとして、モノノフ全員でちょっとした会議が開かれた。

 議題は里の風紀の乱れ…というのは冗談で、鬼達の今後の動きとそれにどう対応するか、だ。

 

 オオマガトキを防ぎはしたが、それで鬼との戦いは終わりではない。

 と言うか無限討伐任務を使ってでも戦うから終わらせられない。

 

 

 だが、ゴウエンマを筆頭とした鬼の一大勢力が潰れたのも事実だ。

 暫くは向こうも(組織だって行動するつもりがあるなら)再編成にかかりきりになるだろう。

 そう易々と集結させるつもりはないが、仮に集結したとして…次の鬼達は、何を狙うだろうか。

 

 最終的な目的は、再度オオマガトキを開く事だとして、そこに至るまでに何をするか。

 軍勢での戦いは、俺達に叩き潰された。

 

 次は何か別の手を打ってくるだろう。

 なら、それは一体何か?

 色々紛糾したが、大体の意見は次の通りだ。

 

 

桜花の考え:結界をすり抜けてウタカタに入ってくる方法を探す。

那木さんの知識:そもそも鬼の性質では…(話が長くなるからと止められた)

息吹の意見:亜種などの種類を増やそうとする。

初穂の予想:どの鬼が指揮官になるかで内輪揉め。

速鳥の見解:ウタカタに発見されないよう、隠密に事を成そうとする。

富獄の兄貴の脳筋:自分達をより強力にしようとする。

暦の想像:仲間を増やそうとする。

大和のお頭の勘:各地から鬼を呼び集めようとする。

樒さんの貯蓄:黄金狢もっと来い。

俺のゲーム脳:黒幕が現れる。

秋水の考察:異界を自分達の有利なように変えようとする。

橘花の懸念:えっと……た、食べられるものを探す?(意訳:回復に使えるような道具を探そうとする、かな?)

木綿ちゃんの心配:大型鬼が単独で行動しなくなる・危険になると仲間を呼ぶようになる。

 

 

 ぬぅ、なんか性格が出てるような気がするな。

 まぁ、どう考えたって想像でしかない。

 今の鬼達の状態の情報を集めている訳でもないので、ありそうな事を列挙した感じだ。

 

 とは言え、当面の方針は決まった。

 上記の中で一番厄介なのは、速鳥が言う隠密だ。

 影で勢力を蓄えられ、再度攻勢をかけられるのが一番危険だ。

 

 そして影で、と言うのは隠れてという意味ではなく、俺達が普段は踏み込まない土地でやればいい。

 例えば、ウタカタとシラヌイの里の間付近…或いは、既に滅んだ里の近辺などで。

 

 なので、暫くの間は哨戒をもう少し離れた場所まで行う。

 鬼を倒すだけでなく、どこでどのような鬼を倒したのか記録し、分布を調べてみよう、という事になった。

 尚、これについては最低限3人以上のチームで行う事。

 二番目に怖いのが、調査に出て孤立した所を待ち伏せ・狙い撃ちされる事だからな。

 

 

 

黄昏月疲れてはいない。だが溜まっている気がする日

 

 

 とりあえず足を伸ばして巡回範囲を伸ばしてみたものの、やっぱ何も無いな。

 と言うより、何処に何があるのか把握するのが先決か。

 シラヌイからウタカタに来る時も、必要最低限しか地理把握はしてなかったからな。

 

 まーとりあえず、暫くはウタカタの北を中心に調査を進めようと思う。

 理由?

 

 …気温が下がってるからな。

 ウタカタ近辺じゃ取れにくい食材も採れるんだよ。

 ウタカタは比較的暖かいからな…過ごしやすくていい事だが。

 

 あと久しぶりにちょっと雪が見たくなった。

 別に特に意味は無いが。

 

 

 

 そういや、結局虚海はどうしているんだろうか。

 秋水に何かあったら知らせてくれとは言っておいたが、どこまでアテになるやら。

 虚海の性格からして、秋水が協力者だったとしてもホイホイ情報を教えるとは思えない。

 うっかり漏らすところなら簡単に想像できるが。

 

 今考えると、虚海も千歳もかなりキャラが立ってたからなぁ…。

 やっぱり討鬼伝極の登場人物なんだろうか。

 だとしたら、今後千歳に再会できる確立もグッと上がりそうなものだ。

 まぁ、俺の事を知っている千歳ではないだろうけども。

 

 

黄昏月…訂正、やはり疲れている日

 

 巡回の傍ら、初穂から特訓しようという提案が出された。

 何事?と思ったが、聞いてみれば尤もな理由だった。

 

 以前の会議でもあったが、敵が今後増えるなり強力になるなりするなら、それを妨害するだけでなく、俺達の地力も上げていかなければならない。

 現在、モノノフの戦闘力には、富獄の兄貴が頭一つ飛びぬけている状態と言える。

 勿論単純に戦いに強いだけで鬼には勝てない。

 回復も必要だし、攻撃の手を止めて鬼祓いをする事だって必要だ。

 富獄の兄貴が強いのは、その辺の補助系能力を攻撃に全振りした結果だ。

 

 が、それを差し引いても、富獄の兄貴が強いといえる。

 先日、ダイマエンを討った時に会得した、無我の境地(?)のパワーアップが凄すぎる。

 最近は随分その扱いに慣れてきたらしく、連携をとりつつブースト状態を維持できるようになったようだ。

 

 

 …富獄の兄貴の強さは置いといて、実際強くなっておくに越した事は無い。

 パワーアップの道標も、幾つかはある。

 

 まず鬼千切・極の会得。

 それから鬼千切・極を鬼祓いに転化する、現在研究中の手法。

 桜花・橘花・樒さんが相手なら、更に霊力をブーストさせる事もできるだろう。

 

 

 他のメンバーは…どうするかな。

 地道に地力を上げていくのが修行の本道なんだろうが、鬼が相手って事を考えるとあんまり時間をかけていられない。

 あいつらの進化・変化の速度は、通常の生物の比じゃないからな。

 何か劇的なパワーアップ方法を考えないと…。

 

 ネタ技に走りたいところだが(速鳥にヘルタツマキ)、それを鬼にも有効な術に変えるのが非常に難しい。

 となると……他の世界の技を、討鬼伝式で再現できないか試してみるか?

 

 そういや、以前に他の世界の技をミックスして新しい戦闘スタイルを生み出そうとした事があったな。

 今でも使っている技はごく一部だけど…。

 

 専ら使っているのは、討鬼伝太刀×MH太刀方式だ。

 錬気と残心・残影心が異様に相性がいいんで。

 

 

 

 教えるだけ教えてみるか?

 実際に実現可能かはともかく、アイデアとして。

 俺だけが実現可能であっても意味無いしな…。

 

 

 

 

 

 幾つかアイデアを出してみた。

 …息吹がガンランススタイルを会得した。

 富獄の兄貴がオラオラVer.2を体得した。

 速鳥が擬似鬼人化(薬物によるので一日2回まで)を覚えてしまった。

 初穂が何かアイデア寄越せといってたが、鎖鎌なんざ類似武器が全然みつからねーんだよ。

 暦が気刃斬りを練習して「ヒーローの必殺技みたいだな」と言っていた。

 まぁ、確かに見栄え的にね。

 

 

 …会得したといっても、試してみたら出来た、というレベルであり、ここから鬼に通じるように鍛えていくのはまた別の話だ。

 今は形だけ再現してるようなものだしな。

 

 息吹のガンランススタイルは、霊力を槍の穂先に集め、突き出すと同時に解放する。

 刺突の強さが上がるだけでなく、ちゃんと出来ていれば突き刺さって内部でボン!も出切るようになりそうだが、まだそこまで上手く霊力を集められていない。

 これを鷹襲突にも応用しようとしているのだが、どうしても飛び上がる際に霊力が散ってしまうのが問題だ。

 どっちかと言うと、これは槍衾に応用した方がよさそうだ。

 敵が当たった瞬間に、カウンター気味にボン!な感じで。

 

 

 

 富獄の兄貴のオラオラVer.2は、GE世界のハンマーの扱いを元にしたものだ。

 俺もパール型神機を使うようになったのは、GE無印が終わって現在ループに至るまでの短い期間だったが、何とか再現できた。

 オラオラの前に一端霊力の溜めを作る(GE世界で言うブースト)、更に拳に霊力を注ぎ、それを一定方向に噴出し続ける事で拳の加速を増す(ブーストラッシュ)、足回りにも霊力を応用して打撃体勢のまま移動する(ブーストドライブ)、最後に残った霊力を全て注いだパンチ(ブースとインパクト)。

 従来のオラオラスタイルよりも溜めが必要なので起動に時間がかかり、更に消耗も激しいが、短時間に火力を集中するという意味では更なるパワーアップである。

 …ちゃんと制御できるようになれば、な。

 拳が無闇に加速するので体重移動が間に合わず、手打ち状態になってしまっているそうな。

 

 と言うか、富獄の兄貴ってば今でさえ頭一つ飛びぬけてるのに、これ以上強くなったらバランスが…まぁ崩れても問題ないな。

 これは現実なんだから、ゲームバランスなんぞ考えても仕方ない。

 

 

 速鳥に至っては…なんというか、いくら耐性をつけてるからって、その薬はヤバいだろ。

 平時であれば不法所持でタイーホされてもおかしくないぞ。

 いや、成分を確かめてみたら、確かにハンターが使ってる狂走薬とかに通じるものだったけどさ。

 …こうして考えると、ハンターも結構ヤバいもの使ってるな。

 

 暦の気刃斬りは…習得したばかりにしては上手く使えてるな。

 薙刀だから少々勝手は違うようだが、極端な話、エネルギーを篭めて威力を増してるだけだからな。

 目に見えない力を操るのは、ハンターよりもモノノフの領分だ。

 上手く出来るのも当然と言えば当然かもしれない。

 

 

 

 さて、こんな按配で皆レベルアップやスキルアップを目論んでいる訳だが、肝心の俺はどうするべきか。

 自分の技量が完成しているなんて思い上がる気はないが、実際ちゃんとした師匠が居ないから、手探りでやるしかないんだよなぁ…。

 現状、俺が知っている中で教えを仰げそうな相手と言えば…MH世界のレジェンドラスタの皆さんに、GE世界ではリンドウさんを初めとしたトップクラスの人たち。

 この世界だと……そうさな、大和のお頭…一線を引いてるから、どれだけ強いかは分からないけど…と、随分前に世話になった相馬さんくらいか。

 

 まぁ、これは強い=俺に教えられる、という図式で考えた場合だが。

 単純な殴り合いの技量なら富獄の兄貴に遠く及ばないし、剣の腕は桜花に一歩劣る。

 自分でない誰かを護る為の戦術なら、息吹に一日の長がある。

 生き延びる為の戦術や逃げ足ならリンドウさんに敵う奴はちょっと知らないし、そもそも術の類はモノノフとして基本くらいしか覚えてない。

 

 俺がウタカタの里で…いや、里の限らず何かを学ぼうと思えば、それができる相手はあちこちに居る。

 学ぶべき相手を見つけたら学ぶ、を実践できればいいんだが…中々なぁ。

 

 

 ともあれ、俺の『ウリ』は3つの世界の力と技術を束ねて、相手が想定してないモノを使って攻める、言うなれば世界観をぶっ壊すと言うか、将棋の中にオセロを突っ込むような、相手の予想や考えをマルッとひっくり返すような戦い方だ。

 コイツを伸ばそうと思ったら、今までとは全く違う力をどうにかして手に入れるか、或いは今までとは違う力の使い方、組み合わせ方を使うかだ。

 後者に関しては、今もアイデアを何とか捻り出そうと唸っている。

 

 前者に関しては……そんなもんどこにあるんだよ、という話だ。

 時々見る夢の中にありそうではあるんだが、内容を全部覚えている訳じゃないし、そもそも見たいと思って見られる夢ではない。

 大体、夢を見られたとしても望んだ能力が手に入る訳じゃないしな。

 

 

 うーん、どうするべきか…。

 弱点と言うか苦手分野を克服するのは当然だが、それだけじゃなぁ…。

 

 

 俺の苦手分野?

 …人間関係とかはこの際さておくが、エイム力が低い事かな。

 基本的に近接武器を使うか、乱射するか、外しようのない近距離でブッパするかばかりだったし。

 

 

 

 



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107話

初っ端からアブノーマルな話があるので注意です。
人によっては強い嫌悪感を感じると思うので、イヤな話になってきたと思ったらスルー推奨します。


この作品はフィクションであり、実在する人物、団体等、言動とは一切関係ありません。


うーん、モンハン進まない。
一日4~50分程度しかしてないので、当たり前と言えば当たり前ですが。
雑魚が相手でもあちこち寄り道してるので、それで20分以上かかる。
先日、ようやくドスガレオスを倒しました。
一層ウザくなってるな、こいつ。

追記 
Windows10にアップデートしました。
音が出なくなったんで10分くらいで戻した。


 

 

黄昏月もやしが意外と美味い日

 

 

 エイム力を鍛えるに当たって、一番大切な事って何だろう。

 落ち着くこと?

 素早く照準を操る事?

 外しても「まぁいいや」って思うこと?

 それとも、狙いやすい状況を整える事だろうか。

 

 

 

 橘花曰く、「当てる事を怖がらないことだと思います!」だそうだ。

 

 

 

 つまり結果を恐れず当てろ、と。

 

 

 閨で言うって、それ孕ませてくれ発言じゃねーの?

 と言うか、橘花がそれを言うって事は。

 

 

 

「はい、この度なんとか結界術式の改良が完了しました。

 これで姉様と同じように、全部奪っていただいて大丈夫です!」

 

 

 ヒャッハー、それは目出度い!

 お祝いに注ぎ込みまくって擬似ボテ腹にしてくれるわー!

 

 

「どんと来い、です!

 それでは早速…(イソイソ)」

 

 

 待て待て、風呂の準備だけはしとくぞ。

 後始末が大変なくらいになるからな。

 

 全部掻き出しておかないと、大変な事になるかもしれないから。

 

 

「? 当てる事を恐れてはいけませんよ?

 橘花はむしろ、そのまま眠ってもいいくらいなのですが…」

 

 

 いや、体液って乾くと後が面倒だし、そーいう意味じゃないから。

 あと畳みに染みが出来ると始末するのが大変だし。

 

 あのな、男のコレから出るのはな、白いのだけじゃないんだよ。

 女からも出る黄金色のが出るんだよ。

 

 

「は………!!?!?!?

 そ、それは…まさか……」

 

 

 白いのと黄金色のを橘花の体内で混ぜ合わせてみようと思うんですが!

 ああ、よく考えたら初めてだから赤いのも混ざるネ!

 

 いいこと思いついた。

 お前の赤ちゃんの部屋の中で俺にションベンさせろ。

 女は度胸!

 きっと気持ちいいぞ。

 

 

「し、しかしいくらなんでも……その、大丈夫…なのですか?」

 

 

 ちゃんと後始末すればねー。

 大体衛生的に問題ありって言うなら、普段ヤッてる事の方が余程問題だぞ。

 だって不浄だし。

 ちゃんと手入れしておかないとどうなるかは、やり方教えてる時に何度も言っただろ。

 

 

「それは…そうですけど、でもちゃんと手入れしているから、問題ないのでは…」

 

 

 同じ事がこれにも言えるな。

 それに……腰が引けているように見えるが、実際は興味津々だろ、橘花。

 口元緩んでるぞ。

 

 

「だって……想像しただけで、お腹の中が熱くなってきましたから…」

 

 

 ほんとに橘花って、汚されるのが好きだな。

 いや、染め上げられたがってるのかね?

 元から本性が完全にピンク一色だったと思うが。

 

 

「それもありますけど、私だって姉様に嫉妬してるんです。

 私の方が先に懇意になったのに、姉様が先に『初めて』を…。

 だから、姉様もまだやってない事をやってみたいなー、って思ってるんです」

 

 

 対抗意識か。

 橘花がそれを言うのはちょっと予想外だな。

 まぁ、悦っているからって何も思わないとは限らんか。

 

 さて、そーいう事なら問題はないな?

 

 

「あ、待ってください。

 姉様も呼びましょう。

 きっといい表情を見せてくれます。

 樒さんは…来てくれるでしょうか?」

 

 

 桜花に泣きそうな表情させるのも好きだな、橘花は…ある意味ドSだ。

 樒さんには声かけるだけかけてみるか。

 乱交に参加するかは気分次第な人だしね。

 

 では、風呂と寝床と道具と桜花を呼んで開始だな!

 

 

「はい、とうとうこの時がやってきました!

 私、楽しみです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …橘花さんや、3色混じったのを、桜花に吸い出させて後始末させるのは…いや、別にいいけどさ。

 まさかそこまでさせるとは思わなかった…見ていてまたエレクチオンしたけど。

 

 

 

黄昏月夜食として使い続ければ、少しは腹も引っ込むか日

 

 

 橘花が文字通り女になって(メスになって、だろうか)数日間。

 遠征はせずに、暫く里の警護に集中していた。

 結界術を調整してはいたけど、ちゃんとそれが機能するかの確認は大事だからな。

 

 結果的には問題なし。

 霊力が漲っている事もあり、以前よりも強い結界が出来上がったくらいだ。

 

 

 …俺も橘花も、大和のお頭に大目玉をくらったけどな。

 確かに神垣の巫女だからと閉じ込めるような真似はしなかったが、一歩間違えれば結界が崩壊し、里が危機に晒される事だったからな。

 大目玉で済めば御の字か。

 ヘタすると強制的に分かれさせられるとかも在り得た訳だし…。

 

 ともかく、これが切っ掛けで、俺と橘花は恋人扱いされるようになったようだ。

 暦が「樒さんとの事は?」と聞いてきたが、流石に暴露する訳にもいかんので、「大人の色恋は複雑なんだ」で誤魔化しとおした。

 多分、暦の頭の中では安っぽい昼ドラみたいな展開が想像されているだろう。

 

 

 後は息吹に冷やかされたり、桜花が「何で何も言わないんだ?」と言われて、「…私だって、信頼できる相手であれば何も言わない」と返していたりしたが…桜花、ちゃんと相手の目を見て話せよ。

 棒読みなのは仕方ないけどさ。

 

 

 

 まぁ、それは置いといてだな。

 里の警護に集中していたこの数日間、今までの探索での結果について思い返していたんだが…ちょっと気付いた事がある。

 

 ウタカタから離れるほど、北に行くほど、亜種の鬼が多いし、強力な鬼も増える。

 これは何故だ?

 

 亜種が多いのは、分からんでもない。

 ウタカタと北の方ではかなり環境が違うから、それに適応した結果だと思えば分からんではない。

 と言うかゴウエンマより強力なダイテンマとかインカルラとかがウジャウジャ居る。

 

 しかし単純に強力な鬼が多いのは…。

 これだけ強い鬼が居るなら、なぜオオマガトキを開く為の塔を作っている時に呼び寄せなかったのか。

 こいつらが2~3種くらい居るだけでも、大分厄介になった筈だ。

 

 

 うーむ、何故?

 住んでいる場所が違うから、所属しているグループが違った?

 自分より弱い鬼の組織に従おうとしなかった?

 

 

 …或いは、ここ最近で急激に増えた?

 何かの予兆だろうか…。

 

 

 何かも何も、予兆だとすれば明らかに凶兆で、ついでに討鬼伝極の先触れになると思うけどな。 

 

 

 

 

 

 追記

 

 緊縛プレイを試したんだが、橘花には不評だった。

 エロい行為なら何でもありかと思ってたが、例外はあったようだ。

 性癖の元が、立場や責任に雁字搦めにされている事の反発だからだろうか?

 自由を奪われるような行為はアウトだと思っておこう。

 

 

 

 

丑寅月夜食自体がアカンのはわかってるんだが日

 

 早いもので、オオマガトキを防いでから約1ヶ月が経過した。

 うーん、イベントが無いと日記の内容も少なくなるな。

 或いはエロの比率が上がるか。

 

 徐々に捜索範囲を広げ、その合間にモノノフ達は修行を行っている。

 前者に関しては目ぼしい発見は無い。

 …が、やはり北に行くに従い、亜種や強い鬼が増えているようだ。

 

 暦曰く、シラヌイの里で戦っていた鬼と比べても、尚強力に思える…らしい。

 シラヌイの里とウタカタの里の間が、最も鬼が強い…。

 討鬼伝極の主な舞台はこの辺りになりそうだな。

 

 

 で、修行に関してだが、そうそう壁を乗り越えられたら苦労はしない。

 新しい技を身につけて戦術を広げる事は出来ているが、熟練度という点においてはどうにも…。

 まだまだ付け焼刃って事だ。

 

 俺はというと……オカルト版真言立川流で色々パワーアップを目論んでいるものの、上手くいかない。

 ぶっちゃけヤリまくってるだけだが、目的がパワーアップにあるのは事実なんで、その辺は気にするな。

 

 最近では、もういっそ開き直ってGE世界以外でも神機の解禁をデフォルトにしようかと考え始めた。

 GE世界以外では明らかに異質なシロモノだが、便利な事には変わりない。

 近接戦闘と遠距離戦闘、防御形態を一人でこなせるようになるのだから、どれくらい戦力が向上するかは言うまでもないだろう。

 

 で、どうやってその異常なシロモノを周囲に認知させるかだが……。

 

 

 

 …鬼に呪われたとか、異界で拾ったものを何となく使っている、でいいかな?

 で、神機からの影響でアラガミ化できるようになりました、とか。

 

 

 でもなぁ…神機を使えば確かに戦闘力は向上するだろうけど、それって俺の地力を上げてる訳じゃないんだよなぁ。

 むしろ、修行的な事を考えているなら、神機使用成しの縛りプレイの方がいいんだろうか。

 

 

 うーむ…。

 

 

 

 

 あ、そうだ。

 アラガミ化で思いついたが、ちょっとバリエーションを増やしてみるのはどうだろう。

 第二形態…になれればいいんだが、ちょっと出来る心当たりが無いから……部分変化とか。

 

 胴体部分…もっと言えば服で隠されている部分だけでも変化できれば、かなりの防御力アップになると思うのだ。

 ……でもアラガミ化している時って、結構トゲトゲした装飾が多いんだよな…。

 服を工夫しなきゃならん。

 いや、そもそも変身した時って服に限らず装備ごと体に取り込んでるみたいだから、服を工夫したって意味ないか。

 やるとするなら、変身しても分からないよう、変身後と同じ格好をしなければならない。

 

 ………想像してみると、痛いな…。

 日常的にコスプレしてるようなもんじゃないか。

 でも、MH世界やこの世界なら、ちゃんとした鎧だと押し通せるかも…。

 

 

 

 

丑寅月殆どの勤務日が夜2~3時までだから、喰わないと腹へって寝られん日

 

 見た事もない、記憶にもない、新種の鬼と遭遇した。

 亜種とも違うな。

 

 なんだ…その、ネコ?

 モフモフしたいとは思わなかった。

 

 大きさは…小型鬼くらいか。

 いや、小型っつっても鬼にしてはって事で、ネコとしてはデカいんだけど。

 

 遠目に一目見ただけで逃げられてしまった。

 結構距離があった筈だが、カンがいい…いや、何かしらの探知能力があるんだろうか?

 

 追跡したが、流石に異界の中を逃げ回られるとお手上げだ。

 追跡自体が出来ても、何処とも知れない場所に飛ばされる危険がある。

 もう少し観察したかった。

 

 とりあえず、新種の鬼の事は大和のお頭に報告し、モノノフ全体で共有。

 今は秋水が過去の文献を漁り、該当しそうな鬼が居ないか調べている。

 

 

 

 しかし、小型とは言え新種が出てきたって事は、極のシナリオスタートが近いんだろうか?

 仮にデスワープするにしても、どんなシナリオなのかある程度情報を集めてからにしたいものだ。

 まぁ、そんな願望が通じるなら、そもそも全シナリオクリアまでデスワープしないに決まってるが。

 

 

 

 暫くの間、あの鬼を捜索する事が巡回のメインになる。

 また、あの鬼以外にも見知らぬ鬼が居る可能性は高い。

 

 ゲーム的に考えれば、極になって追加されるのは、小型鬼よりも大型鬼だ。

 雑魚が増えたって、プレイヤーが喜ぶとは思ってないだろうし。

 という事は、あの鬼はデカブツの付属、お供的な立場である可能性が高い。

 

 見知らぬ相手との戦いは常に危険だ。

 気を抜かないようにしないとな。

 

 

 

丑寅月鍋の焦げ付きの味がカレーに混ざった気がする日

 

 

 捜索の甲斐なく、件の鬼の発見は無し。

 秋水の調査にも成果は無いようだ。

 

 本格的に、文字通り新種の鬼なのかもしれない。

 適当に鬼を狩って、その部位から橘花の千里眼で見てみないか?という案も出たのだが、望み薄。

 組織だって動いているならともかく、そこらの野良鬼の目を盗んだところで、目的の鬼に当たる可能性は低い。

 

 しかし、俺のハンター感覚や鷹の目鬼ノ目を使っても痕跡がまるで見つからないとはなぁ…。

 例えオオナヅチみたいに姿を隠す能力を持っていたとしても、足跡までは消せないと思うんだが…。

 余程慎重に行動しているか、そもそも行動範囲が調査範囲の中に入ってないのか。

 

 何れにせよ、コイツと大型鬼が発見された辺りで、極のシナリオ開始だと思っておいた方がよさそうだ。

 

 

 

 

 話はシモネタ方面に移るが、最近橘花がコスプレに興味を示している。

 ただし、着飾るのは自分ではなく桜花の方だ。

 「姉様だって、もっと綺麗な服を着てほしいんです」と言ってた。

 ちなみに内訳は、プレイ用が7割に純粋に着飾ってるのが3割だ。

 

 桜花が神垣の巫女の格好をしてるのは、なんか色んな意味で新鮮だったなぁ。

 本人は動きにくいとか文句を言っていたが、橘花が喜んでいるので満更ではなさそうだった。

 

 

 あと、桜花にエロい下着を着せたりな。

 下着っつーても、古風で和風なモノノフ達だから、基本は褌とサラシだ。

 が、外界(つまりオオマガトキで滅んでなかった頃の日本社会だ)の風習に一部感化されているところもある。

 その一つが下着って訳だな。

 

 何処から持って来たのやら…と思っていたら、樒さんからの提供らしい。

 それこそ何でそんなエロ下着持ってんだ…樒さんには似合うような似合わないような……。

 

 

 

 とにかく、最近の橘花の趣味は、桜花に見えるところから見えない所までオシャレさせて、それを鑑賞する事だ。

 勿論鑑賞するだけではなく、お触りもアリである。

 

 …コッチ系の事に関しては、完全に橘花が主導権を握ってるなぁ。

 こう言っちゃなんだが、肌を晒した途端に桜花は橘花の玩具に成り下がる…と言っても過言ではない。

 最近じゃ、俺抜きにしておっ始める事だって珍しくないし。

 

 

 まぁ、何だかんだで息抜きとしてはこれ以上無いくらいの効果があるし、二人の絆はもう雁字搦めと言うよりこんがらがって切るに切れないくらいになってるから、別に問題はないと思うが。

 

 

 

丑寅月COCO壱みたいにトロみが出ない…日

 

 捜索に進展あり…か?

 例の鬼のものかは分からないが、異界の中で異様に瘴気が濃い場所がみつかった。

 その場所は、どうも痕跡を見る限りでは幾つかの岩が固まって転がっていたようなのだが、その岩が纏めて消え去っていた。

 

 岩をぶっ壊した…にしては、あたりに破片が飛び散ってない。

 岩を移動させた?

 何の為に?

 

 鬼ノ目鷹の目で周囲を見てみたが、足跡が幾つか。

 …足跡の形が違う。

 少なくとも2種類の鬼がここに居たようだ。

 その足跡付近が、異常な程に瘴気が濃い。

 

 瘴気の為か、鷹の目による過去視も全然出来ない。

 

 かなり強力な鬼のようだ。

 これは…タケイクサのような、その地を穢して異界を広めるようなタイプの鬼だろうか?

 いや、それにしては足跡付近以外に大した穢れが無い。

 

 

 足跡を追跡してみたが…なーんかおかしいな。

 岩場付近を、2体の鬼がグルグルと歩き回ったようなんだが…一体何のために?

 鬼の行動に理由を求めても仕方ないとは思うが、どうにも嫌な予感と違和感が拭えない。

 

 と言うのも、2体の鬼の足跡の比率が明らかに違う。

 1体はどうやら4足歩行、もう一体は2速歩行…のようなのだが、それを差し引いても4足歩行の足跡が多い。

 

 ハンターとしては、動物がこの手の行動をした場合、考えられるのは…何匹いたかを分かりづらくする、どっちに行ったかを霍乱する。

 要するに狩る側(人間に限らない)を意識した陽動だ。

 

 鬼が俺達を意識して行動しているんだろうか…。

 今度の連中は、知恵まで回るってか?

 厄介な事になりそうだ。

 

 

丑寅月それとも2種類のルーを混ぜたのが悪かったんだろうか日

 

 なんか最近、異界が騒がしい気がする。

 元々鬼だらけで騒がしいと言えば騒がしいんだが、なんというか……生存競争的な意味での騒がしさ?

 無秩序ながらも力関係や生息領域が決まっていた異界の中で、それらが変動しているような気がする。

 

 と言うのも、異界の奥の方から鬼が出てくる事が多いのだ。

 しかも、手傷を負って凶暴化しているような奴が。

 

 これはつまり、何者かに敗れてナワバリを追われた事を意味する…と思うんだが、どうだろう?

 要は強力な新種の鬼が出てきた可能性が高いって事だが。

 

 

 可能性としては充分ありえる、と大和のお頭は唸った。

 できればその異変に乗じて、鬼達の勢力を削っておきたいところだ、とも。

 問題は、新種の鬼がどんな奴なのか、だ。

 こればかりは偵察しないと分からない。

 できれば偵察以前にその場で仕留めておきたいところがが…そもそも居場所が分からん。

 異界の奥って情報しかないし、情報があってもクソ広くて複雑な異界の奥ってだけで捜索難易度は跳ね上がる。

 

 

 …とは言え、やらない訳にもいかん。

 何故ならこの異変の元凶は、どう考えても討鬼伝極のシナリオ絡みだからだ。

 万が一…いや億が一の可能性だが、今のうちに元凶を狩れれば、それだけでシナリオクリアになる…かもしれない。

 

 

鬼門月今度の連休に焼肉にするかヤキトリにするか日

 

 無印シナリオが終了して、約2ヶ月になった。

 もう秋が近いなぁ…食欲の秋か。

 

 

 

 それはそれとして、もうホント訳が分からないよ。

 この一週間ほど新種の鬼を探してたんだが、全然見つからない。

 あまつさえ、異界の奥から鬼が出てくる事が少なくなり、逆に出てきていた鬼が奥に引っ込んでいく事が多くなった。

 

 うーん、どういう事?

 

 しかもコレを知った時、大和のお頭が顔色を変えた。

 そんであっちこっちに書状を送り始めた。 

 

 一刻が惜しい、と言われて説明を後回しにされたんだが…それも道理だった。

 

 

 異界の奥から鬼が出てきていたのは、より強力な鬼が現れて場所を追われたからだ。

 なら、鬼達が異界の奥へ戻っていったのは……強力な鬼達が姿を消し、ナワバリが空いたから。

 

 強力な鬼達はどうした?

 同士討ちで死んだ?

 まさか。

 

 

 居なくなった。

 集団で、群れを成して、何処かに行ったのだ。

 

 何処に行ったのかまでは特定できないが、それでも強力な鬼の集団が一丸となって動くのだ。

 危険ってレベルの話ではない。

 俺達が鬼と渡り合えるのは、一度に現れる相手の数が少ないからこそだ。

 その前提を引っくり返されると、何処かの里が一気に壊滅する恐れがある。

 

 各地に警告の文を送っているが…さて、どうなる事か。

 いつぞや世話になったキカヌキの里やマホロバの里には、充分な戦力が居るとはお世辞にもいえなかった。

 仮に狙われたとしたら、できる事は…逃げるか、全滅覚悟の徹底抗戦か、助けを呼ぶか。

 

 …俺達は、もしも助けを求められたら動けるか?

 正直な話、ウタカタだって戦力が充分な訳じゃない。

 粒揃いではあるが、数の力だけは…。

 

 

 

 もしも助けを求められたら、俺一人だけでも突撃…ああ、でもそうなったら桜花や橘花がどうなる事か。

 精神のバランスを欠いて(主に欲求不満で)、それこそ里の結界がどうにかなってしまうかもしれない。

 

 ううむ…。

 

 

鬼門月専門店にピザ食いに言ってみようか…日

 

 

 色々考えたが、妙案は浮かばず。

 とりあえず出来る事は、問題の鬼達の性質を見極める事だ。

 敵を知り己を知れば、は戦いの基本だ。

 どんな鬼なのか分かれば、各地へ飛ばす警告にも有効な情報を持たせられる。

 

 

 …とは言え、その鬼達がどっか行ってしまっているので、残党探しと痕跡探ししか出来てないんだけど。

 

 その痕跡探しなんだが、皆の証言を元に、秋水が気になる事があると言い出した。

 言われて気付いたんだが…今まで遭遇した痕跡の殆どには共通点があった。

 

 一つ目、2匹以上の鬼の足跡と思しき瘴気がある事。

 二つ目、その足跡の周囲で何かが『丸ごと』なくなっている事。

 例えば岩、例えば樹、例えば何かの結晶…。

 そして三つ目、問題の場所の周囲に、不自然に足跡が多い事。

 

 この3点と幾つかのデータから、秋水は鬼の性質を看破した。

 いや、正解かどうかはまだ分からんけど。

 

 秋水の推測は以下の通りだ。

 

 

 まず三つ目の点から順番に辿ろう。

 不自然に足跡が多い…これは一体何か。

 鬼に何か今までにない性質が現れた事も考えられるが、何かしらの狙いがあると思うべきだろう。

 モノノフの誰にも目撃されていない状況なのに、無駄に足跡を残す理由は何か。

 それによって、『何か』を誤魔化そうとしていると考えられる。

 

 

 二つ目の点。

 足跡の周囲で、何かが丸ごと無くなっている。

 これは、その地点で何かしらアクションがあった証拠だ。

 破壊したのではない。

 だが無くなっている。

 どうにかして移動させたと考えられるが、それが鬼達のアクションに必要な事なのだろう。

 

 

 最後に一つ目。

 現場には必ず、二匹以上の鬼の足跡が残されている。

 大型の鬼が複数、同時に行動する事は珍しいとされている。

 だが、それがほぼ確実に連れ立っている。

 

 

 更には、一時だけだったとは言え、異界の奥に居た鬼達のナワバリを奪う程に増強された新種の鬼達の勢力。

 これらを組み合わせた結果、秋水が導き出した結論はコレだ。

 

 

 

 新種の鬼は、その辺にある岩やら樹やらその他諸々を取り込み、数を増やす力を持っている。

 

 二匹以上の足跡があるのも当然。

 最初は一匹しか居なかった鬼が、その数を増やしているのだから。

 

 何かがなくなっていたのも、それが鬼に喰われた(文字通りの意味じゃないが)なら納得がいく。

 

 そして不自然に多い足跡は、その場にやってきた鬼が一匹だけであり、そして去っていく鬼が2匹になっている事を隠す為。

 足跡を無闇に多く残して、霍乱しようとしていたのだ。

 

 確かに説得力のある説だった。

 こういう能力でも持っていないと、幾ら鬼とは言え急激に数を増やす事はできないだろう。

 

 

 が、幾ら秋水とは言え、ここまでアッサリと敵の能力を見抜けるものか?

 秋水の表情からして、推察ではなくほぼ確信を得ているようだ。

 

 

 …これって?

 

 

鬼門月回転寿司は近くに無いし日

 

 

 予想通りというべきか、秋水は完全に確信を持っていた。

 つまるところ、下手人を知っている、と。

 

 

 …あまり考えたい可能性ではなかったが(ヘッポコ的な意味で)、虚海か?と訪ねたところ、少し笑われた。

 

 

「成程。

 何もかもご存知なのかと思っていましたが、そうでもないようですね」

 

 

 どゆコト?

 

 

「陰陽方には、虚海さん以外にも同じ事ができそうな人や、やりそうな方が多く居るという事です。

 だと言うのに、他の方の名は候補にすら挙がらない。

 貴方が知っている陰陽方は、僕と虚海さんだけという訳です」

 

 

 …ま、確かにそうだな。

 正直、好き好んで知り合いたい連中でもないし。

 

 

「基本的に僕もそう思います…若干の例外はありますが。

 今回の一件ですが、確かに僕は虚海さんから情報を受け取っています。

 以前、虚海さんが何かしそうなら教えてくれと言われたので話しますが…どうにも、虚海さんもあの鬼を持て余している節があります」

 

 

 …自分で生み出しておいて?

 どんだけへっぽこだよ…。

 (千歳と絡んでもいないのに)

 

 

「元より、鬼を人間が操る事は不可能に近いですよ。

 虚海さんも完全に傀儡にできるとは、最初から思っていませんでした。

 と言うより…操ろうとすら思っていなかった節があります。

 

 奴ら…蝕鬼と呼んでいましたが、予想以上の繁殖力だったようです。

 増えすぎた為、一時別の場所に向かわせたようですね」

 

 

 生み出しておいて、操ろうとしない?

 じゃあ何の為に生み出したのか。

 鬼を生み出す事自体が目的?

 それとも、それによって乱を起こす事が?

 

 

「さて、そこまでは…。

 ……僕や虚海さんに限らず、陰陽方の長老…幹部は、何かしらの常軌を逸した願いを持っています。

 この世ならざるものを研究し、時間を越える術を探し、外法に手を染めるのも、全てはその為。

 その為であれば、どんな犠牲も省みないし、どのような事もやってのけます。

 虚海さんも、その為に動き出したのでしょう」

 

 

 …お前も、どんな犠牲も省みないのか?

 

 

「無論…と言いたいところですが、僕にも矜持というものがあります。

 …過去へ戻る為に誰かを切り捨てれば、僕は奴と同じになってしまう。

 それだけはできません。

 僕は…僕は、奴を否定しなければならない」

 

 

 奴…?

 誰?

 

 

「…気になるのでしたら、ご自分で調べてください。

 少々喋りすぎました。

 虚海さんの狙いが分かったら連絡します」

 

 

 …場所が分かった時でもいいのよ?

 

 

「いえ、虚海さんは用心深い方ですから。

 下手な動きを見せれば、姿を晦ませてしまいます。

 少なくとも、蝕鬼を生み出す元凶を確保してからでなければ…。

 では、僕はこれで」

 

 

 …虚海が、ねぇ。

 あの千歳と対面してワタワタしてた虚海が、ねぇ。

 ウン十年モノの喪女の虚海がねぇ。

 

 …なんだか名前だけあるモブキャラが、いきなりラスボスになったような気分だ。

 いや、流石にそれはいろんな意味で言いすぎかもしれんが。

 

 

 




前書きの、
この作品はフィクションであり、実在する人物、団体等、言動とは一切関係ありません。

をネタ付きにするとこうなります。
不快に思われる方も多いと思うので、スルー推奨。


この作品の行動は全てフィクションです。
実行してどのような損害を蒙っても、当方もサイトも責任を負いかねます。
具体的には提案しただけでゴミクズを見るような目で見られて、愛想を尽かされてもザマァと言い切ります。

そして今回の序盤の会話ですが、

女からも出る黄金色=小便
赤ちゃんの部屋=育児室
お前の赤ちゃんの部屋の中で俺にションベンさせろ。=育児室にあるトイレを貸してください。
白いのと黄金色のを橘花の体内で混ぜ合わせてみようと思うんですが! ああ、よく考えたら初めてだから赤いのも混ざるネ! = カルピスとハチミツと紅茶のファーストフラッシュを一気飲み
3色混じったのを、桜花に吸い出させて後始末=飲みすぎてリバースの後始末…。

となり、性的な描写は一切ありません。
無いったら無いんだよ!


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第108話+外伝15

遅くなりました~。
ふぅ、イヤになる程忙しい一週間でしたが、何とか一段落…だと思う。
明日は平日だし。
いやぁ、忙しくはあるんだけど、夜の客数に比べて昼は楽だなぁ…それでも今日は忙しかったけど。

店長が昼ばっかり担当しているのに、思うところが無いではない。
ま、深夜割増が給料に入ってるんだから、当然のキツさではあるんだけども。

さーて、MHX…やる時間があるといいなッ!

追記
前話の前書きと後書きに注意書きを追加しました。



 

 

鬼門月ちょっと外伝一本書き上げた日

 

 

 蝕鬼。

 実に厄介だ。

 時間をおけば置くほど、敵の軍勢が増えていく。

 増え方からして、恐らくネズミ算式だろう。

 と言うかネズミ算式だったら、増えるスピードが洒落にならんほど早いぞ。

 

 どうやって駆除する?

 そもそも団体さんがどっか別の場所に行ってしまっているので、討伐に出ようにも場所が分からない。

 こうして探している間にも、その数を増やしているだろう。

 

 

 …それだけ多くの鬼が一斉に移動したなら、足跡が残ってる筈だよな…。

 蝕鬼の痕跡は、普通の鬼よりも強く残るようだし。

 よし、ちょっと探してみるか。

 

 

 

 

 

 

 探索終了。

 残念ながら移動の痕跡は見つからなかったが、蝕鬼と初遭遇した。

 

 

 3体同時にな!

 

 

 2体は以前に見つけた、小型鬼程度の二匹の猫っぽいの。

 

 

 を、カゼキリ並みにデカくした奴ら。

 

 

 

 小型鬼じゃなかったんかい!

 …という事は、あの時見つけたのは子供だったのか?

 何食えば、一ヶ月程度の時間で10倍くらいにデカくなるんだ…。

 

 しかも走り回るは、迂闊に後ろに立とうとすると尻尾が連続で飛んでくるは、追い詰めると姿が見えなくなる!

 鬼の目鷹の目でも見えないとか、どうなってんだ。

 

 

 そしてドン尻に控えしは………ゴウエンマ並みのデカブツやん…。

 棍棒持って武装した牛頭鬼。

 …これ、どう見ても幹部級の鬼やん…。

 討鬼伝極に突入したかどうかってタイミングでカチ合う鬼じゃねーだろ…。

 

 

 流石に初見の鬼を3体同時とか危険すぎるんで、何とか撤退してきた。

 いやぁ、煙幕と閃光玉とスタングレネード使い切っちゃったよ。

 あと、イヤイヤながらにふくろに詰めて、そのまま忘れ去っていたこやし玉。

 牛頭鬼が屈みこんだ瞬間、鼻の穴に向かってシューッ!

 …そのまま感染症とかになって、くたばってくれるとあり難い。 

 

 …まさかとは思うが、こやし玉を取り込んで体の一部にしたりしないよな…。

 

 

 

 しかし、ちょっと気になる事があるな。

 どうもあの3体の鬼、何か獲物を狙って同時に行動していたように見えた。

 ネコっぽい鬼…カゼヌイと名付けられた…も、遭遇時から幾らか傷を負っていたようだったし。

 パッと見たところ、傷跡は弾痕に見えた。

 

 うーむ、何者かと戦闘・追跡中だったところに、俺達と遭遇して、先にこっちを仕留めようとした…のか?

 

 鬼達が連携してでも仕留めにかかるモノとなると、やはり人間…しかもモノノフだと思うんだが、あんな異界の奥まった場所に誰が居る?

 銃を使ってるなら、千歳や虚海でもないし。

 

 

 奴らを倒せずに、撤退してきたからな…。

 誰か居たのか、調査する事もできなかった。

 

 敵か、味方か、通りすがりか…。

 どれでもいいから美人の女性である事を願います。

 

 

鬼門月ちょっと鍋の焦げ付きが取れない日

 

 蝕鬼を狩ってるんだが、流石に一筋縄では行かないな。

 ちゅーか何だか鬼達の姿が一定しないな。

 曲りなりにも、今までの大型鬼達はミフチならミフチ、ヒノマガトリならヒノマガトリ、その亜種なら亜種と、一見して分かる姿をしていたんだが…。

 蝕鬼達は、どうにも不定形な一面がある。

 

 例えば先日遭遇したカゼヌイだけど、最初に見た時はネコのようだった。

 この前遭遇した時はキツネで、その次は狸を連想させた。

 更にその後遭遇した時は、なんかこう…ゴツゴツした岩の塊みたいな奴だった。

 戦ってるうちに動きを見て、「コイツは姿は違うがカゼヌイだ」と気がついたんだが…なんであんなに姿が一定しないんだろうか。

 

 虚海が人為的に生み出した鬼だからか?

 それとも、何か他に原因があるのだろうか。

 

 この蝕鬼がゲームの討鬼伝極の敵役だとして……まぁ、そんな不定形なトコまで再現してる訳がないわな。

 モンハンだって、再現できるのは敵のサイズの違いくらいだってのに。

 

 

 …あと、具体名には伏せるが最初から部位破壊されていたりな。

 傷ありのガルルガとか片角で黒いのとか片角で黒いのとか片角で黒いのとか片角で黒いのとか。

 

 …遭遇したら迷わず逃げよう。

 

 

 さーて、この原因だが…秋水曰く、「どの蝕鬼が何を取り込んだかによる違いではないでしょうか」との事。

 つまりカゼヌイがネコっぽいのを取り込めばネコのようなカゼヌイに、狼っぽいのを取り込めば狼のようなカゼヌイにって事か。

 わかりやすくはあるな。

 

 だが結構厄介だな。

 元になったモノの影響を強く受けるのか、動きも変われば習性も、耐性も変わる。

 前述したゴツゴツした岩の塊みたいなカゼヌイなんぞ、動きはカゼヌイで実際風を操るような攻撃をしてきて、今まであった奴なら地属性が弱点っぽかったのに、それが全然通じない。

 代わりに風を操る力は弱くなっていたが、その分風の中に石礫が混じってきてるんだから、殺傷力は逆に上昇する始末だ。

 メッチャ痛かった。

 ミタマ「防」でもないのに「痛い」で済んだ俺に、戦慄するような目が向けられたが……まぁ、橘花と桜花でフタマタしながら刺されてない時点で畏怖の視線が向けられているので問題ない。

 樒さんの事もバラしてみようかと思ったが、割と洒落にならんので自重している。

 

 

 

 うーん、それにしても…秋水も言っていたが、幾ら鬼とは言え、自分達の性質をこうも一気に変化させられるとは思えない。

 生物(と言っていいのかは疑問だが)として安定しているからこそ、種族というものがある。

 一定数以上が、一定の姿を保っている以上、何かしら性質が固定されている筈なのだ。

 

 まぁ、蝕鬼は一定しないみたいだが…。

 何れにせよ、虚海が蝕鬼を生み出した方法は、尋常な方法ではないだろう。

 どう見積もっても外方と称される、或いはそれ以上にロクでもない方法なのは確実だ。

 

 多分、鬼に何かしらの改造なり呪詛なりを埋め込んでるんだと思うが……埋め込んだはいいが、持て余すってのが虚海らしいのー。

 

 

 

鬼門月ちょっと遠出してヤキトリ行ってきた日

 

 現在遭遇している蝕鬼は、カゼヌイと、まだ1度会っただけだがゴズコンゴウ(と名付けられた)。

 それから遠目に空を飛ぶ蝕鬼(だと思う)を見た事がある。

 空飛ぶ奴に関しては、単なるヒノマガトリかアメノカガトリだったかもしれないが。

 

 先日、カゼヌイが単体で行動している時に遭遇したので、これ幸いと狩り取った。

 大分動きにも慣れてきたが、やはり目に見えなくなるのがな…。

 眼光だけだと、流石に行動予測ができん。

 誰を狙っているか、くらいは分かるんだが、予備動作が殆ど無い状態で予測しなけりゃならんからなぁ。

 

 

 それはともかく、倒した蝕鬼の素材を使って、橘花に千里眼の術を使ってもらえないか、と思ったんだが。

 ひょっとしたら、移動していった蝕鬼の集団が何処に向かったか分かるかもしれないし、万一の可能性ではあるが、虚海がどうやって蝕鬼を生み出したのか、分かるかもしれないと思ったのだ。

 …無理だったようだ。

 

 蝕鬼の部位は瘴気が強すぎて、千里眼も繋がりを辿っていけないらしい。

 なら適度に浄化してみては?と思ったが、そうなると部位と本体との繋がりが薄くなり、それはそれで繋がりを辿れなくなる。

 うーむ、厄介な。

 

 

 

 それはそれとして、他の里から手紙が届いたようだ。

 救援の要請の手紙が。

 

 …予想通り、蝕鬼の集団は別の里を襲いにいっていたらしい。

 幸いと言うべきなのか、蝕鬼が迫っているのは俺が知らない里のようだ。

 

 ウタカタとしてもそれ程戦力に余裕がある訳ではないが、これを放っておく事はできない。

 現在の状況で、何処か一角でも里が崩れ落ちてしまえば、そこから鬼の侵入が激しくなって全陣営が危険に晒される。

 

 …で、誰が行くかって話だが……まずは、戦闘力は低いが、偵察や援護に定評のある物見隊の数人。

 それから、自ら志願したモノノフが…富獄の兄貴と暦だった。

 

 …暦は大和のお頭と、富獄の兄貴に却下されたが。

 凛音から預かっている者を、他の里にやる訳にはいかない、と。

 …あの凛音さんが、そんな事気にしないと思うが……大和のお頭には何か考えや懸念でもあるんだろうか?

 

 で、富獄の兄貴はOKが出た。

 戦力大幅低下になるが、逆を言えばそれだけ強力な援軍だ。

 

 …富獄の兄貴が居たホオズキの里って、そう言えばシラヌイに援軍を要請したけども…。

 その当て付け……ではないな。

 単純に、戦い甲斐のある敵を求めるのと、救援に応じようってだけか?

 

 

 と言うか、初めて知ったんだが…富獄の兄貴って、霊山に命じられたんじゃなくて、自分でウタカタの里に滞在してたのな。

 ホオズキの里が滅んで、ダイマエンを追いかけてあっちこっち戦い歩いていたらしい。

 で、ここ最近はウタカタで戦っていて…戦も一段落ついたし、仇も討ったから、また別の里に行く事も検討していたそうな。

 ひょっとしたら、今回の問題の里にも世話になった事があるのかもしれない。

 

 ともあれ、救援要請、更に大和のお頭も認めたとあっては、引き止める事もできない。

 ただ、救援が終わったら戻ってくるように、とは言われていた。

 蝕鬼が生まれたのはウタカタ付近だ。

 恐らく、今回もまたウタカタが激戦区となるだろう。

 

 …メインキャラに退場されても困るし。

 

 

 

 

鬼門月ちょっとどころじゃなく怠けたい日

 

 

 富獄の兄貴が援軍に出発して、はや3日。

 予想以上に戦力の低下は響いたが、何とか回っている。

 

 …あと、富獄の兄貴が置き土産を残していった。

 今のところ、有効に活用できているのは初穂だけだが。

 

 トコヨノキミと戦った時にやった、敵の背に捕まって攻撃する、乗り上げ攻撃を教えていったのだ。

 俺としても、まだ会得できてる訳じゃない…その場のノリでやった事はあるけども。

 

 で、これを受けて一気に戦力アップしたのが初穂である。

 元々、鎖分銅を相手に巻きつけて一気に飛び上がり、そこから攻撃するのが鎖鎌のスタイルだったが…相手に安定して掴まれるようになった技術により、安定性・安全性が格段に上がった。

 振り落とされそうになった時は、自分から飛びのいて降りられる。

 

 

 いやぁ、便利なもんだ。

 一箇所に定点攻撃できるし、攻撃する場所によってはダウンを奪う事も、怯ませる事も度々ある。

 それに、取り付いた初穂を振り解こうとして、鬼が足元お留守になる事だってあった。

 …その分、暴れて事故る確率も高かったけど。 

 

 ま、パーティ戦で特に効果を発揮する技能だな。

 飛びつくにしたって相手の気を逸らす必要はあるし、成功した場合の効果を最大限に発揮しようと思うなら、無防備になった敵への総攻撃が基本だ。

 リスクを減らし、メリットを増やし…。

 うん、飛び乗りに限らず、やはり数を揃えるのは基本だな。

 

 

 さて、新戦法がよくハマって得意絶頂の初穂はともかくとして、真面目な話だ。

 正直な話、初穂の戦闘力が上がって、現在の総員の戦力を集中したとして…蝕鬼の力と数に、どれだけ抵抗できるか?

 この前のゴズコンゴウがどのレベルの鬼なのかにもよるが、アイツ一匹出てきただけで大分厳しくなるだろう。

 そんで、蝕鬼の最も厄介な点は、その繁殖力にある訳で。

 

 ゴズコンゴウ、一匹見たら最低3匹は居ると思え…。

 ………うん、二桁じゃないだけマシだな。

 でも確定じゃないんだよな、二桁行ってもおかしくはないんだよな……。

 

 

 

 …やっぱ俺もパワーアップしないと…。

 ニチアサで言えば第二形態か新武器、ロボット物で言えば乗換えの梃入れが必要だ。

 

 うーむ、しかし、どんな手があるか…。

 新武器……俺のメインウェポンって神機だぞ。

 元の刀身がショート・ロング・バスターの3種類しか無かったから、討鬼伝世界・MH世界で使う武器もそれに準じた物になったし。

 槍とハンマーも前GEループのクリア後で技術確立されたけど、やっぱ熟練度がな…。

 

 ちなみにガンナーに関しても、同じ理由でライトボウガン・ヘヴィボウガンが多い。

 弓は…討鬼伝世界でもMH世界でも、イマイチ…。

 いや、ナターシャさんの教えをディスってる訳じゃないんだけどな。

 みっちり教え込まれたし…単純に使用頻度の問題だ。

 

 

 話が逸れたが、やはり俺がパワーアップするなら、ゲームの続編の追加要素を身につける事、か…。

 だが、俺がまだ身につけてない新要素…。

 このループが始まる前で、まだ身につけてない要素…。

 

 ブラッドアーツ、MH世界の幾つかの武器、討鬼伝世界の……えーと、ミタマの更なる力の解放に…あと武器…そして鬼千切の共同ヴァージョンか。

 

 現ループでどうにかできそうなのは、討鬼伝世界のそれぞれと、ブラッドアーツか。

 血の力がGE世界風の霊力で、ブラッドアーツがそれを使った技だと言うなら、これを会得するのはGE世界よりも討鬼伝世界の方がいいかもしれない。

 普段、鬼祓いしたり、ミタマの力を引き出すのに使っている霊力を、そのまま攻撃に転化してみる。

 

 

 が、実践はともかく、鬼にどれだけ効くかなぁ…。

 物理的に攻撃力をブーストするのはそんなに難しくないんだが、鬼を相手にする場合は瘴気の塊を散らして、浄化せにゃならんからな…。

 …確か、ブラッドアーツには剣を振ると同時に衝撃波みたいなのを飛ばして、ケツガエンショーと叫ぶ奴もあったな。

 リーチの長さは戦術の広さと同義だし、とりあえず霊力や衝撃を極力少ないリスクで飛ばす方法を考えてみるとしよう。

 

 

 

鬼門月ちょっとだけやった事があるゲームの外伝書こうかな日

 

 

 霊波、という単語がある。

 大前提として言っておくが、これはモノノフ用語だ。

 オオマガトキで異界に沈んだ世界にもこんな単語は認められてなかったと思うし、増して俺が元居た世界にだって、学術的・世間的に認められてはいなかった。

 霊力だってそれは同じだが。

 

 が、霊的な力を操り、時には対峙するモノノフとしては、世迷言でもなんでもなく、身近にある存在である。

 これが霊力とどう違うのかと言うと……そうだな、霊力は炎、霊波は熱、と思ってくれればいい。

 霊力はエネルギーの塊で、霊波はそこから伝わってくるモノ。

 勿論、霊力が高ければ、そこから生み出される霊波も大きくなる。

 

 これを応用すれば、霊力を高めて一定の動かし方をする事で、霊波を遠くに飛ばす事が出来る。

 要するに炎をもっともっと熱くして、より遠くに熱を伝えようとしている訳だ。

 これにより、霊力の消費を抑え、更にリーチを伸ばす事ができる。

 実に一石二鳥の技である。

 

 

 

 …はい、「ん?」と思ったアナタ。

 それは正解です。

 

 

 霊力を炎と思ってくれ、と言った、ココに注目。

 そう、炎。

 炎なんだよ。

 

 炎ってのは燃える為に燃料を必要とするんだよ。

 燃え続ける為に、何かを消費しなきゃいけないんだよ。

 

 じゃあ、霊力の場合、その『何か』…燃料ってのは何だと思う?

 考えるまでも無い。

 生命力だ。

 霊力ってのは命の力だからな。

 

 どう考えたってな、炎をより強く燃やすのに、アホみたいな消耗を強いられるんだよ。

 そんで対象に熱を伝えるのに、炎を直接近づけずに遠距離からパタパタ煽って熱波を飛ばしている訳だ。

 そりゃー消耗は激しいは威力は期待できんは、使いモンになる訳ねーんだよコレが。

 

 ぶっちゃけ、霊力を直接投げつけた方が、余程効果が期待できる。

 熱波ではなく炎を直接投げつけるようなものだし、既に燃えている炎を放り投げるだけなんで、燃焼させるのに必要なエネルギーだって少ない。

 まぁ、その分生命力が削られる訳だが。

 

 ゲームや漫画でお馴染みの、衝撃波(ゲツガテンショ)を飛ばすようなやり方を有効活用しようと思ったら……そうだな、体内の霊力を一箇所に凝縮する事で擬似的に炎が燃え盛っている状態を作り出し、消耗を抑えて熱を届けるか。

 或いは、特に高めようとしなくてもいい程に炎が燃え盛っている状態をデフォルトにするか、純粋に動きだけで熱を効率的に伝えられるようになるか…だな。

 さもなきゃ、熱を伝えるのではなく、炎から飛び散る火の粉で相手がダメージを受けるようにするか、だ。

 

 まぁ、どっちも今の俺には無理な方法だ。

 強いて言うなら、アラガミ化した状態で霊力を直接投げつけるのが、一番手軽に実現できる方法かな。

 

 

 

 …まぁ、なんだ、一日かけて試行錯誤してたが、全然上手く行かなかったからな。

 ちょっと愚痴も兼ねて研究結果を記していた。

 一日試した程度で諦めるのはまだ早い、と思わなくもないが、ぶっちゃけ飽きたし。

 

 

 今日は俺は休みの日だったけど、周囲の人が皆仕事だったり用事があったりしてなぁ…。

 橘花も神垣の巫女としての義務が色々あるもんで、流石にそれは邪魔できん。

 樒さんは、何やら祭壇に向けて真剣な顔で大麻を振っていた。

 桜花に限らず、モノノフは任務。

 

 …遊べる人がいねーよ。

 仕方なく近所のガキ共に付き合ってたが……うーん、子供は嫌いだ…。

 俺、子育てとか出来る気が全然しないなぁ…。

 まぁ、フタマタミツマタ浮気ばっかりしてる俺が真っ当な父親になれるとは最初から思ってないが。

 

 里をフラフラしていたんだが、ふと我に返った。

 

 

 

 

 何で俺は休みの日に大人しく休んでるんだ?

 ちょっとおかしな日本語になったような気がするが、気にしない。

 

 前ループまでの俺は、休みの日であってもライフワークだとばかりにホイホイ狩りに出かけていたというのに。

 ぐぬぬぬ…メリハリをつけていると言えば聞こえはいいが、このままでは堕落してしまう。

 

 よし、出撃じゃ出撃じゃ!

 秋水から教わった術で無限討伐……は禁止されてるから、そこらの鬼を狩りつつウロウロしてみるかな。

 何だかんだで普段の巡回も、似たようなルートばっかり通るからな。

 普段とは違う視点で巡れば、何か発見もあるかもしれない。

 鬼の溜まり場とか、奇襲しやすい場所とか、外でオタノシミに使えそうな暗がりとか。

 

 さー、何が見つかるかな?

 

 

 

 

鬼門月ちょっと掃除ができてない日

 

 

 懐かしいものが見つかった。

 結界石の洞窟だ。

 いつだったか、デスワープ後に異界から出たら雪原で、そこで見つけたこの洞窟を抜けてここまで来たんだよな。

 

 確か、矢印とかが書かれてて……そうだ、誰かが洞窟に居た痕跡もあったっけ。

 あの矢印は誰がやったものなのか、洞窟に居たのが誰なのか…今以て不明なままだ。

 …狩りに行くつもりだったけど、見つけたらなんか気になってきたな…。

 

 調べてみたかったが、確かあの洞窟は歩いて丸一日分くらい続いていた。

 矢印があったとは言え、分かれ道も多くて結構入り組んでいたし…見つけた時には既に昼を過ぎていたので、今回は見送った。

 人が居た形跡があった雪原側の入り口を調べるには、道を往復する必要がある。

 連休の時に行ってみるかな。

 一人での行動は怒られそうだし、桜花も一緒に連れて行きたい。

 

 …あっちで一晩明かす必要がありそうだしな。

 人肌で暖めあいたいもんだ。

 偶には桜花と二人きりでヤるのもいいだろうし。

 

 

 

 しかし…討鬼伝シナリオが終わって、もうすぐ3ヶ月になる。

 蝕鬼という新種の敵も出てきたし、そろそろ討鬼伝極のキャラが登場してもいいと思うんだが。

 やはり暦や千歳、虚海がそうなんだろうか?

 

 だとしたら、もうほぼキャラが出揃っている訳で…うーむ、どこから何処までがゲームのシナリオに含まれるんだろうか…。

 いや、シナリオかどうかより、次回も同じ展開になるのかって方が重要だけど。

 

 

 

 

 

 

 唐突でなんだが、日記を中断して一戦終えてきた。

 蝕鬼…カゼヌイが、里の近くに侵入してきたのだ。

 

 大分動きを把握できてきたけど、里の近くで姿を消されると厄介すぎる。

 俺達が警戒している間に、スルーして里に殴りこみとか冗談ではない。

 

 幸い、ふくろの中にあったペイントボールを度々投げつけてどうにかなったけど。

 あまり頻繁に使える手じゃないな。

 咆哮とかして全身から力を放出する度に、ついていたペイントが吹き飛ばされたし。

 

 ふーむ、しかし蝕鬼が里の近くにねぇ。

 最初に出現したのは北の方だったし、その後も集団を率いてどっかに行っちゃった(まだ見つかってない。恐ろしい話だ)し、今までも北の方をウロウロしているだけだったんだがな。

 何でまた、いきなり里にまで出張って来

 

 

 

 

 

 

 なんかまた警鐘が鳴ってるからまた明日

 

 

 

 

 

 

鬼門月ちょっとエアロバイクから音がしてきた日

 

 

 富獄のアニキが帰ってきました!

 おかえり~お土産は?

 

 …饅頭買ってきてくれました。

 ハチノコ饅頭?

 食える食える。

 にが虫だろうがスパイスワームだろうが加工して食っちまうハンターだぞ。

 ウマウマ

 

 で、蝕鬼達との戦いはどうだった?

 …「手応えあったぜ」って笑ってたが、この人がそう言うって事はかなりの激戦だったみたいだな。

 フンドシ締めてかからないと。

 

 

 …で、富獄の兄貴と一緒に、ウタカタに到着した方々がゾロゾロと…。

 

 

 

 また懐かしい人に会ったな。

 相馬さんとその一行…百鬼隊の皆サマだ。

 いつぞやのループではお世話になりました。

 出会って5秒で抱きつかれた事や、腐女子が混じってる事を忘れちゃいませんよ。

 …今言っても、キ○ガイ扱いされるだけだけどさ。

 

 昨日の警鐘は、百鬼隊の到着を知らせるものだった。

 危うく敵襲と勘違いして、奇襲をかけるところだった。

 

 …相手が相馬さんじゃ、生身でやっても…腕一本か、隊員数人潰すのが限界だったと思うがな。

 

 

 

 まーとにかく、このタイミングで里を訪れるって事は、相馬さんも極キャラ?

 じゃあ百鬼隊の皆様は?

 …というか、なんだってまた突然ウタカタに?

 大和のお頭も、来るって話は聞いてなかったらしいし。

 

 …そんで、なんか如何にも悪人面のエラそーな爺さん……爺さん?

 大和のお頭の同期…みたいだが…?

 

 んー、なんか見覚えがあるような…。

 霊山に居た人らしいから、会ったとしたら相馬さんと一緒に霊山に居た時か?

 お偉いさんと会う状況はそうそう無かったから……ああ、そういや記憶も無ければ意識も無い、何をやらかしたのか未だに定かでない会議に出席してたな。

 そこで会っているのかもしれない。

 だが既に記憶に残っているのは、オカルト版真言立川流との出会いだけですな。

 

 

 さて、相馬さん達がウタカタにやってきた理由だが……やはりというべきか、懸念されていた事が現実に起きてしまったようだ。

 即ち、増殖した蝕鬼の大群による襲撃。

 襲われた里は、大和のお頭からの警告の手紙もあって何とか追い返す事が出来たが、今度は蝕鬼達がウタカタ付近に向かって移動し始めた、との事。

 

 成程、あのカゼヌイは残留組だったが、移動していた強力な蝕鬼達の軍勢に追いやられて里の近くまで出てきた訳か。

 

 

 なんにせよ、一気に状況が加速し始めたようだ。

 これは既にゲームシナリオに乗っていると見て間違いあるまい。

 …どんなシナリオか分からない以上、言っても意味ない事であるが。 

 

 

 

 さて、そんな事言ってる間に、早速敵襲のようだ。

 今度は飛んでるな…飛び方を見るに、ダイマエンじゃなくてヒノマガトリ寄りの鬼か?

 さーて、以前は相馬さんの実力なんぞ、サッパリ測れなかったが……あれから随分と俺も腕を上げたと自負している。

 相手には記憶も無いのが残念だが、いつぞや世話になった礼も兼ねて、一丁俺の成長振りを見てもらうとしますかね。

 




 はて、今度は一体どこじゃろな?
 何だかすごく………わ、和洋折衷…いや、現代風と古風と言うか…。


 とりあえず日本じゃない。
 日本じゃないが、現代社会っぽい。
 ひょっとしたら近未来かもしれない。

 と言うのも、なんかえらく高いビルばっかり見えるのだ。
 俺が居るのも、一際高いビル…いや、もう摩天楼って奴だろうコレ…の一角である。
 外である。

 夜風がキツい。
 寒くはないんだけど、高い所に居るから風が強いのなんのって。
 普通こんな所に生身で人間出てこないよ。

 だと言うのに、何故か今俺が居る場所は、なんか…寺? 武家屋敷? を連想させるような、和風テイスト満載。
 超高層ビルのテラスに、何故か和風庭園があるこの違和感。
 …違和感だらけだが、まぁ美麗っちゃ美麗だな。

 一見して分かる程に手入れは丁寧にされているし、この強風の中、何故か桜が咲いているし。
 背景になっているビル群の明かりで、妙に妖しい雰囲気が醸し出されている。
 夜の桜には魔が宿るとはよく言ったものだ。


 そして真に怪しいのは、その辺をウロウロしている……ニンジャである。



 アイェェェェ!?
 ニンジャ!?
 ニンジャナンデ!?と本気で叫びそうになった。

 幸いにしてニンジャリアリティショックは発症しなかったが、もう訳が分からんね。
 超高層ビル、これはいい。
 そこに日本風庭園、これもまぁいいだろう。

 だが絵に描いたような覆面ニンジャ、これは一体なんだ。
 ニンジャスレイヤーさん、早く来てくれ。


 と言うかどうせニンジャが出てくるならタイマニンがいい。
 ただし俺がTSしてフ○ックされるのは無しで。


 現代なのかニンジャが現役で活躍していた時代なのか、どっちかハッキリしろよ。
 ついでに言うと、庭園のあちこちには日本語で「獅子脅し」とか「盆栽」とか書いてあり、その下には英語で解説らしきものが書かれている。
 …鹿威しの間違いだろ、と言ってやりたいところだが、そこまで異国で求めるのは酷か…。
 と言うか英語がメインになっている辺り、やはりここはアメリカか?
 そーいえば、ビルの間から自由の女神が持ってるソフトクリームっぽいのが見えるような見えないような。
 
 という事は現代・未来である筈だが、何故にニンジャがここに居るのだ。
 時代も地域も全く違うじゃないか。

 しかも全員殺気立っている。
 イクサの最中か?
 ニンジャとして殺気を振り撒いていいのかと言いたくなるが、そんな事をわざわざ口にした日にゃ、あっという間に全員に見つかって血祭りに上げられる未来しか見えない。
 今でさえ、アサシン技能にミタマ隠にハンターとしての技術で何とか隠れていると言うのに。
 ちょっとでも移動したら、まず間違いなく発見される。
 こいつら、かなり手練のガチニンジャっぽい。

 よりにもよって、何でこんな所に居るかね。

 そんな事を愚痴っていたら、「そんなにご不満ならもっと不条理にしてやるよオラァン!」と言わんばかりに新手が来た。



 …あの、その明らかに生命活動をしていないのに動いているワンコはなんですかねぇ?
 そしてそれを率いている、人外…というか討鬼伝世界の鬼テイストなのに人語を話している方々はなんですかねぇ?
 あの人外=サン、1名はどー見てもデカい蜘蛛+人間なんですけど。
 そして2名は…マッパでマッチョで体が長細い、なんかヤバい薬(和名・傘製薬)を明らかに摂取していそうなのが2人。


 …いかん、動揺して気配がバレたか?
 突然騒がしくなった。

 くっ、明らかに敵地、しかもニンジャという名の死兵の群れのド真ん中だが、やるしかないか?
 最悪、下がどうなってるかサッパリ分からんが、キリモミ崖下落下しても無傷で済むハンターボディに全てをかけて、そこら辺からI can't flyする覚悟も決めなければ。


 が、それは杞憂だったようだ。
 何時の間にやら現れた黒い影。
 それがニンジャ数体をサクッと叩き切り、そのまま大乱戦を始めたのだ。

 …おいおい、この人数相手に真正面から押してるよ、アイツ…。

 にしても容赦が無い。
 あの黒い影もそうだが、ニンジャ達も、だ。
 腕やら足やら叩き切られるグロシーンが展開されている訳ですが、その叩き切られた方が更なるグロ行為に及んでいる。


 自爆だ、自爆。
 体の一部を失って戦えなくなったと思ったら、逃げるどころか黒い影に取り付こうとする。
 死なば諸共ってか。

 一対一ならアラガミ化無しでも渡り合えそうだが、アレはあかん。
 強いとか弱いとか以前に、ヤケになっているとかではなく、目的の為なら自分の命まで捨石と…恐らくは理性と心の両方で…割り切ってる、本物の死兵だ…。
 特殊能力とか忍術とか、そんな派手で見栄えがいいだけの漫画版ニンジャじゃない。
 本物の、狂信的なまでに統率されている忍者だ。
 戦いたくねぇ…。



 戦いは数分に及んだ。
 長いと見るか短いと見るかは微妙なところだろう。
 とにかく人外勢が非常にタフだった。
 普通のニンジャは、脳天潰したり首とかカットしたり、自分から自爆したりで割りと早く全滅してたが。


 そこで俺は、ようやく黒い影の正体を見る事ができた。



 アイエェェェェェ!?
 ニンジャ!?
 こっちもニンジャナンデ!?
 こいつは黒尽くめだ!
 でも忍んでない!
 片っ端から残虐ファイトしてる!


 あ、いや、考えてみれば不思議はないか。
 ニンジャに対抗できるのはニンジャのみ、とニンジャに関する最新の研究書・東海道中膝スネ毛にも謡われている。
 それを考えれば、ニンジャ達を次々にサヨナラ!させていった黒い影がニンジャでない筈が無い。
 む、そう考えると、ニンジャではなく鬼にK.Oされる速鳥は、やはり自分で言っているようにニンジャではなくモノノフなのか。

 …いや待て落ち着け、それは忍殺的世界観だ。
 これはニンジャリアリティショックを受けた俺が錯乱しているだけだ、落ち着け。
 うん?
 でもニンジャリアリティショックを受けたと言う事は、ここはやはり忍殺世界…だが最初のニンジャたちにはリアリティショックは…?

 …お?
 今の、なんだ?
 倒したニンジャ達の…霊力の残滓を吸い取っていたような…?



「何者だ、出て来い」(と、英語で言っていると思う)


 はぅあ!?

 …どうか敵対的ではありませんように。
 観念して出て行ったところ、刀を納めはしないものの、殺気もないようだった。
 悟られないように抑えてるだけかもしれないが。


 えーと、ナニが何だか分からない内にニンジャ達の戦いに巻き込まれた、ちょっと特殊な一般人なんですが…?


「…奴らや魔神ではないようだな」


 お、日本語。
 …というか魔神…?


「ここで何をしている」


 何をしていると言われても、さっきの連中から隠れてたとしか言いようがない。
 と言うかここ何処?
 なんか家で寝て起きたら、突然ここに居たんだけど。


「……恐らく、魔神の何らかの術に巻き込まれたのだろう。
 悪いが、俺はこの事態を治める為に行かねばならん」


 アッハイお気になさらず。
 どうせ夢ですから。


「そう思い込んでいた方が、気は楽ではあるだろうな。
 道中の奴らは排除しておいた。
 まずはここから逃げる事だ」


 えーと、さっきみたいな連中が新規で来てた場合は?


「…見たところ、それなりに腕に覚えはあるだろう」


 まぁ、ありますけどね確かに…死兵の相手はキツいぜ…。
 はぁ……助けて助けてと喚いたところで意味は無いか。
 じゃあ、そっちもご武運を。


「うむ…すまんな」


 それだけ言うと、黒いニンジャさんは走っていってしまった。

 ……庭園の池を何故か態々突っ切り(勿論水面走りだ)、壁を走って一つと隣の離れた一角に進んでいった。
 更に狭い柱の間で宙返りを繰り返し、上へ上へ…。
 おお…ニンジャアクションを見た…。
 
 真似できるか?
 水面走りはともかく、壁走りなら何とか…。
 宙返りを繰り返して上に跳ぶのも、条件が揃ってればできなくもなさそうだ。
 あと、さっき見た、死んだニンジャ達から霊力っぽいのを吸い取るのは興味深いな。
 この夢から覚めたら、できるようになってる事を祈ろう。
 出来なくても、やり方やメリットを研究する価値はありそうだ。


 さて、いつまでもここに居て、さっきの死兵や人外を相手にするのも御免だし、とりあえずここから離れますかね。








 ビルから出たら、やっぱりアメリカンな感じの都市だったが…半ば廃墟と化してるな。
 バケモノとニンジャだらけだし、こりゃ店なんてやってないな。
 夢とはいえ久々の現代社会だから、色々飲み食いしたかったんだが。

 金が無いか。
 異界で拾った金塊ならあるが。



 そんな事を考えてたら…痴女が出た。 
 しかも二人。
 一人は和風のエロコスチュームニンジャ、一人はアメリカン。
 二人ともナイス露出。
 アメリカンに至っては、どー見てもボンテージそのものだ。
 
 スバラシイ!
 …ボンテージってさ、SにもMにも使えるけど、このおねーさんどっちだろう。


 手を出したらヤバい雰囲気がプンプンしてましたが、実に眼福でございました。
 ここで俺が例えばショタボーイであれば、不安がったり甘えるフリして役得できたかもしれん。

 この状況でそんな目を向けられるのは、いっそ感心する、と正面切って言われたけどね。
 嫌悪が無いのは、色を武器にするクノイチだから慣れてるんだろうか?

 まーそんな事を考えつつ、安全な場所とやらまで護衛されている。
 さっきのニンジャさん…リュウ・ハヤブサというらしい…に俺の事を頼まれたらしい。
 


 さて、二人に護衛されつつ(気配の消し方がやたら上手いと言われました)、何とか安全な場所に移動できた。
 二人はまた戦いに行くらしい。
 お世話になりました。
 夜中にお世話になるのは辞めておきます、お世話になっても仕方ない格好してるとは思うけど、流石に助けてくれた人に失礼なんで。

 今回の俺、結局一度も戦ってないな。
 完全に一般人ポジか…まぁ、偶にはそれもいいか。


 そんな事を考えてたら。

 …あの、対岸に見える自由の女神が、なんか電撃まとって巨大ロボみたいに動いてるんですけど?
 ロマンだな!
 自由の女神にあんな機能があったとは…後は目からレーザーを撃ってくれれば完璧なんだが。




 そんな事を考えていたら、なんか流れ弾で電撃がバカスカ飛んできた。
 電撃はいい、ビームにしろビームに。

 そもそも、電撃なんぞ今更何するものぞ。
 陸亀の電撃から黒爺猫の放電にキリンの落雷(しかも直撃)を潜り抜けてきた俺に、単なる電撃なんぞどうって事は無い…。
 と思っていたが、これ普通の電撃じゃねーな(見れば分かるが)
 何だか知らんが、えらく強力な霊力…いや、魔力が篭っている。
 ヘタな鬼よりもずっと強力だわ、コレ。
 あのニンジャさんは一体何と戦ってんのやら。



 そんなお気楽な事を考えていたら、自由の女神が一際大きく仰け反った。
 どうやら倒してしまったらしい。
 ニンジャパネェ。
 どうやってあんなの倒したんだ。
 ニンジャだし、やっぱりスリケンか?
 爆弾か?
 流石に弓矢って事はないだろ。

 やっぱりここ、忍殺世界じゃないのか?
 という事はカラテか。
 ピストルカラテだってあるんだし、スリケンカラテも爆弾カラテも弓矢カラテもあるかもしれん。
 カラテは実際奥が深い。

 ああ、自由の女神が海だか池だかに沈んでいく……。
 バイバイ、リバティー。



 なんて暢気に見物していたら、沈んでいく余波で津波が起こって押し寄せてきた。
 逃げ切れずに暗転。





 夢から覚めた後、ニンジャアクションが何かできないかとwktkしながら試してみたが、残念ながら今回は何も使えるようになってないようだ。
 でも壁走りとかは純粋に技術でやってたみたいだし、面白そうなアイデアもあった。
 ま、収穫ありって事にしておこうか。




108話だからって煩悩系の外伝だと思った?
残念!
NINJA GAIDEN Σ2の外伝だよ!
 


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109話

真相が激しく気になり始めたので、MHXもそこそこにフリカツプレイ中。
とりあえず東の果てまでは行きました。
次はアルマを仲間にするんですが、そこに至るまでのヒントが攻略サイトにしかないってのがちょっと引っかかります。
…イチゴ味も気になるし。

執筆の為にMHXやらなければとは思うんですが、同じループ物(だと思う)として参考に出来そうなんですよね。
外伝にも組み込みやすそうですし。

とりあえず、12月前半の一番厳しい仕事は抜けました。
次は終末の2番目に忙しい日と、年末年始が…。
12月と1月は人を何人集めても足らんのぅ…。


 

 

鬼門月世間一般の休みに外出して快適に過ごそうなど、考えが甘い日

 

 

 ふむ…やっぱ強いな、相馬さん。

 人間状態ではまだ勝てそうにない。

 アラガミ化すれば、短期戦を挑めば何とか…かな。

 最初のラッシュを凌ぎきられると、分が悪くなりそうだ。

 カタログスペックで言えばまず凌ぎきられはしないんだが、生死の境で生を掴み取る実力ってのは、単純な物差しじゃ計れないからな。

 正直、圧倒できるイメージは沸くが、仕留めきれる気がしない。

 

 この世界で人間相手にそういう事を考えるのも不毛と言えば不毛だが、結局人間の敵は人間だもんな。

 ホオズキの里だって、それが原因で滅んだようなものだし。

 

 

 それは置いといて、今回出てきた蝕鬼…オラビと名付けられた…だが、鬱陶しいなぁ。

 姿形はヒノマガトリに似てるんだが…なんつーかその、バックジャンプからの叩き付けとかが目茶ウザい。

 おまけに範囲攻撃も矢鱈広いし…。

 ゲームシナリオで言えば、無印の更に後って事で半ば予想はしていたが。

 最低でもトコヨノキミ以上を想定しとけって事だな。

 

 これは神機の使用も常に意識しておいた方がよさそうだ。

 …そういえば、MH世界ではモンスターを捕食してリンクバーストできるようになってたっけ。

 鬼が相手の場合はどうかな。

 この前の休日で試しておけばよかった。

 

 

 しかし、蝕鬼達と何度か戦った訳だが、正直ちょっと想定外というか想定内というか、想定してたのが無い。

 

 蝕鬼、蝕む鬼。

 その性質は、その辺にある物を何でも取り込んで、数を増やす事にある。

 そう、『何でも』だ。

 そこら辺に転がってる岩や枯れ木でもいいし、異界の中に迷い込んできた野生動物でもいいし………モノノフでもいい。

 

 戦闘中に何かを取り込んで強力になる、というのは予想していた。

 或いは体力を回復させる事も。

 ピンチになると、その辺の物を蝕鬼に変えてしまう事も、それをやってる間は実は蝕鬼は無防備になるからピンチの前のチャンスターイムって所までも予想していた。

 

 が…無いっ…!

 何度か戦ったが、増殖もなければ、ブーストも無しっ…!

 

 …まぁ、無い方が助かるんだけど。

 そもそもモノノフを取り込むなんて真似をされた日にゃ、戦闘不能どころか即リタイア(人生的な意味で)になりかねん。

 

 その辺を相馬さんと話してみると、「蝕鬼としての本能が上手く機能してないんじゃないか」との見解だった。

 どゆコト?

 

 

「蝕鬼の出現は、あまりにも急すぎた。

 鬼を真っ当な生物だとは思ってないが、それでも自然に産まれた鬼なら、時間をかけて変化し、それなりのバランスを持って産まれる…本来ならな。

 何者かの手がかかっている事は、俺達も考えていたんだが…そもそも新種の鬼を作り出したとして、それが上手く種として成立すると思うか?

 蛇に突然、鳥の羽をつけたようなものだ。

 羽があっても体の動かし方が分からないのだろう」

 

 

 ナルホド、蝕鬼と言っても虚海の手によって作られた、人造の鬼。

 通常の鬼には無い能力を、上手く使いこなせてないって事か。

 

 ふーむ、であれば、蝕鬼達をどうにかするには早い方がいいな。

 体の動かし方や性質の使い方を覚えてしまったら、面倒な事になりそうだ。

 

 

 

 

 

鬼門月増してお盆や正月などナニをいわんや日

 

 

 相馬さんと暦が話しているのを見かけた。

 そういや、暦って異界に沈んだ外の国の生き残り…つまり相馬さんが延々と探し続けていた人に該当するんだよな。

 だからこそ、俺は暦が討鬼伝主人公なんじゃないかって考えていた訳だし。

 

 …知ったらいきなり抱きついたりしないよな? 

 俺の時はしてきたのを殴り返したが…相手が暦だとなぁ。

 ホモではなくロリ疑惑が沸いてしまうぞ。

 暦は一応18歳だけど。

 と言うかセクハラだ。

 

 あー、でも知ってるのかな?

 暦はシラヌイ所属で、相馬さんは霊山所属。

 対立関係にある訳だし、わざわざ一般人一人を拾った、なんて情報を広めはしないだろう。

 

 それに、以前にお世話になった時には、「ようやく見付けた生き残り」みたいな事を言われたし、やっぱり知らない?

 

 

 

 で、その後の暦は暦で、何やら悩んでいるようだ。

 いや、戸惑っているのか?

 何か言われたのかな…でも自分を英雄と言い張るあの人が、味方を相手に妙な事をするとも思えないし…。

 

 

 ああそうそう、百鬼隊の方々とも久しぶりに色々話をしました。

 …副長さん、相変わらずの隠れ腐女子でございます。

 

 

 

鬼門月だが平日だって人が居なけりゃお店は大変なんですよ日

 

 

 里の近くに人型の蝕鬼が出現し、桜花や相馬さん達が討伐に出ている間に、暦が相談に来た。

 相馬さんとそのご一行の事だ。

 

 俺もすっかり忘れかけていたが、凛音さんから指示された、内通者の炙り出し。

 それが新しく里にやってきた、百鬼隊や九葉のオッサンの事なのではないか、という事だ。

 

 …なんで俺に相談する、と言いたいが、まぁ凛音さんの指令の事を知ってるのは俺か大和のお頭ぐらいだしな。

 

 

 しかし内通者ったってねー。

 相馬さんも九葉のオッサンも、大和のお頭は完全に信頼していたようだし。

 確かに九葉のオッサンは悪人顔だが。

 

 …しかも、北の地を見捨てた鬼、ね。

 秋水がどう出るか…無謀な真似はしないと思うが。

 

 

 そもそもさぁ、内通って何処と内通するんだろうな。 

 霊山?

 ウタカタは一応霊山に所属してるから、内通してもあんまり意味無い。

 命令にも一応従ってるみたいだしな。

 

 陰陽寮?

 可能性はある。

 しかし、聞いた話じゃ陰陽寮は組織と言うより個人の集まりだ。

 自分だけの目的を持って、集団の力を都合よく使って自分だけで行動する…。

 ……いや、そーいう連中だからこそ、内通って手も使える、と言えるけど。

 

 さもなくば……未だ知られない別の勢力、か。

 まさか鬼とは内通できんだろう。

 俺だって、奴らとまともな意思疎通はできん。

 挑発くらいならできるが、奴らの価値観や思考回路は異質すぎる。

 

 …詰まるところ、それが『鬼』の証なんだろうけどな…。

 

 

 ま、それはともかくとしてだな。

 俺としては相馬さんは疑ってない。

 恩師って事もあるが、そういう影のある行動はしない人だ。

 やったらすぐに翳りが出る。

 そういう単純さがあるから、英雄を謡っても中二病とか思わないんだ。

 

 んじゃ九葉のオッサンか?

 …確かにあからさまだなぁ…。

 あからさま過ぎて、いっそ怪しいのか怪しくないのか分からなくなってくる程だ。

 

 ただ、アレは…腹括って、自分の道を行くタイプだわ。

 必要であれば、北の地だろうが自分の首だろうが、それこそ何よりも大事な『何か』だろうが切り捨てる……いや、差し出すタイプだわ。

 断言しよう。

 鬼と、死兵と称する事すらおこがましい。

 命を奪われようと顔色一つ変えない、身内を人質とされようが揺るがない、欲望に染まって曲がるなんぞ表現のしようが見つからない程にありえない。

 

 そして、それら全てを…多分、精神的な異常とか断然とかではなく、意志力一つで実現してる。

 そら、鬼がどうこうってレベルじゃない程のバケモノだ。

 人として正常なのに、異常として行動し、しかも破綻させずに続けているとか…。

 

 精神的な在り方については、ちょっとこの人以上のバケモノはMH世界にも居るかどうか。

 多分、対抗できるのはシックザール支部長くらいだろう。

 コイツを内通に応じさせるなんぞ、天地を引っくり返すほうがまだ容易い気がする。

 仮に応じたとしたら、明らかにトラップだ。

 

 …内通、内通…か。

 トラップだとしても内通は内通…しかも北の地を見捨てた鬼…多分、後悔があっても抑え込んで誰にも見せねーよな。

 つまりは凛音さんやシラヌイの里にしてみりゃ、自分達を見捨てた張本人で、それがどうしたとばかりに平然としていて……。

 ああ、でも凛音さんの見解はどうだ?

 あの人は断じて愚鈍じゃないが、だからと言って大局を語る人でもない。

 個人の憎悪が判断に影響する可能性は多いにあり得る。

 

 

 

 

 …うーん…判断がつかん…。

 先の展開に関する知識が無いってのは厄介だ。

 それが当たり前の事なんだけどね。

 

 

 追記

 

 里に迫っていた人型の鬼は無事退治された。

 オンジュボウ、と名付けられたようだ。

 

 

鬼門月というかただでさえ人足りないのに、必要な人数が増えたorz日

 

 

 九葉のオッサンが怪しい怪しくないで盛り上がった後、暦と一杯飲んで(暦は茶だったが)解散。

 結局単なる四方山話となってしまった。

 いい事ではないけど、人の悪口とか陰口って盛り上がるよね…。

 

 さて、内通云々はともかくとして、真面目な話、虚海とコンタクトを取れないものか。

 蝕鬼の出現が虚海の仕業だという事は秋水の保証するところでもあるし、一度会ってペースを乱してやれば、後はどうとでもなると思う。

 所詮は虚海だし。

 

 元が健気アイドル系の千歳だった虚海が、いくらやさぐれようとも完全な悪人を演じるのは無理があるんよー。

 そりゃポンコツ系にもなるよー。

 人間、自分の身の丈や性質に合ったキャラを演じてればそうそうボロは出ないもんです。

 中身がガキンチョがAUOごっこしても痛い目を向けられるか「その歳でゴッコ遊び?」って思われるだけだが、中身が伴ってりゃ意外と認められるモンです、多分。

 

 

 しかし、虚海を捕獲できたとして、どうにかできるかな?

 秋水も言ってたが、どうも蝕鬼の大群は千歳にも制御しきれてないっぽい。

 あるいはそもそも制御する気が無いかだが。

 

 つーか、虚海の目的が分からん。

 前回の時はどうしてたっけ?

 …会ってもからかってるか、エロしてるかの2択だったようなもんだしなぁ…。

 そもそも扱い軽かったし。

 蔑ろにしていたつもりはないんだけど、こう……弄られキャラというか…。

 

 ふむ、しかし目的を聞いた覚え自体はあるな。

 ちょっと日記を読み返してみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 記述発見。

 読み返している内に、無性に千歳に会いたくなってしまったが、無理なもんは無理だ。

 あと、蔑ろにしていたつもりはないと主張しつつ、絶望や諦観に満ちていた虚海のあの表情すら忘れていたとか、人としてどうかと思った。

 

 

 それはともかく、元居た時代に戻る為、虚海は「ホロウお姉ちゃん」を追い求め、呼び込もうとしている訳だ。

 しかし、蝕鬼の出現がそれに通じるのか?

 前回はオオマガトキを利用しようとしていた。

 今回はそれを事前に阻止してしまったし、自分で何かしらのアクションを起こしても不思議はないが…ホロウお姉ちゃんとやらがこの時代に来るとしたら、イヅチカナタが来た時だよな。

 …つまり、蝕鬼の出現に関する「何か」が、イツヂカナタを呼び寄せる餌になる…と考えているのか。

 

 おそらく確証はないだろう。

 だからこそ、蝕鬼を生み出して、何かの実験をしている。

 

 言葉で説得するのはまず無理だな。

 止めるなら力尽くでやらにゃならんか。

 やれやれだ。

 

 

 

鬼門月愚痴っても仕方ないので、作業の簡略化方法を探す日

 

 

 蝕鬼の殲滅戦は、まぁ順調だ。

 多分、主力がまだ動いてないって事もあるんだろうが、このまま行けば大部分を狩りつくせるだろう。

 が、まだ局地戦で一勝しただけの事。

 気を緩めるな、モノノフ達よ……By九葉のオッサン。

 

 言ってる事は尤もだが、態度が尊大だし勝って湧いてる時に水を差すし、嫌われる上司タイプだね。

 カチンと来た人は何人か居たようだが、一応上司ではあるし、表立って反抗的な事を言うモノノフは居ない。

 

 さて、そんじゃ俺も次の戦に備えますかね。

 エロい事して霊力を高めるんじゃなくて、俺だって真面目に修行してんですよ。

 極に入ってから、何だかんだで敵が強くなってきて、このままじゃイカンと思ってた所です。

 

 

 

 

 …で、ちょっとばかり修練に行こうとしていたら、見知った顔が二つ程。

 

 おい、お前ら霊山に居る筈だろ。

 何で美麻と美柚がここに居るんだ?

 

 

「さあお立会いお立会い! 「…いー」

 花の都の霊山の、いっとういちばん事情通。

 新しき事を聞き報ず、その名も「霊山新聞社」!

 本日ただいま、「ウタカタ支部」の初お披露目にございます!

 お題は結構、こけこっこー! 「…こー」

 さあさあ、お手にとってご覧くだせえ!」

 

 

 

 …相変わらずだな、コイツら…。

 とりあえず一部貰った。

 

 新聞自体は、真っ当な物のようだが…ウタカタ支部?

 一体何があったんだ?

 

 

 俺が霊山に居た頃に、「あずまの国の生き残りを取材させてほしい」と言って押しかけてきた、霊山新聞社…の社長の娘二人。

 明るくて騒がしい美麻に、無口で気配を消すのが妙に上手い美柚。

 なんとも対照的な二人だったが、仲は良かった。

 

 あんまり覚えてなかったんで日記を読み返してみたが…彼女達の父親の会社が霊山に買収されてから、大好きだった父親の新聞が変わってしまったと嘆いていたようだ。

 そして当時は「『本当』を知りたい」と言って、ウタカタに向かう俺について来た程の行動派。

 当時はまだ比較的ピュア(オカルト版真言立川流指南書を読んだばかりだった)だった俺と同居していたが、男女の関係にはハッテンしなかった。

 

 …今回も、本当が知りたいって事で来たんだろうか?

 しかし、あの時だって親の許可も無しに勝手について来てたし…正式に許可とってんだろうか。

 ウタカタ支部ってのも自称かもしれんし…まぁ、別にいいか。

 その辺は俺が関知する事でもない。

 かつての同居人として一方的に義理はあるので、困った事があったり、取材を頼まれたら応じる程度の協力はしよう。

 

 

 

 

 …ん?

 暦が探してるスパイって、この二人じゃないよな?

 霊山と通じている可能性もあるが……いやでも霊山がウタカタ探って意味あるのか?

 そもそも、「本当」を知りたいと言っていたあの二人が、ウタカタまで嘘を吐きに来るとも思えんし…。

 

 

 

鬼門月でも途中からネタと妄想を考えるのに逸れる日

 

 

 蝕鬼の雑魚狩り中。

 雑魚と言ってもそれなり以上に強いが。

 

 

 ここの所大人しくしすぎてたんで、大和のお頭に許可を取って無限討伐任務やったり、一人でフラフラとサバイバルして帰って来る日々。

 うんうん、やっぱりこれくらいが俺のデフォルトだよな。

 しかし以前に比べるとまだ大人しい。

 もう少しリハビリを続けようか。

 

 ところで、一人でフラフラしていた所、異界で相馬さんと遭遇した。

 こっちも一人だ。

 俺が言うのもなんだけど、何やってんの?

 相馬さん、今日は休みの日じゃなかったっけ?

 

 

「ああ…大した事じゃない。

 ちょっとした探し物をしていただけだ。

 そういうお前は?」

 

 

 暇潰し兼お小遣い稼ぎに狩りしてました。

 

 

「力が有り余っているようで結構だな。

 だが休みはちゃんと取れよ」

 

 

 オマエモナー。

 で、相馬さん今日はどうすんの?

 俺はもう少し狩って帰るつもりだけど。

 

 

「そうだな…俺の探し物もここには無いようだし、お前とも少し話をしてみたかった。

 付き合うとしよう」

 

 

 はいよ。

 

 

 さて、足の向くまま気の向くまま、フラフラと異界を歩きながら、見付けた鬼を適当に狩る。

 いい腕をしている、と言われたけど、まだまだです。

 

 ところでこの人、俺が正式なモノノフじゃないって知ってるようです。

 何でも、大和のお頭が霊山に行った時、頼まれて俺の事を調べたのがこの人だとか。

 ううむ、知らない所でそんな繋がりが…。

 

 

「まぁ、だからと言ってどうこういう気は無い。

 既に里の一因として大和殿が認めているし、この状況でお前の戦力は貴重だ。

 害意があるようにも見えんからな」

 

 

 うーむ、モノノフってなんかお人好しばっかりだな。

 そうして考えると、性格が一番捩れてるのはGE世界だろうか。

 MH世界?

 あれは捩れてるんじゃなくてブッ飛んでるんだ。

 

 

 

 雑談しながら狩りをしていたら、ふと気付けば結構な時間が経っていた。

 体力はともかく、活動限界時間がそろそろキツい。

 俺は平気だけど、相馬さんがな…。

 

 キリが良かったんで、引き上げることにした。

 で、その帰り道に、いつぞや見つけてその内調べに行こうと思っていた、雪原に通じる結界石の洞窟の傍を通りかかった。

 

 あー、ここにそーいうのがあるんだよー、とちょっとした世間話のつもりだったんだが…なんか食いついてきました。

 探している物がそこにあるかもしれない、と言っていた。

 別に連れて行くのはいいけどさ…最初は桜花と二人で行こうかと思ってたし。

 

 人肌で温まれないのはちと残念だが、恩人の頼みだ。

 行くしかないだろう。

 が、流石に今回は無理だ。

 もう夕刻だしな。

 

 …詮索しなかったが、探し物ってのが何なのか気になるな。

 

 

 

 

鬼門月そして帰る頃にはネタすら忘れる考え損日

 

 

 今日の仕事と言うか狩りを負えた後、相馬さんと二人で結界石の洞窟に行く事になった。

 橘花、そんなに残念そうな顔するな…ちゃんと夜…遅くても明日の昼くらいには帰って来るから、いい子で桜花をオモチャにして待ってるんだぞ?

 

 輝かしい笑顔で見送ってくれました。

 桜花は頭を抱えていたけど、もうお前も同類だから諦めんしゃい。

 

 んじゃ、俺達でかけてくるんで、里の護りと残りのノルマはよろしくな。

 

 

 

 

 さて、そんな訳で結界石の洞窟にやってきました。

 一応警戒しながら進んでいるが、居るのは蝙蝠や虫くらいだ。

 人間の気配や痕跡は、今尚残っている矢印くらいだし、結界石で出来ているだけあって、鬼はとてもじゃないが入ってこれない。

 

 道に迷わないようにだけ気をつければいい。

 相馬さんは、探し物とやらがあるとすれば、異界の傍…つまり雪原側の洞窟出入り口付近だと考えているらしい。

 

 やれやれ、橘花には夜には戻ると言ったが、こりゃ朝帰りになるかもしれんな。

 男二人で朝帰りとかヤダヤダ。

 

 

 

 なんて軽口叩きながら進んでいたんだが…なんかちょっとおかしい。

 気のせい…じゃないな。

 人が通った痕跡が、僅かに残っている。

 

 対鬼が専門の相馬さんには分からないようだが、こちとら対人専門のアサシンから受けついだ鷹の目がある。

 一度痕跡を見つけてしまえば、そうそう見失いはしない…。

 

 といいたい所だが、何日も前の痕跡だし、人数もたった一人…いや、二人?

 ……一人が往復した跡だな、これは。

 恐らく、荒事や隠形の専門家ではない。

 足跡の歩幅も一定ではないし、ブレがある。

 

 …この洞窟を抜けて、また戻ったのか?

 誰が、何の為に?

 

 …足跡は、迷ったりする素振りもなく奥へ続いている。

 幸いというべきか、足跡は俺達が進もうとしている道へ続いているようだ。

 追ってみるしかないか…。

 

 警戒しながら進むから、少し進軍スピードは落ちるな。

 …やはり不審者、敵なんだろうか。

 或いはコイツが、暦が追っている内通者だという可能性もある。

 

 となれば、それこそ気をつけて動かなければならない。

 普通に進んでたら、うっかり敵に気付かれて迎撃されてしまうかもしれない。

 

 そうなったら厄介だろうなぁ…この、逃げ場はあるけど地の利がまるで無い洞窟だし。

 襲撃とか襲撃とか襲撃とか。

 ……襲撃(をかける)とか襲撃(される)とか襲撃(をかける)とか襲撃(をかける)とか襲撃(をかける)とか奇襲(をしかける)とか殲滅(する)とか逆撃(をされる)とか。

 これこそ狩りの時間だな。

 狩人と獲物は一見対等に見えても、狩人は常に自分を優位に保ち闘うこと無く刈り取ろうとするから狩人なのだ。

 どれだけ準備を整えても、それをしくじれば狩りは狩りではなくなってしまう。

 狩りから、狩られる側に変わる。

 

 …久しぶりだなぁ。

 最近は一方的に狩るだけか、狩るんじゃなくて叩き潰してばかりだったから。

 この緊張感が狩りの醍醐味だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・どやがおでかたったおれをころしたい

 

 

 けっきょくなにもありませんでした

 

 

 




気のせいかな…MHXのモンスター、妙に脆いような…。
まだ下位だからか?


あとターバンのガキに話しかけたらダメージ20喰らって乙った。
今度あったらエルザイト爆弾放り込んでやろうと決めました。

…でもあの手の引火する奴って、持ってるだけでもスゲェ怖いんだよな…。


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110話

失敗が続くとやる気もなくなるなぁ…。
ゲームなら失敗しても、そうそう気力は萎えないというのに。

フリカツ、シュクリスを撃破しました。
夢幻倉庫活用すれば、100Km行かない間に勝てるんだね…。

あとMH4はやってないから、ココット村でのストーリーとかどうするか悩み中です。


鬼門月炭酸は強いのが好き日

 

 

 この緊張感が狩りの醍醐味だよ(キリッ

 

 …自分で自分を煽ってみるスタイルで。

 割とマジで心が痛いな。

 

 …まぁ、それはともかくとして、洞窟の雪原側出入り口に居ます。

 相変わらず、人が使った跡が残っている。

 俺と相馬さんもここで一晩明かした。

 俺達より先に入ってきた誰かさんも、ここで何かしていたらしい。

 

 …と言うより、二人居た…?

 足跡が一つ増えている。

 一つは俺達と同じ道を通ってきた誰かさん。

 もう一つは、最初からここに居たらしく、そして雪原側の出口から出て行った誰かさん。

 

 密会か?

 色気もヘッタクレもない、来るだけでも苦労するような場所で逢引か?

 怪しさで好奇心がギュンギュン刺激されるね。

 

 

 それはともかく、相馬さんが探している物とやらは、ここには無かったらしい。

 残念だったが、もう何年も探し続けているもので、空振りには慣れている、と笑っていた。

 

 

 ところで、一晩明かす間に、この付近を色々と調べてみた。

 ここに居た誰かさん達の事も気になるしね。

 

 だが手掛かりらしい手掛かりは無い。

 …何日も前の事のようだし、鷹の目の過去視も上手く行かない…足跡を辿れるだけでも驚異的だけど。

 

 ただ、ちょいと気になるものを発見した。

 洞窟の一角に、妙に強い霊力を感じる場所がある。

 やり様によっては、ミタマの力を引き出す…樒さんみたいな事が出来そうな場所だ。

 

 

 

 

 何でこんなモンがこんな所にあるん?

 

 そりゃ、確かに天然でそういう場所があるってのは、霊山にあった本に書いてあったような気がする。

 そーいう場所でオカルト版真言立川流すると強くパワーアップする、とか書いてあったから、これはよく覚えている。

 所謂、龍脈とか霊域って奴かな?と思ってたな。

 

 それがここに?

 確か、自然豊かな土地とかに点在するって記述があったが。

 …自然…まぁ自然ではあるよな…。

 洞窟だって自然の一つには違いない。

 人の手はほぼ入っていない領域だ。

 

 しかしなぁ、ここ結界石の洞窟なんだよなぁ。

 結界石はその名の通り、特に霊力を流し込まなくても、それだけで色々な穢れを弾き飛ばす性質を持つ。

 その為、結界石で囲まれた場所の内部には、基本的に穢れてないエネルギーしか入り込まない。

 穢れてない…と言えば聞こえはいいが、水清ければ魚棲まずと言うし、そもそも清濁のエネルギーの内、清しか入ってこないというのは、つまり従来のエネルギーの半分以下しか入らないという事でもある。

 

 そんな場所に、強い霊力を感じる場所?

 矛盾している。

 

 

 明らかに何かあるよな…。

 

 

 

 

 掘り返してみる事にしました。

 

 

 

 相馬さんにも手伝ってもらい、凍った地面をドッカンドッカン殴り続ける事、十分ほどだろうか。

 いい加減、二人とも飽きが入ってきたところで……。

 

 

 

「……何やってるんだ、二人とも…」

 

「音を辿ってきてみれば…」

 

「おう、息吹と暦か。

 丁度いい手伝え……………息吹と、暦?」

 

 

 

 呆れた目をした二人が、何故か雪原側の入り口から入ってきた。

 

 穴掘りの手を止めて話を聞いてみれば、なんでも鬼との戦いで不覚を取って、二人して崖からおっこちたらしい。

 よく無事だったな…。

 

 

「いや、無事って言っても流石に無傷じゃないけどな。

 悪いけど俺、暫く闘えそうにない…」

 

「足が折れているのか…。

 よくここまで歩いてこれたものだ」

 

「まぁ、暦が一緒に居たしな。

 俺を置いていけって言っても、意地でも一緒に帰ろうとするんだぞ。

 ここで根性見せなきゃ男じゃないだろ」

 

「ふっ、確かにな。

 だが今は休め。

 応急処置とミタマの力を使えば、戦闘はともかく歩けるようにはなるだろう」

 

「そうだな…悪い暦、ちょっと休むわ。

 状況説明とか任せる」

 

「了解した、伊吹殿。

 …すまない、私のせいで…」

 

「これが暦のせいだって言うなら、お互いに支えあってるから一緒におっこちた事になるな。

 ま、それはそれでいいもんだ…無事に帰れそうだしな」

 

 

 むぅ、息吹がいい兄貴している。

 普段の三枚目ペースでないと鳥肌が立ちそうなんだが。

 

 

 それはともかく、鬼討伐の最中に、異界に現れた故郷の城に目を奪われ、その隙を付かれたらしい。

 咄嗟に息吹が庇ったはいいが、そのまま落下。

 落下中に強引に槍を崖の壁面に突き刺して勢いを殺し、暦を抱えて受身を取ったらしい。

 そういえば、息吹が持ってる槍がちょっと曲がってる…。

 

 …無茶するなぁ。

 しかし、人間一人を抱えて落下し、ハンターでもなきゃイーグルダイブでもないのに生き残るとは…。

 息吹の生存能力は、思っていた以上に高いようだ。

 

 

 とは言え無傷とはいかず、どことも知れない雪原のド真ん中。

 どっちに行けばいいかも分からず取り合えず歩きだそうとしたら、何処かから妙な音が響いてきた。

 鬼が何かやっているんじゃないか、とも思ったが、他に当ても無い為、とりあえずそっちに来てみたそうな。

 

 そしたら洞窟があり、その中では地面に金砕棒を叩き付ける相馬さんと、妙に立派な工具(グレートピッケル)を持って穴を掘る俺。

 

 助かりそうなのは事実だが、訳が分からなかったそうだ。

 

 

 

 

 

 さて、息吹の応急処置も終わり、体力回復の為に一足先に夢の世界に旅立った。

 暦にはこっちの状況説明…相馬さんの探し物と、妙な物を見付けた俺…を済ませ、後は暫く休んで帰るだけだ。

 

 俺としてはあの謎の霊力源を調べてみたいんだが、怪我人の傍でカンカンカンカン音を立てるのも気が引ける。

 息吹が起きてから…とも思ったが、却下された。

 息吹も暦も、里からしてみれば行方不明、MIA状態だ。

 救出の為に動いているだろうし、早いところ無事を知らせるに越した事は無い。

 

 今日は息吹が起きるまではここで全員待機だな。

 やれやれ……帰るのが遅れるな。

 怒った橘花に搾り取られそうだよ。

 

 

 

 

 

 そして今、皆が寝静まり、俺だけが見張りの時間。

 

 ふと思いついた。

 人が寝ている横でカンカン音を立てるのはよろしくない。

 が、他に方法があるんじゃないか?

 

 

 具体的には、神機に地面を食いつかせてペッさせるとか。

 アラガミの装甲だって平然と食いちぎる神機のアゴだ。

 地面くらいワケないだろう。

 問題は、神機自身がイヤがりそうだって事だが、ここで一工夫する。

 

 アラガミ化すれば、神機は俺の体の一部になり、その動作は俺の自由自在。

 腕をプレデターフォームにして、口以外からモノを食べるという新感覚を味わうハメになるが、飲み込まなければ大丈夫だろう多分。

 

 という訳で、音を立てないようにコッソリと…仮面ライダー! アラガミ!(小声)

 

 

 さて、パクッとな。

 む、マズい、冷たい…飲み込まなくても味は感じるよな。

 

 しかし、思ったとおり音を立てず、ハイスピードで掘り進める。

 でも何度も味を感じたいとは思わないから……今度はもうちょっと大口で。

 

 

 それ、パクッとな。

 ほれ、パクッとな。

 どれ、くぱぁとな。

 やれ、パクッと

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼門月風呂は熱いのが好き日

 

 

 気がつけば朝だった。

 皆が妙に心配そうに見てきた。

 

 どったの?

 なんか記憶が無いんだけど。

 

 と言うか見張りの途中で寝ちゃった?

 

 

 そう言ったら、「作戦会議!」との暦の叫びと共に円陣を組んだ…俺以外。

 

 おい、ナニをナチュラルにハブってくれやがるんですかねぇ?

 友達に仲間外れにされた小学生のように泣きそうなんですけど。

 

 

 

 …冗談はともかくとして、何で寝てたのかね?

 こちとらハンターの端くれだ。

 どれだけ疲れていたとしても、狩場(或いはベースキャンプ)で何時間も眠り続けるなんぞあり得ん。

 ハンター式熟睡法を考慮に入れなくても、だ。

 そりゃ文字通り死ぬほど疲れてれば話は別だが、寝る寸前までピンピンしていた記憶は残っている。

 

 となると、唐突に気絶したって事だが……なんで?

 誰かがやった…訳じゃない。

 ここに居るメンバーに、俺に全く気取られずに気絶させるなんてまず無理だし、その理由も無い。

 新種の鬼、或いは目に見えない…所謂『朧』の鬼が出た訳でもなさそうだ。

 痕跡がまるで無いし、この洞窟に普通の鬼が入るのは難しい。

 

 …気を失う前に何があった?

 ……そう、確か『どれ、くぱぁとな』…………えっと、確か穴を掘り進んでいた筈。

 性的な意味に非ず。

 

 冗談はともかくとして、あの時に何かあったか。

 考えてみりゃ、得体の知れない霊力の源だ。

 どんな物があったっておかしくない。

 しかも、俺はアラガミ状態で地面を喰いつつ掘り進んでいたのだ。

 一歩間違えれば…と言うか間違えた結果…、浄も不浄も分からない『何か』を食らって体の中に取り込んでしまってもおかしくない。

 

 という事は、得体の知れない何かは毒の類であり、それを俺が食っちまったと?

 しかも、俺の意識を一瞬で刈り取るような。

 

 迂闊どころの話じゃねえ。

 

 

 …で、それが何で俺がハブられてる状況に繋がる訳?

 俺が気絶してる間に何があったのん?

 

 

 

鬼門月カレーは辛口が好き日

 

 とりあえずウタカタに帰ってきました。

 予想通り、MIAで大騒ぎになりかけていたところへ当の本人が帰ってきて、盛大にお迎えされていた。

 

 あと、帰って来るのが遅れたって怒られたよ、橘花に。

 抓るな抓るな。

 

 で、相変わらず俺はハブられたまま、息吹が代表して大和のお頭に何か報告に行った。

 何故か俺は他のメンバーに囲まれたまま、ウタカタ本部に入れずオアズケ状態。

 …いや本当に一体何があったんだよ。

 

 

 暫くして、何故か高笑いが本部から聞こえてきた。

 …アレは九葉のオッサンの声だな…。

 「はーっはっはっは!」って、ツラに似合わず爽快な笑い声だ…尊大でもあるが。

 

 更にその後、樒さんが本部に呼び出されていた。

 マジでどうなってんのさ。

 

 

 

 

 

 更に暫く待たされた後、何故か樒さんに診察を受けた。

 エロは無しだ。

 だって他に人が立ち会ってたし。

 

 …どういった結果が出たのかイマイチ分からんが、樒さんの診察の後に、俺に何があったのか話を聞かされた。

 

 

 

 

 鬼に変化していた、と。

 

 あの日、俺以外の皆が眠りについた後、突然の絶叫で飛び起きたらしい。

 何事かと思って見回せば、俺は居ない上、見知らぬ人型の鬼が洞窟の中で苦しんでいる。

 すわ襲撃か、こいつが俺を攫ったのか…と思ったら、人型の鬼は……なんつぅかこう、不安定な様子と言うか明滅しているというか、とにかく体が消えたり現れたりしたらしい。

 そして鬼の体が消えた時に現れるのは、代わりに俺の…人間の体。

 

 どういう事だ?と戸惑ったものの、手を出す訳にも行かず…。

 暦が「まさか、鬼に呪われたのか?」と呟いたのを切っ掛けに、「鬼の呪いなら鬼祓いで対抗するぞ」という事になったそうな。

 鬼の呪いだったかはともかくとして、鬼祓極(複数人の霊力を共鳴させた鬼祓い)をする内に、何とか体も人間の物に固定され、苦しみ様も治まった。

 

 そして、俺の体の横に落ちていた、一本の異様な剣。

 俺が使っていた太刀がなくなっていたので、この剣は太刀が呪いで姿を変えた物ではないか?と考えられる。

 

 

 ちなみにその剣は?

 …そう、ちゃんと持って帰ってきてるのね。

 …あの、それ単なる神機なんですけど…。

 そして鬼になってたって、それ単なるアラガミ化なんですけど…。

 元々使ってた太刀は、ふくろの中でオネムしています。

 

 

 

 

 それはいいのだが、一体これはどういう事か?(この辺は俺じゃなくて皆の視点ね)

 洞窟内に鬼の気配は無い。

 襲撃を受けた訳でもないようだし、何故に俺は唐突に呪われているのか。

 そもそも、人間を鬼に変えてしまうような呪いなど、聞いた事が無い。

 

 暫く話し合ったが、俺の目が覚めるまで、結界石の洞窟の中で待機する事になった。

 穢れを弾く結界石の洞窟の中なら、鬼も呪いもまず侵入して来れないからだ。

 

 そして、朝になって目覚めた俺は、鬼となっていた事を全く覚えていなかった。

 これはそのまま伝えていいのか?

 誤魔化すべき事なのか?

 そもそも専門家に見せるべきではないのか?

 …この辺が、俺をハブって作戦会議した内容のようだ。

 

 結局、素人判断で考えていい事ではない、という結論に至り、ウタカタに戻るや息吹が大和のお頭に報告。

 樒さんを呼んで診察してもらった訳だ。

 

 で、結果はどうですかね樒さん。

 ちょっと特殊な体質だって事は、樒さんもご存知でしょうが…。

 

 

 結論から言えば……どうやら、俺の体は蝕鬼に浸食されている、らしい。

 ほわーっつ?

 

 要するに、俺が結界石の洞窟で見つけたあの霊力の高まりの元。

 それこそが、蝕鬼を生み出す「何か」だったらしい。

 不用意にそれに触れてしまった結果、俺の体は蝕鬼と同じように蝕まれ、鬼になりかけているのだとか。

 

 

 そこまで話したところで、高笑いが聞こえて九葉のオッサンが登場した。

 朝っぱらからテンションが高い人だ。

 

 何処と無く機嫌がいいようにも、悪いようにも見えるが…。

 

 

 

 

 

 

 何?

 

 俺のおかげで、段取りと計画が台無しだ、って? 

 

 何事かと思えば…なんとこのオッサン、蝕鬼を生み出した輩(虚海)と繋がりがあったらしい。

 すわ内通か、暦が探していた間諜か…という話になりかけたが、大和のお頭がそれを抑えた。

 

 蝕鬼を生み出すのに触媒があるのは分かっていたから、ここぞという瞬間までは協力するように見せかけ、触媒の場所が分かったら確保・同時に虚海を捕らえる、という策だったらしい。

 その相手、よく九葉のオッサンが協力するって信じたもんだ…と言ったら、人質を取られているのだとか。

 …犠牲前提の人質を。

 勿論、人質の方も最後に自分が捨てられるのは承知の上か…このオッサンの部下までソッチ系か。

 敵対するのは絶対アカンタイプだ…。

 

 

 しかし、その段取りももうパァである。

 偶然とは言え、蝕鬼の触媒は全て俺が取り込んでしまった。

 念のため、まだ残っていないか周囲は調べるつもりだが、多分無いだろうな。

 あるとしたら、虚海の手元にまだ幾つか。

 

 何れにせよ、虚海は自分の手札である蝕鬼の触媒に異常が起きた事は間もなく気付くだろう。

 ヘタをすると、このまま姿を消しかねない。

 

 この後虚海が姿を見せるとしたら…。

 ①触媒が奪われた事に気付かず、洞窟に訪れる。

 ②既に触媒が奪われた事に気付いており、九葉のオッサンが裏切ったと判断。人質の下へ現れる。

 

 この2択かな。

 

 

「恐らくは前者だろうな。

 奴はあの洞窟に頻繁に訪れている訳ではない。

 今思えばそれも、重要な物はあの場所には無い、という偽装だったのだろうが…。

 

 全く、想定外の事をしてくれたものだ。

 私の策の通りに行けば、触媒と奴を同時に手中に出来たものを」

 

 

 その代わり、人質に出してる奴は殺されるんだろう?

 手間が増えた代わりに手札を温存できたと思えばいいじゃないか。

 

 

「ふっ、違いない。

 はーっはっはっはっは!」

 

 

 …やっぱテンション高いわ、このオッサン。

 

 

 

 

鬼門月仕事は楽なのが好き日

 

 

 さて、虚海を捕縛しようと皆して動き出した訳だが。

 本当に勘付かれてないのか、って不安はある。

 虚海の能力は動物使役。

 鳥やら動物やらを操って、ウタカタを監視するのは難しくない。

 と言うより以前のループでやっていた。

 しかし四六時中監視している訳ではないだろう。

 

 だが下手な動きを見せる訳にはいかない。

 突然ウタカタのモノノフ全員が、結界石の洞窟に向かい始めれば、そこで何かあった、或いは虚海を待ち伏せしていると宣言するようなものだ。

 しかしながら、数人だけで待機したとしても、都合よく虚海が訪れる確証も無い。

 

 …なるほど、九葉のオッサンはこういう事態を嫌ったから、一度にカタをつけようとした訳か。

 

 一方で、虚海の人質となっている部下の方の居場所はわかっている。

 虚海が人質を拉致しているのではなく、通常通りに行動させ、それに監視をつける形になっているからだ。

 そんで、九葉のオッサンが何かやった時には、毒蛇辺りをけしかけてガブッと…って事だな。

 人間使って監視するより効果的だ。

 

 

 ふむ…そういう事なら、ハンターの俺か、元忍びの速鳥が護衛に適任かな。

 と思ったが、今回の俺は留守番を命じられてしまった。

 何せ蝕鬼に蝕まれ、一時は鬼になっていた(という事になっている)くらいだ。

 今は落ち着いているが、例えば鬼が放つ瘴気に触れて再発する…という事だって考えられるのだ。

 

 …むぅ、実体がアラガミ化だという事を考慮に入れても反論できん。

 蝕鬼の触媒を取り込んだことで、俺にどんな影響があるか、まるで予想できない。

 ヘタをすると、今回の俺は以降一切狩りができない可能性もあるか…。

 

 

 

 

 

 想像しただけで気が狂いそうなんですが。

 

 

 

 ともあれ、確かに体がどうなっているかの調査は受けておいた方がいい。

 …だから橘花。

 暫くオアズケになってしまうが、勘弁してくれ。

 

 そんなこの世の終わりを見たような顔せんでも…。

 触れずにヤれるプレイもあるぞ。

 今まで只管ネッチョネッチョグッチョグッチョしてたから、ちょっと趣向を変えていってみようか。

 

 世の中にはね、催眠音声でビクンビクンしたり、言葉攻めでビクンビクンしたりする人が居るんだよ。

 

 

 

鬼門月映画は笑えるのが好き日

 

 

 新プレイも中々好評でしたが、やっぱり触れないと不完全燃焼の橘花さんでした。

 何やったって?

 

 …目隠しした橘花に延々と卑猥な囁きを吹き込みながら、自分でさせるとか…。

 同じく目隠し耳栓した桜花を、俺の指示で橘花が色々弄り回すとかかな。

 

 

 

 それはそれとして診察結果についてですが…とりあえず、のっぺらミタマのパワーアップ。

 それから…やっぱり体が少し変質している、らしい。

 しかしどう変わっているかは定かではない。

 流石の樒さんも、ハンターかつゴッドイーターかつモノノフかつアラガミかつのっぺらぼう集合体な俺の体を理解は出来ていなかった。

 そこから更に変質したって、分からないモノが訳が分からないよ状態に進化したって程度の話でしかない。

 

 うーん、それじゃやっぱり狩りはオアズケだろうか。

 ちょっとずつ瘴気を浴びてみて、体がおかしな事にならないかテストしてみるべきか。

 

 …いや、そもそも今アラガミ化したらどうなるんだ?

 蝕鬼の触媒を取り込んだんだから、何かしら変化が出てもおかしくない。

 

 つまり第二形態か。

 テコ入れが来たか。

 

 喜び勇んで変身したいところだが、だがちょっと待ってほしい。

 触媒を取り込んだ後、俺はどうなった?

 前触れも無く気絶する程に苦しんで、アラガミ化した姿もひどく不安定だったらしい。

 

 神機にしたって、昨日よくよく見てみたら、あちこち異常が出ていた。

 アラガミ化した状態だと、文字通り体の一部だもんな。

 あまつさえ、触媒を取り込んだのは神機を通してだ。

 浸食されたって、全くおかしくない。

 

 

 この状態で変身したら…少なくとも平常じゃいられんだろうな。

 ヘタをするとその場でデスワープも在り得る。

 

 折角無印クリアしてここまで来たんだから、迂闊な死亡は出来るだけ避けたい。

 戦って力及ばずしてデスワープならまだしも、これで自分のウッカリで死んでしまったとあらば死んでも死に切れん。

 死に切れないけど。

 

 元よりあんまりアラガミ化ばかりしてても、地力が落ちていきそうだしな。

 どうしようもないピンチになるまでは、アラガミ化は封印しておくか。

 

 

 さて、そうと決まればメシだメシ。

 狩りもできない、R-18も出来なくは無いが直接触れられないとくれば、後はもう食うか寝るしか楽しみがないや。

 

 

 

鬼門月がっつりエロと隠されたエロスはどっちが好き?日

 

 九葉のオッサンの人質を確保しに向かっている速鳥以外、代わる代わる見舞いに来てくれた。

 人情が身に染みるが、体感としては特に何も無いんだよな。

 蝕鬼の触媒が体の中にあるってのも実感無いし。

 勝手にアラガミ化が始まる訳でもないし、普段と変わらない。

 

 いつまで狩りをオヤスミすればいいのやら。

 MH世界でも強制的に休みを取らされた事があったが……まぁ、あの時に比べればマシか。

 直接触れられないとは言え、橘花や桜花を言葉攻めしたり自分で弄らせたりして遊べるし。

 

 

 

 それはそれとして、相馬さんが何やら血相変えて異界に向かったそうだ。

 普段は余裕綽々のあの人が、一体何故?

 以前から、時々一人で異界に潜っていたのは知ってるが。

 

 とりあえず言える事は、仮これが討鬼伝極のイベントだとするなら、新たな大型鬼が違いなく登場するって事だ。

 流石に一人じゃヤバい。

 

 そういう訳なんで、理由は適当に誤魔化して、他のメンバーに救出に向かってもらった。

 …極まで来ても、お約束の一人で出撃イベントには変わり無しか。

 芸がないと言うべきか、一貫しているというべきか。

 

 ま、相馬さんに他のメンバーが揃ってれば、大抵の鬼は叩き潰せるだろう。

 果報は寝て待てと言うし、今日もダラダラしますかね。

 中途半端に動くと、狩り欲か性欲が漲ってくるし…。

 

 

 はー、オヤツでも食って寝るとしますか。

 

 ああ、後でどんな鬼が出たのかだけ聞いておかないとな。

 

 



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111話

ちょいとスランプ中です。
と言うより、MHXが殆ど進んでいないのでk、そこら辺をどう書くか迷っていると言いますか。
ある程度話は進んでいるのですが、やっぱり土台となるストーリーがあると無いとでは雲泥の差です。


鬼門月土日祝日に外食しない主義日

 

 

 相馬さんが異界に向かったのは、異界に呑まれて行方不明になっていた百鬼隊の遺体を回収する為だったらしい。

 生き残った隊員は、死んでしまった隊員の願いを叶える。

 その為に、相馬さんは数年間、各地を転戦して異界をさ迷い歩いていたのだそうだ。

 

 …スゲェな。

 俺にはできそうにない話だ。

 どんなに仲がよかった相手でも、死んでしまったらハイそれまでよ…なんて思いかねない。

 …いや、今までは自分が死んでいたから、そうだったのかな。

 

 百鬼隊とウタカタのモノノフを勝手に動かしたって事で、九葉のオッサンからちょっと小言があったらしいが、「士気に繋がるなら歓迎しよう」とも言ったそうなんで、まぁお咎め無し。

 めでたしめでたし、でいいだろう。

 

 後は虚海を捕らえるだけ、という段階ではある。

 秋水と九葉のオッサン曰く、そろそろ定期連絡の時期だから、準備をしておけ…との事。

 

 

 それはいい。

 それはいいんだ。

 

 問題はむしろ、俺に起きつつある。

 その問題とは…。

 

 

 

 腹が減る事だ。

 

 

 ここ数日、食っちゃ寝食っちゃ寝した生活を送っていたが、妙に腹が減る。

 元々健啖ではあったが、食った傍からまた腹が鳴る、なんて事は無かった。

 

 ただ腹が減るだけならいい。

 喰い合わせとかの問題もあるだろうし、そういう事だってあるだろう。

 

 

 が、俺の体は半ばアラガミ。

 ゴッドイーターが腕輪の制御を失い、アラガミと化す際、異様な空腹感を覚える。

 …情報源は、ゲームシナリオにおけるリンドウさんの独白と、実際に何度かアラガミ化した俺の実体験だ。

 

 あの時程酷い空腹感ではない。

 酷くは無いが、あの時に通じるモノがあるのも確かだ。

 

 制御されていたアラガミ化が、再度始まっているのか?

 切っ掛けは明らかに、蝕鬼の触媒を取り込んだ事だろうが…一体どういう風に干渉しあったのやら。

 

 今更ながら、どうして俺がアラガミ化をコントロールできるようになったのか、未だに不明なのだ。

 原理を考察しようにも、唯一の手掛かりが、既に殆ど覚えていない夢だけだしなぁ…。

 

 蝕鬼も鬼には違いないから、鬼祓いすれば体の中の瘴気その他を散らす事はできるかもしれない。

 が、今回は瘴気の源自体が体内にあるんだし、それをどうにかしないと幾ら瘴気を払っても元の木阿弥じゃないか?

 

 そもそも、アラガミ化がコントロールできなかった頃は、瘴気を体に残す事で、Pナンタラ因子の活動を妨げ、アラガミ化の侵攻を防いでいた。

 その理屈で言うと、触媒が体の中にある事で、むしろアラガミ化できなくなるって展開になった方が納得ができる。

 しかし納得しようがしまいが、アラガミ化が再発しているのは事実(多分)。

 

 

 考えられる事としては、触媒とアラガミの因子が互いを浸食し合い、バランスが崩れて暴走している…ってところか?

 しかし、そうなるとどうやって対策すればいいのやら。

 この世界に、鬼や術の専門家は居ても、ゴッドイーターに関する知識を持っている者は居ない。

 ゴッドイーターの世界にも、アラガミやPナンタラ因子の研究者は居ても、オカルトの術を実用化できている者は居ない。

 強いて言うなら俺が両方を持っている訳だが、当然専門家でもなければ研究者と呼べるレベルでもない。

 

 ちゃんとした知識も無い状態で、思いつきや力技で何とかしなければならない訳だ。

 …内臓の負傷を、全く知らない食材ばかりを使った食事療法で治せって言われたらこんな気分になると思う。

 

 とは言え、やらない訳にもいかないんだよなぁ…。

 まぁ、死んでも続きはあるんだし、いつかは何とかなると思うけど。

 

 

 

鬼門月繁忙期に外食して快適に過ごせる訳が無い日

 

 

 うーむ、やっぱり異様に腹が減る。

 まだ気が狂いそうな程じゃないし、普通にメシ食ってりゃ耐えられるが、やっぱりちょっとイライラが…。

 

 …いっそ桜花の料理練習に付き合って、劇物食ってみるか?

 

 

 ……やっぱイヤだ。

 誰が好き好んで最臭兵器の類を口に入れるというのだ。

 いくら自分に食べさせる為に頑張っていたからと言って、アレに口をつけた橘花の自己犠牲には頭が下がる。

 ……アレって、やっぱりムードもヘッタクレもない状況で初めてを奪われた仕返しだったのかな…。

 でもそれだと俺に何もないのは不自然だし…。

 

 

 それはともかく、アラガミ因子にせよ蝕鬼の触媒にせよ、「これ以上喰いたくない」「これは食べたくない」と思わせるのは有効かもしれんな。

 それをどうやって実現するかが問題だけど…。

 

 この問題は、討鬼伝世界に居る間にカタをつけておきたいな。

 何せ、次のMH世界は……。

 

 

 まぁ、そろそろいいかな?とは思ってたんだよ。

 確定じゃないし、面白そうな事があればそっちに行こうとは思ってるんだが。

 

 いい加減、MH世界でもそれなりに経験を詰んだ。

 真っ当な実力とは言いづらいにせよ、それなり以上に研鑽を重ねたとは思っている。

 

 

 だからな……行こうと思うんだよ。

 開拓地。

 フロンティア。

 

 

 元々居たのがメゼポルタでMHFだったのは確かだけど、俺がそこで活動していたのは僅かな一時期だけ。

 それも精々下位の上と言ったレベルでしかなかった。

 

 挑もうと思うんだ。

 上位に。

 いけるなら、その先のG級に。

 

 そこで通用するなら、他の2つの世界において戦力不足という事はなくなると思う。

 その為にも、余計な懸念は潰しておきたい。

 特にアラガミ化に関しては、実力に関係なくタイムリミットが定められてしまうようなものだ。

 

 

 

 だーからってなー、「そうしておきたい」が実現可能だったら苦労しねーよ。

 実現するのにちゃんと考えてしっかり行動せにゃならんのだが…どっちに進めばいいのかも分からん。

 助言を求められるのは、精々樒さんだけか。

 

 一人でもアドバイザーが居るってだけで、ありがたいと思うべきだな…。

 

 

 

 

 という訳で、早速樒さんに相談してみた。

 流石に1回2回診察しただけでは細かい事までは分からないんで、「こうなっているんじゃないか」という推測を立ててくれた。

 

 そもそも、俺の体はのっぺらミタマの集合体だ。

 例え蝕鬼の触媒と言えど、ミタマを浸食する力は無い。

 鬼に食われた英雄の魂が、身動きはとれずともピンピンしているのを見れば分かるだろう。(生憎、実際に鬼から解放された魂に立ち会った事は無いが)

 

 ゲームの話になるが、システム上、極に突入したとしても、鬼を倒して英霊の魂を手に入れる事には変わりない。

 それは蝕鬼が相手であっても同じだろう。

 

 このように、ミタマというのは鬼の力に対して強い抵抗力を持っている。

 その集合体である俺が、例え蝕鬼の触媒を体内に取り込んだのだとしても、そうそう一気に体が変質するとは思えない。

 

 尤も、俺の場合は英雄ではなくのっぺら…プレイヤーのアカウントなどの残りカスだと考えられるので、同じ力を持っているかは怪しいが。

 

 

 では、何故俺の体は変化したのか?

 可能性としては…単純にのっぺらミタマでは触媒の力に耐えられなかった。

 或いは、何らかの思惑があって、積極的に取り込もうとしている。

 

 前者…の可能性は非常に高いが、それなら何故現在、人間の姿に戻れているのか。

 何らかの形で、崩れた均衡が再び保たれているのだと考えられる。

 

 後者だとしても、触媒の力を抑え込む、何らかのアテがあったからこそ取り込もうとした。

 それが上手くいったかはともかくとして、やはりこれでも触媒の力は安定している事には変わりない。

 

 

 

 

 …以上が樒さんの考察だ。

 

 なるほど、言われて見れば確かに、現在の触媒の力は安定している。

 俺の体は徐々にアラガミ化しつつあるようだが、蝕鬼としての力に蝕まれている訳ではないのだ。

 触媒はバランスが崩れた切っ掛けでしかなく、今尚浸食が続いている様子は無い。

 

 つまりは、アラガミ化にのみ集中すればいいのか。

 あくまで推測の域を出ない話だが、問題が1/2になったと思えば、大きな進歩だ。

 

 

 ここからは、俺の推測になる。

 と言っても、明確な知識も無い上に、想像に想像を重ねた楽観的妄想…或いは願望でしかないが。

 

 アラガミの特徴は多々あるが、その一つに進化の早さがある。

 進化、というより、これは変化と表現した方がいい。

 群れたアラガミ細胞の中心にあるコアが、その群れ全体の統率を取り、さも生物であるかのように活動する。

 細胞の並び方を変える事により、骨格を、筋肉を、機能を再現して模倣している。

 

 今の俺に起こっているのは、正にコレではないだろうか。

 体内に取り込んだ蝕鬼の触媒の何かを真似ようとしている。

 

 という事は、少なくともこのまま変化が進めば、どういった形になるにせよ安定はすると思う。

 ひょっとしたら、アラガミ化ができなくなったり、或いはアラガミ状態から戻れなくなる事もあるかもしれんが…。

 

 

 

 ん?

 でも待てよ、俺の体ってのっぺらミタマの集まりだよな。

 それがどうしてアラガミでもあるんだ?

 …のっぺらミタマが、アラガミ細胞を真似ている…のか?

 少なくとも、GE世界で機械を使った診察を受けた時は、神機適合率はあまり高くないが、普通のゴッドイーターとして扱われていた。

 アラガミ化した状態で診察を受けた事もあるが、その時も…少なくとも、体自体はアラガミと変わらないと診断された。

 人間状態とアラガミに変身、そこから戻るメカニズムはさっぱり解明されなかったけど。

 

 …分からんが、これについては考えても仕方ない事かもしれないな。

 他の世界ならともかく、この世界、ひいてはミタマが存在する世界は、「この世の物ではあり得ない」系の素材が普通に出てくる世界だ。

 それと同じで、物理法則を無視する存在になっているんだろう。

 

 だったらもっと徹底的に無視してほしいものだ。

 具体的に言うと空を飛びたい。

 タケコプターや舞空術的な意味で。

 それ以外なら、何度か空を飛んだ事はあるしな。

 

 

 

 

鬼門月なので自宅でお好み焼日

 

 

 虚海からの連絡が来た、と九葉のオッサンが言い出した。

 なんかの提示連絡の為らしいが…とにもかくにもあのポンコツを捕らえる絶好の機会であるのは事実だ。

 

 ちなみに、人質を護りに行った速鳥はまだ帰ってきていない。

 そうそうドジを踏むような奴でもないから、迂闊に連れ出せない状況なんだろう。

 しかし、しっかりと警護はしていると見た。

 

 ともあれ、この際だから虚海を捕らえ、個人的にも色々問いただしておきたいところ。

 これだけやらかしたのだから、虚海が討鬼伝極のストーリーにおいても、非常に重要な役割を持つのは確実だ。

 蝕鬼の触媒の事も、それ以外の事も、もっと詳しく聞きださなければ。

 

 

 会合があるのは、明日の昼。 

 それまでは何事も無かったかのように振る舞い、更に別の任務に見せかけてモノノフがそれぞれ出発。

 ややこしい経路を通って、虚海との会合地点にて落ち合う予定である。

 

 今回は人手が欲しいからと、狩りを禁じられていた俺も借り出された。

 ま、虚海だしな。

 

 …というのは流石に冗談だけど、場所があの結界石の洞窟の中だ。

 瘴気なんぞまず入って来れないし、俺にとってはむしろ里よりも体が休まる場所なのかもしれない。

 

 

 …そうだ、いっその事結界石を取り込めば、この体も安定するんじゃないか?

 蝕鬼の触媒の力を消し去ってくれるかもしれない。

 

 …いや、恐らく駄目だな。

 樒さんも言ってたが、触媒は所詮、バランスが崩れた切っ掛けに過ぎない。

 今更触媒を押さえ込んだところで、崩れたバランスが元に戻る訳じゃない。

 バランスを元に戻すか、或いは新たにバランスを保つ為に何かを重石にするか。

 

 

 うぬぅ…。

 

 

 ハァ、正直行き詰ってるな。

 そんな状態のまま延々と考え続けても仕方ないし、エロい事でも考えるか。

 

 そうだな、やっぱり今回のループ…に限った事じゃないけど、橘花が天元突破しまくっている。

 逆に桜花が地の底まで自分からI can't flyしている感じだが、不思議と組み合ってるからそれは別にいい。

 樒さんはというと、エロい事に抵抗はないし俺にそれなりに愛着も感じてくれているが、だからと言ってそれに溺れている訳じゃない。

 ある意味では、口説き落とせなかったと言うべきなのかね?

 

 何にせよ、今回ループで最も多く絡んでいるのは橘花である。

 以前から、より刺激の強い事、インモラルな事に益々のめりこんでいる節がある。

 処女ではなくなった頃から、その傾向は一層広くなった。

 

 

 このまま進めば、一体どこまで駆け抜けてしまうやら。

 ひょっとしたら、俺の手に負える生き物ではなくなってしまうかもしれない。

 流石にそれは無責任だし、それ以上に自分の女が他の男の手に触れられるのは癪に障る。

 ここらでコッチ方面もパワーアップしたいものだ。

 

 

 当面、これ以上に刺激的な事と言えば……孕ませるのと、大きくなったお腹を抱えての遊び?

 オカルト版真言立川流に更に改良を加え、それこそエロゲみたいなシチュエーションも実現してみたいものだ。

 

 

 

 ああ、それにしても腹が減った…。

 

 

 

 

HR月緑茶こそ基本日

 

 

 デス…ワープだと……?

 

 

 まさか…まさかまさか…あそこまで行って死ぬとは…。

 

 いや、それよりも何よりも……虚海に、よりにもよって虚海如きに殺られるとは!

 虐待用キャラに!

 ぬがががががプライドが!

 プライドがぁぁぁぁ!!!

 

 

 アレか、今回も捕虜にしたら尋問と称してセクハラ(で済むかは疑問の余地も無いが)しようとしていた天罰か!?

 真面目な話、虚海も術が俺にまで作用するのは予想外だったようだし、そもそも前ループで虚海にした事を考えれば、ある意味当然の報いではあるかもしれんが…ぐぬぬぬ。

 

 あまりのショックにデスワープ直後も呆け、ドスファンゴに天高く吹っ飛ばされてしまった。

 落下し始める頃には怒りが止め処なく湧いてきて、俺の下を通過しようとしているドスファンゴに着地。

 勢いのままに拳でメッタ打ちにしてしまった。

 すまん、猪。

 

 と言うか、富獄の兄貴直伝の乗り上げ攻撃を始めて使ったのが、単なる猪とは…。

 ドスファンゴもモンスターではあるんだけど。

 

 おかげで教官にメッサ怒られてしまった。

 ただ、面白い事も聞いたな。

 今回俺がやったのと同様、乗り上げ攻撃を教えている訓練所もあるらしい。

 今度の休み時間に、少し話を聞いてみるか。

 

 

 

 それはそれとして、今回の死因だが……なんと驚くべき事に、色恋絡みではないのだ!

 …だからどうした、って話だけどな。

 

 今回の死因は、俺の体に取り込まれた蝕鬼の触媒。

 これに尽きる。

 

 九葉のオッサンにも要請されたし、虚海を捕らえようと出撃。

 見事にオッサンは虚海を誘導し、逃げ場の無い場所で虚海は包囲された。

 切り札である蝕鬼の触媒がある筈の場所には、深い穴があるだけで何の力も感じられない。

 

 …今更ながらに思うのだが、隠し場所はともかく、霊力が漏れ出ている事に関して何も思わなかったんだろうか?

 あんなトコに強い霊力の昂ぶりがあったら、誰だって怪しむと思うが。

 

 それはともかく、虚海は幾つか触媒を持ち歩いていたようで、最後の抵抗としてそれを使おうとした。

 埋め込む対象も居ないあの状況で、どう使うつもりだったのかは定かではないが、それを阻止しようと暦が動いた…が。

 

 

 隣に位置していた俺が苦しみだしたのを見て、暦は咄嗟に足を止めてしまった。

 これが速鳥辺りなら、驚きながらも足と手を止める事はなかっただろうが…流石にそこまで徹底するのも無理な話だ。

 

 推測だが、虚海の手元にあった触媒に何らかの術をかけようとしたら、それが俺の体内の触媒にまで効果を及ぼしたんだろう。

 足が止まった暦の代わりに、息吹が槍の石突で虚海をドスッと腹パンしたようだが、俺の変質は止まらなかった。

 徐々に空腹が増しつつも安定していた体が、みるみる内に変わっていくのが分かった。

 あっという間に気が狂いそうな程の空腹感が押し寄せてきて、自分の中にある触媒が、体を蝕んでいるのが分かった。

 尋常ではない力が、体を食い破って溢れ出た。

 

 虚海の慄いた顔だけが、妙に視界に焼きついている。

 

 アラガミ化を抑えようとコントロールしようとしたが、手綱を握りきれない。

 いや、アラガミ化しようとしていただけじゃない。

 その一方で、アラガミの部分を蝕まれていた。

 二つの力が鬩ぎあって、体が耐え切れない。

 

 

 程なくして、俺の体は異形…仮面ライダーアラガミと名乗っていた(他称マスク・ド・オウガ)頃とも違う姿になり、その辺りで俺の意識は途切れてしまった。

 要するに完全にアラガミ…或いはそれとも異なるナニカ…になって戻れなくなってしまったんだろう。

 その後、あそこに居たメンバーがどうなったのかは知る事ができない。

 バケモノと化した俺を討伐して、その死を悼んだのか、それとも戦っても勝てずに全滅したのか。

 

 …コレほど後味の悪い終わり方もそうそう無いな。

 まぁ、今まで小気味よくデスワープした経験なんて全然無いけど。 

 

 

 多分、今までとは違うナニカに完全に変わってしまったんだと思う。

 冷静になって感じ取ってみれば、体の中の感触がどうにも違う。

 なんだ、その…うまく言えないが、もうループの序盤の頃、ハンターとしてもオチコボレだった頃に比べ、今まで数々のパワーアップの恩恵を受けてきた。

 常人とは一線を画する程に鍛えあげられた体、目に見えない霊力という力を操る感覚、そして肉体を変質させるゴッドイーターの因子。

 それらを手にした時と同様に、 体の中のナニカが変わった感覚がある。

 老廃物が一掃されたような、或いは重病だった内臓が綺麗サッパリ新しいものと入れ替わったような…。

 

 

 恐らくだが、虚海のあの呪文による触媒の作用が、全身に行き渡った結果なのだと思う。

 微妙な均衡を崩しながら俺の体を浸食していた触媒が、ゴッドイーター因子その他も纏めて浸食してしまったのだろう。

 つまり、今の俺の体は、ハンターとして鍛えられ上げた肉体を、アラガミ因子で模倣しており、更にそれを蝕鬼の力でコーティングしている。

 ちなみに細胞の一つ一つはのっぺらミタマだ。

 

 …むぅ、訳が分からん。

 それ以前に、あくまでこれは俺の感覚による推察だ。

 本当に当たっているかどうかは、暫く様子を見なければ分からないだろう。

 当面、過剰な空腹を感じないか。

 それが問題なさそうなら、誰も居ないところで再度アラガミ化を試してみよう。

 

 

 

 

HR月ほうじ茶はちょっと通日

 

 

 色々と心残りがありつつも、取り合えず今回のループでどう行動するかである。

 言っちゃなんだが、今の俺は放っておいてもアラガミ化が進んで死んでしまう可能性がある身だ。

 あまり責任ある立場にはなれない。

 

 村付きのハンターでいられないなら……フリーの旅のハンターとか?

 或いは、何かの集団の下っ端ハンターか。

 

 そう考えていたんだが、教官から聞いた話に興味を持った。

 乗り上げ攻撃をちゃんとした技術として教えているという訓練所の話だ。

 そこは乗り上げの技術だけでなく、他にも幾つか珍しい技術を研究しているらしい。

 

 例えば「狩技」と呼ばれる必殺技。

 どのような行動に重きを置いて戦うかを明確にさせた、スタイルと呼ばれる戦術。

 

 まだ完全に形になってはいないそうなのだが、これは興味深い話だ。

 こっちから技術を提供するのもヤブサカではないし、何とか接触できないだろうか。

 

 教官に更に話を聞いてみたところその訓練所は、龍暦院という遺跡やらモンスターの生態やらを調査している集団直属の訓練所らしい。

 龍暦院関係者にしか門戸を開いていない訳ではないが、そこで教わったらある程度は卒業後の進路が決定されると考えておいた方がいいそうな。

 俺にとっては別に問題はないなぁ。

 それだけ大きな集団なら、所属ハンターが一人だけって事も無いだろう。

 仮に俺がアラガミ化しそうになって離れたとしても、そう酷い事にはならない筈だ。

 

 

 それと、もう一つ興味をそそられたのが、飛行船である。

 なんとこの集団、自前の飛行船まで持っているらしい。

 

 飛行船だ、飛行船。

 飛行機とも違う。(この世界で飛行機があるほうがとんでもないが)

 空を飛ぶ機械だ。

 今までMH世界をアッチコッチうろうろうろうろしていたが、流石に空を飛んだ事は無い。

 跳んだ事ならあるが。

 

 ろくに自力で移動もできない上空に行くのは危険という意識もある反面、好奇心は抑えられない。

 だって飛行船だ、飛行船。

 俺が元居た世界でもとっくに飛行機に取って代わられ、今となっては道楽かパフォーマンスにしか用いられない代物である。

 できる事なら目にしてみたい、何よりも乗ってみたいと思うのは自然な事じゃないか。

 

 という訳で、今回のループは龍暦院行きで決定。

 教官に相談したところ、紹介状を書いてくれるそうな。

 えーと…ベルナ村?という所に行けばいいらしい。

 

 残念ながら、メゼポルタからベルナ村への飛行船の便は無いので、そこまでは自力で行かねばならない。

 ま、旅は嫌いじゃないからいいけどね。

 




年末に投稿できるかどうか微妙な感じです。
年末が無理なら年初にするつもりですが。


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MH世界6
112話


年末年始は色々と投稿が増えますね。
激務の間の清涼剤です。

それでは、今年最後の投稿です。
思えば去年の今頃は、まだ40話くらいの投稿でした。
一年を通してお付き合いいただき、誠にありがとうございます。


HR月今年も色々ありました日

 

 

 訓練所もサクッと卒業。

 他の訓練生からも「なんで一端のハンターが訓練所に?」って顔をされたんだが、突っ込んで聞いてくる奴は居なかった。

 まぁ、元々常人がこなすには厳しい訓練しているんだから、俺の事なんぞ気にするヒマもなかったんだろう。

 

 それでも一応先達(?)として意見を求められる事はあったが、俺の返答で参考になったかは非常に微妙である。

 真っ当な返答と言えたのは、武器よりも防具と道具の備えを怠らない事、無意味にソロで狩りに挑まない事、そしてハンターに限らずご近所さん付き合いを大切にする事…この3つくらいである。

 どれも俺が言えた義理ではないのは、語るまでも無い。

 

 その他のコメントは…奇襲上等、ハメ技前提、見つからずに忍び寄って急所を一撃、そして奇人変人と呼ばれる事を恐れない事。

 

 …最後の一つに関しては、「確かにアンタは恐れてないな」と呆れたようなコメントを貰った。

 もう既に奇人変人として認識されていたらしい。

 何故だ。

 

 …最初は貧弱一般人だった筈なのに、マラソンの途中で気がつけば突然一端ハンター並みになっている、ドスファンゴに乗り上げて乱打、ハンターとしても明らかに規格外の身体能力。

 ……考えてみりゃ無理も無かった。

 別に奇人変人扱いは今更だからいいけどね。

 

 

 まあ、そんな阿呆の意見でも、参考になれば嬉しい。

 この訓練所の皆には、ヒヨッコだった頃には世話になった。

 特に行き急いでいるかのような、双剣使いの3人組…放っておくと、ほぼ初期装備のまま先生に挑みに行くからな。

 最低限、こいつらにだけは慎重さを叩き込んでおかないと。

 

 

 

 

 さて、A.BEEさんに追いつかれない内に出発するか。

 いや、一端身を潜め、A.BEEさんが何処かに行ってから出発する手も………やめとこう。

 ふと気がつけば、隠れ場所に居る俺の背後からガシッと捕まえてきそうな気がする。

 

 …まぁ、唐突に暴行に及ぶとは思わないけど、それ抜きにしても割と怖いしな…。

 

 

 さて、そうと決まれば出発出発。

 まずは人目につかないようにメゼポルタの外に出て、ある程度都市から離れたらダッシュだな。

 何だかんだ言っても、短時間で長距離移動と考えると、この世界では自前の足で走るのが一番いい…俺に限定した場合の話だが。

 今の俺なら……蝕鬼の触媒に浸食されきった事で、どういう訳だか身体能力がまた上がっている。

 馬車などの待ち時間や手続き時間を考えれば、ノンストップで駆け抜けた方が早い。

 …死ぬほど疲れるけどな。

 死ぬよりも掘られる方がイヤだし。

 て言うか、俺にとって死のデメリットって極めて少ないもんな。

 

 

 

 …こんな事言ってる場合じゃなかった。

 ダッシュだダッシュ。

 アサシンのように、丸一昼夜駆け抜けてもスピードすら落ちないダッシュだ。

 

 

HR月このSSが投稿されている頃、時守はきっと店舗でテンテコマイしていると思われます日

 

 

 さて、メゼポルタからは充分距離を取れた。

 全力のA.BEEさんなら追いついて来れない事もないと思うけどどうかなぁと思う距離だが、これ以上の強行軍は逆にペースが落ちる。

 

 ベルナ村へ辿り付くには、非常に遠い経路を超える必要がある。

 ポッケ村よりも、ユクモ村よりも。

 それら二つの村の、更に先の海を越えた場所にベルナ村はある…らしい。

 ちなみに「先の海」に隣接する村は、モガの村という…らしい。

 

 らしい、と言うのは……単に俺が地図を読むのが極端に苦手ってだけでね。

 

 

 とりあえず、ここからは馬車やら何やらに乗り、海まで行ったら船に乗って、その上陸先から更に進んでベルナ村に到着する。

 うーむ、本当に遠いな。

 言っちゃなんだが、本当に辺境…人間の生息地の端の端と言っても過言ではない。

 恐らく、ここもある種の開拓地…最前線であるMHFことメゼポルタ付近よりも何歩か劣るが、そう言っても過言ではないだろう。

 

 そんな所に腰を据えるからこそ、飛行船を保持しているのかもしれない。

 いざという時の脱出経路と……まぁ、単純に不便そうだしな。 

 

 

 聞いた話じゃ、ユクモ村やポッケ村にも飛行船がやってくる事はあったらしいんだが…マジで?

 俺がその二つの村に居たのは、ポッケ村に至極短期間だったが…そんな話、聞いた事も無い。

 知っていれば是非とも乗せてもらったというのに。

 

 

 と言うか、そっちから乗せてもらった方が早かったかな?

 でも関係者以外も乗れるんだろうか。

 どっちにしろ、今更考えても仕方ないが。

 

 

 

HR月年始行事の準備もあるので、間違いなく朝の4時~5時帰宅です日

 

 

 色々すっ飛ばして、モガの村に到着。

 途中の雪山でティガレックスを蹴り飛ばしたりジンオウガに襲われたりした気がしたが、多分気のせいだ。

 適当にやりあっただけで、仕留められた訳じゃないからな。

 

 …むぅ、もうちょっと深追いしてでも仕留めるべきだったか。

 一時期とは言え、ポッケ村にもユクモ村にも世話になったからな。

 

 だが、プレッシャーが…プレッシャーが……ビハインド・プレッシャーが消えないんだ!

 なんか追われてる気がするんだ!

 この感じはA.BEEさんじゃない、でも同類の…だが決定的に違う『何か』の気配なんだ!

 気のせいなのか?

 俺の自意識過剰なのか?

 そうであってくれ!

 

 という訳で、俺は暫く追っ手の霍乱に集中しようと思う。

 ベルナ村への到着が遅れてしまうが、仕方ない。

 このプレッシャーの主が、もしも訓練所時代から追いかけてきていたのだとしたら、尚更それを知らねばならない。

 A.BEEさん以外に、コッチ系の脅威があるかもしれないのだ。

 A.BEEさんばかりにかまけていたら、後ろからザックリ脾腹を刺されかね…もとい、ブッスリケツを掘られ…………脾腹刺されるほうがマシやがな…。

 

 さて、俺の感覚が正しければ、プレッシャーの主はここに辿り付くまで3日くらいかかる筈。

 常識ハズレのスピードと手法で痕跡を消したと言うのに、たったそれだけで俺を捕捉できる追跡能力に戦慄を感じるが、何とか煙に撒く事はできる…と思う。

 

 最悪、刺し違える…いや、自決する覚悟を決めておこう。

 死のデメリットは、俺であるなら非常に小さい。

 龍暦院は次回、MHFは次々回って事で。

 

 

 

HR月幸い翌日が休みなので、そのままくたばるまで飲み倒します日

 

 

 カムフラージュに徹底する事2日。

 その後の1日は、隠れ場所から滞在地の出入り口を鷹の目鬼ノ目で監視すること丸一日。

 目が疲れた。

 あと徹夜。

 

 それらしい人物は誰も居ない。

 自意識過剰だったのか?

 と思い始めた頃…ソイツは現れた。

 

 

 『一見』しておかしな所は無い。

 見た目はどうって事のないお嬢さん。

 強いプレッシャーを感じている訳でもない。

 初発見後、4日ほど監視したが、印象は同じ。

 

 ついでに言えば、見覚えもあった。

 訓練所の同期ではないが、一つ上の先輩……だったと思う。

 同期以外のハンターと接する機会は、訓練所ではあまり無いから定かじゃないが…合同訓練で、1,2度みた覚えがあるような無いような…。

 

 

 だが、何故にコイツが俺にそれ程までのプレッシャーを与えていたのか?

 暫し監視していたが、行動から読み取れる行動規範・思想に至るまで、ちょっとばかり常識から外れてはいるっぽいが、そこまでヤバい奴だとは思わない。

 

 人違いかと思ったのだが、こっそりとストーキもとい監視してみた結果、少なくともコイツは俺を探しているのは確実だった。

 俺について、その辺の商人とかに聞き込みしてたし。

 そして、俺が仕掛けておいたカムフラージュを、戸惑いながらも全て見通した。

 現在は、俺が何処にも行ってないんじゃないか?という疑念を持ったのか、船の搭乗口の前で乗るべきかどうかウロウロしている。

 これで追跡や狩りになれてないってんなら、コイツは俺なんかじゃ比較にならないくらいの天然モノのハンターだろう。

 

 だと言うのに、仕草や身のこなしは殆ど初心者…訓練所を卒業して、ちょっとした程度のアマチュアだ。

 なんだコイツ?

 

 

 

HR月色々な意味で荒れた正月になりそうですが、良いお年を日

 

 暫く逡巡していたが、こうして監視していても埒が明かない。

 開き直って接触してみる事にした。

 

「 どう見たって、ちょっとアレなだけの一般人だ。

|俺に危害を加えられるとは思えない。

|万一の事があっても、充分撃退できると考えた。

|ここ数日で、奴の行動範囲や能力レベルは大分把握できた。

|荒事さえなかったが、性格もほぼ。

|いざという時の逃走ルート及び暗殺方法も確保した。

|某所に裏金を握らせて、2番目くらいに最悪のパターンになった場合の為の、嘘の証言者も用意した。

|準備万端。

L後にして思えば、こう考えてしまった時点で俺の精神状態は色々な意味で狂っていたと思う。

 いい加減ループの繰り返しが精神的に来たのか、それとも触媒の影響なのかはわからないが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

HR月そして来年もよろしくお願いいたします日

 

 

 接触した。

 ただし性的な意味ではない。

 

 純粋に……なんとも予想外な事に、純粋に話し合いによってカタが付いた。

 俺を追ってきていた子は、なんかコンビを組みたかったらしい。

 つまりチームだ。

 

 

 

 

 

 …俺を?

 

 あれ、今までMH世界でお誘い受けた事あったっけ? 

 一時チームならあったし、気が付けば弟子にされていた事ならあったけど、正式にチームを組むとな?

 

 

 ……イマイチ記憶が無いな。

 これはアレだ、俺がボッチなんじゃなくて、イヅチの野郎に因果と記憶食われてるからだよ。

 きっとそうだよ。

 

 

 それはともかくとして、何で俺を追いかけてきてまでチームを組もうとしたかと言うと…答えは単純。

 こいつがベルナ村…の近辺の村出身だったからだ。

 何でもハンターになる為に龍暦院の訓練所に入ろうとしたらしいのだが、色々規定やら年齢制限やら……何より学力テストとかに引っかかって入れなかったのだそうな。

 なので、遠く離れたメゼポルタまで遥遥やってきて、そこでハンターの訓練を受けていたのだとか。

 

 学力テスト云々については俺も他人事じゃないが、とりあえずその熱意には素直に感服する。

 

 

 ちなみに龍暦院・訓練所への所属は、当時は無理だったというだけで、今なら年齢制限含め充分イケる自信があるのだそうだ。

 学力テストに関しては、覚えている限りでは、メゼポルタの訓練所の話を真面目に聞いていれば充分突破可能…との事だった。

 その言葉、信じるぞ。

 

 うう、前討鬼伝世界のループで暦に囁いた呪詛が、自分に返ってきた気分だよ。

 これが呪詛返しか。

 

 

 …ふむ。

 俺が感じていたプレッシャーの元は分からないままだが(だからこそ尚更放置できない)、どの道個人の進路を俺がどうこう言う権限は無い。

 自分が明確な不利益を蒙るなら、権限が無くても横槍を入れるが、現在はその不利益が明確な形になっていない。

 正直、どうこう言えない。

 

 だからと言って、形の見えない脅威に怯え、俺の進路を変えるのも癪な話だ。

 このまま同行するのもいいだろう。

 

 ベルナ村付近出身だと言うのなら、地の利もあるだろう。

 現地人とのコミュニケーションは重要だ。

 俺が苦手なそれを担ってくれると言うのなら、それに不満は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 決して正式にチームを組める事に浮かれているのではないぞ?

 

 

 

 

 まぁ、単に浮かれているのではないにせよ、チーム結成当日くらいはちょっとくらい騒いでもいいだろう。

 という訳で、ちょっと二人で飲む事にした。 

 新しくできた相棒も、割と酒には強い…と自称していたしね。

 

 さー、MH世界の酒も久々だ。

 達人ビール、飲むぞー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が感じていたプレッシャーの訳がわかったよ…。

 酒が入ると性格変わるよコイツ。

 

 別に俺に襲い掛かってくるんじゃない。

 逆だ。

 俺に、襲わせようとしてくるんだ。

 

 

 

 

 

 この『男の娘』、誘い受けだ。

 そして酒が入ると何でもアリになって迫ってくる。

 

 

 『一見して』どうって事のないお嬢さん。

 どう見たって、ちょっとアレなだけの一般人。

 そう、女装しているだけの一般人!

 某性別不明の、理性が蒸発した騎士でないだけマシと思うべきなのか!?

 

 でも酒が入ると理性が一部ふっとびます!

 具体的には俺を口説いてきます!

 「こんなに可愛い子が女の子のはずが無い!」と叫ばせようと!

 

 やっぱりコイツだ、あのプレッシャー!

 A.BEEさんとは違う。

 強引にでも引きずり込もうとするA.BEEさんが剛の剣なら、コイツはまさに柔!

 ○○○をCuっとね!

 

 俺を真正面から(酒の席限定だが)口説いて、「もう男の娘でもいいよね!」って言わせようとしている!

 この恐るべき脅威の存在を、我々は退けねばならない。

 

 

 というか今更ながらにトラウマが蘇ってきた。

 ああ、思い出したよ、思い出したとも!

 

 道理で能力の割りに、俺をこれだけ怯えさせる筈だよ!

 

 

 その名はJUN=NYAN。

 通称JUN。

 

 

 

 最初の最初の最初のループで、ドスファンゴに吹っ飛ばされて気絶した俺を、エグっていったのは!

 間違いなくっ!

 訓練が終わってアルコールが入り理性が蒸発したコイツだァァァァ――――z____ッ!

 

 

 

 

HR月そうそう、年末年始のお年玉代わりという事で日

 

 

 色々考えてみたものの、チームは続行となった。

 いや、実際酒が入らなければ、ちょっと控えめな性格の男の娘なんだ。

 俺に対して露骨なモーションをかけてくる訳じゃないし、自分が一般的に考えて異常な性癖をしているのも理解している。

 多少酒が入っても、俺に対して女の子っぽい動作で話しかけ、モーションをかけてくるだけで、そうそう強引な手段には出ない。

 多量に酒が入ると、強引な手段に出てくるが、余程嫌な事や辛い事があった時でもなければ、そこまで飲まない。

 飲んだとしても能力が向上する訳じゃないから、今の俺なら力尽くで容易く振り解ける。

 勿論、「神すら眠る」と謡われる(その割に古龍は眠らない)捕獲用麻酔玉等の薬物を考慮に入れても、だ。

 

 

 二人揃って泥酔するような事でもなければ、そうそう惨劇は起きない。

 …或いは、俺が本当に口説かれたりしなければ。

 

 

 いくら容姿が女性寄りだと言っても、男と寝る趣味は無い。

 が、千歳のようなフタナリがオッケーだった辺り、俺のイカレっぷりを考えると若干不安になる。

 

 ……本当に口説かれてしまったのだとすれば、多分その時の俺は『これはこれで!』と考えるようになってるんだろうが、少なくとも今現在の俺は、そう考えるのも、考えるようになるのも御免蒙る。

 

 

 

 ちょっと話が逸れたが、平時はマトモ、平時でなくても十二分に対抗できる以上、JUNとチームを組む事に問題は無い。

 本心なのかはともかくとして、JUNも俺に懸想している様子は見せない。

 単純に、酔った上での乱行なのだろうか?

 

 まぁ、その辺はこれから見極めるとして、だ。

 A.BEEさんの時もそう接したつもりだが、倒錯的嗜好の持ち主=犯罪者、という考えは持っていないつもりだ。

 仮にJUNが俺に本当に懸想していたとしても、理性が残っている間は寝込みを襲われるとは思っていない。

 と言うか、相手が男の娘じゃ起たないだろうから、襲われたってナニも……いや、でも朝起きたらいつもオッキしてるしな…。

 

 

 …そんな余計な疑念は放り投げてだ。

 A.BEEさんともそれなりには付き合えていた俺である。

 最低限の警戒は解かないつもりだが、JUNは信用に値する性格だと思っている。

 一度は信じると決めた以上、撤回するつもりはない。

 

 

 

 今回ループに限定してはな。

 

 

 

HR月1/1にも投稿しようかと企んでいます日

 

 

 JUNの観光案内に連れられて、海辺の村に到着。

 うむ、大海原が眩しいのう。

 ここで水着の美人さんが居ればもっと眩しかったんだが、居るのは海女さんばかりである。

 それはそれで眼福だが。

 

 あとJUN、ビキニ水着に突っ込む気はないけど、どーやって下半身のモッコリを隠しているのかは疑問に思うぞ。

 いや解説は要らないけどさ。

 

 

 一日休んで、明日には船に乗る予定だ。

 JUN曰く、「船を甘くみない方がいいよ。 あの時は船を沈没させてでも逃げたいと、本気で思った」だそうな。

 うーん、確かに長期間(と言っても2日程度だが)の間、船に乗りっぱなしだった事は無いな。

 

 各世界のスキルにも、船酔いを防止する類の物は無い。

 しかし、いざと言うときに動けるかどうかは重要だ。

 詳しい事はJUNも知らなかったが、今回の船の航路も、安全が確保されている訳ではない。

 事実、数年前にベルナ村からメゼポルタに向かう時にJUNも船に乗ったそうだが、海を眺めていたら船のすぐ傍をガノトトスが横切っていったとか。

 その時は襲われなかったそうだが、次もそうだとは限らない。

 

 

 ここらで都合よく、ベルナ村行きの飛行船でも来てくれればよかったんだが…いや、考えてみりゃ飛行船でも酔うかもしれないのは同じか。

 船に慣れるのに、いい機会だと思っておこう。

 

 

 

 

HR月感想への返信は後日となりそうですが日

 

 海のド真ん中なう。

 うーむ、砂漠の船とは違うなぁ…。

 船酔いってほど気分は悪くないんだが、常に体が左右に揺れている感じがする。

 潮のニオイは嫌いじゃないが、四六時中嗅いでると鼻がマヒしそうだ。

 

 幸いと言うべきか、船旅は順調。

 モンスターに襲われる気配も無いし、乗組員に聞いたところ、想定していたルートをしっかり辿っているらしい。

 

 だからと言って、暢気に甲板で甲羅干し…なんて事はやってられない。

 船の上では乗組員が忙しく動き回っているし、ハンターはお客さんであっても周囲の警戒をしなければならない。

 俺は船の前方・右側を、JUNは後方・左側を警戒している。

 

 幸い、荒事の気配は全く無いが…延々と続く大海原を見続けるのはもう飽きた。

 今となっては、休憩時間中にベルナ村でどう過ごすのかをJUNと相談するのが唯一の暇潰しだ。

 

 

 

 JUN曰く、ベルナ村ではムーファという羊が放牧されているらしく、この手触りがまたスバラシイそうな。

 ベルナ村付近の住民は、生涯に少なくとも一度はケモナーとして覚醒する程だとか。

 存分にモフってくれようぞ。

 

 その他の行動の指針としては、俺は龍暦院直属の訓練所へ通いたいと思っている。

 以前にも考えた通り、乗り上げを初めとした諸々の技術を学び、また場合によってはこちらからも技術を提供したい。

 

 JUNとしては、訓練所に通うよりもハンターとして働きたいらしい。

 元々ハンターになりたいが為に、メゼポルタまで態々やって来たくらいだからなぁ…思い入れもあるか。

 …ついでに、実家を飛び出してきたようなものなので、そのまま帰るのはちょっと気まずいそうな。

 故郷や家族の人達に気付かれる前に、それなりに実績を上げておきたいらしい。

 

 

 うーむ、チームを組んだとは言え、常に一緒に行動する必要はないんだが、JUNは訓練所を卒業して少し経った程度の素人でしかないんだよな。

 到着して初っ端から死の危険があるようなクエスト(採取ツアーであっても、危険はあるっちゃあるが)を任せられるとは思わないが、ポッケ村・ユクモ村での経験を考えると、それも怪しい。

 始まったばっかりだと言うのに、ティガやらジンオウガやらと遭遇するのは、ある種の伝統ではなかろうか。

 前回のユクモ村に至っては、手傷を負わせたジンオウガがエライ事になってたし。

 今回も来るかなぁ…。

 

 

 と言うか、考えてみればジンオウガにせよティガにせよ、野放し状態になってんだよな。

 俺が行かなきゃ解決しないんだろうか?

 でも、ヘタに行ったらそれこそ大惨事になるような気がするんだよな…。

 何だかんだ言って、今までMH世界で出向いた先では、ほぼ全てトンデモモンスターの襲撃を受けていたし。

 

 ベルナ村では何が来るのやら…。

 

 

HR月新年のお祝いとなりましたら幸いです日

 

 

 狂竜ラオとか見えないイビルジョーとか煽動クルペッコとか霊力咆哮使うティガが纏めておいかけてくる夢を見た。

 多分、あのまま魘され続けていたらルコディオラとかも現れただろう。

 ガチで叫びながら目を覚ました。

 

 うう、フラグじゃないよな、コレ…。

 

 

 日も昇らないうちにやかましいぞ、と乗組員の人から睨みつけられたんで、素直に謝る。

 …でも正直、船乗りの皆様の歌の方がうるさいと思うよ。

 いや、聞いてて不快感は無いんだけどね。

 船乗りが謡うって、本当だったんだなぁ。

 

 船の穂先やマストの上に乗って、風を浴びながら合唱を聞いていると、何となく自分も船乗りになったような気分になってくる。

 歌詞の意味は分からないけど。

 

 骸骨の演奏家とか居ないかな。

 

 

 

 やや岩礁の多い海域を抜け、夕日を背に受けて進み、対岸が薄っすらと見えている。

 明日の朝型には上陸だ。

 

 

 

 

HR月仕事が終わったら新しいパンツに履き替えて日

 

 いやぁ、船旅楽しかったなぁ。

 あんまり船のユラユラに慣れすぎたせいか、上陸したら逆に揺れない足場が気持ち悪くなってきた。

 これが陸酔いという奴か。

 …その陸酔いで動けなくなってる船乗りが何人か。

 船の上に乗ったら即完全回復していたが…根っからの船乗りだなぁ。

 

 俺もいい船乗りになれるって言われたが、残念ながら辞退します。

 船は良いが、海の上だけに活動を絞る訳にはいかないんでね。

 

 

 

 

 何より暑苦しくて女っケが無いし。

 唯一いるのがJUNだけとか、色々な意味で拷問である。

 

  

 

 さて、何はともあれ、目的地までもうちょっと。

 ここからは完全に陸路である。

 この辺のモンスターの生態は俺も全然知らないし、情報収集しながら行くとしますか。

 

 ここら辺が故郷である筈のJUNも、この辺りのモンスターの事はあまり知らないらしい。

 一応知識では教えられていたらしいが、当時はハンターでもなんでもない身。

 大型モンスターに接触するのは即ち死を意味し、そもそもそんなデカブツが出てくるような所まで入り込む事はない。

 精々が、畑をジャギィとか、マッカォとやらに荒らされていたくらいらしい。

 

「僕が精魂篭めて作ったトマトを…」と、前GE世界を思えば非常に共感できる怨嗟をブツブツ漏らしていたが、それはそれとしてマッカォとやらの事を詳しく。

 ちなみに、始めて自力で育て、収穫しようとしたキュウリをマッカォに食われたのが、JUNがハンターになろうと決意した切っ掛けだったそうな。

 

 

 …ジャギィみたいに身軽に人里に忍び込む連中って、基本的に肉食だったと思うが…この世界じゃ、草食モンスターは基本的に図体がデカくて動きが鈍いし(モノブロスは幾らなんでもデカすぎだが)。

 マッカォだけが草食か雑食なのか?

 それとも、単に実は人間が盗み食いしただけなのか。

 あえて何も言うまい。

 

 

 

 と言うかだな、以前「飛び出してきて気まずいから、帰る前に一旗あげたい」って言ってたが、それ以前にJUNの親ってどうなってんだ?

 女装の事知ってんのか?

 ハンターになるよりも、まずそっちが問題だと思うんだが。

 

 …まぁ、家庭の問題はそっちで担当してくれ。

 俺は部外者でしかないからな。

 

 

HR月噴上をフッ飛ばした丈助のような気分で酒を飲むとしますか日

 

 現地でのモンスターに関する生態の情報を集めつつ、ベルナ村へ向かう。

 情報自体は龍暦院にもあるだろうが、現場の声は大事だ。

 

 今のところ、特に「あのモンスターが何故ここに?」という情報は見つかっていない。

 とりあえず、今のところは平和…なのかなぁ?

 俺が行く先行く先、トラブルが待ち構えてたもんなぁ。

 阿呆みたいな確率で鉢合わせした妙な紅玉とか、感染するはずのない狂竜ウィルスに感染したラオとか…。

 

 単にこの世界は、何処に行っても危険だらけなだけか、或いは俺がゲームの舞台と思しき場所ばかりに行っているからそう感じられるだけなのか。

 偶には狩りの相手もいない世界で、のんびりダラダラしたいものだ。

 一週間くらいで飽きると思うけど。

 

 

 目的地への移動中も、フリーのハンターとして依頼を2.3受けた。

 と言っても、狩りではなく納品依頼だったが。

 

 久々にガーグァの卵でも食べたいな。

 

 

 

 そうそう、JUNから聞いていたムーファと遭遇した。

 ただし野生だったんで、ノンビリモフれはしなかった。

 でも一度触った手触りだと、そこまで気持ちよくはなかったなぁ…。

 

 そんな事を言っていると、JUNが訳知り顔でチッチッチッと指を振って言う。

 

 野生のムーファと、家畜として買われているムーファはまるで別物だ、と。

 気性が違う、手触りが違う、サイズまで明らかに違う。

 …それ本当に別の生き物なんじゃね?と思わなくもない。

 

 家畜として世話されるだけでそうまで違うのかね。

 まぁ狼だって犬に変わるくらいだから、そうなってもおかしくはないが。

 

 

 

 野生のムーファの天然毛玉の納品を頼まれたのだが、まぁ弾力がスゴイってのには同意するな。

 まさか太刀での一撃を受けて無傷で済ませるとは。

 久々にこの世界の生物の脅威に触れた気分である。

 

 

 

 




それでは皆様、良いお年を~。


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113話

新年あけまして!
おめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたしますッ!
お年玉代わりの投稿じゃァ-----z___ッ!

追記
いつも以上にオリ設定入っています。



 

HR月あけましておめでとう日

 

 明日にはベルナ村へ到着予定。

 妙に時間がかかった気はするが、寄り道してりゃこんなモンか。

 

 道中で見ていたが、JUNの狩りの腕は…言っちゃなんだが、一人でさせるのは正直心許ない。

 技術がない訳でも度胸がない訳でも、訓練所を出たばかりにしては腕が悪い訳でもないんだが…なんというか、サポートする動きだな。

 ハンターと言うより、人型のオトモみたいなイメージか?

 主に狩猟笛を使うようだし。

 

 別に狩猟笛が弱い、悪いとは思わないし、サポートや支援だって充分すぎるほど重要な役割だが、そっちに重点を置いてきた反動なのか…一人で戦う事に慣れていないようだ。

 これは放っておく訳にもいかんなぁ。

 このままコンビを組むにせよ、途中で解散するにせよ、遠くない内に大怪我をするのが目に見えている。

 仮にもハンター仲間としては、放っておく訳にもいかん。

 

 またエシャロットを鍛えた時のように変人2号もといそれなりのハンターにしてやるか。

 変人って呼称を言い繕ったとしても、既に本物顔負けの女性ルックである時点でかなりの変人だわな。

 

 

 追記

 

 今のところ、JUNは妙に接近してくるような素振りは見せていない。

 A.BEEさんとは性癖的な問題で相容れない、みたいな事を言ってたが…まぁ、頼むから無闇に酒呑むなよ?

 

 

 

HR月謹賀新年日

 

 

 到着!

 ベルナ村!

 

 長閑な村だな~。

 新人ハンターとして挨拶回りがてら話を聞いてみたが、ポッケ村のティガレックス、ユクモ村のジンオウガのように生活に即影響が出るモンスターが居る訳でも無し。

 「こんな所でちゃんとしたハンターの仕事なんてあるのか? 精々中型モンスターを追い払う程度か?」って本気で思ってしまった。

 

 ま、そんな訳ぁないわな。

 村だけで考えても、アレが欲しいコレが欲しい、あったら便利、お得意先が欲しがっていると、モンスターの素材を欲しがる理由には事欠かない。

 そして龍暦院に至っては、調査の為の素材は勿論の事、作成中の…そう、作成中の飛行船の為にも必要と来た。

 

 現在、龍暦院が所持している飛行船は、1つしか無い。

 元の世界じゃイマイチ基準が分からんが、この世界の基準で言えば、一つ所持できるだけでもとんでもない財力なんだろう。

 複数所持していたのは、古龍研究所か、大国の王族、そして龍暦院くらいだ。

 

 …所持して「いた」のはね?

 

 何でも、最近全国各地で飛行船が落とされる事件が頻発しているらしい。

 それ自体は然程不思議ではない。

 人間にとっては高価な飛行船も、空を飛ぶモンスターにとっては精々「邪魔になるヘンなモノ」でしかないだろう。

 目に付いたら、好奇心に唆されてちょっかいを出してきても不思議じゃない。

 そしてモンスターにとっては「ちょっと小突いてみる」程度でも、飛行船にしてみりゃ致命的な攻撃だ。

 ぶっちゃけ、飛行船の浮力を維持しているガスが漏れれば、それだけで墜落するんだから。

 

 それでも今まで問題なく飛行できていたのは、モンスターの縄張りに入り込まなかった事と、飛行船の絶対数が少ない為に、そもそもモンスターとの遭遇の可能性があまり高くなかった為だ。

 しかし、それが狙い打ちされるかのように何度も撃墜され、龍暦院の持つ飛行船は残り一つだけに。

 王族も手持ちの唯一の飛行船が半壊状態になったり。

 最も多くの飛行船や気球を持っていた古龍研究所も、その数を半減させているらしい。

 

 

 何故そんな事態が起こり始めたかは不明だが、とりあえず飛行船を直しておくに越した事は無い。

 いつ狙い打ちにされるか分からない飛行船を飛ばしたがる者などまず居ないが、飛行船一つあるだけで移動の利便性が段違いなのだ。

 それは即ち、貿易などにも有効活用できるという事である。

 龍暦院の経済事情の為にも、早急な修繕が望まれる…らしい。

 

 

 

 うーん、そんな状態じゃ、俺もホイホイ乗れないなぁ…。

 あわよくば、個人所有で飛行船を持ち、「空族」とか「快族」とか名乗ってみたかった。

 勿論、快族の場合は太刀を持ってグラサンと黒コートだ。

 ミストファイナーは出来ないが。

 

 デスワープのデメリットが少ないとは言え、折角来たんだから乗り上げ技術やら狩技とやらにも触れてみたい。

 飛行船の修理には協力するが、実際に乗るのは暫く後になりそうだ。

 

 

 

追記

 

 ナルホド、確かに家畜のムーファは野生とは手触りが違う…。

 と言うかそもそもサイズが違う。

 生活環境の違いによるものかなぁ…。

 

 

 

HR月賀正ーン日

 

 

 ともあれ、まずは龍暦院及びベルナ村、加えて訓練所からも信頼を得ないと話しにならない。

 いくら紹介状持ちとは言え、今の俺は実績なんぞ何も無いルーキーハンターに過ぎない。

 そんなのに突然重要な仕事を任せる筈が無い。

 

 増して、飛行船を預けるなんて考えもしないだろう。

 幸い、飛行船修理の為の納品依頼は然程難易度は高くない。

 まずはそれをこなすとしよう。

 

 

 

 それと同時に、訓練所に通って新技術を身につける。

 まだ少し講習を受けた程度だが、メゼポルタで習った内容とは随分と違いがある。

 そして、まだまだ実験中、研究中の技術が山ほどあった。

 ソイツを目当てに来た訳だからいいんだが…これまた、首を突っ込むのには相応の実績と信頼が要る。

 

 現在完成している、数少ない技術を教わるだけならそれでいいのだが、そこに改良点を色々口出ししようと言うのだ。

 ヒヨッコハンターが何を嘯いたところで、素人考え以上には受け取られないだろう。

 まずは納品クエストがてら、教わった技術を実戦で試し、そこから徐々に信頼を得つつ改良点も伝える、か。

 地道な話だ。

 

 

 

 …しかし前から疑問だったのだが、飛行船のどこにドスファンゴの素材なんぞ使うんだろうか…。

 ロアルドロスの鬣とかなら、水を吸収させて云々でまだ分かるんだが。

 

 

 

HR月あまけしておでめとう日

 

 

 JUNは精力的にベルナ村の皆からの依頼をこなしていっているようだ。

 まだデカブツと戦ったりはしてないが、納品クエストをこなした数は、俺の2倍から3倍に昇るそうな。

 

 反面、訓練所にはあまり顔を出していない。

 練習にはきているようなのだが、ベルナ村訓練所独特の技術には全くと言っていない程手が出てない。

 

 ま、そっちの方がいいかもしれないな。

 まだ自分のスタイルすら確立できてない状態で、別の技術を取り入れても混乱するだけだろう。

 その取り入れた技術が、足りないピースにピッタリと嵌るような形でもない限り。

 

 

 さて、肝心の俺の話になるが…そうだな、まずは訓練所で教えている技術と、どれに注目しているかを纏めるとしよう。

 大きく分けて、注目しているのは「スタイル」と「狩技」である。

 

 現在のところ、狩技は一つ二つしか教えてもらってないが、中々興味深い。

 「絶対回避」と名付けれた、極めればどんな攻撃でも回避してしまう(という触れ込みの)狩り技だ。

 そもそも今のところ、極めた人間なんぞ居ないようだが。

 

 その他は今でも研究中だが、話を聞いた分だと、どうも破壊力よりも付加効果に重きを置いている傾向があるようだ。

 例えば攻撃範囲を広げるとか、動きを早くするとかだ。

 必殺技と言われるんだから、てっきり火力を突き詰めたものだと思っていたのだが、ナルホドこっちの方が効果は高いかもしれない。

 補助効果を自力で発動させられるのだから。

 単なる火力技よりも、継続的に何かしらの効果を発動させられる方が、狩りには貢献できそうだ。

 

 

 

 次にスタイルについて。

 

 ここの訓練所では、ハンターの戦闘スタイルを5つの分類に分けて考えている。

 即ち、スタンダード、ストライカー、ライダー、ブシドー、カスタマーだ。

 

 これは未完成の状態での分類方法なので、今後は増えるかもしれないし減るかもしれない。

 更には名前だって変わるかもしれない。

 

 

 内容としては、スタンダードはそのままの意味。

 他の訓練所で教わる一般的な動きに似通っており、違う点と言えば『狩技』を使える事くらいだろうか。

 

 二つ目、ストライカー。

 これは狩り技に重きを置いたスタイルだ。

 と言っても、完成している狩り技自体が非常に少ない為、現在ではとても日の目を浴びられないスタイルとなっている。

 

 三つ目、ライダー。

 乗り手、という名が示すとおり、乗り上げ攻撃をメインに使う。

 流石に何人ものハンターが体を張って検証してきただけはあり、富獄の兄貴に教わったものとは、安定性が段違いだった。

 上手に掴まるし、何より慣れてくるとモンスターがいつ暴れだすか、手応えからわかってくるらしい。

 加えて、敵の体を蹴っ飛ばして飛び上がる、所謂エネミーステップ。

 これは是非とも体得すべきだろう。

 上手くいけば、ほとんどの物理攻撃をジャンプ台にできる事になる。

 そうでなくとも、普通とは違う前転をして、移動距離が一気に伸びる。

 その分スピードが犠牲になっている節はあるが、これは大きい。

 少しくらい遅くなっても、移動距離が伸びた方が敵の攻撃は避けやすくなるからな。

 

 続いて四つ目、ブシドー。

 …なんか和風な名前だな。

 モンハン世界の何かの単語か?

 と思っていたら、そのまま武士道だった。

 敵の攻撃をギリギリまで惹き付け間一髪で避け、そのままカウンターを見舞う玄人向けのスタイルだ。

 なんかこう…カッ飛んでいくような仕草で敵の攻撃を避け、そのまま走って接近、ザクリ。

 

 何でこんな名前になったのかと言うと…何でも研究に協力してくれた太刀使いに敬意を表して、だそうだ。

 東方由来の剣術を使う、自称弱輩者…東方の剣術を使うならサムライ、サムライなら武士だろうって事で、武士道と名付けたらしい。。

 「ケツが青い」を連呼する人だったそうな。

 

 …あの、その人ひょっとしてレジェンドラスタのキースさんでは…?

 「ん、なんだ知り合いか?」って…まぁ、一方的に知ってるだけですが。

 

 しかし、あの人こんな技使ってたかな?

 …と思ったら、このカッ跳び回避…通称ジャスト回避、JK(女子○生でも常識的に考えてでもない)はキースさんの体捌きを簡易的に再現しようとした結果らしい。

 キースさんなら前転、ヘタをすると歩いて…慣れた相手なら摺り足ですら回避できるのだが、それは普通のハンターには流石に無理だ。

 

 なので、多少大仰に、距離が開いても確実に避けられるようにし、そのまま相手の隙をついて攻撃できないか、という発想を突き詰めたスタイルらしい。

 

 加えて言うと、キースさんの錬気の練り方を参考にした狩り技も研究されている。

 まだ実用化はされていないが、上手く当てれば暫くの間、錬気ゲージ最大状態(ゲームで言えばね)を維持できる技になる予定…との事。

 ついでに言えば、前述した絶対回避も、キースさんの技を参考に開発されたものだとか。

 

 

 

 ちょっと話が逸れたが、最後のカスタマー。

 これは所謂アイテム使いだ。

 狩りのスタイル…というよりは、どちらかと言うとサポーターに近いか?

 錬金や調合関係のスキル全般、及び採取等のスキルを恒常的に発揮できないかというスタイルだ。

 また、アイテムだけではなく武器防具に関する知識、それらを効果的に組み合わせて使う術も要求される。 

 カスタマー、という呼び方は、既存の武器防具セット一式や道具に改良を加える、或いは組み合わせてカスタムする…という考えからつけられたものだ。

 

 ただ、このカスタマー…有効性については言うまでもないのだが、これは狩人のスタイルとは別物なのではないか?という意見も多い。

 近い内に、訓練所が提唱しているスタイルからは外されてしまうかもしれない。

 

 訓練所では当然調合の類についても教えるが、ハンターの本懐はモンスターとの戦いだ……自然と調和して生きるのと同じくらい。

 そしてこれらスタイルとは、狩人の戦いの分類を示す。

 カスタマーは狩人ではなく、完全に後方支援の役として割り切った方がいいのではないか?

 極端な話、カスタマーは狩人のように鍛えられてない人間でもこなせる役割だ。

 

 

 …ああ、某名作の人徳チートさん役ね。

 確かにそりゃ、完全なサポートスタイルとして確立させた方がいいかもしれんわ。

 

 

 

 説明がちょっと長くなったが、これが現在の訓練所での最新スタイルだ。

 これをそれぞれ身につけ、そして改良していかねばならない。

 

 …最終的な目標は、この5つのスタイルに加えて俺が確立したスタイルを捻じ込む事かな。

 

 

 

 スタイル名は…オカルトか。

 真言立川流を伝えるかどうかが隆盛の分かれ目だな。

 ヘタに伝えると滅ぼされそうだけど。

 

 

 

HR月迎春(意味深)日

 

 

 やっぱり知らないモンスターがちょくちょく居るな。

 パプルポッカはユクモ村でやりあった事あったっけ?

 あの頃は山に篭ってばっかりで、砂漠は殆ど行ってなかったような…。

 

 その他、デカいカエルにジャギィの亜種みたいな奴、フクロウ、その他細々としたモンスター。

 今はまだその程度の依頼しか受けられない。

 

 

 その程度の依頼でも、成果と言えるものはあったようだ。

 俺やJUNがこなした依頼のおかげで、壊れている飛行船の修理が進んでいるそうな。

 

 そしてある程度まで飛行船の数が揃った暁には、俺を外回り専門のハンターにできないか、という話が上がっているらしい。

 …外回りって何ぞ?

 

 聞いてみたところ、ベルナ村だけではなく、各所の村を回って狩り…のヘルプを行う制度らしい。

 ちなみに今回、初めて提案されたそうな。

 

 と言うのも、ハンターは普通、一つの村に滞在するか、完全にフリーで活動するかのどちらかだ。

 そして、一つの村に滞在するハンターは、人数・質共に、圧倒的に足りていない。

 例えばポッケ村、ユクモ村。

 俺が妙な経緯で村に行かなければ、既に引退寸前の老齢ハンターか、ヒヨッコハンターしか居なかった状態だった。

 

 そこで、俺…というより飛行船の出番である。

 人間の足に比べて圧倒的に素早く移動できる飛行船で各地を巡り、ハンター不足に喘いでいる各地を救済して恩を売ろう…というシステムらしい。

 今のところ、ベルナ村付近ではそこまで切羽詰った問題は起きてないから、強力なハンターが居れば他に貸し出しできないか、という話だ。

 

 加えて言うなら、「君、殺しても死にそうにないから、飛行船の謎の撃墜現象の調査員になってくれない?」という意味でもある。

 

 

 

 …俺、まだそこまでの信頼は得てないと思うんだけど。

 今回はそんなに奇行もしてないし。

 

 何だか引っかかるモノを感じなくもないが、俺個人としては問題らしい問題はない。

 撃墜現象の調査にしても、死んでも次があるという性質上、あまり恐怖は感じない。

 …いや、流石に超高度からフリーフォールすれば怖いとは思うけど、下が水だったり藁だったりすればどうとでもなる訳で。

 

 それよりも飛行船に対する好奇心の方がずっと強い。

 しかもこの話が実現すれば、俺個人の所有ではなくとも、専用に近い飛行船が手に入る訳だ。

 専用。

 いい言葉じゃないか。

 プレミアム感がある。

 

 

HR月姫はじめ(壁ドン)日

 

 飛行船の為ならエンヤコーラ。

 時々JUNの手伝いをしつつエンヤコラ。

 

 うーむ、手伝いをしていると、JUNと俺のハンターとしてのあり方の違いを感じるのぅ。

 JUNは本当に、ベルナ村付近の住民達の為に働いているようだった。

 地域密着型、とでも言うのかな?

 腕前はまだまだ半人前以下なんだけど、一般市民の皆様からの信頼が強い。

 頑張っているが見て分かるし、依頼の後には依頼人の人と一緒に一喜一憂している。

 

 うーむ、いい事ではあるんだが…男だってわかってんのか?

 見た目完全に女の子だし、装備も女用のを使っている。

 村人達も女だと思っているんじゃなかろうか。

 デリケートな問題だし、巻き込まれるのもイヤだったんで放置してたが……失恋はまだしも、道を踏み外す人が出なければいいんだが。

 

 …踏み外しても、俺に被害が出なけりゃどうでもいいや。

 むしろ踏み外してJUNとさっさとくっついてくれ。

 そうすりゃ俺に被害は出にくくなるからな。

 

 

 

 

 それはともかく、デカいカエルを狩った。

 テツカブラ、だっけ?

 凄いアゴしたカエルも居たもんだ。 

 カエルと言えば脚力というのが一般的だが、足よりアゴの筋肉の方が強いんじゃないか?

 

 デカい岩を掘り起こしたりしてくるんで、逆に岩に跳び蹴りを入れてテツカブラにぶつけてみた。

 …相当頭に来たらしい。

 

 

 それはそれとして、訓練の成果を試してみる。

 まずは、何はともあれ乗り上げ攻撃ことライダースタイル。

 征服王みたいに叫ぶべきだろうか。

 見目麗しい女性ハンターなら、メデューサの格好をしてロデオしてもらいたい。

 

 

 うーん、やっぱまだ今ひとつ未完成だ。

 掴まる技術はかなり完成度が高いと思うのだが、そこに至るまでに問題がある。

 掴まるべきポイントを正確に手にするのは、かなり難易度が高い。

 

 

 …使用者の観点から言うが、ちょっと補助技能を加えるべきではなかろうか。

 同じ種類のモンスターと言えど、当然ながら個体差はある。

 背中に生えている突起が太かったり細かったり、或いは二本の突起の感覚が狭かったり短かったり。

 ライダーのスタイルでは、そう言った部分に手を…或いは何かしらの道具を…かけ、体を安定させようとする。

 

 が、前述したように個体差による影響により、それがいつでも完全に出来る訳じゃない。

 まずはどの部分を掴めば安定するか、それを見極めなければならない。

 

 

 

 

 ちなみに俺の場合、その見極めを非常に短く短縮できる。

 鷹の目の効果スゴすぎである。

 

 

 

 まぁ、空中を飛びながら鷹の目の発動はできないんで、地面に居る間に、更に武器をしまった状態で見当をつけておき、背中に昇って幾つかの予想ポイントに手をかけて、そこから乗り上げ攻撃…となるが。

 そうなると、まずこのライダースタイルで改良すべき点は、「事前の仕込」に集約されるだろう。

 どこを掴みやすいかだけでなく、乗り手を振り落とそうと暴れるのに必要な部分…大半の場合は足かな…を予め痛めつけ、更に刃を入れやすい角度や場所、暴れられても壁や地面に叩き付けられないような位置取り。

 

 

 …そうか、地面に叩きつけられる事もあるんだよな。

 横に転がる攻撃方法は、大半のモンスターが持っている。

 一転されれば、背中に乗っているハンターは漏れなくペチャンコにされる事になる。

 となると、横でも縦でも回転させない技術も必要か。

 

 或いは…回転する瞬間だけ飛び離れ、通常の体勢に戻ると同時に再度飛び乗るか。

 …俺なら両方不可能ではない…と思う…が、そもそも回転させない技法があるならそれに越した事はないな。

 どっちにしろ、要練習研究である。

 

 

HR月恭賀新年日

 

 

 カエルの後はカニ、卑猥竜(白)、そして先生。

 

 …むぅ、やっぱ先生も妙に脆いな。

 開拓地と比べるのが間違っていると言われれば、それまでだが。

 

 

 とりあえず、そこまでの狩りで飛行船が一つ、修理完了したらしい。

 ほーそりゃよかった、その調子で俺に寄越す分まで修理してくれぃ…と他人事のように思っていたが。

 

 以前話にあった、外回りのハンターに突如任命されました。

 

 

 

 何事?と思ったが、よくよく聞いてみればよく分かる理屈だった。

 

 ベルナ村付近には居ないモンスターと言うのは、少なくない。

 勿論、ここら近辺の独特のモンスターだって多いが、この世界は広いし、何より地域によって個体差が激しい。

 例えばティガレックス。

 ポッケ村やメゼポルタ付近では異様なタフネスを誇るが、ユクモ村やベルナ村付近では、強力には違いないが体力が少なく、疲労した様子を見せる事も珍しくない。

 それに伴い、それらの個体差の原因となる内臓や骨などにも差が出てくる訳だ。

 

 そして、その個体差の原因になっている部分こそが、飛行船の原料である。

 

 

 

 つまり直った飛行船を使い、各地の特に強力なモンスターを片っ端から狩って、その地に恩を売りつつ素材を集めてこいという訳だ。

 望むところではあるが、正直面倒でもある。

 そしてそれ以上に心配でもある。

 

 今まで、俺が関わったMH世界はほぼ例外なくトンデモモンスターからの襲撃を受けていた。

 それが全て俺のせいだとは思わない。

 俺はトラブルメーカーではあるだろうが、死神ではない。

 そこまで他人の運命に強力な影響を齎すとは思わない。

 

 …いや、エロ関係から身持ちを崩させている自覚はあるけども。

 

 

 ともかく、因果関係や原因はともかくとして、俺が関わった場所では何かしらのトラブルが湧いていたのは否定できない。

 それを、一時期とは言え各地の村を転々とするとなると…どれだけの範囲でトラブルが起きるやら。

 

 

 だが待てよ、逆に考えるべきか?

 一箇所に長期間滞在すれば、そこで何かしら起きるのだ。

 なら、短時間の間に拠点を移し続ければどうだ。

 

 …正直な話、確証は無いが……試してみる価値はあるか。

 どっちにしろ、龍暦院直属の訓練所に所属した以上、命令を拒否する権限は無い。

 仰せに従い、各地を飛行船で駆け巡るとしよう。

 …撃墜に対する備えだけは忘れないように。

 

 

HR月あけましておめでとうございます(お年玉お年玉)

 

 

 飛行船。

 飛行船。

 

 俺の知ってる飛行船と違う。

 

 

 と言っても、映像で知ってる飛行船なんて、それこそヒンデンブルグ号の墜落シーンくらいだけどな。

 

 

 まぁとにかくだ。

 俺の知ってる飛行船は、端的に言ってしまえば、クソデカいバルーンに浮力の強いガスを詰め、その下に『箱』と言うか乗客が乗る部分をくっつけたシロモノである。

 

 …そう、『箱』だ、『箱』。

 密閉されているのが当然なのだッ!

 

 断じて乗客及び乗務員を、高高度の空気と風に吹き曝しにするような代物でワないわァッ!

 MH世界の飛行船は!

 窓も無くっ!

 壁も無くッ!

 ただただボート型の足場に舵がついた板切れが、浮遊の為のバルーンにくっついているだけの代物なのだァァァァァ!!

 

 

 

 というかせめて風防くらい付けろやッ!

 ホットドリンクがなかったら、常人なら確実に凍死するわ!

 それ以前に風に煽られれてI can't flyだがなッ!

 速度によっては、ベルトで固定してても千切れてグロ画像だッッッ!

 

 

 

 まァハンターの俺なら平気な訳ですが。

 しかもアラガミでモノノフなんだから余裕です。

 

 

 

 

 とにもかくにも、外回りにされたんで、とりあえずポッケ村に飛んでみた感想がコレです。

 多少寒くて手がかじかんだけど、その程度で済みました。

 高高度で雪に晒されても平気なハンターって、一体どうなってんだろうなー。

 

 ま、それは置いといて。

 いきなり飛行船が着陸して、ポッケ村も何だ何だと騒ぎになりましたが、龍暦院からの手紙のおかげでちゃんと受け入れられました。

 以前から連絡は飛ばしていたが、本当に飛行船でハンターを派遣してくるとは思ってなかったらしい。

 

 実績的にはまだ新米ハンターなのだが、期待されているハンター…と説明されていたとか。

 期待ねぇ……ま、ここは素直に受け取っておくとしましょうか。

 

 

 さて、ここでちっと問題なのだが……何度もループし、色々な所に行っていると時間間隔が狂いそうになるんだが、俺は基本的に同じ時期で活動している。

 メゼポルタで活動していた時期も、ポッケ村に居た時も、ユクモ村に居た時も、基本的にハンター訓練所から卒業し、約3ヶ月間の間で集約されている。

 つまりだな…。

 

 

 ポッケ村では、以前のループでは解決した、ティガレックスによる問題が現在進行形で発生中なのだ。

 ゲームと違って、実はティガレックスが2頭居たというあの展開が再びなのだ。

 

 更に言うなら、ユクモ村に行けば異様な力を持ったジンオウガや見えないイビルジョー等も居るかもしれない。

 …ん、ティガ2頭はともかく、残りの連中は俺の霊力やら謎の紅玉やらが切っ掛けだったようだから、掘り出したりしなければ何とかなるか?

 

 うーむ、難関クエストをまたも攻略せねばならんのか。

 面倒な。

 しかもポッケ村のティガレックスは、ユクモ村とかに比べて強力な傾向があるしなぁ…。

 

 まぁ、所詮は下位のティガレックス。

 予め、複数相手…3匹まで想定しておこう…だと考えておけば動揺も無いだろう。

 こっちの武器も下位仕様だが、いざとなったら神機の使用も準備オッケー。

 

 …とは言え、流石に初っ端からティガレックスを相手にしてくれ、とは言われなかった。

 まずはお手並み拝見とばかりに、ポポやドスギアノスの狩猟から。

 

 

 

 …まーそりゃ普通はそうするんだけどさ。

 現実ってのは、色々な意味で上手く行かないものだ。

 具体的には、ギルドや村が小手調べの為の依頼のつもりだったとしても、そこら辺をフラフラ動き回っているティガレックスに遭遇しないという保証は無いのだ。

 俺の場合は、逆に遭遇するという確信があったけども…。

 

 

 




実家に帰省できるのはいつの日か…。
とりあえず新年を祝して飲むぞ!


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114話

ようやく年末年始が終わりました。
4日のシフトが平日分だったからクッソキツかった…特定はできなかったけど、マナーどころか常識の無い客も居たみたいだし…。

ま、とりあえず2連休を楽しみます。
それが終わったら6連勤だけど…次の3連休に人が足りないけど…。

なんとかディノバルド(村クエ)クリアしました。
うーん、他の新モンスターに比べると、こいつだけ頭一つ突き抜けてるような気がします。
属性やられの為か、今ひとつ攻めきれない…。


 

HR月ニンニク! 美味い!日

 

 

 予想通り襲われました。

 一匹だけだったんで返り討ちにしました。

 

 下位だからね。

 今の俺なら、変身無しでも難しくはない。

 神機の使用も必要なかったくらいだ。

 

 

 採取依頼もキッチリ達成したが、ちょっと怒られてしまった。

 無茶をするな、と。

 …無事だし苦戦もしなかったんだし、襲われたのを返り討ちにしただけなんだから、そこまで言わなくてもいいじゃないか…と思わなくも無い。

 無駄な狩りは生態系を崩すことにも繋がるが、今回については正当防衛だし、何よりティガレックスの為に村に被害が出てるんだから、正当な狩りだろう。

 

 

 …そこら辺は相手も分かってくれてはいたんだが、単純に心配をかけさせるな、という話だった。

 まぁ、確かに実体はともかく、俺はまだヒヨッコハンターなんだしね。

 そんな奴が突然ティガレックスに挑むとか、結果が良かったとしても勇気と無謀を履き違えた阿呆にしか見えないだろう。

 真っ当な危機感を持っているハンターなら、態々討伐したりせずに上手く避けて帰って来るだろうしね。

 

 

 …経緯はともかく、俺の腕は認めてもらえたようだった。

 ただし、自己顕示欲が強い一面がある…とも思われているようだが。

 別に認めさせる為にティガレックスを狩ったんじゃないんだが。

 今後、2頭同時に出てこられると面倒だから、個別撃破のチャンスをモノにしただけなんだが。

 

 

 

 さて、村の流通を滞らせていたティガレックスが倒れたし、これで万々歳…とはならない。

 現状では俺しか認識していないようだが、ティガレックスは二匹居るのだ。

 

 という訳で、ティガレックスの卵を持って帰ってきました。

 無論、清算アイテム扱いな訳だが…そう、ティガレックスの卵だ。

 卵なんだよ。

 ナメクジでもなけりゃ、一匹じゃ製造できないんだよ。

 ついでに言うと、俺が狩ったティガレックスはオスだったようだ。

 

 卵を産んだ奴が居る。

 これ確定。

 普通、オスでもメスでもいいから、巣には卵を護る役目の奴が留まると思うんだが……どうなってんだろうな?

 

 

 暫し首を傾げていたが、タイムアップだ。

 次はユクモ村、その次はココット村に行かなければ。

 もう一匹のティガレックスについては、ギルドが調査し、その結果次第で村のハンターに…或いは俺が来るのを待って…依頼するそうな。

 

 中途半端なところで放り出すようで気が引けるが、これでも宮仕え(?)の身だ。

 自分の判断だけで、ここに留まる訳にはいかない。

 今回は顔見世程度の時間しか取れないから、一つの村に留まれるのは2~3日程度なのだ。

 

 では、次に来る時まで御機嫌よう。

 

 

 

 

HR月刺身! 美味い!日

 

 

 やってきましたユクモ村。

 う~ん、相変わらず和風だね。

 早速温泉に浸かりたかったが、仕事仕事。

 

 飛行船が下りてきた時の反応は、ポッケ村の時と大差なかった。

 ただ、出迎えてくれた村長さんが相変わらずの美人だったなぁ。

 双子の受付嬢も、曇りの無い笑顔で無茶を言ってくる相変わらずのドSである。

 

 

 ユクモ村で当面問題になっているモンスターと言えばジンオウガであるが、コイツも返り討ちに…できなくもないが。

 問題は仕留め損ねた場合だ。

 いつぞやのループでは、手傷を負わせてもうちょっとで…と思ったら、たった一晩でトンデモモンスターに進化してしまった。

 

 万が一同じ現象が起こってしまったら……それを仕留められる人間は居るか?

 俺は滞在できても、長くて三日。

 そうそうしくじる事は無いと思いたいが…こう言う時に限って何か起こるのが俺のパターン。

 

 

 …と、色々と考えていたのだが、今のところジンオウガは村の近くにまでは来ていないらしい。

 森の奥にまで行くには、ハンターランクを上げて許可を得なければならない。

 そうそうタイミングよく出てきてはくれないか…余計なタイミングでは出てくるというのに。

 

 遭遇できなきゃ、どんな備えにも意味は無い。

 とりあえず、頼まれた通りの仕事をしただけだ。

 納品依頼だね。

 

 ま、会う敵会う敵片っ端から狩ってても、ギルドから乱獲癖有りの問題児扱いされそうだし。

 そういう意味じゃ丁度良かったと思うかな。

 

 

HR月ヤキトリ! 美味い!日

 

 

 ユクモ村での活動もそこそこに、ソソクサとココット村に移動する。

 むぅ、もうちょっと温泉で温まりたかったよ。

 

 さて、今度は初めてやってきたココット村。

 ハンター発祥の地、と聞いたが……言っちゃなんだが、寂れた村だ。

 少なくとも都会ではない。

 

 最初のハンターと謡われる竜人族の爺さんが出迎えてくれた。

 ……引退して長いようだが……ナルホド、ただの爺さんじゃないな。

 前ループで世話になった、ポイクリ爺さんにも通じる雰囲気がある。

 尤も、ポイクリ爺さんは強いか弱いかも分からなかったのに対し、爺さんは確実に強いと分かるレベルだけどな…レベルが高いのか低いのかは微妙なところだ。

 老兵、或いは古強者…。

 命を燃やし尽くす覚悟で来られたら、アラガミ状態の俺ですら危険かもしれん。

 もうマトモに体も動かせんだろうに、気迫一つでそこまで持っていかれそうな気がする。

 

 

 ま、それは置いといてだな。

 このココット村でのストーリーは、言っちゃなんだが全く覚えが無い。

 多分MH4とかその辺りに出てくる地名だと思うんだが、プレイした事もないし、前ループで訪れた事も無い。

 どんなモンスターが出るのか、全くと言っていい程分からない。

 

 なので、着任の挨拶の後はすぐさま情報収集に入った。

 最初のクエストが決まるまで、だけどね。

 今までのパターンから言えば、最初か、その次辺りのクエストで、当初の目標となるモンスターが出てくるだろう。

 

 しかし、集めた情報の中にそれらしいモンスターは居ない。

 ま、時間が足りなかったから、雑魚モンスターの情報くらいしか仕入れられなかったけどね。 

 

 …イカレたレベルの奴じゃなきゃいいんだが。

 

 

 

 

 それはそれとして、MH世界に来て暫く経ったが、体に異常は見られない。

 つまり、アラガミ化の兆候は無いと見ていいだろう。

 まぁ一安心だが…変身後まで無事で居られるかは未知数だ。

 頃合を見て、どこかで変身してみるか。

 

 

HR月お好み焼! 美味い!日

 

 やっぱりイカれたレベルの奴が出てきたよオルァ!

 ポッケ村やユクモ村では、強敵ではあったけどここまで狂った相手じゃなかったぞクルァ!

 どうなってんじゃゲームバランス!

 

 

 という訳で、シャガルマガラと遭遇しました。

 多分シャガルマガラだ。

 実際に目にしたのが、前MH世界の最後の一戦のみだった…しかも明らかに異常なシャガルマガラだった…から確証は無いが、体の造りがよく似ているし、狂竜ウィルスも持っていたようだ。

 でも色が違ったなぁ…。

 空も飛ばなかったし。

 そういや、シャガルマガラは幼体が居るんだっけ。

 ゴア・マガラ…だったか?

 遭遇したのはそっちの方だったか?

 

 遭遇したと言っても、間近で相対したんじゃないからな…ウィルスで暴走しているダイミョウザザミを討伐した後、少しは慣れた所に居たのを確認しただけだ。

 追いかけようかと思ったんだが……なんか、こう…凄いイヤな予感がして躊躇った。

 その間に逃げられてしまったよ。

 

 あのイヤな予感は何だったんだ?

 近くに別のモンスターが居たのか?

 いや、そういう感じじゃなかったな……モンスターが乱入しようとした事に対する予感じゃない。

 

 

 …あれがシャガルマガラ、或いはゴア・マガラだっていうなら…狂竜ウィルスに対する予感か?

 でも、以前にも感染した事はあった…というか前ループの死因みたいなものだったが、あれは一般的な狂竜ウィルスじゃないのは明白だ。

 しかしウィルスには違いないが…。

 いずれにしろ、狂竜ウィルスを持っていそうな相手には警戒しておこう。

 

 

 

 

 とりあえず、遭遇したモンスターの事は報告しておいた。

 後はココット村に滞在しているハンターに任せよう。

 

 …腕前的に信頼できるのかは、イマイチ分からんが。

 彼の自宅を訪れた時に見た、バカでかい自画像のインパクトは凄かった…。

 自腹で作ったらしいんで、その程度には稼げるハンターのようだ。

 …まぁ、自意識過剰でナルシストな程度なら、ハンターの変人度合いとしては低い方だな。

 

 

 

HR月焼肉! 美味い!日

 

 ベルナ村に帰ってきました。

 いや~、移動時間は徒歩や馬車に比べれば短いと言っても、流石にキツいわ。

 一日の半分くらいは移動時間だったしね。

 俺がもうちょっと飛行船の操作に慣れれば、上手いこと風を捕まえて、移動スピードをもっと上げられそうなんだが。

 

 それはともかく、戻ってきてまず行ったのは、龍暦院への報告と、そして訓練所での成果報告。

 龍暦院への報告については、正直語る程の事は無い。

 ココット村付近で、ゴア・マガラ出現の可能性アリ…とは伝えたが、確証も無いし、そもそもベルナ村からはかなり離れた村だ。

 言っちゃナンだが、ここに留まっている龍暦院のメンバーにとっては他人事である。

 

 どうしても気になるなら、外回り担当の俺がそっちに再度足を伸ばしなさいって事だね。

 

 

 

 訓練所での成果報告は、割と歓迎された。

 今までベルナ村付近では試されていた技術の数々だが、別の地域で試してみた事はなかったからだ。

 

 試した結果だが、改良点が色々出てきた。

 

 例えばライダースタイル。

 やはり、ただ乗るだけではいけないようだ。

 近所のモンスターなら、「こいつはこの辺りを掴むといい」というのがある程度判明していたのだが、別の地域のモンスターとなると話は違う。

 例えばドスファンゴなら、背中の一部に特に強く長い毛が生えているので、それを掴む…とされていた。

 が、ポッケ村付近だと背中の毛なら全体的に強い(気温の為だろうか?)し、ユクモ村であれば逆に毛自体が多くないし、何より短い。

 ココット村に至っては、そもそも掴むべき場所が全く違った。

 

 こう来ると、ライダースタイルの根幹から技術を見直さなければなるまい。

 訓練所の教官と色々話し合ってみたのだが、「前段階に力を入れる」事に決まった。

 

 今までのライダースタイルだと、例えば背中に駆け上って即掴む…というやり方だった。

 が、これだと掴むべき場所が、駆け上った先にあるかも分からない。

 なので、前段階として何度か上空からの攻撃を繰り返し、その時に何処に掴まればよさそうなのか、確認しておこう…という事になった。

 

 それに加えて、今のままだと敵を足場にして飛び上がった後、身動きが全く取れない事が難点だ。

 いや普通は二段ジャンプとか出来なくて当たり前なんだけど、そういう意味じゃなくて。

 

 現在、飛び上がった後は方向転換もロクにできないし、何より上手く着地が出来ない場合があった。

 勿論、空中での攻撃だって(出来ない訳じゃないが)地上に比べて非常に不安定。

 当てた相手によっては、逆に弾かれて体勢が崩れてしまう事だって珍しくない。

 

 

 なので、いっその事空中戦特化型にしてしまってはどうか、という提案。

 装備の幾つかの装飾を変えれば、空気抵抗を上手く使って体勢を変える事もできる…慣れれば、だけど。

 予め空中特化としておけば、装備の締め付け等の調整を行っておき、より高く飛び上がりやすくできる。

 空中での攻撃力も上げられるし、何処に掴まればいいか観察できる時間も増えるし、何より安定性が段違いだ。

 

 

 …以上の提案を元に、新スタイルの研究が開始された。

 スタイル名は…教官命名・エリアルスタイル。

 乗り上げ攻撃よりも、空中での戦い全般に力を入れたスタイルだ。

 

 ライダースタイルは…このままだと、乗り上げ攻撃に関する特色が新たに開発されない限り、徐々にエリアルスタイルに吸収されていくことになりそうだ。

 しかし、それも已む無し。

 まだまだ研究中の狩猟法なのだ。

 エリアルスタイルだって、何かのスタイルに上書きされてしまってもおかしくはない。

 

 

 

 …カスタマースタイルのように。

 

 

 カスタマースタイルは、元々ハンターではなくサポートする人のスタイルではないか?という意見が上がっていたんだが、それ以前の問題が発覚してしまった。

 これも、ベルナ村付近限定で研究を進めていた弊害なんだろう。

 

 

 そもそもからして、同じアイテムでも、地域によって造り方が違う。

 シビレ罠なんかはその典型だな。

 トラップツールと麻痺袋だったり、雷光虫だったり、麻痺牙だったり。

 

 それら一つ一つを覚えておくのは、受験勉強よりも苦しい作業だろう。

 それに、一度覚えたとしても、使わない知識は風化していくものだ………いや、趣味に走った日本人なら普通に全部覚えている気もするが。

 極端な話、ハンターが活動する場所での知識があればそれでいいのだ。

 が、それだとカスタマーの存在意義が無くなってしまう。

 

 

 そして問題がもう一つ。

 …そもそもね、ベルナ村だとさ、武器の造り方が非常に独特なんだよ。

 一つの武器を色々な素材を使って鍛えていって、そこから更に別の武器を作るなんて、この村くらいなんだよ…。

 おかげで下位の素材で作った初期の武器でも、鍛えていけば上位でも通用しそうな武器に変わってしまう。

 これ聞いた時、俺は本気でビックリしたね。

 加工屋の竜人族の爺さん曰く、「マイナーだが可能性を秘めた技術」だそうだ。

 これも研究中なのかね?

 

 

 で、この話を聞いた教官…「そ、そうだったのか…」と本気でビックリしていた。

 生まれも育ちもベルナ村なので、これが一般的だと信じて疑わなかったらしい。

 まぁ、常識ってそういうものよね。

 

 で、それすら知らない状態でカスタマーの研究してたってなぁ…。

 充分な知識が揃ってない。

 ベルナ村での武器アイテムその他は研究されているが、使えるのがこの場所だけじゃスタイルとしては厳しいだろう。

 

 …この分だと、カスタマーはやはり近い内にハンターのスタイルからは外される事になりそうだ。

 

 

HR月酒! これがなければやってられない!日

 

 JUNは元気にやっているようだ。

 村の依頼ばっかりしているから、むしろハンターよりも便利屋として認識されつつある。

 それはそれでいいと思うけどね?

 

 ただ、採取メインでやっているようなので、大型モンスターが襲ってきた時に戦えるかどうかが不安である。

 今までのパターンから行くと、そろそろライバルキャラもといモンスターが出てきてもおかしくない。

 JUNだって勝てそうに無い相手からは逃げるくらいの判断力はあるが、「自分が逃げたら村に被害が出るんじゃないか」とか考えたら…。

 

 とりあえず、モドリ玉持たせて無茶はしないように言い含めておこう。

 モンスターだって、そうそうナワバリの外には出てこないんだし。

 

 

 さて、俺も暫くはこの近辺の仕事をしようと思う。

 改良したスタイルの実践テストだってしなければいけないしね。

 とは言え、村の依頼は大体JUNがこなすようになっているから、俺は集会所の方に行く。

 村の依頼とは違って、龍暦院が研究の為に出す依頼が多いんだよな。

 厄介な依頼も多いが、その分報酬がいい。

 

 …村の皆さんからは、「偶には俺らの仕事もやれよ」的な目で見られる事もあるけど、役割分担だからね。

 手が空いてる時は手伝うのもいいけど。

 

 

 

HR月キムチ! 美味い!日

 

 龍暦院の依頼は、そこそこ手応えはある。

 まだ下位なんでそんなに強いモンスターは出てきてないが、戦ったことの無いモンスターも居るし、知っているモンスターでもこの地方独特の動きをする奴は居る。

 それらを差し引いても、狩り技とスタイルを駆使して戦っていると、新たな発見が多くある。

 

 順調と言って差し支えない。

 が、集会所の依頼をこなすに当たって、非常に苦痛な事が一つある。

 

 採取依頼だ。

 

 採取するだけなら苦痛は無い。

 苦痛は無いんだが、とにかく量多い。

 キノコ20本とか普通に注文してくるからな。

 キノコ自体はあっちこっちに生えてても、しっかり育っているか、それを採っていっても新しいものが生えてくる余地があるか等を常に考えなければいけない。

 そうすると、自然と一箇所から採取できる数は限られ、必要数を集めようとすると狩場の隅から隅まで走り回るハメになってしまう訳だ。

 

 率直に言って面倒くさい。

 村の依頼なら、注文が多くても10本程度なんだよなぁ…。

 デカブツ1匹を相手にするようが、余程気が楽だ。

 

 まぁ、文句言いつつもやるけどさ。

 そもそも集会所の依頼は、基本的に多人数でやるのが前提なんだから、一人でやってる俺がおかしいと言われればそれまでなんだし。

 

 尤も、それにだって理由はある。

 先日ここのハンターとして活動しだしたばかりの俺は、まともなコネなんぞ無いに等しい。

 あまつさえ、外回りハンターとして抜擢(?)されて多少のやっかみを向けられている上、基本的に外を飛び回る事が予想されているのだ。

 正直な話、他のハンター達と親睦を深められるような機会が殆ど無い。

 

 なんちゅうか、その…どっかの会社に入社したはいいが、半年くらいで別の会社に出向させられ、時々帰ってきたりするけどもう同僚の顔も殆ど覚えてない、あまつさえ飲み会参加なんてムリムリムリとかそんな気分じゃなかろうか。

 具体的?

 知らんよ、何か前世の記憶でも蘇ったんと違うか。

 或いは第四の壁を越えて何かが染み込んで来たか。

 

 

 …とは言え、そーいう状況に比べれば、ハンターってのは絆を深めやすい職業だと思う。

 命がかかった現場で連携してれば、嫌が応にも絆は深まる。

 その分決裂も早いが。

 

 それに、大体のハンターは狩猟以外じゃ阿呆みたいに能天気で気がいい奴らばかりだからな。

 それこそ、宴に参加すりゃ妙な蟠りなんぞ吹っ飛んでしまうだろうさ。

 

 ネトゲのマナー悪い奴らとは違うんだよ、リアルは…。

 まぁ、その分タチが悪い奴はゲーマーなんぞよりもっと悪質だが。

 いい方にも悪いほうにも突き抜けてるんだよな。

 

 

 

 …話が逸れたが、どっちにしろハンター達も忙しい。

 龍暦院にコキ使われているなら尚更だ。

 そうそう大人数での宴会はできそうにないな。

 

 例えば、ユクモ村でジンオウガを倒したり、ポッケ村でティガレックスを倒したり、メゼポルタでデカブツを倒したり…とにかく、そういうデカいイベントの時でないと、宴会はできそうにない。

 ハァ……その点、JUNは実力以上に村人の皆様に親しまれているというのに。

 これも一種の人望、或いはコミュ力チートだろうか。

 

 ま、羨んだって仕方ない。

 俺は俺のやり方で行くしかないんだ。

 

 …採取依頼は辛いけどな…。

 

 

 

 

 

HR月豆腐! 美味い!日

 

 ヤバかった…。

 俺じゃなくてJUNがヤバかった。

 結果として俺もヤバい状況になっている気がするが、それは言うまい。

 

 えー、何があったかと言うとだな。

 集会所の依頼を終えて村に戻ってきた時に、ちょっと気になる話が聞こえたんだよ。

 JUNが向かった採取依頼なんだが、森の様子がおかしい…と。

 

 

 おかしい、を放置しておくのは災厄…そうでなくてもトラブルの前触れだ。

 経験と理性が「ヤバイ!」と全力で叫んでいた。

 

 森の奥深くから、刃を研ぐような音がする…か。

 なんだ?

 突然変異のジャイアントチャチャブーでも居るのか?

 だったら是非見てみたいな。

 

 その話を詳しく聞きだして(「龍暦院のハンターが、いきなりなんだ?」って顔をされたが)、ギルドの許可も得ずにダッシュで追跡。

  

 

 …大当たりだったよ。

 ジャイアントチャチャブーでなかったのは残念だが、予想通りにJUNがデカブツに追いかけられていた。

 

 尻尾を剣(或いは鞭?)のように振り回す竜。

 

 しかも、尻尾を地面に擦らせて炎を起こす…か。

 CCOさんみたいな真似しやがるな。

 

 火事が広がる前に、JUN(と深層シメジ)を抱えてダッシュで逃げてきた。

 

 

 で、後になって聞いてみると、ディノバルドというこの地方独特の竜らしい。

 うーむ、あんなのが居るとは…世界は広いな。

 特にこの世界は自重しろと言いたくなるほど広いな。

 

 その後、ディノバルドは森の奥に消えていき、消息が掴めなくなったそうだ。

 もうちょっとでJUNが三乙どころか永遠に乙ってしまうところだったが、まぁ無事だったんで何よりだ。

 

 ディノバルドとやらは、後日探し出してお相手願うとして…問題が一つ。

 

 

 

 JUNから送られれる視線の質に、明らかに熱が篭っているような気がするのですが。

 

 

 

 考えてみりゃ、JUNからしてみれば俺は、間一髪のところで助けに入ってきてくれたオウジサマ?だ。

 流石にそれは自意識過剰かつキショい表現だとしても、吊り橋効果が要らん形で発揮された可能性は否めない。

 …同性でそれはないだろう、と思いたいところだが、JUNだしなぁ…思いっきり女装癖だしなぁ…。

 

 

 …当面、JUNと顔を合わさなくてもいいように、外回りに力を入れようと思う。

 

 

HR月ハンバーガー! 美味い!日

 

 

 外回りだって、そうそう好きに行っていいもんじゃない。

 ちゃんと、行きますよー、という事前の通達と準備、そして許可が必要だ。

 

 許可を得るには、外回り…つまり龍暦院とベルナ村には全くと言っていいほど関係が無い村に、力を貸しに行く必要があると認めさせなければならない。

 …どうやって?

 

 この場合「力を貸しに行く必要」というのは、人道的や倫理的な問題ではない。

 「あの村の生活が苦しいみたいだから、ちょっと助けてくる」じゃない。

 損益の問題だ。

 「あの村を助ける事で、このような利益を得られる」という根拠が必要なのだ。

 

 冷たいと思うかもしれないが、それも仕方ない。

 何せ外回りするって事は、数少ない飛行船を動かすって事だ。

 調整、食料、燃料、整備の為の人件費、その他諸々……とにかく経費がかかる。

 無計画に運用すれば、龍暦院でも経済的に破綻する恐れだってあるのだ。

 

 最低限、損益結果がプラスマイナスゼロになる領域まで持っていかなければいけない。

 普通なら益が出るような話でなければ許可は下りないが、外回り自体がそこまで利益を重視して提案された計画じゃないからな。

 

 

 

 

 そんじゃ、他の村を助けて得られる利益とは何か?

 

 ベルナ村とは縁も所縁も無い村の生活が回復する。

 信用されるだろうし、感謝だってされるかもしれない。

 何かが必要になった時、そちらから融通してくれる事だってあるかもしれない。

 また、ライダースタイルを試した時のように、訓練所に貢献できる発見があるかもしれない。

 

 だが足りない。

 それら全てを合わせても、飛行船を運用するのに必要な経費に届かない。

 多少の赤字は計画の内と大目に見てくれたとしても、まだ届かない。

 

 元々、外回りするのは多くて月一回程度…という考えだったらしいし、来月まで待たなきゃならんのか?

 それまでJUNの攻勢をかわせと?

 いくらアタックされても、男に目を向ける事は無いという自信はあるが、あまり迫ってこられるとA.BEEさんを連想する恐怖が湧くのも事実。

 

 

 

 A.BEEさん…か。

 

 

 

 むぅ…外回りする方法、一つ思いついたかも。

 ちょっと龍暦院でデータを漁ってこよう。

 

 

 

 

HR月体! 肝臓から体重から口臭から贅肉までヤバい!日

 

 

 見付けた。

 ゴア・マガラのデータ。

 

 やはりと言うべきか、古龍の例に漏れずゴア・マガラの詳しい生態はわかっていない。

 分かるのは、大まかな外見と、狂竜ウィルスと呼ばれるリンプンを撒き散らす事くらい。

 

 なもんで、コイツの目撃例は常に募集されている。

 モンスターの生態を調べるのも仕事の一つである龍暦院としては、目撃情報は喉から手が出る程欲しいだろう。

 

 そして、俺がココット村に向かった際、ゴア・マガラの出現を匂わせるような情報があった。

 つまり狂竜ウィルス。

 

 その存在を訴えれば、外回りが許可されるかもしれない

 

 

 更にヒラメイタ。

 あまり好ましい手段ではないが、龍暦院にとって未知のモンスターが出現すればどうだろう。

 別に偽装するって言ってる訳じゃない。

 

 霊力という意味不明な力を操るモンスターだったら?って事だ。

 

 MH世界だけでなくGE世界でも、霊力を吸収したモンスターが強力になった例はあった。

 …トンでもないパワーアップしやがったけどな…。

 俺の霊力だけじゃなく、妙な紅玉の効果もあっただろうけど。

 

 それを再現したらどうだろう?

 異常なモンスターが頻繁に発生するという現象を、調査にいけないだろうか。

 

 

 …方法的にもハンターの倫理的にも大問題だけどな。

 何せ、今までのやり方だと活かさず殺さずで危機感を煽りながら霊力をぶつけ続けるか、呪われているとしか思えない(そして何処にあるかも分からない)紅玉を使わなきゃならん。

 仮にそれで上手く行ったとしても、取り逃がしてしまったり、標的としたモンスター以外にも影響が及んだ日には、それこそ近隣の村の生活がどうなるか分かったもんじゃない。

 

 JUNの熱視線から逃げる為にそこまでやるか?

 流石に却下だ却下。

 

 

 

 とりあえず、ゴア・マガラ出現の報告でいけるかどうか試してみるか。

 むぅ、この前遭遇したカニの素材でも持って来ておけばよかった。

 …いや、素材だけ持って帰っても狂竜ウィルスは関知できんかな…。

 

 

 

 




ニンニクってどうしてあんなに美味いんだろうなぁ…。
口が臭くなって翌々日くらいになるまでニオイが消えないし、特に深みのある味って訳でもないのに…。

でもニンニク串とかマジで美味いんだよ。
串焼きヤキトリの中でも妙にインパクトがあるんだよ。
以前、ポップコーンのガーリック味特大サイズを見かけてハマッたんだけど、もう何処にも売ってないんだよ…。
売ってたとしても、連休前くらいか食えそうにないけども…。

何か口臭を誤魔化す方法とかないかなぁ…ミンティアとか使ってみたけどまだ臭いって言われるし…。



追記

実はFateやった事ないんですが、海外を回っていた雁夜おじさんが各種ツテを総動員して聖杯戦争をしっちゃかめっちゃかにしてくれないかなぁ…と思うようになりました。
ウチの阿呆を乱入させてみたいですが、展開が浮かびませぬ。
未プレイなんで制限に抵触するし…。


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115話

スランプと言いつつ7話分くらいの書き溜めが出来てしまった…。
話が殆ど進んでないからgdgd極まりないですが。

ところで、次にMH世界に来た時はフロンティア行きを予定している為、MHF-Gプレイを考えています。
歌姫クエストは外せない要素だと(そしてレイラさんの谷間ネクタイも外せない)思うのですが、これってG級に至らないとプレイできないのでしょうか?
HPにはHR99まではトライアルで出来るとありましたが、具体的に何処までなのかよく分からない…。
最近ではランクを急速に上げるクエストとかもあるようですが、そこだけ上げても装備が追いつかないでしょうし…。
どれくらいお金がかかる分からないのが悩みどころです。


HR月嫌いなキャラでも擦寄って媚びてきたら可愛く見えるのはよくある事日

 

 

 駄目でした。

 と言うか、一応報告自体は上げてたからね。

 それで「行って来い」って言われなかった時点でお察しだ。

 

 そもそも、俺の実績自体、ゴア・マガラを任せられるような代物じゃない。

 ポッケ村でティガレックスを返り討ちにしたが、いくら強力と言っても下位飛竜と古龍だもんな。

 

 …どうすっかねぇ。

 JUNも視線を寄越すだけで、これと言って行動を起こそうとはしない。

 それくらいの分別は持っているだろうと信用している。

 

 …酒が入らなければ。

 

 いや、酒が入ったって俺を押し倒そうとするワケじゃないんだが…むしろ押し倒させようとしてくるし。

 個人の好悪に口を挟むような権利は無いから、行動に移さなきゃ何も言えないし、対策も練れないんだよなぁ…。

 もし村の連中に、こんな事を考えていると知れたら?

 

 

 …「自意識過剰なんじゃないの」「JUNさんがそんなおかしな人な訳がないでしょう」「むしろ本当にそうだったら応えてやりなよ」「何言ってるんだ、JUNさんはちゃんとした女の子だろう」

 

 

 …腐ってる人が居ないのが逆に辛いな。

 これも全部想像の反応だけども。  

 

 と言うか、JUNが男だって事は知れているんだろうか…。

 

 

 

 とにかく、外回りに行く為に実績を積まんと。

 JUNだって、暫く時間を置けば熱も冷めるかもしれない。

 なんだったら、外で懇ろになった相手が居るって事にすれば諦めもつくか?

 

 …外に行けなきゃ意味無い想定だね。

 

 

 

 

HR月寒いと掃除もしたくなくなる日

 

 

 幸か不幸か、ソロでの狩りというのは実績を積むのに向いている。

 それだけの腕があれば、だが。

 

 戦略・戦術上の都合もなく、ただ一人で戦うなんて阿呆か趣味人の仕業以外の何者でもないが、少なくとも一人でそれをこなす事が出来る、というアピールにはなる。

 反面、無意味に自分を危険に晒すおバカさん扱いもされるが。

 

 そして俺がソロ狩りばっかりやってるのは、戦略・戦術上の都合によるものです。

 具体的には一緒に行ける狩り仲間がJUNくらいしか居ないって事なんだよ。

 

 龍暦院ハンターでも、誘えば一緒に行ってくれそうなのは居るんだが、揃って大型を相手にするにはまだ早い連中ばかり。

 そこら辺の面倒を見るのも先輩ハンターの勤めなんだろうが…今の俺は彼らよりも後輩だ。

 これでアレコレ口を出しても、生意気な後輩と思われるしなぁ…。

 もっとさりげなく世話を焼けるといいんだが。

 

 そんな訳で、せっせとソロ狩りする日々である。

 

 

 

 

 で、思いついたんだが……交易するというのはどうだろう?

 例えば万年雪に覆われているポッケ村。

 一般人はマフモフ装備みたいな服装で対応しているが、そればかりでは飽きるだろう。

 そこで、ムーファの天然毛玉とかを持っていったら?

 新しい触感がウケるかもしれない。

 次回の外回りの為に、色々と資材を溜め込んでおこう。

 幸い、ふくろという今以て正体不明の道具のおかげで、資材の持ち運びには困らない。

 ドンドン詰め込んでいこう。

 

 

 …なんて事を考えていたら、なんとポッケ村の方から名指しで依頼が入ってきた。

 一体何事?と思ったら、2頭居たティガレックスの、残った一匹の方が荒れ狂っているらしい。

 最近では雪山の麓まで下りてくる事も多々あり、一般人が採取に入る事さえ危なくなってきたとか。

 番を狩られて怒り心頭って事だろうか?

 

 ポッケ村には今のところ、集会所のハンターも含めてティガレックスに対抗できるようなのは居ない。

 こっちとしては、外回りに行くのは渡りに船だし、ある意味では俺の不始末みたいなものだ。

 勿論行くしかないだろう。

 

 …できるだけ長くあっちに逗留したいな。

 ついでに他の2箇所を回ってくるのは勿論だけど、それ以上にポッケ村で暫く活動したい。

 ティガレックスが2頭居なくなれば、そこから先は恐らくモンスター達の縄張り争いが激化するだろう。

 元々ティガレックスは縄張りを持たずに動き回る生き物だけど、結構な大物も襲って食ってたっぽいし。

 

 

 

HR月最近は毎日朝6時まで飲んでいる日

 

 

 さて、やって来ましたポッケ村。

 何故かシャーリーさんが出迎えてくれた。

 ありがたいし、目の保養(G級バスト的に)になるけど…何故に?

 貴方G級受付嬢では?

 

 …ああ、そうですか受付できる人が居ないんでヒマですか。

 なんで外回りの俺の対応も押し付けられた、と。

 そりゃスンマセンね。

 お詫びと言ってはなんですが、このムーファの天然毛玉で作ったクッションをあげましょう。

 交易品にするつもりなんで、感想を宣伝しておいていただけると助かります。

 

 

 さ・て・と。

 

 シャーリーさんとのアレコレや手続きはともかくとして、とにかくティガレックスだ。

 サクッと狩ってしまいたいところだが、そうすると村に逗留できなくなゲフンゲフン

 もとい、ちょっと気になる事がある。

 

 幾ら怒っているとはいえ、ティガレックスがそうそう雪山の麓まで下りてくるものだろうか? (ポポが居れば降りてくる)

 普通のティガレックスとは違う行動を取っている節が見られる。(気がする)

 そして普通じゃない行動をするモンスターと言うのは、大抵が災害の前触れか……或いは、今までの例を振り返ると、何らかの形で霊力を得て、妙なパワーアップを遂げたか。

 

 その辺をしっかり調査しておきたい。

 遭遇したら狩るのは勿論だが、霊力を持ったモンスターの場合、狩った後も遺体を食ったモンスターが力を得た、なんて例もあったからな。

 最低限、そこだけはハッキリさせておきたい。

 

 

 

 シャーリーさんからは、「ティガレックスに会うなり狩っちゃった人とは思えない言い草ですね」って言われた。

 まぁ、その件で色々と怒られたもんで、俺もちょっと慎重になった次第です。

 

 

 

HR月人手が足りない…これから更に就職決まって辞める大学生がががが日

 

 

 ティガレックス調査中。

 途中でドドブランゴを狩った。

 ライダースタイル改めエリアルスタイルで、牙を掴む場所にしてみようかと思ったんだが…アカンな。

 思いっきり噛み付かれるし、ヨダレでベトベトになるわ。

 

 前ループでポッケ村のドドブランゴを狩った覚えもあるが、当時に比べて大分楽になった気がする。

 狩り技や乗り上げ攻撃による差なのか、それとも俺の腕が上がったからなのか…。

 

 

 しかし、それはそれとして、ちょっと気になる事も。

 ティガレックスの足跡を見付けたんだが……しかも、2匹分。

 

 …アルェー?

 

 2頭のうち一頭はもう仕留めたよな?

 3頭居たとでも?

 

 …イヤーな予感を感じつつも足跡を着けていったら……いつの間にか、足跡が一頭分しかなくなっていた。

 …見失った?

 俺が?

 鷹の目鬼ノ目まで発動させてたのに?

 

 

 

 …ぬぁぁんかイヤーな予感がムクムクと湧いてきたなぁ。

 ティガレックスに何か異変が起こっているのは、村に逗留する為のコジツケみたいなトコがあったんだが…そうも言っていられなくなってきたようだ。

 

 

 もう少し調査を続けてみたが、ティガレックスの痕跡は確かにある。

 喰い散らかされたポポとかで一発で分かるんだが、これは1頭分しか見当たらない。

 でも足跡は二頭分。

 

 

 うーん?

 

 腹持ちがよくて燃費がいいティガレックスが二匹居たとでも?

 一匹だけなら分かるが、もう一匹も…か。

 大人しいイビルジョーくらいに薄い可能性だな。

 

 

 …或いは…食わないティガレックス?

 そんなのが居るのかね。

 

 

 

HR月ゲームプレイする時間も無い…日

 

 ギルド職員から、雪山でティガレックスが目撃されたと聞き、ダッシュで駆けつけた。

 が、またも居ない。

 そもそもこの、痕跡が残りやすい(同時に消えやすくもあるが)雪山…しかも餌場の問題を考えれば、決して広いとは言わない…で、ティガレックスを発見できない事自体、異常と言えば異常だ。

 既に巣らしき場所まで発見しているのになぁ。

 

 その巣の痕跡を探ってみたが、元々二頭が住んでいたようだ。

 恐らく、その内の一頭は先日仕留めたティガレックス。

 その後、残った一頭は、何度かここに戻ってきたようだったが……少なくとも、この一週間くらいは戻っていないようだ。

 

 新しい巣を見付けたのか?

 しかし、この辺で巣に出来そうな場所なんて他にあったかな。

 それに、ティガレックスの痕跡が見つかるのは、大抵この近辺…て事は、やっぱりこの辺を中心に活動しているのは確かだな。

 

 ぬぅ…どうなってんだ?

 

 

 

HR月MHFやろうにも、1ヶ月中にどれくらい遊べるやら日

 

 

 信じられないものを目にした。

 俺だけじゃない。

 採取の為に、ちょっとだけ雪山に入ろうとしていた村人のガガンボさん(仮名)もだ。

 

 

 いや信じられないって言っても、俺にとっては前例があるっちゃあるんだが。

 

 

 俺は調査を切り上げて、ガガンボさんはこれから採取に入るってタイミングで、雪山の麓でバッタリ会ったんだ。

 早いところティガレックスを倒してくれんかね、とガガンボさんがボヤいていたが…それを見付けたのは、丁度そのタイミングだった。

 

 見付けたのは…ティガレックス。

 

 

 

 が、フルフルを空中で襲っていた。

 そう、空中で。

 

 それ自体はおかしくはないよ。

 飛ぶのは苦手とは言え、ティガレックスだって羽はある。

 強靭な脚力でジャンプし、そこから僅かながらに滑空する事はできるから、空中から獲物を強襲したっておかしくない。

 フルフルは目が退化しているし、強風でニオイも触覚も乱れがちな状況なら、奇襲をかければ食いつくことだって出来るだろう…実際、俺はいつぞや大ジャンプからのハンマーで叩き落したし。

 

 で、見事フルフルを空中で仕留めたティガレックスは、雪山の中腹の崖に着地した。

 勝利の遠吠えのつもりなのか、崖から夕日に向かって吼える姿は中々に青春っぽかったな。

 

 

 

 

 …その数秒後、ティガレックスが煙のように消えていかなければね!

 

 

 そのシーンは勿論、田吾作さんもといガガンボさんも目撃している。

 なにアレ?

 どうなってんの?

 

 なんでティガレックスが姿消せるの?

 また霊力の影響?

 

 だが、雪山である以上、ティガレックスのような巨体が動けばあちこちに痕跡が残る。

 本当に姿を消せる能力があるなら、尻尾を掴む…もとい斬る……えーと、とにかく正体を見極める絶好のチャンスだ。

 モバンゲさんもといガガンボさんを先に村に帰し、調べに行ったんだが…。

 

 

 

 フルフルは確かに仕留められていた。

 が、ティガレックスの姿も無ければ、移動した痕跡も無い。

 ただ着地の際の跡が残っているだけで、全く、足跡すら残っていない。

 フルフルも食われた様子は無い。

 倒しただけで、そのまま去っていった?

 飛びもせず歩きもせず?

 

 

 …本気でティガレックスの幽霊なんじゃあるまいな。

 本格的にヤバい予感がしてきた…。

 

 

HR月…そういえばスターオーシャン新作とかナルトとか色々発売予定が…日

 

 与太話扱いされるとは思うが、一応ギルドに報告し、更に龍暦院にも連絡を送った。

 モケーレムベンベさんもといガガンボさんも証言してくれたが、どれだけ効果があるやら。

 しかも本当に幽霊、ひいては霊力的な何かが関わっていた場合、証拠になりそうなものが全く無いと言う…。

 

 

 …考えても無駄だな。

 とりあえず狩ってみるか。

 昨日の動きを見る限り、姿と痕跡を残さない謎はあるが、パワー自体は普通の下位ティガレックスのようだ。

 最初の奇襲さえ避ければ、二対一でも狩れない相手じゃない。

 

 

 

 ところで、シャーリーさんが面白い話をしてくれた。

 まさか信じてくれないよなー、と思って例のティガレックスの話を報告したんだが、困ったような顔(アレはリアクションに迷っている顔だった)で、ポッケ村で古くから伝わる怪談…というより、昔話か御伽噺か。

 

 よくあると言えばよくある怪談で。

 死別した恋人の残された方が、山に向かって延々と慟哭を響かせていると、その声に呼び寄せられた恋人の幽霊が雪山を徘徊し始めるようになる。

 そして次の新月の夜にはその幽霊が村までやってきて、残った方も連れて行かれてしまう…という奴だ。

 

 山に向かって云々は、単にこだまを超常現象的な何かだと捉えたんじゃないだろうか。

 ついでに言えば、残った方が連れて行かれるというくだりは、泣き声が響き続けて起きた雪崩に巻き込まれたんじゃないか、ってね。

 

 シャーリーさんは、「ひょっとしたら、番が居なくなったティガレックスが泣き続けたのかもね」って言ってたが。

 

 

 はっはっは、そんなまさかぁ。

 討鬼伝世界ならともかく、ここはオカルト系の力が弱いMH世界だぜ?

 

 

 

 

 …でも変な紅玉はあったしな…。

 

 

 

 

 

 そういや明日は新月なんだが。

 

 

 

 

HR月だけど一番発売してほしいのは、東京魔人學園帝戰帖なんだよ…日

 

 

 

 

 来たよオイ。

 マジで村まで降りてきたよ、ティガレックス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 の幽霊が。

 

 

 マジか?

 

 

 あー、色々戸惑っているが、もうちょっと詳細な情報を記録しておこう。

 

 

 シャーリーさんからの話を聞いて、非常にイヤな予感がした俺は、貸し与えられたハンターの家で色々準備していたと思いねぃ。

 昨晩は問題なかった。

 調査にも狩猟にも行かずに一日過ごしたが、今日も夜までは問題なかった。

 

 夜も更け、人によってはそろそろ酒呑んで寝る頃か…って時間だった。

 突然、村のド真ん中でバカみたいな咆哮と悲鳴があがったんだ。

 

 来たか、って思って即座に飛び出していったよ。

 被害は家畜にしていたポポが2匹、怪我人が6人、腰が抜けて逃げるに逃げられなくなってたのが4人。

 

 怪我人をそのままなぎ払おうとするティガレックスの前に割り込んで、何とかガード。

 ここで最初の違和感を持った。

 

 物理的なダメージが弱い。

 だが、霊的な衝撃を感じた。

 横っ面にシールドスマイト(書き忘れていたがランス装備だ)を叩き込んだが、やはり手応えが弱い。

 

 

 二つ目に感じた違和感が、ポポを襲いはしたけど食っては居ないって事だ。

 ティガレックスは凶暴だし人間だって食べるから、仕留めたポポよりも先に周りの邪魔者を蹴散らそうと思ってもおかしくない。

 だが、ポポを確保しようとする様子すら見られない。

 

 

 

 そして最大の違和感。

 ティガレックスの頭に、角がある。

 突起とか棘ってレベルじゃない、明らかな角だ。

 

 まさかと思って、ミタマ「魂」で連昇をぶつけてみた。

 そして確信を持った。

 

 

 こいつ、鬼だ。

 

 

 実体を持っていない。

 幽霊?

 何故?

 このMH世界で?

 

 

 疑問は多々あったが、とりあえず鬼なら鬼を相手にした戦い方をするだけだ。

 モノノフ特有の、武器を扱う動作で祝詞を唱える。

 …討鬼伝世界とは全く関係が無い筈のこの世界で、祝詞を唱えて効果が得られるのは…神仏英霊の加護がこの世界にまで及んでいるのか、或いは祝詞云々よりも集中力や思い込みの問題なのか。

 

 疑問はつきないが、とりあえずミタマ「魂」で遠距離攻撃と移動封じに徹した。

 討鬼伝世界の武技は、怯ませるものが多いから行動阻止に便利だね。

 

 

 とにかく封殺する事に専念し、その間に腰が抜けていた村人達も、何とか物陰にまでは避難できた。

 そこから本格的に攻勢に出たんだが……うーん、なんかおかしな感触だな。

 鬼だと思ったが、それとも少し違う気がする。

 鬼を相手にした戦法は有効だから、霊的な存在であるのは間違いないと思うが。

 

 

 そのまま渡り合う事、30分くらいだろうか?

 普通の下位ティガレックスなら、3度は狩れている。

 鬼であれば、もう全破壊し、タマハミにまで持ち込んでいる筈だ。

 

 だが仕留め切れない。

 何度も部位破壊した。

 爪を、顔面を、一度は尾まで切り落とした。

 だが再生してしまう!

 討鬼伝世界の鬼達とは違い、モーションが殆ど無い上、再生速度が速すぎる!

 鬼祓いするヒマもありゃしない。

 

 こっちとしてもそうそう攻撃を喰らいはしないんだが、相手が無限再生するんじゃ分が悪い。

 後の事と失敗のリスクを考えず、まだ一度も試していないアラガミ化を使うか?と思い始めた頃だ。

 

 ティガレックスは唐突に雪山に振り向き、高く遠吠えを上げると、そのまま幽霊のように…実際幽霊みたいなもんだが…スゥーっと消えていった。

 

 

 

 とりあえず撃退はできたが…何がどうなってんだ。

 とりあえず、このウソくさい現象について、目撃者が多数居る事だけが唯一の救いである。

 

 

 

 

HR月欲しいソフトが色々出るなぁ日

 

 

 昨晩から一日、考えてみた。

 が、仮説しか思い浮かばない。

 村では喧々囂々の大騒ぎとなっており、唯一ティガレックスを相手に出来る俺に向かって「どうにかしてくれ!今すぐに!」という声が多数届いている。

 そりゃどうにかするけどね。

 パニックに陥れば、モンスターが闊歩するこの世界で、無駄に逞しく生きている住人と言えどもこんなもんか。

 ま、それは俺も例外じゃないしね。

 

 

 

 正直、このままやりあっても負けはしなくても勝ち目は薄い。

 相手を動けなくして、何とか鬼祓いをしなければ。

 一番簡単な方法は、不動金縛りや罠と閃光玉で時間を稼ぐ事か。

 他にも麻痺ナイフの類もあるし、動けない時間を作るだけならシビレさせるより眠らせた方が効果的か?

 

 あまり使ってなかったが、「空」のミタマで自動鬼祓い効果があるのがあったな。

 姿を見せないだけでいいなら、それこそアサシン仕込のステルス技術も使えるか。

 鬼杭千切…は後が無い上に、仕留めたとしても暫く行動できなくなるから論外として、普通の鬼千切で首を跳ねるのはどうだろう。

 急所を狙うのはアサシン技術で慣れているし、跳ねるとまではいかなくても喉に穴を開けるくらいならできると思う。

 

 

 ふむ、こうして考えてみると、意外と攻略法は多いな。 

 他にも、アレを神機に捕食させてみたらどうなるかなど、疑問点もある。 

 

 やれるだけの準備をして、挑んでみるかな。

 どの道、推測だけでは狩りは成り立たない。

 

 

 

 

 とか考えてたら、雪山麓にティガレックスが出てくるって何やの。

 タイミング良すぎとちゃう?

 …それとも、何か知らない要因があって、全て…とは言わなくても8割くらいの事象が繋がっているのか…。

 

 まぁ、麓に出てきてくれたのであれば好都合だ。

 雪山特有の冷えもないので存分に動けるし、いざとなったら逃げ込む森もある。

 むしろ森に誘い込んでからステルス暗殺狙う。

 

 さて、どうなる事か…。

 

 

 

 

 

 

 

HR月日付ネタが浮かばない日

 

 

 流石に半日寝込んだ。

 

 もうワケがわからないよ。

 

 えーと、とりあえず勝った事は勝ったんだわ。

 で、麓まで出てきてた奴は、多分村に出たティガレックスとは違う。

 角も無かったし、霊気も殆ど感じなかったし、実体を持ったティガレックスだ。

 

 

 

 

 

 が、そこから分身するってナニ?

 質量を持った残像か?

 パワーを持った像か?

 Stand by me?

 stand up to?

 

 そもそも、最初のティガレックスの様子からしておかしかった。

 明らかに数日は何も食っていない。

 フラフラだし心なしか細くなっていたようだし、常にポッケ村付近では見られない疲労状態だった。

 更に、体には幾つかの特徴的な傷。

 

 あれはモンスターにやられたんじゃない。

 あの傷の付き方は……まるで、村に現れたティガレックスに叩き込んだ連昇とか追駆とか破敵ノ法の傷じゃないか。

 

 おかしい、とは思っていた。

 だがとりあえず弱って目の前にいるなら、仕留めない理由は無い。

 窮鳥懐に入るとは言うが、こいつは入ってこれるレベルじゃないし。

 

 常に疲労状態のティガレックスなんぞ萌えキャラにもなりゃしない。

 一気に仕留め様としたが…追い詰められた時に、奴は突然現れた。

 そう、角を持った鬼のティガレックス。

 

 その出現する瞬間を、俺はハッキリと見た。

 

 

 弱りきったティガレックスから突然馬鹿みたいな量の霊力が立ち上り、それが新たなティガレックスを形成するのを。

 

 

 

 …やっぱスタンドだよ、コレ…。

 

 

 それじゃ俺は波紋使いだとでも言うのか。

 どっちにしろ黄金の精神なんぞ持ってねーよ。

 

 

 …戯言はともかく、そこからは二対一だった。

 梃子摺りはしたよ?

 現れたティガレックスが、『スタンド』だって気付くまではね。

 

 もうオボロゲな知識しか残ってないが、『スタンド』がどういうモノだったかはある程度覚えている。

 色々な性質を持っていたが、重要なのは一点。

 『スタンド』が傷つけば、本体も傷つく。

 

 どういう偶然なのか、この『スタンド』はその性質を再現していたようだ。

 本体が受けていた傷は、先日俺が『スタンド』のティガレックスに叩き込んだ傷だった。

 

 

 それに気付けば、話は早い。

 確かに二対一ではあるが、本体を仕留めればそれで事足りる。(それでも残るタイプでなければ)

 そして、相手が二体居て、どっちを狙っても本体にダメージが入る。

 …本体が死ねば、『スタンド』も死ぬ。

 

 二体の攻撃を避けながら二体を仕留めるか、二体の的を狙いながら俺一人が避けるか。

 俺の感性と戦い方では、この場では後者が楽だった。

 何せ回避手段が豊富にあるからな。

 ブシドースタイルええなぁ…。

 

 小一時間ほどやりあって、『スタンド』のティガレックスが羽ばたいて移動した。

 その後を本体のティガレックスがフラフラした飛び方で追っていき、それを更に追った俺が辿りついたのは、以前に見付けたティガレックスの巣だった。

 そこでは既に『スタンド』の姿は無く、瀕死のティガレックスが狂乱したかのように咆哮し、暴れまわっていた。

 

 …程なくして、本体のティガレックスは倒れ伏した。

 俺が仕留めたが、何もしなくてもそう遠くない内に絶命していただろう。

 

 

 

 ま、それはともかくとして、結局どういう事だったんだろうか。

 あの鬼型ティガレックスが、やつれていたティガレックスから現れていたのは確かだ。

 

 …今思えば、『スタンド』の鬼型ティガレックスは、最初に仕留めたティガレックスだろう。

 あまり細かい区別はつかないが、微細な癖やサイズが同じだった気がする。

 

 

 そこへ、シャーリーさんから聞いた怪談を合わせて考えてみると、以下のような話が成り立つ訳だ(怪談が本当ならな)

 

 番を失い、嘆きに嘆き続けたティガレックス。

 それに釣られて、幽霊のティガレックスが雪山をウロウロするようになる…何度か見かけた2頭から一頭に変化している足跡などの原因はコレだ。

 その正体は『スタンド』…そのものかどうかは不明だが、とにかく嘆き続けるティガレックスから分離した、霊的な何かだ。

 それを、生きているティガレックスは、死んだ番が生き返った(或いは死んでなかった)のだと思い込み、行動を共にするようになる。

 …勿論、そんな事が何の理由もなしに起こる筈は無い。

 少なくとも、死んだ番の『スタンド』を出し続ける生きたティガレックスは、どんどん霊力や生命力を削られ、衰弱していく。

 

 そしてあの新月の夜、怪談通りにティガレックスの幽霊は村に現れた。

 ソイツを撃退したのは俺だが、あの時見たように『スタンド』のティガレックスは消え去った。

 それに気付いた生きているティガレックスは、きっと半狂乱になっただろう。

 衰弱した体を推して、『スタンド』のティガレックスの痕跡を必死に辿り、雪山の麓までやってきた。

 そして俺に遭遇。

 

 …気付いていたかは分からないが、生きているティガレックスにしてみれば、俺は番の仇だ。

 そりゃ襲い掛かってもくるだろう。

 

 

 そして、戦闘中に何が切っ掛けになったか、再び『スタンド』のティガレックスが出現。

 それでも俺に撃退され、『スタンド』のティガレックスは生きていた頃のように、巣に逃げ戻って眠ろうとした。

 それを追いかける本体のティガレックス。

 だが、巣に戻った頃には火事場の馬鹿力で出現した『スタンド』も消え、番の姿が見えなくなった本体のティガレックスは狂乱。

 そこへ現れた俺に怒りのままに挑みかかり…。

 

 

 …あくまで想像、だけどな。

 大筋は間違っていないと思う。

 

 

 しかし、問題は何故こんな事になったのかって事だ。

 前にこの二頭を相手にした時は、仲違いさせて漁夫の利を得た。

 …あの時も片方だけ仕留めていたら、こうなっていたんだろうか?

 

 怪談が事実だったかはともかくとして、この場所に霊的な『何か』があるんだろうか。

 確かに自然が無闇に豊かな世界だし、あっちこっちに所謂パワースポット、龍穴の類があってもおかしくはない。

 

 ついでに言うなら、ポッケ村にはオカルト系の力を持ってても不思議じゃない存在がある。

 今はまだ氷に覆われている筈だが、あの再生するデカい剣…確か、大長老の脇差だったっけ?

 それはドンドルマだったっけか?

 

 しかし、力を宿していても不思議ではないとは言え、元が単なる業物の剣なら、ティガレックスに力を与えるような切っ掛けになるとは思えない。

 

 

 なら…ポッケ村、或いはこの周辺の土地にこそ何かがある?

 

 

 …あり得るな。

 何せ、古龍が次から次へと訪れる謎の魔境だ。

 古龍達も、ティガレックスに力を与えた『何か』に惹き付けられて村まで来た…。

 うん、こっちの方がありそうではあるな。

 問題はそれがナンなのかって事だが。

 

 

 ともあれ、倒したティガレックスは、念入りに鬼祓いをしておいた。

 徹底的に、普通なら残る自然な量の霊力すら残さないように。

 

 もしも何時ぞやのような謎の紅玉の類がまだあって、それをティガレックスが飲み込んでいるとしたら…なんて事まで考えたよ。

 腹掻っ捌いてみたが、それらしいモノは出てこなかった。

 ……獲物を無意味に傷付けるのは御法度だが…ギルドの連中には、トドメを刺した時の一撃が異様に綺麗に入ったって言っといた。

 

 ただ、鬼祓いしている時に気付いたんだが…こいつもよく見たら角がある。

 自然に生えた角なのか?

 この角が『スタンド』に関係しているのか?

 謎は尽きないが…とりあえず、今後も本来なら無い角が生えている奴には要注意と思っておこう。

 

 

 

 

 




外伝の縛りをちょっと変更して、体験版プレイしただけの場合でもOKにしようか悩んでます。
そうすればJOJOに乱入させられるが………リタイアするのが目に見えてるな。
漫画形式で見えてますな。


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116話

時守です…寒くて何もする気がおきんとです。
時守です…キリンに太刀ブシドーで行ったら弾かれまくってカウンターの電撃喰らうは、避けても攻撃のチャンスがないは、ゲージは溜まらないはで最悪でした…。
時守です…下位武器で青ゲージに届くからセルレギオス武器作って、張り切ってオストガロアに挑んだら殆ど使いませんでした…。
時守です…このSSの受付嬢の設定はかなりオリジナル入っています…ユクモ村の受付嬢が竜人族で双子という設定だったりします…。
時守です…時守です…。


 

 

 

 

 

HR月ネタが尽きてもエロ妄想だけは尽きない日

 

 

 思ったより梃子摺ったが、とりあえずポッケ村での調査は終了だ。

 これ以上引き伸ばすのも問題だし、そろそろユクモ村に移るとしよう。

 

 とりあえず、ティガレックスの幽霊云々はともかくとして、異常な事態が起こっていたというのは信じてもらえた。

 目撃者も多く居たし、村で暴れた痕跡を調べてみても、突然現れて突然消えたとしか思えなかったからだ。

 

 意外だったのが、シャーリーさんから引き止められた事だ。

 ティガレックスが居なくなっても危険なモンスターは多いから、人手が足りないから、色々言っていたが…。

 

 

 

 幽霊が怖いのか?

 

 

 

 むぅ、G級受付嬢ともあろう者に、意外な弱点だ。

 …そうさな、このまま放っておくのも哀れと言えば哀れだし、万一また何かが出てきた時にも問題がある。

 念仏の一つでも教えておくか?

 幽霊退治によく効く呪文とか言って。

 でも気休めとしか受け取られないだろうし、実際気休めだしな。

 流石に鬼祓いを教えても、モノにさせられる気がしないし。

 

 何かあったかなぁ、そういう都合のいいアイテム…。

 

 

 

 

 

 

 あ、そう言えばアレがあったな。

 預かり物だし、渡された経緯を考えると他の人に渡すのも躊躇われるが……これも人助けだと思って勘弁してもらおう。

 あの子はもう覚えていないだろうけども。

 

 

 という訳で、ふくろの奥で眠っていた、結界子の欠片を渡しました。

 いつぞやのループで、大攻勢に向かう際に橘花に預けられたものだ。

 確か討鬼伝世界であれば、オオマガドキを払うシーンの重要な伏線になったような気がするが…使い方も覚えてなけりゃ、同じ払い方もできないからな。

 死蔵していても意味が無い。

 それなら、こうして使った方がまだいいだろう。

 

 結界子はそこにあるだけで不浄を弾く力を持つ。

 霊力を篭められれば劇的に効果は増加する(そして負担も高い)が、シャーリーさんは霊力とか使えないからな。

 文字通りお守りになる程度だろう。

 

 これも最初は気休めと思われたが、目の前でちょっとだけ使ってみせたら見る目が変わった。

 俺が握ったら何か光りだしたし、結界(シャーリーさんからは光の玉にしか見えなかったと思うが)が展開され、それに触ってみたら手が弾かれる。

 MH世界では、未知の存在にしか見えなかっただろう。

 討鬼伝世界でも、気軽に手に入るような物ではないな。

 

 極端な話、幽霊をこれでブン殴るだけでも効果がある。

 上手く使えば、幽霊を成仏させる事だって出来る優れものです。

 そこまでして、ようやくシャーリーさんは落ち着いてくれたようだ。

 しかし、大の大人がそこまで幽霊に怯えるとは…何かトラウマでもあったのかね。

 

 また来てくださいね、という(割と切実な)見送りの言葉を受けて、ユクモ村へ出発した。

 

 

 

HR月金がなくても妄想だけは尽きない日

 

 

 さて、今度はユクモ村である。

 到着し、再度挨拶回りして、既に2日目。

 

 初っ端からポッケ村があんな事になってたし、ここでも一悶着あるのはほぼ確実だ。  

 一番ありそうなのはジンオウガか、最悪イビルジョーかな。

 だが、外回り2回目で実績らしい実績を立てていない俺は、どちらにせよまだ挑める程の信用を得ていない。

 

 とりあえず、ポッケ村同様に交易と実績作りに精を出すとしよう。

 そういえば、ここの温泉…今はちゃんとした温泉じゃないんだっけ?

 いや温泉は温泉なんだけど、浸かっても効果が発揮され無いと言うか…あれ、温泉ドリンクの方が必要なんだっけ?

 

 まぁどっちでもいいや。

 この手の設備は、使えるようにしておくに限る。

 一度に使えるようになる訳じゃないだろうが、一丁やってみますかね。

 

 

 

 

 それはそれとして、ポッケ村からとある知らせが届いた。

 確かにティガレックスは仕留めて村の流通やら何やらは回復したものの、全てが終わった訳ではないらしい。

 しかし、あそこに居たティガレックスは確かに二体だけだった筈。

 あの『スタンド』を考慮に入れれば3体になるが、少なくとも三体以上が同時に行動していた様子は無かった。

 

 …で、一体何が問題なのかと言うとだな。

 まずは、何故ティガレックスが2頭居た事に気付いたのか、そこを思い出してもらいたい。

 最初にティガレックスを仕留めた後、俺はその巣穴から卵を持ち帰った。

 それは間違いなくティガレックスの卵であると判定され、そうであるからにはオスとメス、少なくとも一頭ずつが存在する事が推測された。

 そして、その後の調査ではそいつら以外のティガレックスの痕跡は全く見つからなかった。

 

 

 最初に仕留めたティガレックスと、『スタンド』の本体だったティガレックス。

 

 

 

 

 こいつら両方、オスでした。

 

 

 …何故?

 ホワイ?

 

 メスはどうした?

 あいつら以外には居なかったのは確定。

 ティガレックスは卵を抱えて移動できるほど器用じゃない。

 ならやっぱりあそこにティガレックスのメスが居た筈。

 でも過去から現在に至るまで、その痕跡は無い。

 

 

 せめて両方メスなら、どっかで交尾してそのままポッケ村のあたりに流れてきたって解釈もできるのに。

 …どうなってんの?

 ティガレックスとかトカゲって雌雄同体だったっけ?

 それとも背孕みでもしたっての?

 或いはやおい穴でもあったか?

 

 流石にねーよな、とは思いつつ、念のために背中とかのあたりに妙な穴とか器官が出来てないか確認してくれ、と手紙で返しておいた。

 

 

 

 …生命の神秘だとは思うが、こんな形で現れんでもよかろうに…。

 

 

 

 

 

HR月腹が減ってもエロ妄想だけは消えない日

 

 

 思い返せば、以前からMH世界で霊力を得た相手には、大抵苦戦している。

 十中八九後付外付けの力だというのに、どいつもこいつもヘタな鬼より強力な霊力を持ち、その使い方も妙に器用。

 自分から発生させる電撃の威力を上げるなんて序の口で、時間制限も無く姿を消すは、霊力を声に乗せて響かせるは、煽動型クルペッコに至っては本体はそう強くないのに、何匹ものモンスターを死兵に変えて操ってのけた。

 

 これ、GE世界の感応種、討鬼伝世界の鬼…両方見渡しても、これほど高レベルかつ破綻なく霊力を扱っている例は無かったように思う。

 繰り返すが、本来は持っていない筈の力なのに、だ。

 

 霊力の出力が高い事自体は、そう不思議ではない。

 霊力の大元は生命力だ。

 MH世界は、他2世界に比べると生命力というかバイタリティが狂ったように高くなっている。

 

 考えてみれば、それも当然なのかもしれない。

 アラガミ、鬼、共に非常に強力かつ驚異的な存在である事に異論は無いが、そのバックボーンが違う。

 あれらは死に瀕し、滅び行く世界で生きている生物だ。

 世界自体が徐々に死滅している。

 当然、世界に満ちている生命力だってどんどん低下しているだろう。

 GE世界については破壊と再生のサイクルなんだろうが、破壊の途中である事は間違いないし。

 

 それに対して、MH世界はどうだ。

 まだまだ広がる世界、恐らくは未だに進化を続けているモンスター達。

 滅びるどころか、むしろ生命の坩堝と言える。

 そんなMH世界で生きているモンスターが霊力に目覚めれば、そりゃアホみたいな出力が産まれるだろう。

 

 恐らくは、人間にも同じ事が言えると思うけども。

 

 

 だが、あの見事なまでの使い方だけは説明できない。

 まるで本能が使い方のマニュアルを持っているかのような見事な運用。

 

 何故?

 もしやとは思うが、やはりこの世界にも霊力はあったんだろうか。

 そうだとしても、何代も何代も使用されずに受け継がれていれば、徐々に退化する筈だ。

 

 

 

 

 そんな事を、ポッケ村の納品依頼をこなしつつ、つらつらと考えていた。

 正直な話、どんだけ考えても検証ができないんじゃ妄想以上にはならないよ。

 

 

 しかし、地域密着型ハンターも意外と楽しいもんだな。

 大型モンスターを狩る機会は少ないが、その分のんびり依頼をこなせる。

 ずっと続けば退屈も感じるだろうが、景色を眺めたり、その辺から食べられる物を採ってその場で食べたりするのも楽しいもんだ。

 さっきみたいな事をツラツラと考える余裕だってある。

 

 依頼をこなして、感謝されるのも悪くない。

 JUNの気持ちがちょっとだけ分かるような気がする。

 

 

 

 が、そこはそれ、やっぱり俺は大型を狩る方が性に合っているようだ。

 思えば単なる一般人だった俺が、随分遠くへ来たものだ。

 異世界だかゲームの世界だか知らんが、物理的に遠すぎるわ。

 

 

 

 

 

HR月寝てたら夢の中がエロ妄想になる日

 

 

 大物狩り…と言ってもハプルポッカだったけど…の最中、おかしなアイルーと出合った。

 

 最初に会ったのは、狩りに行く前にアイルーの集落に立ち寄った時。

 山菜爺さん(この爺さん、どの村に行っても何処かに居るんだが…本当に人間か? 本人は他人の空似と言っているが)にちょっと用事があったんで探しにいったんだが、そこでアイルーに話しかけられた。

 別に珍しくは無いわな、人間と喋れるアイルーは珍しくない。

 ちなみにアイルーが人の言葉を理解してない子でも、意思疎通できるハンターも結構居る。

 

 アイルーの集落にやってきたハンターが暴れだす事もあるんで、一匹のアイルーが警戒しながら近付いてきた。

 ただ人を探しに来ただけですぐに立ち去ると伝えると、ホッとした空気が流れたんだが…そこへもう一匹アイルーが。

 …なんか、頭に骨を被って、手には木切れ……兜と剣のつもり、か?

 

 これからどうするのか、と聞かれたんで素直にハプルポッカを狩ると伝えた。

 そこではそのまま引っ込んでいったんだ。

 

 

 …で、山菜爺さんを探して暫く歩き回り、用事を済ませていざ狩ろうとしたら…あのアイルーがハプルポッカに殴りかかっていた。

 やはり剣のつもりだったらしい木切れは既に折れている。

 多分、思いっきり殴りつけたんだろう。

 勿論、ダメージらしいダメージは無い。

 むしろ攻撃されているのに気付かないのか、欠伸までしていた。

 

 

 暫く見ていたんだが、風向きが変わった事が切っ掛けで、ハプルポッカが俺に気付いた。

 戦闘開始。

 

 

 

 戦い自体には、記録しておくべきところはあまり無い。

 強いて言うなら、ハプルポッカにエリアルスタイルはあまり意味がないって事くらいだ。

 あと、アイルーが逃げずにチョロチョロと動き回っていた。

 

 …本当に珍しい。

 野生のアイルーなら、大型モンスターとの諍いになりそうになったら、さっさと穴掘って逃げるというのに。

 

 

 

 討伐後、少しだけ話をしてみた。

 そうやら彼は、元オトモ…の訓練生だったらしい。

 

 オトモの訓練とやらが何処でされているのかはよく分からない(オトモになってから訓練しているのは見た事があるが)が、そこが不満で飛び出してきたのだとか。

 このアイルー、なんとオトモではなく、一端のハンターになりたいらしい。

 確かにハンターにとってオトモとなるアイルーは重要だ。

 時に敵の目を逸らし、時に露払いをし、時に回復笛などでサポートし…。

 

 しかし、それはどこまで行ってもオトモなのだ。

 狩りの主役がモンスターとハンターであるならば、オトモはその潤滑油。

 あの風変わりなアイルーは、潤滑油ではなく主役になりたいと思っているのだそうだ。

 

 だからその第一歩として、大型モンスターが近くに居ると聞いて、力試しだと意気込んでいたのだが…まぁ、結果は言うまでもない。

 アオアシラくらいならまだしも、大型はキツいだろう。

 

 

 全く相手にされなかった事で落ち込んでいたアイルーだったが、考え自体は興味深い。

 アイルーは人間に比べて非力だが、人間には無い利点もある。

 体が小さいから攻撃に当たりにくいし、地面に潜って隠れる事も瞬時に出来る。

 アイテムだって使えるし、武器も…まぁ、剥ぎ取りナイフくらいの大きさが限度になると思うが、使える。

 

 …そうか、剥ぎ取りナイフか。

 ハンターであれば簡単に手に入る一品だが、相手が動いていなければ大抵のモンスターに切れ込みを入れて素材を剥ぎ取れる一品だ。

 アイルーのサイズであれば、手頃な片手剣として使えないだろうか

 

 

 

 

 …おいおい、何を考えてるんだよ、俺。

 確かに面白いし、あのアイルーの実力はともかく、ハンターにも重要な準備の良さは認めるけどな。

 武器防具こそお粗末を通り越して粗製だったが、回復アイテムや、相手の目を誤魔化す為の煙玉、こやし玉に罠、果てはモドリ玉まで用意していたのには驚いた。

 普通のハンターでもそこまで準備する奴はそうそう居ない。

 

 だが、実力を省みずに大型モンスターに挑む時点で話にならない。

 武器防具が粗製だって事くらい自覚してただろうし、だったら最初は大型ではなくその辺の小型モンスターから始めるべきだろう。

 たとえ武器だけいい物を渡したって、調子に乗って無鉄砲に挑んで終わりだ。

 

 

 武器だけじゃなければ、どうだ?

 防具だって作れなくはない。

 極端な話、適当な鎧や兜を分解して、サイズ調節すれば…構造上、頑丈さとかは極端に落ちると思うが。

 

 

 戦う方法はどうやって教える?

 オトモとしてハンターに追随するならまだしも、一人で戦うのなら立ち回りが全く違ってくる。

 偏見と言われるかもしれないが、アイルーは度々サボろうとする生き物だ。

 ネコのサガと言っていいのかは疑問だが、とにかく体力よりも気力が保たない性質があるのだ。

 オトモの最中にまでサボって寝たりするのだから、よく分かるだろう。

 

 オトモであるなら、サボっている…気力を回復させている時はハンターが動けばいいが、一人だったらどうする?

 

 

 

 

 

 …考えすぎだ。

 頑張ってるなら応援してやりたいとは思うが、責任が持てない。

 

 

 

 もしも、どうなっても自分が挑んだ責任だと思えるなら…?

 いや、俺にどんなメリットがあるってんだ。

 

 

 

 

HR月エロ妄想エロ妄想…人として恥ずかしくないのか!日

 

 

 どうにも調子が出ないな。

 そろそろジンオウガが現れそうだと言うのに、今ひとつ狩りに身が入らない。

 

 あのアイルーの事が頭から離れない。

 

 

 

 

 

 実にいい毛並みだった。

 

 

 

 いや、正確に言うなら、いい毛並みだったろうに。

 人里から離れ、砂漠で暮らすようになってどれくらい経っているのか。

 恐らくは生まれつき持っていた、アイルーの中でも格別の毛並みが、すっかりパサパサになってしまっていた。

 

 うぬぬ、もしもオトモアイルーとしてしっかり毛並みを手入れしていれば、オトモにしたがるハンターには事欠かなかっただろうに。

 多少性格に問題があっても、それだけできっと愛されただろう。

 

 

 

 という訳で、あのアイルーを人里に戻したいと思います。

 俺の個人的メリットの為に。

 

 

 狩りやら採取やら色々している間にもあのアイルーの事ばっかり考えてたんで、すっかり構想が固まってしまった。

 さっきの毛並み云々も、事実ではあるけどかなりのコジツケだし。

 

 まぁ、メリットがあるのは本当だ。

 俺がスッキリするって以外にもね。

 

 

 龍暦院の訓練所では、スタイルや狩り技以外にも、色々な事に取り組んでいる。

 より効率のいい調合方法は無いか、採取における注意点におかしな所は無いか、その他諸々。

 確か、オトモアイルーに特訓方法等も研究していた筈だ。

 

 すぐに形になるとは限らないが、アイルーハンターという新しい形を提案してみるのもいいだろう。

 訓練所の研究にもキャパシティってものがあるので、あれもこれもと同時に研究する訳にはいかない。

 が、最初からある程度形になっているのならどうだ? 

 最も厄介な、立ち上げの部分が形になっているのであれば、後は応用して付け足していけばいい。

 

 …まぁ、アイルーの為の技術にどれ程真剣になってくれるか、という問題はあるけどな。

 少なくとも訓練所の教官は全力でやってくれるだろう。

 かなりの熱血系だし、無謀にもハプルポッカに挑んだ一匹のアイルーの話に、きっと食いついてくる。

 褒められないが、見上げた奴だってきっと言うだろう。

 

 

 

 …っと、そうそう、俺自身のメリットの話だ。

 

 先日の日記にも書いたが、アイルーハンターが単独でモンスターと戦うに当たり、最も問題となる点が気力、ひいては集中力の持続時間の短さだ。

 これを鍛える方法は幾つかあるが……俺はちょっと外道な手段を取る。

 

 

 

 霊力を教えるつもりだ。

 

 

 霊力の出力元は生命力であり、それを操るのは精神的な力。

 扱っていれば、自然と集中力も磨かれる。

 霊力を使えるようになれば、戦い方の引き出しも増え、回復力だって上がるだろう。

 

 

 

 

 そして、今までのモンスター達のような異能を得る事も。

 

 

 

 これは人体…ではないけど、人体実験だ。

 この世界のモンスター(アイルーを含めていいのか疑問ではあるが)が、霊力に目覚めた時、一体どのような変化があるのか。

 この先戦っていく上で、絶対に知っておかなければいけない事だ。

 今後も霊力を使うモンスターが増えていくなら、少しでも情報があるに越した事は無い。

 

 

 

 

 

 が、死んでも次がある俺の場合、今すぐに得なければいけない情報でもないんだよね。

 周囲の人間にとってどうなんだって話になると、また変わってくるが…。

 

 まぁ、あのアイルーには一種の実験だっていう事は伝えよう。

 んで、教えるだけ教えて、もうイヤニャって言われたらそこまでだ。

 やりたい事があって、その方法が全く分からなくて、そこへいけるかも知れないチャンスがあって、当然リスクもある。

 選ぶのは自分だ。

 

 

 …思いっきり詐欺や悪徳商法のやり口だが、最大限の誠意を持って接するとしようか。

 

 

 

 ま、そんな感じであのアイルーを訓練所に連れ帰れれば、人間と一緒に暮らしている内に毛並みもスッキリしてくるだろう。

 そうなればモフモフし放題だ。

 俺の弟子って事で連れまわしてもいいね。

 

 全てはあのアイルーが承諾するかどうかにかかっているが……そういや、まだ名前も聞いてなかったな。

 

 

 

 

HR月エロに限らず妄想は滅びぬ! 妄想こそが人類の夢だからだ!日

 

 あのアイルーを探して砂漠のアイルー集落に行ってみたが、残念ながら居なかった。

 何やら、「あれは大きすぎたニャ。もうちょっと小さいのに挑んでみるニャ」と言って、集落から出て行ってしまったらしい。

 

 むぅ、残念。

 同じ相手に何度も挑まず、力量を踏まえて相手をランクダウンさせた事は評価しよう。

 初志貫徹とは言うが、明らかにどうにもならない状況だったからな。

 

 

 しかし、何処に行ったか分からないのは残念だな。

 まぁ、縁があればまた会う事もあるだろう。

 人体実験せずに済んだ、とでも思っておくか。

 

 

 

 さて、今日の本来のクエストは、夜の渓流でナルガクルガだ。

 …依頼の順番ってどうなってたっけ?

 ナルガクルガってジンオウガより前だったか?

 うーん…どんなモンスターが何処をウロウロしているかで、依頼が出る順番が変わってくるのは当然だけど…。

 

 

 念の為、事前に高い木の上からあちこち見回してみたが、狩場に居る大型モンスターはナルガクルガの一体だけ。

 少しは慣れた所に大型が居るようだが、洞窟の中で眠っているようだ。

 流石に穴の中まで見通せないので種別は分からないが、この距離なら乱入は無い。

 

 さて、あのアイルーに対する対応も決まって、頭もスッキリした事だし。

 一狩りするとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 環境不安定でなくても乱入ってあるのね。

 少なくとも、第三者の手が関わっていれば。 

 

 

 

HR月ただ悪い方向への妄想も止まらないのが人間の業である日

 

 

 とりあえず、あのアホアイルーを捕まえておいた。

 オトモでもないアイルーにハンターの掟は通じないが、だからと言って放っておいては同じような事が何度も起こる可能性がある。

 人体実験の為にコイツを躾けようとしていたが、周囲の被害を抑える為にも色々教え込まなければならなくなってきた。

 

 

 何をやったかって?

 大体想像はつくだろうが、このアイルー…あの砂漠でハプルポッカに殴りかかっていたアイルーだが、集落から飛び出した後、よりにもよってジンオウガにケンカを売りやがったのだ。

 確かにハプルポッカよりゃ図体は小さいが、戦闘力的にはどうよ。

 

 …で、グースカ寝ているジンオウガを叩き起こして(無論ダメージは殆ど無し)怒りを買った挙句、俺とやりあっていたナルガクルガの元まで逃げてきたって訳だ。

 一応、アイルー的にはそれなりの考えと工夫があったらしい。

 

 アイルーの体(と粗製の武器)では、モンスターと戦うのに充分な威力が発揮できない。

 なら、もっと強い奴に攻撃してもらえばいい。

 具体的には他のモンスター、今回の場合はナルガクルガだ。

 

 その為にジンオウガを叩き起こし、一直線に俺達が居た場所まで逃げてきた。

 俺が居るのまでは計算外だったらしいが。

 

 

 が、どっちにしろ勝算が薄いのは言うまでもないだろう。

 モンスター同士の攻撃は、どういう理屈か通じにくい。

 増してや、ナルガクルガは基本的に雷攻撃に弱い。

 少なくともジンオウガが、アイルーの手で仕留められる程に弱る確立は非常に低いだろう。

 …爆弾使えば、もうちょっと目は出てくるかな。

 

 

 ともあれ、この調子であっちこっちを引っ掻き回されては、ハンター側にどんな被害が出るか分かったものではない。

 ハンター以外にも、一般人への被害も考えられる。

 真っ当なハンターであれば、その辺の事を防ぐルールを骨の髄まで叩き込まれ、意識しなくてもそのルールを護って行動するようになっている。

 分かりやすい例で言えば、ゲームで言うフィールドマップかな。

 一定の区域から外れないように狩りをするよう、叩き込まれているのだ。

 

 その辺も含めて、本格的にハンターとして叩き上げる必要がでてきたな…。

 

 

 

 という訳で、ギルド受付嬢に相談してみた。

 コノハとササユという双子っぽい二人の竜人族なんだが、普段から……いつぞやのループでも、「自殺なら他所でやれ」と言われた時以外はニッコニッコしていて、滅多にそれ以外の表情を作らない二人だ。

 あの時は殆ど接触が無かったなぁ…。

 手紙越しで依頼のやり取りをしてたくらいだったか。

 

 竜人族は数こそ少ないが、長寿でそれだけの知性を秘めた者が多いと言われている。

 この二人もそうなんだろうか?

 なんかロリっぽい気配がするが、それにしちゃ精神年齢が…おませさんってレベルじゃなさそうだし…。

 

 

 二人の素性はともかくとして、アイルーを仕込む事については大賛成を貰った。

 最近狩場付近をウロウロしては、大型モンスターにちょっかいを出そうとするアイルーとして知られていたらしい。

 ハプルポッカの時に会って数日程度しか経っていないのに、もうそんなに有名になってたのか。

 どんなバイタリティしてるんだ。

 根性だけならハンター以上じゃなかろうか。

 

 

 とにかく、ギルド嬢二人にもOKを貰ったんで、一筆紹介状(という名の厄払い状)を書いてもらった。

 面白そうだからどうなったか教えてね、というサラウンドの声と共に。

 これと俺の連名で龍暦院の訓練所に頼めば、そう悪い扱いは受けないと思う。

 

 

 そして当の本人ならぬ本ネコからも、「やってやるニャ!」と力強い返答を頂いた。

 …やる気があるのは結構なんだが、コイツを仕込むのは苦労しそうだなぁ…。

 

 さて、やる気充分の内に色々仕込んでおきたいが、それにしたって順番というものがあるだろう。

 座学ばっかりじゃやる気も削げるだろうし、肉体の鍛錬……いや、先に武器防具の扱いの習熟が先か?

 それを作るのにどれだけかかる?

 アイルー用の装備は珍しいものじゃないが、オトモではなくハンターとしての活動に耐えられるモノとなると、少々勝手が違ってくる。

 

 鍛冶屋のおっちゃんに聞いてみたところ、そう難しくは無いが今まで作った事のない作品になる為、設計図から書いて2~3日はかかりそう、との事だ。

 

 素材は充分あったんで、作成を依頼しておいた。

 完成するまで教える事、か…。

 

 

 

 …霊力を迂闊に教えて回るのは危険だしな。

 そうだな、今のうちに霊力の扱いを教えておこうか。

 どこまで習得できるかは分からないが、俺の故郷に伝わっていた独自のハンター鍛錬法とでも教えておけばいいだろう。

 勿論、それを仮にもモンスターのアイルーが試す事によって、どんな影響が現れるか分からない事も伝えておく。

 

 ま、これで一応、名実共に俺の弟子だ。

 龍暦院の訓練所に断られたとしても、俺個人の付き合いとして接する分には問題ないだろう。

 

 

 

 

 ん?

 

 アイルーが連れてきたジンオウガと、元の標的のナルガクルガ?

 そりゃ勿論、両方ともぶっ潰しましたが?

 

 以前まででは同時討伐は難しかっただろうけど、蝕鬼の触媒を取り込んでからというものパワーも上がってるからね。

 何かされる前に光玉やら何やらで先手を封じ、速攻をかければ、このレベルならまだ難しくはないんだわ。

 

 

 



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117話

書き溜めがあると安心するけど、ありすぎると何となく落ち着かない。
誰にも見られないから、妙な方向にどんどん突き進んでいくし…。
少しだけ更新ペース上げてみようか、と考える今日この頃です。
或いは一話の文字数を増やすか。

MHXはようやく上位クック先生装備が整いました。
わかっちゃいたけど、やっぱり上位は別世界だなぁ…。


 

 

HR月昼間にやると気分がいいもの日

 

 

 とりあえず、アイルーハンター用の装備ができるまではユクモ村に滞在する事になった。

 ジンオウガを倒した事で、村は急に忙しくなっている。

 以前もそうだったが、遠のいていた客足を引き戻す為、祭を行う事になったのだ。

 

 が、それは2週間くらい先になりそうだった。

 クエストを発行してから狩ったのならともかく、今回のは乱入してきたジンオウガを返り討ちにした形だからなー。

 このタイミングで客足が遠のいた原因が排除されるとは、誰も思っていなかったらしい。

 大慌てで祭の準備を始めている。

 

 で、どうせすぐに祭が開けないなら、もうちょっと凝った事をしてみないか、って話になって、開催が二週間後まで延びたそうな。

 何をするつもりなのかはわからんが、手伝える事があるなら手伝うぞ。

 次にいくココット村で、宣伝をしておくとしようかな。

 

 

 

 さて、アイルーの事だが…そうそう、まだ名前を書いてなかったな。

 その名もステキ、『ネコマ・サムネ』。

 専らネコマと呼ばれているそうな。

 

 ……ネコマ・サムネ?

 ネコマサムネ?

 ネコ・正宗…?

 

 うーん、あと一文字でホントにネコかお前、と言いたくなるようなトンデモキャラクターと同じ名前になったのに。

 しかし、ネコ・正宗ねぇ…。

 偶然かもしれないが、随分と和風なお名前ですこと。

 

 少し詳しく聞いてみたところ、両親が何処かから流れてきた旅のアイルーだったとか。

 まず間違いなくキースさんと同じ場所から…あれ、でもキースさんの名前は和風じゃないな。

 

 …まぁいいか。

 よし、ネコマとか微妙に呼びづらいんで、ハンターネームとして『正宗』という名前にしよう。

 ああ、勿論名前を変えろって訳じゃないからな。

 通り名みたいなもんだ。

 

 

 「格好いいけど、意味あるのかニャ?」と言われると言葉に詰まるが。

 

 まー、コイツがトンデモネコみたいな妙に達観したキャラになるにせよ、某奥州筆頭の伊達マー君みたいになるにせよ、それは当分先の話だ。

 まずは武器(剥ぎ取りナイフだが)の扱い方を教えるとしよう。

 ハンター秘伝の肉体操作術は……アイルーに出来るのかわからないし、そもそもヘタに洩らすとギルドナイトに暗殺されてしまうので、訓練所で許可貰ってからだな。

 

 …そういや、開拓地最前線では、剥ぎ取りナイフの異様な切れ味を存分に生かした秘儀が研究されていると聞くが…ま、それは次のループでだな。

 仮に今使えたとしても、サイズの問題がある。

 素直に片手剣用の狩り技教えた方がまだマシだ。

 

 

 

HR月真昼間から酒ッ!日

 

 

 正宗張り切ってるなー。

 俺達だって新しい武器手に入れたら使ってみたくなるが、コイツの場合はそれも一入だろう。

 ようやく夢のスタート地点に立ったんだから。

 

 ま、本人としては与えられたモノだってのが不満なようだが、最初の一歩は仕方ない。

 本職ハンターだってそうなんだ。

 試し斬り用の薪を幾つか与えて好きにさせておくと、半日くらいブンブン振り回していた。

 

 そろそろ体力が尽きて、テンションも下がってくる頃かな。

 好きなようにさせてたし、この辺で使い方を叩き込むか。

 …扱いを間違って怪我でもしてれば、危険性をもっと理解できたんだろうが…いや別にそれを期待してた訳じゃないよ? 

 斬り付けてスッポ抜けたりしないように、ちゃんと最低限の持ち方とかだけは教えたからね?

 

 まずは剣の振り方から教えて、防具が出来たら盾の扱い。

 …そういや、元オトモ訓練生って言ってたが、回復笛とかの扱いは出来るんだろうか?

 正宗のスペックを把握しておかないと。

 

 

 

 

 それはそれとして、ユクモ村の中では、祭の準備の為に大忙し。

 特に手伝える事が無い状況だとは言え、横でボケッと見ているのが申し訳なくなってくるくらいだ。

 そんな事を漏らしたら、竜人の村長さんに「あなたは此度のお祭の英雄ですのに」と少し笑われてしまった。

 まぁ、言ってる事は分かるけどね。

 何だかんだでジンオウガを倒した本人なんだし、言ってみりゃ来賓客みたいなものか。

 手伝わせるのも失礼だし、手伝うのも空気が読めてないかな?

 

 でもやる事ないのはヒマなんだ。

 いや、正宗に剣の使い方を教えたり、狩猟のルールを教え込んだりと、やる事自体はあるんだけどね。

 どうにも周りのペースと自分のペースが違うから、妙な疎外感が…。

 

 

 

HR月天気のいい日に窓を開けて昼寝ッ!日

 

 正宗用の防具が出来たんで試しに着せてみた。

 加工屋の親方達も初めて作った代物だったんで出来栄えを見に来ていたが、特に問題はないようだ。

 動き回っても何処かが壊れたり、或いはぶつかって行動を阻害する節も見られない。

 重さも硬さも丁度いい。

 

 いい仕事してますね。

 流石。

 

 

 

 

 正宗自身のスペックは…まぁ普通、かな?

 特にオトモ訓練も途中までしか受けていないらしいので、そう考えると身体能力は比較的高いのかもしれない。

 代わりにオツムはあまり出来が良くないようだが。

 言っちゃ何だが、相当なおバカさんでないと、アイルーが単独で大型モンスターを狩ろうなんて考えないだろうしな。

 ある意味、納得のいくオツムだ。

 

 ハンターのルール、ちゃんと覚えこませなきゃアカンのだよなぁ…。

 箇条書きで教えて、最低限の事だけ覚えたら、そこから何故そうなっているのかを解説して教えて…。

 先は長い。

 

 

 

 まぁそれはそれとして、正宗用の装備も整ったんで、次のココット村に行かなければならない。

 個人的には祭を楽しんでからにしたいんだが、外回りの残り期間がもうあまり残ってない。

 最初のポッケ村で結構時間を食ったからな。

 ココット村でも一騒動あるだろうし、早めに向かった方が良さそうだ。

 

 幸い、飛行船にはどういう訳だかアイルー用の席も用意されている。

 体をガッチリ固定できるようにシートベルトもある。

 

 …そんなのつける暇があったら風防付けろよ。

 

 

 名残惜しいが、出発の時間だ。

 英雄殿の出発って事で、見送りに来てくれた人が多数。

 また来ます。

 

 

 

 

 

 追記

 正宗は高所恐怖症になりかけたようだ。 

 

 

 

HR月えっちぃ画像みてゴニョゴニョ!日

 

 

 ココット村到着。

 …なんだが、無事到着と言えるかは微妙なトコロである。

 いや、飛行船が壊れたとか、そーいう事じゃないんだ。

 妙な嵐に巻き込まれて、正宗が落下しかけたが、命綱のお蔭で助かった。

 

 …で、あの嵐…一瞬だったが、雲の間に動いていた何かが見えたような…。

 

 

 

 と言うかユクモ村付近で、不自然な嵐で、ジンオウガが住処を追われて逃げてきたって事は…アレ、やっぱりアマツマガツチだろうか。

 だとしたら、撃墜されなかったのは運がよかった…。

 

 世界各地で起こっている、飛行船の墜落の原因はアレだろうか?

 しかしアマツマガツチはユクモ村近辺に居る。

 流石にあの場所に居ながら、遠く離れた場所の飛行船を撃墜する事はできないだろう。

 ユクモ村に移動してくる際に何個か打ち落としたとか、他にもアマツマガツチ…に限らず空飛ぶモンスターにやられたか。

 

 何れにしろ、飛行船で移動する時はもっと注意しないとな。

 アレがアマツマガツチかどうかはともかくとして、空飛ぶ危険なモンスターを僅かに目撃したのは事実。

 龍暦院にもハンターギルドにも報告を上げておこう。

 

 

 

 さて、それは置いといて、ココット村だが…相変わらず長閑だな。

 長閑なのはいいんだが、狂竜ウィルスがなぁ…。

 今は殆どそれらしい兆候は見られないんだが。

 

 …以前にここに来て、ゴア・マガラっぽいのを目撃した時、異様な危険を感じ取ったのを覚えている。

 あれは一体なんだったんだろうか。

 狂竜ウィルスそのものには、そんな危険は無いと思う。

 討伐した筈のモンスターを動かすとか、特殊な性癖を全開放するとか、そーいう危険も確かにあるが、前回ループ時の狂竜ウィルスに触れた時は、あんな寒気を感じなかった。

 一体ナニがあると言うのやら…。

 

 

 

 

HR月あっつい風呂入って風に吹かれる日

 

 今日も元気だ達人ビールが美味い。

 唐突でなんだが、達人ビールを作ったという元ハンターと遭遇した。

 とりあえず、美味い酒を造れる人は尊敬に値する。

 礼拝しておいた。

 

 

 が、随分退屈そうな人だ。

 まぁ、金儲けの為に活動していると言うのに、既に充分な金を持っている、なんて状況になれば、そりゃ退屈もするだろう。

 金を儲けても、その次の活動に繋がらなければ人は腐っていくものらしい。

 

 

 まーそれは置いといてだな。

 正宗がウロつきまくっている。

 「こんな遠い村まで来たのは初めてニャ」とか言ってたが、飛行船から落下仕掛けた恐怖を忘れようとしているんだろうか。

 

 だが、「あら、可愛いオトモね」と言われて、「オトモじゃなくてニャンターニャ! 証拠にクエストを受けてやるニャ!」とか言い出すのはいただけない。

 まだハンタールールもロクに頭に入ってないだろうに。

 ヘタにルールに抵触するような行為をすると、ギルドナイトに闇系されるぞ。

 アイルーが相手だからって、あいつら多分容赦しない。

 

 

 …ま、受けたクエストの内容は、クンチュウの討伐だから、そんなに危険は無いだろう。

 大型が乱入してくりゃ話は別だが、その場合は俺が出張るだけである。

 暫くは、ハンター気分を味わわせてやってもいいだろう。

 ある程度のところで、挫折なり失敗なりを経験させて心を圧し折らなければならないだろうが…。

 

 

 

 ところで、ニャンターってのはいいネーミングだな。

 本猫としては単に訛っただけなんだろうが、ハンターと猫の組み合わせが一発で分かる。

 正式採用しよっかな。

 

 

 

 

 

 さて、正宗がハンター改めニャンターの仕事に行ってきた訳だが…まぁ、上出来と言っていいだろう。

 まだまだ使い慣れていない剥ぎ取りナイフを振るい、クンチュウを上手いこと仕留めていた。

 流石に甲殻に刃を入れるのは難しいから、最初は蹴り飛ばし、起き上がれなくなった所にザクザクと。

 一撃で仕留められる程、筋力も腕もないから、最初は錯乱したかのように圧し掛かって突き刺しまくっていたものだ。

 ある種のホラー的光景だった。

 

 アレだな、「恐慌状態の新兵が既に息絶えた敵兵を何度も何度も刺突している様など感動すら覚える」って奴だ。

 恐怖方面でも心が動けば、感動ではあるんだよ。

 

 

 無駄な狩りをしなかったのもいい。

 ハンター名鑑で鬱陶しい雑魚ランキング1,2位を独占し続けるガレオスの群れに邪魔されたが、ムキになって追いかけるような事はせず、「必要以上には狩らないニャ。狩るのは食べる分ニャ。野生の掟ニャ」と言っていた。

 この辺は、ヘタなハンターよりも意識が高いかもしれない。

 怒りのバッテンは幻視したけども。

 少なくとも、俺達の場合は邪魔をされた怒りに任せて、斬るだけ斬って剥ぎ取りもせずに放置って事が多々あるもんな…。

 ニャンターになっても、そのままの意識でいるといい。 

 

 

 

 正宗をコッソリ見守りつつ、俺はついでにザザミを狩った。

 邪魔をさせるのも何だしな…。

 

 村からは、オトモをハンター扱いする変わり者って顔をされたが、そこはそれ、村長が元ハンターにして、村をハンターの故郷のような場所にしたいと宣言する竜人だ。

 人間以外がハンターになる事にも偏見は無く、むしろ頑張れと激励していた。

 もしもこの先、立派なハンター…ニャンターになって村長に認められたら、昔使っていた剣をやろう、と言われた。

 

 …俺も詳しく知ってる訳じゃないが、この村長ってハンターの始まりの人と言われてなかったっけ?

 当時はハンターも居なけりゃその受け入れ体勢もなく、モンスターからも人間からも敵視・迫害…とまでは言わないまでも、モンスターを倒すと大口を叩いている与太者扱いされていたのを、実績と行動で黙らせて、遂にはハンターギルド発祥の切っ掛けを作ったとか。

 

 正宗は「フーン、お古の剣なんて興味ニャいけど、くれるなら貰っとくニャ」とか言ってた。

 …実用性があるかは分からんけど、それすっごい名誉な事だと思うぞ。

 

 

 

 

HR月買い物ついでのサンポも中々日

 

 

 実用性があるか分からない、とかナマ言ってすまんかった。

 お古の剣とやらが借りている家の裏手に刺さっていると聞いて見に行ったが、ありゃ結構な業物だわ。

 流石に長年の風化で切れ味やらなにやらは落ちてしまっているので、使おうと思ったら鍛えなおす必要はあるだろう。

 

 …ただ、製法も手入れの仕方も失伝してしまったらしく、どうすりゃいいのか分からんけども。

 どこで聞いた話だったが、モノブロスの心臓には欠けた刃を修復する、トンデモ成分が含まれていたと聞いた事もあるが…。

 モノブロスハート自体が貴重すぎる一品だからな…。

 とてもじゃないが手が出せん。

 

 正宗にしてみれば、単に突き刺さっているだけのボロボロの剣としか見えなかったようだ。

 やれやれ、武具の価値の見分け方も教えなきゃな。

 「こんなの引っこ抜いてやるニャ」と言ってたが、どういう理屈か正宗はおろか、俺でも抜けなかった。

 …妙な力は感じない。

 霊的な力で封印されている訳でもなさそうだ。

 んじゃ何で抜けないんだろうな?

 

 

 

 地面を掘り返してやろうかと思ったけど辞めた。

 それはロマンじゃないだろう。

 

 

 仮に正宗がこの剣…ヒーローブレイドを使うようになったら?

 …大剣扱いだな。

 サイズ比率的に、ハンター用剥ぎ取りナイフが片手剣、ハンター用片手剣が大剣。

 

 飛び道具は…難しいだろうな。

 仮に使うとしたら弓か。

 ボウガンは機構上の問題でこれ以上の小型化は不可能だから、小さくして問題ない弓…まぁそれだけ威力は落ちるが…しか使えそうにない。

 最も、アイルー用に小型化した弓で、モンスターにどれだけのダメージを与えられるかは疑問だが。

 

 

 

 

 とりあえず、正宗の訓練は順調と言っていいだろう。

 最も重要な体力・スタミナは、元が野生だけあって下手なハンターよりも豊富なくらいだ。

 その分防御力が非常に脆いが。

 筋力も、まぁ剣を普通に振れるくらいはある。

 一番時間を割かなければいけない基礎トレの時間を、かなり短縮できそうだ。

 

 これ以上鍛えるとなると、ハンター秘伝の肉体操作術を併用しなければ難しいだろう…そもそもアイルーの体に適切な筋トレ方法とか分からんから、手探りでやるしかないんだけど。

 

 逆に問題なのが、アイルー特有の気力の少なさだ。

 霊力を教えて鍛えようとしたものの、最初は霊力を感じ取る為の瞑想とかから入らなきゃいかんからな…。

 正宗にしてみれば、退屈極まりないとしか感じないだろう。

 体を動かす方が性に合っているのはよく分かるが、これを覚えてもらわないと俺のメリットが…。

 

 

 そして、意外に順調なのが知識方面。

 オツムが残念な子ではあるのだが、興味がある事は割りと素直に覚えるタイプだった。

 ハンターのルールは徐々にしか覚えないが、モンスターの何処を狙えば効率的か、どんな動きをするのかは結構な勢いで吸収している。

 剣の使い方の訓練の休憩時間中に話すだけでも、充分間に合うくらいだ。

 まぁ、まだ小型から中型のモンスターの事しか教えてないが。

 

 

HR月ニコ動実況動画も時間を忘れる日

 

 正宗は今日は一日休日。

 俺は自分の狩りの時間だ。

 

 と言っても、外回りハンターとしての仕事は、ココット村ではあんまり無かったりする。

 外回りハンターの役割は、ハンターが少ない(←ココ重要)村や地区へのヘルプ・フォローだ。

 

 で、この村はハンター発祥の地で、その上ハンターの故郷のような所(になる予定)だ。

 だからそれなりにハンターが滞在してんだよね。

 話した事は無いが、よく酒場で高笑いを上げている二人のハンターも結構な実力者のようだ。

 …減るブラザーズと名乗っていたと思うが、一体何が減るのだろう…落ちる男のように、ハンターランクが減るのだろうか?

 

 だったら何故外回りの村に含まれているのかと言うと、単純に航路の問題だ。

 ポッケ村・ユクモ村と巡った後にベルナ村に帰ろうとすると、その途中にココット村があるから、ついでに行ってこいってだけである。

 

 ただ、俺としては狂竜ウィルスの事について調べておきたい思いもある。

 ゴア・マガラが本当に居るのかも定かではないが、何かがあるのは確かなのだ。

 

 

 

 

 

 

 今日の狩りでもまた、狂竜ウィルスに感染していたらしいフルフルと遭遇した。

 全身の血管が青紫色になってとってもグロテスク…。

 見れば一発で異常と分かる個体なんで、ギルドに報告すれば狂竜ウィルスの事はすぐに思い当たってくれるだろう。

 

 で、やっぱり俺の第六勘が盛大に警報を鳴らしている。

 一応、今回の狩りで原因の検討は…つくにはついた。

 仮説に仮説を重ねた段階で、だが。

 

 狂竜化したフルフルの攻撃を事故ってもらってしまったんだが、その時にちょっとウィルスを貰ってしまったようだ。

 ほんの少しで、実際は狂竜化するようなもんじゃない。

 雑菌同然のレベルだったろう。

 

 が、そのままフルフルを仕留めて数分後、急激に体調が悪化した。

 

 

 ベースキャンプで寝たら直ったが。

 睡眠パネェ。

 

 

 が、そのお蔭で仮説が立てられた。

 やはり、狂竜ウィルスは現在の俺の天敵のような代物になっているようだ。

 

 狂竜ウィルス(実際はリンプンだが)は、とりついた生物の正常な生命活動を狂わせる。

 平時なら平気なレベルであっても、傷ついて脈拍が乱れすぎたり、或いは内臓が正常に活動できなくなったら、その効果が発揮され始めるようだ。

 

 しかし、それを受けた前回の俺はほぼ平然としていた。

 ループ最後のシャガルマガラの狂竜ウィルスに感染した時は、アラガミ化しても振り切れない程の効果があったが…。

 少なくとも、先日のような嫌な予感は感じなかった。

 

 では、あの時と今の俺の違いはなんだ?

 狂竜ウィルスの効果を、体で実感していた事?

 それもあるだろう。

 

 だが、それ以上に…俺の今の体は、のっぺらミタマとハンターとゴッドイーターと蝕鬼の触媒の混ざり者って事だ。

 こうして並べてみると訳が分からんがな!

 

 前回の俺との最大の違い、それは蝕鬼の触媒だ。

 ゴッドイーターのアラガミ因子を蝕鬼の触媒が完全に包み込み、ようやく安定している今の体。

 それが、狂竜ウィルスによって再びバランスを崩されれば、安定していたアラガミ細胞が暴れだし…或いは触媒の方かもしれないが…再びアラガミ化、或いは鬼と化す。

 

 

 

 …虚海の奴、厄介な物作り出しやがって…虚海の分際で虚海の分際で虚海の分際で…結構頭に来たから3回言ったぞ。

 まぁそんな危険物を迂闊に取り込んだのは俺なんだが。

 

 

 しかし、それをどうにかする希望も見付けた。

 実にパネェ事に、崩れかけた俺の体のバランスは、ただ眠っただけで直ってしまったのだ。

 眠っただけと言っても、ハンター式熟睡法だけど。

 

 

 狂竜ウィルスを体から追い出した為か?

 いや、体のバランスが崩れる切っ掛けではあっても、それを追い出しただけで崩れたバランスが元通りになる事は無い。

 

 なら、一体何が体を安定させたのか?

 答えは単純。

 睡眠だ。

 

 ハンター式熟睡法だ。

 

 

 無茶な理屈かもしれないが、今となってはのっぺらミタマも、ゴッドイーターの因子も、蝕鬼の触媒も、俺の体の一部には違いない。

 そして、それらは一般の人間の器官……訂正、一般じゃないけどハンターの体の器官を模倣している。

 つまりは、強弱の差はあっても機能もほぼ同じって事だ。

 

 であれば、ハンター式肉体操作術で操れない道理は無い。

 偉大なり、ハンター式肉体操作術。

 創始者もこんな効果があるとは考えてなかっただろうけど。

 

 総括すると、こんな按配になるのかね?

 

 

①俺の細胞はのっぺらミタマの集まりで出来ている

②ハンター式訓練により、人間としては限界近く(G級の方々を見てると自信が無くなるが)まで鍛え上げられている。

③更にそこからゴッドイーターとして強化されている。

 のっぺらミタマは、アラガミ因子の性質なども模倣しているようだ。

④モノノフとして霊力を操れる。

⑤度重なるオカルト版真言立川流のエネルギー増幅により、霊力・生命力共にドーピングされている。

⑥アラガミ化が自由自在な事を考えると、種別的には人間よりもアラガミに近い?

⑦加えて、蝕鬼の触媒による力が、全身・全細胞を覆っていると考えられる。

⑧これら全てを、ハンター式肉体操作術によってコントロールが可能。

⑨バカ(特に下半身が)

 

 

 …人間の要素が殆ど無いと言うべきか、人間以外の要素を統括しているのが辛うじて人間部分と言うべきか。

 自分の事ながら盛りすぎだ。

 属性とかテンプレ突っ込めばいいってもんじゃないんだぞ、中学時代に好きだった小説的に考えて…うう、思い返すとなんであんなのにハマっていたのか…。

 

 …俺が厨二病だからだね、疑う余地もないね。

 

 

 ついでに言うと、蝕鬼の触媒は、何でかんでも浸食して取り込んでしまう性質を持っている。

 多分、狂竜ウィルスを浸食して取り込もうとしたんだろうな。

 つまり自分から毒を喰らったのと同じだ。

 

 が、それをコントロールが出来るんなら…取り込んで安定させる事で、更なるパワーアップが可能?

 でも狂竜ウィルスなんぞ取り込んで、パワーアップするのかな…毒にしかならない気がするなぁ。 

 

 

 

 

 



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118話

刀剣乱舞って芝村 裕吏が関わってたのか…。
かつてガンパレにメッチャ嵌った身としては興味はあるな。
でも男だしなぁ…。
やるなら(外伝を書くなら)艦コレの方でしょ。
Fateは原作からして手を出してないし…。


 

 

HR月寒くて運動する気にならない日

 

 半日ほど寝込んで様子を見ていたが、体は快調。

 狂竜ウィルスの後遺症も特に無し。

 

 うむ、オッケー。

 

 しかし、今回の件で思いついたんだが、蝕鬼の触媒は何でも取り込んでしまうんだよな。

 アラガミ細胞にもそんな節はあったが…これ、コントロールできれば、色々な物を取り込めるんじゃなかろうか。

 ヘタなモノ取り込んでも、体の中に異物が出来るのがオチだとは思うが。

 

 それに、これ以上自分から人間止めるのもな…。

 そもそも単純に『食う』ならともかく、『取り込む』というのはどうにもイメージがつかない。

 手羽先食ったからって羽が生えるイメージは沸かないよ。

 

 

 さて、それは置いといて、ココット村での外回りの最低限の目的は果たしたと言える。

 つまり、ゴア・マガラ出現の警告とその根拠だ。

 先日のフルフルが切っ掛けになって、ギルドも古龍研究所も重い腰を上げたようだ。

 こういう場合、おエライさんは自分のメンツやら何やらの為に訴えを退けるというのがパターンだろうが、モンスターの脅威に日々晒されている世界だ。

 そんな連中ばっかりだったら、とっくの昔に滅ぼされているだろう。

 

 ハンターの中には、強敵との戦いに生き甲斐を感じる者だって居る。

 そんな命知らずな連中が、これからココット村付近に集まり、ゴア・マガラを狩ろうとするだろう。

 

 是非ともそっちで狩ってくれ。

 俺も興味は無いでは無いが、自分の手でやる事に拘る理由は無い。

 

 

 …あの時、パピとナターシャを狙ったシャガルマガラが相手なら話は別だが。

 

 

 

 ま、それは置いといてだ。

 すっかり忘れていたが、MH4には確かお守りというのがあったな。

 所謂、護石。

 

 ココット村では最近この護石が開発され、徐々に世間に浸透しつつあるそうな。

 初めて聞いたな…。

 まぁ、ゲームの時系列的に考えて、まだ護石が知られてなかったとしてもあまりおかしくは無いが。

 

 いずれにせよ、これを見逃す手は無いだろう。

 MH4名物、護石探索マラソンの始まりである。

 火山にレッツラゴゥ。

 

 勿論、正宗も連れて来た。

 俺と違って正宗には、対暑スキルのついた装備が無いから、クーラードリンクとコンガリ肉(クーラーミートはあまり美味しくない)をありったけ持ち込んでカンカンカンカン…。

 ココット村にやってきたハンターなら一度はやる苦行らしく、何人かハンターらしき人(フンドシ姿でやってる人も居たが、火の粉が飛んで火傷しまくっていた)も居る。

 

 まぁ、どう考えたって楽しい作業じゃないよな。

 暑苦しいは面倒くさいは腹は減るは、たまに大型モンスターが出てくるし。

 暇潰しも兼ねて狩ってるけども。

 

 あとピッケルが尽きたらその辺を漁って調合したり、それでも無くなったり手荷物が一杯になったりしたら、疲れた体を引き摺ってベースキャンプまで戻らなけりゃならん。

 イーオスとガブラスくたばれ。

 モドリ玉?

 ちょっとでも手持ちをあけておく為に、持って来てないって人も多いんだ。

 使った方が明らかに効率よくても、何故か使おうとしない人も居る。

 ちなみに俺も昔はそのタイプだった。

 

 

 ともあれ、お守り採掘は初めてなんで、俺もどんなお守りがイイモノなのか、勝手が分からん。

 見付けたモノを片っ端から採っていくしかないか。

 

 

 言うまでも無いが、正宗は早々に飽きてダレてヘバッていた。

 あとクーラードリンクを飲みすぎた為か、頭痛がして腰痛までしてきたとか。

 体を冷やすのは良くないな。

 もっと体を動かして温まりなさい。

 火山だから、動かなくても熱くなるが。

 

 腰痛の話はともかくとして、ハンター、ひいてはニャンターやるなら避けて通れない道だぞマジで。

 こんなモン、動きもしない鉱脈が相手なんだからまだ軽いほうだ。

 ハンターの中にはレア素材を求めて、見つける事すら困難な筈の古龍をダース単位で、しかも数日で狩る猛者までいるからな。

 

 素材集めのマラソンは、ハンターとは切っても切れない関係にある。

 これを(形はどうあれ)楽しめないようなら、ハンターやってられんぜ。

 

 ま、こんな事でもやってりゃ体は鍛えられるし、精神力だって無我の境地に至る事だってあるさ…体鍛えてもゲームのステータスには反映されんがね。

 疲れたのも分かった、飽きたのだってよく分かる、腹が減ってるのは俺の方だ、つまらないのは誰だって同じ……いや、この世界には採掘や採取に狩り以上の喜びを感じる奴だって居るけどさ。

 

 それでも真面目にやりな。

 これもニャンターの修行で、仕事だよ。

 夢を叶える為にする事が楽しい事だけなんて思ってないよな?

 1回の狩りの為に、100段階の準備をすると思え。

 

 

 これは遊びでもゲームでも英雄譚でもない、現実に横たわる狩りなんだ。

 

 

 特に、ニャンターは手探りの領域から始める事だ。

 正宗だけじゃない、お前に続くニャンターのあり方にだって影響を与えるんだよ。

 

 それが気に入らないってんなら、退屈な作業を面白くする方法でも見つけるこったな。

 

 夢と言えば聞こえがいいが、現実になってしまえば何時だって苦痛になるもんだ。

 現実はいつだってつまらない。

 なら俺達には、その現実に対して3つの選択肢がある。

 

 つまらない現実に慣れるか。

 つまらない現実から逃げるか。

 つまらない現実を、変えてしまうかだ。

 

 だったら、そう、俺達には、選択の余地なんて無いと思わないか?

 

 

 ……もう誰から聞いたのかも思い出せない、受け売りだけどな。

 

 

 

HR月寒くて布団から出る気にならない日

 

 

 どうにも説教臭くなってしまった。

 なんか調子狂うな…エシャロットを鍛えてた時は、もっとヒャッハーしてたと思うんだが。

 

 ま、正宗に言った事に間違いはないけどな。

 準備と素材集めに真剣になれないハンターにゃ大成なんぞ無理だわ。

 これでもう辞めた、と言い出すなら好きにすればいい。

 霊力を覚えたらどうなるかって実験はできなくなるが、そこまで切羽詰った問題でもない。

 

 

 暫く正宗は悩んでいたようだったが、今は開き直ったのかヤケになったのか、ガンガンとピッケルを振るっている。

 やっぱ人間と比べると、サイズと膂力の問題で採掘は遅いが…そこは考え方を変えたらしい。

 自分で作ったピッケルで掘り出した、自分の護石。

 完全に自分で自作した、最初の装備なのだ。

 そりゃ確かに思い入れも一入だし、テンションも上がるだろう。

 ことに護石は、モノによっては神棚に納めて崇めても違和感が無いレベルのモノもあるらしいし。

 

 ちなみに俺の採掘の成果は…まぁ、下位だとこんなもんだよな。

 しかし考えてみれば、護石を一つしか身につけられないという制限も無い訳で。

 

 …更に言うなら、俺の体であれば、蝕鬼の特性なりアラガミの性質なりを活かして、体内に取り込んでしまう事もできるかもしれない。

 でもなー、あんまり取り込みすぎてもな…。

 確か、ゲームのモンハンでは、発動できるスキルの数の上限が決まっていたような気がする。

 うろ覚えの記憶だから間違っているかもしれないが、もしも記憶の通りだとしたら、ヘタにお守りを取り込むと厄介な事になるかもしれない。

 完全戦闘用装備で行きたいのに、余計なスキル…採取とか、剣士装備なのにガンナー用スキルとかが固定で入ってたりしたら、必要なスキルが発動しないかもしれない。

 

 …そう考えると、のっぺらミタマのスキルも考え物だな。

 今のところ、どんな状況でも付けてて損は無いスキルばっかり覚えてるが…そう考えると意外と優秀?

 でものっぺらはなぁ…見ていて鬱陶しいしなぁ…。

 

 

 まぁ、妙な物を取り込むのは無しにしておこう。

 やってやれない事は無いと思うが、それが切っ掛けで本格的に体内バランスが崩れたら、ハンター式肉体操作術でも制御できなくなるかもしれない。

 

 

 さて、時間的に考えて、お守りを採掘できるのは明日の夕方まで。

 外回りの期間が終了になってしまうので、ベルナ村へ帰らなければならない。

 

 …JUNが妙な化学変化起こしてなければいいんだがな…。

 

 ちょっと戦慄する一方で、正宗は張り切りだした。

 これからニャンターとして本格的に鍛えていくからか?

 それとも終わりの見えない採取作業から解放されるからか?

 まぁ、どっちでもいい。

 採取作業は、ここ程じゃないがベルナ村にだってあるからな。

 

 

 ココット村でのイザコザは、ここのハンターさん達に任せておけばいいだろう。

 …こっちで霊力関係っぽいのが湧いてきたら、俺も何とかして来てみるつもりではあるが…ヘタなモンスターがちょっと霊力を得ただけじゃ、この村のメンバーがチームになって動けば何とかなるような気もする。

 ま、大規模災害が起こらないのを祈るのみである。

 

 

 

HR月寒くてコタツから出られない日

 

 

 予定通り夕方まで採掘して、飛行船に乗って出発。

 減るブラザーズの二人から、試しに飛行船に乗らせてくれと言われたが、残念ながら無理だ。

 龍暦院保持の飛行船だから、その辺の権限は俺には無い。

 そもそも人間席は一人用なので、操縦方法を知ってる人しか乗れない。

 

 …ただ、確かに誰か人を連れて行かなければいけない事もあるかもしれない。

 後部座席を用意できないか、龍暦院に掛け合ってみる事は約束した。

 

 おう、期待してるぜ、の後に二人揃って高笑い。

 一方的に断るだけじゃ、人間関係的に悪化を招きそうだからな……今までの経験からして、この判断が正しいのかは不明だが。

 

 あと、俺の狩りのスタイルについてちょっと突っ込んで聞かれた。

 確かに珍しいやり方だもんな。

 龍暦院訓練所だって、まだ未完成だからって他所に流すような事はしてないし。

 

 興味を持ったらしく、自分達も龍暦院に所属してみるか?と相談していた。

 

 

 

 さて、そんな一幕を経て、帰ってきました帰ってきてしまいましたベルナ村。

 JUNがお出迎えしてくれました。

 …熱は冷めていないようだ参ったね。

 

 とりあえず正宗を紹介して矛先を逸らそう。

 

 …カワイイ!とか飛びつくかなーと思っていたんだが、考えてみりゃハンターにとっては、アイルーは一番見慣れたモンスターだからな。

 JUNだってオトモは一匹居るみたいだし。 

 

 

 龍暦院に報告に行く時にJUNと近況報告しあったのだが、JUNは相変わらず村人からの依頼をメインにこなしているらしい。

 先日はドスジャギィやジャギィノスを狩ったんで、そろそろ大型に挑んでみるつもりのようだ。

 

 が、戦い方の欠点は相変わらず。

 サポート特化で鍛えてきた為、一人で敵を倒すとなると、途端に苦戦するようになってしまうらしい。

 その為にオトモを一匹雇ったんだが、言っちゃ何だがアイルーを援護してもどれだけ戦力になるのかって話だ。

 

 

 だから俺にヘルプ、ひいては一人で戦えるようになる為の相談をしようと思っていたらしいのだが……ここで名乗りを上げたのが正宗だ。

 

 ニャンターとして訓練を受けて、JUN達と組む、と。

 で、ニャンターである自分が戦闘メイン、JUNとオトモはサポート役になる。

 

 ニャンターと言われてJUNは戸惑ったようだった。

 まぁ、俺が知る限り初の試みだもんな。

 ニャンターとして訓練したとしても、実際どれだけ戦えるようになるか、検討も付かない。

 人間のハンターと同じレベルの攻撃力…は難しいが、狩猟笛での強化があればどうか?

 試してみる価値はあるだろう。

 

 

 

 …まぁ、正宗の訓練はこれからで、しかも手探りなんだから、それが形になるまでは今のままでやるしかないって事なんだけどな。

 

 JUNの性癖とか慕情とかは置いといて、同じハンターとして相談には乗る。

 とにもかくにも、一度狩りに同行して問題点を洗い出さなければなるまい。

 それは明日以降になるな…宮仕えの身としては、まず報告に行かなきゃならんから。

 

 

 

 

 

 報告終了。

 特にポッケ村での騒動について、根堀り葉堀り聞き出されました。

 勿論、半信半疑な状態で。

 半分でも信じてくれてたなら上出来か。

 普通なら、モンスターに頭をド突かれて現実と妄想の区別がつかなくなったんじゃないかと言われて終わりだ。

 

 さもなきゃ、狂竜ウィルスみたいな謎のガスが発生して、集団幻覚とかかな…。

 

 

 ココット村については、まぁそこそこ…。

 長老さんは、未だにハンターギルドにはそれなりに影響力を保っているらしい。

 本人はイヤがっている素振りがあるらしいが。

 それがゴア・マガラ出現の可能性ありと伝えれば、ギルドだってそれなりのスピードで動く。

 

 

 ユクモ村?

 あの村では、特に報告するような事は……まぁ去り際に嵐を操るっぽい何かの片鱗を見たが、その程度の情報じゃなぁ…

 最近の飛行船撃墜現象の原因かもしれないとは伝えておいたんで、不自然な嵐には警戒すると思うが。

 

 正宗を連れて来たのは一言伝えておいたが、龍暦院的にはハンターがオトモを雇ったのと同じ認識だ。

 問題もなければ重要視する事でもなかった。

 

 

 

 

 続いて今度は訓練所へ、正宗の紹介を…と思ったら、その前にストップがかかった。

 ポッケ村の受付嬢から手紙が届いている、と言われた。

 

 受付嬢って、G級の?

 シャーリーさん?

 手が早いなって言われても…別に特にそれっぽい雰囲気は無かったと思うが。

 

 とりあえず手紙は帰ってから読もう。

 

 

 

 続いて、正宗を訓練所に紹介した。

 

 流石に最初は「正気か?」「本当にアイルーに勤まるのか?」という視線を受けたが、オトモにだってリオレウスの尻尾を叩き斬ってしまうような規格外は存在する。

 流石に前もってダメージを与えておくのが前提だが、それこそハンターでなくても時間をかければ出来る話だ。

 

 つまり効率こそ劣るかもしれないが、アイルーにハンターが務まらない理由にはならない。

 …その劣った効率が致命的なものにならない限りは。

 

 

 

 何れにせよ、ハンターとしての技術の研究意欲が旺盛な訓練所は、若干揉めたものの正宗を訓練生として扱う事を決めたようだ。

 これでハンター式肉体操作術も伝授できる…アイルーの身で再現できるかは分からないが。

 ここからが訓練の本番だ。

 

 

 俺が直々に鍛える事も考えたんだが、やっぱり訓練所で本格的にやるのがいいだろう。

 肉体操作術だって、俺も教えられない事はないが、それは人間相手に限っての事。

 アイルーの体でやろうとするとどんな差異があるのか、観察・研究する事は難しい。

 それこそ、モンスターの体に詳しい龍暦院の専門家にでも協力を頼んだ方がいいだろう。

 

 

 さて、そうと決まれば、正宗は訓練生用の宿舎(テントだけど)に寝泊りする事になる。

 俺と一緒だと、名実共にオトモ扱いされるのがオチだしな。

 不安かもしれないが、がんばれ。

 あとアイルーだからって舐めてかかるような奴には、教え込んだスキルで死なない程度に暗殺しておくように。

 

 

 「暗殺なんてしないニャ! 正々堂々、背後から爆弾ニャ!」……自爆テロする気じゃねーか、もっとタチが悪いよ、だが構わんやれ。

 まぁ、野良アイルーだってヘタなちょっかい出すと爆弾持ち出してくるしな。

 正宗を侮るような連中には、いい薬にはなるか。

 

 訓練所の教官もこっそり苦笑いしていた。

 この分なら、2~3回程度の爆破は勘弁してくれそうだ。

 

 

 

HR月寒くて湯たんぽを手放せない日

 

 シャーリーさんからの手紙を読んだんだが…なんだ?

 色っぽい話じゃあなかったな。

 幽霊に対するお守りに持たせた、結界石の使い方をもっと教えてほしい、と書いてあった。

 

 別に教えるの自体は構わんが…アレ、霊力の素養があんまりなくても使えるっちゃ使えるし。

 ただ素人考えで手を出すとマジでヤバい事になる可能性がある。

 妙な形で結界が展開されて、※いしのなかにいる とか、結界が収縮されて押し潰されたりとか、鋭い形で展開された結界に串刺しとか…危険な可能性は幾らでも考えられる。

 

 しかし、文面からは妙に切羽詰っていると言うか思いつめている雰囲気が漂っているし…単に幽霊を怖がってるだけじゃなさそうだ。

 だからと言って、幽霊モンスターが出てくるようになった訳でもないようだし…。

 何事だ一体。

 

 

 気にはなるが、帰ってきてそうそうに再度外回りに行く訳にはいかない。

 燃料とかハンターのノルマとかの問題もあるし、何より今回は短時間とは言え嵐の中を強引に突っ切ったからな。

 飛行船のメンテが必須なんだ。

 勿論、その為の素材だって集めなければいけない。

 

 ついでに言うなら、有事の際に操舵手以外の人を乗せるための改造やら手続きやらとか、双眼鏡や望遠鏡を据え付けるとか命綱をもっと頑丈にするとか、何よりも防風をつけるとか、色々意見を出したからな。

 全部が実現される訳じゃないが、試しにやってみようって話になったのも幾つかある。

 

 

 更にはJUNの相談にも乗らなければいけない。

 ぬぅ、なんか忙しいな。

 

 申し訳ないが、シャーリーさんは手紙で適当に誤魔化すとしよう。

 とりあえず、念仏でも教えっかなぁ…。

 単独ではあまり意味が無いけど、今後霊力の扱いを覚え(られたとして)た時に『特別な呪文』と認識して唱えれば、自己暗示も合間って術の行使に役立つかもしれない。

 

 とりあえず祝詞を教えておこう。

 …MH世界の文字と文法で、あの祝詞を書くのってスゲェ面倒くさいんだが…。

 

 切羽詰っている印象もある事だし、一体どうして結界子の扱い方を知りたいのか、突っ込んだところを聞いてみようか。

 貴重品を渡している形になっているんだし、聞くだけならそんなに無礼でもないだろ。

 

 

 ともあれ、今日明日のプライベート時間は、祝詞を書く作業で潰れそうだ。

 

 

 

HR月寒くてもビールは冷えたものに限る日

 

 

 頭痛が痛い。

 翻訳作業なんて慣れない事するもんじゃねーな。

 そもそも正確に翻訳できたとしても討鬼伝世界で伝えられている神仏英霊と、この世界の神仏は別物だ。

 祝詞を唱えて、力を借りる事ができるのかね?

 まぁ、俺はどの世界に居ても出来るようになってるけども。

 

 今日の狩りは、JUNの様子見と飛行船用の素材を求めてフルフル。

 怒り状態と咆哮にさえ気をつければ、そう難しい相手じゃない。

 咆哮は狩猟笛の旋律で無効化できるんで、後はJUNがどう立ち回るかだな。

 

 張り切っているけど、どうなる事やら…。

 あまりいい調子でなくて、普段通りの調子で狩りやってくれないと問題点が洗い出せないんだがなぁ。

 それを言ってやる気に水を刺すのもなんだから黙ってたが。

 

 

 

 

 

 

 狩りが終わった。

 ん~、狩猟笛はあんまり使わないんで、専門的なアドバイスは出来ないが…なんというか、準備をし過ぎな感じがあるな。

 強化を全部かけた状態を維持したがっている。

 それも間違いじゃないんだが、強化を途切れさせない為か、敵の動きが止まって攻め込むチャンスでも強化を優先し、結果としてチャンスを逆に逃してしまっている。

 強化は一度かければ2~3分くらいは続くんだから、時間が余っている間に強化をかけ直してもあまり意味は無いぞ。

 

 

 …ナルホド、ここら辺がJUNの欠点なんだな。

 大型との戦いに慣れていない、一人での戦いが苦手、経験が少ない事による焦りやプレッシャーが合間って、実際以上に体感時間が長く(或いは短く)感じてしまい、強化が始まってどれくらい経ったかが把握できてないんだ。

 他にも色々と立ち回りで治していくべき点はあるが、まず第一はここだろう。

 

 うーむ、どうやって治していくかな。

 場数を踏めば、相手が何度怒ったかとか、何度怯んだかとかで、何となくわかってくるようになるんだが。

 GE世界なんかだと、○○秒後に敵が侵入してきます、なんて情報もあるから、尚更体感時間は重要だった。

 強敵が相手だと、それも狂ってくる事もあるが…。

 

 タイマー…の類は無いな。

 アラームで知らせてくれるような奴は尚更無い。

 ふくろの中にある、GE世界から持ち込んだブツならあるかもしれないが、明らかにオーパーツだ。

 

 懐中時計…くらいならあるけど、狩りの最中にそんなモン見てるヒマがあったら、それこそその場で強化を掛け直したマシってもんだ。

 

 

 

 …強化、強化…か。

 つまるところ、特殊な旋律でハンターの体に変化を起こしている訳だ。

 分かりやすい例で言えば、興奮によってアドレナリンを分泌させたり、筋力のリミッターを多少なりとも緩和させたり。

 それだけでは説明できない効果も多々あるが、それについてはノーコメントだ。

 どうしても知りたければ、世界の謎追いかけ隊にでも入ってくれ。

 

 ともかく、自分の体に何らかの変異を起こしているのだから、体感でそれを感じ取れない筈が無い。

 足が速くなるにせよ攻撃力が上がるにせよ、普段よりも力を篭めたり、呼吸が楽になったりなど、体に何らかの変化は起こるのだ。

 それが切れる時は……なんと言うか、体から徐々に力が引いていくような感触ががある。

 これは俺が狩猟笛を実際に試してみた時の経験談だが、体内の変化が終わる予兆は、確かにあるのだ。

 …正直、あまり好きな感覚ではない。

 漲っていた力が抜けていく、妙な脱力感や虚脱感があるからな。

 

 …これを、JUNは感知できていないようだ。

 目の前のモンスターに神経を集中してしまう為か、体の内部で起こっている変化まで感じ取れない。

 そういえば、スタミナ配分も苦手だったな。

 

 体内の力、熱、その他諸々が昂ぶりを超えて徐々に退いていく感覚。

 これを体に覚えこませれば、このタイミングで強化のかけ直しをする、という合図にならないだろうか?

 何しろ感覚的なものなので、覚えこませるには時間がかかるし、何よりも狩猟の最中に一片とはいえ意識を自分の中に向けておかねばならないのだから、困難を極めるだろう…が、身につけてしまえば、下位からG級に至るまで有効活用できる技術になるだろう。

 

 となると、まずは感覚を覚えさせる為、只管に強化・時間切れを繰り返させるか。

 ハンターとしての活動が抑えられてしまうが、こればっかりは仕方ない。

 村の皆には不便をかけるが、JUNが更なるステップアップをする為と言えば承諾してくれるだろう。

 

 後は、この方法がどれくらい有効で、どれくらい時間がかかるか…だ。

 

 

 

 

 

 

 



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119話

ハンター稼業が上手く行かずになんだかイライラしているので、衝動的に投稿します。
衝動的な投稿なんで、感想帰しはまた後日の予定です。


何をやっても裏目に出る事ってあるよね…いや今回はリアルじゃなくてMHXの話ですが。
時守のプレイヤースキルが低いって事もありますが、それにしたって酷すぎる…。
狩り技や無双斬りを出せば咆哮や空中に飛んでスカる、ブシドーで避けて踏み込んだら攻撃の続きに当たる、避けたと思ったら段差にひっかかってサマソ直撃、ブレスを走って避けたと思ったら3連続ブレスで3発目が直撃、ガルルガに罠を張ったら直前で怒って無効化され、ゲーム再開したらアイテムの補充を忘れて回復薬が殆ど無し、1回のクエスト中にイビルジョーに3連続乱入された挙句、捕獲の為に仕掛けた罠にイビルジョーが嵌る。
ちなみにこれ、全てが約1時間の間の出来事です。

と言うかイビルジョーの乱入率高すぎだっての!
狩猟環境不安定とか言いつつ、毎回入ってくるのアイツやないかい。

かなり強引にハンターランク上げてきたから、その報いと言われればそれまでなんですが。
ランク6でまだクックS装備。

それにしても誤字修正機能ですか、便利な物が出来ましたなぁ…。
確認したらその場で修正しないと、指摘が記録に残らないのが危険かな。
「後で直そう」と思ったら、記録が無くてどこの指摘だったか分からなくなってしまった。


 

HR月上位クエストでも通じる装備作るお!日

 

 

 JUNには訓練方法を伝え、信じて試すかは本人次第と伝えておいた。

 やる気は充分なようなのだが、やはりその為にハンター稼業…というより村の便利屋の仕事を休むのは躊躇われるらしい。

 どーしてそこまで村に尽くすのかよく分からんが…まぁやるってんなら止めない。

 どっちかの道を選ぶのも、選ばずに両方を取ると主張するのも、本人の勝手だ。

 決断できなかったと評するのも、それを見た者の勝手だけどな。

 

 

 まぁ、相談には乗ったし、今後も出来る範囲で助けてやっから好きにやるといい。

 ハンターってそういうもんだ。

 

 

 さて、それは置いといて、今後の俺の事だ。

 また外回りの準備の為、飛行船用素材やら何やらを集めに行くんだが、それだけじゃつまらない。

 同じ素材を集めるのでも、何か発見や進展が欲しいよな。

 特に今回得られた狩り技やスタイルに関しては、訓練所でさえまだまだ研究中なのだ。

 発展の余地は十二分にある。

 

 

 という訳で、ライダースタイル改めエリアルスタイルを研究してみようと思う。

 何故エリアルかって?

 エリアルスタイルに関しては、他のスタイルよりも俺の発言力が大きいんだよ。

 「こうしてはどうか」という提案が採用され、大きく乗り攻撃に関して進展があったからな。

 それだけ実績があるって事だ。

 

 

 さて、どうやって発展させるかだが…エリアル、エリアルねぇ…。

 

 

 

 エリアルと言えばエリアルレイヴだろう、ゲーム脳的に考えて。

 

 細かい定義は放置するが、要するに空中での連続攻撃だ。

 特に、所謂カチ上げ攻撃の後、吹っ飛んだ敵を追いかけるようにジャンプしての追撃。

 大抵は弱攻撃から中攻撃、大攻撃へと派生し、トドメに投げやら必殺技やらで地面ないし画面端に叩き付ける事で終了する。

 

 これを応用すると…敵の体を駆け上がりつつ、同時に幾つかの攻撃を出し、更に相手がダウンしたなら溜め攻撃なり気刃回転切りなりでシメ?

 

 

 

 だが、これをモンスター相手に実行するのは難しいだろう。

 まず第一に、デカブツ相手にしてカチ上げ攻撃とか無理だ。

 

 仮に…そうだな、例えばモンスターのアゴとか首に大剣切り上げとかハンマーカチアゲを叩き込んで、仰け反るような状態にしても、そこに弱パンチとかしてもダメージソースになる気がしない。

 モンスターの体は人間よりも遥かに頑丈で大質量でタフなのだ。

 最低限、それなり以上の切れ味を持った刃物なり、そこそこの質量を持った鈍器で殴りつける事が必要だ。

 

 

 …ふむ、だが空中での連続攻撃強化というのはアリだな。

 ただ攻撃力のみに注目するのはいただけない。

 狩り技同様、何かしらの付加効果も考慮に入れなければ。

 

 空中での連続攻撃…原型となる心当たりはある。

 GE世界でのブラッドアーツに、確かそんなのがあった筈だ。

 ショートソードのブラッドアーツで、空中で移動しながら何度も切りつけるってのが。

 

 

 討鬼伝世界だって、空中での攻撃はあった。

 …そうそう、考えてみりゃ、鎖鎌での飛び退き打ちは外せない。

 空中で進行方向を変え、敵から距離を取れる非常に貴重な技だ。

 鎖鎌の能力はそれだけじゃない。

 前ループで初穂もやっていたが、乗り攻撃⇒飛び退き打ち⇒地面につく前に分銅を射出してそこに飛び掛り⇒乗り攻撃という、無限エリアルレイヴみたいな技まである。

 …まぁ、あの時の初穂は、安定して出来る程使いこなせてなかったようだったが。

 

 

 これらを組み合わせて考えてみると……鎖を使って飛び掛り、何度も切りつける途中で掴まる場所を探し、危険が迫れば飛び退き打ちで距離をとって、再度鎖なりエネミーステップなりで接近する。

 

 …無茶苦茶難易度が高いな。

 特にブラッドアーツの部分は、MH世界には知られてない霊力(或いは血の力)を使うんだから、スタイルとしての再現は困難を極めるだろう。

 俺一人でやろうにも、鎖鎌はあんまり得意じゃないしなぁ…。

 そもそもブラッドアーツだって習得できてないし…。

 

 

 

 いや、一気に完成形に持っていこうとするのが間違いなんだ。

 まずは飛び退き打ちから練習するか。

 鎖鎌以外でも、同じ動きができるように。

 

 

 

 

 

P3G月でもクエストが厳しくてモタモタしてるお…日

 

 ベルナ村にやってきて、約1ヶ月か。

 半分くらいは外回りやってたな。

 

 まぁ順調と言っても差し支えないんだろう。

 新しい技術も身につけられたし、村からはともかく龍暦院からはそこそこの信用を得ている。

 

 意味不明な突然変異モンスターは今のところ、例のティガ一匹(2匹?)のみでもう仕留めた。

 狂竜ウィルスに関しては不安だが、ココット村には手練のハンターも多い。

 アッチに任せるのも有りだろう。

 ユクモ村のジンオウガは無事に仕留めたし…後残っているのは古龍レベルの連中だけか。

 

 上位ハンター、G級を目指すのもアリだと思うが、今は無理して死んだらスタイルの研究とかがパァになっちまうからな。

 なるべく慎重に行こうと思う。

 

 

 

 ところで、龍暦院が何の仕事をしている機関か、覚えているだろうか?

 俺はサッパリ忘れていたが、彼らの仕事は大別して2つある。

 1つはモンスターの生態の調査。

 龍暦院の名の通り、飛竜種や鳥竜種などの研究が多い。

 古龍の研究もしているようなのだが、これについては古龍研究所に一歩劣るとの事。

 

 二つ目は…これも1つ目の派生と言ってしまえばそれまでなのだが、各所の遺跡の調査だ。

 分かりやすい例を挙げれば、塔とかな。

 あのバカみたいに大きくて、古代人が何かの為に作ったとされている塔。

 今となっては朽ち果てているが、壁に色々な文様が刻まれていたり、MH世界現代の技術では製造できない物質が転がっていたり、古代人語で古龍に関する文献が残っていたり、更には度々古龍が姿を現すと言う、トンデモ魔境となっている。

 

 この遺跡に、古龍に関わる何かがあるのではないか?と考えてもおかしくないだろう。

 生憎、俺はまだ塔を実際に目にした事はないんだけども。

 

 塔以外にも、色々な遺跡がこの世界には点在している。

 その一つの出入り口付近に、龍暦院の本部が腰を据えていた。

 余程重要な遺跡と考えているらしく、資格の無い者は立ち入り禁止にしているときたものだ。

 

 正直、俺は遺跡を見て何か分析できるような学もないし、あまり興味はなかったんだが……ハンターランクが上がって許可が出たんで、見物気分で入ってみた。

 

 

 

 …?

 

 なんか…こう、見覚え……?が、ある、ような…?

 

 いや、同じ物を見たんじゃなくて……同じような雰囲気の場所?

 でもこんな遺跡、入った事は勿論関わった覚えさえないし…。

 

 イヅチカナタに食われた記憶か?

 でもそれなら既視感すら感じないと思うが…。

 

 他の遺跡はどうなんだ?

 既視感を感じるのはここだけなのか?

 

 ……遺跡…他にいけそうな場所は、と言うか知っているのは塔くらいか。

 ポッケ村かユクモ村で、一度訪れてみるかな。

 ハンターランクも、ポッケ村ならティガレックスを倒した時点で、一応上がっているだろうし。

 

 

 

P3G月だからSS内で無双させてストレス解消するお!日

 

 シャーリーさんから返信が届いた。

 幽霊が怖いからなのか、手紙で教えた念仏を必死で覚えようとしているらしい。

 いい歳こいて、と思わなくもないが、理解できないものが怖いのに年齢は関係ないやね。

 

 

 

 

 …うん、そんな軽い気分で失礼な事考えてごめんなさい。

 なんちゅうか、ありふれた話ではあったけど重かったとです…。

 

 帰ってきた手紙に書いてあったんだけどね…。

 シャーリーさんから教わった、ポッケ村に伝わっていたあの怪談。

 

 シャーリーさん、実体験済みだったとです。

 幽霊に会っただけならまだいいんだけどね…。

 ほら、例の怪談って、「死別した恋人の残された方が、山に向かって延々と慟哭を響かせていると、その声に呼び寄せられた恋人の幽霊が雪山を徘徊し始めるようになる」だったろ?

 

 …シャーリーさん、残された方だったらしいとです。

 受付嬢について間もなかった頃、ハンターの一人といい仲になって……そして、シャーリーさんが受付したクエストに出て、そのまま帰ってこなかった。

 その時の嘆きようは相当なものだったろうな…。

 よりにもよって、自分が受付したクエストで亡くなったんだから。

 

 もしも自分が引き止めていれば、もしもモドリ玉の一つでも持って行くように伝えていれば、もしも、もしも…。

 

 言っても詮無い事であっても、思わずにはいられなかっただろう。

 それから暫く嘆き続け、今は引退している先輩にカツを入れられて、何とか立ち直ったらしいが…問題はそこからだった。

 

 シャーリーさんも村の一員である以上、朝起きて(或いは夜に)村を歩き、雪山を遠目に目にする事もある。

 …雪山の麓に、見えたんだそうだ。

 死んでしまった恋人が。

 

 最初は身間違いかと驚き、実は生きていたのかと、大急ぎでその場に向かった。

 だが誰もいない。

 モンスターの一匹さえも居なかった。

 

 未練が見せた錯覚だったのか、とその場では肩を落として帰ったのだが……それからというもの、何度も何度も死んだ恋人の姿を、雪山の麓に見つけ出した。

 彼は本当に亡くなった恋人なのか?

 古くから知っている怪談のように、自分を迎えに着たのではないのか?

 でも、だとしたらどうして雪山の麓にばかりいて、自分には会いに来ないのか。

 連れて行こうとは思わないのか、恨み言でも言いたいのか、それとも嘆く自分を心配して姿を見せてくれたのか。

 …或いは、全ては本当に、自分の嘆きが見せた幻覚なのか。

 

 一度など、覚悟を決めて(どんな覚悟なのかは聞かないが)ハンターに依頼し、雪山の麓で一週間近く寝泊りした事さえあるらしい。

 最終的にはフルフルに襲われそうになって退散したそうだが。

 

 

 結局、何も分からないまま時は流れ、恋人の姿を見ても、シャーリーさんは徐々に「ああ、またか」としか思わなくなっていく。

 それについて思うところもあったそうだが、悩むのにも疲れ…一時期を境に、吹っ切れたらしい。

 時間は残酷で優秀な医者だねぇ…。

 

 

 

 でも、やっぱり気にはなる。

 あれから何年も経ったが、彼は一体何故姿を見せ続けているのか。

 自分に何が言いたいのか。

 遺言があるなら聞き取りたい、恨み言があるなら受け止める。

 

 だけど、もう一緒に逝く事はできない。

 自分はもう立ち直って、生きてしまっている。

 もしも自分を連れて行こうとするなら…。

 

 でもどうやって抵抗すればいい?

 …そう考えて、互いに何のアクションも起こせずにいたところに、俺が来た。

 幽霊のティガレックスを撃退し、幽霊を攻撃する事も、成仏させる事もできるという俺が。

 

 

 

 勿論、今から突撃なんて無茶な事は考えてない。

 結界子の使い方をもっと理解して、成仏させる方法を覚えたら…話に行きたい、と。

 

 暴走して突っ込もうとしないのは助かるが……ううん、どうしたものか。

 正直、俺が首を突っ込める問題ではないとは思う。

 生者と死者とは言え、シャーリーさんと恋人の間の問題だ。

 流石に死人が出そうなら止めるが、そもそも恋人の霊が何故出てきたのかも分からない。

 

 

 

 と言うより、俺が首を突っ込まなきゃならんのはそっちか?

 前のティガレックスもそうだが、MH世界に無い筈の霊力を自前で持ち、何年もの間霊として存在し続ける。

 明らかに何かあるよな。

 

 

 幸い、もうすぐ外回りが再開できる。

 龍暦院にもティガ幽霊の事を伝えてあるし、一体何が起きているのか調査するとしよう。

 シャーリーさんにも手紙を送り、その時恋人さんの事を調べてみるので、妙なアクションを起こさないようにと伝えておいた。

 

 

 

 

P3G月という訳でイビルジョーとかレイアとかを気晴らしに狩る描写を入れたい日

 

 

 さて、準備を整えたし、早速外回り…と行きたいところだが、その前に挨拶回りに行っておかないとな。

 黙って行ったら、ベルナ村の皆からは顔を忘れられそうだし、訓練所とかには正宗関係で無理を言ったから、一言くらいはな…。

 あとJUNは単純に怒りそうだし。

 

 

 

 

 挨拶回りついでに正宗の様子を見てみたが、まだまだ訓練中。

 ここで訓練所から引き離して連れて行く訳にはいかないな。

 訓練自体は、そこそこ順調のようだ。

 懸念されていた、ハンター式肉体操作術も、アイルーの身でも再現可能なものが幾つか発見された。

 中には、人間がやるよりアイルーがやった方が効果が高いんじゃないか?と思うものさえあるそうだ。

 

 ニャンターが本当に爆誕するのも、遠くないかもしれない。

 

 

 JUNは……俺が考えたあの訓練を、真面目にやっているようだ。

 普段通りに村からの依頼もこなそうとしているようだが、そこは村の方が空気を読んだのか、依頼を少し控えめにするようにしている動きがある。

 まぁ、JUNがこれで本当にレベルアップしてくれたら、巡り巡ってベルナ村にも恩恵はあるしな。

 それ以前に人徳の成せる業だとは思うけど。

 

 そんな状況なら、尚更連れ出せないわな。

 まずは慣れた状況で体に馴染ませなきゃいかんのだし。

 

 

 

 

 さて、挨拶回りもそこそこにして、食料品と交易品を確保したら、ポッケ村へ出発だ。

 正直な話、色々と心配しているし、トンデモトラブルの予感がビンビンしている。

 

 俺が関わっている事だから、というのが理由の一つ。

 もう一つは…もしもシャーリーさんの恋人の霊が本当に出ているのだとして、いつまで無害な状態のままでいるのか、って事だ。

 幽霊というのはとにかく不安定なものだ。

 いつ理性を失って発狂するか分からないし、自覚の無い内に生者を死者に引き込む存在になってしまう事だってある。

 …それが、何年も姿を現す程度の動きしかしていなかったってのはな…。

 

 

 そこへ来て、先日の幽霊ティガ騒ぎ。

 影響を受けている可能性は、十二分にある。

 無駄にややこしい話になりませんように…。

 

 

 

 

P3G月さぁ!思う存分残虐ファイトするがいい!日

 

 

 無駄にややこしい話になってたよ!

 ……役得もあったが。

 

 

 はい、霊によって…というか霊が切っ掛けになって例によりまして例の如く、また色事にズブズブと…。

 相手は勿論と言うべきなのか、G級Gカップ受付嬢ことシャーリーさんでございます。

 

 一応、正当な理由はあるんだよ。

 言い訳と断じられればそれまでだけども。

 

 

 えー、事の起こりは、俺が丁度ベルナ村を出発した頃の事だ。

 

 

 

 恋人さんの幽霊、村に出たらしいっす。

 しかも今まで、シャーリーさんにしか見えなかったのに、皆に見える状態で。

 

 

 

 

 爪とか牙とか角とか、エライ状態になって大暴れしたそうです。

 え、ナニソレ幽霊?

 いやさ鬼?

 

 

 …いや、この際それは置いておこう。

 元々幽霊なんて不安定なもんだ。

 時間が経ったり何かの影響を受けたりすれば、それこそ尻尾や羽まで生えてもおかしくはない。

 村に突然現れ、暴れだしたのもその影響だと思っておく。

 

 

 

 重要なのは、シャーリーさんがその霊を退散させる為に、結界子握って突撃したって事なんだよ!

 

 

 

 最初は村のハンター(まだ駆け出しだが、最低限ハンターと呼べるだけの力はある)が未知のモンスターだとして対処しようとしたんだが、これが斬っても斬れない、撃っても効かない、爆弾は多少効いたけど傷がすぐに再生するで、手が付けられなかったそうだ。

 まぁそうだよな。

 相手が鬼や霊の類だとしたら、攻撃した後に鬼祓いで瘴気を散らさないと再生してしまう。

 霊力が通ってない攻撃じゃ、効くかどうかも怪しいくらいだ。

 

 祈りの言葉や魔除けのお呪いも効果が無く、いよいよもってどうするかって話になってきた時、俺が預けた結界子を持ってシャーリーさんが突貫したらしい。

 うろ覚えの念仏唱えながら、文字通り体全体でぶつかっていったそうだ。

 

 そこから先は何が起こったのか、村人達には分からなかった。

 俺の推測になるが…多分、念仏も結界子も単体では意味を成さなかっただろう。

 体当たりしていって、霊に取り込まれるような形になって。

 

 幽霊に触れていれば、普通の人間はそれだけで生命力を削られる。

 どんどんシャーリーさんの生命力が削られていき…多分、命の危機に瀕して、本能的に霊力が膨れ上がったんだろう。

 それに結界子が反応して、浄化の力が発揮された。

 

 幽霊は浄化・退散され……残るのは、生命力を酷使して倒れたシャーリーさんのみ。

 

 

 

 とにかく未知のモンスターは消えたし、シャーリーさんを看病しなければ…となったんだが、雪山を更に白くしたくらいに顔色が悪いは、呼吸や脈も弱いは…。

 まずは体を温めさせようと、湯たんぽと一緒に布団に放り込んだが、全く改善の余地は見られず。

 むしろどんどん弱っていった。

 

 村の長老やら医者やらも頭を抱えていたところに、俺が到着。

 

 結界子を俺が持たせたって事は知れていたらしいので、「あの石のせいでこんな事になったのでは?」という意見もあったらしい。

 口調も荒く問い詰められて、事情を大体察した俺。

 

 とりあえず、俺が出来る対処法は一つだ。

 

 

 足りなくなっている生命力を注ぐ。

 で、その方法と言えば……まぁ、恒例のアレ一択である。

 

 

 流石に方法を明言するのもアレなんで、適当に誤魔化して……一夜が過ぎました。

 

 シャーリーさんには悪い事をしたと思っている。

 他に方法が思いつかなかったとは言え、寝込みを襲ったようなもんだし。

 

 

 一応言っておくが、途中からは合意の上だ。

 最初の前戯の段階で、何とか目は醒めたからな。

 

 夢現だったようだが、説明して……無言で抱きつかれた。

 OKの印というよりは、とにかく温まりたかった、みたいな印象だったけどな。

 うわ言で何度も「寒い、寒い」って言ってたし。

 

 

 そこから更に霊力を注いで、意識がはっきりしてきた辺りでもう一度説明して、更に続行。

 結局、一晩サカってしまった。

 いや、ちゃんとした霊力を注いで増幅させる行為なんですけどね。

 

 

 

 

P3G月ゲームの画面を覗き込むたびに虚しくなるけどな!日

 

 

 何とか様態が落ち着いたシャーリーさんと、色々と懐疑的な目で見られている俺。

 まぁ仕方ないよな。

 結果論とは言え、怪しげな道具を持たせて自爆特攻させた挙句、それに漬け込んで怪しげな行為をしたようにしか見えない。

 実際、霊力なんて感じられない人にしてみれば、死に掛けた相手に更に負担をかけたとしか考えられないだろう。

 

 シャーリーさんが庇ってくれなければ、どうなっていた事か…。

 まぁ、ビンタは一発貰ったが。

 

 

 ちなみに、シャーリーさんは霊力関係の事を信じてくれている。

 結界子も効果はあったし、何より霊力を直接体に注がれたので、体感で分かるそうだ。

 …訓練すれば、普通に使えるくらいに霊力が昂ぶってるんだが……教えるべきかなぁ。

 

 

 ともあれ、とにかく現れた霊の調査をしようという話になった。

 シャーリーさんが自分から手伝いを申し出てくれた。

 村人からは止められたようだが、霊とシャーリーさんの(生前の、だが)関係を知っている人は止めなかった。

 

 

 

 何はともあれ、情報収集情報収集。

 

 渋られた事もあったが、そこはシャーリーさんがどうにかしてくれた。

 うぅむ、やっぱ俺、人間関係がダメだなぁ…。

 

 

 それはともかく、得られた情報だが。

 まず、シャーリーさんが亡くなった恋人の霊を度々見る、という話を知っていた人はそこそこ居た。

 だがそれも昔の話で、もう話題に上らなくなって久しい。

 てっきりもう見えなくなったのだと思われていたそうだ。

 

 次の情報。

 霊の姿だが、明らかに人間のものとは思えない爪や牙があったらしい。

 暴れた地点を調べてみたんだが…ナルホド、残っている傷跡が明らかに異常だ。

 と言うより、サイズこそ違うけど、これティガレックスの暴れた後じゃねーの?

 先日も村で幽霊ティガが暴れやがったが、サイズの差こそあれ、爪痕が酷似している。

 

 更に次。

 これはシャーリーさんから得られた情報だが、幽霊が村まで来たのはやはり初めての出来事だったそうだ。

 勿論、他の人の目に見えたのも。

 爪やら牙やらに関しては…そこまで近付いた事はなかったので、いつからそうなっていたかは不明。

 そして、幽霊と直に接触した為なのか、幽霊が思っている事が伝わってきたのだそうだ。

 その内容は、予想と違ってシャーリーさんへのアレコレではなく、ただ只管に「寒い」「暗い」「冷たい」…そして僅かに「腹が減った」。

 

 

 

 ……う~ん?

 

 

 まぁ、仮説は立った事は立った。

 正直、色々な意味で信じ難いが……他に当ても無い。

 調べるだけ調べてみるか…。

 

 

 

 

追記

 

 ティガレックスが両方オスだったのに卵があった謎だが、霊力持ちだったティガレックスに普通は無い穴と器官が確認されたそうな。

 ……やっぱり背孕み…?

 

 

P3G月というか、何を作るかをちゃんと決めてないから、ブレまくってんだよな日

 

 

 雪山探索中。

 

 俺の立てたトンデモ仮説は、要するにこうだ。

 シャーリーさんの恋人の遺体が、雪山の何処か…恐らくは龍穴のような場所に、発見されずに埋もれている。

 龍穴に影響され、残留思念が幽霊という形を取って、何度も現れた。

 そこへティガレックスが討伐され、同じように遺体の何処か…恐らくは破壊された爪や牙…が飛んできた。

 そちらに影響され、現れた幽霊の姿と性質が変化。

 大暴れ。

 

 

 …正直、手掛かりの断片を強引に繋ぎ合わせただけの仮説だ。

 これでは説明できない事だってあるし、そもそも偶然が重なりすぎている。

 

 いや、そうでもない…か?

 最初にシャーリーさんの恋人が龍穴付近で行方不明にさえなってしまえば、後は時間の問題だ。

 ずっとそこで冷凍保存されている遺体と、そこに近い何処かの場所で何らかのモンスター…ティガレックスに限らない…が死ぬ可能性。

 低い可能性だが、常に有り得る話でもある。

 

 

 何れにせよ、シャーリーさんの恋人由来の何かが、龍穴近くに残っているのは確かだと思う。

 とりあえずそれを調べて、見つけたら持って帰るとしよう。

 

 龍脈の流れを追っていけば、龍穴を見つける事自体はそう難しくないだろう。

 ただ、普段あまり人が踏み込まない場所だろうからな…慎重に行動しないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とんでもないもの見つけちまったぃ。

 

 

 

 

 

 

P3G月…火竜の逆鱗出たけど、今は延髄が欲しいんよ…日

 

 G級受付嬢どころか、龍暦院かハンターギルドに直接連絡した方がいいんじゃないか?

 

 何を見付けたかって?

 遺跡だよ、遺跡。

 

 雪山の中でも、ハンターもモンスターもそうそう近寄らない場所…あー、ゲームのフィールドで言えばアレだ、雪山の洞窟の中に、でっかい穴が空いていたと思う。

 多分、その部分の下の下…奈落の底に、その遺跡はあった。

 龍脈の流れを追いかけていったら見付けたんだが、光が全く差し込まないから暗いってレベルじゃないし、ホットドリンクも効かないくらいに物凄い冷気だし、モンスターどころか羽虫の気配一つ無い。

 挙句、あっちこっちが氷に覆われまくってるんで、辿りついたとしても触れる事もできないし、氷が分厚すぎてよく見えない。

 

 うーむ、個人的にも色々気になるが…そっちは後にしよう。

 

 

 探索の本命だった、シャーリーさんの恋人の遺体。

 発見はしました。

 …ただ、とても見せられるような状況じゃなかった。

 氷漬けになってたのはまだいい。

 

 …雪山洞窟の上の方から落下したんだろう。

 「人間ってバウンドしないんだな」なんて言ってられない惨状だった。

 バラバラで潰れてて、しかもその状態で妙にクリアに冷凍保管されてて……自然の悪意かと言いたくなるような状況だった。

 

 その少し離れた場所に、予想通りティガレックスの爪の破片が落ちていた。

 これを回収していけば、とりあえず次に幽霊が現れたとしても、今まで通りの人間状態になる…と思う。

 一度変質した幽霊が、原因を取り除いて元に戻るかは微妙なところだけども。

 

 

 さて、問題の恋人の遺体だが…流石にこりゃ見せられんし、持って帰れないよなぁ。

 そもそも何年分の氷が分厚すぎて、ピッケルで掘り出してもどれだけかかるか。

 …こんな所でトンテンカンテンして振動を起こすのも怖すぎる。

 

 かと言って、遺品になる物も無い。

 

 

 

 …いや待て、それ以前に、この遺体には霊的なモノは何も感じられない。

 残留思念も、魂すら残ってない。

 だってのに、どうしてコレを元にして幽霊が出てくる?

 単にシャーリーさんが祓ってしまったから、もう何も残っていないだけなのか?

 

 それとも…この遺跡に何かあるのか。

 注意してみれば、龍暦院で見た遺跡同様、この遺跡にもどことなく見覚えを感じなくもない。

 氷だらけで、殆ど分からないが……。

 

 

 …一端戻る。

 そろそろ体が凍りつきそうだ。

 




紅兜レベル1倒しました。
アオアシラがアレかよ恐ろしい…。


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120話

MHX、初めてのオンは卵クエでした。
チャットに誰も返事してくれないのは何故だ。
普通、入退室する時って一言くらい声かけると思うんだけどなぁ…。
3DSだとチャットってあまりやらないんでしょうか?


というか誰か熱砂の喧嘩手伝って…。


 

P3G月寒さで節々が痛みます日

 

 シャーリーさんには、奇妙な遺跡を発見した事だけ伝え、遺体の事は伏せておいた。

 先延ばしだとしても、今の俺にあの惨状を伝える勇気は無い。

 せめて、まともに葬れる状況を作ってから伝えよう。

 …半日、あそこで火を焚き続けたとしてどれだけ溶けるかな…。

 

 龍暦院とギルドには、遺跡発見の連絡。

 それらしい文献が無いか、また確認にこれないか連絡を取り合っている。

 幽霊云々に関してはノーコメントだ。

 

 竜人族の長老にも聞いてみたんだが、心当たりは無いそうだ。

 まぁ、竜人族であってもそうそう降りていけるような場所じゃなかったしなぁ。

 

 …ただ、一言だけ。

 「もしも更に奥へ続く大穴があったら、決して進んではいけない」と忠告された。

 やっぱり何か知ってる?

 そう思って聞いてみたら、「まさかとは思うがの」と前置きをして教えてくれた。

 

 かつてポッケ村を開いた村長が撃退した(と言うより、その為にキャンプを造り、そこが村になったらしい)『白い神』の伝説……ってかウカムルバスかよ!

 アカムとさえまだ遭遇してないってのに。

 

 並みのモンスターでは生息する事すらできそうにない、極寒の雪山最深部。

 村長が撃退したウカムルバスがまだどこかで生きているとすれば、或いはその子供が居たとすれば。

 雪山最深部以上にふさわしい場所は無いのではないか?

 

 可能性の段階ではあるが、確かに有り得てもおかしくはない。

 正直、あそこで遭遇したとしたらアラガミ化しても勝ち目がなさそうだ。

 地の利どころか不利満載だし…。

 

 

 

 

 追記

 村長にシャーリーさんの恋人の遺体回収について相談したら、いい知恵を貰った。

 盲点でしたよ、ハンター道具の一つ・消散剤。

 流石に万年氷の類を溶かすには数が要るし、何より加工して普通の品よりも更に強めないといけないのだが、それでも大分氷を砕きやすくなるのだそうだ。

 生活の知恵って奴だなぁ…。

 

 

 

P3G月これだけ寒いと、鍋とか美味いだろうなぁ日

 

 早速村長に教えられた知恵に頼り、超消散剤を作成。

 試しに雪山の氷にかけてみたところ、ドライアイスみたいな湯気を出してあっという間に溶けて行った。

 …が、これあそこで使って大丈夫かな…。

 なんか窒息死とかしない?

 

 …とりあえず、かけたら即逃げるか。

 あれ、でも煙の類って上に向かって…いやいや、窒素は重い気体だったと思うから、下に溜まって…でもそれだと溜まった窒素は散らないから、降りたら結局窒息…。

 

 …大丈夫か。

 ゴッドイーターボディで対応できる。

 マグマのすぐ傍に居ても平然と呼吸できるからね!

 多分。

 

 

 

 結論から言えば、超消散剤は上手く機能してくれた。

 凍ってた血やら体やらが一部解放されて、グロ画像になったが。

 

 大部分は凍ったままで取り出す事に成功し、ふくろに詰め込んで(死体になってりゃ入るんだよな)上に戻り、適当な場所で取り出して…辛いだろうが、シャーリーさんの下へ運んだ。

 それを見たシャーリーさんは絶句していた。

 正直、見せない方がよかったんじゃないかと思うくらいには。

 

 ただ、それでもやはり日の当たる場所で葬ってやらなければいけないだろう。

 あんな所に置き去りにしたんじゃ、幽霊になっても寒い寒いと言い続けるのも無理はない。

 

 

 死亡認定された当時にはもう葬式はされたらしいが、改めて遺体を弔った。

 念の為に鬼祓いもしておいたから、もう化けて出る事は無いと思う……が、あの遺跡に妙な機能があるかもしれんし、これについては暫く様子見だ。

 

 …喪服姿のシャーリーさんとか、珍しいもの見たな…見ないに越した事はないんだけどさ。

 

 

 

 葬式が終わり、龍暦院から手紙が来た。

 遺跡に関しては、これから調査員を向かわせるが、それも最低限の人数になるとの事。

 そもそも調査できるような環境が整ってないので、まずはその準備段階になるだろう。

 

 準備となると、何よりも先に行わなければいけないのは………人が生存できるだけの熱源の確保と。

 

 

 

 長老が言ってたように見つかってしまった、バカでかい横穴に何が生息しているかの調査なんだよなぁ。

 

 

 ウカムが居るとは限らないけどさ、もっととんでもないナニカが居る可能性もある訳で。

 万が一そんなのと遭遇したら、生き延びるどころか逃げ隠れできるようなスペースも無し。

 

 …なぁんか昔のアニメで見たような気がするなぁ。

 断崖絶壁をおっこちて生き延びたはいいが、そこに何故か生息していた恐竜に見つかって、上に逃げようとすれば食われてしまうってシチュエーション。

 

 まぁ何にせよ、あの穴の先に何かが居るのはほぼ確定事項だ。

 常人の目に見えるモノなのかは別として、明らかにヤバい感じの気配が漂っているもの。

 

 …で、それを誰が調査に行くかって事なんだが……現状、村での第一候補は俺だ。

 が、生憎と俺は村付きのハンターでもなければ、G級ハンターでもない。

 もしもガチでウカム級のモンスターが潜んでいるとした場合、俺では明らかに力不足だ。

 アラガミ化という最終手段を知らないギルドからしてみれば、味噌汁をゲップが出るまで飲んで出直して来いって言うレベルだ。

 シャーリーさんからもストップがかかった。

 今は開店休業状態とは言え、G級受付嬢として相応の実績・実力が無いハンターを、そんな危険な場所の調査に行かせる事はできない、そんなクエストは受け付けられないとの事。

 

 言ってる事は至極最もだと思うんだが、他意を感じたのは俺の自意識過剰だろうか?

 …そこそこ程度の踏み込んだ関係になった人間が、またも自分の受付したクエストで死んだらと思うと……まぁ、過剰反応するのも不思議ではないが。

 

 

 んじゃ、どうするか?

 

 横穴に関しては、本職G級ハンターやレジェンドラスタに依頼する事に決まったそうだ。

 龍暦院とポッケ村が折半して依頼費を出すらしい。

 

 誰だろ…ナターシャさんだと嬉しいが、場所を考えるとそれは無い気がする。

 ホットドリンク使っててもどんどん体が冷えていく、極寒地帯だ。

 スタミナだってあっという間に削られる。

 弓使いには致命的な不利だろう。

 

 となると、スタミナに比較的影響されないのは…片手剣、ボウガン、太刀に…ああ、操虫棍もか?

 でも操虫棍にレジェンドラスタなんて居たかな? 

 

 

 

P3G月キムチ鍋ばかり食べてたが、たまには他のもいいか日

 

 

 ……流されやすいのは俺の欠点だな、本当に…。

 いや後悔してる訳じゃないんだけどさ。

 

 

 またシャーリーさんと寝てしまった。

 

 

 今度は最初っから最後まで同意の上だ。

 ついでに言うと、メンタルケアとアフターケアも兼ねている。

 

 …シャーリーさんに若干ヤケが入っていたのは否定できそうにないが、それも含めてのケアっちゃケアだな。

 

 やっぱ、立ち直って数年のブランクがあったとは言え、恋人の死を再度直視するのは辛かったらしい。

 それも、かなり凄惨な姿だったしな…。

 

 

 更に言えば(俺に抱かれにきた理由はこっちがメインだと思うが)、霊に触れた時の感覚がトラウマになりかけているようだ。

 まぁ、耐性や慣れのない人間にしてみれば、死そのものに直接触れたようなものだ。

 しかもシャーリーさんの場合、数年間ずっと氷の中に閉じ込められていた恋人の感覚だ。

 トラウマになったっておかしくない。

 

 そこで霊力を注ぎ、衰弱死を防いだ俺の感触をついつい求めて…って感じだな。

 正直、今のシャーリーさんは非常に不安定だ。

 精神的にもそうだが、それ以上に肉体的・霊的に。

 図らずも憑り殺される寸前まで衰弱して、そこに外から強引に霊力を注ぎ込んで回復させた。

 しかしシャーリーさんの霊体が受けたダメージが完治した訳じゃないし、そうなると自前の霊力…生命力を生み出す気管も、正常に運行できているとは言い辛い。

 つまるところ、後遺症によって、シャーリーさんは今でも衰弱死の危険が付きまとっているのだ。

 

 度々霊力を注いで、回復と補給を計らねばならない。

 

 

 断っておくが、上記の事に何一つ嘘と誇張は無い。

 建前ではないとも言っていないが。

 

 

 その辺はシャーリーさんもわかっているのが救いかな。

 納得しているかは定かじゃないが、自分の心身が共に不安定な状態だというのは、身に染みてわかっているらしい。

 夜になると酷い震えに襲われたり、たまらなく他者の温もりに触れたくなったり。

 自分が本当に生きているのか、実はあの霊に触れた時に死んでいたのではないか、という考えが不意に湧いては、頭から離れなくなるそうだ。

 

 それを抑える為に、俺に触れ合いにくる。

 …或いは、恋人が亡くなった悲しみを忘れようとして来るのか。

 

 何にせよ、こちらとしては拒む理由は無い。

 ケアと治療と役得を兼ねて、シャーリーさんを美味しくいただいています。

 

 

 

 ああ、そう言えば体が蝕鬼の触媒に蝕まれても、オカルト版真言立川流は普通に使えるみたいだな。

 霊力を受け取ったシャーリーさんにも異変が起きた様子は無いし。

 

 ま、人生最大の楽しみがオシャカにならずに済んで、良かった良かった…と思っておこう。

 

 

P3G月鍋…ビールばかりだったけど熱燗にも興味あり日

 

 もう暫くポッケ村に留まれそうだ。

 遺跡発見の功績と、それ以上に功績に伴うアレコレの作業が多く、それが終わるまでは期間延長となった。

 その間に、シャーリーさんのケアもある程度形にしとかないと。

 自分に擦寄ってきてくれるのは嬉しいけど、傷の為に寄ってきてくれるってのはな…やっぱりちょっと違うわ。

 

 

 さて仕事の話だが、やはり地下の遺跡を調べる前に、横穴の調査だ。

 そっちはレジェンドラスタに任せる事が正式決定し、既に手配もされたらしいので、俺はノータッチ。

 

 んじゃ俺の仕事は何かって言うと、ティガレックスが消えた事による縄張り変化の調査と、霊力関係の事だった。

 世間一般では霊力なんて認められてない世界だが、前回の幽霊ティガやら亡霊騒動やらで、何かしら奇妙な力が働いているのは、ポッケ村住民にとっては最早確定事項である。

 そんなもの、誰に調査を依頼すればいいんだ…って話だが、とりあえずそれに対する対抗手段、或いは知識を持っているハンターが独り居る。

 

 言うまでも無く俺だ。

 

 まぁ、いろんな意味で胡散臭いし頼りたくないって意見も若い衆から出たらしいが。

 明らかに嫉妬マスク集団である。

 壁ドンしとれ。

 

 

 …このループ前の俺が聞いたら、世を儚んでテロを目論むような言い回しだな。

 

 

 

 それはともかく、縄張りの変化に関しては静観するしかない。

 こっちからコントロールするなんて不可能だ。

 縄張り争いってのは、日々の糧を得る為の弱肉強食より、ずっと過酷だからなぁ…。

 モンスターに限らずやたらピリピリした気配を放ち続けるし、それに呼応して血の気が多くなるし。

 やるだけやらせて、落ち着くのを待つしか方法は無い。

 逆にこっちから踏み込んで、人間の領域を確保する…のもできない事は無いと思うが、それこそ俺が居なくなったら縄張り争い再びだ。

 意味が無い。

 

 

 となると、霊力関係の調査がメインになってくる。

 これに関しては、こちらとしても望むところだ。

 MH世界に何故霊力があるのか、手掛かりを得られるかもしれない。

 

 とは言え、一体どうしたものか。

 一番関係がありそうな遺跡には、まだ立ち入れない。

 発見者権限って事で立会いは許可されているが、まだ遺跡調査班も安全確保の為のG級ハンターも到着してない。

 そもそも入れたとしても、遺跡は分厚い氷に阻まれて調べるに調べられない。

 

 …そう言えば、ベルナ村の遺跡で感じたような既視感はあっただろうか?

 まともに観察できてない状態だったが………うーん、どうだろう。

 氷が無くなれば印象も変わると思うが。

 

 

 

 うん、そうだな。

 遺跡は今のところ探索不可能だから、別の遺跡を当たってみよう。

 元々そのつもりだったんだし。

 

 即ち、塔。

 もうちょっとハンターランクを上げないと探索の許可は下りないが、ティガレックス討伐が緊急クエスト扱いになった。

 大型をあと2~3種狩れば、許可が出るだろう。

 

 

P3G月冷えた空気も意外と悪くない日

 

 バサルモス、ショウグンギザミ、モノブロス討伐。

 塔の探索許可が下りた。

 

 んだが、これはこれでちょっと気になるなぁ。

 ゲームで言えば…の話だが、そろそろ古龍(下位)が出てきてもおかしくない時期だ。

 実際、いつぞやのループでポッケ村に訪れた時にも、古龍出現らしき兆候や痕跡が幾つも発見された。

 今は……うん、それらしい痕跡は、今のところポッケ村付近には無い。

 あの時とは時期が違う為か?

 それともバタフライ効果で古龍がこっちに来てないのか。

 どっちにしろ、いずれぶつかる事になるとは思うが…。

 

 

 差し当たって塔の調査だ。

 頂上付近は特に要注意だな。

 テオとかナナとかが突然襲来したらエラい事になりそうだ。

 

 多分2~3日かかると思うんで、その前にシャーリーさんにはたっぷり霊気を注いでおく。

 これで1週間くらいは霊力が枯渇する事はないと思う。

 体は疼くかもしれないが。

 

 …出発する前、少しだけ恨み節をぶつけられた。

 やはり本意ではないんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 で、今は塔のベースキャンプで日記を書いているんだが……うん、なんだ、塔マジでデカいわ。

 すごく…大きいです…。

 そんなに大きかったら逆に使えないくらい大きいです…マジで裂けます…。

 

 

 でも問題はそんなシモネタじゃない。

 

 あの塔の上の空を見ろ。

 塔を中心として、雲が渦を巻いている。

 それを見て、なんか似たような景色を見た事があるな、と思ったんだ。

 

 思い当たった時、最初は単に偶然かと思った。

 でも鬼ノ目を使って見た時は、目を疑ったよ。

 雲に紛れて、強大な霊力が渦を巻いていた。

 『MH世界に霊力は無い(キリッ)』なんて思っていたが、この状況を見てそんな事はとても言えない。

 

 そんで、仮にこの塔を作った文明が霊力を扱っていたとして……どう考えてもロクでもない事しか予想できないんだよ…。

 

 だってこの光景、討鬼伝世界でオオマガドキが起きようとしていた時とソックリなんだよ…。

 あの時と違ってガラクタの塔じゃないし、塔は雲を突き抜けてそびえているけど、あの渦を巻く霊力がソックリなんだ。

 

 

 試しに恐る恐る頂上まで上って、雲の上から眺めてみたが…凄いわこりゃ。

 霊力自体は大量にあるが、何かの残滓のようだった。

 どういう事だ?

 この塔を使って、オオマガドキのような何かを行ったのか?

 …ひょっとして討鬼伝世界でオオマガドキが起きたのってこの為…いや、もう竜人族も知らないくらいに昔の事の筈…だけども3つの世界で時間関係がどうなっているのか分からないし…。

 

 

 う~ん、分からん…。

 ただMH世界にもやはり霊力を扱う存在はあったって事が分かっただけだ。

 それだけでも僥倖と思っておくべきだろうか。

 

 

P3G月暖房をかけた後の換気が気持ちいい日

 

 とりあえず、古龍が襲撃してくる恐怖に怯えつつも、あっちこっちで採掘しまくってきた。

 大量大量。

 …塔の下の方から、レウスにレイアっぽい声が聞こえてきたんだが…ひょっとして希少種?

 まぁ、今戦う気は無いけども。

 

 結局、塔に関しては、あそこで何かしらの儀式が行われたっぽい事以外には、分かった事は何も無かった。

 しかし…そうなると、いつぞやの謎の紅玉とかも、この遺跡関連の物なのかねぇ。

 むしろもっと怖いのは、この手の遺跡がMH世界のあちこちにありそうって事だ。

 ユクモ村にだって、デカイ塔はあったしな。

 ただ、そこでも同じように霊力が渦を巻いているかは、行ってみないとわからない。

 

 

 …これは推測だが、この塔、雪山の遺跡と何か関係があるのではないだろうか。

 非常に多くの霊力の残滓がある塔と、龍穴に作られた遺跡。

 塔の霊力の残滓が何らかのルートを通って龍穴の遺跡に流れ、それによって幽霊が発生していた…と考える事もできる。

 

 

 

 

 さて、とりあえず小難しい事を考えるのは止めだ。

 折角(比較的)単純な世界に居るんだから、何も考えず狩りをしてたっていいだろう。

 と言うか、行く先行く先疑問ばっかが増えて考えるのがイヤになってきた。

 自分の体の事だって、未だに結論が出ていないと言うのに、世界の構造だのシステムだのの考察なんぞやってられっか。

 

 塔の調査も終わったし、シャーリーさんを肉体的な意味でイチャイチャする!

 そんで口説いて新婚さんごっことかするんだい!

 

 まぁ、シャーリーさんも俺を意識してはいるみたいだけど、明確に恋人関係になってるワケでもなくてな。

 夜に会う⇒即霊力補給じゃ、お互いあんまり気が乗らないんで、その前にトークタイムとかも設けている。

 頼めばその時にメシくらいは作ってくれると思う。

 

 …裸エプロンとか頼みたいが、その場合部屋を暖かくしないとな。

 燃石炭が足りないから、火山で採掘しとかんと。

 ポッケ村で半裸してたら速攻で風邪引くわ。

 

 

 

P3G月暑い日に熱いお茶はいいのに、寒い日に冷たい茶はあまり聞かない日

 

 

 行き帰り、戻ってからの報告も含め、計4日間はシャーリーさんに霊力補給していなかった訳だが。

 特に体調を崩している様子は無い。

 少しだけ体が重いと自己申告していたが、それはブーストしていた霊力が元に戻ったからだと思う。

 自前で霊力・生命力を生産できる程度には、体も魂も治って来たようだ。

 

 まぁ、まだメンタル的な恐怖は拭い去れた訳ではないし、それ以上にナニの味を覚えちゃったみたいで……まぁ狙ってやったんですが。

 あの恋人が亡くなって以来、いい縁も無くずっとご無沙汰だったらしいからね。

 付き合っていた頃も、当時は全く経験のない者同士だったんで、まぁなんだ、殆ど痛いかくすぐったい止まりだったみたいでね…。

 

 そこへ俺がヤッちゃったもんだから…と言うと、なんか自意識過剰の自称上手い人みたいだが…、「こんなの初めて」状態になっちゃって。

 一足遅い…というと失礼かもしれないが…性春を存分に堪能しておられます。

 いや、存分にって言うにはちょっと語弊があるかな…。

 まだ割り切って楽しめるようにはなってないんで、躊躇いもあるし文句もあるが我慢できず、いざ始まってしまったらのめり込むと言うか。

 

 ま、こっちとしてはヤる事自体は変わらない。

 中途半端に仕込んだままだと欲求不満が溜まりまくってしまうのが関の山なんで、自分で発散する方法も教えるし、「これ以上踏み込んだら危ない」ってボーダーラインを叩き込む。

 要するに、今までの女性関係同様、骨までしゃぶりつくす…もとい、色々と躾けするだけである。

 今までそれを切っ掛けにして何度も破滅してきた身の上だがこればっかりは色々な意味で止められんな。

 我ながら業が深いこった。

 

 

 シャーリーさんを相手にするにおいては…まぁ、アレだな。

 寝取りモノや未亡人モノの定番の、あの手のセリフを躊躇い無く言わせられるくらいに仕込むのが目標かな。

 

 「あいつのとどっちがイイ?」と聞いて、「そんなの答えられない」から「こっちの方がいいのぉ!(以下検閲削除)」くらいを目標に。

 

 やろうと思えば今でも言わせられない事もないと思うが、「言う」じゃなくて「言わせる」だからな。

 この手のセリフは、本心から自分から言わせてナンボだろ。

 

 

 一応明言しとくが、実際には聞いてないからな。

 マジな話、本人は立ち直ったと思っているとは言え、非常にデリケートな話題だし、自覚しないトラウマが刻まれていてもおかしくない。

 そこへ思い出させるような問い掛けなんぞ、出来る筈も無い。

 …敢えて問いかけて答えさせ、トラウマごと塗りつぶしてしまう手もあるにはあるが。

 

 

 

P3G月風呂上りの風も良し日

 

 シャーリーさんを仕込みながら狩り及び調査を続ける事数日。

 そろそろポッケ村に留まるのも厳しい日程になってきた。

 

 シャーリーさんは何とか肉体的に精神的にも立ち直って安定し、肉欲的な意味では……うん、まぁなんだ、自慰に関してもテクニックというのはあるんだよ。

 とりあえず欲求不満を自分で解消できる程度には仕込んだし、暫く離れて様子を見るのもいいだろう。

 問題が起こった時にすぐ駆けつけられないのが問題だが。

 …ま、最悪、龍暦院を脅して飛行船を強制使用するところまでは考えておくか。

 飛行船そのものがメンテ中だったら使えない手だが。

 

 このままの日程で行くと、遺跡と横穴の調査を引き受けたレジェンドラスタが、ユクモ村への出発の前日に到着する予定だ。

 誰だか知らんが、一目くらいは会っておきたいな。

 …ナターシャだったら、尚更。

 会ったところで、あっちは俺の事なんか全然知らないんだけどさ。

 

 

 

 

 聞いてみたところ、片手剣使いと双剣使いのようなのでナターシャさんではないようだが……レジェンドラスタの片手剣?

 それってフローラさんじゃね?

 ナターシャさんに初めて会ったループで、ちょっとだけ話した程度だが……うん、確か俺をネタにして慰めていた声を聞いたのを覚えている。

 あと、最後に会った時には「討伐が終わったら、今まで手伝ってくれたゴホウビあげるよ~」なんてお誘いを受けたのも。

 

 …未だに、何故あんなに好感度が高かったのか分からない。

 と言うか、よくレジェンドラスタを二人も呼び寄せられたものだ。

 相手と環境の不利を考えれば、妥当な判断かもしれんが…双剣は向いてないんじゃないかな、あの寒いトコには。

 

 

 

 フローラさんの事を考えてたら、シャーリーさんから冷たい視線で抓られた。

 お詫びに失神させてあげた。

 

 

 

 



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121話

やっとこさ熱砂の喧嘩は武器の元をクリアできて嬉しいので投稿します。
残り時間53秒でした。
くきぃぃぃぃパプルポッカウゼェェェェ!

感想返しは次回投稿時にします。

追記
林原めぐみ熱再炎上中。
ノスタルジックラバーとか、思い出したら頭から離れない…。
テッカマンブレードは全然知らないけど。


 

P3G月寒すぎて鍋食いたくなってきた日

 

 レジェンドラスタ到着。

 予想通りフローラさんだった。

 相変わらず天真爛漫で一見して天然だと分かる。

 

 で、双剣使いはフラウさん。

 会ったのは初めてだったよな…。

 雪に覆われたポッケ村に居るというのに、露出度高いなぁ…。

 加えてボクッ子、ツインテール、ドジっ子でもあるようだ。

 そしてカワイイ。

 顔もそうだけど、態度と言うか性格も……しかし気のせいか、多少の「らしさ」も見えるような……こういうのをあざとカワイイとか………なんだっけか、「シャルい」?というのかね?

 

 

 

 そして二人揃って人との距離が近い近い近い近いッ!

 昨日のナイスショット☆ナイスインでご機嫌だったシャーリーさんの目が釣り上がる程度にはッ!

 

 と言うか、パーソナルスペースってものが無いのかと思うの程近い。

 初対面の時、間近で顔を覗き込まれたぞ…しかも満面の笑みのままで。

 俺以外に対しても同じような態度と距離なんで、含むものは無いと思うが。

 

 フローラさんには以前会った時も、割とスキンシップに躊躇いが無かった節はあったが、コレほどじゃなかった。

 押しが強いなぁ…。

 

 シャーリーさんのご機嫌取りは霊力補給も兼ねて夜にやるとして、仕事の話だ。

 地下の遺跡について、この村に二度も現れた幽霊モンスター(一人は元人間だったようだが)について…情報の引継ぎは山のようにある。

 幽霊話については半信半疑のようだが、頭から否定はしてないようだ。

 各地を巡り歩いて狩りを続けていれば、その手の不思議話に遭遇するのも珍しくないらしい。

 ただ、今回ほど物理的な被害が出ているのは初めてだし、そもそも単純に幽霊の正体見たり外道焼身霊波光線って事もある。

 個人的にも興味深い話だと言うので、直に話を聞かせてほしいって事だった。

 

 シャーリーさんは不機嫌になるが、これもハンターとしての勤めだ。

 G級受付嬢としてご寛恕願う。

 

 真面目な話、二人にそーいうつもりは無い…と思う。

 前ループじゃオカズにされていたよーだが、今はそうされるだけの下積みも接触も無いもの。

 多分、フローラさんはフラウさんに釣られて、人と接する時の距離が普段以上に短くなってるだけだろう。

 

 フラウさんは…どうだろね。

 演じている節はあるんだけど、それも天然というか意識してやってるタイプじゃなさそうだし。

 まぁ、あっちから迫ってきてイイ思いが出来るならそれでいい。

 あっちが本当に演じていて、俺をあしらい続けるならそれも良し。

 シャーリーさんに不義理にならない程度に、とは思うけどね。

 

 

 

P3G月机の上で鍋を暖められる電磁プレート買おうかな日

 

 

 一晩を情報交換で使い潰した。

 シャーリーさん待ちぼうけで寝ちゃったよゴメンね!

 でも実際浮気はしなかったから勘弁。

 話している最中にも距離が近くて、ちょっとムラッと来たのは事実だけど。

 

 それでも不機嫌は不機嫌だったから、真昼間からご機嫌取りの予定です。

 具体的には太陽の下でアオ○ン。

 そろそろ新ステップに進めようかと思っていたから丁度良かったです。

 でも今日には出発しないといけないから、アフターケアとかも全然できないんだよゴメンね!

 

 

 …ま、シャーリーさんの機嫌を直すのにこれから全力を尽くす(=卑猥度が上がる)のはともかくとしてだな。

 

 レジェンドラスタのお二人から得られた情報について。

 これまで各地を渡り歩いて色々な経験をしてきた二人だが、今回ほどじゃなくても幽霊騒動は結構あるらしい。

 その中で、明らかに「原因はこれだ!」と断じられるものを除いた場合、やはり今回同様に謎の遺跡が近くにあるパターンが多いようだ。

 ただ、その遺跡と何か関係があるとか、そういう伝承は伝わっておらず、単に近くに遺跡があるだけ。

 そもそも「多い」というだけで、近くに遺跡がない事だってある…この村の時みたいに見つかってないだけかもしれないが。

 

 …レジェンドラスタと言えども、霊力を明確に認識する事はできてないから、関連性があっても気付かなかっただけと考える事はできる。

 とりあえず場所だけ教えてもらったんだが…殆どが開拓地だ。

 レジェンドラスタたる者、やはり最前線からそうそう離れられないらしい。

 うーん、今から行くのは無謀だなぁ…。

 

 

 遺跡巡りは次回ループにするとして、幽霊騒ぎで重要(かもしれない)事を幾つか伝えた。

 本来なら無い筈の角を持ってるモンスターには要注意。

 分身を出したり、体を変化させて襲ってくる可能性がある。

 モノによっては姿を消したり、咆哮で体を金縛りにしてきたり…今まで出合った霊力持ちモンスターの情報を色々伝えておいた。

 

 「何でそんなに具体的に知ってるの?」と言われたが、雪山で会ったティガレックスがそういう能力を持っていた…事にしておいた。

 本当はスタンドみたいな能力だけだったが、誰も見てないからね。

 

 

 …ま、一晩かけて話した事はそれくらいだ。

 茶々が入ったり話が脇道に逸れたり、「こういう対応はどうか」っていう話し合いもしてたから、かなり時間がかかったけども。

 

 

 …話している途中に考えていたんだが、あの「スタンド」…やはり自分の命を削って出した、分身のようなものだったんだろう。

 番が死んで情緒不安定になったティガレックスが精神的な分裂症気味に陥り、それらが霊力にも反映され、まるで2頭のティガレックスが居るかのような状態に陥った。

 死に瀕したり感情が昂ぶったりして霊力が昂ぶった時に、質量を持てるだけの霊力が結晶化し、分身が現れる。

 分身が傷ついたら、本体はそれを修復しようとして霊力を渡し、結果として本体は更に弱る…。

 あの分身の理屈はそんなところだろう。

 「スタンド」に似た性質を持つようになったのは、ある意味では必然か。

 

 ま、だからどうだって訳でもない。

 分裂症になるようなモンスターがそうそう居るとは思えんし、同じような性質を持った霊能力が現れるかも未知数。

 仮に分身するモンスターが今後出現しても、同じように分身が傷つけば本体も傷つく性質があるかは分からない。

 その時になってみなきゃ、何も分からんね。

 頭の痛いこった。

 

 

 さて、小難しい想像はこの辺にして、シャーリーさんに笑顔で見送ってもらう為、ご機嫌取りに行ってきますかね。

 

 

 

 

P3G月机の上が散らかってるから、まずそっちを片付けないと日

 

 何とか機嫌を直してもらって、夕方に出発した。

 ちょいと怒り気味だったんで、宥めてそーいう雰囲気に持ち込むのに苦労した。

 なし崩しに行為に及べば、まー後はどうとでも。

 下半身で何もかも解決できるとは思ってないが、覚え立てなんて男も女もこんなモンだろう。

 

 

 なるべく早くまた来てね、とキス(+ムスコを一撫で)してもらって出てきた。

 あと、何か書類やら手紙やらをユクモ村とココット村・ベルナ村に持っていくようにとも頼まれたな。

 

 …のはいいんだが、なんか航路の風の様子がおかしい気がする。

 季節の変わり目に飛んだのは初めてだし、季節風を考えればいつもと違っていてもおかしくはないんだが…。

 風や嵐を操る古龍が居るからなぁ。

 ポッケ村付近だと…ゲームではクシャの方か。

 流石にアマツがこっちに移動してきてるとかは無い…と思いたい。

 

 

 

 

 とりあえず、風に流されてちょっと航路を外れそうになったが、無事ユクモ村に到着した。

 前回来た時に既にジンオウガは討伐済。

 残念ながら祭には参加できなかった。

 

 ちなみに大盛況だったらしい。

 ココット村で宣伝したのが、賑わいの一助になっているといいのだが。

 今も祭の名残が残っているのか、心無しか人の数が多い気がする。

 

 

 飛行船で着陸したところ、結構派手なお出迎えをしてもらった。

 一応ジンオウガを倒した英雄扱いって事なんだろう。

 多分次に来る時くらいにはもう忘れ去られてると思うけども。

 

 

 中でも喜んでくれたのは、受付嬢のコノハとササユだったんだが……あれは英雄を歓迎していると言うより、難関クエストをどうやって押し付けようかと考えてる顔だな。

 涼しい顔して相変わらずのドSである。

 二人でヒソヒソ話して、こっちにニッコリ笑いかけてきたんだが……ヒソヒソ話に心が傷つくより先に、壮絶な悪寒が走ったぞ。

 何やらせる気だ…。

 

 

 と言っても、立場的にはまだ精々が上位に上がり立てくらいなんだよな。 

 ハンターランクは地区毎に分かれて管理されているんで、ポッケ村上位ハンターがユクモ村に来たとしても、最初は下位ハンター扱いされる…レジェンドラスタ級になれば話は別だが。

 ただ、俺の場合は外回りハンターという初めての試みなんで、地区が違ってもハンターランクはある程度共有される。

 各地で受けた依頼を確認して、それを貢献度としてポイント化し、ある程度溜まったら昇格試験を受けられる、という感じで。

 で、今の俺はティガやらジンオウガやらを倒して流通を回復させたりした身なんで、それが高評価されて貢献度が溜まったって訳。

 そのトータルでの評価が、上位ハンターって事ね。

 

 受付嬢としてのルールは護っている子達だし、ハンターランクを無視してトンデモ依頼を押し付ける事は無い…と思う、多分。

 ただ、限界ギリギリまでコキ使われそうな気がするんだよな…。

 山篭りしてた頃は他にする事も無くて、特に苦痛には感じなかったが…今は色々やる事があるもんな。

 

 ふぅ…俺も疲れた大人になっちまったもんだ…。

 以前なら楽しみ(狩り)の為ならプライベート時間も休憩時間も平然と削っていたと言うのになぁ…。

 

 

 

P3G月冷蔵庫の中の掃除なら、鍋する時についでにできる日

 

 

 ユクモ村で第一に問題になっていたジンオウガは片付いた。

 となると、次に問題になりそうなのは、アマツがまず第一だが…すぐに動くタイプではないし、人が滅多に踏み込まない場所に居るので、とりあえずは問題なし。

 ヘタすると飛行船を撃墜されるけど。

 

 なら、もっと能動的に問題を起こしそうなのは……やっぱりイビルジョーだよな。

 なんでもかんでも食っちまうし、エサを求めて動き続けるから何処に出てくるかも分からない。

 …つまり居場所が分からないんで、討伐しようにも動くに動けない。

 未だに村の近くで発見されてないんで、クエストすら出ていない。

 

 

 …どうなんだろうなぁ。

 バタフライ効果云々を考えなくても、本能のままに動き回ってるから、他所に移動した可能性はある。

 更に言うなら、前ループで遭遇したのは完全に姿が見えないイビルジョーだった。

 何が切っ掛けであんな風に変質したのか、未だに理解できないが……MH世界にも霊力は存在したって事を考えると、いつ何が切っ掛けで同じ事になってもおかしくないと思えてくる。

 

 まぁ、今のところイビルジョーの被害者らしき死骸は発見されてないが…とりあえず情報を集めるか。

 通常のイビルジョーの弱点がどんな属性なのか知っておくだけでも大分違うだろ。

 

 

 

 で、狩りの調子なんだが…予想通り、受付嬢に色々無茶振りされている。

 と言っても、難関クエストばかり押し付けられている、という事ではない。

 クエスト自体はそこまで難しいものじゃないんだが……納品依頼がな…。

 集会所依頼をメインに押し付けてくるので、一人で20個集めろ、なんて依頼を連続で出してくるんだよ。

 あと、サブクエも全部達成してくれ、とかな…。

 

 とにかく時間がかかるし、正直つまらない。

 狩猟環境不安定で乱入してきたイャンガルルガを八つ当たりに狩ってしまった。

 すまんガルルガ、素材は無駄にしないから許せ。

 

 にしても、気のせいか?

 受付嬢の二人にしては……こう、何と言うか無理難題の押し付け方が違うと言うか…。

 難しすぎたり、ハンターへの殺意を隠さないクエストをあの手この手で押し付けて、ボロボロになってギリギリ達成できたハンターに「じゃあ次はコレね」って顔するのがあの二人の楽しみだと思ってたんだが。

 少なくとも、前ループで手紙越しにやりとりしていた時は、難しいクエストを任せてくる時ほど手紙の文字が躍っていたように思う。

 

 でも今のコレは違う。

 確かに一人でやるには面倒なクエストだが、時間は必要だけど難しくはない、トンデモモンスターが乱入してこない限りはそんなに危険も無い。

 受付嬢の二人にしては、何と言うか……大人しい?

 なのに二人とも妙に楽しそうだし、時々こっちを見てヒソヒソ話してニコッと笑う。

 ……うぅむ、影で笑われてるんじゃないかって気がしてきた。

 だがこの二人なら影で笑うくらいなら、正面からニコニコしながら無茶苦茶言ってきそうだし。

 

 …何か企んでるんだろうか?

 

 

P3G月気がつけば掃除の習慣が忘れられ、部屋中が散らかっている日

 

 

 聞いた事もないモンスターが出現した、そうな。

 名前はタマミツネ。

 どことなくキツネを連想させるような顔付きのモンスターで、頭に花のようなヒレがあるらしい。

 海竜種であり、普段はあまり陸上には上がってこない。

 少なくとも、ユクモ村付近に上陸が確認されたはこれが初めてだ。

 

 特徴としては、体液を使って作り出す泡。

 この泡に使われている体液は非常にツルツルヌルヌルしており、迂闊に足を乗せるとその場でスッ転んでしまうくらいに滑りやすい。

 

 ちなみにこれは実体験だ。

 ちょっと納品依頼で渓流に行ってたんだが、足元にあった体液に気付かずスッテンコロリンして納品物をブチ撒けてしまった。

 集めなおしたよガデェーム。

 しかもあっちこっちに同じような体液がバラ撒かれていたもんで、更に2回集めなおしたよファック。

 

 

 その時には一体何でこけたのか分からず、地面についていた液だけを「なんだこりゃ?」と思ってついでに持ち帰ってきた。

 ギルドに報告したところ、それはタマミツネの物だと教えられた訳だ。

 まだ実物に遭遇した訳じゃないが、飛び散っていた体液の場所や分布からして、陸上に上がって暫く行動していたのは明白だ。

 

 暫く居付くかどうかは…様子をみないと分からないな。

 一匹だけかも不明だし。

 

 

 で、採取してきたタマミツネの体液だが……使い道、どうしよう。

 武器防具の素材として使おうにも、体液だけじゃまるで足りない。

 ぶっちゃけ持ってるだけじゃなぁ…。

 とりあえず適当な空き瓶に入れて保管してるんで、ちょっとずつ乾いて無くなってしまうって事はないと思うが。

 

 

 

 ……ふむ、ぬるぬる……ぬるぬる………………。

 

 

 

 

 

 ローションか……イイネ!

 よし、シャーリーさん次に会う時を楽しみにしとけよ!

 

 それは置いといて、明日は休みの日だ。

 ここの所集会所の納品依頼ばっかりだったから、丸一日使い潰して休む暇も遊ぶ暇もなかったんだよ。

 さーて、明日は何すっかなぁ。

 

 

 

P3G月やはり寒いと外に出る気力が無くなる日

 

 

 折角の休みの日に、コノハとササユが押しかけてきた。

 いややる事も無いし休むつっても元気自体は有り余ってるからいいんだけどさ、アンタら受付嬢の仕事はどしたの?

 …今日は村付近のハンターが揃って出払ってるから、二人揃って休み?

 集会所の受付嬢が、村の受付嬢もやってくれる?

 

 まぁ、サボってんじゃないならいいけどさ。

 それにしても、近所のハンターが全員お留守、ねぇ…。

 随分な偶然もあったもんだな。

 そういや、俺以外のハンターにも集会所の採取依頼とか回してたようだったが…。

 

 何企んでるんだ?

 と言うか、村に居るのは休みの俺だけ。

 ……つまり緊急事態が起きたら対処するのは俺。

 休みが潰れる。

 

 

 …これが狙いか?

 いやしかし、流石に村の安全を脅かしてまで楽しもうとするとは……。

 

 

 

 それはともかく、結局何しに来たのん?

 俺が寝泊りしてるのは宛がわれたハンター用の貸家で、滞在してもそう長くは居られないから、暇を潰せるような私物も無いぞ。

 そりゃ話くらいは出来るが……色事抜きで楽しめるような話題と言われると…。

 

 

 …ポッケ村での事を聞きたい、とな?

 幽霊騒動やら遺跡発見やらで色々騒がしいと聞いてる……って、よく知ってるな。

 ギルドの速報か何か出回ってるの?

 

 …あるんだ、速報。

 あとハンターに向けての速報とか新聞も出されてるらしいが、すみません初耳です。

 元々ニュースとか殆ど見ない人だったんです。

 社会人失格ですねマジスンマセン。

 …ハンターに向けての新しいルールの知らせとかも乗るらしいんで、見てないと割と致命傷の可能性があるそうな。

 

 まー新聞については、後で読んでおけばいいでしょ。

 デスワープで何度も繰り返している身としては、一度読んで内容を覚えてしまえば、二度も三度も新聞を見る必要もなくなる。

 

 

 

 で、何だっけ?

 何の話が聞きたい訳よ。

 幽霊騒ぎに関してはわかっている事は殆ど無いし、遺跡に関してももっと分からない事だらけなんだが。

 と言うか何故にそんなに聞きたいのさ、休日に人の家にまで押しかけて。

 

 あ、これ茶菓子ね。

 

 

 はぁ、職務上の理由ねぇ…。

 こっちでも幽霊騒ぎが起きるかもしれないし、対処法とかあったら是非とも知っておきたい、と。

 言ってる事は大したもんだが、明らかに表情が面白がってるっぽいぞ。

 

 

 指摘したら建前ではなく本音が出た。

 曰く、「シャーリーさんから色々と聞かされていた」だそうな。

 受付嬢に限らずギルドメンバー同士で手紙を遣り取りするのは珍しい事ではなく、外回りハンター計画でそれが強くなっているのだとか。

 そういや、ポッケ村を出る時に手紙やら書類やら持たされたな。

 

 で、遺跡発見第一人者かつ、幽霊の専門家(らしい)俺の話を色々聞きたいと。

 インディージョーンズみたいな冒険譚とか、霊の世界はあるんですばりの怪談を期待されているようだが……うーむ、どっちも無いぞ。

 遺跡には入る事もできなかったし、幽霊は怪談つーよりはジェラシックパークみたいだったし…恐竜を正面切って返り討ちにするなんて、この世界じゃ珍しくもないからな。

 

 それでもいいってんなら話すけどさ…。

 

 

 

 

P3G月知らなかったのか…? コタツと布団からは逃げられない…日

 

 

 YESロリータNOタッチ、と人は言う。

 それには俺も賛成だ。

 別にょぅι゛ょに触れてはいけないとは言わないが、性的なニュアンスや悪意を持ってタッチするのはアカンやろ。

 尤も、それはょぅι゛ょに限った事ではない。

 実在の人物相手に不必要にタッチするのは、状況にもよるがセクハラとなる危険性が非常に高い。

 また、セクハラについては男女の区切りは無く、女性が男性に対して性的な言動による不快・不利益を蒙るものも含まれる。

 

 

 が、俺が今問題としているのは、少なくともお互いに不利益や不快を蒙ったものではない…と思う。

 俺としては若干精神的な被害を受けたような気はするが、ひどく落ち込むような事でもなかった。

 問題としているのは、だ。

 

 

 

 

 

 戯れに問う。

 

 

 

 

 

 合法ロリはYESロリータNOタッチに含まれるや否や?

 

 

 

 

 これに対する回答は幾つかパターンが考えられるだろう。

 YESロリータ…つまり合法ロリでもょぅι゛ょの枠に含まれるかどうか。

 そしてNOタッチ…性的な接触を良しとするかどうか。

 

 最低でも、この二つの組み合わせで4パターンが考えられる。

 互いに合意の上であるという前提で考えるが、外見が幼くても本当に合法ロリ…20歳以上であるならば、法的には問題ない。

 

 法的に問題が無いなら、突撃してもOKか?

 だが肉体的にはどうだ。

 見かけがロリなだけなら問題ないが、性的な行為をするとなるとやはり肉体が充分育っていなければ相当な負担になるだろう。

 

 そもそも、20歳以上ならOKというのは、人間用の法でしかない。

 この世界には、人間よりも遥かに長寿な竜人族という種族が居る。

 彼らの場合はどうだろう。

 

 年齢的には20歳以上、見た目はロリロリしく、そして種族的な寿命で考えれば……人間に換算すると、当局が怖くてちょっと公表できない年代になったら?

 

 

 

 …前置きが長々しくなったがな。

 

 

 要するに、受付嬢の双子に手を『出され』ました。

 恐ろしい事に、二人とも既に経験済みだったらしい。

 しかも手馴れていた。

 …二人で男を責めるのがやたら上手かった。

 危うく色々な意味で新境地に辿りついてしまうところだったぞ。

 ……うん?

 でもあの二人相手にするのに、俺も特に抵抗が無かったような…………だったら既に俺はその境地にたどり着いていたという事だな、新境地ではないな。

 問題はそこじゃない気もするが。

 

 

 と言うか、あの二人、お茶にクスリまで仕込んで手を出してきやがった。

 肉体操作術は使ってなかったとは言え、ハンターボディに効く薬とかどんだけヤバいもの使ってんだ。

 で、麻痺って動けなくなっている間に、二人がかりで…。

 

 あの二人が何考えてそんな真似をしたのかは改めて聞きだすつもりだけど、これってNOタッチに該当するか?

 あっちから仕掛けてきた上、薬物使って抵抗できない状態にされたのは事実だが、その後しっかり反撃もした…してしまった。

 被害者の側にNOタッチを破った事を責めるのは酷だろうが、今回の場合ヤられた分だけヤりかえしてしまっている。

 

 

 しかし、俺を挟んで前後左右からの囁きプレイに耳ナメとはまたマニアックな…。 

 その他、こっちが動けないのをいい事にあっちこっち弄り回してきやがって。

 ニッコニッコした表情のまま淫語を延々と囁かれて、俺もちょっとキレてしまったではないか。

 

 一体誰が仕込んだんだ。

 …でも慣れた様子に反比例して、ナカの具合はあんまり経験豊富ではなさそうだったし……よもや天然か?

 あの二人の性格を考えると有り得そうなのが恐ろしいところだ。

 竜は多淫というし、竜人族もそうだったとしてもおかしくは無い。 

 

 

 

 で、結局どうなったかって?

 …言ったろ。

 「ちょっとキレてしまった」って。

 俺の体だと薬物だって効果が長く続く訳じゃないんだし、そりゃ二人纏めて逆襲しましたが。

 

 コノハとササユ?

 俺のベッドで気絶してるよ。

 

 

 



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122話

集会所クエスト

   みんなでやれば
 
       キモくない

或いは猫の解体術(大)
3度目の挑戦にして、10分足らずでクリアできました。



だがキモクエ考えた奴もそれを通した奴も許さん!
入手確立20%って絶対嘘だよ!
物欲センサーさんが待ち構えてやがるよ!
TAHIねばいいのにッ!


P3G月もう2月かぁ日

 

 

 シャーリーさんにどう言い訳しよう、と慌てたりしない辺り、フタマタミツマタが恒常化している俺である。

 と言うか状況的に酌量の予知ありだろう。

 クスリ使われてたら普通は勝てないって。

 動けるようになった後も……まぁ、精力剤とか興奮剤とか媚薬とか、その手の効果は続いていたようだし。

 続いてなくても結果は変わらなかったと思うが。

 

 

 それはともかく、何故にこんな事をしたのかと二人に問い詰めてみた。

 ちなみに二人とも既に起き出していて、腰が痛いとか尻に違和感があるとかブツブツ文句を言いながらも、普段通りの平然とした表情だ。

 今日は昼から受付嬢の仕事らしいんで、既に着替えも済ませていた。

 最初から泊まるつもりで持ち込んでいたらしい。

 

 

 で、二人の答えだが……興味が出たから、と。

 それだけで一服盛ったんかキサマラと言いたくなったが、もうちょっと聞いてみる。

 

 何でも、二人はシャーリーさんとは付き合いが長いらしい。

 それこそ、シャーリーさんの恋人が生きていて付き合い始めた頃まで知っているとか。

 竜人族だけあって、外見と年齢が比例せんな。

 

 ギルドの受付嬢としても私人としても、ちょくちょく手紙の遣り取りをしており、恋人の幽霊が見える、という話も聞いた事があったそうな。

 それだけに、今回の一件は心配だったそうだ。

 幽霊騒ぎが真実なのか幻覚の類なのかはともかくとして、シャーリーさんがそれを見て、それが恋人の霊の仕業だと考えているのは間違いない。

 年月を経て立ち直ってはいたが、またしても精神的なショックで崩れてしまうのではないか…と心配してていた。

 

 

 が、幸か不幸かそれは杞憂となる。

 幽霊騒ぎは解決され、シャーリーさんの恋人は埋葬されて成仏し、更に続けて謎の遺跡発見やら何やらイイ人っぽいのが出来たとか、ホラー映画が三流大人向け(爆笑)恋愛漫画みたいな展開にモードチェンジ。

 ああそりゃ確かに意味分からん展開だわな。

 具体的には観測者次元(別名・笛吹き男の出現地)でページの一部に表示される乙女ゲームのバナー広告くらい訳が分からんわ。

 

 で、まぁシャーリーさんが元気そうなのはいいんだが、妹分(みたいなもの)が悪い男に騙されてないかも心配だし、それより何より手紙に書かれたノロケ(一体ナニを書いたのやら)にイラッと来たもんで。

 妹分の新しい恋人の本性を見定める…という建前の元、「ちょっとイタズラしてみよっか。私達もご無沙汰だし、スッゴイって書いてあるし」みたいな話になってしまったらしい。

 そこれそ、頭の悪いエロマンガのシナリオバナー広告並みに意味不明だっつぅの。

 

 

 で、結果はというと……普通に文句アリ。

 自分達から手を出たのを棚に上げて、「恋人が居るのに、こんな子供を相手にサルみたいに盛ってる男はね~」とか言われたよ。

 しかもニコニコしながら……ううむ、その口調で言われると昨晩の事を思い出してムラッとくるではないか。

 余裕ぶっこいていた所に二人纏めて逆襲カマして、顔が涙とヨダレとアレな液でベチョベチョになるまで責めてやるのは実に楽しかった。

 

 …で、結局ナニが言いたいわけ?

 シャーリーさんと別れろ、と?

 

 

「別に~。 ちゃんと告白とかして付き合ってるんじゃないみたいだし」

「私達がなにを言っても、本人の決めた事だしね~」

「レイリョク云々は私達には分からないけど、幽霊を相手にできる何かって事は事実みたいだもの」

「つまりシャーリーを助けてくれたのは事実っぽいわ」

「あまり酷いようなら、シャーリーに色々告げ口しておこうと思ったけど」

「下半身はともかく、ちゃんと仕事をするハンターだし、詐欺師の類でもなさそうだし」

 

 

 左右から同時に話しかけるな。

 むぅ、囁きプレイはこうやって練習してたのか?

 となると日中からエロい事の練習をしている事になる。

 

 …んじゃ、どうしろと。

 

 

「思ってたより、ずっと凄かったからね」

「私達もちょっとハマッちゃったみたい」

「また来た時に、私達と遊んでくれるなら、シャーリーには黙っておく…」

「なんだったら、こっちからシャーリーを説得するわよ。 興味ない?」

 

 

 

「「 現 地 妻 」」

 

 

 ……なんと頭の悪いエロゲ的ストーリー。

 だがそれがイイ!

 

 

「じゃあ決まりね?」

「確か、ココット村にも外回りをするんだっけ」

「そっちで新しい現地妻が出来たら教えてね」

「私達は別にいいけど、増やしてシャーリーが怒ってもそれは知らないから」

「愛人の管理は自分でやってよね」

「私達も、あんまり放置されると怒ってとんでもないクエスト押し付けちゃうからね」

「むしろ今から押し付けても許されるんじゃない?」

「私達をあんなに好き放題したんだものね」

 

 

 …ヤバい気配がしてきたんで、デコピンで止めた。

 そっちから仕掛けてきたんだから、正当防衛だ、正当防衛。

 性犯罪は女⇒男でも成立するんだよ。

 

 明らかに過剰防衛だって?

 ヤらなきゃヤられると思って夢中だったんだよ(棒読み)

 

 

 

 …欲望に流されて即決してしまったが、後悔はしていない、多分。

 ……二人の種族的年齢を聞いた時には流石に「ヤバい」と青褪めたが、うん、正当防衛だ。

 そして今後は合意の上だ。

 種族的にはともかく、実年齢的には問題ないし、そこまで細かく法は定めていない…いなかった筈だ。

 

 

 

 

 しかし…こいつら結局、合法ロリなのか違法ロリなのか…。

 

 

 

P3G月もうすぐ大学生アルバイトが大量に居なくなる日

 

 

 ユクモ村での夜の生活が充実したのはともかくとして(昼でもヤれるが)、狩り…ではなく、今はここには居ない正宗の話だ。

 砂漠で出会い、ジンオウガにちょっかいを出すのを経て俺に捕獲され、ニャンターになるという触れ込みで連れて行かれたアイルー。

 ギルド側としてははっきり言って厄介者扱いされていたのだが、それでも居なくなれば気にはなるらしい。

 どっちかと言うと、また戻ってきてトラブルを起こすんじゃないか的な意味でだが。

 

 また、ここの加工屋のおっちゃんとしては、折角作ったニャンター用装備がちゃんと活用されているかも気になるようだ。

 土産話を期待しているところに悪いが、正直まだ活用できているとはとても言えない。

 何せまだ訓練所でアレコレ手探りでやってる段階だもの。

 

 まぁ、気紛れの代名詞みたいなアイルーなのに、逃げもサボりもせずにしっかり訓練やっている事は広めておいた。

 いつか正宗が故郷に錦を飾ろうと帰ってきた時、少しでも偏見の目が減ればいいのだが……散々迷惑かけてたんで、最初がマイナスからのスタートなのは仕方ない。

 それでも少しは楽になってくれればいいと思う。

 ま、そこを乗り越えてこそのハンターニャンターなのも事実だけどね。

 

 

 

 さて、正宗の話はこれくらいにして、今度こそ狩りの話だ。

 先日、ユクモ村付近に上陸されたと考えているタマミツネ。

 差し当たっての調査はこちらとなる。

 イビルジョーも気になるが、今のところギルドの方にも情報は入ってきてないからな。

 

 個人的にも、コイツの調査を任せてくれるのはありがたい。

 何故って?

 

 ローショ…もとい、体液をもうちょっと集めたいからな。

 使う相手も増えた事だし。

 

 しかし、タマミツネねぇ…。

 前にユクモ村に居た時には、延々と山篭りしてたから分からなかったが…そんなの出てきてたのかな?

 いや、前回出てこなかったからって今回も居ないとは限らないんだけども。

 

 現状、デスワープ直後はどの世界でも、常に同じ状況が保たれている。

 雲の位置、オウガテイルの配置、それこそ今以て法則性が全く見つけられない異界の位置でさえも。

 俺が常に同じ位置同じ状況同じ世界、俺以外のありとあらゆる要素が同じ場所からスタートするのだとしたら…それ以降の何かが(バタフライ効果だとしても)世界に影響を及ぼした挙句、タマミツネがユクモ村に上陸する結果になったと考えられる。

 ……どうだろうな、理解も予測もできないや。

 

 

 

 ともかくタマミツネだ。

 奴さんが居たのは、渓流のある地点。

 そこを中心に調査したところ、あれ以降も度々タマミツネが上陸していると思しき痕跡を発見した。

 実物を見た事が無いんで、同じ個体かどうかは判別がつかない。

 が、割と頻繁に出てきているのは確かだろう。

 回収したロー…体液の乾き具合が全く違う。

 

 タマミツネは海竜種だ。

 陸上でも活動できるが、本来なら自分から陸に上がってくる事は無い。

 妙なところで奥が深いこの世の中だから、日光浴とかお月見くらいならするかもしれないが、この頻度は無いだろう。

 となると……原因も気になるが、もっと身近な心配がある。

 

 

 タマミツネを陸上まで追い立てる「何か」が居たとして。

 それが追い立てるのは、タマミツネだけなのか?

 

 

 

 

 答えは目の前に居る。

 

 

 龍と呼んでなんら違和感の無い、蛇をもっとゴツくしたような青い体。

 全身から電撃を放ち、とぐろを巻いて、ベースキャンプで日記を書いてる俺の前までわざわざやってくる、海竜にあるまじきその行為。

 と言うかそもそもお前、何でユクモ村に居るんだよ。

 

 

 

 ラギアクルス、よく分からんけど明らかに行動が異常バージョン。

 コイツは確か、肺呼吸だったから陸上に上がってきてもおかしくはないが、移動スピード、全身から常に発せられ続ける電撃、そして気配を消して隠れていた俺を察知した感知力…。

 

 何より、自分の領域である水の中とは言え、イビルジョーをほぼ無傷で仕留めて、何故かそれをわざわざ陸上にまで持ってくるその筋力。

 …そう、仕留めちゃってるんだよね。

 とぐろ巻きながらイビルジョーの死骸をムシャムシャしてんのよ。

 ビショ濡れだから、途中で拾って持って来たんじゃなくて、多分空腹に狂ったか足を踏み外しておっこちたイビルジョーを、海中で仕留めたんだろう。

 

 

 

 ハァ…こいつも規格外っぽいな。

 霊力も会得してると思った方がよさそうだ。

 さて、コイツを相手にどう対処するか。

 

 

 あれ?

 あっちの後ろにいるのってタマミツ

 

 

 

 

P3G月日本酒も結構イイね日

 

 

 ガチでヤバかった。

 これ程に厄介な相手と戦ったのは何時以来か。

 回復アイテムも使いきり、狩り技も全て駆使し、神機も使って霊力を振り絞り、本気で追い込まれて副作用も分からず一発逆転狙いでアラガミ化し、最終的には鬼杭千切を『連射』までしてようやく…。

 

 タマミツネってあんななのか?

 それともアイツだけが妙に獰猛化してたり、妙な仇名を貰うくらいに強かったのか?

 そして、タマミツネってラギアクルスと連携するのか?

 

 ああまで追い込まれたのは初めてじゃなかろうか。

 と言うか、モンスターが本格的に連携するとあれほどヤバいんだな。

 リオ夫妻なんてメじゃないくらいにヤバかった。

 

 考えてもみてくれ。

 水中とは言えイビルジョーさえ仕留めるラギアクルスが、滑って接近してくるんだぜ?

 そう、滑って、だ。

 

 タマミツネの泡を使ってな!

 スケートみたいにツルツルと滑って、モンスターだというのに慣性の法則を存分に使いきって勢いのままに壁を昇るは、滑りながら電撃バチバチ振り撒くは、それがあっちこっちに残って罠になるは。

 

 タマミツネはタマミツネで、初めて戦ったが泡を振り撒いて俺の体を泡塗れにしてくる。

 何のつもりかと思ったが、まさか機動力を削ぎにきていたとは…。

 摩擦がまるで無くて、ゴッドイーター式ジャンプまで出来なくなっちまった。

 

 …で、泡ってのは体液であり、つまりは水分な訳だ。

 そこへ電撃だ。

 あとは言うまでもないだろう。

 

 挙句、アレは何か。

 どこの浪漫技だ。

 

 滑ってくるラギアクルスの上にタマミツネが飛び乗って、ラギアクルス突撃の勢い+その上から跳躍+桃色の泡を出しながら大回転体当たり…。

 突撃してくる時に2匹と目が合ったが、幻聴すら聞こえたよ…。 

 

 「刮目せよッ!!」「これぞ我らの!」 「乾坤一擲の一撃なりィィィィッ!」って。

 

 いやもう、ガチでヤバかった。

 あの瞬間に後先考えずアラガミ化してなきゃ、確実にデスワープしてた。

 ちゅーか、アラガミ化した装甲でもあと一歩で致命傷だったぞオイ…。

 絶対に熱血とか魂とか直撃とかかかってた。

 

 何とか耐えて、閃光玉で視界を塞いで回復薬グレートやら回復錠改やらミタマの力で強引に体を再生し(メッチャ苦しかった)、シビレ罠・不動金縛り・ホールドトラップを一箇所に纏めて仕掛けて、かかったラギアクルスに鬼千切。

 前足と胸を部位破壊した時の悲鳴を聞いて、タマミツネが突っ込んできた。

 だが視界が塞がったままなので、俺ではなくラギアクルスに思いっきりぶつかる。

 

 その一瞬がチャンスだった。

 大質量がぶつかりあってよろめき、無防備に急所を晒している。

 壁を蹴って飛び上がり、まずはラギアクルスの顔面に取り付く。

 暴れだす前に、眉間に鬼杭千切。

 

 反動で動けなくなりそうな体を無理矢理動かして、立ち上がろうとしているタマミツネの背中に着地。

 首筋にもう一発鬼杭千切。

 

 結果的には、一発ずつの攻撃で沈めた形になったが……よく上手くいったもんだ。

 鬼杭千切の反動で、アラガミボディもかなり痛んだし……元に戻ったら戻ったで、気絶するような苦しさだったわ。

 念の為にベースキャンプのベッドに戻ってから、変身解除してよかった。

 

 翌日、ユクモ村のハンターが、帰ってこない俺を探しに来てくれたそうだ。

 モンスターが本来入ってこないはずのベースキャンプで戦いの跡があるは、イビルジョーの食われかけた死体はあるは、バカでかいウミヘビとキツネが額に風穴開けて転がってるは、それをやったと思しき俺は平然と寝てるんだか気絶しているんだかで、文字通り死ぬほど驚いたらしい。

 実際意識が飛んだそうな。

 心臓が止まったかは定かではないが、なんか角のあるティガレックスが川の向こうで遠吠えしてるのが見えたとかなんとか…。

 

 

 

P3G月鍋を色々試し中日

 

 突発的に遭遇した異常個体だったが、思えば霊力らしい霊力は感じられなかった。

 んじゃ何か?

 あの戦闘力とコンビネーションは、突然変異でも何でもなく、あいつら自身の力だったのか?

 それはそれで突然変異だが。

 

 とりあえず、ラギアクルスとタマミツネが…というより、ラギアクルスが他のモンスターと共闘したという話はギルドでも聞いた事はないらしい。

 そりゃそうだ、ラギアクルスは大海原の主と言われるくらいに強力で、海の生態系・食物連鎖の頂点に立つ生物だ。

 そんな奴が、一体何と共闘する必要があると言うんだ。

 

 …まぁ、この世界にゃラギアクルスでさえ一蹴しそうなバケモノが結構居そうだが。

 

 

 

 何はともあれ、ラギアクルスとタマミツネが一緒に行動していたという報告は受け入れられた。

 状況証拠が山のようにあるからな。

 死体から攻撃の跡、更にはラギアクルスの体に残っている泡まで…。

 

 これがこいつらだけの特別な習性…或いは絆ってやつだったのか、それとも種族的にそういう性質があるのかは分からない。

 だが、こんな風にモンスターがコンビや軍団を結成したら、その危険度が跳ね上がるのは言うまでもない。

 方向性は違うが、いつぞやの煽動型クルペッコがいい例だろう。

 

 

 とりあえず、見た目は回復しているが、ダメージが体の芯に残っているようだ。

 暫く休んだ方がいいだろう。

 幸い、今回のラギアクルス・タマミツネの狩猟で、外回りのノルマは余裕でクリアしている。

 ココット村に行くまで、少し体を休めた方が良さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訂正、半日と経たずに絶好調になった。

 何でって?

 ほらアレだ、オカルト版真言立川流って、ナニしてエネルギーを高めるもんで、やろうと思えば相手から吸い取る事もできる訳よ。

 

 そして俺の部屋には、俺が寝込んだのをイタズラのチャンスと思ってやってきた生贄が二人ほど転がってる訳でね。

 

 やっぱ3人でヤるとエネルギーの増幅量がスゴいわ。

 

 

 

 と言うか、それだけで体が治るってのもおかしな話だ。

 確かに見た目の怪我は既に治っていたが、エネルギーさえあれば不調も何もかも回復するというのは、カロリーさえ摂ってれば骨折も病気も治ります、って言ってるようなもんだ。

 カロリーは回復に必須だが、過剰摂取したところで脂肪になるだけだし、カロリーを十分に摂っていたって肉体の修復、神経の休息には時間がかかるのが当たり前だ。

 

 …察するに、蝕鬼の細胞が増幅されたエネルギーを浸食して取り込み、ゴッドイーター細胞がそれを元にして妙な力を発揮して体を再構成した…のかな?

 まぁ、人間離れしてるのは今更だ。

 便利な体質とだけ思っておこう。

 

 

 さて、元気になって、更にエロ的な意味での遊び相手もダウンしてるんじゃ、真面目に狩りするしかないだろう。

 トンデモモンスターは何とか倒したが、ソレがアレ一体ずつだとは限らない。

 少なくとも、奴らを地上に追いやった『何か』が居るのは確実だ。

 それがユクモ村に居るかはともかくとして。

 

 探すだけ探して何事も無ければそれで良し、か。

 そう言えば、少なくともこの辺のイビルジョーが一匹減ってるんだよな。

 ラギアクルスがムシャムシャしてたし。

 

 ひょっとしたら、この辺にはもうイビルジョーは居ないのかもしれない。

 その辺も含めて調べてみるか。

 

 

 

P3G月ちゃんぽん禁止。麺類なら可日

 

 とりあえず、イビルジョーの痕跡は発見できない。

 まぁあんなのがすぐに見つかるレベルでウロチョロしてたら、生態系に大ダメージ待った無しだから、ある意味当然かもしれないが。

 

 代わりに、タマミツネらしい痕跡は新たなものが発見された。

 俺としてはローション集めが捗るんで好都合だが、また他の種族と合体攻撃するタマミツネが出るんじゃないかという不安もある。

 ギルドから貰ったタマミツネの生態には、比較的大人しい種族で、テリトリーに入った侵入者でも、攻撃を仕掛けてこない場合は見逃す場合も多いと言う。

 ならば、何らかの方法でコミュニケーションを取れれば、あのラギアクルスのように種族を超えて仲良くする方法もあるのかもしれない。

 

 尤も、そのコミュニケーションを取るのが、ハンターにとっては非常に難しいんだけども。

 他のモンスターの例に漏れず、相手がハンターだったら即座に臨戦態勢に入るのだとか。

 

 

 …タマミツネが二匹並んでスピヨスピヨと寝てるシーンが思い浮かぶ。

 ああなんか和むな。

 その後に、ツインバブルストライクとか叫びながら強烈なコンビネーションアタックを仕掛けてくるところまで思い浮かんだ。

 ああ、泡に溺れて溺死しそうだな。

 

 

 しかし、ラギアクルスはともかくとして、タマミツネは種族単位で上陸してきているんだろうか。

 そうなるとタマミツネを追い立てている存在が何なのか、非常に気になってくるが…海の中だろうなぁ。

 水中戦……確かMH3にあるって聞いた事があるような無いような。

 …MH3G限定だっけか?

 

 水中ともなれば、あらゆる意味で勝手が違うなぁ…。

 俺も完全な初心者として考えた方がいいか。

 そもそも、水の中で動く事なんて今までのループでも一回も無かった。

 考えてみりゃプールにも海水浴にも行ってない。

 ……泳ぐコツとか忘れてカナヅチになってなきゃいいけどな。

 そもそも鎧や武器を持ったまま泳げるような浮力を持った覚えは無いけども。

 

 

 というか、実際沈むだろ物理的に考えて。

 立ち泳ぎでどうにかなるレベルじゃないよ絶対。

 水中専用の装備作らないと、水中での狩り以前にロクに移動もできないって。

 

 水中でタマミツネの泡を受けたらどうなるんだ?

 ヌルヌルが水ですぐに洗い流されるのか?

 それとも水と体の摩擦(?)が少なくなって泳ぎにくくなるのか、或いは逆に抵抗が少なくなってすいすい動くようになるのか?

 重い石鹸を水中に沈めたらどう動くかって話だよな。

 

 興味は尽きないが、実験する訳にはいかない。

 そんな事に使わず、体液はエロに使う。

 

 

 

 ま、水中戦はまた今度だ。

 興味深いが、それ以上に今は狩り技やスタイルを身につけておきたい。

 これが一段落して、次のループ…はフロンティア行きを予定しているから、その次くらいに試してみるとしよう。

 水中用のスタイルってのも面白そうではあるが…。

 

 

 完成したらアッガイスタイルと名付けよう。

 多分この世界じゃ誰もわからないけども。

 

 

P3G月そういえばスパロボの新作発表きましたね日

 

 ココット村へ出発する日が来た。

 コノハとササユは相変わらずニコニコしているが、最近ちょっと表情の見分けがつくようになってきた。

 …あれはまた何かイタズラ企んでいる顔だな。

 シャーリーさんに妙な事を吹き込まなきゃいいが。

 

 …いや、後先考えず現地妻なんて言葉に飛びついた俺が悪いんだけどさ。

 毎度毎度女関係で破滅してるのに、どうして懲りも学習もしないかねぇ。

 してても同じ選択を選んだとは思うけども。

 

 せめて命に関わらない程度に刺されるよう祈るばかりである。

 

 

 それはともかく、出発前にユクモ村付近の天候の情報を集めてみる。

 相変わらず、霊峰付近に強い嵐が留まっているようだ。

 やはりアマツが居ると見て間違いあるまい。

 

 前回は運よくアマツに遭遇せずにココット村に到着できたが、今回はどうだろう。 

 ものすごーくイヤな予感がする。

 だって霊峰の嵐、遠目にも明らかに激しくなってるもの。

 雷は見えるし、双眼鏡で見たら竜巻も起きてるっぽいし、霊峰の麓付近の川の流量も増えているようだ。

 放っておけばその内鉄砲水くらいは起きるかもしれない。

 

 ユクモ村からココット村へ飛ぶには、どうやっても風の都合上、あの嵐付近を飛ばねばならない。

 流石に嵐の中を突っ切ってまで次へ向かえ、とは言われないが、経由して向かえとは言われる。

 

 実際、近くを飛ぶだけならそう危険じゃない。

 風が強くても、龍暦院の飛行船なら充分耐えられる。

 

 問題は、俺を感知したアマツが追いかけて来ないか、この一点だ。

 

 

 スゲェ不安だ。

 というかもう言うまでもないだろうが、確実におっかけてくる。

 今回の外回りだって、ミョンもとい妙なモンスターに散々遭遇して絡まれている身だ。

 アマツでなけりゃ、もっと他の何かが追いかけてくる。

 少なくとも何事もなくココット村に辿り着くことだけは絶対にない。

 

 アマツに狙われて、飛行船ごと落下…。

 これは正直、大した事はない。

 崖の上からキリモミ落下しても平然としているハンターボディだ。

 それに加えて、直前に反応さえできれば、イーグルダイヴで狙ったところに着地できる。

 嵐の及ぶ範囲=霊峰の範囲内だから、最初から川の上付近を飛んでいればセーフティゾーンは確保できる。

 下が川か藁なら、後はどうとでもなる。

 

 

 最近、もうちょっとアラガミ化を進化させれば、空も飛べる筈な気分になれる気がしてきたが、少なくとも今ではない。

 本当にその時になったとしても、脱法してないトべる薬物的な意味で空を飛ぶだけのような気もしているが。

 そういや狂龍ウィルスがそっち系の薬品と言うかウィルスっぽいな、雰囲気的に。

 

 

 

 話は逸れたが、上手いことアマツから逃げられるといいんだが。

 飛行船の操作については、風を掴むのは大分上手くなったと思うんだが、その風が自然の風じゃない。

 いかにアマツマガツチでも、周囲の風の全てをコントロールしてる訳じゃないと思うが、逆に言えば近場の風ならコントロールできるという事だ。

 狙いを付けられたら一溜まりもないし、そうでなくても大気は繋がっている。

 アマツが何気なく操作した風が波紋を呼び、飛行船にとって致命的な波風を起こす事だって考えられる。

 まぁ、それを言い出したらキリがないが。

 

 

 さぁて、どうやってアマツを掻い潜るかね。

 

 

 

 




新作スパロボ、いつになるかなぁ…とりあえず17年以降は確定か…。


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123話

モンハンやる時間が中々確保できないので、那珂ちゃんのファンやめません。
もとい気晴らしに投稿します。

出勤まで時間が無いので、感想返しは次回投稿時に纏めてさせていただきます。
最近、2日間投稿とまとめて感想返しばっかりやなぁ。


P3G月清酒も中々イケる日

 

 

 ①まずクエストを受けます。

  代表的なもので言えばリオレウスかリオレイア…番になっていて、空を飛ぶモンスターが望ましいです。

  番じゃなくても、空を飛べれば問題ありません。

 

 ②次にクエストを失敗します。

  より正確に言えば、かなーり手酷く痛めつけ…番になっているモンスターが居るなら、片方だけを狩ってしまうのも有効です。

  そして自分のニオイを覚えさせ、適当に、なるべく腹立たしい風に煙に巻きます。

  こやし玉とか大活躍するでしょう。

 

 ③飛行船の準備をしたら、②で痛めつけたモンスターに自分を見せ付けるようにして飛び立ちます。

  そしたらモンスターが追ってくるでしょう。

  追いつかれず引き離さずの距離を維持して、高度を上げていきます。

 

 

 

 ④アマツの領域に入り込んだモンスターが襲われます。

  その間に俺はさっさと領域離脱してハッピーイェー。

 

 

 

 

 

 …まぁ、そんなに上手くはいかなかったけどね。

 似たような事はやったんだよ。

 そしてそういう計画も考えてはいた。

 ただ、実行する気がなかった事も信じてほしい。

 

 例えば友釣り戦法が非常に効果的な事は否定しないが、それだけに使うべき状況を考えなければならない。

 モンスターの番の片割れを意図的に殺害し、その怨恨を利用するなんぞ…不可能ではないが、確実にしっぺ返しがある。

 しかも自分だけでなく、周囲に対して。

 これはハンターとしての規律であると共に、自然と共存しようとするハンターの端くれとしての信仰のようなものだ。

 自然の中で己が行った行為は、必ず己に帰ってくる。

 だからこそ、偽善と言われようと獲物に対して敬意を忘れず、行動に線引きをせねばならない。

 尤も、この理屈で言えば、己に帰ってくるコトがどれだけ凄惨なコトであろうと、それを良しとするならば…どんな行為も可能となってしまうのだが。

 

 

 ちょっと話はそれたが、とにかく計画だけは考えており、それを実行する事は良心が咎めた。

 そこまでする必要もないと思ってたしね。

 

 でもなぁ、計らずもそういう状況になっちゃったんだよ。

 そうなったんなら、まぁお膳立ても整えられている訳だし、利用しなきゃ損だろ?

 

 だから、予想通りに俺を見つけて食いついてきやがったアマツの目を逸らす為に、生贄にした訳だよ。

 

 

 

 

 

 

 クシャルダオラをな!

 

 

 

 

 いやもうビビったビビった。

 出発直前に雪山の様子がおかしいから調べてくれって依頼が入って、時間的にも余裕があったんで行ってみたんだが、まさか古龍が居るとは…。

 確かにモンスターの気配が殆どしないから、脳内危険信号がメッチャ荒れ狂ってたけどさ。

 雪山中腹の洞窟からそっと外を伺おうとしたら、逆に洞窟に首を突っ込んでくるなんて誰が予想できるよ。

 しかもその後空気ブレス連発してきやがって、洞窟が崩落するかと思ったわ。

 

 

 が、逆にその状況はチャンスでもあってね。

 洞窟に首を突っ込んできてるって事は、飛ぶ事もできないし、体を振り回す事もできないって事だ。

 つまり俺が注意するのは、首の動きと洞窟の崩落だけでいい。

 ぶっちゃけ後者がある時点でほぼ死亡確定だけども。

 

 もう必死こいて殴りまくったよ。

 強引に風圧を押し返して、大剣で頭をガンガンと。

 今思えば、クシャの頭にタンコブすらできていたように思う。

 最終的には、目が半分トんでたクシャに、富獄の兄貴直伝のオラオラすら叩き込んだ。

 神機持って来てりゃ確実に鬼杭千切使ってた。

 そこまでやってようやく撃退。

 ったく、普通の鬼やモンスターなら、部位破壊通り越して瀕死状態になってるぞ。

 

 

 まぁ、それはともかく撃退な訳よ。

 討伐できた訳じゃなくてね。

 俺だって必死こいてやったんだよ。

 そりゃ確かに、アラガミ化とか神機使用とか色々手札残してたから、必死と称するにはあまりにも温いけども。

 少なくとも、オラオラの後に口に大樽爆弾Gを突っ込んで、放り投げたこやし玉で爆破する程度には必死だった。

 こやし飛んできたけど、エンガチョとか言ってる暇なかったよ。

 だって崩落始まったし。

 

 というか考えてみりゃ、ゲームだとあそこじゃ爆弾使えないような…まぁいいか。

 

 とにかく、崩落が始まったと思ってさっさと麓に逃げた俺だけど、結局完全には崩落しなかったみたいで…いやそれはどうでもいい。

 クシャルダオラを妙な形で撃退してしまった事こそが重要だ。

 一応、ギルドにはクシャルダオラ出現の報告をして、その対応はG級なりレジェンドラスタなりを呼んでどうにかしてもらおうって話になったんだ。

 

 で、後は任せたとばかりに飛行船で出発した……逃げてないよ、ちゃんと話の方針が決まるまで話し合いに参加してたよ……んだけど…。

 

 

 

 そこまでやられた古龍が、俺を見逃す筈が無かったって事ね。

 飛行船で飛び立った俺を発見したクシャルダオラが追いかけてくるのはスゲェ怖かった。

 そのままアマツの領域まで行ったのは、半ばヤケクソだ。

 というかクシャの操る乱気流で、飛行船がロクに操縦できない。

 

 そこまで逃げ切った俺を褒めてほしい。

 空気砲ヤメレ。

 せめて雪山での遭遇の時に、角を叩き折れてりゃこうまで風に翻弄されずに済んだろうに。

 

 …ただねー、それが結果的には幸運だったと言うか何と言うか…。

 禍福はアザゼルを縄で吊るすが如きって本当だわ…なんか語感が違うけど、それは置いといて。

 

 多分、クシャルダオラの風を操る能力が、アマツの気に障ったんだと思う。

 自分の領域である筈の嵐の中で、自分以外が風を、嵐を局部的とは言え操っている。

 それに気付かれたのがクシャの不運で、俺の幸運だ。

 

 

 俺のナワバリでナニ好き勝手やってんじゃボケェ、と言わんばかりに、雲間から顔を出したアマツが、クシャをグジャッと…。

 いやギャグで言ってんじゃないんだよ、マジでグロ画像だった…弾けた…。

 アレか、空気圧の問題で、空気が沸騰しやすくなるのと同じか。

 古龍が内側から弾けるシーンなんてそうそう見れるもんじゃないよ。

 

 

 

 …まぁ、ナンだ。

 結果的に、アマツはクシャをムシャムシャしながら何処かへ(多分霊峰だ)去っていき、俺はコソコソと雲に隠れてココット村へ向かった訳だ。

 

 

 更にココット村に下りる前に、雷を放つモンスターに襲われたがな!

 アマツ見た後には大した威圧感もなかったんで、そのまま飛行船で体当たりカマしてくれたわ。

 

 …ちょっと壊れた。

 飛行するのに問題がある程じゃないが、怒られそうだなぁ…。

 まぁでも、龍暦院の連中に一つアイデアをプレゼントできそうだし、多分それで機嫌直してくれるだろう。

 

 飛行船の先端にドリル付けようぜ!

 とっつきでもいいけどな!

 いっそ鬼杭千切用のパイルバンカーを、と思ったけど反動で確実に飛行船が崩壊する…。

 

 

P3G月熱燗よりも冷酒日

 

 

 表現はともかくとしてだな、飛行船が幾つも撃墜されている現象があるのに、いつまでも無防備でいるのは如何なものか。

 対抗手段の一つくらいつけてもいいだろう。

 砲門の類は、弾込めの手間やら照準をどうやって付けるやら、反動で飛行船が揺れるやら色々問題がある。

 

 だったら、最初っから最終兵器・超大型回転衝角してしまえばいいじゃない。

 対龍型聖剣エクスカリバールドリィィィィィルしてしまえばいいじゃない。

 ドリルなのかバールのようなものなのかは知らんけど。

 

 

 

 

 まー寝言と浪漫が実現可能かどうかは龍暦院に任せるとしてだな。

 色々と考える事が多くある。

 

 例えば、先日ヤケッパチでやってしまったアラガミ化とか。

 モンスター達の異常な行動とか。

 遺跡の事とか。

 ココット村での狩りの事とか。

 恐竜ウィルスの事とか。

 

 

 

 現地妻の事とか。

 

 

 

 色々があるが、一度に考えても仕方ない。

 優先順位をつけて考えよう。

 

 まずはアラガミ化の事から。

 自分の体の事だけに、今回ループがどれくらい続けられるかに直結している。

 

 

 蝕鬼の触媒に蝕まれてから、迂闊に変身するとどうなるか分からなかったからな…。

 下手をすると変身すらできなかったり、変身した途端にデスワープの可能性も考えられた。

 が、先日の一件で止むに止まれず変身したが……うん、少なくとも今すぐどうこうなるって事は無さそうだ。

 

 それどころか、なんか逆にパワーアップしていたようだ。

 具体的には、体の装飾(?)が金色になっていた。

 再生能力が一気に跳ね上がり(鬼杭千切を連発できたのもこのおかげだ)、何となくだけど新しい『ナニカ』が撃てるようになった気がする。

 

 ただ、短時間しか変身できないのは相変わらずだ。

 むしろ、以前よりも変身持続時間は短くなった気がする。

 体が変化してから、体内のエネルギーの流れやら隠された機能やらがある程度自覚できるようになったんだが………なんというか、やはり今の変身は不完全な状態のようだ。

 

 元々アラガミ化した状態だと、体内にリミッターが幾つも仕掛けられていて、その為にフルスペックを発揮できていなかったようなのだ。

 それが蝕鬼の触媒によって浸食され、リミッターが外れてしまった。

 その為に、今まで使えてなかった機能が発揮できるようになった……のだが、本来このリミッターを外すには、どうも外付けのエネルギー回路を付ける必要があるようだ。

 それが無い状態でリミッターが解除されてしまった為、各種能力自体は上昇したが、エネルギーゲインが全く足りず、あっという間に変身が切れてしまう。

 

 何故にアラガミボディにそんな機能がついているのかは謎だ。

 …まさか、アラガミにも合体(文字通り)して超スペックを発揮する能力がある、とか言うまいな…。

 どんなモノでも真似てしまうのがアラガミ細胞なので、やってもおかしくないのが恐ろしいところだ。

 

 

 さて、変身時間こそ短くなったが、これならメリットの方がずっと大きい。

 元々長時間変身する事は考えてなかったしな。

 

 となると問題になるのは…狂竜ウィルスを取り込んでしまった場合の事だな。

 とは言え、一応こっちも対策自体は立てられた。

 効果があるかは分からないし、そもそも正直やりたくないが。

 

 

 俺もすっかり忘れていたが、狂竜ウィルスは『克服する事ができる』。

 ゲームではモンスターに攻撃し続ける事で狂竜症発症を防ぐ事ができ、逆に狂攻化状態という強化状態へ持ち込む事ができた。

 

 これが何かしらの形で現実にも実行できるとしたら?

 一度、ウィルスを取り込んでそれを克服してしまえば、俺の更なる強化も実現できるかもしれない。

 ……まぁ、ゲームでも、一度克服したらもう発症しないなんて都合のいい話はなかったから、ずっとパワーアップ状態とかは無理だろうけども。

 

 そもそもどうやって克服するかだよな。

 ゴア・マガラに攻撃し続ける?

 それでどうやって免疫がつくのだ。

 そもそも以前にちょっと感染しただけでも、あっという間に体調が崩れて、殆ど戦うどころではない状態になってしまった。

 

 狩りの最中には克服には至れないと思った方がよさそうだ。

 まぁ最悪、感染したら即座にモドリ玉を使い、ベースキャンプで一眠りして治すって方法もあるが…モドリ玉、持ち込めるのは1個だけだからな…。

 

 ココット村のハンター達に、どうやって狂竜症を克服しているのか聞いてみよう。

 

 

 

 

P3G月マックで出た新しいハンバーガーが気になる日

 

 

 マカ錬金のツボ?

 マカ漬けのツボなら使った事あるが、なんだそりゃ?

 

 そう本人に言ったら、「知らないの? 14代目のちょっとショック~」と言われた。

 「遅れてる~」とも言われたけどね。

 

 で、結局ナニよ?

 …ほうほう、お守りの練成か。

 確かにそれは興味深いな。

 使うと使わないとでは、大きな差が出そうだ。

 

 うーむ、不要になったお守り、幾つか捨てちゃったからな…勿体無い事をした。

 まぁ、今のところそんなに質のいいお守りは拾えてないからな。

 それだと大したものは出来上がらないだろ。

 うん、そう思っておこう。

 

 

 話は変わるが、飛行船でココット村に来る時に襲われた雷を纏うモンスターだが、ライゼクスというモンスターらしい。

 飛行船で体当たりしたと言ったら呆れられた。

 まぁ、見るからにトゲトゲしてたしね。

 飛行船の上の部分が雷で破裂したりしたら大惨事だ。

 今思うと、その場の勢いでアホな事やったもんだ。

 

 

 ライゼクスは、以前から存在は確認されていたものの、この近辺に姿を現したのは初めてらしい。

 …で、出現と同時に俺を襲ってきた、か…。

 

 なんか最近、妙なモンスターとの遭遇率が高くないか?

 霊力を会得したモンスターと度々やりあっている身で言うのもなんだが、本来ならそこに居ない筈のモンスターに襲われる率が高すぎる。

 アマツは俺がユクモ村に行く前からそこに居たようだから仕方ないにしても、クシャルダオラだって俺の居場所がわかっているかのように雪山の洞窟に突っ込んできたし、ラギアクルスに至ってはベースキャンプまでやってきた。

 タマミツネもライゼクスも出現して間もなく俺に襲い掛かってきているし…。

 

 …モンスターから恨み買うような事やったか?

 確かに狩りしてりゃ恨みも買うが…他に何か理由があるような気がするな。

 モンスターが、突然俺を襲うようになった理由…か。

 

 このMH世界で俺だけしか持っていない『何か』、というなら多数ある。

 ゴッドイーターの細胞しかり、蝕鬼の触媒しかり、霊力、異界の道具、術、知識、デスワープとループの現象、その他諸々。

 

 が、今までは確かにトラブル続きだったけども、向こうからあからさまに狙ってくる事はそうそう無かった。

 あったとしても、大体が霊力持ちとか異常な個体だったしな。

 だが、ライゼクスや、先日のラギアクルスとタマミツネ…は行動的に異常だったが、特におかしな力を持ってた訳じゃない。

 『そこに居ない筈の、普通のモンスター』が俺を狙い始めている。

 

 

 

 …何か起き始めてるんだろうか…。

 それがこのMH世界の今回ループの中だけに収まるのか、それとももっとドデカい何かの始まりなのか。

 

 どっちにしろ、今は自分をとにかく強くするしかなさそうだ。

 

 

P3G月冷蔵庫の中の調味料を使わねば日

 

 ココット村に到着して4日目。

 毎日減るブラザーズに絡まれている。

 別に嫌がらせしてくる訳じゃないんだが、「まだ飛行船に乗せられないのか」と延々と聞いてくるのは勘弁してほしい。

 いや、好奇心が刺激されるのは俺だってよーく分かるんだけども。

 確かに前に来た時、一緒に乗せられないか聞いてくるとは言ったけど、そう簡単に許可が降りるもんじゃないよ。

 

 

 絡まれるついでに、狂竜ウィルスに関する相談に乗ってもらった。

 ゴア・マガラの情報も手に入ればよかったんだが、それは却下された…つまり、この二人は知ってはいるが俺には教えない、或いは俺が知る権利はないって事か。

 まぁ、ココット村じゃまだ明確な実績を残してない下位ハンターだもんな。

 ポッケ村やユクモ村なら、中ボス扱いのモンスターを倒したからそれなりの扱いを受けてたけど。

 

 

 それはともかく、狂竜ウィルスの事だ。

 この二人曰く、狂竜ウィルスは確かに克服する事が出来る。

 が、その方法は俺が考えていたのとは全く別物だ。

 

 減るブラザーズ曰く、狂竜ウィルスを克服する上で最も重要なのは、『距離感』と『時間』なのだそうだ。

 そもそも、狂竜ウィルスの正体はゴア・マガラが振り撒くリンプンだ。

 これが大気中にバラ撒かれ、生物の体に入り込む。

 が、肉体というのは案外高性能なもので、そういった害になる物質はそうそう取り込まないし、入ってきてもそれを跳ね返す事も出来る。

 分かりやすい例を挙げれば、鼻毛で異物を拒んでクシャミで吐き出すって感じかな?

 

 狂竜ウィルスに対しても、その生理的反応は起きる。

 だがそれが間に合わない程に濃密なリンプンがある場所…例えばゴア・マガラの間近…に行けば、拒みきれずに体内に入り込まれ、発症してしまう。

 

 逆に言えば、ある程度距離を置いていれば、ウィルスは体内に入ってこないし、入ってきたとしても微量で済む。

 そして微量であるならば、予防接種のように徐々に体に耐性が出来てくるという訳だ。

 

 ウィルスに狂わされず、かつ全く無効にもならない状況に長時間身を置く事で、狂竜ウィルスは克服できる………と、減るブラザーズの二人は考えているらしい。

 実証した事もあるが、明確な根拠は無いとか。

 

 

 …貴重な意見ではあるが、どこまで信用できるのかな…。

 

 

 

 

 

 この村では危急を要する案件は無く、あってもそれなり以上に腕があるハンターが多いので、ゆっくり休む事が出来る。

 …まぁ一日の7割くらいは火山でカンカンやってんだけども。

 残りの3割は睡眠と食事、そして村長さんの話し相手だ。

 

 以前、正宗がニャンターになったら自分が使っていた剣をやろう…と言ったのは覚えているが、余程気になっているらしい。

 一狩り終えて酒場で飲んでたらいつの間にか対面に座っており、互いに飲みつつ正宗について色々話した。

 一日だけじゃなく、次の日も、その次の日も。

 正宗にどんな訓練を施した、今はどんな訓練をしている、ベルナ村での評判がどんな按配だ、アイルーを侮るハンターにどんな反撃をしそうだ、とか…。

 

 随分と気にかけているものだ。

 ヤンチャで期待をかけてる孫を見る心境なのかね?

 

 代わりに、村長が現役だった時代の話を聞かせてもらっている。

 正直、話に聞いているだけでも、ハンターとしての技量は村長の方がずっと高い事が分かる。

 それも当然と言うべきか。

 村長が現役だった時代には、ハンター式肉体操作術は勿論、回復薬もシビレ罠の類も無いに等しかったらしいのだ。

 武器だって、今ほど洗練されている訳じゃない……まぁ、これに関しては今は失われてしまった製法もあるので、現代の方が強いとは言い切れないが。

 

 つまり、事実上の真っ向勝負、体力と気力だけでモンスターを捻じ伏せていたのだ。

 俺のように、この世界に無い力を持ち込んだ訳でもなく、体を張った駆け引きと知恵で。

 同じ条件で俺が勝負したら、クック先生にすら勝てるかどうか。

 …ゴッドイーターとして強化される前、ミソッカスとして訓練所を卒業した頃の事を思い出すなぁ。

 アレが俺の本来の実力なんだよな…。

 まぁ、今ならオカルト系の力を失っても、それなりにやれるくらいの実力はあると思うけど。

 

 

 …地力を上げようと思うなら、オカルト系の力を封じた縛りプレイも有りかもしれん。

 何だかんだで、そっち系に頼り切ってるからな。

 

 

 

 

P3G月炭酸水にガリガリ君漬けてみる日

 

 

 結局、ココット村に滞在した日々の9割近くを火山で過ごした気がする。

 いい鉱石はそこそこ見つかったものの、満足のいくお守りは見つからない。

 マカ錬金の壷でも、出来上がるお守りは似たり寄ったりだ。

 

 ま、こればっかりは仕方ない。

 この採取作業を楽しめないようなら、ハンターとしての大成は無理だ。

 正宗に語った通りだな。

 

 それはともかく、ライゼクスの話だ。

 村に来る時に体当たりして以来、目撃情報が途絶えている。

 正直俺としては、飛行船で飛び立った途端にまた襲ってくるんじゃないかって懸念が消えない。

 今のままでは飛び立ちたくないな…。

 せめて居場所くらいは掴んでおきたい。

 

 というか、飛行船で移動する身としては、空を飛ぶモンスターの情報は必須である。

 その辺の情報だけでも、ハンターランクを越えて伝える必要があるんじゃなかろうか。

 …これも改善点の一つだな。

 

 

 しかし今はそういう制度が出来ていないので、自分で情報を集めるしかない。

 あの時の体当たりでは、それ程強いダメージを与えられなかった筈。

 少なくとも、飛行が不可能になったり、骨折などを癒す為に大人しくしている…という事は無い。

 

 だったら、何故姿を現さないのか?

 

 …単純に考えて、俺を狙ってる…んだろうな。

 聞いた話ではライゼクスの気性は荒く、そして残忍だ。

 その手の奴は総じてしつこい。

 受けた恨みを忘れない。

 俺個人の姿を覚えているかは微妙なところだが、少なくとも飛行船を発見したら、すぐに飛び掛ってくると思っておこう。

 

 

 …うん?

 待てよ、だったら、囮の飛行船を飛ばせばいいのでは?

 本物である必要はない。

 大きな袋にガスを入れて飛ばすだけなら、飛行船の予備部品を使えばそう難しくは無い。

 

 あー、でも都合よくライゼクスの視界に入って騙せるかな?

 ヘタなモノを飛ばして落っこちたら、回収するのも厄介だし。

 だが、このまま手をこまねいているのも…。

 

 

 

 

 

 

 

 そのような事を、正宗についての話のついでに村長に話してみたら、協力してくれると言ってくれた。

 何でもライゼクスを放置しておく事は、ハンターギルドとしても村の住民としても都合が悪いらしい。

 ライゼクスが獰猛なのは先に記述したとおりだが、イナズマのトリーズナーもとい反逆者なんて呼ばれる程らしく、放っておけば生態系に多大な害を齎しかねないのだとか。

 

 古龍といいイビルジョーといいゴア・マガラといい、そういう奴結構多いよね。

 案外、MH世界の生態系はちゃんとしたバランスを取れていないのかもしれない。

 いやバランスはバランスなんだけど、自転車操業と言うか応急処置を延々と続けてムリヤリバランスを保っていると言うか。

 

 とにかく、ライゼクスがこの近辺に潜んでいるのなら、村長としても見過ごせない事態だと言われた。

 しかも、本当に俺を狙って潜伏しているなら、怒りを燻らせたままの状態かもしれないのだ。

 何が切っ掛けで暴れだすか、分かったものではない。

 

 …すいませんね、一時のテンションで体当たりなんかしちゃって。

 まぁ、アイツ飛行能力メッチャ高かったから、逃げ切るのが難しかったのも事実だけど。

 

 

 

 とりあえず、囮の飛行船を飛ばす許可は取れた。

 無駄に終わって、まだ俺が踏み込めない領域に囮飛行船が落ちた場合、ハンターを派遣してくれるのも約束してくれた。

 

 ただし、ライゼクスの存在が確認された場合、必ず俺が仕留める事が条件だ。

 元々俺の案件と言えば案件だしな。

 他人に全部丸投げできるような話じゃない。

 もっとハンターランクが低ければ、出る幕じゃないと丸投げできただろうが…いや、その場合はそもそも囮の飛行船も許可を貰えないか。

 

 とにかく、俺のココット村での次の仕事は、ライゼクス討伐になりそうだ。

 

 

 

 

 




ふとランキングを見る時、たまーに35位くらいに浮上してそのまま消えていく。
発見した時は割りと真面目にビビる。
あと通産UAが意外と多い。
元ネタモンハンで並べてみたらダントツで噴いた。


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124話

 

P3G月MHX編が終わらない日

 

 

 ライゼクスを誘き出す為の囮作成中。

 幾らか素材としてモンスターを狩ったが、その途中にライゼクスっぽい痕跡を森丘で見つけた。

 囮を飛ばすならこの辺りか。

 というか、よく襲われなかったもんだ。

 やっぱり飛行船の方を目の敵にして、人間の姿までは覚えてないんだろうか?

 

 囮の飛行船自体は、明日には完成する。

 仕掛けも単純なもので、飛行船と言うよりは形を似せた気球、バルーンと言った方が正確だ。

 特筆すべき事と言えば、ガスを入れた部分にペイントボールも満載しておいた事くらいだろうか。

 ライゼクスが飛び掛ってガス部分を破裂させれば、ペイントボールが飛び散ってライゼクスにニオイが付く。

 後はどの辺りに降り立っていくかを観測できれば、その辺りからはニオイを辿って探せるって寸法だ。

 いっそ閃光玉やら毒煙やらを仕込んでおこうかと思ったが、閃光玉だと視界内で上手く破裂するか分からないし、ちょっと毒を与えた程度でくたばるようなら苦労はしない。

 

 

 ところで、囮の飛行船を作ってる間、ギルドの受付嬢さんが興味深げに近寄ってきたんだが。

 あんまり話した事はなかったが、名前はベッキーさん。

 先日まではミナガルデで働いていたのだが、ナニやら仕事の都合とやらでココット村に来る事になったそうな。

 

 赤い色が大好きな人で、なんか赤い装備を作る為にイーオスやらカニやらカエルやらの素材を依頼してきた事もあった。

 自前のメイド服っぽいのまで赤いんだから徹底している。

 

 ついでに話しかけてきた一言目は「赤く塗りませんか?」だ。

 まぁ、確かに赤い方が目立ちそうではあるが。

 

 囮であっても飛行船を飛ばすとなると、ココット村では結構な大イベントだ。

 退屈していたところに、いい暇潰しのネタが出来たと喜んでいた。

 ミナガルデって、話でしか聞いた事ないけど結構都会…とまでは言わないが、大きな街だった気がする。

 そこからココット村じゃ、長閑を通り越して退屈に感じるのも無理はないかもしれない。

 

 

 

 

 …でも気のせいかな?

 ベッキーさんの近くに居ると、言いようの無い悪寒を感じる事があるんだが。

 気色の悪い(腐女子のような)目で見られているとかじゃなくて…なんだ、もっと身近な……。

 

 そうだ、まだハンターとして大した力も経験もなかった頃、モンスターを相手にした時に感じた感覚だ。

 更に言えば、先日アマツをちょっとだけ目にした時にも、こんな感覚があったかもしれない。

 自分よりももっと恐ろしいモノに睨まれているような。

 

 

 …んじゃ何か?

 ベッキーさんが俺よりも遥か上位の実力者で、何故か俺をロックオンしていると?

 

 

 ねぇよ。

 

 

 とは言えないのがこの世界の怖いところだ。

 G級にもレジェンドラスタにも、見た目は単なる美人さんなのに今の俺を軽く蹴散らせるような怪物がいる。

 ベッキーさんがそうだったとしても、何もおかしくはない。

 

 …やっぱりおかしいかな?

 でもこの業界、とんでもない怪物が無造作に転がってる世界だしなぁ…。

 

 でもそうだったとして、何故に俺に近付いてきたのか。

 そもそも何故にそんな怪物の類が受付嬢なんぞやっているのか。 

 

 別に受付嬢するのは構わんけどね。

 アホみたいに強い力を持ってる人間が、何故か脇役ポジションと言うか運営側に回る、という展開もある種のお約束だし。

 

 うーん…とりあえず、この人の傍で妙な事をするのはやめておこう。

 話しかけられた時、思わずコノハとササユの声で「「現地妻」」という幻聴を聞いてしまったが、下手な行動は命取りだと俺の勘が告げている。

 何気なく首をかしげる仕草さえ、何かの芝居のように思えてくる。

 

 …こんな疑心暗鬼状態で女の人を口説ける訳が無いわな。

 あんまり調子に乗って女にだらしない所ばかり見せても、遠回りに自殺するだけだ。

 今は狩りに集中しよう。

 

 

 

P3G月MHXもプレイできない日

 

 

 祝、飛行船(囮)発進!

 ココット村の物見高い人達が見守る中、お手製の飛行船(囮)は大空に飛び立った。

 まぁデパートのバルーンみたいにプカプカ浮いているだけだが、結構好評。

 

 もうちょっとデザインを工夫して(赤くして)村の名物にしないか?みたいな案まで出た。

 

 

 

 30分もせずに撃墜されたけどな。

 

 

 

 見事に出てきましたよライゼクス。

 雷を放ちながら登場して、皆が見ている前で飛行船に一撃。

 落下していく飛行船に勝ち誇るように咆哮して、そのまま飛び去った。

 やはり森丘に潜んでいるようだ。

 

 …囮の為に作ったとは言え、お手製の飛行船を撃墜されて正直ムカッと来たからな。

 私怨も込みでブッタ斬ってくれるわ。

 

 

 

 

 そして俺以上に怒ってるのが、減るブラザーズを筆頭とした他のハンターの方々でしたが。

 気持ち良さそうに飛んでいた飛行船が撃墜されたのが、余程腹に据えかねたらしい。

 作った方としては、そうまで愛着を持ってくれるのは割と嬉しいけどね…。

 「ひよっ子なんぞにやらせねぇ、俺達で切り刻んでやる!」と気炎を上げていた。

 

 こりゃ放っておいてもカタがつくかな…と傍観決め込もうとしたが、長老にゲンコを喰らった。

 お前がやるという約束だろう、と。

 そりゃそうなんですが、アレを無理に止めると俺の方が狩られそうなんですが…いや全力出せば返り討ちにできると思うけど。

 

 

 面倒だから閃光玉か毒煙で止められないかなー、神機のブラスト全開でふっとばすかな…と考え始めた時、それは起こった。

 4人制限を無視して、皆でライゼクスに突撃するぞ早い者勝ちだぁー!(一体何がそこまで気に入ったんだ)とハンターの皆が行動に移そうとしたんだが…当然、受付嬢からクエストを受けなければいけない。

 それすら忘れて突撃しそうな勢いだったが……その受付嬢を見た瞬間、動きを止めた。

 

 

 そう、ベッキーさんだ。

 

 

 ベッキーさんがニッコニコしながら受付に立っているのを見た瞬間…正確に言うなら、数名は見た瞬間、他は数歩近付いただけで動きを止めた。

 ついでに言うと、腰を抜かした人も居た。

 俺をゲンコした村長さんも、「老体にプレッシャーが堪えるのぅ」とか平然とした表情で言ってやがった。

 

 俺?

 体が動かねぇよ。

 悪寒なんてレベルじゃない、逆らったら死ぬマジデ。

 ここまでレベル差が開いた相手と対峙したのは久しぶり…いや初めて………ナターシャさん達レベルだぞコレ…。

 

 そしてそのベッキーさんから、「では、緊急クエストを発行します。受けられる方は前へ」の一言。

 …俺の事言ってるよなぁ。

 正直、足を動かすのが色々な意味で億劫だったが、皆が見る前でライゼクス討伐のクエストを受注した(させられた)。

 

 

 

 この時、俺が考えていた事は2つある。

 一つは、やっぱりベッキーさんはヤバい人だって事。

 俺の直感が正しければ、レジェンドラスタ並み……つまりG級クラス。

 下手をすると、そのG級すら取り締まる、ギルドナイト並みの力を持っているんだろう。

 やっぱりこの人の近くでアホな真似はアカン。

 

 

 そしてもう一つ考えていた事は…。

 

 

 

 撃墜されていた飛行船(囮)を赤く塗っておけばよかったって事だ。

 そうすりゃ、激怒したベッキーさんが勝手にカタをつけてくれたろうに。

 

 地形がちょっと変わるかもしれんけども。

 

 

 

P3G月龍が如く維新のプレイ動画拝見中日

 

 

 やるやる、強い強い。

 電の反逆者の仇名は伊達じゃないってか?

 

 全身に纏った雷、体中を遺憾なく使った打撃に斬撃、更に範囲が非常に広い雷の攻撃。

 何よりその攻撃性。

 自分の体が傷ついても、構わず攻撃してくる獰猛な性格。

 

 

 

 

 だが弱い。

 

 

 

 ナターシャさんに比べれば。

 リンドウさんの上手さに及ばず。

 桜花のような断固とした意思も無く。

 

 何よりベッキーさんのような怖さが無い。

 

 

 

 昨日のあのプレッシャーは、どうやら冬眠気味だった俺の危機感を叩き起こしてくれたようだ。

 今なら分かる。

 無意識の内に、俺はずっと惰性を感じていた。

 何度も繰り返されるループ、無かった事にされる死、何も無かった事にされてしまう積み上げてきたモノ。

 次がある、無駄になると思ってしまえば、どうしたって気は抜ける。

 

 結局俺は、必死と言える程真剣にはなってなかったんだろう。

 死への恐怖が麻痺していた。

 

 自分で言うのもなんだが、先日までとは集中のレベルが1段2段違う。

 それを以てすれば、ライゼクスの動きに充分すぎる程対応できる。

 流石に初見殺しの類は危険だったが、ブシドースタイルに感謝である。

 

 とは言え、下位のライゼクスだって事を忘れてはいけない。

 上位のライゼクスだと、多分ここから更に攻撃範囲が広くなるのだろう。

 あまり油断できる相手ではない。

 

 というより、死の恐怖を明確に思い出した以上、油断なんぞしようったって出来ん。

 自分が常に死と隣り合わせで、常に命の遣り取りを行っているのだと自覚する事は、良いハンター…というより真っ当なハンターの条件でもある。

 

 うん、やっぱり次があるとしても死ぬのは御免だ。

 と言うより殺されるのがイヤだ。

 特にモンスターが相手だと、上手く死ねないと生きたままムシャムシャされるし。

 

 

 

 うーむ、何で俺は今まで平気で死んでいられたんだ?

 そりゃ突発的な死亡だったり、苦しむだけ苦しんだ挙句デスワープしたら一瞬で立ち直り、リアルに『死ねば助かるのに』もとい『死んだら助かった』になったりしてたが。

 喉元過ぎれば熱さ忘れるとは言うが、流石にちょっとおかしくね?

 …まぁ、デスワープだのループだの、異常な状況に放り込まれて正常で居る方が難しいとは思うけども。

 

 しかし、改めて意識すると怖くなってきたな。

 なんちゅーの、普段何気なく高い場所で生活していて、ふとベランダとかから下を見ると自分が高所恐怖症だったのを思い出すカンジ?

 まぁ、いい傾向だとは思うけどさ。

 思い返すと無謀な事ばっかやってたんだな……それがいい方向に噛み合った事もあったけど。

 

 

 

 とりあえず、なるべく死の恐怖を忘れないようにしよう。

 正直、いつまで覚えていられるかは怪しいところだが…。

 

 

 

P3G月6や極はなぁ…できれば時代劇の方が出てほしい日

 

 

 ライゼクス討伐で、とりあえずココット村での仕事は終了。

 飛行船(囮)の残骸回収の作業もあるが、それは減るブラザーズのお二人が名乗りを上げてくれた。

 …名乗りを上げさせられた、なのか?

 二人がソロってもとい揃ってベッキーさんに「こ、これでいいんですよね?」的視線を送っていたような…。

 

 

 …この二人も今の俺じゃ厳しいくらいの実力者の筈なんだが…ベッキーさん、一体何者だろうか。

 いや、予想はついてるんだ予想は。

 あれだけのハンターを威圧一つで押し返す胆力、俺が寒気を感じる程の実力…(勘違いの類でなければ、だけど)。

 村長でさえ一目以上を置いている。

 更には、減るブラザーズが恐れているのは、彼女の実力だけではなく…なんというか、背景や地位?も含めたもののように思える。

 この二人、言っちゃ悪いが基本的に無頼漢の類だから、上から言う事聞かせようと思ったら相当な圧力が要るぞ。

 

 つまり、それだけの実力と背景を持っているって事で。

 

 ベッキーさんは恐らく、現ギルド受付嬢にして、元G級ハンターか元レジェンドラスタ、或いはギルドナイトの類……だと推測される。

 さもなきゃ、有名なギャング系集団の大幹部とかかもしれん。

 

 どっちにしろ、下手に関わるとロクな事はなさそうだが…調べるべきか?

 藪をつついたら何が出てくるか分からんな。

 

 

 ま、どっちにしろ今日の昼頃には出発なんだ。

 次の外回りがいつになるか分からないし、次に来た時にはミナガルデに帰ってるかもしれない。

 あまり考えても仕方ないな。

 

 

 皆から姉御と呼ばれるようになったのを、プレッシャーで辞めさせようとするベッキーさんを眺めつつ、ココット村から飛び立った。

 

 

 

 

P3G月アサシンクリードならやはり日本舞台がいいが、ミスマッチだろうな日

 

 

 戻ってきましたベルナ村。

 なんかえらい長い外回りだったような気がする。

 例によってJUNが迎えに来てくれた。

 息を妙に弾ませているな、と思ったら、どうやら飛行船が飛んでいるのを見つけて、走って出迎えに来てくれたらしい。

 なんつーかいじらしい子だ。

 だが男だ。

 

 うーむ…外回り中にイイ仲になった相手が出来たと言うべきか?

 とりあえず現地妻の事は黙っておくべきだろう。

 

 

 …結局何となく言うタイミングを逃してしまったが、それは置いといて。

 JUNが訓練所に行こう、と妙に押しが強く言ってきた。

 いや先に龍暦院に報告に行かなきゃイカンのだが。

 

 自分の訓練の成果でも見せたいん?

 演奏の効果が切れるのを、体で察知できるようになる奴。

 

 

 …「それもあるけど、正宗! 正宗がスゴイんだって!」だそうな。

 

 正宗?

 アイツまだ訓練中だろ?

 人間のハンターだって鍛えるのにそれなり以上に時間がかかるってのに、ニャンターに至っては訓練方法から模索中。

 まだまだ一人前になってるとは思えないが。

 

 それともアレか、アイルーをナメてるハンターに自爆テロったか?

 ……それはもうやったらしい。

 しかもGで。

 

 今では訓練所のハンターもアイルーをナメるような事はせず(出来なくなったと言った方がいい)、正宗ともそこそこ仲良くやっているとか。

 それはまぁいい事だと思うが……一体何なんだ?

 正宗の何がそんなにスゴイというのだ。

 

 …好奇心が湧いてきたな。

 ちょっとくらい報告が遅れてもいいか。

 訓練所に行ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 行ってみた。

 

 

 

 

 名付けよう。

 ライダ……いや、ニャイダ………もっとシンプルに…見てくれ的にはライダーに近いが、そのライダーは今はエリアルな訳で…。

 

 

 

 

 

 エリアルニャンター、正宗!

 

 

 

P3G月スパロボ新作が出るまでに、MHXも終わる…かなぁ日

 

 

 いや昨日はビックリした。

 本当にビックリした。

 龍暦院への報告中の記憶が半分飛んでるくらいにビックリした。

 

 まさか正宗がああまで成長しているとは……いや、あんな方向に成長しているとは、と言った方がいいか。

 体が軽くて小さなアイルーだからのやり方だな。

 

 

 えーとだな、昨日帰ってきた俺は、JUNに連れられて訓練所に行ったんだよ。

 そこで教官と訓練生と雑談していたようなんだが(ちなみにG爆テロされた訓練生だったとか)、そこへ帰ってきた俺。

 俺が何か言うまでもなく、「成長っぷりを見せてやるニャ!」などと言いつつ、闘技場でイャンクック先生とバトルが始まった。

 ちなみに訓練生も一緒だ。

 

 捕獲されて弱っているとは言え、まだ訓練中の一匹と一人には荷が重いか?と思いながら見てたんだが…。

 

 

 まぁ、二人の錬度はやはり訓練生止まりだった。

 だが見所はあったな。

 訓練生にしては上手いほう、というのもあるが、それ以上にハンターとニャンターのコンビ戦だ。

 未熟であっても、見るべきところが無いと思う方がどうかしている。

 事実、人間同士のハンターでは実現できないであろうメリットや戦法を幾つも見出せる戦いだった。

 

 

 訓練生が囮を勤めるのを躊躇わなかったのには、正直驚いた。

 G爆テロ喰らって、侮る意識を改めたとは聞いたが…まさか本当に、アイルーに狩りの主導権を委ねるのを躊躇わないとは…。

 勿論、逆に自分がメインを張る所では、その時以上に張り切っていた。

 

 

 そしてJUNがスゴイスゴイと言っていた正宗だが……何とイャンクック先生の尻尾から背中、首筋にまで駆け上がり、その場で乗り攻撃をやってみせたのだ。

 猫特有の身の軽さと体の小ささを存分に活かしている…人間にとっては細い道に見えても、アイルーにとっては充分すぎるほど広い道。

 イャンクック先生の尻尾を道として走り、体に駆け上がったら人間以上の動体視力で何処に掴まればいいかを即見切り、そして掴む。

 エリアルスタイルのように事前の様子見も無し、安定性も申し分無し。

 流石に相手のバランスを崩す力はハンターより弱いが、チャンスがあれば即狙っていける点は非常にメリットが大きい。

 

 この乗り攻撃を正宗は非常に得意としているようで、隙さえあれば背中に乗り上げていた。

 勿論その分何度もイャンクック先生を倒れさせ、訓練生と一緒に総攻撃を仕掛けている。

 

 更に驚いた事は、乗り攻撃で倒れさせられなかった場合の大技だ。

 振り落とされる寸前に、懐から取り出した(明らかに体よりデカい)爆弾を置き土産にしてのける。

 まぁ、こっちはまだ上手くできないらしくて、成功したのは1回だけだったけど。

 あれが上手くできるようになれば、回数は限られるとは言え相当な攻撃力になるだろう。

 

 ニャンターというのは、俺の想像以上の可能性を秘めたスタイルだったようだ。

 

 

 

 戦いの後感想を求められたので、ただただ驚いたと伝えておいた。

 勿論、コンビを組んで戦っていた訓練生を褒めるのも忘れない。

 何だかんだ言っても、正宗といいコンビネーションを発揮できる人間は稀だろう。

 面倒な奴だが、よろしく付き合ってやってくれ。

 キレイになってきた毛並みをモフモフしてもいいから。

 

 

 その後、調子に乗らないように締める所は〆た。

 動きはまだまだ未熟だし、結局はゴリ押しもいい所だったからな。

 

 …ま、この調子でやってくれ。

 それと、振り落とされる時の爆弾攻撃は、最初は欲張らずに小型爆弾でも使え。

 当てられない大技より、簡単に当てられる小技だよ。

 

 

 

NTD3DS月ニャンターやったけど、意外と面白い日

 

 

 3ヶ月目突入。

 いつもならそろそろデスワープの兆候が出てくる頃か。

 でも最近はGE世界も討鬼伝世界も、ストーリー編を通り越して5ヶ月くらいまで伸びてるんだよな。

 さて、今回はどうなる事やら。

 

 

 そうそう、龍暦院からの情報なんだが…ギルドナイトが動いているらしい。

 

 …思いっきり心当たりあるんですけど、何でまた?

 俺何かしたっけ?

 

 

 …と思ったが、俺が既に何かしたのではなく、何かしでかさないように見張りを付けようとしているそうな。

 何せ外回りハンターという初の試みなんで、現行法では対応できない部分が出てくる可能性もある。

 だからって態々ギルドナイトを動かす理由は無い、と思っていたんだが……ここで一つ、俺が『やらかした』っぽい。

 

 それは一体?と思ったら…シャーリーさんの件だった。

 

 怪しげな力を操るハンター。

 霊力なんて認識されてない世界なんだし、胡散臭く見られても仕方ない。

 が、それに加えて幽霊騒ぎ、更にシャーリーさんといい仲になったと言うのが決め手だった。

 

 そもそも、受付嬢を私的な用事で連れ出す事は御法度である。

 仕事中の受付嬢を連れ出すような事はしてないが、そうしているのではないかと思われるのも仕方ない。

 だって胡散臭いし。

 シャーリーさんをどうこうする為、幽霊騒ぎをでっち上げた…と思われているっぽいな。

 

 

 …こっちはバレてないみたいだが、シャーリーさんに続いてコノハとササユもだしな…。

 別の意味でタイーホされても文句は言えそうに無い。

 

 

 あんまり好き勝手やってると、それこそ闇系されるなぁ…。

 現地妻を作るのは、当面やめておこう…。

 

 

 

NTD3DS月散髪の時間がもったいない日

 

 

 そういや、ベルナ村付近にはディノバルドって居たね。

 JUNを助けた時に1回見た限りだったが、随分とユニークな尻尾の使い方をするモンスターだった。

    

 

 

 

 なんか進化してるっぽいです。

 いや、ちょっとクエスト受けて、狩猟環境不安定な古代林に行って来たんですけどね。

 そこで妙な痕跡を幾つか見つけたんだわ。

 

 一箇所に集中してついた足跡と、同じように地面と崖壁に何十発分とついていた太刀傷(尻尾だけど)

 ちょっと焦げた痕跡もあったんで、間違いなくディノバルドだ。

 

 …一体何やってたんだ、と思って鷹の目使って過去視してみたんだが…どう見てもどう考えても、同じ場所で延々と尻尾を振り続けていたようにしか見えない。

 …これってアレか?

 素振りのつもりか?

 ディノバルドにそんな性質あるの?

 

 と言うか、気のせいでなければ尻尾の太刀筋がちょっとずつ変化しているように見える。

 あと踏み込みの強さとか、色々試しているような…。

 

 

 …ディノバルドって斬撃染みた攻撃ができると聞いたが…まさか大回転切りでも習得しようとしているのか。 

 

 

 

 うぅむ…ここにも異常な行動をするモンスターが居るとは…。

 動物が普段と違う行動を取るのは、大体が天変地異の類の前触れだと相場が決まっている。

 しかしこれもそうだとしたら、MH世界の各地で見られる異常な行動…つまりはそれだけ広範囲に及ぶ災害なんだろう。

 一体なんだ、地震が津波か隕石か。

 それとも宇宙人か。

 モンスターだらけな世界だし、ゴジラが出てきたっておかしくはないかもしれない。

 

 

 

 

 



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125話

そろそろ更新ペースを元に戻そうかと考えています。
と言うか執筆時間の為にMHXが出来ず、MHXが進まなければSSのストーリーも進まない。
ハァどうしたもんか。


NTD3DS月ブシドー大剣使いにくい…日

 

 

 おかしなモンスターの情報が入った。

 龍暦院の調査員が発見したらしいのだが、頻繁に飛行船が撃墜されていた地区に、竜の骨だらけの場所が見つかったらしい。

 そのまんま竜ノ墓場と命名されたその場所には、まだ踏み込んで調査ができている訳ではないのだが、そこを発見した調査員の一人が、妙な証言をしているらしい。

 

 

 曰く、一瞬だったが、双頭の竜を見た、と。

 

 

 偶然その調査員に直接会う事ができたので、試しに簡単な絵を書いてもらったんだが…うーん、確かに竜…っぽい。

 少なくとも2頭の竜の首が並んでいて、胴体部分に繋がっている。

 

 

 しかしなぁ、体一つに頭…脳が複数ってモンスター、存在するのかな。

 MH世界は色々カッ飛んでる世界だが、モンスターの体の大まかな構造は同じだ。

 胴に首に頭に、モノによっては足に翼に…。

 

 どんなにデカイモンスターでも、少なくとも頭は一つだった。

 一つの体に2つの頭がついてるんじゃなくて、2匹の竜が絡み合っているか、頭に見せかけて実は腕とかなんじゃね?

 腕をカモフラージュして、弱点である頭や顔に見せかける……よくある擬態じゃね?

 

 そう言ったら、「…そうかも…」と悩み始めてしまった。

 

 

 

 まぁ、実際どうだか分からないけどな。

 調査員さんが知っている筈もないが、MH世界じゃなければ頭複数に体一つって奴は何種類か居る。

 討鬼伝世界のヌエとか、ミズチメとか。

 メイン脳とサブ脳なんじゃないかとか、頭みたいに見えてるけど実は単なる足なんじゃないかって考えもあるが。

 

 

 後は…そういや、昔何かで体が繋がって産まれてきた人間が居るって聞いた事がある気がする。

 確か原子爆弾だったか水爆だったかの放射能の影響だったと思うんだが…放射能……って自然界に存在すんのか?

 確か宇宙空間に溢れているとか、紫外線にも多少含まれるって聞いた事があるが。

 

 …宇宙から降ってきた謎の隕石の、放射能ないしウィルスによる突然変異?

 いやまさか…でも隕石の大塊なんて納品アイテムもあるし…。

 

 

 

 …気にはなるが、もう暫くの間は調査もできないか。

 竜の墓場とやらがどうなっているのか、その双頭の竜…或いはもっと別の何か…が存在するのか、暫くは龍暦院で慎重に調査を続ける事になるだろう。

 その後は………仮に実在してるとしたら、狩るのは誰になるやら。

 

 龍暦院に所属しているハンターもそこそこ数が居るが、残念ながら腕の方もそこそこ止まり。

 単純に強弱で言えば俺がトップを張れる自信はあるが、一応外回り担当だ。

 JUNに至っては、村のハンターとしても精々中堅に入るかどうか。

 正宗? 無茶言うな。

 

 外回り担当の領分を外してでも、俺にお鉢が回ってくるかだな…。

 尤も、その時に俺が外回りに行かずにベルナ村に滞在しているかって問題があるけども。

 

 

 ま、とりあえずはディノバルドを標的にしてみるか。

 異常な行動をしているモンスターを狙って行動する事で、何かに気付く切っ掛けになるといいんだが。

 

 

 

NRD3DS月ジャスト回避まではどうにかなるけど日

 

 

 ディノバルドはベルナ村付近で活動しているみたいだから、正確に言うと俺の担当ではない。

 もうちょっとハンターランクを上げられればJUNの担当になるんだが、生憎未だに訓練中だ。

 ちなみに進捗としては……体や体調が変化する兆しを、何となく捉えられはじめたそうな。

 大変なのはそこからだな。

 その僅かな兆しを、狩りの最中にも感じ取れるようにならないと。

 

 で、JUNのランクアップはまだ先になりそうなんで、そうなるとディノバルドに対抗できるハンターを別のところから引っ張ってこなければならない。

 人手が足りないところを手伝いに行く、という意味ではこれも外回りに含まれるんだろうが、下位のディノバルドなら充分狩れるハンターも、少数だが龍暦院に属しているのだ。

 そうなると、必然的に俺ではなく龍暦院の別ハンターがディノバルド討伐任務を当てられる訳だが…。

 

 

 

 大丈夫かなぁ。

 

 明らかに異常な行動してるディノバルドだもんな。

 異様な痕跡については龍暦院にもハンターギルドにも報告はしたが、それで討伐任務の難易度が上がったと看做されるかは疑問だ。

 むしろやるだけやらせて、危険そうならサブクエスト達成扱いにするから帰ってこいって話になる気がする。

 

 …それならそれでいいんだけどなぁ…。

 俺がディノバルドに拘ってるのも、因縁とかじゃなくて異様な行動をするモンスターに、何か手掛かりが秘められてるんじゃないかと思ってるだけだし。

 確証なんてある訳ない。

 

 先日のタマミツネとラギアクルスみたいに、妙な特技を身につけてハンターを追い詰めるんじゃないか、って懸念はある。

 しかしそれを言い出したらキリがなくてハンターなんてやってられない。

 いつ何処でどんなモンスターと出会うかなんて分からないのだ。

 狩猟環境不安定だと特に。

 

 そもそも俺だって、特異モンスターとやりあって無事で居られる保証も実力も無い。

 少なくとも先日、竜巻体当たりみたいなコンビネーション攻撃で、アラガミ化していながら死に掛けたばっかりだ。

 

 死人が出なけりゃいいが。

 

 

 

 

 ところで、ちょっと気になる情報を聞いた。

 この辺のモンスターには、「獰猛化個体」と「二つ名持ち」というのが居るのだそうだ。

 

 …開拓地にもそれに値する奴らは居るのだが、ハンター勢が修羅すぎて、二つ名がついたり他のに比べて獰猛だと判断される前に狩られてしまうのだとか。

 或いは逆に、全モンスターがベルナ村で言う獰猛化個体、二つ名持ちに匹敵するとか…。

 これを教えてくれた龍暦院の研究者さんが、ジョークだと笑いながら言ってたが……顔が引き攣ってたぞ。

 モンスターからハンターまで修羅級揃いだな、この世界。

 

 

 

 

NTD3DS月近付いた後の溜めのおかげで悉くスカる日

 

 

 ポッケ村のシャーリーさんから手紙が届いた。

 …開ける時、正直言ってカミソリとか毒とか仕掛けられてないか、或いは中には三行半しか入ってないんじゃないかと本気でビクビクしたもんだ。

 

 しかし開けてみれば…その逆と言うか、ものすごーく心配されていた。

 しかも、コノハとササユとヤッちゃった事も知られているようなのに。

 …誤魔化して書いてあるけど、コノハとササユ、なんか前科があるっぽいな…。

 まぁあれだけ手馴れていれば、前に何らかの経験があるのはイヤでも予想がつくが、どうやら一人二人ヤバい状態に変えてしまった事があるようだ。

 …廃人にでもしたのか?

 それとも真っ当な人間をドMにでも変えてしまったか。

 十中八九、特殊性癖に目覚めさせたのは確定だと思うが。

 

 

 とは言え、やっぱり浮気は浮気。

 今度会ったら出会い頭にビンタする、と宣言されたので、とりあえず包丁までは覚悟しておこうと思う。

 しかし、その程度お話で済むとは、ユクモの二人には嫌なカンジの信頼があるっぽいなぁ…。

 

 その他の内容としては、ポッケ村付近にガムートなるモンスターが現れた、という事くらいか?

 聞いた事ないから、新手の古龍か何かかなーと思ったが…話に聞いただけだと、でっかいマンモス?

 

 ナワバリを犯さなければそこまで凶暴なモンスターではなく、その縄張りから出る事もあまり無い。

 不動の山の神なんて言われる程に出てこない。

 だが一度外敵と遭遇すれば、その圧倒的な巨体を活かしてどんなモンスターでも踏み潰してしまう…らしい。

 

 前述したように、こちらから近付かなければ危険なモンスターではない為、ポッケ村のハンターも村人も嵐が過ぎ去るのを待とうとしているのだが…なんでコイツが現れたかが問題だ。

 何故、今までの縄張りから出てきてポッケ村に姿を見せたのか。

 何かに追われた?

 或いは、幼体で親に護られていたガムートが、成体になって出てきた?

 

 …理由がどちらであったとしても、ガムートは新たな縄張りを求めているだろう。

 ポッケ村の近くの雪山……だろうな、多分。

 

 正直いって、「またあそこか」と言いたい。

 古龍が度々襲来するは、龍脈が集中しているは、遺跡があるは、そこから幽霊が出てくるは。

 やっぱあそこ、何かあるよなぁ…。

 

 遺跡に関しては、レジェンドラスタと龍暦院の調査員が未だに調査中。

 ガムートが調査の邪魔になる可能性もある。

 正直、レジェンドラスタについでに狩ってもらえばいいと思うんだが、色々決まりがあって好きに動けないらしい。

 と言うか、まだあの穴調べてるのか?

 どんだけ深いんだよ…。

 

 ガムートも、まだ具体的に邪魔になる行動をした訳ではない。

 …外回りする時に狩ってほしい、か…。

 

 

 …正直、俺を呼び寄せる為の口実…と思ってしまうのは自意識過剰だよな。

 G級受付嬢が、私情を挟んで仕事をするとは思えん。

 クエストが切っ掛けで恋人を亡くした経験があるなら、尚更だ。

 

 

 

NTD3DS月直撃したのはリオレウスに1回のみという有様日

 

 

 ディノバルドの様子を探ってみた。

 前に発見した、壁や地面を何度も何度も切りつけていた個体だ。

 あんな痕跡があるならすぐに見つかるだろ…とタカを括っていたが、正直梃子摺った。

 

 何故って、川でやってたみたいだからだ。

 川の中でやってたみたいだからだ。

 散々探し回ったが見つからなくて、喉が渇いて川に向かったんだが…そこで気付いた。

 何匹もの魚が打ち上げられた後がある。

 川は人間一人が完全に潜れるくらいの深さで、流れの速さもそれなり以上だ。

 

 …ここで思い浮かんだのが、剣術でもやるかのように何度も何度も尻尾を振っていたディノバルドと…漫画の修行。

 ほら、流れの激しい川の真ん中に仁王立ちして、延々と剣を振るってるアレだ。

 今思うと、アレって何が発祥なんだろう…リアルにやった人居るのかな。

 

 

 まかさと思って川に潜ってみたんだが、大当たり。

 川底にディノバルドらしい足跡がくっきりと残っていた。

 しかもコレ、一度や二度じゃないな。

 明らかに何度も訪れて尻尾を振るっている。

 

 水の中で尻尾を振る、か。

 剣を振るより苦労しそうだな。

 意図はいまいち分からないが、少なくとも通常のディノバルドより尻尾が鍛えられているのは確かだろうな。

 と言うか、尻尾が水に適応して妙な形になってるんじゃなかろうか。

 更にそこに、摩擦やブレスによる炎が加わって…炎と水が合わさってメドローアに見える。

 なお見えるだけでなかった場合、一撃受けたら即死亡な。

 

 ま、メドローアに必要なのは水じゃなくて氷だし、そもそも熱した刃に水やら氷やらつけただけでメドローアができちゃったらエライ事になるけどな。

 日常生活送れなくなるよ。

 

 

 さて、それはともかく、ここにディノバルドが何度もやってきているのは明白だ。

 打ち上げられた魚の痕跡からして、つい先日も来たばかりだろう。

 ここら辺を調べて足跡を探すか、それともここに隠れて待つか。

 

 …待つ方だな。

 ディノバルドが修行(?)してる光景にも興味あるし。

 幸い、外回りの準備はほぼ終わっているし、龍暦院は竜ノ墓場の調査で手一杯。

 村クエはJUNが修行しながらも大体こなしてるから、俺が一日あけたくらいじゃ誰も困らない。

 ゆっくり隠れる場所を探すとしますか。

 

 

 

 

 

NTD3DS月あとブシドーと太刀ばかりだったから、ガードに意識がいかない日

 

 

 うぅむ、ディノバルドに見つかってしまってエラい目にあった。

 まさか、飛んでるランゴスタの動きを見てハンターに気付くとは…昔の武将じゃあるまいし。

 

 そんな知性があるんなら、剣術修行してたのも頷ける、ような気がする。

 

 …うん、割とリアルに剣術修行だったんだ。

 一晩待って、明け方近くに現れたディノバルド。

 初見の時点で、普通の…というか、JUNを助けた時に見たような個体とは違うと分かったよ。

 

 まず細い。

 全体的に細い。

 あの時に見たディノバルドは、太い胴体に力が漲っていたように思えたが、このディノバルドは逆だ。

 胴体が全体的に細くなり、しかし明らかに筋肉のつき方がそれ以上。

 無闇に筋肉をつけたのではなく、絞って凝縮したってカンジだった。

 

 その癖、足だけは異様に太い。

 ここも筋肉が凝縮されていたようだが、凝縮した上に更に筋肉をつけていた。

 

 最後に、尻尾がな……一見してヤバイと分かるくらいに鋭かった。

 普通の(と言うか以前に見た)ディノバルドは、尾を斬撃のように使うと言っても、それは大剣のように重さと勢いで叩き切る為の尾だった。

 が、コイツのは違う。

 まるで尾にヤスリをかけて少しずつ少しずつ薄く、鋭くしていったように、異様な鋭さを持つ尾だった。

 見ただけで分かる。

 アレは太刀だ。

 日本刀だ。

 力ではなく摩擦で斬る尾だ。

 

 

 何をどうすりゃこうまで変わるんだ、と唖然としていたところ、ディノバルドは無造作に川に踏み入り、流れに対して正面を向いて立った。

 そこからは、正に漫画のような光景だった。

 激流(と言うほどでもなかったが)に向かって、延々と体をネジって尾を振り続けるディノバルド。

 時には尾を噛んで、居合い染みた大回転切りまでやっている。

 打ち上げられる水と魚、そして切り裂かれる川。

 

 

 …なぁる程、こんな事やってりゃ体も変わるわ。

 水の抵抗に負けないようにを捻じ伏せるように全力で体を捻り、体勢を崩さない為に足をガッチリと川底に食い込ませる。

 これを何度も繰り返す事で、体が引き締まり、無用な抵抗を受けないように胴体は徐々に細くなっていく。

 細身になっているのも、足の筋肉だけ異常に発達しているのも、この為だ。

 

 尾の形が変わったのは…多分、陸上で何度も壁に斬りつけ続けた結果だろう。

 

 

 何でこんな事をしているのかは分からない。

 打ち上げられた魚を何匹か食ってはいるようだったが、これで腹が満ちる訳でもないだろう。

 図体に比べて、魚は小さく少なすぎた。

 

 

 

 

 もうちょっと観察してから引き上げよう…と思っていたら、ランゴスタが飛んできて気付かれた。

 

 

 

 気付かれただけなら、どうとでもなったんだよ。

 何せ、俺が隠れていたのは、ディノバルドが居た川から見れば結構高い場所にある崖の上。

 空でも飛ばない限り、一気に近寄られる事は無い。

 

 

 

 

 

 そう思っていた時期が、私にもありました。

 

 

 

 

 思い出していただきたい。

 痩身のディノバルド…つまり、それだけ体は軽いんです。

 筋肉細胞は脂肪細胞より重いとか言いますが、それでも軽いんです。

 

 で、そこに川での剣術修行(?)で培われた、異常に発達した足。

 ついでに言えば、多分普通のディノバルドよりも体の使い方を理解しているのだろう。

 

 大ジャンプと壁面走行で、普通に駆け上がってきやがった。

 流石に壁面走行は、手も使った4足でやってたが。

 しかも最後に更にジャンプして、空中からの尾の一撃。

 

 龍槌閃か! 

 飛天御剣流並みかこのデカブツが!

 

 避けられたのは、かなり運が良かったと思う。 

 正直、この時後ろに下がらず前に出て、崖下に逃げたほうが良かったなぁとは思ったけども。

 

 しかもこの野郎、尻尾の斬撃が鋭いは速いは…。

 乱舞までしやがった。

 いや、太刀だと考えると、気刃斬りの模倣か?

 今思い出すと、斬る順番に覚えがあるような……左右からの連続攻撃に、最後の一太刀は、体ごと縦に回転しての唐竹割りだった。

 

 

 デスワープせずに済んだのは、この戦い方にディノバルド自身も慣れてなかった為だろう。

 攻撃が尾を使ったものばかりで、炎を飛ばす事もしなければ、噛み付きも殆ど無かった。

 攻撃自体は非常に鋭いが、フェイントの類も殆ど無し。

 尾にだけ注意してればよかったんで、攻撃を避ける分にはむしろ簡単だったかもしれない。

 ちょっとでもタイミング誤ると乙るけど。

 

 と言うか、下手に攻撃受けるとガードごと叩き切られそうな斬撃だったぞ。

 直撃したら鬼みたいに部位破壊されてしまいそうだ。

 …腕とかなくなっても、再生できるかなぁ…。

 

 

 ディノバルドの攻撃を全て避け、逆に攻撃を入れる事十分程か。

 細い見た目に比例して、耐久力は低いようだ。

 完全な攻撃特化型だな。

 

 太刀筋にも段々慣れてきて、コイツ特有のものだろうが、弱点も発見した。

 鋭すぎる刃の性質上、逆に質量自体は低い。

 つまり、コイツの尾で敵を斬ろうと思ったら、勢いをつけて振り回さなければいけない。

 なので、体を捻って尾を振ろうとする直前に、一撃入れて踏み込みやら尾のフリやらのタイミングをずらしてやればいい。

 人間で言えば、抜刀しようとした瞬間に柄頭を抑えたような感覚か。

 ウタカタの里で、富獄の兄貴が似たような武術を見せてくれた事がある。

 

 

 そこまでやって、ディノバルドはかなり頭に来たらしい。

 怒り…いや、話に聞いたラージャンの激昂か?

 それともこれが獰猛化って奴なのか?

 

 自分が磨き上げてきた自慢の斬撃が通じないのが、相当ショックだったんだろうなぁ…。

 そりゃ当たっちゃいないし出させもしなくなったが、こっちも必死なんだが。

 

 

 結局、最後は痛み分け…かな?

 一応俺自信は無傷なんで、逆に完全勝利…ではないなぁ…。

 

 怒りで太刀筋が乱れ始めたんで、事故らないうちに背後を取って乗り攻撃でダウンさせようとしたんだが、それが失敗だった。

 勝負を急いだ。

 

 背後からのエネミーステップで飛び上がった瞬間、ディノバルドは背後に飛ぶようにして体当たりを仕掛けてきたのだ。

 意識してやったのか、単に後ろに居た俺を宙返り斬撃で斬ろうとしたのかはわからない。

 だが何れにせよ、俺は巨体で吹っ飛ばされて体勢を崩し、先にディノバルドが着地した。

 

 …で、次に目に入ったのは、ディノバルドが大口開けてるトコだった。

 最後の最後で、尾じゃなくて口か。

 自分で磨いた武器を信じ切れなかったと言うのか、それとも剣は刃だけを使うのではないと気付いたのか。

 

 どっちにしろ、結果は同じだ。

 エリアルの技術の一環として練習していた、MH式飛び退き打ちにコレ程感謝した事はない…!

 やってて良かった飛び退き打ち。

 近付いてくるディノバルドの顎に、剣をつっかえ棒のように突き立てて、ディノバルドの勢いと自分の腕力で強引に距離を取った。

 

 俺を食い損ねて、突き出されている顔に思いっきり振り下ろしの一撃。

 今までに無い感触がした。

 

 

 

 と思ったら、剣が折れていた。

 後から折れた場所を見てみたんだが、刀身の8割以上がスッパリと切断されていた。

 最後の宙返り斬撃が剣に当たっていたのか。

 そこへ全力の一撃なんか叩き込めば、そりゃ折れるわ。

 

 …武器破壊されたのは初めてだな。

 後は怒りの咆哮が轟く前に、モドリ玉を使って撤退。

 

 

 

 やれやれ、思った以上にトンデモモンスターだった。

 と言うか仕留められてないんだよな…。

 手負いの獣を作っちまった。

 

 発見されて襲われたとは言え、依頼でもないのにモンスターと交戦した訳だし…。

 こりゃちょっと怒られるかもなぁ…。

 

 

 

 

NTD3DS月大剣はエリアルがいいかな…日

 

 

 ペナルティは無かったものの、怒られはした。

 形式的に言えば、採取クエストに行ったら乱入したモンスターに襲われたようなもんだし、これでペナルティが出たらおかしいってもんだ。

 が、ハンターの理屈で言えば、獣を中途半端に傷付ける事は、最も危険な事である。

 戦うなら戦う、逃げるならさっさと逃げる、逃げ切れないなら煙に巻く。

 半端な事をせずに、どれか一択にしろって怒られた。

 

 まぁ、それほどキツい叱責じゃなかったが。

 勝てないと思ったら、クエスト失敗覚悟してでも退散する。

 それがマトモなハンターだ。

 ゲームと違って3乙とか、失敗しても生きていられるとは限らないんだからな。

 

 で、あのディノバルドこと剣術バルド(適当にネーミング)だが、ギルドの方で追跡中だ。

 かなり頭が良くて感覚が鋭いようなので、距離を開けて望遠鏡で監視しているとか。

 

 それによると、剣術バルドはまたも修行(?)を続けているとか。

 しかも、今度は尾を振るだけではなく、斬撃⇒体当たり⇒噛み付きとかの連続攻撃まで練習し始めたそうな。

 

 …ひょっとして、昨日の戦いで学習した?

 尾の攻撃はほぼ避けきってたが、体当たりからの攻撃だけは武器に当たったみたいだし……そこから単純な斬撃だけじゃなく、手足を使ったり…下手をするとフェイントまで使う事も思いついた?

 学習能力高すぎるだろ。

 本当にモンスターか?

 中にインテルか転生者でも入ってんじゃないのか?

 

 興味が無いといえば嘘になるが、それ以上にコイツを放置しておくと何処まで進化するか分かったもんじゃない。

 例えばこんなのが霊力を覚えた日には、G級ハンターでも呼び寄せないと対処できなくなってしまいそうだ。

 

 本来、コイツの担当は村付きのハンター…つまりJUNが担当する事になる。

 だが、明らかにそれには実力不足。

 通常種のディノバルドを相手にして、逃げ帰られるかどうか分からないレベルだ。

 

 幸いというべきなのか、今回の交戦の一件で、俺が口を挟む道理も出来た。

 突発的な出来事だったとは言え、手負いの獣を作り出したのは俺の不手際。

 自分の不始末を拭いに行くのは、おかしな事ではない。

 

 

 …正直に言えば、もうちょっと切り結んでみたかった、とも思う。

 そういう意味でも幸いではあるか。

 ハンターとしては、こんな死地や斬り合いを求めるような行動は御法度だ。

 だが俺は同時にモノノフでもある。

 剣の道を求め続けるなんて事を考えてる訳じゃないが、技量の比べ合いに心が躍らない訳じゃない。

 相手がモンスターであっても、積み上げてきた技術を見るのは、体験するのは楽しい。

 それを捻じ伏せる優越感も、手も足も出せずに叩き臥せられる屈辱も、レベルアップには大事なものだ。

 

 

 

 剣術バルドの剣(尾)か、俺の狩り術か。

 昨日は痛み分けだったが…今度はトコトンやってみようか?

 

 霊力も使う、罠もアイテムも使う、神機だって使わせてもらう。

 その上で、剣術バルドを狩るのではなく、あの剣術を叩き伏せてやる。

 

 

 

 

 …そう決心したら、なんだか体の中で何かのスイッチが入った気がした。

 

 

 

 



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126話

最近、カカトのひび割れがちょっと直っているような気がする。
普通冬の方が乾燥して悪化するんじゃないの?
…コタツのおかげかなぁ。




 

NTD3DS月エリアル大剣の心得~日

 

 

 激戦だった。

 回復薬やら罠やら、アイテム全部使いきっちゃったよ。

 流石に今日はもう、何もする気にならない。

 

 …いや、追悼くらいはしようかな。

 デスワープしても、また巡りあうかはわからない。

 尾を只管に鍛えていた、あのディノバルドに黙祷。

 

 

 

 …黙祷終了。

 

 いやもう本当に怒涛の戦いでしたよ。

 最後の超展開まで。

 

 とりあえず剣術バルドには、ディノセイジューローの名を送ろうと思う。

 

 

 

 …うん、冗談半分で飛天御剣流か!なんて言ってたけど、ガチでそう思えてきたんだ。

 ジャンプからの切り下ろし・龍槌閃は以前にも使ってたが、再戦したら技が増えてた。

 尾だけではなく、体全体を使って戦うようになっていた。

 

 例えば、尾の攻撃の後、勢いを殺さずに一転し、攻撃後の隙を狙おうとした俺をカウンターで噛み付きに来る。

 …双龍閃モドキ。

 

 例えば、逆に体当たりして俺の動きを阻害して、そこを狙って尾を振り払う。

 …双龍閃・イカズチモドキ。

 

 例えば、尾をアッパーカット気味に振り上げる攻撃。

 …龍翔閃モドキ。

 

 例えば、こちらの攻撃をステップでかわし、それと同時に横回転して斬撃。

 …龍カン閃モドキ…だったかな?

 有名所の技しか覚えてないや。

 

 尾で斬った木やら石やらを、蹴っ飛ばしてぶつけてくる土龍閃モドキ。

 ただし、コイツには蹴飛ばす前に火をつけたり、飛ばしたと同時に炎を放ってきたりする。

 

 尾を牙で研ぐ音を、どうやってか異常に高くし、ハンターにまで影響を及ぼす音爆弾みたいな効果…というか、ぶっちゃけガラスキーキーみたいな音を出す……えーとアレだ、なんか抜刀術じゃなくて剣を収める技。

 

 

 

 …流石に九頭龍閃は無かったが、あのまま修行し続けてたらいつかは身につけていたような気がするぜ。

 

 

 

 なのに、天翔龍閃はナンデ使えちゃってるんですかねェ!?

 

 

 

 そうだよ、使っちゃってるんだよ何故か!

 行動自体は、他のディノバルドでもやってる尻尾攻撃だった。

 威力や鋭さは段違いと言うか比べるのも失礼な程だったけど、以前遭遇したディノバルドもやっていた、尻尾叩き付け攻撃だ。

 

 アレ、怒ってる時には2連続でやってくるんだよ。

 で、一発目の振り下ろし(正直、横を掠めただけで体半分もって行かれたと錯覚した)を何とか回避して、そのまま2発目に備えよう…としたんだが。

 

 急に突風が吹いて、引っ張られた。

 何がなんだか分からなかったが、ちょうど周囲についていた火(剣術バルドが放った炎だ)が、引っ張られてフッと消えた事で直感した。

 尾の攻撃があまりに鋭く強烈すぎて、空気が吹っ飛ばされ、それが戻ろうとしている。

 

 …それだけで人間の体を動かなくするくらいの風が起きるのかとか、そーいった疑問はあるが、正直言って今更だ。

 咆哮で人間を吹っ飛ばすモンスターだって居るくらいなんだから。

 MH世界特有の物理学(別名・アタリハンテイ力学)に照らし合わせれば、そんなに不思議な事じゃない。

 

 

 

 …で、動けなくなった俺に、2発目の尻尾叩き付け攻撃。

 正直、これを凌げた……と言うには、受けた傷が大きすぎた。

 

 

 て言うか右腕飛んでった。

 

 

 普通だったらショック死か、どんなに良くてもハンター廃業モノの傷だろう。

 が、どーも俺の人間離れも随分と侵攻していたようで。

 

 命に危機に瀕したからか、体が勝手にアラガミ化し……無くなった右腕が、鬼達がやっているような霊体で構成された。

 …血ぃ止まってなかったし、頭がおかしくなる程痛かったけど。

 デスワープで何度も死の苦しみを味わってなきゃ、確実に行動不能になってたな。

 

 というか、体の一部が無くなるのは初めてな気がするな…何だかんだで、今まで五体満足のまま死んでたし。

 体内の、ハンターボディやらゴッドイーター因子やら霊気やら蝕鬼の触媒やらのバランスが、またしても崩れたのが分かった。

 

 

 

 

 そして、更なる怒涛の展開はここからだった。

 なんか知らんが、アラガミ化がいつもと違う。

 もんのスゴイエネルギーを感じた。

 短時間だったが、体の全ての機能が全開放されていたような…いや違うな……普段は制限されているものが、全て取り払われたような……。

 

 そういや、片方だけだったけど背中から羽状にエネルギーが放出されていたな。

 上手くやれば空飛べたんじゃなかろうか。

 

 

 …というか片方だけの羽って…そういやアラガミ状態になった時には、武器が太刀状になってたし…。

 エンサンシメジヒラメデメキン…。

 

 

 

 

 溢れ出る全能感に身を任せたまま、剣術バルドを一気に蹂躙。

 いやもうケタハズレだったよ、今までのアラガミ化と比較しても。

 尾の一撃は流石に回避したけど、炎も踏みつけもパンチも、防御なんぞしなくても素で跳ね返せてしまった。

 更に攻撃力の上昇は、ちょっと全力を出すのが怖くなるくらいの代物だった。

 

 …やっておいて何だが、技比べの結果が突然発現した謎の能力で打ち切られるのは、少々切ないものがあるな。

 出来れば、剣(尾だけど)の技術を全て受けきって、その上で俺自身の力で倒してやりたかった。

 

 あの剣術を叩き伏せてやる、って思ってたのになぁ…。

 ああでも、もしあの天翔龍閃が最終奥義だったとしたら、それを受けても…まぁ片腕飛んだけど、生きてはいたって事だし。

 一応誓いは果たしたって言えるのかなぁ…。

 でも普通に考えれば、生きてるだけじゃなくて、完全なカウンターでも決めるか、完全に回避しないと勝った事にはならないだろ。

 

 …だけど、もう一度アイツと戦えるかは分からないし…やれやれ、勝ったと自分で認められないのがこんなにモヤモヤするとはね。

 

 

 

 

 

 認める?

 

   

 どっかで話に出たような……別に特別な言葉でもなければ、滅多に使わない表現って訳でもないが……そういえば、あの後の神機の様子がちょっとおかしかったような…。

 

 

 日記はここまで。

 少し読み返そう。

 

 

 

 

 追記

 吹っ飛んだ腕は、霊体で構成された腕に重ねるようにくっつけてみたら、なんか繋がった。

 モーオレサマニンゲンジャナイ。

 

 

 

 

 今更か。

 別にいいけど。

 

 

 

NTD3DS月一つ、最大溜めに拘らず当てられる時に斬ること!日

 

 

 思えば色々あったもんだ。

 日記には書かれてるけど、「そんな事あったっけ?」と思う様な事も多々ある。

 単に俺が忘れてるだけなのか、クソイヅチに何か食われたのか…。

 

 

 それはともかく、「認める」「神機」をキーワードにして読み返してみたところ、あの時のパワーアップはこれじゃないか?と思う現象を発見した。

 神機は常に拘束されており、一度それが解かれれば、使い手にさえ牙をむき浸食する。

 だが、もしも神機に自分が使い手である事を認めさせる事ができ、その上で拘束を解放するのであれば…常日頃とは比べ物にならない、桁外れの力を震えるようになる、という理論だ。

 

 …でも自分が勝ったと思えてないんだよな…。

 俺じゃなくて神機が認めた?

 でも神機は今となっては俺の体の一部に等しい。

 例えるなら、右手が自分の意思を持っていて、俺を認めたから普段は30%しか使ってない筋力を100%まで発揮させたと?

 …しかし、アラガミ化前なら俺の体とは別の存在なんだから、神機が自分の意思を持っててもおかしくはないし…。

 

 

 …少し考え方を変えてみたらどうだ?

 そもそも、神機は今でも本当に拘束されているのか?

 拘束される必要はあるのか?

 

 神機が俺の体の一部であるという事は、確かな実感として俺の中にある。

 それこそ、右手を動かすのと同じ感覚で、変形させたり振るったりする事だって出来る。 

 ある意味、神機は道具と言うよりは手と同じなのだ。

 当然、それを好きに動かす事もできる。

 ハンター式肉体操作術を使えば、普段使ってない70%の力を引き出す転龍呼吸法モドキだって出来る。

 

 …いや、本当に100%の力を引き出せているのなら、あの時のパワーアップも好きに引き出せる筈。

 という事はやはり拘束されているのか。

 或いは、拘束はされていなくても、その力を引き出すのに何か条件があるのか。

 

 命の危機?

 それなら、今まで何度もあった。

 体が今の状態に落ち着いた今回のループに限ったって、ユクモ村でのタマミツネ・ラギアクルスのコンビ攻撃により、強制的にアラガミ化させられる程のダメージを負った。

 命の危機というなら、あれも今回と同等だ。

 

 じゃあ、体の欠損?

 これは考えたくないが…でも繋げる事はできたから、運用出来なくは無いんだよな…。 

 

 

 …試してみないと分からないな。

 それと、神機の使用は暫く控えた方が良さそうだ。

 自分の体の一部に等しいのに、異常なのかさえ分からないってのもおかしな話だが………なんつーのかな、右手の間接が、ふと気がつけば全部逆側にも曲がるようになっていて、それなのに全然苦痛を感じない、普段通りの動きもできる感覚?

 異常なのにそれを感じさせないってのが、一番怖い。

 

 

 

 

 そうそう、剣術バルドを倒した事は、既にベルナ村にも伝わっている。

 他にもディノバルドは何匹か居ると思うが、流石にあれ程の異様な個体はそうそう出てこないと思う。

 村に流れた素材の幾つかを見ても、普通のディノバルドじゃなかったのは明らかだった。

 

 JUNがキラキラした視線を向けてきた。

 「実力に差がありすぎて、これじゃコンビを組めないね」とも言われたが。

 

 …いや…俺としては別にコンビを組む事事態は問題ないんだけど。

 酒飲ませなければ、おかしな事もしないし。

 寄生でなければ、実力に差があるハンターが組む事だって珍しくない。

 というより、拮抗した実力のハンター同士が出会う可能性はあんまり高くないし。

 

 そう言ったが、自分が納得できない、とJUNは譲らなかった。

 この辺は男の娘とは言え、男として、或いはハンターとしてのプライドの問題だろうから、こっちからあまり強くは言えないが…。

 

 

 

 結局、チーム結成は無しになったか…。

 ふっ、今回ループもソロばっかだよ…。

 

 まぁ、外回りハンターになった時点で、ほぼ確定してたけどな…。

 

 

NTD3DS月一つ、無理なエア回避は使わず防御を活用する事!日

 

 

 異様な個体が、これでココット村を除く3箇所に出現した事になる。

 それも、俺が外回りに到着したのを見計らったかのように。

 

 

 …先日、日記を読み返してたんだが…これってひょっとしてアレか?

 ユニスとくっついていたループで、出かけて戻ってくる度にメゼポルタがデカブツに襲撃されていたのと同じ理屈か?

 外回り1回目に何事も無かった(ティガとか狩ったが)のは、「戻ってきた」のではないから、とか?

 …別に「戻ってくる」、に拘る理由もないと思うが…いや、仮に運命とか因果律とかそーいうのがあったとしたら、それはきっと理屈や理由なんか関係なしに決まっているんだろう。

 少なくとも、俺達には見えない理解できない公式で、俺が何処かから戻る⇒なんか変なのが出てくる、という回答が決まって出てくるようになっているんだ。

 

 しかしそうなると、外回りに行くのは危険かなぁ。

 でも一度はその異様な個体を退けたんだし……ああ、だけどメゼポルタは一回だけじゃなくて度々襲撃されていた。

 

 …どっちにしろ、外回りハンターになっている時点で、いやでも行かなきゃいけないのは確定事項か。

 シャーリーさんや、コノハやササユにも会いたいし、心配だ。

 俺が行かなかったら、出てきた個体が散々暴れまわるんじゃないかって事も考えられる。

 

 やれやれ…今度は何が出てくるやら。

 

 

 

 とりあえずベルナ村での不安な事は大体終わったし、今度はポッケ村か。

 色々な意味で心配だ。

 シャーリーさんの怒りが特に。

 

 …後は、遺跡やらウカム復活やら古龍やら塔やら…。

 うぅむ、やはりポッケ村は魔境だ。

 

 

 

 という訳で、またも外回りに出発して、ポッケ村に到着。

 最も恐れていた魔獣・G級受付ジョー…は出現していなかった。

 ちゃんと出迎えてくれましたよ?

 駆け寄ってきて抱き付かれました。

 飛行船で冷えた体に、人肌の温もりとG級が嬉しいね。

 

 …正直、出会いがしらに「タマ取ったらぁ! 下も命も!」も覚悟していたんだが、そういう事は全然無く。

 むしろスッゴイ心配されていました。

 「あの二人に襲われて、トラウマになったりしてない?」とさえ言われた。

 

 …本当にナニやらかしたんだ、あの二人。

 結局、懇ろになってしまった件については、コノハとササユは自分から一服盛って襲い、そこからもそれをネタに迫っている…と自分達を悪役にして説明したようだった。

 実際悪役と言うか、仕掛けてきたのはあの二人な訳だが。

 

 これについて、シャーリーさんからのコメントは…「思うところが無いではないけども、とにかくあの二人の手綱を握っておいて頂戴」との事だった。

 …謎が深まる…。

 

 

 

 さて、仕事の話に移るが、ポッケ村で今一番ホットな話題と言えば、俺が発見した謎の遺跡である。

 今でも龍暦院の学者さん達が調査の為の作業を続け、レジェンドラスタの二人が遺跡の横の謎の横穴を調査していた。

 もうかなり時間が経ってるのに、まだ横穴の底は見えないのか?

 一体どれ程続いていて、どこまで調べているんだろうか。

 そこまで穴を進んで何も無いのなら、やっぱり何も居ないんじゃないだろうか。

 

 

 そんな事をシャーリーさんと話していたら、なにやら少し言い淀んだ。

 そして周囲を見回してから、こっそり耳打ちされた。

 

 

「レジェンドラスタのお二人と、話をしてください。

 決して誰にも聞かれないように、人払いをして」

 

 

 と。

 …そりゃ話は聞かせてもらうが…シャーリーさん、つまりG級受付嬢からこういう指示が出て、周囲に話を聞かせないように秘匿している。

 ………G級クラスでないと、本来は聞く権利すら無い話?

 レジェンドラスタ2人が揃っていて、尚そこまで警戒しなければいけない話?

 

 厄ネタってレベルじゃねぇ。

 というか、第一発見者とは言えそれを俺に話していいのか?

 

 

 そして誰の邪魔も入らない、3人きりの状態であの二人と話か…。

 前に話した時は距離が近かったなぁ…。

 色香に耐えられるだろうか…。

 まぁ襲い掛かったところで、あの二人に軽く返り討ちにされると思うけど…。

 

 

 

 

 「変な事しちゃ駄目ですよ」って真顔で言われた。

 

 

 

 

 …この間、コノハとササユに襲われてさ…変な事「される」のもいいよねって思うようになったんだ…。

 

 

 

 

NTD3DS月一つ、前転に時間がかかるので炎やられ対策は怠らない事!日

 

 

 色っぽい展開は無かった。

 というかそれどころじゃなかった。

 うん、秘密にされてたのも納得だわ。

 

 例によって距離が近い二人に「元気だった~?」って手を握られました。

 息をするようにコミュニケーションしてくるね?

 …でも、他のハンター達にはどういう訳だか、そこまで接近してないらしい。

 

 これってアレか?

 何故か俺の好感度がやたら高いとか、そういう話か?

 とか思ってたが、シャーリーさんの観察によると、どうもちょっと違うっぽい。

 

 と言うのも、まず第一にフローラさんの距離が近い事だが、これは単にフラウさんに引っ張られているだけである。

 フラウさんが近くに居ない時は、フローラさんのパーソナルスペースは普通と言える程度には広い。

 よって、顔を間近で覗き込むような真似はまずしない。

 

 次にフラウさんだが…この意見は、シャーリーさんでも俺でもなく、フラウさんの祖父からだ。

 以前にシャーリーさんが仕事で少しだけ耳にしたそうだが、フラウさんのお祖父さんは彼女の事を、「人を見て、その人のお好みの態度を取れるオンナ」と称したそうな。

 故意にやっているのか、それとも天然なのか…どっちにしろ恐ろしい話であるが、今は置いといて。

 

 

 俗な話になるが、男が女に望む態度とは何だろうか?

 趣味嗜好による差はあるが、美人からは好意を寄せられたいと思うだろう。

 が、人間、理由も分からず一方的に好意を寄せられると戸惑うものだ。

 それが自分とは明らかにステージが違う、高位の人間からのモノであれば尚更だ。

 そして、この世界においてレジェンドラスタと言うのは、下手な貴族や王よりも強い発言力や影響力を持っている。

 

 そんな人間に、唐突に懐にまで踏み込まれたらどうなるか?

 大抵の人間は、喜びよりも先に恐怖すら感じるだろう。

 何故自分なのか、何故そんな態度を取られるのか…と。

 

 要するに、皆尻込みしている訳だ。

 フラウさんは、それを感じ取って皆からは一歩距離を取り、それが無い俺に対しては踏み込んでくるんだろう。

 なので、俺が特別好感度が高い訳ではなく、これが素なのだから勘違いしないように……と延々とお説教されました。

 勿論俺はシャーリーさんの前で正座です。

 

 

 

 

 

 …ちょっと待て、一般人に隠されていた秘密について書こうとしていたのに、何故にレジェンドラスタの二人の態度に話が移っているかな。

 ある意味そっちも重要ではあるけど。

 

 

 

 改めて書き直す。

 昨日の俺は、レジェンドラスタの二人に連れられ、あの遺跡と横穴へ潜った。

 遺跡は大分氷がどかされて、細かい所まで見えるようになっていた。

 やっぱり既視感を感じたが、どこで見たのかは思い出せない。

 

 で、横穴なんだが…ひどく小さな明かりを頼りに、俺達は密着して進んでいった。

 …左右から柔らかい感触が感じられる程密着していたが、あいにくとあんまり幸せは感じなかった。

 何故ならホットドリンクも通じないくらいに寒すぎて、人肌に触れててもまだ凍える。

 堪能している余裕なんぞありませんでした。

 

 

 

 

 …そしてある程度進んだ辺りから感じ始めた…なんというか、途轍もなく大きなナニカがいる気配。

 敵意を感じる訳じゃない、意識だって多分無い。

 そんな状態なのに、威圧感だけで足が重くなった。

 何とか堪えて進んでいった先にあったのは……大きな大きな氷の壁。

 

 

 

 そしてその中で蹲っている、ウカムトルムだった。

 

 

 

 悲鳴を上げなかった俺を褒めてほしい。

 

 

 そしてウカムルバスではなくウカムトルムと呼んだ俺は、それだけ動転していたのだとご理解いただきたい。

 

 

 ウカムトルムは分厚い氷の中に閉じ込められて微動だにしない。

 というより、完全に凍り付いてしまっているようだった。

 氷の壁の様子を見るに、ひび割れの一つも無いので、少なくともこの何十年間の間で動いた事は無いのだろう。

 よく見れば体のあちこちに大きな傷跡ができており、そこから流れ出したらしい血…あれって古龍の血…じゃないな飛竜なんだよなコイツ…も凍っている。

 生きているウカムを知らないので比較対象は無いが、全体的に痩せている印象もあった。

 

 …凍死?

 いや、死んだ後に遺体が凍り付いて冷凍保存された?

 

 

 レジェンドラスタの二人も、コイツは死んでいるのだ、と判断したらしい。

 …最初は。

 

 それを覆したのは、よくよく見ると見える、一本の角だった。

 俺も実物のウカムトルムの形がどうなっているのか知ってる訳じゃないんだが、大雑把な形は覚えている。

 白くてアゴがスコップみたいになってて、そしてトゲトゲ。

 トゲトゲと言うよりは、甲殻が何重にも重なっていたような気がするが、そこら辺はよく覚えてない。

 

 

 

 …が、あんな『角』は存在していなかった筈だ。

 少なくとも、ウカムトルムの角を部位破壊した、なんて話は聞いた事もないし、それを使った攻撃方法も無かったように思う。

 

 

 

 だがそれ以前に、氷の中で平然と小さくなったり大きくなったりするような角なんてあってたまるか。

 そこだけ氷が無くなっている訳じゃない。

 『氷という物質を擦り抜けて存在している』のだ、あの角は。

 

 そんな事ができる存在を、俺は一つだけ知っている。

 言うまでもない、霊力だ。

 どんな物質でも擦り抜けられるとは言わないが、俺だってある程度の障害物を擦り抜けて霊力を通す事は出来る。

 

 

 注意深く探ってみれば、感じるだけで頭が痛くなってくるような存在感の中に、確かに霊力らしいモノが混じっている。

 そして霊力とは生命の力だ。

 体の外に出して形にする程の霊力があるのならば、このウカムトルムが死んでいる筈が無い。

 更に言うなら、以前のティガレックスを例に考えるに、本来ならない筈の角…しかも霊力の角…を持つウカムトルムは、何かしらの特殊能力を持つ可能性が高い。

 

 

 アカムと揃えば世界が崩壊すると言われる程のバケモノが、本来ならない能力を持つ。

 例えばティガレックスと同様、スタンド能力なんか持っていたら?

 

 

 …考えたくもない。

 

 

 

 あの角はまるで鼻提灯のように、大きくなったり小さくなったりを繰り返す。

 下手にこの場でちょっかいを出す…例えば鬼払い(ここから氷のには届かないけど)をすると、それこそ鼻提灯を割られて飛び起きるという珍風景が見られるかもしれない。

 ただし代償はこの辺一帯の崩壊である。

 冗談じゃぬえ!

 冗談じゃぬえぇぇぇ! ぬえっ、ぬえぇぇ!

 

 

 

 

 ふぅ、落ち着いた。

 そしてまたもウカムをウカムトルムと呼んでいた事に気がついた。

 なんか言っちゃうんだよな……もうウカムでいいか。

 

 

 

 とにかく、当面ウカムに手を出す事はできない。

 接触して分かった。

 今のアレには歯が立たない。

 たとえアラガミ化して、先日の謎のパワーアップを再現できたとしても、捨石になれれば御の字ってくらいの差がある。

 というか物理的にデカすぎるわ。

 

 仮に目覚めたらどうする?

 シャーリーさんを掻っ攫って逃げるか?

 レジェンドラスタの2人と……いや、2人が挑んでも勝てるかどうか。

 

 じゃあ討ち死に、無駄死に覚悟で突貫する?

 俺の損害は軽微だけど、あまり意味が無い。

 というかシャーリーさんとコノハとササユとの縁が切れるのがとても痛い。

 どうしようもないのかな…。

 

 うーむ、飛行船から爆撃でもすりゃ意識くらいは反らせるかなぁ…打ち落とされる気がしてならない。

 どうすんべぇ、ウカムトルム。

 

 

 

 

 またウカムトルムと書いてしまった。

 なんか妙にシックリくるんだよな…しかも語感だけじゃなくて霊感レベルで。

 

 

 ……名は体を現すとか、呪的霊的に名前って重用なんだよな…。

 そしてウカムトルムがしっくりくる…………まさか?

 

 

 




剣術バルドは流石にやりすぎだったか、とちょっと反省してます。
強さ云々じゃなくて、転生者疑惑的な意味で。


恐ろしい事に、天然で生まれたディノバルドです。
そのまま成長していれば、新たな二つ名持ちが生まれていた事でしょう。


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127話

初めて獰猛化クエストに挑戦した記念に投稿します。
ふむ、獰猛化は動き自体はあんまり変わらないな。
攻撃のタイミングで効果音みたいなのが出てたから、これに合わせてジャスト回避とか出来そう。

あとゲネルセスタス・アルセスタスがウザい…一体に纏めておいた方が対処しやすいかな。
アルセスタスを乗り攻撃とかで怯ませれば合体解除だけど、よく考えたらそれってゲネルセスタスに攻撃が行ってないって事だった。
そりゃ妙にタフに感じるはずだわ。

今日はmhxに集中したいので、感想返しはまた今度にさせていただきます。


 

NTD3DS月mhx攻略本買おうかなぁ日

 

 えー、ウカムに関しては、結局レジェンドラスタや龍暦院の皆様と同じ結論に落ち着いた。 

 即ち、「起こすな」「触るな」「刺激するな」。

 これが誰にでも出来る、そして何よりも有効な対処法だ。

 ただ、その対処がいつ出来なくなるか、そして出来なくなった時点でポッケ村が終わりかねないってリスクはあるが。

 

 実際、あのウカムは一体いつから眠り続けているんだろうか。

 あの傷跡、そしてポッケ村のすぐ近くという場所からするに、村長の先祖が撃退した個体なのではないだろうか。

 もしそうだとすると、何十年以上も眠り続けているという事であり…このまま氷が溶けなければ凍結されたままである可能性と、逆にいつ目覚めてもおかしくない可能性が両立する。

 

 奴を排除するには、あの氷を引っぺがして刃を届くようにしなければならない。

 そして、氷を引っぺがせばウカムを刺激し、目覚めさせてしまう可能性も高い。

 

 …根本的な対処=ウカムとの正面対決だと思った方がいいな。

 小細工しかけても、どこまで通じるやら…。

 

 まぁ、そもそもあの氷をどうにかする方法すら目途が立ってないんだけどな。

 遺跡の氷を除去する超・消散剤でさえ、あそこの氷には歯が立たないのだそうだ。

 初めて発見した時、フラウさんが試しにバシャッとかけてしまったそうな。

 それで目覚めてたらどーすんだ。

 まぁ、それで目覚めるようなら、何もしなくても遠からず目を覚ます程度に眠りが浅いって事だろうけど。

 

 

 そうコメントしたら、フラウさんが「そーだよー、わかってるね!」と笑っていた。

 …そこまで計算してやったのか?

 それともその場のノリでやってみただけなのか?

 謎は深まる。

 

 

 どっちにせよ、今できる事があるとすれば、ウカムが目覚めた時に備え、避難の準備をしておく事だ。

 戦う準備もしておくべきかもしれないが、相手の戦力が未知すぎて、何処で戦いになるかも分からない。

 ゲームの通りなら、何処ぞの雪山奥地になるだろうが、それこそ範囲が広すぎて絞れない。

 

 

 

 結局、今はどうしようもない。

 

 レジェンドラスタのお二人は、暫くポッケ村に滞在するそうだ。

 龍暦院とポッケ村の共同で二人を雇っていたが、それとはまた別件になる。

 ウカムというトンデモモンスターが確認された事で、ハンターズギルドも本腰を上げたらしく、調査・対策の為にポッケ村で活動するように指令が下ったのだそうだ。

 これを放置しておけば多大な被害が出るし、もしもウカムの存在を知りながら放置していたなんて情報が流れればハンターズギルドの信用にも関わる。

 この世界において、ハンターの権威が失墜する事は、大混乱を意味する。

 強大なモンスター達に立ち向かう為の手段が無くなってしまうのと同じだからだ。

 

 「そんな訳で、これからもよろしくお願いします!」だそうな。

 俺としても、二人とのコネが出来るのはありがたい。

 何だかんだ言っても、地力で俺の遥か上を行くレジェンドラスタのお二人だ。

 色々と意見も聞かせてもらいたいし、訓練とかつけてくれるとありがたい。

 

 二つ返事でオッケーをもらえた。

 「G級ハンター目指してガンバロー!」だそうな。

 いや、俺はあそこまで人外……人外…………こんだけ人外の俺にこう評価される辺り、ハンターも大概だなぁ…。

 

 腕組まれて気勢を上げていた。

 今度は暖かくて柔らかくて幸せだった。

 

 …相変わらず距離が近くてシャーリーさんが不機嫌だ。

 とりあえず、今夜はかねてから準備しておいたタマミツネの体液を使って、寂しい想いをさせたお詫びも含めてサービスしようと思います。

 

 うむ……泡の国的なプレイを仕込んで…この際だから、頭の悪いアダルトビデオの煽り文句みたいな事を実現させられんかのぅ…。

 

 

 

NTD3DS月大抵のデータは攻略サイトで手に入るけど、何か欲しくなる日

 

 

 失神は何度もさせてるので、そこから更にレベルアップ。

 寝たら起こして更に気絶させて起こしてエンドレス。

 エビゾリ、痙攣、開脚、その他諸々。

 ローションがヌルヌル。

 シャーリーもぬるぬる。

 

 …なお、これらはことばをならべただけであり、あーるじゅはちなうらのいみはありません。

 という事にしておこう。

 ここからナニか連想する事までは責任が持てません。

 

 

 シャーリー?

 腰が抜けたからベッドで寝てるよ。

 あと声を上げすぎて、喉がちょっと痛いって。

 と言うか、あっちも結構貪ってたなぁ…それだけ欲求不満だったんだろうか。

 

 

 

 さて、それは置いといて。

 シャーリーも、ウカムの事は知っていた。

 だがそれでポッケ村から逃げようとは思っていない。

 まぁ、実際いつ目覚めるか分からないと言うか本当に目覚めるか分からないし、そもそも受付嬢がハンターの力を信じず逃げ出してどうするんだって話だ。

 明らかに無理なら止めもするだろうが…。

 

 …まぁ、なんだ。

 シャーリーを死なせない為に、ウカムはどうにかするって言っちゃったからな。

 気張るしかあるまい。

 

 

 とは言え、昨日も日記に書いたが、現状で出来る事は無いに等しい。

 ポッケ村付近も、(一見すると)モンスター事情も落ち着いており、急いで狩らなければならない相手も居ない。

 となると、出来る事はレジェンドラスタの二人と一緒に特訓か。

 またシャーリーがちょっと不機嫌になるかもしれないな。

 そうなったらまた卑猥度を上げて機嫌を取るが、対症療法だしな……限度はある。

 なら二人と一緒に居てもシャーリーが不機嫌にならないようにしないとイカンのだが、あっちから他意もなく迫ってくるのをどうしろと言うのだ。

 

 

 …?

 ちょっと待てよ、フローラさんはフラウさんに引っ張られているだけとして、フラウさんは何故に近寄ってくるんだ?

 「人を見て、その人のお好みの態度を取れるオンナ」と称されたフラウさん(その評価が正しいとするなら、だが)が、何故俺にいつも迫ってくるんだ?

 そりゃ確かに、俺としては仲良くしてくれるに越した事は無いし、エロ的な意味でもそうでなくてもスキンシップは嬉しい。

 が、言っちゃ何だが、今の俺にとってはフラウさん<超えられそうで超えられない壁<シャーリーだ。

 フラウさんに接触してシャーリーが不機嫌になるのなら、接触を断つ…のは仕事の事もあって無理だから、それなりに距離を取りたいと思う。

 

 でも、実際はフラウさんはお構いなしに近寄ってくる。

 他の人達には、それなりに距離を置いているのに、どういう訳だか俺に対してはプライベートスペースがあるのかさえ怪しいくらいに近寄ってくる。

 何故?

 

 

 別に、「俺が離れてほしいと思ってるんだから、その通りにしろよ」と思ってる訳じゃないが、何で俺だけ態度が違うんだ?

 これは純粋に疑問に思う。

 ……今日はフローラさんが訓練つけてくれる予定だし、ちょっと相談してみようかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練終了。

 いやさすがレジェンドラスタだわ。

 ナターシャさんに訓練してもらった時も思ったが、地力が違う。

 

 そういや、フローラさんはナターシャさんを先輩って慕ってたんだよな。

 ナターシャさんとは訓練のタイプがちょっと違う。

 ナターシャさんの教えは、弓の扱いに傾倒してはいたけど、何と言うか俺に出来る限界ギリギリの線を見極めて、そこに常に追い込んで慣れさせるって感じだった。

 限界や上限を引き上げるような鍛え方だ。

 

 でもってフローラさんは、サラッとした顔で、今の俺でもキツい課題出してくる。

 と言うより、今までの俺が放置していた部分を正確に突いてくるってカンジか?

 

 何だかんだで、モンスターを狩る事ばかりに集中してたから、他の事が疎かになってたかな。

 採取とか、アイテム造り、素材の現地調達とか…。

 農地経営に関しては、外回りハンターという性質上、全く関われていなかったが、これは仕方ない。

 

 やれやれ、準備に力を入れろ、なんて正宗に語った俺がコレか。

 気合入れなおさんと。

 

 

 

 で、休憩時間にフラウさんの事を相談してみたんだが…なんか複雑そうだった。

 そして「シャーリーさんには悪いけど、私はフラウの味方をしますから」と宣言された。

 よー分からん。

 

 だがフラウさんの行動については、ある程度教えてくれた。

 

 確かにフラウさんは人の望んでいる態度を取っている節がある(意図的かどうかは言葉にされなかった)が、それだって結局はフラウさんの意思の上に成り立っている。

 自分のやりたい事をやりながら、人が望む態度を取る。

 例え、相手がどんなに「NO」と望んで、フラウさんがそれを読み取ったところで、フラウさんが「YES」と望めばその通りに行動する。

 望む態度を読み取って、自分の態度を変えたとしても、それでフラウさんの行動までが変わる訳ではないのだ。

 

 ナルホド、言われて見れば当然の話である。

 他人が望む態度を取り、他人が望む意見だけを反映させているのなら、そこにフローラさんの自我は無い。

 

 

 しかしそれならそれで分からない。

 つまるところ、フローラさんは「自分で望んで、俺に近付いてきている」という事なのだ。

 何故?

 結局、その理由が分からない。

 好意を寄せられている、と解釈していいんだろうか?

 しかし今はシャーリーさんとコノハとササユと関係を持っている身、しかも二人は公認現地妻を自称している。

 

 …あれ、今更不義理もクソも無い気がしてきた。

 

 

 いやいや待て待て、そもそも本当に男女的な好意を向けられていると言うのか。

 友達的な好意なのかもしれないじゃないか。

 大体、今まで大した時間を一緒に過ごした訳でもないし、好意を寄せられるようなイベントがあったとは思えない。

 …でも好き嫌いに理由なんぞあって無いようなもんだしな…。

 

 

 本当にどう対処しようか。

 「あんまり近付かないで」と俺からフラウさんに言ったとして………アカン、無駄だ。

 スルーされる未来しか見えない。

 あの天真爛漫かつ天然な性格(演技?)によって軽くかわされ、逆に一気に踏み込まれる。

 

 う~ん………いっその事、あっちから押し倒してきたら……いやいや、加害者のレッテルを相手に望んでどうすんだ。

 と言うか、こんな事考えてるから、シャーリーが不機嫌になるんだわ。

 

 ええい、とりあえずここまで。

 とにかく今は訓練訓練。

 

 

 

NTD3DS月マスターガイド約3,000円…ううむ日

 

 

 今日はフラウさんとの訓練だ。

 物言いたげなシャーリーの態度も分からないではないが、何も言われなかった。

 やってる事は、真っ当な訓練だからな。

 

 

 

 

 

 相手はナナ・テスカトリだったがな!

 

 

 

 訓練っつって砂漠に出たら、何故か遭遇した。

 依頼も出てなかったってのに。

 狩猟環境不安定とかそーいう問題じゃねーだろ。

 

 

 やりあったのは初めてだったが、ただでさえ熱い砂漠で、あの炎が…。

 ハンターボディでさえ耐えられないのも頷ける暑苦しさだった。

 

 しかも採取依頼でやってきていたので、持っているのはピッケルやら虫網やらのみ。

 回復薬なんてありゃしない。

 勿論応急薬も無い。

 

 フラウさんは、「丁度いいから、これが訓練ね」なんて言って高みの見物を決め込んだ。

 何をどうやったのか、ナナ・テスカトリも俺にばっかり狙いを定めてきたし。

 ニコニコしながら眺めていたが、「悪女」の言葉が脳裏を過ぎったのは不可抗力だと思う。

 別に彼女が持っている武器の名前の事じゃない。

 …そういや、テオ・テスカトルの素材を使った武器だと言ってたような。

 

 

 それはともかく、「距離感大事だよ~」なんて適当なアドバイスをくれたフラウさんだったが…まぁ、言いたい事は分かるよ。

 距離間、即ち間合いが重要なのは言うまでもない事だが、ナナにせよテオにせよ近付いただけでダメージを受けるモンスターだ。

 どれくらいの距離なら体に負担がかからないのか、どこまで踏み込めば反撃を届かせ、最小の被害で離れる事ができるか。

 それを強く意識し続ける必要がある。

 何せ回復アイテムがまるで無いからな……その状態で撃退まで持っていけたのは奇跡に近いよ。

 

 霊力での回復?

 流石にフラウさんが見ている前で霊力使うのはマズいだろ。

 それに、実戦形式になってしまったが、訓練は訓練。

 ここで霊力に頼るようでは、まともな成長なんぞ望めない。

 

 

 

 

 

 という訳で、物理攻撃オンリーで撃退に至った。

 厄介ではあったが、多分ナナ・テスカトリとしては弱い個体…つまり下位個体だったんだろう。

 熱気は強かったが、耐え切れない程ではなかった。

 何せマグマの傍でも平然としていられる、ゴッドイーターでもあるからな。

 それを考えると、曲りなりにも俺の体に負担を与えてくる辺り、ナナ・テスカトリの熱量はマグマ以上なのか。

 或いは熱以外に何か負担の原因があるんだろうか。

 

 

 考察は置いといて、今回の訓練の話だ。

 距離感大事、を念頭に入れて戦っていたのだが、どうにも上手く間合いを調節しきれない。

 当然だな、相手だって生きて動いてるんだから、小刻みに調節しようとしても、どうしても誤差は出る。

 

 何とか距離を調整しようと四苦八苦していたんだが…ここで気付いたのがフラウさんだ。

 相変わらずナナ・テスカトリに全然狙われていないのだが、よく見れば常に微妙に移動しながら俺達を観戦していた。

 何故そんな事を?と思ったが、話は簡単。

 それこそ距離感…間合いの調節、だ。

 

 開けた距離からナナ・テスカトリの行動を先読みして、攻撃しにくい場所、攻撃しようと思わない場所に陣取っている。

 ここら辺でピンと来た。

 

 行動の先読みも、ポジショニングも、フラウさんの得意技だ。

 「人を見て、その人のお好みの態度を取れるオンナ」も、相手の内面を感じ取り、また心地よい場所を見抜けなければ実践するのは不可能だろう。

 

 つまり、フラウさんの言っている「距離感」とは、武器の間合い、攻撃の間合いだけではない。

 相手の内面や行動を読み取り、攻撃が届きそうで届かない場所に陣取って誘導し、残り体力や苛立ち…ヘイト管理までコントロールする。

 時には敢えて必要以上に接近して神経をかき乱し、逆に距離を取って気勢を肩透かしさせる。

 

 それがフラウさんが言っている「距離感」だ。

 

 

 

 

 

 で  き  る  か

 

 

 

 

 と言いたいところだが、完全にじゃなければ何とかなる。

 要するに、敢えて距離を取ってブレスや突進を誘うのと同じ理屈な訳だし。

 しかし、これを意識してやれているのなら、やはりフラウさんの態度は意図的なものだったんだろうか…。

 

 

 

 

 ともあれ、何とか撃退。

 フラウさんが言う距離感も、充分ではないが身についたと思う。

 

 撃退した後、「そうそう、そんなカンジだよ~! こんなに飲み込みがいい人、ボク初めて見た!」と言って飛びついてきました。

 おお、スキンシップ…。

 

 

 

 そして汗のヌルヌルが!

 

 と言うか、何でそんなに汗を?

 …クーラードリンク忘れちゃった?

 そんなの、言ってくれればすぐ分けたのに。

 古龍と戦ってるんだから、クーラードリンクにせよアイテムはあった方がいいって…まぁ、確かにそうだけど。

 

 以前にも双剣の片方を忘れてきてしまった事があるそうだが……うん、双剣はともかくクーラードリンクなら、カワイイから許す。

 誰でも一度はやる事だもんな。

 レジェンドラスタでそれはどうなのかと思うが。

 

 

 「汗だらけで抱きついちゃってゴメンね」と謝られたが、我々の業界ではゴホウビです。

 と言うか汗のニオイとは思えない程にフローラさんもといフローラルなんですが?

 普通の汗のニオイだって好きですけどね。

 汗に限らず、女の体液のニオイなら大体は…リバースはどうかと思うが。

 

 ニオイフェチ?

 何を言う、汗に異性を引き付けるフェロモンがあるのは事実だぞ。

 フェロモンに引かれて、生物学的におかしいとでも?

 

 そもそもフェチではない。

 ニオイに限らず、様々なシチュエーションにおいて、奥深く楽しむ方法を知っているだけだ。

 

 

 ともあれ、フラウさんは「ああこれ? 紅茶飲んでるからかな?」とか言ってたが…紅茶で体臭が変わるのか?

 確かにそういうのは聞いた事がある。

 紅茶で効果があるかは知らんが、ニンニクのニオイだって口臭じゃなくて体臭らしいし、バラのニオイの紅茶を飲み続けたら一ヶ月ほどで汗とかがバラのニオイになるとか。

 と言うか、仮にも自然の中で生きるハンターともあろう者が、自分の居場所を教えるような体臭を纏うのは如何なものか。

 まぁ、そのハンデを軽く克服できるからこそのレジェンドラスタなんだろうけども。

 

 

 ちなみに、バラのニオイと言うのは屁のニオイを薄めたものだそうな。

 ロマンチック台無し。

 

 更にフラウさんは、更なるスキンシップを迫ってきた。

 「ねぇねぇ、私のニオイってどんなニオイなの? 嗅いでみてよ」とか言って飛びついてくるし!

 ああ、ニオイが!

 いやニオイっていうか香りが!

 クンクンしたいというか、むしろprprしたいです直接!

 そのおヘソとか脇とか内股とか!

 

 と言うかもうスキンシップどころか誘っているとしか言いようがああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!

 

 

 

 結局、散々抱きつかれて、汗をしみこまされてしまった。

 いや別にそれが不潔だとは言わないし不愉快でもないし、ちょっと昂ぶってしまったが、今日はそこまでだった。

 村の少し手前までジャレついてきていたのだが、ふとスッと離れてそのまま「じゃーねー」と駆けて行ってしまった。

 

 うーん、態度も考えも読めない人だな…。

 と言うか、何で俺はこんなに我慢しているんだろうか?

 今回ループでも既に現地妻計画すら進めているというのに、今更誠実ぶってもなぁ…。

 いや、関係を持った相手を大事にするって意味では誠実であろうとしているが。

 

 

 

 …もう誘惑に流されてもいいんじゃないかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えていたら、夜にシャーリーに抱きつかれて

 

 

 

 「あの女のにおいがする」

 

 

 

 と言われてタマとケツがヒュッとなった。

 

 

 「でもこの分だと、汗のにおいが移っただけみたいね」

 

 

 …誤解されなかったのは助かるが、ハンターでもないのにそこまで分かるか…。

 

 

 

 

 

NTD3DS月見てるだけでも楽しいってのはあると思うんだけど日

 

 

 昨日のシャーリーは凄かった。

 フラウさんの痕跡を上書きしようとするかのように積極的だった。

 

 …ふむ?

 しかし、何故にフラウさんにあそこまで反応するんだろうか?

 そりゃ恋人や気になる相手が、目の前で異性に誘惑されてりゃ不機嫌になるのは分かる。

 でもコノハとササユにはそこまで反応しないし、フローラさん…は一人だと過剰に接近してこないから考慮外として…。

 別にフラウさん個人を嫌っている様子も見えないし、目の前でやられているってのが特に気に障るんだろうか?

 極端な話、「浮気や愛人は私の見えないところでやって。そうすれば何も言いません」とか?

 

 …それはそれで恐ろしい話だが…。

 

 

 どっちにしろ、この状況でこれ以上の現地妻を増やそうと思うなら、シャーリーをどうにかせにゃならん訳だ。

 むぅ……多人数プレイもオッケーなように染め上げる?

 いや、ここは…俺が居ない間の慰め合いとして、レズプレイもオッケーなように…。

 そんで自分で落とした相手を、外回りに来た俺に差し出すように……。

 

 

 …どうせ、現地妻なんて外道な真似しようとしてんだし……いつものパターンなら、そろそろデスワープの時期だし…やってみるか……。

 となると、方法としては…一度3P体験させておいて、それを切っ掛けとして……ふむ、そう考えるとむしろ相手がフラウさんで好都合、なのか?

 

 

 まぁ、幸か不幸か道筋は見えてきたな。

 …自分から死にに行くような事をしている辺り、ベッキーさんの威圧感で目覚めた筈の生存本能が、はやくも冬眠しつつあるような気がする。

 さもなきゃウカムを直に見て麻痺してんのかな。

 

 

 

 

 さて、具体的な方策は置いといて、今日の狩りと訓練について。

 すっかり忘れてたが、ガムートなるモンスターが出現したんだった。

 ベルナ村に居た時、手紙を貰ってたな。

 

 今日は狩りと訓練を兼ねて、ガムートの偵察に向かう事になった。

 狩猟でも捕獲でもなく、偵察だ。

 

 ハンターの仕事は、モンスターを倒す事だけではない。

 俺も度々やっていたが、モンスターや狩場の状況調査も重要である。

 そして、例えば狩場・或いは離れた場所に異変が起こったとして、その調査する時に最も重要な情報源とは一体何か。

 

 言うまでもない。

 モンスターそのものだ。

 人間よりも鋭敏な感覚を持ち、なおかつ異変が起こった場合、大抵はその影響を真っ先に蒙る存在だ。

 

 なので、例えば本来居るべき場所から移動してきたモンスターを見て、何処に異変が起こった、どんな異変が起こった、という事を推測できる。

 具体例を挙げれば…そうだな、縄張りから移動してきたモンスターの体を見て、傷跡があったとしよう。

 爪痕、牙跡、火傷、凍傷……それらの傷跡を見て、どんなモンスターが現れて逃げてきたのか、或いは争った末に敗れて移動してきたのか、

 それを推察できれば、狩りは単なる狩りではなく、その後のハンターギルドの行動を大きく左右できるようになる。

 

 俺も今まで、本来いる筈の無いモンスターやら、狂竜ウィルスやら、色々と発見してきたと思っていたんだが、二人に言わせるとまだ甘いそうだ。

 言われて見ればそうだが、俺が発見してきたのは、言っちゃなんだが「分かりやすい」異変ばっかりだからな。

 誰が見ても分かる異変。

 それは「事後」の情報でしかない。

 

 今回の課題は、モンスターに限らず色々なものを観察し、「予兆」を見つける事だ。

 似たような事をナターシャさんが無造作にやってたな。

 あのレベル…まで行くのは正直厳しい。

 と言うか、こういう直接戦闘以外の点が、G級やレジェンドラスタと、その他のハンターを分けているのかもしれない。

 実際、フラウさんの戦い方の匠さは、相手の…人間に限らずモンスターの内面を読み取り、それに合わせて動く技術が根幹になっているようだ。

 そう考えると、現在の俺の殻を破る、或いは次回ループで予定しているフロンティア行きに必須の技能でもある訳か。 

 これは是が非でも身につけなければなるまい。

 

 

 そんな訳で、こっそりとガムートを尾行している。

 ガムートは自分から暴れたりしない比較的温厚な性質ではあるが、縄張りに侵入者が出たら話は別だ。

 つまり今の俺達な。

 発見されれば即戦闘開始。

 観察が難しくなるだろう。

 

 常に風下に陣取り、視界に入らないように身を隠し、フラウさんから教わったばかりの相手の内面を感じ取る技術で行動を予測し、発見されないルートを進む。

 時には強引に獣道を突っ切ったり、崖に張り付いて身を隠す事もあった。

 …獣道を進んだのは失敗だったかもしれないな。

 痕跡が残ってしまい、ガムートに侵入者の存在を気付かれかねなかった。

 

 

 実際、最終的には気付かれたけどな。

 その時にはガムートはティガレックスの相手でそれどころじゃなかったから、さっさと退散してきた。

 

 

 さて、今回の観察で分かった事だが……ガムートの体に、大きな傷跡は見つからなかった。

 少なくとも強敵と戦って逃げてきたのではなさそうだ。

 メスのようだったが、妊娠している様子も無し。

 あれだけデカく成長してるんだから、もう成体だろうに…いや、ひょっとしてその為に縄張りから出てきたのか?

 地元で出会い(?)が無かったから、縄張りを出て番を探そうとしているとか。

 

 ふーむ、縄張り争い以外での移動の理由か。

 考えてみれば、そっちの方が多いのかもしれないな。

 

 もうちょっと痩せていれば、地元の食べる物が無くなってしまったんで移動してきたって可能性も考えられるが。

 …その場合、食べ物が無くなった理由はイビルジョーとかが原因じゃないか、って話にも発展するね。

 

 しかし、もしも出会いを求めての事だったとしたら、何故ポッケ村付近に留まっているんだろう。

 この辺に別のガムートは存在しない、少なくとも確認されていない。

 居るのはポポくらいである。

 ジムの神様もといポポの神様って一部で言われているガムートだし、ポポとも繁殖が可能なんだろうか?

 だがサイズが違いすぎますな。

 と言うか、ガムートが交尾したら地鳴りとか起きて雪崩が発生しそうだ。

 …頼むから遠くでやってくれ。

 と言うかさっさと追い払わないといけない気がしてきた。

  

 

 

 

 

 で、こっからはフラウさんとフローラさんの捕捉。

 まず俺の認識の間違いが一つ。

 ガムートは本来、単一の縄張りを持たないらしい。

 エサを求めて徘徊を続け、暫くしたら別の場所に行き、そこを新たな暫定の縄張りとする。

 つまり、ガムートがポッケ村付近にやってきた事自体は、別に異変の前兆でも何でもなさそうだって事。

 

 次に、二人から見ても、あのガムートは番を求めて彷徨っているのは事実っぽい。

 が、ここで俺が見逃していた問題が一つ。

 発情期ってあるよね。

 犬とかでもそうだけど、発情期のメスは特有のフェロモンを色々な手段でばら撒き、オスを興奮させたり呼び寄せたりするんだ。

 

 …で、あのガムートは正にその発情期な訳で。

 つまり、放置しとくと広まったフェロモンを辿ってオスのガムートがやってきたり。

 更にはそのガムートはフェロモンの影響で興奮状態だったりするワケだ!

 ついでに言うと、俺が元居た世界の象ってのは、男性ホルモンの過剰分泌で極度の興奮状態に陥る事もあるそうな。

 

 …あの巨体で極度の興奮状態か…。

 何やらかすか、考えたくもない。

 結論・さっさと狩るか、どっか行ってもらいましょう。

 今は村人に影響が無くても、放っておくとティガレックス以上の被害が出かねません。

 

 

 やりあう時には、最初からガムートを2頭以上相手にする事を想定しておくか…。

 こういう想定がG級になるのに必須なんだろうな。

 

 

 

 

 




GEオフショット、買わなくて正解だったっぽいなぁ。
ネタになりそうなシーンもありそうだったけど。


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128話

 

 

 

NTD3DS月MHX攻略本買いました日

 

 

 色々と訓練をつけてもらっているお礼として、フラウさんとフローラさんをご招待。

 勿論シャーリーさんも居るけど、幸い一触即発な雰囲気にはなってない。

 

 さて、討鬼伝世界仕込の和食和食。

 この世界じゃちょっと珍しい料理なんで、お礼には充分効果的…だと思う。

 レジェンドラスタの仕事として東方に行ってたり、或いはキースさんが作った事があるなら別だけど。

 

 

 あっちこっち採取しながら、ついでに食える物探してたからな。

 使える食材がかなり多い。

 生憎、キッチンアイルーみたいに特殊な効果を発動させる事はできないが、味については上出来なんじゃないかと思う。

 ちなみに今回のメインは肉じゃがだ。

 割と好評でした。

 

 流石に食事、しかもこっちから招待した時まで不機嫌で居ては失礼だと思ったのか、シャーリーも特に場を荒立たせる事は無かった。

 むしろフラウさんとそれなりに意気投合していたくらいだ。

 (あれってフラウさんの演技?)とフローラさんに目をやったら、フイッと反らされてしまったが。

 

 で、宴会に熱が入りすぎて、4人揃ってフラフラ状態。

 意識もはっきりしているし、歩くのにも支障はないが、一応泊まって行った方がいいだろう。

 雑魚寝になるが、屋根の下で寝られるならハンターとしては快適なくらいだ。

 

 ベッドはお客様のフローラさんとフラウさんに、俺とシャーリーは床に適当な布団を敷いてひっついて眠った。

 

 

 

 

 

 んだけど、ふと気がつけば俺とシャーリーが寝惚け眼でおっぱじめちゃってる訳でね?

 二人で抱き合って寝転ぶ=オタノシミの始まりだったから、条件反射でやっちゃったっぽいなぁ。

 

 まぁ、声や音を抑えて僅かな動きでヤるのも楽しいもんですよ。

 全体的に焦らしプレイっぽい雰囲気だった。

 密着しあって、声を上げそうになったら口で抑え込んで、逆に我慢しようとするのを指先で決壊させて。

 

 

 

 ……それをベッドの上から、2対の目が覗いておりました。

 はっはっは、そりゃー気付かない筈が無いじゃありませーンか。

 3Pにだって慣れてる身、ヤッてる時の視線には敏感ですよ。

 狩りやってる時より敏感な辺り、自分でもどうかと思うが。

 

 

 

 と言うか、お二人さん……いつのまにやら二人でモゾモゾ。

 二人で、モゾモゾ。

 と言うかレズっておられる。

 

 当てられたんかな…まぁ最初っから素質はあったんだろう。

 男二人でAV見ても、素質が無ければフツーはホモ行為に走ったりしないもんな。

 誘導するまでもなく始めてるって事は、最初から素質があったか、或いは既にそーいう経験があったか?

 

 さすがにそこまでやられると、シャーリーも気付く。

 自分達が見られて、オカズにされてると自覚したあたりで締め付けがスゴイ事になったぞ。

 恥ずかしがって声を押さえ込もうとしてても、ちょっとペースを乱してやれば凄い勢いで喘ぐ喘ぐ。

 かぶりつきでガン見するフローラさんとフラウさんに、足を広げさせて見せ付ける俺。

 

 

 シャーリーが普段よりも一際深く絶頂したら、そこからが本番だった。

 乱交突入。

 ちなみに、息も絶え絶えだったシャーリーに追撃を加えたのは、言うまでもないだろうがフラウさんである。

 う~む、理性を取り戻させず、トロ火で煽るが如き指使いでの追撃…見事なものだった。

 実際、シャーリーってばいい塩梅に喘いで追い詰められて、「なんでもいいから早くシて!」状態だった。

 乱入してきた二人に文句をつける余裕もなく、無論拒める筈もなく、早くイかせて交代する為にフローラさんの胸に吸い付く有様だ。

 

 で、一度そうなっちゃったらタガが外れたのか、レズプレイに一気に抵抗が無くなった。

 イヤイヤするフローラさんを拘束して弄り始めるは、フラウさんに押し倒されてアヒンアヒン喘ぐは。

 言うまでも無く一番乱れたのは、俺が突っ込んだ時だけども。

 

 フラウさんも実にノリノリで……ああ、こりゃ真性レズの気質ありだな。

 俺ともヤれるからバイか?

 ひょっとして、シャーリーが妙に反応してたのってコレか?

 レズっ毛に気付いて、自分も巻き込まれかねないと思ってたからか?

 

 

 と言うか、気質はともかくとしてテクに関してはやたら巧みだった。

 女性特有の細かさを持った愛撫は、俺でもできそうにない。

 その分ねちっこく行かせてもらいますが。

 

 相手が望んだ態度を取れるのは、相手が男に限った事ではなかったようだ。

 何処に触れてほしいのか、読み取ったようにピンポイントでの愛撫をしている。

 …ただ、欲しいところに触れるばかりで、意表を突いたりするのには慣れてない?

 う~ん、経験無いのか?

 でもレズってたし…実際処女…でも悪女…。

 謎が深まる。

 

 

 その一方で、フローラさんは……完全に被害者と言うか、被捕食者状態だった。

 最初の覗き見から続いて、フラウさんにレズプレイされて混乱した状態から、流れるよーに俺に捕食されてしまいました。

 あんまりイヤそうな表情ではなかったけど、欲望に流された感じだったな。

 

 こりゃー総受けタイプだな。

 恥ずかしさからか、全然動けなくなってしまっていた。

 悦んではいたけど。

 前のループの時では、俺をネタに自分でシてた上、去り際に「帰ってきたらゴホウビあげるよ」まで言ってたのに。

 

 カマトトぶってる(?)のが気に入らなかったのか、シャーリーとフラウさんに二人がかり、更に俺も加わって前から後ろから色々と攻められておりました。

 最後には初日だと言うのに、尻に指突っ込まれて悶えておりましたとも。

 流石に貫通まではしていない。

 マグロとまでは言わないが、ほぼされるがままだったなぁ…。

 道具さえあれば、初日から緊縛とか目隠しとかできそうなレベルだった。

 

 まぁ、そっちは今後ゆっくり仕込んでいけばいいとして。

 

 

 

 

 

 

 最初に和食の話題に食いついてきたのも、強めの酒を持って来たのもフラウさんだった訳で。

 …結局、どこまでフラウさんの誘導だったんだろうか…。

 

 

 

 

NTD3DS月成程、えらい詳しく乗っている日

 

 

 目が覚めて酒が抜け、色々な意味で頭を抱えるシャーリーとフローラさん。

 俺も頭を抱えていたが、これはお二人からのゲンコツの為に意味が違う。

 フラウさんだけは、最初から最後までケラケラと笑っていた。

 …その笑顔の裏で、某新世界の神みたいに「計算通り」ってツラしてるんだろうか。

 でもそれならそれで別に問題はないか。

 

 色々と後悔したり葛藤したりしているのか、頭を抱えてゴロゴロしている(二日酔いの為ではないと思う)二人に、フラウさんが「でも気持ちよかったんだ?」「ついつい思い出すと右手が胸と股に…」とか色々茶々を入れていた。

 あれはそのままにしておいた方がよさそうだな。

 上手いこと誘導して、乱交オッケーな意識の素を作ってくれそうな気がする。

 

 

 もう本気で悪女と評したくなってきたが、それでもちょっとだけ本音は聞けた…ように思う。

 何故、フラウさんがこうまで積極的に俺に迫ってきたのか。

 帰り際に、ちょっとだけ漏らした一言。

 

「やっぱり君は気後れしたりしないんだね」と聞こえた。

 

 

 …いや、普通にしてるよ?

 レジェンドラスタに妙に好かれて、どーなってんのと戸惑ったよ。

 

 でも考えてみれば、確かに尻込みしていたというより、欲望に正直になるかどうかで葛藤していたような気もする。

 しかし、それがどうして好意に繋がるのだろうか。

 一般的に考えれば、体目当ての男だと思われてむしろ好感度マイナスなんじゃなかろうか。

 

 

 …が、この疑問については、なんとシャーリーから答えを得る事が出来た。

 色々言ってたが、要するに「他人の望む態度を取るのも、楽じゃないって事だと思うわ」だそうな。

 そう言われても、俺には何がどうなってるのか今ひとつ分からなかったが。

  

 そりゃ、「他人の望む態度を取れる」なんて言えば聞こえはいい(かな?)が、要するにそれは素の自分で居られないって事だ。

 それがストレスになるのはある意味当然だが、それがどう関係してくるのか。 

 俺だって、フラウさんに限らず他人に望む態度対応というものはある。

 そういう意味じゃ、俺も他の人間と大差ないと思うのだが。

 

 

 …そうだけど、ちょっと違う?

 初めて会ったレジェンドラスタに対して、畏怖も無かった事が重要?

 

 いや…実を言うと初めてじゃないんだけどさ…。

 と言うか、トータルで考えれば俺の方がよっぽど人間離れして……いやでも…レジェンドラスタだし…。

 …それで?

 

 

 

 ……ああ、成程、納得。

 相手が望んでいる事を読み取ってしまえるのなら、「恐ろしいから近付かないで欲しい」とか、そういう望みも読み取ってしまうのか。

 まぁ、レジェンドラスタもG級ハンターも、言っちゃなんだが一種のバケモノみたいな扱いだしな。

 ハンターだって普通にバケモノ染みてるが、それを更に上回る連中だ。

 一般人からしてみれば、思わず一歩引いてしまうのも無理はないかもしれない。

 

 で、それが普通の人よりも薄い俺に興味を持った、か…。

 思い込んだら一直線、そのまま俺に入れ込んでしまったと。

 安っぽいシナリオと言ってしまえばそれまでだが、それなりに説得力はある…かな。

 

 

 しかし、シャーリーってば妙に見透かしたような事言うね?

 フラウさんの事、嫌ってたと思うんだけど。

 

 嫌いだから、イヤでも目に付いてしまう…か。

 確かにその理由は分からないでもない。

 と言うかまだ嫌いか?

 昨晩、あれだけネッチョネッチョに絡みまくっておいてハイゴメンナサイナマ言いました。

 

 …でも、昨日までみたいな明らかな拒絶はなさそうだな…。

 一緒にヤッちまったら吹っ切れたのかな。

 まぁ、あんまり首を突っ込むと、G級レベルのクエストを押し付けられそうだから、もう何も言わないけど。

 

 

 ま、触らぬ神に祟り無し。

 数日中にユクモ村に向かって出発するんだし、ここは余計な事は言うまいて。

 

 今重要なのは……昨日、調子に乗りすぎてフローラさんにお漏らしさせちゃったのを、どうやって知られずに後始末するか、だしな…。

 

 

 

NTD3DS月でもSS書く為には、設定資料集とかの方がよかったかも日

 

 

 シャーリーも不機嫌と言えば不機嫌だが、それで破局になる事もなく。

 俺は引き続き、ガムートの調査という名の訓練を受ける

 

 今回もまた、フラウさんとフローラさんが後詰めとして備えていた。

 クエストを受け、2人と一緒に行く事になった時も、シャーリーは溜息を一つ吐いたものの、無事に帰ってくるようにとしか言わなかった。

 これ見よがしに抱きついてきたけど。

 

 フラウさんはそれを見てもニコニコアイドル印の笑顔のままで、フローラさんは……顔が赤いが、その赤い理由はシャーリーさんか俺か、さもなきゃ自分の痴態の記憶なのか。

 

 

 

 クエストの完了後、そのままベースキャンプでお楽しみ時間に雪崩れ込み。

 フローラさんは抵抗していたものの、フラウさんの「期待してたクセに~。 ボクに隠し通せると思ってる?」の一言で動きを止め、その隙を突かれてフラウさんが捕獲。

 そしてそのまま捕食と相成った。 

 

 …フラウさんの発言からして、やっぱり相手の望みを意識的に読み取れるのは事実らしいなぁ…。

 と言うか、フラウさんってばレズプレイに抵抗無いのね。

 こっちとしてはとてもとても眼福であるし、モチベーションも跳ね上がりますが。

 

 ちなみに、フローラさんは本日も「ニオイ付け」してしまったようです。

 もうクセになってるのかも分からんね。

 まぁ、それならそれで、普通にトイレ行った時にもつい思い出してしまうくらいに仕込むだけだが。

 

 

 勿論、フラウさんだってオタノシミでした。

 少なくとも、体の相性はいいな。

 俺の望みどおりを演じてくれてるのかもしれない、というのを差し引いても。

 エロい事するのに、とにかく抵抗が無い。

 かと言って、それに溺れる訳でもなし。

 橘花とも違うタイプだな…。

 エロを平常心で行える…違うな、興奮はしているし……エロ=楽しい遊びで、特別な事ではないってスタンスかな?

 普段通りの表情と態度のままで濡れ場に突入し、乱れに乱れた後はケロッとして普段通りの態度を取る。

 ある意味器用な人だ…天性の演技屋かもしれない。

 

 ただ、やっぱり狩りの後は滾るのかね。

 昨晩の初体験時よりも、色々と積極的だった。

 

 …真面目に考えると、今はドサクサに紛れてなぁなぁの関係になっているが、何が切っ掛けで破綻してもおかしくないんだ。

 それこそ、俺が別の村に行ってる間に修羅場ってしまう事も考えられる。

 何か頚城を打ち込んでおきたいところだが…間もなく出発なんだよな。

 

 欲求不満解消の3人レズプレイで、どこまで対応できっかなぁ…。

 

 …シモの話は、一端ここまでにしよう。

 書き始めると無駄に筆が乗って、調教計画まで立案してしまいかねん。

 

 

 

 

 ガムートの事はまぁいいとして、遺跡について調査団から意見を求められた。

 と言うのも、俺が第一発見者であると共に、何度か起こった幽霊騒ぎに関与し、曲りなりにも解決している為、何か特殊な嗅覚があるんじゃないか?という意見が前から上がっていたそうな。

 そして実際、この世界では一般的に理解されていない霊力という嗅覚を持っている。

 

 …しかし、遺跡見てどう思うかって聞かれてもな。

 確かに、氷越しに見ても妙な既視感を感じていたが、その原因は未だに掴めていない。

 かなり氷が除去されたんで、改めて見せてもらったが……やっぱり分からん。

 

 

 

 遺跡の構造としては…広い円形の部屋に、三つか四つくらい道が伸びており(断定できないのは、崩落等で潰れている為だ)、その部屋の中心部分に祭壇なんだか机なんだかよく分からない設備がある。

 どうやら、かつてはかなりの人数が行き来していたらしく、床が磨り減っている部分があった。

 その部分を追って考察してみるに、ここを使っていた人達は、一際大きな道から入ってきて、部屋中心の祭壇(?)で何かして、その後反対側の道から何処かに出発していたようだ。

 そして恐らく、その道から戻ってきて、やはり中央の祭壇で何かして、今度は横にある道から退室していく。

 

 …これだけじゃ、何の施設かサッパリ分からんなぁ…。

 多分、真ん中の祭壇部分でやっていたのは、何かしらの……そう、手続き?

 儀式の類かと思ったが、何人もの人が利用していたにも関わらず、使用されていた場所はそう多くない。

 また、一箇所に長時間立ち止まる事は少なかったようだ。

 つまり、少なくとも時間がかかるような儀式ではなく、手軽に済む用事を済ませ、そこから本来の目的地へ向かう…。

 

 

 うーん、やっぱこの形式、覚えがあるなぁ。

 そんなに珍しい形じゃないと言ってしまえばそれまでだが。

 例えば、どっかの飲食店とかね。

 手続き=支払いと考えると、何処にだってあるような形式である。

 まぁ、飲食店であるなら、出入り口付近にレジを構えるだろうけどさ。

 

 

 …あと、発見した事と言えば…多分この遺跡、元は霊力的な何かを司っていたっぽい。

 ただ、そこはもう既に機能停止しているようでもあった。

 本来なら、山の霊脈からこの場所に霊力が流れ込んできていたんだろう。

 それを何かしらの形で利用して…多分、部屋中央の祭壇で…、ここに来た人に何らかの加護を与えていた?

 

 

 

 …そう言った事を調査団に話したところ、頭から否定はされなかったものの、そのまま信じるのもどうかと…という顔をされた。

 まぁ、根拠は俺の感覚(と言うかタカの目やら鬼の目やらで見た、今のところ俺しか視認できない物)だけだしな…。

 これを鵜呑みにするようであれば、研究者、調査者として問題ありだろう。

 

 

 正直言って、今分かるのはこれが限界だ。

 後は学者さん達に任せるしかないだろう。

 

 

 

 

 

NTD3DS月攻略本に設定なんぞ載せたら、「余計な事書くな」って言われるね日

 

 

 そろそろ4ヶ月目に突入するな。

 それに合わせて、ポッケ村を出立する。

 色々と収穫のある外回りだった。

 その分、問題も山積みになったが。

 

 と言うか、ウカムどうしようかなぁ…。

 何れ戦わなきゃならんのかなぁ…。

 

 いつ目を覚まして暴れだすか、正直言って気が気でない。

 そんな所にシャーリーを置いていくのは気が引けるが、本人の選択だしな…。

 一応、予防策になるかは分からんけど、シャーリーに持たせている結界子に霊力を込めてはおいた。

 連日連夜のフィーヴァー…もといオカルト版真言立川流で、シャーリーも結構霊力が増えてきてるんだよね。

 使いこなせないから殆ど意味は無いけど。

 

 まぁとにかく、今のシャーリーなら結界子を持ってれば、命の危機を認識して霊力が高まれば結界が発動する…と思う。

 上手く行けば、だけど。

 ただ、これがどれくらいの効果があるかと言われると疑問だが。

 仮に発動したとして、結界が有効な間に安全な場所に移動できるかはわからないし、そもそもウカムレベルの相手が来たら霊力の有無は関係なしに咆哮一つで破られかねない。

 あくまで保険だな…。

 

 

 

 逆に安心したのが、シャーリーとレジェンドラスタの二人の関係である。

 昨晩また集まって色々とヤッてたんだが、なんかそれなりの関係に落ち着いたっぽい。

 具体的には、3人のうち2人が、残った一人を集中攻撃する関係に。

 勿論その残った一人というのは交代制である。

 要するに、3人揃ってタチもネコも可能になっちゃった訳だ。

 …まぁ、色々教え込んだからな…。

 

 俺が居なくなっても、3人でネコ団子できるくらいには仲良くなっていた。

 まぁ、普段のシャーリーは、相変わらずフラウさんにちょっと忌避感を持っている感はあるが。

 単に生理的に受け付けないか、相手に合わせて演じている態度が気に入らないのかもしれない。

 だから、演じる必要が無くなった家(とかベッド)では特に険悪になる様子は無い。

 

 

 

 さて、それは置いといて、ガムートの事だ。

 調査の訓練の為という名目で(実際はレジェンドラスタと一緒に出かけて、その後楽しむ為だったが)狩りをしていなかったガムートだが、俺が出発するまでには狩っておかなければならない。

 教わったように、オスのガムートを呼び寄せる可能性もあるし、延々と後ろを付回したおかげで、ガムートが俺達に勘付き始めているようだ。

 そうなったら最後、縄張りに侵入されたと判断し、姿の見えない侵入者を延々と追い回すだろう。

 昂ぶった状態のまま、遮る者を片っ端から踏み潰しながら。

 

 それに、巨体に見合った大食漢だけあって、そろそろ山の生態系に影響が出そうなくらいに食べ物を食べつくしている。

 色々な意味で放っておく訳にはいかない。

 とりあえず、今日はその狩りの準備だな。

 

 アイツに有効そうな装備を選び、道具も

 

 

 

 

 

 そうだった。

 外回りハンターをシステムとして確立させるには、この問題もあるのか。

 

 道具や装備を、最低限しか持ち歩けないって問題が。

 俺の場合は ふくろ という反則アイテムがあるから問題ないけど、普通のハンターはなぁ…。

 道具は外回り先のギルドから借りればいいとして、装備が問題だ。

 防具は誰でも使えるように、フリーサイズで設計されているが…どんな装備にするかが問題だ。

 予めギルドで貸し出し用の防具を作っておいたとして、それが狩るべき対象に対して有効な装備かどうかは…その時になってみないと分からない。

 闘技場の装備で、実際の狩りをしろって言ってるようなもんかな。

 

 

 …ま、これについてはまた今度考えるか、お偉いさんに丸投げするか。

 俺は装備をどうしてたんだって聞かれたら………一つの装備で全部に対応していたって事にするかね?

 霊力とか使いまくればできない事もないが…過大評価されそうだなぁ…。

 

 

 

 

 

PS4月MHX設定資料…狩り技完成の裏話とか無いかな日

 

 

 ガムート討伐完了。

 そして4ヶ月目に突入。

 

 本日を以て、ポッケ村を出発します。

 何だかんだで、狩りの数を考えると異様に長居してしまった。

 まぁ、その分イベントは沢山あったけどな。

 

 ちなみに、フラウさんとフローラさんはポッケ村から出て俺についていこうか、なんて相談もしていたそうだけど、シャーリーが止めた。

 まぁ、例の遺跡やら冬眠ウカムやらの事を放って何処かに行かれてもね。

 最低限、別のレジェンドラスタかG級ハンターが到着するまで、ポッケ村に滞在する事になるだろう。

 その間、3人で仲良く意味深してください。

 

 …ちょっとだけ、完全なレズの道に目覚めて、俺が捨てられちゃうんじゃないかって不安が過ぎった。

 

 

 

 

 だから昨日は思いっきりヤりまくりました。

 締め切ってヤッてたから、部屋の中がもう凄いニオイになったよ。

 全員揃って汗だく汁だく。

 DTとか慣れてない人が突然嗅がされたら、セクロスに対してトラウマを抱くんじゃないかってくらい濃厚な性臭だった。

 実際、朝起きら全員が一斉に消臭玉をありったけ投げまくったくらいだ。

 

 …それで気付いたんだけど、フラウさん…ニオイフェチのケがあるようです。

 しかも嗅ぐのも嗅がれるのも好きっぽい。

 そういや、いつだったかナナ・テスカトリを相手にした後も、汗だくのまま抱きついて来てたな。

 アレもその一端だったんだろうか?

 

 特に昨日のニオイは大ヒットだったみたいで、超興奮してました。

 合計4人の色んな体液のニオイが混ざりまくってたんだよなぁ…。

 勿論、フローラさんが失○したのも混ざってましたがナニカ?

 

 そのニオイを自分の体に染み込ませようとしているのか、俺の体に擦り付けて文字通りニオイ付けしようとしているのか、色々な液体でドロドロのまま、抱きついて全身でヌルヌルネロネロと…。

 それに対抗意識を燃やしたシャーリーが反対側から抱きついてきて、後ろからprprするはナニに手を伸ばしてくるは…。

 ちなみに、それを見ながらフローラさんは、俺に見せ付けるように自分で色々弄っていた。

 

 ふぅ…えがったぁ…。

 触覚味覚嗅覚聴覚視覚、全てが実に刺激的でした。

 

 

 

 と言うか、よくもまぁ修羅場にならないもんだよな、毎回毎回。

 何だかんだで同衾させたら、その時点でどうにかなってしまっている気がする。

 乱交にそんな特殊効果なんてあるんだろうか。

 まぁある意味連帯感が出るのは分かるが。

 

 …ひょっとしなくても、オカルト版真言立川流に洗染みた効果が…?

 一度ヤッたら忘れられなくなるくらいに刻み込むって意味では、ある意味間違ってない気がする。

 複数人でヤッたら効果も快感も跳ね上がるから、それを思い出してついつい複数プレイへのハードルも下がってしまうんじゃないだろうか。

 

 よくよく考えなくても、調○して反抗したりしないようにしてるのと同じ事だしな。

 我ながら酷い話である。

 

 

 

 だがそれがいい。

 

 …ごめん、背徳感で興奮するけど、流石に今のは無しで。

 大体コレ、○教よりも薬物で依存させてる方が実態としては近いわ。

 

 

 

 

 深く考えると今後の人生のオタノシミに影が差してしまいそうなので、ガムートの話に移る。

 強いだ弱いだ以前に、まー巨体に見合ってタフな事タフな事。

 咆哮もデカくて雪崩が起きるかと思ったし、下手な攻撃じゃ文字通り刃が立たずに弾き返されてしまう。

 ティガレックスの爪牙をモノともしないって聞いてたが、マジなようだな。

 

 とにかくタフで、防御力が高くて、動きは鈍いが一発一発の攻撃力が高い。

 …これがガチタンという奴か?

 そういえば太くて長いモノもついている、顔面に。

 コイツはメスのようなので、下半身にはついてない。

 

 まぁ、緑っぽいのが漏れてなければ、ガチタンであろうと何とかなる。

 むしろ俺が緑っぽいのを漏らす側だが。

 …一応使えるんだよなぁ、アレっぽいの…。

 

 それは置いといて、動きがガチタンなら、弱点もガチタンそのままだった。

 ある程度のアドバンテージを確保できれば、そのまま欲を張らずにチマチマやってれば封殺できる。

 旋回性能が低くて、中々振り返れないみたいだしな。

 …そう油断してたら、大回転攻撃を喰らいそうになったが。

 直前に背筋にブワッと来て、飛び退いて直撃を避けたよ…雪達磨状態になったけど。

 と言うか直撃じゃなかっただけで、あの鼻に吸い寄せられて掃除機に据われるゴミのような気分を味わった。

 ベッキーさんに叩き起こされた、生存本能に感謝だな。

 

 咄嗟に投げたホットドリンクが鼻の穴にホールインワンしてなければヤバかった。

 …ホットドリンク、寒さを遮断するような効果があるだけあって、刺激物も結構含まれてるんだよ。

 トウガラシとかね。

 

 

 …まぁ、その後は盛大なクシャミでエライ騒ぎになったけどさ。

 鼻水がウォーターカッターみたいな勢いで飛んでくるんだよ。

 冗談じゃないっつの。

 

 

 一番驚いたのはアレだな。

 あの鼻…だけじゃなく、スタンプ攻撃とかを巨体に見合わないスムーズな動きで連続して繋げる連続攻撃だ。

 一度攻撃を受けてキリモミ吹っ飛び状態になったら、そこからスタンプによる地面隆起で更に打ち上げ、落ちてくる所に鼻で追撃、更に距離が開いたら鼻から雪を噴出して追撃しながら体当たりで距離を詰め…。

 

 幸いな事に、攻撃自体はほぼ凌ぐ事が出来た。

 攻撃範囲が広くて回避は難しかったが、動きが鈍くて予想は簡単だったからな。

 吹っ飛ばされている内に空中で体勢を立て直し、地面隆起は逆にそこを足場に跳躍し、鼻での追撃は剣で受け流し、突進は飛び退き打ちで避ける。

 

 …直撃自体は無かったんだが……なんか、氷属性やられになったんですけど?

 

 どーなってんの?と思ったが、答えは簡単だった。

 コイツの攻撃一つ一つに、氷系の力(霊力とかとはまた別物だと思う)が宿っている。

 直撃しなくても、空中に打ち上げられて、その連撃(それに伴う氷系の力)に晒されているだけで体に変調をきたすという訳だ。

 ナナ・テスカトリみたいに、近付くだけで氷属性やられになるとか…。

 

 

 

 

 アイス・ロック・ジャイロじゃん。

 お前マンモスマンだったのか、メスだというのに。

 

 

 

 ホットドリンク3本纏め飲みしたら防げたけどな。ゲフゥ

 

 

 意外な大技にちょっと面食らったものの、後はそのまま終始優勢。

 あんまりにもタフなんで、捕獲して終了。

 

 念の為、ガムートが滞在していた付近には消臭玉をバラ撒いておいた。

 これでフェロモンの残り香も消せるといいんだが。

 メスのガムートを倒しても、その残り香に釣られて他のガムートが寄って来たら意味無いものな。

 

 何はともあれ、ポッケ村での今回の仕事は終了してしまった。

 いやウカムとかは残ってんだけど、外回りの仕事はね。

 あーあ、爛れた日々ともお別れか。

 ユクモ村にはユクモ村の現地妻が居るから、あっちはあっちで爛れた日々を送れると思うが、やはり惜しい…。

 

 と言うかいつか現地妻を一箇所に集めて、エロゲのハーレムエンドみたいな生活送りたいものである。

 まぁ、メンバーが受付嬢にレジェンドラスタという時点で、全員が引退しないとまず無理な話だけどね。

 

 

 

 それでは、今回も色々お世話になりました。

 名残惜しいけど、ユクモ村に行ってきます。

 

 

 

 

 

 別れ際、「浮気したのを一発ひっぱたくのを忘れてた」とシャーリーさんから一撃もらいました。

 フラウさんとフローラさんの分も含めて、グーパンにパワーアップしていた。

 へへ、中々いい拳持ってるじゃん…MH世界で世界を狙える右かもしれない。

 

 

 




書きかけてすっかり忘れている外伝。(ネタもまだ出てないもの含む)
①タイムクライシス4
②大神
③龍が如く見参
④ターちゃん
⑤ゼルダの伝説(SFC)
⑥カゼノタビビト

……ネタが出てこないからカケマセン!


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129話

何をやっても上手くいかない、やたら間が悪くてイライラする事ってあるよね。
そんな一日が昨日で終わった事を願って投稿します。

感想返しはまた今度。
ちょっと風ノ旅ビトでネタが浮かんだので、本編執筆をとめて外伝書いてます。


PS4月鍛えた先生装備が集会所7でも通用する…日

 

 さて、やってきましたユクモ村。

 ササユが出迎えに来てくれた。

 コノハは今は仕事中らしい。

 

 ちなみに第一声が、「聞いたよー、レジェンドラスタが現地妻になったって?」だった。

 …何故知ってる?

 まさかそれも新聞の速報とかに出てんの?

 

 …個人的な情報網、との事だった。

 もしも新聞で大々的に告知されてたら、エライ事になりそうだった。

 一大スキャンダルってレベルじゃない。

 それこそギルドナイトがすっ飛んで来そうな話である。

 

 と言うか、もしかしなくてもシャーリーから手紙が出てたんじゃなかろーか。

 

 

 

 それはともかく、ササユはいつも通り…いや、いつも以上に楽しそうな顔をしている。

 本音から笑ってる顔だな、コレ。

 怒りのあまりにって事でもなさそうだし、俺がやらかした事を純粋(?)に楽しんでいるっぽい。

 悪趣味ではあると思うが、悪趣味だからこそ楽しいとも言える。

 

 

 「向こうでは派手に楽しんでたみたいだし、その分私達にもサービスしてよね」ってわかってますがな。

 あっちでは相手3人、こっちでは2人。

 その分凝縮してお相手しましょ。

 レジェンドラスタがクタクタになるレベルのをご馳走しますがな。

 

 

 

 「じゃあ早速」って言われて、建物の影で以下略。

 

 

 

 

 コノハも元気そうだったが、こっちは顔見た途端に不機嫌になった。

 と言うよりササユを見て不機嫌になった。

 ヤッたのバレバレか。

 自分が仕事している間に、相棒が一人で楽しんでれば不機嫌にもなるわな。

 しかし相変わらずイヤらしいロリ双子だこと。

 

 

 

 

 

 エロの話はそこまでにしておいて、飛行船で飛んできた時の事だ。

 相変わらずユクモ村の霊峰の上に、大きな積乱雲が渦巻いていた。

 それはとりもなおさず、アマツマガツチが居座り続けている事を示しているが………イヤ~なカンジがするなぁ…。

 今までユクモ村に2回来て出て行ったが、その時には感じなかったプレッシャーを感じる。

 と言うかジ~ッと睨みつけられているような気がしてならない。

 

 前回出て行く時には、クシャを囮にしたんだよな。

 より正確に言うと、クシャに追いかけられてたし、アマツにも目を付けられそうだったから、半ばヤケクソで誘導してみたらそうなっただけだが。

 それでも姿は見られてた筈だろうし、文字通り目をつけられたかな…。

 

 ユクモ村に出入りする時も、毎回毎回上手くアマツの目を掻い潜れるとは限らない。

 上空で襲われた時の備えも、結局殆ど間に合わなかった。

 煙玉くらいなら持ってるけど、上空じゃ叩き付ける所が無いし、何よりアマツの周囲の風であっという間に押し流されてしまうだろう。

 

 いい加減、ケリつけなきゃならんなぁ…。

 ゲームで言えばスネ夫ヘッドと並んでボス格。

 つまりナンバリングによっては、ウカム以上の難易度になる訳だ。

 ポッケ村の地下で冬眠している、そこに居るだけで勝てないと思わされた、あのウカム以上の。

 

 あのウカムが特別なんだと思いたいが、それを差し引いても今の俺にどれだけ勝ち目がある事やら。

 ユクモには手伝いを頼めそうなレベルのハンターも居ないし、もっと前から対策立てておくべきだったなぁ…。

 

 

 暫く飛行船は使わないにしても、ユクモ村から離れた場所で様子を見たほうがいいかもしれない。

 あまり一箇所に留まっていると、アマツが襲来してきかねない。

 …まぁ、地を這いずる人間一人の存在を、認識し続けられていればの話だが。

 

 さて、こっちの手札にできそうなのは…開拓地以外では上級ハンターの上くらいと自認できるくらいの実力と、この世界には無い幾つかの道具と能力…いや、霊力はこの世界にもあったし、古龍連中なら使えてもおかしくないから、あまりアテにしない方がいいか。

 その他は、レジェンドラスタの2人から教えてもらった、未だ完熟しているとは言えない新しい領域への切っ掛け。

 それから剣術バルドを下した時の謎のパワーアップ、か。

 

 最後の一つの条件が分かればなぁ。

 少しは勝機も見えてきそうなもんだが。

 でもアラガミ化の更なるパワーアップだとすると、継戦能力が上がらないと何の意味も無いんだよな。

 幾ら攻撃力が上がったところで、上位・G級古龍を単独0分針するような廃人にはなれんわ。

 それこそ、悪魔アイルーとかチートコードとか使わんと。

 

 

 

 …チートコード、か。

 神機に仕込んだら何かできるようになるかな。

 

 

 

 

PS4月ベルナ村の鍛冶技術は世界一やでぇ日

 

 

 コノハとササユの仕事が終わり次第、フィーバータイム…ではなかった。

 意外というべきなのか、それとも案外良識があると評するべきなのか。

 とりあえず、再会して10分と経たずに突入してしまったササユが、ちょっと肩身が狭そうだった。

 もう一方の当事者の俺は…別の意味で肩身が狭い。

 

 

 何せ、宛がわれていたハンター用の家はしっかりと整理整頓清掃されており、上げ膳据え膳、風呂まで沸いてて、パジャマもベッドもティッシュも完備。

 飯は美味いし部屋はいい塩梅に暖められていたし、風呂は温泉を引いてきたという改造まで施されている。

 基準はよく分からないが、雑誌まで置かれていた。

 どこのリゾートよココ?

 いや、温泉街なんだからリゾートではあるんだけど。

 

 

 驚いていたら、いつものニッコリ顔とは少し違う、ニヤニヤ顔のコノハが俺を見ていた。

 

 

「なーに、私達が家事ができるのが、そんなに意外だった?」

 

 

 いや、別に意外とまでは言わんけど…ここまでやれるとは思ってなかった。

 普段の受付ジョーっぷりからは、想像もつかんな。

 

 

「だってあれは仕事だし」「私達もそこそこ生きてるから、これくらいはできるようになるよ」

 

 

 まぁ、何だかんだで実年齢だけで言えば俺より年上だしな…。

 お姉さんとでも呼んでやろうか?

 

 

「ロリキャラで通ってるからパスね」「妹を姉と呼んで甘える弟設定ならいいけど」

 

 

 業が深いな。

 だがそれも中々良し。

 ロリに甘える大人か…。

 バブみ、だったっけ?

 新たな領域に挑戦だ!

 

 

「分かってたけど、ハイレベルだね」「でもやりたいって言うならいいよ?」

「このお迎えでも分かるかもしれないけど」「私達、惚れた相手には尽くすタイプだよ?」

 

 

 マジでか。

 と言うか、言われてみりゃ確かに尽くすタイプだな。

 現地妻なんて言葉で俺をそそのかした挙句(嬉々として乗ったがと言うか、それも俺の願望を解放したと見るべきか)、シャーリーに知らせておきながら、どういう手を使ったのか怒らせるどころか逆に心配させるという荒業までやってのけている。

 何だかんだで、最初に襲った時以外はフォロー万全。

 

 そんでこの歓待だ。

 ナニする時も、責めるタイプのように思えたが、思い出してみれば自分が悦楽を得ようとするのではなく、とにかくこっちの反応を引き出そうとしていたように思える。

 あっちからシた事は、痛めつけたり罵声を浴びせる事ではなく、愛撫と興奮を煽る言葉ばかりだった。

 ドS双子に見えて奉仕双子か……こいつらもレベル高いなぁ。

 

 

 

PS4月重鎧玉が足りない…日

 

 昨晩は二人の奉仕にたっぷり癒されて、そのお返しにたっぷりサービスして、体調万全、意気軒昂。

 さて狩りだ狩り…と言いたい所なのだが、今のところユクモ村ではそんなにヤバいモンスターは確認されていないらしい。

 前回遭遇したラギアクルス+タマミツネのようなコンビは出てきてない。

 タマミツネは何体か確認されたが、比較的穏やかな気性の為、討伐の必要性は薄い。

 生態系への影響も、そう大きなモノにはなりそうにないらしい。

 

 そうなると、外回りハンターの仕事が無いと判断して、早速次へ向かわなければならないんだが…それもちょっとな。

 折角ササユとコノハに再会できたんだし、もうちょっとゆっくりダラダラネチョネチョしたい。

 

 まぁ、飛行船の修理や補給があるし、そもそもアマツ対策をどうにかせにゃならんから、すぐに出発はできないんだけども。

 

 

 

 仕事が無いと言うなら、出来る事とやっといた方がいい事を探すのみ。

 アマツの事もあるが、まずは海岸付近を調査。

 ラギアクルスとタマミツネを海中から追い出したモンスターの手掛かりも、まだ掴めていない。

 

 それから、各狩場から霊峰付近を観測する。

 そもそも、霊峰にはもう長い事積乱雲が留まり続けているのだ。

 何らかの異変がある、と言うのはギルドだって気付いているだろう。

 ひょっとしたら、ギルドはアマツの存在にも気付いているのかもしれない。

 ウカム同様、下手な情報を流すとパニックが起きるかもしれないので、意図的に黙っているだけで。

 

 それならそれで構わない。

 俺がアマツを発見したと伝えれば、黙っておくよう命じるなり、何らかのリアクションがあるだろう。

 その時、飛行船で行き来する自分にとっては死活問題である事を伝えれば、多少の情報くらいは寄越してくれるだろう。

 

 

 

 そうやって調査している間にも、コノハとササユとどう遊ぶかと、アマツ討伐となった際の対策を考えている。

 と言っても、前者はともかく後者は殆ど進展が無いが。

 

 情報無し、地の利向こうにあり、覚えているのはゲームでどんな攻撃をしていたかというオボロゲな知識のみ。

 対策の立てようが無い。

 

 それでも、何とか地の利くらいは削れないかと考えを捻り出しはした。

 アイツを霊峰ではなく、低地に誘い込んでみてはどうか、というものだ。

 アマツの済んでいる領域は空。

 霊峰はその高さ故に、アマツの能力をほぼ全開で使える場所だ。

 だったら、気圧も違えば木とか地面とかの障害物が多い場所に誘い出せばどうだろう?

 

 …でもなー、嵐を操れるような奴が、自分の近くの気圧がちょっと変わっただけで動けなくなるとは考えにくいし。

 そもそも低いところまで降りてきたとして、こっちの手が届く場所に滞空するかどうか。

 いっそ洞窟の中に、とも考えたが、入り口潰されて生き埋めになるのがオチだ。

 

 

 

 うーん、最初にモンスターと遭遇した人達も、こうやってああでもないこうでもないと呻きながら、対策練ってたのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PS4月双剣に挑戦中日

 

 

 コノハとササユにせがまれて、霊力について話したり実演したりした。

 まぁ実演は毎晩やって見せてるんだけど、冷静に見られる状態じゃないやな。

 

 ちなみに、後付設…もとい、日記には明確に書いてはいなかったが、霊力の事はギルドに一応伝えてはいる。

 幽霊騒ぎを解決した時もそうだし、遺跡について意見を求められた時も、レジェンドラスタの2人にも、当然シャーリーにも伝えている。

 が、流石に公文書で公に認められていない力を振るいました、なんて言ってもキ○ガイ扱いされるのがオチだから、そこら辺はボカした。

 聞き込みとかに来た相手には、「なんだか知らないが、そういう力を使える」というのは教えている。

 

 ちなみにフローラさんとフラウさんに最初に話した時は、無言で眉に唾を塗りつけた。

 まぁ無理もない。

 

 

 それはともかく、ちょっとした手品感覚で披露していたんだが、遺跡や塔に霊力を扱っていた痕跡があると言ったら、思いもよらない情報が出た。

 ユクモ村ではないが、少し離れた場所にも塔があるのだそうな。

 そういや、ゲームでも塔があるのはポッケ村だけじゃなかったよな。

 ユクモ村には無かったと思うが…そこまで現実に忠実じゃない(ゲームに忠実じゃない?)だけか。

 

 ともあれ、そういう事なら調べに行ってみるのがいいだろう。

 ポッケ村で見た塔の頂上付近には、物凄い量の霊力の残滓が渦巻いていた。

 こっちの塔でもそうなんだろうか?

 

 そうだとしたら、各地にある塔で一体何をしていたのか。

 あれだけ膨大な量の霊力を、どうやって制御していたのか。

 興味は尽きない。

 

 …でも塔の頂上って古龍とやりあうステージなんだよな。

 この前はナナ・テスカトリとやりあったし、今度はテオかヤマツカミかな?

 

 ミラ系だけは勘弁してくれよ。

 出るならせめて普通のミラにしてくれ。

 

 

 

 

PS4月自作から揚げがそこそこ美味い日

 

 

 ユクモ村から、普通の移動手段なら一週間程度。

 俺が自重を放り投げれば、2日もあれば往復できるくらいの場所に、その塔はあった。

 こりゃゲームに登場しないのも納得だわ。

 俺なら2日で往復とは言ったけど、文字通り山超え谷超え一直線に来たからな。

 普通のルートなら、もっとモンスターの居る場所を避けて、蛇行しながら来なけりゃならない。

 移動するのも一苦労だ。

 飛行船ならもっと簡単に来れただろうけど、今まだ使えないしな。

 

 

 うーむ、こっちもデカい。

 飛行船でもうちょっと周囲に気を配ってれば、見つけられたかもしれないな。

 ポッケ村の塔に比べて、荒れ具合は酷い。

 建物って、人間が使わない方が劣化しやすいとは言うが…まぁモンスターの巣窟になってるしな、文字通り。

 

 塔の建築技術と言うか形式は、ポッケ村の塔に酷似しているように思う。

 床や壁の模様もそうだし、構造だってほぼ同じ。

 同時代の遺跡なんだろうか。

 

 

 さて、気になる霊力の有無であるが…やはり、この塔にもかなりの量の霊力の残滓が残っていた。

 ポッケ村の塔と同じように、雲に紛れるようにして漂っている。

 やはり、何かあるとすれば塔の根元か頂上。

 根元付近を探って、地下への秘密通路とか龍脈から霊力を汲み上げる装置とかを探してみたが、痕跡も見つからない。

 という事は上か。

 

 霊力を汲み上げる装置が無かったという事は、恒常的に使うような施設ではなく、溜め込んだ何かを発散・爆発させるような役目だったんだろうか?

 漂っている霊力は、その残滓か。

 …何百年も残っている霊力、か…。

 そこまで行くと、残滓と言うよりは何かの汚染なんじゃないかと思えてくる。

 

 

 …緑色の粒子をバラ撒けば、それくらい残る汚染もできそうだしな。

 

 

 

 

 

 ところで、今俺は塔の頂上付近の一室で、日記を書き綴っている。

 この部屋は丁度雲に隠れている辺りである為薄暗く、手元を見るのもちょっと苦労するくらいだ。

 

 何故そんな所で日記を書いているとかというと、このまま頂上に行きたくないからだ。

 

 

 と言うのも、外が猛烈な嵐になってんだよねコレが。

 さっきまで雲はあっても雨は降ってなかったし、増して雷鳴なんぞ響いてはいなかった。

 

 

 

 その光に照らされて、雲の合間を泳ぐ影なんて、見えてたまるかってんだ。

 

 

 

 ああしかしいつまでもここに居る訳にはいかない。

 さっきから雨が激しくなっているし、風も無茶苦茶に吹き荒れている。

 というか俺が居る部屋に向かってドンドン撃ってきてないか?

 

 このまま帰っちゃアカンかな。

 アカンな。

 さっきから落雷がバカスカ発生しているようだ。

 アマツに雷攻撃なんてあったっけ?

 嵐を操れるならやっても不思議は無いが、ゲームには無かった気がする。

 

 何れにせよ、このまま地べたを這って逃げ出そうとしても、強烈すぎる嵐とアマツの移動速度の前に、あっという間に追いつかれた上、上空から好き放題に狙い撃ちされる未来しか見えない。

 モドリ玉を使っても同じ結論だ。

 

 

 結局、塔の頂上で真っ向斬って相手するしかないのか。

 対抗策だって、全然思いついていないのに。

 地の利は……どっちにも無いかな。

 塔の頂上じゃバリスタの類も無いだろうし、アマツにしてみれば多分初見の場所…だと思う。

 遮るモノが殆ど無い平地…いや、荒れようを考えると段差は多いかもしれんな。

 そう考えると、空を飛んでるあいつの方がやはり有利か?

 

 

 

 …やれやれ、覚悟決めるしかないのかね。

 と言うか、ホントなんで塔に居るんだろうねぇ。

 まるで何かに呼ばれたか、獲物(俺?)に狙いを定めて駆けつけたみたいに…。

 その原因をどうにかすれば、何とか追い払えるかなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PS4月これ系等の技、旧作でも使ったなぁ日

 

 

 意外と何とかなるもんだ。

 と言うか真面目な話、半ば自暴自棄で試した技が大当たりしてしまった。

 

 

 

 えーと、まぁナンだ、アマツマガツチ、流石に大物古龍だけあって、今の俺じゃマトモに戦う事すらできなかった。

 単発の攻撃は割りと避けられるんだが、機動力、攻撃力、防御力にタフさ、どれをとっても超一級。

 しかも賢い!

 天敵なんぞロクにいない状況で生きてきたんだろうに、警戒心が並みじゃない。

 こっちの挙動に敏感で、斬りかかろうとしたら距離を取るし、爆弾でもブン投げてやろうかと思ったら迎撃してくるし、霊力を高めると途端に牽制してくる。

 …やっぱ霊力を認識してるな、コイツ。

 

 

 フェイントにも倒れたフリにも引っかからないし、古龍の常として罠も効かない、とにかく近づけない。

 こっちの動きを徐々に読むようになってきて、ブレスや竜巻、吸引のコンボで大ダメージ…とはいかなくても、避けられない攻撃を連発してくる。

 古龍のクセにチマチマ削ってくんな!

 そーいうのは自分より強い相手に挑むハンターの特権だっつの!

 

 マジな話、あのまま戦ってたら回復薬その他も完全に尽き、アラガミ化したところで距離を取られてエネルギー切れを待つばかり、空腹と疲労がピークになったあたりで隙を突かれてオダブツしていただろう。

 そうならなかったのは……まぁ、運と閃き?

 後は、文字通り体を張ってチャンスを作り出したからか。

 1回目で閃いて死に掛けて、二度目はまたしても強制アラガミ化だったけど。

 

 

 カギになったのはアマツが作り出す竜巻だ。

 飛ばしてくる奴じゃなくて、体に纏うようにして出現させる、吸引力付きの。

 

 何度か使ってきたんだが、最初は上手いこと逃げる事ができたのだ。

 ただ、掴まれるような場所が無かったから、全力疾走で吸引に抗うハメになったけどな。

 足を止めるタイミングを間違ったら、そのまま塔の頂上からGE世界まで、虚空を走る事になってしまっただろう。

 

 それを見て、この塔の上では非常に効果的な手段だと学習したらしく、何度も繰り返し使うようになってきた。

 しかも、竜巻の範囲が段々と広くなってくるのだ。

 とうとう避けきれずに巻き込まれ、天高く舞い上がるハメになった。

 車田落ちして、リアルに死に掛けたよ…落下の衝撃じゃなくて、アマツの攻撃で死に掛けただけだけど。

 

 

 

 更に周囲の風も逆巻いてきて、塔全体を竜巻で包むつもりなのかと本気でビビッた。

 

 まぁ、そこから大逆転のメを見つけ出した訳ですが。

 うん、巻上げられた時に気がついたんだけどね、塔の回りの霊力、風で掻き回されてるんですよ。

 で、風が逆巻き始めると、当然霊力も吹き上がります。

 吹き上がった霊力は滞空して…まぁ、多分ゆ~っくり降りてくるんだろうけど、見た目には空中でフワフワしているようにしか見えないな。

 

 風が強くなればなる程に、霊力は巻き上げられる。

 アホみたいな量の霊力がどんどん、どんどんこの辺一帯を包んでいく。

 

 

 …この辺で思いついたんだ、一発逆転の大博打。

 

 

 ただ、これって勝率に比例するようにリスクが高くなる。

 ちなみに勝率=リスク×0.02くらいの倍率だと思う。

 アマツ相手に高いか低いかの判断は任せよう。

 

 

 まずはとにかく逃げ惑い、尚且つアマツを挑発する。

 どんどん嵐が強くなってきて、もう塔の上まで雷が落ちる有様だ。

 それを空蝉その他でムリヤリ回避し続けて、塔の回りの霊力が殆ど巻き上がるまで待ちます。

 正直、この段階で既にアイテム尽きてます。

 回復薬は勿論、回復錠、ミタマの回復も。

 

 

 充分な霊力(基準が分からないんで、粘るだけ粘った)が巻き上がったら、今度はなるべく大きな竜巻を起こさせます。

 今まで繰り返した挑発が生きてくるでしょう。

 ただし、それだけ大きな竜巻なら、当然威力も桁外れな上、仮に作戦が上手く行っても何処にどんな力で放り出されるか分かりません。

 実際、巻き上げられてる間にブラックアウトしかけて、ふと気がつけばアラガミ状態になっていた。

 

 塔の上で飛んでいるアマツの更に上まで放り投げられ、眼下には竜巻の中央で鎮座するアマツと、付近一帯を包む膨大な霊力の残滓。

 

 

 

 このシチュエーションが欲しかった。

 

 

 

 ゴッドイーター式二段ジャンプで体勢を立て直して100万パワー!

 同じくゴッドイーター式急降下術…具体的にはショートソードの空中強攻撃…で200万パワー!

 最後に、3倍(何を基準に?)回転を加えて 1200万パワーだ!

 

 アマツに向かって一直線(回転してるけど)に急降下。

 アマツにしてみれば、吹き飛ばされた挙句、自分の領域である空中戦を挑んでくる愚かな羽虫にでも見えたことだろう。

 

 だが、俺に言わせりゃこんなのに引っかかるアマツの方が大馬鹿者だ。

 何せ、自分の最大の能力…嵐のそのものと言っていい、『渦巻き』を見抜けなかったんだから。

 

 

 巻き上げられた霊力は周囲一帯を包み、流動している。

 その中心を強く、そして冷たい(霊力なので比喩的な表現だが、温度と大差ないと思ってくれ)霊力で回転を加えて打ち抜く。

 そうすると、漂っている霊力は冷たい霊力に向かって雪崩を打って殺到する。

 

 

 ここまで書けば、分かる年代もとい人には分かるだろう。

 

 

 

 

 

 飛竜降臨弾。

 

 

 

 

 

 これが出来たって事は飛竜昇天破だって出来そうだが、その考察はまたにする。

 とにかく、霊気のド真ん中に風穴開けて突っ込む俺に、それを追いかけるようにして集中しながら落下する膨大な霊力。

 竜巻を作り終えて、丁度硬直状態にあった事もあり、アマツに俺の剣撃(アラガミ化モード)が、そして追いかけてくる霊力が直撃した。

 

 そこから先は、正直言って俺もよく覚えてない。

 剣撃がアマツの顔面にめり込んだ感触と、背中を思いっきり霊気で強打・後押しされ、アマツの頭を床に叩き付け……多分、そのまま床を叩き割って、アマツと一緒に落下したのだと思う。

 ふと気がつけば、塔の下方の一室で、ボロボロになって、人間モードに戻って横たわっており、天井には頂上まで繋がる一直線の穴。

 最低でも、床を5枚はブチ抜いたな。

 

 

 ついでに壁には大穴が開いており、遠くの空にフラフラと不安定に飛ぶ古龍。

 撃退はできたか…。

 

 古龍のクセして飛竜と名のつく技に負けるとは。

 まぁ古龍級の飛竜種だって居る世界だけど。

 

 

 常に纏っている嵐が無くなっているところを見ると、相当なダメージを与えたらしい。

 もうちょっとで討伐できたんじゃなかろうか。

 いやそれ以前に、よく気絶している間に食われなかったものだ。

 

 

 

 

 …思ったより威力あったなぁ。

 でも塔の頂上付近の霊力を殆どつぎ込んでも、仕留めるには至らなかったし、俺の体も無事みたいだし、期待した程ではなかった…のか?

 いやでも俺の体、多分再生した後だな。

 鎧を着ていた筈の手足が露出状態になっていて、部屋のあちこちに壊れた鎧の部品が転がっている。

 剣術バルドとやりあった時みたいに、吹っ飛んだ手足が繋がったか再生したかしたんだろ。

 まだ体が上手く動かない。

 

 …相手に与えるダメージより、俺が受けるダメージの方が強かったか。

 鬼杭千切と同様、自爆技かな…。

 そもそも、周囲に十分な霊力が無いと使えないから、MH世界じゃ同じような塔の上でしか使えんな。

 

 

 

 まぁ…とりあえず、その辺に散らばってるアマツの素材の欠片とか回収して、帰ろうか。

 

 

 

 

 

 




無理もないとは言え、描写がギリギリという感想を多く頂いています。
路線変更する気はありませんが、R-17.9のタグをつけようかと迷ってます。

マジな話、アウトな領域になったら作品BANの前に警告とか来るのでしょうか?
仮に来たとしても、今までの話を書き換えるとか不可能なんですが。

そういえば、数年間ずっと放置してたけどホームページあったなぁ…。
…マジでBANされたら、そっちで連載してアフィリエイトでもやってみようかな…。


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第130話+外伝16話

皆様の暖かいお言葉に、感激の嵐が止まりません。
読みに来てくれるという一言が、物凄い励みになりました。

ですが、以前は自作ホームページ作って、3ヶ月足らずで更新をやめてしまった身。
自分があまり信じられないので、基本的にこちらでの活動をしようと思っています。

久々に自分のページを見に行って「あ、まだ残ってた。更新もできる」「あー、こんなの書いてたなぁ」「幻想砕きの剣、ここに載せようとしたらどれくらい時間かかったろう」とか何となく懐かしくなりました。
何か載せてみようかと思いましたが、当時の自分はHTMLのソースから書き込んで作ってたんで、知識を忘れてしまった今ではできそうにありません。

…利用規約には、他サイトとの(確認が取れない)マルチ投稿 は禁止とありましたが、自作HPならいいのかな。
理想郷だとそんな感じでしたが。


それはそれとして、そろそろ更新ペースを4日毎くらいに戻させていただきます。
執筆ペース次第で、前後するとは思いますが。


追記

あまりにも励ましの言葉が嬉しかったんで、急遽書き上げた外伝を後書きにつけてます。


 

 

PS4月集会所の連続狩猟とかマジキツイっす日

 

 

 流石に体が重かったんで、帰りはえっちらおっちら歩いて帰った。

 と言うか足がマジで重い。

 再生はしたものの、ダメージはまだまだ残っているようだ。

 

 ジンオウガ辺りに襲われたら下位でもかなり苦戦しそうなんで、出来る限り注意を払って慎重に進んだ。

 

 何とか大過なくユクモ村まで帰ってこれた。

 途中で狩った食料も尽きたが、到着する頃には普通に生活する分には問題ない程度に回復できた。

 今回はお出迎えは無し。

 まぁ、片道一週間近くかかる塔に出かけていったんだから、まだ帰ってくると思ってなかったんだろうな。

 

 

 

 と言うか、それ以前にギルドが大騒ぎになっていた。

 アマツマガツチが、霊峰に向かうのが確認された、と。

 

 ちなみにその少し前、霊峰にずっと留まっていた嵐が、物理法則や自然の法則を無視するような勢いで移動していったらしいが…どう考えても、塔に居た俺をアマツが狙って移動しています本当にありがたくありません。

 で、その嵐が移動した翌日くらいに、アマツが飛んできたとか。

 ただし、嵐は伴ってない。

 飛び方もフラフラと不安定で、通った後には古龍の血らしきものが落ちてきた事もあったとか。

 素材として活用するには、もう無理っぽいけど。

 

 

 ギルドもアマツの事は前から確認していたらしいが、一体何があったんだ、と大騒ぎ。

 

 

 

 …ここで俺がアマツの素材出して、「襲われたんで何とか撃退しました」なんて言ったから、更に大騒ぎになったよ。

 まぁ、そりゃそうだよな。

 アマツにピンポイントで襲われたってのも疑わしい話だし、外回りハンターとしてそれなりの実績を作ってるとは言え、アマツと戦えるほどの実力じゃない俺が、どういう訳だか本当にアマツの素材の欠片を持ち帰ってきたんだから。

 真偽を巡って喧々囂々、真偽より先に傷ついたアマツへ追撃を出すべきではないのか、一体誰が追撃できるというのか、揉める揉める。

 

 ちなみに今でも大騒ぎ中。

 俺は流石に体が重いと言って、一足先に休みを貰った。

 コノハも仕事をササユに任せてついて来てくれた。

 実際、風呂沸かすのも飯作るのも億劫だったからありがたい。

 

 家に着くなりベッドに倒れこんで、気がついたらもう夜だった。

 ボロボロだった服と鎧は脱がされており、土や汗に塗れていた体は綺麗に拭かれていた。

 寝巻きを着てたしな。

 どうやらコノハが看病してくれたらしい。

 

 起きた横には、暖かい粥まであった。

 うむ、美味い。

 疲れ切った体に染み渡る…。

 なんとも至れりつくせりと言うか…好きになった相手には尽くすって言ってたけど、偽り無しかな…。

 

 

 外を見れば既に真夜中。

 ササユはまだ帰ってきていないようだし、ギルドでは騒ぎが続いているんだろうか。

 

 

 そんな事を考えていたら、コノハが入ってきた。

 

 

「あ、起きた? 体、痛くない?」

 

 

 痛くはないが…どうにも違和感があるな。

 ああ、お粥ご馳走様。

 何とか一心地ついた気分だわ。

 

 

「それはいいけどね…何だって古龍なんかと戦ったの。

 塔を見に行くだけだって言ってたじゃない。

 しかも思ったより帰ってくるの早いし。

 …まぁ、帰って来ないよりずっといいけど」

 

 

 何でも何も、襲われて逃げられなかっただけさね。

 あ゛ー、思い返すとエラい目にあったぜ。

 妙なモンスターと何度も戦ってるが、今回は特に別格だった…。

 

 

「伝説の嵐龍だものね。

 生きて帰ってこれたのは奇跡よ。

 …お風呂、入る?」

 

 

 おう、入る入る。

 ところでコノハ、今晩は遊んでいい?

 

 

「…本気?

 体がガタガタなんじゃない?

 お医者さんからも、絶対安静って言われてるわ」

 

 

 だったら尚更、な。

 前にラギアとタマミツネと戦って帰ってきた時の事、覚えてるだろ。

 ヤッた方が回復早いんだよ、俺。

 

 

「…無理はしない事。

 特に腰を激しく振ったりするのは駄目よ……できないでしょうけど…。

 全部私達がシてあげるから、今日は大人しくオモ…マグロになってなさい」

 

 

 今オモチャって言いかけたろ。

 ま、今日はそれでいいさ。

 とりあえず風呂入っていい?

 

 それから、ササユが帰ってくるまでは土産話でもしようか。

 

 

「貴方が死に掛けた土産話って、悪趣味ね…。

 いいわ、他に何かしてほしい事はある?

 帰ってきた旦那さんを労うのは、現地妻の務めだものね。

 あと、お風呂は沸くまでもうちょっとかかるから待ってて」

 

 

 強いて言うなら、茶が飲みたいかな…。

 ちょっと長湯するつもりだし。

 

 

「それくらいならお安い御用。

 一緒に入るわよ。

 お世話するから。

 あ、エッチな意味じゃないわよ」

 

 

 いいけど…今更遠慮するような仲でもなかろうに。

 

 

「…うん、でもやっぱり…辛いわ」

 

 

 …?

 辛い?

 

 

「…ちょっと、椅子に座ってくれる?」

 

 

 いいけど…よっと。

 ん?

 コノハ、この手は何ぞ?

 

 

 

「…あれ」

 

 

 座ったけど、こうでいいか?

 

 

「いいけど……あの、歩けるの?」

 

 

 歩けるよ。

 と言うか自分で歩いて帰ってきたじゃないか。

 まだ違和感があるけど、リハビリすれば今までどおりに動けるだろ。

 

 

「……あ、あのヤブ医者…!

 もう歩けない、みたいな事言ってたのに…!」

 

 

 …あー、なんかしおらしいと思ったらそういう事か。

 そんなに怒ってやるな。

 実際、かなり重症だったのは事実だしな。

 俺じゃなけりゃ動く事もできなかっただろうさ。

 

 

「……ま、まぁいいわ…無事だった事に怒るのもおかしな話だし。

 とにかく…おかえりなさい」

 

 

 そう言って、コノハは軽くキスをしてくれた。

 

 

「…ねぇ、まだ足は痛むのよね?」

 

 

 まーな。

 でも感覚はちゃんとあるし、しっかり動く。

 爆弾抱え込んでる可能性は否定しきれんけど。

 それが?

 

 

「じっとしててね」

 

 

 お、おう?

 そのまま跪いて、靴下も脱がせて……オヒョ!?

 

 

「ちゅっ……ん……んむっ…」

 

 

 ちょっ、いきなり足舐めキタ!?

 まだ風呂にも入ってない、一週間近く歩き詰めの足なのに!

 

 

「こうしたら、早く良くなるかと思って…。

 …味、濃い…」

 

 

 そりゃそうでしょうよ!

 と言うか指の間に! 足の裏にヌルンとした感触が!

 ああ、なんかエロい雰囲気じゃないのに興奮してしまう!

 

 

「本当は…ユクモ村に来た時に……はむ…やってあげようと、んむ…思ってたんだけどね…」

 

 

 足を労うってか。

 足に対して文字通りご足労ありがとうございますとか、ギャグにもなっとなんな。

 

 

「本気だもの、洒落じゃない……チュッ」

 

 

 ああ、コノハがエロじゃなく、労い的な意味でやってくれているのは分かるのに、どうにも興奮してしまう!

 ロリが足舐め奉仕してくれるとか、18禁なワードは全く入ってないのに何故こんなにエロいのか!

 

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛、感じてはいけない類の愉悦と興奮がッ……!

 足裏は第二の心臓とか言うが、別の意味でドッキンドッキンしてきたぞ!

 

 

 

 

 

 そのまま暫く両足を嘗め回され、理性が完全に蒸発しそうになったあたりで終了。

 そのまま一緒に風呂に入った。

 

 …我慢できたかって?

 まぁナンだ、初日にササユ一人とヤッちゃってたから、その穴埋めって事でね。

 

 

 

 

 

 

PS4月やはりオンラインでやらねば厳しいか日

 

 

 ふへぇ…昨晩はえがった…今までとは違った体験だった…。

 セクロスしたというより、性的なものも含むマッサージを受けてる間に眠ってしまった、って感じだったな。

 コノハが言ったように「今日は何もしなくていい」は文字通りで、こっちから責める事は全く無し、ただ只管に奉仕されていた感覚だった。

 

 俺の上に跨る時も体重がかからないように配慮していたし、激しい興奮を煽るよりはとにかくリラックスさせるような囁きを繰り返される。

 別の意味で新境地を開いた気分だ。

 

 

 それはともかく、大・体・回・復!

 昨晩診察してくれたらしいお医者さんが、俺の顔を見るなり激しく錯乱する程度には元気である。

 完全回復まであと2日、好きにナニしていいならあと半日ってトコかな。

 ま、流石に今日はナニも何もせずにダラダラ過ごすつもりだけど。

 

 と言うのも、俺の体は思った以上にダメージを受けていたらしいのだ。

 俺が寝ている間に、コノハが俺を医者に見せていたんだが…その診断書を、ササユと一緒に覗き込んだ。

 絶句した。

 

 ササユも悲壮な顔付きになり、「こんな重症人に、昨晩は何をさせてたの!」とコノハを睨みつけ、次いであれ?って表情をして、俺をまじまじと見た。

 

 

 まぁそんな顔になるのも仕方ないわな。

 診断書には色々書かれていたが、簡潔に纏めれば「日常生活をまともに送る為に、非常に長いリハビリが必要になる」って事だった。

 なのに俺は平然と動いているしパコパコしても平気だし、これヤブ医者が診たんじゃないの?と思っても無理はあるまい。

 

 俺としては、塔から帰ってくる間に感じた負担が、診断書に書かれている多くの事に一致していたんで、これがほぼ事実だと分かるんだが…というか、俺こんな状態で歩いて帰ってきたのか。

 何処まで人間やめてんだろうな、俺。

 と言うか、今回ループは腕が飛ぶは複雑骨折はするは、なんだか一生モノの大怪我が多いなぁ。

 再生するからって、それを「激しく痛い」の一言で済ませているのは、慣れの問題なんだろうか。

 

 

 

 それは置いといて…昨日のコノハの態度で、ちょっとこれからと今までに疑問が出た。

 俺がどれ程重症なのか、診察結果を知ったコノハは、本気で俺を一生涯支えよう、と思ったそうだ。

 俺がそれに値するようなオトコなのかはさて置いて、それだけの意思、覚悟に対して、俺は何か返せるのだろうか?

 

 一方的に支えられる、奉仕される関係というのは、気分はいいかもしれないが…なんというか、健全ではないように思う。

 だが、今の俺とコノハ達との関係はどうだ?

 

 亭主関白なんて言葉もあるが、正直見ていてあまり気分のいい物ではなかった。

 例え外で働いて日々の糧を得ていたとしても、その見返りに世話を焼かれているのであれば、それは対等の関係の筈。

 一方的に奉仕を受け取るだけでいい筈が無い。

 

 現地妻、それ自体はいい。

 本人達も自認し、自ら申し出てくるくらいだし、俺が問題としようとしているところに倫理観は必要ない。

 

 俺は外回りハンターとして、村にやってくる。

 コノハとササユは、個人的に関係を持った人間として、俺の世話を焼いてくれる。

 俺はハンターとして、ギルドから回された仕事をこなしたり、自分で仕事を見つけて狩りをしたりする。 

 コノハとササユは、ギルドの受付嬢として俺の…俺以外も…仕事を対応する。

 俺は肉欲を満たし、霊力を補充しようと、コノハとササユの体を貪る。

 そして、仕事が終われば俺はそれで去る。

 

 …俺は、どこかでコノハとササユに…いや、今まで関係を持った相手に、何かを返していただろうか?

 貪るばかりで、誰かの為に何かしただろうか。

 「貴方の傍に居られるだけで」とか、「気持ちいいから」とか、そういう事を言ってくれそうなのも何人か居るが……俺から誰かに意識して与えた、と言うのは覚えが無い。

 与えると言うと上から目線のようにも感じるが。

 

 恋人関係だって夫婦の関係だって愛人契約だって、何かしらの行為に対してリターンはあるものだと思う。

 でも、俺から能動的に何かを返した事ってあったかなぁ…。

 白くて濁ってるの以外で。

 

 

 んじゃ、何を返せばいいんだ?

 …モンスターの素材で作ったアクセサリーでも渡すか?

 それとも食事にでも誘えばいいのか、奢りで。

 酒でも送るか?

 温泉旅行にでも誘うか……既にユクモ村が温泉街だよ。

 

 でもそれってモノで釣ってるだけで、気持ちを返した事に…なる、のか?

 こうやって悩んで行動する事が喜ばれる、なんて理屈で妥協するのもおかしな話…。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えてウンウン唸りながら村を散歩していたら、ふと気がつけばもう日が暮れていた。

 イマイチ休んだ気がしない。

 結局、お返しする方法も思いつかないままだったし…。

 

 

 

 

 

PS4月というかオンでのマナーがイマイチ分からん日

 

 

 色々悩んだが、下半身で思考するナマモノである俺に夜を自重しろと言うのは、土台無理な話である。

 うん、とりあえず夜のサービスで頑張る事にしました。

 今までと何も変わらない?

 それが何か?

 

 いや、お返しの方法は考え続けるつもりだけどね。

 差し当たり、オカルト版真言立川流の使い方を少し工夫して、散々楽しんだ翌日でも、女性側も気分爽快スッキリ気力満タン、寝不足にも悩まされないくらい健康的なテンションと体調を維持できるようにしてみた。

 特に、昨日帰ってきた二人は、ギルドの騒動に対応していたからか、疲労困憊状態だったしな。

 一昨日と同じように、俺を安静にしてヤろうとしていたんで、両方に負担が無いヤリ方に変えた。

 スローな感じのね。

 

 

 さて、コノハとササユの疲労の原因であるギルド騒動だが、何とか一段落はしたらしい。

 残る問題は、アマツマガツチの討伐をどうするか、だ。

 嵐を巻き起こす能力はまだ回復していないらしく、アマツが居る筈の霊峰には雲もかかっていない。

 だがそこから移動した形跡も見えず、撃墜のリスクを犯してまで恐る恐る飛ばしてみた気球によると、霊峰の頂上付近でアマツが休んでいるのが確認されたそうだ。

 

 …アマツの嵐が無くなっているところから、破壊した何処かの部位が嵐を司っているのではないか、という説も出ているが、それは置いておこう。

 

 

 今のアマツマガツチは手負いの古龍。

 だがその傷は、アマツマガツチの真骨頂である嵐すら維持不能になるレベルだ。

 凶暴さは増しているかもしれないが、討伐するのにこれ以上のチャンスは無い。

 

 その一方で、本当に嵐を操る力は喪失されているのか、現状はどこまで風を操れるのかという疑惑はある。

 単に疲れた、負担になるから嵐を起こしてないだけで、外敵と遭遇すれば風を操る能力は行使できるのではないか?

 …少なくとも、一般的な物理法則を無視して空を飛ぶ事はできてる訳だしな。

 

 

 さて、そんな状態でも、とにかく大きくダメージを受けているのは確か。

 また、そのダメージを与えた俺がいつまでもここに居ると、傷が癒えてから逆襲してくる危険がある。

 

 厄介な事に、ここに俺が居なくても同じだ。

 恐らくアマツは、今でも俺を知覚している。

 何せここから遠く離れた塔に来た時、ピンポイントで狙ったように襲撃してきたのだ。

 ユクモ村に居る時だって、当然感知できているだろう。

 つまり、アマツはここを俺の巣だと考えて、荒らしにくる可能性もある。

 

 更に言うなら、アマツの移動速度は明らかに飛行船以上。

 俺が何処か遠くに逃げたとしても、追いついてくるのにそう時間はかかるまい。

 

 

 つまり、俺の平穏の為にも村の為にも、今のうちにアマツを討伐しておかなきゃならない訳だ。

 でも誰がやる?

 ポッケ村と違い、ユクモ村にはそこそこの数のハンターが居るが、良くて上の中。

 ハンターランク的にも実力的にも、アマツの相手が出来るようなハンターではない。

 

 となると、やはり俺にお鉢が回ってくるんだが……どうもその辺で揉めているらしい。

 コノハとササユは消極的な反対を主張しているようだ。

 …また大怪我をして帰ってくるんじゃないかという心配と、ハンターの仕事はそういうものだという理解…か。

 

 ギルドの大部分は、消極的な賛成。

 アマツを手負いにした実績がある上、付近のハンターの中では頭一つ分飛びぬけた実力がある。

 が、やはり本来のアマツの相手を任せられる程ではなく、もしもアマツの戦闘力が落ちていなかった場合、大した抵抗もできずに返り討ちにされる危険もある。

 

 

 

 以上を踏まえた上で、俺の考えはというと…言うまでも無く、『やる』の一言である。

 

 だってさっさと片付けないと、飛行船で移動できないし。

 俺のケンカだ、なんて理屈を持ち出す気はないが、元々襲われたのも手負いにしたのも俺だ。

 出来る事なら、最後までこの手でやってやりたい。

 

 とは言え、確かに戦力不足ではあるんだよな。

 このまま済し崩しに任されるにせよ、こっちから志願するにせよ、「これなら勝てる!」と思えるくらいの準備をしていかないと。

 

 飛龍降臨弾は…もう使えないだろうな。

 もう一発当てれば今度こそ仕留められそうではあるけど、あの威力は周囲に充分な霊力の残滓が残っていて、アマツの風を上手く利用できたからだ。

 技の前提条件である環境すら作れないだろう。

 

 となると……ふむ、今の俺でキまれば勝てると思える技…か。

 神機は剣術バルドとの戦い以降、調子がおかしいからメテオの類は使えない。

 霊力は使えるけど、古龍に致命的ダメージを与えるにはちょっと火力不足。

 

 …一番可能性があるのは……狩り技、か。

 ふむ……そういや、狩り技単体で使う事はあっても、そこに更に霊力を上乗せってのはやってなかったな。

 よし、何処に何を組み合わせるか、少し考えてみるか。

 

 

 

 

PS4月誰かが作った集会所に入って、勝手にクエを決めるのはよくないよね?日

 

 

 体調、完全回復!

 種付けプレスだって余裕です!

 プレスだけなら元々そんなに体の負担にはならないけど、やっぱこのプレイだと勢いが無いとね。

 あと、受け手に負担がかからないようにするのは結構難易度が高い。

 

 ちなみにコノハとササユからは、ヤり方を変えて以来、体が楽になったと好評です。

 でも容赦なく責められてクタクタになるのも好きなようなので、翌日が休みの時は遠慮なしに責めています。

 

 

 それはともかく、先日から考案が始まった霊力乗せの狩り技だが、考え始めて1日にしてはそこそこのモノが出来たと思う。

 特に参考になったのは、太刀の狩り技だ。

 練気解放円月斬り、桜花気刃斬。

 どちらも使うと(当てると)気が高まり、その後の攻撃が強力になったり、気刃斬りが使い放題になったりする。

 これを、霊力にも影響させる事はできないだろうか?というのが最初の考えだった。

 

 何度か試してみたが、これは意外と簡単にできた。

 霊力も気も、根っこが生命力という点では同じだからだろうか。

 むしろ、経験則で積み上げられたMH式の狩り技よりも、気や霊力の流れを意識して、解放のタイミングや練り方を整えた分、従来のモノより強力な狩り技になった。

 

 効果としては、元々の狩り技の効果に加え、練気解放円月斬りならタマフリ発動のインターバルが一定時間無くなり、桜花気刃斬は暫くタマフリの効果が高くなる。

 ただ、両方とも従来の狩り技に比べ、効果が短くなっているという欠点もあるが…まぁ当然か。

 10の力で気を強化していたのが、10の力で気と霊力を強化するのだ。

 効果が半分になるのも、ある意味道理である。

 

 

 

 続いて、完全に攻撃の為の狩り技なんだが…これが結構苦戦している。

 前に戦った時、数える程だがこちらからの攻撃の直撃もあった。

 だがそれがマトモに通じたとは思えない。

 ぶっちゃけ殆どが弾かれた。

 

 切れ味が足りない、威力が足りない、貫通力が足りない。

 

 この内、最も対応しやすいのはどれか?

 

 切れ味は却下だ。

 装備を急にいい物にしなければ、目に見える程の効果は期待できない。

 スキルを使って、弾かれなくなったり切れ味を少しよくしたりは出来るが、そこまでだ。

 

 威力……出来るならやってる。

 

 貫通力………貫通弾か。

 考えてみりゃ、貫通弾はゲームでも古龍の体すらブチ抜くんだよな。

 それはゲームシステム内の話に限定されるとしても、貫通力という一点において、近接武器よりもガンナー武器の方が圧倒的に高いのは確かだ。

 神機のドリルでも使えば別かもしれんが、今はマトモに運用できるか怪しい状態だし。

 

 ふーむ、しかし貫通弾を使うとなるとガンナー装備か。

 しかも単なる貫通弾ではない、もう一捻り必要だ。

 狩り技に霊力を乗せ、更にもう一工夫欲しい。

 

 何か無いか、何か…。

 

 ゼロ距離射撃、速射、片手剣のように薬で属性追加、相手の口の中に捻じ込んで………お?

 

 

 

 

 口じゃなくて…体の中に捻じ込んで…。

 つまり抉るように突くべし突くべし突くべし、しかる後に………でもそれってつまりは……いや、だからこそ発展させられる…か?

 

 

 




 ふむ、この手の夢を見るのも、何だか久しぶりだな。
 今回はまた、いつも以上に唐突と言うか見も蓋もないと言うか。
 何せ視界に写るのは、どこまで続くか分からない砂漠、砂嵐、そして妙に綺麗な夜空のみ。
 砂漠の夜は冷えるからな…無駄に星がよく見える。


 差し当たり、幸運にも暑さ無効、寒さ無効の装備をしているのですぐに凍える事も、熱気に当てられて何もしない内に乙る事はない。
 が、こうまで何も無いんじゃなぁ…。
 辺り一面、あるのは砂だけ。
 動物や虫の気配も殆ど無い。
 
 とにかく食料を確保するか、目的地を作らないと、彷徨った挙句に何がなんだか分からない内に目が覚めてしまう。

 とは言え、こうもまともな目印になる物が無いんじゃな…。
 砂の丘の形だって、強風が吹けばあっという間に……お?
 流れ星だ。
 随分とデカい…箒星って奴か?
 いや、それにしては妙に大きいし移動が早い………!?


 轟音、爆発。


 …落ちた?
 箒星落ちた?
 
 …とりあえず、あっちに行ってみるか。
 隕石の塊とかあるかもしれん。
 納品ボックスが無いから、採取しても移動が遅くなるだけだけど。





 隕石が落ちたと思しき方向に向かって進んでいる内に、なにやら建物の残骸を発見した。
 完全に砂に埋もれて朽ちてしまっている。
 あちこちに点在しているが、拠点として使えそうなものは無さそうだ。




 …で、この廃墟でバッタリ会った………ひ、人?
 人、だよな?
 二本足に二本の手。
 民族衣装と思しきマントとマフラー。
 そして真っ黒な、仮面のような顔。
 造詣は人間なのに、何と言うか……物凄くデフォルメされているように見えるが…。


 あっちも戸惑っているんだと思う。
 バッタリ会った時、咄嗟に飛びのいて距離をとり、お互いに様子を伺っている。



 …?


「ζ」


 …………?


「ζ」


 ………………(汗)


 …は、話しかけられているみたいだが、サッパリ分からん。
 今までどの世界に行っても(夢の中でも)こんな事は無かったのに。

 ジェスチャーか……ある程度文明的な共通点がないと、通じそうに無いな。
 肩を竦めて「やれやれ」で通じるか?


 …通じた…ようだ。
 ジェスチャー全般が通じるかは分からないが、とにかく今回は「言葉が通じない」というのは伝わったらしい。
 一応、俺の顔を指差して名前を名乗ってみたが、発音できないようだ。
 さっきから何度か響かせている、言葉だか鳴き声だか分からない音しか出てこない。



 とりあえず、友好の証として…こんがり肉とクーラードリンクを渡してみるか。
 ちょっとだけ切り取って口をつけて、ほれ食え飲め。

 …通じたっぽい。
 そして友好的だというのも理解してくれたようだ。



 お互いに、色々とジェスチャーで語り合ってみたのだが、どうもこの人は遠くに見える山に行こうとしているらしい。
 そこに何があるのか知らないが、まぁ一緒に行ってみようかな。
 さっき落ちた隕石を見に行ったところで、何があるとは限らないし。



 この名前も知らない同行者だが、何だか知らないがこの辺の事をよく知っているかのように、迷い無く行動する。
 朽ち果てた建物のところに行って、何か声を発したと思ったら、そこにあったモニュメントが何やら反応した。
 何かが動いて、建物の中に閉じ込められていた………ぬ、布? が空を飛んでいく。
 そして何故か同行者のマフラーが長くなった。

 …ワケが分からないのですが。
 しかし、本人も何やら戸惑っているようだ。
 この辺の事を知っているかのように行動していたにも関わらず、自分がそれを何故知っているのか、戸惑っている…ように見える。
 相変わらず言葉がさっぱり分からないから、そんな雰囲気ってだけだが。

 しかし、あのマフラーすごいな。
 理屈はよく分からないが、空を飛べるらしい。
 是非とも欲しいところだが……拒否された。
 まぁ当然か。

 空を飛んでる布を何枚か捕まえて、上手く利用できないかと思ったんだが、捕まえたらそのまま程なくして動かなくなってしまった。
 それに向かって同行者が、例のよく分からない声を出すと、光りだして動き出す。
 …よく分からんが、とりあえず俺には無理って事のようだ。


 道の途中が鉄柵やら何やらで塞がれているところがあったが、これまた同行者の声が解決した。
 鉄柵の近くにある棒に向かって声を上げると、途端に棒が光りだして、壁画が現れて……なんか幻影が見えるんですが。
 同行者を3倍くらい縦に長くしたような人影が。
 ソイツは同行者の顔を見た後、何故か俺を見て首を傾げていた。
 …よく分からんが、疑問を持った時の行動は同じのようだ。



 そのまま進み、壁画と幻影との遭遇を繰り返す事数度。
 大都市だったと思われる遺跡を抜け、邪魔になっている柵を同行者の声であけたり、俺が力で抉じ開けたり。
 段々と同行者の目的地である山が近付いてきた。

 ここまでの流れも、まるで同行者は知っていたかのように動き、その度に戸惑うような表情(相変わらず仮面に見えるが)を見せている。
 …うーん?


 今度は地下道へ潜る。
 既に同行者のマフラーは、それマフラーじゃないだろって言いたくなるくらい長く伸びている。
 しかし、このマフラーの光度合いによって空を飛んでいられる時間が変わってくるのだから、これも文句は言えそうに無い。
 そして、光が失われた場合、同行者の声によって輝きが戻ってくる。
 どうやらこのマフラー、幻影に遭遇する時にある棒と同じ原理を使っているらしい。

 …声をあげると作動する、となると……共鳴か?

 仮にそうだとすると、同行者の声は普通の声ではないんだろう。
 この装置を起動させる為に特化した声であり、俺達のように音を連ねて言葉を表現するものではないらしい。
 意味を理解できないのも仕方ないか。

 …そういう風にコイツが調整されているのか、それとも種族単位でこうなのかは分からないが。


 それはともかく、地下道を進んでいる内に、妙なモンスター(?)と出くわした。
 普段は石造に擬態しているようで、俺達を見つけると空を飛んで襲ってきた。
 一言で言うなら…空飛ぶムカデ?
 付け加えれば、頭の部分からサーチライトっぽいのが出ている。

 どうやら、この光に当たると、俺はどうともないが、同行者のマフラーが短くなってしまうらしい。
 とりあえず、上手いこと避けて進む。
 


 …ふむ、どうにも不自然な生物だ。
 光でマフラーが短くなる事もそうだが、あの巨体を維持するだけの食料を何処から得ていたのか。
 何故、一匹だけ地下道に居たのか。
 近くまで寄ってこられたが、俺達を食おうとするでもなく、あのライトを同行者に向けるばかり。

 …ひょっとしてマフラーを捕食ているのか?
 どうにもアレの生態が説明できない。


 …まぁ、とにかく現状では敵だな。
 動きは大体見切ったし、今度あったら撃退してやろう。


 その後、遺跡の中を泳いだり同行者に掴まって飛んだりよじ登ったりして、何とか通過。
 壁画の内容も、大分ストーリーがわかって来た。
 …その後のオチも。
 
 で、それが同行者にどう繋がるかって疑問もあるが…このまま進めば分かるか。



 それはいいんだが、遺跡を抜けたら雪山ってなによ?
 遺跡に入ってそんなに距離を進んでないだろうに、何故に砂漠から雪山…。

 まぁいいけどな。
 ホレ、ホットドリンクあるから飲め。


 雪に覆われた遺跡を進み…またさっきの空飛ぶムカデが出た。
 同行者は隠れてやり過ごそうとしたが……ハンターとして、モンスターにやられっぱなしなのは許容できん!




 という訳で、適当な建物に登り、近付いてきたところで……跳躍、エネミーステップ!
 背中にライドオン!




 後は順調に乗り攻撃して、地面に叩き落しました。
 同行者が唖然として見ていた。

 叩き落したはいいが、同行者と離れ離れになってしまった。
 うーむ、渓谷近くでやるのは無謀だったか。
 まぁお互い声をあげて無事は確認できたし、とりあえず先に進むかな。






 先に進んでいると、同行者が残したモノらしい目印が幾つか発見された。
 明らかに俺と一緒に居る時より、移動ペースが速いな。
 まぁ、空も飛べない、例の声も出せない俺を引っ張って進んでいたんだから、当然と言えば当然か。

 さて、ホットドリンクが切れて凍えてなければいいが。


 
 同行者の形跡を追っている内に、また壁画を発見した。
 その周囲をタカの目を使ってみてみたが……随分と、沢山の足跡があるようだった。
 形跡から推測される、足跡の主の体型はどれも似通っている…いや、ソックリとさえ言っていい程だ。

 まるで、同じ人物が何度も何度も同じ場所を巡回しているように。
 そして、同行者が今まで何度も見せてきた、既視感に戸惑う様子。



 どうにも……気に入らんね。
 ああ、とにかく気に入らない。




 どんな理由と背景があるのか知らないが、理由も自覚もなく、何度も何度も繰り返させられているというのが、何よりも気に入らない。



 俺はそんな状況に、理由は分からずとも自覚を持って、馴染んで楽しみを見つけているが、あの同行者はどうなんだ。
 この世界にあるモノは、砂、雪、モンスターと遺跡、後は精々幻影。
 こんな状況に一人っきりで放り出されて、アイツは楽しみの一つでも見つけられているのか。


 そう考えると、この状況が酷く腹立たしいものに思えてくる。
 …だからと言って、何ができるかって話だけどな。
 何か一つやってやりたい。
 やらかしてやりたい。



 …とにかく、同行者を見つけなければ。







 割とアッサリ見つかった。
 しかも結構とんでもない状況で。

 いや、俺にしてみりゃいつもの事だったんだけど、あいつにとっては初体験なんだろうなぁ…。



 あのムカデのモンスターを乗り回すとか。

 さっき俺が奴を叩き落したのを見て思いついたんだろう。
 どうやったのか知らないが、ムカデの上に掴まって、振り落とされないように踏ん張っている。
 しかも、あのよく分からない声を何度も何度も浴びせていた…攻撃のつもりか?

 聞いて、いや効いてる…のかな?
 

 …お、ムカデが体勢崩した。
 あれは…咆哮をあげようとしたのか?
 アイツに口なんてあったっけ?

 何にせよ、あの感じは…同行者が放った声が、ムカデが発しようとした何らかの波長に共鳴して跳ね返したらしい。
 


 …ふむ。




 まぁ何にせよ、ムカデは同行者によって叩き落された。
 乗り攻撃は始めてだったろうに、見事なもんだ。
 俺に気付いた同行者が駆け寄ってくる。



「ζ」



 うん、分からない。
 でも再会を喜ぶよりも先に、「ホットドリンクくれ」って言ってるのは分かったよ。
 



 俺が抱いた苛立ちも知らずに、再会した同行者と進んでいく。

 もう頂上が近い。
 …が、吹雪が強いな。
 まぁ、俺は平気だけど。
 スキル発動しているし、ホットドリンクまだ余りがあるし。
 龍風圧に比べれば、この程度の吹雪なんぞどうって事ない。

 同行者の前に立って、雪から庇いながら進む。
 同行者に繰り返しホットドリンクを渡しながら、ちょっとずつ。




 暫くすると壁に行き当たった。
 どうも、この壁の上に上らなければならないようだ。
 まぁ、余裕。
 恐竜の卵持って平然と上り下りするハンター舐めんな。
 同行者担いでたって朝飯前だぜ。

 …何だか同行者が妙にハシャいでいる気がするな。
 初めての場所に遊びに来た子供みたいだ。




 壁を登りきった辺りで、吹雪は一端止んだ。
 少し休みたいところだったが、また吹雪いてくると同行者を護るのも厳しい。
 何だか知らんがマフラーも極端に短くなっており、寒さを凌ぐのも難しそうだ。
 幸い、頂上はもうすぐそこだ。
 一気に上ってしまおう。







 あっ



 と言う間に到着。
 あの吹雪が最後の難関だったな。
 ある程度の高さまで上り詰めてしまうと、雪山の寒さがウソのように暖かくなった。
 と言うか頂上に至っては草が生い茂って花まで咲いているとかなんやねん。
 


 しかし、ここまで来たはいいが、こっからどうするのん?
 そう思って同行者を見ていたら、随分と嬉しそうに歩いていき……なんだこりゃ、石碑?
 いや、もっと違う素材だ。

 それに向かって同行者がいつもの声を出す。




 …白くてデカいのがワラワラと出てきた。
 何やら同行者と遣り取りしているようだが………こいつらか?

 こいつらが、同行者をこんな苦行に押し込めてんのか?
 叩き斬ったろか。

 今持っている得物は剥ぎ取り用ナイフくらいだが、それならアサシン式に急所を一突きするか、拳でやるか、霊力を使うまで。


 かなり本気で白くてデカい連中を仕留める算段を始めていたら、同行者が振り返った。
 ついナイフを隠す。

 駆け寄ってきて、何やら「ζ」「ζ」「ζ」「ζ」「ζ」と連続して話しかけてくる。
 すまん…感謝する、と言ってるのは分かるんだが、それ以外はサッパリだ。
 


 …ん、あ…?
 なに?
 誰か来る?

 目を向ければ、俺達が昇ってきた山の反対側から、同行者と同じような格好の人(今更だけど、人でいいよな)が飛んでくるのが見えた。
 同行者によく似ているが、明らかに防寒目的ではない、ファッションだとしたら履き違えを通り越して拗らせたにも程があるくらい長いマフラーが見える。
 

 そいつが俺達と同じ場所に辿り着いて、同行者と見詰め合って近付いて…何やら互いに声をかけている。
 ……あれ、これってナニ、お互いヒトメボレ的な流れなの?
 俺、色々な意味で置いてけぼりなんですけど。


 そんな事を考えていたら、急に視界が白く染まっていく。
 白いだけではなく、高く高く。
 体が白い光になって、星になろうとしているかのように昇っていくのに気がついた。



 最後に見えたのは、同行者が俺に向かって特大の声を張上げる所だった。





 


 ふと目を覚ます。
 やれやれ、よく分からん夢だったな。
 思い返せばイライラして白いのを仕留めようとか思ってたが、あいつが置かれていた状況も俺の予測でしかなかったんだよな。
 …まぁ、あの繰り返し(だと思う)の世界で、多少なりとも変化が現れていればいいんだけど。
 多分、従来であれば、何とかあの最後の場所に辿り着いた同行者は、最後に俺がなったように白い光に包まれて…また流れ星として砂漠に落下し、雪山を目指すのだろう。

 最後やってきた同行者によく似た人と一緒に居られるのなら、多分何かが変わったんじゃないだろうか。

 さて、それはともかく、夢を見たら大抵、その後何か能力が使えるようになってたけど…。
 あの便利な布は…無いか。


 じゃあ…こっちか。



「ζ」


 …綺麗な声(音?)が出せるようになったもんだ。
 相変わらず意味は全く分からないが。

 さて、コイツが出来るんだったら……ちょいと練習してみるか。







 後日、モンスターの咆哮に合わせて「ζ」を使い共鳴させて、その衝撃を纏めて叩き返すと言う荒業を取得してしまいました。

 ただしタイミングを誤れば、共鳴でパワーアップした咆哮が全部自分に襲ってきて、ティガレックスの咆哮を受けたみたいに吹っ飛ばされます。




外伝 風の旅ビト編


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131話

奈落の妖星まであとちょっと…。
しかし剣士タイプだと辛いかな。
今までガンナー、全くと言っていい程使ってないんだけど。
むしろ太刀と大剣しか作ってない。

と言うかガンランス動きが鈍すぎる…。
まだ使って3度目っていうのもあるけど、よくこれで戦えるなぁ。
流石に初っ端から獰猛化フルフルを相手にしたのは阿呆だったと思うけども。


PS4月最近鍋ばかりだったから、新しいツマミに挑戦する日

 

 

 一先ず、新しい必殺技は思いついた。

 ただし、これはハンターとしては到底運用できる技ではないと思う。

 何せ、一発使えばその場で武器がオシャカになる可能性が非常に高いのだ。

 

 というかなった。

 使ったのがユクモノ銃槍とは言え、造り自体はしっかりとしていた新品。

 何度か使ってみて、おかしな所が無いのも確認している。

 

 手入れこそ必要だが、普通の砲撃も竜撃砲も、何発使おうと破損する事が無い、工房の技巧が詰まった一品。

 …実を言うと、頑丈さ、メンテナンスの必要性という意味では、この世界のガンランスはGE世界の神機すら凌ぐ一品なんだが、それは置いといて。

 

 原理を言えば、非常に単純だ。

 ぶっちゃけた話、ガンランスを使う上で基本技巧と言える、突き上げ砲撃と大差ない。

 一言で言ってしまえば、突き上げで相手の肉を抉り、そのまま傷口を砲撃でブッ飛ばす、以上である。

 ただし、それを徹底的に強化させたものだ。

 

 

 どれくらい強化するかって言うと、狩り技を三つ…いや、四つムリヤリ乗っけるくらいだ。

 覇山竜撃砲。

 竜の息吹。

 スーパーノヴァ。

 火薬装填。

 

 ガンランスとヘヴィボウガンの狩り技をムリヤリ一つの形にした。

 どの狩り技も出来上がって間もなく、言わばプロトタイプの技だ。

 だからこそ、と言うべきなのか…ちゃんとした「型」がまだ無いので、本来なら致命的な部分までアレンジできてしまう。

 

 だからってこれはアレンジしすぎだが。

 

 

 理屈としては、そう難しいものではない。

 竜の息吹で予め内部のエネルギーを極限まで高めておき、更に火薬装填で過剰に火薬を詰め込む。

 その状態で突き上げ、敵の体に槍がめり込んだ所で、覇山竜撃砲とスーパーノヴァの同時発射。

 

 そりゃ武器に負担がかかりまくるのも当然である。

 そもそもこの荒業の最後のキモは、敵の体内で爆裂したガンランスの破片が、体内を荒らすってグロ要素だからな。

 最も、こっちにも破片が飛んでくる上、超爆発の爆炎爆風だって来るから、どう考えたって無傷じゃいられない。

 

 相手がもうちょっと柔らかい相手なら、討鬼伝式の槍・鬼千切方式で使い捨て飛び道具として活用できるんだが。

 相手が頑丈すぎて、それじゃ上手いこと刺さりそうにないんだよな。

 角とかを部位破壊するだけなら、それで充分なんだろうけど。

 

 

 

 

 …改めて考えてみるが、鬼千切って何故かあんまり(俺は)使わないけど、充分すぎる程強力な技なんだよなぁ。

 当たれば一発で部位破壊。

 雑魚なら一撃。

 流石に鬼以外には多少効き目は落ちるけども、それでも多大な威力を発揮し、鬼と同様に一撃で部位破壊(流石に腕とか足はそうそう吹っ飛ばせないが)できる事も珍しくない。

 リオ夫妻の尾やら古龍の角やらドドブラの牙やら、まだやりあった事はないけどラージャンの尾やらを初撃で潰せるのだと思えば、その威力のみならず戦略的な価値は計り知れない。

 …まぁ、古龍の角とかラージャンの尾とか、ゲームじゃある程度弱らせないと壊せなかったり、特定の属性じゃないと破壊できなかったりしたが、その辺は試してみないとどうなるか分からない。

 クシャと遭遇した時も、ナナ・テスカトリとやりあった時も、すっかり鬼千切の事自体忘れてたからな。

 …哀れ。

 

 

 アマツを相手に試してみるか?

 

 

 

 

 

 

PS4月まずはホットサラダ日

 

 

 根本的な問題に行き当たった。

 

 ギルドがアマツへの挑戦を認めてくれない。

 ナンデ!?

 …そもそもハンターランク足りないし、当然か。

 

 

 と思ったら、それ以外にも色々と思惑があるらしい。

 これまでも、妙なモンスターを何度も撃退した実績があるハンターを、あまり無謀な戦いに行かせる訳にはいかない。

 ハンターの仕事に危険は付き物だが、それを考慮しても、だ。

 最近、モンスターの妙な行動が増えており、曲りなりにもそれに対処できる者、更に言うなら霊力なんぞという怪しげな力だが、幽霊のようなモンスターを相手にできる、現状唯一のハンターが俺だ。

 そんなハンターを、古龍討伐なんぞに行かせて死なせてしまったら、一体誰が責任を取るのだ…という保身もあるらしい。

 

 これを保身と言い出したら、消極的な意見はほぼ全て保身扱いしなければならないが…。

 何れにせよ、俺のアマツへの挑戦は認められなかった。

 新しく作り上げた狩り技(という名の使い捨て武器)を見せても、だ。

 

 

 ならばどうするか?

 諦める、という選択肢は無い。

 と言うか諦めてたら、あっちが回復してきた状態で逆襲を喰らうのがオチだ。

 ならば……。

 

 

 

 

 

 再びあっちから出向かせるまで。

 

 

 

 普通の採取クエストと主張して、霊峰の麓にある渓流で只管にウロウロする。

 ここに居るぞ、と伝えるように、時間を置きながらも霊力を全開にして挑発する。

 

 多分、こっちに挑発されている事は感知していると思う。

 時々だけど、季節外れ、場所外れな強風が吹いたり、そう言う時に限って霊峰の頂上付近で若干雲が出ていたり。

 …だが、それだけしか反応が無いという事は、やはり嵐を起こす能力はほぼ喪失していると見ていいだろう。

 そして、こっちの挑発を無視しきれず、反撃しようとしている事も。

 

 このまま挑発を続ければ、そう遠くない内に出てくるだろう。

 その時に奴がどれくらい回復しているか、また新技がどれくらい通じるか…それがキモである。

 

 

 

 

 

 

 

 とか言ってるうちに、何だってまたベースキャンプまで襲撃かましてきやがるか!

 しかも飛んでないし!

 ガララジャアラみたいに這いずってきやがったよ!

 空飛ぶ古龍のプライドはどうしたんだ!

 と言うかキレるの速すぎィ!

 最初に突撃カマしてきた時から怒り狂ってやがった。

 

 ええい、とにかく応戦応戦、日記書いてる場合じゃねぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

PS4月とろろ焼き、串焼き、その他諸々日

 

 空を飛ばないアマツマガツチとかいう希少種(?)を、何とか討伐。

 飛ばなきゃ飛ばないで鬱陶しいのなんのって。

 

 ほら、アマツって基本的に空飛んで行動する生物な訳で、だったら当然地面を移動するような体じゃない訳だ。

 海を泳ぐ魚が、地面を歩行できる訳がないだろ?

 

 それをムリヤリ押し通しやがったんだ、あの蛇モドキ。

 地面をバウンドするように跳ね、頑丈な肌と筋力にモノを言わせて突き進み、霊峰の頂点から一気に駆け下りてきたのだ。

 当然、その余波は酷いものだった。

 あの巨体が跳ねる度に地面が砕け岩が飛び散り、木々は薙ぎ払われてそれが突風(区域限定)でぶつかりあって、もう阿鼻叫喚の有様だ。

 登場の瞬間からして、霊峰から駆け下りてきた勢いを存分に生かして、新幹線を連想させるような勢いでの超速体当たりで駆け抜けていきやがったし。

 しかもご丁寧に、自分の体と付近には風を纏わせていた。

 

 何が何だか分からない内に吹っ飛ばされて、グルグルと空中遊泳していたドスぷーさんには心底同情する。

 今度あったらハチミツと服をあげよう、色は……アレが怖いから青にして。

 

 …あのドスぷーさん、なんか妙にデカくて赤くてトゲトゲしてたような気がするが……まぁいいか。

 

 

 ともあれ、アマツとの戦いはとにかく荒れた。

 弱くはなかったが、強かった訳じゃない。

 

 いや、誤解を恐れず言ってしまうが……はっきり断言しよう。

 弱かった。

 

 

 それも当然と言えば当然である。

 ただでさえ傷ついた体で、弱った能力。

 それに加えて、自分のステージである霊峰を捨て、空中浮遊するでもなく、なれない地面を強引に進む。

 一日足らずの挑発に我を忘れ、「てめえなんか怖くねぇ!やろう、ぶっころしてやる!」と言わんばかりに突撃してきた結果がコレである。

 如何に天災の代名詞である古龍と言えど、自分のあるべき形から引き摺り下ろされればこうなってしまう。

 

 

 …これは他人事じゃないな。

 ハンター、ゴッドイーター、モノノフに加えてアサシンやらアラガミやら色々な力を身につけている俺だけど、それを活かす場所と機会を奪われてしまえば、あっという間に一般人程度に成り下がる。

 キモに命じておかないと。

 

 老いた麒麟は駄馬にも劣ると言うが、地に落ちた竜はミミズにも劣る。

 この世界にキリンにこの言葉が当てはまるかどうかは別として(何せ古龍種には老いるって機能があるのかさえ怪しい)、少なくともミミズよりは強かったな。

 古龍については、どっちかと言うと腐っても鯛のコトワザの方が合いそうだ。

 

 

 

 ま、今回の最大の敗因は、アマツマガツチの油断かな?

 自分よりもずっと弱くてちっぽけな筈の俺に逆撃を喰らい、挙句挑発に乗っての大暴走。

 天敵が居ない大空で生活し、今まで強敵らしい強敵と出会わなかった為に、自制心も危機感も養われなかった。

 強者であるが故の弱点だ。

 

 

 

 そうそう、満を持して使った新しい狩り技(まだ名前も決めてない)だが、決め手にはならなかった。

 考えてみれば当然だったが、ガンランスが使い捨てになる為、武器自体は安物を使っていた。

 …で、その武器でアマツの体を突いて、刺さったところで爆発させるのが狩り技だった訳だが………うん、初期武器で古龍を突いたって、そりゃ弾き返されるだけだわな。

 刺さらなかったんだよ、ガンランスが…。

 構造的欠陥だったな。

 

 まぁ、それでも強力は強力だから、アマツの傍で大爆発させて、かなりのダメージを与えられた。

 口の中で狙えればそれで決まっていたと思うが、暴れまくって狙いが付けられなかったんだよなぁ…。

 

 肌も肉も削れてたからな…そりゃー痛かった事だろう。

 で、その状態で這いずりなんかしやがったら、傷口が地面に擦りつけられる訳で。

 痛みで怒るは大暴れするは、その痛みでまだ激昂するはで大騒ぎだった。

 

 

 

 ま、意表は突かれたものの、若干肩透かしな感じでアマツ討伐は終了。

 これで枕を高くして、飛行船を使えるってもんだ。

 …でもそれって居眠り運転だな。

 あんな風がビュービュー吹いててクソ寒いところでも寝られるのがハンターだけど。

 

 

 

 

 

 

 追記

 鬼千切を試すの忘れてた。

 

 

 

 

 

PS4月茄子にトマトにタマネギに日

 

 

 ハンターランクが足りない俺が、アマツを討伐(しかも採取依頼で襲われて返り討ちにした)したという事で、結構な騒ぎになった。

 と言っても、悪い意味での騒ぎではない…と思う。

 過程はどうあれ古龍の脅威は去った訳だし、俺自身が意図的にハンターとしてのルールを侵した訳ではない。

 グレーゾーンもいいトコだが、霊峰の頂上に居るアマツを麓から挑発するなんて、普通は考えもしないし実行もできないからな。

 塔で襲われた時も今回襲われた時も、アマツの方から襲ってきた形になるんで、「古龍の気に障るような何かがあるのではないか」という議題が上がっているだけだ。

 そういう意味で、アマツの縄張りでもない空も飛んでないのに、何故か一介のハンターが襲われた…つまりアマツが積極的に縄張り外の人間を襲う可能性がると考えられている訳だが、その辺は好きに喧々囂々やってくれ。

 多少間違った認識が出来上がったとしても、アマツ自体そうそう遭遇するようなもんじゃないからな。

 

 コノハとササユからは、「心配かけさせるな、バカぁ!」と思いっきり怒られました。

 形式的にはともかく、実態は挑発しまくって襲わせた訳だから、どうにも後ろ暗くて正座で積極受けてました。

 

 

 あと「今夜はオシオキに、後ろから掘ってやる」とダイレクトに宣言されたよ。

 ……し、舌でならいいよ?

 指は……まぁ、実はちょっとくらいなら経験ある…。 

 

 

 

 ともあれ、アマツは何だかんだで倒したし、ジンオウガも随分前に倒しているし、イビルジョーの気配も無い。

 差し当たり、ユクモ村で外回りハンターが必要な依頼は残っていない訳だ。

 ただ、これからまた生態系と言うか、縄張り分布が入り乱れる事にはなると思う。

 そうなるとまた厄介で、寝床の奪い合いと言うのは、下手な生存競争よりも激しく厄介なものだ。

 

 今までの流れだと、アマツが霊峰にやってきて、そこに居たジンオウガその他のモンスターが、下位領域…つまり村の近くにまで下りてきていた。

 今度はそれとは逆の流れが起きるだろう。

 霊峰は今の所、縄張りの主が居なくなってぽっかり空白状態になっているからな。

 そこを巡って上位級のモンスター達が縄張り争いし、敗れたモンスターが再度下位領域にやってくる。

 …数は減ってると思うがね。

 

 ま、そこからは流石に村付きのハンターさんの領域になる。

 何故かまだ一度も顔を合わせた事はないけれど、クエスト記録を見ると何とか下位の中くらいにまでは腕をあげてきたみたいだし、頑張ってほしいと思う。

 

 ユクモ村は結構有名な温泉街だから、最悪の場合、フリーのハンターを雇うという手もあるしな。

 実力・性根共に兼ね備えたハンターを引き当てるのは、結構苦労すると思うが…。

 まぁ、ここらで確認されたモンスターが、今までだけでもアマツ、ジンオウガ、ラギア、更にタマミツネだ。

 ある意味ポッケ村に続く魔境状態である。

 こんなトコに生半可なハンターが参加したらどうなるか、目に見えているだろう。

 小悪党でも、ちょっと頭が回れば敬遠するわ。

 

 

 

 

PS4月思うに、間食を作る手間を考えれば、過食は防げる日

 

 

 ガチで嘗め回されました。

 メインは穴、サブは玉。

 

 二人揃って、前から後ろから上から下から…。

 何がそこまで君達を駆り立てるんだってくらいに嘗め回された。

 穴に至っては、ふやけるんじゃないかと思うくらい執拗に。

 

 と言うか竜人族って4本指なのは知ってたが、人間に比べて舌も長いのか?

 トカゲじゃあるまいし…。

 こう、ヌルヌルっとした感触が入り込んできてだな…。

 そんで、前の方は俺が突っ込んでるだろ?

 その状態で前後運動したらだな、俺のナニが観音様に出入りしつつ、入り込んできている舌を自分で前後させる事になって……これも一種の連結車プレイだろうか。

 

 念の為、簡易的ながら自分で『処置』しておいてよかった…処置のやり方は橘花で慣れてたし。

 うーん、自分が尻を責める方に回ってなら、何度もプレイした事があったが、受ける方はあんな感じなのか。

 今後のいい参考になりそうだ。 

 

 

 と言うか最初の囁きプレイといい足の嘗め回しといい今回の挿入といい、この双子ってはレベル高すぎる。

 誰が仕込んだのか、いっそ尊敬するレベルだ。

 いや、足の嘗め回しについては、自発的に…しかも労わってやってたのかもしれんけど。

 …もしや自前?

 それはそれで。

 

 

 さて、何だかんだ大騒ぎしたような気がするが、実際の期間は意外と短い。

 だがそろそろココット村に向かわなければならない頃だ。

 正直、あっちには減るブラザーズを筆頭とした凄腕ハンターも居るし、受付嬢兼ギルドナイト疑惑のあるベッキーさんも居るし、ココット村での期間を短くしてユクモ村に滞在してもいいと思うんだが…生憎、一応ルールで決められてるんだよな。

 特にココット村は、最初の2つの村での滞在時間が長引いたら、その煽りを食う形になるから、最低限の滞在期間を決められてしまっている。

 

 色々理由はあるが、要するにもうタイムリミットって事だ。

 これについてはコノハもササユも知っている。

 遅くても明後日には出発しなければいけない。

 

 

 うーん、二人へのお返し、準備できなかったな。

 シモ関係にしたって、どっちかと言うと二人から奉仕してもらうパターンが多かったし。

 

 事ここに至って、サプライズとか見栄とか言ってても仕方ない。

 二人に向かって直接、何か欲しいモノが無いかと訪ねてみた。

 壊してもいいオモチャとか答えられたらどうしようかと思ったが、二人からの要求は意外なものだった。

 

 ユクモ村以外の場所にいる時の事を、手紙で知らせて欲しいとの事。

 それがお返しになるのか?

 やれと言われれば、リクエストに答えはするけども…。

 

 

 

 聞いてみたところ、単に暇潰しにネタが欲しい、的な意味だったようだ。

 俺が行く所行く所、妙なモンスターが出るは遺跡が出るは、とにかくイベントに事欠かない。

 そういう話を、俺自身から聞きたいのだそうだ。

 …要するに野次馬根性?

 まぁいいけどさ。

 

 

 

 

 

 ついでに「現地妻を増やしたら、ちゃんと教えてね」「どんな遊びをしたかも詳細にね」と言われたよ。

 そう言えば、今回のユクモ村では現地妻増えなかったなぁ。

 まぁ、別々の場所にいるとは言え、既に5人も関係を持っているんだし、これ以上増やしてどうすんだって話だが。

 

 

 

 

PS4月手軽に食べられるから食べ過ぎるのです日

 

 

 ユクモ村を出て、ココット村に到着。

 今度は嵐もなくライゼクスも襲ってこず、平和な船旅だった。

 

 …何故かベッキーさんが直接お出迎えしてくれましたけども。

 

 

 

 俺、何かやった?

 そりゃ心当たりは色々あるけどさ。

 塔に行ったら何故かアマツマガツチという天災級の古龍に襲われるは、しかも撃退した後挑発して引っ張りだして、とうとう狩ってしまっている。

 全てが俺の実力だ、と胸を張れる内容ではなかったが、ハンターランク詐欺と言われても仕方ないか。

 

 更に受付嬢に加えて、レジェンドラスタと関係は持っている。

 要人を篭絡して、何か企んでいる…と思われてるんだろうか?

 

 

 実際、出迎えてくれた初っ端から、なんか食いつくような視線を感じる。

 うぅ~む、アマツと遭遇した時以上の圧迫感を感じるぜ…。

 でも殺気の類じゃなさそうなんだよな。

 この人が威圧目的で気を放ったら、この程度じゃ済まない。

 あの時はケツの穴がブワッと開いたような感覚すら覚えたもんだ。

 

 闇系のお仕事する気なら、そもそもこんな威圧感は放たないだろう。

 この人なら、俺を即座に仕留めるくらいは楽にできそうなもんだ。

 

 

 目的が見えない。

 

 更に言うなら、この展開も読めていなかった。

 何故かベッキーさんが、俺に宛がわれた貸家の管理人になっていた。

 要するに、家に居たアイルーの代わりをしているんだが…当のアイルーは何処へ?

 

 

 …ああそうですか、一緒について行きたいハンターを見つけて、そっちに行っただけですか。

 いや本当ならいいんだ、本当なら。

 別に疑っちゃいないってホントに。

 

 

 

 うーん……どう対処したもんか。

 実力行使は無理。

 勝てる気がしない。

 

 ベッキーさんがギルドナイト、G級の類だとしたら、搦め手もやはり無理。

 彼女には相応の権限が与えられているだろう。

 一介のハンターである俺の意思なんぞ、軽く無視できるくらいの権限が。

 

 武力にせよ権力にせよ、俺を軽く一蹴できるくらいの力はあるだろうに、部屋に泊まりこみまでして一体何を狙っているのか。

 迂闊な動きはできない……けど、正直この村では特に動く必要もないんだよな。

 

 ゴア・マガラかシャガル・マガラも、今のところ確認されていない。

 相変わらず、狂竜ウィルスの痕跡は見つかるらしいが。

 しかし今までのパターンから行くと、俺が居る所に異変の元凶が突っ込んでくる可能性が高いんだよな…。

 

 

 …よし、ベッキーさんが近くに居る時に襲われたら、巻き込んでしまえ。

 

 

 

 

 

 

PS4月食べる為に面倒な手順が必要なら、人は食べ過ぎない日

 

 恒例の減るブラザーズによる、飛行船に乗せろコールを適当に受け流す。

 ベッキーさんが近くに居ると、あの二人も静かになるから平和だね。

 

 

 さて、ココット村で何をするかだが…狂竜ウィルスの元凶を探そうとしてない以上、取り立ててすぐに動く必要は無い。

 が、家に居るとベッキーさんと二人きりになって、色々な意味で気まずい…というか、サボっていると思われてしまいそうだ。

 流石にそれで闇系される事はないと思うが、ちゃんと仕事しているのと怠けているのでは、評価が違うのは当たり前だろう。

 レジェンドラスタや受付嬢と関係を持った事により、詐欺師の疑いがかかっている俺としては、割と重要な問題だ。

 

 んじゃ何をするかってーと。

 

 とりあえずトレーニングである。

 ユクモ村でフローラさんやフラウさんから教わった技術も、完全にモノに出来た訳ではない。

 動き回りながら、戦いながらでも出来るように、体に染みこませなければならない。

 

 要するに、採取依頼と称してあちこちを歩き回り、モンスターの痕跡を追ったり、遭遇したモンスターを相手に見に徹して間合い維持や行動予測の練習をしたり、だ。

 

 

 

 

 落ち着いてじっくりとやっていたからか、徐々に要領がわかってきた。

 なんとなくではあるが、狂竜ウィルスに感染しているかどうかの違いが判断できる…ような気がする。

 

 それはいいんだが、なんか変なのと遭遇した。

 モンスター自体は、普通のロアルドロスだったんだが……狂竜ウィルスにも感染している、と、思う…多分、メイビー。

 ただ、狂竜ウィルスに感染したモンスターって、一度倒してからじゃないと発症しないんだよ。

 少なくとも、それまで見た目に差異は無い。

 

 が、今日遭遇したのは、一度倒す前から妙なオーラみたいなのを噴出しているロアルドロスだった。

 何だあれ?

 普通のロアルドロスに比べて、明らかに凶暴だったぞ。

 しかも予想通りにウィルスに感染してたから、倒した後に第二ラウンドが待ってたし。

 

 そんで疲れないし、討伐一歩手前でも眠る気配も無いし。

 見たところ、異様な興奮状態に陥っていたように見えたが……。

 

 これがいつぞや話しに聞いた、獰猛化って奴なのだろうか。

 となると、先日の剣術バルドは獰猛化個体とはまた違った奴って事になるな。

 少なくとも、アイツはオーラみたいなものは出していなかった。

 

 これも狂竜ウィルスの影響なんだろうか?

 それとも別の何かが?

 

 …後者のような気がするな。

 狂竜ウィルスにこんな効果は無かったように思う。

 

 

 

 

 …アレか?

 ひょっとして獰猛化してる理由はアレか?

 話を聞いたところ、極度の興奮状態に陥った個体が、あのようなオーラを出して獰猛化個体となる、という話だったが…イライラして眠れないからか。

 

 

 シモが。

 

 オニンニンが。

 

 

 極度の興奮状態ってアレじゃね、高校生くらいの男子が一日3回処理しても、次の日にはまた同じような状態になってたり、エロい写真とか見ただけでまたビキビキきちゃうのと同じ状態が続いているんじゃね?

 

 そりゃイライラもするよなぁ。

 番が相手してくれりゃ発散もできるだろうが、獰猛化している個体にわざわざ近寄るような奴は同族でも居ないだろう。

 欲求不満が過ぎて、犯罪者どころか文字通りケダモノ一歩手前になってるような奴に、誰が好き好んで近付くよ。

 で、人間だったら自分の手でG・E(神食いに非ず)して発散できるけど、モンスター達の体じゃそうはいかない。

 結果、欲求不満が募り、相手が更に遠のき、イライラが深まってまた欲求不満…という悪循環に陥る。

 

 

 

 つまりは水商売的なお店にもいけず、自分で処理する事もできない、どっかの会社寮とかに監禁されてるオジサン社蓄の心境か。

 喪女とか喪男から、日々の楽しみを奪ったらこんなんなるんじゃなかろうか。

 

 

 

 なんか狩るのが可哀想になってきた。

 上手く番を紹介してやれないだろうか。

 

 

 

 

 …去勢は最後の手段だな。

 まぁ狩りの最中にやったらまず死ぬだろうけど。

 

 

 メスが獰猛化してた場合は……どうなんだろ。

 オスなら睾丸を切り取って男性ホルモンを抑えるって話だけど、メスの場合は…乳房か子宮?

 でもそれを刈り取ったとしても、抑えられるのは女性ホルモンじゃないの?

 ホルモンバランスが崩れて体調不良になったりするとは思うが、大人しくなるのとはまた違うんじゃないかな。

 

 どっちにしろ、乳房にせよ子宮にせよムリヤリ引きちぎれば失血死かショック死するだろうし、結局獰猛化したら狩るしかないのかな。

 まぁ、チャンスがあればお見合いのセッティングしてやるか…。

 で、フラれて落ち込んでるようだったらその隙をついて狩る。

 

 

 …でも下手にモンスターにお見合いさせて上手くいってしまったら、そこからモンスターが増えかねないんだよな…。

 家畜ならともかく、野生のモンスターを増やして生態系ピラミッドが崩れたりしないだろうか。

 どーもこの世界、その辺のバランスがちょっと怪しいし、そもそもハンターとしてモンスターを自分から増やす真似はどうよ?

 

 

 …ま、機会があったら、な。

 モノは試しだし、一対くらい余計に番が出来上がったところで、そうそう影響ないだろ。

 

 

 

 

 



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132話

オストガロゥラァァァァァ!


ふぅ…。


オストロガラウグルァァァァァァァァァ!!!!


ふぅ…。


うわぁぁぁぁ!
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


目出度く討伐できました。
つかなにアレ…2回も55分以上かけて3乙した。
その内5回は連続即死ビーム薙ぎ払い、しかもご丁寧にこっちを隅っこに追い込む形で。
最後はネコの根性発動させて、即死ビームを一発貰い、残り時間1分30秒、ダウンした軟体類に対巨龍爆弾2発叩き込んでようやく終了。
割と格好よく終わったけど、面倒くさい相手だった…。


PS4月職場の人でが足りん…日

 

 

 ね、眠れん…。

 ベッキーさんが同室に居て眠れん…。

 

 別に今更、異性が近くに居るだけでドキドキして眠れないって訳じゃない。

 なんというか、家に居ると目力が凄い。

 ジーッと見られている。

 あからさまではないが、じっと監視されている。

 

 夜はその傾向が強く、ベッドに潜ろうとする辺りなど冗談抜きで食い殺そうとしてるんじゃないか、と思えてくる。

 何でこれから寝るって時にそんな圧迫感飛ばすんだよ。

 丑三つ時までジッとしてて、ようやくウトウトしてきたってのに…夢の中で、ラオシャンロン(亜種)が妹ダイブしてきたじゃないか。

 えらい夢見た…。

 

 

 で、ベッキーさんは何時の間にやらスヤスヤ寝てた。

 そこまで粘って、ようやく安眠できた。

 

 

 

 …で、朝になったら何か不機嫌になってるし。

 食事はちゃんと作ってくれたよ?

 そこら辺は、部屋付きの世話係の役割だって言って。

 

 

 

 …でもさぁ……いや、別にマズかったワケじゃないのよ。

 むしろ美味かったよ、特に魚の焼き方が絶品だった。

 やっぱり元ハンターで、慣れてるんだろうか?

 

 

 違う、問題はそこじゃない。

 メニューが問題なんだ。

 

 山芋の短冊切り、玄米、にんにくの芽とベーコンのソテー…。

 もしやと思って食料庫を覗いてみたら、ウナギやらゆで卵やらドスファンゴの肝臓やら、どうやって取り寄せたのか牡蠣まで。

 

 

 あからサマに精力増強メニューなんですが。

 元気が無い人に体力付けさせよう、なんて話じゃない。

 ハンター相手にそれをやっても、過剰に元気になるだけだ…シモが。

 

 子供作ろうとしている新婚さん夫婦じゃあるまいし、何だってまた。

 

 

 

 

 単純に考えれば……俺とヤろうとしている?

 だがそれこそ何で。

 ベッキーさんとは大したイベントがあった訳でもない筈だし、そもそも俺が受付嬢を篭絡したとかの調査で近付いてきているんだろうに。

 手を出したら即闇系?

 でも、だったら態々精力増強メニューなんぞせずに、直接アピールすればいいだろうに。

 

 

 …いや、理由なんて案外無いのかも。

 実際、コノハとササユに一服盛られて襲われた時も、大した動機じゃなかったし。

 

 …もっと単純に考えてもいいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 そんな風に悩んでいたら、何時の間にやらフルフルの狩猟が終わっていた。

 ……朝飯があのメニューだったからなぁ…発想がエロい事にしか向かわない。

 フルフルがホーケーに見えるわぁ…。

 

 

 

 

PS4月そろそろ暖かくなり始め、頭がおかしいのがあちこちに増える時期日

 

 

 昨日も昨日で、プレッシャーで眠れない夜だった。

 と言うかプレッシャーが強くなっていた。

 

 

 そして寝巻きが薄着になっていた。

 

 

 

 

 …これ、絶対誘ってるよね。

 

 据え膳食わぬは俺の恥ではあるが、どうにも真意が見えない事が引っかかる。

 時期的に言えば、もう何時デスワープしてもおかしくない時期だから余計に。

 

 ならば、俺もちょっくら逃げ道を作らせてもらいましょうか。

 秘密道具・ザ・酒!

 

 しかも単なる酒ではない。

 達人ビールにせよブレスワインにせよ、調理法次第でその効果…というかアルコールの回り度合いがかなり違ってくる。

 どれくらい違うかと言うと、猛毒すら放っておけば自然に治ってしまうハンターが、これらの酒が使われた料理を一食分食べただけで、真っ直ぐ歩けなくなってしまう程だ。

 何の気付けもしなかったら、暫くフラフラしてぶっ倒れる。

 

 …これ、一般人が飲み食いしてもいいモンなのかな…不安になってきたぞ。

 

 

 とにかく、俺はこれからコレを使って酔っ払う。

 そんで泥酔状態でベッキーさんに圧し掛かってきます。

 

 もし罠だったら?

 

 

 酩酊状態だったんで覚えていません、で押し通す。

 …自分で言うのもなんだが、酷いな。

 酔っ払ってりゃ責任能力なし、人殺してもセクハラしても許されるとは思わんが、酔って倒れた先がベッキーさんだった、と言うのは多少の免罪符になる……んじゃないかな。

 

 

 

 ……まぁ…多分、心配無用だと思うけどな。

 

 

 

 

PS4月ならばこっちも狂ってやろう!日

 

 

 酔っ払って圧し掛かりました。

 

 

 

 スゴいタフでした。

 

 

 と言うか、久々にガチで食われる気分を味わったよ。

 何だかんだで、今までずっと上位に立ってばかりだったし。

 寝たフリしているベッキーさんに、酔っ払って倒れこんだら…あっと言う間に絡みつかれました。

 「ああっ、何をするの!?」とか言いつつ足を絡めてくるは、胸元に俺の顔を押し付けてくるは、こっそり自分で服のボタンを外しているは。

 なんちゅーか、蜜のにおいに誘われて食虫植物の餌食になる虫の気分だった。

 

 ちなみに、虫にとって食虫植物の中の環境は非常に心地よいものらしい。

 それこそ、母親の胎内(虫って卵生だけど)に帰って、ぐっすり眠っているかのように。

 

 …俺も母親じゃない人の胎内に帰ったけどね、一部だけ。

 眠るどころか色々大暴れしてブチ撒けたし。

 

 

 まぁ、色々と疑問は解消したよ。

 それでいいのかギルドナイト(本人は肯定しないが)。

 

 

 えー、そもそもだな、ベッキーさんが俺に近付いてきたのは、別に調査の為でも闇系する為でもなかった。

 受付嬢を手篭めにした怪しい人間の調査、という名目はあったが、それも建前以上のモノではない。

 確かに霊力なんておかしな力を語っていたから詐欺師じゃないか、という疑念はあったものの、それを差し引いてもハンターとしての実績はあったし、受付嬢と懇ろになっただけでギルドナイトが動いていては、受付嬢はオチオチ彼氏も作れなくなってしまう。

 

 言われてみりゃそうだよな。

 前のループでユニスと付き合ってた時も、ギルドナイトが出張ってくるような事はなかった。

 まぁ、俺にも気付かれずにコッソリと見定められていた可能性はあるけども。

 

 んじゃ、一体なんで近付いてきたかというと………まぁ、何だ。

 

 

 

 

 体目当てだ。

 棒目当てだ。

 

 

 

 初めて会った時からそうだったらしい。

 悪名高いらしいユクモ村の受付嬢達が、またやらかした挙句、逆にゾッコンにされてしまったと聞いて興味を持ったとか。

 龍暦院から聞かされた俺に対する調査云々の情報は、ココット村に滞在する為の許可を得る為、ベッキーさんが適当にでっち上げた理由だったとか。

 それでいいのか。

 

 いや、女にも性欲はあるって事は文字通り体に染みこんで知ってるし、人によって貞操観念が違うってのも当たり前だ。

 貞操観念が強かったとしても、欲求が満たされない事は非常に強いストレスになる。

 性的なものは特に。

 

 獰猛化個体を見てりゃ分かるだろ。

 まぁ、獰猛化のシステムや切っ掛けが、先日俺が妄想したとおりのものだったら、という前提だが。

 

 

 とにかくアレだ、セフレ的なものを欲しがるのは、男に限った事じゃないって事だ。

 こう言っちゃなんだけど、それなりに経験を詰んでいて、成熟した女性……イメージしやすく言い換えるなら、『熟女』という奴なら特に。

 

 ベッキーさんはまだ熟女と言うほどの年齢じゃないが……何つぅの、この……ギルドナイト(仮)の体力と性欲が合わさって、物凄くスキモノに見える。

 

 

 …ちなみにベッキーさん、今まで何人かと付き合った事はあるらしいが、どれも長続きしなかったらしい。

 理由は言わずもがな、搾り取りすぎて身の危険を感じて逃げられてしまう…。

 本人が明言した訳じゃないが、多分そんな感じじゃないのかな。

 ギルドナイトとしての体力を加味しても、昨晩の調子を見るに性欲は強い方…いや、はっきりと貪欲なタイプのようだ。

 しかも技術で相手を弄ぶんじゃなくて、体力と勢いで相手を貪るタイプだ。

 

 

 この歳でギルドナイト級って事は、多分まだ少女の頃から頭角を現し始めていたんだろう。

 性欲、体力、威圧感、立場その他諸々もあり、並の男では太刀打ちどころか並び立つ事すらできなかったんだろう。

 と言うか、昨晩の調子を前に付き合っていた人を相手に続けていたのだとしたら、冗談抜きで赤玉出てたんじゃないだろうか。

 竜じゃなくて人間の股間から出ると言われてる奴が。

 まぁ、実際は都市伝説と言うか出任せの類だったらしいけど。

 

 どうにも、ギルドナイトではなく受付嬢として活動しているのも、彼氏・婿さん探しの為のようだ。

 まぁ、確かに受付嬢は高嶺の花と呼ばれるくらいに人気だけどな……婚活気分でアイドルやってます、みたいなノリで言われても。

 と言うか、受付嬢って出会いが少ないと嘆かれる仕事なんですが…方向性間違ってないですかね?

 

 

 

 案の定と言うか、地位云々は度外視しても、体力的に釣り合う相手を捕まえる事も出来ず、過剰な欲望を自分で慰める日々。

 「この人なら」と思った相手を見つけられても、ロックオンしたらギルドナイトの実力と欲求不満が合わさって無用な威圧感が湧き出て、捕まえるどころか逃げられる悪循環。

 そこへ来て、毎晩ハッスルしまくっているらしい俺の噂を聞いたもんだから、とにかくこの疼きだけでも何とかできないか…と近付いてきたそうな。

 ティガレックスより肉食系だよこの人…。

 イビルジョーじゃないのは、レズもOKな雑食性ではないからね、今んトコ。

 

 

 で、一昨日はともかく昨日はしっかりとご希望に応えられたので、ベッキーさんはツヤツヤしておられる。

 腰周りの満足度が違うね。

 欲求不満も解消されたようで何よりです。 

 

 

 ちなみに、俺はお眼鏡には叶わなかったようだ。

 「旦那さんとしては、浮気だらけで失格ね。

  …でも、『遊び友達』として、これからもよろしくね?」…だそうだ。

 

 ええ、そういう関係であれば大歓迎です。

 いい旦那捕まえたら教えてください、また逃げられないように手伝いますから。

 別に不倫の誘いじゃないよ、旦那さんの方に長持ちさせるコツを教えるだけだよ……ベッキーさんが相手じゃ、焼け石に水だろうけども。

 その時についでにベッキーさんの欲求不満解消のお手伝いをするのは、別にいいけどね。

 

 搾り取られるかと思ったが、あのペースなら毎晩でも何とか保ちますよ?

 まぁ、一人くらいは劣勢に立たせてくれる相手が居ないと、張り合いがないもんね。

 

 

 やれやれ、また現地妻増えちゃったよ。

 

 

 

PS4月SSの中と一人酒の中でな!日

 

 

 昨晩も貪られて、太陽がちょっと黄色く見える。

 一晩中エロするのには慣れてるけど、睡眠不足だけは如何ともし難い。

 ハンター式熟睡法も、体は休んでも睡眠時間だけは補えないんだよね。

 

 ま、大物を狩る予定も無いし、採取を済ませたらベースキャンプで昼寝でもするか。

 

 

 と言うかなー、理論上で言えば、オカルト版真言立川流を使ってるんだから、ヤればヤる程エネルギーは増幅されて、体力は漲る筈なんだよな。

 本当の房中術っていうのは、そーいうのじゃなくて「健康を害さない範囲で適度に楽しみましょう」的なモノなんだけど。

 とにかく、本当なら互いの霊力やら気やらを増幅しあうので、こんな風に疲れが残る事は無い筈なのだ。

 それでもこんなザマになっているのは、オカルト版真言立川流が通じない……いや、単に俺が上手くできていないだけだ。

 ベッキーさんの気、生命力に技量が圧倒されて、充分な霊力循環が出来ていないんだろう。

 何だかんだで、今まで相手にしてきた人達は、体力的な意味で俺以上の人はナターシャさんくらいだったしな。

 そのナターシャさんも、経験が無かったんで完全にこっちのペースでヤれていた。

 

 ふーむ、ハンターとしてのレベルだけでなく、コッチのレベルアップも考えるべき時期が来たか。

 単純にスタミナを底上げするか、更なるテクを研究するか。

 どっちも必要だが、優先すべきはどちらだろう。

 

 

 

 …最終手段、アラガミ状態でオカルト版真言立川流も考えてみるべきか。

 変身すると、身につけている武器防具を取り込んで姿が変わる傾向があるんだよな。

 大体刺々しかったりする格好だから、セクロスには向かないんだが……裸で変身したら、多少はマイルドな姿になるだろうか。

 今度やってみよう。

 

 考えてみりゃ、変身の継続時間を延ばす事にも繋がるかもしれないな。

 パコパコしてる時しか長時間変身ができないんじゃ、あんまり意味ないけども。

 と言うかセクロスする為だけに変身するヒーロー(笑)か。

 ニチアサヒーロータイムには出演できないな。

 

 

 

 ところで話は変わるが、秘境ってあるよね、塔の秘境じゃなくて全マップにある方。

 ゲームシステム的に言えば、上位クエストになって出発地点がランダムになって、時々そこに出てくる奴。

 採取ポイントが3~4個あって、一度出たらもう戻れない。

 

 その秘境、実は俺も何度か拝んだ事がある。

 クエストの為に開始地点に進んでいたら、ふといつもと違う道を通ってしまって、気がつけばそこに出くわしている、というパターン。

 そしてそこを去ってからもう一度訪れようとしても、どういう訳だか辿り着けない。

 目印をつけていても無駄、ペイントボールも無駄、地図に描き込んだとおりに進んでも、全く違う場所に出てしまう。

 

 一説では…というよりハンターの間では、自然の中の『何か』が時折ハンターを招き入れたり、逆に拒んだりしているのだと言われている。

 まぁ、一種のオカルト話だな。

 実際、どうやったって意図して辿り着けないんだから、オカルトには違いないと思う。

 ちなみに、俺も遭遇した時に霊力の残滓とか探してみたんだが、サッパリ分からない。

 

 

 話が長くなったが、その秘境の話に魅せられたという男にあった。

 何でもこの男、各地の秘境を見つけようとして練り歩き、時にはモンスター…それこそ洒落にならないような奴らに…襲われながらも何故か無傷で生還してくるという、中々侮れない男らしい。

 実際、会ってみるとどうにも奇妙な気配の男だったんだが…。

 

 それはともかく、彼が語る秘境の話には、色々と興味深いものがあった。

 幾人ものハンターが目にし、実際にその地を踏んでいると言うのに、どういう訳か存在を明らかに出来ない地。

 明確な理路整然とした理論から、それこそ俺を相手にオカルト話まで色々な説明をしてくれた。

 まぁ、その全てが未検証というのが難点だったが。

 

 そして、この近くにも秘境が一つあるらしい。

 偶然出くわす方の秘境じゃなくて、所謂フィールドマップの「塔の秘境」の方だ。

 …でも、この辺って塔無いやん?

 

 …過去にあった形跡がある?

 まぁ、確かに過去にあった塔の全てが現存しているとは思えないが。

 あれだけデカい建造物だって、壊れる時は壊れるもんだし。

 実際、飛竜降臨弾のおかげでユクモ村の塔は天辺から下まで、直通の穴が開いてしまった。

 

 

 「お前も連れて行ってやろう」なんて、妙に上段からと言うか…妙な感じの言い方で、男は俺を誘ってきた。

 正直言って身の危険を覚えないではなかったが…興味もあった。

 この男からは、霊力の類も感じないし、見たところハンターほど鍛えてもいない。

 何か仕掛けてくるなら、撃退は可能…だと思う。

 モンスターに襲われても、何故か平気で生還するとい点に、何かが隠されているかもしれないが。

 

 

 

 

 …マジな話、この男が古龍が変化したナニカの……ミラ系のクエスト依頼者の妖しい連中の類であるなら、避けて通れる問題じゃない。

 アマツに襲われ撃退してしまった以上は。

 

 仮に古龍がこの世界において、何らかの役割を……例えば異物を排除する、行き過ぎた人間の行為を諌める、或いは何者かが定めた時期にただ破壊を振り撒くなど…担っていて、それに基づいて組織的に行動しているとするならば、アマツを撃退した俺は何かしら目をつけられている筈。

 この男にせよ、他のナニカにせよ、警戒を怠らないようにしないとな。

 

 

 

 

 

PS4月マジな話、最近狂気が足りないなぁ日

 

 

 

 何事もありませんでした。

 …バトル系のはね。

 

 うーん、どういう事だろうなぁ。

 

 いやね、本当にあの秘境に魅せられた男とやらは、普通の人間だったっぽい。

 気配が少しおかしいのは、秘境に魅せられすぎて精神がちょっとイッちゃってるからじゃなかろうか。

 あれが全部擬態だと言われると、ちょっと分からんけども。

 

 

 とにかく、男から案内された場所は、とある絶壁の崖の下。

 モンスターすらそうそう寄り付かないらしいその場所は、確かに塔の秘境のようだった。

 地面は石…ではない、それに近い物質で出来ているらしい平たい床。

 あちこちに転がっている、風化した瓦礫…。

 

 

 

 …解せん。

 

 確かに男が言うように、ここは塔があった場所なんだろう。

 塔でなくても、何らかの遺跡であるのは間違いない。

 

 だが、ここに遺跡があったとして…その痕跡が床くらいしか残ってないのは何故だ?

 塔であるなら、あれだけデカい建造物なのだから、もっと瓦礫がある筈だ。

 

 色々考えながら歩き回って、洞窟を見つけた。

 残念ながらと言うべきか、進んでもすぐに行き止まり。

 …崩落、かな?

 いや、元々ここまでしか……床も無いし…それとも何百年間このままだったから、見分けがつかないだけなのか。

 

 

 霊力の痕跡もないし、ハズレかな…と思いながら、探し物をする時のクセでタカの目を使った。

 

 

 

 

 

 

 床に画が見えた。

 

 

 

 絶句したよ。

 タカの目にしか見えないんじゃなくて、多分ずっと前は描かれていたものが、風化によって消えていった痕跡なんだろう。

 どう見ても素人の手で描かれたとしか思えない絵。

 

 その内容にも戸惑ったが、この絵から感じるプレッシャーはどうだ。

 絵画に限らず芸術については完全に素人の俺だが、その俺を何百年越しに圧倒するくらいの執念を感じた。

 何かを残そうとしたのか、或いは誰かに伝えようとしたのか。

 

 これを知ってて連れて来たのか?と思って男に目を向けたが、「やはり秘境はいい…」と彼方を見ながら悦っているだけだった。

 …問答お断りなのか、それとも素なのか…。

 

 

 結局、男はそのまま新たな秘境を求めて去っていった。

 何故俺をここに連れて来たのかも不明のままだ。

 

 

 

 そうそう、絵の内容なんだが…まぁ、壁画の常として、ワケが分からない。

 素人が描いたものらしいから尚更。

 しかも最後の方はほぼ力尽きながら描いたらしく、線は曲がり捩れて途中で途切れ、ただでさえ分かりづらかった絵は更に混迷を極めていった。

 

 あまりにワケが分からなかったので、後日思い返せるように日記を一時的に絵日記に変更しようとしたのだが…分かった事は、俺はこの絵の作者以上に絵心が無いって事だ。

 うぅむ、空間認識能力とか手先の器用さとか、スペックはかなり高い筈なんだが。

 根本的なところで不器用なんだろう。

 我ながら呆れたものだ。

 

 ただ、読み取れる部分だけは記述しておこうと思う。

  

 まず一つ目。

 地面があって建物があって…多分塔や遺跡を作った文明が繁栄していた、って事だろうな。

 

 で、二つ目に建物が随分小さくなって、空に何か変なものが書かれていた。

 描かれていたものが大きいのか、それとも文明が衰退した結果なのかは定かではない。

 描かれていたモノは、目に角、触手があるようだった。

 

 三つ目に地面から突き出た棒……塔、かな……が何本かあって、その上から何かが迸って、それが集中して……。

 集中したところから、何かが空(?)に飛び立った。

 

 最後に、地面が三つに分割されている絵。

 この先もあったようなのだが、この辺から絵が更に滅茶苦茶になってきて、何がなんだか分からない。

 

 

 

 さて、これは一体どういう意味なのかね。

 俺としては、恐らくこれは何かしらの災害の様子を描いた絵ではないかと思う。

 少なくとも、この絵が描かれた時には、ある程度の文明は残っていた筈。

 その状況で、素人がこれだけ必死に絵を書き残す理由…。

 

 

 …自然災害か何かで、一つの文明が急激にその寿命を縮めて……恐らく、塔から出た何かが集中して飛び立ったのは、それに対する対策を打った、という事だろう。

 最後の地面が割れている絵…これがわからない。

 単純に地面が割れて、その下から何か出てきたのか。

 それとも大地震でも起きたのか。

 

 …うーむ?

 とにかく、この絵の書き手は死に物狂いで何かしらの対策を打ち、残った力で自分達の軌跡を残すべく、この絵を書きなぐったのだろう。

 

 

 

 しかし……そうなると……?

 

 

 二つ目に描かれた、空に書かれた変なもの…。

 やっぱイヅチカナタ…か?

 

 とすると、何か対策を打っている訳で…まさかとは思うが、それが俺?

 でも俺は討鬼伝世界で判明したように、(多分)無数のゲーマーのアカウントの集合体。

 俺がこの世界で打ち出された『対策』だとすると、その辺と矛盾が生じてしまう。

 

 

 

 ……駄目だ、何を考えても妄想にしかならん。

 ついでに言うと疲れて来たから、考えるよりもナニしたい。

 下半身と頭をすっきりさせて、また今度考えよう。

 

 

 さて、ベッキーさんとナニしようかな。

 

 

 

 



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133話

無能な味方は敵より始末が悪いって本当なんだなぁ…。
管理する立場になってみて初めて分かる、怠けようとするスタッフの厄介さ…。
俺もあんな風に見えてたんだろうなぁ、あの人達には本当に迷惑をかけました。

それはそれとして、進撃の巨人プレイ動画拝見。
なにこれ面白そう。
慣れるのに時間はかかりそうだけど、かなりのスピード感。
MHXばかりだと飽きがくるし、買ってみようかな。

これを機に進撃の巨人のSSとか再開してくれないかなぁ…(チラ
微勘違いとか×DBとか×VRとか色々…(チラッ

もし購入したら、執筆速度がまた遅くなると思いますが、書き溜めは何話分かあります。
どっちかと言うとPCの調子が問題。
先日から、起動して間もなく突然のフリーズが2回。
とりあえず埃はとってみたけど、どうなる事か。



PS4月職場の電気工事は、どうしてあんなに時間がかかるんだろう日

 

 

 ベッキーさんも中々業が深いお方のようで。

 ナニに突入する前に色々と話して酒も呑んでたんだが、結構溜まってるぽいな。

 性欲だけじゃなくて、フラストレーションっつーか。

 

 まぁ、女だてらに…と言うと失礼に当たるかもしれないが、やはりギルドナイトの立場というのは重いらしい。

 さっさと旦那捕まえて今の地位を降りたいと思っているようだ。

 旦那じゃなくてセフレ捕まえてる時点で、どう考えても道を間違えているが。

 

 

 というか、言っちゃなんだが高望みしてるんだよなぁ。

 ベッキーさんの地位に気後れしないか、或いは釣り合う以上の社会的地位があって。

 ハンターの中でも別格のギルドナイトである彼女を受け止められるくらいに、精力と体力が溢れていて。

 でもって性格良し甲斐性あり浮気無し。

 

 …容姿に関する要求が入ってないトコだけは、謙虚と思うべきだろうか。

 

 いねぇよそんな奴、と言ってやりたいが、それを要求できる程度には、中身のある人なんだよなぁ…。

 ギルドナイトやってる時点で、体もオツムも収入も人並み異常(誤字に非ず)なのは確定事項だ。

 あまり自分を安く見積もるのも感心しないし、闇系の仕事に関わる事もあるギルドナイトなんだから、人質にされるような相手を伴侶にする事もできない。

 …行き過ぎたキャリアウーマンの悲哀と言うべきか…。

 

 好きな者同士がくっつけばいい、見た目や立場の釣り合いなんぞ犬にでも食わせておけばいいのが恋愛なんだろうが、集団の中で生活してりゃそれで弊害が出てくるのも事実。

 その殆どがくだらない事だろうが、くだらなかろうが上等だろうが、問題があるなら対処せにゃならんのよね。

 

 ま、その辺はベッキーさんの好きにしてくれ。

 このままの路線で探すなり、どっかで妥協するなり、或いはチクワ咥えながら走って曲がり角で誰かにぶつかるのを待つなり。

 

 

 

 …ちなみに浮気に関して妥協するなら、俺も割りと条件に当てはまるかな。

 いや、レジェンドラスタの地位と一介の外回りハンターじゃ、流石に釣り合わないかね。

 まぁ、くっついてしまったら気にするような事でもないだろうけど。

 

 

 

 さて、話は変わるが、先日塔の秘境で見つけた絵の事だ。

 この手のものは、地元の村に何かしらの物語や手掛かりが転がっているのが相場。

 ポッケ村だって、幽霊話が転がってたしな。

 

 そう思って調べてみたんだが…残念ながら、心当たりがある人は一人も出てこなかった。

 考えてみりゃ、ココット村は始まりのハンターである村長が「ハンターの故郷のような場所にしたい」と造り始めた村なんだよな。

 歴史も浅いし、何も無い所から作ってるんだから、そりゃ知らなくて当然か。

 

 村長に塔の秘境の形跡があった事を伝えてみたのだが、全く知らなかったようだ。

 この場所に村を作ろうと決めたのも、単に土地が簡単に手に入り、かつ地の利が比較的良かったからに過ぎない。

 

 

 だったら、「この絵から何か連想するものはあるか」と、絵をなるべく忠実に再現して(結果はお察しだが)見せてみるも、何故か無言で酒を奢られる始末。

 お前はもう絵を描くな、とでもいいたいんだろうか。

 …真面目に答えてくれよ、また正宗の話するからさぁ。

 

 

 まぁ、真面目に話したところで、元の絵がkonozamaなんだから分かる筈もなかったんだけども。

 

 

 

 

 話は変わるが、ここ最近でココット村には一つの異変が起き始めているらしい。

 先日も遭遇したような獰猛化個体が、徐々に増え始めているらしいのだ。

 昨日は減るブラザーズが、獰猛化したフルフルを発見したそうな。

 

 

 tntnが獰猛化してるって意味じゃないよね?

 ブラザーズってまさかガチムチ的な意味での兄貴!って意味じゃないよね?

 そうなると、あの二人は死んでも飛行船に乗せまいと決意してしまうのですが。

 

 

 冗談はさておき、獰猛化か…。

 狂竜ウィルスにその手の効果は無い筈。

 …となると…?

 いや待て、ハンターが狂竜ウィルスを克服できるんだから、モンスターが出来たっておかしくないんじゃないか?

 確か、シャガルやゴアが出てくるモンスターハンターのナンバリングに、そんなのがあったような………き…き……究極化? 窮極化?

 なんか違う気がする、特に後者はテケリ・リ的な意味で。

 

 しかし、仮にこれが狂竜ウィルスを克服した効果だとして、その数が増えているというのはどうか。

 仮にもアマツに匹敵するような古龍の毒を、モンスターが何匹も克服できるものだろうか?

 考えられる事としては、狂竜ウィルスの発生源が少しは慣れた場所に移動しており、効果が弱っている…とか?

 

 有り得る話ではあるな。

 減るブラザーズによる狂竜ウィルス克服方法も似たようなやり方だ。

 そもそもゴアにせよシャガルにせよ、恐らく一箇所に留まらず、各地を巡るような生態をしているのだろう。

 でなければ、奴らが居る場所は延々と狂竜ウィルスが振り撒かれ続けれる、真っ当な生物ではまず生きていけない場所になってしまう。

 そうなりゃ、ゴアやシャガルも餌がなくなって自滅するだけだ。

 

 

 マガラの生態考察はともかくとして、獰猛化。

 今度それらしいのを見つけたら、暫く観察してみよう。

 フラウさん直伝の、相手の内面を感じ取るアレで見てみれば、何か変わった事が分かるかもしれない。

 

 

 

 

 そういや、現地妻増えたって手紙だしておかないとな。

 返信が届くのはベルナ村だから、向こうが何言ってても分からないけど。

 

 

PS4月結局昨日は12時間勤務になってしまった日

 

 

 早速獰猛化個体発見。

 ガノトトスだった。

 

 ふーむ…暫く見物してみたけど、色々複雑っぽいな。

 まず、コイツ自身は狂竜ウィルスに感染していないようだった。

 

 んじゃ内面はどうか、という話だが…うーん?

 何だ、その…シモ関連でイライラしていた訳ではないようだ。

 どーも、卵を産んだ直後っぽかったし。

 例の推測はハズレだったかな。

 でもまだ見たのはガノトトス一体だけだし、まだ分からない。

 

 

 さて、暫く観察を続けていたのだが、まぁ落ち着きが無いの何のって。

 意味も無くフラフラ泳ぎ回ったり、弧を描くように…歪だったが…ジャンプしたり、陸地に出てはダッシュ体勢でやたらと走り回ったり。

 

 …怯えている?

 いや、ちょっと違うような…そうだ、あの感じは………引越しして、全く見知らぬ場所に連れてこられた犬や猫?

 あくまで俺が感じた印象だが、フラウさん直伝の読心術(?)によるものだ。

 全く間違っている訳ではないと思う。

 

 しかし、あの場所はガノトトスの縄張りだろう。

 何処かから移動してきたばかりという訳でもなさそうだった。

 

 …自分の居場所が、今までと全く違った場所のように感じられている?

 或いは、何か急激な変化が起きるのを感じている?

 それに対する不安が、獰猛化に繋がっているんだろうか。

 

 正直、推論と言うより妄想の域を出ない。

 

 

 

 

 だが、ベッキーさんに何の気なしにこの話をしたところ、意外な事に強い肯定の意が返ってきた。

 

 多くのモンスターが…モンスターに限らず、強い不安を感じているのだと。

 最近に限った事ではない。

 少なくともここ数年、微弱なものであればもっと前から。

 

 そこまで断言するのであれば、何か根拠があるんだろうと思っていたら、意外極まりない事に、ソースはベッキーさん本人だった。

 

 昔から…それこそ10に満たない少女の頃から、ずっと正体不明の不安を感じていたのだそうだ。

 「何かとてつもない事が起こるんじゃないか」という不安を。

 思春期特有の、精神的な不安定さなんじゃないかと思っていた時期もあった。

 だが、ハンターとなって心身ともに鍛え上げられ、自分の内面を客観視できるようになってからも、その不安はずっとずっと居座り続けた。

 

 カウンセリングを受けた事もあるし、眉唾モノな催眠療法の類まで頼った事があったらしい。

 だがその不安は消えず、ずっとベッキーさんの中に居座り続けている。

 それに追い立てられるようにハンターを続け、やがてギルドナイトにすらなってしまった。

 

 当然、その間に何度も何度も狩りをした訳だが…いつの頃からか、自分と同じような不安を持っている人間やモンスターを見分けられるようになったのだと言う。

 そういう個体は、大抵他のモンスターに比べて凶悪だったり、妙に強い生命力を持っているのだそうだ。

 ギルドナイトになるまで無事に狩りを続けられたのも、そういうセンサーによって「コイツは特にヤバい」と察知できた事が大きい。

 

 

 

 子供の頃の不安をずっと引きずっているなんて、バカみたいな話でしょ?と自嘲していたベッキーさんだが、笑う気にはなれない。

 色々な意味で。

 

 

 …話が唐突に脇道に逸れて申し訳ないんだが…ひょっとしてベッキーさん、夜の激しさの原因ってそれじゃね?

 不安を拭いきれずに、恋人の温もりとかを求めてしまって、でも一戦終わったら不安がまたぶり返してきてまた求める。

 つまり…ベッキーさんが彼氏に逃げられてきたのは、その不安の為だったんだよ!

 ナ、ナンダッテー

 

 

 

 

 

 見事なサブミッションですのでこれ以上は勘弁してくだしあ。

 

 

 

 

 …ま、真面目な話、モンスターにせよベッキーさんにせよ、何かしらの不安がずっと続いていると…。

 カンがいいタイプがそうなるのだろうか?

 しかし、何年も前から続いているとなると……地震とかの天災の類じゃなさそうだな。

 野生動物だって、異変を察知して逃げるようになるのは数日前とかからだ。

 

 つまり……ずっと前から今現在まで、不安の原因は続いている?

 益々持って訳が分からん。

 と言うか、それって原因取り除けるのか?

 

 とりあえず、獰猛化した個体の共通点の調査をしてみるか。

 

 

 

 

 追記

 

 ベッキーさんが自分の性欲の正体を自覚した事で、エロい遊びに新しいイメージプレイが追加された。

 題して「私不安で仕方ないの、アナタに慰めてもらわないと眠れない」。

 貪るようなプレイから一転して、トコトン甘やかしてもらうようなプレイに目覚めたようです。

 

 ちなみに明日は催眠プレイの予定。

 俺がベッキーさんに催眠術をかけたって設定で、どんな恥ずかしい行為でも従ってしまうというシチュでイキマス。

 

 

PS4月そして恐らく今日は1時間残業で翌日3時以降帰宅日

 

 またしても獰猛化個体を発見。

 本格的に増えてきてるらしいな。

 

 まぁ多分、獰猛化や狂竜化個体が周囲に増えて、空気が悪くなって不安を感じている奴も多いんだろう。

 獰猛化個体が多くなっても、その原因になっているのは一握りって訳だ。

 

 さてどうやって見分けるか…と悩んでいたら、狩場までベッキーさんがついてきてくれた。

 普段着で。

 

 …汚れるよ、って言ったら「汚れると思う?」ときたもんだ。

 ホントにギルドナイトって格が違うのな…。

 

 

 で、今回見つけた獰猛化個体は、ベッキーさん曰く周囲に流されて不安になったり興奮したりしているだけらしい。

 それじゃ狩ってもあまり意味が…いや、周辺地域の生態系の貢献にはなるか。

 

 まぁ、サクサクと狩って、次の個体を探す。

 ベッキーさん曰く、今は原因になっている個体は近くには居ないっぽいらしい。

 同じ不安を持っている者が近くにいると、何となく分かるそうな。

 もう完全にオカルトの領域だ。

 

 

 その帰りに聞いたんだが、今まで会った同類…同様の不安を抱えている者は、よく言えば感受性が強く、悪く言えば情緒不安定。

 それこそ、人間なのに妙な妄想を真に受けて、獰猛化してしまいそうな人間も居たらしい。

 一歩間違えれば、妄想癖のある危ない人な訳だが…ここでちょっと引っかかった。

 

 その人達は、普通の人に見えないモノ、感じられないモノを朧に感じる事も多かったらしい。

 まさかと思って聞いてみれば…少なくともベッキーさんが会った人達は…幽霊を見た事があるとか、未来視や予知夢を見た事があるとか、そういった話に事欠かないらしい。

 尤も、それらが真実であると立証する術は無く、未来視予知夢だって普通に外れたらしいのだが。

 

 

 うーん、これって霊力…いや霊感、って奴なのか?

 この世界は無闇矢鱈と生命力やバイタリティに満ちているので、我知らずそういう能力を発現してしまった人がいてもおかしくはないが。

 実際、ベッキーさんを筆頭に、レジェンドラスタの方々なんぞミタマ無しにタマフリできても驚かないし。

 

 

 しかし、確かにこの世界には霊力が存在していたが、何でもかんでも霊力のせいにするのも……いや実際その可能性はある訳だし。

 そもそもだ、仮にこれが霊力関係の事だったとして、野良モンスター達を獰猛化させる程に怯えさせるような要素があるのか?

 角付きウカムという例はあるが、そこまで広範囲に恐怖を振り撒くようなもんじゃないだろう。

 

 …という事は、考えたくないが角付きシャガルマガラ…。

 狂竜ウィルスの効果がどんな風に変質するか、考えたくもない。

 

 しかしこれも違う気がする。

 獰猛化にせよ異常な行動をするモンスターにせよ、同じモノに怯えて興奮や奇行に駆り立てられているのだとしたら、ベルナ村からココット村まで、非常に広範囲に影響を与えて居る事になる。

 一個の個体による恐怖じゃない。

 もっと別の…それこそ、天変地異のような何かが迫っているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 古龍以上の脅威…か。

 想像もつかんな…。

 

 今俺が抱えている案件の中で一番該当しそうなのはイヅチだが、アレって古龍より強いんだろうか?

 GE世界で、オボロゲながら一発叩き込んでやった記憶があるんだが。

 あの時の俺が出せる全力だったとは言え、あの程度でそれなりのダメージを受けるようなら、古龍の方がよっぽど強いと思うんだがな。

 まぁ、例の因果やら何やらをぶち切って、敵を戦えなくする能力が無ければの話だが…アレがそこまで絶対的なものであるなら、どのモンスターもイヅチの存在に気付かず、気付いたとしてもすぐ忘れ去って不安を感じないんじゃないだろうか。

 

 

 …これ以上考えても仕方ないな。

 今日はここまで。

 

 

 

PS4月月末は月締めで翌4時帰宅日

 

 ベッキーが甘え上手に目覚めた気がする。

 いやホント、先日のプレイから…催眠プレイじゃないよ…なんかこう、色々態度が変わったんよ。

 狩場でなければすぐにスキンシップを求めてくるし、性的なものでなくても膝枕とかしあげるとすっごい安らいだ顔をするし。

 

 昨晩も、先日までならまるでモノ足りなかっただろうゆっくりゆったりな交わりだったのに、あっと言う間に満足して眠りについてしまった。

 おかげでシモが収まらなくて、所謂睡姦やってしまったんだけども。

 

 

 

 

 と言うか…なんかギャップがスゲェな。

 仮にも天下のギルドナイト…いや、天下の懐刀のギルドナイトだぜ?

 それがちょっと甘えさせただけで、こうまで無防備な姿を見せるとは…。

 

 今まで甘えさせてくれる人、居なかったのかな。

 …まず居ないだろうなぁ。

 ハンターとして歩みだした頃には、心身ともに鍛え上げられて、並みの男じゃ甘やかすどころか頼りにされるのも難しかったろう。

 若くして頭角を現していたベッキーさんなら特に。

 そういう雰囲気になったとしても、自覚してない不安から来る夜の激しさで、甘えるとかの空気にならなかったんだろう。

 

 強い女が自分にだけ見せる弱み、と思うとグッとくるものがあるが、どーいう訳だかむしろ保護欲の方が先に立つ。

 この人の不安を癒せるのは自分だけだ、という意識で独占欲とか優越感が刺激されるのもあるだろうけどね。

 

 

 

 さて、それは置いといて、狩りの話だ。

 今日は狩場を変更して、またもベッキーさんと同行した。

 昨晩の甘えっぷりがウソのような平常心だったが、よく見ると半歩分、昨日より距離が近いな。

 その内手でも繋いでくるんじゃないだろうか……流石に狩場でそれは無いか。

 

 

 で、今日はベッキーさん曰く、不安を抱えている個体を見つけた。

 予想通りというべきか、やはり霊力が高い。

 しかしこれは、極度の興奮によって文字通り気が昂ぶった事によるものだろう…。

 

 だが霊力関連っぽいのは、当たりのようだった。

 タマフリを目の前で発動してみたところ、異常な程の反応を示したのだ。

 まるで、霊力そのものに怯えているかのように。

 

 妙な話だ。

 奴さん自身も比較的強い霊力を持っていた。

 仮にそれが原因で霊感が鋭くなって、俺が放った追駆を明確に認識できたとしても、何故そこまで怯える。

 霊力の攻撃と言うから特別に聞こえるだろうが、追駆自体はハンターの放つヘヴィボウガンの一撃みたいなもんだ。

 そう騒ぐほどのモノでもないだろう。

 

 

 …そういや、前にGE世界で似たような事があったな。

 あの時は、霊力だか血の力だかよく分からん能力を使うアラガミが出始めたっけ。

 GE世界に出たのなら、MH世界で同じ事が起こってもおかしくはない。

 

 

 が、GE世界の場合は俺が霊力を振り撒いた影響で、アラガミがそっち系の能力に目覚めた筈。

 この世界はどうだ?

 …確かに力を多く振り撒いてはいるが(だってそうしないと死ぬし)、そこまで広範囲に影響が出るとは思えない。

 一つの村に留まり続けて霊力を使っていたならともかく、4箇所移動しながらだしなぁ…。

 でも元から霊力あったみたいだし…。

 

 

 

 

 考えても頭がこんがらがるだけになってきたんで、村に帰って村長とダベりながら、何となく村を眺めていた。

 村付きのハンターが一人、飯を食ってなにやらクエストを受け、出発するのを見て……ふと思いついた。

 

 ポッケ村の遺跡、正にコレじゃないのか?

 中央にあった祭壇みたいな場所は受付。

 皆が立ち寄って祈りか何かを済ませたであろう場所は、ネコ飯…霊力を使っていた形跡を考えるに、討鬼伝世界の賽銭箱や神木の方が近いか?

 それに、幾つかの道は入り口や準備スペースへの通路。

 

 …成程、そりゃ見覚えがある筈だわ。

 多少の差異はあっても、狩りゲーなら大体変わらない手順だろう。

 

 そう考えると、MH世界だけじゃなくてGE世界・討鬼伝世界のクエスト受付所にも似てるんだよな。

 まぁ、言っちゃ何だがモンスターハンターから派生したゲームみたいなも

 

 

 

 

 

 

 

 

 派生

 

 

 

 

 

 …もしかして?

 

 

 

PS4月せめて今日の作業が明日なら、最初から翌3時だから負担は少ないんだけど日

 

 

 仮説を一つ思いついたが、検証する方法が無い。

 

 まぁ何だ、要するにだ、俺が転々としている三つの世界は、元は同じ世界だったんじゃないかって無茶苦茶な仮説だ。

 正直なところ、仮説と言うより思いつき、そして先日塔の秘境で見た、あの絵を元にムリヤリこじつけたとも言える。

 

 まず最初の絵の解釈から行こう。

 幾つもの高い建物が書いてあったが、これは単純に文明が栄えていた。

 

 次に空に何かと、少し低い建物が書かれている絵だが…これはイヅチカナタが襲ってきたのではないだろうか。

 

 更に次の絵、空に何かを打ち出す絵だが、これは最初に考えた時と同様、何かしらの対策を打ったという絵。

 

 問題は最後の絵…地面が三つに割れている絵だったが、これは前の絵で仕掛けた対策が効かず、文明が滅んだ絵だと思っていた。

 しかし、実はこれ、世界がMH世界、GE世界、討鬼伝世界の3つに分かれたという意味ではないだろうか。

 

 

 勿論、この解釈にも穴はある。

 というか穴や矛盾しかない、逆に証拠の類は無いに等しい。

 

 まず第一に、仮に世界が分かれたという解釈が正しいとして、どうしてそうなったのか。

 イヅチカナタの力が強力でも、世界を分けられる程のものじゃないだろう。

 

 第二に、分かれた3つの世界にそれらしい痕跡が殆ど残ってないのは何故か。

 MH世界は遺跡という形で残っている、討鬼伝世界はそれらしい痕跡があったとしても全てオオマガトキに沈んだとして、GE世界はな…。

 アラガミが現れるまでの世界の歴史は、大雑把ながら俺が元居た世界と同じだったように思う。

 …あれ、でもそれって用途や製法不明の遺跡が幾つもあったってことなんだよな…。

 モアイとかナスカの地上絵とかオーパーツとかその他諸々。

 

 

 …まぁ、仮にこの説が正しかったとして、だ。

 今頃になって、何でモンスター達がそれに怯えだす?

 完全に別の世界に行ってしまったのなら、もう関係が無い事だろう。

 隣の銀河系が何かとんでもない爆発とかで消え去ったとして、それを感知して脅威に思えるかって話だ。 

 

 

 

 

 

 ハァ…今まで色々考えて、仮説に仮説を重ねてきたけど……正解が全く分からない。

 考えても考えても、答えあわせができないというのは思った以上に辛いものだ。

 ゴールまであとどれくらい残っているのか、そもそもゴールに向かえているのか、それ以前にちゃんとスタート地点から出発したのか、それら全てが分からないマラソンをやっている気分になる。

 

 歴史学者の人とか、よくこんな風に考え続けられるもんだ。

 正しいかどうかも分からない仮説に力を注いで、雲を掴むような証拠を探し続けるんだから本当に頭が下がる。

 ま、その仮説が本当だと思っているから、そこまでやれるのかもしれんけど。

 

 真面目な話、何処かに模範解答とか転がってないものだろうか。

 謎が謎を呼ぶって言うか、謎だけならそこら中から何もしなくても湧いてくるこの状況で、考える事ばかりが増えていく。

 

 …この手の状況をぶった切る、一番有効なやり方は…カンニングするか、考えるのを放棄するだけだ。

 前者は答えがどっかにないと出来ないから、後者かな…。

 

 

 

 

 でも考えちゃうんだよなぁ…。

 

 

 

 



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134話

物欲センサー仕事しすぎィ!
日暮 熟睡男みたいに休んでてよ!
ちゅーか80%の確立で出る筈なのに、8~9回試して成果0とかありえねぇ…。
だがその程度な序の口なのが狩りゲーの実態。
リセットしてもう一回やろう…。

進撃の巨人買いました。


PS4月最近、明らかに酒に弱くなってきている…日

 

 

 ベッキーが現地妻(みたいなもの)になった事について、ポッケ村とユクモ村に手紙を送った。

 どんな反応が返ってくるか、楽しみなような怖いような。

 

 

 ここの所獰猛化したモンスターを中心に狩り続けていた為、結構な素材が集まった。

 上位モンスターに比べても、かなり強い素材になっている。

 筋肉が異常に隆起していたり、それに応じるように牙や皮が強く鋭くなっていたり。

 

 …ここ最近まで、獰猛化しているモンスターはそうそう居なかった筈なのだが。

 仕留めたモンスター達全ての体が、獰猛化に適応したように強固になっていた。

 モンスターの体って、どれだけ変化が早いんだろうか。

 

 現在、特に注目を集めている素材は、「獰猛化エキス」という素材だ。

 獰猛化したモンスターからは大体共通で採取される。

 これがあるから獰猛化するのか、それとも獰猛化したから体内でコレが生み出されたのかは意見が分かれるところだが。

 

 使い道は色々ある。

 どうにも何らかの薬品的な性質を持っているらしく、加工次第で様々な効果を見せるのだそうだ。

 武器防具の強化には勿論、獰猛化したモンスターの生態調査、回復薬に混ぜて更なる効果を期待できないか、それならダイレクトに鬼人薬に混ぜて真・鬼人薬グゥレイトォ!を作れないか。

 

 

 

 

 そして、精力剤にできないか。

 

 

 

 まー珍しい話ではないわな。

 精力の強い動物の血や内臓を食って、その力を貰うってのは古今東西よくある手法だ。

 劇薬に近い液体を、そのまま飲もうって話では流石にないが。

 

 ちなみに、俺もベッキーも獰猛化エキス精力剤化には……あまり注目していなかったりする。

 

 何せ元々の体力が非常に高い俺達だ。

 ベッキーは言わずもがな、俺だってフロンティアで何とかやって行けるんじゃないかと思う程度の体力は持っている。

 別に体力=精力じゃないが、それこそオカルト版真言立川流の独壇場である。

 

 

 ただ、精力剤じゃないが、取り込んで力にする…という意味では俺も考えている。

 アラガミの体で、或いは蝕鬼の力でコレを体内に取り込めば、ひょっとしたら急激なパワーアップが可能なのではないだろうか。

 尤も、所詮は机上の空論。

 仮に取り込んでパワーアップができたとしても、このエキスの影響で俺まで獰猛になり、正常な判断力を奪われてしまったら話にならない。

 そもそも、この液体を生物の体内に入れ込んで、どんな反応が起きるかさえ、まだ検証中なのだ。

 

 大体、体に取り込むってのがやり方が分からない。

 単に食えばいいのか、それともアラガミ化して腕を捕食形態にして食えばいいのか、それとも体にエキスを垂らしておいたら蝕鬼の力が取り込んでいくのか。

 取り込み方も分からなければ、中に入った異物をどう操作すればいいのかもサッパリだ。

 

 

 

 

 

 話は変わるが…変わった後の話題って女関連ばっかだな…ベッキーが加速度的に甘え上手になっている気がする。

 一緒に歩けば距離は近いし、食事しようとしたら「食べさせて」「食べさせてあげる」或いは「食べててもいいよ」だし…うん、最後の?

 …飯食いながらでもエロい事はできるねん。

 まぁ、エロしてばっかりじゃなくて、とにかく引っ付いたりワガママ聞いてもらうのが好きみたいでね。

 そのワガママにしたって酷いものじゃないし、きっちりお返しもしてくれる。

 

 布団に入り込んだら、とにかくくっついてくる。

 エロしなくてもくっついてくる。

 頭を撫でてやると、それだけでほにゃっとした笑顔になって、体を擦り付けるみたいに抱きついてきて、そのままゆっくり眠ったりもする。

 

 うむ…甘えてくる女ってかわいいもんだな。

 

 

 

 ところで、そのベッキーの後輩とやらが村にやってきた。

 赤一色のベッキーとは対照的に青い服を着た、名前はドリスさん。

 ミナガルデで受付嬢をしていたらしいのだが、何故かココット村にやってきた。

 

 「先輩を放っておくと、何をやらかすかわからないから」と言ってたが……ベッキーを慕ってついてきたって事なのか?

 そう言うと、物凄くイヤそうな顔をされた。

 女性が人目のあるところでする表情じゃないよ、それ…。

 いや悪かった悪かった、あーたがベッキーにどれだけ迷惑掛けられてきたのか、よく分かった、もう言わないから。

 

 

 

 真面目な話、いつも何かと「やらかす」人であるベッキーがミナガルデを離れて、もう数週間。

 何処で何をしでかしているか、誰かに迷惑かけてるんじゃないか、そして大量の面倒事を引き連れて帰ってくるんじゃないかと、不安でたまらなかったらしい。

 そこでミナガルデのギルドマスターから「だったら確認しにいけばいいだろう」と焚きつけられ、休暇を取ってココット村まで遥遥やってきたのだそうな。

 

 しかし、来てみて更に驚く事になった。

 ベッキーは『何もやらかしてなかった』からだ。

 以前にライゼクスを狩りに行こうとした集団を威圧感のみで止めた事はあるが、言い換えればそれだけ。

 

 しかも彼氏(俺だ)までゲットし、何かと甘えている姿が町中でも目撃されている。

 「ベッキー先輩は、きっと喪女一直線だと思っていたのに」とついつい本音(?)を漏らすドリスさん。

 

 それを受けたベッキーは、「今までの私とは違うのよ」と勝者の余裕を感じさせる笑みを浮かべ、ドリスさんの首をキュッとして昏倒させた。

 その程度で済んだのは、最近色々と満足しているからだろうか。

 

 

 …それはともかく、ドリスさんが今まで蒙った迷惑の数々…の内容を考えるに。

 ベッキーの裏の顔絡み?

 

 

「半分くらいは、ね。

 この子、私が何をしてきたのか知らないから」

 

 

 …隠しておいた方がいい?

 

 

「お願いね。

 私は色々あって、表に出ないで活動するようになってるの」

 

 

 その割には適当な建前作って、俺を狙ってきたみたいですけどね。

 まぁいいけど。

 

 結局、ドリスさんは暫し村に滞在するそうな。

 本当にベッキーが大人しくなっているのか、俺がベッキーの彼氏としてふさわしいのか…と言うより、彼氏やってて保つのかを見極めたいらしい。

 「君と先輩が破局したら、八つ当たりがこっちに来るんだ…」という割と切実な理由でした。

 

 

 

 

PS4月半年くらい前までは、500mlを5本くらい普通にいけたのに日

 

 ベッキーと寄り添って歩いているのを見て、ドリスさんが目を丸くしていた。

 一緒に歩くだけでその反応か。

 ミナガルデじゃ相当恐れられてたんだろうな。

 

 

 それは置いといて、ドリスさんが居るんじゃ、ベッキーを狩場に連れ出す事はできない。

 ハンターでもギルドナイトでもない人間を狩場に連れて行くなんて、それこそギルドナイト案件だからな。

 …そのギルドナイトがここに居る訳だが、なんかややこしいな。

 

 ま、久しぶりに一人で狩りだ。

 のんびりやってみるとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 イビルジョーが出た。

 

 

 

 

 いや待てちょっと待とう、何でいきなりコイツが出てくるんだよ。

 ギルドでも近場で捕捉したって話は聞かなかったぞ。

 

 いつかはやり合わなければならないだろう、とは思ってたよ。

 この前ユクモ村で、ラギアがイビルジョーを始末してくれたのは偶然と幸運以外に何者でもなかったし。

 

 まー何にせよ、遭遇した以上は戦わなきゃならん。

 第一級の危険生物だしな。

 正直な話、実際に相対して、「負ける」とは思わなかった。

 驚異的なタフネスと筋力は感じられたが、狡猾でもないし、体をみたところ傷跡はあまり多くない…つまりまだ幼い個体だろうと思ったからだ。

 実際にそれは正しかったが……イビルジョー、思った以上に厄介だな。

 

 何が厄介って、凶暴性とか攻撃力とかもそうだけど、奴が常に苛まれているという飢餓感が一番厄介だ。

 腹に入れば何でもいい、とばかりに、問答無用で食いついてくるんだよ。

 それ自体は単なる突進、噛み付きだから簡単に対処できるんだが…気迫が違う。

 一度噛み付かれたら、すっぽんよりもしつこく放さない。

 食えるもの、口に入れたものを逃がしてたまるか、って感じだった。

 

 あんなに若く、おそらくは未成熟であろう個体に本気で「食われる」って感じたもんな。

 自分の持ってる全てを食べる事だけにつぎ込んでるんだろう。

 敵を倒す為じゃなく、倒すという過程をすっ飛ばして食べる為に食いついてくるからなぁ…。

 

 

 まぁ、それは逆にチャンスにもなったんだけど。

 口に入れたものは何でも食おうとするから、爆弾の類を食いつかせればドカーン。

 小タル爆弾なら、直接喉元にシュートする事だって出来た。

 喉元…しかも中で爆発がおきれば、そりゃイビルジョーだって悶絶するわ。

 

 後は、偶然途中で出くわしたテツカブラ、あれが非常に便利だった。

 イビルジョーの囮になってくれた事もさる事ながら、アイツが掘り起こすデカい岩。

 これが凄い。

 イビルジョーでも簡単には壊せないくらい頑丈なのだ。

 そして、テツカブラはどういう理屈か、その壊せない岩を壊す事ができる。

 牙で抱えてジャンプして、思いっきり落下してね。

 

 

 

 ここでクエスチョン。

 砕けた岩を、丁度いい大きさのものを見繕い。

 イビルジョーの口の中に放り込んでやったらどうなるか?

 贅沢を言うなら、岩にトウガラシみたいな調味料をかけるとか、生肉を括り付けておけば尚良し。

 

 流石に岩だけだったら吐き出すだろうが、味がついている事や、生肉が括りつけられていることで、イビルジョーはそれを食べ物と認識する。

 そうなったらこっちのものだ。

 何が何でも噛み砕いて食ってやろうと、イビルジョーは岩を口いっぱいに頬張って、力を篭め始める。

 一番厄介だった噛み付きは消え、隙だらけになってしまうのだ。

 

 空腹でものを考える余裕が無い、何を咥えこんでいるのか確認できないからこそのやり方だな。

 

 

 正直ここまで上手くいくとは思ってなかった。

 とは言え、一度気付かれたら同じ手はもう使えない。

 岩を口に投げ入れる時、イビルジョーの目を誤魔化す方法だって必要だ。

 今回は偶然閃光玉を持って来ていたからよかったが、砂を投げつける程度じゃ目を塞ぎそうにないしね。

 

 ともあれ、イビルジョーの初討伐完了。

 散々脅威として聞かされていたからか、妙に感慨深い。

 

 ちなみに、テツカブラは逃げていったので見逃した。

 囮になってもらったし、何だかんだで散々利用した挙句に始末というのは気分が悪い。

 致命と言うほどの傷も負ってなかったので、手負いのカエルになって大化けする事も、獰猛化することもないだろう、多分。

 

 

 

 追記

 

 凄く錆びた大剣出た。

 何作ろうか…古龍の素材ならそこそこあるしな。

 

 

PS4月今では3本で眠気と戦う始末日

 

 ギルドからの書状を、山菜爺さんに届けに行った。

 相変わらず、あっちこっちの爺さんと同じような面構えをしている。

 実は山菜爺さんという一個の種族なんじゃなかろうか。

 逆に、竜人族は姿形に纏まりが無いが。

 

 

 それはともかく、折角書状を持って来たのだから、と爺さんの話にちょっと付き合わされた。

 偏屈な爺さんだが、竹を割ったような性格してるから、話していて苦にはならない。

 ネチネチと文句言ってくるような事もないしな。

 代わりに気に入らない事があったら、その場で会話を強制終了させるが。

 

 

 獰猛化などについて話を聞けるかと思ったが、爺さんもそこまで詳しい事はわかっていないようだ。

 ただ、何かしらの大きな災厄の前兆であるというのは意見の一致するところだ。

 

 代わりに延々と聞かされたのが、爺さんの昔話だ。

 老人ならともかく老害の昔語りほど鬱陶しいものはないと思うが、幸いにして山菜爺さんは老害という程ではなかったようだ。

 少なくとも話は面白かった。

 

 昔はどっかの農家として生きていたらしい。

 俺もGE世界で多少は土を弄ったから、農家としての仕事の大変さも少しは分かる。

 …一番厄介な、経済的な問題には当たらなかったけど。

 

 農家として生きていた爺さんが、山菜爺さんと呼ばれるようになるまで、そりゃあ波乱万丈の人生だったらしい。

 一時期など、ハンターでもないのに竹やりを持ってモンスターに挑むハメになっていたとか。

 最終的には、奥義「破竹五百天」なる必殺技まで会得してしまったとか。

 ただ、それを繰り返し用いた事で、彼の腕と腰がボロボロになり、また武器として使っていた竹やりも破損してしまった。

 それを機に荒事から身を引いたらしいが……狩場に平然と乗り込んできているあたり、別に身を引いてないと思うぞ。

 

 

 と言うか、本当にこの爺さん何者だろうか。

 ギルドから直接書状が送られてくるのもそうだが、世界各地にソックリさんが居るし、そもそもハンターでもないのに狩場に常駐しているというのに、問題にすらされない。

 あまつさえ、イビルジョーにすら襲われないらしい。

 まさか、この爺さんもベッキーさんの同類か?

 ギルドナイトに近い実力者なのか?

 無いと言い切れないあたり、本当にこの世界の人間の底力は狂っていると思う。

 

 ちゅーか、あっちこっちにそっくりさんが居るの、実はチャーシュー式影分身の術じゃあるまいな。

 ……チャーシュー…か、カマボコ?

 いやメンマ…鳴門……忘れた。

 

 

 

 まぁ、敵対しなけりゃ別にいいんだけどさ。

 話し掛けた時、携帯用シビレ罠を貰った事があって、好感度は割と高い方だ。

 

 そんな風に、割と友好的に相手していたのが良かったんだろうか?

 

 

「ワシにはもう必要のないものだ。 これを持って行くがいい」と言われて、竹槍を貰った。

 随分使い込まれてるな…。

 と言うか、爺さんのさっきの話だと最後にはぶっ壊れてなかったっけ?

 修復?

 …竹槍って修復できんの?

 一本の竹の先端を、斜めに斬って槍状にしただけのものじゃないの?

 修理ってどうすんのさ……精々、ちょっと短く斬って先端を少し鋭くする程度だろ?

 

 

 

 

 

 

 修理と称して、先端から爆発を発射できるようなギミックをつけたり、あまつさえ竜撃砲を撃てるように魔改造するなんて、一体どうやったんだよ。

 しかも見たところ、本体には比喩も誇張も抜きで竹しか使ってない。

 「竹と火薬があれば、これくらいは容易い」とか言ってるけど、どう考えても街の職人以上なんですが。

 

 

 帰ってから工房の人に見せて話を聞いてみたら、

 

「こ、こいつはまさか…竹銃槍『トリオドシ』や『シシオドシ』の元になった、『ハチク』か! あの伝説のTAKEYARI MASTER・ゴンベが使ったと言う!」

 

 

 …だそうだ。

 確かに山菜爺さんの話では、タケヤリマスターと呼ばれた事があると言ってたが…。

 一体何やったんだ、爺さん…。

 

 ただ一つ言えるのは、少なくとも竹を使った技術に関しては、Legend of TAKEYARI MASTERの名に偽りは無いって事だ。

 竹だけ使ってガンランス作るなんぞ、前代未聞の暴挙である…。

 

 まぁ、正確に言うと竹だけではなく、山菜爺さんが若い頃に渡り合ったと言う、どっかの山岳地帯の竹林に生息していた(爺さんの故郷には伝承として伝わっていたらしい)正体不明のモンスターのエキスを使っているらしいが。

 竹を瞬時に成長させたり消し去ったり、更には最初は生えていなかった翼さえ出したという、訳の分からないモンスターだ。

 戦いはしたものの、結果的には痛み分けに終わって、破壊した部位の破片を手にして爺さんも撤退。

 それ以降、巡りあう事はなかったらしいが……竹を操るモンスターねぇ。

 俺も聞いた事ないな。

 本当に、この世界は無駄に奥が深い…。

 

 

 

PS4月シジミのカプセル、また始めるか…日

 

 

 ドリスさんが頭痛を堪えていた。

 一体何事か、本人がよく言ってるようにベッキーが何かしでかしたのかと思った。

 ある意味では正解。

 

 何だかんだと言いつつ、よくベッキーの後を付いて回っているドリスさんだが、当然俺に甘えるベッキーを見る機会が多くある訳だ。

 各方面への平穏を護る為に感想の詳細を省くが、一言で言えば偽者疑惑を真剣に考えていた。

 砂糖を吐きながら。

 

 まぁ、確かに別人疑惑も出るわなぁ。

 初めて会った時には、こんなに甘える人だなんて夢にも思わなかった。

 むしろ大型肉食モンスター、しかもG級古龍クラスに睨まれているような気分になったもんだ。

 今現在も、その実力差は全く埋まっていない筈なんだが。

 

 

 …まぁ、何だなぁ…本当に人が変わったように思えるよ。

 今も俺の膝枕でスピヨスピヨと無防備に寝息を立てているこの人が、俺よりずっと強いとはもう思えない。

 思えないだけで、やっぱり強いんだけど。

 獰猛化したモンスターの調査に行った時だって、あちこち獣道を動き回っているのに、服に汚れも全くついてなかったくらいだ。

 

 それも、自分が抱え続けていた不安を、一時とは言え解消する為の方法を理解したからだろうか?

 つまりは、それが他人に甘える事。

 誰でもいいって事は無いと思うが、とにかく自分を信頼している誰かに委ねたり、「誰かに護られている」と思う事で心の平穏を得ているんだろう。

 今までは逆に、不安に負けまいと突っ張ってきていた訳で…そりゃ人が変わったようにも見えるわなぁ。

 

 これ、俺がここから離れて大丈夫なんだろうか?

 永別ならともかく、元々踏ん張り続けられるくらいの根性を持ってるんだから大丈夫だとは思うんだが……人間、一度緊張の糸が途切れると、立ち上がれなくなる場合だってあるからな。

 ちゅーか、俺は…というよりハンターは永別の可能性を常に考え続けなければならない仕事だし。

 

 

 

 眠っているベッキーのアゴを擽って、ネコのようにうにゅうにゅ言わせていたところ、ドリスさんはどーも甘さに耐えかねたらしい。

 気分悪そうにして、家から出て行った。

 

 そして邪魔者が居なくなったので、寝たフリをしていたベッキーとこの後無茶苦茶(PI--)した。

 

 

 

 

 窓からコッソリ除き見ているドリスさんに気付いてたけどな、俺もベッキーも!

 単なる一般人がギルドナイトと、色事慣れしたハンターの俺を相手に隠れきれる筈ないだろ。

 

 

 

 ちなみに、見られながらのプレイをベッキーがOKしたのは、俺が色々と誘導したからだ。

 複数プレイしまくってたからなぁ…その経験をちょっと語ってやれば、興味が少し沸いて、思いっきりヤキモチ妬くのも目に見えていた。

 …旦那としては失格って言われたけど、割と真面目に突き合われている気がするね。

 単なる甘え対象を通り越してきてるよ。

 

 

 

 そしてベッキーは新しい扉を開いたようです。

 今まで色んな人に、その扉を強制的に開かせてきましたが。

 恥ずかしい姿と、甘える姿を見られる……いや、人前で甘える事に快感を得てきたようだ。

 うむ、いい傾向ですな。

 

 つまるところ、日常生活で俺にひっついて来たり、ちょっかいを出しているだけでも、ベッキーさんの三角地帯が湿り気を帯び始めている訳である。

 どこでも突っ込めるね!

 木陰に入るなり、愛撫も準備もなしにそのままインサートしただけでビクンビクンだよ!

 

 

 

 

 さて、恒例のシモの話は置いといて、「禁足地」という場所をご存知だろうか。

 読んで字の如く、足を踏み入れる事を禁じられた場所。

 こういった場所は、元居た世界にも幾つかある。

 非常に狭いというのに一度入ったら出られなくなると言われる藪、訪れただけで高熱に魘され正気を失う島、単純に物理的な危険がある為に立ち入り禁止をされている洞窟。

 

 ウソか真かはともかくとして、そう言った入ってはいけない場所というのは、この世界にも多く存在する。

 と言うか、MH世界じゃ入ったらいけない場所なんて珍しくも無い。

 理由なんぞ述べるまでもないだろう。

 凶暴なモンスターが多数居るから、正体不明の『何か』の縄張りだから、或いは危険らしい危険も無いのに理由も分からず人が消えるから。

 

 オカルト染みた最後の理由を除いても、とにかくこの世界は危険な場所が多すぎる。

 その禁足地の一つが、ココット村の近くにあった。

 非常に高い山の上、何らかの遺跡がある。

 既に辛うじて幾つかの柱が残るだけであり、踏み入る理由も普通なら無いような場所だ。

 

 また、かつてはこの禁足地に入って、無事に帰ってきた者の記録も幾つかある。

 その者達の証言によると、「何もなかった」「何も居なかった」「特に面白いものも奇妙なものも無かった」らしいのだが…いつの頃からか、その場所は禁足地扱いされ始めた。

 この場所へ向かったハンターが…ハンターに限らず…突然消息を断ち始めたからだ。

 理由は様々だ。

 

 単純に、その場所へ向かう途中でモンスターに襲われ、消息不明になった者。

 帰ってきたはいいが、間もなく酷く体調を崩し、衰弱死してしまった者。

 外傷らしい外傷も無く、死因不明で死体となって見つかった者。

 

 一時期を境に、そういった現象が頻発し、そして消え去った。

 理由は今以て不明のままだ。

 偶然かもしれないし、必然だったのかすら分からない。

 

 だが、一度そういう噂が立ってしまった場所に…しかも珍しい素材の類も無い場所に、好き好んで近付く者は居らず。

 いつしかその場所は禁足地として扱われるようになった。

 

 

 

 

 

 なんか、そこが狂竜ウィルスの出所っぽいんですけどね。

 

 

 今まで遭遇した感染個体の分布や、何処から来たのかの痕跡を追って地図にしてみたんだが…とある山を中心とし、季節風の流れと、川の流れに沿って感染が頻発している事が分かった。

 そしてその二つのルートが交わる場所が、件の禁足地という訳だ。

 そこにゴアだかシャガルだか知らないが、マガラが居ると。

 

 考えるまでもなく、禁足地として扱われるに至った数々の現象は、狂竜ウィルスによる仕業だったんだろう。

 感染して凶暴になったモンスターに襲われたり、ハンターの感覚が狂ってどっかの崖から踏み外したとか、或いはモンスターに襲われて判断を誤って食い殺されたか。

 

 一時期しかその現象が起きなかったのは、マガラがあちこち飛び回っているからだろう。

 そして、今正にココット村付近の禁足地に戻ってきている訳だ。

 

 

 

 

 

 それはいいんだが、真面目にどうしよう。

 アマツの時は唐突に襲ってきたのを返り討ちにして事なきを得たが、マガラはなぁ…。

 強い弱いで言えばアマツの方が強そうだ、とは思うんだ。

 あくまで印象だけどね。

 

 だけど、アマツを撃退して大ダメージを与えられたのは、半分以上が単なる幸運。

 トドメを刺せたのだって、怒りに我を忘れて自分の得意なステージから降りてきた為だった。

 

 

 

 そしてそれ以前に、俺って狂竜ウィルスを取り込んだら、微量でも激しく体調崩すんだよね。

 正直、遭遇したら逃げるどころか真っ直ぐ立ってられるかも怪しいッス。

 感染しただけのモンスターの攻撃をちょっと受けただけで、寝込むくらいに具合が悪くなったもんなぁ…。

 

 今では狂竜症のモンスターは何となく分かるから、そういう相手を狩る時には普段以上に注意を払い、奇襲・トラップ・爆破その他諸々で一気にノーダメージ撃破するようにしている。

 GE世界の常套手段だったが、MH世界のモンスターはタフだからなぁ…。

 色々とパワーアップしている今でも、相手によっては倒しきれない事だってある。

 実際昨日は、仕留めきれずに反撃を喰らい、ベースキャンプで休んでようやく何とかなった。

 ハンター式睡眠法で眠れば直るとは言え、狩りの最中に相手の目の前でグースカ寝られない。

 

 

 以前減るブラザーズに教えてもらった狂竜ウィルス克服方法も、そんな状況だから試す事も出来てない。

 土壇場で克服なんて展開は期待しない方がいいなぁ…。

 

 

 

 ベッキーに少し相談に乗ってもらった。

 甘えている時に話を切り出したので少々不機嫌になったが、そこは甘えん坊でもギルドナイト。

 お仕事モードになって対応してくれた。

 

 と言うか、お仕事モードになった時の雰囲気で分かった。

 この人、超がつく程甘えん坊になってるけど、明確な違反を犯したら、相手が俺でも躊躇い無くヤッちゃうタイプだ。

 公私を徹底的に分けるタイプと言うか…その割りには職権乱用染みた事もやるけど。

 

 

 それはともかく、本当にシャガルマガラが相手となると、ほぼ確実にギルドナイト、或いはG級ハンター案件なんだそうだ。

 まぁそれも分かるっちゃ分かるがな。

 ただでさえ古龍相手の上、相手は狂竜ウィルスを使って広範囲に多大な影響を及ぼすモンスターだ。

 危険度で言えばイビルジョーやラージャンなんかもこれに近いんだが、影響を及ぼす範囲という点でシャガルマガラを超えるモンスターはそうそう居ない。

 しかも、今回の一件は、どうにも同じ場所に長期間居座り続けているように思える。

 

 理由は分からない。

 何か気になる事でもあるのか、そこを寝床と定めたのか、まさかとは思うが大きな傷を負って休んでいるのか。

 何れにせよ、壊滅的な被害が出る前に、シャガルマガラ(或いはゴアマガラ)を追い払わなくてはならない。

 

 

 だが、それを独断で行えないのがギルドナイトである。

 何を悠長な事を、と言いたくなるが、ギルドナイトが仕事の為に動くというのは、それだけ重要な事なのだ。

 俺が思っている以上に、その意味は大きいらしい。

 独断で動いたという前例を作るだけで、後のハンター達のあり方に、多大な影響を与えかねない程に。

 

 割とお気楽にホイホイ動いているように見えるベッキーも、その辺りの判断は徹底している。

 何でもギルドナイトとして認められる時に、それこそ洗脳紛い…いや、洗脳以上に徹底して『躾けられる』のだそうだ。

 あまり詳しい話は聞きたくないし、ベッキーもしたくなさそうだった。

 ギルドナイトがそこまで嫌な顔をするくらいなんだから、下手に首突っ込まない方がよさそうだなぁ…。

 

 

 それはともかく、シャガルマガラ討伐だが、ベッキーもギルドに話はしたが、認められなかったらしい。

 まだ確定情報ではないから、と。

 それこそ何を悠長な話をしている、と思ったが、ギルドの方も何やら色々と騒がしくなっているそうな。

 シャガルマガラの脅威も分かるが、今ベッキーを…ベッキーに限らずギルドナイトを動かす事はできない。

 いつでも『仕事』に出られるよう、常に準備を整えておけ…だそうだ。

 

 

 

 なにそれ怖い。

 

 

 ギルドの証言が全て事実であるなら、という但し書きは入るが…つまり、シャガルマガラの脅威を知りながらギルドナイトを全て温存し、しかも決戦に備えなければならないようなモンスターが出現している、或いはその兆候があると?

 あまつさえ、G級ハンター以上と謡われるギルドナイトを、一人ではなく複数人用意する必要があると?

 

 

 なにそれ怖い。

 ホント怖い。

 

 

 

 …そっちの考えるだけでSAN値を削りそうな仮想敵はともかくとして、シャガルマガラはG級ハンターを派遣しようとしているらしい。

 こちらとしては、しっかり対処しようとしているのなら、文句をつける気は無い。

 

 しかしG級ハンターねぇ…。

 実際、どんな人だろうな。

 レジェンドラスタより上なんだろうか。

 そりゃ一人一人個体差があるのは確かだろうが、ゲーム的に言えばG級ハンター=プレイヤーだと考えれば、質はピンキリだろう。

 それこそ、上位はレジェンドラスタの遥かに上回る可能性だってある。

 

 ギルドナイト?

 

 …ギルドナイト案件=垢BANだと考えれば、G級がいくら人外でも勝てる道理は無くなるな。

 この世界ではどうだか知らんけど。

 

 

 そして、開拓地には下手をするとそのG級レベルの連中がウロウロしている訳か。

 

 

 

 

 

 どうしよう、次回ループで行くの、やっぱ止めようかな。

 

 

 

 

 …話が逸れた。

 とにかく、シャガルマガラはG級ハンターが派遣されるらしい。

 それまで手が出せそうにない。

 俺も、昔だったら(体感時間にして3年も経ってないが)「体調不良? 狩りしてりゃ直る!」と言わんばかりに突撃しただろうが、今の俺は幸か不幸か、落ち着いてしまっている。

 

 

 

 ていうか狩りへの情熱が女体に向けられている。

 流石に死んでも死なないからとカチコミはできなかった。 

 

 

 

 



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135話

進撃の巨人プレイ中。
大分慣れてきた…と思う。
移動する場合、スピードを出したいなら道なりに進んだほうが良さそうですな。
前方の左右にアンカーを引っ掛けられる場所があり、高所からの立体軌道であれば尚良し。
振り幅の大きなブランコを作るようなイメージで?

あと巨人の部位を破壊したら、すぐに次のターゲット(大抵はうなじか報酬部位)に切り替えてアンカー射出。
これが基本かな。

うーん、外伝として組み込むにはちょっと厳しいか?
巨人の頑丈さを考えると、ハンターでも充分対処は可能そうですね。
立体軌道装置で勢いをつけているとは言え、人間の剣一振りで手足を切断できてる訳ですし。
頑丈さで言ったらモンスターの方が高そうだ。
と言うか、明確に名前出した訳じゃないけど、進撃3人組+1名はMH世界の訓練所で出してたわ…。


PS4月夜の酒を控えようとも思うんだけど日

 

 

 ベッキーからの要請で、狂竜化しているモンスターを何匹か狩る。

 ドリスさんが「先輩の無茶な要求に付き合わなくてもいいんだよ」と言ってくれてたが、ギルドナイトの要請と思えばな…下手に断る訳にもいかん。

 

 それに、いい訓練にもなるしな。

 相手が単なる獰猛化・狂竜化モンスターだったとしても、狂竜ウィルスの攻撃は俺には致命的だ。

 一発も喰らわないように、と考えての狩りなら、精神的にも肉体的にもいいプレッシャーになる。

 

 実際、MH世界のモンスター相手に無傷ってマジで難しいからな。

 タフだし攻撃範囲広いし怯まないし取り巻きがワラワラ居るし。

 

 ま、そこで理由を作って言い訳しちゃうあたりが、俺の弱さなんだと思うけど。

 

 

 ところでドリスさんなんだが、よく複雑な表情で俺とベッキーを見ている。

 時々ベッキーが居ないところで、「本当に大丈夫か? 先輩が負担になってないか?」って聞いてくるんだが…まぁ、負担にはなってないな。

 何だかんだで規律をしっかり護って(破る時は建前を上手く使う)る人だし、一見すると無茶苦茶な事を言い出したように見えても、その実態はギルドナイト。

 それを加味して考えれば、無茶苦茶どころか朝飯前だろうってあっさり思えてしまう。

 

 しかし、それがドリスさんからしてみれば摩訶不思議に見えるらしい。

 ベッキーがギルドナイトだって事も知らないんだしな…。

 自分と同じように無茶振りされている俺が平然としているのが、本当に理解できないらしい。

 

 この前も、背景はよく分からないけど「ちょっとドスイーオス系装備で、リオレウス狩ってくる」って言い出したベッキーさんを必死で止めて(無論、効果は全く無かったが)その後俺に「最早一刻の猶予も無い。 すぐに先輩が狩ろうとしている相手を、君が先に行って仕留めるんだ」なんて迫ってきたし。

 

 

 

 結局、俺がわざわざ狩るまでもなく、ベッキーがさっさと仕留めてしまった訳ですが。

 ちなみに誰が狩ったかについては、ギルドナイト権限で俺の功績という事にしてしまったらしい。

 表向き、単なる受付嬢であるベッキーがこんなトンデモ功績を残す訳にはいかないからな。

 

 一介のハンターとしてはモヤモヤする部分もあるが、ベッキーからのお願いとあっては断る事もできない。

 ギルドナイトからの要請とあっては、下手に断ると闇系されてしまう、俺とベッキーの間柄でも。

 

 実際、こういう事は今までにも何度かあったようだ。

 そういう「口外したらシヌ」的な状況で、ベッキーの事を知っている人も何人か居るらしい。

 口外どころか、二度と口を効けなくなったやつも居るっぽいけど。

 

 

 

 ともかく、そーいう状況なもんで、ベッキーのやる事成す事にあまり動揺しない俺である。

 が、ドリスさんとしては、それが…不思議、なだけじゃないな。

 気に入らないのか?

 

 トンデモ狩猟に乗り込もうとしたのに心配すらしてない俺。

 何を言い出しても大して動揺せず、子供をあしらうようにベッキーを扱う(甘えさせる)俺。

 

 

 

 

 ベッキーが何をしても、お構いなしのように見える俺。

 

 

 

 どうにも、ドリスさんからはそう見えるらしい。

 こればっかりは、どうにもな…。

 俺がベッキーを適当にあしらっている、なんて事は無い。

 不誠実な関係である事は否定できないが、俺は俺なりにちゃんと向き合っているつもりだ。

 ベッキーが何を言い出しても動揺しないのは、その実力に対する信頼と、余波で何か起きても自分でしっかり受け止めるという意思の賜物…のつもりだ。

 或いは、「ベッキーが動いた事で何かあっても、遠慮せんでもええんやで? 甘えてええんや、ええんやで」的な。

 

 

 ベッキーとしても背景事情をある程度知っていて、それでいて必要以上に詮索しない相手というのは貴重らしく、存分に俺に頼ってくれているようだ。

 狂竜ウィルスの調査しかり、獰猛化の調査しかり、今回のような表沙汰にできない件についてしかり。

 

 

 でも他人からどう見えるかについて、考えた事は確かに無かった。

 それが当人同士…俺とベッキー…の問題と言ってしまえばそれまでだが……ある意味では、ドリスさんは『当人』であるとも言える。

 

 

 

 

 

 

 

 ツンデレ系のレズか。

 新しいな。

 そうでもないか。

 だが惹かれる。

 

 

 

 本人絶対に認めないだろうけどね。

 なぁんか妙に突っかかってくるなぁ、とは思ってたんだよ。

 どうにも本人は冷静かつ公平に、を座右の銘にしているらしく、漫画や小説であるような引き立て役みたいな言動をする訳じゃないんだが、「こう見えるんだが、君はどう考えているんだい?」みたいな事をよく言ってくる。 

 あんまりにもその回数が多いから、フラウさん直伝の内面を感じ取る術で観察してみた。

 別に心の中が読めるようになる訳じゃないんだが……まぁ、大体の感触は分かる。

 

 なんともまぁ、面倒と言えば面倒な人だった。

 口では色々と「ベッキー先輩に迷惑をかけられた」と言っていたが、むしろ内心ではそれに喜びを見出していた。

 他人から頼られる事で自分の価値を認識するタイプだ。

 

 で、ベッキーが色々と「やらかした」事で迷惑をかけられ、つまりはそれを『頼られている』と認識していた訳だ。

 そんなんだから、ベッキーは遠慮なくやらかす…ギルドナイト系の仕事の後始末や隠蔽を押し付けるし、本人が実は喜んでいたりするから、周囲の人間も押し付けるのに躊躇いが無い。

 そんな状況が続けば、「自分は最も迷惑をかけられている」つまり「最も頼られている人間である」という自負も出てくるだろう。

 そして、自分の価値を最も認めてくれているベッキーに対して、好感度が上がっていくのも頷ける。

 表向きは、迷惑をかけてくる先輩として邪険に扱っているつもりのようだったが。

 

 そこからレズ系に走ったのか、それとも元から素質があったのかは知らないが…これ、ベッキー気付いているのかなぁ?

 色恋沙汰もそうだが、ドリスさん、なんか不安定になってきてないか?

 無理もないっちゃ無理もないが。

 

 だって自分を一番認めてくれていたベッキーが突然職場から離れ、追いかけてきてみれば男を作って自分には見せた事もないような甘えっぷりを披露している。

 更に自分から覗いたとは言え、R-18まで見せ付けられた。

 ドリスさんの視点で見れば、片思いしていた相手が少し見ない間に、それこそアヘ顔Wピースするまで仕込まれていたようなものだろう。

 寝取られ系エロゲの主人公みたいな状態だな。

 

 俺自身には寝取り趣味も寝取られ趣味も無いが…桜花と橘花? あれは当人の趣味嗜好だ…、今更ベッキーと別れる気もない。

 

 

 だったら……いっそ、俺から迷惑かけるか?

 でもどうやって。

 受付嬢に対して妙な事企むようなら、それこそギルドナイト案件でベッキーに粛清されるのがオチだしなぁ…。

 

 

 

ゲーム用PC月仕事が終わるのが夜2時とかなんで、大抵空腹日

 

 

 5ヶ月目に突入。

 MH世界じゃ新記録だな。

 とは言え、GE世界でも討鬼伝世界でも、そろそろ死亡の前兆が見えてくる頃だ。

 油断禁物。

 

 特に今はドリスさんという地雷が埋まっているかもしれないんだからな。

 ちなみに、ベッキーはドリスさんの真意に気付いていなかった。

 後輩から男女関係的(両方女だが)な好意を受けているとは、夢にも思わなかったらしい

 

 一応言っておくが、ドリスさんの真意を俺がバラした訳じゃない。

 少なくとも意図してバラしてはいない。

 ただ、ちょっと探りを入れてみようと思ったところ、何故そういう話題が出たのかと逆にツッコミ入れられて、あれよあれよと言う間に気付かれてしまっただけだ。

 

 とは言え、流石にすぐには信じられなかったみたいだが。

 まーそうだよな。

 普通に接していた知人が、「あいつホモだぜ」「実はレズだよ」なんていわれても、そりゃタチの悪いジョークだと思うだろうよ。

 

 しかし、気付かれてしまったのは本当に失敗だった。

 人の心情を勝手に暴露してしまった事もあるが、ベッキーはドリスさんとどう顔を合わせればいいのか戸惑っているようだ。

 最大の心の支えであるベッキーを俺に奪われた(ドリスさん視点では)上、当のベッキーから拒まれるような顔をされてしまったら、精神的ダメージはどれ程のものか。

 

 怒りのあまり、俺をnice boatしにこなければいいんだが。

 一般人に刺された程度で死ぬような体じゃなくなってるが、nice boatじゃなぁ…。

 或いはハラモトコ。

 ミノ助のパンチや、鍛え方によってはスキュラのレーザーが直撃してもまだ死なない、絢爛舞踏と言う人の形をした人でない何かですら、原さんの一撃は確実に仕留めるからなぁ…。

 

 ターバンのガキなら、確定で刺されても死にはしないと思うが。

 足をやられるだけだし。

 ただし同じ場所を、機械のように正確に刺してくるが。

 

 

 注意深く観察してみれば、ドリスさんが何だか不安定になっているようにも思える。

 まさか人間の身で獰猛化はしないだろうが、嫉妬に狂った女に理屈が通じないのもまた事実。

 下手をすると物理法則だって通じるか怪しい。

 

 ベッキーとしても、今まで心労をかけた(ドリスさんはそれが嬉しかったんだが、認めようとしない)ドリスさんを、「はいサヨナラ」みたいに扱うのは気が引ける。

 後輩としては気に入っているらしい。

 

 …対処療法となるが、何でもいいからベッキーがドリスさんを頼るというのはどうだろう。

 夜の遊びが激しすぎて腰が抜けたんで、お世話してください、とか。

 ちなみに俺は仕事で面倒を見られないって設定で。

 

 

 

 …流石にイヤだと拒否された。

 まぁ、情事の後始末を手伝ってくれって言ってるようなものだしな。

 そもそもベッキーの腰が抜けるまでヤったのであれば、俺だって無事に狩りに行けるような体力は残ってないだろうに。

 

 んじゃ、この村に居る間で、ベッキーが悩む事。

 何かある?と本人に聞いてみたら……赤い服が少ない、だそうな。

 相変わらず赤が好きね。

 でもそれってドリスさんにどうにかできる?

 

 んー、そんじゃ他には…というか、大抵の事はベッキーさん自身でどうにかできてしまうんだよな。

 実力も高い、ギルドナイトであるなら権力だってある、本人も正確な額は把握してないそうだが、生活資金に悩まない程度(この場合の生活と言うのは、ハンターとしての道具の強化も含まれる)には懐だって暖かい。

 さっき言ってた赤い服云々だって、適当に素材を集めて加工屋に持ち込んでしまえば解決できてしまう。

 気に入ったデザインになるかは、また別の話だが。

 

 

 一番の悩みどころになりそうなのは…やはりギルドナイト案件の隠蔽か。

 でもそれは現状、俺の役割になってる事だし…別に俺一人に限定する必要もないが、知っている人間が少ないに越した事は無い。

 尤も、俺が隠蔽に協力できるのもあと僅か…もう少ししたら、ベルナ村に戻らなければならない。

 

 と言うか、この件でドリスさんに甘えようとしても、ベッキー=ギルドナイトの事実を隠したままじゃあね。

 知ってしまったら、ドリスさんどうなるかな…。

 今までのベッキーのイメージが総崩れになってしまうのは確かだろう。

 下手をすると、今まで頼られていた、世話していたという認識が全て崩壊し、自分の立ち居地を見失ってしまいかねない。

 

 むぅ…どうしたものか。

 

 

 

ゲーム用PC月夜食と酒で腹を満たそうとすると日

 

 ベッキーに「レズプレイってあり?」と聞いてみたら、「流石に悩む」と返された。

 ここで断固として断ったり、或いは拳が飛んできたりしない辺り、充分毒されているな。

 まー、ポッケ村とユクモ村でヤりまくったアレやコレやに興味を持ってたくらいだし。

 

 …あの頃は、まだベッキーも甘えたがりな本性に気付いていなかったし、欲求を激しさやアブノーマルさで満たそうとしてたからなぁ。

 もしもあの頃にレズプレイを仕込んでおけば、ドリスさんを襲わせるという計画だって立てられただろうに。

 …受付嬢を襲うとか洒落にならんけど、それがドリスさんの為になるとなれば、見逃してくれるんじゃないかね。

 ベッキーだって当人な訳だし。

 

 

 はー、しかし実際どうしたものか。

 最近じゃ獰猛化モンスターを狩るのも日常になってきた。

 狂竜ウィルスのせいなのかはともかくとして、明らかな異常だ。

 ココット村はそこそこ腕のいいハンターが揃っているから問題ないが、他の場所はどうだろうな。

 心配になってきた。

 

 せめてシャガルマガラだけでも始末してしまいたいが、ベッキーは無理、俺も戦えない。

 他のハンターも厳しい…村で頭一つ飛びぬけているのは減るブラザーズの二人だが、それでも足りない。

 

 レジェンドラスタを呼べないか?と思ったが、自由に動けないという点ではギルドナイトと同じだ。

 G級ハンターは数が少ない。

 開拓地の方々は、自分達が生きていくのに精一杯で、他の所を回るような余裕は無い、らしい。

 

 

 どうする…?

 ベッキーと二人で頭を抱えていると、そこをドリスさんに見られてしまった。

 

 「どうかしたのかい?」と落ち着いて(ただし、よくよく観察すれば声が弾んでいる)話の輪に入ってくる。

 ここで秘密と言い切ってしまうのは簡単だが、これ以上ドリスさんに精神的ダメージを与える訳にはいかない。

 

 多分、ドリスさんも自覚はしてないと思うが、「二人で悩んでいる」⇒「つまり先輩達だけでは解決できない」⇒「頼ってもらえるかもしれない」的な思考回路で入ってきたんだろう。

 尤も、「悩んでいる先輩を放っておけば、何をしでかすか分からない」という建前付きでだが。

 

 結局話せたのは、獰猛化現象及び狂竜ウィルスの発生源がココット村近くに居る事、そしてそれを討伐できるだけのハンターは現状居らず、また他所から派遣してもらう事も現状できない、と言う点までだ。

 

 

 それを聞いたドリスさんはと言うと、「先輩にしては真っ当に悩んでいるんですね」という反応だった。

 どーゆー意味だとベッキーさんは怒るが、自覚はしているのか騒ぐだけで治まった。

 自覚と言うか、『真っ当』の定義が酷く違うだけだしな。

 

 とは言え、ドリスさんが入っただけで妙案が浮かぶ筈も無い。

 ああでもない、こうでもない。

 そうやって袋小路で悩んでいる時も、ドリスさんは少し楽しげに見えた。

 

 まぁ……答えの出せない袋小路だと知っていてつき合わせて、時間を無駄にさせてしまったんだし。

 迷惑かけちゃったかな。

 

 そう言ったら「先輩のやらかす事にしては、軽すぎるくらいさ」と返された。

 …自覚しているのか知らないが、やる事なす事の中心にベッキーを置く人だ。

 

 

 

 ま、それは置いといて、結論としては、やっぱり無理、そうでなければ…俺が行くしかない、となった。

 だからそれが出来ないんだって…といいたい所だが、やはりそれしかないかという思いもある。

 『俺がやらなきゃ誰がやる』なんてのは、平時であれば自意識過剰か、単なる意地でしかないんだが、現状ではそうも言っていられない。

 実際、出来るだけの人が見当たらなくて、俺には一つ二つ課題をクリアすれば、多少の希望が見える。

 だったらその課題をどうにかするしかない。

 

 ドリスさんがこうまで俺を推したのは、無謀な狩りに向かわせて抹殺…ではなく、他の村でやってきた実績を知られたからだ。

 アマツマガツチなんてトンデモ古龍を相手に生き残ったんだから、一番可能性があるのは君だろう、と。

 

 それはそうなんだが、どうにも体質だけはなぁ…。

 狂竜化ウィルスを取り込んだら、酷く体調を崩す体質だと伝えた。

 そこだけ聞くと、なんともまぁ都合が悪い…都合がいい?…体質だ。

 実はビビッて逃げようとしているんじゃないか、と思われても仕方ない程度には。

 

 狂竜ウィルスは克服できるものだから、それで何とか…という案も出た。

 また、オトモの技の中にはウィルスをある程度追い払えるようなものもある、というのも。

 しかし俺の場合はウィルスが体に侵入した時点で、体調不良が引き起こされる。 

 克服どころか発祥前に行動不能になってしまうのだ。

 

 せめて、体が慣れるまで安全を確保できるような状況があればいいんだが。

 

 

 

ゲーム用PC月ついつい2本3本と飲んでしまう日

 

 

 ドリスさんが勢い込んで駆け込んできた。

 「あった! あったよ先輩!」と大騒ぎだ。

 

 ちなみに駆け込んできた時、ベッキーはブラを…いや止そう、男がやったならともかく、同性だったし…でもレズっ毛…。

 

 

 とにかく、駆け込んできたドリスさんの手にはなんか妙な結晶が…・・・ががががが

 

 

 

 思い出したらまた気分悪くなってきた。

 

 

 

 

 日記を書くのもしんどくなってきたので、結論だけ先に。

 

 ドリスさんが持って来たのは狂竜結晶と呼ばれる、狂竜ウィルスの結晶だった。

 

 

 

 

ゲーム用PC月ホットミルクじゃ腹は膨れないし日

 

 

 そういやあったね、そんな素材。

 考えてみれば、今まで狩った狂竜ウィルス感染個体の近くにもあったような。

 近寄るだけで気分が悪くなるから、採取もしてなかったし、報酬として渡されそうになっても全部清算してたわ。

 すっかり忘れてた。

 

 

 

 ともあれ、昨日はこれを近づけられるだけで盛大にぶっ倒れてしまった(ドリスさんが目を丸くして、起きた時には申し訳無さそうな顔をしてたよ)が、これを相手に訓練すれば、狂竜ウィルスの耐性ができる…かもしれない。

 神機に食わす…のはアカンな。

 いつぞやの謎のパワーアップ現象からこっち、相変わらず調子がいいのか悪いのかよく分からん状態が続いている。

 

 やっぱり、素の体で慣れるしかない。

 実を言うと、今も訓練の最中だ。

 壁を一枚隔てた場所に狂竜結晶が置かれているのだが、こうしているだけでも割と真面目に気分が悪い。

 そういう体質だって本当だったんだね、とドリスさんが申し訳無さそうにしている。

 

 いや、そんな縮こまられても。

 むしろこっちとしては大助かりなんですが。

 確かにしんどい思いはしてますけど、これは自分の意思でやってる訓練なんだし。

 むしろベッキーと一緒に色々と世話をやいてくれて、本当に助かってます。

 

 

 

 特にここ2時間ほど吐き気がががががががあggggg

 

 

 

 

 

ゲーム用PC月食っても太らない夜食は無いものか日

 

 

 たった1日程度で割りと耐性ができるとか、俺の体ってつくづく分からない。

 まぁモンスターだって、睡眠なり毒なりの異常攻撃に対して、その場で耐性がついていくし、そんなに不思議ではないけどさ。

 

 それより、ドリスさんが妙に好意的なのが気になるんですが。

 元々、突っかかってくるだけで敵意を感じていた訳じゃないんだが、昨日一日を終えた辺りから妙に優しい。

 

 

 …これはアレか、ベッキーさんが甘える俺が、更にドリスさんの世話になるって構図が良かったのか?

 それとも日ノ本に伝わる古き良き(?)伝統のアレをやってみたのが良かったのか。

 

 

「コホンコホン」(←俺)

 

「大丈夫かい? お粥が出来たよ」(←ドリスさん)

 

 

 …ここでシチュエーション的にピンと来たんで、折角だからと言ってみた訳よ。

 

 

「いつもすまないねぇ。 苦労ばかりかけちまって。

 こんな時、お母さんが居てくれたらなぁ」

 

「ははは、先輩に比べればカワイイものさ。 そういう事は言わないのがお約束だよ」

 

 

ガラッ

 

 

「おうおう、いちゃいちゃ手なんか握りおって。

 えれえ、見せ付けてくれるじゃねえかお二人さんよぅ」(乱入者ベッキー)

 

「…先輩、別に手なんか繋いでないじゃないか」

 

「代わりにアーンしてくれると嬉しい」

 

「……あ、あーん」

 

「…私にもあーんしてー!!」

 

 

 

 …途中から微妙に別のシチュエーションが混ざったけど、まぁお約束ではあるから問題ない。

 お呼びでない?でもよかったけど、ベッキーだったら幾らでも呼ぶさね。

 

 まぁ、こんな按配で一日世話されていました。

 流石にトイレとかは自分で行ったけど。

 

 とりあえず、ドリスさんが精神的に安定してくれたようで何よりだ。

 

 というかひょっとしてアレか、ベッキーにもあーんしたのが良かったのか?

 考えてみりゃ、甘える対象が一人でなければいけない理由は無い。

 俺にもドリスにも甘えりゃええねん。

 

 

 

 さて、何とか狂竜結晶を手に持てるくらいには耐性が出来たようだが、これで戦えるかと言われると、疑問を持たざるを得ない。

 この結晶は、狂竜ウィルスの機能を持っていても、おそらくは劣化しきった状態。

 それを何とか手に持てる状態なんだよな…。

 シャガルマガラ本体に近付いた日には、耐性が追いつかなくてまた動けなくなってしまう可能性もある。

 

 だがそんな事は言ってられん。

 不安を言い出したらキリが無いし、一応狂竜化ウィルスに対する目途は立っているんだ。

 流石にいきなり突撃しようとは思わないが、腹は括った。

 いつでも出撃可能だ。

 そこから先はなるようになる。

 

 

 

ゲーム用PC月結局量を食うから意味無いんだけど日

 

 

 狂竜結晶を常に持ち歩き、折角得た耐性が下がらないようにする。

 とは言え、やっぱり時々気持ち悪くはなるんだよな。

 

 村の人からは、「飲みすぎか? それとも搾り取られたか」としか言われなかったが。

 その2択で言えば飲みすぎですな、酒じゃなくて狂竜ウィルスを、だけど。

 

 

 さて、狂竜ウィルスに対する耐性が多少できたとは言え、それでシャガルマガラ討伐が許可される訳ではない。

 ハンターランク足りてないし。

 居場所が禁足地だと思われる為、こちらから出向く事も不可能。

 古代林なんかと違って、普通は近付くような場所でもないし。

 

 霊力使って挑発すれば、出てきてくれるだろうか。

 そういや、ギルドマスターやってたループでは、狙ったように村を襲来してきたな。

 あれは…そうだ、推論でしかないが、狂竜ウィルスに感染したラオシャンロンが目印になったんじゃないか、って事だったな。

 

 もしもそれが当たりなら、その辺で狂竜ウィルスに感染している奴らを相手にしている時、シャガルがすっ飛んできてもおかしくないと思うんだが…。

 聞いたところによると、幼態であるゴア・マガラは目が未発達であり、狂竜ウィルスを宿した個体の熱量を感知していると言う。

 成体してシャガル・マガラになれば、目も見えるようになり、狂竜ウィルス感知機能を使う機会は減る…だろうが、狂竜ウィルスはゴアにとってもシャガルにとっても最大の武器だ。

 それに関する能力を劣化させるとは、考えづらい。

 となると、折角感染させた獲物を放置している事になるが……あまりにも広範囲にウィルスをばら撒いているから、一匹二匹取られた程度では気にしないんだろうか?

 

 

 結局、色々考えてみたが、正直言ってこれ以上はどうしようもない。 

 かくして、ドリスさんが言うようになる訳だ。

 

 

「真っ当に働きたまえ。

 先輩のように段階をすっ飛ばして楽をしようとすると、ロクな事にならないよ」

 

 

 である。

 つまり真面目に仕事してハンターランクをあげろって事だな。

 シャガルマガラに挑むのにはハンターランクが足りない。

 ならば狩りをしてランクを上げればいい。

 成程、これ以上無い程理に適っている話だ。

 緊急事態に対して即効性が無いというのは欠点だが、実際他に出来る事は無いものな。

 

 差し当たり、狂竜ウィルスに感染している個体を優先的に倒して、狂竜結晶を探そう。

 幾つか結晶を持っても体調が悪くならなければ、シャガルマガラとマトモに戦えるという確信になるだろう。

 と言っても、ようやくスタート地点に立っただけなんだけども。

 普通のハンターなら、勝敗はともかく戦う前に勝負が決まる事はないからなぁ…恐怖心で心が折られればともかく。

 

 

 

 

 

 

 

 話は変わるんだが、ここの所完全に存在を忘れ去っていた、のっぺらミタマ達の件なんだが。

 狂竜ウィルスのおかげで魘されながら寝ていた時に、ご丁寧に追い討ちをかけるように夢に出てきやがった。

 しかも、なんか妙に多芸になってるし。

 

 前から組み体操したり空を飛んだりと、見ているだけでイライラしてくるような動作に枚挙が無かったのだが、それに輪をかけて酷くなっていた。

 妙な軌道で前転した後ダッシュしたり、別ののっぺらミタマを踏みつけて大ジャンプしたり、よく分からんけどガッツポーズしていたり。

 

 …昨日は色々な意味で考える余裕がなかったが…あいつらの行動、考えてみればブシドースタイル、エリアルスタイル、それに狩り技か?

 単に俺を煽る為だけの行動だったのか、それともあいつらがスタイル的な何かを覚えたのか。

 行動は鬱陶しいし、普段はそのウザさから極力意識しないようにしているのっぺらミタマ達だが、俺の戦力の中核を成すパーツでもあるんだよな。

 考えてみれば、蝕鬼の触媒を取り込んで、こいつらにどんな影響が出たかも調べていない。

 視界にも意識にもあまり入れたい相手ではないが、しばらくは注意しておくようにしよう。

 

 

 

 



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136話

今月末にはスターオーシャン5発売か…。
体験版でないかな。
そういやナルティメットストームにも興味あったし。
今は進撃の巨人をプレイ中。
うーむ、壁外調査を延々と繰り返さないとストーリーが進まないのは難点かな。
でもそれをしないと、多分ボリューム的に…。

MHXは一時停止状態です。
少なくとも外回りをあと1週させるつもりなので、10話分はありそうだなぁ…。

最近はサシャがお気に入り。
なんかエエわぁこの子。
アホの子っぽい、食いしん坊キャラ、ポニーテール。
割とツボです。
そして何より戦闘中の「かかってこい、アホォ!」の啖呵に惚れました。


 

ゲーム用PC月3月末に実家に帰省予定です日

 

 狂竜結晶を2個入手。

 合計3つ持ち歩いている。

 最初は流石に気分が悪くなったものの、今は何とか持ち直している。

 

 家に居る場合、ベッキーとイチャつく場合は身から離して体を安定させ、ドリスさんが居る場合は…お世話になるって名目の為、ベッドの近くに置いてうんうん魘されています。

 これって仮病かね。

 ドリスさんが嬉しそうだから、問題ないとは思うけど。

 

 

 それはともかく、のっぺらミタマ達の行動を意識しながら狩りをしたところ、予想外の効果がある事が判明した。

 まさかなーとは思ってたんだが、ミタマ達もそれぞれ狩りのスタイルを身につけているようなのだ。

 エリアルスタイル、ブシドースタイル、ストライカースタイルを。

 一体一体がそれしかできないのか、それとも単に別々のスタイルで行動しているだけなのかは、まだ判明していない。

 

 差し当たり今分かっている事は…そうだな、討鬼伝のゲームでもあったように、ミタマの装備は最大で3体までで、その内一体がメインを張る。

 これは俺も同じで、のっぺらミタマそれぞれに攻防迅癒魂隠空賭の8種類の属性を持たせているが、表立って影響が出るのはメインの一体だけだ。

 ちなみにそれぞれに得意な属性があったり、そもそも覚えているスキルが各世界のものだったりと、無個性の代名詞ともいえるノッペラボウにしては、妙に個性があったりするんだが、それは置いといて。

 

 その属性と同じように、メインを張っているのっぺらのスタイルで、俺自身のスタイルがパワーアップしたりするらしい。

 具体的には、俺とのっぺらがブシドーだと、ジャスト回避がしやすくなり、更に回避後のダッシュ距離が伸び…これが一番ありがたいんだが、何とダッシュの途中で軌道変更・再度ジャスト回避が可能となった。

 気付いた時には、我ながらどういう体の使い方してるんだと言いたくなったね。

 色々混ざっている俺のボディでなければ、確実に故障してたぞ………いやこの世界の上位連中なら、どうかわからんが。

 

 他にも、エリアル同士なら人類の夢・二段ジャンプが可能になる。

 ちなみに俺はゴッドイーターとして、バーストモードで何度もやってるからあんまり感動は無かった。

 どっちかと言うと、乗り攻撃している間にも、なんかこう…掴まっていられる感じというか。

 ガンガン殴ってる間に暴れられても、安定していられるんだよね。

 おかげで、腹が膨れてれば乗りバトルにはほぼ勝てるというチート状態。

 

 ストライカー同士なら、ラウンドフォースくらいならほぼ1分単位で打ち放題である。

 いやもう訳が分からんね。

 

 

 

 が、それよりある意味ヤバいのは、別々のスタイルをとっていた場合である。

 

 例えばエリアルスタイルをとっていた場合、前転は最大の武器を繰り出すための動作であるが、逆に最大の隙でもある。

 前転を細かく分割すれば、『前転』⇒『遠心力を上手く使ったジャンプ』⇒『着地』となる。

 上手くやればディノバルドの大回転切りだって踏みつけジャンプで回避できるが、その為に必要な予備動作『前転』『着地』は…つまりは「攻撃できない」「回避もできない」致命的な隙が、行動の前後に生まれる。

 実際、ベルナ村で各種スタイルを身につけ、エリアルスタイルを試そうとしたハンター達が最も苦労する点である。

 間合いを見切り損なって踏みつけ跳躍できず、その後の硬直時間に反撃を受ける。

 確実に跳躍できる距離まで踏み込んで前転したと思ったら、出の早い攻撃で逆撃を受ける。

 

 ブシドースタイルなら、単純なジャスト回避の失敗の一言で理解できるだろう。

 

 

 が、俺とメインのっぺらがブシドー・エリアルスタイルとなっていた場合、これが無くなる。

 前転の始まりと着地の際に攻撃を受ければ、一足飛びに回避…つまりジャスト回避からの反撃。

 ジャンプ中に物理攻撃を受ければ、それを足場として跳躍、そのまま乗り攻撃。

 どちらにも攻撃を受けなければ、すぐに体勢を戻して次の行動が可能。

 

 

 更に、どちらかがストライカースタイルであるなら、跳躍・或いはジャスト回避からの狩り技が劇的に効果が跳ね上がる。

 ちなみに狩り技は三つ装備可能。

 

 

 ジャスト回避からの桜花気円斬なら気が一気に全開(赤ゲージ)になったし、跳躍からの震怒竜怨恨斬なんぞ威力もそうだが、その出の早さが半端ない。

 それこそエリアル大剣の空中溜め切り並みの速さだった。

 ジャンプ⇒着地の時間で出せる震怒竜怨斬だぜ?

 受けたダメージを上乗せする事はできないけど、洒落になんねぇよ…。

 

 不死鳥の息吹とかも使ってみたんだが、強力すぎて食事スキルとかも消えるレベルだった…こりゃ攻撃専用だな。

 

 だが使いこなせれば、戦力が劇的に跳ね上がる。

 それこそ、開拓地に行っても一線でやって…・・・やって・・・・・・・

 

 

 

 

 フレーム回避できなきゃタヒねとか無理ゲーやん…そりゃブシドースタイルで多少はカバーできっけどさ…

 

 

 

 しかし、相変わらずのっぺらトリオはワケの分からない連中だ。

 今分かっているのは、どうもインターネットを通じて集まった、ゲームその他のアカウントの集合体であり、ある意味では俺の一部であるという事実くらい。

 一体どうして、こんな風に幾多のスキルを身につけ、そしてダイレクトに俺に影響できるのか。

 俺への影響については、俺自身も同類という事である程度納得できなくはないんだがなぁ…。

 

 

 

 

 

ゲーム用PC月MHXを続けるか、オーディンスフィアに走るか検討中日

 

 

 久しぶりに真面目にお仕事お仕事。

 いや、面白半分で狩りやった事なんかないんだけどね、テンションに任せてやった事ならともかく。

 

 まー新たに判明したのっぺら連中の性能テストも兼ねてやってたんだが…うーむ、獰猛化モンスターでも軽い軽い。

 俺の地力はともかく、スペックは一気に上昇してしまったようだ。

 とは言え、そういう風に強くなったのなら、弱点の大きさもまた跳ね上がる。

 脇を締めていかねばならんね、ワキを。

 

 

 つい先日、ベッキーのみならずドリスのワキも堪能した訳ですが。

 

 

 

 

 いやね、あんまり甘やかしてくれるもんだからつい……狂竜結晶の影響で寝る前に気分悪くなっちゃったんだけどさ、その時に膝枕してくれたのよ。

 ……で、どうせだからって…気分が悪すぎて判断基準が狂ったというか、むしろ正確になったと言うべきなんだろうか…。

 

 その、冗談で授乳プレイとか言ってみたらさ、OKされちゃって。

 その流れでついつい、ベッキーとのイチャイチャとは別にこっちが甘えるみたいにね…。

 ほら、ワンコとかネコとか、脇に顔突っ込んできたりしない?

 昔知人が飼ってたワンコは、撫でろと言わんばかりに自分から腕の下に入り込んでたりしたのを見たけどな。

 アレと同じノリで。

 

 初日は最後までではなく手まで。

 ただし乳首はチュウチュウしました。

 なんちゅうか、オカルト版真言立川流も使ってない段階だったのに、物凄く恍惚とした顔してた。

 なんかハマっちゃったっぽい。

 

 んで、オパーイこと乳は出ても、文字通りの乳…母乳は出ないだろ?

 本当に出たらどんなに幸福かって想像しちゃったっぽい。

 で、その状況で、誘ってOKが出そうで、尚且つドリスさんが気を許している相手って言ったら…俺しか居ない訳で。

 

 気分が悪いせいにしながら、赤ちゃん言葉で吸い付いてみたらエライ事になった。

 膝枕されている状態で潮吹かれるとは…。

 いやぁ、オカルト版真言立川流しないエロは久しぶりだったなぁ。

 これはこれでイイもんだ。

 勿論、美女を俺の指先やナニの動き一つでアヒンアヒンヒィヒィと喘がせるのに飽きる訳じゃないがね。

 

 

 

 

 

 話を戻す。

 

 やはりと言うべきか、新たな技術を使っての狩りは、体に負担が大きいらしい。

 ハンターの中でも色々規格外な俺でさえ、翌日には体に痛みが走るし、一日に何度も狩りをする気分にはなれない。

 単純に、体よりも精神が慣れてないんだろうな。

 特に、ブシドー×エリアルのスタイルが。

 

 どちらか一つのスタイルに集中していればいいんだが、俺がイメージする動きと、モンスターの動きと、そして体の反射的な行動が食い違っている。

 簡単に言えば、乗り攻撃するつもりで前転したはいいが、距離が届かず反撃を受け、ジャスト回避になってしまった…と言う時、俺の認識では跳躍準備・反撃を受けている、なのに実際の体は反撃の為に走っている…。

 心と体がバラバラで、無駄が多すぎるんだ。

 こりゃ、ハンター秘伝の肉体操作法の精度を更に高めなければいけないな。

 それこそ、反射的にした行動でさえ、一切の無駄が出ないくらいに。

 

 習熟訓練も兼ねて狩りをするが、体が慣れるまでペースが落ちるのだけはどうしようもない。

 その分ハンターランクが上がるのも遅くなり、狂竜ウィルスの脅威も放置されるが…。

 

 …そういや昔、ペース云々を無視して延々と狩りをして、コウタやアリサの心を圧し折った事があったっけなぁ…。

 当時の二人か俺自身が今の俺を見たら、何自分だけ悠長な事やってんだって激怒されそうだ。

 

 だが休むが。

 休んでイチャイチャするが。

 

 

 

 

ゲーム用PC月オーディスフィアは評判いいみたいなんだけど日

 

 ドリスが俺とベッキーを見る目が、甘えん坊の子供を見る目になってるナリィ…。

 こんなデカい子供は…いや世界によっては居るかもしれんが。

 乳に吸い付くところを鑑みるに、子供っつうよりハイハイしはじめた赤ん坊かな?

 

 ちなみに赤ん坊は二人居る。

 

 というか、これって擬似近親…いやいやいや、言葉にすまい。

 単なるプレイだプレイ。

 

 

 

 ココット村に留まれる時間も、残り少なくなってきた。

 このままだと、シャガルマガラに挑めるだけのハンターランクに到達する事はできそうにない。

 のっぺらミタマ達のスタイルから意識を外し、従来のペースで狩りを続けても、だ。

 

 どうしたもんか…。

 相変わらずベッキーもレジェンドラスタもG級も動けない。

 俺がペナルティ覚悟で突撃するか?と思い始めた頃、村長から待ったをかけられた。

 

 むぅ、流石始まりのハンター。

 俺の焦りもお見通しか。

 

 

 そして既に村長は、対策を打っていた。

 おお…そんな方法が。

 予想外だった。

 亀の甲より年の功だね。

 ベッキーもビックリ。

 

 

 

 村長の対策というのは、『村にハンターを集める事』だった。

 一人じゃシャガルマガラに襲われた時に対抗できないから、数を集めようって訳ね。

 狩猟するなら4人が基本的な最大人数だが、それも場合によっては…例えば向こうから襲い掛かってきた時には仕方ない。

 

 

 最近の獰猛化現象や狂竜化により、モンスター達自身も強くなり、それに伴って素材の価値や効果等が跳ね上がっているのだ。

 例えば市場に流れるイャンクック先生の素材だが、牙一つとっても獰猛化した素材は非常に鋭く強靭。

 これを素材に武器を作れば、同じ剣でも全く違う強さの剣が出来上がる。

 

 勿論、その素材を手に入れるまでの難易度も桁外れなんだが…。

 村長は、この獰猛化した素材をウリにして、ハンターをココット村に集めようとしているのだ。

 

 新しい武器、新しい素材、新しいモンスター、新しい現象。

 これほどハンターの心を擽るものはない。

 堅実なハンターだって居るが、そいつらだって程度の差はあれ強い好奇心は持っている。

 

 ことに、先ほどの先生を例に出せば、ある程度腕の立つ奴らから見れば、先生討伐は然程難しい事ではない。

 獰猛化していると聞いても、「所詮はイャンクック」と考えてしまう者も多いだろう。

 そういう者達から見れば、獰猛化モンスターは美味しい相手にしか見えないだろう。

 

 実際は、下位から上位、上位からG級へ上がった直後くらいのつもりでいかないといけないが。

 油断してるとポックリ逝ってしまうだろう。

 その辺は、ココット村に以前から滞在しているハンター達と同行させてフォローするつもりのようだ。

 

 

 シャガルマガラ相手に充分なハンターが集まるかは分からないが、中には腕利きだって居るだろう。

 加えて、ココット村の宣伝にもなる。

 一石二鳥とはこの事よ、と高笑いしてたが…作戦は素晴らしいと思うが、そーいう態度辞めろよ、フラグに思えてくるだろ。

 

 

 

 

ゲーム用PC月PS4でやるゲームかな…とも思う日

 

 

 今更なんだが、ベッキーとドリスはいつまでココット村に居られるんだ?

 ドリスは…有給も溜まっているので、俺が村から去るまで、或いはベッキーがミナガルデに帰るまでは居るつもりらしい。

 ではそのベッキーはと言うと…経過はどうあれ、既にココット村のルームサービス(対象限定で性的なもの含む)として就職してしまっているので、当分ミナガルデに戻るつもりはない…というのが建前。

 実際は、ギルドからの指令で、『ギルドナイトはどこに居てもいいが、指示があるまで移動を禁ずる』と言われてしまったらしい。

 例の、シャガルマガラを放置してでも備えなければならない『何か』対策の為か。

 

 更に、これは確定情報ではないのだが、ギルドナイト・レジェンドラスタだけでなく、一部のG級ハンターの移動さえも、一時的に禁じようとしている動きがあるらしい。

 あくまでまだ未確定だが。

 

 うーむ…微妙に胡散臭く思っていたが、ギルドナイトの移動さえ禁止する程に切羽詰っているのか。

 信憑性を帯びてきたな。 

 

 ともあれ、ベッキーは当分ココット村に居る事になりそうだ。

 …最悪、シャガルマガラが村に襲撃をかけてきても、何とかなりそうではあるな。

 

 

 ちなみに、村長がやっているハンター集めはそこそこ順調らしい。

 …タチの悪いハンターが居たら、ベッキーが闇系するんじゃなかろうか?

 ………それも狙いか。

 悪貨は良貨を駆逐すると言うが、タチの悪いハンターってのは始末に負えんからなぁ…。

 腕が悪いだけならまだしも、詐欺染みた行為をする奴だって居る。

 名門と呼ばれる訓練所卒業生なら、洗脳染みたレベルでその手の行為をしないように刷り込まれているんだが、全部の訓練所がそうな訳じゃないし。

 

 そういや、今まで俺ってそういう連中と遭遇した事無いな。

 話には聞いた事あるんだけどな。

 狩りの報酬を独り占めしようとするとか、或いは討伐には殆ど参加せずに分け前だけ持っていこうとする、所謂寄生・タカリとか。

 …ボッチだからか、色事の相手は沢山居たけど。

 

 

 

 村長と相談して、更に対策を追加してみてはどうか、と持ちかけてみた。

 ココット村に、バリスタなどの兵器を取り付けるのだ。

 前にギルドマスター(お飾り)やってた頃の経験でもあるが、モンスターが村へ襲撃してくるのは、決して珍しい事ではない。

 そんな時の為に、柵を造り、堀を造り、色々な手段で防衛策を練っていた。

 最も、小型モンスターや妙なゾンビ達相手ならともかく、襲ってきたシャガルマガラ相手では全く意味が無かったが。

 

 とは言え、バリスタはデカブツ古龍にだって効くくらいだし、シャガルマガラにも有効の筈。

 運用に金はかかるかもしれないが、あって損は無いだろう。

 ハンターが多く集まる村になるのだから、使い手が居ないって事も無い筈だ。

 

 ただ、やっぱり管理は厳重にしないとなぁ…。

 暴発して誰かに直撃とか洒落にならん。

 

 

 

 その他は、いつも通りに狩りを続けていた。

 やっぱり、出発までにシャガルマガラ討伐可能なハンターランクに到達するのは難しい。

 任せるしかないんだろうか・・・。

 

 

 

ゲーム用PC月2次元アクションを否定する気はありませんが日

 

 

 とうとうタイムアップ。

 シャガルマガラの討伐ならず、だ。

 狂竜結晶を幾つか拾い集めて、大分耐性もついてきたっぽいのに…。

 

 最近は昼間の『遊び』は控えて、結構真面目に狩りをしてたのになぁ。

 日頃の行いが返ってきた、と思うべきなんだろうか。

 今までイチャついてた時間を狩りに当ててれば、目標ハンターランクに到達できていた筈。

 

 

 しかし、文句言っても仕方ない。

 ルールはルール。

 ヘタな事をしてしまえば、ベッキーが心を鬼にして俺を狩るような事態になってしまう。

 そんな欝ルート御免蒙る。

 

 この後、ベッキーとドリスがどうなるかも心配だが…まぁ、大丈夫か。

 母子プレイは男が居なくても出来るし。

 言うまでもないがドリスが母親役だ。

 

 

 幸いと言うべきか、狂竜結晶はギルドに提出せずに持っていていいらしい。

 モノが割りと危険物なんで、清算アイテム扱いにしようという話も進んでいるようだが、施行はまだである。

 狂竜結晶が無くなると、徐々に耐性が消えていく可能性も考えられる。

 なるべく手元に置いておくとしよう。

 逆に狂竜ウィルス中毒にならない程度にね。

 

 

 

 昨晩は、暫く会えなくなるって事で、3人ともとにかく甘々というか、甘えたというか甘えられたというか…正気に戻れば、サッカリンよりも甘い夜だったと思う。

 激しさとかより、精神的な充足感を追求した感じだったな。

 …知られたら死にたくなるような内容だってあったけどさ。

 まさかドリスが本気でオムツとかガラガラとかおしゃぶりとか買って来るとは思ってなかった…まぁ、本人に先に使わせたけど。 

 

 

 さて、別れの挨拶もそこそこに…だって長引かせると、ベッキーがマジ泣きしそうだったから…俺はココット村を出発した。

 何人かまた見送りに来てくれたのが嬉しかったな。

 今度こそ飛行船に乗る許可を取ってきてくれ、という減るブラザーズ。

 正宗の様子を気にかけ、土産もくれた村長。

 偶にはマカ錬金の壷も利用してください、という14代目…すまん、すっかり忘れていた。

 ちゅーか、言っちゃなんだがあまり実用性ハイなんでもないです泣かない泣かない。

 

 

 ま、そんな感じでベルナ村に向けて出発した俺だった。

 飛行船で飛んでいる時、禁足地と思われる場所を遠目に見ていたが……さすがに何も見えない。

 雲…いや、霧?がかかっているようだ。

 

 高さが高さだし、雲がかるのは不思議な事ではないが…いや、そもそもシャガルマガラに霧を操るような能力なんてあるのか?

 まさか、狂竜ウィルスの濃度が異常に濃くなって霧に見える、なんて……もしそうだったら、俺が身につけた程度の耐性なんて、無いに等しいだろう。

 更に言うなら、そのような濃度のウィルス…リンプンを振り撒く事事態が異常である。

 

 まさかシャガルマガラも獰猛化してんじゃなかろうな…或いは自分の狂竜ウィルスで自分が感染したりとか?

 有りそうなのが非常にイヤな所だ。

 これは…無責任な事を言うようだが、討伐可能にならなくて助かったかもしれないな。

 全ては推測だが。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えながら飛行船を飛ばし、ベルナ村まであと2時間くらいになった時に気が付いた。

 

 

 

 よくよく考えてみれば、禁足地に居るのがシャガルマガラであるとは確認できていなかった。

 狂竜ウィルスの発生地点である、としかされていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 つまり、あそこに居るのはゴアマガラだと主張しておけば、クエスト受付は充分可能だったんじゃなかろうか?

 

 

 

 

 …まぁ、今更か。

 

 

 

 

ゲーム用PC月値段に見合うかは微妙…日

 

 

 さて、色々あってベルナ村に帰っていく訳だが、エラい目にあった。

 というか会っている。

 

 というのも、昨日の最後に浮かんだ考えを、器用にも飛行船の上で日記にスラスラと書き綴った直後くらいの事である。

 ものスゲー悪寒がした。

 咄嗟に飛行船を傾けた。

 あまりにも慌てていたんで、ほぼ墜落確定なくらいに体勢が崩れたんだが、結果的には正解だったようだ。

 

 すぐ隣を、スターライトブレイカー…いや、ジェノサイドブレイバーかと思うようなごん太の赤い光線が走り抜けていった。

 掠った訳でもないのに、飛行船の部品が幾つかオシャカになり、吹っ飛んでいったよ。

 

 

 

 そこから無事、不時着できたのは幸運以外の何者でもなかっただろう。

 

 …ただ、我ながらどうしてさっきの光線の発射地点近くに下りてしまったのやら。

 まぁ、それも多分首謀者の狙い通り、計算ずくではあったんだろう。

 でなければ、遥か遠い空を飛んでいるモノを撃墜して、何の意味があるだろうか。

 首謀者…まず間違いなくモンスター…の大雑把な行動原理は三つ。

 増える事、縄張りを維持する事、そして食う事。

 

 光線の発射地点は、俺が不時着した場所よりも更に深い穴の中。

 どんなバケモノか知らないが、空が縄張りという事はないだろう。

 

 飛行船を撃墜しても、繁殖に繋がるとは思えない。

 

 という事は、狙いは俺を食う事だ。

 遠い場所で俺を叩き落して、その後この場所に辿り着くまで計算していたんだろう。

 …飛行船を相手にそれが出来る程、何度も繰り返している…つまり、ベルナ村付近の飛行船撃墜の主犯である可能性が高い訳だ。

 

 

 確か…集会所で研究員が言ってた、発見された場所か。

 竜ノ墓場、と名付けられていた。

 

 …ここに、双頭の竜が居た、って言ってたよな…。

 さっきの光線の首謀者だとしたら、まず間違いなく古龍の類だろう。

 つまり、前準備無し、事前情報もほぼ無しの状態で、古龍と真っ向勝負せにゃならんのか…。

 

 

 飛行船を飛ばして逃げたいところだが、思ったよりダメージは大きい。

 この分だと、フラフラしながら飛ばす…というより滑空するのが精一杯だ。

 ベルナ村まで辿り着けるか怪しいし、何より今度空中で狙い打たれたら、絶対に避けられない。

 

 修理するにも素材が足りん。

 つまりは、この辺一帯を探して使えそうなモノを探さなきゃならんという事だ。

 

 下降りたら絶対襲われるよな…。

 でもこの辺には使えそうなモノは何も無い。

 

 やれやれ、えらい不運と言うべきなのか、それとも定められていた事なのか。

 元々、飛行船の撃墜現象の囮も兼ねての外回り、って事だったからな。

 いつこうなっても、おかしくなかったのかもしれない。

 

 

 ま、ここは前向きに考えるとしましょうか。

 ここで首謀者を討ち取れれば…或いは討ち取れなくても情報を持ち帰れれば、ベルナ村近辺の飛行船の安全は確保できるんだ、と。

 

 

 そうと決まれば、準備だ準備。

 大した物資は無いが、戦力分析は多少でも出来る。

 

 

 まずは先ほどの赤いビーム。

 A.BEEさんも満足しそうなくらいにごん太だったが、流石に連射は効かないと思う。

 遠距離の獲物を仕留める為のものだと考えれば、精密性は高いだろうし、放ってから多少の操作はできるかもしれないが。

 …いや、油断は禁物だ。

 もしも目的の古龍に、外付けの『何か』……例えばエネルギーパック的なもの……がついていたら、それを使い捨てにして連射も可能かもしれない。

 要観察。

 

 

 以前に聞いた「双頭の竜」という点は?

 その時、俺は腕か何かを擬態させた、一体の生物ではないか、と考えた。

 …さっきのごん太ビームも、その裏付けになるかもしれない。

 

 例えばあのビームを竜の口から吐き出されるブレスだとして、アレほどの大きさの光線を放つとすれば、どれ程の発射口…文字通り竜の口の大きさになるだろうか。

 ラオシャンロン級の大きさで、ようやく放てるくらいだろう。

 もしも双頭の竜とやらの大きさが、相応のモノでなかった場合、発射口は竜の口ではない別の場所。

 急所があるとすれば、その辺りか。

 

 

 竜ノ墓場という場所に住んでいる事事態も見逃せない。

 この場所に適応したから住んでいるのか、或いは出て行けないからここに馴染むしかなかったのかは知らないが。

 竜の骨だらけと聞いたこの場所で、獲物を捕らえ喰らう為に、何らかの知恵をつけている事だろう。

 それが双頭の竜に化けるという擬態なのか、或いはもっと別の何かなのかは分からないが。

 

 

 

 さて、戦術分析もこれくらいか。

 時間は敵の味方だ。

 あまりマゴついていると、空腹のあまり戦う気力さえなくなってしまいそうだ。

 助けが来るのは、あまり期待できない。

 竜ノ墓場は危険すぎて調査が殆ど進んでない状態の筈だし、二次遭難の可能性が高い為、救出隊は組めないだろう。

 龍暦院の決定に背いてでも助けに来てくれそうなのは……JUNくらいかな。

 でもJUNじゃ下の古龍との戦いに巻き込まれたら死ぬな。

 

 

 

 ま、グダグダ言うのはこれくらいにして…そろそろ行きますかね。

 

 

 

 

 

 




リアルで2度も50分以上かけて3乙させてくれやがったあのヤロウには、なるべく残酷な死をプレゼントしてやりたいところである。


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137話

スランプ、と言うか気力消失中?
モンハンにせよ進撃にせよ執筆にせよ、中途半場にエネルギーが尽きてどーにものめり込めません。
うーむ、ここまできてエターは避けたい。
現状、4~5話分はストックがあって、ノロノロと進んでいますが…そろそろデスワープを考えるべきか。

自画自賛になりますが、デスワープは割りといい塩梅のシステムではなかったかと思います。
展開に詰まったら、殆どの展開をリセットして再度書きなおせる。
そして次に始まるまでに、新しい展開を考えればいい。
…そんな甘えた見識だから、こんな風に詰まってるんですが。



ところで、討鬼伝2の情報が出ていますよね?
新しい攻撃方法とか色々興味がありますが、悩んでいる事が一つ。

新しい舞台は、マホロバの里って所なんですよ。


……ウタカタと響きが似てるからって、登場させちゃってるんですよ。
どうしよう。


ゲーム用PC月二日酔いで頭イテェ日

 

 

 

 

 

 し  ぶ   と     い   !!!!!

 

 

 やっぱ古龍クラスだったか。

 動きは鈍くて割と単純なんだが、頑丈すぎる。

 夜が明けちゃったよ…ほぼ一晩中戦ってた事になるな。

 

 というより、急所を徹底的に隠しやがって面倒クセェ。

 メッチャ時間がかかったが、イカ刺しみたいにしてやった。

 …スゲェ腹減ってるし、焼いて食ってみようかと本気で思った。

 ああ、ふくろ に入れておいたマズい携帯食料に感謝である。

 

 

 

 まぁ、戦ってみれば「ああ成程」と思う相手ではあったな。

 特にあの粘着液。

 固形物…骨が多く散らばっているこの場所では、自分でコントロールできるのならこれ以上無い程便利なものだろう。

 敵に投げつけて骨を付随させ、機動力を奪う事が出来る。

 それ以上に、自分の体中に何重にも骨を付着させ、手軽に鎧とする事もできる。

 事に、竜種の骨はとにかく頑丈だ…それこそ、ヘタな金属よりもずっと。

 殴りつける為の武器にするのも、体を覆う鎧とするのも理想的だろう。

 

 

 そして、結局あいつは双頭の竜などではなく、予想した通りに体一つ、腕が二つのモンスターだった。

 ちょっと思ってたのとは違うが。

 俺はこう…デカい体兼顔に、触手が二本ついているのを想像して……いやそれも間違っちゃいないんだが、アレだ、頭を後ろにして行動してるというのは予想外だったわ。

 

 ただなぁ…大型の古龍種としては、言っちゃ何だが…あんまり強くない。

 ただ只管にしぶといだけで。

 そりゃ、徹底的に守りを固めると言う戦略はアリだ。

 最後の方にブッパしてきたあの赤いビームも脅威と言えば脅威…まさかなぎ払ってくるとは思わなかった…だが、避けるのはそう難しくない。

 …もし、あの粘着液が、こっちの足と地面を縫いとめて動けなくするようなモノだったら、一撃死技の厄介なコンボができあがっていただろうが………足止め…バインド……ごん太ビーム…うっ、頭が…。

 

 

 

 どうも、基本的に敵を自分の巣に引きずりこんで、そこで仕留めるという生態のようだった。

 そして、自分のテリトリーの中で、双頭の竜…に見せかけた腕を本体と思い込ませ、戦って相手を弱らせる。

 腕だけならそこまで強くないから、獲物も逆に勝てると思い込み、体力はじわじわと削られていくって訳だ。

 

 だから素早く動く必要はない。

 むしろ、自分の正体を知られない為、動かない方がいいくらいだったんだろう。

 

 

 

 ま、そーいう戦術、俺には中々効き辛いんだけどね。

 何でかって?

 そりゃアンタ、霊力のおかげですよ。

 もっと言えば、ミタマスタイル「魂」のおかげですよ。

 

 攻撃した場所の破敵ノ法とかスゲェ効果覿面だった。

 アレ、目印さえつける事ができれば、その場所にほぼ直接攻撃が可能になるんだぞ? 

 

 急所っぽい場所はタカの目やら鬼ノ目やらで一目瞭然。

 地面に潜っている間も、どこに居るのかすぐ分かる。

 初見からして、霊力の流れやら何やらで正体もほぼ看破できた。

 

 そうなると、正面斬っての戦闘力は、然程脅威でもなかったよ。

 相手を上手く騙せれば、狩りの成功率はかなり高かっただろうが…。

 

 にしても、最後はちょっと慌てたな。

 ごん太ビームを連発してきやがって…。

 おまけに、最後は撃とうとしている直前にトドメをさしたからか、溜まってたエネルギーが暴発しやがって…崩落で埋まるかと思ったじゃないか。

 

 

 とにかく、コイツの厄介なところは、タフさと無限の鎧、そして一撃必殺ビーム。

 それさえどうにかできれば、そう難しくは無い。

 ゲームと違って、タイムリミットがある訳でもなし。

 実際の狩りだって、あまり長時間狩場に居続けるのは褒められたもんじゃないが、今回に限っては完全に襲われた側である。

 クエストの縛りなんかありゃしない。

 

 となると、後は長期戦による集中力の欠如、うっかりさえ無ければ…な。

 

 

 

 

 まー何はともあれ、あのデカブツが死んだ事は念入りに確かめた。

 実はゲリョスみたいに死んだフリしてて、飛行船で飛び立ったら後ろからドン、って事も無い。

 ここに居るモンスターも、こいつ一匹だけだった。

 

 後は飛行船を修理して帰るだけ。

 念の為、その間にも背後と足元は警戒しておくけどな。

 

 

 

 

ゲーム用PC月肩が痛かったけど暖めたら治るカンジ日

 

 

 幽霊を見るような目で見られました。

 いや、分かるけどね。

 飛行船撃墜されてるのに、平然と帰ってくるとかさ。

 何とか調査隊救出隊を送り込めないか、とアレコレ案を出し合っていたと言うのに、当の本人が平然としている。

 

 まぁ、その飛行船は思っていた以上にダメージを受けていた上、応急処置して無理して飛んだもんで、本格的に作り直した方が早い状態になってしまったが。

 

 で、そこへ来て飛行船撃墜現象の原因だった古龍っぽいのを退治しました、なんて話しになったもんだから、もう大騒ぎになっている。

 『やっぱりやらかしやがった!』ってどういう意味すか。

 …ああうん、行く先行く先で古龍級と遭遇しまくってたから、ベルナ村でも…って話ね。

 うん、否定できんw

 

 とりあえず、竜ノ墓場には大急ぎで調査隊が向かったようだ。

 最低限、俺が倒したデカブツ…オストガロアと名付けられた古龍を確認したいらしい。

 

 その後、夕刻くらいに最低限の報告が飛んできたんだが、オストガロアの死骸を無事確認できたそうだ。

 俺がつけた傷以外は目だった損傷も無かったらしく、サンプルという意味でも龍暦院が大興奮しているそうな。

 

 それに、死体に損傷が無かったという事は、恐らく竜ノ墓場にはアイツ以外のモンスターはほぼ居ないのだろう。

 死を迎える飛竜が飛んでくるかもしれないが。

 これまで危険すぎて踏み込めなかった領域まで進む事も検討されているらしい。

 

 

 

 

 まー龍暦院のアレコレは置いといて。

 ぶっちゃけ、狩った後のモンスターなんて素材以外には興味ないし。

 いや、ムナクソ悪くなる使い方をされてるなら、さすがに一言物申すけども。

 

 とにかく、村に戻ってからの話だ。

 飛行船撃墜の件に関しては、村の人達も知っていたらしく(多分、撃墜される所を誰かが目撃したんだろう)、よく無事で帰ってきたなと迎えられた。

 正宗は「死んだとは思ってニャかったけど、平然としてるのもどうかと思うニャ」なんて言ってた。

 まぁ、ツンデレ風に心配してくれたと思っておこう。 

 

 

 で、一番騒ぎそうなJUNなんだが…まぁ、無事だった事を喜んではくれたんだ。

 一目見るなり、飛びついてきた「よ”が”っ”だ”ぁ”~~!」って涙ながらに喜んでくれたし。

 ただ、その後がね…。

 いつものJUNなら、何だかんだでそのまま抱きついたままでいようとするか、ふっと我に返ってパッと離れようとする…と思う。

 が、今回のJUNは少しズビズビと鼻の音を鳴らして、普通に離れたんよ。

 

 …?

 別に問題はないんだが、なんかいつものイメージと違うな…と思ってたら、帰り道でふと聞かれた。

 

 

「外回り先で、色々な人と仲良くなったって本当?」と。

 

 

 ああ、まぁそりゃ仲良くなりましたよ。

 色んな意味で。

 現地妻に限らず(←この辺は言葉にしてないよ)、色々な人と意気投合したり、逆に嫌いあったりもしたけど。

 

 

 そしたら

 

 

「男としてどうかと思うよ…」

 

 

 って物凄いジト目を貰った。

 ちょっと距離が離れた気がした。

 

 …どーも外回り先で現地妻何人も作った事に対して言ってるっぽいが、何故に知っている?

 というか、女装が悪いとは言わんが、男としてどうかとはJUNに対しても言えると思う。

 そもそも女性を好きになるのか、男性しか好きにならないのか、未だに分からん奴である。

 

 

 …ただ、どーも俺に対する慕情は消えたっぽいなぁ。

 去り際に、ベシッと手紙の束(未開封)を思いっきり俺の顔面に叩き付けて行った。

 

 

「ハンターとしては尊敬するけど、彼氏にはしたくないタイプだね。

 何でこんなにモテるんだろ…」

 

 

 とブツブツ言いながら(ちょっと肩を落として)歩いていってしまった。

 …要するに、この手紙…シャーリー、フラウさん、フローラさん、コノハ、ササユ…ひょっとしたら明日くらいには、ベッキーとドリスも増えるかもしれない…を元にして、俺の女事情を察した訳か。

 外回りしている間でも、手紙はベルナ村にしか届かないからなぁ……下手に外回り先を宛先にすると、入れ違いで届かなくなる可能性もあるし。

 こっちから送るのは問題ないんだが。

 

 それにしても、随分溜まったもんだ。

 返事できない、帰るまでは読む事もできないって知ってる筈なのに、よく何通も書けるものだ。

 

 中身こそ見られてないが、浮気者の携帯電話のメールを覗き込んだ気分なのかな。

 

 イメージが崩れたとか、そんな感じなのかな。

 …まぁ、ハンターとしては尊敬するって言ってたし、迫られる事(酒入り)も無くなったと思うし、結果的には良かったのかな。

 

 

 

PC用ゲーム月肩の下に湯たんぽだと寝にくい日

 

 

 予想通り、ベッキーとドリスからの手紙が来た。

 返信するのも大変だが、無視するようじゃ信義に悖る。

 飛行船が撃墜されたという報を聞いているかもしれないし、無事だと伝えておかないとな。

 

 

 JUNとはそこそこの距離を置いて、まぁいい友人?先輩?としての関係に落ち着いたと思う。

 一緒に正宗の訓練を見に行ったりもしているが…その前に、JUNの狩りはどうなっているんだ?

 と思ったら、何とか課題だった感覚もモノにし、ハンターとしての仕事を本格的に再開しているらしい。

 強化が途切れなくなった事で手数も増え、順調に大型との戦いもこなしていっているとか。

 ほうほう、大したもんだ。

 まぁ村のクエストだから基本はソロでの活動になるか、手伝いが必要なら言ってくれ。

 

 

 次に正宗の訓練なんだが、相変わらずエリアルスタイル(ライダースタイル?)に磨きがかかっていた。

 最近では、敵の攻撃を瞬時に地面に潜って回避し、後ろに回って一気に背中に駆け上がるという芸当まで覚えたそうだ。

 中々興味深い…。

 最近では遅れがちだった座学…調合などの勉強もイヤイヤながら進めているらしく、それが終われば卒業までは実地訓練のみになるらしい。

 

 

 …という事は、霊力の扱いを教える時間が無いではないか。

 瞑想とかはチョコチョコやってたらしく、霊力の量自体は悪くないが…どうするかな。

 霊力関係はあんまり真面目にやりそうにないし、諦めるか?

 

 …いやいや待て待て、一つ妙案が浮かんだ。

 そもそもだな、霊力関係の練習をあまり真面目にやりそうにないのは、胡散臭い…言い換えれば効果があるのか分からない、と思っているからだ。

 そしてその状態で練習しても、マイナス方面のイメージに霊力が引っ張られ、更に訓練効率が落ちる悪循環。

 効果がある、やれる、やってやる!と思わせればいい。

 

 幸いな事に、それに適したエサが一つある。

 

 

 狩り技だ。

 見た目は派手で効果も高く、派手好き、見栄えがいい物が好きな正宗としては、是非とも使いたい技だろう。

 

 

 だが専用の技がない。

 まだまだ発展途上の技術という事もあり、人間用の狩り技しか開発されていないのだ。

 よし、ここは一丁、知恵を絞ってみるか。

 

 ニャンターの武器…正宗が主に使うのは、剥ぎ取りナイフの剣。

 爆弾に笛、罠。

 ブーメランはあまり得意ではない。

 

 この中で霊力を比較的簡単に応用できそうなのは…やはり剣と笛か。

 さて、どんな技にするかね。

 差し当たり、正宗には「霊力の練習をちゃんとやってれば、専用の狩り技を作ってやる」って言っておいた。

 メッチャ張り切ってた。

 

 

 

 追記

 

 龍暦院前の集会所に顔を出したら、なんか妙に視線を感じるんですが。

 しかも殆どが女からのものだ。

 熱っぽい視線だったり、侮蔑っぽい視線だったり、値踏みするような視線だったり、妙にネットリした視線だったり。

 何事?

 オストガロアを討伐したハンター、って事で注目を浴びてる…だけじゃなさそうなんだが。

 

 

 集会所のオババ様から、意味深な事を言われた。

 楽しんでおいで、だそうな。

 

 

 

PC用ゲーム月枕の下にクッションを置くべきか日

 

 

 朝起きたら、借家のポストに手紙が入っていた。

 差出人不明。

 警戒しながら中を見てみたら、何か招待状のようだった。

 ただし内容は要約すると、「三日後、この招待状をお持ちの上、集会所受付にお越しください」のみ。

 自分が何処の誰であるとか、何の用件があるとか、一切書かれていない。

 

 切手が貼られてないから、直接投函したのか? 

 

 鷹の目で追ってみたところ、多分…だけど、投函したのはベルナ村の受付嬢のようだった。

 招待状を見せて聞いてみたが、トボけられる。

 というより、知ってはいるが自分からは口に出せない、という類のものらしい。

 そして、招待状は他人に見せてはいけないものだとか。

 …そういう事は招待状に書いておけよ……書いたら怪しさが増すだけか。

 

 まさか「騙して悪いな」系…?と思っていたら、慌てて受付嬢は「危険なものではない」「むしろ、一部の特殊なハンター以外にとっても利益があると思われる」「アナタなら喜んで引き受ける筈」と付け加えた。

 一部の特殊なハンター以外にとって、と言われてもなぁ…。あんまり信用ならんのじゃが…。

 まぁ好奇心もあるし、行ってみるか?  

 

 差し当たり、今日から暫くは飛行船修理の為の素材を求めて、駆け回らなけりゃならんのだ。

 息抜きの一つとでも思っておくとしよう。

 

 

 そうそう、飛行船撃墜現象の事だが、龍暦院はまだ警戒を緩めていない。

 全国の飛行船撃墜現象が収まった訳ではないからだ。

 ベルナ村付近の撃墜はオストガロアによるものだったとしても、全てがそうだとは限らない。

 クシャやレウス夫妻だって居るかもしれないし、飛行能力と獰猛さで言えばココット村のライゼクスだってやりそうだ。

 

 なので、飛行船の修理のついでに色々と機能を付け足そうとしているようだ。

 真っ先に超大型回転衝角を取り付けようとしている辺り、龍暦院の方々も中々わかっているようだ。

 まぁ、空中で一番手軽かつ確実に使える攻撃方法ではあるもんな。

 

 おかげで、必要になる素材が随分増えそうだが…。

 

 

 

 

 

 

 …招待状…招待状……鬼畜クエ…ラージャン二体……双 獅 激 天………うっ、頭が…。

 

 

ゲーム用PC月とりあえず風呂に入って温まる日

 

 

 招待状に記載されていた当日だ。

 念の為、完全装備(神機は無し)を着込んで他にも色々と準備中。

 

 ところで、この3日間ほど、ハンターの仕事が矢鱈忙しいと、JUNが何やらボヤいていた。

 珍しい…いつもだったら村の皆の為、とか言ってガンガン仕事して、文句どころか輝かんばかりの笑顔を振り撒いているというのに。

 

 何でも、この3日間、採取依頼・納品依頼が異常に多いのだそうだ。

 一度のクエストで片付けられるものも多くあるので、そこまで酷い負担にはなっていないが、やらなければいけない事が山積みになっていれば、誰だってゲンナリするもんだ。

 加えて言えば、それらのクエストは依頼主不明。

 村のクエストであれば、大抵は依頼主が分かるし、JUNはその人との触れ合いをエネルギー源にしているような節がある。

 しかし採取した素材が誰に渡るのか、どう使われるのか、今回は全く不明。

 誰かの役に立った、という実感が無い為か、JUNはイマイチ集中できないようだった。

 それでもしっかり採取はしていたし、遭遇したモンスターはキッチリ仕留めたようだが。

 

 

 …そういえば、村の受付嬢や一部の女性が、妙に忙しなく動き回っていた気がする。

 JUNが受けていた大量の採取依頼と関係があるのだろうか。

 確かに、それだけの依頼をこなされれば、忙しくもなるだろうが。

 

 

 

 さて、準備が終わり、招待状に書かれていた通り、集会所受付に来た訳だが……なんか、妙に人が少ないな。

 いや、受付嬢とか、ストアの店員さんとかはちゃんと居るんだけど。

 

 受付嬢に事情を話し、招待状を見せたところ、心得たと言わんばかりに頷かれた。

 そして、事情を話すからテントの中に入って欲しいと言う。

 …つまり、他人に聞かれたくない系?

 まさか人が少ないのって、人払いとかした?

 …いやでも何人かは居るしな…。

 

 

 

 さて、話された内容だが…言っちゃ何だが、どうにも筋が通らない内容だった。

 矛盾しているとかじゃない。

 怪しくはあるが。

 

 

 えーとな、まず招待状についてなんだが…招待状と銘打ってはあるものの、実際は協力要請だったそうな。

 つまり、アナタが必要です、助けてくださいって言う。

 

 じゃあ何に協力すればいいのか、と聞くと、それはその時になるまで話せない。

 しかも協力するに当たり、形式的なものではあるが試験を受けなければならないらしい。

 クエストと言う形で。

 しかもソロの上位…これに関してはいつもの事だから、どうでもいいが。

 

 更に言うなら、報酬も秘密。

 金銀財宝だろうが石ころだろうが文句は受け付けない。

 その報酬を放棄するなら協力要請も拒絶できるが、別の報酬が支払われる事もないし、結果に関わらず一切口を噤んでもらう、という内容だ。

 

 

 …別に、協力求めてんだから何もかも白状しろよ、とは言わんけどさぁ…幾らなんでもこりゃ無いだろ。 

 報酬については…まぁ、どんな仕事でも望んだ報酬が帰ってくるとは限らないから、そこは多少目を瞑るとして。

 

 …というか、「報酬は秘密」に加えて、「報酬を放棄するなら協力要請も拒絶できる」というのがな。

 それってつまり、『報酬の内容を知らされた後で』『協力するかどうかを選べる』って事なんだよな。

 つまり、報酬を知らされるのは、最初の試験クエストの後か。

 或いは、報酬=協力、という図式が成り立っているか、だ。

 

 

 …正直な話、マトモに考えれば受ける奴は居ないだろう。

 真っ当な仕事じゃない、下手をすると違法行為の気配すらする。

 しかし、俺はむしろ好奇心すら沸いてきた。

 ベルナ村の受付嬢も、俺ならまず間違いなく喜ぶって言ってたし。

 

 仮に荒事になったとしても、アラガミ化まで持ち出せばそうそう負けは無い、G級・レジェンド級・ギルドナイト級でもなければ逃げるくらいは出来るだろう。

 それに、俺は一応オストガロアを倒した龍暦院の筆頭ハンターみたいに扱われてるから、不審死とかあれば必ず調査が入る筈。

 自分から死にに行くような真似はしないだろう。

 

 

 

 

 以上がクエストを受けた理由である。

 決して、ストッキングに包まれた魅惑の脚線美、しかも足を組み替えるところに見とれていて、ウッカリ受けてしまった訳ではない。

 

 

 

 



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第138話+外伝17

世界樹の迷宮Ⅴが8月発売発表ktkr!
悦びのあまりにその場で予約してしまいました。

いやぁ、今年は気になるタイトルが山ほど出るなぁ!

ところで、討鬼伝2の内容を見たんですが、なんか腕使えるようになってるな…。
これ本編に突っ込みたいな。
となると、前々から考えていたあの外伝をやっておかねば。
だがしかし、それを先に出すと書きかけの外伝のあの見せ場が無くなってしまう。

という訳で、2日で外伝を2本ほど仕上げてしまいました。
とりあえず1本出します。


ゲーム用PC月あと一週間ほどで帰省しますが日

 

 

 MH世界も意外と闇が深かった…。

 略してM闇深。

 

 いや、別に闇系されたんじゃないのよ。

 別の意味で闇系ではあったけど、暗殺云々よりはサバト寄りだったな。

 

 

 えー、とりあえず試験として受けたクエスト自体は、そう大したもんじゃなかった。

 ティガレックスに慣れてれば、だけどな…。

 別に獰猛化もしてなかったし、話に聞いた二つ名個体でもなかった。

 

 ただ、受けた時間が時間だっただけに帰ってくるのは真夜中になってしまった。

 これは後で聞いた話だが、もっと早く、或いは遅くクエストを受けるようであれば、クエストの内容が変動するのだそうだ。

 その目的は、「強敵と戦い、夜に帰ってくる」ように調整する事。

 

 帰ってきた俺を出迎えたのは、龍暦院の受付嬢だった。

 ただし、一体誰なのかはわからない。

 帽子を目深に被り、顔を隠し、声も変えているようだった。

 タカの目を使っても分からなかったんで、単純に俺が知らない受付嬢のようだ。

 

 

 もう真夜中で、龍暦院もベルナ村も寝静まっている。

 そんな中で、普段は使われない大きな家屋…もっと言えば、普段は物置の筈…に案内された。

 

 

 そこで、前置きとして色々話されたんだが…うぅむ、納得すべきか驚愕すべきか。

 まぁ、その内容については(覚えていたら)後で纏めよう。

 

 

 案内された先にあったのは、えらく綺麗に掃除された広い部屋。

 甘ったるい香が焚かれている…普通の香じゃないな、多分高揚効果がある。

 

 更にベッドやら酒やら御つまみやら。

 そして、部屋のあちこちで思い思いの格好で寛ぐ女性達。

 

 ちなみに、全員が仮面をしている。

 

 …間違いでも何でもないから念の為もう一度書いておく。

 

 

 

 全員が、仮面を、仮面を、している。

 

 

 

 無論、レスラーとかがやってるような覆面じゃなく、中世のお貴族様系の仮装パーティ…所謂仮面舞踏会で使ってるような、或いはSMで女王様がつけているような、もっと愛を込めて!と叫びたくなるような、ああいう仮面。

 初めて見たけど、意外と誰が誰だか分からなくなるな…。

 

 服装も受付嬢の服だったり、或いは村娘の服装だったり、果てはハンターの鎧のような衣装だったり(流石に偽物だったが)。

 格好は誰かを判別するのに使えそうになかった。

 

 それを見た辺りで、ようやく察しが付いた。

 

 

 

 肝心の「協力要請」と、「報酬」の内容…。

 成程、あれだけ黙秘を強要し、そして事前に教えられないのも納得の内容。

 そして俺なら喜び、協力=報酬という理屈もよく分かった。

 

 

 一言で言えば、レズ乱交の棒役である。

 

 

 

 何で顔を隠してまでそんな事をしているのか、そもそもレズ乱交なのに棒が要るのか、それこそオモチャで充分なんじゃないか、とか色々疑問はあるだろうが…うーん、どこから説明したものか。

 そもそも、受付嬢の仕事というのは、世間一般で考えられているよりもずっとタフな仕事である。

 ずっと受付所で待機していないといけない、と言う点もあるが、それ以上に厳しいのは精神面だ。

 退屈、なんて話じゃない。

 

 例えばクエストを誰かから依頼されたとして、それが何処で起きているのか、どのような被害を受けたのか、或いはこれから被害が予測されるのか。

 それらを分析して、優先的かつハンターの実力に見合ったクエストを推薦する(受けるかどうかはハンター次第だが)のが受付嬢の仕事の一つなのだが、よく考えてみよう。

 

 例えばイビルジョーが現れた、とクエストを誰かから依頼されたとして、その被害がどうなっているか、どうなりそうなのか、それらを受付嬢は常に突きつけられる。

 村の鼻先にイビルジョーが現れたと聞けば、普通は矢も盾も溜まらず逃げ出すものだ。

 イビルジョーに限らず、古龍種、ラージャン、その他危険なモンスターは数えるのも億劫な程に居る。

 

 それらのクエストに、ハンターを送り出す事だって考えてみれば恐ろしい事だ。

 そのハンターが、顔見知りのハンターが、或いはもっと深い仲になったハンターが、クエストに行ったきり帰ってこなかったら?

 …ポッケ村のシャーリーさんでも分かるように、そういった事例は珍しくも無いのだ。

 

 そして、万が一の事(それ程珍しい事でもないが)が起こってしまった場合、それらの悲報を真っ先に受け取るのは受付嬢なのである。

 

 

 近場まで迫ったモンスターの脅威に耐えて受付嬢としての仕事を真っ当し、ハンター達の帰りを信じて待つ。

 これを毎日のように繰り返しているのだ。

 精神的な疲労もあるし、モンスターの種類や出現場所によってはさっさと逃げたくもなろう。

 

 

 

 だが、受付嬢達はそうはしない。

 何故か?

 

 ハンター達を信じているから?

 それもある。

 

 そうする事が職務だから?

 それもあるだろう。

 

 逃げる先が無い、帰る場所がここだから?

 無論それもあるかもしれない。

 

 

 だが、それだけでは人は耐えられないし、いつか折れる。

 それを防ぐ為の行為が、この乱交なのだ。

 

 この辺まで、案内してくれた人の説明な。

 

 

 ここからは俺の解釈だ。

 例え話だが、神聖隊というのを知っているだろうか?

 ローマだかヒスパニアだか、その辺で昔あった部隊なのだが…ぶっちゃけ男同士のホモォ…な部隊である。

 正直、想像するだけでも胸焼けして気分悪くなってきそうなんだが、有効なのは分からんでもない。

 どんな経緯であれ、恋人同士となった者が同じ部隊に居るのであれば、惨めな姿を見せたくないだろうし、恋人を死なせない為に奮戦するのはよく分かる。

 多分、日本古来のSHU☆DOも同じような原理だったのではないだろうか?

 ケツ束を強める事で主従の絆を作り、裏切り防止策にしようとしたとか。

 

 ここでもやっている事はソレである。

 顔を隠し名を隠し身分を隠し、複数人の同性を相手にしているが。

 体の繋がりを作って連帯感を作り出し、「皆を置いて自分だけ逃げられない」という気にさせる。

 更には、アブノーマルかつ身バレしない環境を作り、多少ハッチャけても後腐れの無い息抜きの場ともなっているようだ。

 

 

 どうも、どこの地域でもこの手の結束を強める為の親睦会は存在し、ある場所では飲み会だったり、ある場所ではお茶会だったり、運動会だったり、旅行だったり…まぁとにかく色々な形式があるらしい。

 そして、どういう経緯だか知らないが、昔からこのベルナ村では、仮面舞踏会ならぬ仮面乱交会が代々ひっそりと続いていたそうな。

 

 ちなみに、こういう形式の親睦会を用いているのはベルナ村だけではない。 

 今は廃れてしまっているらしいが、かつてはユクモ村もそうであり、その関連でベルナ村とも繋がりがあったとか。

 そのネットワークにより、コノハとササユが俺のナニについて色々触れ回ったそうな…というか、多分種族年齢的にヤバいコノハとササユの体験は、この辺の繋がりなんだろうなぁ…。

 で、その情報を受けたベルナ村の受付嬢達が興味を持ち、或いは女にだらしない俺に反発し。

 オストガロアを討伐した俺を、丁度いい機会だとばかりに招待した、と。

 

 

 更に言うなら、時折その仮面乱交会に、男性ハンターを誘い込む事がある。

 その場合、日頃の行為で培った技術を徹底的に駆使し、ハンターに奉仕する…搾り取るのかどうかは微妙な所…ようになっている。

 今回は俺がその役って事ね。

 

 多分、完全に百合の道に入り込まないようにする防止策に加え、受付嬢達と同じように、有能なハンターを情で絡め取る為の策でもあるんだろう。

 また、一人だけ身元がハッキリしているハンターに対しても繋がりを作り、影に日向に援護するように仕向けているんだろう。

 

 そりゃ協力=報酬にもなるわ。

 これで喜ばない…悦ばない男なんて、A.BEEさんの同類か、さもなきゃ惚れた相手に操を立てる、何処までも一本気一本道な大真面目なバカヤロウ(尊敬的な意味で)くらいだ。

 

 実際、大抵のハンターなら引きずりこまれて中毒にされてもおかしくない空気だった。

 

 

 

 

 俺?

 

 

 俺にそれを言う?

 相手、幾ら乱交に慣れてるって言っても素人だぞ?

 いや俺も玄人な訳じゃないけど。

 

 

 

 まぁそういう事で。

 

 

 話は逸れたし結末も予想できただろうが、もうちょっと話を続ける。

 シモの話を。

 

 

 まーなんだ、皆して身バレしないと思っているからか、凄かったのなんのって。

 何人かは「あ、この人はあの人じゃね?」って思った人も居たんだが(表情には出さなかったが)、日頃の言動とは全く違うわ。

 清純そうだったあの人が、ストッキングに包まれたおみ足であちこち弄り回してくるし、そこそこ経験豊富そうだったあの人が、この部屋の空気に戸惑いながらも毒されて、生娘のように躊躇い戸惑いながらも息を荒げながら混じろうとしていた。

 真面目一徹だったあの人(っぽい人)は、好き放題に勝手な事を言って煽りまくるし、仮称:Aさんに片思いしていると思っていたあの人は、左右に少女を侍らせて王様…もとい女王様のように堂々としていた。

 Mっ子だと目をつけていた彼女は予想通りにMだったが、既にレズ調教を受けたのか見事な奴隷っぷりを魅せていたし、百合っぽいと思っていた彼女達は予想通りに遠慮ない乱れっぷりを披露している。

 酒嫌いで通っていたあの子は、ワインやらビールやらをチャンポンして既にウトウトしているし、酒を勧めたと思しき下手人はそんな彼女をケダモノのような目で見据えているし。

 婚約者がどうの、夫がどうのと井戸端会議していたあの人達(だと思う)は、危険日(フェロモンのニオイである程度わかります)なんぞモノともせずにナマでナカでね…。

 

 一言で言えば……男が一人しか居ない水○敬ランド状態?

 

 

 色々とバリエーションに富んでいたが、コンビネーションも凄かった。

 俺を寝転ばせて、全員が一斉に吸い付いてくるんだわ。

 舐めるは吸うは抓るは擦り付けるは、一対10人以上でやってるのにお互いの邪魔をしていない。

 むしろ俺にナニしながらも、互いの体を弄りあって高めあうくらいだ。

 

 

 

 ちなみにそんな状態だったからこそ、俺のオカルト版真言立川流も一度に全員に流し込める訳なんだけどね。

 誰かが俺にナニかする度に、そこから霊力が逆流してね。

 その人が触れていた人にも、感電するみたいに霊力が流れ込んでいって、更にその人が触れていた人にも、触れていた人にも…。

 最終的には俺に増幅された霊力が返ってきて、それを更に流し込む。

 ついでに言うなら、複数人が同時に俺に触れている状態だったからなぁ…。

 

 やろうと思えば、触れられている場所全てから霊力を流し込めるからなぁ。

 手で触れられていようが、舌で舐められていようが、足で弄られていようが、顔騎されていようが、足の指先をprprされていようが、脇をhshs…は直接触れてないからさすがに難しいが。 

 

 俺からナニもせずに相手を全員グロッキーにしちゃったのは初めてだったわ…。

 

 うーん、新しい感覚だったなぁ…。

 なんつーか…貪られる、んじゃない。

 皆して貪ってきてたのは事実だけど。

 搾り取られる…のは事実だが、それだけじゃない。

 食われるとも違う…骨までしゃぶり尽くされる幻影なら見たけど。

 

 そう……そうだな、「溶かされる」って表現が一番近かったかもしれない。

 あくまでも丁寧に、こっちの快感を引き出して、抵抗する気を無くしていくような…。

 アレだな、逆レ系のエロゲのハーレムエンドってこんな感覚なんじゃないかな。

 

 

 

 予想はしてるだろうが、その後は遠慮せずにアクティブに動きましたがね。

 俺との繋がりを作ろうとしてるんだったら、作ってやろうじゃないの。

 ただし、俺が皆に首輪をつけるような形でね。

 

 

 

 

 

 

 後日の追記

 

 

 また招待状が届いた。

 でも今度は前の招待状とは違い、「開催したい日時をお知らせください」とあった。

 更にキスマークと、「特別永久会員と認定しました」の手書きの追記。

 …俺がヤりたくなったらいつでもどうぞ、と解釈してもいいのかね? 

 

 

 

 

ゲーム用PC月今回持って帰るのは、MHX、不思議の幻想郷体験版、オーディンスフィア体験版日

 

 

 先日の乱交から一週間ほど経った。

 しかし、あの一夜は正体不明のモンスターが見せた夢だったんじゃないかと思う程、全く形跡を見せない。

 例の倉庫は、翌日には多数の荷物が運び込まれて、今や完全に物置になってしまっているし、「この人かな?」と思っていた女性と顔を合わせても、全く表情が変わる事は無い。

 そもそもあの日、全員がグロッキー+追撃で失神状態になった後でも、ニワトリが鳴くと同時に起きだして(腰が抜けて動けない人も居たが)、物凄いスピードで後始末をし、あっと言う間に解散してしまった。

 それこそ、某シミュレーションで言えば統率140オーバーくらいのレベルだったろう。

 痕跡からニオイからあっと言う間に消え去り、更に集まっていたメンバーもモノノフの俺が『ニンジャか!?』と思う程鮮やかに散会し、単なる空き部屋になってしまったあの部屋で、呆然としながら朝日を眺めた事は記憶に新しい。

 

 その後、多分この人だと特定して、誘ってみようかな?と思って、思わせぶりな態度を取ってみたんだが、一笑に伏されてしまった。

 ちょっとプライドが傷つく。

 色恋沙汰ではなく、色エロ沙汰でのプライドが。

 

 しかし、なんつぅか……スゲェなぁ。

 あの割り切りが。

 俺の霊力が体内に残っている人が居たから、その人達は確実にあの祭の参加者だ。

 一度叩き込まれれば、そうそう忘れる事のできない感覚だと思ってたんだが……日頃にそれらしい素振りを見せても、全く反応しない。

 それこそ、あの一夜は冗談抜きで夢や幻だったんじゃないかと思えてくる程だ。

 

 ただ、表面上はそうでも、内面は激しい葛藤や欲望を押さえ込もうとしていたようだけどね。

 フラウさん直伝の内面観察術をこんな事に使ったら、怒られるかな。

 …面白そうだと煽る姿しか思い浮かばない。

 

 うん、まぁ…あんな素晴らしい乱交会を開くのなら、参加しない手は無いな。

 しかし乱交と言うのは普通に違法である、らしい。

 個人というか身内でやる分には構わない(のか?)が、ヘタをすると官憲のお世話になるような行為だ。

 当然、査察の類が入って発見されれば、今後の開催も出来なくなってしまうだろう。

 ついでに俺自身も塀の中に放り込まれかねない。

 

 

 だったら、日中に妙なモーションをかける訳にはいかない。

 秘密は墓の中まで持って行くとしよう。

 

 …成程、こうやってハンターや受付嬢で秘密を共有し、離れていかないようにする訳か。

 よく出来ている。

 

 尤も、当然ながら反発が全く無い訳ではないが。

 自由参加と銘打っているらしいとは言え、その実態はほぼ強制。

 あまり何度も参加拒否すると、受付嬢の間でハブられかねないだろう…孤立すると言うか、周囲の結束が硬い中で自分だけ、というか。

 アブノーマルな、意に沿わない行為を強要されるようなもので、受け入れてない人間にとっては相当なストレスになるのは間違いない。

 また受け入れた女性達であっても、「女相手ならいいけど、好きでもない男はイヤだ」とレズプレイに専念する者も居る。

 そう言った人に関しては、男性ハンターを招く事自体反対しているとか。

 

 過去には、「こんな事は許されない、告発する!」と言い切った者も居たらしい…男か女かは知らんが。

 それが問題にされずにこうやって続いているという事は…まぁ、温厚かつ真っ当な解決方法ではなかった事は想像がつくな。 

 

 男が一人しか呼ばれないのは、秘密を護る為なんだろうな。

 本来、一度呼ばれたハンターは、もう二度と呼ばれない…らしい。

 例外もあるとは言ってたが。

 たった一人だけ名前も顔も周知され、もしも情報を漏らしてしまえば、誰だかわからない参加メンバーから背後を狙われる。

 「もう一度あの素晴らしいサバトを」と思って聞き込みしていたハンターに、あちこちから『警告』を送った事もあったそうだ。

 そのハンター?

 

 …聞いてないから知らんな。

 

 

 

 

 

 まーなんだ、とりあえず言える事は、だ。

 

 あんだけ複数人を相手にオカルト版真言立川流使えば、そりゃえらい勢いでパワーアップするよねって事だ。

 今回のお相手は皆、肉体的には一般人だったから、霊力の質的には大したものじゃないが、量が凄い。

 それを練りあげるのは、霊力を使える人間ならそう難しくない。

 

 まぁ、ちょっとパワーアップが急すぎて、今は体を慣らしている状態である。

 開催の通知を出すにしても、体が落ち着いてからだな…。

 

 

 

ゲーム用PC月オーディンスフィアは、実家近くで中古があったら買うかも日

 

 JUNがアタックされていた。

 攻撃的な意味じゃなくて、口説き落とす的な意味で。

 

 どーやらJUNが俺に愛想を尽かした事で、「ひょっとしたらチャンスが!?」と思う村人が続出しているらしい。

 アタックしているのが男か女かは伏せるが、お前ら本当にソレでいいんか…。

 まぁ個人の嗜好や人に対する感情にまで口を出す気は無いけども。

 

 ちなみに口説かれているJUNの方はと言うと、そういう動きに気付いているのか居ないのか。

 今はハンター稼業が楽しくて仕方ないっぽい。

 JUNにも村人にも春が来るのは遠そうだ。

 

 …しかし、考えてみりゃJUNは実家に挨拶したんだろうか?

 飛び出してきたから気まずいモンで、会いにいく前にハンターとして一旗あげるって言ってたが…もう半年近く経ってるぞ。

 

 

 まぁ、それはいいわ。

 ベルナ村付近は平和よのー。

 この前みたく剣術バルドとか湧いて出る訳でもなし、霊力関連のイザコザも俺が起こそうとしない限り今のところは多分メイビー願望だけどきっと無い。

 イビルジョーが寄ってきたって話も聞かないし、古龍が居る気配も無ければ、獰猛化モンスターは……残念ながらちょくちょく居るっぽいが。

 

 

 日中は飛行船修復の為の素材集めをしてたんだが、とりあえずはそれも一段落。

 素材は全て納品し、後は修理の作業待ちだ。

 

 正直ヒマだったんで、闘技場で教官が出している試験を、霊力なしの縛りプレイ(シモネタに非ず)やってたんだが…正直軽い。

 まぁ、何だかんだでそこそこいい装備揃ってるし、そもそも現在の俺のスペックが普通のハンターに比べてアホみたいに高いからなぁ…。

 素の攻撃力や防御力が2倍で、体力ゲージが4~5本あるようなもんだ。

 開拓地ならともかく、この辺の闘技場じゃヌルゲーにもなるわな…。

 

 

 

 

 

 という訳で、巷で噂の二つ名個体って奴を見に行ってみようと思います。

 別にピクニック気分で行く気じゃないぞ。

 色々と噂は聞いているし、少しだけだが痕跡を見た事もある。

 

 ユクモ村でフラフラしている時に、ハチの巣の傍で、デカい爪痕や足跡(肉球の跡)を見た事がある。

 形からして多分ドスぷーさんの痕跡だと思うんだが…この大きさがまた異常なんだよ。

 どうみても金冠サイズの更に3倍くらいあった。

 足跡から計算できる体重も膂力も桁外れ。

 更には、近くに川なんぞ無い筈なのに、サシミウオがビチビチ跳ねていた。

 

 遭遇したハンターからも、「二つ名持ち個体は完全に別物。ちょっとでも舐めてると返り討ちに遭う」と何度聞かされた事か。

 

 

 ついでに言っておくと、この二つ名持ち個体だが…特異個体と言うよりは、亜種として考えた方がよさそうだ。

 特定地域に居る、色違いのモンスターみたいな感じの。

 二つ名持ちの個体は一体だけではなく、数こそ少ないがあちこちの地域に居る。

 先ほど例に挙げたアオアシラの特異個体は、ユクモ村だけではなくベルナ村にも居るし、ココット村にも居る。

 

 何とか討伐できても、数が一定以上に減る事は無いそうだ。

 同じ区域の中のモンスターが、一定の条件を満たした時に変貌する…のか?

 例えば生息地域の中に特別な食材があり、それを食べ続けたモンスターが変身するとか。

 或いは種の絶滅を防ぐ為、何体かが寿命を削って本能的に変化しているとか。

 

 何れにせよ言える事は、普通の個体とは全く違ったモノとして考えろ、って事だな。

 

 初見のモンスターと初っ端から斬り合うのは得策じゃない。

 二つ名持ち個体の平時の行動にも興味があるし、どんな攻撃をするのかは絶対に見ておかなければいけない。

 

 問題は、剣術バルドを相手にした時のように、何らかの不確定要素で気付かれるんじゃないかって事だが…モドリ玉の準備は万全、観察が不十分なうちに気付かれたら、交戦せずにさっさと逃げる事にしよう。

 

 

 

 

 

ゲーム用PC月MHXが終われば次はGEだし、リザレクションも持っていこうかな日

 

 よくよく考えてみれば、アオアシラとかよりもずっと先に、二つ名持ち個体を知っていた。

 明確かつ公式に名付けられたもんじゃないが、とりあえず有名な、普通の個体とは全く違うモンスターだったと思う。

 

 

 それはつまり。

 

 

 

 悪魔アイルーである。

 

 

 

 あらゆるモンスターをワンパンで撃破する癖にハゲてもマントも羽織っていないという、いろんな意味で大問題になった改造アイルー。

 霊力を覚えた正宗がこうなっちまうんじゃないか、という不安は若干あるが、それは置いといて。

 

 悪魔アイルーそのものじゃないが、似た様なのが居たよ。

 そうさな…小悪魔メラルーとでも呼んでおくか?

 

 攻撃力ではなく、盗みと逃げ足に超特化した野良メラルーである。

 

 考えてみれば、こんな奴が居ても不思議じゃなかった。

 何せこいつらは、二つ名持ちのアオアシラ…紅兜のすぐ傍で生活していたメラルーなのだ。

 ヤバい気配がしたらすぐに隠れるし、その気配の元から隠れながらの採取だってやっている。

 紅兜が居なくなってから採取すればいい、と思うかもしれないが、紅兜は体の大きさに比例して、とにかく食べる量も多い。

 特に好物のハチミツなんぞ、満腹になるまで待っていたら蜂の巣事態が残っているか怪しいくらいだ。

 

 その中でハチミツを手に入れようと思ったら、紅兜が来る前に採取するか、隙をついて採取するかの二択である。

 そして、あのメラルー達は後者を選択した。

 

 地中に潜って隠れて徹底的に気配を消し、飛び出すやいなや爆弾で目晦まし、怯んでいる隙にハチミツをかっぱらってまた地面に潜る。

 実際、紅兜を相手にそうやっているのを一度見たんだが、物凄いスピードだった。

 何匹かがほぼ同時に地中から飛び出し、陽動・目晦まし・実行部隊の役割を見事な練度でこなし、そして一斉に撤退。

 …ゲリョスやオオナズチよりも盗むのが上手いんじゃないか、と思った。

 

 

 

 

 

 そして連携して複数対象からアイテムを盗むのは、こいつらメラルーくらいだよ。

 

 

 俺が、この俺がメラルー達に背後を奪われるとは…!

 不覚、一生モノの不覚ッ!

 例え紅兜とメラルー達のやりとりに気を取られていようと!

 直前まで、メラルー達が背後から地面に潜ったまま近付いてきてたのであろうと!

 

 俺が後ろをオンナノコ以外に奪われるなんざ、許していいハズガNEEEEEEE!!!

 

 

 …ふぅ、昂ぶってしまった…。

 俺の無様は一生忘れられないにしても、まずはメラルー達を褒めるべきだろうか。

 ミタマ隠でも使ってるんじゃないかと思うくらい、見事な気殺だった。

 

 紅兜に注意が行っている間に、地面の下から集団で迫り、紅兜側のアイルー達が隠れた瞬間、逆に俺の回りで飛び出してきた。

 咄嗟の防御も間に合わず、殴られる事数発。

 勿論、それに伴ってアイテムも奪われた……一匹が一発ずつ殴ってきてたけど、一発につき3つくらい持って行きやがったぞ…。

 

 更にその後、アイルーでもないのに小型爆弾で吹っ飛ばしてくれやがった。

 ……で、爆発音が響けば、紅兜も気付く訳で。

 

 

 無くなっている蜂蜜+何故か居るハンター+周囲には他にモンスターは居ない。

 

 

 つまり、俺・冤罪待った無し。

 

 しかもさっきのメラルー達に、モドリ玉取られていた。

 捕獲用麻酔玉も取られた。

 ……力の護符と守りの護符まで取りやがった。

 

 

 

 オ゛ォ゛ィ゛ィ゛イ゛!!!

 

 

 

 持って行くの、レア度3くらいまでじゃなかったんですかねええぇぇ!!!

 メラルーへの殺意が天元突破!

 俺の憎悪が有頂天!

 

 

 

 

 

 あと紅兜の他に、ちょっと小さめの紅兜がもう一匹出てきたんですがね!

 番か、それとも夫婦か。

 前門の紅兜、後門にも紅兜。

 

 悪夢のようでした。

 

 

 1匹目の紅兜に結構深手を与えてたからか、もう一匹は出てくるなり激怒してやがったし…どんだけ逃げても追いかけてきた。

 まぁ、結局はそれが原因で各個撃破できたんですが。

 一匹は足にも傷を負っていたのであまり早く移動できず、もう一匹だけ突出して追いかけてきたもんだから、適当に距離を稼いで1対1。

 何とか倒した。

 むぅ、捕獲用麻酔玉が残ってれば、入れ違いで戻って傷ついた紅兜を捕獲したんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、紅兜2体もどうにかできた事だし。

 

 

 

 

 

 どうしてくれようかのぅ・・・・・・

 

 

 

 

 

ゲーム用PC月実家への土産、配達で送ろうかなぁ…日

 

 

 トウガラシ。

 柑橘系、ハッカ系のニオイ。

 光を反射するようなガラス。

 歯磨き粉。

 水。

 三味線。

 モンスターが低く唸るような音。

 

 ネコが嫌がるようなモノが全てメラルーに通じるとは思わないが、嫌がらせとしてはこんなモノか。

 怒りのままに集落に乗り込んで大暴れってのも考えたんだが、それをやるとメラルー、ひいてはアイルー達と人間との間に悪感情が発生する。

 正直今更だとは思うが、自然の一部を無闇に殺戮(殺せそうにはないが)してもしっぺ返しを喰らうだけだ。

 実際問題、集落を荒らされたアイルーメラルーが激怒して、見かけるハンター全てに向かって爆弾特攻とかしかけるようになったら洒落にならん。

 故に、適度にイヤガラセをする程度に留める。

 

 どいつが原因だ、ってのが分かるように立て札でもしておこうかと思ったが、さすがにそれはやりすぎだ。

 特定個体を吊るし上げたところで、メラルーの行動が変わる訳じゃない。

 むしろ、野良メラルーがハンターの荷物をかっぱらって行くのは、メラルー的に見ればおかしな事でも犯罪でもないんだろうしね。

 それこそ、ハンターが狩場に出て、勝手に採取していくのと似たような感覚だろう。

 

 

 

 だが怒りが治まらんがな!

 さっきの例で言えば、これは狩場に偶然居たモンスターに逆襲を喰らうようなもの!

 狩る必要もないモンスターにちょっかいを出し、逆撃されて3乙したって誰も同情なんぞせん!

 メラルーよ、貴様達はやりすぎたのだ。

 だから粛清しようというのだ、この私が!

 エゴだよ、勿論!

 

 

 ふぅ。

 

 

 散々嫌がらせしておいたから、メラルーの事はもういいや。

 しかし、やはり二つ名持ち個体は強いな…。

 アオアシラがああなるとは。

 

 

 他にどんな二つ名持ちが居るのか調べてみたが……うーん、結構多いと言うべきか、意外と少ないと思うべきか。

 特定条件に従って発生する亜種だと判断するなら……うん、種類的にも頭数的にも少ないかな。

 全モンスターに亜種、二つ名持ちが居ると思ってた訳じゃないが、それにしたって種類が少ない。

 二つ名持ちに変異する条件が分からないが、仮に種族としての本能、外敵に対する最大の守りの役を負っていると考えるのであれば、大抵の種族には居てもよさそうなものだ。

 

 逆に、考えている条件とは全く違い、無造作無作為に発生する突然変異だとするなら…種類的には妥当な数かもしれんが、頭数として多すぎる。

 突然変異とは、そうそう出現しないから突然変異なのだ。

 しかも変異したとして、複数の個体が同じように変化するとは限らない。

 紅兜の例で言えば、ある者は爪が鋭くなったり、ある者は牙や体液に毒を持ったり…変わるにしても多用な変化があると思う。

 だが二つ名持ちは、同じような変化を遂げている。

 しかも、全体としては少ないとは言え、同じ種族内だけで何匹も、だ。

 

 

 …やっぱり、特定の条件を満たしたら二つ名持ち個体と同じような性質を得る、というのが正解だろうか。

 ついでに言えば、二つ名持ち個体の殆どはベルナ村付近で発生しているようだ。

 ユクモ村でも居た事は居たが、数で見ればベルナ村の半分にも満たない。

 

 …ベルナ村付近に、二つ名持ちとなる条件の何かがあるのかもしれない。

 

 

 他に確認されている二つ名持ちは…テツカブラ、ティガレックス、イャンガルルガ…か。

 発見されてないだけで、他にも居る可能性は高いな。

 生息地域と言うか地形にも特に共通点は無い。

 強いて言うなら古代林に近い地形を好む節があるように見える。

 

 …古代林、か。

 確かにずっと昔の生物が進化も絶滅もせずにまだ生き残っていたり、化石なんかも発掘される場所なんだよな。

 あそこに超古代の何かがあるのかも、という考えも否定はできない。

 それに触れて…そうだ、突然変異するのではなく、先祖返りを起こしたと考えられないだろうか。

 

 そういや、発掘された化石で、ティガレックスの祖先に当たると考えられている「ワイバーンレックス」なんてのがあると聞いた事がある。

 二つ名持ちのティガレックスは、このワイバーンレックスの先祖返りであると?

 そう考えれば、複数の個体が同じように変化している説明もつく。

 

 しかし、絶滅したって事はそれだけ能力的に劣っている…いやいや、それは適応力に劣ったと考えられるんで、戦闘力が低いって事とはまた別物…。

 そもそも昔のモンスター達は、あちこちで発見される化石を見るに、今よりも更に大きかったと考えられている訳で…。

 

 

 

 

 …考えるの止めよ。

 背景を想像するのは中々楽しいものがあるが、明確な正解が無い以上、迷宮入りにしかなりゃしない。

 ま、古代林を一度本格的に調査してみるのもいいかもしれないね。

 

 

 …もうすぐ飛行船の修理が一段落しそうなんで、外回りの後になるかもしれないけど。

 

 

 




 はて、またも妙に現代風の所に出たな。
 今度は一体なんじゃろな?
 
 見たところ、ここはどう見ても空港だ。
 飛行船とかが使われている空港じゃなくて、現代で使われていた飛行機が離着陸する空港だ。
 実際、さっきも一機着陸したのが見えたし。


 …それはいいんだが、人っ子一人居ないのは何故に?
 乗客はおろか、職員の一人すら居やしない。
 …ゴーストタウン?
 実はゾンビの街?

 いやでもそれにしては全然荒れてないな。
 つい1時間前まで人が居たって言われても信じるレベルだ。
 実際、その辺の売店のコーヒーを触ってみたが、まだ暖かい。

 …マリーセレスト号事件でも再現してんのか?


 とりあえず歩き回ってみる。
 …人の気配はあるようだが…何だコレ?
 妙に固まっているっぽい。
 うーん、トラブルの予感しかしないなぁ…。


 なんて考えていたら、橋の上で二人組みと遭遇した。
 一人はヒゲ生やしたオッサン、もう一人は金髪のにーちゃん。
 
 なんか言ってるが、英語は分からん。
 …英語、か?
 なんかイントネーションが違うような気がするんだが……英語と中国語くらいなら聞き分けられると思うが、分からん。
 どっちにしろ何言っているのか理解できんが。


 お互い反応に困っていたんだが…ふと気配を感じた。
 しかも荒事の。





 …あの、なんか明らかに軍隊というか特殊部隊っぽい連中が向かってきてるんですけど。
 全身が装甲服っぽいのに、銃、組織的に訓練された動き…。

 カタギかどうかは分からないが、明らかに武装組織だ。

 俺何かやった?
 それとも目の前のお二人さん?
 
 お二人さんから何か言われた。
 多分「逃げろ」とか言われてるんだと思うが、そもそも逃げる先が無い。
 
 と言うか、煙幕っぽいのが投げ込まれてきたんで、咄嗟に飛び降りて逃げた。
 成り行き的に一緒だった二人も、橋から飛び降りている。
 と言うか銃抜いている。


 …え、なに?
 米国なのか欧州なのか知らんけど、日常的に拳銃なんぞ持ち歩かないよな?
 という事は、やっぱりあの連中に狙われているって知ってたの?
 つまり俺巻き添え?
 
 …まぁ、巻き添えなのは夢だったらいつもの事だからいいか。



 そこから先はgdgdと言うか銃撃戦する二人に何となくついていく事になってしまった。
 相変わらず言葉は分からない。

 分かる事と言えば、一見して無関係だと分かるであろう俺を、何故か容赦なくガンガン狙ってくる連中は敵だという事だけだ。
 どうしたかって?
 そりゃ勿論反撃しましたが?

 あの連中、基本的に普通の人間を相手にする事しか考えていなかったらしくて、銃の威力が不足してんだよね。
 あの程度ならハンターゴッドイーターモノノフアラガミアサシン蝕鬼の俺なら余裕余裕。

 銃撃されているんだから、こっちからの攻撃手段が無い?
 …何を言う。
 武器ならそこら中にあるじゃないか。
 ガラスの破片とか床壁の破片とか観葉植物とか。

 ぶっちゃけ、手に持って投げられる物なら全部武器だからネ!
 理屈も状況も分からないが、命を獲ろうとしてくる相手に遠慮する理由は微塵も無い。
 何人かドタマがグロ画像になったが気にしない。

 銃撃戦する二人にしても、なんか色々戸惑っているみたいだが、とりあえず敵ではないという事で見逃してもらっているようだ。
 …なんか、微妙にキラキラした視線を向けられているのは気のせいか?
 時々妙に期待した目をこっちに向けてくるし。


 …それはともかく、敵を張り倒しながら空港を進んでいったんだが…なんか妙なのが出た。


 大量の虫?
 明らかに普通じゃない量の群れの。
 

 …こいつら、普通の生物じゃないな。
 異常気象とかによるスタンピードじゃない、明らかに人の手が何かしらの形で加わっている虫だ。
 それくらい見れば分かる。
 ハンターでなくても分かる…この群れなら。

 とにかく避難しようって話になったようで、銃でバンバカ撃ちながら適当な部屋に逃げ込もうとした。
 が、追いかけてくる。


 …通じるかな?
 ミタマの力は使えるようだが…。

 とりあえず、お誂え向きに一つの通路からしか入ってこないようだし…まずはこれて。



 不動金縛り・ジツ!


 …おお、効いた効いた。
 虫でも案外効くもんだな。
 これなら、霊力を上手く使ってやれば、一網打尽にできるかも?

 …二人から感じる視線のキラキラが増加した気がする。



 …虫の大群に対する嫌悪?
 そんなもの、ハンターやってりゃ放っておいても消えるわい。
 慣れだ慣れ。




 …で、ここで新しい人物登場。
 …軍人さん…かな?
 とりあえず、「アメリカ」と「ラッシュ」という言葉は聞き取れたんで、アメリカの軍隊のラッシュさん、かな?

 色々聞き出したい事がお互いにあるが、それよりも先にまた虫が来た。
 排気口から出てくるとか面倒だな。


 が、こいつらに霊力が通じる事ならもうわかっている。
 だったら対処は簡単だ。



 ミタマ挑発!


 …おお、集まってくる集まってくる。
 ほれコッチ来い。
 むっ…取り付かれた。
 気分がいいものじゃないが、ダメージは少ない…となると。

 不動金縛り・ジツを再度仕掛け、引っかかった奴らはお三方の銃撃で始末。
 そして取り付いた奴は……全身、霊力全開!


 …おお、吹っ飛んだ吹っ飛んだ。
 ドラゴンボールで、取りついてきた相手を「ハァッ!」で吹き飛ばすようなイメージでやったんだが、案外上手く行くもんだ。

 得体の知れないものを見る目をラッシュさんから向けられた(ちなみに最初の二人はジョルジョとエヴァンというらしい)が、スルー。
 あとクールビューティ系ヴォイスの、オペレーターらしきお姉さんの声も聞こえているんだが、残念ながら誰も日本語は分からないらしい。
 なんか翻訳アプリケーションとか無いのかな。


 そこからも、まぁテロリストだかなんだかが延々と湧いてきてね。
 保身の為に協力しましたとも。
 ミタマ「防」で銃撃を受けつつブン殴ったり、背後に回ってサイレントキルしたり、崩落した瓦礫とかを思いっきり投げつけたり。
 

 空港からの脱出の為にヘリに乗り、なんか急ぎの案件があるらしくて降ろされもせずに市街戦しながらトラックを追跡し、片手でデカい銃火器を放ってくる奴をサヨナラ!して。
 何故かそこで別れ損ねて同行したら、ヘリが落っこちて洞窟と森で軍体っぽいのとドンパチ。
 …まぁ、自然の中ならハンターかつアサシンの俺の独壇場だ。
 文字通りの意味でサイレントキルしまくりましたとも。
 ラッシュさんが逆さに釣られてブラブラ揺れてたんで、釣り縄を斬って落っことしたりね。


 あと印象に残った事と言えば……半ズボンかつ微妙にエルフ耳のデカいオッサンと、ラッシュさんがプロレスしてたんで乱入したとか。
 オペレーターさんが妙に興奮した声で、プロレスの実況してたりとか。
 メガネが印象的なサラリーマン風(主にネクタイが)のオッサン(確かワイルドドッグとか呼ばれてたが…野良犬?狂犬?)をボコッったりだとか。

 「ハーメルン」とかいう何となく(メタ的な意味で)危険そうな名前の一団が、どっかの都市に攻撃を仕掛けていたりとか。


 最終的には半裸のヘンタイが何かやろうとしてたんで、NINJYAことハヤブサさんから(勝手に見て)学び取った壁走りからの暗殺でキメたりとか。


 まぁ、そんな按配だったかな?
 結局最後まで言葉は通じなかったが、まあ、4人でいいチームだったんじゃないかな。
 
 とりあえずトラブルが一通り片付いた(らしい)後、ジョルジョさんとエヴァンさんがヘリで飛び立っていって、ラッシュさんに話しかけられた。
 多分だけど、「君は何者だ?」と言われているんだと思う。
 それくらいは、何となく理解できるようになった。


 さて、なんと答えたものか。
 真実を言っても信じられる訳がないし、そもそもそんな語学力は無い。
 ならばいつも通りニンジャで通すか。
 しかしそれでは芸がない。


 …よし。



「I am Rurouni…」


 …これでどうよ。
 とドヤ顔しようとしたら夢から覚めた。
 もうちょっと、ベスさん(名前はこれでいいと思う)を眺めていたかった…。



Side ラッシュ大尉


 ウィリアム・ラッシュだ。
 階級は大尉。
 所属は機密につき公開できん。
 オペレートについているのはエリザベス・コンウェイ中尉…愛称はベスだ。

 私は今、とある極秘作戦に従事している。
 その途中、とある国のエージェント二名と合流するよう指示が下った。
 他国のエージェントと協力する事に思うところはあるが、命令とあれば仕方ない。
 エージェント=スパイという訳でもないからな。


 経緯の詳細は省くが、予定とは少し違い、とある空港でエージェント達と合流した。
 彼らは既にテロリストからの襲撃を受けており、新兵器…テラーバイトに襲われたところだった。
 咄嗟に扉を開いて彼らを招き入れ、テラーバイトの侵入を防ぐ。

 自己紹介する時間も無い。
 とりあえず、この通信機をつけてくれ。



 …待て、何故3人居る。
 一人は明らかに東洋人…ジャパニーズか?
 見たところ、銃器も持っていない一般人か?
 どうも、言葉も通じないようだ。

 気になるが、何にせよ説明は後だ。
 こうしている間にも、テラーバイトは迫っているのだ。
 3人を引き連れ、急ぎ脱出する。

 走りながら所属を話し、任務の事を伝えた。
 やはりジャパニーズには通じないようだったが、パニックも起こさず、遅れもせずついてくるだけで上出来だろう。
 むしろ落ち着きすぎなようにも見えるが…。

 脱出ルートの途中には、テロリスト達が多数待ち構えていた。
 激しい銃撃戦が展開されたが、私とこのエージェント二人なら何とかなりそうだ。
 問題はジャパニーズだが…頼むから大人しくしていてくれよ。
 作戦の重要性を鑑みるに、足を引っ張るようなら、民間人が相手といえども引き金を引かねばならぬやもしれん。



 私の祈りが通じたのか、このジャパニーズが軍人以上に冷静沈着なのかは分からないが、幸い彼はその後も混乱せずに素早く追従してきた。
 前方から迫る一団を、横の通路に入り込んで素通りさせ、背後から強襲しようとした時など、私よりも先に通路に入り込んでいた程だ。
 何者だ?


 …そして、私か彼の異常性を目にしたのは、そこが最初だった。
 テロリストの一人が接近してきて、更に斧を投げてくる者も居た。
 負傷覚悟で耐えようとしたが…突然踊り出た彼が斧を受け止めて投げ返し、接近したテロリストを鉄拳一つで粉砕してのけたのだ。
 …こ、これはよもやゴッドハンドか?
 Kyokusinカラテの奥義なのか?

 更に、その辺の観葉植物からダンボールから、見た目からは想像もつかないような怪力で投げつけ、テロリスト達を駆逐してのける。
 トドメを刺す事すら、躊躇いが無い。


 彼に対する警戒心が頂点に達した辺りで、我々はテラーバイトによる襲撃を受けた。
 先ほどのは壁を這う虫だったが、今度は蜂のようだ。

 この手の相手を銃で相手にするのは厳しいが、そんな事を言っていられない。
 覚悟を決めて応戦しようとした時、またも彼が動いた。

 テラーバイトの前に立ったかと思えば、不可思議な挙動をする。
 すると突然、テラーバイトが動きを変え、彼に一斉に取り付いたのだ。

 死んだ、と確信したものだ。

 だが、それは間違いだった。
 謎の圧力(としか言いようが無い)が膨れ上がったかと思うと、彼に取り憑いていたテラーバイトはグレネードの直撃を受けたかのように弾け飛び、機能停止してしまった。


 何者なのだ、彼は。
 怪しいが、強力な協力者である事も否定できない。
 気を許す訳にはいかないが、手を貸してもらうとしよう。



 空港を脱出する時も、彼をつれてきた。
 本当に何も知らないジャパニーズだったらと思うと罪悪感が無いではないが、怪しいどころの話ではないし、仮にその通りだったとしてもテラーバイトの存在を知った以上、それなりの処置をせねばならん。
 そのままヘリに乗り込んでついてきてもらった。

 済し崩しに、そのまま彼は協力してくれた。
 銃は使えず接近戦ばかりだったが、その戦闘能力は明らかだ。
 それ以前に、その辺に止まっていた車を持ち上げて投げつける辺り、明らかに人間の膂力を超えている。
 その後出合った、片手で対戦車ライフルを振り回し、ス○イダーマンのように飛び回る男を相手にした時など、跳躍からの一撃(どこから取り出したのか、凄まじく大きな剣を振るっていた)で叩き落し、対戦車ライフルをへし折っていたものだ。
 無論、その後は私とジョルジョ、エヴァンで蜂の巣にしてやったが。


 …その男達が、我が軍の者だと知り、あらゆる意味で衝撃を受けたが…その話は辞めておこう。
 これも機密に相当するからな。



 相変わらず言葉は通じなかったが、身振り手振りで何とか意思疎通はできている(と思う)。

 その後も、彼の快進撃は続いた。
 私達の出る幕が無くなるのではないか、と思う程に。

 ヘリで奴らの本拠地に向かう途中、打ち落とされた。
 揃って飛び出して着地したんだが、その後が凄まじい、
 ああいうのは確か、「ムソウ」というのだったか?

 森の中に投げ出されるや否や、何処に敵がいるのかをすぐさま察知し、緑帽子の部隊が青くなるようなサイレントキリングを披露。
 洞窟を抜けようとした時など、進んでも遭遇するのは死体だけだった。
 抜けた時は抜けた時で、流砂を察知し私達と止めた。
 更にその先では、間欠泉が何処から吹き出るのかわかっているかのように進路を変え、時には敵を誘導する。

 戦っているうちに、銃撃を浴びた!或いは誤射をしたか!?と思った事も一度や二度ではなかったが(敵に接近していれば、そうもなる…)、どういう理屈か全て無傷。

 …未知の地形にさえ対応できる上、防御力が恐ろしく高いのか。
 少なくとも、私は敵対したくないな。
 

 洞窟を抜けた先を進む途中、罠にかかって俺が逆さ吊りになった事があった。
 その時は(森に入ってからというもの、彼の姿が見えなかったが)突然現れ、俺を吊るす縄を切断してくれた。
 …その時に見えたのだが……あの刃物は、東洋に伝わるKUNAIではないか?
 NINJYAが使う、スリケンと並ぶ道具だ。


 彼はNINJYAだったのか?
 いや、NINJYAはSASUKE・SARUTOBIが起こした第三次NINKAI大戦とやらで絶滅したと聞いたが。
 だがジャパンのテレビでは、同名の番組が放映されていると聞く。
 ならばやはりNINJYA絶滅は情報操作なのか。

 彼がNINJYA…うむ、確かに彼の能力を考えれば、そう思った方が納得はいく。
 敵の銃撃にせよ誤射にせよ効果が無かったのは、噂に聞くミガワリのジツか。
 NINJYAなどとっくに滅びた幻影だと思っていたが、そう思わせる事も彼らのジツの一つだったのかもしれん。
 侮れんな、ジャパニーズ。
 目の前で大暴れしているNINJYAを見れば、侮る気など湧きもせんが。



 …いや、よそう。
 彼がNINJYAなのかも、NINJYAが生き残っているのかも今は重要ではない。
 まずは任務をこなさねば。


 我々は森を進んでいった。
 その先にあった研究所では随分と骨のある奴がいたものだ。
 銃撃戦ではラチが開かないと判断し、私は奴に接近戦を挑んだ。
 
 なにやらベス中尉が妙に興奮していたような気がするが、よく覚えていない。
 それだけ必死だったのだ。

 尤も、彼(よく考えれば、言葉が通じなくても名前くらいは聞けるな)が私と入れ替わるように接近し、猛烈な乱舞からのカチ上げ、更に空中の奴を掴んで回転しながら落下したのは目に焼きついている。
 あれはよもや、コッポーの伝説の奥義・IDUNA DROPではないだろうか?


 凄まじい破壊力だ…。
 真似はできないにしても、この目に焼き付けておこう。
 うむ、貴重なものを見た。

 いずれにせよ、ジョルノとエヴァンの援護射撃、そして彼のジツで、このタフな強敵も弱ってきた。
 いいぞ、チャンスだ!


 これでッ!

 終わりだァッ!!!!



 渾身のアッパーが決まり、奴は崩れ落ちた。

 …勝つには勝ったし、軍人としては不要な考えだが、なんというか華が無いな。
 俺も決め技の一つでも覚えてみるか…。



 そんなこんなあったが、テラーバイトはこの場所には無かった。
 ベス中尉からの報告を受け、襲撃を受けている州への防衛に向かう。

 きっとやってくれるだろう、とは思っていたが、彼はそこでも遠慮なく行動してくれた。
 テラーバイトに襲われている街を見るや否や、飛び出していったのだ。



 …ヘリから。



 パラシュートも無しに自由落下し、平然と起き上がってきたが、もう驚きは無い。
 落下した場所には何故か藁の束があったし、それがクッションになったんだろう、多分。
 
 俺もそれに続いた。
 空を飛んでくるようなテラーバイトは、彼の「HA!」に任せ、地上のテラーバイトを相手にする。

 …だが、我々の奮闘も、無人爆撃機を止める事には繋がらなかった。
 飛び出していく爆撃機を、ヘリに乗っている二人が1,2機撃墜したのは流石だが。

 その時、ベス中尉から連絡が入った。
 「ワイルドドッグ」が現れたと。

 VSSEのデータにあった、超危険人物!
 この事件に関与していたか!


 どうやら、ワイルドドッグはヘリの飛行を妨げようとしていたようだが、私は援軍にいけない。
 代わりに彼(名前を結局聞きそびれた)が駆けつけたようだが…油断するなよ。



 私はなんとかテラーバイトを葬り、彼らに合流した。
 その時、彼らは既にワイルドドッグを撃退していた。
 流石だな。

 だが感心しているヒマはない。
 一刻も早く、爆撃機を止めなければ。


 爆撃機を止めるのはジョルノとエヴァに任せ、彼はこちらの援護に入った。
 相変わらず、銃撃戦の中を平然とジャパニーズブレードを持って駆け回る姿には寒気が走る、色々な意味で。
 誤射されるとは思わないのだろうか。
 それとも、誤射されてもミガワリのジツがあると思っているのか。

 味方も彼の姿に戦慄し、戸惑っているようだが、それでも一喝すればすぐに体勢を整えた。
 


 程なくして邪魔する敵は殲滅され、先に進んだところ、ジョルジョとエヴァンが敵のボスと思しき男と戦っていた。
 何故半裸なのかは分からんが、随分と身軽だな…こいつも強化改造を受けているようだ。


 む…ボスが後退したか。
 あの二人だけでもハーメルン大隊のボスを撃退するとは流石だな。
 だが仕留めなければ油断はできん。

 爆撃機が飛び立って、どれくらい経った?
 もう時間が無い。


 だと言うのに、奴は操作盤がある場所に続く階段を爆破しやがった!
 これはまずい!

 くっ…損耗に拘っていては、アメリカが火の海になってしまう!
 仕方ない!

 生き残っている者全てで足場を作れ!


 号令を聞いた者全てが、次々と駆け寄っていく。
 テロリストに無防備な姿を見せる事になると分かっていても、アメリカの為に、全てを守る為に。
 例え千の銃弾を受けたとしても、このミッションは成功させてみせる!
 軍人の覚悟を舐めるな!
 俺も行くぞ!


 上から降ってくる銃撃を無視し、俺も足場になろうとした時だった。
 視界の隅で、動く者がある。
 敵か、と思ってみてみれば…彼だった。

 なんと彼は壁を真っ直ぐに駆け上がり、宙返りを決めてテロリストの前に降り立ったのだ。
 流石にテロリストは動揺したようだが、すぐに2丁の銃を向けた。
 確かに、彼は装甲すら纏ってない、単なる一般人にしか見えない。
 目の前で、一般人どころか生身の人間とは思えないような挙動もしていたが。
 銃弾を当てれば、すぐに始末できると考えたのだろう。
 
 だが、知らないだろうがそれは愚策以外の何物でもない。
 
 放たれた数発の銃弾は、彼が持った刃で簡単に弾き飛ばされる。
 その後、彼はバカにしたような表情を見せた。
 「改造されたと言ってたが、こんなもんか?」と言ったところか。
 テラーバイトすら引き付ける、彼の挑発技術は凄まじいな…特定地域の日本人は「アオリ」なる挑発が得意だと聞いていたが、その技術だろうか?

 バカにされたと思ったテロリストは激昂するが、戦場でそんな隙を晒すようでは長生きできん。
 特に彼の前では。
 銃を構えなおそうとするテロリスト、だが彼は影のように間合いを詰める。




 一瞬の交差の後、テロリストは血を噴出して倒れこんだ。
 これで爆撃機を止められる!と思ったが、それは早計だった。

 コンソールを振り返った彼は、次の瞬間には拙い英語でこう叫んだ。


「I can't use it!」


 使い方が分からないか!?
 くっ、無理もない…だが言っているヒマはない!
 
 生き残っている者全員で足場を作り、頂上にはジョルジョとエヴァンが手を伸ばし、階上からも彼が手を伸ばしているが、僅かに届かない。
 ならば!
 

 渾身の力で二人を持ち上げ!


「爆撃機を止めてくれ!
 この国を、救ってくれー!」



 二人を真上に投げ飛ばす!


 目論見は上手くいき、二人は階上へ昇って行った。
 そこから先は、俺には見る事ができなかったが…階上の画面から聞こえた爆発の音。
 ミサイルが着弾した音ではなく、自爆した音のようだった。


「全ミサイルの自爆を確認」


 ベス中尉のアナウンスが流れ、ようやく無事だった実感が湧いてくる。
 
 彼が階上から我々を覗き込み、朗らかな笑みで親指を立てた。
 




 基地の外へ凱旋し、ジョルジョとエヴァンは飛び立っていった。
 コンウェイ中尉と3人で、並んで彼らを見送る。

 名残惜しいが、お互いに立場ある身だ。
 いつかまた、戦場以外の場所で…或いは戦場だとしても、肩を並べるように出会いたいと思う。
 きっと彼らの事は忘れない。



 …さて、何だかんだで曖昧になっていたし、彼らもこの謎を残していくのを躊躇っていたが…。



「すっかり世話になってしまったな…。
 日本語を話せる者を連れて来る時間さえなかった。
 
 ここまで来て、今更とは思うし、そもそも言葉が通じてないのに言うのもどうかと思うが……君は一体何者だ?」


 なるべく威圧しないよう、彼に話しかける。
 …根っからの軍人である私としては、こうして柔らかい口調で話すのは苦手なんだが…こればかりは、ベス中尉にも任せたくはなかった。
 彼が何者であったとしても、尊敬すべき戦友である事は変わりないのだから。


「…いや、君が何者かなのは、今は問うまい。
 それよりも、アメリカ軍にこないか?
 君の技量を、市井に埋もれさせるのは惜しい!

 我が軍には日本人だって居る。
 人種の問題が無いとは言わないが、歓迎されるぞ。
 日本人の作る食事は美味いしな、特にカレーとトンカツが。
 君なら、コック兼兵士にだってなれる!」


 …日本人はセ○ールに憧れると聞いた事があるから、話のネタに持って来てみたが…考えてみれば、ジョークを交えても言葉が通じないのだったな。
 だが、きっと何を言っているかは伝わっていると思う。

 しかし彼は、少しだけ笑って


「I am Rurouni」

 
 とだけ返事をした。
 Rurouni…知っているぞ。
 確か、従兄弟が読んでいたコミックの、Samurai Xのヒーローだ。
 誰にも忠誠を誓う事はないが、世の為人の為に旅をしてYONAOSHIを続ける、MITOKOMONの後継者だっただろうか。

 …そうか…。
 一世一代の勧誘だったつもりだが、彼の生き様がそうであるならば仕方ない。
 だが、何かできる事があれば、いつでも頼ってくれ。

 差し当たり、金銭という事になるが謝礼を……と思ったら、彼はいつの間にか姿を消していた。
 ベス中尉も、ずっと見ていた筈なのに、コマ落としにでもなったかのように姿が見えなくなったのだと言う。

 …SAMURAI Xのヒーローは、TENGUの剣を使い、瞬間移動したかのようなスピードで戦うと聞いたが…やはり彼はその剣の使い手なのだろうか。
 謝礼を受け取ってもらえなかったのは残念だが、感謝する、日本のサムライ、ヒーローよ。




タイムクライシス4編


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第139話+外伝18

もうすぐ帰省の日です。
4日毎に投稿予約はしておくつもりですが、感想返しはできそうにありません。

最近、進撃に飽きてきたんでまたmhxやってます。
一気に話を進めたりしようとするから詰むんだよな。
槍やガンナーへの転向にしたって、下位依頼からちょっとずつやってくべきなんだよなぁ…。

あと今日は仕事終わりが深夜3時なのに、明日は10時には出ないといけないよ畜生。
まぁ、以前は2時終わりの8時出勤とかあったけどさ…。


追記
外伝2発目~。


 

ゲーム用PC月2~3日開くと、何を作ろうとしていたか忘れる日

 

 

 飛行船の修理、完了!…はしていなかったりする。

 何せぶっ壊れまくった所を丸ごと取り替えるは、前々から検討されていた新機軸の技術を山盛りぶっこんでいるは、職人達が好き勝手やってるらしい。

 

 んで、言っちゃ何だけど、この世界は航空力学とかがあんまり発達していない。

 何せ、理屈を捏ね回しても検証が死ぬほど難しいのだ。

 実際に空を飛べるかもそうだが、仮に飛べたとして途中で突然落下しないか、無事に着地できるか、そもそもヘタに高い所を飛んだりしたら好奇心に釣られて飛竜が飛んで来る。

 そんなもんだから、試験をハンターに頼む訳だが、幾らハンターだってそんな怪しげな理論の実験台なるのは嫌だし、基本的に脳筋のハンターが空を飛んだとしても、周囲のアレコレを考察してそれを理論に直すなんて出来る筈もなかったりする。

 

 で、結局…色々な新しい機能を盛り込んだ飛行船は、ちゃんと飛べるかも分からないし、飛んだら飛んだでバランスが崩れるかもしれない。

 新しい機能を使ったら、そこから異常が生じる可能性まである。

 一応、単品での試験運用は済ませたらしいが、それも地上での話。

 実際に飛行船に取り付けて実験するのは………言うまでもなく、この俺のお仕事だったりする。

 

 

 まぁ、仮に落下したって生き延びる自信はあるけどさ…。

 極端な話、爆発に巻き込まれたとしても、アラガミ状態になれば充分凌げるハズ。

 というか、そもそも本来であればアラガミって、同じアラガミ細胞でないと傷付ける事もできないんだよな…。

 それにしちゃ、俺の体は剣術バルドに叩き切られたり、ラギアとタマミツネの合体攻撃で骨がバキベキになったり、霊力を使った半自爆技で再起不能寸前になったりしてるけど。

 

 

 

 とにかく、今日は一日、飛行船でのテストになる。

 まずはちゃんと飛べるか、バランスがとれるか、しっかりと曲がれるか。

 その後にテストしてほしいと言われている内容としては、モンスターの骨を使った軽量かつ頑丈な装甲、備え付けのバリスタ、閃光玉、ガスを使ったブースト、ライトボウガンの速射機能を応用したバァルカン(Gガン調に)、そして超大型回転衝角試作品。

 他にも色々と内蔵されている機能があるらしいが、とりあえずテストしろと言われているのはこれだけだ。

 何でも、これらの機能は他の機能にとっても基幹となる部分であり、これが上手く行かないと他の機能にも支障をきたすのだとか。

 

 

 …他の部分はともかく、超大型回転衝角が基幹になる機能って何ですかね。

 というか試作品って銘打ってあるじゃないか。

 そんなトコを基幹にすな!

 

 というか、むしろ最初にテストすべきは、ようやく取り付けてくれた風防と復座の方じゃないですかね。

 ちなみに風防は、全面を特殊なガラスで覆い、上に屋根をつけているだけのものです。

 

 空気量?

 与圧?

 ……えっと、理屈も分からん!

 やってるかどうかも分からんが、ハンターなら問題ない!

 

 

 

 そして、何故かネコ嬢のカティさんが、複座に搭乗しているのですが本当に何故でしょう。

 …どうも、正宗に触発されたのか、以前からオトモの新しい形を模索しているらしい。

 成程、飛行船の捜査員としてのオトモを考えている訳か。

 

 他にも、別の村に住む斡旋業者の方々と連絡を取り、所謂交換留学みたいな事も考えているそうな。

 うーむ、何歳だこのネコ嬢。

 竜人族だから、外見年齢が当てにならんのだよなぁ…。

 見た目、コノハやササユよりも年下なんだが、外見年齢を基準にすると冗談抜きで幼稚園児レベルの背丈だ。

 幾ら竜人族だからって、そんな年齢から行商は…しないよな?

 まぁ、本人は立派にネコ嬢やってるし、年齢に拘らずに出来るんだったらやればいい、とは思うが。

 

 

 

 さて、カティ嬢の事情はともかく、複座役をやってくれるのはありがたい。

 空を飛ぶのは初めてのようなので、ゆっくり楽しんでもらおう…。

 

 

 

 

 と思ってたのだが。

 うん、予想通りだったね、忘れてただけで。

 実験なんて失敗が付き物じゃないか。

 試作品の実験に一般人を付き合わせるとか、俺も考え無し通り越して無能、害悪の一言である…。

 マジでヤバかった。

 俺じゃなくてカティがヤバかった。

 

 

 大体の機能は上手く動いてたのよ?

 最初に飛び立った時から、複座は安定していたし…流石に乗り心地は良くなかったようだが。

 風防も音を立ててはいたけど割れる様子も無かったし、バランスも安定していた。

 モンスターの骨を補強に使った分、重量は増していたハズだが、以前と変わらないくらいのスピードは出ていたし、旋回性能だって見劣りはしない。

 

 バリスタ、閃光玉、バァルカン!も順調だった。

 難があったのはブーストか。

 確かにスピードアップは出来るのだが、ガスを余剰に使用するという性質上、長時間の使用は不可能だし、何よりも使いすぎると引火・爆発の危険性がある。

 その辺の安全装置が上手く動いてなかったようだ。

 致命的である。

 

 

 だが何よりもアカンかったのは、最後の超大型回転衝角試作品である。

 そもそもこの機能、前述したブーストと連動して使うようになっている。

 幾ら衝角を回転させたとしても、こっちから当たりに行かなければ攻撃は出来ない。

 ある程度スピードが無ければ、当てる事もできないし、当たったところでゆっくりとした動きであれば殆ど威力は無い。

 いや、回転のスピードだけでもそこそこの威力は出るかもしれないが、使用対象はモンスターである。

 それも上空を飛べる連中となると、かなり強い種類だ。

 通常のスピードでは、いろんな意味で使い物にならない訳だ。

 

 で、そのブーストの時間があまり長くなかったんで使いどころが難しい、という点が一つ。

 もう一つは……使おうとした瞬間に、様々な安定が一気に崩れ去った、という事だ。

 

 機能を作動させると、衝角が猛烈な勢いで回転する。

 これによって、慣性の法則やらモーメントナンタラやらで、空中に居て固定されていない飛行船にダイレクトに影響する。

 クッション機能的なものはつけていたようだが、それでも足りなかったようだ。

 おかげであっと言う間に船体がガタガタ揺れる揺れる。

 

 更に、先端部分の回転の為か、よく分からんが乱気流っぽいのが生まれるらしい。

 それを受けて、風防がガタガタガタガタガタガタガタガタバリン。

 

 

 

 

Q.高高度で飛行機の窓が割れたらどうなりますか?

A.逆掃除機されます。

 

 

 

 危うくカティが吸い出されるところでした。

 咄嗟に鷲掴みにした俺を褒めてくれ。

 それ以前に実験にこんなロリっ娘を連れて来る俺を罵ってくれ割とマジで。

 

 

 強風ってレベルじゃなかったぞ。

 しかも風が荒れ狂って周囲の防風が全て割れるは、破片が飛びまくって腕やら胸やらに結構デカい破片が刺さるは…。

 カティを抱え込んで庇いはしたが、えらい目にあった…そしてカティも血だらけだ。

 幸いな事に、全部俺の血だったけど。

 

 風防が全て無くなった事が、逆に幸いだったんだろうか。

 桁外れに強い風が数秒荒れ狂って、それ以後は平和なものだった…血ィドクドク出てたけども。

 

 強く抱きしめすぎたのか、カティは気絶していた。 

 おかげで、どう見ても致命傷サイズのガラスの破片がぶっ刺さっても平然としている俺を、見られずに済んだよ。

 と言うかアラガミ化一歩手前だった…。

 

 

 今考えると、タマフリの天岩戸でも使っておけばよかったな。

 アレなら霊力的なダメージも、物理的なダメージもほぼ全て無効化できる。

 

 

 

 

 さて、そんな状態で降りて、風防全破壊+カティ血塗れ状態なのを見て、ニャンコックが死ぬ程動転していたのが印象的だった。

 体を張って庇ったから無傷、と分かった時、ニャンコクックに物凄く感謝されたんだが…なんだ、その、居心地が悪い。

 危険があるかもしれない実験に、子供を連れていくような真似をしたのは俺なんだし。

 

 とりあえず、カティは暫くネコ嬢の仕事もオヤスミして、回復に努めてもらわねばなるまい。

 物理的なダメージはほぼ無いと思うが、高所恐怖症になっている可能性もあるし、神経とかのダメージは後日突然現れる事だってあるからな。

 

 

 

 

 

 追記

 

 俺の非もあったが、そもそも実験が失敗した原因を追究するのを忘れてた。

 

 

 

ゲーム用PC月メモするのも面倒くさい(←苦戦の原因)日

 

 

 カティは昨晩の遅くに目が覚めて、今のところ目だった被害は無し。

 高い所も平気だし、ムーファに襟首を摘まれて持ち上げられても(不本意だろうけど)平気です。

 マー何はともあれ、一息つけた気分である。

 

 カティに助けてくれてありがとう、と言われたが…だから俺が君を連れてった事自体が過失なんだってば…。

 

 

 

 それは置いといて、実験失敗の原因調査。 

 別に、誰かが設計ミスしたから、とかが原因だったとしても、別にそれを責める気は無い。

 試運転は何度も試して問題なかったそうだし、実際に空を飛ばせた状態での結果に、何かしら想定外の要素があったんだろう。

 例えば、空の上は想像以上に風が強かったとか、気圧の差による力がとても大きかった、とか。

 

 

 

 

 と思ってたんだけどねぇ…。

 

 

 張り倒したろかコイツら…。

 

 飛行船を弄り回していた技術者達、どうやら風防にはロクに手をつけていなかったらしい。

 どいつもコイツも、自分の作りたい新機能にばかり注力し、それ以外の部分はノータッチ。

 風防にしたって、「他の飛行船につけて飛ばしてみたけど、別に問題なかったね。 面白い機能でもないから、これだけでいいよね」って認識だったらしい。

 

 そりゃ、風防に妙な機能をつけたり、無闇に頑丈にしろとは言わんがな…。

 確かに、普通に飛ばすだけなら全く問題はなかった。

 ただ、大型回転衝角の余波が思っていた以上にデカかっただけだ。

 

 それでも、他の機能を作るのに使う情熱を、もうちょっと風防に向けてくれてれば、あんな事にゃーならんかったと思うんだが。

 それを言い出したらキリが無いのも分かるが……普通、乗務員の安全に直結する部分に一番力を注ぐべきじゃないかねぇ…。

 いくら俺が、古龍に撃墜されても平然と帰ってくるようなハンターだからって。

 

 

 

 流石に悪いと思ったのか、超大型回転衝角担当の技術者達が改善策を練っている。

 まぁ、風防の頑丈さの問題が解決できなけりゃ、実用化も無理だしな。

 使うと同時に風防が全部破れて、中身が吸い出されるとか自爆以外の何者でもないよ。

 

 

 …使うだけなら、風防を全部とっぱらって、以前と同じ状態にしてしまえばいいんだけどね。

 余計な事は言わぬが華…。

 

 

 

 

 

 ところで、龍暦院から依頼が来た。

 竜ノ墓場に関する調査協力の依頼だ。

 あそこにはオストガロア以外のモンスターは今のところ発見されていないが、あの物凄い量の骨を見るに、他の『何か』がある可能性が高い。

 いくらオストガロアが大食いだったとしても、島が出来るくらいの量のモンスターを食い尽くせるだろうか?

 と言うか、あの場所から動かずにそれだけの量のモンスターを捕獲できるだろうか。

 

 

 そこで研究者が立てた仮説は、あの場所は文字通りの「墓場」なのではないか、という事だ。

 これは未確認の情報なのだが…まだ未開の地には、霊木ヒヨスと名付けられた、毒を持つ大樹があるのだそうだ。

 王立書士隊のアーサーという人のスケッチに書かれていたその木は、森の毒性の強い生物にとっては聖域と呼べる場所であり、ベノムワイバーン(これまたスケッチでしか確認されてない)の最後の時を迎える場所でもある。

 死期を迎えたベノムワイバーンは霊木ヒヨスの元で朽ちて地に返り、それを栄養としてヒヨスは育ち、また強く毒を溜め込む。

 ヒヨスの樹液を啜って育ったモンスターは更に強い毒を持つようになり……まぁ要するに、ベノムワイバーンが死ぬ時、自らそこを訪れる(とスケッチには描かれていたそうだ)

 

 

 同じように、竜ノ墓場も死が近いモンスターを引き寄せる『何か』があるのではないか。

 あの膨大な量の骨は、オストガロアが食ったものだけでなく、そうやってやってきたモンスター達の残骸でもあるのではないか。

 

 …まぁ、確かに…あの骨の量は異常だった。

 あまり詳しく調べてきた訳じゃないが、朽ちて何十年も経っていると思われるものもあった。

 オストガロアは、そんなに前からあの場所に潜んでいたんだろうか?

 …ありえない、と言えないのがこの世界の恐ろしいところだよ。

 

 辛気臭い場所だったが……一度調べてみる価値はあるかもしれない。

 

 

 

ゲーム用PC月ところで酒の数を減らすと、何だか体が軽い気がする日

 

 

 竜ノ墓場、相変わらず骨だらけである。

 オストガロアを仕留めた時に暴発で出きた、天井の穴もそのままだ。

 分かった事はあまり多くない。

 

 まず、足場周辺にある水だが、どうも何処かから湧き水が出ているらしい。

 オストガロアが回遊できるだけの水場を作るような湧き水だ。

 何処からどう湧いているのか分からないが、かなりの量だろう。

 

 更に、周囲にはオストガロアが移動できるような横道の類は無し。

 どうやって移動してきたのか…この上、俺が飛行船で不時着した場所付近を見ても、大質量の巨体が移動したような痕跡は見られなかった。

 となると…痕跡すらなくなるくらい前に、山道を移動してきて、穴から飛び込んできたか。

 或いは、この水場の何処かにある(かもしれない)穴から潜って移動してきたか、だな。

 イメージ的には後者だと思うんだが。

 

 それにしても、思い返せば返す程、オストガロアは古龍の中でも異質な存在である。

 そもそも外見からして全く違う。

 本当に違う生物なのかもしれない。

 …見た目、タコみたいな感じだったし、実は本来海で生息する生物だったとか?

 ありそうだ。

 

 

 

 

 一日かけて調べてみたが、分かった事はそれくらいだ。

 調査員が考えていたように、ここが墓場である確証も、そうではないという確信も無い。

 代わりに、この場所でひどく古い骨が見つかった、と研究員の一人が騒いでいた。

 そりゃこれだけ骨だらけなら、古い骨もあるよ…と思ったのだが、既存の生物の骨とは違う形をしているのだそうな。

 …それ、単に欠けてたり、別々のモンスターの骨が組み合わさってるだけじゃないの?

 オストガロアの触腕は、モンスターの骨を組み合わせて竜みたいに見せてたし。

 

 まぁ、モンスターの骨の構造なんぞ、俺には分からん。

 解体する為、急所を狙う為の知識程度ならあるが、専門分野を語れる程ではない。

 大発見だ、と信じて調査を進めるなら、好きにすればいいだろう。

 モンスターにも教われず、この膨大な骨の中から目的のモノを探し当て、古い古い骨が資料として使える程に形を留めていて、尚且つそれが本当に未知のモンスターの骨なのであれば、一大発見になるかもしれない。

 伝記が書けるかもしれないな、トロイアの木馬を発見した人と同じような。

 

 

 しかし、実際妙な場所ではあるんだよな。

 骨の事を差し引いても、山の上にこれ程デカい空洞があって、巨大なモンスターが生息していて、そして生物の気配がまるで無い。

 山中だと言うのに、虫すら入ってこないのだ。

 オストガロアが居なくなった今でも。

 

 奴の気配が染み付いているからとか、長年この場所に触れずに居た習慣だからとか、そういう理由付けも出来るが……研究員が言うように、確かにこの場所になら何かあってもおかしくない、と思う場所でもあった。

 霊的なモノは感じられなかったけどな…。

 薄気味悪さみたいなものは感じている。

 オストガロアみたいなのがもう一体居て、あの骨の中からこっちを密かに覗ってるんじゃないか…と。

 ホラー映画みたいな話だね。

 でもハンター的にはいつもの事なんだよね、何処にモンスターが潜んでるか分からないのが当たり前だ。

 

 

 

 

 

 

 追記

 

 帰りがけにラージャンと殴りあうハメになった。

 激昂したり、最初っからスパーク状態になってりはしなかったけど、メッチャ苦労した…。

 

 

 

 

 

ゲーム用PC月でも飲まずにはいられない日

 

 

 武器を手放したのは失態だった…。

 幾ら調査が終わって帰る途中だったとは言え、気を抜いた。

 ライトボウガンを背中から外してガーグァ車の荷台に置いて、飯でも食おうと食料を取りに行ったところで…襲撃。

 荷車が一撃でぶっ壊され、ライトボウガンは藪の中。

 

 最近こういう失態が多いな…弛んでおる。

 

 

 まぁ、そういった瞬間を狙って襲撃をかけてきたっぽいけどな。

 ご丁寧に、荷車が壊れて吹っ飛ぶライトボウガンを目で追っていたのを見た。

 つまり、最初から武器の排除を目的とした奇襲だったと。

 

 猿は頭がいいと言うが、オツムを使うラージャンとか最悪である。

 

 

 

 

 更には退路を塞ぐように動き回り、武器を取りに行こうとしたら狙って光線を放ってくる始末。

 余波で更にライトボウガンが吹っ飛んでいった。

 後で回収できたのは奇跡である…壊れてたけど。

 

 

 スーパー化してもその冷静さは健在だった。

 それこそ狩人が獲物を追い込むように、細かい移動や牽制でこっちの選択肢を潰してくる。

 激しい怒りでスーパー化しながらも冷たい頭のままで戦い続けるとか、どんな戦人やねん。

 

 

 そんな状況だったもんで、ハンターからしてみれば最悪以下、キ○ガイの戦術を取るハメになってしまった。

 

 即ち、正面切ってのガチ殴り合い。

 ラージャン相手に。

 ガンナー装備で……まぁ、装備に関しては、ガンナーでむしろ助かったかもしれない。

 装甲が薄い分、動きが拘束されないし…。

 

 

 ハンターが武器を持たずにモンスターと戦うなんぞ、まずあり得ん。

 元の世界での廃人レベルなら、キックだけでモンスターを倒すような阿呆も居るかもしれんが、どれだけ鍛えたってモンスターと人間の間には、歴然とした差があるのだ。

 同じ土俵で勝負したら、確実に負ける。

 

 

 

 その同じ土俵で勝っちゃったんですけどね。

 いや、流石に霊力は使ったけど。

 

 

 ラージャン相手に格闘戦やるハメになるとは思わなかった。

 討鬼伝式の手甲の戦い方で何とかなったが……富獄の兄貴、色々仕込んでくれてありがとう。

 

 

 タマフリの天岩戸を使った開幕関節技を決められなければ、完全に終わってた…。

 天岩戸が効いてる間はブン殴られても無傷だと開き直って、顔面でパンチを受け止め、そのまま強引に捻り上げた。

 虎王とかできればよかったんだが、技術以前にリーチが足りん。

 ラージャンの腕だけでも、俺の体より長いんだよな…。

 

 最初の関節技で、腕を半壊状態に出来たのが最高だった。

 ラージャンは基本的に四つんばいで行動するので、壊したのは腕でも、移動に必要な器官…人間で言えば足を壊したようなもんだ。

 機動力が劇的に落ちた。

 

 

 そこから先は、もう騙しあいだった。

 腕を更に壊そうとしているように見せかけ、ラージャンが見せたフェイントに引っかかりつつ天岩戸が切れているように見せかけ、後ろに回れたと思ったら逆ローリングアタックで逆襲喰らうは、追って来いとばかりに逃げたように見せかけたら光線連発してきやがるは、逆に光線を誘って懐に潜り込んだらアッパーで迎撃されるは…。

 なんかもう別のジャンルになってた。

 

 結局、小一時間ほど殴りあい、研究員も全員避難した辺りで、ようやく勝機が出た。

 コツコツ殴っていた成果が出て、ようやく転倒したのだ。

 そこから一気に決めたんだが……なんというか、男として悪い事をしてしまった。

 

 

 いや、討鬼伝プレイヤーで手甲使いなら、一度以上はやった事あると思うんだけどね。

 軍神招来、渾身、吸生、その他諸々のスキルを連動させての百烈拳。

 

 

 

 

 

 

 

 

 を、転倒した相手の股間に。

 

 

 ラージャン?

 泡吹いてショック死してたよ。

 

 

 悪い事をしたとは思うけどさ…分かるだろ、討鬼伝プレイヤーなら。

 手甲ってリーチが短いし、動きも鈍いから、人型の鬼が相手だと足元付近に留まりながら殴り続ける。

 で、そこで鬼が転倒したとなりゃ、プレイヤーは丁度足と足の間に居る訳で、そうなると必然的にその場で狙える場所っつーと…ねぇ?

 

 他の武器使ってても、倒れた鬼の股間が目の前に来て、「なんだかなぁ…」と微妙な気分になりつつラッシュした事あるだろう。

 駄目押しに、起き上がろうとするタイミングで鬼千切使って去勢じみた追撃まで加えたことも。

 

 

 

 

 

 ま、とりあえず生きてて良かった。

 ついでに言うと、倒した場面を見られずに良かった。

 もし見られて、その噂が広まってしまったら、「ラージャン(♂)を股間で倒した男」なんて噂が広まってしまうかもしれない。

 きっとA.BEEさんが襲撃してきてしまう…。

 

 

 

 

 まぁ、それはそれとして、久々でもないけど冗談抜きでデスワープの危険を感じる相手だった。

 俺自身の油断がどうだとか、鍛えなおしがどうとか、色々と課題はあるが…。

 

 

 とりあえず、殴り合いでアドレナリン出まくったし、ちょっと鎮めてきますかね。

 さて、パーティ開催の通知書かなきゃ…。

 

 

 

 

 

ゲーム用PC月豆腐茶漬けに助けられております日

 

 

 極めてどうでもいい事だが、ニャンコックはカティに懸想しているそうな。

 別に本人に確認した訳じゃなくて、昨晩の乱○パーティでちょっと話題に出たんだが。

 少なくとも、ニャンコックとカティの周囲の女性達にしてみれば、話題に出すのも躊躇わない程度には周知の事実らしい。

 確かに、飛行船でのテストで事故ったのを聞いた時の慌てっぷりは凄かったが…。

 

 しかし、アイルーと竜人族がねぇ…。

 年齢がどうのという以前に、仮に成就したとして子供がどうなるのかが気になるね。

 カティも割りとネコっぽいところがあるけど。

 

 まぁ、一部の竜人族と人間だって、似ているのは姿形だけだ。

 それでもR-18も出来るんだし、やろうと思えばヤれるでしょ多分。

 

 

 

 

 そしてあまりどうでもよく無い事なんだが、なんか俺ってカティに懐かれてる。

 察するに、飛行船での事故の時に庇った事で、ズキューンと吊り橋効果込で貫いてしまったみたいなんだが…カティって何歳なんだろうな…。

 とにかく竜人族の外見年齢はアテにならんし、周囲の人間の認識もアテにならない。

 同じ竜人族に聞いてみても、「若いよ」⇒ロリBBA、「青年くらいかな」⇒外見年齢的な意味であって実際は爺様、なんて事が多数ある。

 今思うと、ポイクリ爺さんも本当に爺さんだったのか疑問に思えてくるくらいだ。

 

 …いやポイクリ爺さんの事はどうでもいいんだ、いいツマミを教えてもらった事は感謝してっけど。

 俺はカティにどう接するべきだろうか。

 今まで、何人もの女性と不義理な付き合いを(公認の上でも)続け、特に今回ループでは不特定多数(ていうか名前も顔も分からん)相手と関係を持つに至った。

 その俺が、今更ナニを躊躇うと言うのか?

 

 カティが見た目からして、ユクモ村組以上のロリだから?

 確かにそれもある。

 しかしそれ以上に引っかかっているのは、しつこいようだが飛行船の実験にカティを巻き込んだ事なのだ。

 しかも、カティ本人はそれが切っ掛けで俺に懐くようになったと来ている。

 

 

 …いや、そもそも懐かれているといっても、男女関係的なモノとは限らん。

 憧れのお兄さん(失笑)的なものかもしれないじゃないか。

 ……でも俺だしな…。

 今回ループの流れを考えると特にな…。

 

 むぅ、いつからこんな風になってしまったのか。

 このループに巻き込まれる前は、彼女なし特技なし将来の展望は何となく「三十路に至るまでに事故かなんかで死ぬんじゃねーかな」と適当な想像しかできず、趣味ゲームの極めて一般的なライトゲーマーだったハズだというのに。

 

 まーなるようにしかならないか。

 流石にカティの慎重じゃ、例のパーティに潜り込んでもすぐ分かるし。

 魔女っ娘みたいにオトナに変身できるとかいう超展開は流石にないだろーしな。

 

 俺の女癖の悪さも別に隠している訳じゃなし、気付けば醒めるでしょ。

 それまでは気のいいお兄さん役と割り切りますかね。

 

 

 

 

 





 はて、久々に夢をみている訳じゃが、今度は一体何処じゃろな、マジで。
 …いやホントにさぁ。

 ふと気がつけば妙な場所、なのはもう慣れた。
 これが夢だって自覚もあるし、夢だとしても痛いものは痛いし死ぬのは嫌だ。
 つまり、やる事はいつもと変わりない訳だが…それにしたって、もうちょっと状況を把握できるような手掛かりくらい欲しいもんだ。

 今回は、見渡す限り空、空、空。
 
 どーも非常に高い所にある……宮殿?
 にしちゃ殺風景だし…とにかく、円形の台座の上に居るようだ。
 結構広い。
 何処となく宗教的なカンジの模様の床。
 真ん中にある丸い部分の上に立ってみたが、特に何も起こらない。

 他にはとにかく何も見えない。
 あっちを向いても、こっちを向いても雲ばかり。
 空を見上げれば太陽一つ。

 台座から身を乗り出して下を見てみたが……とりあえず地面は見えない。
 と言うか、なんか妙な空間になっているようだ。
 俺が立っている台座を中心にして閉じているような。


 …あの、マジで何処ですかココ。



 と言うか何処でもいいですから、とりあえずイベントをください。
 冗談抜きでする事が無い。




 そんな事を考えてたのが悪かったんだろうか。
 ふと気がつけば、背後からウニョラウニョラと迫ってくる……なんだ、その、モンスター?
 しかもモンハン的な奴じゃなくて、なんつぅかこう…共通点は感じるんだけど…その、生々しいと言うか…いやモンハン世界のモンスターだって生々しいんだけど、そーいう生々しさとは違う…禍々しくもニギニギしいと言うか。
 生物として有り得ないのに生物と言うか…。

 とりあえず敵なのは確実だな。
 


 数体居る上、何処からともなく湧いてくると言うかワープしてくる連中だったが、何とか勝利。
 あまり力は強くない。
 一般人なら成すすべもなく惨殺されてしまうだろうが、ハンターなら充分渡り合えるレベルだ。
 今出てきた奴らは、だけどな…。


 本当に、何だこいつら。
 一見するとピエロの人形が、不気味に動いているようにしか見えない。
 ただし明らかに真っ当な人間の挙動ではなく、中に得体の知れない『何か』が詰まって蠢いているようにしか見えなかった。

 …ところでさ、蠢くって春に虫、虫って書くだろ?



 …文字通りだよ。
 春じゃないけど(多分な)、詰まってたの虫だったわ。
 しかも数え切れない、夥しいを通り越しておぞましい数の。

 胴を叩き切ったら、傷口から血液代わりにゾワゾワと。
 今更虫くらいじゃ悲鳴も上げる気にならないが、流石にこれは驚いた。

 まぁ、他の連中もさっさと叩き切ったが。
 うーむ、虫の体液で切れ味の消耗が酷いな。
 濃汁素材でも取れれば、もうちょっとやる気が出るんだが。


 この辺で、ちょっと記憶に触れるモノがあった。
 映像越しだったが、あれは幼心にちょっとトラウマものだったぞ…ディ○ニーのオバケの奴みたいに、デフォルメされたカンジじゃなかったから尚更。


 その後出てきたのは、さっきのピエロ人形(虫詰まり)の頭に植物が生えた奴。
 …カツラか?
 カツラのつもりなのか?
 せめてアフロ型にしろよ、ピエロっつったら脳天ハゲに側面アフロだろ?
 
 だがそのカツラをブンブン振り回して攻撃してくるとは思わなんだ。
 しかも体の方を両断しても、カツラだけ動いて迫ってくるし…。
 まぁ、そこまでされれば状況は理解できる。
 カツラの方が本体…いや、カツラがピエロに寄生して操ってる訳だ。

 まーこの辺も、数で迫ってきたから梃子摺ったが、範囲攻撃でどうとでもなるレベルだった。


 厄介なのはそこからだ。
 氷のバケモノ、炎のバケモノ、雷のバケモノ、動く羽つき鎧にフワフワしたガスみたいなバケモノ…。
 放ってくる攻撃は強力だし、タフな上に弱らせると氷に閉じこもって回復しやがるし、雷のバケモノに至ってはブン殴ったら逆にこっちが感電するって何じゃい。
 キリンや超帯電ジンオウガでさえ、そこまでやらんかったぞ。
 
 何より、今まで戦ってきたモンスター達と比べて、動きが段違いにスムーズで素早い。
 その分、あんまりタフではないのが救いと言えば救いか。
 火力も…まぁ、G級一歩手前の連中と比べれば、そこまで高い訳でもなし。

 ただ、多分こいつらまだまだ序の口レベルの連中なんだよな…このまま強い奴が出てくれば、こいつら以上に素早くてタフで数を揃えている連中が、根性スキルも効かない一撃死の攻撃を仕掛けてくるような気がしている。
 具体的に言うと俺マストダイ。



 まーそれでも、何だかんだで遣り合って。
 倒したときに連中が零す、赤い結晶みたいなのを集めて…と言うか吸収?していった。
 連中を倒した後、暫く休みがあるのが救いだね。
 休むだけ休んで、そんで新しい敵が出てくる。


 …これ、やっぱあのゲームだよな…こんな場面あったかな。
 やり込み要素の方かな…。








 それからどれくらい戦っただろうか。
 幸いな事に、デカブツは出てきていない。
 あのゲームだとしたら、ボスは…まぁ難易度にもよるが、かなりレベル高いと思った方がいいだろう。
 特に、同じ製作会社だとしても方向性がまるで違う為、運動性に天と地ほどの違いが出てくるだろう。
 モンハンの動きでスタイリッシュSSSを出せとか無茶言うな。
 いや出来る奴は出来そうだけどさ。
 せめてゴッドイーターの動きにしてくれよ。
 討鬼伝?
 言ってやるな。

 …とにかく、デカブツも出てこないし、運動性が高い奴が出てもあんまりタフじゃないから、ゴリ押しで何とかなった。
 そういう相手が選ばれて出てきてるのか?
 要するに、動きは早いけどタイミングを測れば避けられて、ちゃんと当てればダメージも通り、積み重ねていけば充分倒せるレベルの相手。

 そんな風に相手を選べるのか?
 ゲームにそんな要素あったか?
 いや夢を相手に整合性とか考えるだけ無駄と言われりゃそれまでなんだが。






 …まぁさ、確かに考えた条件に当てはまる相手だったよ?
 素早いし。
 攻撃を受ければ倒れる、というのは俺自身もゲームの中で何度も証明してしまっていたし。



 でもさ、右手が悪魔の人が出てくるなんて、幾らなんでも反則じゃないかい?
 そりゃ元祖デビルハンターやら鬼いちゃんやらに比べりゃマシかもしれんが、勝てる気がしないのは変わらない。
 空を見上げて、星と星のどっちが遠いかを考えるよーなもんだ。
 どっちも手が届かず、天の高さに代わりはない。




 そんな気取った例えなんかしてる暇あるかよ。
 みょーんと伸びた腕にとっ掴まったと思ったら、激昂ラージャンなんかメじゃないくらいの握力で握り締められ、投げる投げる握る殴る振り回す…。
 エライ目にあった…。
 いつ死んだというか目が覚めたのかも分からんわ。

 
 …ただ、戦ってた時に回収したらしき赤い力の塊…レッドオーブの感覚は、確かにある訳でね?


 何に使えるのか、色々考えはしたが…魔人化はアラガミ化があるし(更にパワーアップするかもしれんけど)、鬼いちゃんの次元斬とかエアハイクとか弾切れ無しの変態級銃撃術とかにも憧れたが、今会得すべきはコレだろう。
 一瞬とは言え、直接戦ったんだし。
 以前に剣術バルドに腕を吹っ飛ばされた時も、霊力で作った腕とか使えたし。

 という訳で、霊力で作った腕をうにょーんと延ばせるようになりました。
 篭める霊力が足りないのか、それとも使い方が拙いのか、本家ほどの腕力は出せないが…エリアルスタイルの基点として考えれば、戦術に革命が起こせるレベルだと思う。
 もうちょっと力を出せれば、デビルブリンガーのスナッチよろしく腕で引き寄せたり、強引に引っ張ってダウンさせたり、急所(色んな意味で)を握って動けなくした後に乱打できるようになると思うんだけどねぇ。
 …アラガミ化すれば、デビルバスターも出来るかもしれんな。
 




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140話

気になっているタイトルー。
世界樹の迷宮Ⅴ。
スターオーシャン(考えてみれば発売間近だ!)。
ギルティギア。
ペルソナ。
スパロボ。
ナルト(発売済み)
オーディンスフィア。
討鬼伝2。

…今年は色々あるなぁ!


追記
職場で上司に言われたのですが、文章を書く時は。で改行するのではなく、文章の内容で改行するそうです。
確かに小学生の時に習った覚えがあるのですが、内容で分けるってのが苦手なんですよね…だから。で常に改行、内容が変わるときには一行分開けるという形式をとっていました。
ですが、他の尊敬する作者様方の書き方を見ても、確かにそのように書かれています。
という訳で、ちょっと書き方変えてみました。
この書き方が続くかどうかは分かりませんガ。


-追記の追記 3/27-

色々な方からご指摘をいただいたので、とりあえず句読点の後のスペースを消しました。
あと1~2回くらいはこの形式で試してみようと思います。


ゲーム用PC月現在実家に帰省中日

 

 

 飛行船の風防、改良完了。と言っても、実地テストはこれからやらなければならないんだが。正直言って不安である。

 

 空を飛ぶという事自体、この世界の人間にとっては滅多に無い事なのだ。当然、空の上と地上との環境の差だって、充分研究されている訳ではない。そもそもからして、航空力学云々を平然と無視して飛行するモンスターだらけなんだし、真っ当な法則があるのかも怪しいな。

 

 

 だからカティ、今回は君を連れてはいけません。そ、そんな顔したってダメなんだからね! 危ないからダメです! 俺が守ってくれるとかそーいう事じゃないでしょ! 真の護身は、危険に近付かない事なんだからねっ!

 

 

 

 …ふぅ、要らんところで精神的ダメージを負ってしまった。妙に無垢な目を向けてきおって…やはり中身も幼いんだろうか。

 

 ともあれ、再度飛行船実験である。

 

 

 

 前回良好だったバァルカン!等の運行は、今回も問題なし。微調整したと言ってたから、そこまで違いは無いだろう。

 

 肝心の風防も…まぁ、問題は無さそうだ。随分と様変わりしている。全面がガラスなのは変わりないが、これは仕方ないか。カメラの類が無い以上、上空では前後左右を目視するしか無い。金属類で覆ってしまえば、頑丈さは上がっても周囲が見えなくなってしまう。

 ただ普通に飛行するだけなら問題ないだろうが、今の飛行船は空中でモンスターに襲われた時の事を想定して改造されている。機動力・旋回力共に、飛行船よりモンスターの方が圧倒的に上だ。これで視界まで塞がれたら、それこそどうしようもなくなってしまう。

 

 さて、前回問題だった大型回転衝角だが……多分成功、だと思う。この短期間で何をどう改造したのか、回転させても船体のバランスはそこまで崩れなかったし、風防も割れなかった。ただ、金属疲労(金属じゃないが)の問題で複数回使うと、やはり故障の可能性が非常に高いらしい。

 

 …まぁ、そこはあんまり考えなくてもいいと思うけどな。何せモンスターに体当たりする運用方法なんだ。どんなに精密にして、耐ショック機能をつけたとしても、故障は免れないだろう。

 

 

 

 テストはとりあえず、無事終了。現在は隠れた故障が無いか、技術者達があちこち調べまわっている。

 

 …うーん、俺としては…オート機能を付けられないかな、と思うんだが。何せ基本的に、ずっと操縦席に居ないといけない訳だから、一人じゃバルカンの照準すら合わせられないのだ。暫くの間なら、操縦席から離れても問題ないくらいの自動運転機能が欲しい。

 

 …それがあれば、空の上でエロい事もしやすくなるしね。

 

 

 

 ま、高望みってレベルじゃないがね、今の段階だと。

 船体の傾きを感知するセンサー、周囲の風に上手く対応できる翼、その他諸々は試作すらできていない段階だ。オート機能は、もっとカラクリ技術が発達しないと無理だろう。かつての世界で、PCや電子機器を駆使して尚誤動作が出るような作業を、木組みのカラクリでやらせようったって無茶な話よ。

 

 

 

 さて、飛行船の改良も一段落し、また外回りの時期だ。今回はどんなモンスターと遭遇する事になるやら。技術者チームからは、「新機能使って空で戦ってこい」なんて言われたけどな…。

 

 

 

 

ゲーム用PC月感想返しは次回にまた日

 

 

 外回り中。現在、寄り道しつつポッケ村へ移動中。

 

 カティがついてきたがってたんだが、何とか却下した。懐いているとかじゃなくて、商売の話だったから却下するのに苦労したわ…。

 

 前にも書いたが、アイルー同志の交換留学とか真面目に考えているからな。それが成功すればオトモのレベルも上がるだろうし、サポート行動や術も増える。

 ついでに、失敗しても俺には何のデメリットも無い。ぶっちゃけ、断る理由は無いんだよな。むしろ、本当に飛行船の捜査員としてオトモを育ててくれるなら、真面目にありがたいくらいだ。

 

 じゃあ何で却下したかって? 俺の理性と下半身と倫理観が信用できないからに決まってるだろ。

 

 

 そうでなくても、ここんトコ行く先行く先で妙なモンスターやら古龍やらに襲われまくっているのだ。更に、これから行くポッケ村の足元には大災厄が潜んでいる。

 いつ目覚めるのか戦々恐々している場所に、あんな子連れていけるもんか。何かあったら自責の念で切腹しちまう。次のループに行くだkだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 そしてやっぱり出たよォ!

 銀火竜がさァ!

 

 

 バァルカンなんて効きやしねぇよ! 体当たりなんて機動力が違いすぎるよ! カティ連れて来なくて本当に良かった! メビウス1とか相手にしてる気分だったよ! FOX2! FOX2!

 

 最初の一当てを軽症で乗り切れたの、ホンマ奇跡だわ…。何よりも、初撃が炎のブレスでなかったのが助かった。引火して大爆発とか御免蒙る。

 深刻なダメージを負ったフリをして不時着して、そこから先は地上戦。

 

 いやもう通常種に比べて硬いのなんのって。しかも、使ってた武器がこの前見つけた凄く風化した大剣から作ったエピタフプレートだったからな…。飛竜のクセして龍属性効かないんだよな、あいつら。せめてテスカの方ならよかったのに。

 

 最終的には、久々に自分からアラガミ化しての連続サンダーウェイブが決め手だった。忘れがちだけど、アラガミ化した状態だと炎氷雷の属性攻撃を素で使えるんだよね。水とか龍は、変身前の装備が必要だけど。

 

 

 

 はー、しかし何でこんな所に希少種が居たのやら。金も一緒だったら、確実に詰んでいた。

 

 こいつら、ゲームだと基本的に塔の秘境に生息してるんだよな。ひょっとして、この近辺にもあるんだろうか。ポッケ村にも塔はあったが、そこからここまで飛んできたとは考えにくい。

 

 うぅむ…これも異変の一種なんだろうか?

 

 

 

 と言うか、そもそもコイツ、本当にMH世界の生き物だろうか。

 なんつーか……霊力への抵抗力が滅茶苦茶高かったんだけど。タマフリの連昇を初めとして、金縛りやら弱体化やらの効果がひどく薄かった。それこそ、ヘタな鬼より抵抗力が強いんじゃないかってくらいに。

 

 これが希少種の普通なんだろうか? それとも、今まで何度も遭遇した異常な能力を持った希少種中の珍種なんだろうか。

 

 希少種は……そうだ、塔の秘境、つまり根元で生息していたのなら、塔に残っている霊力に晒され続けたとしてもおかしくない。それで抵抗力を得て、或いは適応した結果が希少種…とは考えられないだろうか。つまり、珍種じゃなくて、希少種としてはこれが通常。

 

 この推測が正解かは分からないが、多分近い内に金火竜ともやりあうハメになるだろうし、霊力は効果薄しと考えておいた方が良さそうだ。

 飛行船のメンテがあるので、今日はここまで。

 

 

 

 

ゲーム用PC月帰省の最終日が、ひい婆ちゃんの命日でした。何年目かなぁ日

 

 

 幸い、飛行船のダメージは小さなものだった。攻撃力は今回は使えなかったが、防御力を色々強化してたのは無駄ではなかったようだ。

 

 この近辺で銀火竜が生息していた形跡が無いか調べてみたかったのだが、こんな所に飛行船を置いておいたら、それこそ興味を惹かれたモンスターに何をされるか分かったものではない。実際、ランポスの群れが一度寄ってきたが、殺気で追い払った。……久しぶりに鳴き声で交渉した方が良かったかもしれないな、平和的に。

 

 

 さて、金火竜に教われないか、警戒しながら空を飛んでいたんで、ちょっと遅くなってしまったが、ポッケ村に到着。

 

 やっほー、シャーリー久しぶり。元気だった? 皆とケンカしてない? 欲求不満?

 

 …歓迎のキスと同時に地獄突きを食らった。元気そうね。だが欲求は不満していると見た。

 

 

「…やっぱり、女だけだとね…」

 

 

 とボソッと呟いたの、聞こえたぞ。俺が居ない間は、フローラさんやフラウさんと百合百合していたらしい。そう仕込んだのは俺だけど。

 

 

 ともあれ、今のところポッケ村は平和そのものらしい。

 ティガレックスもガムートも村の近くからは居なくなり、獰猛化するモンスターも特に出現していない。

 

 

 そして地下に眠るウカムもそのままである。

 

 いい加減、レジェンドラスタの二人も「もう起きないんじゃないか?」とダレてきている節があるそうだ。まぁ、一日中アレの前に居座ってる訳にもいかないし、そういう結論に流れるのも分からんではないが。少し前に僅かだが変化があり、二人とも気を引き締めなおしているらしい。

 

 

 普通であれば、多忙なレジェンドラスタがこのように長期間、平和な村に居る事はない。例え潜在的な脅威があっても。

 しかし、ベッキーもそうだったが、現在はギルドからレジェンドラスタ及びギルドナイトの移動禁止令が出されている。コレ幸いと二人して村に留まっている訳だが、何か情報は入ってきていないだろうか。

 

 ギルドナイトやレジェンドラスタの移動を制限する程の脅威…。地下のウカム、ではないと思う。危険度は非常に高いが、全区域のギルドナイトを制止させる理由にはならない。そこれそ、フラウさんとフローラさんで充分だと思うが。

 

 

 

 ところで、あっちこっちでの女関係についての制裁は無しデスカ? 家のドアを開けたら、サルカニ合戦の臼よろしく対巨竜爆弾(大樽爆弾Gの二倍以上の威力デス)までは覚悟してたんだけど。

 

 

「ああ……うん、まぁその、思うところは色々あったけど。ミナガルデのベッキーさんは………オブラートに包んで言うけど、型破りな受付嬢として色々有名人だったし。特にベルナ村のは…」

 

 

 知ってるのか…。(そしてベッキーの正体は知られてないな) すまん、ベルナ村に関しては口止めされてたから書かなかった。

 普段とは違った意味で後ろ暗かったし……ソッチ系の店に行ったみたいで。

 

 

「コノハさんとササユさんの手紙でね。どうもあの二人も、アナタが目を付けられるのを狙って情報を流したみたいだし…何考えてるのかしら」

 

 

 …(多分、どっちにしろ目を付けられると思って、俺を庇う為に情報を流したな…あのロリ双子、どこまで尽くす気だ…)。

 

 

「相手が不特定多数というのはどうかと思うけど、ギルドの事情と言うのも分かるから…。この村だと、そういう秘密のサバトは無いわ。職員で集まっての宴会くらいね」

 

 

 なんだ無いのか。…ま、シャーリーがそんなのに参加するのはイヤだしな。

 

 

「自分は参加しておいて、都合がいいわね。ま、それはそれとして…ちょっと仕事の話なんだけど」

 

 

 仕事。………話を聞いて思った。

 とうとう来たか、と。

 

 

 ベッキーの話と言うのは、俺の『昇格』の話だった。現在、外回りという特殊な形を取っているとは言え、扱いは上級ハンター。その状態で、色々と規格外の相手(初めて聞いた時、シャーリーは卒倒しそうになったそうな)を狩っていた俺である。もういいんじゃないか、という話がチラホラ出ていたようだ。

 

 

 即ち、G級ハンターへの昇格。段階的には、2段ほどすっ飛ばしての形になるが。

 

 

 

 やっとここまで来たか、という思いと共に、俺程度が、という認識もある。勿論、G級ハンターだってピンキリである。特に、同じG級でもポッケ村でのG級と、開拓地でのG級はまるで重みが違う。

 

 今の俺がG級になったとしても、ポッケ村基準でのキリにギリギリ当たるかどうか。ここから更に自分を高みに登らせなければ、G級では生き延びられないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 だが受けぬ。

 昇格ナシ!

 

 

 

「…でしょうねぇ。あーあ、残念。久しぶりにG級受付嬢としての仕事が出来るかと思ったのに」

 

 

 本音は?

 

 

「G級になれば、女にだらしない態度への制裁として、色々鬼畜クエストを押し付けられるのが一つ。…今はG級ハンターへの移動制限も出てきたから、G級に昇格すれば当分ここで独占できるかなーっていうのが一つ」

 

 

 …前半と後半の更に後半は置いとくが、ギルドナイトやレジェンドラスタだけでなく、G級ハンターまで移動制限が出たのか…。以前にココット村で話を聞いてたから、念の為に昇格せずにいようと思ったけど、大当たりか。こりゃ相当な事だぞ。

 

 

「そうね…G級ハンターは凄いけど、立場で言えば一介のハンター。その行動を制限する権限は、ギルドにだって無いわ。つまりは、越権行為をして、更にはG級ハンターの反感を買ってでも推し進めなければならない何かがあるか…。

 

 或いは、自分の権限の範囲を把握してないおバカさんが、ギルドの上部に座っているか、ね」

 

 

 強すぎる力を管理できるとアピールして悦に浸るってか? 後者は無いんじゃないかなー。あんまりアホな真似してやがったら、それこそギルドナイト案件で闇系だしさ。…そっちの方が、よっぽど良かったけども。

 

 

「私としてはどっちもどっちね。目前に迫る正体不明の物理的脅威か、アッパラパーな上司が出す指示に振り回されて、現場が大混乱するか。どっちにしろ、危険な目に会うのはハンターよ」

 

 

 ハンターがしくじったら、他の皆も危険だけどね…。で、情報は降りてきてないのか?

 

 

「それが全く…。それなりに情報網は持ってるんだけど、ガチガチにガードを固めてるみたい。

 そもそも2段階飛ばしてのG級昇格なんて、異例を通り越してとてもじゃないけど認められないわ。クラスが上がるという事は、それだけ危険度が増すという事。

 それをすっ飛ばして昇格させるという事は……ひょっとしたら、アナタにG級の枷を嵌めようとしたのかも?」

 

 

 

 どうだろうな…俺をムリヤリ戦力として組み込もうとしている? ふぅむ……更に、受付嬢にさえ、教える事ができない脅威…か。

 

 

 あまり考えたくはないが、何匹か心当たりはあるよな。黒いのとか赤いのとか白いのとか。

 

 話を蹴ったとは言え、G級まで来ちゃったもんなぁ…出てきてもおかしくはないんだよなぁ…。

 

 

 

 

 

プレイステーションVR月ひい婆ちゃんと犬、両方墓参りいってきます日

 

 

 新しい月に突入。今回はえらく長く続くものだ。

 

 それはそれとして、昨日は実に楽しかった。

 フラウさんは顔を見るなり、「待ってたんだよー!」と飛びついてきて全く離れなかったし、フローラさんも何だかんだで手を取ったりしてスキンシップを求めてきた。

 うーん、こうして触れ合ってみると…やっぱ強いな、俺より数段。

 そんな二人に擦寄られるって、なんか凄い優越感…。

 

 しかも…こうまで近寄られるとさ、やっぱニオイが分かるんだよ。

 二人ともクエストを受けてきた帰りだったんで、汗も少しは掻いてたんだが……メスのニオイもしたなぁ。発情しているメスのニオイが。二人も欲求不満だったのかえ?

 

 返答はフラウさんのおっぱい顔面押し付けと、フローラさんのヒップの感触でした。

 

 

 シャーリーはそんな二人を見て苦笑していた。

 俺が居ない間に、本当に仲良くなったんだなぁ…。本当に、前回来た時には感じられなかった、3人の間の……なんちゅうの、繋がりみたいなのがよく分かる。夜な夜な3人で遊んで、お互いに情が移ったんだろうか。

 

 

 

 結局、3人纏めて欲求不満を解消させてあげた訳ですが…うーん、ちょっと妬けるかな。

 3人とも、前に来た時とはこう…ちょっとテクとか感度とかが上がってるよ。コンビネーションに至っては、それこそジェットストリームアタックを実現できそうなくらいに見事な連携だった。

 

 イチャコラネチョネチョしながら切磋琢磨したんだろうなぁ。

 外回りの性質上、そして他にも何人も現地妻を抱えているから、接する事のできない時間が増えるのはどうしようもないんだが…。やっぱり、俺が居ない間に3人で仲良く(意味そのまま)していると思うと、どうにもヤキモチが…。

 

 

 身勝手極まりない話ではあるが、3人ともヤキモチ妬かれるのを嬉しがってくれてるみたいだからいいか。嫉妬と小さな苛立ちに任せて、実に激しい夜にしてしまいました。

 

 

 

 

 さて、仕事の話になるが、レジェンドラスタの二人は、俺がG級昇格を蹴った事を聞いて落胆していた。移動できなくなるから仕方ないって事も理解してはくれたけど。

 

 んで、二人が今でも見張っている地下のウカムであるが、最近少し異変が見られたそうだ。

 氷の中で大きくなったり小さくなったりを繰り返す、本来ウカムには無い角。この角の伸縮ペースが、少し速くなっている。更に時折ではあるが、角の色が不規則に変わる事さえあるそうだ。

 

 それが起こったのは約一週間前。その現象は、半日程で収まったそうだ。目覚めの前兆、だろうか?

 

 

 

 正直、村ごとさっさと避難させたい気持ちで一杯である。

 しかし、もしも本当にウカムが目覚めたのであれば、レジェンドラスタも、俺も戦わなければならないだろう。ポッケ村だけではない。異能持ちのウカムが暴れまわるとなると、それこそこの近辺一帯に壊滅的な被害が出るだろう。

 何百年も眠り続けていたのだから、空腹だって相当なモノの筈。この辺からグラビモスとかが絶滅してしまってもおかしくはない。

 

 

 

 

 という訳で、俺もちょっとウカムの様子を見に行ってみたんだが……うーん? なんかこう…確かに今までとあまり変わらない状態になってるみたいだが…引っかかる感覚があるというか…。

 

 

 

 

 

 あ

 

 

 

 

 こいつ、狂竜ウィルス持ってやがる。

 ココット村付近で獰猛化したモンスターを狩り続けている間に、狂竜ウィルスに感染しているモンスターを何となく区別できるようになってたんだが…氷越しではっきりしないが、多分コイツウィルス持ってやがる。…でも狂竜症は発生していない、ような…?

 

 それをフローラさんとフラウさんに話してみたが、流石に俄かには信じ難いとの事だった。ウカムは古龍じゃないし、そういう意味では狂竜ウィルスに感染しても不思議は無い。

 が、何でコイツが感染してんだ?

 

 狂竜ウィルスの正体は、ゴアやらシャガラやらのリンプンだ。文字通りのウィルスじゃないし、仮にコイツに偶然ひっついていたリンプンが纏めて氷漬けになっているなら、まぁ分からんでもない。凍っている今でも、死滅せずにウィルス(リンプン)は健在だ。

 しかし、本当に前から感染していたのか? どうにもそこが、霊勘的な部分に引っかかる。

 

 なんつぅか…今まで感じていた狂竜ウィルスとは、何となくカンジが違う気がするんだよな。

 どんな風にと言われると言葉に詰まるし、「耐性を得たからでは?」或いは「感染しているのがウカム(特異個体)だからでは?」そもそも「氷漬けになってんだから、他のウィルスと同じ状態の筈が無い」と言われると反論できない。

 

 レジェンドラスタのお二人も、霊力に関しては分からないし、流石に氷漬け状態で狂竜ウィルスに感染しているかなんか判断できない。だったらどうして俺が感知できるんだって話に

 

 

 

 

 

 そこじゃね、突破口。

 

 

 何で俺だけ、狂竜ウィルスを感知できるのか。俺だけがこの感覚を、明確に認識しているから。つまり、俺が感知している狂竜ウィルスは、何らかの霊力的な要素がある?

 

 考えてみりゃ、何でも取り込んで自己増殖する蝕鬼の触媒すら取り込んでいる俺の体が、物質を取り込むだけで変調するなんておかしな話だ。

 狂竜ウィルス全てがそうなのか、それとも極一部の狂竜ウィルスがそうなのか…。とにかく、霊力と狂竜ウィルスには何かしらの関連性がありそうだ。

 

 

 

 

 …しかし、何でもかんでも霊力霊力と繰り返して関連を疑うのもどうかと思うが…。実際、関連ありそうだもんなぁ。

 あのウカムにしたって、元々霊力で出来ていると思われる角があったところに加えて、狂竜ウィルス。

 

 しかもコレを言い出したら、前のループの時から今回まで、行く先行く先で何度狂竜ウィルスと出くわしたか。何処に行っても何をやってても、狂竜ウィルス狂竜ウィルス霊力狂竜ウィルス。本当に、トコトン祟ってくれるものだ。

 

 

 

プレイステーションVR月あと日中から飲み食いしまくってダラダラもする日

 

 

 先日思いついた、狂竜ウィルスが霊力と関係があるという説が当たりだとして(半ば確信を持ってはいるが)。それがどうしてウカムに感染しているんだろうか。

 

 霊力とは、個人個人が持つ生命力の具現だ。色々例外はあるが、その辺はこの際考えまい。

 

 で、基本的に霊力を操れるのは、それを生み出した当人だけだ。

 例え話になるが、攻撃的な霊力を他人の体に打ち込めば、それは毒となってその者を蝕むだろう。が、その霊力がいつまでも存在する事は無い。どんどん消耗し、やがては消え去ってしまうのだ。

 

 同じ事が、ウカムと狂竜ウィルスにも言える。ウカムに狂竜ウィルスを生み出す力は無い。つまり、狂竜ウィルスは他者から感染させられた霊力なのだ。

 であれば、何百年と眠り続ける間、それが消えずに残り続ける事があるだろうか?

 

 答えは否、だ。冷凍保存されていても、だ。

 

 

 

 つまり…あの狂竜ウィルスは最近感染した。何処からか流れ込んできた狂竜ウィルスが、ウカムの体に入り込んでいる。

 

 一体どこから?

 

 

 

 仮説はある。霊力=狂竜ウィルスの図式が成り立つのであれば、世界各地どこに行っても影響を与える方法はある。

 

 地脈だ。龍脈、龍穴、パワースポット、地面の断層、地面の下を流れるナニカ、フォッサ・マグネ。………マグナ、だったっけ?

 

 大地を巡る霊力は、その筋を辿って循環している。

 そこに何らかの理由で狂竜ウィルス=霊力が紛れ込めば? …その霊力の流れの先に居る、ウカムに入り込んでいってもおかしくない。

 

 ん、という事は、ウカムは外から流れてくる霊力を溜め込んでいるのか?

 …それを生命力なり、栄養代わりなりに使っているのであれば、何百年と冷凍冬眠していてもあんなに迫力に溢れている理由にも説明がつく。ウカムの近くにあるあの遺跡は、龍脈の力を使って何か儀式をやってたっぽいから、場所的にも不自然は無いしな。

 

 

 

 だが、この説にも穴はある。

 仮に龍脈に狂竜ウィルスが紛れ込んだとしても、それがどこまで生き延びられるだろうか? 大地に流れる霊力は、人間のソレとは比較する気にもならない程に広大で強力で膨大だ。

 大海に墨汁を一瓶放り投げたようなものだ。あっと言う間に拡散して薄くなり、その色さえ無くなってしまう。龍脈に流されながらも狂竜ウィルスとしての情報と形を保ち、あまつさえ古龍並みの飛竜に感染するとなると、元の狂竜ウィルスは一体どれほど強力なのだろうか。

 

 少なくとも、ココット村に居ると認識していたシャガルorゴアの比ではない。もしもそれ程に強い狂竜ウィルスを保持しているのなら、その被害はあんなものではないだろう。

 俺なんか、耐性を付けるどころかココット村で暮らす事すらできなくなってしまったかもしれない。

 

 

 

 

 …この仮説を信じて、龍脈の流れを辿ってみるべきか? あんまりソッチ方面の感知力は高い方じゃないが、龍脈の流れは基本的に山脈の尾根に沿っている。それを辿ってみて、その先で狂竜ウィルスと思しき被害…或いはモンスターの獰猛化が発生していれば、そこに何かがある可能性は高い。

 ふむ…とりあえず地図を見てみるか。

 

 

 

 

 




…実家から戻ったら、暫くヘルシー料理にしないと…。
焼き魚ってヘルシーなのかな。


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141話

実家から返ってまいりました。
一人暮らしもいいけど、実家もいいね。

私事で申し訳ないですが、ちょっと語ります。

ひい婆ちゃんの墓にも命日にお参りできました。
ワンコは…まだ墓が作られてなくて、お骨は妹の部屋にとってあります。
庭の小屋の所にお墓作るつもりらしいですが…まぁ、確かに今更知らない小屋(と言うか墓)に入れられても、あいつも困るだろうしね…もう49日とっくに過ぎてるけど。

あと、丁度実家に来ていた親戚の兄ちゃんのガキ共とも対面。
職場で騒ぐガキ共は鬱陶しいけど、身内だと思うとちょっとは可愛く見えてしまう…そうやって甘やかしていくとクソ共が出来上がるんだな。
兄ちゃん、ちゃんと躾けてくれよ…5歳児は一番面倒な時期だと思うが。

あと、妹(確か29歳)に彼氏できてたんで、オタトークしてきました。
頼むから爺ちゃん婆ちゃんに孫の顔を見せてやってくれ。
俺と妹兼弟はまず無理だからさ。


追記
転勤先が偶然同じで、時々会っていた友人が失業⇒再就職の為、故郷に戻る事になりました。
まぁ実家帰った時に会う機会があるなら、まだいい方だね…。
とりあえず再就職オメ。


プレイステーションVR月さて、スターオーシャンはどんなもんかな日

 

 

 MH世界の地理は複雑怪奇であるな。いや、俺が地理とか歴史とか苦手だから輪をかけてそう見えるだけかもしれんけど。地図を眺めてみて思った事だが、とりあえず自然が豊富すぎである。

 

 

 山脈は続いていっていたが、この分だと何処で分岐しててもおかしくない。が、それはとりあえず置いといて…龍脈があると思しき流れなんだが…思いっきりココット村付近の禁足地に直撃している。どう考えても、あそこに居るシャガルなりゴアなりが原因……か? 原因の一つであるのは確実だろうが、それだけじゃない気がするな。

 

 そもそも、結構前からあの禁足地にゴアが居ただろうに、何故に今に限ってこんな事がおきているのか。昨日も思ったが、単なるゴアなら龍脈を通して狂竜ウィルスを届けるような真似が出来るとも思えん。龍脈を介する事ができる存在…意図的にかは分からないが…が噛んでいる気がする。しかし、幾らMH世界でもそんなバケモノ居るかな…。

 

 風水的に考えれば、龍脈を統べるモンスター(?)と言えば黄龍か。竜なら沢山居るけどな…黄色いのなんか居たかな。金色なら結構居そうだ。居ても東洋風じゃなくて西洋風のような気がする。

 

 

 

 とりあえず、禁足地に何かありそうなのは確実なので…今やるべき事は、真面目にお仕事して、ハンターとしてのランクを1つ上げ、シャガルマガラ討伐に向かえるようにする事。

 

 なのだが、よくよく考えてみりゃG級昇格蹴ってんだよな。受けておけばクエストを受けられるようにはなってたか。ただしポッケ村から移動できなくなるので、全く意味が無いが。

 

 

 

 で、真面目にお仕事してたら、現地妻3人組から割りと本気で偽者疑惑を持たれた。オォイ、ポッケ村じゃ割りと真面目に仕事というか訓練してませんでしたかねェ?! それでいて夜のお勤めもキッチリ果たしておりますが、何故にそんな視線……というか釜に放り込まれるんですかねェ!? と言うかMH世界でも五右衛門風呂だか魔女狩り的な文化あるのな!

 

 

 ヤケドしたら本物、しなかったら悪魔。ただしハンターの場合は真逆である。

 

 

 溶岩に触っても「アチチ」で済む(流石にマグマの中に落ちたら一発死するが)ハンターが、五右衛門風呂でそうそう死ぬハズが無い。特に俺の場合は。

 

 結局ヤケドもせず、その後の激しい夜のお返しで俺本人であると証明(建前)致しました。ついでに言うと、釜に放り込まれたのはフラウさんの策略っぽい。ニオイフェチである彼女が一計を案じて、俺を汗だくの状態にしようとしたようだ。それで煮え滾る熱湯に入れるってのは、どう考えても色々間違っているが、G級ハンターとしては間違って……間違ってるよG級でも…。

 

 かつて、フラウさんは双剣使いなのに剣の片方を忘れるというとんでもないドジをしでかし、だが可愛かったから許されたと言う。だがゆ゛る゛さ゛ん゛。

 

 とりあえず、フラウさんにはオシオキとして、本格SM方面でお返しさせていただきました。縛って鞭して、目の前でラヴい感じで合体しながら見せ付けて、本人は徹底的に焦らしてました。

 

 

 

 気が済むまでイヂめたからゆ゛る゛す゛。

 

 

 止めなかったフローラさんもフローラさんだけど、そっちには「色んな女の人と仲良くしているみたいだから、ちょっとイライラして」と言われると…完全に非はこっちにあるな。お詫びにたっぷり楽しませてあげました。ええ、もう「大分慣れてきたわ」と余裕の表情を見せてたのが、またしても潮とか黄金水とか噴出してしまうくらいに。

 それはオシオキとどう違うのかって? ……ヤッてる最中の言葉攻めの仕方が違いますな。

 

 

 

プレイステーションVR月討鬼伝2は6月末か…日

 

 夜の主役…というかメインディッシュはシャーリーさん。昼はレジェンドラスタの2人のどちらか(或いは両方)と、狩場での訓練ついでに遊んでいます。

 

 いや、割と真面目にクエストとか訓練とかやってるんだよ? 以前教わった事を実践して見せたら、「まだまだだけど、随分進歩している」って言われたし。特にフラウさんの内面観察術にはお世話になってます。

 

 勿論、フローラさんに教わった予兆を感じ取る術にもお世話になってはいるんだが…前回外回りだと、「なんでこんな奴がここに居る!?」ってレベルの奇襲を喰らう事が多くて…。そういうのを感知する為の術ではあるんだけど、あんな唐突な襲来を予測できる程、まだ洗練されてないです。具体的には唐突に塔に襲ってきやがったアマツとかアマツとかアマツとか、空飛んでる途中にブッパしてきやがったオストガロアとか。

 

 

 

 改めて考えると、古龍との遭遇率が高すぎると呆れられた。本来、レジェンドラスタでさえもそうそう出会う事は無い筈なのだそうだ。

 

 …そう、なのかなぁ。確かに今までのループでも、何だかんだで遭遇はしてたが。でも、仮にもポッケ村に駐在しているこの二人がそれを言うか? 古龍が何匹も出現する、謎の魔境ポッケ村に駐在していながら…。フラウさんだって、俺と一緒に訓練中に思いっきり古龍に遭遇したじゃないか。

 

 実際、何時ぞやのループでポッケ村に訪れた事があったが、あの時だけでも幾つもの古龍の痕跡を発見したっけな。そういや、あの時もシャーリーとは会ってたが…うん、会ってただけだな。村に居たのも短時間だったし。

 

 あの時発見した古龍の痕跡は………確かクシャとヤマツカミだったか。クシャの襲撃はもう受けたが、ヤマツは無いな。考えてみりゃ、痕跡すらも見当たらん。あの時の、一箇所だけ大きく抉れたクレーターみたいになってる場所…アレが例えばデスワープ開始時点で既に出来ていたモノだとしても、5~6ヶ月程度で痕跡が無くなってしまうとは思えん。

 

 …来ないのか? 別に来てほしい訳でもないが…。

 

 

 しかし、ヤマツカミもヤマツカミで随分と特徴的な古龍だこと。最も古い龍、なんて呼ばれる事もあるらしく、姿形も地上ではなくタコに近い。ガスを使って浮遊しているらしいが、自分の意思で移動できるようだ。でもって、口はデカくて歯並びは…ゲームの画像を基にする限りでは、人間にソックリだ。

 

 あの口で、どうやってあんなクレーターを作るような食べ方してんだか。タコと同じように、胴体部分の下にデカい口があって、着地したらその下にあるものをムシャムシャする…なんて言われた方が説得力があ

 

 

 

 ん?

 

 いや本当に待てよ、あの時の痕跡をもうちょっと詳しく思い出せ。ひょっとしたら、アレはヤマツカミの捕食痕ではなかったのか? 人間と同じような(大きさはともかく)口なら、あんなクレーター状にはならない筈。

 

 捕食跡でないなら………休眠痕。

 

 そう、例えば…ヤマツカミが休眠する為、地面に降りる。その時、自重で地面にめり込む事もあるだろう。そのまま何年も眠り続ければ、そこだけ植物も育たず、土も…ヤマツカミの上にしか積もらないだろう。で、目覚めたヤマツカミが、上に乗っていた土やら何やらを振り払って飛び立てば、あの時のようなクレーターの完成、と。

 

 

 これが正しいかどうかは分からないが…もしこの通りだとすると、ヤマツカミはまだこの近辺に居るかもしれないって事か。藪をつつくのも、文字通り寝た子を起こすのもどうかと思うが、一度調べてみるかな。

 

 あの時のクレーター、どの辺だったっけなぁ…。

 

 

 

 

 

プレイステーションVR日ほほぅ、4月11日に体験版か日

 

 

 フローラさんと一緒に、ヤマツカミ探し。最近、いつもレジェンドラスタと一緒に行動しているので、村の一部からは腰巾着になっているとか、逆に人には言えないギルドの仕事をしているんだとか色々言われている。元々、霊力云々を謡いながらシャーリーを手篭めにしたりで、あんまり評判良くなかったからな。今回ループでは人間関係(女性的な意味ではなく)は割りと上手く行ってる方だと思ってたんだが、それは単に他人との付き合いが薄かったからなのだろうか。

 

 

 ま、それは置いといて。割とアッサリ見つかりました、ヤマツカミ。ただし休眠中。やっぱ魔境だよポッケ村…。

 

 休眠している状態の古龍なんて珍しいものを見た、とフローラさんがちょっと興奮している。寝てるだけの状態なら、相手によっちゃ珍しくないがね。

 

 

 さて、見つけたはいいが、コイツどうする?という話になると…正直、手が出せない。何せ仮にも巨大古龍に分類されるヤマツカミだ。寝ている間に仕留められるとは、到底思えない。で、ここでヘタに刺激して起こしてしまった日には、ポッケ村に被害が出る事確実。結構近い場所にあるからね。

 

 

 

 それに…コイツを起こすと、地下で寝ているウカムに影響が出る可能性がある。どんな関連が?と思うだろうが、まぁこれも仮説だしな…。

 

 そもそも、このヤマツカミが予想以上に早く簡単に見つかったのには理由がある。前ループで「大体この辺だったな」とアタリをつけてウロウロしていたのだが、そこで細い龍脈を見つけた。細い事自体は、別に疑問でも何でもない。龍脈は新しく伸びる事もあれば、逆に痩せ細って枯れて行く事だってある。これは自然の成り行きだ…例外もあるだろうが。

 

 この筋もそうだろうと思い、あまり気にはしていなかった。そのまま暫くウロウロしていたのだが…今度は逆に、太い霊脈を見つけてしまった。いや、ちょっと言い方が違うな。さっき見つけた細いハズの龍脈が、何時の間にやらかなり太くなっていた。あまりの太さの違いに、別の筋なのかとも思ったが…更に調査してみると、一点を境に、急に力の流れが減っていたのだ。

 

 おかしい、と思ってその場を更に調べまわったところ、なんと龍苔が発見された。竜苔だ、龍苔。ヤマツカミの体から採取され、聞いた所によると余程適した場所での栽培でなければ、あっと言う間に枯れてしまうとか何とか。それが、妙に新鮮な龍苔が見つかった。

 

 そして今探しているのはヤマツカミ。

 

 

 

 まさか、とは思ったよ。その時、正に俺達は眠っているヤマツカミの真上に居たんだ。慎重に地面を掘ってみれば、土とは明らかに違った『何か』が顔を出す。

 

 休眠しているヤマツカミだ。そして、コイツが居た場所を境にして、龍脈が痩せ細っている。つまり、龍脈の力を吸い取っているのだ、コイツは。冷凍睡眠しているウカムが、流れ込んでくる龍脈の力を生存の為のエネルギーにしているように、恐らくこのヤマツカミもエネルギーを体に溜め込んでいるのだろう。

 

 こうなったのが何かの偶然なのか、それともコイツが元々持っていた能力なのかは分からない。が、もしもヤマツカミが食っている龍脈の先が、地下のウカムに繋がっているとしたら? ヤマツカミが目を覚まし、ここから移動して…龍脈に本来の力が流れ始めたら?

 

 耳元で突然大音量の目覚ましが鳴り始めるか、さもなきゃ布団の温度が80度くらいに急上昇するようなもんだ。寝た子を起こすのは御免である。しかも下手をすると、ヤマツカミとの戦闘中に起きて出てくる可能性すらあるんだから。

 

 

 

 結論、ヤマツカミは放置。と言うか、あんだけ霊力溜め込んでるんだし、迂闊に倒すと大爆発するような気がするなぁ。

 

 まぁ、どっちにしろ休眠中の古龍という、レア中のレアな大発見なのだ。居る事をすっかり忘れていたが、ウカム近くの遺跡を調べる学者さん達が狂喜乱舞している。遺跡の調査が先か、ヤマツカミの調査が先かで揉めてるらしいが…まぁ好きにやってくれ。ヤマツカミを起こさない範囲でな。

 

 

 

プレイステーションVR月体験版で、このSSに新アクションを組み込めればいいんだが日

 

 

 ヤマツカミがガッチリ食い込んでいる龍脈を何とかしてズラせば、地下のウカムに行くエネルギーが無くなって餓死させられるんじゃないか?と思ったのだが、龍脈をズラすってとんでもない大プロジェクトになるんだよな。いつだったか、討鬼伝世界の霊山でそういう術があるって見た事はあるんだが、ざっくばらんに言えば「大規模な工事で地形を丸ごと変える」みたいな術だったし。オカルトじゃなくて物理の術だよ。どっちにしろ一人じゃできねーって。

 

 さて、学者の皆様方に「毎度毎度トンでもない発見をしてくれるねェ? そこが痺れる妬ましいィ!」って絶叫されている今日この頃。フローラさんの失禁癖が直らない(直そうともしていない)んで、開き直ってちょっと外でワンワンプレイを…いや、それはもうやったから置いといて。

 

 レジェンドラスタ二人に、新しく身につけたスタイル(のっぺらスタイル+俺のスタイル)での動きを見てもらった。評価は…発想としては面白いが、無駄が多すぎる。自覚はしてるよ。今だって、エリアル+ブシドースタイルで狩りをすると、体と意識が一致せずに意図しない動きをしてしまったり、無理な体の運用で無用な疲労が蓄積してしまう。

 

 …なんというかさ……意識を集中させきれないって言うより……のっぺら連中と足並み合わせるのに、どうも抵抗があるもんで…。ついでに言うと、のっぺらと同調しようとすると、それを邪魔するかのように…かのように……よおおぉぉぉあああああうざああああああぁぁぁ!!!!!

 

 

 

 

 

 …つい、思い出し怒りのあまりに我を忘れてしまった。落ち着く為に、偶然隣に居たシャーリーが色々してくれたが、それは置いといて。

 

 

 

 忘れかけていたが、塔の秘境に行ってみる事にした。目的はリオレイア希少種。来る時にレウス希少種に襲われたからな…ポッケ村から出て行く時に、同じように襲われる可能性は高い。

 

 ついでに、他の塔でもあったような文字の痕跡とかがないかも調べてみよう。ポッケ村の塔も、頂上付近には霊力が渦巻いてたっけな…アレは結局何なんだろうか。手掛かりが見つかるといいんだが。

 

 あと古龍の襲撃に注意。…つってもポッケ村で塔の古龍…。テオとは以前砂漠でやりあった…あれ、ナナの方だったっけ? ヤマツカミはぐーすか寝ているし、塔に搭乗する古龍でまだやりあってないのって…ミから始まるあいつらしか居ないんだよなぁ…。

 

 別に、一度会った古龍と再会しないって法則は無いけども…いや、そっちの方が厄介かもしれん。塔の秘境で金火竜とやりあってる最中に、テオとかキリンとかが乱入してきたら……場所が場所だから分断もできん。地獄のような狩りになるだろう。

 

 レジェンドラスタに助けを…とも思ったが、現在は移動から狩りまで色々と制限されてしまっている。そもそも塔に行こうというのも、俺の個人的な都合に過ぎないし。いや、狩りなんて自分の都合か他人の都合によるクエストかなんで、大体そんなものなんだけど。それならそれで、レジェンドラスタに助力を請うには、本来は対価を支払わなければいけない。以前のループでもそうだったが、異界の通貨で。…生憎、今手持ちが無い…というか補充の仕様がないからなぁ…。俺、課金戦士じゃないし…。

 

 流石にそこら辺はなぁなぁで済ませてくれないだろう。考えてみりゃ、今まで何度か訓練に付き合ってくれたけど、手を貸してくれた事はなかったもんな。砂漠で古龍と遭遇した時も見てるだけだったし…あの時は、むしろ手伝ってくれた方が後で話がややこしくなっていたのかもしれない。

 

 

 

 さて、そこら辺の裏話の考察は置いといて…そろそろ狩りの準備しますかね。何せ相手は金火竜。しかも、番を失って怒り狂っている可能性が非常に高い。フンドシ締めてかからないとな。

 

 

 

 

 

プレイステーションVR月あと本格的に展開に詰まってきたんで日

 

 

 金火竜。金…金……うん、まぁ金ではあったけどさ…。

 

 キンキラキンすぎだろ。

 

 塔の秘境で発見した金火竜、メッチャ輝いてました。それこそ閃光玉でも爆裂してるんじゃねーかってくらい輝いてました。目が痛いよマジで。何で今まで、これで未発見だったのか不思議で仕方ない。

 

 

 うん、でも確かに滅茶苦茶厄介だった。

 

 

 金火竜自体の強さ、強靭さもそうだけど、単純に直視するのが辛いんで、どうしてもモーションを見逃してしまう。ある程度は感覚で行動を掴めるし、風圧や唸り声、足跡なんかを予兆として捉えれば、それなりに対処は出来る。が、そこは希少種故なのか、それともコイツが特異な個体なのか…フェイントかけてきやがるんだよ。その場で足踏みしたり、飛びもしないのに羽ばたいて風圧を出したり、尾をブンブン動かして音を出して霍乱したり…。あまつさえ、雲間霧間から差し込む日の光を浴びて、太陽拳モドキまでやりやがった。しかも咆哮付き。目と耳と、大音量による空気の振動で触覚まで潰され、続いた一撃は勘で避けるしかなかった…よく生きてたもんだ。

 

 天敵なんぞ殆ど居ない状況で育ったんだろうに、なんでまたそこまで狡猾になったのやら。まー古龍の乱入が無かっただけ、マシと思っとくべきかね…。

 

 

 

 

 あまつさえ、アイツはどうも……獰猛化してた上に、狂竜ウィルス感染済みと来たもんだ。獰猛化は……うん、多分だけど、今まで戦ってきたココット村のモンスター達とは、そうなった理由が違う気がする。あっちのモンスター達は得体の知れない恐怖によって獰猛化していたが、金火竜は多分、怒りとか悲しみとかによって獰猛化していた。番を狩られた怒りで、そうなってしまったんだと思う。戦ってる最中、怒り悲しみだけでなく、明確な俺への恨みまで感じた(と思う)からな。

 

 ただでさえ珍しい希少種、それもオスメスの番が出会える可能性はどれ程か。愛情云々を置いておいても、そんなレア物を台無しにされりゃ怒り狂うのも当たり前か。

 

 

 

 しかし、それはそれで納得できたとしても、狂竜ウィルスにまで感染しているのはどういう事か。この秘境、文字通り周囲からほぼ断絶している状況だ。マガラ連中だって、こんな辺鄙な所まではわざわざ飛んでこないだろうに。

 

 風でウィルスが流されてきた、というのも地理的に考えづらい。となると…?

 

 

 

 幾つかの仮説が思い浮かんだ。まず真っ先に気になったのは、異常な程に光り輝く金火竜の鱗。噂によれば、金火竜は光を反射するのではなく、それ自体が光り輝いており、その素材を使った鎧は暗闇で松明の代わりになるくらい…なんて話だった。流石にそりゃ眉唾モンだわ、と思ってたんだが…実際、そう言われるのも不思議じゃない程に輝いている。

 

 何でコイツは、こんなに光り輝いているのか?

 

 

 そしてもう一つ。コイツの番だったと思われる、ポッケ村に着くまでに遭遇した銀火竜。奴は確かにギンギラギンだったが、こんなに激しい輝き方じゃなかった。

 

 夫妻の力関係が拮抗していなければ、その関係は成り立たないとは…うん、思わないが。ついでに言えば、外見が両方とも激しく輝いてなければいけないとも思わない。…そもそも、体が輝かしいって事が、リオレウス・リオレイアにとってイケメン条件に当てはまるのかも怪しいが。だってあんまり光ると、目が痛いだけだし。

 

 

 話が逸れたが、とにかく金銀火竜の輝き方が明らかに違う。生きていた時も、死んだ後もだ。

 

 

 もしや、と思って、倒した金火竜の鱗を一つ剥ぎ取り、秘境の外に持って行くと…案の定、光が失せた。それでもキンキラキンなのは変わらないが、自ら光り輝いてた時とは明らかに違う。

 

 で、霊力を流し込んでみると、案の定また光り出す。…霊力で光る? 秘境を調べてみたところ、かなり大きな龍脈が通っていた。更に、そこから力を汲み上げて、塔の上に送っていたような痕跡もある。

 

 ここで金銀火竜が生活…いや、生まれて…んで、ここから離れると光を失う。つまり…。

 

 

 霊力の流れの中で生まれ育ったのが、希少種のリオ夫妻?

 

 

 うーん、霊力ってのは生命力で、それを詰め込めばオツムもある程度は活性化するが…。

 

 

 いや、それも疑問だが、今問題にしたいのは狂竜ウィルスの方だ。行く先々にウィルスの痕跡や兆候が現れる。呪われてるんじゃないかと思っていたが…これって、俺の周りだけではなく、世界的な規模でウィルスの蔓延が始まっているって事じゃないのか? なんというパンデミック、バイオハザード。…前のループで文字通りのバイオハザードになってたなぁ…。

 

 やはり、地脈を介して狂竜ウィルスが広がっているんだろうか。しかし、そんな能力がシャガルに…でも実際広まってるし…。

 

 

 いや待てよ、シャガルにせよゴアにせよ、一体だけって事はないだろう。少なくとも、今ココット村の禁足地に居る奴と…多分だけど、前ループで俺の集落を襲ってきた奴は別の個体だ。…でも龍脈の流れは確かに禁足地一直線…更に別の個体が居るとしたって、突然そんな能力を得るものだろうか…。

 

 

 結局のところ、現地に行って調べてみないと分からない…か。

 

 

 

プレイステーションVR月デスワープまで秒読みならぬ話数読みな今日この頃日

 

 

 結局、今回のポッケ村滞在では大したイベントは無かったなぁ。

 

 …いや、銀とか金(しかも獰猛化)とかの遭遇って、普通に考えれば一大イベントでデスワープの危機なんだけど、何と言うかもう慣れと言うか…今回のループではアホみたいな勢いで古龍やら異常行動するモンスターやらと遭遇してるんで、あんまりインパクトが無かった。強かっただけで、一日程度で狩りも終わっちゃったし。

 

 塔の秘境付近を調べてみたが、龍脈の流れの上にあっただけで…恐らくは龍脈があったからこそ、そこに立てたんだろうが…過去の出来事を示すような手掛かりは何も無かった。まぁ、あのままにして村を飛び立っていたら、やはり番の仇として俺を狙ってきただろうし…移動の障害及び脅威を排除した、と考えれば、最初の予定通りか。

 

 結局、3人とイチャコラするだけで終わってしまった気がする。…いやいや待て待て、休眠中のヤマツカミを発見したり、龍脈を通じて狂竜ウィルスに感染している疑いがあったりと、見所一杯だったじゃないか。なんでそんな風に何事も無かったかのような顔してるんだ、俺。

 

 

 

 …なんか色々と麻痺している感と今更感があるものの、ポッケ村に居座れる期間は終了してしまった。残念ながら、もうユクモ村に行かなければならない。非常に残念だ…最近はフローラさんの躾け…もとい調教………メス犬化………あー、とにかくアレだ、ワンワンプレイがいい塩梅に仕上がってきて、色々皆して盛り上がっているというのに。

 

 

 うぅむ…仕方ない…いや、逆にいい切っ掛けだったと捉えるか。フローラさんはシャーリー、君に任せた!

 

 

 いや別に捨てるとか言ってるんじゃねーよ。躾けをする役をシャーリーに任せてみるから、次に来る時に進歩を見せてねって話だよ。

 

 俺が居ない間は、シャーリーのいう事をちゃんと聞いていい子にしてるんだぞ? また来た時に、上手にいい子できてたら、付きっ切りでゴホウビをあげよう。勿論、上手に躾けられたシャーリーにもね。

 

 フラウさんには、二人の経過観察をお願いしたい。勿論参加してもらっても大丈夫デスヨ? でも、その場合はどっちに参加してどんな事をしたのか、ちゃんと教えてね?

 

 

 

 

 そういう事になった。うん、我ながら外道な事やってんな。それがまた愉悦な訳だがw

 

 

 

 

 さて、ポッケ村からユクモ村へ移動する訳だが、今回はまぁ、平穏と言えば平穏だった。霊峰の上にも不自然な雲は無いし、セルレギオスとかに襲われもしなかった。遥か眼下を、ジエン・モーランが泳いでいたのは驚いたが…例え大ジャンプしたって届かない高度に居たから、脅威は無かった。

 

 それよりも、アイツってひょっとして何時ぞやのループで謎の呪われた(?)紅玉を発掘しちゃったアイツか? …関わらないようにしよう。あっちから来たら仕方ないが、クエストを見かけても自分からは受けないように。そして万一関わって、また紅玉を発見してしまったら、即座に砂の海か大海原にボッシュート。自分で持っておくという手もあるが、これはあんまりやりたくないな。

 

 

 

 

 




暗殺教室完結かぁ…暫くソッチ系のSSが増えるかな?
良作が生まれるor復活するのを期待。
しかし、ころせんせーが他の世界に転生する話は聞いた事がないな。
まぁころせんせー転生=死んでいるって事だから、クライマックスが近付くまで書けなかったのも納得ですが。
それにあのキャラクターは特別な状況じゃないと、違和感の塊だわ…。
何はともあれ、松井優征先生お疲れ様でした。


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142話

スターオーシャン5発売、プレイ中!
まだ序盤だからか、イマイチ戦闘がパッとしないな…。
乱戦になりやすい上にカメラが近いから、誰が何やってるのかサッパリ分からん。
ラッシュゲージも溜めにくいし…。


だがフィオーレさんのお姿だけで買った価値はあるッ!
スターオーシャンの紋章術師の常ですが、今回は輪をかけてスゲェ格好してますなー。
床の絵柄みたいな服で、加えて超ミニスカ、更に尻尾(?)。
しかもですよ、フィールドマップでは後ろをついてくる形になるもんで、移動していると大画面にミニスカート下の尻(しかも半分素肌状態)が…。
最初は乳とかに目が行ったが、これが彼女の最大の武器か。
おいスタッフ、狙ったな? 狙ってやったんだな、怒らないから素直に言いなさい。
グッジョブ!


プレイステーションVR月pixivを見て思う日

 

 

 無事到着しましたユクモ村。今回は双子揃ってのお迎えです。

 

 あ、これポッケ村から持って来たお土産ね。

 

 

「やっほー」「おひさー」

 

「ベルナ村でも派手にやってみたいね」「びびった? びびった?」

 

 

 うん、割とマジであれはビビる。と言うか、二人も?

 

 

「うん、まぁ色々と」「別にイヤイヤやってた訳じゃないけどね」

 

「子供の頃からそれが当たり前だったのもあるけど」「個人が営利の為にやってたんじゃないし」

 

 

 営利の為じゃない…って事は本当に優秀なハンター勧誘の為って事か?それも営利と言えば営利だが。

 

 と言うかロリ双子が『子供の頃』って…今に比べても尚幼い?それロリを通り越してペド…。

 

 

「ま、それは置いといて、シャーリー大丈夫だった?」「一応、私達が企んだって事にはしておいたけど」

 

 

 ああ、それは本当に助かった。ありがとう。

 …しかし、悪役ばっかり押し付けて気が引けるな…。

 

 

「元々、現地妻を提案したのは私達だし」「ベルナ村に情報を流したのも本当だしね」

 

「それに、その分色々やってもらうからね」「お仕事も私事もね」

 

 

 はいはい、お任せください。…でもジエン・モーランはパスしていい?

 

 

「ほかに狩りたいって人も居るから、いいけど」「何か不都合でもあるの?」

 

 

 アレを狩ると厄介な事になると、俺の勘が言っている…。いやでも他の人が狩って、紅玉見つけたらその人が……うぬぅ…。

 

 

「よく分からないけど、とりあえず帰ってご飯にしましょ」「お風呂もベッドメイクも完璧よ」

 

「そうそう、評判の入浴剤も使ってみたのよ」「温泉街なのに入浴剤を使うのもおかしい気がするけどね」

 

「ま、その分3人だけでゆっくりのんびり」「マッタリイチャイチャできるんだしね」

 

 

 …本当に据え膳上げ膳だわぁ…。堕落してしまいそうだ。性欲的には、いろんな意味で堕落している俺だけど。

 

 

 

 

 

プレイステーションVR月ヴィータ、サーニャ、レミリア、こいし、その他数え切れないほどを筆頭に日

 

 

 この双子、本当にエロいわぁ…。なんというか、ツルペタなのにムチムチボディの熟女より性的な気がする。

 

 いやね、昨日のナニが素晴らしく萌えて…いや燃え……萌えでも間違ってないな。ロリ属性を思いっきり活かしてきやがった。具体的には、スケスケネグリジェ姿で抱き合いながら「「パパ、一緒に寝よ?」」とか言ってくるんだぞ?

 脳みその血管キレるかと思うたわ。朝は朝で娘プレイからロリおかんプレイに変化してるし、一人が娘、一人が母親(つまり俺の妻)プレイまでこなす。

 

 本当にツワモノだわ、こいつら…。昨日チラッと零した話からするに、本当に幼い頃から自然にこういう事に触れていたっぽいが、その為なんだろうか。意図的にこういう風に育てられた可能性もあるんだよな…。

 

 ひょっとしてこの二人、俺より経験豊富なんじゃ…?

 

 まぁ、主導権は相変わらずこっちが握ってるが。たまには譲るのも悪くないけどね。特にこの二人の囁き焦らしプレイは、ちょっとお目にかかれるレベルのものじゃないし。

 

 

 

 

 さて、ユクモ村での仕事についてだが…ぶっちゃけ、急ぎのモノは何も無いそうな。ジエン・モーランというデカブツは居るが、奴は基本的に砂漠のド真ん中付近でしか活動しないんで、あまり人や物流に被害は出ない。逆に、仕留めれば結構な素材が手に入り、儲けにもなるらしいんだが…まぁ、そっちは育ってきたハンターの昇格試験にでも使ってくれ。無理に俺が仕留める必要はない。

 

 と言うか、個人的には関わりたくない。…誰かが仕留めたという話を聞いたら、例の紅玉が出てきてないかだけ確認しとかんと…。

 

 

 

 まーそれは置いといて、珍しくゆっくりできそうな機会だ。双子からの仕事の依頼も、数はあるがそんなに苦労するようなものじゃない。

 

 ここは一つ、食道楽でもやってみっかな。温泉街だけあって、温泉卵に温泉饅頭、ドリンクやら何やら、美味そうなものは結構揃っている。食べるだけじゃなく、作り方にだって興味はあるんだ。学んだとして、活かされるかどうかは別の話だが。

 

 

 

 

 

プレイステーションVR月セックスアピール少な目の筈なのに、何故ロリキャラはああも性的に見えるのか日

 

 

 

 双子からの依頼を受けて、アマツが根城にしていた霊峰まで調査に行ってきた。古龍との遭遇も視野に入れていたが、幸か不幸か遭遇は無し。標高が高すぎるから、暮らしにくいんだろうか?確かに、クシャとかでもあの高さまで昇るのは難しそうだ。

 

 元々はジンオウガ辺りが縄張りにしていたのだと思うが、今は新たなジンオウガが住み着いているようだ。

 

 

 

 …確実に普通のジンオウガじゃないけど…。

 

 

 ナニあれ?普通のジンオウガよりデカいし常にピカピカ…いやビリビリしてるし、角が片方だけエライデカくなってるし、体毛からして金色だよ。

 …この前の希少種といい、ラージャンといいコイツといい、金ピカになれば強いと思うなよ!…いや強いんだろうけどさ、スーパーな野菜人(元祖)を代表に…。

 

 幸い風下だったし、それなりに距離も離れていたんで、戦闘にはならずに済んだ。と言うか、今回の依頼の主旨を考えると、狩っちゃいかんのだよな。

 

 今回の依頼の目的は、霊峰の生態系の調査だ。アマツが居なくなって縄張りが無くなり、その空白にどんなモンスターが入り込んだかの確認である。こんな特異個体が入り込んだのは予想外だったが、ある意味落ち着くところに落ち着いたとも言える。

 

 空白となった縄張りを手に入れるのは、モンスターの中でも特に強い個体だろう。その縄張りが「オイシイ」場所であるなら尚更だ。下手をすると付近を巻き込んだ縄張り争いが勃発しかねなかったのだ。

 

 だが、あの異常個体があそこに住み着いたのであれば、アレから縄張りを奪おうなんて無謀なモンスターはそうそう出てこないだろう。普通のジンオウガに比べると、明らかに格上だしな。ヘタしなくても古龍なみっぽい。

 

 逆に、アイツを狩ってしまったら(狩れればだけど)、再び縄張り争い勃発、ユクモ村にまで被害が出るかもしれない。当分はこのまま放置しておけばいいだろう。本来、ジンオウガは人里離れた渓流にしか姿を見せないからな。

 

 

 ジンオウガから隠れながら付近を調べまわってみたところ、思った程周囲の生態系は崩れてはいなかった。これならあのジンオウガが飢えて、周囲の縄張りを奪おうとすることもないだろう。

 

 

 

 以上の情報を持ち帰ったところ、ジンオウガ異常個体は当分放置、という結論に落ち着いた。

 ヘタに狩ると生態系の乱れを招く恐れがある為、ギルドが許可するまでは狩猟は厳禁。また、許可が出た後も戦おうと思うと、事前に許可を得る必要がある。万が一、偶然遭遇した場合でも撤退。その場合、クエストを受けていたとしたら失敗扱いにはならないという異例の処置が取られた。

 

 更にその特異性を明確にする為、あのジンオウガを二つ名持ち個体と認定した。

 

 

 で、発見者である俺が、その名付け親(?)を任命されたんだが……幾つか案を出した時点で、名付け親を解任されてしまった。

 解せぬ。

 

 

 

 その時の案?

 

 

 ぶっとび電気ネコ、ビリビリビリビリビリビリガオー、ゲレゲレ、長飛丸、右角の発電機…。

 

 

 特に二つ目はオヌヌメ。普通のビリビリガオーことジンオウガに比べて、3倍くらい電撃しているのがよく表れている。と思う。……バチバチの方が良かったかな?

 

 結局、二つ名はギルドが「金雷公」という微妙に厨二臭のするものに決定されてしまった。いや、二つ名って時点である種の厨二確定なんだけども。

 

 あと、コノハとササユから子供が出来ても名付け親は任せない、と宣言されてしまった。…子供かぁ…こいつら、もう産めるんだろうか?オカルト版真言立川流の手応えからすると、産めない事もないけど負担がデカいって雰囲気なんだよな。

 

 

 

 

 

 子供、子供かぁ…。こいつらの子供かぁ…。カワイイだろうなぁとは思うが、若干の不安が…。

 

 この二人の幼い頃の教育方針がアレだったと思われるから、余計に不安が…。流石に俺だって実子にまで手を出そうとは思わんよ。

 

 …思わない…よな?考えるだけならロハとは言うが、リアルな近親相姦はちょっと…。でも俺がノーと言っても、この二人なら嗾けてくるような気が…。

 

 

 

プレイステーションVR月二次元に限った話とは言え、ロリコンではないつもりだが日

 

 

 双子とマッタリしていたら、ギルドの情報網で緊急連絡が飛んできた。ココット村で一大事だそうだ。

 

 

 

 

 でも禁足地が飛んだ、って…何かの誤報か? それとも単なる誤字か? 比喩…なのか?

 

 禁足地からシャガルマガラが飛び立った、ならまだ分かるが…どれだけ慌ててたって、手紙でここまで間違える事はないと思う。しかも、フラフラ寄り道しながらもこっちに飛んできている、とか…。

 

 いや、全く持ってワケがわからんね、いろんな意味で。

 

 

 

 ともかく、ココット村が何やら大変な事になっているのは間違いないようだ。ギルドから救援求む、と協力を要請された。

 

 ここで断る訳にはいかんわな。ロリ双子ともうちょっとマッタリしたかったが、ベッキーやドリスのピンチを放っておく訳にはいかない。

 …しかし、気になるのはベッキーことギルドナイトが居ながら、そこまで大ピンチになるんだろうか、という事。いくらギルドナイトだって(非常に疑わしいが)人間なんだから、限界があるのは分かるが…G級ハンターすら狩るような連中が、そこまでピンチになぁ…。

 

 まさか、例のG級及びギルドナイト移動禁止令とかの為か? でも別に、自衛の為に戦う事まで禁じられてはいないと思うんだが。仮にそんな命令が出てても、ベッキーがそこまで忠実に…というより愚直に従うとは思えん。

 

 …ベッキーが本性(?)を現して尚ピンチなのか。それとも、ベッキーこそ本気を出してないが、減るブラザーズや他の結構なハンター達が全力で抗って、それでもピンチなのか。

 この2択で、難易度が相当変わってきそうだ。

 

 後者である事を願う…つまりはココット村全体の戦力<ベッキーの戦力という意味であるが。 

 

 

 

 

 さて、色々な意味で戦慄を禁じえないが、グダグダやってても仕方ない。ユクモ村からの心付けと言うか救援物資を山盛りに載せ、俺はユクモ村から飛び立った。

 

 

 

 コノハとササユが、やけに神妙な顔してたのが気になったが…嫌な予感がするとか、フラグを立てないでほしい。イヤすぎる事になっているのは、ほぼ確定事項なんだからさ…。

 

 

 

プレイステーションVR月何故に未成熟キャラがムチムチキャラよりエロく見えるのか日

 

 

 わかったよベッキー、ドリス! 「禁足地が飛んだ」という意味が! 「言葉」ではなく「魂」で理解できた!

 

 というか目の前にマジで飛んでこられりゃイヤでも理解するわ!

 

 

 まさか古龍相手に、飛行船を使って空中戦をやる羽目になるとは、海のリハクでなくても見抜けなかった。

 しかも、今までの狩りのように直接向かい合っての戦いじゃない。飛行船に取り付けられた、バァルカンを筆頭にした各種兵器の数々による戦いだ。多分、この世界じゃ初の戦いだったんじゃないだろうか。海とか砂漠だったら、まだ例があったけども。

 

 

 

 

 …とにかく、だ。今回やりあった相手、そして「禁足地が飛んだ」という意味だが……まず、相手はヤマツカミだった。

 

 

 多分。

 

 見かけはそっくりなんだけど、なんか一部の色が違うんだよな…。間近で歯を見たけど、何故か丸ごと金歯だったし。虫歯になって、入れ歯でもしたんかな?

 

 あと、体中に生えている苔やら何やらが、えらく育っている。

 

 それに、ヤマツカミにしては妙にアグレッシブだったような…単純に環境の違いか? 普段のヤマツカミ、或いはゲームでのヤマツカミは、空ではなく地上(或いは塔)の近くに居たからな…遮る物が全く無い空では挙動が違ってもおかしくない。

 

 でも、バァルカン!(巻き舌で叫びつつ)を何発か叩き込んだ時、何故か体に生えている苔やら木やらが急成長したんだが…地上じゃないからって、いきなりそんな性質を得るとは思えないんだが。変種、なのか?

 

 

 …あいつが特異なヤマツカミなのか、よく似た別の種族なのかは置いておこう。

 

 あのヤマツカミ、色々と異常だったが、もう一つ洒落にならない特徴があった。狂竜ウィルスを、これでもかという程吐き出しまくっていたのだ。それはもう、黒い雲とさえ表現できるくらいに。

 

 

 勿論、ヤマツカミにそんな能力は無い筈だ。

 

 ならばこれはどういう事か。そこで頭を過ぎったのが、「禁足地が飛ぶ」という表現。

 

 文字通りだ。恐らく、「アイツが禁足地」なのだ。

 

 シャガルマガラが居ると思われたあの場所で、コイツはずっと休眠していたんだろう。

 

 ずっと疑問ではあったのだ。シャガルマガラは、一箇所に留まる事はあまり無いらしい。それがどうして、ココット村近くのあの場所にずっと居たのか。

 

 あそこにヤマツカミが居たのであれば、恐らく関連はある。そう、例えば…シャガルマガラの好物は、ヤマツカミの体に生えている苔である、とかな。ヤマツカミはシャガルマガラの好物を提供し、代わりにシャガルマガラが振り撒く狂竜ウィルスを取り込んで武器にする。

 

 ま、あくまで見えた情報を強引に纏めた結論だが。

 

 

 

 で、空中戦の結果だが…辛くも撃退。結果的にはほぼ完全勝利だったが、こっちとしては薄氷の上もいいところだ。

 

 まぁ、相手がヤマツカミだってのが幸いだったな。アイツは基本的に動きが鈍いし、リーチだってそこまで広くない。口の中から電光虫みたいなのを吐き出してきたが、どうも標高に適応できなかったらしく、殆ど飛ばずに落ちていった。

 

 そうなると、空中でのアイツの攻撃方法は手足(?)のブン回し、ガス放出、吸引力の変わらない唯一の吸い込みモグモグな訳だが…まぁ、どれも距離とってりゃ脅威にはならんよ。

 ブースト機能大活躍だった。流石に普通に飛んでるだけじゃ追いつかれるからな。左右後ろにQB(虚淵に非ず)はできないが、前にダッシュは出来る。上手いことヤマツカミの周囲を旋回し、バルカンで牽制。意外と効果が高かった。まぁ、植物が多く生えているからか、火に弱いっぽいしな。

 バルカンが火属性なのかと言われると首を傾げるが…火薬使ってても、打ち出すのに使ってるだけだしなぁ。

 

 

 

 とにかく、延々と牽制し、攻撃を逃れ続ける事数時間くらいだろうか。そろそろバルカンが弾切れになるんで、しんどいのを承知でミタマ魂のタマフリで攻撃しようかな…と思い始めた頃。

 俺の相手をするのに飽きたのか、勝っても食えないと判断したのか、ヤマツカミは俺を放置してフラフラと何処かへ飛び去ってしまった。方向的には…多分海の方だな。少なくとも、俺が世話になった村には行きそうにないが…。

 

 手負いの古龍を逃がす事に抵抗がなかった訳じゃないが、実際仕留められるだけの攻撃力は無い。いっそ、最初から風防が無ければ、最終兵器大型螺旋衝角の使用も考えたんだが。なまじ風防があるだけに、皹でも入ってしまったら耐えられそうにない。

 例えガラスだけなら俺は耐えられたとしても、ヤマツカミがこれでもかと振り撒く狂竜ウィルスにやられ、飛行船の操縦すらできなくなった墜落死するのが関の山だ。それ以前に、体当たりで仕留められなかったら、後退ができないからヤマツカミに突き刺さったままなんだよな…。そうなったら多分、吸い込みで食われてデスワープだ。

 

 実際、一発でも喰らったらそうなる危険が非常に高かったんだよな。だから徹底的に距離を取って安全策を続け、ヤマツカミが飽きるのを待った訳だ。

 

 

 

 しかし、アイツ本当にヤマツカミだったのかねぇ…。

 

 

 

 

プレイステーションVR月割と真面目に疑問である日

 

 

 適当な場所に着地し、メンテする事ほぼ一日。ココット村は大丈夫だろうか。

 

 あのヤマツカミが飛び立って、恐らく付近一帯には今までとは比べ物にならない程に強力なウィルスが撒き散らされただろう。何年も何年もシャガルマガラの住処となり、蓄積されたウィルス。変質している可能性だってある。

 

 それがバラ撒かれれば…モンスター達は少々挙動不審ながらも非常に強力になるだろうし、逆にハンター達はウィルスを克服する事もできず、常に狂竜症状態で戦う事になってしまう。えらいハンデだな…。

 

 

 ん?

 

 

 そういや、シャガルマガラ本体はどうしたんだ?禁足地にまだ留まっているのか。それとも、好物が居なくなってしまったから、何処か別の場所に飛んでいったんだろうか。

 多分、シャガルマガラにとっては狂竜ウィルスに感染している奴=獲物という認識だから、今の状態はあっちこっちに食い物が居るパラダイス状態だと思うんだが。

 

 …行って見なけりゃわからんな。

 

 

 

 それはそれとして、もう一つ考えた事がある。行く先々で現れていた、シャガルマガラも居ないのに発見される狂竜ウィルス。これはシャガルマガラと、あのヤマツカミの合体技によるものだ。

 

 ポッケ村で発見した、休眠中のヤマツカミ。あいつは地脈のエネルギーを取り込んでいた。ああやってエネルギーを充分に溜め込んだら、昨日のアイツみたいに金歯になったりするのかもしれないが、それは置いといて。

 

 吸い取る事ができるなら、逆に吹き込む事も出来るんじゃないだろうか。

 

 ほら、呼吸だって同じ鼻や口で、吸う・吐くの逆の動作が出来るんだし。多少無理すれば、本来無い機能でも練習次第でできるようになる事は珍しくない。具体的には、ケツは本来(PI-)を突っ込む場所じゃないが、ヤる人は普通にヤってるし。

 俺もこの前、ケツじゃないけど本来突っ込むべきではない場所に突っ込まれ、新しい感覚に…え、何処って?…前の方だよ、ベルナ村のパーティでちょっと……。細いモノなら慎重にやれば……かなりMな気分になるのは否定できんが。 

 

 

 話が逸れたが、禁足地はものの見事に龍脈の上にある。そこにあのヤマツカミが入り込み、更にシャガルマガラが常駐するようになり。ヤマツカミを介して、狂竜ウィルスは龍脈に注ぎ込まれる。龍脈の流れに乗って狂竜ウィルスは各地へ流れていき…例えばポッケ村地下のウカムに、或いは前のループで現れた、狂竜ウィルスに汚染されたラオシャンロンのようなモンスターに感染する。

 

 

 大まかな流れは、これで間違っていないと思う。

 …あのヤマツカミが居なくなった場所で、まだ一度も使っていないアレを使ってみたらどうなるかなぁ…。……アラガミ化して……緑色に光る、猛烈に汚染するアレをまとめて放出する和名・突撃鎧を…。

 

 アレが龍脈に入り込んだら、いっきに広がるだろうな………スゲェやってみたい。でも流石に世界が滅ぶ……だからこそ……いや待て…デスワープすれば何もかも無かった事に…だが汚染はそう簡単に戻せないから汚染な訳で、リセット前提じゃな…。

 

 

 …思考が危険な方向に向かったが、修正。

 

 

 うーん、しかし、こうなるとどんな影響が出るかな。あのヤマツカミが居なくなった事で、龍脈に狂竜ウィルスが注ぎ込まれる事はもう無いと思う。つまり、ポッケ村のウカムとかが感染する事はなくなるだろうし、あちこちで頻発していた被害も徐々に消えていくだろう。

 

 が、代わりに龍脈に流れていくエネルギー量が段違いに増した可能性がある。龍脈の力を吸い取っていたヤマツカミが消えたんだから。

 

 …ひょっとしたら、注ぎ込まれる力が一気に増えて、ウカムが本格的に休眠から目覚めるかもしれない。

 

 

 ………場合によっちゃ、龍脈をぶっ壊してでも目覚めを食い止めなければならんかもしれん…それが意味するところは、大規模かつ広範囲の自然破壊だが。

 

 

 というか、さっき考えたみたいに緑色のアレを龍脈に突っ込めば、ウカムも汚染されてダメージ受けてくれるかもしれないな。どう考えたって周囲の被害の方がデカいけど。

 

 

 

 

プレイステーションVR月同じロリキャラでも、エロに見えるのと見えないのが居るし日

 

 

 ココット村に到着。うわぁ、これはヒドい。なんつーか……呪われた村?或いは廃村一歩手前。

 

 ハンターの故郷にしたい、と言ってた村長さんが泣きそうだ。民家は壊れ、黒い霧に覆われ、あちこちに中~大型モンスターの死体が転がって…と言うかハンター連中、剥ぎ取りはどうした。…ああそうね、素材を三つくらい剥ぎ取ったって、死骸が消える訳じゃないもんね。

 

 

 と言うか、真面目にピンチみたいね。村の中に居ても狂竜ウィルスが蔓延してて、吐きそうなくらい気分悪いし。俺以外の人も、何処と無く体が重そうだ。

 

 

 うーん、大型が一斉に暴れまわってるんだな…。連続狩猟とか同時狩猟やってりゃ分かると思うが、デカブツが同じ場所で暴れまわると厄介極まりない。攻撃力が高くても、生命力が弱ければ次々仕留めていけばいいが…デカブツはタフだからなぁ。

 この場合、攻撃力よりもタフさが問題だ。ついでに言えば、一度倒しても狂竜ウィルス効果でまた立ち上がってくるから、タフさが当社比1.8倍くらいになっている。

 

 

 幸いだったのは…ベッキーがギルドナイトとして戦って尚ピンチ、ではなかった点だろうか。いや、戦ってはいるんだけどね、自衛の為って名目で。それ以上の事はできないらしい。

 

 

 幸か不幸か、ドリスはこの事態が発生する前に、ミナガルデに戻ってしまった。俺も居ないし、ベッキーは割りと大人しいし、何より有給が終わってしまったそうな。世知辛い…今度、こっちからミナガルデに遊びに行こうか。観光案内してもらって、夜は泊り込みで楽しもう。

 

 

 

 …さて、ドリスとのデートを夢想するのはこれくらいにして、目の前の惨劇についてだ。

 

 

 狂竜ウィルスがばら撒かれ、周囲一帯のモンスター達が文字通り狂ったように暴れだしている。生態系も食物連鎖ピラミッドもあったものではない。小型のモンスターでさえ、狂竜ウィルスに感染して異常な行動をしている始末だ。

 この状況で村周辺の安全を確保しようと思ったら、それこそ周囲一帯を「消毒」する必要があるだろう。本来、ハンターの行動としては御法度だが、事がここまで大きくなってしまっては仕方ない。周囲のモンスターを絶滅させる覚悟すら必要だ。

 

 

 

 

 つまり、これはアレか? ここ最近はエロばっかり行ってたが、かつてルー○ル閣下を目指していた頃のような「そんな事より出撃だ!」の精神を思い出せと?

 

 

 

 そうか…。

 

 

 

 つまり。

 

 

 

 これは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは『試練』だッ!

 

 過去ではなく、弛んだ精神に打ち勝てという『試練』だと俺は受け取ったッ!

 

 人の成長は…己に打ち勝つ事だとな…。

 

 え? お前もそうだろう、ノッペラミタマ…。

 

 

 

 

 …ああうん、この連中がマトモなリアクションする訳がなかったな。でも何となく「俺の傍に近寄るなぁー!」の顔芸をやってるような気がする。のっぺらなのに。

 

 

 まー真面目な話、今回ループは特にエロに走りまくってたからな。コノハとササユが現地妻なんて提案してくるのが悪い(褒め言葉) そろそろ気を引き締めなおす必要がある。特に次のGE世界では、ちょっと派手に動くつもりだからな…。

 

 

 言い訳になると思うが、正直いつまでの以前のようなテンションを維持していられない。良くも悪くも狩りに慣れ始め、何もかもが刺激的だったあの頃とは違う。ハッキリ言ってしまえば、「飽き」が入ってきているのだと思う。加えて言えば、「次がある」「死んでも死なない」という意識が何処かにあるので、緊張感も今ひとつになりつつあった。

 

 だからこそ、以前ベッキーの威圧感で生存本能が叩き起こされた時は、文字通り目が覚めたような心持になった。それもまた徐々に眠りについていっているようだが…と言うかエロに走ればそれだけ鈍るのかな、俺。

 

 

 ま、何れにせよ…今回は正直、俺もトサカに来た。前ループで、俺の村がシャガルマガラに滅茶苦茶にされた時の事を思い出すし。ココット村は割りとノンビリできるところだったのにこんな事になって、安息地を壊された気分だ。

 ベッキーとイチャイチャできる時間が減ったのも気に入らない。

 

 

 幸い、村の安全の為というお題目もある。私怨で悪いが、久しぶりに自重を捨てさせてもらう。

 

 

 




最近暖かくなってきている為か、客・スタッフ・業者問わず、色々な意味でおかしい人が増えてきているようです。
皆様もお気をつけて。
いやホント、酔っ払って喚き散らすのとか、散々人を待たせた挙句に忘れ物してくる業者のとか、バイトスタッフも同僚の社員も割りと洒落になら病気と怪我…具体的には39度の高熱とかぎっくり腰疑惑とか骨折だとか、更に店長がインフルエンザにかかり、挙句の果てには近所の店ですがストーカーまで出現するという大騒ぎ。
ちなみに全て、投稿予約してから僅か2日の出来事。
幾ら春だって、限度があるぜよ…。


-追記-4/1 17:00現在
高熱だったスタッフがインフルエンザに化けました。心底思う、インフルの最大の脅威は感染力だ。たった一人の被害が5人くらいに拡大する。現在俺が認識している時点で3人なんで、あと2人分も覚悟しておきたくないようなくぞコノヤロウ。
全滅しないように予防接種受けてきます…イヤホントに皆様注意しましょう、マジで洒落にならんとです…。


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143話

久々に心底やってられっかな気分…。
スタッフ複数名と店長のインフルに始まり、伝達の行き違いに勘違い・普段と違う特殊な作業・マナーの悪い客・上司からのダメ出しetcが全て一日に集結したような日でした。
どれか一つでもタイミングがずれてれば、そう悪くはならなかっただろうに…。
どーも帰省が終わってからツキが悪い。
なんか気晴らしかお払いに行かねば。

あと、ふと八つ当たりがしたくなって、その苛立ちを職場のPCに打ち込んでみた。
2chとかツィッターで荒ししてるような文章ができた…ちなみに全て平仮名。
自分でそれを書いてしまった事に福本キャラが『ぐにゃぁ』した時みたいな感覚を味わいました…マジで眩暈起きた。
ああいうのは止めにします、これでも一応自分の書く文章にプライド持ってるもんで…こんな愚痴書いてても持ってるもんで…。

スターオーシャン…うーん…微妙?
クエストをこなすのに広いマップを走り回るのはいいんだけど、ほぼ一本道だし。
仲間に入ったり外れたりはあるけど、最後までメンバーも固定っぽいしなぁ…。
クリエイションも、ほぼクエストをこなすのに使うくらい。
なんというか…幅が欲しい。
レベルによるゴリ押しだけでどうにかなってしまう。

まぁ、SOの本番は裏ダンジョンというのも定番ではあるけど。
そっちに期待していいのかな。


プレイステーションVR月焚き立ての白米と味噌汁がシミジミと美味い日

 

 

 ベッキーとの触れ合いもそこそこに、体調不良を無視して狩りに向かう。 と言うか狂ったモンスターが一時間につき2~3回の割合で村にカチコミかけてくるんで、引きずり込んで各個撃破。

 

 

 

 

 そこで色々考えるのを止めて戦ってた訳だが。

 

 

 

 

 日時の感覚が曖昧です。

 

 

 

 

 

 

 

 

プレイステーションVR月ネットでクレカが使えないと思ったら日

 

 

 

 

 プレイステーションVR月某日夕方、気がついたらジンオウガが目の前で倒れていた。

 

 

 プレイステーションVR月某日朝方、ゲネルセスタスを一体狩る。気がつけばアルセスタスの死体が山になっていた。濃汁塗れ。

 

 プレイステーションVR月某日昼間、ブラキオスの頭のデコを持って近所の川でヴォルガノス4匹を爆殺していた。いつブラキオスのデコを持ったのか記憶に無い。

 

 プレイステーションVR月朝方、ティガレックスがマジ泣きしながら近所にハプルポッカに食いついていた。どうも俺が「従わないと食うぞ」みたいなカンジで脅したらしいが、結局ハプルと死にかけだったティガは相打ちになったようだ。

 

 プレイステーションVR月夜中、我にかえるとイャンガルルガと金色ラージャンが地に伏している。

 

 プレイステーションVR月+2日黎明、いつの間にやら、封印していた筈の神機を持ち出し、イビルジョーをムシャムシャしていた。

 

 プレイステーションVR月+FA、緑色の大爆発を連発して荒野を作り出したような気がするが、場所が定かではない。

 

 プレイステーションVR月黄昏-5、ショウグンギザミを村にカニ鍋として提供したと聞かされた。

 

 プレイステーションVR月夜中-1、ナルガクルガと追いかけっこしていたらしい。我に帰って振り返ると同時に斬首。

 

 プレイステーションVR月昼間÷3、愛と勇気と怒りと憎悪を恨みと因縁を込めて俺の村を襲いやがったゴアだかシャガルだか分からんマガラに鬼杭千切3連発。

 

 プレイステーションVR月明け方×1.8、紫色のリオレイアの尻尾を縦に切る。

 

 プレイステーションVR月7.2Ver曙、ウルクススを崖から蹴り落とす。

 

 プレイステーションVR月AMENB、ベッキーにドン引きした上に抹殺対象認定一歩手前な顔をされた。

 

 プレイステーションVR月あべべべべ、闘技場でガララアジャラが自分から蝶ムスビになった。

 

 プレイステーションVR月-200、ベッキーから「ベッキーの穴卒業認定証」を貰う。以後、穴の所有権を認められるらしい。

 

 プレイステーションRX月BLACK、記憶が半分以上トン出る上に時系列も滅茶苦茶だからどの時なのか分からんが、不思議な事がおこっておじいちゃんが狂竜ウィルスを克服した。

 

 プレイステーションVR月

       雨風を具して参れ

       風を巻き、重ねて来たれ

       肉を食み甘を吸い忘るる事なかれ

       昔日に縹々とすすき野に啼く

       彼の時を想えい汝よ

       時は流れ逝きて留まること能はずとも、なお

       侍髪長くして長柄は隠形の型

       汝を幾重にも責め刻む

       曰く、これより汝が棲まふのは小さき箱

       以て現に出ること能はず日、なんか犬神みたいなの叩き切った。

       あとこのポエム何よ。

 

 プレイステーションVR月そろそろ我に返る、ドリスがベッキーの戦闘シーン見てしまったんだけどどうしよう。

 

 プレイステーションVR月G、何故か謎の青年と共闘している。…おい、持ってるそれ、山菜爺さんに貰ったHACHIKUと違うか?

 

 プレイステーションVR月nknk、気がつけば「旦那さん」と呼ばれる見知らぬサムシングを土下座して崇拝していた。気がついた後も崇拝し続けた。

 プレイステーションVR月RIDN、明らかにモンスターではないデカいメタリックなロボットをサイボーグっぽい人と一緒に切り刻んでいた。

 プレイステーションVR月Mikr、何処かのステージでバックダンサーとしてポーゥしていた。クルクルビシッ。踊れ踊れ。プレイステーションVR月過去視、どっかの施設で人造人間っぽいのが作られているのを目撃。プレイステーションVR月ヒラコー、明らかにヤバイ連中の狩り(?)に巻き込まれた。アレに比べりゃ古龍なんぞ…あ、でもG級やレジェンドは気に入られそうな気がする。プレイステーションVR月+2昼間、ドス系等の連中を積み上げる。プレイステーションVR月昼時、そんな事よりこんがり肉G食いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 …あの、俺は一体ナニをしていたんでしょうか? 一番疑問なのが、ベッキーとエロエロしていた記憶が無い事なんですがね。

 結構な日時を狩りに費やしていたようなんだが、思い出せる記憶の時系列が曖昧で、具体的な日数が分からん。カレンダーを見ると3日程度しか経っていないようなんだが、どう考えてもそれだけで狩れる量じゃないんだよな…。

 

 あと、ドリスがベッキーの正体に勘付いたっぽいのが一番厄介な案件なんですが。

 

 

プレイステーションVR月名義を記入するところに、名前をイニシャルで入れていた日

 

 

 なんかいつの間にやらココット村周辺のモンスターはほぼ絶滅状態になっていた。一部の人間からは恐ろしいモノを見る目を向けられているが…そっちは別に問題ない。

 

 むしろドリスさんの方が心配だ。と言うか、どうやってこっちの村に来たんだ? 仕事はどうした。

 

 いや、別に迷惑がってる訳じゃないって泣くな泣くな!

 

 …予想通りというべきか、ベッキーが実はギルドナイト、或いはそうでなくても相当な実力者だと気付いて、少々不安定になっているようだ。だが想定していたレベルよりはずっとマシか。…やっぱ、ベッキーとも百合百合な肉体関係状態になってたのがいい方向に働いたんだろうか? 後は、ほかに甘えてくれる人間が居る…まぁ俺の事だが…事も。

 

 とりあえず、安全確保も一段落した事だし、今日は休暇も兼ねて甘え倒しますかね。どういう密度でどんな無茶をしたのか分からんが、ちょっと体がギシギシ言ってるし…。

 

 

 

 

 と言うか、なんか気がつけばシャガルマガラをブチのめしてしまっていたんだが。

 これってどうなの? いつも間にやら元凶を仕留めてしまっていたわけだが。

 

 

 正直色々とモノ申したい。前ループ時の因縁(一方的だが)の相手なんだから、もうちょっと盛り上がりがほしいっつーか。無意識ながらも渾身の鬼杭千切を叩き込んでいたようだから、その辺はグッジョブだ俺。感情に任せて3発連続で叩き込んだから、体が壊れかけてたけどな。

 

 

 他にも言いたい事は、何でこいつ半分黒くて半分白いんだ、とか。…ん~、前ループで俺の村襲ってきたのコイツかな…特徴は似てるんだけど、でもアイツは全身が白と言うか黄色っぽかったし…。

 

 どっちにしろ、この近辺の狂竜ウィルスの被害の元は多分コイツ。そこから更に、あの妙なヤマツカミが被害を増幅させてたんだと思うが。

 

 

 だが、元凶が居なくなったからと言って、振り撒かれたウィルスが無くなる筈もなく。まぁ、これ以上狂竜ウィルスがばら撒かれないのは朗報か。

 

 近辺の『消毒』は出来るところまではやった。

 モンスターもほぼ狩り尽くしたようだし、デカい狂竜結晶の類もほぼ回収した。残りは草木などに付着している狂竜ウィルスだが、これはそこまで強い効果は無いだろう。量を食べればモンスターは狂竜ウィルスに感染するかもしれないが、多分それだけの量を摂取する前に、気分が悪くなって吐くと思う。

 

 村の近場ではないモンスターで、感染している者は徐々に少なくなっていくだろう。狂竜症で真っ当な行動ができなくなったモンスターがいつまでも生きていける程、食物連鎖は甘くない。 力尽きた感染者を喰らって、蟲毒の要領でトンでもないモンスターが出来上がる可能性も、無いではないが。

 一体二体だけなら、この村のハンターで充分対処が可能だろう。今回の壊滅的な被害は、大量のモンスターが一度に暴れだした事によるものだしな。

 

 いやー、しかしこうして考えると、村長が仕掛けたハンターを増やす策が見事に大当たりしてんだな。獰猛化したモンスター達の素材でハンターを集め、またモンスターと戦わせる事で大きくレベルアップを計る。その結果、村には被害甚大なるも、死者重傷者は極めて少なく、迅速な安全確保に成功した。生き残ったハンター達も、一皮剥けたようだった。

 

 村の被害に関しては、村長はむしろ笑っていた…懐かしい、と。

 昔はモンスターの襲撃で、こんな風に壊滅する村があったものだ、と。それは笑う部分じゃないと思うんだが…「なぁに、かつてのように0から始めるだけよ! いや、人は揃っておるから0ではないのう!」だそうだ。爺さんになってもまだまだ元気なお人である。

 

 

 まぁ、この調子なら遠からず、村は再興されるだろう。前より暮らしやすい村にしてやろう、と息巻いているハンターだって居たしな。俺としても、短い間だが協力を惜しむつもりはない。一番役に立てる方法は、飛行船を使ってあちこちから資材を運び込んでくる事だと思うけどな。

 

 

 

 

 

 

 さて、真面目な話はこれくらいにして…。

 

 精神がちょっと不安定気味なドリスを安定させる為、「プリンたべたーい! ケーキたべたーい!!」と年甲斐もなく駄々っ子みたいな真似しているベッキーと一緒に、ドリスに甘えるかな。…俺の場合は「お酒飲ませて~」かな。

 

 

 

プレイステーションVR月ややこしい真似をしおって…日

 

 二人がかりでドリスに甘えたおかげで、ドリスは何とか安定してきた。たった一晩で安定するってのも、どうも安いと言えば安いと言うか…。

 いや、これはベッキーとドリスがそれなり以上の信頼関係を築いてきたから、なのかもしれない。例え、ベッキーが自分の想像を超えた実力者で、「手間のかかる目が離せない先輩」というイメージが幻だったとしても………ベッキーの私生活では手間がかかるのは間違いない、と。

 よーするに、「掃除できない先輩」だった訳ね…。まぁ、確かにハンターともなれば、私生活での家事はルームサービスがやってくれるけどさ。

 

 …あれ、でもベッキーってルームサービスとして俺に近付いてきたよな………ま、まぁいいか。実はコッソリ裏でアイルーに仕事させてたのだとしても、気にしなければ…。

 

 

 

 ま、それはともかく、日中は元気に村の再建を手伝っています。村長を初めとしたお偉いさん方は、何処に何を作るのかを話し合い、俺や一般ハンターみたいな脳筋は、とりあえずボロボロになった建物を解体して資材にしたり、荒れまくった地面を整地したりしている。ピッケルが意外と手に馴染むな…。

 時間さえあれば、このままクラフターを目指してみるのも面白いかもしれない。ひょっとしたら、時々見る夢のおかげで、唐突にそっち系の能力に目覚めてしまうかもしれないが。

 

 

 

プレイステーションVR月いや、他人に使われないように対策してるのは分かるけど日

 

 

 …よく分からんが、なんかスゲェイヤな予感がする。

 

 夢に出てきた、黒いのと赤いのと白いのが襲ってきそうな気がする。しかしそのような兆候も無い訳で…いやいや、レジェンドラスタやギルドナイトが移動を制限されているのが兆候では?

 

 

 …とにかくアレだ、悶々とした不安を抱えたまま数日間ほど土木作業やってた訳だが、ふと思い出した。ここに来る時に空中戦やったヤマツカミ、結局どうなったんだ?

 

 近場に居たハンターに聞いてみると、やはりあの狂竜ウィルスを纏ったヤマツカミは、禁足地に居たらしい。 そいつが飛び立つと同時に、猛烈な量の狂竜ウィルスが振り撒かれ、後はココット村壊滅寸前のシーンまで一直線。

 何故突然目覚め、ココット村に向かう俺を目指したかのように近寄ってきたかは謎だが、今は奴がどうしているかの方が問題だ。

 

 アイツはまだ、狂竜ウィルスを体に溜め込んでいる筈。海の方へ流れていくから問題ないだろう、と思っていたが、考えてみれば何処か別の場所で再度休眠に入る可能性もある。そうなったら、またしても地脈を通して狂竜ウィルスが振り撒かれるかもしれない。或いは、海にボチャンとおっこちて、その近辺をウィルスで汚染する可能性だってあった。

 

 …追撃かけた方がよかったかな。でもそうなると、ココット村を放置する事になってしまうし。

 

 

 どっちにしろ、アイツを放置するのは危険すぎる。ギルドに報告するのも忘れてた…。

 と思っていたら、ドリスは既に情報を持っていた。どうやら、ギルドの方もあのヤマツカミの行方には注目しており、他のヤマツカミと区別をつける為に「ヤマクライ」という名を与えているらしい。

 

 肝心の行方はと言うと…海の上をフラフラしているのだとか。山を食うのに、何故に海に出るのやら。山彦海彦に習って、ヤマクライじゃなくウミツカミとでも名付けた方が良かったんじゃなかろうか。

 

 

 しかし、どうしたものかな。海の上…海面ではなく、文字通り海の上空。

 正直、ちょっと手が出せない。飛行船使って戦おうにも、正直火力が足りないし。船を出したって、上空には手が届かない。

 

 どっかに着陸しないと、手が出せないなぁ…。と言うか、海で一体何をやってるんだろうか?

 

 詳しい場所を教えてもらったが、直近の港はモガの村。もう少し距離が離れた場所に、タンジアの港がある。

 

 全く方向は違うが、距離だけで言えば次に近いのがベルナ村近くの港だな。

 

 

 うーん、ベルナ村に被害…出るかな。地形や季節による風向きを考えても、狂竜ウィルスがベルナ村付近に流される可能性は低そうだし…海流だってそれは同じ事だ。

 いや知ってるトコだけが被害にあわなきゃいいとか、そういうつもりじゃないんだが。

 

 

 

 

 …でもなぁ、こうしてイヤな予感がしてる真っ最中に、あからさまに危険なアイツを思い出してるんだし…。なぁんかあるよな…お約束的に考えて。

 

 しかし、仮に地面の上で対峙したとしたら、そこまで強い相手だろうか。

 確かに古龍特有のアホみたいなタフさはあるだろうし、ゲームでも吸い込みからのムシャムシャはかなりの脅威だったが、それ以外は…あんまり動きも素早くない。普通のハンターの行動速度でも、対応さえ間違わなければ避けるのはそう難しくなかった。素早さで言えば、ハンターの一段二段上に居るゴッドイーターである俺なら、回避はそう難しくないと思う。

 

 

 

 

 が、考えてみりゃそれ以前の問題だった。あの濃度の狂竜ウィルスを浴びて、動ける自信が無い。

 

 今、ココット村に居る時でさえ、気を抜けばリバースしそうになるんだよな…。結構耐性がついてきていたのに、この有様だ。狩りしてる時は割りと平気だったんだけど。

 

 と言うか、なんかずーっと狂竜ウィルスの中に居た為か、任意で感染状態になれるようになってしまったっぽい。俺だけじゃなく、ベッキーも似たような事が出来るようになっていた。狂竜身、と名付けていたようだが…自分から感染状態になるのか?と思っていたが、ベッキークラスになるとこれも洒落にならない事になるようだ。

 

 知っての通り、狂竜ウィルスは敵を攻撃し続ける事で克服できる。克服すると狂撃化状態になり、身体能力やら何やらが上がる訳だが……ギルドナイトがこれをやると、どうなると思う?

 レジェンドラスタのキースさんでさえ、敵の攻撃を摺り足で避けて、錬気常にマックス状態から反撃なんて珍しくもないのだ。ギルドナイトが使うと、一度発動させて狂撃化状態になったらそのまま強化維持余裕。狂撃化状態中に意識を集中し、再度狂竜身を発動させ、そのまま克服して戦闘続行…。

 

 いやはや、流石ギルドナイトというべきか…。ただでさえ高い攻撃力が、文字通り狂ったように跳ね上がる。

 

 

 

 しかし、こうして考えると、以前に教えてもらった減るブラザーズの狂竜ウィルス克服法は間違っている事になるな。モンスターから適度な距離を保ち、ウィルスの濃度に合わせて動きながら体を慣れさせる…というのが、あの二人の理論だった。

 

 が、自分から狂竜ウィルスに感染しつつも、狂竜ウィルスとは全く関係の無い相手を攻撃し続ける事で、克服できてしまう。…恐らくだが、狂竜ウィルスという理性を狂わせる存在に干渉されながらも、それを抑え込んで適切な行動を取り続けられるか…がキモなんだろう。精神力だけの問題ではなく、体もちゃんと自分の管理下に置き続けなければならないんだろう。そういう意味では、相手を注意深く観察して距離を保つ、という減るブラザーズの方法も間違ってはいないな。

 

 

 

 

 だがそれはつまり、俺にとっては最悪の結論という事である。

 だってそうだろう?

 

 夜に二人きりないし三人きりになれば、あっと言う間に理性が飛ぶ俺だぞ? 自分を管理下に置き続けるとかできる訳ないじゃん。セクロスが上手い奴は要するに興奮をコントロールするのが上手い奴、というのが俺の見解だが、それは来るべき瞬間に備えて興奮を圧縮するって意味でしかないのよね。その時になったら、コントロールとかブン投げて野獣、いや狂竜になるに決まってるじゃん。

 

 

 

 …とにかく、俺がこの村に居られる時間は、体質的にも揉め事的にもそう長くはなさそうだ。せっかく再度訪れてくれたドリスには悪いけど、近い内に出発しなければならない。そんな予感がする。

 

 景気の悪い話になるが、恐らく本格的にデスワープが迫っているんだと思う。今回の嫌な予感もそうだが、とにかく霊感的にビリビリとヤバい気配を感じている。正直な話、ベッキーを援軍として連れて行きたい。それくらいに危険な相手が迫っているっぽい。

 

 最初から弱気、負ける気で戦う気はないが、今までの例を考えるとなぁ…。女絡みで死ぬか、唐突にアホみたいな状況に放り込まれて対応しきれず死ぬか、なんだよな…。

 

 

 

 

 …また前と同じようにバイオハザって、関係を持った女全員が狩りに来るとか…ないよね?

 ベッキーが俺を狩りにきたら、生き残れる気がしないんですが。あとコノハとササユが裏から手を回したら………ガクガクブルブル

 

 

 

プレイステーションVR月とりあえず、ようやく某ブログが読める日

 

 

 予想通りと言うべきか、ギルドから出立するように要請があった。ココット村の惨状を放置して行くのは気が咎めるが、村長達は「いいから行ってこい」と送り出してくれました。…ただ、なんか取引の結果っぽかったけどね。

 

 と言うのも、今回はベルナ村に早く返って来いって事ではなく、ちょっと別の場所に行ってきてくれ、という事だった。それを引き受けてくれれば、ココット村に対して復興の為の資金や人材を優先的に出す。

 俺としても願ったり叶ったりではあるな。俺一人が慣れない作業に協力するより、他の仕事に従事する代わりに専門家を寄越してくれるなら、明らかにそっちの方が効率がいいだろう。

 

 で、その他の仕事というのも気になっている事だった。即ち、ヤマツカミ改めヤマクライの追跡。

 

 何せ今は海上をフラフラしているらしいので、まともな追跡の手段が飛行船くらいしか無い。船を使って追おうにも、海流が邪魔して上手く進めないそうだ。 

 そこで、現在は唯一と言っていい、戦闘能力を備えた飛行船を持つ俺に話しが回ってきた、と。龍暦院にも既に話を通しているらしく、そちらからの許可も下りていた。

 

 そういや報告はしてなかったが、実際ヤマクライと空中戦してるしな…。正直、あまりやりあいたいとは思わないが。

 

 

 

 ともあれ、断る理由は無い。これ以上ココット村に居ると、狂竜ウィルスの耐性も限界を超えてしまいそうだ。

 『折角だからもう少しゆっくりしていけば』というベッキーと、『仕事なんだから文句言わない、それより詳しい話を聞かせてもらうよ先輩』と内心は残念そうなドリスを置いて出発。

 

 

 …改めて指令書を読んでみたところ、今回の拠点となるのはベルナ村近くの港…ああ、JUNと一緒にベルナ村に来た時の港だな。そこにJUNと正宗が来るので、合流して調査に当たるように、との事だった。

 

 

 

 …あの二人が来る? 何で?

 いや、そりゃ確かに正宗は…そろそろ訓練所を卒業してもおかしくない時期だと思うが。元々、体力は下手なハンターよりも高かったし。

 

 JUNも村のクエストで大型モンスターを相手にする事もできるようになってたから、そろそろ冒険してみようってのも分かるが。俺に対するご執心が復活…じゃなさそうだな。

 

 でも、それでいきなり大型古龍の相手というのは…いや別に戦うと決まってる訳じゃないし、戦うにしても飛行船での戦いになりそうだけど。

 

 

 

 ふむ、しかし正宗か…。そういや、アイツ用に狩り技作ってやる、って約束していたような。

 一応アイデアは、あるにはあるが…実現できんのかな。ニャンターの能力がどれくらいのものか分からないから、どこまで筋力とか骨格とか要求していいのか分からないんだよなぁ…。

 

 それに、狩り技を作るだけじゃ意味がない。実際に運用可能で、ダメージにせよ特殊効果にせよ何かしらのメリットがあって、出来れば正宗好みの派手なヤツ。意図してつけた名前じゃないが、伊達政宗よろしく派手好きになりやがったからなぁ…。

 

 ま、実際に会って、どれくらいの事ができるようになったのか確認してから決めますかね。今のままじゃ、幾ら考えても机上の空論である。

 

 

 

プレイステーションVR月カレーか飲み屋かジャンクフードかで悩んでいる

 

 港に到着。JUNと正宗は既に到着し、拠点作り(と言っても生活スペースの掃除程度だが)を行っていた。初めて飛行船に乗れる!と騒いでいる二人だが…うーん、なんつーか、一肌剥けた顔しているような…。

 

 正宗は訓練所を卒業して、これからニャンターという夢に向かって本格的に踏み出そうとしている訳だから、分からんでもない。

 ちなみに、訓練所で仲良くなったハンターとは別々の道を歩む事になったらしい。

 正宗がニャンターになろうとしているように、あの時の青年は主に海で活動するハンターになりたいらしい。…つまり水中戦にチャレンジか。それは俺も興味あるが…。

 「オスは自分で立って歩いていくもんニャ」って無駄にダンディな事言いやがった。

 

 

 それに対してJUNは……なんだ、その…男になったと言うか、女になった…のか…?

 アレだ、初陣(意味深な方)を終えた男は色々な意味で成長すると言われているが、それなのか? 番を作ってヤッちゃったのか? でもそれって男? 女?

 いやいやどっちであっても、道具を使えばタチもネコも勤める事はできるし…。

 

 

 

 そんな事を考えてたら、「失礼な考えの気配がする」と言われて狩猟笛でブン殴られた。おい、人に武器を向けるのは御法度やがな。まぁクエスト中とか終わった後には、皆して武器から爆弾から向けまくってるけども。

 

 …で、結局恋人が出来たとかじゃなくて、故郷の両親に会いに行ったらしい。大型モンスターも狩れるようになって、ようやく錦を飾れる、と。

 

 どういう会話が成されたのか興味はあるが…流石にそこまで突っ込むのも失礼か。以前のJUNだったら自分から(両親に紹介する為に)話してくれたかもしれない。

 まー、いい顔するようになったから、悪い結果にはならなかったんだろう。それで充分だね。

 

 

 という事は、ベルナ村の皆さんのアタックは不発なのかね? 試しに誰かと付き合ってみるとか、考えないのか?と聞いてみたら、「私は君みたいに、沢山の人と気軽に付き合ったり、浮気したりしたくないの。本当に好きな人と、一生添い遂げるんだもんね」だそうだ。はっはっは、こやつ言いおる。

 だが色々な意味で相手に不自由する可能性が高い事も忘れるなよ。ゆっくり選んでたら、賞味期限切れって事も考えられ……イタタタナンカココロガイタイ

 

 ところで、現地妻って公認状態なんだけど、浮気に分類されるんだろうか。

 

 

 

 

 さて、二人の成長の成果だが…予想通りと言うべきか、予想以上と思うべきか。

 JUNは色々自信がついた為なのか、大胆な動きや判断もできるようになり、同時に臆病さも失っていない。ソロでの狩り、集団戦でのサポート兼アタッカーとして考えれば、理想的なバランスだろう…まだまだ経験が足りてないようだから、判断ミスが非常に多いが。

 更に、最近では狩り技を一つ会得した。音撃震と呼ばれるソレは、龍暦院の訓練所でも研究されていた技だ。完成していたのか……いやまだシステム的に言えば音撃震Ⅰらしいけど。

 

 

 正宗が得意なのは、挑発と隠形。

 アイルーだからな…人間に比べると、モンスターの目に留まりにくいんだろう。挑発(+メラルーを彷彿とさせるかっぱらい)でモンスターを怒らせて惹き付け、地面に潜って隠れる。見失ったところに、背後や足元から強襲して乗り体勢に移行、一気にダウンを奪ってしまう。

 エリアルスタイルだかライダースタイルだかに磨きがかかってるな…。ただ、やはり元が非力なアイルーの為、ダメージを与えづらいのも事実。

 見たところ、霊力の扱いの訓練もしっかりこなしていたようだ。…むぅ、やっぱり狩り技、作ってやらんとな…。

 

 攻撃力を飛躍的に高める技か、それとも一発の攻撃だが回転が早い技か…。正宗とも話して、少し考えてみるか。

 

 

 とりあえず、二人(一人と一匹)には暫く、飛行船に乗る際の注意事項とか教え込まないといけないな。何かの切っ掛けで、以前のように風防が割れたりしたらエライ事になる。

 



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144話

スターオーシャン、とりあえずクリア。
引継ぎ要素が無いのは痛いなぁ…とりあえず隠しダンジョンか。ここからが本編だね!

しかし、採取系のスキルにばっかりSPをつぎ込んでたけど、ロールの効果が意外とバカにできない。むしろ採取系スキルは金の節約にしかならない。与ダメ1.5倍、被ダメ0.5倍でレベルが2倍くらいになったような気分なんですが。
うーむ、ロクに上げてなかったし、苦戦するのも当然だったのかな…。
まさか初のhage一歩手前があのチンピラとは…お嬢ちゃんのおかげで全滅は免れましたが、何ぞあのジャンプ攻撃。無警戒に近寄って、一撃で全滅とか…。腹癒せにエネブースト使いまくってイセリアルブラスト叩きこんでやりましたわ。
むぅ、お嬢ちゃんマジ天使。フィデルその立場代われ…代わったところで代役が務まる気がせんけどな。ウチの阿呆なら手ぇ出して、銀河レベルで社会的に死ぬし。


プレイステーションVR月結局、休日に雨が降ってカレーに決定日

 

 

 …JUNから聞いた話なんだが、今回の調査にはカティも来たがっていたのだそうだ。

 以前言っていたように、飛行船の操作補助の為のオトモ育成を考えているから…なのだが。 これ、ひょっとして俺が目当てだったりしないよな…。

 

 JUNも、実験の際に危険な目にあって俺に助けられた、という話は聞いていたらしく、何となくカティの感情を察知したようだ。「まさかこんな子供にまで」と思いつつも、外回り先の某双子の噂とか思い出し、口八丁手八丁周囲にも協力してもらって、なんとか思いとどまらせたのだそうな。

 

 礼を言うべきなんだろうか…。いや別にカティが嫌いという訳でも、やましい感情を覚えている訳でもなく。やましいと言うか、向けられる好意に対して後ろめたいんですが。

 

 だから別に手を出すとかそういう事は考えてなかったから、冷たい目をやめろJUN。日頃の行いによる自業自得だと言うのは自覚してるから。

 

 

 

 

 さて、カティの話は置いといて、今後の行動だが…ぶっちゃけ、できる事はあんまり無い。飛行船を毎日、負担にならない程度に飛ばし、ヤマクライの居場所や行動を遠距離から確認。それをギルドへ報告する。

 

 二人に求められるのは、俺が飛行船を操縦している間、ヤマクライを望遠鏡で覗きこむくらいだろうか。だって二人とも飛行船操縦できないし。いや、万一の為、及び後学の為にある程度教えるつもりではあるけどさ。

 

 ちなみに正宗の場合、サイズの問題で操舵ができないという驚愕かつ当然の事実が発覚している。飛行船は人間サイズで作ってるからね、仕方ないね。カティが考えるような飛行船操舵士のオトモ実現には、飛行船操縦席の改造が必要なようである…。一応、龍暦院に別途報告をあげておくか…。

 

 

 そんな日々を送っているもんだから、二人とも不満…とは言わないまでも、どうにも不完全燃焼のようだった。こう言うと自意識過剰だと思われるかもしれないが、二人にとって俺はある意味先達、或いは道を示した師匠のようなもの…だと思う。特に正宗は、夢への一歩を踏み出させた切っ掛けになっていると思うし。そんな俺に対して、「ここまで出来るようになったぞ!」と見せ付けたいんじゃなかろーか。

 

 だと言うのに、実際には狩りもそこそこに、空の上をフワフワ漂って、望遠鏡を覗くばかり。

 最初は飛行船への搭乗でハシャいでいたものの、何も無い海の上じゃなぁ…。せめて陸の上なら、山野や村を遠目に見て楽しむ事もできただろうに。…ちなみに、二人の役目の一つに、「常に陸の方向を確認し続ける事」がある。これがまた変化が無い為に退屈極まりない仕事なのだが、非常に重要だ。

 だって陸を見失ったら、どっちに帰ればいいか分からなくなるし…ハンターたる者、陸で遭難してもそこら辺から自給自足して生き延びられるが、海での遭難は死に直結する。太陽の位置と時間で大体の場所は割り出せるが、専門的に学んだ技術でもないので、あまり精度は良くないし。

 …そっち方面の技術も、この世界ではあんまり発達してないんだよね。緯度とか経度とかも明確に定められている訳じゃないしさ。

 

 そういう訳で、陸地を見失わない事は、ヒジョーに重要なお仕事なのです。だから正宗、ウトウトしてるんじゃありません。

 

 

 とは言え、退屈なのも分かるんだよな…。

 ヤマクライの様子を観察しているJUNも欠伸していたし。何となくSAN値を削りそうな姿をしているとは言え、ヤマクライも単なる古龍でしかない。しかも動きが激しい訳でもなく、何考えてるのか分からないボケーッとしたツラで空をふよふよと漂うばかり。

 

 ふと気がつけば、3人でシリトリしているくらいにヒマである。…おい、別にケツの奪い合いはしてないからな。

 

 

プレイステーションVR月最近、休祝日のシフトが厚いんで平日より楽日

 

 

 飛行船に駄菓子持ち込んでくるんじゃねぇ…。いや、飯を持ち込んでくるのは仕方ないし、休憩時間に食べるのも構わない。

 だが古龍の観察しながら、ラスクとジュースを摘むのは如何なものか。気持ちは分かるが、ダレて来てるな。

 

 まー一週間近く、一日の半分以上が飛行船の中、何も無い海の上じゃ話題も尽きるし、運動する訳にもいかないし。やる事が無いのも当たり前か。

 とは言え気が抜けすぎなのも事実…。

 

 …よし。

 

 

「そーいや正宗。

 前に話した狩り技だけどな」

 

「狩り技…出来たニャ!?」

 

「ん、何の話?」

 

「訓練所卒業祝いに、ニャンターが出来る狩り技を作ってやるって話だ。

 で、正宗。本当なら卒業の時点に間に合わせてやりたかったんだが、お前に何ができて何ができないのか分からなかったんでな。

 とりあえず、昨日までの狩りでどういうレベルなのかは大体把握して、大体の草案は出来上がった。今思いついているだけで4種類ある」

 

「4つもニャ!?ハンターのストライカースタイルだって、3つしか狩り技を使えないのに!?

 漲るニャァァァァーー!!!そしてどれを使うか迷うニャ~、嬉しい悲鳴ってこの事だニャァァア」

 

 

 おい落ち着け、陸を見ろ。見失ったら帰れねぇってホントに。

 

 

「ただし、さっきも言ったがこれは草案だ。お前が実際に身に付けるには時間もかかるだろうし、実際に試してみて実現可能か、仮に実現したとしてもどう運用するかはお前が決めなきゃならん。

 そもそも草案が4つあると言ったが、これは机上の空論で汲み上げた案に過ぎない。まずはどれか一つを試して、どうすれば実現できるかの模索から始める必要がある」

 

 

「………つ、つまり?」

 

「要するに、未完成って言ってるんじゃないかな、正宗」

 

 

 はいJUN大正解。

 

 

「…え゛ぇ゛……」

 

「そこまでガッカリした顔しなくても…。

 正宗だって、訓練所を卒業した時に教官に言われてたでしょ。正宗が行こうとしているのは前代未聞の道で、何をするにも『初めて』という苦労が伴うだろう、って。

 あの時、正宗はなんて言ったっけ?」

 

「『進んだ後に道は出来るニャ! ニャンターの皆、この道を作るニャ!』って言ってやったニャ」

 

 

 そんな事言ったり言われたりしてたのか。と言うか、JUNって正宗の訓練所卒業式に行ってたのか?

 

 

「うん、興味もあったし、正宗とはチームを組もうって話もしてたしね。正宗も、最初は旅をしながらニャンターしよう、って思ってたらしいんだけど」

 

「旅にはいつでも出られるニャ。訓練所を出たといっても、卒業したばっかりだし。

 経験を積みながら、何処に行ってもやっていけるくらいには装備も作るニャ」

 

 

 ほほう、正宗の事だから、やりたい事一直線にすっ飛んで行くかと思ったが…いい教官に躾けられたみたいだな。

 

 

「いや、そんな事より狩り技ニャ!どんな技ニャ!?」

 

 

 案その①、回避。分かりやすく言えば、ハンターの狩り技の絶対回避。

 

 案その②、袋叩き。オトモや他のハンターと同時に攻撃する事で威力を跳ね上げる。

 

 案その③、一定時間火力アップ。

 

 案その④、特殊効果は無いけど強力な攻撃。

 

 

 さぁ、どれがいい? どれを選んでも、実現までに幾つも難関があるだろうけどな。

 

 

「うーん…①と②は却下ニャ。回避は地面に潜ればいいし、暫くはJUNと二人でやってオトモを雇う気もないから、あんまり効果が出そうにないニャ。 

 ③か④…」

 

「どっちも構想段階だけど、なるべく派手な技にするつもりだぞ。

 実用に耐えうる範囲で、だが」

 

「ウニャニャニャニャ…」

 

 

 本格的に頭を抱えて悩みだした。JUNは苦笑して、陸を見る役を変わった…が、ヤマクライを見ないんじゃ、ここに居てもあんまり意味無いな。

 今日は一端帰るか。

 

 時間がちょっと余るが、狩り技を正宗に試させてみるとしよう。

 

 

 

プレイステーションVR月新年度になると客が減るね日

 

 

 …気に入らん。

 いや、正宗に試しにやらせてみた狩り技じゃなくて。エロエロできる相手がこの場に居ない事でもなくて。

 

 海が静か過ぎる。

 

 ヤマクライを監視しはじめてから数日。最初は海って言っても、特に荒れてる時期でもないからこんなモンだろう…と思っていたんだが、考えてみればそれもおかしい。ヤマクライは上空からとは言え、狂竜ウィルスを今でもバラ撒いているのだ。海のモンスター達が全く影響を受けないとは思えない。

 

 狂竜ウィルスは海水に漬けると無効になる…なんて性質が…あるとは思えないが…。少なくとも、ココット村付近でやりあったガノトトスは、水の中に居ても感染していたな。

 川の水と海水の違いか?

 …それとも、他に理由があるんだろうか。

 

 

 ヤマクライ以外にも、少し目を向けてみるか。そうだな、あいつの監視ばかりじゃなくて、少し帰還ルートを変えてみよう。そうすりゃ上空から山川集落も見られるだろうし、JUNと正宗も喜ぶかもしれない。

 

 

 

 そうそう、正宗の狩り技に関してだが、まずは自分を強化する技に決まった。攻撃技の方は理論だけ教え、実践・研究はまた今度。

 

 狩り技の名前は…完成した暁には、正宗自身で名前をつけるようにしよう。

 

 

「未完成の必殺技…しかも完成したら自分で名前をつけられる……も、燃えるニャアッ!」

 

 

 とは正宗の弁。…完成した技を教えられるよりも喜んでるんじゃなかろうか。まぁ気持ちは分かる。

 

 未完成の必殺技。

 

 実際の使い勝手は最悪だろうに、これほど浪漫回路を刺激する言葉も珍しい。

 

 

 

 さて、実際にやってみようとしたんだが、予想通りに難題山盛り。

 ま、仕方ないね。時間制限つきとは言え、アイルーがハンター並みの攻撃力を出そうっていうんだ。体にも負担がかかるし、効果時間も短いのは仕方ない。

 が、そこは正宗自身が改良していかなければなるまい。

 

 差し当たり、最初の一回を成功させる為、問題になっている部分のブレイクスルーを計りますかね。

 

 

 まずは理論の確認からだ。

 簡潔に言ってしまえば、「自力によるタマフリの再現」これにつきる。勿論、正宗にはミタマだってついてないが、その分生命力は非常に高い。だってアイルーだし。

 それはつまり、霊力が非常に豊富である事、或いは鍛える事によってそうなれる事を意味する。

 

 幸い、正宗は今まで霊力の修行を(ゴホウビに釣られて)真面目にやっている為、かなり霊力は高い。元々、ネコってそっち方面の力が強いって言うしな。しかもアイルーって、ある意味化け猫みたいなものだし…尻尾は一本だけど。

 

 とにかく、やれるだけの下地はある筈なのだ。霊力の量も充分あり、不完全ながらもそれを意識して操る事ができる。ならば何が足りないかと言うと…。

 

 ①霊力操作の精度。

 ②霊力を『何か』に変換する為の変換効率。

 ③これによって何がどう強化されるか、という明確なイメージ。

 

 パッと思い浮かぶだけで、これくらいだろうか。精神論的な話になっちゃってるのは気に入らないが、霊力関連だとある意味ソレが一番重要な要素なんだよなぁ。

 

 極論すると、コレが実は効率が良くない術だったとしても、正宗自身がコレの効果を本気で信じていれば、それに引っ張られて力が増す…まぁ限界だってあるが。

 

 

 となると、成功への一番の道筋は、この技がどれだけ凄いのか、正宗自身に理解させる事なんだが…なんちゅうか、格好悪いのぅ。

 試しに目の前でやってみせて、ドン!とかの効果音と見開きページでカッコイイポーズ見せるならまだしも、それが案外インパクト弱かったからってベラベラと「これってスゴイんだぞ」と解説するようなのはなぁ…。どうせ同じドン!するなら、オサレポイントバトルよりも一繋ぎの大秘宝でやりたい。

 

 見た目を徹底的に追求して、格好良さで正宗を魅了し、威力は本人に追及させるという手も在るにはある。

 

 

 でもなぁ……真っ当な技作るならともかくよぉ、『オサレ』な技作れって言われてもなぁ…。某師匠並みに極まってたり、某獣殿やらアマッカスやら級の問答無用の説得力があるならともかく、俺みたいなのが作ってもなぁ…。

 精々野菜人みたいに光ったりオーラ出したりする程度の演出しかできねーよ。それにしたって当時は斬新だった……いや、積み重ねと画力のおかげだったのかな?

 

 ともかく、格好良さだけ追求して、実用性皆無の技を作るのは…その後の成長性に期待が出来たとしても、ハンターとしてポリシーに反する。ハンターの基本は質実剛健。

 狩猟生活は見た目から、という主張に反対する訳じゃないが、それはその装備のままで戦えるくらいの腕と根気があっての事だ。

 

 

 ふむ…少し正宗と話をしてみるか。俺が作り出したイメージを押し付けるんじゃなくて、アイツの持っている最強のイメージを優先した方がいいに決まってる。

 

 

 

プレイステーションVR月卒業のおかげでスタッフも減ったけど…日

 

 

 飛行船の中でちょいと正宗に話を聞いたんだが…特に意外という訳でもないが、正宗の『最強』のイメージは、ハンターの道を志した切っ掛けと関係していた。

 幼い頃、まだ両親と一緒に居た時に、何やらモンスターに遭遇した。その時に大剣使いのハンターに助けられた(多分助けたという意識は無く、彼らの近くで大型モンスターと戦っていただけだと思うが)のだが…ついでに言えば、ただでさえ小さいアイルーの、更に幼子なのだから、ひょっとすると大型どころか中型モンスターだったのかもしれない。

 

 しかし、どうしたものかね。話していて分かったが、正宗にとって出発点となるイメージであっても、『最強』のイメージとは違う…本人に自覚は無いようだが。

 別に、そのイメージに拘る理由もないのだが…他にいいイメージ、モチーフと言われてもな。

 

 何でもいいから「こうなりたい」という具体的な形があるといいんだがなぁ…。最初はそれを持っていたかもしれんが、最近はどうも揺らいでいるようだ。夢を見るばかりで行動しなかった(滅茶苦茶な無茶をしようとしてはいたが)頃は「きっとハンターとはこういうものなんだ」というイメージを持っていたのが、なまじ憧れていた立場に立つ事で、想像していたハンターとの差に目が向いてきているらしい。よくも悪くも、という注釈はつけられるが。

 

 となると……例えば文字通り死の危険に追い詰められて、「自分がこうなら切り抜けられるのに」と思わせるとか? 却下だ却下。 博打が過ぎるし、上手く方向性をコントロールできるとも思えん。 

 

 

 うーむ、どうしたものか…。

 

 

 

プレイステーションVR月新しい人はよ入ってこーい日

 

 

 もうすぐ次の月、か。なんか今月だけえらい長く続いたような気がするが、まぁいつもの事か。

 

 ヤマクライの様子は相変わらずだ。何がコイツをそこまでこの近辺に引き付けるんだろうか。長い休眠で腹も減ってるだろうに、捕食に向かう様子すら無い。

 ひょっとして、俺達が戻っている夜中とかに活動しているんじゃないかと思って、倍率最大の望遠鏡でずーっと監視もしていたんだが、これまた漂っているだけだ。正直言って俺もダレてきた。

 

 最近じゃ正宗も、古龍の事なんぞ忘れて狩り技の練習ばかりである。意外な事に…と言ってはなんだが、なんか…もうちょっとで成功しちゃいそうなんですが。

 

 と言っても、「攻撃力が一時的に若干増加する」くらいであって、正宗的にも俺的にも、まだまだ完成の領域に近付いているとは言えない。正宗の目標としては、「一発だけでもいいので、大剣の全力溜め斬り並みの威力を出す」事を目標としているらしい。

 俺の考えでは、元が非力なアイルーの攻撃力が一発だけ3倍くらいになったところで、あまり戦略的な価値は感じられないから、一定時間火力アップの方で進めたいんだが…まぁ、使い手も完成させるのも正宗だしな。あまり口を出すのもどうかと思う。

 

 

 …口を出すとしたら、効率アップの為の方法か。

 正宗の霊力の使い方のクセも大体理解したし、2~3日あれば、多分効率的な術式を作り出す事はできると思う。それを…そうだな、直接教えるよりも、道具に刻み込んで補助器具にするか。でもって、その霊力の流れ方を直接覚えさせる方が効率的だろう。

 

 ああそうだ、ついでにJUNにも何か特性の道具を作ってやれないだろうか。ここ数日の狩りの話題で、思いついた事が幾つかあるし。

 

 

 

 どうでもいいが、JUNは俺や正宗が語る霊力というのが初耳だったようで、胡散臭いものを見る目を向けていた。「霊力なんて妙な力じゃなくて、新手の狩り技じゃないの?」とも言ってるが…ま、普通はそうなるな。別にその認識でも構わんし。

 

 

 

 

 ところで、漁師の皆さんからちょっと気になる話を聞いた。最近は何だか海が気味が悪い、という話を前々からしていたようなのだが…具体的には、波が無くなったり、季節外れの魚や、矢鱈多くの魚群に遭って獲物が妙に沢山取れたり……遠くの海中に、奇妙な光が見えたそうな。しかも、尋常ではなく大きな光が。

 暫くするとその光は消え、漁師達は妙な事が起こる前に、とソソクサと引き上げてきたそうなのだが、その間もモンスターの気配一つなく、だが薄氷の上を渡るような心持で村まで戻ってきたらしい。

 

 

 

 

 どう考えても厄介事の前触れです。と言うか古龍が居る兆候があるであります。

 

 魚群は単に光に釣られて集まっただけだとして、ガノトトス等のモンスターの気配が一切無いのは、古龍が現れた時に付近のモンスターが一斉に逃げる状況ではなかろうか。まぁ、海中で活動する大型モンスターって、ガノトトス、ロアルドロス、ラギアクルスに…パッと出てきそうなのはそれくらいか。

 少なくとも、陸上で活動するモンスターよりは数は多くないもんな。単に、本当にモンスターが近くに居なかっただけって可能性もあるが。ラギアクルスだって、本来なら早々お目にかかれるモンスターじゃないし。

 

 

 …ヤマクライに反応して逃げてったんだろうか? でも海中に古龍………居るよなぁ、超ド級の奴が…。

 古龍だったかは覚えてないが、ナ…ナ……ナバ・デウス…違う。ナバー…ナバ…パ?ナッパ?バだよな…ナバ…でも実際の力関係を見るとナッパの方が強そうなんだよな、ハゲのクセに。とにかくでっかい奴。

 

 もしマジで来たらどうしよう。水中戦の心得があるハンター、居ないぞ? アラガミ化しても水中で活動できるかなんて…試してみなけりゃ分からんし。もしも活動できたとしても、ロクに経験のない状態で古龍を相手に暴れる気にはならない。アラガミ化状態で出来る炎氷雷の遠距離攻撃だって、海中でどこまで効果を発揮できるやら。

 

 …最低限、正宗とJUNを含めたハンターに、近隣の村の皆が避難するくらいの時間稼ぎはしたいと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 でも、ナで始まるアイツじゃなくて、その余波である津波が来たら……どうしよう、リアルモーセなんか出来る気がしねぇよ。

 

 

 

 ああそうそう、これも漁師さん方から聞いたんだけど、近所でも同じように様子がおかしい海域があるらしい。この辺りにも、ヤマクライがフラフラと漂っていたりするそうな…何をするでもないが。ナの古龍がそこまで活動を広げてるのかもしれないね。

 

 

 まーこれも確実に面倒事の元だろうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だって名前が『厄海』だぜ、『厄海』。

 

 

 『やっかい』なんて名前で(やくかいかもしれけど、俺はそう読んだ)、面倒事じゃなかったら名前倒れもイイトコだわ…そっちの方がずっとイイけど。

 しかし、ミョーになんつーか、和風な名前と読み方だな。モンハンのゲームに搭乗したステージなんだろうか?

 

 

 

 




うーむ、ここ何話か『。』をつけても即改行はしない書き方にしてみたが…どうだろうなー、時守としてはどっちでも問題なく書けるんだけど、自分じゃ読みやすいかどうかって分からない…。

ただ、執筆はともかく保存が出来るのかちょっと不安。
テキスト文書で、話数ごとに分けたりせず、全部一ファイルの中に突っ込んで書いてるんです。特に意味はないし、幻想砕きとか発展録とかでは話ごとにファイル作ってたんですが、なんとなく。最初からエター前提で書き始めてたから、一々ファイル作るのも面倒だったんだよなぁ…100話超えてもまだそのままですわ。
とにかく、その状態で『。』での改行無しとなると、ずーっと横に伸びていく訳ですわ。
どれくらい書いたか分からなくなるから、折り返し機能をオンにしたんですが…したら、保存時に「メモリが足りません」とか出るようになって。今のところ保存はできてますが…うぅむ、ここまで来てファイルを分けるのもなんか癪だな…どうすべぇ。


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145話

ヒャッハー! 討鬼伝2の体験版が出てたから急遽投稿じゃー!
何となく討鬼伝ホームページを見てみたら、一日前に体験版が始まってた。くっ、何故当日に気付かなかったのか…。

しかし…なんと言うか、化けたなぁ。無印に比べると動きがスムーズになってる気がするし、鬼の手使ってジャンプも面白い。まだ使いこなせてないけど。
何よりオープンワールドがパネェ。続けていくうちにダレる可能性は否定できんけど、これは探索のし甲斐がありそうですな。むしろハンターの独壇場。

あと時継の声が意外w FFのビビみたいな格好だなー、とか思ってたから、普通の成人男性の声に割りとマジでビビッたw
とりあえず仕込鞭から使っていきます。


神無月グリルがまた使えなくなった…日

 

 

 

 

 無い。

 

 無いよ。

 

 

 

 

 いやいやいや、無い無い無いってば。ねぇよいやホントに。何だよアレ。

 

 あんなん厄介とは呼ばねぇよ。名前負けはよく聞く言葉だけど、名前の方が実物に負けてんじゃねーか。

 

 

 という訳でデスワープです。

 …こうまで呆然とするのも久しぶりだな…久々に本格的な自然の驚異って奴に対面しつつオダブツしたわ。あそこまでトンデモない事態に遭遇すると、もう怒りすら湧いてこない。しかも最終的には、微妙に熱血的なストーリー…と言うか、俺に似合わないポジションまで演じてしまった。具体的にはアレだ、弟子に希望を託して殿を務めて討ち死にする師匠とか、あーいうポジション。

 

 

 あー、呆然としつつも、全力戦闘体勢だった俺のボディは、GE世界でいつも周囲に居るアラガミ達をさっさと片付けてしまった。と言うか、予想はしてたけど結局また同じところからなのね。前回シナリオクリアしたのに…。

 

 今はちょっとでも気を落ち着けようと、適当な廃墟に入って日記を書いています。

 毎回のようにするのであれば、ゴッドイーター達の集合場所に向かわなければならないんだが、今回はちょいと考えている事がある為、普段とは違うルートに進むつもりだ。

 故に今回は上田さんとの合流は無し。

 

 

 …話が逸れた。

 

 えー、そもそもの始まりはと言うと、普段とはちょっと時間を変えて、明け方近くに飛行船を飛ばした事だ。俺もJUNも正宗も不思議と口を開く気にならず…今思うと、何かしらの予感を感じていたのかもしれない…夜明けの海のせいかなぁ、なんて暢気な事を思いつつ、飛行船を飛ばしていたものだ。実際、陽が昇る海を空から見たのは初めてだったし。

 最初に異変に気付いたのはJUNだった。沖から少し離れた場所で、妙に大きな光が見える、と言い出したのだ。俺も確認してみたが、確かに居た。大きく、静かな光が、水面の下で動いている。

 先日、漁師さんから聞いた話を思い出したのは、JUNも正宗も同じだっただろう。

 

 あれは何なのか?ヤマクライが相変わらず、明け方でもフヨフヨと漂っているだけだった事もあり、俺達の好奇心はそっちに向いた。

 実のところ、俺はアレがナで始まるバカでかい古龍だって事は想像がついていたんだが、実物を見た事があった訳でもないし、こっちはかなりの上空に居る。オボロゲに残っている記憶によると、雷を呼ぶとか水のブレスを吐くとかいう能力はなく、単純に巨体とタフさが脅威の、海中版ラオシャンロンみたいなモンスターだった筈だから、上空から見る分には問題ないだろうと思ったんだ。呼吸の為に大ジャンプする、なんて話も聞いたような気がするが…まぁ、砂クジラだって船を飛び越すような背面ジャンプするんだし、不思議ではないな。それを加味して、一定距離から近寄らないように光を観察しようとした。

 それで気付いたのは、その光はゆっくりと移動しているという事だった。ゆっくりと言っても、それは上空の俺達からそう見えただけなので、実際はかなりの速度で動いているのは間違いなかっただろう。そのクセ、水面には波紋らしい波紋も立たないのだからおかしなものだ。

 

 次に気付いた事は…光が進む先にヤマクライが居る、という事である。これはちょっと…いや、かなり慌てた。ヤマクライは空に居て、ナの龍は海中とは言え、古龍が2匹も居るのだ。万が一何らかの形でぶつかり合ったら、どんな被害が出るか。いつだったかのループで、狂竜ウィルスに感染したラオシャンロン2匹を争わせた時の光景が思い浮かぶ。

 …更に追加して言うなら、あの時は狂竜ウィルスに感染してて…現在のヤマクライも、狂竜ウィルスを撒き散らしているという事も思い出した。

 

 …確か、ナの龍が暴れる理由って、角が片方だけ異常成長して視界を塞がれた苛立ちからだったような…狂竜ウィルスに感染した結果、そうなるのか?生態を狂わせるんだから、成長ホルモンとかも同時に狂わせてもおかしくはないか…。

 しかし、仮に考えた通りだったとしても、現在では止める術は無い。ヤマクライさえ仕留められないこの飛行船の攻撃力では、ナの龍を…しかも水中の敵を仕留めるのは不可能に近かった。

 

 

 

 

 なーんて事を考えつつ、傍観に徹するしかないなぁと思ってたんだけどよ…。

 

 

 反対側の海…つまり厄海が、なんか様子がおかしかったんだよ…。元々、厄海近くは妙に赤くて(正直、赤潮という奴かと思いました)、遮るモノも無いのに薄暗く、いつでも空は曇っていた。でも、普段以上に不気味な雰囲気と気配が感じられていた。

 ヤマクライはその厄海の端っこ付近にフヨフヨと浮いていた。そしてナの龍はそこへ向かっている訳で…当然、厄海にも近付いていた。

 

 それが切っ掛けだったのかは分からない。ひょっとしたらナの龍が居合わせたのは単なる偶然で、ヤマクライが撒き散らす狂竜ウィルスが気に障った可能性もある。可能性だけで言うなら、実はヤマクライは古龍の目覚まし役であり、奴の活動に合わせて色々な連中が動き出すという可能性さえあった。

 

 

 

 

 

 だからってさぁ、超ド級の古龍が鉢合わせする事ぁねぇじゃねぇかよぅ。

 

 ナの龍はまだいいよ、噂以上のデカブツで、あの体でジャンプされたら飛行船にだって届きかねなかったけどさぁ。

 

 

 何なんだよ、あのバカデカいミラボレアスみたいな奴。ナの龍並みにデカいミラボレアス。アレの近くの海、真っ赤に染まって蒸発してやがったぞ。

 ナの龍もそれが不快だったのか、はたまた単なる縄張り意識なのかは知らんが…デカイミラボレアス、略してデカボレアスと目(?)が合うなりヤンキーみたいな勢いで戦闘に発展しやがって。

 

 見たところ、自力は遥かにデカボレアスの方が上。

 ナの龍の優位は、水中というステージと、デカボレアスより一回り大きな体だろうか。

 どっちにしろ、そんな超を幾つ付けても足りないくらいのガチムチ巨体大質量が激しくうねってぶつかり合いくんずほぐれつクソミソやってりゃ、何が起こるかなんて考えなくても分かるだろう。

 

 

 

 こんな所に居られるか!俺は帰るぞ!ていうか無事に帰してください頼むから!…実際、飛行船が墜落しなかったのは奇跡だと思う。 デカボレアスが吹いた火の玉がバカスカ流れ弾として飛んでくるは、下の海は大荒れだは、気がつけば何故かヤマクライがこっち目指して迫ってきてるし。

 

 とにかく時間との勝負だった。正直言って勝ち目なんて無いレベルの勝負だったけど、何とかその段階では勝てたんだ。拠点としていた漁村に戻り、JUNをハンターギルドに駆け込ませ、俺と正宗は住民達を避難させる。

 

 「とんでもない津波が来るぞ」って思いっきり叫んで。勿論、それなりに名の知れたハンターの俺がそう言ったからって、すぐに避難できる訳じゃないし、それ以前に信用されるとは思わない。超巨大モンスター2体+古龍1体が同時出現かつ大乱闘とか、誰が素直に信じられる? 最悪、ハンターの掟を破って剣を向けてでも避難させるつもりだった。

 …しかし、幸か不幸か、あっと言う間に避難は終わった。その理由は、村人達も津波を予想していたからだった。

 村に伝わる伝承に、深海をさまよう神の怒りについての記述がある…曰く、『大量の海水が突然引いた時は、高い丘の上に逃げるのだ。静けさのその後に大津波が来るであろう!』。

 そして、今正にその通りに海水が一気に引いていったのだ。間違いなく、あの2頭の大喧嘩の為だと思う。

 

 

 伝承を何処まで信じていたのかは分からないが、少なくとも俺達の言葉(と剣)と合わさって、それなり以上の説得力は生み出せたようだ。

 何処か信じていない雰囲気を漂わせつつも、皆が避難を始めていた。

 

 

 

 

 そして5分もしない内に、大パニックになりつつ高い丘、とにかく遠いところに逃げ出そうとし始めた。

 

 何でかって?

 

 

 

 

 すぐそこの沖で、デカボレアスとナの龍(伝承によると、ナバルデウスというらしい…ようやく名前を思い出せた)が大暴れしてっからだよ。

 

 

 

 遠くでやれよ!というか遠くでやってただろ!何で村の近くまで来てんの!

 何だよあの覇気。あれだけデカい伝説級モンスター2体が暴れてるんだから、そりゃ迫力も桁外れだし、そもそも地響きがエライ事になってた。体験した事なかったけど、きっと震災ってこんな感じなんじゃないだろうか。それでも、家屋が問答無用で崩壊したりしない辺り、まだ優しいのかもしれんが…代わりに流れ弾が飛んでくるんだよなぁ。

 

 揺れる大地、降り注ぐ流れ弾という名の炎、「ひぇぇぇ」「お助けぇぇぇ!」と叫びながら家財を纏めた風呂敷を担いで逃げ惑う村人(何処となく高橋○美子調の顔芸に見える)、そのバックで大乱闘する怪獣2体、更にその上にプカプカ浮いたままのヤマクライ…。

 酷い絵だ。

 

 唯一救い…と言うかザマァと思ったのは、高みの見物を決め込んでいた(ように見える)ヤマクライが、ナの龍のムーンサルトの直撃喰らって叩き落された事だな、うん。言い間違いでも書き間違いでもないぞ、ナの龍のムーンサルトだ、マジで。

 ボディプレスのつもりなのかサマーソルトのつもりだったのかしらんが、マジでその場で飛び上がって1/2捻りやらかしやがった。それが丁度、真上に居たヤマクライに尻尾が直撃。哀れヤマクライは、それこそ蹴っ飛ばされたサッカーボールのように飛んでいきましたとさ。

 

 

 

 

 

 村からの唯一の避難経路になッ!

 

 

 

 更に、「雑魚は引っ込んでおれ!」と思ったのか単なる偶然なのか、デカボレアスが吐いた炎がヤマクライに直撃。それでくたばってくれれば良かったものを、飛べない+死なない+苦しいってレベルの損傷だったらしく。その場でジタバタと触腕を振り回し、何でもいいから吸い込もう大口を開き始めた。しかも狂竜ウィルスを滅多矢鱈に吐き散らしながら。更に何故か落雷まで発生し、パニックになった漁師のオヤジさんをミタマ『癒』の特殊効果でブン殴って沈静させた。ついでに言うなら、不気味な音まで響いてきた……二大怪獣を無視するように海岸の彼方に視線をやれば、明らかにヤバい感じで海が蠢いていた。もう津波がきやがるのか。

 何だこれは! 何なのだこの不運は! 神は我々を一人も生かして帰さぬつもりか!

 

 ……今居る世界じゃ神と呼ばれる相手を狩りまくってるからね、恨まれてもおかしくはないね。

 

 ともあれ、周囲の山は既に流れ弾による火の海、唯一残っている通路はヤマクライに塞がれ、背後には「踏み潰される蟻の事など知らん」とばかりに暴れまわる巨獣が2匹。そんでもって更に津波の前兆。流石に俺も覚悟を決めたわ。…死ぬ覚悟じゃなくて、イチかバチか、村の連中とJUNと正宗を生かして帰す為に。

 

 

 

 まずやらなければならない事は、退路を塞いでいるヤマクライの鎮圧。次に、背後から炎を無作為に振り撒くデカボレアスの誘引。更にナの龍……は海に帰しておけば多分積極的に襲ってくる事は無いから、津波の被害を抑える事、か。

 本来なら、どれもハンター総がかりでやらなきゃならない作業である。特に津波を治めるとか、それもうハンターじゃなくて巫女とかの仕事だろ…人身御供にならなきゃならんだろうが。が、とにかくこの状況から皆で生き延びようと思うと、どうにかしてやらなきゃならん。

 

 まずはヤマクライの鎮圧、並びに排除だが…まだ動いているとは言え、ヤマクライは大分弱っている。それも当たり前だろうか。体中が植物塗れでただでさえ火に弱そうなのに、喰らった炎はあのデカボレアス…どう見てもミラボレアスの超パワーアップバージョンだ。即死しなかったのが不思議で仕方ない。

 無茶な話だが、俺はこれをJUNと正宗に任せる事にした。当然、本人達からは無茶だとブーイングが上がったが、結果的には引き受けた。周りの縋るような、無茶だという意見を非難するような声に押されたところもあっただろうが、そうしないと生き残れないというのは理解していた。

 

 で、その一方で俺は……あの二大怪獣大決戦に乱入する。ミタマの挑発を使うなり、使ってなかった神機を解禁してバカスカブッパするなりすれば、多少は注意を惹けるだろう。

 

 

 うん、恐怖で足が、電動マッサージ機並みに震えました。実際電マ代わりにした事もあるけど。正宗もJUNも、自分達にされた無茶振りを放り投げて絶叫するレベルで無謀だった。

 が、やはりこれはやらなければならない。せめてデカボレアスだけでも引き付けないと、ヤマクライを排除しても炎が皆に直撃して、まとめてオダブツにだってなりかねない。…それに、上手いこと誘導できれば、流れ弾をヤマクライに直撃させてトドメを刺す事もできるかもしれん…まぁ、これに関してはJUNと正宗にも当たる可能性があるんで、あわよくばとしか考えてなかったが。

 

 無茶だ無茶だ、せめてあの変な巨大タコをどうにかしてからにしろ…と色々言われたんだが、すぐ近くに炎が着弾した事で、反論は一気に沈静化した。実際、それまで当たってない事が奇跡以外の何者でもなかったんだし。

 だが、実際にJUNと正宗では、死に掛けだとしても古龍を相手にするのは厳しい。なので、一発逆転の秘策を授けた。

 

 JUNには、爆発力に今ひとつ欠ける(少なくともJUNの立ち回りでは)狩猟笛の狩り技を強化する為のオカルトアイテムを。原理自体は単純で、狩り技の音撃震と同時に音爆弾も投げつけ、更にそのオカルトアイテム…いつだったか夢を見て覚えた、咆哮に共鳴させて跳ね返す効果を持たせている…を一緒に投げる事で、音撃震の効果を何倍にも引き上げ、更に相手の三半規管とかを狂わせる攻撃方法を。

 正宗には、先日思いついて早速作り出した、霊力の制御や変換をサポートする為のオカルトアイテム…お守りを。ハンターが使うようなお守りだと、祝詞とかを書き込む余白が足りないんで、首輪になってしまったが…。まぁネコだしな。

 

 これが上手く行けば、正宗はこの土壇場で練習していた狩り技を成功させる事ができるだろう。しかもこの切羽詰った状況で、俺から託された技を覚える…なんだ、随分と熱血系じゃないか。だが、そういうノリの方が霊力の効果は高まるだろう。

 

 

 

 もののついでだ、と思って、もう一つテコ入れしておいた。

 

 

 古来、武将に限らず人は何かしらの切っ掛けで、度々名前を変えていた。それが如何なる意味を持つかは置いといて、一つの区切りであるというのは示せるだろう。俺もそれにあやからせてもらう事にした…俺の名前じゃないがね。

 新しい名前を付ける事で『今までの自分とは一味違う』と実感させて、思い込み…プラシーボ効果による霊力の強化を図る。

 作ったオカルトアイテムをJUNと正宗に渡し、さぁこれから怪獣大決戦乱入だぁ、というところで、振り返って正宗に伝える。半分以上その場のノリでの発言だったけど、確かこんな感じだったような。

 

 

「おぅ正宗、こいつ(オカルトアイテム。名前はまだ無い)のついでだ。ニャンターの訓練生として俺の弟子になった時みたいに、新しく名前をくれてやる」

 

「ちょ、ちょっと待つニャ! 名前が変わるのはリングネームみたいなもんニャからいいけど、なんか死亡フラグのカホリが漂ってるニャ!」

 

「そりゃあのデカボレアスが吐いた炎で燃えてるカホリじゃねーか? ともかく、ここから生き延びれば、お前は初陣も負け戦も経験した、名実共に一人前だ。ハンターランク1だとしても、俺が認めてやる。だからって訳じゃないが…正直、俺がこの名前を名付けるのも、お前が名付けられるのも、身の程知らずってレベルじゃないがな。お前もこうなれ、って願いを篭めて名付ける」

 

「……」

 

「俺が知ってる中で、一番強いネコの名前だ。生きて帰れたら……いや、自分で自分を誇れるくらいのニャンターになったらでもいい。その時からお前はこう名乗れ」

 

 

 

 ブータ。

 ブータニアス・ヌマ・ニコラ。

 

 数え切れない程の竜を屠った、最強のネコの神様の名前だ。

 願わくば、かの戦神の加護をこのバカ弟子が受けられますように。

 

 

 

「さて、餞別終わり! 行け! 皆を守って生き延びろ!」

 

「ちょっ、餞別とか言うニャ! もう会えないみたいニャ!」

 

「言葉の綾だっつーの! はよ行け!」

 

 

 それだけ言って、俺は相変わらず暴れている怪獣に向かって走り出した。

 背中で霊力が膨れ上がり、正宗…まだ正宗でいいだろ…の雄叫びが、それに続くJUNの鬨の声が聞こえた。

 何となくだけど、正宗から発せられる霊力の感触は『青』だったような気がする。

 

 

 

 

 

 さて、多分生き延びられるだろうあいつらは置いといて、怪獣どもとやりあう羽目になった(自分の選択の結果だが)俺はと言うと…言うまでも無いだろうが、生き地獄を見た。単なる地獄じゃないのは、俺が死んでも死なないからでしかない。

 近付くだけでも危険だし、デカボレアスが発する熱気だけで溶岩に触れてるような気分になるは、GE式ジャンプがなければ何もできずに乙るどころかタヒっていただろう。GE式ジャンプの見せ場? 飛べば震動回避できるんだよ。

 まー、震動を回避できたからって、あの巨体が激しく動き回ってぶつかりあったり振り回されたり押し倒されたりする際の、押し潰し攻撃が最大の脅威だったって点には変わりないけどな。一度攻撃(本体にそのつもりは無いだろうが)を回避しても、もう一体の行動で追撃が入るし、時には転倒した片方のデカブツをもう一方のデカブツが蹴っ飛ばしたり咥えてブン投げたりして、もうしっちゃかめっちゃか。ゲーム的に言えば、多分フィールドの何処に居ても3秒に1回のペースで即死級攻撃を回避しなければならないとか、そーいう次元だったと思う。フレーム回避できなきゃリアルにタヒねとかマジマゾゲーの領域である。

 ミタマの挑発が効かなかったら、無意味に近付いて無意味に逃げ回ってるだけの、何だかよく分からないミジンコみたいになってたろーな。挑発ホントに神性能。普段はあんまり使わないけど………まぁ、ソロ狩りばっかだからな…ヘイト管理とか考えないし。

 

 

 ところでさ、何かの格闘漫画で見た覚えがあるんだけど、野生の獣2匹の戦いに部外者が突如乱入したら、2匹はその時だけ協力して部外者を排除する、って話があったんだよ。それが事実かどうかは知らないけど、少なくとも今この場では現実になったよ。

 ミタマ挑発が効きすぎた。そーだね、挑発ってどの敵に使うかを選べないもんね。ランポスやオウガテイルみたいに、鳴き真似で挑発している訳じゃないもんね。

 

 

 …お察しの通り、デカボレアスの炎とナの龍の叩き潰しの嵐を見舞われました。防のミタマをフル活用して凌いだはいいものの、その時点で本格的に目障りな奴と認識されたらしく、明確に狙いがこっちを向いてしまった。我ながらよく生きてたもんである…。

 とりあえず、当初の狙い通り、デカボレアスの炎を引き付ける事はできた。回避のついでに背後を見てみれば、その時丁度えらく大きな音がして、蠢いていたヤマクライが力尽きたところが見えた。JUNの使った特性音撃震か…上手くいったみたいだな。目論み通り、流れ弾も向こうには行ってない。よし、後は全員が逃げ切るまで粘って撤退だな。

 

 

 さて、人目も無くなったし、2体から同時に狙われ始めて余裕も無くなったしで、アラガミ化も解禁。時折反撃したり、何時の間にやらできるようになっていた腕ウニョーン伸ばしで怪獣達の体を飛びまわったり、ふと気がつけばのっぺらミタマが三位一体合体でパワーアップしやがったり。まぁ、何とか小細工使って挑発を繰り返しつつ、何とか生き延びていた。

 ……繰り返し挑発を使い続けた為か、こっちからはろくなダメージも与えられてないのに2匹ともいきなり怒り状態になった時はマジでビビッたけどな!

 まぁ、それが切っ掛けでナの龍は非常に不利な状態に陥った訳だが。ミラボレアス系等のお約束、怒ると硬化状態…デカボレアスも例外ではなかったようだ。相変わらず俺に狙いを定めつつも、振り回される手足や尾がお互いにベシバシ当たってダメージを蓄積させていたようなのだが、それが片方だけ硬化によりほぼノーダメ状態になった。つまりデカボレアスのナの龍の間で、徐々に残り体力に差がつき始めた訳だ。

 

 そして挑発と怒りの効果が切れ、疲労状態になったと思われるナの龍は、形勢不利と見たのかデカボレアスから離れ、海(夕日ではないが、周囲の炎によって真っ赤に見える…)に帰って行った。二度と来るな。

 

 さて、残ったデカボレアスだが………率直に言って勝てる気が全くしない。アラガミ化の制限時間も、以前に比べれば長くなっているが、激戦(俺にとっては)を経た為か、もうカラータイマーが点滅している気分だ。制限時間が何分か明確に決まってないけど。

 正直ちょっと心が折れそうだったが、雄叫びを上げて気合を入れなおす。同時にデカボレアスも吼えたが、この時ばかりは俺の気迫の方が強かっただろうきっと。

 ちなみに叫んだ内容は景気よく、かつまだ戦えるという意味で

 

 

「まだまだ行けるぜメルツェェェェル!」

 

 

 である。特に意味は無い。神機が使えれば、ガドリング形態にしたものを…。

 しかしまぁ、さっきまでに比べればやりやすくなったのも(多分)事実。超大型で暴れまわる奴が、片方だけでも居なくなってくれたのだ。超強力なバケモノが相手とは言え、後は1対1で、何とか撃退するなり逃げ道を見つけるなりして……と考えていた時だった。

 

 

 ドドドドドド、とJOJOの効果音のような…いや、もっと物騒かつ危険な感じの地響きが聞こえてきた。壮絶にイヤな予感を伴いながら、海を見てみると…。

 

 

 

 めがっさデカい津波が押し寄せてきましたとさ。その向こうで、海に帰ったと思ったナの龍が水面立ちするイルカのようにこっちを見てた。…お前か、お前が置き土産に起こした津波か!? それともお前とデカボレアスが大暴れしたからその余波か!?

 

 

 …何れにせよ、流石に目の前にアホみたいな高さの津波が迫ってちゃ、咄嗟の対応も間に合わない。津波に飲まれたのか、或いはそっちに気を取られた隙にデカボレアスにド突かれたのか。 

 何れにせよ、俺の意識はそこで途絶え、気がつけばGE世界でオウガテイルを始末していた。すまん、全く行けなかった様だぜメルツェル。

 

 

 

 

 

 

 

 それと…僅かに記憶に残っているんだが、憎きイヅチカナタと目をあわせたような………また出てきやがったのか?しかし、気のせいか妙に苦しげだったような……。単なる夢なのか?

 

 

 



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GE世界6
146話


討鬼伝2体験版、せっせとレベル上げ中。
よし、後は義経の最期のスキルだけで、一通りは覚えるな。レベル1のままの奴も多いけど。
いやー、これは期待が広がるなぁw
肩透かしも多いから油断はできんけど。

瘴気によるタイムアップには気をつけないと。気付かず鬼と戦ってて1度、安の領域の奥にある根の国とか桜通りに突っ込んでいってオダブツしました。
ふーん、何段か前の自動セーブからやり直せるようになってるのか。よく出来てるね。

…ところで、討鬼伝2の発売日、新作スパロボと同時なのよね…どっち優先しよう。
いや、それよりもPS4かvitaか…あのマップは大きな画面でやるべきだけど、持ち歩けないんだよな…。


 

神無月人間関係リセットにより、暫しエロ系等の描写ができない…日

 

 

 いやぁ、思い返すと急展開と言うか怒涛の結末と言うか。どう見てもラスボス級の古龍2体に加え、地震雷火事オヤジ(鎮圧したけど)+津波とかどーしろっちゅうねん。ああ、そういやもう一匹ヤマクライまで居たっけな。という事は更に狂竜ウィルスも追加か。なんという地獄絵図。

 

 うーむ…蹴ったとは言え、G級ハンター昇格の話が来て自惚れていたかな。端くれとは言え、そこまで至った俺なら大抵のモンスターには対応できる、と。…アレが大抵の、に収まるかは疑問だが…例えモンスター単体に対応できていたとしても、自然の胸囲に……そっちは何をどうやっても対抗する気にならないんで、脅威に対抗できないんじゃ意味がない。モンスターとは自然の一部であり、津波にせよ地震にせよ対抗できないという事は、同様にモンスターに抗しきれないという事。ハンターとしては未熟である。

 ……正宗とJUNは、無事に逃げ切れただろうか。考えてみれば、冗談抜きで逃げ場がないんだよな。伝承通りに、津波を避けようと高い丘に行こうとすれば、デカボレアスが撒き散らした炎による山火事でコンガリ…いや、コゲ肉になってしまうのがオチだし。地下に潜るか、走り続けるか…ハンターならともかく、一般人にはなぁ…。

 ヤマクライを倒したところまでは確認できたが、どうも奴は断末魔に狂竜ウィルスを振り撒いていたようだし。一般人にせよハンターにせよ、あの状態でウィルスを克服するのは無理だろう。となると、炎によって体力が削られる中、ウィルスに犯された体で集団を纏めて逃げなければならない。一人でもパニックを起こせばそれが伝染していくだろうし、一体どれだけ距離を稼げただろうか。

 ヘタをすると、通路の先にも何かしらの障害があって、そこで立ち往生してた可能性だってある。…正宗があの狩り技を上手く使えれば、大抵の障害物は退けられると思うが……長続きする技じゃないんだよな。それに、近隣のモンスター達も、突如現れたバケモノ共+山火事に追われて逃げ、JUN達と鉢合わせする可能性だってある。流石にその状況で襲ってくるほど物好きではないと思うが。

 2大巨龍をひきつけている間に、どれだけ時間が経っただろうか。緊張感のおかげで、時間間隔が狂いまくっている。少しでも距離を稼いでいてほしい。

 仮にある程度逃げられていたとしても、あの津波が問題だ。正確な高さは分からないが、俺を軽々と飲み込んで余りあるサイズだった。どう低く見積もっても2桁メートル級。……あれだけの津波が、どこまで浸水するか。正直な話、高台に上れないのであれば逃げ切れる可能性は……いや、そこはJUNと正宗を信じておこう。そうでなくても、山火事の後には雨が降るもの。逃げた先で雨が降り、山火事を消火してくれれば丘の上にも逃げる事ができるだろう。幸運と機転で、逃げ延びてくれただろうきっと。

 

 

 ああ畜生、皆にもっと話しでもしてくればよかったな。いつ理不尽な死が降りかかるか分からないのがハンターって仕事だけど、せめてもう一言二言くらい…。ポッケ村の3人はまだしも、ユクモ村とココット村では緊急事態、出稼ぎが決まって、ちゃんとした挨拶も無しに出発してしまったし。ベルナ村は……まぁ、JUNが帰って死に様を伝えてくれると信じておこう。そもそも、肉体関係を持った相手を明言する訳にもいかないし。

 本当になぁ、珍しくオープンな形で多人数と関係持って、しかもほぼ軋轢もないというレアな状態だったのになぁ…。あんな機会、この後のループでもどれだけ訪れるか…。そう考えると、あの漁村を見捨ててでも逃げ延びればよかった、と後悔が湧いてきた。

 

 

 

 さて、理不尽な展開に対する怒りの叫びとか苛立ちとか色々あるが、今回のループについて考えよう。まず、前回のループで終末捕食に触れて理解した事であるが、俺は特異点の代わりになれる…上手くいけば、という前提があるが。特異点モドキ、とでも名乗っておこうか。今回は、それを試してみようと思う。

 具体的には、シオの代わりに特異点のポジションに収まり、終末捕食をコントロールするのだ。…ある意味、世界を巻き込んだ無謀な実験である。だが、これが上手く行けばシオを生贄にする必要もなくなり、終末捕食を発生させても被害を最小限に抑える事ができるようになる。事実上、理想的なハッピーエンドと言えるだろう。…まぁ、もし失敗してもアレだ、多分その時点でデスワープするし。…考えてみれば、俺が死ぬ事と責任を取る事、並びに発生する被害については全く関連性がないな。まぁ元が無責任な俺に、そんな事考えろと言われてもね。

 

 その他、神機の調査をしなければならない。何時ぞや、剣術バルドと戦って謎のパワーアップを遂げた直後辺りから、色々な意味で神機の調子がおかしくなっていた。その為、デカボレアスとナの龍との乱闘でさえ使用していなかったんだが、コイツを調べてもらわなければ。ある意味、既に俺の体の一部でもあるんだし。

 後は……例によって……えーと、オボログルマ? とにかく汚ッサンの始末か。殺すかどうかは状況次第で決めるとして、アリサの洗脳を解いて…あの性格もそのままにしておくと、後々面倒になりそうだから。それからシオの確保だな。俺を特異点代わりにする、という計画の性質上、シオを支部長に確保されては困る。リンドウさんの生存はどうする? …シオを俺が確保したら、その影響でどうなるか分からんな。暗殺計画も防ぐか、成功したように見せかけて潜ってもらうのが無難か。ついでに、次回以降のループで活用できるような情報も集めておきたい。

 

 それらが全て一度に出来るルートは……つまり、支部長側に付くって事だ。以前から考えてはいたんだが、少なくとも、俺の頭じゃそれ以上の手が思いつかない。だが完全に支部長に味方するのではなく、榊博士にも手を貸し、シオを確保・隠蔽させておかなければいけない。

 政治的…かどうかは微妙なところだが、かなりの綱渡りをする必要があるだろう。蝙蝠、変節漢と呼ばれるのはどうでもいいが…うーん、まぁやるだけやるか。困った事に、次の機会には困らない身だからな。

 

 

 差し当たり、支部長と榊博士に接触する必要がある。どういうやり方にするか。二人の興味を惹くようなやり方で、かつ特異点モドキという胡散臭い存在を信じさせ、あっちから接触させて、更には俺の行動を阻害させない……。

 ………我ながら高望みしすぎじゃね? どれか要望を削る必要がある……なんて思いつつ、アラガミだらけの場所を抜けてアナグラ近くまでやってきたんだが、唐突にヒラメイタ! 料理漫画の主人公が、全然関係ない事を見て新アイデアをヒラメくが如くにヒラメイタ! 居住区近辺の監視カメラ見てヒラメイタ!

 

 実物見せればいいんだよ。俺が人間からアラガミに変化する所を見せて、特異点モドキだと最初から名乗ればいい。

 

 となると、必要な物は何だ? まずはカメラ…写真じゃなくて動画の方のカメラだな。撮影しなければ。これを手に入れるには…そうだな、居住区で適当に食べ物と交換すればいいか。次に必要なものは、撮影した動画を送る方法…これは問題ない。いつぞやのループでも使ったが、端末さえあれば、前ループの榊博士から貰ったID・パスワードでメールを送ればいい。他には………特にないな。

 うむ、必要な道具は簡単に揃えられ、実行も簡単。実に素晴らしいね。

 

 そんじゃ、とりあえず、カメラの確保に動きますかね。

 

 

 

 

 

 居住区には簡単に入り込めたし、予定通りにカメラの確保もできた。しかしもう夜中なので、撮影は明日にします。

 

 で、話は変わるんだが…MH世界であった出来事で、疑問点が2つ程。いや、疑問を持たないような事なんてあの世界には殆どないんだけど、

 まず一つ目、津波に攫われて意識が無くなった後に見た、イヅチカナタの目の記憶だ。アイツと下手に接触すると因果を持っていかれて、何も思い出せなくなる。そういう意味では、実際に対面した挙句、実はあの触覚を一本ぐらい力尽くで引き千切っていたとしても、覚えてない事に疑問はない。ついでに、GE世界だって終末捕食の時に奴と遭遇したし、MH世界にも出てくるだろうな、とは思っていた。だが、あの妙に苦しげな目はなんだろう。さっき記述したように、触手を引き千切ったり小指に鬼千切(手甲)を打ち込んだりなんかヒゲっぽい角を剃刀でジョリジョリしていれば、苦しげなのも分かるが…違う気がするな。手にも足にも、奴に対して攻撃を加えたという感触が残ってない。

 ……出現した時に、ナの龍の圧し掛かりでも喰らったんだろうか? もしそうならば、次回ループでナの龍にお礼の供物でも捧げよう。

 

 二つ目の疑問点は……のっぺらトリオだ。

 昨日の日記にも書いてたんだが……デカボレアスとナの龍とやりあってる最中にな…こいつら、合体しやがったんだ。マジで。昨日の日記にも書いている。

 まずはその結果から書いておこう。簡単に言えば超パワーアップ。

 タマフリは3種類のミタマスタイルのモノを同時に使用できるし、何より凄まじかったのがストライカースタイル・エリアルスタイル・ブシドースタイルの融合。確かにね、こいつらそれぞれのスタイルを身につけたけど、ギルドスタイルだけはやってないなーとは思ってたんだよ。強いて言うなら、この3体が合体した時のがギルドスタイルになるんだろう。

 特徴は…まず狩り技3つ装備可能、ストライカースタイル並みに狩り技もほぼ乱発できる、エリアル+ブシドーによりジャンプと回避も可能、それぞれのスタイルでないと体が上手くついてこなかったアクションも全てこなせる。分かりやすく言えば、ギルドスタイルでありながら、空中溜め切りやら鬼人無双斬りやらジャスト回避からの溜め3攻撃やら、全て使用可能という訳だ。体が半ばオートで動くんで、混乱して動きが止まる事もない。

 あの大怪獣決戦の真っ只中で生き延びられたのは、確実にこれのおかげだろう。

 

 …非常に癪だが、のっぺらトリオに感謝しよう。だが、これも簡単に使える訳ではないようだ。と言うか、そもそものっぺらトリオを俺がコントロールできている訳でもない。ぶっちゃけ、あのスーパーギルドスタイルを使えるかどうかは、のっぺらトリオの気紛れによるものだろう。それも、多分3体が全てOKを出さなければ使えないという、非常にレアな確立で。

 アテにはしない方がいいなぁ。あいつらの事だから、どーでもいい所でOKを出して、死にそうになってたら茶化してきて……まぁ、あの時みたいな周囲を巻き込んだド修羅場で、自分達も危険だと思って10回に1回くらいOK出してくれればいい方か。 

 

 

 と言うか、なんであんな真似ができるんだろうか。元が俺と同じ、いくつものインターネット関係のアカウントだと思えば、スライム同士が融合してキングススライムになったようなもんで…まぁ疑問はないけど。……ま、アレについて考えても仕方ないか。

 うん、疑問は残るが考えるだけ無駄、止め止め。

 

 

 

神無月書き溜めが4万字分くらいあるんだけど、最近ちょっと不満日

 

 

 さて、撮影開始である。適当に居住区を抜け出して、アラガミに邪魔されないように『掃除』して、カメラをセット。

 …これって自画取りだよな。男がやっても色気がない事甚だしい…いや色気だされても男としては困るんだけど。だからって俺がアヘ顔Wピースやっても誰得…………微妙に喜びそうなのが何人か居たな…。

 

 ともあれ、余計な事を色々と記録する気は無い。そもそもこのカメラ、性能が低くて音の録音もほぼ出来ないし、容量だって1分程度。余計な事をやってるヒマは無い。

 …情報流出の可能性を考えると、顔を映すのは危険だな。腕だけでいいか。

 

 という訳で、カメラのスイッチを入れ、急いで移動。そして変! 身!

 

 これで良し。後はこの映像を送るだけ、と。

 あー、でも釣り易いように文章考えないといけんのよな。タイトルは『特異点モドキより』でいいとして、何処でまっているかの場所と時間を書いて……そうそう本人に来てもらった方がいいよな。だったら、本人以外が来たら、終末捕食とアーク計画について色々吹き込むぞ、と書いて…。当方に協力の意思あり、と。まぁこんなモンか。

 では送信。

 

 さて、後は釣れる事を祈るばかり、か…。そんじゃ、時間になるまで何してるかな。前回ループの時のように、なんか農業の真似事でもやってるか?でも今からだと精々、田んぼを作る為の整地くらいだな。

 農業か…前回はそのお蔭で、世界に対してとんでもない影響力を持ってしまったようなんだよなぁ…。食料革命一歩手前なくらいのレベルで。何故かアリサはゴッドイーター兼農家になろうとして、俺を師匠扱いしてくるし。

 今回はどうする? …支部長側に付く、というルート選択の性質上、こっそり農園経営してても確実にバレるだろう。支部長は農園自体には興味はないと思うが、利用できるモノを利用しない程物好きな人じゃない。事に、アーク計画にせよイージス計画にせよ、世界中を駆け回って使用に耐えうる資材や宇宙船を掻き集めてる最中の筈なのだ。交換条件として天然モノの野菜の購入ルート、という条件がどれだけ効果があるのか…俺なんぞより、支部長の方がよっぽどよく分かっているだろう。

 

 が、それで何か問題があるか…と言われると。特に無いんだな、コレが。俺にとっては、支部長に重要視されるようになり、多少の無理を聞いてもらえる(多分)という利点がある。支部長にとっては、先述したように交渉のいい手札になる。支部長が幾ら計画を進めても、肝心の特異点はこっちで抑えておけばいいし、特異点モドキの俺を使おうと言うのなら、そっちの方が好都合。

 うん、やっぱり問題はないな。アリサがまた農家になろうとするんじゃないか、という思いはあるが……まぁ、その時には乳牛化でもさせるか…?

 

 

 ……いや、今回はなるべくそういうの考えない方がいいかもな。俺がやろうとしている事…終末捕食のコントロールは、最終的には支部長は勿論、顔馴染みの人達全員を敵に回す可能性が高い。そうなったら俺も辛いし…深い仲になった相手が居るなら、その人も辛いだろう。…あまり、躊躇う理由になってしまうものを作らない方がいい。

 ただし、流れでそうなってしまった場合は仕方ないってスタンスで一つ。

 

 

 

 

神無月投稿する時には、執筆してから時間が経ってるので、自分の中での新鮮味が薄れる日

 

 

 取引完了。今回は、支部長直属のゴッドイーターって事になった。

 

 もうちょっと詳細を書いておくが…指定した時間と場所に現れたのは、支部長本人と榊博士という、極東支部の2トップだった。ただし、流石に護衛がついている…遠距離から。スナイパーのようだった。無力化すべきか悩んだが、要は変身シーンさえ見られなければいいのだ。場所を上手く変えて、死角になるように調整して対応した。

 話した内容は…まぁ、どうって事は無い。俺が特異点モドキという事と、その証明の為の変身。それからアーク計画や終末捕食について何を知っているのかという事、後は今後の待遇の話か。

 

 多分、二人にとって俺はまだ、『自称特異点モドキ』でしかないんだろう。二人とも特異点がどういうモノかは知識にあっても、実物を見た事がある訳じゃない。俺がアラガミに変身できる人間なのか、人間に変身しているアラガミなのかも分からないし、仮に本当に特異点モドキだったとしても、終末捕食を起こすカギになるのかすら分からない。

 要するに、俺を本物かどうか断じる事はできないので、確保して検査・実験する、というのが結論だった訳だ。本物であればそれで良し、偽者であれば精々捨て駒になってもらう、かね。そういう判断でもなければ、俺の素性すら問わないって事はないだろう。

 

 

 …榊博士の実験台とか、聞いただけで背筋に悪寒が走るが…今回ばかりは仕方ない。

 

 

 さて、暫くは実験に協力という名目で、任務も無しになりそうだが…まぁ、ヒマを見て狩りに出ますかね。その前に神機の検査してもらわにゃならんけど。

 

 

 

 

 

 で、その神機の検査なんだが……榊博士は(俺を実験台にするので)忙しく、他の技術者に任せたそうだ。…リッカさんだったんだけど、偶然なんだろうか。

 …ま、偶然か故意か必然かは置いといて。そんなリッカさんが神機をちょっと検査して出てきた第一声がコレだ。

 

 

「君、こんなの持ってて平気なの? そもそも持てるの?」

 

 

 …え、何? 普通に持てますけど、そんなにヤバい事になってたの?

 実際に手に持ってみせたら、唖然としていた。持っただけでソレですか。正直、話を聞くのが怖かったが…そうも言ってられん。

 で、リッカさん曰く、

 

 

「神機は人工的に調整されたアラガミだって事は知ってるよね。偏食因子があるから人間を食べようとはしないんだけど、それでも下手に手に取ったら浸食されちゃう。そうならない為の予防策として、神機には幾つも安全装置…というより拘束具が組み込まれているんだ。これがあると、神機の力は格段に落ちちゃうんだけど…安全性には変えられないよね。もしもこれが無い状態だと、適正のあるゴッドイーターでさえ逆に浸食されてしまうんだから。

 で、問題はここから。君が平然と手に取ってた神機だけど…うん、まだ使い手が見つかってない筈の新型とか色々気になる事はあるんだけどさ、それ以前にこの拘束具が完ッ全に壊れきってるんだよ。こんなの、手に取った瞬間にアラガミ化確定だよ? 何で無事で居られるのさ…」

 

 

 …ま、まぁ、もうアラガミ化コントロールできるし。それ以前にある意味俺の体の一部だし。

 しかし何ですな、その理屈で行くと、俺の神機はもっとパワーが出てる筈なのでは? 新型ではあるけど、溜め込めるオラクルとかはそんなに旧式と変わりないと思うんですが。

 

 

「…一番重要な安全性じゃなくて、最初に気にするところがそこ? 理由が分からないけど、使えちゃう、っていうのが一番怖いんだよ…いつ誤動作したり、突然動かなくなるか分からないんだからさ。

 推測だけどさ、この神機、最初は普通に拘束具とかも使われてたみたい。それがいきなり無くなったとして…いきなり全部の力を扱える訳がないじゃない。人間だってそうでしょ。何ヶ月も寝たきりだった人が、病気が治ったらすぐに走り回れるかって話だよ。

 それよりも、どうして拘束具がこんなに壊れてるのか、心当たりは無い?」

 

 

 と言われてもな…どんな壊れ方してんの?

 

 

「そうだね…簡単に言えば虫食いだらけ? それだけじゃなくて、こう…内側から侵食された様な、或いは自壊したような…」

 

 

 

 …浸食、ねぇ。何でも食べるアラガミが逆に侵食された挙句、それで自由の身か。笑えない話だこと。

 

 

 

「大人しくしててくれる分だけ、笑えるかもね。それにしても面白いなぁ…ねぇ、検査以外でも色々データとってもいい? と言うかデータを取らないと修理や調整もできなんだけど」

 

 

 別に構わんけど、何がそんなに面白い訳? データって何の?

 

 

「そりゃあ色々だよ。拘束具も無いのに暴れだす訳でもない、その上100%の力を出せる神機なんて、空前絶後の話だよ! わっかんないかなぁ、このとんでもない状態が! そうだね…うん、分かりやすい例で話そうか。

 ほら、捕食形態ってあるでしょ。あの形態は、そうは見えないかもしれないけど、拘束されている状態なんだ。本来の…拘束されていない状態に比べれば、噛み付く力だってずっと弱いし、正面にしか噛みつけない。何でかって言うと、神機の中のアラガミに余計な動作をさせない為なんだ。変な動きをしたら神機の制御部分に影響が出る可能性だってあるし、それが原因で拘束具が壊れちゃって、使い手を侵食する可能性だってある。でもね、君が使っているこの神機みたいに、拘束具が無い、更に侵食の危険が無いのであれば…」

 

 

 …捕食の力を思いっきり使える、つまりもっと威力のある噛み付き攻撃ができる?

 

 

「それに加えて、噛み付き方の自由度も上がるかもね。今は地面に立って正面にしか捕食できないけど、例えば口をもっと伸ばしてリーチを長くしたり、空中で噛み付き攻撃を仕掛けたり…そうだね、アラガミバレットを多く確保したりできるようになるんじゃないかな?

 ま、あくまで可能性の話だけどね」

 

 

 ほほう…それは素晴らしいな。戦術の自由度が全く違う。という事は、例えば擦れ違い様にバクッと食いついて食い逃げするとか、噛んだらすぐに後ろに下がるとか、そういう事もできるようになってくる訳か。

 

 

「可能性だって。…ただ、できる確立は凄く高いと思うよ。神機だってアラガミの一種だし、食べた物の性質を真似て進化する事が出来るかもしれない。その辺の事をさせないようにしていたのも、拘束具の役割なんだからね」

 

 

 それが無くなっている、俺の神機なら…って事か。

 …あ、そうだ。だったらついでに考えてほしいんだが、神機の力を全力で振るわせるにはどうすればいいと思う?

 

 

「うん? それは…どういう意味合いで?」

 

 

 前に一度、神機を使っている時(アラガミ状態だったけど)に致命傷を受けた事があって…その時、いきなり超パワーアップしたんだよ。今思うと、あれが切っ掛けで拘束具が壊れて、普段以上の力が出たんじゃないか…と思うんだが。実際、神機の調子がおかしいと感じ始めたのはそれからだ。

 

 

「実物を見ない事には、なんとも言えないなぁ…。でも、致命傷を受けて…か。アラガミだって生き物なんだから、確かに火事場の馬鹿力みたいなのを発揮できる可能性はあるかも…。それによって拘束が壊れたなら…ああ、でもあの壊れ方はそんな感じじゃなかったしなぁ…。

 ……とりあえず、一度全体的にオーバーホールしてみるね。拘束は…うん、このまま無しの方向で」

 

 

 助かる。

 ま、なんだ、俺って一応支部長直属って事になってるから、色々と言えない事も出てくるけどさ、なるべく仲良くやっていこうか。

 

 

 

 

 




書き溜め分をいくらか放出しようか悩んでます。
料理も小説も、作りたてを味わってもらった方が嬉しいのかな。
しかし、それでは忙しい時やゲームに熱中している時の保険が…うむむ。

あと、プレビューを見返して思う。
○○月○○日の前に、日付が切り替わるという意味で何か記号でも入れるべきかな…。


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147話

最近眠いな…春だからかな…5月病にはまだちょっと早いし、そもそも仮にも社会に出てから10年経ってるのに今更5月も何も…。
GE世界でのエロの為、pixivとか見て妄想するのが日課の今日この頃。


 

神無月投稿前に感想返そうとすると、何て書こうとしていたのか思い出せない日

 

 

 さて、リッカさんにはあんな風に言ったものの、拘束具が壊れた理由は多分もっと前にあるだろう。具体的には、前回の討鬼伝世界に。

 そう、蝕鬼の触媒だ。アレは何でも取り込んで増殖に使用してしまう。

 恐らく、MH世界に来た後、神機ごと変身した時に触媒が神機に紛れ込んだのだろう。そして触媒とアラガミ細胞が混ざり合い侵食しあいながら、同時に自らを拘束していた器具まで侵食し、それで拘束具がボロボロになってしまった、と。

 その後、俺の生命の危機か何かを切っ掛けにして、神機が火事場の馬鹿力…つまり剣術バルドとやりあった時の超パワーアップ…を発揮し、そこで完全に拘束具はオジャン。そんな所だろう。

 

 別にこの辺の事情がバレても別段問題はなかったと思うが、蝕鬼の触媒なんて非科学的かつオカルト一直線のモノを説明するのはかなり面倒だし、そもそもリッカさんにならバレてもいいだろうが、支部長や榊博士にループの事がバレると厄介極まりない事になる。

 やはり、秘密は知らせない方がいいだろう。

 

 とりあえず、神機のメンテナンスは終了。未知数な部分も多いが、通常の使用には耐えられる、という結論が出た。

 そうと決まれば、早速狩りだ狩り。支部長からは特に命じられた訳じゃないが、特異点モドキという不確かな立ち居地しか持ってないのだから、『使える』人間だって事を早めにアピールしておく必要がある。そうすれば、例え特異点としての機能を果たせないと判断されても、暫くは支部長直属の立場を維持できるだろう。

 それに、リッカさんに言われたような、捕食形態の新しい可能性を試してみたいしな。

 

 という訳で、受付も通さずに適当に出撃。まだ正式にゴッドイーターとして登録されてないからね、仕方ないね。

 

 

 

 

 

 

 

 はい、今日のノルマ終了。シユウ、コンゴウ、ヴァジュラ。序盤の敵としては、まぁスタンダードな連中だった。

 どうやら、アラガミ達もまだまだ進化の途中の時期らしく、正直言って手応えがある奴が居ない。…この世界って、こんなにイージーモードだったっけか…?MH世界で妙な連中と鉢合わせしまくったから、感覚が狂っているだけだろうか。或いは、新しく身につけた各種スタイルや狩り技が、それだけ強力な武器になっているのか。

 …確かに、考えてみりゃヴァジュラの背中に乗って乗り攻撃してたしなぁ。反撃の雷? 使おうとした瞬間に、延髄とかの急所を狙って強制的に止めたよ。

 

 そうそう、リッカさんに言われた、忘れちゃいけないプレデタースタイル新攻撃だが、とりあえず初めてにしては順調……なのか?

 プレデタースタイルを手足のように動かす、という認識でやってみたんだが、確かに捕食状態での動作の自由度が上がっている。上の方に噛みつけ、とか右の方に噛みつけ、とか思いながらやってみると、出現した口の部分が若干延びて、そっち側に体を捻って食いつこうとする。

 まだその程度しか出来ないが、慣れれば…或いはアラガミ化すれば、もっとリーチを伸ばしたり、神機の動きに合わせて俺の体の方も動かし、上空に向けての飛び上がりながらの噛み付きとか、アラガミ部分を剣のように振り回しながらの複数体同時捕食とか、色々できるようになりそうだ。

 

 が、逆に困った事になっているのも事実。自由度が上がる、と言えば聞こえはいいが、その分自力で制御する部分が多くなるのも事実なのだ。率直に言えば、今まで使っていたような通常の捕食が、非常に難しくなっている。ちょっとでも気を逸らすと、狙った正面ではなく別の所に噛み付こうとしたり、噛み付いたはいいが素直に食いちぎらなかったり。

 例えて言うなら、自転車の補助輪を外したばかりの状態なんだろう。左右への旋回などはスムーズに行えるようになったが、ちゃんとバランスをとれずに真っ直ぐ進めない状態。

 これが割りと洒落にならない。何せ、ゴッドイーターの最大の力であるリンクバーストが出来ないのだ。いや、上手く制御できた時には出来るんだけども。今はそれが無くても充分やっていけるくらいの力量はあるが、そう遠くない内にキツくなってくるだろう。そうでなくても、いつか来るクソイヅチとの決戦の時、リンクバーストは非常に強い武器になる筈。使えない状態は望ましくない。…MH世界のモンスターなら食いついてリンクバーストできるけど、鬼はどうかな…そういや試してなかった気がする。

 

 ま、とりあえず初回にしては上出来か。今はまだ噛み付きだけでも四苦八苦している状態だが、いずれは狩り技やブラッドアーツ(実際は霊力だけど)と組み合わせて使ってみたいものだ。

 

 

 

 

神無月投稿前に限らず、できる時にしようかな日

 

 

 勝手に狩りに出た事で怒られた。解せぬ。前ループまでは、好き勝手に出撃していたけど怒られた覚えなんか……ああ、ヒバリさんにお小言言われた気がするな。あと、心理的に追い詰められているんじゃないかとツバキさんに心配された事もあったっけ。

 しかし、支部長自らのお小言とはなぁ…。まぁ、言ってる事は分かるんだ。今回の俺は特異点モドキ…現状、俺がそう自称しているだけだが、それが事実だとすれば、支部長にとってはアーク計画の保険となり得る存在だ。一ゴッドイーターとは、その重要度が違うだろう。勝手に狩りに出て、万一の事があったら…と考えると、お説教も已む無しか。

 とは言え、俺の狙い…支部長や榊博士に対する、存在価値のアピールにも気付いているらしく、そこまで酷いお説教ではなかったが。

 

 だが狩りは止めない。神機にも飯食わしてやらんとならんでな。久しぶりに一杯運動して一杯食べられて一杯マッサージ(というかメンテナンス)されて、何だかご満悦な雰囲気を漂わせている。気がする。だが食い足りないらしい。

 

 ま、とりあえず正式にゴッドイーターとして登録されたし、ちゃんとクエストの受付だけはしますかね。だけは。

 

 

 

 さて、差し当たりこれからどう動いたものか。また食料革命しようにも、土地が必要なんだよな。しかも周辺一体のアラガミを狩り尽したような土地が。

 ………そうそう、忘れちゃいけないのが上田ことエリックだ。放っておくと死んでしまう。…いや、忘れてなかったよ、本当だよ? ただ他に考える事が色々あって、後回しにしてただけで。

 何だかんだで上田とも(一方的にだが)長い付き合いだ。上田から五車多になったり、前回では何故か農園に何度も遊びに来ていたっけな。さて、どうやって助けたものか。

 助ける事自体はそれ程難しくないんだが、その場に居合わせられるかどうかが問題なんだよな。時期的にはコウタの訓練が終わって暫くした頃、場所は廃工場付近、少なくともソーマと同じ任務。

 なんだが…その場だけを凌いで放っておいたら、同じミスをしそうなんだよな。意外といい腕しているんだけど、致命的に間が抜けている節があるし…。

 今まではどうしてたっけ? …一緒の班になってフォローしている内に実力がついてきたり…そうだ、確か「上田」のあだ名を広めた結果、上を警戒するクセがついて惨劇回避、なんてルートもあったっけ。

 確実性はともかく、長い目で見ればあだ名を広めた方がいいんだよな。死角を警戒するクセがあるだけで、奇襲を受ける可能性が格段に減る。

 

 …あだ名が一番効果的、ってのもなんか理不尽な話だけどな…。

 

 

 後は…そうそう、ちゃん様ことカノンもどうにかしておきたい。ネタ的には誤射姫様から誤射を取り上げるような話になってしまうが、リアルにやられるとかなり危険だしな。何時ぞや教え込んだ、0距離射撃戦法なら誤射も無く、威力も高く、敵の悲鳴もよく聞こえるので裏カノンもご満悦。敵の攻撃を受ける危険も跳ね上がるけど…。

 時期的に考えると……カノンもまだ訓練生だな。裏カノンは訓練でも出てきてただろうか? …トリガーハッピーだから、引き金を引ける状況ならいつだって出てきそうではあるが…逆に、反応が無い相手に打ち込んでも面白くないから出てきそうになくもある。

 何れにせよ、流石にすぐには0距離射撃戦法は教えられそうにない。常識やセオリーを無視した、事実上ちゃん様専用か廃人用の戦法だ。実戦に出たばかりのヒヨッコにやらせようとしたって、上手くいく筈が無いし、そもそもそんな非常識なやり方を最初から教えるなんぞ、ツバキさんから鉄拳が下ってしまう。

 こう言っちゃなんだが、誤射の被害者がそれなり以上に出て、他の皆に匙を投げられる頃になってから教えた方がいいか。その間、誤射の被害に苦しむ人が増えるだろうが……まぁ、それくらいしないと受け入れられないやり方だろうしな。

 …そもそも、俺はカノンの教官でもなければ班長でもないから、勝手に教える事もできそうにないし。

 

 と言うか、皆して忘却の彼方に放り投げてるだろうけど、あれでも一応衛生兵だし。

 

 

 それに、あまり優先度は高くないが、技術を伝えなければいけないな。前回GE世界では、オラクルリザーブを筆頭にして色々な技術が開発されていた。これをフィードバックすれば、それこそ極東支部のみならず、世界レベルで戦術革命が起きるだろう。勿論、その技術を支部長が手札にする事だって出来る。

 

 

 

 色々考えてみたが、とりあえず共通して言える事は、まずこの極東支部内での立場を固めなければいけない、って事かな。支部長直属、って意味じゃなくて、ゴッドイーターや職員達に「あの人はこういう人なんで、ここに居てもおかしくない」と思われる…要するに人の輪に受け入れられなきゃいかん。支部長直属の上、榊博士に頻繁に会いに行っているゴッドイーター(経歴不明・突如現れて任命された・神機の新機能を使える?)とか怪しすぎるわ。俺なら警戒するね。

 

 

 

 

神無月GERしながら、久々にエアロバイクで20分日

 

 

 榊博士の実験に協力中なう。と言っても、まだ大した事はやっていなかったりする。実験の内容としては、変身シーンを具に記録し観察したり、よく分からないメディカルチェック用の計器にかけて体をスキャンしたり、そして色々と対話したり。

 …正直、いきなり麻酔で意識を奪われ、目覚めるまでに解剖されたり…って事も警戒していたんだが。それを言ったら、『君は頭がよくないねぇ』みたいな目で見られた。あの細目マッドめ。

 しかし、言われて見れば尤もな理由…「構造の分からない生き物をいきなり切開したら、死んじゃうかもしれないじゃないか」…だそうだ。つまり、構造がわかってればやる訳ね。

 

 更に意外な事に、榊博士が最も重視している実験は、俺との『対話』だった。文字通り会話だ。主に話題になるのはアラガミ化の事についてだが、その他にも他者に対する感じ方、物事を考える時にどういった道筋を辿るか、ほとんど分からない政治や経済の話まで持ってこられた。

 どういうつもりなのかと正面きって聞いてみると、

 

 「君が本当に特異点としての役割を果たせるかは、これから確かめていくしかないけれど。そうでなくても君は非常に貴重なサンプルでもある。迂闊に傷をつけて喪失の危険に晒すより、少しでも会話して君の性質を引き出した方が多くの情報を得られると思わないかい? 幸い、君は自分の体に対して一定の理解を持ち、なおかつ会話が可能なんだしね」

 

 だそうだ。マッドのクセして、妙に真っ当な判断で行動しやがる。

 …ひょっとしたら、本当の特異点…シオが見つかった時の予行演習も兼ねているのかもしれない。支部長の目的が、終末捕食を意図的に引き起こしてアラガミを一掃する事にあるのなら、榊博士は逆に終末捕食を起こさせない事を目的としている。その為に、神を人に…特異点であるシオを、人間により近づける事で理性を持たせ、終末捕食をコントロールする。その為の実験を俺でやっているのではないだろうか。別に特に問題はないのだが。

 

 

 

 ところで、榊博士の実験に協力…と言うか、俺の体に関するこっちの持ってる情報を吐かされていた時の事なんだが。大まかな情報は大体話したと思う。

 自由に変身可能だが制限時間があり、再度変身するのにタイムラグが必要だとか。非常に回復力が高く、腕を切り落とされてもくっつけたら治ったとか。その他、何種類かのエネルギー波攻撃ができたり、変身時の装備で能力が変わったり、当社比3倍で動く事が出来たり、どうやらまだ扱いきれてない能力があるようだったり。

 一応霊力の事も話はした。が、この世界で言うなら霊力ではなく…GE無印だと未登場だが…血の力だ。その名前もちゃんと認定されている訳ではなく、あまつさえ俺が知っている筈のない名前なので、「よく分からない力」で押し通したが。

 

 で、その時に…すっかり忘れてた能力があるのを思い出した。前のGEループで発覚した能力だったのだが、使ったの一度きりだしな。あの時も、事実上GE世界限定とはいえ超がつく程有効な利用法があるのに、あまりのショックでそれに気付かずスルーしちゃったし。

 その能力は…そう、俺=のっぺらミタマの集合体という事を自覚した時の能力。インターネット…と言っていいのかは微妙だが、兎に角情報と電子の海にログイン…いや、ダイヴ・インする能力だ。

 

 GE世界限定とは言え、これほど便利な能力もないだろう。情報の海に直接飛び込み、好き勝手に暴れまわる事が出来るのだから。

 更に言うなら、これは移動方法も兼ねている…と思う。まだ試した事がないからなんとも言えないが、あの時はアナグラ内の端末からダイヴ・インした。同様に出てくる時も端末からだったが、これが別の端末から出られるとしたらどうだ?

 端末はあちこちにある。それこそ、極東支部以外の支部にだって。支部の中は電子ロックされていたりもするが、これこそダイヴ・イン状態でチョチョイのチョイとやればぶっ壊せる。

 

 …マジで無双できそうなんですが。機密情報抜き放題、ゴッドイーターの戦闘現場をリアルタイムで確認可能+隠蔽・霍乱朝飯前、やり方によっちゃ給料が振り込まれている口座の金額だって操作し放題。更には汚っさんを今からステルス暗殺しに行く事だって出来る訳だ。

 

 

 

 

 マジでどうしよう。とりあえず、この能力の事は秘密にしておく。

 

 

 

神無月ビルダーズの実況動画拝見中日

 

 

 幸運と思うべきか不幸と思うべきか。ダイヴイン能力、思ってたより使えなかった。

 というのも…なんと言うか、電子と情報の『海』というのは伊達じゃないって事だ。例えば船を持っているとして、羅針盤やコンパスの類も無し、海図も無しに目的の場所まで行って帰ってこれるかって話だ。

 いや、海にダイヴ(潜る)というくらいだし、潜水艦の方が正しい表現かな? 更に潜っていく先は、入り組んでいる上に海流が激しく、目印だって無い海底洞窟…いや迷宮だ。このアナグラの中だけでさえ、そんな按配なのだ。下手に入って動き回ると、永遠に出られなくなる可能性すらある。

 …ダイヴ・インしてそのままになったら、デスワープって起こるんだろうか。自害できるかも分からんし、ヘタすると永遠に…いや、永遠でなくても脳死とかするまで、電子と情報の海を彷徨う旅ビトになってしまうんじゃ…?

 

 あんまり使わないようにしよう。ただ、有効活用できそうな場面は(GE世界限定とは言え)結構あるんで、ちょっとずつ実験は進めてみるつもりだ。

 

 

 

 

 ところで、これだけの事が突然分かったって事は、当然実験してみたって事なんだけどね。どうやら俺、実験しているシーンを監視されてたみたいなのよね。榊博士にか、支部長にかは知らんけど。

 で、監視していた側からしてみれば、端末からダイヴした俺は突然消失したようにしか見えなかった。一体何処に行ったのか、何故突然消えたのか。

 呼び出されて問いただされたんだが……その、なんだ。上手い言い訳を考えてなかったもんでさ……。

 

 

「さて、何処に行っていたのかね?」(←支部長)

 

 

「……性欲を持て余して自家発電しておりました。流石に見られながらやる趣味はないんで」

 

「……………」(←支部長)

 

「……………」

 

「……………」(←支部長)

 

「……………」

 

「……………」(←支部長)

 

「……………」

 

「……………姿を消した方法については報告するように。以上だ」(←支部長)

 

 

 

 …姿を消したのは隠のミタマで、血の力的な何かだと報告しましたが。

 気まずいってもんじゃなかった。

 

 

 

神無月ローラ姫がLIVE A LIVEのアホ姫に重なるせいか、どうもアンチな視点で見てしまう日

 

 榊博士が、俺の精子を分析する事を真剣に考えていたようなので、支部長と共謀して記憶を失わせた。具体的な手段は秘密だが、支部長も中々にマッドなお人だったようである。まぁ、色々と葛藤があったようだが、仮にも息子にトンデモ因子を埋め込んじゃうような人だしな。

 

 それは置いといて、最近はツバキさんを筆頭に、あちこちのゴッドイーター達に顔見世に回っている。ただでさえ怪しい立場になるってのに、他人との接触も無しに引きこもったままじゃ、もっと怪しまれて遠ざけられるのがオチだしな。

 とは言え、支部長直属という時点で、いい顔をしない人は何人か居る。支部長と潜在的な敵対関係にあるリンドウさん…この人はまだ表情に出さないが…を筆頭に、「新入りが偉そうに」とつっかかってくるシュンとか、「唐突に支部長直属と言われても、どれくらいのものか信頼できない。また、強かったとしても連携を取れるかはまた別の問題」と戦略的な観点から渋い顔をするブレンダンさんとか。

 後は…おエライさんに絡んで睨まれるのはイヤ、という日本人特有の事なかれ主義な方々とか。日本人じゃない人も多い極東支部だけど。

 

 ま、そんな微妙にムラハチ状態な俺だけど、まだ特に奇行をやった訳では無いし、ちょっとした手土産とかも持っていったからそんなに嫌われてはいないと思う。

 土産? 普通の菓子折りだけど。MH世界で適当に買った温泉饅頭……あれ?

 

 

 あの世界の食い物って、この世界から見れば超高級品の天然モノじゃなかったっけ? いつぞや、カノンを躾けた時にも天然モノの砂糖で釣ったし、前ループに至っては天然食材で世界レベルの経済変動を巻き起こしてしまったような…。

 

 

 

 

 

 つまり、俺って極東支部に金をバラ撒いたように見える訳? そういや、挨拶回りの途中から妙に強い視線を感じたり、プレッシャーというか何かを期待されていた気配が…。むぅ、あの時にフラウさん直伝の内面観察術を使っておけばよかったか。

 

 

 しかし、そうなると既に怪しい人物、或いは美味い物食わせてくれる人って事にならないか? …うん、前回同様、食い物で釣るか。

 支部長の手札になれば、と思ってたが、どう考えたって重要度は支部長<超えられない壁<俺だし。まぁ、支部長の事だから、俺が好き勝手やってても上手いこと利用するだろう多分。

 よし、そうと決まればさっさと農業農業。そういえば、アナグラの中にも植物を栽培している施設はあるんだよな。…まぁ、天然モノとは言い辛いし、それで出来上がるのがジャイアントトウモロコシなんだから、味はお察しだけど。

 アナグラの中だけでやると、できる数にも問題があるし、ゴッドイーターがそれを独占していると思われるのも面白くないな。前回のループじゃ、結局一般市民でも食えるようになる程には行き渡らなかったし…。

 

 

 …よし、今回はアナグラに入れない人達の居住区でも栽培させてみるか。スラムそのものだから、絶対にかっぱらおうとする奴が出るが…ある程度は目溢ししよう。それを超えたら、トラップは勿論タカの目追跡術からの闇系コンボが待っているが。。

 となると、何処でやるかだ…アナグラ周辺は、アナグラに収まりきらない一般人達の家で埋め尽くされている。それでも、対アラガミ防壁の中で暮らせているならまだ上等…つまり、農業やりたいから立ち退いてくれって言ったって、誰も聞きやしない訳だ。一人二人上手く退いてくれたとしても、たったそれだけの土地じゃ栽培できる量なんてたかが知れてる。

 やはり、アラガミを狩りつくして何処かいい場所を手に入れるか? うーん、いい案がイマイチ浮かばない…。

 

 

 

神無月世界観がアレだから無理ないかもしれないが、自分から石になって生きるの止めてたしな日

 

 

 天啓を得た。即ち逆転ほーむらーん(大阪風)。

 いい場所を確保できないのなら、確保せずにどこでもいいからやっちゃえばいいじゃない。

 

 意味が分からないって? そうだな…。まず、フェンリル周囲の居住区を出歩いていると…植物があって…………皆死んどる…じゃなかった。

 アレだ、MH世界の一部の植物に限定した話だが、あいつらはとにかく育つのが早い。土壌の問題もあるが、そこは前回の事を活かして飛竜(しかも古龍)のフンやら釣りミミズやらを山ほど持ってきたので問題ない。気の弱い人にふくろの中を見せたら、失禁するレベルの量だ。

 で、まずはこいつらを居住区周辺に適当にバラ撒く訳よ。ミミズは地面に埋めればいいんだし、フンは完全に発酵しているから、そうそう気付かれないと思う。半日もすれば土壌改良完了だ。…農薬使うのがアホらしくなってくるな。

 その後、そこら辺に適当に種を埋める。これはかなり多数にしなけりゃならんな。正直言って、数撃ちゃ当たるならぬ数植えて当てる、というのが今回のキモだし。

 そして後は数日かけて、居住区を歩き周りながら、芽吹いた苗の世話をする。

 MH世界の植物なら、こんな適当極まりない管理でも無闇矢鱈と元気に育ってくれるだろう。

 

 無論、雑草と間違われて、或いはその実を食い物として狙われて持ち去られる事も計算に入っている。それならそれで好都合。謎の植物が…しかも食える上に育つのが早い植物が…この世界にしてみれば夢のような植物が、そこかしこに突然出現したという証左になる。

 そこでこの一言ですよ。

 

『アレをもっと欲しければ、俺の指示に従いなさい』。

 

 証拠として苗やら何やらを予め準備し、更にはあちこちに種を埋める段階で目撃者を多数作っておけばモアヴェター…ベター。

 そしてその後は自分達から農業する場所を提供させ、ゆくゆくはアナグラ以上に美味い飯を食える居住区を作り上げるのだッ!

 

 

 

 

 

 …という事を、もうやっちゃったんだよね。いや、アナグラ以上の飯は流石にまだだけど。

 

 

 別にやろうと思ってやった訳じゃないんだよ。どっかいい農地無いかなーと思って居住区内をフラフラしてたんだけどさ。

 

 その時に、種とミミズが入った袋を落とすか置き忘れるかしちゃったみたいなんだよ。俺からスリできるような奴が居るとは思えんしな。

 

 …そう言えば、散策中に遠くからゾーキンを割くような悲鳴が聞こえてきたな。そんなに満載のミミズが怖かったか。

 で、翌日に置き忘れたと思しき小さな袋が道端に転がっていて、そこに一つだけ小さな芽が生えていたのを見て思いついたって訳。

 

 思い立ったら即吉日、その日以降は全て凶日とはよく言ったもの。その瞬間から行動に移りました。

 支部長の許可? 話を通したか? してねーよ。下手な事言ったら止められるかもしれないじゃん。沈黙は金である。

 まぁ、仮に話したとしても誇大妄想狂を見る目を向けて「やってみたまえ」の一言かもしれんけどね。それで万一結果が出たら、存分に利用すると。

 

 

 しっかしまぁ、流石のスラムと言うべきなのか。あちこちに芽生えた苗達は、半日もせずにもぎ取られていた。それだけ食料が…食料に限らず、何もかもが足りてないって事か。

 農地探しや種を埋めるための散策の間も、何度も何度も絡まれた。どうやら、俺が腕輪持ち…ゴッドイーターだからか、アナグラに入れない人達に敵視されているようだ。つまるところ、終末世界によくあるやり場のない不満をぶつけようとしているんだろう。

 ゴッドイーターは、基本的に一般人に手出しできんし。それを許していたら、超常の力を持った『人間のような何か』が反乱を起こす切っ掛けになりかねないんだろうな。例え、偏食因子を抑える薬という鎖で飼い慣らしていても、そう遠くない内に自滅覚悟で反撃する奴らが出てくるだろう。

 この辺はMH世界なら、ギルドナイトという執行者が居る…あいつら、ハンターが一般人を傷付けるのにも、その逆にもジャッジメント!権限を持ってるんだよ…。ハンターの監視者であると同時に、一般人からの守護者でもあり、調停者でもあるのな。これが討鬼伝世界だと、各里の規律でどうなるか決まってくる。

 

 

 

 

 まぁ、俺がそんなパンピー連中にそうそういいようにされる筈がありませんが。

 

 

 一例、戸愚呂弟張りの『喝!』で一蹴。

 一例、取り囲んだ奴らの頭を足場にして屋根の上まで逃げ、ついでに立ちション。

 一例、背後に回って声真似で仲間割れを誘発。

 一例、フェンリルの監視カメラがあるところまで誘いだし、証拠映像を使って後から脅迫。ちなみにボコられるフリして身代わり。

 一例、目の前で寝取る…いや流石にこれは冗談だが。

 

 ぶっちゃけ、証拠を残さない反撃方法なんか山ほどあるんだよね。特に、この世界の人間が想定してない能力を幾つも持っている俺なら。

 正直な話、こいつらを菩薩のような心で『彼らも追い詰められて必死なのです』とジヒをくれてやるような気分にはならない。仮にも必死こいて人類の最前線で戦っている連中に、ちょっと待遇がよく見えるからと言って後ろから石を投げつけるような連中は知らん。まぁ、俺だって政治家とか貴族とか、そういう連中が何か苦労しているのを知らずに毛嫌いしている部分もあるから、あまり他人の事は言えないが。

 が、人間が理性だけでそんな真っ当な行動を取れる生物でもない。ソースは俺。何度色事に流されて死んだ事か。自分の事をあんまり棚に上げるのもなんだから(心の棚は図書館の本棚よりも多くあるが)、多少の酌量はしようと思う。

 

 という訳で、農業(まだ家庭菜園って規模だが)のノウハウを教える際に、逆らわないように叩き込んでおこうと思います。俺に絶対服従…とは言わないまでも、頭が上がらない程度に躾けて、尚且つそいつらは優先的に野菜が食えるようにする。それを嫉妬して略奪とかしようとしたら、そいつに対しては一切供給を回さない。要するに、台所を抑える訳ね。独裁者を気取る気か、と言われると反論も出来んけどね…。

 

 

 

 そんな訳で、居住区のあちこちに「食いたきゃここに来い」という看板を立ててきた。幸い、識字率はそれなりに高いらしい。さて、どれくらいの人間が集まるかね…。

 

 

 



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148話

色々考えて書き溜め量を計算してみたのですが、やっぱり基本は今まで通りの4日ペースでの投稿にしようと思います。
ですが期待してくださった方もいらっしゃいますし、書き溜め溜まりすぎなのも事実なんで、ゴールデンウィークはちょっと早めに投稿しようかと。
具体的には29日から7日か9日くらいまで、隔日投稿で。
時間は…折角休みの方も多いし、午前中かな。

しかしGWは忙しい時期ですし、感想返しが出来るかはわかりません。


 

神無月そろそろコタツ片付けようかな日

 

 思っていたよりは少なかったな。眉唾物だと思われたのか、植物を雑草だと思って捨ててしまった奴の方が多かったのか(トマトとかスゴイ分かりやすいと思うんだが)、或いは植物を長期間育てるよりも今日の飯を心配しなければいけないのか。

 理由はともかく、集まった数人のメンバー全員の共用の農園で実習し、家に帰ってからも試してみれるように種とミミズを渡す。これだけでも随分珍しがられた。ミミズは不評だったが…まぁ、確かにこの世界じゃ、種子だけでも貴重なのは無理ないかもしれんな。

 

 さて、後は農園をどうやって守るかだ。一日くらいなら俺が徹夜して守ればいいが、ずっと続ける事はできないし、ゴッドイーターとして狩りにも行かなければいけない。

 今は何もないのに柵で囲まれた場所にしか見えない。だが、それでも荒らす奴は出る。俺が…フェンリル所属の人間が何かやっている、というだけで、八つ当たりしに来る事は珍しくも何ともない。今まで、あんまりそういうのに遭遇した事なかったけどな…何せ居住区には殆ど関わらなかったし。

 とにかく、あからさまなトラップは禁止。仮にもゴッドイーターが、居住区に危険物を仕掛けたと言われると面倒な事になる。

 

 なので、ここはオカルトを使います。正宗に渡した、狩り技サポート用の道具と同じようなものを作る。特定の条件を満たした時、不動金縛りや虚空ノ顎が発動する。勿論、術者が直接霊力を使ってやるのではないから、威力は下の下、鬼にはまず通用しない威力しか出せないが…相手が単なる人間なら充分だ。

 これを仕掛けておけば、ヘタに農園に触れたらTATARIに晒されるという結果に終わるだろう。 

 

 

 

 農園の防衛については、これでいいとして…一つ、意外な出会いがあった。GE世界の死亡フラグクラッシャー、異能生存体、シスコン、バガラリーならぬバカラリー、藤木コウタ。シスコンの異名が示すとおり、彼には妹が居る。

 確か名前は………ノラミ? …違う、これはシオに名付けようとして総スカン食らった名前だ。そうそう、ノゾミだ、藤木ノゾミ。絵に描いたようなロリっ子(コノハやササユと違って正真正銘のロリだ)で、この世界では珍しく露出度は低い、と言うか普通。年齢を考えれば、天使と言って差し支えないだろう。妙な意味じゃなくて、7歳までは仏の子。

 彼女、今までは専ら兄のコウタに遊んでもらっていたようなのだが、そのコウタはゴッドイーターとして徴兵され、アナグラに行ってしまっている。それでヒマになった為なのか、なんと農園の為に集まったメンバーの中に彼女が居ました。

 

 …いや、ホントに居たんだよ、ノゾミちゃんが。どうやらその辺で見つけた野菜を齧って夢中になったらしく、それをまた食べられると聞いて来たらしい。

 せめて保護者連れてこようよ。お母さんにも黙ってきたらしいし…持って帰って食べさせてあげたいとか、なんと家族想いな。コウタ、いい教育しているじゃないか。

 だが警戒心が足らん。これが人攫い目的の詐欺だったどーしてたんだ。

 

 とりあえず、他にはロリもショタも居なかったから、帰りにこっそり後をつけて護衛しといたけど……いつ襲われるか分からんな。こっちも対策が必要だ。

 

 

 

 

 さて、本日分の農業も農園を守る為の細工も終わったから、狩りだ狩り。リッカさーん、メンテ終わってる?ヒバリさーん、手応えのある相手ダース単位でプリーズ。え、何、榊博士から実験の要望? 狩りの後に行くわ。支部長から呼び出し? あー、悪いようにはしないって言っといて。

 

 したらな!

 

 

 背後からヒバリさんが呼び止める声が聞こえたけど幻聴である。

 

 

 

神無月でも梅雨の時期は寒そうだし日

 

 榊博士の実験(と言うかお話)に付き合った後、支部長からの呼び出しを受けた。理由は、やっぱり農園の事だった。

 別に家庭菜園やる事自体は構わないし、それに居住区の人達を巻き込むのも全く問題はない。ゴッドイーターだからって、一般人と関わってはいけないという理由は無いんだし。

 問題としているのは、育つのが異常に早い植物の事。耳が早いね。

 

 こっちとしては、種とか出来上がった野菜を渡す事に問題はない。元々、その為に作っていたようなものだ。

 支部長としては、自分の下で一括で管理したかったようだが、もう菜園始めちゃってるのでそれは無理です。居住区の人達の不満を抑えるのに使えそうな事、そもそもアナグラ内でやろうにも人手が足りず太陽を受けられない事、その他諸々の利点を話し、何とか菜園続行の許可を貰った。

 

 …なんか、支部長にしては妙に素直と言うかアッサリしていたような…。俺の印象だと、とにかく迂遠な話し方で、「例え話はいいから素直に喋れや」とツッコミ入れたくなるような人だったんだが。

 それに、俺が持ち出した種の出所や詳細について聞かなかったのも気になる。一日で食えるようになる野菜とか、どう考えてもこの世界のものじゃないのにな。一応、特異点モドキの力を使って云々という言い訳も考えていたというのに。

 

 うーむ、思っていたより支部長が俺に対して無反応と言うか、関心が薄いと言うか。別にチヤホヤしろとか監禁しにかかって来いなんて事は言わないけど、どうにも気になる。

 …まぁ……関心が無いなら無いで、好きにやらせてもらうか。

 極端な話、最後の終末捕食の時に居合わせればいいんだから。

 

 

 

 

 

神無月梅雨まで出しててダニが湧いても困るしなぁ日

 

 

 起きる。牛乳飲む。ラジオ体操(※1)する。散歩(※2)する。農園のメンテとフトドキモノの始末する。ジャイアントトウモロコシ食う。ミッションを受ける。昼くらいまで狩る(※3)。帰り際に農業のノウハウを教え込んでノゾミちゃんを家まで送り、途中で(※4)始末した連中を肥料にする(※5)。昼飯食いにアナグラに帰る。牛乳飲む。支部長からの呼び出しから逃げる。ミッションを適当に受ける。ついでに他のゴッドイーターが何処でミッションを受けているか確認。自分のミッション地点への移動ついでに、アラガミを辻斬りして人助け。ミッション標的のアラガミが見つからなくて戸惑う(※6)。捜索中に、邪魔になりそうなアラガミを撫で斬りする。牛乳飲む。ようやく見つけた標的(※7)を蹴っ飛ばしてモグモグする。腹が減ったから帰る。俺の右手疼いているが厨二病的な意味ではない(※8)。帰り道(※⑨)でその辺に適当に(※10)種を撒く。アナグラに帰ってアラガミ素材の清算をする(※11)。牛乳飲む。収穫した野菜で晩飯作る(※12)。風呂入る。寝る時間まで暇なんで狩りに出る(※13)。気が付けば夜中の2時くらいになっている。その場で野宿するか、アナグラに帰って寝るかは気紛れで決まる(※14)。帰ってきた場合、ターミナルを見て支部長と榊博士から呼び出しがかかっているのを発見する。気が向けば翌日行こうと思う(※15)。寝る。トイレに起きて牛乳飲む。

 

 

※1  オカルト要素も入れた新バージョン。

※2  と書いて狩りと読む。

※3  ミッションが終わってないとは言ってない。

※4  教育に悪いため、ノゾミちゃんに気付かれずに。

※5  …殺してないよ、首だけ出して埋めただけで。 

※6  通信オフ・目の前にアラガミが居るけど俺には見えないね!

※7  俺を追いかけていたようだけど、5時間近くようやるわ。

※8  だって右手って神機だし、疼くのは腹が減ってるからもっと食いたいって言ってるんだし。

※⑨  バカ。

※10 植物の。こう注釈しなければいけない辺り、自分への信頼度がよく分かる。

※11 もう専用窓口が作られてしまったんですがそれは。毎日修羅場の時間ができた、と職員さんに愚痴られた。

※12 まだお裾分けできる程量はない。

※13 既にミッション受付窓口は終了しているが知ったこっちゃねぇ。

※14 アナグラに門限はある。ので忍び込んで寝る。

※15 気が向いた事は無いし、朝になったら忘れているが。

 

 以上がここ数日の生活である。むぅ、狩りへの情熱が蘇ってきたか。それとも神機の食欲に釣られているだけか。

 

 今日は神機がメンテナンスで使えないので、一日菜園の手入れにしようと思う。アナグラに帰ってくるのは夕方くらいか。

 …呼び出しに応じるのはその後でいいな。呼び出しを無視しても、支部長は何も言わない…という事は、もう見放されているか、そもそも形だけの話をしようとしているかだろう。榊博士は、段々ヤバげな実験に入り始めているが。

 

 

 そうそう、菜園に行く前に体を少し動かしておこうと思って訓練所に来たら、ツバキさんとコウタがチュートリアルもとい基本訓練をしているところに遭遇した。まだ序盤らしく、コウタも軽く息が上がっている程度だ。…ゴッドイーターになってまず驚くのが、自分の体力なんだよなぁ…。普通の人間でしかなかった筈なのに、重い神機持って平然と動き回って大ジャンプできるくらいに強化されるから。最初は強化された自分の体力がどれくらいのものなのか、把握させる為に徹底して疲労させられるんだよね。ま、頑張れコウタ。

 …場合によっては、またブートキャンプに連れて行くから。そう思った途端、コウタはビクッと震えて周囲を見回し、ツバキさんに怒られていた。うむ、相変わらず妙な所で勘がいい。

 

 当然ツバキさんも俺に気付いていたようだが、今は教導中だし、俺も余計な事はせずに体を動かし始めたんで、何も言われなかった。……久々に見た、ヒップとウェストのラインは目に焼き付けたがな。前ループでは、それはもう愛でまくったんだよなぁ…。ようやく訪れた春が相当嬉しかったのか、普段からは想像もつかない程甘い声で甘えてくるし。今思うと、ベッキーと似たようなタイプかもしれない。

 …ジロッと睨まれた。おお、怖い怖い。いきなり笑いかけるのも警戒されそうなので、平気な顔して「お構いなく」とヒラヒラ手を振った。フン、と息を吐いてソッポを向かれた。ちょっとショック。

 

 …前は酒の勢いだったっけなぁ。今度は正面きって口説けないかな…いやいや、今回の終わり方というかデスワープの仕方は決めてるようなもんだし、それを考えるとな…。

 

 

 

 

神無月唐突に支部長視点日

 

 

 やぁ。はじめまして…と言うべきかな?

 フェンリル極東支部長のシックザールだ。本日の日記は私の視点で語らせてもらう。尤も、普段の私は日記などつけていない。そのような事に時間を割く余裕は無いし、誰に見られるかも分からん手記に、考えを書き残しておくような趣味は無い。

 故に、日記と言うよりは私の心の中の独白のようなものだと思ってもらおう。

 何、難しく考える必要はない。『メタ』と表現すれば分かるだろう? 本来こういった文章はあまり良くないものだろうが、今回は勘弁願う。

 

 

 さて、前置きが長くなったが、私の手元に、一人の青年が居る。この青年、ありとあらゆる意味で胡散臭い。それこそ、私が言うのもなんだが、ペイラーに匹敵するほどの胡散臭さを放っている。

 別段、姿形が変わっている訳ではない。新型の神機を持っているとか、その辺もどうでもいい。ただその言動が信用できん。

 

 そもそもこの青年、私が進めている人類の未来を賭けたプロジェクトに、多大な貢献ができる…と、自称している人間だ。その計画の名はアーク計画。地球上の全ての生命を飲み込む終末捕食を人為的に起こし、選ばれた僅かな人間のみを宇宙へと逃す事で、アラガミの居ない世界を作り出す…要約すればそういう計画だ。

 この終末捕食を意図的に起こす為に、特異点というアラガミが必要なのだが、このアラガミが未だに見つからない。そうそう見つかるような相手でもないので焦っても仕方ないが、我々は今この瞬間にもアラガミの…もっと正確に言えば、終末捕食の脅威に晒され続けている。いつ特異点が覚醒し、我々が意図しない終末捕食が発生するかわからないのだ。もしもそうなってしまえば、人類に限らず地球上の生命は絶滅し、そして再分配されるだろう。

 当然、アーク計画にせよ終末捕食にせよ、一般人もゴッドイーター達も知る事は無い。

 

 だが、彼は我々にコンタクトを取る際、「特異点モドキ」と名乗っていた。知る筈のない情報を知っているのは、まだいい。情報は漏れるものだ。しかしそう名乗る彼の意図が分からない。私に取り入って、甘い汁でも吸おうと考えているのか。

 確かに、特異点が見つかっていない今、その代わりができる存在が手元にあるのは非常に都合がいい。アーク計画の準備さえ整ってしまえば、彼を使って終末捕食を引き起こせばいいのだから。…尤も、本当に彼が言うように、特定点の代わりが勤まるのであれば、の話しだが。

 何れにせよ、彼が珍しい存在なのは確かである。特異点かどうかはともかくとして、自由にアラガミに姿を変えられる人間なぞ聞いた事すら無い。ソーマでさえ、産まれる前に因子を埋め込んで、出来上がったのは強いだけのゴッドイーター。ペイラーに任せ、研究の役に立ってもらうとしよう。

 

 

 色々と考えはしたものの、私の結論は最初から決まっている。

 

 

 彼を信用する事は、無い。

 

 

 彼は終末捕食を起こすのに手を貸す、などと言っているのだ。当然の事ながら、終末捕食の為に特異点…生贄となれば、その者は死ぬ。それを自覚しているとは思えん表情もそうだし、そもそもアーク計画が上手く行こうと行くまいと、終末捕食が発動した時点で殆どの命の末路は決まる。大量の命の火を吹き消す事になるのだ。その切っ掛けになる事を、彼は自覚しているのか? 私にはとてもそうは見えなかった。

 自分から世界を滅ぼそうとする者を、その責を自覚すらしてない者を、一体誰が信用するのか。

 自分の事を棚に上げての考えだがね。

 

 とは言え、どうにも並みのゴッドイーターでは足元にも及ばぬ程の強さを持っているようであるし、先も考えた通りに貴重な研究素材となるのも間違いない。

 万一、彼が本当に特異点の代わりとなる事ができるのであれば、意識を奪って生贄にしてしまえばいい。特異点としての性質を、ノヴァに移してしまえばいいのだ。

 余計な事をするようであれば、始末すればいいだけの話。彼の立場は、利用価値とデメリットの微妙な均衡の上で成り立っている。自覚があるのかは知らないがな。

 

 さて、その辺を踏まえた上で、ペイラー。彼に本当に特異点としての働きができると思うか?

 

 

「現段階では、ノーとしか言えないね」

 

 

 ほう?

 

 

「特異点とは、人間に極めて近く進化したアラガミであって、アラガミに変化できる人間の事じゃない。もっと言うなら、もしも本当に彼が特異点として行動できるなら、アラガミ化しかけているゴッドイーターでも同じ事が出来ると思うよ。アラガミ化しても理性を保っていれば、だけどね。ただ…」

 

 

 ただ?

 

 

「彼が使う奇妙な力、あれが分からない。あれこそが特異点としての働きをする為の力だ、と言われると、その可能性は否定しきれないよ」

 

 

 あれか…私も何度か見たが、実に汎用性が高い力だ。力…というより、エネルギーと称するべきかな。傷を癒す、外傷を防ぐ、動きを止める、虚空に物を引き寄せる…。それも何の道具も準備も使わずに、だ。つまるところ、それはあのエネルギーが彼自身に由来している事を意味する。

 少なくとも、彼には未知の力がある。…だが、所詮はたった一人の人間に宿る力だ。それっぽっちの力で何かしらしたとして、それが終末捕食を引き起こす引金となるか?

 

 

「同意見だね。ただ、私としては『ありえる』と言いたいところだ。たった一人の人間でも、それに秘められた力はとても大きい。将来性や精神力の話ではなく、物理的に見てね。それに、彼が終末捕食において果たす役割があるとすれば、君が言うようにそれは引金だ。ダムを決壊させるのに、大きな爆弾を使う必要はないだろう。場所を選んで穴を空ければそれでいい」

 

 

 少々夢想が過ぎるな、お互いに。しかし、彼が使う力……どこかで聞いた事があるような…。

 

 

「ああ、それは多分ラケル・クラウディス博士が提唱している『血の力』だと思うよ。私もそこまで詳しく聞いてないし、彼女の……なんと言ったか、ヴィスコンティティ?君に発動の兆しが見えるだけで、まだ与太話扱いされているようだけどね」

 

 

 …彼女か。何度か会った事はある。ソーマに使った技術を応用し、昏睡状態から目覚めた少女だ。今でもその時の後遺症で足が動かず、常に車椅子に乗っている。

 その優れた頭脳には私も一目置いている。彼女ほどの能力を持っていれば、アーク計画の対象に選ばれるには充分なのだが…どうにも、彼女は何を考えているのか分からない部分がある。昏睡状態からの回復の為とは言え、アラガミの細胞を埋め込んでいる以上、次の世界に残す訳にはいかない。何よりも、私の直感が非常に危険だと告げている。彼女の父親とは、アーク計画…彼が賛同するとは思えないので、エイジス計画…を進める上で懇意にしてはいるが、残念ながらこれはもう決めた事だ。

 

 ふむ…だが、彼女に貸しを作っておく事は悪くない。彼が使う力が本当に『血の力』だとすれば、ラケル博士以上に詳しい人間は居ないだろう。

 『血の力』が特異点としての性質に関係してくるかは、私にとっても未知数だ。ラケル博士は、現在誰も発現していない血の力を直に見て研究できる。私は彼女に貸しを作り、更に特異点たり得るかの調査をしてもらえる。

 ラケル博士にとっても私にとっても良し、win-winかつ私の方が得。これが取引の正しい姿だな。

 とは言え、何を考えているのか分からない彼女に対し、特異点モドキを預ける事に不安はあるが。

 

 

 期間を決めて、出向させてみるか。最近、正気を疑うような勢いでアラガミを討伐しているようだし、長期休暇の名目で。

 …立場的には私の直属という事になっているからな…。彼がミッション受付を通さず討伐してきたアラガミは、私が命を下した特務だと思われ始めているようだ。つまり、文字通り休む暇も無く部下をこき使い、使い潰そうとしていると思われかねん。

 一応、フェンリルも企業だからな…休みを取らさせないと、監査がうるさい。本人が仕事の外で勝手にやってる事なんで、監査が入っても私にどうこう言われる事はないが…腹を探られて痛くないかは話が別だ。余計な手間は無い方がいい。

 

 確か、ラケル博士は新設しようとしている部隊の為の、専門拠点を作ろうとしていたな。その手助けとでもしておくか。あっちの方で、好きなだけ討伐してきてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し目を離している間に、居住区を使って菜園を始めていた。しかも見た事も聞いた事もない品種の植物で、育つのが異常なぐらいに早い。

 …おい、おい。何をやっている。 

 ぬぅ…これは…上手く使えば、凄まじい手札になり得るが…報告してからやれと……いや、こんな事が出来ると言われても、信じはしないか。それでも万一上手く行った時の算段はつけられただろうに。

 

 それにしても、また妙な事が増えたな。新たな品種の植物、一体何処から持ち出してきたのか。しかも、この困窮した世界に誂えたかのような、食糧難を救う可能性すらある代物。

 どう考えても、真っ当な手段で手に入れた代物ではあるまい。これも特異点モドキとしての、あの血の力を使った結果なのか。

 問い質すか?

 …いや、素直に返答するとも思えんし、何より答えたところで信が置けん。上がってきた結果だけ利用すればいい。

 

 とは言え、ラケル博士の下に派遣するとしたら、あの植物の世話もできなくなる訳か。居住区ではそれなり以上に話題になっているようだし、突然取り上げるような真似はできんな。

 居住区の人間にしてみれば、出所が怪しいながらも自分達の手で作り、そして食べられるようになった植物だ。これが突然無くなれば、フェンリルに対する悪感情は歯止めが利かない程に膨れ上がる可能性が高い。

 モノを取り上げるだけでなく、それを提供する本人が居なくなったら…考えたくもないな。

 幸い、本人にも博士にも話はまだしてなかったし、ラケル博士の下への出張は、暫く先にするか。

 

 

 

 

 



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149話

ふと給与明細を見てみる。深夜手当てだけで15,000円超え。
シフトを見ると一ヶ月の9割が深夜3時までの仕事になっている。
ちなみに店長は昼オンリー。
…いつか店長に物申さねばならんな…。

あと前回投稿の7時間後くらいにランキング9位になっててまじフイタ。
更に翌日には6位にまでなってて頭おかしくなったかと思った。


神無月勤務中眠かったんで、偶には飲まずに寝ようと思ったら日

 

 

 支部長の下で直属扱いで仕事するようになったんだが、頻繁に休めと命令される以外は取り立てて書くような事は無い。無論、命令無視して狩りをしている事も含めて。

 

 狩りをしてない時間は、菜園の手入れをしている。最近では居住区の人達にも顔を覚えられてきた。一部の人間には、フェンリル所属の人間という事で毛嫌いされているようだが、ちょっかいを出される事も少ない。俺自身が全部煙に撒いているのもあるが……ヘタな事をしたら、ムラハチにされるからだ。言うまでもなく、ストマックキャッチプリキュアした結果と言えよう。ちなみにプリティでキュアなのはノゾミちゃんことコウタ妹だが。

 いやー、あの子本当にいい子だわ。何度か家までコッソリ送っていった事があるんだが、自分とお袋さんだけでなく、ご近所さんにもお裾分けとして野菜を渡していた。

 その時に、何処で手に入れてきたのかと聞かれ、素直に答える。そうすると、「あの妙な植物の事は本当だったのか」みたな感じで話が広がって、俺の所まで種と肥料とやり方を教わろうとして訪ねてくる。何時の間にやら「先生」という徒名まで広まってしまい、俺に害する=食べ物くれる人に何かする、という公式さえできあがっていた。

 俺に何かあったら、自分達も飯が食えなくなってしまう。先生に何かする奴は、俺らが許さねぇ、みたいな流れで。

 

 

 予想以上の速さで、俺の影響力が強くなってきていた。

 

 

 そうそう、取り立てて書くような事はない、とさっき書いておいてなんだけど、一個あったわ。コウタに会った。

 正直、会っただけならどうって事ないんだけどな。ゲームの登場人物に会って浮かれるような心境はとっくに通り過ぎたし、相手がヤローだから欲望もテンションも上がらないし。 

 

 ちょっと意外だったのは、会ったのがアナグラの中じゃなくて、居住区だってって事。どうやら既に訓練期間と初任務を終了し、休みが貰えたので家族の顔を見に来ていたらしい。

 そしたら、アナグラでも食べた事のないような代物が食卓に並び、あまつさえそれが妹が持って来たものだと聞いてビックリ仰天。

 何か危険な事に首を突っ込んでいるんじゃないか、と心配になったようだった。まぁ、当然の心配だな。

 

 そんで一緒に見にきたら、妙に規模の大きい(家庭菜園にしては、という程度だけど)菜園が出来ていたり、そこで何人もの人間が植物の育て方を教わっていたり、そもそも明らかに植物としておかしい植物(特に成長スピードが)が広まっていたりで、心底仰天したようだった。

 

 ちなみに、それを見つけて話しかけてみたんだが、コウタは俺の事を覚えていなかった。ま、当然か。会ったのはツバキさんの訓練中に一目だけ、と言うか俺が一方的に目撃したようなもんだし、例え顔を合わせて会話したとしても、地獄の訓練で覚えている余裕は無かっただろう。

 ただ、支部長直属かつ榊博士の妙な実験につき合わされている人が居る、という認識はあったらしい。ちょっと同情した視線を向けられた。…まだゴッドイーターとして働き始めて間もないだろうに、もうそこまでマッドだって認識してるのか…。危機感知能力高いな。いい事だ。

 が、別にこの野菜その他諸々は榊博士はノータッチだから安心しろ。中に妙なモノが入ってたり、劇物指定されるような農薬は使ってない。遺伝子操作だってしてないよ。

 

 

 追記

 どうやらコウタ、ノゾミちゃんにボーイフレンドが出来たんじゃないかと疑って見に来たらしい。流石に俺も手ェ出さないよ…ササユやコノハと違って明らかに違法ロリだし…。

 

 

 

神無月布団に入っても3時間くらい眠れず、結局6時までそのまま日

 

 居住区でコウタと顔を合わせてから、アナグラでも時々話をするようになった。…考えてみりゃ、仕事抜きでは初めて作った友人枠だな。

 リッカさんとかとはよく話すけど、専ら神機の事とか、提供したデータ(彼女が別ループで研究していた、リンクサポートとかね)とかの話だし。俺にしては珍しく、色事に結びつく気配は無い。

 

 …一仕事終えて汗を拭っている表情とか、タンクトップの隙間から見えた乳首とか、不意打ちでドキッとする事はあるけど。と言うかノーブラだよこの人。…この世界じゃ別に珍しくもなかったな。討鬼伝世界とMH世界で感覚が麻痺…というか普通の状態に戻ってたわ。

 

 最近、コウタはリンドウさんやサクヤさんとコンビを組まされているらしい。ああ、いつもの顔見世の時期ね。いつぞやでは、コウタがサクヤさんに懸想してたっけな。失恋してたけど。

 という事は、そろそろエリックが上田しそうな頃か? 暫く注意しておこう。

 コウタとは頻繁に接触しておいた方がいいだろう。コウタはGE主人公の立ち居地に居る訳ではないが、ストーリー侵攻には充分関わっている。コウタの任務を通して、進展度を把握できそうだ。

 

 

 ちなみにそのコウタには、「支部長直属と榊博士のモルモットと思われていて、友人ができない」と愚痴っている。同情的な視線を向けられたから、どうにかしようと動いてくれるかもしれない。意外と悪い人じゃない、という噂を流す程度なら。

 …友人ができないのは、俺とその環境に尤も大きな理由があるんだけども。 

 

 

 さて、今更で何だが、ちょっと復習。

 今回のループで俺がすべき事は、一言で言えば終末捕食の乗っ取りだ。それをするのに、何をすべきか。

 何を置いても、まずはノヴァの完成。これはアラガミを適当に狩って持ち帰れば、支部長がノヴァに食わせるだろうから気にしなくていい。

 次にやっておく事は、シオの隠蔽だ。本物の特異点が手に入ってしまえば、特異点モドキである俺を使う理由は無くなってしまう。

 

 …とは言え、まだ終末捕食を制御可能だ、と立証できてないんだよな。それをできなきゃ、終末捕食の乗っ取りなんて……いや、最悪シオを生贄にしようとしているところに乱入すればいいんだけどさ。

 それに、終末捕食がコントロール可能というのも、覚醒したノヴァに接触して俺がそう感じたってだけなので、もうちょっと細かい所まで情報が欲しい。榊博士には、霊力(という表現を使っていないが)こそが特異点としての働きをするキモと言ってあるし、そう遠くない内に何らかの見解を出すと思うが。

 

 この世界の食料革命もやるべき事だが、とりあえず今は足元…居住区から。それ以上を望むと、また前回のように破綻と言うか俺の手を離れてエライ事になる。

 

 

 あと、毎度毎度の事だが…リンドウさんの暗殺計画の阻止、アリサの解放+トラウマ克服、汚ッサンの削除…やっておかなければいけないのは、それくらいか?

 ぶっちゃけ、失敗してもループで挽回できるんだが…何せGEのシナリオをクリアしても、またGE無印の最初から状態。クリアしても無駄、ループも終わらない。成功しても失敗しても、全てが無しになってしまう。…これはアレだ、三途の川で石でも積んでる気分になるな。

 という事は、やってきて壊す鬼役はイヅチのヤロウか。…益々持って殺意が滾る。この世界に居ると、喰われたであろうシオの事と、そこから連想した千歳の事も思い出すからな。

 

 まぁ、こうやって目に見えた悲劇(それが後々の伏線だとしても)を出来る範囲で潰していくのは、やめるつもりはないけどな。俺にだって意地はあるし、それ以上に後味の悪い真似をしたいとは思わない。顔見知りが泣いてる顔が愉快にも思えない。後悔に馴れたくもない。酒が不味くなる要素を自分から増やすような生き方は御免だ。

 ループする上で、こういうルールを持っておかないと、それこそ精神ごとブッ潰れそうだし。

 

 

 んじゃ、とりあえず今からやれる事と言えば、榊博士の実験に付き合う事と、シオの捜索か。でも見つけたからってどうしようもないんだよな…。ん? 前も同じ問題にぶち当たったな。

 …同じ方法…野外で飼う?

 

 

 …とりあえず、見つけない事にはどうにもならんか。前回だと、アラガミ化状態…仮面ライダーアラガミでウロウロしていた結果、シオが興味を持って後ろからついてきていたんだよな。今回も…。

 あ、今回はダメだ。仮面ライダーアラガミの正体、もう支部長にも榊博士にもバラしちゃってるわ。発見されたら、何でアラガミ状態でウロウロしてるんだって話になる。

 ゴッドイーター達の目を避けて行動するのはそんなに難しい事じゃないが、ピンチを見かけたら助けるだろうからな。正体不明の謎の怪人(ライダーだけど)が、突然お助けに来るようになるとか…噂話になるのはほぼ確実だな。支部長にも洒落にならない勢いで怒られそうだし、却下だ却下。マスク・ド・オウガの名前は断固拒否します。仮面ライダーアラガミだっての。乗り物無いけど。

 とりあず、上田さんを助ける時は人間姿で行くかな。

 

 

神無月酒呑まなかったのが原因か、それとも空腹か日

 

 …上田さんことエリックさんが、直接会いに来た。アッルェー、ナンデー? まだ上田もしてないし、防いでもいないよ?

 

 相変わらずいい空気吸ってるな、この人。とにかくテンションが高い高い。…と思ったが、どうもそれは外面だけのようだ。内面観察術で見てみたところ、中身はなんというか…意外と真面目と言うか、妙に冷静な感じだ。この言動は、周囲の空気を少しでも明るくする為にわざと振舞っているのか? 服装も考えれば、色々な意味で『オサレ』の称号が似合う人ではあるが。

 で、結局何の用事かと言うと…顔見世の時に配った食べ物について聞きたいのだそうだ。ああ、確かに菓子折り配ったけど。MH世界産の奴を。

 大体の人は「珍しい」「超レアで高価」くらいにしか考えなかったようだが(そしてそれ以来、期待の視線を度々感じるようになったが)、どうやらエリックさんにとっては別の価値がある代物だったようだ。

 現在、人類が徐々に資源を食い潰して滅びに向かっている事、それを覆す為に新たな何かが必要な事を力説された。…確かに、前回ループでもこんな事を言ってたな。『新しい輪』って呼んでたっけ。

 

 まぁ、こっちとしてはエリックさんに協力しない理由は無い。現在、居住区で一般人相手に植物の育て方講座を開いていると教えたところ、是非ともみに行きたいとの事だった。来るのはいいけど、用心してきてくださいよ。多少はマシになりつつあるとは言え、フェンリルの人間に対して風当たりが強い場所だから。…変にテンション高くして叫んだりしないように。

 多分、この人なら周囲の噂とか気にせずに…或いは分かった上で色々と良くしてくれそうだ。死神と呼ばれるソーマの隣で平然と戦っているのは伊達ではない…上田になっちゃうけど。

 

 という訳で、一緒にミッションに行こうと誘ってみた。勿論、例の上田さん誕生(一般的には死亡だが)の場所のミッションだ。今回で上田が防げればそれで良し、そうでなくても上への注意が散漫だった、とか言っておけば多少マシになるだろう。

 

 

 

 

 

 ミッション終了。

 上田は無し。防いだって事じゃなくて、今回オウガテイルが居なかった。

 上への警戒が薄いって事は何度も念押ししておいたし、事実ザイゴートに奇襲を食らいかけたので、本人もしっかり反省している…多分これなら大丈夫、だと思う。

 

 それは良かったんだが、なんかソーマにメッチャ睨まれてるんですが。比喩抜きでこう、ギロッて感じで。冗談抜きで、下手すると斬りかかってくるんじゃないかってレベルでした。

 …俺、何かやったか? と思っていたら、割と答えは簡単だった。

 

 そーだね、俺支部長直属の、ポッと出てきた得体の知れない奴だもんね。

 お父さん大嫌い状態(しかもグレるのも当然なレベル)のソーマが、仲良くする筈ないわ。むしろ何企んでんだって顔だった。余計な事をするなって威嚇されてたのね。実際、終末捕食の乗っ取りを企んでるんで、色々な意味で反論できません。

 

 

 ハァ、どうしたもんかな。今ならアラガミ化無しでも、互角以上には渡り合えると思うが、こっちとしては戦う意味が全く無い。

 流石にソーマも直接襲い掛かってくる事はないだろうし、アイツが政治的と言うか間接的な手法を使えるとも思えん。コネらしいコネも無さそうだし…放っておくしかないんかな。

 

 支部長から見ても、ソーマは…私情を除けば、現時点では単に使える手駒以上のものじゃないだろう。特異点や終末捕食をどうにかできるような存在じゃない。シオに懐かれるという予想外のファクターが入って、初めてソーマは舞台に上がる事になる。

 つまるところ、俺とソーマの間の確執は、一人と一人の間の問題でしかないって訳だ。ついでに言えば、色々な意味で一方的な。

 

 …助けが期待できんなぁ。誰かに口添えしてもらっても、ソーマが耳を貸しそうにない。唯一の例外と言えばエリックくらいか。…意外と視野が広くてマトモな人だってのは今までの経験でわかってるんだが、正直居ない方がマシな援軍のような気がする。

 前みたいに飯で釣る手も使えない。恒常的に流せるような量は生産してないんだよな。

 

 うーん、どうしたものか…結局放置しかないかなぁ。

 

 

 

神無月それとも催眠音声聞いたのが悪かったか日

 

 

 最近、技術者連中が騒がしい。どうも、色々と渡したデータが、続々と再現されているらしいのだ。

 研究中だったポール型神機から始まって、オラクルリザーブやステルスフィールドなど、戦術革命を起こしかねない技術がワラワラあったからな。

 

 その件についても、最近リッカさんとよく話す。一番多い話題はリンクサポート。今までのループでリッカさんが研究していたのに協力してたけど、まだ完成には至ってないんだよな。

 と言うか、確かGE2でも「何故動くのか分からない」とリッカさん自信が言ってたような気がする…。

 

 それはともかく、ゴッドイーター達に一番人気がある…というより興味をもたれている新技術は、やはり新捕食形態。次点で、ガンナー達から圧倒的な支持率を誇るオラクルリザーブだ。

 ま、納得の理由ではあるな。捕食攻撃の幅が増えれば、バーストモードへの移行も簡単になる。とは言え、捕食攻撃で俺以外のゴッドイーターに出来るのは、精々空中捕食くらいなんだけどな、今のところ。今後は神機に組み込まれている拘束具の位置や強弱を調整し、捕食形態の自由度を上げ、同時に暴走もさせないバランスを追求するそうな。

 ガンナー(ブラスト使い限定だけど)達のはもっと単純な理由で、「予めオラクルを溜め込んでおけば、弾切れしにくくなる」という理由だ。旧型神機の銃は、敵を切りつけてオラクルを溜める事ができないからな…。弾切れ=戦力外通告なんだから、それを防ぎやすくなる技術は人気が出て当然だろう。

 

 

 

 

 …で、そこで何で俺に外部協力依頼とか来るんですかね。確かに俺が齎したデータではありますが。

 しかも時系列コレどうなってんの…。

 

 支部長から命令されたのは、少なくとも一ヶ月以上先になりそうだが、他所の研究機関への協力だった。しかも、神機兵の。

 

 …まだGE無印時代だよ? リンドウさんMIAすらしてないのに、何でGE2の話に関わる羽目になるんだよ…。

 何でも、特に注目されているのがオラクルリザーブで、これを応用して神機兵のエネルギー改善…つまり電池代わりにできないか、とか思われているらしい。それが可能か不可能なのかは、俺には分からんが…そもそも、神機兵の研究ってどれくらい進んでるんだろうな?

 GE無印が約3~4ヶ月の話しとして、GE2の時期までどれくらいかかる? 『あの』ソーマが一端の博士してるんだから、少なくとも1~2年くらいは経過していると思うが…。

 

 仮に現在からGE2の神機兵稼動までが3年とすると…今、神機兵ってどこまで出来上がってんのやら。

 いや、それよりもあの喪服博士と関わる事になるんじゃないか?

 

 …興味は、あるな。画面越しで見ても、あの胡散臭い事この上ない博士がどんな奴なのか。どっちにしろほぼ確定で敵対する奴なんだから、顔くらいは拝んでおいてもいいだろう。

 ヘタをすると、今この瞬間にも何かしらの動き、策謀を巡らせているかもしれないのだ。実際、何時ぞやのループでは何故かナナを荒野に放り出したりしてたし。

 

 

 しかし、一ヶ月くらい先…ね。命令されてしまった以上、断る事はできない。つまり、暫く極東に戻れなくなる可能性だってある。

 多分、ラケル博士はどういう意図にせよ、俺を手放そうとはしないと思う。現状、どうやらGE2のジュリウスも血の力に目覚めてはいないようなので、俺が唯一の使い手という訳だ。実際は霊力だが。

 貴重なサンプルとして見られるか、或いは終末捕食を自分の手で起こそうとする場合の障害として見られるか。

 

 …実験とか研究の協力依頼、ウソではないけど、本命はこっちだろうな。神機兵じゃなくて、血の力の研究。

 大っぴらに明言しないのは、血の力自体がまだ眉唾物である事と…「こいつを使って終末捕食を起こせますか?」なんて堂々と聞けないからだろうな。

 

 と言うか、ラケル博士と支部長は、互いの思惑を何処まで気付いているんだろうか。ラケル博士が真っ当な人間じゃないって事くらい、支部長はとっくに気付いているだろうが…ラケル博士の曲者っぷりもなぁ。まさか脳ミソをアラガミの考え方に乗っ取られてる、なんて考えるだろうか? いや、支部長にしてみればありえる可能性ではあるのか? ソーマにアラガミ因子を投入する時点で、考えられる限りの想定をしただろうし、その中にあってもおかしくはない。

 二人の目的は、全く違うようで似通っている部分が多い。終末捕食自体は、ラケル博士にとってはアラガミから囁かれ続けた目的であり、支部長にとってはアラガミを駆逐する手段。終末捕食を起こしはしても、コントロールして人間を生き残らせるのが支部長の考えであり、逆に一切をあるがままに任せ、命の再分配を行おうとするのがラケル博士だ。

 

 …互いの目的をある程度察知しつつ、利用しあっている…んだろうな。

 何にせよ、確かに一度は顔を見ておいた方がよさそうだ。思考回路が文字通り人間とは懸け離れてるから、本来なら登場しないこの時期でも何をやらかすか予想もつかん。内面観察術で、何が見えるか…流石に直視した瞬間にSAN値直葬でデスワープは無いと思うが。

 一回だけでも顔を見て、その印象を今後に活かせればいいんだが。

 

 

 ま、とりあえず出発は一ヶ月以上後という事だし、それまで出来る限り根回ししとくかな。

 

 

 

-追記-

 

 どうでもいい事だが、出発までに一ヶ月以上の間があるのには明確な理由があった。支部長曰く、

 

「人事異動の通達は、最低でも1ヶ月以上前に、と社内規則で決まっているのだよ」

 

 だそうな。

 

 

 

 

 

 

神無月一番ありそうなのは、生活リズムがそうなっている事か日

 

 榊博士の実験に付き合っていると、予想外の情報が手に入った。間もなくアリサが極東支部に到着するらしい。

 えらい早いな? いや、これくらいの時期だったっけ? しかしストーリー的には、まだコウタのコンゴウ討伐もまだのようなのだが。

 

 俺が異動するちょっと前くらいにアリサ到着か…。いや、ひょっとしたらアリサの到着に合わせて、俺を異動させたのかな。戦力の補充が出来たから、怪しげな俺を別の所に移そうと?

 どうしたものかな…。何をするにしても、極東支部から離れると手の打ちようが無くなってしまう。

 と言うか、ラケル博士って今はどの辺で活動しているんだろう? GE2じゃ、移動要塞作ってその中に居たからなぁ。

 

 何れにしろ、アリサ到着から俺出発までの間に、汚ッサンを片付けてしまいたい。リンドウさん暗殺も、恐らく俺が居る間は起こらないだろうし…前回のツバキさんと同じ手は使えそうにない。となると、やっぱり背後から一突きして、後はアラガミに任せるべきか。

 とりあえず、アリサと汚ッサンの移動経路を調べてみますか。ターミナルを使って、飛行機の到着時間を調べて…でもどれに乗っているかまではわからない。異動の日時が分かれば、もうちょっと絞り込めるんだが。こう言う時、ハッキングとかできればいいんだけどな。

 

 

 

 うん?

 

 

 

 待て待て、それ意外とどうにかなるんじゃね? ハッキングもだけど、ラケル博士の所に行った後の移動手段も含めて。

 ついこの間思い出して実験し、迂闊に使えないと封印したダイヴイン能力。電子と情報の海に飛び込む手段。

 あっと言う間に迷子になりかねない、と敬遠していたが、逆を言えばそれをどうにかしてしまえば、移動手段としては非常に有効な物になる。英語で言うとファストトラベル機能。

 また、ダイヴインした状態で、そこら辺に見えるオブジェクトを壊してみたらどうなるだろう。電脳空間でのオブジェクトは、情報やら何やらが可視化したもの、というのが定番の設定。それを直接引っぺがしたりしたら? 外装部分だけを削り取って、中身を覗き込む事はできないだろうか。

 移動にしたって、要するに目印があればいいのだ。幸い、インターネットにはメールアドレスという非常に特徴的な目印がある。何処からでもアクセスできるようなメールアドレスじゃなくて、端末本体に設定さたメールアドレスに向け、メールを飛ばす。すると、ダイヴ・インした状態から見ると、手紙がそっちに向けて飛んでいっているように見える訳だ。それを追いかけていけばいい。

 …ま、あくまで机上の空論と言うか、よくある設定だと…って話だけどな。

 

 うーむ、非常に危険な実験のように思えるが、上手く行けば超がつくほど活用できそうだ。GE世界限定だけど。試してみる価値は大いにある。

 よし、早速実験だ。

 

 

 

 

 

 

 実験終了。

 とりあえず、実現には幾つか問題がある事は分かった。

 まず、オブジェクトを壊したりしたら?という実験だが…こっちは特に問題は無い。慎重にオブジェクトを扱わなければ、余計な情報まで壊してしまうけどな。飛行機予約の情報を見る為に手を伸ばしたはいいが、余計な所に触れて飛行機発着のスケジュールのデータが滅茶苦茶になった、なんて事になりかねない。データベースに触れる時は注意が必要だな。

 

 次に、メールを送る事で移動先までのナビにしよう、という案件だが…根本的な問題が一つあった。俺がダイヴしている状態で、誰がどうやってメール送信のボタンを押すんだよ、って話しが。まぁ、この辺はタイマー機能でどうにかしたが。

 それより問題だったのは、こっちだ。ナビゲーションことメールの移動速度だ。考えてみれば当然なんだが、メールと言うのは非常に素早い、優れた連絡手段だ。それこそ、日本の最北端から最南端まで、5分とかからず連絡が出来るくらいに(通信設備があれば)。そんなメールをナビに使おうとしたとして、ついて行けるだろうか? 電脳空間という特殊な場所とは言え、日本を5分で横断できるスピードなんて、とても目視できねーよ。

 まぁ、そのメールが送られていった筋道に目印みたいなものが出来てたんで、これを追いかけていけばどうにかなると思うが…。

 

 とりあえず、移動手段の問題は何とかなりそうだ。最悪、汚ッサンも適当なタイミングを見計らって戻り、上手い事始末しよう。

 

 

 

 

 

 



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150話

宣言通り、隔日投稿。
次の投稿は3日の9時からですな。


 

神無月ウェイパー、美味いけど缶デカすぎ日

 

 朝っぱらから狩りをしつつも、ダイヴイン能力について調べる事約2週間。順調と言えば順調か。

 少なくとも、ミッション現場の中継機器を介して、アナグラの中に戻る事はできるようになった。更にそこから別の現場に移動し、ピンチなゴッドイーターをコッソリ助けてまた戻る、という事を繰り返す。大丈夫大丈夫、バレてないバレてない。

 と言うか、普通人間がネット回線とか通じて移動できるなんて考えないわな。万一現場で俺が目撃されても、支部長直属の俺は「秘密特務中なんだ、誰にも言わないでくれ」の一言で済む。秘密なのになんで助けてくれたんだって言われたら、仲間を見捨てられなかったとかで誤魔化そう。まぁ、まだアラガミも大して強くない時期だし、ステルス暗殺ばっかしてるから誰にも気付かれてないんだけどね。

 

 …と思ってたら、ヒバリさんから「アラガミの反応が突然消滅する謎の現象」について聞かされた。何かの前触れかもしれないので注意するように、だそうな。…前触れでも何でもないです、御免なさい。でも助かるゴッドイーターが多いだろうから勘弁してね!

 ともあれ、これなら多分、ラケル博士の下から一気に戻ってくる事も出来ると思う。でも使うタイミングは考えた方がいいよなぁ。ラケル博士だって流石にこの能力は予測してないだろうし、何かあった時の貴重な逃走手段になる。そもそもラケル博士のお膝元じゃ、何が仕掛けられているか分からないしね。

 

 

 それはともかく…今回アリサはどうするかなぁ。汚ッサンを始末するのは言うまでも無いが、その後のフォローが問題だ。

 昏睡状態になったのは………考えてみれば、ループでは1回だけだったっけ? あの時も、結局感応現象は起こせなかったが…。そもそも昏睡になったのも、催眠+何かしらの投薬の可能性が非常に高い。汚ッサンを始末しておけば……いや、トラウマのフラッシュバックで錯乱+気絶まではするだろうから、支部長が別の誰かに投薬を命じれば同じ事だ。

 それに、一番厄介なのは気絶なり昏睡なりから目を覚ました後か。人間関係最悪、自信喪失、情緒不安定…防ぐつもりではあるが、場合によってはリンドウさん死亡の原因にさえなっている。ここから復調するのに、どれだけかかるやら。

 今までは…まぁ、真っ当とは言えない方法でだが、アリサを俺に依存状態にさせて、それで何とか保たせてたな。だが今回はその手は使えそうにない。俺自身が殆ど(表立っては)アナグラに居られないんだし。

 

 …他の誰かがフォローしてくれる、って考えもあるにはある。例えばコウタなりリンドウさんなりだが……もし、それでアリサがコロッといったら? 弱った所に頼れる人間ができれば、ついついそっちに傾いてしまうのも人の常。もしもそれでアリサが…と思うとなぁ…なんかイライラする。

 恋人とかじゃなくて所有物に対する独占欲、という自覚はあるんだが、苛立つものは苛立つ。かと言って、リンドウさん暗殺計画が全く発動せず、挫折もしなければ、アリサはツンケンしたまま馴染めない…いや、そっちは催眠のせいなのか?

 

 

 

 そうだ、アナグラ以外の人間に頼ってみるのはどうだろう? 相手がゴッドイーターでなければ、アリサもそうツンケンしない…と言うよりできないだろう。一般人には旧型とか新型とか分からんし。居住区の一般人とかな。

 幸い、ここの所菜園は盛況していて、俺の影響力も思った以上に強く広くなってきている。俺が仲良くしておいてくれ、と頼めば…まぁ、ちょっとアカン態度をとったくらいなら、なんとかセーフなんじゃなかろうか。アリサをどうやって菜園に行かせるかと言う問題もあるが。

 

 

 

神無月普通の卵と温泉玉子の見分けがつかない日

 

 アリサ、来日。何度目だろうな、このシーンに立ち会うの。もういい加減、この時期のアリサはツンデレのツン分を補給する為だけに存在している気がしてきた。

 で、紹介されるなり速攻でケンカを売るアリサ、罵倒された事に気付いてないコウタ。

 

 …で、なんか俺にだけやたら強い視線を送ってくるな。決して友好的なものじゃないが。ま、例によって新型使いへの対抗意識か。更に言うなら、今回は支部長直属という明らかに重役なポジションを持ってるからな。対抗意識も一入か。

 まぁ、そんな俺も数日後にはラケル博士のトコに行かなきゃならん訳ですが。小細工や根回しする時間がまるで無いな。とりあえず、菜園にはアリサの事は伝えておいたが。

 

 …支部長に頼んで、アリサも菜園の手伝いをするように命じてもらうか? 極東名物、仮にアラガミに侵入されたとしても、絶対に奪われてはいけないものって名目で。

 まー間違ってはいないよな。この世界の食糧事情を一変させた実績(ただし知っているのは俺だけ)がある代物だし、今となっては居住区一般市民の不満を上手いこと抑えてくれている。生産量さえ上がれば、支部長にとっても強力な手札になる。

 ついでにノウハウを覚えて来い…って命じられたら従うかな? 前回はNOUKAになろうとしてたし、そこまで抵抗は無いと思うんだが。

  

 

 

 

 とにもかくにも、まずやっておくべき事は一つだ。さぁ、闇系の仕事のお時間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ではなかった。

 

 

 何が影響したのか、汚ッサンは到着が遅れているらしい。到着は、どう考えても俺が出発した一週間以上後。

 ま、特に影響は無いな。例のメールと電脳空間を使った移動が上手く行けば、だけども。上手く活用できれば、いいアリバイになってくれる。アナグラに居ない俺が、どうやって汚ッサンを暗殺できるというのか。

 その代わり、万一にも映像に残ったりしたら、それこそ『何故ここに居る』って事になっちゃうが。

 

 

 

 

 

 

 

神無月調味料ばっかり買い込むクセがある日

 

 

 ラケル博士の所への出発準備中。ただし狩りはする…準備って言っても、そんなに時間かからないしね。持って行くモノは、基本的にふくろの中に入ってるし。

 あからさまに対抗意識満々のアリサは、俺と一緒に狩りに行って実力を…とか思っていたようなのだが、出発の準備で忙しいねん。1行前と言ってる事が逆だけど。

 実際のトコ、アリサが起き出してくる前に一狩り行ってただけなんだけどね。最近じゃヒバリさんも手強くなってきて、あんまり連続での狩りを認めてくれなくなっている。だったら無断で、と思ったが、支部長から直々に説教付きで禁止令を食らってしまった。

 言ってる事は分かるけどね…。アラガミだって食物連鎖が成立している生態系を持ってるんだから、何も考えずに狩ると縄張り争いでしっちゃかめっちゃかになる。それに、適当に狩った相手が他のゴッドイーター達の標的だったりして、混乱を招く事だってある。

 …前回ループで、リンドウさんに同じような事言われたなぁ…。

 

 

 

 

 だが出撃する。大丈夫だって、ちゃんとアナグラから離れた場所でやるからさぁ。じゃなかった、狩りじゃなくて菜園行くだけだから! だったら神機置いてけ? 聞こえんなぁ!

 という訳で行ってきまーす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒバリちゃんの頼みだー、って言ってタツミさんが立ちはだかったんですが。なんか久しぶりっすな。

 おお、流石はベテラン防衛班。侵入者を阻む技術には定評がありますな。今回は逆に俺が外に出ようとしている訳ですが。

 通路の出入り口に立って、見事なポジショニングで俺の逃亡を阻止しようとしている。スラムダンク張りにディーフェンスディーフェンスと口ずさみそうになった。

 

 チッ、フェイントにも殆ど引っかからない…。専守防衛状態だから、隙を突くのも難しいな。

 

 そんな事をやってたら、何故かジーナさんまで参加してきた。今回ループでは、顔を合わせるのは3度目くらいだったかな…。挨拶回りの時と、任務一度一緒になった時、そして今回。

 あんまり深入りしてこようとしない人なんだよなー。鬼杭千切を見た時は、スゴイ勢いで迫ってきてたけど…今回は特に距離を置かれている気がする。やっぱ立場か? 支部長直属だからか?

 むぅ…最期の事を考えると、あまり深入りしない方がいいとは思うんだけど。

 

 流石に防衛班の凄腕二人と言うべきか。無駄に息の合ったコンビネーションだ。と言うかジーナさん、何で参加してんの? …ヒバリさんに頼まれた? ああさいで。

 ぬぅ…突破口が見えん。玉砕は趣味じゃないし、別ルートを使うとなんか負けた気がするし…どうしたもんかと悩んでいたら。

 

 

 

「私もお手伝いします!」

 

「「いやちょっと待て」」

 

 

 

 誤射姫様、降臨! 実にナイスタイミング! 単純に考えれば敵が増えたんだろうが、今の誤射姫様は武器無し通常モード! つまりおっとりさんである。ぶっちゃけ、手伝ったところで連携を乱す要素にしかならんのだ! まだまだ経験も浅いだろうしね。

 と言うか、ヒバリさん声かけすぎでしょ…どんだけ俺を止めたいんだ。

 

 ま、いーや。チャンスチャンス。

 隙見てダッシュ!

 

 

 

「ていっ!」

 

 

 ……だがカノンさんに捕まりました。いや、そりゃ余裕で避けれるスピードだったんだけどさ…なんだ、そのジャンプして飛びかかってきたから、揺れがね。つい目が行って、色々ヤッた事を思い出して、避けるのを忘れちゃって…。

 まぁ、そのまま逃げたんだけどね。カノンさん、俺に腕回して掴まったと言うか捕まえたまま。人間一人の重さなんぞ、MH世界の大剣に比べりゃ軽いもんだって。意識もあるから、運びにくくもないしね。

 

 

 

 アリサ? 唐突に繰り広げられる、無駄に洗練された無駄の無い無駄な争いに、あっけに取られてたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、(背中に巨大ブラスト砲を感じつつ)出てきたはいいんだが、カノンさんが居ちゃあな…神機も持ってないから、一緒に狩りに行く訳にもいかん。

 なので、菜園に連れていきました。ガキンチョ共や、常連になってる人達からデートデートと囃し立てられたけど、今回ループじゃ普通に初対面なんですが。挨拶回りした時も、まだ着任してなかったみたいだったし。

 

 菜園を見て、えらくはしゃいでいたなぁ。この世界の人間からすれば、大人しいくらいの反応かもしれんけど。カレルさん辺りが見たら、卒倒するか激怒するかだろう。黄金に等しい植物達を、警備体制が限りなくザル…を通り越して枠のみレベル…の状態で放置してるんだから。実際、前回は資金繰りが拙すぎるって怒られたっけか。

 ちなみに、カノンさんが特に反応したのはサトウキビだった。そういや、前も天然の砂糖をダシにして躾けたっけな。

 とりあえず、手入れの方法を教えて、管理を任せる事にした。報酬として、収穫・加工して出来上がった砂糖をいくらか分ける。カノンさんは砂糖が手に入り、俺は菜園を一部とは言え任せられる相手が出来て、更に誤射姫様が菜園にかまける事でゴッドイーター達の被害も減る。いい事尽くしだね。

 今まで一般人のみだった菜園に、突然ゴッドイーターが参加するとなると、そこそこの反発は予想されたが…そこは見た目カワイイ系のカノンさん。割と素直に受け入れられた。一番反発がでかかったのは、女性陣からだったね。ナニよあのオパーイ、パルパルパルパル…って感じで。反発でかいのも仕方ないね、それだけ柔らかくてハリがあって大きいからね。実体験で知ってます。

 

 

 

 

 

 尚、菜園での作業をそこそこで切り上げてアナグラに戻ると、ヒバリさんがカノンさんにメッチャ感謝していた。俺が狩りに出るのがそんなに問題か。

 …問題なんだろうなぁ。まぁ、明後日くらいまでの事なんで、我慢してくだちゃい。

 

 

追記

 

 そーいえば、タツミさんはヒバリさんからお礼言われたんだろうか? その辺はちゃんとしてそうだけど、ヒバリさんってタツミさんの扱いが軽いような気もするし。

 少なくともデートは無理だったんだろうな。

 

 

 

 

神無月やはり塩が基本か…だが岩塩日

 

 

 朝っぱらから待ち構えていたアリサと狩りに行った。「新型同士の情報交換」と言ってたが、そういうセリフは対抗意識満々の目の光を消してから言いなさい。

 

 

 昼になるまでには、その光はほぼ消えてたけど。

 

 

 今回は割と大人し目の事しかしてないと思うんだけどな。オウガテイルをアサシン式に上田する事から始まり、コクーンメイデンを足場にしつつ上からブッ刺して空中捕食してエネミーステップ、滑空突進するシユウを一本背負いからの関節技、回転して突っ込んでくるコンゴウの目玉をノータイム狙撃で打ち抜いて、擦れ違い様にグボログボロを横一文字に分割。何故か突然出現したサリエルは、グッとガッツポーズすると同時に爆散した…単なる破敵之法だけど。

 …うん、あんまり量狩ってないし、乗り攻撃もやってないし、霊力も一回しか使ってない。後はゴッドイーターとしても基本的な能力ばっかりだと思うんだが。

 

 

 そんな事を考えていたら、「それは何ですか!?」ってアリサに問い詰められた。それってドレよ。……空中捕食? ドローバックショット? それともブーストハンマーの事か?

 全部か。

 

 いや、何って言われてもなぁ。最近極東で盛り上がってる、新機能と新戦法ですが? 知らないの? ウプププ、遅れてる~。

 自分が使ってるのが新型の筈って? ああそうだよ、神機は新型だね、神機は。でもこれは神機自体の機能じゃなくて、使い手が扱う新戦法だから。…いや、ブーストハンマーは新機能っちゃ新機能だけど。ん? ブーストハンマーに切断属性ついてないよ。グボログボロを上下に分割したのは、単純な技量の問題で。

 

 …えらいショックを受けた顔をしている。自分が最新鋭の筈、というプライドに皹が入ったか?

 よし、追撃しよう。

 

 

 時にYou、エルフって知ってるかね? 言うまでもなく架空の生物(少なくともこの世界では)だが…いやトールキンとかじゃなくて、日本文化のエルフなんだが。知らんか。

 まぁとにかく、エルフってのは大概美形で寿命が長くて自然崇拝者で、とにかくプライドが高いと言われててな。自分の種族こそが至高とか言ってるワケよ。

 で、森に閉じ篭って他種族を見下して、その内オークとかに…いやそれは置いといて。

 そんな種族が居たとして、いつまで「自分たちは至高」とか言ってられると思うかね? 外の世界が変化して進歩しているのを他所に自分の世界にだけ閉じ篭って、「自分達最高」って言い続ける連中が、どうなると思うかね?

 

 ふと気が付けば、森の外はアラガミだらけ。当然、神機も無いからアラガミに対抗なんかできやしない。自称至高の種族は、何時の間にやら時代遅れの弱小種族、ブタと揶揄されていた種族にも見向きもされなくなっていて、しかも他人を見下しまくった結果人望すらなくなっておりましたとさ。

 周囲に頭下げまくってアラガミから助けてもらい、何とか時代に追いついたはいいものの、「自分達マンセー」時代は黒歴史扱いされているとか何とか。

 

 

 ん、何が言いたいかって? いや、単にこの場で思いついた即興の物語を語ってみただけだが?

 何か感じるものでもあったなら、自分で考えてみてもいいんじゃね?

 

 ……うーん、それにしてもくっ殺役が似合いそうだな、アリサ。(ツバキさん相手にやった事あったけど、アレはいいものだ…)

 

 

 

 

 イマイチ意味は分からなかったようだが、目の光が完全に消えた。うむ、とりあえずこれで各方面にケンカを売る事は無いな。

 と言うか、真面目な話、メンタル弱すぎじゃね? 確かにそこそこの実力差は見せ付けたけど、後は単なる例え話しただけよ? 極東に来てからの間、汚ッサンの洗脳を受けてないから不安定になってんだろうか?

 

 

 

 

神無月梅が結構美味くて汎用性高い日

 

 ラケルてんてーのところへしゅっぱつのひ、なのです。…変な喋り方するもんじゃないな。

 

 まーとにかく出発だ。結局アリサの心を圧し折ったままだけど…まぁ、何とか大丈夫そうだ。

 意外とダメージが少なかったのか根性があったのか、或いはなけなしのプライドが言われっ放しで終われないと思ったのか。極東で開発された(データは俺が齎したものだが)新技術を自分から学びに行っているようだ。

 技術者の方からも、割と歓迎されているようだ。あっちにはそれ程ツンケンした態度を取ってなかった事もあるし、貴重(かつ真っ当)な新型神機のデータは、喉から手が出る程欲しかっただろう。…俺の神機は色々と参考にできんからな…。

 それに、俺はこれから暫くアナグラには居られないから、データ取りの協力もできないしね。リッカさんにはブーブー文句を言われたが、正式な人事だから仕方ない。

 

 

 そんじゃ、行ってきますかね。カノンさん、菜園の事よろしく。コウタも、ノゾミちゃんによろしく言っておいてーな。休暇を取ったら様子見に帰ってくるから。

 

 

「はい! お待ちしてます! 帰ってきた時には、砂糖の作り方を教えてくださいね」

 

「菜園に関しては大丈夫だと思うよ。あそこの世話になってる人達が、闇系の手段を使ってでも防衛すると思うしさ…」

 

 

 …菜園は既に、居住区の聖域と化しつつあるようだ。あまりエスカレートすると、カルト系教団の聖地状態になってしまいそうだが。価値を考えると、割と洒落にならない。

 

 

 

 さて、そんじゃ指定された場所まで車で移動します。おお、カーナビ付きで親切設計。

 ……免許? 持ってるよ。元の世界じゃ持ってないし、GE世界以外じゃ自動車自体無いけど。…戸籍が無くても免許作れるのかって? 作るだけならできるよ、支部長にでも頼めば…。

 

 ……実際に自分で運転するのは、これが初めてだけどね。他の車や通行人が居るでもなし、アラガミは轢いても全く問題がないし、どっかの建物に直撃して炎上崩落とかしても俺は生き延びられるから問題ない。

 いい子も悪い子も真似しちゃアカンぜよ。

 

 

 はー、しかし妙な所で妙な技術が残ってる世界だ。カーナビはリアルタイムで自分の場所と、そしてアラガミの位置が表示されている。レーダーとかじゃないな。範囲が広すぎる。

 多分、何らかの手段で観測したデータを、無線を使ってカーナビが拾っているんだと思うが…この荒廃した世界で、よくそれだけの技術を残せてるものだ。

 

 

 

 さて、合流先は…フライヤ。……フライあ? ブラッドの拠点となる、移動要塞……の、建設予定地だ。既に建設は始まっているが、出来上がっているのはガワだけらしい。意味ねーじゃん。

 と思ったら、ブラッドの研究の為の施設事態は出来上がっているとか。

 

 …で、そのブラッドは? ジュリウスの血の力は? 目覚めてない?

 ……で、その血の力が目覚めたとして、なして態々施設を移動させるん?

 

 

 …移動要塞の意味あんの? 誰だったか忘れたけど、アイドルの付き人だかマネージャーだかが金の無駄遣いって言うのも分からないではないな。

 ていうか移動要塞だったら、せめて攻撃能力つけようよ、アラガミにも効く奴を。飛行船にだって古龍に効くバァルカン!付けられたんだから、難しくないって。こう、神機のオラクルバレットの要領で…。

 

 

 

 …この手の話は、ラケル博士本人にするかね。提案を聞くとは思えないが、どういう反応をするかだけでも情報にはなるだろう。

 

 

 

 

 

神無月豆腐茶漬けも続行中日

 

 

 丸一日くらい車で走り続けたが、アラガミが妙に湧いてるおかげで、散々大回りする羽目になった。これなら、俺が自分で走った方がよかったんじゃなかろうか。車も貴重なら、燃料だって更に貴重な資源の今日この頃である。

 

 で、ラケル博士は研究で忙しいって事で、姉のレア……は、博士なんだっけ、この人も? ゲームでは悪女染みた外見とは裏腹に、ヘタレだった覚えがあるんじゃが。あと、何故か舌にフェンリルの刺青?が入っている。とにかく、レア(多分)博士が迎えに来てくれた。

 おお、泣き黒子が色っぽいな。後おっぱいと絶対領域。

 美人は美人なんだが…なんだ、なんつーかイメージとちょっと違うかな。一見すると大人っぽいしスタイルいいし、派手目な美人ではあるんだが……うーん、なんだろ、この違和感。

 

 まぁとにかく、俺がこっちに派遣された理由は聞いているそうな。表の理由は、現在滞り始めている、神機兵の研究協力の為。裏の理由は…ぶっちゃけ、バレても眉唾扱いされるだけで大したデメリットは無いんだが、ジュリウスでさえ未だ発現してない血の力の研究の為。

 …その更に裏がある、というのは聞いてないようだな。つまり、血の力こと霊力で、終末捕食を起こす事は可能なのか、という調査だ。

 そもそもこの人、ラケル博士の中身についてどれくらい知っているんだろうか。ゲームでは『ラケルに支配されていた』みたいな事言ってたから、マトモじゃないのは理解しているだろうけど。

 

 

 ともあれ、とりあえずレア博士は友好的だった。血の力を使える、という点に関しては信じ難いと思っていたようだが、それは実演すれば済む話だしな。

 案内されている時に聞いたんだが、本当ならブラッドの隊長になる秘蔵っ子が、俺を迎えに来る筈だったらしい。まぁ、それが道理っちゃ道理だよな。血の力を発現させようと、今現在最も四苦八苦しているのはジュリウスだろう。次点でロミオかな。そりゃ、ポッと出てきて自由に使いこなせます、みたいな俺に対して、無関心で居られる筈も無い。良くも悪くも。

 実際、ジュリウス(まだ名前は聞いてないけど)が迎えに志願していたのだが、ラケル博士がそれに待ったをかけた。重要な実験がある為、ジュリウスもロミオも外せない。だから姉さん行ってきて…という事らしい。

 

 

 これは深読みすべきかな? とりあえず、本当に重要な実験だったとしたら、同じ博士であるレア博士を外すのも妙な話だ。…単に専門外分野だから居ても仕方ない、という事かもしれないが。もっとありそうなのが、レア博士を完全にパシリ扱いしている可能性だろうか。

 

 

 

 追記 話す時よく見てみたら、舌にあるのは刺青じゃなくてピアスだったっぽい。…なんでそんなトコに付けてんだ。

 

 

 

 

 

 さて、レア博士に案内されて、フライア内の俺に当てられた一室に来たんだが…どうも落ち着かないな。ま、それも当然か。ラケル博士はどうだか知らないが、少なくとも俺はラケル博士をほぼ敵認定しているし。つまり、ここは敵のお膝元どころか、手の中腹の中。安心して休める筈も無い。

 …実際、視線を感じたり、部屋の隅っこのコンセントから不自然な機械音が聞こえたりするしな。ハンターの聴覚を誤魔化そうなんざ、千年早いわ。

 監視されているのは不愉快極まりないが、迂闊な行動を起こせないのも事実。最低限、ラケル博士のツラ見るまでは大人しくしておかなければ。

 

 

 



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151話

次は5日の9時から~。


神無月脂っこい酒のツマミが喰いづらい…具体的にはチャーハン日

 

 またしてもレア博士が案内についた。

 てっきり、ラケル博士や秘蔵っ子と顔合わせするものだと思っていたんだが…。そう言ったら、レア博士も戸惑ったような顔で言っていた。

 

 

「その予定だったんだけど、実験の方で何かトラブルがあったらしいのよ。ジュリウス…ああ、あの子のお気に入りね…も、そっちに取られちゃったみたいだし。代わりに、ロミオって子が会いに来る事になったわ」

 

 

 …ロミオ? コウタ二号? ただし死ぬ。

 なして?

 

 …ロミオが来るのは、まぁいいとして…これってどういう事なんだろうな?

 俺が来ると同時にトラブル発生、しかもラケル博士とジュリウスがセットになって行動しなければいけない案件。有り得ない、とは言わないし、内容だって分からんが…タイミングが良すぎると言うか悪すぎると言うか。

 ジュリウスじゃないだろう。直接会った事は無いが、ゲームにあるような性格なら、こんな小細工は…まぁ、必要であればやるだろうけど、俺を拒絶する理由が無い。

 となると、やはりラケル博士か? 俺と会いたくないのか…或いは、ジュリウスに会わせたくない? 支部長に対する、何らかの当て付け…でもなさそうだ。

 

 何考えてんのやら…。思ってたより、ややこしい話になるかもしれないな。

 

 

 そんな事を考えながら、フライアをレア博士に案内してもらってたんだが、ちょいと気付いた事がある。レア博士についてだ。

 昨日の初対面時から、微妙な違和感を覚えていたんだが、その理由がやっと分かった。

 

 なんつぅか……変は意味じゃなくて、若いんだよ、レア博士。考えてみりゃそれも当然で、まだGE無印の時期だ。俺がディスプレイ越しに知ってるレア博士とは、軽く見て二年以上のブランクがある。多分、高く見積もってもこの人まだ二十台半ばだわ。そりゃイメージとの違いも出るわな。

 更に言うなら、この人の立ち居地がもっと問題だ。不自然に距離を詰めてくる節が見られたんだが、必ずそれが途中で…と言うか詰める前に止まる。結局近寄って来ない。でも近寄ろうとする。不自然に近かったり、慌てて距離を取ったりと忙しない。

 どういう事かって?

 

 つまり…。

 

 

 

 

 

 

 

 レア博士はまだ処女だったんだよ!

 

 

 

 いやマジでマジで。オカルト版真言立川流の効果なのか、それとも妙な方向に鬼の目タカの目が効果を及ぼしてるのか、はたまた内面観察術に慣れてきたのか、見れば経験があるかどうか何となく分かるし。その中でも、レア博士は分かりやすい範疇だけどな…。

 「んな事ぁどうでもいいわ」と思うかもしれないが、コレ本気で重要よ? 少なくとも、ラケル博士の考えを看破する一助になる程度には。

 

 一言で言ってしまえば、ハニートラップだ。それも、自分の意思ではなくラケル博士にせっつかれて…だろうな。

 妹に対する罪悪感から逆らえず、何とか俺を篭絡しようとするも、男を知らないから近寄るのを躊躇い、近寄ったら近寄ったで驚いてつい後ずさる。不自然な距離間の理由はコレだ。

 レア博士と情を通じたら、それをとっかかりにして俺を自分の陣営に引き込むなり、或いは強姦の類をやらかしたとでも捏造して脅迫する。

 

 ラケル博士がどこまで本気なのか分からないが、これで取り込めれば儲け物、失敗しても無くすのは手駒の処女くらいってか? 大したもんだわ。

 …だが、ラケル博士がどんな奴かってのは、ちょっと見えた気がするな。非情だとか外道だとか、そういう所じゃない。考え方がアラガミなんだ。人間で言う情が通じる事は無い。それ以上に、人間の考え方が通じないし、多分ラケル博士も殆ど理解していないだろう。あるのは、「こうすればこう反応する」「こう誘導するにはこう言えばいい」という膨大なデータのみ。だが、それも人間の考え方を理解しようともしてない為、何処かにズレが生じる。レア博士に色仕掛けなんぞ命じたのがその証左だろう。肉体的には、ものすごーく適任だとは思うが…中身がなぁ。

 いや、レア博士悪い人じゃないよ? 見た目やスタイルもいい、情も深い、頭も…まぁ、いいんだろう。だけど肝が据わってない。男も知らないから、『そういう事』に及ぶ事を…もっと正確に表現するなら、及ばなければならない事を考えて二の足を踏む。ラケル博士は、初体験とか異性に怯える心境を理解できてないんだろう、多分。

 ラケル博士と、その罪悪感に怯え続けて、芯が作れなかったのかもしれんなぁ。

 

 

 …そういや俺の芯って何だろ。死ぬに死ねない状況だったから、イヤでも順応せざるをえなくて何時の間にか作り上げられてたんだけど。

 ………やっぱ肉欲? それとも狩欲?

 

 

 それは置いといて、どうしたもんですかね。ロミオの事は、まぁ適当に相手するとして…いいカラダした女だとは思うし、ハニトラされても甘い汁だけ吸ってスタコラサッサできる自信はあるけど。

 ふぅむ…。

 

 

神無月山芋の梅おろしとかワサビ漬けとか好き日

 

 ロミオ到着。と言うか迎えにいったけどね、俺とレア博士で。

 …あのさ、レア博士…。背景察しつつも無視して言うけど、アンタ何時研究とかしてんの? まぁ俺と一緒に居てデータが取れるとか、そー言う話ならいいけどさ。実際、昨日は血の力こと霊力で、怪我した人を治癒するところを見せたし。

 

 到着したロミオは、今までマグノリア・コンパスとやらで暮らしていたらしい。だが神機を持った事もあるし、初陣も済ませているとか。

 マグノリア・コンパスって孤児院じゃなかったっけ…? ラケル博士経営って時点でお察しだけど、どんな孤児院だよ。

 

 とりあえず、会って自己紹介し、車でフライヤに向かう(運転はレア博士。俺がやろうとしたんだけど、ほぼペーパードライーバーだと知られて強引にハンドル奪われた)途中、色々話してみたんだが…なんつーか、こいつ焦ってる? 新しい環境に対する焦りじゃない。本人も自覚しているようだが、ジュリウスに対する焦りか。

 同年代であり、同じ孤児院出身である筈のジュリウス。だというのに、自分の遥か先に行っている。血の力こそまだ発現してないものの、ラケル博士の執務を手助けしたり、ハヰソサエテヰ(に見える)小難しい気取った会話を、なんか会議とかパーティとかでやってたり。

 そういう、なんかスゴそうなジュリウスを見て、劣等感を感じ始めているらしい。

 

 …ゲームでも、確かにそういう節はあったな。自分だけ血の力を発揮できず、無理に明るく振舞って、無茶で軽率な行動をする。今は…そこまで強いものじゃないものの、「ジュリウスは自分とは違う」という諦観も持てない状態の為、焦りとライバル意識に支えられている状態かな。まだ悪い状態ではないだろう。

 実際、「まだ追いつける!」って本気で信じているようだしね。

 

 そして、その追いつく為の最高の材料が目の前にいる。ぶっちゃけ俺だ。

 ジュリウスでさえまだ会得していない血の力を使える…と嘯く俺。疑わしくも思っているようだが(それも、血の力の存在自体ではなく、ジュリウスでもない人間が使える、という点のようだが)ここで自分が血の力を身につければ、ジュリウスより上位に立つのも夢ではない。

 …流石にそこまであからさまな表現はしてないけどな。

 

 ふーむ、この性格も、派遣されてきたタイミングもラケル博士の誘導の一つなのかねぇ。だとすると、ジュリウスではなくロミオに血の力を会得させる理由…。

 

 

 

 …実験台か。

 

 

 俺が使う力が本当に血の力なのか分からないから、まずロミオにやらせてみよう、ってトコか? 流石に穿ちすぎかな…。レア博士に意見を聞いてみたいところだが、この人に妙な事言うと即座にラケル博士に伝わりそうなんだよな。

 ま、いいか。どっちにしろ、霊力を研究させて終末捕食が可能だって事を証明させる為に来てるんだし。最初からある程度手の内を明かすのは覚悟の上だ。

 ロミオ自身だって、このままゲーム時期に突入してしまうと、死んでしまう可能性が非情に高い。梃入れが必要だろう。少なくとも、ブラッドアーツの一つでも習得させておけば、力に目覚めようと無茶をする事は無くなるだろう。…周囲とのレベルの差は…それこそ訓練させりゃいいか。

 

 

 はー、しかしどうやって教えたもんかな。霊力と血の力は似通っている部分も多いし、ロミオにも素質はあると思う。だけど、そう沢山の事を教えられる訳じゃないだろう。霊力を扱うには、基本的に長い修行が必要になる。…俺が割りとアッサリ覚えられたのは、何度も死んで霊力が高まってたからだろうな。死に掛けたり死に触れる事で霊力が強くなる、というのは昔から言われてた事だし。

 MH世界の正宗と違って、生命力も人並み+α程度。ついでに言うなら、どう見たって瞑想とかが得意そうな人間じゃない。

 何より、根本的な問題として、ロミオにはミタマが付いてない。…俺ののっぺらトリオみたいな奴なら、居ない方がマシって気もするが…能力的には矢鱈高性能なんだよな、こいつら…。でも、正宗だってミタマ無しで霊力使えたんだし、どうにかなるか。

 それこそ、正宗に渡したような道具を持たせ、補助輪代わりにしてもいいだろう。

 

 

 ふむ…とりあえず、治癒系等の術は却下だな。有効な技術ではあるが、使い手に迷いや不安があったりすると逆効果になりやすい。何より、傷を負った部分に合わせて霊力の使い方を変えなければいけないから、それを道具にやらせるのは難しすぎる。

 ミタマ攻の渾身みたいな補助効果や、空蝉みたいな特殊効果も止めておくか。

 やはりブラッドアーツなんだし、攻撃技だなぁ…。

 

 極端な話、霊力篭めてブン殴ればいいんだから、難易度低め、特殊な効果を付けられる程熟達すれば発展も見込める。ついでに言えば、ラケル博士にも余計な情報を与えにくい。

 うん、攻撃系だな。

 

 

 

神無月昼飯はそうめん日

 

 とりあえず、ジュリウスも腹黒博士…これだと極東の博士と被るから、ちょっと追加して腹黒妹博士…も来れないらしいので、とりあえずロミオにブラッドアーツ発現の協力をする事になった。ちなみに、その隣ではレア博士がなにやら記録を録っている。…だから、自分の研究は……アンタ血の力云々じゃなくて、神機兵の研究してんでしょうに…。

 

 まずは俺のブラッドアーツ、という事でミタマ魂の追駆を見せてやる。…ロミオの目がキラキラした。

 アレか、普通に撃つだけじゃ芸がないしインパクトも弱いんで、両手を合わせ体を捻って、「波動拳!」と叫びながら撃ったのがよかったんだろうか。こいつ、割とゲーマーみたいだから、スト2だって知ってるかもしれないし。

 …と言うかネタだから、真面目に記録しないでくださいレア博士。

 

 

 憧れの必殺技(?)を目にして、テンションが上がりっぱなしのロミオ。「ビシバシ鍛えてください! 何でもします!」…ん? 今何でもするって言ったよね? という定番の返しで不安を煽っておいて、まずやる事はロミオがどれだけ戦えるかの検証だ。

 例えブラッドアーツを会得したとしても、マトモに運用できないんじゃ意味が無い。どんなブラッドアーツを覚えさせるか、ある程度こっちで決められるんだから、ロミオの動きに合わせて教え込んだ方がいいだろう。

 

 

 

 

 そういう訳なんで、ロミオをフライアから連れ出し(流石にレア博士は置いてきた。戦いについてこれそうにないし)、適当にアラガミを狩る事約30分。俺にしては短いなーと思ったアナタ、正解です。と言うか今回は狩ったのは俺じゃないし。フォローについたとは言え、ロミオがやったんだし。

 しかし、オウガテイル数匹と、ザイゴートの群れ相手にブレードで30分近く、か…。うーむ。

 良いだ悪いだ以前に、ロミオが使ってる武器がブレードのみってのが意外だったな。考えてみればそれも当然で、新型神機ってまだ数えるくらいしか出来上がってないんだよな。まだGE無印の時期なんだし。

 

 

 …で。

 

 

「…ど、どうですか?」

 

 

 一通りの討伐を終えて、息も絶え絶え…とは言わないが、バテているロミオが、目の前で不安そうな顔をしているんだが。感想としては……。

 

 

 

 普通。

 

 

 

「…ふ、ふつう…」

 

 

 いや、初陣終えただけの状態のガキンチョなんてこんなもんだし。自覚はしてるだろうが、腰が引けてる。警戒が甘い。敵の動きと攻撃が認識できてない。判断ミスで、自分から攻撃を受けに突っ込んでいく事も多い。

 

 

「うう…」

 

 

 問題点は山ほどあるけど、ルーキーなんざそんなもんだな。それをどうにかする為に、血の力が必要って言いたいんだろうが……それは間違いだな。

 上から目線の言葉になるし、今はとても納得できんだろうが、こんなモンは単なる道具だ。持っただけでレベルアップできるような代物じゃない。仮に俺と同じ能力をお前が持ったところで、また間違ったタイミングで使ってスカるかフレンドリーファイアするのがオチだ。

 

 

「っ…」

 

 

 さっきも言ったろ、ルーキーなんざそんなもんだ。

 という訳で、血の力を目覚めさせる訓練と平行して、地力を上げる為の訓練も進めます。

 

 

「へっ!? えぇと…その、教えてくれるんですか?」

 

 

 まぁ、協力するって名目で来てるんだし。何だ、見放されるとでも思ったか。

 残念だったな。ハンター訓練所に「見捨てる」なんて選択肢は一つとして有り得ない。一度始まった以上、ハンターへの道を真っ逆さまに落ちていくのみ。

 

 

「ハン…ター? 狩人? いや、それよりも道を落ちるって、せめて歩いていくとか駆け上るとか」

 

 

 

 それは途中で辞められる時に使う言葉だ。

 

 

 まー真面目な話、今のお前さんじゃ色々足りん。技術とか度胸とかそーいう話じゃなくて、もっと単純なエネルギー量的に。分かりやすく言えば、体力が足らん。

 

 

「これでも…色々訓練受けてきたんだけど。それに、ゴッドイーターになって体力も増えてるんですけど、それでも足りないんですか?(血の力を使うのに)」

 

 

 圧倒的に足りない。(連続で狩りをするのに、血の力を扱うための訓練を受けるのに)

 そもそも、考えてもみろ。例えばロミオ、あっちのデカいコンクリートの塊があるだろ。

 

 

「ありますね、アラガミの食い残しっぽい奴が」

 

 

 あれをぶっ壊すのに、どれだけ体力使うと思う? てこの原理とかその手の技術は無し、道具も無しで文字通り力技でぶっ壊すとしてだ。

 

 

「ゴッドイーターの力でも、一日がかりじゃ無理ですね。と言うか、重機持って来て退けた方が早いです」

 

 

 うん、で、ブラッドアーツっつーのは、その重機の代わりになる訳だ。あんだけドでかいコンクリートの固まりを、粉砕するなり転がして移動させるなり、そういう事を…どんなブラッドアーツにするかにもよるけど、人力でやろうとしている訳だ。

 疲れない筈がないだろう。極端な話、さっき見せた追駆だって、重い岩とかを思いっきり投げつけてるのと変わらない。当然、岩を持ち上げるにも膂力と体力は必要だし、当たってダメージを与えられるくらいに勢い良く投げるにも体力を使う。

 あのコンクリートの塊は極端な例えだが、ブラッドアーツの一発一発にかなりの疲労が伴うと思え。それこそ、重機にさせる働きを、生身でした分の疲労がそのまま圧し掛かってくると。

 

 

「………」

 

 

 ま、決め技ってのはそういうもんだ。リスクが大きいからメリットも大きい。

 それと、これは一発に全てを注ぎ込んだ場合、の話しだからな。そこまで力入れて使わずに、体力消耗を抑えて手数で勝負する方法もある。実戦ではこっちの方がオヌヌメ。使い続ければ慣れたり無駄な動きが少なくなって、体力消耗も減るだろうしね。

 

 さて、その辺の事を踏まえて、自分に体力が足りていると。

 

 

「全然思えないです…。と言うか、それって人間の体力なんですか…」

 

 

 俺達は人間である以前にゴッドイーターだ。そして俺はハンターでありモノノフでありアラガミだ。

 

 

「はぁ……は?! アラガミ!?」

 

 

 冗談だよ。俺の何処がアラガミに見えると?

 

 

「…趣味悪いっすよ…ゴッドイーターとアラガミは紙一重だって言うし…」

 

 

 そだね。ま、とりあえず、体力作りと、戦場の空気に慣れようか。大丈夫、どっちもアラガミ狩ってりゃすぐだから。

 さぁ、久しぶりのデスマーチだ。大丈夫、今までこれを受けた2人は君にケが生えた程度の力しかなかったけど、やり遂げた時には一端の極東ゴッドイーターになってたから。

 

 

 

「…えっ、いや、極東って確かアタマオカシイって毎日のように言われてる…」

 

 

 おかしくないおかしくない、むしろ極東がデフォルトスタンダードだよ、ゲーム的に考えて。

 

 

 

 さぁ、逝こうか。ああそうそう、俺の事は教官と呼べ。

 

 

 

 

神無月もやし鍋……痛まないかな…日

 

 昨日は軽めに終わらせたが、ロミオ君フラフラだった。レア博士が腰抜かすほどビックリしていた。

 その後、更にロミオを訓練に付き合わせたけどな。ハンター並みのボディを目指してもらおう。

 

 朝、疲労困憊かつ筋肉痛なロミオを叩き起こし、軽いマラソン。距離もスピードも、一般人でも負担にならない程度だ。ただしアラガミという名の障害物が一杯居るが。

 ほれほれ、ペースを乱さず走れ。襲ってくるのはこっちで全部処理すっから、今は恐怖や焦りで呼吸を乱さない事を覚えろ。

 マラソンついでに、気晴らしに何匹か狩って帰った。

 

 バタンQ状態のロミオに朝飯を突っ込んでいたところ、レア博士からジュリウスとラケル博士が暫く戻ってこれない、という話を聞かされた。

 そんじゃ血の力の解明は? と聞いたところ、レア博士が担当するらしい。で、その研究も兼ねて、ロミオを鍛えてやってくれ、との事。

 ロミオは生みの親から見捨てられたような表情になった。…育ての親ではあるな。

 

 流石にロミオが可哀想になったのか、レア博士から血の力の研究をするので時間を取ってほしい、と提案された。その間にロミオを休ませろって事ね。

 …まぁ、いいか。血の力の研究が疎かになっては本末転倒だし、ロミオは…言っちゃなんだが、精神的にタフなタイプじゃない。それを鍛える為の訓練ではあるが、あまり詰め込みすぎると折れてしまいそうだし。

 とりあえず、今日は綿密な打ち合わせをする必要があるそうなんで、ロミオには課題だけ出しておく。体を動かす事じゃなくて、座学の方だ。アラガミの行動の特徴、弱点、その他諸々。レポートにして纏めてあるんで、それ読んで自分が相手するとしたらどうするか、何が必要なのか考えておくように。

 それが終わったら、今日はフリーでいいよ。

 

 

 

 

 さて、レア博士と綿密(笑)な打ち合わせの時間な訳ですが……この人、本当に博士ではあったのね。頭いいな。

 俺が見せた追駆や治癒について、気になった点を色々聞いてきた。

 

 真っ先に聞かれたのが、「あれは本当に血の力だと思うか?」である。鋭いね。実際は霊力だ…正直に言わずに、違うと言うのなら何なんだと返しておいた。

 問い返されると困った顔をしたが、レア博士曰く、血の力…特にブラッドアーツというのは、発現する際に赤い光を伴うのだと言う。…ああ、はいはい確かにゲームじゃ何かと光ってましたね。今回俺が使ったブラッドアーツ(っぽいもの)には、それが無い。何故?

 

 …疑問に思うのも分かるが、俺としてはどっちかと言うと、第一発現者である筈のジュリウスが未体得状態なのに、どうして赤い光がどうの、って話ができるんだ? と思うんだが。

 血の力の研究はされていても、言っちゃ何だが実物を確保できていない机上の空論状態。光るにしたって赤に限らなかったりするのでは? そもそも、意味も無く光るという事は、エネルギーが何らかの形で漏れ出しているという事だろう。そんなロス、出ない方がいいに決まっている。ていうか、何でわざわざ攻撃宣言せにゃならんねん。狩人の立場から言わせてもらうと、決め技なんてのは素早く、一撃で、可能であれば音も立てずに目立たないように出すべきだ。予備動作一つあれば、獲物に回避されるリスクは格段に大きくなる。

 

 

 

「え…えぇっと、その辺はゴッドイーター視点で語られても…。私達は理論を研究しているんであって、実用性は…研究はするつもりだけど、まだ誰も会得できてなかったし」

 

 

 そりゃそーかもしれませんが、それなら尚更赤く光ると言われているのは何でやねん。

 

 

「説明してもいいけど、長くなるわよ」

 

 

 んじゃいいです。

 ともかく、俺だってこの力が何なのか、把握している訳じゃないです。ここに来たのだって、支部長が「君が使ってるソレ、ラケル博士が提唱していた血の力なんじゃね?」って事で寄越されただけですし。

 まぁ、単純にサンプルの一つと思えばいいんじゃないですかね。レア博士が言うように、全く別の力である可能性だってあるんだし。

 

 

「そうかしらね…。だとしたら、ラケルが私を寄越したのも、その為かもしれないわ。血の力ではないのなら、あの子にとって価値のない力でしょう。ならば、私で対応しろと…」

 

 

 …ついでに、御曹司に妙な力を見せて、先入観を与えたくない…かな?

 

 

「多分ね。あの子にとって、ジュリウスは特別みたいだから。……ああ、誤解の無いように言っておくけど、決して邪魔者扱いしている訳じゃないのよ、私もラケルも。血の力じゃなかったとしても、研究に協力してくれる事は嬉しく思うわ。何せ、血の力なんて言っても、殆どの場合は眉唾モノ、フィクションを学会で大真面目に話すなって言われた事もあったもの。だけど、実物が無い以上は反論する事もできない。…ジュリウスは、それを我が事のように悔しがっていたわね。少しでも早く血の力を発現しようと、焦っているようにも見えた。…だから、アナタという実物が居てくれる事は、素直に嬉しいわ。……例え血の力と少し違ったとしても、未発見の力である事は確かだもの。反論の根拠にはなるわ」

 

 

 さいで。まー血の力だろうが筋肉の力だろうが、使えるものを使うまでですな。

 さて、本当に血の力かという疑問は置いといて…研究するって言っても、何から始めます?

 

 

「まずは測定からね。私には…あの、追駆?は光が飛んでいったように見えたけど、例えばカメラに写るのか、赤外線とかに反応するのか、発生する時、或いは消滅する時はどうなっているのか。その際の貴方のバイタルは? 知りたい事は山ほどあるわ!」

 

 

 …この人も、ちょっとマッド入ってるのかな…いやいきなり非人道的な実験をしない程度には…でも今回の榊博士だって、性根は超マッドのクセして対話から入ってきたしな…。

 この程度なら普通の研究者の範疇か。

 

 

 

 



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152話

GW終了までもうちょっと…次は7日の9時投稿です。


神無月冷たいお茶と熱いお茶、どっちが好き?日

 

 色々測定された。なんか色々狂喜しながらも、ブツブツ悩んでいたレア博士が印象的だった。

 研究中は色仕掛けの事とか、色々忘れられるみたいだな。特に不自然なく接してくれていた。

 

 ロミオは一日休みを貰ったおかげか、何とか復調したみたいだ。回復力は結構高いな。ゴッドイーターとして強化されたおかげか。そんじゃ、暫くは隔日で訓練していくとしますかね。一日は動けなくなる程訓練して、その次の半日くらいで完全復活できるようになったら、次のステップにって事で。

 ちゅー訳で、今日は訓練の日です。走れ走れ。

 

 マラソンが終わったら、フライアの中の訓練施設で訓練+測定。タマフリには自分だけでなく、周囲の仲間にも影響を与える術もあるからな。すっかり忘れてたが、ミタマの特技には渾身強化・周囲とかもあったし。…これ、覚えた時には「いつも一人だから使えねー!」とか思ってたんだよな…。使えるようにはなったけど、本来の使い方じゃないなぁ…実験の為だし。

 測定していたレア博士が、やっぱり頭を抱えていた。まーそりゃそうだろうな。タマフリで攻撃力が高くなるなんて、科学者からしてみれば意味不明の一言だ。

 動きが特に変わった訳じゃない、筋肉量が増えた訳でもない、勿論神機の質量が増えた訳でもない。なのに何かを攻撃した時の結果だけが違う。

 レア博士の視点からすれば、1+1が何故か3になっていたような感覚だろう。それも、何度繰り返しても同じような結果が出る。偶然とか測定ミスでもない。

 俺がやっているのであれば、手抜きと本気の違いを疑う事もできるが、今回測定したのはロミオ。そこまで器用な事は、まだできる子じゃない。

 

 昨日測定した追駆だってそうだった。目には見えるし、発射前で留めていた状態の追駆に触れる事もできるのに、カメラには写る時と写らない時があるし、赤外線を初めとした殆どのセンサーには触れても反応しないし、着弾した追駆の衝撃は妙な形で標的に浸透する。物理法則ガン無視。

 測定した様々な結果を元に、俺・レア博士・ロミオの3人で色々と話し合ったりもする。治癒以外のタマフリを他人にかけたのは俺も初めてだし、感想を聞きたかった。

 ロミオ曰く、「体の周りを、よく分からない何かが覆っている感じ」だったそうな。ふむ…力が湧いてくる感覚ではなく、周囲を包まれる…。俺が自分で渾身使っている時は、全身に力が行き渡るような感覚なんだけどな。自分で使うのと、他者から影響を受けた場合の違いだろうか?

 

 再度使用してみた時は、確かに…俺が使った霊力が、ロミオの体に取り憑いて…特に武器に集中していた。うむ…どう考えてもこの為だろうな。霊力だって、既存のセンサーとかでは測定できないだけで、れっきとしたエネルギー、或いは質量みたいなものだ。軽い道具で殴りつけるのと、重い道具で殴りつけるの、どちらが効果があるか…という話だろう。

 使われた際、ロミオには特に不快感等は無いらしい。自分を覆っているモノに関しても、正体不明なだけで、特に鬱陶しさも感じてない。むしろ、自分が強くなったという感覚が湧いて、興奮するとか言ってた。

 

 うーん、確かにバフかけてるようなもんだから、強くなってはいるんだろうが…。

 しかし、霊力に抵抗が無いなら、他のタマフリを使ってみて、霊力に慣れさせるか? そうだな、韋駄天・周囲で移動速度とスタミナ回復速度を上げれば、マラソンとかもしやすくなるし、速い速度での戦いにも慣れるだろうから、反射神経・判断速度の向上にも繋がるだろう。

 

 

 

 さて、研究と訓練を両立しなけりゃならん訳だが、その前にロミオから疑問が出た。俺はどういう状況で、血の力を扱えるようになったのか?

 …この子、結構深いトコ突いてくるね。現状、俺は唯一の血の力持ちで、尚且つ経歴不明という状態だから、レア博士も迂闊に突っ込まないようにしていたというのに。

 

 ま、適当なカバーストーリーはもう作ってあるけど。

 元々、俺はとある地方のゴッドイーターだったんだけど、腕を買われて特殊部隊に組み込まれた。闇系…というより、『介錯』系の仕事もある部隊だったんで、身バレすると面倒な事になりかねない。その為、過去の経歴は全て抹消済み。

 で、特務の最中に色々死に掛けたりして、こう……ちょっと許せない事があって、それで気が付いたら使えるようになってたんよ。

 

 

「え…えぇっと…その、ごめんなさい、妙な事を聞いて」

 

「と言うより、答えになってないわよ。前半は割りと重い話だったのに、肝心の目覚めた状況には全く触れてないんだけど」

 

 

 …そこまでカバーストーリー作ってないんだよ。

 

 まー、どういう状況かって言われてもな。「こんな感じだったんじゃないかな」ってくらいだぞ。俺だって気がついたら使えるようになってたんだし。

 少年漫画の定番みたいな話だけど、一番有効だと思われるのは強い感情の爆発、それから生きるか死ぬかの状況だと思う。ただ、そういう状況なんてゴッドイーターやってりゃ珍しくもないからな。他に条件があるのは確かだろうな。本人の素質か、

 

 

「血の力の発現に必要と言われている、P66偏食因子はロミオにもジュリウスにも投与されているから、個人差はあっても素質に問題はない筈よ。まぁ、そうなると投与されていないアナタが何故使えるのか、という疑問は湧くけど」

 

「その…偏食因子は、あれば目覚めやすくなるってだけで、必須のものじゃないんでしょうか? あと、俺やジュリウスの偏食因子って、普通のとは違うんですか?」

 

「その辺の事はラケルから、ちゃんと説明されている筈よ、ロミオ。必須のモノじゃない…そうかもしれないわね。仮にそうだとしたら、今まで築き上げてきた仮説の大部分を修正しなければいけないわね…。ラケルが何て言うやら」

 

 

 …そー言えば、血の力の専門家ってラケル博士の方なんですよね。確かレア博士は神機兵の……えーと、有人でしたっけ、無人でしたっけ。何で血の力の研究を?

 

 

「有人の方が専門よ。何故って言われてもね………妹に手を貸すのは、そんなにおかしな事ではないでしょう?」

 

 

 まぁ、そうですな。大人になってもそこまで仲がいい姉妹も珍しい気はしますけど。

 それに、こう言っちゃなんですが、自分の研究を後回しにしてでも協力するのはやり過ぎに見えますけどね。

 

 

「……かもしれないわね。

 さて、この話はもう終わりよ。私は今回の測定で得られたデータを纏めるから、後は…ロミオが倒れない程度に訓練して頂戴」

 

「うぇっ、まだ続くの!?」

 

 

 続くよ。まだ日が沈んだばかりじゃないか。夜は長いぞ…特に苦しい訓練しているときは。

 

 …しかし…ここの所レア博士と話したりしていたが、どーにも誰かに重なる気がする。外見が似ているんじゃなくて…こう…内面観察術で見える、性格とかが…だけど。

 

 

 

神無月ぬるい風呂と熱めの風呂、どっちが好き?日

 

 

 ロミオを鍛える事、ふと気付けば2週間程。最初は数日でアナグラに一度戻り、菜園の様子とかを見ておくつもりだったんだが…熱中しすぎた。

 まぁ、最初の予定とは色々な意味で違っているし、隔日で鍛えてたから、たった一日じゃ移動してすぐ終わりになってしまうからな…インターネットを通じて移動すりゃいいんだが、タイミングを測らなければ怪しまれるし。

 

 そろそろ一度、アナグラに戻ろうと思います。ただし、コッソリと。何故コッソリかって? 大した理由じゃないんだが…研究協力の名目で来たのに、成果をあげるどころか責任者の顔すら見ずに戻るっていうのはなぁ…。俺じゃなくて、向こうがトラブってるのが原因ではあるんだが。

 …それに、汚ッサンを始末するのであれば、俺はこっちに居たって事にした方が都合がいいからね。

 

 という訳で、自分の休日に合わせてロミオにも休みを言い渡し、レア博士にも了承を得た。

 休暇中は、訛った勘を取り戻す為、その辺をプラプラしてくるつもりだと伝えてある。…勿論、ちゃんと素材は持ち帰ってくるよ?

 レア博士は首を傾げていたが、ロミオからの「プラプラ=好きにアラガミ倒してくるって事です」と耳打ちされて、引き攣った顔で納得していた。別にいいじゃないか、休みの日に仕事したって。タイムカード押してないし。そもそもこれは仕事ではない。言うなれば、趣味を兼ねた敵情視察! 近所の同業者の店をちょっと見に行くようなもんである。

 

 

 さて、その辺の戯言はさておいて、監視が無いと思われる場所で、電脳空間にダイヴイン。ついでに、俺の部屋に仕掛けられている盗聴器やらカメラの類やらは内部プログラムをぶっ壊して、全て無効化した。迷子にならないか若干怯えつつも、そして妙な所通ってデータを無用にぶっ壊したりしないか戦々恐々しつつも、何とか成功。電脳空間から抜けたのは、アナグラにある俺の自室だった。

 念のために周囲を確認したが、何らかのセンサーに引っかかったり、カメラが稼動している様子は無し。上手く感知されずに潜り込めたようだ。

 

 ならば、早速やる事は、汚ッサンの始末…なんだが。クソ、タイミングが悪い…。どうも汚ッサン、支部長と何やら密談中のようで、警備が最も厳重な場所に篭っている。それを掻い潜って殺すだけなら出来なくもないのだが、そうなるとアナグラ内部に犯人が居る、と考えられてしまうだろう。ヘタをすると粛清の嵐、最悪の場合は濡れ衣を着せてリンドウさんを謀殺しようとか、そういう展開になりかねない。

 汚ッサンを始末するのは既に使命と言っていい(俺が勝手に言ってるだけだが)が、それが極東支部の不和に繋がると思うと迂闊な真似はできない。気に入らないが、今回は諦めて次の機会を待つか…。

 

 このままおめおめと戻るのも癪だな。ちょっとアリサの様子と農園の様子を見ていくか。

 

 

 

 

 

 

 

 ……見に行ってよかったのか悪かったのか…。不和とかどうでもいいから、汚ッサンを縊り殺したくなってきた。

 何があったって、そりゃゲーム通りと言うかね。…アリサが全方位にケンカ売りまくってんだよ。刺々しいと言うか意味も無く周囲を見下したような発現を繰り返し、既に孤立しつつある。例外と言えば、隊長であるリンドウさん、何かと世話を焼いているサクヤさん、そして悪口言われているのに気付いているのか居ないのか分からない元祖ロミオ…じゃなかったコウタくらいだ。まぁ、コウタはわかっててスルーしている節が多く見られるが。

 素…と言うか後のアリサを知っている俺としては、やはり汚ッサンから受けた洗脳の結果にしか見えないんだ。案外、高まったプライドと自分の心の弱さを誤魔化す為の、自分自身で作り出した鎧の可能性もあるかもしれんが。

 

 何もかもがあの汚ッサンのせいだとまでは言わないが、やっぱムカつく。

 しかし、ここで感情に任せて始末するようでは獣と同じだ。それじゃ討伐される側だろ、ハンター的に考えて。暴力を振るって何かをしようとするなら、理性的にやらんとな。欲望に流される俺が言っても説得力無いけど。

 

 うーむ、口惜しいがアリサに関しては現状じゃ何も出来ん。汚ッサンを始末するのもそうだし、暗示を解くのも、新しく俺がかけるのも。

 少々強引にオカルト版真言立川流に持ち込む事は…できるっちゃ出来るが、俺が完膚なきまでに犯罪者になるし。理由はどうあれ、汚ッサンを始末した時点で犯罪者? …今回ループではまだ何もしてねーな。

 

 

 …仕方ない。今回は菜園の様子だけ見て帰るとするか。

 

 

 

 

神無月ヌルゲーとマゾゲー、どっちが好き?日

 

 

 フライアに戻ってきました。またコウタ2号ことロミオを鍛える日々が始まるお。

 

 

 …どうでもいいが、ロミオとジュリウス…ロミオとジュリエット? …ホモォな妄想が捗りますな。なんとも腐れた女史の方々に人気そうなお名前ですこと。実際、二人とも顔は整ってる方だしな。特にジュリウスが。実はラケル博士もソッチ系の方で、終末捕食云々は全て勘違いだったら腹抱えて窒息するまで大笑いするんだが。

 

 

 あー、とりあえずだな、菜園の事から話そうか。

 まぁ、思ってた以上に上手く行ってたよ? ヘタすると、この世界での農業に関しては、俺を凌駕しかねないレベルで。 

 分からんではないけどな…。この世界で生まれ育ったこの人達にしてみりゃ、生まれて初めて腹一杯、新鮮なものを食べられるチャンスなんだ。そら必死こいて学びもするわ。

 

 ノゾミちゃんに至っては、なんか異様に林檎とかイチゴとかトマトとかを育てるのが上手くて、一般市民の皆様からは「紅い天使」なんて徒名までつけられていた。コウタが「俺の妹に変な通称が…」って落ち込んでたが、それはそれとして林檎美味かったらしい。まぁ、あのシスコンの事だから、貰ったのが密閉空間で開けるの禁止な最臭兵器でも美味いという気がするが。

 続々と信者(?)も増えて、徐々にノゾミちゃんその他の初期参加者が組織の幹部扱いになりつつあるとか…。まぁ、ノゾミちゃんはどっちかと言うと代表マスコットって感じらしいが。

 

 しかも、なんか菜園に警備兵までついていた。予想はしてたが、俺が居ない間に一悶着あったみたいだな。影響力や規模が大きくなれば、こう言った事も当然増える、か…。何も考えずに出発したのはミスだったな。

 

 

 

 予想外だったのは、ゴッドイーターの皆さんまで菜園に来るようになってた事ですかねぇ? …カノンか? カノンが連れて来て紹介したんか?

 別にやっちゃイカンとは言ってなかったし、実際来ても別に問題はない。カノンが切っ掛けになったのが良かったのか、ゴッドイーターやフェンリル関係者に対して強い敵意を見せている人も居ないようだ。少なくとも、表面上はね。

 

 リンドウさんとサクヤさんのデートに、またバッタリとぶち当たったけどな。初期参加者達くらいには顔を見せておこうと思い、ちょっと話し込んでいたら、二人が揃ってやって来てしまった。…ツバキさんがアナグラで、寂しい体抱えてんだろうな…。弟がデート中で、本人は俺とヤるまで全く経験なかったみたいだしな…。内心、結構気にしてたし。

 まーそれは別にいいんだよ。このままストーリーがゲーム通りに進めば、最終的には結婚してリンドウさんが尻に敷かれるのは確定なんだし。でも、顔見られたのは失敗だったかな…。

 以前、着任の挨拶で菓子折り持って行った為か、それとも支部長直属という立場の為か、顔だけは広く知られてるんだよな。

 実際、サクヤさんから「あら? 何処かの研究機関に行ってるんじゃなかったの?」なんて言われちゃったし。菜園が心配だから、休日に帰ってきたんです、とだけ言っておいたけど。

 リンドウさんが探りでも入れようとしているのか、軽いカマかけみたいな事も聞いてきたんで、こっちから「デートですか?」みたいな質問でそれを封じておいた。…二人とも否定はしたけど、どう見てもね…。この辺に植えてる植物が全部、サトウキビになったような気分を味わうハメになった。

 

 とりあえず、俺が戻ってきた事は秘密にしておくようお願いする。まだ向こうで全く成果が上がってないのに、ノコノコ戻ってきたのは気まずいから…と言っておいたが、さて納得してくれたかな。代わりに、ピンチの時には支部長の命令を無視してでも一度は助ける、なんて約束をしてしまった。…今ならリンドウさんとも渡り合えそうだけど、口先じゃ勝てる気がしない。

 

 

 

 そういや、ソーマや上田は来てないんだろうか? 前回ループでは、いともアッサリと餌付けできていたんだが。…と言うか、そうだ上田! エリックどうした!

 

 

 …無事だそうだ。「新しい輪が見つかったかもしれないんだ。それを目にするまでは、いやエリナに華麗なる世界を見せるまでは死んでも死ねない!」とか宣言し、上田されそうになった時も何とか避けきったそうな。

 無事ならいいんだが…まさか自力で上田挽回するとは。「新しい輪」って、この菜園の事かね? 菓子折り配った時にも、そんな事を言ってたような気が…。それが上田生存の分岐点なんだろうか? いや菓子折り一つで生き残れるとか、流石にねーよな。

 

 

 

神無月コメディとシリアス、コメディが好き(断言)日

 

 フライアに戻ってきました。さて、今日からまたロミオを鍛えてレア博士と血の力の研究をする日々が始まるお。

 

 …ところで、前々から感じていた、レア博士が誰かに似ているという件だが…ようやく分かった。MH世界のドリスさんに似てるんだ。ラケル博士と通信で連絡をとっている時の表情を見て、ピンと来た。

 ドリスさんは、ベッキーという手のかかる先輩の世話をし続ける事で、自分の価値を認める事ができていた。同じように、レア博士もラケル博士に手を貸す事で、自分を保っているんだろう。…正負の方向性の違いはあるけどな。

 疑問ではあったんだよなー。ラケル博士は、明らかに人倫に反する研究を続けていて、更には父親すら暗殺してしまった。幾らレア博士が、ラケル博士に対して負い目と愛情を持っているからと言って、それだけで寄り添い続ける事ができるだろうか?

 

 寄り添っていたんじゃない。寄りかかっていたのは、レア博士の方だった。そうしないと、自分が保てなかったのだろう。妹を半身不随としてしまった罪悪感から始まり、彼女をサポートする為に犯した罪の意識も圧し掛かっているだろう。

 更に、ドリスさんと同じような人種であるのなら、頼られ世話する事で自分の価値を認識する…逆を言えば、そうする対象が居なければ、自分に自信が持てなくなってしまう。ゲームでは「妹に支配されていた」と述懐があったが、支配されていたからこそ自分を保てていた。罪の意識も、どんな行為も…それこそ、好きでもない相手にに色仕掛けする事も…、妹の為と称して耐える事ができる。妹が居なくなれば、耐える事ができなくなる。

 …ラケル博士がそこまで気付いているのかは、分からんけどな。気付いていても理解できてない気がする。

 

 しかし……うん、そうなると…上手くやれば、レア博士をこっちに引っ張りこめるか?

 レア博士は、良くも悪くも情が深く、それに流されやすい。また、公私混同もしやすいタチのようだ。ここだけ聞くとアカン人みたいだが、ドリスさんを思い出せば分かるだろうが、ちゃんとした立ち居地と役割を用意して、それが真っ当なものであるのなら、精力的に働いて尽くしてくれるタイプだ。

 問題は、どうやってラケル博士から引っぺがすかだよなぁ…。依存に限らず、タチの悪い関係と健全な関係、どっちが引き裂きにくいかと言われると前者なのが世の常だ。そう簡単に離れられるようなら、レア博士だってここまでラケル博士についてきてないだろう。

 

 

 …で、そんな事を脳裏に浮かべつつ、レア博士と話してたんだが、近い内にラケル博士がフライアに来るのだそうな。残念ながらと言うべきか、ジュリウスは来ない。

 ここへ来て、ラケル博士のみが顔を見せにくる……俺の力が血の力なのか、判断しかねたのか? それとも利用できそうだと思ったのか。

 …レア博士に任せてると、分かるものも分からないと判断した? ……流石にそれは無いか。測定とか研究とかは普通にやってたし、まだ難しい理論を捏ね繰り回す段階までは行ってないだろう。

 

 ま、とりあえず二番目の目的だった、ラケル博士のツラをようやく拝めそうだ。後は、俺の力によって終末捕食に干渉できる事を証明する…か。

 

 

 

 あ、それよりロミオ鍛えないと。なに、キツい? 大丈夫大丈夫、人間はゴッドイーターじゃなくてもこれをこなせる。事実、俺はこなした。貧弱君だった俺も、素でゴッドイーターに迫るくらいの体になったぞ。そっからゴッドイーターとして強化されたら、エライ事になったけどな。

 はっはっは、ギブアップしてもいいけど、別に止めないよ? 言ったじゃないか、「ハンターへの道を真っ逆さまに落ちていくのみ」と。君は自由落下を途中で止められるかね?

 

 まー、そろそろブラッドアーツとかを使う為の訓練も始めるんで、張り切ってついてきんしゃい。

 

 

 

 …何? 「つまり更にハードになるんですね」と? よく分かってるじゃないか。

 

 

神無月エロとエロス、どちらが好きとか選ぶべきではない日

 

 さて、ラケル博士とご対面……したんだが。顔合わせて自己紹介して、それなりに話もして、血の力という名の霊力も見せた。

 …んだが、なんというか…話した気がしないな。いや、言葉を交わしたという意味では、明らかに会話はしたんだが。

 

 正直、市松人形(勿論髪が伸びる奴。金髪)相手に一人語りやった気分だ。うーむ、俺の内面観察術が未熟なのかもしれないが、こうまで中身に何も見えない人間が居るとは。

 何というか、言葉を遣り取りして、それを受け取ってはいるようなんだが…それに対する反応が全く見られないんだよな。何かを考えるように首を傾げてみても、視線も揺れず、呼吸も乱れず、ただ只管に内面は凪いだまま。

 

 いや、やはり人間ではないんだろうか。体が人間で、話しているのはラケル博士本来の人格、そして考えているのが得体の知れないアラガミの意思…。俺の内面観察術で見えるのは、ラケル博士の人格まで。指示を出しているアラガミの片鱗は全く見えない。つまり、俺が見ているのは何も考えずに命令された通りに反応しているだけの傀儡に過ぎない…か。

 あくまで予想だけどね。

 正直言って、気味が悪い……アレだ、不気味の谷現象の一種じゃないかな。俺から見ると、ラケル博士は人間に近いロボットに見える訳だ。

 

 …なぁるほどなぁ(巻き舌)。ラケル博士ってのはこういう奴なのか。色々とイメージが固まらなかったが…うん、こういう奴だと割り切るべきだったか。結論、人間として扱うな。以上。

 

 

 実際問題、ラケル博士と話して情報を引き出すのは無理だな。ボイスチェジャー付きのインカムを使って、肖像画を相手に話そうとしているようなものだ。得られる情報が少なすぎて、また得られた情報も異質すぎて分析もできん。

 だからと言って、始末するのも…だな。終末捕食に関しての口添えをしてもらわなきゃならんし、多分「今この場で自分が死んだら」という対策も立てているだろう。それも、復讐云々じゃなくて、自分の死まで終末捕食を起こす為の1ステップとしての対策を。

 より正確に表現すれば、「アラガミの意思は、使い捨ての手駒(ラケル博士の体)を失っても全く痛手に思わないし、止まる理由も無い」…かな。

 ここで殺せば、無用な混乱と嫌疑を齎して、動きにくくなるだけか…。

 

 

 

 

 ロミオはラケル博士に声をかけられ、何やら張り切っていた。…ま、理由はどうあれ、やる気になるのはいい事だな。

 …来客のようなんで、短いが今日の日記はここまで。

 

 

 



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153話

ふぅ、隔日投稿これでラスト…かと思ったか!?


神無月頑張れ接客業…日

 

 

 昨晩の来客はレア博士だった。しかも以前のようなぎこちない距離感に戻っていた。最近は、研究やら訓練やら何やらに集中していた為に忘れていたが、多分再びラケル博士から色仕掛けを命じられたんだろう。

 それでも、話があると言うから部屋には入れたんだが……この人、色仕掛けの事で頭が一杯になって、そこにどうやって持って行くか、どういう話をするのか頭からスッポ抜けてたっぽい。

 ホントにポンコツだな…見た目は最上だし、単純なスペックも高い人なんだけど。

 

 部屋に入れると、ベッドに腰掛けている俺の対面に椅子を持って来て腰掛け、暫し無言。…時折足を組み替えていたのは、アレも誘惑のつもりだったんだろうか? そーいうのは普通の会話して、余裕の表情を見せながらやりなさい。無言かつ強張った顔でやられても、なんだその、萎える…。

 ラチが開かなかったんで、こっちから話題を振った。血の力の事、ロミオの事、ジュリウスの事……この辺までは無難な話だったと思う。

 ラケル博士の事について話す時に…ちょっと博打になるが、踏み込んだ。

 

 大体、こんな話だったかな。

 

 

 ああそうそう、ラケル博士の事なんですけど…どんな人なんです?

 

「…どんな、と言われてもね。自慢の妹よ。…頭が良くて、物静かで、美しくて…」

 

 まるで他人を評するみたいな口調ですな。…それとも、妹とは思えない?

 

「な、何を言って」

 

 ラケル博士に怯えている事くらい、見る人が見れば分かります。

 

「………」

 

 あの人と話している時のレア博士…この前、通信で話しているのを見かけた時から引っかかってましたが、直接対面して確信しました。一見、妹をサポートしているように見えますが、実際はむしろ、命じられているに等しい。

 

「………」

 

 ああ、盗聴器の類は全部潰してるのでご安心を。

 沈黙は肯定と看做します。…まぁ、そうでなくても、この状況こそが証拠になりますけどね。その気もないのに、俺にハニトラしかけようとしてるくらいなんだから。

 初対面の時から命じられていたと見ましたが? 最近はそれを忘れていられたけど、直接会って改めてプレッシャーをかけられた、って所ですか。

 

 

「……そう、そこまで見抜かれていたの。それも血の力なのかしら?」

 

 

 (最初から知ってただけですな)

 ま、そういう事にしときましょうか。

 何でそんな事になってるか、理由が気になるところですが…それより先にハニトラの方をどうにかしましょ。

 一晩部屋に泊まっていって、上手く行った事にしとけばいいですよ。こっちで上手いこと話を合わせますんで。

 

 

「…ありがとう。本当にごめんなさい…この部屋の盗聴器なんかも、仕掛けたのは私よ。

 ここのところ、正常に動いてないって話は聞いていたけど、アナタの仕業だったのね」

 

 …なんでわざわざレア博士本人に? 盗聴器にせよカメラにせよ、仕込もうと思ったら建設時に業者を買収でもすればいいでしょうに。

 

「あの子はとても慎重で、用心深いわ。秘密が漏れる可能性は少しでも残さない。…だから、私にやらせたのよ」

 

 

 今思いっきり自白してますがね。

 色々話したい事はあるけど、懺悔したい事もあるでしょうが、先に色気の無い話から済ませましょ。

 俺にハニトラしかけた狙いは何だと思います?

 

 

「血の力のサンプルの確保でしょうね。それと、シックザール支部長への貸し…かな。

 色々疑問に思っていたようだけど、ラケルはアナタの力を血の力だと認めたようよ。何故ジュリウスに会わせようとしないのかは、私にも分からないのだけれど」

 

 

 ほほう、とりあえずラケル博士のお墨付きはゲット。本心から認めているかは分からないけども。

 で、俺を確保してどうする気でしょ。

 

 

「研究以上の事は、私には分からないわ。さっきも言ったけど、ラケルもアナタの力が血の力なのか、判断しかねていたもの。

 尤も…あの子の考えている事を理解できた試しなんて、一度だってなかったんだけどね」

 

 

 (はい、懺悔モード入りました)

 …無理に話さなくてもいいんですよ?(というのが鉄板の返しである)

 

 

「いえ…私も吐き出したかったんでしょうね。思えば、あの子がああなってから、私はずっとあの子に支配されてきた。私達の実情に気付いた人なんて居なかったし、吐き出せる相手も場所も居ない。何より、全ての切っ掛けを作った私が、あの子から逃げるなんて考えられもしなかった。でも、今日だけは別。…悪いけど、付き合って頂戴」

 

 

 はいはい、どうせアリバイ作りの為に、今日はここに泊まって、お互い寝不足にならなきゃイカンのですし、付き合いましょ。

 酒…ビールは数が無いな…。秘蔵の(MH世界の)酒を出しますか。(この人なら出所に疑問を持っても誤魔化せそうだし)

 

 

 

 …こんな感じで、レア博士の懺悔は始まった。予想はしてたが、まー辛気臭い話、きな臭い話が盛り沢山だったよ。

 かつて子供だった頃、何を言っても無表情無反応なラケル博士を階段から突き落として昏睡状態にしてしまった事から始まり、目を覚ましたラケルに自分の物なら何でもあげる、何でもすると約束した事。それから暫くは、妹と仲良くできる日が続いた事。…そして、研究者となったラケルに引きずり込まれるように自分も研究者となり、手を貸していた事。…そして、何も変わらないように見えるのに、徐々に常軌を逸した行いをするようになっていく妹の姿。

 

 流石に、自分達がやってきた事全てを吐き出していた訳じゃない。多分、その中でも割とソフトな事だけ懺悔したんだろう。少なくとも、孤児院の子供達の人体実験とか、父親の暗殺とか、その手の話は出なかった。……ひょっとしたら、まだやってないだけかもしれないが。

 

 

 レア博士は泣きながら言う。

 お姉ちゃんなのに、あの子が今も昔も分からない、と。だけど離れられない。お姉ちゃんだから。自分まで離れたら、あの子は一人ぼっちになってしまう。例え自分で気づいてなくても、一人だけになる事を全く辛く思わなくても、せめて自分がついてあげないといけない。

 そうでなければ、自分は。自分が今までやってきた事は? そんな事を考えてしまったら、本当に離れたりしたら…耐えられない。 

  

 

 …自覚はあるっぽいなぁ、自分がラケル博士に支配されながらも、依存している事。アルコールが入って、鬱屈した感情を吐き出して、それと一緒に思わず…って感じだったから、普段は目を逸らしているのかもしれんけども。

 しかし、随分とストレスが溜まっていたもんだ。ずーっと妹(実態はアラガミ)に支配され続けて、この程度で済んでる方がスゴイっちゃスゴイんだけど。人体実験の一例にしたって、罪悪感から狂ってマッドな方向に走らなかっただけマシだろう。

 賢い、意志が強いとは言えないかもしれないが、その分しなやか…なのかね? 或いは適応力が高いのか。

 

 

 良い言い方をすれば、妹を見捨てられない家族思いの姉。悪い言い方をすれば自分の境遇に酔っている悲劇のヒロイン気取り。

 どっちに見えるかと言われれば…悪いが後者か…。そうでもしなけりゃ、耐えられなかったんだろうけども。

 

 

 

 

 結局、延々と吐き出される鬱屈に、アルコールだけでは対抗しきれず。

 

 

 まぁなんだ、予想はついているだろうが「アリバイ作り」は「意味深カッコガチ」となってしまいました。…うん、レア博士ちょっと歩きづらそうだし、実際にイタしちゃったから、ハニトラ失敗とは看做されないよ!

 

 

 …で、多少計画とは違うタイミングだったけどやる事ヤッて、色々納得しました。レア博士について、なんかダメな人っぽい書き方で色々と書いたけども…彼女の弱点というか欠点は、一つに集約されるようだった。ぶっちゃけて言おう。

 

 

 

 

 あの人、悪い男に引っかかって離れられなくなるタイプの人だ。賭博三昧、DV、働く気ナシの役満な男相手に、「この人は私が居ないと」と思い込んで、延々と貢いで離れないタイプだ。

 ラケル博士は女? いやそりゃそうなんだが、そこは相手が悪かったと言うか。ラケル博士がそれだけタチの悪い、人間の感情を利用するのに長けた相手だって事だろうさ。それでレア博士を手駒として、ズルズルと引き込んでいったんだろう。

 

 

 …どうすっかな。肉体関係は持ったし、愚痴を吐き出せる相手というポジションも確保した。イタしている時、「初めてがアナタでよかった」と、潤んだ目で心臓を打ち抜くよーなセリフも貰った。

 でも恋人じゃない。今、ラケル博士と俺を天秤にかければ、確実に前者に傾くだろう。ゲームであったように、ラケル博士から切り捨ててくれば、遠慮なくこっちに来れるだろうが…ん、耐え切れなくなって逃げ出したんだっけ? ちょっと覚えてない。

 まぁ何にせよ、俺はレア博士のハニトラに引っかかったフリをしつつ、逆にハニトラかけねばならん訳だ。

 

 

 

 

 

 つまりは妹から姉を寝取るのか。

 

 

 

 

 これで妹が姉を陵辱でもしてりゃ、完璧だろう。でも無いな、処女だったし。反応からして、人に触られたのも初めてだろう。

 これは罪悪感が全く無い寝取り。胸が熱くなるな…だがNTRシチュとしては邪道だろう。俺は邪道の方がいいけど。と言うか、多分やったら爽快感しか感じないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

神無月頑張れ、帰省ラッシュに巻き込まれる人達日

 

 

 レア博士、ちょっと露骨に態度変わりすぎじゃね? いやいいんだけどさ。ラケル博士に対しても、ハニトラの一環だって言っておけばいいけどさ。童貞のロミオでさえも一発で気付いたぞ。

 甲斐甲斐しく世話する新妻みたいな態度になってた。いや、ちゃんと研究とかの仕事はしてんだけどね? ラケル博士も若干呆れていたような………いや、相変わらずの無表情無関心マネキン顔だったわ。内面も全く読み取れない。

 

 

 はー、それにしても昨日は凄かったなー。人格と能力は比例しないと言うが、体付きには反映されるんだろうか?

 なんつーか、とにかく男好きのする体ってカンジだった。スタイルいいのは見りゃ分かるが何せGEで一番の爆乳(バクニュウではなくバクチチと揉もう)、更には肌もくびれも腰も尻も足も脇も、これでもかという程セックスアピールの塊みたいな人だった。エグいくらいにスタイルがいい。…なお先ほどの『揉』は誤字ではないぞ、言うまでもないが。

 感度と締まりなんぞ言うまでも無いレベル。オカルト版真言立川流も使ってないのに、初めてであれだけ乱れるとは…。…これだけスゴイ体してるから、ラケル博士に徹底的に手駒扱いされてるのかねぇ。金とコネ作るのに、異性の体は一番効果的な道具だ。俺だって似たようなことやってる…結果的にはね。実際、GE2では陵辱用の汚ッサン2号を相手にしてたような節があったし。

 

 ……そう考えると気に入らないな。自分と肉体関係を持ったからって、所有物扱いしていい理由には到底ならないが、単純に他の男に触れられるのは気に入らない。

 …気合入れて寝取るとしますか。ラケル博士から解放されりゃ、レア博士だってそんな真似をしなくてよくなる。

 あ、でも俺って今回ループの最期には………。

 

 …厄介な問題作っちまった。

 

 

 ま、レア博士はあれくらいでいいんだろうな。本人にしてみりゃ侮辱していると取られそうなので言わないが、これで隙の無い人間だったら手の付けようが無い。あれくらいポンコツで居てくれた方が、余程好感が持てる。……バカな女、って言ってる訳じゃないからね?

 うん、そーいう事にしておこう。だからレア博士、ご飯のお代わりお願いします。

 …新妻のような勢いで世話焼いてくれるんですけど。良くも悪くも単純な人だ…。なんだかなー、ここまで来ると作為的なモノすら感じるな。カラダ、顔、性格、オツム、チョロさ…なんつーかこの、男に媚びる為の要素が集結しているような、「都合のいいオンナ」のイメージを具現化したような…。流石のラケル博士でも、直接触れずに肉体改造するのは無理だと思うが。性格だって、人間の感性とは全く違うラケル博士じゃ、人格的に支配はできても誘導はできんと思う。

 

 ラケル博士も止めようとしてないんで、コレ幸いとスキンシップを取ろうとしてくる。いや、流石に公私の区別はつけてるよ? 公私混同しやすい人、って評したけど、それは男(今まではラケル博士)が何かしらの要求をした場合であって、そうでないならキッチリとキャリアウーマンやれるっぽい。

 …つまり、迫ればあちこちにあるフライアの暗がりで、白衣姿のレア博士を、博士の顔から女の顔に変えてしまえる訳だが。

 

 …あんまりそーゆー事ばっかりするのもな。自分がダメンズになったような気になってくる。別の意味でダメダメなのは自覚しているが。こっちも今後の為に色々と研究しなきゃいかんのだ。享楽のみに流されてはいられない。…メリハリは大事だ。

 

 

 

 

神無月頑張れ、休み明けで憂鬱な学生達日

 

 

 得体の知れないラケル博士…というのは正体を知っているからそう見えるんだろうか。他人から見ると、ラケル博士は静かで優しげな、聖母のような人に見えるらしい。

 ……でもあの喪服はどうかと思うぞ。支部長以上に怪しさ満点だ。…榊博士? 同じくらいかな。と言うか、葬式があった訳でもないのに喪服着てる事に誰か突っ込め。別に黒い服=喪服って訳でもないから、ファッションと言われればそれまでだが。

 ロミオは相変わらず張り切っているし、先日顔を合わせた辛気臭い博士も妙に舞い上がっている…無人神機兵の研究者だとか言ってたから、多分この人が利用される人なんだな。名前は忘れた。特徴に乏しいし…。

 

 俺としては、色々な意味であまり仲良くしたくない相手だが、仮にも協力を仰いでいるんだからそうも言っていられない。レア博士が色々バラしたってバレたら、厄介な事になりそうだしな。レア博士のハニトラに引っかかって、協力的になっているように見せなければ。

 ……レア博士の方がハニトラ状態って、察している人は結構居るけど。3~4日に1度のペースで、部屋まで遊びに来るし。遊びの内容? …アレ一辺倒って訳じゃないよ。愚痴にも付き合うし、何かについて議論もするし、雑誌を見てあれやこれやとバカみたいな話もする。

 意外と思うか? だがこれは必要な事だ。別にイヤイヤ付き合ってる訳じゃないが、レア博士をラケル博士から寝取るのに必要なのは、肉体的な関係よりも心の拠り所になる事だ。「頼りにされている」と言う形でも、「この人なら受け止めてくれる」という形でもいい。本心から、ラケル博士の罪悪感よりも俺を選ぶように仕向けないと。……違った、絆を深めないと。

 

 …まぁ、勿論ヤる事はヤってるんですけどね? それも重要かつ有効な手段である事は間違いないし、こんな美味しそうなの前にして俺が我慢できる訳ないじゃん。

 甘々に甘やかすようにイヂメてやると、まー染まる染まる。アリサも染まりやすかったが、アレは長年の洗脳の結果だろう。それに対してレア博士は天然モノだ。…いや、支配されつづけた結果が精神とカラダを変質させたのかな?

 あっと言う間に「もうアナタが居ないと生きていけない」レベルまでドップリ浸かってしまった。…沈めたのは俺だけど。

 

 それでも、まだラケル博士から奪…もとい解放されたとは言えないだろう。むしろここからが山場だ。今までは鬱屈を吐き出し、甘い夢を見せて信頼関係を作り上げた。しかしここからは、ラケル博士と俺の間で板挟み状態になっていくだろう。

 …対立が明確になった時、レア博士はどちらにつくのか、決断を迫られる。罪悪感か、色恋か。

 それがいつ頃になるかは分からないが、それまで精々こっち側に引きずり込むとしよう。

 

 

 

 

 

 …いや、別に引きずり込んで利用するだけしてポイとか考えてないよ? ……でもそうなっちまうのかなぁ…ループの事もあるし…。

 

 

 

 

 

 あー、ところでだな、何だかんだで研究に協力してロミオを扱きつつラケル博士と水面下で探りあいしてレア博士でゲフンゲフンしてた訳だが、ふと気付けば結構日が経過してしまっていた。そして我に返る。

 

 

 

 リンドウさんどうなった!? 大慌てで極東支部に連絡したが、特に騒ぎになった様子は無し。アリサが相変わらず周囲と仲が悪い、なんて話もあったから、何とかセーフだったか。

 我ながら迂闊だ事…。しかし、真面目な話、いつ暗殺計画が動くのかが分からないのは痛い。それらしい任務があったら、こっちに分かるようにできないものか。

 しかし、暗殺計画の状況としては、1つの区画に複数のチームが居るという、本来なら有り得ないイレギュラーな状況。そんなのが発覚したら、すぐに任務にもストップがかかって暗殺計画もそもそも動かない筈。

 異常が起こったらすぐ分かるようにする方法…何かあるかな…それがあったとして、すぐに駆けつけられるか? 多分ミッション地点のド真ん中だぞ。オペレートの為の中継車までなら、電脳空間を通じて行けるかな?

 

 …ちょっと試してみるか。

 

 

 

 

 

 ヲイ、何で今正に暗殺計画真っ最中なんですかねぇ。今回、何かとタイミング良過ぎね?

 

 




なんか思ったより書き溜めがあったんで、17時にあと1話分追加だぜ! ちょっと短いけどな!


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154話

という訳で、GWの隔日投稿終了です。
お付き合いありがとうございました。

うーむ、書き溜めがキレイサッパリ吹き飛んでしまった。
…ただし、4/25日時点での書き溜めだけども。
ちなみにコレを投稿予約したのが4/25な訳で。
今までどおりのペースだったら、また2~3話分の書き溜めが出来てるんじゃないかな(願望)



神無GWは楽しかったかな? 俺? ……聞くな日

 

 

 半日ほどフライアでの研究をサボッてしまった。前日に深酒して、その辺でぶっ倒れてたって事にしたが…反省文提出する羽目になったよ。

 ま、暗殺計画自体は阻止できたし、汚ッサンを遠ざける為の各種資料(前回、ツバキさんが使ってた奴だ)も渡してきたんで、大丈夫…かな。

 

 

 ちなみに、暗殺計画阻止の流れはこんなカンジだったか。割と大変だった…。

 

 

 

 半ばヤケクソ気味にダイヴインして中継車に移動し、ダイヴアウト。よく迷子にならなかったものだ。現実空間に出ると同時にミタマ「隠」で姿を消してダッシュ。現場に到着した時には、ブーチブーチ ブーチブーチ テーテッテレー テーテレーテレーに囲まれ、既にアリサは錯乱寸前、戦列は滅茶苦茶な混戦状態、それでも何とか保っているのは、ベテラン組が頑張っていたからだろう。

 で、その非情にピンチな状況に俺・乱入。何でここに、なんて言われながらも、とりあえずこの状況に天の助け、と言わんばかり。手近な所にいたプップクプー・マンマミーアを2体始末したのは良かったんだが、そこでアリサが耐え切れなくなってドン。

 リンドウさん…と、混戦状態で偶然近くに居たソーマ、そしてダッシュで飛び込んだ俺が教会に取り残されましたとさ。で、どうやらアリサはダウンしたようだった。外に居るのは、サクヤさんとコウタのみ。

 幸いだったのは、サクヤさんが冷静で居られた事だろうか。ゲームだとリンドウさん一人が閉じ込められて黒爺猫と一対一な状況になってしまっていたが、今回は3人、しかも腕利き揃い。返り討ちにするのはそう難しい事じゃない。

 むしろ、気絶したアリサを背負ってサクヤさんとコウタが逃げられるかって事の方が、余程問題だった。…まぁ、ソッチはコウタがアリサを背負い、サクヤさんが目晦まし連発して逃げ切ったみたいだけども。

 

 …で、教会の中に一緒に取り残された二人から、「なんで態々飛び込んできた」みたいな視線を送られつつも、ノソノソと入ってきた黒爺猫と対峙。

 思えばコイツに何回殺られた事か。鬼杭千切叩き込んだり色々やったけど、今回は真正面から潰させてもらおう。

 ふふふ、なんたって今回は3人居るからな。攻撃の手も3倍だ。フルボッコにしてくれる。

 

 

 

 と、思ってたんだけど。…黒爺猫って、あんなに強かったか? いやアイツがおかしかったのか?

 

 

 途中までは押してたんだけど。…ちなみに、その時の会話がコレ。

 

 

 

「このまま行けば、生きて帰れそうだな。外のアラガミも、入ってこれるのは一体ずつだろうし」

 

「…蹴散らすだけだ」

 

「…それはいいんだけどさ…黒爺猫に、あんなモンついてたっけ?」

 

「………俺は見た事無いな」

 

「…………蹴散らす」

 

 

 会話をしようぜ、ソーマ。

 …ともあれ…目の前にいる黒爺猫は、何故か羽を生やしていた。最初は無かったんだけど、なんかこう…背中からメキメキブチャブチャバリバリと、肉を引っぺがすような音をさせつつ羽を広げやがった。

 何あれ。何でネコに羽生えるの。いや、確かにそーいうネコも居るって聞いた事あるけど、確かアレって皮膚病とかの結果だったりしたような。アラガミに既存の生物の常識を当て嵌めるが間違いと言ってしまえばそれまでだけど。

 

 …今までのループも、こんな羽が生える特別な黒爺猫だったんだろうか? それとも今回が特別なのか。

 しかし、こんな狭いトコで羽なんぞ生やしてどうするんだ。屋内だから空を飛べる訳じゃないし、滑空突進とかも出来ない。ゲームなら障害物を無視して羽を振り回せるかもしれないが、現実でそれをやろうとすると壁につっかえる。無視して振り切れるってんなら、それはそれで好都合。だって教会の壁ぶっ壊してくれるんだし。

 無意味なコケオドシですな。

 

 …そう思っていた時期が、俺にも3秒くらいはありました。何アレ、電撃がメチャメチャパワーアップしてんですけど。しかも電撃を翼に流して振り回す攻撃が洒落にならん。切れ味が一気に跳ね上がってた。ナイフを振動させて切れ味を増すって技術があるけど、あれの応用か? でも電気流してるだけだしな。

 もー、何なのあの翼。壁でも何でもスパスパ切り裂いて、ヘタすると神機のシールドすら斬られかねなかった。

 で、更に翼を振り回して大暴れしている内に、いいカンジに脱出できそうな穴が出来た訳ですよ。

 

 

 

 ただし教会が崩落しました。そりゃそーだよねー、「好都合」なんて考えてたけど、こんな崩れかかった建物の中で柱に片っ端から切れ込みいれれば、そりゃ崩れるわ。ただでさえ、直前のアリサの銃撃で一部ぶっ壊れるってのに。

 更に言うなら、教会から無事脱出したはいいものの……ヴァジュラとブッパッコー・ヴィンヴィンの群れ。…うん、まぁそうだった。黒爺猫だけじゃないもんね。それだけこっちに群れが居るって事は、サクヤさん達は無事逃げ切れたって事だろうから、まぁいいんだけどさ。

 で、崩落した教会から平然と飛び出してくる黒爺猫。

 

 

 …流石にヤバい、ってんでスタングレネードとか使ったんだが、さっきサクヤさん達が逃げる時に使われて学習したのか、上手いこと目を閉じたり顔を背けたりして避けやがる。タマフリも使ったが、近場の建物の影に逃げ込むので精一杯だった。それも、ニオイで追跡されているから発見されるのは確実。

 とりあえず回復錠使って一息ついて…リンドウさん、こんな状況でタバコ吸うなよ見つかるだろ。

 

 

 

「さて、どうするかな…。おいソーマ、なんかこう、アラガミを明後日の方向に走らせるような秘密の特技とか無いのか?」

 

「ある訳ねえだろ。そういう事はコイツに聞いたらどうだ。確か、どっかの怪しげな研究に協力しに行ってたんだろう」

 

「流石に魔法は無いなー。霊能力ならあるけど」

 

「そんなら、俺らの守護霊様にちょいとお願いしてくれんかね」

 

「赤髪ロンゲで頬に傷のある中国人っぽいから無理。酒とタバコとオンナが好きそうだけど、なんか虚無感感じるな。エロガッパとか呼ばれてそう。言葉ワカンネ。ちなみにソーマのは…なんかゾウリムシみたいな形の一つ目玉のナマモノ」

 

「怪物じゃねえか! 何でアラガミが俺の守護霊……ッ!」

 

「いや、コレと一緒にされたらアラガミでも怒ると思うぞ。と言うか、これは生まれとか全然関係ないと思う」

 

「…テメェ、知って「はいはいおふざけはここまでにして」「守護霊かはともかく、憑いてるのはマジだが」「どうでもいいよ。で、何か無いか? とっとと逃げられるような、楽な方法」

 

「…ある訳がないだろう。生き残りたければ、蹴散らすだけだ」

 

「まぁそういう結論になるよな。でも、あるにはあるんだよねぇ」

 

「ん? あるって何が」

 

「リンドウさん自分で聞いたじゃん。とっとと逃げられるような、楽な方法」

 

「聞いといてなんだが、あるのかよ!?」

 

「………」

 

「ソーマ、そう疑わしげな顔するなって。俺一人が生き延びるなら朝飯前。二人だとちょっとキツイ。3人だと…まぁ、全力でやれば何とかなる。ただし、これをやるにはなるべく多くのアラガミを一箇所に集める必要があって、失敗したら俺は暫く使い物にならなくなると思ってくれ」

 

「いいんじゃね? 最悪、俺がどうにかしてみせるさ」

 

「見栄を張るな。それができるなら、アンタは最初からやろうとしているだろう」

 

「無粋な事言うねぇ…ま、成功させりゃいいんだろ、要するに」

 

「俺一人にかかってるようなもんだけどね」

 

「言いだしっぺの法則って奴さ。で、準備はいいかい?」

 

「…無駄話してる間にこうなったか…」

 

 

 

 気がつけば囲まれております。黒爺猫も近くに居て、余裕を見せ付けるかのようにノシノシとゆっくり近付いてくる。それに合わせるように、包囲も縮んでくる。

 

 

「で、なるべく一箇所に集めるって事だったが、もっと近くか?」

 

「の方が都合がいいんだが、これくらいでもまぁやれるな。んじゃ、始めますか」

 

 

 

 建物の影から出て、黒爺猫に真正面から向かい合う。…ニタついてやがるな。観念したとでも思ったか…いや、油断はしてないか。なる程、ゴッドイーターの諦めの悪さをよく知っているようだ。

 

 でも今から相手になるのは、ゴッドイーターなだけじゃないんだなぁ。

 

 

 

 

 

 

「変 ! 身 !」

 

 

 エフェクト! …別に回転したりマッパになって少女マンガチックにメイクアップしたりはしない。…オェ…。

 しかしとりあえず閃光は出るので、同時に音爆弾とか適当に投げて目潰し聴覚潰し。今回の閃光は予想できなかったらしく、目が眩んでいる手近なビッチ・マーラを4体斬首。ちなみにコアのある場所も鬼の目タカの目で一目瞭然なので、サックリ砕いておきました。

 

 そして眩暈から回復したヴァジュラ達に、口上も無しに襲い掛かる俺。炎・氷・雷……はこいつらには効き辛いから使わなかったが、エネルギー波、斬撃、霊波攻撃、その他諸々使って斬。惨。懺。

 半分くらい始末した辺りで、我に返ったらしい黒爺猫からの雷撃。ホイッとトンボを切って避けて、これ見よがしに息絶えたヴァジュラの上に着地して、見下ろしてみせる。

 群れに害された事を怒ったのか、それとも単に見下されたのが気に入らなかったのかは分からんが、咆哮を響かせて飛びかかってこようとして。

 

 

 

 

 

 おいおい、受け責めいくつか予想してたが、そりゃ悪手だろニャンコ。

 

 

 

 

 飛び上がろうとした瞬間、黒爺猫の死角から急接近したソーマとリンドウさんが両前足をブッ千切った。予想外の事があって慌てたのは分かるが、意識を俺だけに集中すっからだ。

 

 さて、何だかんだと色々あったが、テメーは何度殺っても飽き足らん!

 

 

 死ねよやぁぁぁぁぁ!!!

 

 

 本当なら鬼杭千切 ~其は人生の穴を意味もなく掘っては埋める一本の杭~ を叩き込んでやりたいところだが、まだヴァジュラの群れが残ってるから自重。…どうでもいい事だが、~一本の杭~までが正式名称な。スゲー久々に使った名前だけど。

 黒爺猫を、尽き得ぬ怒りを以て斬首……し損ねた。翼でガードしやがったのだ。その直後、全身から放電しながらの咆哮。どうにも、「俺を守れ」的な意味だったと見える。一斉に俺…いや、俺達に向かって ネコの群れが飛びかかってきた。

 一体一体ならどうとでもなるが、フレンドリファイアすら躊躇わない大乱戦になっちまったからな…。アラガミとは言え、獣にこうまでさせる統率力があるとは。あの黒爺猫を侮ったのは一生モノの不覚だった。

 

 今までリンドウさん暗殺シーンで出てきた黒爺猫があの個体なのかは分からんが、あいつは確実に仕留めなければならない。あの大乱戦…見ようによっては、「役目を放棄した群れのリーダーを、それでも守ろうとした」とも見える。アラガミ達にとって、それだけのカリスマがある個体なのかもしれん。

 放っておけば、何が起きるか分からない。それこそ、アイツが指揮するアラガミの群れが押し寄せる事すら想定しておかないと。

 

 ともあれ、乱戦になったのは良かったのか悪かったのか。図体がでかくて数が多い分、乱戦で被害を蒙るのはアラガミ達の方だった。んで、火力で言えば俺の方が遥か上。継戦能力だけは低いが、限界が訪れる前に決着はついた。

 何匹かが逃げていく足音を聞きながら、人間状態に戻った俺は壁に背を預けて座り込んだ。

 

 色々と想定外かつ突発的なイベントだったが、何とか乗り切れたな。肩で息をしている俺に、ソーマが近付いてきて物問いたげな顔をしていた。

 

 

「…お前は」

 

「ああ、別に体弄くられた訳じゃないぞ。普通にゴッドイーターになって、色々あっていつの間にやらアラガミ化を制御できるようになってただけだ」

 

「制御…そんな事ができるのか?」

 

 

 未だに理由は分からんけどね。夢見ただけで制御できるようになるとか無いでしょ。

 

 

「理屈で言えば、できると思うよ。アラガミっつっても、知性を持った生物には変わりない。コミュニケーションの方法さえあれば、共存出来るかはともかくとして意思を通じる事はできる。で、そこらのアラガミにせよ神機にせよ、アラガミってのは細胞の郡体であって、だったらどっちも考える力があってもおかしくない。…或いは、俺達の体の中の細胞にもな」

 

「…何言ってやがる。お前の理屈が正しいんなら、人間は自分の体の細胞一つまで制御できる事になる」

 

「できなくはないと思うけどね、難しいだけで。とりあえず、俺が言う事は一つだけだ。…内緒にしてくれよ? 支部長にもさ」

 

「二言になってるぞ」

 

「じゃあ、支部長にも内緒にしてくれ」

 

「言い直してどーすんだよ。まぁ、黙っておくけどさ。…今更だけど、助かったぜ。ありがとうな」

 

「………」

 

「ホレ、ソーマも言えって」

 

「自分で言い出すか。……チッ、助かった」

 

「おう。んじゃ、悪いけど俺、休暇じゃないのに抜けてきたんだわ。榊博士とかにバレないうちに、さっさと逃げる。したらな!」

 

 

 

 …大体こんな感じだったかな。はーやれやれ、もうちょっと準備できてれば、もっと楽だったものを。

 ともあれ、リンドウさんも無事だった。アリサが昏睡したかはこれから確認しなけりゃならんが、とりあえず生きてる。まぁ、悪い結果じゃないか。

 そういや、何時ぞやのループでアリサを昏睡させたままになっちまった事があったな。…今更回復させたからって、その事実が変わる訳じゃないが…いや俺の中にしかない事実だけどさ。

 

 そんな事を考えつつ、仕事をサボった始末書の文面を考える一日だった。

 

 

 

 

 

 ところでどうでもいい事なんだが、汚ッサンどうなるんだろうな? リンドウさん暗殺だけなら、まだ支部長の意思にギリギリ沿っていたかもしれんけど、息子まで巻き込んで死なせるところだった訳で。

 支部長は私情で動くタイプの人じゃないが、チャンスがあればついでに私情を晴らすタイプの人でもある。ついでに言うなら、表面上にはさせないけど、何だかんだで家族への情が強い人でもある。

 …自分の首を絞めたんじゃねぇの、あの汚ッサン。

 

 

 

 

 

 

-追記-

 

 

 書き忘れてたけど、帰る時にこんなイベントが。

 

 

「…おい、それ何やってんだ?」(←リンドウさん)

 

「何って、何の事?」(←俺)

 

「…神機に何食わせてんだって事だ」(←ガングロコミュ障将来のロリコン……もうヤッちゃった俺が言えた事じゃなかった)

 

「何って…」

 

 

 見てみた。…神機が勝手に動いて口を伸ばし、なんかムシャムシャしてた。アラガミ以外も喰えるように躾けたけど、勝手に自分から食べ始めるのは初めてだなぁ。

 何かと思ったら。

 

 

「…壊れた神機? を食べてたのか? …どっかのゴッドイーターが死んで、野晒しのままになった遺された神機か」

 

「何で神機がそんな物食べるんだ…と言うか、お前が食わせてたんじゃないのか?」

 

「いや、勝手に動いてた。拘束具が取っ払われてるから、コイツもある程度自由に動けるんだろ」

 

「…食わせても大丈夫なのか? 神機食いすぎてスサノオ化とかしたりしてな」

 

「大丈夫じゃね。自分から喰ってんだし。…あ、リッカさんには言っておかないとな。随分メンテできてないし」

 

 

 

 反省文書いてから調べてみたら、「烏合崩し」なるスキルがついてたんだが…なんだコレ? こんなスキル、GEでもGE2でも聞いた事ないぞ。

 知らないスキルが入ってるのは、神機が遺された神機をムシャムシャしたからだと思うけど…。

 




……調べてみたら、また5~6話分くらいの書き溜めができていた…。
機会を見て、また隔日投稿しようと思います。
とりあえず、次の投稿は11日の予定です。

討鬼伝2の体験版も飽きが入ってきたんで、発売までの時間潰しに今まであんまりやってなかった方面に手を出してみようか思案中。
ただし、最初は全て体験版で行きたいと思っている。
案①ファークライ原始時代版。ステルス暗殺と単純そうなストーリーが魅力だが、銃とか無さそうなのが不満。
案②10日発売のアンチャーテッド。ストーリーは最終的には勧善懲悪になりそうだし、STGの扱いも覚えられそうだけど、ストーリーが一本道っぽい。
案③艦コレ改。外伝に出せるかもしれない。多分、運営とか考えずに欲望に溺れ続けるだけだが。
案④フォールアウト4。イカれた世界観と自由度の高さ、STGの基本も覚えられそうなんでワリと注目株。

…とりあえず体験版ダウンロードするか…。


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155話

ファークライもフォールアウトもアンチャも体験版無いんかいィ!
むぅ、どうする…やはり艦コレか。
それともいっそ、ガルパンにでも流れるか? ゲームとしての面白さは全く期待してないが。
ガルパンはいいぞ? シモネタとしてどこまで使えるかが重点なんだよこの場合!
ダクソも考えたが、死にゲーは…。
ソルサクは狩りゲーだから、討鬼伝2と被る。
それに、そろそろ討鬼伝2vita版体験版も出る筈…。


神無月仕事でミスが多いと泣きたくなるね、大人でも日

 

 

 さて、反省文以外は何事も無かったかのようにロミオを鍛えてレア博士とアイコンタクトでイチャついてラケル博士の無表情を気味悪がったりする。

 その一方で、メールを使ってリンドウさんとも連絡を取った。ヘタな事を書くとハッキングとかでバレる可能性もあるので、当たり障りの無い表現にしておいたが。

 

 結局、あの場に居たゴッドイーターは全員無事。ただし、やはりと言うべきか、アリサが昏睡になって目を覚まさないらしい。汚ッサンが主治医としてついているという事は、やっぱり何か投薬されたんだろう。新型同士の感応現象は期待できないし、最悪、いつぞやの討鬼伝世界で初穂にしたように、のっぺらミタマを送り込むか。

 

 汚ッサンを排除する為の裏工作も開始。事前の計画通り、アリサの主治医でありながらメンタルケア不足、そしてそれを隊長であるリンドウにも伝えていなかった事などを皮切りに、汚ッサンが隠蔽してきたアレやコレやの記録をリンドウさんに渡してある。上手いこと使って、支部長派の汚ッサンを遠ざけてくれ。後はこっちで始末するから。……いや、実際にはこんな事連絡してないよ? アリサの錯乱により主治医の言動に疑問を持ち、色々調べたんでそっちに送る、新型使いの主治医として不適格と言わざるを得ない…とメールに書いただけだよ。

 

 …ただ、リンドウさんには逆に俺が怪しいと思われちゃったみたいなんだけどね。アラガミ化の事はまだいいにしても、異様にいいタイミングで駆けつけた上、その元凶(と俺は言っている)の人間の汚点について、異様に素早く証拠付きで提示してくる。

 ナルホド、助けに行ったのも何かの陰謀の一環なんじゃないか、と思われたのね。まぁ間違ってはいないな。こうなる事は予測できていて、それへの対処を練りこんでいたんだし。

 まぁ、今回の件に関しては、リンドウさんは素直に俺の予想通りに動いてくれるようだ。この人にとっては既にアリサも部下、身内。それに妙な蟲がついている上、昏睡にする為の小細工までした疑いがあると来ては黙っていられる筈が無い。

 

 

 ともあれ、とりあえず汚ッサンはどれだけ低く見積もっても解任だろう。リンドウさんも、バカ正直に支部長に報告するのではなく、まずツバキさんを筆頭とした周囲に知らせようとしている。支部長が汚ッサンを強権で庇おうとしても、そうできないように。

 …そういえば、この時期の支部長はどっかに出張に行ってるんだっけか。だったら尚更、汚ッサンの排除は上手くいきそうだ。

 

 …排除? しまった、このままだと汚ッサン無傷のままどっか行っちゃうかもしんない。幾ら色々証拠を集めておいたとは言え死刑にはならないだろうし、表舞台から追放されたら裏に潜って暗躍を続ける可能性もある。この辺は、支部長が汚ッサンにまだ利用価値があるとして保護するか、それとも不要な事ばかり知っている用済みとして始末するか、微妙なところだが…どっちにしろ、確殺ではない。

 

 ツバキさんの権限で、異動…になるかな? 解雇になるかもしれんが…どっちにしろ、アナグラから居なくなるタイミングが分からない。妙な事を始める前に、始末しておきたい。私情私怨が入っているのは認める。

 

 

 あー、どうするかな…異動前に適当に暗殺するか? でもそうすると、前にも考えたようにアナグラ内部に殺人犯が…って事に。事故を装うか? だが憲兵さんは優秀なようだし、誤魔化しきれるか…。いや、問題なのは誤魔化しきれるかよりも冤罪を着せられる人が出る可能性か。

 うーむ、なんかもう汚ッサンとは言え人を始末する事に疑問も躊躇いも覚えないなぁ。…これが他の人が相手だったら、どうだろう? 身内や仲がよくなった人なら、俺も躊躇うし拒絶もする。…見ず知らずの、その辺を歩いているだけの通りすがりだっただろうだろうか。

 

 

 

 …ああ、まだ「冗談じゃない」と思えるな。思う程度だけど。

 

 

 

神無月酔っ払って昼寝して夜が眠れない日

 

 

 リンドウさんから連絡が入った。汚ッサンの解雇が決まるらしい。らしい、というのは……それだけで済むのか、って話かな。独房にでも放り込むのか、それとも文字通り解雇だけで終わりにするのか。

 フェンリルは企業であって、軍でもなければ司法機関でもないから、死刑なんて出来ないんだよなぁ…表立っては。

 

 裏ではヘタな違法研究所がドン引きするような行為だってやってるけどな! だって適合できなかったゴッドイーターの「介錯」なんて日常茶飯事だもんね。救えないよ。幸いにして、俺はやった事ないけどな…神機使いの成れの果てといわれている、スサノオなら屠った事はあるけど。

 

 

 それにしても、えらい早いな。昨日の今日だぞ? それだけ無茶をしたって事なのか、それとも汚ッサンがやってきた事が更に明るみに出てきたのか。

 

 

 それともアレか、昨日のラケル博士との研究・実験で、血の力の検証と称して霊力を高めつつ汚ッサンに呪詛を送っていたのが効いたのか。ガチ霊能力使いで、タマフリは人間に効果を向ければ冗談抜きで呪いみたいな効果が出る物もあるから、出来ない事はないぞ。ただ、モノノフの間でもその手の行為は御法度とされているので、ちゃんとした呪詛の知識がある訳じゃないが。

 ちなみに、それを見ていたラケル博士は各所センサーのモニターを見て首を傾げていた。本当に、俺の力をどう判断するか迷っているんだろうか。ラケル博士がそうだったとしても、その中身…操っているアラガミの意思がどうなのかは分からないが。

 

 

 

 で、ロミオにも同じようなセンサーを取り付けてる訳ですが……先日まで反応が無かったセンサーに、微弱ながら俺のと似たような反応があるんですが。

 

 

 

  ん?  

          んんん?

 

 

 

      んぬふぅぅぅ~~~?

 

 

 まさかのロミオ、血の力覚醒の前兆ですか? いや血の力じゃなくて霊力なのか? でも根っこが同じなのか…感応種が使っていた力が血の力だとすれば、限りなく近い代物ではあるんだが。

 そーなるとGE2ストーリーが…いや別に血の力があろうとブラッドアーツがあろうと死ぬ時は死ぬから、関係ないのか?

 

 と言うか、ロミオの血の力って何だったんだろうか? GE2では結局明らかにされんかったぞ。続編が出てソッチで追憶のロミオとして復活しそうだなー、とは思ってたが、俺がこのループに入る時にはそんな話は出てなかった。

 ……興味ある。興味あるぞ。スッゲー知りたい。

 

 

 …どーせ、デスワープしてしまえばストーリーだってリセットされるんだ。よし、このまま鍛えて目覚めさせるか!

 なぁに、最悪ロミオ死亡じゃなくて他の誰かを死亡って事に…いやいや、カワイイオンナノコが死ぬのはアカンな。ナナにだって、短い間だったが面識は(例によって一方的に)あるんだ。タヒるとしたらギルの役割か。

 ……いやいや、流石に不謹慎だって。幾ら現状では見ず知らずの他人もいいトコだって言っても、そんな理由で他人に死を押し付けちゃアカンでしょ。

 まーなるようになるわ。最悪、誰が死ぬとかブッチしてラケル博士をサクッと始末しよう。後から色んな人に仇として狙われそうだが、ゼヒもナシ。

 

 

 さて、そうと決まれば本格的にロミオに血の力と言うか霊力の扱いを叩き込むべきだが…まず大前提として、出力が足りない。ブラッドアーツにせよ血の力にせよ、それなり以上に強いエネルギーが必要だ。

 それを上げる方法としては…死の淵に瀕する、怪しげな儀式に頼る…のはアカンな。ちゃんとした訓練方法を身につけさせておかないと、歪な形に仕上がるだけだ。

 

 という訳で、今までのような訓練とは違った方針にします。

 

 そう告げた時、ロミオは「やっと慣れてきたのに…」とボヤいていた。…まぁ、コウタやアリサ達にしたような本格派デスマーチ程じゃなかったが、順応できたのはスゴイと思うよ。スパルタだったのには違いないし。

 実際、体力作りと称して何度も何度も何度も何度も(中略)何度も何度もアラガミのド真ん中をトライアスロンさせたり、気配を消す術を教え込む為にコンゴウの背後を30分間尾行させたり、ビビりな性根をどうにかする為に誤射(故意)とかもやったからな。

 どれもロミオの危機意識をビンビンに刺激し、魂にも負荷を与える鍛え方だった。おかげでロミオの性格がちょっと変わってしまったような気がするが、問題はない。狩りをするに際して、楽天家な印象がなりを潜め、徹底的に準備し、無駄口一つ叩かずに効率厨みたいな戦い方をするようになっただけだからな。

 

 ま、とにかく、今後の訓練は今までのように死線を潜るものじゃない。むしろ「何もしない」事がメインになるだろう。…うん、しっかり疑わしげな目をしているな。以前なら「楽そうだな!」なんて言っていたろうに、いい塩梅にスレてくれそうだ。

 とりあえず基本。アグラ・メティテーションからである。別に胡坐じゃなくてもいいが、とにかく背筋を伸ばして心を落ち着けて、そのまま深呼吸を続けなさい。唾を飲むとかクシャミが出るとかは別にいいけど、それ以外は基本動くの禁止な。そして考えるのも禁止。頭をカラッポにしなさい。

 OK出すまで続けるように。

 

 

 

 …思っていた以上に、ロミオには向いてなかったようだ。5分も経たずにソワソワソワソワ。ええい、今までの訓練で、息を潜めてジッとアラガミを待つ事くらい何度もあっただろうが。

 

 

 

神無月信長のシェフに思いっきり麦茶零した…日

 

 連休になったんで、アナグラに戻る事にする。今回はダイヴ・インも使わず、普通に車で帰る。

 ……コクーンメイデンに3回くらい激突したけど、まぁ人間相手じゃないからいいよね。

 

 はー、しかしやっぱり極東支部は落ち着くなぁ。アラガミの強さ的な意味で。フライア周辺の連中は脆くてイカン。狩りを通り越して作業になりつつあったし、せめてこれくらいの強さがないと。つっても、まだまだ弱い奴が殆どだけどね。偶に「おっ、こいつ普通のアラガミじゃないな」と思うのが湧くけども。

 ロミオもこれくらいの基準の中で鍛えてやりたいもんだ。

 

 今回は色々やらなきゃいけない事があるんで、休日と言ってもゆっくりしているヒマが無いんだよな。

 まずは神機のメンテと異常の調査から始まって、リンドウさんを初めとした何人かに顔見世、汚ッサンを闇系して、可能ならアリサを目覚めさせて、更に農園の手入れをして。支部長はまだ出張から戻ってきていないからパス。一応、榊博士にも向こうでの事を報告しとかなきゃ。平日よりも忙しいんですがそれは。

 ま、文句言っても仕方ない。8割くらいは全部俺の個人的な都合の用事なんだから。

 

 まずはリッカさんの所に顔を出して神機を預け、同時に遺された神機をムシャムシャした為妙な機能がインストールされている事を相談。「またやらかしたの?」ってどーいう意味ですねん。いや、色々無茶な神機だって事は自覚してますけどね。

 と言うか、またしても未知の現象を前にして、目を輝かせているリッカさんも大概だと思います。尻尾がパタパタ揺れてるのが見え……あの、ちょっと興奮しすぎじゃないですかね? 目の色が変わってるし、なんか吐息もエロっぽく見えてきたんですが。

 

 …しかし、色々研究課題を提供してしまったけど、大丈夫かね? やる事多くなりすぎて、にっちもさっちも行かなくならん? ……はぁ、優先順位はつけているから大丈夫、と。

 まー無理せんといてくださいよ。今の俺の神機、一番詳しいのはリッカさんなんですから。

 

 

 続けてリンドウさんとサクヤさんが話している所に遭遇。出会い頭にとりあえず礼を言われた。いやいやお構いなく。

 ところで、結局汚ッサンはどうなって……ハイ? もう居ない? 辞表を置いて失踪した?

 

 …これは、どう見るべきかな。失踪…転属とかではなく失踪。しかも退社(?)の許可を得る事なく、姿を消している。

 俺以外の人間から闇系されたか? 色々と証拠や過去の所業が湧き出ているし、恨みを持った誰かが行動した可能性もある。しかし、アナグラ内部で証拠を残さないようにして処理できるだろうか。俺でも難しい。

 やはり自分の身に危険が及ぶ、或いは支部長から用無しと判断されるのに気付いて、口封じ去れる前に自分から逃げたのか。

 …厄介な事になったな。タカの目で追えるといいんだが。

 

 

 汚ッサンの手掛かりを探すのも兼ねて、昏睡状態のアリサの見舞いに。汚ッサンが失踪している今なら、のっぺらミタマを使わなくても目覚めさせる事が出来るかもしれない。自分から失踪したとするなら、アリサへの投薬も一度やったきりだろう。続けての投薬が無いなら、今アリサの中にある薬品の効果を取り除けばいいだけの事。

 …精神的な事が要因で目覚めないようなら、やっぱりのっぺらトリオの出番になるが。

 それにしても、アリサの口封じが投薬で済んだのは本当に幸運だった。もう自分の手から離れるのだから、と殺していた可能性だってあるのだ。…アリサ催眠をかけられていた記憶はないし、憲兵に追われるリスクを増やす事は無いと思ったのかもしれないが。

 

 …とりあえず、ミタマスタイル「癒」でアリサにチョップとかしてみる。殴って状態異常が治るってどういう理屈だろうね、本当に。

 だが残念、これだけでは目覚めない。癒特化の手当とか女神ノ社強化・快癒とかも使ってみたが、イマイチ。ただ、タマフリ・変若水だけは手応えがあったように思う。流石、体力気力に状態異常、果ては戦闘不能まで回復する究極業だ。

 何度か繰り返せば、目覚めさせる事ができそうだ。

 

 変若水を使えるだけ使って回復させた後は、汚ッサンの手掛かり探し。医務室を初め、汚ッサンが割り当てられていた部屋に侵入して家捜し、更に部屋にあったターミナルにダイヴ・インしてデータまで漁る。

 …ダメだな、ロクな記録が無い。それこそムナクソの悪くなるような記録も。…処分して行ったのか、それとも最初から記録に残していないのか。

 カルテはあったが、ドイツ語っぽいから読めない。

 

 しかし、何とか足がかりは追えそうだ。タカの目を使えば、非情に薄いが足跡とか痕跡が見える。かなり焦って移動したようだ。何者かに襲われた形跡は無いが…やはり自分から逃げたのか。

 進路からして、真っ直ぐに車庫に向かっている。車庫に来ると、そのままシャッターを開けて車で逃走。

 車庫の前は車の轍が多くあったので、流石にタカの目でもどれが目的の車かすぐには分からない。監視カメラがあったので、記録を探る。

 

 …特定完了。後は走って追いかける。

 車に搭載されている筈のカーナビを中継として、ダイヴインで追いかける事も考えたが、流石にどの車が目当てのものなのか分からないから却下。

 

 どうも、あまり多くの荷物を抱えていった訳ではない…つまり食料とかも無かったようなので、移動先はそう遠くではないだろう。後は、なるべく多くの痕跡が残っている事を祈るのみ。

 追いついた後は、今度こそ闇系のお仕事の時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人外の脚力で追いかける事、3時間ほど。

 痕跡は思っていたよりも早く見つかった。

 

 ぶっ壊された車が。

 

 

 

 さぁ、闇系の仕事のお時間であった(過去形)

 なんつーか、俺が手を下すまでもなかったよ。

 念のために周囲を探してみたが、食い遺しらしき白衣の残骸とか、あと指とかあった。

 

 

 

 南無南無。汚ッサンを喰ったアラガミが、食中りしてなきゃいいんだが。ちなみに、何の因果か因縁か、喰ったのは黒爺猫だった。しかも、俺が先日仕留め損ねた羽がある奴だ。

 何故にこんな所に黒爺猫が居たのか? …思うに、俺から受けたダメージを回復させようと、何処かに潜伏していたんだろう。リンドウさん暗殺の場所と、あまり離れてはいなかったからな。

 因果は回るらしい…まだ出来上がってない筈の因果も含めて。

 

 

 幸運な事に…と言うべきか、羽付きの黒爺猫はこの場で仕留められた。前回負わせた傷も癒えていなかったようだが、それを考えても不調だったような…。

 …やっぱり汚ッサン喰って食中りでも起こしたんだろうか。そういや、汚ッサンの部屋から漁った資料の中に「アラガミに喰われない、嫌われるニオイ」とかいうのがあったような……喰われなかったとしても、不快と判断されりゃ潰される事もあるし、そもそも瀕死状態で獲物を狩る力がなければ嫌いなモノでも食べるわな。それが毒になったのか、それともやっぱり汚ッサン自体が毒だったのか。

 とりあえず、珍しい個体だったんで、羽だけ剥ぎ取りして持って帰った。

 

 

 はー、しかしナンだな…俺もいい加減外道になってるけど、あの汚ッサンだけはどんな残酷な方法で殺っても心が悼まない気がするな。アイツにも色々あって、ある意味では時代の被害者なのかもしれんが……こうまで心置きなく闇系できる人間も珍しい。…絶対悪より嫌われてるだろうなぁ…いや6さんの事ではなくて。

 ま、潰すのはいいけど(だって生かしておいてもロクな事にならないし)、全く関係の無い事まで「コイツのせいだ。だから潰してもいい」と思わないようにしないとな。嫌いな奴個人に全ての責がある、と考えたくなるのは山々だが。

 

 

 

 

 

神無月暫くPS4で体験版漁ってみるか日

 

 ロミオの鍛え方を考えてたらふと思ったんだが、GE2のストーリーどうなるんだろうな? いや、ロミオが生き残るとかそーいう事じゃなくて、GE2主人公には「喚起」なんて能力があって、キャラクター達の血の力はそれを呼び水として覚醒していた筈。

 …でも、前のループでナナが能力暴走させたりしてたな。安定していなかったとは言え、あれは別に喚起の力を受けた訳じゃないだろう。

 仮に喚起がない状態でストーリー通りに進んだとして、血の力を使えるようになるのは何人か。例えばギルの血の力に目覚めた状況だけど、極端な話、やった事は因縁にケリをつけただけで、言っちゃ何だがこの世界ではよくある事だ。にも関わらず、ギルは特別な力に覚醒している。

 普通のゴッドイーターには無い、特別なPナンタラ因子の為…と言われればそれまでだが。

 

 そもそも、喚起の力自体プレイヤーにとってはあるのか無いのかよく分からん代物だったしな。何かしら、特別な条件を満たした時に発動するナニカがあればよかったんだろうが…それだとリンクサポートと被るな。

 ……ん?

 

 あるのか、無いのか分からない? それでも「ある」と思いこんで……思い込み。プラシーボ効果。

 

 

 よし、ロミオにアレ渡しておこう。菜園の警備にも使い、MH世界では正宗にも渡した霊力付きのサポート具。血の力の目覚めをサポートするものだ、とでも言っておこう。

 外見は、祝詞を刻まなければいけないんだが…それを分析される可能性があるな。可能な限りものものしく、そして胡散臭くいこう。それでもロミオが霊力を感じ取れるようになれば、サポート具に何かしらの力が宿っているのに気付く筈。そうなれば、後は鰯の頭も信心からって奴だ。

 

 

 

 さて、それは置いといてだ。

 何とかアリサを目覚めさせたい。投薬が無くなったんだから放っておけば目を覚ますかもしれんが、どうにもそれじゃ座りが悪いと言うか。以前、昏睡状態になったままのアリサを放置して(起こす手段が無かったんだけど)他のオンナとイチャついった負い目もある。あの時はジーナさんだったっけか。

 繰り返し変若水を使ってるんだが、どうにも一定以上回復する気配が無い。薬物はほぼ浄化と言うか、分解されていると思うんだが…。

 

 やはり精神的な何かががあるのだろうか。催眠暗示をかけられた…みたいな状況でも、ただそれだけで眠り続ける事になるとは思えないし、そもそも暗示だけでそうできるなら、投薬なんて証拠の残る真似は余計だろう。

 

 

 

 一人で考えていてもラチが開かないので、榊博士に相談に行ってみた。

 だが原因は不明。昏睡状態に陥る原因は多岐にわたり、確実に効く方法を見つけ出すとなると、それこそ風邪の特効薬を作るのと同じくらい難しいらしい。肉体的には異常が無い…先日まであった筈の薬の影響すら抜けているようなので(無論俺の仕業だとバレていた)、後はアリサ次第…いや、目を覚ますのを待つしかない。

 「君がいつもの妙な力で、目を覚まさせられるというなら別だけど」と挑発するように言われたが…それをやってダメだったんだよ。

 …やはり、のっぺらミタマを送り込むしかないのだろうか。それで上手く起きなかったら、送り込んだのっぺらが原因でアリサが延々と魘され続ける事に…。3日以内に起きなければ、もしもその後目覚めたとしても精神的に無事じゃない気がする。

 

 何が何でも、ここで自分がどうにかしなければいけない…訳じゃない。でもそうしたい。功名心、自意識過剰と言ってしまえばそれまでだが、それは俺が拘っている事でもある。こういう拘りが、繰り返しループする俺の精神を繋ぎ止めている………ような気がしなくも無い。ぶっちゃけ、無くなったら無くなったで惰性のままに生きていけるとは思うけど。

 

 

 でも実際、時間も確実な手段も無いんだよな…今日の夜にはフライアまで帰らないといけない。無論、帰ったところでダイヴイン能力を使えば、一気にこっちに戻ってこられるけど、医務室付近って監視カメラ思いっきり動いているんだよな…。アリサに何かしようと思ったらカメラに写らなければいけない。…ぶっ壊せばいいか。

 ……ふむ、ダイヴインか。

 

 …人間の意識とかって、結局のところ電気信号によって作られているモノなんだよな。インターネットアカウントの集合体であるのっぺらミタマを初穂の夢の中に送り込めた事も、その証明の一つになるか。

 

 

 つまるところ…俺が直接、精神の中に入り込む事も可能? これも一種の感応現象と考えられるかもしれない。

 いやでもそれは……流石に…。この際俺自身の危険は除外して考えるけど、精神の中に異物が入る訳だろ。そもそも人間(?)一人分が脳ミソの中に入るって出来るのか? 物理的には…不可能だな。でも俺はのっぺらと同様の情報集合体だから……入る事自体は可能? 問題は脳の容量か。人間の脳は全体の3割も使われてはいないと言うけど、そもそも俺一人分を送り込んだとして、情報量的にはどれくらいのサイズになるのか。のっぺらミタマは入り込めた…のっぺらは俺の全体の何割だ? あの時初穂に潜り込んだのは3体全員だったが…俺自身は?

 う~む、迂闊に試せない…ヘタをすると、精神そのものが俺の情報に圧迫されて砕け散るか、或いは逆に俺が異物として排除されるか…。

 

 …ぬぅ、汚ッサンが居れば実験台に出来たのにな。考えてみりゃ、イヤガラセするだけならのっぺらミタマを取り憑かせて放置するという手もあったか。勝手にノイローゼになってくれたかもしれない。

 他に実験できそうなのは………居るな、ラケル博士が。しかし、アラガミに意識を乗っ取られて自我ってモノがロクにないラケル博士を使って実験したとしても、それを基準に考えていいものか。

 その辺の一般人で実験するのも気が引けるし、フェンリル関係者だからと言って絡んでくる奴も、人体実験にOK出す程の罪があるかと言えば首を横に振る。…菜園を荒らさなければな。

 

 流石にぶっつけ本番は危険すぎるし、暫くはこのままにするしかないのか…無念。

 

 

 

 

 

 後ろ髪引かれる思いだったが、サクヤさんとかにアリサを頼む、と念押ししてフライアへ出発。

 リンドウさん暗殺の切っ掛けになりかえたアリサだったが、汚ッサンの所業が明るみに出ているから、そう酷い扱いは受けないだろう。…偏見の目で見られる事はあるかもしれんが…。何せ今までが今までだったし。

 

 何とか起こす方法を見つけよう、と思いつつ、本日は就寝。

 

 

 

 




他に気になるのは……。
ペルソナ5(発売日決定!)
PSO2
遊戯王(冬)
スパロボ
世界樹の迷宮
他に何かあったかなぁ…。


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156話+外…伝…?

アサシンクリード、実写映画化…だと…!?
元が実写かと思うような出来だったんで、PVを見る限りそこまで違和感は無い。
アクションシーンも…おお、パルクールしてる。
ストーリーは1作に収まる筈も無いから、色々投げっぱなしで終わる可能性大。
余計なラブストーリーを挟むかどうかが評価を分けそうな気がする。
アメリカで12月公開か…。
いつか近所の映画館で上映されたら見に行こう。4DXなら尚更。

ふむ、討鬼伝2vita体験版は24日…と。


神無月サザエさんのEDがあるじゃろ?日

 

 

 …怒りに震えるべきか、それとも褒めるべきか。久々にのっぺらミタマがやらかしやがった。

 勝手にアリサの精神に潜り込んでいたのだ。

 それだけなら、アリサが魘されるのがオチで、怒り一択だったんだが……眠った俺を、アリサの精神内に呼び込んだらしい。

 ナルホドね、俺全部を精神に潜り込ませるのが危険なら、俺の一部だけ、或いは精神だけを潜り込ませればいいって訳だ。単純だが盲点だったな。

 

 どうやってんだ、とは聞くな。のっぺら連中がやらかす事なんで、理屈もヘッタクレもありゃしない。

 

 ハンター式熟睡法すら使わず、普通に眠っただけだったんだが、ふと気がつけば廃墟の中。時々見る、どっか別の世界にでも飛んでるんじゃねーの?な夢とは違い、明らかにGE世界だった。だって目の前に黒爺猫が居たもの。そんで、男と女が一人ずつ歩いている。

 

 …なんつぅか、夢だからこその理不尽ってカンジだな。男と女はアリサの名前を呼びながら、暢気に歩いている。黒爺猫はその背後に居るが、何故か二人は気付かない。

 ま、とりあえずあのシーンだったのは分かった。感応現象でアリサの夢を覗いたシーン。この後、アリサが隠れている…クローゼットだっけ? の前まで男女…アリサの父と母が来た時、黒爺猫が動き出すって訳だ。

 単なる夢とは言え、人が食われるのを見てるのも気分が悪い。それが身内の身内なら尚更だ。

 

 さて、この黒爺猫はどんな奴なのか。アリサの恐怖のイメージの具現だと考えると、普通の黒爺猫とは違うだろう。強い弱いは別として、挙動さえも全く別物かもしれない。ガワが同じだけだと思った方が良さそうだ。

 

 

 

 

 …うん、予想通りに全く別物だったよ。ただし、弱い方に。厄介ではあったけど。

 アリサのイメージが反映された結果なのか、黒爺猫は噛み付きしかしてこなかった。避けるも受け止めるも余裕です。ただし、まず第一に狙うのが、俺ではなくてアリサの父母だった。これを止めるのが厄介だったな。

 ああそれと、やたらとタフなのは、やっぱり絶対的なトラウマとして焼き付いているからだろうか。或いは、汚ッサンの暗示がそれを助長させたとか?

 延々とブン殴ってもロクに効かなかったのは、「この程度じゃアイツは倒れない」という認識の結果だったんだろう。つまり、「これならコイツでも!」と思わせるような攻撃をすりゃいい訳だ。

 

 アラガミ化してからの斬首一発KO。実際は、これで斬っても核を抉り出しておかないと復活するんだけどね。

 

 

 で、黒爺猫が倒れるのと同時、クローゼットの中から出てきたょぅι゛ょが「パパ! ママ!」と父母に抱きついて…その辺で夢は終了。

 ほほー、アリサって子供の頃はこんなカンジだったのか。うむ、流石に年齢相応にマナ板かつ低露出だな。

 

 

 

 起き上がってすぐにやった事は、のっぺらミタマに対して毒付く事と、榊博士に連絡を取る事だった。朝っぱらから叩き起こされた博士はちょっと不機嫌そうだったが、アリサの様子を確認するとクワッ!と細目を開いた(んだと思う、雰囲気的に)。

 目覚めの兆候あり。少なくとも寝返りをうった……だったが、結局起きなかったらしい。だが、これで何とか出来るかもしれない。何度も夢の中に入り込み、今回と同じ事を繰り返そう。

 

 

 

 

 

 さて、アリサを目覚めさせる方法も…結果論的にだが分かり、割と気分がいい。荷が下りた訳ではないが、荷を降ろせる休憩所が見えた気分だ。

 ロミオへの訓練にも、一層熱が入る。悲鳴を上げるロミオ。血の力の目覚めを促すものだ、とお守り(MH世界産)も渡しておいた。胡散臭げなロミオ、何を考えているのか分からない目付きでそれを眺めるラケル博士。

 レア博士は……うん、お土産あげたら悦んでたよ。アナグラのアンダーグラウンド的な流通から手に入れた、大人のオモチャで。いや、ちゃんと研究はやってるけどね。

 

 

 ロミオには色々やらせているが、体を動かす実技に関してはそこそこ及第点を出せるようになってきた。あくまで訓練生の範疇では、だが。

 最初はヒィヒィ死ぬ死ぬ言ってたが、今では冷静に危険度と対処法を考える事が出来るようになり、不必要に腰が引ける事も…無くはないが、少ない。最近では、楽勝モード時よりもピンチの時の方が冷静な行動が出来るようにすらなりつつある。

 

 が、その反面、座禅が大の苦手なようだ。実技にしたって、「あんな風に何もさせてもらえずに、ずーっとジッとしているよりマシ」という意識の元に臨んだ結果のようだ。そこまでイヤか。

 …やり方を変えるか? 座禅や瞑想って言っても、決まった格好をしなければいけない訳じゃない。飯食ってようが寝てようが性欲に溺れてようが、いつでも出来てなければ瞑想や禅が出来ているとは言えない。

 

 

 

 という訳で、日頃頑張っているロミオに飯奢ってやろう、という話で連れ出してきた。未成年のロミオには酒は飲ませられんな。でもリンドウさんから、助けられた礼にって貰った般若湯ならあるぞ。あの人、一応TERAの出身らしいからな。…違ったとしても、リンドウさんが渡してくれた時に「ビールじゃねぇよ、般若湯だ」って言ってたから問題ない。そーいう事にしといてくれ、と頼んでなんかいない。

 久々に訓練を忘れて陽気になった(決してビールを飲んだ訳ではない。般若湯なら舐めたが)ロミオに、下世話な話を振ってみる。まー、彼女が居るとか居ないとか、そーいう話だ。

 

 それで分かったんだが、こいつ、結構女の知り合い多いのな。子供の頃から孤児院育ちだったらしいが、その院の8割以上の名前と顔が一致しているらしく、何かしらの交流があったようだ。何気にコミュ力枠だったのか? でもゲームじゃ空気が読めないような一幕もあったような。

 ただ、これは予想通りというべきなのか、精々が「いい友達」止まりだったようだ。院から離れた今では殆どのメンツと交流が無くなってしまっており、更には異性として付き合いがあった者も居ない。顔を見れば、お互いに「あっ」て感じで一目で分かるくらいには仲が良かったようだが。

 その中でも、一際仲が良かったのがリヴィという少女らしい。最初はツッケンドンだったらしいが、ロミオが延々と付き纏っている内に、段々と話すようになってきたとか。

 皆元気にしてるかなー、と暢気に言っているが……コイツが居た孤児院ってマグノリア・コンパスだよな。つまりラケル博士の手中にある。…無事かどうかは、正直言って疑わしいところだ。

 

 

 さて、話は逸れたが、下世話な話の部分に入る。言うまでも無くロミオはDTだった。年齢が年齢だからか、ちょっとした話にもすぐに反応してガッついてくる。ちなみに、レア博士がオトナになった事にも勘付いていた…誰がやったかも。

 陽気になっている為か、普段は言わないよーな欲望全開の発言すらあった。曰く、「血の力やブラッドアーツとかも使えるようになって、将来はすんごいゴッドイーターとして色んな人からチヤホヤされてモテモテになりたーい」だそうな。うんうん、青少年かつ性少年って感じだね。健全でいい事だ。

 が、ロミオよ、先達として一つ忠告しておく。オンナノコにモテモテなのを楽しむのには、まず何よりも女を好きになる事だ。女性という神秘的なイメージではなく、女そのものを、だ。

 

 幻想を壊すようで何だが、女だって人間だ。汗もかくしトイレにも行くケも生えている。男とは明らかに違う芳香を漂わせているが、それだって慣れない人間にしれみば異臭にすら感じられる。ついでに言えば、生まれて初めて×××を舐めた時とか衝撃的だったぞ…こんなのを好き好んで舐める人が居るのか、って思うくらいには。甘露? モノの本にはウマイと書いてあった? 人間の体液が味覚的に美味いと思えるのなら、カニバリズムがもっと発達しているわい。嫉妬に駆られた女は、良い船まで拉致しにかかってくる事もある。拗ねて怒ってヒステリックになるなんぞ、珍しくもない。ご機嫌取りに手間隙がかかるなんて当たり前だ。そんなナマモノに囲まれて悦ぼうと思ったら、魅力やステータス云々よりも、まずは順応性を高めねばならんのだよ。

 

 …俺? 既に半ば以上、色情狂と化しているな。

 最近のお気に入りシチュエーション…ここはGE世界なんだから、ハルさんを見習ってムーブメントと呼ぶべきか…を語ってみたら割と真面目にドン引きされた。

 なんだよ、ちょっと「真面目で自分にも他人にも厳しいキリッとした才色兼備の美女が、惚れた相手の(PI-)にド嵌りして、外見はそのままにどんな行為でもオッケーの都合のいい女、或いは肉奴(PI-)に成り下がる姿が見たいです…」とか言っただけじゃないか。

 …え、レア博士の事かって? いやあの人の場合、才色兼備ではあるんだけど厳しくはないだろ。あとポンコツ風味。

 

 

 

 ま、それは置いといてだな。知ってるか? エロには究極の瞑想効果があるんだぞ。男女でヤルのが効率的だが一人でも充分効果はある。

 何、簡単な話さ。お前が毎晩ヤッてる、年頃の少年に必須の一人遊びの後に、訓練でやってる瞑想をするんだよ。賢者タイムって分かるだろ? まーコレにもナニにもコツがあってだな。まぁ、騙されたと思ってやってみな。ただし、口伝でしか伝えない…当たり前だろ、何で同性のナニを触りながら逐一教えてやらにゃならんねん、腐女子の妄想じゃあるまいし。

 秘伝だからな、他の人間には黙っとけ。喋ったらアサシン教団の教義に乗っ取り闇系する。

 ああ、これも一応房中術って術の一環だから、気をつけろよ。あんまり繰り返すと深みにハマッて、一人遊び大好きになっちゃうからな。

 

 

 

 

 

 

 …さて、半ば酔いつぶれたようになっていた(どうやら話を聞いて興奮し、アルコールが回ったらしい)ロミオは自室に放り込んでおいたし、今日はもう寝るかな。

 寝たら寝たで、アリサの夢の中で黒爺猫処刑タイムだけど。

 

 

神無月ネコがミカンやメロンから出てきて腰を左右するけど日

 

 

 …どうやら早速試してみたらしい。訓練中のロミオから感じる血の力の昂ぶりが、一気に跳ね上がった。センサーにも一目で分かる程に現れている。

 博士達も驚いて、「一体どうしたの?」なんて聞いているが……流石にG・E(ゴッドイーターに非ず)の結果です、なんて言えずに「コツを掴んだ」「朝起きたら、ふと出来るような気がしていた」と必死で言い繕っていた。

 

 

 

 その後、ラケル博士に呼び出されて二人きりで話す事になったんだが…なんか相変わらず妙な感覚だ。インカムを取り付けられた人形相手に喋ってるような気分になる。

 それはともかく、話の内容は支部長からの問い合わせ…つまり、俺の力は特異点としての働きが出来るか?という事についてだった。

 

 結論から言うと、出来る出来ないで言えば、出来る。小難しい理屈を色々と捏ねられたから、俺なりに要約した内容を話すが…血の力とは意思の具現、つまり極端な事を言えば「言葉」、或いはコミュニケーションのツールの一つだと言える。それを用いて、人語が通じない存在に語りかける事も出来る。ブラッドアーツのような使い方は、「くたばれ」等の罵声を浴びせているようなものだ。

 対して、終末捕食を行う特異点は、超高密度の情報集積体であり、星を食らうもの…アラガミが捕食しあった末のノヴァにあらゆる言語で語りかけ、それを起動させる…と考える事が出来る。

 ならば、極限まで高めた血の力を使ってノヴァに語りかければ、本物の特異点同様にノヴァを起動し、或いは対話によってコントロールする事すら可能…なのかもしれない。

 

 …大体こんな感じだったかな。まぁ、言わんとする事は間違いではないだろうし、大体のところはあっていると思う。俺もラケル博士の話を聞いて思い出したんだが、GE2のクライマックスシーンってそんな感じじゃなかったっけか。ホレ、名前忘れたけど歌姫の歌によって血の力…それ以外の人の意思も…を共振させて、終末捕食に対抗するって話だった筈だ。

 ふむ、してみると幾つか問題が浮上する訳だ。

 まず、血の力こと霊力の出力。ノヴァの大きさや覚醒状態にもよるだろうけど、単純に霊力の必要量の桁が違うっぽい。…だが、これは解決策がある。シオ同様、体と意思を完全に取り込まれてしまえばいい。…あまり気分は良くないが、コトの後にも生きられるだけのエネルギーを確保しようとするから難しくなる。

 

 それより何より問題なのが、無表情のクセして妙に殺気を感じさせるラケル博士だ。いつ命を狙ってきてもおかしくないとは思ってたが…ナルホド、これはラケル博士にしてみれば看過できない事態なんだろうな。

 ラケル博士の目的は、支部長と違って純粋かつ完全な終末捕食だ。人間を完全に消し去る事が目的に含まれるかは微妙だが、生命の再分配と言う点で考えると、人間を無理に生き残らせる理由も無いだろう。現在の生命の進化や変化が限界を迎えたと判断されたからこそ、アラガミが現れて終末捕食が起きようとしているのだから。

 

 で、その終末捕食に妙な異物が混じったらどうなる? 混じるだけならまだいい、これで万が一にも終末捕食を本当にコントロールされたら?

 ラケル博士…というよりその中のアラガミは、はジュリウスを特異点として仕立て上げ、終末捕食を起こそうとしているようだが、恐らくそれはあくまで保険。本命は天然の特異点、シオによって起こされる終末捕食だろう。それが何らかの理由で防がれた時、或いは不発に終わった時の為の次弾がラケル博士及びジュリウスって訳だ。

 だが、保険に出番が回ってくる状況と言うのは、本命が失敗した事で、より崖っぷちに追い詰められている状況にあるとも言える。そう言う時の為、不確定要素は極力排除しておきたいだろう。

 

 つまり、俺はラケル博士及び中身のアラガミ…実際は逆だな、ラケル博士が及びなんだ…にとって、俺はさっさと消しておきたいモノって事だ。

 だが、その一方でジュリウスを血の力に目覚めさせる為の重要なファクターにもなり得る。事実、どうやったのか不明だが(ロミオの必死の抵抗ェ…)ロミオは既に目覚めかけている。

 少なくとも、ジュリウスが目覚めるまで、或いは目覚め方が完全に分かるまでは、直接命を狙ってくる事はないか…。

 

 でも、所詮はこれも推測だ。中身のアラガミがどういう基準で行動しているのかイマイチ分からないし、警戒を解く理由は無い。

 

 

 

 

 夜、訪ねてきたレア博士から「どうやってロミオを目覚めさせたの?」と聞かれた。自分でも興味はあるし、ラケル博士にも命じられた…のかな。色仕掛けに関しては、むしろ嬉々として仕掛けてくるくらいになったし。

 「こんな感じで」と押し倒したら、「…び、びーえる?」なんてホザきやがったので、いつもよりちょっと激しくオシオキしておいた。レア博士は多分、誤魔化されたと思ってるんだろーな。実際はあながちウソではないんだが。

 

 …これを聞いて、ラケル博士は…どう考えるだろうか。性行為に意味があると判断して、体でジュリウスを目覚めさせようとするか。それともそれこそ腐女子の妄想みたいな事を実現しようとするか。ロミオとジュリウスでやるなら、茶化しながら煽ってやるのだが。…少なくとも俺にやれ、って事は無いかな。相変わらず、ジュリウスには会わせたくないと思っているようだし。

 他に実験台寄越してくれないかな。具体的にはナナとかシエルとかを。…年齢考えると、手ぇ出すのは流石にマズいかな…GE2の数年前だもんな…。ナナはいいチチしとったけど…。

 

 

 さて、今日も眠って黒爺猫処刑+ょぅι゛ょアリサの鑑賞タイムである。

 

 

 

 

神無月アレが妙に卑猥な動作だと思う俺は壊れているんだろうか日

 

 

 昨晩の黒爺猫処刑+ょぅι゛ょアリサ鑑賞タイムだが、ちょっと変化があった。黒爺猫処刑+アリサ鑑賞+ロリに感謝されるタイムだったのである。

 また夢の中でアリサ父母が食い殺されるのを阻止したんだが、その後クローゼットの中から飛び出してきたょぅι゛ょアリサが、父母に抱きつくのまでは今までと同じ。一頻り泣きじゃくった後、「ありがとう!」と涙の後が残る顔で礼を言われた。

 

 …だからと言って、何があった訳でもないんだけど……うん、がんばろうって思えたよ。ちびっ子の感謝や声援は、そっち系の趣味の人じゃなくても元気が出るよ。

 

 

 さて、現実での話だが、ロミオの霊力はまた強くなっている。どうやら昨晩もヤッたらしい。ま、この年頃の夜なんざそんなモンだよな。

 でも、ちょっと頻度を抑えなさい。お前、昨日一人で3回くらいしたろ。…見れば分かるよ、力の昂ぶりもそうだけど、動きに出るんだよ。結構スタミナ使うんだぞ、アレ。持久力、集中力の減衰、瞬発力の欠如…。教えたアレが上手く行ってればその辺はかなりカバーできるけど、一人でやってる上に素人なんだからな、お前は。

 繰り返し延々とやってると、男女でするよりも一人でヤる方が好きになっちゃうぞ。いやマジでマジで。特殊な性癖の人間なんざ何処にでも居るし、ちょっとした切っ掛けで目覚めるぞ。こんなのまだ軽い方だって。

 ちゅーかだな、よーく考えてみろ。もしもどうやって力を高めているのか気付かれたら、どうなると思う? 2~3日に1回程度なら普通だと思われるだろうけど、ラケル博士とかレア博士に「ああ、毎晩だったんだ。若いわね」とか思われたいのか? 机の上にエロ本並べられるよりも、ずっとキツいぞ。

 

 

 

 …そうだな、そのくらいの頻度にしとけ。あんまり繰り返すと体にも良くないし、普通のに比べて感覚がダンチだから、中毒性もあるからな。

 

 

 それは置いといて、今のロミオくらいに力が高まっていれば、ブラッドアーツとは言わないまでも、その片鱗くらいは出てもおかしくない。例えば、剣を振ったらこう…ちょっと光る感じがするとか、5センチくらい衝撃が飛ぶとか。

 それが全く見られない…見たところ、体の動きに連動して霊力も動いているし、本人も体の中を流れる力をぼんやりとだが認識しているんで、やり方自体は間違って居ない筈。

 となると……考えられる原因は三つか。一つ目、自分にそういう力があると思えず、自分でブレーキをかけている。二つ目、単純に集中力が足りない。三つ目、どういう形で力を使うのか、イメージが固まっていない。

 ロミオの場合、どれに当てはまってもおかしくない…と言うより、全てに当てはまりそうなのが厄介だ。

 

 

 本人に詳しく聞いてみたところ、意外な事に1つ目の線は薄そうだった。俺のおかげ…と言っていたが、どっちかと言うと俺のせいだと言いたげだったな。だって主張が「俺にそんな力があるとか無いとか、あんな訓練の最中に考えてられませんて。やらなきゃ死ぬんだから…」だそうな。…まぁ、余計な悩みにリソース振るよりは、何でもいいから集中してた方がマシではあるな。

 二つ目、三つ目についてはかなり心当たりがあるようだった。相変わらず座禅…座らなくてもいい方式に変更したが…は苦手でちょっと時間が経つとソワソワソワソワし始めるし、一見しただけで雑念満載だと分かる。

 

 三つ目については、思っていたより重要だった。以前は単純なイメージを持っていたそうだが、最近はそれに悩みが出てきたのだそうな。

 ロミオはバスターブレードを使う事もあり、特に攻撃力が強いチャージクラッシュをブラッドアーツとして使いたい、と思っていた。その使用法も、攻撃力を高めて叩き切るという単純極まりないものだ。イメージ的には、ヒーローの必殺技かな。威力が高くてピカピカ光って見栄えがいい技。

 俺としては、単純な事は悪い事ではないと考える。扱いや前提能力が高度な技ほど、咄嗟に出せなくなるからな。逆に単純な技であれば、咄嗟に出せるし応用も効く。ロミオもその点には異論無いようだが、どうせ「普通じゃない攻撃」なんだから、自分の欠点をカバーできるような技、或いは一緒に戦う仲間の助けにもなるような、特殊な効果を臨めないか…と考え始めているらしい。

 

 ふむ…確かに、考えとしては分からない事は無い。以前にやって見せた波動拳こと追駆だって、ある程度敵をホーミングしたり、物質を擦り抜ける事が出来るからな。例えば攻撃に状態異常効果を付与できれば、大きな助けにもなるだろう。

 が、そうなると俺には正直、あんまり助言はできない。その手の技は、多分本人の資質や感性が重要になってくる。特に、ブラッドアーツは血の力を応用した技だ。ロミオが持つ血の力の性質がどんなモノなのか、またそれをどう応用するかで、効果も威力も大きく変わってくるだろう。

 ブラッドアーツの模索もいいが、複数の技を同時に習得できる程ロミオは器用じゃないだろう。まずは単純な技を一つ作って、特殊技は血の力がどういうものなのか計測してからの方がいいと思うぞ。

 

 そう言うと、ロミオは益々考え込んでしまった。

 …これはドツボに嵌りかけてるな。暫くは血の力云々を意識していられないように、訓練で追い込むか。生命の危機も感じるだろうから、放っておいても霊力上がるしな。

 

 

 

 

 




また夢を見ているようだ。
しかし、いつもの夢とはちょっと違うような…。だって今までの夢は、知らない世界に飛ばされてたみたいなんだが、今の夢は…まぁ、知らない世界なのかもしれないが。
でも目の前に天狐が居るんだ。

そう、討鬼伝世界の天狐。
相変わらずモフモフしていて、ケモナー特攻があるのが丸見えだ。

別に天狐が居たっていいんだが、この……なんだ、この…天狐と一緒に居る、人形みたいなのは一体何ぞ?
編み笠に緑色の単眼、黄色い服に短い手足。…本当に何なんだ?
と言うか、この夢もいつもの夢とはちょっと違うのか?


首を傾げていると、一匹と…一人? 一体? が何やら小さな手足を細々動かして、何やら話しているようだった。
どういう理屈か、声は聞こえない。天狐の言葉なら、ある程度わかるんだが…そもそも鳴き声どころか、足音すら聞こえない。
何だろ? いつもの妙な世界に飛ばされる夢でも、感応現象の類でもない、単なる理不尽な夢なんだろうか?


…悩んでいるが、答えは出ない。ついでに手も出せない。
夢の中だからか、体が無いようだ。金縛りでもない。
そうしていると、ふと天狐と緑の単眼がこちらを向き、こんなメッセージが出た。


「天狐に持って来てほしいものは?」


1.まるいもの
2.かたいもの
3.おいしいもの
4.かっこいいもの
5.うれしいもの
6.ながいもの
7・かわいいもの











俺の選択は…。



………8、えろかわいいもの
9のへんなものなら、金の延べ棒とか持って来てくれるかもしれないな、ガンパレ的に考えて。








おおう、天狐ったらそんなに大きく育って、顔も半分ワニみたいになっちゃって。
ナニをそんなに怒ってんの?
ん? 生放送? シモネタは禁止?




おぅふ!?
あっ、天狐のお稲荷さん見えた。オスだ。



火炎を纏ったビックリテンコボンバーを、更に単眼の人…いや人形? から鉄砲式鬼千切を食らって目が覚めた。
天狐があんなになるなんて、文字通りの悪夢だったな…。俺、疲れてんのかなぁ…。




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157話

<悲報>討鬼伝2、発売延期<絶望>


絶望のあまり、地球防衛軍に入隊してしまいました。
あと、PSストアでいっきが売ってたんで衝動買いを…。


討鬼伝2体験版、大分スキル上がりました。
後は五霊明神絡みと斑鳩の加護だな…アレ上げにくいです。
ま、一ヶ月以上あればその内上がるか…。

鬼返は、一人でミフチと戦ってたら割と頻繁に使ってきたんで、後は根気。
鬼葬も、鬼返すれば1~2回で共闘ゲージ全開になるんで、ミフチ一戦につき3回使える。

…ただ、どーも特定条件化で鬼返すると共闘ゲージがいきなり0になるんだよな…。
これってバグだよね?
パッチで修正されるよね?
一緒に鬼返での共闘ゲージ上少量も修正される気がするけど。

いやそれよりも問題は、発売までGE世界で粘らなきゃならんって事なんだが…。


神無月コタツをしまった部屋が広い日

 

 

 今日も…と言うか昨晩も昨晩とて、アリサの夢の中でヒャッハータイム。ょぅι゛ょ鑑賞的な意味で。

 いい加減目を覚ましてもいいとは思うんだけど、どうも目覚めの兆候以上には移らないらしい。何故?と考えてはみたが…理由は非情に単純だった。あくまで俺の考えが正しければ、だけどな。

 

 確かに、俺は夜毎アリサの悪夢を晴らそうとトラウマの原因を夢の中で惨殺している。その成果か、一日毎に黒爺猫が弱くなってきているような気がする。

 が、それはずっと眠り続けているアリサの、一日のうちのたった一度の夢でしかないのだ。

 夢には諸説あるが、レム睡眠中に見る、情報の断片を集めた映像が夢だと言う。大体、90分のノンレム睡眠の後、10~20分のレム睡眠があると言われており…このレム睡眠中に少なくとも1回夢を見ると仮定すると、24時間÷約2時間で、1日のうちに12回夢を見る事になる訳だ。

 対して、俺が夢の中でハッピーエンドを齎すのは一日に1回程度。昼寝したとしても精々2回。二度寝も入れれば3回か。それも、12回のうち、たったそれだけの夢を変えても、どれだけ影響が出るやら。

 

 どうするかな…日中から昼寝しまくって、何とかアリサの夢に介入するか? でもレム睡眠・ノンレム睡眠のタイミングが合わなければ意味が無い。レム睡眠中、必ず夢を見る訳でもなさそうだし。

 しかし、今の割合でも全く意味が無い訳ではなさそうだ。毎回黒爺猫を抹殺する毎に、ちょっとずつ変化が現れている。黒爺猫が徐々に弱くなるのもそうだが、ょぅι゛ょアリサがちょっとずつ育っているような…気がする。それに、こっちに向ける感情も……何と言うか、質が変わりつつあるような…。色恋系の慕情じゃなくて、どっちかと言うとピンチに駆けつけるヒーローを見るような視線を向けられているような。でもちょっと違う。…何か危険な気配がする、ような……? うーん、内面観察術を使おうにも、夢の中じゃイマイチ上手くできん。加えて、大人アリサ(まだ処女だけど)とょぅι゛ょアリサのギャップに惑わされて、正確に観察できない。

 …どっちにしろ、他に方法は見つからないんだ。暫く続けてみるしかないか。

 

 

 

 日常の生活では、相変わらずロミオが死に掛ける日々を送っている。最近じゃちょっと無茶振りする程度じゃガタガタ言わなくなってきたな。肝が据わってきたのはいいが、あまり良くない傾向だ。…面白くないって言ってるんじゃないよ、危機感が磨り減ってきてるって言ってるんだよ。原因の俺が言うのもなんだけど。

 それは近い内に矯正するとして、極東の様子がイマイチ分からないのが痛いなぁ。ストーリーがどう進んでいるのか、全く分からない。ゲームの通りに進んでいれば、アリサは感応現象によってすぐに目を覚ましていただろうし、その後はリハビリ、リンドウさんMIAから死亡認定されて、サクヤさんを筆頭とした数人が疑問を持って…って流れだった。

 しかしリンドウさんは無事だし、アリサは起きないし、あの時の黒爺猫は仕留めてるし、汚ッサンは既に喰われて死んでるし……。いや、リンドウさんは多分、今でも支部長の計画の裏を探っているだろう。話がどんな風に進むのか、今どれくらい進んでいるのかも分からない。

 

 むぅ…全てを把握しようとするのは無理だな。最低限、把握しておかなければいけない内容はなんだ?

 まずはアリサの目覚め、及びその後の扱い。そして……そうだ、特異点の確保か。考えてみれば、今回の目的は特異点にとって代わって終末捕食をコントロールできるか実験する事だ。極端な話、それ以外は余分である。リンドウさんMIAを防ぐとか、アリサを起こすとか、この辺は俺が勝手に拘ってるだけ。某うっかりツインテール風に言えば、心の贅肉だと言える。

 うむ…榊博士がシオを確保しているかどうか…そして対抗勢力である支部長がアナグラに帰ってきてないかを気にしておけばいいか。

 

 

 

神無月シモネタ入ると筆が進むのは仕様です日

 

 

 日記つけるの、数日間が空いた。最近、レア博士が夕食後くらいから部屋に常駐しているもんで…日記つけるヒマがあったら、ついついイチャイチャと…。

 決して欲望に流されただけではない、これは妹からNTRする為の正当な前準備だ。

 

 …で、あの、アリサの夢の話なんですが…これちょっとヤバくないですかね。内容自体は相変わらずなんだよ。ただ、黒爺猫は下位ミッションレベルにまで弱くなっているし、ょぅι゛ょだったアリサは…そうだな、GE2時点のエリナよりもまだ少し幼い程度になっている。それでも充分ょぅι゛ょレベルだが。

 じゃ、何がヤバいかって……ほら、黒爺猫、アリサの他に、二人ほど夢に出演者が居たじゃないか。そう、アリサの父母だ。相変わらず背後の黒爺猫に気付かず、アリサの名前を呼びながらフラフラフラフラ歩いているんだが……その、なんだ、顔がね。数回前から、段々雑になってきているのには気付いてたんだけどね。

 

 

 

 今回、とうとうアリサ父の顔は、完全なへのへのもへじとなってしまいました。そして母の顔は、 (・ー・) ←こんな風になってしまっていた。

 

 

 …え、何これ、どういう事なの? 単純に考えれば…アリサが、父母の顔を忘れていっている? そりゃ人間なんだし年月重ねれば、自然と風化していくのは分かるけど、コレはないだろ…。仲が良かった親の顔、忘れたり記憶の中で変化していたりしても、この雑さと言うか杜撰さは無いだろう。親父さんおふくろさん、草葉の陰からマジ泣きするぞ。

 個人的な感情や感傷を押し付けていると言われればそれまでだが、アリサがそんな薄情な人間だとは思いたくない。…どんなに仲良くなっても、デスワープしたらハイソレマデヨをあっさり受け入れるようになった俺が言える事でもないが。

 これは…夢に介入するのを止めた方がいいんだろうか? でもこうでもしないと起きないっぽいし…。

 

 

 

 

 

 一方、アリサ以外の極東の様子は、日々是事も無し、といった按配のようだ。アラガミが急に強くなったりしないし、最近では腹が満ちてきた為か、居住区その他のフェンリルに対する不満も控えめになってきている。

 リンドウさん達はと言うと、暗殺未遂が起こったあの日、何故複数のチームが同じ区画に居る事になったのか、何故黒爺猫達に包囲されるかまで気付けなかったのか、その辺りから調査を進めているらしい。でも多分無駄だ。だって、アレ、どーも支部長じゃなくて汚ッサンの独断だったぽいしな。何でそんな事をしでかしたのかは今でも分からんが、どれだけ追いかけたところで見つかるのは汚ッサンの死体の破片くらいだろう。もう黒爺猫に食われて、更にその黒爺猫は俺が狩ったんだし。

 いつものループなら、支部長の計画を阻止する為に情報を渡しているんだが、生憎今回はあんまり首を突っ込まれちゃ困るんだよね。ノヴァが育ちきるまでは、邪魔をされたくはない。…いっそ、誤った情報をバラ撒いて霍乱するか? いや、リンドウさんあれでかなり鋭いから、俺の拙い霍乱じゃ逆に情報を与えるようなもんだ。

 

 …そんな事を考えて日々を過ごしていたら、何故か上田ことエリックさんから連絡が来た。何事かと思ったら、俺と居住区一般人の菜園の事に関してだ。

 えらい興味津々だったし、その内手伝わせてほしいとか、妹に見せてやりたいとか言い出すのは目に見えていたんだが、それとは別にちょっと問題になるかもしれない事が起きている、との連絡だった。何でも、育てた苗や種を、居住区の更に外…つまり防壁に守られていない土地にまでバラ撒いている人が居るらしい。

 これはどう思うか、と聞かれたんだが……俺としては許容範囲だな、良くも悪くも。

 

 出来上がった作物及び種の一部は、それを育てた市民の報酬として渡している。所有権を既に譲渡しているのだから、そこから先にどうしようとその人間の勝手だ。取引に使うなり、食べるなり、植えて増やそうとするなり、好きにすればいい。やり方がわからないのなら、出来るところまで手を貸そう。

 そうやって種を渡して広め続けていれば、当然土地が徐々に足りなくなってくる。何せMH世界産の、1~2日で育つような植物だから、それこそネズミ算並みの勢いでどんどん増えていく訳だ。で、植物ってのは土地の栄養を吸って育っていく訳で…。素人考えでも、「他の植物が無い所に植えれば、もっと立派に育つんじゃないか」という発想になってもおかしくはない。

 だが、当然そんな都合のいい場所は無い。…居住区の中には。逆を言えば、外にはあるのだ。単にアラガミが居るのが問題なだけで。

 

 無論、植物なんてレアな食べ物を、アラガミが見逃す筈も無い。全てを食べきるとも限らないが。実際に居住区の外で種を植えてみた人も居たそうだが、半分は芽吹いた直後に喰われ、残りの半分は実ってから喰われ、更に残りの半分は種の状態で掘り返されて喰われ、更に更に半分は植えようと外に出たところをアラガミに襲われて命からがら逃げ帰ってきたのだと言う。

 ナルホド、エリックさんにしてみれば、これは見逃せない事だろう。以前のループでも言っていた「新しい輪」…世界の食料状況を一変させる可能性がある代物を、よりにもよってアラガミに食わせてどうするのか。文字通り、希望の種をアラガミに食わせているようなものだ。

 

 が、俺としてはこれに対して逆の解釈をしたい。遅かれ早かれ、このままあの植物が蔓延していけば、土地はどんどん足りなくなってくる。当然、防壁の外に種を撒こうとする人間だって頻繁に出てくるだろう。また、俺から教わった方法だけでなく、独自の栽培法を生み出そうとする人間だって出てくる筈だ。これもその一つ、ある種の試金石だと俺は考える。

 …それに、本当に居住区外で植物が育ち始めたら、それを喰ってアラガミ達が満足するかもしれないじゃないか、満腹かつ危険な状態でなければ、アラガミだってわざわざ防壁内部へ突入しようなんて考えなくなるだろう。

 

 

 勿論、この理屈でエリックさんが納得した訳じゃない。これはあくまで同じ状況を別の解釈で見ただけで、欠点や懸念が消えた訳ではないのだから。例えば本当に居住区外壁近くで植物が育ち、それをアラガミが食べ始めた場合、そこにアラガミが集結する可能性がある。アラガミが集まれば、目的の植物を食べられるのは極一部。それ以外のアラガミは、空きっ腹と争奪戦に破れた体を引きずって、手負いの獣状態で居住区内部への侵入を図る可能性だってある。

 何より、外へ出ようとする人間の危険性は、ゴッドイーターが狩りに行くよりもずっと高い。…俺に言わせれば、それは自分の選択の結果なんで、自己責任だが…エリックさんにしてみれば、一般市民を導くというノブレス・オブリージュの観点から、自ら危険に向かう人間を放置する事はできないのだろう。

 

 話は平行線だった。見ているモノと立場が違いすぎ、互いに自説を曲げようとしなかったのだから、当然の結果だった。…次に話す時には、もう少し妥協点を探してみてもいいかもしれない。

 まぁ、自己責任で試行錯誤の結果と言っても、それなりにノウハウを覚えた人間が死に掛けるのを見るのはな…。作業力という点から見ても、かなりの痛手になるのは確かだ。ちょっと視点が冷たすぎたか…。

 

 

 

神無月シモネタ入ると話が進まないのも仕様です日

 

 …またアリサの夢の話から入るが…なんだ、その…父母が…薄い。いや、確かに居るのは居るんだよ。顔もあれ以上雑にはなってない。

 が、体が透けている。

 …繰り返す、体が透けている。

 

 ついでに、黒爺猫は…弱くなってるだけじゃなくて、なんか小さくなり始めた。強い弱いという点で見れば、もうこれは狩りとさえ言えない。作業だ。或いはそれ以下だ。縦のモノを横にするような感覚で…いや、もう無造作に手を触れればズブズブと体に手が埋まり、適当に掻き回せば文字通り夢幻の如くに薄まって消えていく。

 何時の間にやらアリサの父母も消えていて、黒爺猫が消えると同時にクローゼットからょぅι゛ょアリサが飛び出して抱きついてきて目が覚める。

 ついでに言えば、アリサは一定から成長しなくなったようだ。どう言い繕っても、子供以上とは評せない程度の年齢だな。てっきり、あのまま育って現実のアリサに追いついた辺りで目が覚めるんじゃないかと思ってたんだが…。

 

 なんだろなー、ヤバい何かが進行中のような気がする。いや、それよりもどうやって目を覚まさせるかだよ。

 

 

 …これ以上考えても新しい発見は出来そうに無かったんで、榊博士に相談してみた。最近こんな夢を見続けている、新型同士の感応現象かもしれない…という事で。

 とりあえず相談には乗ってもらえた。が、感応現象だと言う点にはNOと返答が返ってくる。曰く、あの現象は理論上でしかないが、当人同士の直接的な接触が必要な上、互いに一定以上の適合率が必要なのだそうだ。アリサはともかく、俺はそれを満たしていない。…神機は既に体の一部状態になってるんだけどなぁ…。

 だた、アリサの夢と俺の夢の関わりに関しては信じてもらえた。眠っているアリサの脳波を測定しているらしいが、それが度々乱れる事があるらしい。つまり夢を見ている、と。その乱れ具合が、最近変化を続けていたのだそうだ。少なくとも、繰り返し見ている夢の中で、何かが変わりつつあるのは間違いないだろう、と。

 感応現象ではなく、俺の使っている妙な力が関係しているのではないか? と考えていたらしい。正直、コジツケの理論だったから、あまりアテにはしてなかったらしいが。

 

 

 さて、肝心の夢の内容の変化だが、一応納得のいく仮説はもらえた。ただ、夢のメカニズム自体がまだ解明されきってはいないので、どこまで行っても仮説止まりではあるんだが。

 

 まず、アリサが一定以上成長しなくなった事について。これは、アリサの認識によるものだと考えられる。刻み込まれているトラウマは、「子供の頃に、自分の軽率な行動のせいで両親が食い殺され、自分も食われそうになった」だ。この一番最初の部分に注目。「子供の頃に」。勿論、トラウマ自体は育ってからも持ち続けていたんだろうが、「その時、その場所にいた自分は子供である」という認識がある。

 つまり、あの夢の中のアリサは、アリサ的に「子供」だと認識している限界ギリギリの年齢って事だ。「少女」が、「大人」の自分が…より正確に言うなら、多少なりとも分別を持ち、或いはゴッドイーターとして戦う力を手に入れている自分があそこに居たのでは、トラウマの状況が成り立たない。

 

 で、父親母親の顔が雑になっている事について。これについては、榊博士は二つの仮説を出した。一つは、「あれは私の父さんと母さんじゃない、別の人だ」と思い込もうとしている事。…まぁ、自分のせいで父母が死んでそれを繰り返し見せ付けられるなんぞ、下手な拷問よりよっぽどキツい。今までトラウマを汚ッサンに弄り回されてたんだから尚更だ。他人のせいにしてでも逃避を計るのも、無理もないと言えば無理もないか。

 で、二つ目の説。夢の中で繰り返し、俺が父母を助け続けた為、現実にあった過去と夢の区別が曖昧になってきて、「父さんも母さんもあそこには居なかった」と思い始めている可能性。前説と似てはいるが、微妙に違う…と榊博士は言っている。父母があの場所に居ないのなら、残るのはアリサ本人・黒爺猫・そして俺のみ。夢の中から父母という存在が退場し、役割分担に変化が現れる。生贄と、生贄を食らう悪魔と、それを見せつけられるアリサ…という構図から、悪魔と、悪魔に狙われるヒロインと、悪魔を打ち払うヒーローに。

 …どう、なんだろうなぁ。どっちも、「あそこで父さんも母さんも死んでない」と思い込もうとしているようではあるが…。

 

 気になる事は多くあるが、肝心な「どうすれば目覚めると思うか」を聞いたところ、幾つかの前提条件が整っているとして、と前置きを入れてから語られる。夢を壊してしまえばいいのだ、と博士は言う。

 どんな形にせよ、トラウマに関わる夢の中に閉じ込められているから、アリサは目覚めない(という仮説である)。ならば夢が文字通り単なる夢、情報の断片、支離滅裂でワケの分からない代物に成り果ててしまうか。或いは夢がトラウマとはまるで関係のないモノになってしまえば…恐らく?

 

 そこまで語って、確定した情報が無いから、これ以上は推測もできないと断言された。確かに、現段階でも推測や仮定を何重にも重ねている状態だしね。

 

 

 ふーむ、しかしどうしたものか。確かに、俺が一人で考える手段よりも、ずっと説得力があった。支離滅裂にするだけなら、のっぺらミタマに好きにさせりゃいい、という点がまた酷い…やる気は無いが。

 夢をぶっ壊す、ねぇ…文字通り建物ごとぶっ飛ばそうとしてみるとか? 或いは……そうか、前提条件を壊せばいいのか。「子供の頃の自分があそこに居る」「父母が目の前で食い殺される」「黒爺猫に食われそうになる」…この3つを、トラウマの夢の前提条件としよう。黒爺猫はさっさと始末できるようになっているから、これはクリア。父母は…理由は不明だが、消えかけているので多分クリア。となると、あそこに子供の自分が居るって事を覆せばいいのか。…それつまり成長させろって事やん。夢の中のアリサ、ょぅι゛ょから成長せんやん。どうせぇと。

 

 

 

 …流れぶった切って悪いが、今度はロミオの話だ。

 相変わらず、霊力は順調に成長を続けている。調子がいい時に限定すれば、ブラッドアーツっぽいものを放とうとする時、僅かだが光が目視されるようになってきている。

 ただし、赤い光に限らず、時には青かったり緑だったりする事もある。…これまたレア博士やラケル博士が首を傾げていた。光の色自体はそこまで重要ではない筈だが、今まで積み上げてきた理論に間違いがあったのなら、そこは調べて修正しないといけない。

 

 血の力そのものや、ブラッドアーツを会得する事はできていないが、ロミオは焦ってはいない。コレまでの訓練で、それなりに自信がついてきているんだろう。これで周囲に血の力を扱える人が何人も居れば、劣等感から焦り始めるだろうが。

 とは言え、このまま霊力だけ上がり続けて、血の力もブラッドアーツも目覚めないってのもな…。折角鍛えたんだから、しっかり目覚めさせてやりたい。そしてロミオの血の力を知りたい。

 

 

 という訳で、ガン首揃えてミーティングとかやってみた。ロミオは少々居心地が悪そうだったが、君に関する話題なんだから仕方ない。

 色々意見が交わされたものの、第一人者のラケル博士曰く、やはり強い感情の爆発が必要だと思われる…らしい。それも何でもいいのではなく、断固とした決意を伴った感情でなければならない。…なんか曖昧な話だけど…。

 ブラッドアーツに関しては、やはりロミオがどのような物にするか決めかねているのが最大の原因と目される。考えるのを止めれば、多分特殊な効果を持たせようとしない限り、すぐにでもブラッドアーツを使えるようになるだろう。が、それは考えるのを止め、更に特殊効果への未練も捨てなければならない。如何に、今後のブラッドへフィードバックする為の研究・調査であるとは言え、ここで強引に方向性を決めるのはよろしくない。よって、ここは見送り。

 

 …やっぱ血の力の発現を優先するのか…。ちなみにロミオ、お前最近感情を爆発させた事ってある?

 

 …ああそう、「死んでたまるか」ね。大袈裟だな、あの程度で。…「うん、今になって思うと俺もそう思う」か。まー一般人からゴッドイーターになったばかりの神経だと、そう感じるのも無理ないかな。

 …こんな会話を、レア博士が沈痛な面持ちで「ないわー」と呟きながら聞いていた。

 しかし、実際に死ぬ死なないは別として、「死んでたまるか」は感情の爆発としては最も大きなものだろう。それで目覚めなかったって事は、断固たる決意とやらが足りない、か…。

 

 どうしたものかと相談していたが、ラケル博士から(意外にもと言うべきだろうか)マトモな問い掛けが。

 

 

「…ロミオ、アナタにはやりたい事はありますか?」

 

「はっ? や、やりたい事ですか?」

 

「そうです。どんな事でも構いません。それを成し遂げなければ、死んでも死ねない。これを遺したまでは死ねない。誰かを助けたい。その為であれば、命を使い尽くす事も厭わない。そんな…夢はありますか?」

 

「夢……俺は…」

 

「獣であれば、子を残す事。多くの人であれば、享楽し名を残す事。アラガミであれば…」

 

 この星を食い尽くす事。

 

 

 …一瞬だけ、ラケル博士の目が俺に向く。余計な事を嘴ってしまった…半ば挑発だったけど。

 

 

「それこそが、アナタの血の力を目覚めさせる切っ掛けになるでしょう。アナタに、そんな夢はありますか?」

 

 

 …ふむ、真っ当な助言…ではあるんだろうが。この場においては、逆効果になったようだな。

 母親と思っているラケル博士から問われた事で、立派な夢を持たなければならない、と思って萎縮しているようだ。

 

 

 別に難しく考える必要はないぞ。誰かの為とか、そんな事は考えなくていい。むしろ、個人的な欲求の方が、断固とした決意とやらには繋がり易い。どんな下世話な物でもいい。それこそ、誰かを見返したいとか、チヤホヤされたいとか、何なら誰かの仇を討ちたいとか、そんなのでもいいんだ。

 ホレ、なんかあるなら言うてみい。無ければ無いで構わんが。

 

「…教官にも、そんな夢があるんですか?」

 

 目覚めた当時は無かったな。今は…まぁあるが。

 

 

 

 

 このデスワープを抜け出すって夢と。

 

 

 

 会議の最中でも、後ろから尻を撫で回されて呼吸が荒くなりかけているレア博士を、徹底的に躾けたいって夢が。

 ちなみにレア博士に日中からセクハラするのはこれが初めてではない。夜の過激なアレや、休日が揃った時に部屋に篭って朝から晩までに段々順応してきた(つまり味を占めてきて)結果、新たなステップに進んでいる。特にお気に入りなのは、「日常」を感じさせる場所でのプレイかな。日常っつーても、レア博士の場合研究所が日常なんだけど。多分、日頃からラケル博士に抑圧されていた反動だろうなぁ。いつもと同じ場所に居るのに、ラケル博士から解放されてスゴイ事やってる、って気分が最高なんだと思う。この前も、隣に座って食事している時に、こっそりフトモモ撫で回したら、逆に手を延ばしてきてサワサワと…なんて事もあったっけ。片手で食事する事になるんで、サンドイッチを注文するのが合図になってます。

 次の目標は、机の下に潜り込ませてのご奉仕かな。服を着せたままか、全て剥くかは考え中。

 

 

 …唐突なエロ語りはともかくとして、だ。

 それを聞いたロミオは考え込んで、一つの質問を出した。

 

 

「それは…ひょっとして、この前飯奢ってくれた時のアレだったり…」

 

 

 …似たようなもんだな。

 

 そう返すと、ロミオは暫し唸って、俺に手招きをした。何だ何だと近付いてみれば、部屋の隅っこに連れて行かれ、「黙っておいてくださいよ、絶対に! 絶対だからね! これはフリじゃないからね!」と、小声でフリそのものの念押し。

 何ぞ、と思ってみれば。

 

 

 

 

 

 

「教官に教わったアレに嵌りきっちゃう前に、一人でいいからカワイイオンナノコと付き合ってイチャイチャして童貞卒業したいです…! 一人でスるのが人生で一番気持ちよかっただなんて、生まれ変わっても後悔しか出来ないッ…!」

 

 

 

 ……な、なんかその、すまん。

 ※↑は小声。↓は叫び。

 

 

 

 

 が、足りない! 足ぁりないぞ!

 

 

「ふぁっ!?」

 

 

 どんな夢や希望であれ構わない、とは言った! 言ったが! 堂々と語れないのなら、それは夢に非ず!

 

 そう、お前のその意思を、血の力覚醒の足掛かりとするならば! 貴様に足りないものは!

 

 

 

 

 情熱思想理念頭脳気品優雅さ詭弁! そして何よりもォォォォォーーー!

 

 

 

 開き直りが足りない!

 

 

 

 

 例え生みの親の前であろうと、さっきの意志を全力で恥じる事なく絶叫できる程でなければ、血の力覚醒の切っ掛けにはならん!

 

 

 

「いや幾らなんでもそれはちょっと駄目な人間というか羞恥心や人間としての尊厳までは捨てたくないし!

 

 と言うか最後の聞こえたぞ! 詭弁が足りないってナンだよ詭弁って!」

 

 

 建前とも言う! これを上手く使いこなす事によって、人生にメリハリがついたり、面倒事を敬遠できたり、上手いこと美味しい目にありつけたりするのだッ!

 

 ※↑この辺まで叫び

 

 

 ちなみにさっきのを建前使ってマイルドにするとだな、こんな按配になる訳だ。

 

「こんな世の中だから、本当に好きな人と巡り合って、二人で一緒に生活する喜び満喫したい。未来に残す子供を作れれば最上」と。

 

 これなら堂々と語れるだろう。

 

 

「む……た、確かに…これが詭弁、もとい建前…」

 

 

 ま、詭弁で誤魔化すようじゃ、開き直りが足らんがな。

 

 

「じゃあダメじゃねーか!」

 

 

 マジギレしたロミオと、首を絞めあったりした。後ろで見ていた小声は聞き取れてなかったと思う)レア博士に慌てて止められたが、男同士のシンパシー的な問題だから、と引き下がらせました。…首を絞められても平然と喋ってる? そりゃロミオの締め方下手だもん。人間を絞殺しようとすると、こんな感じで……あ。

 

 

 

 ロミオが落ちたので、今日は終了。ものっそい説教食らった。

 

 

 

 

 



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158話

失敗が重なる。
同僚や上司に迷惑をかける。
何をやってもどこかでミスをする。
死にたくなりますが、そういう時には叫びましょう。






EDFッ! EDFッ!!





EDFなら味方から一般市民まで、死ぬまで囮にしても誰にも文句言われんからなッ!


追記
頂いた感想を読んで…アンタら仲いいな。サイコーだぜ!
そして投稿予定日を1日間違えていたことに今気付いた俺orz
24日は討鬼伝の日だよ、投稿予定日は23日だよ


神喰月ヘクトルの群れがキツい日

 

 何時の間にやら2ヶ月目。暦(時守に非ず)がどうなっているのかなんて気にしない。だってイヅチに限らず、鬼は時空の流れを滅茶苦茶にするらしいからな。

 

 で、ロミオ。この前の会議ではサラッと流したが……ヤバいのか? 本格的にハマりそうなのか? 昨晩は?

 

 

「…やべーっす。もし俺が18歳以上だったら、なんかこう…ほら、ジョークグッズとか頼んで片っ端から試しているレベルっす。昨晩はナニもせずに眠れたけど、ベッドに入ってからのムラムラがハンパ無いです。何とかして、教官から教わった以上の楽しみを見つけないと、俺、遺伝子的に終わるかも…」

 

 

 どうしよう。一人の男の人生を、ちょっと捻じ曲げてしまいそうになっている。

 むぅ…男にやり方教えたのは初めてだったが…やはりDTに教えたのがマズかったのか? 俺も何だかんだで、DT捨ててから覚えた技術だったし…。確かに、人肌の喜びを知らない人間にしてみれば、割とマジでハマるレベルだ。今まで関係を持って来た相手を振り返れば分かるだろ。

 

 ………風俗、連れて行こうかな…。この世界に限らず、ちょっと探せばナンボでも見つかるし…。ただ、使って安心な所かと言うのは別問題なんだけど。そもそも、下手な相手(文字通り)に当たってみろ。「やっぱこっちの方が気持ちいい」なんて事になったら、目も当てられん。ここは昨日の建前を建前以上のモノとして、惚れた相手とくっつかせるしかあるまい。肉体よりも、精神的な喜びに重点を置かせるのだ。

 はー、それにしても、自分が教えた事が切っ掛けとは言え、何でヤローの下半身事情を俺が心配せにゃならんのやら。

 

 

 そんなイライラが募った為なのか久々にオカルト版真言立川流の加減を間違ってしまった。うーむ、俺もまだまだ未熟者か。折角のオタノシミタイムを、あっさりとレア博士を失神させて終わらせてしまった侘びは今度するとして…今日はどうするかな。睡姦もできなくは無いが、やっぱり反応が無いとつまらない。

 下半身がイライラしているが、今日はもう寝るか。

 

 

 

 

 

 

 そうだったね、夢を見るんだったね。

 

 ょぅι゛ょであっても。

 

 

 

 殆どのループで散々弄んで悦ばせたアリサの夢を。

 

 

 

神喰月虫は大体なんとかなる日

 

 …レア博士が朝っぱらからおクチで起こしてくれたんだけど、ひょっとして夢精してたり…いや、考えるのは止めておこう。

 それよりもアリサだアリサ。懇意になった相手が文字通り同じ寝床に居るのに、夢の中で別の女…しかもょぅι゛ょに手を出すとかどうなんよ。普通の夢なら「夢の内容まで責任持てん」で終わりだけど、この夢の場合は…。

 幸い、寝言で名前を呼ぶのを聞かれたりはしなかったようだ。仮に聞かれたとしても、新型の感応現象的な何かの為だと言い張る事はできるが、それで信用してくれるかはまた別だし。

 

 ともあれ、とりあえずは目出度い事…と割り切るべきか? アナグラから、アリサが目を覚ましたと連絡があった。

 やっぱりアレか、夢の中でヤッちゃったからか?

 真面目に考察してみると、アリサの夢は既に、トラウマの夢ではなく、ヒーローに助けられる自分というヒロインの夢になっていたんだろう。それが如何なる精神的働きによるものかは分からないが、その夢の中でヒーローは絶対にやってはいけない事をした。事案的に。

 ヒーローはヒーローではなくなり、夢はトラウマでも、心地よいヒロインロールの夢でもなくなった。単なる淫夢に成り下がった。アリサの意識を閉じ込める檻でも、引き篭もる場所でもなくなり、夢は覚めて目を覚ました。

 色々診察されているが、健康状態は問題なし、精神的に若干情緒不安定。

 ついでに言えば、俺が榊博士に相談したように、何度も夢をみていた記憶があるらしい。感応現象かどうかは置いといて、単なる夢じゃなさそうなのは証明できたかな。

 

 

 …まぁ、何だな。とりあえず、以前できなかった、アリサを目覚めさせる事ができたのを素直に喜んでおくか。手段はどうかと思うが、俺らしいって事で。

 

 で、これからアリサがどうするのかと言うと、当分はリハビリに励む事になるらしい。汚ッサンの暗示をかけられ続けていた事もあり、精神的に不安定なのは、暴走してしまった事で証明されている。更に、寝たきりが何日も続いた為、筋力だって落ちていた。ついでに言えば、汚ッサンの所業と自分の境遇を知った事で、更にショックを受けるだろう。

 …つまり、極東名物ツバキ鬼教官の直々コースに放り込まれるワケですな。精神的に不安定なんだからあんまり追い詰めない方が…いや、この場合は余計な事を考えられなくなるまで追い込んだ方がいいんだろうか?

 

 榊博士もその辺の事を判断しかねているらしく、連絡には「精神安定剤が必要なんだ」と書かれていた。

 

 

 

 

 で、その精神安定剤に俺を指名してきたんですが。

 

 

 俺が精神相手剤とか世も末だな。実際GE世界は実にマッポーめいているが。おお、ブッダよ! 寝て………るよりも酔っ払ってそうだな。立川のパンチもビールは飲むし。

 ま、理屈は分かるよ、理屈は。夢の中で何度も父母やアリサ本人を助けた俺は、アリサにとってヒーローだと刷り込まれていてもおかしくはない。最後の最後と言うか起きる直前にとんでもない事しちゃったけど、流石にアリサもそれを正直に言いはしないだろう。

 …でもアリサ、多分覚えているよな…どうやって顔合わせよう。

 

 いや、それ以前に俺、まだフライアから離れられないよ? 血の力も、もうちょっとロミオが体得できるんじゃないかって重要な段階になってるから、あんまり開けるのも…。

 ダイヴインを使えばすぐ戻れるけど、これは榊博士にも秘密にしている能力だし。

 

 まさか、アリサをこっちに送るとか? でもフライアは一応血の力関係の研究機関だし、ソッチ系の能力に目覚める見込みのないアリサを招き入れられるのか? いや、ゲームでは主人公の喚起の力の為か、普通にブラッドアーツできるようになってたけど。 

 と言うか、アリサがこっち来ちゃったらストーリーどうなるの? 

 

 …GE無印のアリサストーリー……最終的には支部長と決戦に参加。その前はサクヤさんとアナグラを離れ、エイジス計画とリンドウさんの死の真相を探る。そうそう、サクヤさんがちょっとピンチな感じの時に合流して危機を脱するんだったな。

 あれ、でもあの時のピンチと脱出方法って、汚ッサンの暗示にかかったように動いたフリして…その汚ッサンは既に死んでるし。

 そもそもリンドウさん死んでないし。

 

 

 …ひょっとして、アナグラから抜けても問題ない? …いやいや、シオの教育という重要な役割が…でもそれこそアリサでなければいけない理由も無いし。…でも、サクヤさん以外のアナグラの連中に任せると、シオが妙な事覚えそうだな…。

 でも不安定な状態のアリサに任せるのも、また不安…。

 

 

 …とりあえず、榊博士のメールでは、アリサに励ましのお便りを頻繁に送ってくれるくらいでいい、とあったが。まぁ、とりあえずその程度しか出来んわな。

 あんまり色々構いすぎると、以前のループのように依存されてしまいそうだし。…今は……夢は夢だと割り切ってくれるといいんだが。

 

 というか、そもそも見ていた夢は単なる夢じゃないと気付いているんだろうか? 気付いてたら、確実に俺をペド認定してくるだろうなぁ…。

 

 

 

 

神喰月まだミッション15くらいだけど、稼ぎした方がいいかな日

 

 

 ……なんだその、のっぺらミタマは俺のコントロールなんか受けつけないって事をまたしても実感したよ。

 何故にアリサはもう目覚めたのに、夢の中に俺を引っ張り込んでくるのかな。

 大人モードになっているアリサと、廃墟(の夢)の中で顔合わせて気まずいってもんじゃなかったよ。

 

 

 警戒して距離を取られているような、その割には妙に視線が好意的なような…。とにかく…何を言えばいいんだ?

 

 

 

 …ほ、本日はお日柄もよく?

 

 

「…ドン引きです…」

 

 

 ドン引き入りました。しかし引くと言いつつジリジリと距離を詰めてないか? アレか、ょぅι゛ょ状態で捕食された仕返しに、神機で俺を捕食しようと言うのか。だが手ぶらだ。

 

 

「…やっぱり、単なる夢じゃなかったんですね。他人の夢に勝手に入り込んで好き放題するとか、人としてどうなんでしょう」

 

 

 そ、そこら辺は昏睡から回復させる為という事でお目こぼしいただきたい。最後の奴以外は…。

 しかし、「やっぱり」って事は途中から気付いてたのか。

 

 

「いえ、目を覚ましてからです。夢の中では…夢だって事には気がついていましたけど、頭も動かなかったんで。……何度も何度も同じ夢を見て、それがちょっとずつ変わっていって……でもやっぱり夢だったんですね。…パパもママも、生き返ってたりなんかしてません」

 

 

 …また微妙に返し辛い話題を…。そうか、夢の中とは言え、助かったんじゃないかって思わせたんだよな…。現実を突きつけられた時のショックは酷かっただろうか。

 

 

「ああ、勘違いしないでください。別に責めてるんじゃないです。目を覚まさせてくれた事には、感謝しています。いい夢も見せてもらいました。…でも、だからこそ最後のオチが納得いかないんですけど」

 

 

 う゛、やっぱりそこに行き着くか…。いや、何と言うかその…(ムラムラが治まらなかったからつい、なんて言ったら確実に性犯罪者…)。

 

 

「夢の中とは言え、あんな子供を相手に…。(私だって今まで経験無いのに)あの時はちゃんとした判断ができない状態でしたし、ワケが分からないまま合意しちゃった、というのは認めます。ヒーローだと思っていた人に、好きだと言われて嬉しかったのも事実です。でも、だからこそ…マトモな判断が出来るようになった今では、意図がわからない」

 

 

 …嫌な言い方になるが、他に手が思いつかなかったから…。(という事にしよう。実際、どうやったら起こせるかずっと悩んでたし)

 夢の内容が、トラウマからヒーロー劇場に変わって、その夢に囚われていた。だったら夢の、捕らえる力を消してしまえばいい。ヒーローはヒーローではなく、幼く知識も無い子供に妙な事をする怪人に成り下がり、夢は単なる淫夢に変わった。

 

 

「…私を目覚めさせる為、ですか…。納得はいきませんが、理解は…できます」

 

 

 あ、出来るんだ。状況が特殊とは言え…その、アリサからしてみれば陵辱されたようなもんだろうに。

 

 

「合意の上ではありましたし。それに…夢だったからなのか、相手が仮にも憧れのヒーローだったからなのか、嫌悪感はありませんでした」

 

 

 (アリサの素質も関係してそうだな…素でMっ子だし)

 …あの、なんか距離近くないっすかね? 何で性犯罪者予備軍にここまで接近してんの?

 

 

「…少し、失礼します」

 

 

 おう!? …抱きつかれた。

 

 

「……ああ、やっぱり落ち着きます。夢の中で、ヒーローだった時に私を抱きとめてくれた感触と同じ…」

 

 

 ま、まぁそりゃ本人ですし? 抱きとめたってアレか、クローゼットの中から飛び出して、俺に抱きついて来るアレの事か。確かに最後の方になると、黒爺猫の討伐すらすっ飛ばして、近くに来るなり飛び出してきて抱きつかれたけど。

 

 

「…謝らないといけない事も、話したい事も沢山あるんです。でも、もうちょっとだけ…」

 

 

 …震えている。ああ、まぁ色々な事が一気に変化して一杯一杯だもんな。

 謝らないといけない事……なんだろ? リンドウさんの時の暴走? でも駆けつけた時、アリサって半狂乱状態で俺の事なんか覚えてなさそうだったし。今までの態度? 今回ループでは接点殆ど無かったぞ…目の光が消える程度に煽ったくらいだ。

 …まぁ、これでアリサが落ち着くなら、そうすりゃいいか。別にイヤな訳でもないし。夢の中だから、対して時間もロスにならない。

 

 …と、そういや一つだけ確認しておきたい事が。

 

 

 アリサ、一つ疑問があるんだが。

 

 

「…はい」

 

 

 目を覚ました直後って大丈夫だったのか? ヤッた時、おもいっきりお漏らしグフォえヴぁ!? み、見事な密着からのソーラープレキサスブロー…。

 

 

「………黙って抱き枕になってください」

 

 

 …あい。(潮まで吹いてたし、やっぱエライ事になってたっぽい…)

 

 

 結局、アリサは2分も経たず、夢の中で更に寝息を立て始めてしまい、程なくして夢は終わった。

 

 

 

 

 

 …うーん、やっぱ何だかんだで不安定だな。予期せずして、榊博士から依頼された精神安定剤の役割は果たせそうだけど。

 とりあえず、榊博士には感応現象の続きらしきものが発生し、夢の中で会っている…という甘ったるい妄想みたいな結論を知らせておくか。

 

 

 

 

 さて、夢の中の話だけ日記に書くというのも何なので、今日あった事は………いや書いていいのかなコレ…でも俺が元凶と言われりゃ否定も反論もできんし、懺悔と言うか後悔、惨劇を忘れない為に記す。

 

 

 

 

 ロミオがコッソリと、エロ媒体を集めているのを目撃してしまった。

 

 

 青少年の欲求に素直…なだけでなく、恐らくは先日語った開き直りを会得する為、努力しているのだと思う。だって目がマジだったもの。欲望に素直になってるだけじゃなくて、覚悟キメてたもの。ドラッグ並みにキメた目ぇしてたもの。

 だが態々変装(俺がアサシン式に仕込んだので、一見しただけじゃそうそうバレないと思う)しないとエロ本を買えないあたり、まだまだ覚悟が決まって…ああいや、単に年齢制限に引っかかるだけか。

 

 …何にせよ、これは由々しき事態だ。

 欲望に素直になるのはいい、開き直れと言ったのも俺だ。その為にエロ媒体を集めるのは、開き直る為の努力だから構わない。

 が、エロ媒体が手元にあれば、青少年であればついつい一人で処理してしまうも事実。…つまり、ロミオの場合は、一人遊びに益々ハマってしまう危険があるのだ。そうなれば、先日語ったロミオの夢は色褪せてしまう。一度はちゃんとした女性と、と謡いながら、一人遊びこそが至高の領域に辿り着いてしまいかねない。

 …これは、本格的にどこぞの泡の国に放り込まなければならないかもしれない。

 

 

 

神喰月まだレンジャーとエアレイダーしか使ってない日

 

 

 ロミオがエロ媒体を集めている事、ラケル博士とレア博士にはお見通しだったようです。変装の上手い下手以前に、フライア内はこの人達のお膝元だもんな…そらその程度じゃバレるわな…。

 そもそもターミナル使って媒体を集めている以上、やろうと思えば何を買ったのかログを漁るくらい朝飯前だ。クレジットカード並みに使用履歴が残ってしまう。明らかにプライバシーの侵害だけど。

 

 とりあえず、理由を話して生暖かい目で見守るだけにしてあげて、と伝えておいた。一人遊びにハマりそう、とかお一人様用オカルト版真言立川流の事までは教えてないけど。

 …だからヤメロォ! ベッドの下のエロ本を机の上に並べるようなノリで、ロミオ好みの媒体ばっか揃えてんじゃねえ! ああそうだよね、フライアに出入りしている物資やら何やらも、あんたらの権限なら普通に閲覧・変更できますもんね!

 ええい、こうなればレア博士も購入しているHOW TO本も調べてくれる! ………ああうん、初心者用だわコレ…。

 ラケル博士? ……性欲あんのかな、この人…。いやアラガミだって交配するかもしれんし…でもどうやって増えるのかも未だ不明なんだよな…。

 

 

 …まぁ、シモの話題はこの辺にしておこう。

 ロミオの進展具合とかも考えると、そろそろジュリウスと顔合わせくらいしておいた方がいいんじゃないか?と思えてきた。実験にせよ研究にせよ、比較対象があるかは重要だ。

 ジュリウスがあっと言う間に血の力を会得してしまったとしても、多分今のロミオはそれ程気にしないと思う。所詮は道具であり、使い方次第であると割り切れるようになっているからだ。まぁ、自分に無い道具を持っているという意味では羨むかもしれないが。

 

 しかし、これに関してはラケル博士が相変わらず絶対阻止の姿勢を(表には出さずに)貫いている。ロミオがブラッドアーツを会得しかけている事もあり、俺の指導法で血の力に目覚める事が出来た実績はあるというのに、一体何が不満なのか。

 ……ジュリウスにシモネタを近づけさせたくない、とかじゃないよな。

 

 ふむ……直接ではないにせよ、ジュリウスと連絡を取る事は難しくないだろう。何ならロミオに中継を頼んで、メールの遣り取りでもすればいい。

 ……いや、フライアでやる以上、隠し通すのは難しいか。ラケル博士の事だから、恐らくジュリウス近辺に何らかの予防線が張ってあるだろう。それこそ、使っている端末をコッソリと覗けるようにするくらい、大した労力ではない。

 面倒だな…。うまい事やれば、今のうちにジュリウスにラケル博士への不審の種を植えつけられるかと思ったんだが。ラケル博士はこれを警戒しているんだろうか?

 

 

 

 

 

 そうそう、今日はアリサから連絡が来た。夢の中の話じゃなくて、メールによる連絡だ。まぁ、内容は夢の話だったが。

 感応現象と言っても、やっぱり半信半疑な部分はあったらしい。

 ま、無理も無いわな。せめて直接接触できるくらい近くに居ての現象ならともかく、車で丸一日分以上離れた場所から夢の中に入り込んでいる、なんて言われてもそりゃ信じられまい。どうやってるのか、俺にも理解できんし。

 「夢の中で会った事を覚えていますか?」なんてメルヘンな問い掛けだった…。昨日も一昨日も抱き枕にされた事まで覚えている、と返しておいたが…これで本当に単なる夢だったら、アリサは立ち直れなくなったんじゃなかろうか、いろんな意味で。と言うか一見すると妄想狂かヤンデレのセリフだ。

 

 さて、今日も今日とてアリサの夢の中に入り込む訳だが……同じベッドでレア博士が寝てるんだよねぇ。

 今日はナニした訳じゃない。なんか研究に興が乗り、気がつけば徹夜してしまっていたらしい。自室まで帰るのが面倒なので、近くにあった俺の部屋に転がり込んできた。

 やれやれ、仕方ないやっちゃな。ゆっくり眠りんしゃい。

 にしても、仰向けになってても見事なバストですなぁ。支えも無いのに三角形が崩れないとか、どんなハリしてんねん。…何度も触って確かめたし、今も眠っているレア博士の天辺をピンピン弾いて遊んでるんだけども。

 

 むぅ、肉体関係アリかつ妹から奪い取ろうとしている女が横で眠っているのに、他の女の夢を見る為に眠るこの背徳感…ナカナカのものであるな。とりあえず、余計な寝言を呟かないようにしておかんと。寝ている間の事だから、流石にあんまり注意できないが。

 

 

 

 さて、レア博士の隣で横たわったら、うにゅうにゅ寝言を呟きながら絡み付いてきて、眠るのに…睡姦の衝動を抑えるのに…苦労したのはともかくとして、アリサの話だ。

 昨日もそうだったが、抱き枕にされつつ、色々と話をしている。…ただ、今日感じる感触が、夢の中のアリサの柔らかさなのか、現実で接しているレア博士の柔らかさなのかは分からんが。…寝ている為なのか、感覚が鈍いんだよな…起きてればすぐに判別できるんだが。

 

 話の無いようについては省略する。一言で言ってしまえば、(かなり重い)愚痴だし、まぁ今までの経緯から大体予想がつくだろう。

 …それはいいんだが………あの、アリサさん? 何で抱き付いたまま、クンクンしてるんですか?

 

 …何? 女のニオイがする?

 

 ………そ、そりゃーしてるだろうさ。徹夜明けのレア博士が隣で爆睡してるから。何で同じベッドで? そりゃ普通、部屋にベッドは一つだけだろ。どんな関係かって……色々と複雑な関係? 

 複雑…だよな、考えてみりゃ。特にレア博士の立場が。

 

 

 そんな事を考えていたら…あの、アリサがなんか小さくなってんですけど。またょぅι゛ょ状態になってるんですけど。しかも何か膨れっ面しながら、俺の膝の上に乗ってきた。

 

 あのー、アリサさ…ちゃん? これは一体如何なる意思表示でありんすか? いや分かるっちゃ分かるよ? 今のアリサにとって俺は、元とは言えヒーローであると同時に依存対象、愚痴を吐き出せる対象、自分を受け止めてくれる居場所になっている。それが他の女と同衾しているとくれば、気に入らない…じゃすまない、ショックでもあるだろう。

 縄張りを主張しようとするのも、見知らぬ相手に威嚇しようとするのも分からんではない。

 が、何故にょぅι゛ょになるのか。と言うかどうやってなったのか。夢の中なんだから、やってやれない事は無いのかもしれんが。

 

 ょぅι゛ょアリサは俺の膝に座って背中を預け、むーむー唸りながらパシパシと俺の膝を叩いたりしてくる。なんだ、どうしろと言うのだ。子供は苦手だ。理屈も屁理屈も通じないし、何考えてんだか分からん…。オトナの女とは違った厄介さだ。……コノハやササユはもっと厄介だったけどな!

 とりあえず、怒り疲れたのか、ょぅι゛ょアリサが寝オチして終了。

 

 

 




明日は討鬼伝2vita体験版+バッチか。
EDFとどっちを優先するかな…。

巨人兵団マジきつかった…。

とりあえず、連勤終わったら癒されに行こう…。


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159話

PSvita版キター!
スキルレベルが凄い勢いで上がるw
残り二つくらいで、一ヶ月くらいかかるかと思ってたら、30分足らずでもう最高レベル。
これで体験版のミタマは全て最高レベルです。

……発売まで何してよっか…。
発売が7月末だから、約70日。
4日毎に投稿し、約8,000字として13万字。
書き溜めが現在5万字ほど。
…そろそろストーリー進めんと、発売しても討鬼伝世界に進めなくなってしまう…。


EDF! EDF!


神喰月漫画の登場人物で、色んな髪の色が居るけどさ日

 

 

 そろそろ血の力について、わかっている事を一度纏めよう、という意見が出た。まー確かに、ここの所ロミオの霊力上昇も頭打ちになってきたみたいだしね。

 成果が出そうで出ない訓練を延々と繰り返させるより、振り返るのもいいだろう。と言うかひょっとしてレア博士が先日徹夜してたのは、この為の資料纏めか?

 

 で、ロミオも交えてミーティングする事になったんだが……なんかロミオが挙動不審だ。

 …ティンと来た。

 

 心配するな、例の練習方法とかについては俺も誤魔化すのに協力するから。

 

 …神を見るような目と、元凶を見るような目を同時に向けられた。つまりはチェーンソーでバラバラにされる神だ。む、そーなると俺は最終的には自分で試練を与え続けた英雄達にヌッコロされる事になるのか。死んでもデスワープするだけだけど、この場合英雄の立ち居地に来るのってロミオだよな。……一人遊びに嵌った責任を取れとか言って襲い掛かってきたらどうしよう。神機持ってくるならいいけど、男に下半身的な意味で襲われたくない。そんなもんA.BEEさんだけで沢山じゃ。

 

 

 さて会議の内容だが、割と専門的な話だった。大雑把に言うと、血の力に関する理論を一から組みなおす必要がある、という事だった。

 ロミオが体得しつつある力は、今まで考えられていた血の力とは、大きな差異が見られたからだ。

 血の力発動に必須の筈の偏食因子が入ってないのに、俺はホイホイ使ってみせるし、発動には赤い光が伴うと言われているのに、実際には赤だったり青だったり白かったり。

 俺一人がそうなのであれば、突然変異と考える事もできただろうが、ロミオもそういう光を放っている。

 

 更に、この辺は俺にはよく分からんが、色々な計器で計測される波長も、当初考えていたモノとは大幅に違っていたらしい。

 実はやっぱり全く別の力なんじゃないか…とも考えられるが、だったらこれは一体何だって話である。

 

 

 

 …そこら辺の研究は博士組に任せるとして…これ、ラケル博士はどう考えるだろうな。実のところ、これが本当に血の力なのか、その辺はどうでもいいんだろう。

 重要なのは、「ラケル博士が目的の為に使える力なのか」という一点のみ。元より考えていた血の力だって、目的の為に最も適した力、以上の物ではなかっただろう。

 つまるところ、ジュリウスを特異点として仕立て上げる為の一助となるかどうか、である。

 

 …先日、ラケル博士から受けた説明では、俺の血の力…霊力を使って特異点の代わりをする事は、恐らく可能…であると結論が出た。

 という事は、色々と想定と違ってはいても、ラケル博士にとって俺や現在のロミオの力は有用な筈。

 想定とはちょっと違うから、もう用済み…なんて事にはならないと思うんだが。

 

 

 正直なところ、本当に霊力と血の力が同一のモノかってのは、俺にも分かってないんだよな。ただ似たような現象を起こせるってだけであって。

 ロミオが使えるようになっているのも、実は血の力ではなく霊力だった…なんてオチだって考えられる。霊力自体は誰にでもある力で、修行次第で誰でも引き出せる力ではあるからな。ミタマが憑くかどうかは人次第だけども。

 …ミタマ、か。血の力はミタマ無しでタマフリをするようなものだが、それって出来るんだろうか? 少なくともゲームじゃ無理だった。討鬼伝のウタカタに到着後の初戦闘ではミタマが無い状態で出撃し、タマフリが一切使えなかった。ミタマ無しで出撃する事も出来たと思うが、やっぱりその時はタマフリ使用不可。

 と言う事は、ミタマが憑いてないのに、一種類とは言えタマフリみたいな事が出来るのは…やっぱり血の力と霊力は違うんだろうか? 少なくとも、エネルギー源が同じだったとしても、その力の使い方は別物か。

 

 ……うぅむ…となると…ちょっと確認してみるか。

 

 

 

 

 ラケルてんてーに、以前から疑問だった「ブラッドアーツに赤い光が伴うと考えているのは何故か」を聞いてみた。

 ぶっちゃけると、攻撃性の発露、と考えているそうな。

 色彩には力がある。人にもよるが、青い色には知性や冷静さを感じ、黄色には光やカレーや優柔を感じ、白には純潔、純白といったイメージが強い。そして赤は…戦隊モノのリーダーとかのイメージもあるだろうが、熱血・闘争・活気と言った、行動的・攻撃的な印象がある。

 要は「コイツを倒す」というイメージに直結して、漏れ出すオーラの色が染まる…或いは、そのイメージに適合してオーラが変わっていった結果、赤い光に見えるようになると考えられていたのだとか。

 

 

 …他にも色々言ってたが、理解できなかった。あと、「私が聞きたいかって言った時には、長くなるからイヤって言ったのに…」とレア博士がちょっとスネていた。

 ともかく、この辺の理論から考えるに、ブラッドアーツとはエネルギーを破壊に特化するように変化させたモノだと思われる。赤く光るのはその結果に過ぎない。

 この理屈で行くと、漏れ出すエネルギーの色が不安定なロミオは、雑念が多すぎて集中できてない…或いは単純にエネルギー変化の効率が良くないという事になるな。 

 俺はどうだろう? …あふれ出すエネルギーの色を変える事自体は、そう難しくない。

 

 …いや、色は問題じゃないんだよ、色は。色が変わるのはあくまで結果だ。

 霊気を操る技術もないのに、「そうする」という意思、イメージ、決意だけで霊気の質そのものまで変えてしまう。ナルホド、これは確かに必殺技だ。

 であると同時に、俺にとっても盲点と言えば盲点だ。今まで、霊力を操る事はあっても、質を変える事はしてこなかったからな。霊力であって霊力でない。身につける価値はありそうだ。

 

 まぁ、どうやって身につけるかが問題なんだけども……ロミオの放つ光は、時々ではあるがゲームで起こっていたような赤い光を放っていた。それを安定させる訓練をすれば、多分遠からずブラッドアーツは形に出来るだろう。

 俺の場合は…なまじ、霊力を操れるからなぁ…赤い色を放つ事が成功の目安、とはいかない。さて、どうしたものか…。

 

 そうそう、ミーティングの結果だが、当面はロミオの放つ光を分析する方向で考える事になった。どんな時に理想的な色になるのか、またその色によってどのような変化が起こるのかを測定するのだそうな。

 …俺の出番はあんまり無さそうだな。(ロミオを追い込む時以外は)…うん、自由に動ける時間が増えたと思おうか。

 

 

 

神喰月何で眉毛だけは黒の人ばかりなんだろうね日

 

 アナグラでのアリサの立場だが、ナカナカに心折な状態になっているらしい。

 まー無理もないけどな。ツンケンした態度が暗示によるものだとわかっても、悪感情が何処かに行く訳じゃないし。それを仕向けていたのが、信頼していた医師だったので、アリサとしてはどっちにしろダメージが入る。

 

 更には、出撃もロクにできない状態になっているらしい。

 肉体的に弱っている上に、精神状態が不安定。誰かと一緒にミッションに出撃させようにも、暗示が完全に解けているのかと問われると、アリサ自身も断言できない。

 こういうのはリンドウさん辺りに任せよう、という意見も出たらしいが、そのリンドウさんこそが暗示による暗殺のターゲット。下手に一緒に行動させていると、何の拍子に後ろから撃ってしまうか分かったものではない。

 サクヤさんも、流石に恋人(表沙汰には一応していないらしいが)を暗殺しかけた相手とあり、蟠りもあるし気まずい。…本気で復帰しようとしているなら、気まずいとか甘ったれた事言ってる場合じゃないのは自覚しているようだが。

 

 …とにかく、リハビリすらできない状態になっているようだ。ゲームであれば、主人公が付き合うんだろうけども…その立場に居る(のか、未だに疑問だ)俺がフライアに居ちゃーな。

 これ、割と洒落にならん状態だなぁ…。

 言っちゃなんだが、ゴッドイーターのコストパフォーマンスは非情に悪い。ただゴッドイーターになるだけでも命懸け、成功しても殉職率が高く、食費を初めとした生活費もかかり、この時代にしては高給取りな挙句、更には危険な任務なんか全く無くても、アラガミ化を抑える薬剤を投入し続けなければならない。

 この状況で特に危険なのが、最後の一つ、アラガミ化抑制剤。当然、これだってロハではない。限られた資材を遣り繰りし、専用の機械を起動させ続け、ようやく作れる代物…らしい。

 そんな物を、足手纏いにしかならないゴッドイーターに与え続けるだろうか? そんな筈は無い。流石に供給カットという露骨な手段に出たと言う話は聞かないが、それを脅しにして無茶な任務に行かせて殉職させる、くらいの事はやるだろう。

 

 …早いところ立ち直らせないとイカンし、本人もそれを望んでいるのだが、環境がそうさせてくれない。

 榊博士からも、アリサ本人からも相談を受けている。

 

 

 

 そこで小生、一計を案じてみた。

 

 

 そもそも、アリサに相談を受けているのは、夜毎の夢の中である。夢の中であるならば、俺のイメージ一つでどんな事でも出来る…よな? 榊博士に言わせると、感応現象と夢は別物だし、明晰夢をコントロールできるとしても出来る事と出来ない事はある…簡単に言えば本心から無理だと思っている事や、想像すらできない事は再現すらできない。更に言うなら、俺が見ているのは俺の夢ではなく、アリサの夢に近いだろう…多く見積もっても、俺の夢が締める割合は半分以下だそうだが、その辺は後にして。

 とにかくアレだ、夢だっつーならお約束の、文字通り『空も飛べる筈』や分身や触手プレイだって可能な筈! アリサだって、なんか知らんけど大人モードとょぅι゛ょモードを切り替えてるんだから!

 

 …いや、無理だったけどね。純粋に俺の夢じゃないからなのか、自分の体が変化するという事をイメージしきれなかったからなのか、それとも俺が情報生命体的な何かだからなのか。

 とにかく、俺自身の体を変化させたり分身させたりする事は出来なかった。

 …だが俺は諦めん、いつか必ず!

 

 

 

 …脱線した。とにかく一計を案じたんだが、それは要するに『現実でリハビリ・訓練できないなら、夢の中でやればいいじゃん』という理屈だ。

 夢の中での行動が現実に反映される訳じゃないが、精神的な経験はちゃんと載せられる。肉体的なリハビリは昼に運動でもすればいいとして、例え夢であっても限りなくリアリティを高めれば、アリサのリハビリの一助になるのではないだろうか。

 

 この話をした時、アリサは深く感じ入ったようだった。そんなに感謝されると居心地がいいなぁ! もっともっと奉れ! …冗談はともかくとして、起こすだけ起こして放置するのはよろしくない。アリサのゴッドイーター復帰に、全力で手伝わせてくれ。  全力で!     全力で!

 

 

 フルパゥワァーで!

 

 

 

 

 …よし、頷いたな。

 

 

 それでは早速始めよう。

 

 

 男塾…じゃなかった、狩りゲー名物、『レア素材求めてクエストマラソン(しかもサブクエ不可)』『明らかにクリアさせる気が無い、運営側の殺意丸見えの超難易度クエスト』『心が折れるまで続く物欲センサーとガチンコバトル』をなぁ!

 なぁに、アラガミが怖いなんて思わなくっていいさ! なんてったって、今から相手をするのは鬼なんだから! 竜なんだから! モンスターなんだから!

 

 

 さぁ、黒爺猫がトラウマだってんなら! ビリビリガオーから始めようか! なぁに軽い軽い…ん、黒爺猫は夢の中で散々ブッコロされてたからもうトラウマじゃない? だったら証拠を見せてみろぉ! ほれ、いきなり超帯電だぁ!

 

 

 何? アリサの夢の筈なのに、何で俺に支配された上に背景まで変わってるのか?

 

 そげんこつ! おいの狩魂が! にしゃんまっことしゃばい根性よりずってストロングさかい決まっとるやろうが!(方言多数)

 

 さぁありがたく受け取るがいい、今のこの世界では見る事ができない夢と野生と自然の驚異に溢れた! このデスマーチをォォォ!

 

 

 

 

 

 

 後日聞いた話だが、その日からアリサは魘されずに眠れた日は無かったらしい。 

 

 

 

神喰月シモのケが描写されないのは、まぁ仕方ないとして日

 

 

 アリサが目にクマを作り始めた、と榊博士から連絡が来た頃…夢の話で言うならば、アリサが何とかゲリョスを下せるようになってきた頃か。神機使ってようやくその程度だから、先は長いな。

 なんか、ツバキさんがアリサを現場復帰させる事を認めたらしい。…え、何それ? いや目出度い事ではあるんだけど、まだリハビリ初めて一週間も経ってないよ?

 

 どんな裏があるのかと思ったら、ツバキさんが「今のアリサなら使い物になる」と押し通したらしい。…確かに、そんじょそこらのアラガミよりは強くなってるだろうが…。

 肉体的な疲労が薄い分、精神的に散々追い込んだからな。

 どれくらいって…今までやってきた、ロミオを鍛える為のアレコレを認識してみてくれ。…認識したね? そんな物は天国だ!と素で言い切れるくらい。

 

 …自分から超ノリノリでやっておいてなんだが、アリサに嫌われ…いや憎まれなかったのが不思議で仕方ない。今の俺でさえ、かつて貧弱君だった頃のハンター訓練所を思い出すと殺意が湧くというのに。

 何で嫌われていないのか分かるかと言うと…毎日の日課(という名の大連続狩猟ソロ)をクリアした後、ょぅι゛ょ状態になって俺の膝の上に乗ってくるからだ。抱っこをせがんでくる事もある。…正直、最初は隙を見てブスッと刺そうとしているんじゃないかと疑ったけれども。

 やっぱ、夢で助け続けた事による刷り込みだろうか…。

 

 一応言っておくけど、流石にこの状態からR-18展開には持っていかない。今更とは思うが、ガチのペド認定貰うのもなんだしな…。くっ、大人モードで甘えてきたら遠慮なくヤってしまえると言うのに…。

 ちなみにそんな事をしている間にも、現実では大抵隣にレア博士が居ます。裸かどうかは日によって違うけど。

 

 

 

 それはともかく、アリサは復帰戦第一回目を順調に終えたらしい。この時のチームはソーマ、上田してないエリック、アリサ、そして何故かカノン。…人選の基準が分からん。

 ちなみに相手はコクーンメイデンとザイゴート。言っちゃ何だが、下っ端アラガミの代名詞みたいな連中だな。

 アリサも普通に斬って撃って避けて終わっていた。ちなみにエリックは悲鳴を上げていたそうだ。理由は…また名前を五車多に変更しようか、とだけ言っておこう。

 

 カノンとアリサは、何だか馬が合ったらしい。自虐的な表情で、「厄介者扱いされているからでしょうか…」と言っていたが…やっぱりカノンもそういう扱いか。と言うか裏カノン見て感想がそれだけで済むというのもスゴイな。驚いたけど、言い触らしていい事でもないと思ってるだけだろうか?

 …話を聞いてみると、なんかカノンパワーアップしてない? 理由は明確で……オラクルリザーブの技術が確立されて解禁されてるからだなぁ…。これって俺の責任なのかな。

 

 …よし、そろそろカノン専用(でもないけど)ガンナーゼロ距離戦闘術、教えてもいい頃か。以前に会った時は、カノンの力量不足もあって教えられなかったしな。

 しかし今はカノンに直接会う事ができない。………ふむ、アリサに教え込んで、そこから伝えさせるか。

 やり方はそうだなぁ……以前のループで教え込んだのは、単純に敵の攻撃を避けて、ゼロ距離から力の限りに連射するってだけだった。今回はもう一捻りしてみよう。

 

 

 即ち、MH世界のガンランスの扱いを応用するのだ。ただカノンが使っているのは旧型神機で、盾が無いから…防ぐ! 突く! ドカーン! ならぬ、避ける! 突く! ドカーン! になるな。

 何、ゴッドイーターの銃形態で突くのは無理? そこはそれ、GE世界にはバレットエディットという便利なモノがある。コレを使って、敵に接触したら爆発するバレットを、銃口に発生させればいい。

 これで回避ガンサースタイルの完成である。

 

 ロミオ…に教えるのは、まだちょっと早いか。体も性根も大分出来上がってきてはいるが、やはり極東を基準とするとまだまだ…。ていうか、そもそも剣型神機しか使えないし。

 考えてみれば、将来は新型に持ち替えて銃も使うようになるんだよな。今のうちにエイム力も鍛えておくべきか。

 最近じゃ、ブラッドアーツの光研究の為に、イマイチ体を動かす機会が無いってボヤいていたからな。今度の休日、ロミオを誘って極東デビューさせてみようかな。

 

 

 

 なんかロミオがブラッドアーツ研究に物凄い勢いでのめり込みだした。

 …そんなにイヤかなぁ、極東デビュー…。

 

 

 

神喰月エロゲでも眉毛だけ黒いのが多い気がする日

 

 

 ロミオから極東の印象を聞いてみた。

 「あそこはヤバイ」と日々世界中で魔境グンマー並みに囁かれており………あ? 地図? ……………アラガミのおかげで土地が滅茶苦茶になって気付かなかったが…極東支部、マジで群馬県付近なんですけど…。

 

 

 …いや、俺って地理とか苦手だから多分勘違いだな。うん。昔は中国とか朝鮮の位置にアメリカがあると思いこんでたくらいだし。コレ、時守(S学生)の実話。

 ともかく、ガチでヤバいという話はあちこちで吹聴されており、また俺も極東支部以外の場所へ出向した時は、アラガミが弱いはゴッドイーター達のキャラが薄いはうどんは不味いはで、極東がどれだけ特別な土地なのか強く突きつけられた。今思うと、あの時のうどんはカルボナーラだったような気がしなくもない。

 

 しかし、ロミオを初めとした他の人々からの認識はどうなんだろう? ヤバイヤバイと言われちゃいるが、一体何を以て危険と判断しているのか。

 それを調べるべく、俺はロミオに突撃した。突然の接近に、咄嗟に神機を振るって間合いを確保するロミオ。うむ、いい反応だ。

 

 

 で、実際のトコどうなんよ?

 

 

 

 

・極東に来て、無事に帰れたゴッドイーターは居ない

・極東に行った同僚とその後連絡が取れません

・とりあえず一番いい装備で行け(アラガミの強さ的に考えて)

・地球上唯一残されたガチの地獄

・アラガミもヤバいが、極東で育った一般市民がヤバい。ゴッドイーターは更にヤバい

・他の支部でエースだったから大丈夫だろうと思っていたら、極東のルーキーに自信と自身を木っ端ミジンコにされた

・支部から出て1分のところで、反フェンリルを謡う一般市民に奇襲を食らって1乙した

・全回復させた味方の声がしないので振り返ろうとしたら、その瞬間に殴られて1乙した。他のメンバーで既に2乙していた

・中型アラガミの取り巻き相手に全滅した、と言うか自分は何もしていないのにレア素材を強奪する

・接触禁忌種に戦いを挑み、ゴッドイーターも近くに居たアラガミも全滅した

・戦闘開始から30秒も経たずに6回リンクエイドが必要になった

・極東所属ゴッドイーターの1/3が接触禁忌種との交戦経験あり。ベテランに至っては指定接触禁忌種を楽に狩る

・「そんな危険な訳がない」と言って転属したゴッドイーターの訃報が、転属翌日に届く

・「ヴァジュラを楽勝で討伐した我々が負ける訳がない」と自信満々で挑んだ他の支部のチームが、極東のオウガテイルに無双されて泣きながら帰ってきた

・極東におけるゴッドイーターの殉職率は150%。腕輪を壊されてアラガミ化し、更に討伐されるのが50%

・実はアラガミ発祥の地だった

・1回出撃して5回戦闘は当たり前、一日中戦ってる事も

・支部長の気紛れ一つで世界滅亡も救世も朝飯前

・2乙回復アイテムなし、メンバー3人が倒れている状態でも1人で逆転勝利するゴッドイーターも居る

・1つミッションを受け付けたと思ったら、3つもミッションを押し付けられていた

・極東のゴッドイーターが他所の支部に出張した時、救世主をみるような目で見られる

・夜な夜なデカいネコとNINJAとSAMURAIがアラガミを狩っている

・他人のミッションに乱入してアラガミだけ仕留めてさっさと帰る

・吼えて威嚇するアラガミに、流暢な鳴き声で反論して涙目にさせて退散させた

・アラガミとの抗争で山が削れて海が煮えた事は有名

・ミッションが終わったらアラガミに乗って帰り、到着したら始末する

・実はマッドサイエンティストが極東を支配していて、住人の7割は何らかの実験台

・最近、妙な中毒性を持つ食べ物が流行りだしている

・一般人でも見物気分でアラガミの生息地にピクニックに行く

・犯罪者はアラガミを引き寄せる為の生餌にされる。逃げて生き延びられれば無罪

・車を使わせると、大抵峠を責めて返ってくる。ドリフトは教習所で必須技能として叩き込まれる

・食料がなくなると、アラガミを狩って食べようとする

・アラガミを信仰する宗教がある

・美人が多くて露出度が高い

・誤射をしても謝らない。当たったほうが悪いとばかりにスルーして戦闘続行する

・誤射を受けた方も吹っ飛ばされるだけでダメージ無し。上級者に至ってはご褒美ですと言わんばかりに自分から当たりに行く

・あまりに素晴らしい誤射ぶりを称えられ、新人ゴッドイーターが誤射姫様というゆるキャラ認定された

・交通事故はむしろ推奨。ただし相手がアラガミの場合に限定される

・毎時間1体は未確認種族のアラガミが生まれている

・最近、空から隕石を呼び寄せて人間諸共にアラガミを全滅させる研究が完成間近になっている

・実は人間のフリをしたアラガミが普通に生活している

・鉄骨使ってアラガミを殴り殺した一般人多数

・ヴァジュラをソロで討伐できるようになって一人前。ただし極東のヴァジュラは他所の黒爺猫より5倍強い

・支部長の言葉が分かり辛いんで、下っ端が好き勝手に解釈して暴走するのが常

・極東人の中でも、突出して何らかの能力が高い人間は歳を取らない

・最終安全装置を外すと、極東支部が丸ごと変形して巨大ロボットになり、月を撃ち抜く。最終形態になると銀河を石ころみたいに投げつける

・以上の事を大真面目に話したら、「お前はまだ極東を知らない」と断言される

 

 

 

 

 

 

 

 …何処のコピペだよ。と言うかこれはヒドい。大体事実なのがまた酷い。

 そして恐らくゲームプレイヤーにとってはまだ序の口なのがもっと酷い。実際、これからどんどんアラガミ達が強力にになっていくだろうしな。

 

 ちなみにロミオ、俺から受けた訓練によって上記コピペの半分くらいは真実だと確信した模様。……半分くらいならいいか。9割以上事実だと知ったら、ニンジャリアリティショックならぬ極東リアリティショックを発生させそうだし。そうなったらGE2のストーリーどうなるかな。血の力に目覚めかけている時点で今更だけど。

 

 ん? ロボット云々は流石にウソ?

 

 

 

 

 

 

 いつから極東支部がパシファック・リムれないと錯覚して……おや、メールが来たようだ。

 

 

 

 …ヤバイ、修正テープが無い。というか何処で監視してやがる…。

 

 




上記のグンマー云々で予想している方もいらっしゃるかもしれませんが、「お前はまだグンマを知らない」購入。

で、ふと思いついたネタ。(このSSとは完全に別物)

内容はISで、主人公はモッピー。
要人保護法で一家離散して引越しし、ワンサマとも離れて鬱々としていたモッピーは、皆様の予想通りにグンマに引越ししてきました。

そして行われるグンマの常識という名の洗礼の数々。
ふと気付けばモッピーは何となく適応してしまい、リアクション・ツッコミ役(武器使用可)としての立場を確立し、意外と楽しい青春時代を送るのでした。

題名は「ISはまだグンマには無い」。
ヤマなしオチなし意味なし。


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160話

EDF4.1、何とかノーマルモードレンジャーでクリア。
礼賛がマジ神装備。
しかしどーすっかなぁ、他の兵科使ってないとは言え、ちょっと熱が冷めてしまったよ。
ラストバトルはかなり燃えたが…。

ドラクエヒーローズに手を出すか…いやいや、流石に金使いすぎだわ。
6月末にはスパロボ、7月末には討鬼伝2、8月には世界樹の迷宮…って、考えてみれば討鬼伝2の一週間後には世界樹なのか。どっちやろう。

と思っていたら、ついついカービィに手が…。
オーバーウォッチとどっちにするか30分ほど迷いましたが、ストーリーの無いゲームだとすぐ飽きる…。

追記
なんかムラムラしたので、完全外伝扱いでR-18やってみようかと思いました。
ただし主人公はこのアホのまま、獲物…もとい相手のキャラは殆ど知識のないアニメのキャラです。
キャラ崩壊? そりゃ元ネタでどんな人なのか知らないから、崩壊するのも当たり前だわ。


しかし、根本的にほぼエロが書けなくなっている不具合。
…こりゃ挫折かな…。



神喰月エロだけでなく、三人称も書けなくなりつつある日

 

 

 アリサにゼロ距離射撃戦法・改を教え込む。そこからカノンに教えてやれ、と言ってたらちょっと剥れた。…が、流石にカノンを放っておくのはマズいと思ったのか、素直に頷く。…一歩間違えれば、自分も誤射に巻き込まれるもんね…。割と切実。

 

 さて、そんなこんなで順調に夢の中・現実両方でリハビリを勧め、むしろ以前よりも動きがよくなってきたアリサ。人間関係も、まぁマトモなレベルには戻ってきているらしい。

 それはそれとして、今度支部長が極東に帰ってくると情報が入った。で、この支部長にどう対応するべきか…を相談されているんだが。

 支部長はアリサと一緒に汚ッサンを引き抜いてきた。つまり、アリサを洗脳し、リンドウさんを暗殺しようとした首謀者の疑いがある訳だが…。

 

 

 

 

 …あのさ、アリサ…俺、立場的には支部長側なんだけど…まぁいいけど。今は極東から離れてるし…。

 

 で、どうするかって事だが…俺から言える事は一つだけだ。

 リンドウさんが危ない橋を渡ろうとするのを辞めさせろ。言っちゃなんだが、今回お前さんが巻き込まれてエライ立場になったのも、リンドウさんのスパイ行為の巻き添えみたいなもんだ。(汚ッサンにはその前から洗脳されてただろうけど)

 

 ハッキリ言うが、仮にリンドウさんが言うような、支部長の計画の裏があったとして。それを突き止めたところで、リンドウさんには何もできない。

 周囲の人間を無意味に危険に晒すのがオチだ。

 無理に深入りしようとしなければ、支部長だって貴重な戦力を暗殺なんて手段で削ぎ落とそうとはしない。

 

 …ん? その口ぶりだと、リンドウさんが探ろうとしている、支部長の企みを知っているように聞こえるって? …まぁ、実際知ってはいるよ。

 その上でこう言ってるんだ。

 これ以上踏み込むな。上手く行こうと行くまいと、今より悪化する事は無い。

 

 

 

(計画は俺が乗っ取るし、失敗したらデスワープで何もかもリセットされるからな!)

 

 

 

 

 …こんな思わせぶりな事言ったところで、アリサが納得して引き下がる訳もなく。

 大人の姿で色々言っても無駄だと判断したのか、ょぅι゛ょ化して物凄い勢いで泣き喚きだした。

 

 

 うーむ、凄い破壊力だ…キンキン声に、泣いているんだか笑ってるんだかよく分からない声、こっちが何言っても聞いているのかすら定かではなく、意味も無く駆け回るは唐突に飛びついてくるはあっと言う間に逃げ出すは…。

 大人の姿で教えろ教えろと詰め掛けられるよりも、余程厄介だった。

 

 あまりの喧しさに飛び起きたよ……。そしたら俺を起こそうとしていたレア博士に思いっきり頭突きしてしまった。

 

 

 

 

 

 さて、それはともかくどうしたものか。

 アリサも目を覚ましてゴッドイーターとして復帰し、支部長が帰ってくるとなると、そろそろ話が進んでもおかしくない。

 シオの確保か…。上手く支部長の目を掻い潜ってくれるといいんだが。

 

 

 

 

神喰月昔はどうやって書いてたんだっけ日

 

 

 はいはい、どうもお世話になっております皆々様。アリサ・イニ(略)です。

 …キャラが違う? いえ、どうにもここ最近自分のキャラと言うかアイデンティティに悩んでおりまして。

 と言うのも、昏睡から回復して依頼、妙に心に余裕があるのです。むしろ、どうしてあんなにイライラし続けて、今まで極東の皆さんに刺々しい態度をとってしまったのか、本当に申し訳なく思っています。

 まぁ、目まぐるしく変化した私の周囲の環境に、戸惑っているのも大きいですが。

 まさか、先生が私に暗示をかけて操っていたなんて…。振り返ってみれば、確かに思い当たる節はありました。先生のカウンセリングを受けた後は、元気は出ますが妙に怒りや苛立ちが渦巻いていたものです。

 

 ですが、最近はそれすら瑣末事と思える程に濃い毎日を送っています。

 昼は昼でアラガミ討伐。こっちは然程辛くはなくなったのですが、やはり一度失った信頼を取り戻すのには苦労するもの。同僚の皆さんからの視線が痛いです。リンドウさんは「気にするな」と言ってくれますし、サクヤさんも「水に流すわ」と言ってくれますが、いっそ責めてくれた方が…いえ、それはそれで辛いですけど。

 

 

 

 でも問題なのは夜なのです、夜!

 ええ、夜の問題に比べれば、アナグラの皆さんからの冷たい視線なんてどうって事ありませんとも! 

 

 今は極東ではない別の場所に行っているあの人に、「リハビリの為」と称して苦行を課せられているんです!

 夜毎夢の中で行われる、見た事も聞いた事もない怪物と繰り広げる大運動会! タフだはデカいはアラガミとは違う怖さがあるは、何なんですか一体!

 ええ、夢の話ですよ、夢の。単なる夢ではなくて感応現象らしいとは聞いていますが、それにしたって夢には違いありません。

 

 

 ですが、夢とは言わば超リアルなシミュレーターでもあります。アラガミが現れる前の人々は、ゲームセンターに置いてある様々なシミュレーターで悲喜交々の激戦を繰り広げていたと聞きます。

 人間の脳の処理能力を以てすれば、当時のシミュレーターよりも格段に精度のいいシミュレートが出来るでしょう。

 

 

 それこそ、周辺一体に物凄い草木が茂っていて、目の前に本物のドラゴン(リオレウスと呼ばれているらしいです)が居て、臭いもあって圧迫感も感じて、本気で「喰われる」って思う程度にはね!

 

 

 本当に何なんでしょうかアレ。ドラゴン型のアラガミなんて聞いた事もありませんし、アラガミではない普通の動物(?)の筈もないですし。

 ひょっとして、私に夢を見せているあの人の空想の産物? 夢の中なので、確かにそういう事もできそうなのですが…それにしては細かすぎませんか?

 なんというか、アラガミとは違う『何か』を脅威的に感じています。いえ、アラガミとの戦いの中でも、食い殺されると思う事は日常茶飯事ですし、やっている事はそれと同じ筈なんですが……なんていうか、エネルギーとか迫力が全然違うんです…怨念すら感じた事もあります。。

 

 

 そんな訳で、私は夜毎に夢の中で、今はもう見られなくなった大自然の息吹のド真ん中で、得体の知れない猛獣と取っ組み合いを演じています。何をやらかすか本当に分からないんですよ、この猛獣達。

 火を吹く空を飛ぶは当たり前、地面に潜って自由に移動する、レーザービームを出す、仲間を呼ぶ、虚空から突然出現する、手足を吹き飛ばす事ができても、透明なナニカでそれを再生させて平然と動く、明らかに当たっていない筈の攻撃なのに吹っ飛ばしてくる………そ、その…オナラ…で攻撃してくる…。最後の一つと戦わされた時は、真剣に殺意を覚えました。

 ドイツもコイツも呆れるくらいのタフネスです。

 

 勿論、こんな連中を相手にして勝ち続ける事ができる筈がありません。最初は戦いに積極的になれなかった事もあり、容赦なく………よ、よよよ容赦……ひぃぃぃ!!!

 

 

 

 

 

 失礼、返り討ちにあって倒れ、目の前で大きな口が開いたのを思い出して錯乱しました。

 現実であれば、食われて二度と目が覚めなかったのでしょうが、これはどこまで行っても夢でした。夢だと忘れて絶望した次の瞬間には、巨大な口も周囲の自然も消え去り、あの人の前に座り込んでいました。

 最初は酷いものでした。当然ですね、相手がアラガミであれバケモノであれ、殺されるのは何よりも恐ろしい事です。

 ですが「夢だから夢だから」と言って、あの人は容赦なく私をモンスターの前に放り出します。

 

 我ながら、よく順応したものです。あの人から一番最初に学んだ事は、恐怖で動かなくなる体を、更に強い恐怖で無理やり動かす事ですね…。

 あの人が…その、恥ずかしい表現ですけど、私にとってのヒーローだから、疑う事なく従えたのも大きいと思います。

 

 昏睡していた間、何度も夢を見ました。最初はパパとママが私のせいでアラガミに食べられてしまう夢ばかり。それが、何時の頃からか徐々に変わっていきました。あの憎いアラガミは一刀の元に切り捨てられ、パパもママ死なずに済むようになりはじめる。

 …所詮は夢、ですけどね。現実に生き返る筈もありません。…それでも目を覚ました時には、少しだけ期待してしまいましたけど。

 それからも、夢は続きました。恐怖と絶望と後悔の象徴だったあのアラガミは、夢を重ねる毎に無造作に切り捨てられ撃ち捨てられるようになり、パパとママはその場に居なかったかのように登場しなくなり…。夢は、子供の私が彼に、ヒーローに助けられるだけの夢になっていきました。

 一種の刷り込みなんでしょうね。夢の中の事とは言え、絶望の淵から何度も助けられた私にとって、彼は誰よりも何よりも信頼できる人になっていました。

 

 ……あ、あんな事をされても…。

 

 

 

 す、凄かったです……。ドン引き………し、しません。興味ありますから…。

 現実でもあんな感じなんでしょうか?

 その、生物学的物理学的に…あの夢の中での年代の私に入るとは思えないし、そういうコトが出来る体になってない筈ですから、現実とはまた別の感触なんだと思いますけど…。

 

 

 と言うより、やっぱりそういう趣味なんでしょうか? 私の精神安定も兼ねて抱きついたりしましたけど、手を出してきませんでしたし…。最近では、何故か幼い頃の姿に変化できるようになってしまったので、膝の上で甘えたりしています。…これが無ければ、夜毎の大狩猟祭は乗り切れません…絶対精神的に完全に潰れてました。実際、死のトラウマで廃人にならなかったのが不思議です…。こんな目にあわせてくる張本人に甘えてメンタルを回復させる、と言うのもマッチポンプだと思いますが。

 ですが、現実では大人の女性と同衾していると聞きますし……。どういう関係なのか今ひとつ分かりませんが、目下のところ、その相手が最大のライバルですね。

 名前は何とか聞き出したので、調べてみました。技術者の間では、妹と一緒でかなりの有名人らしく、顔写真くらいはすぐに入手できましたが……うぬぬ、これは…手強い…。

 私もスタイルには密かに自信がありましたが、この人はその更に上を行くようです。更に、博士という事は頭もいいでしょうし、キリッとしたクールビューティな印象ですね。家柄もこの世界では上から数えた方が早い程度には名家。

 更には、同衾しているという事は先手を取られているという事。そもそも、私は夢でしか接点を持てない状態…。あらゆる意味で後手に回っているッ…!

 

 

 

 

 …ちょ、ちょっと話が逸れすぎました。

 とにかく、今の私は彼のおかげで(せいで、とも言う)アラガミと以前以上に戦えるようになり、信頼回復の為にも毎日ミッションを受けています。サクヤさん達とも、少しずつ話せるようになっていました。

 

 さて、そんな折に、私と元先生をロシアから連れて来た支部長が、極東支部に帰ってくる…と情報が流れたのですが。

 正直、どうすべきなのか迷いました。支部長は私を手駒にしようとしていたのでしょうか? 元先生が何をしていたのか、知っていたのでしょうか? 何より、リンドウさんを暗殺しようとした事は、支部長の命令なのではないでしょうか?

 

 色々考えて見ましたが、支部長を問い詰める訳にはいきませんし、確証もありません。リンドウさんに至っては「気にするな。そんなヤバいコト考える暇があったら、料理の一つくらい作れるようになれ」と言ってくる始末。とりあえずイラッときたんで、ボルシチでも作りますか…イヤガラセ用の。

 リンドウさんが頼れないなら、と夢の中であの人に相談したんですが、逆に悩みが深まりました。

 すっかり忘れてました…あの人、支部長直属のゴッドイーターだったんですよね。当然、疑問の答えを教えてくれる筈もなく、それどころか「リンドウさんを止めろ」「深入りするな」と忠告される始末。

 これはもう、何か後ろ暗い事か、非情にややこしい背景があるかのどちらかなんでしょう。

 しかも、あの人もそちら側…。

 

 …正直言って、キツいです。私が夢の中で助けられて、勝手に慕っているだけなのは自覚していますが、ヒーローが敵に回るとは…。

 

 

 

 落ち込みながらも、日中はアラガミの討伐を繰り返しています。最近、何やら榊博士からの指令が非情に多いです。普段は特務に当てられるリンドウさんまで動員し、鎮魂の廃寺付近のアラガミを狩り尽くそうとしているような勢いです。

 …極東に来たばかりなら、過労死を心配するような勢いのミッションなのに、辛いとは思わないのは…妙な暗示が解けた為か、或いは夜毎の悪夢に比べれば余程マシだと割り切れるようになった為か。

 

 …ひょっとしたら、神機の性能が妙に上がっているのも理由でしょうか? 最初は錯覚だと思いましたし、そうでないと分かった時には何かしら特別な整備でもされたのかと思いました。

 ですが、特別な事など何も無かったようなのです。リッカさんを筆頭にした整備班の方々も首を傾げていましたが、神機自体のパワーが、一時期を境にして徐々に上がっていっているのだとか。

 これは何かの前兆なのでしょうか? 

 

 

 

 …そんな不安を抱えつつも、ミッションに臨んでいたある日の事でした。

 最近、何だか強力になりつつも、ちょっと数が減ってきたような気がするアラガミの討伐。いつもと変わらない一日…強いて珍しい点を言うなら、私、サクヤさん、コウタ、カノンさんのフルメンバーだった事くらい…の筈なのですが。

 

 

 

 …カノンさんですか? 最近、あの人から教わったゼロ距離射撃戦法を伝えたりしている内に、段々仲良くなりまして。別にお礼のお菓子に釣られたんじゃないです。

 この人も、今までの誤射(根本的な問題はそこではありませんが)の積み重ねの為、周囲のゴッドイーターから信頼を得られなかった人です。信頼回復の為の苦労話とかでウマがあったんですよ。

 常識外れのゼロ距離射撃戦法が余程マッチしたのか、最近では誤射も殆ど無く、オラクルリザーブをフルに活かした超火力要因としてドンドンレベルアップしています。衛生兵として、何かが致命的に間違っていますが。

 

 

 

 討伐が終わり、コアを回収しようとしたところで、何故か榊博士がやってきました。

 珍しい、というレベルではありませんね。何か用事があるにしても、通信で指示すれば済むでしょうに。

 そもそも、榊博士はゴッドイーターではないので、アラガミに襲われたら一環の終わりです。……いえ、ソーマとリンドウさんを護衛として連れていましたし、何よりこの人の事だからアラガミにも効く睡眠薬(人が摂取すると死ぬ)とか持ってても不思議はありませんが。

 

 榊博士の指示に従い、コアを回収せず、何故か周囲に隠れる事になったのですが…何事なんでしょう?

 気配を消して隠れる事、10分程。何だか妙に静かな時間が過ぎました。防壁の外だと言うのに、アラガミが寄ってくる気配が全く無いというのも稀有な経験ですね。この辺りのアラガミを狩り尽したという事なんでしょうか。

 

 

 不意に、興奮を押し殺したような声で「来たぞ」と榊博士が呟きます。…確かに、廃屋の屋根の上から、白い何かが倒したままのアラガミの上に落ちてきましたが…この人、どんな感覚しているんです? リンドウさんやソーマでさえ、気配に気付いてなかったようですよ。

 それはともかく、落ちてきた白いモノ…イエティでしょうか…は、アラガミの死骸の傍に跪くと……クチャクチャ、グチャグチャと………し、死骸を弄っている? 食べている?

 アラガミ同士の共食いなんて珍しくもありませんけど、あれは……あの白いアラガミは、人型に見えるんですが…。

 

 

「皆、頼むよ。アレを捕獲するんだ」

 

 

 …捕獲? 捕獲ですか? 討伐じゃなくて?

 アラガミなら討伐する筈…ではあれは人間? でもアラガミ食べてる…。

 

 まぁ、上司からの命令とあればやりますが…研究の為にアラガミを捕獲するという話も、聞かない訳ではないですし。その後ロクな事になった試しが無いそうですが。

 幸い、夢の中ではモンスター捕縛の訓練もやらされましたし、出来ない訳ではありません。あの怪しげな麻酔玉とかいう道具は持っていませんが。

 

 

 一斉に飛び出して、白いアラガミ(仮)を包囲。さぁ、どう出ます?

 

 

 ……知った事かと言わんばかりに、アラガミ食べてますね。余程飢えていたようです。これは…アレですね、夢の中で戦った、ティラノサウルスを4足歩行にしたのと同じ腹ペコキャラの気配がします。

 警戒しつつも、一歩近寄ろうとした瞬間…ギロッとばかりに振り返る! 予想通り、確かに人型で顔もどうやら人間と同じようですが…ザンバラ髪の間から覗く、血走った目と文字通り血塗れの口がホラーですね。

 コウタもちょっと引いたようです。それでも平然と近寄ってくる榊博士…もうちょっと警戒してください。

 

 

「やっと出てきてくれたね。全然顔を見せてくれないから、ちょっと強引な手をとらせてもらったよ」

 

 

 …相変わらず胡散臭い人です、見た目も言動も。しかし白いアラガミ(仮)は全く興味ありませんとばかりに、再びアラガミの死骸と向き合っています。…あ、コア食べた。

 

 

「やれやれ…ほら、コレをあげるから一緒に来てくれないかな?」

 

 

 懐からコアを取り出す榊博士。目にも留まらぬ速さで振り返る白いアラガミ(仮)咄嗟に神機を構えて榊博士の前に立ちましたが、そっと退かされました。

 ジリジリと間合いを覗うアラガミ(仮)と、来い来いとでも言わんばかりにコアを見せ付ける榊博士。…の、野良犬に餌付けでもしてるんでしょうか…。

 

 ともあれ、大人しくしているアラガミ(仮)を………はい? アナグラに…連れて行く?

 いや、それって超犯罪行為…でも榊博士だし、ちゃんとした理由とお膳立ては……逆に榊博士だから違法行為も普通にやりそうだし…。

 

 他の皆さんは…戸惑っててどうするべきなのか、判断できないようです。リンドウさんは、逆に何か知っているような…? でも黙ってるし…。

 

 

「いいからいいから。私を信じて。いいからいいから。私を信じて」

 

 

 2回言っても胡散臭さが増すだけなのですが…。しかし、このアラガミ(仮)が何なのか、本当に倒していいのかという決断もできず。結局、餌付けしながら極東に戻る事になったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 で。

 

 

「「「うぇぇぇぇぇーーー!?!?」」」

 

 

「ア、アラガミ…! この子、アラガミなんですか!?」

 

「ちょっ、気付いてなかったんですかコウタ!? コア食べた所見たでしょう!」

 

「そういうアリサは、気付いてたなら何で止めなかったんだよ! アラガミをアナグラにまで連れ込んだなんて知れたら!」

 

「ちょっ、声が大きいわよコウタ君!」

 

「はっはっは、大丈夫だよ。これにはちゃんと理由があるんだ」

 

「だったら説明してください!」

 

 

 

 …非情に見苦しい一幕があったのですが、それは省きます。私は落ち着いていました。落ち着いていましたとも。

 そして榊博士から聞いた事は、あまりにも信じ難い事でした。

 特異点…人と同じように進化するアラガミ。確かに、榊博士は先日のアラガミに関する講義で、そのような事を示唆していましたが…。

 

 

 と言うか、そうだとしても、バレたら下手しなくても銃殺刑モノなんですが…。

 

 

 

「…あー、榊博士、ちょいといいかな? この子がその、特異点って奴だとして、全然コミュニケーションが取れる気がしないんだが? さっきから唸ってばっかりだ」

 

「それは仕方ないよ、リンドウ君。この子は今まで、人間と接した事なんて全く無いんだ。言葉なんて持っている筈が無い」

 

「つまり、これからこの子を育て上げろ…と?」

 

「流石に理解が早いね。この子は私の研究室の中で匿っておくから、遊びにきてあげてほしい。…それが何に繋がるかは、君なら予想がついているだろう?」

 

「…ナルホドね」

 

 

 

 …あのリンドウさん、一人で勝手に納得されても困るんですが。

 でもこの人がこう言う反応をするって事は、この特異点のアラガミが支部長の「裏」とやらに何か関わりがあるんでしょうか?

 

 

 私が戸惑っている間にも、榊博士は脅迫一歩手前、詐欺そのものの論法で皆を説得していきます。実際、榊博士を告発する事は、私達がそれに協力したと証明する事でもあり、それはゴッドイーター、フェンリルの信用に大きく傷を付ける事にも繋がります。

 …自分達の進退だけでなく、社会情勢レベルでの爆弾です。絶対この人、そこまで計算してやっています。確信犯だと確信します。

 

 ですが、実際にこれを公表する事はできませんし…渋々、皆この子の事を秘密にしておく事に同意しました。

 最後に、リンドウさんがシメます。

 

 

「あ~、まぁ何だ、色々あったが、とりあえず全員同意って事でいいな? 納得いかないなら、俺が相談も受け付ける。個人的な事情から念押しするが、支部長にだけは絶対に知らせ「おい~す、榊博士ちょっといいスか?」……る…な…」

 

 

 

 ………。

 

 

 唐突に扉を開けて入ってきたのは、私の夢の中のヒーローでした。ただしこれは現実です。

 

 ……あの、何故ここに…? 出向先に居る筈では?

 

 

 いえ、それよりも…この人は支部長直属。言動的にも支部長の味方。

 更にはアラガミを防壁内に連れ込んだ時点で超重罪。拘束した状態ならまだしも、包囲こそしてますが野放し状態。

 

 

 

 オワタ \(^o^)/

 

 

 

 はっ、いやまだ、まだです! 何とかこの場を乗り切れば!

 

 

 

「ちょっ、いや違っ、この子はアラガミなんかじゃなくて!」「コウタお黙りなさい!」「そうそう、この子は保護した普通の子供で!」「それにしてはメッチャ血塗れでボロボロだな」「そんな状態だったから保護したんです!」「おーう、名前言えるか…唸るだけだな」「トラウマの為に自分がアラガミだと思い込んでる可哀想な子で!」「ナイス言い分けですコウタさん」「カノンちゃん余計な事言わない!」「いやナイスでもないだろ」「これは決して拉致監禁じゃないんです!」「博士が! 榊博士が捕縛を目論んで片棒担がされて!」「知らなかったんです本当に!普通にミッションしていたのに、裏で榊博士が!」「極めて自然に僕のせいにしたね君達」「残念ながら当然の結果で事実ですよ、博士」「実際アンタが無茶苦茶な事企んだんでしょうがぁ!」「……(暫く大騒ぎが続く)

 

 

 一斉に誤魔化そうとする私達、ただし足並みがあってない上に錯乱しているので酷いものでした。

 冷静(に見えるの)はソーマくらいでしたが、あれは普段から口が回らない人ですから、何を言えばいいのか迷っていただけだと思います。

 

 で。

 

 

「結局、何か用なのかい?」

 

「んー、支部長が帰ってくるって言うから、そろそろ本腰入れて特異点を探し始める頃かと思ったんだけど…もう確保したのか。思ったより早かったな」

 

「……え?」

 

「大丈夫だよ、彼は確かにヨハン直属だけど、この件に関しては味方だから」

 

 

「「「「それを早く言え!」」」」

 

 

 …全力で絶叫しましたが、外に声が漏れてないでしょうか? 扉も開いてましたし。

 

 

 ともあれ、味方…というのはどういう事でしょう? 首を突っ込むな、リンドウさんにも手を引かせろとか言ってましたから、てっきり完全に支部長派なんだと思っていたんですが…。

 

 

「ま、そういう訳なんで、この子の事を密告する気は無い。俺個人としては、この子が見つからないままの方が都合がいいから、気付かれそうになったら上手い事注意を逸らすよ。何度も出来るとは思えないけど」

 

「…結局、お前もコイツを使って何か企んでるのは変わりねぇって訳だ」

 

「ちょっと違うな、ソーマ。俺の場合は、この子が何にも使われないように企んでるんだよ。ま、それはあくまで副次効果だけどな。何だ、情でも沸いたか? 確かになんか野良犬のような可愛らしさがある」

 

「冗談じゃねえ…バケモノの事なんざ知るか」

 

「はははは、そう言っていられるも今のうちだ。断言するがお前はこの子をロリ的な意味で好きになおおっと甘いわ!」

 

 

 …ソーマをからかっていますが…結局、色々な事が不明のままなんですけど。結局、支部長が何を企んでいるのかとか、この特異点って子が何なのかとか、あの人が結局どういうつもりなのか、とか…。

 本人に聞いても誤魔化されそうですが、榊博士に聞いたら教えてくれませんかね。

 

 

 …それに、やっぱり味方…と思っていいんでしょうか? ヒーローが完全に敵に回ったのではないとしって、正直ホッとしています。

 もっと親密な仲になれば、色々教えてもらえるでしょうか。

 

 ………そ、その為には…やっぱり夢の中で、子供の体でくっつくべきなのか…。

 

 

 

 

 



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161話

唇とか顔が乾燥して辛い今日この頃。



神喰月休日の時間を持て余す日

 

 はい、そんな訳で何時の間にやらシオが確保されておりましたとさ。めでたしめでたし。

 …めでたいのか?

 

 しかし、今回のシオはどうにも全く言葉を理解していないようだ。考えてみれば、それも当然か。言葉を教えていたらしいリンドウさんが、MIAしてないもんな。

 まぁ、問題はないだろう。シオの学習能力の高さはお墨付きだ。どういう風に接するかにもよるが、言葉を覚えるのはそう遠い事じゃないだろう。

 時期が多少前後するかもしれないが、大した差は出ない。

 

 さて、こうなると後はノヴァがいつ完成するかだな。

 ラケル博士からも、「俺の力で終末捕食に干渉可能」という結論も貰った。…そういや、この辺の事って支部長にはもう報告が行っているんだろうか?

 この後は恐らく、ノヴァが完成する辺りで本当に干渉可能なのか軽い実験を行い、可能と判断されればゴーサイン…だろう。ただし、その時には支部長が本物の特異点を探す事を諦めているか、特異点モドキの俺を使っても本来の終末捕食と変わりない結果を得られる、という確信を持っていなければならない。

 支部長の根気…は鉄の意志を持っていそうだから、危機感に期待するしかないな。本来の終末捕食は、いつ破裂してもおかしくない爆弾みたいなもの。それを探している間に手遅れになるリスクを、どれだけ考えているかがカギだ。

 

 

 

 さて、それはそれとして、折角極東に戻ってきたんだし、色々顔を出していく事にする。

 リッカさんに神機を見せるのを皮切りに、ソーマやリンドウさん、サクヤさんとも話したし、菜園が前に戻った時の3倍くらい大きくなっていたのには驚いた。

 

 サクヤさんには改めて助けた礼を言われたし、コウタにはノゾミちゃんが可愛すぎて辛いと相談(自慢)を受けたし、ソーマは…やっぱ妙な事を考えているって事で色々と威嚇されたな。

 リッカさんを初めとした整備班には、「今度はどんなネタ仕入れてきたの?」なんて言われたし…。

 

 ちょっと深くまで話したのはリンドウさん。

 シオの事、エイジス計画の事、特異点の事、変身の事…色々聞かれたが、話せる事は殆ど無い。立場だけじゃなくて、目的を考えても支部長寄りだからな。情報を漏らす訳にはイカンのよ。

 ただ、シオを守り通せば支部長の計画はほぼ阻止できる、とだけ伝えておいた。まーウソじゃないな。代わりに俺がやるとしても、デスワープするか世界が滅びないかのどっちかだし。

 

 ついでに言うと、アラガミ化の事は最初から支部長も知ってると言ったら、「いや、だったらあの時何で秘密にしてくれなんて言ったんだよ」と言われた。……あー、そりゃそうだな、あの暗殺阻止のタイミングでそんな事言ったら、アラガミ化の事を秘密にしてくれって意味だと思うわ。でも「無断で来たんだから、本来の役目をサボってるのを秘密にしてくれ」って意味でした。ややこしくてサーセン。

 

 

 

 あと、「……マジ?」と素でツィートしてしまうような話題が一つあった。

 これはリッカさんから説明された事なんだが、最近極東ゴッドイーターが使う神機が妙にパワーアップしているらしい。

 装備を変えた訳でもないし、何らかの処置をした訳でもない。捕食の自由度を上げる為に、少々拘束度合いを弱めはしたが、それだけだ。少なくとも、直ちに神機のパワーアップに繋がる事は無い。

 んじゃ、一体どうして神機が強くなっているのか…。

 

 

 …これを語った時、リッカさんは自分の正気を疑い続けているかのような、ぬとねの区別がつかないような、完全に固定された表情になっていた。

 

 

 

 曰く、『アラガミが美味しくなっているのだと思われる』………何、そのトリコ。

 

 そういや、アラガミって不味いらしいな。GEBでは、レンが人間にとってはクソ不味い初恋ジュースを飲んで、「アラガミよりずっと美味しい」みたいな事言ってたし。

 要するに何ですかい、神機のパワーアップは食い意地によるものだと? もっとアラガミ食べたいと叫んでいると?

 とうとうアラガミ細胞がグルメ細胞能力まで模倣したのか? 神機がグルメ細胞の悪魔を宿したのか? 食えば食うほど溢れる旨みなのか。

 

 

 ……話を詳しく聞いてみると…ヘタするとセンチュリースープくらいは出来上がってしまうんじゃないかな、という内容だった。

 

 

 そもそも、アラガミは食った物の性質を学習し、体を変化させる性質を持っている。これは無機物有機物アラガミ細胞の区別無く、そういう事が出来るようになっている。

 では、人間が食べられる物を取り込んだアラガミはどうなるか。

 

 美味しくなる。少なくとも、既存のアラガミよりは美味しくなる。

 

 んじゃ、一体何を取り込んだというのか。防壁の外で食べられるモノなんて、今はもうビルとかの廃墟しか残ってないだろうに…と思っていたら、ある事を思い出した。

 以前エリックから連絡を受けた、「防壁の外に野菜などの種を撒いている」という件だ。

 

 

 …大当たりでした。

 外で育った野菜などを食ったアラガミ。そのアラガミの味が変化し、そのニオイに釣られたアラガミ達がそれに食いつき、またコピー。アラガミがどんどん野菜味になっている。

 

 

 マジかよ…でもそれって、人間でも食べられるって事かな? そうなったら、別の意味でこの世界の食料状況が一変するんだが。

 …そうですか無理ですか。確かに、アラガミ細胞はアラガミ細胞でしか傷付けられないものな。噛み付いたところで食いちぎれそうにないし、例え食いちぎって食べたとしても、胃袋の中でアラガミ細胞が蠢く事になる。

 …で、消化されずに…逆に胃袋の中から食われるか……或いは、その前にシモから出て行って…?

 

 ……で、出た後もアラガミ細胞は消滅はしてないから、周囲にあるもの…つまりは排泄物を取り込んでアラガミになる…!

 つまりウ○コ型アラガミ!?

 

 この世の地獄が始まりそうだ…。終末捕食を起こしてコントロール可能だったら、この可能性だけは摘んでおかねば…。

 

 

 

 

 

神喰月仕事はめんどい日

 

 

 極東支部でアレコレと用事を済ませ、明日にはフライアに戻らなければならない。リッカさんがもっと神機を弄らせろとゴネてるけど。今頃は徹夜でデータ取りだろう。…もうちょっと色気のある話できんかな…。いやリッカさんはあんな感じだからリッカさん、と言うのも分かるんだけど。

 

 さて、そうなると一晩時間が空く訳だが、何をするべきか。コネを作っておくという意味では、やるべき事は山ほどある。

 が、一晩で成果を出せるような方法は……いや、あったな。菜園で取れた野菜とかバラ撒けばいいんだ。もう菜園の経営は任せきりになってるけど、所有権自体は俺から動いてないし。幹部(初期参加者達)がしっかりと手綱を握ってるから、反乱起こされる事もないし。

 しかし誰に渡すべきか。……正直、今回に限っては、下手にコネ作ると厄介な事になりかねないんだよな…。

 

 

 

 そんな事を考えていると…おや、誰か来たようだ…。

 

 

 …アリサとカノンさん?

 ああ、そういえば妙に仲が良さそうと言うか、サラッとシオ確保のメンバーの中に居たけど…二人揃って何事? …今回は嬉しいイベントが起こるような接点は無かったと思うけど。

 

 どうやら二人は別々に俺を訪ねようとして、バッタリ会っただけらしい。

 で、カノンさんの用事はと言うと…アリサを通して教えた、ゼロ距離射撃戦法についての相談だった。

 会得したお蔭で誤射も(割と)減り、戦力と看做されるようになってきたのだが、そこで満足していてはいけない、と本人は語る。衛生兵が何処を目指してるんだ…と言いたいところだが、志は見上げたものである。

 そこで、ゼロ距離射撃戦法創始者(という事になっている)の俺に、更なる改良と、自分の動きでおかしい所が無いか確認を頼みたい、との事だった。

 

 …まぁ、やるのは別に構わんが…明日の朝までだから、大した事できないぞ。

 改良については……火力を更に上げる案も一応あるが、使いこなせるか、実現できるかどうかは別問題。アイデアだけ出しておくから、後は好きにしな。

 

 

 

 という訳で、この後演習場に行くんだが…アリサの用事は?

 

 …似た様な内容らしい。と言うのも、今まで何だかんだいいつつ夜毎に俺に扱かれていたアリサだが、それは全て夢の中での話だ。

 経験値は確かに蓄積され、今では黒爺猫を前にしても体が充分動く程度にはトラウマも軽減されたようだが、やはり現実と夢では感覚が異なる。そもそも相手がモンスターや鬼じゃなくてアラガミだし。敵の動きも違うし大きさも性質も違うから、こっちの動きもそれに合わせて変えなければいけない。

 なので、一度現実で自分の動きを見て欲しい…と。

 

 

 ……どうにも、他にも用事はあったようだが、カノンさんの前では話せない類だったかな。まぁ、それこそ現実ではなく夢の中で話せば、盗聴の危険はほぼ無いけども。

 

 

 

 よし、そーいう事なら予定変更。演習場じゃなくて、防壁の外行くぞ。本物のアラガミ相手にして、動きを見せてもらう。

 …何、門限? コッソリ出て行ってコッソリ戻るから問題ない。

 これも訓練の内だ。カノンさんに…カノンでいい? じゃあカノンに教える改良案にも必要になってくるからな。

 

 

 という訳で、地図地図…よし、このルートを通って防壁の外まで行って、この辺りでアラガミを狩ります。

 

 

「あの…そのルート、道じゃないですよ」

 

「そもそも、出入り口の無い所を使って防壁を超えようとしているんですが」

 

 

 何を言う、進めるスペースがあるならそれは道だ。スペースが無くても進んでいけばそれは道になるのだ。乗れるのであれば、パイロットの体を壊すような機体であっても乗り物だ。具体的にはトールギス。

 そもそも、ゴッドイーターの身体能力を持ちながら、一般人と同じ道しか使えないという認識が間違いなのだ。ジャンプすれば家屋の屋根にだって乗れるし、ちょっと慣れれば瓦礫の山だってサンポ気分でホイホイ乗り越えられる。体を上手く使えば壁を走る事だって出来るし、手足を使って昇る事もできる。泳ぐ事だって出来るし、勢いをつければ水面歩行だって…え、何、少なくとも水面歩行はできない? じゃあその辺の石ころでも浮かべて足場にしなさい。

 なぁに、ゴッドイーターでもない普通の人間だって出来る事なんだ。 ま、とにかく手本を見せるからやってみんさい。

 

 

 

 

 という訳で、文字通り屋根の上を走ってきました。更に防壁は文字通り乗り越えました。対アラガミ装甲を組み合わせたものだから、あっちこっちに出っ張りがあるのよね。掴める所が多くて楽勝だわ。やろうと思えば、出っ張りを足で掴んで垂直歩行とかも出来るぞ。

 後ろの二人は、何だか知らんがゼイゼイと息を荒くしている。

 

 

「こ、こんなやり方で壁を越えるなんて…」

 

「わ、私としては、壁よりも道中の屋根の方が傷つきました…」

 

 

 …この二人、足場にした家屋の天井を何度も踏み抜いているんだよな…。それも仕方ない事ではあるんだけどね。何せ家屋っつっても粗末なプレハブ小屋が殆どだし、そもそもこの二人が持っているのは神機…ゴッドイーターとして強化されないと、持つのも一苦労のメッチャ重い代物だ。

 俺? 別に俺は踏み抜いてないよ。屋根の下に柱のある場所とか、特に頑丈な場所にしか足を置いてないし、体重移動で屋根にかかる負担を上手くバラけさせてるからね。だから、屋根を踏み破ったのはキミタチの体重のせいじゃありません、安心しなさい。

 …後で謝りに行くか修理しに行かないといけない? 却下、こっそり出たのがばれるじゃないか。そもそもコッソリ修理しに来たとしても、今度はもっと派手に踏み抜いて体ごと落下する未来しか見えない。

 

 

 さて、ここからは防壁の外での狩りに移る訳だが…ここで重要な事が一つあります。

 今は真夜中です。防壁の外には、当然の事ながら電灯等という甘えた文明の利器はありません。いつもならレーダーで敵を探索してくれる指揮車やオペレーターだって居ません。更に今日は新月です。星でも出てればもう少し明るいかもしれませんが、空気が急に清浄になった訳でもないんで、明かりとしてアテにするには不安です。

 

 

 つまり……俺達もアラガミも、ほぼ目に頼れない状況なんだよ!

 

 

「………あの、そんな所に突貫すると? 死ぬ気ですか」

 

 

 問題ない、俺はもう慣れた。

 そう、人間とは考えるより先に慣れるイキモノなのです。と言う訳で、この何処から襲われるか分からない暗闇の中で、アラガミを逆に襲いましょう。

 静かに、一撃で、見つからずに、暗がりから背後を警戒しつつも、アラガミの警戒網を掻い潜ってバッサリ一撃で仕留めます。

 迂闊な物音を立てると、コンゴウ辺りが速攻で目を覚ましてやってきます。視界が利かない中での乱戦とか悪夢です。

 

 これが出来るようになれば、日中でもデカブツに奇襲仕掛けまくる事ができます。尚、奇襲をかける時には徹底してリソースを火力に振るのがコツ。部位破壊なんて甘い事は言わず、文字通りアラガミの四肢をもぎ取る勢いで攻撃するといいでしょう。コンゴウ辺りなら、足一本削いでしまえば殆ど動けなくなります。

 

 

「で、でもでも、一撃で倒すって言っても、そんなに強い攻撃力が無いんですけど!」

 

 

 はい、そこがポイント。ゼロ距離射撃戦法は火力が強く、狙いを外しにくい反面、継戦能力に乏しいのが欠点です。全火力を一瞬に集中させる訳ですが、集中させられる火力にも限界があります。秒間10発が限度の銃に、1秒で100発放てと言ってもそりゃ無理ですわ。

 

 なので、ここで改良案! 集中させるのが限界なら、一発一発の火力を上げればいいじゃない。

 という訳で、ここで登場するのがスキル「生存本能」! 瀕死、つまり死の一歩手前で居ると攻撃力が上がるスキルな訳ですが、これを強化パーツ無しでも使えるようになってもらいます。

 

 

「…パーツ無し…と言うと、神機にスキルを?」

 

 

 うんにゃ、君達自身にデフォルトで付ける。それも、特にダメージ負って無くても効果が発動する奴を。

 

 

「ちょっと何言ってるか分からなくてドン引きなんですが」

 

 

 瀕死とは死を感じる状況を指す! であれば、いつ何処からアラガミに襲われて死ぬか分からないこの状況は、正に瀕死の状態と言える! 例えケほどの傷すら受けてなくても!

 この暗闇の中、ちょっとでもしくじれば大量のアラガミに襲われかねない状況の中、必死でアラガミを仕留め続けるのだ! さすれば君達の生存本能が大きく刺激され、デフォルトでスキルを身につける事ができるであろう!

 

 

「いやあのちょっと」

 

 

 という訳でゴー! 先に行ってるぞ!

 

 

 何か言いかけてるのを無視して、気配を消して暗闇の中へ。夜更かししてたグボログボロと正面から目があったんで、叫ばれる前に貫いた。

 そしてその場ですぐに隠れる。

 

 10秒程して、追いかけてきたアリサとカノン…馬鹿め、せめて足音を隠せと言うのだ。そして唐突にあった死体に驚くヒマがあったら、警戒をしろと言うのだ。危うくカノンが上田になってしまうところだったじゃないか。

 真っ二つにされて落下してきたオウガテイルに、カノンが顔を青くしていた。

 うむ、いい塩梅に死を意識し始めたな。俺は隠れて見守っているから、頑張れよ。

 

 

 

 

 

 

神喰月酒と飯の日々日

 

 

 眠い。結局、昨晩はほぼ一晩中暗闇の中で大暴れしていた。

 いや、俺がじゃなくて…というより、俺とカノンが。アリサも動いてはいたけど、特に凄かったのはカノンだなぁ…。

 

 結局ね、カノンが隠密行動を身につける事は……うん、無かったよ。裏カノンの事、すっかり忘れてた…いくら危険な状況だからって、あのトリガーハッピーが大人しくしている筈も無い。

 あの後10分もせずに、自重という単語を一切投げ捨てた爆音が響き渡った。勿論、周囲のアラガミが目を覚まし、一斉に向かってきましたとも。

 暗闇の中で、瞬発力から生命力、攻撃力まで人間とは比べ物にならない獣に襲われるんだ。そりゃ瀕死どころじゃ済まないだろう。

 

 が、カノンはそれを、俺の予想とは違う方法で覆してしまった。

 瀕死とは死を感じる状況を指す。

 そして、隠密とは自分の居場所を悟られない事を指すのだ。

 例えあちこちで爆発が起き、眠りを邪魔されて怒ったアラガミが走り回っていたとしても、自分の居場所が悟られなければそれでいい。

 

 そう、カノンは爆発を陽動として使い、走り回るアラガミをコッソリと背後から奇襲しまくったのだ。隠密とは静かな行動でなければならない…というセオリーを引っくり返した、見事な戦術だと言えよう。 

 爆発音に惹かれて集まってきたアラガミの群れの中に紛れ込み、標的に近寄るや一瞬で仕留め(大爆発させ)てすぐ離脱。新しい爆音に惹かれて寄ってきた新たなアラガミの群れに再び紛れ、爆殺・離脱。しかもアラガミの群れ同士の縄張り争い、共食いまで誘発させやがった。

 素晴らしい。乱戦の中で一人だけ極めて冷静かつ冷酷に身を潜め、大火力で敵の心臓を鷲掴みする…新たなステージだな。

 

 うむ、EISEIHEIと呼んでおくか。EISEIHEIのリンクエイドは、仲間を助ける為ではない。自分の体力を分け与え、HPを半分にするのが最大の目的である。

 2~3度リンクエイドすればあら不思議、敵の攻撃を一発も受けていないのに、生存本能が発動します。

 ちなみに上級EISEIHEIともなれば、生存本能だけでなく、生存本能全開とか、火事場力とか、背水の陣などと言った別の世界のスキルまで会得しているとかいないとか。

 

 

 ……アリサ? 今までの夢の中での教育の結果なのか、取り乱しもせず淡々とワンヒットアンドウェイを繰り返していましたが? ちなみにワンヒット=低くても0.4キルくらいかな。早ければ2撃、多くても3撃で仕留めてます。

 表情が完全に固定されて、目からハイライトが消えてたけどな。

 ま、あれだけ冷静に自分の役割に徹していられるなら、ゴッドイーターとしての力量は…そーだな、ルーキーを卒業したと言えるくらいにはあるだろう。

 ただ、やっぱり暗闇の中での狩りには慣れてないみたいだなぁ。だって一撃必殺できてなかったし。夢の中での訓練メニューに付け加えるべきか。

 

 

 ま、とりあえずは休むといい。慣れない状況での狩りだったのに加え、死の危険をヒシヒシと感じた一日だったろうからな。体力も精神力も尽き果てているに決まっている。

 裏カノンはメッチャイキイキとして満足そうだったが。

 

 

 こっそりと回収していたコアは、シオ…まだ名前は付けられてないが…のご飯として榊博士に提供する。

 シオが食べる量は物凄いからなぁ…あれでどれだけ保つやら。シオを満足させ、特異点としての本能を押さえ込めるだけの食料を確保しようとすると、まず間違いなく支部長にバレる。

 榊博士が大量のコアを集めている、と聞けば、支部長なら確信はせずとも怪しく思うだろう。極東支部の電源を落とすなんて、よくよく考えれば相当に無茶なやり方だ。確信してなければ、とてもじゃないがこんなやり方は出来ない。

 

 つまり、シオの食料は極力コッソリと集める必要がある訳だ。また真夜中の狩りのお時間ですな。

 …そうそう、ゲームと同じ手段を支部長が取ってきたら? という懸念を、榊博士に伝えておかなければ。何かしらの対策を講じてくれるだろう。

 

 

 

 

 

 ところで、今日の夕方辺りでフライアに到着したんだが、ロミオにも野戦訓練を施すべきだろうか?

 ここの所霊力も上昇しなくなってきているし、死を一層間近に感じる訓練で、殻をムリヤリ破らせるべきか…。

 

 …いや、止めておこう。あれは上級者向けの訓練だ。ロミオは訓練兵を卒業しつつあると言っても、それでもルーキー。妙なクセをつけるべきじゃない。

 そんな事を考えていたら、バッタリ会ったロミオが一瞬で「逃げるべきか留まるべきか」みたいな顔になった。

 ホントに勘がよくなったな、コイツ。ひょっとしたら、ロミオの血の力ってシエルみたいな情報系か? 危機感知とか未来予知的な。

 

 ただ、暗闇や夜間での戦闘はいつ起きても不思議は無いんで、何れはやらせなければならないだろう。

 その時、俺が一緒に居られるとは限らないんだよな…。だってロミオがルーキーを卒業するとすれば、極東支部に来てからだろうし…と言うか、他所でエースと呼ばれていても、極東に来るとルーキー程度にしかなれなかったなんて良く聞く話だし。

 つまり、ロミオがルーキーを卒業するのは恐らく、GE2の時期だ。それまで俺が生きていられるか分からない。

 

 

 …うむ、やり方だけ教えておくか。

 土産の野菜使って飯を奢ってやりながら、極東支部でオンナノコ二人とこんな訓練したぜー、と土産話。

 最初はアリサの格好とかカノンの巨乳とかの話に食いついていたロミオだったが、夜戦訓練の話になると深く同情したような顔付きになった。なんちゅーか…同類相憐れむ的な。

 おいおい、そんな顔していられるのか? お前もその内やるんだよ。下手すると保護者無しでな。

 しっかり聞いておけ。

 

 

 

 

 



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162話

EDFの市民はエサにしようが盾にしようが巻き添えにしようが、一切良心を攻め立てない良い市民ですね! 助けてもどうせ消えるし、メリットも無いし。
EDFプレイヤーなら一度は(多分)通るであろう道。

最初は市民や仲間を助けようとする。
人にもよるけど、そのままノーマルで最後までクリア。
インフェルノの安全なミッションで武器稼ぎし、強い武器手に入れて浮かれる。
もう一回最初からやって俺TUEEE!しようとする。


爆発武器発射の瞬間、市民やその辺の兵士が目の前に躍り出て、諸共に自爆。



市民など殲滅してくれるわー!←イマココ


実際、建物壊しまくりながら戦うほうが楽しいw


神喰月7月くらいになったら、また連続投稿しようか思案中日

 

 ロミオの霊力こと血の力が、新たなステージに進んだ。

 

 ような気がする。

 

 と言うのも、ブラッドアーツを放とうとする際の光の色が、大分安定してきたからだ。様々な色が発露されていたのがゲームでもそうだったように赤と………緑色に落ち着いてきた。

 緑? 何で緑? しかも世界一の汚染力を誇るあの緑の光ではないらしい。…俺がやるならいいけど、ロミオだと世界観違うしな。と言うか血の力どころじゃないから即封印されるわ。

 

 いや、色自体は何色でもいいんだが、ブラッドアーツの赤が攻撃性の発露だとすると、緑色にも何かしらの根拠となる感情があるんだろうか?

 確かに、霊力にもそういう現象はある。が、正直言ってそれを元にして、ロミオの光の元を特定するのは難しい。

 極端な話、感情よりも認識の方がずっと影響が大きいと考えられるからだ。

 

 例えば霊力の光が青かったとして、同じ色を対象にしても人によってそれを「落ち着く色」「爽やかな色」「冷たい色」等、様々な印象を保つだろう。

 同様に、「悲しい色は何色?」「嬉しい色は何色?」「怒りは何色?」と問われて、万人に共通する色を見つける方が難しい。

 また、同じ色に対しても複数の印象を持つ事だって珍しくない。

 

 それでも、参考にはなるかもしれないと思い、ロミオから聞き取りしてみた。

 

 緑色とは、ロミオにとってどんな色か。理由とか根拠はどうでもいいんで、片っ端から並べさせてみた。

 曰く、「落ち着く色」「バランスがとれた感じがする」「憧れの色」「信号で『進め』の色」「5月っぽい」「調和」「縁の下の力持ち的な色」……。分かってはいたけど、あんまりアテにならないと言うか、ピンと来ないなぁ。

 俺がピンと来たとしても、ロミオ本人のインスピレーションが大事だが、それもやっぱり心当たりが無いようだ。

 

 一体この緑色の光は何なのか。ロミオのブラッドアーツと血の力とは何なのか。ラケルてんてーとレア博士に本当に血の繋がりはあるのか(おっぱい的に)。分からない事ばかりが増えていく。…最後のはDNA鑑定でもすりゃ分かるだろうけどね。

 …あれ、でも偏食因子でDNAが書き換えられてるから、血族と判断されないかも…。もしそうだとしたら、ラケルてんてーのひんぬーは偏食因子投入の結果? アラガミの意思が影響している? そういえばシオもちっぱいだった。何という事だ、アラガミはひんぬー教徒だったのか。野生の哺乳類なら、母乳が沢山出た方がいいに決まっているだろうに、食料的に考えて。

 

 

 …思考が脱線し始めた頃、会議の場で黙っていたレア博士が口を開いた。

 どうも仮説を纏め終えたらしい。

 ただし、下記のような流れだったんで、あまりアテには出来ない。ポンコツレア博士だからではなく、キバヤシ的に考えて。

 

 

「…私達は、とんでもない勘違いをしていたのかもしれないわ」

 

 

 ど、どういう事なんだレア博士!?

 

 

「ブラッドアーツ、血の力を発揮する時に放たれる光が、攻撃しようという猛々しい意思の表れだとすると、当然ながらその強さは人によって分かれるわ。

 誰かに対して怒るのが苦手な人も居れば、怒りが一瞬で大噴火するけど長続きしない人も居る、逆に表には出さなくても水面下で燃やし続ける人も居るでしょう。

 だけど、得意…というより、馴染みの強い感情ならどう?

 それが何なのかまでは分からないけど、ともかくロミオがブラッドアーツを使用するに当たり、怒りなどの攻撃性よりも、そちらの意識が引きずられたとは考えられないかしら。

 加えて言うなら、無理に攻撃的な意識を高めるよりも、個人個人に合った感情を意識して力を振るおうとした方が、効果も高くなると予想されるわ。

 

 

 つまり…ブラッドアーツにせよ血の力にせよ、光るとしたら赤だという前提が間違いだったのよ!」

 

 

 な、なんだってー! ……いや、この流れだし、ちょっとミックスして。

 

 なん・・・・・・だと・・・・・・。の方で。

 

 

 んで? 人類は滅亡すんの? 割と秒読み状態だけど。

 

 

「何でいきなりそこまで話しが飛ぶのか理解できないけど、こう考えると色々納得できるのよね。

 今まで色が安定していなかったのは、集中しきれずに色々と雑念が混じって、それに対して何かしらの感情が湧いていたから。赤ではない色に落ち着いてきたのは、ロミオの精神状態の…そうね、『本来の色』『性根の色』、率直に言えば『素質』が色としてモロに出ているんじゃないかしら。

 赤い色にも光るのは、これは単純に慣れの問題ね。そういう精神状態になりやすくなった…一種のトランスかしら」

 

「ええと……だとすると、要するに俺はこれからどうすればいいんでしょう?」

 

「そうね、無理に血の力やブラッドアーツを発動させようと意識せずに、何も考えずに力を振るってみるのはどう? 血の力発動に必要なエネルギーを高めたりする感覚は、もうわかっているのよね?」

 

「はい、そこは散々叩き込まれましたんで。結局、赤く光らなくてもいいんですよね?」

 

「ええ、赤く光るのはあくまで結果。目の前の敵を倒すという意思を思い切り高めれば、結果的に赤くなるだけよ。そうなった方が効果は高いと思うけど、使いやすさという点では、思うように発動させた方が高いんじゃないかしら」

 

 

 うーむ、レア博士が賢く見える。俺から聞いても、割と説得力ある説だ。

 

 

 …知的な女、いいなぁ…。欲望が高まってきた。そんな事を考えていたのがバレたのか、レア博士は「後でね?」と言わんばかりに軽くウィンクしてくれた。

 へいへい、真面目に考えるとしますかね。

 

 

 そういう事なら、これからもちょっと訓練方法を見直さないといけないな。と言っても、ロミオの感覚頼りになるなぁ…。どうしたものか。

 

 

 

 

神喰月スパロボの新作発表キター!日

 

 

 夢の中でょぅι゛ょアリサから、子育ての愚痴を聞かされている。膝の上に乗っているょぅι゛ょから、母親初心者みたいな愚痴が出るとは斬新な。

 

 …シオに結構手を焼いているみたいだなぁ…。

 暴れまわるような事はないが、大食いだし、騒ぐ時は時間を考えずに騒ぎ出す…つまりは夜泣きか。

 ちょっと目を離したら、匿っている部屋や榊博士の研究室から出て行こうとするし、とにかく目が離せないらしい。

 

 まぁ、それも仕方ないだろうなぁ。シオにしてみれば、今居る場所はワケが分からない場所だろう。今までずっと一人だけで、野生のアラガミの中で生き抜いてきたんだし。鉄板やら何やらで囲まれた部屋なんて、見た事もなかったろう。

 更に、自分が匿われているというのも分からないから、どうして部屋から出て行ってはいけないのかも理解してない。

 大人しくしているのは、ご飯をくれる人がこうしろ、と示しているからだ。

 

 だが、それもそう長くは続きそうにない。と言うのも、シオは既に言葉を覚え始めているからだ。

 まだカタコトではあるが、明らかに意思疎通を図ろうとしており、更にはアリサ達の名前ももう覚えてしまったらしい。ちなみに、一番最初に名前を呼ばれたのは、ご飯をあげている榊博士ではなくソーマだったそうな。博士がちょっとショック受けてたって。

 

 その一方で、ソーマはと言うと…シオの扱いを決めかねているらしく、すげない態度を取る事が多い。にも関わらず、何度もシオの顔を見に来ている辺り、やっぱり気になるんだろう。

 そして、どうやらこっそりとシオの名付け親になっていたようだ。…この辺を話す時、アリサってばとっても楽しそうにニヤニヤしていましたとさ。ラブコメ万歳。で、その名前も予定調和と言うべきか、子犬こと『シオ』。…ま、元はソーマの名付けた名前だしね。

 

 

 で、何より大変なのが、やはりと言うべきかシオのご飯の確保である。アラガミの例に漏れず、シオもとにかく大食いだ。

 先日の特訓(?)で身につけた、死角からの一撃必殺とか、ゼロ距離射撃戦法改とか、ドサクサを起こしてドサクサに紛れて仕留めてソソクサと去っていく戦い方とかで、割とご飯(アラガミのコア)にストックはできているらしいが、そこまでやっても徐々にストックが減っていっている。

 つまり、戦力アップしたアリサ達が総出でアラガミを狩っても、シオが消費する方が早いのだ。

 シオがちゃんと言葉を理解し、言う事を聞いてくれるようになり…というより連携を取れるようになり、更に神機(モドキ)を作り出すようになれば、シオを連れて行って「自分のご飯は自分で確保しなさい。働かざる者食うべからず」とかも出来るだろうけどなぁ…。

 

 ついでに言えば、支部長もとうとう極東に帰ってきたらしく、あまり派手に動くと一部のゴッドイーター達が何か隠しているのを察知されかねない。特にリンドウさんは色々な意味で目をつけられているからな。

 とりあえず、また暗殺されるような事はしないように。

 ……言っても止まるかなぁ…。シオを隠す事で支部長の陰謀を阻止できるとは吹き込んでおいたけど、そもそも陰謀の正体自体も明かしてないし、無条件で俺を信じてくれる筈もないし。

 

 

 

 ま、とりあえず…多分、俺ももう暫くしたら、フライアでの研究を一端切り上げて、極東支部に戻る事になると思う。

 ん? いや確定じゃないけど、多分ね。血の力に関する研究も色々進んで、そろそろ纏めの段階に入るし。そうでなくても、支部長が俺をフライアに派遣したのは……まぁ、極秘的な理由があるんだが、それも必要最低限は済んでいる。

 

 極東支部に戻ったら、多分暫くは支部長の使い走りになるんじゃないかな。(ノヴァもまだ完成してないだろうし)

 そのついでにシオのご飯を確保するくらいなら、何とか出来るだろう。

 

 

 …? どした?

 

 

「いえ…なんと言うか、シオの名前を妙に呼びなれているような…」

 

 

 言ってる意味がちょっと分かりませんね。(今まで何度も呼んでるからな、名付けられる前にも)

 

 

「………やっぱり幼女趣味なんでしょうか…」

 

 

 おい聞こえてるぞ、膝の上で呟けばそりゃ聞こえるよ。

 確かにツルペタから熟女までオッケーだけど、ソッチ方面には限定してねーよ。

 

 

「…本当なんですね?」

 

 

 なんか今日は疑い深いな、アリサ…。

 と言うか、ちゃんとお相手居るぞ、俺。お互いに好き合ってるだけとは言い辛いけど。

 

 

「ああ、レア・クラウディス博士ですね。見た事がありますけど、凄い綺麗な人ですね」

 

 

 …何で見た事あんの? (と言うかなんか危険な気配を感じる…) …だったら、そういう趣味じゃないって分かると思うんだけど。

 

 

「こういう時、極東では何と言うのでしたか……ええと、それはそれ、これはこれ? それともニジとサンジは別物?」

 

 

 おい後者、誰から聞いた。 

 

 

「うーん、でも確かにこうしていてもおかしな事はしませんし……大体からして、あなたは何故こんないたいけなょぅι゛ょにあのような事を…」

 

 

 引っ張るね…いやそりゃ現実にやったら犯罪そのものだし、ここが夢の中であってもお前にとってはリアルに感じられるから、立証できないだけで犯罪には違いないが。

 と言うか、そもそもそんな疑惑持ってたんだったら、どうして毎晩こうやって膝の上に座るんだ。…襲われたいのか?

 

 

「襲った相手に対して、随分とデリカシーのない質問ですね。…そうだと言ったら?」

 

 

 大人になりなさい。おっぱい大きく、尻を柔らかく、フトモモをムチムチな感じで。

 

 

「元の姿に戻ったら、貴方がロリ…いえ、ペドだと証明できないじゃないですか」

 

 

 証明してどーすんだよ、夢の中の事だから誰にも伝えられないぞ。榊博士なら感応現象の事を知ってるだろうが、他の人にしてみれば単なる夢だ。

 噂を流しても、誹謗中傷としか聞こえないだろう…菜園でノゾミちゃんに近付かないように、コウタが警戒するかもしれないが。

 

 

 

「ええまぁそうなんですけど、私にも色々と考える事感じる事…というより、意地がありまして。正直自分でもどうかと思う形になっていますが、意地に対してそれを問うのも意味の無い事でしょう。

 …さて、色々と考えもしたのですけど、正直我慢の限界です。ついでに言えば、色々と状況が揃ってしまいました。

 

 私のモノになってもらいます、моим героем」

 

 

 

 

 はい? моим ……確か「私の」…私の、何? ロシア語ワカンネ…おい待て、何故俺の服に手をかける。

 ちょっ…おい待てって!

 

 

「動かない。抵抗しないでいてくれたら、あの時の狼藉は水に流してあげます。尤も、今から全く同じ事をするんですけどね。ただし私主導で」

 

 

 あの時のを水に流しても、これを受け入れたら同じだろーが! ちょっ、嘘っ、抵抗できねぇ!?

 

 

「今までは好き放題にアナタが変えていましたけど、私の夢でもありますから。そうですね、最初の訓練の時の言葉を変えて言うなら…。どうして抵抗できないのか? そんな事、私がアナタを欲しいと思っている意思が、アナタの抵抗しようとする意思よりもずっと強いからに決まっています」

 

 

 …今まで見た事もない程目が据わっとる。ハイライトが消えてるとかいうレベルじゃねえ。何だかんだでアリサとは付き合いが長い(と言うのもちょっとおかしいが)が、これは初めて見る表情だ。

 …ヤンデレか? ヤンデレの領域に足を踏み入れたのか?

 

 でも言ってる事は尤もっぽいと言うか的を得ていると言うか。実際、切羽詰って感じる程真剣に抵抗しようとはしてないからな。

 

 

「ふふっ、やっぱり抵抗しないし…ほら、もうその気になってる。やっぱりロリコンなんじゃないですか? ああ、そういえばそっち方面もオッケーと自分で言っていましたね。それでもいいです。絶対、私のモノにするんですから…」

 

 

 

 

 …う~む、忠犬アリサがこうまで性格変わるとは。色恋沙汰絡みというだけじゃなく、やっぱり夢の中でアレコレしまくった結果なんだろうか。

 まぁ、差し当たり言える事は、だ。

 

 

 

 夢の中でしか経験が無いからなのか、それともその辺も夢だから融通が利いているだけなのか。

 夢の中ならアリサの処女を何度でも奪えるという事実が判明しました。幼、小、中、高、更には今後の成長した姿(願望込)で破り分けてみました。うむ、どれもいい感触だった。

 

 アリサがどうなったかって? 俺が今まで何度アリサを躾けてきたと思ってんだ。確かに今回の豹変は色々な意味で意外だったけど、何処をどうすればどう反応するのか、大体分かる。フラウさん直伝の内面観察術もあるからね。夢の中だから最初は分かりにくかったけど、延々と訓練させてる内に、むしろ現実よりも分かりやすくなってきた。

 ちゃーんと妙な事をしでかさないように、釘を刺しておきましたとも。男の体についてる釘だけどね。

 交換条件…というのもおかしな言い方だが、ちゃんといい子にしていれば、極東に行ったら現実でも抱いてやる、と囁いたら、それだけでビクンビクンしていた。…キャラがブレてるような、むしろ一環しているような…。

 

 

 

 しかし、最終的にはノリノリで躾けておいてなんだけど…レア博士どうしよ。こればっかりは、アリサに「待て」しても確執が消える訳じゃないし。と言うか俺が悪い…んだよな、夢の中とは言え確信犯的に浮気したワケだし。しかも最初はょぅι゛ょを相手に。強姦でない事だけが救いだ……真っ当な和姦とも言い難いが。

 レア博士はダメな男に引っかかるタイプだが……相手が浮気したと知ったらどうだろうなぁ…。少なくとも、無言で見捨てるという事はしない。むしろ怒りを爆発させても、最終的には相手を自分の懐から放すまいとするタイプだと思う。

 そんで、今のアリサは…えーと、ゲ、ゲロ……アレだ、あの時言ってたロシア語、『私のヒーロー』って意味だったらしいが。そのヒーローを奪い取ってでもモノにしようという、ヒロインにしてはエライ肉食系な女になってしまっている。むしろ悪の組織の女幹部がヒーローを洗脳しようとするノリか。ただし、当の本人はヒーローに食われたがっているのだが。

 

 

 

 まぁ…なんだな。とりあえずイの一番にやるべき事は、やっぱアレだ。アリサが姿を変えられるなら、俺だって似たような事が出来る筈。触手・分身・ナニを二本とかの特殊プレイ、挑戦してみっか。

 

 

 

 

神変月しかし、スパロボが延期せず討鬼伝2が延期とは日

 

 3ヶ月目突入。時期的にも、そろそろ無印終了の頃合ですな。

 何だかんだで色々予想外なルートに進んでしまったが、全体的には…まぁ、及第点かな? リンドウさんも無事生きているし、アリサの洗脳も解けている(別の意味で洗脳してしまったが)、汚ッサンも排除して後顧の憂いも断っている。後は終末捕食とシオがどうなるかだけだ。

 このペースで行くと、ロミオの血の力の正体を解明できそうにないのが残念だ。ま、こっちはまたチャンスもあるでしょ。

 

 

 さて、この度支部長が極東支部に戻ってきたワケだが、それに合わせて俺にも帰還するよう辞令が飛んできている。残念ではあるが、本来の目的を考えると反抗する訳にもいかない。

 意外だったのは、ラケル博士が俺を引きとめようと、支部長に交渉したらしい事だ…これはレア博士から(寝物語に)聞いた事なんだが。

 

 ふーむ、どういう意図だろうな? 血の力が思っていたモノと違うんで、もっと研究する必要が出てきたか? 本来の特異点であるシオが居る極東に、異分子である俺を置いておきたくない? …それとも、支部長が起こす終末捕食をさせない為?

 まぁ、何にせよ、色々理由をつけたものの、滞在延期を取り付ける事は叶わなかったようだ。数日間の準備期間の後、俺は極東に帰還する事になった。

 

 そうなると、当然やらなきゃいけない事がドバッと出てくる訳だ、主にロミオ絡みで。

 今まで教え込んできた狩りの技術が鈍っていないか、血の力について結局どこまで分かったのか、またそれを自分で考えて自分で纏めるだけの思考力があるか…。

 特に血の力については、俺が居なくなった後も自力で訓練を続けられるよう、今後の訓練法も伝えておかねばならない。

 

 …考察について自力で纏められるだけのオツムだけはどうにもならなかったが、ロミオもそう頭が悪い訳じゃないだよな…。俺と同じで、難しいことを考えるのに苦手意識があるだけで。あと、小難しい理屈を捏ねていると思考が明後日の方向に飛んでいく。

 

 

 

 さて、それはそれとして、極東に戻ってどうするべきか。方針としては、相変わらずシオを隠し通す、終末捕食の特異点の役割を俺が乗っ取る、の2点だが…。とりあえず、今のうちにフライアでないとできない事ってあるかな?

 神機兵も興味深くはあるんだが、まだ形になってないしなぁ…。………結局、レア博士についても確実にラケル博士から奪えている訳じゃない。

 

 

 戻ってからの問題としては、アリサか。夢の中では抱いてやる、なんて大上段から言ったけど、どーしたもんかな。いやもう抱くのがイヤな訳じゃないし、フタマタミツマタにも抵抗がなくなってるダメ人間な俺ですが…。

 問題はある。

 

 

 だってレア博士が極東についてくるらしいから。

 

 

 …なんで? いや、そりゃー理屈は分かるよ。元々、支部長がフライアに俺を派遣したのは、霊力(血の力)の検査の為だ。報告するにしたって、専門家が居た方がいいに決まってる。

 俺個人としても、レア博士がついてくるのは嬉しい。個人的な感情を抜かしたメリットだけで言っても、胡散臭くはあるが学説として認められてはいる(ロミオという2人目が現れた事で、本格的に注目を集めつつあるらしい)血の力だと説明してくれる専門家が居るのはありがたい。何せ、霊力を隠さず大っぴらに使う事もできるんだから。

 

 しかし…アリサと衝突した時、どうなるかが本気で分からん。俺に愛想を尽かす…とまでは言わなくても、ラケル博士の下に戻ってしまうようでは意味が無い。

 ここは、いつも通り済し崩しに3Pに持ち込んで誤魔化すか? その場凌ぎにしかならない。やるなら、やっぱりラケル博士の下から完全に分断してからでないと…。

 

 

 

 

 

神変月時守的には逆がよかった。話のネタ的に考えて日

 

 

 結局、有効な手立てを考え付かないまま、極東に戻る日が来てしまった。

 アリサの方は、今まで散々躾けてきた経験を活かし、「ペットでいいです…ペットがいいです。私を飼ってください」と言い出すくらいに躾けたから…多分、修羅場までは発展しないと思う。

 やっぱ問題はレア博士とラケル博士なんだよな…。

 

 極東に戻るに辺り、どうもレア博士は何やら吹き込まれたようだった。ラケル博士の手元から暫く離れるから、頚城を打ち込んでおこうとしたんだろう。一見すると普段と変わらないが、少しばかり表情が暗かった。

 寝取りにくくなったかな…。人間の機微なんぞ殆ど理解してないだろうに、よくもやってくれるものだ。

 

 

 

 

 さて、そういう訳なんで、レア博士と一緒に車で出発。出発して3分後に、「忘れてたわ、あなたに運転なんてさせられない」とハンドルを奪われたが、それはまぁいいとして。

 車で進んで、極東までは軽く一日くらいはかかる。夜は適当にアラガミが少ない所に車を止めて野宿かな。カーセックスも考えたけど、周囲が廃墟でアラガミも少数ながら居て、文明が灯す明かりも殆ど無い状況じゃ雰囲気出ないなぁ…。

 

 

 

 ところでさ、考えてみれば、支部長の意図した終末捕食では、ラケル博士の目的は達成できないんだよな。地球の命が全てリセットされたとしても、人間が残っていれば……まぁ、新しい環境で生きていけるかという問題はあるが。

 

 …あれ待てよ、それって…つまり俺を素直に帰すと、ラケル博士にとっては危険って事で……始末しにかかってくる?

 

 

 

 

 

 と言うか来た。

 

 

 ズシン、ズシンと妙な足音。普通のアラガミとは違う足音。即座に気付いて、寝惚け眼のレア博士を連れて車の外へダッシュ、そのすぐ後には車が極太レーザーを打ち込まれて爆発炎上した。

 流石に跳ね起きたレア博士だったが、騒いで気付かれると面倒だ。抑え付けて…パニックを起こしかけていたんで、仕方なく眠らせた。

 

 …あのアラガミ、遠くだし明かりが無いからシルエットしか分からないけど…多分アレだよな、ラケル博士の『お人形』。もうちょっと近付いてくれば、車の炎で照らされて詳細が分かるのに。

 だが、お人形さんは遠吠え一つ上げると、そのまま足音を響かせながらまた何処かへ行ってしまった。

 

 …当面の危機は去った、か。しかしどうしたものか。

 細々考える事はあるが…とりあえずどうやって極東に帰るかな。車が壊されてしまった。フライアも極東も、ここから歩いていける距離じゃない…俺ならともかく、レア博士は。

 と言うか、それ以前に炎上する車と、お人形さんの遠吠えに惹かれて、アラガミが集まってきているようだ。こいつらを一掃するまで、迂闊な行動はできないな。気絶したレア博士を抱えたままお人形さんを追跡して、待ち伏せにあったら目も当てられんし…。

 

 さて、お荷物抱えた状態での暗闇乱戦か。アリサやカノン達に叩き込んだ手前、この程度のハンデなら軽々乗り越えられなきゃな。

 一丁やったるか。

 

 

 



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163話

星のカービィ、ハズレとまでは言わないけどやっぱ子供向けだなぁ…。
エアロバイクしながらプレイしてます。



6月下旬に長期休暇を貰えそうな上、時期的に厄介かつ面倒な仕事を避けられそう。
 ↓
上役がドジってシフト変更。面倒な仕事がフルで直撃。
 ↓
7月初めに長期休暇がズレる。スパロボが出るからいいかと我慢。
 ↓
休暇はやっぱ無理。休暇買取になるけど、どう考えても3万に満たない。
 ↓
上役に呪詛を送る方法を調べている。←イマココ


神変月最近、展開につまってます日

 

 

 無事朝を迎えた。途中でレア博士が目覚めそうになって、後頭部に2つ程タンコブ作ってしまったが、命に比べれば安いものだろう。

 

 アラガミを掃討し終えたのは…大体6時くらいだったかな? 仮眠を取るべきか迷ったが、結局少しだけ眠った。別に疲れたからではない。感応現象で、アリサに連絡できないかと思ったからだ。

 俺が眠った時には、アリサは既に目覚めかけていたのか、長話する余裕は無かったが…この辺りに迎えに来て欲しい、という連絡だけは付けられた。

 …もしアリサ本人が来たら、レア博士と人目の無い場所で向かい合う事になるが…大丈夫だと思う、うん。この状況でレア博士を置き去りにする事は無いよな。

 

 

 で、当のレア博士なんだが……えらい落ち込んでいる。それはもう、普段の美貌の輝きが全く見えない程にくすんでいる。

 

 そりゃ落ち込みもするだろうけどな。レア博士は、あのお人形さんを直に見ては居ないだろうが、「ひょっとしたら」と思う心当たりはあるんだろう。…それに、車を一瞬で爆発炎上させるような事が出来るアラガミは、そう多くない。少なくともこの周囲では。まだ極東圏内じゃないし。

 それに、手口的にも…多分父親を暗殺した時と大差ない。実の妹に殺されかけたんじゃないか、と思ってる訳だ。

 そしてそれは多分事実。

 …これはちょっと、どう対応したものか…。父親を暗殺する事に加担してしまった罪悪感は、今となってはレア博士の根幹の一つになっているだろう。「知ってたよ、気にするなよ」なんてとても言えない。言ったところで心に響くとは思えないし…何より、知っていて黙っていた事から、不審を抱く可能性が高い。

 

 

 …このまま放置した場合、レア博士はどうするだろうか。やりかねない、と思ってはいても、妹が自分を殺そうとしたなんて信じたくはないだろう。

 だが、そうするだけの心当たりはある。ことに、最近はレア博士は俺に色々とゾッコンというか溺れてきていたから、余計な情報を漏らす可能性は高い…これについて、ラケル博士が考え付かなかった訳がない。

 …でも姉としての心情が、信じる事を拒絶する。

 

 やれやれ、相変わらず面倒な人だ。お姉ちゃんだからとか、悪い男にひっかかるタイプとか以前に、切り捨てる事ができない人だね。

 つまりは…。

 

 

 

 つまりは、この機会に乗じて、完全にラケル博士から奪い去れって訳だ。

 

 

 とは言え、今この状況では何もできそうにない。周囲にアラガミがまた寄ってきているし、何より僅かだが車の音がする。

 どうやら、アリサは何とか迎えに来てくれたらしい。

 

 さて、幸か不幸かこのタイミングでアリサとレア博士が顔を合わせる訳だが……今のレア博士を見れば、そうそうつっかかる事はないと思う。

 しかし、逆にこの状態のレア博士を放っておいてアリサを抱いたとなると、それこそレア博士の精神的ダメージが…。

 だからと言って、アリサにお預け延長を言い渡すと、それこそ何をやらかすか分からない…主にレア博士に対して。

 

 

 

 …幾ら考えたって、俺の頭じゃどういうオチになるか、限られてるんだよな…。下手な考え、休むに似たりか。

 到着した車から降りてきた、おめかしアリサ+神機ガチ装備……を相手にそんな事を思った。

 

 

 

 

 

 アリサの運転に任せて(俺がやろうとしたら、またレア博士が必死に止めてきた)、極東に到着。

 正直、俺が運転した方がマシなんじゃないか? と思ったよ。別にアリサの運転が下手な訳でも、荒い訳でも、アラガミの群れに「ついでに狩っていきましょう」と突っ込んでいく訳でもない。

 

 

 ただ、度々足をモジモジと擦り合わせているだけだ。

 車の密閉空間で、俺が助手席に乗っている事もあり、フェロモンのニオイがすぐに分かる。よーく見てみれば、服の下で乳首は立っているし、丸出しのヘソを中心とした肌は興奮で赤らみ汗ばんでいる。

 

 …ぶっちゃけ、思いっきり発情している。今までの夢の中でのアリサの趣味志向を考えると……コイツ、出会い頭に剥かれて押し倒されるのを期待してたようだ。結構壊れたなぁ、コイツ…いや俺と関係を持ってる時は、大体こんなモンだったっけ?

 実際、レア博士の目が無ければ、そうしていたような気もするが。あと運転中にもイタズラとか。

 …それがわかっているのかいないのか、アリサはレア博士に対して時々妙な目を向けている。敵意…ではなく、やり場の無い感情をどうすればいいのか迷っているようだ。

 

 …アリサにしてみれば、恋敵みたいなものだしな…。お迎えに来るのにおめかしして、全力で宣戦布告するつもりだったのが、いざ到着してみれば、そこに居たのは普段の美貌も知性も欠片も見えない、心が折られたような女が一人。

 追撃をかけようにも流石に心が痛み(…痛んでるよな? 俺の前だから抑えただけじゃないよな?)、だからと言って無視もできない。R-18展開に入り込むのに邪魔だし。

 

 

 とりあえず、レア博士は何とか立ち直らせないとアカン。

 

 

 

 

神変月微妙な気温の日が続く日

 

 

 極東に到着してまず行ったのは、レア博士を休ませる事。正直、ここの病室にはあまりいい思い出は無いな。病室にいい思い出があるって話事態、あまり聞かないが…。

 大型のアラガミに襲われたショックって事で誤魔化しておいたので、暫く安静にさせておいけばいい…という事になった。

 

 次に行ったのは支部長への報告。本当ならレア博士も一緒に来て、終末捕食と俺の力との関係を説明する予定だったんだが、今のレア博士はあの有様だ。とてもじゃないが、マトモに説明が出来るとは思えん。

 ちなみに、支部長への報告については次のよーな感じだった。

 

 

 

「…成程。詳細はレア博士から後に聞かせてもらうが、終末捕食は可能である…という結論か」

 

 実際に実験してみるに越した事は無い、と言ってましたがね。

 

「そう気軽に実験できる物でもないが、確かに小規模の実験は必要か。 …話は変わるが、あちらでの生活はどうだった?」

 

 気楽なモンですな。モルモットって程扱いが悪かった訳でもないですし、何だかんだで美人は多いし、あまり可愛くはないが弟子も出来ましたし。

 研究も、まぁ色々と新しい発見がありましたし。

 

 

「ふむ……では、ラケル博士をどう見た」

 

 

 ……アカンっす。ありゃ人間じゃあらーせん。

 無表情無感動とかじゃない、完全な操り人形です。後ろ…或いは脳ミソの中に居る『何か』が囁くままに行動してるだけで、価値観から行動基準までまるで読めません。

 挙句、今回の帰りに遭遇したアラガミと来たら…。

 

 

「全く見た事の無いアラガミ、か。未だアラガミは進化の途中にある。いつ見知らぬ新種が出てきてもおかしくはないが…。彼女がアラガミを操っている可能性があると?」

 

 

 出来ない事はないでしょう? あれやこれやと具体的な指示を出せるかはともかく。結局、前に指示を出してたっぽい奴は、アラガミに食われてオダブツしたようですが。

 

 

「そのようだな。アラガミを操って何をしようとしていたのか知らんが、世も末だ」

 

 

 終末捕食起こそうとしてる俺らが言うのもナンですけどね。

 加えて言えば、レア博士があれだけショックを受けているのも、ソッチ絡みと思えば納得も行きます。

 

 

「妹に殺されかけたと?」

 

 

 やりかねません。支部長だって同じ考えだと思いますが?

 

 

「身内同士での争いが如何に普遍的なものか、歴史を齧った人間なら幾らでも例が出せる。尤も、君の証言通りなら、彼女を人間の範疇に入れていいのかは疑問だがね」

 

 

 …で、仮にも特異点モドキが始末されかかった訳ですが、何か対応は?

 

 

「必要ない」

 

 

 あらヒドイ。

 

 

「特異点、終末捕食などという『風説』があるのは知っているが、何の証明もされてはおらん。少なくとも学会ではな。クラウディス家には、多くの面において多大な援助を受けている。それを明確な根拠も無しに断罪する訳にはいかん」

 

 

 支部長にしては下手な建前ですな。疑わしきは利用価値が無くなってから罰せ、証拠など不要を地で行くと言うのに。

 

 

「君は私を独裁者か何かと勘違いしていないかね?」

 

 

 今の世界を滅ぼそうとする魔王だとは思ってますな。ちなみに俺はその一兵卒です。

 

 

「君のような一兵卒が居るか、とあちこちから声が聞こえるようだよ。何れにせよ、事は既に秒読みになっている。余計な事に割くリソースは無い」

 

 

 

 …ほほう、ノヴァが完成したのか宇宙船が揃ったのか知らんが、もうすぐ俺の出番ですか。特異点だけは発見されない方が都合がいいんですが。

 

 

「それは君の都合でしかないな。…話は終わりだ。後日、レア博士と共に詳細の説明に来るように」

 

 

 

 

 …こんな按配だったな。要するに、ラケル博士が怪しいと思ってはいるが、手を出す余裕も必要もない、という訳だ。

 ま、確かにアーク計画が成就すれば、ラケル博士は地球に取り残され、終末捕食に飲まれて終わりだ。報復する意味も無い。

 

 …ああ、それにクラウディス家から援助を受けてるって言ってたが、多分宇宙船関連もそうなんだろうな。ここで事を荒立てれば、掻き集めた宇宙船のいくつかは持っていかれるかもしれない。

 ここまで計算してやってんのかねぇ。何せ、ラケル博士にしてはちょっと手が杜撰すぎる。

 

 いくらお人形さんを差し向けたとは言え、遠距離から車をブッ飛ばすだけ。近付いての確認すらさせなかった。死体の確認さえ怠った理由は? …博士がお人形さんの手綱を握りきれていない? それともお人形さんにそれだけの知性が無い? いや、後者であれば、死体の有無に関係なく、周囲一帯を瓦礫に変えてしまえばいい筈。

 …しくじってもいいと思っていた? ならその意図は? 俺への牽制…にしてはやり方が派手。何だかんだでレア博士はまだ使える手駒だろうに、それを突き放した?

 

 …肉親としての情…は考えない方がいいな。

 うーむ、レア博士が言ってた事も分からないではない気がしてきた。「お姉ちゃんなのに分かってあげられない」と悩んでいたが、こりゃホントに何考えてるのか分からんわ。

 

 

 

 

 ともあれ、この際遠慮なくレア博士を奪わせてもらう。そうだな、GE無印が終わった後、フラフラと寄る辺を探して戻ってしまわないように……かすがい、打ち込んでおくとしますかね。

 

 

 

神変月今年の梅雨は過ごしやすいが心配日

 

 

 レア博士、とりあえず復活。多少元気の無い所は見られるが、しっかりと自分の足で立っている(ように見えるが、実際は支えられてるんだけどね)

 

 

 何やったかって? 依存対象を増やしただけさ。

 もうこの一言だけで予想してるだろうが……要するに俺、レア博士、アリサの3Pでどうにかしました。毎回毎回、文字通り肉体言語に訴えるのはワンパターンだが、基本的にこれしか能が無いので勘弁してほしい。

 

 …ただ、アリサがレア博士の事を「ママ」なんて呼び始めたのは予想外だったが。夢の中で見たおふくろさんとは、全く似てないが…どうやら昨晩の3Pで、新しい扉を開いてしまったようだ。

 

 まぁ、確かに雰囲気は出てたよ? 

 最初、俺に部屋まで呼び出され、とっておきのショーツやら今の時代では貴重な香水やらで覚悟キメてやってきたアリサだったが、レア博士が居るのを見て急速に機嫌が悪化した。

 そりゃそうだわな、「またオアズケか、またお前のせいか!」みたいな顔だったし。

 

 レア博士も同様で、オタノシミの最中に訪ねてきた女…しかもどう見ても勝負服…にギリギリと視線を送っておりました。「浮気かコノヤロウ」みたいな目を俺に向けないのは、レア博士の習性なのかねぇ…。

 まぁ、レア博士の反応は無理ないわな。浮気云々を差し引いても、ラケル博士から切り捨てられた(まだ一応疑惑段階)今となっては、レア博士の精神的な支えは俺一人。心の支えが奪われそうになれば、それこそ宗教テロみたいな勢いで暴れようとするのも無理は無い。

 

 

 そんな二人が…どう考えても原因の俺ではなく、泥棒猫に怒る二人が…対面して、ヒートアップしたもんで……ここでレア博士に『命令』したら、どうなるでしょう。

 

 

 結論、レア博士、「アナタにこんな事はできないでしょう?」とばかりに従います。具体的にはスカートたくし上げとか。ちなみにさっきまで大人のオモチャで遊んでたんで、バッチリ装着済みです。

 で、対抗意識満々のアリサを引きずり込んで、更にレア博士…レアに命令。

 詳細は別話を作らないといけなくなるので省くが、剥かせたり、拘束させたり、奉仕しているアリサを前にレア博士に一人遊びさせたりと、色々やって色んな意味で昂ぶらせた後。

 

 貫通式の開催となった訳ですが……アリサってばまー、処女なのにメッチャ性感発達してやんの。やっぱり毎晩、夢の中でアレコレやってたからだろうか? 聞き出してみたら、毎朝オネショかと思う程に洪水状態になっていた為、最近ではいつも裸+股の下にタオルを敷いて寝るようにしていたらしい。

 それでも流石に不安は不安だったらしく…レアに命じて、両手を拘束して抑え込ませてから、ゆっくり貫通。

 

 流石に痛みはあるらしく、顔を顰めていたんだが…それを「大丈夫?」と頬に手を添えるレア博士。それが、何がどう影響したのか…アリサが「ママ…」なんて呟いて、丁度目の前に放り出されていたナマチチの突起に吸い付きました。

 

 

 …で、それがどーも母性本能にドッキューンと来たみたいでね。ああいうのを慈母の眼差しって言うのかね…やってる事はレズにしか見えないが。

 おかーさんが赤ん坊を優しく宥めるように、こう…ナデナデしたり、いい子いい子したり、耳元で囁いたりしてね。

 アリサはアリサで、ヒィヒィ善がり鳴きしつつもその手を取ったり、おっぱいに吸い付いたままだったり、思いっきり抱きついたり…。考えてみりゃ、あのハグはちょっと危なかったな。ゴッドイーターの筋力で、一般人を全力で締め付けたらエライ事になる。そうならなかったのは、アリサがいい塩梅に翻弄されてたからなんだろうが。

 

 まー、何はともあれ、3Pと言うよりは……なんだろ、娘の初体験に立ち会って、『大人になったのね』と感涙する親? そして『頑張ったよ』とおかーさんに抱きつく娘? どんな親子やねん、と言いたくなるだろうが、実際そんな按配だった。初体験を結婚式とかに変えれば、そんなに違和感は無いが……そんな変換をする事自体、違和感が満載だ。いや、結婚すりゃそーいう事もするんだから、ある意味間違ってはいないが。

 

 

 

 

 …やっぱアレかな、レアのは幼い頃からの抑圧が妙な形で噴出した結果か。

 そしてアリサのは夢の中で色々ヤッたり助けたりしたからか? 考えてみれば、夢の中でオカルト版真言立川流やってんだ。ある意味、精神…ひょっとしたら脳ミソにダイレクトに影響を与えていた可能性は否めない。そうだとすると、よくアリサの人格が無事だったものだ……いや、影響された結果がコレだとしたら、無事とは言い難いか。

 

 何はともあれ、とりあえず落ち着くところに落ち着いたか。

 レアはアリサを娘のように世話し始め、ラケル博士から捨てられた衝撃から立ち直りつつある…実際は新しい依存対象を見つけただけだが。

 アリサはアリサで、念願の初体験も終え、新しい義母(?)との折り合いも…まぁ、多少の衝突はあるかもしれないがそこは俺がクッション剤(というの名のご主人様)役を務めればいいだけだ。

 

 …これなら、終末捕食の後も、多分大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 さて、夜伽の話は置いといてだ。

 実際、ラケル博士にどう対処するか?と言う話になったのだが、率直に言えば手が出せない。

 公的な意味で言えば証拠が無い。アラガミを操れるなんて言われても、信じるのは極一部の物好きだけ。レアの証言があったとしても、物証が無い。もう父親暗殺も数年以上前の事っぽいし。

 非合法な手段で仕掛けるにしても、一番力になりそうな支部長からはNOが出ている。

 最後の手段…俺がフライアにこっそり戻って暗殺するという手もあるが、それをやったらレアがどうなるか…。新しい依存対象が出来たとは言え、妹と思っている事には変わりない。

 

 正直、それを圧してでも始末するべきだとは思っているんだが。やられっ放しも癪に障る。

 

 

 

 …ジュリウスにちょっかいを出すか? ラケル博士に対しては、それが一番の意趣返しになりそうだ。

 居場所はレアが知ってるだろうし…だがラケル博士の警戒網を突破できるかが一番の問題だ。博士への不審の種を植え込む方法は……本人を見てみないと何とも言えないが。

 

 

 

 …ああ、もう一個忘れてた。

 ラケル博士にどう対処するか以前に…レアにシオの事を教えるかどうかが問題だった。

 

 

 レアは今は……血の力と終末捕食の説明の後、支部長と色々談義しているようなんて、その間に榊博士に相談に行く。

 部屋に顔を出すと同時に、「お客さンダー!」とシオが飛びついてきた。おお、アリサから聞いたとおり、随分流暢に喋るようになってるな。

 

 というか、もう服着てるよ。なんだ、もう一回脱走したのか? …ああそう、逃げようとしたところをリンドウさんが捕まえたのか。

 ……? ちょっと待て、ゲームでは女性陣に服を着せられかけたところで、ほぼマッパな状態(最初のボロ布オンリー)で逃げ出したんだよな。何故にリンドウさんが捕まえられる? まさか着替えを覗いていたとでも…いや、その場に居たとでも言うのか。

 

 …ああそう、逃げるのを察知したアリサとカノンが足止めして、サクヤさんがリンドウさんを呼び込んだのね。それならいいんだ。

 

 

 

 「おみヤゲはー?」と手を出されたんで、昨日狩ってポケットに入れておいたコアを進呈。…ソーマが「あんまり甘やかすな」って言ってるが、教育パパみたいな言い分だな。

 

 

 コアをフライドポテトのようにパクつく…微妙に不満そうだが、多分あまり美味しくないんだろう。極東の、野菜の味がするアラガミと違って…シオを横目に見ながら、レアにシオの事を伝えるか相談。

 

 ソーマは却下。博士という人種に(割と偏見ではないが)偏見でもあるのか、シオを実験台にして何かしようとしているんじゃないか…と思っているようだ。そういう意味では、俺にも同じ視線を向けてきているが。

 

 榊博士は肯定。レアの人格には、ある程度の信用を置いているようだ。「…随分君に入れ込んでいるみたいだしね」と呟かれたが、何を知っている。

 ラケル博士に何か要請された場合は?と聞いてみたが、恐らくそれは無いとの事。…榊博士、もうこの時点でラケル博士の正体と野望に勘付いてるんじゃないだろうか。ソーマの前でそれを言うと、更にややこしい事になりそうだが。

 ただ、あのポンコツと言うかうっかりについては…限りなく不安に思ってもいるようだが。これでレア博士がひんぬーであれば、「また遠坂の呪いか」と言えるのだが。ひんぬー枠のラケルてんてーは金髪だけど。

 

 それに、榊博士の場合は、同じ目的を持って語り合える博士仲間が欲しい、とも考えているっぽい。何だかんだでシオを擁するチームの中では、唯一の頭脳担当だ。技術に関して話せる相手だって、リッカさんくらいで陰謀やらシオの事やらはノータッチだもんな。まぁ、アラガミ用の服作ってもらった時点で勘付いてたっぽいが。

 

 

 俺個人の考えとしては、勿論知らせて問題ない。若干の不安はあるものの、それを補ってあまりあるくらいに協力してくれると思う。

 …と言うより、レアがラケル博士の元に戻ってしまわないように、頚城をより増やしておきたいってのが本音だな。昨晩、娘認定したアリサと同様にシオも娘と考えて、アリサと姉妹になって欲しいものだ。「おねえちゃん」とか呼ばれたら、アリサが鼻血だすんじゃなかろうか。……一応言っておくが、棒姉妹になってほしいって事じゃないからな。俺、前のループでは手を出した…出された?…けど、基本的にソーマ×シオ派だし。

 

 

 そもそも、俺の計画通りに終末捕食を乗っ取れて、被害を最小限に抑えられたとして…その時シオはどうなっているか? 生贄にされる訳ではないのだから、当然生存している事になる。

 天然の特異点が、地球に取り残されたままになる。そうなったら一体どうなるか…終末捕食が完全に成された訳ではないから、また本能がいつか動き出すのか? アラガミと全ての生命が消えて再分配されるまで、また特異点の覚醒が繰り返されるのか?

 それにラケル博士がどう出るか。予定通りにジュリウスを特異点として仕立てあげようとするのか、それとも折角天然モノが居るんだからと、シオに手をだそうとするか。

 不確定要素が一気に増える。

 

 これを榊博士一人に考察しろ、というのも無茶な話だろう。…上手く行ってれば、多分俺はその時には居ない訳だし。或いはデスワープして元の木阿弥。

 

 

 アリサは勿論賛成。昨晩の母娘プレイで、随分信頼を深めたらしい。ただ、ポンコツ具合まで把握しているかは疑問だが。あと、ママと呼びそうになって慌てて口を閉ざしていた。ソーマは「マ…?」と首を傾げた。

 

 

 

 結局、レアも仲間に引き入れる事になった。ソーマは不満そうだが、現状で協力者が足りないというのは感じていたんだろう。

 

 

 

 

神変月断水とかにならないよな日

 

 

 レアがシオと対面。特異点の事を説明した時のアレコレについては…正直、書く程大した事はなかった。

 まぁ、特異点だアラガミだって言ったって、今のシオは体がちょっと病的に白くて身体能力がゴッドイーター並みに高いだけの、天真爛漫で子供っぽいオンナノコにしか見えないからね。もうちゃんと意思疎通もできるようになっているし。

 

 むしろ、真面目に研究していた事とは言え、終末捕食やら何やらが起きるという生きた証明が目の前に現れた事によって、何やら考え込み始めてしまった。ひょっとしたら、ラケル博士の本当の目的について、何か勘付いたのかもしれない。

 …じっと観察しているレアの視線に、警戒しているソーマが印象的だった。

 

 で、そのソーマとシオが居ない場所で、ちょっと話をしたんだが。

 

 

「…ねぇ、あの子は本当にアラガミなのね?」

 

 

 間違いなくね。多分、もうすぐ自力で神機を作りだせるようになる。

 

 

「という事は、食べた物や見た物を学習して、自分の構造を変える性質も健在、と…。ところで話は変わるんだけど、極東付近のアラガミが変化しているって話は聞いている?」

 

 

 アラガミが進化するのはいつもの事だけど、どの変化の事?

 

 

「……その中でも、一等頭がおかしい話よ。…アラガミが『美味しくなっている』という奴ね。初めて聞いた時は、研究者の頭がおかしくなったんじゃないかと思ったくらいだけど」

 

 

 ああ、それなら知ってる。神機がアラガミを食いたがるようになってきたって話ね。

 ついでに言えば、その原因になっていると思われる植物は、俺の菜園が出所だ。

 

 

「そこにも色々ツッコミたいと言うか、私も実物に興味はあるけど、そこは置いといて。…美味しくなったアラガミのコアを食べ続けたら…シオちゃん、どうなると思う?」

 

 

 ……お、美味しくなる? 具体的には汗がニンジンの味になったり、体臭が花っぽくなったり、髪の毛を切った感触がまるで林檎のようになったり………女性の神秘的な液体が、文字通りサトウキビ…いや甘露のようになったり?

 

 

「……………」

 

 

 ………おーいソーマ、お前なんか食べ物の好き嫌いってある? ん? 将来に割りと影響するんで。やっぱ美味しい方が進んでprprできるだろ。ちゃんと濡らさないと、痛むかもしれんし。大した事じゃないって。どうせ食うなら美味い方がいいってだけの話だよ。他意は無いよ。

 

 

「ソッチの心配!? 私、割と真剣にカニバリズムの心配をしていたんだけど」

 

 

 神機に食いつかれても、シオなら噛み付き返すって。

 

 

「それで何の解決になるの…」

 

 

 

 

 

 

 

 そんなアホみたいな会話はともかくとして、ちょっと実験。

 レアとアリサを二人きりにしてみる。二人きりと言っても、俺はミタマ隠とかアサシン式ステルス術を使って、堂々と同じ部屋の中に居ますが。

 

 親子の関係と言っていいのかは微妙だが、とりあえず険悪になる事は無い。むしろ、レアが世話しようとして距離を詰めているくらいだ。アリサは距離感を計りかねて、されるがままになっているようだが……悪い気分じゃなさそうだ。

 このままエスカレートすると、その内レアが赤ちゃん言葉と使い始めるような気さえする。

 

 

 …実際、「カワイイわね~」とか言いつつ、チュッとやってたし。流石にアリサも慌てていた。

 

 

 …これは俺抜きでのレズプレイも仕込む必要がありますね! 他の男に触らせるのは断固拒否だし、女であっても抵抗はあるが、俺の女同士ならセーフ! 基本的に俺って独占厨だからね!

 

 



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164話

神変月艦これ改、購入。まだ届いてない日

 

 

 極東に戻ってきたはいいが、俺ってば基本的に単独行動ばっかりね。

 ま、仕方ないんだけどさ。支部長直属で、特務を受けて動いている訳なんだから。

 今も、特異点探し(探してないけど)とノヴァの育成に必要なアラガミのコアを狩り集めている。

 

 で、その相手がね、ウロヴォロスとかスサノオとか、接触禁忌種がメインでさ…。他のゴッドイーター、連れていこうにも行けないんだよ…。

 最近は支部長も、反目の芽があるリンドウさんじゃなくて、俺をメインに使うようになってきている。こう言っちゃなんだが、リンドウさんに出来る特務なら、俺にも…まぁ大体は出来るだろう。

 

 別に、リンドウさんの腕に俺が追いついた訳じゃない。リンドウさんは腕利きだが、使っているのは旧型神機で、普通のゴッドイーターよりも身体能力は高いが、それ以外の力は無い。

 対して、俺は新型なので遠近防に対応可能であり、本来この世界には無い力を振るう事が出来る…あんまり使うと霊力を使う接触禁忌種が出るので、なるべく自重しているが。加えて、変身というバグ能力さえある。

 そこまでやって、ようやく同じ任務を達成できる。

 

 …分かってはいたけど、あの人バケモノだわ。特に、自分以外のメンバーに対する気配りやら指揮やらは、100回くらいループしないと敵いそうにない。

 

 

 特務以外の時は割りと自由に動けるんで、ミッションに誘ってくれてもいいのよ? いいのよ? 

 …そうだね、今回ループで最初の頃もそうだったけど、支部長直属なんて怪しい奴とつるみたがる人は殆ど居ないよね。今ではシオの事を隠して榊博士の研究室に通っている為、胡散臭さは倍率更にドン!である。

 

 そんな中でも、物怖じせずに誘ってくれるアリサとカノンちゃんマジペットと天使。ちなみにカノンちゃんには教官扱いされています。…接近戦こそ上手くなりましたが、誤射は0にはなっていないようで。

 

 

 ミッションの帰りには、何時の間にやら想定の数倍の規模にまで膨れ上がった菜園を見に行くのが日課です。

 以前はコウタの妹のノゾミちゃんを護衛しないと…と考えていたが、既にそれも不要。彼女はマスコットではなく、リアルエンジェルとして崇められていた。不届きな考えを持つ者が湧いて出たら、何処からともなく親衛隊が現れて洗脳…処罰ではなく洗脳…されるとの専らの噂である。ちなみに、コウタ曰く「ウチのノゾミが天使なのは事実なんだから、そんなに不思議な事じゃないと思うけど」だそうな。順応しやがった。

 

 そしてこの菜園は、今尚恐るべき進化を遂げようとしている。

 と言うのも、以前から考えられていたように、「アラガミ防壁の外に、菜園を広げられないか?」という考えが真剣に考えられているのだ。それも、素人知識にせよ、それなりの算段を付けられて、だ。

 

 確かに、防壁の外で菜園を作れば、あっと言う間に野生のアラガミ達に食い荒らされてしまうだろう。だが、それはアラガミを遮るモノが何も無いからだ。

 つまりは…そう、例えば小型のアラガミ用防壁があれば、どうだろう? アラガミに侵入される事無く、その土地の栄養(あまり潤沢ではないが)を独り占めして菜園は育つだろう。…尤も、上からの侵入を防ぐ為に防壁をドーム型にしなければならないし、そうなったら太陽の光も入らないので、そんなに簡単な話ではないが。

 

 ではちょっと考えを変えて、防壁ではなく…アラガミを殺す装置ならばどうだろう? それこそ無理だ、と言われていた。アラガミは同じアラガミ、或いはゴッドイーターが持つ神機の攻撃にしか傷つかない。これはこの世界の常識である。

 しかし、しかしだ。

 何故にこちらの装置で、アラガミを殺さなければならないのか? …何を言っているのか分からない? 何、簡単な話だ。

 

 

 こっちでアラガミを雁字搦めにして動けなくしてしまえば、後は寄ってきた別のアラガミがムシャムシャしてくれるじゃないか。

 

 

 動けなくするだけなら、方法は幾つもある。アラガミが現れる前は猟師だった、という住民も居て、様々な種類の罠を考案している。

 …うーむ、ちょっと自信無くすな。俺もハンターだから、色々と罠の心得はあるが…この一般猟師が持つ罠のバリエーションには、遠く及ばない。…そもそもパッと思いつく罠なんて、シビレ罠に落とし穴に爆雷針に各種爆弾、ホールドトラップくらいだもんな…。

 まぁ、それも無理も無いのかもしれないが。

 何せハンターの相手は、基本的にデカブツだ。そんな相手に効くような罠なんて限られているし、短時間ながら確実に効くように、また仕掛けやすいように、大型に対して特化していった結果だろう。

 

 対して、猟師さんの提案する罠は、小型相手にしか通用しないようなモノも多い。…モンスターやアラガミを基準とした小型なんで、普通の動物で考えたら大型と言えるのかもしれないが。

 

 

 ただ、この案にも問題はある。目の前に動けなくなったアラガミが居たからと言って、もっと美味しい野菜が手の届く所にある。どっちを食べるだろうか?

 野菜…とばかりは言い切れない。野菜を食べている所に、拘束から逃れたアラガミが「俺のモンじゃあ!」とばかりに飛びかからないとも限らない。逆に、「最後の一本までは仲良く食おうぜ(残り5本になったら裏切ろう)」と一緒に食べ始めるかもしれない。

 

 

 

 …と、このように色々と頭を悩ませている。

 俺としては…もっとやれ、としか言えないな。一緒に考えてくれとも言われたが、俺だってオツムは一般住民達と変わりない。実際のアラガミとの交戦経験があるのは、大きな差だと思うが。

 

 ただ、どのような試行錯誤をしたのか、その結果はどうだったのか。それだけは全て教えて欲しい…いや、形にして残してほしい。

 それは財産だ。この菜園が無ければ何の意味も無く、伝えたところであっと言う間に絶えてしまう財産でも。

 本人達にとっては、自分達の努力の結晶を、反吐が出る程大嫌いな連中の為に掻っ攫われてしまうものであっても。

 

 

 神機を使わず、アラガミに対抗しようと試行錯誤した新たな試みは、絶対に記録しておくべきだ。

 

 

 

 

 

 

 …アーク計画が終わり、全てがリセットされた大地で生きていく、宇宙船から降りてきた1,000人の人間達の為の遺産であっても。

 

 

 

 

神変月SRWはよ。はよ。日

 

 

 そーらも自由に飛べるーはずー♪

 

 …何か混ざった。具体的には青狸(声変わり前)とS○APが。

 でも飛びたい。ドラッグ的な意味ではなく。フライハイ。ジャンプじゃなくてフライがいい。ギブミー舞空術。イカロスの羽でもいいぞ、落ちても死なないから。

 

 真面目な話、今一番に思いつくパワーアップって言ったらコレだろう。色々とゴテゴテと後付でよく分からない技術を習得し、今の俺はガキンチョが魔改造したプラモデルみたいになっている。

 これらを全てひっくるめて使いこなせるようになるべきだと思うんだが、どうせだったら後2、3個くらい詰め込んでからの方がよくないだろうか。

 で、そこで一番欲しいのが、空を飛ぶ…である。空中ダッシュと多段ジャンプと忍法ムササビの術までなら出来るが、どうにも重力に勝てないんだよな。

 

 んじゃ、どうやって空を飛ぶかってーと……思いついただけなんだけどね。

 ゲームGEのエンディングで、ホラ、シオを乗せたノヴァが、空と言うか月に向かって飛び立つじゃん? あれって普通に空中浮遊だよね。

 羽も無いし、あの巨体を浮かすだけのジェット噴射の類もない。中身が空気より軽いガスって事も無いだろう、重力圏を突破して月までいけるんだから。

 

 終末捕食を乗っ取る予定なんだし、その時にあの原理をコピーできないかな、と思っただけである。

 ちなみにザイゴートも浮いているが、アレはどーもガスで浮いているようなのでパス。

 

 

 

 さて、戯言は置いといて、ちょくちょくシオの所に顔を出している。支部長にバレないように、色々手を使って…それこそ霊力も使って。ダイヴインだけは絶対に知られないようにしているから、使ってないけど。

 まー相変わらずカワイイねこの子は。

 リッカさんに会わせたくなってくるよ。マジな話、今回も服を作るのに協力してくれたようだし、事情を察しているのに黙っていてくれるし、いい加減一回くらい会わせておかないと不義理な気がしてきた。

 尤も、その義理を果たすとシオの存在がバレた時に道連れにしてしまう事になる訳だが。

 

 

 ただ、リッカさんの方がクッソ忙しそうでなぁ…。その元凶である神機の持ち主…て言うか宿主? 本体? の俺が言うのもなんだけど。

 極東支部で出撃した後、戻ってくると大抵、技術班を率いたリッカさんに神機を強奪されてしまう。特に抵抗する気が無いとは言え、俺から得物を文字通り奪っていけるあの連中、ゴッドイーターになってもそこそこやっていけるんじゃないだろうか。

 

 と言うか、今更なんだが俺の神機の一体何を調べているんだろうか。色々な意味で規格外な神機であるのは自覚がある。

 そもそもからして、現在ゴッドイーター達の戦術に革命を起こした神機である。拘束具が無くても暴れもせず使い手に牙を向けもせず、意図を汲んだかのように大きく伸び広がってアラガミに食らいつく、使い勝手もそのパワーも一線を画する神機。

 そりゃー一から調べたくもなろう。

 

 更に加えて、時々…そう、リンドウさん暗殺計画の時だけでなく、時々勝手にその辺に残ってる神機をムシャムシャして、勝手にスキルを覚えているような神機なのだ。

 更に更に言うなら、覚えたスキルを取捨選択するどころか、合成まで可能……なのか? イマイチ分からんが、そんな気配すらある。具体的に示すなら、攻撃力Lv10を覚えていた筈が、神機をムシャムシャした後に見てみたらハーフスタンスLv3なる攻撃力+防御力を増加させるスキルになっていたり。

 

 うーむ、そういや神機ってアラガミ以外も食えるようになってたんだよな。遺された神機は調整されたアラガミだから、まぁ納得できるとして。

 他の世界の鬼やらモンスターやら武器防具装飾品やらを食わせれば、何か覚えるかな。

 現状、スキルは俺+のっぺらトリオ+神機+防具で使っている訳だが(多すぎるって言うな)、更に増やせるかもしれんのか。

 …どうせ増やすなら、妙な夢を見た時にいいスキル覚えてほしい。いつもの3つの世界のスキルなら、装備整えればある程度融通は効くからね。

 

 

 まーとにかくアレだ、今回のリッカさんルートには入れそうにないね。もう2人も関係を持っておいて何を抜かすと言われるだろーが、前回MH世界を考えりゃそれこそ、何を今更だ。

 本音を言えば、惜しい…と言うか、欲しいと思う。あんな風に試行錯誤して、短くて二度とない人生の時間を何かに注ぎ込む様な情熱……………いや、こんな言葉は誤魔化しだ。

 

 俺にも情熱はあると思ってる。女に対する欲望も、真っ当とは思わないが愛情もあるし、欲望とも愛しさとも取れる熱がある。

 狩りをしている時には余計な事も肉欲も生死も頭から吹っ飛ぶくらいの昂揚があるし、状況にもよるが、多分デスワープ脱出の機会を永遠に逃したとしても、その昂揚に従う事だってあるだろう。何より、成功するにせよ失敗するにせよくたばるにせよライフワークにせよ、俺は言葉にするのも憚られるレベルで狩りが大好きだ。

 志ってやつも、まぁある。ハンターは人の為に狩りをしつつ、自然の調和を乱さない為に狩る者だ。ゴッドイーターは滅びかけた世界で生き延びる為に足掻く人の剣だし、モノノフは昔から鬼を…人の影に生まれ負の感情を食らって成長する鬼を調伏してきた。俺個人としても、その意思は受け継いでいるつもりだ。

 個人的な志を言うなら……ゲームストーリーが終わった後の世界に興味があるな。俺のデスワープとループが続いている限り、多分世界に未来は無い…たった一年後でさえも。それをどうにかする為にも、このループを抜け出したい。

 どれも、他者に対して憚る事の無い情熱の元だと思う。

 

 

 

 

 だけど、神機や論文、何より機械を弄っているリッカさんが放っている何かが俺には無い。だから欲しい。

 

 

 

 

 …と、何となく乙女ゲーのよくわかんない竿役…もとい彼氏役の理屈になってない理屈を語ってみる。

 ま、リッカさんが魅力的なのは事実だけどね。もっとお近づきになりたいわぁ。

 

 

 

 

 …空を飛ぶ技術、リッカさんに相談してみっかな…。

 

 

 

神変月ヤケ酒いくぞー日

 

 

 えーと、この後ってどういう流れだっけ?シオはもう服を着ているから脱走は無いとして…そうだ、ノヴァに呼ばれて(?)特異点としての本能に目覚めかけて、一度ソーマ達の前から姿を消すんだっけ。

 それを防いだとして、何か問題はあるか? …無いな。

 覚醒を防ぐのも、軽いものならご飯を食べさせたり、呼びかけたり、体を揺さぶったりすれば出来ると思う。予防という点では、まずエイジスを認識させない事か。

 

 そうなると、シオを連れて狩りをする事が出来なくなってしまうかな。エイジス島はアナグラから割りと近い所にあるからな…。

 だが、子犬…もといシオにとって、おサンポは食事と並ぶ一大イベントだろう。おサンポの無いワンコの一生……想像しただけでも泣けてくるな。ストレスでhageるんじゃなかろうか。

 シオも結構行動的だし、今までが野生で生きてたからなぁ…空も見えないアナグラの一室に閉じ込めたままだと、その内癇癪起こしそうだ。

 

 なるべく近くに居て、妙な事があったらすぐに止められるように言い含めておくしかないか。後は…そうだな、逸れた時に何処で合流するか、教え込めればいいんだが。…帰巣本能でアナグラに帰ってくるかな? いや、ゲームだと帰ってこなかったし、何より正面からノコノコやって来そうだ。もしそうなったら、即アラガミだとバレて特異点認定である。

 

 

 

 そうそう、支部長に相談したんだが、そろそろノヴァを本当に起こせるかの実験が必要だと思うんだが。ラケル博士から可能というお墨付きをもらいはしたいけど、あくまで理論上は、だし。

 支部長だってぶっつけ本番で試す程冒険はしない筈……なんだが、どういう訳だか「実験は不要」の一点貼り。…どういう事だ?

 

 俺にノヴァを見せたくない? いや、ノヴァそのものは単なるデカいアラガミだし、存在を知っている俺に隠す意味は無い。

 特異点を絶対に見つけ出す、という決意の表れ? これも違う、次善の策を用意しないような人じゃない。

 うーん………?

 

 

 榊博士に相談してみるものの、「残念ながら、その件では私は力になれないよ」と一蹴されてしまった。

 そう言われてみれば、そうだったな。支部長は終末捕食を起こしたい、俺は終末捕食を乗っ取りたい、榊博士は終末捕食を起こさせたくない。シオの件では榊博士の味方のつもりだけど、終末捕食の件については俺は榊博士とは相容れない位置に居たんだっけ。

 

 

 …エイジスに忍び込むか? 不可能じゃない。

 でもあんまり意味が無いな。今のノヴァはまだ、終末捕食を起こせる程育ってはいないだろう。忍び込むのに成功しても、精々不完全なノアを一瞥できるくらいだ。

 

 

 うーむ……打開策が思いつかん。

 暫くは支部長の特務をこなしつつ、シオのご飯確保に協力しますかね。

 

 

 

神変月最近、顔が肌荒れして痛い日

 

 大事な事を忘れてた。ゲームの通りに話が進めば、よく分からんが電源を落とされてシオの存在がバレてしまう。

 この辺の対策をしておくよう、榊博士にいつだったか頼んだような……あれ、別のループの時だったっけ? 何度も同じような状況を繰り返してると、記憶が混じってくるな。

 

 ともあれ、周囲を幾ら探しても特異点が見つからず、その内内部に目を向ける…というのは不自然な事でもなんでもないだろう。しかも榊博士は特異点を育成して人間に近づけるという計画まで持ってるんだから。

 停電を上手く乗り切り、その後も幾らかの方法で探りを入れてくるだろうから、それも誤魔化して……やっぱり探しても見つからない。そういう状況に持っていかないと、支部長は俺を特異点の役割には据えないだろう。

 

 この事を相談してみた結果。

 

 

「…ふむ、成程。確かに、ヨハネスがシオを探す方法としてはありだろうね」

 

 

 どーも、一発限りの大技っぽいですが?

 

 

「ああ、頻繁に取れる手段ではない。しかし、一度行ってしまえばこちらには手の打ち用がないだろうね。復旧の際、データを全て持っていかれる」

 

 

 という事は、シオに関するデータを全て削除すれば?

 

 

「…現実的な手段ではないな。消したとしても痕跡は残るものだ。完膚なきまでに削除するには、それなりの手間がかかる。リアルタイムでそれを行い、更に不自然が無いよう加工するとなると、私がもう一人必要になるだろう」

 

 

 恐ろしい事言わんでください。

 

 

「君がもう一人居るよりは、ずっとマシだと思うよ。君、その内分身の術とか使えるようになるんじゃない?」

 

 

 俺じゃなくて神機が会得しそうですけどね。

 

 

「うーん…そうだね、データをスタンドアロン型のPCに移しておこうか。今後の記録もそっちに残して、持っていかれるデータは予め偽造しておけばいい」

 

 

 …その偽造、バレないと思います?

 

 

「いや、ばれるだろうね。私が一から手がけたものならともかく、どうしたって手抜きの出来栄えになってしまう。でもそこは大丈夫さ。偽造がバレた事なら、何度かあるからね」

 

 

 それの何処に安心しろと。

 

 

「秘密の、(私基準での)ちょっと危ない実験をやっていた、と言えばいいさ。今までだってそうだった」

 

 

 ああ、マッド特有の信頼感ね、ハイハイ。それで誤魔化しきれるなら、この件はお任せします。

 その後のちょっかいについては…出来る限り、俺がスパイしてきますかね。

 

 …あまり成果を期待できそうにないとか言われた。失敬な。スニーキングミッションは得意だぞ。…そういう事じゃない?

 

 

 

 …俺は支部長に、信頼も信用もされてない? マジで? 俺、それなりに支部長に貢献したと思ってるんだけど。菜園の件は、何も言わずに始めたのは悪かったと思うが、宇宙船やら何やらを掻き集めるのにいい手札になったと思うし、特務という無茶ブリにも文句も言わず応えているつもりだ。

 そういう問題じゃない?

 

 

 榊博士にヤレヤレと肩を竦められ(この人にやられると割りと屈辱だ)、どの辺がアカンのか逐一説明を受けた。

 ……あー、うん、なんだ、その……仰る事は尤もだと思いますけどね……。なんかこう、俺の立ち居地…使い所が無くてベンチで待機させられてるのに、温存されてると思い込んで切り札を自称している空気読めない人みたいだ…。

 

 

 あぁー、格好悪い…。色々考えてたつもりだったけど、根っこのところが狂いまくってちゃ意味ないわ。

 そうだよなぁ、終末捕食を起こすのに協力しよう、なんて自分から言い出す奴を誰が信用するもんか。せめて、コウタのように身内をアラガミの居ない世界に送り出す為とか、そういう理由があればまだしも。

 それ以外にも、人類の9割以上を殺す計画に協力するのに、悲壮感も決意も何も感じない。更には出所だって怪しい。何故か榊博士のアカウントを使ってファーストコンタクトを取ろうとするし、いざ会ってみれば変身こそ事実であったものの、身の上を一切話そうとしない。

 こんなので信用される人なんて、最低系SSの主人公くらいだ。…書いてて何故か心が痛い。

 

 あー、しかしそうするとどうなんだろ。特異点が見つからない状態が続けば、俺の投入を決断するかもしれんが…その時、素直に特異点役をやらせるとは思えん。少なくとも、薬で意識を奪ってノヴァに埋め込むくらいはやるだろう。

 しかし、意識が無い俺を生贄にしたとして、終末捕食を起こさせる事は可能だろうか? …いや、霊力使うには基本的に意識と意思が必要だ。気を失う、或いは薬で朦朧としている俺に、ノヴァを起動させる事ができるとは思えない。

 

 となると、不安要素バリバリのまま俺にやらせるか、断固として俺を使わず特異点を探すか、か。まともに考えれば後者だな…。

 

 

 うーん、どうしよ。終末捕食の乗っ取りは変わらないとして、色々考え直さないと…。

 



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165話

レモンちゃんって表現あるよね、某虚無ピンクのことだが。
メロンちゃんが居るのはいい。スイカちゃんも居ていい。りんごだってバナナだって許す、ふたなり的な意味で。


なんでパセリちゃんは居ないんじゃ!
唐揚げに必須やぞ!
状況によっちゃ唐揚げ本体より美味しいぞ!


神変月気がつけばSRW発売間近日

 

 

 支部長に呼び出された。昨日の榊博士の話のおかげで、ヤバイ予感がヒシヒシとしていたが、普通に特務の話だった。

 ま、今更特務程度じゃどうこう言わんよ。まだ手に負える範囲だからな。

 

 ただ、やっぱ観察されてるな…。最近何かと榊博士の所に顔を出してたし、特異点を匿うのに協力しているんじゃないか? という疑惑を持っているようだ。

 勿論それは大当たりであり、支部長も薄々以上に勘付いているようだが…もしも違ったら、という事を考えると迂闊に踏み込めないようだ。下手に首を突っ込んで、万が一間違いだったら、そこから榊博士は何かしらの搦め手を使ってくるだろうからね。

 

 

 ついでにノヴァの成長具合を聞いてみたんだが、完成するまでまだ暫くかかるそうな。…聞いといてなんだけど、信頼されてない俺に事実を教えるかは分からんね。

 

 

 

 

 さて、特務の内容は、至って普通の黒爺猫2匹討伐。極東以外では出現と同時に、そこの支部が総力戦・決死戦な雰囲気に包まれるらしいが、極東では珍しくもない。流石にソロでやれる人は少ない(居ないとは言ってない)が、狩れるチームは結構いる。

 …ま、想定してない乱入を含めて考えても、ヴァジュラ系の群れを一つ二つ潰す程度で終わるでしょ。シオのご飯にはちょっと足りないな。適当にその辺のを狩っていくか。

 

 

 …どうにも、最近シオの食欲が増しているようで。アラガミが美味しくなって食い意地が刺激されているだけならいいんだが、やはり特異点として目覚めかけている兆候だろうか?

 目覚められると、隠蔽するのも難しくなるな…。と言うか、考えてみれば支部長に対する隠蔽より、特異点の本能をどうにかする事を先に考えなければいけなかった。

 本能の覚醒は、自然な事だ。抑えつければ、それだけシオに多大なストレスがかかるだろう。俺が性欲を押さえ込もうとするよーなもんだ。

 

 

 

 どうすっかな…前ループじゃ霊力を使ってアレやコレやしてたけど、手段が18禁だった。俺が持つ手札の中では、オカルト版真言立川流が、他者の霊力を操作するのに最も有効であるのは紛れもない事実。それ無しで、あの時同様にシオを押さえ込めるかと言われると…正直無理だ。

 アラガミという特性上、薬物やら冷凍睡眠やらで封印するのも無理だろう。 それ以前にソーマ達が許す筈が無い。

 

 

 

 

 

 そんな事を考えつつ、オーダーと予想通りに黒爺猫2匹を中心にした群れをウマウマし、突っ込んできたクアドリガを解体してたんだが…………うん、このクアドリガ、変だね。そうですコイツが変なクアドリガです。

 色が青というか堕天種なのはどうでもいい。

 

 

 コイツ、体のあちこちから芽が出てんですけど。

 ……見たところ、ジャガイモの芽に似てるな。ただしデカい。

 ジャガイモの芽や緑色に変色したところに毒があるのはよく知られている事だが、致死量は結構多い。一つ二つ程度じゃ、体調が悪くなっても死にはしないが……この芽だと、一つ分でも人間が食えば死ぬな。

 アラガミだとどうだ?

 

 ………デッドリーベノムくらいにはなるかもしれん。

 これはアレかな、「俺を食ったら死んでしまうぞ」的な、捕食者への対抗策なのか? しかしクアドリガは割りと強い種族だ。この手のやり方は、もっと弱い…食物連鎖の下の方に居る奴の手口……? いや、アラガミやモンスターにそんな事考えるだけ無駄か。

 

 …いや、もっと恐ろしい可能性を思いついた。

 今回のようなクアドリガが死んで融解した場合、この芽はどうなる? そのまま一緒に溶けてしまうのであればいい。が、何らかの形で地面に残り…そこで育ち始めたら? 出来上がるのが、単なるジャガイモならいい。ジャガイモのようなアラガミであれば、どうだ?

 人の手の届かない所で芽吹き、育ち、枯れて…種を落とす。その増殖速度は、今までのアラガミ以上なのではないか? 何せ、こいつらが変化した原因は恐らく、異様な成長速度を誇るMH世界の植物だ。

 

 

 …こりゃ、とんでもない事になるかもしれない。

 

 

 

神変月長期休暇は8月以降になりそう日

 

 

 昨日のクアドリガが溶ける前に写真を撮って、榊博士と支部長に見せてみた。

 難しい顔をして考え込んでいる。とりあえず確認すべきは、この一体だけの現象だったのか、他にも同類が居るかだな。

 仮に同類が居た場合、これ以上の繁殖を防ぐ為、周辺のアラガミを片っ端から狩りまくって…一般住民が未だに挑戦している、アラガミ防壁外の菜園をどうするかが問題だな。

 今まで「これも試行錯誤」とか言って放置してたからなぁ…。エリック先輩の言う通り、禁止しておけばよかったか。

 

 

 とりあえず、あの時のクアドリガの能力自体は、普通のものと大差なかったように思う。回収した素材も同じだ。

 クアドリガや、ジャガイモの芽に限らず、それらしいアラガミを発見したら捕食は控え、報告するよう通達が出た。

 流石にゴッドイーター達も戸惑っていたようだが、新種が産まれるのはそう珍しい事ではない。倒してはいけないとは言われてないんだし、食いつかなければいいだけの話、と受け入れられたようだ。リンクバーストができないのは、ちょいとキツいものがあるが。

 ま、まだ一体しか確認されてないしね。

 

 

 

 話は変わるが、シオがそろそろ本格的に「退屈」という感覚を覚え始めて、外に行きたがっているらしい。神機を作り出す事までやってのけて、「一緒にゴハンにいくぞ~」なんて言っている。

 ゴハンだけなら取ってきてるでしょ、とアリサ言ってみたところ、「ハタラいてたべるゴハンがいい」なんて言い出したとか。おいおい、タダメシ程美味い物はないというのに…。

 「ハタラかざるモノ、ゴハンはたべられない」ってサクヤもいってたぞ~…だそうな。もうここまで成長したか。

 ちなみにコレを受けて、リンドウさんがちょっと苦い顔していたとか。…別に気にしなくてもいいでしょうに、アンタ充分すぎる程仕事してんだから。

 

 

 しかし、どうしたものかね。支部長の視線もそろそろ厳しくなってきてるんで、あまり何度も外に出ようとすると、見つかってしまう可能性が高い。

 外に出るなというのも可哀想だし、何よりガス抜きしないとストレスが暴発する危険が高い。

 

 …一度外に出たら、暫く戻ってこない…のがやっぱり一番いい方法だろうか。それはそれでエイジス島を目にして、覚醒する危険が高まるな。

 ノーリスクな方法なんか存在しない、か…。

 だったら、こっそり出て戻るやり方が一番マシだ。言っちゃなんだが、もしも発見されてしまっても、それはアーク計画の進展に繋がるからな。俺の計画にはマイナスになるけど、終末捕食が暴発して何もかもオジャンになるよりはマシだ。

 

 

 という訳で、俺はこの件に関してはノータッチ。アリサ達でどうにかしてください。

 薄情? 支部長にシオを匿ってるんじゃないかって疑われてて、協力しようにもできないんだよ。他所で怪しい動きをして、注意を惹きつけるくらいやるから、後はソッチで頑張ってくれ。

 レア博士と榊博士が協力すれば、アラガミの探知システムを一時的に誤魔化すくらい出来るでしょ。

 

 

 

 よし、んじゃ任せた。

 

 

 

 …レアには後でご褒美あげて、ご機嫌取りしとこ。アリサは…うん、今回はご褒美を手伝う方向で。

 

 さて、そうなると俺は支部長の視線を釘付けにする! しないといけない訳だが…そうだな、支部長の警戒心を最も刺激するのは、やはりノヴァへのちょっかいか。

 やりすぎると始末しにかかってきそうだが、幸いにして建前はある。終末捕食を行う為の実験。提案しては却下されていたが、繰り返し提案し、エイジス島付近をウロチョロしてれば注目してくれるだろう、多分。

 

 

 

 

神変月GERのエピソード、スゲェ書きづらい日

 

 

 エイジス島近辺でウロチョロし、前回に入り込んだ時の記憶や、そこかしこに見られる窓・搬入口の類から、中のマップを作っている。

 結構入り組んでるんだよな、ここ…。その上、複数人のゴッドイーターが暴れられるような場所は殆ど無い。

 正直、ここが文字通りアラガミの攻撃を完全に防げる場所…エイジス計画が達成されたとして、俺はここに住みたいとは思わない。狭いし、空も見えそうにないし。

 …ま、こんな事言ってられるのは、俺がこの世界の人達に比べ、アラガミに対してそこそこのアドバンテージがあるからだろう。ロクな抵抗手段も無い人達にしてみれば、ちょっと狭いだけでアラガミが居ないのであれば、そっちの方が余程好ましく思うだろう。

 

 予想通り、支部長もこっちを警戒し始めたようだ。俺が支部長に信頼されてない、というのを自覚し始めたのに勘付いたのか(ややこしい表現だ)、俺がノヴァのところまで強行突入する可能性も考えているらしい。実際、一度は企んだ。

 これでアナグラ内部への目がどれだけ逸れてくれるかは分からないが、多少は効果があると思う…思いたい。

 

 

 

 ところで、最近レアがちょっとアリサに嫉妬しているっぽい。当然…というのもおかしな話だが、俺の事で。母親が娘に対し、父親(俺だ)の事で嫉妬する…よく聞く話ではあるが、業が深いな。どっちも肉体関係アリだから、特に。

 そして嫉妬の内容は、肉体的な事と言うか精神的な事と言うか。ぶっちゃけ、感応現象の夢の中での事だ。同じ夢を見ているという、「特別な繋がり」が羨ましいらしい。

 夢の内容も、アリサが話したらしい……父母を食われた夢の事も、それがどう変化していったのかも、最後の最後でヒーロー役だった俺がアグネェェェッス!を呼ばれるような行為に走った事も、更にその後色々話したりしていた挙句、夢の中でアリサ(ょぅι゛ょ)を何度も抱いていた事も。

 

 …時期的に言って、完全に浮気を黙っていた事になるので、一発頬を張られました。軽いほうだね。討鬼伝世界の那木さんだったら、文字通り至当の最中でも矢を射掛けてくるからね、それくらいが当然の反応なんだろうけど。

 で、それはそれとして、夢の中でヤッてる事に興味津々。現実でイタした後も、実はこっそり夢の中で続きをやる事もあるんで、それが特に羨ましいようだ。…ま、そういう風に考えるように仕込んだしね。

 

 特に興味がるのは、アリサがょぅι゛ょになり、更に何度でも処女喪失OKと言う部分。

 自分もその年代になりたいのか?と思ったら、「アリサがそれくらいの年齢になれば、本当に母娘みたいに見える」と言う答えが帰ってきた。どんだけ母性本能持て余してるんだ。持て余しまくって溢れ出ているじゃないか。

 ……夢の中で溢れ出ると、母乳になりそうだ。

 

 しかし、残念ながら感応現象だからなぁ。ゴッドイーターじゃないレアには夢を見せられない……?

 

 …いや、これ実際は感応現象じゃなかったわ。色々な意味で認めたくない事実だから忘却してたけど、のっぺらトリオが夢に入り込ませてるんだったな。

 そうなると…どうなんだろ。のっぺらが俺の制御を受け付けるかって話は置いといて。

 アリサとの夢は、のっぺらトリオが俺の一部をアリサの中に送り込んでいる状態だ。「一部」だけを送り込む事が出来るのは、俺が電子情報を集合体だからだろう。普通の人間は、そんな事やったら多分…廃人?

 一部じゃなくても、人間の意識を肉体から切り離して移動させる…完全に幽体離脱だ。霊力が使えて、ソッチ系の術を使える人間でも、そうそう使わない方がいい類の術だ。

 

 レアに夢を見せる事は…うん、アリサと同じ要領で出来るかもしれない。でも3人で同じ夢を見るのは難しいか…。

 

 のっぺら云々は省いて、「感応現象だから」でレアに結論を伝えると、非情に残念そうだった。

 「3人でなら、現実でやればいいじゃないですか」とはアリサの弁だが、夢の中という完全に二人きりの時間を壊したくないようにも見える。

 俺としても、どうせヤるなら現実がいいな。夢の中は夢の中で、ちょっと有り得ない事が出来てるから、捨て難いとは思うけど。

 

 

 …レア、ゴッドイーターになろうかなとか止めてちょーだい。失敗したら死ぬんだし、成功しても戦って死ぬ人が多すぎるんだから。

 と言うか、ロミオと同じ訓練する?

 

 

 …うん、それが賢明。

 

 …レアがゴッドイーターになったら、オカルト版真言立川流で霊的に強化しまくって、ロミオより先に強制的にブラッドアーツ覚醒させてみようかと思ってました。

 

 

 

神変月艦コレの外伝書いてはみる日

 

 俺に妙な事をされると面倒になると思ったのか、支部長はエイジス島の立ち入り許可をくれた。ただし、支部長か、支部長が指名した一部の人間と一緒に行動する事が条件だ。

 ノヴァも…触れる事は許されてないが、見学までなら。

 

 ふむ、確かに記憶にある物より小さいし、独特の威圧感も薄い。

 

 

 うーん、呼び覚ませるかの実験はダメですかね? ダメですか。まぁ確かに、未完成のノヴァを刺激したら何が起きるか分からないし。

 しかし、改めて見るとシュールな光景だ。予備知識無しで見ると、でっかい女性の顔だけが天井からぶら下がっているというか生えているようにしか見えない。

 なんでアラガミが人間の顔に進化するんだろうか。人工的に作ったからか? …食った物をコピーする性質だと言うなら、人間を食わせたのか?

 …そういや、支部長の奥さんとも何かしら関係があると聞いたが…。

 

 

 まさかと思って目をやると、やれやれと頭を振られた。

 

 

「何を考えたのか予想はつくが、私も妻を…例え遺体であってもアラガミに食わせるような神経は持ってないよ。この顔にも…どういう訳だか、確かに妻の面影はあるがね」

 

 

 …失礼しました。ま、そこまでの神経持ってりゃ、次の世界にも行こうとするでしょうな。

 

 

「君は私が死ぬつもりだと?」

 

 

 実際そうでしょう? 支部長は最終的には自分の筋を通さずにはいられない人間だ。

 自分の罪を清算するのに、『この世界』の終わり以上に似合いの場所は無い。

 

 

「そうだとして、何か問題でもあるかね」

 

 

 別にないっすな、俺には。

 ただ、俺にも経験談を語れる程度には、ロクでもない人生ってモノを送ってまして。思った場所で死ねると思わない方がいいっすよ。

 悪徳の報いなのか、天だか運命だかアラヤだかがまだ生きろって言ってるのか知らないが、命ってな妙な形で続きます。アーク計画が上手く行こうが行くまいが、支部長は…まぁ、続きを想定しといた方がいいと思いますね。

 

 

「…無論、己の命を無碍にする気はないさ。だが、アーク計画の成就こそが我が悲願。今後の身の振り方を考える余力があれば、計画に注ぎ込むよ」

 

 

 …ま、いいですけどね。

 

 

 実際、ゲームのシナリオ通りに進めばアルダーノヴァになって倒されるし。前回ループじゃ実際そうなった。

 だが、今回は違う。そうはさせない。

 

 

 それは俺の役目だ。

 

 

 

 いや、別に倒されるつもりは無いよ? 敵対したら、むしろ片っ端から張り倒して、その上でアリサを陵辱したりするよ多分。

 だが、終末捕食の乗っ取りと制御が上手くいけば、支部長が死ぬ事は(多分)無い。その後、支部長はどうするか?

 

 アーク計画は、世界各地から使える宇宙船を集め、助ける人間をたった1,000人にまで絞込み…とにかく世界中を巻き込んだ、壮大すぎる計画だ。壮大であり、犠牲は更に大きい。

 その計画を、支部長はどれだけの人間に教え、協力させているだろうか?

 自分が死ぬ、世界の9割9部以上が死ぬと知って、尚計画に乗れるような人間は…限られる。

 一つは、それでアラガミの居ない世界が訪れるなら、と断ぜられるキチガイの類。

 もう一つは、自分さえ助かれば、世界がほぼ死に絶えても構わないという人間の鑑のような連中だ。

 

 後者を責められるかどうかはともかくとして、そんな連中に限って何かしらの実権を握り、尚且つ支部長が「アナタ(老害)を生き残る1人にしよう」などと言う口約束を信じてしまう。

 で、それがコケた上、選ばれる約束だったと言うのに宇宙船に乗れる1,000人に招かれなかった、とくればどうなるか。

 自分を蔑ろにした支部長を責めにかかるのは、間違いないだろう。

 

 

 俺としては、そんな連中よりも支部長が上に立っててくれる方が、余程信頼できる。…信用はしないが。

 まー、要するに、俺の計画が上手く行った後も、支部長が上に立っててくれる方が都合がいいって事だ。榊博士だって、支部長としての仕事よりも研究の方が好きだろうしね。

 この人なら、アーク計画失敗という重荷を背負っても、世間からの圧力に全力で抵抗して勝ってくれると期待している。

 

 

 失敗させるのは俺だがな!

 

 

 

 それはさておき、どうしたものか。エイジス島に立ち入り、ノヴァの姿を見ようとするのは、特異点探しに全力を尽くさせない為の行為だった。

 しかし、入って目にするところまで正式にOKが出てしまい、これ以上コソコソしても支部長は見向きもしないだろう。

 

 じゃあ、調子に乗ってノヴァに触れようとしてみる?

 …強引すぎるな。確かに支部長も気にはするだろうが、「何故そこまで触れようとするのか」に気付かれかねない。確かに実験という建前もあるが。

 

 他に支部長の目を逸らす方法…。

 そうか、特異点モドキを新しく出すというのはどうだろう? 俺のような変身できるアラガミではなく、今まで見つかってないような異常なアラガミ。「こいつは特異点ではないか?」と思わせるようなアラガミ。

 普通なら、そんなアラガミなんてそうそう出てくる筈もないのだが、俺には一つ手段がある。

 霊力をばら撒き、感応種モドキを育て上げるという方法が。

 

 しかし言うまでもなく、この方法は諸刃の剣…俺自身にとってではなく、恐らく人類にとって。

 感応種が相手では、同じ霊力…血の力を持つ者がいなければ戦えない。神機が動きを止めてしまう。

 そして、現在その力を体得しているのは、俺と…ロミオが目覚めかけているだけだ。もしもこんな状況で感応種を育てるような真似をすれば…そしてそれが広まるような事があれば、それこそあっと言う間に人類は詰んでしまってもおかしくない。アーク計画さえ実行不能な程に。

 

 流石にリスクとメリットが釣り合わない。

 

 他に方法を考えないと…。

 

 

 

神変月自分で性欲処理すると、エロを書く気力が失せる日

 

 支部長の目を逸らす為という事もあり、中々シオに会いに行けない。今どんな様子なのかは、アリサやレアを通じて教えてもらっている程度だ。

 厄介な事に、やはり特異点として覚醒しつつあったらしい。ゴハン確保の狩りの間に、エイジス島を見てボーッとして、その後に僅かながら体に模様が浮かんでいたとか。 

 その時はソーマの呼びかけで正気に戻ったようだが、もう長く保ちそうにない。早急に手を打たないと。

 

 とは言え、幾らサカキエモンとは言え特異点の本能を抑える装置なんて作れる筈も無いし、シオ暴発前に終末捕食を俺が起こしてやろうにも、肝心のノヴァがまだ未完成。

 差し当たりやれる事と言えば、ノヴァを完成させるための材料をちょっとでも多く持ってくるくらいか。

 

 しかし、あとどれくらい必要なのかね? と言うより、そもそもノヴァ完成をどうやって判断すればいいのやら。

 以前見たものよりも小さいから、まだ未完成と思っていたんだが…そもそもどれくらいのペースで育つんだろう?

 

 支部長に資料を見せてもらったんだが、育ち方もイマイチ分からん。ノヴァ自体は特殊なアラガミではないらしく、元は一匹のアラガミに食いに食わせた結果、今のような姿に成長しているらしい。

 …ずーっと眠りっぱなしな訳だから、食っちゃ寝食っちゃ寝してたのと同じ訳で。…つまりコレ、育ってるんじゃなくて太ってんじゃね? フォアグラ用のガチョウのようだ。

 いや、どっちかと言うと意識不明で点滴打たれたままの病人か?

 

 まーどっちでもいいが、支部長は何やら焦っているようだった。

 勿論、表面に出すような人じゃない。むしろ内面観察術でも、中々内心を読み取る事ができないのだが…それだけ強い焦りがあるんだろう。

 無理も無いと言えば無理も無い。シオ…特異点はいつ覚醒するか分からないのだ。終末捕食の脅威を誰より認識している支部長にしてみれば、某青タヌキの地球破壊爆弾が、残り時間の分からないタイマー付きで作動しているようなものだろう。

 事実、シオは既に覚醒の予兆を見せている。

 

 …ゲームの話になるが、仮にシオが支部長に見つからず、そのままアナグラで育っていたとしても、言っちゃ悪いが榊博士が言うような本能の制御に成功するとは思えない。もっと時間があれば話は別だったろうが。

 

 とにもかくにも、早くノヴァを完成させ、少しでも早くアーク計画を…俺を使ったアーク計画を決断させなければいけない。

 これだけ焦っているのであれば、本命の特異点に見切りをつけ、特異点モドキの俺を使用させるのも不可能じゃないだろう…問題はそれがシオの覚醒に間に合うかどうか。

 

 

 堂々巡りにしかならんな。とりあえず、ノヴァの材料狩ってこようか。

 支部長から指定されてた奴が何匹か居たな。まずはそいつらからだ。

 

 

 …そういや、羽の生える黒爺猫も、この前みつけた芽が生えてる奴も、サンプルが欲しいからもってこいって言われたな。

 その他、俺も聞いた事が無いアラガミに、アバドン何十匹分…。

 前者は極東には居ないアラガミだったり、単純にゲームにも出てきてないアラガミが居てもおかしくないから、別にいいんだが。

 アバドンはなぁ…出てくるかどうかは運次第だもんなぁ。と言うか、GE無印にアバドンって出たっけ? GE2からじゃなかっただろうか。

 まぁ、探せと言われりゃ探しますけどね。とりあえず、近所に居ると思われるアラガミから狩りにいきますか。

 

 

 

 という訳で、何故かエリックさんと出撃です。

 いつもだったらアリサ達と出撃なんだけど、シオが「みんなでゴハン」したいからって付いて行ってしまった。むぅ、嫁を娘に取られた気分。…あれ、父親を娘に取られるような状況なら、俺とアリサとレアでいつもやってたな。

 

 以前、「壁の外に植物を植える事をどう思うか」と話し合って、意見が分かれたりもしたが、この人結構紳士だからな。別段気まずくなったりはしなかった。 

 その分、妹自慢が鬱陶しかったが。

 

 そういや、GE2でエリナがゴッドイーターになっているのは、エリックさんの敵討ちとかも理由の一つだよな。生きてるけど…このままだと、エリナはゴッドイーターにならなかったりするんだろうか?

 

 …ま、今更だな。ロミオだって、このまま行けば死ぬのか怪しいくらいだし。エリナがゴッドイーターにならなくても、別に問題はない。

 むしろ、ストーリーがどう変化するのか楽しみなくらいだ。

 

 

 とりあえず、今日は特筆すべき収穫は無い。シオのゴハンとノヴァのエサ、充分確保はできたし、まぁいいか。

 エリックさんが狩った量を見返して冷や汗掻いてたけど。

 

 

 

 

 



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166話

幻想砕きの剣でエロ書いてたのって何歳くらいだったかな…大学の途中から、最初の会社を辞める前だから、20歳ギリギリくらいか。
今と比べると、エロに対する情熱が違うなぁ…。
まぁ、元がエロゲだったから書きやすかったのもあるだろうけど…。


 

神変月スパロボまであと1週間日

 

 

 ちょっと間が空いた。ここんとこ、延々とアラガミ狩ってばっかだったからな。

 いやもうシオの食欲が止まらないのなんのって。加えて、ノヴァに食わせるアラガミの量もどんどん増える。冗談抜きで極東周囲のアラガミ生息領域が大幅に変わってしまいそうな勢いだ。

 あれだけ必要だったアバドンのコアが、もう有り余っている…と言えばどれくらい狩ったか分かるだろうか。ゲームで体感するよりも、ずっと珍しいアラガミだった筈なのに…。数撃ちゃ当たるの精神で揃えてしまった。

 

 さて、そうなると問題なのが、今まで聞いた事が無いアラガミのコアだ。名前の元ネタは、多分どっかの神の伝承から取ってると思うんだが…。有名所で言えばケツァルコアトルとか、アフラ・マズダとか。

 …アスラとかオーガスとか言うのもあったけど、まさか怒り(ラース)的なアラガミじゃないよね? あんなの勝てるか、地球がぶっ壊れるわ。

 まーとにかく、そういう連中は極東支部近辺には居ないようだ。名前の下になった通り、ギリシャやらアメリカやら物騒な某所やら…全て「旧世界」での地名だが…にしか生息してないらしい。

 逆に、その場所でだけはその名で呼ばれないという事もあるようだが……宗教の話は面倒だからパスする。この前、聖地がどうの浄化がどうのと言いつつ、自称アラガミの神官を闇系したばっかだから、暫く関わりたくない。

 

 

 まーとにかくだ、ノヴァを完成させる為、あっちこっちから地域限定のアラガミのコアを確保せにゃならんらしい。

 別に、行く事自体は問題ない。未知の相手と戦うのもいつもの事だし、言っちゃ何だが極東以外のアラガミはそこまで狂ってない…強くないとは言わないが。

 ただ、俺が抜けてシオの飯が確保できるかが問題だ。

 最近はアリサだけでなく、カノンもスキルアップしたお蔭で狩りのペースも上がっているようだが、それでもキツい。と言うかシオ、食いすぎるとデブるぞ。最近は狩りの為に運動してるからいいものの、ヤバそうな状況になったらソーマが速攻で助けに行くから、運動量は今ひとつっぽい。

 と言うかソーマの奴、何時の間にロリに目覚めたんだ。素質があるのは分かりきっていたが。

 

 

 

 

 素質と言えば、ソーマがガングロなのは何故だろう…。両親、明らかに白人系だよな…やっぱ埋め込んだアラガミの素質か? それとも日焼けクリーム塗ってなかったからか? ガングロはナニがデカいのがエロゲ(特にNTLゲー)のお約束だが、、シオは受け入れられるだろうか………大丈夫か、俺の時にはちゃんと乗りこなしてたし。

 

 

 

 

 …シオの事は、まぁいいか。いざとなったら、ソーマにオカルト版じゃない真言立川流を教え込もう。…ロミオの惨劇を繰り返す訳にはいかんからな。

 幸いと言うべきか、夢の中でょぅι゛ょアリサとイタしたり、MH世界で合法ロリ双子と色々やったおかげで、小柄で幼い相手にナニするコツはわかってるし。

 

 

 

 それは置いといて、何処のアラガミから狩るべきか。

 近所に居ないんだよなぁ…。中国付近にゃ居るには居るらしいんだが、殆ど目撃情報が無い。目撃情報が多いアラガミとなると、今度はブラジル付近やらアルプスの上の方やら、とにかく極東支部から遠い。

 まぁ、それでも行かなきゃならんのだが。

 

 …前ループの時はどうしてたんだ? 懐刀兼反逆の芽のリンドウさんは、少なくとも俺が来てからMIAになるまで、極東支部を離れた事は無い。と言う事は、現地のゴッドイーター達がコアを回収し、それを何かしらの取引で取得したんだろうか。

 今回はその手は使えないのか? カオス理論的な何かで、今回は無理だったという可能性も考えられる。だが、今までのループでは全てノヴァは完成されていた訳で…今回に限って無理?

 

 

 …引っかかるモノはあるが……逆転の一手はある、か。

 

 

 

 

 

 

神変月討鬼伝2まであと1ヶ月日

 

 

 生息地域限定のアラガミを狩る為、出張に行く事になりました。

 レアがついて来ようと駄々を捏ねたりしたが、行き先はある意味極東以上の地獄である。生活環境的な意味で。

 UMAのようなアラガミ探して山野に踏み入り、ブリザードの中を進み、時に熱砂を渡り、電子機器もなければアラガミ防壁のような安全地帯もない環境には流石に連れていけない。ちゅーか野宿の心得も無いし、ゴッドイーター程丈夫じゃないでしょ、レアは。そう言うと、渋々矛を収めた。

 

 逆に、割と大人しかったのがアリサである。何で? と思ったら、「夢の中で幾らでも二人きりになれますから」だそうな。

 …どうだろなぁ。極東支部とフライアの間では感応現象モドキが成立したけど、もっと遠くなるとどうなんだろう?

 それ以前に地球の反対側やら極地近くやらまで行くんだから、睡眠時間が合うのかね。

 

 …余計な事言って、アリサまで駄々捏ねだしたら敵わんな。黙っておこう。

 あとレアが本格的にゴッドイーター適性試験を検討していたんで、今のうちに止めておく。

 

 

 

 まーなんだ、俺は暫く空ける事になるけど、仲良くヤレよ。母娘かつ棒姉妹の間でギスギスとか、出張から帰ってきたら家庭内が冷え切ってましたとか勘弁してくれよ?

 念を押して、例によって例の如く腰砕けになるまでヤッて「仲良くします」と誓わせて、アリサにレアをいぢめる為のアレコレを伝授しておいた。ムラムラした時は、ちゃんと二人で解消しなさい。

 ちなみにアリサが責めなのは、母親が娘を犯すか、娘が母親を犯すかで、後者の気分だっただけである。

 

 

 さて、そーいう訳なんで、出発は明日。移動手段はヘリで、とりあえずは中国…日本の中国じゃなくて、大陸の方の中国に渡る。

 ただでさえ日本の何倍もの国土の国で、現地のゴッドイーターでさえ眉唾モノ扱いするようなアラガミを探す…うん、普通に気が遠くなる作業だな。ちなみに中国語とかサッパリだから、現地の人と殆ど会話もできやしない。

 一応、通訳もつけてもらったけど……戦闘能力ある人じゃないから、基本は支部で待機してもらう形になる。で、アラガミ探しから帰ってきた時だけ世話になる、と。

 ちなみに、見目麗しい女性ではなく、爺さんである。…レアの差し金…いやアリサのやり口っぽい…。

 

 

 まーそれはともかくだ。

 俺は世界各国UMA(ちなみにAはアラガミのAな)狩りブラリ旅という割と洒落にならん苦行を引き受ける代わりに、支部長とちょっと取引した。

 それはレアを極東支部に正式に配属させ、留める事。

 今のレアは、ほぼ成り行きで極東支部に居るだけだ。本来の所属はフライアだし、そのフライアに戻るとラケル博士に殺される可能性が高い…が、その証拠すらない。

 ラケル博士はあれから何のアクションも起こしてこないが、何を企んでいるのか知れたものではない。

 

 なので、レアを正式に極東所属とし、留め、守れるよう交渉した。

 結果は二つ返事でOK。…アッサリしすぎてて、むしろ不安になるレベルだった。大丈夫なん?

 …どうも、支部長には何かしら算段があるようなんだが……まぁ、あまり突き過ぎても蛇が出るだけだな。

 

 

 

神変月艦コレ改、イマイチ進まず日

 

 

 さて、そういう訳でやってきました中国の……どの辺だ、ここ。アラガミのおかげで地形が変わりまくってる事もあり、イマイチ現在位置が分からん。

 多分、崑崙山脈に近い何処か…だと思うんだが。中国って、車とヘリで数日移動した程度で横断できるような場所だったっけ? もうちょっと東側の何処かの山?

 

 そうそう、移動中あまりにもヒマだったんで、アリサとレアに向けて色々含めたメールを予約しておいた。遺書書いてるような気分だったけどな…パスワード、あいつら分かってくれるかな。

 

 

 ターゲットのアラガミの名は、「カンテイ」。

 …関帝聖君? 「げぇっ! 関羽!」のアラガミ?

 まぁ、他の土地だってアラガミに神の名前とか付けてるから、関羽の名前がついてたっておかしくはないが。

 

 

 で、このアラガミが何処で目撃されたって? 姿形はどんな奴?

 支部長から資料をもらってはいるが、目撃例が少なすぎる為か、殆ど記述が無い。勿論、現地の方々だって噂話程度にしか聞いた事が無いらしい。

 通訳の爺様に色々と話を聞いてもらったんだが、一番最近の目撃例は、やはり山脈の中。見た目は、武器を持ったシユウのような外見で、関羽の代名詞のような青龍円月刀…実は三国志時代には青龍円月刀は無いらしいが…のような武器と、顔周りから伸びるヒゲらしきもの。

 よくもまぁ、そんな狙ったような姿のアラガミが現れたもんだ。

 

 

 はー、んじゃとりあえず行ってきますが…食料買いこんで、見つかっても見つからなくても、一週間以内に戻ってくる。

 爺さんとの合流場所を決めて、ここの支部の車で途中まで送ってもらう。

 何やら話しかけられたんだが、スマン、なんて言ってるのか分からん。爺さんに翻訳してもらったんだが……なんだろ、なんか違和感感じるな。

 

 まぁ、それが何なのか考える前に、アラガミに襲われて撃退したけど。

 

 そいつもご当地アラガミで……えーと、中国でもマイナーな妖怪の名前が付けられているらしい。発音が独特すぎて、名前も書けない。

 割と厄介なアラガミだったらしく、皆が慌てている所に飛び出して一閃で終了。『やるな!』とばかりに大騒ぎされた。妙なモノや余所者を見る目を向けられていたが、一転して歓迎ムードだ。調子がいいというべきか…民族性かね?

 

 

 例によってよく分からん場所で、爺さんに「ここです」と降ろされた。うむ、確かに見渡す限りの大山脈。ただし木々は殆ど無い。全部食われつくしたらしい。

 …以前はさぞかし雄大な景色だったろうに。これもある種の絶景ではあるが……郷土の人達にとっては、見慣れた景色を食い荒らされたんだわな。…うん、ちょっとくらい協力しよう。見かけたアラガミは、可能な限り積極的に狩っておく。

 

 

 何やら別れ際に色々声をかけてくれたんだが、爺さんは何故か翻訳してくれなかった。「別れを惜しんでいるんですよ」と言われたが、どうにも様子がな…。

 まぁ、どっちにしろここまで来たんだし、後はカンテイを探すだけだ。

 

 手がかりは目的があった場所、そしてどうやらヒゲを引きずっているようなので、この痕跡。

 とりあえずはそれだけか。

 …正直な話、かなりヤバい。たったそれだけの手掛かりでカンテイを見つけて仕留め、ノヴァのエサにしなけりゃならん。

 しかもこれと同様の、存在すら疑わしいアラガミのコアが幾つも必要なのだ。

 

 …正直、シオがいつ特異点として完全に目覚めるか分からないのだ。

 その状況で、アーク計画達成にこんなコアが必要なんだと言われればな……支部長が焦るのもよく分かる。

 

 

 

 

 ま、愚痴ってても仕方ない。車ももう帰って行ってしまったし、覚悟を決めてサバイバルしますかね。

 

 

 

 

 

神変月星のカービィ、クリア済みなのに妙に面白く感じる日

 

 

 予想はしてたが、カンテイ、手掛かり全く見つからず。

 この辺はアラガミそのものも少ないらしく、隠れて進む意味もあまりない。

 堂々と、タカの目鬼の目を使いつつダッシュする事にした。

 

 

神変月最近、手や指の皮が剥ける日

 

 

 あまりに誰も居ないので、無意味にアラガミ化してみる。

 特に戦闘行為を行わず、走るだけなので負担も軽いし、時間制限も長い。

 

 今どの辺りだ?

 この山脈はデカすぎて、遠近感が狂う。元の場所への道は感覚と歩数で覚えているが、現在位置が今ひとつ分からない。

 山野の奥深くだからか、電子機器の電波も届かないんだよな。

 崑崙山脈の奥深くは、磁場やら何やらが酷くて人工衛星でも撮影できないって話を聞いた事があるような無いような…。

 

 食える物が思ったより少ない。買いこんできた食糧が半分くらい尽きてしまった。ふくろの中にはまだまだあるから余裕だが。

 

追記 眠っても感応現象の夢を見ない。やはり距離が離れすぎているからか?

 

 

神変月洗面所の排水、つまり気味日

 

 

 …ふと思ったんだが、なんかおかしくね?

 この辺、ゴッドイーターが来た形跡が無いぞ。車の轍も、全く見られない。何でこんな所で、カンテイが目撃されたって言うんだ?

 

 考えてみれば、そもそもからして、存在すら不確かなアラガミのコアが、ノヴァの成長に必要だなど、どんな理屈で導きだされた回答なのか。

 支部長から貰ったデータも、具体的な記述は殆ど無い。

 

 …いや、でも姿形はこの土地の人達から得た情報だよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全て、支部長が用意した、通訳の爺さんを通して聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おい。

 

 

  おい。

 

 

 

 

 

 

神変月アンチャーテッドに、ニンジャスレイヤー並みの身体能力を突っ込んでみたい日

 

 

 全力ダッシュ(耐久18時間)で車から降りた場所まで戻り、途中で会った何体かアラガミを撫で斬り…もとい辻斬りにして土産とし、そこにあった車の轍を目印として、中国支部(仮名)へ帰還。

 タイミングのいい事に、行きの時に一緒だったゴッドイーターと鉢合わせした。

 

 お互い言葉が分からないが、ジェスチャーで爺さんを探していると何とか伝える。帰ってきた答えは、「え、あの爺さんどっか行ったぞ」だった。ちなみに内面観察術でジェスチャー解読。

 

 

 土産を押し付け、爺さんの痕跡を探す。こういう時はタカの目無双である。

 だが、流石にヘリか何かで飛び立たれると手に負えない。せめて字が読めれば、何処に飛び立ったか予想ぐらいはつけられるのに。

 

 無いモノ強請りしても仕方ない。これはヤバい。俺が中国に派遣されたのは、まず間違いなく支部長の陰謀だ。

 

 

 どうする? バスみたいな公共機関を使おうにも、行き先が読めないし、何より時間がかかる。

 いっそ走って帰るか? 海は…短時間なら生身でも水面歩行は可能、アラガミ状態なら余裕だ。烈海王より早く進める自信がある。だが流石に日本海を越えるのはキツい。

 

 

 となると……やっぱコレか。支部長にも榊博士にも隠しておいてよかったなぁ。

 

 

 その辺にあった適当な端末から、ダイヴ・イン! メールは何とか送れたんで、それを辿って極東支部まで。

 PCはいいね、字が読めなくてもアイコンで何を表してるのか大体分かるよ。

 

 

 

 

 

神変月お好み焼ウマス。葱はもっと切るべきだった日

 

 

 はい、そーゆー訳で戻ってきました極東支部。

 思った通り、既にシオは奪われてしまっていた。そして色々な意味で大騒ぎになっているようだ。

 

 既にアーク計画は始動直前らしい。昨日までは、計画の是非や真実か否か、また賛同するか阻止するかで猛烈に揉めていたらしいのだが、今は辛うじて沈静化している…というよりは、騒げる程の活力が残ってないんだろうか?

 極東支部に居る人達の数も少なく、居る人達も大なり小なり怪我をしているように見える。

 

 どうやら、既にゴッドイーター同士で揉めたらしい。ここに居ない人達は、生き残る対象として宇宙船に乗り込んでいるか、或いは計画を阻止しようとエイジス島に侵入を図っているようだ。

 リンドウさん達も、阻止派となってエイジス島に侵入しようとしているらしい。

 

 

 うーむ、出立して一週間ちょっとしか経っていないというのに、物凄い勢いで話が進んだな。

 

 

 とりあえず、榊博士とレアを探してみるが、どうやら既に極東支部には居ないようだ。

 コウタは…目撃情報からすると、最初は支部長側についていたようだが、先日ソーマ達と一緒に行動するのを目撃されたらしい。ゲーム通りかな。

 という事は、既に地下通路を通ってエイジス島へ侵入していると見てよさそうだ。

 

 レアも一緒かな…行って見なけりゃわからんか。

 ま、どっちにしろ行かないという選択肢は無い。俺を仲間外れにした支部長に報復しつつ、当初の計画通りに終末捕食を乗っ取り、かつシオを生き残らせなければ。

 

 

 

 

 

 さて、そんな訳で混乱している極東支部を他所に(アラガミが周囲で荒れ狂ってるが、まぁここの人達なら何とかなるレベルだ)、アリサ達が通ったと思しき地下道から潜入を試みる。

 

 

 

 が、挫折ッ!

 

 何があったのか知らんが、瓦礫で封鎖されてしまっている。と言うかコレ崩落しただろ。

 無事なのかな、皆…。一体何があったのやら。

 計画賛成派のゴッドイーターとの戦闘か?

 

 

 

 

 

 それともちゃん様が誤爆を極めて、意味もなく通路を塞いでしまったのか。ありそうなのが頭が痛い。

 瓦礫を吹っ飛ばして進めないかと試してみたが、逆に本格的に崩落しそうになったので一端撤退。エイジス島へは正面からの強行突破を試みる。

 

 

 それはそれとして、残り時間はどれくらいだろうか。

 支部長が俺を遠ざけ、シオを奪取した事から、アーク計画自体はほぼ達成間近だと考えていいだろう。

 俺を遠ざけたはいいが、シオも奪えず、奪えたとしてもノヴァが未完成ではまるで意味が無い。

 

 しかし、出発のノヴァは前は確かに未完成だった筈…。そうか、溜め込んでいたアラガミのコアを一気に注ぎこんで、強制的に成長させたな? …多分だけど。

 ノヴァを急速に成長させ、同時にシオを奪取して無力化し、更にはノヴァに特異点としての力を移して…。

 

 何日かかる? 俺がこの支部を離れて何日経った?

 

 …考えるだけ無駄か。終末捕食は目前、ゲーム登場人物達の交戦開始も間近。

 とにかく急いで赴くしかない。

 

 

神変月エロ書こうとしたら途中で気力が尽きる日

 

 

 ……デスワープ…………しない。

 

 

 …えーっと、いろんな意味で予想外です。いや、実験自体は上手く行ったんだよ。終末捕食の乗っ取りオッケーです。

 シオは…まぁ、暫く昏睡していそうだが、そう遠くない内に目覚めるのは確実だ。更には支部長も死んでない。

 死人と言えば汚ッサンと…俺? くらいで、ハッピーエンドに限りなく近いと思っていいだろう。

 

 …レアとアリサが泣き喚いてたのは、自分でやっておきながら、正直許し難いが。

 

 

 

 と言うか、俺、何でまだ生きてんだろうか。

 いつものデスワープ直後のように、死ぬ(死んでないが)直前の事を思い返して整理しようという気にすらならない。

 

 正直、これまでにない程に呆然とした心境で、目の前に広がる星空と、草木や木々と。      宇宙と、想像してたよりも茶色っぽい地球の姿を眺めるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

神変月もう若くないんだろうか…今32だっけ日

 

 

 …神変月…なんだろうか。

 ここに来てから暫く経ったが、どうにも体内時計が狂いまくっている。そろそろ新しい月に突入してもおかしくない頃だと思うんだが。

 

 まー暫く不貞寝して、ようやく気が紛れたから恒例の死ぬ前(だから死んでない)の状況整理をする。…ああそれと、寝てたのはアリサと連絡が取れないかと試していたのであって、本当に不貞寝していただけじゃないからな。

 

 

 

 そうさな、エイジス島の外壁をブチ抜いて侵入した辺りから語ろうか。

 しかし俺の全力でもない攻撃一発で外壁に穴が空いたんだが、アレでアラガミの侵入を絶対に防げる領域を作るだなんてよく言えたもんだな。まぁ、多分そのためのリソースをアーク計画関係に突っ込んだから、張りぼてになっちゃったんだと思うけど。

 

 エイジス島に密かに上陸した訳だが、そこには結構な数の警備が居た。見知ったゴッドイーターも何人か居た。

 新世界に送り出す約束を取り付けているのか、それともアラガミの居ない世界を作れるならと、支部長の目論見に命ごとベットしているのかは知らないが、とりあえず普通のゴッドイーターじゃ俺を見つけるのはまず無理だ。

 支部長に案内してもらって中に入った時に、既に最低限のマップは頭に叩き込んでいる。警備が居そうな所は色んな手段で擦り抜けて(殺しはしてない)進んでいったんだが…意外と静か。既に終末捕食や、スペースシャトル発射の準備も整っているらしい。

 まぁ、余計なトラブルもなく進めるのはいい事だ。

 

 

 できればこの後に起きるであろう「コト」の為、もっと色々準備しておきたかったが…アリサやレアを弄ぶのに熱中してた俺が悪いか。

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなでエイジス島の中を、時にはちゃんとした道を、時には何故かある超人専用通路を強引に進み、ノヴァの場所に辿り着いた。

 既にアリサ達は広間に到着しており、それぞれ構えを取っている。

 その視線が集まる先には、以前のループで見た時よりも…少し小さいか?…同じくらいの大きさに育ったノヴァと、埋め込まれているシオ、壇上ちゅーか足場の上に立っている支部長。そしてそれに対峙して、何やら話している榊博士と…レア。

 

 要するに最終決戦前のOHANASHIね。言ってる内容は、もう殆ど覚えていないゲームと多分同じだろう。あの流れでは居なかったリンドウさんとかレアとかカノンが何を言うのか興味はあるが、流石に遠いし、角度の都合で読唇術もできない。諦めますか。

 さて、皆がなにやら小難しい議論やら決意表明やらをしている間に、コソコソと天井を伝って移動。

 

 …よし、誰にも気付かれてない。

 

 

 あ、ソーマが叫んだ。今のは分かったな、「シオを解放しろ」だろう。

 予想通り、シオの体がノヴァの額から落下する…だからそこは間に合えよ…。

 

 まーそれは置いといて、おおお、揺れる揺れる。シャトルの発射か。だが外の景色なんぞより、レアとアリサとカノンの乳揺れにしか目がいきません。

 おお……ゴッドイーターのええ乳3人衆が揃ってるが、やはりサイズで言えばレアかな?

 

 サクヤさん? リンドウさん生きてるし、仁義ってあるでしょ。あの人鋭いから、あまり注視すると気付かれそうだし。

 

 

 

 支部長の演説と言うか決意表明…或いは遺言…が終わり、床から競り上がってくるつぼみ……アルダノーヴァのボディ。支部長が立っている足場がウィーンと動いて、支部長INボディしてラスボスの完成…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがこのタイミングで、横合いから思いきり殴りつける!

 

 

 

 

 

 実際にやったのはケツキックだけどな!

 

 

 

 

 いざ、とアラガミボディに飛び降りようとする支部長の背後に、ハゲワシの如く飛び降りる影! フラグブレイカーのエントリーだ!

 

 

「なっ!?」

 

 

 驚きの声を上げるヒマもあればこそ。割と強めに蹴っ飛ばした支部長は、足場から押し出されて2メートルほど滑空し、ブザマに地面に叩き付けられた。…やっといて何だが、無事受身をとってくれたようで何よりだ。この高さで腹からダイヴしたら骨折じゃ済みそうにないし。

 

 ヨッシャ、俺を除け者にしたお返ししてやったぜ!と軽く喜ぶ俺、戦闘開始かと身構えたのに唐突に話の流れを叩き斬られて唖然としているアリサ達。

 真っ先に我に返ったのは、意外にと言うべきなのかレアだった。

 

 

「な、何でここに居るの? 広東支部からブラジル支部まで、出張に行ったって…」

 

 

 ああ、あそこ広東だったの? どこの事を指してるののかよく分からんが、ちょっとおかしいと思ったからとっておきの裏技使って帰ってきたんだ。

 

 

 

 

 

 …ところでアリサ? 俺って支部長の陰謀をギリギリで阻んだヒーロー的な立ち居地だと思うんだけど、リンドウさんとかサクヤさんが戦る気マンマンに見えるのは何故?

 

 

 

「あ! そ、そうです! あの、貴方が実は支部長と同じように、終末捕食を目論んでいるって…ウソですよね!?」

 

「もしそうだとしたら、私達は…」

 

 

 

 懇願するようなアリサの叫び。目をやると、同じような目をしたレアと、肩を竦める榊博士。

 …シオが奪還された時、隠しても意味ないと思って教えやがったな? 余計な事を…。

 

 

「言いたい事は分かるけど、私は君の味方じゃない。この前も同じ事を言わなかったかな?

 ちなみに、君の変身の事も伝えたけど、二人ともそこは気にしなかったよ。愛されてるね」

 

 

 うっせい。

 つぅか、中途半端に伝えやがって…いや違うか、そういや榊博士も俺が何の為に終末捕食しようとしてるのか知らなかったな。

 流石にノーヒントで気付けるような話じゃないし。

 

 

 

「……じゃあ…」

 

 

 ああ、悪いが本当だ。

 …そうだな、餞別にするようなもんじゃないが、終わった後に生きてたら、俺のアカウントでターミナルのメールの下書き見てみな。パスワードは…「夢の中の君」とでも言っておくか。(ロリサです)

 色々信じられない事書いてるが、何処まで信じるかは任せるよ。…何処まで読むかもな。

 

 おっと。

 

 

「…リンドウを助けてくれた事には感謝してる。でも終末捕食を起こそうというなら、どの道阻止させてもらうわ」

 

 

 …ノーモーションで顔面狙いとは、怖いお姉さんです事。

 リンドウさん、今のうちに自由を満喫しといた方がイイッすよ。

 

 

「そうしとく。その為に、お前さんを止めなきゃならない訳だが…」

 

 

 まぁ、そうなるな。じゃあ、ソーマ?

 

 

「…テメェが何を考えてるのか知らねぇが…」

 

 

 シオを返してやれるよ?

 

 

 「…!」

 

 

 俺が特異点の役目をするから、シオは必要ない。まだノヴァとシオは繋がっているようだし、こっちで体に意識を圧し戻してやればいい。

 容態が落ち着くまで目を覚まさないかもしれんがね。

 

 

「…テメェも存外阿呆だな」

 

 

 ん?

 

 

「シオが戻ってきても、終末捕食が起これば世界は終わりだろうが」

 

 

 いやソレが意外と…まぁ確約できる話じゃないのは確かか。

 じゃあ「うっさいわよ!」

 

 

 おおぅ!?

 

 

「ゴチャゴチャと面倒くさいわね。ここまで来たんだから、もうやる事は一つでしょ! 教官から教わったゼロ距離射撃戦法・改の改、じっくり味わって頂戴。師匠超えは弟子の務めよ!」

 

 

 カノンさんアグレッシブっすな!

 すまんコウタ、そういう訳なんで話が出来ん、セリフはカットな!

 

 

「なんかよく分からないけど酷い気がする! ああもう、やればいいんだろやれば!」

 

 

 

 

 

 

 という訳で戦闘開始!

 

 

 

 

 

 

 

 

 するワケがなかったりする。

 

 

 

 

 俺ぁ皆と戦わんでも、終末捕食できればいいんでね!

 支部長と違って、シオを埋め込んで馴染むのを待つ必要もなし、俺が能動的に終末捕食を起こせるよ!

 

 

「させるか!」

 

 

 ははははははは、躊躇いもブレも無い、いい狙撃だサクヤさん! だが効かない、効かないんだよねぇ今の俺には!

 ミタマの力って便利だね! 分からないならブラッドアーツみたいなモンだから、後からレアに聞きな!

 

 

 

「サクヤさん、カノンさん、足場を狙うよ!」

 

 

 おおコウタ、ナイスな判断だ。だが遅い!

 

 

 

 変身!

 

 

 

 アラガミ化して銃撃を全て叩き落す。

 それと同時に、飛び上がって斬りかかろうとしていたリンドウさんとソーマをタマフリの不動金縛りで止める。動き出そうとしたアリサは、神機にエネルギー攻撃を当てて怯ませて。

 

 足場の下で、内部を思いっきり見せたままのアルダノーヴァに全力エネルギー波攻撃、爆発。

 

 それを目晦ましにして、ノヴァの上に飛び上がって直接干渉する。

 まずはシオの意識を本人の体に圧し戻す。体と繋がっていた糸も斬った。少々手荒だが、これでシオは大丈夫。

 

 続いて全霊力を解放し、ノヴァに干渉。

 

 

 

 

 思っていた通り、ノヴァを制御できる。終末捕食の為、ノヴァを叩き起こして…。

 

 

 

 

 空へ。

 

 

 

 

 おーい、これからこの辺崩れるから、生き埋めになる前にさっさと行きな!

 あ、支部長が動けるようになったっぽい。

 

 

「待ちたまえ…ここまで来たのだから、もう言ってもいいだろう。君の狙いは何だ」

 

 

 悪いけど、最後の最後でアンタの予想通りに裏切らせてもらうだけですよ! そういう訳で、最後の成果だけいただいてスタコラサッサだぜ。

 

 

 

 …月までな!

 

 

 

「月!? ちょっ、榊博士、あの人何言ってるんですか!?」

 

「まさか…文字通り、ノヴァを月まで連れていく気かい?」

 

 

 

 そうなるね。とりあえず、これで終末捕食の危険は当分無くなるから、最大の脅威は去ったでショ。

 後は頑張ってアラガミ駆逐してくれい。

 

 話したい事は尽きないけど、そろそろ行かなきゃならん。

 んじゃ、上手く行ったらまた何時かね。

 

 

 

 それだけ言い放つと、かけられる声を無視してノヴァを上昇させていく。

 おうおう、流石に凄い勢いだ。ゲームのエンディングじゃ、あまり早く動いていたようには見えなかったが、実際には1時間足らずで月まで行っちゃいそうなスピードだもんな。シャトルよりも早ー……いや今の無し。あ、シャトルが飛んでるのが見える。

 

 下を見れば、もう詳細が見えないくらいに小さくなったエイジス島と極東が見える。

 

 

 

 …さて、そろそろかな? と言うか、そろそろじゃないと困る。幾らノヴァと同調している俺でも、宇宙空間で平然としていられるか、そして『戦えるか』分からない。

 周囲を警戒して、おかしな事が無いか気を配る。

 

 しかし、だからこそと言うべきか…あのクソッタレが出てきたのは、大気圏を抜けて宇宙空間に出てからだった。多分、ノヴァがこう……ブワッと華みたいに開いた辺りだったと思う。

 青い燐光を撒き散らし、ギョロリとした目玉を血走らせ、まるで悶えているかのように触腕を振り回す。

 

 

 

 我が怨敵、イヅチカナタ。

 

 

 予想通り出てきやがった。こいつが何故ここに居るのか、妙に苦しんでいるように見えるのかは、また今度考察するとしよう。

 

 

 

 とりあえず死ねよやぁぁぁぁぁ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …イカン、日記の回想だと言うのに、怒りが昂ぶりすぎてつい叫んでしまった。まぁ周囲には誰も居ないから、どれだけ騒いでも迷惑にはならないんだけど。

 

 

 結論から言うと、結局仕留める事はできなかった。

 だが以前に比べると、戦いらしい戦いはできたように思う。何せ今までは、対峙するだけで記憶やら何やらすっ飛んで行って、目の前のクソイヅチに殴りかかる事すら難しかったからな。

 俺にイヅチの力への耐性がついてきているのか、それとも妙に苦しげだったクソイヅチが十全に力を揮えなくなっているのか。暫く戦っている記憶があり、少なくとも一本は触腕を切り飛ばしてやった。そのまま落下していったから、鬼払はできなかったけども。

 まぁ、詳細はどうでもいいか。次は仕留めてやる。

 

 その後、気付いたら俺はここ……緑化した月面に大の字になって倒れ、地球を見上げていた。

 

 



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167話

7月頭に長期休暇を取れる事になりました。
本部の皆様のおかげッス…。

それはそれとして実家にPS4が無い為、スパロボとPS4本体以て帰る事になりそーです。

あと、ちょっとした問題に突き当たっています。
お暇でしたらご意見いただけると助かります…いやどうするかはもう決めちゃってるんですけど、他の方々の意見がどうなのか気になって。
昨日から活動報告に出してますんで、良ければご意見ください。なるべくカオスなのを。


神住月スパロボまであとちょっと日

 

 何日なのか全く分からなくなってしまったが、とりあえず新しい月に入ったって事にしよう。

 

 気になる事や疑問は多々あるが、まずはこの場所について。

 昨日の日記にも書いたが、ここは月面だ。しかも、月に不時着したノヴァの影響なのか、完全に緑の星になってしまっている。いやもう見事なまでに草木がボーボーだ。お手入れを怠ったあとのシモの毛くらいボーボーだ。いや具体的に誰のとは言わんが。

 

 ま、それは別におかしな事じゃない。月に植物が自生できるのかとか、そもそも空気があるのかとか、その辺は全てノヴァの仕業だ。

 ついでに言えば、重力も地球に居た頃と大差ない程度には感じている。これもノヴァの仕業なのか、それとも俺が情報生命体であるからなのかは分からないが。

 

 

 

 さて、一見すると自然が豊かに見えるこの星だが、実を言うとそうでもない。おかしな言い方になるが、あくまで人工的な環境…ノヴァ・俺という意思を通した結果、このような状況になったらしい。

 と言うのも、生えている植物の多くに見覚えがあるからだ。主にMH世界の植物だ。

 

 更におかしな点はと言うと、この星の中で生命らしい生命は、どうも俺だけらしいのだ。どれだけ歩き回っても、獣は勿論、虫も魚もいやしない。

 そのクセ、今のところはこの植物の星は、破綻らしい破綻を見せていないのだ。

 どういう訳だか、雨も降ってない、朝も夜もないのに葉っぱに露が垂れていたりする。全く水を受けていないにも関わらず、植物達は育つ一方。

 

 

 …どうなってんだろうな。動物が生まれてくる前の世界ってこうだったのか? 自分から動く者が無く、ただ草木が風に(月面だから吹いてないけど)揺れているだけ。

 

 

 考えても考えても答えは出ず、正否すら分からない僅かな知識を元に、ああじゃないのか、こうじゃないのかと考え続ける日々。率直に言うが、退屈極まりなかった。

 狩るべき相手も居ない、話をする相手も居ない、動く者一つ無いこの星。

 

 

 ああ、今の俺って、本当に一人っきりなんだな…って何となく思ったよ。

 

 

 

 それから暫くは何をする気にもならなかった。何かしたところで、まるで意味が無いからな。

 このままボーッとしてれば、餓死して討鬼伝世界に行けるかな…と思うくらい投槍だった。

 

 

 そんな時だ。

 不思議と腹が減らない事に気付いたのは。葉についた露を集めて飲んではいたが、考えてみりゃそれだけで足りる筈も無い。生命活動するのに最低限必要な分は集められてたけど、水が飲みたいという欲求を満足させる量では決してなかった。

 飯だってそうだ。成っているよく分からない果物とか野菜とか食ってはいたけど、とにかくココじゃ肉が無い。タンパク質が足りん。それも、できれば自分で狩った奴がよかったが。

 

 

 

 今更ながらに、どうしてほぼ飲まず食わずで平然としていられるのか、疑問を持った。

 何時ぞやの山篭りの成果が出て、とうとう霞(DOA的な意味で)を食えるようになったのか。萌をエネルギー源に出来る領域まで辿り着いたのか。エロがエネルギー源なのは今更だ。

 だが二次元(3Dだが)の良さは分かるが、今の俺はリアルの女の方がいい。ついでに言うと、俺はどっちかっつーとあやね派だった。

 

 

 …戯言はともかく、とにかく今の俺は何処かからエネルギーを供給されている身のようだ。

 何処から?

 

 ここは地球じゃない。死の星…は言いすぎだが、生命なんて元々全く無かった月なのだ。…ちなみに探し回ってみたが、月の都や遺跡は無かった。月の裏側まで行ったが、隕石バカスカ落っこちてきて死ぬかと思ったよ。そこでも平然と繁殖している植物達マジパネェ。

 という事は?

 

 暫し悩んだが、ここには俺以外にも一体だけ生命体があったのを思い出した。

 そう、ノヴァだ。

 

 俺が干渉し、月まで運んできた超ド級のアラガミ。生命力という点で考えれば、折り紙つきだろう。

 考えてみれば、ノヴァに干渉し、ここまで来た後も、その接続を切った覚えが無い。ノヴァにそのつもりがあるのかは知らないが、俺はノヴァと一つの生命体状態になっている訳だ。

 別に切り離してもいいんだが…そうなるとガチで餓死しそうだしな。

 

 何より、この状況は興味深い。

 ノヴァは月を包んで根付き、そして馴染んでいっている。月と同化しようとしているようなものだ。

 

 そして、俺はそのノヴァと繋がっている。地球で言えば、龍脈や霊脈と繋がっているようなものだ。しかも、月のエネルギー(どんなのがあるのか分からんけど)を独り占めしている状態。

 

 

 これは…上手い事やれば、相当なパワーアップが出来るんじゃないか?

 

 

 

神住月連休の日は鍋が美味い日

 

 

 その辺の草木=ノヴァ。ノヴァ=月。

 この図式を元に、ノヴァに干渉するイメージでやってみたんだが…うん、スゲェなコレ。アホみたいにデカいエネルギーを感じる。

 ただ、地球の地脈から感じるようなエネルギーとはちょっと違うな。やっぱり月だからか? 魔力が満ちているってのが定説だしな。霊力は使ってきたが、魔力ってどういうモンじゃろ。

 

 まーそれは何時か魔法使いか魔術師にでも会った時に聞いてみるとして、最近の俺はとにかく瞑想を続けている。ノヴァを通して、この月のエネルギーを身に受ける為だ。

 そんな事して大丈夫かなー、月の生命力が枯れ果てたりしないかなーと最初は心配したんだが…まーなんだ、蟻がエベレストを食い潰せるかって話だよ。普通の蟻だぞ。キメラアントでもなきゃ、七英雄さえ戦うのを避けた「アリだー!」じゃないぞ。 

 

 森羅万象に満ちる力を、人間一人がどうにかしようったって無理な話さ。惑星一つのエネルギーを、俺一人が吸い取ったところでどれだけの差が出るよ。FF7みたいに、大規模かつ無駄の多そうな施設で、恒常的に力を吸い上げてれば別だろうけどね。

 

 

 

 まぁ、それでも俺にとって有益なのは間違いない。上質、大量の力の触れ続ける事でそれに適応し、エネルギーを溜め込み、練り上げ、自分に返し、月とノヴァに還す。

 …オカルト版真言立川流の、ちょっとどころではない応用だ。

 

 …別に月を犯しているのではない。………でも月って何かと女神扱いされるよな…。

 やべ、ここんとこずっと禁欲状態だったから、滾ってきたじゃないか。

 

 瞑想に集中しすぎて、ふと気がつけば体に蔦が巻きついてるレベルだったからなぁ…。本格的に時間経過が分からなくなってきた。

 うーん、一度ムラっと来たらムラムラムラっと燃え上がってきたじゃないか。だが一人で処理するのも何だし。

 

 

 

 …瞑想してれば、これも治まるかな。究極生物はSEXしないって言うし…いやダメだ、仮に瞑想だけでその領域までいけるとしても、俺は御免だ。人生の潤いが無くなってしまう。

 

 

 

 ぐぬぅ…生殖器だって、一ヶ月も使わなきゃ衰えるんだよな。それだけじゃなく、ここは平和すぎるから、狩りの勘だって鈍ってしまいそうだ。

 体を動かしてはいるけど、飢えや敵意を感じないこともあり、どうにも緊張感が無い。

 

 

 

 …何かいい暇潰しでもないものか。

 

 

 あー、アリサやレアとかどうしてっかなぁ…。アリサが居るから、俺が居なくなってもレアはラケル博士の所に戻ったりしないと思うが。

 支部長だって気になるな。あの人がそうそう隠居するとは思えないから、またトップに立って何かやろうとするか…いや、案外裏方に回るかもしれないな。

 シオは何をしているだろうか。ソーマにナニをされているだろうか。既成事実、逆レ乙。

 コウタはまた死亡フラグを立ててはヘシ折っているだろうか。カノンは誤射姫から暗殺姫になっただろうか。

 リンドウさんはサクヤさんにとっ掴まっただろうか。

 榊博士は、極東支部を巨大ロボッゲフンゲフン

 リッカさんは俺が残した神機のデータを使ってキメラゴフンゴフン

 

 

 ああ、ムラムラするだけじゃなくて、思い出したら色々と気になってきたじゃないか。

 考えてみりゃ、終末捕食を防いで当分起きなくした上、誰も死んでない最高に近いエンドだというのに、俺がそこに居ないんじゃな…。いやアリサやレアが泣いていると思うと、ハッピーエンドとは言えないが。

 

 勿論、心残りはまだまだある。

 まず何より気になるのがロミオのその後。血の力には目覚めたのか、そして一人遊びを脱却できたのか。

 GE2のストーリーはどうなるか。極東から広まり始めた植物は何処まで伸びるか。そういや美味しくなったアラガミとか、芽を生やしているアラガミも居たな。

 

 クソイヅチを叩き切る為の準備だってしたかったし、神機の力をもっと引き出す方法だって研究したい。

 

 

 

 あー、やる事が無い…というより出来る事が無いのが、こんなに辛いとは。

 

 

 

 

神住月最近、感想返しを忘れそうになる事が多い日

 

 

 瞑想の途中で寝てしまった。うーん、なんかおかしいな…確かに瞑想してても、限界に来れば寝る事もあるし、夢も見るけど、なんかそういうカンジじゃなかったような。

 まぁ、思い出せない夢だし、いいか。

 

 とりあえず、この場所のエネルギーを使って、俺の体を作りかえるだけ作り変えてみようと思う。アラガミ化するって意味じゃなく、こう…なんだ、細胞の一つ一つから強靭にするというか。霊的にも物理的にも練り上げるというか。

 ま、下手な事すると即死だけどな。いくら頑丈だからって、肺や心臓をいきなり金属製に変えた日にゃ、血も酸素も回らなくなってオダブツするのがオチだ。

 

 

 最終的な目標は、月から地球に向かってフライハイ…あ、宇宙だから高いとか低いとか無いわ…とにかく月と地球を移動する事ができる手段を作る事。分かりやすく言えば、羽か、ブースターか…。更に大気圏を突破する為の装甲やらナニやら。

 そういうのを作って、月から帰還する。

 エネルギー量は膨大だし、上手く使えば月面から地球に砲弾みたくすっ飛んでいく事はできると思う。軌道計算を間違うと、カーズ様みたく考えるのを止めるハメになってしまいそうだが。

 やれやれ、どれくらいかかるやら。

 

 

 まぁ、久々に霊力の基礎修行を行うのが楽しいって思えたし、そんなに苦ではないけどな。

 地力ってのは一定以上には中々上がらなくなっているものだが、ここでの瞑想のお蔭で霊力量が増える増える。更に、ブッパしても誰にも迷惑かけないから、遠慮なく力を振るう練習ができる。

 月に居る内に、ちゃんと力の手綱を取れるようにならんと。…いつまで居る事になるのかは、誰にも分からないが。

 

 

 まぁいいや。

 良くも悪くも、ここは刺激がとにかく少ない。嫌が応にも瞑想状態に入らざるを得ないんだし、もういっそネテロ会長のような植物の領域でも目指してみるか。手フェチの殺人鬼はアカンな。だってここにある手って自分のだけだし。

 

 

 

 

神住月むしろ投稿予約日を忘れる事が多い日

 

 

 かゆ   うま

 

 

 

 

神住月新しい感想を頂いているのを見てから、「今日投稿だったんだ」と思い出す日

 

 

 かゆうまは流石に冗談。体の変換にしくじったら、本当になりかねんけど。

 そうなったら、月にはウサギじゃなくてゾンビが住んでいるんだよって事になるね! 桜の下の死体と違って、美しさも幻想もありゃせんな。

 

 それはともかく、また瞑想する毎に夢をみるようになってきた。明らかに普通の夢じゃねーよな。

 昨日の夢は、どっかの廃墟をウロウロしていた。視点の高さと歩く時の上下するリズムからして、四足歩行だな。一度月を見上げて咆哮したが…聞いた事の無い声だな。

 流石に廃墟の映像だけだと、何処なのかはわからんけど……。

 

 この夢が何らかの意味を持った夢だとすると。

 

 月に居る俺が、地球の事を察知して見た夢で。動いているのは明らかに四足歩行アラガミ。しかも、俺が知らない鳴き声…つまり新種のアラガミか。

 

 

 ロクでもない事になる未来しか見えんなぁ…。アリサ達、大丈夫だろうか…。

 

 

 

 

 

 

神住月台場カノン視点日

 

 

 どうもみなさま、こんにちは!

 台場カノンと申します。

 

 早いもので、あの大事件からもう一ヶ月以上が過ぎました。

 色々と…そう、色々とありました。アーク計画に反対した皆さんと賛同した皆さんの間で一触即発状態になったり、終末捕食の危機が無くなりはしたけどもその後の蟠りが残っていたり。私も何度か小競り合いに巻き込まれて……ふと気がつけば、周囲の皆さんが全て倒れ伏していました。あれから、険悪な雰囲気になっても私が近付くとすぐに解散してしまうのですが…何なんでしょう?

 そういうのを片っ端から火消しして回ったのは、誰であろうシックザール支部長でした。「死に損ねた者の、せめてもの尻拭い」と言っていましたが…。

 

 正直、私も支部長に対して含むモノがあるのは否定できません。シオちゃんを生贄にしようとしたり、世界を滅ぼす終末捕食を起こそうとしたり。

 だけども、それを全て否定する事もできません。後から詳しい話を聞いたのですが、終末捕食が起こる事は、いわば自然の成り行きのようなもので、防ぐ事はできないと考えられていたそうなのです。シックザール支部長の計画は、世界を滅ぼす為ではなく、滅びが避けられないのなら少しでもマシな結果を得ようとした計画でした。それでも、やっぱり賛同はできませんけども…。

 

 

 アーク計画は失敗に終わりましたが、全てが阻止された訳ではありません。

 終末捕食は確かに起きて…ですが、あの人が…教官先生が、月まで終末捕食を持っていってしまいました。

 結果的には、アラガミの居ない世界こそ実現できなかったものの、世界を滅ぼす一番の脅威は取り除く事が出来た……らしいです。

 

 これについて、シックザール支部長は何だか難しい取引とか立ち回りをして、責任をとって辞任…という自体を回避してしまったようです。

 私達も、このまま続けさせていいのか? 何かしらケジメは必要なんじゃないか? という意見は出たものの、じゃあ誰が次に支部長をやるんだ、って話になると…。

 私は他所の事を知らないので分かりませんが、極東支部は他所の地区からは地獄のように恐れられているそうです。例え出世できるとしても、そんな所の支部長になんて誰がなるか…と言うのが一般論だそうです。

 

 人材を引っ張ってこれないのであれば、今居る人に任せるしかないのですが…支部長役が務まりそうな人と言えば、榊博士くらいなんです。

 榊博士か、シックザール支部長か。…アーク計画に賛同するか否か以上の、究極の選択でした。結局、「榊博士をトップにすると、権力をカサに来てとんでもない実験に協力させられそうだから、シックザール支部長の方がマシ」という結論に至りました。

 「榊博士よりマシ」と評されたシックザール支部長は、ちょっと傷ついたような顔をしていましたが。

 

 

 

 とりあえず、極東支部は今日も平和です。アラガミの断末魔とゴッドイーターの悲鳴も響いていますが。

 あの日から眠り続けていたシオちゃんも、一週間程度で目出度く目を覚まし、今では極東支部のマスコットキャラと化しつつあります。実はアラガミ? 誰も信じていません。信じたとしても、シオちゃんの魅力に当てられて「こんなカワイイ子がアラガミの筈が無い」と現実から目を逸らします。

 とは言え、終末捕食を起こす特異点である事は否定できず…その辺りの事を、榊博士に聞いてみた事があります。

 

 答えは「大丈夫」でした。特異点はあくまで切っ掛けであり、本来の終末捕食は、アラガミが互いを食らいあって成長し、あの時に見たノヴァのような大きさに成長し、そこに特異点が接触してようやく起きる現象なのだそうです。

 アラガミはまだまだお互いを食べ続けている段階で、終末捕食を起こすに足るアラガミは生まれていない。

 …あの、それってアーク計画を起こさなければ、終末捕食は……いえ、そうですね。いつ起こるかわからないのに加え、いつか必ず起こる事。であれば、こちらでそのタイミングを決めてしまったほうがマシ、という事だったんですね。

 

 

 そうそう、終末捕食について…というより、それを起こした教官先生の事なんですが。あの人が何を考えて終末捕食を起こしたのか…起こしたと言いますか、起きたけど被害を防いだと言いますか。

 とりあえず、アリサさんとレア博士は、あの事件の直後は自殺するんじゃないかと思うくらいに落ち込んでいました。

 無理もないですよね。どうにも、3人はフクザツな関係だったようですし。

 …やっぱりアレでしょうか、『大人』な関係なんでしょうか。それとも昼ドラ的な関係なんでしょうか。ドロドロしたのって、あんまり好きじゃありません。お菓子も美味しく食べられなくなりますから。

 

 とにかく、暫く落ち込んでいたお二人(自殺阻止の為監視付き)ですが、教官先生が残したメールの下書きを読んで、ちょっと元気を取り戻したようです。

 詳しい事までは教えてくれませんでしたが、榊博士とお二人の話を偶然聞いてしまったところ…。

 

 

 

 

 やはり、教官先生は終末捕食を起こす事を目論んでいたようです。最初に榊博士やシックザール支部長と接触したのも、特異点モドキを名乗り、終末捕食を起こす事ができる存在として…だとか。

 実際、それは目の前で実行しましたから、信じるしかないんですけど。何を考えていたのか、世界を滅ぼそうとしていたのか、何がどうなってノヴァごと月まで出発するなんて超展開になったのか、その辺は全く知りませんでした。

 

 榊博士曰く、教官先生は独自の方法で終末捕食を…回避しようとしていたんだろう、という事でした。

 シックザール支部長は終末捕食を利用し、多くの犠牲という対価を払って、アラガミの居ない世界を作ろうとしていました。

 榊博士は、シオちゃんのように特異点を人間として育て、終末捕食をコントロールさせて防ぎ、行く行くはアラガミとの共存を目指していたそうです。

 

 そして教官先生は、終末捕食を起こしながらも、自分で制御し、犠牲を最小限で抑え、当分終末捕食が起こらないようにするつもりでした。

 

 

 残されたメッセージにもあったそうですが、教官先生の方法が上手くいけば、終末捕食が発生しつつも世界は滅びず、更に死人も出ずに済みます。ただしアラガミは居なくならない、という結果になるそうです。

 事実、そうなりましたね。…教官先生自身の生死は不明ですが。

 三者三様の方法で、どれが正解なのかは分かりませんが、結果的には教官先生の一人勝ち…なんでしょうか?

 

 

 アリサさんもレア博士も、それを知ってから幾らか立ち直られたようです。

 好きな人が世界を滅ぼそうとしたんじゃなくて、救おうとしていた…と思った方が、まだ気持ちは楽でしょう。…一番肝心の、その好きな人についてですが…榊博士は、教官先生はただ死んだという訳ではないと考えています。

 少なくとも、ノヴァが月に到着するまでは、教官先生が制御していたと考えているようです。

 

 それはつまり、教官先生は宇宙に出てもまだ生きていたという事で…。空気圧も酸素もなし、-270℃の世界の世界でどうやって生きていけるのか、という疑問もありますが、その辺はノヴァがどうにかしたんだろう、と言うのが榊博士の見解です。

 そして、月に不時着した後は、仮死状態かコールドスリープ状態か…とにかく死んではいませんが、活動もしてない状態だと考えているようです。

 極端な話、それこそスペースシャトルで月まで行けば、教官先生を回収する事もできそうです。

 

 それを聞いて、アリサさんとレア博士は、いつか迎えにいくんだ…と息巻いているようなのですが、使えるスペースシャトルはアーク計画の為に全部使っちゃってるんですよね…。シャトル自体は無事に戻ってきていますけど、打ち上げに使う機械をまた1から組み上げなければいけません。

 どれだけ時間がかかるか…。でもそんなの関係ない、とばかりに気合を入れていました。

 私も出来る限りはお手伝いするつもりです。教官先生には、私もお世話になりましたし…。

 

 ……正直、ちょっとだけ羨ましいです。あんな風に誰かを好きになって、迷わず突き進める事が。

 ただ、フタマタ公認するのはあんまり羨ましくないです…。お付き合いするなら、誠実な人がいいです。どうして教官先生、そんなにモテるんでしょうか…。

 

 

 

 そこは蓼食う虫も好き好きという事にしておいて、ちょっと気になる事があります。

 と言うのも、最近妙なアラガミの噂を聞くんです。新種のアラガミが産まれるのは、極東に限っては然程珍しい事ではないのですけど…ああ、その後絶滅せずに生き残るのは珍しいそうですね。

 

 それはさておき、そのアラガミは何と言いますか…旧世界にあった、特撮ヒーローのような姿をしているそうです。人型のアラガミなら、シユウの類かと思いましたが、明らかに違います。

 目撃した人の証言によると、両腕にブレードらしきモノがついており、2本の角、何だかトゲトゲした体格。

 色は…目撃者によって違いますね。朝方だったり夕方だったり真夜中だったりするそうなので、日や暗闇の影響かもしれません。

 

 そのアラガミは、何も無い所にボーッと突っ立っていたそうです。日向ぼっこでもしていたんでしょうか? それとも、お腹が空いて動けないんでしょうか。

 また、その後何をするでもなく、ゴッドイーターや、或いは他のアラガミが近付くと、煙のように消えてしまったとか。

 真偽の程はともかくとして、私、そのアラガミにちょっと覚えがあります。一瞬だけですけど。

 

 そう、あの終末捕食の日、教官先生が一瞬だけ姿を変えた、アレにそっくりなんです。

 これはシックザール支部長も榊博士も最優先で確認したそうです。最初に教官先生が、お二人に送ってきた映像があるそうなのですが、その静止画像を例のアラガミの目撃者に見せ、裏付けを取ったとか。

 

 

 これってどういう事なんでしょう?

 

 教官先生は、確かに月に行ってしまった筈です。あの人の事ですから、大気圏くらいから自由落下して脱出するくらいの事はやっても違和感はありませんが、それならアリサさんやレア博士に連絡を入れると思うんですが。

 仮にそうだったとしても、謎のアラガミ出現の原因とは思えません。

 

 …ま、まさか教官先生のオバケだったり…? そういえばレア博士が以前居た場所では、不思議な力を使ってなにやら研究をしていたというお話ですし、所謂霊能力があってもおかしくないかも…。

 はっ、ひょっとして、戦いになると私の記憶が度々飛ぶも、悪霊的な何かに取り憑かれているからなんでしょうか!?

 

 

 …いえ、それは無いですね。記憶が飛んだ後は、大抵なんだかすっきりしてますし。悪霊に憑かれているのに気分がよくなる筈ありません。

 

 

 

 じゃ、どういう事でしょうか?

 

 なんだか分からない事に、シオちゃんはそのアラガミ…幻影?…について、何やら理解している節があるそうなのですが、それを言葉に出来ていません。

 「ここには居ないぞ、あそこに居るぞー。でも寝てるぞ」だそうです。ソーマさんも首を傾げています。

 …ソーマさんがそんな事でどうするんですか、シオちゃん係りなんだからちゃんと理解してあげてください。

 

 シオちゃん係り? その名の通り、シオちゃんのおはようからオヤスミまでを見守って、将来は一緒のお墓に入る係りの事ですが。

 

 

 

 …からかい半分で言ったんですが、殴られませんでした。これは本格的にくっつく予感! 年齢差がヤバい領域だけど、ドロドロした愛憎劇も無い、ステキな異種間恋愛……! やだ…お菓子が進んじゃう…!

 

 

 

 まー真面目な話、シオちゃんの言葉を一番理解できるのはソーマさんでは? 榊博士とかだと、理解しても私達に理解できるよう説明してくれるか怪しいですし。

 それに、榊博士に先に解読されちゃったら悔しくありません?

 



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168話

ヒャア! スパロボだー!
明後日から実家に戻りますんで、暫くレス返しできないかもしれません。

どうでもいい事ですが、投稿感覚を1日間違えた。まぁいいか。

追記
前回の活動報告に、レス返し? いや酔った勢いで何か返してたんですが…どうすんだコレ…。


神住月レア視点日

 

 

 どうも、レア・クラウディスよ。

 この2ヶ月くらいの間で、色々な意味で立場が激変しているけど、まぁ悪くはないわね。…今も、最悪ではないという意味では。

 

 あの人が終末捕食を目論んでいる、なんて言われた時には信じ難かったけど…。でも考えてみれば、シックザール支部長からの調査依頼からして、「本当に彼の力で終末捕食は起きるのか」だったものね。…今思うと、気付かなかった私ってホントにおバカさん…。

 こう言うとアリサは慰めてくれるけどね。終末捕食なんて、一般的には机上の空論、文字通り終末思想の戯言としか思われてないし、増してそれが出来るからって、普通は本当に世界を滅ぼそうなんて考えない…と。

 まぁ、その世界を滅ぼそうとする、と言うのは間違いだったんだけども。

 

 むしろあの人は、世界を残す為に終末捕食を起こそうとしていた。それを話してくれなかった事にも、榊博士からの情報を鵜呑みにしてしまった自分にも、色々と思うところはあるけれど…。

 最悪の事態…あの人の手によって世界が滅びた訳でもなく、あの人自身が死んでいるとも限らず、良くも無いけど最悪とまでは言わないくらいの現状ね。

 とりあえず、あの人はどうやら月に居るようだし、いつか二人で殴りに行こう、とアリサと誓っているわ。

 

 

 …ラケルの事も気になるけれど…私はもう戻る気は無いわ。あの人からも、アリサからももう離れられないもの。

 確証が無いとはいえ、あの子は私を………いえ、やめましょう。どの道、あの子に縛られる生き方には、耐えられない。

 

 

 さて、私の事は置いておいて。

 最近、極東で噂される幻のアラガミについてなんだけど…終末捕食に立ち会ったメンバー全員に、現在わかっている限りの情報が渡されているわ。

 とは言え、姿形と、触れる事さえできないという現状だけなんだけども。

 

 もしもこのアラガミがあの人と何らかの関係があるなら、絶対に知りたい。

 

 

 

 

 …そうでなくても、私・榊博士・シックザール支部長の3者間で、「絶対にロクでもない事の前触れ。対策必須」という認識が共通しているんだけどね。

 

 

 

 だって、モドキとは言え特異点ソックリのアラガミよ? しかも目撃された場所は、基本的にエイジス島の近く。更に言うなら、そのアラガミが目撃された近くには…これはまだ確定情報じゃないけども、新種のアラガミが居た形跡がある、と。

 絶対何かあるわ。これで何事も起こらなかったら、映画の観客ならスクリーンにコーラを投げつけ椅子を壊し、小説であれば即打ち切り、漫画だったら……ソードマスターヤマト並みの上手いまとめをしないと、漫画家生命絶たれるわね。

 尤も、現実で本当に何も無かったら、拍手喝采モノだけど。散々心配して走り回って、出てきたのはネズミ一匹。後で笑い話にでもすればいいわ。

 

 特異点モドキとしての性質を無くして、単純に姿と能力をある程度劣化させて再現したものだとしても、二人から口を揃えて「どう考えても超危険なアラガミだ」と断言されたわ。

 あの姿での戦闘能力を検証した事があったり、普通に考えたら「食われてこい」って言ってるのに等しい特務に送り出したりしたのに、鼻歌交じりでお土産(他のアラガミのコア)まで持って帰ってきた事が何度もあったとか。

 …実験はともかく、特務については問いただしたい所だけど……出来る人材にミッションを振るのも、支部長の仕事ではあるのよね…。

 

 ともかく、能力が1割程度だったとしても、下手なゴッドイーターに接触したら速攻で十字を切る羽目になるわね。ひょっとしたら、ゴッドイーターに噛み付く事でリンクバーストするかもしれない…。

 

 

 リンクバーストするアラガミ…自分で考えておいてなんだけど、ゾッとしないわ。Lv3になられると特に。

 

 さて、まずは何はともあれ実物を見たい所ね。

 次に何処に現れるか? …次に…かどうかはともかくとして、一番怪しいのはエイジス跡地。何だかんだであそこは荒れ果てたままになっていて、片付けの手も付けられていない。

 最後にあの人が居た場所だし…科学的な考え方ではないけど、「縁が強い」とでも言うのかしら。

 

 でもあそこ、今は物凄い数のアラガミが集まっていて、調査どころか片付けも難しい状況なのよね。

 リンドウさん曰く、「あそこの深部まで行って戻ってくるとか、下手な特務より難しい」だそうよ。…ちなみに今までリンドウさんに任せていた特務の一部が公開された時、支部長は窓の外に目を向けて無言だったわ。

 元々、特異点だったシオちゃんを誘き寄せる為の仕掛けがあったそうなのだけど、多分それが普通のアラガミにも作用するようになっちゃったのね。

 

 

 さて、そうなると本格的にどうしたものかしら。

 一応、調査にいける人材が居ないでもないのよね。極東随一のゴッドイーターのリンドウさんでも厳しくても、あの二人なら…アリサとカノンさんなら、充分成功の目はある。

 どういう訳だかあの二人、夜間戦闘が異様に強いのよね、特にカノンさんが。

 でも、やっぱり危険な作業だし、娘を黙ってそれに送り出すのは気が引ける。

 

 シオちゃんなら、同じアラガミって事で安全に調査できるのでは? という意見もあったけど、アラガミ同士の食らい合いなんて珍しくもないし、そもそもあの子に調査なんで出来るかどうか。何か分かった事があったとしても、それを私達が読み取れないんじゃ意味が無い。

 

 

 

 結局、ちょっとずつ調査を進めるか、問題のアラガミに偶然遭遇する事を期待するしかない、か…。

 手遅れにならなければいいんだけど。

 

 

 

 

神住月アリサ視点日

 

 

 どうも、アリサです。最近、義母ことレア博士の苗字を自己紹介の中に組み込むべきか悩んでいます。

 

 早いもので、地球の運命を賭けたあの戦い…実際には戦いにまで発展しませんでしたが…からもう一ヶ月以上が経ちました。

 あの直後は色々とショックを受けていましたが、あの人の真意を知る事が出来た事もあり、また再会の可能性があると信じられた事で、何とか立ち直れました。

 

 他にも色々と問題はありましたが、まぁ…悪化しているモノは少ないと言っていいでしょう。

 ソーマと支部長のフクザツな親子関係も、時折ではありますが話し合いの機会を設けているようです。シオの今後について、榊博士や支部長に助言を求めている姿も何度か見ました。

 極東のアラガミは相変わらず地獄のようですが、それはぶっちゃけいつもの事です。アラガミ強くなるのと同時に、幾つもの新技術…その幾つかは、あの人が齎したモノらしいです…も開発され、対抗策が打ち出されています。

 

 名目上、ゴッドイーターとして扱われているシオちゃんは、日に日に賢くなっている…ようなのですが、性格上、頭を使うのはあまり好きではないようです。毎日好奇心が赴くままに極東支部を歩き回っています。…アラガミだと気付かれないか冷や冷やしていますが、どういう訳だか今のところ大丈夫ですね。

 最近では幾つも歌を覚え、その辺で歌っている所を何度も目撃されています。もう完全にマスコットキャラですね。

 音楽を流していると、それに興味を覚えるのか、近寄ってきてじっと耳を済ませています。…この習性が誘拐等に利用されなければいいのですが、その辺の警備はソーマに期待しましょう。

 ちなみに、聞いていた歌は2,3回で全て覚えてしまい、次の日くらいからその歌を歌い始めます。

 かく言う私も、最近ハマっている葦原ユノの歌を聞かせて歌わせてみようと画策していますが…まぁそれは置いといて。

 

 

 

 最近噂になっている謎のアラガミの事です。

 あの人が変身した姿にソックリでした。あの時の事は、今でも目に焼きついています。話には聞いていましたが、本当にアラガミに変わるなんて…。

 べ、別にそれで愛情が無くなる訳じゃありませんよ? ただ、子供が出来たときに大丈夫かな、とは想いますが。

 

 正直、私とっても気になります。

 エイジス島の事も合わせて調べに行きたいのですが、ママ…もといレア博士が危険だと難色を示しています。危険なのは分かるんですが、私とカノンさんなら最低限の戦闘だけで帰ってこれると思うんですけどね…。

 それでも心配、というのも分からないつもりではありませんが。

 

 

 何処かで運よく遭遇できないでしょうか…。と思っていたら、任務に出ていたコウタがまさかの遭遇。

 くっ、ママに…せめて一時期指示していたカノンさんに遭遇するならまだ分かりますが、何故にコウタ…。接点殆ど無いじゃないですか。妹のノゾミちゃんならともかく。

 何れにせよ、情報を得る前に、ある程度近寄ったらフッと消えてしまったそうです。

 遭遇した意味が無いじゃないですか…。

 

 

 そう思っていたのですが、榊博士は何やらピンと来たようでした。

 そして出された指示は、何故か居住区や防壁外にある、菜園の見回り。何故?

 いえ、確かに菜園は元はあの人が始めたモノだそうですが。

 

 

 結論から言えば、この指示は大正解だったようです。

 居住区には流石に現れなかったようですが、それらしいアラガミの目撃情報が幾つか手に入りました。

 曰く、居住区外に植えている菜園の近くに頻繁に現れ、自分以外のアラガミが菜園に近付こうとすると撃退して消えていくとか。

 

 少なくとも、単なる幻ではありませんね。他に気になる事としては、複数同時に出現した事はあるか、また人間が近付いたらどうなるかなのですが…。

 とりあえずは接触を持たなければ、どうしようもありません。

 

 接触には細心の注意が必要です。最悪、あの人と同等の戦力が敵に回ると思わないと…。そんな相手なのに、調査の為に奇襲も先制攻撃も禁止とか、率直に言えばやってられませんね。

 

 

 接触するとしたら私が一番の候補には違いありません。何度も観応現象で夢に入られた身ですし、直接触れたらあの人の何かが感応現象で分かるかもしれませんし。

 そうでなくても、他人任せ…特に女性にはさせたくありません。また妙な理屈で暴走して、夢の中の私にしたような事をしでかしたら、堪ったものじゃありません。夢の中だと薄々気付いていた私と違いますし、何より普通に考えればアラガミに犯されるようなものです。一生モノのトラウマですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな訳でアラガミ防壁周辺を見回り中に、上手く問題のアラガミと遭遇できた訳ですが…。残念ながら接触はできませんでした。

 とある曲がり角を曲がったら、その正面にボーッと突っ立っていまして。隠れるヒマも、気配を察知する事もできませんでした。

 

 近付く事もできず、スーッと薄くなって消えていきました。

 ですがやはり幻でもないようで、謎のアラガミが立っていた場所を見てみると、僅かにですが足跡があります。

 

 

 それと…これは気のせいだったのでしょうか? ほんの少しですが、私を見た時に驚いたような雰囲気が…あったような無かったような…。

 顔が完全に人間じゃなくなってますから、表情が分からないんですよ。

 ただ、これが私の勘違いではないとしたら、近くまで寄った人間に危害を加えず姿を消し、そして私という個体を見て何かしらのリアクションをした…。

 

 

 私を認識した? 記憶があるのでしょうか?

 

 という事はやはりあの人本人? でも何故地球に? そして何故現れては消えるのか。

 

 

 うーん…やっぱりヒーローの考えは分かりません。癪ですけど、ママ…もといレア博士に考察を任せるしかないんでしょうか。

 

 

 

 

 

神住月実家に戻る前に部屋を片付けないと日

 

 

 ヨハネス・シックザールだ。私の立場については、大まかな所は知っていると思うので、細かい記述は省かせてもらう。

 自分で言うのもなんだが、私も大概厚かましい男らしい。

 世界を壊滅させようとして失敗しておきながら、未だにのうのうと極東支部の支部長として座している。

 極東支部内部では、ペイラーよりマシという意見統一が行われ(遺憾な事である)、外部からは…少々影響力を削られたものの、さしたる問題はない。

 

 アーク計画そのものこそ失敗に終わったものの、終末捕食という何より危険な要素を封じ込める事には成功した…という筋書きになっている。

 ここに至るまで色々な遣り取りがあったものだが、健全な生活を送ろうと思うのならば知らない方がいい事だ。知れば必死に生きるのがバカらしくなるぞ…全く…。自分でやっておきながら、酷い話もあったものだ…。

 

 いつぞや彼が言っていたように、我々のような人種は死すべきところで死ねないらしい。その為…という訳でもなかったが、アーク計画後の保身も考えておいたのが良かったのか悪かったのか。この悪夢のような現実で、私はまだ足掻かねばならないらしい。

 

 

 

 

 それはさておき、どうやら彼も死ぬべきところで死ねない人種らしい。

 誰が言ったのだったか、「死んだ後も人生は続く」という言葉が、至言だな。ただし皮肉の。

 

 彼の姿を模しているのか、或いは彼に関わりのある何かなのか、さもなくば本人か。

 彼そっくりのアラガミが出没したという情報が幾つも上がってきている。彼の性質を考えるに、明らかに天変地異に近い…それこそ、第二次終末捕食を危惧する必要さえある。

 

 別に彼に含むモノがあるのではない。今以て、私は彼を信頼も信用もしていないが、彼は小難しい事や陰謀を企てるのに、致命的に向いてない人種である事は確信している。

 予想外の事を幾つもしでかすが、本人はよかれと思ってやっている。そしてその後の影響を考慮していない、或いは過小評価する。

 …率直に言うが、一番危険な人種だ。地獄への道は善意で舗装されていると言うが、舗装どころか開拓するのは間違いなく彼のような人種である。

 

 

 それに当て嵌めて考えると…終末捕食を防いだのはいい。私の計画とは大幅に違い、そして実にあっけなく盛り上がりを台無しにして阻止してくれたが、確かに終末捕食が起きる時期は大幅に遠くなっただろう。

 だが、その対価が彼の身だけで済む筈がない。

 確実に、何かしらとんでもない騒動の種が、彼の足跡の何処かに芽吹いている。

 

 内心で戦々恐々していた所に、今回の報告だ。必ず何かがある。

 

 

 

 さて、アリサ君から今までよりも幾らか具体的な…客観的とは言いづらい情報だったが…報告があがり、私とペイラーは執務室で話しこんでいる。

 …思えば、こうしてペイラーと同じテーマについて議論するも久しぶりだ。結局、今まで私は一度もペイラーに勝てていないのだな。

 

 

「アリサ君の顔を見て驚いた、ねぇ…。ペイラー、君、アラガミの表情って分かるかい?」

 

「感情がある事はほぼ確定している。だが、少なくとも彼の表情を読み取るのは私には不可能だ。

 ペイラーこそどうなのだ。何度も研究の為、彼を変身させたり話し合ったりしていただろう」

 

「正直、私には無理だね。彼、意外と表情を見せてくれないんだよ」

 

 

 …ペイラーが警戒されているだけではないか? …私もか。

 

 

「だが、真に重要なのはそこではない。彼は月へと、ノヴァと共に旅立った。その彼が、もしこの地に何かしらの影響を及ぼすことが出来るのであれば…」

 

「ノヴァ絡みの可能性が非情に高い、と言いたい訳だ。それについては、私も異論は無いね。レア博士から聞いたんだけど、彼が使っていた血の力は…所謂、呪術? かつて信仰されていたオカルト的な手管に通じるものが多いらしい。誰かを呪う為、相手の髪や爪と言った体の一部を通して力を送る、というのは古今東西珍しい手法ではないよ」

 

「その真偽はともかく、そのような性質があるのであれば…彼自身が月に居ながらにして、地球に姿を現す事が出来るかもしれん。…ノヴァを通じて」

 

 

 確かに、ノヴァは彼が月まで連れて行った。だが、その全てがこの地から去った訳ではない。

 微細な破片が残っている可能性は、非情に高い。未だにエイジスに、アラガミが引き寄せられるのがその証拠だ。

 

 どんな事でもそうだが、準備は長く、行うのは一瞬、そして後腐れは準備以上に長引くものだ。

 後腐れ…つまりノヴァの欠片が、何らかの切っ掛けで活動を再開したら?

 恐らく、ノヴァは再び完全体になろうとするだろう。ただし、今度は私の手でコントロールされる事も保護される事もなく、野生のアラガミのように自らの牙で獲物を求めながら。

 

 今度はどんな形に進化するか、想像もつかん。また、特異点、特異点モドキが切っ掛けにならなければ、終末捕食は起きないと思うが・・・その特異点モドキが何をするやら。

 ペイラーが言うように、ノヴァとその残滓を通して何かしらの力を送ってきているとして、それを意識してやっているのかさえ怪しい。目撃情報では、大抵は何もせずに突っ立っているか、近付いたアラガミを排除するだけだからな。

 …実は寝惚けている、と言われても違和感は無いぞ。

 アリサ君の感応現象と同じような感覚で、ノヴァを通しているという自覚も、地球に姿が現れているという自覚も無しの可能性すらある。

 

 そのまま、夢現のまま立ち止まっているだけならいい。だが、もしも彼の思念の何かが、充分に成長したノヴァの残滓の本能に触れてしまったら…。

 

 

 

「…まずは接触が必須か。それに加えて、彼の近くにノヴァの残滓が活動していないかが最大の問題となる」

 

「接触に関しては問題なさそうだよ。彼がやっていた菜園の近くに頻繁に現れるそうだ。しかし、そうなると何故そこに、という事になるが…」

 

「ノヴァの欠片が、菜園付近にあるとも…いや、少々ファジーな理論だが、共通点はあるぞ。極東付近のアラガミの味が変わっている、という話が出てからも、アラガミを食わせ続けたからな。それを通じて、ノヴァの中に彼が育てた菜園の植物が紛れ込んでいる……と、言えなくも無い」

 

「ヨハネス、君、言い出してから無理があるなって思ったろ」

 

「ファジーな理屈とは言っておいたが、言語化すると更に酷いな…」

 

 

 理屈は後回しでいい。と言うより、彼にどこまで理屈や物理法則が通用するのか怪しいものだ。

 血の力を初めとした非科学的な力を筆頭に、生物学を超越した変身、後先考えてはいるが無茶苦茶な理屈を元にするから意味が無い思考回路。

 更に、これは今となっては確かめる方法は無いが、ターミナルを通じて移動しているような形跡がある。これに気付いたのは、アーク計画失敗後、とあるカメラの映像を偶然目にした為だ。どうやって帰ってきたのか疑問に思ってはいたが、ターミナルの画面から湧き出るように現れたのには本当に驚いた。

 フライアからも何度か前触れも無く戻ってきていたらしいのは、この能力を使ってのことだろう。

 

 つくづく、生態の分からない生き物だ。

 

 

 

 

神住月茶葉を使って掃除中日

 

 

 あー、雨宮リンドウだ。

 俺が危惧していた支部長の計画、アーク計画も超展開によって終結し、極東チームは月に行ったあいつを除いて全員無事。終末捕食の危機とやらは去ったが、アラガミが居なくなった訳でもなく、まぁ世は全て事も無しってところかね。

 正直、支部長との間に確執が無いとは言わないが、何だかんだで上手く回ってはいるな。

 アーク計画が終わった今、支部長もまた同じような事を突然目論むような事もないだろう…また何年かすれば、話は別かもしれんが。

 

 最近目撃されている例のアラガミ…あれが本当にアイツに関係があるんだとすれば、ま、どんな形であれ、穏便に済ませたいもんだ。何度か助けられた借りもあるし、何より戦うとなると相当キツそうだ。

 …それに、もっと気になる事もあるしな。どうもアイツの幻影(?)が確認された場所の近くに、これまた知らないアラガミの痕跡が残っている事が何度かあった。

 新種のアラガミなんざ珍しくもないが、これが同じ個体の痕跡だとした場合…エイジス島から始まって、極東付近まで誰にも知られずに移動していたり、短時間で猛烈な勢いで大きくなっている事になる。

 今はまだ中型程度の大きさだろうが、このまま大きくなれば遠からずヴァジュラ級、下手をするとウロヴォロス並みの大きさになる事も考えられる。

 

 早めに見つけ出しておきたいもんだ。

 

 …こんな事を考えていると、最近サクヤに抓られる事が多い。わかってるって、そうそう危ない橋は渡らねーよ。

 それに、今回の件は以前と違って、秘密に調べる意味も無いからな。野良のアラガミを探って誰かに粛清されるような事はないだろうさ。

 

 姉上殿に至っては、そう言ってるを信じているのかいないのか、新入り…フェデリコとアネット…の面倒を見るようにと押し付けてきやがった。

 足手纏いを抱えて無茶はしないだろう、って魂胆なんだろうが……まぁ、心配されていると思っておくかね。

 それに、得体の知れないアラガミがウロついてるかもしれないんだ。万一遭遇してしまった時、二人を庇いながら上手く逃げられそうなのは俺くらいだろう。

 

 

 

 

 

 

 なんて考えていたら、本当に遭遇してしまった。四足歩行の方じゃなくて、アイツの幻影の方だけどな。

 チームメンバーは、俺、フェデリコ、アネット、そして暇潰しもといヘルプで入ってくれたアリサ。

 

 幸い、発見したのはあいつの後方かつ風下から、更には太陽の位置もいい。音とか立てなければ、いくらアイツが相手でもそうそう気付かれる状態じゃない。

 アラガミ討伐作戦の予定だったが、急遽変更。

 

 包囲…すると逆に気付かれかねないんで、俺達は隠れたまま、アリサがこっそりと近付く事になった。

 どういう訳だかアリサの隠密は異常なレベルに達している。本人は「睡眠学習で基礎を叩き込まれて、一晩で総仕上げされた」と語るが…言ってる意味が分からない。同じく妙に隠密が得意になっているカノンは分かるようなんだが。

 

 アリサが一つ深呼吸をすると、次の瞬間には目の前に入る筈なのに認識できなくなりそうになる。新入り二人が動揺してるが、無理も無いか。

 足音や神機の音はおろか、衣擦れの音すらしなくなるんだからなぁ…。

 やっぱアレか、スペツナズか。それともゲシュタポか、カーゲーベー式訓練とかやってたのか。

 …あんまりアリサを怒らせない方がいいな。とづまりすとこ。

 

 

 ともあれ、アリサは順調に気付かれないまま、あのアラガミの元に近付いていった。

 俺も時々見失いそうになる…。あれなら、このまま接触できそうだ。あのアラガミ自身、そんなに周囲に気を配っていないようだしな。もしもアイツ本人だったら、こうやって影から注視しているだけでも確実に気付くし。

 

 アリサが触れるまで、あと3歩。

 1歩。

 2歩。

 

 

 …アリサは一瞬だけ躊躇して、右腕の腕輪を見た。そのままおもむろに3歩目。

 

 

 接触……戦闘になるか?

 

 

 

 

 ならなかった。

 あのアラガミは、アリサが触れると同時に振り返って、アリサの顔を見た途端に消えてしまった。

 

 

「…なんだったんでしょう?」「あれ、最近噂の謎のアラガミですよね…」

 

 

 アネットもフェデリコも首を傾げていた。

 アリサはと言うと、何やら呆然としていたが…すぐに正気に戻って、周囲を見回した。同時に俺も寒気を感じ、警戒する。

 

 …遠くで咆哮が上がった。

 ヴァジュラ…か? しかし何か違う気がする。気にはなるが、新入り二人を抱えて初見の相手と戦いたくはないな。

 

 一旦帰還する。

 

 

 

 



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169話

どうも皆々様、いかがお過ごしでしょうか。
皆様が慌しく働いている中、時守は実家で真昼間から酒かっくらって昼寝しております。
朝風呂ができないのが残念です。


…ごめんなさい調子コキました。
実家のPC、あんまり性能が良くないからニコ動も2chも執筆も上手くできない…それだけが残念です。

なんかデスクトップPCの速度が遅い…と思ってたら、ランサムウェアに感染してた模様。危うく執筆したデータが全て消えるトコでした。
こんだけガチでビキビキきたのは久しぶりです。
皆様もご注意を。


神住月下乳視点日

 

 

 おはようございます、アリサです。

 

 えー、昨日は例のアラガミに文字通り接触したのですが、少々混乱しています。ええそれはもう、昨晩はママに添い寝をねだる程に混乱しました。

 あの人が居なくなってからというもの、欲求不満を二人で慰めあったりしてましたが、昨晩はそれすら無し。文字通り抱きついて眠りました。…お互い裸でしたけど。いや人肌って落ち着くんですホントに。

 

 …話が逸れました。まだ混乱してますね。

 

 あのアラガミに接触し、得られた情報について、極東の3博士(支部長は元、ですが)に呼び出されて報告しました。

 内容は、大まかに分けて3つ。

 

 明らかに今の地球には無い大森林と、夜の空に浮かぶ…地球。

 どうやらその中をフラフラと歩いているようです。一人称の視点での映像だったので、誰の視点なのかは…まぁあの人でしょうけど…断定できませんでした。

 歩みを止めると、適当な場所に腰掛け、空の地球を一瞥して…視界が真っ暗になりました。目を閉じたんでしょうか。

 

 

 

 

 次に見えてきたのは、瓦礫の山の中を進む映像。これは多分地球上の映像ですね。夜空には月が浮かんでいましたし。

 ただ、何か歩き方が妙だったんですが…四足歩行のような、時折立ち上がって二足歩行しているような…。

 

 それが歩き回って、見つけたアラガミに飛び掛りました。顔面から。

 …明らかに文字通り食いついてますね。その状態からムシャムシャと……ウェップ アラガミってマズい…。

 

 捕食が終わり、視点の主は物陰に身を隠しました。どうやら眠るようです。

 

 

 

 …最後に見えたのは、見覚えのある景色でした。まぁ、荒野や廃墟なんて、何処を見ても対して変わりませんから、本当に私が知っている場所かは確信できませんでしたが。

 今度は移動せず、たた同じ景色だけがずっと見えています。

 

 その時、ふと右手(体の感覚があった事に今気付きました)に触れるものがあり、振り向きます。

 

 

 

 

 そこに居たのは、私でした。

 

 

 

 

 驚愕の感覚がすると同時に、感応現象による夢は覚め、気がつけば触れていた筈のアラガミも消えていました。

 

 あれから一晩考えて見ましたが、やはりあのアラガミは…あの人だと思います。根拠?

 …私の顔を見るなり、胸を揉もうと手を伸ばしてきましたから。あの欲望への正直さは、間違いなくあの人だと思います。

 

 胸を揉む云々は、ママもといレア博士にしか伝えていませんが、これを聞いた博士達は考え込みました。

 

 暫し話し込んでいましたが、やがて幾つかの共通点が挙げられました。

 細かいものは幾つかありましたが、一番気になるのは、場面の移り変わり…「活動を休止し、目を閉じようとした」時に場面が移り変わる。

 

 言われてみれば、確かに。まるで、活動と休止を順番に行っているかのようでした。…私が見た映像が、時系列通りに並んでいれば…という条件がつきますけど。

 それに気になるのは、あのアラガミが姿を消した直後、知らないアラガミの声が聞こえた…らしいんですよね。私、混乱していて気付きませんでしたけど。

 

 

 「幾つかの仮定を踏まえた上での推論だけど」と前置きした榊博士は、次のように語りました。

 

 まず、やはり謎のアラガミは、彼とノヴァの両方に関係があると考えられる。

 また、謎のアラガミは、少なくとも2体…或いは2種存在する。

 そして、恐らくその内の一体…幻のように消えるアラガミは、特定条件下でしか姿を現す事ができない。即ち、もう一種のアラガミが眠っていて…恐らくは、月でまだ生存しているであろう彼が、何かしらの行為を行っている時。

 その行為というのが何なのか…は、これまた推測に過ぎませんが、現れたアラガミが何もせずにボーッとしているところを見るに、転寝でもしているんじゃないか、という事でした。

 

 そこへ口を挟んだのはレア博士です。

 恐らく、昼寝などではなく瞑想をしている、と。フライアでは血の力…話には聞いていましたが、あいかわらず胡散臭い…を操り高める為の方法として、瞑想を伝えられたのだそうです。

 事実、訓練を受けたロミオという人も、瞑想を繰り返す事で血の力を会得できそうになっているそうです。

 

 月から地球にまで何らかの形で干渉するとなると、相当なエネルギー量が必要でしょう。血の力とやらに物理的距離が関係ないのならともかく。

 例え、月のノヴァと、地球に残されているノヴァの破片が送受信機の役割を持ったとしても、絶対的なエネルギーが足りるとは思えない。

 だから、瞑想という手段でエネルギーが高まり、尚且つ地球のノヴァの破片が活動を休めている時のみ、彼の姿は現れる。また、現れてもボーッとしているだけなのは、瞑想の為余計な思考を止めているから。

 今回、私に触れられて消えたのは、突然の接触に驚いた事と、あの人が居る場所…月には居ない筈の私の顔を見たから、ではないかという事でした。

 

 

 …それだけ言うと、レア博士はこの件に関して、なるべく口を挟まないようにする、と宣言しました。

 驚きましたし、正直怒りましたよ、私。だって、この件ってあの人に関する事じゃないですか。私のヒーロー、レア博士にとっては夫…いや訂正、擬似親子プレイはいいんですけど、レア博士が正妻みたいに聞こえるんで…とにかく旦那というか恋人じゃないですか。

 なのにどうして、考察する事さえ止めようとするのか。

 

 

 支部長は、「そういう事か、ならば仕方ない」とあっさりと理解していましたが…。榊博士はと言うと、「レア博士は、博士と言うよりも女だという事だよ」との事。なんかそれ、セクハラでは?

 

 

 夜、お互いを慰めあう前に聞いてはみたんですけど…まぁ、一理はある…かな?

 一言で言えば、冷静に考察できる自信が無いそうです。本職の医者でも、家族や身内を相手に診察を行うのは難しいとされています。「無事でいてくれ、致命的な事ではありませんように」という願望が、ついフィルターをかけてしまうのだとか。

 それと同じように、レア博士もつい願望込で考察してしまうそうです。事実、今日レア博士が語った事にしても、証明もされていない事を幾つも入れ込んでいました。そんな状態で考察しても、混乱させるだけ…というのがレア博士の主張です。

 

 私はそれで納得したとは言えません。あの人とまた会えるかもしれないのに、どうして諦められるのですか。

 …ですが、ちゃんとした考えの元での判断だという事は分かりました。足を引っ張らない為、と言うのなら、それも選択の一つでしょう。

 

 

 …にしても…なんていうか、科学者の大変さを理解してない身で言うのもなんですけど…レア博士、根本的に博士に向いてないんじゃないですか?

 こんな事言うと侮辱になりそうですけど、極東に来てからの言動を見てると、科学者は副業で、本業は…その、あの人の情婦って言われた方がしっくりくるんですけど…。

 

 

「容赦なく言ってくれるわね、アリサってば…。まぁ、向いてないのは自覚しているわ。元々、望んで科学者になった訳でもなかったし」

 

 

 あ、そうなんですか?

 

 

「実家がそういう家系だったって事もあるけどね…。そうならざるを得なかった、なんて珍しくもない話でしょう。…あの頃は、他になりたいものがあったしね」

 

 

 あの頃って? 20年くらい前ですか?

 

 

「…年齢について言及する上、シビアな数字を出す辺り、ちょっと怒ってない…?」

 

 

 割と。

 

 

「…ま、仕方ないか。考えてみれば、無理に科学者続ける理由も無くなっちゃったのよね。今まであった色々な事を忘れていいとも思わないけど。

 今からでも目指してみようかしら…。ああ、でもそうなると、帰ってくるのを待つだけ待って、都合よくよりかかる女になっちゃうし…」

 

 

 

 なにか葛藤しているようですが…そもそも、その子供の頃になりたかったものって何です? 色んな意味で母性が溢れるレア博士の事ですから、保母さんとか?

 

 

 

 

「……………お、お嫁さん…」

 

 

 ………。

 

 

「………………」

 

 

 …………。

 

 

「……………」

 

 

 カワイイ…。

 …た、滾ってきました!

 不肖アリサ、謹んで竿役もとい夫役を勤めさせていただきます!

 

 

「ちょっ、なりたいのはあの人ので!」

 

 

 でも今は月に行ってますし! 今は私達で慰めあってますし!

 ああ、口を挟まないって言われてモヤモヤしてましたが、どーでもよくなってきました!

 あの人からも「仲良くヤレよ」って言われてますし、じっくりゆっくり意味深なカンジで仲良くしましょうか!

 この際だから、ギブアップ宣言したオシオキもしましょう!

 二人で盛り上がれば、意外とあの人出てくるかもしれませんしね!

 

 

 

 …割と真面目にありそうです。盛り上がりまくってる最中、突然あの人の幻(人間形態でありますように)が現れたりしたら…意外と面白い事になるかも?

 

 ま、とりあえずはママ…いえ、今の私は夫役ですからレアをいぢめますか。 

 

 

 

 

 

 

神住月元祖阿呆視点日

 

 

 なんだか久々に日記を書く気がするな。まー実際、最近は瞑想するか寝るか軽く運動するかばっかりだったし、何日ぶりの日記かわかんねーなコレ。

 それはともかく、延々と瞑想してノヴァと繋がり続けていた為か、霊的に大幅にパワーアップしたっぽい。今後、MH世界でいよいよフロンティアに挑もうとしている俺としては、ありがたい限りである。

 肉体的にも…まぁ、とりあえず筋力が落ちた感覚は無い。ずっと月で暮らしているからかもしれないが。

 

 

 さて、其れは置いといて、どういう事だろうか。

 瞑想している間に、夢…白昼夢を見る事は、実はそんなに珍しくなかったりする。上手く集中できなかった結果、瞑想しているつもりが余計な妄想が入り込んできたり、もっと単純に居眠りしちゃってたりね。

 が、どうにもそれだけじゃなさそうだ。

 

 ここの所、瞑想中に何度も地球の風景が頭の中に浮かび上がってきていた。見えるのは大抵は単なる風景。今の地球じゃ珍しくない、何処なのかも分からない荒廃した場所だ。

 その風景だけがずっと見えている時もあれば、まるで本当にその場に居て歩き回っているかのように移動する時もある。

 回を重ねる毎に鮮明になってきていて、目にしたアラガミをついつい狩ってしまう場合も多い。…そういう時、ふと気がつくと誰も居ない月の森の中で、無意味に神機を振り回していたりする自分に気付くんだけど。

 

 

 昨日の夢なんか、最後にはなんとアリサまで登場してしまった。背後から突然腕を掴まれ、振り返って…「ウソ、アリサ!?」な感じで驚いた。夢かと思って、つつい胸に手を延ばしたよ。…なんで胸か? 一番よく覚えてる感触だからだよ。

 触れる前に夢が覚めたけど…。触るまで待ってくれたっていいじゃないか!

 ああ、このところ落ち着いていた性欲がまた滾ってきたじゃないか。

 

 …それはともかく、前々から予感していた事ではあるが、やはりアレは単なる夢ではないようだ。

 直接アリサに触れられた感触も残っている。新型同士の感応現象…とは違うが、何度も夢の中で会っているから、妙なパスでも作られていたんだろうか? こう…一瞬だったけど、色々と情報をやりとりした感覚がある。

 事実、落ち着いてから思い返してみると、俺が終末捕食を防いだ後、極東支部でどんな事があったのか…ある程度思い浮かぶ。それも、大体はアリサ視点で。

 

 ………仲良くしろとは言ったけど、アリサとレア、夜毎にイチャイチャネトネトしてんなぁ…。いい事なんだけど、やっぱ乱入したいわぁ…。

 まぁ、とりあえずあの調子なら、レアもラケル博士に寝取り返される事はなさそうだ。

 と言うか、もっと詳細な情報プリーズ。感応現象モドキによる情報通信が不安定だったのか、受け取った情報が虫食い状態だ。一番重要なトコが抜け落ちやがって、おかげで妄想が捗るじゃないか。

 

 

 …で、アリサから貰った(?)情報を元に、改めて考えてみると…地球に、俺が変身した姿のアラガミが、何度も目撃されている?

 幾ら俺でも、幽体離脱して月から地球に移動できる自信はない。そんな事したら、シルバーコードが切れてしまうわい。しかし、実際にこうして情報を受け取っている以上、幽体離脱ではないにせよ、通信的な事が出来る何かを地球に飛ばしているのは事実だろう。

 俺単独じゃ無理……なら、サポートしている何かがあるな。…ノヴァか。月には他に何も無いもんなー。月自体に何かしらの能力があるのかもしれんけど、それを言い出したらキリが無い。

 

 ノヴァが増幅器なり通信機なりの役目を担っているとして、それが何故地球に? 受信機に当たる何かがある筈………まぁ、第一候補として上がるのが、ノヴァなり特異点なりだよな。

 でもシオはもう特異点じゃなくなってるようだし…そうか、ノヴァの欠片的なモノがあるのか? そんなモノが残っていたら、確実にトラブルの元になるよな。ゲームのシナリオ的に考えれば、多分世界規模のヤバい案件に。

 

 

 …俺が知ってるゲームのストーリーには、ノヴァの欠片なんて言葉は出てこなかったと思うが、そうだな、ゲームに続編ないしGEBみたいなリメイク版が出ていたと仮定して考えてみよう。

 ゲーム内容は…時期的には恐らく、リンドウさん復活後。で、今回と同じ現象が起きているとすると…地球に何度も現れるのは、俺じゃなくてシオか。極東のいつものメンツが、気にならない訳が無いわな。

 そこからどうトラブルに発展する?

 シオと敵対する…これは恐らく無い。姿形が似ているだけだったとしても、プレイヤーからクレームの嵐が殺到しそうだ。むしろソーマに第四の壁を越えて祟り殺される。

 そもそも、今俺に起きているのと同じ現象なのだとすると、地球に現れるシオにも多少なりとも自我がある事になる。敵対する理由が無い。

 となると、シオの幻影の近くで、ノヴァの欠片が何かしら活動してるのか……。アレが活動しているとなると、訪れる災厄は終末捕食の再来一択。

 こっちは敵対しても何の違和感も無いな。

 

 …そういえば、何度か見た夢の中で、四足歩行の視点を見ているっぽいのがあったな。ひょっとして、アレがノヴァの欠片の視点だったのか?

 

 

 

 

 …ちょっと待てよ、俺は月のノヴァと、地球のノヴァの欠片を通して、向こう側に幻を生じさせていると考えられる。

 で、向こうの俺がアリサから受け取った情報は、やっぱりノヴァを通して俺に送られてくる。…という事は、俺の意識や、向こう側で受け取った情報は、地球で動いているノヴァの欠片にも筒抜けって事にならんか?

 いや、筒抜けなのはまだいい。ノヴァの欠片がどれくらい頭がいいのか分からないが、戦略的な情報なんかはまだ受け取ってないからな。

 

 だが…例えば俺が向こうに姿を現している時に、「腹減ったな」なんて考えたら、それがノヴァに伝わってしまうんじゃないか? それを自分の意思だと誤認したノヴァが、その辺のアラガミやゴッドイーターを襲いだすんじゃないだろうか。

 「腹減ったな」なら、まだいい。もしも俺の意識の何かが、ノヴァの本能…終末捕食を起こす切っ掛けになったら? 有り得ない、考えすぎとは言い切れない。何せ今の俺は、実際に終末捕食を起こした特異点モドキだ。

 

 …逆に、ノヴァの本能を、或いはノヴァの欠片の活動そのものを休止させる事はできないだろうか? そうだな、四足歩行の視界が見えている時に、「眠い」という感覚でも送ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …また暫く瞑想して時間が過ぎた。深くなりすぎて、気がつけば蔦に巻かれているのもいつもの事だ。

 結論から言えば、ノヴァの欠片を休止させる目論見は成功…したっぽい。気がつけばいつものように、四足歩行の視界となっていたのだが、その時に「眠い」「だるい」「しんどい」等、体を休めたくなるような思念ばかり送ってみた。

 すると、最初はあまり変わりなかったが、時間が経つにつれて動きが鈍くなり、欠伸っぽい動作もし、物陰に入って眠りに付いたようだった。

 

 …えらく無防備に寝るな。野生の獣状態なんだから、もっと警戒しそうなものだが…まさか襲われた事が無いとでも?

 

 それから少しすると、視界が切り替わった。今度は何処かの風景…ああ、視点の高さからして、人間型だな。

 ノヴァの欠片が休止すると同時に、この視点に切り替わる…。

 

 恐らくだが、地球に俺の幻影が発生する条件はコレだろう。

 俺が深い瞑想状態に陥る。地球のノヴァの欠片が休眠状態になる。で、俺の瞑想が解けるか、ノヴァの欠片が起き出したら消える。

 あと一つ二つくらい条件があるかもしれないが、確定的なのはこの3つか。

 

 

 

 さて、それが分かったところでどうするべきか。ノヴァの欠片の活動を極力抑える方向でいくが、極東の皆がどう対処してくれるかだよな…。

 それに、ノヴァの欠片の本能をうっかり刺激したりしないように、注意が必要だ。

 

 

 

 …アラガミが性欲なんぞ覚えたら、どうなるかマジで分からんからな。

 

 

 

神住月ソーマ視点日

 

 

 

 …ソーマだ。

 最近、妙なアラガミのおかげで他の連中がうるさいが、俺には関係ない。シオの手綱を放さないようにするのに、手一杯だ。

 最近では妙に知恵をつけてきやがって、勝手にターミナルを操作するは、コッソリとアラガミを狩りに行こうとするは、以前なんぞ丸一日姿が見えなくて探し回っていたら、居住区の農園のド真ん中で昼寝してやがった。

 完全に、機動力が高い赤ん坊状態だ。手に負えん。

 

 …だからと言って、放置する理由も無いが。

 しかし、そのシオが最近噂の幻のようなアラガミに興味を示している。俺としてはあまり歓迎できた事じゃないな。何が起きるか分からない。

 

 …こう言うと、親父や他の連中から生暖かい目を向けられる…やめろ、そんな目で見るな。鬱陶しい。

 

 

 

 親父の事は……躊躇い無く『親父』と言える程度には、見直している。見直しているという表現もおかしなものだが、少なくとも俺が考えているより、ずっと深く強い人間だった。良くも悪くも、という一言がつくが。

 機会があって、親父が今までやってきた事を調べた事がある…大方、榊のオッサンの差し金だったんだろうが…が、研究者としても支部の責任者としても、知れば知る程親父がやってきた事の大きさを知らされる。

 今も、特異点でなくなったとしても、アラガミであるシオの事を隠蔽し続け、更には公の立場まで得られるように動き回っているようだ。それは、俺では決してできなかった事で、思いつきすらしなかった事でもある。

 今、こうしてシオが極東で暮らしていられるのは、親父の尽力の結果と言ってもいい。……死んでも本人に言ってやる気はないが。親父がやってきた事を許した訳じゃない。

 

 

 

 …別に親父の影響を受けた訳じゃないが、俺も最近は色々と考える事がある。

 今は親父の力でシオに妙なちょっかいを出そうとする奴は居ないが(精々が頭を撫でたがるくらいだ)、いつまでもそれが通じる訳じゃない。親父だって引退する日はくるし、そうでなくとも失脚の可能性は常にある。

 そうなった時、俺に出来る事はあるのか? 俺が何かしようとしたとして、死神と呼ばれた俺に手を貸してくれる奴はどれくらい居る? 何人かは居るだろうが、決して多くないし、何より基本的にそいつらも一人のゴッドイーターに過ぎない。

 公的権力って奴から迫られれば、白旗を上げるか、違法行為に走ってでも反抗する事しか出来ない。

 

 そう考えた時、俺のやるべき事は変わり始めた。

 正直、榊のオッサンが言っているような、アラガミと人間が共存できる世界が来るとは、シオを眺めていられる今でもとても信じられない。だがそれでもやらなければならない。最低限、シオの立場を保証できるくらいに。

 

 今は、俺に何が出来るのかの模索の最中だ。親父のように人の上に立つ? 榊のオッサンのように博士として発言力を持つ? …症に合わないとか言う以前に、俺にそんな事が出来るのかも怪しいけどな。

 それでも、やらなきゃならない。

 

 

 

 まぁ、それも暫くは後回しだ。噂になってる妙なアラガミを、まずはどうにかしなきゃならん。…親父が妙な顔してやがるのが気になるな…。昔から何考えてるのか分からない…分かろうともしなかったが…親父だったが、不安や憂慮を他人に見せるような、殊勝な奴じゃないのは確かだ。

 

 

 

 アリサが持ち帰ってきた情報を一通り聞いたが、サッパリ分からん。と言うか、何なんだその新型同士の感応現象ってのは。触れただけでそんなのが発動するとしたら、不便極まりないな。同時に醤油に手を伸ばしたら、飯の途中に感応現象発生なんて事になりかねないんじゃないか? …腕輪に安全装置をつけた方がいいと思うが。

 

 

 

 暫くして、親父が俺達を…シオを含め、終末捕食に関わったゴッドイーターを集めた。正直、親父を警戒していたんだが…警戒すべきは別の事だったか。

 

 

 

 親父の説明を全て聞いてた訳じゃないが(理解できなかった訳じゃないからな!)、幻のように消えるアラガミは、今は月に居るらしいアイツの影のようなもの、だそうだ。特定の条件が揃った時、地球に…極東に姿が映し出される。

 ただし単なる影ではなく、アリサのように感応現象によって意思疎通を計る事が出来る。今回の接触によって、恐らくは月の本体にも情報が伝わったので、今後は不定期ながら連絡を取り合う事が出来る、かもしれない。

 アリサとレア博士が、一見して分かる程張り切ってるが…。

 

 だが問題なのは、幻のアラガミが影なら、光源は何かって所だ。これは…ノヴァだと親父達は考えているらしい。

 月に行ったノヴァ本体と、地球に残っているノヴァの破片が通信機となり、月にいる筈のアイツを映し出す。

 

 そして、ノヴァの欠片は、エイジスで親父に育てられていた時のように制御されておらず、野放図の状態で育っている。それも、恐らくは急激な勢いで。

 このまま成長が続けば、第二の終末捕食がおきかねない。しかも、今度は特異点も必要とせず、また本来の形の終末捕食とも違う為…生命の再分配すらされない恐れがある。

 

 冗談じゃない。とんでもないモノ作り出しやがって…。親父にせよアイツにせよ、もうちょっと考えて行動しろと言いたくなる。考えてさえいなかった俺が言えた義理じゃないが。

 

 

 どっちにしろ、とにかくノヴァを探さなきゃ話にならん。エイジス島から活動を再開して、今は何処に居るのか。

 やれやれだ…。

 

 

 



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170話

うぅむ…やはり討鬼伝2発売に合わせ、討鬼伝世界を始めたいところ。
しかしこれでは明らかにペースが合わない。
多少は書き溜めがあるから、討鬼伝2発売記念として連続更新するべきか…。
そうなるとデスワープの原因も問題だけど、討鬼伝2のストーリー情報がほぼ無い状態で、マホロバの里を執筆しないといかんのだよな…。
どうしよ。


追記
先日、久しぶりに妹とカラオケに行き、突撃軍行歌を歌いました。
そしてふと思う。

絢爛舞踏(あっちゃんとか)をEDFの世界に放り込むか。
ストーム1をガンパレ(無名世界観は無し、小説準拠)に放り込むか。

悲惨な事になるのはどっちだ?
前者はあっちゃんがEDFから政治から経済から掌握して、フォーリナーを撃退する未来が見える。
だがその後の事は知らん。

後者は………味方を囮にしたり指揮官を後ろからパーンする行為を、功績で相殺できるかな…。
幻獣も人間側も相当悲惨な事になる…。

某ガンパレ二次創作、再開してくれないかなぁ…(チラッ


神住月キムチ鍋食ってる間に咽た。喉が痛痒い日

 

 

 ども、コウタです。

 何だか色々と大変なことになってるなぁ、としか言えないよ。正直、フクザツな心境だ。

 

 あの時俺は、最初はアーク計画に賛同して、でもシオを売る事もできなかった。それから母さんとノゾミのおかげで間違いに気付けて、リンドウさん達と一緒に終末捕食を阻止しようとして…最後の最後に、あの人が突然乱入して全部を掻っ攫っていった。

 おかげでアラガミの居ない世界は作れなかったけど、でも終末捕食っていう一番危険な事態は無くなったし、シオも無事、支部長も何だかんだで無事だったし、今まで通りって意味では良かったかな…と思ってたのに。

 また終末捕食が起きるかもしれない、だって? 世界の危機って、そんなにホイホイ出現していいものなのかな? 勘弁してほしいね。

 

 ま、俺としちゃやる事は変わらない。今日もアラガミをやっつけて、無事に帰ってバガラリー見る。休日には家族の顔も見に行く。出来れば出会いも欲しい。これだけだ。

 実際、それだけなんだよね。

 ノヴァの欠片を探すにせよ、あの人の幻を探すにせよ、アラガミの生息地域の中を歩き回らないといけない訳で。そうなると、討伐ついでにシオのゴハンも確保できて…というかしないといけない。

 シオのご飯だけは、ソーマ一人に押し付けられないからなぁ…。特異点じゃなくなっても、食欲が超旺盛なのは変わらなかったみたいだ。

 

 

 ま、そんな訳で、俺達は今日も変わらずアラガミ討伐。

 新人のアネットやフェデリコと一緒に出る事もあるけど…うーん、俺、もうちょっと戦い方を変えた方がいいかもしれない。

 このまま戦い続けていけば、俺もその内ベテランって呼ばれるくらいにはなると思う。そうなったら、新人の教育を任されたり、部隊を指揮する事にもなる訳で。

 そういう事が出来るように、今のうちに色々学んでおかないと。

 

 そう思いながら、サクヤさんやリンドウさんの動きとかを思い返したり相談したりしてるんだけど…やっぱり凄いな、あの人達。

 本人もめっちゃ強いんだけど、それ以上に味方を生き残らせるのが上手いって言うかね。俺も結構上達したつもりだったけど、鼻っ柱を折られた気分だよ。

 

 

 

 

 …だから、かな。いや、全然関係は無いか。

 

 本当に驚いたしショックだった。

 

 

 

 

 

 

 リンドウさんがMIAになった、って聞いた時は。

 

 

 

 

 …言っちゃナンだけど、これを最初に聞いた時は「エイプリルフール?」で、それが事実だと分かった時は……「今更?」と思った。

 自分でもどうかと思うけど、感性がマヒする程ショックだったんだと思いたい。

 

 でもさ、そう言いたくなる気持ちも分かるだろ? 雨宮リンドウと言えば極東が世界に誇るレベルの腕利きゴッドイーターだ。態度の悪いシュンとかだって、リンドウさんの逃げ足とかは何だかんだで認めてる。

 挙句に終末捕食の一件だって何だかんだで乗り切ったし、いつぞやヴァジュラの群れに囲まれた時だって、助けがあったとは言え生きて帰ってきた。

 正直、あの人が死んでしまうって状況が想像もできないよ。

 

 いや、あの人だけじゃない。あの一件に関わった人達、みんな…いや一人だけ月に居るらしいけど…が、もう死んだりせずに、歳をとって、ゴッドイーターを引退して、そんで余生を生きて孫とか作って死ぬんだろうな…って漠然と思ってた。

 今思い返すと、なんて能天気な話だ。

 ゴッドイーターじゃなくても、この世界で生きていく事はいつだって命懸けだ。アラガミに襲われるなんて日常茶飯事、スラムで生きていくには全てが外敵で、敵が居なけりゃ居ないで飯も食えないし。

 「この決戦が乗り越えられたんだから、もう誰も死なない」なんてありえる筈が無い。

 

 目が覚めたよ。俺が生きているのは、甘い幻想やハッピーエンドが保証されてるストーリーじゃなくて、誰もが命懸けのサバイバルだった。

 

 

 

 …話を戻そう。

 

 リンドウさんがMIAになった状況について、だ。

 簡潔に言えば、新入り達を庇ったらしい。勿論、それだけでリンドウさんがどうにかなる筈が無い。アネットちゃんとフェデリコ君にトラウマを抉る事になるのを承知で、微にいり細にいり情報が引き出された。

 

 戦ったのは未確認だったアラガミ。聞いた限りじゃ、大きさはヴァジュラよりも少し小さくて、氷を使うようだった。

 色はピンクっぽくて、獣の体に女の顔。何より奇妙なのは、攻撃した時の手応えだったそうだ。

 

 ブレードで斬り付けようと、アネットちゃんのトレードマークのハンマーで想いっきりブン殴ろうと、ロクに効いた様子が無かった。

 挙句、何とか倒した…殆どリンドウさん一人で…後も、神機を食いつかせても捕食ができなかったとか。

 

 ああ、だけど違う。問題はそこじゃない。

 攻撃が効かないだけなら、リンドウさんならどうとでも出来た筈。最近発見された、何だっけ…OPを使った銃撃じゃないと傷付くどころか触れる事もできない、ニュクスだって初見で自爆させて帰ってくる人なんだから。…どうでもいいけど、あのニュクスってアラガミ、なんか雰囲気違うな…。何となくだけど、このままだと進化して妙な能力を身につけそうな気がする。

 もっと詳しく話を聞いた所、二人は目を見合わせて、「殆ど分からなかったんだけど」「そう見えただけなのかもしれない」と前置きした…それでもいいから、最初から話せよ…。

 

 

 曰く、倒したと思って油断した時、突然立ち上がった…二足歩行で。

 勿論、リンドウさんがそれに対応できなかった訳じゃない。奇襲を受けないか、周囲にも、倒した敵にだって気を配ってる人だ。実際、すぐさま間合いを取って、構えた所までは二人にも見えたらしい。

 

 問題だったのはその後。

 まるでコマ落としでも発生したみたいに、リンドウさんが消えた。消える直前、最後に少しだけ身を捻ったように見えた…らしい。多分、何かの攻撃を避けるか防御するかしようとしたんだろう。

 その瞬間に居なくなったって事は、攻撃を受けた? 実際、次の瞬間に残っていたものは、僅かなの血と………右腕。肘から先が、力なく転がっていた。

 倒した筈のアラガミの姿も無く、探し回っても足跡も血痕も見つからない。

 

 オペレーターを務めていたヒバリさんからも情報を受けたんだけど、大体証言は同じだった。

 妙にタフなアラガミ、倒して反応が消えた筈なのに突然動き出し、それこそ一瞬でレーダーから消失。レーダーを最大出力で稼動させても、全く反応無し。

 リンドウさんを置いたまま帰れない、と深追いしようとする二人を、ヒバリさんは「命令」を使ってまで帰還させた。…その判断は間違ってなんかいないと思う。もしも本当にアラガミを発見したとしても、あのリンドウさんに反応さえさせないような相手に、二人が立ち回れるとは思えない。

 …だけど、ヒバリさんが悔いているのも一目瞭然だった。

 

 

 

 

 …ゴッドイーターが右腕を、腕輪を失えば、その先にあるのはアラガミ化だ。それ以前に、腕が無くなった事によるショック死とか、出血多量による危険もある。例え、問題のアラガミを何とか撃退できたとしても、リンドウさんが生きている可能性は……考えたくないほど低い。

 それでも万が一にかけて……アラガミ化が進む前に見つけて保護し、手術によって助かる可能性にかけて、極東のゴッドイーターをフル動因しての捜索が始まった。

 

 俺はリンドウさんを探しながらも、問題のアラガミがどんな奴なのか、俺なりに調べてみている。気になる事は色々あった。

 そもそも、幾ら強力なアラガミだとしても、ゴッドイーターに視認をさせないような動きが出来るんだろうか。しかも聞いた情報が正しいのだとすると、四足歩行から二足歩行へ形態変化するらしい。…単純なスピードで考えたら、四足歩行の方が早そうなんだけどな。

 攻撃が殆ど通らないってのもおかしい。この辺は、僅かに採取できたアラガミの細胞を、榊博士達が調べているみたいなんだけど…。

 

 やれやれ…厄介事が続くなぁ。ホント、この世界は地獄だよ。

 

 

 

 

 

 

神住月ああ、もう仕事の時間なのですね(涙)日

 

 ドーモ、俺です。そうです、私が変なハンターです。エロいハンターでも可。

 最近、話し相手が居ない為か、独り言が増えてきました。地球のノヴァの欠片を刺激する可能性を考えると、迂闊に瞑想も出来ないしなぁ…。

 おかげで、注意深く瞑想するなんてワケの分からない事になりつつある。

 

 ま、実際問題、ずーっと一人のままだと気が狂いそうだしな。俺なら意外と大丈夫かもしれんけど。

 人が居なくても、考えるべき事はヤーマが捌く案件よりも多くある。クソイヅチをどうやって叩き切るのか、とかね。

 

 それでも、地球の状態がどうなってるか気になるし、何度か瞑想はしたけども。

 

 

 …なんと言うか、ややこしい事態になってるみたいだなぁ。昨日やった瞑想で、再びアリサとの接触を持つ事ができた。

 感応現象が再度発生し、幾らか情報の遣り取りをする事ができたのだ。残念だったのは、情報を伝える事しかできず、夢の中でナニする事が出来なかった事かな。まぁ、野外…はいいとしても、アラガミの生息地のド真ん中で、腰砕け・失禁状態にする訳にもいかんが。

 

 

 

 今更リンドウさんのMIAかよ…。支部長が何かやった訳じゃなさそうだな。捜索も打ち切られずに続いているようだし。……ただ、腕輪を失ってるからな…救出の為と言うよりは、『介錯』の為と思うべきかも知れない。謀殺の為じゃなく、これは…まぁ、ゴッドイーターと指揮官としては普通の対処だろう。

 しかし、ゲームと同じで右腕を失う、ねぇ…。しかもそれをやったのが、ノヴァの欠片…どうやらアリウスノーヴァと名付けられたらしい…ときた。

 GEBのストーリーか? これが世界の修正力とかそんなカンジの何かか。

 

 …いや、ひょっとして俺が原因だったり…する? そういえば、この前瞑想した時、GEBの事についてもちょくちょく考えていたような…。地球の夢は見なかったから問題はないと思ってたが、もしもその時の考えがアリウスノーヴァ……言いにくいな……に伝わっていたとしたら、どうだ?

 リンドウさんが右腕を失う…というより、腕輪を失ってアラガミ化する、というイメージを齎していたとしたら?

 

 

 ……いや、偶然…だよな? 偶然だと思いたい。

 

 

 他にも気になる事はあった。

 アリウスノーヴァ改め……そーだな、蟻…蟻臼…いや桃毛…猫…? 桃毛蟻でいいか。蟻じゃないけど。

 桃毛蟻がリンドウさんを仕留めたらしい、超高速攻撃、その直前に二足歩行したらしい事。

 

 …この超高速攻撃、俺がアラガミ化した時に使えるアクセラレートじゃないか?

 単に素早い攻撃ってだけなのかもしれんが、俺と桃毛蟻がノヴァを通じて繋がっているのが気になる。俺の持ってる手札をコピーしようとしてないだろうな? アクセラレートは非情に強力だが、連発できないからまだいいとして。

 霊力、使えるようになる可能性はあるか?

 

 可能性は非情に高い。なんたってノヴァだ。アラガミが出来る事は、何だって出来る可能性がある。もちろん、感応種の能力を会得する事も。

 …どうしよう。

 いやいや待て待て、だったら逆に考えろ。俺がアイツの意識に影響を及ぼす事が出来るなら、霊力を封じ込めるのはそう難しくない…筈だ。集中や意識をちょっと乱してやれば、霊力みたいな力はあっと言う間に霧散する。…俺が瞑想して、アイツと繋がっていられる間は。

 

 

 クソ、地球と月との物理的距離がこんなにも厄介だとは! ……いや、冷静に考えりゃ、厄介どころか干渉すら出来ないのが当たり前の距離なんだけどね。

 

 とりあえず、リンドウさんについては、シオをつれて廃寺付近を探せとアリサに伝えておいた。仮に、桃毛蟻が俺の意識を受けて行動しているなら、リンドウさんを…生死はともかく…ゲームストーリーのように、雪の降る廃寺付近に持って行く事も考えられる。コジツケだけどな。

 シオについては…特異点じゃなくなったが、リンドウさんのアラガミ化を食い止めた能力が残っているのを祈るしかない。

 

 

 …また少し時間を置いて瞑想してみるか。

 出現する場所を、こっちで指定できればいいんだけどなぁ。そうすりゃもっと頻繁に情報交換が出来るのに。今は、俺の幻が出現した時、アリサが近くに居ないと情報交換できないもんなぁ…。

 

 

 

 

神住月夏休みカムバーック!できれば学生レベルで日

 

 

 …むぅ、地球ではなんか色々とややこしく走り回っているようだ。何か俺、疎外感。

 幽霊ってこんなカンジなのかもしれないな。何かやってる事は知ってても、全く干渉できません。

 

 加えて、桃毛蟻を刺激する事を避ける為、俺から妙な能力を学ぶのを避ける為、あまり深く瞑想する事もできない。おかげで最大の時間潰しの方法が失われてしまった。

 率直に言って暇である。

 

 更に言うなら、瞑想しなけりゃ桃毛蟻と繋がらないのか…と言うと、そうでもない。人間には睡眠が必要なのだ。そして睡眠とは最も簡単かつ原初的な瞑想の方法でもある。

 ぶっちゃけ、眠気に耐えられずに眠ったら、その時点で桃毛蟻と繋がってしまうようなのだ。

 

 

 俺が桃毛蟻の事を認識した為…なのかどうかは分からないが、最近は桃毛蟻の近くに幻が現れる事も多いらしい。ふと夢を見ている事に気付いたら、眼下に桃毛蟻らしきアラガミがグースカ寝てた、という事もあった。

 幻が現れるのは、桃毛蟻が寝ている時だけ…と思われるので、今のところ戦闘に発展したりはしていない。

 どうせ寝てるんだから、そのままコアを砕ければいいんだけどな…。地球の俺は幻だからな。実体には干渉できそうにない。

 

 …いや、諦めるのは尚早か。あっちに姿を現せるんだし、色々応用すれば実体を持たせる事もできるかもしれない。そうすりゃ寝首を掻く事も出来るし、エロい事だって出来る…桃毛蟻じゃねーよ、アリサとレアだよ。

 試してみるか。

 

 

 

 

 

 

神住月…失業したら夏休みできるけどなぁ…日

 

 実体を持たせる方法、難航しています。いや月と地球の距離を考えると、難航どころか超スピードで進展していると言っていいんだが。

 どうにも、こう…中途半端なんだよな。

 人間型の姿で幻を出現させる事は、意外と簡単だった。

 実体を持たせる事は出来たようなんだけど、力も弱いし体も脆いし、ちょっとショックを受けたら消えてしまう…NARUTOの影分身劣化版みたいだ。

 こんなんじゃ、桃毛蟻の寝首を掻いても、起こすだけで終わってしまってカウンターで一閃されるのがオチだ。

 

 更に、幻改め実体(仮)は狙った所に出現させる事ができない。ノヴァを経由して送られた力が、焦点を結ぶ場所を上手く指定できてないんだろうが…実体を持たせられたと思った時は、大抵とんでもない場所だったりする。どっかの山脈や荒野のド真ん中やら、空中やら、雲の上やら…。

 ノヴァの欠片が極東付近で蠢いている事を考えると、そこを経由して力を送っているのであれば、現れるのは極東付近だけだと思うんだけどなー。何かコツと言うか、意識すべき所があるんだと思う。

 …ついでに言うと、実体を持ったとしても、あまり広い範囲で行動する事が出来ない。移動しようとすると、体がボヤけていくのが分かる。

 

 当面の課題は、実体の力を強くする事、狙った場所に出現させる事、行動できる範囲を増やす事…か。

 ま、じっくりやっていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、桃毛蟻、かなりの勢いで育っているようだ。第二のノヴァの名に偽り無し、ってか?

 体も随分と大きくなって…ただ、ちょっと気になる事があるんだよね。コイツの腕。以前までは無かった、篭手みたいなモノがついている。

 …篭手だよ、篭手。

 

 しかもこの篭手、もう殆ど記憶に残ってないけど、ハンニバルっぽくない? 他にも色々と装飾が…具体的にはツクヨミにあったような輪みたいなのとか、体の所々にある突起とか…まだ完全にはなってないけど、今回の黒爺猫みたいに羽みたいなものも生えかけているっぽい。

 色々ゴテゴテしているから、後付で篭手ができたっておかしくはないんだけど…こいつ、リンドウさんを襲ってるんだよな。

 …まさか、マジでリンドウさんを喰いやがった? アラガミに食われたら、骨も残らないぞ。結局、地球では今でもリンドウさんも、その後変化したらしきアラガミの姿も見つかってない。

 …マジで死んでしまったのか?

 

 

 

 そう考えると、なんか頭の中がモヤモヤしてくる。

 やっぱり、俺は誰かの死に慣れている訳ではないんだろうか。その割には汚ッサンとか始末して平然としてっけど…まぁアレは人間扱いしてないからな。

 自分が死ぬのには慣れたけど…いやでも実際に死んでるワケじゃないしな。色々リセットされるけど生きてるし。

 

 

 

 

 

 暫く頭の中で、生とか死とか色々巡っていたけど、まぁ要するにショック受けてたんだろう。

 堂々巡りしている内に、なんだか疲れて転寝してしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ら、エロい夢を見た。

 

 

 

 単なる淫夢ならよかったんだけどね。体に残った感覚が、夢では終わらないと教えてくれる。

 オカルト版真言立川流、使った時の感覚だ。ただ、普段に比べると格段に弱い感覚だったけど。

 

 

 …どうも、寝ている時に地球に現れた幻影を寝惚けて動かし、エロい事してしまったらしい。まぁそれはいいんだ。シチュエーション的に犯罪になる状況だった訳じゃない。相手が泥酔していたとは言え、合意の上ではある。そもそも、あの調子ではイタした事なんて全く覚えていないだろうし、覚えていたとしても精々夢だとしか思わないだろう。幻が消えれば、思いっきり注いだ白くてネバネバしたのも消えるみたいだし。……夢精するかと思った…。

 メリットだってあった。お相手に霊力を注いだ為か、ノヴァの欠片と同様に通信機の役割を果たせるようになったらしい。尤も、ノヴァ程強いつながりがある訳じゃないし、本人もあまり霊力の素養が無かった為か、かなり霊力を送信しても、実体を持たない幻を出現させる程度の事しかできそうにないが。

 

 

 

 

 でもさ、どうして相手がよりにもよってサクヤさんなんだよ!?

 

 いや非情にオイシイお体でしたけどね!

 

 一応言い訳しておくと、狙ってやった訳じゃない。出来るなら是非一度…と思わなかったといえばウソになるが、俺には特別NTRな趣味は無い。サクヤさんとリンドウさんはお似合いだし、心情的にもくっついて欲しい。

 最初はね…実際、単なる夢だと思ったんだよ。まー普通の夢と言うか何と言うか。

 

 何処かの部屋の一室で、酒呑んでる夢だった。夢の中の話とは言え、月に来てからロクにモノ食べてなかったんで、遠慮なくバクバクと行かせてもらいましたよ。

 で、食ってる途中で部屋のドアが開いて、フラフラと人が入ってきた。どうせ夢だと思ってたし、何より食い物と酒に夢中だったから、そっちに意識を向けなかった。

  部屋に入ってきた人からは、超がつく程酒のニオイが漂っていた。どうせ夢だと思ってたし、何より食い物と酒(ry

 

 

 あれ? と思ったのはいきなり抱きつかれた時だよ。ふにょんと素晴らしい感触と、女性特有のほのかな香りと、その全てを上書きする強烈な酒のニオイ。

 そして「リンドウ~、帰ってたんだぁ~」という囁きが、聞き覚えのある声で、だがその人からは想像もできない口調で聞こえて。

 

 だがどうせ夢だと思ってたし、何より(ry

 

 

 

 …うん、どんだけ食い意地張ってんだよ、夢の中の俺。俺のクセして肉欲より食欲を優先させるとか理解できん。

 

 が、それが実に良かった………の、か?

 気がつけば、飯と酒をガッツいていた俺はヒョイとばかりに抱え上げられ…この辺りで、ようやく抱きついた人がサクヤさんだと気付いた…、ポイッとベッドの上へ。

 状況を把握する間もなくキスされて、舌を絡め返して……キスが終わったら、呂律が回ってない舌でサクヤさんの囁きを聞いた。

 

 酒の為なのか、久々に性欲を刺激された為なのか、それとも単に夢だからと思っていたからなのか、殆ど聞き流していたんだが、「心配したんだから」とか「私を置いていかないで」とか、そーいう事を言ってたんだと思う。

 「もう何処かにいかないように、きっちり繋ぎ止めておかないとね~。子供作りましょう」とか言ってたような気がする。

 

 で、俺の服をグイグイと毟り取って…この辺で、サクヤさんのわき腹とフトモモのスベスベ感を堪能しつつも「ん?」と思った。

 でも酔っ払ってた上、色々血流が激しく流れていた為に酔いが加速度的に回って、考えるのを止めた。

 

 

 …流石に、涙の痕で一杯の顔で「リンドウ、リンドウ」って何度も囁かれた辺りで頭も冷えたんだけどな。

 サクヤさんのすっぴん見ちまったい。すっぴんでもお肌スベスベでした。

 

 要するに、俺はリンドウさんと間違えられてた訳ね。ここが本当にリンドウさんの部屋なのか、極東のどっか一室なのかは知らないけど。…いや、冷蔵庫の中はビールだらけだし、多分リンドウさんの部屋だね。

 リンドウさんがMIA状態になり、助かる見込みもほぼ無いくらいの時間が流れてしまった。正式に死亡認定されたのか、それともまだされていないけど不安を誤魔化す為に深酒したのか。

 そこら辺は定かじゃないが、思考が無茶苦茶な状態になったサクヤさんはフラフラと極東支部を彷徨い、部屋までやってきて、酒と飯を食い漁っている俺をリンドウさんと間違えた、と。

 

 勿体無いとは思ったけど、俺はここで行為を止めようとした。…そこ、「ウソだッ!」みたいな顔すんじゃない。

 単に酔っ払ってるだけなら据え膳としていただくが、恋人が死んでるかもしれないってボロボロの状態になってる女に付けこむような趣味は無い。

 

 

 …付けこむ様な趣味はないんだけどさ、やっぱ逆らえない事って、性欲以外にも色々あるのよ。

 具体的にはゴッドイーターの腕力。地球に出ている俺の体って、腕力も弱いし脆いし、女の細腕とは言えゴッドイーターの力に対抗できるようなものじゃないんだよね。

 

 止めようとしても簡単に抑え込まれるし、酔っ払ったサクヤさんは話を聞かないし、ジタバタ暴れてみても「子供が出来て責任取らされるのがそんなにイヤ? でもちょっとカワイイかも」みたいな反応しか返って来なかった。

 …ぶっちゃけ、逆レくらいました。

 

 なんちゅーか、サクヤさん相手に似つかわしくない表現だと心底思うんだが、女郎蜘蛛に絡め取られて捕食されたような気分でした。なんちゅーか、見事なおみ足がこう、足から腰から絡みついてね?

 

 

 子供を作るの宣言通り、ナマで一発ヤッちゃってから開き直った。サクヤさんの体も、リンドウさん探しに体力を使いすぎたのか、限界に近かったし…オカルト版真言立川流で、色々気持ちよくさせつつ整体して、思いっきり深い眠りに叩き込んでおいた。

 今までオカルト版真言立川流を使った相手は、大なり小なり中毒状態みたいになったもんだが、多分今回は大丈夫だ。脆い分身を通しての術だった為か、そこまで高い効果を上げられなかった。

 

 記憶も飛んでるだろうし、終わった後にはベッドの乱れも寝相みたいに偽装しておいたし、不貞(?)に至ってしまった事には気付かれずに済むだろう。

 俺もこの1件に関しては、徹底的に隠し通し墓の中まで持って行く所存である。

 

 

 …「いつもより大きい」とか「何時の間にこんなに上手になったの」とか、そういう発言もしっかり持って行きますが。

 もしバレたら、サクヤさんにもリンドウさんにも、下手すると今回は関係を持ってないツバキさんにも狙われかねん…。

 

 

 

 



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171話

スパロボクリアしました。現在2週目中。
実家に持って帰った甲斐があった…。
討鬼伝2まであと半月、これで暇をつぶせそうです。


それはそれとして、実家に帰って以来、自室の散らかりようが気にきました。
本棚買って、暫く掃除に専念して、押入れの中も整頓して…と考えているのですが、いつまで続くやら。

あと2inPCとかタブレットとか買うか悩んでます。
使う機会はそう多くないと思いますが、ゲームしながら攻略データとか見れるしなぁ。


それより何より、ランサムウェアでデータが幾つも開けなくなったのが痛い。
RSA4096という奴で、色々調べているけど音楽、動画、今まで集めたSSがほぼ壊滅。
これ修復できるのかな…、セキュリティも最新状態だったのに。


神住月

 

 

 浮気だ不貞だの話は置いといて、やっぱおかしいな。

 今まで地球に分身が現れていたのはランダムな場所だった。しかし、先日の1件に限って狙ったようにリンドウさんの部屋(らしき場所)に出現し、あまつさえサクヤさんが丁度訪れる。

 …サクヤさんに関しては、まだ説明はつく。リンドウさんとサクヤさんの部屋は歩いて1分もかからない距離だし、酩酊状態になって訪れたとしてもおかしくない。室内の気配を感じ取るくらい、極東ゴッドイーターでは珍しくない技量だ。部屋の中に何か居るのを察知して、それで入ってきたのかもしれない。

 

 だが、やはりリンドウさんの部屋にピンポイントでってのが分からんな。

 ノヴァの欠片がリンドウさんの部屋の近くに居る筈も無し。ノヴァとリンドウさん、俺との関わり…。

 

 

 …まぁ、心当たりは無いではないな。かなり強引な辻褄あわせだけど。

 

 

 桃毛蟻の前足についていた、ハンニバルみたいな篭手。アレがリンドウさんか、或いはハンニバルと化したリンドウさんをムシャムシャ……いや丸呑みとかした結果だとすると、多少は説明できる。

 桃毛蟻に取り込まれたリンドウさんの意識とかが座標指定になって、俺の分身がリンドウさんの室内に実体化した、と。

 

 この考え方はあんまり好きじゃないなぁ。だってこれって、リンドウさんが食われてるって認めてるようなもんだし。

 いやでも、咀嚼されたら流石に意識もクソもなく死ぬよな。という事は、丸呑みされたけど消化されてないか、或いはゲームのクライマックスシーンのように体内で一体化しているか。まぁ、あんまり考えたくはない可能性ではあるが、それでも救出の可能性はあると思っておこう。

 もしもサクヤさんがあの状態のままなようなら、桃毛蟻討伐により救出の可能性があるとか吹き込めば…。

 

 うん、次に夢を見てる時とかに、桃毛蟻の内部をちょっと探ってみるか。

 

 

 

 …サクヤさんと浮気チョメチョメしたのはバレてないよな? バレてたとしても不可抗力だって認めてくれるよな?

 

 

 

 

 

 

神住月アリサ視点日

 

 

 どうも、アリサです。最近は色々な意味で事態の急展開が多発しており、目まぐるしい生活を送っています。

 シオを連れてリンドウさんを探し回ったりしていたものの、さしたる成果もなく、過ぎてしまった時間を考えると完全にアラガミ化してしまっている可能性が高いです…考えたくもありませんが、ゴッドイーターとしてはありふれた末路である事も事実…。

 

 シオはシオで最近様子がおかしいと言うか…。なんかこう…モゾモゾしているというか、落ち着きが…元々無いけど、最近はそれに輪をかけて浮かれていると言うか。

 いや浮かれているって言うのも違いますね。どっちかと言うと、リンドウさんが居なくなった事で悲しんだり寂しがったりしている事の方が多いですし。情緒不安定と言うか、躁鬱の気配が見えると言うか。

 

 育児経験がある方に聞いてみようにも、シオの実年齢とか生い立ちを考えるとあまり意味がなさそうです。人間社会に入って、まだ半年も経ってないんですし。

 相談できそうな相手と言えば、元アラガミの研究者でもある支部長、現役の何でも研究者こと極東の影の噂曰く「おぞましきド○エモン」こと榊博士、そして母性溢れるレア博士くらい。言うまでもありませんが、あらゆる意味で不安しか湧かないメンバーです。

 その中でもまだマシというか信用できる(信頼していいとは言ってない)支部長に、廊下でバッタリ会った時に世間話風に言ってみたんですが…曰く、「理性と体…要するに精神と肉体のバランスが取れてないのだろう」との事でした。

 

 どうも、既にソーマに相談を受けていたらしく、「今更父親の真似事が出来るとはな」なんて微妙に嬉しそうな顔をしていました。

 シックザールさん家のフクザツな家庭環境はさておいて…曖昧すぎてアテにできない助言も置いといて。シオの躁鬱に関しては、そう時間が経たずに収まるだろう、と言うのが支部長の見解です。色々難しい事や例を挙げていましたが、とにかく表現が婉曲なんですよね…。

 

 

 あの人からは、シオを連れてリンドウさんを探せ、と言われているものの、居るかもしれないと言われた廃寺付近には全く手掛かりもなく、仮に見つけたとしても今のシオに何が出来るやら。

 極東には「橋が転んだだけでもオカシイ」という表現があるようですが(そして橋が転倒するのは普通におかしいです)、それを体現するかのようにハシャぎ回るは、逆に何も無い暗い所で意味も無く赤い目を光らせつつ更に神機(剣状態)をじっと見つめて突っ立っているは、とにかく言った通りに動いてくれません。反抗期でしょうか。

 

 ま、シオの事はソーマに押し付けましょう。何だかんだで保護者役を誰かに奪われるのはイヤみたいですし、コウタが中心になって噂に聞いたプロジェクト・ヒカルゲンジを進行中ですから。

 …コウタのクセに、妙に手際がいいんですよね、このプロジェクト。なんか「最近ちょっと弛んでたから、色々模索して試してるんだ」みたいな事を言ってましたが…まぁ、確かに入念な準備の仕方やリサーチの手際、それに指揮能力は高くなってますね。あのまま行けば、隊長を任命されるくらいには成長しそうです。

 

 …それに対して、私はどうでしょう? 今はアリウスノーヴァ対策の為、あの人との連絡役を務め(遭遇できるかは運次第ですが)、それが終わったら月からあの人を連れ戻す為に全力を注ぐつもりですが。でも私が出来る事って一ゴッドイーター程度の事だけなんですよね。

 だったら新しい分野に手を出せばいいじゃない、成長しようとすると言うのはそういう事だ…という考えもありますが、そもそも何をすればいいやら。

 ま、これに関しては、後日にでもレア博士に相談してみましょう。何なら、私じゃなくてレア博士…ママの手伝いをするって選択肢もあるんですから。

 

 …やっぱり今の無し。ママがやりたいのって「お嫁さん」でした。幾らママでもあの人は渡しません。私が正妻! ママは愛人役! …いえその、あの人自ら調教するペット役なら、満更でもないんですけど…。

 

 

 

 

 さて、話は変わりますが、先日あの人と再度接触する事が出来ました。出現したのは廃寺付近。今までに比べると、比較的極東支部に近い場所ですね。

 気のせい…ではないと思いますが、以前よりも存在感が増している…というより、生々しくなっているような気が? 今まで現れていたのは、あくまでも幻で…なんと言いますか、「触れたら消えそう」って思うようなモロさを感じていたんですよね。

 事実、触れた時の感触は、以前と違って確かに感じられました。それ以上に、感応現象での遣り取りも以前より濃密になっています。

 

 

 他愛も無い情報を受け渡しし、或いは重要な考察もありました。

 例えばリンドウさん捜索の状態とか、サクヤさんが夜毎に深酒してはリンドウさんの部屋で眠っているとか、アリウスノーヴァについてわかっている事とか。

 あっちからも、アリウスノーヴァ…あの人は桃毛蟻って呼んでましたが、何処が蟻…についての考察や、サクヤさんが大丈夫か等の心配事。

 

 …なんかサクヤさんについて隠し事があったような気がするんですが……気のせいですかね? 幾らなんでも、地球と月の距離を飛び越えて妙な事はできないと思うんですが。いえ、既に幻を実体化させつつあるようですけど。

流石にあの人でも、他人の嫁に手を出しはしないでしょう、多分。不倫は浮気の数十倍面倒くさくて危険ですよ? そもそも、サクヤさんに手を出すより、私とママを纏め食いするでしょうあの人なら。

 

 

 さて、湧いた疑惑は再会した時に追求するとして、アリウスノーヴァについてです。

 あの人から貰った情報でも分かりましたが、アリウスノーヴァの成長速度は私達の予想を遥かに超えているようです。今のアリウスノーヴァが極東以外に出向いた場合、相手がゴッドイーターでもアラガミでも、一方的な蹂躙劇になるのは想像に難くありません。

 外敵の有無を考えれば、すぐにでも極東を出て行きそうなものですが…それをしないのは何故でしょう。

 ノヴァとしての本能が、元特異点が居て、特異点モドキが居た極東から離れようとしないのか。あの人がノヴァの意識をコントロールしているのか。…極東のアラガミが美味いんじゃね、という意見も出ています。

 

 何れにせよ、いい加減見つけ出して討伐しなければいけません。 

 ですが、神機の攻撃が殆ど効かないという点をどうにかしないと、討伐しようにも出来ません。

 今は極東の精鋭部隊…サクヤさんを除く…が、足止めと情報収集に当たっていますが、相変わらず攻撃も通らず捕食もできず、目ぼしい効果はありません。強いて言うなら、フェデリコとアネットが言っていた「立ち上がっての超スピード攻撃」が一切見られない事から、使用に何かしら条件があるか、アリウスノーヴァ自身にもかなりの負担がかかる攻撃である事が考えられ案素。

 

 極東の3博士…こういうと、聖書に出てくるメルキオール等のようですが、もっとおぞましいナニカです…が対策を見出したらしく、何やら色々やっているようです。ママも最近は研究に気力をつぎ込んでいる為か、夜の語らいも……ゲフンゲフン

 まぁ、対策を作れるというならなるべく早くお願いします。私としても、恩師であるリンドウさんの仇を打ちたいところですので。

 

 

 

 

 

 

 ……あれ、でもアリウスノーヴァことノヴァの欠片を通して、あの人は地球に分身を発生させている訳で…… 。それを倒したら、分身は現れなくなる?

 …いえ、考えるのは止しましょう。放っておけば、あの人に会える会えない以前に、再び終末捕食が起こって諸共にオダブツしてしまうんですから。あの人と話をする為に世界を滅ぼすとか、どんだけ病んでるんですか。

 

 

 

 

神住月榊博士視点日

 

 

 やぁ、ペイラー・榊だよ。榊博士って呼んでほしいな。

 いやー、最近は色々と興味深い事が多くてねぇ。スターゲイザーの私としては、退屈しなくて実にいい。尤も、それで世界が滅びそうになるのはいただけないけどね。

 ああそうそう、今日の手記には、私が考えている事はあまり書かないようにするからね。何故って、手記に書くにはどうやったって時間が足りないからさ。これでも、同時進行で幾つも案件を抱えているし、色々考察もしてるんだ。一々書いていたら、十分くらいの記録をつけるだけであっと言う間にノートが一冊埋め尽くされちゃうよ。

 キミタチだって、小難しい専門的な話を延々と聞かされるなんて、子守唄扱いでもイヤだろう。

 

 

 さて、それじゃあ改めて話をするけど、今話題が(悪い意味で)沸騰中のアリウスノーヴァについてだ。

 私が「~~~なんだ。だから、あのアラガミを倒さなければいけない」と言うと、大抵皆が胡散臭そうな表情をするんだけど、こいつについては例外だ。極東の皆の殺意が高い高い。

 終末捕食が起きかねないって事を除いても、リンドウ君の仇であると目されているし、更に言うならマスコット扱いされているシオの進退にも関わる相手だからね。

 うん、やる気があるのはいい事だ。

 

 このアラガミ、単純な戦闘能力もさる事ながら、神機での攻撃を殆ど受け付けないという驚異的な性質を持っている。アラガミを討伐できるただ一つの存在が効かないなんて、ほぼ無敵状態だね。

 だからって放っておく訳にもいかない。私はスターゲイザーだけど、観測するモノが無くなるのは困る。そういう訳なんで、なんとか頭を捻って、アリウスノーヴァへの対抗策を見出した訳だ。

 勿論、対抗策は幾つかある。その中の幾つかを紹介しよう。

 

 まず一つ目。

 神機が「このアラガミを食べたくない」と思っているのなら、食べたいと思うようにしてしまえばいい。つまり…アリウスノーヴァに、私が作成・プロデュースした、この「初恋ジュース」をぶっかけてやればいいんじゃないかな。

 人間には不評なんだけど、神機には好評なんだよね、このジュース。試しにコアにかけて神機の前に置いてみたら、なんだか嬉しそうに食べるし。…この分だと、いつか神機と意思疎通が出来るようになるかもしれないね。

 とは言え、この方法には問題もある。初恋ジュースをかけたところで、激しく動けばすぐに乾いてしまうだろうし、誤魔化せるのは表皮だけ。オムレツを作ったとして、表面の卵焼きが絶品でも中身が最悪なんじゃ、誰も食べようとはしないだろうね。

 

 そこで二つ目の方法。

 アリウスノーヴァが食べるアラガミをこちらで選定し、アリウスノーヴァの体を作り変えてしまえばいい。ただ食べさせるだけでは即効性が無いし、何より不確定要素が多すぎるので、特性のコアを作り出し、それを体に打ち込む…という手筈になるね。

 私としてはこの方法がベターだと思っている。…これをベターな手段と表現するのも、忸怩たるものがあるけどね。

 

 アリウスノーヴァの成長の早さを逆手に取れば、打ち込んだコアは即効性の効果を発揮できる。

 更に、成長直後のアリウスノーヴァの体は、脱皮したザリガニのように脆くなっていると考えられる。あらゆる意味で、アリウスノーヴァを倒すチャンスだ。

 ただし、勿論デメリットだってある。目的がどうあれ、アリウスノーヴァの成長を促す代物なんだから、体が脆くなったとしても、攻撃力や体力、スタミナと言った総合力は跳ね上がると思っていい。

 また、万一取り逃がすような事になってしまえば、同じ手は当分使えないだろう。下手をすると、次のチャンスが到来するまでに、終末捕食が発生してしまう可能性すらある。

 そもそもからして、今用意できているコアは一つだけ。上手く体内に打ち込めなければ、それだけでご破算だ。

 

 背水の陣、どころじゃない。ここでやらなきゃ終わり、っていう…殆ど特攻って奴だね。

 まぁ、私達としてもこれだけで「後は君達に任せた」なんてのは無責任だと思うからね。色々小細工の用意はしてるんだ。

 例えば、このコアに毒の要素を持たせて、アリウスノーヴァを内側から殺せないか、とかね。現状だと、仮に要素を持たせられたとしても、あっと言う間に抗体が出来てしまいそうだけど…。

 …そうだね、例えば彼が使っていた神機が、遺されていた神機を食べて機能を増やしていたという話だけど、これを応用するのはどうかな? スキルにはプラスになる物だけでなく、威力や頑強さを落としてしまうようなモノもある。上手く組み込めれば、アリウスノーヴァの力を格段に下げる事が出来るかもしれない。

 結構面白いモノが出来そうだからね、期待しててくれ。

 

 

 

 少し気になるのは、リンドウ君についてだね。正直な話、私としても既にMIAと言える時間は過ぎ去り、フェンリルの定めている規定においても、死亡認定をせざるを得ない。

 人間の力が、時にアラガミを超え自然の摂理すら超える事を私は信じているし、その目で見た…終末捕食を防いだアレが、人間の力と言っていいかはともかく…事があるけれど、それを考えても絶望的だ。

 

 だけど、アリサ君から伝えられた情報には、リンドウ君が生存、少なくともアリウスノーヴァに関連している可能性が非情に高いとあった。その根拠までは伝えられなかったようだが…ノヴァの欠片と繋がっているらしい彼からの情報だ。無視はできない。

 しかしこの情報、アリサ君には口止めしているけど、どうするべきか。

 サクヤ君に黙っておくというのは論外。私にだって、それくらいの人倫はある。だけども、何とか立ち直ったサクヤ君に、不確定な情報を与えて心を乱すのも…。

 仮にリンドウ君がアリウスノーヴァと関わり、何らかの形で生きていると仮定して…無事に帰ってこれる見込みはどれくらいだろう。

 

 …駱駝が針の穴を通るよりはマシ、という程度だろうか。日頃の行いがアレだからね。アラガミとは言え神様殺しまくってるからね。

 

 

 彼が「リンドウさん帰還のカギになるかもしれない」と言っていた、シオ君の様子も少しおかしい。やれやれ、前途多難だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日過ぎて、アリウスノーヴァ討伐用のコアは準備できた。いやぁ、食べたがるシオ君を抑えるのが大変だったよ。

 考えてみれば当然だったね。このコアは、アリウスノーヴァという「神機が食べたがらないアラガミ」を、「是非とも食べたい」アラガミに変える為のコアだ。

 当然、普通のアラガミ…シオ君が普通と言えるかは置いといて…からしてみれば、文字通り垂涎のご馳走と言っていいだろう。実際、何度もソーマがシオ君のヨダレを拭いていたものだ。

 

 意外だったのが、ソーマが私達の話し合いを横でコッソリ聞いていた事かな。シオの世話をしているフリをしていたけど、バレバレだよ。

 彼は我々のような科学者を毛嫌いしていたと思うんだけどね。興味があるというなら学べばいい。ソーマはあれで意外と頭はいいから、いい科学者になると思うよ。

 

 

 

 さて、既に作戦の段取りも決まったし、狙撃手のサクヤ君も気合充分。各種サポート器具の準備も万全。

 後は現場を信じて待つばかり、か…。

 

 

 

 



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172話

ランサムウェアからのデータ復旧が可能らしいんで、PCを業者さんに送ることになりました。
その間執筆できない…かな?
実家に帰る時用の予備PCを注文したから、そっちで書けるかな…。

これが無ければ、討鬼伝2発売に合わせる為に、2日おきくらいに投稿しようかと思ってたんですが。
と言うか、データが無事だったの、本気で奇跡だったんだな…冗談抜きで間一髪だった。
もしもあの時データをもう一回保存せずに終わらせていたら、丸ごとふっとぶところでした。


神住月

 

 

 俺だ。

 なんか最近色々な夢を見るな。桃毛蟻と繋がってる夢じゃなくて、時々見ては妙なスキルを覚えるようなあーいう夢でもなくて…なんだろ、単なる夢でもなさそうなんだけど。

 

 ま、夢の話はどーでもいい。他人の夢…将来的な夢じゃなくて寝ている間の夢の話を聞かされる事ほど、無駄な時間は無いだろう。尤も、今の俺は無駄にしても余りあるくらいに時間を持て余している訳だが。

 地球では、そろそろ何やら話がクライマックスに向かっているっぽい。

 と言うのも、桃毛蟻の力がどんどん強くなっているのを感じるからだ。流石はノヴァの欠片と言うべきなのか、アラガミの進化速度と考えても異常な速さで成長している。

 終末捕食が起こるのも、時間の問題だろう。

 

 という事は、ゲームのストーリー的に考えると、勝って生き残るにせよ、失敗して地球が終末捕食に飲まれるにせよ、その分岐点。ストーリーとしては一番盛り上がる所だろう。これ以上の盛り上がりとなると、完全に詰んだ状態からの乾坤一擲の大博打くらいか。

 さて、ここにどう介入するべきか。

 

 介入自体は可能だ。ノヴァと桃毛蟻を通じて分身を出現させればいい。多分、ストーリー的にサクヤさんも近くに居るだろうから、力を送る基点が2つある事になり、その分強い分身が出せるだろう。

 だけど、介入した結果がどうなるのか分からない。それ以上に、どのタイミングで介入するべきか。

 

 地球の状況を知るには瞑想しないといけないんだけど、そうすると桃毛蟻が俺との繋がりを感じ取ってより強力になる可能性があるんだよなぁ…。

 ここぞというタイミングでないと、逆に足を引っ張る事になってしまう。

 

 

 …いや、目印は一つあるか。

 桃毛蟻が更なる成長、パワーアップをする寸前か直後。そこが恐らく決戦だ。

 桃毛蟻にこちらからの接続を悟られず、一方的にあっちの状態を感知する…。出来るかなぁ?

 そもそもどういう理屈で桃毛蟻と繋がってるかも分からないんだし、「こっそり瞑想接続する気分で」なんてファジーなやり方で出来るんだろうか…。まぁ、やってはみるけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ん……んーー?

 

 

 うん、接続はできた、接続は。桃毛蟻に気付かれているかまでは分からないけど、桃毛蟻の内部エネルギーを感知できる程度には繋がっている。

 …のはいいんだが、なんかこう……リンドウさんの気配っぽいのがするんですが?

 

 なんだろコレ。何かしら関係があるのは予想してたけど、命の気配そのものがあるのは予想外だ。

 ムシャムシャされたのなら、もうとっくに死んでる筈。なのに生命の気配があるって事は………取り込まれた? どうやって? 何の為に?

 アラガミが獲物を食わずに取り込んだ理由…正直、想像もつかないな。

 

 ただ、激烈に悪い予感はする。

 …とりあえず、リンドウさんが生存していると言うなら、生還させる手を考えたい。考えたいが、情報がまるで足りん。

 地球の皆は、桃毛蟻の中にリンドウさんが居るって事に気付いているだろうか? …桃毛蟻の表面に、リンドウさんの顔でも出てりゃ気付いてるかもしれんが…夢の中で見る限り、そういった事は無いなぁ。

 

 どうすっかな…そう言えば、リンドウさんの神機の幽霊(?)は出てきたんだろうか? レンって言ったか。結局男なんだろーか女なんだろーか。個人的には女が嬉しいけど、神機を相手にヤる気には流石にならんな。多分、ハタから見たら虚空に向かってパンパンエレクトしているようにしか見えないだろうし。…何より、俺の神機が妙な事に使われるんじゃないかと怯えている気がするし。

 ゲームでは、リンドウさんの神機と主人公の神機の二刀流(ただしあまり意味は無かった)で、「生きることから逃げるな」と叫びつつ吶喊、どうやったのか全く分からない展開でリンドウさんをズルッと引き摺り出したんだっけ。

 そういや、あそこでも感応現象みたいな事が起きてたな。リンドウさん新型じゃないのに。

 

 …仮に、リンドウさん救出にレンこと神機…ブ、ブラッドサルベージだったかな? やはり何か違う気がする。が必要だとしたら、どうすればいいだろうか。

 多分、極東の保管庫に入ったままだよな。都合よく誰かが持って来てくれればいいんだが。戦って時間を稼いで、誰かに持って来てもらうしかないか。

 仮にあったとしても、俺にゲームストーリーと同じことが出来るとは思えないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そんな事を考えていたら、ビリッと来た。

 桃毛蟻から何かが伝わってくる。…危険を感じている? ふむ、思ってたより早かったが、決戦か。

 後は出たトコ勝負。リンドウさんの悪運に賭けるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞑想を始めると、桃毛蟻が見ているらしき視界が見えてくる。その辺のアラガミをムシャムシャしているようだが、何かに気付いたように周囲を見回し始めた。

 …時間は夜、場所は何処かの山岳地帯。

 他のアラガミの気配は無い…ノヴァの欠片に怯えて逃げたか?

 

 他のアラガミが居ないこの状況で警戒するものっつったら……接続した俺に気付いたか、或いはゴッドイーターか。どうやら今回は後者だったようだ。

 衣擦れの音がする。

 

 体を起こそうとする桃毛蟻の意識に介入すべきか悩んだが、どの道もう開戦間近だろう。手札はもっと決定的なタイミングで切る。

 

 

 桃毛蟻に気付かれた、と分かったのか、物陰から現れるゴッドイーター達。ソーマ、アリサ、コウタ……3人だけ?

 いやいや、余計な疑問は持つまい、それこそ桃毛蟻に伝わりかねん。

 

 

 

 威嚇するように吼える桃毛蟻に、動き出す3人。正面からのソーマに、援護のコウタ、アリサは…見事な隠密で影から接近しようとしている。俺が教えた隠密術、随分練習したようだ。

 何度か桃毛蟻に切りつけたようだが、やはり効いてない。厄介な性質持ちやがって。

 

 しかも賢く用心深い。3人と戦いながらも、周囲への警戒を解いていない。…介入するなら、ここか。 

 

 

 桃毛蟻に伝わるように意識して、イメージする。

 3人からの攻撃に怯んだように見せかけて体勢を崩し、近寄った所に反撃。

 

 それを自分の思いつきと判断したのか、それとも俺の意識に誘導されただけなのか、桃毛蟻はそれに忠実に動こうとした。

 体勢を崩す。

 

 そして崖の上から唐突に出現するサクヤさん。やっぱり居たか。リンドウさんの仇なのに、出てきてない訳ないわな。

 月を背後に銃口を向ける姿は、殺意と美貌が合間って何とも神秘的な雰囲気が漂っている。が、桃毛蟻の感性にそれが引っかかる筈もなく。

 

 …いやコイツ凄いわ、マジで賢い。サクヤさんが現れた瞬間から、弾道予測までしてやがる。しかも隠れていたのが出てきたのには、攻撃の効かない自分に対する為の『何か』がある、とまで理解しているようだ。

 

 だが、体勢を崩したのはフェイク。桃毛蟻は『避けられる』と思っている事だろう。

 

 

 しかしそれこそ甘いッ! バランスを崩したように見せかけ、しかしすぐに立て直せる状態というのはヒジョーに難しい! 汎用性の高い人間ボディだって難しいのだ!

 

 つまりッ!

 

 

 

 

  動 く な ッ ! ! 

 

 

 

 

 

 一瞬だけでも動きが乱れれば、フリだった体勢の崩れは本物となるのだッ! 

 

 桃毛蟻の動きが止まった!

 弾道射出!

 

 

 直撃ィッ! ビューティホゥ!

 

 

 

 痛みに叫ぶ桃毛蟻。ふむ、介入は上手くいったようだな。

 しかし、同じ手は使えそうにない。咆哮には痛みだけでなく、怒りと不信の色が混ざっている。自分の意識が俺に誘導された事に気付いた? どちらにせよ、小細工をするのは止めて、自分のスペックで押し通すつもりのようだ。

 

 

 ここからが本番、と気合を入れなおす4人。成程、これで攻撃が通じるようになった訳ね。

 この桃毛蟻、火力(使うのは氷のようだが)に関しては目を見張るモノがあるが、同時にダメージに対する耐性…というより慣れが無いようだ。体質のおかげで、今までロクにダメージ受けた事ないんだろうな。あったとしても、まだひ弱だった幼生の頃か。

 

 

 さて、ここからどうなるか…。

 桃毛蟻の能力は、俺も殆ど把握してない。ハンニバルそっくりの手甲の意味も、リンドウさんの気配がする理由も、二足歩行して超高速攻撃が出来るかもしれないって事も、全て不明のままだ。

 ここからは桃毛蟻も本腰を入れるだろう。

 

 意識による介入が弾かれそうな今、俺に残された手札は一つだけ。

 桃毛蟻とサクヤさんを通して、今までの中で最も力を持っている分身を出現させ、戦う。正直な話、どれだけやれるか完全に未知数だ。

 幻にどれだけの耐久力があるか分からないし、動きも遠隔操作みたいなもの。…それでもやるしかない、か。撃破されても分身だから、本体の俺は死にはしない。

 最悪、誰かを庇って分身が壊れる事も考慮に入れておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そうこうやってる内に、青筋立てた桃毛蟻が暴れまわってる訳だが…まぁ強い強い。いやホントに大したもんだわ。

 体は脆くなってる筈だってのに、属性攻撃がロクに通じてないっぽい。…妙だな、桃毛蟻の攻撃を見るに、こいつの属性は氷、弱点は炎っぽいんだが……明らかに炎に耐性がある。

 

 それに加えて、異様に高い攻撃力。そしてこの動きは……うーん? 体格にや骨格に明らかに合ってない、その癖妙にスムーズな動き。

 なんか…チグハグだな、こいつ。

 アレだ、ビーナスみたいに複数のアラガミを組み合わせたような…………組み合わせ?

 

 

 

 

 

 あ。

 

 

 

 まさかコイツ…?

 

 

 

 それに思い当たった頃、桃毛蟻は追い詰められていた。確かに強いが、ゴッドイーター達の強さはそれ以上だ。

 ついでに、他にも何か小細工してるなコレ。桃毛蟻の動きを阻害するような何かっぽいけど…。

 

 桃毛蟻は包囲され、各所に結構な傷、部位破壊されている部分も見える。という事は…。

 

 

 札を切るなら、このタイミングって事か。俺も、桃毛蟻もね。

 ご丁寧にも、フラグを立てるようにサクヤさんが叫ぶのが聞こえた。

 

 

 

「これでトドメ! リンドウの仇!」

 

 

 

 …その叫びは、逆襲フラグじゃなくてリンドウさんの生存フラグである事を祈る。

 叫びを聞いた桃毛蟻は、わざわざサクヤさんに顔を向けて……嘲笑うように顔を歪めた。言葉まで理解しているのか、それとも単なる偶然や本能なのか。

 

 何れにせよ、変化は劇的だった。

 

 

 桃毛蟻の背中の羽が、大きく盛り上がる。いや、盛り上がってるんじゃない? 形を変え……いやこれも違う。

 

 

 

 桃毛蟻の背中が裂けて、中から人型の上半身が起き上がる。それを人型と言うべきかトカゲ型、竜型と見るかは別として……俺はその形を知ってる。

 

 

 

 ハンニバルだ。ただし、桃毛蟻の背中についていた羽が、ハンニバルの背中についている。

 しかも篭手は右腕……これって普通だっけ、侵食種の方だっけ。ゲームではリンドウさんの右腕がアラガミ化状態だったから、侵食種の方か。

 

 

 

 下半身(と言うか腰から下)は桃毛蟻。上半身はハンニバル。

 分かりやすく言えば、ケンタウロスのような状態だろうか? いや、FF8版のアルテマウェポンって言った方が分かりやすいか。…俺のループの状態を考えると、討鬼伝世界のトコヨノキミが一番近いか。

 

 で、リンドウさんの気配があって、ハンニバル侵食種って事は。

 

 

 

 

 ハンニバルの胸元が、メキメキとグロテスクな音を立てて開く。

 

 

 予想はしてたが、そこにはリンドウさんが上半身マッパ状態でハンニバルに取り込まれていた。

 ちなみになんかベトベトしてるっぽいが、アレはハンニバルか桃毛蟻の体液だったんだろうか…。

 

 

 

 リンドウさんの姿を見て、なんか色々混乱するゴッドイーター達。普段ならサクヤさんが落ち着かせるんだろうけど、そのサクヤさんが一番衝撃的だからな。

 予想はしてたが、ハンニバルが篭手付きの手を握り締めて、サクヤさんに向かってファイアーパンチ!

 

 

 

 

 

 アラガミ状態分身、介入!

 

 

 ガードすると衝撃で分身が消えるので、ブレードで腕を逸らす。ちょっと切れたら、リンドウさんの顔が歪んだ。

 どうやら痛覚が繋がっているらしい。人質のつもりか?

 

 

 

「あ…あぁー!」

 

 

 俺を指差しながら叫ぶアリサ。落ち着け。E・T的なカンジでアリサの指に指を合わせ、感応現象開始。

 色々語り合いたいトコだが、そんな時間は無い。ついでにアラガミボディ状態なので真っ当に喋れない。

 

 余計な事(知られたら怒られそうな事)は伝えずに、戦闘に必要な情報だけ流す。

 この状態の桃毛蟻が使うだろう攻撃法方、弱点部位、そしてリンドウさんを救出するにはどうすればいいか。

 

 

 …いやホントどうしようね。

 リンドウさん帰還エピソードにおいて、レン…は、まぁ主人公に情報を伝える為の存在と割り切れば、ぶっちゃけ遭遇してなくても問題はない。

 リンドウさんを「介錯」するなら、レンことリンドウさんの神機は必要だが…まぁ、これも要らない。一番攻撃が通りやすいってだけで、他の攻撃で倒せない訳じゃない。

 

 んじゃ何が問題かと言うと、リンドウさんを叩き起こす為、精神世界に侵入する………必要があるか?

 確かにアラガミ化して、意識も無いっぽいが…………。

 

 

 ま、その辺はとりあえず『切断』してから考えるか。意識が無いなら、かなーり痛い思いしたって大丈夫だろ。むしろ気付けになるかもしれん。他人事丸出し。

 放っておいたらリンドウさんは完全に取り込まれて死亡、躊躇っていたらリンドウさん救出どころかこっちが全滅するんだから、とりあえず切り離してから後の事考えよ。

 

 リンドウさんの姿を見て、動揺しているサクヤさんを強引に下がらせ、俺参戦。

 

 という旨を、アリサから皆に伝えてもらおう。返事は聞いてない、と言うより聞いてる暇が無い。

 突然出現して獲物を庇った俺が気に入らないのか、それとも自分と俺との何かしらの繋がりに気付いたのか、既に桃毛蟻ハンニバル…何か略称考えよ…は俺に狙いを定めている。

 ハンニバル部分に至っては、最初から逆鱗が崩壊しているのか、猛烈な炎が吹き上がっていた。…アレ、リンドウさんの体も炙られてるな…早いトコ鎮静化させんと、全身ヤケドで死んでしまいかねない。

 しかも桃毛蟻が出した氷にバンバンぶつけて、水蒸気爆発っぽいのまで起きている。むしろ反作用ボム?

 水蒸気が強すぎて、視界にも徐々に霧がかかり始めた。

 

 …こりゃ洒落にならんな。霧は俺の炎か何かで爆発起こしてフッ飛ばせばいいけど。

 

 

 まぁ、何はともあれ…外野の騒ぐ声を無視して、バトル突入である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神済月

 

 

 来た、見た、勝った! …なーんて一言で済ませられるレベルだったら、どれだけ楽だったか。

 いやもう、ガチで強かった。

 

 単純なスペックも高かったんだが、それ以上にハンニバル部分の動きが…。

 ゲームとはまるで違う。ゲームのハンニバルは、火炎攻撃、尻尾攻撃、それに剣を振り回すような攻撃だけだったと思うが…その他、パンチ、炎剣の投擲、桃毛蟻と連携しての突進しながらの剣振り回し…。それに何より、こっちの攻撃を篭手で受け流すなんて技は無かった筈だ。

 いやもう、ソーマのスライディング斬りと、俺のチャージクラッシュ(アラガミ状態だとチャージ時間殆ど無いけど)の同時攻撃を腕で振り払った時はマジでビビった。

 

 「パリイ!」って思わず叫んじゃったよ、上手く声が出せないぁら「バァイ!」くらいにしか聞こえなかったと思うけど。動き的にも、パリイ!な感じだった。

 その他、体の使い方が上手い上手い。肘打ち裏拳を初め、マ・ワ・シ・ウ・ケモドキまでやりやがった。更に反撃のラリアットが淀みなく続く。

 暫くすると、桃毛蟻の動き方も変わり、ハンニバル部分の行動と連携するようになるは、位置取りや移動の仕方が明らかに戦術戦略的になるは。

 炎で桃毛蟻を攻撃しようとすればハンニバル部分で受け止め、先にハンニバルをどうにかしようと氷を使えば、逆に桃毛蟻が打ち払う。

 互いの弱点をアラガミバレットで付けはするんだけど、攻撃がマトモに当たらない。

 

 

 

 勿論、幾らアラガミがかしこいからって、ここまでやれる筈が無い。この手の技術が人間の専売特許だとは思わないが、アラガミが覚えるような技術じゃないだろう。

 そこまでやれる理由は明らかだった。

 

 あんにゃろう、リンドウさんを殺さずに取り込んだ狙いはコレか。自分ではハンニバル部分を効率的に扱えないから、制御ユニットとしてリンドウさんを利用しようとしやがった。ハンニバル部分を攻撃したらリンドウさんも苦しむ…というのは、狙ってやったのか分からない。

 よくもまぁ、そんな事を思いついたもんだ。ひょっとして、俺との繋がりが妙なインスピレーションを与えてしまった…なんて事はないよな?

 もしそうだとしたら、ここまで話がややこしくなったのは俺が原因…いやでもそうなったからこそ、リンドウさんも無事生還できた訳だし…いやいや、そもそもリンドウさんが片腕吹っ飛ばされたのは、俺のイメージが桃毛蟻に伝わったから…でもそれも推測…。

 …まぁ、結果よければ全て良しか。

 

 

 

 

 で、かなーり梃子摺ったんだけど、やっぱりあの状態は桃毛蟻にもかなりの負担がかかったらしい。

 考えてみりゃ当然だな。リンドウさんの意識かハンニバルの意識か、とにかく文字通り身の内に敵が潜んでいるようなもんだ。それを抑え込む為にかなりのエネルギーを使っていたようだ。

 そんなリスクがあるって事は、当然今まで多用は出来なかった。だからあの戦闘体勢になる事のデメリットを自覚できていなかったようだ。

 

 即ち、不自然な体勢によるバランスの崩れ。

 

 どんな形であれ、生物ってのは必要があってそのような姿をしている…というのは至言だと思う。それはアラガミだって例外ではない。

 特に四足歩行と言うのは、安定感という点で見ればこれ以上無いくらいの完成形だと思う。

 だが、それに不自然な形で要素を付け加えたらどうなるだろう? 安定した台の上に、安定しないヤジロベーを乗せるようなものだ。

 

 確かに、ハンニバルの上半身を乗せ、更にリンドウさんを制御装置に使う事で、防御力・攻撃力共に跳ね上がったのは事実だった。

 だが同時に、安定感という面では大幅な低下を見せていたのだ。

 

 桃毛蟻が走ればハンニバルの体が揺れ、ハンニバルが拳を振るえば桃毛蟻がひっぱられ。

 もしもハンニバルにも意識があって、互いに合わせて戦っていたなら、この欠点はほぼ消えていただろう。しかし、実際は桃毛蟻の上でハンニバルは半ばオートモードで動いていただけ。

 流石に桃毛蟻にも、俺達と戦いながらハンニバルを完全制御し、更に人獣一体を成し遂げる程のキャパシティは無かったようだ。

 

 

 まぁ、それでも猛烈な勢いで慣れていってたけどな。完全に慣れる前に決められるかどうかが勝負の分かれ目だった。

 カギになったのは……リンドウさんの神機だった。

 ご都合主義な事に、現場まで持って来てたんだよねーこれが。「何で?」って思ったけど、一応理由はあった。

 

 そもそもね、桃毛蟻が妙に脆い…と言うか、怯みやすいなーとは思ってたんだ。それに、周辺一帯から妙な感覚を感じていた。俺自身も、何だかバランスを崩しやすかった気がするし。

 …なんとね、どういう訳だかリンクサポートが動いてたんだよ。

 リンクサポート。GE2の、出撃してない人の神機使って、色んな効果を出すアレだよ。…なんで今動いてんの?

 疑問はあったが、とにかく都合がいいのは変わりなし。

 

 リンクサポートの機械に繋がれていたリンドウさんの神機を引っこ抜いて、二刀流しました。双刀的に、アラガミ状態+鬼人化!

 ハンニバルのパンチを避けて、腕が伸びきった所にザクッと差して、腕を地面に縫い止めた。

 

 

 …で、このタイミングで何故か感応現象が起きた。ただし、相手はアリサじゃなくてレンだったが。リンドウさん…の気配も薄っすら感じたんだけど、姿が見えなかった。

 怒涛の展開だったなぁ…。

 

 レン曰く、自分はレンといい、ここはリンドウさんの意識の中……なんだそーだけど、ぶっちゃけ知っています。

 先手を打って、「レンはリンドウさんが使っている神機で、アラガミと化したリンドウさんを介錯できないかと考えてたら、リンドウさんは桃毛蟻に取り込まれるはレンはリンクサポートとかいう得体の知れない機械に繋がれるは、挙句の果てには俺が平然と掴んだ上に感応現象まで起きてワケワカメなんですねわかりますん」とぶっちゃけてみた。

 戦慄された。「アラガミ化といい僕の事といい、恐ろしい人です…」だそうな。

 

 

 まーとにかく、予想外のところでレン登場した訳だが、そんでどうしろと? 意識を辿っていって、リンドウさんを呼び覚ませと?

 

 

「大体そんな所です。ここで数年くらい暮らさないと、現実では1秒も経ちませんから、時間は気にしなくて結構です。尤も、どっちにしろリンドウを起こさないと、出るに出られそうにありませんが」

 

 

 …レンを殺せば、感応現象消えるんじゃね? リンドウさんと俺だけで、現象が成り立つとは思えんし。

 

 

「さらっと恐ろしい提案をしないでください。…そうですね、可能ではあるかもしれませんが…もしもそうした場合、或いはそうしようとした場合、こっちにも反撃の手段があります」

 

 

 別にやる気はないけど、その手段とやらに興味はあるな。具体的には?

 

 

「教えたら対策練られちゃうじゃないですか……でも、そうですね…脅しとして伝えておきますが……僕は今でもリンドウと、ある程度の繋がりがあります。そして、今ではアナタとも」

 

 

 ほほう。

 

 

「そして、僕が死、或いはそれに近い状態になったら、リンドウに『置手紙』が渡るようにしましょう。内容は……貴方が僕に危害を加えようとした事と。………泥酔したサクヤさんと寝た事でどうです?」

 

 

 

 絶対リンドウさんを救い出すんで、それだけは勘弁してください。アレは俺も本意じゃなかったです。

 

 

 

「結構。…ああ、リンドウにこの情報は渡ってないですよ。僕も確信したのはついさっきです」

 

 

 …感応現象で余計な情報まで読み取ったか…。迂闊だったな。

 ところでさ、さっきから(実際はゲームプレイヤーだった頃から)気になってた事があるんだけど。

 

 

 君、男? 女?

 

 

 

「…僕は武器だから、性別無いんですけど…」

 

 

 でも人格はあるだろ。増して、神機の中身はアラガミっつー生物だし

 

 

「アラガミにだってオスメスあるか怪しいものですが…意識的には男、でしょうか。僕の性格も、リンドウの影響を多大に受けて、データが蓄積されたものだと思うと…」

 

 

 意識的には、という事は…。それに人間にはアニマ、アニムスという女性の中の男性像、男性の中の女性像があってだな。

 

 

「…そんなに僕を女にしたいんですか?」

 

 

 そのセリフ、聞き様によっては卑猥だな。まぁ、男より女の方が嬉しいのは確かだが。

 まー流石に、俺もこの状況で手ェだそうとは思わんよ。現実じゃ戦闘中だし、まかり間違ってレンの意識や感覚がリンドウさんに行った日にゃ、ぬふぅなカンジになってしまいかねん。

 それはそれでリンドウさんが飛び起きるかもしれんけど、後が怖いし。

 

 

 しかし、リンドウさんの意識を呼び戻したとして、どうする? 仮にアラガミボディから引き摺り出せたところで、アラガミ化が再発するんじゃないか?

 

 

「ソレに関しては、正直行き当たりバッタリですが、アテがあります。あなたという前例もありますし」

 

 

 確かに俺もアラガミ化は制御できてるが、理屈がわかってる訳じゃないんだぞ?

 

 

「勿論、リンドウが自力でコントロールできるなんて思っていません。それが出来ていれば、『介錯』は無くなっているでしょうし。…簡単な話です。僕がリンドウのアラガミ化を抑えます」

 

 

 ほう。

 

 

「本来の使い手以外の人間が神機を持てば、ゴッドイーターであっても侵食されます。逆に言えば、やろうと思えば『使い手を侵食する』事も不可能ではないんです。僕がそれに干渉する事も」

 

 

 

 でも、それってリンドウさんが24時間神機を持ち続けなければいけないって事にならんか?

 

 

「死ぬよりはいいでしょう。その間に、何かしらの手を見つけてくれればいいんですが。…さて、話はこの辺りにしておきましょう。リンドウの救出、手伝ってくれますね?」

 

 

 

 

 そういうセリフは、「ちくり帳」と書かれたノートを見せ付けながら言う事じゃないと思います。まぁ、やるけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そんな流れで、リンドウさんの意識を目覚めさせる為、サクサク狩りをするのだった。

 

 

 

 狩り自体は、そんなに厄介なものじゃなかった。俺の知ってるアラガミが殆どだったし、状況もそんなに悪くない。レンがオペレーターみたいな事をやってくれたから、バックアップもバッチリだ。

 その後の展開も予想できてた。あの崩れかけた教会…では別に死に掛けたりしなかった(と言うか俺が大暴れして切り抜けた)から、別の場所でハンニバルとやりあう事になるんだろうな、と思ってたんだ。

 

 

 

 

 …ただ、そこに桃毛蟻まで居るのは予想外だったけどな!

 

 考えてみれば当然だったかもしれない。ゲームでは、リンドウさんを侵食しようとするアラガミ…ハンニバルのみとの戦いだった。

 が、今はそのハンニバルを桃毛蟻が取り込んでいる。当然ながら、合意の上で融合している訳ではないだろう。抵抗しようとするリンドウさん、リンドウさんを塗りつぶそうとするハンニバル、更にハンニバルを抑え込もうとする桃毛蟻。

 酷い乱戦である。しかも、今度は現実での戦いのように、不自然な体格ではなく、ちゃんとした体で自由自在に動き回る。…リンドウさん、よく生き残れてたなぁ…。どんな精神力してんだか。

 

 まあ、そこまで行けば後は何とかなる。なまじ図体デカくて力も強い、挙句耐性や攻撃属性まで反対なもんだから、同士討ちに持って行きやすい。アラガミバレットの効果も高いし、現実での戦いみたいに耐性の高い部位で弱点を庇う動作も無い。

 状況の厄介さで言えば、こっちの方が上だったが……リンドウさんが正気に戻って援護してくれたのも助かった。

 

 最終的には、目出度く精神世界内でのミッションは全て完了。ゲームだとレンがオダブツした記憶があるが、それも無しだ。

 桃毛蟻とハンニバルを討伐した後、リンドウさんとレンが何やらお話していたが……まぁ、ここで聞き耳立てるのも無粋だな。何より、まだ状況は終わってない。

 現実世界では桃毛蟻inハンニバル…この場合はonかな…状態だし、リンドウさんの切り離しもやらなきゃいけない。桃毛蟻本体の討伐もあるし、リンドウさんのアラガミ化を止められるかどうかも未知数だ。

 俺の個人的な用事を言えば、アリサやレアとも話したいし、できればGE2に向けての布石も打っておきたい…何すればいいのか全然考えてないけど。

 

 やる事が山積みだぁ、とゲンナリして、現実での桃毛ニバル(…語呂が悪い。却下)に八つ当たりしようと決めた時、スーッと景色が薄れ始めた。どうやら感応現象が終わるらしい。

 

 その薄れていく光景の中で、レンが話しかけてきた。…非常にビミョーな顔付きで、だったけど。

 

 

「ありがとう。…僕が思っていた結末より、ずっと素晴らしい未来が見られそうです」

 

 

 …そう思うなら、その嫌そうな顔はなんぞ。妙なタテマエとかマエガキとかいいから、はよ本題。話せる時間も短いだろ。

 

 

「………ええ、そうですね、嫌ですけど…。リンドウの体の事ですが、やはり僕が協力しても、アラガミ化を抑えるのは至難の業です。なので、貴方に協力を仰ごうと思うのですが」

 

 

 協力するのは別にいいけど、俺に何をしろと?

 

 

「貴方が使っている、レア博士が『血の力』と呼んでいる力を使います。僕にもあれの正体は分かりませんが、意思に左右される力なんでしょう? 僕がその力を持てれば、リンドウの体により強く干渉できます」

 

 

 レンがあの力を使える確証はあるのか?

 

 

「はい。リンクサポート機能を通じて、どのように操ればいいかは大体分かっています」

 

 

 …ああ、そういやあの機能って、血の力で何故か動くって代物だったか。何でこのタイミングで完成してるのかと思ったら、レンがそれに近い力を持ってたって事か。

 一応理屈は通るな。俺からノヴァの欠片を通して桃毛蟻へ、桃毛蟻からリンドウさんへ、リンドウさんからレンへ、レンからリンクサポートの機械へ、か。

 で、リンクサポートは何故かリンドウさんの神機でしか起動しなかったから、「一緒に仇討ちしよう」みたいなノリで実戦投入されたと。

 

 

「大体そんな流れでしたね。結果オーライと言うべきか、僕がずっとリッカさんに向けて密かに主張を続けた成果と言うべきか…。いえ、その話は置いておきます。とにかく、貴方のその力が必要です。文字通り」

 

 

 オーケイ協力しよう。で、霊力受け渡しの方法だが…。

 

 

「…サクヤさんにしたのと同じ方法が、一番効率がいいんだと思いますが」

 

 

 マジか!

 

 

「思いますが! 生憎悠長にR-18やってる暇がありません。もう1分もしない内に、この感応現象も完全に終わります。なので、キスだけで終わらせてください。出来るでしょう? 出来ないとは言わせません」

 

 

 

 …出来るけどお前、ビビってるだけじゃないか? 俺がどうやって霊力受け渡しするかなんて、今のところ誰にも教えてないぞ。サクヤさんのを見ただけで、ハッタリかましてるだろ。

 

 

「ええそうですよビビりもします! 何でもいいから、さっさと終わらせてください! もう感応現象が30秒保ちませんよ!?」

 

 

 へいへい、雰囲気ねーな…。でわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドサクサに紛れて色々触ってみた。

 

 

 

 …ふたなり二人目、か。千歳は個人的にセーフだったし、レンもセーフかな…。指までは入れたし。

 

 

 

 

 

 

 そんな按配で、現実に戻ってきたのだ。

 延々と精神世界内で狩りしてたんで、どういう状況だったか思い出すのにちょっと戸惑い、逆撃を受けそうになったが、そこはアリサとコウタが牽制して防いでくれた。

 今度はリンドウさんが目覚めたおかげか、ハンニバルの動きが固まったんで、レン…と言うかリンドウさんの神機をハンニバルの腕から引き抜いて潜り込む。

 

 そいやぁ! とばかりにリンドウさん近辺をぶった切ってくり貫いた。

 

 …ここで分かったんだけど、確かにレンの中に霊力が宿ってるな。これでアラガミ化を抑えるらしいから、リンドウさんと一緒に下がらせておくか。

 

 

 さて、リンドウさんも何だかんだで救出できたんで、後は桃毛蟻の討伐だ。むしろこれは簡単なくらいだった。

 何せ、制御装置を失ったハンニバルボディが、桃毛蟻の体の上に鎮座したままなのだ。バランスは無茶苦茶、死体みたいに動かなくなってるから邪魔にしかならない。

 ここぞとばかりに攻め立て、前線のゴッドイーター総出のラッシュで仕留めました。

 

 …正直、この後ハンニバルのコアが再生して連戦…って事も考えてたんだが、どうやらそれも無いようだった。

 

 

 何はともあれ、ミッション完了。周辺に敵影無し、オールクリアだ。

 完全に戦闘が終わったと気を抜いて。

 

 アリサが神機を放り出して、抱きついて…と言うか飛び掛ってくるのを受け止めようとしたら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間には、分身は消えて月に意識が戻ってきましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 何で?

 

 

 

 



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173話

討鬼伝2体験版の今までのデータは引き継げないんだろうか…。
レベルの上がる速度を見ると、発売までに結構鍛えられそうではあるけども。

それはそれとして、ランサムウェアのおかげで今まで集めてきたデータが全滅。
中にはHPや作品が削除されて、もう手に入らないものとか、あまり胸を張れない経緯で入手したものもあるというのに…。
しかし業者に連絡しても無理ならどうにもならん。ヤケ酒&ヤケ投稿します。
しかも郵送代+着払いで1万近く飛んだ。
今考えると、バックアップデータを外付けHDに移して、そっち送ればよかった。
少なくとも郵送代は節約できたろうに。

まだ残ってるやつは、ゆっくりダウンロードしなおすしかないか…。


神住月ガーリックのパンが美味い日

 

 

 …多分、あの後アリサは俺の分身が消えて、そのままズサーッとコケたんだろうなぁ…。恋人が再会する割と感動的なシーンだったと言うのに、いきなり消えるとは空気が読めてないな。

 あの流れはさぁ……ほら、なんだ、こう……久々に再会した仲間達と、一言ずつでも語り合って、再会を約束してから光に包まれて消えるとか、そーいうシーンだろぉ?

 

 …シオならともかく、俺みたいな色ボケ外道に、そんなヒロインみたいな演出は無い? ああそうですかそうですね。

 

 

 …しかし、考えてみれば当然の結末だったかもしれない。

 何せ、俺の分身をあっちに出現させられていたのは、ノヴァの欠片が地球で活動していたからだ。つまりは桃毛蟻。

 それをぶった切って完全に沈黙させたからなぁ…。完全に活動停止して、分身を出現させる為の送受信機が無くなってしまった状態だ。そりゃ分身も即消えるわ。

 

 一応、霊力的な繋がりだけならレアやアリサ、あと細いけどサクヤさんにもあるんだけど、純粋に月と地球間で通信できるだけの出力が足りない。今までは、ノヴァがそれを補ってたんだけどな。

 ちなみにレンには繋がりは無い。あの時のキスでは、繋がりを作らずに霊力だけを吹き込んだから。

 

 

 

 うーむ、何と言うか…すっげー不完全燃焼感。デスワープした時と同じレベルでモヤモヤする。

 結局、地球に現れてやった事と言えば、ちょっと観察してちょっと情報交換してちょっと強敵と戦ったくらいだしなぁ……サクヤさんとのアレは無かった事にする方向だし。

 

 大体、リンドウさんがどうなったのかも不明のままだ。ハンニバルから解放したはいいけど、本当にレンが言うようにアラガミ化を抑えられるのか。

 シオも居るけど、特異点でなくなったシオにアラガミ化を抑える能力は残っているのか。……そういや、シオとも全く話せなかったな。

 うぅむ……なんていうか、キャラゲーに空気参戦(しかも会話シーンほぼ無し)したらこんな気分じゃないだろうか。

 

 

 

 

 

 しかし、これからどうすっかな…。有体に言って、やる事が無い。ヒマだ。

 

 これまでは何だかんだ言いつつ、地球の様子も見れていたし、厄介事に対応しないといけなかったから、真剣に考えてたし、ヒマという程のヒマは無かった。

 が、ノヴァの欠片が活動停止した今、瞑想しても地球の様子は全く見れない。分身なんて影も形も出来てないだろう。

 月のノヴァ全体と同調したりしてエネルギーを取り込むのも、もう頭打ちに近い。ノヴァ自体はもっと強いエネルギーを持ってるけど、俺の器が限界だ。

 

 なぁんかやる事無いかなぁ。

 瞑想してばっかでも死にはしないけど、それでアリサ達が迎えに来てくれるのを待つってのはな…。地球の状態を考えれば、月までやってこれるだけの条件を整えるのに何十年かかるか。

 流石にそれまで瞑想してジーッとしながら待つのもなぁ…。

 

 

 

 

 

 …分身、分身…か。考えてみりゃ、出来たんだよな。ノヴァのサポートがあったとは言え…。

 地球に分身を出現させる事もできたんだから、俺のすぐ傍に出現させる事も出来るんじゃないか?

 

 もし出来たら………俺二人、女一人のサンドイッチプレイとかにも行ける訳か。分身の感覚や思考は共有できるから、他の男に触らせてる感も無い。素晴らしいな!

 

 …でも出来たとしても、地球に戻れなけりゃ相手も居ないか。

 結局そこに辿り着くんだよなぁ。月からどうやって脱出するか。

 

 最終手段デスワープという手もあるにはあるんだが、自殺だけはする気にならない。今まで何だかんだ言っても、それだけはしなかったしな。

 となるとやっぱり脱出か…。現実的・非現実的を問わず、月から移動する方法。

 

 

 ①ロケットを作る。

 ②生身で飛んでいく。

 ③テレポートする。

 ④月を落下させて地球と地続きにさせる。

 ⑤月ではなくコロニーを落下させる。

 ⑥いっそ太陽が爆発する。

 ⑦縮退砲が流れ弾で飛んでくる 

 

 

 

 ……冗談半分で考えてはみたが、ロクなもんじゃねーな。

 この中で一番現実的なモノは………③かな? テレポートの何処が現実的だ、と言われるとその通りだが、俺にはミタマの力がある。タマフリ『縮地』を使えば、短距離だがワープは可能なのだ。

 霊力をもっと篭めて、術を改良して……上手くやれば、地球にテレポートするのも不可能ではない? 人間の身じゃそんな霊力は振るえないが、そこはノヴァ本体というバックアップがある。

 

 よし、この方向で考えてみるか。

 

 

 

 

神帰月ウィルキンソンとポッカに嵌っています日

 

 

 新しい月に突入。していると思う。下手すると新しい年に突入しているかもしれん。

 延々と術式の改良やら、霊力の増大やらの実験をやってたら、完全に月日の感覚が無くなってしまった。

 

 で、結論なんだが……やっぱ霊力が足りん。ノヴァのバックアップで量自体はあっても、俺が一度に使える量に限界がある。

 テレポートの距離も大分伸びたが、月と地球の間だからなぁ。文字通り、天文学的な距離だ。そりゃ人間が生身で移動しようなんて、考えただけでバカにされる距離だったわ。まぁ、他にやる事がないから、それを大真面目に考えてる訳だけど。

 

 

 さて、続けて考えていくが、とにかく霊力を扱える量を増やさなければいけない。地道に上げていったら、何十年かかるか分かったものではない。

 もっとこう、バーンと力を跳ね上げるよーな、「お前世の中ナメてんの?」的な発想を実現させなければいけない。

 

 

 

 

 

 まぁ、心当たりは一つある訳ですが。

 

 前のMH世界で腕を剣術バルドに切られた時に発生し、GE世界に来てもまだ詳細不明だったパワーアップ現象。アレをどうにか実現できないかと思うのだ。

 日記を読み返し、リッカさんとの会話を思い出し(多分歪曲されてるが)、条件を纏めてみた。

 

 まず、神機の拘束がゆるい、或いは解かれている事。これは問題なし。

 次に、何でもいいから神機に認められる事。例えば誓いを全うし、「こいつなら力を貸してもいい」と思わせる事。

 ……神機、もう俺の一部なんだけどな…まだ独立した意識あるのかな…。

 

 とにかく、現状確定しているのはこの2件だろう。

 後者が問題だな…誓いって何でもいいんだろうか? 極端な話、オナ禁とか逆に休まず何連発とか、 或いは一週間くらい瞑想して微動だにしないとか。

 いや、考えてみれば剣術バルドに腕を斬られた時は、そんな誓いは立ててなかった。

 

 と言う事は、もっと単純に「協力してもいい」と思わせる事が条件か。「このままでは自分も死んでしまう」とか、それくらい追い込めばいいのか?

 ……いや待てよ、もっと簡単な方法があるんじゃないか?

 

 「あまりにもヒマだし、ちょっと手ぇ貸してやるか」みたいな感じで。俺だって退屈には耐え切れないんだ。神機だってそうかもしれない。食える相手も居ないし、斬りつける相手も居ない。何もする事が無い場所に人間を放り込んでおくと、発狂するって話も聞いた事があるしなぁ…。

 そうだな、とりあえずは神機の協力を何かしらの方法で得る事を考えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神逝月でもしんどかった日は飲んでいいよね日

 

 

 

 えーっと、はじめまして!

 私は香月ナナだよ。好きな物はおでんパン。これでもゴッドイーターなんだ! まだ見習いだけどね。

 「ブラッド」っていう特殊部隊に所属してて、今は「血の力」や「ブラッドアーツ」っていう必殺技? の訓練中なの。でも、全然使えるようにならなくて…ちょっと焦ってるんだけど、ロミオ先輩が「普通はそんなものらしいから、とりあえずやれる事をやってけ」って言ってくれたんだ。

 

 ロミオ先輩が言うと、説得力があるよね。別にバカにしてるんじゃないよ? …まぁ、最初に会った時、何となく「三枚目ポジションの人かな?」って思っちゃったのは事実だけど。

 ロミオ先輩は、3年くらい前から血の力を扱う訓練をしてて、ブラッドアーツも使えるようになってるんだけど、「血の力」はまだ使えないんだって。

 昔はそれでとっても焦ったりしたらしいんだけど、「使える使えないで焦るより、使える物で何が出来るかで悩め」と訓練………と言うか本人曰く「躾けられた」だって……されて、落ち着いたんだって。

 今では「例え俺に血の力やゴッドイーターの才能が無かったとしても、俺がやる事に変わりは無い。やる事さえ間違えなければ、足手纏いにはならないもんだよ」って笑ってた。よく分からないけど、すごい説得力があったような気がする。

 

 

 実際、ロミオ先輩…「ロミオでいい」って言われたから、ロミオで…やジュリウス隊長と一緒にミッションに出たんだけど、二人ともメッチャ強いの。

 ジュリウス隊長は、動きが綺麗で迷いが無くて、「凄い人だ!」っていうのが一目で分かるんだ。

 ロミオの場合は、同じように迷いが無いんだけど、慎重で、上手に動いて、特別な才能や血の力が無くてもこんなに強くなれるんだー、って思えるんだ。

 

 なんていうんだろ…似てるんだけど似てなくて対照的で。

 そうだ、ジュリウス隊長は、ジュリウス隊長にしか出来ない必殺技とかで、バーッとアラガミをやっつけて、皆をわーって盛り上げる感じなんだね。

 それでロミオの場合は、誰にでも出来るような地道で重要な作業を、物凄く早く正確にやってる感じ?

 

 私も、はやくあれくらい強くなりたいなぁ。その為には、ブラッドアーツや血の力…じゃなくて、もっと考えて動いたりしないとね。考えるの苦手だけど。

 

 

 

 ところで、これからブラッドの3人でミーティングなんだけど、何を話せばいいんだろう? 難しいお話とか分からないよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 ミーティングは、ブラッドがこれからどうするかについての話し合い…って言うより、発表だった。喋ってたの、殆どジュリウスだけだったね。

 あと2人くらい合流してから、ブラッド…フライアは極東地区に向かう、んだって。

 

 極東地区って言うと、ゴッドイーターになって日が浅い私でも「ウソでしょ?」みたいな噂を幾つも聞いた、地獄の代名詞らしいけど…なんでそんな所に行くの?

 

 

「理由は色々ある。ブラッドは新世代の教導部隊だ。当然、相応の実力を持たなければならない。地獄と名高い極東地区でも通じるような実力でなければな」

 

「………極東…か」

 

 

 ジュリウスの言ってる事も分かるけど、私、まだ見習いなんだけどなぁ…いきなりそんな所に連れて行かれるって、ちょっと緊張するんだけど。

 ロミオもロミオで、何だか妙に深刻な顔してるね? いつもだったら、お気楽そうな表情で、「大丈夫、とにかく奇襲して奇襲して奇襲して罠にかければ、大体のアラガミには勝てる!」みたいな事言うのに。

 

 

「…ロミオ? 何か気になる事でもあるのか」

 

「いや…気になるって訳じゃないんだけど。極東はほら、教官が死んだらしい所だから…。あんなに凄い人が死んじゃうような所って、一体どんな地獄なんだろうなって思って」

 

「教官…ロミオに血の力の使い方を教えた、というあの人の事か。あの人が残した技法には、俺も血の力を会得する上で、大いに助けられた。一度会ってみたいと思っていたんだが…」

 

 

 教官? 誰の事? あー、でも死んだ人らしいし、あんまり突っ込まない方がいいかな…。

 …あれ? 今、二人の目がちょっとだけ変わったような? …なんだろ、ちょっとだけイヤな空気を感じた気がする。

 

 

「ん? あー、そっか、ナナには話した事なかったっけ。俺を鍛えた人なんだけどさ、ジュリウスよりも先…と言うか、多分この世界で一番早く血の力を会得してた人なんだ。あの人が現れるまでは、血の力はラケル先生の机上の空論って言われてたんだ」

 

「正直な話、俺も最初は半信半疑だったな。話に聞いただけだが…恐らく、血の力の使い手としては俺より数段高みに居るだろうな。ロミオも実際に目にしたらしいが、幾つもの種類の力を自在に使いこなしていたらしい」

 

 

 え? 血の力って、一人一人違う物…なんだよね?

 

 

「ああ。そして一人が持つ血の力は、一つだと考えられている。尤も、血の力を応用したブラッドアーツは、使い方次第で幾つもの派生を生み出せるだろうが…あまり現実的ではないな。幾多の武器を操る者より、一つの武器を極めた者を恐れよ、と言う話だ。だが、その教官は全ての力をほぼ実戦レベルで使用できたらしい」

 

「アレは実戦レベルで使えるって言うより、本人の地力が段違いだから、オモチャでも使いどころを見つけられるって感じだったけどな。ジュリウスの血の力…『統率』みたいな事もできたぞ。リンクバーストとは違う感覚だったけど、確か『渾身』って呼んでたな。文字通り、敵を攻撃した時の威力がデカくなるんだよなー」

 

 

 他にもスキルがどうのと言ってたけど、と続けたロミオは、何て言うか…死んだ人の事について話している、って感じじゃなかった。

 

 

「ま、要するに教官は、言ってみれば「始まりのブラッド」みたいな人だったんだ。本人は単なるゴッドイーターのつもりだったみたいだけど、色々と特殊な立場だったらしいよ」

 

「ああ、俺も調べてみた事があるが…殆ど情報を得られなかった。どうやら機密事項として扱われているらしい。…存在そのものが、な」

 

 

 

 どういう事なんだろ? そんなに凄い人をどうして隠さないといけないのかな。

 

 

「…他のゴッドイーターとの軋轢を考えた、という事も考えた。だがこの徹底した隠し方には、別の原因があるんだろう。明らかに、『存在してはならない事実』に対する隠蔽だ」

 

 

 

 存在してはいけない? …ちょっと考えてみたけど、やっぱり想像もつかない。でも、そこまで隠されるとむしろ好奇心が湧いてくるよね。

 だからって、調べ方も分からないんだけど。

 

 

「正直、俺は今でもあの人が死んだなんて信じられないんだ。極東のエイジス計画やアーク計画に関わって死んだ、って言われてるけど、墓も無いらしいし、詳しい情報は全然無い。それこそ、実は何かの極秘ミッションの為に死んだって事にしてるだけじゃないかって思ってる。だから、案外どこかでバッタリ鉢合わせするんじゃないか…ってね」

 

 

 ロミオはその人が、本当に生きているって信じてるみたい。それくらい信頼してる人なんだな、って思ったけど……「ま、どっちにしろ何も変わらないんだけどさ。死んでようが生きてようが、連絡も取れないんだし。縁があったらまた会えるってだけだよ」と自分に言い聞かせるみたいに言ってた。 

 私は、そういう考え方はあんまり好きくないなー。…死んじゃった人を「生きてるんだ」って思いこんでも、きっといい事にはならないと思う。

 

 

「フッ…もしもその縁とやらに恵まれたら、必ず俺に会わせてくれよ。以前はゴタゴタの為に会えず終いだったからな」

 

 

 あ、私も私も。一緒にブラッドになってくれたら嬉しいな!

 

 

 

「………あー、いやでも会わないがいいと思う」

 

「ん?」

 

「多分、人生狂うから」

 

 

 

 …ロミオの顔に、物凄い影が落ちてる…。どう言う事なのか気になるけど、怖くて突っ込めない…。

 口調も物凄く真剣だったんで、私もジュリウス隊長も口を開けなくなっちゃった。

 

 

 

「入りますよ」

 

 

 あ、ラケル先生! いいタイミングで来てくれた!

 

 

「…先生? 今日は研究の為の打ち合わせがあるのでは?」

 

「ええ、大丈夫です。問題なく終わりました。それより、突然で申し訳ありませんが、ブラッドに緊急ミッションがあります」

 

 

 

 緊急ミッション? それって断れないって事だよね。何があったんだろ。

 

 

「つい先程、北に半日ほど進んだ辺りで異常な反応が検地されました。感応種が出現した可能性もあります。そこに赴き、反応の元の情報を集めてください」

 

「情報を集める…って事は、アラガミが居ても討伐とかは考えなくていいんですか?」

 

「ええ。アラガミと遭遇しても、無理に交戦する必要はありません。初見の相手、正体がわからない相手の場合、まずは情報収集。これはロミオも同じ考えでしょう?」

 

「そうですね。了解っす。そんじゃ俺はミッションに備えて準備に入りますんで」

 

 

 …あれ、何だろ。またちょっとだけ嫌な空気。さっきのジュリウス隊長とロミオの間みたいな…。

 ま、いいか。それより。

 

 

「ロミオせんぱーい、一緒に行っていい? 準備ってどんな事をすればいいのか、まだ分からないよ」

 

「オッケーオッケー、ミッションで重要なのはまず前準備だかんな! 教官直伝の注意事項の数々、解説しながら語ってやるよ。あと、やっぱ先輩って響きいいな…そっちで頼むわ」

 

「ロミオ、すまんが俺の分の準備も頼む。その間に、俺は異常な反応とやらの詳細を見てくる」

 

 

 

 そのままミーティングは終了。私はロミオ先輩と一緒に準備を始めた。

 それにしても異常な反応かぁ。一体何があったんだろ。正直、まだ二人みたいに戦える自信は無いし、足を引っ張らなければいいんだけどな…。

 

 

 

 

 

 

神逝月討鬼伝2まであと少しか…日

 

 

 どうも、ロミオ・レオーニです。

 近い内に極東に行くって聞かされて、内心ガクブルしてます…そんなトコ、教官に見られたらエライ目に会うから表情には出さないようにしてるけど。

 

 死んだって言われてるけど、正直いろんな意味で疑わしいんだよなぁ…。いや、どんなに強くても死ぬ時は死ぬっていうのはわかってるんだけどさ。

 「あの人は死にません!」なんて幻想を信じていられるような鍛え方されてないし。そういう幻想に酔ってると、それこそ周囲を巻き込んで死ぬのがオチだし。

 

 

 ま、教官のコトは置いといて、まずは目の前の緊急ミッションだな。ナナと一緒に準備中だ。

 緊急と名がつくだけあって、この手のミッションは大抵準備する時間が短い上に、断れるような状況じゃない事が多い。正直、事前に標的の種類が分かるだけでも僥倖なくらいだ。

 

 今回もそうだな。調査と言われちゃいるけど、何が出てくるか分からない。こういう場合に必須な物は、何を置いても回復手段だ。そして敵に見つかった時の為のスタングレネード、ホールドトラップ。

 

 

「えっと、最初から逃げる事を考えてるの?」

 

 

 お、いいカンしてるじゃん。無理に戦う必要はないし、新種のアラガミといきなり決戦ってのは色々と危険だからな。

 んで、さっきも言ったけどこの手のミッションは準備している時間が少ない。だから必要な道具はセットにして予め準備しておくといい。実際、俺も4パターンくらいにセットにしておいてあるんだ。

 

 

「なるほどー、状況に合わせて、そのセットを持っていけばいいんだ」

 

 

 そういう事。で、ミッションが終わったらすぐ補充するクセをつけるんだ。使ってないセットも、週に1回くらいは点検した方がいい。回復錠なんかの賞味期限が切れてました、なんて事になったら笑えないからな。まぁ、回復錠の賞味期限は年単位だけど。

 とりあえず、今回は予備のセットがあるから、ナナはこれ使っていいよ。

 

 

 次に、装備とかの選択だけど…これは大きく分けて2パターンある。一つは、敵に合わせて有効な武装を選ぶ方法。もう一つは、敵が何だろうと自分の得意な武器で行く方法。

 大体のゴッドイーターは後者だな。何せ、同じ種類の武装でも、刀身のバランスとかは微妙に違う。下手に武器を変えると、思った通りに動けなくなるんだ。だから、相手が何でも関係なくある程度通じる、無属性の武器を強化させていく事が多い。

 …ナナもこっちがいいと思うぞ。前者は相手の弱点とかに合わせて武器を変えるだけじゃなくて、動き方は勿論、そもそもアラガミ達の弱点を覚えていかないといけない。慣れないうちからやろうとすると、頭がこんがらがってくる。相手のデータが無いと出来ない方法だしね。

 

 

「はーいロミオ先輩、でも今回は緊急ミッションで、装備強化も素材が無いからできないんだけど。何か方法ありますか?」

 

 

 うん、いい質問だ。スキルインストールって知ってる? 3年くらい前、極東で発見された技術なんだけど、神機にある程度好きなようにスキルを入れられるんだ。

 これも無償で出来る訳じゃないんだけど、今回は例外。

 そうだなぁ…今回入れるスキルは……あ。

 

 

「入るぞ」

 

「あ、ジュリウス隊長」

 

「事前準備の講義中だったか。ロミオ、後にした方がいいか?」

 

 

 いや大丈夫。それより、異常な反応の詳細を確認してきたんだろ? 情報プリーズ。じゃないとスキル構成も考えにくいし。

 

 

「そうか。では簡潔に伝えるが…どうやら隕石が落下したらしい」

 

「隕石? 宇宙から降ってくるアレ?」

 

「ああ。相当大きな物だったらしくてな。落下している時の映像は無かったが、落下地点のクレーターはここからの映像でもはっきり見える程だ。隕石が残っているかも分からないが…どちらかと言うと、周辺のアラガミへの影響の調査と言った方が正しいかな」

 

 

 隕石かぁ…。昔の映画とかだと、実は侵略者の宇宙船だったなんてストーリーもあるよな。

 俺、あんまり詳しくないんだけどさ、侵略者はともかくとして隕石に宇宙から来た病原菌が付着している…なんて事はあるの?

 

 

「無い…とは言い切れないな。付着していたとしても、落下時の大気摩擦による高温を耐え切れるかという疑問もある。そもそも、宇宙で繁殖していた病原体が居たとして、俺達が知っている病原体と同じ性質を持つかすら怪しいが」

 

 

 そっか。…効果があるかは分からないけど、今回のスキル構成は各種状態異常耐性にしておこうか。ジュリウスは大丈夫?

 

 

「ああ、スキル因子にもストックはある」

 

「スキル因子? それって何?」

 

「ん? なんだ、まだ説明してなかったのか?」

 

 

 スキルインストールの事は言ったけど、具体的な方法までは教えてないなぁ。

 

 

「そうか。では軽く説明するが、スキル因子とは読んで字のごとく、スキルを神機にインストールする為の素材だ。これを神機に食わせる事で、神機はそのスキルを得る」

 

 

 消耗品だし、狙って必要な物が手に入る訳でもないからね。素材が手に入ったら、それをスキル因子に加工して、皆ストックしてるんだよ。

 

 

「ロミオのストック量は凄まじいぞ。コレクションでもしているのかと思うくらいだ。…そして、このスキル因子の素材だが………」

 

 

 …ジュリウス、今はまだ…。これから緊急ミッションなんだし。

 

 

「…そうだな。とにかく、ミッションに備えろ。俺は各種手続きを進めてくるから、ナナはロミオと一緒に準備の仕方を学ぶといい」

 

「はーい。いやーそれにしても初出撃が緊急ミッションかぁ。波乱万丈だなぁ」

 

 

 …ナナが食べてるおでんパンほど、波乱に満ちてはいない気がする。いや、結構美味かったけどね。串は食えなかったけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな訳でミッションに出撃した訳だけど。

 確かにでっかいクレーターだ。周囲には荒廃した建物とかあったみたいなんだけど、綺麗サッパリ吹き飛んでしまっている。

 もしこれが居住区とかアナグラとかに落ちてたら、大惨事だなぁ…。

 

 まぁ、アラガミしか居ない場所だったからいいんだけどさ。そのアラガミも、殆ど吹き飛んでしまっているようだ。アラガミはアラガミ細胞の攻撃じゃないと傷付かないから、文字通り吹き飛ばされただけで死んではいないのかもしれない。要注意だ。

 

 

「ロミオ先輩、なーんにも居ないねー」

 

 

 それでも注意はしてないとな。ひょっとしたら新種が出るかもしれないし。

 

 

「新種?」

 

 

 ほら、アラガミって食べた物を模倣したり反映させたりする性質があるって言うだろ。だったら、例えばアラガミが隕石を食べたりしたら…って思うと…。

 

 

「あ、隕石の性質を持ったアラガミが生まれるって事? でも、隕石の性質って?」

 

 

 さぁ…物凄く硬くて重いって話を聞いた事はあるけど。ま、そうでなくても隕石があるなら、ちょっと見てみたいな。何というか宇宙のロマンを感じられるかもしれないし。

 

 

「ロマンねぇ…。隕石があるとしたら、やっぱりクレーターの一番下かな?」

 

 

 一番ありそうではあるな…。

 ジュリウス、そっちはどう? 合流して一番真ん中に行こうと思うんだけど。

 

 

『こちらジュリウス。特にアラガミも居ないし、妙な物も無い。これから合流する』

 

 

 よし、ジュリウスが来るまで少し待ちだな。

 

 

「だね。うーん、ラケル先生に、隕石の事とかもうちょっと聞いてくればよかったかなぁ」

 

 

 …ラケル先生に、ねぇ…。

 

 

 

 …そういえば、最近ラケル先生と顔を合わせてないなぁ…。まぁ、ちょっと気まずいからいいんだけどさ。

 

 別に俺が何かやらかしたって訳じゃない。いや、原因が俺にあるのは事実なんだけど。

 ……ナナは勿論、ジュリウスにだって言ってないけど……実は俺、ラケル先生の行動にちょっと疑問を持ってる。

 

 俺達が育った孤児院は、ラケル先生が経営してて、つまりラケル先生は俺達ブラッドの母親、育ての親みたいなものだ。その相手に疑問を持ったり、こんな感想を持つのは凄く恩知らずだと思うんだけど……その、ラケル先生が、人間とは違う『何か』に見えてしかたないんだ。

 そんな風に思い始めたのは、いつからだっただろうか。少なくとも、教官達と一緒に血の力の訓練をしていた頃には、微塵もこんな風に思ってはいなかった。

 

 思い返すと、小さな疑問が一つ一つ重なっていってたんだと思う。

 思い出せる限りで、一番最初の疑問はレア博士についてだ。教官と一緒に極東に向かった、という話は聞いたけど、途中で事故を起こして消息不明。その後は無事極東で保護されたらしいんだけど、そのまま全然帰ってこないし、ラケル先生からも連絡を取ったりしてないみたいだ。

 …無事だったか、の一言さえ。勿論、この時は「俺が知らない所で連絡してたんだろう」としか思わなかったけど。

 

 次に疑問を持った覚えがあるのは…部屋の片付けしてたら、昔の写真が出てきた時だっけ。孤児院でよく話した女の子…レヴィとのツーショット。

 最初に会った時は孤立してて、返事するようになるまで何度も話しかけたんだっけ…。でも、どうしてレヴィは孤立してたんだろう? あの時の話を思い出すと…それまではラケル博士に何かと連れられていたんだけど、そこを他の誰か…時期的に考えると、多分ジュリウス…に取って代わられて、「ラケル先生から見放された」という噂が流れてたんだっけ?

 ラケル先生は、それをどうして放っておいたんだろう? 全部が全部、ラケル先生が対処しないといけない訳じゃないけど…知っていたんだろうか? それに、ジュリウスが現れたからと言って、それまで『お気に入り』だったレヴィをポイッと放り出すような事をしたんだろうか?

 

 それから、俺が血の力の訓練をしている時、ジュリウスが一緒に来れなかったのは何でだろう。

 血の力は、ブラッドにとって重要なもの…単なる道具に過ぎなくても、ブラッドが特殊部隊である理由そのものだ。それを習得する事は、ブラッド隊長の最優先課題だった筈なのに。

 何処かでトラブルが発生して来れなくなったって聞いたけど……。そのトラブルも、ラケル先生が何かしたんじゃないだろうか?

 

 

 

 小さな小さな疑問があった。アラを探しているって言われれば、それで終わりのような、以前の俺なら「いいがかりだ」「ラケル先生を馬鹿にしてるのか?」って怒るような疑問だった。

 だけど、何時の間にかラケル先生の笑顔が、優しい微笑みじゃなくて、貼り付けた画像みたいに思えていて。それに疑問が幾つも結びついている。

 

 

 

(…ま、誰にも言えないけどね…)

 

 

 言っても不和が産まれるだけだ。俺だって、ラケル先生が人間じゃないおかしな『何か』だ、なんて思いたくも無い。ただ、顔を見るたびに違和感がチラついて、どうしても思ってしまうだけで。

 

 そんな事を考えてると、ジュリウスが到着。

 

 

「待たせた。そっちに異常は無いか?」

 

「何もないよー。強いて言うなら、フライアに通信が通じないくらいかな」

 

「機械の一部が正常に作動しないらしいからな…。隕石から電磁波でも出ているのかもしれん」

 

 

 仮にそうだとしたら、フライアに持って帰っても大丈夫なのかな。いきなり制御装置が壊れて、フライア爆走とかになったら洒落にならないよ。

 

 

「そうだな…だがまずは隕石なり何なりを見つけてからだ。行くぞ」

 

 

 了解。行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………なんだコレ。

 

 



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174話

討鬼伝2体験版に夢中になってたら、飯食うの忘れてた…。
なのに500mlビール4本。
そら気分も悪くなるわ。
お酒はつまみと一緒に食べましょう。

PCが戻ってきたので、壊れたデータをチマチマ集めつつ再設定やら何やらやっています。

もう少しで感想返しもできるようになりそうです。
引き継ぎ体験版のスキルもカンストしたし、どーも朧はPS4には無いらしい…地図にはマークが乗ってるから、製品版ではあると思うけど。
後は装備作りかな…オンジュボウと、各装備が要るな…。
というか、仲の良さカンストしたらいきなり強力な武器作れるんかい。


それはそれとして、次の投稿は討鬼伝2発売記念として、28日の朝7時くらいにしようと思います。
ゲームショップが開くまでの暇潰しになると幸いです。
いや待てよ、予約してダウンロードしてる人なら、0時からできるんだし…ここは27日の22時くらいにももう一回投稿するべきか…?


神逝月冷蔵庫の中を掃除するつもりなのに日

 

 

 ジュリウスだ。家名はあまり好きではない。特殊部隊ブラッドの隊長をやっている。

 と言っても、ようやく3人になったばかりだがな。

 

 ナナが隊員となり、最初のミッションが緊急ミッションと言うのは危険すぎるかと思ったが…幸運にも、敵らしい敵の姿も無い。勝手が分からないナナには、ロミオがついてフォローしている。

 …最初に実戦の危険さを教え込む事も考えていたが、今はそうしている場合ではないな。敵が見えなくても緊急ミッションには変わりない。警戒を続ける。

 

 

 ロミオか。正直、あそこまでの手練になってくれたのは嬉しい誤算だった。

 何もロミオを見下していたつもりはない。同じブラッドの仲間であり、隊長と副隊長という関係ではあるが、俺達は対等だと思っている。

 ただ、実力の評価という意味では如何とも……と、ブラッドのメンバーとして選ばれた時には思わざるを得なかった。

 

 余程良い師に巡りあったのだろう。再会したロミオはたった数ヶ月程度で、心技体に加えブラッドアーツさえ会得した熟練兵のような男になっていた。

 安心して背中を任せられる仲間が居て、俺も随分救われた。隊長が言う事ではないが、俺はどうにも人と感覚がズレていたり、妙に畏怖された目を向けられる事が多いからな…。隊員との交流がしにくい。

 

 

 

 ともあれ、今回の調査だが…隕石の落下、と推測された。しかし不審な点は幾つもある。

 これ程大きなクレーターが出来るような隕石が落ちたとして、その衝撃はどれ程の物か。氷河期の再来、なんて事は冗談にしても言いすぎだろうが。

 

 隕石の影響なのか、通信機器の一部が正常に作動しない。その為、フライアとの連絡が取れず、バックアップが期待できなかった。出力と距離の問題なのか、俺とロミオ達の間では通信が届いたのは幸いだった。

 正常に動かないのは、通信機器だけではない。神機も若干動きがおかしい。メンテは欠かしていないし、先日までの訓練でもいつも通りに動いていたのに。

 

 …こういう現象を起こす可能性があるのは…感応種、か? 神機の動作を停止させる力がある。

 だが、俺やロミオのように血の力(ロミオは血の力自体は発現できてないが)を持っていれば、その近くに居るゴッドイーターの神機もしっかり動くようになる筈なのだが。

 

 まさか、血の力を持ってしても対抗しきれない程の感応種が居る? 有り得ないとは言い切れないのが恐ろしい話だ。

 

 

 そんな事を考えていると、ロミオから通信が入り、合流してクレーター中心部に向かう事になった。

 最悪の場合、ナナだけ帰還させて俺とロミオで大立ち回りする事も考慮に入れていたが、どうやらその必要は無かったらしい。

 

 クレーターの中心で俺達を待っていたのは、アラガミなどではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 …大の字………というより、認めたくは無いが…『人型』に空いた穴が一つ。

 

 

 

 

 

 …確か、子供向けカートゥーンでこんな映像を見たような…。

 

 

 

「……なぁ、ジュリウス…コレ…」

 

「えっと……落ちて来たのは、隕石じゃなくて人だった…とか?」

 

 

 いやいやいや、あり得んだろう。仮に人が落下してきたとしても、こんな人型の穴はできない。これほどのクレーターが出来るスピードで着地すれば、ミンチどころの話ではない。むしろ着地前に燃え尽きているだろうに。

 人型の隕石が落下した、と言われた方がまだ説得力がある。俺達は何時の間にコミックの世界に迷い込んだんだ。はっ、まさかフライアと通信が出来ないのはソレが原因か。世界を隔てているから繋がらないというのか。

 

 

 …いかん、落ち着かねば。

 

 とにかく、隕石だかアラガミだか知らないが、クレーターが出来た原因はここにありそうだ。調べるぞ。ナナは周辺の警戒を頼む。

 

 

「りょーかい。…人だか、とは言わないんだね」

 

「察してやれよナナ…。かく言う俺も、なーんかアレな予感がするんだよな…。この世界観を無視したような感じ…まさかとは思うけど。とりあえず写真撮っとくか。何かの参考になるかもしれないし」

 

 

 ダベってないで、さっさと掘り返すぞロミオ。警戒は怠るな。地中からアラガミが飛び出して来ないとも限らないからな。オウガテイルみたいに。

 

 

「あいよ。ったく、神機使って土木作業か…久しぶりだな」

 

 

 前にもやったのか。

 

 

「教官にやらされた。地形を変えるのは戦術の基本だってさ。具体的には落とし穴と塹壕」

 

 

 効果的だとは思うが、やる時は位置を仲間に知らせろよ。にしてもえらく掘るのが早いな。

 …この辺の地面、脆いな。やはり何かが落下したのは確かのようだ。

 

 

「大分深いぞコレ。仮に人間だったとしたら、この埋まり方だと窒息死だよな。こういう時、顔を下にして落ちるのがお約束だし」

 

 

 窒息する前に、潰れたトマトみたいに死ぬぞ。…ナナには見せない方がいいかもな。

 

 

「いや、ここまで無茶苦茶な展開だと、普通に生きてる気がッ!?」

 

 

 !? 神機が弾かれた!?

 

 咄嗟に距離を取り、ナナを庇う。

 今の手応えは何だ? 神機でアラガミや金属を斬り付けて弾かれた事なら何度もあったが、今の手応えはそのどれとも違う。

 斬りつけた手応えで、刃が通らない理由はある程度わかる。硬いから、刃筋が通らないから、勢いが足りなかったから、弾力が高すぎるから…だが今の手応えは、そのどれとも違う。未知の感覚だ。途中で強引に刃を止められたような感覚。

 

 …暫く待ってみるも、動きは無い。

 穴を挟んで反対側で構えているロミオが、ジリジリと穴の元まで戻り、装甲を展開したまま穴を覗き込む。

 

 

 

 

「………人が居る」

 

 

 ……本気か。

 

 

「本気で正気だ。気を失ってるみたいだ」

 

「い、生きてる?」

 

「生きてる。と言うか、やっぱり生きてた。何してんだこの人…」

 

 

 …やっぱり? この人?

 

 

「…教官だ」

 

 

 

 

 

 …なに?

 

 ロミオが穴に手を突っ込み、ボコッと音を立てて引っこ抜く。…襟首を持たれたソレは、確かに映像で見た、ロミオを鍛えた教官だった。…呼吸もしている。

 更に、体を薄っすらと光が覆っているような……これは血の力なのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とにもかくにも、人をこのまま放置しておく訳にはいかない。いくら超絶的な血の力を持っていると言われる教官でも、意識を失っていれば赤子に等しい。昔の達人は眠っていても、敵が近付いた瞬間に覚醒したと言うが…それを期待するのも酷だろう。

 位置的に見て、どう見ても…まぁ、本当に隕石のように落下してきたのかは別として…爆発に巻き込まれているからな。睡眠ではなく気絶だろう。昏睡であってもおかしくない。

 

 むしろ死んでないのがおかしい。

 

 

 

 いや、確かにロミオが背負ってフライアに帰還している時も、流血は全く見られなかったし、呼吸も安定していたが、まさか完全な無傷とは。

 フライアで精密検査したものの、完全な健康体。ラケル先生が太鼓判を押す程の、生物として理想的な状態だったそうだ。恐らく、目を覚ますのもそう遠くは無い…との事だ。

 だと言うのに、ロミオはずっと教官殿に付き添っている。余程慕っているのだろう……と思ったが、何だか妙な緊張感を感じるな。気のせいか、目を覚ました瞬間に殴りかかろうとしているような…。

 

 

 …まさかな。よりにもよってロミオがそんな真似をするとは思えん。そもそも何故ロミオが教官を殴る必要があるのか。

 大分厳しく扱かれたらしいから、その恨みはあるだろうが、それが自分の為になったと言うのはロミオ自身が常々言っている事だ。

 「生きてるんだったら連絡しろよ!」くらいは言うかもしれないが。…教官が死んだと聞いて、相当にショックを受けていたからな…。

 

 

 しかし、本当に彼は一体どうしてあんな所で埋まっていたんだろうか。そもそも死んだと言われていたのは何故なのやら。

 …調べた方がいいか。下手をすると、ブラッドどころかラケル先生、ひいてはフライアやマグノリア・コンパスすら政治的な問題に巻き込まれる可能性が出てくる。

 場合によっては、目を覚ました後にすぐフライアを去ってもらわなければなるまい。

 

 

 

 

 

 

神逝月気がつけば新しいおかずを買っている日

 

 

 目を覚ますと同時、拳が飛んできたので首を傾げて避けて、そのまま間接決めた。

 

 欠伸して周囲を見回して混乱した。なんぞこのメタリックと言うか、金属質の部屋は。月にこんなもんあったっけ? 考えてみりゃ、そもそも俺は誰に間接技決めてんだ?

 見下ろしてみたら、見覚えのある帽子と金髪。…が、極められている間接を無視して拳を振りかぶっていた。

 

 

「積年もとい性癖の恨みぃ!」

 

 

 …なんやねん。

  何となく殴られてやらなきゃいかんよーな気もしたけど、それはそれで嫌なので蹴っ飛ばして距離を開けた。

 

 …ロミオ? 何で?

 

 

「いててて…何でも何も、気を失ってた教官を運び込んだのが俺だからっすよ…。生きてたんですね、教官」

 

 

 そらまぁ、生きてるけどさ。…あれ、ここって何処? 月?

 

 

「いや普通に地球ですよ。何でいきなり宇宙に飛び出すんですか。幾らフライアだって、空は飛べないっすよ」

 

 

 え、ここフライア? そういや内装に覚えがあるような。

 ちょっと待て、何で地球に戻ってるんだ? そりゃ確かに地球に戻る為の方法を探してたけど、実用化には遠かった筈だぞ。

 

 …ロミオ、俺を見つけた時ってどういう状況だった?

 

 

「隕石が落ちたって聞いて行ってみたら、でっかいクレーターの中で埋まってました。ちょっと光ってたから、血の力を使ってたと思うんですけど…何やってたんすか?」

 

 

 むしろこっちが聞きたいくらいだが。

 

 えーと、記憶に残ってる限りでは……そうだ、確かに昨日…と言うか気を失う前までは月に居た。それは確かだ。

 とにかく退屈極まりない日々。他人と接する事もできず、精神的に不安定になってきたら瞑想その他で強引に落ち着け、地球に帰る為の方法を模索する日々。ただし、進展は殆ど無かったと言っていい。

 ノヴァの欠片の騒動が終わってからどれくらい経ったのか……寝て起きた時に刻んだ正の地の数からして、1年以上経っていると思うが…、とにかく代わり映えのない日々を送っていた。

 

 で、あんまりにも代わり映えのない日々だったもんで、体が鈍るのを防ぐのも兼ねて、ちょっとした遊びをしてたんだよな。

 月の裏側まで行って、降り注ぐ隕石を避けたり打ち返したり…まぁ、一回避け損ねて本気で死に掛けたけど。直撃じゃなくて助かったわぁ…。

 最近のマイブームは、拾ってきた隕石(結構重くて超硬い)を放り投げ、地面に着くまでに何度斬りつけられるか数える…という遊びだ。我に帰ると虚しいけど、意外と白熱した。まぁ、日々が退屈極まりなかったからな…。

 

 これが結構難しい。低重力とは言え、隕石は元が重いから投げ飛ばすのにもコツがいるし、モノによっては斬りつけると途中で壊れてしまう事もある。石選びから始めないといけないから、最初から最後まで気が抜けない……いや遊びの内容はおいといて。

 で、今回こそは、霊力とかアラガミ化とか一切使わず、百発の壁を越えようと思ってたんだが…。

 

 ああうん、成功はしてたな。ついついテンションが上がって、色々迸らせながら飛び上がったら………………そうだ、なんか視界が一変して、そこから記憶が無い。

 クソイヅチがまた出てきた…訳でもなさそうだ。燐光も無かったし。

 

 

 ちなみに、俺が発見された時の映像とかある?

 

 

「ありますよ。コレです」

 

 

 …大の字で地面に穴空いてるな。芸が無い。どうせなら、サボテンダーみたいなポーズとかグリコみたいなのとか、もっと前衛的な穴空けりゃいいのに。俺ともあろう者が情けない、MH世界で奇人変人の名を欲しいままにしたというのに。だが思い返すと最近大人しかったな。だって月には俺以外誰も居ないし。

 だが芸人のロマンなのでこれはこれで良し。

 

 

 

 ……うーん? どういう事だってばよ。いや、検討自体はついてるんだけどね。

 月に居る間に色々研究して、完全にとは言わないが、引き出すのに成功した力がある。MH世界で腕を切られた時に突然発現した、あの力だ。

 リッカさん曰く、神機の力を完全に引き出した結果と思われる…との事だったんだが。

 その憶測を元に研究を続け、神機もヒマを持て余した結果なのか力を解放する事に躊躇いがなくなってきた…と思う。相変わらず神機が何を考えてるのか、俺とは別の意思が宿っているのか不明なままだが。

 

 

 ともあれ、ロミオに対する言い分は…。

 

 

 

 血の力のちょっとした実験中だった。クレーターとかは、多分その副産物だと思う。

 

 

 

「…副産物でアレって、核実験でもしてたんすか」

 

 

 どっちかと言うとコロニー落としかな…どっちにしろ、あれを再現しろって言われてももう無理だ。必要な条件の一番重要な部分がクリア不能になっちまった。

 

 

「そりゃ良かった。…いやその条件とやらがわかってるなら、それだけでもスッゲー危険なんですが?」

 

 

 やる事は簡単だ。何でもいいから頑丈な物を、猛スピードで上空から打ち出せばいい。どっかに当たればクレーターだ。

 

 

「意味わかんなくなってきた…。狩りの腕は進歩したつもりですけど、頭はあんまり変わってないんですよ。…まぁいいか、下手に突っ込んで知っちゃったら俺も危険になりそうだし」

 

 

 その判断が出来るだけでも、本当にロミオなのか疑わしいレベルなんだけどな。

 …まぁ、とにかく縁があったようで何よりだ。……ふん? 言うだけあって、随分レベルアップしたと見える。トレーナーからルーキーになった程度だけど。

 

 

「そう言われると、訓練してきた甲斐があるね。…まぁ、お帰り教官」

 

 

 おう、ただいま。…で、今ってどういう状況よ? 

 身の上話と言うか余計な話がえらく長かったが?

 

 

「あー……」

 

 

 何かを誤魔化そうとするようにロミオは中を見上げ、ニット帽を外して頭を掻いた。…僅かに視線が逸れる。追った先にはターミナル。

 

 ……ナルホド? こいつ、マジでロミオなのか…? いやこういう反応をするって事は、こいつは…? とりあえず合わせるか。

 

 

 

 あー、そういやここがフライアって事は、レアとラケル博士も居るのか? 挨拶しとかんと。

 

 

「いやいや、レア博士は極東に行ったままだよ。ラケル先生は居るけど……そうだね、ちょっと連れて来る。一応病み上がり……みたいなものなんだから、そのまま休んでてよ」

 

 

 無傷なんだけどねぇ…んじゃ頼むわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …行ったか。にしても、とんでもない事しちまったもんだ。

 

 

 

 

 まさか、月から地球まで一気にカッ飛んで帰還するとは。

 

 あー、信じ難いというか考えづらい事ではあるんだが、多分切っ掛けはアレだ、石を斬る遊びだ。

 普段があまりにもヒマなもんだから、かなーり熱中してたんだよ。で、今度こそは! 今度こそは3桁の壁を破る! って本気になった。

 

 

 つまりは誓った訳だ。

 

 

 達成したもんだから、思わず超エキサイティン! 興奮のあまり溢れ出す霊力その他諸々。そして発動するあの力。

 それに気付かず。ガッツポーズして思わず飛び上がったら……あまりのパワーアップぶりに、ジャンプ一つで月の引力を振り切り、勢いのあまりに気絶しつつも宇宙空間を遊泳し、地球の引力に掴まって大気圏突入。フリーフォール。激突。クレーター。発見。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん、言葉にしてみるとあまりに酷い。

 偶然の産物か? いやしかし考えてみりゃ月だって地球の引力内にあるから、地球の周りをグルグル回ってんだし、そう考えるとと月の引力を振り切った俺が地球の引力に掴まるのもおかしくはない?

 で、あの力…何て名付けようかな…によって体が守られ、全うな生物かどうかも怪しい俺は酸素すら必要とせず、霊力を防壁にして大気圏を突破し、クレーターを作り地面に埋まりながらも無傷だったと。出来すぎてるが…。

 

 

 細かいことを考える前に、とりあえずあの力の名前を付けるか。ここはGE世界で時期的には2に近いようだし、実態が霊力だったとしてもブラッド○○にするのが妥当だろう。

 問題は○○に入る言葉だが……覚醒、スーパー化、トランザム、メガ進化、無双乱舞、キラキラ……いかんな、ゲームやマンガから取ってるようじゃ、似たようなのしか思い浮かばん。GEもゲームだし。もっとこう、微妙に捻りつつも結局同じな、しかし冷静に考えてみると意味が通じてないけど、心を…特に14歳付近の捻くれているように見せかけて、繊細(と称するが実際は貧弱)な心を震わすような。

 ………震える。

 

 

 ブラッド……震える。

 血が震える。

 

 

 つまり熱血。そういや誓いを果たす事が発動条件。それも熱血。心が奮える…猛烈に奮える…激しく……猛烈に。熱望、渇望…形成・流出……は手に負えんから置いといて。

 いいな。スパロボ的に考えても。

 よし、ちょっとターミナルで検索。

 

 

 

 お、コレなんかピッタリじゃね? 

 

 (抑えがたい)激怒、憤怒、激しさ、猛烈、猛威、熱望、渇望、大流行(のもの)

 

 ブラッドレイジ。おお、なんかシックリくる。厨二魂も刺激されるが、そこまで違和感もない。

 

 

 

 

 さて、名前も決まったところで、別の話題に移るが…ロミオの言動が随分変わってたな。表面上は変わってないように見えるだろうが…『ラケル博士を警戒している』ようだ。

 尤も、確信は持ってないようだが。

 

 さっきの会話でも、俺が何をしていたのかとかそーいう話題は追求しなかったし、触れそうになったら僅かにターミナルに視線を移した。

 フライアのターミナルだ。内容の閲覧・改変権限も当然の事ながら、外部端末の起動権限も全て握られていると思っていい。つまり、一件すると作動してないように見えても、実はこっそり盗聴器のようにして起動するのも朝飯前って事だ。そのターミナルで、ついさっき熱血とか奮えるとか猛烈とかの単語を検索した訳だが。意味不明な情報に混乱するがいい。

 ロミオが俺を発見してから、ずっと付き添っていたのも、ラケル27博士からの妙なちょっかいを警戒しての事…かもしれない。

 

 …気のせい、かなぁ? いやでもしかしアレは……全身を巡る霊力の量からしても、血の力に目覚めててもおかしくないと言うか目覚めてないとおかしいんだが、それを一切言葉にしなかったし…。

 

 

 …うん、今度ロミオを誘って飲みに行くか。その時に色々聞いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 何となく予想はつくが、最初の「性癖の恨み!」という一言の意味も含めて。

 



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175話

発売日だイャッフゥゥゥー!
あと2時間が長い!
仕事が終わるまであと5時間!
1ヶ月間も焦らされたぜ…。
当日は夜のシフトなんで、帰ってきたらやり尽くす!
飯も酒も準備オッケー!
唯一の欠点は、休日が来月まで無いって事だよ!


神逝月討鬼伝世界に突入したいけど話はまだまだ長い日

 

 

 久々にラケル博士と対面したが、相変わらずのようだ。俺を見る目に感情が篭ってない。

 ジュリウスとナナにも会った。ナナは以前のループで一度会ったっけな。尤も、あの時はラケル博士に手酷く(多分意図的に)捨てられて、今の彼女とは大分違う印象だったけど。うん、やっぱ天真爛漫が似合う子だな。

 ジュリウスはと言うと…うーん、一見しただけで分かる高級志向? 本人が意図してそう見せているかは微妙だが。妙に威圧的に感じたのは、俺を警戒しているんだろうか? ラケル博士に何か吹き込まれたのか?

 

 

 …簡単な問診の後、一体何故あそこで倒れて…と言うか埋まっていたのか聞かれた。返答としてはロミオに返したのと同じだったが、それだけでは納得されてない。

 そもそも、どうやら俺は極東で死んだって扱いにされているらしい。それはよく分かる。

 まさか終末捕食を意図的に起こせる人間が居た、なんて発表もできないだろうし、アラガミに変身する能力なんて尚更だ。その後のノヴァの欠片だって機密事項もいいトコだろう。それら全てに妙な形…公表できないような形で関わっている俺をどう処理するのか。

 一番簡単なのが隠蔽、二番目が死人に口無しだ。ウヤムヤにした訳だな。

 

 …支部長の手口にしちゃ陰険さが足りんな。アリサ達が何かごねたかな。

 

 

 

 とりあえず、今の俺に極東との繋がりは無いよ。公式には死んだ事になってるし、さっきまでやってたのは血の力の個人的な実験だ。正直言って、再現できる気がせん。出来てもやらんけど。

 まぁ、公でない形で極東に顔を出せば、歓迎してくれるんじゃないかね。少なくとも2名は。大多数の人には、『今度はどんな厄介事持ち込んできやがった』って顔されると思うけど。

 

 

「では、今のあなたに政治的なしがらみは無いと言うことか?」

 

 

 全くの0とは言わんが。仮に極東に顔出したとしても、同姓同名の別人って事にされるだろうよ。

 少なくとも、極東の皆にとって、俺がここに居る事自体寝耳に水もいいトコだろうしね。

 

 

「成程。では、貴方はこれからどうするつもりだ?」

 

 

 うーん…ロミオがどう仕上がってるか気になるし、暫くここでお世話になる…と言うのはどうだろう?

 以前には教え切れなかった技法も幾つかあるから、それを対価として提供するって事で。

 

 

「…確かにそれは興味が「いいでしょう」…ラケル先生?」

 

「彼は一時期フライアに滞在していました。彼のおかげで血の力の研究も進み、助けられた恩もあります。充分に信頼できる方です」

 

 

 …そりゃどうも。

 さっきから居るだけでずーっとだんまりだったのに、えらく突然出てきましたな。

 

 

「月日は人を変えるものです。暫く貴方を見せてもらいましたが、お変わりないようで」

 

 

 ラケルてんてーもね。ちょっとは変わればいいだろうに…(体格的に)。

 

 

「部屋は以前に使っていただいた所でいいですか? あれからフライアには色々施設が増えました。ジュリウス、後で案内してあげなさい」

 

 

 お気遣いどーも。

 ああ、外出許可はどうすれば取れる? ロミオと久しぶりに会ったんだし、どっか飲みに行こうと思うんだけど。

 

 

「フライアが移動中の時は、外出できません。ですが簡単なバーを用意しています」

 

 

 …ああ、そういやフライアって移動要塞だったな。で、バー? 要塞にしては洒落てるね。

 

 

「ブラッドは全員未成年ですが、職員の中にはお酒を嗜む方も居ます。…ロミオは未成年ですよ?」

 

 

 飲ませないようにしますよ。(般若湯は別だけど)ま、とりあえずは酒より飯ですな。ここ数ヶ月以上、まともな飯食ってなかったもんで。

 

 

 

 

神逝月と言うか終わる区切りが見えない日

 

 

 ふぅ。結構濃い日々だったが、何とか落ち着いた。

 月からの大気圏突入(らしい)に始まり、丁度ブラッドに拾われて、ロミオの成長に感嘆しつつラケルてんてーと水面下で牽制しあって。

 更にジュリウスからナナを紹介された。

 

 いつぞやのループで一度会ったきりだったが、相変わらず見事なボディしとるわ。年齢詐称を本気で疑う程度には。と言うか、以前会った時よりも更に立派なボディになっていた。これ、スラムに居たら絶対襲われるだろ…孤児院育ちでよかったな。

 調べてみればそれも当然で、極東での終末捕食の事件から3年近くが経っていた。…確かに長い事月で暮らしてたけど、3年は長すぎないか?

 睡眠、瞑想だけじゃその時間は過ごせないと思うんだが…。ひょっとしたら、自覚しない内に活動休止とかもやってたかもしれない。ふと目を空けたら植物の蔦に雁字搦めにされてた事もあったし。

 

 ……それだけ長く一人だったんなら、性欲がナナでバーストしても無理ないよね! いやナニもしてないんだけどさ、自己処理も含めて。

 だってここ、ラケルてんてーの手の内だぜ? 何処で盗聴されてるか分かったもんじゃない。てんてーにシゴいてる時の声とか音とか聞かせるよーな趣味は無い。ちゃんと反応するなら別だけど。

 

 

 

 ま、それはそれとして、昨日は割り当てられた自室で、色々調べていた。盗聴器とかじゃなくて、俺が月に行ってから極東付近で何があったのか……後は、俺の体が今どうなっているのか、とか。

 

 とりあえず一番気になってたリンドウさんの生死は、問題なし。右手に篭手を着けた珍しいゴッドイーターとして知られていた。と言う事は、やっぱりアラガミ化したんだろうか? でも腕じゃなくて右手だけ…そこだけアラガミ化した?

 まぁ、生きてるようで何よりだ。

 

 アリサの名前も、そこそこ有名になっているようだ。レアと一緒にあちこち奔走しているらしい。そのレアの名前は、殆ど出てこないけど…。

 シオの情報は全く手に入らない。これは榊博士…いや、支部長は支部長のままなんだっけ…が隠蔽していると見るべきかな。

 ソーマはどうやら、一人の脳筋もといゴッドイーターから、博士見習いとして色々活動している最中のようだ。何をやってるのかは、よく分からなかったが。

 

 で、俺の事も調べてみた…エゴサーチしてる気分だったが。出てきたのは、アーク計画遂行中に殉死という一文のみ。別にその扱いでも文句は無いが、なんかちょっと寂しい。

 

 

 

 で、次に調べた俺の体だが……まず、ノヴァとの繋がりが感じられない。どうやら月から移動した為、リンクが途切れてしまったらしい。

 別にそこまで問題ではない…と思う。月に居た頃は、ノヴァとの繋がりのおかげで真空状態でも生きていられたが、もう地球に戻ってきている。ノヴァの膨大なエネルギーを使えなくなっているのは残念だが、散々瞑想やら何やらして、俺の自身のエネルギーは以前より格段に大きく強くなっている。少なくとも、GE世界のアラガミを相手にする分には充分だろう。

 ノヴァとの繋がりが無いのはいい事だ。もし繋がりがあったら、俺を通してラケルてんてーが妙なちょっかいを出してきて、月に居るノヴァがいきなり再活性、地球に落下してくる…なんて事も? 流石に考えすぎだろうか。

 

 ただ、考えてみれば月で俺が食ってた植物って、ノヴァの一部でもあるんだよな。つまり俺の腹の中には、まだノヴァが一部とはいえある訳で。

 …ひり出せばいい? アラガミ細胞って、人間の消化液じゃ溶けそうにないんだよな…下手するとクソの中にノヴァの細胞が 潜んでいるかもしれん。

 

 それをラケルてんてーが採取…せめて検便にしてほしい…すると…。

 

 

 

 

 リアルな話をすると多分ノヴァの細胞を育てる事は可能。

 発見当初はたった一つの小さな細胞だったアラガミの進化速度を考えると、周囲のモノを侵食しながら想像を絶する速度で育つ。

 ただし取り込んだモノの性質を真似るので、育ったノヴァはクソのニオイがすると考えられる。戦いたくなくてヤバイが終末捕食を放っておくと更にヤバい。。

 俺のクソで地球がヤバい。

 

 更に推測の話をすると、月の緑化(MH世界の植物で)の事を鑑みると、終末捕食後の生命の再分配の形は元となったアラガミの性質を強く受けるので、新しい世界の生命活動の根幹にはクソが強く関わると思われる。具体的には遺伝子にクソの情報が強く刻み込まれ、新しい生命体はクソを食料とする可能性がある。

 俺のクソで新世界がヤバい。

 

 またクソの側を憶測で説明すると、糞と言うのは歴史上非常に重要である。肥料として植物の成長に貢献し、動物の縄張りを示すのに使われ、集団戦では排泄物の処理に非常に苦労し、土に大小便が染みこんで年月が経ち化学変化と微生物の力によって強力なパワーを宿して火薬となりダイナマイトとか銃とかになって歴史に常に影響を与え続ける。新しい世界の命が俺のクソの情報を持ち続けているなら、世界は常にクソによって動いている事になる。

 俺のクソ不滅。

 

 

 

 …考えてみたが最悪すぎる。どうしたものか…。

 

 

 

 

 ああ、そうか。出さなきゃいいんだ。完全に取り込んでしまえばいい。

 普通の人間なら「一生便秘にならなきゃムリだろ」って話になるが、俺には裏技がある。月に居る間もすっかり忘れていたが、俺の体はアラガミであると同時に、蝕鬼でもあるのだ。

 どんな物でも侵食して取り込んでしまう、虚海(と書いてポンコツと読む)が作ったにしちゃーえらく凶悪な代物だ。コレ使って、俺の体内のノヴァを完全に取り込んでしまえばいい。体内のどの変にノヴァがあるのかは分からんが、多分イメージでどうにかなる。俺の体内にあるだけなら、ノヴァも終末捕食には至るまい。

 ちなみに、蝕鬼の能力を使うとトイレに行かないリアル都市伝説アイドルになる事もできるけど、俺がアイドルになったとして誰得か。そもそもソッコーでスキャンダルして終わるし。

 

 

 

 さて、では最大の問題に移ろうか。

 今の俺が抱えている、一番危険そうな案件…即ち。

 

 

 

 

    約3年分の性欲を持て余す。

 

 

 「こ…このままでは俺のおニンニンが爆発してしまうぅぅ!」ってレベルで持て余す。流石に犯罪行為には走らないが……いや、考えてみりゃ今までスレスレな事を結構…。

 

 ともかく、今の俺ではナナのヘソとか膝裏とかが目に入っただけでピクッと動いてしまう(何処がとは言わない)状態だ。ぶっちゃけ、生活しにくい事この上無い。しかもナナは距離が近くてスキンシップが激しいし。

 という訳で、今日はもう寝る。もう寝てアリサと感応現象で接続する。

 夢精するかもしれんが、声を盗聴されながらイタすよりゃマシだろう。

 

 

 

 

神逝月余計な話を挟みすぎたか日

 

 

 神も仏も居ないのか。アラガミなら居る。俺もアラガミだ。何と言う事だ、俺は神だったのか。だがどちらかと言うとマーラ様の眷属と言われた方がシックリくるな。

 

 

 昨晩はよーく眠れました。ええ眠れましたとも。感応現象どころか淫夢すら見なかったからね!

 おかげで朝起きたら下半身がガチガチですよ! 肉体操作術使っても収めるのにメッチャ苦労したよ。

 

 はて、何でアリサと感応現象できんかったんじゃろ。

 …考えてみりゃそれも当然か。普通、感応現象って適合率の高い新型同士が、右手で接触しないと起きないんだよな。離れていても平然と接続できていた今までがおかしいんだ。

 エロをエサにして、のっぺら連中にアリサと接続させようにも、当のアリサがどこに居るのか分からない。流石にこの状況じゃ、感応現象は起きないか…。

 

 うーむ、どうやって処理しよ。

 ラケルてんてーは…やっぱアカンな。あの得体の知れなさと言うか、人形を相手にしているような感覚で萎えるし、それ以前に隙を見せたら何をされるか分かったもんじゃない。

 ナナ…は、別にダメっていう理由は無い。体も…あの年齢で、孕めるくらいには体が出来上がってるようだし。それはそれで凄い話だ。年齢的に考えてアウトだが、それこそ今までロリとどんだけヤってきたんだという話だ。

 

 候補としてはもう一人、昨日紹介されたオペレーターのフランも居るんだが。フルネームが、フラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュという、前半分はある意味覚えやすい名前の人だ。

 金髪美人で見た感じからして「出来る女」って感じ。ただし格好は、GE世界の女性の例に漏れず(割と常識的なのに)露出度が高い。ノースリーブで脇丸出し、ミニスカとストッキングの絶対領域…よく見たらスカートの下に下着の線が見えるのは秘密だ。何故か手袋をしているが、これが妙にフェチっぽく見える。

 是非とも、ミッション受付の下に潜り込み、スカートを脱がせストッキングは破きつつ隠れてセクハラしたい所だが、見た目通りにセキュリティが厳しそうだな。公私の区別を過剰なくらいにつけているというか…その分、内側に入り込んだらヤリたい放題させてくれそうだけど。

 

 

 …また欲望が溢れ出してしまいそうになった。日記の中だからまだいいが、本人達をそーいう目で見て警戒、或いは軽蔑されるのは勘弁してほしい。

 と言うか、(擬似)妻子が居るというのにナチュラルに浮気の算段を立てている辺り、俺は全うな人生は送れそうにない。今更だけど。

 

 俺が色欲外道だと言うのは誰にとっても今更の話なので置いておくとして。

 ラケルてんてーは何を考えてるのかね。以前はジュリウスとの接触をあの手この手で阻んでいたようだが、今は…どうなんだ?

 警戒するジュリウスを他所に、俺をフライアに招きいれる事を決めたのはラケルてんてーだ。味方している筈が無いし、ラケルてんてーが…というより、それを操っているアラガミが意味も無くそうするとは思えない。

 何か目的があるな。

 やっぱり血の力か? 確かにそれを交換条件にはしたが…ジュリウスは既に目覚めている。これから順当に成長していくだろうし、そこに俺のような不確定要素を好き好んで入れるとも思えない。

 

 …うん、考えてみりゃ、今まで月に居た俺の情報を、ラケルてんてーのアラガミが知っているとは思えない。と言う事は、俺の調査? 

 終末捕食にも関わったであろう俺が、どういう変化をしたのか、今まで何をしていたのか、今後どうするのか…その見極めか。

 

 もしそうだとすると、下手するとここに収容された時点で何かされてた可能性もあるな。ロミオが付きっ切りで看病していてくれたらしいが、マジで感謝だ。

 

 

 

 さて、ロミオへの礼は般若湯でも適当に仕入れてくるとして、今はGE2のどの辺りかね。隊員はまだジュリウス、ロミオ、ナナしか居ない…で、俺も所属。って事は、事実上始まったばかりの頃だろうな。

 …そういや、レアが居ないんだよな。と言う事はアレだ、GE2の陵辱用の汚ッサン2号こと……えーと、成金の人はどうなったんだ?

 確かあの陵辱用……いや、なんか違うな…枕営業用の汚ッサンでいいか。 がスポンサーになって、フライアを建設できたって話だったと思うんだが。

 レアが何か妙な事をされているなら(アリサになら許す)、処刑の前に性転換させて特殊な性癖専門の店に売り払うトコだが、アリサと一緒に各地を飛び回っているレアに、枕営業なんぞする余裕は無いだろう。

 

 その辺、ちょっとジュリウスに聞いてみたんだが、どうやら別のスポンサーがついているらしい。

 意外な事に…というべきだろうか? そのスポンサー、なんとフォーデルバイド……? なんか違うな。

 とにかくアレだ、エリナや上田の実家の繋がりらしい。ちなみにジュリウス、上田と何度か会った事もあるそうな。

 

 

「お前も分かるだろうが…血の力と言うのは強力である以上に、今後は非常に重要な要素となってくる。感応種の事は知っているな?」

 

 

 …あー、アラガミが血の力を使ってる奴だろ? 俺はまだ会った事無いけど、神機の動作が停止するとか。

 まぁ、何れ出現するとは思ってたけどな…。人間の中にも、こうやって血の力に目覚める奴が出たんなら、それを模倣できない理由が無い。

 

 

「そう言う事だ。そして、血の力の存在が証明された後、その可能性に逸早く対処しようとしたのがフォーゲルヴァイデ家だ。未だ研究途上だったラケル博士に援助を申し出て、何かと便宜をはかってくれている」

 

 

 はーん、そんな事が…あの上田一族がねぇ。

 納得っちゃ納得か…今までのループでも、資源の減少やら何やら、普通のゴッドイーターとは少し違う視点で物事を考えていて、それに対策しようとしてたしな。

 …いやいや、こっちの事。

 他にスポンサーは?

 

 

「そうだな、大体が企業だが…最も身近な例を挙げれば、神機兵開発のスポンサーとして、グレム局長が居るな。このフライアに滞在する事もある。強引な手法をとる事が多いが、能力的には優秀ではある…特に金策についてはな」

 

 

 ああ、やっぱ居る事は居るのね。

 …予想外なのは、ジュリウスが「能力的には優秀」と評価した事か。「俗物めが…!」みたいな反応を予想してたんだが。

 

 

「思うところが無いとは言わん。だが、俺達とて霞を食って生きていける訳でもない。神機兵の研究についても大きな影響を及ぼしたし…。何より、他者が稼いでくる金銭に頼っておいて、それを稼ごうとする手段を批判する事こそ俗極まりないと思わないか?」

 

 

 耳が痛いね。生理的に受け付けない(俺の場合は、レアに手を出していた可能性でイライラする)為に過小評価しがちだったが、もうちょっと警戒しておく必要があるか?

 

 

 

「遠からず、顔を合わせる事になるだろう。一時とは言え、ブラッドに所属する事になるんだ。失礼の無いようにな」

 

 

 あっちが侮辱するような事を言わない限りはね。 バカを相手に気兼ねなく反撃できるのって素晴らしいよ?

 

 

「そういう事を言い出すお前の方が、俺からしてみれば問題児なんだが…まぁ、殴りたくなった事があるのは事実だがな」

 

 

 外見で損をするタイプなのか、それとも行動で恨みを集めるタイプなのか。

 とりあえず、あのシーンの為に幾つか保険をかけておくとしますかね。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 ロミオ、ナナ、俺の3人でミッション中。ジュリウスはハブ…もとい、何やら打ち合わせがあるとの事で、フライアに残っている。

 

 

「それにしても、ジュリウスも大変だよなー。隊長の仕事の上に、よく分からない会議やら何やらに出てさぁ」

 

「時々、ミッション前なのにお呼びがかかっちゃって、断ろうとしてるの見るよね。で、断りきれなかったらロミオ先輩が代理リーダー」

 

「これから忙しくなるからな。その内、俺が完全に現場リーダーになっちゃったりしてな」

 

 

 ありえるなぁ。というより、現場のリーダーがそれ以上の責務を背負い込んでる時点でおかしいんだよ。

 …まぁ俺だって、組織のリーダーやって頃はノウハウも全然無しで、参謀役に丸投げして現場にばっかり出てたから、別の意味でおかしいリーダーだったけど。

 ちなみに、その時の参謀役ってのがナナより幼い。

 

 

「あ、子供扱いはやだなー。…え、私より年下が? 組織の纏め役?」

 

 

 普通に運営できてたぞ。最終的には、組織を使って俺を囲い込もうとするくらいには掌握してた。

 

 

「それはそれで怖い話…。ところで教官、今日のミッションですけど、どうするんっすか? 普通に一戦して終わり?」

 

 

 新人のナナが居るから、やっても二戦くらいで。

 …ああ、俺もちょっと狩りをしたいから、終わった後は二人とも先に帰っててくれ。

 

 

「あ、それだったら私、教官のミッション見たい。凄い人っていうのは聞いてるけど、どれくらい凄いのか分からないし、それに血の力を沢山使えるんでしょ? 見せて見せて」

 

 

 …まぁ、いいけど…あんまり参考にならないと思うぞ。今回は狩りってより実験とリハビリのつもりだし。

 

 

「リハビリって、教官別に怪我は無かったじゃないですか」

 

 

 いやそうじゃなくて、ちょっとした理由があってこの1年くらい、全然狩りが出来なかったもんでな。割と冗談抜きで退屈に殺されるかと思ったぜ。

 普通の人間なら発狂してるね。

 

 

「ナイナイ、フツーの人だったらアラガミと戦わないと退屈で死ぬとかないって」

 

「と言うか教官が普通の人とか無いって」

 

 

 …いや、割と本格的にフツーの人なら発狂する環境だったけどね。

 

 

「だったら尚更、教官って普通の人間じゃないんでしょ」

 

 

 ロミオ、なんか今日は突っ込みがキツいな。だが中途半端な攻撃は自分を追い詰めると知るがいい。

 ま、今はミッションだ。

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で、最初のミッションはオウガテイル討伐。俺を発見した時の捜索がナナの初陣だったって聞いたが、本当だったみたいだ。

 ゲームで言えば、ナナと主人公が奇襲を受けそうになって、ジュリウスに庇われるシーンだが…こんな感じだったな。

 

 

 崖の上から、遠くのオウガテイル発見。遠目に見て、ナナが感心したような声を上げている。

 下からの気配を察知。さりげなくナナの前に出て、崖に向かって足を突き出す。

 

 飛び上がってきたオウガテイルの頭に直撃。バランスを崩して吹っ飛ぶオウガテイルに、ロミオが放った…ブラッドアーツが直撃。南無。

 

 

 …ロミオ、ブラッドアーツ覚えてたのな。どんな特性にするか悩んでたのを覚えているが…まぁ、今度聞くか。

 

 で、ミッションはと言うと、オウガテイルの群れを1匹だけ残して、俺とロミオで瞬殺し、残った一匹はナナが担当…と言っても、周囲の奴らが片付いている事に気付いてない。

 捕食者を相手にして腰が引けてないのは大したもんだが、半ばヤケクソのクソ度胸だったようだ。視野狭窄状態で飛び掛り、反撃を受けそうになった事もあった。その度に、俺達が密かにスナイプして、オウガテイルの動きを止めてたけど。

 

 何度も空振りし、無意味にステップを踏み込みジャンプし、攻撃を受けた訳でもないのに土塗れになりながら、ナナは勝利した。

 死んだオウガテイルを更に何度か殴りつけ、無呼吸打撃が限界を迎えた辺りで、ようやく俺達がノンビリ眺めているのに気付いたようだ。激しく抗議を受けたが、オウガテイルについている射撃痕を示して、ちゃんとサポートしている事は教えた。納得いってないようだが。

 

 

 ま、初陣なんざこんなモンだろうな。少なくとも、ブタに殺された俺よりはマシだろ。

 

 

「教官殺すブタとかどんなバケモンですか」

 

 

 ブタ、侮れんぞ。地区によっては、血の力よりも赤いオーラを放って、カウンター以外の攻撃を全て弾きながら超攻撃力で突進するブタだって居るからな。まぁ、俺も実物は見た事ないが。

 ちなみに、自覚はしてるだろーけど、ロミオはアレより酷かったからな。

 

 

「でしょうね。で、これからどうします? もう一戦……は、ちょいと厳しそうですが」

 

 

 ああ、中途半端にインターミッション作ったのは失敗だったな。抗議を聞いてる暇があったら、さっさと次の奴連れてくればよかった。気力に穴あけちまったな…。

 まぁいいか。

 んじゃ、俺は適当に狩りに行くわ。見に来るんなら好きにしてくれ。ただし、その場合ナナはロミオの指示に従うように。

 

 

「んー……なんか疲れたけど…見るだけならいっか。ロミオ先輩、よろしくね」

 

「疲れた程度でグチグチ言ってたら、ゴッドイーター勤まらないぞ。ま、安全な位置は確保するつもりだから、腹ごなししながら行こう」

 

「はーい。あ、おでんパン持って来てたんだった。…教官、いる?」

 

 

 貰おう。…おお、これが実物のおでんパン。だがあまり奇抜な代物には見えんな。…比較対象が悪いのか。MH世界で適当に取った果物とか、討鬼伝世界で殴り殺して食った餓鬼とかに比べれば。

 まぁ、味も食えるモノではある。パンに染みこんだ汁がナイス。

 

 

 …そんな事を考えつつ、適当に広い場所に陣取った。

 血の力、もといタマフリ発動。内容は『挑発』。

 ただし、今の俺が使う挑発は、ちょっと普通の挑発とは違う。月で自覚無しに3年近く修行に明け暮れ、霊力の量で言えば今回ループ開始時の何倍にもなっていると思う。その分、調節が難しいが…今回の術は単純だ。敵を惹きつける効果と範囲が、桁外れに広くなっているのだ。

 

 という訳で、周辺一体のアラガミが、俺に向かってガシガシ迫ってきます。しかも活性化状態で。…ちょっと予想外だったが、挑発だもんな。そりゃ挑発されれば怒ってキレるわ。

 ま、いいか。こっちとしては、攻撃が激しいのは丁度いいくらいだ。リハビリ…狩りのカンを取り戻さなきゃならん。

 さっきのナナの援護で分かったけど、やっぱり体と神経が鈍ってる。オウガテイルくらいなら瞬殺できたし、極東のヴァジュラでも苦戦せずあしらえるだろうけど、弛んでるわぁ…。この状態のままフロンティアなんぞ行ったら、何もできずにデスワープするのがオチだ。

 

 さて、ワラワラ集まってくるアラガミ共と、どうやって遊びましょうかね。いつもの俺なら、何もさせずに一気に殲滅しちまうんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …飽きた。いやね、そこそこ数は来たのよ。挑発を繰り返した結果、あちこちから色んなアラガミが集まったし、中には感応種らしき奴も居た…進化途上だったのか見た事の無い奴だったけど。

 でもさ、攻撃が単純かつ狙いが粗雑で。即席コンビネーションだって無し。てんでバラバラに攻撃してくるだけだし、それならもっと攻撃範囲が広いのを連発してこいっての。

 

 ま、普通のアラガミなんてこんなモノかな。極東やMH世界で時々ある、異様に訓練されたコンビネーションを披露してくる方がおかしいんだ。

 このまま狩り続けても、あまりリハビリになりそうにない。なんかもう面倒になってきちゃったし、まとめてブッ飛ばすか。

 

 再度挑発を使い、更にアラガミ達を呼び寄せる。ある程度数が集まったら、タマフリ虚空ノ顎で引力を発生させ、その場に固定する。

 

 

 

 そして各種バフを乗っけた覇山竜撃砲(を神機とOPで再現・強化したもの)を叩き込む!

 

 

 

 

 おお…地球でやるのは初めてだけど、相変わらずいい破壊力。発破山ほど爆発させたいみたいになりました。

 アラガミは一網打尽になった。…極東じゃここまで上手くいきそうにないな。虚空ノ顎も強引に抜け出すやつも居るだろうし、攻撃範囲を広くした分、ダメージは薄くなってそうだ。多分生き残りが出るだろう。

 

 

 

 ただいまー。思ったより手応えなかったから、早めに切り上げてきた。

 …おい、ナナはどうした? 顔色悪くなってるぞ、この過剰健康優良児が。

 

 

「わからない…でも、なんだか気分が…悪いよ…」

 

「教官が狩りを始めた辺りで、段々顔色が悪くなってきたんです。診察したけど、怪我とかはないし、精神的なモノだと思うけど…帰って医務室行こうか」

 

 

 そうだな。初陣の様子を見ると、今日は眠れるか怪しいし。

 …精神的なモノ、というのは俺も同感だが…緊張が解けたにしても、妙なタイミングで出たな。何か他に理由がある気がする…。

 

 

「詮索は後回しにして、早いとこ戻りましょう。ナナが動けなくなった状態で戦うのは簡便してほしいっす」

 

 

 そだね。どっちが背負う?

 

 

「んじゃ教官お願いします。俺が先行しますから」

 

 

 なんだ、女を背負うチャンスはいいのか? 青少年。

 

 

「それ…セクハラ…」

 

「ナナ、いいからもう寝てろよ。…それと教官、俺に対して言いますか、それ…」

 

 

 …………再会した時から思ってたが…いやまぁいい。行くか。

 

 

 

 

 

 




という訳で、次回投稿は28日の朝7時です。


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176話

浮気の末にナイスボートもどきした。
火山に落ちた。
津波に攫われた。
古龍に負けた。
蝕鬼の触媒に侵食された。
イヅチカナタに因果を奪われた。


…条件付きとは言え、真空空間も平気だった。
腕とか吹っ飛んでも簡単には死なない。
GE世界の敵では、相手になる奴の方が少ない。
毒の類もハンターには殆ど効かない。


…どうやってデスワープさせるか、本気で悩んでいる今日この頃。


神逝月

 

 

 ナナの件は、結局心労、命の危機によるストレスと、そこから開放された気の緩み、そしてオウガテイルから受けたダメージが相まってのものと診断された。

 診断者はラケルてんてーだが、まぁ妥当というか予想通りというか。診断結果も怪しいものに見えてくるけど、立証の仕様がないな。ラケルてんてーの行動が逐一嘘じゃないかと疑うのも面倒だ。

 

 

 改めて考えてみたんだが、俺はちょっと無用心な事をしてしまったかもしれない。いや、後先考えずに行動してる、考えたつもりで根本的に抜けているのはいつもの事なんだけど。

 あの時のミッション後の狩り、あの時のやり方が問題だった。

 

 何がアカンって、『挑発』を使ったのがまずかった。

 

 今の俺の挑発は、周囲の敵を惹きつけるだけでなく、MH的に言えば乱入をほぼ確実に発生させられる代物になっている…加減せずに使えばね。

 で、実際それでわらわらと集まってきたんだが…考えてみればコレ、ナナのトラウマにダイレクトアタックしていないだろうか。

 ナナの血の力は誘引。幼いナナはそれを制御できず…認識していたかも怪しい…、アラガミを呼び寄せ、母親や助けに来たゴッドイーター達を全滅させてしまった過去がある。

 トラウマに対する防衛本能の為か、今はそれを忘れているが…挑発でアラガミが集まってきたシーンを見て、それを無意識に連想してしまったんじゃないだろうか。

 

 だとしたら、どうなる?

 

 主人公の…なんだっけ、誘発?開発?とにかく血の力を引き出す能力なしに、ナナは力に目覚めるか? …うん、ありえる。というか既にロミオもブラッドアーツまでは体得しているし、あれは「あったら出来やすいけど、なくても出来なくはない」って程度の物なんだろう。

 ナナが記憶を刺激され、このまま誘引に目覚めたらどうなるだろう。

 

 …確か、ナナは母親に連れられて、あちこち逃げ回るようにして暮らしていたんだよな。つまり、どこに行っても誘引の力はついて回るが、場所を変え続ければ致命的な事態には繋がらないと思われ…いや、致命的な事態になったから、ナナの親は死んだのか。

 …惜しいなぁ。腕利きのゴッドイーターの上、アラガミを呼び寄せる子供を持っても見捨てる事をしない母性と精神力。その上、あのナナの母親だ。スタイルだって抜群だったろうし、服も親子で受け継がれているのだとしたら、相当なセックスアピールを持った女性だったろうに。なお、メシマズであるかは意見が分かれる模様。

 

 それは置いといて。

 

 このままナナが目覚めて、更にコントロールもイマイチだったとして……実を言うと、暫くは問題が無さそうだ。

 なぜって、ここはフライア…移動要塞だからだ。人間が歩くのとは比べ物にならないスピードで移動する、空にはそびえてないけど鉄の城。

 アラガミが引き寄せられたからって、追いつけるようなものじゃない。進行方向から向かってきても、プチッと轢き逃げして終わりである。

 何らかの方法でフライアに取り付かれると、少々アクロバットな戦いを展開しなければならなくなるが…。

 

 うん、とりあえず問題はない。問題が出るとすれば、極東等に向かい、長期間そこに留まる場合だ。

 …最悪、ナナだけフライアに残し、あっちこっち移動させ続けるという手もあるが、これはやりたくない。心情的にもそうだし、ナナの孤独を煽るだろうし、そうなったらラケルてんてーに洗脳されて敵に回る可能性すらある。

 やはり、目覚めさせてからコントロールを教え込むのがベターか。幸い、俺という教官役も居る。

 いっその事、ギルが所属する前に血の力を覚えさせてしまおうか。

 

 

 

 …でもナナに地獄の訓練させるのはなぁ…。教官なんぞ恨まれて何ぼだけど、あの可愛らしいナナに本気の憎悪の視線を向けられるのは勘弁だ。ロミオには何故か恨まれてないけど。…別に洗脳はしてない筈だが。

 

 

 

 まぁとにかく、ナナは今のところ問題無さそうだ。一晩眠ったらピンピンしていた。トラウマや恐怖のぶり返しで眠れないんじゃないかと思ってたが、予想以上に単純な生物だったらしい。

 ミッションにも参加し、今度は多少マシな動きが出来るようになっていた。本能だね、ありゃ。

 

 

 さて、ナナの事は追々対処していく事にして。

 フライアが物資補給のために、どこぞの支部に停泊したので、これ幸いとロミオを誘って飲みに行った。飲んでるのは俺だけだが。

 

 

「お疲れっす。んじゃ再会を祝って」

 

 

 ん、お疲れ。ああ、やっぱ酒はいいなー。人類が生んだ文化の極みだよ。

 

 

「その言い方、なんかBL臭いんでやめてくださいよ。飲んだ時に無闇に楽しくなったのは覚えてますけど」

 

 

 どっちかっつーとお前とジュリウスの方に疑惑あるけどね、名前的に。

 

 

「あれどっちも死ぬでしょ…一回読んだ事あるけど、ああいうのは趣味に合わないっす。もっと気楽なのじゃないと」

 

 

 何で読んでんだ…意外だな。やっぱアレか、バガラリーとかああいうのが好きか。

 

 

「いや、それは見た事ないです。熱心なファンも多いって聞いたけど、少なくともこの3年間、訓練にばっかり打ち込んでましたし」

 

 

 …それこそ意外だな。狩りや訓練に集中するように躾はしたけど、楽しみの時間まで使うようにとはしてなかった筈だが。

 

 

「いや、楽しみはあるっすよ。ただ一番の楽しみが…まぁ、あんまりメシ食ってる時に話すような事でも」

 

 

 ………話は変わるが、ブラッドアーツ使えるようになったんだな。特殊効果をつけたいって悩んでたが、いいアイデアはあったのか?

 

 

「ええ、我ながら結構凄いのが出来たと思います。ただ、実際に使ってみると使い勝手は悪いんですけど…」

 

 

 技なんて大体そんなもんだ。特に自分の作った奴は、どうしても贔屓目で見ちゃうからなぁ…。で、どんな技?

 

 

「毒とかホールドとかの効果を持たせたチャージクラッシュなんだけど、どれくらいチャージするかでどの効果が出るか変化するんすよ。チャージしてすぐならヴェノム、少し経ってからなら封神、視力や聴覚低下、他にもスタン、攻撃力や防御力低下、耐性の低下とか」

 

 

 ほぉ…そりゃ本気でスゲェな。極端な話、チャージ時間さえあれば大抵の敵に弱点付与とか、耐性の弱い状態以上を与えられるって事か。

 で、そのチャージ時間は、スタングレネードなりホールドトラップなりで幾らでも作り出せる。俺もその発想はなかったわ。

 それを当てたとして、何発で効果が出る?

 

 

「今まで当てた奴で、すぐ効果が出なかった奴は居ないです。でも、相手がもっと強くなると多分…」

 

 

 …極東、か。まぁ、今のロミオなら通用はするだろ。

 で、前から思ってて、そのブラッドアーツを聞いてほぼ確信したが…お前、血の力使えるようになってるだろ。

 

 

「…………」

 

 

 盗聴器の類も、聞き耳立ててる奴も居ないよ。

 

 

「…のようですね。大当たりです。何でわかったんですか?」

 

 

 お前を鍛えたの、俺だぞ? 一目見るなり気配で察しがついたわ。漏れてくる力の質が違うってーかな。

 と言うか、今さっきも力を使ったろう。誰か近くに居ないかを探る…のか? 探知系?

 

 

「ちょっと違います。誰にも教えてない力なんで、ジュリウスの『統率』みたいな名前はついてないけど…俺はこの力を『対話』と呼んでます…皮肉を篭めて、ですけど」

 

 

 対話…アラガミと話をするのか? 活性化状態を宥めるとか?

 

 

「多分、もっと訓練すれば出来ない事もないと思います。これで出来る事は…意思をぶつけて、強制的に反応を返させる…かな? さっき力を使いましたけど、もしあそこで誰かが聞いていれば、それが手応えとして返ってきます。使っている内に思いついた余技みたいなもんですが」

 

 

 本来の用途以外に使い道があるのはいい事だ。それだけ汎用性があるって事だし、何より力の使い方を研鑽してる証拠だよ。

 

 

「どうも。本来の使い道…って言っていいのかわからないけど、最初に覚えた使い方は、相手に意思を伝える事です。ただし、強制的にリアクションを取らせるから、例えば「あっちに行け」と伝えたら、その通りに行動するか、逆に「むしろお前の所に行ってやる」と近寄ってくるか。その場でそれまでと同じ行動を続ける、という事だけはありません。これを使えば、アラガミが作戦区域に入ってくるのを遅らせる事とかが出来るっす」

 

 

 …強制的にリアクションって、それとんでもなくタチが悪いぞ。「先に動いた方が負ける!」ってシーンや、機会をうかがってるスナイパーとかに使ったら…。

 

 

「相手は基本、アラガミですからそんな事は無いと思いますけど。ブラッドアーツにも応用してます。ブラッドアーツに篭める血の力を、こう…『毒!』ってイメージで当てると、アラガミがそれに強制的に反応して、本当に毒になる」

 

 

 プラシーボ効果の超強力版みたいなもんかな。普通なら、それだけで本当に毒になる事は無いだろうけど、チャージクラッシュのダメージと合い間って、敵の抵抗力が落ちた瞬間にそのイメージを刷り込んでるのかもしれん。

 強制的に反応を返させるし、『対話』っつーより『詐術』って言った方が正確かもしれんな。

 

 

「それだと外聞が悪いじゃないですか。と言うか、血の力って本質が出るんだとしたら、俺って相当な屑になっちゃいますよ」

 

 

 会った頃のお前のイメージとは、似ても似つかないなぁ…。俺の訓練で、本質捻じ曲げちまったかな。

 ああ、チャージクラッシュの溜め時間で効果が変わるって言うのは。

 

 

「お察しの通り、イメージしやすい効果ならチャージの時間は短くて、しにくいならイメージを強める上に血の力も強く篭めないといけないからですね」

 

 

 ふーむ、一人で考えたのか…。いや大したもんだわ。

 …で、どうしてこれを誰にも教えてない? ラケルてんてーにも秘密にしている理由は?

 

 てんてー? とロミオは首を傾げた後で、強張った顔つきになった。

 

 

「…前々から、おかしいと思う事は結構あったんです。でもラケル先生がそんな事する筈が無いって、ずっと気のせいだったり、間が悪かっただけなんだって思ってました。でも、この力を持って、ラケル先生を見た時……寒気がしましたよ」

 

 

 この力を…って、『対話』で?

 

 

「…俺がこれを『対話』と呼ぶようになった切欠でもあります。これを使ってると、誰かと話をしている時、この人は内心でどういう事を考えているのか、何となくわかるんです…心を読めるって事じゃなくて、なんというか…その…」

 

 

 …表情とか口調とか、そういうのをじっくり調べると「緊張している」「嘘をついている」と、そういうのが察せられるようなもの?

 

 

「そう、それ!」

 

 

 …内面観察術みたいなものか。俺でもまだ読心の領域は遥か遠くだしな。…フラウさんなら出来ない事もなさそうだが。それで?

 

 

「…これを使って、ラケル先生を驚かせようと会いに行ったんですけど…一目見ただけで寒気がしました。俺の言葉に、どんな反応が返ってくるのか全くわからない。育ての親にこんな事を言うのは恩知らずだけど…得体の知れない『何か』に話しかけているような、そんな気分です」

 

 

 ………。

 

 

「力を使うと、反応はあるんです。リアクションは返ってくる。『対話』が皮肉って理由はここなんすよね。俺が血の力で話しかければ、嫌でも反応せざるを得ない。俺が話しかけ続ければ、どんな形になるかはわからないけど、必ず反応が返ってくる」

 

 

 ロミオが話しかける限り、拒否していても会話が成立するって事か。話すのを強要する『対話』とは、また皮肉なもんだね。

 

 

「でしょ? …まぁ、それは置いといて。反応してるのが、ラケル先生…なのは間違いないんですけど、返答とそのリアクションが繋がってないって言うか…。そうだ、心の中と実際の態度で、180度違う人が居たら違和感覚えるでしょ?」

 

 

 ああ、顔がニコニコしてるのに内面は悪意満載とかそういう話か。いっそそれが違和感無い奴も居るけど。

 …とにかく、ロミオ。お前が言いたい事は大体わかった。ついでに言えば、俺もラケルてんてーには同じような感想を持ってる。お前は気付いてなかったろうけど、フライアで血の力の研究を始めてた頃からだ。

 

 

「そんなに前から…。確かに、ラケル先生と教官はあまり話をしてなかったように思うけど…てっきり、レア博士と仲良くなってたからだとばかり」

 

 

 まぁ、それもあるけどね。とにかく、ラケルてんてーと俺は、表面上はともかく、内心では敵対してると言っていい。

 

 

「敵対って…気に入らないとか、何となくソリが合わないとかじゃなくて?」

 

 

 ああ、はっきりとだ。お前だって、薄々気付いてたんじゃないか? だから俺を発見した後、付きっ切りでガードしていたんだと思ってたが。

 …まだ礼を言ってなかったな。

 おかげで助かった。ありがとう。

 

 

「い、いえ…教官に礼を言われると妙な気分になる…。……いやそれより、それなら教官はこれからどうするんです?」

 

 

 いきなりサクッと排除…はしないし、出来ない。何より、そうしようとしたらお前も阻止する側に回る。ぶっちゃけどうとでも出来るけど。

 

 

「…はい。正直、教官から聞かされても、まだラケル先生がそんな人だって信じきれないです」

 

 

 始末すれば終わりって単純な問題でもないんでな。暫くはこのままだ。

 暫くはな。決して長い時間じゃない。

 ロミオ、今の内に覚悟を決めとけ。ラケルてんてーを守るにせよ、俺に付くにせよ、そうなってる原因をどうにかしようと足掻くにせよ、キツい話になるぞ。

 

 

「…はい」

 

 

 …やれやれ、酒が不味くなる話だった。

 話を変えるか…。

 

 

 

 あー、ところでロミオ。

 お前、彼女できたん? ……あ。

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 …最悪の話題、振ってしもうた。

 

 

 

「…表行こうぜ…久しぶりに…キレちまったよ…」

 

 

 ……俺がやった事考えると、これはキレられても無理ねーよな…。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 昨晩のロミオは強かった。ハンターに迫るんじゃないかってくらいの身体能力で、ガンガン殴ってくるし蹴ってくるし。

 それで俺に勝てる程のドーピングになった訳じゃないが。

 ワンパン捌きそこねて、ちょっと鼻血でた…。

 

 

 で、一昔前の青春漫画よろしく、適当な川辺で座り込んだり大の字になって倒れたまま話をしてたんだが……色々な意味で衝撃的だった。そしてアカンかった。

 

 

 えー、その内容ですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロミオ君に彼女が出来て、童貞卒業したそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 でもケンカ別れしたそうです。

 

 

 

 

 

 彼女の名前? 教えてくれなかったよ。「…もう忘れたよ」なんて、無意味に哀愁漂わせて語ってた……いや哀愁漂うのも無理ないけどさ。

 

 事の始まりは、俺がフライアから去り、ロミオも血の力の訓練に明け暮れて半年程。血の力こそまだ会得してなかったものの、訓練方法も確立されてきており、ロミオもゴッドイーターとしての強くなっている手応えを感じていた。

 そんな折、ふと俺と連絡を取ろうと考えたらしい。だが、極東支部に連絡したところ、返って来たのは俺の訃報。

 

 ショック云々以前に、相当に混乱したらしい。俺が死ぬ筈が無い、死んだとしたら教官が死ぬ程の地獄なのか極東、とか色々と。

 暫く落ち込んでいたロミオだったが、ある日フライアにやってきたお偉いさんの案内を任されたのだそうな。で、その時お偉いさんと一緒に来ていた子が、ロミオの彼女になった子です。

 ロミオより1つ年上で、ショートカットの可愛い子だったそうな。

 

 で、お偉いさんがラケルてんてーと何やら話し込んでいる間に、ロミオが持ち前の馴れ馴れしさ…もとい社交性?でその子と話し始めた。

 話はそこそこ弾んでいたのだが、何が切欠だったのか、ロミオが空元気を出している事に気づかれてしまい、そこから「恩師が死んだんだ…」「かわいそう…元気出して、ね?」みたいな感じで友人付き合いが始まったのだとか。

 それから約半年、メル友みたいな関係が続き、めでたく告白+OK。ちなみにどっちからの告白なのかは語られなかった。

 

 トントン拍子に仲良くなり、お偉いさんも渋い顔はしたものの、配偶者として優秀なゴッドイーター…しかも当時注目を集めていた特殊戦技教導隊の一員であれば、決して悪い選択ではない…と認めてくれていたらしい。

 公認を取り付けた二人は浮かれに浮かれ、偶に直接会える日にはデートして……と、暫く「ぶん殴ってやろうか…いやそれよりも、聞いてると甘酸っぱさで浄化されそうなんですけど。性欲男でごめんなさい」と割とまじめに考えるような惚気を聞かされた。

 

 だが、ある日悲劇は訪れる。

 

その日は珍しく、連休で、更に珍しい事に2日続けて一緒に居られるスケジュールだった。

 デートもちょっと遠出して…ひょっとしたら、夜までに帰り損ねて『お泊り』になっちゃうのでは? もしそうなったら自分と彼女は? と言う、青少年としては当然の妄想と煩悶を抱くロミオ。彼女の方も、やっぱり意識していたらしく、色々準備していたのだそうな。…明言はしなかったけど、多分勝負服とか勝負下着とか、あと今度産とかかな…。

 

 で、実際に二人の想像通り、帰るのが遅くなり、どっかの宿(この時代にラブホなんて施設は無い)に泊まり、ドキドキバクバクしながらも、何とか大過…三擦り半とか入る前に暴発とか…も無く、お互いにフォローしあいながら大人の階段を上ったのだそうな。

 寄り添って眠る二人……だが、ロミオは眠れなかった。

 ドキドキしていたのではない。

 

 

 スッキリしていなかったのだ。

 

 

 確かにDT卒業はした。だが、なんかこう満たされない感じがして、眠るに眠れない。裸の彼女を抱いてて、生涯で一番と言えるくらいにいきり立っているのに、彼女にこれ以上触れたいとも思わなかった。

 

 

 

 …それがどういう事だったのか。ロミオは認めたくなかったが…俺としても恐れていた事態だったが……体は明確に理解していた。

 

 

 

 

 

 その子と抱き合うよりも、ソロプレイの方が気持ちよかったのだ。

 

 

 

 

 ある意味しゃーないっちゃしゃーない事だ。未経験者同士がヤッたって、それで得られる快感は男女ともに知れたもの。セクロス楽しむにも、それなりに研鑽とかノウハウが必要だ。勿論、精神的な高ぶりや幸福感を考慮に入れても、である。

 しかもロミオが、鍛錬の名目で普段からやってるのは、オカルト版真言立川流…の本の一部とは言え、尋常じゃない快感…エクスタシーを齎す一人遊び。どっちが気持ちよくなれるか、と言われると…認めづらい事だが、言うまでもない。

 

 で、彼女が寝入ったのを確認して…ムラムラとか欲求不満に耐えかねたロミオは、一人で弄り始めてしまった。

 

 

 

 そして、夢中になりすぎて、途中で彼女が起きていたのにも気づかなかった、と。

 

 

 …女のプライド、ガタガタってレベルじゃなかろうなぁ。仮にも相思相愛で、覚悟決めて純潔まで捧げたのに、すぐ後で「お前の体より自分の手の方が気持ちいい」みたいな事されれば。少女の今後が真剣に危ぶまれる。トラウマから逃げる為、同性愛に走ったり、セクロス系の行為そのものに忌避感を持ってもおかしくない。

 その日から、二人の仲がギクシャクし始めた。事がシモネタというか特殊性癖的な話だから、誰かに相談する事もできず、ロミオも経験した事でセクロスに対する憧れというか幻想も薄れ、より一層自己処理にのめり込み出した。

 彼女さんの方も、顔を合わせると色々思い出してしまうのか、中々会わないようになってきて…ある日、些細な切欠でとうとう仲違い、破局に至ったそうな。

 

 

「これでよかったんだよ…どうせ俺は、右手をパートナーにして生きていくんだ…。実際、こっちの方が気持ちよかったし。時々左手」

 

 

 と諦観を漂わせていたロミオ。

 …何と言うか、すまん。ホントにすまん…。血の力を会得する為とは言え、俺が余計な事教えたばっかりに、少年少女の未来がひん曲がってしまった…。

 

 しかもロミオは彼女と分かれてからというもの、完全に自己処理にド嵌りしてしまい、今では現実の女性に対してそこまで興味が持てなくなりつつあるとか…。

 そりゃ起き抜けにでも、性癖の恨みと叫びつつ殴りかかってくるのも仕方ない。もう一発くらい殴られてやればよかったか。

 

 自分でやっておきながら、これはヒドイ…。次のループでは絶対教えないようにしよう。全うなやり方で血の力を身につけさせ、彼女さんとも引っ付けてやるからな。

 しかしそれはそれとして、今のロミオを見捨てるのも忍びない。

 どうしたものか……。

 

 

 

神逝月

 

 

 ロミオにオカルト版真言立川流を本格的に教える…という事も考えたが、却下した。と言うか出来ないしやりたくない。

 俺もすっかり忘れていたが、俺が身に着けたオカルト版真言立川流は、全うな人間には仕えない。霊山で見つけたハウツー本も偽書、出鱈目の類と判断されており、俺が出来るのは…多分色々な意味で普通の人間とは違う体をしている為だ。

 ロミオに教えたところで、再現もできない。そもそも、霊力…血の力もそこまで自在に操れていないし。

 

 と言うか、男を相手にシモのレッスンとかやりたくない。

 

 

 となると、ロミオを全うな道に引き戻すのは非常に難しくなってくる。その為、発想を逆転させてみた。 

 

 

 

 ロミオが異常性癖(と言うほどのモノではないと思うが)を持っているなら、それに付き合ってくれる相手を見つければいいじゃない。或いは、付き合えるように目覚めさせてしまえばいいじゃない。

 

 

 幸いにして、ロミオの性癖はアブノーマル度で言えば低い方だ。自己処理をプレイの一環と考えてしまえばいい。

 要するにアレだ、女王様に見られながら自分でやるとか、或いはいつ何処でヤるかを管理されるとか。

 お相手の方にそういう性癖ありき…で探すか、それともロミオの元カノを精神的に誘導して、そっち方面に踏み込ませてみるか…。

 

 …とりあえず、ロミオの元カノの状態から調べよう。まだロミオに未練があるかとか、或いはもう新しいお相手が出来てしまっているかとか。

 決してロミオの元カノに興味があるだけではない。

 

 

 

 

 

 

 さて、ロミオの事は斯様に動くとして。

 

 アホみたいな事ばかりではなく、俺も仕事をしている。給料は出てないが、フライアで世話になってるからな。その分働かなきゃいかん。

 仕事の内容は、血の力の使い方の指導だ。ジュリウスは既にブラッドアーツも血の力も会得しているし、ロミオもブラッドアーツのみ会得している…表向きは。

 だから相手はナナ一択になる訳だが…うーん、今更ながらにジェネレーションギャップ。

 新型神機、もう行き渡るようになってるんだなぁ。俺が地球に居た頃は、俺とアリサくらいしか使えてなかったのに。

 

 詳しい話をちょっと聞いてみると、現在ナナ達が使っている神機は、俺やアリサが使っているモノともちょっと違うらしい。

 俺達から得られたデータを元に更に改良され、扱うのに必要な神機適合率のハードルが下がっているのだとか。そういや、新型神機って非常に高い適合率が必要だって話だったね。

 他にも幾つか機能が追加された他、感応現象を防ぐ為の安全装置が取り付けられたそうだ。

 

 何で感応現象あかんのん? と聞いてみたら、まぁ尤もな理由だったよ。互いに合意の上で現象を起こすならともかく、触れ合っただけで感応現象が起きると日常からして不便極まりないし、プライバシーの侵害にも直結するからな。確かに、当時は俺とアリサしか居なかったし、触れただけでは感応現象も起きなかったから気にしなかったけど…人が増えると問題だわな。

 …ひょっとして、アリサの夢に入っていけないのって、これが理由だったりするんだろうか。まぁ、直接会えばいいか…久々に触れ合うなら、夢の中より現実がいいしな。

 

 

 話が反れた。ナナの血の力を目覚めさせようと訓練している訳だが、見たところ以前のようにトラウマを刺激されている様子は無い。

 目の前で挑発とか使って見せれば、ストレスに反発するように発動する可能性はあるが…コントロールできないんじゃ意味無いしな。無理矢理叩き起こした力は、何かしら歪みを伴うのがオチだ。

 だもんで、まずコントロールの仕方を教えたい訳だが、ナナは良くも悪くも感覚派だった。実際に力が発動してるならともかく、「今は無い力だけど、あると想像して訓練しろ」と言われても無茶だろう。理屈で説明しても、基本がアホの子だからなぁ…。

 瞑想とかさせようにも、ロミオ以上に落ち着きが無くて、常時頭が空っぽ一歩手前(おでんパンの事だけは考えてる)だからか、瞑想の効果もあまり見られない。

 

 どうやって訓練すっかなぁ…。

 

 

 もういつもの通りにヤッて霊力叩き込もう、という発想も出たが、さすがにそんな理由で浮気したらアリサやレアに愛想を尽かされてしまいそうだ。

 

 

 一応、こういうタイプ用に有効な修行方法もある。曰く、「賢い者は考える事で悟る。バカは考えない事で悟る」。要するに、頭使うのが苦手なら、体動かしてりゃその内悟れるよ、という事だそうな。バカにはバカの道がある、という事だな。それでいいんか、とも思うが。

 少々荒っぽいやり方で、俺もやるのは初めて(と言うか霊力の使い方を教える事自体、ロミオが始めてだったな)だ。

 やり方としては、霊力を高めている俺と延々模擬戦する、と言うもの。プレッシャーをかけ続け、魂がそれに反発する事で霊力が少しずつ上昇していく。ただし、荒行なだけあって危険も高い。加減を誤ると、衰弱したり、或いは精神的にへし折れて再起不能になってしまう可能性すらある。

 なんで、霊力がある程度高まったらこの訓練はそこで終了。高まった力を操る事を重点的に始めよう。

 

 

 

 



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177話

出来上がっているところまで一気に投稿予約したら、4日毎ペースで約1か月分が出来上がってしまった。
これを一気に投稿してれば、ランキング一位…いや上位…ギリギリ50位くらいに入れたんじゃないかな、とは思う。
実際、今でも時々唐突に40位くらいまで浮上するんだよな…ありがたさで心臓が止まる思いです。


とりあえずストーリーモードクリアです。途中でぶらぶらしながら進めて約4日。
オープンワールドは攻略サイトを見ると楽しみが半減しそうなんで、当分自力で進める予定です。

ちなみに討鬼伝2感想。
①「I'm your ○○○○○」「Noooo!」
②紅月姐さんの瘴気穴閉じる時の動きがおかしいと思うw
③九葉さんマジ討鬼伝のアイドル。というかポジションが完全にヒロインなんだけど。最初と最後に全部持っていかれたw



神逝月

 

 

 ラケルてんてーは、ジュリウスとの接触を阻もうとする様子は無い。もう血の力を会得して自分のスタイルを確立したからか?

 ジュリウスも俺の血の力の使い方だけでなく、ゴッドイーターとしての腕前とかにも興味があるらしく、何度かミッションに同行した。

 

 …何と言うかコイツ、あつらえたよーな貴公子だな。剣の腕は一流、血の力も人の上に立つ事を暗示しているようなもので、更に容姿端麗。

 今更それでハラたてるよーな性格してないが、いっそわざとらしさすら感じる。まぁ、結構庶民的なトコもあるんだけど。

 

 それはそれとして、ジュリウスには何を教えるべきか。

 統率の力を見てみたが、原理的にはタマフリと大差ない。ただ、ミタマの力を借りて使うか、自分の力を高めて使うかの違いだ。

 今の力でも充分だが、更に強化できるのであればやるべきだ…と考えているらしい。

 

 だけど、コイツに下手な事教えると、その後がどうなるか。GE2のラスボスだもんな。あのマントのアラガミが、更に強化されるのか。

 ……でもそこまで強かったっけ、アイツ…。いやいや、ゲームで弱かったとしても、現実で弱いとは限らない。何せ、ジュリウスがアラガミ化しているようなものだ。俺を例に考えてみても、アラガミ化による身体能力や生命力のぞ往復具合は洒落にならない。

 

 が、フライアに留まる取引として、血の力の制御方法や訓練方法を教えると約束したし…。

 

 

 ちなみにジュリウスとしては、複数の力を操る技術に興味があるらしい。ま、確かにブラッドの血の力だと、一人につき1種類だもんな。

 それに対して、霊力…タマフリの力は、1つのスタイルにつき最低4つ。数が多けりゃいいってモノでもないが、戦術に幅が出来るのも確かだ。

 ま、教えるの自体はいいか。アレコレ先の事を考えても、どーせ想定外の事が起きて、予想や予定を覆されるんだし。

 

 

 ジュリウスの力は、言わばバフ。味方の強化だ。となると、それを更にパワーアップ・応用するとなると…。

 

①効果を強力にする。

②効果を多少弱めてでも、影響する範囲を広くする。

③効果が及ぼす対象を増やす…『統率』で言えば、リンクバーストさせるだけでなく、時にはOPを増幅させたり、ライフや戦闘不能を強引に回復させたりする。

 

 

 他にも色々あるが、ぱっと思いつくのはこれくらいか。

 とりあえず2は却下。現在の能力でも、既に作戦区域一つを充分に覆えるくらいの有効範囲はあるからな。ロミオの『対話』もそうだけど、血の力の射程範囲は全体的に広いようだ。

 

 ジュリウスの血の力は、目覚めてからほぼ自己流で研鑽してきた為か、完全に現在の『統率』の形で固まっているように思える。これを一端壊して、新しい形にするとなると、かなり苦労する事になる。望むところと言っていたが…。

 

 

 

 ……ジュリウスに『自己処理』を教えるかどうかが問題だな。

 ロミオは何てコメントするだろうか? 道連れを増やそうとするか、それとも被害者は自分だけで充分だと止めようとするか。

 お偉いさんに特殊性癖があるのは珍しい事じゃないんで、ジュリウスにも素質はありそうだが……。

 

 やっぱ基本は無しで行くか。イメージに合わないって事もあるが、全うな鍛え方を確立しないと、今後のゴッドイーター達の婚活事情とかに多大な影響が出かねない。

 

 

 差し当たり、ジュリウスは③に興味を示した。汎用性を高める方で来たか。バフ・デバフの効果が色々な物に乗るようになれば、スキル連携もしやすくなる。ゲーム的に考えると、GEクリア後の統率パワーアップバージョン…リンクバーストLV3にするかと思ってたんだが。

 

 

 

 

 そうそう、もうすぐブラッドに新しいメンバーが入るらしい。ギル君かな?

 何か手を打っておかないといけない事はあったかな。初対面でロミオがド突かれたのは覚えてるが、今のロミオが同じ事をするとは思えないし。

 わざわざケンカする必要も無いが…まぁ、仲間意識とかは自然の流れに任せればいいか。

 

 

神逝月

 

 

 芦原ユノ、というアイドル? 歌手? がフライアに来た。

 ふむ…着痩せするタイプと見た。

 

 ついでに、汚ッサン2号も初対面したが、あまり印象に残ってない。男なんかどーでもいいと言うのもあるが、ハンター的に興味を引かれる人じゃなかった。頭にあるのは損益のみ、だな。

 …ふむ、例のシーンの為に、ちょいと小細工しておくか。

 

 

 で、葦原ユノの方だけど…『誰?』って言ったらロミオとジュリウスから原始人を見るような目を向けられた。

 何でも、1年ほど前から騒がれている歌手で、一度などフェンリルを電波ジャックして各地のフェンリル支部に歌を流したのだそうだ。その歌は、何と黒蛛病…ああ、そういやそんな病気もあったね…を和らげる効果を持っているとか。

 単純な歌の上手さ、清楚なルックスも合い間って、カリスマ染みた人気を誇っているとか。

 

 ロミオ的には、芦原ユノと初音○クもといシプレが2大人気巨頭、らしい。…ああ、そんなキャラ(?)も居たな。専用ムービー付で登場したからストーリーに絡むかと思ったけど、全然そんな事は無かったぜ。

 ……そのシプレ、お前夜の鍛錬に使ってるだろ。

 そっちも知らん、と言ったらエイリアンを見るような視線を向けられた。

 

 しゃーないだろ。この2~3年、電子機器どころか人っ子一人居ない状況で文字通りのサバイバル特殊任務してたんだから。フェンリル全支部に流れてたって、俺が聞ける筈が無い。

 僕は友達が皆無とかいうレベルじゃない、物理的に完全なボッチだった。あの時お前と会話したのだって、3年ぶりの人間との接触だったんだぞ。

 そんな事言ってたら、葦原ユノのマネージャーっぽい人が呆れていた。…戦慄してたようにも見えたが。まぁ、確かに3年間誰とも接触しない状況とか、人によっては発狂しかねないな。ロビンソンクルーソーだって孤独に散々苦しんだんだし。俺はどっちかっつーと退屈に苦しんだけど。

 

 

 まぁ、今回の接触はその程度だったな。2度目…3度目?の終末捕食関連で 手を借りる事を考えると、今のうちに接触しておいたほうがいいかもしれないが、どうやら極東支部に向かう途中で時間も無かったようだし。

 ロミオが舞い上がって追いかけてったんで、仕方なくナナを伴って追随。汚ッサン2号の部屋に入ったら予想通り…ゲームの通りだっけ?…既に葦原ユノは居らず無駄足。汚ッサンには俺とナナの着任の挨拶、と誤魔化しておいたんだが…。

 

 あの汚ッサン、ジュリウスが言ってた通り、思ってたより有能かもしれん。

 

 

「ああ、貴様が。話は聞いている。極東での事もな」

 

 だそうだ。何処まで何を知っているかはわからないが、隠蔽されている筈の俺の事を知っているようだった。

 その上で、フライアでの滞在を認める発言も出た。

 

 どうやら、俺の存在を取っ掛かりとして、極東に繋がりを作るつもりらしい。販路を広げるのかな?

 まぁ、何にせよ、強引な地上げ屋みたいな印象を持ってたが、存外思慮深いタイプなのかもしれない。それを金儲けに全振りしているだけで。

 

 それにしても…思ったより簡単に小細工できたな。

 どうやって金を儲けようと知った事じゃないが、あれだけ装飾品をジャラジャラさせてるのはよろしくないねぇ…。

 

 

 

神逝月

 

 

 すっかり忘れてたんで、赤い雨とか黒蛛病について調べてみた。かなりの猛威を振るっている…。

 そりゃ、これを多少なりとも抑える力があるってんなら、葦原ユノが崇められる筈だ。冷静に考えると、歌で病気の進行が和らぐとか、プラシーボ効果以外の何物でもないんだが。

 でも芦原ユノ…ゲームストーリーで言えば、特異点の適合者だ。それが何か関係あるんだろうか…無理矢理にこじつければ、歌声に血の力や霊力に似た物が載っていて、それが効果を発揮していると考えられる。だがそれだと通信越しに効果が出る説明がつかない。歌声に反応して、患者達の体内で何かの反応が起こっていると考えるべきか。

 

 話が反れた。

 

 赤い雨については、大した資料も無く、実物を見てみないと何とも言えない。

 だが、ゲームの知識で言えば、アレは黒蛛病に感染した人間の中から、新たな特異点を探そうとしているのだった筈。

 …俺が触れたらどうなるんだろうか?

 特異点モドキと名乗っている俺だが、終末捕食を起こす力は実際にあるし、蝕鬼の力で取り込んだノヴァの欠片は未だ体内にある。俺が新たな特異点として、正式(?)に選ばれるか? いやしかし、一度は終末捕食を発動させ、そして月まで行った…地球の側からしてみれば、特異点としての役割を放棄・失敗した存在だ。俺ならそんな奴に重要な役割を任せはしない。

 というか、元祖特異点の扱いはどうなってるんだろうか。シオの事は俺以上に徹底して隠蔽されているようで、情報がまるで手に入らない。未だに特異点としての性質を持っているのか、それとも俺が切り離した事で限りなく人間に近いだけのアラガミになっているのか。

 

 やっぱり実物を目にしないと、推測も立てようがない。いい事なのか悪い事なのか…普通なら確実にいい事なんだけど…、赤い雨は暫く近くでは降りそうにない。暫くは棚上げだな。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 ギル君到着。うーん、ゲームでも思ったが、見た目と中身が釣り合わないやっちゃな。

 偏見と言われればそれまでだけど、妙に老けて見えると言うか。年齢、22歳らしいんだよな…。

 しかも一見すると精精気のいいにーちゃんにしか見えないのに、酒の飲み方が妙に渋いし、脳筋かと思ったら技術者やり始めるし。

 

 到着後の騒動は無かった。イメージしていたよりもつっけんどんな印象はあったが、それも例の事件でトラウマ出来てるからだろうか。

 ロミオとのケンカは必須イベントや伏線だったりしないので別にいいとして、交流を深めよう…としたらちょっと問題。やっぱりトラウマの為か、どこか余所余所しいし、必要以上に関わりを持とうとしない。

 ナナのおでんパンも突っ返されてたし。ちなみに、一緒にギルに話しかけていたロミオが美味しく頂きました。串ごと食べるのを、正気を疑うような目で見てましたが。

 

 

 ギル…呼び捨てでいいと言われた…の今後はどうなるんだっけか。トラウマの元になったアラガミと遭遇したが…あれは極東に着いてからだっけ?

 いや、ハルさんことムーブメント師匠が来ている間だから、やっぱ極東の前か。えーと、その前にアレだ、騎士道君が来て中型アラガミ相手に根性見せるのが先だっけ。

 考えるだけ無駄かな。バタフライ効果で何がどう変わってるか分からんし。

 

 

 考えてみりゃー、そもそもギルは血の力をどう考えているんだろうか。現状、確認できているのは俺とロミオとジュリウスくらい。それも観測しているのは、基本的に身内と言うかフライア内部の人間ばかりだ。それを資料として発表したって、ヤラセや出鱈目と疑われるのがオチだ。

 お偉いさんの中には、ちゃんと資料に目を通し、ジュリウスが実現してみせたりもして、証拠を見ている人間も居るだろうけど、少なくともギルはそれに当たらないだろう。

 ブラッドに所属…というより勧誘されてOKしたって事は、血の力は信じているのか…それとも、トラウマの地から離れられれば何でもよかったのか。

 

 

 

 …後者っぽいな。血の力を実際に使って見せたら、目を白黒させて「トリックじゃないのか…」なんて言っていた。ま、それが普通の反応だ。

 ついでに言えば、俺の事を聞いて首を傾げていた。事前に聞いていた編成人数と違う、と。まー色々あるのだよ。

 

 

 ま、歓迎会を遠慮したいってんなら、別のやり方で交流を深めるまでである。

 

 

 

 

 

 さぁ、狩りの時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 狩りの時間終了。

 いい腕してるけど、言っちゃ悪いがそれだけだな。動きが完全に弱小アラガミ…というか、割かし脆い相手を想定している。攻撃を加えて沈んだアラガミが、瀕死状態で反撃してくる、とかそういう警戒心があまり無いようだ。長丁場にも慣れていない。

 極東でも通じるは通じるだろうけど、暫くはカルチャーギャップに戸惑いそうだな。その暫くの間が、極東に入ってきた人には致命的な訳だが。

 

 

 

 

 …ところで、あれどうしよう。

 

 

「僕はエミール……栄えある極東支部第一部隊所属!エミール・フォン・シュトラスブルクだッ!!」

 

「そして僕はエリック。華麗なるエリック・デア=フォーデルバイデ。僕達が来たからには、ヒンデンブルグ号から飛び降りたつもりで安心してくれたまえ!」

 

 

 エリック、それは一種の自虐ジョークなのか? それとも独特の言い回しをしてるだけなのか?

 と言うか、誰だよこの人事考えた奴…。

 

 

 

神逝月

 

 

 大事になる前に身を隠した。エリックさん、俺が何やったか知ってるかな。

 …知ってそうだな。第一回終末捕食の時は、詳細は知らされてなかったろうけど。ノヴァの欠片の時は極東ゴッドイーターの多くが俺の幻を探し回ってたらしいし、何らかの繋がりに気づいてもおかしくない。

 …気付いたところで、全うな結論が出てくるのかは別の話だが。

 

 とりあえず、適当な所でエリックさんと接触し、極東の情報を仕入れておきたい。場合によっては、こちらから伝言を頼むか。

 正直、マトモに伝わるか疑問である。

 

 いや、決して悪い人達でも、信用できない人達でもないんだけどね。エミールと会うのはこれが初めてだけど、エリックさんとは前ループでも今回のループでもそこそこ付き合いがある。

 言い回しは独特だけど、視野が広く頭のいい人だ。常人とは色んな意味で違う視点から考えているので、理解されにくいだけで。

 エミールも、ゲームと同じような性格だとすると、言い回しが只管にくどい上、思い込みで明後日の方向に只管突っ走る人種のようだが、これまた信用はできるだろう。

 ただ二人揃って、隠し事という点についてはこれ以上無い程に信頼も信用も出来ないが。

 ラケルてんてーのお膝元で、妙な事を口走られても面倒だ。

 

 

 …そんな事を考えてたんだが。

 

 

「極東の人って事は、教官の事も知ってるの?」

 

「む? キョーカンなる名の友人には心当たりが無いが」

 

「いやエミール、世界には既に友人になった人物と、これから友人になる人物しか居ないよ。なので、華麗に断言しよう。心当たりは無いが、その人物は僕達の友人だ」

 

「それもそうか! はっはっは、一本とられたな、我が好敵手よ!」

 

「……何なんだこいつら…」

 

 

 …相変わらずぶっ飛んだ思考回路してなさる。言ってる事はわかるんだけどね、大仰にしすぎなだけで。

 ギルとナナが戸惑っているが、代わりにロミオが俺の名前を出してしまった。オノレ、余計な事を。

 

 

 

「ああ、彼の事はよく知っているよ。話した事は数える程しか無いが、世界を救う為に過酷な運命を歩みきり、今なお育つ希望の種を遺した、最も華麗なゴッドイーターと言えるだろうね。僕とは思想の違いもあったし、聞いた話では本人にも色々問題はあったそうだが」

 

 

 上田に言われたくない。

 

 

「うむ、伝聞でしか聞いた事は無いが、今の世界と極東があるのは彼のお陰といっていいだろう。栄えあるゴッドイーターの一員として、僕も一度会ってみたかった。緑の君よ」

 

「…緑の君、ですか? 教官、別に緑色じゃないんですけど」

 

「緑と言うのは、自然という意味の緑だよ。彼が何処からか齎した、新たな植物は極東を覆わんばかりに育てられていてね。あれのお陰で、食糧難に苦しみ人々がどれ程助けられた事か」

 

 

 

 …どうやら未だに、農園は拡大を続けているらしい。MH世界の植物が3年かけて繁殖…。いったい何処まで広がっているやら。

 妙な渾名は置いといて。

 

 

「時に、彼がどうかしたのかね? 詳細を知りたいのであれば、極東のアーカイブよりも、農園管理団体・GKNGが彼についての書籍を発行しているので、そちらを読むといい」

 

「少々機密事項に関する記述もあるが、そこは華麗にスルーしてくれたまえ。下手に首を突っ込むと、危険が危ないよ」

 

「…GKNGって?」

 

「Growing Keeping Natural Group……英文としては完全に成り立たないが、自然食材を育て保護する団体の意味だ。…ああ、そう言えばこれは偽名であり、(G)現世に出現した地獄の中で(K)輝きを失わない(N)ノゾミちゃんを影に日向に(G)護衛する会だと言われてもいるな」

 

「誰が言い出したのかわからないが、この華麗とはとても言えない名称が既に広まってしまっていてね。この団体の創始者が彼である…と主張しているんだ。実際、それらしい目撃情報や証言も多々あるんだけど、ちゃんとした資料は無くてね」

 

「はぁ……で、どうなんですか教官」

 

 

 …………そーねー、そんな事もやったねー。でもそんな団体になってるのは初耳だな。

 

 

「………………」

 

「む? 君はどちら様かな?」

 

「……………な」

 

 

 …………おいロミオ、お前後で久しぶりに特訓フルコースな。

 エリックさんお久しぶり。

 

 

「げっ、何で!? 話振ったのナナじゃないすか!」

 

 

 名前出したのお前だろーが! ナナは別途オシオキします!

 

 

「えー!? 私も!?」

 

「み……み、みみ緑の君!?」

 

「なんと、彼がかねエリック! お初お目にかかる! 僕はエミール……栄えある極東支部第一部隊所属!エミール・フォン・シュトラスブルクだッ!!」

 

 

 

 エリックさんが仰天し、エミールは感極まって初対面から抱きついてくるし、なんやねんもう。

 

 

 

 

 暫くしてジュリウスがやってきて、騒ぎは鎮圧された。全員タンコブ一つずつ。

 

 

 

「…なるほど、事情は分かった。今回は不問に処すが、以後は場所を弁えるように」

 

 

 こいつらにそんな状況判断力があると思うかジュリウス。

 

 

「このエミール、常に天地に恥じ入るところの無い自然体である! …とは言え、他者の家で騒ぐべきではなかったか。騎士として謝罪させていただく」

 

「僕も久々に醜態を晒してしまったね。次の機会があれば、もっとスマートに盛り上げる事を約束しよう」

 

「…………」

 

 

 あ、突っ込みを諦めた。と言うより、下手に突っ込むとジュリウスの方がアカンのだよな、コレ。

 極東から派遣されてきた協力者を、話も聞かずに鉄拳制裁したんだから。今もコッソリと冷や汗をかいているようだ。

 

 

 あー、まぁ騒ぐだけ騒いだ事だし、エリックさん、ちょっと旧交を温める時間ある? 極東がどうなってるのか、色々聞きたいし。

 

 

「ああ、勿論さ。話すべき事は山のようにある。エリナの事、GKNGの事、リンドウ君の事、シオ君の事…一晩程度じゃ語り明かせないよ」

 

「旧交を暖めるのは実に素晴らしい光景だが、僕がちょっと寂しいのでブラッド諸君、話し相手を頼むよ」

 

「……よし、ロミオ任せた」

 

「俺かよ。…まぁいいけど」

 

 

 平然と受け入れる辺り、ロミオも変人に耐性がついてきたようだ。誰のせいだろうね?

 なんだかんだでコミュ力チートの片鱗はあるんだよな…。血の力無しでも。

 

 

 

 この後、話をする前に一度ミッションに出撃し、「騎士道の勝利だー!」と「華麗に殲滅!」という一幕があったが、それは省略する。

 …うーん、やっぱ経験の差か、エリックの方が腕はいいな。今のエミールが問題外(極東基準)という事もあるが。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 ちょっと間が空いたが、エリックとエミールが極東に戻っていった。俺の存在は、支部長と榊博士、アリサとレアにだけ伝えるようお願いしておいたが…正直不安だ。

 まぁ、実際に終末捕食で俺が何をしたのか知ってる人はごく少数だから、知られたとしても『奇跡の帰還』とか『潜伏しての長期間任務』で誤魔化せると思うが……ああ、でもアーク計画に賛同していた人達も居たんだよな。そいつらからしてみれば、俺は計画を潰した張本人…って事になるのか? 影から狙われる可能性も考えておこう。

 

 

 にしても、エミールの実力が何とも評価し辛かった。オウガテイルにも梃子摺る癖に、中型アラガミと乱闘しても平然と戻ってくるし、「あ、これヤバいんじゃね?」という状況になっても一定以上のダメージを受けない。

 相手が何であっても、一定の成果を出すと言うか、一定の成果しか上げられないと言うか。…妙な血の力でも使ってんじゃなかろうか。

 

 

 

 で、エリック達と入れ替わりで、今度はシエルが参入してきた訳だが………目、眠そうだね。

 こっちはあのopa-iを見てあっという間に目が覚めたのに。…持て余してるからなぁ、性欲…ナナだけでもギリギリだったのに、シエルまでか…。どうやって処理しよ。

 フランさんに軽く声かけたりしてみてるんだが、軽く流されてしまう。切れ長の目で呆れたように見られると、ちょっとゾクッと来た。滅茶苦茶にしたくなって。

 

 

 

 ふーむ、それにしても…こう言っちゃおかしな感じだが、ラケルてんてーにちょっと印象が似てるかな。ゲームの中ではそんなイメージは無かったんだが。

 特に胸部装甲は似てないが。

 

 お人形さんっぽいと言うか……ああ、現状ラケルてんてーのお人形さんみたいなもんか。話してみたけど、正直珍しいキャラクターだ。

 悪い意味で、ガッチガッチの兵隊っつーかね。そういう風に育てられて、それ以外の事を知らないって事なんだろうが。

 秀才と言うより、ガリ勉に近い。遊び方を知らない所も含めて。

 

 

 …気のせいか、俺の事を警戒しているように見えるが…まぁ、俺って立ち居地的にはブラッドですらないからな。ゲームで主人公の立ち居地だった、隊長・副隊長の立場は、現在はロミオとジュリエット…もといジュリウスが勤めているし。

 書類的に考えれば、今の俺はフライアに搭乗していない、不法侵入者同然だったりする。まぁ、こっちとしてはその方がありがたい。色々裏で動けるからね。

 

 

 

 

 

 正直、シエルはこの状態じゃ歓迎できんな。

 綺麗所や戦力が増えるのは諸手を挙げての大歓迎なんだが……なんだろ、同じ職場に空気が読めない奴が入ってきた感じ? 俺だってあんまり読まないけども。

 最低限、極東に行くまでにはどうにかしたい。ハッキリ言うが、今のシエルじゃ通じない。コミュニケーション能力もだが、実力的に考えて。アラガミとの実戦経験が完全に足りてないのを、知識で補おうとしてるからなぁ…。

 それ自体は悪い事じゃないんだが、経験や実感にこそ頼るべき部分まで、知識に頼っている。……要するに「濃い」連中を相手に、一般人相手の対象を基にして接しても、上手くいくはずがないってだけの話だが。

 

 まぁ、全うな教育を受けてないって証明でもあるか。このご時勢で、全うな環境と教育を受けられるのがどれ程幸運かって話でもあるが、それにしたって偏ってるもんだ。

 

 

 色々考えてみたが、やはりシエルが相手でも狩りからのコミュニケーションが一番いい方法だろう。今のシエルにとって、アラガミ討伐・ゴッドイーターとしての使命こそが存在理由のようだし、無理に他の事に興味を持たせようとするのは難しい。

 ゲームのシナリオでもそうだったが、「明らかに効率的でない手法なのに、自分が考えているよりもずっといい結果が出ている」という辺りから自分のやり方に疑問を持ち、変わり始めていたように思う。

 …いや、例外あったな。極東のカピパラには一発KOされてたっけか。うん、最悪アレをだっこさせればいいか。その内、うかつに持ち上げるとグキッと行きそうな大きさになるけど。

 



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178話

世界樹キター!
でもまだやってない…討鬼伝2にかかりきりでした。
上級任務とか残ってる依頼とかミタママラソンとか印集めとか。
とは言え、ここのところずっと討鬼伝ばかりだったし、少し休もうかな。

かなり楽しめたけど、やっぱり残念な部分もありますね。
マップの空白がかなり大きいし、どうも強くてニューゲームも無いみたいだし。
こりゃー極が出るかな。


神逝月

 

 

 シエルのせいで…とは言わないが、連携が乱れてるな。ロミオやジュリウスはその辺を見越して動けるんだけど、やっぱナナはきついか。ギルも…やれてない事はないが、若干厳しそうだ。

 特にナナは、シエルからの提案…要請?…で、使い慣れない銃形態をやろうとしてるからなー。得意な事だけやってられる甘い世界なんてありゃしないから、それはそれでやらないといけない事ではあるんだが。

 

 シエルもそれに気付いていて、自分が和を乱しているのも分かっているようだが、完全に空回りしている。充分な見識が無いまま、状況を分析して対応しようとしてもなぁ。

 コミュ力チート枠に任せようかと思ったが、それよりも早くに機会が訪れた。

 

 シエルもまだ目覚めてない血の力について、修行法を教えていたんだが、その時に相談された…と言うより、カウンセリング紛いの問答をしている時にポツリと。

 やっぱ霊力や血の力って、精神状態にも左右されるから、悩みがあるなら解決するなり吐き出すなりさせた方が修行の効率もいいんだよね。

 

 

 

 で、相談を受けて思ったことが…なんちゅーか、昔の俺を見ているよーだ、かな。シエルに失礼かもしれないが。俺も人間関係が壊滅的だったんだよなぁ。今でも別の意味で壊滅的なんだが。

 現場環境の悪化は自分が悪いからなのか、しかしマニュアル通りにやっている筈なのに一体何処が悪いのか分からない。…そうやって自分の原因を模索しようとする辺り、俺よりはマシだな。

 …なーんて、暢気に分析してる場合じゃなさそうだ。良くも悪くも純粋培養って事なのか、思い込んだら一直線だぞこの子。

 一度『自分が悪いんだ』という認識に囚われてしまえば、そのままズルズルとどん底まで落ちてしまい、最終的にはノイローゼとかになって自殺しかねん。マジで。

 ゲームのストーリーでも、そういう傾向はあった。一度友人になった主人公に、ハチ公並みの忠誠心を持っていたように思う。或いは某軍神に対するオッドボール並み。

 

 という事は、何とかプラスの方向を向かせてやれば、放っておいてもいい塩梅に回復してくれるんじゃないかと思うんだが…問題はその方法か。

 暫し考えて、「切欠になればいいかな」という気軽な考えで発言したのだ。

 

 

 これからも相談があるなら気軽に言ってくれ。『友人』が悩んでいるんだから、出来る限りは力になろう、と。

 

 

 

 

 

 

 心に余裕が無い人や、追い詰められている人を相手に迂闊な事を言ってはいけません。全ての発言を、一歩間違えれば切腹するくらいの気持ちでかかりなさい。

 得がたい教訓ですな。ちぃ覚えた。でも今後活用できる気がしない。

 

 

 うん、大した考えや覚悟があって言った訳じゃないんだ。シエルがゲームで友達を作りたがっていたのを思い出して、ちょっと明るくなればいいかなって思ったんだ。実際、大いに(無表情かつ半眼のままだったが)喜んでくれたし、精神的な方向性はプラスに転じたと思う。

 そうでなくても、一般的に「友人」なんて、そう重々しいものじゃないだろう。強敵と書いたりするよーな、サツバツ!な関係は普通は無い。

 

 

 …シエルが育った環境を忘れてた。どういう物か具体的には知らなかったが、あのラケルてんてーがエリートみたいに育て上げ、その結果が今のシエルだよ。これまで全うな人間関係が無かった事なんて、そりゃ簡単に想像がつくさ。

 そこへ気軽に友人扱いしちゃったらなぁ…。加えて言うなら、ゲームのようにシエルから「友人になってください」と言ったのではなく、俺の方から「友人だ」と宣言した形になる。

 

 

 孤独に疑問も持たずに生きてきたシエルにとって、それはどんな宝に見えただろうか。俺にとっては何気ない一言だったが、シエルにとっては地獄に垂らされた蜘蛛の糸に等しかったらしい。

 しかも、良くも悪くも自然…というよりは、自分で意識しないうちに築かれた関係だからか、「強固な絆がある」と確信できていないらしい。棚ボタで手に入った物は、容易く掌から零れ落ちてしまう。同様に、ちょっとした切欠で、友人関係が解消されてしまうのではないか…という不安を持ってしまったようだ。

 

 うぅむ…どうしたもんだろうか。実際、シエルの不安は尤もなものなんだよね。現状、友人と称するのに問題が無い程度の関係ではあるが、特別な何かがある訳じゃないし、仮にあったとしても、デスワープしたらシエルの方が忘れてしまう。そうなったら、俺の認識も何れは…いや、次のループで仲間と認識するかもしれないが、それはそれでまた別のシエル…なのかな?

 とにかく、シエルは何かと俺に纏わりついてくるようになってしまった。別にストーカー染みているとかじゃなくて、常識的な範囲内だが。気がつけば背後に立っている、なんて事もない。何故か後ろを取ろうとしてくるが、気配の殺し方が甘いな。

 

 シエルの不安を解消するには…やっぱり特別な『何か』の繋がりが必要か? 血の力…いや、ゲームと違って喚起の力も無いし、力に目覚めても多分それ自体は繋がりにならない。

 となると…やっぱ例によって体の関係か? セフレも友人っちゃ友人だろうし。

 

 …ただ、これについては躊躇われる。別にシエルがどうこうではない。年齢とボディと中身がアンバランスだが、実にそそられる…のだが、やっぱ地球に帰ってきて一発目は、アリサかレアにな…。

 まーこれについては、追々どうにかしようか。まだ文句言うような領域にはなってないし、気の済むようにさせればいい。何かあった時、都合がつく限りは手を貸すつもりなのも本当だ。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 俺という友人ができて、心に余裕が出来たのか、逆に無くなったのか。

 俺が「こういう風にすればいい」「こんな風に考えればいい」と教えた事を、洗脳でもされてんじゃねーかと思うくらい忠実にやっている。…実際、誘導したのは否定できんが。

 良くも悪くも忠実…「そこは悩まなくていい」と言ったら、本当に思考放棄するような感じだ。

 

 …連携という点では、シエルは柔軟になった…とブラッド隊員からは評判ではあるんだが、「アレヤバいんじゃね?」的な相談をロミオとジュリウスから受けた。うん、でもどうしようもないね。

 だってここで、矛盾した命令(みたいなもんだよ、実際)を出したら、板挟みになってシエルがどんな行動に走るか分からないし。万が一、「やっぱ友人関係は無しね」とか言ったら自殺しかねない。心中するくらいの気概があれば、まだ救われそうだが…言われたら、その場で自分の喉を抉るか、絶望の力だけで脳か心臓を停止させるくらいやりそうだ。

 

 

 極端から極端に走る子だわぁ…。まぁ、忠犬が出来たとでも思っとくか? 犬は人間最古の友って言うくらいだし。

 

 

 

 

 

 それはそれとして、これから極東へ向かうと通達が出た。その前に神機兵の実験。グレム局長が何やら色々陰謀を巡らせているようだが、ラケルてんてーのと違って金儲けオンリーだからどうでもいい。

 で、意外な人…と言うか、すっかり忘れてた人に会いました。

 

 

 クジョウ博士です。

 

 

 …誰って言わないであげて。俺は内心で思っただけだからセーフ。

 神機兵の、無人機の研究者代表です。ということは能力自体は高いんだろうな。グレム局長に色々融通をお願いして蹴られていたようだが、『綿密な打ち合わせ』とか無しに無人神機兵をある程度まで自力で仕上げていた訳だから。

 

 そういえば居たね、こんな人。ゲームで登場してたけど、ラケルてんてーに利用されて色々失った不憫な人としか覚えてないよ。

 

 そして今回ループでも一度会ってたんだよ! いやぁ素で忘れてたネ! 男だからとかじゃなくて、純粋に会う機会が少なかったし、はっきり言って影薄いし。

 現実で改めて見ると、同情したくなってくるくらいに幸薄そうな顔だ。

 

 

 

 て言うか、正直今でも同情してしまっている。どうすっかなー、この人。

 思い入れのある相手でもないが、ラケルてんてーの陰謀を挫く一助になるかもしれないし、破滅の道を辿るのが目に見えている人に、一声かけるくらいの人情はある。つもりだ。

 うーん、でもどうするか…神機兵に関しては、俺は完全に手が出せない。知識も無ければ技術も無い、発想だって無いからブレイクスルーも期待できない。ついでに言えば、ゲームと違って有人神機兵プロジェクトはあまり捗ってないらしい。レアが居ないからか?とにかく、研究状況・進展具合も、ゲームとは違う状況っぽい。

 何より、あの不幸オジサンの行動パターンから見て、ラケルてんてーに何か言われたら舞い上がって、ホイホイ罠にかかってしまいそうだ。

 

 ラケルてんてーがクジョウ博士を利用するとして…そのタイミングを見切って、横合いから絶妙の一発、か。外せば警戒され、次点の策を用意される。

 厳しいな…。まぁ、攻防のタイミングを見切って一撃加えるのはハンターのお家芸だ。やるだけやってみるとしましょうか。

 

 

 

 そういう訳で、クジョウ博士とちょっと話をしました。

 以前会った時の事(思い出せなかったんで、適当に話題を振っただけだが)から入り、神機兵の事、ラケルてんてーの事。

 

 肝心の仕掛けの部分は、大体こんな感じだったかな。

 

 

 

「…という訳で、無人神機兵の開発も難航していてね…」

 

 

 はーん、専門職は大変そうですな。俺としても、そういう戦力があるに越した事はないが…。

 

 

「そう言ってくれるかね? ゴッドイーター達にはあまりいい顔をされないんだよ、これが」

 

 

 ま、仕事を奪われる訳だしな。そういう意味では俺にも思う所はあるし、機械如きに負けるか、とも思うが…。

 しかし、そんなに難航してるんなら、誰か別の博士に相談すれば?

 

 

「勿論、相談も会議もしているさ。私一人で開発しているのではないからね。…ですが、こんな事を言うのも憚られますが、無人神機兵の研究について、私以上の人材は今は…」

 

 

 (…自信無さげに見えるけど、意外とプライド高い? 突くならこの辺りか)

 神機兵に関わってない人では? ラケルてんてーとか。

 

 

「ラ、ラケル博士ですか!? で、出来る事なら相談に乗っていたたきたいとは思いますが、あの方の手を煩わせるなど、私如きでは…」

 

 

 いやクジョウ博士の為に煩わせるんじゃなくて、神機兵、引いてはゴッドイーターや一般市民の為だし。

 それに、ラケルてんてーも神機兵には注目してるっぽかったから、案外相談したら真面目に考えてくれるかもしれないよ。…うん、今度時間がある時に聞いてみよ。一回クジョウ博士とサシで話してみてくれないか、って。

 

 

「サシ? ……そ、それはつまり二人きりと言うことですか!?」

 

 

 ご希望なら、他の人も呼びますけど…ちょっと、脂汗凄いっすよ。見た目細いから脱水症状になるんじゃないかと心配です。

 …博士、ちょっと落ち着いて。呂律が回ってないから何言ってるか分からないよ。

 ま、ラケルてんてーが受けるかどうかも、予定が空いてるかも分からないから、とりあえずその確認からっすな。

 

 言っちゃなんだけど、相談に乗っても素人考えで上手くいくとは思えないし。

 

 

「……ふぅ、落ち着きました…。いえいえ、君はラケル博士を過小評価していますよ。あの方は蛍のように儚い方ですが、正に知性の化身です。私などでは足元にも及びません」

 

 

 クジョウ博士が梃子摺っている問題も、いきなり答えを出しても不思議じゃないくらいに?

 

 

「はは、確かにそうなってもおかしくありませんね!」

 

 

 そんなに凄いのか、あの人…・

 

 

「それはもう! そもそも、あの方はですね…(30分ほど、ラケルてんてー讃歌)…」

 

 

 はーん、色々やってるんだな、てんてー。

 でもやっぱ、疑ってかかった方がいいと思うけど。

 

 

「む? 疑う…とはどういう意味です?」

 

 

 いやラケルてんてー自身は完璧な技術を提供してくるかもしれないけど、それが現実に落とし込まれるかはまた別の話でしょ。

 プログラムコード自体は完璧でも、あーいうのって開発環境によって差が出てくるって聞いたぞ? データの一部が古いままで、肝心の本番でとんでもないバグが出たとか。

 今回の場合で言うと……アレだ、動きを調査する為の一時的なコードや、臨時に動きを停止させる為の命令が残っているとか。

 ラケルてんてー本人が全部やってるんじゃなくて、一部は他の人に任せてるんだろ?

 

 そもそもからして、ラケルてんてーはクジョウ博士がどういうプログラム組んでるとか、知らないだろ。そこでラケルてんてーが一人で汲み上げたモノをポイっと放り込んで、不都合が出ない方がおかしいと思うけどね。仕様の刷り合わせすらしてないんだから。

 

 

「む…むむむむ?」

 

 

 ラケルてんてーの知性云々の問題じゃなくて、技術者としての姿勢の問題だと思うぜ、コレ。 

 最終的に全体の見直しをすっ飛ばすような技術者だったら、それこそラケルてんてーが完璧にやってもそっちでポカをしそうだし。

 

 

「うむむむ、確かに…。……ん? いやいやいや、そのような事は言われずとも分かっております。技術者の私に向かって技術者の心得を説くとは、釈迦に説法というものですよ」

 

 

 (いやアンタ多分、舞い上がってチェック忘れるから。神機兵停止するから。…いや、チェックはしたけどラケルてんてーの隠し方が上手かったのか?)

 そら失礼しました。…まぁ、全てはラケルてんてーが相談に乗ってくれたら、という前提での話しですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 …と、こんな感じのお話でした。これ以上の手は打てそうにないなぁ。プログラムもハードウェアもサッパリだし、クジョウ博士はラケルてんてーの信者みたいなものだから、これ以上疑いを抱かせる事も難しそうだ。

 意図的に作られたバグなのか、それともクジョウ博士にも秘密の裏コードなのか知らないが、これで発見してくれるといいんだが…望みは薄いな。

 

 それにしても、クジョウ博士…なんか極東のマッド共とは違う「何か」を感じるんだが、気のせいだろうか? 技術者ではあっても技術バカでもマッドでもない、神経質ではあるけど実に健全な人に見えるんだが、なんかこう…思い込んだら一直線…を通り越して、一途すぎて自分が絶対だと思ったモノの為に、他の全てを投げ捨ててしまいそうな人種と言うか…。

 思いつめた挙句に何かやらかすタイプだな。彼に幸あれ。

 

 

 

神逝月

 

 

 神機兵のテストなう。テスト中だけど、現在俺はフライアに待機して日記を書いている。

 今まではなぁなぁと言うか成行きでブラッド達と協力してきたけど、神機兵のテストは一応機密事項なんだそうだ。部外者を置いておけないってさ。

 

 まぁ、それはいいんだ。GE2で因縁の始まりみたいなアラガミ…感応種の、マルドック? …エヴァに出てきそうな名前だって事は覚えてたんだが、あのアラガミと未だに遭遇してないが、それもまぁいい。

 代わりにイェンツィーなら遭遇したが、俺とロミオとジュリウスでフルボッコにしたから問題なし。

 

 今回問題なのは、赤い雨だ。ブラッド達が神機兵のテストをしてたら、赤い雲がいきなり湧いて出たそうな。普通の雲の更に上にあって隠れてたらしいが…うへぇ、自然の悪意を感じるな。この場合、自然と言うのは特異点を探そうとする地球だろうか。

 まー故意か自然(文字通り)かはともかくとして、赤い雨に降られる前に、皆して一斉に帰還している訳だ。…が、一人だけ遠くに居たシエルは帰還が間に合いそうに無く、神機兵を傘にして、雨が止むまで待機。

 

 

 ゲームと同じ流れですな。この分だと、シエルのところまでアラガミが寄ってきて、主人公こと俺が神機兵に乗って助けに行く…んだろうけど。

 

 うーん、あの雲…? 俺の考えが正しければ、赤い雨って俺にとっては文字通り色がついただけの雨っぽいなぁ…。この分だと、黒蛛病も…?

 つっても、確証がある訳でも立証されてる訳でもなし、いきなり言い出しても信じられないか。無断出撃するしかないな。

 

 が、その前に。

 

 

 グレム局長が限りなく嫌われ者と言うか金銭>人命な命令を出してる所に、通信で割り込み。

 

 

 おーいジュリウス、この状況を引っくり返す作戦があるんだけど、乗るか? ああ、勿論グレム局長の指示にも反しないようにしてだ。

 

 

「む、作戦? 何かあるならすぐに言え」

 

 

 あいさ。そんじゃ、ちょっと説明するのに資料が要るから、俺のアカウントでターミナルにログインして、トップ画面右上のファイルを実行してくれ。

 

 

「少し待て…これか」

 

「おい貴様、余計な事をするんじゃない! いいか、貴様は本来フライアに居る事さえ許されておらんのだ。余計な事をせず、俺の「ファイル実行」ゲファッ?!」

 

「なぁ!?」

 

 

 おお、フランがキャラを投げ捨てた驚愕の声を上げたようだ。

 

 

「…おい、これはどういう事だ? ファイルを実行したらグレム局長が電撃を受けて崩れ落ちたんだが」

 

 

 あっれー、間違えたかな? …そうそう、右上じゃなくて上から二番目のファイルだった。まぁ、グレム局長は何故か気絶して指示を出せなくなったんだから、仕方ないんじゃね? そこで一番階級高いのジュリウスだろ。指揮頼むわ。

 

 

「……色々言いたい事はあるが、後回しか。シエル、聞こえているな? そういう訳で、不審者一名がそちらに向かう」

 

 

 誰が不審者か。

 

 

「フライアのターミナルに、謎の呪文を入力しているような奴は不審者で充分だ。オンキリキリ……? で、結局これの何処が作戦だと?」

 

 

 作戦だよ? その文章は単なる不動金縛りの呪文だが、それはこの際どうでもいい。

 現場の指揮権を統一するのは大事だろ? ま、そういう訳なんで、ちょっと神機兵に乗って行って来ます。

 クジョウ博士がそこに居たら、データ取っておくように伝えてください。有人での稼動とは言え、貴重な実戦データです。案外使えるかもしれませんよ。

 

 

「残念ながら、クジョウ博士は現在別の場所で神機兵のデータを観測しています。恐らくは現在の状況も把握しているでしょう」

 

 

 さいですか。 じゃー、ちょっと行って来ます。

 

 

 

 そんな訳で、無事シエルの元に到着。近くに居たアラガミは、神機兵を操ってサクサク潰しておきました。

 うーん、パワードスーツ…って程じゃないが、サポートアイテムとして考えればそんなに悪くは無いかな、コレ。性能云々よりも、人型ロボットを操っている感がいい。

 

 …にしても、やっぱ神機兵も神機ではあるんだな。アラガミにダメージを与える為なのか、それとも制御の為なのか或いは…ラケルてんてーが最初から仕込んでいたのか、とにかく神機兵にはアラガミが使われている…神機と同じように。野良アラガミと化すくらいだから、納得っちゃ納得だが…。

 …この状態で変身したら、神機と同様に神機兵も取り込めないかな。この性能じゃ、取り込んでも無駄か。

 

 

 

 

 そういう訳で、今はシエルの元に辿り着き、ゲーム同様に神機兵を傘代わりにしています。

 俺は既に神機兵から降りて、ブリッジ状に肩を組む神機兵の下で………シエルと抱き合っております。

 

 

 いや、エロい話じゃないよ? 年齢と背丈に見合わない、実に芳醇な柔らかさを感じてはいるけど。キスをするとか尻を触るとか、そーいうセクシャルな事はやっていません。

 抱き合ってるのだって、「友達」が危険を犯して駆けつけてくれた事に感極まった、って感じだし。

 つまりシエルに邪念は無い。自分がエロい事考えられる対象だって意識すらない。

 

 くっ…鎮まれ、俺の下半身と右脇腹! 浪漫回路は紳士回路! 空気を読むし外道に堕ちない! 欲望だって捻じ伏せてみせらぁ! でも発散するのは必要だね!

 

 

 

 

 

 

 …ん? グレム局長がいきなり気絶した理由?

 あれだけ勲章ジャラジャラさせてれば、一つくらい細工されたって分かりやせんよ。増して、それが遠隔起動可能なスタンガンが仕込まれているなんて、帝釈天でも気付くまい…気にするまい、かな?

 




驚愕の真実を一つ。



シエルには性的に手を出してません。


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179話

後書きのたった一文の為に、普段の2~3倍の感想が押し寄せてくる件についてw

討鬼伝2ですが、話に組み込ませたとして、登場人物どうするかな…。
全員参加させるのは難しそうです。
ウタカタに連れていく(手を出して)にしても、一人か二人…。
その時になったらアンケートを取るかもしれません。

後、不思議に思うことが一つ。
話は全く変わりますが、AAってありますよね?
2chのやる夫板でお世話になってるアレ。
ドリフターズ(ヒラコー)のAAはよく見るんですが、ノブノブの「笑えよホラ こうすんだよ」のAAを全く見ないのはなぜなのか。
俺が見てる板が偏ってるだけなんだろうか。
あれこそ真っ先に使うべきだと思うんだがなぁ…。


神逝月

 

 

 シエルが血の力に目覚めました。ゲームでは直覚にはホントお世話になりました。

 

 

 

 …いやヤッてないよ。ナニもしてないよホントに! マジで! アリサとレアと俺の下半身に誓って何も! セクハラすらしてねーんだよ! それでも僕はヤッてない! 今回に限っては!

 だから「またまたそんなぁ。分かってるよ」みたいな電波(感想)送ってくんなぁ! でも感想いただけるだけで嬉しいですマジありがとう!

 

 

 …ふぅ、錯乱していたようだ。

 マジな話、本当に何もしてない。しつこいって? そっくりそのまま言葉を返そう。いや、今までの行動を鑑みれば当然の結果なのは分かるけど。

 

 実際、赤い雨が降ってて神機兵しかいない状況でR-18に突入なんてできねーよ。いやヤれない事はないが、色々気にしながらだからあんまり楽しくなさそうだ。何処で赤い雨に触れる事になるか分かったもんじゃない。

 雨が止んで帰還した後は、シエルも俺も黒蛛病にかかってないかのバイタルチェックに直行だったし。

 そもそも、ヤらなくても血の力に目覚める事は出来るしね。

 

 

 さて、何故にシエルが18禁展開も喚起も無しに、唐突に血の力に目覚めたのか、だが…。これは幾つかの要因と、そして環境が組み合わさって起きた現象だと思われる。

 

 

 そもそもからして、だ。あの赤い雨。一目見て気付き、実際に雨の中を(神機兵に包まれて)走ったから確信できたんだが……あの雨は『血の力と同じ物』だ。つまり霊力が宿っている。

 考えてみりゃー、話が繋がりはするんだよな。

 黒蛛病を齎す赤い雨は、新たな特異点を探し、生み出そうとする地球の意思…らしい。そんで、ゲームのクライマックスがそうだったと思うんだが、葦原ユノがやったように特異点として血の力の束ね、ぶつける事で終末捕食に干渉できた。少々強引な理屈になるんが、特異点として必要なのは血の力を操る為の、非常に高い素質…だといえるだろう。それを探し出す為に、地球の意思は赤い雨という形を取って、人々に感染しようとする。

 そして血の力とは、俺から見れば霊力である。

 

 …とにかくアレだ、血の力や霊力が篭った雨の中、当然その場に漂う霊力は増していく。その中で長時間過ごしたシエルは、自覚は無いが徐々に霊力が昂ぶっていたのだろう。或いは、周囲の霊力が体の中に流れ込んで留まったか。

 その状態で、友達が助けに来て感極まったのがトリガーとなり、血の力を会得…と。

 

 普段、俺がエロで人為的にやっている事…霊力を流し込み、絶頂で解放…を、偶然にも再現してしまったと言えるだろう。

 

 

 

 この事を考えると、幾つかの予測が立てられるようになる。

 例えば、アラガミの感応種。今までのループで何度かお目にかかったが…アレは、俺がばら撒いた霊力を吸収した結果、霊力…感応種としての能力を得たものと思われる。

 ならば、あの赤い雨に打たれ続けたアラガミはどうなるだろうか? …これこそが感応種の始まりなんじゃないだろうか。

 …むしろ、世界にとっては感応種こそが本命か? 黒蛛病に冒されて死に至る人間より、明らかにアラガミ、特に感応種の方が素質はあるように思える。そもそも、本来の特異点だって人間ではなくアラガミだったし。

 

 

 他に考えられる事だが、例えば血の力を目覚めやすくする方法だ。

 ゲームの中でも、シエルと同じ事がロミオに起きていたとすると、どうだろう。力が得られず焦っていたロミオだが、赤い雨の中で活動し、更に直接浴びた事で、充分な霊力が溜まる。そして命の危機、ジュリウスの戦闘不能、世話になったお祖父さんお婆さんへの想いが引き金になって、血の力を会得した…と考えられないだろうか。

 こう考えてみると、赤い雨の中での行動は、黒蛛病のリスクが非常に高いが、血の力に目覚める絶好のチャンスではなかろうか。

 ひょっとして、と思ってロミオやジュリウスに聞いてみると、血の力を完全に自覚・会得した時には、確かに前後に赤い雨が降っていたそうな。

 

 …だが、この方法は広めない方がいいな。リスクが高すぎるし、最後のトリガーが感情による物なら、確実な方法として立証するのは難しいだろう。

 何より、そこまでして力を得ても、使いこなせなければ意味が無い。

 

 

 

 そして最後に……俺が黒蜘病に感染する可能性は、非常に低いと言う事。

 勿論、これは確定情報じゃない。実験した訳じゃないからな。

 あの赤い雨は、血の力で出来た毒のようなものだ。耐性や素質のない人間が受ければ蝕まれるが、充分な下地があれば、それを弾く事が出来る。

 毒としての性質は、討鬼伝世界の瘴気の方がずっと強いようだし…あれくらいなら、多少濡れても自力で浄化する事ができそうだ。鬼払いの応用で間に合うだろう。

 

 まぁ、試してみようって気にはならないけどな。微弱でも毒には違いないし、想定外の成分が紛れている事も充分考えられる。毒を甘く見てはいけない。ゲームによってはレベル体力マックスでも数ターンで死ぬからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、ゲームと違って俺の営倉入りは無し。だって命令違反してないものね。命令は出されてないし。と言うか出されてない事にしたし。

 グレム局長? あの人、指示を出そうと移動している途中、階段から転げ落ちて気絶してたんだよ。…勲章から電撃? ナンノハナシディスカー? ワタシサパーリワカラナイYO!

 …気絶してる間に、ちょっと記憶を誘導しましたが何か? 洗脳術の中でもあまり得意じゃない分野だ…ひょっとしたら、追加で後頭部を2~3発ド突いておいたのが良かったかもしれない。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 シエルとブラッドバレットについて語り合ったりもしたけど、私は欲求不満です。

 もうすぐ…もうすぐ極東だから! 溜まりに溜まったアレコレは、全部アリサとレアに叩き込むから! あとちょっとの辛抱です。

 

 という訳で、本日の夕方には極東到着との事。さって、どうなる事やら。

 ストーリー的にもそうだけど、極東入りしたブラッドの皆がどうなる事やら。ロミオも色々鍛えはしたし、極東でも通じるくらいの力量にはなってるけど、本当に極東入りするのはこれが始めてだ。

 どこまで通じるか…いや、神経が保つか。

 

 お揃いの制服来て、おめかししているブラッド達ですが…いやシエル、「君は着ないんですか?」って言われても、俺正式にはブラッドじゃないし。私服しか持ってないし。

 ちなみに、月で暮らしている内に服は普通にボロボロになったので、月の植物でツギハギして直してました。裁縫よりも洗濯が大変だったなぁ…。風呂の為の湯(水だけど)溜めるのが一番苦労したっけ。

 

 

 

 

 さて、そんな極東が遠目に見えてきた訳ですが…………あの、なんちゅーか、既に異常が見られます。

 フライアが進んでいく荒野が、文字通り土気色ではなく、緑に溢れているのですが?

 そこら辺で見かける野良アラガミも、なんか緑色なんですが?

 

 幸いにして、何となく俺も使えそうだけど汚染がヤバそーだから自重しているあの光っぽい緑ではない。文字通り、GE世界では死滅寸前と言っていい、自然の緑だ。

 つい最近まで、緑化した月に居た俺としては珍しいモノじゃないんだが…ブラッド達に限らず、フライアの職員達は大騒ぎしている。「極東を見ろ! あれは何だ!? 迷彩か!? イミテーションか!? いや本当の植物だ!」みたいな感じで。

 

 …極東の緑化は、知られていない事なんだろうか?

 この世界で自然(人工的なモノでも)が居住区一つ覆えるくらいに繁殖していれば、大騒ぎされそうなもんだが。それも、極東は少なくとも3年前までは不毛の地だったんだし。

 それに、支部長やエリックさんの一族が、食材にせよ資源にせよ、それらを極東に閉じ込めさせているとは思えない。量をコントロールしつつも外に出し、世界各地で栽培を促進しようとするだろうに。

 

 

 うぅむ……。落ち着いているのはラケルてんてーくらいか。ちょっと聞いてみた。

 

 

 

 ちゃんと答えてはくれたな。表面上の事であって、裏にどんな考えが隠れているかはわからないが…いや、案外何も考えてないかもね。これに関しては、ラケルてんてーは関わってなさそうだし。

 曰く、極東の緑化は別に隠蔽はされていないらしい。が、逆に宣伝もされていない。

 混乱を避ける為というのもあるが、信用されないから…だそうな。まぁ、いきなり地獄の代名詞…下手すると地獄の方が極東の代名詞…と言われている場所が、そんなあちこちに食えるモノが実っているヘヴンのような場所だなんて、普通は信じられんわな。

 写真や証拠が出回る事はあるのだが、殆どがガセネタ、或いはフェンリルによる情報操作と判断される。それが真実だと理解できるのは、極東に直接訪れた人くらいだ。そして好き好んで極東を訪れる人なぞまず居ない。

 結果、極東緑化現象は誰にも知られず、信じられずにホラ扱いされていく…。

 

 

 「私も欺瞞情報だと思っていました」と言ってたが、これはウソくさいな。まぁどうでもいいけど。

 

 

 

 極東近くにフライアが止まり、職員(知らない人だった)と何やらやりとりして、受け入れ作業が始まる。

 俺は書類上フライアに居ない事になっているので、フケて居住区を歩き回る事にした。フライアには、俺の事は極東には一切伝えなくていいと言っておいた。アナグラに忍び込んで、榊博士なり支部長なりに直接会ってくるから。

 

 ん、極東のこの状況は何か説明しろ? 知らねーよ、3年前まではこうじゃなかったぞ。なんだっけ、GKNG?が頑張ったんじゃないの? 知りたけりゃ極東の人に直接聞きな。ずっと離れてた俺よりは詳しいさ。

 ほんじゃねー。

 

 

 …シエル、後で居住区案内してあげるから、そんな捨てられそうな犬が元飼い主を食い殺してでも一緒に居ようとするよーな目をするんじゃありません。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 居住区を見て回ったが…スゲェな。たった3年でここまで繁殖するのか。MH世界の動植物の生命力の強さはよく知っていたつもりだったが、まだまだ甘かったらしい。

 ネズミ算式に増えていったのかもしれないな。植物は多くの種を残す事で種族の存続を図る。それだけ動物に食われたり、人間に刈られたりの可能性が高いんだが、極東ではそれがあまり無い。

 以前は根こそぎ奪われて食われたり、なんだかわからない内に有らされて枯れたりしていたんだが、どうやらGKNGがそれを防いでいるようだ。直接的な危害を加えれば、巡り巡って自分達の食い扶持が減る…実際、どういう手段を使ってか下手人が突き止められ、食料配給が減る…事もあり、極東の植物達は実にノビノビと育っていった。本来であれば、枯れたり食われたりして数が減る筈だったのに。

 

 ま、結果的にはこれでいいんだと思うけどね。普通であれば過剰な数の植物も、この世界じゃもっと増えてくれないと全く足りないくらいだし。

 あっちこっちに食べられる物があるから、一般人の不満もそこまで高まらない。勿論、フェンリルに対する不満も多いようだが、GKNGが間に立つ事で、色々と緩衝材になっているのだそうな。

 意外と重要なポジションに居るな、GKNG。単なるネタ組織かと思ってたのに。

 

 

 

 さて、極東緑化現象についてはまた今度書くとして、戻ってきた俺への対応についてだ。

 忍び込んでもよかったし、最初はそのつもりだったんだが、ちょっとイタズラ心が出た。居住区を歩いている内に、カメラを見つけた。

 思い出すのは、今回のループの最初の頃。

 

 …という訳で、適当な場所で、かつてと同じように変身シーンを撮影し、支部長達に送りつけました。待ち合わせ場所もあの時と同じ場所。特に意味は無い。その場のノリだ。

 ちなみに荒野だったあの時の場所は、今ではスタジオジブリが書いたのかと思うような巨木が生えていました。これ樹齢3年の大きさじゃねーだろ。…MH世界に言っても無駄か。

 

 そんな無意味にデカい木の下で、俺と支部長と榊博士は約3年ぶりに顔を合わせた訳だが……色気ねぇな。ヤローばっかで出されてもなんだが。

 でももうちょっと驚いて欲しいよ。淡々と話が進んだからなぁ…。

 

 実際のところ、俺が何時か自力で戻ってくる、と言うのは二人にとっては予想の範疇だったらしい。生身の人間がどうやって自力で月から帰ってくると思ってたんだ…と言ったら、グウの音も出ない正論を叩き付けられた。

 生身の人間は月で生存できない。生存できたとして、ノヴァのサポートがあったとしても地球に分身を出現させる事はできない。意思疎通した上、アリウスノーヴァというアラガミを相手に戦うなど論外。そもそも君は生身の人間ではなくてアラガミだろう、と。

 うん、全く反論できないネー! アラガミな上にハンターでモノノフで蝕鬼で情報生命体で…あと何があったっけ。そろそろ自分というナマモノが何なのか、本格的に分からなくなってきた今日この頃。

 

 

 まーとにかく、手段はともかく何かしらの方法で地球に干渉してくるのは、二人の中ではほぼ確定事項だったらしい。

 更に言うなら、先日隕石が落ちたと情報があったのだが、それが月の方から落下してきたと聞き、或いは? と疑っていたそうな。

 実際にそうなったから何も言えねぇ。

 

 

 

 

 

 ともあれ、俺はまた支部長と榊博士の下でゴッドイーターとして登録される事になった。指揮権とか命令系統がどうなってるのかはよく分からない。多分、わざと曖昧にしてるんだろう。俺もあんまりそこは追及しないようにしたし。

 気になっていた事は色々あるが、とりあえず支部長は、今のところ再度の終末捕食などを起こすつもりはないようだ。

 別に世界を滅ぼしたい訳じゃないから、当然と言えば当然だなあの時の終末捕食だって、千人だけとは言え人間を確実に生き残らせる算段があったからこその計画だったんだし。

 とは言え、支部長ほどの人が黙って文字通り支部長だけやってる筈も無く。今も何やら、世界に対して社会的な働きかけを行っているようです。アーク計画しくじったのに、それだけの発言力をもう確保しているのは流石である。

 

 目的はどうあれ世界を滅ぼそうとしない為か、榊博士との反目もあまり無いらしい。むしろ、シオをソーマの嫁としてどう育てていくかで議論する事もあるとかナントカ。

 

 

 …ソーマは無駄にシャイで自分から行動しそうにないから、むしろシオが旦那でソーマを嫁にしたら? 多分、世話焼き良妻になると思うよ?

 

 

 

 

 

 …何やら天啓を与えてしまったようだが、俺に被害は来ないので気にしない。どうせ実態は今と変わらんだろうし。頑張れソーマ。

 

 

 

 対外的な俺の扱いは、終末捕食の後、アリウスノーヴァのような新たなノヴァが生まれる可能性を刈り取る為、世界各地を回っていたという事にするらしい。死んだ事にしていたのは、新たなノヴァを始末する為なら、非合法な手段を取る場合も多かった為…だそうだ。

 言い訳にしちゃベタだが…腹を探られても、今まで月に居たんだから痛い腹も無いしなぁ。そこまで頭捻らなくてもいいって事か。

 

 ちなみにアリサとレアは、現在何やら任務の為に、二人とも出張しているそうな。ぐぬぬぅぅう、極東に来れば溜まりに溜まったイライラを発散できると思っていたのに!

 これ以上我慢するのは危険だ。限界に近い。ナニが欲望のあまり、アラガミ化したり蝕鬼になったり触手になったりしてしまいそうだ。流石に精神的にだが。物理的になるんだったら、その形態を会得する為に我慢するわい。

 下手なセクシャルシーンを見ると、そのまま誰かに欲望をぶつけてしまいかねん…どうしたものだろうか…。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 おまたがひゅってなった。

 

 

 …うん、リンドウさんとサクヤさんにね、会ったんだ。もう結婚してたよ。サクヤさんのお腹も目立ってきてます。…いや服装変えなさいよ。お腹冷えちゃうでしょ!

 サクヤさんのお腹は、まだ膨らみ始めって感じだったね。つまり、3年前のあの一夜じゃ妊娠してなかった訳だ。良かった良かった、大丈夫だとは思ってたけど、心配事が一つ減ったわ。

 

 じゃ、何にひゅってなったかって?

 

 

 

 

 

 …リンドウさん、一瞬だけど俺を疑いの目で見てたもの。

 

 

 それが浮気…と言うか酔姦に冠する疑いなのか、それともまたも支部長の下に現れた怪しい奴への疑いなのかは微妙だけど…。とりあえず、出会い頭に殺気をぶつけられるような事はなかったんで、暫くは大丈夫だと思う。

 で、色々と口裏合わせとか、確認しておきたい事があったので、俺、支部長、榊博士、リンドウさんの4人で会議。

 …なんちゅーか…リンドウさん、ほぼ機密の塊状態になってるんだけど。

 

 何せ右手が右手だ。ゲームとは少し違い、右腕の肘から先のみが篭手で覆われている。その形がハンニバルそっくりなのは、何の皮肉だろうか。篭手の上に篭手つけてるよーな形になってるらしいが。

 と言うか、これってサクヤさんのお腹の子、大丈夫なんすかね? 今のブラッドには、ゴッドイーターチルドレンも居るんですが…血の力なんて素質持ってますよ。しかも、割と厄介なのを。

 

 

「ブラッドに所属したのは最近の筈なのに、妙に内情に詳しいね?」

 

 そこはまぁ、かつての弟子に色々聞いたり、独自の情報がありまして。…ナナの事は、調べるトコ調べれば出てきますから。

 

「ゴッドイーターチルドレンに関しては、私も聞いている。…ソーマの事もあるしな。察するに、彼女の素質はアラガミを惹きつけるようなもの、と言う事か」

 

 でしょうね。シオが懐くかもしれませんが…。

 

「最悪の場合、シオを匿っていた部屋に閉じ込めて、力を溢れないようにさせる必要があるな。…まぁ、その辺は頭脳労働担当に任せるとして……ちょっと聞きたいんだが、レンって奴を知ってるか?」

 

 

 

 …ええ、知ってはいますが。何人か居ますが…察するに、神機のレン? あの、そのレンと何か気になる話でも…?

 

 

「ああ…大した事じゃ…いや、大した事ではあるんだけどな」

 

 

 

(…この場で斬りかかられるピンチ…? 今ならリンドウさんも地力で圧倒できそうだけど、ハンターがモンスターを倒す要領で削りに来られるのが一番やばい…)

 

 

「…レンに変わって言っておく。セクハラは重罪だ」

 

 

 ……はい?

 

「俺が皆に救出された後も、アラガミ化の問題は続いてな…。意識が戻るまで、結構時間がかかったんだ。その時に、夢の中でレンに会って話をしたんだよ。俺のアラガミ化が食い止められているのは、ブラッドサージの中に宿っている、お前の力…ブラッド風に言うなら、血の力のおかげだってな」

 

 

 はぁ…心当たりはありますが。アリウスノーヴァの戦いの最中に感応現象っぽいのが起きて、俺もその時にレンと話しました。

 で、霊力を譲渡するのに…所謂口移しだったんで、セクハラと言われても反論しにくいな…。でも手段についてはレンの指定だったし、承諾も得ていますが?

 

 

「……口の中を啜られ嘗め回され、股座を弄られて尻を撫で回された挙句、デリケートな部分に指を突き込まれたと言っていたぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………棒も穴もありました!

 ちなみに棒はブラッドサージを連想させるよーな凸凹感が強かった。

 

 

 

「…確かに男か女か俺も気になったが、触って確かめるとか人としてどうよ…しかも神機相手に…」

 

 武器を弄り回したってセクハラにゃなりません。

 

「意識の無い武器ならな。…ああ、そういや伝言があったっけ。何の事だかよく分からんが、『リンドウが無事だったので、黙っておいてあげます』だそうだ。…何やらかした?」

 

 

 

 

 

 

 …リンドウさんのビールを何本か失敬した事ではないかと。

 

 

「間が怪しい。それに、俺の部屋からビールを持っていったとして、何でブラッドサージがそれを知ってるんだ? …まぁいいか。お前の御蔭で助かった訳でもあるんだし、これについては聞かないよ」

 

 

 ドーモ。(…寿命が縮んだぜ。)

 

 

「…一応言っとくが、娘に手を出したらレンと二人係で殺しに行くからな。まだ娘か息子か分からんけど」

 

 

 流石に赤子に手ぇ出しませんって…。未来から育った娘がやってきてアタックかけてきたとか、ラブコメみたいな話になればともかく(ピコーン)

 

 

「自分でフラグ立ててんじゃねーよ。ピコーンじゃねーよ。と言うかアリサとレア博士にチクるからな…。冗談はともかくとして、これからどうするつもりだ? 極東で普通にゴッドイーターやるのか?」

 

 

 暫くはね。…俺としては、フライアに居た方がいいんじゃないかとも思うけど。

 支部長はどう思います?

 

 

「…ラケル博士は、血の力の出現を予言し、それを運用できる体制まで作り出した、今や時の人だ。だが君も感じているようだが、彼女は得体が知れない。目を放すのは危険だ」

 

 

 その得体の知れなさの原因、予想ついてるんじゃないですか? …ソーマの親としては。

 

 

「だが確証がない。彼女が表舞台に立つ前に手を打つべきだった…今となっては迂闊な手出しが出来ん。彼女は各方面から注目を集めている」

 

 

 …そう言えば、レアを守ってくれたようですね。ありがとうございます。

 ラケル博士からのちょっかいはありましたか?

 

 

「いや、何も無い。私も色々と準備していたのだが、肩透かしになったな。…君は、ラケル博士が今まで何をしてきたのか、把握しているかね?」

 

 

 レアから聞いた訳じゃないですが…父親と孤児院の事までは。証拠がある訳じゃありませんが…。

 

 

「ならば、暫くは極東からの出向と言う扱いでブラッドに貼り付きたまえ。彼女にとって、ブラッドが何らかの重要な役割を担っているのは明白だ」

 

 

 はいはい。ああ、レアとアリサが極東に戻ってきたら教えてください。

 

 

「うむ…黙っていると怖いからな、あの二人は…。具体的にどこがどうとは言わんが、君を迎えにいくのだと言って物凄い勢いで行動を続けている」

 

 

 ……事故みたいなもんでしたが、自分で勝手に戻って来たと知ったら怒られるかな…まぁいいか。

 ところで、この3年で極東がエラい変わってるんですが、それについて何か伝達はあります?

 

 

「ああ、面白い事が幾つもあるよ。アラガミだけじゃなくて、一般人にもね。その辺は私から教えてあげよう」

 

 

 

 …という訳で、会議は一旦終了。榊博士からの、10分で語る極東3年の軌跡なる講義を受けたんだが……思った以上にスゲェ事になっていた。

 

 

 

 

 

 



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180話

神逝月

 

 

 俺がリンドウさん+怪しい2人組との色気の無い会談をしていた頃、ブラッド達は歓迎会で随分盛り上がっていたんだそーな。別にハブられても悔しくは無い。だが、極東の良心・ムツミちゃんのご飯が食べられなかったのは残念だ。

 まぁ、さっき食ってきたからいいけど。いやー、いい子だわホント。ノゾミちゃんと2大アイドルって言ってもおかしくないね。

 …本当のアイドルが、歓迎会に参加してたみたいだけど。アイドルって言うか歌手か?

 

 

 

 

 ま、それはそれとして、支部長からツバキさんへ、ツバキさんから極東の一部の方々に「特殊任務から、本日付で帰還した」と通達してもらったら、幽霊を見るような目で見られた。

 特にコウタを初めとした、3年前の1件に関わった人達から。まぁ、無理も無いよな。更に桃毛蟻の1件に関しては、文字通り幽霊同然で参戦してた訳だし。

 …で、アリサとレアにはまだ連絡取れてないって事も伝えられたら、念仏唱えられた。……あの二人、どんだけ張り切ってんだろうか…。

 とりあえず、見つかった瞬間に捕縛されて監禁されるくらいの事は考えておくか。

 

 

 まーそれはそれとして、シエルに約束したように、極東を案内する事になった。榊博士から聞いた話で、是非とも見ておきたいものもあったしな。

 シエルだけでなく、ブラッド諸君も案内するから、デートって訳じゃーないな。…友人関係でも、男女で遊びに行けばデートになるんだろうか? まぁそれはそれで構わんけど。

 緑に包まれた極東が余程気になっていたのか、シエルと俺が出かけると聞いてあっと言う間に全員が集まってきた。普段落ち着いているジュリウスまで、早く行きたくて仕方ないと言わんばかりだ。

 

 とりあえず、例によって菜園に真っ直ぐ向かう訳だが…先日カメラ入手の為に歩いた時も思ったが、随分と様変わりしたものだ。なんつーか……3年前までは、廃墟寸前みたいな雰囲気を出しつつも、やっぱり人工的な素材で作られていた家屋が、自然的なイメージになっている。簡単に言えば、プレハブ張りの小屋から、木の板やら藁やらで作った家に。

 …こう聞くとむしろレベルダウンしているようだが、そこはそれ、MH世界産の素材で作った家である。ぺらぺらのプレハブ小屋より、よっぽど頑丈だったりする。

 尤も、ジュリウス達にしてみれば、「貴重な植物を何に使っているんだ!」という話であるが。

 

 実際、それで憤慨していたジュリウスに、声をかける人が居た。なんかイヤミっぽいわざとらしい口調で話しかけてきたのは、えーと……葦原ユノの付き人の、高峰サツキ?だっけ? まぁ、確かにブラッドが言えたこっちゃないわな。フライア建設と運営に、どれだけ資源を使っているやら。

 が、その辺の議論に付き合う気はない。そもそも極東がこうなっているのだって、切っ掛けはともかく極東市民の努力の結果だ。フェンリルによる差別待遇でもないし、そもそもフェンリルの庇護を受けてない人達は、どんな理由であれ差し出された手を振り払っている。だったら自分達で生活をどうにかするのは当たり前の事だ。…一部の代表者による決定だったとするなら、それこそフェンリルではなくその代表者に言えとしか思わない。

 

 ま、その辺の水掛け論、極論はいくら続けても意味が無いだろう。俺らに文句言って、或いは俺らが高峰さんを論破したところで何が変わる訳でも無し。見ず知らずの人間の八つ当たりに付き合う程、俺は物好きじゃない。

 

 

 

 と言うかだな、文句があるならちょっと一緒について来い。極東市民がこの生活を維持する為に何やってるか、一回見てみろ。…俺も見るのは初めてなんだけどね。

 

 

 

 という訳で、色々言いたがっている高峰さんを連れて来たんだが…絶句してた。うん、極東市民スゲェなぁ…。

 いやね、植物の世話をマメにやってる、ってのはいいのよ。GKNGがやり方を広めたらしくて、皆年季が入っている。

 

 

 

 でねぇ、俺もすっかり忘れてたんだけどさ、3年前から極東に、植物の芽が出てるアラガミって居たやん? 結局あの後、あんまり絡む事はなかったんだが…この3年間で、随分数が増えたらしい。

 んで、植物が増えるっつー事は、芽が出て育って実がなって、それが枯れて…或いは実が食われて種が残って、というサイクルを繰り返していると言うことでもある。

 

 何が言いたいかと言うとね………アラガミから出た芽が育ったら、当然実がなって。それ、食える訳よ。植物はアラガミ細胞ではないらしく、ゴッドイーター以外でも斬ったり潰したりできるらしい。

 

 

 

 …いつぞや、アラガミを食えるようになったら…なんて事を考えた事があるが…そうか、そう来たか…。

 で、実がなる程に成長した植物は、アラガミの体から生えてるんだが、この構図がな…例えばオウガテイルなら、体の2箇所くらいからそれなりの大きさの木が生えている事になる。言うまでもないだろーが、ぶっちゃけ邪魔くさいらしい。バランスが崩れるは、何かに頻繁に引っかかるは、そもそも植物に栄養を吸い取られている傾向すらあるそうな。

 生った実はアラガミの非常食みたいな扱いにも出来るそうなんだが、非常食を作る為に自分の栄養を削る必要がある上、そもそもその非常食が他のアラガミを呼び寄せて襲われる原因になるしで、デメリットデカすぎ。

 

 

 

 …で、高峰さんを筆頭に、ブラッド隊が絶句したのはここからだ。

 そのアラガミから生えている実…人間でも食えるのだ。これを見逃す手は無いだろう……いや冷静に考えたらねえよ。収穫する間に、何人アラガミに襲われて死ぬと思ってんだ。

 

 だが今のところ、一人も死なせずにやっているらしい。

 

 

 誰が始めやがったのか、対アラガミ防壁の外に罠をしかけ、それにかかったアラガミの植物を収穫しているのだ。投網で動きを封じ、アラガミの死角や攻撃範囲外から近付き、高枝バサミとかチェーンソーとかでバッサリと切断、それを確保してダッシュで逃げる。

 …神機やオラクル細胞への適合率さえあれば、本職ゴッドイーターとしてでもやっていけそうな人達が何人も居た。

 

 いやぁ、本当に唖然としたね、俺も。

 ちなみに、体から生えた植物の伐採はアラガミ達にとっても悪い気分ではないらしく、何度か繰り返している内に自分から罠にかかるようになり、伐採の最中も暴れなくなった個体さえ居るとか。…どうやら人間でいう所の、散髪されているよーな気分らしい。チェーンソーを使う場合、散髪ではなく歯医者で虫歯弄られてる気分になるのか、拒絶反応が出るらしいが。御蔭で、リンドウさんが使うようなチェーンソーっぽい武器を見ると、逃げ出すアラガミが後を断たないそうな。

 

 

 

 そんな微妙に大人しいアラガミも居るには居るが、超がつく程危険な作業である事にも間違いはなく。下手なミッションよりも危険な荒行の末に、この極東での生活が維持されていると理解した高峰さんは何も言えなくなっていた。ブラッドも別の意味で何も言えなくなっていた。…練度がハンパねぇもんなぁ…自信喪失しかけている。

 

 

 

 ま、こんな風になってんなら、極東緑化を宣伝しないのも、緑化を他の場所にまで広げようとしないのも納得だな。極東がこんな風になってる事自体、奇跡どころの話じゃない。

 緑化だけならいい。生態系だって、落ち着くところに落ち着くだろう。が、植物が生えているアラガミ……言い忘れていたが、寄植種と呼ばれている……が他所にまで広まったら? この極東市民と同じ事が出来る人間が、一体どれだけ居るだろう。極東の生物は、アラガミからゴッドイーターから一般市民まで、規格外品ばかりである。

 

 

 

神逝月

 

 

 極東の神秘はアラガミ…寄植種だけではない。他のアラガミだってアホみたいに強いし、それを殲滅するゴッドイーターは言わずもがなだし、そもそも一般市民からして色々な意味でトチ狂っている。

 その神秘を、ブラッド隊はこの一週間程で激烈に体験している訳だ。

 今までとは段違いの難易度のミッションを初め、世間一般では高級食材扱いされている食べ物が一般家庭にすら平然と並んでいる有様、それを最も有効に調理できるのが齢10歳に満たない少女という理不尽……そしてこれは榊博士から聞いた、「そのような種類の植物が出現する事が予測される」という情報でしかないが……食虫植物ならぬ、食神植物、食人植物出現の可能性。

 もうブラッド隊は一杯一杯だったりする。

 

 

 が、極東の神秘はそう悪いモノだけではない。

 

 

 ……ん、正体不明のキグルミ? ありゃ神秘だけど極東のに限らんからノーカウント。俺も怖くてちょっかい出す気になれん。

 だからこそちょっかい出せ、という気にもなるんだが…下手な事すっと、その場でデスワープしそうな予感が…。

 

 

 いや、キグルミの事は置いといて。極東の神秘と言えば、外せないモノがあるだろう。

 NATTOやSUSHIやTENPURAもいいが。

 

 

 

 

 

     カポーン

 

 

 

 

 い~いゆ~だぁ~なぁ~~~~。

 

 

 

 

 うむ、風呂は日本人の命である! イギリス人の紅茶、スペインのシエスタ、アメリカ人の下ネタ付きジョーク、オーストラリア人のバーベキュー! 少々偏見が入っているのは認めるが、要するにそういう事だ。

 フライアは移動要塞でもあるから、水はホイホイ使えないんだよなぁ。月に行ってた時期も含めると、3年ぶりの風呂……こう書くとなんかスゲー不潔な人に思えるけど、とにかく感動だった。

 ちなみに、ブラッド隊員も巻き込んで居住区の銭湯に突撃したところ、翌日からほぼ全員が通い詰めになってしまった。

 

 

 

「「「あ゛あ゛~~~」」」

 

 

 と、普段からは想像もできないレベルでブラッド隊の野郎共が大浴場で並んで呆けている。

 口から魂出てるのが見えるぞ、鬼ノ目で。

 

 

 

「極東って…地獄だ地獄だ言われてるけど、意外といい所だよな……頭おかしいのがアラガミにも人間にも沢山居るけど…」

 

「ああ…。今となっては、この一時にどれだけ支えられている事か…。極東では湯を溜めて浸かる風習があるとは聞いていたが、これ程の効果があるとは思いもしなかった」

 

「ハルさんも、昔は時々『風呂に入りたい』ってボヤいてたな…。ようやく気持ちが分かったぜ」

 

 

 見事に風呂にやられとるなー。ちょっと温めのお湯なのが良かったのかもしれない。慣れてない人だと、あっと言う間に湯当たりするし。個人的には、肌がピリピリするくらいの湯が好きなんだが。

 ま、極東だって、3年前はこんなデカイ共有浴場なんか無かったんだぞ。やっぱ、極東全体を包んでる植物のおかげだろうなぁ。

 

 

「植物が関係あるのか?」

 

 

 あるっちゃある。木々が根を下ろせば、そこに沢山水が溜まる。水が溜まれば土壌も豊かになり、植物は育ちやすくなる。育った植物の根が水を蓄え、網みたいになって水分を留める。温泉が湧く。

 …ものすごーく大雑把に説明したらこうなるかな。実際に温泉が湧くには、温度の問題とか成分の問題があるんだけど。

 

 

「あー教官教官、頭湯だってて理解できねっす」

 

 

 んじゃそのまま蕩けとけ。ふむ、この分だとコタツとか出したら完全に虜になりそうだな。今夏だから出来ないけど。

 

 

「よく分からんが、とりあえずそのコタツも風呂も、フライアに持ち込めないだろうか…」

 

 

 ラケルてんてーは下半身動かないから、普通のコタツより掘り炬燵がオススメだ。熱燗とみかんも添えてやるといい。そのまま堕落させてコタツの住民にしてしまえ。

 きっとアラガミ<コタツだから。

 

 

「その方程式の意味はともかくとして、極東は興味深い事ばかりだな…。フライアにのって色々な地域を巡ってきたが、これほどの場所は初めてだ」

 

「そりゃまぁ、窓の外を見りゃ一目瞭然だな。これ程緑が残っている…発生している? 場所なんぞ、この地球にどれだけあるやら」

 

 

 それがあるからこその発展…いや、復興だろうな。

 その辺ブラブラ歩いてみたんだが、生活に余裕ができたからなのか、昔の文化や風習を再現できなかって人が結構居るみたいだ。古人の知恵っつーの? 今の世界だと、エアコンやら冷蔵庫やらみたいな電化製品より、多少手間がかかっても動力が要らず、単純に扱える技術の方が求められてるのかもしれないね。

 

 

「うむ……そういう意味では、フライアとは真逆の方向に進んでいるな。決して間違っているとは思わないが…。ちなみに、その風習と言うのはどのような物だ?」

 

 

 んー、例えば極東防衛班のブレンダンさんとかは、瞑想とか座禅を取り入れてるな。ロミオにも散々やらせたけど、あの人血の力に目覚めたりするかもしれん。

 他には…暑くなりそうな日には予め水を撒いておく打ち水とか。

 ああそうそう、極東人ってのは下ネタの追求度合いでも他の追随を許さなくてな。かつては年に二回…もっと小規模なものを含めれば年中…自作のマンガやイラストを持ち寄って即売会をやってたんだ。

 

 

「それを復活させようっての? その話kwsk」

 

「下品だぞロミオ…性に興味を持つなとは言わんが…」

 

「俺にとっちゃ死活問題なんだよ! 文字通りの意味で! 戦闘力に直結すんだよ!」

 

 

 ああ、まぁロミオの場合はな…ホントスマン事をした…。

 ジュリウス、ギル、すまんがコレについては一切詮索無し、お咎め無しで頼む。知られたらロミオが自殺しかねん。

 

 

「どう考えてもその言い方は好奇心を煽っているし、ブラッド隊員にそのような真似をしたなら、俺が黙っている訳にはいかんのだが」

 

「ジュリウス、頼むから聞くな。これは不幸な事故・・・いや必然だったのかもしれないけど、俺は仕方ないと思ってる。言って見れば、これは強くなる為の副作用みたいなものだったんだ。仕方ないんだ」

 

「……納得はできんが、今は引き下がろう」

 

 

 難しい顔のままだったが、湯船に浸かるとまた顔が惚けていく。…と思ったら、立ち上がって体を洗いにいった。流石に湯に上せたか?

 

 

 …にしても…。

 

 

「どうした?」

 

 

 

 …いや、意外というか何と言うか………この中で童貞、一人だけなんだなぁと。

 イメージ的にはエスコートの一環として経験済みだと思ってたんだが…いや、逆に不貞と考えて、伴侶としかしないつもりかもなー。

 

 

 

「…え? 俺…は一応経験あるし…その後喧嘩別れしたけど…」

 

「………俺は…まぁ、話すような事じゃないが…と言うか、そんな事分かるのか?」

 

 

 男のナニなんぞ見ても観察する気にならねーけど、ある程度は予想がつく。やっぱりこう、裸で居る時はガードが緩むからかな…無意識に庇っている部分とかで、ある程度。

 極端な話、色とかでも多少は分かるぞ。

 

 

「あー………まぁ、使い込んでるのがよく分かるな、お前のは…グロ通り越してエグいわ」

 

 

 好評です。使い続けた結果、ここまで進化しました。淫水焼けしてます。まぁ、この3年くらい使えなかったから、リハビリしたいけどね。

 ちなみに進化させる方法、教えてやろっか? デカけりゃいいってもんじゃないけど、鍛えれば形とかある程度変えられるんだぞ。

 

 

「…後学の為に聞いておくか…」

 

「俺も…」

 

 

 よし、じゃあまず一言。

 「使えぬ巨根より使う粗○ン」。

 

 

「俺を見て言うなよ分かってんだよ自分で使って悪いかよぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 湯船で騒いで、ジュリウスにグンマー名産…なのか? ケロリン桶をぶつけられてクールダウンした俺達。

 流石に悪ふざけが過ぎたな…。ロミオが完全に沈んでしまっている。浴槽の端っこで、3分くらい潜ったままだ。そろそろゴッドイーターでも限界が来るかな。

 俺? 波紋を使うにはもっと鍛えなければいけない、とだけ言っておこう。

 

 

「おい、アレどうにかしろよ。何がどうなってるのか分からんが、お前のせいだろ」

 

 

 反論のしようもありませんな。根本的な原因に至るまで、90%以上俺のせいです。

 

 

「200%貴様のせいだ。本気で叩き切るぞ…」

 

 

 へいへい。ま、ちょっとカツ入れてやるとしますかね。

 おーいロミオ、聞け聞け。銭湯と言えば、一つ名物があってだな。ああ、違法な事じゃないぞ。むしろお前にとっては大好物な事だ。

 …おい、顔だけ出して聞く体制に入るのはいいけど、鼻をつけたままにするなよ。顔青くなってきてるぞ、上せてるのに。

 

 まぁいいか…。

 

 あのなロミオ。銭湯ってのは、湯をそのまま溜めっぱなしにしてるんじゃない。湯をそのまま動かない状態にしていると、入った人の汚れとかが溜まっていくからな。

 湯を循環させて、その中で不純物を取り除いて、また浴槽に流し込む訳よ。で、その為の装置は結構大掛かりなものなんで、水質とかが同じような浴槽であれば、二つの浴槽に一つの装置と言う事も珍しくない。

 

 

「……? ………!?!!??」

 

 

 ほう、気付いたようだな。

 つまりだ……俺達が浸かっているこの浴槽と、女湯の浴槽は繋がっているのだよ!(多分)

 

 そう、だからと言って覗いてしまえば犯罪だが、想像するだけなら自由! 言論の自由よりも保証された自由!

 極東は美人が多いぞ? ブラッドだって多いな。シエルもナナも、顔もよければスタイルもいい。近付けばいいニオイがするぞ?

 今、彼女達はこの壁の向こうにいる。だって一緒に入りに来たもんな。きっと二人は、ひっついてキャッキャウフフしつつ「シエルおっぱいおっきい~」なんて話をしてるだろう。ナナの気安さから言って、ひっついて風呂に浸かっているかもしれん。

 つまり俺達が入っている風呂は、二人の美少女の出汁もといエキスが入っているスペシャルカクテル!

 

 

 更に、トドメの情報を教えよう。これは本当にとっておきだ。

 先日、芦原ユノと会話する機会があってな。やはり疲労が溜まっているようだったから、とある施設を紹介した訳だ。具体的には、疲れが取れて体を洗えてリフレッシュできるところを。

 

 後は分かるな?

 

 

 

 

「…おい、なんかロミオから湯気が立っているというか迸ってるぞ」

 

「凄まじい力を感じる…。これは本当に血の力に目覚めるかもしれん…」

 

「そんな切っ掛けで目覚めるとか嫌だぞ俺は」

 

 

 (もう目覚めてんだよな…)

 さぁ、ブラッド自慢の美少女2人のエキスに、更に葦原ユノの特別エキスがブレンドされた風呂に浸かっているお前はどうする?

 繰り返すが覗かなければ犯罪ではない。妄想の中ではどのような行為も責められる事は無い…自分の良心以外には。

 何なら、浴槽の湯を少し汲んでいくか? ルール上では禁止されていないぞ。勿論ばれたら厳重注意ではあるが。さもなきゃ、湯をタオルに染み込ませて持って帰るか? 使い方は自由だな、自己責任だが。飲んで舐めて腹を壊すのも有り、濡らしたまま掛け布団にして風邪を引くのも自由。

 

 

 ああ、でもお前の場合もっといい使い方があるよな? コレを使ったら一度にどれだけパワーアップできると思う?

 何、恥じ入る事なんぞ一つも無い。これは…鍛錬…! 何一つおかしな事は無い、立派な鍛錬、修行…! 極東に来て力不足を感じた君は、より強い力を得る方法を探し、試している…! これはその一つに過ぎない!

 さぁ、恐怖を捨て躊躇いを捨て尊厳もブン投げて、その欲望に正「なんだかよく分からんが」「いい加減にしろ」

 

 

 

 

 

 …マッパの男二人から、クロスボンバーを食らいました。

 ところでギル、何でお前は最初から最後までケロリン桶を被り続けてるんだ。いつも帽子だから、何か被ってないと落ち着かないのか? それともハゲておるのか。

 

 



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181話

 

神逝月

 

 なんかロミオが無闇にパワーアップしているのは見ないフリして、何時の間にやら少々ストーリーが進んでいたらしい。主にギルの話しが。

 というのも、唐突に赤いカリギュラと遭遇したからである。…ただし、赤犬(マグマ人間に非ず)も一緒に。

 

 

 そもそも赤いカリギュラって、何で赤いんだろうか。

 ムーブメント師匠の嫁さんがアラガミ化したんだっけ……いや違う、ギルが介錯したから、嫁さんの死因なんだっけ。

 ギルもムーブメント師匠も、無駄に気負いおってからに。

 

 まーそれだけなら普通にフルボッコできたんだけどさ。と言うか実際したんだけどさ。

 言っちゃなんだけど、極東のアラガミとしては弱い方だしな。ここに居るのは、当代のゴッドイーターとしては上から数えた方が早いジュリウス、ロミオ、極東でもエースクラスの実力を持つムーブメント師匠、血の力に覚醒済みのシエル、そして俺。

 突進してきたのを袋叩きにしたよ。

 

 …ただ、そこで赤犬が突撃してきたのは予想外だったけど。

 

 

 うん、そうなんだ。例によって要らん一捻りが入ってた。

 ただ、結果的には良かったのかもしれんけどさ…。

 

 

 うーん、まぁ大雑把に記録しておきますか。

 まず、最初に赤リギュラ…誤字だったけどなんか語感が気に入った…と遭遇して、ギル近辺での人間ドラマをマルっと無視してボコスカぶん殴ってた訳ですが。

 その途中に、いきなり遠吠えが響いたんですよ。ブラッドがその場に居たから、ムーブメント師匠の神機が停止するような事はなかったんだが、それに気を取られて赤リギュラに逃げられる所だった。

 

 で、遠吠え2発目。近くにあった、崩れかけた崖の上に赤犬登場。勿論、夕日をバックに仁王立ち(四つんばいだけど)して逆光を背負い、昭和の紙芝居時代のヒーローのような有様だった。

 そして見せ付けるように遠吠え。3発目の遠吠えで、傷を負って逃げようとしていた赤リギュラの動きが変わった。遮二無二…というよりは、保身を忘れて突っ込んでくるようになった。

 そういや、赤犬ってそんな能力持ってたよなー。要するに極度の興奮状態と言うか活性化状態と言うか、怒り狂わせて逃げるのから戦闘に向かわせたのな。

 

 まーそれだけなら、逃げようとしていた獲物・仇が踏みとどまったんで、むしろ歓迎だったんだけどねー。

 

 

 

 

 いきなり赤リギュラが妙な能力使い始めた。イメージで言うならアレだ、鬼いちゃんの幻影剣。

 単なる幻なら良かったんだけど、受けると多少なりともダメージがある…と言うか、ダメージがあると思い込むと言うかね。アレに当たると、「斬られた」と錯覚するようになっていた。物理ダメージじゃなくて、テレパシーの一種っぽいな。実際、肉体には斬られた跡はあんまり無かった。

 それをブンブカ振り回すは投げ飛ばすはで暴れ回り初め、そこに「とうッ!」とばかりに赤犬が乱入してきやがって…。ああ面倒臭かった。炎と咆哮と氷と幻影剣とアラガミバレット2種類の大乱舞だったわ。

 

 

 …コレ、ひょっとしてアレか? 赤犬が赤リギュラの能力を目覚めさせた? アラガミ側に、ゲームで言う主人公の「喚起」の能力持ちが出てきたのか?

 もしそうだとしたら、コイツを逃がすと洒落にならん。赤犬が吼える度に、周囲のアラガミが感応種になりかねん。

 

 

 ま、アラガミ化する必要も無かったけどね、結局。切っ掛けはギルが幻影剣の攻撃をマトモに食らった事だっけ。

 追撃しようとする赤リギュラを俺とムーブメント師匠で、赤犬をロミオとジュリウスで押さえ込んで、傷を負いながらもなんか決意した表情で、ギルが突撃。チャージ突き刺しからの、赤リギュラに刺さっていたケイト氏の神機を使っての追撃で、見事に赤リギュラを仕留めて見せた。

 

 で、この時にどうやら血の力に目覚めたらしい。ゲームとほぼ同じ流れではあるな。

 ただ、ゲーム同様に心理的な問題、絆的な問題が乗り越えられているのかと言うと…分からんな。何せ、俺自身がギルから話を聞いたワケでもなし、どんな決意で突撃したのかも知らない。

 血の力に目覚めたのは多分、感応種による血の力…霊力の篭った攻撃を受け、それに反発して力が高まったからだ。仇は討っても、精神的な問題を乗り越えられたかは俺には分からん。

 

 …そうだな、あの時と同じような感じだ。討鬼伝世界で、那木さんを好き放題開発しまくった上、戦闘中に浮気がバレて射殺されかけたあのループと。イベントだけを乗り越えて、肝心なトコを放置してる……のかもしれない。

 

 

 

 

 …いや、問題はどっちかと言うとムーブメント師匠ことハルさんの方か?

 何がどう影響したのか知らないが、「神機に触れた時にケイトさんに会った」と述べている。うーん、感応現象…か? でも今の腕輪には制御装置か何かがついてるみたいだし。

 まぁ、それが単なる妄想だったにせよ、感応現象だったにせよ、或いは未だ人知が及ばない奇跡の類だったにせよ、ギルはそれで何かしら割り切ったか吹っ切れたかしたらしい。

 

 が、ハルさんはどうだろう。最初から、ギルを憎んでいた訳でもないし、仇を討てばどうこうなると思っていた訳でもない。…これで何かしらの踏ん切りがついたんだろうか?

 溜め込んで狂気に走るような人じゃないとは思うけども…。

 

 

 

 …そうそう、赤リギュラは仕留めて、赤犬の方だけど、こっちもどうにか仕留める事が出来た。

 ゲームでもそうだったけど、身軽なこと身軽なこと。赤リギュラを仕留めたら、すぐに退散しようとした。引き際も見事。崩れかけた建物を足場に、立体軌道で逃げようとした…んだが、それにはちょっと瞬発力が足りないなぁ。

 長距離の跳躍は、それだけ軌道と着地地点を予想しやすくなるんだぞ。

 

 大ジャンプからの三角飛び…しようとした壁面を狙い撃ち、バランスを崩した所にロミオの全火力砲撃。落下したらジュリウス・ロミオ・俺の3連撃で足を切り刻んで機動力を削ぐ。更に、血の力に目覚めて(更に本人曰くケイトさんに会って)テンションゲージが振り切れているギルの攻撃で、割とアッサリと赤犬は沈んでしまった。

 ヒーローみたいな登場をしたのに、盛り上がりもクソもなく…文字通り噛ませ犬みたいな退場だったな…。

 

 これ、どうなるんだろうな。赤犬って、ゲームストーリーではロミオの死因にならなかったっけ? でもそれを言ったら、ロミオは既に血の力に目覚めてるし…。

 

 

 

 いや、それよりも問題は、あの赤犬の能力の方だ。赤犬自体は、今後も頻繁に出現するようになって来るだろう。それ自体は構わない。周囲のアラガミを活性化させるのも許容範囲だ。

 だが、赤リギュラにしたように、喚起モドキの力で他のアラガミを感応種に目覚めさせたらどうなる? 特殊な攻撃方法が追加されるだけならまだいい。神機の稼動を停止させる能力が備わっていれば、大惨事なんてモンじゃすまない。ゴッドイーターが軒並み無力化されてしまう。

 

 

 

 何か対策、できるかな…。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 

 赤リギュラのような荒神の対策はともかくとして、黒蛛病患者の収容施設に顔を出してきた。

 極東にはそこまで患者は多くないようだが、それでも酷いもんだ…。野戦病院だな。

 

 ちなみにここで、訪問していた葦原ユノにバッタリ会ったんだが、それは置いといて。

 赤い雨を直で見たときから予想はしていたんだが…黒蛛病の原理が、大体わかった。医学的な話は全くできないが、要するにこれはアレだ。外から注ぎ込まれた霊力が、毒になっているんだ。イメージ的には、討鬼伝世界の異界の瘴気のようなものだ。

 赤い雨に霊力が籠ってるのを見た時から、「あれ、これ俺だったら治せるんじゃね?」とは思っていた。やり方は簡単、鬼払いの要領で浄化してしまえばいいだけだ。異界の中にいては、どうやったって瘴気の浸食の方が早いんで、とても間に合わないが…この人達は、外からの供給がない状態だ。浄化してやれば治せるかもしれない。

 

 …と、思ってたんだがな…。

 

 黒蛛病がどういうものかは俺の予想通りだったが、そこから先はそうでもなかったらしい。

 試しに一人、誰かデク…いや実験台…披験体になってくれないかなー、間違えたかな?しても問題ない犯罪者とか居ないかな、なんて思いながら見て回ってたんだが…感染具合を見てみたが、どうにもおかしい。一見すると、全員黒い蜘蛛の模様が表れているだけで、苦しみ方も同じように見えるんだが…霊力の流れを探ってみると、見事にバラバラだ。

 下手に浄化したら、どうなるかわからない…。やるなら、体全体の異物…霊力を一気に浄化するなり抜くなりする必要がある。中途半端に残していると、それこそ大爆発しかねない。

 今のままだと、出来ても一人二人か…せめて、黒蛛病が発生する瞬間か、悪化する経過を直に見られればいいんだが。そういや、何かのきっかけで黒蛛病患者が一斉に苦しみだすって展開があったような…。もう少し資料を漁ってみるか。

 

 だが、それでも助けられる人数は3桁に届かないだろう。そう考えると、葦原ユノの歌は スゲェな。霊力も殆ど籠ってないだろうに、ラジオ越しの歌声で黒蛛病を食い止めるんだから。

 

 

 ……いや、待てよ?

 もうちょっとエゲツなくて下種な考え方をすればどうだ?

 黒蛛病の患者を完治できるのは、多分現状では俺だけだ。(まだ実験もしてないが)レアリティで言えば、多分俺の方が上だろう。

 いや、別に貴重だとか、治療して恩に着せるとか考えてるんじゃない。

 

 ポイントは二つ。患者の数に対して、癒せる人間が圧倒的に少ない事と。

 霊力でどうにかできる問題なら、ブラッド隊にも同じ事ができるようになる可能性があるって事だ。

 

 

 ブラッドはフェンリル所属のゴッドイーターであるとはいえ、実態はラケル博士の私設部隊に近い。それが本当に黒蛛病を治せるようになったらどうなるだろう?

 ラケル博士には、称賛の視線が集中するだろう。血の力の出現を預言し、それに備えて環境を作った女傑。ブラッドに戦うだけでなく、癒し手としての評判も付随すれば、更なる評価を得られるだろう。

 

 その代わり、ブラッドを今までのように手元に置いておく事は難しくなるハズだ。

 黒蛛病患者はあちこちに居る。ブラッドが一団になって移動し、治していくのではとても間に合わない。必ず、一人だけでもいいから来てくれ、という声が上がってくる筈だ。

 それを跳ね除け続ければ、ラケル博士の評価は一変して、患者を見捨てて貴重な道具を手元に置くことに拘る、冷血な女として見られるようになる。

 …机上の空論だけどな。俺が他人の考えを、内面観察術なしにトレースするなんて無謀の極みだ。まして、政治的な攻防や、民衆の反応なんぞわかる筈もない。

 が、ブラッドをラケル博士から引き離す手段としては、効果があるような気がする。

 それでなくても、黒蛛病を治せる可能性があるのは事実だしな。

 一回、支部長に相談してみるか。

 

 

 

 …考えてみりゃ、黒蛛病が治せるなら、ジュリウスがブラッドを離れる理由もなくなるか? ロミオもそうそう死にそうにないし。

 それならそれでいいか。ラケルてんてーの計画の算段を潰せるんだから。

 

 

 

 

 相談して来たら朗報、ある意味悲報が入ってきた。アリサとレアに連絡が取れたそーな。

 で、今関わってる案件を速攻で片づけて、こっちに向かっているそうな。「再会の抱擁が無事に終わるよう祈っている」と言われたが、どう見ても他人事扱いである。実際他人事か。

 まぁ、実際物理ダメージはワンパンとビンタ食らう程度で済むとは思うけど…その後のご機嫌取りが大変だな。ま、黙ってあんな事やった上、3年もほったらかしにして、勝手に帰ってきてるんだから無理もないけど。

 

 とりあえず…もうすぐ、ようやく、溜まりに溜まったムラムラが発散できる! タマりすぎてゴールデンバウムもといボールの中でネバネバが固形化するかと思ったぞ、尿道結石みたいに。

 なんかこう、体の中で精製された精子が分解されて巡回してまた精子になってと、体の中でちょっとした輪廻転生が回ってる感じだった。この輪廻の輪、二人に思いっきりぶちまけてくれる…。俺がいない間、二人でどう開発しあったのかも気になるしね。

 

 

 

 

 

 …と、先走った(汁的な意味でも)が、まだ帰ってくるのに一週間以上かかるらしい。普通であれば一か月以上かかる案件らしいが…どんだけブーストかかったんだ。

 

 んじゃ、話を元に戻して…黒蛛病の事だ。いきなり「治せるかもしれない」と言っても半信半疑だったが、まぁ信じてくれた方だよな。二人に接触した時から、色々やってきた結果だろう。

 実験と方法確立の為にも、経過を見てみたい…と伝えたら、現在公開されている資料のみだが渡してくれた。また、症状が悪化するのは、赤い雨が降る頃だったらしい。…あー、言われてみるとそんな展開あったような。

 

 雨に触れてる訳でもないのに悪化するって事は…体内に残った力と、外の力が呼び合ってるのか。これに耐えられるのが、特異点候補…なのかもしれない。

 とりあえず、天気予報にロックオンしておくか。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 何度も黒蛛病の治療施設…実際は隔離施設だが…に来ている内に、顔を覚えられてしまった。ただし、いい意味で覚えてくれている人は少ない。

 まーそれはしゃーないよ。身内の見舞いに来ている訳でもなく、芦原ユノのように元から人気がある訳でもなく、更に来たと思ったら病人達の体に現れた蜘蛛の模様をジロジロと見回してはブツブツ言っているだけ。

 俺が然程頭良さそうじゃない、明らかに研究者や医者じゃない事も合間って、見物に来ていると思われているらしい。あまり否定は出来ないが。

 

 歓迎してくれる数少ない人と言えば、元から天涯孤独で見舞いに来る人も居ない上、隔離されて他人との会話に植えているような完全無欠のボッチか、幼すぎて悪意なんて理解できてない年齢=てんすの子くらいだ。

 …このてんす、ゲームで葦原ユノに懐いてたあの子か? 実際、見舞い…というより慰問…に来ている葦原ユノと仲がいいようだし。

 

 ま、御蔭である程度様態は把握できた。赤い雨が降った時、誰に注目しておくかの目星もついている。後は上手く行く事を祈るのみ。…ちなみに、もしも成功した場合、その後始末は全て支部長に押し付ける事が決定している。榊博士と共謀しました。

 支部長がOKを出したのは、俺みたいなのに政治やら何やらの難しい問題を任せるなんぞ論外って理由のようだけど。

 

 

 

 はてさて、赤い雨はともかくとして、今後どうなったっけか。もうゲームストーリーなんて限りなく…いや大雑把な所はあってるし…なんかこう、向こう三間半くらいの微妙な距離で乖離してしまっているが、幾つか変わりそうに無い事もある。

 ラケルてんてーの終末捕食とか。無人神機兵の停止とか。…いやどうだろ、アレってロミオ…ジュリウスの決意を促すための生贄を追い立てる為の手段だったとしたら、別の方法に変わる可能性も…。

 ああでも、ジュリウスを特異点として目覚めさせる手段でもありそうだったな。確かゲームでは、ラケルてんてーから用済み扱いされ(実際はその後こそが本当の用件だったんだろうが)て神機兵と一緒に何処かに放り出され、それを取り込んで特異点化したんだったか。

 

 しかし何故神機兵…ああ、そういや神機兵にもアラガミは使われてたっけ。という事は、何らかの手段でラケルてんてーが仕込をし、ジュリウスのエサとするべく予め作っていたかもしれないのか。

 …この辺を考えても無駄かな。何せ、どういう原理でジュリウスがあんなアラガミになっちゃったのか、ロクに覚えてないし、多分論理的な説明なんてされてねーもの。

 

 

 …思考を戻して、次に確定してそうなのは、ナナの覚醒かな。こっちはラケルてんてーとしても必須事項だと思われるので、妙なちょっかいは無いだろう。…でも前ループで捨ててたしな…アレの理由が未だにわからん。

 これについては、俺が地球に戻って最初の狩りでトラウマを刺激してしまったようなので、妙な干渉が無くても、遠からず発生してしまうだろう。

 

 で、これで何が問題かって…まず第一に、引き寄せられてきたアラガミ達を撃退できるかどうかが問題だ。

 極東のアラガミは、俺でも一筋縄ではいかない奴が多い。かつての極東なら無双できたかもしれんけど、今は初のGE2の時期に突入している。それだけアラガミも強力になっているし、3年間のブランクは未だに取り戻せたとは言い辛い。

 

 それに、今の極東には寄植種という未知のアラガミだって居る。戦闘力的にはそこまででなくても、未知の敵は何をやらかすか分からないし、寄植種はそれ以上に特定の人達と一部のゴッドイーターにとって、脅威となる特性を持っているらしい。

 それはズバリ…。

 

 

 

       花粉だ。

 

 

 別に某ワールドウッドラビリンスなゲームのトラウマ的モンスターの話をしている訳ではない。…今思うと、アラガミ化をコントロールできるようになった切っ掛けの夢、あのゲームっぽい迷宮だったな…まぁそれはおいといて。

 もっと身近な話である。アレルギー反応だ。もっと分かりやすく言えば、花粉症。アレだ、寄植種から生えてる植物の花粉が、アレルギーを引き起こすらしい。

 それこそ、毒や石化の類でないだけマシと言えない事もないが、これだけでゴッドイーターの一部でさえ無力化されてしまう。ゴッドイーターとして強化された時点で、大抵の人は花粉症から解放される筈なのだが、元々酷いアレルギーの人は残ってしまう事もあるとかナントカ。

 俺も他人事じゃないんだよなー。ずっと浴びてるといつかはなってしまうらしいし、アラガミに寄生しているような植物の花粉が普通の花粉とも思えん。まさか、これが赤い雨同様の効果を齎すとは思わんけど…。

 

 とは言え、そこまで悲観もしていない。寄植種の花粉で動けなくなってしまうゴッドイーターは数える程だし、集まってきたアラガミを俺一人で倒さなければいけない訳でもなし。

 と言うか、極東のゴッドイーターでベテランなら、延々とアラガミに襲われる状況くらい2~3回は経験してるだろーから、むしろ一番危険なのはその経験が無いブラッドなんじゃなかろーか。

 俺は…ブランクを埋めるのに丁度いいとも思うし、最悪アラガミ化という手もある…ラケルてんてーに知られそうだから使いたくはないが。と言うか、鈍った体を解す為、今回は生身で進める所存である。

 

 それに、あと一週間足らずでアリサが戻ってくる予定だしね。アイツが今どういう立場に居るのか分からんけど、頼めば全力で応えてくれるだろう。俺には勿体無いくらいの雌忠犬だ。

 …一回くらい、噛み付かれる覚悟しとかんといかんがな。

 

 

 



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182話

なんかこう、色々持て余す。
腹の贅肉とか性欲とか仕事中のイライラとか。
でもどっかに遊びに行く気にはならないんだよなぁ。

討鬼伝2と世界樹の迷宮、同時にプレイ中です。



 

神逝月

 

 

 赤い雨はそう頻繁に降るもんじゃないが、かと言ってゲームシナリオ上で重大な分岐点になるタイミングでしか降らない訳でもなく。

 只今、しとしとと小雨程度ですが降っています。コレのおかげで、アリサ達の帰還が1日遅れたのだそうな。

 

 …地球の意思は、そんなに俺の性欲を暴発させたいのだろうか? 割とマジで限界ギリギリなんですが。危うく、先日見かけたエリナ(上田と揉めていたようだが、反抗期だろうか)まで対象にするところだった。…今までの事を考えると、まだマシな方と言うのが救いが無いね。

 

 まーロリっ子が大きな槍を振り回しているというシチュエーションはともかく、赤い雨が降ったおかげで、黒蛛病の症状が進むシーンをナマで見れた。勿論、歓迎されないどころか睨みつけられ、医者の方々に追い出されたが。こっそり忍び込んで、気配を消して観察してました。

 やり方については自分でもどうかと思ったけど、うん、これなら治せそうだ。普通に鬼払いで霊力を浄化するんじゃ間に合わないから、空スタイルの祓淀…いや、虚空ノ顎を応用すれば、原因となっている霊力を吸出し、残った分を浄化できるだろう。

 やっぱり人体実験が必要な訳だが。しかし医療施設でやると、流石にバレるな。最初の一人は、効果や途中経過の計測もあるから、専用の施設でやりたいところだ。

 

 でも、そうなると一番いい施設は…やっぱりフライアになるな。ラケルてんてーのお膝元だ。

 いや、現在では赤い雨と血の力の関連性は証明できてないから、わざわざフライアでやらんでも………やっぱダメだ、関連が無くても治癒方法が霊力こと血の力だから、最善の場所はフライアになってしまう。

 極東に観測器具あるかな…。

 

 

 

 

 とりあえず、榊博士に相談してみたところ、丁度いい木偶もとい実験台を紹介してくれた。

 なんか犯罪者らしいが、それを横流しするって明らかに色々な意味でダメですよね? 長期間逃げ回っていたらしいが、黒蛛病に感染した事で逃走能力を失い、確保に至ったそうな。

 症状が酷く、このままだと遠からず衰弱死だそうな。いいのかな…まぁ実験するけど。

 

 あと、「血の力で治療に成功したら、ブラッドに教えるから、どちらにせよラケル博士には知られてしまうよ」とツッコミを食らった。そりゃそーだね! やっぱ、俺って色々考えてはいるつもりだけど抜けてるね!

 

 

 結果は成功……とは言えないな、こりゃ。黒蛛病自体は治せたんだ。こう…体に浮き出ている蜘蛛の模様が、俺の霊力の干渉で本物みたいにワシャワシャ動いてだな、んでスーッと体から抜き出るような感じで。

 ただし、抜き出た蜘蛛の模様は俺の手に移ってしまっていた。…何で? いや、こっちは普通に浄化できたから全然問題ないんだけどさ。

 多分、虚空乃顎を使って霊力を引き寄せた結果、移動してきてしまったんだろう…原理はよく分からないが。

 

 で、問題だったのは患者の方だ。笑い話に出来るような事じゃないが…手術は成功、患者は死亡…だ。

 黒蛛病の模様と霊力が全て取り除かれるまでは生きていたのだが、元々体力消耗が激しかった為か、その後暫くして衰弱死してしまった。これ、俺のせいなのかな…他の誰のせいだと言われると全く反論できんが。

 と言うか、虚空乃顎の威力で人殺しちゃったんじゃ……いやいや、ちゃんと加減してたし、そもそもアレって物質的な威力じゃなくて霊的な威力だ。人体へのダメージは、基本は無い。

 意図せず人を殺したのは初めてかもしれない。

 

 

 

 が、それでも黒蛛病治療において、非常に大きな一歩なのは間違いない…と榊博士はのたまったけど、それは慰めてくれてんのか? あと、コイツのやった事を考えると、どっち道極刑だった…とはどう言う事だろう。「君は言動に反して、根が真面目で純朴だから、聞かない方がいいよ」って言われたんだけど……患者がやった事も気になるが、なんで俺にそんな評価がつくかな。「君は残虐でもないし、無用な殺戮も拷問もしない」……いやそりゃハンターとしての心構えの結果で……ああ、そういう言葉が出てくるって事は、そういう奴だったのね。しかも多分、それも序の口…。

 

 

 手術に失敗した闇医者の心境(多分文字通り)なのはおいといて、幾つかの条件は必要だが、これなら黒蛛病の治療も可能であるとの見解が出た。

 その条件とは、まず黒蛛病の進行があまり酷くない事。患者に充分な体力が残っている事…黒蛛病の進行度に比例し、必要な体力も多くなってくるだろう。

 そして最後に、これは確定条件ではないのだが、赤い雨が降っている事。普段の状態だと、黒蛛病の霊力は良くも悪くも安定しているらしい。それが赤い雨が近付く事で活性化し、進行しようとして不安定になった瞬間が狙い目だ。

 多分、赤い雨が無くても出来なくは無いと思うのだが…体にかかる負担が劇的に増えそうな為、あまりオススメはできない。 

 

 しかし、ソレにつけても困った話だ。体力が無ければ治療に耐えられないのだが、黒蛛病患者は赤い雨が近付くに連れ、急激に体力を削られる。ハンター並みの生命力でもあれば余裕なんだろうが、それを一般人に求めるのも酷な話だ。

 結局、現状で治せるのは症状があまり酷くなく、かつ体力がある青年から壮年って所か。

 患者の体調に合わせて手術できる訳でもなく、雨が降っている間に手術できるのは何人程度か。とにかく手数が足りん…。

 

 

 

 

 

 そうそう、話は変わるが、なんか妙な気配がすると思って歩き回ってたら、シオとソーマにバッタリ会った。

 元気そうだな。ソーマも俺が戻ってきた事は聞いていたらしく、あまり驚いてはいなかった。ゲームであったように、何がどうなったのか白衣にネクタイと、無駄に知的な雰囲気を漂わせてやがる。

 シオはと言うと………おい、何でナースコスプレしてますかねぇ?

 趣味か? 趣味なのかこのロリコン。

 

 

 

 

 …反撃の拳も無しに、「シオの趣味なんだ…頼むから信じてくれ……」と自殺寸前の中間管理職サラリーマンみたいな顔で言われた。どうやら日替わりでコスプレしているらしい。何、この可愛い生物。

 「ソーマが何もしないから、シオからアタックだぞー」だそうな。どうやら支部長に何やら吹き込まれたらしい。それを聞いて、ソーマは指を鳴らしながら支部長室に向かっていった。…ひょっとしてアレか、「シオをソーマの旦那に教育すればいいんじゃね」とか言った覚えがあるが、その為か? だとしたらソーマには感謝してほしいくらいである。

 

 にしても、シオってば3年間でえらく賢くなっているようだ。天真爛漫で、能天気で、頭使ってなさそうな顔付きなのに、今はソーマの研究の助手みたいな事をやっているらしい。最近では人間用の料理も覚え、食べられるようになっているとか。それでもやっぱり一番の好物はアラガミだが。

 …なんだこのハイスペック嫁。いや違った旦那。だとゆーのに、ソーマは手を出していないそうだ。それでも男かフニャ○ン! …いや手ぇ出したら今度は人としてダメなんだけどさ。

 なんか腹立ってきたので、以前のループでシオと関係を持った時の、グッと来る迫り方や、ちっちゃくてもヤれる押し倒し方なんかを伝授しておいた。精々搾り取られろ。経験者として忠告…はしないが、シオは結構貪欲だぞ。

 何、心配するな。一度振り切れてしまえば、福本マンガでぐにゃぁ~みたいな顔をせず、堂々とシオとイチャついて発散できるようになるから!

 

 ま、ソーマとはまた別の時に話をするとしよう。…そういや、ラケルてんてーに気をつけるように言っておくのを忘れたな。今のシオは特異点じゃなくなってるから、ラケルてんてーが何かしてくるかは微妙だけど…。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 榊博士から、一つ仮説を提唱された。黒蛛病の治療法についてだ。

 簡潔に言うと、俺が黒蛛病に感染した状態で治療を行えば、よりスムーズかつ強力な効果が期待できるのではないか?と言う事だ。感染した俺が、いとも容易く自分を治療したのを見て思いついたらしい。

 

 確かに、納得できる説ではある。霊力と言うのは、言ってみれば呼び合う力だ。同種のモノであれば、共鳴も影響もしやすい。患者の中の霊力と、赤い雨の中に秘められている霊力が呼び合うようにして活性化するのを考えると、俺の中にも同種の霊力を入れれば治療効果が上がるのではないか、という考えには説得力がある。榊博士は霊力云々の理屈は知らないだろうから、何考えてこの案を出したのかはわからないが。

 ただ、やっぱりコレにも欠点はあるんだよな。俺が黒蛛病に感染するのはいいとして(自分の体なら、浄化も簡単だ)、そうなると赤い雨の影響で痛みを堪えながらの施術になってしまう。恐らく、俺の黒蛛病が重度になればなる程、治療の効果も上がり、同時に苦痛も強くなるだろう。どれくらいの痛みに耐えながら、どれくらい集中しないといけないのかわからないのが欠点だ。

 

 また、多分この方法はブラッドには使えないだろう。今のブラッドは、霊力…血の力を攻撃オンリーに使っているようなものだし、そこまで自在に操れてない。浄化だって出来るか怪しいものだ。

 ちゅー事は、結局出来るのは俺一人か。

 

 黒蛛病に苦しむ人達を見捨てるのは心苦しいが…治療に専念させられると、狩りが出来なくなるよなぁ。せめて、ナナのイベントが終わるまでは最前線に居たい。

 で、そのナナですが、段々と発作が頻繁に出てきているみたいです。原因は今のところ不明、精神的なものだとしか分かってない。ナナ自身、最近は夢見も悪く、食欲が無く(それでも常人の2倍近く食べるが)、絶不調だという自覚はあるらしい。

 もう、いつ誘引が発動してもおかしくない。

 

 

 と言うか、さっさと発動してほしい。膨らみ続ける風船を見ている気分で、今か今かと思って緊張感が…。

 なるべくナナに張り付いているようにしているが、本当に血の力が不安定だ。高まったかと思えば急激に萎むし、その逆もしかり。

 

 そもそも、血の力の訓練では、言っちゃなんだがナナは劣等生だったりする。

 瞑想が苦手と言う事もあり、力をちゃんと認識できないらしいのだ。今思うと、それは自分の過去やアラガミを惹きつける性質から、無意識に目を反らそうとしていたのではないかと思う。

 原因は何にせよ、血の力に関してはまだまだ初心者状態であり、それをコントロールするのも夢のまた夢…とまでは言わないが、現状では厳しい。

 

 

 …いっそ、トラウマつついて爆発させるか?

 いや、それは幾ら何でもなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 と考えていたら、その矢先に発動しちゃったよ。

 

 

 

 

 狩りが終わった後に気絶して、ワラワラとアラガミが集まってきた訳ですが…幸いにも、奇植種はあまり居なかったし、花粉症のゴッドイーターも居なかった。

 ギルやジュリウスはかなり疲れ果てていたが、押し寄せるアラガミの群れ自体はほぼ撃退できた。…いや、俺とロミオがね、色々仕掛けまくったんだわ。それこそ即席落とし穴から塹壕からバリケードから、自重せずに色々と。

 

 で、適当な所でナナを連れて隠密使って逃げてきた。ナナの誘引の力はかなり強力らしく、タマフリの隠密を使っても、それでもチラホラとアラガミが寄ってくる。ただ『何処に自分達を惹きつけるモノがあるのか』はわからないらしく、キョロキョロしていたが。

 アナグラにも帰還途中で、アラガミを惹きつける何かが発動している…と伝えておいた為、対応はスムーズだった。今は元々シオが居た部屋に…軟禁? 隔離? いや匿われている。ちなみに、シオは既にソーマの部屋に入り浸りである。紳士ロリコンめ、さっさと手を出せ。

 

 まー何だな、アラガミを惹きつけるようなモノは何度か前例があったからな。具体的にはアーク計画跡地とか。対応も心得られたものだった。

 

 

 

神逝月

 

 ナナが目を覚ました。…のだが、物凄い勢いで沈んでいる。

 まぁ…母親の死因を思い出しちゃったみたいだしなぁ…。このご時勢にアラガミを引き寄せる性質を持ってるなんて、ソーマなんて目じゃないくらいの死神疫病神体質だ。

 

 さて、そんじゃこれからどうすべぇ、と言う話ですけどね。

 とりあえず、ナナの誘引をコントロールできるようにしないと話にならない。ナナも落ち込みながらも、コレをどうにかしないといけいないのはわかっているので、訓練を大人しく受けている。

 過去を思い出した…というより突きつけられた為か、今まで認識できなかった血の力もかなり明確に感じ取っているようで、順調に訓練は進んでいると言えるだろう。

 未だコントロールできてない点についても、誘引を遮断する部屋の中で、更に俺がタマフリを重ね掛けしているんで、今すぐアラガミの襲撃があるって事は無さそうだ。…ただ、ゲームであったような襲撃があったとして、それが誘引ではなくアラガミの気紛れによるものだとすると、それは流石に防げないが。

 

 ただ…このままコントロールを身につけたとして、それって根本的な解決にはなりませんよね? …もとい、根本的な解決にはならない。

 霊力や血の力は、精神状態に非常に強く影響される力だ。極端な話、制御していたとしても、自分に対する強烈な嫌悪や怒りを持っていれば、それはどこかで体を蝕んでしまう。例えば「こんな自分なんて、アラガミに食われて死んでしまえ!」なんて思ってしまった日にゃー…おお、もう…。

 

 この辺、どうにかして乗り越えさせないとあかんよな…。でもどうすりゃいいんだ。ブラッド隊と一緒にアラガミの中に放り込んで、全部殲滅してから「大丈夫、誰も死んでないよ」とか言えばいいのか? どんだけ荒療治だ。それしか無いならやるけどさ。

 

 

 

 

 ナナの訓練はともかくとして、昨日のアラガミラッシュのおかげで、大分カンは取り戻せたと思う。鼻歌交じりに押し寄せるアラガミを片っ端から狩ってたら、ロミオが「教官が流れ作業で殲滅している…」とか呟いてたけどどうでもいいや。

 で、その途中にふと思いついたんだよ。

 

 感応現象ってあるやん? アリサと散々使いまくって、今後も利用する気マンマンなんだが、腕輪に安全装置がついてて今はできない奴。

 アレ、考えてみりゃ神機同士でもできない事はないんじゃね? ゲームでは主人公がレン…もといリンドウさんの神機を触った時に、感応現象モドキが起きてたんだし。という事はだな、少なくとも感応現象という一点において、神機は腕輪同様の働きが出来る…ということだと思うんよ。

 

 

 

 

 具体的には、俺の神機とブラッドサージをその気になって接触させれば、感応現象起こせるんじゃね?

 

 

 起こしてどうするって?

 ………どうしよ。リンドウさんに何か伝言があるなら伝えるけど。ヤる? ヤっちゃう? でも、それこそリンドウさんの夢で告げ口された上、墓まで持って行くと決めた一件まで暴露されそうだし。

 …まぁ、3年ぶりにって事で、機会があれば試して顔出ししてみますかね。

 

 

 

神逝月

 

 

 何度か襲撃があった。ナナは「自分のせい?」と思って狂乱しかけていたが、そのまま気絶させた。

 少なくとも、夜中の襲撃はナナの誘引の影響があったかもしれない。俺だって、四六時中ナナに付き添って…いや付き添うのはこの際いいんだけど、隠密をかけられる訳じゃないからな。

 

 ただ、あの程度の襲撃なら俺としては好都合なんだよねぇ。未だ実戦経験不足(極東基準)のブラッド達に、経験を積ませるのに丁度いいんだわ。いつ襲撃があるか分からないっていう緊張感も含めて。

 まぁ、防衛班の方々(ジーナさん達は別の所に出張しているようだった)に迷惑がかかるんで、さっさとコントロールできるようにするのに異論は無いが。

 

 

 ちなみに極東の皆様にとっては、唐突な襲撃は割りといつもの事なんで、逆に臨時収入のチャンスと張り切っている方が多い。

 一般市民の方々に至っては、アンタ等軍隊かといいたくなる程スムーズに避難するは、混じっていた奇植種から果実もぎ取って逃げ切るは、混乱しているフリをして銭湯帰りの葦原ユノにサインを強請ったり歌を強請ったりと、やりたい放題である。

 

 

 と言うか、シエルのフォローをしとかんとアカンな。友達なのに放っておかれている…というのもなんだけど、ここの所ナナに付きっ切りだから、ちょっと嫉妬しているっぽい。

 食堂のカピバラで気を逸らしてはいたが、それも限界のようだ。内輪に皹が入るようなもんじゃないが、何気にストレスが溜まっているようだ。

 …だからカルビを撫でながら、「…君。……君。…君」とか呟くのは辞めなさい。ちなみに俺の名前を君付けで呼んでいるんじゃなく(俺の事ではあるんだが)、シエルは俺の事を「キミ」と呼んでいるんで、「…キミ。……キミ。…キミ」となる。

 名前で呼ばれた方がまだマシだな。

 

 考えてみりゃ、シエルも俺という友人(笑…とつけるとシエルに怒られるか、この世の終わりのような顔をされそうだ)が出来ただけで、ストレス解消の手段を殆ど知らんからな。精々カルビを撫でる程度で。

 ギルとかは酒呑んで発散してるし、ジュリウスは銭湯という楽しみを見つけてるし、ロミオは…まぁ夜のアレ(アローン版)だ。ナナだって、元気がよければ食べてストレス解消している。

 …ちなみにジュリウスだが、フライアにある人工花畑と違い、極東の天然花畑にはあまり行かない。天然モノに触れ合えるのは感動だが、よく手入れされ、人間にとって不都合な物を削ぎ落とされた空間と違い、虫やら何やらが鬱陶しいそうな。…ま、蚊が多いからね、あそこ…。あとGも居る。

 

 

 とにかく、シエルにも何か気晴らし方法を教えてやらにゃいかん。一人でも出来て、俺以外とも一緒に出来るような奴がいい。

 となると、シモ関係はアカンな。ロミオの二の舞になりかねんし。極東でしかできない事も無しだ。基本的にシエル達はブラッドでフライア所属だから、移動中の艦の中でも出来る事じゃないと。

 …そういえば、ゲームでは趣味もあったな。バレットエディットの考察だっけ。ただ、これが他人と一緒にやれる趣味かと言うとなぁ…。

 ブラッドエディットを活用しているゴッドイーターって、あんまり多くないんだよな。多少弄る事はあっても、あんまり凝り過ぎてると逆に使い勝手が悪くなったり、素直に使えなくなる場合が多い。単純な物ほど応用しやすいって言うが、アレは本当だな。

 

 

 

 

 

 

 …あ、そう言えば…ブラッドバレットってどうなったんだ? イベントで、シエルがハグしてくれるのを思い出したんだが。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 色々思いつきはするものの、基本的にナナに付きっ切りな今日この頃。

 真面目な話、訓練が進んではいるが、進展は無い。ナナのトラウマをどうにかして拭わないとアカン。どうも、夜毎夜毎に魘されているらしく、トラウマが徐々に悪化していっているような気がする。

 霊力が自分を蝕む事は予想してたが、もうそれが出てきたか? あまりに強い自己嫌悪や罪の意識に霊力が影響され、それがナナに悪夢を見せ、心理的にダメージを受けて悪化。更に強く霊力が…と、悪循環に陥っている。

 アリサが受けていたような洗脳を、自分でやっちゃってるようなものだ。

 

 放っておくと、最終的には自分で自分を呪い殺してしまったり、洗脳したりしかねない。

 人の心の問題を俺がどうこうしたって、正直上手くいくとは思えないんで、榊博士に相談してみた。…相談した後、人選的に更なる悪手だったような気がしてきた。

 

 

「ふむ…確かに、私達ではどうしようもない話だね。人の心の問題だと言うのが特に」

 

 

 結局、最後は自分でどうにかせにゃならんのでしょーが、そこに至るまでの道が全く見えない。何かいい方法ないですかね?

 

 

「アラガミの中に放り込んで荒療治という方法もあるが、それは最後の手段だ。そもそも荒療治と言うのは、本来医者としては失格と言えるような一か八かの方法だからね。…まぁ、あと数日待ってくれたまえ。私にいい考えがある。3日…早ければ2日後……いややっぱり4日くらいは見込んでおいた方がいいかな?」

 

 

 いい考えって明らかにフラグですが、榊博士が言うと更にロクでもない事のフラグにしか思えませんな。あと日数が微妙っす。

 

 

「はっはっは、自覚しているよ。だがそれはそれとして、頼ってきたのは君なんだから、もう少し口を慎みたまえ」

 

 

 へーい。

 

 そういう事になったのだ。

 榊博士の案がどういうモノかはわからないが、とりあえずそれに期待するとしよう。

 

 それじゃあ、それまで何をしているかって話だが…。まぁ、ナナについて隠密かけてるしかないんだけどな。あと訓練。

 

 

 

 そうそう、様子を見に来た(実際は9割方、俺に会いにきているような気がする)シエルにブラッドエディットの話題を振ってみたら、ナナが頭痛で気絶するレベルの勢いで喋りだした。なんだな、興味がある事になると暴走するタイプだな。その最たるが『友人』でもあるが。

 他のブラッド隊も、暇を見つけてはちょくちょくナナに会いにきている。そこからの情報だと、極東周辺のアラガミ襲撃は、若干増えているような気がする…程度らしい。ナナの気配を押さえ込んでいる効果が出たか。

 そのおかげか、ナナも必要以上に思いつめることなく、訓練に集中できている。

 

 さて、してみるとどうしたものか。よくも悪くも安定した環境になってしまった。下手な手出しは、暴発どころかメルトダウンを誘発するだけ。

 …ここまでくると、不安極まりないが榊博士の策に任せるしかないか…。

 

 



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183話

討鬼伝2アップデート、やっぱやってくれた!
強化素材や上級素材が店で買えるようになったのは神判断だと思う。多分、最初からアップデートのタイミングを見計らってたんだと思うけど。
…ちょっと遅かったけどな。からくり人形の強化、最後までやっちゃった直後だったよ…。
とりあえず、印も全部集め終えたし、後は任務とミタマかな。


あとシエルをムシャムシャ…いや8585した時には、エンダァァァァアアアアイヤァァアァァアアアアア!!!でオナシャス。
実際は別れを歌った歌詞らしいですが、そんなん関係ねぇ!


神逝月

 

 

 一日目。榊博士の策とやらが到着するまで、あと1日。…この手の事の一日って、二日分より長く感じるんだよなぁ…。

 まぁ、幸いにもアクシデントの類も、ナナのトラウマを誘発させるような重症人も出ず、極東は変わらぬ地獄を送っている。特に一般人枠が。

 

 もういい加減アラガミを散髪する光景にも慣れたけど、まじめにあいつらゴッドイーターにできないかな…。量産型ゴットイーターとかさぁ。

 適合率はあまり必要ない代わりにスペックが低く、しかしそこは数と練度で補う裏方部隊とか、いたら色々戦術の幅が広がるで。

 

 

 …妄想は置いといて、ばったり会ったコウタから、アリサとレア博士の事を聞かれた。…と言っても、俺何も知らんのですが。

 地球に帰ってきてから、一切連絡取ってないぞ。…と言ったら、「ダメだこの人」ってお前な…いや言いたい事はわかるよ言いたい事は。離れ離れになってた恋人(とかペットとか愛人とか)に一言も無しじゃ、愛想つかされても仕方ないよ。

 でもしゃーないじゃん、あの二人の連絡先知らんもん。フライアにいた時は、迂闊に連絡とるとなぁ…。極東についてから、榊博士と支部長経由でメールは送ってもらったのよ? おかげでもうすぐ帰ってくるそうだが。

 

 …多分、出合頭にアリサから強烈なパンチが入ると思う、と教えられた。3年前の桃毛蟻との決着の後、予想はしてたが飛びついてきたアリサが盛大にスカり、顔面から滑ったそうな。

 きっかり3分はそのまま誰一人微動だにせず(リンドウさん救護部隊は除く)、無言で立ち上がったアリサの表情は…少なくとも、ヒロインがしちゃアカン表情だったとか。しかも何かロシア語の呪文付き。…その魂に憐れみを、とでも詠唱してたのだろうか。

 

 ちなみにレアの方はというと、コウタとはあまり接点がなかったらしく、どうなっているのか知らないらしい。ただその後、申し訳なさそうなアリサに支えられて歩いていたり、寝不足だったりしたらしいので、おそらくアリサの憂さ晴らしにつき合わされたのだと思われる。徹夜で。

 

 

 

 と、それはそれとして、コウタと話すのも久しぶりだ。3年前ってどんな事があったっけ? リンドウさん暗殺計画を潰して…その後、終末捕食に乱入した時はほぼセリフ無し状態だったな。

 そんな訳で、この際だからちょっと親睦を深めようと言う事になったのだ。

 なんだが…まー話のタネが湧いて来る事湧いて来る事。ロミオとは別方向で、コミュ力チート枠なんじゃないか、こいつ? 実際、ゴッドイーターや一般市民間でのコウタの顔の広さは、ちょっとしたものらしい。…一般市民の顔の広さについては、GKNGの初代幹部にしてリアルエンジェルこと、ノゾミちゃんの兄だからって理由のほうが強いようだが。

 情報網の広さも大したもので、今誰がどうしているとか、どんな事をしようとしているとか、すぐに出てくる。ゴッドイーター部隊間の連携の引継ぎや調整を、コウタがする事も多いらしい。…管轄で言えば、明らかにコウタに課せられるべき範囲を逸脱しているようだが。

 

 うーん、なんつーか、一般兵における理想の形を目指している気がするな、こいつ。いや、もうちょっと上の階級で、か。実際今では部隊長なんだけど…それを統括するくらいの地位が、コウタにとってのベストポジションかもしれない。

 ちなみに、コウタ2号ことロミオとは、既にソウルフレンドと呼べる仲らしい。ただしホモではない。

 趣味のバガラリーやアイドル、初音○クモドキとの話題から盛り上がり、まじめな戦術談義もやり、今では家庭の悩みなんかも打ち明けあう程だとか。ロミオが成人したら、一緒に飲みに行こうと約束もしている。…フラグの匂いがするが、このコンビなら大丈夫だろ。死亡フラグ叩き折れるわ。特にコウタの場合。

 

 

 話は変わって、ちゃん様こと台場カノン。3年前は防衛班最大の不安要素、なんて汚名を(残念でもなく当然で)着せられていた彼女だが、今は第一線でバリバリやっている状態らしい。

 …第一線っていうか最前線というか………開拓地っていうか…。

 

 

 ほら、俺もすっかり忘れてたけど、なんだ…クレイドル? 人類種の天敵に叩き落されそうな名前だな。なんかアレだ、ゲームではアリサが担当してた、人が安全に住める場所を増やそうという計画。アレに参加しているらしい。つまりアリサの立ち位置? アリサは月に来る為に、宇宙船作ろうとしてたみたいだからなぁ、

 なんでちゃん様がそんなトコに配属になってるかというと、戦闘スタイルが開拓向きだから、らしい。

 俺が教えた隠密術とゼロ距離射撃法を更に研鑽し、コウタが最後にあった時には、大型アラガミをほぼ無音で瞬殺する暗殺部隊の鏡みたいになっていたそうな。

 しかしそれでも人が近くにいれば誤射は0にはならず、数が減ったのなら質を上げようとばかりに、痛恨の一撃ばかりが飛んでくるようになったとか。というか、それターゲットをアラガミとゴッドイーターで識別してないだけとちゃうか? …裏カノン様はやっぱ故意にやってるよなぁ…。

 とにかく、そんなんでも戦闘力・殲滅力・討伐数は極東でも上から数えた方が早いくらいで、色々な意味で持て余されていたそうな。で、他のゴッドイーター達のクレーム(と女王様扱い)がシャレにならない数になってきた為、懲罰人事も兼ねて支部長が開拓地行を決定しちゃった、と。

 

 …言っちゃなんだが、それまで保った方が奇跡だよなぁ。ゴッドイーターの人手不足を考慮に入れても…。

 それに、ちゃん様にとって開拓は意外と天職じゃなかろうか? クレイドルを作るため、周辺一帯のアラガミを全滅させなきゃいけない…つまり片っ端から狩っていい訳だし、人間側にも問題を起こす奴はいる。そーいう奴には即誤射が飛ぶ。

 …いや、一般人相手に誤射する時点でスッゲーヤバいんだけどね。

 

 とにかく、ちゃん様は良くも悪くもクレイドル関係者の間でリーダー扱いされているらしい。そういや、ゲームでは揉めてアリサの仲裁を受けてた大工っぽいにーちゃんが居たが……妙な趣味に目覚めてなければいいんだが。

 

 

 

神逝月

 

 

 榊博士の策が、ようやく理解できた。いや策と言えるのかも怪しいが。

 内容? 二言で済む。

 

 アリサとレアが帰ってきました。だからレアの母性にナナを癒してもらいましょう。

 

 これだけである。いや、筋が通っているとは思うけどね? 俺達みたいな人心や人倫をポイーしちゃってる連中より、レアの方が向いてるに決まっている。

 しかもレアの母性(バストサイズや安産型とはまた別の意味で)はてんこ盛りだ。ラケルてんてーの所にいた時は、その母性が悪い方向に作用しちゃってたが、今は俺が居るし。

 

 …厄介なのは、フライアから基本出てこないとは言え、ラケルてんてーも極東にいる事なんだが……こっちは完全に様子見するしかないわ。

 

 

 

 まぁ、ラケルてんてーと榊博士の策の事は置いといてだな。再会シーンは、食堂でちょうどシエルと話し込んでいた時だった。

 ドタバタと極東にしては珍しく大きな足音が響いて、自動のハズのドアを蹴り破って乱入してきたのは…言うまでもなくアリサだった。なんか修羅場案件警報とか鳴ってたよーな気がするが、よく覚えてない。

 

 最初にアリサは獣…を通り越して龍の眼光(4回行動)でラウンジを見渡し、俺を発見。カカッと目が見開かれた。

 その迫力に押されたか、咄嗟に俺を庇おうとするシエル、なんか障害物と見なされて排除しそうな気がしたんで、更に咄嗟にシエルを押しのけ元通りに座らせる俺。

 

 次の瞬間には、アリサが転生2tトラックもかくやという衝撃と共に抱き着いてきていた。ふんばっといて良かった…後で見たら、足元エライ事になってたし。

 最も、その次の瞬間には、唇がもっとエラい事になってた訳ですけどね。それはもう、ただいまおかえりの挨拶すらすっ飛ばして、この場でおっぱじめる気かと思うようなディープキスが展開されました。止めようとしていたシエルが、間近で見てフリーズするくらいに濃厚なのが。

 …コウタとロミオがムツミちゃんを担いで、エリックとエミールがエリナを宇宙人みたいに持ち上げて出て行くのが見えたが、それはどうでもいい。

 

 

 まぁ、俺としても久々に会った上、別れ方が色々な意味で気まずかったし、再会した時何を話そうかなー、とか思ってたんだよ。全部台無しですわ。キスしてる間にも流れ続ける涙とか、口を離したら胸元に顔を埋めて泣き始めるとか。何も言えねぇよ。

 その後、レアも追いかけてきて…こっちはまだ落ち着いていた。ただし超涙目の笑顔で、「ずっと待ってた…おかえりなさい」と言ってから、アリサと同じようにハグとキスの嵐です。

 色々な意味で視線が集まってたなぁ…。修羅場を期待する視線だったのか、二股(公認)野郎を呪い軽蔑する視線だったのか、あるいはピチャピチャと艶事めいて響く音に反応してたのかはわからんけど。

 

 まぁ、そーいう訳なんで、泣き喚いたりシクシク泣いたりしながら抱き着いて来る二人を宥めつつ、シエルに「すまんけど、また今度な」と声だけかけて、自室に向かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして気が付けば2日ほど経過していた。

 

 …何してたかなんぞ語るまでもないだろう。お互い、3年間分の爆発は凄かった…。レアなんぞ、イキすぎて文字通り心臓止まったし。腹下死しかけたし。蘇生が間に合ってよかった…。ちなみにアリサが無事だったのは、ゴッドイーターとしてそれだけ強化されてたからだと思う。

 でも、あれはあれで得難い快感だった…とはレアの弁。快楽のために命を賭けるのもなんだが…アレかな、ランナーズハイとか首絞めプレイをもっと悪辣にした、臨死の恍惚ってやつかな。パピ! ヨン!

 

 まぁなんだ、ヤってばっかりいた訳じゃないよ? 俺は基本的にも応用的にも欲望に忠実なケダモノだけど、自分の所業のせいで泣いてるのを無視して、肉欲に走る訳じゃない。

 色々語って……まぁ、その後の行為の時間に比べると、極端に短かったのは否定できないが…お互いに盛り上がったところで、行為に雪崩れ込みました。

 あと、ピロートークの時間もしっかりあったし。

 

 それにしてもアレだな、やっぱ3年は短いようで長いな。二人の変わりようを実感したわ。以前からもそうだったけど、アリサもレアも母子プレイが板についてるのなんのって。

 ナニの最中じゃなくても、二人きりなら当然のように「ママ」と呼んでいる。時々立場が逆になる事もあるそーな。

 

 3年間、色々あったんだなぁ…。ちょっと疎外感を感じかねないレベルの絆を感じる。

 なんちゅーか、母子家庭に再婚で入ってきた夫的な立ち位置? まぁ、その母子はどっちも色々な意味で熱烈歓迎してくれる訳ですが。

 

 

 

 …そうそう、何が驚いたってさぁ、レアが母性を拗らせすぎて母乳体質になってたのも驚きだけど、アリサの料理下手が治ってたのが、性欲を一時減衰させるレベルの驚きだった。

 どうやら、母親ことレアが徹底的に仕込んだらしい。なお、和食はやった事ないそうなので、味噌汁はできない。アリサのボルシチ、結構美味かったわぁ…。性欲魔人の俺にも愛情って物を感じさせてくれる味でした。

 具体的には、あーんとかで。口移しはしなかった。味わからなくなるし。

 

 

 

 話が逸れたが、二人は今まで俺を迎えに行くためのロケット開発に力を注いでいた。勝手に帰ってきて台無しにしちゃったのは悪かったが、これからどうするのか。

 尋ねたところ、プロジェクト自体は続行らしい。というか、結構大がかりな規模でやってるらしいので、今更二人の一存で「やーめた」なんて事にはできないのだとか。もしやったら、経済がちょっと変動するレベルの負債が発生するとかなんとか…サモアラン。

 

 しかし、このご時世によくロケット作成なんてプロジェクトを立ち上げられたものだ。人類存続だけで限界ギリギリな状況な上、あらゆる意味で資源を圧迫するだろうに。

 …そう思っていたのだが、どうやら鍵は前回のアーク計画。失敗に終わったとは言え、あの宇宙旅行を忘れられずもう一回、なんて考える能天気な金持ち共も多いらしい。

 もちろんそれだけではなく、真面目に別の星へ脱出してアラガミのいない世界で暮らすとか、それどころか飛ばした宇宙船を戦闘機変わりにして、超高度からの砲撃でアラガミを吹っ飛ばすとか、そういう話も出ているらしいが。

 

 そっちのプロジェクトでかなり重要な位置に居るようなので、暫くしたらまた戻らなければならないそうだ。

 正直、無理矢理にでも引きちぎって、手元に置きたい気持ちもある。しかし各方面に迷惑がかかる上、金の問題となると俺の力も及ばない。それに二人も遣り甲斐を感じてはいるようだ。

 …あと、社会的地位のある女性を侍らせるって優越感あるし。なんつーかこう、プレミア感的な? あくまでオマケだけどね。この場合、オマケがメインになる事はありえんけど。いやだってレア or アリサとプレミア感を天秤にかければ、前者に傾くよ、比較するまでもなく。

 

 

 そういう事なら仕方ない…休暇はちゃんととれるらしいし、俺からそっちに行くのも…時期によるけどアリだし。

 …そう言ったら、「また妙な厄介事を巻き起こすつもりね?」とレアにギロッと睨まれた。かーちゃんにガチギレされたレベルで怖かった。レアってば、いろんな意味で母親役が板に付いているね。

 ま、とりあえずは二人の休暇が終わるまで、戯れ続けるとしますかね。エロい意味だけじゃないぞ。

 

 

 …話を冒頭まで戻すが、ナナの事は既にレアに話してある。可能な限りの協力を約束してくれたが、さすがにちょっと面白くなさそうだ。

 それも無理はないか。3年ぶりに会った男が、逢瀬の後に他の女(最初っから3Pしておいてなんだが)の話題を持ち出してくるんだから。とは言え、放っておく訳にもいかない事は理解してくれた。

 既に本人に会わせてみたのだが、少なくともお互いに第一印象は悪くないようだ。レアはナナを猫みたい(絶対髪型で判断したろ)でカワイイと言ってたし、ナナは…なんだその、母親に重ねてみている節があるな。…スタイル的に似ているんだろうか? 筋肉の付き方とかは、ゴッドイーターと研究者で真反対だと思うんだが、スリーサイズ的な意味で似ているのかもしれない。

 

 で、そこからどうするのか…だけど、俺も榊博士も具体案は何も考えてなかったりする。俺らが人としてかなーりアカン人種だという事を差し引いても、人の心は複雑怪奇。素手で扱うには脆く繊細すぎる。

 ならば妙な算段を立てるのではなく、レアとの付き合いの中で、徐々に癒されていく事を期待しよう…という事になった。歯がゆい話だが、仕方ない。

 

 

 

 

 

 さて、真面目な話はこの辺にして!

 

 

 

 お待ちかねの、エロ語りの時間である!

 

 

 いや派手にやったわー、本当に思いっきりハッチャけたわー。

 満たされたというか、逆にカラッポになるまで出して注いで解消したというか。

 

 我に返って落ち着いた時は、迂闊にドアも開けられない状態になってしまっていた。もう性臭が籠りまくってたもの。換気扇フル稼働させても、まだ匂いが消えてない。

 というか、換気扇から抜けていった匂いがあちこちに振りまかれ、異臭騒ぎになる寸前だったそうな。あちこちの「栗の花の匂い」で誤魔化せたらしいが。

 

 二人とも、3年前に比べるとなんちゅーか、カラダの深みが違うな。熟成されている。

 勿論熟れただけじゃなくて、メンテ(意味深)も互いにしあっていたらしく、お互いの体を隅から隅まで知り尽くしているようだった。下手すると俺より詳しいんじゃないかと思うくらいに。

 

 うーん、不思議な感覚だったなぁ…。この二人以外だったら、例える言葉も見つからないくらいに不愉快で、怒り狂って絶望するレベルの感覚だったと思うんだけど。

 どういう事かって?

 そりゃーさ、ずっと会えなかったとは言え、自分の女が他の人(と言ってもやっぱり自分の女だが)と寝て、しかも自分の色から上書きされちゃってるようなもんだぞ。

 自分が一番よく知っていて、よく扱いを心得ている、他の誰にも触れさせたくない体が、会えない間にもっと上手く扱える人間が現れてしまった。

 一種のネトラレじゃないかコレ。

 実際、ある種の嫉妬とか焦りとか、興奮に入り混じってそういう感覚が沸いたのは事実だ。

 

 

 もっとも、それを上回る愉悦がすぐに押し寄せてきたけどね!

 だってネトラレと言ってもプレイ止まりだし。自分の色を上書きするように二人が染まっていると言っても、それは俺に差し出される為に自分で自分を開発したようなもんだ。

 言うなればアレだ、後ろに興味がある女の子が、恥ずかしいのを我慢して自己開発してから「お願い、こっちも貰って」って言いだすよーなもんだ。

 勿論、既に後ろは開通済みな訳ですが。

 

 しかも3年越し。二人の努力(とレズプレイ)の結晶がどんなモノか、私、興味あります!

 ちなみにその「結晶」ですが、軽く並べただけでもこれだけあります。

 

・3年前とは比較にならないレベルのコンビネーション。

・基本テクもレベル・バージョン共に数段アップ。

・玩具やコスプレ衣装も充実。

・感度。しかもお互い道具を使ってイタしてはいたが根本的には乱されず、「やっぱりコレが好き…」な感想付。

・ヒンヒン善がらせながら、二人でプレイした内容の告白(というか懺悔)させる。

・お互いを責める技術も向上。俺に奉仕するレアを、バックからアリサがスムーズかつ邪魔にならないように突くとか。

・締りが違うし、以前よりももっと奥に突き込めるようになった。特にレアは運動不足気味だったのを解消する為に、ナニ以外にも訓練したりしているらしい。

・二人の体に残る、お互いが弄り続けた痕跡を上から蹂躙する愉悦。

・何より、会えない3年で俺を求める欲求が限りなく膨れ上がっているらしく、とにかくべったりで従順。

 

 

 

 もう五感どころか第六感まで駆使して堪能いたしました。夢中になってる2日間に限れば、黄金聖闘士のセブンスセンシズまで到達していた気がする。そー言えばレアは腹下死しかけたし、そういう意味ではエイトセンシズも?

 

 

 

 

 

 ところでさ、話は変わるんだけど、辛い物の途中に甘いものが欲しくなる事ってあるよね。逆に、熱い物食べてる時に冷たい物とか。

 人や状況にもよるだろうけど、逆に甘い物を食べてる途中に辛い物が欲しくなる事ってあまり無いと思う。辛さってある種の痛みだからだろうね。

 

 …何が言いたいかっていうと、嫌な事や面倒な事の間に楽しい事が欲しくなっても、楽しんでいる間やその後に辛い事なんて欲しくないんだよ。

 

 

 

 具体的には、落ち着いた二人から超説教とか。まぁ、アリサには再会の瞬間に全力パンチかまされる事も覚悟してたし、マシな方かな…。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 「二日間…大体予想した程度の長さだったね」とは榊博士のコメント。どうやら再会早々おっぱじめて、ナナの事とか色々後回しになってしまうのを予測してたらしい。ダメ人間な上、レアやアリサまでダメダメな人にしちゃう俺でごめんなさい。

 ちなみに、俺の性欲ではなく、二人の体力を基準にして予測を立てていたそうな。どうでもいいわ。

 

 ともあれ、当初の計画通り、レアはナナについている。俺が一緒に訓練した時に観察した限りだが、徐々に良い方向に向かっているとは思う。ただ、なぁんか嫌な予感もするんだよな…。

 レアがナナとの接し方のさじ加減を間違える可能性も無いでは無いが、もっと根本的な何かを見落としているような気がする。

 

 ラケルてんてーから、レアへの接触がないのも不自然といえば不自然だ。今までは手元から逃れてしまったから、また始末し損ねたから面倒になって放っておいたんじゃないかと思っていたが、今はやろうと思えば車椅子でも会いにこれる距離にいる。

 …いや、距離はあんまり関係ないか。直接顔を合わせたとして、ラケルてんてー自身に戦闘力は無いに等しい。何かちょっかいを出すなら、直接触れ合わない場所からだ。そう考えると、むしろ今の状態は、レアに手を出したくても出せない状態なのかもしれない。

 

 うーん、やっぱり心の問題は苦手だなぁ…。昔に比べれば、人間関係にもそこそこ機微が効くようになってきたと思ってたんだが。単に内面観察術の効果で情報を多く持てているだけで、判断の仕方や基準はあんまり進歩してないっぽい。

 同じ人外外道の類だというのに、何故にラケルてんてー(というか中のアラガミ)はあんなに人の心を操るのが上手いんだろうか。割と真面目にコツを教えてもらいたいもんである。

 

 

 

 さて、ナナの事はレアに任せておくとして、アリサの事だ。休暇はもう暫く続くんで、その間は俺と一緒に一ゴッドイーターとして活動するつもりらしい。

 俺の部屋に入り浸って、新婚気分に浸るのもアリだったらしいが、腕が鈍りそうだから、と強く希望された。…その実態としては、ミッション終了後の青カンとか、二人でサバイバルミッションという名のお散歩とか、色々計画していたらしいが…ほぼ無に帰している。

 何故なら、アリサに張り合うようにシエルがくっついてくるからだ。物理的にも、ミッション的にも。

 

 どうやら初めての友人を取られまいと必死になっているようだ。や、まぁそれ自体は構わんのだけどね。「友達のシエル・アランソンです」「恋人のアリサ・イニ(略)です」みたいな感じで、確保したいスタンスが微妙にズレてるからか、あんまり衝突しないし。

 ちなみに、アリサには「え、あの子にナニもしてないんですか?」とガチで驚かれた。…まぁ、自分の今までの行動を考えると確かに意外だろーけど、今回ループではそこまで節操無しなつもりはないぞ。……すまん、3年で記憶が色々風化してた。レアを手籠めにして、夢の中でロリサを凌辱し、更にアリサとレアを完全調教とか、普通に節操無しだったわ。

 

 ま、シエルに関しては、暫く構ってやった方がいいだろう。先日も、アリサとレアに再会して、そっちを優先しちゃったもんな。事情は後から聞いて理解できているようだけど、感情はまた別物だろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 アリサが何やら吹き込んでいるのがちょっと気になったけど…悪いようにはならないだろう。というか、アレはエロい事考えてる顔だな…。アリサがエロい事企んでるなら、多分俺にとっては役得な事だろう、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 と思ったら、予想以上にシエルの行動は早かった。アリサの煽りが上手かったのか、それだけ焦っていたのか、あるいは世間知らず故の行動力か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「セックスフレンドという友達もあるそうです」って、あの純粋そうな顔で言われると色んな意味でダメージがデカいんですが。背徳感が半端ない。

 というかアリサ、貴様何を考えてシエルにこんな事を吹き込んだ! GJ!(GOD JOB。Oが一つ少ないのにワンランク上の褒め言葉。俺的に。)

 

 

 

 

 …レアの為? 負担の分散? …確かに、この前ガチで心臓止まったしな…。あれはオカルト版真言立川流の加減をミスったからで…というか、人数増えた方が効果は高くなるから、安全性で言えば逆効果な気もする。

 何、レアにも許可はとってある? というかシエルのランジェリーはレアが選んだもの? …撮影機材まで持ち込んで、ノリノリだなおい。

 ただ、少なくとも言える事は。

 

 

 目の前で、ランジェリー姿で、捨てられないか不安になっている子犬のよーな目のシエルを拒む事はできんっちゅう事だな。アリサが唆した時点でチェックメイトだった。

 

 

 

 

 



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184話+外伝19

中間管理職じゃないけど、人の上に立つ仕事って舐められたら終わりなんだなぁ…。
現実には初期アリサやサツキさんなんてメじゃないくらいにイヤなヤツが一杯居て困る。
上の上の上司も「空気悪くしてるから止めさせようぜあいつ」なんて言う始末。

そう考えて読み返すと、ツン期も微笑ましいかな…。
泣いたり笑ったりできなくさせてやりたいが、その前にまず自分が泣いたり笑ったりしなくなるようになるべきか…。

久々愚痴ってしまいましたが、失礼いたしました。
お詫びと言ってはなんですが、外伝付です。


追記 26日に、間違って一瞬だけ185話を投稿してしまった件。
申し訳ありませんでした。


神戻月

 

 

 新しい月に突入。月末月初は棚卸が面倒くさいね。よーわからんけど、決算月とやらの為、普段の棚卸よりも更に面倒くさかった。

 

 シエルが超手伝ってくれたのが助かったんだが、一応フライアに所属って事になってるからね。社外秘の部分も多かったから、手を貸してもらえたのは一部だけだ。

 で、そのシエルなんですが……「友達の儀式」を毎晩せがんで来ます。ナニの快感が気に入っただけでなく、深く繋がっているという実感が何より嬉しいようだ。

 ご希望に応える為、少々アクロバティックな体位でより深く繋がるというか捻じ込むようにしています。こう…グイッと一番奥の壁を抉られるのが大好きなようです。

 遠からず、一番の性感帯はボルチオになると思われる。

 

 肉体的には今関係を持っている中では最年少なのに、上の口でも下の口でも一番奥まで歓迎してくれる。

 幼げな風貌と、体に似合わないくらいの巨乳と、俺のをグロテスクなくらいに咥え込む部分。すげーギャップだ。

 

 …ちなみに、初体験の画像はデジタルで保存してあります。翌日にはシエル・レア・アリサで鑑賞会までやってました。…勿論、その間に盛り上がって3人レズプレイに発展してたけどな!

 それをこっそり撮影…盗撮にあらず…していたんだが、その辺も含めてしっかり保存してあります。シエルが個人的に家宝にするつもりのよーです。

 

 

 しかしまぁ…レアからお許しが出ているとは聞いていたけど、許すどころかえらい嬉しそうだ。何? カワイイ娘が増えた? 家族が増えたよ、やったねレアちゃん! …増えるじゃなくて増えた、だからセーフかな。

 …ほんとに母性が溢れてるなぁレアは…。尤も、その母性でナナを癒していたすぐ後で、新しい娘を性的に弄っているのだから、えらく業が深い母性だが。

 シエルの事は、以前から気にかけていたらしい。マグノリアコンパスでの軍事教練…或いは、その名を借りた実験や虐待…は相当なものだったらしく、機械のようになってしまったシエルをどうにかしたいと思っていたとか。…その当時は、ラケルてんてーの下に居たので、思うだけで何もできなかったそうだが。

 

 

 ちなみに、シエル的にレズプレイにはあまり抵抗が無いらしい。レアもアリサも、最初の一回は対抗意識とかもあって躊躇いが強かったんだが…まぁ無理もないよな、男2女1でそーいう事するとして、男同士で触りあう気になるかって話だもの。

 でも色んな意味で純粋培養なシエルは、女同士だろうと全く躊躇い無し。ちょっと世間一般とは感覚がズレてるな、やっぱり。まぁ俺的には嬉しいけどね。これなら色々仕込むのも楽そうだ。ストレスや嫉妬によって殺傷に走る可能性も低い。

 

 

 

 

 それはそれとして、ナナの一件でちょっと進展…いやトラブルがあった。いや、おかげでナナのトラウマも乗り越えられたみたいだからいいんだけどね。

 

 それと言うのも、レアがナナを気晴らしの散歩に連れまわしていた時の事だ。

 最近ではナナの誘因も、大分コントロールが効くようになってきた。一週間以上、ほぼ缶詰状態で訓練訓練だったもんなぁ。そんなんだから、ナナもかなりストレスが溜まっていた。

 誘因が発生しても、止めるだけなら自力でどうにかできるようになってきた事もあり、ようやく外出許可が下りた訳だ。

 

 

 …でもなー、ここで俺や榊博士に見落としがあった。ナナの最大のトラウマは、誘因そのものじゃなくて、それで「母親を死なせてしまった事」だった。

 普段の訓練とは違い、レアという母親役と一緒に行動し、そして不意に誘因が発動する。…冷静な状態であれば、ナナは自力でコントロール…完全には止められないまでも、その力を弱めるくらいならできただろう。

 しかし何ともタイミングの悪い事に、そこでアラガミが登場してしまった。…どうやら、寄植種が「散髪」を受けに来ていたらしい。

 アラガミ登場、「母親」がここに居て、誘因も発動している。更に言うなら、ミッション中でもないので神機すら無し。

 

 パニックを起こすには、充分すぎた。そしてそのパニックに引きずられるように、誘因の力がどんどん強くなっていく。

 幸い、その場で襲ってきたアラガミは、駆け付けた防衛班のブレンダンさんに対処されたが、そこからが問題だった。ナナの力によってアラガミ達が呼び寄せられ、ブレンダンさん一人ではどうにもできない状況になっていく。

 神機を取りに行こうにも、それだと居住区を抜け、アナグラまで行かなければならない…つまりそこのアラガミを呼び込む事になる。

 

 で、咄嗟にナナがとった行動は…ゲームの行動を、更に無謀にしたものだった。

 レアが止めるのも聞かずに、ゲームシナリオ同様、近くにあった車を動かして(鍵付きっぱなしかよ!)アラガミ防壁の外へ突撃。…ただし、武器は一切持ってない状態で。

 

 それから暫く、アラガミ達の妨害を掻い潜りながら逃げ回ったらしい。

 

 

 連絡を受け、俺達が現場到着するまで、約30分。車の轍を追いかけて追いつくのに時間がかかりすぎた。

 追いついた時、既に車は炎上しており、ナナの姿も無し。近場の敵を掃討しつつタカの目で追いかけると、どうやら車がオシャカになる寸前に外に飛び出して、何とか逃げ隠れしていたらしい。

 炎上してから、約20分ってところか…。誘因によって居場所がすぐバレてしまう事を考えると、それだけ逃げ回れたのは大したものだ。

 

 散会して掃討・捜索を始める。ナナを発見したのはロミオだった。どうやら「対話」で反応を探ったらしい。

 居場所さえわかれば、話は早い。

 その場に急行し、近場のアラガミをサクサク全滅させた。最近ではブラッド隊も、極東のアラガミに慣れてきたからなー。秒殺とは言わないまでも、コンビネーションと分断を駆使して確実に素早く仕留められるようになっている。

 

 持ってきたナナの神機を手渡して、その後アラガミの殲滅は一旦完了。だが、このままだとまたすぐに集まってきてしまう。何が悪いのか、誘因のコントロールは未だに効かず、どうしたものか……という話になったんだが。

 超展開で解決しました。。

 

 

「ナナ!」

 

 

 という叫びと車の音がしたかと思えば、なんとレア登場。護衛もつけずに追いかけてきたらしい。

 途中のアラガミを、行きがけの駄賃に打ち抜いておいてよかった…。

 

 車から飛び降りて、一直線にナナに駆け寄って抱きしめる。戸惑うナナと、「よかった…本当に、無事でよかった…」と涙目で繰り返すレア。

 「母親」に抱きしめられた事で気が緩んだのか、それとも何かしらのフラッシュバックでもあったのか。

 「ふ…ふぇ…ふぇぇぇぇぇ」と、ナナは子供のような声で泣き出した。涙声で「ごめんなさい、ごめんなさい」と何度も謝り、レアに力なく縋り付いていたが、何となく…「もう大丈夫なんだな」って思えた。

 事実、泣き出した辺りから、ナナから放たれていた誘因の力は急激に弱まり、既に消え去っていた。

 

 

 

 

神戻月

 

 

 また娘が増えたねレアちゃん! …ナナがね、レアを母親扱いしてるのよ。別にママと呼ぶ訳じゃないし、死んだ母親の代わりにしている訳でもない。単純に、母親みたいな人として慕っているだけだ。

 精神的にも安定したようで、誘因の力も何がどう作用したのか、コントロールできるようになっていた。

 榊博士曰く、「色々吐き出したのが良かったんじゃないかい?」だそうな。

 

 正直、俺の与り知らぬ所で色々始まって色々終わった感が否めないが、まぁ収まる所に収まったって事か。

 

 

 

 

 

 

 さって、そうなるとこれから色々どうすべぇ。

 ゲームでのメンバーも揃い、ロミオ以外は(表向き)血の力に目覚めた。ゲーム通りなら、今後は焦ったロミオによって色々揉め事が起きてしまう訳だが、今回のロミオじゃな…いや悪い事じゃないんだが。

 実際、ロミオの血の力をいつまで隠しておくかって問題もある。正直、今となってはあまり意味がないような気がするし、本当に気づかれてないのかという疑問も強い。

 仮に気づかれているのだとしたら、ロミオがラケルてんてーに反目の意思を持ちつつある事も気付かれているだろう。始末されそうになったら、極東に逃げ込めとでも伝えておくか。

 

 ラケルてんてーの計画を考えると、ブラッドの中で少なくとも一人、犠牲が出る事が前提になっているだろう。

 それは綿密な計画によるものかもしれないし、幾つかタネをばらまいておいて、それらが偶然連動するのを待っているのかもしれない。少なくとも、次善の策や予防策が山ほど設けられている事だろう。 

 どう出るか予想もつかない。強硬策をとってくる気もするし、逆にどうなっても構わないと思っている気もする。

 

 

 …考えてみれば、ラケルてんてーの行動待ちばかりだな。ブラッドの面々には、血の力に目覚めてもらわなければいけなかったから、ゲーム通りに話を進めてた訳だが…こっちから反撃、仕掛けてみるか?

 手札も…あまり気は進まないが、あるにはある。と言うより、ラケルてんてーって基本的に叩けば埃が山となる人種だからな。

 父親殺しに始まり、子供達への人体実験とか。孤児院のフリして軍事教練受けさせてるのは…まぁ、教育の一環と言い張れない事もないか。

 レアの証言を得られれば、ラケルてんてーの社会的立場は一気に悪化するだろう。ただし、その場合はレアもただでは済まない。本意ではなかったとは言え、色々やらされてきたみたいだし。

 

 …何よりその場合、ブラッド隊からの反発がすごい事になりそうだが。ロミオ以外は、本性にちっとも気づいてないみたいだし。

 ブラッド隊からしてみれば、言いがかりというか冤罪を着せられて破滅させられそうな恩師を助けよう、って考えになるだろうしなぁ。ブラッド隊を敵に回さない為には、やっぱりラケルてんてーの行動の後に反逆する必要がある。

 

 

 

神戻月

 

 ラケルてんてーの事はともかくとして、忘れかけていた件を思い出した。ロミオのモトカノの事だ。

 とりあえず誰なのかを調べてみたんだが、割とアッサリと調べはついた。フライアの入館記録を見て、頻繁に出入りしていた同年代の少女…これだけで思いっきり絞り込める。

 まぁ、その入館記録はこっそり盗み見したんですが。

 

 

 名前には全く聞き覚えがない。少なくとも、ゲームに登場した人物じゃなさそうだ。

 お偉いさんの娘さんらしいので、周辺の状況も探ってみたが…まぁ、普通の女の子やね。お偉いさんの子供として、割と自覚のある行動をとれる子のようだが、言っちゃなんだがせいぜい学級委員長止まりか。

 一時期を境に、フライアに訪れる事が全く無くなり、本人も沈んだ様子が多くみられるようになった…らしい。最近では既に立ち直っているようだ。

 

 …肝心の、ロミオに対する未練はどうかな?

 少なくとも、失恋&初体験の失敗(いや体験事態は成功してんだけど)を拗らせている…という訳ではないようだ。少なくとも、反動から妙な性癖拗らせて、相手を構わず股を開くような○ッチにはなっていない。

 また、特定の相手との個人的付き合いもなく(ボッチという意味ではない)、ロミオに対する未練は……あるか無いかはこれから調べる。

 また、トラウマになっている可能性がある、エロに対する反感は…どうだろうな、これも調べないと。

 

 幸い、極東からそう遠くない場所で暮らしていて、こっそり接触するのも難しくはなさそうだ。

 そうだな、ロミオの写真か映像でも見せて、反応を伺ってみるか? ロミオ本人を連れていくのはダメだ。今のあいつなら、雑踏ですれ違っただけでも気付きかねない。

 

 調査にかけられる時間は、長くて2日程度。

 その間、極東を離れる必要もあるな。

 

 2日程度でも、当然アリサとレアはついて来るだろう。

 

 

 

 

 

 そんな事を考えてたんだが、赤い雨が降るという情報が入ったため、急遽中止。また、支部長と色々協議した(と言っても、考えてるのは支部長一人だったけど)結果、黒蛛病を治療できた例がある事を公表することになった。

 メリット・デメリット共に色々とあるが、今の俺はフライアではなく極東支部に所属している。何ぞ言われたとしても、ラケルてんてーにはそれをどうにかするだけの権限もなく、またフライアに出向させるという形になった場合、ラケルてんてーに貸しを作れる…という判断らしい。

 まぁ、ラケルてんてーは必要であれば貸しなんぞ易々と踏み倒すだろうし、俺にも言ってない別の算段があるんだろうけどな。

 

 ただ、公表するのは「極東のゴッドイーターが持つ特異な技術が功を奏した為であり、それらを医学的・科学的に立証する事は未だできていない」という段階まで。俺の個人名も伏せられて、極秘情報扱いされるらしい。

 無理もないと言えば無理もないが、かなりの反発も食らうだろうな。世界各地に居る黒蛛病患者してみれば、方法はどうあれ完治する手段があるのに、それを故意に隠していると言っているようなものだし。

 とりあえず、今度雨が降った時、複数人を観測しつつ治療を行う予定だ。

 

 赤い雨が降ると思われるのは明日の午後。一人でも多く治療ができればいいんだが…。

 

 

 

神戻月

 

 

 赤い雨が降った。隔離病棟がうめき声で満ちていた。ひどいもんだなこりゃ…。

 それを見かねたのか、葦原ユノが隔離病棟に訪れていた。感染の恐れがある為、病室の中には入らせてもらえなかったようだが…それを言ったら普段も同じだと思うんだけどな。まぁ、苦痛で余裕のない患者が理性的な行動をとれるとも思えん、というのは確かにあるが。

 彼女の歌で苦痛が和らぐという話もあったんで、歌おうとしたのかと思ったが…どうやら、マネージャーの高峰氏に止められているらしい。

 まぁ、葦原ユノの感情はともかく、仕方ないと言えば仕方ない。雨が降り終わるまで、少なく見積もっても半日かかる。それまでの間、ずっと歌い続けたら、それこそのどが潰れて歌手廃業何てことになりかねない。

 今回だけ、一曲だけ…を許していたらキリがない。「なぜあの時だけ歌ったのか」「どうして今回だけ歌わないのか」という話になると、それこそ炎上どころか噴火するだろーしな。

 

 その辺、理解しつつも揉めてはいるようなんだが…録音した歌を流し続ける事で、どうにか妥協しているらしい。やはり、効果は落ちるようだが。

 

 

 

 

 まぁ、その二人を後目に、治療実験に移る訳ですが。機材を運び込んで、もはや何を専門に研究しているのかさっぱりわからない榊博士が立ち会う事になっている。

 …榊博士、どーでもいいですけど、アンタ毎回毎回平然とヤバいトコに足を運んできますね。まぁ、どうやったって死ぬのが想像できない人種だから、別にいいんですけど。

 

 

 

 

 さて。実際の治療風景ですが。今回は患者(実験台)を個室に移動させる余裕もなかったのが、衆人環視の中で行う事になります。

 しかも複数人同時は初めてです。

 

 よくも悪くも、視線を集めたり、苦悶の声で集中を乱すような神経はしてない。治療自体は、まぁ上手くいったと言えるだろう。

 個人個人で衰弱が物凄く激しかったり、気絶する程の痛みを感じる人もいたようだが、そこまで責任持てん。最悪、首筋に一撃して気絶させっから。

 

 

 そういう訳で、苦しんでいる人達の中心付近で鬼祓いを初め、患者の中の余分な霊力を吸い寄せるような感じにしたんだが。

 とりあえず覚えているのは、榊博士が病室だという事も忘れて興奮している声と、あまりよろしくない力が体に入り込んでくる不快感、それに助けを求める声くらい。

 

 病室の外から除きこんでいた葦原ユノと高峰さんに後から聞いたんだが、吸い取った力…黒い蜘蛛の模様が俺の全身に這い回っており、本当に蜘蛛に集られているようだった…らしい。思わず悲鳴を上げそうになったとか。

 

 ま、おかげで何人かの黒蛛病患者は完治。人によっては軽減までだが、大分楽になったらしい。

 完治した人達は、まだすぐに退院とはいかない。本当に完治しているのか、再発の可能性はないか、何より感染しないかを検査する必要がある。尤も、まだ治ってない人達と同じ病室に居て、再度感染してしまったら元も子もない。接触感染のみとは言え、何がきっかけになるかわからないので、別の病室に移る事になった。

 

 かく言う俺も、どう見ても感染者だったもんで、やはり入院。暫く狩りができないのが辛い。

 一応面会謝絶状態だったんだが、アリサやシエルが何をやらかすか分からないと言う事で、早急な検査の末退院となった。ちなみにレアは、何かしそうだけど実力的に足りない(ポンコツだし一般人だし)と言う事で、脅威認定されてない。

 

 

 で、結局検査の結果、完治した人達は問題なし。当面、接触感染の疑いも無し。それでも念には念を入れ、暫く監視と検査の義務が付く。

 俺も同様…というか、理屈はともかく黒蛛病の因子が俺に凝縮されたと思われるんで、より一層念入りに検査されたが…まぁ、健康体である。

 

 だって黒蛛病の力は、鬼祓いでほぼ浄化しちゃったもんな。まぁ、それでも治している最中に痛みはあったし、今も多少は体にしんどさが残っている。…どうにも覚えがある感覚だと思ったらアレだ、討鬼伝世界で瘴気で動けなくなりつつある感覚に近い。

 アレも霊的な意味での毒みたいなものだから、似ているのも当然なのかもしれない。

 

 まー理由はともかくとして、これで黒蛛病患者の治療の目途は立った訳だ。霊力以外でもどうにかなるのかは、これから榊博士が調べる訳だが。

 とは言え、全患者を治せた訳ではない。

 特に重症だった人達は治療が追いつかなかったし、逆に軽症だというのに、殆ど効き目がない人も居た。

 その効き目がない人の中に、葦原ユノに特に懐いている子供がいたんだが…ひょっとして、ゲームでも登場したあの子か?

 

 

 本人なのかはともかくとして、治療方法は模索しなければならない。

 もしも何かわかったら、自分にも知らせてほしい…と葦原ユノに直接頼まれた。手まで握って頼まれた。ロミオならきっと舞い上がっているだろう。

 

 さて、そういう訳でデータと睨めっこしている榊博士と、研究室で話し込んでいる訳だが…何気に深いトコまで突っ込んできたよ、博士。まぁ、いつ追及されてもおかしくないし、逆に追及されないって時点で色々な意味で大目に見てもらってるんだけど。

 最初に聞かれたのは、「治療の効果の個人差が激しいが、これは何が原因だと思うか」だった。

 俺が応えて曰く、「血の力、ないし他の『何か』の資質があるか…つまりは体質」。嘘は言っていない。現時点で俺に出せる回答としては、これが限界…いや、その一歩手前か。霊力を血の力と言い換え、『何か』の資質を特異点の資質と表現してないだけで。

 それを聞いた博士は、その結論はどうやってだしたのか…と問うてきた。

 

 どうやってと言われても、実際に赤い雨や患者を診てみて、更に治療した時の感想から…と言おうとしたら、その瞬間に「君が最初から持っている知識によってかい?」と遮られた。

 それだけだったらトボける余裕もまだあったんだが…続けて「それとも、『前回』の結論から?」と。

 つい言葉に詰まったところ、ナルホドと勝手に納得し、またデータと睨めっこだ。

 

 

 …どういう意味だったのかね。

 いや、俺の知識とか、黒蛛病とかを治した力の出所を怪しんでるんじゃないんだよ、多分。もっと根本的に…俺がおかれている、ループという環境に気づかれているのかもしれない。

 まぁ、だからと言って困るような事もないんだが。

 

 

 

 まぁ、とにかく暫くの間、俺は極東で黒蛛病の治療に専念する事になる。

 つまりは、仮にフライア・ブラッドがどっか別の場所に移動する場合、シエルと離れ離れになる事になるんだが…………なんちゅーかその、かなりヤバかった。

 アリサのファインプレーがなければ、シエルが思い詰めてブラッド辞めて極東に来たかもしれないくらいだ。まぁ、アリサ的にはそれはそれでオッケーだったみたいだが。

 

 ファインプレーの内容? …離れているからこそ出来る、アレとかコレとかだよ。具体的には写メとか。遠距離での『命令』とか。そーいうのを、「絆を確かめ、高めあう為の行為」として教え込んだらしい。物は言いようだなオイ。

 

 

 …そのファインプレーのおかげで、ちょっと引っかかっていた疑問が解消された。

 アリサとシエルが会った時に、アリサが妙な煽りを入れていた件だ。シエルに向かって「セフレという友人関係もありますよ?」みたいな事を囁いていたようなのだが、そもそもどうしてそんな事を言ったのか疑問だったのだ。

 本人はレアと自分の命の為(レアの心臓が一回止まった後だったから、思わず納得してしまった)と言っていたが、それにしたって割と常識人(極東基準)にのアリサが、初対面の相手にそんな誘いをするものか?と思っていたんだ。

 いや、疑似母子でレズプレイしている時点で常識もクソ(ス○トロではない)もないと言われりゃそれまでだけども…とにかく。

 

 

 

 どうやらアリサ、この3年間レアと何度も睦んでいた為か…本格的にレズのケが芽生えてきたようです。俺が本命だからバイか。

 シエルを一目見た時に、つい「あ、この子乱れさせてみたい」と思ってしまったそうな……まぁ、気持ちはよく分かるな。年齢に見合わないボディとクールさと純粋さを、好き勝手に染め上げてみたくなる。というか染め上げている真っ最中ですが。

 とにかく奥まで咥え込みたがるから、もう完全に子宮が形を覚えて…いやそれは置いといて。

 

 レアに話を聞いてみたところ、この3年…いや最近の1年くらいは、時々女の子を見て妖しい目をしていた事があったらしい。…想像すると割と似合うな。ゾクゾクするぜ。

 まぁ、レアが体を張って(欲求不満を鎮める為にも)アリサを受け止めていたので、実害は出てないようだが……俺を取り合おうとするようなシエルを見て、対抗意識より先に「チャンス!」と思ってしまったようだ。

 で、煽りに煽り、シエルもそれに乗せられて今に至ると。

 

 …俺としては問題ないなぁ。

 レアとしては……流石にシエルに手を出したと知られた時には正座で説教を受ける事になったが、自分達だけでは体が保たないのは自覚していたし、アリサが煽ったのも予想していた。

 更には、シエルをそのまま放り出す訳にはいかない…まだラケルてんてーの下に居た頃から、シエルの脆さはよく知っている。

 結局、言いたい事は多々あれど、認めるしかない状態だった。

 

 …その夜は、シエルとレアで色々シチュエーションプレイをしたから、割と好意的に認めてくれるようになっていると思う。

 

 

 




 例によって例のごとく、またしても同じように毎回毎回芸が無く夢を見ているようだ。それはいいんだが、今回はまた随分と気分が悪いというか陰気な夢である。
 何が酷いって、こう…景色がなぁ…。もう陰気で陰気で。ある意味絶景ではあるんだけど、漂っている雰囲気が暗すぎてヤバすぎて…一般人でも即「ヤバイ」と分かるくらいにおどろおどろしい。
 絶対何か出る。モノノフの俺が言うのもなんだけど。

 見渡した限り、確認できるのは…まず正面にある鳥居と、その奥の…神社? 神殿? 何か階段が続いているが、途中で壊れているようだ。
 周囲にあるのは、湖や海って言われるよりもヘドロ溜まりって言われた方が納得できる水溜り。どうやらここは浮島か何かで、このヘドロの海に浮いているらしい。
 背後は……ああ、一応道はあるな。でも見たところ、コッチに進んでも何があるか分からないし、おどろおどろしさも消えそうに無い。

 まぁ、正面の方は、おどろおどろしいを通り越して物凄い瘴気が渦巻いているんですが。討鬼伝世界の異界の瘴気と似たようなものだと思うけど、禍々しさは段違いだ。
 明らかにこの先、何か居るよなぁ。それも古龍並みにヤバいのが。

 わかってても進むんですが。ハンターのサガでもあるし、どーせ夢だと割り切ってるし、怖いもの見たさもあるしね。





 …で、進む訳ですが……さっきから、そこの岩陰でgkbrしているおっさんは何ぞ?









 試しに話しかけてみたところ、最初に気が狂ったんじゃないかと思う程驚いて、10秒程したら落ち着き、「うぉっほん!」なんて声が聞こえてきそうな動作をした。
 ただし、実際に聞こえてきた声はなんちゅーか「ホニャラフニャヒニャニャ」みたいな訳の分からん声でしたが。それでも何故か意味が分かるこの不思議。
 開口一番に「妖怪か」と問われたが、妖怪じゃねぇよ…妖怪を宿してるが。人間とも言いづらいが。


 で、このオッサン、どうやら大剣士スサノオというらしいんだが…なんだ、この…アンバランスな人だな。
 紫色の服、もじゃもじゃのヒゲ、禿げた頭に赤い鼻。
 見た所、確かに大剣士を名乗れるくらいには鍛え上げているようだし、技術は…分からんが、多分小手先より気迫の一撃で勝負するタイプだ。
 体に宿している霊力もかなり強い…なのに、さっき見たようにガクガクブルブルしてとても戦えそうにはないし、持っているのは剣どころか木刀である。

 なんというか、積み重ねてきた素質と鍛錬を、精神一つでダメにしちゃってるような印象だ。


 俺の印象はともかくとして、このオッサン、この奥に居る大妖怪に用事があるらしい。「成敗する!」と見得を切っているはいいが、今この瞬間も足が震えていた。
 …無理しねーほうがいいぞ? と忠告はしたのだが、何でも惚れた女が攫われてしまったらしく、助けに行くのだそうだ。おーおー、いい英雄譚だねぇ。
 ま、どうせ夢だし、付き合ってやっか。


 で、その妖怪って何?




 ……ヤマタノオロチ?





 まぢ?



 詳しく聞いてみると、攫われたのはクシナダという女性で……うん、これアレだな。日本神話かと思ったけど、大神だ。
 そういや、こんなシーンあったよな。もう殆ど覚えてないけど…まぁ、アマ公が直で見られるってんなら、危険を犯す価値はあるな。モフモフかつ人を舐めた態度を取るケダモノだけど、仮にも天照大神だ。見るだけでもなんかご利益あるかもしれない。

 そんな訳で、アホみたいに濃い瘴気の中を進む俺とスサノオ。この瘴気、討鬼伝世界の異界の瘴気とは違うみたいだな。禍々しさはあるが、即毒になるようなものでもないらしい。そうでなければ、俺もスサノオもとっくにオダブツしているだろう。
 で、そのとんでもない瘴気の中、小さくも力強い、温かい気配を放つ何かが移動している…うん、アマ公だね。あっちは元気に攻略を進めているようだ。


 あっちのケダモノは心配なさそうなんで、こっちは道無き道を行きます。
 これだけ強い瘴気の中なら、不完全ながらスサノオも妖怪を目にする事が出来るらしい。見たのは初めてだったらしく、天邪鬼を見て「意外とひょうきんな奴らだな…」みたいな事を呟いてたが。
 流石に妖怪達から完全に隠れきる事は出来ず、何度か戦ったが…なんだ、スサノオ普通に戦えるじゃん。剣筋とかはお世辞にも綺麗とは言わないが、妖怪を撃退する為の気迫とかは充分だ。妖怪を怖がる…というよりも、見えない物を怖がっていたらしく、姿が見えていれば普通にやれるらしい。ま、天邪鬼の殆どは、顔を隠してるだけで人間か猿にしか見えないからね。

 誰も居ない調理場や勝手に物が動く広場(全部妖怪の仕業…いやちょっとはアマ公もか)を通り抜け、壁はフリークライミングでスサノオを助けながら上り、進むこと暫く。
 なんかドブ川みたいなひっでぇニオイが漂ってきた。…ああ、そういや妖怪がヤマタノオロチに出す料理作ってたな。人間としては絶対食いたくないが、ヤマタノオロチ的にどうなんだろうか、アレは。クシナダ姫の前菜として食わせてみて、感想を聞きたかったものだ。

 何度目かの鐘の音が響いて…ああ、もうすぐアマ公とヤマタノオロチとの決戦か。ゲームのとは言え神話の戦い、是非とも目にしてみたいものだが…。



 その辺のぶら下がってるモノを足場にして更に進み、長い道に出た。…ああうん、覚えてる覚えてる。この先がヤマタノオロチの広間だ。
 既に決戦は始まっているらしく、神々しい力と禍々しい力のぶつかり合いが響いてくる。これは…余波だけでも結構キツいな…。


 スサノオ、もうすぐだ。準備は出来てるか?


「ハニョフラホヒホニハハ」(うむ、このスサノオ、今回ばかりは退きはせん。ここに来るまで世話になった…あとはこの大剣士スサノオに任せておけ)


 …便利だね、この世界の言葉。それはともかく、確かにスサノオには気力が漲っていた。この力のぶつかり合いも感じているだろうに、臆してはいない。ドタン場で肝が据わったか、確かにその姿は大剣士の名が違和感なく当てはまる。…スサノオに対する評価としては、違和感だらけだけどな。
 ま、どっちにしろやる事は変わらない。スサノオについていけば、ヤマタノオロチが肉薄してくるので、確実に気付かれるだろう。別のルートからの侵入口を捜す。…スサノオの最後の一撃の前では、月の光に照らされるんだったな。上から行くか。

 アラガミ化も使って、スサノオより先回り。上から2柱の戦いを覗き見する。
 アマ公の隈取は見える…。でも筆調べはわからないか。アレを何とか覚えたかったんだけどな…特に花を咲かせたり浄化したりする奴を。

 …うっは、こりゃスゲェ。今まで戦ってきた鬼やモンスターなんぞとは比較にならん。体内に渦巻いている霊力が、アマ公もヤマタノオロチも桁外れだ。これ、本当ならサイズを100倍くらいにしてやる戦いだろ。
 が、その戦いの場に乱入する大剣士サマが一人。どう考えても無理無茶無謀に無知無智無恥なんだが、不思議とサマになっているのはヤマタノオロチが相手にしているからか、神話の一ページだからか…或いはスサノオ自身の力なのか。其れは無いな。

 しかし、俺という異分子が離れているからか、話はゲーム通りに進んでいく。
 む、アマ公の遠吠え。という事は…月が出た。おお、こんな瘴気の中でも絶景かな絶景かな。
 光が降り注いで……スサノオの持っている剣…闘片撲だっけ? もっとマシな名前はなかったんかい、トウヘンボクって。ともかくあの木刀に…光が宿って………いや花を咲かせてもなぁ…。

 しかし、そこからは凄かった。いくらアマ公との戦いで弱っているとは言え、あの日本神話の大怪獣の首を一手一手で落とすというのは、明らかに人間にあるまじき暴挙だろう。…そういや日本神話じゃスサノオも神だったっけ。
 7本の首を瞬く間に両断し……しまった! 大神の最萌アイドル、雷の首を見てなかった!……、最後の一本は縦に両断。
 改めて見ると凄まじいな。技の名前は意味が分からんけど。

 で、落下してきたクシナダ姫を受け止めて、何か語ってるな。…ああ、大笑いした。ま、ハッピーエンドって事だろうな。


 さて、俺はどうしよ。信仰心なんぞまるで無い身だが、アマ公の旅の一助として、何かお供え物でもしたいところだが……おろ?
 花弁が飛んできた。これは……トウヘンボクの花ビラか? …まぁ、記念にとっておくか。あっと言う間にボロボロになると思うが、押し花にでも…。


「ワオォォォーーーーーンン!!!」


 アマ公の勝ち名乗りの遠吠え…だけど違う、これは危険を知らせる!?


 咄嗟に顔を上げた時、既に遅かった。目の前に迫った、異常な密度の瘴気の雲が直撃する。
 …ああ、そういやこんなのあったね。ヤマタノオロチの体から、幾つかの瘴気が立ち上って飛んでいくってのが。それが直撃した訳か。運が悪かったのか、それとも狙われたのか…。






 何れにせよ、夢はそこで覚めた。

 目を覚ました後に試してみたが、やはり筆調べは発動せず。ま、仕方ないね。俺、字ぃ汚いし。絵だって、アレで発動されたらむしろエラい事になってしまいそうだ。新手の妖怪を作り出してしまう。
 代わりにあったのは、あの時掴んだ花弁…トウヘンボクの花弁だ。

 …いやこんなモン持って帰ってきてもなぁ…。押し花にはしておくけど、栞くらいにしかなりゃしないよ。
 日記の栞にするかな…。



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 ところで皆様、疑問は無いだろうか? アマテラスの力を受けて、トウヘンボクは花を咲かせた。その花が普通の花だと思うか? 
 また、スサノオはその武器を以て、ヤマタノオロチを切り裂いてトドメを刺した。それはスサノオ自身の力でもあるが、やはりトウヘンボクと、宿った力も無視できない。

 何が言いたいかと言うとだな…。
 今は日記の栞にしかなってない花弁だが、儀式や鬼祓の道具として使えば、それこそ無傷の大型の鬼をダース単位で一瞬で浄化してしまえるくらいの力が宿っていたりするのだよ!
 勿論、黒蛛病患者を相手に使えば、赤い雨とか体力消耗とかそんなの無しに一瞬で完治だ。

 でも気付かないから、そんな神アイテムは今日も日記に挟まるのだった。



 時に、妖怪に二郎丸・三郎丸と言う「結婚を許されなかった男女が海に身を投げこの姿になった」と解説があるのが居るが、何故に二人とも丸…。やはりホモだから結婚が許されなかったんだろうか。
 


外伝 大神編。
次はEDFを考えなくもないが、ネタが出たとしても多分討鬼伝世界でストーリーが進んでからになると思う。
EDFで無双するのはちょっとな…礼賛乙取ってノーマルで楽勝してたけど、やっぱ四苦八苦してた時期の方が長く楽しめたのは確かだった。


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185話

いきなりですが、ハーメルンさんの感想システムはよくできていると思います。
何話に感想をつけたのか分かるし、感想をつけられるのが会員だけなのか設定できるし、何より神システムだと思うのがGoodBadです。
感想に対して感想や意見をつけるのは揉める元になりますけど、単純な意思表示法を用意する事で、それを抑制して感想欄が荒れるのを防ぐ。
小難しい理屈を展開しなくても、GoodBadでどう感じたか伝えられる。(正しく伝わるかは別ですが、それは元々ですし)
意見を言われて、ケチを付けられたと思ったとしても、噛みつき返す先が無いから荒れにくい。
更にBadが集まれば、悪意を持ったコメントか、大多数が不快に思うコメントとして非表示。

幾つか小説サイトを巡っている身ですが、ここって本当に平和に見えるんですよね。
すげぇなぁ…。


 

 

 

神戻月

 

 

 味を占めたアリサがヤバイ。シエルを食っちゃった…というか一緒に俺に食われたのが相当気に入ったのか、最近何度も誘っているようだ。

 勿論シエルもOKしているんですが、あまり深くまで突き込むと翌日に響くんでセーブはしている。

 

 まぁ、今はいいんだよ、シエルが居るから。3人で体力消耗もいい塩梅に抑えられてるみたいだし。…相手に負担をかけてしまってる辺り、どうにも俺もちゃんと制御ができてないな。3年前に比べ、霊力が跳ね上がった為か。一回、見直しせんと…。

 で、予想通り、どうもブラッド隊はフライアで別の場所に移動する事になるらしい。シエルも、不承不承とは言え離れる事には納得したんで、そこはいいんだが…そうなると、またレアとアリサの二人だけになっちゃう訳でね?

 また心臓止まったりするんじゃないか、という不安があるらしい。

 

 …という名目で、アリサが新しい獲物を探している気がする。3年間もレズのタチばっかやってれば、順応するのも無理はないか…。

 俺としては止める理由はないが、上手くやれるようにフォローせねば。人間関係で失敗しまくった(現在進行形)先達として、少なくともアリサが刺されそうになった時に身代わりできるようにしておかねばなるまい。

 

 

 

 まぁ、アリサの性癖は俺が責任をもって矯正するか、利用するとして。

 

 

 

 3日後にはフライアが出発します。

 色々準備してますが……ジュリウスが、どうにかしてコタツを手に入れようとしていたな。銭湯に行ってた時に、いいモノだと吹き込んでおいたので、何とかフライアに持ち込もうとしているらしい。

 ナナは大きな浴場をフライアに作ろうと言って却下された。ロミオは……まぁ、お宝をこっそり持ち込んでいたっけな。

 ギルは酒。

 

 …その準備の間、シエルは俺達と色々遊んでいた訳ですが。お土産として大人の玩具を色々持たせました。あの年齢であの見かけの子が、あんだけエゲつないモノ持ち歩いてると思うと、つい滾ってくるなぁ。昨晩は使い方を実地で教えたから、その時のことも思い出してしまう。

 

 

 

 ま、それはそれとして…ここからゲームはどうなったっけ?

 神機兵の実験中にトラブルがあったり、ロミオが赤い雨の中で飛び出して行って死んだり、そこからジュリウスが離れてラケルてんてーに利用されたり…と大まかなところは覚えているんだが、細部というかシーンの繋がりが思い出せない。

 神機兵の実験でトラブルが出たのって極東だったっけ? そもそもロミオが死ぬのは? あの聖人かと思うような爺様婆様には是非引き合わせてやりたいが、そもそもアレも極東だったかどうか…。

 墓が作られるのはフライアだよな。でも葬式には葦原ユノも参加してたし、爺様婆様も居たし…。フライアが偶然止まった先が、あの人達の住処の近くだったのか?

 話が全く思い出せん。

 

 仮に覚えていたとしても、俺はフライアから離れて極東に残る訳だから、どうこうできるとは思えないが…。

 とりあえず、今の俺が気になっている事と予定を纏めてみようと思う。

 

 

・ロミオの元カノと、その復縁の可能性について。

・黒蛛病の治療法を模索。

・アリサの性癖の矯正……悪化?

・神機兵の実験失敗阻止…これについては手の打ちようがない。

・ブラッドレイジの詳細解明。

 

 

 

 他に何かあったかな………ああ、そうだ。

 

 

・神機を通じて、レンに会えないか。

 

 

 

 とりあえず、簡単にできる奴から行こうかね。

 

 

 

 

 

神戻月

 

 

 フライアが出発して行った。シエルを白い手旗降りながら見送りました。

 どーにもゲームの展開とは違う気がするが、まぁシナリオ通りに進む事の方が少ないしな。

 ぶっちゃけた話、ラケルてんてーがこれ以上俺の干渉を嫌ったから、これ幸いと置き去りにしただけかもしれない。俺が居ないところで、ゆっくりと自分の計画を進めるつもり…なのかもしれない。

 

 結局、レアに対するちょっかいも何も無かったなぁ。レアはというと、流石にちょっと落ち込んでいたようだ。今でも姉のつもりなんだろうな…。未だにわかってやれないし、してきた事を考えれば無理もないとは言え、彼女を切り捨てた事を負い目に感じているようだ。

 

 

 さて、昨日はシエルの送別会(意味深)の為に一日休みだったから、今日はお仕事お仕事…と言っても、俺自身は狩りに出られないんで、アリサを見送ってきただけだ。

 レアもそろそろ宇宙船のプロジェクトに戻らなければいけない時期らしく、何やら送られてきた資料を読み耽っている。

 

 珍しくフリーになったので、整備室までやってきた。

 

 

「お」

 

 

 あ。…えーと、お久しぶり、リッカさん。

 

 

「ほんとだね。戻ってきたって話は聞いてたけど、全然顔を出さないんだもんなぁ。私の事忘れちゃったかと思ったよ」

 

 

 すんませんね。何だかんだとイベント続きだったもんで…。

 相変わらず、俺の神機を弄り倒してたんですか?

 

 

「まーね。相変わらずおかしな神機だわ…。ま、データが色々取れるからいいけどね。…ずーっとメンテしなかったとは思えない状態だわ…」

 

 

 …3年間、やってなかったからな…。

 

 

「普通なら怒る所だけど、事情は一応知ってるし…って、フライアでメンテすればよかったでしょうが!」

 

 

 いや諸事情ありましてあそこでは出来ないもんで。武器を預けると、そのまま取り上げられる可能性もあるから。

 

 

「また妙な事に首を突っ込んでる訳か…。それで? 今日ここに来たのはどうして?」

 

 

 ちょいとした実験の為です。神機同士で感応現象を起こせないかなーと思いまして。

 

 

「それはまた興味深い事だけど…何かメリットとかある? 無くてもできるんだったら試したい気持ちはよく分かるけど。方法にアテは?」

 

 

 多分だけど、レン…もとい、リンドウさんの神機と俺の神機なら、刀身を合わすか捕食形態を触れ合わせればできる。

 リンドウさんのアラガミ化を食い止めてるのは、レンに渡した血の力みたいだから、それに呼応させれば多分…。

 

 

「また血の力、か…。解明されてない物に頼るのは、技術者としてはあまり歓迎できないんだけどね。…よし、ちょっと後で他にも実験に付き合ってくれる?」

 

 

 いいけど、何の実験に?

 

 

「その血の力を利用できないかって実験。感応種なんてモノが出てきてる以上、その対策は必須だからね。まぁ、具体的に何をするかっていうのは、まだ考えてないけど…」

 

 

 アレはどうだ? 桃毛蟻とやりあった時に、リンドウさんの神機を何かにつないでたでしょ。

 

 

「リンクサポートか…。あれ、未だに何で動いたのかわからないんだよね。あれ以来、ブラッドサージを接続しても動かなくなっちゃったし。うん、まずはそれで行こうか」

 

 

 ま、とりあえず俺の実験が先ですな。ブラッドサージと俺の神機のメンテは終わってます?

 

 

「大丈夫だよ。今からでもミッションに出られるくらいさ……無断出撃はダメだよ」

 

 

 支部長黙認だから問題ないっす。

 さて、そんじゃ実験開始。俺の神機をプレデターフォームにして、ブラッドサージに軽く噛みつかせてみる。

 甘噛みだから傷は無い。神機が体の一部と化しているからこそ出来る芸当ですな。

 

 

 

 …って、おお?

 

 

 

 

べろんべろんびちゃびちゃぬるぬるじゅるるるクチャクチャズビズバにゅるにゅるにょろろ

 

 

 …俺の体の一部だって…制御できない時くらい、ある。具体的にはエロ関連の時。別に下半身の事に限定する訳じゃねーし。

 

 

「うわ……うわぁ…神機が神機を嘗め回してる…」

 

 

 そう、リッカさんの言った事がまるでそのまま。甘噛みさせるつもりで噛みつかせた神機は、歯こそ軽く当てる程度に噛みついただけだったが、やたら伸びる舌を伸ばして好き放題に嘗め回していた。

 それこそアイスクリームでも舐めてんのかと思うくらい…いや、俺の場合はアイスは噛みつくけども。

 どっちかと言うと犬が飼い主を嘗め回すくらいの勢いだな。ただし…。

 

 

「…あのさ、気のせいかもしれないんだけど、なんか舐め方がいやらしくない?」

 

 

 気のせいじゃないっす。犬は犬でもバター犬の舐め方っすな、しかも超絶訓練された。

 …この動かし方は……俺のヤり方がほぼそのまま、かな? 舌使いとか間の取り方とかが。やはりこいつも俺の一部らしい。

 と言う事は…無理にひっぺがそうとすると危険だな。ナニしてる最中の俺は色々とストッパーが降り切れてるから、本気で何するかわからんし。

 

 となると…。

 

 

 リッカさん、俺ちょっと意識失うかもしれないから。

 

 

「何する気?」

 

 

 経過はどうあれ、俺の神機とレンが接触してる訳だから、感応現象を使えば会話くらいは出来るんじゃないかと思って。……あと、レンにセクハラで訴えられたら、業務上の事故って事でフォローしてくれると嬉しい。

 

 

「私も女だから、それはちょっと聞けないな。どうしてもって事なら……うん、興味はあったし、研究にも使えそうだし。私の頼みを聞いてくれたらね」

 

 

 頼みの内容が気になるが、なんかブラッドサージがビクビクしてるみたいだから、ちょっと行ってくるわ。

 さて、上手くいくかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神戻月

 

 

 アリサのパンチで目が覚めました。神機まで女(?)好きとか、ドン引きですされた。

 流石にこれには弁論の余地もねぇよ…。

 

 えー、結論から言うと、感応現象は成功。俺が神機を握った途端、嘗め回していた舌は引っ込んで、逆に俺は気絶してしまったらしい。

 で、その一方で俺の意識はと言うと、レンと向かい合っていた。

 

 

 

 

 ピンクの触手で満たされた、巫女とか退魔師を不思議空間に取り込む凌辱系エロゲのような…いや、下手すると丸呑み系エロゲのような空間でな!

 ちなみにレンは触手に絡まれたりはしてなかった。残念。

 

 

 ただし巨乳になっていた。

 外見そのままで、巨乳になっていた。

 大事な事だから2回言ったぞ。

 

 

 

 目を見張っていたら、レンに全力パンチ叩き込まれたけどな! ものスゲー霊力が籠ったいいパンチだった。

 と言うかあの霊力、普通の霊力じゃない。俺が3年前に渡した力とも違う。まだ数える程しか発動させてないが、ブラッドレイジ発動時の霊力とよく似ていたような……。

 まぁ、その辺の考察は後にしてだな。

 

 

 まず第一に、俺の神機が超セクハラしやがった事について土下座しました。俺の神機って、言ってみりゃ右手みたいなもんだからね。ふと気が付いたら電車の中で、見知らぬ相手の乳揉んでました、なんて普通に警察沙汰だ。

 これについて色々言いたい事があったようだが、レンは妙に切羽詰まったような表情で、「その件は後回しにします」と言い切った。正直、死刑執行の猶予をもらったような感覚で、ありがたいのかありがたくないのか分からなかったが……。

 

 レンが言うには、3年前同様にまた霊力の補充が必要らしい。

 と言うのも、リンドウさんのアラガミ化は完全に止まった訳ではないらしく、未だに僅かながら進みつつあるらしい。現在はレンがそれを抑えている為、榊博士等も気付いていない。

 だがレンが限界を迎えれば、リンドウさんの右腕を元に、浸食が始まる。右腕を切り落としてもどうにもならない。

 

 アラガミ化を抑える血の力、霊力は俺から渡された分しかない。レンが自分で生み出す事もできない。

 どうにかして補充しなければならない…と思っていたところに、俺が戻ってきたらしい。

 はー、まぁご都合主義…いやある意味必然ではあるか。

 

 

 しかし、さっきのレンのパンチは霊力籠ってたぞ。アレは?

 …セクハラされた怒りのあまりに、妙な力を得てしまったらしい。少なくとも、自力であんな力を生み出せたのは初めてだそうだ。

 

 恐らくだが、神機単体でも霊力を生み出す事は可能だ。アラガミという生物である事には変わりないからな。

 だが、明確な意思も知性も無しに霊力を操る事は出来ない。そこまでやれるレンが特別なんだろうな。…それだけ、神機のセクハラが腹に据えかねたのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 まぁ、そういう事なら協力するのに吝かではない。今回はこれ以上のセクハラ無しで尽力しよう。握手くらいでも、霊力を渡す事は出来るぞ。効率悪いけど。

 

 しかし、そう告げるとレンは、どういう訳か逆に口ごもった。

 育ちに育った、風貌にマッチしてない爆乳…いや魔乳を抱え込むようにしてモジモジと体をくねらせて…「………逆です」と。

 

 

 …逆?

 

 

 

 「あなた達が…あなたとリンドウが悪いんですよ…。リンドウは、スキルインストールで僕を散々弄り回すし。知らない味を幾つも知ってしまったし、この胸だってスキルインストールで後付けされたものです」

 

 

 …スキルインストールって、神機の側から見るとそーいうもんなのか?

 

 

「どうでしょう。僕は明確に意識があるから、イメージが反映されてこうなったのかもしれません。この胸だけじゃなくて、背が伸びたり、声が変わったり、髪型が変わったり、口調が変わったり、ホクロができたり眼鏡がついたり、あとは…無くなったりもしましたか」

 

 

 …ああ、棒と玉がね。なんというカスタム彼女。

 

 

「…あの時は玉だけでした。それはともかく…酷いですよ。あの時みたいな、あんな感覚を教え込んでおいて…アラガミを斬ったり食べたりするより、ずっとずっと気持ちよかった。それを、今までずっと忘れたフリをしてきたんです。僕は、ただの神機ですから」

 

 

 ……う、ん? え? おい?

 

 

「リンドウが時々くれる、初恋ジュースで満足してたのに…してたと思い込んでたのに。あんな風に舐めまわされて、思い出しちゃって…僕の空間までこんな、いやらしいモノだらけにされちゃって、我慢できる筈ないじゃないですか!」

 

 

 

 お、おおおおお!?

 レンが! なんかレンがブラッドレイジっぽく光り輝いて! でもなんかラブホのベッドを照らすピンクのような光だ!

 

 超スピードで間合いを詰めら…いやこの程度ならまだっ、足がとられたぁ!?

 

 

「ふふふふ、逃げようとしても無駄ですよ。この触手だらけの空間は、あなたの神機から注ぎ込まれた力の具現です。ですが、この場所事態は僕のプライベートスペースのようなもの。僕の空間の中にあるなら、僕の支配下に置くことだってできるんです。さぁ、僕に悦楽という感覚を教え込んでおきながら、完全放置していた罪、償ってもらいます! ええ、勿論あなたの血の力だっていただきますよ! これは罰と実益を兼ねた行為ですから!」

 

 

 

 触手が! 触手が絡みついてくるんですが!?

 普通にスルだけならそれは必要ねーだろが! 逃げずに付き合うから、服の下に潜り込ませてくんな!

 やめ、ヤメロォ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ちょっと掘られそうになったけど、逆転しました。場所がレンのプライベートスペースだからって、霊力の扱いにかけてもエロにかけても年季が違うわ。逆に触手を乗っ取って、男の夢を叶えてやりましたとも。いい塩梅に、レンの体はムチムチ状態だったし。

 …触手はナイスバディに…いや、ロリはロリで背徳感があるんだけども…。

 

 

 

 で、レンが完全屈服した辺りで、アリサのパンチで目が覚めましたとさ。どうやら感応現象を起こして、俺が見ている夢の中を覗き見したらしい。

 ちなみにブラッドサージは色々活発化している状態…多分、ブラッドレイジ状態…だから、リッカさんがデータを取っているそうな。

 

 

 

神戻月

 

 

 予想外。リンドウさんが、ブラッドアーツを会得しました。更に、まだ実用化はできていないが、ブラッドレイジさえ可能になるかもしれない。

 …マジ?

 

 原因はどう考えても、昨日のレンとのアレだよな。霊力を過剰なくらいに詰め込んでやったからなー。ブラッドサージを手に取ったリンドウさんに、その分の霊力が逆流して、血の力…とまでは行かなくても霊的な力に目覚める切っ掛けになったんだろう。

 幸いな事に、レンはリンドウさんには何も伝えていないっぽい。と言うか、霊力の量や圧力がレン>越えられない壁>リンドウさん状態なもんで、感応現象も全然起こせない状態になっているらしい。

 …レンのあの様子なら、仮に直接聞かれたとしても余計な事は言わないと思うが……リンドウさんからの疑惑の視線が痛い。

 

 

 その辺を上手くフォローしてくれたのは、リッカさんだった。俺の神機がブラッドサージをベロンチョズビズバした事実は完璧に隠蔽。

 神機のプレデターフォーム同志を接触させて感応現象を起こしたものの、それ以外には何もしてないと証言してくれた。実際、リアルにはそう見えただろうけども。

 

 で、フォローしてもらったからには、リッカさんの頼みも聞かねばなるまい。

 

 

 

 

 

 

 「血の力ってやつを理解したいから、私に注いで。エッチでいいから」と言われて、「そーいや感応現象内での触手の感覚を覚えたから、アリサやロリサ相手に使えるかな」と思考がバグってしまいました。

 

 

 

 

 なしてそうなったのん? 何? アリサにはもう話を取り付けてある? ナニその超展開。

 …と思ったが、どうやら今まで水面下で色々話が進んでいたらしく、実際にはそんなに急な話ではなかったらしい。リッカさん側にとっては。俺にとっては晴天のアオカンだよ! …セイヘキだよ! …もといセキヘキだよ! …ヘキレキか。

 一見、技術者一筋で色気より神機に見えるリッカさんだが、実際はさにあらず。ロマンチックなラブコメ…にはあまり興味が惹かれなくても、行為そのものには興味があるし、性欲だってある。どっかにいい人居ないかなー、とぼんやり考える程度だが。

 最近では、「機械弄りを辞めるつもりなんかないけど、このままだとオイル漬けの灰色の青春になりそうだなぁ」などと、心配も出てきたらしい。…3年前は、そんな風に考えてる様子は見られなかったが。

 

 で、リッカさんの近くにいる男性と言えば、同類の性欲<機械な人々が多く、ゴッドイーターの男性はイマイチピンと来なかったり、性格的にカッ飛んでいる人ばかり…リッカさんも大概だけど。

 ついでに言えば、リッカさんも機械弄りの方が優先なタイプなので、男女付き合いで時間を取られるような事はあまりしたくない。適当な相手に声をかけて体験しようにも、自分にだってプライドはあるし、何より文字通り下手な相手に当たると嫌な思い出しかできそうにない。

 

 そこで白羽の矢が立ったのが俺である。俺が居なくてもリッカさんなら、希望通りの相手を見つけるのもそう難しくはなさそうだけど、本人評価ってそーいうもんだしな…。

 とにかく、ちゃんと付き合っている(ちゃんと…?)相手が居て、しかも二人を相手にしてケンカもさせずに乗りこなし、3年間放置しても見放されてない。個人的にも神機の使い手としての興味の方が強いが、好意的ではある。

 更には、アリサにちょっと悪い噂が……女性を見る目が少し妖しいという噂があった為、上手くやれば公認で認められるのではないか、と思ったそうな。この噂に関しては事実っぽいけど、目が妖しいとかはレアとベタベタしていた事からくる誤解が主な原因だと思う。

 

 まーとにかく、リッカさん的に俺は後腐れがなさそうな都合のいい男で、なおかつ血の力を理解する為にもなる、一石二鳥の相手だったらしい。

 

 

 

 …うん? ちょっと待て、血の力をエロで与える事が出来る、なんて一言も言ってないし、やってもないぞ?

 …ああうん、ウス=ヰ本のお約束だからって言われたら納得するしかねーよ。実際、注ぐだけならやってるし。それで血の力に目覚めたりはしないけど。

 

 

 いやそれよりも、だ。何だこの展開。リッカさんがそれで納得できるのかとか、そーいう事はこの際考えないとしても、話が何やら強引すぎませんかねぇ?

 メタ的と言うかループの経験的に言えば、やたらと関係を持つ相手を増やしていくのは色々な意味で死亡フラグだ。人間関係が拗れる兆しという事もあるし。

 

 

 

 

 まぁ、だからってNOと言う筈もないのですが。

 

 

 しかしリッカさん、君には色々と誤算があるよ? 確かに一度関係を持ったからと言って、リッカさんを束縛するつもりはないが……どハマりするのは俺の責任じゃないからね。俺の行為が原因だとしても、ヤってみたいって言いだしたのはリッカさんだし。

 

 




現在のレンのイメージは、AAで言えば魔乳ささきーです。


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186話

…………え? こち亀が…終了…だと?



そうか、ついに来てしまったか…。ずっと続くように錯覚さえしていた…。
うぅむ、最近某ガンパレSSが連続更新されていたので嬉しかったのですが、反面こんな所に…。
最近妙にツイていないのですが、それに巻き込んでしまったのかと本気で悩む…。


神戻月

 

 

 リッカさんの初体験は4Pとなりました。アリサが物凄いいい笑顔で口車を回しまくっていた。

 羞恥心云々もそうだけど、一人だけちっちゃいのを気にしてたな…いや何処とは言わんけど。その分、感度はバツ牛ン!だった。…牛ならもっとデカいか。

 

 …と言うか、リッカさんって多感症の毛があるっぽい。汗じゃなくて感。

 『自習』もあんまりした事ないらしいのに、性感が発達してるのなんのって。初めてで緊張したり、アリサとレアがサポートしていた事を差し引いても敏感すぎる。

 ちなみに自覚はなかったらしい。

 感度がいいから弄っていて実に楽しかったが、逆に戸惑ったのも事実だな。フェザータッチだけで失神一歩手前になってたし、意識を保たせるのは大変だった。…突っ込んでからは、腰をぶつける衝撃を気付け代わりにしたけどね。

 

 最初の一発が終わるまでに、何度イッてたかな…。潮吹いてたのは覚えてるんだけど。

 そんなんだから、一回終わったらもう完全にグロッキー状態だった。整備士にしてはタフで体力があるって言っても、どっちかと言うと気力の人だしね。

 

 で、そのまま朦朧としているリッカさんの前で、見せつけるように今度はアリサ&レアを貪りまくった。

 途中からガン見しつつ、自分で弄ってたよ。…そうか、ああいう手付きで普段は『自習』してる訳ね。アレが好みの触り方らしいから、覚えておこう。

 

 

 

 

 そんな訳で、少女から女になったリッカさんですが、相変わらず機械弄りが最優先です。

 …ドハマりさせてしまおうと目論んでいたんだが、失敗したかなぁ…。一生忘れられない初体験になった…と言ってたんだけど、あまりに気持ち良すぎて怖くなったらしい。

 色々な意味で忘れられないから、我慢できなくなったらまたお願い…だそうな。…なんちゅーか俺、肉の玩具的な扱いね。まぁ、そういう関係になるってそもそも承諾してたんだけど。

 それくらいの距離にしないと、本気でドハマりすると思ったのかもしれない。

 

 

 …こう書くと、普通に自意識過剰に思えてくるが…ま、いいか。

 

 しかし、俺もまだまだ未熟である。普通とはちょっと違うくらいの感度だったとはいえ、堕とし損ねたし…。多感症で加減が分からなかったというのもあるけど、それは言い訳だな。精進あるのみ。

 

 

 

 

 

 

 リッカさんとのナニは機会を待つとして、黒蛛病の話だ。

 赤い雨が降らなければ実際の治療はできないが、前回得られたデータを元に、榊博士達が研究中である。俺が色々と、本来ならまだ判明してない筈の情報を口に出したからかもしれないが、大分解明が進んでいるようだ。

 黒蛛病とは、赤い雨とは、一体何なのか、どういう原理で起きているのか。ゲームでは『特異点を探そうとする地球の意思』と説明されてはいたが、それ以上の情報はなかった。

 

 で、色々と推論が出たんで、榊博士が教えてくれたんだが…。

 

 

「黒蛛病を治せるのは、現時点では恐らく君だけだ。ブラッド隊に、君が用いている能力が発現したとしても、恐らくはできないだろう」

 

 

 うん? 何でよ? 確かに浄化させるような力の使い方は教えてないけど、あれは純粋な技術なんだが。

 難しいが、同じように浄化の術を使えば…。

 

 

「いいや、そもそも黒蛛病の模様を移動させる事すらできないだろうね。君はモドキとは言え、特異点だ。それを忘れてないかい?」

 

 

 忘れるというか、もう意識してませんでしたが…特異点が何か?

 

 

「赤い雨の中に籠められたエネルギーは、地球が特異点…その候補を探す為の力だ。当然、資質がある者にこそ強く反応する。その点、君は間違いなく極上の素質を持っていると言えるだろう。モドキとは言え、実際に特異点としての働きを無し、ノヴァとさえ繋がっていたのだから」

 

 

 …言われてみると…確かに?

 

 

「その強い素質があるからこそ、患者の中に宿っているエネルギーは君の誘導に従い、君の体に移るんだ。だが、ブラッド隊の皆にそれ程の素質があるかは…未知数だね」

 

 

 (それなら、ジュリウスにだったら出来るんじゃないかな。特異点候補だし)

 ブラッド隊の素質がわからないのに、不可能と考える理由は?

 

 

「素質があれば、黒蛛病を移動させる事は出来るかもしれない。だが、恐らく体内に取り込んだ力の浄化ができないんだ」

 

 

 そこが分からない。俺が浄化してるのは、珍しくはあるけど単なる技術で…。

 

 

「まず大前提として、『君は黒蛛病にかかっているのではない』事を理解してくれ。いいかい? かかってないんだ。『一度発病して、それを自力ですぐに治した』のではなく、そもそもかかっていないんだ」

 

 

 そう…なのか? でも蜘蛛の模様は俺に来たぞ。

 

 

「蜘蛛の模様が発生するのが黒蛛病の症例ではない。その模様はあくまで結果、副産物にすぎない。黒蛛病の病状とは、体の中に入り込んだ力が、母体を特異点に変えてしまおうとする働きだ。適正が無い者はそれに耐える事が出来ずに息絶える。そう、黒蛛病に感染するには、力が体内に入り込む必要があるんだ。だが、君の場合はそうなってない。これは観測結果から導き出された回答だが、君の体に移った蜘蛛の模様…黒蛛病の力は、君の体の表面を這い回っていたにすぎない。体内に侵入する事もできず、特異点として君を変質させる事もできない。尤も、その理由が何らかの耐性によるものなのか、特異点モドキだからなのかは分からないがね」

 

 

 

 元々特異点だから、特異点に変えようとする力が無効化されるって事か。

 確かに、言われてみればあの時は体の奥深くまで力が入ってくる感じはなかった。妙な気だるさはあったが、どちらかと言うと手足に鉄球でも繋がれたような感覚だったっけ。

 

 

「恐らくは、君が特異点モドキだから…だろうね。黒蛛病の模様は、地球から特異点を探そう…いや、作り上げようとするエネルギーが送り込まれる目印だ。君の血の力が人並み外れて強いとして、地球からのエネルギーを弾ける程だと思うかい? そうだね、ダムに例えるとわかりやすいかもしれない。ダムの中の水が、特異点を作ろうとするエネルギー。ダムに空いた穴が黒蛛病の模様。穴から出た水が注ぎこまれる先が人体だ」

 

 

 どう考えても、吹き出た水を受け止められる気がしませんな。ついでに言えば、無理に受け止めようとすれば器が壊れ…ああ、それが黒蛛病で苦しんでいる人達なのか。

 

 

「そういう事だね。相応の素質があるか、或いは君のように最初から特異点としての性質を持っていれば、器は壊れずに済むだろうけども。そうだね、この場合の素質と言うのは、『器の底に綺麗な穴が開くこと』としておこうか。そういう構造になっていなければ、器は穴では済まずに木っ端微塵だ。そして、君が自分に感染させた黒蛛病を治療しているように見えるのは、器の中に残った水滴を外に振り出しているにすぎない。対して、他人の黒蛛病を治しているのは、ダムの出口を別の場所に変えている。全く別の行為である事は理解してくれたかな?」

 

 

 実際にやるのはどっちが楽か、って比較も意味がないって事も含めてね。

 詰まる所、俺と同じような能力を持っていたとしても、特異点としての性質を持っていなければ、癒し手が黒蛛病に感染してダス・エンデって事ね。特異点候補ではなく、特異点としての性質がなければ。

 

 

「ベネ、ディモールトベネ。尤も、これは現段階ではの話だ。特異点でなくても、治療ができる方法に心当たりはある。まだ心当たりの段階だがね。…そして、治療ができない相手もいるかもしれないという事も」

 

 

 特異点候補は、俺のやり方では治療できない? 見つけた特異点に、地球が特に意思を注ぐから?

 

 

「その通り。とは言え、推測で話すのはこの辺りまでにしておこうか。絶対数が非常に少ない特異点候補より、先に一般人を治療する方が先だろう。大の為に小を殺すロジックを私は認めないが、何事も段階というものがある」

 

 

 確かに、特異点候補なんぞ世界中探しても片手で数えられそうなくらいしか居ないだろうな。

 そいつらが都合よく…いや都合悪く、黒蛛病に感染するかも分からないし。

 

 

「君がそう言うという事は、少なくとも2人以上…いや君を含めれば3人以上は特異点候補が居て、恐らく近いうちに感染すると言う事だね?」

 

 

 なんでやねん…どうでもいいけど、榊博士って関西弁似合いそう。

 

 

「否定はしないんだね。あと方言で話すのは拒否させてもらうよ。さて、そうなるといよいよ黒蛛病の治療法を確立しなければいけないね。特異点が完成してしまったら、再び…いや三度終末捕食の危機が訪れる」

 

 

 特異点候補を始末するって方法はとりたくないしな。俺も、もうちょっとやり方を考えてみるか…。

 

 

 

神戻月

 

 

 葦原ユノ…本人からユノと呼んでいいと言われた…にまた会った。しかも今回は、あっちから俺に会いに来た。

 何ぞやったっけ? と思ったら、黒蛛病治療の事についてだった。仲の良かった人達が何人か完治した事のお礼とか、今後はどうするのかとか…。

 今回治せなかった人も、なるべく早く、沢山助けてほしいと念押しされました。

 ただ、どうやったって現状じゃ手が足りないのも理解しているようだ。だって治せるの、現状じゃ俺一人だし。

 

 付き人の高峰さんも、黒蛛病の治療については珍しく素直に褒めていた。代わりに、ブラッド隊に対してえらく怒っていたが…それは筋違いだなぁ。

 高峰さんは黒蛛病治療法を、ブラッドが使っている血の力だと思っていたようだ。実際俺もそうだったし、それに近い力を使っているのも事実だが。

 だから、極東を離れて何処かに行ってしまったのを見て、黒蛛病患者を見捨てたのだと思ったらしい。血の力の有用さを認めざるを得ず、この為にフライアのような…高峰さん曰くの『無駄遣い』…を作っていたのなら、と納得した矢先の話だったから、好感度が一気に降下したようだ。

 …ああ、確かにそう見えるか。

 実際にはブラッド隊の行動を決めているのは、ラケルてんてーとグレム局長で、立場的には単なる兵隊であるジュリウス達に決定権はないんだが。

 

 そもそも、この前の研究で、現状では俺以外に治療は不可能と結論が出たし。ブラッド隊が俺と同じ力を持っても、体質の問題で治療は出来ないんだよ。

 …だったらやっぱりフライアは無駄遣い、ね。

 ま、好きなように言えばいいさ。俺だって何のために作ったのかイマイチよくわかってないし、個人の好悪の感情にまで首を突っ込む気はないし。

 

 

 それはそれとして、彼女達は今後どうするのか聞いてみた。

 世界的な歌姫扱いされている彼女達だが、立場的には一人のアイドル・歌手以上のものではない。仕事をしなけりゃ飯も食っていけないし、何よりアイドル業界はミズモノだ。暫く活動してなかったら、それだけで新たに台頭した新人にとって代わられる。

 黒蛛病の軽減という付加価値を考えれば、そうそう忘れ去れる事もないと思うが…。

 

 結論から言えば、このまま各地を巡って歌を歌い続けるそうだ。当然、黒蛛病患者が多い場所を重点的に巡る。人気取りと言われる事もありそうだが、人を助ける為であり、同時に彼女達の地位も確立できる、結構強かな方針だと思う。

 ただ、ユノが自分の限界を弁えられるかが心配だな。目の前で苦しんでいる人が居たら、喉が限界でもそれを推して歌ってしまいそうだ。で、そのまま喉を壊して、黒蛛病の進行を遅らせる事もできなくなり、歌手からも引退…。

 

 …不吉な事を言わないでください、とチョップを食らいました。まぁ、最悪の事態を想定してっからね。

 しかも、割とありそうな事態を。…その辺どうよ、高峰さん? 友人ではなくマネージャーとしての意見をどうぞ。

 

 

 …不服そうな顔をしているが、大いに有り得るとの返答。抗議しようとするユノを、「だから、私が無理だと判断したら絶対に歌わないようにね?」と釘を刺そうとした…が、「でもやっぱり私は歌うと思う」と返すユノ。…やっぱ、喉潰れるんじゃね? 栄養が過剰なくらいにタップリのハチミツ(MH世界産)やるから、これで喉を労われよ…。

 

 

 

神戻月

 

 レアから相談があった。

 ラケルてんてーについてだ。色んな意味で複雑な関係だが、それでも…いやだからこそか、気になるものは気になるようだ。

 

 極東からブラッド共々フライアで旅立っていったラケルてんてーだが、気になってレアが個人的に行方を追った所、赤い雨が降った後の場所を辿るように移動しているらしい。

 それは別に隠されている事でもなく…と言うか、黒蛛病患者を片っ端から収容しているのだそうだ。収容にはブラッド隊も力を貸しているらしい。流石に本人が拒否した場合は無理に連れ込むような事はしないが、わかっているだけでも、フライアには20人以上の黒蛛病患者が乗っている事になる。

 

 

 …何が狙いだ?

 ラケルてんてーにとって、黒蛛病が重要なのはわかる。特異点を作り上げる為の、最も重要なステップ、スイッチだと言っていいだろう。しかし、それはジュリウスに感染しなければ意味がない。

 有象無象…と言うと悪く聞こえるが、特異点足りえない患者をいくら掻き集めても、全く意味は無い筈だ。…放っておけば死ぬだけだし。

 いや、そう言えば黒蛛病患者は、ゲームでは妙な機械に繋がれてたな。…そうだ、無人神機兵を作り出すのに必要だったような…。

 でもクジョウ博士は未だ失脚してないし、何より今の状況でそんな真似をすれば、ブラッド隊が必ず反発する。少なくとも、ロミオなら有事の際に俺か極東に連絡を入れるくらいやるだろう。

 

 

 神機兵の材料にしては時期が早すぎる。布石…? 何が狙いだ?

 

 そもそも、黒蛛病の人達は何故フライアに乗ったんだろう? 感染病になっているとはいえ、その地には家族だっていた人も居るだろうし、意味もなくその場所を離れるとは思えない。ジュリウスがいきなり「一緒に来てくれ」なんて言っても、さすがに信用はされないと思う。

 患者達を無理に収容している訳ではない。自分から乗っているという事は、フライア側から何らかのメリットがある提案をしたんだろうが……黒蛛病患者が受けるようなメリットか…。

 

 同病者が多くいる? 既に感染している人となら、接触に気を付ける必要もない?

 でもそれって隔離病棟に入ってくれって言ってるようなものだ。そうするべきかどうかはともかくとして、皆が素直に受け入れるとも思えん。

 

 移動要塞なら、赤い雨から逃げられる? …さすがにフライアでもそこまでの速度は出せない。ラケルてんてーが詐欺して受け入れようとしても、やっぱりジュリウスがそれをするとは思えない。

 

 何か他に………と考えていると、レア共々支部長から呼び出しを受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ナルホド、解決。いや狙いが分かっただけで、解決したんじゃないが。

 

 支部長に呼び出された俺達は、新聞を見せられた。発行元は、フェンリルの息がかかっている新聞社だが、ズブズブの関係という訳ではない…有体に言ってしまえば、あちこちからの支援で成り立ち、同様にあちこちからの圧力を受ける、それなりの大きさの新聞社だ。

 当然、ラケルてんてーの一派の影響も受けている。

 

 その新聞には、こう書かれていた。「黒蛛病の治療法を発見。極東で完治した例が多数」と。当然、俺達が漏らした訳じゃない。

 黒蛛病完治の事は極東でもトップシークレットだし、患者にも他言しないよう言い含めてある。

 ……つまりは、ラケルてんてーがリークしたって事だろう。新聞に証言者として出ている写真(目線隠し付)の人間にも見覚えはない…ガセネタか。ただし証拠が捏造なだけで事実を書いてはいる。

 

 ラケルてんてーがこれをやったという事は…そんで、黒蛛病患者を集めているという事は?

 

 

「当然、彼女は患者達を極東に連れてくるつもりだ。我々にも、病棟の増設要請が寄せられている。色々な意味で厳しいが、突っぱねる訳にもいかん」

 

 

 やっぱりか。しかし、何でそんな事を。

 

 

「君をここに釘付けにする為なのが一つ。我々に対する、何らかの牽制、あるいは布石なのが一つ。それから、このニュースを見たまえ」

 

 

 …速報?

 ………黒蛛病患者を収容中、警備の無人神機兵が故障…対応に向かったジュリウスがアラガミに襲われた…?

 (クジョウ博士、結局ダメだったか…)

 

 

「先ほど流れた情報によると、襲ってきたのは巨大な四足歩行のアラガミだ。強烈な光線を放ち、長く太い首の先端に人を連想させるような顔があった」

 

 

 そりゃまた…懐かしいな。極東に来る時、レアと俺を襲って以来か。

 …って、レア、しっかりしろ!

 

 へたりこんだレアは、すぐにわかる程顔色が悪くなっている。…無理もないか。色々な事をやらされてきたが、父親を暗殺してしまった罪の象徴みたいなもんだからな。

 大丈夫、大丈夫だから。知ってるから。嫌いになんかならないから、安心してくれ。震えるレアを落ち着かせる事暫し。

 

 

 しかし、このタイミングでアレを繰り出してきたって事は、ラケルてんてーはジュリウスまで切り捨てようとしたって事なのか…?

 

 

「逆…だろうな。彼女がジュリウスを切り捨てるなら、アラガミに襲わせるよりもブラッド隊長としての立場を奪ってしまえばいい。それをせず、自分の名声にも傷がつく行為を行ってまで何か策謀を仕掛けたのだとしたら、すでに目的を達成しているかもしれん」

 

 

 襲われた黒蛛病患者に死傷者多数、か…。ジュリウスの事だから、思い詰めるだろうな。他のブラッド隊員もだけど、ジュリウスは特に。

 救えなかった命の事もそうだが、次世代の共同体として注目を集めていた自分達が失敗する事で、ラケルてんてーの評判にも関わるし。

 

 

 

 

 …それが狙いか? ジュリウスを使った何かの計画があったとして、それを次段階に進める為に、ジュリウスに罪の意識を植え付けようとした?

 

 

「…君がそう思うなら、それが正解に近いのだろうな」

 

 

 なんか意味深な言い方っすね、支部長。榊博士みたいですよ。

 

 

「………その言われ様も、もう慣れたな…」

 

「それを目の前で言われる私の身にもなってほしいね」

 

 

 …ちょっと傷ついた様子だった。この程度でこの二人が傷つくなんて、不思議な事もあるものである。

 とりあえず、レアは受け入れ病棟建設の責任者になった。

 

 

 



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187話

神戻月

 

 隔離病棟はまだ完成していないが、フライアが戻ってきた。

 割と大仰に出発して行った割には、一週間程度の別れだった。シエルは喜んでたけど。

 

 黒蛛病患者が複数居る訳だが、その受け入れ先で揉めているらしい。連れてくるなら来るで、病棟が完成してからにしろ、と。

 対するフライア側…ラケルてんてーの言い分は、黒蛛病患者の病状が思っていた以上に酷く、早く治療しなければ間に合わない可能性が高いのだそうだ。

 と言う訳で、黒蛛病患者を治す方法が唯一ある極東に、患者達を押し付けて、フライアはブラッドさえ置いて、また旅立って行ってしまった。黒蛛病患者を集めてまた来ます、だそうな。来るなと言いたいが、実際に言ったら患者を見捨てるのかと言われるから何も言えん。

 

 

 そうは言っても、現状では赤い雨が降らなければ治療できない訳で。だったら早く研究してどうにかしろと言われても、ブレイクスルーなんてそうそう出来るもんじゃない。榊博士は、何やら考えがあるみたいな事を言ってたけど。

 

 とりあえず、隔離病棟建設の予定より早く、しかも事前連絡も無しに戻ってきたフライアにも非はある…と言う事で、ここ最近のブラッドと俺は、病棟作りの手伝いをしています。

 俺とロミオは、簡単なテントや小屋なら一人で作り出せるんだけど、病棟はなぁ…。しかも結構な人数を収容する為の大規模なものであり、弱った体に負担をかけないような、熱すぎず寒すぎない家屋。しかも建築法に違反してないもの、なんてそうそう作れやしない。

 …そもそも建築を手伝う事自体、ルール的には割とギリギリらしいが。

 

 

 ダボダボズボンの荒っぽい大工さん(ゲームでも登場していた気がする)の指示に従って、ゴッドイーター複数名が動き回る。その大工さんは、何やら複雑な顔してたけどね。

 まぁ、ゲームでもフェンリルに対して色々反目というか不満を持ってた人だしな。今回ループでは、物資とかがかなり増えてるから、ゲーム程には不満はないようだが…それでも、病人受け入れてる暇があったら、他の事をしろ…という思いはあるんだろう。

 それでいて、病棟以外の仕事もゴッドイーターが手伝ってるから、助かるやら自分の領域を侵されたようで苛立つやら…か。

 

 

 まぁそれは置いといて、この作業にジュリウスだけは参加していない。別にお高く留まっている訳ではない。地位的な意味で言えば高くて、直接的な労働ではなく、資材の融通の為に色々掛け合っている。労働力でこそないが、管理者としての重要な仕事と言えるだろう。

 

 

 

 

 …と、いう事になっている。

 

 実際はもうちょっと厄介な話だった。先日、フライアが戻ってきた時、ジュリウスがこっそりと俺を訪ねてきた。色気のある話であってたまるかい。

 むしろ、ちょっと暗い顔してはいたけど。…やっぱアレかな、先日の患者防衛戦の失敗で、死傷者が出たのを気にしているんだろうか?

 

 …いやもう本当に厄介だったよ。いっそウホッな話された方が、蹴っ飛ばして「ロミオの方に行け、名前の元ネタ的に」で終わる分簡単だったくらいに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジュリウスが黒蛛病に感染していました。

 

 

 

 

 …おい、おい。よりにもよってお前か。何でそうなった。

 

 話をよくよく聞いてみると、結論は一つだった。つまりはラケルてんてーの陰謀。

 どこから何処までが仕込みで計算通りかは分からないが、ジュリウスから聞いた話を元に推測すると、以下のようになる。

 

 

 

①黒蛛病治療が可能だと判明した俺を、極東に置き去りにする。

 

②黒蛛病治療の為と銘打ち、患者を集めて回る。赤い雨に濡れて発症した人間を集める為、赤い雨の後を追う。

 

③赤い雨からの避難が間に合わなかった人達を助ける為、レインコートを着て作業。

 

④そこへラケルてんてーが仕込んでおいた、『お人形』の襲撃。

 

⑤何とか撃退するも、ジュリウス負傷、赤い雨に濡れて感染。

 

 

 

 ジュリウスの負傷も、患者達の救出ミッションが一部失敗して批判を受けた事も、ラケルてんてーにしてみれば安いものだったんだろう。

 

 …で、ここで極東に戻ってくる意味が分からないな。ジュリウスが感染したのは、ラケルてんてーにとっては計算通りだろう。今回が無理でも、機会は幾らでもあっただろうし。

 いや、ジュリウス的に戻ってくる理由があるのは分かるよ? 感染したなら、治療したいと思うのは当たり前だ。しかもその手段が身内…とまでは言わなくても、顔見知りに居る。

 ラケルてんてーも、流石にそれを止めるような屁理屈は出せないだろう。他にも治療を待っている人が居る、とかそういう事なら言えると思うが。

 

 …戻るのを止められなかった? 或いは……戻っても構わなかった?

 

 

 

 わからん。何れにせよ、本格的にラケルてんてーが活動し始めた事と、とにかくジュリウスを治さなければいけない事に変わりはない。

 が、赤い雨がなきゃ治せないんだよなぁ…。フライア使って、赤い雨が降りそうな場所に行くか、あるいは都合よく雨が降るのを待つか。可能性や確実性で言えば前者なのだが、俺は極東を離れられない。まだ治療を待つ黒蛛病患者が居るし、治療法も研究中だ。そもそも、フライアはラケルてんてーと一般職員だけ乗せて、どっか行ってしまってるし。

 

 …まぁ、大抵の所からは数瞬で行き来できる手段がある訳ですが。アラガミダッシュだけでも車より早いし、最終奥義・電脳空間ダイブだってある。使うべきか否か…。いや、俺以外の人間を連れてダイブなんて出来るのか? …ネズミでも使って実験してみようかな。でも混ざってハエ男みたいになったら…いやそれよりも、某宝探し的能力を持っている妖怪から連想する、あのヤバい国みたいになったら…? …やるにしても、ネズミは止めよう。

 

 

 

 

 差し当たり、榊博士が考案した、赤い雨が無くても治療できるという方法を試してみる。…が、失敗。

 博士も構想段階だったので、上手くいくとは思っていなかったようだ。それでもデータは取ってたが。

 

 となると、やっぱり赤い雨か。

 ブラッド隊長という立場にいる訳だし、いつまでも他人との接触を断っていられる筈がない。今は書類仕事やら何やらの為に、だれにも感染させずに済んでいるが…戦いに出れば、そんなにスムーズにいく筈もなかった。

 贔屓と言われようと、なんとかせにゃあな…。

 

 

 

 

神戻月

 

 黒蛛病の事だが、ジュリウスから「俺が自力で治療は出来ないのか? ブラッドが患者を治せるようになればいいんだが」と聞かれた。まぁ…無理だろうな。

 細かい説明は榊博士に任せておいたけど、現在の治療法は俺の特異体質(と言う事にしている)によるものだ。

 特異点候補であろうと、ジュリウスじゃできない……もっと特異点化が進めば、話は別かもしれないが…それだと猶更自分を治せなくなるだろう。

 

 他に手があるとすれば…シオか? でもシオに血の力…は、どうだろ、会得できるかな。前ループではエロゲ的な方法で覚えたけど、それやったらソーマが、下手すると子の嫁と言うか旦那に手を出された支部長が、更には何故かサクヤさんの事に気づいたリンドウさんが徒党を組んで抹殺しに来る気がする。だからと言って、シオに瞑想やら何やらは期待できない。

 覚えるとしても気長に待つ必要が…でもシオはあれで頭いいしな…ソーマの為だって吹き込んでおけば、なんか覚えてくれそうな気もする。

 

 よし、ものは試しだ。黒蛛病治療はともかく、血の力の覚醒までなら、ダメでも特にデメリットはない。ちょっと連絡して…なんすか、支部長?

 

 

 

 

 

 

 …孫ができるまで待ってほしい?

 

 

 

 「君のおかげで、大分ステップアップできたようだよ」って…ああ、上手くやったのね、シオ。アドバイスした甲斐があった。

 まぁ、妊婦(ロリ)に修行やら訓練やらしろなんて言えんしな。ただでさえ、特異点とはいえアラガミと人間(ちょっとアラガミ混じってる)のハーフとか、どんな問題が出るか分かったもんじゃないんだし。

 どっちにしろ、シオが霊力の使い方を身に着けるまで、ジュリウスの黒蛛病が保つとは思えん。

 

 やはり、赤い雨を待つしかないか…。それまでは、ジュリウスは別の作業に手を取られて出撃できないと言う事になった。副隊長のロミオが皆を纏めているが、多分あいつなら大丈夫だろう。コウタと仲良くなって、色々協力し合ってるみたいだし。

 

 

 

神戻月

 

 大人しく赤い雨を待っている訳にはいかなくなったようだ。ジュリウスの特異点進行が、異様に早い。

 そういや、ゲームでもそうだったっけ? ジュリウスはラケルてんてーサイドに行ってたから分からんが、ユノの進行が早いって話があったような。

 

 

 放っておくのは論外。このまま進めば、例えラケルてんてーの介入がなかったとしても、ジュリウスは死んでしまう。

 先日考えたように、ジュリウスを連れてダイヴ・インで赤い雨近辺に移動するのも無理だった。適当に捕まえた野良犬で試してみたんだが、どうやら俺以外の何かを連れてダイヴ・インしようとしても、そもそも発動しないようだ。それにしては、俺が持ってる私物とかは一緒に入って行ってるんだが…線引きがイマイチ分からん。

 何度か試してみたが、鬼祓いをスキルでより強力にしても治療は出来なかった。

 

 そこで、榊博士が一案を持ってきた。先日から「考えはある」と言ってたんで、それを実験する為に、何やら手を回していたようだ。

 ジュリウスと一緒に呼び出され、見せつけられたのは、デカいタンク。少なくとも、一辺の長さが人間一人分以上の大きさがあり、中からは水音がしている。…で、微弱ながら霊力を感じる。

 ジュリウスはジュリウスで、タンクに対して何となく嫌な感覚を感じていたようだ。…単に榊博士の実験に突き合わされるのが危険だったからかもしれないが。

 

 警戒心を露わにする俺達を他所に、いつも通りに極めて胡散臭い榊博士曰く。

 

 

「現状、赤い雨が降っていなければ治療はできない。なら、赤い雨を疑似的にでも降らせてみればいいじゃないか」

 

 

 ……つまり、何か? そのタンクの中身は…。

 

 

「別の区域で赤い雨が降りそうだったんで、タンク一杯に貯めてもらったんだ。尤も、降ってきた水がカギになっているのか、もっと別の何かがカギになっているのか分からなかったから、実験以上のものではないがね」

 

 

 ナルホド…単純な考えだけど、この発想はなかったわ。タンクの中にも霊力は残っているようだし、案外うまく行くかもしれない。

 

 

「しかし、具体的にどうするつもりですか? 赤い雨が近くにあれば、黒蛛病患者は苦痛を訴える筈です。ですが、俺は…どうにも嫌な感覚はありますが、痛みはありません」

 

「その嫌な感覚が、黒蛛病の症例かもしれないじゃないか。とは言え、確かにこれが近くを通る時、黒蛛病患者で反応した者はいなかったけどね」

 

 

 まぁ、それこそ量の問題って可能性はあるよな。デカいタンクだって言っても、雨の総量に比べれば、文字通りダムの中の水滴一粒みたいなもんだし。

 …で、ジュリウスで実験しようっての?

 

 

「どんなに完璧な理論を打ち立てたとしても、被験者は必要だよ。嫌な言い方になるが、既に感染しているジュリウス君は、これ以上悪化はしないだろうからね。病状が進行するかもしれないけど」

 

「…元より、このままでは死を待つ身。この命を公共の為に捧げる事に異論はありません…が、捨て石になるつもりもない。もう一度聞きます。どのようにして実験を行うつもりですか」

 

「捨て石とは結構な言い方だね。あながち、否定できないのも苦しいが。そんなに警戒しなくてもいいさ。まずは、この水の近くで治療を行い、反応を見る。次は水に触れながらだ。それでも無理なら、今度は部屋を一つ使って、雨のように水を降らせてみる。飲んだり注射したりという事も考えているが…それは最終手段だね。それに、ジュリウス君一人を被験者としても、的確な記録は取れないね。せめてもう一人、比較対象者が必要だ」

 

 

 雨水を注射で体内にとか、素人考えでも無いわ。…濾過とかもできそうにないしな。そうやってる内に、こいつの中の…こう、力が抜けていきそうだ。

 

 

「ふむ、力が抜ける…か。湯の熱が冷めて水になるようなイメージかね?」

 

 

 大体そんな感じ。水の中にあるのは、よくわからないけどエネルギーの一種である事は確かだし。ただ、熱と違って周囲に拡散しているかどうかは俺には分からない。

 

 

「質量保存の法則に従っているかすら怪しいな。我々ブラッドの力も、現在解明されている物理法則では説明できない部分が多い」

 

「それを解明する為の実験でもあるのさ。さて、取り敢えず、今この場で試してみようか。早速治療を頼むよ」

 

 

 へいへい…。さて、どうなる事やら。

 

 

 

 

神戻月

 

 

 …厄介な事になってきた。半ば予想はしていたのだが。

 

 ジュリウスの治療ができなかったのだ。…より正確に言うなら、「ジュリウスだけが治療できなかった」か。

 榊博士の目論見は成功した。症状が軽い人であれば、赤い雨を貯めたタンクの近くに居れば…多少病状が思わしくなくても、その場合は水に触れながらであれば治療は出来たのだ。

 だが、実際に雨が降っている時と比べると時間もかかるし、何より患者に要求される体力が非常に大きい。途中で治療を辞めると、逆に急激に悪化してしまいかねないので、苦痛や疲労に耐えながら最後まで乗り切るか、最初から挑まずにいるかの二択しかない。実際、3人目くらいの患者が苦痛を訴えて中断したんだが、いきなり蜘蛛の模様がデカくなり、慌てて治療再開。さらなる苦痛に苛まれ叫びながら、何とか治療が終わった。曰く、「歯医者にかかって麻酔が切れた時の事を思い出した」だそうな。そのような拷問だったとは…。

 これについての理屈や推測は、また後で記しておこう。

 

 とりあえずジュリウスの事だ。

 治らなかったのも厄介な話だが、病状の進行が深刻だ。それにも増して、妙に思い詰めているように見える。

 順風満帆なジュリウスに、いきなりこんな死の運命が見えれば…それも、普通の人なら治る筈が、自分だけ治らないとくれば、そりゃ焦りもするだろうけども。

 …いや、順風満帆じゃなかったな。割と悲惨でキツい人生を送ってるし、こいつ。

 

 

 理由はどうあれ、治療が効かなかったという事は、ジュリウスの行動はこれから大幅に制限される。他人に触れる事も出来ないし、遠からず痛みを感じるようになったり、体が上手く動かなくなってくるだろう。

 ゴッドイーターとして活動することもできないから、ブラッドの隊長でもいられない。副隊長だったロミオが繰り上がりで隊長になると思うが…。

 

 今まで積み上げてきたモノが、全て崩れ落ちるか、他の誰かに奪われそうになっている。…どう考えてもヤバい傾向だな。

 とにかく落ち着けとは言っているが、ジュリウスに効く治療法を見つけなければ。

 

 

神戻月

 

 

 レアとアリサで、ちょっとした小競り合いがあった。いや、大した事じゃないんだけどね。

 アリサ宛てに手紙が届いたんだけど、その相手がちょっと問題だったらしい。手紙の送り主は、アネット・ケーニッヒ。…なんだか聞き覚えのある名前だな。

 何でも、3年前…桃毛蟻の一件が起きる前後辺りに、極東に居た子らしい。アリサが研修担当となり、面倒を見ていた時期があったのだとか。今は研修を終え、極東でも何とかやっていけるだけの力をつけて、助っ人としてあちこちを周っているらしい。

 

 

 

 …で、そのアネットが、ちょっと過剰なくらいにアリサを尊敬していたようです。具体的にはアレだ、「お姉さま!」みたいな感じで。

 

 

 

 いつぞや聞いた、アリサの悪い噂…女の子を見る目が怪しいってのも、この子とどっかの支部で再会して、微妙に百合百合しい(アネットからの一方的なものだった、とアリサは語る)付き合いが元らしい。

 ……で、本当にそれは一方的なものだったのか? とからかっていたら、アリサがムキになってしまった。

 でもそう言われるのも仕方ないよなぁ。…リッカさんとシエルを煽った事、忘れてねーよな?

 

 

 

 ん、リッカさん? あれから何度か、リッカさんが(俺が、ではない)ムラムラした時にお相手してる程度だな。こういう気楽な関係も意外といいもんだ。

 それはそれとして、そのアネットってどんな子だったん? 多分、金髪でカワイイのに異様にパワーがある、小動物チックでミニスカート生足、おっぱいよりもお尻が気になる縞パンが物凄く似合う子だと思うんだけど。

 

 

「ま、正にそのもの…! 名前だけでそこまで当てられるなんて、ドン引きです…」だそうな。

 

 

 まぁ、ナニもないとは思ってるけどな。アリサがそうホイホイ、女とは言え肌を重ねるとは思ってないし。

 

 

「本当ですよ…」

 

 

 ちなみに希望プレイは?

 

 

「ずらしハメ一択で」

 

 

 …………ギルティ。

 

 

「あ〝」

 

「墓穴を掘ったおまぬけさんをフォローしてあげるけど、この子がソッチ系の趣味に目覚め始めたのは、あの子と別れた頃よ。あの子の方は、『その気』でアリサにアタックしてたみたいだけどね。アリサも満更じゃなさそうだったし。何度か羨ましそうな、妬ましげな目で見られたわ。別れ際に冗談めかして言ってたけど、アリサは待ってる人が居るって断ったわ」

 

「ちょっ、見てたんですか!?」

 

「お母さんだもの」

 

「それ関係ないですよね!?」

 

 

 …こんな塩梅の一幕でした。

 

 

 

 

 で、この件に関しては、実は話に続きがあったりする。ヒバリさんの事だ。

 さっきの話を、アナグラのロビーで話してたんだが、当然聞いてる人はいる。…人がいるトコで話すような話題じゃないのはともかくとして。受付嬢として、当然ヒバリさんも居た訳だ。部分部分しか聞こえてなかったっぽいが。

 どうでもいいけど、ヒバリさんの髪型は無印よりも2の方が好みです。

 

 

 

 

 その夜、アリサの部屋まで相談に来たそうです。で、それをアリサが「適任者です」と言い張って、俺の部屋まで連れてきました。

 どんな相談かって?

 

 

 

 ヒバリさん、レズでした。しかも真性の。

 

 

 …タツミさんからのアプローチが全然功を奏してないのは聞いてたが…そういう事かい…。タツミさんェ…。

 アリサやレアのような、後天的に目覚めた(目覚めさせた)のではなく、根っからのレズビアン…同性愛好者らしい。男性に対しては、日常では嫌悪はないが、裸の付き合いとなると嫌悪が来る。ついでに言うと、異性としてのアプローチをかけられると、やっぱり嫌悪感が沸いてきてしまうので、タツミさんに対しては悪感情が割と積み重なっているらしい…悪い人ではないから、好悪が相殺している状態っぽいが……哀れな…。

 昔ひどい目に合わされたとか、閉鎖的な女子寮に居たとか、トラウマが出来るような何かがあったとか、そういうのは一切無し。ついでに言えば、親のプロレスを目撃した事も無し。実際のプロレス観戦に連れていかれた事はあるらしいが。

 

 恋慕の対象も、初恋から今までずっと女性ばかり。色恋抜きにしても、性欲が向くのも女性ばかり。

 

 純粋に生まれてこの方、男性をそのような目で好意的に見れた事がなく、所謂同類も居らず、他人に悩みを打ち明けるのはこれが初めてだそうな。

 まぁ、そうだよな…普通に考えて、変な目で見られるもんな。見られなかったとしても、その後の付き合いは変わってしまうだろう。

 

 で、ようやく見つけた同類(だと思い込んだ?)がアリサで、今まで抱えてきた悩みをつい勢いのままに打ち明けてしまった…と。 

 よくもまぁ、そんな勢いがついたもんだなぁ…。少なくとも俺と付き合っている事もわかってただろうに。……忘れてた? まぁ、3年間離れてたし、その間は実際レア二人だったから、そういう認識なのも仕方ないか。

 

 

 まぁ、相談されたからには、受けねばなるまい。俺が人の心をどうこう出来るとは思ってないが。

 

 

 で、具体的に何を相談したいん?

 

 

 …今後の人生について、どう考えているか?

 割とガチな悩みだな…ナルホド、自分の性癖と常識の間でかなり悩んだタイプか。エロ的な意味で盛り上がりかけて申し訳なかった。性のコンプレックスは非常に重いからな…。

 

 

 その重いコンプレックスの相談を、躊躇いなく第三者である俺にバラすアリサ、そこんとこどう考えてるよ。…正座してヒバリさんに下座っても意味ねぇよ。とりあえず、この際とことん付き合え。素面じゃ語りにくいだろうから、適当に酒もってこい。

 



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188話

連続更新お疲れさまですな、相互お気に入り状態のSSについて。
…実は2回ほど感想を書かせていただいた事にお気づきだろうか。

お気に入りSSの作者様からの感想をいただいたら、別途通知が来るようなシステム作ってくれないかなw

あと実家に帰省したんで、榊ガンパレ持ってこようとしたら何処にしまったかわからなくなっていた件。
俺の本棚だけで4か所あるからな…どこやった。


神戻月

 

 ヒバリさんの悩みは、自分が異常なのではないか…という悩みよりも、今後…特に老後などはどうしていくのか、結婚はどうなるのか、などの人生プランの悩みの方が大きかった。

 それと、口に出すのはためらっていたが、自分の性癖が満たされる方法はあるのか…も。まぁ、欲求不満が解消されないってキツいもんな。

 

 今後の人生設計についても、悩むのはよく分かる。老後に備えて貯金こそしているが、元々この世界はいつ滅びても…或いは貨幣制度の類が崩壊してもおかしくないくらいに追い詰められているので、それもあまりアテにならない。

 やはり、老後は子供が居た方がいい…が、男とヤるのには抵抗がある。そうなると、働けなくなった自分を世話してくれる人は? 養護施設の類もあるにはあるが、それを活用できるまで資産が保つかどうか。

 

 純粋に、パートナーが欲しいという願いもある。ちょっと不純だが、『本番』(この場合女性同士だが)を一度も知らずに生きていくのも辛い。

 

 

 

 

 そんな悩みを抱えて、かれこれ数年…思春期突入以来の悩みだそうだが、具体的な年数は聞くまい。まだ20歳ちょっとの筈だけど。

 そこで遭遇した、超ド級トラブル。

 

 

 

 

 

 

 …アリサに相談する事を決意した切っ掛けでもあるそうだが……見られてたよーです。ううむ、よもや俺達がおとーさんおかーさんのプロレス役になってしまうとは。

 何がって……野外の『お散歩』が。気配はなかった筈だが……と思ったら、偶然カメラの端っこに写っていたらしい。その映像は既に削除済みだそうです…ヒバリさんのHDの中のものを除いては。言い値で買おう、プレイ用に。

 

 しかしカメラかー…失敗だったな。気配にばっかり気を配ってたし、カメラも基本的に避けていたんだけど…わざとギリギリの場所を通ったりもしたからな。

 ちなみに、その時の内容は…首輪つけて露出+ディープキスまで、ね。他に誰か映ってた? …いや、映ってなければ別にいいんだ。(シエルにも露出を仕込んでた時だろうけど)

 

 で、その光景が色々な意味で目に焼き付いて離れない……………あのさ、ちょっとセクハラと言うか突っ込んだ事いうけど……自分に置き換えて、超興奮してたろ。

 

 

 

 …真っ赤になってうつむいてしまった。いつもならここで、愉悦しながらセクハラに走るが…今は真面目(本人的には)に相談を受けているから、また今度にする。 

 鬱屈が晴れない悶々とした日々は、やはり人を極端から極端に走らせてしまうらしい。

 どういう事かって?

 

 

 トラウマが新たな性癖として根付いてしまっていたようです。いや、元々色々な願望が膨れ上がっていたらしいんだけどね。

 アカンわこれ、橘花の時と同じパターンや。行き場のない悶々とした鬱屈が、出口見つけて全力でそこに向かってしまうパターンや。

 

 しかも、トラウマが切っ掛けになって記憶の捏造でもしてしまったのか(或いは本当にそうなのか)、「そういうシチュエーション」をいつも妄想していたのだとか。

 どうしたもんだろうか。

 

 

 シモの悩みなんだから、シモの解決方法…と言うのは簡単だ。実際、相手が他の誰かだったら、迷わずそうしていただろう…美人さん限定だけど。

 でも、今回のヒバリさんは、男相手に嫌悪感があるんだよなぁ。感覚や感性が男寄りなのか、他に理由があるのかはともかくとして…いつものように、下半身でどうにかするのは却下だ。嫌悪感を拭えない限り、いくら発情させたとしても凌辱にしかならない。…それがいい?「それじゃ凌辱がないでしょ!」じゃなくて「それじゃ凌辱でしょ!」か。

 なんか懐かしい戯言は置いといて、とにかく下手な事するとヒバリさんの心証や性癖が悪化する。正直、上手くやれば「嫌いな相手だからこそ、体が熱くなる…」みたいな性癖まで持っていけそうではあるが、それじゃ今後の人生プランについてまるで解決してないし。一応、相談受けてるんだからその辺の解決を第一に考えんと。

 

 

 …となると…とりあえず、問題の数を減らすか。手っ取り早く解決できる方法があるんだったら、それを使えばいい。

 

 

「…そんな方法、あるんですか? 私、自分で言うのもなんですけど、かなり面倒な性癖してると思うんですけど…」

 

 

 あるっちゃある。特殊すぎる(と言う程でもないか?)性癖に関してはこの際度外視して、手っ取り早く解決できる方法が。ただし…こらアリサ逃げるな。

 

 

「ちょっ、やっぱりこっち来た! いきなりそんな事言われても! でも命令って言うなら…いや命令でも、せめてもうちょっと雰囲気を!」

 

 

 この話を持ち込んできたのはお前だろーが。

 

 

「ここなら誰にも見られない、って言ってあんなトコロでさせたのは誰だと思ってるんです!」

 

 

 共同責任と言うヤツですな。一蓮托生、旅は道連れ世は情け。

 

 

「世にはあっても、絶対あなたにはありません…。……わかりましたよ、覚悟を決めます。でも、私にだって譲れないラインはありますからね?」

 

 

 明らかに割とガバガバなラインだけど、こっちも意に沿わない事をさせるんだし、譲歩や埋め合わせの考えもある。

 

 

「え? え? …あの、一体どういうお話で…」

 

「……ヒバリさん、あなたって…タチですか? ネコですか?」

 

「………えぇ?」

 

 

 要するに…一度でも『経験』してしまえば、一生未経験なんじゃないかって悩みは消えるって事ですよ。

 

 

「あ、アリサさんと……! い、いえでもそれってアレでは私としては非常に興味津々で光栄なんですがなんというか相手が女性であれば誰でもいい訳ではなくその」

 

「ええ、言わんとする事はわかりますよ。でも…まぁ、私としては条件次第ではOKですかね」

 

 

 ヒバリさんが混乱するのも無理ないわな。幾らアリサにソッチのケが芽生えているとはいえ、付き合っている相手から「他の女に肌を晒してこい」なんて言われても、愉快な筈がない。世の中にはそういう性癖の人も居ないではないが。

 が、安請け合いした挙句バラしてしまった罪悪感と責任感、相手が男ではなく女性(しかも容姿から性癖から非常にそそられる)、最近仕込んでいた色々アブノーマルなアレやコレやが合わさって。

 

 

「…私一人でヒバリさんと、って事ならお断りさせていただきますけど……私達のプレイの一環としてなら…」

 

「ぷ、ぷれい…」

 

 

 ゴクリと唾を飲み込むヒバリさんにじゅっさいちょっと。性的好奇心と倫理観と乙女心と将来設計は、それぞれ全く別の問題であるね。

 

 プレイ内容は…やっぱアレかな、アリサと絡んでるところを横で俺が見てるとか?

 

 

「うーん…ヒバリさんが気になっちゃうんじゃないですか? 隣の部屋から覗くくらいにしては…」

 

「あの、どっちにしろ3人なのは決定なんですか…?」

 

「決定です。別に人を増やすのはいいですけど、そうなるとヒバリさんがワケの分からない事になっちゃいそうです」

 

「いえ、そうじゃなくて見られながらなんですか?」

 

 

 アリサは微妙に狂犬入った忠犬だから…。俺がリード(紐的な意味で)を握ってないと、触ろうとしてくる人には全力で噛みつくよ?

 

 

「誰が犬ですか…いや確かに躾けられてますけど。まぁ、この人を楽しませるという大義名分と、私の趣味が合わさればなんとか…って事です。で、受けをご希望ですか? 攻めをご希望ですか? 言い換えると、私の玩具にされるか、私に必死にむしゃぶりつく所を見世物にされるかって程度の意味しかありませんが」

 

 

「……む、無茶苦茶にされたいです…」

 

 

 

 

 …やっぱこの場で押し倒しちゃアカンかな…。

 でも我慢我慢。じゃ、アリサ。『お手並み拝見』ってね。

 

 

「ええ、『お任せを』。ママ…もといレア博士と磨いた手法、全力でお見せしましょう。…でも今日は無理ですね。お互いに準備もありますし、何よりもう草木も眠る丑三つ時です」

 

 

 妙に和風な言い方しおってからに。まぁいいけど。

 ヒバリさんも、最後の一言だけ言って完全にフリーズしちゃったしな。とりあえず、アリサの部屋でいい? 俺の部屋だと、タツミさんが嗅ぎ付けてきそうだから。

 

 

 

 

神戻月

 

 

 さすがはベテランオペレーターと言うべきか、あんな事(まだヤッてないけど)があっても日常やミッションのオペレートに陰りはなかった。昨日のアホみたいな展開が夢だったんじゃないかと思うくらいに。

 …昼飯時にちょっと聞いたら、「あんな悩みを何年も抱え続けていたんですし、平常を装うには慣れています」だそうな。…悪い事聞いたかな。

 

 内面観察術を使ってみると、外面の筋肉と精神が完全に剥離してるんじゃないかと思うくらいに混乱してたけど。

 考えてみれば、オペレート自体におかしい所はなかったが、それ以外にはボーッとしてたような…。タツミさんからの通信を聞き流してるのはいつもの事だけど。

 

 ま、無理もないよなー。結局のところ、異常な状況での行為だし。時間を置いた事で、パニックがむしろ加速したようだ。

 なんちゅーか…新卒童貞サラリーマンが上司にソープに放り込まれて、待ち時間を持て余してる感じ? 見ていて面白いから、俺としては一向に構わんのだが。

 

 ちなみにアリサはと言うと、何やら『準備』をしに行った。ヒバリさんの仕事が終わった後、二人でどこかに遊びに行って、その後に本番…ヤるだけじゃ気分がでないので、軽いデートね。

 嗾けておいてなんだが、全力すぎる。浮気の様子を見守っているようで、何か複雑……と言いたいところだが、普段から二股三股を公認させている俺に言えた義理ではないな。

 

 

 

 

 あと、今更だけどヒバリさんの事がレアにばれで、アリサと二人で正座説教されました。人助けと言うかメンタルケアの一環という事で何とか説得できたけど、そりゃー普通は怒るよなぁ…。

 

 

 

 …ところで、ジュリウスは何処行った? 先日から何やら思いつめたままのようだったから、気になるんだが。

 ブラッド隊も、どこか別の場所で事務作業しているんだろう、くらいしか知らないようだ。

 

 どうすっかな…黒蛛病の事をバラすか?

 別に隠しておく理由もない気がする。と言うか、何で隠してたんだっけ? ゲームでは…ロミオの死後、黒蛛病に感染したジュリウスは、治療法がない事もあって無人神機兵研究・完成の礎になる事を決意する、みたいか感じだったと思うんだが……考えてみれば、それこそ別に隠す事でもなかったような気がする。

 ジュリウスが抜けて…ああそうか、礎になるのが自分だけじゃなかったっけ。無人神機兵の完成には、他の感染者も巻き込む必要があった。だから悪名汚名を被ろうって事だったっけ? ブラッドが邪魔しないように、後になってジュリウスの独断だったと言えるように?

 

 しかしまぁ…ジュリウスも何だかんだ言って、自分の感情で動く人間だね。

 変で頭にくる言い方になるが、ロミオもジュリウスも、何処にでもいる人間にすぎない。黒蛛病に感染して死ぬのも、アラガミに襲われて死ぬのも、言っちゃなんだがありふれた事の筈だ。だってのに、まるでそうしないと世界が滅ぶと言わんばかりの暴走をかましてくれる。…当事者にしてみれば、本当に世界が終わるんだけどな、死ぬと…。

 たった二人の死を無駄にしない為に、何十人も巻き込むような事をしでかすんだ。よくも悪くも、マトモな精神状態じゃなかったんだろうなぁ。

 

 今はどうなんだろうか。黒蛛病に感染し、治療が効かないと分かったのはショックだったろうが、ブラッド隊に欠員は無い。感染した時の任務で死傷者は出たようだが、心理的ショックという意味ではそこまでひどくはないだろう。見ず知らずの他人だ。

 …やらかすのを防止するのも兼ねて、ブラッド隊にバラしてしまうか?

 

 そうなると…憐れみ…かどうかはともかくとして、かなり混乱はするだろうな。ロミオを頭として動いている今も問題はないが、何だかんだ言ってもブラッド隊を率いているのはジュリウスだ。カリスマという意味では、ロミオはジュリウスにとても勝てないもんな…その分親しみやすさはロミオの圧勝だが。

 憐れまれたくない、同等の仲間と思っているからこそ見縊られたり、「もうういいんだ」と言われたくない…か。無意味な意地と言ってしまえばそれまでだが、分からんでもない。

 

 

 

 

 が、ジュリウスがラケルてんてーの思惑通りに動くようなら、速攻でバラす。

 

 

 ジュリウスの意思は関係ない。これは俺の都合だ。プライベートの侵害? ジュリウスのプライド? それって終末捕食再来より優先すると思うか?

 

 

 

神戻月

 

 

 眼福でございました。福だったのは、目だけじゃなくてシモもだけどね。

 

 ジュリウスには結局連絡がとれなかったので後回しにして、ヒバリさんの事だ。

 仕事が終わり、『準備』から戻ってきたアリサに連れられて遊びに行った二人(例によってタツミさんからの連絡を聞き流して)。…なんだけど、出かける寸前にアリサから紙切れを渡されました。

 中に書かれていたのは、居住区のとある住所と時間。…ここに来いって事ね。

 

 そして、構って構ってと尻尾を振るシエルと、何だかんだ言って好奇心と心配と親心とヤキモチが入り混じったレアも一緒にやってきたんだが……ホテル…なのかな? ラブホ?

 でも受付とかも何もない……。何かと思っていたら、レア曰く、ホテルと言うよりは利用自由、セルフサービスの宿?

 そもそも極東に旅行に来る人なんて滅多に居ないし、利用者なんて家が壊れて寝床が無い人達か、疲れ切って自宅に帰るのが億劫な通りすがりくらいしか居ないらしいが。

 「使ってない家があるから、自己責任でどうぞ」って事らしい。セキュリティもガバガバなので、利用はあまりおススメできない。連れ込み宿としても、鍵が基本的にお粗末(と言うか合鍵とかの管理もされてない)ので危険。

 

 

 レア曰く、極東だけでなく、あちこちにこの手の宿はあるらしい。うーん、俺もまだまだこの世界の事を知らないなぁ…。

 

 

 

 …で、その自己責任の宿の壁に、小さな穴が一つ。この辺で、何となくアリサの趣向が分かってきた。

 wktkしながら覗いてみると(そしてレアは壁にコップを付け、シエルは直覚まで起動させる)、期待通り。穴からまっすぐ見える場所で、アリサとヒバリさんのディープキス場面が見えた。

 立ったまま抱き合って、アリサの手が蛇のようにヒバリさんの服の上を這い回っていた。

 

 …おおう、ちょっとだけ見えたアリサの表情が怖いっつーかエロいっつーか。実に愉悦している。キスの最中なのに、口元が三日月形に裂けているようにすら見える。

 ヒバリさんはと言うと…アリサの舌と手付きに翻弄されているようだ。年季が違うからね、仕方ないね。

 

 アリサの手が更に這い回り、プチプチとボタンを外していく。ヒバリさんは、最初はボタンが外れる度に体を強張らせていたが、上着を脱がされる頃には、強張るどころか全く力が入らなくなっていたようだ。唇を離したアリサが、愉快そうな顔で今度は首筋に口付ける。

 ヒバリさんの首筋を這い回る舌が妙によく見える。そして声を抑えられないヒバリさんの反応がエロい。これは……魔性だなぁ。その魔性も、今はアリサを楽しませる為のファクターにしかなってないが。アリサが割と本気になりつつあるっぽい。

 

 5分ばかり、女性特有の繊細な(そのクセねちっこい)指と舌でヒバリさんを腰砕けにさせて、アリサはヒバリさんをソファーに座らせた。

 覗き穴の正面に位置するソファーだ。絶対仕組んでる。

 

 息も絶え絶えのヒバリさんを横たえ、見せつけるように取り出したのは…………女性が突っ込み役(漫才的な意味ではなく)になる為のアレ…はまぁいいとして。拘束具・目隠し・大人の玩具多数……いや待てちょっと待て。いくらヒバリさんが「無茶苦茶にされたいです…」なんて言ってたとしても、それは待て。

 その大人の玩具、初心者に使う奴じゃねぇよ。イボイボとかツブツブとか繊毛とか吸盤とかスポイトとか、明らかにエロゲでもなきゃお目にかかれないようなエグいヤツばっかりだ。

 どっから持ってきたんだ。と言うかこの逼迫したご時世に、誰がこんなモン作ってるんだ。採算とれねーだろ。

 

 

 …レア、どした? ナニ、俺が3年間留守にしていた結果? ナニをやっても物足りないから、道具で欲求不満を埋めようとしたらああなった?

 …つまりレアも使った事あるのね。…大丈夫だったか?

 

 

 ………俺のアレの方がエグくてイイ? ……なんかもう、色々滾ってきてるんですが…。待てシエル、アレを無理にお前に使おうとは思ってないから。「大丈夫ですから」じゃないから…いやそのうち貸してもらおうとは思ってるけど。

 

 とりあえず覗きに戻ってみる。

 

 

 イヤがる(けど期待を隠しきれてない)ヒバリさんを慣れた手つきで拘束し、こっちにむかって全開(具体的に何がとは言わんが)で座らせる。

 動けないヒバリさんに卑猥な囁き(俺の耳なら壁越しでも聞こえます)を繰り返しながら、抵抗できないのをイイ事にイジり回すイジり回す。あっという間に喜悦一色の声しか上がらなくなるヒバリさん。本気で手馴れてるな…レアしか相手にしてないのに、よくあそこまで手際よくなったもんだ。

 

 

 

 

 オヒョ!?

 

 

 …あの、レア、シエル。なんで俺のを弄りだすんですかね? …『準備運動』? アリサが『準備』を終えた後に、速攻で乱入して破れるように?

 そりゃアリサの趣向がそうなってるんだから、準備運動も必要ですがね。

 

 

 まさかアリサの情事を覗き見しながら、レアとシエルにprprされる日が来るとは思わなかった。うーむ、ここまでアレなシチュエーションは中々無かったぞ。

 

 

 

 更にその後、アリサに弄ばれ続けて「もう何でもいいからぁ!」状態になったヒバリさんを美味しくいただきました。

 『準備運動』のおかげで、ヒバリさんと、それを調理したアリサの手際、存分に味わえましたとも。

 そのアリサも存分に楽しんでいた。具体的には俺と交代で挿れたり、連結電車したり、前後から挟み撃ちしたり。

 

 

 

 

 ただし、その辺の描写は無しね。色々暴走しまくって、完全にR-18になってしまう。…いずれ、調教日誌とかつけてみたいとは思うんだけども。

 

 ヒバリさんの精神状態というか、趣向も…まぁ、何とかなったと思う。半ば洗脳に近い状態だったけど。或いは……ヒバリさんの感覚的に言えば、ケツを掘られてホモ堕ちしたようなもんか?

 タツミさんには…スマンの一言。もう一言付け加えるなら、あのままじゃどっちにしろ脈はなかったんで、俺は悪くない……たぶん。

  

 

 

 

 

神戻月

 

 ヒバリさんが色々吹っ切れてバリバリ仕事してんのはともかくとして、ちょっと気になるデータがある。最近、感応種の数が増えてきているらしい。

 

 

 

 と言う情報を、実はノーブラノーパンのヒバリさんから教えらえた。昨日、アリサがやれって命令してたっぽい。……この場で俺が卑猥な命令したら、多分従うと思うが…それはまた別の機会にしておこう。

 

 

 感応種の事だが、言うまでもなく脅威である。感応種が出てきたら、ブラッド隊か俺のどっちかが居ないと、神機が動かなくなって戦う事すらできなくなる。増えた数によっては、それこそ人類種が詰んでしまいかねない。

 

 が、おかしな点が2つ程ある。

 一つ目は、どういう訳だか人間に…と言うより、ゴッドイーターにあまり襲い掛かってこない事。

 そもそも、感応種が増えたと言っても、観測されているのはアナグラから少し離れた場所だ。簡単に言ってしまえば、極東の防衛圏、或いはナワバリではない場所。補給やオペレートの電波の関係で、手を出しにくい場所で増えているらしい。

 ゴッドイーターが襲われにくいのは、単純に接触の機会が少ないから…だと説明できなくもない。

 

 おかしな事の二つ目は、いくら極東が魔境だって言っても、感応種が増えるのが早すぎる、と言う事である。

 数時間に一匹は新しい種が生まれている、なんて噂されている極東でも、通常種から感応種への変化はそう簡単な事ではない。イメージ的にだけど、カツ・コバヤシがアムロ・レイ並みのニュータイプに覚醒するくらいに難しい…いやそれはちょっと言い過ぎか。………和名・我道走がニュータイプになるくらい? …別の意味でありえんな。ガロードはオールドタイプのまま、特別な力なんか無いままで頑張ってるからガロードなんだし。…異論は認める。生身でMS捕獲するような人外だしな。今なら俺もできない事はないと思うが。

 

 話が逸れた。 

 妙な勢いで感応種が増えている事と、それが人間に対して攻撃的になっていない事。これが気にかかるんだよな。

 別に人間相手に限定した話じゃない。感応種みたいなトンデモ能力を持ったアラガミが出てきたら…しかも増えたら、勢力分布図に必ず大きな変化が現れる筈。人間と違って、「ここには攻め込んじゃいけない」なんてルールは無いんだし…必要以上には食わなくても、腹が減ればどこにでも食べに行く。それがアラガミだ。

 だってーのに、何で一定地区から出てこないん? 

 

 

 …なんかヤな予感がするな。この前の赤犬も、他のアラガミを血の力っぽいのに目覚めさせたり、活性化させまくって逃げようとした赤リギュラを戦闘に駆り立てた。

 似たようなヤツが居たよなぁ、MH世界で…。いつぞやの、扇動型クルペッコ。あいつと違って、自分も直接乱入してきたが(それが生物として正しいかは微妙だ。だって倒されたし)、結果を見れば逃げようとしたアラガミを狂わせて戦わせたのは事実。

 ……ああいうのが居るとすると…つまり、何処かに音頭を取って感応種を纏めているヤツが居る?

 

 しかし、何のために? 一番ありそうなのは、徒党を組んで人間に攻勢をかける…だが。

 正直、そこまでやらんでも人間は全滅寸前なんだよなぁ。極東も、戦力的に突出してはいるけど、ジリ貧なのは間違いない。育ちに育ったMH世界の植物を考慮に入れても尚、だ。

 

 うぅむ………単なるカンだが、もうちょっと別の何かが目的な気がする。なんかこう……霊感的なモノにピリピリくるような。

 どうなるにせよ、ヤバい予感だなぁ…。

 

 

 

 そんな話をして、去り際にヒバリさんの浮き出ているポッチを軽く捻ったりした。満更でもないようだ。

 …ちなみに、次の希望するプレイは切っ掛けになった集団露出お散歩か、皆によってたかって弄り倒される輪○プレイだそーな。

 

 

 



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189話

最近、FGOのSSを読む事が増えました。
型月は月姫とメルティブラッドくらいしかやってなかったけど、エロカワイイキャラも居るみたいだし。
討鬼伝の設定もなんか応用できそうだし。
具体的には、主人公が宿す複数のミタマが英霊で、脳内で常にサーヴァント達がバカ騒ぎしているとか。無論実体化もアリ。
討鬼伝のミタマをサーヴァントにするか、FGOのサーヴァントをミタマにするかは悩みどころ。
いっちょやってみようかな。



PCでのプレイ不可。



スマホがポンコツ。



そっ閉じ。



ペルソナ5は気になるが、先に討鬼伝2の残りをやってしまおう。
もうちょっとでトロフィーコンプリート…。


神戻月

 

 

 フライアがまた極東に寄って、更に旅立った。また患者を連れてきてるんだが…あんまりホイホイ連れてくるなよ。処理能力低いんだぞ、今の治療法。

 あれから何度か、赤い雨を貯めたモノを使って試してみたが、やはり全員は治療しきれない。雨が降ってない時でも治療自体はできるようになったものの、その効率は良いとは言えない。やはり天然の赤い雨が降っている時の方が、治療の速度も速い。

 …まぁ、効率の悪さに反比例するように、患者に要求される体力も減少していく傾向があるが。

 

 それに、やはり赤い雨をタンクとして貯めておいても、中の力がどんどん流れ出て消えていくようだ。何もしなくても数日、治療に使えば数回で中の力が消えてしまう。つまり治療に使えなくなる。

 …そもそも、貯めてた量自体があんまり無いからな、今は。赤い雨もどこかで四六時中降ってる訳でもない。降ったとしても、貯めておく為の設備が間に合うかは分からない。

 そもそもからして、赤い雨が降ったら、大抵感染者が増えてしまう。

 

 …やっぱ、どう考えても処理と言うか処置が間に合わんなぁ。これがラケルてんてーの狙いなんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と思ったら、ジュリウスてめぇ何やってやがる!

 いきなりフライアに乗ってどっか行ってんじゃねえ!

 

 

 …完全に不意を突かれた…。いや、これは俺が間抜けだっただけか。ラケルてんてーの狙いなんて、最初から最後までジュリウスに決まってるじゃねーか。『俺』はラケルてんてーにとっては単なるイレギュラー、障害物。俺を妨害するのは手段であって目的じゃない。

 黒蛛病患者の搬送とか、ちょっとフェイクをかけられただけで、簡単にジュリウスからマークを外してしまった…。アホウドリより阿呆だな。

 

 

 自虐はともかくとして、支部長曰く、これはラケルてんてーが施した誘導の結果だろう、との事。

 ジュリウスが感染した時…黒蛛病患者を搬入中にアラガミ(ラケルてんてーの『お人形』)に襲われて死傷者を出した時から…いや、それよりももっと前から、下手をするとジュリウスの人格形成の頃からずっと仕込みをしていたのだろう。

 ノブレス・オブリージュ…明確に口にはしないが、ジュリウスの根幹にあるのはそれだろう。社会全体へ、或いは弱者への奉仕。

 だが、ジュリウスはそれが出来なくなった…少なくともゴッドイーターとしては。

 

 それでも、ジュリウス程に能力があれば、もっと他の事は出来ただろう…黒蛛病で動けなくなるまでは、という条件がつくが。

 しかし、ラケルてんてーが…或いはジュリウスを取り巻く状況が、焦りを増幅させた。自分だけ黒蛛病の治療が全く効かない、というのもその一つだろう。

 

 長年かけて刷り込まれてきた価値観、守れなかった黒蛛病患者達への罪悪感、そして目前に迫りつつある避けられない死…これらを纏め合わせると?

 

 

 

 黒蛛病患者達への償いの為、自分の命を最大限有効に使う為、ラケルてんてーが研究している無人神機兵の礎になる。

 

 

 …ところどころ、「なんでそうなるのん?」みたいな理論展開があるが…煽られた焦りと罪悪感の代物かな。

 

 

 

 ちなみに、この推論については俺ではなく、支部長がジュリウスの性格と状況から予測したものだ。俺が考えるよりずっと正確だと思う。

 

 

 

 しかし…そうなると、クジョウ博士はどうしたんだろう? ぶっちゃけどーでもいい人ではあるんだが、気にはなる。

 結局、無人神機兵が事故や不具合を起こしたという話も聞いてない。

 確かあの人、無人神機兵の利点を、人が死なない…危険に晒されない、という点を特に重視していたと思う。そんな人が、無人神機兵完成の為、生きた黒蛛病患者を犠牲にするような案を出すとは思えん。

 と言うか、未だに無人神機兵の何処に黒蛛病患者が必要なのか、よーわからんのだが。

 

 

 …誤動作の件が無くても、始末するのは簡単だろうしなぁ…。物理的にも社会的にも。

 …まぁ、生きてどっかで会ったら、飯でも奢ってやろうかな。

 

 

 

 話を戻す。

 

 とりあえず、ジュリウスが黙ってフライアに乗ってどっか行った事に、ブラッド達は……あまり混乱していなかった。

 違和感くらいは感じているようだが、ジュリウスって元々隊長としての任務(書類とか外交的な意味で)の為に別行動する事が多かったからね。それこそ、ロミオが隊長って言われても違和感ないくらいに。

 今回の遠征もその類だろうと思っているらしい。…信用があるのか無いのか…。

 

 

 

 

 しかし、俺にそのよーな事は関係ない。経緯と思惑はどうあれ、ラケルてんてーのもくろみ通りに動くなら、あらゆる意味で妨害するだけである。

 

 と言う訳で、ジュリウス黒蛛病感染のお知らせです。

 

 

 

 …阿鼻叫喚。

 

 

 

神呑月

 

 

 前回の日記から、少し間が開いた。

 

 

 ウソだウソだと大騒ぎしながら、新たな月に突入。なんか先月が妙に長かったような…まぁ、日記を一日に複数回つけたりもしてたからな。気のせいか。

 ともかく、流石にジュリウスが感染したというのは相当にショックな話だったようだ。

 

 …おいロミオ、お前気づいてなかったのか? …怪しいとは思ってた? 最近は全然顔を見せないし、極東に来ても銭湯に行かない。…そこで気づくのかよ。そうなった時期が、黒蛛病患者の輸送任務前後…。

 まぁ、それでも信じたくはなかったってのもわかるけどな。俺が治療できればそれが一番よかったんだが…。

 

 

 で、これからどうするって話である。

 ジュリウスもラケルてんてーも、仕事を理由に音信不通。メールを送っても返信ところか着信報告も無し。…ジュリウスが自分から連絡を絶ったのか、それともラケルてんてーがブロックしているのかは微妙なところだ。

 

 ジュリウスの特異点化が始まり、更に手の内にある以上、恐らくブラッド達は用済みだろう。ジュリウスの決意を固める為の生贄だっただろうからな。

 …なんて事を言っても、信じられる筈がない。ロミオ以外はラケルてんてーの本性に気づいてないんだし。そもそも、ジュリウスが黒蛛病に感染した事と、ラケルてんてーの陰謀を明らかにする証拠がない。

 現在のブラッドの認識は、病気になったジュリウスが、治す方法を求めてラケルてんてーと一緒に旅をしている…くらいのものだろう。虫も殺さないような無表情の下で、終末捕食第二弾…第三弾?…や人体実験やら生贄やらを企んでいるなんて、誰も思ってない。…ああ、今までほとんど関わりがなかったギルは…まぁ、それでもすぐには信じられんか。

 

 ブラッド隊の希望としては、とにもかくにもジュリウスに一回会いたい。治療できない患者に会って何をする、という意見もあるが、とにかく会ってから考える、だそうだ。まぁ、一言も何も告げずに唐突に縁切りされて、納得できるヤツの方が少ないわな。

 しかし音信不通、何をどうやったのかフライアも行方不明状態ときた。

 

 

 差し当たり、ブラッドは極東組に編入される事になった。フライアに連絡しようとしても、全く返答がないからだ。隊長やスポンサーからの指示もなく、明確な指針も無い為、とりあえずって事で………まぁ、実際は支部長が取り込み工作したんだろうけども。

 

 

 ゲームじゃこの後どうなったっけなぁ。ラケルてんてーの所業を語る人………レア…だけど、レアはもう極東に居るし。

 …自分が今まで何をやってきたのかの懺悔? 自分から語るならともかく、語らせるのは尋問、或いは誘導尋問と言うんだ。

 ………本当なら、黙っていていい問題じゃないとは分かってるんだが…レアの負担になるような事はさせたくない。だからと言って、一生黙って一人で抱えているというのも…。

 

 ううむ、やっぱ俺ってこういう事になると、途端に情けなくなるなぁ。少々歪な愛情とは言え、惚れてる女と正面切って語り合う事もできないとか…。まぁ、今回は問題が重すぎるってのもあると思うんだが、そこを言い訳にしちゃアカンよな。

 それに、『お人形さん』の事とか、色々知ってるってのはもうレアにも知られている事だ。ジュリウスが『お人形さん』に襲われたというニュースが入った時に、ちょっと零したし。

 

 

 

 

 うむ……とりあえず、ラケルてんてーの所業を明らかにせにゃならんか。レアにまで追及が及ぶかは…可能な限り隠蔽するか、訴えられても負けないくらいの材料を集めておきたい。

 ぶっちゃけ、ラケルてんてーは叩けば埃が山脈を作るレベルでやらかしてるだろう。それを探り出して証明するのが難しいだけで。どーせ、レアみたいに誰かを操ってやらせてるか、証拠は徹底的に始末してるか。

 となると…現在進行形の犯罪行為を探す訳ね。尤も、それを探り出したところで、ラケルてんてーにはどうでもいい事だろう。単にブラッド達の決意を固めさせる一助にしかならない訳だ。

 

 

 さて、どこから探るかな…。ダイヴ・インも、相手がどこにいるのか分からない状態では試したくないし。

 

 

 

神呑月

 

 

 ゲーム通り…なのかな? ちょいとキャスティングは変わっているが。

 

 音信不通だった筈のフライアから、来客…逃亡者だ。しかも4名。

 ゲームではレアだけだったのが、フランさん、ユノ、サツキさん。そして黒蛛病患者の、意識不明なままの女の子…ナニコレ、何がどうなってそうなったの?

 

 今更シナリオがどーのと言っても無駄なのは分かっているし、世界の因果関係を全て知れるとも思わんが、ホントに理解できない。

 まぁ、本人達から話は聞いたんですけどね。

 

 フランさんから齎された情報は、フライアの現在地と、そこで何が行われているか…だった。両方とも、何とか調べようとしていた案件だ。まぁ、渡りに船だな。

 後者については省く。経緯の差はあっても、大体ゲームシナリオと似たようなものだ。違う点があるとすれば、どこから患者を集めたかだろう。これまで極東に連れてくる間に、何人かちょくちょく拉致っていたっぽい。

 

 前者…フライアの位置についてだが、あー単純だけど盲点だったな。赤い雨の中だ。四六時中降ってる筈がないのだが、それでも降りやすい場所はあるらしく、そこで身を隠している。

 赤い雨が降ってる間は誰も近づけないし、雨自体に妙なジャミング効果もあるらしく、レーダーも殆ど効かないようだ。雨が降ってない間だけなら、ラケルてんてーの手腕なら誤魔化せる訳だ。

 

 

 

 

 で、本格的に予想もしなかった、ユノとサツキさんの件なんだが。

 そもそもフランさんは、フライアから脱出する機会を伺っていたらしい。ブラッド達を極東において、フライアが単独行動するようになった頃から、どうにも雰囲気がおかしくなりはじめた。

 薬品やら食料やらの支出・仕入れが明らかに帳簿と合わなかったり、記録に乗ってすらいない機材が幾つも搬入されていたり。元々搭乗していたスタッフもいつの間にか姿が見えなくなり、フライアはほとんどオートで動いているようなものだったとか。

 そもそも、赤い雨が降りやすい場所にずっと留まる理由が分からない。

 まさかと思いつつ、身の危険を感じ始めたフランさん。

 

 そこへやってきたのが、ユノとサツキさんなのだという。

 ある晴れた日の事、フライア近くを偶然通りかかったらしい。ブラッド隊が居ない事も知らなかったし、黒蛛病患者を搬入して極東に運んでいるという話は知っていた。ならば、ブラッド隊への挨拶と、許可が出るなら一曲歌って、黒蛛病患者の容態を少しでも軽くしよう…と思って、フライアに接触した。

 

 許可が下りたので、フライアに乗り込んだ二人だが…違和感を感じたのはその辺りからだ。フランさんが言うように、異様に人が少なく静まり返っている。

 出迎えさえ居らず、入ってこいとばかりに開かれる扉。キナ臭いと感じつつも、進んだ先で見たのは……妙な機械に接続されている黒蛛病患者達と、まるでアラガミのような気配を持った無人神機兵。

 

 何がなんだか分からない所に、二人の来訪を知ったフランさんが咄嗟に乱入。オペレーター権限…と言ってもハッキング染みた事をやってようやく発動できたらしいが…でフライアの動作を混乱させ、二人を…その時咄嗟にユノが機械から引っ張り出した女の子を含めて3人…を誘導し、脱出した。

 

 

 

 …えらい急展開だな…。何と言う面倒な偶然。いや、偶然なのはフライアに遭遇した一点だけか? それ以外は、ある意味自然な成り行きと言えなくもない。

 顔見知りに会っていこうとするのも、患者の助けになるなら一曲披露しようと思うのも……そういう能力を持っているユノを、ラケルてんてーが始末しておこうと考えるのも不思議ではない。

 後は…フランさんのファインプレーだな。よく逃げ出せたもんだ。『お人形さん』に追撃とかされなかったのかね。

 

 まぁ、色々と考えるべきこと、思うところはあるが、まずやるべき事は決まっている。

 

 

 

 

 ユノとサツキさんの検査だ。

 

 

 

 

神呑月

 

 

 黒蛛病患者の子を二人係で担いできたんだ。まず間違いなく感染している。ゲームだって、少なくともユノは感染していた。

 実際、感染してたしな。

 

 

 …サツキさんも。まさか二人ともとは…。

 いやまぁ自然な成り行きではあると思うけど。

 

 

 

 …治療を頼まれると思うが……治せるかなぁ。ジュリウスの治療が出来なかったのが、特異点候補であるから…ならば、恐らくユノも治せない。

 

 …………いや、出来なくはない…のか…な? 本気で判断できないんだが…まぁアレだ、要するに体の中から余計な霊力を奪って、それを浄化してしまえばいいんだ。

 今までは治療のために、タマフリとか使ってたが…相手の中の霊力を吸い取る、という事ならもっと使い慣れた手段がある。

 

 

 そう、毎度お馴染み、またそれか馬鹿の一つ覚え的な、オカルト版真言立川流である。

 房中術の基本は、互いのエネルギーを循環させ、それを増幅するものである。循環させるという事は、相手に俺のエネルギーを送り込むと同時に、相手のエネルギーを俺の中に取り込んでいると言う事でもある。

 であるなら、相手側…感染しているユノの中の霊力を、こっちに取り込んでしまう事も出来るだろう。

 

 問題があるとすれば、あくまでこれは机上の空論に過ぎない事と。何より、一方的にエネルギーを搾取する形になってしまう為、相手の消耗が桁外れに激しいと言う事だ。

 

 

 

 …根本的に、乙女心とかそーいう問題があったよな…。『死にたくなければヤらせろ』って言ってるようなもんだし。正直、下心無しの治療法だと考えてもらえたとしても、受け入れられるかと言うとな…。

 男の立場に言い換えれば、ケツをエグられるか死ぬかの二択。選択の余地がないとしても、心理的に受け入れられるかってーとな…。

 

 サツキさんなら、多分自分の事なら受け入られると思う。尤も、サツキさんの場合は普通に治療できると思うけど。

 だが、事がユノさんとなると……どうだろうなぁ。死んでほしくはないけど、枕営業染みた事を許容できるとは…しかしやらなきゃガチで死ぬんだし。

 

 

 ま、とりあえずあの二人の性格からして…最初に連れてきた嬢ちゃんの治療。それからユノの治療…が効かないので、先にサツキさんの治療…かな?

 やれやれ、治療ができないってのはなんというかもどかしいな。医者ってのはいつもこんな気持ちを抱えてるのか? やってられんな。胃に穴が開くぜ。医者の不養生って言うけど、その原因って無力感じゃないのか。

 

 

 

 

 ともあれ、治療しようにも赤い雨の水が無ければやろうったって出来ない。手配はしてくれてるから、到着待ちだな。

 その間、逃げてきた3人(一人は眠ったままだから)から、色々と話を聞いている。主に支部長と榊博士が話を聞いて、俺はその付き添いみたいなもんだ。

 …サツキさんが意外と協力的だったな。フェンリルに対してまた噛みついて来るかと思ってたんだが。それだけ、初めての鉄火場が堪えていたのか、それとも極東市民の生活でも見て思うところでもあったのか。

 ………単純に、意外と打たれ弱いだけのような気もする。極東市民の生活を見た時も、割とあっさり黙ってたし。

 

 とりあえずフライアの状態は、ラケルてんてーの独裁状態。もう殆どスタッフも居らず、どうやら無人神機兵を完成させる為だけの研究所状態となっているようだ。

 外部からの通信も、ほぼ遮断状態。…これについては、どうやらラケルてんてーが何やらやっているかららしい。ジュリウスと音信不通状態なのは、本人の意思ではないっぽい。

 そのジュリウスの姿も、フランさんはここ最近全く見ていないし、黒蛛病に感染している事すら知らなかった。

 

 どういう事にせよ、とにもかくにもフライアに押しかけ、敵対する理由は出来上がった。

 無人神機兵の為の人体実験…そうでなくても、異常な機械に患者を繋いでいる事への尋問。アラガミのような無人神機兵についての調査。それを裏付けるような、音信不通とフライアの行方不明(実際に隠れていた)。

 状況証拠止まりだが、突撃するには充分すぎる。

 

 問題はブラッド達の心境とモチベーションか。

 ギルはまぁいい。ロミオも…薄々感づいていたから良しとしよう。シエルは俺の言葉とラケルてんてーへの信頼の板挟み。ナナは反発するだろうな…。

 …やっぱ、レアに色々語らせるっきゃないか?

 

 或いは、詳細は隠して、ジュリウスが黒蛛病になってヤケ起こしてバカな真似しようとしてるみたいだから止めに行く、とだけ伝えて…ああダメだ、現場でラケルてんてーが出てきたら士気が下がる。口先三寸で誤魔化されるな……無視がいいか。

 

 

神呑月

 

 ユノ達がフライアと遭遇していた場所には、もうフライアは居なかった。逃げ足が速いな。本人の足は動かないというのに。

 まぁ、今回は何とか追跡できそうだ。発見次第カチ込みをかけるので、それまでにブラッド隊の説得とか、サツキさんや連れ帰った女の子の治療をやっておきたい。

 

 ブラッド隊の説得に関しては、レアがその役目を買って出た。頼むべきか頼まないべきか葛藤していたが、本人の意思で決めたようだ。…いつまでも黙って逃げ続けられない、か。

 

 

 

 

 

 しかしその話の内容は、ゲームとほぼ同じである。ぶっちゃけ全部知ってます。いや、ラケルてんてーが思ったより悪どい事やってたのは確かだけどね。どんなに空想を捻っても、現実の悪事に追いつかないっていうけど、アレ本当だわ。尤も、ここが現実なのかフィクションなのか、或いはその両方なのかはよーわからんけど。

 レアが色々と話し辛い事を、歯を食いしばりながら話しているのを、ノホホンと見ているのもなんだが…後ろでこっそり背中に手を添えるとか、そーいう事はしてたんだけどね。助力になってるかは怪しいもんだ。

 

 結局、ナナとシエルはレアの言う事であっても受け入れきれず、しかし何かしら異変が起きているのは理解した。それを確かめる為に、少々強引な手も使う…という結論に達したようだ。

 やる気になってくれてるんならそれでいい…とは言えないのが、今回の相手の厄介なところだな。人の心なんぞ理解してないだろうに、利用するのは異様に上手いんだから。口先三寸で混乱、最悪寝返りって事もある。…こういう疑いを捨てられないのが、俺の性格というか器を表しているね。

 

 

 

 さて、ブラッド隊はとりあえずこれでいいとして。もう一個の問題の話に入ろう。

 ユノ達の黒蛛病治療についてだ。連れて帰ってきた嬢ちゃんについては、赤い雨のタンクが到着し、無事治療できた。

 残りの二人については…サツキさんは他の患者や自分よりもユノを優先して治してくれと言いだし、当のユノは自分だけ優先的に治療を受けるのは躊躇われる。…気持ちはわかるし、リアルに命がかかっている状況で他の人間を気遣ったり、平等・公平を意識できるのは素直に称賛するが、これはサツキさんの方が正しいよなぁ。

 命に貴賤や値段があるかは置いといて、人命救助にも優先順位が付く事はどうしようもない事実。増して、この場合ユノには黒蛛病の進行を遅らせる事が出来る、という何者にも代えがたい付加価値がついている。贔屓がどうのと言うのでなく、効率面から見てもユノを最優先で治療するべきだ。

 

 

 

 

 治療できれば、だけどな。

 

 

 うん、予想通りできませんでした。んでサツキさんが狂乱した。いや、言いたい事は分かるけどね。何でユノだけ治療できないんだって。

 でも出来ないもんは出来ないんだよ。理由なんぞこっちが聞きたい。……いや、特異点候補だからって事は分かってるんだが、それを治療するにはどうすりゃいいのだ。

 今までやってる治療法が効かん。最終的には水着姿でタンクの赤い雨に浸かりながら治療したり、赤い雨を飲ませて治療も試したけどもダメだった。

 その間にも、何人も同時に治療した。そっちは問題なく治療できた。

 

 でもやっぱりユノが治せない。ついでに言うと、ユノが治らない限り自分も治療を受けないと言い出すサツキさん。それだけマジなのはわかるけど、その意地にはあまり意味は無いぞ。

 まぁ、ユノと違ってサツキさんの黒蛛病進行は遅いし、最悪気絶させてから治療すっけど。

 

 

 この一件を受けて、サカキ博士は……ちょっと自重しろと言いたくなるくらいに楽しそうだ。オメー、人の命賭かってんのにさぁ…それを俺が言うのも噴飯モノだけど。

 と言いつつも気持ちは分からなくもない。

 サカキ博士曰く、「ジュリウス君同様、ユノ君のみが治療が効かない。となると、二人の間に何か共通点がある筈だ。それさえ解明できれば、治療が効くようになるかもしれないよ。ジュリウス君だって戻ってくるかもしれない」…だそうだ。

 ジュリウスが戻ってくるのは、正直あんまり期待できないけどな。もう大勢を巻き込んでエラい事やっちまってる訳だし。治療法が確立され、冷静になったとしても、そのまま汚名を背負って死んでいくくらいの事は考えそうだ。

 

 

 

 さて、共通点っつーても、サカキ博士はアレだよね、黒蛛病が特異点を作ろうとする働きだってのはもう知ってるよね。つまりユノが特異点候補だってのも理解してる訳だ。

 

 

「うむ勿論。その上で言っているのさ。新たな特異点の出現は、終末捕食の再来に直結する。だが、その特異点出現を防ぐ事が出来たら…その手段である黒蛛病をキャンセルする事ができれば、どうだい?」

 

 

 特異点は出現せず、終末捕食も起こらない…が、多分次の手段を持ち出してくるぞ。自然だか地球の意思だかって奴が。

 

 

「その時はまた新たな対策を作り出すさ。人間はそうやって進歩してきたんだ。まぁ、確かに泥縄なのは否定できないがね。そういう訳で、ジュリウス君とユノ君が特異点候補とされた理由を解き明かし、治療すると同時に未来の危機を防ごうという訳さ」

 

 

 その為には、まず血の力を理解する事から始めなけりゃならんと思うのだが…。レア、データまだ残ってる? フライアでロミオを鍛えてた頃のヤツ。

 

 

「いやいや、確かにデータは欲しいが、残念ながらそうやっていられるだけの時間がない。ユノ君の黒蛛病は急激に進んでいる。と言う事は、ジュリウス君の黒蛛病進行はそれ以上だろう。ここは、恐らく世界で最も血の力を理解している君を使おうと思う」

 

 

 俺を? 確かに、この世界だと有数の使い手だと思うし、それを使って治療もやったが、結局治せなかったぞ。

 

 

「ああ、普通の方法ではそうだね。だが、まだ手はあるんだろう? そう、例えば…君のもう一つの姿を使った治療などはどうかね?」

 

 

 …ああ、そりゃ確かに試してなかったな。戦闘にばっかり使って「やっぱり他に方法があったんじゃないの!」……どっから聞いてたんですかね、サツキさん。

 

 

「どういうつもり…いえそれはいいわ、吐け、吐きなさい! すぐにユノを治しなさい!」

 

 

 落ち着けっておい…ちょっと榊博士、アンタ何か煽ったでしょ。

 

 

「いいや? むしろ、友人や本人の死を目前にした人間なんてこんなものじゃないかな」

 

 

 それ以前に、黒蛛病で隔離されてるこの人がここに居るって時点でおかしいわ。先日までは、ここまで狂乱してなかったぞ。絶望しかけた矢先に希望の糸が垂れてきたっつってもな…。……ああ、わざわざ煽らんでも、蜘蛛の糸見つけたカンダタみたいに必死になるか。

 この際、俺の首元ひっつかんで狂乱するのはいいから、他の人に触るなよ。治療も結構手間なんだから。

 

 

「どうでもいいから早く治しなさい! 私はどうでもいいからユノを! ハリー! ハリーハリー! ハリーハリーハリー!」

 

 

 いうのがアンタじゃ旦那のセリフも迫力無しだな。そこまで追い詰められてもユノ優先なのは凄いが。

 ま、いいか。どっちにしろ、治ると確定した訳じゃないし。…一応言っておくが、治らなくても喚き散らすなよ。方法は……ああ、まだ他にない事もないし。

 

 

「それなら全部試しなさい。そもそも、何で最初から試さない!? 人の命賭かってるのよ、出し惜しみしてる場合か!」

 

 

 金が無くて治療を受けられない人が聞いたらブチ切れそうなセリフだね。アンタ達を優先的に治療しようとしているから特に。

 まぁいいや。とにかく試してみるしかない。

 とは言え、無条件に出来る手段でもないんでね。治療の時は目隠ししてもらう事になる。覗き見も厳禁。オーケイ?

 

 

「…変な事をしないでしょうね」

 

 

 人を守ろうとするのはいいけど、そこまで猜疑心を持つと醜く見えるぞ。それだけ追い詰められてるって事にしておくが。

 んじゃ榊博士、悪いんだけどセッティングをお願いします。

 

 

「ああ、もう部屋の準備は出来ているよ。カメラも無い、防音、入口は一つだけ。…それにしても、君にしては珍しいというべきか…あちらの姿での治療は考えてなかったのかい?」

 

 

 アレは戦闘にばっかり使ってたし、こっちに戻ってきてからは使う機会もなかったからなぁ…。すっかり忘れてました。

 

 



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190話

よっしゃ、討鬼伝2のトロフィーコンプリート。
最終ミッション辺りが鬼畜かと思っていたが、金砕棒で速攻かけたらそんな事はなかったぜ。
ナイスな人物札くれたあの人に感謝。
このままそのうちでそうな気がしなくもない極に備えて全ミタマレベルカンストを狙おうかと思いましたが、ペルソナ5と世界樹の迷宮5の図鑑埋めがあるのでそっち優先です。
ペルソナにどっぷり浸かっても、まだ暫く書き溜めはあるので安心です。




追記
久々にギリギリラインを責めるエロ話です。
不快な方はご注意を。
今回、アンチ・ヘイトっぽい話の流れになってしまってますが、時守はサツキさんは別に嫌いではないです。
特に好感度が上がるよーなイベントが無かったのと、突っかかってくる鬱陶しい奴の心を圧し折って、玩具やカキタレにするシチュエーションが好きなだけです(キリッ

現実でもやれればいいんだけど、犯罪云々以前に現実のイヤな奴って見た目もアレな奴ばかりなんだよなぁ…。


神呑月

 

 

 で、結局治療は失敗。

 変身した姿を見せる訳にはいかないので、密室(内側から鍵)で、ユノには目隠しをしてもらった状態で治療を始めた。より効果的にする為に、赤い雨のタンクに水着姿で浸かりながら。

 …まぁ、変な絵面だったな。ユノの水着姿は眼福だったけど、シチュエーションがな…。金属製の密室で、ドラム管みたいなタンクに浸かり、更に目隠し。そしてその前に居るのは、仮面ライダーアラガミだったりマスク・ド・オウガだったりする異形が一人。…今からアンタら何するつもりだ、って言われても仕方なかろう。

 

 暫く続けてみたが、結局効果は無し。ユノ曰く、「以前の治療より、強く引っ張られている感じはした」だそうだ。だが吸引力がまだ足りないのか、それとも根本的に何かが間違っているのか。蜘蛛の模様は移動する様子はない。

 俺の側の手応えとしても、どうにも違和感が先に立ち、出力を上げても治せる気がしない。

 

 この結果を受けて、ユノはやはり落胆、サツキさんは激昂し、他の手段はないのかと問い詰めてきたんだが…………これでダメなら、アレしかないよなぁ。

 おいだから落ち着けって。本人よりも付き人が狂乱してどーすんだよ。

 

 いや、こっちの方法を試すのには、あんまり準備は必要ない…俺には。どっちかと言うと、そっちの心の準備が要る。

 言っとくが、これはふざけている訳でも、下心から言ってる訳でもない。信じるかどうかはアンタらに任せるし、そもそも本当にこれで治るのかも保証できん。

 

 

「いいから言いなさい。その方法は!?」

 

 

 セックス。

 

 

「………は?」

 

「へ!?」

 

 

 

(…ん? ユノのリアクションがやけに大きいな)

 

 

 セックス。交合。交尾。房中術。

 

 暴れだされる前にもう一回言っておくぞ、マジな話だ。

 ユノの体の中にある血の力を、直接繋がって引っ張り出す。血の力…そう呼ばれる前は、俺はこれを『霊力』と呼んでいた。ちなみに今も内心ではこう呼んでいる。

 霊力を扱う、或いは高めるのに有効な方法を色々試してみたんだよ。瞑想、読経、武術や肉体鍛錬によるいわゆる『気』の模索。

 

 その内の一つに、房中術もある。細かい理屈は省くが、互いの体内のエネルギーをR-18な行為を使って循環させ、増幅する術だ。

 これを使って、ユノの体内にある血の力を押し流して俺に移し、それを浄化する。欠点としては、エネルギーを一方的に搾取する形になりそうだから消耗が激しい事と、さっきも言ったがこれで本当に治るかは保証ができないって事だ。

 

 命より純潔が大事だというなら、この方法は無し。そうでなくても、俺が信用できないならやる必要はない。これは恐喝の類でも、枕営業でもない。

 

 

 

 …ああ、証拠を見せろと言うなら、アリサ達に聞いてみたらどうだ。色々やってる最中に、体を巡っていくエネルギーについては理解しているようだし。…まだブラッドアーツとかは使えてないけど。

 

 

「ふ、ふざけてるんじゃないわ! 貴方、ユノに妙な事がしたいから手を抜いてホラ吹いてるんじゃない!」

 

 

 そう思ってるならそれで結構。思われても仕方ない事は理解してる。だけど、さっきの方法が効かないなら、俺が提示できる方法はコレしかない。

 研究して新たな治療法が出てくるとしても、ユノの病状だと確実に間に合わん。さっき使った赤い雨のタンクだって、かなり無理して超特急で取り寄せたものだ。アンタが大嫌いな、フェンリルの力を使ってね。

 悪いが、これ以上の譲歩は無いし、出来ない。

 

 これから新しい方法を、榊博士が…いや誰かが見つけてくれるまで、不満を喚き散らすのも好きに「……やります」…ん?

 

 

「受けます、その方法」

 

「ちょっ、ユノ! 止めなさい、こんなの出鱈目に決まってる!」

 

「…サツキ…。本当は、そう思ってなんていないでしょう? 認めたくないから、誰かのせいにせずにはいられないだけで」

 

「…………!」

 

「皆、私を治す為に色々な事をしてくれている。それが効果がなかったからって、信用できないって言うのは…言いがかりだよ。これまで貰ってきたもの、全部を侮辱しちゃう」

 

「………それでも…だからって、こんな…!」

 

 

 …いいんだな?(違和感がある…)

 

 

「はい」

 

 

 (返事に躊躇いが無い、葛藤する時間も随分短かった…これは……)

 

 

 …ユノはこう言ってるが、まだ何かある? サツキさん。嫌味じゃなくて、要望は可能な限り善処するけど。

 

 

「~~~!!!! ーーーィ~~~!!!!」

 

 

 声に出せない煩悶っつーのかね。メッチャ頭を回転させてるのがよくわかる。どうにか別の方法は、ユノにそんな事をさせない方法はないのか。

 が、八方塞がりだろ。他に手があれば、榊博士辺りがとっくに思いついて…いや口に出すかは分からんけど。何考えて行動してんのか、色々な意味で分からない人だし。

 

 

 暫く髪を掻き毟り、七転八倒したサツキさんだが、結局解決策は見つからず。そして、出した結論は…。

 

 

 

「分かったわ…それしかないなら、私も覚悟を決める…。ただし、一つ条件があるわ。可能な限り、要望には応えてくれるんでしょう」

 

 

 治してもらう側で更に条件をつけるってのもおかしな話だが、まぁ言い出したのは俺だしな。具体的には?

 

 

「私も同席するわ。対価も無しに、とは言わない。私もユノと同じように扱っていいわ」

 

「は? え、えぇ…サツキ、それって…」

 

「ユノがそうするしかないなら、私も一緒に行くだけよ。意味があろうと無かろうと、ユノ一人をそんな目に合わせるもんですか。それに、本当におかしな事をしそうだったら、止める人間が必要よ。…ユノはああ言っていたけど、私はまだ本当に信用している訳じゃないからね」

 

 

 

 …………えぇ…。

 

「何よそのイヤそうな顔!? やっぱりユノに、人には言えないような妙な事をするつもりね!」

 

 

 いや、そーじゃなくて感じ悪いオバハンと態々ナニしたいとは思わんのだけど…。

 

 

「お、オバッ……私はまだ(武士の情けにより日記には残さない。オバハン扱いされて怒るのは正当な反応とだけ書いておく)歳よ! 見なさい、この肌! このハリがオバさんに実現できると思う!?」

 

 

 体はともかく、いっつも皮肉言って突っかかってきてるだけだし、追い詰められてたとは言えさっきまでヒステリックに騒いでたから、印象的にはあんま変わらんぞ。

 と言うか、それこそユノの意思はどーなんだ。治療とはいえ、エロい事やってるところに同席されるって。 

 

 

「うっ…それは……」

 

「私は……その、流石に見られたくはないんだけど……」

 

 

 頬を染めながら、チラチラと俺とサツキを見るユノ。まー普通はそうだよな…。

 

 だが、ユノの本音はそこじゃない。サツキの提案を聞いた瞬間の反応と、治療法を聞いた時の表情、そして抵抗の無さで、大体わかった。内面観察術を使うまでもない。

 

 …ユノ、ちょっと耳貸して。

 

 

「? いいけど、触らないように…ああ、貴方は黒蛛病患者に触っても平気なんだっけ。何?」

 

 

 

 

 

    サツキさんが居ても、思い切り『ハメを外せる』ようにするから心配するな。

 

 

 

 

「!? ………そ、それなら…わかった…」

 

「…アンタ、ユノに何言ったのよ…」

 

 

 そっちの要望に最大限配慮しただけだが? そーやって自分の事を棚に上げて突っかかるから、感じ悪いオバハン扱いされんだぞ。

 

 

「くっ………」

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、とりあえずこっちもそっちも準備は要るだろ。心の準備にしろ、二人でしっかり話し合うにしろ。

 俺は…まぁ、アリサやレア達に詫びないといかんし。

 

 準備が出来たら、声をかけてくれ。…手遅れになる前にね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、ユノの治療ができたら、ラケルてんてーの終末捕食をどうやって退ければいいんだ?

 それ以前に、これで治ったらジュリウスを掘らねばならんのだろうか。

 

 

 

神呑月

 

 

 

 …なんだかなー、この世界…というか俺がそーいう事をする機会に恵まれる女って、揃いも揃って内心でメッチャ振り切れてるなぁ…。抵抗が少ないというか、割とバンジージャンプみたいなノリで経験しようとするというか。

 いや一応理由はつけられるんだよ? GE世界にしろ討鬼伝世界にしろ、人間の世界は滅ぶかどうかの瀬戸際だ。種族的な生存本能と言うか、子を残そうとする本能が強く刺激されるのも無理はない。特に、俺に関わりやすい女性というのは、ストーリー近くにいる…つまりは生死の境の真っただ中に触れ続ける女性だ。死ぬ前に一度は、と思う事もあるだろうし、昂ぶりと言うか吊り橋効果に逆らわずに関係を進める人も居ただろう。

 

 

 だがそういうのに関係なく、葦原ユノは超がつくムッツリさんだったようです。

 エッチぃ事に興味深々。一見すると清純そのものの顔と、光のような…それこそ病気を軽減するような…歌声の裏で、悶々とした性欲を抱え込んでいたようだ。

 

 最初からそうだったのでは無いと思う。体付きを『そういう目』で見れば、自分での行為も含め、経験がロクにないのはすぐ分かる。

 恐らく、ムッツリさんになったのは至極最近…遡っても、1年半くらいだろうか。大方、世間に『葦原ユノ』が知られ始めて、清純派アイドル扱いされ始めた頃だろう。

 

 清純、清潔、天使の歌声、まぁ呼び方は何でもいい。ユノにはそういうイメージが付き纏っていた。どこからがサツキさんによるプロデュースなのかは知らないが、戦略としては大当たりだったな。

 ただ、本人もそのイメージに縛られ過ぎたのは…本人も含め、誰も気付いていなかったようだが。アイドルの欲求不満に気づかないプロデューサーか。難しいもんだね。

 

 そんな訳で、ユノの行動は自覚も無しに制限される事になった。清純なイメージを崩さない為、どこまでサツキさんが制限したかは分からない。

 しかしドカ食いや買い食いも出来ず(そもそもそこまで食料を確保する事自体、この世界では難しいが)、清楚に歩き、思い切り体を動かす事もなく(多少はしていたようだが)、静かで優しく儚い…まぁ、手弱女? のようにしか行動しなくなった。

 意外とアグレッシブな所もあったけどな、黒蛛病患者の病棟に来たり、フライアから子供一人掻っ攫ってきたり。

 

 ユノのクソ真面目な性格故、かねぇ。無意識に向けられたイメージを崩すまいと、自分で自分を縛り上げてしまった。誰の邪魔も入らない、プライベートな時間でさえ、それは適応される。

 『不純』の象徴であるような性的行為に躊躇いを持ち、しかし行動を縛り上げられるストレスが向かう先は三大欲求。飯は好きなように食えない。眠れはするけど、歌手としての活動もあるし、やりたい事も沢山。となると、最後の性的欲求に向かう訳だが…先述したように、躊躇いがある。そーいう動画もオチオチ見れない。

 ワイ談出来る相手と言えばサツキさんくらいだが、やっぱり罪悪感があるし、下手な事を言ったら止められるか叱られるイメージがある。

 結果、性欲が貯め込まれて鬱屈し、しかしそれを実行に移せない、興味だけは満載のムッツリスケベが誕生した訳だ。

 

 

 

 …と、大体こんなトコだと思うんだけど、どーよユノ?

 

 

「…そ、そこまで見通されると、ちょっと怖いんだけど…」

 

 

 と言う事は、大体当たりと。

 

 

「うーん…指摘されて、『そうかも』って思うところは沢山…。でも、それを正面切って本人に言うのは…」

 

 

 カウンセリングの一環だよ。或いは『本番』の前準備。

 大体、ここまで言われて怒るどころか、卑猥な話の嫌悪感も無い…。と言う事は。

 

 

「やめて、ストップ。流石にそこまでにして…」

 

 

 はいはい。黒蛛病が治せないと分かった時、「一生エッチできない」が最初の感想だった人が誤魔化しても仕方ないと思うけどね。

 

 

「なんでわかっ………うぅ…」

 

 

 ま、そんな顔するなって。そういう対象に見てなかったとは言え、俺とならデキるって事で。

 

 

「…全然気にしてなかった訳じゃないよ。男の子の友達や知り合いは殆ど居なかったし、同年齢の人はもっと少ないし。強くて凄いなぁ、とは思ってた…。銭湯も教えてくれたし。……多少は、妄想した事もあるから」

 

 

 妄想でなら自由だわな。実在しない人物でも、俺以外でも。

 ま、そこら辺をどうこう言える話じゃない。これはあくまで治療。治療ついでに、やってみたい事があるなら付き合う程度の話で。

 と言う訳で、最初はそこそこリードして、そっちに主導権渡すつもりだから。まー標本弄るくらいのつもりでやってみ。

 

 んで、サツキは結局納得させられたん?

 

 

「うん…他にどうしようもないし。私だって死にたくないもの。これでも、結構生き汚いつもりだよ.…そうでなくても、その、一回くらいは…」

 

 

 正直、その程度で生き汚いもクソもないと思うが…まぁ、鉄火場くぐってなくても、それくらいの精神力でないと歌手だの何だのはやれないのかね。

 ま、本人がそーいう気分なら、俺としても罪悪感とか感じなくて済むな。サツキさんにはともかくとして。

 

 

「あ、あはは…ちょっと暴走しすぎだったもんね。それだけ大事にしてくれていると思うと、悪い気がするけど」

 

 

 それが束縛に繋がってちゃ世話ねーや。…ま、この先どうなるかは知らないけど。

 ともかく、予定は今日の夜でいいか?

 場所は………俺の部屋でいいか。デートは悪いけど無理だな。下手なところに行くと、患者が増えかねん。治ってからにするか。

 

 

「…はい…それでいいです…」 

 

 

 

 

 

 

 打ち合わせ(?)は終わり、ユノは顔を真っ赤にして帰って行った。写真に撮られたら、それだけで金曜日辺りに騒がれそうな表情だった。

 まぁ、極東支部内部でやらかすヤツが居るとも思えんが。黒蛛病を遅らせる歌姫が、黒蛛病に倒れかけているとか、情報が流れたら面倒な事になりそうだから、支部長が情報統制してるんだよね。

 

 

 

 …さて、今回はちょっと強めにヤりますか。治療の為でもあるし、今後のユノの性活の為にも。サツキさんは色々ショックだと思うけどな。

 最近、イヤな面ばかり見てたけど、やっぱ苦労人なんだろうなぁ…。ツンケンした態度が悪因を呼び込むのか、苦労した結果ツンケンしてるのか。酌量の余地があるからって悪印象が消える訳じゃないが………まぁ、この際だからソッチもすっきりさせて、今後の付き合いに禍根を残さないようにしますかね。

 

 

 そんじゃ、時間になるまでは自室でレアの耐久説教だな。

 アリサやシエルが伝手を総動員して、抱かせる石やらイタズラ用の玩具やら、色々準備してたっけ…本気じゃないからこそ、何やってもおかしくない。不安だ。

 

 

 

 

 

神呑月

 

 

 

 …予想外デス。

 

 まー何だ、予想はついてるだろうけど、朝っぱらからエロ語りに入る。内容はもちろん、昨晩のユノとサツキさん…もといサツキの3Pについて。

 だが語る前に、一つ現状を報告しておかねばなるまい。

 

 

 

 目ぇ覚めたら、サツキがメッチャ恍惚とした目で、ナニをprprしてました。目が合った時のセリフは、

 

 

「おはようございます、ご主人様」

 

 

 だった。

 

 

 

 

 

 ユノ? 俺の隣でまだ寝てるよ。何やったかって……ラブい退魔忍? 初めてのアイドルに「んほぉ♪」まで言わせる事になるとは、流石に予想外だった。

 

 

 

 …色々な人と接点というか結合してきたけど、明確に調教エロゲの主人公みたいな呼び方されたのは初めてな気がする。

 なに、そこまで感じ悪いオバハンがそこまで従順になってるのは予想外? 俺だってそうだよクソッタレ。思ってたより、精神的に脆かった。

 

 

 正直、そうなっても仕方ない状況だったとは思うけど。でもそれは…俺のが切っ掛けであってもトリガーを引いたのはユノだと思うんだが。秘めていた内心を暴露させたのは俺だが、思っていた以上に過激な表現で言ったのはユノで。

 それを聞いて、色々ガタガタになったサツキを強引にリカバリーした結果がコレだ。

 正直、ちょっとやりすぎたと思う。カンジワルイオバハン扱いしておいてなんだけど、別のサツキの事は嫌いという程じゃなかった。最初の印象が印象(ゲームも含む)なだけに、あまりいいイメージはなかったけども。本当にカンジワルイオバハンは、あんなもんじゃないからな。サツキに対しては、別に泣いたり笑ったりできなくしてやりたいと思った事はないし。

 

 …ちょっとイライラが募って、丁度いいチャンスだからそれを解消しておこうかと思ったくらいだ。

  

 

 

 そうだな、最初から話そうか。痛モノじゃなくてエロ語りで。皆(俺を形成しているのっぺらミタマ集合体とか)もそっちを期待してるだろーし。

 

 

 

 コトが始まったのは、ユノと打ち合わせした通り、俺の部屋だ。最初っからマッパだと混乱するのが目に見えているんで、全員服を着たまま。ただしシャワーは浴びてきたらしい。

 ベッドに腰かけている俺の前に、悔し気なサツキと、見るからにソワソワしているユノが立っていた。

 

 始める前に話した事は、大した事じゃない。それこそ、明日の天気の予想程度の意味しかない社交辞令だ。サツキはまだ怒り心頭を抑え込んでいたし、ユノは期待と不安で一杯一杯だったしな。

 それでも内容が気になる人の為に記しておくなら…男女は逆だが、かつてMH世界で、水商売のおねーさんに初めて会わせてもらった時と同じような会話だった。ああ、もう名前も思い出せないあの人よ…。今度機会があったら行ってみよ。

 

 ま、それはともかく、ユノをエスコートしてベッドに腰かけさせた。ちなみにこの時点で、悪いとは思ったけどサツキには不動金縛りの術(一般人だから簡単にかかるし、威力弱めで長続きするタイプ)のをかけておいた。騒がれても興醒めだしね。

 

 

 

 されるがままのユノを誘導し、最初は軽いキスから。服の上から触れて全身を確認して、弱いところを探す。

 その時点で、緊張からかピクピクしてたけども。舌すら使ってないバードキスなのに、凄い反応が良かった。やっぱアレか、積み重なった「気持ちいいモノ」ってイメージが、過剰に反応させてるんだろうか。それはそれで都合がいいが。

 

 息が荒くなってきた辺りで、キスしながら舌を唇で嘗め回しつつ、押し倒す。想像して想像して想像して、全く触れられなかった性に酔っているのか抵抗は全くない。

 だが、肌を晒す事にはやはり抵抗があるらしい。羞恥の感情は非常に強かった。一度教え込んでしまえば、それもスパイスにできるんだが、全く未経験の処女にとってはハードルでしかない。

 

 なので、逆にこちらが肌を晒す事にした。男のサービスシーンなど、一部を除く男にとっては全く嬉しくないが、ユノにとっては下手なAVよりも刺激的だったらしい。

 上半身の服を脱いだだけなのに、もう体に目が釘付けになった。「わ、凄い…」とか言いながら、腹とか腕とかペタペタ触ってきた。多分、この辺からサツキの事もすっかり忘れてたっぽい。

 

 お返しに徐々に服の下まで指を伸ばしながら、「ズボン、脱がしてくれる?」と囁いてみた。…男女逆転してるなら、「下着、脱がしてくれる?」的なセリフだ。実際、ユノはそんな感じで受け取ったっぽい。

 興奮で震える手でズボンのボタンを外して、えっちらおっちらしながらズリ下す。そうすると、トランクスがまだ残ってるとは言え、昂ってるナニがちょうどユノの目前にくる訳で。まだ6分立ちくらいだったけど、目が釘付けになった。

 

 これ以上見たければ、今度はソッチが脱いでね?と言うと、ちょっとだけ躊躇って、自分で服を脱ぎ始めた。歌姫のストリップktkr! 不謹慎な事言うけど、胸元の蜘蛛がイレズミみたいでエロいです。まぁ、それを消す為の行為なんですが。

 ……なんて考えてる場合じゃなかった。下着がエロい。明らかにそーいう目的の為だけのだと分かるくらいにエロい。それはもう、動けなくしていたサツキが絶句して気絶しそうになるよーなヤツだ。

 こんなの着けてるって知られたら、清純派も何もない。

 

 何? 今日の為に準備してくれた? …またアリサか! そーいやコレクションの中に、サイズがちょっと合わなかったのもあるって言ってたな! よくやった! ……ん、アリサもブラとか着けるよ? 普段はともかく、夜は演出の一環で。

 

 

 まーいいや。自分に見せる為だけに、アダルティックな下着つけてくる歌姫とかエロいやん。わかってはいたけど、相当楽しみだったのね。…サツキから、縊り殺そうとするかのような視線が飛んできたが…ユノがちょっとだけ頷いたのを見て、超動揺していた。ああうん、気持ちは分かるけど、そーいう考えだからユノがここまで貯め込んだんじゃねーかな。

 

 んじゃ、要望通り脱いでくれたし、御開帳(ただし俺のを)。…7分立くらいだったけど、それでもユノがビビるには十分すぎたようだ。まぁ、男風呂でエレクトしてない状態でも、ギルに「エグい」って言われたくらいだしな。

 だいじょーぶだいじょーぶ、(まだ)噛みついたりしないから。ほら、俺は座ってるから、こっち来て触ってみ?

 

 ベッドに足を投げ出して座ると、ユノは俺に寄り添うように座り、おずおずと、しかし躊躇いなく手を伸ばしてきた。

 サワサワと、愛撫と言うより好奇心を満たそうとするような動きで指が這い回る。おお、もどかしさが中々…焦らされてるみたいでイイ感じ。

 だがそれはそれとして、隣に卑猥な下着に身を包んだ美処女が居るのに、俺が我慢できる筈もなく。

 

 腰の括れから始まって、アバラ、背筋、ヘソ、おっぱいと。

 ユノのおっぱいは見事だったなぁ。処女雪だわ、アレ。こう、触るのが勿体ないと思うのと、メチャクチャに足跡…もとい手形を付けてしまいたいと同時に思った。

 マジマジと見ていると、恥ずかしいのか身を捩ったけど……その捩り方は、「見ないで」ではなく「はやく触って」にしか見えなかった。表情を見ても、多分間違ってない。ちなみにその間も、ユノの指にサワサワされてます。

 

 本格的に辛抱溜まらなくなったんで、ディープな方のキスを誘う。最初はバードキスだと思ってたようなのでかなり驚いていたが、すぐに舌を動かし始めた。

 初心者にしては上手かったな。やっぱアレか、歌手だから舌を動かすのもお家劇なのか。あの光の歌声を出す舌を、唾液塗れにするとか興奮するな。

 

 …おっと、これは治療、これは治療(タテマエ)。

 と言う訳で、早くも舌を絡めるのに夢中になりつつある(でも片手はサワサワしたまま)ユノから口を離し…舌だけ出しておいかけてきた…ゆっくり押し倒しながら、口を下していく。

 唇から唾液が繋がるように、アゴ、頤、喉、鎖骨、肩、そして蜘蛛の模様がある乳房へ。繰り返すが、タテマエであっても治療である。体液を塗り付ける事で、霊力の交換をしやすくする為だ。まぁ、オカルト版真言立川流としていつもヤってる行為だけども。

 ちなみに、喉から鎖骨にかけてが凄い性感帯だった。…普段から酷使してるからか? と言うか、普段から性感帯丸出しの恰好で歩いてるんだよな。これも一種の露出プレイか? 密かな気晴らしか? まぁ何でもいいが、終わった後に外歩けるのかな、こいつ…。

 

 そんな感じなんで、押し倒したユノの首とかprprすると、それだけで美事…見事ではなく美事…な喘ぎ声が上がる。初めてだというのに、悦びに慣れて受け入れているアリサ達とは、一線を画する嬌声だった。光の歌声で喘いでくれると思うと、それだけでエレクト具合が違うね。もうとっくに十分立だ。…もうちょっと大きくもできるけど、初心者には辛かろう。

 とにかく、声もそうだし、反応もいいしで、ユノを弄るのが楽しくて仕方ない。タテマエを忘れるところだった。

 

 暫くあっちこっち撫でて擦って舐め挙げて盛り上げていたんだけど、ユノがクタクタになる前に次のステップへ。気持ちよくさせられてはいるけど、このままじゃユノが楽しめない。

 イヤらしい事に興味津々の歌姫様にも、ハメを外してもらわんと。体だけビクンビクンさせても、精神的なストレス発散にはあんまりならねーもんな。

 

 

 サツキへの布石ってのもあったけど。

 

 

 で、次に致しましたるは、男女逆になって寝そべる、所謂69。ロック。じゃなかったシックスナイン。勿論ユノが上。

 目の前にある、濡れて張り付いてとっくに意味を為さなくなっている(狙って選んだな?)アリサ提供パンティを剥ぎ取って、まじまじと視姦。太腿に息が、大事なところに視線が当たってくすぐったそうなユノだったけど、それ以上に目の前にある俺のナニに視線が集中していた。

 

 

「そろそろ慣れてきたろ? もうちょっと触ってもイイよ?」

 

 

 と言うまでもなく、相変わらず興味…と本能に唆されて、触りまくっていた。棒だけではなく、さっきまでは目に入ってなかったケやら袋やらにも視線が行き、恐る恐るながらも触れ始める。棒については、結構慣れてきたのか、触れる指の力がちょっとずつ強くなってきていた。

 ペッティングと囁き(股の間からだが。声と行為の両方)で、理性を削っていた事もあるだろうが、ユノは本当に好奇心旺盛で積極的だった。最初はおずおずと、だったのが、安全(?)を確信してからは弄り回す弄り回す。さっき弄ばれたお返しでもするつもりかと。

 挙句、先走りが滲んだのを見て、「もう舐めてもいいの?」なんて聞いて来る始末である。

 

 

 …ちなみに、サツキはこの時点で既にレイプ目だった。

 

 

 

 prprされても、言っちゃなんだがあんまり気持ちよくはない。そりゃそーだね、どこをどうすればいいか分かってないから、数少ない知識に頼って『とりあえず舌を付ける』状態だったからね。初めてなのに躊躇いが少ないのは大したもんだけど、それだけだったわ。

 が、初心者がそうなるのは当然の事。なので、さっきのキスとかの場面で色々仕込みをしておきました。

 

 …口とか舌って性感なんだよね。自分の舌で自分の口内を嘗め回し続けるだけで、変な気分になる人も居るくらい。

 

 

 

 

 足は性器です、ならぬ口は性器です。いやユノの生足も好きなんだけども。元々の体質とマッチして、そりゃー予想以上の効果を発揮しております。

 

 

 舌がガチの性感と化しています。それはもう、触っただけでビクンと来るくらいに。そんなので、ナニをprprしたどーなるでしょう。

 舐めれれば舐める程、ユノがビクンビクンしているのがよーく分かります。ついでに言えば、悦楽と同時に味やニオイも深く印象付けられます。

 

 いやぁもう夢中夢中。口で自慰してるよーなもんだね。相手が居るから自慰じゃないのか? でも自分でスルのが自慰だしな。

 念のために、タマフリで堅甲かけといてよかった。夢中になりすぎて、ガブッと来たからね。ガチで噛み千切ってでも食うつもりになってたぞ、こいつ。

 

 テクニックは要指導だったけど、夢中になってるのがよく分かったし、目の前でヒクヒクする大事な部分とか、下腹部の辺りで潰れて歪むオパーイの感触とかで十分高ぶった。

 適当なところで我慢を辞めて出すと、自分から吸い付いて飲み干してしまった。躊躇いもなくゴックンして、ようやく冷静になったらしい。

 

 …が、顔を真っ赤にしつつも、そこまで来たらもう振り切れたのか。「もうちょっと残ってない?」と、お掃除まで自発的にしてしまった。…それでまた夢中になりつつあったので、体勢変更。

 口による自慰のおかげもあって、充分に解れている。これ以上解して痛みを和らげる事もできるけど、このエロ娘にはそれは野暮ってもんだろう。

 

 

 

 ほら、こうやって…まだ足腰に力入るな? こっちに手をついて……どうすればいいか、分かる?

 

 

「う、うん。うんっ」

 

 

 はは、もう怖がってもいないな。でもこれはワザと痛むようにやるからな。そっちの方が、らしくて好みだろう?

 

 

「は、あは…あはははは、本当に、分かってくれるんだ!」

 

 

 …あ、ヤバいスイッチ押した、と直感した。しかもコレ本人も意識してなかった隠しスイッチだな。何よりヤバいのは、俺にとってじゃなくてサツキにとって致命的だって事だが。

 雰囲気が540度くらい変わったもの。一回転じゃすまないもの。

 

 ヤバいなぁ、余計な事は言わせないように…と思ったけど、もう時遅しですしおすし。だってサツキ、目が発狂寸前だったもの。訳も分からず動きを封じられ(不動金縛)、喚く事もできないどころかユノに存在すら忘れ去られ(隠形もかけた…んだけど正直無駄だった)、いろんな意味で発散も出来ないし、自分が置かれた状況がさっぱり分からないし、ユノはユノで今まで見てきた姿とは懸け離れた痴態を晒しまくるし、自分の正気どころか存在すら疑ってただろう。

 だったらもう、木っ端ミジンコにするしかないじゃない。爆砕点穴受けた岩なんぞメじゃないくらい、それこそナノレベルまで粉砕して再結合させるしかないじゃない。

 

 …言うまでもないが、分断したものを再度くっつけるには、それに数百倍する時間が必要な上、元通りになる確率は天文学的に低い訳だが。

 

 

 

 ともかく、スイッチと言うか地雷を踏み抜いてしまったユノの変化は凄かった。一頻り笑ったかと思うと、リードする必要すらなく自分から腰を落とす。

 痛みすら楽しみながら、「んん~~~っ」と伸びをするかのような声を出しつつ、プチン。俺の体でしか聞けない音だったけど、流れ出す赤い血を見て、ああサツキの目が更に死んでいく。これが死体蹴りか。むしろ肢体蹴りか。

 その一方で、ユノはと言うと銭湯上がりに牛乳でも一気飲みしたかのような、スカッと無駄に爽やかな笑みを浮かべていた。

 

 この時点で、ユノの笑みがなんつーか、堕天使のよーでありつつ、邪悪成分をマルッと消し去ったような感じになっていたというか。無邪気さに溢れすぎて、捕まえた虫をSATSUGAIしてしまいそうなほどに綺麗だったっつーか。

 

 更に死体蹴りは続く。て言うかユノが自主的に続ける。

 サツキが居てもハメを外せるようにしてやる、とは言ったけど、流石にこれは想定外だ。具体的にはセリフが。

 あと初めてとは思えない腰使いが。グィングィン動かしてた。まだ痛む筈なんだけど、明らかに悦んでるのは締め付け具合からも分かるし。

 

 

「そうだよ、これが、こういう事がしたかった! 私は歌手だけど、サツキが言うような偶像じゃない、こういう事だってやってみたい、ただの女の子なのぉ!」

 

「ずっと窮屈で仕方がなかった、サツキは必要だっていうから我慢してたけど! ひどい、サツキひどい! こんなスゴいの、やったらダメだなんて、もう知らない! もうコレがないと歌わないからぁ!」

 

「やっちゃダメだってばかり言って、何もさせてくれなかったサツキなんて知らない、もうコレ無しじゃダメなの!」

 

 

 …すぐ傍にいるのを忘れているからって、ヒデェ言い草だ。

 なんかセリフが寝取り臭いが、実態はもっと酷い。守ってくれている親友に対する本音がコレだもんな。抑圧されてた不満とは言え、だからこそ本気である訳で。

 

 ブチ撒けた為か、無駄にスッキリした顔になっているユノは、自分好みの動きを見つけ、夢中になって俺を貪っている。腕を掴んで引き寄せて唇を吸えば、自分から舌を絡め返し、全身で絡みついて来る。…サツキのダメージがそろそろ限界だから、余計な事喋らせないようにしたんだが…無駄だなこりゃ。

 動きに合わせて、小刻みにこっちも動いてやれば、ユノが果てるのはあっという間だった。よくもまぁ、腰に力が入らなくなりつつある体で、最後まで腰を振れたもんだ。

 

 

 

 至福の表情で凭れ掛かるユノには悪いが、まだ続きがあるんだけどね。だって、黒蛛病の治療、まだやってないもの。むしろ望むところか? 

 

 

 力が入らなくなったユノを強引に四つん這いにさせ、再度動き始める。今度はこっちが主導で動き、オカルト版真言立川流も使っていく。

 房中術において、気をやると言うのは精を漏らす事で、基本的に適度にやるか、タイミングを計ってやらなきゃならんのだが…実際、普段ヤる時には快感をコントロールして、気絶したりせず長く楽しめるようにしている。だが今回ばかりは話が別だ。

 

 今回は、ユノから一方的に力を取り込まなければならない。黒蛛病の力だけ抜き出せればいいんだが、流石に俺もそこまで精密なコントロールはできそうにないし、考えた事もない。模様があるのが心臓付近だから、その辺のエネルギーだけ抜き取って平気なのかって問題もあるしな。

 と言う訳で、エネルギーを吸い上げる為、どんどん精を漏らしてもらわなければイカン訳だ。

 

 

 ここまで言えば分かるだろう?

 

 

 泣いて謝っても許さないくらいに、ガンガン昇天させにゃならんのだよ! しかもオカルト版真言立川流使ってる、モノ凄い状態で!

 

 

 

 そこからのヨガり声は凄かった。防音を破って、隣とかに聞こえるんじゃないかと思うくらい。まぁお隣さんは居ないんですが。

 初心者に対して無茶する訳だから、痛みだけでも和らげようと思って色々仕込んでいたんだが…結果的にはアレだ、退魔忍みたいに感度一千倍改造とか、あんな感じになってしまった。いや流石にそこまで効果は高くなかったけど。

 

 まぁ何だ、最後の方…だけでもなかったが、人気商売の人がしていい顔じゃなかったな。自分でそうさせたんだと思うと、これはこれでと思うけど。「んほぉ♪」まで言わせたし。

 

 

 

 

 まぁ、とりあえず、黒蛛病の治療は出来た。ユノのエネルギーをかなり吸い取り、加減を間違えれば衰弱死する可能性すらあったが、そっちのリカバリーも(多分)完璧。

 俺の体に移動した黒蛛病の力は速攻で浄化させて、その上で本来の房中術のあり方…受け取ったエネルギーを返しておいた。増幅率はあんまり高くなかったけどね。あまり急激に注ぐと体内…と言うか胎内で暴発する可能性もあるし、そもそも本来のやり方からかなり外れた為、あんまり効果は高くなかったし。

 

 エネルギーとか白いのとかを注ぎ込まれたユノは、体力の消耗もあってそのままダウン。スヤスヤとオネムしました。気絶とも言うが。バックドラフトが流出してるけど、後始末はしません。この眺めもエロいし。

 

 

 

 

 

 

 

 …さて、今まで意識してなかったというか意識して忘れていたというか、現実から目を逸らしていたというか…とにかくサツキの件なんだけど。

 

 

 

 死んでた。目よりも先に体勢が。

 

 

 orzなんてモンじゃない。体には完全に力が入ってなくて、不自然な状態で寝転がってた。それこそ、車に跳ねられたダミー人形みたいに。

 目の光に至っては、レイプ目通り越してガラス玉以上と言うか……例えて言うなら? そうだな……超恋愛してようやく結ばれた新婚初夜に、妻から寝取られハメ撮りビデオメールが送られてきて絶望し、その場で身投げを計るも生き残ってしまって病院に搬送され、治療費で全財産吹っ飛び仕事も長期休暇で干され、莫大な借金だけが残ったようなレベル…か?

 

 …そらなー、目の前で手掛けたアイドルのあんな痴態を見せられた挙句、本音がアレだもんね…。廃人か自殺直行コースだわ…。全く関係ないけど、なんか武内Pに申し訳なくなってきた。

 軽い…今思うとどう考えても軽くない…意趣返しと、ハメを外したユノの言葉を聞かせてコミュニケーションが上手く行ってない部分の改善になるかなぁ、なんて考えてたんだが……やっぱ俺が頭使っても、ロクな事にならんのな…特に人間関係は。

 

 

 

 

 …いやこの際反省と自裁は後だ。サツキどうしよう。ユノが目を覚ます前にどーにかせんと、ユノの方が罪悪感で潰れてしまう。俺にも刃傷沙汰が向けられるだろうし。

 

 

 と言っても、この状況で出来る手段なんぞ一つしかない。幸いと言うべきか不幸にもと言うべきか、ユノと同じ扱いにしていい、と言質は取ってあるし。

 人をロクでもない方向に導く才能と実績だけはあるからな! ソッチ方面に突き抜けさせりゃどーにかなんだろ!

 

 

 

 

 …と言う訳で、死人のようなサツキを無理矢理復活させた結果が「ご主人様」発言です。

 延々と突っかかってきた小生意気な女を屈服させて隷属させた、と思うとスカッとするかもしれんが…正直、そんな事考えられるレベルじゃなかったよ…。虚ろな笑いも漏れやしない。…サツキがな。

 

 それに、最初は完全に、呼吸してるだけの無反応状態になってたからなぁ…。それを脱がして転がして、キスやら何やら…。それにも生理反応以外はほぼノーリアクションだったから、体内に霊力を注ぎ込んで無理矢理反応させて…。

 正直、死姦してる気分だったっす。

 

 

 ちなみに、経験は数回程度だけどあったようです。…やっぱアレかな、ユノをプロデュースする為に、自分が泥を被ったのか…それともジャーナリスト時代に、誰かお相手でも居たんだろうか。

 

 

 

 …何にせよ、ユノに「サツキ一人だけこんな事してたなんて、ズルイ」って更なる追撃が入ったんですけどね。

 おーい、望んでやってたんじゃないかもしれないし、その追撃はちょっと…。あとコレはほぼ俺の専売特許状態よ? 似たような事出来る人とか、もっと上手い人も居るかもしれんけど、普通は出来んぞ。

 

 

 

 …ま、なんにせよ、ここまでダメージ入ってるんなら、無理矢理治すしかない。

 ええもう、強烈な初体験直後のユノが恐れ戦きつつも羨ましがるほどスゴイ顔させましたよ。退魔忍の悪役になった気分だった。不本意ながら、レアを死なせかけた経験も役にたったと思う。ギリギリを超えて、その先の更に分水嶺まで近づけた。あまりやりたいプレイではなかったが。

 

 ユノに見られながら、最初は無反応だったサツキは乱れるというか狂いに狂い……何だその、白目剥いて乙女として言い表せない状態(……つ、潰れたカエル…?)になったりもしたけど、そこまでやってようやく回復できた。…修復? いや応急処置……とにかく動いてはいるから、多少の不具合には目を瞑れるレベルで。

 ユノの追撃がシャレにならんレベルだったからな…。そのまま目を覚まして、サツキが壊れているのを見たら「私のせいで!」「でもやっぱり貴方にも切っ掛けはあるし」「八つ当たりだとしても、一緒に責任とってね」になりかねないレベルで。

 とりあえず、正気に戻らないうちにと言うか、まだご主人様と呼ばれている内に、優しく扱ってもっとマトモな精神状態にしようと思います。

 

 

 

 

 …気が付けば、朝エレクトをサツキとユノの二人係でprprされている朝の回想でした。

 

 

 



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191話

エロ会で唐突に日間ランキング30位くらいに浮上しててフイタw
皆して正直すぎるw


 

神呑月

 

 

 はて、とりあえずユノを治療したはいいが、どーしたもんだろうか。二人がエロエロになったのはいいとして(すでに関係を持っている女達は、アリサが率先して『説得』に行ったし)、ラケルてんてー対策だ。

 後先考えずに治療しちゃったが、こうなってしまった以上、ゲーム同様の手段で終末捕食を防ぐ事はできないだろう。

 

 

 

 …いや、本当にそうか?

 特異点の力が、血の力、ひいては霊力を操る能力なのだとすれば、黒蛛病にかかっている事は必ずしも必要な条件じゃない。

 霊力を扱えればいい訳だから、例えばユノにオカルト版真言立川流を駆使して霊力の扱い方を叩き込み(つまりはそれだけアヒンアヒン言わせる訳だが)、霊力を集め共感させるのは歌でやらせる。

 …こうしてみると、特異点の代わりができない事はない…のか? しかし、本来の特異点に比べれば、操れる力、流れ込む力は劣るだろう。

 

 うむむ………要領的にはアリサ達をブラッドアーツに目覚めさせるのと同じか? やり方は違うが、すでにリンドウさんが目覚めているし、不可能ではないと思う。

 

 

 だが、最も有効な対策としては、『最初から終末捕食を起こさせない』だ。ジュリウスが神機兵の残骸に埋もれて変化する前に、奪う、潰す、無力化する……………やりたくないけど、始末するか、掘って治療するか。

 ジュリウスに会うとしたらフライア…敵地の真っただ中だから、掘るのは却下だな。隙だらけになる。……連れ帰ってから掘れ? 知らんな。

 

 

 まーどっちにしろ、この手を使おうと思うと、直接対面せにゃ話にならん訳だ。フライアにカチ込みかまして、神機兵と…恐らくは『お人形さん』の邪魔を掻い潜ってジュリウスを探し出し、多分抵抗するであろうあいつを確保して持ち帰らなければならない。

 結構厄介なミッションだ。敵の戦力よりも、ジュリウスの移送が。気絶させて本人の抵抗を奪ったとしても、黒蛛病で犯された体を運んでいかなきゃならん。となると、担げるのは俺くらいか。他のメンバーも、感染しても後から治せばいいんだが……そうなるとシエルになる訳だが、体格的に厳しい。

 ジュリウスを担いでフライアを抜け出したとしても、ラケルてんてーの追撃があるだろう。それこそ、フライアの移動速度を考えれば、車を使ったって逃げきれない。俺一人なら、アラガミ化してダッシュすればいいけど。

 

 

 …つまり、ジュリウス奪還と同時に、フライアをぶっ壊しまくって、移動能力を奪うのか。出来るかな…あれだけデカい要塞なんだし、壊れた時の為の装置くらいついてるだろう。

 

 しかも、最近ではフライア周辺に、多くの感応種が集まっているらしい。…特異点の存在に惹きつけられたのか? 3年前のノヴァの時も、似たような事があったし。

 どっちにしろ、感応種が多いのは厄介だ。下手をすると新種が生まれている可能性もある。……なんかこう、ヤバい気配がビンビンするんだわ。

 

 何れにせよ、周囲に感応種が居るんじゃ、フライアに突入できるのはブラッド隊と、多分リンドウさんくらいだろう。それ以外のゴッドイーターじゃ、ブラッドと逸れた途端に神機が動かなくなってしまう。

 戦力を増やす事もできず、八方塞がりか。

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えていたら、支部長からブラッド隊+リンドウさん、アリサが招集を受けた。メンバーからして、ジュリウス奪還作戦か? それにしては、何故にアリサも?

 更に、支部長室まで行ってみたら、サツキとユノまで居た。…ウィンクありがとう。

 

 

 

 ……うん、奪還作戦でした。

 内容的には、大体予想通り。上記の考えで一致していた。最大のネックは、フライアからの逃走時。

 

 が、支部長は更なる手法を持ち込んできた。

 

 

 曰く、爆撃。確かにフライアの性能は脅威的だ。ラケルてんてーの事だから、仕様書に乗ってないビックリドッキリ機能がまず間違いなくある。コーラを飲んだらゲップが出るくらいに、榊博士の実験に突き合わされたらエライ事になるくらいに確実だ。

 だが、それらは全て機能が正常に動いていればこそ。どこでもいいから…理想を言えば、足回り付近を完全にぶっ壊してしまえば、それらは無力化できる。

 

 …で、相手がアラガミじゃなくて単なる要塞なら、大質量でも叩き込んでやればいいじゃない、と言う訳だ。

 

 

 その為の方法は、アリサやレアが関わっているプロジェクト…宇宙船の開発計画。作ってるのが宇宙船なんだかロケットなんだがスペースシャトルなんだかよく分からんが、とにかく高高度から爆弾なり部品のパージなりを使って、フライアに放り込もう…という訳だ。

 なんか…支部長にしちゃ、大雑把と言うか力技と言うか。と言うか、そんなモンをフライアに叩きつけたら、爆発したり潰れたりでジュリウス死んじゃうんじゃないか? …まぁ、終末捕食よりマシだって理屈も分からんではないが。

 

 

 また、万一間に合わなかった場合…終末捕食が再発生してしまった場合に備え、ユノを配備。

 ジュリウスに並ぶくらいの特異点としての素質を利用し、ユノの歌を使って血の力を集め、終末捕食を押し返す…タイミングはずれているが、ゲームとほぼ同じ算段だな。

 

 ゲームでは、一度フライアに突入し、終末捕食…の前段階が発生して、一旦どこから逃げ帰ったんだっけ。で、再度突入する時に、ユノの歌を使った。今回はそれらが同時に起きる訳だ。

 

 

 しかし、問題が一つ。

 

 …いやあの支部長? ユノの黒蛛病、もう治しちゃってるんですけど…………もう一回感染しろって、んなご無体な。そりゃ治せるんだから、感染しても助けられはするけども。

 

 

 なんかこう、「いいのかなぁ?」ってモヤモヤする部分も無くはないが、他にいい案があるかと言われるとな…。

 結局代案は出てこず、準備が出来次第決行となった。

 

 

 

 

神呑月

 

 

 アリサとレアが極東から出発しました。何でって、そりゃジュリウス奪還作戦の、ロケットとか確保しに行ったんだよ。

 おかげで、アリサをブラッドアーツに目覚めさせる実験が出来なくなってしまった。実験つーても、昼は狩りしてそれ以外はヤりまくるって事でしかないんだが。

 元々、休暇が終わっているのをあの手この手で引き延ばしていたらしい。ブツブツ言ってたが、しゃーないよ。

 

 

 …アリサのブツブツは、世紀の歌姫とネチョネチョ出来る機会を逃したからでもあったが。

 ちなみに、アリサとユノは結構仲がいい。百合百合な関係と言う訳ではなく、ユノにとっては貴重な………な、なんだろ…友達…と言うよりは……ワイ談仲間? 治療の為とは言え、俺と関係を持ったユノに対して先輩風(?)吹かして色々吹き込んだらしい。

 で、興味津々だったユノはユノで、師匠…いや姉御として崇めそうな勢いになっていたとか。実際、棒姉妹ではある訳だし。

 

 

 

 そのユノは、アリサに教わったアレコレを試したがっています。名目的には、血の力の存在や使い方を、文字通り体に叩き込む為。

 支部長の要望通り、再度黒蛛病に感染している。…病棟で握手会とかやったんだそうな。「もう感染してるから、皆とも触れ合えます!」みたいな感じで。……握手会目当てに感染しようとするバカが出るかは、定かではない。

 

 今度は黒蛛病治療の為ではないから、エロする時もそこまで消耗は激しくない。つまり長く楽しめる。……こんな事してる場合だろうか、という疑問はあるが。

 サツキ? 付き添いするつもりだったらしいけど、流石に同衾したら確実に黒蛛病に感染するからなぁ…。ユノとシているのを、横でずっと見ていて、終わった後に参加してくる。全裸正座で待機しているかは秘密である。

 

 

 しかし何だな、黒蛛病を治療できた辺りから予想はしてたが、上手くコントロールできれば、黒蛛病の進行を抑えるだけでなく、コントロールすら出来るかもしれない。吸い取った黒蛛病の力を俺に留めるか、増幅してユノに返すかって違いでしかない。やってもあんまり意味はないと思うが。

 

 

 

 まーそういう訳で、作戦決行の日まで、歌姫様とイチャイチャする事になったのだ。勿論、シエルとかリッカさんとか、時間が開いた時に乱入しに来るけどな。

 …ちなみに、ユノの喘ぎ声は聞いているだけでゾクゾクしてくると、皆さんに評判である。

 

 

 

 

 

 …俺よりもユノの名誉の為に述べておくが、日がな一日何もせずにエロエロばっかしてる訳ではない。

 俺だって狩りに出たり、一般黒蛛病患者を治療したり、色々準備したり、リッカさんとか神機(俺の神機かレンの事かは想像に任せる)のご機嫌取したり、調査したりと色々やっている。お楽しみにもメリハリは大事だしな。

 

 同様に、ユノやサツキも仕事をしている。歌手としての仕事でもあるし、今後の作戦の為の準備でもある。

 血の力の使い方がどれくらい体に馴染んでいるのかの調査も兼ねて、歌の練習も、本番前の予行演習等も行っている。……本番用のドレスを見せてもらったが、ぜひともアレを着て本番(意味深)したいものである。ステージ衣装って、本人に譲られたりする事あるのかな…。

 

 ともかく、黒蛛病によって他者と触れ合う事ができない状態なんだが、当のユノはショックを受けた様子もない。他人に感染させないように気を配って入るが、表情や歌声に陰りも見せない。

 それだけ精神的に強いのだ、と受け取られるが……まぁ、実態はアレだもんな。ほぼ確実に治せる上に、今までの欲求不満が解消されたんだもんな。そりゃ笑顔も一層輝くというものだ。

 

 …事実、光の歌声と称されたユノの歌声は、今までとは少し違っている、と言われた。

 幸運にも予行演習に立ち会う事が出来た人達(スタッフ以外は、殆ど黒蛛病感染者)は、「声に深みが出たような気がする」「今までよりも、もっと純粋な声…かな?」「表情がいいね」「不謹慎だと思うけど、蜘蛛の模様が妙に気になる」「レベルアップした感じ。…スキルアップ?」と、基本的に好評である。…膜が破れて女になったから声が変わった…とは誰も言わない。気づいてないのか、下賤な妄想だと考えているのか、それとも憧れの歌姫を想像だけでも穢したくないのか。うむ、優越感。

 このままいけば、光の歌声が、輝きの歌声辺りにランクアップするんじゃないかな。

 

 

 

 …しかし歌の技量や人気はともかくとして、やはり血の力を操るのは難しい。力の存在自体は認識できているし、それを意識して歌えば今までと違った声が出せる…らしいが、純粋に…エネルギー総量が足りない。

 ゲームでも、ユノの歌は切っ掛けみたいなもので、多くの人達からの感動とか応援がエネルギーになった…言ってみれば、ドラゴンボールの元気玉みたいなものか?

 でもそれをアテにするには、正直心もとない。人の心は移ろいやすいし、何より計算が及ばない。バタフライエフェクトの影響をモロに受けるだろう。

 最後の切り札…の筈が、足止め程度の効果しか出ない事も考えられる。なるべくなら、頼りたくないもんだ。

 無事にジュリウスを奪還して、その凱旋時にエンディングテーマとして流れてほしいものである。

 

 

 

 

 

神呑月

 

 支部長から再度招集。どうやら準備が整ったらしい。

 アリサとレアはこの場には居ない。こっちの無理を聞いてもらう事もあり、休暇の続きと称して戻ってくる事はできなかったようだ。まぁ、しゃーないね。

 おかげで、最近の夜はユノとサツキが独壇場…いやそれは置いといて。

 

 フライアは既に逃げ回るのを止め、赤い雨がよく降る地域で不動を貫いている。ここ最近、赤い雨は降らず、既に隠れ蓑としての効果はない。

 しかし気になるのは、やはり感応種がフライア周辺にやたらと沸いている事か。周囲のアラガミ全てが感応種と言われても、納得できてしまうくらいだ。まぁ、明確に能力として力を振るえるアラガミは少ないようだが。

 

 

 ………そして、作戦決行前だというのに、遂に恐れていた事態が発生してしまった。

 

 

 

 

 

 寄植種についてだ。フライア周辺、よく調べてみると、感応種に混じって寄植種が混じっている。比率的には、感応種5~10に対して1体くらいか?

 まぁ、それはいいんだ。寄植種は戦闘能力的には、普通のアラガミよりも弱い部分すらある。

 

 んじゃ、何がアカンかって?

 

 

 

 

 

 花粉だよ。

 

 

 

 

 花粉症だよ。

 

 

 …花粉症で、偵察に行ったゴッドイーター達が死にかけた。くしゃみは出るは目がチカチカして涙が溢れるは、隠れるどころじゃなかったそうな。

 幸い、ブラッド隊に花粉症患者は居なかったので、戦力的に落ちる事はないんだが……これ、フライア周辺だけじゃなくて、極東でも同じ事が起きるだろうなぁ…。どうすりゃいいんだか。

 

 

 まぁ、今はその話は置いておこう。

 気になるのは、その寄植種の内の一体。…これは戻ってきた偵察班が、涙で滲む目で遠目に見ただけなんで確定情報じゃないんだが…一体の寄植種が血の力っぽいのを使っていたそうだ。ハイブリッド型、ついに出たか…。

 どんな能力を持ってるのか気になるな。相手を強制的に花粉症にするとか、冗談じゃないぞ。

 

 …まぁ、今回はフライア内部での戦闘がメインだし…逃げる時に見かけたら、速攻で仕留められそうなら討伐、そうでなければさっさと逃げる。

 もう時間もないし、調査できる人手もないから、終わってからだな。

 

 終わってからと言えば、ロミオの元カノの件とかもあるし…ううむ、前途多難と言うか単にやりたい事が多いだけと言うか。

 とりあえず、目の前の事に集中しますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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討鬼伝世界7
192話


 

 

凶星月

 

 

 

 ………デスワープ…。

 そうか…そう来たか…確かにそっちは無警戒だったわ…アホか俺。

 だからさー、どんなに些細な事でも、しっかり注意して調査しとかんと、いつか足元を掬われるっていい加減理解しろよ…俺。そりゃ、全部が全部調べつくすなんて無理だろうけどさ、それでも警戒を怠るなって話だよ。

 まぁ、今回も例によって、警戒してても生き残れたか怪しいもんだったけど…。

 

 うぅむ、今思うと完全に罠だったな。ラケルてんてーの仕込み…ではなかったと思う。珍しく、表情が大きく変わるくらいに驚いてたし。

 だが、言われてみれば納得ではあるか。言われたというか、叩き込まれた思念を、デスワープ間際に読み取ったんだけど。

 

 

 

 そうだな、例によって例のごとく、デスワープ直後の状況整理と行こうか。異界の中で日記を書くのも、もう慣れたもんだわ。

 

 と言っても、今回は書く事はそう多くない。一言でいえば、ジュリウス奪還作戦に横槍が(盛大に)入った。コレだけだ。

 いやまぁ、特筆すべき事もあるんだけどね。

 

 

 事の始まりは、各種準備が終わり、ブラッド隊も腹を括って、後は突撃だけって辺りからか。

 赤い雨も降ってないし、アリサとレアが準備した飛行機? 爆撃機? シャトル? とにかく、乗り物にも特にトラブルは起きてない。パーツをパージしての『爆撃』の準備もオッケー、投下軌道の計算も完璧。

 フライアにも異常なし…。気になる事があるとすれば、フライア周辺のアラガミ達だろうか。感応種から寄植種まで、妙に騒がしかったが……今思うと、これがフラグだった。と言うか、モンスター達の様子がおかしいのは災厄の前触れだって、MH世界で散々身に染みただろうに。3年間月に居て鈍ったか?

 

 まーどっちにしろ、作戦を遅らせる事はできなかった。いつ終末捕食が発生してもおかしくない状況だし、そうでなくてもジュリウスの病状進行を逆算すれば、それこそ死んでいてもおかしくない時期だ。

 いっその事、パージされるパーツに俺もひっついて行って、フライア内部で大暴れしてはどうか…と提案してみたんだが、それは支部長に却下された。…なんか最近、妙に出張ってきますね。まぁいいけど。

 ともかく、本来なら現在のブラッド隊長はロミオだが、今回は臨時に俺が指揮を取れと命じられた。指揮系統が混乱する危険もあったが、それ以上に危険視されたのが、ラケルてんてーによる撹乱。口先三寸でナナやシエルを唆し、仲間割れを誘発される危険がある。

 ロミオならその辺も割り切れるだろうが、それでも徹底してラケルてんてーを『無視』できるのは俺…らしい。

 

 

 無視、ね。あぁはいはい、そういう事。会話もすんなって事ね。

 

 

 ブラッド隊は若干揉めたものの、ロミオは師匠である俺を認めて、ナナは『ママ』の旦那さん(?)って事で納得し、ギルはロミオが認めるならと譲歩、シエルは…まぁ、言うまでもないだろう。サツキとは違う方向で絶対服従状態だし。甘えてくるし。

 思いっきり公私混同してるけどな…。

 

 

 

 

 

 さて、そういう訳で作戦スタート。

 

 どういう計算をしたのか、空を飛んでいくナニカから落下した部品は、恐ろしいくらいの精度でフライアにジャストミート。どこまで狙ったのか分からないが、艦橋付近に一つ、足回り付近に二つ……あと庭園付近に一つ。ゲーム通りに進んでたら、ロミオの墓が潰れてたな。小規模な爆発とかも起きてたし。

 それと同時に、軍用車で俺とブラッド隊が突っ込んでいき、アラガミを2,3匹跳ね飛ばしつつフライアに取りつく。最初から開いている扉はあったが、どうせ罠な上に『爆撃』でルートが潰れていたっぽいので、適当な所に特製ブラッドバレット(シエル作)によって風穴を開けて突入。

 

 

 突入したフライアの通路は、以前とは随分雰囲気が違った。当然と言えば当然か。今はもう人が全くと言っていい程居ないし、明るく空調が聞いていた筈の通路は、照明が消えて真っ暗で不気味な通路へと変貌している。…爆撃の為に照明が切れたのか、それともラケルてんてーがエコを気にして余計な電力を使ってなかったのかは定かではない。

 しかし雰囲気が変わっていたとしても、通路の構造まで変わる訳ではない。シャッターとか下りてても、ブチ破ればいいだけだしな。

 

 ブラッド隊は結構長い事フライアで暮らしていたし、事前に榊博士が何処からか調べてきた、フライアの設計図で地理は大体わかっている。ラケルてんてーが居るか、ジュリウスが居るとすれば、それは大きな広間、神機兵の廃棄施設、そして集中制御室のどれか。

 …ジュリウスが集中制御室とは考えづらい。と言う事は広間か廃棄場だが、廃棄場へのルートは遠い。広間行だな。

 通路内部にアラガミが居るでもなし、侵入事態はスムーズに進んだ。

 

 様子がおかしくなったのは、突入して5分くらいした頃か。降りていたシャッターを破って進んでいたのが、途中から「こっちに来い』とでも言うように、開き始めたのだ。

 どう見ても罠ですな。だが、完全な一本道なのでそっちに進むしかない。壁を打ち抜いてもよかったんだが……ゲームだと、ラケルてんてー(ホログラム)のすぐ近くにジュリウスも居たんだっけな。

 …行ってみるか。

 

 

 

 

 

 んで、進んだ先には、暗い部屋の中で、やたらデカい机を前に腰かけているラケルてんてー。…のホログラム。

 覚悟は決めていたつもりのようだったが、本人を見て流石に動揺するナナ、シエル…にロミオもか。まだまだ『訓練」が足らんかな。

 とりあえず。

 

 

 

「いらっしゃ BANG!! ……あらあら」

 

 

 発砲。命中するもスカ。

 よし、幻だな放っておいて次行くぞ。

 

 

「え、あ、あの、もうちょっとラケル先生と話とか」

 

 

 しない。必要ない。俺達がそのつもりでも、ラケルてんてーが『会話しない』。 

 ジュリウス、何処にいる! 聞こえてたら返事しろスットコドッコイ!

 

 

 ラケルてんてーのホログラムも、その前にある机のホログラムも無視して進み…机の映像の下に隠されていた地雷を打ち抜いて処理。中々コスい真似をするな。いい発想だ。

 

 

「ラケル先生…本当に、貴方は「ジュリウス、どっちだ!」……あなたは「答えないなら、力技で探し出すぞ!」…」

 

「本当に仕方のない人です。少しは空「てい」を読むという事を DOGAAAAN!! 

 

 

 あ、ホログラム消えた。まぁいいや、次々。

 

 

「ちょっ、教官いきなり何やってんすか!?」

 

 

 手榴弾。

 

 

「そうじゃなくて、いきなり何を…」

 

 

 話はしないって言ったろ。俺じゃなくて、ラケルてんてーがだ。

 何を言い出すつもりだったのか知らんが、どうでもいい事だよ。俺にとってもラケルてんてーにとってもな。

 

 

「おい…さすがに少しくらい話させた方がよかったんじゃないか? こう、話の流れと言うか…」

 

 

 妙な事を気にするなぁ、ギル。

 あのな、ラケルてんてーがもしもこの場で、「人類皆兄弟、あなた達も家族なのですから仲良くしましょう」とか、「まぁ、ジュリウスの治療法が見つかったのですね。ならば全面降伏してジュリウスをお渡しします」みたいな事言ったとして、信用できるとでも?

 

 …逆に、俺らがラケルてんてーが展開した論理を完全完璧完膚無きまでに論破したとしても、何の意味も無い。

 自分が言ってる事が正しいのかどうかなんて、アレにしてみりゃどうでもいいんだよ。『こうしなければならない』『こうでなければいけない』という最終的な形だけがあって、後はそれを実現する為の道具にすぎない。

 話をしたって時間を稼がせるだけにしかならん。いや、言葉をやり取りするだけで、その中に何も籠ってないんだから、『会話』が成立しないんだよ。音声が記録されたレコーダーを再生して、話をしているように見せかけているだけだ。

 

 

 相手は単なる狂った機械だと思え。

 

 

 

 

「…教官」

 

 

 ん?

 

 

「そこまで俺、徹底できないっす…。でもやる事はやりますから」

 

 

 ならいい。…皆も納得できなくていいから、一旦下がれ。

 この先の扉とか壁とか床とか、手榴弾で適当にブチ破るから。

 

 

 

 

 …こんな塩梅で、ラケルてんてーのよく分からない会話イベントをキャンセル(火力)し、フライアを盛大にぶっ壊しつつ進んでいた訳だ。

 後ろでロミオを初めとしたブラッド達が、「そこまでせんでも」みたいな顔をしていたが…知らんな。悪いけど、今の俺はラケルてんてー同様の、目的が達成できればいいマシーンだ。そういう気分だ。多分、シエルがポロリしてくれたら速攻でいつものノリに戻ってしまうが。

 

 

 さて、そうやって進んで、フライアの修理費とか請求されないよなーって思い始めた頃だ。とうとう、フライアの…何処だかよく分からなくなってしまったが、とにかく広場に出た。

 広場の奥には、ラケルてんてー(本体)と、ろりらけるてんてー(ホログラム。平仮名で書きましょう)と、そしてなんかよく分からない植物の集まり…だか繭だかよく分からないっぽいの。

 はい、どう見てもゲームにあったあのシーンですね。終末捕食が来るぞー!

 

 …すまんジュリウス、お前を助けられなかったのを悔いると同時に、お前のケツを掘らなくてもよさそうだからホッとした。

 

 

 

 

 そんな事を考えた、天罰だったんだろーか。いきなり空気が変わった。ジュリウスが繭から出てこようとした時だと思うが…原因は多分、それじゃない。それ以上にキツくて、雑多で……そうだ、いつだったかロミオに、『血の力は声の一種』って説明した事があったけど、その理屈で言えば大騒ぎする暴徒が突然何百も出現したような印象だった。

 明確に感じ取ったのは俺とラケルてんてーだったと思うけど、ブラッド隊も、多分目覚めかけていたジュリウスも、不穏な気配を感じたと思う。

 

 そんで、その後は撤退するどころか、指示を飛ばす暇すらなかった。

 壁を隔てた向こうから…恐らくはフライアの外から、ひょっとしたらフライア内部に残っていた神機兵からも、強烈極まりない血の力が叩きつけられたのだ。どれくらい強烈かって、不意を突かれたとはいえ、俺がアラガミ化する事すらできなかったくらい。腕切られた時とかも、無意識に変身してたんだが…その暇もなかったか。

 

 

 

 

 

 何が何だか分からなかったが、冷静になって考察し、叩きつけられた血の力から読み取った情報…思い出すだけで頭痛くなるが…を総括すると、ある程度背景は見えてくる。

 こりゃラケルてんてーも予想外だったろうな…。

 

 

 膨れ上がり、爆発した血の力は、数えるのも億劫なほどのアラガミから発されていた。それこそ、感応種だけじゃなく、寄植種、恐らくはドが付くくらいノーマルのアラガミからさえ。

 血の力って要するに意思の力だからね。微小なモノなら普通のアラガミでも人間でも持ってるし、それが幾つも集まれば結構な力になるのさー。…それこそ、キーが居たとは言え、終末捕食を押し返して拮抗してのけるくらいにね。

 

 

 お分かりだろうか?

 ゲームでは人間側が終末捕食に対抗する為に取った手段、今回は終末捕食が起きた時の対策として考えていた方法を、そっくりそのままアラガミに使われたのだ。

 人がユノの歌を媒介にして、或いは必死に終末捕食に抗う姿を見て、ようやく集まり昂ぶり共振した血の力。それと同程度…なのかは知らないが、少なくとも俺を抵抗の間もなく吹き飛ばすくらいの破壊力を実現できた訳だ。

 

 皮肉な話もあったもんである。アラガミが人間と同じ手法をとった、と言うのもそうだが、アラガミはロクな媒介も使わず、意思統一してのけた。

 

 

 

 

 …まぁ、意思統一の内容としては、比較的簡単…いや逆にそうでもないのか? 少なくとも人間だったら、本音を曝け出せと言われれば殆どの人間が異口同音、或いは表現が違っても同じ中身を全力で叫ぶだろう。尤も、それを同時に、同じ対象に向けるのは難しいだろうが。

 散々勿体ぶったが、アラガミ達の血の力から伝わってきた内容は、下記の通りである。

 

 

 

 

『終末捕食とかマジ迷惑。俺らを巻き込まずに死に晒せ』。

 

 

 

 ……ぶっちゃけすぎ? いやでもマジでこんな塩梅なんだよね。

 アラガミ達の数が多すぎるからか、ブレと言うか残響というかエコーみたいなのがかかって非常に読み取りづらかったが、意思表示だけは物凄い勢いで流れ込んできた。

 耳元で大音量を延々と掻き鳴らされた気分だ。

 

 

 一体どうしてこんな事になったのか? 推測もあるが、大体は間違っていないと思う。

 そもそもの切っ掛けは、赤い雨と寄植種だ。赤い雨は特異点候補を探し出す為の地球のシステムだが、ならば赤い雨に濡れたアラガミはどうなるだろうか。特異点となれる程の素質は珍しいだろうが、それでも病状の進行に耐えたり、或いは赤い雨に籠った力を取り込むことが出来るアラガミは少なくないだろう。つまりはそれが感応種。

 一方、寄植種はMH世界の植物と融合(?)した新たなアラガミだと言える。そして、感応種である事と、寄植種である事は矛盾しない。恐らくは両立する。

 

 ただ、両方の特徴を持ったハイブリッドは非常に少ないだろうな。寄植種自体が極東にしか存在してない事に加え、寄植種は栄養を体の植物に吸い取られている為、体力が低い傾向があった。更に、木々が赤い雨に濡れれば、血の力がそれに染み込んでくる…つまり強力な黒蛛病の症状(に近い病状)が現れるだろう。要するに、寄植種は普通のアラガミより、赤い雨に対する耐性が低い訳だ。

 だが、それさえ乗り越えてしまえば、寄植種かつ感応種であるアラガミは出現してしまう。

 

 そして、恐らくだが寄植種であり感応種であるアラガミは、その花粉を通して感応種を増やす能力を持っている。

 フライア近辺に、異様に感応種が多かったのも、ゴッドイーターが花粉症になる程花粉が舞っていたのも、恐らくこの為だ。

 

 そうやって感応種が増えていく間に、比較的素質の高いアラガミが一匹、ないし二匹出てきた。こいつらは、素質故かそれとも野生の本能か、或いはアラガミとしてインプットされている本能によってか、終末捕食の存在を知る。

 そして、それを実現させようとしている、ラケルてんてーの『中身』についても気付いたのかもしれない。

 

 

 

 しかし、しかしだ。

 考えてみればいい。

 

 例えば、ここに大量のネズミが居たとしよう。有名な、レミングってネズミだ。数が増えすぎると、集団自殺をするってネズミ。尤も、これは単なるデマと言うか都市伝説で、その話の原因になった映像は単なるヤラセだったらしいが。

 まー仮にレミングが本当にそのような習性を持っていたとする。そして実際に数が増えすぎたとして………自分から望んで自殺を図るだろうか?

 そんな筈はないだろう。その理屈が通るなら、地球を食い潰しつつある人間が、『自分から』数を減らす事になる。……戦争で死んだとか、人生に絶望して自殺したとかではなく、ただ数が増えすぎたから、繁栄し過ぎたから。

 

 

 誰だって死にたくなんかない。アラガミだってそれは同じだ。

 

 

 してみると、世界の全てを食い尽くし、生命を再分配する…と言われている終末捕食は、アラガミ達にとってはどんなモノなんだろうか?

 

 

 

 

 …答えは人間と同じだ。例えそれが最初から定められていた役割だったとしても、アラガミ一体一体にとっては『死』の末路。はっきり言ってしまえば世界の終わりである。

 

 そんなモン、黙って見ていられる筈がないだろう。出来る事があるか、狂乱せずにいられるかはともかくとして。

 そして、幸か不幸か、その終末捕食の切っ掛けは目に見える形で現れた。フライアという鉄の檻の中だったが、明確に形になった。それを見て、何匹かのアラガミは、それを排除してしまえばいいと思った。

 …それを可能にする方法を見つけ出した。

 

 寄植種によって感応種を増やし、その力でフライアごと消し飛ばすという方法を。

 そして、アラガミ達が声を揃えて俺達にぶつけてきた意思が、上記の『巻き込むな』だった訳だ。

 

 

 

 うーん、ラケルてんてー相手に、世界の命運を決める戦いやろうと思ったら、思いっきり足元を掬われたなぁ…。

 最近、デスワープする時は理不尽なまでにデカい強敵というか障害に当たってばかりだったから、小物が集まって力を合わせてくるってのは想定外だった。雑魚でも数が揃えば危ない、と言うのは狩りの基本だってのにな。あー、俺もまだまだ未熟だわ…

 

 

 

 

 

 …にしても…またアリサやレアを泣かせちまったかな…。3年間放り出しておいて、半年足らずの付き合いか……はは……はぁ…。

 他にもロミオの元カノの事とか、色々やっておきたい事はあったし。

 ああでも、フライアごと吹っ飛ばされたんだったら、ブラッド隊もまず間違いなく…。

 

 

 

 

 

 …いやちょっと待て、それも色々アレだけど、それ以上にご主人様が居なくなったサツキがヤバくないか? ユノが上手く女主人になってくれるといいんだが。

 

 

 

 

 

凶星月

 

 

 

 さて、暫し落ち込んだ事だし、とりあえず異界を抜けんとな。

 …しかし、なんか妙だな…。何か忘れているというか、抜けているというか。それに何より気分が悪い。体調的なものじゃなくて、心理的に色々引きずっている感覚と言うか。

 まぁ、一回死んだ上、心残りが山ほどある状態で、そんなに平然としてられる方がおかしい、と言われればそれまでなんだが……でも今までデスワープ直後って、大体そんな感じだったしな。

 

 今回に限って、妙に気分が晴れない。

 まぁ、気分がそうでも、最低限体は動くから、問題ないと言えば問題ないんだが。

 

 

 

 それにしても、今回の異界はまた妙に瘴気が深いし、色々流動しているように見える。…前にもこんな事があったな。

 確かあの時は…そうだ、キカヌキの里だったかマホロバの里だったかに出たっけな。しかもゲームストーリー開始の数年前、だったか。

 思えば何度もループしたが、異界から抜けた時に時間がズレていたのはあの一回きりだったっけな。

 

 

 …ひょっとして、今回も? うーん、どうなんだろ。

 まぁ異界から抜けてみりゃ分かるかな。そもそも異界の中の『今』はアテにならんからなぁ。

 仮にゲームストーリー開始前に出たとして、それって時間を遡ってるのかね。それとも、異界の『今』がものすごーく昔で、時間を飛び越えるのに対象の誤差が出てるだけなのかね。実は『今』がゲームストーリーから100年くらい前で、99年を飛び越えてウタカタに出てるか、98年でキカヌキに出たのかって。

 

 

 …にしても…はぁ、足取りが重い…。気が付けば八つ当たりに何匹か大物狩ってたし。

 でもね、ダメなんだ…。

 

 狩りをしている時はね、雑魚モンスターに邪魔されるのはこの際何も言わんから、真摯で、なんというか命と対峙していなきゃあダメなんだ。最大4人(ラヴィエンテ戦除く)で真剣で情熱的で…。

 

 

 

 

 でも鬼だからいっか。自然の生態系をメチャクチャに汚染してるし。まぁ、こいつらだって命ではあるだろうから、狩る時は真剣に狩るに越した事はないが。この辺はハンターとしての職業意識かな。八つ当たりに狩っちまうなんて、俺もまだまだ意識が低い。

 

 

 

 

 




はい、そういう訳でようやっと討鬼伝世界に突入です。
討鬼伝2が発売されてから、丸2か月くらいかかりましたね遅くなってマジすんません。
突入記念と言う訳ではありませんが、次回はちょっと長いです。
色々とね、丁度いい区切りが無かったんですよ…。

現在、P5やりつつ執筆中。


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193話

超厳しい鬼上司が異動してくるは、最近大人しかったクレーマーがまた喚き始めたはで、ものすごーくテンションsagesageです。
執筆の影響が出かねない上司なんで、マジで滞るかも…。
リアル大事にとは言うけど、メールを見るのも怖い上司だから、むしろ逃避していたい…。
とりあえず10月分の投稿は、4日毎に予約しておきました。
そっからどうなるか…。


凶星月

 

 

 

 …なんか今回は怒涛の展開だなぁ。

 

 とりあえず、異界を抜けたはいいんだが……何処だここ。人里…じゃないけど、討鬼伝世界なのか怪しいくらいだ。

 だって、とても人里とは思えない規模の町があるし。討鬼伝世界は、一部の霊山や人里を除いて、全て異界に沈んだ筈。なのに、眼下に広がる町には、多くの人が暮らしているようだ。

 そもそも海と船が見える。異界に呑まれてない海なんぞ、まだ残ってるのかね。

 それともアレか、実は討鬼伝世界で異界に沈んだのは霊山を中心とした一部だけで、それ以外…具体的には北海道とか沖縄とかは、普通の暮らしが続いているとでも言うのか。

 

 

 …いや、これは多分それ以前の問題だな。

 よく見てみれば、町を歩く人は、時代錯誤…むしろ討鬼伝世界に特に違和感のないような恰好で、帯刀している人も多くいる。

 陣笠、鎧、刀に銃、その他諸々…。ま、少なくとも俺が元居た世界の、元居た時代じゃなさそうだ。観光客向けの日光江戸村みたいなトコでもなさそうだし。

 

 

 …む、何人か屋根の上に人が………およ? 船が騒がしい…大砲を撃った?

 揉め事…じゃない、戦……でもない? 船は他に居ないし、陸にも被害はない。と言う事は、閃光と煙の具合からして、海の上の『何か』に向けて撃った? …お、着水音。何を標的にしたかは知らんけど、外したようだ。

 

 爆発。…助けに行けばよかったかな。どっちにしろ、この距離じゃ間に合わなかったろうが…。

 今からでも助けに行くべきか、それともまずは爆発の原因を見極めるのが先か。…悪いが後者。二次災害は避けるべし。

 

 

 

 …で、鬼の目と鷹の目を使って目を凝らしたんだが…やっぱりここは討鬼伝世界だったようです。アレ、カゼヌイじゃん。海の上を走れたんだな、あいつ。

 …どうすっかな。水の上でも走れない事(海水は浮きやすいしね)はないが、はっきり言って非常に不利だ。走りながらタマフリって、やった事あったっけ…何度かあったな。だが鬼祓いが出来ん。相手の強さによっては、部位祓いもせずにそのまま仕留めきる事も出来るが…。

 

 とりあえず、神機の銃形態で牽制するか。そんで救助活動だ。

 

 

 

 

 と思ってたら、それより先にカゼキリに銃撃。しかも効いてる…と言う事はモノノフか?

 さっき見かけた、屋根の上の人…おお、金眼四ツ目の仮面もしてる。ふむ、モノノフが居るなら話は早い。指揮官級は……あ、居た。鷹の目が必要ないくらい分かりやすい。一人だけ軽装で偉そうな恰好してるし、モノノフに囲まれてるし。

 

 …後は物分かりのいい指揮官である事を祈るだけ、か。

 

 

 

 結論から言えば、物分かりは非常によかった。悪人面だったが。

 唐突に現れた俺を平然と戦力に組み込み、尚且つ裏切られても問題のないポジション…海から迫る鬼を、銃(に見えるが、彼らからすれば普通の銃とは明らかに違うナニカ)で迎撃する役目を与えられた。

 こんな感じだったかな。

 

 

 俺、指揮官…軍師のオッサンの前に立つ。

 

 

「何処の隊のモノノフか」

 

「フリー…いや、流れのモノノフだ。鬼との闘いがあるようなんで、急遽駆け付けた。手助けは要るか?」

 

「流れだと…? よかろう、何者かは知らんが、戦力はあるに越した事はない」

 

 

 …即断即決だったよ。大丈夫なんかな。

 

 しかし、ちょいと気になる事もあったなぁ。

 会った時に2,3会話したんだが、『横浜を防衛する』とか、『鬼が人の世の歴史に姿を現した』とか。…ここが横浜だってのも驚いたけど、鬼が歴史に姿を現す? だから自分達モノノフも隠れる必要はない、とか…。

 モノノフって隠れてたっけ? むしろ人の世の防衛ラインだから、前に前に押し出てなかったっけ?

 

 …横浜…って事は、少なくとも討鬼伝世界で、異界に沈まず残っていた土地ではないと思うが……。これは、一段落したら色々話を聞いた方がいいかもしれない。あの軍師のオッサン、悪知恵が働きそうだから色々聞き出されそうだなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 まぁ、そんな機会は訪れなかった訳ですが。

 

 

 

 港付近で防衛線(たった一人でも線は線!)を張り、2時間程か。軍師のオッサンから招集がかかった。

 どうやら一端、退避するようだ。どこに、と言うのはよくわからんかった。だって横浜近辺の地名なんか知らんし。

 

 とりあえずついていこう……とした時に、大物出現。

 過剰なくらいに筋肉が盛り上がった、白い、デカい拳を持った鬼。見た事ないヤツだな…。

 

 

 まぁ、とりあえず叩き斬った。今までの戦闘で鬼千切放てるくらいに気が高ぶってたから、速攻で拳を吹っ飛ばしました。やったね鬼千切! 出番があったよ!

 とは言え、逃げられたけども。地面に潜っていった後、気配が消えた。…海の中にでも出たかな。流石にそっちまでは追えないな…うーん、水中戦か…MH世界なら出来そうな人も居るだろう。次はフロンティアに行くつもりだったけど、機会があれば会得したい。

 

 その後、流れのモノノフやってるくらいなら、自分の部隊に来いという軍師のオッサンからの勧誘を受け流しつつ、撤退についていこうとしたんだが……。

 

 

 

 見覚えのある燐光が。

 

 

 

 気づいた時には、もう遅かった。どういう訳だか、もうクサレイヅチが出てきやがったのだ。

 出てきた場所は空の上…あんにゃろう、そこに居れば手が届かないとでも思ったか。

 

 

 だが、アレが出てきたならやる事は一つ。なんでもいいからナマス斬りにしてくれる。

 スマンが軍師のオッサン、勧誘はパスだ。とりあえずあっち!

 

 地上に居るなら鬼杭千切一択だが、空の上じゃ反動を上手く処理できん。鬼千切はさっき使った。ぬぅ、雑魚相手に使って一番の山場を逃すとは! やはり鬼千切は不憫な技。

 だったら、杭じゃなくてもあらん限りの狩り技で叩き落してくれるわー!

 

 

 沈没しかけていた船を適当に見繕い、アラガミ化してマストの上まで駆け上がり、そのまま大ジャンプ。空中での交差の間に、『3本』の触手を斬り飛ばしてやった。

 

 

 

 のはいいんだが、着地どうしよ。思いっきりジャンプして斬ったのはいいんだけど、その先は大海原だよ。いや死にはしないけどさ。ハンターたるもの、どんな高さから着地しても着水しても無傷で当然だし。

 

 

 

 

 そんな事を考えていたら、唐突に空中に空いた穴に呑まれ、気が付いたら今いる場所で突っ立っていた。

 

 

 

 

 

 

凶星月

 

 

 …頭に血が上りすぎたなぁ。イヅチを斬れる機会がすくないからって、自殺染みた事してどうすんのさ。いや死んでも次に行くだけだが。

 

 にしても、今回のイヅチは妙だった。

 前から、僅かに残る記憶で妙に苦しんでいるように見えたが…やはりアレは間違いではなかったようだ。今回も著しく不調だったように見える。いつものアレなら、ジャンプで向かってくる俺を迎撃するか、さもなきゃ逃げてスカかますくらいの事はやると思う。

 と言うか、そもそもあいつの触手って2本だけじゃなかったか? はっきりと、3本斬り飛ばした感触と記憶が残ってるんだが。

 

 イヅチが出てくるタイミングもおかしかった。今まではデスワープ寸前、或いはその瞬間だったのに、今回はワープした直後。…どうなってんだ?

 

 

 

 …とりあえず、次に遭遇した時に備えるか。

 さっきの戦闘では、海、空と不利な戦場が続いたからな。まずはそれをどうにかしようか。イヅチは空を飛べるみたいだから、逃げの一手を打たれるとどうしようもなくなっちまう。

 やれやれ…真っ向斬って狩る事ばっかり考えてたからなぁ。この柔軟性の無さはそのツケか。

 俺も若いな…強さにばかり拘った結果だ。

 

 

 さて、まずはここが何処かっつー話だが……見覚えがあるような無いような。

 森…の異界か。瘴気はあまり濃くない。だが人の足の形跡は無い。

 

 人里がどっちにあるかもわからんな。やれやれ、1回のループの中で、2度も異界を彷徨い歩くハメになるとは。

 ま、異界の毒を無効化するする装備もあるから、単なるサバイバルと変わらないんだけどね、俺の場合。

 

 

 

 とりあえず、寝床に丁度いい洞窟か、或いは地祈石とかの近く…と考えてたんだが。とびっきり妙なモノを見つけてしまった。

 

 

 でっかい塔……いや、この形は……突き立った船? ……遺跡…? こんなモノが討鬼伝世界にあったのか。

 表面はぶっとい草木で覆われているが、素材自体は全く劣化してない。よく見れば、部位によっては明らかに人工的な光が点灯している部分さえある。

 明らかに百年以上は放置されているのに、エネルギーがまだ生きている…?

 

 

 

 ………好奇心がムクムクと湧き上がってきた。よし、今日はこの辺一帯の鬼を掃除して休み、明日は遺跡の中を探検してみよう。

 

 

 

 

凶星月

 

 

 気分はインディージョーンズ……するつもりだったんだが。

 またしても怒涛の羊より怒涛の展開があった為、今はマホロバの里の外れにある家屋で日記を書いています。

 なーんか見覚えがあると思ったら、そうかマホロバの里付近だったか。前に来た時は、里の周りなんか殆ど見れなかったしな…分からなかったのも無理はないか。

 

 

 まーなんだ、遺跡の探検するつもりだったんだが、連れてこられたんだよ。…ホロウと名乗る通り魔ごと、博士と自称する名称不明の少女に無理矢理引っ張ってこられた。

 

 

 

 

 …ここだけ書いても何がなんだか分からんな。正直、今でも展開に頭がついていってないんだが。

 そうさな、今朝の事から書いていこうか。

 

 

 

 寝床から出た俺は、昨日見つけた遺跡を調べる事にした。やはりエネルギーや一部の機能は生きているらしく、実にあっさりと……面白味もなく……中に通じる扉は見つかった。謎解きもクソもない。

 …いや、この遺跡は船か何かの残骸のようだから、暗証番号とかのロックがかかってたら完全にお手上げだけど。RPGや脱出ゲームじゃあるまいし、パスワードのヒントとか人の目につく所におかないっての。

 

 中は…予想はしてたが荒れ果てていた。でもコレ、人が争った後って感じじゃないな。殆どが自然劣化とみた。古い血痕だとか、風化しきった骨とか、そういうのも無い。

 何人かがここで生活していたか……は、流石に分からんな。推察しようにも時間が経ちすぎてて、手がかりが完全に消えている。部屋もいくつかあったようだが、そっちは扉が壊れているのかロックの為なのか、入れない。

 

 暫く歩き回っていると、広い空間に出た。

 

 

 

 そして鬼が居た。まぁ、ミフチとアマキリ程度だったから瞬殺できたけど。しかも下位だな、この脆さ。……いや下位にしてもちょっと脆すぎないか? なんつーか、暫く飯を食ってなかった野生生物のようにフラフラな印象を受けたんだが。

 だがこれも弱肉強食の摂理である。何となく大剣の気分だったんで、前回MH世界で作っていたエピタフプレートでデンプシー。

 あっさりと仕留めて、さぁ探索の続きを…と思った瞬間。

 

 

 気配。火薬の匂い。銃声。

 

 

 咄嗟に大剣の陰に入って銃撃を免れる。銃って事は鬼じゃない、人か? いや遺跡のトラップでも動いたか?

 

 人だった。広間に入ってきた入口に陣取り、俺に銃口を向けている。

 何だか知らんが、いきなり攻撃されて黙っている気はない。話は無力化してから聞き出せばいい。

 

 と言う訳で戦闘突入。…さっきは大剣のお陰で銃撃を防げたが、正直武器選びを失敗したかとも思う。既に5回発砲されているが、コイツの銃撃、早いわ狙いは正確だわで、迂闊に納刀できない。つまり素早く距離を縮める事が難しい。

 本人の身のこなしも非常に軽く、斬りつけようとしてもアッサリと距離を離される。間合いの取り方や押し引きのタイミングも上手い…相当戦い慣れてる。 

 

 それでも完全無欠ではないし、あまり広くないスペースを使って角に追い詰めていったんだが……壁を走って更に三角飛びという軽技で斬撃を回避、再び入口近くに陣取った。…俺を部屋から逃がさずに狩るつもりか? ナマイキな。

 しかし、このままでは俺を仕留められないのは理解したらしく…同時に俺もこのままでは仕留めるのは難しい。膠着状態が出来上がった。

 

 銃を俺に向けたまま真っすぐ立っているのは…女。まず真っ先に目についたのが、緑色の目。僅かに青みがかった銀髪。そして妙に硬直した表情だった。

 …こいつ、何者だ? 鬼じゃなさそうだが…どうにも人間にしては…何と言うか不自然だ。表情も、無表情という意味でなく、何も浮かんでいない。ラケルてんてーとは別の意味で、人形臭さを感じる。

 

 

 とりあえず、どうすっかな…モノノフじゃなさそうだが、あの銃の扱い方はモノノフの戦い方にも通じるように思える。どっかの集団の一員だったら面倒だし、アラガミ化は見せない方がいいか。このまま戦っても……自重を捨てれば、勝てない相手じゃないと思う。

 『自重』を捨てて、大剣を握りなおそうとした時、女が口を開いた。

 

 

 

「………貴方は何者ですか」

 

 

 おい、よりにもよってソレかい。生憎と、いきなりブッパしてくるような通り魔に名乗る名は無い。

 ついでに自分から名乗れと皮肉ってやろうかと思ったんだが…次の一言で、それが全部吹っ飛んだ。

 

 

「その剣に見覚えがあります。それに何故、貴方からイヅチカナタの気配がするのですか。貴方は奴の眷属ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 あ゛? 俺がクサレイヅチの眷属…だぁ? ………いかん、日記だってのに思い出したら腹立ってきてしまった。

 とにかく、俺にとってコレは看過できない一言だった。

 千歳を喰らいシオを喰らい、俺をこのループに閉じ込めている(多分)あのクソッタレが、俺の何だって?

 

 その一言だけで俺はブチギレしてしまった。…人間相手との闘いの経験が少ないとは言え、たった一言で平常心が失われるとは…つくづくアホウか。

 冷静さを完全に失って、とにかくブン殴ろうと…女なんだけど人形めいてるからか、こういう発想に抵抗がない…した。相手もそれを察知して、問答は止めて引き金に指をかける。

 

 

 

 一触即発、多少のダメージを負ってもまず攻撃…を決意した瞬間。

 

 もう一発銃声が響いた。通り魔の背後からだ。

 またも、ただの人間とは思えない身の軽さで離脱しする通り魔。着地際を狙おうかと思ったが、こっちに警戒を向けたままだったし、何より第三者から狙い打たれる可能性もある。牽制に石を蹴りつけておいたが、これはあっさり防がれた。

 

 

「全く…この遺跡で暴れるな。宝が壊れたら、貴様らを一生ただ働きさせて償いをさせるぞ」

 

 

 …エラそうな口調と態度で現れたのは、これまた銃を持つ女。泣き黒子、頭にかけたゴーグル、ぶっきらぼうな表情と声。

 こいつは普通の人間っぽいな。

 

 

 とりあえず、水が刺された事で俺の頭も幾分冷えた。通り魔の正体は分からないが、イヅチカナタの眷属疑惑を持っておきながら攻撃してきたと言う事は、少なくともアレに敵対する者だと思っていいだろう。

 …眷属扱いしたのは許さんが、その怒りの矛先は(自主検閲)イヅチにぶつけるべきだな。

 

 これ以上の戦意無し、の意思を示す為、大剣の切っ先を下げる。同様に、通り魔も銃口を下げていた。…俺も通り魔も警戒は続けているが。

 それを他所に、乱入者は無造作に部屋に入って俺達の間を横切り、部屋の奥にあった何かを操作する。…更に奥の扉が開いた。

 

 

「おい、何をしている。お前達も来い。放っておいて暴れだされたら堪らん」

 

 

 …エラそうな態度だが……ここは従うか。この辺の地理も分からないから、人里に連れて行ってもらえるならありがたい。通り魔は…突っかかってきたら正当(過剰)防衛すればいいか。

 と思ったんだが、通り魔は既に銃を納めていた。…むぅ、何を考えてるのか分からんヤツだ。

 

 仕方なく、付かず離れずついていくと、間もなく小さな小部屋に出た。…なんか警備が厳重っぽいな。重要機関か?

 その中心にある、結界(SFチックにバリアと言った方がいいか?)に守られている何かの力の結晶。そしてその傍で倒れている……なんだこりゃ、ロボット? 人形?

 

 

「ふむ…大当たり、か。全く、これが壊れていたらと思うと肝が冷える。こっちは…完全に停止しているな。だがそれならそれで……む、重い。おい助手一号二号、こいつを運んでおけ」

 

 

 いつの間に助手になったんだ。

 

 

「そもそも何処へ運ぶのですか」

 

「決まっているだろう、マホロバの里の私の家だ」

 

 

 …マホロバ? ここ、マホロバの里の近くなのか。

 

 

「なんだ、迷子だったのか貴様? そういえば間抜けそうな顔をしているな。まぁいい。だったら猶更運ぶ事だ。ついでに里まで連れて行ってやろう。感謝してただ働きしろよ。ああ、道案内するからただではないか」

 

 

 …色々納得いかんが、ゴネた所で意味は無いか。里までの道が分からないのも事実だし。しかし、マホロバの里にこんな女居たっけか? まぁ、あの時はあまり人と接する機会はなかったから、気付かなかったのも無理はないが。

 

 通り魔は、素直にエラそうな女に従っている。…なんだろ、命令されている姿が妙に慣れてるような…誰かに仕えてたのかもしれない。

 む…この人形、小さい割には重いな。飛竜のタマゴとか抱えてる気分だ。

 

 

 

 

 

 

 そして、通り魔と二人係で人形を運び、異界の野を超え山越ええっちらおっちら、途中で会った鬼達は3人がかりでフルボッコ。

 …通り魔も強いが、エラそうな女も結構やるな。ミタマも、俺の知らない使い方をやっているようだ。式神みたいなモノを具現化させて、勝手に戦わせている。

 

 マホロバにこんな技あったのか…。まぁ、前に来た時は、まだモノノフのイロハ…経文唱も使えなかった頃だし、知らされてなくても不思議はないか。

 と言うか、正直言ってどんな場所だったか、今一つ覚えてない。

 地理的に言えば、霊山を挟んでウタカタのほぼ反対側だった筈。…ウタカタに到着するまで、かなり時間がかかるな。いっそ、久しぶりに霊山に行ってみるのもアリかもしれない。

 そういえば、ここで相馬さんに会ったっけ。今回も居るのかな。……初対面で抱き着かれるのは勘弁だが。

 

 

 さて、日が暮れた頃にマホロバの里に到着したんだが……なんか、この女、嫌われてないか? いやこんだけ大上段に構えて身勝手な態度してりゃ、嫌われるのも無理はないと思うが。

 それだけじゃなくて、なんと言うか…怪しまれているような、疎まれているような…。

 

 とりあえず、この女が使っているという家(本人は工房と言っている)は崖の上の一軒家だった。景色はいいが、立地的には不便だな。と言うか、明らかに人里のハズレ…遠ざけられている?

 まぁ、そういう状況なら、前回来た時に会わなかったのも無理はないか。

 

 

 …それに、気のせいか……里の中で微妙に剣呑な雰囲気を感じるような気がする。こんな里だったっけ? 少なくとも、病人扱いされている俺を手厚く看護してくれた里だったと思うんだが。

 見慣れない余所者(戦闘能力アリ)に警戒するのも分かるし、村に入る際に軽くとは言え尋問されるのも仕方ないが…うーん、雰囲気が…。

 

 

 

 

 さて、そんな訳で、丘の上の一軒家という、表現だけは優雅な家の中で、俺達3人は向かい合っている。

 

 

「ご苦労だった。言うまでもないが、ここでの戦闘はご法度だ。暴れだすんじゃないぞ」

 

 

 分かっとるわ。好き好んで人に危害を加える理由はない。…反撃時を除いてな。

 

 

「そういう貴方は本当に人ですか? 先程から観察していましたが、身体能力が明らかに人間の範疇にはありません。貴方は何者ですか?」

 

「つまらん揉め事を起こすな! 全く…。どれ、文字通りのただ働きと言うのもなんだ。飯くらいは食わせてやろう。話はそれからにしろ」

 

 

 …む、ご飯食べられるならそっちが優先だな。…流石に作れとは言わんよな?

 

 

「何処に食料があるのかも教えてない状況で、言う訳がないだろう。さっさと覚えろよ」

 

「私に料理の技術はありませんが」

 

「ならこいつに任せるとしよう」

 

 

 ……まぁ、いいけどよ。自給自足は基本だし、下手なモノ食わされるよりはマシだし。

 

 とりあえず飯食って(あまり美味くはない)、自己紹介…エラそうな家主殿は博士、通り魔はホロウと名乗った。

 腹も落ち着いたんで、色々と話をせにゃならんのだが……博士、アンタも同席する気か?

 

 

「当然だ。何の為にここまで連れてきて、飯まで食わせてやったと思っている。単なる人間同士の揉め事ならどうでもいいが、お前達からは興味深い話の匂いがする。是が非でも聞かせてもらうぞ」

 

 

 …飯食ったのまで等価交換かい…。だと言うのに本人はただ働きただ働きと繰り返すし。やれやれ…。

 さて、ちっと腰を据えて話をするとしますかね。

 

 

 

凶星月

 

 

 通り魔と出会ってから、幾つもの夜を語りあかしたよ、ロマンフライアウェ~イでインザスカーイ。実際にはまだ4日くらいなんですが。

 ガチで徹夜で語り合い、飯食って(俺が作った)昼寝して頭の中整理して、博士の茶々だか考察だかを聞き流しつつもお互いの事情を色々話し込んだ。

 

 

 いやもう、何が何やら…。とりあえず敵ではないと言う事は理解した。だがその背景というかバックグラウンドがな…。

 まぁ、それはホロウも同じだったようだが。博士も博士で、何やら考え込んでいる。ぶっちゃけ、3人とも脳みそがフットーしている。

 

 

 …そうだな、まず俺が話した事だが…最初はイヅチの事程度にしておくつもりだった。

 が、もうほぼ全て話してしまったよ。ループの事からゲームの事まで、俺が分かっている事ほぼ全て。ただしのっぺらミタマの事だけはボカした。…説明したくない。

 最初はそこまで話すつもりはなかったんだが、話がどんどんエスカレートしていって…気が付けばこうだ。

 

 

 

 まぁ、俺が知っている事の8割以上が、博士に言わせると「根拠がない妄想が殆どで当てにならん」だそうだが。

 正直な話、そう言われても仕方ないし、そもそも信じてくれた時点で望外だってのは分かってるけどな。

 

 

 ホロウの身の上話も、似たようなものだ。他人に言わせれば単なる妄想、寝ぼけて昨日の夢の続きでも語ってるのか?てなもんである。

 特にモノノフにとってはな…。

 

 かつてイヅチに滅ぼされた文明が送り出した、イヅチを討つ為の人間……の形をした兵器。体の機能は人間よりも強いが、一点を除いてほぼ変わらず。その一転とは、人間の魂を体内に捕らえ、エネルギー源とする能力がある事。

 幾つもの時代を超えてイヅチを追いかけ、時に現地の人間と協力し、時に石を投げられ追われながらも戦い続け、かつてムスヒの君と称されたオビトと共にモノノフを作り上げた……『始まりのモノノフ』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ここまで聞いて、俺は耳を疑った。ホロウの語りの最中だと言うのに、つい声を上げるくらい。

 

 

 ホロウ……『ホロウお姉ちゃん』か!?

 

 

「如何にも私はホロウですが、貴方にお姉ちゃんと呼ばれる筋合いはありません」

 

 

 そんな娘の彼女に反発する父親みたいなセリフはいいから。

 それよりホロウ、千歳って知ってるか? 動物と話す能力…モノノフ風に言えば異能か…を持ってる女の子で……ああ、本当に『ホロウお姉ちゃん』なら体が変わったのは知らないか…。

 

 

「千歳…。はい、覚えています。私を『ホロウお姉ちゃん』と呼んで追いかけてきた、仲間の一人です。…なぜ彼女の事を知っているのですか? 千歳が生きた時代から…少なく見積もっても、300年以上は経過している筈です」

 

 

 …今、この時代に居る。クサレイヅチの移動に巻き込まれて、呪いまで受けて。

 

 

「なんと…。では、今は何処に? それに呪いとは」

 

 

 体が半分鬼になって、歳も取らなくなってるらしい。今じゃすっかりグレちまって、元の時代に戻る方法を探している筈だ。今…はどうだか分からんが、近いうちにウタカタの里に来る筈だ。

 …ここまで知っている理由の説明は要らないな? さっき話した『繰り返し』の中で会ったんだよ。

 

 

 

 

 

 …こんな具合で、俺はホロウの言っている事が事実だと判断した訳だ。

 

 

 

 …いかんな、出来るだけ詳しく書いて記録しておきたいんだが、何せ4徹(休憩含む)の話し合いだ。一つ一つ書いてたら、いつになっても終わりはしない。

 そーだな、重要そうな話近辺だけ記録しておくか。

 

 

 

 

 

 

・ホロウが俺を襲ってきた理由について。

 

 

「今までイヅチカナタの居場所を感知して追ってきたのですが、現在この機能が故障している可能性があります。今、イヅチカナタが何処にいるのか全く分かりません」

 

 

 故障? それが治れば、居場所が分かって叩き潰しに行けるのか? 治る見込みは?

 

 

「不明です。今まで何度も時空を超えて転移してきましたが、このような事は一度もありませんでした。自己診断も試しましたが、不調は感知されません」

 

 

 原因も不明、何処が壊れているかも不明、治す方法も不明…か。それで、俺を襲ったのは何故だ?

 

 

「自己診断を試しながら待機していたところ、イヅチカナタと同じ気配を感じました。奴が力を使い、因果を喰らった際の残り香のようなものです。ですが、近くに本体の反応は無く、目視も出来ません。何かしらの手がかりになるかと追跡しました。その後、遺跡の中で鬼と戦い始めたので、必要であれば援護射撃を行おうと待機。戦闘は無事終了しましたが、貴方の身体能力は人間の範疇にありません。鬼なのかどうか判断が付きかねていると、見覚えのある剣が目に入りました」

 

 

 剣…ああ、そういやそんな事言ってたな。このエピタフプレートがどうした。

 

 

「わかりませんが、ひどく懐かしい感覚があります。動揺した所、貴方に気付かれて反射的に発砲しました。その節はまことに申し訳ありません。ですが…もう一度見せてください。気になります」

 

 

 …二心なく謝罪してんのは分かるが、無表情と相まって棒読みにしか聞こえねーな。…見せるのはこの際構わんから、後にしろ。場合によっては条件を付けるぞ。

 

 

「構いません。先制攻撃しておきながら、無理を頼んでいる自覚はあります」

 

 

 

 

 

・エピタフプレートについて

 

「いいや、それはすぐに見せろ。私にもだ」

 

 

 …何だよ博士、今まで黙ってたのに藪から棒に。

 

 

「いいから見せろ。黙って家主の私に従え。ぐだぐだ抜かすと、その妙な袋ごと奪い取るぞ」

 

 

 させねーよ。…そういや、このふくろだけは人に触らせた事が無いな…。

 見せろってんなら理由を言いな。これがアンタへの条件だ。ホロウに対しては、また別の条件を付ける。

 

 

「いいだろう。…………む、これは…? ………………お前は、石碑を見た事があるか」

 

 

 石碑? …何の?

 

 

「ここに来るまでに、幾つか境界石ではない石碑を見かけましたが、それの事ですか?」

 

「ああ。この辺りの異界に点在している石碑だ。現代の言語とは違う文字が書かれている。私のような天才ともなれば、その碑文を解読する事が出来るが…ホロウも言っていただろう、その武器に見覚えがあると」

 

 

 …ああ。しかし、こいつは別の世界で手に入れたモンだぞ。……いや、だが確かにこいつは発掘した妙な金属を鍛えて出来たもの。なんて書いてあるのかは誰も読めなかったし、俺も知らない…。

 

 

「そういう事だ。どういう経緯を辿ったのか知らんが、もし本当にそれがホロウと関係があると言うなら、見れば何らかの手がかりを掴めるかもしれん。どうだ?」

 

「………確かに、見覚えはあります……ですが、何と書いてあるかまでは分かりません。それ以上の事も思い出せません。博士、貴方は読めないのですか? 石碑の碑文を解読できるのでしょう」

 

「…石碑の文字は、な。しかし…この武器に刻まれている文字は、碑文に使われている文字とはまた別物のようだ。とは言え、ひどく近しい印象はある。文法もかなり近い…」

 

 

 そんなの分かるもんなのか? 俺からは、意味が分からん記号が不規則に並んでいるようにしか見えないんだが。

 

 

「流石に断言は出来んが、恐らくな。私が知っている碑文の解読法に当て嵌めれば、大凡の文は予測できる。だが、名詞、動詞の殆どが全く知らん単語だ。文法も崩されている部分が多い…。大方、同じ文明が残した文字だが、違う時代でもある…と言った所か」

 

 

 同じ日本語でも、平安京時代と江戸時代、明治平成で全く違うって事か。

 と言う事は、近しくはあっても読めないって事ね。現代文しか知らない人が、古文を予備知識なしで読もうとするようなもんだ。

 辞書でも持ってこねーと、未知の単語は流石にどうしようもなかろ。

 

 

「私を舐めるな。知らないならば、知っている者から聞き出せばいい。ホロウ、解読に協力しろ。覚えのある単語が一つでもあれば、何でもいいから報告しろ」

 

「わかりました。これが何かの手掛かりになればいいのですが」

 

「少なくとも、こんな頑丈な合金に刻んで残すくらいだ。お前達の言うイヅチカナタに関する手掛かりかはともかく、滅ぼされた文明とやらが残した遺志ではあるだろうさ。…それにしても、この合金…凄まじいな。私も知らない金属だが、何百年も埋まっていたというのに、錆びはしても劣化が殆ど無い…」

 

 

 見つけた時には、単なる汚れた板にしか見えなかったけどな。考えてみりゃ、よくそれをこうまで形を整えたもんだ。

 

 

「竜人族、だったか。作り手の端くれとして、その技術に敬意を持たずにはいられん…。一度話を聞いてみたいものだが…別の世界とあれば、そうもいかんか…。いや、だが…」

 

 

 

 

 

・ホロウの生い立ちについて

 

 

 で、結局ホロウとエピタフプレートの産地は同じなのかね。

 

 

「そうなのであれば、私はその文字を読める筈です。現に、ここに来るまでに見かけた碑文も、知らない言葉が多くあったものの、ある程度は読む事が出来ました」

 

「ほう、それはいいな。あの碑文は読むのが少々面倒なんだ」

 

「ただ、私に残されている記憶が間違っていないのであれば、あれは条件を備えた相手に、意味を伝える機能があった筈です。目にした者に、念話のように言葉を注ぎ込んだ筈」

 

 

 追い詰められている文明が、そこまで後世に気を使ってくれるもんかね…。まぁ、文章だけ残しても読めないんじゃ伝わらないしな。そういう機能を付けるか、絵で伝えるかの二択になるわな。

 古くなりすぎて壊れてるか、エネルギーが尽きてるんじゃないか? 

 

 

「かもしれん。……おい、そのイヅチカナタを追っているのは、ホロウだけなのか? 他に同類は?」

 

「記憶にありません。少なくとも、私と同様の機能を持ってイヅチカナタを追っている者は見たことがありません」

 

「いいや、確実に居る筈だ。気付いてないようだから言っておいてやるが、そんな状況でお前一人にイヂツカナタ討伐を託す筈がない。当時の文明がどれほどの技術を持っていたのか分からんが、自分達の国を滅ぼした鬼を倒す為、人造人間まで作り出したんだ。多大な労力と技術、資源がつぎ込まれているのは間違いない。それを孤立無援で送り出すか? 必ず、第二、第三の刺客が居る」

 

 

 それは…納得できる話ではあるが。逆に、ホロウ一人しか作り出せなかった可能性は?

 

 

「ないではないが、それならば古代文明人達は落ち伸びて生き延びる事を考えるだろう。それに、ホロウがイヅチカナタへの『追手』だ。つまりホロウが生み出された時、イヅチカナタはそこには居なかった。時空転移する能力があると言う事は、イヅチカナタが何処へ逃げたのかも理解していた筈だ。恐らくホロウが送り出されたのは、イヅチカナタによって文明の殆どが滅ぼされ、だが古代文明人達がそれなりに生きていられる状況で、かつ再来の可能性がある…」

 

「…私に……同族…」

 

 

 加えて、その為に限られた資源をつぎ込む事が許される状況? …なんか支離滅裂な状況だな。

 

 

「所詮は推測だがな。或いは逆に、どのみちもう生き延びられんと自棄を起こし、自分達の存続と引き換えにしてでもイヅチカナタとやらを始末しようとしたのかもしれん。その割には碑文なんてものを残す余力があるし…どうにも噛み合わんな。…ひどく単純な見落としをしている気がする…」

 

 

 

・イヅチカナタの現在の状態について

 

 

「あなたの言う繰り返し…が本当であるならば、恐らくイヅチカナタを追えなくなったのはその為でしょう。時空の法則に関しては私も理解していませんが、異変が起きているのは明らかです。『繰り返し』の為に、転移に必要な座標が狂ったのかもしれません」

 

 

 つってもな…。俺の行く先々で出てくるぞ。いや、実際に遭遇したのは数える程だが、別の世界でも出てきやがったし。この前なんか横浜で出たし。

 

 

「横浜? 何故そんな所に居た? 今はもう横浜は異界に沈んでいる」

 

 

 異界を抜けたらそこに居たんだよ。なんか…モノノフとは違う人達が沢山いたし、そもそも海に面してたし。ああ、鬼が隠れるのをやめた、とか何とか言ってたな。

 

 

「…横浜は、オオマガトキが始まった場所だと言われている。もう少し話を聞かせろ。……………ふむ、聞いた限りでは、少なくともオオマガトキ当時に思えるな。それで? その後どうなった?」

 

 

 触手3本斬り飛ばしてやったら、気が付けばまた異界の中に居た。記憶が途切れてるから、多分また因果を食われたな。

 

 

「私が関知した、イヅチカナタの力の残り香はその時のものですか。…ところで、奴には触手は2本しかなかったと思うのですが。再生されたのですか?」

 

 

 いや、同時に3本。以前からどうにも、出現した時に妙に苦しそうだったり、因果を食う力が弱ってるんじゃないかと思ってたんだが…奴自身にも異変が起きているのかもしれん。

 

 

「…イヅチカナタは時空の間を回遊する鬼ですが、異世界へ飛ぶような力は確認されていません。増して、同じ時間を繰り返させる事など…」

 

「後者はイヅチカナタの能力ではないだろうな。仮にそいつの時間移動に巻き込まれたとして、同じ時間に放り出されれば、そこには『前回』の自分が居る筈だ。前者はそうでもない。そもそも、鬼はこの世界とは全く別の世界で生きていた。それを…誰かが開けてはならない扉を開き、この世界に呼び込んだ。同じように、扉が開いたままであれば異世界へ移動する事も考えられる」

 

 

 扉ねぇ…。それって何だと思う?

 

 

「私が知るものか。……だが、案外お前自身かもしれんぞ。3つの世界を行き来しているのは、お前とイヅチカナタだ。お前が扉で、その鬼が追いかけているだけだとすれば説明もつく。お前がイヅチカナタに付き纏われている理由もな」

 

 

 

 

 

・イヅチカナタの目的

 

 

 そもそも、イヅチは一体何がしたいんだ? 仮に俺が扉とやらだとして、何で追いかけてくる。

 

 

「それなら推測はつきます。鬼と言っても、その本能は生物と変わりありません。即ち、生きて、食べて、増える事です。その点、イヅチカナタにとって、恐らくあなたは非常に美味しい存在に見えるでしょう」

 

 

 美味しい?

 

 

「お前の話が本当なら、どの世界に居ても大事に関わっている。つまり、それだけ因果因縁が増えると言う事だ。イヅチカナタは因果を喰らう鬼なんだろう? そいつから見れば、お前はどう見えると思う?」

 

 

 …食った果実が、放っておいても超速度で再生する? もう一回食えるドン?

 

 

「しかも、毎回違った味付けでな。いつ目を付けられたのかは知らんが、飽きられるまではついて来るかもしれんぞ」

 

 

 …ナルホド、GE世界で植物育ててた時にも何か引っかかってたが…そういう事か。イヅチにとって、俺は養殖されてる果物同然って事だな。

 …好都合だ。それだけあいつを仕留める好機が増える。

 

 

 

・3つの世界について、その証拠について

 

 

「…で、お前達…色々話に付き合ってきたが、そもそも証拠はあるのか? お前達の話が夢妄想ではないという証拠は」

 

 

 俺は幾つかあるな。別の世界の道具とか、素材とか、幾つか持っている。そうだな、コレなんかどうだ? 神機ってんだけど……ああ待った触るな。さっきの話の中でもあったが、適合者以外が持てば即座に侵食される。

 

 

「お前の一部のようなものなんだろう。制御できないのか」

 

 

 試した事がないから分からんが、髪の毛や爪が伸びるのを自力で止められるかって話だ。そこまで操作できる奴も居るとは思うけどな…同じ狩人でも、狩人狩人な世界観に。

 とにかく、確証がないから止めた方がいい。何なら、その辺の動物とか鬼とか使って実験すりゃいいんだし。

 

 

「ふむ…無駄な危険を冒すのは私の流儀ではないな。そちらはどうだ」

 

「私には、これと言った物はありません。強いて言うなら認識票でしょうか。人物札、と言った方が分かりやすいでしょうか?」

 

「見せてみろ。…生憎、これでは証拠にならんな。金属もありふれた素材だし、書いてある文字は読めんが、落書きと言ってしまえばそれまでだ」

 

「困りました。それでは信じてもらえる方法がありません」

 

 

 …あんまり困ってるようには見えないけどな。と言うか博士、アンタ事実だろうとそうでなかろうと、どうでもいいと思ってるだろ。

 事実であれば新発見の手掛かりになるし、夢物語でしかないなら手伝いとしてコキ使うだけ。

 

 

「その通り。代わりに、多少の事ならホロウに便宜を計ってやろう」

 

 

 

・千歳を初めとした、ホロウのかつての仲間について

 

 

 そういや、モノノフ結成当時の仲間ってどんな感じだったんだ? 千歳が天使だったのは分かるんだが。それがあんなにスレた上にポンコツになっちゃってまぁ…。

 

 

「ポンコツとやらが非常に気になりますが、最初に話を聞いて協力してくれたのは、オビトです。鬼を払う一族の出身でしたが、死者と会話する能力を持ち、それ故に恐れられ閉じ込められていました」

 

「モノノフの始祖……ムスヒの君、か。まさか本当に金眼四ツ目だったのか?」

 

「いえ、目は金でしたが、四ツ目ではありませんでした。閉じ込められて退屈だ退屈だと騒いでいた所に声をかけると、自分から協力を申し出てくれました。そのまま幽閉されていた地から逃れ、千歳を初めとした何人もの仲間…オビト風に言えば、友達を増やしていったのです」

 

 

 それで……あ、最後は…そうだな、すまん。

 

 

「お構いなく。そうやって仲間を増やし、いつしか千歳が自分達をモノノフと呼び始め、そして出現したイヅチカナタに戦いを挑みました。……激しい戦いでしたが、仕留める事はならず。深手を与え、追い返す事しかできませんでした。千歳はその戦いで、イヅチカナタが開いた鬼門に落ち、オビトは命を落とし、そして私はすぐにイヅチカナタを追いました。…その後どうなったのかは、私にはわかりません。ですが、イヅチカナタが出現したら、その場の因果は食い尽され、奴が去るまでの記憶・記録が失われます。…その戦いについて、モノノフの記録が残っているとしても、恐らくは当てにはならないでしょう。私の記憶も、イヅチカナタの能力に耐えきれず、一部欠損があるようです」

 

 

 失われた因果を、人が憶測で補って埋める…か。そう言われると、あいつが何処に居てもおかしくない気がしてくるぜ。

 

 

「…先ほども告げたように、私には人の魂を吸収して力に変える機関が内蔵されています。あの時、私はそれを使うのを躊躇った。あの時使っていれば、イヅチカナタを仕留める事が出来たかもしれない」

 

「たらればを語っても意味はない。それも、仕留められた『かもしれない』だろう。そんな不確定な方法に突き合わされては堪らんな。その機能は使うな。これは命令だ」

 

「命令を受ける理由はありません。私は貴方の部下ではない」

 

 

 それ以前に、誰の魂を食う気だよ。誰が一緒にいるかも分からないのに。

 俺は御免被るぞ。魂食われたら、流石に次の繰り返しに行けるか分からない。イヅチは憎いが、だからこそアイツなんぞの為に命をこれ以上くれてやる気はない。

 

 …にしても、これまた妙な話ではあるな。何でホロウにそんな機能を付けたのやら。

 

 

「鬼に対抗するつもりだったんじゃないか? 人の魂を奪って力に変えるのは、鬼も同じだ。鬼に食われるくらいなら、自分達で食って力に変えてしまえと言う訳だ。人造人間なんてものを作り出せる技術の割には、短絡的だな」

 

「…分かりました。能力を使うのは保留とします。何度死んでも続きがあるのなら、貴方はいつかイヅチカナタに届くでしょう。その可能性を摘むのは、効率的とは言えません」

 

 

 …やっぱ俺を食うつもりだったんかい…。

 

 

「ええ。聞けば、貴方の体は無数のミタマによる集合体。塵も積もれば山となります。まだ、元が塵であるが故に、半分くらい削っても壊れる事はないかもしれません」

 

 

 だーかーら! 博士も言ってたが、そんな不確定なやり方に突き合わされるのは御免だってーの!

 

 

 

・繰り返しについて

 

「しかし、何度も同じ状況を繰り返す…か。業腹な話だが、便利ではあるな」

 

 

 まーね。俺も割とアッサリ順応できたし。尤も、心残りも山ほどあるんだけどな。

 似たような失敗を繰り返したり、自分が死んだ後は何がどうなったんだろう…ってどうしても思っちまう。死後の世界では、こんな事を思うのかもしれんな。

 

 

「ミタマにも、自分の死後がどうなったのか、自分がどう伝えられているのか気になる、と言う者は多いらしいな。…だが、本当に『繰り返し』なのかが気になる…」

 

 

 ん? いや実際に繰り返してるんだが。

 

 

「そういう意味ではない。さっきも言ったが、本当に繰り返しであるならば、『前回』のお前が居る筈だ。例えばお前がここで死んだとしよう。これまで通りであれば、お前は二つの世界で再び…いや三度死んだ後、この世界の同じ場所、同じ時に戻ってくる。しかも、毎回毎回全く同じ場所にだ」

 

 

 ああ、それは分かるが…。

 

 

「いいや分かってない。仮にイヅチカナタとやらがそれをやっているなら、そこまで正確に同じ場所に移動させられるか?鬼とて生物だ。あまりに細かい動作が出来る訳ではないし、それ以上にそうする理由もないだろう。何よりおかしいのは、お前自身だ」

 

「置かれている環境も、肉体的にも明らかにおかしいです」

 

「それもあるが、時間…と言うより、因果因縁的におかしい。毎回同じ場所、同じ状況に出ると言っているが、明らかにお前自身はそうではない。記憶、肉体、所有物、その全てを持ったまま、同じ場所に出るのだろう」

 

 

 …言われてみれば。思い返せば、鎧来た状態のまま討鬼伝世界で死んで、MH世界の訓練所で一人前ハンターと間違われた事もあったっけな。

 

 

「同じ状況から始まる繰り返しの中で、お前だけが変化している。それまで持っていなかった物を纏い、話に効く限りではそれらは突然出現したように見える…らしいな。お前が言う、『もんはん』世界の訓練生や教官の証言くらいしか根拠はないが」

 

 

 うぅむ…それで、『繰り返し』ではないなら、他の何だと思う?

 

 

「…螺旋。或いは………『巻き戻し』…」

 

「螺旋…並行世界という事ですか。全く同じ状況に戻されるように見えて、その実少し違った場所に居る。貴方から見える範囲では全てが同じでも、目の届かない場所が違っているかもしれない」

 

 

 それはちょっと検証できんな…。今まで見てきた中では、ほぼ全てが同じだった。繰り返しが始まる瞬間に、人が何をしているのかから始まって、落ちている物の分布まで例外なく。

 …で、『巻き戻し』と言うのは?

 

 

「読んで字のごとくだ。お前は死ぬ度に、自分が過去に送られ、そこから同じ時間を送っていると思っているが、そうではない。お前は一切移動せずに、『世界の方が戻っている』…のかもしれん」

 

 

 世界が…。

 

 

「戻る?」

 

「所詮、根拠のない想像、屁理屈にすぎんがな。…分かりにくいか? これだから凡人は…と言いたいところだが、理解できない時空なんて代物を、無理に説明しようとしているのだし、無理もないか。そうだな、川の流れを想像しろ。幾つもの葉が流れている川だ。お前は川の中を下流に向かって一定の速度で歩き、それらを追い越していく。 だが、お前が死んで…歩くのが止まった。その間に追い越してきた葉が流れてくる」

 

 

 それが俺と並んだ辺りで、また歩き始める? ついでに言うと、川は3本あって、一度死んだら別の川に移る、と。

 

 

「そういう事だ。巻き戻しと言うよりは、一時停止と称するべきか」

 

 

 

 

 …で、それがどう話にかかわってくる?

 

 

「別に何も変わらんな。…少なくとも今は」

 

 

 

 

 

・持ち帰ってきた人形と結界石について

 

 そういや、担いで帰ってきたあの人形は何だ? 遺跡で会った時、宝がどうのと言っていたような気がするが。

 

 

「ああ、宝というのは…これだ」

 

 

 懐から小さな石を取り出した博士。…これが宝?

 

 

「今日遺跡から取ってきのはもっと大きな物だが、カラクリ石と呼んでいる。あの遺跡の原動力にも使われている石で、使い手の意思を具現化する性質があるようだ。人形は、それを守る為の警備兵…だったようなのだが、もう完全に機能停止しているようだな。話の前に少し弄ってみたが、相当弄り回さないと稼働させられそうにない」

 

「…あの人形にも、僅かですが覚えがあります。確かに、貴方が言うカラクリ石を使って動いていた筈です」

 

「ほう、と言う事はホロウが居た世界では、あの人形が稼働していたのかもしれんな。…案外、お前の体にも使われているんじゃないか?」

 

「それは…恐らく無いと思われます。私の体の構造自体は、ほぼ人間と変わりありません」

 

 

 …異常な筋力耐久力に加え、老いる様子も無し、更にミタマを捕らえる器官まであって変わりないって言われてもな。

 んで、そのカラクリ石でどーすんの。と言うか博士って、ソレの研究をしてるのか?

 

 

「鬼を撃退する為の研究だ。カラクリ石や人形に限った事ではない。…とは言え、ようやく軌道に乗り始めた所だがな。カラクリ石を初めとした現物を確保しようと、あちこち渡り歩いていたのだが、これが殆ど見つからん。…マホロバの里に来て驚いたぞ。異界に沈んだ辺りは幾つも遺跡があるそうだし、その辺にもカラクリ石が転がっている。挙句、古代文明が残した碑文まで幾つも見つかる始末。……この場所には、何かあるのかもしれん。それを調査するのも、研究の一環だな」

 

 

 古代文明か…ロマンだな。

 

 

「私にそんな感傷は無い。全ては手段だ。ともあれ、これから人形を分解して、カラクリ石の効果的な使用法を調べる。カラクリ石を使った武器を作り出し、最終的には異界を完全に浄化する」

 

「異界を…浄化?」

 

 

 …出来るのか、そんな事?

 

 

「私の記録にはありません」

 

「出来る出来ないではない。やると言ったらやるのだ。そうでもしないと、鬼との戦いに勝つ事などできん。今でさえ、異界の侵食は徐々に進んでいるのだぞ。それに対して、人間が出来るのは異界から出てくる鬼を討つか、少し異界に潜って鬼を討つか。分かるな? 人間は今この瞬間にも、じりじりと追い込まれているのだ。ここ数年、鬼との闘いが膠着状態にあると言っている阿呆も居るが、私に言わせれば見当違い、度を越した楽観論もいい所だ。このまま鬼を討ち続けても、それこそ鬼を全て切り捨てたとしても、異界の侵食が進めばやがて人が住める場所はなくなる。瘴気の中で、人は長く生きられん。人が生き残ろうと思ったら、鬼よりもまず異界をどうにかせねばならんのだ」

 

 

 

 …まぁ、理屈は分かるけどな。やろうとしたって、具体的な手段がなければ意味は無い。

 だが、異界をどうにかしようって試みは、それこそオオマガトキの前から続いてきた問題だ。それをどうにかするアテがあるのか?

 

 

「当然だ。…まだ研究を始められる段階になったばかりなのは、否定できんがな。瘴気は鬼が生み出す霧状の毒物だが、鬼自身が生み出す瘴気の量は、濃くはあっても多くはない。左程遠くに流れていく訳でもないようだし、その効力も長続きせん。それを鑑みると、異界の侵食の速度は明らかにおかしいのだ。大型の鬼が複数居るとしても、精々自分の住処の瘴気を維持する程度でしかないのだ」

 

「瘴気を生み出す原因が、鬼以外にある…と言う事ですか。それならば、心当たりはあります」

 

「本当か、ホロウ! それは何だ!?」

 

「正体は私にもわかりませんが、異界の中で瘴気を吐き出し続ける穴を見た事があります。地面に空いた穴ではなく、空間に空いた穴です。鬼の攻撃かと思って何発か撃ってみましたが、銃弾はその空間に飲み込まれてどこかに行きました。…今思うと、飛んで行った先で誰かに当たっていなければいいのですが」

 

 

 案外、どっかの時代に流れ着いて、影武者に騙された狙撃手の代わりに本物を射抜いてたりしてな。

 

 

「何の話かよく分からんが、その穴について詳細に話せ。…ああ、今日は実りが多すぎる日だな、喜ばしいがもどかしい! 調べたい物も弄りたい物も増えすぎる!」

 

 

 

 

 

 

 



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194話

 

 

凶星月

 

 

 …昨日の日記以外にも記録しておきたい事はあったが、正直気力が尽きた。重要な話を思い出したら、また追記しておくとしよう。

 

 

 なんやかんやあって、意見を出したり訂正したり飯食ったり酒飲んだりしている内に、俺は暫くマホロバの里に留まる事になった。

 期間は長くて2か月程度。俺が遅れてウタカタに到着した場合、ストーリーがどうなるのかの実験も兼ねている。

 

 ホロウはイヅチカナタの手掛かりがない為、俺についてくると言っている。別に不都合はない。むしろ、イヅチを仕留める一助になるなら大歓迎だ。

 

 家はどうするのかっつーと、博士の助手扱いで工房に間借りする事になった。まぁ、別にいいけどよ…。狩場のキャンプに比べれば充分居心地がいい。いっそ、そっちの方が気分がいいと思わなくもないが。

 ちなみに家賃代わりに飯作ったり、色々素材を取ってくる係に任命されました。…博士から留まるように言い出しといて、流石に無茶な言い分だと思わなくもない。

 

 まぁ、ホロウに比べりゃマシだけどな。「人造人間、しかも魂を捕らえる能力を持つ実物が目の前に…!」とか言って、目がヤバかったもの。ホロウ自身も、冗談抜きで解剖される危険を感じているらしい。…榊博士と同類か。得体の知れなさは榊博士の方が上だが、マッド具合はこっちの方がヤバいかもしれん。

 俺の神機も、放っておくと触りそうなんだよなぁ…。俺の一部とはいえアラガミはアラガミだし、そもそも適合者以外が触ると速攻で侵食されると説明はしたが、諦めていないようだ。「直接触らなければいいのだな」なんて言ってたし。

 …とりあえず、神機はふくろにしまっておいて、当分封印。

 

 

 

 

 

 あと、ホロウも危険だが、俺も危険だった。気配を感じて目を覚ました(目は閉じたままだが)ら、博士がメスとか持って近寄ろうとしてたもの。俺が起きたのを察知したのか、すぐ引っ込めたが。

 …そーだよなー、ホロウは人造人間だが、俺は俺で色んな意味で意味不明な謎生物だもんな。アラガミ化、『里の中で妙な気配が漏れるとヤバい』と言って見せてなくてよかった…もし見せてたら、一服盛ってくる程度じゃ済まなかったぞ。

 

 

 

 …で、俺達がそのよーな危険に晒されつつもここに留まる理由だが……博士の研究の成果を得る為、かな。

 博士が言うように、異界を浄化する手段があるなら、これは是非とも確保しておきたい。鬼との闘いが楽になるだけでなく、上手くいけばオオマガトキを防ぐ手段にもなるかもしれない。

 今回ループでその手段が完成しなかったとしても、その資料を持っていけば、もう一度マホロバに来た時に博士に渡す事が出来る。…素直に受け取るかは微妙なところだが。

 

 ホロウにとっても興味深い実験である事は間違いないし、更には完成したらいい戦力になりそうだ。…博士が言ってる機能を実現できたら、だけどな。

 博士はその機能を、「鬼ノ手」と呼んでいた。気分は某霊能教師である。ちなみに小学校生は、正しくは『児童』であって『生徒』とちゃうで。

 

 形態は手袋のように手に嵌め、そこに埋め込まれたカラクリ石を使ってイメージを具現化するのだそうだ。文字通り手のように伸ばして、先にある物を掴み取ったり、逆にそこに自分を引き寄せたり、出力次第では対象物を完全破壊…鬼の場合は、再生さえできないくらいに破壊できるのだとか。

 話半分として聞いても、あれば非常に有用なのは間違いないな。それに、再生させないくらいに叩き潰す…か。その発想は無かった。鬼との闘いって、削って鬼祓いして、の繰り返しだもんなぁ。それを省けるってのは非常に魅力的。しかも再生されない、具現化もできないと言う事は…例えばゴウエンマ辺りの足を完全破壊したらどうなるだろう? まともに歩く事もできなくなって、超戦力ダウン。いいな。

 

 

 

 ………あれ、なんかどっかで聞いた事ある能力じゃない? 具体的には、いつぞや夢に見たスタイリッシュなゲームの。

 アレは確か…掴んで引き寄せ、伸ばしてキャッチ、それから超怪力で掴んで好き放題…だったよな。最後のはともかく、伸ばしてキャッチならもう出来たような…………今度異界で試してみるか。博士の研究の参考になるかもしれないしな。解剖の危険が増すが。

 

 

 

 それはそれとして、マホロバの里に居座る以上、里長…お頭の許可を得なければならない。博士はその辺無頓着そうであったが、意外としっかりしていた。「すぐに済む事を怠って、後から研究の時間を削られるのは御免だ」だそうな。

 …まぁ、付いて来る筈がなかったんですがね。

 余所者がお頭に直接会えるのかという問題もあったが、今のお頭はえらくフランクな人らしい。西歌、という女だそうだ。ちょっと期待。美人だといいな。

 

 

 

 

 

 …で、滞在の許可をもらいにきたはいいんだが…うーむ、やっぱちょっと不穏な気配が漂ってるな。里長に会うべく面会を求めたんだが、博士の客人って時点でかなり視線がキツくなった。尤も、それ以前に、余所者って聞いた所で値踏みするような視線を向けられたが。

 前に来た時に世話になった家はどこかな……アレか。里長の家の近くか。結構好待遇されてたんだな。

 …しかし、行き倒れにそこまでやってくれる里が、一体どうしてこんな不穏な空気を漂わせているのやら。

 

 

 …どうにかできんか…いやしかし、俺が人間関係に首突っ込んでロクな事になった試しがないしなぁ。特に性的に。

 

 

 

 

凶星月

 

 

 無事、滞在の許可は貰えた。お頭の西歌さんも結構な美人さんだ。熟女系…とまでは言わんが、こう、微妙な年齢の女性独特の色気と言うかね。

 それに、相当強そうなのもポイントが高い。本気を出せば、ウタカタの大和のお頭とも渡り合えるんじゃなかろうか。オオマガトキでも相当暴れまわったらしい。当時はまだ一般兵だったらしいけど。

 

 性格も気安いと言うか度量が大きいと言うか。滞在したい旨を伝えたところ、「構わない」の一言だけでOKが出た。…もうちょっとこう、身元調査とかしねぇの? 人物札すら要求されなかった。

 ただなぁ…。一言で了承した西歌さんとは裏腹に、周囲の人達…本人達曰くの「鬼内」は不満そうだった。

 別に滞在を断れとまでは言い出さなかったが、せめてもう少し調べてはどうかとか、住む場所がどうだとか、色々意見を述べようとしていた。…それを聞くべきお頭である西歌さんは、どこ吹く風だったが。あまり強く進言すると、お頭への反逆になる…と思ったのか、意見はすぐにひっこめられたが……。

 

 その後、博士に用があるという西歌さんに連れられて里を歩いたのだが、里の空気が悪い理由を教えてくれた。

 外様、ねぇ…。要するにオオマガトキを生き残り、集まった自称「サムライ」。時代を考えると、自称じゃなく侍だった可能性もあるが、そこは置いといて。

 

 行く当てがない集団が居たので西歌が声をかけ、里に住まわせているが、あまり評判はよくないらしい。

 サムライ達に、モノノフ…鬼内に対する隔意があるからだ。「それも無理はないのだろうな」と言っていたが…。

 

 サムライ達は、オオマガトキを生き残った一般人が多くを占める。当然、鬼の事なんぞ寝耳に水、青天の霹靂って奴だったろう。ひいては、モノノフの存在も。

 で、どうにかこうにか生き残ったサムライ達は、モノノフに…他の里のモノノフに、いいように使われていたらしい。コキ使われるだけならまだマシな方、人間と認められずに一方的に痛めつけられたり、凌辱しようとする者もいたそうだ。…既に、サムライの棟梁が斬り捨てたらしいが。

 

 まぁ、そーなるよなぁ。モノノフの始まりは、千歳やホロウが言っていたような鬼を払う為の正義の味方だったかもしれないが、それらの殆どは異能の力を恐れられて、人の輪から弾き出された者達の集まりだ。一般人の為に戦う理由なんぞ、実は殆ど無いんだよな。

 そこへ来て、オオマガトキで表舞台の人の世は滅び、裏に潜んでいたモノノフが台頭した。生き残っている人間達の数は少なく、また個人の武力についても鬼と戦うモノノフに比べると、どうしたって見劣りする。

 要するに、モノノフにとって、生き残った一般人は……言ってみれば『劣等種』だったんだろう。ウタカタのような、お人よしが揃っている奇跡のような里を除けばな。

 

 その劣等種に対して、人間が何をするか…言うまでもないだろう。オオマガトキが起こらなくても、人の世で世代年代問わず行われてきた事だ。胸糞悪い話だがな。

 

 

 そんな状況から、サムライの頭…刀也というらしい…が反逆し、同じような境遇の外様を救い出し集めてきたらしい。

 それは結構な事なんだが、そんな風に集められたサムライ達だから、自分達に寝床を提供してくれているとはいえ、鬼内に対して良い印象を持っている筈もなく。

 そのような感情と警戒を向けられ、経緯は分かっているとしても鬼内達もいい気分である筈がない。同じモノノフがやった事とは言え、自分達の所業ではない。そんな連中と一緒にされたくない、とも思っているだろう。

 

 更には、里の結界で守れる範囲にも限界があり、当然中で暮らせる人数にも限りがある。結界内は既に鬼内や…元から居た一般人(と言っても、彼らもモノノフでないだけで普通の人とは言い辛いが)が住んでいる為、後から来たサムライ達は無防備な結界の外で暮らさざるを得ない。先住権とか主張しても、命がかかった事だけに素直に頷ける筈も、『どうぞ』と譲歩できる筈もない。 

 

 結果、まだ表立ってはいないが、徐々に対立が深まりつつある…か。

 うーん、以前に来た時は全然気付かなかった。よくもまぁ、ああまで親切にしてくれたもんだ。…ひょっとして、博士が言っていたように、よく似ているだけで別の世界…変化している世界の一部だったんだろうか。

 分からん。

 

 

 

 

 それはともかく、西歌はどうしてサムライ達を受け入れたのか。ただでさえ人間が追い詰められ、マンパワーが削れている状態だから、助けられるものなら助けた方がいいのは分かる。だが、それで里に不和が出るようでは本末転倒だ。

 サムライだけでなく、怪しげな技術を研究している自称医者(博士の事だ)まで受け入れているし、何ぞ考えでもあるんだろうか?

 

 

「何、大した理屈ではないさ。彼らサムライは、モノノフのように鬼と戦う術を知らなかった。だと言うのにオオマガトキを生き延び、頭の刀也に至っては非道を行ったモノノフを打ち倒して、仲間を開放してサムライを増やしている。それだけの実力があるのさ。その戦力を放っておくのは、惜しいとは思わないか?」

 

「敵を作るのではなく、自ら里に迎え入れる事で味方を増やそうとしたのですね。合理的だと判断します」

 

「そういう事だ。…その為に軋轢が生じるのも覚悟の上さ。これを乗り越えれば、単純計算して戦力は2倍になる」

 

 

 …つっても、大人しくしてるような連中か? 人間、やられた恨みはひ孫の代まで忘れねーぞ。

 鬼だの異界だのの強敵が目の前に迫ってるからって、一致団結呉越同舟して立ち向かうなんて夢幻だ。むしろ、そういう状況だからこそ、目の前の脅威から目を背けて身内同士で争うのが人間だ。

 現に今でも、結界の中に住んでるか外に居るかで、軋轢がどんどん増していってるんだろう?

 

 

「…ああ、耳が痛いな。正直、思っていたより厄介だったのは認めるよ。結界の許容量も見誤った。食糧事情に余裕があったのは、本当に幸いだったな…。今、サムライ達が大人しくているのは…己惚れた事を言うようだが、私への義理のようなものだ。仮にも居場所を用意し、また鬼と戦う術を教えたのは私だからな」

 

「結界の大きさは変動しないようですが…」

 

 

 ……見誤るってーか、ひょっとしてあまり深く考えてなかった?

 …オイ、目を逸らすなよ。

 

 

「…損得計算が丼勘定だったのは認める」

 

 

 大丈夫なのかよお頭…。まぁ、そういう決断を迷わず出来て、ある程度形にできてるのは凄いと思うけど。

 何処の里からも拒絶されたサムライが、野盗と化す可能性を考えると、どっちにしろ放っておけなかったのは確かか。モノノフに恨みがある連中だし、追い詰められて統率を欠くか食い詰めれば、復讐と称して見境なく暴れだしても不思議はない。

 

 

「だろう? 話が分かるじゃないか。だと言うのに、時継も雷蔵も無茶だ無謀だ考え無しだと散々…」

 

「根本的な問題を考えていなかったのは事実では?

 

「うぐ…」

 

 

 …本当に大丈夫かな、このお頭…。器量はイイ方だとは思うけど、ドジッ子というか、微妙にポンコツ臭が…。まぁ、人望でそれをカバーする人材が集まってくるタイプだと思うけど。

 …それも、これから通じるかは不安がある。サムライを受け入れようとしている事で、鬼内からの反発が強くなりつつあるようだし…これをどうやって乗り切るかが、里の未来を決めそうだな。

 

 

 ところで、時継と雷蔵って? 里の重鎮?

 

 

「いや、私と同期のモノノフだ。訓練兵時代は、結構有名だったんだぞ。西の三羽烏、なんて呼ばれてな」

 

「それは褒めているのでしょうか?」

 

「ああ。格好いいだろう?」

 

 

 …恰好…いいか? いや確かにそーいうネーミングが流行った事もあるし、今でも聞かない訳じゃないが。俺のネーミングセンスだって似たり寄ったりかもっと酷いくらいだし、ああそもそも時代を考えるとまだ平成になってもいないだろうし、過去のネーミングが流行最先端って事も?

 

 

「今はそれぞれ別の活動をしているが、近いうちに里を訪れる事になっている。…そうだな、一度くらいは会ってみてもいいんじゃないか? 君達も、腕に覚えはあるだろう」

 

 

 そーゆー言い方をするって事は、手合わせを挑まれる可能性が高いって事ね…パスパス。

 ホレ、博士の家についた。用事があるんだろ? その間、俺達はこの辺を散歩でもしてるよ。

 

 

「いや、君達も入ってくれ。最初は博士だけのつもりだったんだが、戦力は多い方がいい」

 

「戦力? 何かと戦うつもりですか?」

 

「それも含めて話すよ。何、そう悪い話ではないと思うよ」

 

 

 

 

 

 

凶星月

 

 

 西歌のお頭の話は、俺達3人に証の儀…モノノフの試験を受けてくれ、というものだった。

 まー受けるの自体は構わんし、モノノフ合格試験だけあってそう難しそうなものでもないが、一体なんで? と問い返そうとしたが、博士が先に応じた。

 

 

「断る。私が里に居付く条件は、先日の交渉で全て完結している。怪我人や病人を見ろという程度ならともかく、それ以外の事に関わっている暇はない」

 

「そう言うな。君にとっても、悪い話ではない筈だ」

 

「ならば先に利点を述べてみろ。余計な時間を取らすな」

 

 

 博士の態度を見ても、まったく笑みを崩さない西歌のお頭パネェ。

 

 …傲岸不遜と言うか御無礼と言うか。相手は一応この里の頭だぞ、険悪になったらただでさえ面倒な里がもっと居辛くなるじゃないか。せめて社交辞令とか礼儀ってものをな……俺がこんな事言っても説得力無いか。

 だがその辺を博士に期待するのは無駄の一言。数日の付き合いだが、もう覚えた。

 ホロウは…意外としっかり話せるんだが、飛び飛びの時代の人間と付き合ってきたからか、イマイチ価値観がよく分からんのだよな。

 

 

「君がモノノフとして合格する事で、里の一員として扱われる。里の一員であれば、依頼を出せし、受ける事も出来るんだ。あの鬼の素材が欲しいとか、異界に散らばっているこれらを集めてほしいとか。当然、報酬は必要だけどね。博士、貴方は研究の為、何度も異界に出向いているだろう。その時、出現しそうな鬼に関係している依頼を受けていけばいい。勿論、貴方がこの工房に居ながらにして、素材を集めさせる事もできる」

 

「今までならともかく、後者は不要だ。コキ使える助手1号2号が居るんでな」

 

「私達は、一月ほどするとウタカタへ向けて出立する予定ですが」

 

「…ホロウ、余計な事は言わず黙っていろ。少なくとも、今受ける必要はない」

 

 

 …それを俺らに持ってくる理由は…。

 ①人手と戦力が足りない。

 ②鬼内が自分達で凝り固まってるから、一度鼻っ柱を叩き折れ。

 ③外様が活躍する事で、サムライ達の居場所を作りやすくする。

 

 さぁどれだ。

 

 

「どれも大体当たりだな。ま、あまり期待はしてないが」

 

 

 文字通り余所者の力をアテにしたやり方は信がおけない、か。まぁ道理だな。

 どうする?

 俺は特に問題ない。助手はいいけど、狩りをせにゃ体が鈍ってしまう。幸い、この辺はまだ自然も残ってるから、魚釣りから猪狩りまで何でもできそうだ。

 

 

「私も問題ありません。依頼をこなせば、報酬が得られるのですね? 金銭は大事です」

 

 

 …人生の割に世知辛い事言うな。

 

 

「だからこそです。何処に行って何をするにも対価は必要でした。それなりの額だった筈のお金を見せたら、黙って白湯だけ出された時の衝撃は筆舌にし難いです」

 

「…この二人がこう言ってるんだから、私は別にいいだろう」

 

「却下です。働かざる者食うべからずです。貴方の研究は興味深いですが、収入を生む物ではありません。私達が出発し、助手が居なくなった時の為にも、働ける場と実績を作っておくべきです。お金がなければ研究どころか生活もできません」

 

 

 お、おう……えらい饒舌だな、ホロウ。

 

 

「昔はこうやってモノノフの仲間を増やしたものです。オビトはもっと強引に勧誘していました。反発を買う事もありましたが、そこを理屈で丸め込むのが私の役目です」

 

 

 理屈っつぅか屁理屈っつぅか…。で、どうするよ博士。

 

 

「…面倒だが…助手2号がそこまで言うなら、吝かでもない。研究もある程度形にしたら実験せねばならんし、カラクリ石も不足しているしな…」

 

「では、交渉成立と言う事で。早速だが、証の儀の説明をしよう」

 

 

 

 …そういう訳で、試験を受ける事になったのだ。

 内容は至極単純。マホロバの里を出て、どんなルートを通っても、途中で寄り道してもいいので、西にある監視小屋に到達する事。その間に、鉄鉱石を集め、ガキの討伐をしてくる。

 …寄り道してもいいとの事だったので、盛大にサバイバルするつもりだったんだが…制限時間を付けられた。チッ、お頭やるだけあってカンがいいと言うか人を見ていると言うか。

 

 まぁ、内容自体は簡単だな。あの辺はまだ瘴気に呑まれてないし、大型の鬼も……一匹二匹くらいは居るっぽいけど、その程度だ。残っていた瘴気の痕跡からしても、精々下級のデカ蜘蛛くらいだろう。

 ただ、ウタカタ近辺では見かけなかった鬼の痕跡もあった。こっちは見つけてみないと、どんな奴なのか分からない。とりあえず分かるのは、足跡からして中くらいの大きさで、二足歩行だけど手も使って歩いて、餓鬼を従えている事くらいか。ああ、重心からして、腹なり頭なりがかなりデカくなってるっぽいな。…餓鬼の親玉って事は、それを大きくしたような感じだろうから腹だと思う。…あれ、大分姿が想像できてしまったよ?

 

 

 

凶星月

 

 

 証の儀はサクッとクリア。一応、一人ずつ行く決まりだったんで、博士が最初に行った。面倒事はさっさと済ませたいらしい。博士は問題なくクリア。まぁ、地形とかも既に把握してたからな。

 二人目、ホロウ…を行かせようとしたんだけど、俺。「お前を最後にすると、夜中まで粘りそうだから」だそうな。…まぁ、実際サバイバルを諦めてなかったけどさ。

 

 俺も特に問題はなかったなぁ。ちょっとウロウロして時間は食ったし、途中で遭遇した中型鬼…ヒダルと言うらしい…もあっさり始末した。

 そうそう、途中で碑文を見つけたんだが、読めなかったっけ。鷹の目も、流石に未知の言語までは読めないらしい。…先行者達の文字なら読めるように、遺伝子とかに細工されている可能性もあったが。

 これ、本当にエピタフプレートの文字と同じなのかね。

 

 

 監視小屋に辿り付いた後、ホロウを待ちながら博士とちょっと話をしていた。さっさと終わらせろ馬鹿者、と小言も言われたが。

 見つけた碑文だが、既に博士も見つけていて解読済みだった。と言っても、文章が途切れ途切れになっており、意味は全く分からなかったが。恐らくは同じような碑文が何処かにあり、それと合わせる事で文章として成立する…らしい。どんな書かれ方しとんじゃい、と思ったが、横書きで書いた文章を縦に分割したようなものらしい。

 まーそれはともかく、エピタフプレートを手に入れた場所で、他にそれらしい手掛かりは無かったか、と聞かれた。

 

 手がかりっつってもなぁ…。そもそもMH世界は色々な意味でおかしい物ばっかりだし。モンスター達の生態からおかしいし、それを狩るハンターは…特に上位レベルは更なる化け物揃いだし…。あの世界の人間って、アサシンの血筋みたいに妙な改造でもされてんじゃなかろうか。

 エピタフプレートだって、元は火山で掘り出した太古の塊だし。

 あの辺、何か遺跡あったかな…。

 

 他に遺跡……と言ったら、やっぱ古塔だよな。古龍が度々襲来する、魔境ポッケ村の中でも特に呪われた魔境である。実際、俺もアマツに襲われたし。MH世界に無い筈だった霊力が大量に残ってたし。

 ……あ。

 

 

 そういえば、別の塔でなんか壁画と言うか床画が残ってた。

 

 

「…それを何故真っ先に報告しない…?」

 

 

 博士ストップ、ステイステイ。銃は人に向けるものじゃありません。いや人を殺す為の物なんだから、人に向けるのはある意味間違ってないが。

 絵にして記録しようかと思ったんだが、原型がまるで分からなかったな…。確か日記に描写していた筈…。

 

 

「字だけでは分からん、再現しろ」

 

 

 無茶言うなっつの。どんな形だったかは、日記を見れば思い出せるけど…ええと、どこ書いたっけ。アマツに襲われたループ…だと、確かベルナ村で各種スタイルの研究手伝いとかやってた時か。と言う事は前のMH世界だな。

 探すのに時間がかかるから、見つけたら報告するわ。

 

 

「でしたら、口頭で説明してくれれば、私が絵にしましょう。それを見て、何処が違うか修正してください」

 

 

 お、ホロウ、お疲れさん。証の儀は全員終了だな。にしても、えらい早かったな。

 

 

「高速移動は得意分野です。鬼疾風という移動法なのですが…かつてモノノフに伝えた技の一つだったのですが、どうやら失伝しているようですね」

 

「…揃いも揃って、使えそうな情報を出し惜しみしおって…」

 

「聞かれていませんし、失伝しているとは思っていなかったので」

 

 

 今までの繰り返しの事、全部覚えてられる訳ないだろーが。

 

 

「あって当然だと思っている物の有無を、一々確認してはいられません」

 

「貴様は一度日記を全て読み返せ…いや、私に寄越せ。ホロウも覚えている限りの技術が失われていないか確認しろ」

 

 

 俺の日記、別の世界の言葉も使って暗号調に書いてっから読めないぞ。まぁ、忘れてる手がかりがないか、確認はするけど。

 

 

「全く…。貴様らとは一度…いや、二度三度、徹底的に話をせねばならんようだな。ああ、苛々してきた。帰って飯にするぞ。糖分多めで作れ」

 

 

 へいへい。

 

 

 

 



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195話

いきなり冷え込んだなぁ…。
そろそろコタツ出すか。でも机の上が超散らかってるから面倒だなぁ…。


凶星月

 

 

 証の儀に合格したので、他のモノノフに面通しする事になった。と言っても、一人一人紹介される訳じゃないけど。鬼内の訓練所とサムライの拠点に顔を出し、新しくモノノフとして認められた、と言われたくらいだ。

 ただ、お頭である西歌本人が俺達を案内しているので、それなり以上に目立ちはしたと思う。「新入りが、何をお頭の手を煩わせとるんじゃゴルァ」的な視線もあった。

 本人としては、あっちから頼んで証の儀を受けてもらったんで、その筋を通した…つもりなのかもしれんが。

 

 ただ、鬼内でも外様でもない、文字通りの余所者と知っても、排他的な視線はあまり無かったな。西歌が一緒に居たからかもしれないが、鬼内と外様の溝は、まだそこまで深い訳ではないのかもしれない。

 …或いは、お互いの嫌悪感は互いにだけ向いていて、余所者なんぞどうでもよかったのか。

 ま、新しくモノノフになったと言っても、どこの者とも知れない馬の骨。どれだけ使えるのかも分からないから、気にするだけ無駄だと思われたかね。

 

 

 今日、顔出しして印象に残った相手は……なんか複雑な髪型をしている、鬼内の八雲。…他の鬼内は普通の髪型だったんで、個人の拘りだと思う。昔の公家みたいなやっちゃな。

 鬼気迫る勢いで、延々と剣術修行をしていた神無。手合わせを所望されたが、また今度。おねーさんが居るらしい。手合わせはいいけど、勝ったら紹介してね。…と言ったら、物凄い目で睨みつけられた。…シスコンか? それにしちゃ度が過ぎてるような…いや度が過ぎてるからシスコンって言うんだけど。

 

 それから、サムライの頭である刀也。話には聞いてたが、実際に会うのは初めてだな。…結構、人を斬ってるっぽい。相手が外道だったモノノフなのか、それとも他の何かなのかは分からんけど、太刀筋が他の連中とは明らかに違う。モノノフ連中は鬼を相手にする事を前提にした剣術だが、刀也のは人を相手にした剣術だ。

 

 

 これくらいかな。この他にも、特に紹介しておきたい人が居るそうな。曰く、西歌さんと同じ三羽烏の、時継、雷蔵。それから西歌さんの弟子とも言える紅月。

 紅月は何やら、修行だか任務だかで里を離れており、その帰還時に他の二人と合流してくる事になっているとか。

 

 まぁ、別に紹介されるのも、よろしくするのも構わんのだが…会わせてどうするかとか、あんまり考えてなさそーだな。

 

 

 

 さて、それはそれとして、博士から調べろと言われていた壁画床画の事だ。何とか日記からその記述を見つけ出し、ホロウと絵にしてたんだが…うーん、こんなんだったっけ? 大体あってるけど、どっか違うよーな。

 チマチマと修正点を指摘して、絵を記憶にある物に近づけようとしてるんだが…その記憶自体が非常に曖昧だからな。

 

 

 暫く続けた後、ホロウは沈黙して、今まで書いていた絵を一度消した。

 

 

「やり方を変えましょう。貴方が覚えている絵は、詳細はともかくこの構図ですか?」

 

 

 …ああ、思い出せる限りでは。

 

 

「では、ここ…これが建物だと考えた理由は?」

 

 

 理由って…四角い物が沢山並んでいて、その下部分に人らしい記号があったから?

 

 

「成程。先ほどの話と組み合わせると…このような具合でしょうか」

 

 

 そうそう、そんな感じだった!

 

 

「では、その次の部分。建物が小さくなっていたと読み取った理由は?」

 

 

 人の大きさはそのまま…だけど、同じような感じで書かれていた四角が小さくなってた。

 

 

「同時に衰退したと思ったと言う事は……書かれていた人の数が減っていたのですか?」

 

 

 いや、それは同じくらいだったと思う。そうだ、確か……いや、衰退したんじゃなくて、同時に書かれていたモノが大きかったのかもしれない、と考えた!

 

 

「ほほう、と言う事は近くに何かが書かれていたのですね。それはどのような物ですか?」

 

 

 待て、それは確か日記に書いてあったような…目、角、触手がある何か。これがイヅチカナタかもしれない、と考えたんだが。

 

 

「確かに、奴の特徴を端的に捉えています。では次へ。三つの棒が描かれていたと言う事ですが、塔と考えたのですね。と言う事は、これは長方形でしたか?」

 

 

 いや、もう真っすぐの、一本の傍線。塔だと思ったのは…確か地面が書かれてて、その下に……。

 

 

 

 

 …こんな感じで、ホロウが俺の記憶を引き出すようにして絵を描いていく。なんか誘導尋問受けてる気分だが、実際それで段々形になっていく。

 意外とコミュニケーション力が高い。

 そんなこんなで、出来上がった絵を博士に届けたんだが…眉を顰め、黙り込んでしまった。

 

 

 僅かに聞こえた呟きは、「アレじゃないのか…?」だ。…アレって何だ?

 問い詰めようとしたのだが、完全にスルー。意図的に無視しているのか、沈思黙考しているのか、何を言っても反応なしと来た。流石に家主に物理力を行使すると後が面倒だし、この場は諦めるしかないか。超力技で問答を断ち切られた気分だ。

 

 

 

 仕方ないので、ホロウと二人で軽く酒盛りした後、夜の散歩。ホロウは残りのツマミを全部食うと言っていた。…食欲旺盛と言う程ではないが、まー使命使命じゃストレスも溜まるわ。飯でも何でも食って発散すればいい。

 流石に真夜中ともなれば静かなもので、見張り以外に起きている気配はない。物騒な空気も感じなかった。

 

 

 近くの崖に意味もなく腰を下ろして、もう一杯飲もうかなぁ…と考えていたら。

 

 

 

 

 

 

 おい、博士の家の目の前に何で隠し通路があるんだよ。

 

 

 

 普通の岸壁に見せかけられているが、奥の一際大きな岩が動かせる。そんで奥が続いている。タカの目にかかれば一発だ。

 …少なくともここ十年以上、使われた形跡は無いな。恐らく、どっかの屋敷からの脱出用…なんだと思うが、既に存在を忘れ去られて久しいだろう。つまり…中に入ってみても、家の人に見つからなければまずバレない。バレたとしても、酔った時に偶然見つけた通路を進んでみたらそこに出た、という理由で誤魔化せる。

 

 

 

 

 

 と、酔っぱらってた俺は思った訳だ。冷静に考えれば、そもそもからして秘密の通路やら脱出路があるのは、お偉いさんの屋敷だとすぐ分かるだろう。この里でそういう屋敷に住んでるのなんて、それこそお頭か、里に一人は居る神垣の巫女か。

 そんなトコに、モノノフになったばかり・外来人・信用度ゼロの俺が入っていけば、万一見つかった日にゃ即お縄である。

 見つからなければいい? 上記のようなマトモな判断が出来る頭なら、まだそれも通じたかもしれないな。

 

 

 

 そーだよ、見つかったんだよ。進んだ突き当りに扉…多分隠し扉があってね、そこをそーっと開けて、中を覗き見たら……布団に横になって、今から寝ようとしていたらしきょぅι゛ょと、ばっちり目が合いました。

 

 

 

 騒がれなかったのは本当に幸運だった…。去り際に告げた、「夢ですから~」の一言が良かったのかもしれない。

 …どうすっかな…シラを斬り通すか? 一瞬だったし、隠し扉をほんのちょっとだけ開けて、その隙間から目が合っただけだし、顔とか分からないと思う。

 隠し通路は念の為に、開かないよう固定してきたし。調べられても大丈夫だとは思うが………どうしよう。

 久々に酒で失敗したよ…。

 

 

 

 

 

凶星月

 

 

 この里の次代神垣の巫女は将来有望だなオイ…。

 どうやら昨晩忍び込んだ先に居たよぅι゛ょだが、橘花と同じ神垣の巫女だったらしい。ただし、まだまだ修行中のようだが。

 

 昨晩の後始末は起きて酒が抜けてから考えよう、なんて思ってたら……先を越された。俺の機先を制するとは、末恐ろしいお子様よのー。

 目を覚まし、博士の家から出て狩りにでも行こうかと思ったら…昨晩俺が見つけた通路を、どうにかしてこじ開けようとするお子様が居た。

 

 ちなみに俺を見つけた時の第一声は、「あっ、昨晩の!」だ。即座に隠し通路の先に連れ込んだ。ょぅι゛ょ誘拐犯になる日がくるとは。

 真っ暗な通路の中、適当に明かりを点けて何とか言いくるめようとしたんだが…いやもうそういう次元の問題じゃないわこのガキ。

 

 次の神垣の巫女、かぐや…と名乗った時も驚いたが、俺がどうこう言う前に、「この通路を私にも使わせてくれ!」だ。警戒心ってものが無いのかこいつ。

 

 

 まぁ、こっちは弱みを握られているようなものだから、話を聞くしかなかったけどさ。

 何でも、昨晩一目会った後、騒ぐような事もせずに、俺が顔を出した壁近辺を調べ周ったんだそうな。しかし、そこに通路があるっぽいと言うのは分かっても、開ける事は出来ず(まぁ細工しといたし)、会ったのが誰なのかもわからない。

 そこで、かぐやは目下修行中の、千里眼の術を使ったそうな。そういやあったね、そんな能力。橘花が使ったのも見た事あるわ。

 

 で、見事成功させ、俺の痕跡を辿って博士の家の前に隠し通路があるのを発見。俺に害意が無さそうだった事もあり、騒ぎ立ててこの通路を塞がれるより、自分も活用した方がいいと判断したそうだ。そして文字通りの朝一、飯も食わずに起床と同時にダッシュでここまで来て、通路を開こうと踏ん張っていたとかなんとか。

 ……スゲェ、楽観論で行動しているとはいえ、この年でここまで冷静に損得勘定できるのか。

 

 

 しかし、何だってこんな通路を使いたがる? 秘密の通路という響きが非常に魅力的なのはよく分かるが。

 

 

 …ほほう、とにかく日常が退屈と。しかももうすぐ神垣の巫女としての修行が一層厳しくなる時期であり、迂闊に外出もできなくなる。

 そういや、神垣の巫女って普通はそういう扱いらしいね。ウタカタだと、護衛付とはいえ普通に出歩いてたから忘れてたわ。

 

 …ん? ああ、俺? 一か月くらいマホロバに滞在する事になった余所者だよ。他の里にも何度か訪れた事はある。

 他の里の神垣の巫女? …俺が知ってるのは一人だけだが、見た目と違って活動的な奴だぞ。色々教えたらあっという間に馴染んだし、中でも気に入っている遊びは木登りだった。一番気に入ってる遊びは別にあったけど、それは人に言うような事じゃないから秘密な。

 

 はいはい、木登りでも駆けっこでも教えてやるし、この通路も使っていい…かぐやでも開けられるようにしておくから、今日はもう帰りな。そろそろ朝飯の時間だぞ。通路の事がバレたら、使うどころか一層修行やら何やらが厳しくなっちまうからな。

 

 

 

 

 …やれやれ、行ったか。全く、末恐ろしい神垣の巫女だこと。まぁ見ていて面白そうな子ではあるが。

 朝飯が食えなくなるとばかりに、再度ダッシュしていったかぐやを見送った俺。それを、博士の工房から顔を出したホロウが首を傾げて見ていた。

 

 

 

 

 

 さて、それはそれとして、散歩ついでの狩りから戻ってきた訳だが、途中でカラクリ石を拾った。あんまり大きくない奴なんで、博士にも要らないと言われてしまった。むう、どう見ても単なる石だしなぁ。売っても買ってくれそうにない。

 コレが人のイメージを具現化する、ねぇ…。

 確かに、霊力を流し込むと妙な反応がある。それなりの力を注ぎ込んでも、手の中で虫がジタバタ暴れている程度の感触しかないが。この石がもっと大きくなれば、もっとちゃんとした形でイメージが具現化できるんだろうか。

 

 その辺、ちょっと博士に聞いてみた。んだが、妙な目で見られた。何ぞ?

 

 

「…いや、今言って自覚させても面倒だ。ホロウもこれに関しては何も言うな。それより、その霊力を流し込んだ実験と言うのを直に見せてみろ」

 

 

 別にいいけど…。どうせなら、もっと大きな石でやらないか? この前取ってきた奴で。

 

 

「あれはもう別の実験に使っている最中だ。大きなカラクリ石があるならそれで構わんが、あちこち探し回ってようやく見つけたのがあの一つだ。どうやら、大きな物は基本的に遺跡にしかないようでな」

 

「妙な話です。遺跡の動力源となっている為、遺跡の中にあるのは分かりますが…何故、この近辺に散らばっているのでしょうか。遺跡が壊れて転げ出た訳でもないようです」

 

「ひょっとしたら、カラクリ石自体はただの石で、何らかの経緯でそれらに力が伝わった…のかもしれん。ふむ、もしそうだとするなら…小さな石から力を集め、大きな石を作る事もできるか? 明らかに人為的に作られた石だし、そういう製造法があってもおかしくないか」

 

 

 

 …もし、大きな石を見つけたら、一つもらっていいか? 勿論、実験に必要な数と大きさのものは優先的に渡すが。

 

 

「物によるが、構わん。何だ、心当たりでもあるのか」

 

 

 まーね。森を散歩している途中、地脈の力が沸いてるところを見つけたんだ。普通、あんな風に目に見えるような形で力が沸く事はない。あそこにカラクリ石があって、それが地脈の力を具現化してんじゃないかと思ってな。

 

 

「それは私も調査した事があるが、残念ながら外れだ。仮にあるとしても、相当な地下深くか…地脈の流れの何処かだろうな」

 

 

 ダウジングでもしてみますかね。とりあえず、依頼をこなしがてら、グレートピッケル持って行ってくるわ。

 

 

「ぐれーと…?」

 

「ぐれいと?」

 

 

 …高級鶴橋持って行ってくる。

 

 

「朝ご飯は用意してありますね? ならば結構。お昼には戻ってきてください。新しいモノノフとして、神垣の巫女に面通しがあるそうです。言うまでもなく博士は不参加なので、貴方は遅れないようにしてください」

 

 

 

 あいよー。

 

 

 

 

 

 と言う訳で、地脈の場所にやってきたのだ。MH世界にあったようなバカデカい地脈ならともかく、これくらいの流れを読み取るのは苦労するなぁ。しかも、石があるとすればこの流れのどこかの、更に地下。博士が非効率的と考えるのも無理はない。

 だが俺の場合は、鬼の目と鷹の目の合わせ技がある。これによって追いかけていくと……。ああ、やっぱり遺跡の方から流れてきてるな。安の領域か……この領域の分け方はモノノフ共通なんだろうか?

 

 流れを追いかけていって……ミフチ邪魔。む、瘴気が濃くなってきた。これは…耐性がある俺は平気だけど、普通のモノノフじゃ耐えられんな。多分、博士もここに潜った事はないだろう。念のため、毒耐性のピアスをつけておくか。

 場所は…地図によると、根の国。……根の国って死者の世界の事じゃねーか。何、この辺にヨモツシコメが出てくる穴でもあんの? この瘴気なら、そう言いたくなるのも分からなくはないが。

 

 ともあれ、この先にカラクリ石があると言うなら是非も無し。

 瘴気がエライ濃いので用心しながら進む。鬼の気配が紛れて分かりづらい。

 …これ程の瘴気の吹き溜まりが、自然に出来るものだろうか? 霧状の毒と言うだけあって、風に乗って流され、空気の吹き溜まりに入り込んでしまう事は結構あるらしい。だが、それだけでこれ程…。

 自然というのは妙な所で凝り性になるから、天然のトラップみたいな場所が出来てもおかしくはないが。

 

 気配を殺し、久しぶりに徹底したガチ隠密スタイルで進む事暫し。

 

 …やっぱり居るな、結構な大物が。空気の流れで瘴気溜まりが出来上がって、更にその後こいつが瘴気を上乗せし続けたんだろうか?

 戦って勝てないとは…思いたくないが、正直ここでは不利だ。何せ、洞窟という密閉空間。そこを住処としている以上、地の利は鬼にあるだろう。

 相手がどれくらいの大きさか分からないから、小道に逃げ込めば追いかけてこないかもしれないが…あまり無謀な賭けはするものではない。…説得力無いけど。

 

 加えて、多分侵入者の存在に気付いてるな。…隠密してたんだけど、どうやら瘴気の乱れとかで察知されてしまったらしい。事実上、この洞窟は奥に居る奴の結界みたいなものだな。

 最近、迂闊な言動で色々やらかしてるから…今回はちょっと慎重になりますか。

 最後にちょっとだけ欲張って、近場にあった岩…と言うか、MH的に言えば採掘ポイント…でトンテンカンテンやって退散。

 

 お昼には間に合いました。博士への報告は…長くなりそうだから後回しだな。

 

 

 

 

 さて、ホロウと俺で(博士はお察し)神垣の巫女に面通しなんだが…あれ、かぐやじゃないな。

 …ああ、そういやまだ訓練中なんだっけ。かぐやは次代で、今はこの人…か。うーむ………うん、よく分からん。

 俺が知ってる神垣の巫女って、かぐやの他には橘花だけだもんなぁ…。しかも清楚だったのは最初の頃だけで、俺が色々教え込んでいくうちにまぁハッチャけるハッチャける…。あれが何処まで本人の素質で、どこまで抑圧された結果…ああ、そうか。

 

 この神垣の巫女、抑圧されたままなんだ。しかもそれを自覚していない。神垣の巫女ってそういう扱いだったよな、そう言えば。

 思春期とかの色恋やらは、特に精神的な安定を掻き乱し、里の結界の強度の直結するからって、その手の知識を徹底的に遠ざけ、触れ合う者は全て事務的に。

 …こうしてみると、ウタカタの里が神垣の巫女をあんな風に扱ってるのって、正気の沙汰には見えないんだろうな。里を巻き込んだ自殺と言われても仕方ないくらいに。

 

 

 とは言え、今のマホロバの里の巫女に関しては、出来る事はなさそうだ。色事を抜きにしても、色々遊びを教えてやる…のもいいんだが、それ以前にもうすぐ『足抜け』なんだそうだ。

 要するに、年齢的か体力(霊力?)的に限界が近づいている為、次代の神垣の巫女…かぐやが仕上がり次第、彼女は神垣の巫女ではなくなる。幼い子供に神垣の巫女なんぞという重責を強いるのは断腸の思いだが、代案も出せず、無理して続けようにも結界も殆ど張れなくなりつつある。

 

 …それが彼女にとってどういう事になるかは、俺には分からない。何年間その生き方を強制されてきたのか、それがなくなったら本当に自由になれるのか、或いは生きる指標が無くなって、無気力になってしまうのか…。

 …この辺は、里の制度や本人の考えがどうなってるか次第かな。

 

 

 そんな事を考えていると、どういう流れなのか、「ついでだから」なんて理由で次代神垣の巫女の紹介をされた。

 ぶっちゃけ知ってますが。でも「おお、今朝ぶりじゃの」なんて言わんでいい。

 

 …鬼内の、そんないきなり殺気立つなよ。朝の散歩に出ていたこの子にバッタリ会って、少し話し込んだだけだ。何もおかしな事はしてねーって。

 

 

「八雲、やめろ」

 

「お頭……クッ…」

 

 

 八雲と呼ばれた……なんかこう、髪型がややこしい公家みたいな青年は、渋々引き下がった。本当に何もしてねぇんだけどなぁ……いや、話の内容が内容だから、知られたら面倒くさい事になるから、おくびにも出さんけど。かぐやも見事なポーカーフェイス。…本当に末恐ろしいな。

 かぐやは修行の途中だったらしく、現在の巫女さんと一緒に出て行った。これにて会見は終了って事ね。ま、長々と話すような事もないしな。

 

 帰って博士に土産でも渡すか…と思っていたところ、西歌さんからの依頼が来た。

 マホロバの里のモノノフになったんだから、依頼をこなすのは義務でもある。…依頼っつーか狩りのノルマっつーか。まぁ、報酬が出るならいいけどさ。

 

 それはいいんだが、何をさせるのん?

 

 

「八雲、お前も一緒に行ってこい。…意味は分かるな? 先程の無礼の詫びも兼ねろよ」

 

「はっ、承りました」

 

 

 …なんでそのにーちゃんと一緒なん?

 

 

「道案内だ。やってもらう事は、至極単純。もうすぐ紅月と時継と雷蔵が里に戻ってくるのでな。その出迎えに行ってくれ。時継も雷蔵も、この辺りの地形はまだ慣れてないからな」

 

「迎えに行くのは構いませんが、その紅月と言う方が居るのでは?」

 

「何、君達が出迎えに行く事に意味があるのさ」

 

 

 …にーちゃん、八雲って言ったっけ? 意味分かるかね?

 

 

「……ああ」

 

 

 あっそ。やれやれ、面倒臭い話だこと。ま、要件は承った。落ち合う場所と時間はもう決まってるのか?

 

 

「到着は明日の未の刻。南にある『雅』の領域の出口だ。領域から里まで、直通の道がある。…あの辺りも、最近急速に異界化が進んでいてな…。もうすぐ道も閉ざされてしまいそうだ」

 

「博士が言っていた事が実現されていますね。こうしている間にも、異界は徐々に進行し、人が住める地が無くなっていく。異界を浄化する方法を見つけないと、どんなに鬼を倒してもいずれ人は滅ぶ…と」

 

「…もうそこまで考えているのか。やはり、里に欲しい人材だな…」

 

「…………」

 

 

 一歩下がって控えている八雲のにーちゃんが、渋い顔をしている。そーいう顔すっから、俺達が迎えに行くハメになるんだよ。鬼内以外を余所者と見なして、無暗に排他的になってっから。

 

 

 これから迎えに行く相手は、里のお頭である西歌さんの同期、盟友。サンバ鴉なんて、陽気に踊る鳥類みたいな渾名を付けられていたグループだ。当然、相応に実力もあり、里への直接的な影響力は無くても、西歌さんへの繋がりは大きいだろう。

 また、立場的に言えばオオマガトキ前からのモノノフ…サムライから見れば『鬼内』である。しかも極めて強力な。

 明確ではないとは言え、対立がある鬼内が強力になるのを、黙ってみていられようか?

 

 ではこれを、例えばサムライが迎えに行ったとしよう。サムライもモノノフには違いないから、依頼を受ける資格もあるし、それで生計を立てる人も居るようだし。

 こうなると今度は鬼内に不満が出る。余所者に重要人物の迎えを任せる事もそうだし、サムライが妙な事を吹き込むのではないか?と邪推する者も出るだろう。

 

 これらの理由は半ば以上、コジツケでしかないのだが…『そういうコジツケを吹き込まれて、それを一瞬でも真に受けてしまう』ような悪感情が秘められている。

 だから俺達を迎えに行かせる訳だ。外様でも鬼内でもない俺とホロウを。八雲のにーちゃんが一緒なのは、かぐやと話してた時の殺気の詫びと、文字通りの道案内、それから途中で妙な真似をしないかの監視も兼ねてる…かな。

 

 行き当たりばったりな印象があるけど、考えてはいるんだな、西歌さん。

 

 

 

 

 さて、西歌さんが仕事に戻って、俺、ホロウ、八雲のにーちゃんが残ったんだが…微妙に刺々しいな。明らかにケンカ売ってきてるんじゃないが、こう…余所者は引っ込んでいろ、マホロバの里は我らが守る…的な?

 これは…アレかな。霊山に行った時にも似たようなのと遭遇したな。一般人…マホロバ風に言うなら外様を、何の力もない人間と見下しながら、だからこそ戦って守るのは自分達の役目だと思っている的な?

 どーも名家の類の生まれらしいし、西歌さんや、かぐやとも話をする機会が多いようだし…責任感を持ったエリートさん、かな。

 

 

「…出発は正午だ。特に必要な物はない。遅れず、足を引っ張らなければそれでいい」

 

 

 それだけ言って、八雲のにーちゃんは去っていった。もうちょっと社交性を持とうぜ。俺に言われるようじゃオシマイだよ。

 

 

 

 

 



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196話

ペルソナ5プレイ中。終わったら周回プレイ、ドラゴンボールゼノバース2が出たらそっちに流れる予定。
アサクリ新作が今年でないのは残念だけど仕方ない。映画化っていつだったかな…。

そして、ついに出たかVR…。
これって要するに、大画面・至近距離でのプレイなんだろうか。専用の視点とかあるのかな。
興味はあるが、どうしたもんか…注目のタイトルは、調べた限りではユービーアイソフトのイーグルフライト。これの開発の為にアサクリ出なかったんじゃなかろうか。
発売日未定でシリーズ未プレイだけどエースコンバット。
リズムゲーやった事ないけどTHUMPER。
東方紅舞闘V …は動きが鈍そうだけど気にはなる。


しかし、今回のペルソナ…妙に攻撃が外れるなぁ。とどめの一発を避けられて、そこからタルカジャ付のクリティカル連続喰らって雑魚相手に昇天。
…ガチギレしたくなったが、これでこそのアトラスか…。


 

凶星月

 

 

 殆ど徹夜だった。ホロウだけスヤスヤと眠りやがってこん畜生め。

 まぁ、ハンター式熟睡法で体力はばっちりなんですが。代わりに生活リズムが狂うけども。

 

 何をやってたかって…まぁ、例によって俺の不注意と言うか無謀な行動の結果と言うか。まー博士的には大歓喜大狂気ちょっと悔しかったみたいですが。

 

 大体予想はついてるかもしれないが、事の始まりは昨日の朝に採ってきたカラクリ石だ。…正確に言うと、カラクリ石…モドキと言うか成り損ないと言うか…博士曰く、これは『万能の石』と呼ばれ、大抵の素材の代わりになる物………の、これまた出来損ないなんだそうな。成り損ないで出来損ないとか、これはハズレか一発逆転超級レアキーアイテムのどっちかですねぇ…。

 ……前者だったようだ。素材的には。

 

 だが、博士的にはかなりの大当たり。夜中だっつーのに高笑いが里に響き渡った。何事かと飛び出してきたモノノフ達に、ホロウが頭下げに行ったよ。その後もう一回寝てた。

 俺? 博士にとっつかまって尋問されてたんだよ。何処から持ってきたのか、どういう状況で見つけたのか、何故自分を連れて行かなかったのか………アンタが人形弄りに夢中で飯も食わんとガチャガチャやってたからだよ。正直、俺だって見つかるかどうかは不明だったし、何より根の国に俺以外の人間が入ったら5分も保たんかったわ。

 

 

 さて、そんじゃ昨晩の尋問で判明した事だが……この万能の石とやら、カラクリ石の亜種である事が分かった。万能の石と言うだけあり、素材に使えばそこらの餓鬼の牙の代わりから、理論上ではゴウエンマの数珠の代わりまで、何にでも使えるそうだ。尤も、秘めているエネルギーに限度があって、一定以上…ゲーム的に言うなら、上位かレア度がある程度以上の物の代用は無理なようだが。

 何で一見すると単なる石なのに、そんな真似ができるのか?

 簡単な話だ。この万能の石…多少ではあるが、カラクリ石の性質を受け継いでいるのだ。人の想像やイメージを具現化する力により、作り手の意思を反映させて素材の代わりになる。

 

 恐らく、遺跡の何処からから漏れ出したエネルギーが地脈を伝って何処かに集中し、それが万能の石になるのだろう。

 なら、逆に万能の石を幾つも集めれば、カラクリ石に……は出来ないっぽい。やるなら、少なくとも専用の施設が必要になるそうだ。何れは作るつもりだが、今は鬼の手の作成を優先するらしい。

 それでもカラクリ石の性質について、色々分かった事があるらしいので、無駄ではなかったかな。

 

 

 …で、そのカラクリ石の成り損ないだが、博士には不要だった。サンプルとして珍しくはあるが、資料としての価値は無し。

 俺が採ってきた物なんだから、俺の好きにしろ…と言っていたが、捨てるのが面倒だったから押し付けただけじゃなかろーか? 別に面倒でもないか。カラクリ石の性質も殆ど無く、万能の石としても使えない、事実上単なる石だ。その辺にポイッと捨てれば終わりである。

 

 

 

 さて、ここで俺は考えた。例によって余計な事を考えた。

 

 

 石を捨てるのは簡単だ。しかし、それでは朝っぱらから出かけて採掘してきた甲斐がない。

 一見すると役に立たない石だが、これを何らかの形で利用する事はできないか? 完成している物ばかりを使うのではなく、使えない物を集めて有効活用できるようにならないか?

 創意工夫と未知への探求はハンターの必須科目。出来そうだったらやってみて、出来そうになかったら他の方法を考える。

 

 …これに則って考えると、だ。

 ①俺も何か作ってみたい。出来れば俺にしかできないような、オサレかつスペサルな奴。

 ②でもカラクリ石の性質とか理論とかさっぱり分からないし、勉強している間に熱意が尽きるのは目に見えている。

 ③だったら今ここで、普通じゃできない事やってみればいいじゃない。

 

 

 ……うん、完全にアカンパターンだコレ。素人が『俺は詳しいんだ(キリッ』と抜かしながら、安全もルールもマルッと無視してとんでもない事やらかすパターンだ。

 で、結局何をやったかってーと…普段は使ってない能力を、一つ使っただけですよ?

 

 

 

 蝕鬼の能力を。

 

 

 

 博士の目の前でね、不要と言われた石を取り込みました。こう…手に持った石が、分解されて手の中に染み込んでくるっつーか……まぁ、見ててあまり気分のいい光景ではなかったと思う。博士はガン見してたが。

 で、その後集中してみると…目論み通り、体内にカラクリ石っぽい力を感じる。力としてはあまり強くないけど………ふむ。

 

 

 ほいしょ。

 

 

 

 おお、出た出た。これが鬼の手か。霊能力教師っぽいのでもよかったが、えらくデカいな…デカブツの手をイメージしちまったか。

 

 

「な……な…な…」

 

 

 思った通りに…動かせはするが、それが狙い通りに行くかっつーとまた別の話だな。にしても「なぁあああぁぁぁぁあああ!!!!」

 

 

 絶叫2回目。ホロウが飛び起きて謝罪に出て行った。

 そして博士は「解剖させろぉぉぉ!」と叫びながらメス持って飛び掛かってきた。目がラージャンみたいだった。

 

 工房の中でドッタンバッタンして、実際片手を切り落とされそうになりつつも(気迫で押された…)、何とか沈静化。戻ってきたホロウが、博士の後頭部に一発やってくれて助かった。眠っている所を叩き起こされて機嫌が悪かったのか、俺にも一発蹴りをくれていったが。

 

 

 

 何とか落ち着いて。

 

 

「ほう、あれが触鬼とやらの力か。触れた物を取り込んで、体と能力の一部にする…確かに鬼が使うと厄介な力だな…。それを人が使うとは…」

 

 

 肉体的には人かどうかも怪しいからな。

 

 

「一度、変身した姿も解剖してみたいものだ…。それはともかく、もう一度鬼の手を出してみろ」

 

 

 絶対一度じゃ済まないだろ、アンタ。ほれ、これでいいか?

 

 

「そのまま暫く動かすな。……見事に実体化させているな。だが、人の手で触れると、抵抗はあるが素通りする…水のような感触だ。いや、それよりも気になるのは、出来損ないのカラクリ石を取り込んだだけで、こうも安定した形を出せる事か。…他の部分からは出せるか?」

 

 

 やってみる。まず左手……出た出た。

 

 

「…出たが、右手に比べると安定してないな。触れた時の抵抗も弱い。それだけ実体化が不完全と言う事だ。よく見れば、力が纏まりきらずに拡散している……それでもこれ程の具現化が出来ると言う事は…よし、次は両足と頭と腹から出せ」

 

 

 一辺にやれってか。そりゃどんなバケモノよ。ヘカトンケイルじゃあるまいし。

 

 

「一か所ずつでいい。……む、やはり実体化は出来ても、両手に比べると薄い…そして纏まらない力が拡散し続けている。と言う事は、何処から出しても使用する力の量に大差は無い…。しかし、現在の実験結果によると、石から遠ざかればそれだけ力が弱くなる……体内に取り込んだから? だとすると、具現化に必要なのは…そう、十分な量の力の供給と……より直接的な想像をカラクリ石に伝える端末…。体の中に埋め込む事で、それが可能となった? いや、触鬼とやらの能力故か。文字通り体の一部と化したからであって、埋め込むだけでは…」

 

 

 なんか博士が全身にカラクリ石を埋め込んだ改造人間的な計画を立てつつあるが、とりあえず朝日を浴びつつ俺はそのまま寝た。解剖の危険があるから、適当に囮作ってな。

 …今朝起きたら、囮が爆発して博士がぶっ倒れていた。ホントに危険だなこの人!

 

 

 

 

 

 

 

 さて、それは置いといて、今日は紅月さんとサンバ鴉の二人を迎えに行くことになっている。ワスレテナイヨ?

 特に必要な物はないと聞いてはいるが、遠くからやってきてくれる人の出迎えなんだし、弁当くらいは用意していくかな? 時間的にも昼飯の頃合いだ。

 

 生憎と、工房にある食材は切らしていたので、買い出しにやってきたんだが、集合予定の場所で八雲のにーちゃんを見かけた。「ほぅ…」って感じの、なんかこう…ハーレクィンでお耽美な漫画に出てきそうな感じの溜息を吐いていた。何やってんだ。

 気にはなったが、何となく鬱陶しいので放置。

 

 

 

 

 …そして弁当(と博士のエサ)の準備をして、集合地点に来たんだが……まだ「ほぅ…」してた。微動だにしてない。足元を見れば分かるが、ガチで一歩も動いてない。それどころか足の組み換えすらしていない。…おい、あれから2時間近く経ってんぞ。

 一体何やってんだ。視線を辿ってみると、その先にあるのは神垣の巫女の屋敷。恋煩いでもしてんのか? もうすぐ現在の巫女が足抜けだから、そっちとラブストーリー……そういや、かぐやにエラい反応してたな。…そっちの趣味…か?

 Noタッチを貫くなら俺は何も言わんが。貫けなかったからな、俺は。シモ的な意味では貫いたが。そうです私が最低です。

 

 ま、タチの悪い冗談だけども。

 

 

「あの方は何をやっているのでしょうか?」

 

 

 時を忘れて浸っているのだよ。何にかは知らんが。ともかく、依頼は依頼だ。道案内は必要だし、叩き起こすとしますかね。

 おーい。

 

 

「…なんだ…私はかぐや様の将来を憂うのに忙しいのだ…」

 

 

 …やっぱそっち系かよ…。冗談じゃなかったよ…。

 憂うって、何ぞ心配事でもあるん?

 

 

「…神垣の巫女は、その激務故に短命な者が殆どだ。現在の巫女様が、無事に任を終えられるのが奇跡と言っていい程にな。いや、無事ではないか…まだ幼いかぐや様に、その任を引き継がせなければならないのだから」

 

「無事ではない…本来であれば、代替わりはもっと先であったと?」

 

「当然だ。体もまだ出来上がってない幼子に、大役が務まるものか…。幸か不幸か、かぐや様は非常に優れた素質を持っておられる。もう暫しの修行で、幼い身でありながら神垣の巫女が務まってしまう程に。だが、当然それは寿命を削る行為だ。…それでも、これ以上結界を広げるような事をしなければ、大過なく任期を終える事が出来るだろう……いや、私がそうさせる。だが…今はサムライという厄介な連中が居る」

 

 

 サムライ? …厄介って、えらい言いようだな。

 

 

「……………貴様ら、いつからそこに居た…」

 

 

 あ、起きたか。

 

 

「いつも何も、貴方が神垣の巫女の将来を憂いている時からですが」

 

 

 そういうあーたは、一刻以上前から微動だにしてねーな。それはともかく、サムライが何だって?

 この際だから言うてみぃ。

 

 八雲のにーちゃんは、我に返ってバツが悪そうだったが、若干早口で…或いは言い訳っぽく?…話を続けた。

 

 

「…彼らが害悪とまでは、言わん。別の里の事とは言え、オオマガトキで生き延びた彼らを奴隷のように扱ったのはモノノフの恥だ。我らモノノフは、始まりこそ石持て追われた異能者だが、オオマガトキまでは人の世を守って戦うのが使命だった。思うところが無いとは言わんが」

 

 

 まぁ、迫害された奴らが迫害した連中を守って戦う理由なんぞ無いわな。

 

 

「だがそれも昔の事だ。伝統や理念を受け継ぐ事は重要だが、過去の遺恨は過去の遺恨以上にしてはならん。先祖が受けた恨みは忘れぬが、それを我が事として、我が恨みとしてはならん。…話が逸れた。私は、サムライを歓迎しない。彼らが鬼内に恨みを持っている事もそうだが、それ以上の理由がある」

 

「勿体ぶった話し方をしますね。子供に退屈させる人種です」

 

「………」

 

 

 八雲のにーちゃんの眉が、何かを我慢するよーにピクピクッと動いた。

 

 

「…里の結界の内では、もうこれ以上人が暮らせる余地はない。サムライ達を収容できん。…かぐや様が知れば、きっとお嘆きになる。そして自分の命を顧みずに、結界を広げようとするだろう」

 

「だからサムライは不要ですか? 里に居る事を認められないのですか?」

 

「……そこまでは言わん。言わんが……」

 

 

 そっから先は口にできない、か。悪かったな。突っ込んだ所まで聞き出しちまって。

 

 

「…フン。そう思うなら、忘れる事だ。どうせ、貴様らは遠くない内に里を去る流れ者。そのような路傍の石に憂いを零すとは、私もまだまだ未熟だな。…時間だ。出発するぞ」

 

 

 

 最後までやや早口に言い切って、八雲のにーちゃんは合流地点に向けて歩き出した。

 

 ふぅむ、面倒な話だ。八雲のにーちゃんは、少なくともサムライを排斥しようと思っているのではない。

 ただ、彼らを招き入れる事が物理的にできないと考え、そこから生じる怨恨や不満を予測し、そしてそれ以上にかぐやを重んじている訳だ。

 物理的な問題ってのは、解決策が無ければどうにうもならんからなぁ…。特にこの手の奴は、八方丸く収める展開でないと。

 

 おいホロウ、なんかこう…都合がいい技術とか無いのか。鬼疾風みたいに、失われた結界技術とか。

 

 

「記録にはありません。私が覚えているのは、単独で戦う技のみです。里に結界を張っている技術も、モノノフが結成されて時が経つうちに開発されてきたもののようです。私の専門外ですね。ただ、住む場所についての提案なら出来ます」

 

 

 横に伸ばせなきゃ、縦に伸ばせってか。住みやすい土地の問題は、どの世界になっても同じと見える。駅や商店街の近くにアパートが出来るのと同じ理由だな。

 

 

「貴方の世界にもあったのですね。問題は、住むに堪えうる物が出来るかどうかですが…神垣の巫女の社を見るに、二階で騒いだりしなければ大丈夫だと思いますが」

 

 

 他にも問題はある。サムライと鬼内の溝がな…。恨みと特権意識と恩と不安と、その他諸々がゴッチャになって暴発する。絶対ひでぇ事になる。

 …まぁ、これについては一旦ここらで切り上げよう。俺達は所詮流れ者だ。西歌さんに提案でもしておいて、後は…まぁ、出来る事があれば手伝う程度か。

 

 

「何をしている貴様ら。これは貴様らが受けた依頼だろう。よもや、お頭からの依頼を投げ出そうというのではあるまいな」

 

「この里の行く末について、少々議論していたまでです。言われずともすぐ向かいます」

 

 

 

 

 

 

 

 さて、長話したおかげで、若干急いで合流地点に向かう事になった訳だが……ヤバイ、スゲェ楽しい。

 何がって、鬼疾風が。

 

 先日、ホロウから理論だけ教えてもらった技だが、割とすぐ再現できた。それはもう、熟練者であるホロウが呆れるくらいにスムーズに。なーに、この程度のスピードなら慣れたもんよ。

 「急ぐぞ」と言う八雲のにーちゃんに追従してたのはいいんだが、ちょっと遊び心が出てね。追い抜いちゃったのよ。

 

 唖然としてた。まーそうだよな。普通の走り方じゃ、タマフリ使ってもこれは追いつけんわ。それでもアラガミ状態での全力ダッシュには追いつけないけど。

 この手の術は、真っ先に検討するべきだったよなぁ…。足に力を込めてのクイックブーストは、各種バトル漫画の基本です。

 

 まぁ、鬼疾風はやり方がちょっと違うみたいだけど。どっちかと言うと…リニアモーターカー? ただし線路は自分で作る、みたいな。

 なんつーの……まず足元に線路を作るじゃろ? 一本レールの、行きたいルートを辿る線路。その線路に対し足元に集めた霊力を反発させ、自動で進むようにするのが鬼疾風だ。

 そーさな、スケート…と言うよりは、ジェットコースターに乗りながら、その行き先を自分で作っていると思えばいいか。

 

 別に、単純に足に霊力を纏わせて脚力を上げるだけでもいいんだが、そうなるとどうしても動きが直線的になるし、それ以上に移動の後に動けない時間が出来る。クイックブーストの後のエネルギー切れだな。

 それに対し、鬼疾風の方法なら一定量の霊力消費はするものの、コツを掴めば曲線を描いて移動する事も簡単だし、長時間の移動も難しくない。また、移動先を上に向ければ多少の段差は簡単に乗り越えられる。

 

 で、これを俺がやると、冗談抜きで立体起動が可能になる。いつ何処で身に着けたのかイマイチ自分でも分からんが、俺は壁を走るような技術も身に着けているのだ。

 その辺の木々や崖や壁を足場にし、駆け上がって宙返りして枝を伝って、更にゴッドイーター式二段ジャンプ(バースト状態でしかできない筈だけど、まぁ俺の謎ボディだし)やら空中ダッシュやら…。アサシンクリードのフリーランニングを、空中も可、超スピードダッシュも可にしたらこんな感じか。

 八雲のにーちゃんが、呆然とした後「こいつは鬼なんじゃないか?」と真顔で呟く程だった。

 

 

「あの移動法は、かつてモノノフに伝えられた鬼疾風という歩法なのですが」

 

「…聞いた事がない…いや、確か近年、古文書から幾つかの失われた技術が発見され、それを再現しようとしていると聞いた覚えが…」

 

「それかどうかは分かりませんが、理屈はそう難しくありません。双刀を使っているのなら、疾駆は使えますね? 体裁きは同じです。……尤も、それだけではあの動きはできそうにありませんが」

 

 

 …ああ、そういや疾駆に似てるっちゃ似てるな。移動スピードと安定感は段違いだが。前者は鬼疾風、後者は疾駆だ。

 ま、それはともかく、ハシャぎ周るのはこの辺にしよう。周囲は異界だし、勢い余って突っ込んだ先で、大蛇が藪から出てくるのも何だ。具体的にはミズチメ。

 

 

 はいはい、ハシャぎ周ってすいませんね。落ち着いたよ。

 

 

「猿のように木々を飛び移っていましたね」

 

 

 せめてモモンガで頼む。鬼の手を上手く使えば滑空も出来そうな気がしてきた。

 

 

「それはまた今度試してください。八雲に鬼疾風のやり方を教えました。このまま合流地点まで走りますよ」

 

「理屈は分かった。モノノフとしての基礎さえ出来ていれば、技量的にはそう難しくない。後は慣れの問題だ」

 

 

 ほほう、お手並み拝見させてもらおうか。道案内なんだし、先導は任せる。転ぶのはいいけど、後続の俺らを巻き込まないようにな。

 

 

「誰に物を言っている。では行くぞ!」

 

 

 

 

 …八雲のにーちゃんは転びはしなかったが、曲がり損ねて2回程壁に激突した。ま、スピードの桁が違うし、カーブはちょっと難易度が高くなるからね、最初は仕方ないね。

 

 

 

 

 

 八雲のにーちゃんの先導で合流地点に到着したが、既にそこには3人組が待機していた。

 一人は年頃…をちょっと過ぎたおねーさん、後の二人は…まぁ、おっちゃんだな。見た所、西歌さんより年上っぽいが…同期じゃなかったのか? 単に訓練が同期なだけで、年齢は違うんだろうか。

 

 おっちゃんの片方…ガッシリした体付きで、ヒゲはやしてる人が俺達を見て声を上げた。

 

 

「おっせぇぞ八雲! 師匠を待たせるとはいい度胸じゃねえか」

 

「何を言う、むしろ刻限よりも早く到着している。そちらが早く来すぎたのではないか?」

 

「ハッ、到着は正午と手紙にはっきり書いたぜ? もう半刻近く過ぎてらぁ」

 

「…いや、雷蔵、八雲…これはいつものアレだろ。西歌のうっかりだ」

 

「「「…………」」」

 

「お頭…」

 

 

 

 投げやりに告げられた一言に黙り込む2人、頭を抱える紅月さん(らしき人)。

 どうやら、度々ある事らしい。それでいいのか、西歌のお頭。

 

 

「あー、ところでこの二人は? お前もえらい勢いで走ってきてたが。鬼でも突進してきたのかと思ったぜ」

 

 

 ああ、俺達の事はお気になさらず。西歌のお頭から、あなた方を迎えに行ってほしいと頼まれただけの新参モノノフなんで。ちなみに鬼内でもサムライでもなく流れ者です。

 正午からずっと待ってたなら、腹が減ってるでしょ。よければ持ってきたオニギリどーぞ。

 

 

「おっ、ありがたくいただくぜ。聞いてるようだが、俺ぁ時継。とびっきりの勇者だぜ」

 

「不肖の弟子と違って気が利くな…。雷蔵だ。霊山で禁軍に所属している。八雲の師でもある」

 

「ありがとうございます。マホロバの里の紅月です。…あら、いい塩使ってますね」

 

 

 あっという間になくなるオニギリ。ま、一人につき2個しかないからね。

 はいお茶。

 

 

「私はホロウです。マホロバへの滞在予定は一か月程ですので、あまり長い付き合いにはならないと思います。その間はよろしくお願いします」

 

「ほぅ………勿体ないな。見た所、二人とも結構な手練のようだが」

 

「時継、飲み込んでから喋れ。まぁ、流れ者だってんなら仕方ねぇ。…いや、どうせだから、一度八雲と手合わせでもしてやってくれねえか? どうにも、鬼内だけだとやり方や力量が決まっちまっててな」

 

 

 ヤだよ面倒くさい。…依頼だってんなら考えない事もないけど。

 

 

「ふぅ…お三方、お話も結構ですが、そろそろ出発しないと。ただでさえ、到着時刻が遅れているのです……お頭のうっかりで」

 

「本当にあいつはなぁ…。これさえなければ、お頭としても女としても格別なんだが」

 

 

 …西歌のお頭ってそーゆー認識なのね。うっかり系ドジっ娘だったとは。

 

 

「間が抜けてんのは否定しねぇが………娘…?」

 

「時継さん、女性の年齢について踏み込む勇者の末路は決まっていますよ?」

 

「おお怖…。まぁ、ちょいと急いだ方がいいのは事実か。八雲、さっきの移動法は何だ? 俺達にも出来るか」

 

「…理屈が分かれば、難易度はそう高くない。走るだけならな」

 

「…お前はどうして、師匠に対して言葉遣いを改めんかな…まぁいい。その辺も、帰ってからじっくり扱いてやる」

 

「では、私が教えます。あの走り方は鬼疾風と呼ばれ…」

 

 

 やり方を教わった3人は、実にあっさりと鬼疾風を習得した。マホロバの里に戻る間も、それなりのスピードで走っていたにも関わらず、曲がり角もしっかり曲がり、段差は軽々飛び越える。

 …来る時に壁にぶつかってしまった八雲のにーちゃんは、結構悔しそうだった。技量の差と言うか、地力の差が明確に出たようなもんだしな。ちょっとした事だが、妙に負けず嫌いなこった。…紅月さんに対抗意識でも持ってるのかもしれん。

 

 そんな具合に帰り道は順調だったが、一つ問題発生。

 鬼が出た。と言っても、見慣れたヒノマガトリだが。どうやら雅の領域から流れ出てきたらしい。鬼疾風なら、逃げ切るのはそう難しい事じゃなかったが、そのまま里までついて来られても困る。

 停止・反転して迎撃しようとしたんだが……他の皆に声が届かない。世界記録もメじゃない猛スピードで走ってるから、耳元の風で上手く聞き取れないらしい。身振り手振りで伝えようにも、余所見運転ならぬ余所見鬼疾風してたら何処かにぶつかる危険大。同様の理由で、肩を叩く等の接触も難しい。

 仕方ないんで、一旦先頭に躍り出て、足を止める。全員、一拍遅れて同様に足を止めたんだが、それだけでも大分距離が離れた。

 

 おかげで、皆がヒノマガトリの結界に阻まれてしまった。結界内に残れたのは、俺、ホロウ、雷蔵のみ。

 …まぁ、ソッコーで潰したから問題はなかったけどな。具体的には、立体起動鬼疾風からの疾斬っぽい攻撃で翼を切り落とし、落下したところをフルボッコ。

 

 勝つには勝ったが、鬼疾風にもちょいと改良の余地アリかな。移動が早くても連携が取れず、情報の共有ができないんじゃ危なっかしくて仕方ない。

 

 

 後は…鬼疾風からの疾斬だけど、こんな話が出た。

 

 

「おお、見事だったぜ。勇者の一撃だった」

 

「勇者はともかくとして、鬼疾風の速度をそのまま攻撃に転用したのか。…残念だが、今の私では不可能だな。出来ない事はないが、武器が折れてしまいかねん」

 

「ホロウさん、あの技にも名前はあるのですか?」

 

「いいえ。あのような攻撃方法は初めて見ました。鬼疾風は足元が不安定になるので、無理に攻撃すれば反動で体勢を崩します。お勧めできません」

 

「なら、完全に新しい技が出来た訳だ。改良の余地はあるだろうが、技の名前もつけておいた方がいいかもな」

 

 

 名前ねぇ…。疾斬の上位技と考えると、疾風斬とか? 鬼疾風前提の技だし。

 

 

「いやいや、もうちょっと捻ろうぜ。そうだな…。お前が鬼に飛び掛かった後、流れていくように淀みなく擦れ違いながら斬ったから………流し斬り?」

 

 

 

 不吉だからヤメロ。

 



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197話

なんちゅーか、天中殺な最近…。
また久々に愚痴りますがご容赦を。

超厳しい上司に叱られまくるは、帰りに雨が思いっきり降ってて買ってきたばかりのシャツがびしょ濡れになるは、取り込んでなかった布団は濡れてるは、ヤバい故障が連続で沸くは、挙句店内に変質者まで出るは…。
んで対応間違えたら上司が心を圧し折りに来る。
ああ、家に帰ってだらだらしてる時だけが救いだわ…。
ちょっとエロい店でも行って来ようかな…。


凶星月

 

 

 とりあえず、昨日は3人を里に送り届けて依頼終了。ヒノマガトリを返り討ちにしたんで、ちょっとしたオマケも付きました。まぁ、晩飯に一品追加する程度だけどな。

 里の飯屋で適当に頼んで持ち帰ってきたんだが…まぁ、普通かな。専門の料理人じゃなくて、アルバイトの人が作ったんだろうか? ま、そういうチープな味も悪くない。ホロウと博士には不評だったが。

 

 

 ……うむ、やはり焼きナスは冷やすに限る。ポン酢があれば尚良し。

 

 

 それはともかく、昨日から博士は延々と唸り、手にした用紙に設計図らしき物を書き続けている。添削が何度も続いているらしく、一見すると何がなんだか分からない。殆ど真っ黒になった使用済みの紙が、何枚も落ちていた。

 

 それとは別に、壁に貼り付けられた大きな紙に、これまた大きい字でメモがある。…どうやら、これは考え抜いた末に導き出した、或いは決定した重要事項らしい。

 書かれているのは…。

 

 

 『カラクリ石を媒介とすれば、武器防具にも力を宿す事が出来る?』

 

 『力のあり方があまりにも異常。参考にはしても再現は考えるべきではない』

 

 『具現化に必要なのは、カラクリ石の力の量よりも、より直接的に思念を伝える手段』

 

 ……塗りつぶされていて読めない。……鷹の目! 『トキワノオロチが繰り返しに影響していたとすると、遠からず開放される事になる。居るのか?』

 

 

 

 …トキワノオロチ? なんか大物っぽい名前だな。オロチにもピンキリあるけど、ピンは本当にシャレにならんからな…。ヤマタノオロチを筆頭に、龍神の類だって乱暴に言えばデカい蛇、オロチと言えなくもないし。

 居るのか?って表現も、開放って表現も気になるが…ここで聞くのは無理だな。こんだけ考え込んでる博士に声をかけるなんて、撃ってくれと言ってるようなもんだ。

 暫く好きにさせておく。

 

 

 

 

 さて、それはそれとしてこれからどうしたものか。

 博士が作る鬼の手の成果を得たいところだが、そうなると俺に出来る事は無くなってしまう。頼まれた時に素材を取ってくるか、飯の支度をするくらいだ。

 俺自身は鬼の手の具現化に成功しているが、出来れば俺以外にも同様の事が出来るようにしてほしい。特にホロウは、同じイヅチカナタをターゲットにしているからな。

 

 後は……まぁ、これは仮定の話だが。博士が言うように、もしも異界の浄化をする事が出来るようになったなら、千歳・虚海の体も元に戻せるんじゃないかと思うんだよ。千歳にはもう一度会えるかも怪しいけどな。

 

 

 暫くは、博士のブレイクスルーを期待して待つ事になるだろう。待つのはこの際構わんけど、その間に何をしようか。

 暇な時にやる事と言ったら狩りだが、この辺の鬼はそこまで強くない。…異界の中に潜っていけば、手応えのありそうなのも居るが、入れてくれないんだよなぁ…。異界への入り口は鬼内達が管理していて、相応の実力者であると認められなければ通れない。

 

 

 まぁ、忍び込めばいいだけですが。ぶっちゃけ、鬼内連中ってそこそこ程度の戦力が揃ってるだけで、突出してるのは八雲のにーちゃんくらいだからな。それにしたって、意識とか太刀筋とか色々荒い。これからの成長に期待ですな。

 

 

 

 

 …鬼内の戦力はそうだとして…サムライはどうなんだろう? 戦闘要員には、まだ殆ど会ってないんだよな。刀也さんと神無と……一緒に稽古していた数人くらいか。

 サムライは奴隷状態だった一般人達を開放して回ったそうだが、どれだけの人数でそれをやったのか。

 戦闘要員の割合はどれくらいだ? 助けた一般人達をそのまま放り出すような事はしてないだろう。徐々に人が増えていくんだろうが、戦える人間はそうそう居ないと思うが…。

 

 よし、明日はサムライ連中の見物に行ってみるか。

 

 

 

 

凶星月

 

 

 …夢見が最悪だった。サムライの見物に行くのを辞めようかと思うくらいには。

 丸一晩、のっぺらミタマの夢に魘され続けたよ。SAN値直葬一歩手前だ。

 ええい、それもこれも、ホロウが余計な事言うからだよ! 俺のミタマはどんな英雄なのか、って。…のっぺら連中の事だけは、出来る限りボカして説明してたのに…。

 ゲームと違い、モノノフが宿しているミタマを聞くのはマナー違反(確かのっぺらを宿して間もない頃にそういう話があった)だったから油断してた。ホロウはもっと前のモノノフしか知らないからな…現在のモノノフの常識とズレがあるらしい。

 

 俺のミタマが何なのか、聞いて来るのはいい。マナー違反だが許す。

 

 

 

 だが、「カラクリ石の力を使えば、ミタマを具現化する事も出来るのでしょうか?」ってなんじゃい!

 いやそれ自体は別に問題ねーと思うが、俺の場合は問題だらけじゃ! あの連中を一匹でも具現化なんぞさせてたまるか!

 

 全力で荒ぶって拒絶しようとしたが、飯の最中だった事と、博士から「そいつが出来るかは知らんが、可能だったとしても、私の研究している鬼の手では無理だな」と物言いが入った為中止。

 

 

 …あれ、どーゆー事? カラクリ石を取り込んだ俺が出来れば、鬼の手でも出来るんじゃないの?

 そう聞くと、博士はシジミの味噌汁を啜りながら、「どうしようもないなこのバカは」みたいな目を向けてきた。

 

 

「お前、自分で脳天を吹き飛ばして頭を新しい物に作り替えた方がいいんじゃないか? 他人にやらせると殺人になるから、気を効かせて自分でやれよ」

 

 

 …もっと酷かった。しかも解説せずにそのまま飯を食い続けた。甘い物が欲しいとデザートまで要求する始末。

 (忍び込んだ武の領域から拾ってきた)万年氷を使ったカキ氷を喰らうがいい。シロップは適当な果汁を使いました。頭キーン。ちなみに鬼祓いで浄化・消毒済みである。

 おい、悶えてないで話せよ。

 

 

「ふぅ…美味いが、一気に食べると危険だな、これは…。で、何の話だ」

 

 

 俺が出来ても鬼の手でできないって話だよ。率直に言ってしたくもないが。

 

 

「ああ、それか……したくないなら別にいいだろう、と言いたいところだが、いい加減貴様には物申すべきだと思っていたし、気分転換に説明してやろう。…まったく、モノノフにこんな講義をすることになるとは思わなかったぞ」

 

 

 いいから解説はよ。

 

 

「どうもこうもない。お前はいい加減、自分が他のモノノフと違うと言う事を自覚しろ」

 

 

 自覚はしてるよ。ハンターだしゴッドイーターだし触鬼だしアラガミだし…。

 

 

「そういう事を言ってるんじゃない。お前が霊力と呼んでいる力は、一般のモノノフとは一線を画している、という事だ」

 

 

 …? どういう事だ? 霊力は霊力だろ。モノノフなら誰でも使える力だ。

 

 

「いいや違う。あのな、確かにモノノフはミタマを宿す力を持ち、それを扱う事が出来る。だが、それは幽霊と対話したり、成仏させたりするような力ではないんだよ。鬼祓いだって、瘴気…鬼の体から出る毒素を濾過する力はあるが、それも所詮は物理的な話だ。加えて言えば、お前が言っていた…『ぶらっどあぁつ』だったか、そんな使い方は夢のまた夢なんだよ。ミタマの力を使い、タマフリという決められた手順を辿って、追駆や連昇のような決まった現象を起こす事しかできん。増して、自分の意思と力だけで形を変える攻撃なぞ、夢物語としか思われまい」

 

 

 …は? いや、でも少なくともミタマと話す事は出来るだろ。ウタカタの里の樒さんとか、普通に話せてたぞ。煩すぎて夜が眠れないくらいに。

 

 

「それは特別な素養を持ち、それを伸ばした者だからだ。ホロウの話にもあっただろうが。死者と会話する特別な能力を持つ、オビトという人間の話が。繰り返すぞ。モノノフが持つ力・技術は、宿したミタマの力を引き出す為のものでしかない。ついでに言えば、幽霊を信じているモノノフは……まぁ、そこは個人の領分だが、それも『否定できない』程度だな」

 

 

 何故? ミタマだって幽霊だろう。

 

 

「ミタマは彼らにとって、あって当然の存在だ。その身に宿す事で存在を証明できる、存在を信じられる。ちょっと珍しい隣人のようなものだ。実在する事に疑いは無い。が、その身に宿せない幽霊は違う。…大体、幽霊が実在していて、霊力に長けていればそうなるのであれば、戦死したモノノフの殆どが幽霊になっているだろうさ。ちなみに、鬼は平気だが幽霊は怖いというモノノフは結構いるぞ」

 

 

 むぅ………納得いかん。

 

 

「納得いかなくても、モノノフの認識は大体そんなものだ。道理が通ってない事は、人の認識の中では珍しくも無い。ミタマはミタマ。幽霊は幽霊。…話が逸れた。幽霊への干渉に限った事ではない。お前が使う霊力は、汎用性が高すぎる。鬼杭千切とやらへの使用法に始まり、食べ物の消毒に使うわ、『のば』とやらを支配下に置くわ、交合を通じて他人の力を増幅するわ…。はっきり言うが、普通のモノノフはそんな事は出来ん。そこまで自在に霊力を操れないし、操られたとしても彼らの霊力にそのような性質は無い」

 

 

 だったら、俺の霊力は一体何なんだ? 少なくとも、この力を自覚して使い始めたのは、モノノフ式の訓練を受けてからだぞ。

 

 

「さてな。お前の体から生み出される、形の無い力…という意味では霊力か。単純に、霊力の亜種なのかもしれんな。お前の訳の分からん体の影響を受け、元は普通のモノノフと同様だった霊力が変質したのか…」

 

 

 話が支離滅裂だぞ。これは霊力じゃないんじゃなかったんかい。

 

 

「私は、他のモノノフの力とは違う、と言っただけで、霊力でないとは言ってない。…いい加減説明も面倒になってきたから締め括るが、とにかくお前という存在は何から何まで異質だ。鬼の手を具現化する様は参考になったが、その通りにやってもお前以外では決して同じようにはならん。同様に、仮にお前がミタマを具現化できたとしても、鬼の手では同じ事はできん。以上だ」

 

 

 

 それだけ言うと、博士は立ち上がってさっさと何処かに行ってしまった。腹ごなしの散歩かな。

 

 

 

 …そういう事らしいが、ホロウ、そうなん?

 

 

「はい。貴方のような力の使い方は見た事もありません。最初は私も、現在のモノノフの技術が発達した為かと思っていたのですが、ここ数日間モノノフ達を見ていたところ、新たな技は生まれているようですが、力の操り方や使い方は殆ど変わっていないようです。やはり、貴方だけの特異な能力と考えるべきです」

 

 

 むむむ、驚愕の事実。

 

 俺はモノノフとしては…おかしな言い方になるが、モノノフのみとしての評価では、普通の腕利き程度だと思ってたんだが。俺が出来る事は、多少難しくても皆も同じことが出来ると思っていた。

 俺が色々おかしいのは自覚してるけど、それは後付けで色々突っ込まれた要素があるからだし。…いや、実際その為に普通じゃない霊力の使い方が出来るんだ、と言われるとそれまでなんだが。

 

 

「むしろ、性質的には鬼に近いのではないでしょうか。聞いたところ、腕を断ち切られても復元したのでしょう? そういった、物理的でない力の操作は、どうしても人は鬼に一歩も二歩も劣ります」

 

 

 まぁ、アラガミになってる上に触鬼になってる上に、それ以上にバケモノ染みてるハンターでもあるんだから、その辺は特にショックはないけど。

 ……うん、どう考えてもハンターの方が前者二つより驚異的だよな。俺の判断は正しい。Q.E.D。

 

 

 

 ま、どうでもいいか。ちょっと特殊な体質してるだけで、何が変わる訳でもなし。ただ、俺が出来て当然だと思ってた事が、他の人には出来ないかもしれない。その逆もあるって事だけ覚えておけばいい。そもそも、それが当たり前なんだけど。

 ただ、俺がサンプルとして使えないと言う事は、それだけ鬼の手の正式開発が遅れるって事でもある。それがちょっと残念かな。

 

 

 そんじゃ、飯も食ったし、そろそろサムライ見物に行くとしますか。ホロウはどうする?

 

 

「私は警備の依頼を受けているので、そちらに行ってきます。最近、この辺りに盗賊が出るらしいので」

 

 

 鬼が出歩く山中とかに盗賊ねぇ。よく生きてるもんだわ。

 モノノフじゃなくて、生き残った一般人かな。

 

 

「盗賊になる前なら、サムライとして迎え入れる事もできたかもしれません。紅月と一緒に行ってくるので、お弁当をください」

 

 

 残り物になるけどな。んじゃ、気ぃつけてな。

 

 

 

 

 

 …さて、俺はサムライ見物に行きますかね。

 

 

 

 

 

 

 …サムライ見物終了。残念ながら、あまり歓迎はしてくれなかった。俺は鬼内でも里の人間でもないんだが、彼らからしてみればモノノフ…いや、自分達を粗略に扱った連中と大差なく見えるらしい。

 仕方ないとまでは言わんが、まー一般人の生き残り連中からすれば、得体のしれない力を使う集団でしかないしな。モノノフの細かい分類なんぞ、さっぱり分からんだろう。

 オオマガトキが起こって、その時からその手のモノノフの連中の下で生きながらえたとして、約8年。多少はモノノフの内情を理解できたとしても、全て憎悪に流されるだろう。

 

 結局のところモノノフである時点で、流れ者である俺も、サムライから見れば潜在的な敵って事か。無理もないとは思うが…自分以外は全て敵、なんて考え方じゃ破滅するのは遠くないぞ。頭じゃなく心情を変えなきゃならんのだから、難しい話だとは思うが。

 

 サムライ達の屯所を訪れてみると、稽古の真っ最中だった。この前会った神無が連戦連勝状態。えらく活気に満ちてるが…稽古しているサムライ達は、やや過剰なくらいの気迫を持っていた。稽古じゃなくて…いや稽古ではあるんだけど、本気で戦ってるんじゃないかと思うくらい。

 その一方で、稽古に混じらない非戦闘員は殆ど見られない。訓練場の更に奥の方に、そこそこの人数の気配はする。逆に、そっちは殆ど活気が感じられない。

 ……奥に行く道の途中に、誰か手練が一人構えてるな。

 

 どうなってるのかと思ってたが、刀也が飛ばす激のおかげで理解できた。

 

 

「どうした、そんなものか。お前はまた、家内共々囚われの身になって奴隷のように扱われたいのか。鬼達の腹に収まりたいのか! そうでないと言うなら刀を握れ!」

 

 

 …おいおい、そういう事かい。そりゃ確かに死に物狂いで鍛錬するようになるわ。それだけの気迫を持って鍛錬すれば、上達も速くはあるだろうが…。

 暫く見物していると、神無に稽古を任せた刀也が近づいてきた。

 

 

「…何の用だ」

 

 

 別に。サムライってのがどれくらい強いのか、見ておこうと思ったんだが…随分と物騒なやり方してるな。

 

 

「……不和の種を育てている事は、否定はせん。だが、こうでもしないと素人から半人前に育て上げるのに、時間がかかりすぎる」

 

 

 あくまで自衛の力を持たせる為、か。手綱を取り切れるのか? このやり方だと、心のうちに燻っている恨み辛みや心の傷を煽る事になるぞ。

 

 

「抑え込む。…まだ育ち始めだ。俺や神無なら、無力化するのにもそう手はかからんし、監視もしているさ。発散先もある」

 

 

 だといいんだけどね。ま、その辺は流れ者の俺が口を挟む事じゃないか。

 …で、今日の用事だけど、ちょっと様子見に来ただけだよ。この前は鬼内の屯所を見たから、今度はサムライってだけだ。

 

 

「…そうか。ならもう見ただろう。もう帰れ……いや、この際だ。神無と手合わせでもしていけ。ここの所、神無と戦えるのは俺しか居なくなっている」

 

 

 新しい刺激を、って事ね。…面倒だな。依頼って形なら受けるが? 無償でやると、神無から延々と挑まれそうだし。

 

 

「…否定できんな。報酬はハクでいいか?」

 

 

 ん。で、今からでいいのか?

 

 

「ああ。…総員、今日の鍛錬はそこまでだ。神無、お前は残れ。こいつがお前の相手をする。希望者は残って手合わせを見ていろ」

 

 

 刀也の一声、殺気立っていたサムライ達はすぐに動きを止めた。…ナルホド、言うだけあって統率は取れているようだ。

 神無は傍目にも嬉しそうと言うか楽しそうと言うか、のっけから気迫をぶつけてくる。…そんな目で見るなよ。興奮……しねーよ、どこぞの殺人ピエロじゃねんだから。

 

 依頼を受けたの早まったかな、と思っていた時。

 

 

「刀也」

 

「…む」

 

 

 涼やかな声。美人か! ズギューン!

 おおう、クールビューティ! サイドーテール! …が、なんかちょっと影があるな。それはそれで色っぽいが。あと、ちょっと目つき悪い。

 

 

「真鶴、どうした」

 

「愚弟がまた面倒を起こしそうだから、止めに来ただけだ」

 

 

 愚弟? …ああ、そういや神無に姉が居るって言ってたな。紹介してくれって言ったらスゲェ嫌な目されたけど。

 …神無の気迫がなんか増した気がする。俺とこのねーちゃんが会ったからか?

 

 

「さて…君が新しくモノノフになった流れ者か。噂は聞いている。私は真鶴。サムライの副長を務めている。稽古の申し出はありがたいが、愚弟は今まで何度も稽古でやり過ぎてしまってね。怪我をさせた事は片手では数えられん。悪い事は言わないから、止めておけ」

 

 

 御心配はありがたいが、多少の怪我ならすぐ治るし、俺もサムライの強さには興味があるんで。少なくとも、手足が一本無くなっても、そっちの責任問題にするような事はないよ。

 

 

「そうか。君がそう言うのであれば、これ以上は言うまい。私には、君に対する命令権も無いからな」

 

 

 …心配はしてくれてるようだが、あっさり引き下がった。そこまで強く言う気はないらしい。

 それはいいんだが。

 

 …神無君、ちと疑問があるのだが。

 

 

「…なんだ」

 

 

 彼女、何故に俺の横に向かって話しかけておるのだね? そこには何もいないぞ?

 

 

「…真鶴は、生まれつき視力が弱いんだ。目付きが悪いのも、目を凝らしているからだ。なのに弓なんぞ使うものだから、先日は射抜かれかけたぞ…」

 

 

 …災難だったな。眼鏡でもつければ?

 

 

「…そうだな。オオマガトキの前は、金が無くて手に入れる事も難しかったが…。……いや、今はそれよりも手合わせだ」

 

 

 あいあい。おうおう、自信が漲ってるな。さて、どんなもんか。

 稽古場の真ん中に行く間にも、神無を観察する。構えに隙は無いように見える…が、考えてみりゃ人間相手の剣術なんぞ、殆ど分からんな。俺の技は殆どが人間以外用だし、アサシンは戦うんじゃなくて殺す為の技だし。

 …となると、俺の戦い方は決まってくるな。剣術じゃなくて、それ以外の部分で勝負。

 

 

 

 

 

 

 

 結論から言うと……あっさり勝った。神無はかなりショックを受けた顔をしてたな。ここの所無敗だったらしいし、鼻っ柱を叩き折られたか。

 他のサムライ達も驚いたらしく、ざわ・・・ざわ・・・していた。

 

 ショック状態の神無を他所に、刀也から感想を求められたが……うーん、何だな。とりあえず、鬼との闘いの経験が少なそうだな。戦ってみて分かったが、神無の剣術は基本的に人間相手を想定しているものだ。フェイント、間合いの取り方、狙う場所、防ぐ場所、その他諸々。

 人間相手に斬った張ったするにはそっちの方がいいだろうが、デカブツ相手だと余計な縛りになりかねんぞ。実際、今回の稽古の敗因だってそれが大きい。

 

 例えば、最初に向かった時の間合いは、そことそこだろ? 確かに鍛えた人間同士なら、どっちかが仕掛けたとしても先読みするなり超反応するなりで対処は出来る距離だ。今回、俺が人間だからそう距離を取ったのも間違いじゃない。

 でも、鬼にはそれを覆すくらいの瞬発力や腕の長さがあるし、モノノフにはタマフリって普通じゃない手段がある。

 …いや、さっきは使ってないよ。俺は単に色々あって、普通の人より身体能力が高いだけだ。

 その辺に全然気付いてないみたいだったから…己惚れているような言い方になるが、「人間以上」の性能で押し切っただけだ。

 神無が想定してない速度と腕力と動体視力に反射神経で奇襲をかけ、対応される前に決着をつけただけだ。

 

 …言っちゃなんだが、足りてないのはその辺だろうなぁ。想定外の事なんぞ幾らでも起きるし、想定していた速度と腕力に抑えてたとしても、伏兵とか出てきたら同じだし。要はタイミング…機の問題なんだから。

 

 

「…そうか。確かに、人間相手の戦い方に偏っているのは否定できん。…最後に見せたあの技は何だ?」

 

 

 ああ、震怒竜怨斬な。簡単に言えば反撃技。あの程度の斬撃なら俺は肌で受け止められるから、その衝撃を上乗せして返した。剣の柄辺りで受け止めて返そうかと思ったんだけど、思ってたより剣筋が複雑だったんで諦めた。

 ミタマの防でも同じ事は出来ると思うぞ。タマフリ、使われる事も想定してないって事は…あんまり使ってないんじゃね?

 

 

「あの程度で複雑か…」

 

 

 あーほら、鬼とか相手だとそんな複雑な小手先の駆け引きってあんまりしないから。圧倒的な膂力と体躯で押してくるし、鬼の足を相手に無駄に剣筋捻っても意味ないからな。

 

 

「今回のお前と同じように、か。成程、確かに鬼を相手にした実戦が不足しているな。感謝する。参考になった。…神無、いつまで呆然としている。礼をしろ」

 

 

 刀也に活を入れられ、我に返った神無は立ち上がって礼をする。俺も細かい礼儀とか分からないが、稽古の後には互いに礼だよな。稽古の前は奇襲アリだが。

 

 

「…また頼む。次は勝つ」

 

 

 言葉少なに、それだけ言われた。ショックではあったようだが、我に返るとすぐに対抗意識メラメラな目になってたのはいい事だ。負けず嫌いはいい文明…なのか?

 報酬は、ハクはいいから真鶴さんを紹介してくれ…と言おうかと思ったんだが、なんかヤな予感がして止めておいた。神無、シスコンっぽいからな。

 

 

 

 とりあえず、今日確認できた事は…。

 まずサムライ達の数。人数的に見れば、鬼内の戦闘要員よりも若干少ない程度か。訓練を初めて間もない者も多く、戦力として数えられる者はもっと少ない。

 しかし、サムライ達の剣術は対人能力に優れており、そういう点では鬼内達……もとい、彼らを捕らえていたモノノフ達のような連中と戦う事になったら、幾分有利に立てるだろう。

 

 総合的に見れば、やはり鬼内達の方に分があるな。この里は元々彼らの地元だし、人数も鬼内の方が多いし、タマフリの使い方もよく分かっている。

 だがサムライ達は今でも、あちこちで生き残った一般人を吸収しており、徐々に戦力は増えて行っている。…モノノフ達に虐げられた人間も多い。それだけ不和の目を抱え込んでいると言う事でもあるが、そこは刀也が上手くやっているらしい。

 助けられた人達にしてみれば、言わば恩人でもある訳だからな。その人に「抑えろ」と言われれば、多少は大人しくもなろう。いつまで保つかは分からんが。それに、刀也に対して「この人なら自分達の居場所をどうにかしてくれる」という期待も集まっているっぽい。……身勝手な期待かどうかは、微妙な所だ。

 

 

 と言うか…刀也も神無も、何人か殺ってるな、アレ。実戦経験済みの強さだぞ。しかも鬼が相手の実戦じゃない、人間相手だ。

 やっぱり、奴隷扱い状態だった人達を助ける為に、モノノフとやりあったんだろうか。

 ま、殺しに関して何か言えるような立場じゃないな。毎回毎回、GE世界で一人は始末してる身だし。しかも実にお手軽に。

 

 

 

 

 

 



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198話

PSVR、当分手に入りそうにないなぁ。転売モノを買うのも癪だし。

それはそれとして、サマーレッスンの動画をYoutubeで見て思った事。
A.是非ともエロゲに転用してほしい。幻が導入するか、茶時の復活はよ。ジッサイ、リアルドールなるメーカーで人工知能とのナニが研究されているとかナントカ。
B.まず全裸になる。PSVRを付ける。仮想JKを見ながらナニかする。
C.むしろ見られながらナニかする。恥辱から無知シチュまで幅広い。セリフがマッチしていれば尚良し。

さぁどれだw



追記 ペルソナ5で個人的にヒットだったキャラは寅ちゃんです。
なーんか好きなんだよなー、エロ書く気にはならんけど。


凶星月

 

 

 鬼内に呼び出された。んで、稽古を申し込まれた。

 ちなみに八雲のにーちゃんは居なかった。今は師匠…この前会った雷蔵さんが里に戻ってきているので、マンツーマンで稽古を付けられているらしい。

 

 名前も知らない奴。…どうやら、昨日サムライ達と一戦交えて、勝ったのを目撃されていたらしい。で、今度は自分達がやって、サムライの面目を丸潰れにしてやろう……って考えだったようだ。

 ただし、自分が負けるとは全く考えてなかったようだ。

 

 神無相手に戦った時は、攻撃をわざと受けて反撃したが、それはミタマの防による力…と思ったらしい。まぁ、普通ならそう考えるな。

 つまりミタマの力があったからサムライに勝てた訳で、よりミタマの使い方を知り訓練している自分達なら、当然のように俺に勝てる…と踏んだ。

 

 アホか。まぁ、鬼内の中でもそこそこ程度には強くて、年齢的にも強さ的にも思い上がりやすい時期だったようだが。ついでに言えば、所謂名家の出身? まぁ、田舎における名家って程度らしいが。

 

 

 結局、そいつはタマフリを使う必要もなく一蹴。昨日見られていた為にスピードは警戒されていたようだが、腕力はそうでもなかったらしい。節穴か。

 

 

 その後も、鬼内の名誉に賭けて負けられぬ、とばかりに次々挑戦者が来た。腕前は……まぁ、最初のヤツが思い上がるのも無理はないって評価だな。

 疲れ? 大連続狩猟やった訳でもあるまいし、ハンターのスタミナを舐めるなよ。

 

 

 10人抜きするくらいになると、鬼内達の反応が分かれてくる。負けられん、のみだったのが、苦い顔をする者、猶更勇んで手合わせを願ってくる者、愚にもつかない呟きを聞こえていないと思って呟く者、挑むべきか避けるべきか葛藤している者、尊敬の目で見てくる者。

 俺を呼び出した主犯格と思われる奴は、苦い顔と勇んで挑む者が半々程度。八雲のにーちゃんの名前を出した時、苦い顔をの割合が増したから……たぶん八雲のにーちゃんが目の上のタンコブなんだろう。同格になる為に実績を積もうとしたが、その相手が予想外に強かった、と。面倒な軋轢だなぁ。とは言え、負けてもヤケになったり認めないと叫ばずに、すぐに挑んでくる根性は買いか。

 

 

 そいつと4回目の手合わせを始めようとした時、ストップがかかった。

 

 

「そこまでだ。負けん気が強いのはいいが、再挑戦とは勝てる目論見を作ってからやる物だ。事に、今回は頼んで来てもらっているのだしな」

 

「お、お頭…」

 

 

 おや、西歌のお頭。こんなムサ苦しいところへようこそ。

 

 

「ふふ、君こそ鬼内の稽古場へようこそ。武器と熱気しかない所だがゆっくりしていくといい。…と言いたいのだが、この際だしな」

 

 

 なんすか、西歌のお頭が今度は手合わせしたいんすか?

 

 

「君ほどの猛者との手合わせは心が躍るし、どちらかと言うと先日紅月が教わったという鬼疾風というのを教えてほしいものだが…それは後日にしておこう。…ほら、入ってきなさい」

 

「失礼します。先日はどうも。おにぎり、美味しかったですよ」

 

 

 おや紅月さん。こちらこそどうも。ふとも…(もが眩しかったです。むしろ今も眩しいです)…ゲフンゲフン

 

 

「連戦した後ですまないが、今度はこの紅月と戦ってほしい。ああ、これは依頼という事にしようか。先日のサムライ達よりも、多少は多く出せるぞ」

 

 

 多くって言っても、そもそもが飯一食分くらいだったけどな。しかし、何でまた?

 

 

「大した事ではないさ。紅月は私の直弟子なんだが、最近伸び悩んでいてね。元より、マホロバの中では渡り合えるような相手も限られる。そろそろ新しい刺激が必要なんだ。…と言っても、強いぞ? 少なくとも、この里では5本の指に入る腕前だ」

 

「いえ、私などまだまだ未熟者です」

 

 

 …謙遜はしてるが、自信もあるな。ちなみに他の4本は…ああ、サンバ鴉と八雲のにーちゃん辺りかな。

 周囲の表情を見てみるが、特に不満や妬みを感じる相手は居ない。…腕が立って人望も厚いか。

 

 

「ああ、言っておくが、手加減や遠慮なんて考えるなよ。これは二人ともに言っている事だが…目の前の相手は、お前達が思っているより強いぞ」

 

 

 …ふむ。紅月さんの目に火が灯った。おお、闘志がメラメラ燃えている。煽りやがって…。

 まー確かに、思ってたよりは強そうだ。戦い方よりも意思の方が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それでも、特に苦戦せずに勝ったけど。

 うん、あまり上から目線で評価するのもなんだけど、対人経験も十分(恐らく殆どは西歌のお頭とかだろうけど)、人では考えられないスピードやパワーにもタイミングを合わせて対処してくる、タマフリを使うタイミングや効果もいい。

 何より、闘志が漲ってるのに頭はクール。誘いや罠にも引っかからない。

 倒そうと思ったら、単純に地力で上回らないといけないタイプだな。

 

 

 だからこそ、俺に勝てないんだけど。

 

 

 力、速度、経験、タフネス、ミタマ、その他諸々。はっきり言うが、地力で上回らないと倒せないタイプではあるが、それさえ上回ってしまえば普通に勝てるタイプなのだ。

 まぁ、そんだけハッキリと差があれば、逆転するのが難しいのは当たり前であるけども。

 

 …ああ、西歌のお頭が伸び悩んでるってのはその辺か。爆発力っつーか、詭道っつーか、逆転の一手が無いんだな。しっかり鍛え上げられた真っ当な強さだが、真っ当すぎて突き抜けた部分が無い。

 しかし、そうなるとなぁ…これ、殻を破るには相当苦労するだろう。だからこそ、俺をぶつけて新たな刺激にしようと思ったんだろうが…。

 

 

 何にせよ、若手(若いかという疑問は持ってはいけない。実際まだまだ若い。いやフォローじゃなくて)で一番の使い手らしい紅月さん…呼び捨てでいいと言われたんで紅月が負けた事で、鬼内達には少なからず動揺が広がっている。西歌のお頭の目付きも若干厳しい。

 が、西歌のお頭の目はすぐに元に戻った。意識して平静を装っているようだが、あれは何か企んでるな…。

 

 

「いやいや、見事見事。私もまだまだ甘いな。先程、目の前の相手は思っているより強い、とは言ったが…それは私にも当てはまったようだ。まず紅月」

 

「は、はい!」

 

「負けた事を責める理由はないよ。遠征している間に腕を上げたな。時継や雷蔵に教えを受けたと見える」

 

「…ありがとうございます」

 

 

 紅月、なんか不満そうだな。まぁ、負けて褒められても悔しいだけか。

 

 

「君も、私が思っていた以上の使い手だったようだ。危なげない試合運び、実に見事。しかもまだまだ余裕があるようだね」

 

 

 …まぁ、切り札とか使ってないのは否定しない。

 

 

「紅月だけではなく、皆にもいい経験になっただろう。鬼内でなくても、正式なモノノフでなくても、強い者はいる。サムライ達もそうだ。中には私達に迫る実力者が、少なくとも2人居る。今すぐに認めろとは言わないが、努々忘れぬ事だ」

 

 

 

 …それを言いたいから、紅月を放り込んだのね。紅月への新しい刺激だけじゃなくて、自分達がサムライに負ける筈がないと思っている鬼内達の意識改革か。

 しかし、それはいいんだが…博打を討つなぁ。戦ったら自分達が勝つと確信してれば、傲慢にも鷹揚にもなるが、自分達に迫る相手となると……蔑ろにはできないが、その分警戒が先に立つだろう。

 

 

「ああ、それと喜一」

 

「は、はい!」

 

 

 俺を呼び出した主犯の鬼内か。 

 

 

「随分と訓練に熱心なようだな。後で稽古をつけてやる」

 

「ありがとうございますッ!」

 

 

 感謝3割、後悔2割、戦慄5割。…まぁ、向上心や対抗意識からとは言え、妙な事を考えた奴への処罰としては妥当かな。

 本人も強くなりたがってるのは事実のようだし。

 

 

 

 

 で、事が終わってから、茶でも呑んでいけと誘われた。仮にもお頭からの誘いを断るのもなんだし、叶う筈もない下心なんぞ持って誘いに乗る。

 奥に通されたんだが。

 

 

「よぅ、随分派手に暴れたみたいだな」

 

 

 あー…時継さん、だったか?

 庭に面した縁側に腰かけ、茶と団子を喰らっている。喋る度に、口に咥えた串がピコピコ揺れた。男がやっても可愛くない。しかもオッサンだし。

 

 

「時継でいいよ。さん付けなんてされたら、いくら俺が勇者でも背筋が冷えちまわぁ」

 

 勇者ってのはよくわからんが、じゃあ時継で。

 

「来ていたか、時継。…ところで、その団子は私への土産と祝いじゃなかったか?」

 

「固い事言うなって。送った俺が食って何がおかしい」

 

「少なくとも、貰った人間に黙って食わないものだぞ…」

 

 

 別にいんじゃね。勇者や世界を救う冒険者なら、他人の家に押し入ってこっそり貴重なツボとか持ち出しても罪にはならないって徳川ノブノブが言ってたわ。

 

 

「ああ言ってたな、いつの時代の英雄か知らねぇけど」

 

 やぁねぇ、ノッブっつったら異世界でエルフ率いて糞尿使って火薬作ってっか、髑髏型スタンド背負って茶器集めてるグダグダノッブに決まってるじゃないの。どっちにしろ時代が分からんけど。

 

「仮に行っていたとしても、そんな世迷言を真に受けるのは勇者じゃないだろう…まぁいい。ところで、雷蔵はどうした」

 

「まだ八雲をしごいてるぜ。八雲の奴が妙に張り切っててな。師匠として嬉しいんだろうさ」

 

 

 そういいながら、時継はチラッと俺を見た。…俺に対抗意識燃やしてんじゃないの、と言わんばかりだ。仮にそうだったとしても、問題も興味もないが。

 とりあえず、団子くれ。

 

 

「ほらよ」

 

「…家主の前で、好き勝手するな、貴様ら…」

 

 

 俺、招かれたし。迷惑かけられたとまでは言わんけど。

 

 

「俺らはいつもこんなもんだろ。…で、紅月と戦わせたんだろ? どうだったんだ、こいつ」

 

「どうもこうも、予想以上としか言いようがない。紅月を正面から、軽くあしらったよ」

 

「…何?」

 

 

 ? そんなに不思議か?

 確かに手練で、修羅場を幾つも潜り抜けた古……ゲフンゲフン、ツワモノだと思うが、あんたらだってそれ以上だ。勝とうと思えば、稽古だろうが実戦だろうが勝てるだろう。

 

 

「否定はしない。だが、君が言う程楽ではないさ。確かに経験や積み重ねた鍛錬の差が明確に出て、いつも私達が勝っているが、最近では随分追い詰められる…表情には出してないがな。それに、勝つ時は牽制にせよ止めにせよ、常に不意をついた一撃が必要になる。実力はほぼ拮抗していて、最後の一手だけが紅月に欠けている。…君は、その全てを上回った。詭道を必要とせず、私達と同等に近い実力を持つ紅月を完封した。特に、最後のあれは何だ? 捌いた後の隙を狙ったとは言え、早い動きでないのに見切れない避けれない防げない。受け流した直後に最短で急所に一突き…見ていて寒気がしたぞ。紅月に至っては鳥肌すら立っていた」

 

 

 何って、単なるカウンターですが? ただし、アサシン式の。詭道に見えるかもしれないが、純粋に技術の問題だ。最小の力と動作で攻撃を逸らしてバランスを崩し、そこから限りなく無駄を省いた動作で得物を突き出せば、回避不能の一撃技の出来上がる。

 ブレードの代わりに指を使ったが、やろうと思えば鳩尾に人差し指を丸々埋めるくらいはできる。やろうと思えばキルストリークも出来ます。…いつぞやの夢では、古い技術として廃れかけていたようだったが。

 

 

「…すまんがどうにも信じられねぇな。お前さんが腕利きってのは分かる。口惜しいが、俺よりも強いのも本当だろうさ。だがそこまでってのはな…。全く、こちとら勇者として名を上げようと走り回ってるってのに、こんな怪物に出くわすなんてな。ま、味方である分には頼もしいけどよ」

 

 

 俺自身、どこまで自分を強いと思っていいのかよーわからんのだ。そりゃ、殴り合いにも狩りにも自信はあるけど。

 

 

「難しく考えず、戦いに勝てれば強いって事でいいんじゃないか? こんな世の中だしな。モノノフだったら特によ」

 

 

 死んだら終わりだろ?

 

 

「そりゃあそうだが…生きるか死ぬかは、その時になってみないとわからねぇさ。それまで積み上げてきたものが足りてるか、足りててもそれを活かせるか、そういう風に行動できてるか。それを証明できるのは、結果と……他には実績だけだ。今まで生きてるって事は、実績を積んでるって事だ。それだけ自分を評価してもいいんじゃねぇか?

 

 

 

 ……普通の人なら、そうかもしれんがな…。

 

 

 

 

 

 

 何度も死んでる俺は、どうなんだろうな。死んでても次に続くから、負けてないのか強いのか。どれだけ力を得ても…なんて言えるような境地に立った覚えはないが、強くなっても何度も凡ミスや不運でくたばる俺は、強いと言えるんだろうか。    何、痴情の縺れは自業自得? 聞こえんなぁ。

 

 

 

 時に、さっき言ってたけど西歌のお頭への祝いって?

 

 

「ああ、それは私のお頭就任祝いだよ。まだ里長になったばかりでね」

 

 

 あれ、そうなん? 馴染み具合と言うか慕われ方を見るに、もっと前からお頭やってたのかと思ってた。

 

 

「正式に就任したのは、って事だ。先代のお頭は、鬼との闘いでな…。当時、霊山も何だか知らんが混乱してたらしい。臨時で西歌が里長の立場に収まって、それからずっと里と引っ張ってきたんだよ」

 

 

 ああ、不知火の里と似たようなもんか。あっちは今でも霊山に敵対というか反抗的な態度を貫いてるけど。

 

 

「不知火の里の事を知っているのか? 里長の凛音殿にも、一度会った事がある。あの時は、少しだけだがお頭としての心得を教えてもらったものさ」

 

 

 言っちゃ悪いが、実践できてるとは思えんが…。あの人のやり方でやってれば、よくも悪くもサムライとの不和も生まれないだろう。少なくとも表に出る事は無い。

 

 

「ああ、その通りだ。凛音殿には凛音殿の、不知火の里には不知火の里のやり方。私には私の、マホロバの里にはマホロバの里のやり方がある。あの時教わった事は、突き詰めれば『真似をしても意味は無い』だったからな。後は、あまり霊山を当てにするなと言う事だが…見捨てられた北の地の長だからの言葉かと思っていたが、そうでもなかったようだ」

 

「何をやってたのか知らねぇが、里長認定が散々遅れたからな。事実上の里長になってて、認めようが認めまいが大差なかったとは言え、一体何をやってたんだって話だ」

 

「そういう時継も、今は霊山付近で戦ってなかったか? どうなんだ、その辺り」

 

「…悪くはねぇな。モノノフの総本山だけあって、戦力も粒揃いだ。尤も、そんな所に戦力を集中させて遊ばせるくらいなら、最前線に送れって声もでかい。…前線に出て戦うモノノフ達は、結構いい奴が多いぜ。気合もある、根性もある、腕もいいし、統率も取れてる。…つまるところ、問題があるのは…やっぱ『上』って事だろうな」

 

 

 まぁ、上が腐りやすいのは何処の組織でも一緒だわなぁ。特にこのご時世じゃ、司法やら監査やらもどれだけ機能してるやら。止める者がいなくなれば、どんな賢人だって独裁者になっちまうだろうよ。

 

 

「いや、監査と言うか、モノノフを取り締まる組織ならあるぞ。禁軍と言ってな、雷蔵がこの組織に所属している。理屈の上では、霊山のお偉いさんを検挙する権利もあるんだが…」

 

「少なくとも、ここ数年でそれらしい話はねぇな。禁軍がどっかの言いなりになってるのか、それとも隠蔽が上手いのか…。叩いても埃が出ねぇって事だけはないだろうな。だからこそ、雷蔵は禁軍に入った。自分が上まで伸し上がって、禁軍と霊山をまともにしてやる、ってな。………もうすぐ昇進って話もあるらしい」

 

「…そうか」

 

 

 ん? 何ぞ気になる事でもあんのか? 顔が暗いぞ、二人とも。

 

 

「…いや、大したこっちゃねぇよ。俺も負けてらんねぇなって思っただけだ。勇者ってのは先陣を切らなきゃ恰好がつかねぇもんな」

 

「ふふ、まぁゆっくりやるといいさ」

 

「…今に見てろよ…」

 

 

 …冗談めかしてるけど、時継に燻りっつーか焦りが見えるな。西歌のお頭も気付いてるようだが…それでも何も言わないって事は、それでいいのかね?

 

 

 さて、茶も楽しんだし、悪いけどこれでお暇するわ。そろそろ博士が甘い物くれって呻きだす頃だ。

 

 

「なら少し待て。御萩があるから、土産にするといい」

 

「おいちょっと待て西歌、それ誰が作った奴だ」

 

「………私ではないよ」

 

「その沈黙は何だ。紅月か? 紅月だな? お前止めろよ自分でも料理できないって分かってんだから無理に紅月に教えようとすんな!」

 

「私だって教えてない! それは最初でもう懲りた! 私じゃなくて、久音だ久音! 料理の練習だとか言って、何で紅月を突き合わせてるかと思えば、『特別な料理を作ってみたい』とか言い出して! いやそうじゃなくて、客人に毒物を渡して帰らせる筈がないだろう!」

 

 

 

 ……とりあえず、受け取らない方がよさそうだ。

 面倒な事になりそうなんで、ソソクサと退避。…しようとしたんだが、玄関を出ようとしたところで、声をかけられた。

 眼鏡をかけた、温厚そうなおっさん。

 

 

「ああ、待ってくれないか。お頭が言っていたお土産だよ。急遽用意したもので悪いけどね」

 

 

 いえ、ありがたくいただきますが……。

 

 

「大丈夫、私が作ったものだから。悪くはないと思うよ。味見もしたし」

 

 

 ああ、それで口元に餡子がついてるのね。

 

 

「おっと、これは失礼…。ああ、私は主計という。役割名じゃなくて、これが本名なんだ。まぁ、担当する役割は似たようなものだけどね」

 

 

 む、これはご丁寧に。

 

 

「いえいえ、こちらから招いたのだから、これくらいの事は当然だよ。…個人的に、君には少し期待もしているし。勝手な言い分で悪いけども、君…正確には、君や博士や、ホロウ君…と言ったかな? 君達なら、鬼内とサムライの橋渡しをしてくれるんじゃないかって思ってるんだ」

 

 

 …流れ者に対して、本当に勝手な言い分だな…。まぁ、主計さんに言われると、そこまで嫌な気分じゃないが。

 

 

「そう言ってくれると、何やら気が楽になるね。ああ、今後、もしお頭に話があるなら、私を通してくれ。言いたくないが、君に反感を持つ鬼内も居る。私からなら、ある程度便宜を計れるから」

 

 

 貧乏籤を引く人だなぁ…。まぁ、こういう人には協力しとくに限る。心情的にも組織的にも利益的にも。どうやら、サムライや流れ者にも隔意を持たない珍しいくらいのお人好しのようだし。これで若ければ、ギャルゲ的攻略対象……いや、充分範囲内か。俺らがBBABBA言いながらそーいう目で見てるのと同じだよな。

 

 

 

 さて、帰ると分かいされたカラクリ人形の前で、それこそ力尽きたカラクリ人形のようにぶっ倒れている博士が居た。とりあえず、朝飯の残り物を突っ込む。

 土産の御萩を食べるのは、理性が戻ってからでよかろ。

 

 

 

 …ちなみに御萩は、結構美味かった。主計さんには特別な技術は無いが、料理を作るのには慣れているらしい。長年自炊してた人っぽいなぁ…。

 

 

 

 

凶星月

 

 

 さて、そろそろ博士の研究も、何らかの形になり始めてるんじゃないか? と聞いてみたが、『阿呆』の一言だけが帰ってきた。

 考えてみりゃ、まだ半月も経ってなかったっけなぁ…。新技術の開発にどれだけ時間がかかるか、また予算も必要かを思えば、そんなリアクションも仕方ないな。

 

 なので、別の事を聞いてみた。

 

 

 エピタフプレートに書いてあった内容は、解読できたのか?

 

 

「…出来た、と言えば出来た。だが全容はやはり分からん。随分と大きな文章の、ほんの一部だけを切り取ったようなものだからな。しかも、体系立って、同時期に書かれたものでもなさそうだ」

 

「どういう意味ですか?」

 

「文の初めの方は、その後の事を予測するような文章だ。そして半ば辺りは、その通りになった…という現在進行形。更に、どうやらそれに対して何か対策をした後、あの時の事件はああだったこうだった…と回想している文章に繋がる」

 

 

 何日分もの日記が一ページにまとめて詰め込まれてるようなもんか。で、それの一部分だけが切り取られていると。俺の日記も似たようなトコあるけど。

 

 

「わかっている事は、何処ぞの国が戦争をしていた事と、何だか知らんが新兵器の出現、それによって…或いはそれ以外の何かにも…大きな被害を受けた事。そして、随分と大がかりな対策を打ったはいいが、それが最後の力だった。これから自分達はどうなってしまうのか…それだけだ」

 

「意外と具体的ですね。どうやって解読したのですか? 私にもあの字に見覚えはありますが、まったく読めなかったのに」

 

「……文字自体は知っていたさ。ただ、思い出すのに時間がかかった。この辺りの遺跡や石碑に刻まれている文字とは、似ているようで違う。そちらの文字がこの土地にあった文明の文字だとするなら、あの板の文字は文字通り別の国の文字だろうさ」

 

 

 あー、知ってた国の言葉じゃなくて、外国語だからわかんなかったのね。むしろよく解読できたもんだわ」

 

 

「ふふん、私は天才だからな。…とは言え、これは単純に知識量でどうにかなった問題だが」

 

 

 …普通、外国語ってそうそう覚えてらんねーよな…。バイリンガルとか頭どうなってんのかと思うぜ。

 ……いや、アリサは普通にロシア語日本語出来たし、レアだって…。普通に多国語使えそうなやつ、一杯いたわ。

 

 

 

「ふむ…とは言え、全く何もできてないと思われるのも癪だな。よし、では一つ成果を見せてやろう。飯の後に工房の奥へ来い」

 

 

 

 そう言って、博士は意気揚々と工房に引っ込んでいった。やはり技術者研究者だからか、自分の学説や成果を披露するのが大好きらしい。残念ながら、今回は「こんな事もあろうかと」ではないが。

 なんとなく置いてけぼりになったよーな気分だったが、構わずお新香を齧っているホロウに聞いてみた。

 

 

 話は変わるけど、確か人間の魂を燃料にする能力あったよな。アレ、使った事あるのか?

 

 

「…食事時にする話題ではありませんが、何度か使った事がある…筈です」

 

 

 えらい曖昧だな。

 

 

「私の記憶も、何処まで確かか分かりません。イヅチカナタの因果を喰らう能力に抗う機能はありますが、それが常に通用した訳でもないようです。記憶に不自然な虫食いが見受けられます」

 

 

 ああ…そういう能力持ってるもんな、あいつ。単にド忘れしたって事は?

 

 

「ないとは言い切れませんが…思い出せなくなっている記憶は、イヅチカナタと遭遇した近辺の記憶ばかりです。それも、闘いが激しくなり、私の傷も多くなってきた頃で、突然記憶が途切れています」

 

 

 戦ってるうちに、能力の無効化機能が限界を迎えた、か…。多分、それでも戦い続ける事はできるんだろうな。そうでなきゃ、今までホロウが食われてない理由がない。

 …ああ、そうか。お前の場合、ずっとイヅチカナタを倒す為だけに旅してきたから、何処の因果が抜かれても、行動原理に大した変わりはないのか。

 

 

「否定はしませんが、私とて今までの旅路の中で、色々影響を受けたり、技能を覚えたりしています。全く変わらないという訳ではありません」

 

 

 そりゃすまなかった。で、実際どんなモンなのよ、その能力。検証してみる事はできんのかな。

 

 

「…実際に使用した筈ですが、その記憶がない為に、性能は不明です。ですが、イヅチカナタを仕留められなかったのは確かです。仮に使うとして、何処まで信用がおけるか…」

 

 

 …戦術上の一手にしかならない、か。俺のアラガミ化も似たようなもんだな…。

 で、実験とかできんの?

 

 

「いえ、喰らう魂が無い事を差し引いても、現状では不可能のようです。原因は不明ですが、魂を閉じ込める機能が作動しません」

 

 

 はぁ?

 

 

「前回使おうとしたのは……恐らく、オビトや千歳達と共に戦った時です。私は、力を使うのを躊躇いました。理由は分かりません。ですが、その隙を突かれ、イヅチカナタに逆撃を受けて全滅。…後がどうなったのかは分かりません。気が付けば、私はいつも通りに歴史を飛び越え、次の戦場でイヅチカナタを追いかけていました」

 

 

 …重要な部分が完全にすっぽ抜かれてるな。千歳がどうなったのかも、オビトとやらがどうしたのかも分からないのか。

 

 

「…記憶がありません。それ以来、何度かイヅチカナタと対峙しましたが、力を使う機会は無く、またどう戦いどう逃げられたのかも曖昧です」

 

 

 …なんかこう……嘘をついてるとは思ってないが、モニョると言うか…しっくりこないな。見落としがあるような…いや見落としどころか、拾えてる情報が少なすぎるんだが。

 

 

「確かに…。しかし、この機能に何か用事でも?」

 

 

 いや、俺にも出来るかなーと思っただけ。博士が言う鬼の手は、ほぼ自力で再現できたんだし。

 

 

「…流石に不可能では? 私をあのカラクリ石のように取り込むような事でもしなければ…」

 

 

 怖いわんなモン。

 

 

「何にせよ、今の私ではイヅチカナタに太刀打ちできそうにありません。燃料となる魂もなく、それを使う機能も使えず、機能が使えたとしても届かない。その為、博士が作ろうとしている鬼の手を、是非とも私も手に入れたいと思っています」

 

 

「おい、いつまで食べている! 成果を見せてやると言ってるだろうが、早く来い!」

 

 

 博士乱入。食後の茶ぐらい飲ませろよ…。まぁ、気になるのも確かだ。

 で、成果って何が出来てんのよ。鬼の手でも完成したか?

 

 

「生憎それはまだだ。が、その為の実験の最中、基礎理論組み上げの最中に実験も兼ねて作り上げたのが……この合成釜(小)だ」

 

「合成…?」

 

 

 と言うか小って…。

 

 

「こいつが見つけてきた、カラクリ石の出来損ない、万能の石の成り損ないがあっただろう。あれを鬼の手に組み込む事を考えていたのだが、やはり純度の問題なのか、上手く作動せん。ならばと思って、どんなどのような動作をするのか、より詳細に検証しようとした結果がこれだ」

 

 

 いやこれだって言われても、具体的に何すんだよこの釜。いや合成ってくらいだから、何かと何かを混ぜて全く別のものを作るのは分かるんだけど。

 

 

「うむ、確かにその通りだ。だが、その効力はお前が考えている物とは一段二段違うぞ。…ふむ、とにかくやって見せた方が早いか。ここに、その辺の鬼からとってきた素材があるだろう」

 

 

 あるね。雑魚の素材ばっかりだけど、具体的には20個くらい。

 

 

「これを…全部釜に突っ込む!」

 

「突っ込むと言うか詰め込むと言うか」

 

 

 

 ギュウギュウである。最後の3つくらいが入りきらず、パンチで無理やり押し込んだ。そんで?

 

 

「3分待つ」

 

 

 カップラーメンか。

 

 

「かっぷらぁめん?」

 

 

 お湯を注ぐだけで3分間で出来上がる…蕎麦みたいなものか。簡易食の一種かな。蕎麦や具を徹底的に乾燥させるんだっけ? 増えるワカメみたいに、水と熱を吸って元に戻るんだ。

 

 

「なにそれすばらしい。天才の私をして、まったく考えてもみなかった発想だ」

 

「そういうのであれば、私も以前持っていました。何処で手に入れたのか分からず、旅する内に食べてしまいましたが」

 

「おそらく、イヅチカナタを追う為の旅の食料として持たされていたのだろう。…む、出来たな。そのかっぷらぁめんについては、また後日聞くとしよう」

 

 

 そう言って、さっきまでガタガタ不穏な感じで揺れていた合成釜(小)に手を突っ込み、取り出したのは………埴輪だった。しかも無駄に凛々しい感じの。

 

 

「………埴輪?」

 

「うむ、合成して出来上がったものだ」

 

 

 …いやいやいや、全く別物を作るとは考えてたけど、流石にこれは別すぎるだろ…。と言うか、あの雑多な素材をどう合成すりゃこんなになるんだ。普通、この手の不思議道具使ったって、出来上がるのは元になった物と何らかの関わりがあるものだろ。

 

 

「ちゃんとした原理はあるぞ。これがカラクリ石の…まぁ、その成り損ないだが…効果と言う事だ。そもそも、疑問に思った事は無いか? 万能の石と呼ばれている素材は、何故他の素材の代わりになるのか」

 

 

 あー…まぁ、言われてみれば。

 

 

「鍛冶屋は殆ど利用していないので何とも」

 

「…まぁいい。万能の石が、その名の通り殆どの素材の代わりとなる理由が、これだ。使い手の想像に影響され、形と性質が変わるのだ。経験則でしか原理を理解しておらず、原始的な方法でしか利用してない鍛冶師でさえそれだ。きちんと効率的な使い方を理解し、それを実践するための機材を備えて使えば…こうなる訳だ」

 

 

 うーむ、RPGじゃ定番の機能になっているが、改めて見るとトンデモ機能だな。完全に物質として安定してる。

 要するに、カラクリ石が持つ、想像を具現化する能力を増幅して、更に鬼の素材を取り込ませて物質化させた…って事か?

 

 

「その通り。お前にしては察しがいいな。鬼の素材は、物にもよるが物質としての法則から逸脱している物も多い。それ故の荒業だな」

 

「これは、どのような物でも作れるのですか?」

 

「流石にそれは無い。そもそも、大量の素材を詰め込むだけの大きさがないからな。これ以上大きくしようと思うと、更に大きく純度の高いカラクリ石が必要になってくる。…或いは、もっと効率よくカラクリ石の使う方法か」

 

「では、それを解決すれば?」

 

「…現状、作れるのは使い手がよく見知っていて、はっきりと想像できる物だけだ。曖昧な想像で何かを作ろうとしても、何も起きないか、素材が解けて終わるだろう」

 

 

 そう都合よくはいかないか…。まぁ、それにしたって凄い発明だと思うけどな。

 

 

 

 特にこの埴輪の表情が。

 

 

「待て、その表情は私のせいじゃない。この辺に転がっている、通称『勇ましい埴輪』なんだから仕方ないだろうが」

 

「夜中に動き出しそうですね…」

 

「ええい、それも私のせいではない!」

 

「いえ、鬼の素材を詰め込んでいるのだから、何か妙な力でも宿るのではないかと」

 

「………実験は終わりだ、さっさと依頼でもこなしに行け!」

 

 

 へいへい。まぁ、いい物見せてもらったわ。

 

 

「貴方の言うハンター秘伝の調合も大概ですが…」

 

 

 …そう言われればそうかも。

 んじゃ、俺はこれから狩りに出るけど、ホロウはどうする?

 

 

「私は今日は休みです。例の夜盗を追っていたのですが、偶然か気付かれたのか、何処かに潜伏されてしまったようです」

 

 

 そうか…標的が何処にいるのか分からないんじゃな。痕跡一つあれば、鷹の目ならかなり追えるんだが。

 

 

「…それは、純粋な技術でしたか? 血筋によるものではなく?」

 

 

 技術寄りだな。血筋に限らず、天然で持ってる奴もいるが、それをより訓練したのが鷹の目。方向性が違うだけで、鬼の目と同じだよ。俺がこれの練習をした時も、鬼の目と同じ感覚で使うと上手くできたし。

 

 

「と言う事は、私にも出来ると言う事ですね。それも覚えていきたいものです」

 

 

 …イヅチカナタを取り逃がし続けている為か、ホロウは意外と力を得る事に貪欲だ。

 今までもそうだったのだろうか?

 

 

「いえ、現地協力者を作る事はありましたが、基本的に技を教える側でした。現地協力者にしても、鬼との闘い方を理解している者は殆ど居ません。…教えようとしても、『女如きが』と一顧だにされない事も多かったですが」

 

 

 ああ、昔の武家とかそんな感じかな。或いは平民風情が、とかね。

 まー現代はともかく、オオマガトキ前の世界じゃ鬼とか言われても信じられんかっただろうな。

 

 

「いえ、信じる者はむしろ多かったですね。私達が言うような鬼ではなく、正体不明、疑心暗鬼が生む姿形の無い鬼…迷信、と言った方が分かりやすいでしょうか」

 

 

 …なるほどね。そっちの鬼は、現代…と言っていいのか分からんが…に向けて時代が進むにつれ、徐々に減っていく筈だったろうに。何の因果か、本物の鬼が溢れ、迷信は消えた。皮肉なもんだね。何がとは言わんが。

 さて、話はこれくらいにして、ちょっと山野を駆けてきますかね。メタ的に言うとオープンワールドな感じで。

 

 

「よくわかりませんが、いってらっしゃい」

 

 

 

 そういう訳で、森と鉱山を半日ほど駆け回ったのだ。成果は…まぁ、そこそこかな。鉱山で拾った石は、なんかツルハシを作りたいとか言ってた鉱山夫に渡したし。勿論報酬は貰ったが。

 瘴気が纏わりついてる木があったかと思ったら、雑魚がワラワラ沸いてきたし。…木が気になってるとか言ってたにーちゃんが、逃げもせずに見物してたから張り倒してやろうかと思ったが……漏らして気絶してたからそのままにしてあげた。

 他にもデカい蜘蛛の巣があったんで、鬱陶しいから焼き払おうとしたら危うく山火事になるとこだった。アブねぇアブねぇ、こんなトコで騒ぎ起こしたら里追放どころか極刑モノだよ。…炎は収まったけど、森の一部がカチンコチンになりました。鬼の仕業って事でカタがついたけど。

 

 実際の所、マホロバの里の人達が思っている以上に、異界の進行、ひいては鬼の侵入は早まっているようだ。瘴気を放つ木、蜘蛛…ミフチの巣を初めとして、その兆候はあちこちにある。

 大物…しかも空を飛ぶタイプの鬼が近辺をウロついていた形跡すらあった。これ、早いトコどうにかしなきゃ、博士が言うように冗談抜きで里が異界に呑まれる。そうでなくても、今は結界に守られてないサムライ達も居る。

 

 …安住の地を求めて、サムライと鬼内の内乱か? 冗談じゃねえって。その安住の地もどこまで保つやら。少なくとも、橘花が張ってた結界は破られたし、神垣の巫女のかぐやに動揺が走れば、それだけで結界は効力が薄れる。

 

 早めに飛ぶ鬼を狩っておきたいところだが、異界の奥が住処のようだ…瘴気が濃すぎる。…俺でもちょっと怯むくらいだ。長年の瘴気が溜まりに溜まって、エライ事になっているようだ。

 やっぱり、異界を浄化する手段が無いとどうにもならんか…。

 

 

 

 真面目な考察はこの辺にして、鬼の手の使い方に大分慣れてきた。お約束の手ウニョーンからのア~アァ~は勿論、出力を上げて対象物を握りつぶしたりね。

 ちなみに『鬼絡』『鬼潰』と呼ぶ事になった。博士の命名だ。

 そして、博士は「私はまだ鬼の手の具現化すら成功していないと言うのに…ええい、才ある他人というのは腹立たしいものだな!」とエキセントリックな塩梅に叫びつつ、新たな使い方を提案してきた。

 理論上、博士の鬼の手装置が完成すれば使えるようになる力…なのだそうだ。

 

 曰く、『鬼喰』『鬼返』『鬼葬』。

 

 地脈から吹き出る力を取り込み、鬼の全力を込めた攻撃を絡め取って地に叩きつけ、そして霊体そのものを傷つけて再生すらできなくさせる。最後のについては、以前にも少し話したことがあったが、「名前が決まっていた方が想像しやすいだろう」との事だった。

 ナルホドね、戦略の幅が広がるわぁ。属性変更攻撃、或いは属性耐性をダウンさせる攻撃。強力な攻撃をこちらのチャンスに変える。そして問答無用の完全破壊。これ、多分MH世界でも通じるよなぁ、全部。

 GE世界だと…地脈の力がどれだけ残ってるかだな…。

 

 

 ん、待てよ? 他者から力を取り込んで自分の力に変える、或いは放つ…。

 

 

 

 

 リンクバーストとアラガミバレット?

 



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199話

夜3時まで仕事した後、10時から健康診断、更に18時から出勤とかアホくせぇ…。
む、フェイトの無双アクションか。画像はあまり期待しないとして、アクションは…体験版あるかな?
しかしゼノバース2が先だ。


 

 

凶星月

 

 

 大☆性☆交…………ちげぇよ乱交じゃねぇよ、今回ループじゃまだ誰とも関係持ってねぇよ。

 大☆成☆功だ。

 

 博士が言うところの鬼喰だ。実践するなら検証すると言ってついてきた博士とホロウの前で、その辺で見つけた地脈の力の前に立つ。ちなみに万能の石の成り損ないは予めゲットしておいた。

 で、周囲の雑魚を祓い、人目も無い事を確認したところで…鬼喰!

 

 

 ふおおおおおおおおお!!!!

 

 漲ってきたキタキタァァァァァァ!

 

 なんかこう、意味も無く歌いたくなってきた感じで!

 ワガハイこそ三千世界の支配者にして刈り取る者、あとエロの求道者である!イヅチカナタがナンボのモンじゃい!クラ○ザー様に代わってファックしてくれるワッ!

 

 

 

 

 

 と言う事もなく、普通にバーストモードになった。

 

 

「ほう…これがゴッドイーターとやらが使う、リンクバーストか。これは…確かに、面白いな。見ているだけで凄まじい力だと理解できる」

 

 

 段階的にはレベル2くらいかな。もう一段階上があるぞ。

 …これと同系統かは分からんが、更に上位の力を得るブラッドレイジって技もある。尤も、これを発動できたのは今までに2回くらいだけどな。

 

 

「ふむ。そちらも興味深いが、まずは鬼喰の検証から行くか。体内に取り込んだ力はどんな塩梅だ?」

 

 

 特に問題ないな。感覚での証言にすぎないが、普通に霊力と同じように扱えると思う。尤も、博士が前に言ってたように、俺の霊力は基準にならんかもしれんが。

 

 

「いいや、これはなる。でなければ私は検証に来ない。これはお前の力ではなく、お前の中に入り込んだ普遍的な力だ。ふむ、しかしこれが上手く行くのなら……うむ…」

 

 

 なんかブツブツ言いながら、妙な機材で計測を始めた。

 

 

 …後は、博士に時々指示されて、鬼喰を使うくらいしかする事が無かったんだが……なんてーか、ちょっとツマランな。

 いやヒマだって事だけじゃなくて、こう…今までの使い方だと、博士に言われた事しかできてねーんだよな。別にそれがアカンとは言わんけど、鬼の手の第一使い手(?)として、作り手の想定してない使い方を開発するとかやってみたい。道具は色々な事に使えた方がいいしね。

 

 

 うむ……よし、思いついたと言うか元ネタはある。やはりここはデビルブリンガー的な事をやってみよう。

 アレって何が出来たっけ。腕ウニョーンの他に、敵を直接攻撃する、マジックアイテムっぽいのを吸収、敵を……掴んで盾にする! コレだ!

 考えてみりゃ、直接攻撃だって鬼葬以外の方法もある。出力を限界まで上げないと握りつぶすのが無理なら、多少威力が落ちても腕ウニョーン状態でブン殴れるようになれば…。

 

 よし、善は急げ、膳は大盛と言うし、さっそくその辺の鬼で試してみるか。

 

 

 

 …半分成功、かな。近くで餓鬼とヒダルの集団と戦ってたモノノフ…鬼内っぽいな…の戦いに乱入して試してみたんだが、腕ウニョーンパンチは牽制になればいい、って程度の威力しか出せなかった。中型を相手にそれなんだから、大型鬼が相手じゃデコピンくらいの効果しか出せそうにない。イメージが弱いのか、出力の問題なのか…。博士に言わせると「両方だ」らしい。

 では次。本命の、鬼を盾に使用というプランだが…出来た事は出来た。餓鬼を捕らえて、ヒダルが吐く溶解液の盾にした。だがコレ、無条件に出来る訳じゃなさそうだ。小型鬼程度なら力尽くで抑え込めるんだけど、中型だと飛び掛かってくるような行動…鬼返の時のような行動にカウンターで決めねばならない。更に問題なのが、消耗の激しさだ。ハンターかつゴッドイーターの俺は、単純なスペック的にも体の使い方的にもスタミナに自信があるが、それでも数秒間抑え込めればいい方だ。そして拘束を解いた後には、もうバテバテ。僅かな間とは言え、殆ど動けない状態に陥ってしまう。

 諸刃の剣と言うか諸刃の盾と言うか…。使い勝手が悪すぎるな。だが、大型鬼複数と乱戦の時には、結構使えるかもしれない。特に集団戦の場合。

 

 

 最後に……新しく手に入ったこの力、何とかして鬼杭千切にも組み込みたいものだ。アレ、未だに一発撃つと動けなくなるんだよなぁ…。GE世界で月に居る間に一回だけ試したが、回復にエラい時間がかかった。ノヴァからのエネルギー供給が無ければ、集中治療室に放り込まれるハメになっていただろう。月にそんなモンないけど。

 考えてみりゃそれも当然で、鬼杭千切は俺の全力を注ぎ込んで放つ一撃である。使っている道具は神機。ただでさえ自己進化とか成長とかしている疑いがあるのに、俺自身も徐々にパワーアップしている。特にノヴァと繋がって3年間暮らした事で、霊力の量は膨れ上がっていると言っていい。

 それらを全て、攻撃に回せばどうなるか。攻撃力はアップするが、それに比例して反動だってデカくなるのだ。俺が強くなればなる程、自爆ダメージも大きくなるんだから…。

 

 鬼杭千切を改良しようとしたら、まずソッチをどうにかせにゃならんのだよな。防御っつーか反動を抑えるクッション機能っつーか。でもそれだとなんか面白くない…。

 

 

 

 

 追記

 

 リンクバーストとアラガミバレットと言う発想なので、当然神機にも鬼喰させてみようとした。が、こっちは失敗。

 どうやら鬼喰にしろ鬼絡にしろ、現状ではカラクリ石を取り込んだ手からしか出来ないらしい。うーん、確かに神機も手に馴染んでるし、現状では体の一部とさえ言える状態だけど、やっぱり動かすイメージと言う点では手以上にはなれてない。具現化も、プレデターフォームではサッパリ実現できなかった。鬼葬する時には、テンション次第で剣状態とかパイルバンカーっぽいのとかも出来そうなんだが。

 

 ……自前の槍と言うか棍棒と言うかガンランスなら、具現化できるかな…今の俺って、手よりソッチがお達者とか言われても反論できねーし…。

 でもよしんばそれが可能だったとして、 それを鬼に向けるのか…。場合によってはゴウエンマ辺りのケツとか顔面とかに向けにゃならんのだよな…。そのクセ人間相手じゃすり抜けるだけだし…。

 

 …実験するにしても、お相手が出来てからだな…。

 異種姦モドキを受け入れられるお相手…やはり橘花か…? 少なくとも、嬉しくないおっぱい事ミズチメとかには使いたくないなぁ。

 

 

 

 

凶星月

 

 

 うーむ、やる事が無い。ヒマだ。

 今までとは違ったヒマさだな。何だかんだ言っても、今まではゲームストーリーという行動の指針があったからなー。今でもあるにはあるんだが、マホロバの里じゃな…。

 現状でやる事っつったら、博士の鬼の手の発明を手伝うくらいだし。その手伝いも、何やら研究が新たな段階に進んだとかで、手伝える事が無い。また暫くしたら、アレコレ注文つけられると思うけど。

 狩りに行っても、近所の連中は雑魚ばかり。大物が居ると思しき異界の奥には踏み入れられない。

 

 どうしてくれようか…。エロい遊びのお相手探そうにも、一か月も経たないうちにお別れじゃなぁ。

 

 

 何をしようか悩んでいたら、今度はホロウが俺の体に興味を示してきた。残念ながらエロい意味ではない。ゴッドイーターかつハンター的な意味でだ。

 先日も思ったが、ホロウは力を得る事に貪欲…いや貪欲という程でもないが、とにかく現状ではイヅチカナタを仕留める事は難しいと考え、自身の戦力増強を望んでいる。俺が持つ、別の世界の戦力を吸収したいと思っているようだ。

 

 しかしなぁ、ゴッドイーターになるのは無理だわ。なんだっけ、Pナンタラ因子も無いし、あったとしても投入できるだけの施設が無い。更には適合率がどうかも分からんし、それが高くても実際は命懸け。オマケに上手く適合できたら出来たで、アラガミ化を抑える為の薬を投入せにゃならん。

 アラガミ化? …したいだけなら、神機に触れて侵食されるという手があるが、間違いなくお陀仏だぞ。それも理性を失って暴れて食うだけになるから、俺が『介錯』するしかない。

 

 となると、ハンターとしての力…具体的には肉体操作術から始まり、武器の扱い、狩り技まで…。

 武器の扱いは、まぁいい。ホロウは銃使いなので、ライトボウガンやヘヴィボウガンの使い方を伝えればいいだろう。狩り技も別に構わない。一部は俺が発案・協力した技もあるし、技に著作権は無いってゆーし。

 これらの技術を自分の中でどう昇華するかは、ホロウ次第だ。

 

 問題は肉体操作術だ。ハンターの戦闘力の根幹とも言えるこの技術だが、超難しいが誰にでも出来る技ではある。

 が、だからこそハンターはこの技術を徹底的に秘匿する。教える側は、教わる方に「絶対に人に伝えない」という意識が浸透しきるまで、訓練…と言うか洗脳の手を緩めない。俺だって例外じゃない。色々規格外な所のあるハンターではあるが、これを他人に教えると思っただけで吐き気がする。

 そして万一これを破ってしまった場合、ギルドナイトが闇系のお仕事する為にすっ飛んでくる。…この世界まで来るとは思わないけど、MH世界に行った時に『…貴様、何者かに伝えたなッ!』とか言って理不尽な感じに看破される気がしてならない。

 

 

 

 つーか、やり方こそ知ってはいるけど、教え方なんぞ分からん。真剣に訓練を受けたのも、最初の2~3回のループくらいだ。その後の訓練所は、さっさと卒業してしまってる。

 …ああ、そうか。ハンター相手にしか教えられないのなら、ホロウを『訓練』してハンターにしてしまえばいいんだ。正式なハンターではいられないけど、個人的に弟子を取ったと言う事にすれば、まぁギリギリ言い訳は成り立つ。

 

 うーむ、次のMH世界の訓練所では、ちょっと視点を変えてみてみるか…。まぁ、その後にホロウが一緒に居るか分からないし、伝えられるかはまた別の話だけど。

 

 

 

 そーゆー訳なんで、ホロウに伝えられるのは狩り技だけだ。尤も、ハンター式肉体操作術が前提になっている物も多いので、あまり詳しいトコまで突っ込む事はできないが。

 …ホロウがイヅチカナタを追っているなら、次回以降のループ…場合によってはMH世界とかでも会う事になるだろう。長い付き合いになりそうだ。と言うかなるといいな。

 

 

 

 

 それはともかく、今日も今日とて依頼を受けて走り回る。狩れる相手が少ないから、これくらいしか暇潰しの種が無い。

 今日受けた依頼は2件。1件は、明日の盗賊捜索に手を貸してほしい、と言うもの。ホロウが探しに行ってたあの盗賊かな?

 

 もう一件の依頼は、町の定食屋(?)からの依頼。品目を増やしたい、との事だった。

 と言っても、定番の料理はもうあるみたいだしな…。カツ定食、焼き魚定食刺身定食、生姜焼き、蕎麦にうどんにその他諸々…。強いて問題を挙げるなら、和食系ばっかりって事か? 世界観が世界観だから仕方ないのかもしれんが。

 とりあえず、照り焼きチキンとかハンバーグとか、グラタンとか、知ってるメニューを幾つか教えたんだが…イマイチ不評。

 

 いや、味については好評だったんだ。洋食メニューはやはり殆ど知らなかったらしく、新食感が素晴らしいとか。が、問題なのはその手間だ。使用する食材や、調理に使う道具が、あまり普及してないんだよなぁ。

 だから仕込みから調理からとにかく時間がかかる。この辺は料理人の腕の見せ所、と言っていたが……。

 

 それより何より、店長さん…久音さん的に、今一ピンと来ないらしい。先日から少々スランプ状態になっており、それを打破する為にも新メニューを…と考えていたようだ。

 しかし、一体何が不満だと言うのか。飯は美味い。客も結構来ている。新メニューも試作しかしてないが好評。定食屋は本業ではなく趣味らしく、利益を求めている訳ではない…が、そこそこ黒字。

 

 これで何が不満なのやら。

 

 

 

 

 

 少し自分を見つめなおしてみる、と言っていたが……ちょっと予想外の方向へ話が転びだした。紅月が来た。

 いや来たのはいいんだけど、久音さんに料理を教わっているらしい。

 …そういや、西歌のお頭の家から帰る時に、時継とそんな話をしていたな。

 

 で、腕前は? ………お察し? ちゃんと教えてるんだよな? でもお察し?

 

 

 …先天的メシマズなんだろうか…メシマズは罪ではない。悪でもない。

 

 

 

 

 

 だが個人的に敵だ。

 

 

 

 実際、作ってるところを見てみたが……まぁ、なんだ、意外と残念な人だなって感想だ。

 ちゃんとレシピ通りにやろうとしているのは分かるんだよ。でも何かしらんけど致命的にドジっ子だ。シオと…もとい塩と砂糖を間違えるなんてベタな事はやらないが、結果的にそれに近くなっている。

 時間通りに煮込もうとしているのに、次のステップの準備に戸惑って過剰に煮込む。

 必要な調味料の単位…グラムとcc…下手をするとリットル!…を間違える。

 野菜の大きさがバラバラだし、ニンジンやダイコンの皮の剃り残しも多い。

 

 何より厄介なのが、紅月自身が味オンチらしいって事だ。味覚が鈍いのか、味に対する許容範囲が無駄に広いのか、味見はするが「こんなものでしょう」と思っちゃうタイプだ。ついでにメシマズの自覚がない。いや技術的に下手だって事は自覚してるんだけど、作った物が不味いと思わない。

 

 …どうすんだコレ。耳が聞こえない人に音痴を治せって言うようなもんじゃねーか。時継がもう作らせるなってあれだけ騒いだのもよく分かる。実際、普通の人が食ったら眩暈や食欲減衰程度じゃスマンぞコレ。

 

 

 でも久音さんは辛抱強く付き合っているようだ。しかも味見にも。

 …どういう訳だか、さっきの料理の試作をしている時よりも、イキイキしているようにさえ見えた。

 

 それについて聞いてみると、自分でも自覚はしていたらしい。理由は分からないが……紅月の作る料理に『何か』を感じるらしい。……危機とか食材への冒涜じゃなくて、心惹かれる何かを。

 

 ……ゲテモノ料理でも作りたいんか? と聞いたら、包丁持って睨まれた。文句があるなら、ちゃんとした味のモノ作ってみんかい。……下手ではあるけど作ってる? ああ自覚無かったねそーいえば。

 んじゃ、最低限コレくらいのもの作ってみぃ。さっき試作したハンバーグである。……ふははは、今の貴様にレシピは教えん! 敵だからな! 個人的に!

 

 

 しかし、ゲテモノ…と久音さんは考え込んだが、首を横に振る。興味のある分野であるのは否定しないが、そこに心惹かれているのではないようだ。…それはそれでどうかと思うが。

 

 

 とりあえず、今回の依頼はこれで終了。続けて一件受けたけどな。

 俺が教えたメニューを、里でも受け入れやすく、かつ作りやすいようにアレンジしたいから、食材を集めてきてほしいそうだ。

 ま、明日の盗賊探しのついでにとって来ればいいか。

 

 

 

追記

 

 帰り際に、必死に練習している紅月を見て、「誰か食わせてやりたい人でも居るのか?」と冷やかし半分に聞いたところ……地雷を踏んだようだ。縦線と人魂が見える勢いで落ち込んでしまった。

 壁によりかかってずり落ちながら語る紅月によると、今まで修練修練修練自主鍛錬修練修練自主鍛錬で、全く色気のない人生を送っていたらしい。

 いつかはお頭の役目を継ぐ事、そして里を守る事こそが自分の生きる道だと思い、課せられてきた修行も辛くはあるがサボろうと思った事など一度もない…が、それはそれとして、年頃の自分にそーいう話が一切ない事に焦りを感じてきたそーな。まぁ、モノノフの結婚適齢期って、文化や時代のせいもあって、かなり早いからね…。

 それで男を捕まえる為の女子力アップの為、料理の特訓を受けているのだそうだ。

 

 …まぁ、頑張れ。この状態じゃ、成果が出るかは怪しいけど…。

 

 

 

 

 

凶星月

 

 

 山賊捜索なう。

 …あまり成果はみられない。うーん、どうにも分からんな。

 居るのは確かだ。幾つか痕跡も見つけた。鷹の目使えば普通に見つけられるだろうと思ってたんだが、どうにもなぁ…。なんだろ…跡が掻き消されていると言うか…。

 

 どうにも妙だな…。普通、山賊ってそうそう異界の中をウロつくような事はしない。そんなトコ居ても鬼に襲われるだけだし、行動限界を超えれば死ぬし、何より獲物…つまり人間が居ない。

 なので、この世界でも別の世界でも、人里から離れず、しかし討伐に来るにはちょっと厄介な距離を保とうとするものなんだが…この山賊、むしろ異界に度々入りに行っているようだ。

 

 別に山賊が異界に入っちゃアカンって訳じゃない。むしろ、そーいう連中が勝手に異界でくたばってくれるなら、手間暇省けて助かるくらいだ。

 

 手勢が居るようでもないし、痕跡から見るに、大した道具や資材を持っているようでもない。完全に流れ者状態だ。何考えてんだろうなぁ…。

 

 

 

 と言うか、これなら放っておけば勝手に死ぬんじゃないか? 放置でいんじゃね?

 

 

 

 …却下だそうだ。

 まぁ、確かに被害にあった人達の前で裁く必要性は分かるよ。死体を確認しなけりゃ、実は生きてたってオチにもなりかねんし。あと…サムライと鬼内のメンツも問題があるか。

 別行動しているが、共に噂の山賊を捕らえようとしている…協力しているかは言うまでもないが。

 

 こんだけ動員して、成果がないだけならまだしも、『あきらめました』じゃ示しもつかんか。しかし、どうやってとっ捕まえるやら。追いかけっこすりゃ勝てる自信はあるが…仕留めたら仕留めたで、余計な注目を集めそうだ。

 …仕留めにかかるとすれば、籠城戦かな。手持ちの食料も、決して多い訳じゃなさそうだ。野営の後には、適当に採ったはいいが食べられなくて捨てたと思しき実や草も転がっていた。

 

 どうにも違和感のある相手だし、ゆっくり腰を据えてやるしかないね。一緒に行ってた連中は、何が何でも捕まえてやるって息巻いてたけど。

 

 

 

 

 

 

 まぁ、それはそれとして、久音さんからの依頼達成。普通に食材採ってこれたよ。

 紅月は今日も頑張っているようだが、まぁメシマズや味オンチが一晩二晩で治る筈もないわな。

 

 

 久音さんが言うところによると、昔はこうではなかったらしい。久音さんと紅月は、幼い頃から見知った中…幼馴染と言うより、顔馴染みって程度だったらしいが…なんだそうだ。何度か里の行事で一緒になって、同席して食事した事もある。

 その頃は、口にするかはともかくとして、一般的に不味いと感じる物は不味いと感じ、美味いモノは美味いと喜ぶ。個人的な趣味嗜好はあるものの、現在のような味オンチではなかった。

 

 それが変わったのは、オオマガトキの前後。久音が知る限り、という限定はつくが、オオガマトキの戦から帰ってきた紅月は、何を食ってもマズいとは思わない、ある意味お得な味オンチに進化してしまっていたのだったんだったのだってんだでな~。

 

 ……訳の分からん語尾はともかく、まぁ何となく分からんでもない。戦争は人を変えると言うが、あれは本当だからな…。

 オオマガトキともなれば、相当に悲惨な戦争だったろう。大量に押し寄せる鬼、仲間は倒れ、物資もロクに残っておらず、体力も神経も精神も……胃の中身さえ削り取られていっただろう。

 

 

 …うん、胃の中身さえ。

 

 

 ちゃんと飯、食えてなかったんだろうなぁ…味とか気にしてる場合じゃなかっただろうし。多分、ヒドいモノを無我夢中っつーか単なる栄養補給、或いはそれさえ無い空腹の誤魔化しだけの食事を続けた結果、ああなっちまったんだろう。

 味に対する要求が異常に低くなり、どんな物を食べても「アレに比べれば」って感じで。

 

 

「……単なる想像だとはわかっていますが、大体あってると思います…紅月、不憫な…」

 

 

 人間、追い詰められると何でもするからな…。俺も昔は、異界でとっ捕まえた餓鬼とか食ったし。

 

 

「餓鬼…鬼を、ですか?」

 

 

 ちゃんと食えるぞ。不味いけど。あと、腹の中から悲鳴が聞こえるようになる。

 まーなんだ、いざと言う時の非常食くらいに思っとけ。鬼を食えるようになれば、確かに食糧事情は改善されるだろうが、食う気にならない奴も多いだろ。食いたくない物を無理に食わされちゃ、どんな美味い飯も泥同然よ。

 

 

「ええ、仰る通りでございます。食とは即ち生。人は己の意思で生きてこそ人。己の意思で喰らうから人。例え病床に伏し、介護を受ける身になろうとも、生きようとするからこその人でございます」

 

 

 …妙に深いと言うか、微妙に耳が痛いな…死にたくても死ねない身としては。いや別に死にたくはねーけども。

 

 

「ふむ、しかし鬼、鬼ですか…。鬼を喰らう…。鬼を討つのがモノノフの使命なれば、験を担ぐと考えれば…………いえ、やはりいけませんね。何よりも安全が確保できません。料理は人の体に入る物。万が一にも毒になってはなりません」

 

 

 …毒を作っとる奴が、すぐそこに居るんじゃが。

 

 

「……あ、あれは練習なので…。しかし、鬼を喰らうですか…こう……ひっかかる物はあるのですが、何か違いますね」

 

 

 違う? ああ、今不調で、何か特別なものを作ってそれを吹っ飛ばしたいんだっけ。

 

 

「ええ。このような不調も受け入れ、乗り越えてこそとは分かっているのですが…。やはり焦りは消えぬものです。……この燻りを解消できる、手掛かりは見えているのです。紅月の、下手ながらも何かを感じる料理。先程貴方が仰いました、鬼を喰らうという発想。あと一つ……あと一手、何かがあれば閃きそうなのですが…」

 

 

 我、天啓を…得られなかったり、って状態か。そりゃーイライラするわなぁ…。

 

 

「……もう暫く、私に付き合っていただけませんか? 勿論、依頼という形で報酬は出します。 そうですね…この靄が晴れた暁には、試作品を優先的に食べられる権利、でいかがでしょう?」

 

 

 報酬になってるのかなってないのか分からんけど、まぁ実際何ができるか分からん状態だし、そんなもんか。

 よござんしょ、蒙を開くか、ウタカタに出発するまではお付き合いします。

 

 

「ウタカタへ……何かあるのですか? 私の…知人? 師匠? もそこに居るのですが」

 

 

 あー、ちょっと因縁が絡んだ揉め事がありそうなくらいだ。と言うか知り合いって誰? 秋水辺り?

 

 

「いえ、樒という人です。私と同じ巫女で、能力的に言えば私より数段高みに居ます」

 

 

 …樒さん? と言うと、あの貯蓄家で、いつも半眼で、肩をモロに露出してて、左目の下の黒子が色っぽくて、左首筋が弱点で、ミタマの声が五月蠅くて眠れないとボヤいてるあの樒さん? …まぁ、今は俺が一方的に知ってるだけだけども。

 

 

「…左首筋の下りが非常に気になりますが、多分その樒です。私と同門で修行していたんですよ。尤も、彼女は私よりも数段強い力を持っていましたが」

 

 

 へー、あの人そんな凄い人だったんだ。

 

 

「私がどうしても会得できなかった術を、少なくとも二つ持っています。一つは、ミタマの力が過剰なくらいに強くなった場合に使う鎮魂。もう一つは、ハクを注いでミタマの力を強くする強化です」

 

 

 ……ああ、そういやそんなのあったような……考えてみりゃ、ハク…金を使って、実際にミタマを使わずに強化できるってスゲェよな。

 ん? と言うか、それ以前に久音さんもソッチ系の能力者?

 

 

「はい。申し遅れましたが、本業は祭祀堂の主なのです。定食屋はあくまで趣味です。…樒の事ですから、今は他にも幾つか術を身に着けているでしょうね。神垣の巫女にも匹敵する結界術や…確か、最後に会った頃には、ミタマを武器に宿して力とする術や、ミタマの特性を自在に引き出す術を練習していました」

 

 

 ふぅん……。神垣の巫女に匹敵する結界、ね。久音さんは出来ないのか?

 

 

「…できません。未だ幼い、次代の神垣の巫女であるかぐや様の足元にさえ及ばない程です。非才の言い訳はしたくないのですが、神垣の巫女と言うのはそれだけ特別な力の持ち主なのです」

 

 

 …まぁ、里を丸ごと覆う結界を張ってるくらいだからな。アレが凡百の術者だってんなら、鬼だって軽く蹴散らせるだろうさ。

 ………あ、紅月の鍋、噴きこぼれてるぞ。

 

 

「あらあら、まぁまぁ………今日は焼き魚定食の筈だったのですが、何故に鍋を持ち出しているんですか? ……味噌汁を作ろうと思った?」

 

 

 ……しょっぱい味噌汁になりそうだな。

 

 



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200話

遂に200話まで到達してしまった…。
喜ばしい事ではあるのですが、中編程度の長さに収めようと思っていたのにw

ドラゴンボールゼノバース、明日発売。
明日は18時から出勤なので、0時まで寝貯めしてから遊ぶつもりです。


凶星月

 

 

 今日も今日とて、休みの日でもオープンワールド的な異界を駆け巡る。徘徊って言うな。

 今日はホロウも一緒に行動しているので、狩りも非常に楽である。ただ、やっぱ瘴気溜まりへの侵入はできないけど。

 

 しかし、流石人造人間と言うべきなのか、ホロウの瘴気への耐性は俺と同じくらいに強いようだ。それでも念のためと言う事で、ホロウにMH産・毒無効のピアスをプレゼント。色気のある反応ではなかったのが残念だ。

 まぁ、多分本人が使うんじゃなくて、瘴気に弱い誰かのサポートとか延命に使うんじゃないかね。もう譲渡したんだから所有権はホロウにある。煮るなり焼くなり捨てるなり、好きにすればいい。

 

 

 それはどうでもいいんだが、安の領域をもっと奥まで進んでみた。先日見つけた瘴気溜まりの先へは相変わらず進めないが、別のルートを発見。

 うーむ、ウタカタの里の安の領域に比べると、かなり広いな。探索のし甲斐がある。ただ、やっぱり鬼はあんまり強い奴は居ないけど。知らない奴も何体か見かけたが。一人でも余裕、ホロウと二人係なら言うまでもないって塩梅だ。

 鬼疾風や鬼の手を使った移動方法も確立されつつあるので、道に迷って活動限界って事が無ければ、そうそうドジは踏まないか。…フラグじゃないぞ。少なくとも俺のフラグじゃないぞ。

 

 

 で、結構奥へ進んできたんだが、異界に沈んだ町を見つけた。帰ってから調べてみたところ、花散里という何とも雅な名前で、実際桜の花やら鳥居やら架け橋やら、、風情のある場所ではあったな。…異界でさえなければ。

 当然の事ながら、人は居ない。とっくに逃げているか、全滅しているかだ。…異界に沈んでから、かなりの時間が経っているようで、死骸の跡も見られない。

 

 

 

 となると、やはりすべきは家探しか。

 

 

 墓荒らしじゃナイヨ? 使えそうな物があったら、有効に使わせてもらうだけだヨ? ついでに遺品っぽいのを見つけたら、持って帰って供養するなり、遺族を探してみようかな、ってだけだよ。

 

 

 

 …何も見つからなかったけどね! やっぱ普通の家庭(しかも時代を考えるなら多分、黒船来航だの討幕だので揉めてた頃。貧しい家は本当に貧しい時代だ…と思う)に、そんな御大層な物ある訳がなかった。

 

 

 

 …ああ、いや一つだけ発見があったな。ホロウは人間相手にも容赦ないって事だ。

 何があったかって、花散里の中に一人だけ女が居たんだよ。まー美人と言って差し支えないと思うよ。

 ただし、鎧も付けてない、武器も持ってない、異界に長期間居た筈なのに顔色も平然としている。更に足元も汚れが無い。…メタ的な話をすれば、鷹の目で見ると赤く見える。 どう見ても敵ですね本当にありがとうございます。

 

 

 鬼がこうやって化けてモノノフを騙すか…。ウタカタでは見られなかった手法だな。

 俺も気を引き締め直さないと、雑魚だと思って侮ってたら何処かで足元を救われかねん。

 

 まー差し当たり、このモノノフモドキどうしてくれようか……と思っていたら。

 

 

「どうも、こんな所でどうしました」

 

 

 ホロウが声をかけていた。そして止める暇も無く。

 

 

「わた「死になさい」 DONG!

 

 

 …何も言わせる事なく、脳天を吹っ飛ばしました。

 ……いや、俺も敵だと思うけどね。俺達をだます為に化けてる奴を相手に、手の内明かしたり罠が発動するまで待つなんて、下策も下策だと思うけどね。間違ってたり、実は鬼に操られているだけで体は普通の人間だったらどーすんのよ。

 

 

「私の銃撃に続いて、躊躇いなく心臓を一突きした貴方が言えた事ではないと思いますが。しかも乳に触れるように手を突き出して」

 

 

 ドタマ吹っ飛ばしてるんだから、心臓突こうが首圧し折ろうが同じ事でしょ。相手が鬼なら追撃の効果アリ、人間だったとしたら…死体遺棄…いや死体損壊罪になるのかな。

 乳に触れたのは、アサシンブレードの特性上、そういう風になっちゃっただけだ。

 …まぁ、差し当たり…正体見せたカガチメをぶっ潰しますか。ウレシクナイオッパイ

 

 

 

 

 

 帰ってから、西歌のお頭に呼び出されたので聞いてみたところ、同様の事例は幾つかあるそうだ。鬼に捕らえられた人間の姿を使ってモノノフを誘き寄せるとか、姿を隠した鬼達が罠を張って待ち構えるとか。

 …ウタカタの里じゃ見られなかった事例が多いな。興味深くはある…。何と言うか、鬼の生態系って、思ってたより普通の生物に近いのかもしれんな。知恵を使うとか、そういう表現だと特別な事をやってるように見えるが、擬態も、ナワバリの中で罠を張るのも、隠れて敵の様子を伺うのも、全部生物が自然の中でやってる事だ。

 

 

 

 …まあ、それはそれとしてだな。

 

 

 注目すべきは、上記のこの部分。『鬼に捕らえられた人間の姿を使って』。

 …鬼に、捕らえられている? ナニソレ聞いてない。カガチメを潰したら、さっさと帰ってきちゃったんですけど。

 

 容姿? …えーと、黒髪のロング、見た限りでは左利き、ちょっとタレ目で…そうだ、左前の髪を髪留めで止めてた。

 

 

 

 …受付所に確認したところ、数日前から行方不明のモノノフとの事。

 俺とホロウと西歌のお頭と、偶然通りかかった雷蔵さんで超速ダッシュ(鬼疾風)しました。

 

 

 

 

凶星月

 

 

 ギリギリセーフ。死ぬ半歩手前くらいになってたけど、カガチメに囚われていたモノノフを連れ帰る事が出来た。

 ホロウに渡していた毒無効のピアス、当日に他人に譲る事になるとは思わなかった。いや別に文句は無いんだが。

 

 とは言え、毒無効ピアスも完全じゃない。外から瘴気を取り込むのは防げるが、既に体内を蝕んでいた瘴気は自然に抜けるのを待つしかなかった。

 正常な空気の中に居れば、数日程度で完全に抜けるんだが……内臓に大分ダメージが入っていて、モノノフとしては引退と言う事になるかもしれない。

 

 

 しかし、数日間もよく瘴気の中で生きてたもんだ。と口にすると、雷蔵さんが応えてくれた。

 おそらく、鬼が利用する為に結界を張って生かしておいたんだろう、と。ああ、成程…他のモノノフを誘き寄せる幻術を使うのに、死んでもらっちゃ困るって事か。

 利用するだけ利用して、それ以上生かせなくなったら自分で喰らう。よく考えてる事。

 

 こういった事例は、ここ数年で急速に増えているらしい。ただし、情報を集めた限りでは、発生例はマホロバ付近に集中している。…この場から広がっていくような事が無ければいいんだが…。

 

 

 

 

 それはそれとして、ここ数日程、ホロウの様子がおかしい。何かとくっついて来る。

 いや物理的に接触を計ってくるって意味じゃない。それに近くはあるが、エロい話じゃない。何やら観察するような視線を常に向けてきて、仕事の時以外は後ろをついて回ってくる。……ワン子がずーっと後をついてきているような気分である。

 

 一体何を見ているのか、と直接聞くと、誤魔化すような事はしなかったが、答えも教えてもらえなかった。

 曰く。

 

 

「いえ、少し考えがあって観察しているだけです。内容? 残念ながら、それを意識させてしまうと正確な考察ができません。結論が出たらお話しますので、気にしないでください」

 

 

 だそうな。堂々と観察される、というのも珍しいパターンだな。

 …でもホロウだしなー。真面目な事考えているのと、真顔で天然ボケみたいな事言い出すパターン、どっちも考えられる。つまりは気にするだけ無駄って事かね。何言いだすか予想もつかんし予測もできん。

 少なくとも無意味な嘘や秘密は作らないって程度には信用してるから、結論が出たら話してくれるだろう。

 

 

 

 

 それはそれとして、今度は雷蔵さんから呼び出しを受けた。偶には呼び出しじゃなくてそっちから来いよ、と思わなくもないが、これは西歌のお頭の屋敷の奥でしか話せないのだ、と言われちゃ仕方ない。

 ロクでもない事になる予感を感じつつも、ホロウと一緒に屋敷へ。流れ者が西歌のお頭の屋敷に上がる、と言う事で鬼内にはあまりいい顔をされなかったものの、先日会った主計さんが取り成してくれた。…あっちから呼び出してるのに取り成しもクソもないが。

 …土産にもらった御萩の事もあるし、何ぞ礼でもした方がいいかな…。

 

 通された奥では、西歌のお頭・雷蔵さん・時継のサンバ鴉が揃い踏みしていた。益々持って嫌な予感しかしない。

 ホロウが一緒に来るのは予想外だったようだが、別に問題ないと同席を許される。

 

 まずは昨日の、カガチメに囚われていたモノノフ救出の礼から始まって、その後雷蔵さんが話し相手に代わる。

 と言っても、雷蔵さんもあまり話すのは得意ではないらしく、話は簡潔に纏まった。

 

 要するに、手合わせ願う…の一言である。ああうん、予想はしてたよ。初めて会った時から、鬼疾風とか未知の技を使っていた訳だし、オマケに昨日のモノノフ救出作戦が終わってからも、静かに気迫を漲らせながらこっちを見てたし。

 まぁ、気持ちは分からんではないよ? 俺は武芸者やってるつもりはないが、強い相手を見たら競ってみたい、という感覚はある。俺の場合は、武術よりも狩りの腕を、だけども。

 手合わせするのも吝かではない。俺にも得る物はあるだろうし、雷蔵さん自身も結構な使い手だ。…多分、武芸者としてみれば、富獄の兄貴に軍配が上がると思うけども。

 

 ついでに言えば、戦えば十中八九俺が勝つ。純粋な技術ならともかく、身体能力と、そして押し引きのタイミングは俺が圧勝しているから。

 

 

 

 

 

 

 でもよぅ、3連戦4連戦は予想してなかったよ。

 

 

 

 最初は、雷蔵さんは真剣、西歌のお頭は審判を務めると言う事で平静、時継は…余興だと思っているのか、足を崩して見物気分。…おい、前に自分達に迫る実力者の紅月を、軽くあしらったって聞いてたろ。冗談だと思ってるのか、それともこれは擬態で戦闘開始と同時に目が鋭くなるのか…。

 ホロウはと言うと、「やはり…」とブツブツ言っていたが、すぐに俺達の観察に戻った。

 

 手合わせの場所は、お頭の屋敷の最深部。勝手に入る事は許されていないスペースだ。

 無暗に広い。一体何に使うのかと思ったが、要するにこういう事ね。一時期は、紅月もここで修行を付けられていたらしい…マンツーマンで。

 

 

 

 

 

 さて、VS雷蔵さん。手合わせって事で、同じ手甲を使った。 

 攻撃のリズム、威力、キレ、速度、連続攻撃に途切れもなく、防御も疎かにはしていない。これだけでも十分すぎる使い手だと分かる。

 が、やっぱり何処かで人間相手、って意識が残ってたんだろう。防御…不動の構えの上から、力で押し通されるとは思っていなかったようだ。まぁ、大型鬼の一撃すら防ぐ構えを、人間がブチ破れるなんて思う方がおかしいかもしれんが。

 咄嗟に俺の腕を絡め取っての関節技を使おうとしたようだが、関節技にだって最低限の力は必要なんだよ。ジュウザの関節技を「おおりゃ!」とばかりに無効化するラオウ様みたいな事やっちまった。

 そのまま襟首を掴んで床に叩きつけ、顔の横に手甲を打ち下ろして終了。

 

 

 次、時継。さっきとは打って変わって、非常に真剣な面持ちだ。

 本来は銃を使って戦っているらしいが、流石に里の中、しかもお頭の屋敷の中でブッパして銃声を響かせる訳にはいかないと言う事で、代わりに双刀。2番目に得意な武器なんだそうだ。

 雷蔵さんとの手合わせで、俺の身体能力は警戒されているらしい。さっきは見せなかったスピードで奇襲をかけるも、見事に防がれた。…神無相手なら、これで決まったんだけどな。

 器用に2本の小刀を操るも………いや、自滅だな、コレ。

 自覚してるのかは分からんけど、攻めに傾倒し過ぎだ。ただでさえ守りが薄くなりやすい双刀なのに、防御を殆ど考えずに敵を倒す事だけに集中している。…中途半端で意味のない防御するくらいなら、全て捨ててしまえばよかろうに。

 ……手練なのは事実。そうそう居ないレベルのモノノフなのも確か。修羅場もくぐっている。

 それが、自分の状態も理解せずに突っ込んでくるとは思えん…。何か厄介事、しかも心理的な奴を抱えているようだな。

 …なぁ西歌のお頭、前もそうだったけど、これ放っておいていいのかい?

 

 

 

 三戦目、西歌のお頭。成程、こりゃ紅月の上位互換だ。

 太刀筋はよく似ているが、より鋭く、変幻自在。攻撃を仕掛けるタイミングで捌きに入る。搦め手……なのか? 舞うようにヒラヒラと翻る着物から、白い肌がチラチラと………違うわ、色仕掛けのつもりは全くなさそうだ。残念な人だったね、そう言えば。

 紅月同様、倒そうと思ったら地力で圧倒するしかないタイプだが、より一層隙が無くなっている。

 とは言え、逆に言えばそれだけだ。地力自体は紅月より少し上って程度。恐らく、紅月には無かったような一発逆転系の戦法もあるんだろうが、試合でそこまで見せるつもりもないようだ。

 詰将棋のように徐々に追い詰め、手数を封殺し、喉元に切っ先を突き付けて終了。

 

 

 

 

 

 

 …ここまではいいんだよ、ここまでは。この3人が手練だって事も、それでも尚俺が勝つだろうって事も分かってたからさぁ。

 でもさ、「よし、じゃあ今度は三羽鴉が相手だ!」とか言って3対1はさすがに予想してなかったよ! サンバ鴉なんだからカーニバルの衣装着て踊ってろよ! ……いややっぱ今の無し、西歌のお頭とか紅月さんならまだしも、残りが…。

 

 

 そして相変わらず呑気に観察しているホロウ。弁当まで食っていた。俺にもよこせ。おしんこだけ? 竜田揚げと味噌汁を所望する。

 

 

 結果。

 

 

「お、俺達三羽烏でかかって、ようやく互角…!?」

 

「手練とは思っちゃいたが、これ程とは…」

 

「…人払いをしておいてよかった…」

 

 

 上から時継、雷蔵さん、西歌のお頭。

 ちなみにパワーとスピードとタイミングでゴリ押ししました。まぁ、それはあっちも同じだけども。3対1で互角は互角でしたが、双方ともに切り札も見せ札もロクに使っちゃいません。

 

 …上から目線になっちまうが、総評で言うと……スゲェ良かったです。

 いやマジで、ある意味モノノフの理想形と言ってもいい見事な連携。焦り気味だった時継の動きも、他の2人を意識した途端にピタリと止んで、見事な斬り込み役に大化けした。と言うより、これが時継の実力なのか…。雷蔵さんはミタマスタイル故のムラッ毛があるようだが、時継は精神的なムラッ毛が大きいようだ。ノッてきたらとんでもない戦果をたたき出すタイプだな。

 

 個人の技量を特化させ、その隙を連携とタマフリでカバーし、更に鬼以上に小回りが効く利点を最大限に活かして隙を突く。

 言葉を交わさなくても、動きで、目線で、必要であれば虚偽すら混ぜたハンドサインで攪乱しつつ翻弄してくる。特に、最後の切り札とばかりに繰り出してきた、3人の波状攻撃は凄かった。一人ずつ連撃が来たかと思えば、次の瞬間には方位されていて、そこから全身全霊を注ぎ込んだかのような膨大な力を伴っての飽和攻撃。

 

 いやー、ありゃ凄かった。本人達曰く、オオマガトキでトリオを組んで戦っている時に偶然発見した連携なんだそうだが、人間相手に使うもんじゃねーぞ。性質的にはアレだ、鬼千切・極に近い。…原理だけ知ってて、ロクに使った覚えないけど。だって連携技やもん。ボッチ…とは今更口が裂けても言えんけど(お付き合い多数だったし)、俺と霊力同調できる相手は非常に少ないもの。

 

 

 それをどうやって捌いたかっつーと、アレだ。GPMの名言だ。1対100なら勝ち目がなくても、1対1が100回ならそこそこイケる。

 要するに、3人同時に仕掛けてくるなら、こっちから1人に向かって瞬殺すればいい訳だ。そうすりゃ3対1から、ほんの僅かな間とは言え1対1の状況を作り出せる。そしてどんな手段でもいいから怯ませ、バランスを崩したら即蹴っ飛ばして距離を取らせ、次の一人を受け流して最後の一人を受け止め、そのままもう一回怯ませる。

 なぁに、一瞬あればイケるイケる! 具体的にはアサシン式カウンターが出来る時間があれば! 

 

 それで行動不能にできなければ、もう一サイクル繰り返す。円形に動きつつ、相手の側面に回り込み、可能であれば倒れた相手を復帰させない為の障害物や罠を置いておくのがコツだな。そういうのを使って、相手の動きに対応していくと、何かしらんが螺旋の動きになっていくのがパターンだ。これはアレか、こっちでも飛龍昇天破を撃てと言う事だろうか。大規模破壊万歳。

 …割とマジで打てそうだったけどな。己惚れた事を言うようだが、この世界で何回も上記ループを繰り返す必要がある相手なら、相応の霊力を持っている。それらが力を撒き散らして渦を巻けば、それだけで前提条件は完成する。

 

 まぁ、今回は流石に里のド真ん中で極大竜巻起こす訳にもいかず(すっげーやってみたかったが)、3人の力が共鳴したっぽい瞬間に、逆にこっちから霊力を送り込んで共鳴を乱し、ドカンとなった瞬間に奇襲をかけた。

 …これ、俺も割と他人事じゃないな。鬼千切・極だけじゃなくて、鬼杭千切みたいな全身全霊の一発をコケさせられたらこうなるんだ。

 

 

 ま、その奇襲でも仕留めきれずに、3人…俺を入れれば4人とも健在のまま膠着状態。さぁ次はどうする、と本格的に睨み合いが始まり…誰かが……或いは誰もが…札を切ろうとしたところで、ホロウの「そこまで」との仲裁が入った。

 

 

 

 …熱中しすぎた、と自覚したのは、屋敷の破損を目にしてから。

 柱は折れ、畳はひっくり返り、壁には拳の後が残り、床には弁当が散らばって………

 

 

 

 

 散らばって……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そなたの なかには やしゃが いる

 

 

 

 

 

 

 



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201話

ゼノバース2プレイ中。これは…暫く執筆が滞るかもしれんね。
既に投稿予約は11月半ばまでしてますが。


 

凶星月

 

 

 ガチで死ぬかと思った。こいつ、飯食うのが好きだったのは知ってるが、こんな腹ペコキャラだったか? 銃使いなのにセイバーか。まぁ剣を使うアーチャーも居るから今更だが。

 サンバ鴉は揃ってグロッキー、今日はお休み状態。俺と鬼子母神(この世界じゃシャレにならんよ色んな意味で)との連戦は流石にキツかったらしい。

 

 あの時、後頭部に内臓破壊弾ゼロ距離射撃が入らなかったらどうなっていた事か。おかげで丁度いい塩梅に記憶を失ったらしい。

 クソ、今度飯が絡んだこいつとやり合う時には、速攻でアラガミ化すっからな。

 

 

 

 まー若干煤けて屋敷の一部が更に壊れたが、全員無事。西歌のお頭が修繕費をどうしようか悩んでいるのを横目に、時継・雷蔵共にさっさと逃げてきた。巻き込まれるのは御免じゃ。

 

 

 とりあえず、二人はこれから訓練だそうだ。3対1で負けたままじゃいられん、との事。

 そんなら、ついでだから正式な鬼千切・極を覚えていけ。複数人の力を結集するまでは同じ…ああ、これは3人じゃなくて2人でもできるが…だけど、その先が違う。さっきの技は、高めた力を3方向から叩き込むけど、正式版の奴は一人に集め、武器に合ったやり方で放出するんだ。

 確か、霊山の古書にもコレについての記述があった筈だぞ。二人とも、また霊山に戻ったら調べてみれば?

 

 

「……まぁ、参考にはさせてもらう」

 

「同じく。ああ、俺は暫く霊山にはいかないけどな」

 

 

 

 あれ、そうなん? 雷蔵さんは禁軍で霊山所属だし、時継もあっちで暴れまわってたんじゃないのん?

 

 

 

「そうだったんだが、ちと思うところが出来てな。このまま戦い続けて名を上げようと思ってたんだが、お前さんにゃ負けるし、それを除いても鬼疾風だの鬼千切・極だの、知らなかった強力な技があっちこっちに埋もれてやがる。各地を転戦して、そういうのを見つけたり広めたりしてみっかな、って思ったんだよ」

 

「…お前にしちゃ考えてるな。確かに、先の二つの技だけでも、戦況を覆す切り札に成り得るが…」

 

「大した考えじゃねぇよ。勇者ってのは先陣切るもんだぜ? 当然、相応の実力がなければ集中砲火を喰らって終わりだ。だからもっと強くならねぇとな」

 

 

 …まぁ、いい傾向…なのかな? 俺としても、技が知れ渡るのに問題は無いし。多分ホロウも大丈夫だろ。元々、モノノフに伝わってた筈の技らしいし。

 

 

「へぇ…なんでそいつを、こんな嬢ちゃんが知ってるのかね。さっきの暴れっぷりを見ると、嬢ちゃん呼ばわりしたくはないが」

 

 

 まだ気絶しているままのホロウ。

 …こいつ、このまま起きるとまた暴れだすかもしれねーな。久音さんのトコに行って、飯の準備でもしておこうか。そういや博士のエs…もとい朝飯は…まぁ、待たせとけばいいか。一応作り置きはあるし。

 

 

「ところで雷蔵、お前はいつまで里に残る?」

 

「八雲をもうちっと鍛えてやらなきゃならんからな。禁軍の監査って事にしても…あと2、3か月くらいか」

 

 

 そんじゃ、お先に失礼~。

 

 

 

 

 

 

 

 …ホロウは久音さんの料理の匂いで目を覚ましました。

 

 

 

 そして久音さんが悟りを得ました。

 

 

 

 …何がどうなったかって? 風が吹いたら定食屋が儲かったんだよ。具体的には風が料理の匂いを運んで、この飯に興味津々の腹ペコ娘が目を覚ましーの、一言言いーの、したら久音さんの目がクワッと開かれーの…。

 

 …まぁ、アレだ。天啓って何気ないところから湧いてくるもんかもね。

 

 事の始まりは、生姜焼きの匂いでホロウが跳ね起きた事。その時にホロウが言ったんだよ。

 

 

「匂いのお陰で目が覚めました。ご飯を所望します」

 

 

 で、それを聞いてた久音さんが「匂いのおかげで…おかげで……ご飯のおかげで……? そう言えば、紅月の料理も腹痛や吐き気を齎す…ご飯のおかげでそうなる………つまり…食べたら特別な効果のある料理!」

 …何事ぞ? と思ったが、要は料理に付属効果を持たせるって事か? いわゆる猫飯?

 

 

「猫飯? 味噌汁かけご飯の事でしょうか?」

 

 

 いやそーじゃなくて…もう異界に沈んでしまった場所での事だけど、戦いに行くモノノフの為に渡す、不思議弁当。食べると力が沸いてきて、文字通り筋力が一時的に上がったり、体力がついたり、モノによってはスキル…横文字は分からんか。ミタマが持っているような特性が発動する。

 

 

「ムグムグつまりモグモグご飯を食べた後にズズーもう一回ご飯を食べられるゴックン訳ですね」

 

 

 ちげぇよ。本格的に腹ペコキャラになりつつあるな、こいつ。

 

 

「それは素晴らしい! それです、私が作りたかったのは! どのようにして作るのですか!?」

 

 

 ごめん、俺も知らない。作ってもらった事はあるし、自分でやってみた事もあるけど、何処をどうすりゃあんな効果が出るのかさっぱり分からん。

 それに、知ってたとしても多分再現できないぞ。ここにはない食材ばっかり使ってたから。

 

 

「そうですか…いえ、ここは落ち込むべきではありませんね。最初から答えが出ては意味がありません。探求のし甲斐があります。…ですが、もう少しだけ参考にお話を」

 

 

 参考に、と言われてもな………。とりあえず作ってたのは人間じゃない。

 

 

「人ではない?」

 

 

 全身ケムクジャラだから、衛生管理とかどうなってたのか非常に気になるな…。

 後は…その地独特の食材を使う事が多い。モノによっちゃ、手に入れるだけでもとんでもない苦労する奴もある。

 肉、魚は当たり前として、酒にマツタケ、海老に虫……極めつけは龍頭とかリュウノテールか。飯一食の為に、モンスター……ここに合わせて言えば大型の鬼に挑むんだからなぁ。まぁ、尻尾だけ斬って逃げるなら、そこまで難易度高くないけど。逆鱗とか紅玉とか出す方が難しいけど。

 

 

「…そう、鬼を喰らう? 何故そのような危険な事を…。いえ、そうです、特殊な効果を出す為には、食材も特殊な物にしなければ。毒と薬は紙一重。それは食についても同じ事。ならば、より一層効果を発揮する為にも…」

 

 

 …なんかブツブツとつぶやき始めた。うん、まぁ…やっちまった感あるけど、まぁいいか。少なくとも久音さんは納得してるようだし。料理上手な人だから、食材だって無駄にしないだろう…ゲテモノだとしても。

 

 

 

 

 

 

 

凶星月

 

 

 今更ですが、と前置きして、ホロウは言う。

 俺がイヅチカナタに付き纏われている理由を確信したそうな。まぁ、どんな理由であれアイツは許さんが、何かの切っ掛けで遠い何処かに逃げられてしまっても困る。一応聞いてみる事にした。

 

 

「貴方と会った夜にも言いましたが、イヅチカナタは因果を喰らう鬼であり、その本能に従って動いています。人間の三大欲求が鬼に通じるかは不明ですが、少なくとも食欲はあります」

 

 

 うんうん。

 

 

「これも以前に言った事ですが、貴方を植物に例えた場合、急速な勢いで成長し、収穫した果実が手入れも必要無く再度実る。この為にイヅチカナタに目を付けられているのだと考えています。ですが、一方で疑問もありました。イヅチカナタの食欲は非常に強い。大きな歴史の変わり目に飛来し、その因果を喰らい尽す…。だと言うのに、貴方一人に付き纏って、その食欲を満たす事が出来るのでしょうか? 何かしら、他の理由があるのでは…。そう考えた私は、ここに来て以来、貴方を観察していたのです」

 

 

 まぁ、観察されてたのは知ってるけどさ。と言うか直に言ったし。

 んで、結論は?

 

 

「この里に来て以来、貴方は急速に他者との関わり…つまり因果を持ちました。私が把握しているだけでも、博士、西歌のお頭、時継、雷蔵、紅月、八雲、そして昨日の久音。これらに貴方が与えた影響は、計り知れません」

 

 

 …そう…か? いや、研究の成果を先取りしちまった博士とか、妙な料理に目覚めさせてしまった久音さんは分かるが。

 

 

「貴方が思っている以上に、貴方はこの里で注目されているようです。短期間の間に、これ程の因果因縁を結べる人間は他に居ないでしょう」

 

 

 ……いや、んな事ぁねーと思うが。俺なんぞまだ軽い方だろうに。

 で? 結論、俺がアレに付き纏われている理由は?

 

 

「…博士が、説明を途中で遮られると不機嫌になる理由が分かった気がします…。ともあれ。あなたは…」

 

 

 俺は?

 

 

「揉め事を引き寄せます」

 

 

 うん、それで?

 

 

「それが全てです」

 

 

 ヲイ。

 

 

「これだけで不満なら、自分から揉め事に飛び込む、巻き起こすというのも付けましょう。結論が3倍に増えました。お得ですね」

 

 

 延々と観察してそれだけかい。揉め事が何かと降りかかってくる運勢してるなんて、とっくに自覚しとるわい。少なくとも、この繰り返しの中に放り込まれた序盤頃には。

 

 

「ですが、これが最も根本的な要因です。貴方は揉め事に首を突っ込む度に、何かしらの縁を結びます。その頻度と速度が異常です。私は人と人の間の機微には疎いですが、他者の一生に多大な影響を与えるという事が、非常に稀な事だと言うのは分かります。あなたはその稀な事を、里に来てから少なくとも2度行いました」

 

 

 博士と久音さん?

 

 …そういや、かぐやにも抜け道の使い方を教えたな…。

 いやしかし、それが本当に一生に影響を与えるかなんて、俺達には分からないだろう。

 

 

「そうなる可能性がある、というだけで因果因縁には十分です。…実際のところ、イヅチカナタが食っている因果因縁がどのような物なのか、詳細は分からないので、とにかく人と人の繋がり、並びにそこからの発展の可能性と考えましょう」

 

 

 うぬぬぬ…分かり切った結論が出ただけで、真面目に話に付き合った意味がないではないか。

 

 

「そうでもありません。もしこの推論が正しいのであれば、貴方が隠遁、或いは他人との繋がりを断ってどこかに引きこもれ……れば、イヅチカナタは去っていき、貴方に平穏が訪れるかもしれません」

 

 

 平穏とかそういうの、もういいから。千歳とシオを喰いやがったあのイヅチを叩き切るまで、平穏とか二の次でいいから。いや、別に自分から波風立てるつもりはないけども。

 あと、口籠ったのは何でよ。

 

 

「隠遁したところで、揉め事が追いかけてくるのではないかと思っただけです」

 

 

 …まぁ、確かに世捨て人気取って山籠りハンターやってた時も、何だかんだで人と関わっちゃったけどさ…。

 

 

「逆を言えば、延々と揉め事に関わり続ける限り、イヅチカナタは貴方を置いて何処かに行く事はないでしょう。この推測が当たっていれば、ですが」

 

 

 

 …揉め事が何処に居ても降りかかってくる + 揉め事にかかわってりゃイヅチに付き纏われる = ?

 

 

「今と何も変わりませんね。これからも何かと巻き込まれ、誰かと縁を結び、それをイヅチカナタに奪われるでしょう」

 

 

 

 …やっぱ真面目に聞いて損した。いや、改めてフツフツと怒りが再燃してきたから、それだけはよかったかな。

 

 

 

 

凶星月

 

 

 凶星月も中盤を過ぎた。そろそろウタカタに出発せにゃならんのだが、鬼の手の進展具合は如何なものか。

 博士曰く、もう大分形は出来上がっており、調整と実験と検証と着脱機能を省けば、すぐにでも使えるらしい。…それ絶対省いちゃいかん奴だろ。しかも着脱機能を省くってなんだ。

 

 …体に接続する事で想像を直接受け取るものだから、安全に着脱するのが非常に難しい? 何度も着脱を繰り返していると、体に異変が出る可能性がある?

 

 …まぁ、理屈は分かるけど。注射を短期間で何度も繰り返すようなものか。あと無理に外すと爆発する?

 

 

 

 

 ……改良しろよ…まぁ、俺には関係ないけどさ。

 

 

「私は別に構いません。付けたままでも、生活にも銭湯にも支障はありませんし、それだけの価値があります」

 

「ほう、ホロウはよくわかっているな。栄えある鬼の手の最初の使い手にしてやろう」

 

「お断りします」

 

「………お前の冗談は分かりにくいんだよ。無表情のまま手を出すな。…手袋のように、普通に着ければいい」

 

「そうですか」

 

 

 …真顔のままだな、こいつ。と言うか、調整と実験と検証がまだなのはいいんかい。

 

 

「どの道、誰かが使って実験しなければいけません。その調整も、出来れば私用に念入りに合わせてほしいのですが」

 

「ああ、実験の危険を背負ってもらうのだ。その程度の礼はするさ」

 

「では、まず具現化してみましょう。外でやった方がいいですね」

 

 

 …そういう事になったのだ。随分なリスクを背負うなぁ。

 まぁ、結論から言えば、鬼の手の具現化は成功した。ホロウの実力なのか、それとも専用の器具を使っているからなのか、俺の鬼の手より強く、無駄なく具現化できているようだ。ちょっと悔しい。

 

 ホロウと博士が何やら詳細を語っているようだが、俺は飯の準備をしていた。

 

 

 

 しかし、どーすっかなぁ。鬼の手が完成したなら、マホロバに留まる理由は無い。ウタカタに向けて出発したい。ついでに霊山にも寄っていきたい。

 サムライと鬼内との確執は気になるが、流れ者の俺が首を突っ込む義理もなかった。土地の問題に余所者が口を挟んでもロクな事にならないってゆーしな。

 

 …ん? 鬼の手、まだ完成してない? 調整はともかく、着脱機能はどーとでもなるわ。

 着けるまで黙ってりゃいいんだし。言う前に喜び勇んで装着しそうなのが居るし。具体的には初穂。

 問題は無い。ゴッドイーターだって、一生右手に腕輪着けてんだぞ。俺は外しても問題ないけど。

 

 

 

 

 調整は終わったそうだが、問題がもう一つ残っていた。

 素材が足りない。良質のカラクリ石が必要なのだが、これが中々見つからない。こればっかりは、万能の石モドキじゃできないらしい。

 

 大体、仮にカラクリ石が見つかったとしても、どれだけ作れるやら。先日…俺達が会った時に発見した石は、かなりの大きさだったらしいが、それでも出来上がったのは一つだけ。…実験で色々消費したらしいが、同じ大きさじゃ2~3個作れればいい方なんじゃないかな…。

 

 

 

 

 …マカ壺にでも入れておけば、謎の反応を起こして増殖したりしねーかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 博士とホロウが本格的に調整に入り、暇になったんで、西歌のお頭を訪ねてみた。主計さんも居なかったので、「用もないのに余所者がお頭に会ってどうする」みたいな顔をされたが、西歌のお頭本人が出迎えてくれた。

 「先日は迷惑をかけたからな」って言ってたが…やっぱり3対1は自分でもどうかと思ってたようだ。と言うか、どっちかと言うと迷惑かけたのは大暴れしたホロウだったような気がする。

 

 ま、実際の所、大した用事も無かったので、西歌のお頭の愚痴を聞く事になってしまったが。

 やはり、自分で受け入れを決めたものの、サムライと鬼内の確執に悩んでいるようだ。人間関係はややこしいからなぁ…。拗れると面倒臭さが加速度的に増えていくし。

 

 

 

「うむ、分かってはいるんだ。幸いと言うべきなのか、まだ溝は埋められない程に深い訳ではない。鬼内には、自分達と直接関わりが無いとは言え、同じモノノフが彼らを奴隷扱いしていたという負い目がある。サムライ達も、怒りは鬼内ではなく、もっと漠然とした…モノノフという存在そのものへの不信感になっている。切っ先を突きつけ合うまで、まだ暫く猶予がある」

 

 

 その猶予も、西歌のお頭が居てこそ…なんだろうな。サムライが大人しくしてるのは、お頭への恩義があるからだって本人達も言ってたし。

 

 

「嬉しくもあり、悩ましくもあり…か。個人に寄って立つ平和など、砂上の楼閣も同じだ」

 

 

 そりゃ神垣の巫女の事言ってんのか?

 

 

「それもある。…このまま放置すれば、私が抑えていたとしても、仮に紅月が私以上の采配を持って里を守ったとしても、遠からず限界がくる。爆発する」

 

 

 何かしらの手を打つなら、互いの感情がそこまで高まってない今のうち…と言う訳だ。でもどうするか、って話だよな…。

 ホロウとも前に話したが、結界内部の建物を増築すれば、住居の問題は解決できると思うんだけど。

 

 

「ああ、私もそれは考えた。だが大きな博打だ。しかも分が悪い。嫌い合っている者同士が寝食を共にしても、相互理解は深まらない。むしろ、やる事為す事を悪い方悪い方に解釈して、遂には想像の中でさえも罵り始める」

 

 

 嫌いな相手を好きになる事程、面倒な事は無い…か。

 まだ、「あいつらは嫌いだが、利用価値がある」という考えを持たせた方が我慢が効くだろうな。

 

 

「そういう損得を超えて人を行動させるのが感情だ。やれやれ…お頭と言うのは面倒なものだ」

 

 

 憂いを含んだ横顔…だったが、饅頭頬張りながらじゃ色気は無いな。自棄食いしたくなるのも無理はないが。

 

 

 …意味があるかはともかくとして……共通の敵を作るのはどうだ?

 

 

「鬼…の事ではないな。新たな共通の敵とやらが現れれば、一致団結するとでも?」

 

 

 できぬ。

 何が大きか危機ば迫ったからちうて、恨みば忘れち判りあえるなんど、幻しん過ぎん。人は受けち恨みば絶対に忘れん。一度与えち恨みん恐怖は絶対に忘れん。舎利ばなるまで消えやせん。

 

 

「何弁だ」

 

 

 ヒラコー節だ。まー、いきなり遺恨を捨てる事は出来ないだろうさ。もっと段階を踏めば、何とか和解に持ち込めるかどうかってとこだ。

 すぐ近くのすぐ戦う必要がある敵、すぐ近くに居るけどまだ戦わない敵、敵だけど積極的に戦う必要のない敵、敵だけど利用価値のある奴、利用価値があっても我慢できない奴。

 そこから更に、棲み分け、共存、利用し合う関係、信用、信頼…と続いていく。

 

 

「敵ばっかりだな。さもしいと言うか、悲しい話だ」

 

 

 人間だからな。

 ま、それは置いといて…考えてる事ぁ単純だ。これらの敵の前に、もう一つ置く。つまり、近くには居ないけど、最優先で倒さにゃならん怨敵を。

 そうすりゃ、目先の敵からは暫く目を逸らす事が出来る。それだけ重要視されなきゃいかんが。

 

 

「…具体案があるようだな?」

 

 

 子供の考えだけどね。サムライも鬼内も、寄る辺は同じだ。そいつを叩き折るってだけの話だ。

 

 

「……? ……! …また分の悪い博打を言い出す。確かに、君なら出来るかもしれない。私達、三羽鴉でようやく互角の君なら。だが、人は思った通りに動かないぞ?」

 

 

 思ったようには動かなくても、動く方向を誘導するくらいならできる。

 何より、ああいった武力集団や、血気盛んな年代は…それに限らず俺もだけど、戦闘能力を過剰に評価する。実力以上に強く考えるんじゃなく、強い弱いが必要以上に重要な事だと考える。腕っぷしで出来る事なんぞ、目の前にノコノコ出てきてくれた親切な敵を地面に叩きつけるだけだってのにな。

 

 

「それは仕方ない。誰だって、自分にとって重要な物を物差しにして世界を見るものさ。大事な事を伝えるのに、どうでもいい物を使って伝える人は居ない。言葉が特別重要だと思う人間は、言葉で、話し合いで物事を伝えようとする。金が重要だと思うなら金で、誠意が大切だと思うのなら誠意で。戦う事を特別視しているのなら、戦う姿やぶつけ合う刃で伝えようとするだろう。私達にとって何より重要なのは、戦う力だからな。それがモノノフがモノノフである証なのだから」

 

 

 スポーツマンガの主人公が、やたらと自分のスポーツを持ち上げたり、特別楽しいんだって主張するようなもんですな。

 

 

「すぽぉつ?」

 

 

 あー、遊戯ですかね。主に体を使った。……うん? そういやカタカナ…いやでもモノノフは…あれ、でもカタカナ自体は古事記の時代だったかもーちょっと後だったかからあったような…でも外来語…一部とはいえ…。

 

 

「ふむ…すぽぉつ云々はともかくとして、流石にすぐにその話に乗る訳にはいかないな。可能かどうかの検討も、その後の誘導の準備も進めなければ。仮に実行して成功したとしても、その後は君が里に居辛くなってしまうだろう。確か、ウタカタの里へ立つのだったか? やるとしたらその少し前くらいか」

 

 

 さよけ。まぁ、こんな話にホイホイ乗るようじゃ、里長やってられんわな。

 ま、出発前には声かけるから、そっちもその気になったら教えてーな。

 

 

 

 

 …ああ、そうだ。博士が研究してる鬼の手なんだけども、完成したらかなりの戦力になりそうなんだ。

 ただ、現状では量産どころか、2つ目を作る事すら難しい。研究を援助してもらえないかな。

 

 

「…残念ながら、現状では無理だな。彼女が言っていた、異界を浄化する方法は何が何でも完成させねばならない。だが、一方で博士はまだ目に見える成果を出していないし、言動のせいもあって里人からはあまり信用されていない。加えて、サムライ達を受け入れた事で、里の財政も限界に近い。これ以上は…」

 

 

 なら、目に見える成果を出したらどうなんだ? 異界の浄化とまではいかないまでも、明らかに鬼との闘いに貢献できる新戦力とか。

 

 

「物によるが…研究を支援するというよりは、その成果を買い取るという事になるだろうな。鬼の手とやらがどれ程使える物なのかで、買い取り価格も変わるだろう。…あまり高価になると、今度は逆に手が出せなくなるが」

 

 

 …博士が研究に使っているのは、カラクリ石だ。出来るだけ大きく、純度が高いモノがいいらしい。

 モノノフにとっては、たいして価値のない物だと思う。それを融通するのに加えて、生活の援助に…。

 

 

「ああ、待て待て。君は話を進めているが、どうにも博士の発案だとは思えん。恐らく、君かホロウが考えた取引だろう? 博士に許可は取ってあるのか?」

 

 

 む…。

 

 

「まずはそちらに話を通してからにするんだ。博士にとっても利のある取引だと思うが、それは助手である君の権限と道理を大きく超える。家主に無断で、私物を売り払う取引をするのは、窃盗と変わりないぞ」

 

 

 ………ああ、そうだな…。いい案だと思ったけど、提案する前に考えるべきだった…。

 

 

「…この場で思いついて、この場で口に出したのか? 私もお頭としてどうなんだ、とよく言われるが、君もだな」

 

 

 …耳が痛いよ。

 

 



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202話

寒くなってきました。
季節に合わせた格好をしましょう。


…いや、休日でコタツに入ってるからって、トランクス一丁でビール飲みながら窓開けてゲームしてちゃいかんな、と…。
微妙に風邪気味。当たり前かw


 

 

凶星月

 

 

 とりあえず、博士からの許可は出た。取引の詳細については俺に丸投げし、最後の纏めだけ見せろ、との事。そこで不備があれば指摘するそうだが…不安だ。

 やらかしてしまったのに加え、仮に取引が成立したとして、博士がそれにまともに対応するかが不安だ…。

 

 

 まぁ、ともあれ西歌のお頭との話し合いに入る訳だが、現状で完成している鬼の手が一つある。ホロウの手に装着されているヤツ。

 実物があるなら、使えるかどうか直接見てもらえばいいじゃない。

 という訳なんで、俺、ホロウ、西歌のお頭、そして紅月さんの4人で哨戒任務。里のお頭に哨戒なんて仕事をさせるのは恐れ多い、という声も上がったが、本人も乗り気だし、最近執務ばかりで戦ってないし、何より自分が治める場所を自分の目で確認しておく事は非常に重要な事だ。

 お頭の鶴の一声で、哨戒とそのお供は決まった。

 

 

 最近、問題になっている盗賊もまだ見つかっていない。頻繁に異界の中から出入りしているようだから、死んではいないと思うのだが。

 

 

 

 

 さて、いつの間にやら鬼疾風を身に着けていた西歌のお頭(ホロウと話した時に教えてもらっていたらしい)と共に、適当に異界を歩き回る。

 今回はお頭と一緒なので、鬼内しか通されない、武の異界にも行ける。…のはいいんだけど、寒いなオイ。延々と雪が降っとるわ。

 

 とりあえずホロウと一緒に雪だるま作って遊んでたら、紅月に怒られた。いや、単に遊んでただけじゃないんよ?

 具体的には、雪だるまの中に紅月が作った劇物…は言い過ぎだから、嫌がらせにもにも使える失敗作料理を仕込んだり、例によって大樽爆弾仕込んだりしただけだよ。

 

 

「劇物…嫌がらせにも使える…」

 

「しっかりしてください紅月。ご飯が不味いのは弁護のしようもありませんが、自覚して努力しているなら酌量の余地はあります」

 

「私としては、知らない間に大量の火薬が里に運び込まれていたと言う事の方が気になるんだが」

 

 

 西歌のお頭が知っている火薬とゆーのは、草とキノコ(火薬草とニトロダケ)で出来上がるものデスカ? ふつー、火薬って硝石とか硫黄とかで出来上がるモンですよね? ならば別物。持ち込まれていたのは火薬じゃない!

 

 

「原材料が違っても、性質が同じならそれは火薬だ。無断で里に危険物を持ち込むのは見過ごせん。出せ。無料でとは言わん、火薬は買い取ろう」

 

 

 ですよねー。まぁ、対価をもらえるだけマシか。

 …原料の草とキノコまでは別にいーよね、うん。

 

 

 …あ、雪だるまを壊した餓鬼が吹っ飛んだ。

 

 

「餓鬼1体程度に、大量の火薬を使うなんて勿体ない。銃弾一発、多くても2発分で十分さ」

 

 

 まぁ、確かにコスト的にどうかと思ったわ。もっと沢山引き付けてから吹っ飛ばさんと。

 それはともかく、そろそろ鬼の手の実験行こうか。適当な大物を探そう。

 

 

 

 そういう事になったのだ。

 ちなみに新発見が一つある。鬼疾風は、どうも足元の悪さに殆ど影響されないらしい。足元が雪で覆われてるから、すっ転ぶ可能性が高いし、踏ん張りも効きそうにないなー、と思ってたんだが、逆だ。

 鬼疾風の移動方法は、霊力を使って足元に作ったレールの上をすべるようなやり方だ。足元が幾ら悪路だったとしても、その上に移動しやすい道を一つ作っているようなものなので、逆に安定性が高いらしい。熱の問題さえどうにかすれば、マグマの上だって走れるんじゃないだろうか。

 

 しかし、空中を走るには…木の枝でもいいから、足場があればともかく…出力が足りんな。やっぱ、空中を移動するには縦方向…或いは斜めへの高い瞬発力、或いはそこそこ程度の出力と高い持続力が要る。………本格的に研究してみるかな、クイックブースト…緑色の汚染? とりあえず普段は霊力を調整して緑色に見せる。 何となく使えそうだけど使ってないアレに関しては、一番最初はAAとして使うと決めているでな。というか、異界の汚染を緑色の汚染で上書きしてやりたいものだ。間違いなく、今以上の大惨事になるが。

 

 

 だがそれがいい。

 

 

 

 …西歌のお頭とホロウに、「何か危険な気配を感じる」と睨まれつつ、手頃な大型鬼を探す事30分ほど。…デカい蜘蛛とかなら見かけたんだけどね。この4人だと実験の前に早々に潰しちゃうのよ。

 探し回った甲斐もあり、ミズチメを発見。こいつ矢鱈としぶとい上に鬱陶しいもんな。実験には丁度いい。

 

 

 鬼の手を着けている(俺は使えるけど、着けてはいない)ホロウを中心に立ち回る。

 俺に出来た事は、ホロウにも大体できたようだ。鬼絡、鬼返、鬼喰。これだけでも十分すぎる成果だろう。特に、鬱陶しい突進やら高速移動やらを潰せるのは本当に有難い。

 課題としては、博士が鬼の手最大の攻撃と称していた鬼葬だろうか。いや、発動自体は上手くできたんだ。こう、鬼返みたいな感じでミズチメの動きを止めて、鬼の手を拳のような形に変化させて、思いっきりブン殴る。大ダメージは与えられたようだし、部位破壊も出来た。

 

 だが、腕は吹っ飛びはしても、再生は可能なようだった。完全な部位破壊、消滅が出来ていない。いや、それにしたって効果は非常に高かったんだが。

 鬼千切と似たような成果しか出せなくても、リーチが違う。…益々影が薄くなっちゃうね、鬼千切ちゃん…。

 

 ホロウは右手をジロジロ見て、首を傾げていた。以前にもミフチを相手に鬼葬を試したらしいのだが、その時は完全消滅まで見事に持って行ったらしい。今回も同様の手応えで、確実に消滅させたと思ったのに、何故? 

 …だが、そんな不完全な鬼葬であっても、西歌のお頭と紅月には大絶賛。これは是非とも量産するべきだ、とまで言ってくれた。

 まぁ、問題はその量産が非常に難しいって事なんだけどね。取引が始まれば、カラクリ石を探してくれるモノノフも増えると思うが…。取引の為の最初の一つを作れないのがなぁ。

 

 

 …やれやれ、どっかにカラクリ石貯め込んでる人居ないかね。…そうだ、虚海とかどうかな。

 アイツ、一応陰陽方に所属してるんだし、なんかの理由で貯めこんでるかも…。

 

 

「…待て。今、聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ」

 

 

 へ、どったのお頭?

 

 

「陰陽方、と言わなかったか」

 

 

 言った。

 

 

「…奴らに繋がりがあるのか?」

 

 

 繋がりと言うか、一方的に知ってる奴が一人所属してるよ。呪いで体を半分鬼に変えられて、一般人にはバケモノ扱いされる上にモノノフからもムラハチ喰らってグレてしまった。

 

 

「千歳の事ですか? …すみません、その陰陽方というのはどのような組織なのですか?」

 

「知らないのですか!? …あ、いえ、確かに陰陽方は、モノノフにもあまり知れ渡ってはいませんでしたね」

 

 

 まぁ、結構前に違法な研究やって、モノノフから追放された集団って程度しか俺も知らんが。

 ともかく、今現在繋がりがあるかって言うなら、それは無い。繋がりがありそうな伝手なら、幾つか心当たりがあるが…諸般の事情により、それは口に出せん。

 

 

「…そうか。いや、今現在、やつらの間諜でないなら構わない。最低限、サムライの一件が片付かねば、そちらにまで手を伸ばす余裕はない」

 

 

 さいですか。ま、妥当な判断ですな。

 そんじゃ、一旦帰りますかね。 

 

 

「…いや、少し聞いておきたい。体が鬼に変わったと言う事だが、それはどのような状態なのだ?」

 

 

 どのような、と言われてもな…。具体的に何が知りたいんだ?

 …シモから棒が生えた、って事は言わない方がいいかな…。

 

 

「里を訪れた時にすぐ分かるように、姿を知りたい。その他、瘴気を生むのか。鬼となった事による、人格への影響は? どのような呪いで鬼となった? 解呪…とは言わないまでも、その呪いを抑える方法はあるのか?」

 

 

 左半身が鬼になってる。右はクールビューティ……ええと、涼し気で冷ややかな「できる女」って印象なのに、いざ話してみるとへっぽこ。

 

 

「へっぽ……お、おおぅ…あの純真だった千歳が…」

 

 

 純真だったからこそ、悪党やろうとするとボロが出るんだよ…。

 瘴気は生まなかったな。人格への影響……も、話した分だと無かったようだ。どっちかと言うと、姿で迫害されてどんどんグレていったみたいだから、そっちのが大きい。

 

 解呪の手段があるなら、あいつの方が知りたいだろうさ。呪いは…ある鬼と戦った時にかけられた。その鬼は俺やホロウの怨敵でもある。呪いを抑えるのは……どうだろうな、少なくとも呪いを受けた時から、体はそれ以上変わらなかったようだが。(鬼化が進まなかっただけじゃなく、年齢が止まるし)

 

 

「……このような言い方をするのは憚られるのですが…体半分とは言え鬼となって、本当に大丈夫なのですか? 実は何かに操られている、とかは…」

 

 

 …次期里長候補は、慎重派でいらっしゃる。いや、皮肉じゃないよ? ムカッとは来たけど、確認しとかなきゃいかん事だろうよ。躊躇いながらもそれを聞ける辺り、いい育ち方してんじゃないの。ねぇ現お頭?

 

 

「皮肉るなぁ…。まぁ、無理もない事だし、本来私が聞かねばならん事だったが。それで、どうなんだ?」

 

 

 ねぇな。少なくとも、俺が知ってる虚海なら、って条件はつくが。あいつに呪いをかけたのは、特殊な鬼でな。ここ数十年はあいつに一切接触してない筈だ。本人に気付かれないよう、近くに行く…というのも含めて。

 それに、鬼と化しても平気なのかってんなら、実証する事も出来るぞ?

 

 

「実証? 君が私達に呪いでもかけるのか?」

 

 

 いーや、俺が鬼になる。なっている。

 

 

「…なって……いる?」

 

 

 ホロウや博士にも話しただけで、見せてなかったけどな。ホレ、これ見ろ。

 

 

 右手を前に出して…こう、何となく厨二っぽく手をカギ爪状に掴むような形にしながら、90度くらいに曲げてだな。言うなれば「あいにーどもあぱうわぁぁぁ」だ。

 

 

 

 変身!(右腕だけ)

 

 

「「なっ!?」」

 

 

 流石に驚いたらしく(無理ねーわ)、咄嗟に距離を取って刃を向ける二人。

 …俺も割と驚いたんですが。なんつーかこう、今までとはオーラが違うわ、オーラが。ドラゴンボールみたいに、燃えるようなオーラが沸き立っている。

 何の影響かって…考えるまでもない。取り込んだカラクリ石だ。

 

 

 若干予想外な部分はあったものの、ちゃんと制御下にある事には変わりない。むしろ、カラクリ石というイメージを具現化する道具が手に入った事で、霊力がコントロールしやすくなっている。ような気がしなくもない。

 

 

 …とまぁ、こういう訳だ。俺は別に呪いを受けてる訳じゃないが。

 

 

「…呪いでなければ何なのだ? 鬼が化けているんではないのか」

 

 

 違うよ。と言うか、一気に心の距離が離れた気がする。…こんなん繰り返してれば、そりゃ千歳もグレていくわな。

 

 

「無理もないでしょう。話を聞いていた私からしても、この変化は衝撃的です。鬼を討つべしと、幼い頃から教え込まれてきたモノノフにしてみれば、とても見過ごせるものではありません」

 

 

 ふむ…そういうもんか。とりあえず変身解除。だが微妙に距離を開けられたままだ。右手だけ変身にしといてよかったかな。全身を変えてたら…流石に攻撃されるとは思いたくないが。

 

 ま、とにかく…あいつは俺と違って制御はできてないが、性質的には多分似たようなものだ。呪いは既に安定してしまっているようだから、それ以上進行が進む様子もないし、何者かから操られる隙も無い。

 むしろ、今となっては鬼の体を活用する術まで作ってるみたいだぞ。…あまり好んで使う事はないようだが。

 

 

 

「……本当に、危険はないんだな?」

 

 

 少なくとも体質的な危険はな。悪意を持って何かやらかすか、って意味だと…悪いが保証はできん。かなり自棄になってる節もあったし。

 

 

「一方的に知っているだけ、というのには随分詳しいな」

 

 

 色々とややこしい事情があるんでな。まぁ…あいつがマホロバの里に来る事は無いと思うぞ。なんか色々やろうとしてる事があるみたいだから。

 

 

「そうか…。なら、これだけ聞かせてくれ。仮に誰かが君達と同じように、鬼の呪いにかかった場合、それを治療、或いは押し留める方法はあるか? 君はどうやって、姿を変えられるようになった?」

 

 

 …俺は、鬼になった切っ掛けも、制御できるようになった時の事も覚えてない。いや切っ掛けというか、どの鬼(と言うかアラガミと言うか神機と言うか)に呪いをかけられたのかは分かってるが。

 あくまで感覚で言うが…鬼と化そうとする力を、より強い力で押し留めている…ような気がする。

 あくまで感覚だぞ? 実際は、既に全身が鬼と化しているのに、上辺だけを幻術なんかで誤魔化している状態なんじゃないか、と言われると反論も出来ん。

 

 

「成程。わかった…これ以上は不問としよう」

 

「お頭!」

 

「紅月。彼は敵か?」

 

「い、いえ…敵とは言いませんが、しかし…」

 

「まぁ、お前の言いたい事も分かる。だが、人が鬼に変えられる、変わるという話は古今東西に例がある。…私達モノノフが変わった例も、幾つか伝わっている。もしもそうなってしまった時の為、経験者が居るのと居ないのとでは大違いだ」

 

「……ですが…」

 

 

 チラチラとこっちを見てくる紅月。…まー流石にこれは無理もないよな。隣人が人類の敵だったようなもんだし。

 …あと、西歌のお頭は口には出さないが、戦ったらまず間違いなく俺が勝つし。人間状態で神機無しの戦いでも、3対1でようやっと互角だったんだから。お頭達が切り札を使ってきたとしても、大抵のものは切り抜けるか耐えるかできると思う。

 

 

 ま、そっちの話し合いは気が済むまでやってくれ。とりあえず、鬼の手の検証は終わりって事でいいだろ。

 やれやれ、余計な事言っちまったなぁ…。

 

 

 

 

凶星月

 

 

 鬼の手量産についての協力を約束できたのはいいが、お頭と紅月と若干気まずい。まー、時間が解決してくれる問題だとは思うが。尤も、それまで俺が里に居続けるかは微妙なトコだけどね。

 

 博士の方も、基礎理論はほぼ完成し、後は作成に必要な材料を集めるだけって状態まで漕ぎつけたらしく、俺達が手伝える事もあまり無くなってしまった。

 現在、また一つ性能を追加する為に色々弄っているようだが、それを完成させれば、鬼の手の性能は全て発揮される…らしい。

 

 だが、肝心の異界を浄化する能力については行き詰っている。異界から適当に木の枝を取ってきて、工房の前の鉢植えに植えている(瘴気を含んだ物を無断で持ち込むのはご法度なのだが)のだが、それを相手に何度も実験し、頭をガリガリと掻き毟る博士を何度も見た。

 実のところ、異界を浄化するという話を大真面目に信じているのは博士くらいだ。俺とホロウは半信半疑、西歌のお頭は「できる物ならやってみてくれ」、他のモノノフ達に至っては鬼の手自体が胡散臭い代物にしか見えてない。

 

 …実際なぁ、どうやって広大な異界を浄化するんだよ…。いくら鬼の手がイメージを具現化するものだって、精々が目が届く場所の瘴気を散らす程度の事しかできないと思うんだが。

 ………アレか、異界を祓うと言えば、全く違うゲームだが、某ワンコの神ゲーみたいな真似すんのか。大神降ろしか? それは是非とも見てみたいな。

 

 

 

 まぁ、本格的に行き詰っているのは確かなようなので、飯時くらい頭を切り替えようぜ。

 全然違う話を色々振っていたんだが、その中で唐突な情報が出てきた。

 

 

「ああ、そうだ。お前が以前ホロウと描いていた、もんはん世界とやらで見た壁画の事だがな」

 

 

 うん?

 

 

「多分、この世界とも、もう一つの世界とも関係があるぞ」

 

 

 …なんぞ?

 工房の壁に貼り付けてある、俺提供・ホロウ画の壁画を見る。

 

 

「この部分を見てみろ。お前達の言う、イヅチカナタに文明が襲われたと思われる所だ。この後、地面が三つに分割されているだろう。これは地面、ないし国が分割されているのではない。世界が分かれているんだろうよ」

 

 

 …いやいやいや、ちょっと待てって。いくら何でも、話が飛びすぎじゃね?

 なんでいきなり世界?

 

 

「私も、最初は国程度の話かと考えたが…それにしては、お前から聞いた3つの世界で、結びつく点が多すぎる」

 

「それは…無理矢理結び付けた、という事ではないのですか?」

 

「そんな訳がなかろう、ホロウ。…詳細は省くが、私には古代文明…例えば、この近辺に散乱している碑文を残した文明だが…についての知識がある。それに照らし合わせての事だ」

 

 

 …具体的には?

 

 

「この絵にある…これとかな。お前が塔と言っていただろう。この先端から、棒が伸びているが、これはイヅチカナタを討伐する為の刺客…つまりホロウや、それに近い存在を送り出した事を記している。その後三つに分かれたのが世界。…恐らく、ホロウを送り出した塔と言うのは、お前がこの壁画を見つけた塔か…その一つなんだろう」

 

 

 …あー、確かに霊力が物凄い霊力の残滓が渦巻いてる塔があったわ。つまりアレか、あの霊力は世界を超えてホロウその他を送り出す為に使った霊力で、それが奇跡的に一つ残ってたって事か。もう思いっきりぶち壊しちゃったけど。

 

 

「もう一度その世界に戻れば、元通りになっているんだろう? 調査して…も、お前じゃ何もわからんか。世界を3つに割る力…。それがイヅチカナタが行った物なのか、それとも何らかの災厄から逃れる為に人為的に行った物なのか、或いは超自然的な何かの作用かは……む? どうした、ホロウ」

 

「………いえ、何か思い出しそうになっただけです。くしゃみが出そうで出なかったような気分です」

 

「…その例えはともかくとして、やはりこの推論で当たりの可能性が高いな。今の話の何かが、ホロウの記憶に触れたのかもしれん。…因果を奪う力…か。仮に、仮にだ。その力が最大限まで高まれば、組み合わせた木材の継ぎ目を引き千切るように、世界を無理矢理分けてしまう事もできるのかもしれん。…妄想の領域だがな」

 

 

 

 言うべきことは言った、とばかりに、知らん顔して味噌汁を啜る博士。

 

 うーむ。どうなんだろう。

 これが大正解とは限らないが、3つの世界に繋がりがある事は、薄々ながらもほぼ確定だろうなぁと考えつつやっぱ短絡的な妄想かなぁと二の足を踏んでいた訳ですが。

 

 

 しかし、これが本当なら…? 俺はどうして、この3つの世界を延々と移動しているんだろうか?

 ……まぁ、考えはある…あるんだが…やっぱ妄想だしなぁ。

 

 

 

 とりあえず、イヅチを斬る事だけを考えるかな。謎解きはその後だ。

 

 

 

 

凶星月

 

 

 博士が新しい鬼の手の使い方を発明してきた。

 その為に調節しているってのは聞いてたが、どういう物かは教えてくれなかったな。…ホロウには話してたのに。

 何で秘密にしとったん?

 

 …自分が必死に研究してたのに、俺があっさり実現させたからイラッと来た? 今度は先に実現してやると決意してた?

 …ああまぁ、気持ちは分からんでもないけども。

 

 

 さて、その新しい使い方だが…アラタマフリ、ニギタマフリと言う。…改めて思うが、タマフリって知らない人が聞いたら卑猥な連想せんかな。クレヨンしんちゃんのダンスをもっと滑稽にした感じの。だってタマを振るんだぞ、玉を。魂よりもボールが先に思い浮かぶわ。

 それはともかく、このアラタマフリ、ニギタマフリだが、武器や防具、そして鬼の手にミタマを宿して特殊なタマフリを行う事だと言う。通常のタマフリよりも効果が高かったり、普通ではない効果が出るが、アラタマフリは何かしらのデメリットが併発し、ニギタマフリは任意発動が出来ない半ばオートのタマフリだとか。

 

 武器と防具と鬼の手にそれぞれミタマを宿すって事は、最低でもミタマを3つ宿さなければいかんのじゃないか?と思ったが、そうじゃなかった。

 鬼の手に一体のミタマを宿せば、それを増幅器として武器、防具にもミタマが宿ったような状態になる…そうな。まぁ、ミタマ自体にも分霊みたいな性質はあるし、分身モドキしたとしてもそこまで不思議ではないか。

 

 

 

 でもさぁ、俺の場合はそれぞれにミタマを宿す事は出来る訳よ。ここんとこずーーーーっと無視し続けてた、のっぺらトリオが居るからさ。

 …で、仮にそれを実行した場合…。①鬼の手に宿るのっぺらミタマ(煽り芸)②武器に宿るのっぺらミタマ(戦ってる最中にも騒ぐ騒ぐ)③防具に宿るのっぺらミタマ(…防具に宿ってるって事は、抱き着かれているようなもの…?)…となる訳だ。

 正直、瘴気を保てるか怪しいレベル。クトゥルフ神話並みのSAN値直葬。

 

 …実際、GE世界の月で3年暮らした時は、動くものも無けりゃ退屈しのぎにできるような事もなくて、外的刺激(ある意味内的だが)がこいつらだけだったんだが…それでも一切を無視してたんだよなぁ。こいつらを見続けてるよりは、誰も居ない何も起きない孤独と退屈の方がまだマシだって。

 一時期、こいつらを見物してたんだが…うん、まぁ、やっぱどんな状況でも好き好んで見るようなもんじゃないわ。

 

 

 しかし、それはそれとして新戦術が欲しいのも事実。鬼の手や武器にミタマを宿したからと言って、それらが何かできる訳でもないし…気分の問題、なのかな…。 

 普通のミタマは時々…具体的には鬼に勝った時とかに一言二言呟く事もあるらしいが、あいにくのっぺらには口が無いし耳も無い。実のところ、今でも意思疎通はまるで出来てなかったりする。

 

 

 

 ………やっぱ好き勝手やりそうな気がするなぁ。鬼の手を具現化しようとした途端、いきなりのっぺらが具現化したらどうしよ。

 …金棒代わりにするか、囮にすればいいか。うん、そう考えると何だか気が楽になってきた。新機能とやら、俺にも使えるか試してみよう。

 



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203話

帯状疱疹とやらにかかって、ちょっと執筆したりレス返ししたりする気力がなくなってます。
すみません。
むぅ、ストレスか、それとも栄養バランスか、単に寒さにやられただけか。
水ぶくれまで出てきやがって、シャツが痛い…。医者に行こうと思ったら、ちょうど休診日だしさぁ…。


 

凶星月

 

 

 ホロウ・博士と一緒に、アラタマフリ・ニギタマフリの実験に出た。

 とりあえず、俺はニギタマフリを当分封印する事にした。

 

 何でって…話にならねーもん。

 アラタマフリもニギタマフリも、使ったら何が起こるか分からない。モノノフ式のタマフリが発生する事もあれば、他の世界のスキルが一時的に使えるようになる事もあるし、会得している筈のスキルが封じられる事もあった。

 

 そこまではいい。博打要素のある技なんて珍しくないし、実際ミタマスタイル「賭」も多少は使った事がある。9割以上が凶以下だけども。

 

 

 

 だけどね、意識して発動するアラタマフリはともかく、ニギタマフリはいつ発動するかも分からないんだよ。

 歩いてたらニギタマフリ。走ったらニギタマフリ。鬼疾風したらニギタマフリ。警戒しながらジャンプしたら何も起きない、着地したらニギタマフリ、タマフリしたら連動してニギタマフリ、攻撃したらニギタマフリ…。

 まるでのっぺらミタマがここぞとばかりに好き勝手しているかのように、俺をからかうように妙なタマフリタマフリスキルスキル…。暴発しまくりじゃわい。

 

 同じようにやっているホロウはと言うと、見事に新たなタマフリを使いこなしていた。神懸と呼ばれるアラタマフリは、動きが早くなり、戦いによって得た力、高ぶった力を周囲に分け与えていた。魂呼というニギタマフリは、ギリギリまで追い詰められないと発動しないようだったが、瀕死の体を癒し、戦闘を続行させる効果があるようだ。

 

 

 

 …ん?

 考えてみりゃ、ホロウのミタマって何だろうな。ニギタマフリアラタマフリが使えてるって事は、やっぱミタマを宿しているのは確かだろう。

 しかし、今まで聞いた話じゃ、ホロウは英雄のミタマを宿していたとは思えない。…元居た…と言うか製造された世界から飛び立った時には、もうミタマ、或いはそれに代わる何かを宿していたのだろうか。鬼と戦う為の機能を制限した状態で送り出すとも思えんし、タマフリを発動させる為の何かを宿していたのは確かだと思う。

 或いは、宿していたのだが、魂を喰らう機能を使ってしまい、それを失ったのか…。

 いやでも今現在、ニギアラタマフリ使えてるしなぁ…。………どうでもいいが、なんかニギアラタマフリって語感が気に入った。

 

 

 ま、気にはなるが、モノノフ間で宿しているミタマを詮索するのはマナー違反だからね。(少なくとも、俺が経験したループ内では)

 疑問は胸にしまっておこうかね。

 

 

 

 …何だかとんでもないヒントと言うかネタバレを見逃してしまったよーな気もするけど、それ以上に聞いたらアカン事のよーな気もするなぁ。

 

 

 

 それはともかくとして、実験の帰りに珍しい人と遭遇した。神無と真鶴さんだ。…真鶴さんが眼鏡をかけている。眼鏡をかけている。眼鏡をかけている。大事な事だから3回繰り返したぞ。

 むぅ、目が悪いとは言ったし、眼鏡でも送ったら、とは言ったが…想像以上に似合ってるな。神無の事だから、デザインを考えて送った訳じゃないだろうが…スゲェ破壊力だ。

 じっくり鑑賞させてほしかったところだが、人の顔をジロジロ見るのは失礼だしね。

 

 それに、二人とも…いや、その後からゾロゾロ出てきたサムライ達も、妙に殺気立っていた。別に俺らに敵意を向けてる訳じゃないが(神無から手合わせしたそうな空気を感じるが)、全員刀やら弓やら持って臨戦態勢だし、中には不完全ながらも鬼の目を使って周囲を見回しているヤツも居る。…まぁ、こういう森の中だし、走っている訳でもなし、小型の鬼でも見逃さないように常に発動しているくらいでいいんだけどさ。

 何事?

 

 

 

 …ここ暫く追っていた盗賊が出た? 里に近い場所で発見されて、今はこっちに逃げいったのを追っている…。

 これを聞いてホロウがやる気を出した。唐突に出した。

 そういや、こいつも何度も盗賊探しに出てたんだよな…手掛かりが殆どないし、結構イライラしていたっぽい。…そろそろウタカタに向かって立つ時期でもあるし、気になる事は清算しておくに越した事は無いか。

 

 

 とりあえず、ホロウは威嚇射撃も辞さないくらいに張り切っている。

 仮にもマホロバに滞在している以上、他人事ではないと主張し、同行を申し出る。歓迎された。

 色々と反発はあったようだが、真鶴の一声…文字通り鶴の一声だな…で決定。まぁ、サムライ達からは反発と言ってもそう強いもんじゃないから、別にいいんだけど。出来るなら自分達だけで捕らえたかった、って感じかな。

 鬼内も追ってこようとしているらしいが、そっちは別動隊だとか。

 

 

 

 さて、そういう訳で盗賊とやらを追い始めたんだが…うーん、本当にこっちに逃げてきたのか? 形跡が殆ど無いぞ。確かに、草木を掻き分けたような跡はあるんだが…少なく見積もっても半日前だぞ、コレ。

 鷹の目を使ってみても、足跡も無い。

 

 

 

 ……なぁ、盗賊が見つかったのってどの辺り?

 

 

「里の周りの水路の辺りだ。水を汲みにきていた……らしい。私も直に確かめた訳ではないが」

 

「俺もだな。盗賊が出たという声が上がって、すぐに追跡隊が組織された。誰が発見したのかも、まだ聞いていない」

 

 

 …水路…水を汲む為だけに、あそこに? 少し移動すれば、川は向こうまで続いている筈…。里人の目につかずに水を補給するくらい簡単だろうに。

 と言う事は…。

 

 

「…戻るぞ。見事に引っかけられたようだな」

 

「博士? どういう事だ、それは」

 

 

 どうもこうも、肩違え退きって奴だよ。盗賊を発見した声は、多分盗賊自身の声だ。予め、盗賊が逃げたような道と環境を作っておいて、俺達がそっちを追いかけている内に里へ侵入する。

 忍者の手口だな、コレ。

 

 

「何…確証は!?」

 

 

 無い。強いて言うなら、この逃げた跡の不自然さがそうだが…。俺達は先に里へ戻る。アンタらはこのまま追うなり、戻ってくるなり好きにしな。

 鬼内の追跡隊は、もう出発しているか分かるか? もしも出ているのなら、連絡を取って里へ戻るよう伝えた方がいい。

 

 

「いや…分からん。そろそろ出立していてもおかしくはないと思うが、そうだとしたら何処にいるのか…」

 

 

 反目があっても同じ里に居るんだから、連絡用の狼煙くらい共有しとけばよかろうに…。

 しゃーない、俺は先に行く。鬼内隊を見かけたら連絡しておくよ。

 

 

「ここまでの痕跡は、全て偽装か…よくやる。我々も戻る。先頭は…」

 

「いえ、残念ながら私達の移動法は少し特殊ですので。…見ていれば分かります。行きましょう」

 

 

 はいはい。鬼疾風無しじゃ、ちょっと追いつけない速度だもんな。んじゃ、先行きまーす。

 

 

 いつの間にやら鬼疾風を会得していた博士と3人で、サムライ集団を置き去りにしてダッシュ。あまりの速さに驚きの声も聞こえました。…考えてみりゃ、サムライにも鬼疾風を広めておいた方がいいか。鬼内だけに教えて、肩入れしてるとか言われるのも何だし。

 

 

 

 そして戻ってきたマホロバの里は、結構な騒ぎになっていた。予想通り、盗賊は追跡隊と入れ違うように里に侵入していたらしく、あちこちで喧噪が聞こえる。

 …あちこちで? 妙だな。これまで見てきた痕跡からして、賊は一人だけのようだったが。複数個所で騒ぎが起こっているのか。

 

 その辺に居た鬼内を適当にとっ捕まえて…あ、こいつ呼び出されて連戦した時に居た奴だ…話を聞いてみると、なんともまぁ……だらしないと言うか、統率が取れていないと言うか。

 やはり賊は一人だけだった。しかし非常に身軽かつ、遁法…逃げ隠れの方法に優れている。ミタマを使っている形跡すらあるとか。隠スタイルだな。

 

 まぁ、それは良かったんだよ、そこまでは。どんなに逃げ隠れが上手くたって多勢に無勢、地の利はこちらにあり、更には盗賊は…恐らくではあるが、弱っているらしい。

 だと言うのに、これ程の混乱になっている理由は何か?

 

 …指揮権の問題だ。折悪しく…或いはそれを見計らってきたのか…サンバ鴉は、何処ぞに出かけていて不在。残っている頭目クラスは紅月、八雲のにーちゃん、刀也くらいな訳だが…紅月がまず封じられた。別に、物騒な手段を取られた訳じゃない。いやある意味物騒なんだけど。

 この里で、最優先して守らなければならない人間は誰だろうか? …簡単だ。神垣の巫女。たった一人に万が一の事があっただけで、里の結界は脆くも崩れ去り、マホロバは滅亡の危機に晒される。

 

 その神垣の巫女を攫おうとした…らしい。そりゃーヤバいよ、強い奴を護衛につけもするよ。

 とは言え、疑問はあるけどな。たった一人しか居ない、しかも弱っている盗賊が、神垣の巫女一人を捕まえてどうすんだって話だよ。どっかに連れて行くにしたって、相応の体力は必要だろうに。

 

 まぁ、意図はどうあれ、狙われた以上は守らなければならない。で、紅月がついた。

 残った戦力・指揮官は刀也と八雲のにーちゃんな訳だが…サムライと鬼内が、トラブル対処の為とは言え協力できるかっつーとね…。

 しかも八雲のにーちゃんは、神垣の巫女…まだ次代だが…のかぐやに矛先が向くかもしれないと知って、超激怒している。指揮とか放り出して、ガムシャラに…考えなしに…賊を追い回しているらしい。

 

 刀也は刀也で、里に残っているサムライ達を指揮してはいるのだが、腕の立つサムライは追跡隊に組み込み、残っているのはそこそこ強いのが数名と、訓練中の若者たちのみ。はっきり言うが、統率なんぞ取れてやしない。部隊としての練度が低すぎる。

 んで、無軌道に走り回る鬼内とサムライの間で険悪な空気が流れたりして、賊の対処とは全く関係なく騒ぎが起こっていると。

 

 

 ひでぇもんだな…。里の問題が一気に吹き出たようなもんだ。

 今までは西歌のお頭、次点で紅月というトップが居て、サムライも鬼内もそれに従っていたから問題なかったんだろうけど…。

 

 

 

 とりあえず、俺達どうしようか。

 

 

「賊の事は知らん。お前は適当に里を周って、揉めている阿呆どもを片付けておけ」

 

 

 なんだ、えらい雑な対応だな。

 

 

「この里の有様を見れば、そうもなる。賊を逃がすよりも、このまま揉め事が加速する方が問題だ。そして、このままなぁなぁで収まるのはそれ以上の問題だ。賊は…ホロウ、お前が追いかけていたな。やってしまえ」

 

「いいでしょう。銃弾と鬼の手の餌食にしてやります」

 

「鬼の手は人をすり抜けるぞ」

 

「殺意を満たせば、恐らく可能です」

 

 

 …生き残るかな、賊。まぁいいか。

 とりあえず、俺はOHANASHIに行きますかね。SEKKYOでもいいけど。……いや、やっぱ面倒だわ。殴り倒してから川に投げ入れとこ。頭を冷やせ。こっそりアラガミパワーで川の水を超冷たくしておいてやろう。溺れないよーに、じゃなくて心臓麻痺を起こさないよーに、だな。

 

 

 

 

凶星月

 

 

 里の戦力の半分くらいが風邪で寝込んでいる。暖かい季節とは言え、川を凍る寸前まで急速冷凍して「頭冷やそうか」させたのはやり過ぎだっただろうか。

 やはり、電撃系の能力を使って疑似電気風呂がよかったか。アレ、加減を間違えると吐くんだよな…。里の川を嘔吐物塗れにする訳にもいかんかったしなぁ。

 

 …それとも、いっその事逆に、もっと徹底的にやるべきだっただろうか。具体的には、冷気でも電撃でもなく、熱系統の能力で川を煮立った状態にする。重賞に至る程熱くはなく、しかし我慢できる程温くもない川に放り込まれた人々は、盛大に叫びまくってくれた事だろう。

 俺が昔好きだった漫画のキャラも言っていたしな。お仕置きの極意は、「生かさず殺さず遊びましょ~」だと。うむ、考えてみれば惜しい事をした。

 

 

 

 まーそれはそれとして、結局盗賊は捕縛された。ホロウが散々追いかけまわしたらしい。実弾で。

 容赦ねぇなアイツ…。まぁ、結局嬲るだけ嬲って気が済んだのか、最後のトドメは紅月がやったらしい。かぐや達の護衛についていた筈だろうに、何故? と思ったら、どうやらホロウがそっちに追い込んだらしい。

 追い回された賊はボロボロかつ衰弱しきっていたらしく、捕縛した紅月が申し訳なさそうなくらいだったとか、逆に生きて捕縛される事に賊が安堵していたくらいだったとかナントカ。

 

 

 んで、意外だったのはそこからだ。

 捕縛したはいいが、その賊をどうするかって話になった。勿論、里の決まりで言えば、夜盗・山賊は即処罰、処断である。違法行為をやっておきながら、相応の罰を受けずにいられる程、この世界もモノノフの掟も甘くはない。

 しかし、捕らえた紅月がその処罰の延期を進言した。お頭に断りなく、賊を始末する訳にはいかない、と。

 

 

 …これは一見筋が通っているように見えるが、考えてみればおかしな話である。

 確かに里長である西歌のお頭は居ないが、盗賊を処罰するのに一々お頭に許可を求める理由はない。何かしらの特例を当て嵌めるならともかく、掟に従って裁きを下せばいいだけだ。

 仮に処罰するのに許可が必要だとしても、紅月が…次期お頭候補筆頭、言い換えれば西歌のお頭が居ない間を任されているお頭代理がそれを決定するのは、決して出過ぎた行為ではない。

 

 なーに考えてやがんだ? と思ってたら…その夜に、紅月が工房を訪ねてきた。俺に用事だったが、色っぽい話でもなければ、試食に付き合ってくれという死刑宣告…いや心中……でも紅月は食ってもマズいと感じないらしいから、やっぱ殺人予告…でもない。

 賊の弁護に協力してくれ、という話だった。

 

 

 何ぞ? と思ったが、正確に言うなら、賊の為ではない。どちらかと言うと、里の問題を浮き彫りにする為だ。

 昨晩は博士も呆れかえっていたが、とにかく里の連中の統率が取れていなかった。強い戦力は手柄を求めるかのように里を出ていき、鬼内は筆頭の八雲のにーちゃんが暴走しててんでバラバラに行動しだし、サムライ達は感情に任せて激突し。

 挙句の果てには、里の備えとして残っていた筈の戦力が、互いに取っ組み合いまでする始末。

 そりゃ問題ってレベルじゃねーわな。武器を使わなかったのを褒めてやる、なんて言えたレベルじゃないよ。

 

 次期お頭候補としては、色々な意味で見過ごせないだろう。

 

 

 

 なので、この問題を明確にする為、まずは賊…焔というらしい…がやった事を明確にしたい。驚くべき事に…と言うべきだろうか。里に侵入しておきながら、賊は誰一人傷つけていないのだと言う。

 つまり、今回の騒動で出た怪我人は全てサムライ・鬼内・或いは同士討ちでの取っ組み合いによるものか、俺の活かさず殺さずなオシオキによる被害者のみ。

 賊は身体共に疲労困憊状態でありながら、何故か腰につけていた得物を抜こうともせず、狙ったのは徹頭徹尾ただ食料のみ。

 

 …つまり、何? 盗賊は盗賊であるが、人を傷つけようとしなかったから、酌量の余地がある、と主張したい訳? そりゃ人を傷つけるよりはマシかもしれんが、このご時世で食料泥棒は下手するとそれ以上……違う?

 

 

 

 

 里人同士のイザコザで出来た傷を、盗賊の仕業にされない為?

 ああ…ヒートアップしてやらかしたアレコレを、盗賊にやられた分だと誤魔化されないように、か。つまりは不正の隠蔽すら疑っている、と。…そこまで考えるとは…。ちょっと紅月の覚悟やら怒りやらを見誤ってたな。

 

 

 

 ちなみに、今回の件で最も大きな損害は、大体俺の手によるモノなんですが、その辺は如何に。具体的にはボディに一発ずつ入れて、崖の上から川に蹴り落して更に急速冷却までして、殆どの連中に風邪を引かせましたが。

 

 

 

 …流石にやりすぎ? ですよねー。なので罰?

 ……もしも盗賊が里人を傷つけていた場合、ある程度それを自分がやった事にする……。

 

 

 …おいおい、罪人を庇うのか? この際そうするのは構わんが、何故そこまでする? 捕らえた盗賊に、何かあったのか?

 

 

 

「いえ、違います。…今になってようやくわかりました。何故、お頭がサムライを迎え入れたのか…その理由の一つが、昨日の醜態です」

 

 

 変な言い方になるが、サムライが居なけりゃ、里人同士の小競り合いもなかったと思うが?

 

 

「確かにそれは事実でしょう。ですが、本当に問題なのはそこではありません。お頭たった一人が居なかっただけで、ああまで統率が乱れ、人間同士でぶつかりあう。我々は…こう言っては何ですが、自分で考え、自分で律する力が無さすぎる。お頭がサムライを受け入れたのは、単に戦力増強の為だと思っていましたが…指揮系統を分ける必要があったからだと思うのです」

 

「一人が動けなくなっても、別の部隊が動けるように、と言う事ですか? 有用なのは確かですが、部隊間での軋轢をどうにかせねば逆効果だと思われます。…それに、時継や雷蔵ではいけないのですか?」

 

「それを改善する為の第一歩として、貴方にお願いしたいのです。彼らがやった事を、誤魔化されないように。それと、時継さんと雷蔵さんは、霊山に帰られました。お頭が不在なのは、その見送りの為です」

 

 

 あれ、あの二人もう出発したのか? 2か月くらい滞在するって言ってたのに…。

 それはともかく、そう言う割には、俺に濡れ衣を被れと言ってるな。矛盾していないか? いや、別にやるの事態は構わんのだけどさ。

 

 

「…心苦しいとは思っています。ですが、水が清いだけでは生きていけません。何より、私は確信しています。この保険が必要となる事は無いと」

 

 

 …どゆ事?

 

 

「賊…焔を捕らえた際、彼の持ち物を検分しました。武器として使えそうなのは、腰にあった仕込鞭のみ。非常に使い古されていましたが、少なくともここ1か月の間に人を傷つけた形跡はありません。仕込まれていた筈の苦無は全て使い尽しており、これまた少なくとも数週間、補充した形跡はありません。要するに、里に侵入してから、他社に対して攻撃した形跡は一切ないのです」

 

 

 そん確信持ってんなら、俺に態々話を通す必要は………おい、まさか俺を巻き込む為の口実だったり…。

 

 

「……な、ないとは言いません」

 

 

 …急に妙な搦め手に目覚めおって…。

 

 

「これでも、次期お頭候補と言われていますから。正しいだけでは人はついてきません。里の為に何が出来るかを考えた結果、こうなりました」

 

「その考え自体は否定せんが、自分でやる必要があるのかを一度考えておけ。自分達の上に立っている人間が、不正も厭わないと知ってついていける者は少ない」

 

「…忠告、痛み入ります博士。それで…如何でしょう?」

 

 

 …まぁ、確かにあの醜態は目に余ったし、アレを是正する為と言うなら、多少の汚名は被ってもいい。

 ただし、対価は貰う。…その保険が必要になった時に、何をしたかの出来高払いでしい。

 

 

「ありがとうございます。報酬はハクでいいですか?」

 

 

 …いつもならそれでいい、と言う所だが…合意の上とは言え、人に罪を擦り付けようってんだ。もうちょっと別の趣向にしよう。

 そーさな……。

 

 

 

 罪の大きさによって、セクハラが許されるとゆーのはどうだろう。

 

 

 

「せくはら? とは何ですか?」

 

 

 …おう、そこからか。他の2人も知らない単語らしい。…半分冗談で言ったんだが、説明せにゃならんのかな…ビンタでも飛んでくるかと思ってたのに。滑ったギャグの説明を要求されてる気分だ。

 だが退かぬ。喪じ…もとい、男女交際の経験が限りなく少ない紅月の覚悟を計るには、これが一番だろうからな! …役得狙ってるのも否定せんが。

 

 セクハラと言うのは……合意を得ていない、性的な接触である!

 

 

「…は?」

 

 

 代表的なものとしては、強引な接吻、無断で肌に触れる、秘めておきたい事…具体的には乳の大きさやら過去の男女経験…いや紅月の場合これは無かったな…を聞き出そうとしたり、淫猥な言葉を延々と囁いて反応を楽しむ等がある。

 

 

「普通に犯罪だ痴れ者! 何を考えてそんな条件を出している!」

 

 

 だーって、賊の犯罪の一部を肩代わりしろってゆーとる訳ですよ? 金で済ませていい話じゃないっしょ。

 

 

「だからと言って、何故『せくはら』を要求するのですか…。真実犯罪者ですよ」

 

 

 これは単なる取引の条件であって、強要しているのでも脅迫しているのでもないからセーフ。対価としては、話にならない程高価って事もないと思うが?

 そもそも出来高払いだから、賊が本当に人を傷つけていないなら、その手の行為を要求する権利は一切なくなる。

 

 …で、どうすんの紅月。了承するにせよ拒絶するにせよ、別の条件を出して妥協案を探るにせよ、返答………あれ?

 

 

 紅月の顔色が百面相している。オーロラのように色とりどりだが、あまり見目麗しくはない顔色だ。

 目が漫画みたいにグルグル(シッパイシチャッタ)状態だし、全身に物凄い汗が猛烈に噴き出していた。……なんぞ?

 

 

 

「ふ……ふ……」

 

 

 ふ?

 

 

「ふつつかものですがすえねがくおながいしますーー!!」

 

 

 バン!(ドカン!)

 

 

 …工房を飛び出していった。しかもご丁寧に扉を吹っ飛ばして、正面の崖に激突して。しかもセリフは、ねとなが入れ替わってるし。

 ………なにごと?

 

 

「何事よりも、お前が何を考えてあんな条件を出したのかが気になるが。私も女の端くれだ。場合によっては銃弾では済まんぞ」

 

 

 端くれってのが何か哀愁を誘うが、要するに受けるかどうかを見たかった。紅月が何考えてどう動くかは知らんけど、腹括ってないと人を動かす仕事なんぞ務まらんだろ。特にこのご時世じゃ。勝ち目がある博打ならともかく、中途半端な策に乗って大損こいただけ、なんてのは御免被る。

 で、腹を括ってるか…要するにどれだけ体を張るかを見ようとした。命かけての切った張ったはもう日常と言えるくらいだから、それ以外に紅月が弱そうな所となると…男女の色事かな、と。未だって婚活の為に料理習ってるくらいだし…。

 

 

「…ふむ、筋は通っているな」

 

「いますか?」

 

「対価を要求する事は当然の権利だし、紅月自身の自腹を切らせ、尚且つ他人に代行させる事はできない。ハクであれば稼ぐか、場合によっては依頼による経費として認められるやもしれん。…依頼の内容は誤魔化す必要があるだろうがな。まぁ、良くはないが悪い手でもなかったのではないか。対価は確実に用意できて、本人にとって苦しい物であり、そして自分の意思一つで決められる」

 

 

 そういう事。他にいい対価の案も無かったし。……まぁ、あの反応は予想外だったけど。

 なんか妙な方向に進んでる気がするな…。様子見ておいた方がいいかも。

 

 

「そもそも理解できないのですが、体に触れさせる事が報酬になるのですか? 私には未だに理解できません」

 

「別にせんでも……ん? …ホロウ、お前の言い分だと、似たような事を経験した事があるように聞こえるんだが…」

 

「路銀が必要な時や、協力の対価に要請された事ありますが」

 

 

 マジで!?

 

 

「はい。性交は妊娠の危険があるので断りましたが、胸や股に触れられた事ならあります。触れたがる理由も、殊更に拒否する理由もわかりませんでした」

 

 

 と言うか、妊娠…するの? 人造人間だよな?

 

 

「基本的な構成は、天然の人間と変わりありませんから、理論上は出来る筈です。尤も、試した事はありませんが」

 

「触れられた時に…その、妙な感覚とか、不快感は無かったのか?」

 

「全くありません。好きにさせていたら、相手は何やら興味を削がれたような態度になりましたが」

 

「…率直に聞くが、股座が濡れた事は?」

 

「ありません」

 

 

 

 

 

 …なぁ、博士…。要するにコレって、不感症…?

 

 

「いや、そもそもそういった神経自体が備わってないか、全く発達してない可能性もありうる。イヅチカナタとやらを追うのに、そこまで人間に似せる必要もないだろう」

 

 

 拒否感を感じないのは、まぁ生来の性格と言うか、本当にどうでもいいと思っているからかもしれんが…。…なぁ、これどうにかした方がいいと思う?

 

 

「やめておけ。ホロウの精神状態が変質する恐れもあるし、そこまでする理由もない。下手な事を言って一般人と同じような感性を持たれたら、あんな要求をしたお前への悪感情が膨れ上がるかもしれんぞ」

 

 

 …それはちょっと遠慮したいな。今回以降のループでも、何度も顔を合わせる可能性もある。後ろから撃たれるような可能性は、極力抑えておきたい。

 

 

「なら妙な事は考えない事だ。それより紅月の様子でも見てこい。…西歌が手塩にかけて育てた、一人娘みたいな奴だからな、妙な誤解をされると、里を挙げて討伐しに来るぞ」

 

 

 …この前提案した事を考えると、あまり笑えん話だな…。ウタカタへの出発、早めようかな…。

 

 



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204話

大分治ってきた…。
後はカサブタと脇腹の神経の痛みか。
神経の痛みは暖かくしてればあまり感じないらしいから、ホッカイロでも貼り付けておくかな。


 

 

凶星月

 

 

 紅月がポンコツモードに入っていた。…やはり刺激が強かったか?

 で、それについて何故か真鶴が俺を問いただしている。…アンタ、外様のサムライの副長だろ? なんでそんなに気にしとるん? いや、同じ里に住んでる仲なんだし、気にかけちゃイカンとは言わんが。むしろ気に掛け合ってくれた方がいいんだが。

 

 

 …同じ女として、よろしくない予感を感じた?

 

 

 …おおう、よく見れば目にアカラサマな怒りが宿っている。これはアレか、俺が紅月に不埒な要求、或いは行為をしようとしたと思われているのか。

 あまり反論できな…待った待った待った!

 

 紅月から要請された協力への対価を、一案として挙げただけで、こっちから強要はしていないし、別の対価の案があれば譲歩する気もあった!

 そもそも、これは対等な立場からの取引だ! 互いの要求が認められなければ降りる事だってできるし、断ったところで互いに損害を与える気は……え?

 

 

 

 

 対価に色事を求める時点で論外? そういうのは籍を入れて結婚するまでやったらいけない?

 

 

 

 …え…あー…うーん、うん…言ってる事は…まぁ分かるんだけども。年齢その他には目を瞑って、乙女(  )(好きな字を入れて)の尊厳を切り売りするような要求をする事自体がアカンし…。

 なんちゅーか、潔癖やな…。

 

 いや待て落ち着け。弓を射るのはこの際いいけど話を聞け。と言っても、紅月から持ち掛けられた取引については、諸事情あって本人の許可がなければ話す事はできない。

 だから、今から紅月の様子を見に行こうと思うんだが、どうだろう。被害者本人に話を聞くのも重要じゃないか!?

 

 

 

 いや問答無用じゃねーよ。

 

 

 とりあえず、矢は全て叩き落して、鬼疾風で急接近して弓をとりあげる…つもりだったが、そういや鬼疾風は先日見られてたんだよな。予測済みだったらしく、躱し打ちでカウンターを喰らう所だった。

 まぁ、そこからの鬼の手は予想外だったようだが。直接真鶴に使って捕縛するんじゃなくて、方向転換と移動に使っただけだ。

 

 どうにか抑え込み、宥めすかしてなんとか捕縛。そのまま有無を言わせず紅月の家まで連れて行った。…それを見ていた里人も何人か居たが、あまりの剣幕に恐れをなして首を突っ込めないようだった。行き先が紅月の家だと分かって、妙な事はしないだろう、と思われたのもあるかな。

 

 

 

 

 で、肝心の紅月の家だが。

 

 

 

「お、おかえりなさいませ旦那様!」

 

「…………」

 

 …………。

 

「生鶴…? 何故彼女と共に…はっ、妾ですか妾なのですか!? 私とはまだ手すら繋いでいないのに「誰が妾か! そして私は真鶴だ!」 へぶっ!」

 

 

 パンチで沈んだ。…おい、どういう事だろコレ。

 

 

「私が知るか。…む、目に隈ができている…どうやら眠れていないらしいな」

 

 

 そういや、部屋も結構散らかってるな。元からあまり片付いているとは言えない部屋だったようだけど、紅月がジタバタしたと思われる痕跡が結構ある。

 ……何か?

 昨晩の話の後、帰ってから文字通り一晩中悶えてたのか? …うわ、服も汗びっしょりだ。よく脱水症状にならなかったな。

 

 

 

 …紅月の汗が染み込んだ服…か。

 

 

 

「おい、今何かよからぬ事を考えなかったか?」

 

 

 見逃してくれ。男の本能だ。

 

 

「…汚らわしい…。想像するまでなら不問としよう。実行に移すようなら、今度は至近距離から脳天を射抜く」

 

 

 へいへい、潔癖症ですこと。それはともかく、紅月どうすっかな。眠れてないみたいだし、このままにして休ませるべきか?

 

 

「そうしてやれ。…紅月の反応を見るに、私の怒りも勘違いだったようだしな。…迷惑をかけた」

 

 

 いや真鶴のは勘違いっつーか、今度はなんか紅月が勘違いしてそうなんだけど。何だよ旦那様って。

 

 

「そっちは私の知る所ではない。君達で解決して「真鶴!」……神無?」

 

 

 

 BANG,とばかりに扉をぶち破って…ああ、また修理しないと…登場した神無は、妙に殺気立っていた。初っ端から刀にも手をかけ、完全に戦闘態勢だ。

 キョトンとした顔の真鶴を見て、大きく息を吐いた。

 

 

「…どうしたんだ、神無」

 

「どうもこうもない…。お前が鬼内の家に無理矢理連れていかれたと聞いて…」

 

「………そうか…」

 

 

 …え、なにこの空気。はやいとこ、紅月の布団を敷いてやりたいんですけど。

 

 

 

 

 

 

 結局、紅月はそのまま寝ると言うか気絶するに任せ、扉だけ修理して俺と神無は帰る事になった。真鶴はと言うと、紅月が起きるまで介護していくそうだ。

 色々気になる事はあったが、紅月が目を覚ました時、俺が居るとまた混乱して話がややこしくなりそうだから、と押し切られた。

 

 

 

 …帰り道、暫く神無に殺気をぶつけられていたが…受け流していたら、大きく一呼吸して殺気を引っ込めた。

 何だとゆーのだ、一体。

 

 

「…すまんな。真鶴が鬼内に連れていかれたと聞いて、早合点してしまった」

 

 

 それは別にいいけど、そこまで殺気立つ事なのか? 鬼内と反目があるのは知ってるが、まさか白昼堂々連れ去って私刑にかける訳でもなかろうに。

 

 

「……鬼内は、信用できん…。例え、ここの鬼内が俺達を奴隷扱いしていた奴らとは違ってもな。特に真鶴は………」

 

 

 真鶴は…何よ。欝な話なら、無理に言わんでも…。

 

 

「…いや、この際だから言っておく。俺も、真鶴も…奴隷扱いされている間、散々虐げられてきた。…俺が檻に入れられている間、真鶴が連れていかれた事もある。…刀也に助け出された時は、俺が連れていかれる所だったが」

 

 

 …それは。ていうか、お前を連れて行ってどうする気だったんだよ…。

 

 

「さぁな。身動きできなくして集団で痛めつけるか、それとも見せしめに死刑にでもするか……だが、考えてみればあの時俺を連れて行こうとしたのは、衆道で有名な奴だったような……いや、この際俺はどうでもいい。真鶴が連れていかれた先で、何があったのかは知らん。あいつも言おうとしないし、言いたくもないだろう。…俺も、想像はつくが……今でもその時の事を思い出すと、怒りと惨めさで気が狂いそうになる」

 

 

 ……ヒデェ時代だったみたいだな。

 

 

 

 ………でも真鶴って純潔だぞ?

 

 

「…あ?」

 

 

 色々とまぁ、あっちこっちで関係持って「破って」きたもんで、見れば経験済みかどうかくらい分かる。

 ああでも、鬼内、特に男に対していい思い出がないのは事実みたいだな。

 今回の件も、紅月の事でちょっとした行き違いと言うか誤解と言うか、そう思われても仕方ない事があったから同行したんだが、反応がえらく過剰で直接的だったし…。

 

(……見世物、か。多分それだな…。手は出されなかったものの、剥かれでもしたか…)

 

 

 

「…真鶴をそういう目で見ていたのは、まぁいいとして…どちらにせよ、この里の鬼内も、あの連中のようになるのではないか、という意識が消えん。…鬼内ではないが、モノノフであるお前もな」

 

 

 …俺ぁ、元々モノノフじゃなかったんですが? 他所の里で訓練を受けてこうなっただけだ。いや、訓練だけじゃなくて、成り行きで色々とありましたが。

 

 

「そうか。……羨ましいよ。お前はこんな世界の中で、まるで重い荷物を持っていないようだ。何もかもが、自分には関係ないって面をしている」

 

 

 そうかね? …まぁ、そうかもな。それなりに背負ってる物はあるつもりだが、毎回毎回それがリセットされるからよ。

 

 

「りせっと?」

 

 

 …秘密だ。ま、気楽なもんだけど、心残りを晴らす事は一生できそうにないのが難点かな。

 

 

 

 

 何にせよ、今のは聞かなかった事にしてやるよ。お前らの過去に何があったのかは知らんし、知ったところで俺から偉そうに言える事はないが……少なくとも、最強を目指そうって奴が吐く事じゃなかったぜ。

 

 

「…そうか。そうだな…。つまらん戯言だった。忘れてしまえ」

 

 

 

 …そう言いながらも、自分自身は忘れようにも忘れられないって面だった。

 

 

 

 

凶星月

 

 

 西歌のお頭が戻ってきた。なので、捕らえた賊の処罰を決める事になったんだが…その場に俺も呼ばれている。紅月から呼ばれた為だ。

 その紅月はと言うと、真鶴に付き添われて俺と向かい合ったんだが……顔を赤らめはしたものの、取り乱す事は無かった。

 咳ばらいを一つ。

 

 

「…見苦しいところをお見せしました」

 

 

 いや、あれは明らかに俺が悪かったけど……なんであそこまで取り乱したん?

 イテッ…おい真鶴、なんで礫とかぶつけてくるんですかねぇ? 当たり所と数によれば、ハンターをも殺せる威力だぞ。…ハンターを150発で倒せるとか、考えてみると割とスゴイかもしれない。

 

 

「お前が悪い」

 

 

 そりゃ何となくわかると言うか、腹の座りようを見る為とは言えあんな提案をしたのが原因なのは分かるが…何? 違う?

 真鶴に引っ張られて連れていかれる俺。ホッとしたように溜息を吐いている紅月は、深呼吸を一つして、賊の裁きの場に向かった。

 

 

 そして路地裏で、襟首とっつかまれて引きずられる俺。人目につかない所にまで連れてこられて、忌々しいと言いたげな顔と口調で耳にささやかれる。

 

 

「鈍感で凡骨なお前にもわかりやすく言ってやる。女の操と言うのはな決して安い物ではないんだよ。みだりに触れていい物ではない。不埒な真似でもすれば、一生をかけて償わねばならん。契るなんぞ以ての外だ。どんな意図と経緯があれ、それをさせろ、とお前は言ったんだ」

 

 

 はぁ。いや、悪い事したと思っちゃいますが。

 

 

「…良いだ悪いだを論じる時点で分かっていない。どうやらお前は、私達と違う価値観を持っているようだが、よく覚えておけ。お前は紅月に、触れさせろと要求したのだろう? それは…求婚と同じ事なのだ!」

 

 

 な、なんだってー!

 

 

 

 

 いや割と真面目になんだって? セクハラの要求が求婚とか、ねぇだろ。そんなんだったら、セクハラ上司とか痴漢とか強姦魔とかの扱いは何よ?

 

 

「無論、それは死罪だ。一方的に女子の肌に触れるような不埒な輩は死滅させていい。だが、お前は一方的に、ではなかっただろう」

 

 

 そりゃ確かに、取引の元で要求しましたけどね。そーいう問題?

 

 

「不埒な取引である事には変わりないがな。だが、そう珍しい事でもないだろう。政略結婚もあれば、何かを求めて嫁ぐ事もある。…紅月にはな、お前の言葉がこう聞こえたのだ。『お前の取引を飲むから、俺に操を捧げろ』…つまりは、嫁にこい、とな」

 

 

 ……う、う~ん……?

 考えてみりゃ、接吻とかしていいか、と聞くのも、好意を示して要求していると言えなくもないし…。確かに、あの時の紅月の反応は、プロポーズされてテンパったと言われても違和感がなかったような…

 

 

「私達が家を訪ねるまで、一晩中悶々として唸り続けていたそうだ。その挙句、私を伴って顔を出したら妾扱いだったがな…。ああ、安心しろ…と言うのも何だが、今は落ち着いている。一眠りしたら、冷静になったようだ。お前がどういう意図で発言したのかも理解している」

 

 

 それは残念…なのか? 割と脈はありそうだが。

 

 

「そのような、『取れそうだから手を伸ばす』程度の覚悟で女性にちょっかいを出すなど、私が許さん。女人を抱こうと言うのなら、一生涯の面倒を見る覚悟で抱け」

 

 

 …耳が痛いね。いや、離れるつもりで抱いた事なんて、一度だってないんだけどさ。……押し倒された事ならあったけど。

 

 

 

 

「…さて、その件についてはこれまでとして…賊の事は何か知っているか?」

 

 

 いんや、どっちかと言うとホロウか紅月に聞いた方がいいと思うぞ。散々追い回したのはホロウだし、直接捕らえたのは紅月だ。

 

 

「そうか。サムライにも数人の怪我人が出ている為、処罰には物申したい部分もあるのだが」

 

 

 

 …あ? 紅月は、賊は誰も傷つけていないって言ってたぞ。

 

 

「…何?」

 

 

 怪我人の傷は?

 

 

「刀傷だが」

 

 

 

 …こりゃ、紅月の懸念は大当たりかもな。ただし取引不成立、か。

 

 

「………どういう事だ」

 

 

 紅月曰く、賊は誰も傷つけてないんだってさ。最後まで得物を抜かなかった。

 これはホロウにも確認した事だが、賊の武器は仕込鞭。刀傷なんぞできやしない。仕込んでいた苦無も、とっくに使い果たしていた。そもそもからして、賊に追いつけたのはホロウと、直接捕らえた紅月だけだ。

 

 

 さぁ、誰が刀何ぞ使ったんだろうね。どっちから、と言った方がいいかな? 傷が出来てても重症人じゃなかったって事は、本気ではなかった…と解釈していいのかね。

 

 

「…………………」

 

 

 

 おお、怖い怖い。精々派手にやってくれ。紅月の為にもなるだろ。

 …上手く隠し通せれば技あり。工夫を凝らして切り抜けるなら、小悪党であっても天晴。根回しして手出しできなくさせれば、小癪であっても見事と言おう。だがしくじった時点で全ては無様。

 根回しも隠蔽もお粗末で、バレた場合の事を覚悟すらしてなかったのなら………。

 

 

 

「私が、鬼と化す。今この瞬間からだ。…何かと手間をかける事になりそうだ。礼はまた何れ」

 

 

 先程の会話のおかげで、礼は操でいいのよ、と言えないのが辛い。

 んじゃ、裁きの場に向かうとしますかね。

 

 

 

 

 

 と言う訳で、真鶴と別れて裁判所?に来た訳だが…むぅ、あれが賊か。かなり強いな。いや、強いというか上手い…これも違うな、良くも悪くも腹をくくってる。

 とっ捕まって叩き伏せられて、今は縛られて裁きの場に連れ出されてるってのに、諦めてない。そのクセ逃げ道を探そうともしていない。

 …機を待っている、って事か。それを微塵も見せない狡猾さがある。

 俺も内面観察術を使ってなかったら、騙されたかもしれない。

 

 鬼と戦った経験はそれなり以上にあるようだが、装備品の付け方からして正式なモノノフじゃなさそうだ。モノノフなら、英霊の力を借りる為に、動きから装備品まで色々と決まりや拘りがあるが、それがない。

 と言う事は、オオマガトキで生き残って、そこから自力で生き延びてきたのか。強い弱いよりも、逃げ隠れに幸運、その他諸々に秀でたサバイバータイプだろう。

 

 

 …ここまで一見しただけで分かるとかオカシイって? 師匠のフラウさんなら、今この瞬間どころか3分後に何考えてるか平然と当てられるんだぞ。このくらい軽い軽い。

 

 

 お頭の前で、罪状が読み上げられる。食料の窃盗から始まり、里への不法侵入、里人を傷つけた事、その他諸々…。一通り読み上げ終わって、西歌のお頭が賊…焔に向き直る。

 

 

「申し開きはあるか?」

 

「何言ってもどうせ信じやしねえだろう? 好きに言えよ」

 

 

 ふてぶてしい態度を崩さない。それに苛立っているのか、周囲のボルテージが上がっているようだ。

 

 

「ふむ…では、この賊を弁護する者はいるか?」

 

 

 居る訳がないな。犯罪者、盗賊をかばう理由なんて、普通なら無い。…普通なら。

 周囲の人達を押しのけ、真鶴が進み出る。同時に、西歌のお頭の横に控えていた紅月が一歩前に出た。鬼内、サムライの有力者が、賊を庇おうとしている事で、少なからず動揺が走った。…「ヤバい」って面してる奴らが何人かいるな。

 

 

「一つ訂正があります。確かに賊は狼藉を働きましたが、里人を傷つけてはいません。証人は私、真鶴。そして彼です」

 

 

 視線が集まる。

 

 

「ほう? だが、現に怪我人は出ているぞ。これはどう説明する?」

 

「賊が使うのは仕込鞭です。ですが、怪我人は皆、刀傷を受けていました。また、怪我人は多くいましたが、彼らがそれを負った場所はあまりにも離れすぎています。…真鶴」

 

「裁きが行われる前に、独自に調査をとりました。サムライ・鬼内共に証言を得て、それを元に調べたところ、血痕が発見されたのは殆どが里の外周部付近。この男が常に逃げ回っていたとはいえ、一晩でそれだけの場所を巡り切り、相応の実力を持つサムライ・鬼内に手傷を負わせるなど、とても時間が足りません」

 

 

 …どんどん顔色が悪くなる者数名。怪我人じゃなさそうだが、隠蔽工作に協力した奴かな?

 と言うか、明らかに茶番だな、コレ…。西歌のお頭はとっくに理解しているだろう。と言うか、多分報告を受けた時点で気付いている。隠蔽工作が杜撰すぎるわ。…たぶん、サムライも鬼内も自分で隠蔽をしたが、互いに示し合わせた訳じゃないようだから、その辺で既に矛盾が生じていたんだろう。

 それを何も言わずに放っておいたのは、次期頭領の紅月がこれをどう裁くのか見極める為…かな?

 

 

 …意外と残念なところがあるお頭だから、素で気付いてない可能性も否定はしきれんが。

 

 

 審議はどんどん進み、物証として賊の持っていた仕込鞭に、人を傷つけた痕跡がない事まで指摘される。

 ならば、怪我人達は一体何故傷を負ったのか? という疑問も出たが、その話に関しては西歌のお頭が後回しにさせた。今は賊の裁きの場である。

 

 真鶴と紅月は、怪我人については改めて調査する、と…殺気が籠った目で、それぞれサムライと鬼内を睥睨し、それでいったん引っ込んだ。…根性叩き直す気だな、あれは…。

 

 

 

 しかし、賊はそれでどうすんべぇ。人を傷つけるという最悪の行為を取ってなかったとは言え、無罪放免ではない。盗みに限らず、犯罪と言うのは「成功しなかったから無罪」とはいかないもんだ。特にこのご時世で、食料泥棒は死罪一歩手前だ。

 今は多くの鬼内、サムライ、その他一般人も見ている中での裁きだ。なぁなぁで事を済ませてしまえば、必ず後を引く。

 

 どうなる事か…と思っていると。

 

 

 

「では、この賊は博士に預けるとする」

 

 

 …はい? いきなり予想外。と言うか、これってなぁなぁの結論だよな? 後退くよな?

 実際、周囲でも何故処罰しないのかと、不満の声が上がっている。人を傷つけてはいないようだが、やはり罪人だし…或いは、死刑を見に来た人も居たのかもしれない。

 

 ちゃんと考えて発言してんのか、このお頭…。

 

 

「と言う訳で、持っていくように」

 

「おう、何だかよくわからねぇがよろしくな」

 

 

 アッハイ。…とりあえず死なないと分かったからって、切り替え早いっすネ。

 ちゅーかお頭、この際連れて行くのは構わんけど、理由を説明してもらいたい。博士預かりになるってんなら、俺達は賊と一つの屋根の下で寝起きする事になる。何かしら考えや保険があるなら聞いておきたい。

 

 

 

「保険と言うなら、君が保険だな。口惜しいが、サムライ・鬼内の中を見回しても、君以上の実力者は居ない。何せ、私さえ下して見せたのだからな」

 

 

 …さっきより強い騒めき。西歌のお頭を負かした、というのが余程信じられないのだろう。

 まぁ、確かに…死刑にしない、監禁もしないとなれば、有事の際に一番確実に抑え込めるのは俺か。散々追い回したホロウも一緒にいるんだし…。

 

 

「加えて言えば、これは処罰も兼ねている。実は先日、博士を訪ねた折に、丁度いい実験台が居ないかと相談されてな」

 

 

 …あー、鬼の手の。完成したんかな。

 

 

「理論上では完成しているが、臨床実験は必要だそうだ。…まぁ、もし調整がうまく行ってなかったら、右手で吹き飛ぶらしいからな」

 

「………」

 

 

 今後がちょっと心配になってきたのか、冷や汗を流す賊。…なんか哀れだな。名前で呼んでやるか…確か焔、とか言ったっけ。

 まー何だ、危険は大きいが、上手くいけば強力な戦力も手に入るから、ちょっとした博打だと思って頑張ってくれ。焔が頑張っても、あんまり意味ないけどさ。

 

 

 

 

凶星月

 

 

 とりあえず、焔の腕には無事に鬼の手が装着された。…が、起動せずッ…! どうやら着脱機能が邪魔をしているらしい。焔、右手が無事でよかったな。

 うーむ、何だかんだで中々完成しないなぁ。サンプルを作る為のカラクリ石の確保にさえ苦労している状態だし、無理もないっちゃ無理もないが。

 

 工房で暮らす事になった焔だが、軽口を叩くくらいで、今は大人しい。体力が回復しきってないし、ちゃんと3食食えて屋根がある場所で寝られるのだから、現状に不満がないようだ。

 やっぱり、生きていく為に野盗やってたタイプか。免罪符にはならんけど。

 

 

 その一方で、サムライや鬼内はエラい事になってるみたいだけどな。焔をお咎めなし状態にしておく事に、不満を抱く余裕すらないくらいに。

 何があったかなんて、言うまでもないだろう。紅月と真鶴が、粛清しまくっている。

 真鶴なんて、あれから半日も経っていないのに、「鬼の副長」なんてドカタさんもとい土方さんみたいな渾名がついてしまったくらいだ。鬼内と私闘をやらかしたと思しき怪我人も、情け容赦なく半殺しにしている。眼鏡に返り血がついてた。

 まぁ、局内法度の違反は即死罪じゃないだけ、まだ有情か。

 

 …あ、またサムライの屯所と鬼内の稽古場の辺りから悲鳴が…南無南無。

 

 

 

 

追記

 

 裁きの後、紅月が焔に「本当に人を傷つけてないか」を問うていた。

 確認っつーよりは、「何か出てくれば儲けもの」みたいな印象だった。焔の方も、尋問されるような雰囲気ではなかったし、何もなかったと答えたらむしろ落胆したような表情すらあった、と証言している。

 ……誤解は解けたハズだが、やっぱアレかな…。男をとっ捕まえるチャンスって意識は消えなかったのかもしれない。

 

 

 



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205話

帯状疱疹もほぼ治り、昨日から出勤です。
長期休暇をいただきましたが、こんなに嬉しくない休暇は初めてだったよ…。

ゼノバース2もクリアし、エキスパートミッションもすべて終了。
楽しくはあったんだけど、流石に飽きるなぁ…。パラレルクエストは約70%です。
トロフィーコンプを狙おうかと思ったけど、エンドレスバトルとか相手がなぁ…。

新しい暇潰しとして、Gジェネ買おうかな…。でも原作追体験型か…クロスは無いのか…。
それともウォッチドッグス2…アサクリはまだだしなぁ…。




…気が付けば、体験版と間違えてDestinyを購入していた…うぼぁ
まぁ、タイムアベンジャー辺りじゃなかっただけマシか…。




凶星月

 

 異界を歩き回って、適当にその辺で狩りをしていた。ここの所、神機を全然使ってなかったので、動作チェックも含めて。

 それは別にいい。神機にも問題は無かったし、さしたる強敵も居なかった。

 

 

 …だが、妙なストーカーが出来てしまった。そいつの名は清磨。出会った時は、自称『最強天才鍛冶師』。…鍛冶師が最強って、殴り合いが強いのかね?

 そして今は、『最強の武器を目指す天才鍛冶師』だ。

 

 事の起こりは、よくある話だ。適当にウロチョロしていると、小型鬼の群れに襲われている人を見つけた。珍しいな、と思ったのは、襲われている人がモノノフではなかった事だ。武器こそ持っているが、護身用以上の意味は無いらしく…或いは、鬼を追い払う事はできてないから、護身にすらなってないが…また動きも明らかに戦う訓練を受けた者ではない。

 放っておくのも気分が悪いので、サクサク助けた。

 

 

 ここで神機を使ったのが間違いだったなぁ…。いや、使ったって言っても、普通の武器と同じ扱いだよ? 銃形態も盾形態も使わなかったし、プレデターフォームなんて見せてもいない。当然、リンクバーストだって使ってない。

 形は珍しいけど、単なる太刀みたいなもの……だったのに。

 

 

「その太刀は一体なんだ!?」

 

 

 …助けられた礼も無しに、第一声がコレだったよ。見せろと神機に触りにくるけど、それ触ったら侵食されて死ぬぞ? 俺のカラダの一部みたいなもんでも、そこまでコントロールできるか分からないしな。

 とりあえず張り倒して、俺以外が触れたら速攻で死ぬ呪いがかかっていると説得。納得してなかったようだが、プレデターフォームを見せたら嫌が応にも理解したようだ。見慣れない人間からすればグロテスク極まりないし、何より捕食者のプレッシャーが強いもんな。

 

 で、清磨と名乗ったそいつは、上記にも書いた通り、最強天才鍛冶師…と名乗り、すぐに最強の武器を目指す天才鍛冶師、と名乗りを改めた。

 とりあえず異界から連れ出して話を聞いてみると、名乗りの通りに鍛冶師であり、強い武器を作る方法を求め続けているらしい。本人の腕前も…少なくとも、持っていた武器を見るに…かなりのものだ。この若さで、そんじょそこらの鍛冶師より、ずっといい仕事をしている。

 

 だが、それ故に学べる相手も居らず、更なる上達が見込めず、やがて自分こそが最高の鍛冶師なのだと思うようになり始めた。勿論、それが己惚れである事は自覚していたが、実際に自分以上の鍛冶師が居ない状況では、その思い上がりを払拭するのは難しい。

 せめて更なる領域への手掛かりを得られないかと、異界を彷徨っていたところ、見た事もない金属で構成されている俺の武器…神機を目にした。

 

 カルチャーショックってレベルじゃなかったようだ。使われている金属は完全に未知で、作り方も加工の仕方も分からない。武器の形状は複雑で何かしらの仕掛けがあるようだが、形状の一つ一つに意味があり、今まで自分が作ってきた武器とは比べ物にならない技術が使われているのが分かる。

 鍛冶師の頂点を見たと思っていたら、それはそこらへんの小さな丘でしかなく、突然目の前に断崖絶壁が現れたような…。

 

 

 

 

 うん、その辺の語りには興味ないわ。好きなだけ、ヤックデカルチャーと叫んでくれ。

 まーとにかく、そーいう訳で清磨とやらは、俺の武器に執着して里までついてきてしまった訳だ。

 結構な有名人らしく、里では歓迎も受けていた。里の鍛冶師に技術を教える事で、里に定住する許可も得て、更にそれで給料まで出るとか。

 

 サムライにも歓迎されてた。まだ彼らがマホロバに来てなかった頃、武器を作ってやったことがあるとか何とか。うーむ、意外な繋がり。

 

 

 とりあえず、今は呪いがあるからって事で神機には触れていないが、正直時間の問題だ。あれはリスクとか考えずに我が道を突っ走る人種だ。

 俺の神機に勝手に触って勝手に死ぬのは知った事じゃないが、それで管理責任って事になるのも面倒だしな。

 

 

 …と言う訳で、神機以外の武器を渡してみた。MH世界で作った古龍素材の武器と、前の討鬼伝世界でウタカタのタタラさんに作ってもらった武器。

 これまた二つ共にショックを受けていたようだが、より興味を惹かれたのはタタラさん作の武器らしい。MH世界の未知の素材も気になるが、タタラさんの武器は作り方も理解できるし、素材も分かる。しかしそれに使わている作り手の技量が、明らかに自分よりも一つ二つ上を行っている…らしい。

 よーわからんけどな。武器についての知識もそこそこ程度にはあるが、専門的なのはサッパリだ。精々「このハサミ、よく切れそうだな」くらいの事しかわからん。

 

 

 

 

 

 まー野郎の事はどうでもいい。ウタカタまでついてきそうな勢いだが、そうなったらタタラさんに押し付けりゃいいか。見た目も中身も職人気質な人だから、会わせてどうなるかはわからんけども。

 

 

 

 

 

 さて、話は変わるが、マホロバの里に滞在して一か月が経つ。それでもウタカタの里で大きな戦が起きた、と言う話は聞かないから、やっぱり俺が…或いはゲームシナリオの主人公格を務められる誰かが行かなきゃ、イベントは起きない…いや、違うな。異界の侵食は進んでいるだろうし、オオマガトキを起こす為の鬼達の動きだっておきている筈。

 正確に言えば、『主人公が居なければ、問題が明るみにならない』…そこまで争いが激化しないって事かな。

 たぶん、大物の鬼達は、オオマガトキを起こす為の準備を主な任務としているんだろう。前線でのモノノフ達との闘いは、下級の鬼に任せたかった。しかし主人公がやってきた事で、モノノフに押されないよう、大物達も前線に出る必要が出てきて、その結果…と言う事か。

 

 まぁ、所詮は単なる想像だが。

 しかし、もしそうだとするとヤバいな。俺らがウタカタに到着した時には、オオマガトキは既に発動寸前って事もあるかもしれない。しかし、ここまで来たらもう仕方がない。実験と、今後の戦力増強の為に割り切るしかない。

 

 

 でもそれも、もうすぐ終わりだ。博士の鬼の手はもうすぐ完成する。着脱機能の何処が悪いのかも、実験台を(不本意ながらも)務めた焔のおかげで大体わかり、後は大きなカラクリ石さえ手に入れば完全な鬼の手が完成する。その大きなカラクリ石も、手に入れる目途が立ったと西歌のお頭から連絡があった。

 …ちなみに、現在で鬼の手を装着しているのはホロウのみ。

 完成品は、出来上がったらまず里に一つ納品して試験させ、それでゴーサインが出たら大っぴらに量産に向けた体制を整える。俺らが鬼の手を受け取れるのは、それからか…。

 

 …もうすぐ終わり、と言ったけど、想像してみると意外と長いな。まぁいいけど。

 

 

 

 ともあれ、大きなカラクリ石だが、こっちに手渡すのに一つ条件があるそうな。

 俺が以前に提案した事を実行に移してほしい、と。

 

 

 …ああ、アレね。マジでやるの? 

 

 

 …やる気はなかったらしい。焔の裁きの時までは。

 里人が…鬼内もサムライも、自分の所業を隠そうとしているのには気付いていた。やった事はどうあれ、当事者ですでに決着…と言うには曖昧だったが…をつけ、なかった事にするならそれも有りか、と思っていたらしい。

 

 尤も、その考えはすぐに吹き飛んだが。紅月と真鶴によって暴かれ、読み上げられる罪状の前に、彼らは無様な程に動揺していた。暴れだしたり喚き散らしたりはしなかったものの、ちょっとした切っ掛けがあっただけで、その場から逃げ出していたかもしれない。

 その姿を見て、西歌のお頭は自分の考えの甘さを突き付けられた気分になったらしい。

 

 ま、そうだろうなぁ。サムライには、他のモノノフがやった非道の負い目があって。鬼内には、サムライを無理に迎え入れた事による引け目もあって。

 普段はそうは見えなかったが、信賞必罰の罰を下す事を躊躇っていたようだった。

 だが、それで通る程、組織というのは頑丈に出来てはいない。多少の潤滑油は必要であっても、歯車が勝手に回ったり位置を変えたりしたら、間違いなく組織は、里は崩壊する。

 

 

 

 …その為、最近手放し気味だった手綱を改めて手にする事にしたのだが…西歌のお頭は、「この際だから徹底的にやってしまおう」と(余計な事を)考えた。

 

 

 

 つまり、信賞必罰なんて生ぬるい事を言わず、鬼内とサムライの間で争うような根気を、根こそぎ奪ってしまえ、と。

 

 

 

 

 

 

 

凶星月

 

 

 西歌のお頭の取引を受けた事で、鬼の手(完成版)の作成が時間の問題となった。数日もすれば出来上がるだろう。

 随分張り切ってカラクリ石を探してきたらしく、これなら4つくらい一度に作れそうだ、とは博士の談。

 

 とは言え、その全てを俺達が貰える訳じゃない。取引相手である里に、少なくとも3個納品しなければいけない。

 仕方ないね、取引で依頼だからね。

 

 

 なので、俺達が貰えるのは残った1個のみなのだが…着脱機能無しにしたら、2個にできないかな? …できないか。まぁ仕方ないか…。

 

 

 代わりに、博士から手紙をもらった。ラヴなレターではない。それどころか、宛先・差出人共に博士本人である。

 何の遊びだ?と思ったら、「もしもまた繰り返しが続くようなら、私にこの手紙を届けろ」だそうだ。手紙の内容は、鬼の手に関する研究資料と、カラクリ石の分布図。

 それから、次回ループ時に博士に協力してもらえるよう、色々と書き込んでいるらしい…が、その内容は流石に教えてくれなかった。

 

 …で、それ以降も更にループが続く事を想定し、GE世界で手紙を複製しておけ…という指示まであった。指示の内容はともかくとして…こりゃ確定かな。今は痕跡しか残ってない旧文明の、更に複数の国の文字を読める事といい、別世界の文書をコピーする技術を知っている事といい…。

 まぁいいか。博士は協力者であって、上司部下の関係じゃない。別れ際に一言聞いてみて、それでトボけられたらそれまでだ。知ってどうなる事でもないだろう。

 

 

 

 さて、話は変わって西歌のお頭だが、本格的に動き出したようだ。里長として、里の戦力に…それこそ鬼内もサムライも関係なしに、一つの命令を下した。

 現在動ける全戦力を使っての模擬戦。模擬戦なんて謡っちゃいるが、当然それだけで済む筈がない。使う武器は本物だし、タマフリだって有りだし、オマケに互いに苛立ちや鬱憤が溜まっている集団同志のぶつかりあいだ。ヒートアップするのは目に見えている。

 トドメに、模擬戦は本気でやらないと意味がないから、怪我はもちろん『事故』まで想定の範囲内ときた。

 

 

 これってアレだよね、明らかに「これから殺し合いをしてもらいます」状態だよね。と言うかむしろヤレって煽って唆してるよね。提案した俺が言うのもなんだけど、大丈夫なのかコレ…。

 いやまぁ、大丈夫にさせるのは俺の役目なんだけども。

 

 この通達を受けたサムライと鬼内は、それはもう困惑していた。お頭の意図が読めないし、先日なんぞ私闘をやった若者達がどんな制裁を受けたか、知らない者は居ない。それを公認でやれ、と言っている訳だし。

 勿論、勝者には景品もある。限度はあるが、里長としての権限で、出来る限り望みを叶える…というものだ。

 例えば、鬼内を排除してでもサムライを結界内に住まわせるとか、サムライを追放するとかな。

 

 

 お頭の意図がどうであれ、互いに刃を向ける事を許され、景品までちらつかされて、既にこの段階から里の内圧は高まっている。紅月が戸惑い、何のつもりか問い質しにいったくらいだ。

 

 

 

 

 まぁ、お頭の意図なんて一つだけなんだがね。

 鬼内もサムライも、互いにのみ目が行っていて、一つ忘れている事がある。この模擬戦は、里の全戦力…あ、里の守りを担当する連中は除くか…を使った模擬戦だ。そう、全戦力。

 

 鬼内と、サムライと。

 

 

 そして俺達…流れ者。

 三竦みの戦いってやつだ。ついでに言えば、こいつに一石を投じなければならない。具体的には、俺達VS鬼内・サムライ連合って状態で。連合とは言わないまでも、先に俺達を潰そうとするようにね。

 ま、それについては問題ない。タマフリ挑発を使えばいい。普通なら鬼にしか通じないけど、GE世界でノヴァと繋がって3年かけて力を増大させたからな。人間にだって通じるよ。

 ついでに、一言とある名言も添えるし。いい塩梅に怒り狂ってくれ。

 

 

追記

 久々に博士が解剖させろと迫ってきた。その隙を突いて、清磨が神機に触ろうとしていたので蹴っ飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

凶星月

 

 

 性欲を持て余す。

 

 

 いや別に何かあった訳じゃねーのよ。禊場上がりの真鶴とすれ違った訳でも、俺の名前を呼びながら布団の中でモゾモゾする紅月を目撃した訳でもない。

 是非あってほしかったが、真鶴はどーもその辺、ムッチャガードが堅いんだよな…。やっぱ神無が言ってた、慰み者だか晒し者だかにされそうな経験からか。

 

 いやまぁ、その辺の事は置いといて。

 考えてみりゃー、一か月近くも二人の女と同居して、ナニもねーのだ。ナニがないのだ。Toでラブるなラッキーエロ学派すらなかった。うむ、俺にしてはかなーり珍しい現象といえよう。

 …こんな考え、ループ前の俺なら「なんだこいつ…」って気色悪く思うだけだったろうなぁ。

 

 しかし、何にせよ発散する暇もなく一か月を過ごした訳だ。成り行きとは言え、オ○禁してりゃームラムラもするわい。

 …いや、発散は出来ただろうけどね。博士もホロウも、ちょっと発散したいから、と言えば席を外すか、「適当にその辺で始末してこい」という程度の情けはある。

 ホロウに至っては、「妊娠しないのであれば構いませんが」とか言い出しかねん。今までの旅路で何度か似たような事をやった、って聞いてるし…。しかしそれはそれでどうかと。何だかんだで、今まで童貞を捧げた(そしてなかった事になった)水商売のおねーさん以来、それなりの情を通じた関係だったからなぁ…。いやサービスだと分かっててノレない訳じゃないんだが。

 

 

 …何を日記に書いてんだ、俺は…。仮にこのまま書き続けたとしても、エロ語りではなく俺の自己処理の事しか書けねぇよ。この日記破いてもそんなもん書かねぇよ。…いや待て、R-18と銘打って詐欺れば…………? ……俺の中ののっぺらミタマが、やったら自滅因子に変身すると大騒ぎしている気がする。

 

 

 

 

 さて、ツカミを大外ししたところで、本題に入る。明日、西歌のお頭発案の『怒気っ! 里内丸ごと総力戦! 鬱憤を叩きつけろ総合模擬戦(勢いあまると命がポロリ)』が開催される。ちなみに命名はホロウだが、俺以外誰一人として呼ぼうとしない。

 ルールは単純。里の手前の森の北に鬼内、南にサムライが陣取り、夜明けと共に鏑矢で合図を出すので、動き出す。そんで互いに手段を選ばず殴り合い、最後に立っていた方が勝ち。タイムリミットは夕方。開始と終了の合図さえ守れば、何をしてもいい。鏑矢の合図は、圧倒的な寡兵である俺達が出す。

 これだけだ。

 

 

 

 

 

 ガバガバすぎィ!

 

 

 

 

 しかもギブアップ不可。むしろギブアップが不可能だからこそ、降参したフリして後ろから切りかかるとか、死んだふりしといて陰からテロに走るとか、何でもありである。

 

 お頭ァ、アンタ真面目に頭とっ変えた方がいいぞコレェ! と言うか、とっとと終わらせんとガチで死人が出る勢いだ。冗談抜きで怨恨が…。里を滅ぼす気か?

 そりゃ目的を考えれば、ここまでやるのも手だけどよぉ…。

 

 

 

 はぁ、もう何言っても仕方ない。鬼内もサムライも、既に北南に陣取ってしまっている。仮に今から西歌のお頭…おかしら、じゃなくてオアタマでいい気がしてきた…の説得に成功したとしても、その通達が間に合うとは思えんし、「偽書だ」の一言で片づけられそうな気がする。…実際、場合によってはやろうかな、と思ってはいたし。

 

 

 だから、俺達が…いや、俺がやる事は一つだけ。

 

 

 

 

 

 鏑矢を番える。開始の合図をする以上、俺達が陣取るのは森の中心…サムライと鬼内が激突すれば、間違いなくそのド真ん中になる場所。

 

 

 

 

 俺以外の全員に、自衛以外の戦いを禁じ、隠れての待機を命じる。

 

 

 

 

 

 

 日が昇る。

 

 

 

 

 

 

 弓を空に向ける。遠くからの視線を感じ、大きく息を吸い込む。宣言。創造。流出…させる気分。

 言霊にはタマフリ(ノヴァ版)『挑発』を載せて。だがそれ以上にこの言葉が奴らを狂わせる。

 

 

 

 

 

 日の出。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより。

 

 

 

 

 

 蹂躙を開始する。

 

 

 

 

 貴様らは武力を持って己を良しとする集団である。

 

 

 

 故にそこに差はない。

 

 

 

 

 

 俺一人に叩き伏せられる有象無象が、力によって立つ事は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼、サムライ、鬼内、流れ者を、俺は見下さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 力の価値を説く以上、貴様ら弱者には」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆平等に、価値がない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鏑矢が、甲高く空気を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まとめて潰す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凶星月

 

 

 

 ええ、勝ちましたが何か? いやぁ死屍累々ってああいうのを言うんだね。自分でやっときながら、戦争やった気分だよ。

 

 

 ぶっちゃけ余裕ですた。ですたですた。

 いくら何でも嘘くさい? 俺がそこまで圧倒できるとは思えない?

 まぁ、アラガミ化すら使ってなかったしね。神機は使ったけど。他所で見ていた清磨が、頭にタンコブつけて気絶しているが。

 

 

 何だな、言う事があるとすればだな…。

 

 

 

 多勢に無勢? そんな言葉は、戦力として数えられる者を連れてきてから吐く言葉だ。

 

 

 

 

 

 

 

 いや、真面目な話ね?

 こっちはただでさえ、装備によっては古龍すら相手にできるような叩き上げのハンターよ? それを、刀也が厳しく鍛え上げたとは言え、実戦経験もロクに無いサムライが束になった程度でどうにかできるとでも? 鬼内は鬼内で、弱者呼ばわりされて激オコだったし。

 最初の30分くらいは、挑発に乗って勢いのままに突撃してくる連中が罠にかかりまくったんで首に一撃。続いて、20分くらいはそれを助けよう、俺を先に潰そうとする連中を入れ食い。次の1時間くらいは、警戒しはじめた奴らを鬼疾風で奇襲しまくったっけ。アサシン技術との併用がホント凶悪です。超スピードで移動してくる相手が、ちょっとした遮蔽物で完全に身を隠す上、回避がほぼ不可避の一撃死技を放ってくるとかクソゲーってレベルじゃねー。

 その辺から、冷静な連中が多く残ったらしく、組織的に俺を狙い始めた。まーそこそこ手応えはあったかな。

 

 

 結局、暫くは俺を押しつぶそうとする連中をサムライ・鬼内関係なしにカチ上げまくり、他のヤツに叩きつける事数十人。

 全戦力の半分以上が行動不能になって、ようやく鬼内とサムライは手を組む…或いは互いを邪魔しない、狙わない…という協定にまで漕ぎつけたらしい。正確に言うと、俺から意識を逸らせば速攻で奇襲をかけられて犬神家みたいな状態になる、と理解したのか。

 機動力に全振りした状態だったからなぁ。かなり距離を取っていても、全力で駆ければあっという間に追いつける。俺とは関係のないところでサムライVS鬼内やろうとしても、あっという間に駆け付けられて叩き伏せられる。複数の場所でやっても、2~3合打ち合えるのが関の山。

 

 ひでぇ話もあったもんだな。

 

 

 結局最後は、最高幹部クラスのみが残り、最後の大攻勢(と言うには人数が少なかったが)に出ようとしたところを、俺が奇襲をかけて一気に潰した。

 先に潰したのは鬼内。炭鉱に籠って戦いの準備を整えていた。まー確かに、狭いところでの戦いなら鬼疾風も封じやすいし、悪い手じゃない。神機の銃形態を使って、「汚物は消毒だ~!」みたいに火炎放射でもやられなければね。…いややってないよ、神機は使ってない。

 鬼内の最後の連中の敗因は……八雲のにーちゃんの髪型かな…。暗い炭坑内でも見分けやすいんだよ、あの髪。

 最高指揮官クラスになってたのは予想できてたから、八雲のにーちゃんだけアサシン式に潰し、混乱から立ち直らないうちにさっさと逃げた。

 

 で、次はサムライ。神無と刀也が同時に待ち構えてたのには、ちょっと苦労した。いいコンビネーションしてるじゃないか。

 先日指摘した、人間相手の戦い方に傾いてるって点もかなり改善されている。…いや待て、今回の相手は俺なんだから、前のような戦い方の方がいいような…でも今のやり方の方が正解なような…。

 まーいいか。

 

 厄介だったのは刀也だな。ミタマスタイル防を使っているから…なのか、それとも命を賭けた戦いならこれくらいやって当然と思っているのか、こっちの攻撃を避けようともせずに拘束しに来た。

 男に抱き着かれるなんぞ御免だが、それ以上に気迫がヤバかった。アレは上手く俺を拘束できたら、自分ごと神無に斬らせるつもりだったな。神無もそれ前提で動いていたようだ。

 事前の挑発の事もあったし、何よりほぼ俺一人にここまで戦力を減らされて、もう引っ込みがつかなくなってたんだろう。

 

 

 尤も、それも防いでしまったけどな。俺の一撃を受けながら、刀也は腕に絡みついた。関節技か。よくこんな技知ってたな。

 で、動きが止まった一瞬を狙って、神無が本当に刀也ごと一刀両断にしにきた。実際、動けずに直撃した。

 

 

 

 

 

 がッ、ハズレッ…! 平然と刀也の顎を打ち抜いて無力化し、返す刀で神無と斬り合う。

 必殺の策が破られて、動揺していた神無。惜しかったな。

 

 俺を捕らえるまでは予定通りだったが、タマフリ『変わり身』までは予測してなかったらしい。はっはっは、色々勉強はしているようだが、まだ意識が斬り合い寄りだな。

 

 

 で、後は残党潰しと…紅月だ。

 残党探しは士気も下がり切ってほぼ無力だからいいとして、問題は紅月。今回は随分と強かったなぁ…。先日の戦いも結構強かったが、技量が一つ二つレベルアップしていた。純粋な技術で言えば、俺を超えるんじゃないかってくらい。俺に負けて、それでも褒められたのが相当に悔しかったんだろう。そういや、最近は久音さんの所の料理修行にも来てなかったような…。

 だがそれ以上にヤバかったのは気迫の方だ。一皮むけたってレベルじゃねえ。何をそんなに気負ってるんだって言いたくなる。

 

 が、考えてみりゃあ当たり前か。戦う前に言われたが、俺はマホロバの里全土のモノノフに向かって「弱いお前らに価値はない」と言い切った。紅月にとっては許せる事ではないだろう。

 鬼内のみとか、サムライのみとか、そんな事はない。次期頭領候補である紅月にとって、里に住む者は全て仲間だ。それが全員侮辱されて怒らない筈がない。

 

 何だな…かなり冷静に戦うように見えて、実際は精神が肉体を凌駕するタイプだったらしい。何度も打倒したが、FF5のガラフお爺ちゃんをホーフツとさせる勢いで何度でも立ち上がってきた。

 そしてそれに充てられたように、立ち上がって挑んでくる里の戦力達…撃破判定とかしてないからね。死んだふりした後で立ち上がるのもアリだもんね。

 最終的には紅月との闘いの場所付近の連中が、ゾンビの如き足取りで迫ってくるようになった。サムライも鬼内も関係なく、取りついて動きを封じ、紅月に最後希望を託す気で。

 

 感動的だな。無意味だとも言わん。だが相手の俺は堪ったもんじゃねーよ。悪役ムーブだなぁ、俺…いや最初の挑発をした時どころか、その前の西歌のお頭と話をした時点で分かり切ってた事だったけども。

 うーん、倒した人間が蘇ってきて主人公に力を貸し、理不尽なパワーアップを遂げた主人公に倒される…ラスボスポジか俺。

 

 いや、倒されなかったんだけどさ。空気読まなくて悪いね。

 最終的には周囲に人が居ない所まで誘い出し(意味深は無い)、紅月の薙刀を破壊。呆けた一瞬の隙をついて、鳩尾に一発、首筋に一発。そこまでやってようやく止まった。

 紅月が倒れた事で、脅威となる相手はほぼ居なくなった。残りは残党が少しだけ。

 また目を覚まされても困るので、紅月は運んでいく事にした。実際、何度か目を覚ましそうになったんで、その度に締め落としました。

 

 

 

 

 で、日が落ちてくる頃になって、ようやく終了。起きている者達総出で倒れている連中を里に運び込みました。この辺にも鬼は出るからな…。特に夜は。

 点呼もやって、参加者全員…多分、申請してなかったゲリラ参戦も居る…が揃っている事を確認して、ようやく一息ついた。

 よく全員回収できたなー、なんて思ってたが、待機を命じられていたホロウと焔がいい仕事していた。観戦しながら、倒された連中の位置や、鬼が沸いてこないかなどを確認していたらしい。焔に言わせると、「恩を売る好機だった」だそうだが。

 

 ま、一息っつっても、その表情は惨々としたものだったが。

 そりゃそうだよなぁ。お互い睨み合ってた二大勢力が、たいして警戒していなかった…それもたった一人に纏めて叩き潰されたんだから。

 彼らは自分達の力に自信を持ち、それによって集団となっている。鬼内は、鬼を討って里や人を守る守護者であり。サムライ達は、鬼や圧政を敷くモノノフ達からの解放者であり、そして自分達の力で自分達を守れる自警団でもあると自負していた。

 その自負の源である強さを、完全に否定された。敗北感、屈辱感、無力感なんて言葉では収まらないだろう。

 

 

 ここまで心を圧し折って、それを改めて統率する、というのが西歌のお頭の考えだ。無茶するっつーか、意外と酷な事をするっつーか…。いや、俺も誰かの訓練する時は、似たような事やりましたけどね。アリサとかコウタとかロミオとか初穂とか。

 

 

 まー多分うまく行くとは思う。現状の里の戦力では足りてない、というのは証明されてしまった。してしまった。

 どれだけ「俺達なら大丈夫だ」と叫んだところで、今回俺一人に全て叩き伏せられたという結果は消えない。

 そこを突いて、西歌のお頭の元で戦力を再編し、一から叩き直す。

 

 

 

 

 

 …そう、そこまでは聞かされていた。提案したのも元は俺だったし。

 

 

 まーなんだ、勝つには勝ったし、予定通りだったし、後は西歌のお頭に丸投げ…でいいんだが、一つ大きな反省点がある。 

 完ッ全ッにしてやられた。

 

 策謀を仕掛ける人間にとって、一番警戒しなければならない事とは何だと思う? 情報の漏洩? 計画の破綻? 予定外の要素? 確かにそれらは驚異的だが、何よりも忘れてはいけないのは…『策を仕掛ける人間は、自分が策に嵌められているとは想像もしない』だ。

 特別な力を使っての策でも、基本に忠実で念入りに準備された策でも、一方的に策を吹っ掛け続けていると、いつかそれが自分に向けられる可能性を忘れてしまう。誰かを散々利用して捨ててきた者は、何故か自分だけは捨てられないと思い込む。或いは思っていても直視しない。

 

 

 

 

 何が言いたいかって?

 

 

 

 

 紅月を押し付けられました。

 

 

 

 

 いや、別に要らないとも不愉快とも言わないけどね。ウタカタに行く時、一緒に連れてけと言われた。紅月は紅月で、「不束者ですが」なんてまたしても言い出す始末。

 

 …この際連れて行くのは構わんけど(戦力が大いに越した事は無いし)、こっちは大丈夫なのか? 使える戦力が丸ごと自信喪失状態だし、そもそも紅月は次期お頭候補として育てていたんだろう?

 これからどう立て直していくにせよ、紅月が居ないってのは里にとって都合が悪いんじゃないか?

 

 

 そう聞いてみると、確かにその通りではある、と西歌のお頭は頷いた。しかし、今回の戦いを鑑みても分かる通り、紅月にも鬼内にもサムライにも、実力は足りてない。今でも十分猛者と言える者はいるが、これから鬼達との闘いはもっと厳しくなっていくだろう。その為、紅月を里の外に送り出し、伝手を広め、多くの戦いを経験させたいのだと言う。

 「特に君の周りだと、激しい戦いには事欠きそうにないしな」だそうな。うっせい。ま、確かにそういう戦いに首を突っ込みに行くんだが。

 

 ちなみに、これを納得させる為、今回の戦いで紅月にはちょっとしたドーピングをしていたそうな。薬物的ではなくて心理的な。

 …つまり、紅月が俺に負けるようなら、嫁なり従者としてなり、俺についていけ、と最初から告げていたらしい。最初はとても頷けなかった紅月だが、流石にこれだけの戦力差で負ける事はないと考えていたし、そもそも万一負けたら(実際負けたが)里から出ていく行かない以前の問題だ。

 で、実際負けたから、俺について行って徹底的に鍛えてもらえ、という話だとかナントカ。

 

 …全然聞いてないんですけどネー。まぁいいけど。

 

 

 

 真面目な話、これから西歌のお頭は、里に対して『聖域なき改革』って奴を始めるつもりらしい。サムライと鬼内が項垂れている間に、一気にやっちまおうってハラだ。しかしそこに紅月が居ると都合が悪い。

 別に紅月が邪魔になるって事じゃなくて、お頭を交代した時、余計な悪感情を引きずらせない為だ。…西歌のお頭が彼らの悪感情を引き受け、そして機を見計らって交代…か。そう上手くいくもんだろうか。

 

 ま、押し付けられてしまった物は仕方ない。精々鍛えてやるとすっかね。

 

 

 

 …不束者云々は、今後の紅月次第って事で…。

 

 



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206話

肌がまだ痛い…カサブタが擦れて痛いんだと思ってたけど、ひょっとしてこれが神経の痛み?
とりあえず温めてみるか…。

ゼノバースも飽きてきた。
面白いっちゃ面白いんだけど、最後の方のパラレルクエストで折角倒した敵が復活、を繰り返されると萎える…。
ヴァルキュリアとかGジェネとか買おうかな…。

しかし、今月は出費がかさむなぁ。
医者代に加え、眼鏡が壊れて1万円。
コンロが壊れかけてるんで、新品購入するか迷ってます。

これはアレだろうか、FGOのジャックちゃんを見て、「無知なジャックちゃんに顔面騎乗で責められつつ、逆にprprしてド嵌りさせたい」とか妄想した天罰だろうか。
ごめんなさい私です。
…こういう妄想は、エロの為にストックしておきます…。


魔禍月

 

 

 新しい月になると同時に、マホロバの里を立つ。…いや、紅月の準備が済んでなくて、1日延長したんだけどね。

 見送りは西歌のお頭と久音さん、後は…まぁ、俺じゃなくて紅月の見送りが数人か。

 

 …あれだけ大暴れした俺を、何の蟠りも感じさせずに送り出してくれる主計のおっちゃんに頭が下がる。性別が女だったら、おかんと呼んでいたかもしれない。

 ちなみに、その主計のおっちゃんから、霊山に居るという娘さんに手紙を預かった。…主計のおっちゃんの子供か…。流石にちょっかいを出す気にならんな。いや、見た目の予想がどうのとか、主計のおっちゃんをお義父さんと呼びたくないとかじゃなくて。

 

 

 

 大暴れしてなきゃ、もう2~3人くらいは増えたかな。具体的には真鶴とか。

 

 博士は「世話をしてやったな。恩に着ろよ」の二言だけで、後ろ手でヒラヒラてを振るばかり。…世話になったな、じゃなくてしてやった、と言うのが博士らしい。

 博士預かりになっている元盗賊…焔は焔で、「おっそろしい奴らが居なくなって清々する」なんて言ってたが…一番ヤバいのはお前を預かってる博士だからな? マの系譜って事を差し引いても。精々コキ使われるがいい。まぁ、散々追い回したホロウと、最後に叩きのめして捕縛した紅月と、里の戦力をほぼ一人で潰した俺が居なくなって一安心、ってのは分からんでもないが。

 

 

 

 さて、気を取り直して、本日付けでマホロバから離れるメンバーを紹介しよう!

 まずは一人目、居ないと話にならない! だってこの日記描いてるの俺だもんね。 ズバリ俺!

 続いて二人目、真顔でジョークかマジか分からない発言をする、基本的に非常識なのに妙な所で常識的な銃使い、ホロウ!

 更に三人目、武者修行のつもりだが微妙に嫁入りと勘違いしているような気がする、紅月!

 

 

 

 

 そして四人目、何かしらんが何処からともなく「里の柱に括りつけとけ」言われているよーな気がする、何かっちゃあ神機を触ろうとする色んな意味で危険な男、清磨。

 

 

 

 …え、何? お前ついてくんの?

 

 

 

 いや、この際別についてくるのはいいけどさ。神機に触るなよ。俺の管理不行き届きのせいで死ぬとか重症とか、流石に御免被る。

 …『分かっている』じゃねーよ、同じ事言いつつ何度触ろうとしたと思ってんだ。

  

 

 なんか色々な意味で不安を掻き立てられるメンバーに、久音さんの「貴方のお陰で自分の道を見つけられました」と゛鬼゛の肝炒め弁当なる怪しい弁当を貰って出発。

 色々名残惜しかったが、まぁ何度も繰り返してりゃまた来る事もあるだろうさ。この里は、鬼の手の産地になる訳だからな…次回ループで生産が可能かはわからんが。

 

 

 

 

 

 さて、出発した訳だが、残念ながら馬とかは使えない。馬はこの世界では超が付く程貴重だからな。それを考えると、結構な数を保有していた百鬼隊とかはかなり特別な部隊だったんだな。

 鬼疾風で馬に近いスピードは出せるが、長旅だとスタミナが保たないし、先日発覚した欠点…鬼疾風中の安全な伝達…が改善されてない。

 

 そもそも清磨が鬼疾風出来ない。

 まぁ、ゆっくり行くしかない訳だ。

 

 別にいいけどなー。こりゃ、ウタカタに到着するのは思った以上に遅くなりそうだ。一か月も遅れてるんだからもういいじゃないか、と言われそうだが。

 実際、ここまで到着が遅れると、旅路の間にオオマガトキが再発しちまう、なんて事も考えられる。いつデスワープしてもおかしくないって事は覚えておくか。

 

 

 …この際だから、霊山にも少し滞在していくか? ウタカタとマホロバは、霊山を挟んで西と東…丁度反対側にある。最短ルートを通ろうとすれば、自然と霊山を通過する。

 以前に霊山にいた時は、結構居心地はよかったよな…。上から目線のモノノフも多かったが、そいつらも殆どは一本筋が通った連中だった。

 しかし、闇を感じさせる部分もある。あの時、一緒にウタカタに行った美柚と美麻……どっちが青でどっちが赤だったっけ……が言っていたように、情報が統制されていたり、先日の雷蔵さんが言っていたように禁軍がちゃんと稼働してないような節もある。

 まぁ、それがしっかりと機能しているのが、どれだけ貴重かって話でもあるが。

 

 

 ここまで遅れたらもうどれだけ時間が経っても同じって事で、霊山でも一か月…いやダメだ、あそこは暇だ。強力な結界がある為か、鬼が殆どわかない。狩りをしない生活なんて、あと200年くらいしないと俺には無理だ。…いや、200年もすれば新しい狩りの方法とか生み出されて…でもループしてるんだよな……と言うか200年程度じゃフロンティアを制する事なんぞできん。

 霊山に明確な用事がある訳でもないし、やっぱ素通りかな…。ま、何か要件でもできたら、暫く滞在するくらいならいっか。

 

 

 地図を片手に、森を進む。境界石があればそこを宿にして野宿。…いや、異界の中でもないんだから境界石の近くである必要はないんだが…まぁ、結界の中なら鬼も入ってこれないから、ゆっくり寝られるのは事実だが。

 意外だったのは、鬼疾風こそできないものの、清磨が旅慣れていた事だ。異界の中を彷徨い歩いていたのは伊達ではないらしい。……里の柱に括りつけとかねーと死ぬぞそのうち。

 

 逆に、危なっかしくて目が離せないのは紅月。ひ弱なんて事はない。むしろ体力的にはピンピンしていて、ホロウ以上なんじゃないかと思う事さえある。

 だが野宿が下手だ。根本的に不器用な人らしい。しかも、旅立つ前に久音さん辺りに妙な事でも吹き込まれたのか、食える物食えない物問わず、片っ端から鍋に叩き込みたがる。

 

 ホロウは……何と言うか、野宿が上手すぎて逆に下手に見える。やろうと思えば立ったまま寝るとか周囲を警戒しながら寝るとか、食べられる物が無くても限界まで活動可能とか、スペックでゴリ押ししているようだ。

 

 

 そんなデコボコ4人組で、適当に鬼を狩りつつ進んでいた訳だが、どのルートを通って霊山・ウタカタに向かうかは、紅月に任せている。地図はあるけど、俺達より道に詳しいみたいだし。

 途中で何度か、鬼と戦っているモノノフに遭遇した。どこの所属かよくわからなかったが、どうやら俺達同様に流れ者みたいな生活をしているモノノフ達だったらしい。一か所に定住せず、修行の為に各里や集落を渡り歩くような。…それにしては、腕前は大した事なかったけど…。

 …ああ、考えてみりゃ、富獄の兄貴も流れ者みたいな人だったっけ。暫くウタカタに腰を据えてはいたが、元は仇のダイマエンを追って旅をしているんだった。

 

 

 

 

魔禍月

 

 

 霊山までの道程は、何事も無ければ歩いて4日程。鬼を警戒しつつ進み、雨を凌いで足止めを喰らったりしたので、5日。割とアッサリ到着した。

 清磨と紅月は何度か来た事があるらしく落ち着いていたが、ホロウは見たまんまお上りさんだ。無表情のままでキョロキョロと辺りを見回していた。

 

 …お上りさん状態なのは俺もか。久しぶりに来た霊山だが…うーん、色々と印象が違うなぁ。何が違うって、言っちゃ悪いがモノノフの強さとかの感触がな…。

 モノノフの本拠地なだけあって、一般人に混じって武器を持ったモノノフがウロチョロしている。

 以前来た時は俺もひよっこ状態だったから、『強いモノノフが沢山いる』と感じたもんだ。居丈高な口調で「一般人は引っ込んでいろ。戦うのは我々の役割だ」みたいな事を言われた事もある。危ない事は自分達に任せて無理をするな、を捻くれた言い方をしていたんだ…と思っていたが……今見ると、なぁ…。そこまで大したモノノフは居ないように思えるんだよなぁ…。

 

 

 

 強い力を得れば、モノの見方が変わるのは当たり前だ。良くも悪くも、弱者と強者の視点は同じではない。

 だからと言って、ちょっと隔絶した力量差が出来たからと言って、ここの皆を見下すような考え方はしたくないな。武力にせよ権力にせよ、力を得て増上慢となった人間の末路は惨めなもんだ。…しかし、今となっては彼らの力量が、自分達で口にする程高く見えないのも事実…。

 

 

 ………考えるだけ無駄か。彼らの力量が足りているかなんて、所詮は相手次第でしかないんだ。絶対的でない力量差など容易く覆る、って言うしな。彼らの相手は人間よりも遥かに強い鬼達だ。どれだけ強くなっても、ちょっとした油断であっさりとひっくり返ってしまうだろう。

 強い弱いで考えるのではなく、「相手が何で、どこまで出来るのか」で考えればいい。

 

 

 

 

 

 さて、話は変わるが、霊山でやっておく事は幾つかある。旅をするには色々準備が必要だ。食料の補給、道具の手入れ、ちゃんとした寝床で休んで疲れを癒す等々。

 それに加えて、出発前に主計のおっちゃんから預かった手紙を渡さなければいけない。

 おっちゃんの娘さん…椿というらしい…は数年前からマホロバを離れて、霊山でモノノフになるべく訓練を積んでいるらしい。随分と出来がよく、「主席になったんだそうだ」と主計のおっちゃんが嬉しそうにしていた。

 

 

 …主席はいいんだけど、モノノフになる訓練ってそんなに何年もかかるのか? 俺、確か長く見ても半年程度しか訓練受けてないぞ。

 その辺どうなん、紅月?

 

 

「それは幾らなんでも短すぎます。どれだけ短く見積もっても、体を作り上げるのに1年はかかりますよ? …貴方は、正式な訓練を受けたモノノフではないのですか?」

 

 

 正式ってのが何を指すのかよく分からんが、モノノフの訓練をする前から体は…まぁ、下手なモノノフよりは出来上がってたぞ。

 モノノフのイロハを教えてくれた人も、霊山で訓練を受けた人じゃなくて、里のモノノフに教わってモノノフになった人だった。霊山からの正式な許可も無かったらしいな。

 経文唱の為の念仏暗記にはホント苦労したけど、それも詰め込み式で3か月くらいだったか…今思うと、あんなの3か月で覚えきれる筈ねぇよなぁ……あの時に教わった知識、もうオボロゲだし。

 

 

「筆記で頭を痛めた気持ちはよくわかりますが…。しかし、それであの強さですか…恐ろしいお話ですね。貴方の師に会ってみたくなりました」

 

 

 いや、モノノフの師匠は普通の…言っちゃなんだけど、十把ヒトカゲもとい一絡げな力量しかなかったよ。腕の立つモノノフに世話になってた時期もあったけど、あの人は…師匠って程教わってないし。

 モノノフ以外の師匠も何人かいるけど、会おうにも会えないし…別に死んでないよ?

 

 話は変わる、と言うか元に戻るけど、主計のおっちゃんの娘さんって知ってる?

 

 

「ええ、何度かあった事ありますし…彼女が里を立つ際、面と向かって宣言されましたよ。『モノノフの天辺取るから、紅月さんにも勝って見せる!』と」

 

 

 それはそれは。仮にも次期お頭候補に向かっていい度胸してるじゃん。

 

 

「見込みはあると思いますよ。あの負けん気の強さは、間違いなく買いです。事実、訓練生の主席なのでしょう? …これでも霊山の訓練所に、少しは顔が効きます。呼び出すくらいは出来ると思いますよ」

 

 

 いや、訓練の邪魔をするのはよろしくない。どんな事をしてるのかにも興味あるし。

 客が居るから、訓練が終わった後に少し時間を作ってくれ、とだけ言ってほしい。

 

 

「わかりました。…ふふ、これも内助の功ですね」

 

 

 …やっぱり嫁入りと勘違いしている気がする。しかし、内助の功の最初が、他の女に文を渡す手伝いとはどういう事やら。

 

 それはそれとして、訓練場まで行って暫く見物していた。訓練場はモノノフ関係者しか入れないが、訓練風景自体は一般公開されているようだ。ま、それも秘伝と呼べるような訓練じゃなく、体造りの為だけのようだが。

 まー随分と真っ当な訓練やってんなぁ。これを見てると、ハンターになる為の訓練がどんだけ無茶苦茶だったのかよく分かる。その分効果は高かったんだろうが、あれは成果が出る前に全滅してもおかしくない…と言うより全滅しないとおかしい。それでほぼ全員がある程度の効果を得て卒業していったのだから、MH世界は一般人からしてスペックが違うのかもしれない。

 

 

 

 ふむ、呼ばなくていいとは言ったものの、実際ヒマだな。訓練も基礎練ばっかで、動きがある訳でもなし…それが大事な事なのは身に染みて分かるんだが、エンターテイメント的に退屈なのは否定できんし。

 知ってる顔でもいないかな…と周囲を見回していたが、元々霊山に知り合いは多くない。以前に来た時に顔を覚えたのだって、相馬さんとか美柚美央とかくらいだ。

 

 …代わりに、ちょっと珍しい奴を見つけた。

 なんか色彩的に違和感があるよーな、と思っていたら、何故か金髪碧眼の女の子が居た。…いや、今更髪や目の色程度でgdgd言う気はないけども。金髪どころか、遺伝子的におかしいと言われる色があっても不思議じゃない。キャラメイク的な意味で。染髪だって珍しくないし。

 ただ、顔付からしてガチの外国人? モノノフ訓練兵の中で孤立…とまでは言わなくても、若干距離を置かれているようだ。ま、モノノフっつっても日本人だしね…。

 

 しかし外国人だとしたら、どこの国の人だろうか。討鬼伝世界の歴史は、どーも幕末の頃にオオマガトキが起こっていたように思う。刀也や神無のように、本物の刀を持って斬った張ったしていた事を思えば、少なくとも明治維新よりは前だと思うが。

 要は日本は鎖国していた時代の筈。あ、でもその時代でも多少は外国とのやりとりもあったんだよな。ポルトガル辺りか? いやオランダだったっけ?

 しかし、仮にその国の人だったとしても、何で日本にいるんだろうか。何でモノノフ訓練場に居るんだろうか。

 そもそも外国ってどうなってるんだ。日本は異界に沈んでいるが、外国はまだ無事なのか?

 

 

 …聞いてみたくはあるが、訓練中だな。邪魔をするのはよろしくない。またの機会にするとしよう。

 

 

 

 

 そんな事を考えていたら、何故か紅月が訓練場で猛威を奮っていた。 …何故? 

 …どうやら稽古をせがまれたらしい。そういや、紅月って結構有名人だったな。英雄に一手指南、あわよくば倒して名を挙げようってか? 気持ちは分からないではないが、ここに居るモノノフ達は訓練兵止まり。はっきり言って、紅月に指南を頼もうとする時点で身の程知らずとしか言いようがない。

 おーおー、軽々とブッ飛ばしちゃってまぁ…。妙に力入ってるな。

 

 …お、何か女の子と話してる。力量的には他のモノノフより頭半分くらい優れているようだが…それだけだな。

 二言三言言葉を交わして…あら、やっぱりアッサリと終わったな。えらく悔しそうだが…妥当な結果だ。

 

 

 あれ、こっち来る?

 

 

 

 

「…初めまして。椿です」

 

 

 ああ、君が。流れ者のモノノフです。主計のおっちゃんにはお世話になりました。

 と言う訳で、手紙を預かってきてます。

 

 

「どうも。……あの、紅月さんより強い、と言うのは本当ですか?」

 

 

 …まぁ、2回ばかり戦って両方勝ったのは事実だよ。どしたん? いきなり溜息ついて。

 

 

「いえ…天辺への道が、思ってた以上に遠かっただけです。父さんは元気でしたか?」

 

 

 ああ、サムライ達からも慕われてるようだよ。多分、これから死ぬほど忙しくなると思うけど。

 

 

「…は? それは、どういう…?」

 

 

 いやちょっと里で揉め事が起きて(起こして、だけど)その後始末がね。ああ大丈夫、少なくとも直接主計のおっちゃんがどうこうって事は無いと思うから。

 詳しい事は紅月に、人が居ない場所で聞いてくれ。どこまで話していいものなのか、俺には分からん。

 

 

 え? え? と混乱し始める椿を置いて、紅月も戻ってきたのでエスケープ。知りたきゃ手紙でも出して自分で聞きなー。

 

 

 

 

魔禍月

 

 

 さて手紙も渡したし、これからどうしようか。ぶっちゃけ、俺は霊山にはあまり用事は無い。旅の準備はとっくに終わった。

 が、紅月は雷蔵が居る筈だから会っていきたいと言うし、ホロウはモノノフの総本山に来たのは初めてらしいので、色々見ていきたい。どうでもいいが、清磨は鍛冶屋を何件か尋ねた後、すぐに興味を失ってしまったようだ。「悪くはないが、それだけ」との事。

 

 俺はどうするかな…。霊山のお偉いさんにでも伝手があれば、鬼の手の宣伝とかもできるかもしれんが。

 仮に宣伝したとして、それがいい方向に転ぶかはわからんけどな。最悪、霊山が強権を発動させて博士を連れてこようとするって事も考えられる。

 

 

 

 

 …半日ほど時間を持て余した後、俺は原点に返る事にした。いや、大した事じゃない。今の俺を形作った、最たる要因をもう一回見ておこう、と思っただけだ。何だかんだで、アレは一体どういうモノなのか、今一つ判明していないのだし。

 しかし、やはりというべきか、逆に何故かと言うべきか……『アレ』は見つからなかった。

 

 

 

 

 

 代わりに見つけたのは。

 

 

 

 

 

 

 裏真言立川流指南書・其之参。

 

 

 

 

 

 いや待て待て待て、ちょっと落ち着くんだ俺。

 其之参。そもさん。尊野さん。

 

 参って何だ参って。三でも酸でも惨でもないのはまぁいい。でもナンバリング3番目って事は、2番目があるって事だろう?

 いや、それ以前に裏って事は表もあって…いや、表は世間一般(?)に出回っていた、邪教扱いされた普通の立川流の事じゃないか? でもそれが霊山の書庫にあるって事は…やはり世間一般の立川流とは別に、オカルト版真言立川流の指南書があるのでは? そうだとしたら、俺があの時見つけて必死で覚えた指南書が真言立川流指南書・其之壱なのではないか。

 どちらにせよ、裏の三があるって事は、表の1・2・3と裏の1・2があるのはほぼ確定事項。俺が読んでいると思われるのは、表の1のみ…。順番に読まずに理解できるか?

 

 少し読み進めてみたところ、指南書…と言うより問題集のような内容だった。その問題は…正直に言おう。サッパリ分からん。

 色々と常識外れな効果を何度も体験した俺をして、「これ何てバカエロ抜きゲーの話?」と言いたくなるような内容が多すぎる。本当にこんな事出来るのか? できるならロマンは広がるな。

 しかし、仮にできるにしても、やはり正しい順番で読み進めていかないと理解できそうにない。と言うか、この問題集…一言一句に図形まで記憶に叩き込みはしたが、下手をすると暗号で書かれている可能性すらある。

 

 どっちにしろ、今の俺では読めんし理解もできん…。色事の道は奥が深いものよ…。色事に溺れて毎度毎度道を踏み外している俺が、胸張って言える事でもないけども。

 

 

 

 とりあえず、蔵書の管理者に問い合わせてみたところ、これは記録に無い本だった。つまり、誰かが勝手に持ち込んだか、ずっと前からあったけど管理対象外となっていたか、だ。

 だったら持って行っていい? と聞いてみたモノの、ダメだって。蔵書であるなら管理しなければならないし、そうでなければ落とし物だ。…ちなみに管理者さんは女性だった為、エロ本を買う男を見る目を向けられました。その程度で一々動揺しねーよもう。

 

 ま、空いてる本を先に見つけなきゃ、応用編だけあっても意味ないし。覚え込んだけども。

 とりあえず、皆が霊山に留まっている間は、2巻とか探してみますかね。…まぁ、この本ってHowTo本としても普通のモノノフからすればデタラメしか書いてない本なんで、「こんなの探してどうするの」って表情されるのも仕方ないわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蔵書と睨めっこして帰ってきたら、紅月が料理作ってた。…にっこにっこしながら差し出してくるし、しっかり味見もしてたから、断れなかったよ…。

 ホロウをして脱兎の勢いで外出させる代物だったもんなぁ…。

 

 

 

魔禍月

 

 

 また紅月に飯作られちゃ敵わんので、一緒に図書館デート……か? まぁ、清磨もどうせ食うなら美味いモノ、というのは同感だったようで、俺が紅月の気を引いている間に食事を作る係についてくれた。

 

 

 …つまり、紅月連れてHowTo本探さにゃならん訳だ。しかも、普通の人からすればデタラメばっかり書かれている本を。

 「この人何をやってんの」って顔をされるのも当たり前だよなぁ…。彼女連れてそんな胡散臭い本を探す暇があったら、一緒にどっか出かけてこいって話だ。さもなきゃ、せめて真っ当な本を探せと。

 

 …実際、俺も何の疑問もなく指南書を探す手伝いをさせるつもりだったが…これって「紅月で試したいんだ」みたいに受け取られてないだろうか?

 …色々な意味でひどい話だ。紅月の、食えるか食えないかギリギリ境界線の料理を全て掻っ込まなきゃいけないくらいには。

 

 

 

 

 

 ま、結局それらしい本は見つからず。以前俺が読んだ、指南書表の其之壱(だと思われる)本も無い。うーむ、これって単なるバタフライ効果的なナニカなんだろうか…。

 エロ本探しを手伝わされたに等しい紅月はと言うと……上機嫌であった。いや、探すのがエロ本というのを聞いた時には流石に眉を顰めていたが、意外と穏やかな時間を過ごせたからだろうか。

 少々埃っぽいとは言え、蔵書に囲まれ、ほぼ二人きり、静かに本を読んでは時々緑茶(霊山に紅茶とコーヒーは無いらしい)を啜る。羊羹あればより完璧だった。…まぁ、KENZENなデートにはなったんじゃなかろうか。

 日向ぼっことどっちが良かったかな。

 

 

 

 んで、清磨が飯を作り終える頃合いを見計らって帰ろうとしたんだが…ちょっと気になる事が。

 帰る時、暗がりに向かって消えていく一つの影が見えた。それだけなら珍しくもないんだが、金色だったんだよね、髪が。

 

 

「…どうしました?」

 

 

 いや、あっちに金髪の女の子が走っていったみたいなんだが。

 

 

「確かに居ましたね。…この先は確か、霊山の結界の外に向かう裏道…家屋も店もなかった筈ですが」

 

 

 …あの、なんか不機嫌じゃね?

 

 

「…折角一緒に居るのに、他の人に目移りするのはどうかと」

 

 

 エロ本探しに文句も言わずに付き合ってくれたのに、他の女を見るだけでもアカンのか? でもホロウとかには何も言わんし…基準が分からん。

 それはともかく、世にも珍しい外国人らしいモノノフが、夜分に人気のない道に駆け込んでいく……なんかきな臭くないか?

 

 

「確かに…。訓練場で見た時も、少し孤立している印象はありました。それに、近くで見て気づきましたが、生傷の跡も多かったようです」

 

 

 …それは気付かなかったな。酷いやつか?

 

 

「ええ…ですが、訓練生達の仕業とも考え辛い。裂傷と火傷の跡…あれは、明らかに鬼と戦った痕跡です。より正確に言えば…鬼に襲われた痕跡」

 

 

 結界に覆われた、この霊山で? んで、その怪我しているヤツが霊山の外に走っていく。

 

 

 …獲物の匂いがするな。…いや、エロ的な意味ではなく、トラブル的な意味で。

 

 

「そうですね。もしも結界の外で鬼と戦っているようなら、止めるべきでしょう。実戦経験を積むにしても、一人でやれる力量ではありません」

 

 

 

 

 そういう訳で、鷹の目を使って追いかける事になったのだ。…そういや、鬼の手に鷹の目みたいな機能を付ける、と博士は言ってたが…結局出来たんだろうか?

 流石に霊山内で鬼疾風を使う訳にもいかないので、普通に走って追いかける。…結構いいペースで走ってるみたいだな。やっぱアレか、外国人は筋肉とか肺活量が違うのか。まぁ、ハンターボディからすれば誤差の範囲内だが。

 

 うーむ、しかし痕跡から読み取れる情報になんというか、食い違いがあるな。

 身体能力はそこそこ…一般的なモノノフ訓練生よりちょっと高い程度。なのに、足跡に乱れが少ない…こうして夜道を走るのには妙に慣れているようだ。何度も繰り返してきたように。が、反面焦ってもいる。強い恐怖もある。…風上から流れてくる、汗の匂いで分かるんだよ。変態チックな意味じゃねーぞ、ペイントボールとか血の匂いとかを嗅ぎ分けてるようなもんだ。

 総括すると…今まで何度もやってきた事だが、非常に危険な困難に挑む? しかも逃げるに逃げられない?

 加えて鬼との戦いの跡。

 

 

 

 うーん、益々獲物の匂いがするね。歯応えがある相手だといいんだが。

 

 

 

 

 

 



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207話

 

魔禍月

 

 

 うん、そこそこ。仕留め損なったのは残念だった…時間制限があると知ってりゃ、部位破壊に拘らずにさっさと仕留めに行ったものを。

 金髪ちゃん…グウェンを追いかけてみて、遭遇したのは白い龍…と言うかドラゴンだった。

 

 今更、単なる龍ではテンションは上がらんな。MH世界で何度竜種とやりあってきた事か。戦闘能力としては、中の上か。タマハミ状態になって全力を出せば、もうちょっと化けるかもしれないが。

 持ってる能力も、見た事があるヤツばっかりだったし。閃光はゲリョス、炎と飛行能力はリオ夫妻。その程度の話だ。

 

 が、霊山の結界の外とは言え、いきなり現れたのには驚いたな。オオナヅチみたいに姿を消していた訳じゃない。どっちかと言うとワープの類だ。

 鬼は時空間に干渉できるらしいので、出来る奴が居てもおかしくない…と言うか、虚空から出現するだけなら、大型鬼なら大体できる。でも異界の中でもなく前触れもほぼ無い状態で、と言うのは初めてだ。

 

 

 グウェンと名乗った……アメリカ人? フランス辺り? 外国人の見分けなんぞつかん……を連れて帰って話を聞いてみる。紅月がすっごい微妙な顔してたけどな。

 何でって?

 

 

 白炎と呼ばれているらしいあの鬼をフルボッコにしたら、その後でグウェンに思いっきり抱き着かれたからじゃね?

 お嬢ちゃん、メッチャはしゃいで紅月にも抱き着いてた。言ってる言葉は分からなかったが、多分「スゴイ、スゴイぞ!」とかじゃなかろーか。

 

 とりあえず落ち着かせて、話を聞いてみたところ、ガチの外国人だった。イギリスの貴族らしい。…いや貴族とか言われても分からんよ。

 まぁそれは置いといて、何でもあの鬼に何度も何度も襲われているらしい。その理由は、彼女が持っている盾剣・ネイリングにある。

 

 大昔に滅んだ旧文明の遺産で、どういう理屈か白炎を呼び出す力があるらしい。ただし、それは持ち主であるグウェンにも制御が出来ず、呼び出した白炎は制御を受け付けずに暴れまくる…特にグウェンを狙って。自分を呼び出したヤツで、支配できる力を持ってるやつだってわかるのかね? 尤も、白炎を支配する機能が無事だという保証はないが。

 幼い頃に、このネイリングを誤って起動させてしまい、彼女を育ててくれていたナンタラ侯爵は死亡。その遺言に従い、日本に居るという知人に助けを求めてやってきたはいいものの、横浜の外国人居留地に居た時にオオマガトキに巻き込まれる。

 それから暫くさまよっていたものの、霊山の特務部隊に拾われる。

 知人とやらの行方が分からない事もあり、白炎に対抗する術を身に着ける為にモノノフ修行をして過ごしていると。

 

 

 

 

 …端的に言うが…不運にも程があるだろ。

 

 

 

「言わないでくれ…。自分がヤクビョーガミだと言う自覚はある」

 

「そこまでは言っていません。あの白炎という鬼も、手練のモノノフであれば十分対処できます。…むしろ、今まで襲われて生きているのが素直に驚きです」

 

 

 だな。話を聞く分だと、モノノフの能力もない、それどころかガキの頃から何度も何度も襲われたんだろう? よく無事だったもんだ…。

 

 

「それは自分でもそう思う。思えば、私を殺すのではなく何か別の目的があったのかもしれない…。日本に来る為の船旅が、一番危険だったなぁ…。あの時、ネイリングが起動していたらどうなっていた事か。一度発動すると暫くは動かないようだから、10日くらい人気のない場所で生活して、襲撃を凌いだらすぐに船に乗ったっけ…」

 

 

 起動してたら、確実に船ごと海の藻屑だろうな。いやはや、よく頑張った…。

 で、あの白炎っての、一度倒したらもう出てこないと思うか?

 

 

「…分からない。倒そうにも、今まで一番ダメージを与えられたのは、角を一本折っただけだ。その角も、次に出てきた時には元通りだった」

 

「モノノフを集め、対抗する事は?」

 

「考えはしたんだが…仮に倒せたとしても、また別の白炎が出てくるかもしれない事を考えると、せめて私一人で世間を渡っていく力が付くまで辞めた方がいいと言われた。…度々鬼を呼び込む性質があると知られたら、ここにも居られなくなってしまいそうだし」

 

 

 ……それこそ、実際倒してから検証すればいいと思うが…。まぁ、一理あると言えばある…か?

 と言うか、その剣捨てられないのか。

 

 

「捨てても戻ってくるんだ。目が覚めたら枕元にあるなんてまだいい方で、気付かない内に腰に戻っていたり、下手な捨て方をしたら刃を向けて飛んできたり…」

 

「…意思があるんじゃないですか?」

 

「だとしたら絶対に敵だ。何で何度も何度も白炎を呼び込むんだ…」

 

 

 逆に、その意思が白炎召喚を抑えているから、今の頻度なのかもしれんがな。

 ところで、さっきの言い方だと、少なくとも一人はその剣と白炎の事を知っているヤツが居るようだが?

 

 

「ああ、彷徨っていた私を引き受け、モノノフの訓練兵にしてくれた人だ。……それで…その、頼みたい事があるんだ」

 

 

 白炎の討伐?

 

 

「そうだ! 霊山に来てから色々なモノノフに会ったが、貴方達程強いモノノフは見た事がない。白炎を、たった二人でああまで追い詰めるなんて…。貴方達が居れば、きっと勝てる! 対価も無しに、なんて事は言わない。…で、出来る事には、限りがあるけれど…」

 

「私は構いません。鬼討つ鬼の使命でもありますし、霊山に鬼が侵入する危険を見過ごす訳には…いえ、貴方がどうこうという意味ではなく」

 

 

 ま、俺も問題はないな。あの程度ならどうとでも出来る。

 

 

「…そう言われると、幼い頃からの私の苦労は何だったのかと言いたくなるが…」

 

 

 報酬に関しては、また別の機会に考えよーか。カラダネタは隣に女性が居る状況で言うもんじゃないし。

 

 

「よくわからないけど、わかった。出来る事、欲しい物があればいつでも言ってくれ。出来る限りの事をする。…そうだ、続けざまに悪いのだけど、私を保護してくれた人に会ってくれないか? さっき言った、ネイリングの事を知っているのもその人なんだ」

 

「貴方を訓練兵にして、更に霊山の特務部隊を率いている…と言う事は、かなり高位の地位にある人ですね。会っておいて損はないと思いますよ。白炎と戦うにしても、場所は用意しなければいけませんし、事前に話をしておかないと「本当に倒したのか?」という話にもなりかねません」

 

 

 そーだな。んじゃ、いつ顔を出せばいい? 悪いが、俺もあまり長くここに滞在する訳じゃないぞ。

 

 

「あの人も忙しいから…今日の帰りに話を通して、明日の昼には何時頃来れるか知らせに来る。すまないが、今日はこれで失礼する」

 

 

 はいよー、お疲れ。

 …はぁ、随分と急展開な話だこと。で、寝たふりしているホロウよ、実際どうなん? ネイリングとかいうの、何か心当たりはあるか?

 

 

「いえさっぱりです。ですが、私のようなのが居るのですから、鬼を操ろうとした事はあるのだろうな、と思っていましたが」

 

「…寝たふりが上手ですね、ホロウさん」

 

「それ程でも。あくまで推論ですが、その白炎とやらを倒してしまえば、もう現れる事はないと思います。同類が繁殖しているかに関しては、責任を持てませんが」

 

 

 その根拠は?

 

 

「毎回別の鬼を呼び出しているのだとしたら、別の種類の鬼が出てこない理由が分かりません。鬼にも個体差はありますし、最悪の事を考えると同時に複数体が呼び出される事も考えられます」

 

 

 ナルホド。ただ、今呼び出している白炎が倒れたら、ネイリングが新しい白炎を探す可能性もある…か。

 実際は、倒してみないと何とも言えないか。一度起動すると10日以上は発動しないって言ってたから、次の起動があるとしても多分俺達は居ないな。

 

 

「グウェンを連れて行く、という手もあります。これから向かう先では、怨敵イヅチカナタを初めとし、幾多の激戦が予想されます。戦力は大いに越した事はありません。あなたの言う繰り返しが事実であれば、猶更」

 

 

 事実であればって…いや、疑ってないのは分かるけどさ。

 …ああ紅月、悪いが『繰り返し』に関しては口を挟まないでくれ。こっちも色々と複雑でな…あまり人に話す事はできん。

 

 

「…私を里から連れ出しておいてその対応、と言うのは少々心に来るものがありますが、分かりました。ですが、話から類推するに、ウタカタで大きな戦があると考えているのですね? …それならば、連れて行って揉め事の種を作ってしまう事も考えられますが」

 

 

 …それもそうか。結局、一度は白炎を張り倒してみんと分からんのだな。しかし、今日発動してしまったから、次に現れるのは10日後以降か…。

 ゆっくり進めば、ウタカタ到着前に発動するかな。いや、10日期間で起きるとは限らないのか。

 

 

 …どうするにせよ、もうちょっと情報が欲しいな。

 

 

 

「でしたら、彼女の後見人に話を聞いてみてはどうですか? どの道、会ってくれと頼まれているのですし」

 

 

 …現状ではそれが限界か。

 さて、色々考えて腹が減ったな。…そういや清磨はどうした? 飯の当番はアイツだった筈だが。

 

 

「貴方達が帰ってこないので、その分も食べようとしたら邪魔してきたので、寝かしつけました」

 

 

 ……紅月、どっか飲みに行こう。何なら夜通しで。

 

 

「……あ、あさがえり…!?」

 

 

 

 

 

 

魔禍月

 

 

 紅月があっという間に潰れてしまった。緊張しすぎて、ペースが崩れまくったらしい。

 …初体験が泥酔で記憶の無いままってのもなんだから、背負って帰る時に感触を堪能するに留めました。……ごめん、寝かしつける時にちょこちょこ触って堪能しました。

 だってこの1か月ちょっと、女2人と同居してもナニもないし、全然発散できなかったんだもの…。

 

 

 …まぁ、今後は正面から正々堂々揉んだり吸ったり合意の上でセクハラするとして、グウェンの事だ。彼女の後見人とやらは、お偉いさんの割にはフットワークが軽いらしい。

 「今から来いと言っていたぞ!」と、満面の笑みでグウェンが朝っぱらから押しかけてきた。…いや、別にいいけどよ…。

 外人さんはテンションたけーな。…あれ、でもこういうハイテンションってどっちかっつーとアメリカ人っぽい…まぁ個人差か。

 

 こっちとしてもエロ本漁り以外には目立った予定がある訳でもなし。お偉いさんと顔を合わせるんだから、上等な飯にもありつけるかもしれない、という期待もあったんで、素直に会いに行きました。ただし紅月はまだ寝ています。

 

 

 

 

 

 …あの、なんか見覚えのあるオッサンだったんですけど。横浜で戦った時に協力した…九葉、だったっけ?

 あっちも一目で(神機を見て。…清磨が触ろうとするから持ち歩いてるんだよ)思い出したらしい。

 

 ちょっと微妙な空気が流れてグウェンが戸惑ったが、それは置いといて。

 

 …このオッサンがグウェンの後見人か…。いや、それがアカンとは言うてないよ? 横浜で戦った時の記憶しかないが、少なくとも頭はキレるし度胸も度量もあるし。

 ただ、善意だけで動くオッサンじゃないと思うんだよなぁ…。別に悪人面だから疑ってるんじゃないよ? 現状を見ても、私利私欲に溺れている様子は無い。

 でもこのオッサン、必要と判断したら外道な方法も平然と取りそうだからな…。悪行を『自分なら許される』と思ってやるのではなく、悪行と思わないのでもなく、悪行と知って罰を受ける事まで覚悟している珍しいタイプだ。多分。内面観察術を使っても、珍しい人すぎてイマイチ分からん。

 

 

 とりあえず、以前に会った時の事は後回しにして、白炎について話を聞いてみた。しかし、このオッサンにもアレがどうなっているのか、倒したら次のが出てくるのか等はイマイチ分からないらしい。

 ただ、恐らく次の白炎が出てくる事は無いだろう、との事。根拠としては、「あのねいりんぐ、という剣を使って呼び出しただけでは、制御ができる筈もない。恐らくあの個体に、何かしらの細工がしてある」との事。

 ナルホド、確かに呼び出す機能だけじゃ欠陥品だからな。ネイリングと対になるような、白炎をコントロールする為の道具がどこかにあるか、あの個体にコントロールの為の『何か』が埋め込まれている可能性が高い。

 

 

 と言う事は、叩き潰してしまえば一応は安心か。

 それを聞いて、英語で気炎を上げているグウェン。じい様とやらの仇を討てるからか、それとも勝てばもう襲われなくなるという希望からか。

 

 んで、九葉のオッサンの勧めで、グウェンを連れて行く事になった。オッサンが用意した、暴れても問題ない場所で白炎と決戦。その後、共にウタカタに向かうように、との事。

 まぁ、連れていくのは構わないし、もう一度召喚が起こった時の備えにもなるからいいけど……わざわざ保護したグウェンを、あっさり放り出すな。何か考えてるんだろうか…。

 

 

 

 グウェンがこれからどうするかの話をした後、少しだけ時間が余ったので、互いの情報を交換した。

 と言っても、あっちは立場上言えない事も多いだろうし、俺は世間に疎いし…横浜での遭遇の後にどうなったのか、何故ウタカタに向かったのかを話した程度だ。

 横浜で、俺が空のクサレイヅチに向かっていった後は、特筆すべきことは無かったようだ。いや、オオマガトキが起こってもうムッチャクチャだから、特筆だらけだったのが正確かな。少なくとも、あの時にイヅチが何かやらかしたって事はないようだ。…少し言い淀んでいたのが気になるが。

 ま、あの時の協力で、多少なりとも犠牲が減った…と思いたい。

 

 あの時横浜に居た俺が何故霊山に居て、しかもイツクサの英雄(紅月の事らしい)と一緒に居るのかと聞かれたが…成り行きとしか言いようがない。

 空の鬼に向かっていった後、気付いたら一か月前のマホロバ近辺に居た。これ以上の情報は無かった。

 鬼の為に時間を飛び越えた、という例が何件かあるのは九葉のオッサンも知っていて、割と簡単に信じてもらえたのは助かったな。

 

 

 

 んで、今後の事だが、あんまり深いところを話すとややこしくなりそうなんで、あの時の鬼がウタカタに出現しそうだから、とだけ話しておいた。

 そうか、とだけ呟いて沈思黙考。…よくわからん人だな、ホントに。

 

 ただ、退室する時に「駒が一つ、盤から落ちたか」と呟いたのが聞こえたから、やっぱりグウェンを使って何かしようとしていたのは確かだと思う。

 

 …探るか? …でも流石に時間がない。あのオッサン、部下にも徹底した秘密主義の上で統率してるか、秘密を知ってても文字通り死んでも吐かないように教育してるっぽいしなぁ…。

 

 

 

 …今回は放置しとくか。グウェンはこれからウタカタに行く事になるんだし、影響力は少なくなるだろう。遠距離との連絡を取り合うのも、この世界では一苦労だし…不自然な動きがないかだけ、気を付けておけばいい。

 

 

 

 

 

追記 九葉のオッサンへの直接連絡ルートを手に入れた。と言っても、メールとかがある訳じゃないんで、あちこちに潜んでいる、所謂『草』って奴への接触方法なんだが。

 

 

 

 

魔禍月

 

 グウェンを連れて行く事になった、と知った紅月は、やっぱり微妙な顔をした。…紅月がこうまで表情を崩すって、マホロバではちょっと無かったよなぁ。

 俺との関係がどうの、というのを差し引いても、妙に衝動的になっている。

 

 …やっぱり、マホロバの次期頭領という立場から、一時的にとは言え離れたからだろうか? 

 

 

 ま、そうだとしても、グウェンの手助けをする事自体には異論はないようだ。確かに、放っておいていい問題じゃない。グウェンだけじゃなく、周囲にまで被害が行く可能性だってあるんだし。それが霊山のド真ん中で、万が一にも霊山君辺りに被害が行ったら、それこそどうなる事か。グウェンだって、追放だけじゃ済まないかもしれない。

 …霊山君とか言われても、ピンと来ないけどね。

 

 九葉のオッサンと相談して、決戦場(と言う程でもない気がする)はウタカタの近く…ナルカミ平原と言う場所だ。名前の割には、あんまり雷とか落ちないらしい。

 そこで白炎を叩き潰して、そのままウタカタへ向かう。ウタカタに助力を要請する、と言う話も出たのだが、前ループ通りならウタカタも自衛で一杯一杯。それに、もしも初穂辺りが来たら、逆に足手纏いになりかねない。一皮むければ、相当に強くなるんだけどな、あいつも…。あの時と違って千歳が居ないから、どうやってパワーアップさせればいいやら。

 

 そんな訳なんで、あと5日ほど霊山に滞在する事になった。ネイリングの起動を待つ為だ。

 

 

 

 

 

 

 つまるところ、それって紅月と一緒にエロ本を探す時間が伸びたって事なんだが。

 

 

 実際の所、紅月はエロ本探しをどう思っているんだろーか? 仮にも女性(喪とまでは言わんが)を伴ってする事じゃねーが、嫌悪感を露わにする訳でも、文句を言う訳でもない。

 ……内面観察術を使ってみても、怒りを覚えている訳でもなかった。エロい事に興味は…まぁ、そこそこ程度にあるようだが、少なくとも白昼堂々、艶本をガン見する程ではない。従って、自分の為に本を探しているのでもなさそうだ。

 

 

 いや、別に紅月とそれしかやってない訳じゃないよ? せっかく霊山に来てるんだから、名所案内とかもしてもらったり、茶店を喰い歩いたり、道場で稽古に付き合ったり。……デカい禊場があったんで、一緒に浸かってみたり。流石に、透けないような服を着ていたが。

 ……あれ?  省みて思うと、禊場で混浴するのはともかくとして、これって普通にKENZENなデートじゃね? 例えその行動の殆どが、紅月に飯を作らせない為であっても。

 

 

 

 …特に問題はないな。紅月が、益々嫁入り状態になりそうな気がするが、それこそ今更である。後先考えず、関係を持ってしまうなんぞいつもの事だ。…そこから二股三又になるのも。

 

 

 

 

 

 さて、話は変わるが、グウェンである。訓練場に居た事からも分かるように、グウェンはまだモノノフとしては半人前だ。その状態で白炎の襲撃から度々生き残ってきたのだから、素質とては目を見張る物があると思うが。

 彼女をウタカタに連れて行くと言う事は、あそこでの戦いに巻き込んでしまうと言う事でもある。イヅチカナタを除くとしても、ダイマエンやらゴウエンマやらトコヨノオウやら、鬼の中でも割と強力な連中がワラワラ出てくるだろう。そこへ初穂以下のグウェンを放り込んでも、死んでしまうのがオチである。

 白炎との対決にしたって、グウェンを狙ってくる傾向がある以上、召喚だけしてさっさと逃げる、と言う事も出来そうにない。

 つまるところ、即席ではあるが、グウェンを半人前以上にしなければいけない訳だ。

 

 見た所、グウェンの体は結構出来上がっているし、良くも悪くも実戦経験者らしい度胸もある。ただ、神仏英霊から力を借りる、という感覚が今一つ分かっていないようである。…お国柄と言うか、宗教的な感覚が違うからだろうか?

 経文唱にしたって、よく見ると文字が崩れている。…エゲレス人に漢字は難しいか? いっそ、キリスト教の聖書でも唱えてみた方がいいんじゃなかろうか。

 

 そもそも、ミタマは宿ってるのだろうか? 何のミタマかは聞かないが…。

 

 …ほう、宿っていると。ネイリングを触っていた頃、いつの間にやら宿っていた?

 …それ、混乱しなかったか? モノノフならミタマについて知識もあるが、そうでない人間からしてみれば、頭の中に突然見ず知らずの人間が居座り始めたようなものだろう。

 

 

 …へぇ、死んだ爺さんがモノノフと知り合いだったんだ。そういや、人を訪ねて日本まで来たって言ってたな。その知り合いに、手紙か何かでミタマの事を尋ねようとした矢先に、ネイリングが起動して…か。悪い、無神経な事聞いた。

 ミタマが宿ってるとなれば、後は慣れと言うか、自分に合った力の引き出し方を自覚できるかの問題だ。とりあえず、それで半人前にはなれる。そこから先は、実際に鬼と戦って、動きや呼吸や間合いを覚えて…って感じだな。

 

 しかし、自分にあったやり方ってのはなぁ…。俺は何かしらんけど、ミタマの存在を認識したら普通にできるようになったし…。紅月は?

 

 

「私も特には…。ですが、モノノフ訓練生の中には、時々躓く人が居ましたね。解決方法は様々でしたが…そうですね、一つずつ試してみましょう。まずは…」

 

 

 

 …初手から催眠術モドキってレベル高いな。いや、上手くかからなかったようだけども。

 その他にも、自分の衝動(欲望とも言う)を高らかに宣言するとか、ただ只管にお茶を飲んで精神を落ち着けていたら突然閃いたとか、部屋に怪しげな像を置いて延々とそれを称え続けたら「汝、迷える衆生よ。武器を捨てて海老を取れ」と言う声が聞こえ、通称「えびぞり」の弓で戦う時だけタマフリが使えるようになったのも居るとかナントカ。…きりたん棒でないだけマシかな。

 …それ、効果あるのか…?

 

 

 真面目に試してみているグウェンの生真面目さが泣ける。エゲレス人ってこんな真面目な性格なのか?

 そして最後に。

 

 

「他には……ミタマの生前の生き方をよく調べ、その場面を強く意識する事で力を奮えるようになった、という話もありましたっけ」

 

 

 …それ最初に教えてやれよ。テヘペロしてるって事は確信犯だな?

 

 

 まぁ、その方法でも結局うまく行かなかった訳ですが。やり方に問題があった訳ではなく、グウェンのミタマについての知識が殆ど無かった為だ。

 何せ、グウェンに宿っているのは異国のミタマ。確かに霊山には多大な資料があるが、やっぱ島国の日本で活動していた組織だからなぁ。鎖国していた日本で、外国の伝承の本を手に入れろってのには無理がある。グウェン自身も、ミタマの名前が分かってから爺さんに色々と聞かされたそうなのだが、何年も前の話だし、当時は幼かったのでそもそも理解もできなかった。

 せめて、日本に来た事がある人物のミタマであれば、まだ話は違っただろうに…。

 

 

 

 

 結局、ミタマの使い方は地道に覚えさせていくしかなさそうだ…。

 



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208話

帯状疱疹の診察台(多分1万超え)
メガネが壊れたので新調(1万)
保険の切れた自転車がパンク。
Destenyの誤購入。
呪われてんのか。

投稿が1日早くなっちゃったけどまぁいいや。


 

魔禍月

 

 

 3日経過。

 

 悪いが、グウェンを育てるのが間に合わない。彼女を護衛しながら、白炎を倒す必要がある。

 何、諦めるのが早すぎる? 寝言抜かすな、たった数日でトレイニーをルーキーにできると思ってんのか。そもそも仮にできたとしても、大型鬼はルーキーが相手するようなもんじゃない。先日戦った時の情報だけでも、幾つか特殊能力があるみたいだしな。

 

 結局、霊山に居る間に大した進展は得られなかった。グウェンのトレーニングもそうだし、オカルト版真言立川流指南書もそうだし、九葉のオッサンからも特に連絡があった訳でもなし。

 霊山で禁軍に所属している筈の、雷蔵さんとも会わなかった。紅月も会えなかったそうなのだが…何かの調査で忙しいのだろうか?

 

 ホロウや清磨も、特に収穫がない日々を過ごしていたらしい。この辺には鬼も出ないからな…体が鈍る。

 

 

 

 ただ、ちょっと気になる事が無いではない。

 ホロウに、霊山のとある軍師が接触してきたそーな。ただ、その話の内容は全く当たり障りがない…と言うか抽象的なものだったとか。

 「頭のいい方なのは分かりますが、意図が掴みかねます」だそうな。…ナンパ…か? いや、結構な年だったみたいだし…。

 

 ちなみに、名前は識。…難しい漢字を使うなと言いたい。人柄は…少し話しただけじゃわからんが、とりあえず外見は九葉のオッサンとタメを張れるくらいに悪人顔、らしい。そしてホロウ曰く、「よくわからない事を話すだけ話して勝手に帰っていきました。自分の話したい事だけ口にする、言葉が通じても会話ができない人種のようです」だそうな…辛口だな。

 

 気になっているのは、ホロウと話した際に、少しだけ右手に目を走らせた事だ。利き手の確認でもないようだし。

 その後すぐに、「マホロバの里から来たホロウか」と問いかけてきた。

 

 …ホロウは確かにいい腕のモノノフだが、名が知られている訳ではない。マホロバの里での大暴れも俺がやった事だし、言っちゃなんだが名指しで問われる訳がないんだ。しかも、マホロバの里から来た、という情報までつけて。

 

 

 

 …つまり、識とやらは何らかの理由でマホロバに情報網を広げていて、ホロウがそれに引っ掛かった?

 何を気にしているのか…右手に目を走らせたって事は、鬼の手か? 確かに、霊山の軍師が注目してもおかしくない代物だと思うが。じゃあ、ちょっと話して離れて行ったのは何故?

 

 …気にしすぎだろうか…。会話の内容が分かれば…と思ったが、ホロウは団子が美味かった事しか記憶にないそうだ。まぁ、食い物の事がなくても、意味不明な事しか言ってないなら記憶には残らんわな…。

 

 

 

 

 

 

 …よもや…変質者の類か? 人間、立場に関係なく特殊性癖は芽生えるもんだが、お偉いさんになればなる程アレな人になりやすいってのは歴史が証明しているし。

 ホロウは一見すると残念な所が無いクールビューティに見えなくもないし、どことなく無機質な雰囲気は人形を連想させる。…人形に性欲を抱くのって何て言ったっけな…ピグマリオンだっけ?

 

 ぬぅ、ホロウに警戒するよう言っておくべきか。いや、仮にも相手は軍師だ。何かやらかすつもりなら、直接ではなく囲い込みに来るだろう。となると…九葉のオッサンに頼むべきか。

 いやいや待て待て、流石に決めつけるのは早すぎるだろ。直接の行動に出てから…じゃ遅すぎるから、せめて直接一目会って、内面観察術を使ってからだな…。

 そうでなくとも、あと1週間もしない内に俺達は霊山を出るんだ。…いや、霊山でそれなりの地位にあるなら、追いかけてくるなりできるだろうし、何より謀略に距離はあんまり関係ない。

 …警戒しておいてくれ、くらいは言っておくかな…。まぁ、言っておいたとしても、あのオッサンが思った通りに動いてくれるなんて、全く思えないけども。

 

 

 

 

魔禍月

 

 

 ウタカタ目指して出発である。その途中に白炎を潰すけどな。

 どうでもいいが、グウェンが自分のミタマの名前をバラした。…モノノフ的には、あまり推奨される行為じゃないな。ミタマ同士の生前によって小競り合いに繋がりかねないって理由で、他人が持つミタマを詮索する事は無い。まぁ、自分からバラしてはいけないって理由もないのだが。

 

 それに、予想通りグウェンのミタマは外国の英雄のミタマだ。日本のミタマと関係があるとは、あまり思えない。

 しかし、ベオウルフ…ベーオウルフ? ベオウルフねぇ…。

 どんな英雄だっけか。円卓の騎士関係? 誰かに反逆したんだっけ? 確か、何かのドラゴンとやりあったと思うんだが……ああ、白炎は見た目竜だしな。だからベオウルフなんだろうか。

 ベオウルフと言えば、ガッカリウルフの方も思い浮かぶ。…盾剣の一穿ち、パイルバンカーっぽいよなぁ…。

 

 そういや、盾剣のモノノフ式扱いも、初めて見たな。この際だし覚えてみるか…。

 

 

 その辺は歩きながらの話の種にするとして、グウェンは意外と旅慣れていた。しかも周囲を警戒しながら動くのに慣れているようだ。多分に我流だと思うが、見事なもんだ。

 ずっと一人で旅してきたらしいからなぁ…。危険は白炎だけじゃなかっただろう。色々と欝になりそうな話に遭遇した事だってあっただろうに。よくぞここまで真面目に生きてられるもんだ。

 

 

「ところで、以前から聞こうと思っていたのですが…グウェン、貴方が探している人というのは、どんな人なのですか?」

 

「どんな人と言われても、私も会った事がないんだ。あの祖父と友誼を結んでいたと言う事は、結構なモノズキだと思うんだが」

 

「名前くらいは聞いてないのか? 日ノ本にたった一人でやってきて、手がかりも無く誰かを探し出せと言うのは、いささか酷だろうに」

 

「…ネイリングは触らないようにしてくれ、清磨…。名前はクラネ、というそうだ。九葉にも伝えて調べてもらっていたんだが、それらしい人は居ない」

 

 

 クラネ、倉根、倉音…暗祢…心当たり無いな。どんな字を当てるのかも分からん。今までのループを含めても、心当たりはない。

 

 

「私も聞いた事はありませんね。少なくとも、マホロバにはそのような名前の方は居なかったと思います」

 

「俺も…同じ名前の人間は2人知っているが、どちらもオオマガトキ以降の生まれだな。ホロウ、お前はどうだ」

 

「私もありません。そもそも、この時代で知人がいるのはマホロバくらいですので」

 

「時代…? ううん、やっぱり見つからないか…。当時は鎖国していた日本で、イギリスの祖父と親交があって、更にモノノフであるなら、相当に絞り込めると思っていたんだけど」

 

 

 ああ、確かにそんなモノノフはそうそう居ないだろうな。

 …そういや、横浜に居る時にオオマガトキに巻き込まれたって言ってたな。そのクラネって人、横浜に居ると思ってたのか?

 外国人とモノノフ…いや、当時の日本人が接触できるのは、外国人居留地くらいだろうし。

 

 

「ああ。尤も、到着して数日でオオマガトキが起こったけどな…。あまつさえ白炎が湧いて出て、他の人達と一緒に避難する事すらできなかったし…」

 

 

 …どんだけ不幸キャラなんだよ、グウェン…。

 

 

「まぁ…白炎に襲われているところを九葉殿の舞台に発見されて、訳を話して霊山に連れてきてもらったのだから、何が幸いするか分からないな」

 

「それを幸いと称する時点で不運な気が…」

 

 

 言うな清磨。しかしどうすんだ? これからも探してもらうのか?

 

 

「九葉殿の負担にならない範囲で、だが…。祖父から預かった手紙もある。訃報も届けないと…」

 

「そもそも、外国は今どうなっているのですか? 中つ国以外は全て異界に沈んでいますが、もしも異国もだとすると…」

 

「ホロウ、止めなさい。確かにどうなっているか分かりませんが、無事な可能性もあるのです。異国の大陸は、日ノ本とは比べ物にならない程広大だと聞きます。ならば異界の侵食にも時間がかかるでしょう。鬼についての事を知らない人々でも、異変に気付いて避難できる可能性は十分にあります」

 

 

 …避難できた先でどうなってっかは分からんけどな…。人が多いとその分軋轢も多いだろうし。

 鬼に対しては…まぁ、向こうにもモノノフっぽいのは居るかもしれんね。

 

 

「気にしなくていい。元より祖父以外には身寄りがない…。まぁ、故郷の美味しくないご飯を食べたくなる事はあるかな。そしてお茶」

 

 

 お茶でえげれす…あー…紅茶かぁ…。GE世界…にもないではないが、滅多に手に入らなかったなぁ。MH世界のは、紅茶と言っていいのかよく分からんし。味や茶葉は似てるっぽいんだが。

 次のループでそれっぽいのとっておいて、送りつけてやろうかな。

 

 

 

 

 

魔禍月

 

 

「思えば幼い頃、貴様を呼び出しイクセイソウ。何度貴様と、不本意ながら戯れた事か…。祖父の仇、とは言わん。だが諸々の因縁、今日で断たせてもらう!」

 

 

 お前は後ろで控えてるだけがな。

 

 

「呼び出すのは私だ! …いや、実のところ真面目に申し訳ないとは思っているんだが」

 

 

 はい、そういう訳で九葉のオッサンに指定された決戦場です。デカい洞窟ですな。

 ぶっちゃけ何もないが。強いて言うなら、近くに境界石があるくらいか。

 緊張しているのはグウェンくらいで(気炎を上げてるところを見ると、あんまり緊張しているようには見えないが)、ホロウは相変わらず無表情で銃の手入れ、紅月は周囲を散策して小型鬼の排除と地形の把握、俺は飯の準備。ちなみに清磨は戦力外なんで、境界石の隣で何故か仁王立ちしたままだ。お前そのポーズ何か意味あんの?

 

 言っちゃなんだが、白炎はまず余裕だもんなぁ…。俺と紅月が、霊山近くで戦った時も終始圧倒できた。それに加えて、今度は後方射撃担当のホロウまでいる。

 問題があるとすれば時間制限と、そしてタマハミ等による奥の手か。逃げられないかと言う事については、洞窟の中なので空も飛べない状態になっている。これがオッサンの狙いだったのかな?

 

 

 

 …まぁ、グウェンが白炎を呼び出す時のエネルギー柱で、天井ブチ抜いてしまったからあまり意味はなかったが。

 

 

 現れた白炎は咆哮して、自分を呼び出したグウェンを睨みつけている。グウェンは睨み返して、エゲレス語で何か語ったと言うか宣言していたが…そんな事している暇があったら、さっさと境界石に入りなさい。

 …気を引いてくれたおかげで、楽に翼を破壊できたのは否定しないけども。

 

 完全部位破壊が出来なかったから再生はしたものの、これでそうそう飛べなくなっただろう。飛行速度が落ちれば、最悪アラガミ化してジャンプすれば追いつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、戦った感想は一言。蒸し暑いわ。洞窟の中でポンポン炎を吐きやがって、酸欠になったらどうしてくれる。…鬼って呼吸してるのかな…。呼吸してるような動きは確かにあるんだけど。

 それ以外に特筆するような事は、正直なかった。懸念していたタマハミ変化も無いに等しかったし、空を飛んで逃げようともしなかった。時間切れだけが唯一の心配だったが、最初から「ガンガンいこうぜ!」した為に、一度ダウンさせたら後は早かった。起き上がろうとする度に、どっかが破壊されてまたダウンしたり、鬼千切が決まってまたダウンしたり、仕舞には本邦初公開…ではないが、初めて使うよーな気がする鬼千切・極が直撃したりした。

 グウェンが「今まで散々殺意を抱いてきたが、むしろ哀れに思えてきた」と後に零した程である。上位装備で下位の鬼と戦えば、大体そんな感じになるよね。

 

 

 

 その夜、グウェンは何だか黄昏ていた。夜中だが。

 

 

 結局、白炎の再召喚は無いと思われる。ネイリングの使い手…契約者?…であるグウェンが、白炎が倒れた時に何らかの繋がりが壊れたのを感じたそうだ。

 あくまで主観なので、どうなるかは時間をおかねば分からないけども…。

 

 

 まぁ、とりあえずグウェンの面倒事は片付いた。最悪、再度召喚されるようなら、ネイリングに鬼杭千切真バージョンを打ち込んででも停止させようと思っている。

 が、グウェンにとって最も過酷なのはこれからだろう。これから一緒にウタカタの里へ行く事が決定している。

 

 半人前、それこそ未だにタマフリすら満足にできない、初穂以下の実力しかないと言うのに、オオマガトキが起こるかもしれない修羅場へ、嫌が応にも放り込まれるのである。

 …実際、放り込んだところで戦力になるかは微妙だな。既に実戦経験者だし、大型鬼と戦わせれば一皮むける…なんて都合のいい事もないだろう。白炎だって、ミフチなんぞより強かったんだし。

 ……となると、初穂に『妹』扱いされる可能性が高いかな。千歳の時みたいに。…外国人と言う事もあり、グウェンの方が年上に見えるけど。

 

 

 ま、今日くらいはそっとしておいてやるか。

 …これから来る地獄の為に。

 

 

 

 

魔禍月

 

 

 ウタカタに到着するまで、あと2日くらいか。馬があるか、鬼疾風を使えればもうちょっと早く着くんだけどな。グウェンと清磨がなぁ…。グウェンは「練習すればなんとか」って程度の力はあるんだが、清磨は完全に無理だ。反射神経と動体視力が全く追いついてない。まぁ、一介の鍛冶屋にそこまで要求する事がおかしい、と言ってしまえばそれまでだが。

 道中では大したトラブルは無い。うん、トラブルはね。

 

 気になるのは、グウェンが…何と言うか、妙にアグレッシブと言うか、そのクセ斜に構えたがっていると言うか…下手な中二病を見ている気分になってくる。小難しい事を考えていたり、それに対して意見を求めてきたり。

 …紅月はまともに考えているし、清磨はKJ的に…鍛冶師的に考えて謎理論で答えているし、ホロウに至っては含蓄があるのか無いのか分からない返答をする始末。

 俺? 適当に答えたら色々な意味で深読みされていますが?

 

 何事だろね、一体。そういやエゲレス人って、何かと議論をしたがって、意見を持ってないと『つまらない奴』みたいな感想を持つって聞いた事があるが…グウェンも元々そういう性格だったんだろうか? それが白炎みたいな心配事面倒事が無くなって、表に出てき始めたとか。

 …ただ、議論をしたがるにしたってその話題はどうんなんよ。どうでもいい事を、さも重要に考えてるようにしかみえねーよ。きのこたけのこ戦争どころか、中世くらいの議員とか評議会とかが、華美な服装はどこまで許されるのか、なんて話をしたがっているようにしか見えない。

 いや議論したがるのはいいとして、言われた事を大真面目に受け取って、やたらと深読みするのは止めなさい。世の中には中身のない意見や返答もあって、それを考慮しないで真面目に受け取ってばっかじゃ、それこそ誰の意見も聞いてないのも同じ………いやだから、これだって思い付きで言っただけなんだっての。

 

 …まぁいいか。生来の気質なら、抑え込むべき物じゃない。適当な事を言ったり「知らないよ」って返したら鼻で笑うような態度を取られるならともかく、何でもない事を矢鱈深読みして過大評価してくるくらいだ。イラッとする理由もない。若干戸惑うが。

 それにしても、グウェンは努力家だ。その上妙にリアリストと言うか…。

 もう白炎は出てきそうにないし、無理にモノノフ続ける必要はないんじゃないか、と聞いた所、「老後の生活の為にも続ける」と返された。…老後どころか1年後も来るか分からない状況だけどね。

 

 まー言ってる事は確かだったな。このご時世、モノノフは危険な職業でもあるが、鬼に対抗する力を持つ事が出来るし、危険手当等もあってそれなりに待遇はいい。(給料自体は、凄腕にならないと高くないが)

 グウェンはただでさえ外国人…見た目と言葉と偏見の問題で、日本では職に就きにくい立場にいる。だが、モノノフならば相応の実力があれば確固とした立場、居場所を作る事が出来る。

 白炎に対抗する為でなく、生活の為にモノノフを続ける。人類の為に戦っていることになるので、社会貢献度も高い。と言うか、そうやって一人でも多く戦わなければ、ガチで人類が滅び、老後の生活も何もなくなってしまう。

 故に、自分の立場の為、経済の為、社会の為、3つの理由からモノノフを続ける…と。

 

 …そこまで考えるか? 普通…。いや、確かに戦力が足りてなきゃ、色々滅ぶけども。

 

 

 しかし、そうは言ってもグウェンが半人前(ウタカタ基準でなく、一般基準で)なのは変わりない。トレーニングも欠かさないが、それだけで埋まる程、半人前と一人前の差は小さくなかった。

 うーむ…こりゃアレかな、鬼の手は主にグウェンに持たせるか? 多少の戦力増強にはなるだろう。幸い、着脱可能との事だったから、任務受領時に誰かひとりが持っていく、と言う事も出来る。

 しかし、タマフリさえ上手くできない、使いこなせてないのに、別の技を突っ込んでも混乱させるだけかなぁ…。

 

 

 

 考えても仕方ないや。とりあえず使わせてみよう。

 

 

 

 

 

魔禍月

 

 実験しながら歩いたが、グウェンは割と鬼の手を使えていた。タマフリも上手くできないというのに…いや、それはあんまり関係ないのかな。

 本人曰く、「ネイリングが起動しそうな時と感覚が似ている」だそうな。ある程度はグウェンの意思で抑え込む…と言うより発動を遅らせようとする事ができたそうなのだが、その感覚で鬼の手を具現化できるそうな。よく分からんが、そーいうもんか?

 

 同じように紅月が使ってみたが、これは…あまり安定しないようだが、使うタイミングが上手いな。あくまで補助として考え、今まで鍛え上げてきた技こそがメインウェポン。それも一つの戦い方やね。

 清磨はと言うと……起動させる事すらできなかったんだが、それ以上に何やら閃いたらしく、猛烈な勢いで手帳に何かを書き綴っている。確かに、鬼の手は色んな意味で革新的な武器だもんなぁ。鍛冶師とは分野が違うと思うけど、刺激を受けるのは当たり前か。ふむ…武器…使用者の意思とかを力にする武器……光魔の杖みたいなのを作り出すかもな。

 

 ちなみに、俺が手本として見せた鬼の手は完全に安定した状態。もっと強くすれば、物質化も出来るかもしれない。…レベルがまだまだ足りんだろうけども。

 手袋も無いのにどうやって実体化させているのかと聞かれ、文字通り体内にカラクリ石を埋め込んだと言ったらドン引きされた。どうやら、肌を切開して文字通り体の中に石を入れたと思われたらしい。

 …そうだとしても、俺はあんまり抵抗ないなぁ。元居た世界だと、ペースメーカーを初めとして体の中に機械を埋め込むのは左程珍しい話じゃなかったし。

 だが、文明開化の音が響いてないこの世界の人達には、ちょっと刺激が強すぎたらしい。ひょっとしたら、歴史的には既に発生している技術なのかもしれんが、あまり馴染みののある物とは思えんしな。

 

 

 で、ホロウはと言うと…何と言うか、便利に使っています。今後ずっと手袋を外さなくても問題ない、という意識が忌避感とかを無くしているのか、それともカラクリ石を扱うのに適正でもあったのか、非常に器用に使っている。いや器用というか便利と言うか、伸び縮みする腕扱いだ、完全に。

 ちょっと離れた所にある道具を取るのにうにょーん。沸いて出た鬼をブン殴るのにウニョーン。背中を掻くのにウニョーン。体を拭くのにウニョーン。…横着スンナと言いたくなるくらいに使いまくっている。

 ここまで使いまくってるから、こんなに器用に動かせるようになったんだ…と言われれば、それも納得か。

 

 

 …体を拭くの下りが気になる? いやアイツ本当に無頓着だからさぁ…博士の家に居た時だって、風呂から上がると平然と歩き回ってたし。

 ちなみに体を拭くのにどうやって使うかと言うと、体を撫でるように動かして水滴を拭っているのだ。で、鬼の手を霧散させれば、拭い取った水だけが残る。もう一回出現させれば、濡れてないタオル代わりの鬼の手の誕生だ。…まさかこんな使い方をするとは、博士も思っていなかったろう…。

 このままいくと、包丁とか鍋掴みとか、いやさ鍋そのものの代わりにまで使い始めるような気がする。最終的には、「実体化させた鬼の手は美味しいのでしょうか」とまで言い出しても驚かない。

 

 …まぁ、それはそれで面白いのでアリだな。実体化させた鬼の手の味の感想を聞かされた博士が、どんな顔をするか楽しみだ。次のループに至っては、まだ完成させてもいない道具の味(?)まで手紙で知らされるとなれば…。そのリアクション、是非とも見てみたいものだ。次もマホロバ付近に出るといいのだが。

 

 

 

 

 

 夜。

 

 

 

 明日にはウタカタに到着するだろう。霊山でも情報を集めていたが、ウタカタは一杯一杯な状況ではあるが、オオマガトキの兆候もなく、目撃される鬼もミフチかヒノマガトリ程度。最近ではカゼキリも顔を出すようになってきたらしいが。

 と言う事は、博士も可能性の一つとして挙げていた通り、俺がウタカタに到着する事でストーリーが始まるのか。つまり、俺が他所をうろつき回って色々と準備や根回しをしまくっても、ウタカタは充分保つ…?

 いやまだ分からない。ウタカタ近くの情報を集めたとは言え、異界の中の情報まで把握できている訳ではない。ひょっとしたら、ゲームストーリーや前回ループ程じゃなくても、準備は進んでいるのかもしれない。

 

 とりあえず、あっちに到着したらすぐさま異界巡りだな。最初は雅の領域にしか入れてくれないだろうけど、そんなもんは忍び込めば済む事だ。速鳥以外じゃ、現行犯逮捕は無理だろう。

 とにかく、今回は色々な意味で勝手が違う。油断は禁物。打てる手は全て打て。些細な変化は死因の前触れだと自覚しろ……それが全てだ。

 

 

 

 

 

 それはそれとして、地道に型の練習をしているグウェンを見て思った。

 

 

 必殺技が欲しい。鬼杭千切みたいな攻撃系の技じゃなくて、自分を強化するタイプのが。アラガミ化とはまた違う。あれは…なんちゅーか、体質と言うか素質だから。欲しいのはアレだ、界王拳的な技術でパワーアップするサムシングだ。

 技術はロマンだ。体質…スーパーサイヤ人化もロマンだが、界王拳もロマンだろう。自分だけの超レア素質を活かすか、敢えて皆が使える技術を比肩しうる者が居ないレベルにまで引き上げるか。どっちも好きだ。

 

 …しかし、真面目かつ地道にやってるグウェンを見て、こんな一足飛びの発想に至る辺り、人としてアレである。

 

 

 

 

 



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209話

3日に突然日間5位まで浮上しててフイタ。
…やっぱアレかな、1日投稿感覚を間違えたからだろうか…。
あれー、来てないぞー、もうちょっとしてから見てみよう。を繰り返された結果だろうか…。
申し訳ない。


ちょっと無気力気味?
相変わらず脇腹が痛いし、それ以前にこう…何もする気にならない。(ゲーム以外)
うぅむ、やはり酒量を減らすべきか…。


魔禍月

 

 

 

 あと数時間もあるけばウタカタ…と言ったところで、異変発生。上からヒノマガトリが落っこちてきた。ついでに桜花も降りてきた。

 上を見れば、崖の上に槍の穂先が見える…ありゃ伊吹かな。

 

 

「何者だ?」

 

 

 何者って…ウタカタに配属されるモノノフですが何か?

 

 

「何? 援軍が来るという話は聞いていないが」

 

 

 あー…命令書ならありますが。引っ越しのドタバタで、来るのがちょっと遅れてますけども。ちょっと待って、確か荷物の一番下に…。はいコレ。

 

 

「む…確かに…。だが、君の配属についてしか書かれていないが。残りの4人は………べ、紅月殿!? マホロバの里の紅月殿か!?」

 

「ええ、私は確かに紅月です。…どこかでお会いしたでしょうか?」

 

「い、いえ、直接会うのは初めてです。何度か戦っているのを遠目に見た事があるだけで…」

 

「そうですか…私も貴方の噂は聞いています。ウタカタの里の桜花殿」

 

「こ、光栄です…」

 

 

 …なんぞ? そういや、紅月ってイツクサの英雄とか呼ばれてたんだっけ。桜花がミーハーになってもおかしくないか。

 しかし、ちょっとドジったな。俺にしろホロウにしろ、九葉のオッサンから異動の命令とか正式に出してもらえばよかったか。そうすりゃ、少なくともウタカタで使わせてもらえる家を掃除しておいてくれただろうに。

 

 …ま、いいけどね。流れのモノノフなんぞ珍しくもないし。

 

 

「話が逸れましたが…彼らの身分は、私が保証します。また、諸々の事情により、暫くウタカタで戦わせていただきたいと思います。大和殿へのお取次ぎをお願いします」

 

「承知しました。…ところで、身分はともかく、彼らは一体?」

 

「む、鍛冶師修行中の清磨だ」

 

「ホロウです。流れのモノノフ…と言う事になっています」

 

「なっています?」

 

 

 ホロウ、ややこしい言い方をするんじゃない。実際流れ者状態だろうが。

 あー、俺は…正式(笑)な書類があるからいいか。

 

 

「私は…モノノフの訓練兵だな。見ての通り貴方達からすれば異国の出身だが、日本語は出来るので気軽に話しかけてほしい」

 

「お、おう…」

 

 

 ちょっと気後れしているようだ。金髪碧眼がそんなに珍しいか。…珍しいな、現状では。

 グウェンは色々事情があって、霊山での訓練を一時切り上げて派遣されてるんだ。細かい事は霊山の九葉のオッサンに聞いてくれ。

 

 

「…九葉? 『血塗れの鬼』か?」

 

 

 …なんだそりゃ? 確かに鬼も逃げ出す悪人面ではあるが。

 

 

「…いや、何でもない。詮無い事を聞いた。何であれ、助っ人が来るのは大歓迎だ。こちらも中々切羽詰まった状況でな。…見た所、紅月殿は勿論、君達もかなりの使い手のようだ。期待させてもらうよ」

 

 

 どーも。ところで、崖の上に居たポニョ…もとい居た人は?

 

 

「ああ、伊吹なら一足先に里に戻した。こっちも色々と忙しくてな。それでは、ウタカタまで案内しよう。非戦闘員が居るから、鬼が出る道は避けていくぞ」

 

「すまん、手間をかける…」

 

 

 

 そういう訳で、若干曲がりくねった道を通ってマホロバへ。鬼疾風なら1時間かからなかったな…。こっちでも広めるとするか。

 …考えてみりゃ、逃げ足の速さが超強化されるからな…。斥候部隊の生還率も上がるかもしれん。

 

 

 

 

魔禍月

 

 

 ようやっとやってきました、ウタカタの里、今回ループが始まって約1か月と2週間。月日が過ぎるのは早いもんだ。

 その一方で、ウタカタは実に見慣れた景色が広がっている。里に来るまでの道を観察していたが、大きな戦いがあった形跡もなし。大攻勢もなかったようだ。

 

 …やはり、俺が来ないとストーリーが始まらないんだろうか? 考えてみりゃ、これまでのループでも里に来る時期はバラバラだったが、いつもゲームストーリーの初め頃からの始まりだったしな。

 まぁ、そうだとしたら準備にかけられる時間が増えるんだからいい事だ。…標的のイヅチカナタには、どんだけ大軍集めても意味無さそうだけども。

 

 

 とりあえず、俺達は無事にウタカタの里に受け入れられた。住居をどうするかって問題もあったが、清磨は「この辺の異界を巡っているから気にしなくていい」とか言い出すし、ホロウも俺も寝ようと思えばどこででも寝られる。

 なので、野宿に不慣れなグウェンと、紅月を里の中の家…ゲームで言う主人公の家で、俺も何度か住んだ事がある…に置く事になった。んで、俺とホロウは結界の際に近いボロ屋。申し訳ないと言われたが、屋根があるだけで十分です。大工仕事も出来ない訳じゃないしな。

 

 

 

 で、肝心のこれからの戦いだが…それぞれ分業と言うか、別の部隊に配属される事になった。

 ま、無理もないわな。紅月はイツクサの英雄と言われているだけあって、即最前線の遊撃隊と言うか切り込み役と言うか…いや、切り込み役は富獄の兄貴が居るだろうから、主に遊撃隊かな。

 グウェンはまだ訓練中、タマフリもまともに出来ない未熟者なんで、直接戦う事の少ない偵察部隊。

 

 そして俺とホロウは、里の防衛部隊。…何気に初めての配置だな。いつも好き勝手に出撃ばっかりしてたから。

 ここに配置されるのも、分からんではないな。紹介された際に、紅月が「彼は私より強いですよ」なんて言って一騒ぎあったものの、流石に突然信用はできんだろう。紅月がかなりの名声を持っているので猶更。

 「イツクサの英雄以上に強いモノノフなら、名前くらいは知れている筈」「でも誰も知らない」「しかし紅月が嘘を言っているとも考えづらい」「じゃあしばらく様子を見ようか」と、こんな所だろうか。

 

 

 なお、配属される際のゴタゴタは、思っていたよりは少なかった。

 グウェンの金髪碧眼も、前ループでは半分鬼の千歳を(少なくとも表面上は)最初から平然と受け入れていたウタカタの人達にとって、大した事ではなかったようだ。

 半人前以下を最前線のウタカタに寄越した事については、大和のお頭がOKを出した事で反対意見は封殺された。グウェンの保護者(?)が九葉のオッサンだって事を聞いたら、「そうか、奴か。なら必要な事なのだろう」と一人で納得してしまっていた。…知り合いなんだろうか?

 

 他にあったゴタゴタと言えば、何でマホロバの里の次期頭領候補がこんなトコに居るんだ、という事くらいだろうか。それに関しては、俺も未だに理解できていません。西歌のお頭に押し付けられて、いつの間にやらズルズルと…。

 

 …ゴタゴタが少なかったと言うよりは、有名人の紅月に意識や意見が集中して、こっちに飛び火しなかったって言った方がいいかな。まぁ、揉め事を引き寄せる性質らしいから、遠からず引火してくるとは思うけども。

 

 

 

 

 

 

 さて、里の防衛部隊って事で、俺とホロウは伊吹の部下として付く。よく鬼の討伐に出撃しているけど、一応所属は防衛部隊らしい。

 主な任務は哨戒、並びに里に近づく鬼の排除。…なんだけど、主力部隊に組み込まれてないだけあって、彼らの実力は良くて二流。いっそ、徹底して気配を消す訓練をさせて、偵察専門にすりゃ良かろうに。

 そんなもんだから、ちょっと強力な鬼が出たら、すぐに伊吹に頼る事になる。伊吹本人も、見た目や普段はアレだが、仲間の命がかかってると文句一つ言わずに出張るもんだから、そのスタイルが確定してしまっているようだ。

 

 これはアカン。問答無用でAランクSランクの改善事項だ。ゲームでも伊吹が間に合わずに死人が出ていたが、そうでなくても遠からず間に合わなくなる。今現在でも、例えば二か所で大型鬼に襲われたら、確実に一方は見捨てる事になるだろう。

 伊吹だってこのままでいいとは思ってなかったろうが、簡単に大型鬼と戦えるくらい強くなれる筈もないし、それくらいなら…と自分でやっていたんだろう。

 

 

 が、俺達にはうってつけの改善方法がある。そう、鬼疾風だ。やり方を広めようかなー、と漠然と思ってはいたが、これは思っていた以上の効果を出しそうだ。

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で、新顔として紹介された初日から、鬼疾風の特訓です。顔出し早々、上から目線で訓練しろと言った事については反発が出たようだが、鬼疾風の実演をすると一転。教えろくだしあ、とばかりに全力絶叫。

 一見しただけでも逃げ足の速さが跳ね上がるってわかるし、訓練も…まぁ、細かい制御はともかく速く走るだけならたいして必要ない。

 

 ただ、防衛部隊でありながら最初から逃げる事だけを想定する訳にもいかないもんで、やっぱり留まって戦う事にはなる。そうなると、やっぱり伊吹、俺、ホロウの誰かが出張らなきゃいかんのだよなぁ…。まぁ、伊吹一人でやってた時に比べれば、負担が3割になってると考えれば…。

 それに、今後はそもそも鬼を近付けないやり方を伝えていこうと思うからね。防衛部隊なんだから、近づいてきた鬼を討伐するより、そもそも近付けない事を考えて、その上で突破されたら総力戦くらいの考えは持っておかんと。

 

 と言う事は、鬼を相手にしたトラップか。いつぞやのループでは、火薬(Gのヤツな)の量に任せて鬼の大攻勢を壊滅させたりしたっけなぁ…あれは気持ちよかった…。

 しかし、常にそれを張り巡らせる程の火薬量は無い。少なくとも、今は。他の罠の張り方を教えなきゃならんな。

 実力の差による物とは言え、新人にデカい面されて指導されるのは気分がよくないだろうが…ま、死ぬよりはマシと諦めてもらおう。場合によっては、ヘタレことロミオを一般軍人並みにまで鍛え上げた教導の出番である。

 

 

 

 

 その為には、一回心を圧し折らなきゃいかんけどな。

 

 

 

 

 

 そうそう、金髪碧眼で忌避されてないかなー、と思ってグウェンの様子を見に行ったんだが、全く問題なかった。初日も前ループもそうだったが、ウタカタの人は大らかすぎる…。

 忌避されるどころか、珍しいから触らせて、とまで言われたらしい。初穂に。

 

 …初穂、今度はグウェンを妹扱いする気か? いや今度はも何も、初穂にしてみりゃ初対面だし千歳に会った事もないんだけども。

 と言うか、見た目から実年齢から精神年齢から、完全に初穂が年下な訳ですが。

 まぁ、大和のお頭を弟扱いしてんだし、年齢についちゃ今更か。

 

 と言うか、初対面(今回は)の初穂と話してる間に年齢の話になったんだが……なんつぅか、すげぇ意外だな。

 初穂が15歳でリアルJC年齢なのはいいとして、伊吹が26歳、桜花が22歳、グウェンが21歳、そして富獄の兄貴が23歳……。兄貴、意外と若かったんだな…伊吹よりも若いってのが一番意外だわ。明らかに戦場で10年以上過ごした面だから、最低でも30前後だと思ってたんだが。

 ちなみに、那木は前ループで聞き出したが、24歳である。まだまだ花盛りの年だと思うが、モノノフ的には適正結婚年齢を逃して…ゲフンゲフン。

 

 

 ま、とりあえず初穂との初対面は好感触だったと思っていいだろう。グウェンから、鬼に襲われていたところを助けてくれた恩人、として紹介されたらしく……あれ、なんか千歳の時と既視感が。まぁいいか。

 しかし、久しぶりに初穂を見た気がするが…いやそれを言ったらウタカタの皆も同じか。とにかく、やっぱり初穂の実力は一段下に見ざるを得ない。グウェンは更に下だが、アレはルーキーじゃなくてトレイニーだから比較対象にするのが間違いだ。

 

 暫くの間、初穂はグウェンと一緒に基礎練習をしよう、という事になっているようだが……どうなんだろな。初穂もまだ半人前だが、ウタカタの里の戦力の一つである事は変わりない。少なくとも、前のループでオオマガトキ阻止の為に動いていた時は、立派な戦力の一人だった。

 だと言うのに、イヅチを斬り損ねた訳で…。初穂もある程度以上には強くなってもらわないと、今後の戦いで取り返しがつかない事になりかねないんだよなぁ。初穂のポジションをホロウに肩代わりさせるとしても、正直言って心許ない。いやホロウの実力自体は初穂以上だと思うんだが、対イヅチカナタ用の戦力が削られるのはな…。

 荒療治になるが、二人ともある程度戦線に出すべきかなぁ…まぁそうだとしても、決めるのは俺じゃなくて大和のお頭になるけど。

 

 

 

 

 

 追記 到着初日のチュートリアル的襲撃は、紅月がさっさと片づけてしまったらしい。ま、イツクサの英雄殿を引っ張ってこなきゃいかんような相手でもないしね。

 

 

 

 

魔禍月

 

 ウタカタに到着して、はや数日。勝手知ったる里でもあるし、生活は順調だと言っていいだろう。

 

 …紅月が飯を作りに来る事を除けば。やっぱこの子、嫁入りと考えているようだ。誘えば……イケるかな?

 いやいや待て待て、いくら美味しそうな脂の乗った(失礼な意味ではなく)28歳とは言え、嫁入りの覚悟を決めてきている人に軽い気持ちで手を出すのはよろしくない。いや今までの相手だって本気っちゃ本気だったけども。

 正式に娶ると言うか籍を入れる覚悟をしなければ、この手の女に手を出すのは危ない。いやこの女が危ないって意味じゃなくて、軽い気持ちでナニした因果が、増幅されまくって俺に返ってくるって意味だ。俺だって学習するんだぞ? ちゃんと活かされるかは別問題だが。

 

 …一回、しっかりと話し合った方がいいな。……………覚悟を決めてから。

 

 

 

 

 いや、覚悟決めたところで次のループに行けば無かった事になるんだろうけどさ。最低限、かつてない程の怒りを湛えた紅月を交えての修羅場は考えておかないと。

 浮気する前提で考えてるのは、もう言うまでもないと思う。真面目な話、橘花のストレス解消も、尻以上のモノは見つかってないからなぁ…。

 

 

 ま、その辺は後で考えるとしてだ。

 現状の最大の問題は、イツクサの英雄が甲斐甲斐しく世話を焼く(焼こうとはしている)俺は何者なんだ、って視線をどうにかせにゃなるまい。

 

 

 

 

 

 と言う訳で、紅月と腰を据えて話し合おうと向かい合ったんだが…タイミングの悪い事に来客があった。……清磨だ。しかもかなり酒臭い。

 疲労困憊状態だな…。異界を適当に巡っていると聞いていたが、何があったんだ?

 

 

 座り込んで一方的に愚痴り始めたので、紅月との話し合いが出来なくなってしまった。

 愚痴を適当に流して、寝かしつけて、ついでに目覚ましと称して冷たい川にでも放り込もうかと思っていたんだが、なんか…妙に深刻に落ち込んでいるようだったし、紅月の制止もあったので、ちょっと話を聞いてみた。

 要するに、タタラさんの武器を見て、自分の技術との格差を突き付けられたらしい。タタラさん本人からも、「ひよっこが」と言われたそうだ。

 清磨の場合は、その為にウタカタの里に来た筈なんだが…それを考慮に入れても、今までの自分の態度が恥ずかしくなったらしい。

 

 

 …まぁ、なんというか、よくある話ではあるんだろうな。自分がトップだと思っていたら、それより遥か高みの相手に蹴っ飛ばされて鼻っ柱を叩き折られたと。

 尤も、この鍛冶狂いと言ってもいい清磨が、それだけでこんな醜態を晒す訳ではなく。技術格差に打ちのめされて、すぐに自分の腕を上げようと、あれこれ工夫を凝らし、基本的な技術を一から叩き直そうとしたそうな。

 いい目標を見つけたからか、数日間の再修業をしただけで、今まで感じていた壁を突破して武器を打ち続けて…また壁にぶつかった。

 

 技術はタタラさんには及ばないものの、自分に足りない物が見えてきた。しかし、それとは別に決定的な『何か』が自分に足りない。

 それを自覚し、探そうとしているものの、再修業によって溜まった疲労も抜く必要があり…ちょっと気晴らしに呑んでいこうとしたら、こうなったと。

 

 

 

 …うーむ、なんちゅーかクソ真面目だなぁ…。極端から極端に走るっつーか。

 ストイックな数日間と、その反動でベロンベロンか。まぁ誰だってハメを外したい時はあるし、気分転換だって必要だ。別に怒る理由は無い。…紅月との話し合いは、今度でいいか。

 

 しかし、清磨に足りない物ねぇ…。何だろな。正直、色々な意味で足りない部分はあるし、逆に不要な物もくっついていると思うが。足りない物は気遣いとか常識、不要な物は放浪癖かな…。

 でもそれって鍛冶には関係なさげだし。

 

 たたらさんから見ればヒヨッコ扱いでも、清磨にはそれなり以上の技術はあると思う。少なくとも、情熱とか努力とか真剣さではないな。その辺は足りてると思う。

 …ふと思ったが、リッカさんとかを見たら、たたらさんはどう思うだろうか。鍛冶と技術で畑違いとは思うけども…。

 

 

 …何となくだけど、清磨よりも腕は下だけど、清磨に足りてない物とやらを持っているような気がした。

 

 

 

魔禍月

 

 

 平和だのー。鬼も大したヤツらが居ない。防衛班の出番が少ない。鬼疾風の訓練はちょっと手古摺っているが、伊吹を始めとした主力級は勿論、準主力にも好評だ。

 となると、次の流れとしては、ミフチがモノノフの誰かを追いかけてきて里の近くに侵入。その後に那木さんと富獄の兄貴と顔合わせしてカゼキリイベントか。

 

 まぁ、俺がやるとは限らんのだけどね。ホロウがやってもいいし…ああ、最初の襲撃イベントに立ち会ったって事は、今回は紅月が主人公の立ち位置の可能性もあるか。

 

 

 とは言え、呑気に観戦ばかりもしていられない。今出現する鬼は、俺から見れば大した事は無くても、同じ防衛班の連中にしてみれば大いに危険な者が多い。ゲームでは実在しているのかすら分からなかったモブキャラでも、実際にこうやって接しているのだし、それが死んでしまうのは嫌なものだ。

 これからの戦いに備えなければいけない。主力級も、それ以外もだ。覚えているだけでも大攻勢から始まって、初穂の焦りと百日夢、伊吹の後悔と富獄の兄貴の因縁、速鳥の過去、桜花が先走って橘花が欲求不満で那木さんがトラウマで秋水がスパイでオオマガトキの再来が来て…。

 全てのイベントを踏破しなければいけないとは思わないが、何かしらの区切りをつけておかないと、何が起こるか分かったもんじゃない。最悪のタイミングで噴出するに決まってる。

 差し当たり、全員と面合わせしとかにゃなるまい。

 

 最優先は…橘花かな? いや別に尻が目当てじゃなくて、何だかんだで一番負担がかかってるからね。神垣の巫女だからね。そうだな…同じ神垣の巫女って事で、かぐやと文通でもするように仕向けてみるか?

 現役の巫女の言葉は、かぐやにもいい助言になると思うし、同類が居ると知ればお互いに貯めこんだ鬱屈も話しやすくなるだろう。

 よし、決定。

 

 …どうやって顔を合わせようか。今までは、天狐を拾った辺りで遭遇してたよな。時々里の中を歩き回ってるから、運が良ければそこで顔を合わせるくらいは出来ると思うんだが…。でも護衛も居るからな。出来るとしても自己紹介くらいだろうか。

 

 

 

 

 …そうそう、橘花で思い出したが、彼女に色々謀略を仕掛ける事になる、陰険メガネこと秋水。…なーんか態度にトゲがある気がする。元々人当たりのいい方ではなく、慇懃無礼が座右の銘のようなヤツだったが、妙に感情的な節が見えるなぁ。

 俺にもそうだが、特にグウェンに。異人さんがそんなに気に食わないのかね? 良くも悪くも、直接的な手段に出るような奴ではないから、大丈夫だとは思うが…。

 虚海の行動もあるから、秋水とも繋がりは作っておいた方がいい。やれやれ、やる事一杯だね。

 

 

 

 

 

 

 などと油断していた。しまった、またも見逃した。いつの世も、最大の脅威は外部ではなく内部にあると知っていたと言うのに。

 

 

 

 

 誰も助けは期待できない。呼び込んだのも目を離したのも俺だし、俺が始末するべき事だからだ。

 

 

 

 

 だって、紅月は俺の為に飯作ってくれたんだし。作ってくれたんだし! 作ったんだし! 作りやがったんだよオラァ!

 

 

 

 

 

 

 悪気がないのが手に負えねぇ…。マホロバを出てからパワーアップと言うかランクダウンと言うか、とにかく悪い方に向かっておられる。

 久音が鬼の料理に目覚めてから、それにハマって目を離していたのが良かったのか悪かったのか。…いやでも紅月って餓鬼とか食った事あるらしいしな、オオマガトキの辺りの大戦で。俺も食った事あるけど。

 

 

 …食うとヤバそうだからって、触鬼の力を使って取り込んだのはもっとヤバかったかな…。まさかこの俺が一発でノックアウトされるとは思わなんだ。

 

 

 



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210話

pixivで投稿された討鬼伝マンガを見ている。
…多少ホモ色があっても、面白いものは面白いな。
人の怨恨とか、俺が触れない部分にも多少は触れてるし。
バナーのスイーツ(笑)だとナメてた漫画も、そう考えると多少は…。

あと、ウォッチドッグス2買いました。
面白くはあるんだろうけど、まだ勝手が分からん…カーチェイスで逃げられん。
一度車を捨てて逃げてから戻ればいいんだろうけど、風情がねぇなぁ…。

と言うか、脇に置いてるサブPCを見ながら運転してたら、既に数人跳ねてしまった。
そしてモブがモブを跳ねている。
攻略とかどうでもいいから、飲酒運転と余所見運転の危険を教えてくれる動画として投稿してみようかなぁ…やり方分からんけど。


魔禍月

 

 紅月、かなーり落ち込んでいる。流石に気絶されるとは思ってなかったようだ。味見までしっかりやっていたので、猶更。

 …紅月の舌は色々とおかしな事になってるみたいだからなぁ…。いや、舌じゃなくて味に対するハードルかな? ハードルは本来飛ぶものであって、下を潜るものでも、お構いなしに吹っ飛ばして直進するモノでもないんだが。

 まぁ、流石に自分が料理下手で、その辺の感覚が他人と違うという自覚は有る為、「気絶する程感激してくれるなんて!」みたいな斜め上にすっ飛んだ結論は出なかった。

 俺が倒れたのも、後先考えず取り込んだのが原因であって、味がそこまで悪かった訳ではない。(人に食わせる味じゃいとは言わせてもらうが)ああまで落ち込まれると、流石に良心が咎める。

 

 真面目な話、飯以外は完璧なんだよなぁ。真面目に花嫁修業(?)をやっていた為か、それとも自分の身の回りの事くらい自分でやるように躾けられたのか、掃除洗濯、裁縫までこなす。

 あとお茶を淹れるのが異様に上手い。ホッと一息。

 

 

 …いやそうじゃなくて、紅月の飯の話だ。本人もどうにかしたいと思っているし、作って貰って…しまった俺としても直したい。

 家事を分担するのはどうか、と提案もしたのだが、どうも紅月には「食事は妻が作るもの」的なイメージがあり、掃除洗濯を譲れはしても、ここだけは譲りたくないらしい。料理修行をしてでも味オンチを治そうとしていたのは、その表れか。

 

 しかし、味オンチなんて一人で治せるもんじゃない。となると、師匠が必要な訳だが……。

 

 

 

 そういう訳で、診察ついでにどうにかできませんかね、那木さん。

 

 

「はぁ…。私でよろしいのでしたら、多少の心得はございますけども」

 

 

 …俺がぶっ倒れた時、紅月がダッシュで呼んできた那木さんでした。何度か一緒に任務に行って、もうかなり打ち解けているようだ。

 那木さんは、謙遜しているけども、料理の腕はかなりのものだ。いつぞやのループで同棲していた俺が保証する。…最後に射抜かれた時の恐怖が、まだ残ってるけども。

 

 …ただ、紅月をちょっと恨めし気に見ていて、紅月も居心地悪そうにしているのは気にかかる。

 

 

「…当てつけですか?」

 

「……いえ…その、申し訳ないです…」

 

 

 

 …?

 

 

「…まぁ、事情は分かりました。私も同じ女として、殿方にお食事を作ってあげたいという気持ちは分かります。色々と引っ掛かる部分はありますが、ご協力させていただきます」

 

 

 ありがたい。謝礼…と言うのもちと無粋なので、何かあったら出来る限り協力します。

 

 

「はい。ですが、今日の所は安静にしておいてください。紅月も…料理の修行は、また今度と言う事で」

 

「わかりました。では、後は私が診ておきますので」

 

「…おかゆも作ってはいけませんよ?」

 

「わかっています…」

 

 

 ちょっと残念そうだ。ヤバかったかも。

 

 

 

 …しかし、那木さんと仲良さそうだな。

 

 

「ええ、色々と……話が合ってしまいまして」

 

 

 微妙な言い回しが気になるが……。

 

 

「お気になさらず。…彼女の事を、御存知なんですか?」

 

 

 ああ、向こうは知らない…と言うより覚えてないだろうけど、色々と世話になった事があるんだ。(ゲームの中でも、共同生活的な意味でも)

 散々助けられたなぁ…。

 

 

「そんなに? ですが、それなら彼女も貴方を覚えているのでは」

 

 

 ナイナイ。…あー…そうだな、昔の患者の事を一々覚えているかって話だよ。いやあの人なら意外と覚えてるかもしれないけど、あの時はちょっと特殊な環境だったから。

 …ところで、あの人って今も医者やってるの?(棒)

 

 

「いえ、医者の真似事程度ならできる、と言っていましたが。…あの時の表情を見るに、何かあったようですね。…こう言ってはなんですが、珍しい事ではありません。人の生死に関わる医者であるなら、猶更…」

 

 

 …そういうもんか?

 

 

「那木がどう考えているのかは分かりません。珍しくないからと言って、それで傷が浅くなる訳でもなし。私も医者ではありませんが、目の前で仲間に死なれた事は何度もあります…あの時は、もう戦える気がしない程落ち込みましたね。…それでも、戦うしかありませんでしたが」

 

 

 …そうか。ま、こんなご時世だしな…。

 それでも、医者でありたいとは思ってるだろうよ。もしもその時が来たら、出来る限りの手伝いはするかな。

 

 

「そうですね。『その時』は恐らく、人の生死が関わる状況になっているでしょう。最悪、那木が指示して私が…という事も考えなければいけません」

 

 

 そりゃちょっと無謀が過ぎるだろ…。多少の傷ならともかく、外科手術や注射の類をちゃんとやれるかって…。

 話は変わるが、さっき那木さんが「当てつけですか」って言ってたけど、あれは何ぞ?

 

 

 

 

「あ………そのー、それはあれで……。その、那木は許嫁を失って、それ以来男性との付き合いがなくて…。そろそろ結婚を諦める年齢が近づいてきて焦っていまして…。そこへ私とあなたが…」

 

 

 

 ………あー…あーあー…。

 

 そういや那木さんって、この時点では巨乳手つかず奥手未亡人モノノフだったっけ…。なのに、自分より年上…つまりモノノフの文化で考えれば、那木さん以上の行き○れの紅月が俺とくっつこうとしている訳で…。

 うわぁ、考えてみりゃスゲェ皮肉と言うか…。失礼な表現をすれば、喪女同盟を組める相手を見つけたと思ったら、既に喪女脱出寸前だったと…。しかもその相手のお相手…俺の為に料理修行したいから手伝ってくれ?

 ……紅月の居心地の悪さたるや、想像を絶する…。悪い事したかな、両方に…。

 

 

 

 

 …これで仲が拗れ始めるとは思わんけど、何かフォローはしておいた方がいいかもしれない。

 

 

 

 

魔禍月

 

 

 那木さんと紅月の事は置いといて、今日は防衛班の仕事はお休み。もし大型鬼が出たら、伊吹とホロウで対処する事になっている。

 …が、正直、休み貰っても仕方ないんだよなぁ。まだマトモに戦いになるような鬼は出てきてないから、最近は毎日がお休みみたいなもんだ。呼び出しがあっても、鬼疾風で駆けつけて瞬殺すれば10分かからない。

 疲れが溜まっている訳でもなし、遊び相手もほぼ居ない、意味深も出来ない。紅月は今日も仕事だし。

 橘花との遭遇を期待してフラフラ歩き回ってみたものの、どうやら今日は外出していないらしく、痕跡すら見つからなかった。

  

 となると、暇が潰せる事と言えば、勝手に出撃したり、グウェンと初穂の訓練を見たり、相変わらず微妙に刺々しい秋水に話をしてみたり、と言う所だが……まぁ、グウェンと初穂一択だわな。野郎よりも出撃、手応えの無い出撃よりもガキンチョでも女の子が優先だ。

 

 という訳で様子を見に来たんだが、やっぱ上手く行ってないなぁ。グウェンは相変わらずタマフリで躓いたままだし、初穂は…基本は充分鍛えてるんだけど、立ち回りに甘さが多い。

 グウェンは仕方ないとしても初穂には早いところ一皮剥けてもらわんと困る。

 そういう訳で、一遍鬼の手を使わせてみようと思った訳だ。

 

 怪しげっちゃ怪しげなアイテムだから最初は警戒されたが、そこはまぁ、ほら所詮は初穂だし。「将来有望なモノノフに使い心地を試してもらいたい」と、適当におだてればアッサリと。…この子の将来がちと心配だ。

 

 

 折角だからと言う事で、グウェンも連れて近場の異界を捜索する。小型鬼の相手なら、二人は安定して動けていた。タマフリが必要な相手もそうそう居ないし、油断したり多数に囲まれたりしなければ、そうそう危険は無い。

 

 

 …のだが、考えてみりゃ、それならどこで鬼の手を使うんだって話でね。鬼の手の機能自体、基本的に大型鬼を想定して作られているからなぁ…。小型鬼が相手じゃ、遠くから手を伸ばして接近するくらいしかできる事がない。地脈もそうそう見つからないし。

 マホロバ付近の異界に比べると、ウタカタの異界は入り組んでいる為、その辺の木を掴んで移動するのもあまり高い効果は無い。

 

 初穂曰く、「面白い道具だとは思うけど、使いどころが分からないわね」だそうだ。

 うーん、意外な欠点…。別に、初穂の使い方が悪い訳ではない。驚きはしたものの、初めてにしては充分使いこなせていた。手の具現化も安定していたし、狙いの付け方も充分。分銅を放つ感覚と似ているのだそうな。

 しかし、鬼に急接近するなら分銅を絡めて飛べばいい。リーチは分銅より長いが、そこまで距離を取る事は稀だ。確かに、鎖鎌だと微妙に機能が被ってるんだよな。

 

 

 

 

 まぁ、その評価も、ミフチを発見して撃退するまでだったけども。

 

 

 

 こりゃアレだな、毎回毎回流れ作業的に潰してるけど、ゲームでは主人公と初穂の跡を付けてくるヤツ。よくもまぁ、毎度毎度見つけてくれるもんだ。自殺しに来てるとしか思えんレベルだ。

 ミフチとの闘いで、グウェンと初穂は一皮剥けてくれたようだ。初穂は自信もつけたし、立ち回りが少し鋭く、狡猾になった。グウェンは死線を潜った為か(どう見ても白炎に襲われる時の方が、よっぽど危険だったが)タマフリの発動が安定するようになった。

 

 で、鬼の手の評価だが、鬼の突進を止められるのが非常にいい。巨体の体当たりってのは、どの世界でも相応に脅威だからな。無論、全ての体当たりを止められる訳じゃないが、今までは離れるしかなかった敵の行動を、チャンスに変えられると言うのは非常にデカい。

 更に、鬼葬の効果の高さたるや…いやまぁ、流石にこれは初穂じゃなくて俺が発動させたんだけどね。

 

 討鬼伝ゲームプレイヤーなら、誰だって一度は思っただろう。回転蜘蛛マジウゼェ、と。ストーリーを進めて、左程苦労せず勝てるようになっても、あのタマハミ状態の回転だけはどうにもならない。抵抗手段と言えば、不動金縛りか、破敵ノ法くらい。しかもそれで動きを止めたとしても、すぐに復活してまた回転。仕掛けるタイミングによっては、タマハミ終わり→部位破壊→即回転再開という殺意が沸くようなコンボも発動してしまう。

 アレのおかげで、余計な時間やダメージを何度喰らった事か。回転で吹っ飛ばされ、起き上がった所に丁度突っ込んで来やがった経験も一度や二度ではないだろう。避けたと思ったら、飛び散る岩が直撃し、動けなくなったところにまた突っ込んできて……ああ、思い返せば殺意が沸くさ。定めとあれば心を決めるさ、ガンギマリで。

 

 だが、あの実にクソッタレな回転も、鬼葬さえあれば怖くない! 流石に回転中に狙って決めるのは難しいが、まぁできない事も無いし。普通に回転が終わるのを待ってからやった方がいいけどね。

 足を全部吹っ飛ばされ、ジタバタする蜘蛛を見ると気分がスーッとするものだ。別に愉悦はしない。Sではあるが、俺は異形や虫を相手にそーいった楽しみを感じる人ではないからな。やるなら女の子を喜悦で狂わせ…ゲフンゲフン

 

 ともあれ、これには初穂も目を丸くしていた。グウェンは…ウタカタまでの旅で、何度か見せた事があるからな。

 是非とも習得したい、と勢い込んで頼まれたが……いやまぁ、別にいいけどよ。鬼の手使って戦ってれば、なんつーか自然に出来てしまうぞ? ホロウだって似たような感じで、特別な訓練とかした訳じゃないし。

 

 ただ、あんまり当てにしすぎるのはよろしくない。自然に出来る事ではあるが、それはつまり不自然な起動…言い換えれば、十分な気力や霊力が籠ってない状態ではできないって事でもあるんだ。つまり、一発外したら、或いは別の相手に使ったら、暫く使う事はできない。そもそも、何度か試したが、再生させない部分と、潰しても再生する部分があるようだし。

 何より、現状この鬼の手を使う為の道具は一つしかない。これを全員で…俺とホロウを除く全員で、交代しながら使う事になる。当然、自分じゃ使えない場面だって出てくる訳だ。

 決まればとんでもなく戦況を有利にできるが、これに頼り過ぎてると油断が生じて実力も落ちるぞ。

 

 

 

 …分かればよろしい。次に何かとやりあう機会があったら、その時に試してみよーぜ。

 ま、今回の戦いで、二人とも何か感覚掴んだんだろ。次の機会までは、その反復練習してなよ。基本に勝るものは無いよ。

 

 

 

 そんな塩梅で帰ってきたのだ。

 いつもだったら、「これで私も一人前!」みたいに騒ぎそうな初穂も、それより先にグウェンと二人で演習場に行ってしまった。…練習熱心なのはいい事だし、覚えた感覚を忘れないうちにって事なんだろうが…ちゃんと休めよー。

 

 

 追記 初穂に渡していた鬼の手は、しっかり返してもらいました。

 

 

 

魔禍月

 

 

 大和のお頭から、俺、ホロウが呼び出された。行ってみたところ、紅月と話している最中。

 …里のお頭の心得でも聞いてるのかな? 大和のお頭の器量はちょっと珍しいくらいだし、参考にしない手はないと思う。

 

 

 …と思っていたら、どうやら大和のお頭が、紅月から鬼の手の事を聞いていたらしい。ああ、多分初穂が自慢(?)話して、それがお頭に行ったのね。確かに、そりゃ話を聞く為に呼び出されるのも当たり前だわ。

 誰にでも使えるのか、どのように使えるのか、量産は可能なのか、その他諸々。

 が、言うまでもないが、量産は現状では不可能だ。作れるとしても、まずはマホロバの里に広めるだろうし、そもそも材料のカラクリ石は未だに安定した供給が不可能である。

 ウタカタ付近に無いかな、と思っていたんだが、全く見当たらず。万能の石さえ見つからない。やはり、マホロバ近辺でしか出来上がらないのか。

 

 

 ま、無いモノ強請りしても、手に入らないものは手に入らない。大和のお頭もそれは分かっているし、今後量産可能になった時の為に伝手を作っておきたい…という話なら、既に次期頭領候補筆頭である紅月とも面識が出来ている。

 ああだこうだ言わず、すぐにどう活用するかの話に移った。

 実際問題、どうするかは普通に悩ましいんだよな。戦いにおいて一番厄介なのは、ただでさえ強大な敵が更に力を手に入れて、手が付けられない程強大になる事。二番目に厄介なのは、大した力を持ってなくても、敵が拡散・増殖しまくって手が回らなくなる事だ。

 これを味方側にして考えると、一人で敵軍をぶっ潰せるような無双ゲーム主人公を作り上げるか、それとも徹底的にまともに戦わないゲリラ戦術に終始するかって事になるが…どっちも不可能だよなぁ。

 鬼の手を持ったって、基本的に人間のスペックは大型鬼よりもずっと下だ。一人で敵を軽く蹴散らせるようなユニットなんぞ作れない。ゲリラ戦はと言うと、これにはかなり高度が技術や連携、徹底した冷酷さが必要になるし、何より一度潰されたら人間はそう簡単に増殖できない。

 

 

 とりあえず、主要メンバー全員で使ってみて、適正を見る事になった。その為、鬼の手の第一人者(?)である俺とホロウがついて、順番に任務をこなす事になった。

 その間、防衛班の抜けた戦力は他の人達が担当、と。

 順番は桜花、伊吹、まだ会ってない富獄の兄貴、那木さん、今は遠征しているモノノフ…速鳥か。

 

 

 

 そこまでは良かったんだが、受付所の端っこで相変わらず巻物に目を通していた秋水が待ったをかけた。相変わらず、空気を読まないヤツである。

 しかし、その提案は一考に値するものだったと思う。

 

 曰く、神垣の巫女にそれを持たせてみないか、と言う事だ。桜花が反発するかと思ったが、意外と大人しく話を聞いていた。まぁ、現状じゃ武器を持たせてみるってだけで、橘花に強い負担はかからないだろうしな。

 しかし、橘花に持たせて意味があるのか?

 秋水曰く。

 

 

「カラクリ石と呼ばれる石の事は、僕も少しですが知っています。このような形に仕立て上げた、博士なる人物とは是非話をしてみたいものですが…」

 

 

 多分、良くも悪くも相手にされんぞ。傍若無人なヤツだし。

 

 

「…心に留めおきましょう。このカラクリ石、彼らが言うように、使い手の想像を具現化する力を持っています。通常の物は、うっすらと幻が出る程度と聞いていましたが、これ程に具現化できるのであれば、より効率的な使い方も出来るでしょう」

 

「だから、その使い方ってのを話せって。軽口もいいけど、お前さんの話し方はくどいぞ?」

 

「伊吹さんに言われては形無しですね。では率直に。この鬼の手を橘花さんが使えば、ウタカタの里を守る結界をより強力にできる可能性があります」

 

「ほう…確かに、それは魅力的だな」

 

「お頭! 橘花に無理をさせずとも、鬼は私が全て斬って捨てます!」

 

「桜花さん、落ち着いてください。今のは言い方が悪かったようです。より正確に言いましょう。ウタカタの里を守る結界を、より小さな力で、そして強力に張る事が出来ます。橘花さんの負担も、今よりは少なくなるでしょう」

 

「何…?」

 

 

 上手く行けば…の話だろ? その辺どうなんよ、ホロウ。

 

 

「可能性はあります。鬼の手を使い続けるうちに分かりましたが、手を具現化するのに必要なのは、より詳細な想像と、そして効率的な霊力の使い方です。例えば鬼葬で鬼を殴りつけるにしても、漠然と握った手をぶつけるのを想像するより、しっかりと拳を握り、急所を狙い、四肢を連動させるかのように霊力を流し込めば、それだけ効果が上がります。従って、鬼の手を介して結界を張る術を使えば、『結界が具現化される』という結果もあるやもしれません」

 

 

 結界を張るのではなく、結界が具現化ねぇ…。まぁ、実際やってみないと分からんけどさ。

 危険は?

 

 

「私が使う鬼の手では、特にありませんでした。未完成のこれで大丈夫だったのですから、完全版でも大丈夫でしょう」

 

「ふむ…。一考の余地ありと見た。どの道、一度持たせたらずっと任せ続ける訳でもない。大きな戦がありそうな時はモノノフに持たせ、それ以外の時は橘花に持たせるのでもよかろう。

 

 

 

 うーん、何だか予想外の方向に話が転がったが、まぁ有効な使い方が増えるのは問題ない。

 ただ、秋水の目的…橘花を揺さぶって逃げださせようとする…を考えると、何故提案したのかが分からないが。…楽になった、と思わせておいて、その後に更なる苦難に突き落とす? 面倒なやり口だな。

 確かゲームでは「揺すってやればすぐに逃げ出すと思っていた」なんて発言もあったし、そう入り組んだ手は使わないと思うんだが。

 

 

 ま、いいか。秋水はどうにも胡散臭いし、スパイなのも事実だが、どういう訳だかウタカタに大きな損害を与えるような行動はしていない。陰陽方からの命令だって、もっと楽なやり方も山ほどあるだろうに。

 …その手法をとるのを嫌っているんだろうか。或いは、何やら譲れない拘りや意地、美学でも持っているのか。

 一辺話をしてみたいところだが、妙に嫌われてるんだよな、今回。

 

 

 

 ともあれ、鬼の手の性能・適正テストだ。

 

 

 

魔禍月

 

 

 同じ鬼の手でも、使い手によって差が出てくるなぁ。アラタマフリ・ニギタマフリを含めれば猶更だ。

 とりあえず桜花と伊吹が試したが、桜花は防御に、伊吹は攻撃に使う事が多い。イメージと逆…でもないか? 桜花のミタマスタイルは基本的に防だし。

 

 

 桜花の基本的な使い方は、鬼返が基本になる。突進を跳ね返してからの、アラタマフリが強いのなんのって。捧護剣、だっけ? 使ってる間は防御が薄くなるらしいけど、その分火力が高い高い。敵がひっくり返ってる間に使うから、横槍が来なければデメリットも無い。

 伊吹はと言うと、魂スタイルのニギタマフリ…呪禁を活用しまくっている。敵の動きを制限する術だが、タメ技が多い槍にとっては非常に相性が良かったようだ。逆に、鬼返しはあまり使わない。突進してくるのを止めるには、槍衾を使う事の方が多い。

 

 ふぅんむ、可もなく不可もなく…ってとこか?

 効果は絶賛されてはいるが、どうしても必要って感想ではない。まぁ、今はまだストーリー序盤だからそれだけ余裕があるって事なんだろうけども。

 

 

 んじゃ、次は富獄の兄貴か。今回ループでは会うのは初めてだな。

 適当な任務で試すから、後から合流してこい………っておい、これカゼキリが相手のイベントじゃないか? 突然襲われるモノノフが増えている、って…。

 しかし那木さんは居ない。代わりにホロウが居るし、そもそも下位のカゼキリに今更手古摺りはしないが。

 

 とりあえず、その辺で適当に素材を拾いつつ現場に向かうと、何やら瞑想している富獄の兄貴を発見。周囲に敵がいるのに瞑想するのもどうなんよ。まぁ、無事だったし、この人の事だから周囲の警戒は怠ってないだろうけども。

 実際、俺達が到着すると同時にすぐ立ち上がったしな。

 

 

「よぉ、待ってたぜ。相当やるらしいじゃねぇか」

 

 

 歯をむき出しにして笑いかけてくる富獄の兄貴(23歳老け顔)。これで那木さんより年下ってのが信じられん。

 

 まぁ、そこそこの自信はあるよ。ただ武術に関してはあんまり期待しないでくれ。人間相手の技法は殆ど修めてない。

 

 

「そうは見えねぇが…まぁ、確かに正面からの殴り合いより、後ろから脾腹を一突きする体してるな」

 

「どんな体ですか」

 

「お前はお前で…筋肉の付き方がよく分からん。不自然すぎる。どこをどう鍛えりゃそうなるんだ」

 

「私は最初からこうでしたので、鍛え方に関しては全く分かりません」

 

「なんだそりゃ?」

 

 

 あー…人造人間だもんなぁ。

 

 

「まぁいい。んで、例の妙な道具とやらはどうなんだ。面倒な物は嫌いなんだがな」

 

 

 着けて霊力流し込めば勝手に発動するから、別に面倒じゃないと思いますが。まぁ、現在の戦いにどうやって組み込むかは任せますが」

 

 

「どれ…ほぉ、この手袋か。ちっと小せえな…入るには入ったが、思い切り力入れたら破れるんじゃないか?」

 

「大きさを調節する機能もあります…はい、できました。ところで、モノノフを突然襲ってくる鬼は?」

 

「ここに来てから暫く経ったが、全く出現しねえな。雑魚を相手に実験ってのもつまらねぇが」

 

 

 小型が相手だと、あんまり意味がないんだよなぁ。

 ふむ……鬼の目+鷹の目!

 

 

 

 …お、あったあった。二人とも、鬼はこっちだわ。

 

 

「ん? 何だ、手がかりでも見つけたのか」

 

 

 ああ、足跡が微かに残ってる。で、ここから霊力の残り香を辿って………ちょっと前までこの辺に居たらしいし、そこまで遠くじゃなさそうだ。

 富獄の兄貴と入れ替わりで立ち去ったみたいだな。

 

 

「はっ、そりゃ悪運の強い鬼だな。ま、こうやって追いかけられるなら、結果は変わらないだろうけどよ」

 

「自信家なのは結構ですが、鬼の手の実験を忘れないようにしてください。例えば移動中でも、このように…」

 

 

 うにょーんとホロウの腕が伸び、次の瞬間には木の枝の上に陣取った。

 

 

「このように、楽して移動ができます」

 

「動きは速そうだが、俺は好かんな。空中に居るって事は、それだけ動きが制限されるって事だからな」

 

 

 おお、武術家らしい意見だこと。ま、確かに人間はガン○ムみたいに大地に立つのが基本だわな。実際はガン○ムが人間みたいに大地に立つ訳だが。ただしコロニーの。

 

 

「よく分からんが、それより鬼はまだか?」

 

 

 …近づいては居る…ようだけど、こりゃちょっと問題かな。一匹だけじゃなさそうだ。どうやら鬼の巣に戻ってるようだぞ。

 

 

「巣…ですか。規模は?」

 

 

 同じくらいの大きさ四足歩行が少なくとも5匹以上、7匹以下。って事は、カゼキリだろうな。

 

 

「そんだけいりゃあ、アマキリも一匹くらいは混じってるだろうな。しかも巣って事は乱戦になるか…」

 

 

 …人の活動領域に近いところに巣を作るとはなぁ。こりゃ放っておく訳にはいかん。このまま巣の規模が大きくなれば、この領域全般でカゼキリが猛威を奮う事になる。

 その名の通り、風を斬るように近づいてきてモノノフに食らいつくのがカゼキリだ。つまり奇襲。不意を突いた一撃で行動不能になるのが一番ヤバい。俺達もそうだが、偵察班は戦闘能力やしぶとさが低いから更にヤバい。

 一匹だけならまだしも、何匹も連続で襲ってきて、しかも逃げた先にもカゼキリが待っている、なんて事になりかねない。

 

 

「一匹一匹はともかく、乱戦は避けるべきだな。…おい、この鬼の手とやらで、なんか都合のいい機能とか無いのかよ」

 

 

 強いて言うなら、鬼絡かな。さっきホロウがやってたやつ。アレを使って長距離を一気に移動して、囲まれる前に脱出するとか。

 ま、幸いこっちも3人いるんだし、それなりにやりようはあるな。

 

 案①一匹ずつ上手く誘い出し、3人で袋叩き。

 案②最初から3人で分散して戦う。上手く引き付ければ1人につき2体+1体。

 案③鬼の手で一本釣りして動けなくさせ、助けようと近寄ってきたカゼキリを集中攻撃。所謂釣り野伏せ

 

 

「②は却下だ。二人に一匹ずつカゼキリが来て、残った一人に他の鬼が殺到する。あいつらにもそれくらいの頭はある」

 

「③を推奨したいところですが、一本釣りとは?」

 

 

 文字通りだ。具現化した鬼の手を使って鷲掴みにして釣り上げる。これをやるなら、ホロウが適任だと思う。日頃から何かと使いまくってるし。 

 

 

「確かに、鬼の手を使ってお茶やお菓子を取ってくるのも日常茶飯事です。…あの鬼達を饅頭だと思えばやれるでしょう」

 

 

 饅頭よりも野菜巻きだと思った方がいいんじゃねーの。マホロバの里で、久音さんがカゼキリの肉を使って作ろうとしてたな。

 

 

「…率直に言って食いたくねぇが…まぁいい。そんじゃ、一丁やるか。鬼の手とやらの効果、見せてもらおうかい」

 

 

 アンタも使ってみるんだよぉ!

 

 

 

 

 

 

 

 …ま、勝つには勝ったが、えらい増えたな。

 確かにカゼキリアマキリは合わせて7体以下だった。が、空飛んでヒノマガトリが乱入してくるは、よく似ているけどちょっと違う…なんか異様に声が煩いのも飛んでくるは。

 

 おまけになんだ、あの……なんちゅうの、足? としか言いようがない鬼は。いやもう本当に目を疑ったわ。カゼキリ達の巣の真ん中あたりにあった巨石だか巨木だかから出現したように見えたんだが、その姿がな…。

 下半身オンリーだった。しかもバカみたいにデカい。少なくとも足だけでトコヨノオウとかより大きくて、仮にアレに上半身が乗ってれば、確実に全長はイヅチカナタより大きくなるだろう。

 ご丁寧にもパンツ(柄は典型的な鬼のパンツ)……と言うか前掛けと言うか…をつけていて、繰り出される蹴りや踏み付けは強力無比。間違って蹴られたアマキリが消し飛んだわ。

 

 しかし間抜けな事に、下半身だけしかないから敵味方の区別がつかないらしい。偶然当たった物を蹴っ飛ばすだけで、後はフラフラフラフラ…。アマキリ一体の他には、木が3~4本圧し折れただけ。暫くしたら消えて行ってしまった。

 何だったんだ…。しかし、あのパワーからして、上半身があったら苦戦、下手すると変身してようやく相手が出来るくらいの強さである可能性が高い。これはちょっと報告しておかないとな…。

 

 

 

 尚、富獄の兄貴からの鬼の手は好評。高いところへの攻撃が非常にやりやすいそうな。ああ、手甲ってリーチ短いもんね。反面、威力については全く期待していないとの事。武術家としては、自分の拳こそが至高の武器という考えか。

 



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211話

…ウォッチドッグス2、悪いけど個人的には今一つ…。
楽しいよりも苛立つ印象の方が強い。
ダイレクトにコロコロしにくいから今一つ爽快感が無いし、オンラインで近寄ってきた人に訳も分からない内に3回くらい惨殺されたし、ハッキングも何やってるのかよく分からんし。
と言うか車の操作が無駄にシビア。求めてないよそーゆーの。
メインシナリオだけクリアしたら投げるかな…もうコントローラーを八つ当たり気味に何度も投げたけど。
対人でのアオリにこのゲームの神髄があると言われちゃいるけど、そこまで行けるかな…。



あと、何か突然ランキング10位くらいまで再浮上していた件。


魔禍月

 

 

 足だけの鬼については報告したが、何処にいるのかも分からないし、出てきたとしても昨日の通りなら近づかなければ問題ない。

 …ただ、運悪くウタカタに向かって進んできたりしないかが問題だが。

 正体だけでも掴めないかと秋水が書庫をひっくり返しているようだが、流石に下半身のみの鬼なんて見つからない。

 

 …と言う事は、実は下半身に見えて別物だったか、或いは上半身が見えなかっただけ? さもなくば…実はジオングの足だったとか? どこからともなく上半身が飛んできて、金属音と共に合体。うーん、可能性はあるな。

 

 

 ま、それは置いといて、今度は那木さんが鬼の手を使う番だ。

 しかし、今は幸か不幸か大物を掃討するような任務がない。平和でいい事ではあるんだが、タイミングが悪いなぁ。

 とりあえず、ちゃんと起動できるかだけでも確認しようって事になって、俺と二人で出発。ホロウは今日は防衛班の方に行っている。伊吹がお休みだからだ。

 

 二人してウロウロしながら、医薬品の原材料の補充。丁度いい機会だから、キツネ草の在処にも誘導しておいた。…非常に手抜きっぽい芝居だったのは否定できない。

 まぁ、那木さんは絶滅したと言われていたキツネ草を見て興奮し、俺の言動の不自然さには気が付かなかったから別にいいけども。

 

 見つけたキツネ草は、幾つか持って帰って備蓄、そして一本は俺が預かって養殖する事になった。

 心臓に効く特効薬の原材料と言っても、当面使う予定は無いんだけどね。心臓病の人なんてそうそうお目にかからないし、橘花だって結界の強化に鬼の手を使えば、そこまで負担が出るとは思えない。

 万一の備え、という程度のモノでしかなかった。…そういうモノに限って、必要な事態に陥るのが世の常だが。

 

 

 今回の探索では、特に大型鬼との遭遇は無し。那木さんは鬼の手を起動させる事はできるものの、あまり効果的な運用は出来そうになかった。元々遠距離系だしね。突進とかを止められるのは大きいだろうけど、それをやる相手が居なかった。

 

 それよりも那木さんが興味を示したのは、キツネ草を持って帰っての養殖だ。キツネ草に限定した事ではなく、仕入れるのが難しい薬草を養殖し、安定した供給が出来ないか? と言う事である。

 …まぁ、出来るとは思うよ? GE世界を一変させた、MH世界の植物の種とか肥料とか、まだ残ってるからね。栄養は多ければ多い程いいってもんでもないだろうが、多分何とかなると思う。MH世界の不思議パワーを舐めんな。…明らかに真っ当な農業や菜園をバカにしているような気がするが。

 

 多少とは言え、俺もMH世界の農園を経営した事がある身だし、採算を度外視すればノウハウもある。ハンターの訓練としても習うからな。…殆どアイルー達に任せっきりだったけども。

 

 

 

 と言う訳で、那木さんが紅月の料理指導の他に、薬草菜園の様子を見る為にちょくちょく家に訪れるようになりました。

 …何だろう、修羅場の土台を着々と形成しているようなこの予感は…。

 

 

 

 

 

 話は変わるが、主力モノノフの最後の一人…速鳥は未だに里に戻ってきていないらしい。長期の偵察を任せているから、と言う事だったが、ちょっと長すぎやしないか? 一度探しに行った方がよくないか?

 大和のお頭に相談してはみたのだが、「定期連絡は受けているから問題ない」らしい。ぬぅ、速鳥にも鬼の手を使わせてみたいんだけどなぁ…。

 

 そんな事を初穂に向かってボヤいたら、「だったら探しに行きましょ! グウェンも来る?」とか言い出した。おい、何故そうなる。いや確かにそうなるのも流れだけどね。帰ってこないのが心配なら探しに行こうってのも道理だわ。

 うーん、どうしたものか。探しに行くのはいいんだが、初穂がちょいと心配だ。確かに先日の一件で、何とか一人前と言えるくらいには動けるようになったが…異界の奥地に踏み込んでいける程ではない。その辺、自覚しているのか居ないのか…。

 壁を破った事で、急激に腕を挙げつつあるから、慎重さと実力のバランスが崩れつつあるのも事実なんだよな…。

 

 …よし、ここはひとつ、オモリでもしに行きますか。

 

 

 

 

魔禍月

 

 

 初穂とグウェンを連れて、異界の浅い当たりをフラフラと。実地訓練も兼ねているが、二人とも本当に腕を上げてきてるな。それでも、一人前のモノノフとして考えると、ピンキリで言えばキリの方だが。

 

 ま、そっちはいいんだ。速鳥は異界の深い方を偵察してるだろうから、この辺の探索で見つかるとは思ってない。今回の見回りのメインは、あくまで初穂達の仕上がりの確認。

 なもんで、別に年頃の少女二人を侍らせて、いい気分で練り歩いているんじゃないんですヨ紅月=サン。

 

 …え、那木さんが家に度々来てる理由? そりゃ紅月の料理の監視の為と、先日から始めた家庭菜園の見物の為ですが。

 別に疚しい事はないぞ。

 

 

 

 …え、神垣の巫女? いや橘花は今日の任務の帰りにバッタリ会っただけで、大した事話してないんだけど。多分、あっちは俺の名前も知らないぞ。

 

 

 

 

 

 ああうん、とりあえず座れ、腰を据えて話し合おう。

 

 

 

 

 

 …と言う訳で、何かしらんが紅月が拗ねた。「やっぱり若い子がいいんですね」ってアンタなぁ…。いや若さが魅力的なのは否定しないが、熟女も同じくらい好きよ?

 と言うかそのセリフはある意味自虐では。

 

 

 うーむ、誤解がどうの、嫁入りの意識がどうのと言う以前に、なんか不安定になっとらんか?

 本当に紅月が嫁入りして一緒に来ていたのだとしても、那木さんが家によく来るとか、任務で女性モノノフと一緒だったとか、その程度で目くじら立てるか? それでどうこう言ってたら、日常生活送れねーよ。職場で女の子と話したら浮気と見なすってレベルだろ。

 

 

 

 

 

 

 

と言う訳で、ちょっとOHANASHIしました。いや腕力も下半身も使わなかったけどね。

 紅月にあったのは……何と言うか、一言で言えば『焦り』?

 意外と現状は正しく把握していた。俺が紅月を連れてきたのは、男女の情とかからじゃなくて、西歌のお頭に押し付けられたからだ。西歌のお頭が紅月を俺に押し付けたのは、邪魔になったなんて事でも見放された訳でもなくて、里の大改革を自分の代で終わらせる為、そしてその後の世代交代をスムーズにする為。

 まぁ、「ついでに婿を捕まえてこい」的な事も言われていたらしいが。少なくとも紅月は邪険にされていた訳ではない。

 

 んじゃ一体何に焦っていたかと言うと…まぁ、俺との距離感?

 結局のところ、男ゲットの機会をどうすればいいのか分からず、アタックしようにも手段が分からず、そうなると当然進展らしい進展もなく、他の(若い)女に過剰反応していたよーだ。

 

 あー…まぁねぇ…。トンビに油揚げを攫われるかどうかの瀬戸際みたいなもんだし、経過はどうあれ婿作ってこいと言われた身。で、その第一候補は以前セクハラと言う名のプロポーズ(ひどい表現だ)した俺な訳で。しかし俺からのアプローチはその後は無し。

 焦りもするか。

 

 

 うぬぅ………と、とりあえず、一緒にお出かけでもするか?

 

 …腕を組むか手を繋いで。

 

 

 

 

 

 

 そういう事になったのだ。

 

 

 那木さんにバッタリ会って、羨まし気な視線を向けられたりもしたがな!

 

 

 

 

魔禍月

 

 

 さて、そろそろ最初の大攻勢が近づいてきているように思う。…んだが、どうだっけ。速鳥が戻ってきてからだっけか?

 初登場シーンが、一人でミフチを倒した後に遭遇したのは覚えているんだが…今までのループの繰り返しで、ゲームのシナリオがどうだったのかイマイチ思い出せなくなっている。

 

 速鳥はまだ見つかってない。連絡自体は続いているので、特に危険な状況にある訳ではなさそうだが。

 初穂とグウェンは、異界探索中に何度か危ない目にもあったりしたので、だんだんと慎重さを取り戻しつつある。いい事だ。

 

 速鳥の事はともかくとして、大攻勢に関してはどうしたものか。俺、里の防衛班所属だから、今までのように好き勝手に出撃する事はできそうにないんだよな。

 まぁ、最悪、スタンドプレイって事でコソコソと出撃して大暴れするって事も考えてるが。

 

 準主力級の防衛班も動員して、あっちこっちに罠を仕掛けているが、とてもじゃないが数が足りん。

 仮に、明日にでも大攻勢が起こるとしたら…どれくらい保つ?

 

 今までのループと同様の戦力が押し寄せるとして、こちらの戦力は速鳥が居らず、初穂はそこそこ仕上がっていて、グウェンはようやく半人前。俺と紅月とホロウが居るから、前回よりは戦力は整っている。

 鬼の手は…結界強化の為、橘花に持たせるべきだろう。

 上空からの攻撃で、結界が破れるのは防げるか? …いや、あのイベントは那木さんの個人エピソードとも絡んでたから、次の攻撃の時だったっけ?

 

 

 うーむ…。

 いや、今回に限っては前回の例を参考にするのは危険か。先入観は何時だってあの世への片道切符だが、それを差し引いても今回は色々と例外が過ぎる。

 討鬼伝世界に来てから一か月以上もマホロバで過ごした時点で、鬼達の軍勢がどうなっているか分かったものではない。更にいうなら、先日出現した鬼下半身(仮名)の存在もある。どーせ、攻勢の時に故意か偶然かは置いといて、フラッと出てきてややこしい事になるに決まっている。

 

 

 

 

 うむ…ここは一つ、ちょっと強硬手段に出るべきか。異界の奥地、オオマガトキが起こると思しき場所を、こちらから探索する。

 欲を言えば敵軍の戦力を削りたいが、最低でもどれくらい集まっているかを知っておきたい。

 俺一人でも何とかなるとは思うが…うん、他にも一人連れて行くか。

 

 紅月…かな。ホロウと伊吹は防衛戦力だから動かせん。初穂とグウェンは、流石に異界の奥地まで連れていける程強くない。

 桜花達だと、異界の奥を強行偵察するという無茶振りに応えてくれる程、まだ信頼関係が構築できてない。てゆーか、大和のお頭が許す筈がない。

 

 紅月も許さないかもしれないが…まぁそこはそれ、ゲスい男の真似でもして丸め込むとしよう、ヒモみたいなやり口で。…真似するまでもなく、実際ゲスいが。

 

 

 

 

 

 

 

 そうそう、すっかり忘れていたが、先日禊場が完成した。

 俺は何もしていない。どうやら紅月とホロウが、何かのついでに依頼を達成してきたらしい。

 紅月曰く、『モノノフにとって、禊場は非常に重要な物』だそうな。ま、確かに精神統一に貢献するし、その結果特殊なスキル…モノノフ風に言えば『加護 だろうか…が現れる事も珍しくない。

 …そして男どもにとっては、美女・強い・手が届かないと3拍子揃った女性モノノフ達が、あそこで肌着一枚になって…と妄想するタネにもなっていたりする。禊場で『コト』に及ぶ人がいるかどうかは、想像に任せる。一人でやるのか、二人でやるのかもな。

 

 

 

 

 …ふむ。

 

 

 

 

 …うむ……偵察に行くときは、紅月と一緒に禊場に行くか聞いてみるか…。

 これは下心からではなく、ジュンスイにセンリョクを増す為のコウイである。きっと。多分。

 

 

 

 

魔禍月

 

 

 早速偵察に出る事にした。色気のあるお出かけでなくて申し訳ないが、紅月はしっかり共をしてくれた。…禊場の中までな!

 いや、触れたり意味深的な事はやってないよ? 紅月って男捕まえようとしてっけどウブだしさー。

 手を繋いでお出かけするだけでも舞い上がる紅月を、禊場に連れ込んだ日にゃーもう…。出発前に気絶しちまうかと思ったわいやー。あんまりにもテンパるもんだから、視姦も殆どできんかった。

 

 …まーアレだ、これもある意味紅月の精神安定の為でな。飴と鞭って訳じゃないが、こうやって男女間が進展しているよーなイベントを体験させといた方が、紅月は安心するっぽい。…甘酸っぱいイベントとかもやってみたいだろーしね。手ぇ出すだけが色事ではないのだよ。

 結局、最後まで(禊場から出て着替えるまで、という意味だぞ)耐えきれなかったけどな。精神集中を(かなりガタガタながらも)済ませて、体を拭こうとした辺りで限界がきた。顔を真っ赤にしてぶっ倒れてしまったのだ。

 

 …羞恥心が限界にきたって事なんだろうが、最後の一瞬に俺の下半身に目ぇやってたのは見逃してないぞ。いや、目をやったから限界を超えたのかな?

 顔面から水場に倒れ込んだからなぁ…かなり慌てた。完全に気を失ってたんで、とりあえず水場から引っ張り上げて……禊場に入ってきた那木さんにバッタリ。色んな意味で気まずくなりそうだったが、紅月が突然気を失ったと聞いて、すぐに診察…は始めなかった。例のトラウマが顔を出したらしい。

 

 

 が、紅月がどういう状況で気を失ったのかを聞くと途端に冷静かつ半眼になり、汲んできた水をぶっかけて起こしていた。それでいいのか医者。いや起きたからいいんだろうけども。

 …なんというか、プライベートでは結構嫉妬深いんだよなぁ、那木さんって…。いや嫉妬深いと言うか、割と怒りや恨めしさに任せて行動できると言うか。いつぞや、浮気がバレて那木さんに射られそうになった時とかね…いやあれは完全に自業自得だった訳ですけども。

 

 

 ふむ…奇禍と言えば奇禍、或いは奇貨。那木さんが診察を躊躇った理由について、問い質してみるか。尤も、その理由はとっくに知っているし、紅月からも少し聞いているので、会話と言うか個人エピソードイベントのとっかかりにするだけだが。…知ってしまっているのは不可抗力とは言え、人間相手の考え方じゃねーなぁ。

 

 

 

 

 しかしそれはそれとして、偵察には出た。なぜか那木さんも一緒に来たが、まぁ戦力が増えるのはいい事だ。

 向かうのは武の領域。この後、ゴウエンマが現れる…筈の辺り。オオマガトキが起こる塔まで偵察しに行こうかとも考えたが、あそこはちっと深すぎる。俺一人ならともかく、他の二人の行動限界がな…。

 

 さて、ピンポイントで鬼の痕跡を探ったのが良かったのか、鬼の大群…の、痕跡を発見する事ができた。

 まぁ、あんなモン、俺が調べなくても、誰でも見つけられたと思うけどさ。あんな……バカでかい足跡と、何かが大暴れしたような痕跡は。

 

 何があったかなんて、考えるまでも無かった。先日の鬼下半身の仕業だろう。足跡のサイズ、両足の幅がほぼ一致する。…で、何でか知らんが、鬼を相手に大暴れしたっぽいんだよなぁ。

 やっぱり、相手が何なのか全く識別してないんだろうか。少なくとも、実は人間に味方している…って事は無いと思うんだけども。

 

 

 …しかし、何体かは鬼下半身に蹴っ飛ばされてお陀仏したようだが、中型から大型の鬼が集まっていたのは事実のようだ。

 普通、大型鬼はそうそう群れない。群れたとしても多くて4~5体くらいか。やっぱコレ、異変の前触れだよな。大攻勢の事を知らない紅月と那木さんも、この点については異論無し。

 戻って大和のお頭に報告しねーとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で戻ってきたのだが、まさかここで速鳥とご対面とは思わなかった。

 しかもかなりの重症…つっても、自力で動けるだけの余力はあるようだが。

 何でも、異界の奥を偵察している最中、妙な鬼達を見つけたらしい。大型鬼達が集まって移動していて…超大型の鬼を運んでいたとか。

 

 超大型…って、それひょっとしてデカい下半身?

 

 …ああ、大当たりか…。どうやら、俺達と入れ違いになったらしい。と言う事は、その大型鬼達は大攻勢をかける為に集まった鬼達で…そこへ乱入してきた鬼下半身を捕らえて、どこかに運んで行ったと言う事なんだろうか?

 速鳥はその鬼達に見つかり、撤退しようとしていたのだが、丁度そこへ鬼下半身が乱入。鬼も文字通り蹴散らされたが、余波で速鳥が負傷。何とか里まで戻ってきたらしい。

 やれやれ、俺らが仕入れてきた情報は、ほぼ速鳥に報告されてしもーたな。

 

 

 …しかし、鬼下半身を、他の鬼が運ぶ、ねぇ…。アレを無力化できるような鬼が、この時点で居るとは思えんが…。いや、どうやったのかは別として、殺すのではなく運んで行った? 何の為に?

 …思ってたより厄介な事になるかもしれないな。

 

 

 

 

 

 で、速鳥の代わりに、俺とホロウが交代で偵察に向かう事になった。人選の根拠は、鬼疾風と鬼の手により、有事の際の逃走できる可能性が一番高いから。

 戦力低下した防衛班に、紅月が入る形となる。

 

 …で、クッソ忙しい事に、並行して橘花に鬼の手の使い方を教えなきゃいかん訳だ。今回の発見で、この一件の優先度が跳ね上がった。

 あの鬼下半身を他の鬼達が捕獲していったと言う事は、何かしらの利用方法があるのだと思われる。もしアレが里の近くに放り出されたら、今の結界ではとても耐えきれるものではない。

 

 

 

 そういう訳で、早速鬼の手を渡して訓練を始めようとしたのだが、今一つピンとこないらしい。一見すると、宝石っぽい石ころが一つついているだけのフィンガーグローブだしな。こうして言葉にしてみると厨二臭い。

 想像力がものを言う鬼の手を使うのだから、ピンとこない、今一想像できない、と言うのは非常によろしくないファクターだ。

 なので、実演する事にした。

 

 

 ゲームでミフチとの一対一の戦いの時のように、千里眼っぽい力を使って、実際に使っている所を見てもらう。

 …もうちょっと苦戦した方がよかったかな…いや、別にあの戦いを再現する必要はないんだけど、アレが切っ掛けで橘花が主人公に色々話したり心を開いたりする事になっていたと思う。

 

 俺の場合、心と言うか股を開かせてから気を許すように誘導するという手もあるんだが。股と言うか尻か。

 

 

 

 ま、橘花の尻は惜しいが、必須という訳でもない。『気晴らし』は必要だけど、代替え案が見つからなかった時でいいだろう。…今この時点で下手なアクションを起こして関係を持てば、桜花よりも先に紅月が何をするか分からんし。

 

 

 

 とにかく、適当な鬼を相手に鬼の手の実演を見せ、「これは凄い道具なんだぞー」と言うのを強調してみる。分かりやすく鬼を消し飛ばしたのが良かっただろうか。モノノフではない橘花も、鬼の体を完全に破壊する事はできない、という定説は知っている。それをひっくり返すのは、いい演出だったろう。

 で、それを使って結界の強化をする訳だが……まぁ、そう上手くはいかないよなー。小さな結界を作り出すだけならともかく、今まで里を覆っていた結界を丸ごと作り直すのは至難の業だ。

 とりあえず発想を変えて、鬼の手をエネルギー源として考えて使おう。こいつが簡単に力を増幅してくれるから、そこから好きなだけ力を取って、結界に注げばいい。元々、秋水だってそういう提案をしていたし。

 

 

 



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212話

ちょっと更新が滞るかもしれません。次の次くらいでエロ語りが入りそうですが…。


魔禍月

 

 

 ホロウが偵察に出たままなんで、俺は橘花と訓練中。紅月は今日は防衛班の仕事はお休みらしいんで、橘花の訓練の見物をしています。

 …これって盗られないように監視してんのかな…。一回ちゃんと話し合ったし、自意識過剰か? 

 

 ま、それはともかく、訓練だけじゃ橘花も息が詰まるだろうから、「息抜き」も健全な範囲で教えています。今までのループで、どんなのがお気に入りかは知ってるからね。

 …いや、木登りに鬼の手を使うのは邪道…でもそれもちゃんとした扱い方のうちだしなぁ。

 

 

 他に目立ったイベントと言えば、紅月の料理で橘花が倒れた事くらいだろうか。桜花が狂乱して、あわや斬りかかるかと思われたが、「姉様の料理も同じくらいでしたよ」と橘花に言われて凹んでいた。

 ちなみに紅月には、罰として暫く料理禁止令が出された。練習もダメよ?

 

 

 

 

 話は変わるが、清磨が里に戻ってきていた。

 …言っちゃなんだが、影薄いなぁ…。それも仕方ないけどね。里人との交流があまりなく、異界をフラフラ歩き回ってるし。

 天才鍛冶師と言っても、ウタカタにはその上を行くタタラさんが居る。時々しか姿を見せない清磨に頼まないといけない仕事なんて、そうそう無い。

 で、当人も前に感じた壁とやらを破れず悩んだままらしいし。

 

 それはそれとして、異界の中で妙な物を見なかったか聞いてみた。具体的には鬼下半身とか、大型鬼が集まっている状況とか。

 

 

 

 

 …それらしいものは見た、らしい。遠目にだったが……鬼下半身、エラく暴れていたとかなんとか。

 流石にアレに近寄るのは危険すぎるのでさっさと逃げたらしいが、聞いたところによると………あくまで清磨の、遠目からの感想だが…鬼達は、あの下半身を崇めているような気がした…のだそうだ。

 …下半身を崇めるってなぁ…そりゃあんだけデカい下半身なら、マーラ様だって相応に御立派だとは思うが。

 

 鬼が鬼を崇めるなんて事、あるんだろうか? 崇めるとは言わないまでも、どうも鬼にも指揮系統はあるみたいだし、上司や社長に対して礼を尽くす、みたいな話ならまだ分からんでもないが…でも、今回の場合、その相手は状況や相手を顧みずにただ只管暴れ回る、下半身のみの鬼だぞ?

 うむむむ…。

 

 とりあえず、清磨が目撃した場所と時間を聞き出してみると、どうやら速鳥が撤退した後、またどこかに移動した後だったようだ。

 つまり、現状では最新の目撃情報である。大和のお頭の所に引っ張っていき、作戦会議。

 

 

 …していたところに、秋水が情報を持ってやってきた。

 あの鬼下半身について、「あくまでそれらしい情報というだけですが」と前置きをして。…こいつがこんな風に言うって、結構珍しいよな。いつもだったら何かしらの確信を持ってから話をすると思うんだが。

 

 

 

「皆さんが見たという下半身だけの鬼ですが、「マガツミカド」と呼ばれる鬼かもしれません」

 

「マガツミカド…聞いた事が無いな」

 

「いえ、名前はともかく、モノノフなら誰でも一度はある筈です。これを見てください」

 

 

 秋水が差しだした資料は……まぁその、所謂……子供向けの物語? 昔話とか、おとぎ話とかの本だった。別に珍しいもんじゃない。その辺の本屋にでも行けば、一冊二冊は置いてあるようなものだ。

 …これが?

 

 

「子供向けの話ではありますが、その原型となる物語は古来より伝えられてきたものです。分かりやすい例を挙げるなら、鬼は地獄の獄卒であり、地獄に落ちた罪人を責める役割を持っている…等ですね。このような絵巻に書かれている鬼は、大体同じ姿形をしています。二本の角があり、屈強な体をしていて、金棒を持っている」

 

「実際の鬼とは、似ても似つかんな。人型の鬼すら珍しいと言うのに」

 

「ええ。ですが、こうは考えられませんか? 鬼と言えば、大抵の人はまずこのような姿を思い浮かべます。ならば、原型となる…そう、『鬼』と言われると真っ先に思い浮かぶ、他の鬼よりもずっと強力な『何か』がいたのだと」

 

 

 それは…まぁ、考えられない事ではないが。単純にこの姿が偶然広まっていっただけかもしれんけど。

 

 

「ええ、その辺りは水掛け論になってしまうのは承知しています。では、次にこの資料を」

 

 

 次に差し出されたのは、妙に新しい巻物。…だが、書かれている文章や絵は非常に古臭い。

 …写本か?

 

 

「はい、その通りです。とある筋から仕入れた物なのですが、霊山でも珍しい程に古い資料が基になっています。そこに書いてあるのが、マガツミカド」

 

「…む、読みづらいな…」

 

「ひどく古い文体ですから…。マガツミカド。見上げる程の、他の鬼を圧倒する程の巨体を持ち、四本の腕、二本の角、片腕には図太い金棒を持ち、火、水、風、地、そして天の力を操る怪力乱神の鬼」

 

 

 節操がない鬼だな…その話が本当だとすると、弱点属性は無いかもしれん。

 それで、その鬼があの下半身だと思う理由は? 単に図体のデカさが問題か?

 

 

「それもありますが、ここに書かれている資料によると、この鬼は他の鬼とは少し違う性質を持っているようなのです。この鬼は多くの鬼の祖であると同時に、鬼と群れる事をしない鬼。祖として崇められると同時に、畏れられ、荒れ狂い、果てに封じ込められた鬼でもあります」

 

「封じられた…鬼が鬼を封じたというのか?」

 

「はい。鬼達にも、曲がりなりにも社会性や指揮系統がある、と考えられているのはご存知だと思います。ですが、マガツミカドにそれは当て嵌まりません。…この資料が本当であれば、ですがね。その昔、数を増やしてきた鬼達とも関係なく荒れ狂い、人にも鬼にも多大な被害を出したとあります。見境なく荒れ狂う内に、何が切っ掛けだったのか、その体を両断されて封じ込められたそうです」

 

 

 …その下半身が、あの鬼と言いたい訳だ。確かに、アレが初めて出現した時、封じられていたモノが出てきたような印象はあったが…。

 そもそも何故鬼はこいつの封印を解いたんだ? 伝承が確かなら、鬼にだって相当な被害が出るのは分かり切ってるだろうに。

 

 

「さぁ、それは僕にも。鬼がマガツミカドの事を伝承として伝えているのかもわかりませんし。封印を見つけたから解いてみただけかもしれません。味方が封じられていると思っていたら、大災害が出てきたのか。存外、何者かの意思が介入しているのかもしれませんね」

 

 

 

 …あっ。

 

 

「何か心当たりでも?」

 

 

 いや何でもね。

 

 

「…何にせよ、この鬼の半身が、まだどこかに封じられていると言う事だな。放っておけば鬼の被害も出るだろうが、人間側に今まで以上の被害が出るだろう。封印を解くのを妨害するか、今のうちに下半身だけでも始末しておかねばならん」

 

 

 正直キツいっすよ…? まぁ、やれなくもないとは思いますが。

 しかし、本当に上半身がどっかに封印されてたとして、仮に融合したら…。

 

 

「戦力は2倍どころでは済まないでしょうね。僕はもう少し伝手を辿って、半身がどこかに封じられてないか調べてみます」

 

「うむ、ご苦労だった。…さて、どうしたものか。鬼が集結しているのも気になるが、まずは問題の鬼の居場所を特定せねば…」

 

 

 あー、そんなら適当な鬼を狩ってきて、橘花に千里眼の術とか使ってもらえばいいでしょ。多分、指揮官の居場所とか分かるっしょ。

 んじゃ、悪いけど考えるのはお頭に任せます。俺はちょっと用事が出来たんで。

 

 

「む、分かった。近い内に、討伐作戦を組むことになるだろう。…イツクサの英雄を超えるというその腕、存分に奮ってもらうぞ。…『隠し玉』とやらも含めてな」

 

 

 隠し玉を使うかどうかは俺の判断次第っすな。

 …さて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おーい秋水ー、B-29を撃墜しようぜー。

 

 

「あなたは何を言っているんですか」

 

 

 じゃあ武装錬金でもいいよ。

 小粋な駄冗句はともかくとして、ちょっと聞きたい事があるんだけど。

 

 

「…どうぞ」

 

 

 率直に聞くが、鬼下半身の封印を解いたのって陰陽方?

 

 

「ええ、その通りです。よくわかりましたね」

 

 

 そら、見計らったような時期にそれらしい情報を持ってくるし、お前の背後関係を考えるとな。

 …虚海か?

 

 

「そこまでご存じとは。…ですが、虚海さんではありません。お知り合いですか?」

 

 

 いや、俺が一方的に知ってるだけ。…ああ、そうだ。今度虚海に会う事があったら、「ホロウおねえちゃんが来てる」って伝えておいてくれ。

 

 

「ホロウさん? …分かりました。要件はそれだけですか?」

 

 

 いやいや、色々聞きたい事はあるよ。何であんなモノを復活させたのか、何に使うつもりなのか、とか。

 でも差し当たり気になるのは、なーんかお前、妙に俺らに風当たりがきつくね? 特にグウェンに。

 洋モノは苦手か? シーハーシーハーアイムカミングよりも、大和撫子っぽく声を抑えようとするのが好みか?

 

 

「よくわかりませんが、凄まじい名誉棄損を受けている気がします。………貴方達は、九葉軍師の庇護下にあると聞きました。それが理由です」

 

 

 九葉のオッサン? まぁ、確かにグウェンは庇護下っちゃ庇護下だが。それがどう繋がる? 確かに悪人面で、良くも悪くも腹括って非道をやるタイプだと思うが、お前と関係があるのか?

 

 

「……『血塗れの鬼』を御存知ないので?」

 

 

 知らん。あのおっさんの事だから、何か非常な決断を下した結果の渾名……ああ、それで見捨てられた方…か。

 

 

「ええ。…僕は、北の地の出身ですので」

 

 

 見捨てられたんだったか…。その決断を下したのが、九葉のオッサンか。

 それは分かったが、この際だからもう一つ聞いておく。

 里の結界を強化しようとした理由はなんだ? お前が陰陽方からの間諜で、橘花を揺さぶって結界を揺るがそうとしてたのは知ってる。

 だが、先日の鬼の手を使った提案はその真逆。確かに不確定要素の高い提案だったが、橘花の心理に圧迫を与える訳じゃないし、肉体的にも負担を軽減する内容だった。

 陰陽方の言いなりになるようなヤツじゃないのは分かってるが…何が目的だ?

 

 

 

「……僕も、貴方達が来ていなければ、あのような提案はしてなかったでしょうね」

 

 

 うん?

 

 

「先程も言いましたが、僕はあの男が見捨てた北の地の出身です。そんな僕が、あの男への意趣返しをするとしたら、どんな手を使うと思いますか?」

 

 

 意趣返し…お前が、あのオッサンに?

 心臓を一突きとか、身柄を攫って鬼の群れの中に置いて来る…じゃないよな。

 頭のいい奴らが考える事は分からんよ。「それがお返しになってんの?」って思うような行動だろうけど。

 

 

「そんなに難しい話ではありませんよ。…あの男は犠牲を出す事を容認し、北の地を捨てて霊山を守った。なら、その見捨てられた北の地が、誰一人見捨てずに困難を打破できれば……あの男の選択は間違いだったと証明できる」

 

 

 …できる、か? 仮に出来たとしても、あのオッサンはそれでどうこうなるタマじゃないと思うが…。

 まぁ、分かったような分からんような。要は…意地みたいなものか。

 

 

「ええ、そうですね。突き詰めてしまえば、その一言です。元より、橘花さんを揺さぶれば、すぐに逃げ出すだろうとは思っていましたがね」

 

 

 逃げれば神垣の巫女として死ぬ事もない…か。まぁ、その後生きていけるかは別問題だけど。

 

 

「原因が他の事であるならまだしも、今回のマガツミカドの出現には、陰陽方も関わっています。その為に神垣の巫女を使い潰すような事は、容認できません」

 

 

 意外と意地っ張りと言うか、妙な所で筋を通すヤツだな…。で、俺達が結界を強化できそうな手段を持っていたので、これ幸いと提案したと」

 

 

「そういう事です。…マガツミカドの封印を解いた陰陽方の長老は、その後音信不通となっています。何を考えて封印を解いたのか、封印を解いた後にどうなったのかはわかりませんが…」

 

 

 ロクでもない事しか起きないだろうな。…あれ、でもアレの封印を解いたのって鬼じゃないのか?

 出現した時、近くにそれらしい人間は居なかったぞ。

 

 

「多少であれば、鬼を操る事も出来るんですよ。そうでなくとも、封印を限りなく弱めておけば、近くの鬼がちょっかいを出して、完全に解き放つ事も考えられます」

 

 

 ふーん。厄介な話だこと…。

 ま、いいか。とりあえず聞きたい事はそれだけだ。

 …っと、お前はこれからどうするんだ?

 

 

「これまでと変わりありませんよ。陰陽方との繋がりにしても、大和のお頭にはとっくに筒抜けで、泳がされているのですしね。少なくとも、マガツミカドをどうにかするという点については全面協力しますよ」

 

 

 そうかい。ま、橘花に妙なちょっかいを出して桜花に斬られかけたり、那木さんのおっぱいに顔を埋めてボコられたりしないようにな。

 

 

「…何を想定しているのか分かりませんね。よくわかりませんが、気を付けるとしましょう。それでは、僕はこれで」

 

 

 

 秋水はそのまま去っていった。相変わらず、考え方がよく分からないヤツだ。

 しかし、実際どうしたものやら。今回、秋水はこれ以上警戒しなくてもよさそうだが、陰陽方がな…。マガツミカドを使って何をしようとしたのやら。

 放っておくとロクな事になりそうにない。

 しかし、俺にも秋水にもあまり伝手はなさそうだし………やっぱ、虚海を篭絡するか?

 

 

 

 

 

 

 

魔禍月

 

 

 マガツミカドの事はともかくとして、今日も今日とて任務任務。

 今日は那木さんと二人で出かける事になった。速鳥の傷に妙な毒がひっついていたらしく、命に別状は無いが解毒薬が欲しいとの事。

 先日から運営を始めた菜園にも、これに当たる物は無い。幸い、その薬の原料になる物はあまり珍しいものではないようなので、二人で採取に来た訳だ。

 

 

 …他に誰も居ないし、ここに来た理由が理由だから、丁度いいかな。

 

 那木さん、ちょっと踏み入った事聞くんだけど。

 

 

「はい、何でしょう?」

 

 

 那木さんって医者だよな? 前に速鳥が傷を負って戻ってきた時、どうしてその場で応急処置とかしなかったのかな、と思って。

 

 

「………それは」

 

 

 …いやすまん、言い方が悪かった。こんなご時世だし、医者が潰れそうになる切っ掛けは相場が決まってる。自信を無くしたか、誰かを助けられなかったか…。

 別にその切っ掛けを聞きたい訳じゃないんだ。俺には何もできる気がしないし。

 

 ただ、ね…。

 

 

「……ただ?」

 

 

 …前にも同じような人が居て(と言うか前ループの那木さんだけど)、同じ事を言ったんだけど………別に診療とか手術とかはしなくていいから、タマフリ使って治療すりゃいいじゃん。

 内臓とか繊細な部分はともかくとして、タマフリで応急処置するだけなら細かい事考えんでええやろ。任務の最中にもやってる事だし。

 

 

 

「………き、驚天動地にございます…」

 

 

 

 …リアクションも前回と同じか。

 そういや、速鳥の様態はどうなってんの?

 

 

「速鳥様でしたら、体はほぼ回復しています。『この程度なら問題ない』と、負傷を押して任務に戻るのを止める方が苦労しましたわ」

 

 

 俺もそうだけど、結構医者泣かせだなぁ…。速鳥も結構拗らせてるしなぁ。

 

 

「拗らせる?」

 

 

 いや、何でもねっす。

 …ただ……あんまり口外するのもなんだけど、これから鬼との闘いは加速度的に厳しくなる。俺何ぞに言われるまでもなく理解はしてるだろうし、一番どうにかしたいと思ってるのは那木さん本人なんだろうが、やっぱ医者が居ると居ないとでは環境が全く違う。

 何とか、医者として復帰してほしい……と思う。

 

 

「………えぇ、分かっております。……言われずとも…」

 

 

 …言われずとも、か。那木さんにしちゃ、苛立ちと言うか含みがある返答だ。…ま、そりゃそうだよな。本当に、ずっと悩んで苦しみ続けてるのは那木さんだ。どうにかしたいと、誰よりも思ってるんだ。それを、ロクに事情も知らない俺に、簡単な事のように口出しされちゃ反発もする。

 ドジったかな…。せめて紅月との仲に影響が出なければいいんだが。

 

 

 

 



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213話

 

魔禍月

 

 

 

 速鳥が復帰した。那木さん的には、もう少し休んでおいてほしい所だったが、本人は大丈夫だと言ってきかないし……何より、それどころではなくなってしまった。

 そろそろ来るかな、とは思ってたんだよ、大攻勢。

 マガツミカドの下半身というイレギュラーがあって、あっちも足並みを乱されていたようだけど、大きな戦力が集まっていたのは事実だし。

 

 

 ただなぁ、正直今回は焦ったわ。前触れらしい前触れが無かったと言うか、あった事はあったけどずーっと続いていたから分からなかった。異界の中で集まる鬼なんぞ、今までは発見したら即大規模な襲撃に繋がってた。でも今回は、集まってはいるけどこっちには来ない…。

 そんな状況が続いてた。それで気を緩めてしまう、というのが一番阿呆な事で、俺達全員それをやっちまった訳だが。

 九葉のオッサンが見たら、凄まじく心を抉る一言が飛んできそうである。

 

 

 

 ともあれ、実は今でも大攻勢のド真ん中で、ちょっと休憩しつつ日記を書いている。

 

 

 いやはや、今回は本当に色々と想定外だわ。大攻勢のタイミングが変わるは、トンデモ下半身鬼は出てくるは、初穂にアラガミ化を見られるはよぉ…。

 

 

 

 とりあえず、順番に書いていこうか。

 事の始まりは、里の防衛隊が見回り中に襲撃を受けた、という知らせだった。うん、ぶっちゃけゲームで言う伊吹のイベントのアレだね。

 ゲームや前ループでは、襲撃を防げず、死者が出て、伊吹が塞ぎ込んだもんだが…今回はそれは無かった。ホロウが教えた、鬼疾風のおかげである。

 まぁ、重傷者は出たんだけどね。最初の襲撃で傷を負った班員が居て、彼らを庇う為に3人が攪乱に回り、一人が里へ走った。全員が鬼疾風を駆使して鬼を攪乱し、見事生き延びたのである。戦場で一番重要なのは逃げ足なんだね、よく分かるね。

 

 

 襲ってきたのは、毎度お馴染み・追い詰められると逆立ちするファンキー野郎として名高い、タケイクサである。

 

 

 

 

 

 ただし下半身がついている。

 

 

 

 下半身がついている。

 

 

 

 しかもどっかで見たような下半身が。

 

 

 

 と言うかサイズ比がちょっとおかしいな。下半身に比べ、上半身は2周りくらい小さい。筋肉の付き方も、タケイクサも大概だが、下半身はその更に上を行く。…まぁ、鬼の筋肉の付き方なんて、人間と同じ比率で語れるかって話だが。

 

 

 

 

 

 …ああもう、分かってるよ考えるだけ無駄だよ。何でマガツイクサの下半身の上に、タケイクサが合体してんだよ。

 アレか、実はタケイクサってのはマガツイクサの事だったのか。そういや、タケイクサの下半身は封印されてるって話を聞いた事があるような無いような。

 

 …うん、確かに封印されてたね、マガツイクサと言うか下半身。

 

 

 

 

 いやぁ、真っ先に伊吹と一緒に駆け付けたんだけど、久しぶりにマジでキツかった。下手な古龍より強力だった。討鬼伝世界の底力を見た気分だな。

 足の力は手の3倍はあるっていうけど、あの厄介さは3倍程度じゃ済まなかったぞ。下半身がアホみたいに強力なのは知ってたつもりだったが、上半身…文字通り、下半身を制御する頭脳がついただけで、ああまで厄介に化けやがる。

 下半身が出来た事による機動力の上昇、近づけば即死級の蹴りが飛んでくる、更に、元々タケイクサが持っていた攻撃方法…炎と氷の攻撃力や効果範囲がアホみたいに高い。

 絨毯爆撃ってああいうのを言うんだな。

 

 強力な力を得て舞い上がってるのが目に見えていた。とにかく力をバラ撒くだけで、とんでもない脅威になる。これを相手に、負傷した味方を庇って攪乱を続けていた連中は、本当にいい腕してる。モノノフの主力部隊に組み込めないかと思うくらいに。

 

 

 

 …で、まぁ、そこまでは良かったんだ、まだ。負傷した班員も、俺と伊吹がタケイクサ+マガツミカドを引き付けている内に回収され、此奴の攻撃にも慣れてきた。何て事はない、範囲攻撃をばらまいてるだけで、こっちを狙っちゃいないのだ。コイツが『誰を見て』ではなく『どこを見て』力を放出するかを観察すれば、鬼疾風を使って攻撃範囲から逃げ切るのは難しくない。

 援軍として初穂(一番近くに居たらしい)も到着し、伊吹と二人係で時間を稼いでもらって、チャンスを見計らって鬼葬を決める。

 タケイクサの氷を宿した手が吹っ飛んだ。

 

 

 「よっしゃ!」と伊吹と初穂が叫んだが……異変はそこからだった。

 

 

 なんつうかね……タケイクサが潰れたんだわ。俺らが倒した訳じゃない。鬼葬でぶっ飛ばした訳でもない。内側…いや、『下側』から潰された、と言うのが一番正しい表現だったと思う。

 丸で、腹の中に仕込まれていた爆弾が破裂したかのようだった。タケイクサの腹から上で、とてつもない衝撃で吹き飛ばされたようだった。

 思わず皆して意識を飛ばしてしまい、丁度飛び掛かっていた初穂に至っては着地に失敗して尻餅ついたくらいだ。

 

 何か色々よく分からんと言うかスッキリしないが、勝ちは勝ち…なのか? しかし、マガツミカドの下半身はまだ残ってるし…あれ、でも今までと違って暴れださないな…と考えた時、一匹の鬼が飛んできた。

 面倒くさい鬼のトップ3に入る、ダイマエンである。まぁ、今更単なるダイマエンなんて、瞬殺して終り…と考えたのがフラグだったのだろうか。

 

 

 

 合体しやがった。

 

 

 ガシャーンと。ジャキーンと。いや、実際はそんな超合金っぽい音じゃなくて、肉と肉が交じり合うよーなジュブジュブグニュグニュした音だったんだけども。

 

 

 ともかく、上半身が無くなってたマガツミカド下半身と、今度はダイマエンが合体した。下半身と下半身で合体したんじゃなくて…いやある意味そうなのか?マガツミカドの下半身に、ダイマエンが自分の下半身を突っ込んだんだし。

 しかし合体の仕方は、ホモやゲイがまだマトモに見えるくらいに生物学的機能を無視した合体だ。ある意味リョナだ。

 

 

 で、今度はダイマエンが上半身になって暴れ始めた。…その下半身はアレか、マジンガーのボディ的な何かなのか。タケイクサやダイマエンがホバーパイルダーなのか。

 鬼の生態って分からねーな。

 

 でもまぁ、取り敢えず暴れ始めたダイマエン+マガツミカド、略してダイマミカドをどうにかせにゃならん訳で。

 更に面倒な事に、ダイマエンが飛んできた方向から、多数の鬼の気配。……これか、このタイミングで大攻勢か! いや、さっきのタケイクサ+マガツミカドが先方だったのか?

 

 まぁ、押し寄せてくる軍勢に関しては、丁度里のモノノフ達が総出で出撃してきたから、そっちに任せるとして。

 

 

 

 …俺と伊吹、初穂はこのダイマミカドをどうにかせにゃならん訳だ。

 攻撃属性は土一択になったが、厄介さはさっき以上だな。蹴りの威力はさっきと同等、だってのに足踏みしたら離れた場所の地面が隆起する。…ああ、こんな攻撃あったよなー。小ジャンプして着地したら、距離に関係なく狙われるっての。

 更に羽を飛ばしてくるし、サイズ比を無視して平然と空を飛ぶし。

 なんだっつーのだ、全く。

 

 

 ただ、こっちにも勝機が無いでは無い。下半身はアホみたいにタフだから、上半身のダイマエンを狙う。

 そして、さっきのタケイクサが吹き飛んだ現象…アレがカギだ。恐らく、他の鬼がパイルダーオンする事で、下半身を制御しているのだろう。しかし、その方法もノーリスクではない。充分な力で抑え込まなければ、反発と言うか反動で吹き飛ばされる。

 タケイクサは、鬼葬を受けて力のバランスが崩れたか何かで、下半身を抑え込めなくなったのだろう。その結果、噴き出した力で合体していたタケイクサが吹き飛んだ。

 

 これと同じ事を、今度のダイマエンでもやればいい。そして下半身が動かなくなっている間に、小指なりポークビッツ(大)なり向う脛なりを全力でブン殴って潰す。これしかない。

 

 

 …と言う訳で、なんかもう加速度的にややこしくなる状況の中、もう一発鬼葬を放とうと、エネルギーとかテンションとか武器ゲージとか浪漫回路とか、そーいった物をフル回転させてたんだが……久々に凡ミスしたわ…。

 チャージからの回避が間に合わなかった。ダイマミカドの突進が思ってたより早かったとか、言い訳にもならんな。

 

 ゲージ(実際にはそんなモン無いからあくまで比喩な!)がフルになって、ブーストを辞めた隙を突かれた。伊吹と初穂が攪乱していたのに、それを突然無視して俺に突っ込んで来やがった。

 哀れと言うかブザマと言うか、俺は突進からのサッカーボールキックを見事に貰ってしまった訳だ。

 

 吹っ飛ばされる間に、岸壁をちょっと削ったと思う。何度か強い衝撃と、岩が砕けるような感触が伝わってきたし。まぁ骨が砕ける感覚もあった訳ですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …多分、1分くらいは気絶してたと思う。まー無理もないよな。いくらハンターゴッドイーターモノノフアラガミ以下略だって言っても、ドラゴンボールみたいな吹っ飛ばされ方をしたら気絶もするわ。

 尤も、目が覚めた時には、痛みもダメージも、戦闘続行可能なまでには回復してたんだけどね。それでも、二乙した挙句に瀕死状態って感じだったけど。

 

 ダメージが少なかったんじゃなくて、逆に多かった。最初は分からなかったが、体が勝手にアラガミ化していたのだ。

 いつ以来だっけ…何だかんだ色々とエラい目にはあってきたけど、勝手にアラガミ化が発動したのは剣術バルドに腕を斬られて以来だったか。いや、デカボレアスとナの龍との闘いの間になったっけ? …あの時は自分でアラガミ化してたような。

 

 

 

 

 フラフラする頭を抱えつつ、何とか立ち上がったんだが……目の前に鎌を構えてる初穂が居ました。

 

 

 

 …ああ、そりゃそうか。吹っ飛ばされた俺を探しに来たのね。「あれじゃ助からない、放っておけ」なんて、ウタカタの連中にできる訳ねーよ。

 

 

 

 …思わず気が抜けて、アラガミ化も解けちゃいました。目の前で変身してちゃ言い訳のしようもないね。どうしよう。

 

 

 

 

 

 …無かった事にしよ。

 

 

 

 

 初穂、戦況はどうなってる?

 

 

「どうって…いやそれよりも今のは何よ!?」

 

 

 戦況は? あのデカブツ、伊吹一人じゃ止められないだろ。

 

 

「そっちは紅月と富獄が応援に来てくれたわ。代わりに伊吹が他の鬼の足止めに向かったけど。それで今のは」

 

 

 そんじゃ、戻ってもう一戦するとしますか。…む、体が重い…?

 

 

「ああもう、あれだけ強烈に吹き飛ばされて、生きてるのが不思議なくらいなのに! まだ戦おうとか無茶言ってるんじゃないわ、いいから休んでなさい! さっきの姿も今は何も言わない。後はお姉さんが何とかしてあげるから」

 

 

 そう言われてもなぁ。鬼が迫ってきてるんだから、戦わなきゃまとめてお陀仏だろ。

 む…思ったよりダメージが残ってる…。アラガミ化が中途半端なタイミングで解けたから、回復しきれてないのか。

 

 もう一回変身するか? …ダメだ、タイムラグと言うかチャージが終わってない。もっとこう、テンション上げないと…。

 

 

 

 テンション…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初穂、足触らせて。

 

 

 

「ふぁっ!?」

 

 

 

 …ごめん、今の無し。触っても何か溜まりそうにない。

 

 

 

「よく分からないけど、足手まといになるのは御免だからこのまま死にたいって宣言ね?」

 

 

 むぅ、真面目に動けん。ハンターたるもの、ライフが1でも残っていれば平然と動き続ける事が出来ると言うのに…。

 

 

「初穂様!」

 

 

 む? 初穂を様付けするのは…あ、やっぱ那木さん。

 

 

「こっちよ、生きてるわ!」

 

「ああ、ご無事で……いえ、無事ではないようですね」

 

 

 いやいや、まだまだこの程度なら。初穂、俺はもう大丈夫だから、あっちの応援に回ってくれ。

 言っちゃ悪いが、ここで話してても好転はしない。

 

 

「…そうね。丁度よく医者も来たんだし」

 

「は? あの、私は…」

 

「いいから、診察とかよりも、とにかく動くなって言ってやって! こんなにボロボロで動けないのに、まだ戦おうとしてるのよ!」

 

 

 おねーさんの言う事が聞けないなら、お医者さんの言う事を聞きなさい!と怒鳴りつけ、初穂は戦いに戻っていった。

 

 

 …とりあえず那木さん、手当とかはいいからタマフリ頼むわ。それで動けるようになると思うから。

 

 

「は…い。 ………? ……! い、いいえ、どう見ても動けないのですが!? 何と、こんなにも傷ついて…ああ、血も…血も、こんなに……」

 

 

 俺の体は色々特別性なんで、ちょっと休めば動けるようになるまで治ります。

 現に、吹っ飛ばされた時の傷の半分くらいはもう治ってるんで。あー……ほら、震える手のままでもいいから、取り敢えず診てくれ。深刻な骨折は無いし、派手に血が出てるけど、出血の元はもう塞がった。

 まーなんだ、リハビリだとでも思って、ちょっと診るだけ診てくれい。

 

 

 

「あ、あぁぁ……いけ、いけません…私は…いえ、貴方は…」

 

 

 どーせ死なないって、俺の場合は。普通だったらどうせ死ぬだろうけどね、ああまで派手にやられたら。

 …黒い冗談はともかくとして、とにかくタマフリだけでも頼むわ。一休みして気が抜けたからか、痛みが鬱陶しくなってきた。

 

 中途半端な状態で戦いに行っても足手纏いになるしかないし、もう少し回復するまで休むかな…。

 

 

「……そんな、人は…そんなに頑丈ではありません。もし、もしもそうなら、彼女が…彼女が………?    …ほ、本当に、傷が殆ど塞がっております…」

 

 

 だから言ってるじゃん、色々特別性なんだって。

 別に那木さんが突然、診察もロクにできないヤブになったんじゃなくてだな…。いやまぁ、真っ当な体じゃないのに、普通の人用の診察しても意味あるかはともかくとして。

 

 …あ、もう一回タマフリ。痛みも大分引いてきたけど、ちょっと神経が麻痺ってるっぽいな。

 まぁ寝れば治るか。

 

 

「神経の傷とは、そのようなものではないのですが…」

 

 

 ハンター式睡眠法なら問題ない。

 …あ、ちょっとヤバいかも。鬼が近づいてくる。

 

 

「鬼が? …どちらですか?」

 

 

 あっち。…これは…大型じゃないが、小型でもない……ヒダルか? ここらで出たのは初めて見たが。

 うーむ…近付けるとちょっとヤバいかな。もう少し体を休ませたい。

 

 

「…先ほど、眠れば治ると仰いました。どれくらいですか?」

 

 

 ん? いつもなら20秒くらいかな。今回はちょっと傷が深いから、2~3分くらいか…。

 

 

「…想定した以上に短いのですが…。でしたら、どうぞお休みになってください。…医者としての働きはできませんが、モノノフとして貴方をお守りします」

 

 

 覚悟を決めた目になった。

 …那木さんも、医者である前にモノノフ…なのか、医者であれないから今はモノノフなのか。

 

 

 でもタマフリしてくれ。

 

 

「あ、はい、失礼して…」

 

 

 

 …やっぱ、手術は出来なくても、治療はできるんだな。

 あー、ちょっと安心したら眠くなってきた。ごめん、後任せるお休み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして目が覚めて、那木さんが殲滅した(火力低い人なのになぁ…)ヒダルの残骸を尻目に、日記を書いている訳である。

 那木さんは、俺の血とかを拭いながら体を調べている。…傷の診断もあるが、3分寝ただけで本当に元気になっている俺の体に、疑問を持っているようにも見える。マー実際、俺だって自分の体にクエスチョンマークが一杯だけどね。

 

 

 俺としては今すぐにでも戦いに戻りたい。蹴っ飛ばされた怒りや屈辱もあるが、久しぶりに手応えのある相手が出てきたんだから、徹底的に狩ってやりたい。

 こんなバトルマニアみたいな考え、持ってなかった筈なんだがなぁ。

 やっぱ、なんだかんだ言って退屈していたのだろうか。狩り応えのある相手が、ここの所居なかった。

 

 

 

 

 

 フロンティアに行ってから、そーいう事を言えって話だがな!

 

 

 

 まぁフロンティアはデスワープしてからとして、とりあえずマガツミカドである。

 上のダイマエンはこの際どうでもいい。腕の一本でも吹っ飛ばしてやれば、自分を保てずに消滅するだろうしね。

 

 さーて、あのデカい下半身、どうやって狩ってやろうか。

 しっかり休んだし、那木さんからのゴーサインも出たし(自分の医学的知識を疑うような顔してたが)、戦線復帰と行きますかね!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔禍月

 

 

 勝利!

 …ではあるんだが、こう、モヤると言うかモニョると言うか。

 結局不完全燃焼に終わってしまった。

 

 何だかなぁ…。

 

 

 

 まぁ、そこそこ楽しめたのは事実だが。

 そして不完全燃焼の熱が、後になって色々焼き尽くすくらいに燃焼しまくったが。

 

 そうだな、例によって順番に書いていこうか。

 

 

 

 俺が戦線復帰したのを見て、初穂が「何やってるの!」と激怒したものの、ほぼ無傷状態にまで回復していた俺を見て、目を回しそうになった。『変身』の影響と言う事で片付けたが、そのうち本格的に説明せねばなるまい。

 で、久しぶりに本気でやろうと思ってたダイマミカドだが……ああうん、なんていうかね、俺蚊帳の外だったよ。

 富獄の兄貴が、今まで見ない程にヒートアップしててさぁ…。

 

 もうアレだね、穏やかな心なんて持ってなかったけど(いや、話に聞く「チビスケ」と一緒に居た時は穏やかだったのかな)激しい怒りで目覚めたスーパー富獄さんだよ。

 前のループでも同じような覚醒の仕方してたね。怒りがこれまでにない程高まって、雑念が消えて底力が引き出されて。

 

 ま、そうなるのも無理はないけどねー。

 

 まず第一に、ダイマミカドのダイマエン…富獄の兄貴が追っかけていた、仇のダイマエンだったらしい。そういやそうだな、ウタカタに最初に訪れるダイマエンだったもんな。これはある意味納得だ。

 で、そのダイマエンがマガツミカドにパイルダーオンしていた訳だが…この時、マガツミカドの下半身を抑え込むため、今まで取り込んできた魂とかを酷使と言うか生贄状態にしていたらしい。

 …つまりは、「チビスケ」を筆頭に、ホオズキの里の住民の魂を。

 

 

 殺して食っただけでなく、生贄にするとはなぁ…。そりゃブチギレ金剛どころかガチギレ戦略核である。意味不明? 知らん。

 で、最初は俺も、ダイマエン部分に鬼葬して消し飛ばそうと考えてたんだが、それをやると中身の魂達も消し飛ぶ可能性が非常に高い。

 

 そんな訳で、鬼葬を封じられ、下手にダメージも与えられなくなった訳だが…また富獄の兄貴が妙なスキルに目覚めた。前ループでは乗り攻撃だったけど、今回は……。

 

 

 

 

 

 ぼ、菩薩の拳?

 

 

 

 

 いや赤子と同じ手の形とかじゃなくてね、こう…成仏させる的な意味で。

 別に慈愛の心に目覚めたとか、突然術の効果が上がったとかじゃない。アレだ、怒りと哀しみが極まって、北斗神拳的な意味でインドラとか狩り入れる者とかの化身になったんじゃなかろうか。

 理屈はサッパリ分からんが、ブン殴ったダイマエンから、囚われていた魂達が抜けていったよ。

 

 

 

 …うん、訳が分からない!

 

 

 

 訳が分からんが、とりあえず有効な攻撃方法である事は変わりない。暴れ回ろうとするダイマミカドを鬼返でダウンさせ、この場に居た全メンバーで起き上がらないようにあちこちを攻撃。最終的には、ダイマエン部分の正面に陣取った富獄の兄貴が、祈りの動作からの鉄拳でダイマエンに止めを刺した。

 …ぬぅ、富獄の兄貴の後ろに、不動明王が見えるよ…。前回といい今回といい、富獄の兄貴はどこまでパワーアップするんだろうか。

 

 

 

 まぁ、ダイマエンはいい。「チビスケ」を始めとして、魂達は解放され、ダイマエンも息絶えた。

 

 

 

 問題はマガツミカドの下半身だ。散々ブン殴ったが、致命傷にまでは至ってない。ホント頑丈だなぁ…下位の武器で上位ミッションに出てくるアラガミを殴ってる気分だ。

 そして、このままであればまた新たな鬼がパイルダーオンし、暴れ始めるだろう。

 

 暫し考えたが、このまま削り切るには時間が足りない。敵はマガツミカドだけではないのだ。今この瞬間も、あちこちで鬼の大群を押し返そうと、モノノフ達が戦っている。

 …放置は愚策、復活してまた暴れだす。倒すには時間が足りない。

 

 となれば……よし、敵の中で暴れさせてしまえ。

 

 

 いや初穂、ちゃんと考えて言ってんだよ? こいつ、出現当初から、制御している上半身が居なければ敵味方関係なく延々と大暴れしてたじゃないか。鬼しか居ない所に放り込んでしまえば、後は勝手に向こうに損害を出してくれる。

 どうやって連れて行くかって? 蹴っ飛ばすんだよ。いやマジで。こいつ、目が無い間は外的な刺激に対して反応してるだけみたいだから。

 

 例えば、こうやって一回斬り付けるとだな。

 

 

 

 

 蹴りが飛んできたんで回避ィ!

 

 

 

 はっはー、こっちだこっち! ほーれ遠距離からもう一発! そうだそうだこっちに来いやぁ!

 

 

 と言う訳で、自分を攻撃した(不快な感覚を齎した?)相手を、闇雲に追いかけてきます! 勿論、目が無い状態なんで感覚に任せて適当に蹴ってくるだけ。その辺の岩とか鬼とか蹴っ飛ばすと、そいつが標的だったと思い込んで動きが止まる場合があるので、繰り返し攻撃してヘイトを稼ぎましょう。

 そのまま鬼が乱戦している所に突っ込んでいった結果、見事に大当たり。

 鬼達にとっても、暴れているマガツミカドを大人しくさせて、パイルダーオンするのは相当難しい事だったようだ。動きを止めようとする鬼、逃げようとする鬼、構わず目の前のモノノフを倒そうとする鬼、色々居たが……まぁ、ヒデェ状態だったよ。

 マガツミカドが一回足を振り上げれば、大型鬼がボールみたいに飛んでいくんだもんなぁ…。

 

 いやもう酷いもんだったよ。その分効果的だったけどね。

 

 ま、おかげで…と言うべきなのか、鬼達の攻勢も弱まり、暫く時間が経つ頃には、残党狩りを行えるようになった。

 今日は流石に疲れたぜ…。

 

 

 

 



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214話

落ち込んだりもしましたが、私は元気です。
仕事で失敗して落ち込むのは日常茶飯事だけど…。

と言う訳で、葬式が終わって早々にエロ語りに突入となります。
久しぶりだったから、ギリギリのラインが分からなくなってるなぁ…。
場合によっては修正の必要があるかも。
運営からの警告に気を付けておきます。


 

魔禍月

 

 

 昨日の日記の続きを書いておく。と言うかむしろこっちが本番だろう。

 

 喜ばしい事に、戦いに出たモノノフ達はほぼ無事だった。主力級は、傷を負ってはいるものの、今後の働きに支障が出る事は無し。

 準主力級のモノノフ達(モブとは言うまい)は、怪我を負っている者多数、MIAが少数。…切り捨てるような言い方になるが、あの大攻勢を持ちこたえてこれだけの損害というのは破格である。

 

 何処がどうなって吹っ切れたのかはよく分からんが、那木さんもいつの間にやらトラウマを克服したようで、怪我人の治療に当たっていた。まぁ、激戦を超えた主力モノノフなんだから真っ先に休めと厳命されてたけど。

 

 紅月も無事、グウェンもボロボロになりながらも何とか無事。ホロウに至っては、帰ってきてすぐに飯処に直行した。

 初穂も無事だが…「説明しなさいよ」的な視線を向けられている。でも疲れてるからまた今度な。

 

 

 とにもかくにも、全員無事で何よりである。

 しかしストーリー的に考えて、複数人のイベントが同時に起こったようなものなんで、その推移はこれから見守らなければいけないだろう。

 パッと思い浮かぶだけでも、富獄の兄貴の仇討ち完了、息吹イベントが起こってるんだか潰れてるんだか、更に大攻勢があったのに橘花にはあまり絡んでないもんだから、彼女の心境がどうなっているのか予想がつかない。

 やれやれ、面倒な事になったなぁ。

 

 

 

 

 まぁ、一番面倒なのは、帰ってきて早々に飯を作ろうとした紅月の阻止だった訳ですが。

 

 

 危険を察知した(?)那木さんが乱入しなかったらどうなっていた事か…。いやそりゃー最近はマシになってきてはいるけどさー、まだ紅月一人だと何が出来上がるか分かったもんじゃねーんだよ…。

 ま、飯の味はともかくとしてだな、とにかく食おうって話には賛成だ。

 俺の体も何だかんだでダメージが残っている。本当に、中途半端なタイミングでアラガミ化が解けると、こんな風になるんだな…覚えとこう。

 

 丸一日闘いっぱなしだったし、とにかく補給だ補給。

 肉、魚、米、酒!

 

 

 

 

 

 

 

 

 女。

 

 

 

 

 

 

 ……はいはい、お待ちかねのエロ語りの時間だよ寄っといで~お菓子は無いよ。オカズになるかは知らんがね。

 

 肝心の、ナニをやったかの詳細は後からねっとり語るとして、切っ掛け事態は単純である。例によって酒で失敗したと言うか成功したと言うか、シたのは性交と言うか。

 ま、久しぶりに俺も命の危険を感じた鉄火場だったしね。紅月と那木にとっては、人生で何度も経験できそうにないくらいの大決戦だっただろう。当然、それだけ危機意識とかがビンビンに刺激され、生存本能とかがもう燃え上がりまくってる訳だよ。

 

 そこへ来て、紅月にとっては旦那、那木にとっては…色々気になる相手だったらしい俺と、酒飲んで騒いで。昼間に散々運動しまくった事もあって、酔いが回るのも速かったようだ。

 切っ掛けは何だったっけ? 甲斐甲斐しく酌をしてくれる紅月に、那木が対抗意識を燃やしたんだったか? それとも冗談めかして(目が本気だったが)「私も狙っていいですか?」なんて言い出した那木に、紅月が危機感を持ったんだったか。

 ともかく、3人揃っていいカンジに酔っぱらった状態になってだな。

 

 …まぁ、俺は酔っぱらいつつもヒジョーに冷静に、約1か月半ぶりに欲望を爆発させるチャンスを作り出そうとしていた訳ですが。

 

 

 これは私のだ、とでも言いたげに、酔いに任せて顔を赤くした紅月が寄りかかってきて。

 そちらに行ってもよいですか、とモジモジしている那木を抱き寄せて。

 顔を顰めかけた紅月の首筋に顔を埋めて。

 負けじと「当てて」くる那木の手を引いて。

 

 

 二人纏めて寝床に連れ込みましたとも。意外とと言うべきか、難色を示したのは紅月。当然か。旦那が目の前で女連れ込もうとしてる訳だし。

 逆に那木は割とノリノリだった。酒で羞恥が緩んだのか、それとも単純にチャンスを逃すまいとしたのか。…いやでもまぁ、いつぞやのループで俺にアタックかけてきた時もこんな塩梅だったなぁ…。あの時は恥ずかしそうに誘ってくる様を堪能したっけ。

 

 …そうだな、前の時は結局浮気がバレて射られたもんな。そんな風になってしまった時点で俺の負けだ。(何に、とは言うな)

 そう考えると、今回は願ってもないリベンジのチャンス! 今度は射られる事のないように、いやそれどころか自分から3歩下がった立場を守るように! モノノフ文化じゃ妾なんてモノまで健在だしな! なってもらおうじゃありませんかお妾さん! そして紅月が何かやらかしそうな時にはストッパーに!

 

 

 

 正直、今回は紅月と競わせてヒートアップさせてみたい気持ちもあったんだ。 この二人の気質を見るに、一度のめり込めば一直線で、欲しいモノを手に入れる為に行動する事に躊躇いは無い。

 つまり、上手い事調節すれば、大人向けToラブる~本番アリアリ~が出来そうだった訳だ。

 

 しかし流石にそれは外道が過ぎるし(今更だけど、女を弄り回して悦ぶ趣味はあっても、弄んで喜ぶ趣味は無い。一応)、何より紅月と那木の両方に「公認」という意識を作れる大チャンス…! 千載一遇…ッ!

 そういう訳で、酔いが覚める前に速攻をかけました。むしろ別のものに酔わせました。酒の酔いが覚めるなら、雰囲気に、夢に、肉欲に、何より幸福に酔わせてしまえばいい。自分から覚めようなんて、絶対思わないくらいに。

 

 状況という意味では、二人は充分に酔えるだけの条件を揃えていた。物理的に酒に酔って判断力が鈍り、初めて感じる男の熱に注意が集中し、接吻を繰り返して朦朧とさせる。気分タップリってだけじゃなく、慣れてないと酸欠気味でホントに朦朧とすっからね。

 二人きりではないという点については…そっちに目を向けさせなければいいだけだ。さっき上げた条件のお陰で、意識を誘導するのは容易い。極端な話、こっちから積極的に触れてやれば、それだけで意識がそっちに向くのだ。

 

 いやぁ、実に楽しかったなぁ。実力も美貌も人望もある才女二人を、指先一つで思う様に翻弄して篭絡する。竿師の本懐すなぁw この時点じゃまだ竿使ってなかったけどw

 服の隙間から手を突っ込み、紅月の太腿やら那木の首筋やらを愛撫して、耐えられるけど無視もできないってくらいのモゾモゾ感で嬲り続けて。

 

 

 うーん、那木は知ってたけど、紅月も勿体ないカラダしてるんだよなぁ。絶頂なんてした事もない。自分でスるんじゃ性感を感じるのが精一杯って感じかな?

 まぁ、女盛りを独り身で過ごし続けた結果と言われると……うん、悪くないネ! つまりは俺の為に熟成させてたって事だからネ! いや熟成じゃないのか、ほぼ手つかず状態だったから真っ新な状態で待ってた訳ネ!

 

 ほぼ初めての感覚に戸惑って、怖いとさえ言い出した紅月を腰砕けにし、健気にも俺の指の動きに応えようとする那木をノックアウトして、二人を布団の上に並べた。

 まだ序の口だと言うのに息も絶え絶え、服が開けて半裸になり、大事な所だけビショビショで張り付いてたりチラチラ見えてたり。

 事そこに至って、ようやく自分の隣に別の女が居た事を思い出したらしい。尤も、それで暴れるような気力は残してないけども。

 確かにちょっとだけ緊張感が走ったが、二人の前に仁王立ちしてナニを曝け出したら、別の意味での緊張感に変化した。

 

 

 うーん、我ながら生娘に突き付けるにはちょっとグロかったかな?(ゲス顔で自画自賛)

 

 本番前に触らせてみようかと思ったが、せっかく主導権をこちらが握れているのだ。我に返って3Pに反発なんかされる前に、一気に攻め落としてしまえ。…怯え顔も見ていて愉悦だし。

 

 最初の一発は紅月へ。圧し掛かると僅かに体を固くしたので、尻をムニムニしてやって緊張を解す。おお…熟女の柔らかさの中に、生娘の硬さが芯となってて、更にそれが溶け出して熱が尻から体全体に……うむ、素晴らしい。

 突っ込まずに、もう暫くクンカクンカprprしたくなったけど、流石に初体験からシリアナ(映画のタイトルだよ!)嘗め回したら、紅月の限界を突破して気絶してしまいそうだ。

 ヤるなら本番ヤって、那木の本番も見せつけてから責めるべし。

 

 

 

 では、お待ちかねの紅月本番である。性感は未使用状態でも、それ以外は流石と言うべきか。柔軟性一つとっても、これ以上ない程に柔らかい。足腰に股関節は武術の要だからなー。

 V字開脚余裕です。まぁ、肉体的には余裕でも、精神的には自分から開くなんて事は出来ない状態だったから、足首掴んで強引に広げさせた訳ですが。うーん、レ○パーな気分。

 こら、顔を覆うな。足腰に力入れるのはいいよ? 軽く押し付けられるから。

 どっちにしろ、進もうとすると本能的に腰を引いちゃうので、抑えつけてグイッと突き破る事になったし。ま、それ以外は全体的に優しくやったけどね。優しくするレ○パーってのも変な話だが。

 

 いやはや、久々(と言っても3か月も経ってないが)のイイ感触だったねぇ。ヌルヌルしてて締め付けが強くて、物凄く熱い。体は強張ってるのに、中の感触だけは初めてとは思えないくらいだった。処女特有の締め付けと、熟女の性欲が結びついた結果かなぁ…。

 お陰で、最初から割と派手に動く事が出来た。と言っても激しくするのではなくて、小刻みな前後運動でゆっくり道を慣らしていく感じ。

 オカルト版真言立川流を使わなくても、紅月もそれなりに楽しめていたんじゃなかろうか。まぁ使うけど。追い込むけど。ヒィヒィ言わせて中毒にさせるけど。

 

 …ほほう、入口に下側部分と、奥の上付近……体勢はバック向けかな? ま、後背位はこれから仕込むとして、最初は正面から抱き合って。もっといいポイントを探せるかもしれないしね。

 抱き着いてくる紅月の力と羞恥と悦びを感じながら、繰り返し内側を蹂躙してやると、どんどん雌の匂いが強くなってくる。申し訳程度に残っていた衣服を、剥ぎ取るように放り出した。

 

 腰が逃げる事も無くなったので、足を離そう…と思ったが、美事な脚線美に惹かれ、予定変更。V字で大股開き状態にしていたのを、新体操でもしているかのように纏めてIの字にしてみた。

 おお、締め付けの具合が変わってイイね。抉られる場所が変わったからか、紅月の悲鳴の質もちょっと変わった。

 だが追撃。

 

 揃った両足を抱きしめて撫でまわし、膝裏からつま先までゆっくりと唾液で染め上げる。お、指の間が敏感みたいだな。甘露甘露。特にその悲鳴が。

 でも、悲鳴と言うか嬌声も抑えられなくなってきてるし、体力はともかくそろそろ気力が限界かな?

 だいじょーぶよー、恥ずかしいとか言ってられなくなるからねー。

 

 足を開放して普通の正常位に戻すと、涙目の表情が目に入る。…無言の抗議があるようだが、この状況でその表情は挑発にしかならないな。

 だから容赦しません。耳元で「どこに欲しい?」と囁くと、最初はボーッとしてる事もあって反応が無かったが、理解すると同時に締め付けが強くなる。おお、頭はともかく体は何処に欲しいか理解してるね。

 このまま生殺しにして、懇願させるのも面白いが、そろそろ那木の相手もしてやらなきゃな。

 

 もう一度足を掴んで開かせ、那木にも見える角度で前後運動を再開する。初の経験を那木に見られているぞ、と囁いても、もう腰から送られてくる感覚に夢中で聞いてない。

 やれやれ、ちょっと失敗したかな? ま、リカバリーは可能な範囲だ。

 

 一番奥の急所を連続して小突いてやり、意識も感覚も全てそこに集中するよう誘導。エネルギーの循環も制御して、俺のナニに熱とか力とか欲望とかその他諸々が溜まり込んでいるのが伝わっていく。

 それに応えようと、紅月のお子様部屋も降りてきて、声を我慢する事すら忘れだした。

 

 

 トドメは決まっている。

 臨界点突破と同時に、一言。

 

 

 

 

 孕め。

 

 

 

 

 …ふぅ…賢者モード(になる筈も無いが、一段落)。

 紅月は痙攣しながら、恍惚とした表情で虚空を見つめて動かなくなった。むー、俺も久々だったからやり過ぎたか? いやでも本人の素養もあると思うなぁ。

 

 

 

 

 

 さて。今度は内股をモジモジさせながら待っていた那木、お待たせ。

 最初は紅月の血がついたこれを綺麗にして………お? 流石に生本番のまな板ショーかぶりつきは刺激が強すぎたかな? あうあう言って、全く返事が返ってこない。

 

 だが容赦せぬ。お掃除は後に回すけど。

 

 そっと優しく抱き寄せる。紅月の隣にそっと横たえてロックオンすると、ようやく我に返った那木が、か細い声で「優しくしてください…」と囁いてきた。それにちょっとだけ哂って応えて。

 

 

 

 

 

 一気通貫、役満!(尚、九蓮宝燈)

 

 

 

 一気に奥まで貫きました。それでも那木はビクンビクン悦んでたけどね!

 もう結構前のループに思えるが、那木の体は隅から隅まで味わったからね! どこをどうすりゃ悦ぶのか、何処が弱点なのかもしっかり把握してるよ!

 未開通の道を一気に蹂躙するのだって、痛みよりも快楽を感じさせるようにするなんて朝飯前だ。まぁ、一番感じているのは快楽ではなく驚愕と恍惚だと思うが。

 

 一気に貫かれて、何が起こったか分からない那木の弱点を虐めていく。内部は処女だったとは思えない程にドロドロだ。尤も、もっと大洪水にさせるんですけどね。本人の分泌物だけじゃなくて、白いのも追加で注いで。

 

 さて、那木は性格からくるものなのか、奉仕系の色が強い。尽くすタイプなんだね。で、Mの気質も有り。

 なもんだから、言葉攻めが非常に効果的だ。何処をどうしろと指示して、それを実践しようとする那木をはしたないと詰ってやれば、それだけで強烈にヒートアップする。

 色々やらせるのが楽しい女なんだけど、今回は初体験なので、病みつきにさせる為にも。

 弱点を連続して攻撃して、朦朧とさせて腰砕け。そのクセ、中だけはもっともっとと言わんばかりに蠢いている。

 …頃合いか。ちょっと体勢を変えて。

 

 

 

 ほーれ那木、男の上に跨る気分はどうだ?

 

 

 

 ん? 先っちょが弱い所に当たる? 当ててんのよ。

 え? 弱い所に体重がかかって減り込む? 抉ってんだよ。

 お? 腰が揺れて体中にビリビリする感覚が走る? (Pi-)してんだよオラァン!

 

 体のスイッチ入ったみたいだな。ん? いや、俺今動いてないよ?

 ほら見てみろって、動いてるのは那木の腰だよ。はしたなく腰ふっちゃって、俺を気持ちよくさせようとしてんの? それとも自分が欲しくてしかたないから貪ってるのかね?

 

 ようやく落ち着いてきた紅月が見てるぞー。どうした? 見られたくないのか? それなら動きを止めて体を隠せばいいだろう? 服だってまだ全部は脱いでないぞ?

 恥ずかしい? さっきだって那木も紅月の初体験をガン見してたし、お互い様って事で多少はね。

 止まらないのか? ほら、腰を抑えて止めてやろう。一際奥まで抉られる事になるけど、丁度弱点に直撃するから問題は無いだろう。

 

 虐めないで? 優しくして? わかったわかった、じゃあ『優しく』『ゆっくり』してあげよう。

 つまりはトロ火でじっくり嬲り尽くす。那木の腰を抑えて動きを抑制したまま、弱点に向かってすっくり前後…じゃないわ、上下運動。

 某グラップラー漫画でも言っていた。待つ時間にこそ幸福がある。一番気持ちいい場所に向かって、ジリジリと侵入者が向かっていく。それを待つ那木は、幸福よりも焦れったさでどうにかなりそうな表情だったが。

 最後の最後まで速度を速めずに『ゆっくり』動いてやる。もどかしさだけでは満たされないだろうから、太腿とか脇腹とかを『優しく』愛撫する。それでも決定的な刺激にはならないけどね!

 

 ようやく一番の所に到着する頃になると、那木は既に息も絶え絶えだった。もどかしさに耐えられず、必死で腰を振ろうとしても全く動けない状況は、精神的にも肉体的にも相当堪えたらしい。体力を使い果たしてしまったようだ。

 だが限界はまだこの先にある!

 

 最後の一寸を勢いを付けて押し込むと、声にならない声で絶叫し、ビクビクと初めてとは思えないくらいの悦びの海に沈む。ほれ、追撃追撃。まだゆっくりだけど、上下運動の範囲を徐々に狭くしていく。往復に10秒かけていたのを、9秒、8秒と縮めていく。

 奥を突かれる度に那木の恍惚が深くなっていき、上下往復が3秒を切る頃には目の焦点が合っていなかった。それでも体は反応してるんだよなぁ。

 

 また上下運動の時間を徐々に伸ばしていくと、奥を突かれた余韻を楽しむようになり始めた。うーむ、前回の経験が活きているとはいえ、初回でここまで仕込めるとは。

 …これはまた射られる危険を犯してでも手を出す価値がありますな! まぁ、今回は射られないようにヤッている訳ですが。

 

 

 俺も催してくる頃には、那木の理性は完全に吹っ飛んでいた。刺激と絶頂と余韻で、もう人語が喋れてないくらいだ。理知的な女が獣同然になる様は見ていて楽しいのうw

 逆に、隣の紅月はもう一戦できそうなくらいに回復していた。体は、であって、精神的には相変わらずいっぱいいっぱいのようだが、それでも興味深々でガン見。覚えたばかりの絶頂の味を、もう一度欲しがっている目だ。

 

 あいあい、もうちょっと待ってな。那木にトドメ刺してから、そっちに行くからね。

 一番奥にナニをぴったり密着させて、那木の腹の上から抑え込んでやる。そうすると、子宮が上からグイッと押されて、奥のそのまた奥への入り口が…。

 赤ちゃんの部屋へのダイレクトシュート。勿論、オカルト版真言立川流による霊力もたんまり籠っている。文字通りカラダの中心から俺の霊力が浸透し、那木は絶頂に呑まれて完全に意識を失ってしまった。

 

 

 ふぅ…いい仕事したぜ。さて、もう一回紅月か。今度は限界まで攻めるんじゃなくて、スローペースでゆったり行くか。

 焦らされる感覚を覚えさせて、自分から色々奉仕させてみて…那木も復活してきたら、今度は3人で絡むとしよう。

 まだまだ夜は長いのだ。

 

 

 

 

 追記 書き忘れていたが、「孕め」とは言ったものの、避妊はしっかりやってます。イヅチカナタをどうにかするなり、最低限ウタカタでの戦を終えないと、戦力低下して全滅に繋がりかねないから。…でも孕ますつもりでブチ込むのは気持ちえがったなぁ…。

 



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215話

最近発覚した事。

通勤に使っていたスーツが、実は喪服だった。
爺ちゃんの葬式の為に持って帰って初めて気づいたよ…。

何故かクリスマスを26日だと思い込んでいた。
非リア充には関係ねぇからなぁ……無意識に防壁を張っていたか。
まぁ、仕事のイベント日を間違えるというアホな真似をしてしまった訳ですが。


ところで、ウォッチドッグス2クリア。
うーん、今一スッキリしないな…。エンディングもそうだけど、これ再チャレンジないっぽいんだよな。
運任せでクリアした最後のミッション、事前に準備してスキル使えばちゃんとクリアできるんだろうなぁ…。

とりあえず、MHXに戻るか。



と言うか、エロ解禁とデスワープ直後に感想が増えるのは既に定番ですなw
皆正直だなぁw


魔禍月

 

 もう今月も残り少ないが、魔禍月じゃなくてマラ月と表現した方がいいくらいにベタベタしていこうと思う。

 だが、あまりにもエロばっかやってると他の事が日記に書けない。

 

 エロは踊る、日記は進まず。

 エロとあらば心を決める。日常を思えばエロが乾く。gdgdは飽きたのさ…いや別にgdgd上等ですがね。

 

 

 うーむ、半分ずつくらい書いていけばいいかな。うん、そうしよう。まずは日常から。

 日常と言いつついきなり紅月と那木の事について語るが、二人が仲違いするような事はなかった。むしろ二人で色々語り合っているらしく、以前よりも良好な関係を築いているようだ。そういう風になるように誘導したとはいえ、上手く行って一安心である。

 まぁ、紅月には多少文句を言われたけどな。那木の事は妾と考えれば左程問題は無いが、嫁である自分に一言も断りも無しに勝手に関係を持つは、紅月の初体験と一緒にいただいてしまうは…。初夜くらいは二人きりが良かった、という事だね。うん、全面的に俺が悪い。

 その一方で、那木は特に文句は無いようだ。横恋慕と言うか、俺と紅月の間にかなり強引に割って入った自覚はあるらしく、初夜にしたってチャンスを逃さず食いついたのは那木自身だし。…こういう言い方すると、俺は悪くねぇって主張してるみたいだな。完全にクズ男である。

 

 二人とも仲はいいし、色々と気力が漲っているし、更にオカルト版真言立川流の効果で霊力もパワーアップした状態。もう何も怖くぬぇ、とばかりにガンガン任務をこなしているようだ。

 里は今、疲弊してるからな…。それくらいの勢いで任務やっても、まだ足りないのが現状だが。

 

 何だかんだで、大攻勢は俺が想定したよりもずっと大きな被害を、里に齎したようだった。死者こそ少なかったものの、大怪我を負った者、心に傷を受けて再起できなくなった者、破壊された施設や物資の被害も大きい。

 今すぐ戦線が崩壊する事はないものの、里のあらゆる能力が一時的に低下しているのは間違いない。暫くは、鬼を討伐する事そのものより、その素材を集め、里の再建に役立てる事が主な作業になりそうだ。

 

 

 そんな状況を聞きつけたのか、例によって異界をウロウロしていた(そしてほぼ誰も気に留めてなかった)清磨が、里に戻ってきた。異界もえらく荒れていただろうに、よく無事だったよなぁ、こいつ…。

 ところで、鍛冶の技はどうなった? 壁とやらを突き破れたのか? まぁ、突き破ったとしても、里の皆はタタラさんを頼ると思うが。

 

 …まだ足踏み状態か。これくらいで心は折れないと言ってはいるが、ちょっと荒れ気味のようだな。

 まぁ、丁度いい機会なんじゃねーの? タタラさんと一緒に仕事して、自分に何が足りないのか、じっくり考えればいいじゃん。

 

 

 

 

 

 …清磨はそのような事になった。

 で、俺はと言うと、里の防衛班から異動となる。別に不祥事を起こしたのではない。単純に、戦略的な問題と言うか、戦力の配置の問題だ。

 今までは鬼の討伐より、里を守る事に重点を置いていた。それはこれからも同じだが、あのような大群での襲撃や、マガツミカドの下半身という問題が出てきた。

 同じ事が繰り返されないとは思えないし、マガツミカドに至っては、その辺の大型鬼と合体して超パワーアップしたり、どこかに封印されている上半身が発見・解放されてしまったらとか、心配事は山ほどある。

 

 その為、主力級モノノフが3人所属している防衛班から、一人…俺を異界の偵察部隊(と言っても、現状じゃ速鳥一人だが)に変更する訳だ。

 ま、それ自体は別に問題ない。異界の偵察って言っても、そんなに頻繁に深くまで潜る訳ではない。夜にはちゃんと家に帰れるから、紅月と那木を可愛がる時間もバッチリだ。

 異界を歩き回っていた方が大物にも会いやすいし、里が必要としている素材も集めやすい。願ったり叶ったりだな。

 

 問題があるとすれば、速鳥自身か。こいつも結構拗らせてるからなぁ…。人当たりが悪いんだよなぁ。

 今までは…大体天狐関係で関わってたっけ。そういや、今回ループでは天狐が家に来てないな。どうやら紅月やホロウの家にも来てないみたいだし。

 …まぁ、問題は無いか。天狐が居なくても、特に困る事はなかったと思うし。

 

 速鳥はアレだな、動物と話せるスキルで釣れば…ああ、そういやホロウも話せるんだっけ。ま、この辺の事は流れに任せますか。

 

 

 

 

 さて、日常の事はこのくらいにして。 今日のエロ語りの時間である!

 

 

 とは言え、初夜の翌日って事で、そう派手な事はできないけどな。いや、ヤりたいと提案すれば受け入れてくれそうだけど、連日ヤり続けて睡眠不足になるのもね。

 

 …と言うのはタテマエで、「今日はあるのですか?」とばかりに、布団の近くでチラチラと期待した視線を向けてくる二人を見るのが楽しいだけだが。

 まー真面目な話、里の戦力が低下しているこの状況で、二人そろってノックダウンしてもらっても困る。毎回毎回3Pのみと言うのも何だし、今晩は一人だけにしようと思うのだがどうか。

 

 …おう、目に見えない緊張が走った。そんなに抱かれたいのかね(ゲス顔)

 

 ま、何だ、年功…もとい、先に出会った順って事で、今日は紅月、泊っていくかい? …あらあら、そんなに嬉しそうな顔しちゃって。

 …あの、那木。悪いけど紅月が飯作るまで残ってくれない?

 

 

 

 

 …そういう訳になったのだ。今晩は無し、と言われた那木は少々不機嫌で、しかも紅月の料理の手伝いまでしなければならないとあって、割と真面目に不快に思ったようだが…そこはそれ。

 

 

 包丁に集中している紅月の後ろで、音を立てずにニギニギグリグリする事でご機嫌を取りましたとさ。時間が無かったから早めに絶頂させて、注いで終わらせたけど、それでも十分ご機嫌になった。

 正妻(?)に隠れて、こっそり淫靡な事をする罪悪感や背徳感もいいスパイスになったようだ。

 料理が出来上がるまでに、軽く湯浴みをして痕跡を消したが………注いだまま掻き出してないな、アレは。垂れないように、入り口を締め付けながら那木は帰っていった。

 

 さて、背後で一発よろしくしていたとは気づかない紅月だが、今日の飯は上出来だった。それだけ集中してたって事だね。

 メニューは……明らかに性力増強メニューだよな。でもこれが必要なのは、俺より紅月じゃね? 昨日みたいに、マグロでグロッキーになっちゃ楽しめないからな。

 

 飯食って、風呂は別々。俺が先に入って、後から出てくる紅月を待っている訳だが…ふーむ、今日はどうしようかな。

 昨日のようにガンガン責めてばかりでは芸がない。最初が肝心なんだし、ここは紅月にも色々ヤらせてみたいものだ。男のモノに対する好奇心だってあるだろうし。

 よし、今日はあんまり派手な事せずに、ゆっくり触りあってみますか。当面の目標は……手からの顔面ぶっかけかな。

 

 そう決めた辺りで、丁度紅月が風呂から上がってきた。

 薄い…と言うより、簡単に脱げる、脱がせるような寝巻に……香の匂いがする。服に焚き籠めてるのか? 雅だな~。

 ……これって、どっかの嫁入りの習慣だったような気が……まぁいいか。手を出しちゃってるんだし、紅月については外堀もほぼ埋まっちゃってるし。

 余計な事考えんと、まず楽しむのがよろしかろ。

 

 

 敷いておいた布団の上(枕は二つ)で、こっちにおいでとばかりにポンポン叩いてみると、若干ぎこちない緊張した様子で歩み寄ってきた。

 そして、布団の上に上がる前にその場で正座し、三つ指を突く。

 

 

「申し上げるのが遅れましたが…不束者ですが、末永くよろしくお願いいたします」

 

 

 …ああ、こちらこそ。まともに口上を返す事もできない無精者だが、精一杯愛で、慈しませていただきます。(意味深)

 

 ……今のはかなりグッときた…。嫁入り云々よりも、前口上がな…。

 …ふむ…紅月はコッチ系に特化させてみるか? 卑語プレイとか。…ま、それは追々考えるとして…今は紅月を抱きしめたくて仕方ないので、いそいそと布団に乗ってきた紅月を抱き寄せます。

 

 

 

魔禍月

 

 

 速鳥と任務に出かけるんだが、その前に初穂に呼び出された。

 何ぞ…と思ったが、要件なんて一つしかないわな。先日見られた、アラガミモードの事だ。

 

 取り敢えず、誰も居ない場所…神木の根元に場所を移し、事情を説明。と言っても、3つの世界の転生なんて、言っても…頭から否定はしないかもしれないが、理解できる筈もない。特にGE世界なんぞ、荒廃しているとはいえ技術力で言えばこの世界のレベルを大きく上回っている。

 アラガミだの細胞だのなんて猶更だ。と言う訳で、「普通じゃない鬼に呪われて、それを克服した結果」としか言えなかった。まぁ、間違ってはいないな。蝕鬼に呪われたと言えなくもないし、それをコントロールできてるんだから克服したのにも嘘は無い。

 

 

 …ぶっちゃけ、俺としては流れに任せて、ついでに楽な方楽な方に流れて言ってたらこーなってた訳で、ついでに言えば人間じゃなくなったからって大して気にしてない。自分と言う存在をどう分類すればいいんだろうかと疑問に思う事はあるが、ぶっちゃけその程度だ。今までと同じ事…飯食って狩りして寝て女抱いてが出来れば、腕が5本脚が19本眼玉が30個で羽とか牙とか触手とか粘液飛ばす器官とかが山ほどついてる、モルボルみたいなナマモノになっても何となくで生きていくような……いややっぱモルボルは許さん。

 しかし、俺にとってはその程度の事であっても、初穂にはそうは聞こえなかったらしい。

 まぁ、言われてみりゃー、鬼に呪われて体が変化するようになったとか大事だよなぁ。俺は完全制御できてるからいいけども、そうでなかったら千歳がそうだったように、迫害されて追放されてもおかしくない。

 そもそも人間としてのアイデンティティとかが揺らいでしまう。

 

 …全くと言っていいほど気にしなかった俺がおかしいのだろうか。それで悩むより、今日の晩飯とオカズ…じゃねーな、メインに何をヤらせるかで頭使っていたいんだが。

 まぁとにかくだ、初穂的には、俺の辛い秘密を無理に暴いてしまったような気分だったらしい。

 罪悪感マシマシな顔されたんだが、そんな表情されると俺の方がサディスティックにゾクゾク…じゃない、罪悪感沸いて来るんだけど。

 

 

「私も何か言わないと、対等じゃないわね!」

 

 

 とか言われましても。対等にする為だって、自分の過去バナとかされても。

 いや確かに対等と言うかフェアじゃねーけどね、こっちが。何せ何度もループしてるし、そうでなくてもゲームストーリーのおかげでタイムスリップの事は知ってるしよぉ。

 …まぁ、それで初穂の気が済むってんなら、話くらいは聞くけども。

 

 

 

 とりあえず、初穂から不信を買うような事は無かったんで、そこは助かったかな。

 しかし、これって…初穂イベントの前触れか? そういや、先日の大攻勢でもミズチメの姿は見えなかった。…となると…初穂が夢患いにかかるとして…息吹はどうだ?

 息吹は今回、以前のように村人に責められてはいない。重症人は多数、死人も出たが、それでどうこう言われるような事はなかった。千歳の時は、あの人徳と言うかカリスマで普通に乗り越えてたんだがな。

 

 …様子を見るしかない…か。ま、何らかの問題が起きるのはほぼ確定事項だけどな。

 

 

 

 

 とりあえず、速鳥との任務に出発。

 残念ながら、今回は任務・速鳥との関係共に、目立った進展は無かった。ホロウと俺が天狐と喋れる、って事も教えはしたんだが、流石に素直には信じられないようだった。まー、せめて実践しなくちゃな。家に天狐が居る状態でもないから、信憑性も無いし。

 

 まぁ、天狐と話せるスキルの事は覚えているようだから、チャンスがあり次第…かな。

 

 

 

 それよりも驚いたのはアレだ、任務から帰ってきたら……橘花が空を飛んでた。

 

 

 別にI can't flyだとか、某水を被ると女になる漫画(懐かしい…)みたいにツッコミで吹っ飛ばされたとかじゃない。マジで空飛んでた。

 すわ、神垣の巫女が遂に舞空術を会得したか!? と本気で思った。弟子入りの為の手土産まで考えたよ。…まぁ、いつものA感覚しか思いつかなかったが。

 

 ただ、正座して飛んでる姿に違和感を感じなくもなかったが。

 

 

 ちなみにそのすぐ下には、桜花が超ハラハラしながらついて行っていた。落下した時に受け止める為だったんだろーが、一見すると「スカートと言うか裾の中でも覗こうとしているのかな?」としか感じない。

 

 

 

 …とにもかくにも、空を飛ぶ技術があると言うなら、これは黙っていられない。戦略的戦術的にも非常に大きな意味を持つし、それ以前に生身で空を飛ぶという浪漫は全人類共通だろう。高所恐怖症の人は除く。

 そういう訳で、ダッシュでその技術を教えてもらおうとしたのだが、ある程度近づいた時点でどういうトリックか分かってしまった。

 

 鬼の手を使って空を飛んでいたのである。俺達が使っているように、伸ばして掴んだ腕を伸び縮みさせているのではない。こう…上向きに掌を広げるようにして固定し、その上に座っているようだ。

 魔法の絨毯を鬼の手で代用してるのか…。この発想は無かった。

 橘花に直接尋ねてみた所、「駕籠に乗っている感覚で」だそうな。…籠。駕籠。ってーとアレか。大名行列とかで使われるアレの事か。まぁ、確かに時代相応っちゃ時代相応か? 橘花も神垣の巫女という重要人物なんだし、乗った事があってもおかしくは無い。

 

 

 うーむ…俺にも出来るかな。いや出来ない事はないと思うんだが、イメージが重要だからなぁ。

 空を飛ぶ、或いはその乗り物に乗るイメージ…。鬼の手は、既に「カラダの延長線上にある物」って感覚が染みついてしまってるからな。自分の手で襟首掴んで持ち上げれば空を飛べる、と想像しないと…。

 

 

 …うん、あまり考えずに練習しよう。何ならイメージを掴む為に、橘花に相乗りさせてもらっても……ん、どうした桜花。

 

 

 …紅月殿と那木の二人を手籠めにした野獣が、橘花と相乗りなど許さない?

 

 

 ………否定はしねーけどよ…何で知ってんの?

 …はぁ、昨日那木が妙に嬉しそうだったから聞いてみたら、惚気られたと…。そら災難だったな。

 

 …そして紅月が男とくっついたのが衝撃だったと。そーいや憧れの英雄とか言ってたな…。別にひっついてもいいと思うが。いや俺が言う事じゃないと言うか、いいと思うじゃなくていいんだよと断言しなければいけないと言うか。

 

 もー、分かった分かった。橘花と相乗りは諦めるよ。

 代わりと言っちゃなんだが、橘花に頼みがあるんだ。マホロバの里の神垣の巫女候補に、ちょっと手紙を送ってほしいんだよ。

 ちげーよ、恋文じゃねーよ。相手はまだ10歳にもなってない子供だぞ…。

 そうじゃなくてだな、その神垣の巫女候補…カグヤはこれから修行が厳しくなってくる時期なんだよ。マホロバの里で偶然知り合った時も、息が詰まるとか、面白い事が無いかとかで何かと抜け出そうとしててなあ。

 

 橘花にとっても、同じ立場の後輩が出来るのはいい事だと思うぞ。愚痴を言い合える相手にもなるし、橘花の経験を話して先輩風吹かせる事もできるし。

 

 

 

 …おお、橘花、引き受けてくれるか。ありがたい。

 文を出す時は、ついでに俺の手紙も同封してくれ。向こうじゃちょっと派手に暴れた身でな。普通に出しても文が届くか分からんのだ。

 ああそうだ、紅月にも声をかけて、近況報告の手紙とかも付けるかな。

 

 

「…この際、もう何も言わんが…橘花を便利に使ってないか、お前…」

 

 

 橘花にもいい事あるから気にするな。なぁ?

 

 

「はい! 友達が増えるのはいい事です!」

 

 

 …ええ子やな。今回くらいは、尻とか考えずに接してみるか…。気晴らしも、空中散歩という珍しいやり方に目覚めたみたいだし…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、日中はこれくらいにして、連日のエロ語りのお時間である!

 本日は那木の日な訳だが、その前に昨日の紅月の事を語っておかねばなるまい。今日はあくまで那木メインだから、ちょっと短めになるが。

 

 昨晩の調ky…もとい営みの結果を一言で表すと、そうだな……紅月は、思っていた以上のスキモノになるかもしれないってトコか。

 今までの経験が無かった反動なのか、のめり込みっぷりが半端ない。しかも知識が偏っている。

 …どうやら、青春時代(どう考えても動乱真っ盛りの時期だが)から、コツコツ人目を忍んで集めた艶本を参考にしているようなんだが…まぁこれがお察しな訳よ。

 

 二人っきりなのは初めてだから、ある程度好きにさせてやって、その上で手で出させるのが目標だったんだが…まぁ、これは俺が我慢とかしなかったんで、割とすぐにクリア。

 …で、普通…と言うのもアレだが、順番的には次は口やろ? んで胸とかの使い方も教える、とゆーのが一般的だと思うんだが……まさか手の次は、自分からフトモモ使ってくるとは思わなんだ。

 ニーソ(?)の絶対領域で自分から挟んで、こうスリスリと。

 

 

「手の次は足ではないのですか? 手足は人の体の中で、最も多用する部分です。…それに、物の本にもそのような記述が…。あっ、ひょっとして足の指が正しかったですか!? そ、それはまだ少し、恥ずかしい…」

 

 

 だそうな。うんまぁ、理屈的には一理ある…かな? 手→口→胸とか、エロ以外じゃちょっとよく分からん順番だよな。 手→足→腰の方が語呂もいいし、日常でもよく使う並び順。ちなみにこの場合、腰っつーか股なんだろうけど。

 

 

 

 …うん、これはこれで。柔らかくてスベスベだったし。このままフェティッシュな方向に進むのも、それはそれで。

 紅月、足を使うなら、いきなり指で扱くんじゃなくてな、こう土踏まずの辺りで挟んで、尚且つ大きく広げている部分が俺によく見えるようにだな…。

 

 

 

 それで出させたという達成感や満足感が欲望に繋がったのか、その後の本番は凄かった。あれだけの締りはそうそう無いぞ。やっぱ鍛え方…いや鍛え方で言ったらレジェンドラスタの方が上だから、本人の資質かな?

 求めてくる時にも抱きしめてくる時にも、かなり力が強いんだよな。まぁ、悪い気はしないけど。それだけ求められているみたいで。

 力に比例して体力もあるから、回数こなせるし。いや回数が重要って訳じゃないんだが、長く楽しめるしね。

 

 今は…色恋に浮かれた心境に加えて、雌としての欲望が膨れ上がり続けているか。何か仕込むなら今のうちかな。 

 

 

 

 

 さて、紅月についての語りは、この辺にしておこう。今日のメインディッシュ・那木さんについての語りに入る。

 紅月がステーキなら、那木さんは魚だろうか。いや別にマグロだって言ってんじゃなくて、こう…スッと食べられるような。

 以前にお突き合い(文字通り)していた頃から、色々な女の体を知ったからか、那木の味がより鮮明に分かる。うん、これは例えるなら最上級のお刺身だ。タタキでもいい。

 …妙な言い方になったが、アレだ、ゴージャスなのは同じだけど肉に比べると胃もたれしないっつーか……いや毎晩毎日ヤっても胃もたれなんかした事ないけども。

 

 まー何だ、以前のお突き合いの記憶があるから、那木の弱点とかはよーく知っている。新しい弱点を見つける事もあるが。いや女体の探求とはキリがないものだね。

 ともかく、初夜ではイケるという確信の元、処女を一気に貫いて、イケると言うかその一発だけでイカせるというエロゲ的偉業を為した訳だが、これについては那木に少々恨み言を言われたものだ。

 

 

「初めてなのに、しかも紅月にはあんなにゆっくりしていたのに、と。突然あんなに激しくされて、壊れてしまうかと思いました」

 

 

 サーセンw

 

 ノリノリで貪ってたからいいじゃないのw 『ゆっくり』『優しく』もシたのにね。

 それが恥ずかしいって? はっはっは、それがイイんだよ。

 

 ま、激しくするだけがエロではないし、俺の好きなようにするばかりと言うのもなんだ。今日はお望み通り、那木のペースに合わせて堪能するとしますか。

 

 

 

 尤も、那木本人の意思はともかく、カラダは既に性の味を覚え込んでしまっている為、それだけでは満足しきれなかったようだが。

 ゆっくりスる事で、好奇心を満たしたり、奉仕の仕方を覚えたりは出来たんだけど、疼きが我慢できなくなったようだ。

 一回戦してピロートークしてた時からモゾモゾし始めて、尻とか背中とかを撫でながらお話し、入り口に近い所に俺のナニをピタピタ当てたりしてたんだけど…とうとう我慢できなくなったらしく、自分から…しかもバックでオネダリしてくれた。

 

 「旦那様の益荒男ぶりを、那木に注いでくださいませ」なんて言われりゃ、ゆっくりヤろうなんて考えは吹っ飛ぶに決まってるわい。

 

 後背位で欲望の赴くままに前後運動しましたとも。那木を悦ばせようとかは二の次で、俺の欲望だけで思いっきり激しく。まーそれで結果的に悦んでるんだから、那木のボディもスキモノよのぅ。

 ん? 俺がそう仕込んだって? 否定はせんけど、まだ交わったのは一晩と、紅月に隠れての1回だけだぞ。そこまで急激に変わりはしないって。やってやれない事もないけど、一気に変えると風情が無いし。

 

 おっとそうそう、那木と言えば、忘れちゃいかんプレイが幾つかあるな。以前の時でも大好きだったっけ。羞恥心で物凄く締まる的な意味で。

 で、そのプレイとは…まず第一に、ゲームでの那木登場シーンを見た男なら一度は考えるだろう。那木パイを使ったズリズリ!

 第二に、トラウマを克服した那木と、お医者さんごっこのシチュエーションプレイ! 医者になって助手の那木にイタズラするも良し、お医者さん那木に治療(意味深)してもらうも良し、患者の那木を解剖(服を剥ぎ取る的な意味で)してセクハラするもよし、シチュエーションは無限大!

 

 が、この二つはまだ那木にはレベルが高い。演技できる程に場慣れしてないし、おっぱいを自分から活用できる程大胆ではない。『ご褒美』で釣ればやらせる事はできそうだが。

 

 と言う訳で第三のプレイ、説明ックスです。那木って説明魔だからね。ナニをしているのか、ナニをされているのか、どんな感覚なのかを実況させます。淫誤プレイとも言うね。

 思うに、これが今回の那木の鍵になると思うんだよね。エロい事をしていると説明するのはそれだけで恥ずかしいものだろうが、それを一層感じさせるにはどうすればいいか? 簡単だ。誰かに聞かせればいい。

 そんで、それを聞かれる感覚がクセになれば…ド嵌りしてしまえば、あの時のように射られる心配は…無くなりはしないだろうけど、まー妾を増やすにも抵抗はなくなるかな、と。 

 

 

 

 

 ま、今後相手が増えるかどーかは分からないけどね。それが無くても、那木をこう、泥沼と言うか底なし沼に引き摺り込む為って事で。

 

 

 

 差し当たり、前後運動の激しさをちょっと緩めて、必死で声を抑えようとしている那木に「説明」させてみましょーか。

 うん? 動きを止める筈ないじゃない。だいじょーぶだいじょーぶ、説明してる間にいきなり激しくして邪魔したりしないから。(奥まで捻じ込まないとは言ってない)

 声? だいじょーぶだいじょーぶ、エロい声出すのって気持ちいいよ? 聞かせてくれたら、俺のおnininももっと元気になるしね。ほーら、まずは那木がどんな格好で俺のを迎え入れてるか言ってみようか。上手くできたらご褒美あげるよ?

 

 

 

 




1月2日まで、17時に毎日投稿予定。
容量的に3日目は無理っぽい。


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216話

仕事についてちょっと考え中。
シフト作るのとスタンプ押すのが面倒臭ェ。
シフトは最悪適当もとい重要なトコだけ振って、翌日分だけでもやればいいんだけど、スタンプは大量に押していかないといけないんだよな…。
同時に等間隔で10個くらい日付を押せるスタンプ台とか、一枚押したら自動で一番上の紙を退けて、次の紙にスタンプ押すような機械ってないだろうか。
出来れば一万円以下で。

あと、ガキ使見る為に31日は休みたいとかいうスタッフやら、別の日に出るから31日は休みというスタッフに困る。
いや、前者はともかく後者はまだ分かるんだけども…。

それでは皆様、よいお年を。



黄昏月

 

 

 新しい月になって、魔禍月が終わってしまった。まぁ新しい月になっても、マラ月なのは変わらないんですが。

 今日は二つほどイベントがありました。いや大した事じゃないんだけどね。日常回的なナニカと言いますか。

 

 まず一つ目。速鳥との偵察任務から帰ってくると、グウェンが里の人達に混じって洗濯していた。まー洗濯くらいすりゃーいいんだけどさぁ…。なんつーか、エラく見慣れたと言うか見慣れない衣装が並んでるんですが。

 

 

「ん? これか? …イギリスから日本に来るまで、路銀が無かったからな…。あちこちで日雇いしてもらっていたんだ」

 

 

 で、その時の服がコレってか? でも、そういうのって辞める時に返すものじゃないのか?

 

 

「私も返そうとはしたんだが…白炎が現れて、逃げるしかない時が何度もあったんだ。悪い事をしたとは思っているが、どうしようも…」

 

 

 あー…ナルホドなぁ…。白炎が出るとわかったら、仕事放り出して人気のない所に行きゃなきゃいけない。理由を説明できる筈もない。

 んで、何とか逃げ切っても、どの面下げて戻るんだって話…。

 どんな理由であれ、任された仕事を放り出してるんだしな。

 

 

「それで賃金を貰えないのが、何度あった事か…。何事もなく仕事を終えられたと思ったら、給料を受け取る寸前に出てきた事もあったな…。そういう場合は結局、路銀の代わりに服を貰ってくる形になってしまった」

 

 

 お互い災難だったんだな…。しかし、何処で働いてたんだよ、これ…。

 

 

「あちこちで…としか言いようがない。言葉が通じない時もあったし…」

 

 

 騙されて妖しい所に放り込まれなくてよかったな。子供であっても、需要がある所にはあるぞ…。

 …正直、これらを見てると、怪しいお店で働いてたとしか思えないんだが。

 

 

 メイド。 「イギリスでは珍しくないぞ」

 チャイナ服。 「それは日本に来る前の国の服だな」

 ドラクエの踊り子の服っぽいの。 「どこだったかな…。確か、ロマと呼ばれていた人達の服だったと思う」

 …セーラー服? 「それは船乗りの服だな」

 ファラオっぽい服。 「進路を間違えて辿り着いた、砂漠の国の衣装」

 着物。 「日本についてからも、生活費は必要だったから…」

 

 

 

 …お前、一体何年放浪してたんだよ…。と言うか職歴凄いな。

 

 

「ここにあるのは、白炎のおかげで返せなかった服だけだ。他にも色々着たぞ」

 

 

 グゥエンのコスプレ漫遊記? 興味はあるが…と言うか、こんなに荷物持ってきてたのか?

 

 

「いや、昨日霊山から届いたんだ。九葉殿が忘れ物だって」

 

 

 …意外と人のいいオッサンだな。また何か仕込まれてるかもしれんが。

 

 

 

 

 しかし、コスプレ衣装にしか見えないなぁ………。

 

 

 

 

 

 

 紅月にセーラー服、那木には踊り子の服を着せてみたいもんだが…流石にサイズが合わないかな。いやでもグウェンって外国人だけあって、日本人より体格いいから、意外と着られるかも…着れるとしたら、多分裾とかギリギリだよな。うむ、イメクラっぽい。だがそれがいい。

 しかし、一回着せたらもう返せそうにないな…。知らない間に白く汚れてた服を着るグウェン、と言うのも悪くは無いが。

 

 

 

 

 

 イベントその2。

 

 家に帰ってきたら、紅月と那木がお喋りしてた。大丈夫だとは思うが、まさか修羅場かと思って(そして紅月が勝手に料理してないかと思って)耳を澄ませてみたんだが……何と言うか、ちと居た堪れない…。

 何してたのかって? ワイ談だよ、ワイ談。男の家に来てやるなよ。勝手に家に入るのは許可出してっからいいけど、そーいうガールズトークを男の家でやってどうすんだ。

 

 自分の家なのに、入り辛い…。

 

 

 

 

 と言う事で、ちょっと聞き耳立ててみる事にした。悪趣味? 人の家でワイ談やってるあっちに言え。

 

 

 とりあえず、二人の会話は和やか……うん、敵意が無いという意味では、間違いなく和やかだった。

 話の内容は、自分はアレしたコレされたあんな事させられた、ドレが気持ちよかったちょっと怖かった次はナニをしてあげようだとか、シモ全開だったけどな!

 

 二人とも、経験は…ああ、紅月に隠れてコッソリやった分、那木の方が一回多いが、同レベルだもんなぁ。しかも、意識して二人を違った方向に伸ばしてる。自分がまだやった事のない行為に興味津々で、自分がされてない事がちょっと悔しくて、されている事に優越感と。

 …これ、聞き耳立てずにさっさと乗り込んだ方がよかったかな。居た堪れないと言うより、入っていくタイミングがな…。

 

 と言うか、紅月アレやな、本当に知識が偏ってんな。那木はエロはともかく、医者としての見識があるから、色々分かってるんだけど…。

 男のアレは鉄より硬いとか、一度の射精で体が真っ白になったりボテ腹になったりするくらいに出る事があるとか、そもそも男は何十発もヤれるとか、処女は初体験が死ぬほど痛いとか、好きな相手にヤられたら無条件で気持ちよくなってしまうとか…。

 そりゃ男の生態じゃねーよ、エロゲ主人公の生態だよ。いや、俺の場合はやろうと思えばできない事もないが。

 

 流石に見ていられなかったのか、那木が正しい性知識を伝授している。……ワイ談から説明魔の説明会が出てしまった。これまでは居た堪れなくて入れなかったが、今は説明に巻き込まれるのが怖くて入れない。

 しかし、紅月にとってもヒジョーに興味深い事だからか、今のところはフムフムと相槌を打ちながら聞き入っているようだ。流石に医者としての知識は正確で、普通は一度出したら休息が必要だとか、一日の平均限界は何回だとか、出る量はどれくらいだとか、よくよく考えてみると誰がどの状況で集計してんだって話が幾つも説明された。

 

 が、紅月にとっては一部理解できない…と言うか経験則(まだ2回だが)に反する事もあったらしく、首を傾げて質問していた。

 説明魔=サンは疑問が出てきた事にむしろ喜んで答えて曰く………まぁ、明確な描写は避けるが、俺がオスとしてどれだけ貴重かってお話だった。ただ、一種の疾患も疑われているようだが。色情狂的な症候群で。うん、疑われても仕方ないとは思う。

 

 が、俺と言えども他の人と変わらない部分もあってだな。

 

 

「…と言う訳で、男性の射精量はですね…」

 

「しかし、明らかにそれ以上の量が…」

 

「それだけ勢いや興奮が強かったのもあるでしょうが、多分に量については錯覚で…」

 

「…確かに、思い返せば何度もお情けをいただきましたが、腹が膨れ上がるような事には…」

 

 

 …うん、紅月が想像してたよーな、一発で疑似ボテ腹になるよーな射精はしてないです。と言うかそんな射精を何発も連続でやってたら、俺が干からびるよりも前に紅月の腹が破裂するわ。

 しかし、紅月的にはそれぐらいのヤツを毎回受けていた気分だったらしい。まぁ、間違った知識による先入観の産物と言ってしまえばそれまでだが…。

 

 

 

 うむ?

 

 

 

「他にも、『孕め』と言われながら精を受けた時とか、もう全身が震えて…」

 

「ああ、私もそれは目にしましたわ。意中の方に『子供を産んでくれ』と言われるのは夢ですわね」

 

 

 

 …ああ、初めての時のフィニッシュに言ったね。…単なる言葉…ではあるが、それを受けた紅月は猛烈な興奮と、多幸感に襲われたらしい。

 …言葉…言葉……と言うより、暗示…? 間違った知識…イメージと相まった事による、本当にソレを受けていたかのような錯覚…。

 

 なら…そう、例えば目隠しをして、延々と耳元で囁き続けたら…? ただ囁くだけじゃない、相手の願望や心理状態を読み取り、BGMやSEまで付け、更に霊力付きの囁きなら…?

 

 

 

 …思い起こすのは、霊山で見た裏真言立川流指南書其之参。これ何のエロゲシチュエーション集だと思ったが……或いは?

 

 

 

 

 

 是非とも今夜からでも試してみたかったが、流石に目隠しはハードルが高かった。ちょっと紅月を怒らせちゃったから、猶更な…。

 今日は3人の日だったが、ご機嫌取りがメインになってしまった。

 

 何をやったかって?

 …いやな、紅月と一緒にちょっと出掛けて鬼を何匹か打ち取ってきたんだが、その帰りに「口淫とは何ですか?」って聞かれてさ…。

 

 口淫。まー字面から分かるように、口でエロい事する訳だが、紅月はその行為を知らなかったりする。手の次は足で、その後は本番で、口を使っている描写は無かった…或いは記憶に残らない程度にしか無かったらしい。…本当に、読み込んでた艶本が偏ってるなぁ…。

 さっき書いた紅月とのワイ談で少し触れたらしいが、あの説明魔にしては珍しい事に、詳細を語らなかったらしい。…まぁ、確かにまだ実践はさせてなかったけどさ…俺が弄るばっかりだったし。

 

 

 

 まぁ、お陰で中々楽しめたんだけどね?

 口淫と言うとフェラ○オ(今更ながらに伏字)が思い浮かぶだろうけど、もう一個あるんだよね。咥えさせた状態で男が動く、イラ○チオが。

 

 適当な路地裏に連れ込んで、突っ込んで思いっきり動きました。

 紅月の負担? 無いよ。処女を一気通貫してすら殆ど痛みを感じさせない、オカルト版真言立川流だぞ? 気道を確保しつつ奥まで突っ込んで、先っちょや竿の部分で口内体内を愛撫するなんて朝飯前よ。

 最後は奥まで流し込みました。…どう見ても発情してましたな。

 

 その場で一発…と言うのも考えたし、押せば出来そうだったんだが、速鳥と桜花に見つかりそうになった。ぬぅ、速鳥め、余計な事に気付きおって。元忍者という経歴柄、隠れてナニかしているヤツに気付きやすいのは分かるが。

 紅月は、飲み込み切れなかった白くて苦くてネバネバしてののお陰で喋れず、俺が弁明する事になった。天狐が路地裏に入っていくのを見かけたんで、好奇心でついてきた…って事にしたが、速鳥は気づいてたな。ちょっと気まずそうだった。

 

 んで、結局最後までは出来ず、口の中のモノも吐き出す事も出来ず、家まで帰ってきたんだが…まぁ、そりゃ不機嫌にもなるわな。

 

 

 若干不機嫌なまま情事に突入すると、紅月はちょっと積極的に動いてきた。具体的には、「お返しです」と言って顔面騎乗。ご褒美ですが何か?

 …しかし、その後に放出されるのは流石に予想外だったが。

 

 放出? ……どこからかニプニプインニョという声が聞こえる、と言えば分かるかな。まぁニプニプは出来てないんですが。

 

 

 

 

 で、それを見過ごせないのが那木だった。まーどう考えても不衛生な行為だもんな。医者としては怒るのも当たり前か。

 だもんで、那木の怒りに相乗りして、紅月には『オシオキ』いたしました。…それがご機嫌取になっているのだから、紅月も中々に業が深いものである。

 

 

 

 

黄昏月

 

 

 オシオキの結果、紅月の体の一部に縄の跡が出来てしまったが、服に隠れる場所なので問題は無い。

 あと、那木は紅月をいぢる為のサポート役としても育ててみようかな、と思う。いや、ちゃんと那木本人も可愛がりますけどね。

 

 

 それは置いといて、そろそろ鬼の動きが気になってくる今日この頃。妙なモンを見た。

 いや、妙っつーてもよくある風景なんだが。タタラさんと清磨が並んで仕事してんの。ちなみに仕事の内容は、木綿ちゃん…今回ループでは殆ど話してないけど、大和のお頭の一人娘で、受付嬢の木綿ちゃんの包丁のメンテナンス。

 珍しいのは、その仕事をタタラさんじゃなくて、清磨がやってるって事だ。タタラさん、手が空いてるみたいなのに。

 

 別に、持ち込まれる仕事全てがタタラさんを名指ししてる訳じゃないし、全てを一人でやってる訳じゃない。タタラさんの手が塞がっていれば、或いはそこまで難易度が高くない依頼なら、タタラさん以外が手掛ける事もある。

 …が、タタラさんの意地の問題なのか、他の人にやらせようとしない仕事もあるんだよな。

 

 木綿ちゃんの包丁もその一つ。特注品としてタタラさんが一から作った物なのか、それとも単にタタラさんの目に叶う鍛冶師が居なかったからなのか、どれだけ忙しくてもタタラさんがやっていた作業の一つ。

 

 

 それを、何故か清磨がやっている。

 …?

 

 …こうして字面にしてみると、あんまり大した事でもないような気がしてきたな。職人の世界に素人が踏み込んでも、ロクな事が無い。

 

 

 

 

 …と思っていたら、またしても清磨が家までやってきて、なんか勝手に語って勝手に満足して帰っていった。壁を越えられる気がしてきたとか、今まで自分に足りなかった物がようやく分かったとか。

 言ってた事自体は、まぁそんなに悪いもんじゃなかったと言うか、お前そこを見落としてどうすんだよって話だったが。

 

 清磨曰く、「自分は武器の事しか見ていなかった」だそうだ。防具も見ればいいのかって茶々を入れたが聞いてねぇ。完全に自分の世界に没入している。

 

 武器と使い手は二つで一つ。どんなに強い武器を作っても、使い手が居なければ、弱ければ、或いは作った武器との相性が悪ければ意味は無い。

 武器に限った事ではない。今日、清磨がやっていたような、木綿ちゃんが使う包丁のような日用品も、家の屋根の修理なんかもそうだ。ただ「こうあるべき」という清磨の中のイメージを作り出すのではなく、その使い手に合わせて微細な調整を施さなければならない。

 これは鍛冶師であれば、習い立ての新人でもない限り、誰でも叩き込まれる事だ。事実、清磨もかつては師匠から滾々と言い聞かされたらしい。

 

 だが、実際の清磨はどうだったか。武器の製法を追い求めるあまり、使い手の事を疎かにし、それを知るどころか異界に籠って独り善がりの修行を繰り返す始末。

 

 詰まる所、清磨とタタラさんの違いはそこから来るものだ。使い手の事を知ろうとしたか。それに合わせようとしたか。

 使い手の暮らしに触れ、何の為に、誰が使うのかを意識したか。自分の世界に入り込み、誰の為とも知れず、ただ武器だけを想像していたのか。

 自分の為に打つのか、誰かの為に打つのか。

 

 些細だが、絶対的な差だった。

 里の復興に手を貸す為…と言う名目(実際に手を貸してはいたが)でタタラさんの仕事を近くで見学し、そして里の人達からの依頼をこなすようになって、ようやく気付いた。

 

 

 一から修行のやり直しだ、と自嘲気味に笑う清磨。暫くは里で鍛冶師として働き、異界に潜るような事は当分しないと言っている。

 

 

 

 

 ……これは、つまりアレかな。清磨に会う度に脳裏に降りてくる、「もう里の柱に括り付けとけ」って天の声が届いたんだろーか?

 まぁ、里にずっと居たって、タタラさんが居るし、俺の場合はそこまで武器強化に拘らないし(だって別世界の武器とかも使うから、迂闊に弄らせられない)、あんまり利用する印象は無いな。タタラさんの負担を軽減するって程度の意味しか無さそうだが、こんな事言ったら「舐めるなよ、ひよっ子がぁ!」みたいに怒られそうだ。俺の仕事に踏み込むんじゃねえ、とか。

 

 と言うか、それを差し引いても、何故にわざわざ俺に向かって語るのかが不明なままであった。

 

 

 

 

 

 …おい、帰る前に家の中を視線で確認したな? まだ神機狙ってんのかテメェ…。

 「…武器と使い手は二つで一つ。その点、詳細は分からないがあの武器はお前の一部なのだろう。ならばそのあり方は武器の理想の一つであり」…とりあえず放り出した。

 

 

 

 …まぁ、これで少しは清磨も落ち着くかな…。

 

 

 

「…とても落ち着くとは思えませんが…。不眠不休で鍛冶修行に励むのではないでしょうか?」

 

「清磨様の情熱は凄まじいですから…。医師としては、適切に休息をとっていただかないと」

 

 

 

 そこまで責任持てんわ。と言うか清磨の行動に俺が責任持つ筋なんぞ無いわい。

 

 

 

 

 そんな事より、飯食って遊ぼうぜー。昨日は3人だったから、今日は紅月の番ね。ただし、那木は明日、帰ってから何を想像してナニをしていたのか報告するよーに。

 いや別にナニしろとは言わんよ? 想像するだけして悶々としててもいいし、発散しようとしてもいいし。明日、正直に報告するかどうかも任せる。…ただ、内容によっては色々と凄くなると思うけどね?

 

 那木は処置無し、と言った顔で帰っていった。ただし、帰り際に少しだけ唇を舐めたのが見えたけど。

 

 

 

 さーて、そんじゃ那木に妄想されている事を想像しながら、紅月で遊ぶとしますかね。

 紅月ってば、この数日間で随分とスキモノになっちゃってまぁ。受け身の時も動いている時も、貪るという表現がピッタリだ。嫌いじゃないがね。

 だと言うのに、おっ始めるまでは控えめと言うか従順なのは凄い所だ。寸前までは貞淑な妻、始めればケダモノ。隠しているつもりのようだが、モノ欲し気な表情が堪らない。そしてそれを解き放ったら……正にビーストモード。

 

 今日もなぁ…。いつぞやの口上にもズキューンと来たが、今回はそれにも増して凄かった。ちょっと方向性が違ったけど。

 さて始めよう、と布団の上に歩いてきた俺だが、紅月は逆に一歩引いて布団の前に正座した。

 なんかやったか、説教か? と思ったら、さにあらず。三つ指ついて頭を下げ、「今宵も、可愛がってくださいませ」と一言。顔を上げたら……神妙な態度とは裏腹に、欲望が隠しきれてない顔だった。

 顔を挙げたのは一瞬で、四つん這いで30cm程距離を詰めて…俺の足に接吻をした。そのまま足に絡みつくように這い上がり、先日覚えたばかりの口で…。

 

 と言うかもうコレ完全に土下座ックス……いや堪能しましたけどね。足にチューもそうだけど、紅月の態度のお陰でもう滾る滾る。

 

 口だけじゃなくて色々な技術を教え込もうかな、と思っていたんだけど、もうちょっと勢いに任せてみる。これだけ勢いと体力があるヤツは貴重だし、飢えた雌に喰い付かれている感覚も悪くない。

 

 

 

 

 



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217話

新年あけ…喪中だった。
今年もよろしくお願いいたします。

今年中に完結目指して頑張ります!(完結するとは言ってない)


黄昏月

 

 

 唐突に真面目な話になるが、鬼達の動きが少ない。

 いや少ないと言うか、不気味なくらい静かである。今までのループなら、毎日とは言わないまでも、連続して何かしらのイベントやその兆候が見えていたと言うのに、今回はそれが全くない。見逃している訳でもなさそうだ。

 いつも通りに異界に鬼が居て、いつも通りに鬼がちょくちょく里を襲ってきて、いつも通りに撃退できている。

 強いていつもと違う点を挙げれば、「静かすぎる」という印象だけだろうか。全く、嵐の前の静けさとはよく言ったものである。

 

 一応、理屈を付けられない事は無い。先日の大攻勢、人間側に被害は大きかったが、同等に鬼の側にも被害が出ている。

 マガツミカドの下半身が大暴れ(性的ではない)したし、大物の鬼を何匹も仕留めている。その戦力補充の為、人間側にちょっかいを出すのを控えている…と言うのは、理にかなっていると思う。

 

 

 

 が、そのような楽観はデスワープ一直線である。何度そのお気楽思考でお陀仏した事か。異変は危険。これはこのループの中で生きていくと言うか俺がデスワープしない為の大原則である。

 ……あれ、でも異変が無いのが異変って事だし、そうなるとどうやったって異変であってでもそれが普通で…うごごごご、異変とはゲシュタルト心理学であって弾幕ごっこの黄昏がシャンハーイホウラーイ!

 

 

 

 …ちょっと錯乱してみた(故意)が、戯言は置いといて。

 

 

 

 真面目な話、一緒に異界を偵察している速鳥も同意見らしい。変わりが無さすぎる。

 二人で色々と話をした。一緒に異界に潜っている内に、仲間として考えるかはともかく、腕の良さは一目以上置かれたようで、ビジネスライクな態度ながら、それなりに意見交換するようになった。

 

 で、考えられる可能性としては、鬼が『何か』を隠している事。何を隠しているのかはサッパリ分からないが、どうやって隠しているのかは、今までの例から推測は立つ。

 まず、単純に俺達が到達できないような異界の奥で何かを企んでいる。

 二つ目は、鬼の…時折いる、能力持ちとでも言うのだろうか? 結界を張れる鬼が、俺達の認識を狂わせている。

 三つ目に……見当違いの場所を探している。例えば…里の中に何かを送り込んでいる?

 

 

「…三つめは恐らく無い。確かに人の裏を掻くのは鬼の本道なれど、貴殿らが齎した鬼の手を使った結界は、そう破れはせん。拙者も、里の中は常に見回っているが、おかしな気配はない」

 

 

 …妙な気配だけじゃなくて、小動物も居ないか? 小鳥とか子犬とか。

 

 

「居らぬな。そも、その手の動物の追跡については、貴殿の方が得意であろうに」

 

 

 まぁ、狩人だしな…。確かに、動物の痕跡を探ってみても、普通の野良くらいしかいない。ホロウに聞いても、おかしな情報は入ってない。

 人間だけじゃなく、敏感な動物も何も感じてないんじゃ、里はシロか…。

 

 

「…貴殿とホロウ殿は、動物と喋る事が出来る…と言う話であったな。是非ともその技を学びたいものだが」

 

 

 特に天狐の言葉を?

 

 

「是非に! …いや、あくまで後学の為」

 

 

 後学の為だろうが勉学の為だろうがどーでもいいが、とりあえず鬼の話である。動物との話し方なんぞ、一朝一夕で身に着けられる訳もなかろう。

 英語の試験で散々赤点を取った苦悩を思い出すがよい。…俺は8割がたギリギリセーフだったけど。

 

 

「む……た、確かに、今は里の危急の時…。余計な事に力を割いている余分は無い…。失礼した」

 

 

 …落ち込む速鳥を見て、何となくほっこりする俺。

 速鳥の方が心に壁を作っているなら、その壁越しに楽しむ…もとい遊べる方法を見つければいいんだよ! いやまぁ、それでも教えてほしいって素直に言えば、教えてやっけどね。

 速鳥によけーな負担をかけさせる訳にはいかないからネ! 

 

 

 で、真面目な話、やっぱ里の中と言うのは無いと思うんだわ。速鳥が言う通り、里の結界はより強力になった。内側に対しても、だ。

 中に入れば鬼にとっては居辛い事この上無いし、それでも何らかの手段で入り込み、力を露わにすれば、確実に橘花が感じ取る。

 となると、やっぱ異界の奥か結界な訳だが…。

 

 

「…このままでは埒が開かん。何かしらの方法で情報を集めねば…。仮に隠れているとするなら、それを無効化する方法は…」

 

 

 あるにはあるな。神垣の巫女の、ホレ、千里眼の術があるだろ。俺も一回やられた。

 

 

「…何をしでかしたのでござるか」

 

 

 いや、見つけた抜け穴を通って行ったら、何故かマホロバの里の神垣の巫女の部屋に出てさ…。修行中の子供だってのに、そこから術を使って俺を特定してきた。

 

 

「よく死罪にならなかったものよ…」

 

 

 そこはそれ、神垣の巫女と取引したからな。色んな意味で将来有望なょぅι゛ょだぞ。ストーカー一歩手前の護衛も居るし。

 そういや、橘花に文通しないかって提案したな。あれからどうなってるんだろ…。

 見た所、かぐやも橘花も色々貯めこんだのが大爆発するタチだからな…。二人が上手く化学反応すれば、より大きな爆発になってくれるだろう。そっちの方がストレスは消えやすいだろうから、問題は無いな。周囲の人間が神経性胃炎になったりするかもしれんが。

 

 

「言葉の意味はよく分からんが、それは放置していいものなのか…」

 

 

 ストーカーは深く考えすぎて行動に移せないヤツだから大丈夫だろ。それ以外は…まぁ、いいんじゃね? 神垣の巫女に負担をかけている分、気晴らしくらい大目にに見れば。

 さて、話はそういう方向で進めるとして、千里眼の術を使うにしても、媒介は必要だな。鬼を何匹か狩ってみるか…どんな奴がいいかな?

 

 

「ならば、より強い鬼を狙うがよかろう。鬼達の順列は、特殊な技能や能力ではなく、単純な強さによって決まるらしい。ならば、結界…があるとして、その中に鬼の大将、そしてそれに使役される鬼が居る。使役される鬼も、やはり強い鬼であろう」

 

 

 ふむ…確かに。

 …つまり上級鬼か。ようやっとそこそこ強いのとやりあえるな。まずは探し出すところからせにゃならんのだが、心当たりはある。

 

 

「なんと…。それは如何なる物か?」

 

 

 追跡術には自信がある。速鳥の専売特許じゃないんだぜ?

 ちょっとした事情により、デカい揉め事がありそうな場所なら幾つか当てがあるんだ。…あの場所だきゃあ、クソイヅチをナマスにするまで忘れねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 という訳で、オオマガオトキが起きる場所…千歳がクソイヅチに喰われたと思われる場所までやってきた。

 何も見つからなかったが、当たりと考えてよさそうだ。複数の大型鬼が、何度も行き来した形跡がある。そのくせ、大型鬼自体の姿は無い…。やはり結界か。

 異界の中で身を潜めて待つ事暫し。速鳥がちょっと行動限界を突破してしまいそうになったが、丁度よく出てきたワダツミをソソクサと狩って期間する。…ワダツミはあんまり強い鬼じゃあないが、上位っちゃ上位だよな…。コイツで行けるかな?

 まぁ、どっちにしろ今回はもう引き上げだ。速鳥がヤバい。

 

 

 

 

 

 里に帰るとすぐに大和のお頭に相談し、千里眼作戦の許可をもらう。

 ワダツミの欠片を渡し、すぐに実行…しようとしたんだが、今日はダメだと言われた。何故に?

 

 体の都合…………ああ…女の子の日…。

 

 それに、千里眼の術は久しぶりなので、ちょっと練習しておきたいとの事。OKOK、無理にやって失敗してもらってもね。何時ならやれる? …明日には、か。

 そんじゃ、それまでゆっくりするとしますかね。速鳥、ちゃんと休んでおけよ。今回は特に異界に潜るのが長かったからな。

 

 

「…承知」

 

 

 …本当にこいつ休むのかな。天狐に限らず、なんか適当な小動物でも嗾けておくべきか。

 

 

 

 

 

 

 さて、それはそれとして、今日のお楽しみの時間である!

 異界に長い事潜ったためか、俺もちょっと体の熱を持て余している。性欲に限った事ではなくね。

 こりゃー速鳥の事を笑えんな。休んでない。精神的には、これが何よりの休養になるんだが。

 

 早速家に帰って…もう当然のように那木が居た。しかも晩飯作ってくれている。…ありがてぇ…これが家庭の味か…。紅月の飯がアレな分、心が…いやディスってるんじゃないよ。

 飯食って、風呂入って(背中を流してもらって…まだ普通に手と手ぬぐいだが)一息。ああ、やっぱ家庭っていいなぁ…エロじゃなくてもいいなぁ…。

 

 

 

 まぁ即エロに突入するんですが。

 にしてもアレだな、今回の那木は前回の結果を踏まえて念入りにヤりまくっているからか、あれから色々経験してレベルアップしているからなのか、それとも最初から紅月と2人相手だからなのか、以前とは随分違うなぁ。

 何と言うか……甲斐甲斐しく尽してくれるのは変わらないんだが、前回は新妻で、今回は………あ、愛人? いや立場的には妾になるんだろーけども。

 

 エロい事する時も、紅月が優しくされるのを好む(どんどん激しくなっていくけど)のに対し、那木はちょっといぢめる時の方が反応がいい。焦らしたり卑猥な事を言わせたりすると、自分からエロい行為に走り出す。ご奉仕属性は相変わらずか。

 今日だって、「異界に長くいたのですから、不浄を清めなくては」なんて言いながら、自分から体中嘗め回してきたしなぁ…。不浄の穴の中まで躊躇いなく。それって医者としてどうなん? いやプレイとしてはありだし俺もやった事あるけど、事前に洗っても不衛生なのは否定できんし。

 その後は、滾りに滾った白いご不浄を思いっきりブチ撒けた。白濁塗れになった那木は、自分の指でそれを拭って……言うまでもなく舐めとっていた。ぬぅ、既に精の味まで覚えてしまったか。

 

 それを見ていたら辛抱溜まらなくなったんで、問答無用で押し倒して捻じ込んで激しく前後運動したんだが、ちょっと怯えたフリの演技付きでしっかり受け止めてくれる。演技っつーか、はしたなく乱れる事自体にはちょっと恐怖が残っているみたいだけど。自分がどんどんいやらしくなっているのに気付きながら抗えないとか、実にそそるシチュエーションだね。

 このままどんどん調きょ…もとい、色々と染め上げていって、最終的には俺と二人きりになったら即エロい気分になるくらいにしてしまおうか。それとも、指一本触れずに、見られるだけ、命じられるだけでビクンビクンするレベルまで行けるか?

 

 

 まぁ、ともあれ…今の那木を悦ばせるなら、欲望に身を任せて全てを注ぐのが一番だ。細かい事は忘れて、那木の奥まで侵入した。

 

 

 

 

 

黄昏月

 

 

 次の休日は、紅月と那木と両方と、どう過ごすか。交代で家に来たり一緒に出掛けたりしているとはいえ、やはり休日を一緒に過ごすと言うのは別格だ。

 …どうしようかと思ってたら、俺が意見を出す前に二人でジャンケンして決める事になった。…ま、こーゆー時、二股男の俺に発言権なんぞ無いわな。

 

 文字通りの一発勝負、勝者が俺と過ごす。アイコだった場合は3人で過ごす…強いて言うなら、この場合が俺の勝ちか?

 で、結果はアイコ。俺の勝ち…だが、二人で過ごす休日もちゃんと作らんとなー。

 

 

 ま、それはともかくとして、橘花の事だ。別にいつもの『気晴らし』の話ではない。残念ながら。

 今回ループでは、かぐやとの文通や、鬼の手を使った空中散歩等、それなりに楽しみがあるからか、橘花は非常に安定している。エロい事を教え込んでもいない。

 

 

 

 ……のに、どうして俺と那木さんを見て顔を赤らめますかね? 昨日までそんな素振りなかったよな?

 まぁ、敵の居場所を探る為の千里眼の術は、ちゃんと発動してからいいんだけども…。

 桜花が不思議そうにしながらも、殺気を向けるべきかどうか悩んでいるんだが。…今まであんまり接点なかったし、俺って桜花から見れば憧れの人の伴侶だしな…いきなり刃は向けられれんか。

 逆に、紅月と那木は不思議がってはいるが、それ以上は無い。四六時中一緒にいるから、橘花に不埒な真似をしていないのは分かっているだろうし、肉体関係を得て余裕が出てきたんだろう。

 しかしそうなると、やっぱり橘花の反応の意味が分からないな。

 

 

 が、この反応自体は何度も見た。性に対して天真爛漫、モン娘並みとさえ称した橘花がこうも恥じらうのは…性に目覚めたばかりの時特有の反応だ。

 やっぱり結局いつものルートなのか? 全く問題は無いが、那木と橘花の組み合わせは微妙にトラウマが刺激されるな。だからこそ乗り越え甲斐があるってもんだが。

 

 

 

 まぁ、とにかく今は千里眼の結果を尻たい。もとい知りたい。

 例によって橘花に手ぇ出すとしても、もうちょっと時期を考えた方がいいだろう。那木と紅月が、多少ブーたれても刃物を持ち出さないくらいに躾けられるまで。或いは、ケツでイける橘花の体に興味津々になるまで。

 

 

 

 話は変わると言うか本道に戻ると言うか、むしろ本道が脇道な気もするが、とにかく千里眼の結果について。

 ケツ論から言えばドンピシャ、滅びのバーストストリーム!だ。 …ブルーアイズって言った方がいいかな? いやブルズアイ…? 異国語は忘れた。

 俺と速鳥が狩ってきたワダツミは、予想通りに展開されていた結界に出入りしていた鬼だった。

 

 

 その結界の中には……天まで届く瓦礫の塔。

 

 

 

 が、半ばくらいで圧し折れている光景があったそうな。橘花しか見えてないから、詳細が分からん。

 

 

 

 えぇー、何でいきなり折れてんの? 千歳の時はG級爆弾を山ほど叩き込んで、ようやく圧し折った塔だよ?

 妙な力が寄り集まって頑丈になってて、俺でも自力でぶっ壊せるかは微妙な所だ。頑丈さよりもデカさが厄介ってのもあるが。

 

 何でまた…。

 

 

 

「…やはり、あの鬼の下半身でしょうか…」

 

「そう考えるのが妥当だな。何がどうなって、鬼が作っている塔とやらを圧し折ったのかは分からんが」

 

 

 またアイツかよ。芸がねぇな。いやあんなモンがホイホイ出てこられても困るんだけどさ。でもそれぐらい出てきそうなのがフロンティアなんだよな……やっぱ行くの辞めようかなぁ…。

 まーアレじゃね、あの鬼の事だから、目が見えない状態で適当に暴れ回ったら折っちゃったってだけじゃね。

 

 

「ありそうなのが頭が痛いな…」

 

「あの…私もあの鬼は術越しに見た事がありますが、あの塔を容易く破壊できるとは思えないのですが。確かにあの鬼は大きいですが、塔を真ん中から破壊できる程だとは思えません」

 

 

 ……ふむ。(記憶にある塔と比較すると、確かに…)

 どっちにしろ、行ってみるしかないのかね。異界の奥だが、俺ならそこまで行っても行動限界に余裕を持って戻ってこられる。

 

 

「ですが、流石に一人では危険です。結界に侵入する手段があるかという点も問題ですが、その中はどんな鬼が蠢いているか分かりません」

 

「あの下半身野郎も居るだろうしな。斬り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ、踏み込みゆけば…とは言うが、文字通り極楽に行くんじゃ話にならねぇ」

 

「鬼に捕まれば、極楽じゃなくて地獄行だろうしな」

 

 

 

 色欲道一直線だな俺。

 

 

「そーだな。もし違う地獄に落ちるなら、里の男総出で閻魔様に抗議に行くだろうぜ。美人を二人も侍らせやがって…」

 

「話が逸れてるぞ」

 

 

 息吹との軽口はともかくとして、さてどうやって侵入するか。

 一番の問題は、やはり異界の瘴気だな。これさえなければ、2桁程度でも人海戦術も取れる。

 

 

「異界の瘴気をどうにかする…って、どうすればいいの? 異界は年々濃くなるばかりで、薄れたなんて話は聞いた事は無いわ」

 

「…瘴気を無効化する道具がありましたが…まだ予備はありますか?」

 

「そんな物があるのか!?」

 

 

 いや、無い。…そういやあの道具は何処に?

 

 

「マホロバの里で助けたモノノフに渡したままです。送ってくれと手紙を出すついでに、博士に異界を晴らす研究がどうなっているのか聞いてみましょう」

 

「異界を…晴らす? そんな事できるのかよ」

 

「さあ。ただ、鬼の手は本来そのために作られたと聞いています。副産物でこの効果ですから、研究が進めば期待できるかもしれません。現時点では…お察しですが」

 

「あ、それでしたら私がマホロバと文通しているので、一緒に手紙を送りましょう。かぐやさんなら、すぐに手伝ってくれると思います」

 

 

 おー、随分気が合ったみたいね。

 

 

「はい! かぐやさんのお話は、とっても面白いです。色々な冒険譚を集めて、いつか本にするのが夢なんだそうですよ。…皆さんのお話もしていいでしょうか?」

 

「おっ、じゃあ俺の事を格好良く伝えてくれよ。二枚目の槍使いだってな」

 

「どう考えても三枚目じゃない」

 

「ケツに卵の殻がついてるヒヨッコが言ってもな」

 

「私はもう一人前よ! …まだまだ強くならなきゃいけないのは分かるけど」

 

「では、私はこの方の正妻として…」

 

「那木、ちょっと話し合いましょうか」

 

「おいしいご飯を募集中、と伝えてください」

 

 

 ……話が脇道にズレてきたな。ちなみに俺は…。

 

 

「あなたの紹介は不要かと」

 

 

 …そうね。マホロバで散々大暴れしたし、かぐやと橘花を引き合わせたのも俺だしね。

 じゃあ、渋いナイスミドルと伝えられそうなお頭、話のは許可?

 

 

「うむ、特に問題はない。だが、マガツミカドに関しては情報を流すな。そしてないすみどるとは何ぞや」

 

 

 

 

 

 …冒険譚、ねぇ。まぁ冒険譚ではあるわな。あの年のガキンチョに、戦いの悲惨さや、明るく話してくれるモノノフ達が背負った影まで察しろって方が無理だわな。

 神垣の巫女に、精神的に不安定になられても困るし、そういう影に負けないように努めて明るく振る舞うのも、モノノフの常だし。…息吹とかもそんな感じだしな。

 

 

 

黄昏月

 

 

 そういう訳で、毒無効のピアスが送られてくるまで、戦線は停滞となった。オオマガトキの心配も、取り敢えずはないだろう。塔は相当派手にぶっ壊されてたらしいからな。

 中折れか…と呟いたら、男衆が嫌そうな顔をした。

 ちなみに、モノノフに限らず3つの世界で戦っている連中は、基本的にバリバリだ。大小はあるが、精神的な要因が無ければ、基本的に鍛えられまくった体してるからね。

 

 それはともかく、昨日のエロ語りは無い。何故なら、二人して禊に行って暫く戻ってこなかったからだ。帰ってきたら……傷は無かったが、精神的に疲労していたようで、バッタリ倒れて寝てしまった。

 そして禊場に異界が発生した、とかいう噂が流れたが…。

 

 アレか? 昨日のgdgdになった時の、さりげない那木の正妻発言から修羅場ったのか?

 だったら猶更俺を挟んでやるべきだろうに。……いや、俺が居たら有耶無耶にしますけどね、濡れ場に持ち込んで。

 一体何があったのか気になるが、取り敢えず決着はついてるようだし、互いに敵視している気配もないので安心…か? また修羅場フラグかな…。

 

 

 

 

 それとも修羅場フラグは、俺が何もしてないのに橘花がまたしても尻に目覚めていた事だろうか。

 

 

 

 

 でもこれは俺には責任ねーよな…。

 だって誘導とか一切してないし。ぶっちゃけ、橘花が偶然見てしまっただけだぞ?

 この前那木との二人の夜、体中をツバの殺菌作用で消毒しようとしている那木を。特に一番汚い部分は念入りに消毒しようとしていたシーンを。

 

 ……言っちゃなんだが、俺が仕込んだ訳じゃないぞ。エロい事に悦びを覚えるよーにアレコレしたのは事実だが、「こんな行為があるんだぞ」みたいな事は教えてない。

 …ただ、那木の尻を多少弄った事はあったが……多分、それで覚えて思いついてしまったんだろう。で、紅月への対抗心から、普段は考えられないような事まで…。

 

 で、それをやってるシーンを、千里眼の術の練習をしていた橘花がダイレクトに見てしまった訳だ。

 鬼に使う前に、何度か練習しておこうとしたらしい。その辺の適当な物を使って千里眼した結果、俺達を覗き見てしまった。

 

 

 ただもうなんていうかアレだ、いい加減面倒くさくなってきたから率直に言うが、何かしらの因果やら因縁やら業やら、ひょっとしたら今まで積み重ねてきたループの影響的なナニカに導かれ、橘花は自分の隠された性癖を満たすシーンを直視してしまった訳だ。

 いやもう直視ではないんだけど、千里眼の術という相手の感覚を乗っ取るような術を使ってたもんだから、より感覚がだね…。

 

 

 

 

 そしてそれを見て混乱し、ドキドキしながらちょっとだけ試してみて、その結果に更に混乱し、何故かかぐやとの文通にそれを描いてしまったらしい。誤字ではない。図解付きだそうだ。

 送ってから我に返って、とんでもない事を書いてしまったと混乱し、更に昼間の会議で俺と那木を見て色々思い出し、連鎖して自分で弄った時の感覚まで思い出して……おぉ、もう…。と言うかよく昨日のあの態度を保てたものだ…。男だったら、絶対一部が大きくなって(サイズによっては)バレてしまっていただろう。 

 

 

 …それに、かぐやも貯めこむと、とんでもない事し始めるタイプだよな…。好奇心や行動力が強いから、誰かに聞いたり、それで怒られても自分で調べたり試したりするかも…。

 感染してしまっただろうか…。八雲のにーちゃん辺りに忠告しとくべきか? いや尻がどうのじゃなくて、少しはかぐやの好きにさせてやらないと大爆発するって。

 

 

 

 

 

 …しかし、どうすればいいんだ…。かぐやは勿論の事、橘花も性には疎い…と言うより無知だ。男女の交わりがどういう事をするのかさえ、知識にない。

 俺らがやっていた事も、「よくわからないけどひわいなこと」程度にしか認識してなかった。

 そーだよな、毎回橘花に手ェ出した時は、モン娘並みになってたけど、そうなる前は過剰なくらいに穢れの無い子だった。結界を安定させておく為の、神垣の巫女の扱いの基本だ。

 

 

 

 とりあえず、このまま放置して痔にならないよう、正しいやり方とステップを教えておいたんだが……これはやはり浮気と見なされるんだろうか?

 正しいやり方を理解させる為、本人の承諾を得た上で小指を突き込んだだけなんだが、やっぱりアウトだろうか。

 

 

 と言うか、正しいやり方を理解してしまった以上、どんどん深みに嵌っていくよな…。

 

 

 

 

 

 

 …那木に射られたトラウマを上書きするには、同じシチュエーションを乗り越えなければならない…。奇しくもその一助になると思っておこう。

 



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218話

 

黄昏月

 

 

 久しぶりにグウェンと初穂を連れて異界を見回る。二人とも、かなり腕を上げていた。…が、やっぱりまだ粗削りだな。

 先日の大乱闘で一皮二皮剥けたようだが、その分基礎が少し疎かになっていたようだ。ま、俺も人の事は言えないけどな。ワケの分からんパワーアップを繰り返してここまで強くはなったものの、G級ハンターとかから見れば「脇が甘い」の一言だろう。ジッサイ、ナターシャさんからキッパリ言われた事もある。

 

 まぁ、そっちは鍛えればいい話なんで置いておくが……二人から、紅月と那木について興味津々に根掘り葉掘り聞かれてしまった。

 やっぱり年頃だからかなぁ…色恋沙汰には目がないらしい。別に昼ドラを期待されている訳ではないようだが……実は紅月・那木に加え、橘花も参加するかの瀬戸際なんだよなぁ…。

 

 と言うかお前ら自分のお相手は? 

 

 

 

 

 ヤベ、地雷踏んだ。

 

 

 

 まぁ、初穂にとってウタカタの皆は弟扱いで、グウェンは異国人。色々な意味でハードルが高い。

 お相手が作りにくいのも仕方ないか…。 

 

 明らかに機嫌が悪くなってしまったので、ご機嫌取りも兼ねてちょっと内情を話してみた。……と言っても、話せる事の9割以上が18禁なんだけどな。

 ただ、この二人はそっちの方に興味を惹かれたようだった。ああうん、年頃だもんね。

 

 とは言え、相手が女性とは言え、ヒメゴトの内容をホイホイ話すのはよろしくない。紅月と那木から、鉄拳と矢を喰らってしまう。

 男の感覚で言えばアレだろうな…ガールズトークで、下半身についてアレコレ言われてるようなもんだろう。うむ、非常に居心地が悪い。

 

 

 

 …だからアレだ、ただ内情を話すんじゃなくて、こう…ノロケ風にだな。こーいう所がカワイイとか健気とかグッと来るとか。

 今後、彼女達が誰かとひっついた際に助けになるように…と思いつつ、色々語ってみた。

 

 

 

 

 ドン引きされた。何故だ。多少、男の幻想というか妄想が入ってたのは否定できんが、キショいと言われるような内容ではなかったぞ。

 

 

 

 

 

 何? 

 

 

 

 3人で寝ている時点でおかしい? ←初穂の証言

 

 

 

 おninninを体に差し込むとか不潔? ←グウェンの証言

 

 

 

 

 ……待て、ちょっと待て。初穂の発言はいい。そりゃ確かに、交わりなんてのは人間の場合1対1でやるのが基本だ。3Pがディープなプレイだと言う事も、男女を逆にしてみれば納得できる。

 

 だがグウェン、貴様はどーいう事じゃ。不潔? ちゃんと洗っとるわ。最近じゃ、汗の味もイイと言われた事はあるけども。

 …何? 違う?

 

 

 

 

 

 おしょんしょんがでるところを、たいないにいれるのはよくない?

 

 

 

 

 

「…えっと……グウェン、ちょっと聞きたいんだけど」

 

「む、なんだハツホ」

 

「子供って、どうすればできるか知ってるよね?」

 

「それは勿論」

 

 

 初穂、その言い方だと正しいかどうかの確認が出来ん。

 

 

「む…実のところ、全てを知っている訳ではないんだ。夫が持ってきた卵を、妻がお腹の中に入れて温めて、それがかえって大きくなると言うのは知っているんだが、どうやって卵を入れるのかが分からない。卵をどこから持ってくるのかも知らないし」

 

 

 ……ちょいと、初穂さんや。何言ってるか分かりますかね。

 

 

「さっぱり分からないわ。ただ、グウェンが人間の出産と魚や鳥の出産を混同しているのは分かるわね」

 

「…やはり何か違うのか? 幼い頃にイギリスから出て、ずっと旅をしてきたから、どうにも私の常識と世間の常識にズレがあるようで…」

 

 

 人生経験が妙に多い割には、妙にモノを知らんやっちゃな…。

 あながち間違ってる訳じゃないのがまた…。

 

 

「いや間違ってるでしょ」

 

 

 卵を入れるんじゃなくて、卵は最初からお腹の中にあるんだよ。具体的には卵子。そんでおninninにはおしょんしょんの他にも使い方があってだな、ここから卵を温める為の栄養が出るから、女に元々開いてる穴に差し込んでだな…。

 

 

「元々開いている穴…口か?」

 

 

 いや、股にある方。

 

 

「ま、まさか……お尻の…」

 

 

 それも出来ない訳じゃないんだが、それだと子供はできないな。そーだな、一人で風呂に入る事があったら、股の間を触ってみろ。小さいけど穴が開いてるから。

 

 

「股の間……私は毛が生えていて見えにくいな…剃るか?」

 

 

 いいんじゃないか? 毛は怪我した時に不衛生になるし。風呂に入れない時とか危ないからな。

 

 

「ちょいちょいちょい、その話一旦止めなさい。あんたは妙な事を吹き込まない! グウェンも恥じらいって物を「ハツホは見やすそうだが」…………」

 

 

 

 ………………け、怪我した時の為に剃ってるんだよな…?

 

 

 

 

 

 

 初穂は無言で、涙を堪えて走り去ってしまった。

 

 

 

「…私は、何かまずい事でも言ってしまったか?」

 

 

 ああ……言ったな。大いに言ったな。俺も言ったなちゅーか、まともな教育を受けてなかった弊害か、それともグウェンの感覚がズレてるだけなのか…。体、特に下半身については非常に微妙な問題だから、基本的に口にせんようにな…。ノロケ話しといてなんだけども。

 

 

「ハツホは…」

 

 

 暫くそっとしておいてやれ…。

 と言うか、グウェンはどげんかせんといかん…。常識人だと思っていたが、色々な意味でズレまくっとる。良識はあるけど常識は無い。

 性教育……いかん、俺がやったらどうなるか、火どころか太陽を見るよりも明らかだ。

 初穂に押し付けたいところだが……傷心中だしな…。それで性教育させる(しかも相手は自分と違って生えている)とか、傷口を抉るだけだ。

 

 

 

 よし、抉ろう。

 

 

 

 

 

黄昏月

 

 

 初穂に性教育係やらせるのはいいとして、流石に今すぐは無理だ。まだ塞ぎこんでいる。 

 暫くは、初穂のノルマもこっちでやってやるか。

 グウェンには、色々教える事があるけど、暫く黙っていろとだけ告げておいた。気になってはいるようだが、自分の下手な発言の為に初穂が落ち込んだのを考えると、余計な事はしない方がいいと判断したようだ。

 

 

 さて、橘花がちょっとアレな内容の手紙を飛ばしてもう3日。何事もなく手紙が運ばれていれば、そろそろ霊山を過ぎた頃か。馬でも使ってりゃ、もうちょっと進んでるかな。

 異界をフラフラと彷徨いながら警戒しているが、特に動きは無い。

 

 無いんだが…なーんだろうな、何かイベント進行中のような気がする。特に根拠は無いんだが、何度も繰り返し続けた結果の経験則と言うか。

 まぁ、修羅場フラグは着々と進んでいるんだけどね。橘花が予想通りにド嵌りしたみたいで…。

 

 というか、あの反応からして、また千里眼の術で覗いてねーか? 相変わらず、エロと尻の事になると突っ走るお嬢様だこと。

 

 

 ……どうすっかなぁ…紅月とのプレイも尻の開発を始めた時期だし、紅月本人もそれなり以上に興味持ってるから、中断するような事はしたくないし。もう運命って事で受け入れるかな。

 

 

 

 

 

 ……いや、この際だし、別の方向に行ってみるか? 先日に気付き、試すべきか否か迷っていたプレイと言うかテク。

 

 

 その名もステキ、オカルト版真言立川流中伝(多分)・催眠音声的なアレ。

 

 

 

 

 たぶん、っつーのはちゃんとしたテキスト読んだ訳じゃないからね。読んだのは其之参の裏。少なくとも、中のワンステップが抜けている。

 無印こと其之壱が初伝、其之弐が多分中伝、其之参が恐らく奥伝。…裏を考えると、裏が皆伝、更にそれらを統合した極伝があるかもしれん。

 ……この伝位の順位、初めて知ったのは某古流武術クンすっとばすだったっけなぁ…。伝位なんて免許皆伝って言葉しか知らなかったっけ…。アレには皆伝までしか書かれてなかった気がするが、モノノフみたいな和風(仮にも)武術集団に交わってりゃ自然に覚える。

 

 

 まーそれはともかくとして、技術的にオカルト版真言立川流のどの辺に位置するかも分からんが、ちゃんとした技術として確立されているのは確かだと思う。そうでもなきゃ、霊山で発見した指南書其之参裏の内容が実現できん。

 俺自身の技術としては……たぶん、基礎はそこそこ出来上がっていると思う。今までのループで色々な人と関係を持って経験を積んだし、同じ人間を何度も処女から調教するというレアな体験をしている。分析にも応用にも余念がなかったと自負している。

 高等技術なんてのは基本技の複合だから、ある程度までは、応用って形でどうにかできると思う。

 

 

 コレに気付いた最初の切っ掛けは、紅月を始めて抱いた時。処女簒奪と同時に、『孕め』と囁きながらドクドク注いだあの夜だ。

 ヤッてる事は普段と変わりなかった。いつも通り超気持ちよかったし、あひんあひん言わせてたし、満足満足。その後那木ともネチョネチョしてたから、今までの夜の中でも上から数えた方が早い程度には素晴らしかった。

 

 が、それを差し引いても、あの時の興奮…俺も紅月も…は一際強かったように思う。

 それは何故かを考察してみた。

 

 

 オカルト版真言立川流に限らず、房中術の神髄は興奮のコントロールだ、と言うのが俺の結論である。興奮にも色々あるが、幸福・悦びによる興奮と、不安・恐怖による興奮が絡み合っているのが人間の面倒な所である。

 また、誰しも一度は経験があるだろうが、不安によって体調や心理的バランスを崩し寝込んでしまったとか、或いは不安の後の喜びが倍増しただとか、夢見が悪くなって悪夢を見ただとか、そういう経験があると思う。

 

 さて、そこらへんを鑑みるにだな、指南書其之参裏に書いてあった内容…ソレ・ナンテ・エロ・ゲ(1599~1664 フランスaa略)…は、興奮や言葉や不安を上手く絡め合わせてトランス状態に持っていき、夢…と言うか白昼夢をコントロールする技術だと推測した。

 ヒジョーに分かりやすい例を挙げるなら、催眠音声をリアルタイムで、しかも個人用にカスタマイズされたモノを、声以外の手段も使って延々と囁き続ける…だろうか。

 ウトウトした状態で、電車の音や雨の音を聞かされれば、実際にはそこに無くてもまるでその中にあるように感じ始める。

 

 

 

 …相当上手くやらないと、単なる囁き戦術になってしまうなぁ…。それはそれで卑語プレイだけども。

 しかしこれ、やるべきかやらないべきか…。上手く言葉に酔わせるのに、まずは視界が邪魔だな。目を閉じたままでもいいが、つい反射で目を開けてしまうのは珍しくない。

 

 …つまり目隠しか。イイネ! 紅月と那木のどっちに似合うかな。

 それに…そうだ、言葉をより効率的に送り込む方法がある。今まで何度かやった事があるが……耳舐め。耳の穴を舌でホジホジします。

 それだけでも聴覚効果があるのに加え、体液…唾液が霊力付きの囁きを伝達させる媒介になる。

 

 言葉で脳ミソを犯すのか…卑語プレイから一歩踏み出した新境地かな。

 

 流石に同時には出来ないな。指南書にはそれらしい記述はあったが、複数人を同時にトランスさせ、世界観を共有するとか神業ってレベルじゃねぇ。

 

 

 うーん、何れは試すつもりだし、上手くやる自信もあるし、単なる目隠しプレイと言い張れば割と素直に受け入れてくれる気はするし…。問題はどっちにやるかだな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えつつ、膝の上に寝そべらせた紅月を、指先で「あっあっあっ」と言わせながら、台所で料理している那木の尻とうなじを眺めていたんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 橘花がブッ飛んできた。具体的には壁と天井をぶち破って飛んできた。

 …いい塩梅に穴が開いたなぁ…。どうやら鬼の手を使った空中浮遊からのダイナミックエントリーらしい。勿論、壁を壊したのは鬼の手の一撃だ。非戦闘員なのに、結構威力を出すじゃないか。

 

 と言うか、丁度紅月の尻に指を入れた瞬間に来るとか、橘花はどんだけ尻に縁があるんだろうか…。

 

 

 しかし、意外と言うかなんというか、橘花は俺達に見向きもしなかった。家を壊した謝罪すらなく、第一声は「那木さん、来てください!」だった。

 そして驚愕のあまり反応できなかった那木の手を引き、鬼の手を再び具現化させて飛んでいく。

 

 

 

「……何事、でしょうか?」

 

 

 さぁ…なんか、色々冷めてしまったな。とりあえず台所の火を消すか。

 

 

「それより、良いのでしょうか? 那木は一見普通の恰好ですが…」

 

 

 …下にある筈のモノを抜き取ったり、人様には見せられないオプションとか付けておいたからなぁ…。まぁ、間近で見なけりゃ分からんと思うが…。

 それより、橘花は一体どうしたんだ?

 

 

「ひどく慌てていたようですが、那木を連れて行ったと言う事は急患でしょうか…あちらに向かいましたね」

 

 

 空中から行ってるんだから、直線で考えていいな。とりあえず追うぞ。

 

 

 

 

 

 そういう訳で、俺の家と同じように穴が開いている家までやってきたのだ。…橘花、どんだけ慌ててんだよ…。

 と言うかここ、初穂の家なんだけど。流石に大穴が開いて騒ぎになっている。

 

 家の中に入ろうとする人達を、グウェンが止めていた。

 

 

 …おーい、何だコレ?

 

 

「ああ、丁度いいところに。皆を止めるのを手伝ってほしい」

 

 

 手伝うのはいいけど、何事だ? 初穂に何かあったか? 具体的には先日の件を気にして、墨でも塗りたくったか?

 

 

「いや、私も用事があって近くを歩いていただけなんだが…キッカ殿の声が聞こえたと思ったら、この有様だ。どうやらハツホが家の中で倒れていたようなんだ」

 

「…ここから見える限りでは、寝床に潜り込んでぐっすり眠っていただけに見えますが…うん? 布団が濡れている…」

 

「声をかけても叩いても起きないんで、キッカ殿が水をかけたらしい。それでも起きなかったようだが」

 

 

 ああ、夜尿じゃないのね…。と言うか、起きないだけか?

 

 

「その辺りは、キッカ殿と診察しているナギ殿に聞いてくれ。私だって、場を荒らさないようにと頼まれただけなんだ」

 

 

 

 …初穂の百日夢イベント発生? しかし、今の結界をミズチメの術で破れるとは思えんが…。

 

 

 

 

 

 

黄昏月

 

 

 百日夢っぽい。

 現在は、目を覚まさなくなってまだ2日も経ってない為、百日夢ではなく昏睡状態扱いとされている。

 

 ノー下着状態を気にする那木が診察した結果、肉体的な異常は特に無し、充分に健康体であるとの結果が出た。

 んじゃ何で目を覚まさないのか。脳内や神経の損傷って事も考えられるが、流石にそこまでは検査できなかった。荒事満載の人生を送っているだけに、自覚も無し、検査しても分からない爆弾を抱え込んでる可能性は、否定できんからね。

 

 まー俺はミズチメの仕業だと最初から仮定して動くけども。

 

 

 しかし予想外な事に、今回ループでは他に被害者らしい被害者は居なかった。里全体を調べてみても、快眠快便、朝日と共に起き出して日暮れと共に寝るような、爺さんみたいに健康的な生活を送っている人ばかりだ。

 …まぁ、この世界じゃ夜更かししてても面白い事は少ないからね。

 

 被害者が少ない理由は分かる。鬼の手によって強化された結界が、ミズチメの呪いを阻んだんだろう。

 初穂だけが呪いを受けたのは……モノノフだからね。頻繁に結界の外に出て、鬼とやりあってるからね。大方、先日の大攻勢のドサクサに紛れて術をかけられてしまったんだろう。

 そのまま里に戻って…。

 

 

 

 

 シモのケの話が切っ掛けになって、呪いが発動、と。

 

 

 

 

 過去に戻りたいという願望を持ってる人間がかかりやすい、って話だったが…初穂は一体何を考えたんだろうなぁ。

 どーも、グウェンが地雷を見事に踏み抜いた後は、そのまま家に帰って不貞寝してたみたいだが…ああ、風呂くらいは入ったろうね。そんで自分に生えてない事をまたしても直視してしまって、更に気分が落ち込んだと。

 

 言葉にするとひでぇなぁ…。

 この事から考えると…初穂の回帰願望の切っ掛けは、「生えてなくても不自然じゃなかった年齢に戻りたい」とかか? そう考え始めて、神隠しに会って時間を飛び越える前の頃に戻りたくなったとか。

 

 

 とりあえず、グウェンにはこの事は黙っておくか…。初穂が復帰した後も余計な事を言い出しそうだし、何より今のままだと何が悪かったのかサッパリ理解できていない。そのまま謝りでもしたら、更に傷口を抉ってまたしても寝込む事になりそうだ。……そのグウェンの性教育を、初穂に任せようとしていた俺が言うのもなんだがな。

 

 

 

 しかし、これは可及的速やかに解決しなければならない案件だな。

 百日夢というだけあって、死に及ぶまで約三か月という割と長い猶予が与えられている訳だが、戦力大幅ダウンである事には変わりない。

 よく初穂と訓練しているグウェンも元気が無いし、病状不明、原因不明という診察結果しか出せなかった那木も落ち込んでいる。万が一、このまま初穂が衰弱死、そこまで行かなくても後遺症が出るような状況になってしまったら…那木のトラウマが再発してしまうかもしれない。

 そうでなくても、エロする時もあんまり身が入らなくなりつつある。

 

 そういう訳なんで、とっとと始末してしまいたいんだが。

 

 

 

「ミズチメ? ……ああ、そういえば先日の戦で3体葬りましたが」

 

 

 マジか。

 いやミズチメ3体とか、紅月にしてみりゃそんなに難しくない(鬱陶しくないとは言ってない)だろうけど…。

 いや待て、紅月が片づけたミズチメが、初穂に呪いをかけたミズチメ限らない。

 

 

「その内一体は、眠りの術を使わず、全身がずぶ濡れでした。本来の住処は地下水脈のようですね。眠りの術を使わなかったのは、誰かを呪っていた為でしょう。以前から目を付けていた相手をか、それとも戦場で偶然見つけた誰かなのかは……分かりませんが」

 

 

 …………や、やっぱそいつかな…。

 そういや、初穂ってミズチメを片付けても起きなかったんだよな。

 

 原因が潰れてるのであれば、後は初穂を起こすだけか…。今までどうやってたっけ?

 

 

 

 

 …のっぺらを送り込むのは無し。その後の精神的安定が確実に失われる。送り込んだのっぺらが、シモのケをネタに煽り続けるのが目に見えている。セクハラだよ、集団セクハラ。

 千歳が居た時は、そもそもかかってなかったし。

 

 

 うぅむ……水ぶっかけても起きなかったなら、殴る蹴るでは足りないだろう。逆さにつるして焚火で儀式と言うのも考えたが、よく考えなくてもそれで目覚める理由は無い。

 夢の中に入り込む…と言うのがゲームでの手段だったが、生憎と神木の主も見えない俺にそれは無理。

 今回はあまり接点がなかった、樒さんに相談してみたものの、夢の中に入り込む方法があるなら、むしろ自分が知りたいと言われた。何も見えない、何も聞こえない夢を見たいのだそーな。ミタマの声が五月蠅いと言うのは聞いていたが、安眠する為に何もない夢を見ると言うのは斬新な発想だな。

 

 結局、今日はアレやコレやと初穂を起こす方法を相談して終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……「昔に戻りたいと思うのなら、戻れたと思えば起きるんじゃないか?」って意見が出てさ…。

 

 

 

 

 初穂の耳元で大和のお頭が、ショタっ子みたいな声(を必死に出して)で「起きろよー初穂ねぇー」って囁いたら、一気に眉間に皺が寄った。

 

 効果があったのか逆効果だったのかは分からんが、とりあえず大和のお頭の自爆芸で全員大ダメージを受けたので、今日は解散。

 

 

 

 

 



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219話

3日は無いと思った?
残念! gdgd回だよ!
とりあえず、年末年始の連投はこれで終了です。

書き溜めはあと2話くらい…。大型連休に向けて、貯めておかねば…。



 

黄昏月

 

 

 うーん、どうしたものか……夢…夢に潜り込む、か…。

 触鬼の力で、ミズチメを取り込むか? 上手くすれば股間から生えてるアレが二本になったり触手調になったりするかもしれんし。

 

 でもなぁ…むしろ排泄物(大)が、あいつの殻みたいに爆弾になりそうな気がしてならない。ミズチメを取り込んだのに、ババコンガになってしまう。

 

 

 大和のお頭のショタヴォイス(と言う事にしておけ)に反応はあったから、こっちの声は聞こえてると思うんだが。

 

 

 声…夢………夢……って、ある意味幻と言うか幻覚みたいなもんだよな…。脳が勝手に情報を組み合わせて、それを見るのが夢。幻や錯覚も、脳が勝手に補完した情報を見るもの……だと思う、大体は。

 

 

 

 

 と言う事は、だ………イケるか? 囁き戦術で行けるか?

 

 当然、単なる囁き戦術ではない。インパクトという一点だけで考えても、ショタお頭ヴォイス以上のダメージは与えられそうにない。

 だが、ここに最近試そうと思っていた、オカルト版真言立川流中伝を添えたらどうか。

 

 相手は夢の中、まず目も開けないし(開けるのが目的なんだが)、夢と言うのは元より不安定なものだ。外部からの刺激で影響が出た、という話は山ほどある。 

 どうせ失敗しても、大した損害は無い。精々、初穂の横の処女が奪われそーになってしまうだけだ。…破っちゃったら音が聞こえなくなるからね。鼓膜だからね。

 

 

 

 そーゆー訳で、試してみる事になった。那木の立ち合いの元で、だが。

 流石に眠っている病人に妙な事をするとは思われてないが、効果があるかも分からない治療法を…しかも素人考えでの治療法を試そうとしているのだ。本職が居なければ、とても許可を出せない…と言うのは正論だろう。

 

 

 

 

 

 ……スッゲェやりにくいけど。

 

 

 別に悪い事しようってんじゃないんだよ。ただ、耳から脳への霊力伝達力を高める為に、初穂の耳をprprして唾液塗れする必要があって…。

 それを事前に那木に言った所、「ふざけているのでしょうか?」と射られかけた。トラウマ再発寸前…だがこういう反応になるよな。

 

 

 じゃあ那木、実験台になってくれ。

 

 

 

 いきなり初穂に使うより、那木に効くかどうか試した方がいいじゃないか。対象者の意識があったが方が、どんな効果があるのか分かりやすいし。

 

 

 

 

 

 

 ん? まだ朝? 大丈夫、これは医療行為と、その練習だから。

 まー待ちなさい。と言うか逃げられると思うてか。

 

 

 はむっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 那木が腰砕けになってるけど、いつもの事ですな。まぁ耳だけでここまでヤッたのは、俺としても初めてだけど。

 ああ、ヤられた事ならあったっけ? MH世界の双子に延々囁きプレイされたっけな。仕掛ける側はあんな気分なんだろうか。

 

 うむ………テンション上がってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 とは言え、やる事は地味だけども。

 初穂の耳を嘗め回すったって、リアクションが無ければなぁ。生JC年齢の耳の味と思えば、フェティッシュな感覚はあるけども…。

 と言うか、睡姦だとしても、実際にやってる事が耳を舐めるだけと言うのは…。

 

 

 …む、耳垢。………むぅ、全体的にちょっと味が濃い。昏睡になってから風呂も入ってないからな…那木が軽く体を拭く程度。

 …なんかこう、アカンものを味わっている気がしてきた。那木の同じ部分もprprしたけど、ちゃんと風呂入ってるからそこまで味は濃くなかったし…。

 

 いやいや、女の子は清潔第一よ。汗のにおいとか、汚れが堪りやすい部分を敢えて味わうのもアリっちゃアリだが、それは自然の状態でのものよ。人為的なのは邪道。多分。

 

 

 とりあえず、初穂の耳は充分濡れた。中まで唾液を送り込んで、舌先で撹拌しました。ノーリアクションで辛い。

 ま、まぁ、本番はここからだし……霊力の通りも、十分よくなっているようだ。

 

 

 

 さて、オカルト版真言立川流中伝・囁きの術、試させてもらうとしましょうか。

 …効果が無かったら、後ろで呼吸を整えている那木がちょっと怖いけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

黄昏月

 

 

 

 囁きの術、効果アリ。初穂が目を覚ますところまでは行かなかったが、霊力付きの声に強く反応するのは確かめられた。

 具体的には、初穂の耳元で好物の名前を延々と囁き続けたら、口元がだらしなく緩んで唾液が垂れるは腹が鳴るは…。

 他にもマラソン的なSEを入れたり、水の音を鳴らし続けたら………その、アレだ、子供の頃に、寝る前に水を飲んだら、洪水の夢を見るとか言われなかった? 要するにそういう事だ。眠りっぱなしじゃ、自分でトイレにも行けなかっただろうし。射られそうになったけど、医療目的での行為と言う事で許された。ジッサイ、業務上過失みたいなもんだったし…いやそれで許されるかってのはまた別の話ですけども。

 ちなみに、粗相の後始末は那木があっさりとやってくれました。医師なのに看護師もやれるのか。…ちなみに、大きい方も処置済みだとか…。

 

 

 それはともかく、囁き戦術は続行となった。百日夢の患者がここまで反応を見せた事は無い…らしい。

 しかし…やっておいてなんだけど、これどうやって目覚めさせよう。

 確かに反応はあるんだけど、初穂が目を覚ましたいと思わなければいけない訳で。正直、あまり穏便な方法が思いつかない。

 

 現状、考えられる方法としては、砂漠の夢を見せて喉がカラカラの状態にし(そう錯覚させる、のだが)、ウタカタの里なら水が飲めるぞ? 的な事を囁いたり。

 ……人は水のみに生きるに非ず、とか言い返されそうなシチュエーションだが、水が無ければ死ぬのが人間なのだよ。神の言葉があろーが無かろーが、水分必須。つまり水>神の言葉。てゆーか、俺にとっては神の言葉=アラガミの鳴き声だし。

 

 

 逆にアレだ、ウタカタに妹や弟が待ってるぞ、と囁いてやる手もある。妹はグウェンとして、弟は誰か知らんがな。案外有効かもしれないなー。妹が千歳だったら、意地でも帰ってきそうだし。いや、グウェンが千歳に劣るとか、そーゆー話じゃなくて。

 いっその事、初穂の人生をずっと演出してやるのも手だ。自分は神隠しなんかにかからなかった。両親は鬼との闘い等で死んでしまったが、時間を飛び越えずにちゃんと生きてきた。

 

 …この手段の場合、大和のお頭が超老け顔になるか、初穂が超若作りになってしまうが、まー些細な事だろう。

 

 

 

 

 

 さて。

 そういう訳で、お頭と医者である那木さんのゴーサインが出たので、実験に移る。那木の立ち合いも必要とされたが、余計な雑音を入れない為にも、部屋の外で待ってもらう事になった。

 

 まずは妹弟が待っている、という囁きだ。それでダメなら砂漠(とか火山とか凍土とか)の夢。人生を演出するのは最後の手段だ。

 

 

 

 

 

 

 …なのだが、これを実行するにあたり、初めてみて一つの問題が発覚した。

 

 

 当然の事ながら、人と人との間で認識は異なる。単純に「赤」とか「丸」とか言われただけでも、明るさ、大きさ、色合い、線の太さなど、いくらでも違いが現れるだろう。

 で、それを多少の霊力伝達というサポートがあったとして……俺が思うような景色や人生を、初穂の中に作り出せるだろうか? 無い。無理。インポッシブル。

 

 そもそも俺、今でこそ割と改善されていると思うけど、人間関係壊滅的を自負しているんだぞ。初穂に何か囁いたとして、それが思い通りの印象を受けてくれるとはとても思えない。

 少なくとも、初穂の回帰願望をどうにかできるとは思えない。

 ぶっちゃけ、とにかく語彙が足りてないのだ。いや語彙だけじゃなく、初穂に対する思い入れとかもね…。別にどうでもいい奴とも、仲間扱いしてないとも思ってないんだが、単純に感性とかが同調しにくいんだよな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なので、できる方法でやる事にした。

 もう少し言い換えると、ヤれる方向でやる事にした。

 

 確かに、初穂の感性や語彙に同調はしにくい。だがそれは初穂の個性や人間性に限っての事ッ! 人間誰しも心臓があり胃があり肺がありその他諸々があるように、ヒトという生物である限り共通する点というのはあるのだ! ……いや、俺を初め、色々例外が居るのは分かるが。

 

 

 とにかくアレだ、初穂の生まれた時代や過去を、言葉で思い起こさせる事はできなくても!

 

 

 セクハラ三昧口説き文句三昧で、エロエロな気分に持っていく事はできるのだッ! そっからならうまい事引きずり出せる!

 

 

 

 

 

黄昏月

 

 

 俺の命がタソガレだぁ……。

 

 

 

 いや、初穂は起きたからいいんだけどよ。なんつーか、目的を見失ってたと言うか、目的だけしか覚えてなかったと言うか。

 

 

 

 …確かにね、オカルト版真言立川流囁きの術を一番上手に使えるシーンは、そりゃ濡れ場よ。だって俺だもの。

 夢の中で初穂の人生や光景を演出する、なんて、ワケの分からん作業に比べ、エロならばこれでもかと言う程身に沁みまくっている作業。慣れも難易度もヴォルテェェェヂも段違いですとも。

 しかし、ここでまた一つ問題がある。オカルト版真言立川流囁きの術でエロをしかけるとして、どうやったら目覚めさせられるだろうか?

 

 

 

 …答えは簡単だった。いつもやってる事だったからだ。

 

 

 まず味を覚えさせる。次に焦らす。そして誘導する。以上。

 

 

 最初は紅月か那木に試そうと思っていたテクだったけど、とりあえず思ってた以上に面白かったな。自分にとっては肉体的快楽は殆どなかったが、言葉一つで脳みその中までピンクに染め上げ抜くと言うのは新感覚だった。

 なんだろうな……そうだ、多分あの感じの愉悦だ。

 

 

 

 捕まえたタイマニンとかをアレな装置や触手グジュグジュの中に放り込んで、悲鳴が段々嬌声に変わっていくのを見てニヤニヤする感覚だ。多分、初穂の夢の中でも似たような事が展開されてたんじゃなかろうか。

 

 

 …ゲスいなぁ、俺…今更だけど。で、程よく染め上がった所で、初穂を狂わせる感覚や声を、徐々に弱めていく。現実に戻ればそれがあるよ、と囁いてから。

 こっちへこい、こっちへこい、と(あくまでイメージだが)眠りの底から現実へ呼び寄せる。

 

 結果、砂漠で迷って水に飢えた旅人が蜃気楼のオアシスを追いかけるように、初穂はフラフラと俺の声…とか夢の中で再現された珍しい棒(実際はあまり珍しくない。デカさとかエグさとか考えなければ)を求めて、夢遊病者のような足取りで(実際寝てるが)歩き出し……結果、見事に目を覚ましたと言う訳だ。

 

 

 

 

 

 

 が、問題はここからである。何が起こったのか、もう言われるまでもなく察してはいるだろうけども。

 

 回りくどい言い回しになるが、ちょっと付き合ってほしい。

 房中術の基本にして奥義とは、結局のところ興奮を操る事である。であれば、肉体の神経…いわゆる交感神経・副交感神経との付き合いも、切っても切れるものではない。

 アレだ、副交感神経ってのは親愛とか愛情とかエヴァとパイロットとの関係を司る神経だ。

 

 精神的に波風立つような事がなくても、体の神経が活発になれば、それにつられて精神も興奮するのは避けられない。

 …つまりだ。

 

 初穂は夢の中で、性的にものすごーく興奮していた。それに釣られて、体も興奮状態に陥り、これによって目が覚めた。そして目が覚めた後も、体の興奮は続いている。夢の中から、精神的な興奮も引き継いでいただろう。

 

 

 

 

 まぁ、なんだ。

 

 

 逆レされました。思えばあたしゃ、押し倒されて処女貫くの二度目だよ。一度目はシオだったっけ。

 抵抗する事はできたけど、すると逆にヤバそうだった。下手すると発狂するんじゃないかってくらいの発情状態だったし。

 

 夢の中で、俺は一体ナニしてたんだ…。思ってたよりも危険な技術だな。中伝とされていただけの事はある。用途と基本とタイミングをしっかり見極める必要がある、高等技術だ。軽々しく使った俺が軽率だった…。

 

 

 更に、問題はそれだけではない。霊力付きの囁きが強力な暗示効果を発揮したのか、それとも単純に貪った女の快楽が忘れられなくなってしまったのか、初穂の態度がな…。小娘なんだが、妙に艶っぽくなりおって。

 付け加えると、この治療には那木の立ち合いもあった。部屋の外だったが…逆レ中に、音や声を抑えるような理性が残っている筈もない。

 那木に気付かれた上、偶然付近にいた方々に声を聞かれてな…。前かがみになってた男が多数いたらしい。

 

 もっと最悪な事に、紅月もコレの事を知ってしまったらしい。

 

 

 

 …うん、笑顔がね…。やっぱ最初から一緒だった、那木の時とは違うな…。

 「治療法を誤った結果だから、俺の責任」と初穂を庇わざるを得ない。男気云々じゃない。

 

 …紅月のビンタの音がね、リオレイアの連続サマソの風斬音より凄かったんだ…。俺はともかく、アレは流石に初穂じゃ死ぬ。

 まぁ、余計なオプションがついたとは言え、百日夢から目を覚ましたのは確かだし、治療行為としては有効な手段だったし、初めてだから勝手がわからなかったのも、まぁ仕方ない……と言う事で、何とか許された。

 

 

 

 

 

 

 

 俺の声を聞く度に、初穂が発情状態になってしまうようになったがな!

 

 

 

 ノー愛撫テンカウントで、「くやしい…! でも(ry」できます。ジッサイ、初穂は割と真面目に悔しがっている。…まぁ、女の子だしね。こんな経緯で、惚れてる訳でもない俺にアレやコレやされていい気分の筈がない。それでも体が我慢しきれないらしいが。

 真面目な話、正気に戻った後に鎌持って追いかけられそうになった。押し倒してきたのはお前だっちゅーの。抵抗しなかったのは俺だが、発狂させるよりはマシだろ。

 

 と言うか、あれだけ興奮して狂う寸前になるって…一体どんな夢見てたんだ? ……聞いてみたら、ナニを思い出したのか、俺の声と相まってビクビクッとなってしまっていた。

 …その後さらに殴ろうとしてきたんだが、俺の声を聞くだけで頭の中が蛍光ドピンクに染まってしまうらしく、力が入らないは、腰が抜けるは、ビンタが行為をせがむ為の愛撫にしか見えなくなるは…。

 

 

 

 

 いやホント、マジでどうしようもない。

 俺のオカルト版真言立川流じゃ、深みに引き摺り込む術はあっても、捕らえた獲物を開放するような術はない。いやあったかもしれんけど、欲望に忠実に学んでいた俺は、それを覚えていなかった。

 ぐぬぬぬ、やはり俺は中伝を身に着けるのは未熟なのか…?

 

 

 

 …別にいいか。欲望に素直になって開き直れば。人としてどうかと思うが、人かどうか怪しいし。

 

 

 

 

 どっちみち、紅月のご機嫌取りの為に、これから試さなきゃならんからな。

 

 

 

 

 

黄昏月

 

 

 紅月が「しゅごいのほぉ…」状態。

 やっぱスゲェ威力だな。体力的には、今までお相手してきた中でも間違いなくトップクラスの紅月が、たった一晩でグロッキー状態だ。

 今度は睡眠状態にかけたのではなかったからか、それとも本人の暗示に対する抵抗力の問題なのか、行為中以外に影響が出る様子は無いようだ。

 

 

 ただ、紅月が妙な領域に踏み込むと困るから、昨日は俺が白濁汁ブッシャーとかしてないんだよな。多分、自重せずにやってたら、紅月も初穂と同じように…。……それは困るが、想像するとムラムラがぶり返してきた。

 と言う訳で、真昼間から那木にちょっかいを出しに行ってきます。

 

 

 

 

 

 

 …よし、射られなかった! むしろ棒で貫いたぜ! トラウマ克服!

 刺すべきかどうかちょっと迷ってる節は見えたが。

 

 別に下半身さえどうにかしてりゃーチョロいもの、とは言わんが…それでいいのか、とは思う。そう思うべきは、間違いなく彼女達ではなく俺に対してだが。 

 

 

 

 さて、初穂は真面目にどうしたものかと思う。エロに関してもそうだが、このままでは日常生活に支障をきたしかねん。

 少なくとも、共闘する事は難しいだろう。俺の声が聞こえただけで、あっという間に戦闘不能になってしまうのだから。そこは別行動すればいいとして…いやしかし、最終決戦近くになったら、多分集団戦になるよな。

 

 うぅむ……発情する前に「戦いに集中しろ」と命令すれば…いやでもそれでも声は聞こえてるだろうし。

 物陰から、気付かれないうちに突然声をかけてもダメだったからな。その後、初穂を宥める為に民家の影で一発イタしましたが。その後ビンタ。

 

 

 

 

 …ん? 待てよ? 一発ヤッた後なら、ちゃんとビンタできたな、あの時。つまり……満足させた後なら、発情モードには入らないのか?

 女の性欲だって無限じゃない。時間が経てばまた欲が出てくるにしても、賢者モードにする事だって出来るこたー出来る。…でも、それもどれだけ保つかなぁ……。

 

 何度か検証する必要があるな。悪いが初穂、ハブに噛まれたと思って諦めてくれ。

 

 

 

 

 

 …と思ってたら、初穂は意外と図太い女だった。体はスレンダーなんだけどね。

 

 ちょっと思い返してみてくれ。初穂がどうして百日夢にかかったのか。思い返すも酷い理由だったが、年上の妹扱いしているグウェンにケが生えていて、自分はツンツルテンだったから。大人の証が無かったから。要するに子供だった訳ね。

 が、今の初穂はどうだろう。別にいきなりニョキニョキ生えてきたのではないが、それが気にならなくなるくらいの「オトナ」な経験をしている。経緯とお相手はアレだが。

 

 結果、グウェンに先輩風ビュービュー吹かせている。……あんまりアカラサマに語ってる訳じゃないが…お前、それでいいのか?

 そら童貞・処女卒業が大人へのステップの一つである事は否定せんが、自分の意思を半ば無視されたような形での経験でステップアップも何も…。と言うか、それを自分の口から語るとか、女性としては屈辱ってもんじゃないと思うが…。

 そう考えると、割と受け入れられてるんだろうか? 未経験の子に中伝を使いまくったんだから、ジャンキー状態になっててもおかしくはないかもしれない。…即落ち2コマ、ただし落とした方も落とされた方も気づいてないってか?

 

 

 

 

 …そして、その語りの影響で、グウェンがなんか本格的に興味を持ってしまったようなのですが。

 あの子はなぁ…悪い子だとは全く思わんけど、知識にえらい偏りがあるみたいだからなぁ…。何をしでかすか、見当もつかん。そういや、男女の神秘についてちょっと語った時、自分で触って確かめてみろと言ったしな…。

 しかし対策を練ろうとは思いません。例え修羅場フラグがまた一つ増えそうであっても!

 これはアレだ、幼い少女のホホエマシイ好奇心と、自分から何かを調べようとする姿勢をソンチョーしているだけだ。うむ、知りたいからって何でも教えてちゃ、人は育たないからな! チャレンジ大事! 保護者としてはもっと大事なものがあると思うが、俺は保護者じゃないからな! 一応、今でも九葉のオッサンが後見人だし。つまり「別段信じてはいないが、送り出した被保護者が、性行為に興味津々なムッツリになっていた件」か。特にダメージ受けそうにないな、九葉なら。

 

 

 

 それはそれとして、すっかり忘れかけていたが…マホロバの里から、預けていた毒を無効化するピアスが届いた。ぬぅ、マジで忘れてた。

 …忘れてた繋がりだと、虚海の事もあるよな…。秋水に、おねーちゃんが来てるぞと伝言を頼んでおいたが、まだ来ないんだろうか。

 

 

 

 さて、準備も整った事だし、これから本格的に異界の奥を捜索する事になるが…誰が行く?

 まず俺は確定。サバイバル能力も里のトップだと自負しているし、それ以前に俺だけなら異界の瘴気はほぼ効かない。対毒ピアスが一つしかないのだから、タッグを組んで潜ろうと思ったら俺は動かせない。」

 この為、初穂は除外。未だに俺の声で戦闘不能になってしまう。

 グウェンは実力に難がある。

 実力的に考えれば、イツクサの英雄こと紅月が候補に挙がるが、戦闘能力はともかく、サバイバル能力がな…。旅してた時も、妙に不器用だったし。

 サバイバル能力・隠密能力で言えば速鳥なんだが、コンビネーションに難がある。…未だに一人で動こうとするんだよな、こいつ…。

 那木は貴重な医師だから、里から離すのは望ましくない。

 息吹は里の警備隊の隊長。

 桜花はモノノフ実働部隊のまとめ役な上、橘花の警備・慰撫担当でもある。

 富獄の兄貴は……まぁその、本人が隠密に向かない性格でしてね。

 

 …あれこれ注文を付けるようだが、俺だって他人の事は言えない。

 俺の場合、サバイバル・戦闘能力・隠密能力、大体トップクラスだと言う自覚はあるんだが、それ以前に欠点がな…。

 

 絶対何かを引き寄せるって、呪いみたいな欠点がな。まぁ、その『何か』がいい手掛かりになる事だってあるんだが。

 

 例え隠密が上手く行ってても、天変地異とか異界の大変動とか鬼の大軍勢が突然転移してくるとか、そういう事が起こりかねないのがこの俺だ。

 単なる偶然なのかもしれないが、偶然だって続けば必然になる。

 

 まぁなんだ、そんな欠点抱えてても、一人で異界の奥深くに踏み込ませるよりはマシだってね。つぅ訳で、妥当な結論と言うかなんというか、ホロウが俺と組んで調査する事になった。

 サバイバル技術は、俺とは方向性は違うがかなり高い。立ったまま、周囲を警戒しながら寝るのだって朝飯前。隠密能力もそれなり以上。戦闘能力も高く、鬼の手の操作・応用と言う点でみれば俺以上。

 最適な人選だと言えるだろう。

 

 …異界に潜るとまともな飯が食えない、と若干難色を示したが、それ以上にホロウは生粋の…それこそ、モノノフと言う組織が設立される前から鬼達と戦ってきた、生粋のモノノフだ。文句を言いつつも、私欲を優先させるような事はなかった。

 

 

 

 探る場所は、前回ループでイヅチカナタとやりあった……と思われる場所。ヤツの能力の影響か、記憶が若干以上に飛んでるから、今一確信が持てない。日記に地図でも書いとけば…いや、異界の中じゃそれも無駄か。安定している場所ならともかく、あの辺はオオマガトキ降臨準備の影響もあってか、かなり不安定だったし。

 ともかく、そこに焦点を絞って潜り込む。

 勿論、一気に突撃するような事はせず、事前準備は念入りに。食料や道具の準備はもちろんの事、有事の際の合図や撤退ルート、更に得た情報をどうやってウタカタの里まで届けるかまで、色々議論が行われた。

 

 特に問題だったのは、最期の一つ…ウタカタへの情報伝達だ。

 隠密するに当たって、共通の難題であると言えるが、敵地のド真ん中から味方の拠点にどうやって情報を届けろと? リアルタイムで、敵に気付かれずに…という条件が付けば、それはもう無理ゲーの類だ。無線みたいなのがあっても、まず間違いなく場所を探知される。

 遠隔通信の手段が無いとなると、一人が毎度毎度敵地から脱出し、情報を持ち帰る必要がある訳だが…そんな事やってたら、発見される危険が増すだけだ。

 

 

 が、今回に限り…いややろうと思えば今回限りじゃなくても出来るんだが、俺だと難しくてな…いい情報の伝達手段がある。

 

 天狐である。

 

 全然活用されてなかったが、ホロウは天狐に限らず動物達と話が出来る。千歳仕込の、ドリトル先生みたいなスキルである。まぁ、ドリトル先生は魚とか貝とか虫とか、動物にカテゴライズされない生物とも話せたと聞いた事があるが。

 これを使って、天狐を異界まで連れてきて、必要な時は手紙を持って行ってもらおう、という計画だ。他の動物でもいいんだが、普通の動物は異界まで入ってこれない。

 …俺が天狐と話をしてもいいんだが、怯えられるんだよな…。まだ鍋の具として見るクセが治ってないらしい。

 

 まーなんだ、こういう点も考えると、ホロウは思った以上に適任だったって事だな。

 

 

 



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220話

年末年始はキッツいぜぇ…。
事業部が行き当たりばったりで行動してんじゃないかと思う程度には。
と言うか、やっぱ心に棚を持たなきゃいかんな…。
苛々してるとスタッフにも当たりが強くなってしまう。
八つ当たりが抑えられないタチだから猶更…。

話は変わりますが、つい先日…具体的にはこの話投稿当時、感想ページで2ページ目くらいでアンチが沸いていた模様。
某大手投稿者さんの活動報告で知ったのですが、1ページ分の感想にBadを付けていく人が来ていたらしいです。
……これ、多分やっても気付かない人が多かったろうなぁ。
無駄になりそうな事に真摯に努力できる姿勢は、ある意味尊敬に値する…擬人化されて萌えキャラ扱いされる訳だ。。


ところで、狩りゲーって基本的に自然の中ばっかりだよなぁ。
宇宙規模の狩りゲーってないかな…水中戦の演出を変えれば、意外とできるんじゃないかなーって思うんだよ。
んで、ハンターは生身で宇宙を飛び交ったり、或いはスーパーロボットがハンター役だったりしてね。


黄昏月

 

 

 そろそろ新しい月に突入するが、あんまり実感は無い。討鬼伝世界での4か月目は初めてだったっけ? どうもその辺からして記憶が曖昧だ。この年でボケが入ってきてんのかな…。それともアレか、3つの世界の情報を集めまくってるおかげで、脳ミソの容量を超えてしまい、トコロテン方式に色々忘れて行っているとでも言うのか。Dr.カオスじゃあるまいし。

 まー何にせよ、年越しならぬ月越しは異界の中で迎える事になりそうだ。GE世界だったら、棚卸とか月末作業から逃げられるから万々歳なんだけどな。

 

 そうそう、書くのをすっかり忘れていたが、博士からの手紙の事。

 異界の浄化方法は、まだ見つかってはいないらしい。だが、異界化の原因となっていそうなモノを発見したそうだ。…どーゆーこっちゃ? 異界は鬼が広げてるんじゃなかったっけ? いや、それにしてはペースがおかしい、って話をマホロバの里でした覚えがあるが…。

 何でも、異界の中を捜索していたら、奇妙な穴を見つけたとか。

 

 …穴って言われてもな。博士の手紙は、独特のペースで書かれているから翻訳に困る。基本的に自分の脳内で完結しているヤツだから、真っ当な説明が無いんだよな…。

 ただ、大量の瘴気を噴き出す、何処に続いているのかもしれない穴…らしい。確かに怪しいなぁ…。鬼の本拠地にでも繋がってるんだろうか?

 

 仮にそれが博士の言う通り、異界化の原因となっている穴なら…ウタカタの里近くにもあるって事だろうか。可能性は高いな。

 しかし博士はそれを調べるのに難儀しているらしい。瘴気を噴き出すだけあって、その近辺の瘴気濃度は普通の異界よりも格段に上。瘴気溜まりの一歩手前くらいだそうだ。

 オマケに、その瘴気に引き寄せられたのか、大型の鬼が近辺を徘徊している。

 

 これを討つ計画を、西歌のお頭と共同で練っているそうなんだが……本当に大丈夫だろうか? 確かに、異界を浄化するという計画・研究に、西歌のお頭は興味と同意を示していた。

 しかし、マホロバの里は現在色々な意味での改革の真っ最中。余計な事に割く力は無いだろうし、強引な改革を進めている為、西歌のお頭にも反発が集まっているだろう。紅月をこっちに寄越したのも、その反発に巻き込まない為だった。

 そこへ、無理に鬼の討伐を…しかも成功するかすら定かでない計画の為の討伐を、無理に組み込んだら…破綻、クーデター、監禁からのリンカーン…。少なくとも、愉快な未来は見えない。

 

 あのお頭、器量は大したもんだと思うけど、計算が大雑把だからなぁ…。余計な事に首を突っ込まなきゃいいが。

 

 

 

 ま、心配事はそれくらいにして。手紙と一緒に、追加で鬼の手が一つ届いた。どうやら、徐々に量産体制も整ってきているらしい。

 それだけ里の力を博士に注いでいると言う事だし、益々持って破綻しないか心配になってくるが、正直言ってどうしようもない。ここまで動いていると言う事は「やっぱりやめた」なんて言い出せない状態だろう。丁度いいところで、区切りをつける事を祈るしかない。忠告の手紙くらい送っておくか。

 

 

 

 …紅月も、なんか色々ノロケ話を書いた手紙を送ろうとしてるみたいだしな。………一応検閲しとくべきかな…。

 

 

 更に橘花から相談を受けた。以前に書いて送ってしまった、尻遊びの手紙について、かぐやが怒涛の質問攻めを送ってくるらしい。

 幸い、これに関しては余人に知られないように、と注意書きを付けておいたから、向こうでも余計な事に気付かれてはいないようだが……どうしろと?

 

 このシチュエーションについて、少し妄想してみると、だな…。

 

 

 かぐやは興味津々で、実践しかねない=自己開発。

 どうすればいいのか、橘花が相談を受けている=「こうしろ」と言えば、素直に従う…つまり命令しているのと同じ。

 更にそれについて、俺が相談を受けている=俺→橘花→かぐやの順に命令が下る。

 

 

 ……俺の命令で、橘花がかぐやの開発をしていると解釈できないだろうか。

 むぅ、あのようなょぅι゛ょを弄ぶ橘花! ゆ゛る゛す゛! …マジな話、覚醒した橘花なら嬉々としてやりかねないんだけどね。

 

 しかしなんだな、橘花とかぐや、二人だけを槍玉にあげて考えるのもどうかと思うが、神垣の巫女ってのはそんなに尻に興味があるんだろうか。橘花に関しては、生来の素質…桜花もそうだったから、遺伝かもしれない。かぐやは…まぁ、幼い頃は前よりも後ろの方の感覚が鋭い、と言うのは割とよくある話だ。人体の構造上ね。

 それに、そうでなくても色々とガチガチに固められている生活環境だ。禁忌を犯す背徳感や、アブノーマルな行為による興奮に嵌っていってしまうのも、分からんではない。

 

 

 

 差し当たり、かぐやには「正しい」やり方を教えておいた方がいいだろう。いや、尻じゃなくてさ、普通のホラ、年頃の少女にも必須の発散行為をね。

 まだ性欲だってロクに芽生えてないだろうし、正しいやり方を今のうちに教えておけば、とりあえずそっちに行くだろう。……あの冒険心が無ければ…。

 

 

 

 

 でもね、これにも誤算があったんだ。

 

 

 

 だって橘花が「正しいやり方」を知らなかったんだもの。…そうだね、その手の情報全然知らないもんね、この子。尻を弄るのを覚えたのだって、千里眼で俺達の夜を覗き見たからだし。

 …ちなみに、やっぱりと言うかなんというか、あれからも何度か覗き見していたようだった。それでどーして正しいやり方が分からないんだよ…そりゃ尻で遊ぶのだって珍しくは無いけど、大体は前に入れてるぞ。

 

 

 

 …何? 「正しいやり方」を教えてほしい?

 

 

 

 

 ……………まず紅月と那木に許可をとってきなさい。覗き見した事も薄情して。良いって言われたら教えてあげるから。

 

 

 

 これは別に、欲望に負けて断り切れなかったんじゃない。浮気のリスクを減らそうとした訳でもない。この断り方が、一番角が立たないだろうと思っただけだ。

 

 

 

 

 

 

黄昏月

 

 

 着々と異界深部への潜入準備が進んでいる。

 …のはいいんだが………まさかのOKが出た。何がって、橘花に「ただしいやり方」を教えるのが、だよ。

 マジか、と思って確認を取ってみたが、間違いではない。

 二人とも諸手を挙げて…な訳はないが、消極的賛成…か?

 覗き見していた事を薄情した橘花は、ノロケも混じらないガチ説教二人掛りを受けたらしいが、これは仕方ない。むしろ穏便に済んだ方だ。

 

 んじゃ、一体何を考えてこんな許可を出したのかと言うと……那木は医者としての観点からだった。

 物凄く今更な上に、自分達の行為を棚上げしまくっているが、不浄の穴を弄るのは衛生上好ましくない。ヤバい細菌に感染する可能性が普通にある。また、性の欲求を抑え込むのも、精神衛生上あまりよろしくない。だったら、「正しいやり方」を覚えてもらうしかないじゃない。特に橘花…神垣の巫女が病気にでもなったら、里がエライ事になってしまう。

 

 で、紅月はと言うと、マホロバの里長候補として、神垣の巫女の扱いについて考えた結果だ。いや、かぐやにまで話が及んでいるのは、秘密にしてんだけども。

 アレもダメ、コレもダメでは神垣の巫女の反発は免れない。それは里全体を危機に陥れる結果に繋がる。

 ならば、ある程度の我儘は許容し、好きにさせるか…そもそも不満だと思わせないか、だ。普通は後者の手段をとる。マホロバの里だってそうだ。しかし大和のお頭は、前者を選んだ。そして、何だかんだと問題を起こしながらも、上手くやっている。

 紅月は、その手腕に習ってみようとした…らしい。

 

 

「紅月様、本音は?」

 

「……妬いてはいますが…その、私達だけでは体が保たなくなってきているので…。初穂を巻き込むのも悪いですし」

 

 

 ああ、初穂はまだ受け入れてる訳じゃないんだよな…精神的には。

 と言うか、そんなに保たないか? そっちにも霊力の増幅・供給はしてるから、体力がなくなるって事はそうそう無いはすだし、いつも最後までついてくるのに。

 

 

「いえその、確かに気力……と、せ、性欲……は休憩しながらならついていけるのですけど、腰砕けになって動けなくなってしまいますし、それに普段使わない筋肉を使うので、翌日が…」

 

「私達もその、締りをより良くしようと鍛えてはいるのですが……突き込まれると、どうにも勝てずに我を忘れてしまいまして…」

 

 

 

 …いったん会議中止。橘花がこっそり(千里眼を使わず)覗いていようとも構わん! 可愛がってくれるわー!

 

 

 

 

 

 

 …ふぅ、落ち着いた。

 

 足元では色々酷い事になっている二人が転がっているが、とりあえず体を拭いてやらねばなるまい。

 

 

 

 …そこの、ダイレクトに覗き見している橘花………………………と、何故かいるグウェン、手伝ってくだちぃ。

 

 

 

 

 

 

 …とりあえず、なんだ、その、な? 教えるの事態には許可が出たけども。誰にも言うなよ。特に桜花には言うなよ。絶対斬りかかってくるからな?

 それと、実際に教えるのは異界の探索から戻ってきてからだ。も明日には出発だから、ちゃんと教えるには時間が無さすぎる。

 

 

 

 

 

黄昏月

 

 

 なんかゴイスーでデンジャーな揉め事フラグを立ててるような気もするが、とりあえず異界の探索に出た。これは逃避ではない。ちゃんとした任務である。仕事に逃げてるってゆーな。

 ていうか、その程度の揉め事フラグなら常に立っている。

 

 さて、現在は異界を警戒しながら進んでいる訳だが、まぁ順調かな。戦闘は避けているし、やむを得ない場合でも基本的に俺が瞬殺。手古摺る場合は、ホロウが鬼の手を出してくる。

 基本的に銃は使わない。音が響いて気付かれるからね。

 鬼の断末魔の悲鳴は、器用にもホロウが抑え込んでいる。口を鬼の手でこう、グッと抑えて。…アレだな、気分的には背後からアサシンしたような感じだ。

 

 ただ…問題があるとすれば。

 

 

「…寝不足ですか?」

 

 

 ああ、昨日ちょっとな…。ま、これくらいなら全然問題ないけど、出発前に、ハンター式熟睡法でしっかり睡眠はとったし。

 

 

「体調管理が出来ていませんね。貴方にしては珍しい」

 

 

 俺一人ならともかく、なぁ…。昨日は紅月と那木が寝かせてくれなかったんだよ。

 いつもだったらノックアウト余裕なのに。

 

 

「そうですか。詳しい事は聞かないようにしておきましょう。よくわかりませんが、詮索するような事ではないようです」

 

 

 …グウェンよりはその辺に機微が分かるのね。

 でもホロウには男女の交わりとか全然興味が無いようだから、「もうこれ以上増やしたり浮気したりしないように」とか言って搾り取る必要はなかったと思うんだけどなぁ。いや、受け身一辺倒ってのも中々よかったが。

 

 突っ込んだり愛撫されたりすると負けちゃうから、と言うより負けたくなってしまうから、と言って、俺からの行為は一切禁止。裸で横たわっているだけだった。

 浮気しないように搾り取る為だから、自分達の欲望を抑えて、俺をイかせる事だけに集中していた。

 

 その分、紅月と那木が趣向を凝らして色々やってくれたけどね。

 耳年魔二人と、まだ回数は少ない(俺を相手にしたにしては)割には濃厚な経験の悪魔合体により、二人がかりでの奉仕がレベルアップ。

 こっちからナニもされない…つまり、prprして肉欲が刺激されて体が熱くなってきても、それが満たされない事が一層拍車をかけたのか、それはもうねちっこいご奉仕でした。

 二人係で全身嘗め回されたよ…。今までに仕込んだアレやコレやを思いっきり使って、知識でしか知らなかった事も積極的にやってきた。唇・舌・手は勿論、触れられる所ならどこでも使って、二人が体を合わせて俺のを挟んだり、逆に全然別の部分を責めてきたり。

 

 尤も、結局途中で…と言うより朝方近くまで奉仕し続けて我慢できなくなったらしく、寝転がったままの俺の前の前で大開脚+くぱぁとかして挑発してきました。ああ、しかし悲しいかな、俺は一切の動きを禁じられている身! どんなに珍しい棒がビクンビクンエレクトしていても、ナニもできないのだ! 紅月に挑発されても、吸い付いてる那木を振り払えないし、那木に子種をせがまれても、全身で絡みついてあっちこっち押し当ててくる紅月には逆らえないのだ!

 二人に完全に任せて、何発出したっけなぁ…。

 最終的には、一晩中焦らされた二人が自分から跨ってきて、「お願いだから突き込んでください」と泣いて懇願され、最期の一発ずつだけはいつも通りにね。

 

 

 まーそんな訳なんで、一晩絞られて寝不足気味な訳ですよ。ドMに調教中の二人に縛られて、一晩中ご奉仕されるとか新境地…いや、MH世界のベルナ村のアレに近いか? と言うか責められてるのか奉仕されてるのかわかんなくなってた。

 

 と言うか、正直二人が心配だな。夜伽の片付けや後始末をして出てきたが、そろそろ起きる頃だろう。

 …いつもナニする時には、それこそ体力が尽きるまで弄び続けてたからなぁ…。今回も最後の一発はそれなりに濃厚だったけど、いつもの責めに比べると物足りないだろうに。

 俺が異界の探索から戻るまで、悶々とした性欲を抱えて待ち続ける事になりそうだ。今回はレズプレイも仕込んでないから、二人で欲求不満を慰め合う事もできないだろう。

 

 つまるところ…帰ったら報告よりも先に、あの二人を押し倒して可愛がってやらなきゃならんのね。今回のお返しも考えないと。

 うむ……今回は俺がマグロってた訳だから、ネギトロめいた…じゃなかった、二人に一切動かないように命令して、完全な玩具扱いしてみるか? 或いは、「動いたりビクンビクンしたらお預けだぞ~。どっちが我慢できなくなるかな」プレイか。

 よし、色々と滾ってきた。

 これが終わるまでは、死んでも死ねないしデスワープもできん。

 

 

 と言うか、こういうオイシイシチュエーションを間近にしてデスワープしたら、俺以外の色々な所から怒りの声が上がりそうだ。例えば俺の中ののっぺら連中とか。

 

 

 そんな何らかの都合と言うか、世界からのバックアップを受けている気がするので、何があっても死にはしないと思います多分。

 

 

 

 

 ともあれ、異界の中を進んでいる訳ですが、やっぱりと言うかちょくちょく異変があるな。

 一番わかりやすいのは、鬼達のナワバリ争いだ。大中小全ての鬼が入り乱れて、心地よい寝床を奪い合っているようだ。それはまぁいつもの事なんだが、珍しいのは…と言うより、危険を感じさせるのは、小型鬼・中型鬼が徒党を組んで、大型鬼の寝床に襲撃をかけている事だ。偶然一緒にいたのではない。明らかに、連携して攻撃、侵略を仕掛けている。

 鬼と言うのは基本的に単独行動が基本。だからこそ、人間は対抗できていた訳だが…小・中型の鬼だけなら、まだいい。大型鬼が徒党を組むようになったら、悪夢の一言では済ませられない事態になるだろう。 

 

 

 …で、その原因となっているのが…多分コレだろうなぁ。異変その2。どう見てもマガツミカドの仕業です本当にありがとうございません。

 あっちこっちに散らばっている、でっかい破壊跡。適当にサッカーボールキックでぶっ壊した岩山とか、炎とか氷とか雷の残滓とか小さくなっても残っている竜巻とか。…本当に見境なく暴れ回ってるっぽい。

 こりゃ鬼達からも迷惑がられる訳だわ。そして多分、その迷惑なヤツに対抗する為に、鬼達は珍しくも協力(或いは利用しあう)したんだろう。それによって、組織やコンビネーションの力を学習した小・中型鬼達が誕生、今に至る…と。

 

 

 

 …ヤッバいなぁ、マジでコレ…。イレギュラーって事で、最初に変身してでも問答無用で仕留めておくべきだった。ま、今更考えてもしょーがないけど。

 とりあえずマガツミカドは、痕跡を追えば大体の居場所は分かる。異界の奥へ奥へと進んでいるようだ。

 

 

 

 

 

 …待て、進んでいる? 自分の遺志で、って事か? あの鬼、下半身だけしか無いから、周囲の状況は理解できてない感じだったぞ。

 また何かに乗っ取られてるのか……或いは、上半身が解放された? あまり考えたくないが、それを裏付ける…かどうかは知らんが、また別の異変も起こっている。

 

 俺もホロウも知らない鬼が、ちょくちょく沸いて来るのだ。女の姿……と言うよりは、何となくデビルマンレディを連想するような羽を持った鬼。猿面の、歌舞伎みたいな仕草をする獣人のような鬼。そして、二本脚で四本腕の人型の鬼…。

 最後の人型の鬼な、下半身が気になるんだ。いやアッーな意味じゃなくて。

 

 どーにも、マガツミカドの下半身に似ているような気がしてならない。サイズで言えばマガツミカドの方がずっと大きいし、「下半身なんてみんな同じだろ」という意見もあるが…鬼の場合、それは当てはまらないからなぁ。人間みたいな下半身を持ってる鬼って、種類が少ないから。

 

 

 

 …ま、まさか…マガツミカドの子供!? もしもそうだったら、マガツミカドの雌型の鬼が居るかも…いやいや、考えてみればあのマガツミカドがオスだとも限らん。いずれにせよ、もう一体いる事になる。

 と言うか、どうやって子供作ったんだ下半身のみで。そりゃー下半身があれば子種はあるけど…あ、でも子宮は無いな。と言う事は、やっぱりあの下半身はオスで、体全体が出てきている雌のマガツミカドが居るんだろうか。

 子作り風景を見てみたいような見たくないような…。きっとオスの下半身を蹴っ飛ばして転がして、ケムクジャラの雌型マガツミカドが圧し掛かったんだろうなぁ。或いは、穴に向かってオス型マガツミカドが延々と腰振ってるか。…重心が安定しないと思うけど、ヘドバンの要領で降ればスムーズに前後運動できるんじゃないかな。

 

 まぁ、鬼が人間同様の行為で増えるとは限らない訳ですが。

 

 

 冗談はともかくとして、この鬼達の情報は里に伝えなければなるまい。マガツミカドに似ている(ような気がする)鬼も気になるが、俺としてはデビルマンレディ(仮名)が気になる。別に乳がどーのスタイルがどーのではない。あの滞空能力…スピードとかは鳥形のヒノマガトリの方が上のようだが、ずっと空を飛び続けて苦にもしてない。しかも、見た所攻撃力もかなり高い。

 里を奇襲するにあたって、あのデビルマンレディ以上の鬼はそうそう居ないだろう。今は鬼の手による結界強化があるからいいが、そうでなかったらと思うとゾッとする。

 

 天狐に頼んで手紙を持ち帰ってもらう。

 

 



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221話

獰猛化レウスに虐殺される…。
何だあの糞モンスター。下手って事を差し引いても酷すぎる…。
空飛んでばっかりでまともに戦わないは、異様に追尾とスピードが速い急降下攻撃は緊急回避じゃないと避けられんは、連続ブレスの爆風で確実に起き攻めかましてくるはでダイマエンよりムカつく…。
3DSごとたたき割ってやりたい思いに駆られる今日この頃。

と言うか、モンハンの基本って「どのモンスターを狩りたいか」じゃなくて、「今ある装備でどのモンスターを狩れるか」なんだよな…。

書き溜め尽きたし、糞モンスターの相手してるくらいなら執筆に集中しようかな。
月末から月初にかけて、ネットに接続できなくなりそうなんで、予約も難しいし…。


入滅月

 

 

 新しい月が来た。特に何も変わらないな。異界はいつもおかしな事だらけで、特筆するような事は無い。

 昨日、天狐に知らせに走って貰った鬼達も、暫く観察していたが…倒すだけならどうとでもなりそうだ。まぁ、鬼の能力は突拍子もないモノが多いから、とてつもない隠し玉がある可能性も捨てきれないが。

 

 さて、それはそれとして問題発生。

 

 

 

 

 食料が足りません。ホロウが大食いキャラだった事を、すっかり忘れてた。

 持ってきた飯、無くなるのは時間の問題である。しかも、ウタカタで色々食ってた為か、妙にグルメになりやがって…餓鬼でも食わせようかと思ったが、本気でケンカになりかけた。

 

 MH世界の携帯食料でもあればよかったんだが…アレ、支給品だからなぁ…。どうやって作ってるかすら謎なんだよなぁ…とりあえず不味いが。

 

 

 こうなりゃ、とっとと調査を終わらせて帰るしか道は無い。むぅ、瘴気を無効化できたと思ったら、また別のタイムリミットが生じるとは…。

 ………俺だって似たようなもんか。数日ナニもしなかっただけで、ムラムライライラしてくるし。お相手が出来てなかった期間、よく我慢できてたもんだなぁ…。

 

 

 ま、問題の場所…オオマガトキが起きたであろうあの塔は、ゆっくり進んでも今日中には到着する。

 ただ、その場所を調査出来なかったのは、結界があったからだ。橘花の千里眼の術で必要な情報が分かったんで、結界を張った鬼を潰しに来ていた訳だが……。

 

 

「…塔、あれですね。多分」

 

 

 そうね。遠くから見えてるね、中折れした塔が。

 

 

「結界も消えているようです」

 

 

 そうね、塔が中折れしちゃったから、鬼達にとっても守る価値がなくなったのかな。

 

 

「マガツミカドが居るようですね」

 

 

 そうね、ゴリラみたいにドラミングしてるね。4本の腕で。…隣にはでっかい棍棒が置いてある。

 

 

「……上半身」

 

 

 …あるなぁ…。一見して分かるくらいに、下半身のみの時と強さが違うんですけど。

 

 

「…いえ、待ってください。上半身が…透けて消えた…」

 

 

 …何なの?

 

 

「あれは…成程、そういう事ですか」

 

 

 何かわかったのか雷電爲右エ門!?

 

 

「誰が相撲力士ですか。あれは封印術です。私が今までの戦いで見てきた中でも最上級の代物と言える術。あれは…オビト達と出会う前だったのは覚えているのですが、どんな状況だったかまでは」

 

 

 いやそっちはいいから。その封印術ってどういう術だ? 上半身が封印されてたのは分かってたが、一体どこに? オオマガトキの塔じゃないよな。

 

 

「もちろん違います。封じているのは、下半身です」

 

 

 …は?

 

 

「下半身に、上半身を封じ込めているのです。標的自身の力を使い、標的の体を封じ込める。相手が強ければ強い程効力を増す、私が知る中では最も強力な封印術です。今までマガツミカドが暴れ回っていたのは、その拘束を解く為でもあったのでしょう」

 

 

 …なんつーか…あんまりうまく想像できんな。

 

 

「右手で左足を掴んでいれば、人は殆ど動けないでしょう。掴んだ手を全力で固定させるのが、この術だと思ってください。…まだ完全に封印が解けたのではないようですね。ある程度力を放出している時のみ、上半身が出てくるようです」

 

 

 その例えで行くと、さっきのドラミングはストレッチかな…こう、思いっきり背伸びしたような。

 と言うか、それをやってるのがこのオオマガトキ跡地…まだ起こってないけど。ひょっとして、あの塔に籠った力を利用して封印を解こうとしたのか? それに対抗して、鬼達が一斉に対抗したとか。

 

 

「だとしたら、恐らく蹴散らされたでしょうね。一時的にとは言え、あれ程の力を持っている鬼に、そこらの鬼が太刀打ちできるとは思えません」

 

 

 ふぅむ、してみるとどうしたものかな。まだ完全に封印は解けていないようだが。

 

 

「正直な話、上半身が出たら貴方が居ても厳しいでしょう。…あの鬼は、対象が人であれ鬼であれ関係なく襲います。…いえ、確かあの封印術を使ったのは、鬼ではなく人間だった筈…。目が見えれば、襲ってくる可能性はありますね」

 

 

 うん? マガツミカドを封印してたのは、鬼達じゃなかったのか? 見境なく暴れ回るから、鬼達が結集して…って聞いたが。

 

 

「さぁ、そのあたりは私にも。ひょっとしたら、人間が封印術を使って弱めた所を、他の鬼が襲ったのかもしれません。何れにせよ、オオマガトキという脅威が消えた代わりに、完全体のマガツミカドが問題になってきたようです」

 

 

 別の場所でオオマガトキやろうとする可能性もあるけどね。…このままやりあう…のはちとマズイな。偵察・調査のつもりだったから、戦闘用の防具持ってきてない。

 

 

「マガツミカドの攻撃を防げる装備があるのですか?」

 

 

 あるよ。3つの世界を巡ってるとな、トンでも性能の道具も結構あるんだわ。特にMH世界に。

 とは言え、俺の分しかないし…。アレを討伐するとしたら、通常状態なら4人で戦闘、上半身が出てきたら俺が足止めって事になりそうだな。

 

 

「不甲斐ない話ですが…仕方ありません。あの鬼は別格です。…見つかって面倒な事になる前に、一度引きましょう。奴はこの周囲を拠点としているようですし、暫く移動はしそうにありません。そろそろ食料も限界です」

 

 

 それは主に君が原因だけどね。ま、これ以上偵察しても仕方ないか…。

 

 ところで話は変わるんだが、ホロウのイヅチ探知機能ってまだ使えねーの? アレが何処にいるのか分かる、みたいな事言ってたじゃん。

 

 

「相変わらずです。貴方に付き纏っている…ひょっとしたら、今でも監視しているかもしれませんが、それらしい気配は全く感じられません」

 

 

 ふーん…出来ればマガツミカドをぶつけてみたかったんだけどな。あの足で蹴っ飛ばしてくれれば、さぞかし爽快だろうに。水虫なら尚よし。

 

 

「先日の戦いで、貴方が蹴り飛ばされたと聞きましたが」

 

 

 記憶にねーでごぜーます。さて、そろそろ真面目に撤退しますか。

 

 

 

 

 

 マガツミカドの目(もう上半身が消えてたけど)が届かないところまで来たら、鬼疾風で一気に駆け抜ける。潜入していくときと違い、敵に気付かれても振り切れるから早いモノだ。2日かけて進んだ距離を、2時間もかからず踏破して里に戻る。

 まずはお頭に報告したが…難しい顔をされた。ま、そうだよなぁ。ただでさえ厄介だった鬼が、更に強力になろうとしているってんだから。代わりに鬼の軍勢はほぼ壊滅状態だから、まだ救いがあるかな。

 

 しかし、お頭の頭脳は更なる危険を予期していた。

 

 

「…恐らく、マガツミカドには外部の霊力を吸収する力がある」

 

 

 …どゆ事?

 

 

「お前が言ったのだろう。塔の力を利用して、自分にかかっている封印を解こうとした、と。恐らくそれが正解だ。橘花の千里眼で見た塔…それをどうやって圧し折ったのか疑問だったが、ようやく分かった」

 

 

 暴れ回って壊したんじゃないんですかね。持ってた棍棒をこう、ホームランする感じで。

 

 

「葬らん、と言うは易いが、流石にマガツミカドでも難しいだろう。ただし、それは塔に何かしらの力が十分集まっていれば、だ。自分にかけられた封印を破る為、塔に籠った力を利用した。その結果、塔は単なる瓦礫の山に変わり、マガツミカドの一撃で容易く折れてしまったのだろう」

 

 

 ナルホドねぇ…。頑丈な塔なら、外壁を崩してからぶっ壊せってか。この場合は外壁っていうか、内部の部品をかっぱらってから壊した感じ?

 しかし、これからどうする? 討伐が必要なのは確実だろうけども。

 

 

「俺はその鬼を…上半身が出た状態の鬼を見ていないので何とも言えんが、お前がそれ程脅威に感じているのなら、里の総力を挙げてでも戦う必要がある。お前一人で容易に討てない時点で、この里にとっても脅威極まりない事は確定事項だ」

 

 

 なんか妙に信頼されてるな…。まぁ、戦闘面でそれだけ貢献した自覚もあるっちゃあるが。

 で、具体案は?

 

 

「大体はお前が考えている通りだな。下半身のみの間に可能な限り火力を集中し、上半身が出たら…お前に頼り切りになるが、足止めに徹する。…しかし…」

 

 

 ? 何か? 戦力面で不安がある事は分からんでもないですが。

 

 

「…いや、お前達はマホロバの里から来たのだろう」

 

 

 ええ、それが何か? 正確に言うと、マホロバの里の住人は紅月だけで、俺やホロウは流れ者、グウェンも…まぁ、流れ者に分類されますが。

 

 

「……風の噂で聞いた程度なのだが、マホロバの里の近辺で、強力な鬼が目撃されたらしい。それが何の鬼なのかまでは伝わってこなかったが…」

 

 

 …そんなん、生き残ってる里にとっちゃいつもの事じゃないですか? 大抵、大軍勢が攻撃を仕掛けてくるか、新種の鬼が襲ってくるか、さもなきゃ内乱寸前の有様だと思うんですが。

 

 

「それはそうなんだが……妙に嫌な予感がしてな。…このご時世だ。何が起こるか分からん。俺は人間の底力を、マホロバの里の力を信じているが、それで勝てると思う程楽天家じゃない」

 

 

 あー…まぁ、マホロバの里からして、今ちょっとややこしい状況だからなぁ…。そんじゃ何か? お頭は、俺達の誰かが抜ける可能性があると考えてるのか?

 

 

「…正直、否定はできん。特に紅月は、今でもマホロバの里の次期頭領だ。本人としても、故郷という意味ではマホロバだろう。何かがあったら、里に戻らねばならん。…ふむ」

 

「それを言い出したら、切りがないと思いますが。誰しも事情はあります」

 

 

 まぁそりゃそうだが。ちゅーかお頭、もう仕掛けるんじゃないのか? 何かあるかも、ってんなら、猶更速攻でカタをつけた方がいいだろう。うかうかしてると、それこそマガツミカドの上半身が完全開放されるかもしれないし。

 

 

「そうだな。だが、少しだけ待て。仕掛けるにしても、出来る事はやっておく」

 

 

 

 …はぁ、お頭がそういうなら従いますがね。何を考えてんだろ。

 いつものお頭じゃないなぁ。慎重な人ではあるが、だからこそ即決速攻で決めるタイプの筈。ただでさえ、調査やら何やらで鬼の側にも時間を与えてしまっていると言うのに…。

 

 ま、いいや。そんじゃ、俺はこれで失礼しますよっと。ホロウ、お前はこれからどうする?

 

 

 

「無論、ご飯です。炊き立てのお米は正義です」

 

 

 ああ、異界の中では流石に炊けなかったからなぁ…。せめて里の財政を破綻させないようにしろよ。

 

 

「あなたは私の胃袋を何だと思っているのですか。食べても精々3杯分です。皿ではなく釜ですが」

 

 

 大食いキャラにしては少ない方だと思うべきか。オワコンの青なら蔵3つ分くらい食いそうだしな。

 

 

 とりあえず、ホロウと別れて鍛冶屋に向かう。今日はもう火を落としているらしく、静かなものだ。

 タタラさんも自宅に帰っているようだが、細菌の清磨は仕事が終わった後も、いつも鍛冶屋に居座っている。どうやら、一日の仕事や発見を思い返したり、仕事場を改めて見る事で、何か発見がないか…と研究しているらしい。人と接するようになっても、相変わらずの鍛冶バカで結構だが、妙な事しないようにな。タタラさんもあれで結構激しい人だから、「刀を作る時の水温を盗もうとした」とかで片腕切り落とされるかもしんねーぞ。

 

 

 おーう、清磨いる?

 

 

「む? お前か…無事に帰ったようだな」

 

 

 ああ、異界の中も大した事はなかったよ。面倒事が増えそうだけどな。

 それより、例の物は?

 

 

「少し待て……ほら、これだ。とりあえず注文通りに作ったが、これでいいのか? 何の為に使うのか分からなかったから、出来がどうなのか判断ができん」

 

 

 清磨から受け取った物は、ハサミ状の物が2つと、細い棒が4つ、それから棒につける部品が幾つか。

 ただし、ハサミ状の物は取っ手を締めると先端側が逆に開くようになっており、更に刃が付いている筈の部分は籠状になっている。籠と言っても、籠の骨子部分だけで、入れ物としては使えないが。

 

 

 うん……うん、こいつはいい出来だ。異界に出発した後に気付いたけど、違うサイズで2つずつ、計四個にしとけばよかった。

 

 

「できない事はないが…材料費が嵩むぞ。時間もかかるし。中途半端なものを作って渡すのも気分が悪いし、作り直すか?」

 

 

 いや、いいよ。気持ちはありがたいが、今晩にでもすぐに使う予定だし、新しいのが出来上がるのを待ってる時間は無くなりそうでな。

 こっちは…?

 

 

 受け取ったもう一つの品は、強いて近い形状を挙げるなら、耳かきだろうか? 実際、清磨に「こんなの作って」と伝えた時にはそう言った。

 先端部分は…ほぅ、これはゴム…じゃないな。異界の中で稀に見かける、弾力に富んだ「なにか」か。これなら多少強く引っ掻いても、怪我はなさそうだ。

 それに、先端部分のカバーを外して、別の部品を付ける事も出来る。部品は…ブツブツがついたカバー、ちょっと曲がってて固めのカバー、猫じゃらしみたいなのがついてるカバー、カギ爪みたいになってるカバー、その他諸々。

 うん、いい仕事してるね。

 

 お見事。

 

 

「まぁ、これくらいはな。しかし、俺としてはやはり納得のいく出来ではない。繰り返し聞くが、一体何に使う道具なんだ? 里に留まるようになって、武器以外にも色々作ってきたが、これは見当もつかん。タタラ殿ではなく、俺に頼んだ理由も分からん」

 

 

 いや、タタラさんじゃなくて清磨に頼んだ理由は無いぞ。強いて言うなら、思いついてからバッタリ会ったのが清磨だったってだけで。

 出来の良さ云々も…まぁ、俺らにゃ分からん領域の話になるからな。

 

 

「…で、何に使う?」

 

 

 秘密。

 

 

「……お前がそういう顔をしている時点で、ろくでもない事なのは予想がつくが…。まぁいい。偶には何も考えない、無為な仕事も悪くは無いか」

 

 

 悪くないのか、ソレ…? 納得してるんなら何も言わないけどさ。

 ま、ともかくありがとうよ。これでちゃんと教えられそうだ。

 

 

「何を、とは聞くまいが……まぁなんだ、刺されるなよ。俺の作った武器でお前が死ぬと、流石に寝覚めが悪い」

 

 

 

 へいへい。

 

 

 



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R-18タグ突入~これまでもセーフだったとはとても言えない~
222話


…こ、これは流石にアウト…だよな…。
運営から連絡があったら、大人しくR18タグ付けます。
そうなったら活動報告にも書いておきますので、「突然見当たらなくなったぞ!」となった時にはヨロシクお願いします。


追記 キングダムハーツ買いました。


入滅月

 

 

 …スマン清磨。作ってくれた道具、今日と言うか昨日は使えなかったわ…。いや、別に問題があった訳じゃないんだ。

 ただ、行動に移す前に、速攻喰らって引き摺り込まれただけで。

 

 具体的には、紅月と那木の二人係で逆種付けプレス喰らった。どうやら数日間、ナニもなかった為に欲求不満が爆発してしまったよーだ。

 そら、スキモノに仕込んだのは俺だけどさぁ…我慢できない奴らだねぇ。愛い愛い。

 

 いや、最初はちゃんとおかえりなさいと言ってくれて、飯(那木)とか風呂(紅月)とかの世話もしてくれたんだよ? エロ的な意味じゃなくて、仕事から帰ってきたサラリーマンを労う的な意味で。…嫁さん二人いるサラリーマンとか…。

 ちなみに言うまでもないし、俺を相手に使うのは過剰じゃないかな、とは思うが、当然のように飯は性力増強メニューだった。

 

 下半身もいつも通りにギンギンになった事だし、労ってくれたお返しを……と思った矢先に奇襲を受けました。

 いやぁ、オスを味を知ってしまった熟女二人の勢いって凄いね。二人係で前後から抱き着かれて、キスされた時点で「あ、これ捕食だ」って思ったよ。

 

 抜け出す事はできたけど、抜ける気にならなかったなぁ…。動物は、食われる時は痛みや恐怖ではなく恍惚を感じる、みたいな話を聞いた事があったが、多分それと同じだろう。尤も、食われて死ぬ前に少しでも楽になろうと脳内麻薬が出るのと違い、もっと楽しむ為にアドレナリンドバーする訳だが。

 

 そして、二人も脳内麻薬ドバー状態だったのは変わらなかったらしくてね。普段以上の力で俺を抑え込んでくるもんだから、もうされるがままよ。ただでさえ強い力の上に、色んな体勢で圧し掛かってくるから、顔が幸せな部分に埋もれたり、すごーくエロい表情しながら新テク試してくれるから、ついついもうちょっと堪能したくなってね…抜け出す気にならなかったんだ…。

 …この二人が相手だと、受け身に回る事が多いような気がするな。

 

 

 

 

 ま、好き勝手やってくれたお返しはするけどね。

 

 

 

 どっちにしろ、数日後には恐らくマガツミカドとの決戦だろう。お頭が何を考えているのか知らないが、戦力アップという点で考えれば、オカルト版真言立川流は非常に有効だ。ヤらない理由は無い。

 それと同時に、約束も果たしておかなければいけない訳で。

 

 「受講者」に声をかけておきました。

 

 

 

 

 

 そして夜。紅月と那木がどことなくソワソワしているのは、お返しの予感を感じているからだろうか。それともなんかイヤな予感でも感じているんだろうか。

 「今日は結構過激な事するよ」って言ったら、期待しているよーで怯えているよーで、実にサディスティックな衝動を煽る顔をしてくれた。

 

 で、やる事その②。まず縛ります。…この時点で「「!?」」状態だった。どうやら二人にはSMチックな知識は無いらしい。軽いスパンキングくらいならやったけど、縛りはやってなかったもんなぁ。

 抵抗できないように、M字に固定して、の諸手小手縛り。長時間しても体が疲れないように、かつ二人の力でも解けないように結ぶのは割と難しかった。

 

 その③。目隠しをします。これまた「「!!??」」状態。ただし、二人とも縛られている為、抵抗なんて出来ません。ま、目隠しの効果がどこまであるかは疑問だけどね。二人とも気配を察知する事が出来るくらいには、感覚が鋭い。特に紅月は、気配と空気の流れで周囲の動くものをある程度感知できるし。

 …なので、敢えて家の扉を開いて、風を取り込みます。これは素晴らしい効果だった。いつ人が入ってくるか分からない、という意識の為か、羞恥心とか危機感がビンビン刺激されている。

 だが閉めない。だーいじょうぶだって。この家、里の外れの方に建ってるから、大きな音とか声とか響かない限り、誰も来ないもの。

 

 大きな音とか声とか出なければ。具体的にはアンアンヒイヒイ声が響かなければ。うん? 口を塞ぐ? そんな事したらイイ声が出なくなっちゃうじゃないか。頑張って響かない程度に抑えてくれたまえ。

 

 

 その④。適度にいぢくりまわして、理性を溶けさせ感覚を狂わせ、更に俺のを一気に突っ込んでも全然痛くないくらいにドロッドロにします。

 

 

 

 

 

 その⑤。遮音結界を張って、押し入れに隠れていた橘花・グウェン・初穂を召喚します。…橘花の遮音結界が、かつてない程の出来なんですけど。

 

 

 

 言い忘れていたが、その①として性教育の受講者(橘花・グウェン)に声をかけて待機させていました。初穂が参加してきたのは予想外だったけど。しかも俺の声を聞くとアカンモードになるからって、耳栓してるし。

 

 

 

 

 揃って真っ赤な顔をしている3人だが、その態度は、恥ずかしがりながら目を輝かせて見ているか、半分怯えて顔を隠して指の間から見ているか、性欲云々より知らない行為に好奇心が抑えきれてないかで三者三様だ。

 さて、これから「教育」の本番が始まる訳ですが。多分ここからは声を抑えられないと思うので、猿轡をさせます。突然口を塞がれた二人は混乱しかけたようだが、ちょっと弄ったら大人しくなった。涎が口元から垂れてるが。

 

 目隠しを取るか暫し悩んだが、「お返し」に容赦するのもつまらないし、何よりこれから授業の為に色々説明せにゃならんのだ。誰かいる事は、確実に悟られる。…茹でった頭でそこまで気付くかは微妙だが。

 

 

 

 と言う訳で、御開帳~。

 

 

 …おお、悲鳴を挙げてる挙げてる。猿轡の為に声は出てないが、表情で丸わかりだ。ま、異性であろうと同性であろうと、はたまたそこらの天狐であろうと、こんな姿見られたい訳ないわな。

 変態みたいな恰好して、好き勝手に弄り回されて悦んでる姿なんて。やらせたのは俺だけど。

 

 うん? ちゃんと許可は取ってるぞ? 橘花に「正しい」性教育するのには同意してくれたじゃないか。グウェン? いや、この子まだ子供の作り方や、自分で慰めるやり方すら知らないらしくてな。この際だから一緒に教えようと。初穂? …どうやら、グウェンに誘いをかけた時に見られていたらしい。参加するのが目的なのか、それとも体が疼いて我慢できなくなって参加したのかは分からんが。………なぬ? グウェンから相談を受けた? ……そういや、桜花には言うなと言っておいたが、初穂に言うなとは言ってなかったな。まぁいいか。

 …だからね、よーするに君達は教材な訳よ。保健体育の教科書なんかないんだから、実物で説明するしかないじゃないか。

 

 さて、そういう訳なんで、そのまま説明に使わせてくれ。その為に、大事な部分が丸見えの恰好で動けないように固定したんだからね!

 自分で慰めるやり方を教えないといけないんで、何処をどう触ればいいのか実演もするからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人が無言で抗議している姿に、「いいのかな」って顔をしているのも居るが、問題は無い。だってほら、こう弄ってやれば…もう気にならなくなってきてるぞ。だからしっかり見て覚えて差し上げろ。

 

 では、本格的に授業に入ります。まずは知識から。皆、子供はどうやったら出来るのか知ってるかな? …はい、橘花とグウェン違います。経験済みの初穂=サン、説明してあげなさい。あと耳栓取れば? この状況じゃ、発情しないようにするだけ無駄だろ。

 …はい、初穂=サン正解です。なんかレディコミっぽい無駄な美化とか描写とかが入ってた気もするが、それは別にいいだろう。俺がヤッた事の方が、よっぽど現実味が無い事だし。

 

 初穂が説明してくれたよーに、男と女の行為というのはそーゆー事です。そこに行きつくまでに何をするかが人間の文化の醍醐味ですが、今は子供の作り方と性欲発散のさせ方についての授業なので割愛します。

 これを疑似的に、一人で行うのが性欲発散ですね。具体的には、今俺が二人を弄っている場所を、自分で触って刺激します。

 おっぱいはいいとして、この穴が何かわかりますか?

 

 …橘花さん、それは違います。あなたの大好きなその穴は、この穴のもうちょっと下側にあります。はい、ここがさっき初穂が言っていた、男の子の堅くなった部分を突っ込む穴ですね。

 うん? グウェン、質問か? ……ああ、確かに一見すると入るような大きさの穴じゃないな。でもさっき初穂が言ってた表現は、大げさに言ってっから。

 

 そうだな…実物見せた方が早いか。ホレ御開帳。

 

 コレがここに激しく出たり入ったりする訳よ。うん? 益々持って入るような大きさに見えない? 褒めてくれてありがとう。だが、女の体というのはよく出来てるもんでね。ちゃんと準備して慣らしていけば、充分入るくらいに広がるんだよ。

 信じられない?

 

 

 

 …よし、もうちょっと説明してからがいいかと思ってたが、使うか。清磨に作って貰った、籠状の道具。これを……二人の(PI--)に突っ込みます。俺のを受け入れられるくらいになってんだから、これくらいへーきへーき。

 ほら、皆寄ってこい。籠の骨子しかないから、広がった内側がよーく見えるぞ。この握りの部分を動かすと、入ってる部分が上下に開いて、より拡張されます。ちゃんと伸びて受け入れてるのが分かるだろう?

 これと同じようなやり方で、男を受け入れる訳よ。

 

 …前手付かず、尻のみで調教してりゃ、ここで膜を見せてやれたんだが…しょうがないね。これは橘花の為のプランとして温存しておこう。

 

 

 さて、自分で性欲処理をする場合、表面を弄る方法と、内側を弄る方法があります。どっちがイイかは人それぞれなんで、自分に合った方法を見つけましょう。…いや、だったらお尻もいいんですね、じゃなくて。別に悪いとまでは言わんけど、今は正しいやり方を身につけてください。

 では、どう弄るかですが…ちょっとコレは言葉にし辛いんで、コレを使って説明します。…うん? これは単なる棒だよ? 『授業』の為に特注で作ってもらったヤツだけど。先っちょが明らかに、女性に突っ込む為の大人の玩具みたいな形になってっけど。

 何をするかって? ……女性特有の穴を使って、ミミカキみたいな事をするだけですが何か?

 

 ではまず…うん、馴染みのある顔だろうし、那木から。那木の好きな部分は…ここ。この、一際肉厚でヌルヌルになってる部分ね。ここのところをこう、引っ掻いてやると…ほら、声が出る。

 うん? 体がビクンと跳ねた? 気持ちいいからだよ。まぁ、やり方とか加減を間違えると、凄く痛いんだけどね。

 他にも、ここを抑えながらこっちを押し広げたり、こっちの部分でここを擽ってやったり、この道具でここを優しくさすさすしてあげたり……ほら、悦んでる悦んでる。

 

 

「はい、先生!」

 

 

 どうしましたグウェンさん。

 

 

「私とハツホ殿とキッカ殿が密集しているので、とても見えにくいです!」

 

 

 

 そんなら紅月にも参加してもらいましょう。…どうした紅月、震えているぞ。期待か、期待してるんだな? 那木がスゴイ反応してるからな。

 怖い? 大丈夫、怖いくらい気持ちいい事なら今まで何度も体験しているだろう。今回も新種のソレなだけだ。

 

 よし、グウェンこっち来なさい。かぶりつきで見られる位置だぞ。

 

 俺は…左右の手にスティックをこう、お箸のように持ってだな。右は那木、左は紅月。

 はい、紅月の場合、弱点と言うか好きな場所はココですね。ココを激しく擦られるのが大好きですが、焦らすにはこちらの道具で周囲のみ刺激してあげた方がいいでしょう。

 那木は他にも奥のこの部分が敏感ですが、あまり連続で刺激すると締め付けが強くなりすぎて、道具が壊れてしまう可能性もあります。失神されてしまっては反応が楽しめないので、時々気付けに突いてあげる程度にしましょう。

 同じ場所を繰り返し刺激するのが基本ですが、過ぎると単調になり、慣れを呼ぶ場合もあります。ですが、逆に慣れさせてから急に別の場所を刺激すると、不意を打たれた事もあってよい反応を引き出せる場合もあります。

 紅月のここがいい例ですね。触れにくい場所にあるので他の肉越しに刺激するのですが、他の場所に意識を集中させてから唐突に一撃してあげると、それだけで刺激は充分です。ちなみに、その刺激しにくい点を正確に突き回せるこの棒は実に神アイテムです。

 おっと、那木の意識が飛び始めたので、気付けを繰り返してあげましょう。内部ばかりでしたが、ここでさり気なく外部のオマメさんを摘まみます。これ、外部で一番敏感な場所なので、自分で触る時も力加減に注意しましょう。

 おや、紅月の筋肉が、一際強く収縮していますね。皆さん、これが一番気持ちよくなった状態です。まぁ、実際はこれよりまだまだ先があるんですが。この道具が無かったら、今頃はシオフキと呼ばれる現象が発生していた事でしょう。おしっこ漏らしたよーなもんだと思ってください。

 続きまして、比較的自分でも弄りやすい場所の講義に移ります。皆さん、ちゃんと爪は切ってきましたね? よろしい、では今度は皆さんにも教材に触ってもらいましょう。まずは…

 

 

 

 

 …こんなカンジで、抵抗できない二人の恥ずかしい場所を徹底解剖しましたとさ。

 

 

 

 で、講義が終わった頃には、もう二人ともグッタリ。完全にマグロ状態。対して、受講生の3人はワイワイキャイキャイ興奮した面持ちで、ただし小声で話し込んでいる。ヌレヌレな部分を触った指先を見て、じっと考え込んだりもしている。…舐めるの?

 

 

 

 

 だが本番はここからだ。講義が終わったなら、後は実践!

 二人はグッタリしてても、子宮は満足してないようだ。今日はまだ注いでないしね。初穂は初穂で、今まで自分が経験した「オトナ」とは(色々な意味で)比べ物にならない光景に充てられ、辛抱堪らなくなってきているようだし、何より俺がこのままでは治まらん。

 さっきまで淡々と、研修医に手術の解説をするようなテンション(あくまでイメージです)で二人を弄り回していた為か、なんかもう欲望が圧縮されまくっている気がしてならない。

 

 

 

 

 

 




ちなみに今回のプレイは元ネタありです。
正直、文章にすると分かりづらいと思いますが…某投稿サイトで、プ○キュアのん○ぉ系で探せば見つかるんじゃないかな。
探しちゃいけないぞ。
時守=サンとの約束だ!
もし運営にアウト喰らうとエライ事になるかな!


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223話

このままリミッター外して突っ走るのをご希望の方が予想以上に多かったです。
色々考えましたが、暫くはR-18タグのまま続けていこうと思います。
もしも閲覧数やPVが目に見えて下がり始めるようなら、R-18部分は別でまとめるつもりです。

差し当たり、今回もエロ語りがある訳ですが、書き溜め分に加筆してる余裕は流石に無いです。暫くは今まで通りの書き方になります。


 

 

入滅月

 

 

 初穂が完堕ちしました。いやーよかったよかった、これで気兼ねなく初穂のエロ語りが出来るな。

 「くやしい…でも(ry」もいいけど、やっぱお互いに蟠りが無い方がやりやすいし、反応もいいからね。

 

 結局あの後、マグロ状態の二人に追撃をかけるつもりだったのだが、初穂がそれを庇ったのだ。教材に志願したとも言う…言っていいの?

 まぁ、「授業」に参加した時点でお察しだったけど、体が疼いて我慢できなくなりつつあった所に、あんだけ濃いの見せつけられればね。そりゃ理性も倫理観も吹っ飛ぶわ。

 口先では、疲れ切った紅月と那木を庇う為…だったが、雌の匂いをあれだけさせてれば、グウェンにだって本音は理解できるだろう。

 

 初穂も開脚固定させられてクチュクチュされたいのかと思ったが、普通に我慢できなくなっていた。ので、「本番」の教材となってもらいました。

 鎖鎌という空中戦の武器を使う為なのか、初穂って体が軽いんだよね。抱き上げるのも簡単だし、アクロバティックな体位も出来る。今回はシンプルに、後ろから抱き上げて貫くスタイルになりました。勿論、「本番」を見せつける為に大開脚です。

 

 まだ経験が少ない初穂だったが、余程興奮していたんだろう。容赦なく動いても、悦びの声しか出てこなかった。

 スレンダーな体の割に、ナカがいやらしい構造してんだよなぁ…。ちなみにスレンダーと言っても、ひんぬーではない。意外とある。まぁ、リアルJC年齢にしてはって前置きがつくが。

 それとも、囁きの術で夢の中で好き勝手しまくったからだろうか? いや、俺が自分の意思でやったんじゃないぞ。多少の下心があったのは否定せんが、それはささやきの術を最も効率的に使う為の前提条件であって………アッハイ、そんな事はどうでもいいから腰を振ります。

 

 と言うか、マジで初穂ってば楽しんでるな…。ただ只管にヨガってるだけだが、今となっては自分から股を開いて、「オトナの行為」を橘花とグウェンに見せつけているくらいだ。下から突き上げて抜き差しする度、体を痙攣させながらももっと奥へ、もっと奥へと導いて来る。

 経験の無さを加味すると、今まででもトップクラスに貪欲なんじゃないだろうか。

 

 特に気に入ったのは、体位を変える時の体内が引っ掻き回される感覚らしい。8585するのもいい反応なんだけど、体勢を変えようとした時の声が一際大きかった。

 ただ、これまで何度かヤッた時にも分かったんだけど、体力が尽きるのが早いんだよな…その分回復も早いけど。つまり、延々と激しくヤッていると、あっという間に失神、或いは酸欠まで昇り詰めてしまうのだ。

 本人の意思に反して、普通じゃあり得ない程の勢いで欲情・興奮するからなぁ…。理性を保つことも出来ないし、乱れた呼吸を落ち着けるなんてキッパリと不可能。体力が無いと言うよりは、色々なモノを受け流す事が出来ずに、無駄に消耗してしまうんだろう。

 

 でも、これで多少はマシになるかな? 今までは意地張って(当然の反応だとは思うが)興奮を無理矢理抑え込もうとしていたから、猶更呼吸が乱れていたんだ。今は…受け入れた為か、声を抑える事もなく、心と体の赴くままに貪っている。ある意味、精神と体が完全に同じ方向を向いているのだ。………そこへオカルト版真言立川流も突っ込んでるんだよなぁ…。また妙なパワーアップを遂げそうな気がする。俺も初穂も。

 

 

 

 しかし…初穂が完堕ちした切っ掛けって何だろな。今までも、声を聞いた時には我慢できなくなってヤッちゃってたが、今回だってそれと似たようなもんだろう。

 気持ち良すぎて…と言うのは無いな。それくらいの感覚を与えているとは思うけど、初穂はこれで頑固者と言うか負けず嫌いだからなぁ…。ただ肉欲を満たしただけじゃ、諦めも受け入れもしないだろう。

 

 

 おそらくは……目の前で、初穂と俺の結合部をガン見しているグウェンと橘花に関係があるんだろうな。

 初穂は…アレだ、百日夢の切っ掛けになった会話の通り、ツンツルテンで丸見えでね。……すべすべでいい感触してるよ?

 んで、那木と紅月に比べて見やすいからだろうか(いや中身までは見えんけど)、まーその……エッグい絵が出来上がっててねぇ。丁度鏡に映ったんで見てみたけど、まだ出してもいないのに男女の汁が交じり合って白っぽくなってるは、出し入れする時に肉が引っ張り出されたり押し込まれたり。

 それをヤッてんのがリアルJC…実年齢で言えば、グウェンよりも橘花よりも年下の初穂なんだから。秘部と子供っぽい体のギャップがエグいわぁ…。

 

 トドメを刺そうとドクドクした時なんか、拭いた液体が橘花の顔に直撃したんだよな。…清純(?)な巫女に、男女入り混じった液体を顔射した訳だ。

 しかも、橘花がそれを嫌がろうともせずに……目の前で初穂に『おそうじ』させてたら、それを真似たつもりなのか、顔に付いた液体を拭って舌を伸ばしてみてるし。更に好奇心が無駄に旺盛なグウェンも、お裾分けしてもらって触ったり伸ばしたりprprしてみてるし。

 

 

 

 まぁ、そこまで好奇心が旺盛なら、更なるステップに進むのも簡単な訳でね。

 本日は主食×2人に以前から仕込んでいた秘蔵の一品×1人、更に新品2人と実に豪勢な夜になりました。正直、紅月と那木が起きてきてからが怖いけども。

 …ちなみにね、その新品二人はね、前々から仕込んでいた尻の貫通…は予想してただろうからいいとして、パッキンの方が突っ走ってなぁ…。前も後ろも口も貫通しちゃったよ。ここまでくると、好奇心がどうのというレベルではない。もっと悍ましいナニカか、純粋にブレーキが完全にぶっ壊れているかだ。

 この子、真面目にちゃんと監視しておかないと、絶対に将来エラい事になってしまう。考えてみれば、あの悪人面の九葉のオッサンと一緒にいて、疑いらしい疑いを全く持たなかったんだよな…。よくぞ日本まで一人旅できたものである。

 

 さて、そのパッキンの方だけども、好奇心と呼んでいいかはともかく、とにかくそれが強い。

 「こんな行為もあるんだぞ」と仄めかしてみれば、すぐに興味を示して喰い付いて来る。しかも忌避感らしい忌避感がまるでない。

 昨日一晩で色々ヤッたな…まぁ、流石に紅月那木初穂橘花と4人も相手にしてれば、体力精力よりも時間が無くなる。ライトでお手軽な事しかできなかった。…開発準備もせずに尻貫通がライトな事かは、意見が分かれると思う。

 グウェンは昨日覚えたのは、手・口と…脇、ポニーテールでの髪を使う、あとストッキングを履いた足の使い方。突っ込まれた状態では、流石にまだ自分から動く事は出来てない。

 

 …ちなみに、グウェンには橘花覚醒に一役買ってもらいました。レズプレイにすら躊躇いがない…。勿論、くっ殺も躊躇わなかった。そしてそれを責める橘花も躊躇わなかった。

 

 

 

 さて、今回の橘花や、グウェンのエロ語りをしたいと思うが、生憎とそうも言っていられなくなってきた。…何、もう語ってる? いやいや、一日分の日記を使ってネットリと語りたいねん。

 しかし、繰り返すが残念な事に、そうする暇が無くなった。何故かって?

 

 戦になるからだよ。

 

 別にマガツミカドに襲撃を受けた訳じゃない。むしろ、こっちから襲撃する準備が整った。

 そして、大和のお頭が先日の時点で出撃を命じなかった理由がよく分かったよ。

 

 

 お久しぶりです、相馬さん、百鬼隊の皆様方。ただし初対面。

 

 

「お前からの報告を受けた時、近くに滞在しているのを思い出してな」

 

 

 なるへそ。英雄殿が力を貸してくれるなら、マガツミカドに時間を与えてでも待つ価値はあるか。

 

 

「おう、そういう事だ。お前は中々分かってるな。それに、イツクサの英雄もこの地に居ると聞いたんでな。一度会ってみたいと思っていた」

 

 

 あー、すいませんけど、今日は休ませてやってください。昨日、ちょいと頑張り過ぎましたんで。

 

 

「何? マガツミカドとやらは、それほど強力な鬼なのか。腕が鳴るな!」

 

 

 …まぁ、ある意味鬼っちゃ鬼ですが。

 

 

「ああ、鬼だな」「鬼ですね」

 

 

 …橘花、グウェン、お黙り。美事な一本角とか言わんでいい。言ってない?

 冗談はともかくとして、よろしく、相馬殿。

 

 

「おう、任せておけ。さて、今から出撃か? …ああ、イツクサの英雄殿は、今は動けないのだったか。他に問題は?」

 

「回復役の那木も動けないようだが」

 

 

 視線が痛い。と言うか桜花が隙あらば斬ろうとしているよーだ。…橘花も食っちゃったのは気づいてないようだな。気付いてたら状況を問わず斬りに来るし。

 

 

「強いて言うなら、話に聞いた英雄殿とは言え、新参者のあんたに場を仕切られるのが気に入らないくらいか」

 

「ほお、言ってくれるな。だが丁度いい。俺としても、最前線のモノノフの力量には興味がある。どれ、慣らしも兼ねて、そこらの鬼を狩りに行くか?」

 

「…まぁ、賛成だな。私としても英雄の力を見たいし、連携するなら互いの動きを知っておくに越した事は無い」

 

 

 

 そういう事になったのだ。…その後、相馬さんが木綿ちゃんを口説きだしたが……まぁなんだ、そーゆー意図が無かったとしても、大和のお頭の前でそれをやる度胸には素直に感服する。息吹と一緒に、大和のお頭の殺気を向けられてたが。

 

 

 

 

 

 んで、相馬さんと一緒に狩りに行った。ちなみに俺が用意した武器は金砕棒。別に相馬さんをリスペクトしてる訳じゃないが…いや、恩人という意味では尊敬してるけどね…折角久しぶりに会ったんだし、どれくらい腕を上げてるか見せてやりたい。…まぁ、あっちにしてみりゃ完全に初見なんで、腕を上げるもクソもないが。

 結果は……まぁ、そこそこかな。負け惜しみや悔しさ不当な評価をするような人じゃないから、今の俺はその程度って事だろう。

 実際、金砕棒の基礎が疎かになってたのは否めないしな。と言うか、どっちかと言うとモンハンのハンマー形式で使っていたのに近い。武器の性質で考えれば確かに近いが、やはり別物だ。相手が普通のモンスターならともかく、鬼であれば霊的要素を組み込まないといけないんで、迂闊に型を崩せないんだよなぁ…。それを無理矢理、MH世界で覚えたギルドスタイルやらエリアルスタイルやらに押し込めてるんだから、そりゃ基礎も疎かになるわい。

 

 とは言え、「俺といい勝負ができる」とまでは言われたから、評価としては最高級だと思うがね。 

 他のモノノフへの評価も上々。初穂だけは…まぁ、一人前に上がったばっかりだし、「今後が楽しみ」って評価だったけどね。昨日のお楽しみのお陰で、いろんな面がパワーアップしたからな…。相馬さんと背中合わせになっても、足を引っ張らない程度には戦える。…急激に増した霊力を乗りこなすのに、まだ戸惑ってる部分もあるが。

 

 

 

 と言うかアレだな、大和のお頭…初穂の状況に何となく気付いたっぽいな。複雑そうだなぁ…。

 まぁ、本人との関係がアホらしくなるくらいヤヤコシイからな。

 元姉貴分で幼馴染。案外、初恋の相手だったかもしれない。しかし、突然行方不明になり、嘆き悲しんで立ち直って鬼と戦い続けて結婚し、オオマガトキなんて凶悪なイベントを超えたと思ったら、前触れもなく唐突に里に戻ってきた。しかも時間を超えて。

 

 そんな相手が、名実ともに(?)オトナになった…くらいならまだしも、俺のカキタレ状態じゃな…。

 

 

 

 ………ところで、初穂が百日夢になった時だけどさ、初穂を起こす為に大和のお頭が出したショタヴォイス………あれ、CVが……いや止めよう…。オリ主にCVを付けるのが流行っていると聞いた事はあるが、あれの事を考えると、今までの俺の人生が全て無駄なモノだったように思えてくるんだ…。俺だけじゃなく、新たにみんなのトラウマが出来上がってしまう。下手するとWikiに新しい項目が出来る勢いで。

 俺のCV? ………ぶるあああああああ!じゃダメかなぁ…。

 

 

 

入滅月

 

 

 さて、那木と紅月も復活して、ちょっと怒ってる感じもあったけど(ちょっと、で済む時点でホトケ様であるホト様である)、これで現在における最大戦力が揃った訳だ。

 エース級モノノフが全員出撃する事になる。勿論、大和のお頭もだ。

 ウタカタの守りが開く事になるが、それは橘花の結界+鬼の手の増幅効果+尻から注ぎ込んだマスラオ汁の効果でカバー。万一襲われた時には、百鬼隊の皆様方の出番である。…大型の鬼を一人で、ってのはキツいけど、チームを組めばエース級に近い実力はあるんだよね、あの人達。

 

 …出撃の前に、木綿ちゃんがまた相馬さんに口説かれていた。いや口説くと言うか、本人的には恩を返すだか、恩人が不安そうにしているから和らげようとしているのは分かるんだけど。…木綿ちゃん、ああいうのに弱いのかな…覚えとこ。

 あと、人数分のお弁当を作ってくれたんだけど、大和のお頭のには一際強くニンジンの匂いが…まぁいいけども。

 

 

 さて、こんだけ人数が居れば、流石に鬼達に見つからずに進むのは難しい。だが小型の鬼なら鎧袖一触で、大型の鬼も……いや、大型は出てこなかったな。

 ナワバリ争いで数が減ったのか、それとも俺達がマガツミカドに仕掛けるのに合わせ、里へカウンターでも狙っているのか…。仮にそうだったとしても、動きは変わらない。里の事は、橘花と百鬼隊に任せてある。

 

 

 ちなみに、コソコソせずに一気に駆け抜ける為、移動は半日程度で済んだ。

 馬を使うか? という意見もあったのだが、馬は貴重な存在だし、大型の鬼に怯える可能性もある。

 

 相馬さんが鬼疾風をすでに会得していた事もあり、生身で駆ける事になった。

 …何でもう覚えてんの? と聞いてみたら、任務の途中に時継と共闘し、その時に教わっていたらしい。

 

 そういや、最後に会った時にそんな事言ってたなぁ…各地で失われかけている技を復活させて、また広めるんだとか。

 まぁ、宣伝して協力してやってくれ。英雄のお墨付きがあれば、時継も多少はやりやすくなるだろう。

 

 

「応。…そういえば、あいつが言っていたモノノフとはお前とホロウの事のようだな。『鬼の手』とかいう妙な武器を使う凄腕と聞いていたが…成程、話に聞くだけの事はある」

 

 

 そりゃどうも。まだ量産は難しいが、おススメの一品よ?

 量産こそ難しいが、博士の研究が進めば、鬼の手を使って異界を浄化できるかもしれない…って触れ込みもある。

 

 

「それは夢のある話だな。霊山に進言してみるか…? いや、時期尚早か。手柄に焦った阿呆が、博士とやらに妙なちょっかいを出すかもしれん」

 

 

 その辺は九葉のおっさんにでも抑えてもらえば? …利用されるのが大前提だから、博士が渋面になりそうだけど。

 

 

「ふっ、あれで信頼はおける人だぞ? さて、問題の場所が近づいてきたが……ほう、あれがマガツミカドとやらか」

 

 

 

 遠目に見えるデカい鬼。相変わらず瓦礫の塔の跡に陣取り、上半身を開放しようと頑張っているようだ。今の所、上半身は………む、一瞬出たけど消えた。

 …けども。

 

 

「…これは……まさか…」

 

「どうした、ホロウ? 気になる事でもあるのか」

 

「はい。ここまで来て今更ですが、非常に悪い知らせです」

 

「今度はなんだ…マガツミカドが更に強力になるとでも?」

 

「似たようなものです」

 

 

 マジか。上半身が出るってだけでなく?

 

 

「はい。…マガツミカドには特殊な封印がかけられている、と言う話は既にしていますが、その封印を掛けられる状態までどうやって持ち込んだのかが、ずっと疑問でした。考えても無駄だと思って放置していましたが」

 

「…まぁ、考えても分からない事を考えても、時間の無駄…ではあるな」

 

「だがせめて報告くらいはしておけ、ホロウ」

 

「これは失敬。本題に移りますが、どうやらマガツミカドの下半身に封印されているのは、上半身だけではないようです。少なくとも1体以上の強力な鬼が封じられています」

 

 

 …根拠は?

 

 

「先程、上半身が現れた際、ミズチメのような帯状の触手…足のようなものが見えました。あれには見覚えがあります。確か、ネクチメ…と呼ばれていた古い鬼です」

 

「あっ、その鬼、昔聞いた事あるわ! モノノフになっても全然資料を見ないから、創作の鬼だと思ってたんだけど」

 

「…そういえば、俺も爺さんに聞いた事があるな。確か地中に潜み、地の力を吸収する事で強力になり、同時に飢饉を齎す鬼…と言われていたが」

 

「大体その認識で結構です、大和のお頭。恐らく、2体の鬼が縄張り争いか何かして弱った時に、まとめて封印をかけたのでしょう」

 

「複数を同時に封印するとか、どれだけ難易度が高いんだ…」

 

「あの封印ならそうでもないですね。あくまで理論上ですが、封じられた鬼の力を使って、封印を強化する術ですから。封じられた鬼が2体になれば、単純計算して2倍の効力になるでしょう」

 

 

 絡み合った鬼達の関節が、自重で決まりあって動けなくなってるのか。何と言う岬越寺 無限轟鎖車輪。あの人達なら鬼を相手にしてもいつものやり方で撃破しそうで怖い。

 と言うか何よその便利な封印。ぜひ教えてくれ。

 

 

「やり方は知りませんが、多大な生贄が必要だった筈ですが。勿論人間の」

 

 

 …お、覚えておくだけなら無罪…。

 

 

「止めなさい…。では、ホロウ。このまま放置すれば、マガツミカドと渡り合える鬼が出現する、と言う事ですか?」

 

「或いは、マガツミカドの上半身に代わって出てくるか…。最悪、倒した、マガツヒ状態にしたと思ったら、封印が解かれて突然現れる事すら考えられます」

 

 

 …マガツミカド級が2体以上か…。最悪ってレベルじゃないな。しかも、現状で打てる対策はこれ以上考えられない。つまり、ここで引いたところで状況が良くなる可能性は無いに等しいって事だ。

 

 

「そういう事だな。…思っていた以上に条件が厳しいが…俺が言える事は一つだけだ死力を尽くし、何としても鬼達を殲滅する。覚悟はいいな?」

 

 

「「「はい!」」」

 

「よし、ここは一つ、三番隊の出撃の…っと、口上を上げる暇もないか。奴がこちらに気付いたぞ!」

 

 

 

 一瞬だけ現れた上半身で、俺達を視認したか。さて、どうなる事か…とにもかくにも、一番槍イタダキ!

 

 

 

 



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224話

次回デスワープ後の為、MHF-Zをちょっとだけプレイ。
…これはコントローラーから変えなきゃあかんな…大分古いし…。

歌姫シナリオとか超越秘儀とか型を知れればいいやと思ったけど、これは思った以上に時間がかかりそう。
ニコ動で実況とか解説とか探した方がいいかもしれん…。


ところで感想ページの事なんですが、スタイリッシュBadニンジャさんがちょくちょく出現しているご様子。
あんまりBadが付くと感想が隠されてしまうんで、これは実害ですねぇ…。
と思っていたら、GoodBadって1回付けて、もう一回クリックしたら、解除扱いになるんじゃなかったっけ?
実際、以前感想にGoodを付けた感想にもう一回Good評価をやってみたら、キャンセル状態になりました。
しかしてBadは3くらいついている。……分身の術? アカウント複数とも言う。或いは2人以上いるのか。


追記 この辺書いてた時、まだ警告が来てなかったんだよな…。
改めてみると、今まで無かったのが不思議で仕方ない。


入滅月

 

 

 マガツミカド。

 ネクチメ。

 トコヨノメノキミ(この場で名付けられた)

 あと1体、俺は見てないんだけど大型の鬼。

 

 

 いやぁ、エラい一日でしたなぁ…。 とりあえず、勝つには勝った。

 流石に無事とは言わないが…。具体的には桜花は当分絶対安静、息吹も複雑骨折、紅月は結果こそ重症ではないが、あと一歩距離を取れなかったら、即死している所だった。那木が全力で…それこそ生命力を振り絞ってでもタマフリを使い続けなければ、どうなっていた事か。

 大和のお頭も傷を負い……お頭としての責務はともかく、もう戦場に立つ事はできないだろう。…受付所のド真ん中で仁王立ちしている姿も、もう見納めかもしれない。それは椅子を使えばいいだけなんだが。

 相馬さんは無事だが、やはり傷を負い、暫く療養の為に里に留まる事となった。

 

 他、怪我人が大小多数…。

 

 

 かく言う俺も、戦いの中で幾つも傷を負い、戦闘不能にまで追い込まれた覚えがあるんだが。

 

 

 

 結果的には、物理的には無傷状態になってしまった。社会的にちょっとヤバいが。

 

 

 

 

 …そうだな、デスワープした時みたいに、順番に話そうか。

 最初はマガツミカドとの戦い。これはまぁ順調だったと言えるだろう。強いっつっても何度か観察した相手だし、上半身が無い間はこっちに狙いも付けられない。攻撃だって蹴りと足踏みくらい。カウンターと事故に気を付ければ、ここはどうとでもなった。

 上半身が出てくると流石にヤバい。強力さが跳ね上がるし、目が見えるから狙いも付けられる。俺はともかく、他のモノノフ達は一発でも喰らうと戦線離脱と言うかこの世から離脱確定状態だったんで、一旦下がらせて俺が時間稼ぎに徹する。

 目からビームとか竜巻とか口から炎とか、色々やってきたが……時間を稼ぐだけなら問題ないんだよね。上半身が出てきてるから、閃光玉も効いたしね。更に耳に音響玉まで放り込んだから、目と耳は暫く使い物にならなくなった。その間に、上半身を出していられるタイムリミットが過ぎて、また下半身のみに戻る、と。

 今思えば、上半身が出た状態ってマガツヒ状態だったのかなぁ…。

 

 

 でも、問題なのはタマハミ状態になってからだった。

 ホロウの予測、大的中。嫌な予感ほどよく当たるのは、誰にとっても同じ真理らしい。

 

 タマハミ状態になったマガツミカドの……なんだその、下半身の中?(としか言いようがない)から、こう、ニュルっと、ズゾっとね。アレだよ、アサ次郎の腹の中から、真アサシンが出てきたみたいな。

 デカくて太い触手が2本生えてきてさぁ…。そのまま…ギュウギュウ詰にされた箱から這い出てくるように、構造はミズチメに似てるけどもっとごっつい姿の鬼が…ネクチメが出てきた。

 出てくるなり、ネクチメが地面に触手を突き刺して、なんかエネルギーを取り込み始めた。…ナルホド、オオマガトキの為の塔のエネルギーをどうやって利用したのかと思ったら、コレか。こいつの能力を使って、貯めこまれたエネルギーを喰ってた訳か。多分。

 

 

 腹を裂かれたマガツミカドは流石に動けなくなってたんで、そっちだけでも仕留めておきたかったが、ネクチメがもう暴れ回る暴れ回る。

 岩石飛ばしまくってくるのはまだいいとして……なんだ、あの二足歩行。しかもご丁寧にモデル歩き、何処からから霊力籠った光源が…。つい目がいくのも仕方ないだろう。何処で覚えてきたんだ。

 

 それに目を奪われている間に、マガツミカドがまた動けるようになっていた。何と言う間抜けな不覚。

 しかも、体内に封印されている鬼がいなくなった為か、上半身が出ていられる時間が長くなり、行動スピードも速く軽やかになっていた。

 

 

 

 …あそこでこっちに襲い掛かってこられていたら、完全に終わってたかもしれん…。初っ端からマガツミカドとネクチメが殴りあってくれたおかげで、何とか体制を立て直す事ができた。

 やっぱり、争っている所を纏めて封印されていたのだろうか。

 

 しかし話はそこで終わらなかった。ネクチメのモデル歩きからの竜巻旋風脚っぽい攻撃が直撃すると、またマガツミカドが仰向けに倒れて……またしても腹が裂かれて鬼が出た。

 こいつはトヨコノキミに姿が似ていて、どことなく女性っぽい…ような気がすると言うか、そもそもトコヨノキミの姿を見た事があるのは俺だけだったんだが、とにかく命名。咄嗟だった為、ネタに走れなかったのが残念だ。

 トコヨノキミとは確か一度やりあった…か? 千歳と一緒の時に目撃したような気がするが、その辺から記憶が曖昧になってんだよな…忌々しいクソイヅチめ、毎度毎度…。

 

 と言うか、あの攻撃はなんじゃい。術主体なのはいい。俺達だってタマフリは使う。でもさ、鬼の側が破敵の法モドキ使うってそれ有りかよ…。フレーム回避もできやしねぇ。いや成功した試しがないんですがね。

 ただ、鬼の目鷹の目で注視すれば、超凝縮された小さなエネルギー弾が、誘導付きで速射されているのが見えた。…見えたからって、警告を出すのも間に合わんけどな…。富獄の兄貴も、悪寒を感じて咄嗟にガードするも、その上から吹っ飛ばされた。速攻で右手を切り落としたが、それまでに2人戦線離脱。

 

 

 そして更に更に、話は絶望的なまでにややこしくなる。

 いい加減、俺もそろそろ5分後の戦闘脱落を考慮に入れてでも、切り札を切るべきか…具体的には限界までアラガミ化戦闘するべきか、覚悟を決めた頃だった。

 

 

 まぁたマガツミカドが仰向けに倒れた。いや、確かにこれの切っ掛けは、座禅汲んで光弾を振らせて来るマガツミカドにブチ切れた初穂の空中攻撃だったんだけどね。具体的には、股間に鎖分銅が…ばっちい、エンガチョ。

 都合三度目の割腹である。こいつの腹はどうなっとんのじゃ。

 

 

 …出てきたのは、どっかで見た事がある、しかし記憶と違って金色の2本の触手。

 

 

 

 

 …だったんだけど、俺が覚えているのはここまでだ。頭の中でなんか切れるような音がした…気がするんだが、次に我に返ると全て終わっていた。

 4体居た鬼達は全て倒れ、その内の1体は原型をとどめないくらいに破壊されている。と言うかこの傷跡、明らかに鬼杭千切りなんですが。

 

 呆然としていたが、後ろから声をかけられて我に返った。…そしてアラガミ化していた事に気が付いた。……もちろん、背後にいる皆様方には、バッチリ見られてしまっております。…どないしよ。

 

 

 

入滅月

 

 とりあえず、里に帰ってはこれました。

 皆との仲も…まぁ、ちょっと微妙な雰囲気は残っているが、険悪ではない。アラガミ化(鬼化という事になっているが)の事については、紅月が無害を保証し、初穂も知っていたと言う事で一旦追及は無し。後で説明はさせられるが、正直初穂に話した程度の事しか言えない。

 グウェンは好奇心だか憧れだかに目を輝かせていた。相変わらず少年の心を忘れない女である。

 

 桜花が絶対安静状態なのを見て橘花がひどく狼狽えたが、無理もない。正直、一見すると敗残兵と間違えられても仕方ない有様だったもんな。

 とりあえず命に別状は無いと知って安心していた。橘花は暫く、桜花の世話をするつもりのようだ。

 

 那木は…無理してタマフリを使い続けた為、こちらも暫く行動不能だろう。オカルト版真言立川流で生命力を送ろうにも、行為に耐えられるだけの体力が無い。…まぁ、キスでの霊力循環くらいなら大丈夫か。時間をかけて体を治してもらわないとな。

 

 大和のお頭は、やはり再度戦場に立つ事はできそうにない。木綿ちゃんは「帰ってきてくれただけで」と言っていたが、これから杖を突いて歩くお頭の世話をしなきゃならんだろう。精神的なショックも大きいと思われる。

 

 

 そして俺はと言うと…顔面骨折・打撲裂傷数知れず・火傷・凍傷・よくわからんエネルギーによる、よく分からん属性やられっぽいナニカ・左腕切断・右わき腹と言うか肝臓貫通・丸呑みされて腹ブチ抜いて出てくる事2度・鬼杭千切を乱発して鬼をぶっ潰し、更に死体蹴りで素材も残らんほど殲滅した反動で全身ボロボロ・更に戦闘中に完全に理性が失われていた為、精神疾患などの疑いすらかけられている。

 まぁ、最後の1つ以外は、全てアラガミ状態の超回復で全て治っている訳ですが。ちなみに記憶も自覚も全然ないので、上記の記載は大暴れしていた俺を見ていた紅月からの証言である。

 

 と言うか、こりゃアレだな。怒りのあまりに、アラガミ状態+ブラッドレイジが勝手に起動したっぽいな。那木の証言によると、怪しげな薬を何処からともなく取り出して飲んでいたらしいが……多分、3つの世界の各種パワーアップアイテムだろう。…あ、狂竜身の薬も無くなってる。そこまでやったか。

 

 

 俺がそこまでプッツンするのも、ある意味道理と思うべきか。マガツミカドの腹から出てきた、最期の1体……カガヨウモノと名付けられたこいつは、どうにもイヅチカナタのそっくりさんのようだった。

 想像するだに悍ましいわ。そんなんが居るってだけでも、ハラワタが煮えくりかえる。

 

 俺やホロウが追っているイヅチカナタとは別物なのは確からしい。下手をするとイヅチカナタ以上の力を持っているが、周囲の因果を奪う力は全く振るわれていなかったらしい。

 封じられていた影響なんじゃないかと思ったが、それならそれでやっぱり千歳やシオを喰いやがった奴とは、やっぱり別物だ。

 

 

 

 しかし、そいつを見た瞬間に俺がブチ切れて意識記憶すら失うってなぁ…。確かにそれくらいの怒りと憎悪とその他諸々の、昼ドラがおままごとに見えるくらいのドロドロの感情を持っているとは思うが、そこまでだったか?

 少なくとも、九葉のおっさんと会った時にイヅチを見たが、意識も記憶も消えなかったぞ。他の鬼とか救助とか放り出して、たった一発叩き込む為だけに戦線を放棄したのは否定できんが。

 

 しかも、今回ブチ切れた相手はイヅチ本体じゃなくて、そのソックリさん。……なぁんかおかしくね?

 

 

 

 ま、その辺の考察は後にしようか。差し当たり、里をどうやって守るかが重要だ。百鬼隊のおかげで人手は足りているんだが、やはりエース級には及んでない。

 正直言って、人員的にギリギリである。実働班のリーダーである桜花は戦闘不能。橘花の動揺のおかげで、里の結界は非常にもろい。

 大和のお頭にしたって、知略や信頼感こそ揺らいでいないものの、覇気という点ではやはり何処か衰えがある。…逃げられない大和のお頭に、木綿ちゃんがここぞとばかりに人参食わせまくってるからかもしれないが。

 相馬さんは…戦おうと思えば戦える状態だが、木綿ちゃんの「無理しちゃ駄目です!」という一言で止まっている。

 

 今まででも、俺達が到着してなんとかギリギリで戦線を保っていたと言うのに、これに欠員が出るとな…。

 

 

 

 

 

 俺の狩魂が覚醒してしまうではないか。最近は性欲の方にエネルギーが行っていて、キチガイみたいな狩り方はしなかったと言うのに。…息吹に言わせると、イヅチモドキを滅殺している俺は今までに見た事がないほどキチっていたらしいが。

 

 

 

 まぁ、フロンティア行の前哨戦と考えれば、狩魂覚醒もいいんじゃないかなーとは思う。…それでどうやったら死ぬのか分からなくなってしまうが、どんだけ強くなっても死ぬ時は死ぬのが俺クヲリテヰだ。俺じゃなくても死ぬときゃ死ぬが。

 差し当たり、アラガミモードも知られてしまったし、自重しなけりゃ里の防衛も出来るだろ。幸い、鬼達も指揮官級が軒並みくたばっているようで、里を大挙して襲撃してくる気配はない。

 異界を散策して、デカブツを優先して狩ってりゃ戦力補充も追いつかないだろう。

 

 …アレだな、大戦争の後に、両方とも戦える力が無くなって、事実上勝者無しって状態が一番わかりやすいか。

 そういう時って大抵アレだよな。他所の第三者…か、足元で燻ってた火種が燃え上がるよな。鬼……が動けないなら……霊山の不穏分子か、陰陽方か…触鬼…は一応陰陽方だな、作ったの虚海だし。

 

 

 ふーむ……霊山の方は九葉のおっさんに、大和のお頭を通して聞いてみりゃよかろ。俺が直接聞くより、多分そっちの方がいい。なんかよく分からん信頼関係とかあるっぽいし。

 虚海は…そもそもあいつ、何処にいるんだ? 

 

 虚海の目的が、自分の呪いを解いて元居た時代に帰る事、と言うのは本人に吐かせた。シモ関連の尋問で。そんで、その鍵が「暗黒翡翠拳奥義ホロウがいただきます」………ん、なんか違うぞ?

 とにかく、翡翠の無駄飯喰らいこと「ホロウおねえちゃん」が時代を飛び越える鍵だと考えているようだ。

 その本人が里に居ると言うのに、全く接触が無い…。

 

 考えられる可能性としては、まだホロウの事を知らないか、或いは実はもう接触していて、俺が知らないだけなのか。

 何にせよ、一騒動ありそうだなぁ…。

 

 

 

 

入滅月

 

 

 那木の生命力回復という名目で、イチャコラックス(ポリネシアン風味)している最近、皆さまどうお過ごしでしょうか。ワタクシは那木に優しくじっくりねっとりシている分、他のメンバーにはそれはもう悪辣なイヂワルを施しております。でも悦んでるから別にいいよね。

 

 戯言はともかくとして、霊山とかに不自然な動きが無いか、大和のお頭に聞いてみた。枕元に置かれた、ニンジンのお菓子が哀愁を誘う。

 

 

「ふむ…。お前は、また何かしら得体のしれない敵が出てくる、と考えている訳か。…年に見合わん実力を持っているとは思っていたが、そういう所もあるのだな」

 

 

 ? …どういう事だ、お頭?

 

 

「問題と言うのは、マガツミカドのように明確な形で出現するとは限らないと言う事だ。いや、むしろ確たる形を持っている分、その方が余程対処しやすいと言えるだろう」

 

 

 …そうかぁ?

 

 

「簡単に対処できる、とまでは言わんがな…。そもそも、問題と言うなら里の現状こそが問題だろう。戦力が半減し、里の守りが非常に手薄。それ以前に、人間は徐々に生活圏を異界に奪われ、間違いなく破滅に追いやられている」

 

 

 …まぁ、そういう問題に比べればマシではあるか…。

 

 

「そもそも、マガツミカドのような規格外との遭遇なんぞ、オオマガトキの真っただ中でも無かったぞ。だからと言って、今後一切ないとは言わんが……敵とは、明確な形を持って現れる者とは限らないのだ」

 

 

 ……う゛~~ん゛………。

 

 いやね、大和のお頭が言ってる事も分かるよ。現状は問題だらけだけど、それらはこれまでの行為の積み重ねで出来上がったものだ。面倒事や問題だって、明確な世界の危機よりも、徐々に徐々に腐敗して壊死していく方がよっぽど厄介だ。

 某それも私だマンみたいに、全ての元凶を自称するようなヤツが居るとは限らない。むしろ、そういう事の方がよっぽど少ない。

 全くないとは言わないが、低すぎる可能性に対して多大な労力を注ぎ込むのは浪費以外の何物でもない。 

 

 

 でもね、それは普通の状況ならの話なんだよね。

 

 

 大和のお頭が楽観主義に走っているとは思わんけど、揉め事は起こる。確実に。何者かが黒幕として引き起こす形で。

 だって俺ってそういう状況に居るんだもの。この世界がゲームに酷似している上に、そのストーリーをなぞるように進行……進行…………うんまぁ大体の流れではなぞるように進行しているのは間違いない。

 と言う事は、とてつもない危機が襲ってきて、何かしらの倒すべきボスが居て、それらを打倒して感動の(かどうかは保証できんが)エンディング。この流れはほぼ確定したようなものだろう。…俺がデスワープしたりしなければ。

 

 とにかくアレだ、俺が揉め事を引き寄せてるのか、それともシナリオの都合なのか知らんが、間違いなく知らない敵が、2段3段と続けて出てくる筈だ。

 

 

 

 とは言え、これを根拠にして説得しろと言うのも無茶な話だ。時間を飛び越える力を持ったホロウや、常人では理解できないオツムを持った博士は割と信じてくれたけど、大和のお頭が信じるか、と言われると…。仮に信じたとしても、里の指針を決める為には、もっと明確な根拠が必要だろう。

 ……やはり、先手を打って虚海を捕縛すべきだろうか。今この時期にどうなのかは微妙だけど、アイツが行きそうな所なら心当たりがある。

 

 いつぞや、俺が虚海如きにデスワープさせられるハメになった場所…あの雪原へ続く、結界石の洞窟だ。

 あそこには、触鬼の触媒が埋めて隠されていた。俺が迂闊にそれを取り込んじまったもんだから、また一歩人間から遠くなったんだよな…。取り敢えず 行くだけ行ってみるか。もしも虚海に遭遇したら、その場でフン縛るって事で。

 

 

 

 そのような算段を立て、出発の準備。あの洞窟までそれなりに距離があるが、鬼疾風マジ便利すぎる。あそこなら半日あれば余裕で往復できそうだ。

 そんで、さぁ出発…と言ったところで、相馬さんに捕まった。

 いや別に、初対面の時みたいにいきなり抱き着かれた訳じゃないけどさ。どったのん?

 

 

 …何? 連れていけ?

 

 

 

 

 そんな訳で、ノコノコとお耽美系英雄殿と一緒に、結界石の洞窟まで出かけてきたのだった。もしも相馬さんが本当にお耽美系の人で、こっちにそれを向けてくるようであれば、冷たい洞窟の壁の中に死体が一つ埋まる事になっただろう。

 しかし幸いにして、ソッチのケはないらしく(モノノフの間では、衆道は廃れているらしい)どうやら探し物の為にここまで来たらしい。

 

 探し物…探し物……相馬さんの探し物っていうと、オオマガトキの生き残りの一般人? そういや、結局誰も見つかってないんだよな…。初めて会った時は、俺がその立ち位置に収まったけど。…あのループの、霊山の会議で何をやらかしたのか、未だに思い出せない。

 他に何か言ってたような気もするが…思い出せんな。

 

 

 そっちも見つからなかったが、俺の探し物も見つからなかった。虚海は居ないし、地面に埋められた触鬼の触媒もない。うーむ、完全にハズレか…。

 残念ではあるが、見つからんものは仕方ない。

 考えてみれば、何かが起こるのは確定としても、それが文字通り間断なく続くとは限らないのだから、今は休息&準備の時間と割り切るしかないか。

 

 

 

 

 後はオタノシミの時間ですな。

 

 

 

 

 と言う訳で、今日のエロ語りのお時間である!

 最近は一対一での行為が多め。那木の体力がまだ戻り切ってないんで、あまり激しい事はできないしね。那木と一緒に過ごす夜は、手を出さずに添い寝で終わる事もある。

 橘花、グウェンはまだまだ経験値が足りてないので、仕込の最中。

 自然と、初穂と紅月に欲望が集中する事になる。

 

 最近は奇をてらっていたと言うか、ちょっと特殊なプレイが多かったからな…。初穂に使う囁きの術なんぞ、その最たるものだ。

 …そうそう、エロ語りとはちょっとズレるが、俺の声一つで初穂が発情状態になってしまうのが、一応の解決を見た。要は、特に力の乗ってない俺の声にも過剰反応してしまっているから、発情状態になってしまうのだ。

 なら、力を載せた声ならどうか? …試してみた所、強制力付の命令になってしまう事が発覚した。興奮、沈静、混乱、喜び、悲しみ…ある程度であるが、感情や思考までも操作できる。

 …殆どマインドコントロールだ。オカルト版真言立川流中伝、思っていた以上に危険な技のようだ。

 

 しかし、こういう事なら話は簡単。(後遺症が怖いが)一言二言命令してやればいいだけだ。「日常生活では過剰に興奮するな」「戦闘には集中しろ」。これだけでいい。

 後者のお陰で、集中力や精神力が跳ね上がったのは予想外だったが。

 

 

 話がズレたが、紅月へのオタノシミは、ややノーマルなモノに戻っている。原点回帰と言うやつだ。…最初の方から足を使うとか、紅月自身が割とアブノーマルだったが。

 行為が普通のものに戻った為か、紅月の羞恥心が強くなっているようだ。普通だからこその、真っ当な恥ずかしさ…なのか?

 正面から抱き合って、行為の最中に顔を見ると、顔を赤くして声を抑えようとする。それを文字通り突き崩すのが、実に楽しくて堪らない。

 

 更にいうなら、先日の観音様クチュクチュプレイで緊縛…と言うより拘束プレイに目覚めかけているらしく、両手を押さえ込みながら突き上げ抉ってやると、各段に反応が良くなった。

 うぅむ、流石は熟女ボディ。エロい事どんどん覚えていきますな。

 翻弄されて身悶えする姿が実に様になる。一方で貪欲な姿も似合うんだから、中々にエロい才能を持っている。

 

 

 一方で、初穂はと言うと…激しくされるのがお好みのようだ。M気質…と言うよりは、激しいプレイ=大人なイメージがあるらしく、ちょっと煽ってやるだけで大抵の行為に乗ってくる。俺の声による相乗効果もあると思うが。

 尤も、それで羞恥心が消えるかと言うとそうでもなく、以前のように我を忘れる訳でもなく。

 …我慢できずに、自分からどんどん激しい行為を求めてくるようになった。

 リアルJC年齢相手に、ここまでやるっていいのかな…いや倫理面がアウトなのは今更なんだけど、肉体的には充分ついて来れるってのが恐ろしい。考えてみりゃ、この年で鬼なんぞと渡り合うモノノフ一人前なんだもんな…肉体的なポテンシャルはトップクラスなんじゃないだろうか。子供なのはシモのケだけか。

 …そのトップクラスJC年齢に、今から仕込んでいったとして……将来どうなるのか…考えただけでオッキするわい…。

 

 

 うん、いいのかなーなんて考えてたけど、よくなかったとしても別にいいよね! どうせ俺の欲望が止まる筈ないんだし。デスワープしても。

 精々楽しんで楽しませて…まぁ、将来何らかの理由でフラれちまったとしても、後から思い出して「多少は良かったかな」と思える程度になればいいか。…どんだけ気持ちよくて興奮できたとしても、俺みたいなのに弄ばれた記憶が全うな思い出になるとは思えんしね。まぁ、それを決めるのは俺じゃないんだが。

 

 

 

 

 橘花? 流石に姉が絶対安静状態で、そっち系に走るつもりはないようだった。看病している間に、余計な事を口走らない事を願う。まぁ、そうなったらそうなったで、かつてのループでこっそり確保していた、橘花同様の遊びに興じる桜花の写真が繰り出されるだけだが。そのままヤる事やるか、くっころ展開に発展するかは知る由もない。

 

 








追記 エロが解禁されたら、度々エロ描写挟みたくなって歯止めが効かない件。
大歓喜?


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225話

R-18タグ付けた直後付近の執筆分です。
ぬぅ、どうにも調子が出ない…。
日記形式(一応)で主人公の描写ばかりだった為か、キャラのセリフ回しが…。

あと、タグ付けた日から閲覧PVが+1,000くらいになってるんですが。
やっぱアレかな、R-18限定とはいえランキングに常駐状態になったからかな…。
いや一時的な効果だろうとは思ってるんですけども。


あと、何となく新章としてR-18タグ突入編を付けてみた。


入滅月

 

 

 ここ数日、百鬼隊の皆さんと話す事が多い。ま、里の防衛とか色々やってもらってるからね。

 流石の精鋭部隊と言うべきか、今の俺から見ても練度は高い。個人としての力量はともかく、集団としての纏まりで言えば、今まで出会った人たちの中でもトップクラスだろう。…まぁ、中に腐女子が混じっていたとしても、些細な事だ。オープンじゃないし。

 

 そんな百鬼隊だが、相馬さんが暫し戦闘不能になった状態でも殆ど動揺はない。互いの力量に信を置いている為か、或いは相馬さん本人がドッシリ構えて、いつも通りの笑い声を響かせているからか。

 …不安要素があるとすれば、相馬さんがどーみても木綿ちゃんに気があるように見える為、性癖的に疑いを持っているのが数人いる程度か。いや、木綿ちゃんもモノノフ基準なら、立派に大人な年齢なんだけどね。

 初穂より大人なのかは…年齢や経験ではなく、ケの有無で判断すればいいだろう。まぁ、誰がそれを確認するんだって話だが。俺も今回は全然接点無いし。

 

 

 大人云々で思い出したが、相馬さん三十路超えてたのか…戦歴を考えれば不思議ではないんだが、見た目を考えると不思議極まりないな。性格も二十歳前半と言われた方が納得できる。

 まぁ、年齢云々に関しちゃ、どの世界も異常な連中ばっかりだもんな…年齢不詳の榊博士なんぞ、まだいい方だ。種族柄からして寿命が違う、竜人属なんてのも居るし。

 

 と言うか、それ以上に予想外だったのが、マホロバの里の博士が33歳だって事だ。話してる間に、紅月がポロッと零したんだが…年齢の話は紅月にとっても割と急所なので、すぐに話題をそらしていた。。

 

 

 

 話を元に戻す。博士33歳と聞いて、未成熟に見えたボディがどんな熟れ具合をしてるのか興味が沸いた事は否定せんが、アレの目の前でマッパで眠った日には、翌日どんな状況で起きるか分かったもんじゃないからな。やるなら、足腰立たず、夕方まで目が覚めないくらいにハードなやり方にせねばなるまい。

 

 …今度こそ元に戻すが、百鬼隊の事でちと分からない事がある。と言うのも、相馬さんが里で療養中にも関わらず、隊の数人が頻繁に異界に出入りしているのだ。

 別に異界に行く事自体はおかしくない。何せ百鬼隊も、モノノフ、鬼を討つ鬼だし、その実力も3人くらいいればエース級なので、討伐に出たっておかしくはない。

 しかし、常に誰かが異界に潜っていると言うのは、聊か頻度がおかしくないだろうか? ……いや、俺が言っても説得力無いかもしれんがね。

 

 

 何かの策謀、陰謀…ではないだろう。相馬さんがその手の陰険なやり口……と言うか手の込んだ手法をとるとは思わん。やるなら正面切って無駄に堂々とケンカを売るタイプだ。

 『英雄』である為、『英雄』であるが故、まぁ理由は色々あるだろうが。

 

 

 

 

 まーあの人の場合、正面切って聞けば大抵の事には答えてくれそうだ。……別に聞く必要もないか。害になる訳でもなし、わざわざ首を突っ込むような事でもない。

 一緒に飲もうと誘われてるから、その時に話の種になるかな、ってくらいだな。

 

 

 

入滅月

 

 

 珍しい事に、博士から手紙が来た。橘花とかぐやの文通のついでのようだが……内容はよく分からない。手紙っつーより、設計図だなこりゃ。次のループで博士に送れ、って事か。

 紅月にも、西歌のお頭から手紙が来ていたようだ。流石に中身は見せてくれなかったが、里の立て直しは順調らしい。鬼の手の量産体制も整いつつあり、外様と鬼内の反目も、徐々にマシな状態になってきているそうだ。

 

 …それについて、かぐやが西歌のお頭のやり方を支持したのも大きい。

 これは橘花に届いた手紙から知ったのだが、かぐやは外様達の状況を教えられてなかったのだそうだ……つまりは、外様達が結界に守られず、鬼達に襲われたら大きな被害が出るであろうと言う事を。

 まだ幼いかぐやに、精神的な負担をかけさせない為だったのか、外様の事を気に掛ける必要などないと思っていたのか。何れにせよ、その思惑は見事にぶっ壊された訳だ。西歌のお頭が、里の復興の為と称して連れ歩いたのだとか。

 

 …かぐやにとってはショックだったろうな…。アレは周囲が想像している以上に聡い子だ。窮屈だ退屈だと言いながら、これから自分が継いでいく、神垣の巫女という役割がどれだけ重要か理解できる程には。

 その重要な役割が、実際には里の住民全てに及んでいた訳ではない。しかも、その一因は自分を守っている鬼内達の悪感情…。

 精神的に歪んだりしなければいいんだが。

 

 

 

 それはそれとして、マホロバの里は近隣に潜む鬼の討伐を、頻繁に行っているらしい。理由としては…まぁ、俺に散々に叩きのめされたから、修練の為が一つ。共同で戦いに当たれば、多少は仲がよくなるかもしれない、というのが一つ。

 …それから、全ての外様が結界の中に移住できた訳ではないからな…。彼らが襲われる危険を、少しでも減らす為だ。この辺は黙ってるみたいだけどね。「外様なんかの為に戦うものか」とか言い出す奴らが居るかもしれない。表に出す気力は残ってないと思うが、いい加減敗戦のショックから立ち直ってるやつとか、逆に拗らせてるやつが出てもおかしくないからな。

 

 更に付け加えると、近々大物…大型鬼と言う意味ではなく、西歌のお頭をして強敵と言わせる鬼を討伐する予定なのだそうだ。その演習でもあるそうな。

 …その鬼、どんな鬼? 割と興味があるんで、状況が許せばマホロバまで一狩しにいくのも……アッはい冗談ですごめんなさい。

 

 ちなみにその鬼の情報はあまり無い。瘴気が濃い場所に留まっており、時折空を飛んで出てくる事くらいしか分からない。しかし、それだけの瘴気を放つ鬼であれば、やはり一筋縄ではいかないだろう。

 なんかヤな予感するな…。マホロバ付近で瘴気が濃い場所、そして空を飛ぶ鬼…。

 となると、いつぞや発見してそのままにしたアイツか? 安の領域の中で、カラクリ石を発掘できないかと地脈を辿って行った際、瘴気溜があって、その中に鬼の気配がしてたんだが…。

 確かあの時は、もうすぐ飯の時間だからさっさと引き上げたんだったっけ。是非とも無事に殲滅してほしいものだ。あの時、飯と鬼討伐を天秤にかけていなければ…なんて後悔を抱えたくはない。

 

 

 

 

 さて、それはそれとして、ようやく那木が戦線復帰できるくらいに回復してきた。オカルト版真言立川流が使えなかったもんで、回復に時間がかかったなぁ…。

 安静にしている間、何度かお誘いがあったのは言うまでもないが、まー流石にね…。………別に、飢えさせる為に我慢させていた訳ではない。復帰一発目は、盛大にヤるつもりなのは否定できないが。

 まぁ、復活記念と言う事で一際ハードな内容になりそうなのは事実だな。グウェンに色々仕込んだから、ここぞとばかりに仕掛けてくるぞ、きっと。

 

 とりあえず、ちゃんと動けるようになったかを確認するのが最優先。…と言う名目で、ちょっとしたデートの後、そこらの鬼を狩りに出る。

 …やっぱちょっと鈍ってるかな。いや、でもタマフリの効果は強くなってるか?

 聞いてみたところ、安静にしている間、瞑想やら何やらを続けて、精神的な修練を積んでいたのだそうだ。

 

 

 

 

 ……黙り込んでじっと座っていた所なら何度か見たが、あれって妄想に浸ってたんじゃなかったのか。

 だって時々口元が歪んでたり、そのまま布団に潜り込んだと思ったらモゾモゾと…。

 

 分かった分かった、俺は何も見なかった…いや見てたけど、結局俺がナニもしなかったのが悪かったってんだろ。ったく、回復するよりも肉欲を満たす方が優先とか救いがたいな。そうさせたのは俺だけど(充足感)

 

 

 

 さて、鬼の討伐も終わった事だし、帰ってオタノシミの続きと行きましょう。何だかリミッターが外れたような気がするしな! 具体的にはメタネタR-18タグ。

 

 

 家に帰ってきてから、最初は風呂に入って体を清めてから…って考えてたんだけど、那木の方が我慢できなかった。人目が少ない夜道なのをいい事に、腕を組んで那木パイを押し付けてくるんだよなぁ…。

 明らかに乳首立ってました。和服だからね、分かりやすいんだよね。那木も誘惑する為か、サラシを緩めて抱き着いてきたし。

 勿論、されるがままになる俺ではない。掴まれている腕の指先は、こっそり服の下に侵入して、おマメさんを弄り回しておりました。一番敏感な部分だけど、そこは触り方で十分加減が効く。那木が何とか立って歩ける程度には、感じさせられる。

 家に着くころには、腕を組むと言うよりは縋り付き、明るい所でよーく見れば股座の衣服が濡れて張り付いているのが分かったであろうくらいには準備万端。

 

 一風呂浴びよう、という提案は、那木にしてみれば一週間我慢しろ、と言われているに等しかっただろう。

 その提案を受け入れる筈もなかった那木は、最初は素直に頷き、俺に先に風呂に入るように告げた。…この時点でもうお察しだろうが、3分と立たずに裸の那木が入ってきましたとも。

 

 ソーププレイの為、ローション(と言っても、異界の素材でできた類似品だが)を準備していたが…まぁ、使う暇なんぞなかったな。狭い浴室の中で飛びつかれちゃ、避ける事も押し返す事も…できなくは無いが、危ない。

 いつもの那木なら、まず接吻から入るだろう。オボコだった頃に比べれば大分貪欲かつ肉欲に正直になっているものの、そういう所は変わってない。

 しかし、今日の那木は、接吻は接吻でも、俺の股座への接吻から始めた。それこそ、童貞が女の股に飛び込んで触れようとするかのような勢いで抱き着いて、男を勃たせる為だけの行為に没頭する。

 

 元々、こうなる事を期待・予期して半立ち状態だった事もあり、あっという間に那木の口に収まりきらないくらいまで大きくなった。名残惜し気に、最後に先端部分に一つ口付けをした後、すぐに対面座位になって肉の穴に棒を捻じ込もうとする。

 

 俺としては、気持ちいいとかよりも先に「珍しいな」という感想が出る。那木の行為は、完全に肉欲を満たす事のみを考えた動きだ。その証拠に、今夜は…俺の腕に縋って家に戻ってくるまで、そしてこうやって繋がり始めるまで、俺と那木との間に会話は無い。耳元で漏れる、獣のように荒く、今にも途絶えそうな呼吸の音だけが聞こえている。

 彼女がこうまで一方的に動いた事は無い。紅月と一緒になって俺を押し倒している時でも、自分よりも俺を気持ちよくさせようとする。

 それが、こうも欲望のままに振る舞うと言うのは…。

 

 つまり、それだけ味を覚え込んでいる訳だな。俺の味を。…うん、イイネ! 知的な女は夜が激しいと言うが、那木は一際それが強いようだ。

 実際、那木のナカは猛烈に熱く、久しぶりの激しい行為に諸手を上げて悦んでいる。具体的には締め付けがスゴイ。欲望のままに貪っている為、テクニックや緩急強弱とは無縁だが、男を自分の中に咥え込んで離すまい、一滴残らず搾り取ろうとするような吸引力には目を見張ると言うか、文字通り白濁が滲むモノがある。

 

 

 

 うっ……ふぅ……。一発目。だがお互い満足何ぞしていない。

 

 

 しかし、那木の体力はそう長くは保たない。肉欲によるブーストがかかっているとは言え、呼吸のリズムも腰の振り方もメチャクチャ、締め付けだって鍛えた筋肉によってただ只管に締め付けるばかりでは、あっという間に力尽きるのは当然だろう。

 だが、それは逆に精神的には落ち着いてきている事を示す。俺が一発出す間だけで、那木が何度痙攣した事か。イキッぱなし、オルガスムスのお手本のような有様だった。

 

 ……ここで落ち着かれるのも、あんまりおもしろくねーな。俺をバイブ扱いしてくれたんだから、今度は那木を玩具扱いさせてもらおう。……累計で言えば、俺が那木を玩具にした回数の方が圧倒的に多いけどな。

 

 

 上手く腰が動かなくなってきた那木を抱き寄せる。心得たものとばかりに、那木も抱きしめ返してきた。胸が触れ合って、柔らかくて素晴らしい感触と、その頂点の突起の感触が伝わる。…その間も、互いの腰は小刻みに出入りを続けている。

 抱きしめ合うと、互いの顎が肩に乗る。耳元で放たれる那木の声は、相変わらず快楽に染まった喘ぎ声のみ。

 

 首を動かし、那木の耳をベロリと舐めてやる。予想外の部分からの愛撫に驚くも、抱きしめ合い、更に半ば腰が抜けている状態で何が出来る筈もない。

 舌先で耳の穴に唾液を刷り込んでやると、目を閉じてうっとりとその感触・音を享受する。

 

 そこから脳へと入り込んでくる、俺の霊力も。

 

 

 

 那木も一度だけ受けた、オカルト版真言立川流・ささやきの術の感触も。

 

 

 淫乱、と囁いてやれば、肯定するように潮を吹く。

 

 自分ばかり気持ちよくなって恥ずかしくないのか、と言ってやれば、「ああ、ごめんなさい、ごめんなさい、旦那様…ああ、でも体が止まらないのです」と懺悔しながら胸元を摺り寄せてくる。

 

 

「家に帰ってくる時も、何度も路地裏に目を向けただろう。何をするつもりだったんだ」

 

「だって、那木は、那木は辛抱たまらなかったのです! 私をこのような不埒な体にしたのは貴方様ではありませんか!」

 

「これ程立派な乳を持ちながら、元は不埒ではなかったと? 独り身の間、見た事もない男のモノを思って何度慰めた? 思い出していってみろ」

 

「今は、今はあなた様だけです…あなた様でなければ、もう満たされません…」

 

「相手が俺であっても、激しく犯されなければ満たされないだろう。この数週間、何度も接吻をして添い寝もしていたのに、こうする事を思って何度も夢にみていたな?」

 

「だって、あなた様の手がすぐそこにあるのに…ああ、触れられぬ事があんなにももどかしい事だったなんて…」

 

「一昨日なんぞ、口でだけでもいいからと強請ってきた程だしな。強欲な女め、仕置きが欲しいか?」

 

「はい、はい! 突いて、抉って、跡が残るくらいにお乳を嬲って、那木のお尻をぶってくださいまし!あなた様のなさる事なら、全てが那木の悦びです!」

 

 

 事実上の肉奴隷のような宣言を自分から叫びながら、那木は自分自身の言葉にも嬲られる。

 ただでさえ、本心からの叫びな上に、先程から続けているささやきの術の影響で、自他の言葉が暗示になってモロに降りかかっている。今の那木は、文字通り被虐の悦びの中に脳みその天辺まで沈み切っているだろう。自分でそう認める事によって、更に戻れない底なし沼に引き摺り込まれる。

 

 対面座位から体位を変え、獣のように背後から圧し掛かる。逃げられないように、片足を掴んで大きく広げてやった。

 腰を動かす事さえ叶わない態勢で、那木を突き殺さんとばかりに激しく腰を振る。望んだ通り、柔らかな乳房を捻り上げ、尻をぶつ音を高く響かせてやると、僅かに残っているらしき正気が抗議するかのように、度々体を強張らせた。尤も、その緊張も、締め付けを強くするだけなので、俺にとっては悦でしかない。

 

 

(さて、俺はそろそろ一発目で、那木は…もうクタクタだけど、理性を剥ぎ取ったこれからが本番か。最初のトドメはどうしてやろうか…)

 

 

 オーソドックスに子宮に注ぐか。ぶっかけ…もいいが、それは恐らく那木が死に物狂いで阻止するだろう。久方ぶりの肉の感触を、最期まで満喫しようとしている。100%の筋力を使ったカニバサミでもくらいそうだ…この体制だと足を絡められないから、媚肉の圧力で抜けないようにするかもしれない。

 しかし、折角ここまで欲してくれているのだから、俺としても最後まで中で愉しませてやりたいものだ。

 何かいい案は……。

 

 

 

 

 あ。

 

 

 

「那木、お前の女陰から、いい音がしているぞ。聞こえているか?」

 

「はい、はい、このようないやらしい音をさせて、申し訳ございません!」

 

「よいよい、この音を嫌うようでは男が廃る。それより、この音に合わせ、お前も啼いて謳ってみろ。こみ上げるままに声を出せばいい」

 

「その、よう、な」

 

「俺の言葉の全てが悦びなんだろう? 遠慮する事は無い、存分に味わえばいい。ここに居るのは、その姿を見たい俺だけだ」

 

「………ッ!」

 

 

 堰を切ったように、那木の声が響き始める。

 ただの喘ぎ声ではない、自分の体の奥に響いている、肉と肉が打ち合う音、汁が擦れて弾ける音、そして俺に吹き込まれるままに自分を貶める卑猥な言葉を口にする。

 

 

「ぱん、ぱん、じゅぶ、じゅぶっ…ああ、私の女陰が、こんなにはしたない音を立てるなんて…」

 

 

 むしろ那木がこんな音を出さなければ、誰が出すと言うのだ。

 そら、それよりも俺のナニが膨らんでるのが分かるか? お望みの絶頂は目の前だ。お前の股座から聞こえる音を、もっと口にするんだ。

 

 

 実際に出せるかどうかは知らんけどね。

 

 

 

「~~~!! ~!!」

 

 

 

 那木の声は、もはや形になってない。肺の中にある酸素は殆ど掃き出し、それでも俺の命令を守ろうとして呼吸しようとする…が、突き上げられる感覚と衝撃の為、必要な酸素が確保できない。…悦楽を覚え込むだけの酸素は取り込ませてるけどな! 理屈は聞くな!

 何れにせよ、那木の体はもう本人の意思を一切無視し、全てを俺の肉棒に委ねきって、何もかもを注ぎ込んで俺に媚びようとしている。

 

 

 そら、思いっきり奥に出すぞ!

 

 

「はらっ、はらみ、ます! はらみますぅ~~~!」

 

 

 残った最後の体力と酸素で、歓びの声を上げる那木。

 先端に、子宮の感触。途端に噴き出した俺の体液が、那木の中心を犯しつくすのが分かった。

 

 

 



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226話

法事の為実家+携帯電話変更に伴うネット環境変更の為、暫くレス返しができません。
ご了承ください。




俺は了承できそうにないがな!
あああああネットができねー纏めサイトも見れねー2chも見れねー携帯は使い方がよーわからん!
どっちにしろ変えないって選択肢はなかったけども…やっぱ壊れてたんだな、あの端末。

あと1話分は投稿予約してあります。

デスワープ後のモンハンフロンティア編については、今からやっても勉強が間に合いそうにないんで、ニコ動を見てにわか知識で書くことになりそうです。
ふがいない話ですが、ご了承ください。


入滅月

 

 

 動けるようになった那木を、また半日ほど動けなくしてから。

 今夜は紅月の予定だが、それは置いといて……言い忘れてたのでここで書いておくが、あの教材プレイの後、紅月と那木にグーパンで殴られました。その後また色ボケ状態になってたけども。

 

 

 

 

 …エロ語りはまた今度としてだな、秋水からちょいと情報が入った。

 虚海に関してだ。最近、秋水とも連絡を取っていなかったらしいのだが、とある筋から虚海の目撃情報があった。

 

 その場所、なんと霊山。虚海は霊山やモノノフから追放された、陰陽方だった筈だが。

 これについて秋水は、何でも無い事のように…実際珍しくもない事だが…肩をすくめて語る。

 

 

「危険な研究ほど、人は利益があると思い込むものです。自分達は特別な立場にいると思っていれば、その危険をやり過ごして利益だけを享受できると思う程度には」 

 

 

 ナルヘソ。追放された陰陽方と繋がっているお偉いさんなんぞ、珍しくも無いと。

 まぁ、それ自体は悪い事とは思わんが。

 

 

「そうですかね? 僕も水清ければ魚住まず、という言葉は知っていますが、自分の住む川の上流に毒が流されていると知って、そうは言えません」

 

 

 お前もその毒の側だろーが。一応陰陽方所属だし。

 ま、いい気分はしないが、俺もどっちかと言うと法の中には居ない人種なんでな。

 

 で、マジな話、虚海はどうしてる? お前の口ぶりだと、ポンコツの分際で結構ヤバい所に首を突っ込んでいそうだが。

 

 

「…虚海さんをポンコツ呼ばわりするのは貴方くらいですね」

 

 

 あれ、ポンコツって意味伝わってる? カタカナはモノノフに馴染みが……割とあったな。

 

 

「そりゃモノノフ自体がカタカナですし、平仮名よりも歴史は古いですから。外来語に疎いのは否定できませんが…それはともかく、虚海さんが目撃されたのは、先程も言った通り霊山です。確かに、陰陽方とは言え、虚海さんが霊山に居るだけなら僕もとやかくは言いません。確かに、強い影響力を持つものには、所謂『寝技』への窓口も必要です。……『寝技』で済めば、ですがね」

 

 

 …霊山に、そこまでヤバい奴がいるのか。お前がそういう程? 虚海がヘマするのはいいとして。

 

 

「僕が虚海さん以上の危険人物扱いされている事に一言物申したいと思いますが…危険です。僕が知っている中でも、5本の指に入る程には。名は識。立場としては、霊山の軍師です」

 

 

 軍師…お前が嫌ってる、九葉のオッサンと同じだったか?

 

 

「…ええ。ですが、恐らく実際の権限としては、あの男以上でしょう。識には上層部と、何らかの繋がりがあるようです。表沙汰にされないような」

 

 

 できないような、ではなくされないような、か。おお、厄い厄い本当に。

 霊山の上も、所詮は人間…か。だからこその、とも言えるけど。

 

 

「さて、どうでしょうね。…軍師九葉が決断したとはいえ、その決を許した霊山も、僕にとっては信頼できる取引相手ではありません。それを差し引いても、やはりあそこは魔窟でしょう」

 

 

 …ふん。

 

 ま、いいか。んじゃ虚海をどうするかって話だが…秋水、お前的に虚海は味方扱いしていいと思うか?

 

 

「陰陽方の中では、まだまともな方ですよ。話もそこそこ通じますし…。しかし、気になるのは虚海さんが識とどんな理由で関わっているのか…です」

 

 

 理由…確かあいつ、元の時代に戻りたいんだっけか。それ以外の事はどうでもいい…とまでは言わないと思うが、まず協力する理由があるとすればそれだな。

 …秋水、お前も興味あるんじゃないか? 過去に戻る方法。

 

 

「それなりの年月を生きた人であれば、誰しも一度は興味を持つでしょうね。しかし、僕は…確かに非常に興味深いですが、あの識と言う男が関わっているとなると…」

 

 

 過去に戻れるかもしれないのに、秋水が躊躇うレベルで危険なのか。ガチでヤバそうだな…。

 しかし、こっちからちょっかいを出せる余裕はない。ウタカタも、百鬼隊を計算に入れて尚、戦力がギリギリだ。

 

 …これを放っておくと、どれくらいの災害になると思う?

 

 

「未知数ですが…時間が経てば経つほど、危険度が上がるのは間違いないでしょう。どうにも、軍師識は何かしらの目的をもって動いており、そのために着々と準備を進めているようです。虚海さんとの協力体制を作り出したのも、その一環でしょう」

 

 

 虚海がそれを阻止するのは…全く期待できんな。

 となると、虚海ごとウタカタに誘き寄せる必要があるか? それも、余計な面倒事を持ち込まない形で。

 …少なくとも、虚海の手元に、一つ面倒事のタネがある。

 

 秋水、お前、触鬼って知ってるか?

 

 

「…いえ、聞いた覚えはありませんし、過去の書物にも記述は無かったと思います。それは?」

 

 

 虚海が作った鬼でな、どんなモノでも取り込んで増殖する性質を持つ。

 かく言う俺も、その触鬼に蝕まれて半分鬼になった身だ。…先日の大騒ぎの際、俺の体が変わったって話は聞いてるな?

 

 

「初耳ですが」

 

 

 あら? …気でも使われたかな…とにかく、俺はこういう事が出来る訳だ。腕だけアラガミッ!

 

 

「ほう…。鬼…ですか? 確かに、虚海さんの半身を連想させるような形ですが、どうにも違う印象を受ける…」

 

 

 虚海の体は、別の鬼に呪われた結果であって、触鬼とは関係ないからな。

 まぁとにかく、こんな風に蝕まれる訳だ。俺がこいつを制御できる理由は分からんが、他の人間が取り込まれたら…まぁ、お察しだな。

 とりあえず、こいつだけでも取り上げておく必要がある。異論はないな?

 

 

「ええ、僕にとっても百害あって一利ないようですしね。さて、そうなると虚海さんをどうやって呼び寄せるかが問題になる訳ですが…」

 

 

 …悪だくみ(世のため人の為と言う事にしておくが)秋水は、実に楽しそうだった。多分、俺も同様の笑みを浮かべていただろう。…いや、何かやらかそうとする虚海を大人しくさせる為、女性から見ればとても許せないような行為すらも想定していた為、もっと醜い笑みだったかもしれない。

 同時期、虚海が言いしれない悪寒を感じたかどうかは、神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

入滅月

 

 

 虚海をまたしてもレ○プするかは置いといて(流石に紅月も那木も怒り狂うだろうし)、こっちに誘き寄せる罠は張った。まぁ、大したもんじゃないが。

 本人にも許可を得て、ホロウの名前を宣伝するだけだ。

 ホロウも名が売れてもおかしくない程度には凄腕だし、鬼の手という珍しい武器の使い手でもある。これに関しては、俺以上の技術を持ってるくらいだしな。

 

 虚海が元の世界に戻る為の最有力候補と考えているのが、ホロウの時間跳躍能力。尤も、本人曰く「イヅチカナタを追いかける機能はあっても、過去に戻る能力は無い」との事だ。それを知った時、虚海がどう感じるかを考えると頭が痛い。

 …というか、クソイヅチは時間を回遊する鬼なんだし、もしあいつが過去に戻れば、追いかけて時間を逆行する事は出来るんじゃないだろうか? まぁ、イヅチの生態自体がよくわかってないし、仮に過去に戻れたとしても、狙った場所に行けるかはイヅチ次第だし、何より俺がデスワープしたら意味なくなっちゃうんじゃないかと思うんだが。

 

 まー仮定の話は置いといて、虚海がまんまと「そんな餌に釣られキョカー」してくれる事を祈ろうか。

 

 

 

 そんな陰謀を巡らせた帰り道、バッタリ桜花と付き添いの橘花に出会った。ある~日、里の中…いかん、これ以上続けると時事的にも規約的にもちとヤバい気がする。

 とにかく、絶対安静状態だった桜花も、大分体が治ってきたようだ。妹に何くれと世話をされている様は、幸せそうでもあり、悔しそうでもある。姉の威厳が…とか言ってたが、そういうのは完治してから言え。

 と言うか、鍛錬どころかリハビリだってまだ早いんだぞ。橘花、何かやろうとしてたら止めろよ。…何かしようとしている時に止めて、リハビリ中に止めない、と言うのは、見ていて辛いと思うが。

 

 

 

 桜花に会ったついでに、里を一通り巡ってきた。思えば、今回は色々と珍しいイベントが多かったものだ。マホロバの里にもう一度訪れたのを筆頭に、イヅチを追いかけているホロウだの新しい武器だの里の戦力丸ごと張り倒すだの、嫁まで押し付けられてウタカタに来たら、得体のしれないデカブツが沸いてでオオマガトキもクソも無くなってるし。

 そう考えて見てみると、ウタカタの里にも相違点は多い。まず目に付くのが、里やその周辺の警備に立つ百鬼隊。やってきた当初は、彼らも警戒されていたものだ。大和のお頭が呼び寄せたのは事実だが、彼らが現れる所では、何かしらの戦が始まる…と言われていたらしい。

 まぁ、実際大きめの戦があった訳だが。

 

 次に目についたのは清磨だ。相変わらずの鍛冶狂いで、タタラさんと並ぶように…或いは追いつこうとするように槌を奮っている。当然、あいつも別ループでは居なかった。…正直、今も影が薄いけど……いやいや、エロの道具を作ってくれるのには感謝してるよ?

 最近は地力を上げ、また使い手を観察する事を覚えた為か、時折茶屋で道行く人を人間観察している姿を見つける。…ジロジロと見るのはよろしくないと、一目二目程度にしているようだが。

 

 更に里を巡れば、異様なスピードで駆け巡るモノノフ達を目にする事ができる。ホロウから伝えた鬼疾風を習得した、警備隊や偵察部隊だ。ただ、やはり完全には使いこなせていないらしく、すっ転んで森に顔面から突っ込む者や、誰が滑ったのか知らないが地面に顔面が擦れた後があったり、「新技閃いた!」と称して大ジャンプしたはいいものの着地でボキッと逝ってしまった者の治療風景など、かなり賑わっている。

 …この高速移動術に憧れて、里の子供達がモノノフごっこをしたり、将来モノノフになると志願しているようなんだが……これがいい結果になるかは本人次第だろう。

 

 

 結界が普段よりも強化されているのも見逃せない。鬼の手は増幅器としてもかなり高い効果を持つようだ。

 …橘花はそれ以上に、移動手段として使っているようだが。桜花と橘花を載せた腕が、スーッと空を横切って行った。

 

 

 …いい事ばかりではない。受付所では、大和のお頭が仁王立ちせず、椅子に座っている。

 貫禄が衰えないのは流石だが、やはり一抹の寂しさを覚える。…膝の上に載っている包みは、木綿ちゃんが作ったニンジン多量の弁当だろうか。

 

 里の警備隊にしても、息吹の復帰にはもう暫くかかる。訓練の監督をやっているが、複雑骨折した腕が治っても、今まで通りの戦力でいられるだろうか。

 

 

 それと、目に見えて実感にしにくい事ではあるが、里の蓄えにも若干以上の影響がみられる。無論、悪い方にだ。

 考えてみれば、それも当然。ホロウみたいな大喰らいが……と言うのは全体の1割程度の影響しかない、多分。百鬼隊という大所帯が訪れているので、その分の食料の減りが早い。

 相馬さん曰く、「経費で落とせはする」だそうだが…金があるのと、食料が無いのは別問題だからなぁ…。ただでさえ、人間は追い詰められてて、日々の食にも困る状態になりつつあるのに。

 GE世界でやらかしたような、MH世界の植物を使った解決法は……実は非常に危険だ。

 やってみて分かったのだが、アレの生命力は強すぎる。相応の栄養を、土地から…或いは自分の隣の植物等から、吸収して育つ。GE世界は、自然が死滅しつつあったが、土地だけはあった。植物が育つにも、適切な距離を開けて育てる事が出来た。

 

 しかし、この討鬼伝世界でそれは当てはまらない。

 限られた土地の中で栄養を奪い合い、繁殖するだけ繁殖して、地を死なせてから自分達も死に絶える、なんて事になりかねん。

 …せめて、異界の中でも育てる植物であれば、話は違ったんだが…24時間毒を送り込まれ続けているようなものだ。流石にMH産も、それでは育つ前に死んでしまう。…何割かは免疫を持ちそうだが、そうなったら植物が鬼化していそうな気がする。

 

 

 …不景気な話が長くなった。

 ちょっと意識を切り替えて、イイ話をしようか。修練場で鎬を削っている、パッキンとリアルJC非処女と熟女の話とかどうかな?

 具体的には、セフレと催眠調教済みと嫁(と言う名の肉玩具)だが。

 色々な意味で爛れまくっている3人だが、修練場にいる時は非常に真面目だ。実力的には紅月が飛びぬけているので、彼女が初穂とグウェンに稽古をつける形になっているが、二人とも結構な勢いで腕を上げている。このままいけば、一人前を通り越して、ちょっとした英雄級にはなれるんじゃないかってくらいに。

 やっぱアレかな、名実ともに「オトナ」になったからか? 気晴らしが出来たからか?

 グウェンについては、オカルト版真言立川流でタマフリを使う感覚を伝えたし、初穂には充分な霊力循環により、地力が上がっているのは確かだが…それ以前に、技術の進歩状況がスゴイんだよな。駆け引きも出来るようになっているし、しくじった時のフォローも上手くなってきた。

 

 

 

 …それはいいんだが、こう、ホイホイと飛び回る初穂に、舞うかのような動きの紅月、そして騎士を思い起こさせるような重装甲(モノノフにしては、だが)のグウェン…。この3人が乱取りやってると、チラリズムがさぁ…。

 紅月については言うまでもあるまい。着物にしか見えない装いで、薙刀なんて振ってれば、そりゃ裾も捲れる。無駄な動きを省いている為、あまり大っぴらに翻りはしないが、その分見えそうで見えない感がスゴイ。

 

 逆に、初穂はモロ見え……なんだが、それは目が追いつけばの話だ。ただでさえ鎖鎌は飛び回るから目が追いつかないのに、霊力によってブーストした身体能力、更に効率効果があがった瞬迅印により、TSUBAMEもかくやという動きをやってのけるから、見えたとしてもほんの一瞬なんだよね。

 目に焼き付ける暇もなく、移動してしまうか、見えなくなってしまう。

 紅月の見せないチラリズムと、初穂の見えているけど見えないチラリズム…二つが合わさって、文字通り目が追いつかない。全体を俯瞰する事はできるんだけど、やはり見るなら凝視したいものだ。いや、チラリズムの基本が一瞬のキラメキなので、凝視じゃチラリズムとは言えないだろうけども…アレだ、重要な部分一点を、一瞬のみでも見るから素晴らしいのであって、全部が見えてるけど余計な情報が入ってるようじゃ、チラリズムとは…なんかもう語れなくなってきたからストップ

 

 しかし、これに加えてグウェンが居るのだ。

 盾、鎖帷子、鎧、を着こんでいるグウェンだが、その動きは非常に身軽だ。しかし、反面動く時は慎重に動く。MH世界で言えば、ランスやガンランスの動きだな。

 そんな状態でも、見えそうな時は見えそうになる。具体的には、スカートの意味を為さないくらいに短い裾が捲れたり、ストッキングが伝線したりした時に。

 そんな瞬間、つい目が行ってしまうのだが…どうにも見えない。鉄壁か。

 

 このように、ついつい目が行き、同時に見えないもどかしさを味わわせてくれるのに、当の本人が非常に無防備なのだ。

 激しく動いている時こそ見えないが、逆に鍛錬が終わると、「暑いな」なんて言いながらスカートをパタパタさせたり、「蒸すかな…」なんて言いつつブーツとストッキングを脱いで、素足を晒していたり。

 ああまで見えそうで見えなかった部分が、事が終わった後にホイッと丸出しにされると、どうしても目を取られてしまう。諦めていたモノが、突然目の前に突き出された感覚とでもいうのだろうか。

 

 と言うかアレだな、グウェンを見てると、重武装による重々しさと、本人の気質のギャップがスゴイ。鎧の重厚さが中身の軽快さ明るさを引き立てると言うか………ああ、そうか。

 カワイイ女の子が戦車に乗ってワイワイやってるのと同じ理屈だ。つまりガルパンはいいぞ。うむ、グウェンが可愛いのは真理であったようだ。

 

 

 3人が激しく動き回る事によって、汗に濡れる事も忘れてはいけない。

 季節柄…もう終わりも近いが、まだ夏である…3人は基本的に薄着。グウェンの場合は薄着だけど重装甲気味だが。

 

 そんな時期に、汗まみれになってみろ。

 

 

 

 透けるんだよ。

 

 

 

 透けるトンTって言いたくなるくらいスケるんだよ!

 

 

 

 透けるトンTシャツみたいなんだよ!

 

 

 いや透けるトンは言い過ぎだ、大事な所が見える訳じゃなし、内臓まで素通りで見える訳でもない。腕とかに張り付いた訓練着がスケて肌色成分多めになるが、透明になる訳じゃない。

 が、背中とか首筋とか北半球とか気になる部分が多すぎである!

 くっ、だがしかしここが和風な世界である事が残念で仕方ない! 洋風・現代風にブラとかつけてれば、汗に濡れて透けた服の上から見えるブラのヒモとか、フェティッシュなシーンが見れたのに!

 

 …今更そんなんで、と思うかもしれないが、何かこう郷愁を伴った懐かしさがね…具体的に言えば、突然の雨に濡れてしまった同級生(制服)の背中に、紐状のモノが透けているのを発見したあの日、みたいな? 青春の一幕を思い起こさせる感動と言うか…ちなみに性春は青春が終わってから訪れ、未だ続行中である。

 

 

 こればっかりは、他の男の目についても仕方ないよなぁ…。訓練所で全うな訓練やってんだから、文句をつける方がおかしい。視線がセクハラだと言われても、戦ってる最中にそんな事気にする方がおかしいわ。

 その後、汗を流す為に禊場へ向かうのだが、これがまぁ初穂とグウェンが騒がしい事騒がしい事。紅月は……まぁその、中高の女子校生を引率する(留年しまくった)大学生(強弁)くらいで。

 女三人寄ればナントヤラ、今日のご飯は何にしようだとか、そーいう話をしながら禊場に向かう3人を、野郎共がちょっと前屈みになりながら見送るのが定例行事となった。

 

 …ちなみに「ご飯」は夜のオタノシミの隠語だったりする。ほら、メインがナニでプレイがオカズと言うかね。

 ついでに言えば、俺は濃厚汗だくなオカズを希望しているが、まだ採用された事は無い。ヤッてる最中に汗だくにはなるんだけど、そーいうのじゃなくて鍛錬後に汗を流さずそのまま突入したいと言いますか。…やはり、禊場に乱入してそのまま突入するべきだろうか…。しかし汗を流すの事態は一瞬で終わってしまうからなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日も汗だくオカズは出来なかったが、グウェンが持ち出してきたコスプレ衣装が良いオカズとなりました。

 ……グウェンの本場メイド服見て思いついたけど……和風メイド服、作れないかなぁ。ほらサム○ピの鶴の化身みたいなの。

 いやしかし、あっちじゃメイドは立派で伝統ある職業だし、本場モノをわざわざ崩すのは…。

 

 

「いいんじゃないか? 叔父上も、『同じ格好ばかりで飽きる』と言ってよく改造しようとしていたぞ。メイド達からは不評だったけど、私は好きだった」

 

 

 ……ナントカ卿ェ…アンタって人は…いい酒飲めそうだな。

 

 

 



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227話

色々あって、ネットが使えない工事の日程が変更になった件。
ぬああああん面倒臭い~!


 

入滅月

 

 

 

 息吹の腕が大分回復してきた。これからリハビリに入るので、戦線復帰にはまだ時間がかかるが、むしろいい機会だと思ってより高みを目指すらしい。

 …いつもの冗談めかした言い方だったが、本気だな。

 

 まーあんな鬼が出てくるんじゃなぁ。また同じようなのと会うかもしれない、と言うのはモノノフにとって非常にリアルな恐怖だ。対抗策を得ようとするのも当然か。

 

 

 

 

 それはそれとして、博士からまた手紙が届いた。…そういや、前に送られてきた手紙に返信してたっけな。

 大した事書かなかったし、博士の事だから「そっちの状況に興味は無い。面白い素材があったら知らせればいい」くらいにしか考えてなさそうだったから、日記にも書いてなかった。

 

 

 …で、手紙を開けてみて…また妙な設計図や資料、或いは上記のような「余計な事書くな」みたいな事が書かれてるかと思ったら…予想外の話題に喰い付いてきた。

 「グウェンとは英国貴族イグニールド公爵アレックスの孫の、グウェンドリン・ウィルトシャーか?」と。

 もしそうであるなら連れてこい、とも書かれている。

 

 

 

 

 

 ………誰? いやグウェンの事を言ってるんだろうとは思うけど、そんな名前だったっけ? 

 どこに黒子があるのかも知ってるのに、フルネームを知らないってどうかと思う。

 ついでに言えば、博士がそんな名前と地位をフルで覚えているのも超意外。

 

 

 

 前の手紙には何て書いたっけ…。確かこの辺に、書き損じて丸めた手紙が………あ、残ってた。

 「英吉利のお偉いさん、アレックス卿の孫娘」と書いてある。

 

 …間違い? 卿って、確かイギリスで言えば「ロード」とかその辺…領主って意味だっけ? いや、貴族だったら全員付けるんだっけ? それとも確か中国辺りでそういう言い方が、いや中国はこの際関係なくて。

 家名につけるのか、名前につけるのか。そもそもミドルネームの有無の違いが分からんが、これは関係あるのだろうか。

 

 …いやいや、問題はそこじゃない。アレックス卿とは書いたが、イグイグナンタラとかウィルナンタラは一言だって書いてない。

 偶然…じゃないよな。と言うか、グウェンが持っている宝剣ネイリング(どう考えても疫病神な剣だと思う)の事まで書いてるんだから、もはや確定事項と言っていい。

 

 すっかり忘れてたが、グウェンって人を訪ねて日本まで来たんだったな。なんつったか……カタカナで3文字の人を探していた。

 白炎を呼び寄せるネイリングをどうにかしてほしい、って事だったが…もうそれは必要ないなぁ。叩き斬ったから。再起動もしそうにないし…。

 

 連れてこいとはかかれているものの、その理由は全く書かれていないし、そもそも今のウタカタから戦力が抜けるのは非常にキツい。大型の鬼が殆ど見られない状況でも、だ。

 …いや、だからこそか。今はナワバリに穴が開いた状態だ。今はそこに大型鬼が少数ずつ入り込んで狩られる、を繰り返しているが、遠くない内に確実に元通り、或いはそれ以上に強力な鬼達が入り浸るようになる。

 博士の事だからちゃんと理由や考えがあるんだろうが、流石に連れていけねーよ。

 

 

 しかし、連れてこいという理由の一つは想像できるな。と言うか、ある意味当然の帰結だったかもしれない。

 基本的に表舞台に立たず、閉鎖的な一面を持ち続けるモノノフ達の中で、遠方…違う藩とかどころではなく、鎖国していた筈なのに海の向こう、更に大陸の西側にある国の貴族と交流があるモノノフなんぞ、何人いると言うのだ。

 古代文明の遺産っぽいネイリングをどうにかできるかもしれない、という技術力もポイント。

 

 グウェンが探しているのはまず間違いなく博士だろう。

 

 

 

 

 と言う訳で、確証は無いが、尋ね人が見つかった訳だが……どうする、朝っぱらからイチモツにしゃぶりついているグウェン?

 

 

「んっ……一度は、訪ねないといけないが、まだ、ウタカタから離れられないだろう?」

 

 

 離れられないのは俺のナニからじゃないですかね。にしても、一刻近く延々とタマばっか舐め続けるとは、通な事をしますな。

 後は指先で、先っちょから漏れた汁を塗り広げるだけとは…もどかしさと心地よさと、先端にちょっとだけ鋭くてヌルヌルした感覚…焦らされるのもいいもんだなぁ。

 

 

「そうだな…だから、一緒にマホロバの里まで、来てほしい…。ふふ、この中にあの白いのが詰まっているんだな…。早く私の中に注がれたいと熱くなってるぞ」

 

 

 抱かれ続けたいから一緒に来てくれとは、また剛毅だな。

 しかし、そうなると那木や初穂がどうするかなぁ。紅月はマホロバの里出身だから、里帰り扱いでよさそうだけど。

 

 

「揉めるだろうが、床で話をつければ…いいかな。そろそろ、私も我慢できなくなってきた…朝の一番搾り、私が貰うぞ」

 

 

 このまま口で最後まででも良かったけど、起こしに来てくれた時は好きにさせてるから仕方ないか。

 隣で寝てる紅月が起きないようにやった方がいいぞ。俺的には起きても問題ないけど、下手したら一発目は横取りされるかもしれないし。

 

 

「ああ…んっ……んん…!」

 

 

 グウェンはスカートと下着だけ放り出し、朝日を浴びながら俺のモノを咥え込んでくる。

 おお…上半身だけ見ると、早朝の女大生って感じで爽やかなのに、下半身とのギャップが素晴らしいね。口を両手で抑えて、声を出さないようにしているのもポイントだ。二人きり(紅月は寝ているので除外)なのは珍しいから、じっくり楽しみたいんだろうか。

 

 

「っぅ…いつもより、大きい…」

 

 

 グウェンが時間をかけて、たっぷりマッサージしてくれたからな。棒だけじゃなく、タマもいつもより大きくなってる気がするぞ。

 

 音を立てない為か、上下のピストンではなく、左右のグラインドを中心に動き始めるグウェン。裸じゃないから、腰の括れが見えないのがちと残念。

 直接的に扱き上げる行為ではないので急速な昂ぶりは無いが、自分の好きな部分に誘導しようとするグウェンは実に煽情的だ。俺を使って自慰をしているような構図でもあるが、それもまた良し。

 

 …今度起こしに来る時は、何か衣装を纏って来るように言っておくべきかな。

 

 

 延々とタマと先端だけ責められて高ぶっていた為か、起きたばかりで体がまだ半覚醒状態だからか、催してくるのは存外早かった。………ただし、白い方じゃなくて、水を飲んだら出したくなる方だが。

 どうしよっかな。男の体は、両方同時に出すようにはできてないんだよな。ついでに言えば、「にょ」を我慢してると射精も遠のいてしまう訳で。

 

 …まぁ、オカルト版真言立川流には、「にょ」を我慢したまま射精する技もある訳ですが。何でそんなモンが、と思っていたが、こういう時の為だったのね。

 

 

「んっんっ、ん…どうかしたか?」

 

 

 いや、何でも無い。

 

 

「うん……んん、いつもとちょっと違う感じが……あ」

 

 

 ヒラメイタ!みたいな顔をするグウェン。ただし、明らかに顔がエロい事を考えている。

 

 

「いいぞ。そのまま両方とも、中に出してくれ」

 

 

 おいおい…。朝っぱらから無茶な事言い出したな。

 

 

「私も貴方の前で、何度か我慢できずに出してしまった。かけてしまった事もあるし、これでお相子と言うやつだ」

 

 

 新たな試みに興奮を覚えたのか、グラインドを辞めて、ピストンに切り替えるグウェン。

 いいのか?と聞きはしたものの、了承を得ているなら躊躇う理由も無い。衛生上の問題? オカルト版真言立川流の神秘だよ。まぁ、念の為俺もグウェンも洗浄はするが。

 

 じゃあ、遠慮なく。

 

 

「んっ……っ、っっ…来る…来てる…! あっ……おしっこも…」

 

 

 容赦なくぶちまけられた粘液と液体を子宮で感じながら、グウェンが体を硬直させて痙攣する。目を閉じて深い恍惚に溺れる様からは、嫌悪感など一辺たりとも見られない。

 

 

「ふぅ……新感覚…」

 

 

 新感覚はいいけど、朝っぱらから特殊プレイするなぁ…今日もエロい一日になりそうだ。

 

 

「おはようございます。…まずは朝風呂でしょうか?」

 

「ああ、おはよう紅月殿。そうだな、お互いに洗わないと」

 

 

 洗いっことな。素晴らしいね。だが、グウェンは割と真面目に奥の奥まで洗浄しておく必要があるんで、紅月手伝って。

 奥の壁を目視できるくらいに広げて洗浄するから。

 

 

「紅月殿と那木殿が『教材』になった時のような事をするのか? …激しい事になるな♪」

 

 

 生憎と、朝だからそこまで派手にはやれないよ。

 

 

「そうなのか…ちょっと物足りないから、楽しみにしていたんだが。夜まで楽しみはとっておこう」

 

「そうですね。朝は私達の思うようにさせてくださいますから、色々と試す事は出来るのですが、やはり夜に愛でられる時ほど満たされないのが欠点で…」

 

「朝は楽しいけど、夜は凄いよな。こう、何が何だか分からなくなるくらいに興奮して気持ちよくなって、思い返すと凄い事に…」

 

 

 はいはい、猥談は洗浄の後。風呂が沸いたぞ。紅月だって、昨日は後始末もせずに失神してそのままだったんだから。

 ………まぁ、どーせ風呂の中でもナニかするだろうけど…。

 

 

 

 

入滅月

 

 最近初穂が、ナカに出された白いのを啜ったり啜られたりするのにハマっている件について。

 …味がお気に召したのかしら? ラブなジュースのブレンドが特に。

 

 のっけからのエロ語りは一言で終わらせるとして、異界の鬼達の増え方が、思ったより早い。大型中型を見つけ次第片っ端から狩っているのだが、入り込んでくる数が徐々に増えつつある。

 このままだと、あと一月もしない内に、異界は鬼達の天下に戻ってしまうだろう。…そうなれば、大型鬼討伐直後の滾りをその場で注ぎ込む事はできなくなるなぁ。

 周囲に殆ど敵が居ないから、安心してエロに集中できていたのに。青姦は既に仕込んでたけど、異界でってのは中々できない経験なんだが。

 なぁ那木、どう思う? …イッた直後で聞いてないか。まぁしゃーない。

 

 

 

 さて、放って冷静になってから散策してみるが、以前の異界と違う点が一つある。マガツミカド(下半身)が暴れ回った痕跡が、全く無くなっていると言う事だ。

 流石に異界も地割れや砕けた岩が、勝手にみるみる内に直っていく筈も…筈も………。どこからともなく飛ばされる岩石。ボディプレスや足踏みで出来た穴やひび割れが、その行動が終われば即元通りになっている。…ゲームの中の話だったが…。

 

 …とにかくアレだ、一抹の不安はあるが、ゲームと違って壊れたモノが即元通りになったりはしないのだ。異界であってもそれは例外ではなく、穴や岩石が風化するのには結構な時間がかかる。

 それが無くなっていると言う事は、異界の流動が活発になっているんだろう。妙なものが流れてきたり、そこにあった土地自体がどっかに行ってしまったり。そのクセ、そこにいる鬼達は変わらないのだからおかしなものだ。

 しかし、そうなると………つまり今まで見つからなかった素材があるかもしれないって事だ!

 

 スバラシイ! 実際、パコッてる間に目についた変な形の石を拾ってみたら、ネチョネチョしたので汚れていた(エロ関係の粘液ではなく泥だ)が、軽く洗ってみるだけで宝石みたいなものに変わった。

 持って帰って調べてもらうが、籠っている力的に考えて、上級素材よりも更に上。極級、とでも呼べばいいだろうか。

 

 これが一件だけなら偶然で済ます事も出来ただろうが、同様に強い力が籠った素材が幾つも見つかった。哨戒から戻り、タタラさんと清磨の所に持ち込んだら狂喜乱舞してたな。清磨だけじゃなく、タタラさんまでだ。おーい、そんな踊りして腰は大丈夫か?

 

 まぁ強い武器防具を作れる素材が見つかるのはいい事なんだが…確か討鬼伝のゲームって、続編が出るって話だったよな。もう遠い昔の事に感じられるが。

 続編って事はつまり、それだけ装備の強さが上がり、敵の強さは更に上がっている筈で。当然、その準備の為の素材だって出てくる。

 

 

 

 …これ、つまりそういう事じゃね? 俺の知らないシナリオに突入して、異界で拾える素材もそれに対応するように変化した?

 いや、異界の変化はランダムだし、シナリオに呼応するようにと言うのは……しかし完全にランダムかと言われると証明に困る…。

 

 

 いやいや、問題はそこじゃない。ここに流れ込んできた鬼達は、ここにある物を喰らって力に変える。ここで拾える素材が強くなったって事は、それだけ鬼もパワーアップするって事で。今はまだここに鬼が戻ってきて、それほど時間が経ってないから目に見えた変化が無いだけだ。

 つまりは、新シナリオ突入・新しい鬼・新しい敵・見知っているけど更に強い敵の出現は、ほぼ確定したって事だ。

 やれやれ…俺一人ならwktkするだけなんだけど、里の戦力が落ちているこの時期に、と言うのは勘弁してほしいな…。

 

 まぁ、強敵と戦った後の方が、滾りは強いもんだし……お互い生き残って、楽しむとしましょうか。

 

 

 

入滅月

 

 

 紅月に着せる衣装(紅月曰く『恥ずかしさで死んでしまいそうな』)をどれにするか悩み、本人が嫌がっているので着るか着ないかを布団の中の話し合いで決めていたその日、ホロウが家にやってきた。

 珍しいな、ホロウが俺に用事なんて。同じイヅチを追っている仲と考えれば、もうちょっと絡んでもよさそうなものだが…里に来てからのこいつは、狩りの時以外は大体飯食ってるからなぁ…。俺は俺でエロに忙しいし。

 

 とにかくちょっと待て、紅月を寝かせてから行く。悪いが外での話になるぞ。

 

 

「構いません。代わりに」

 

 

 団子程度ならいいぞ。数量限定だけどな。

 ちなみに言うまでもないと思うが、紅月との話し合いは彼女の無条件全面降伏にて終了し、それこそ何を着せるか真剣に悩む事になった。とりあえず、ファッションショーやらせてから、どの服でヤるか決めよう。

 

 

 

 

 …ホロウの話は、案外真面目なものだった。そして、先日の俺の予測…新シナリオの裏付けをするモノでもあった。

 

 曰く、「千歳から接触があった」と。

 接触と言っても、直接ではない。里に飛んできた鳥が、千歳…と言うか虚海からの遣いであったらしいのだ。尤も、鳥が明言(?)したのではない。ホロウの通訳で曰く、「ヒトと鬼が混じったようなのから、キラキラ光る髪の人間が居るか確かめてくるように頼まれた」だそうな。…鳥にとって、人間の名前を覚えるのは難しい事らしい。

 確かに、意思疎通程度ならともかく、動物と話せるような人間は殆ど居ないし、半分鬼と化しているのも虚海の特徴。まず間違いないだろう。

 探しに探した「翡翠の仮面」……何だっけ、とにかく翡翠のナンタラが、唐突に自分に関係ない所に出現していると聞いて、ガセだろうと思いつつも調べてみた、ってとこか。

 

 鳥は霊山の方からやってきたらしく、今はホロウの家で文字通り羽を休めているとの事。…捕まえて唐揚げにしようとか、考えてないよな?

 

 

「…少しは考えましたが、流石に言葉を交わした相手を食べるのは自重します」

 

 

 …アブねぇヤツ…。

 まぁいい。とりあえず、ホロウの名を売って虚海を誘き寄せる作戦は有効か。遠からず、あっちからウタカタに来るだろう。

 穏便にやってくるかは…あまり期待できんな。あの悪人気取り、妙な事をやらかすぞ、絶対。

 ホロウ、もし直接会う事があったら、何とか説得を頼む。

 

 

「私も千歳と戦いたいとは思いません。口先はご飯を食べる以外にはあまり使わないのですが、善処します」

 

 

 …こいつ、会った時からこんなに腹ペコキャラだったっけ? 確かにその片鱗はあったが、なんか悪化しているような…。

 

 …それはいいとして、やっぱり虚海の説得がどうなるかが一番の鍵だ。

 考えてみりゃ、虚海ほどキャラが立ってる奴が、シナリオに無関係の人間とも思いづらい。俺が全く知らない討鬼伝続編のシナリオに深く関わると思っていいだろう。

 …あれ、でもそうすると、そのお姉ちゃんであり、この時代で巡り合ったホロウもシナリオ関係者っぽいな。んで、そのホロウはクサレイヅチを追ってる……。………ひょっとして、討鬼伝続編のラスボスって、クソイヅチか?

 …考えても仕方ない事か。そうであろうとなかろうと、アレを始末するのは変わりない。シナリオ通りに進むとは限らないが、最終的にアレとカチ合えるシーンが保証されてると思えば、悪い事ではないな。

 

 

 さて説得の方に考えを戻すが、ホロウには虚海を元の時代に送り返す力は無いとの事。

 …藁にも縋る思いで探し続けた希望が、本当に単なる藁だったとしたら、その衝撃と絶望はどれ程になるか。怒りと失意のあまり、虚海が敵に回ってしまうかもしれん。

 以前に会った時にも、ヤケッパチ一歩手前の雰囲気はあったし…。上手く懐柔できれば、俺の知らないシナリオの大部分が無害化されるかもしれん。逆に、本来なら味方に付く筈なのに、敵に回ってしまう可能性もある。…こりゃ考えても仕方ないね。

 

 

「…一つ、いいでしょうか。貴方は虚海とどのような関係でしたか?」

 

 

 どう…って言われても…。今まで2回の繰り返しで遭遇して…。

 

 

「失礼、質問の仕方が悪かった。例えば、虚海の秘密を知っている…秘密でなくても、普通は知らない事を知っていますか?」

 

 

 ああ、そりゃ幾つかあるな。具体的には言わんけど。

 

 

「…ならば何とかなると思います。虚海と接触する際に、貴方も来てください」

 

 

 俺も? …まぁ、いいけど…。何時になるか分からんだろ?

 

 

「ええ。ですので、いつでも動けるようにしてください」

 

 

 難しい事言うなぁ…。モノノフなら当然と言えば当然なんだけど。エロの邪魔が入るかもしれんのはいただけんな。まぁ、そんな事言ってる場合じゃないけど。

 

 

 

 

 

 

 差し当たり、今のうちにたっぷりヤり溜めしておくとしますか。…貯めるではなく、実際は発散なんだが、俺の生態からして溜めるの方が正しい気がする。

 

 



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228話

夜種王様から、応援SSをいただきました。
許可もいただけたので、異伝として公開させていただきました。




イヤッフゥゥゥゥ!マンマミーア!
喜びのあまりに1Lスーパードライを一気してちょっと気分悪い。


入滅月

 

 

 ヤり溜めしようと決断して、兵は拙速を何とやら。早速思いっきりヤらせていただきました。

 残念ながら、橘花は不参加。桜花が完治するまで、願掛けも兼ねてエロ断ちするらしい。……誘いを断った後、何度も未練がましく振り返ったり、指を咥えてじーっと見てきたりしたけども。

 

 

 うーん、それにしても、複数人に囁きの術を使うと、あんな事になるんだなぁ。

 霊力付きの声で、相手に幻覚錯覚を起こさせるのが囁きの術なんだが、これ、俺の声に限らないんだよね。霊力を込めていると言う点で、効果が一段高いのは事実なんだけど、それ以外のの声にも反応するらしい。

 一緒にヤッてる人の喘ぎ声にも。

 

 順番的にはこんなカンジだ。

 まず一発ずつキめて、全員そこそこ盛り上がる。

 ささやきの術発動。ちなみに、耳に唾液を刷り込むと効果が上がる為、全員が全員の耳舐めをやる。この間も、お互いの間でお触りはアリ。眼福。

 俺の声により、幻覚錯覚が起き始める。当然の事ながら、声はこの場にいる全員に聞こえる為、同時に同じような感覚を得始める。

 ささやきの術を使いながらも挿入。響く水音、肉がぶつかり合う音、そして喘ぎ声。

 …それらを聞いているメンバーに錯覚が起きる。まるで、今現在自分に挿入されているような錯覚が。

 本番行為が別の人に移っても、喘ぎ声、肉音その他の音響効果、更には目の前で行われている痴態、自分も経験した事がある行為の感触。これらが交じり合って想起される。

 

 

 詰まる所、誰に突っ込んでいても、全員が突っ込まれているように錯覚していたんだよ!

 だから事実上、休憩時間ほぼ無しで延々と突きまくられた事になるね! まーやっぱり実物突っ込まれてる時が、一番いい反応だったけども。

 

 ま、そんな状態だから、あっという間に皆ダウンしてしまった。この現象について気付いたのが中盤くらいだったからな…。それまでは、他の人が相手をしている間、多少は休んでいられる前提のペースでヤっていたもの。すぐに異常に気付けなかった辺り、俺の観察眼もまだまだ甘い。

 新技開発したけど、ちょっと暴発しちゃった感じだな。

 皆からは……悪くは無いが、やっぱり実物の方がいいのと、メリハリ緩急がつかないという欠点があるので、今回はイマイチ。ただ、絶え間なく責め立てられてヘトヘトの腰砕け状態と言うのも興味深い状態ではあるので、事前に覚悟が決まっていれば時々はOKだそうな。

 

 …あと、これによって一つの可能性を感じられた。

 皆で声や感覚を共有していた為か、突っ込まれている時の錯覚は非常に鮮明なモノだったらしい。最後の酩酊状態なんぞ、俺が何人も居て輪姦しているような幻覚すら見えていたらしい。

 沢山の俺で一人、或いは全員を回すと言うのも興味深いが、そこまで鮮明な錯覚が起きるのであれば………実在しないモノを感じさせる事だって出来るんじゃないだろうか。

 

 

 

 具体的には触手とか。スライムとか。

 

 

 異種姦に見えて、全部俺がヤッている。NTR的な要素も無し。素晴らしいね!

 

 

 

 

 …まぁ、こんな事を考えてたら、何人かが「何だか悪寒が…」とか言い出したので、これはもっと躾けてからにしましょうか。まだ可能性の段階だから、もっと探っていかなきゃいけないしね。

 

 

 

 

 

 

 さて、そんな訳で、ヤり溜めしようと思っていたものの、逆に不完全燃焼になってしまった。

 全員ちょっと食傷気味なので、昼間っから睦むのも無理。

 ホロウからの連絡もまだ無い。

 

 暇な上に欲求不満である。どうやってこのモヤモヤを解消したらいいと思う、橘花?

 

 

「あ…え、えとその、私に聞かれましても……。姉様が治るまでは、貴方との逢瀬には参加しないと決めており…」

 

 

 ああ、それは分かってるよ。俺も何かする気は無い。

 

 

「…そうですか」

 

 

 ただちょっと愚痴りたかっただけでね。悪いね、桜花の事で大変だろうに、迷惑かけて。

 

 

「いえ……あ。あの、でしたら、ここに座っていただけませんか?」

 

 

 ここ? こう?

 

 

「はい。…その逢瀬には参加しませんが…貴方だけが楽しまれるなら、これくらいは有りです」

 

 

 んっ…………んむ?

 

 

「口付けと……あまり時間は取れませんが、手のみで奉仕させていただきます…。これなら、誓いは破っておりませんよね?」

 

 

 それを決めるのは俺じゃない。俺じゃないけど、確かに橘花の大好きな尻には触ってないからね、問題ないね。

 じゃ、お願いしようかな。(ケイカクドオリ!)

 

 

「…い、いかがでしょうか?」

 

 

 ぎこちないけど、いいね!

 おっ…小技も挟んできたな。お楽しみに参加はしなくても、勉強してたんじゃないか?

 

 

「…勉強ではありませんけど…姉様も段々体が治ってきましたし、私も落ち着いてきたら、ついあの夜の事を何度も思い返してしまいまして……その、次に参加できる時には、こんな事をしてみようと、頭の中で何度も…」

 

 

 ほほう、妄想だけで身に着けたのか。やっぱ橘花の素質は凄いな(エロいな)。

 

 

「そ、そうでしょうか? えへへ…」

 

 

 日中、清楚(に見える)な巫女がキスと手淫で奉仕してくれる。おお素晴らしきかな人生。

 よし、橘花が参加できるようになった暁には、今回のお礼も兼ねてすっごいのやってあげよう。それこそ、下手すると結界が維持できなくなって大騒ぎになるくらいの覚悟で臨もう。

 

 技術的にはまだまだ経験不足なので、あまり昂ぶりはしないが、ここで我慢をするのも無粋というものだろう。意識的に射精に近づける。

 

 

「あっ、大きくなりました…。私に注いだ、あの時みたい…」

 

 

 そうだ。もうちょっとで白いのが飛ぶぞ。飲む?

 

 

「………そ、それは…私が楽しんじゃうから、まだ駄目です…。手で受け止めますから」

 

 

 飲むだけで愉しめるのか。やっぱ橘花はモン娘並みだな。

 こっちから触れると、橘花が悦んでしまうのでアウト……いい機会だし、ささやきの術の言葉オンリーバージョンを試してみるか? 話すだけなら問題ない…。

 いや、やっぱダメだな。現状では耳舐めが必須だし、それ以上にどっちにしろ橘花を悦ばせてしまう結果になるから、橘花の誓いを破らせる事になる。

 

 

 仕方ないか…。まぁ、桜花回復後に備えて、果実を熟成させると思えばいいか。…悶々としたのを耐える方が、橘花にとっても「誓いを守ってる」って実感はあるだろうしね。…この行為自体、アウトかどうか怪しいが。

 

 よし、橘花、出すぞ。

 

 

「はい、どうぞ。私の手に……きゃっ」

 

 

 おぅふ……ふぅ…。多少はスッキリしたよ。ありがとうな、橘花。

 

 

「…いえ……これくらいなら、いつでも…どうぞ…」

 

 

 答えながらも、視線は手の精子に釘付けだ。…舐めたそうだが………それ以前に、橘花。それ、どうやって片づける?

 

 

「えっ? ……そ、そういえば…ここに水場はありませんし…」

 

 

 舐めるしかない、という言い訳を考える前に、こうする。

 橘花、ちょっと脱がすよ? 

 

 

「あっ、駄目です、それはやっちゃいけません」

 

 

 と言いつつも、全く抵抗せず、むしろ嬉しそうな橘花。よいではないか、よいではないか。

 いや、お腹を露出させるだけなんですけどね。

 

 橘花の手を動かして、塗りたくり。後は普通に服を着れば、証拠隠滅完了。

 

 

「…あ、これだけ…ですか…」

 

 

 残念ながらこれだけ。やっちゃダメって言ったのは橘花の方だろう?

 ま、お腹に塗られたヌルヌルする感触を堪能するくらいにしておきなさい。(……ムラムラしてくるだろうけどね)

 

 

 

 

入滅月

 

 

 昨日はエロ語りで一日の日記が埋まってしまったので、今回はちょっと真面目な内容にしようと思う。

 と言うのも、ホロウからまた呼び出されたからだ。勿論…と言うべきか、内容は虚海からの接触があった事。

 

 …確認の遣いがあって、まだ3日も経ってないぞ。鳥がホロウを確認して、霊山に向けて飛び立ったとして……移動時間は短くて半日ってとこか? どんだけ超特急で来たんだよ。

 やっぱ、鬼疾風かな…。でもそれにしたって、俺でもやれるか分からないくらいの超スピードだ。

 と言うか、あいつ鬼疾風使えるのか? 少なくとも千歳は、一言だってこの技については触れなかったぞ。…でもホロウと一緒に行動してたなら、使えてもおかしくないよな。始まりのモノノフ達も使ってた技の筈だし。

 

 

 ホロウ、そこんとこどうよ?

 

 

「存在は知っていますが、私の知っている千歳は使えませんでした。今は…使えるようになっていてもおかしくはないですね。術者としての才能に特化していた為か、体を動かす事に関しては目を覆いたくなるような有様でしたから。……いつだったか、鬼疾風を試そうとして、盛大に転んで坂道を転がり落ちて行った記憶が…」

 

 

 …まぁ、堕ちて行った先に肥溜なんてオチが無かっただけマシだな。

 

 

「肥溜はありませんでしたが、蜂の巣を破壊してしまい、それから必死に逃げ回っていました。鬼疾風を使えれば楽に逃げられたでしょうが、何度やっても転ぶだけでしたので」

 

 

 ……そんな記憶があるなら、思い出したくも無いし話に出そうとも思わないのは当然か。

 それはいいんだが、虚海はホロウを呼び出したんだろ? 何で俺を連れてくるんだ。と言うか、虚海は俺の事を知ってるのか?

 

 

「いえ、貴方を連れてきたのは私の独断です。一人で来いとは言われていませんので、問題はありません。貴方の事を知らせるような情報も送っていませんが…いえ、あちらで調べている可能性はありますが」

 

 

 どうだろなー。対外的には、自分で言うのも何だが腕が立つモノノフでしかないからな。女癖の悪さも………いや、表面に出しては……ダメだ、大っぴらにしてる紅月と那木だけで二股野郎の誹りは免れん。

 ホロウと連れ立ってるのにしたって、現地協力者と思われてる程度だろうし。

 

 

 

 …で、何処に呼び出したん?

 

 

「雪原にある、結界石の洞窟で待っているそうです」

 

 

 またあそこか。何かと縁があると言うか、芸が無いと言うか……。相馬さんと一緒に行ったけど、あの時には何も無かったな。

 ……いや、あそこに仕込まれてなかったとしても、触鬼の触媒を持っているのは確かか。場合によっては暴れ出そうとする事も考えられる…術を使う素振りを見せたら、即捕縛する必要があるな。いつぞやの死因と同じで、余波で俺の体に影響が出るかもしれん。

 

 

 

 

 

 

 さて、夏の終わりにも関わらず雪が降り積もっている雪原(異界では珍しくもなんともないな)を抜け、見知った洞窟に到着。洞窟の反対側から入ってもよかったんだが、迷路のような道を抜ける必要があるからな。俺は何度か通ってルートを把握してるからいいけども。

 途中で鬼を何体か狩ったが、どれも左程強くは無い。…精々上級って所か。

 さて、ここからどうなるか…。

 

 

 連れ立って洞窟に入ると、奥からコツコツと小さな足音。洞窟の入り口から入る光の角度もあり、某探偵漫画の犯人役が歩いてきているよーにも見える。

 徐々に光に照らされ、明らかになった風貌は……まぁ当然、虚海だな。初見であれば、体の半分を見て「あれは一体!?」となる気がしないでもないが……俺にとってもホロウにとっても、ぶっちゃけ今更である。特に俺はその本性を知っている為、「ベタな演出してんなぁ…」くらいにしか感じない。

 

 

「…久しぶりですね、千歳」

 

「…今は千歳ではない。虚海と呼べ、ホロウ」

 

 

 何年ぶり(同じ時間軸を生きてないこの二人に、この表現が当てはまるかは分からんが)かの第一声はこれだった。ちなみに俺、完全に蚊帳の外。ムッチャクチャにしたい気持ちはあるが、抑えて見物していよう。虚海を取り押さえ、或いは煽れる体制は崩さずに。

 暫くの沈黙の後。

 

 虚海は俯き、体を震わせ始めた。

 

 

「ク……クックックック……アッハハハハハハハハハハハ!!!! ああ、なんという事だ。何と懐かしい…。まさか本当におんしが来るとは…。こんなに嬉しい事は無い。ホロウ。私はおんしを待っていた。 ホロウ、ああホロウ! 本当に来た! ようやく私を迎えに来た!」

 

 

 ……言っちゃ悪いが、アブない人にしか見えねーな…。まー実際、根がへっぽこの癖して狂人なのは事実だから、間違っちゃいないんだが。

 

 

「…千歳、随分と苦労したようですね」

 

「苦労? 苦労などと、そんな言葉では言い表せぬ…。おんしと共にイヅチカナタと戦い、時を超え、呪いを受けこの体にされて…もう歳月を数える事すら億劫になった」

 

 

 忌々し気に左半身を眺める虚海。…苦労話に付き合う訳じゃないが、あの千歳がこんなになるくらいだもんなぁ…。そりゃ苦労ってレベルじゃないのは確かだろう。

 

 

「幾月も幾歳も、懐かしい故郷に帰る方法を探し続けた…。半人半鬼の体で、鬼と畏れられ物の怪と石を投げられ…そして私は陰陽方に入った。…おんしの記録を辿る為にな」

 

「私の?」

 

「陰陽方にはこの世の暗部を記録した、膨大な古文書が収められていた…。その記録の中に、不可思議な人物が居る事に私は気づいた。歴史の変わり目に現れる、翠瞳の乙女。幾つかの時代に、その存在は記録されていた」

 

 

 …翡翠の乙女、じゃなくて翠瞳の乙女だったか。そういや緑なのは目だけだったな。

 

 

「大きく歴史が動くとき、その者は現れる。そして、ある時忽然と姿を消す…。鬼と戦い、鬼を退けて…。…おんしの事だろう、ホロウ」

 

「……皮肉なものです。人々の記憶から消えても、書物の中には私の存在が残されていましたか」

 

 

 俺、おいてけぼり。何で連れてこられたのか真面目に分からない。

 

 

「…だから私は、おんしを呼び出そうと考えた。方法は色々あったがな。…いざ動こうとした時に、おんしが現れたという知らせを受けた。…私を迎えに来た。そうだろう、英雄ホロウ!」

 

「………」

 

 

 …屁ェこきたくなっていた。寒いから小便もしたくなってきた。この辺便所無いしな…。外の雪原で出したら、あっという間に凍り付きそうだな。

 

 

「おんしは時を渡る翠瞳の乙女。おんしなら私を千年前に還せる筈だ! 私を還せ、ホロウ。元いた世界に……ホロウ!」

 

「…申し訳ありません。私にも、それは不可能です。人が時間を遡る事は、できません」

 

「……クックックック…ハッハッハ……「ですが」」

 

 

 …ん? いや何もしてないよ? クラッカー代わりの音爆弾なんて出してないよ。こんなところで使ったら雪崩不可避だし。

 

 

「ですが、彼ならば或いは」

 

 

 へ?

 

 

「…どういう事だ、ホロウ」

 

「彼は単なる現地協力者ではありません。極めて特殊かつ限定的な状況ながらも時間逆行を繰り返し、共にイヅチカナタを追っている…同志です」

 

 

 товарищ! …アリサにロシア語教わったけど、特に意味は無い。GE世界の一部地域でしか使わないし。

 と言うか、おいホロウ、どーゆー事だ。

 

 

「言葉通りです。彼は死を迎える度に3つの世界を移動し、そして同じ時間から死に至るまでを何度も繰り返し続けています。原理は全くの不明ですが、私が知る中で唯一の時間逆行経験者です」

 

「………信じられんな。おんしが虚言を吐くとは思っておらんが、その男が法螺を吹いているとしか思えん」

 

 

 探し続けた手がかりがようやっと見つかったってのに、随分な言い草だな。ま、そうそう信じられないのも当然か。話の内容も荒唐無稽だが、最後の希望が砕かれた直後に、蜘蛛の糸が天上から垂れてくれば、どうせガセだと思っても仕方ない。…虚海が疲れ切っているのでなければ、その糸を登ろうとするかもしれないが。

 

 

 

「事実です。本人の申告によれば、繰り返しの中で千歳と出会うのは、これで3度目だそうです」

 

 

 千歳と虚海を別人と考えれば、4回目かもしれんが……と言うか呼び方は千歳でいくんだな。

 そして虚海の視線が、更に懐疑的なものになった。

 

 

「…やはり、信じられませんか。こういう時の為に、本人を連れてきました。あなたは千歳が誰にも話していない秘密を知っている、と言いました。それを伝えてください」

 

 

 ああ、証明の為にって事か。…そうだな。

 些細な事じゃ、ホロウから聞いたと思うかもしれん。大きな事なら、陰陽方の長老について調べたと思われそうだ。

 と言う事は…誰にも教えてない、私生活における絶対の秘密…か。

 

 

「どうした。証明できると言うなら、早う言うてみるがいい」

 

 

 言うのはいいけど、ホロウに聞かれていいのか?

 

 

「どうせ戯言だ…」

 

 

 …随分疲弊しとるな。まぁ、あの時も似たような状況ではあったっけ。

 じゃあ遠慮なく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 童貞&オボコ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どどどどどどどどどど?!」

 

「動揺しすぎです、千歳」

 

 

 中々に御立派様だった。棒の毛は剛毛だったな。茂みが深いだけじゃなくて、毛が異様に堅いんだ、集めて使えば防具に出来るんじゃないかってくらいに。そういや、カリ首の所に黒子があったっけな。

 自分からは触りたくないけど、どうしても性欲が抑えられない時は仕方なく。素早く済ませる為に、自分で唾液を手に塗り付けてシコってるんだって?

 

 

「待て、待て! おんし、どうしてそこまで…はっ!?」

 

「童貞と言うのは、男の事だった筈ですが。何故千歳がそれで動揺しているのか分かりませんが、事実だと分かったでしょうか」

 

「わかった、分かったからそこまでにしてくれ! 何でそんな事まで…………」

 

 

 虚海が突然動きを止め、まさかと言いたげに俺に目を向けた。

 

 

 ハジメテは美味しくいただきました。ちょっと強引だったけど、千歳との合意の上だからいいよね。(虚海と合意の上とは言ってない)

 

 

「なっ、なっ………ふ、く、くっくっく、このような体に欲情するとは…大した変態だ」

 

 

 その程度では褒め言葉にすらならんわ!

 

 

「褒めとらんわ。にしても…おんし、もしや衆道か…」

 

 

 生憎、ソッチの初めては貰ってないな。まぁ、いぢり回してビクンビクンさせてやった事はあるけど。

 (あの時は千歳と橘花の3人がかりでヤッたっけなぁ…。あんまりいい気分はしないが、脱童貞も果たさせてやればよかったかも。あの時の橘花なら、3穴攻めも嬉々として受けただろうし。俺が口、千歳が女陰、虚海が尻で)

 

 

「う、うぐぅ……し、しかし、これだけでは私は信じぬぞ。おんしが言う通り、私の経歴を知っているのなら、私がそうそう人を信じぬ事くらい分かるであろうに」

 

 

 では、もう一つ証拠を。…そんな警戒せんでも、さっきみたいな面白おかしいネタじゃないわい。

 

 

「…面白おかしいと抜かしたか、私の体を」

 

 

 体はともかく、悪ぶってる奴が慌てふためいてヘタれている様は楽しいぞ。

 

 

「うぬれ…」

 

 

 オノレと言いたいのか? それはともかく、これを見な。あんまりホイホイ取り込むのは、よろしくないんだけどな。

 

 虚海の目の前で、腕をアラガミに変え、適当な結界石を取り込んで見せる。虚海は大きく目を見開いた。

 

 

「それは…まさか」

 

 

 そう、触鬼の力だよ。お前が手に持ってる、ここに隠そうとしていた触媒で生み出す鬼だ。

 こいつを……まぁなんだ、普通だったら取り込まれて鬼になるんだろーが、どういう訳だか逆に取り込んでしまってな。(まず間違いなく、GE細胞とハンターボディのせいだけど)

 もう隠されてるかと思って、以前もここに来たんだが、その時は完全に空振りだったっけ。そして今お前がここに居るって事は、ホロウと会ったついでに…元の時代に返れなかった時に、ここに隠して騒乱を起こすつもりだったんだろう。

 

 

「…少し違うな」

 

 

 うん?

 

 

「騒乱を起こし、世界を危機に陥れようとしたのは、ホロウを呼び出す為だ。翠瞳の乙女は、時代が大きく動く時に現れる…。ならば、世界に危機が迫れば、ホロウはやってくる。そしてその力を借りて、元の時代に戻るつもりだった…。ホロウがその術を持たぬと分かった今、この触媒にも何の意味もない」

 

 

 力の抜けた手から、コロコロとサイコロのような触媒が零れ落ちる。…取り込んでおくべきかな?

 

 

「くくく…かつては正義のモノノフと謳った小娘が、陰陽方に身を染め、このような物まで用意し、悪党と謗られても反論も出来ぬほど落ちぶれて…。挙句、私がやってきた事は全て無駄か。滑稽だ……」

 

 

 …絶望、ってのはこういうのを言うのかね。すくなくとも、俺の今までの経験からは…ループが始まる前も、始まってからも…読み取る事すらできない感情がそこにあった。

 

 

「もういい…いささか疲れた……」

 

「千歳」

 

「虚海と呼べ、ホロウよ…。私はもう疲れた。だが、かつてのホロウとの……友情と呼べた感情に縋って、最期の一足掻きをしてみるのもいいかもしれん…」

 

 

 虚海の浮かべた…笑みと呼んでいいのか迷う程度には儚い表情は、それこそ何もかもを手放そうとする世捨て人を連想させた。もう希望の重さにも耐えられない、か…。

 

 

「陰陽方には、私同様に鬼に呪われ、常人では叶わぬ歳月を生きた者も居た。奴らが死んだ時の姿を、想像できるか?」

 

 

 完全に鬼になったんじゃねーの? 少なくとも、俺はそれで3、4回死んだぞ。

 

 

「ほう、それは貴重な経験をしたものだ。……あの時、あの男が死んだ時……心底から絶望し、希望を失った瞬間に、あの男は灰となって崩れ去った。声をかける暇すらなかった…。前触れもなく、亡骸すら残さずに、風に吹かれて何もかもが消え去った。何れは私もそうなるだろう…。私は、お前の話を信じていない。いや、この際信じるのは構わないが、それであの頃に戻れるとは、やはり思えん。…私がお前に失望し、灰となる前に、私に希望を示してみせろ」

 

 

 

 

 

 あ゛~、ポンコツが雰囲気出して語っても、酒の肴にもなりゃせんわ~。

 

 

 

「…おいホロウ、こやつ呪い殺しても構わんな?」

 

「出来るのならばどうぞ。私より、様々な面で数段強いので、呪詛返しに会わないように」

 

「……触鬼に乗っ取られてくたばってしまえ」

 

 

 そうなったら繰り返しが続くだけですな。

 と言うか触鬼もう出ないんじゃねーの? ああ、お前が持ってる触媒を奪えばって事だが。

 

 

「戯け。触鬼を作り出す触媒こそこの手にあるが、あれが生まれたのは私の手によるものではない。あれは…自然発生と言っていいかは分からんが、異界の中で見つけたのを捕獲し、研究する事で生まれた物だ」

 

 

 

       ほむん?

 

 

「随分と間の抜けた面を晒すの。ちと考えればわかりそうなものだが…。しかし…そうか、私が呼び出すまでもなく、ホロウがやって来たか。触鬼が出現した理由は、そういう事か…」

 

「どういう事です、千歳」

 

「どうもこうも…イヅチカナタが近くに来ている、と言う事であろう。ホロウ、おんしには分からんのか」

 

「彼と出会う直前から今に至るまで、イヅチカナタの居場所を感知する能力が麻痺しています。奴が居ると言うのですか」

 

「どこにいるのかまでは、分からぬがな。イヅチカナタが来たから、触鬼が現れたのか、触鬼に惹かれてイヅチカナタが現れたのか。何れにせよ、現にホロウは現れた。つまり…触鬼の出現は、次代を動かすと称するに足る出来事という訳だ」

 

 

 

 む…確かに、個体の力は、エース級のモノノフが何人か集まれば十分に対抗できる程度だが、それ以上にヤバいのは増殖速度だ。マドハンドよりも鬱陶しい。

 ある程度数が揃えば、それこそネズミ講級のスピードで増殖してもおかしくない。それは、人の歴史の終わりを実感させるには充分すぎる脅威だろう。

 

 

 …ちょっと待て、そんじゃ触鬼の最初の一匹や、そこから分裂した触鬼は?

 

 

「異界の奥で、急激な勢いで数を増やしている事じゃろう。そら、どうした? おんしはどうするつもりだ」

 

 

 別にどーも。俺だけなら、死んでも次に行くだけだし。

 ただ、紅月とか那木とか初穂とかグウェンとか、あと橘花とか…色々消えてしまうのは惜しい。

 まぁ、頑張って触鬼達をどうにかして、そんであの憎きクソイヅチを存分に惨殺するとしましょうか。

 

 

 

 

 

 差し当たり、虚海を合意のもとに(合意したとは言ってない)ウタカタに連れて行こうか。特典として簀巻き、首輪、童貞を締め付ける輪っかや貞操帯などを用意しています!

 

 

「賛成です。異論は全くありませんし挟む余地もありませんほら千歳も全力で首を縦に振っています」

 

「待たんかい。いや、私の意思が完全に無視されているのはこの際構わん」

 

 

 合意と見てよろしいですね!? ただ今の発言は、虚海完全捕縛管理発言として認定されました!

 よってワタクシが飼い主を務めさせていただきます!

 

 

「だから待てと言うておる!」

 

「千歳、虚勢が剥がれています。久しく会っていないどころか二度と会えないと思っていましたが、やはり千歳はこうでないと」

 

「………んんん!!!!!!」

 

 

 おお、虚海選手の内圧が上がっている! …うむ、やはりこいつはこうでないとな。ホロウ、扱い分かってるな。

 

 

「ええ、貴方も」

 

 

 同時にサムズアップ。ただしホロウは無表情。動作の意味は理解できないようだったが、虚海のボルテージが更に上がったようだ。

 

 

「こ、こいつら……いやとにかく私の意思が完全無視されているのは構わん、ウタカタの里が私を受け入れるとでも思っているのか! 私は」

 

 

 

 はっはっは、余計な事を喋らなければ、体を半分鬼に侵食された哀れな厨二病発症者という扱いでどうとでもなる。モノノフに厨二病って表現は無いが、アレな妄想を拗らせた芸者気取りの若者とか、割と真面目にヤサグレて奇行に走る人間なんぞ珍しくも無いからな。後は鬼に家族とか友人とか皆殺しならぬ丸呑みにされて、気が違ってしまった人とか。

 

 

「そのような扱いを受けるとは…」

 

 

 千歳と名乗ってた頃にお前がお前を見たら、多分頭抱えて布団に突っ込んでいくぞ。

 

 

「…………むしろ、当時の私の世間知らずな言動こそ、頭を抱えたいくらいなのじゃが」

 

 

 まぁ、その辺は悪くも悪くも色々経験した結果って事で妥協してやらんでもないが、ウタカタの連中ならダイジョーブだろ。

 実際、今までの繰り返しの中で、多少の蟠りがあっても普通に受け入れてたからな。(千歳を。虚海がどうかは微妙だが)

 

 

「私と彼が口添えをすれば、ウタカタで暮らすだけなら問題ないでしょう。その程度には信用・信頼を得ています。そもそも、常時ではないとはいえ、全身鬼の体になるのが平然と住んでいますし」

 

 

 俺の事だけどな。ほれ、変身。

 

 

「…これは驚いた。蝕鬼の力を使える事といい、鬼化を制御できるのか」

 

 

 正確に言うと色々違うんだが、まーそんな感じだ。最初に会った時には、制御のやり方を教えてくれって言われたんだが、成果が出る前に繰り返しに入っちまった。

 元の時代に帰れるかはともかくとして、制御ができれば暮らしやすくはなるんじゃないか?

 

 

「仮に人の体に戻ったとて、今更人里に紛れようとは思わぬ…。だが、確かに色々とやりやすくはなるか。この体は、ちと目立ちすぎる」

 

 

 まぁ、飯食いに行くだけでも一苦労だろうしな。

 さて、こっちから提示できる取引条件はこんなところか。俺達と来る…でいいんだな?

 

 

「構わぬ。これが最後の戯れよ…」

 

 

 …やっぱ、半ば以上信じられている訳じゃないな。ヤケッパチな気配が強い。

 それも無理はない……が、確認しておく事が一つある。正直に答えるか否かで、ウタカタの里で暮らすにあたって、ご飯の内容が決まるので心して答えるといい。

 

 

「ご飯は大事です。ある事ない事喋って情報量を水増しして、ご飯の量を増やしましょう。食べきれなかった分は私が食べます」

 

 

 戯け。

 

 で、聞きたい事なんだが、霊山で識って軍師と会ってただろう。そいつの目的はわかるか?

 

 

「識…あやつか。ああ、知っておるとも。あやつの目的も、結局は私と同じよ。過去に戻る事、この何もかもが間違った世界を修正する事。尤も、私と違って奴は自分を含めた全ての歴史を修正しようとしているようだがな」

 

 

 

 そう言って、嘲りと自嘲が同居した笑い声を響かせた。

 

 

 

 

 

 



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229話

 

入滅月

 

 

 識とやらの事はこの際後回しにするとして、さしあたり問題は虚海である。

 本人にはああ言ったものの、俺の言葉一つで本当に受け入れられるかは別の話だ。虚海の心を癒そうと思ったら、取引や表面上ではなく本心から人に受け入れられる必要があるだろうし。

 戦力半減の今ならば、虚海を受け入れる可能性は低くない。死線を共にするモノノフ達であれば、自然と虚海の事を本当に受け入れるかもしれないが、幾らお人好し揃いとは言えウタカタの一般人はな…。

 

 

「で、その所どう考えているのですか? 随分とやさぐれましたが、私の妹分です。粗悪な扱いにするつもりなら、私の得物が火を噴きますが」

 

 

 銃が吹くのは火ではなく鉛の玉だ。いや確かに火薬も使うから火も吹くが。

 で、虚海の事だが、正直大した事は考えてない。大和のお頭辺りなら、利害と俺との関係を計算した上で、警戒しつつおも受け入れるだろ。大和のお頭がそう言えば、モノノフ連中は何とかなる。

 問題は一般人の方だが……俺とホロウでいつも通りに扱ってりゃ、虐待キャ…弄られ役になるだろ。

 

 

「微妙に聞き逃せない単語が聞こえましたが、言葉通りではなく別の意味で言っているのは察したので許容範囲とします。ただし、しくじったら貴方の腰に貼り付けた擲弾が突如破裂するので覚悟しておくように」

 

 

 擲弾って時間で爆発しなかったっけか? …まぁ、多少の爆弾でどうこうなる体じゃないからいいけどさ。大樽G喰らっても平然としてるハンターだし。

 

 

 

 

 さて、そんな訳で里まで連れて帰る訳ですが、虚海にはとりあえず外套を被せる。流石に、正面から堂々と連れて帰っちゃ、モノノフはともかく一般人の驚きがデカそうだ。千歳の時はそれでもどうにかなったが。

 大和のお頭にエース級、そして樒さんやタタラさん、ついでに清磨等、主だったメンツを集めてもらう。

 

 

 

 

 ………おい、おい虚海。お前なんか震えてないか?

 

 

 …いや、無理もないかもしれん。幾らこいつがヤサグレてると言っても、人の悪意は何度受けても嫌なものだ。切っ掛けはどうあれ、俺の提案を受けてここで暮らそうとしているのに、拒絶の意を受けたらと思うと、体が震えだすのも無理はないか。やっぱ根が素直過ぎるんだなぁ、こいつ…。

 

 

「あ…いや、その……私は…」

 

「…厠ですか? それともぽんぽん痛くなりましたか? 話しは早く済ませた方がよさそうですね」

 

 

 そだな。

 

 と言う訳で、集まってくださった事に、まずふんぞり返って礼を言います。態度と言葉が別物? 気にするな。

 えー、知っての通り、現在里の戦力は半減している。異界も同様に鬼達の姿が少なくなっているからいいものの、元より鬼と人間じゃ、鬼の方が増える勢いも、傷が治る速さも段違いだ。正直言って、このままだと非常に危険だ。

 なので、俺とホロウの古い知り合いを呼んできた。

 名前は虚海。

 

 性格にもその他にも問題があるヤツなんだが、腕は確かだ。大型鬼の集団を、一人で片づけた事もある。結界、呪詛についても詳しい。

 

 

「ほう…それならば、今の里には是非ともほしい人材だな」

 

「だが、面を隠す奴とは背中を合わせる気にならねぇな」

 

「おいおい、ここにも顔を隠してる奴は居るぜ」

 

「速鳥は目が見えてるからいいんだよ!」

 

「…拙者を信頼しろとは、口が裂けても言えぬ性だが…基準が分からぬ」

 

「それで? 儂らを呼んで、どうしようってんだ。術者だろうが、モノノフが増える事に問題はねぇだろう。儂ぁ、儂の仕事をするだけよ」

 

 

 ああ、タタラさんはそういう人だよな。

 だが、さっきも言ったように、こいつには若干問題がある。性格はこの際流すが、体の方にな。

 害が無いのは俺とホロウで保証する。万が一何かをやらかすようなら、俺達が責任もってケツを持つさ。いやケツを拭くのかな。

 

 

「……この人がそう言うとなると…女性ですね」

 

「いや紅月、その基準はどうかと。でも女性ね」

 

 

 初穂、紅月、黙ってなさい。

 とにかく、変身した俺を見ても動揺程度で済んだ皆なら大丈夫だと思うが……ホロウ。

 

 

「はい。……千歳?」

 

「千歳? 虚海って名前じゃ……!?」

 

 

 労わるように虚海に触れながら、ホロウは外套の頭を捲った。

 露わになるのは、無表情そのものの少女の顔と、そして表情が全く読めない異形の半身。

 

 

「…その体は…」

 

 

 問題ってのは、要するにコレの事だ。精神は間違いなく人間だ。この姿による迫害やら何やらで、純真だったのがえらい捻くれてしまってるが、中身は問題ない。(と言う事にしておく)

 ただ、やっぱ人間って目で見て判断するからな。いきなり虚海が里にやってきたら、そりゃ面倒な事になる。

 具体的には、里の中で俺が変身して暴れ出すくらい厄介だろう。

 

 

「いやそこまでではないと思うぞ。先日の戦いでの大暴れは、見ているだけで肝が冷えた…」

 

「貴方は千歳を危険物扱いしたいのですか? あと2回の失言で、腰が爆破されると思いなさい。なお、失言する度に爆破箇所が増えていきます」

 

 

 まぁ、比較対象がよー分からんから、適当に言っただけだから気にするな。

 とにかく、皆を…里の重鎮と言える人達を集めて、こいつを紹介したのはこの為だ。会っていきなりコイツ自信を信用しろとは言わん。

 ただ、余計な揉め事が降りかかった時、庇ってやってほしい。…と言うのが、俺とホロウの意見だ。

 

 

「……ふむ」

 

 

 腕を組んで考え込む大和のお頭。虚海にも目をやって、観察しているようだ。

 …いきなり信用しろとは言ってないが、俺とホロウ…自分達で言うのもなんだが、里の主力級二人が連れてきた人物を、いくら怪しくても無下にはできないと思っているのだろう。

 

 

「一ついいか」

 

「なんだ」

 

 

 大和のお頭の問いかけに、不愛想を通り越して冷徹とすら言える声で返す虚海。…こいつ、本当にここで暮らす気あるのかな、と思う程度には態度が悪い。まぁ、半ば俺が引き摺り込んできたようなものだから、無理もないっちゃ無理もないんだが…。

 

 そんな事を考えていたら、大和のお頭は予想外の事を言い出した。

 

 

 

「この里で暮らすのも、お前に危害を加えない事も保証するから、もう少し緊張を解いたらどうだ?」

 

 

 …は? 緊張?

 

 

「…私も先程気づきましたが……千歳は、知らない大勢の人間に囲まれて、一杯一杯になっているようです。この無表情は、単にどんな顔をすればいいのか分からないのです」

 

 

 脇でも突いて笑わせてやればいいんじゃねぇの、初対面的に考えて。

 ちゅーか虚海、お前なんでそんなに緊張してんの。

 

 

「……敵でもない知らない相手に囲まれるのは、久しぶりで…」

 

 

 敵ならいいんかい。いや、敵なら人じゃなくてナスビとでも思っとけばいいってのは分からんでもないが。

 

 

 

「考えてもみれば、こうなるのも当然だったかもしれません…。天真爛漫でお人好し、人見知りとは正反対に位置していたような千歳ですが、この体になって以来、このように性格が真反対になるまで迫害され続けてきたと聞いています。まともに人間と話した事など、何年ぶりでしょう」

 

「…そこまで独りっきりの生活しとらんわ」

 

 

 じゃあ敵以外の3人以上で同時に話した事は。ああ、俺とホロウで話した時は除くぞ。「ホロウお姉ちゃん」は特別だろうしな。

 

 

 

「………き、記憶にはある!」

 

 

 

 集会所が涙で濡れた。よく見たら、奥の方で秋水もちょっと泣いていた。……いや、あれは笑いを堪えて出た涙だな…。

 

 

「…よくぞ来てくれた。戦力云々を抜きにしても、ウタカタはお前を歓迎する」

 

「私をお姉ちゃんと思いなさい。私は貴方の味方だから、ちゃんと話ができるようになるわ。…話すだけなら、敵と思ってた方がいいんだっけ?」

 

「お嬢さんが増えるのは、俺としちゃ大歓迎だぜ。今はまだ戦線復帰できてないが、肩を並べて戦おう」

 

「私も、君の力に頼らせてもらおう。一刻も早く体を治さねば」

 

「姉様、焦ってはいけません。さしあたって虚海さん、私と友達になってください」

 

「嬢ちゃんの事は、先に触れ回っておくか。おい清磨、お前も手を貸せ」

 

「ああ、客になりそうな者に手を貸すのも、鍛冶師の務めだ。しかし、何と言えば角が立たぬかな」

 

「…大和のお頭の一言……で、足りるわ…」

 

「噂話を好意的な方向へ持っていくくらいなら、多少心得があるでキュイ」

 

「速鳥、天狐の真似はいい」

 

「何でしたら、私が里の皆様へ、虚海様が良い方である事を全力で説明すれば」

 

「それは止めろ。…いやだが、徹底的にやれば効果はあるか…?」

 

「あの、それ洗脳では…」

 

 

 洗脳で何か問題でも?

 まぁそれはそれとして、虚海が優しさだか憐れみだか哀しみだかにに溺れているな。具体的には、一斉に話しかけられてテンパった挙句、立ったまま気絶した。最後の一瞬、「フヒッ」って笑ったような気がした。

 …おーいお前ら。お人好しで助かるけど、虚海的に現在一番助かるのは、独りにしてやる事だと思うぞ。

 

 

 

 …にしても、こいつここまでポンコツだったかなぁ…。確かに、以前に一緒に行動した時は、一緒に居たのは俺と千歳くらいだったし。…ああでも、あいつに殺された(屈辱!)時は大勢に囲まれても術は平然と……ああ、あの時の俺達は敵だったから、人間としてカウントされてないのかな。

 

 

 

「雀百まで踊り忘れず、とはよく言ったものですね」

 

 

 うん、ホロウ? どういう意味だ。あとそれ悪い意味で使う言葉だぞ。

 

 

「昔から、予想外の事が起こったり、意識的に弄り回すと混乱するのは変わってないと言う事です。…何です、その顔は。おちょくってやれば、すぐに馴染むだろうと言うのは貴方の策ではないですか」

 

 

 

 …ああうん、俺酷い事言ってたのね。すまんかった、虚海。結果が良かったから許せ。

 

 

 

 

 

入滅月

 

 

 さて、経過はどうあれ、虚海は里で暮らす事になった。…が、予想以上のポンコツっぷりの為、ホロウと一緒に里の外れの小屋に住む事になる。

 …紅月が、今居る家(ゲームで言えば主人公が住んでた家だな)を虚海に任せて、俺の家に入り浸ろうと計画していたようだが、それはまぁいい。成功したとしても、夜毎の遊びが3Pになるだけだ。

 

 虚海は大人しいもので、特に何か企む様子も、ホロウに恨み言を吐いたりする様子もない。代わりに、俺の話の真偽を見極めようとしたり、クサレイヅチが近くにいるらしいってのに何か準備するつもりもないようだ。

 うーむ、本当に無気力状態になってるな、コレ。

 

 と言うか、異界を歩き回る時や、鬼に襲撃されれそうになる時以外、ホロウの家に引き籠って出てこないようだ。多分、人見知りと無気力症でで動くに動けない状態になってるんだと思う。

 人里に連れてきたら引き籠りになるとは…だから貴様は虚海なのだ! 冗談はともかくとして、ホロウが甘やかしてっから、他の人と関わり合いにならないんだよなぁ…。ホロウも普段はセメントの癖しやがって、妙なホトケ心を出すなっつーの。

 

 

 

 ただ、そんなポンコツの癖して、戦闘や術に関しては流石の一言。一人で鬼の前に放り出しても自力で撃退してくるし、鬼に見つかりにくい結界やら、小さいながらも瘴気を弾く効果を持った結界など、その恩恵は多岐に渡る。戦闘中、ちょっとやそっとじゃ壊されない安全地帯が出来た、と思えばイメージしやすいだろうか?

 里の結界にしたって、虚海のおかげで更に頑丈になった。カッチカチやぞ。しかもただ頑丈なだけではなく、鬼の手を用いた効率的な術の使い方まで開発し、橘花の負担が更に小さくなり、更には仮に結界が破られてもすぐに修復できるようなオマケ付きだ。何年も生きてきた知識の蓄積の賜物か…。

 これについては、詳細を聞いて博士に情報を送っておかねばなるまい。

 

 うーむ…冷静になってみると、ハイスペックなヤツではあるんだな。コミュ力がブッチギリでアウトかつ、思想的に色々拗らせて、更には性根と考え方が根本的にズレているから色々空回りしているだけで。普通に致命的だな。よく生きてこられたもんだ。

 

 

 

 …で。

 

 

 何? 俺と虚海の関係?

 

 

「ええ…。扱いの悪さも親愛の結果だとは思っているのですが、そうなるとどのような付き合いなのかな、と思いまして」

 

 

 どうって言われてもなぁ…。まぁ、こうして睦み合ってる最中に、他の女の事を語るのもどうかと思うが。一戦終えて、ゆっくり語り合うのもいいなって雰囲気だろうに。

 

 

「睦み合っている私がいいと言ってるんですから」

 

 

 そう言いながら、隣に寝そべっていた紅月は体を寄せてきた。女体のスバラシイ感触が半身に感じられる。更にはご機嫌取でもするように、右手が俺のに纏わりついてくる。特にエレクトさせるつもりはなかったのに、あっという間にムクムクと。

 いつもなら、このままどんどんヒートアップして第二ラウンドに突入するんだけど、紅月の手は撫で回す以上の行為に進む様子は無い。…ひょっとして、焦らして聞き出そうとしてんのかな。まぁ、堪らなくなった俺が襲い掛かってもそれはそれで、と考えてるっぽいが。

 

 

「深く考えずに答えてくださればいいですよ? それでどうこうするつもりはありません。浮気に関しては、正直今更ですし」

 

 

 ごめんなさいね、愚息の節操がなくて。

 

 

「貴方でしょう。逞しくて素敵な息子さんだと思います。それにその、大勢で見たり見られたり弄りあったり纏めて蹂躙されたりというのも、これで中々楽しゅうございますし(ちょっと早口)」

 

 

 ありがとう。…しかし、それはそれとして関係なぁ…。ホロウの古馴染みで……俺との関係なぁ…。

 正直な話、俺が一方的に虚海を知ってたとしか言いようがないんだよ。虚海にしてみりゃ、初対面から一週間も経ってないんだぞ。

 

 

「それであの扱いですか…」

 

 

 根っこがMだから問題ない。いやMと言うか、ちょっと強引に攫われたり、今の自分をぶっ壊してほしいと望んでいると言うか。

 

 

「えむと言うのはよく分かりませんが、自分を壊してほしい、と言うのなら心当たりがありますね。…あの目は諦観の目です。彼女の性が人であれ鬼であれ、全てを諦めた目をしていました」

 

 

 だからこそ、暴れるつもりも里に害を加えるつもりもない、と確信できるってのは皮肉だな。

 まぁ、どんどん関わって、無気力な虚海を壊してやってくれ。

 

 

「ええ、勿論。…つきましては、もう少し詳しく彼女との事を話してほしいのですが。ちゃんと話すと、このようなご褒美がありますよ」

 

 

 おおう、太腿ズリ…。ぬ、しかも先端を指先でクニクニするとは、やるようになったものよ。

 愚息がムクムクを通り越してビキビキしてきたので、この辺で第二ラウンドに突入してもいいのだが、それで話を誤魔化したと思われるのも何だな。責められるのも嫌いじゃないし、もうちょっと付き合おう。

 

 

 あー……あいつは覚えてないだろうけど、昔のあいつに会った事があって……イテッ、爪は止めろって。分かったよ、もっと具体的にな。

 あいつがあの体になって、心が折れそうになってた頃…まだ千歳と名乗っていた頃に、一緒に行動した事があるんだよ。俺はホラ、変身なんて事ができるし、同類って事で気を許してくれてな。

 でも、一緒に居られた時間は長くなかった。俺とホロウが追っている鬼、イヅチカナタってんだけど…そもそも、こいつが虚海をあんな体にしたんだが、こいつは因果を奪う……と言うと分かりにくいか。人の記憶を奪う力を持っている、と思えばいい。

 こいつにやられて、虚海は俺の事を忘れちまった。だから、俺は一方的に知ってるけど、あいつにとっては初対面って訳だ。

 

 

 あっ、手を止めないで、止めるならもうちょっと足を密着させて。

 

 

「嘘は言っていないようですけど、誤魔化してるみたいですからお仕置きです。ほら、これも好きでしょう? でも足りないでしょう? もうちょっと続けてほしいでしょう?」

 

 

 カリ首に、紅月の爪が這う。痛くは無いけど、気持ちいいと言える程でもない、痛くすぐったいとでも言うんだろうか。このムズムズ感が、棒に溜まっていく感触が何とも…!

 体を起こして、紅月が圧し掛かってくる。器用に片足で棒を挟んだまま、後ろ手に手を伸ばしてフェザータッチで弄り回す。

 上半身は上半身で、豊満な胸が俺の胸板に押し付けられた。あ、乳首同士で当たってる。

 

 囁きの術のお返しとばかりに、耳元でエロい声を聞かせる紅月。荒くなり始めた呼吸の音が聞こえてゾクゾクする。

 ぬっ、ミミナメ来た! だが甘い! いや俺の耳垢の事じゃなくて。囁きの術の真似でやってるんだろうが、まだまだ。囁きプレイなら、MH世界の竜人族の双子が最高峰だったよ。抵抗? する訳ないじゃないの。

 

 で、何処まで話したっけ?

 

 

「虚海さんと、どのような事をしたのかです」

 

 

 そんな話題だったっけなぁ…。つーても、アイツのコンプレックス……えーと、気にしている部分とか願望を引っ張り出して、それを多少解消してやっただけだぞ。尚、その内容は流石に秘密。

 

 

「仕方ありませんね…。人の恥部を暴こうとするのは、恥ずべき事ですから」

 

 

 (そこで引く辺り、まだまだ甘いのー。ご褒美をチラつかせて、白状するようにしないと)

 

 

 ま、仮に言ったところで、どうしようもないと思うけどな。さっきも言ったが、イヅチカナタに因果を奪われて、もう虚海はその事を覚えてない。他に覚えてる奴、知ってる奴も居ないだろうさ。

 

 

「…本当に、そのような鬼が」

 

 

 疑わしいなら、ホロウに聞いてみろ。あいつはあいつで色々訳アリだが、それを隠す理由は持ってないヤツだ。質問すれば答えてくれると思うぞ。

 ……いや、俺に隠し事があるのは否定できんけど、それは後ろめたい事があるからじゃn…いや無いとはとても言えんけど…。

 

 

「……虚海さんとの関係はともかく……一つ、やる事ができたようです。今まで関係を持った人たちにした事、私にも全てしてもらいます!」

 

 

 ほほう……。うっ!

 

 

「……私の手足ではなく、想像して射精しましたね? 私との睦み合いなのに……覚悟してくだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅月? 気絶したよ。この分だと、年単位で一つずつヤらなきゃあかんな。

 



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230話

次の暇潰し用ゲーム考え中。

①ニーアオートマタ…保留。ストーリーは暗そう。
②無双スターズ…ホロウが出てるのが気になるが、地雷の匂いがする。
③人食いの大鷲トリコ
④MHXX…本命ではあるけど、狩りばかりでは飽きる。
⑤スパロボ…OG系統しかやってないから、話についていけるか不安。
⑥ブラウザゲームのストパンやって、外伝を書く。無論エロ。…多分すぐ飽きる。
⑦仁王…ダクソやった事ないし敬遠してたけど、意外なくらい高評価。


仁王を購入しようとしたら、PSストアがメンテ中orz


入滅月

 

 

 朝っぱらから秋水と相談。言うまでもなく虚海の事だ。

 今回の一件で、秋水が持っていた虚海のイメージは大分ぶっ壊れたようだが、それで警戒を緩める訳でもないのが秋水という男である。決して間違った態度ではない。

 

 が、差し当たり問題なのは、虚海本人よりも、他の陰陽方である。俺もそいつらの情報は全く知らない。

 しかし、悪党が別の悪党の財産を狙って仕掛けてくるとか、あまり珍しい話でもない。虚海がウタカタで隠居し始めたと聞いて、何かしら仕掛けてくる可能性は充分にある。

 

 

「いえ、それは恐らくないと思います。警戒はしておきますが」

 

 

 うん、何故に?

 

 

「陰陽方の長老達は、それぞれ全く別の願いを持っていますから。極端な事を言ってしまえば、虚海さんの『過去に戻る』という研究には、全く興味を持たない人ばかりだったんです。勿論、手段として考える事はあるでしょうが……率直に言って、研究は全く上手くいってなかったようですから」

 

 

 まぁ、ホロウを呼ぶ事が最後の手段って自分でも言ってたしな…。成程、研究結果に価値が無いとみなされている訳か。

 触鬼の方はどうだ?

 

 

「僕も貴方に言われて勘違いしていたのですが、あれは虚海さんが作った鬼ではないそうですね。ならば、野生の触鬼を捕まえた方が安上がりでしょう。触鬼の核を作り上げている事を考えても。何より、仮に研究結果に目が行くとすれば、霊山の識でしょう」

 

 

 またそいつか…。

 

 

「あまり詳しい事は調べられませんでしたが、幾つもの奇妙な技術と実験を繰り返しているそうです。虚海さんもそれに便乗しようとしていたようですが…」

 

 

 どうするかな…。気にはなるが、ウタカタを離れて霊山に行くのは危険すぎる。今も異界の奥では、触鬼が増え続けているだろうに。

 つーかアレだな、虚海も触鬼を生み出す方法だけじゃなくて、制御する術とか繁殖を防ぐ術とか、色々考えてれば楽だったのに。

 

 

「仮にも世界を危機に陥れようとしていたのですから、それを研究する必要はなかったんでしょう。ま、案外研究するだけして、無理だと思って放り出したのかもしれませんが」

 

 

 ヤケッパチの人間の責任感なんて、そんなもんだよな…。

 ま、とにもかくにも、当面の問題は触鬼か。……大した実りがある話もできなかったが、今日はこれで。

 

 

「ええ、お疲れ様でした」

 

 

 そんじゃ、初穂と逢引がてら帰るとしますか。

 

 

 

 

 

 

 触鬼の存在は、既に里のモノノフに知られている。虚海が発見し、観察していた新たな鬼としている。別に間違ってはいない。

 戦力については、虚海が作ったレポートでしか知られてないが、驚異的な存在だと言う事は大和のお頭も嫌と言う程認識していた。この鬼について、各地に伝令を飛ばしていた事からも、それは理解できる。

 

 さて、それぞれの里はどう動くかな。触鬼は、今の所ウタカタの里近辺でしか発見されてない。そこで発生したからなのか、或いはクソイヅチが俺の近くにいるからここでしか発生しないのかは分からないが…。

 他所の里の事だと思って放置するか。自分達の場所にまで侵蝕してきたらと考えるか。そんな鬼が居る訳ないと思考放棄するか。さて、どうなる事やら…。

 

 

 

 そんな事を初穂と一緒に団子を摘まみながら考えていると、むーっと初穂が不満そうな顔をしていたのに気付いた。

 どした?

 

 

「どうしたもこうしたも…折角二人きりなんだから、余計な事考えてんじゃないわよ」

 

 

 まーそらそうだな。団子も初穂の体も、しっかり集中して味わわないと。

 

 

「私としては、体がベタつくからあんまりいい気分はしないわ。…舐められると、ぞくっとくるのは否定しないけど」

 

 

 うーん、団子は女体盛には向かないなぁ。でも刺身でやると生暖かくなるし…初穂はワカメ酒はできんし。

 ちなみにさっき「初穂と一緒に団子を摘まむ」と書いたが、二人で団子を喰ってるんじゃなくて、団子と同時に初穂を味わっているのです。

 

 

「なんか馬鹿にされた気が、アン」

 

 

 とりあえず、サクランボとオマメさん、どっちからいただこうかな。団子ばっかじゃ甘すぎて飽きがくるし……うん、塩味重点でオマメさんから。あっ、こら動くな団子が落ちる。…うりゃっ。

 

 

「ひあ!?」

 

 

 暴れると、箸で摘ままれたオマメさんがどうなるか分からんぞ? …ぬぅ、ヌルヌルする。愛液出過ぎ。

 こんな事で興奮するなんて、初穂はやっぱり大人だなぁ。

 

 

「お、おとなってへんたいばっかりだわ…」

 

 

 否定はせんが、この行為は初穂が思い浮かべている大人な行為に合わせた結果だからな?

 さて、いつまでも団子を放っておくと固くなるし……本格的に食わせていただきますか。イタズラしながら。動くなよ?

 

 

「そんな事言われたって、あんた、あっ、あぁ、指、指ぃ…」

 

 

 どうした。敏感な所はまだ触ってないぞ? 尤も、こんなヘンタイな行為で興奮しまくってる初穂にしてみれば、物足りなくて焦れったいばかりかもしれないけどね。

 ほら、腰を揺するな。焦らなくても、つま先からテッペンまで、じっくり味わうから。ただし本番はその後な。

 

 どうした、俺の股間にそんなに熱視線を注いで。そんな事しても、食べさせてあげないぞ。団子だったら口移しでもいいが。

 むぅ、団子ちょっと甘すぎ。潮でも飲んでバランスを取ろう。ホレ、噴け噴け。

 

 

 

 

 

入滅月

 

 

 息吹が完全復活した。

 

 

 そして桜花も復活ッ! 復活ッ!! 復活ッ!!!!

 

 ん、どした息吹。自分のリアクションが薄い? おめーだって、野郎と女性なら扱いが違うだろ。まぁそれはともかく、戦線復帰がありがたいのは本当だ。

 今はまだ大事にはなってないが、触鬼も増殖中だろうし、やはり異界の鬼達はどんどん強力になり、以前のようにその数も増やしている。今のうちに、色々慣れてもらわないとな。

 

 桜花は病み上がりだからともかくとして、息吹は以前から動く事自体はできていたんで、真面目に鍛錬やってたのは知ってる。実際、単純な技量だけで見ても、一つ上のステージ……は言い過ぎだから、階段3段分くらいは腕が上がっていると思う。そんなもんかと思うけど、一月足らずのリハビリも兼ねた訓練だもんな。むしろそこまでよくやった方だよ。

 

 

「ま、実際それくらいの評価が妥当ではあるけどよ…。まぁいいさ、成果は実戦で見せてやるよ」

 

 

 鬼を相手してる間に、余計な事気にする暇はないぞ? いや仲間の状態には気を配るが。

 

 

「冷たいねぇ…ま、そうでなくても半ばお前さんの動きを盗んだようなもんだから、あんまり大口叩けないけどな」

 

 

 ん? 俺の?

 

 

「里の稽古場で、何度か槍を使った事があったろう。あれはモノノフの使い方じゃないな」

 

 

 ああ…まぁあれも槍っちゃ槍だな、ランスだし。使い方も祝詞を交えるモノノフの動きじゃなくて、ハンターやゴッドイーターの動きだ。

 確かに体系立った動き方だけど、モノノフとして使うには勧められんぞ。俺も何度か試した事があるが、攻撃力が格段に下がる。やっぱり鬼を相手に攻撃を通そうと思ったら、ミタマなり神仏なりの力を借りなきゃならん。

 

 

「そりゃ分かってるさ。だけど、お前さんも妙な所で頭が固いね。それは鬼を攻撃するなら、の話だろう? 完全に防御、或いは牽制と割り切っちまえばどうだい」

 

 

 …ほう。確かに、モノノフの槍の扱いには、防御らしい防御は無い。いや、そもそもガードがあるのは手甲…ああ、盾剣もあるか。そこへハンター式の防御方法を突っ込んだらどうなるか。

 気休め程度の効果しかないかもしれないが、その気休め一つで随分違う。ダメージの軽減効果が殆ど期待できなくても、タマフリ・治癒の1回分が増えると思えば大分違う。何より、吹っ飛ばされて起き上がりを狙われる隙が減る。そうなりゃ気絶もしにくくなる……まぁ、上級以上の鬼の攻撃ともなれば、上手く対処しなけりゃ喰らった時点で気絶確定状態になったりするけど。

 

 

 

「はは、そういう事さ。鬼の攻撃力は凄まじく高く、人間の脆弱さは鬼の比じゃない。だからモノノフの技は、基本的に殺られる前に殺れ、で発展してきた。ここらで欠点を補うのもいいだろうさ。…だけどな、俺が考えてるのは、そこ止まりじゃないんだ」

 

 

 うん?

 

 

「何度か見たぜ、お前の……なんつーんだ、相手の攻撃が完全に当たってるのに、妙な動きですり抜けるように避けたり、どう考えても直撃で大怪我確定、下手しなくても即死なのに、全く傷を受けてないって技を。特に、お前が鬼の体になって大暴れした時のはすごかった」

 

 

 いや、その時の記憶が無いんで、話振られても困るんだけどよ。

 …すり抜けるような動きとなると、多分ブシドースタイルの事だと思うが。そして全然ダメージを受けない防御……ジャストガードかな? ハンター式なのかゴッドイーター式なのかは分からないが。

 

 

「初めて見た時は、何がどうなってんのかと思ったぜ…。理屈だって全然分からねぇ。だけど、あれを習得できれば、そして広める事ができれば、モノノフの被害は各段に減る」

 

 

 そりゃ……理屈は分かるけどな…。あれ、基本的に熟練者、玄人の技だぞ。俺だって理屈で説明できる気がしねぇ。(アタリハンテイ力学使っていいなら別だけど)

 

 

 …って、おい…さっき成果は実戦で見せる、とか言ってたけど…。

 

 

 

「…俺にも理屈は分からん。分からんが……部分的に再現できるようになってしまった」

 

 

 

 おいおいおいおい! シャレんなんねぇぞソレ! てぇか、明らかに鍛え方足りないその体でよくもまぁ…。

 

 

「これでも里のモノノフ筆頭級を名乗れるくらい鍛えているとは自負してるんだが、あんな動きをするお前に言われるのは無理ないかな…。ま、流石に完全再現は無理だった…んだが、そこで終わっちゃウタカタ一の伊達男を名乗れないからな。色々工夫してみたのさ。自分で言うのもなんだが、結構いい技が出来たと思うぜ。勿論、お前さんにも使えそうなのがな」

 

 

 それで理屈で説明できないってんだから、タチが悪いなぁ…。

 ま、いいか。どっちにしろ、そろそろ時期だろうしな。

 

 

「ん? 時期って?」

 

 

 …寝込んでいた戦力の回復。近所の異界で鬼が強くなり、ある程度の生態系の安定が生まれて。更に新システム…もとい新技の会得。これが何を意味するかと言うとだな…。

 

 

 

 

 

 

 里は触鬼に襲われるんだよ!

 

 

 

「な、なんだその理屈!」

 

 

 …なんだってー、は通じないか。いやでも割とマ

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジになってしまったよーだ。んじゃ一戦交えに行くぞー。

 

 

「…俺が新技考えたのが悪かったのかなぁ…」

 

 

 いつかは来るものだから、例えこの戦いで死者が出ても息吹の責任にゃなりませんな。

 ま、修行の成果を見せてくれい。

 

 

 

 

入滅月

 

 

 …ふむ。……ほむぅ………うむ。ぬぬぅ…。

 

 

 

 …息吹の新技、マジで使えそうな件。いや使用可能かって意味じゃなくて、汎用性があって強力でリスクが少ないって意味で。付け加えて言うなら、俺なら再現するのにあまり苦労はなさそうだ。

 ローリスクハイリターンのお手本のような技やな。理屈はサッパリ分からんが。いやアタリハンテイ力学なら普通に説明できるんだけど、そのアタリハンテイ力学が全く説明できねーんだよな…。

 

 具体的にどうなったかと言うと…簡潔に言えば、ハンター式ランスのカウンターだ。ジャストガード判定あり。上手く成功させればダメージ無し、スタミナ消費も無し。しかもどういう理屈か、ジャストガードに成功すれば、その後の反撃に敵の攻撃力が上乗せされると言う、護身完成した渋川先生もニッコリのノーダメ機能付き震怒竜怨斬みたいな技と化してしまった。或いはガードレイジ(簡易版)。MH世界でさえ、まだ完成してない技術だったのに…。

 流石にジャストガードに失敗したら、普通のカウンターか、単に防御するだけになってしまったが…それを盾付のランスではなく槍で使っていると考えると、驚異的ってレベルではあるまい。ランスなら、まだ盾を持ってるから理解できる。

 

 ガチで何がどうしてそうなった。デカブツの大パンチを、平然と正面から無傷で雄叫びを上げつつ叩き返したのを見た時は、富獄の兄貴でさえ唖然としていた。

 

 

 …いや、使うけどね。俺も。威力は息吹程ではなかったが、俺も再現できた。……槍じゃなくても。盾が無くても。

 こう…上手く行くとだな、体の中を色んなところから取り込んだエネルギーとか衝撃とかがビュモワっと……うん、やっぱり説明できん。

 ただ、俺の場合は武器を択ばず(流石に効果に差はあるが)この技を使える為、言うなれば前転とかジャンプとかみたいな共通動作に分類されるっぽい。…なんだかなー、バグ技覚えてしまった気分だわ。

 

 

 

 まぁ、稀に見る大勝利・大活躍だった息吹が、すっごい上機嫌になってるのはいいんだが。ジッサイ、息吹のお陰で逃げ遅れた哨戒役の人達が5~6人助かったからな。息吹的には何より嬉しい結果だろう。

 

 

 

 それはいいんだが、やっぱ襲ってきたのは触鬼だった。キツネとネコを合体させたようなヤツで、姿を消すという珍しい特技を持っていた。対策? ペイント玉とか煙玉で目印付けて瞬殺よ。

 …いや、あの尻尾が欲しくなって狙ってたら時間がかかったから、瞬殺ではないか。ま、姿を消すにしても、オオナヅチほど完全には消せてなかったし、正直言って中途半端な印象があったな。

 風とか竜巻とか振りまいてきてたから、ここぞとばかりに息吹が新カウンター使って……どういう理屈か、竜巻が逆方向に進んで触鬼に直撃していた。本当に何を編み出したんだろうね、この男…。

 

 

 とにかく触鬼…カゼヌイと名付けられたそいつを撃退し、三味線作ろうと清磨に持ちかけたりもしたんだが、なんか音を利用した武器というか狩猟笛ならに狩猟琴とか作り出しそうだったな。

 清麻呂は好きな方向に突っ走らせておけばいいとして、撃退後から話が加速度的にややこしくなってきた。

 

 いきなりやって来た悪人面二人が、指揮権がどうの通達がどうのとややこしい事を言い出すし、悪人面一号が秋水に絡んだり絡まれたりグウェンが超喜んだりしたし、二号は二号でホロウをナンパしようとして通りかかった虚海に絡みだすし、一号は更に秋水を放り出して二号と一緒に虚海にチクチクと…。

 1号は九葉、2号は識とかいう軍師なんだが…何で軍師が2人も来るのよ。そりゃ3人寄れば文殊の知恵とは言うし、触鬼の事が霊山的にも非常に重要な事なのも分かるんだが、里一つに軍師二人も出してどうすんだ。船頭多くて何とやら、だろ。

 

 まぁ、九葉のオッサンが来るのはまだいい。大和のお頭の知己のようだし、グウェンにも縁があり(どうみても利用しようとしていたが)、相馬さんから見ても指揮系統の繋がった上司であるそうな。

 が、この識とかいうオッサンなぁ…。いや悪人面なのはいいんだよ、九葉のオッサンも人の事は言えないし、俺だって割と悪党だ。義手っぽい手とか片方だけの眼鏡とかもいい。ウタカタに来た理由も、「霊山君(霊山のお偉いさんと言うかトップ)からの命」らしいんで、そこも許す。危険な実験や、奇妙な技術を持っているという秋水の情報にも、この際目をつむろう。

 

 だけどよ、いきなりホロウに「また会ったな」なんて言い出して…ナンパでもしてんの? 

 ちなみに後でホロウに聞いてみたところ、「いえ、初対面だと思います。空気を読んで、適当に返事をしただけです」だそうな。……変質者、か?

 

 

「…あの、確か霊山に居た時に、ホロウさんに突然話しかけてきたのが、あの人だったのでは」

 

「…………そのような事がありましたか?」

 

「ええ。突然話しかけてきて、よく分からない話をしてから去っていった、と言っていましたが」

 

 

 …そういえばそんな話もしたような。と言うか、どっちにしろそれってアレな人種だと思うんだが。

 そもそもの評判からしてヤバい奴って話だもんなー。秋水が利用するのを躊躇うレベルで。更に言うなら、虚海と実験の為につるもうとしていたってハナシだ。おお、もう…。

 

 

 

 

 で、実際何で来たと思う?

 

 

「触鬼の対処というのは、嘘ではないかと。ですが、それで軍師が二人と言うのは明らかに過剰です。相応の数の戦力を一緒に送ってくるならともかく」

 

「一人までなら正常な対応。もう一人が来たのは……」

 

 

 おそらく、どっちかは独断って事だろうな。或いは、独断にしたって上に「自分を行かせるように」誘導したか。

 尤も、その理由も色々考えられる。触鬼が本気で危険だから、一人では手に余ると考えたか。そのヤバい相手を自分でどうにかして、地位を盤石な物にする為か。

 …自分の公にはできない行為を知っている虚海を始末するのが目的か。もう一方は、それを察知して止めに来たか。

 

 

「…地位に関しては、まず無いと思います。霊山の軍師と言うのは、モノノフの中でも最高峰の地位と言えます。また、あの二人はその中でも上から数えた方が圧倒的に早い立場である筈です」

 

「千歳に関しては、どちらもあり得ますね。あの二人の内、どちらがどっちの役割を担っても違和感はありません」

 

 

 九葉のオッサンも、何だかんだで悪党だもんなぁ…外道に徹する事ができるって意味で。虚海の行動は、ヘタレの癖して非常に危険度が高かった。それこそ、結果的には無駄だったけどホロウが呼び込まれる程に。

 再発を防ぐ為に危険分子を始末しようと考えてもおかしくない。

 

 

「…ですが、それを九葉が止める事はあるでしょうか? 先程言っていた、『どちらがどっちの役割をしてもおかしくない』という話です。必要のない殺戮や被害は止めると思いますが、より重要な事項があるのなら、そちらを優先するでしょう」

 

「虚海の死が、彼にとってどれほど重要か…ですね」

 

 

 

 ……なんか、虚海を殺そうとする事が前提になってきてるな…正直、そうなっても無理もない状況ではあるんだけど。

 どーすっかなー。真向斬って殺しにくるような連中じゃねーし。そもそもそうなったとして、虚海がどこまで抵抗するかだよ。最近じゃウタカタの連中に弄られて多少は元気になってきたけど、中身は無気力状態のままだぜ、アレ。

 

 

「家の中でも、何をするでもなく虚空を見つめてぼーっとしてる事が多々あります。時々、見えない何かを目で追っているようですが……よく見たら蚊が飛んでいただけでした」

 

「夏の夜の蚊は悪です。即刻退治すべし。鬼より鬱陶しい…」

 

「…嫌な思い出でも?」

 

「オオマガトキの大戦の最中、ようやく回ってきた睡眠時間を削ってくれた怨みは忘れません」

 

 

 まぁ、気持ちは分かるが…。

 ともあれ、ちょっと様子見ますか。速鳥に虚海の周囲を警戒しておくよう頼んでおく。上手く行ったら、動物と話せる大師匠に何か教えてもらえるかもしれない、とでも言っておこう。

 

 

「はっきり言いますが、あれ程筋が悪い生徒も珍しいです。…ですが、隠密に関しては信頼できます。では千歳の周囲は速鳥へ。私は……少し識と話をしてみましょうか」

 

「私も一緒に行きます。これでも英雄扱いされているモノノフ、次期里長候補です。手練手管に関しては軍師の足元にも及びませんが、何かしらの証言が必要になった時に力になれるかもしれません」

 

 

 なら、俺は九葉のオッサンの方だな。秋水が妙な爆発しないとも限らんし、そっちもまとめて抑えておくか。

 …グウェンを巻き込むべきかは微妙だな。あれほど真っ直ぐな性格のヤツも珍しいが、それが九葉のオッサンに通じるかは話は別だ。むしろ、オッサンには通じずに、突っかかってくる秋水と揉めそうな気さえする。

 

 

「その辺の判断はお任せします。……それと、もう一つ危惧している事があるのですが」

 

 

 何だ、紅月?

 

 

「……橘花さん、どうするつもりですか? その、私は…今更どうこう言うつもりはないのですが、桜花さんが完治するまでは、という話だったでしょう。…時々、貴方を見ていますよ」

 

 

 何か問題でもあるか? 結界も更に強化されるぞ。

 

 

「桜花が微妙に感づいているようです」

 

 

 ………鎖帷子…いや新聞紙、ジャンプ…。

 「お守りとしてこれをどうぞ」と、『ケ』が入った袋を渡されたんだが、むしろ逆効果と言うか煽る結果にしかなりそうにない。面白がっているな? いや恥ずかしいのは恥ずかしいようだが、口元が微妙に笑ってるぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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231話

色んな意味でブレーキが壊れてきた感。
展開に詰まっているのと、そろそろデスワープかなーと思いながら書いてたら、こんなトコまで来てしまった。


NIOHプレイ中。
ふむ…これが和風ダークソウル……面白い!
ダークソウル未プレイなんで比較としては何とも言えませんが、いろんな人が嵌る理由がちょっとわかった。
あの緊張感、他のゲームではそうそうお目にかかれません。

あと、ダークソウルのキャラをSSで扱うと大抵超強キャラでしたが、その理由も分かった気がします。
何処に潜んでいるか分からない雑魚敵(倒される危険あり)、ボス、アイテム残量、足場、環境による影響、迷宮、その他諸々…そんな色んな物とずーっと戦い続けてれば、そりゃ英霊扱いにもなるわ。



ところで、最近某ニンジャさん出没しないな、と思って規約違反者一覧見てみましたが…すごい数の重複アカウント登録・総合評価の操作。
これ全部取り締まったんか…運営さん、お疲れ様です。
しかしニンジャさん、居なくなっても殆ど気付かれないとか、ニンジャと言うよりは一発屋だったな…迷惑な一発屋だけど。


入滅月

 

 

 何と言う事だ、虚海は悪党面爺趣味だったのか! 虚海と九葉のオッサンの逢引現場を目撃してしまった!

 

 

 …虚海の体って成長しなくなってんだよな…つまり肉体年齢的には初穂よりちょっと上程度。

 霊山の軍師が、JKリフレならぬJCリフレとは魂消たなぁ…。若いね、九葉のオッサン。…大和のお頭の同期だって聞いた覚えがあるが、それって年齢的には……うわ、どう考えてもアウトじゃん。

 エンコーだって言われた方がまだマシだったかもしれん。…合法…なのか? いやでもどう考えても脱法風俗店…でも建前的には…そもそも虚海の実年齢……つーか九葉のオッサンが、イキヌキするとしてもそんな簡単に足が着くような真似を…。

 

 

 

 

 ま、冗談はともかくとして、虚海と九葉のオッサンの接触があったのは確かだ。しかも、少々キナ臭い類の接触が。俺も途中からしか盗み聞きできなかったんで、大体の所しか分からんけど…。

 

 

 

「おんしか…。どうした。私を始末でもしに来たか」

 

「死人を再度殺す程、私は暇ではない。…だが、面倒事の種は摘んでおくに限る」

 

「……これの事か…それとも、おんしの娘の事か?」

 

「娘? ……ハッハッハッハ……クワッハッハッハッハ! まだ気づいておらなんだか。私に娘など居らぬ。あれは私の部下だ」

 

「なんだと?」

 

「最後に一人残った私の切り札。死を覚悟で、お前達を罠に嵌めようとしたが…いかんな。グウェンの時といい今回といい、どうにも奴が居ると策が狂う。今回は、切り札を温存する事ができたので良しとするか」

 

「……そうか…。おんしも最初から裏切る腹だったか」

 

「裏切るも何も、私は最初からお前の敵だ。…お前を敵と見做す意味がなくなっただけでな」

 

「そうか……元より独りきりの身、気にするような事でもないか。そら。持っていけ。触鬼の触媒は、それで全てだ。信じるかどうかは貴様次第だ」

 

「信じるなどと言う選択は、私にはない。だが、貴様の諦観がいよいよ以て末期である事は見て取れる。そうでなければ、こうして直接正面から会いに来るような真似はせん。皮肉なものよな、絶望こそが最も確信できる選択肢とは」

 

 

 ……どーゆー事? つまり何か、虚海が九葉のオッサンに何か仕掛けようとして、それを逆手に罠に嵌めようとしたら、勝手に虚海が自滅してたって事? 策を巡らして策に溺れて策の底でジタバタしてるのは非常に簡単に想像できるな。

 

 …とりあえず、九葉のオッサンが虚海に何かする、って事はなくなった…のか? うーん、直接聞いてもいいのかな。意外と便宜を計ってくれるオッサンだけど、それは俺の利用価値があるからで、自分に…或いは人間側に害が無いから、なんだろう。余計な所まで首を突っ込むのは危険。だが虚海の安全にも関わる事…。

 うん、それぞれ別々に聞いてみっかな。

 

 

 

 

 

 

 そう決めたはいいんだが、帰ってきたら紅月とホロウが悩んでいた。どうでもいいけど、普通に俺の家にいるなぁ…。

 まぁ、ホロウは紅月が一人で飯作ろうとするのを止めてくれたみたいなんで、感謝してるけど。

 

 で、二人が何に悩んでいるかと言うと…識を監視しようとしたのだが、そうする前に即気付かれたらしい。意図に気付かれた、という意味ではなく、ホロウが識に近づいた時点で、もう察知されていた。

 …ホロウは隠密はそこそこ程度の腕しかないが、軍師に気付かれる程じゃない筈。しかも目線を合わせたりした訳でもなく、単純に…「この辺に識が居るか?」と考えて角を曲がろうとした瞬間、そこに来るのが予め分かっていたかのように声をかけられたらしい。

 何ぞそれ。まるで監視対象が、監視者をストーカーして待ち構えていたみたいじゃないか。

 

 そのクセ、一緒に歩いていた紅月には全く気付いていなかった、と。

 

 

 

 …うーん? ホロウの事だけ感知できた? 確かにホロウの気配はなんつーか独特な部分もある。それが人造人間だからなのか、特殊な人生を歩んできたからなのかは分からんが、しかし一見するだけでは人間にしか感じられない。

 …いや、紅月の存在自体に気付いてなかったとなれば、ホロウの気配の質が問題なんじゃない。何かしら、ホロウに目印がついている…と言う事か?

 

 どうにも胡散臭いな…。ホロウに妙に執着(?)する事といい、強引にウタカタにやってきたっぽい事といい…。九葉のオッサンに比べると、おかしなところが多い気がする。以前からの知り合いの贔屓目もあるんだろうが。

 どっちも漫画やゲームなら悪役な顔…いやでもあそこまでアカラサマなのは…。

 

 

 尚、九葉のオッサンが虚海に何かしようとしていた、と言う話が出た時はホロウが銃の手入れを始めたが、何とか穏便に収まった。そうされても仕方ない事をしようとしていたんだし、実行には移さなかったんだから、こっちから手を出す必要はないな。

 

 

 

 

 

 

 さて、それはそれとしてエロ語りの時間である!

 本日の主賓は橘花です。桜花も復調、戦線復帰し、願掛けも成就したと言っていい。つまりはエロ解禁な訳だ。ちなみにまだ処女。例によって尻は貫通済みだけども。

 

 桜花が任務に出て戻らない夜、それはもう嬉々として「今夜、忍んできてください」と囁かれたよ。

 …なんつーか間男の気分だな…出張に出て戻らない旦那(桜花)、こっそり浮気相手(俺だ)を呼び込む新妻…幼な妻? 何と言うエロゲ。

  

 

 こんな事を俺が言っても全く説得力は無いが、不倫はNGだ。浮気もアカン。二股は俺がやるのはいいんだよ……いや本当にごめんなさい、今更だけども。

 だが実際は不倫なんぞではない。桜花は姉であり、橘花は妹。彼女達の間に恋愛関係。夫婦関係は無い。なので、当人同士が一対一の関係でない事に納得していれば、法的にも全く問題は無いのであぁぁぁる。

 桜花の怒りと殺意? 受けて立つ(震え声)

 

 

 

 

 ま、実際のところ、ここで拒絶するという選択肢は悪手以外の何物でもないんだけどね。触鬼の脅威が広まりつつある今、結界を更に強化しない事する必要がある。オカルト版真言立川流なら、ほぼノーリスクでそれをやれる。

 が、逆にここでお預けされてしまったら、橘花の落胆は如何ほどか。疎外感、ストレス、知ってしまった男の味に対する飢餓感、その他諸々…精神的なダメージが、モロに結界に影響するだろう。

 結局、ここでヤッちゃうのが一番いいのである。…俺にとって都合のいい理屈を積み上げているのは否定できんが。

 

 

 

 

 そういう訳で、鬼の居ぬ間になんとやら。モノノフであれば鬼を正面から打ち倒して、オヒメ様をモノにするという選択もないではないが。

 迎えてくれた橘花に促されて中に入り、お互い風呂に入って、未熟ながらも頑張って作ってくれた飯を食って…ここまでで約1時間、ってところか。丁度よく日も暮れてきて、雰囲気も充分。過ごしやすい気温になってきた。

 

 風呂から出て湯浴みに着替えから橘花の視線は俺のモノにチラチラ向いている。それも当然か。橘花に突撃したくて、湯浴みの下から押し上げてるもの。そりゃ気にもなる。

 食事の後、「まだですか?」と言わんばかりに、俺にしなだれかかって湯浴みの上からそっと撫でてくる。…我慢汁で湯浴みが濡れちゃうよ。

 

 そろそろ布団を敷いて、橘花のお望みの展開に雪崩れ込もうか……と考えていた頃だ。

 

 

 違和感を感じた。ナニが元気すぎる。いや元気なのはいつもの事だしある意味鍛錬の結果だからいいんだけど、風呂から上がって飯の間もずーっと起ちっぱなしなのよ? 海綿体がどうにかなるわ。マジな話、勃起しっぱなしだと障害が出るらしいし。

 そして、体が上手く動かない。

 

 

「あ、ようやく効いてきたんですね。このまま押し倒されちゃうかと思いました。…私はそれでもよかったんですけど」

 

 

 き、橘花…? まさか、一服盛ったのか!?

 

 

「はい。虚海が作った、とっておきの一品だそうです。さっきのご飯に混ぜました」

 

 

 あー、なんか妙な味が混じってると思ったら、失敗の類じゃなくて薬だったか。

 しかし虚海作だと? 確かにアイツは薬物とか呪詛にも通じているようだが、俺に効く毒なんて……あ、そういや普通にあったわ。麻痺毒が。ハンターでもモノノフでもアラガミでも、普通にかかる状態異常だったわ。多少の毒なら免疫があるけど、逆を言えば免疫以上の毒は防げないんだよな。

 しかし、何故虚海が?

 

 

 …はっ、まさか何百年モノのDTを捨てるべく、俺のケツを掘っちゃう気か? ケツをオスマン○にするつもりか!?

 

 

「…それはちょっと心惹かれますけど、虚海さんは嬉々として薬を作っただけなので、今回は不参加ですよ。あなたにも効く薬を、と言ったらすぐに作ってくれました。流石ですね」

 

 

 あ、そうなの? ……あ、近くの木に鳥。ありゃ多分虚海が放った監視だな…。

 まぁ、俺の弱点である麻痺を即座に見抜いて、効果があるモノを作り出すのは、素直に凄いか。あと処女の癖に媚薬効果まで付けてやがる。…処女はあんまり関係ないか?

 

 それで橘花、どうしてこんな事を? いや心当たりがないとは……口が裂けなきゃ言えるけど。

 

 

「はい、紅月さんと那木さんに相談されたんです。…後は初穂さんも混ざりましたけど、いつも自分達ばかり気持ちよくしてもらうのは申し訳ないから、お返しをしたいと言ってました。そこで一服盛ってから、思い切り気持ちよくして差し上げよう…と言う話になったんですが、素直にお薬を飲んでくれるとも思えません。なら、気付かれずに飲ませる訳ですけど……その為の絶好の状況が、私との逢引だったんです」

 

 

 そのお返しって、絶対お礼参り的な意味だよな。今までさんざん返り討ちにしたけど、まだ懲りてなかったか。…いや、逆にクセになっちまったのか?

 ちなみに誰の発案?

 

 

「さぁ、そこまでは…私は誘われたから参加しただけですし。ああでも、グウェンさんは『絶対に顔に出るから』と秘密にされていたようです」

 

 

 顔に出るのに関しては、初穂も橘花も大して変わらないと思うけどなぁ…。

 しかし、よく了承したな。初めての時くらい、二人きりで…とか考えなかったのか?

 

 

「それも考えましたけど…その、初めてはあの時でしたし。皆さんに見られながら、と思うととっても興奮しちゃって」

 

 

 あー…まぁ、確かにあの時に尻をいただいたんで、初めてではないけど。と言うか、今回も橘花はスゴいな。前の一戦だけでほぼ完全覚醒状態じゃないか…。

 んじゃ、この後皆で俺を輪姦するって訳か? それはそれで望むところだが、とりあえず明かり消してくれ。虚海に見られてるぞ。

 

 

「私としては見られても全く問題ありませんけど、鳥に見られるだけでは何も感じませんね…。どちらにせよ、明かりを消すのが合図になっているのですけど」

 

 

 うん? あれ、皆近くにいるのか?

 

 

「いえ、間違いなく気付かれるから、とそれぞれ家に戻っていらっしゃいます。初穂さんの家からこちらが見えるので、明かりを消したら皆を集めて…という手筈になっております。ふふ…ですので、暫くは二人きりですよ。存分に、愉しませてくださいませ」

 

 

 フッ、と明かりを吹き消してから哂う橘花の表情は、今までのループで何度も見た淫魔のそれだった。

 

 

 体が上手く動かない…しかも橘花にナニかされるとしても危害ではない。となると、いっその事身を任せてみるのもいいんじゃないかという気がする訳で。

 

 

 

 

「それでは、はしたないですけども…まずはご奉仕いたしますね。先日は手でしかできませんでしたので、お口でさせていただきます。思いっきり注いでくださいね」

 

 

 湯浴みを解き、自分も服を脱ぎ捨てて、横たわった俺の股の間に入り込む橘花。躊躇い一つなく、いきり立ったままのモノに口付ける。先端に一度、くびれに一度、根本に一度、睾丸に二度。最後の一回は、キスマークでもつけようとしているかのような強さだった。

 睾丸をころころと転がす手から、強い期待が伝わってくる。金玉の中に詰まっている精子を感知しているかのように、橘花は熱にうかれた表情になっていた。

 一しきり口付けた後は、大きく口を開き…その中でドロドロと溜まっている唾液を見せつけて…捕食するように、俺のを根本まで飲み込んだ。

 

 流石に俺のサイズでディープスロートは難しかったらしく、喉の奥まで一度だけ咥え込んで、すぐに咳き込みながら離れる。だが、たった一飲みで、俺のはローションを塗りたくったのかと思う程に唾液まみれになっていた。

 

 

「ずっと我慢していたので…まずは駆け付け一杯」

 

 

 どこで覚えたそんなセリフ。と言うかここで言うセリフじゃねーよ。何をしたいかは分かるけど。

 ドロドロになったカリ首から上だけを口に含み、舌先で好き放題に嘗め回し、右手で根本から上までを何度も扱き上げ、左手では二つの球を揉み解す。左手以外は、遠慮も気遣いも力加減もなく、ただ力尽くで精を絞り上げようとする動きだった。

 そんな力だけの行為でも、麻痺して上手く制御ができない体には充分すぎた。ストローに詰まった果肉を吸い上げようとするかのような、橘花の強烈なバキュームで、俺はあっけなく「あぁぁぁ…」してしまった。

 

 うむ…いつもの吹き上げる感覚と違って、圧力がないのを啜りあげられるのもまた…。

 俺は中々満足だったが、橘花はそうでもないようだ。

 

 

「うーん…期待通りの味と濃さなんですけど、なんていうか勢いがないですね。やっぱり麻痺のせいでしょうか?」

 

 

 他に何があるっちゅーねん。と言うか期待通りの味と濃さって、それ一晩しか経験がない女の言う事かね。……おい橘花、どした? 体も少しずつマシになってきてるから、膝立ちになるくらいは出来るぞ?

 

 

「でしたらお願いします。…それにしても、もう動けるようになっちゃったんですね」

 

 

 いやー、これだと他の人達に力で来られると抵抗できそうにないなぁ。…ある意味輪姦(和に限る)の醍醐味…なのかな?

 ん? 膝立ちで、橘花に跨る? こうか? ………何? 逆?

 

 

「願掛けしてても、考えるだけなら出来ますし、考えないようにしようとしてもしちゃいますから…色んな事を考えて、最後に思いついたのがこれなんです。…ここをどうすればいいか、あの夜にしっかり教えてくださいましたから……お返しです。

 

 

 

 おう!? 真上を向いていたナニを掴まれて、倒される…そして両側から柔らかい感触。愚息がおっぱいに閉じ込められた! そこ替れと言いたくなるが、我慢我慢。と言うか、橘花の顔の上に、後ろ向きで跨るこの体勢。そして橘花の趣味…。と言う事は。

 

 

「んっ…お乳で慰めながら…お尻、舐めちゃいます…」

 

 

 やっぱりかぁ?! おっ、おう……アカン、麻痺のお陰で尻にも力が入らん。橘花の舌に好き放題侵入されてしまう。ああ、力が抜ける、橘花の上に崩れ落ちてしまいそうだ。

 

 

「いいですよ…私の顔に、お尻を付けてください。跨って、多少なら体重をかけても大丈夫です。そうすれば、もっと奥まで舐めて差し上げます。お乳にも、いつでも出してくださいな」

 

 

 おうっ…こ、興奮と麻痺と媚薬で……我慢が効かん…! オフッ!

 

 

「んっ…お尻も、橘花の舌を締め付けてます…ああ、お腹の上に熱いのが沢山。お乳で受け止めきれませんでした…」

 

 

 ふ、ふぅ…あ、悪い、すぐ退くよ。

 

 

「もう少しそのままでも良かったのに…。殿方の体重と言うのも、何だか安らぎますのに。でも、仕方ありませんね。そろそろ皆さんが集まってきてしまいます。その前に、私の…」

 

 

 橘花は今度は自分が上になり、後ろを向いて自分の尻を掴んだ。左右に広げた合間に、しっかり洗浄され『準備』も『自己開発』もされた浮上の穴が丸見えになる。

 

 

「私の、こちらにもお情けをください。本日教えていただける『お遊戯』がどのようなものかは分かりませんけども、やっぱり私はこちらが好きですので」

 

 

 やれやれ…俺の尻だけじゃなく、自分の尻も虐めてほしいってか。こりゃ、他の皆の尻もその内弄らせてやらなきゃならんな。…想像したな? 穴がヒクヒクしたぞ。

 だけど、生憎と射精の脱力感と麻痺が長引いててね。欲しければ自分で入れるといい。

 潤滑油は……お前の腹に出した白いのでいいだろう?

 

 

「素敵…」

 

 

 うっとりと…淫蕩さを除けばだが…微笑んで、橘花は見せつけるように白濁を指で尻穴に塗り込んでいく。腹に出されたモノを大方尻に移し替えた頃には、橘花の指の動きは自慰に等しいモノになっていた。

 だが、慰めるにしても、自分の指等より余程上等なモノが転がっている。先端が入口に当たっただけで、橘花はビクリと震えた。

 男に飢えた渇望とは裏腹に、震える体で、全てを味わい尽そうとするかのように、慎重に腰を落とし、肉棒を尻穴に迎え入れる。

 

 根本まで咥え込むと、股関節付近に意識と筋力が集中するのが分かった。それに伴って、複雑な蠕動が起こり、早くも催してくる。

 

 このままされるがまま、というのも癪だ。

 力が抜けきった橘花の腕を引き、俺の上に倒れ込ませる。上向きで重なっている状態だ。

 

 倒れ込んだ体を後ろから抱きしめてやると、嬉しそうに括約筋がキュンと締まった。いつもなら、ここで自分から突き上げて、穴の形が戻らなくなるまで抉ってやるところだが…麻痺がまだ続いている(嘘ではないが、動けない程でもないけどね)。

 うむ…となると………そろそろ初穂達も来る頃だろうし…よし。

 

 

 橘花、そのまま両手を腹の上に乗せるんだ。…そう。で、ここを…こんな感じで押す。

 

 

「っん! ……な、なんですか、今の…先日の感じと違います。不愉快ではないんですけど、なんだかもどかしいような…」

 

 

 うん、それだけならもどかしい。なので、ここをこう…こっちからも押してやるとだな。

 

 

「~~~!!!」

 

 

 腹を上手く抑えると、壁越しに子宮がぐりぐりされる訳だ。元々、尻での交わりでの快感ってのは、尻穴の中から膣内を刺激する、というやり方で、橘花みたいに最初からソッチの感覚を得られるヤツは少ないんだよ。

 うん、橘花の場合、尻での性感も得ている訳だから、それと同時にまだ未経験の膣や子宮での感覚にも同時に襲われる訳だ。

 ほーら、大好きな尻穴を抉られながら、これから待っている破瓜の痛みと女性本来の悦楽に浸るといいぞ。

 ほれほれ、こことかどうだ?(前ループで喰った時に、膣内の弱点も把握済みだよ。以前は悶絶するくらいの急所だったけど、未経験かつ膣壁越しの刺激であれば)

 

 

 

「あっ……あっ、あ……は…はへ…」

 

 

 いい塩梅にアヘ顔である。お腹を押す手も、力が入らなくなって止まってしまったようだ。

 

 

 なので俺の手で押してやる。ほれ、ただ押すにしたって、いろんなやり方があるんだぞ。押す力の強弱を付けさせて疑似ピストンとか、お腹を押さえて撫でまわす事で疑似グラインドとか、挿入しているナニをピクピク動かしてみたりだな。

 

 

 

 

「ああ、やっぱりもう始めていました」

 

「うわー、やっぱり橘花としてるのはえぐいわ…。神垣の巫女が、こんなに凄いお尻だなんて…」

 

 

 あ、紅月と初穂。続いて那木とグウェンも入ってくる。

 

 

「…私としては、やはりお尻での遊びは衛生的に気になるのですけど…」

 

「あなたにしては大人しいな? 『初めて』は私達が到着するまで待ってくれているとは思っていたが、橘花殿は完全に動けなくなっていると思っていたんだが」

 

 

 完全ではないけど、ほぼ腰砕け状態だぞ。まーなんだ。まだちょっと体が上手く動かないんで、初体験を手伝ってやってくれ。

 大好きな尻穴攻めで、もう準備は万端。最後に……うっ………麻痺で今一我慢ができない俺の白濁液を発射し、尻穴の中で馴染ませて引き抜く。うむ、これでオッケー。

 

 

「うわぁ……お尻の穴、閉じないわ…。引っこ抜いた………お、おちんちんはドロドロだし…これを橘花に突っ込むのね…初めてなのに…」

 

 

 はっはっは、橘花が望んでいるので何の問題もない。じゃ、皆で橘花を支えて、上に跨らせてやってくれ。

 

 

「はいはい……凄いですね、この子は…麻痺させていたとはいえ、貴方を相手にここまで…」

 

「いえ、本当に凄いのは、これを自分から望めると言う事だと思いますけど……う…こ、この柔らかさは…」

 

 

 橘花の柔らかさや、オンナの匂いが気になるか? 確かに、同性であっても愉悦に狂ってしまいそうだと思う。娼婦にでもなれば、それこそ傾国の魔性の女になってたかもしれないな。絶対血筋的にもモン娘だ。実際桜花だってケツ穴大好きっ娘だったし。

 ま、ともあれ本番…いや今やってるのも一応本番だけど…前にクタクタ状態になった橘花を、皆が抱き起して、所定の位置に橘花をセット。更に自分達はそれをよーく見られるポジションを確保し、興味津々状態。…今更と言うか自分でやっといてなんだけど、エロに関するブレーキ完全に壊れてるね。

 

 

 はい、それじゃ橘花の初体験、破瓜の瞬間のお披露目です。さぁ橘花、観客の皆さんに言う事はあるかな?

 

 

「はい…お、お待たせしました……私、橘花の…初めての時にお越しいただき…ありがとうございます…」

 

 

 うんうん、で、これから何をするのかな?

 

 

「これから…これから、私の純潔を、この方に奪っていただきます…お尻を何度も抉って気持ちよくしてくれた、お、おちんちんで…」

 

 

 おちんちん?

 

 

「お、おちんちん様で…私の膜を、破ってくれます…。初めてなので、痛いかもしれないけど…この人は、私は淫らだから、大丈夫だと…言ってくれます…。それに…お尻で、とっても気持ちよく…していただきましたので…ん……」

 

 

 催促するように、入り口をぐりぐりしてみる。今すぐにでも受け入れたいとばかりに、橘花の女の部分が蠢いて熱くなっているのがよく分かった。

 俺の上で仰向けになっている橘花は、ゾクゾクするような半泣き顔で、体をそらして目を見つめてきた。

 だが却下。コレが欲しければ、ちゃんと最後まで宣言してオネダリするんだよ。

 

 

「あ、あううぅ……こちら…でも、きっと気持ちよくなれます…。皆さま、どうか…私の初めてを、初めてなのに、いやらしい声を上げて散々犯されるのを、御覧になってください…! も、もう駄目です! 早く、早くお腹にください! 体が熱くて、焼け死んでしまいそうです!」

 

 

 これから死ぬまで、その焼け死ぬような熱さを愉しむ事になるんだよ!

 それじゃ、ちゃんとオネダリもできたご褒美だ!

 まだうまく腰が動かないから、橘花の肩と腰を抑えて…ほらいくぞ!

 

 

「あ、あうっ…! う……!」

 

 

 まだ未開通とは思えないくらいに熱くて柔らかい肉が、俺の棒に覆いかぶさってくる。

 棒の侵入を阻む肉膜ははっきりとした感触なのに、いとも容易く千切れ去った。

 

 グニグニと動く膣肉、未だ経験が無い部分が肉棒を求めているかのように、自分から奥へ奥へと誘ってくる。

 尻の中から把握・刺激していた弱点を、小刻みな振動で小突いてやれば、破瓜の痛みすら忘れて甘い声が上がった。

 

 さて、ここからどうしてくれようか。初体験くらい俺の手というか腰と言うか第三の足と言うかちんぽで徹底的に善がらせてやりたいと思うが、同時に貫かれたまま美女4人に弄り回される橘花と言うのも捨てがたい。本人も多分乗り気だし。

 しかして、先程の宣言ではやはり俺に犯されるのがお望みのようにも思える。

 うむ、やっぱ俺が直接ヤらねばな。

 

 背後から耳を唾液まみれにしながら、右腕は乳を弄び、左腕は腹を抑えて子宮を棒に押し付けて、絡めた足を広げて大股開きを強要し、そして腰は橘花の膣の要望に応えて奥へ奥へと突き進む。

 橘花も痛みはあるようだが、それ以上に未知の感覚…正確には、尻の時から感じはしていたものの、そちらの性感の為に上手く認識できてなかった感覚に振り回され、それどころではないようだ。この分だと、貫通即子宮に子種がコンニチワできそうだ。

 

 

 

 ふむ…橘花なら大丈夫そうだし……理論上しか組み上げていなかった奥義、アラガミ姦を発動させてみるか? 橘花達からしてみれば鬼のチンポな訳だが、ここまでトランスしている橘花なら受け入れてくれそうな気もする。

 いや待て、ギャラリー勢は既に大きく盛り上がり、自分で暇を潰すと言うか慰めたり、絡み合っている者も居て、いい塩梅に声が響き渡っている。

 ならば…。

 

 

 オカルト版真言立川流、囁きの術強化版! これが勝利の鍵だ!

 以前使った時は、全員の声が錯覚を引き起こし、あっという間にノックダウンしてしまったが、覚醒版橘花ならきっと大丈夫だ!

 仮に大丈夫じゃなくても、全員がガンギマリ状態になれば、麻痺が解けるまでの時間稼ぎにはなる!

 

 …と言うか、マジでこの麻痺スゴイな。徐々に回復してるけど、ハンターをこうも長時間痺れさせ続けるとか、MH世界のモンスターでも無理だぞ。どう考えたって毒薬劇物通り越してるだろ。………あ、これ薬物効果もあるけど呪詛の類も入ってるわ。虚海のヤツ、扱いが悪いお返しだってここぞとばかりに呪ってやがるな。

 まぁいいや。霊力増幅マシマシ状態になって呪詛返ししてくれる。呪詛って返されると2倍になるから、シビシビしてる間に倍返しで累計4倍決定な。

 

 

 ま、それは置いといて…早速術を使ってみると、橘花の反応は劇的だった。割と真面目に心不全とか心配しないといけないレベルで、性感に翻弄されているらしい。

 締め付けがスゴイし、息も絶え絶え。アヘ顔通り越して、女の子がしちゃいけない表情になりつつある。

 

 そのまま突っ走ってみるのも一興だったけど、流石に腹下死なんざ気分が悪いし何度ループしても後悔が消えないレベルでトラウマになりそうだし、1日経たずにデスワープ確定だし。

 何より、まだ痺れだか呪詛だかで、このモンの凄いキュンキュン締め付けに耐えられないんだよね。

 

 締め付けが強くなるにつれ、奥への吸引力も増していくもんで……あっ、独特の感触! つまりこれ一番奥の壁…うっ!

 

 

 

「「「「「~~~~~~!!!!」」」」」

 

 

 

 ………っ、は……ああ、今のは本気で凄かった…色々吸い上げられた気分だ…我慢が効かない状態だったからか、次から次へとこう、絞り上げられると言うか文字通り吸い出される感覚で…。

 

 

 体をゆっくり起こして、橘花を横に退けてみると、息も絶え絶え…いやちょっと笑ってるから、羽化登仙から文字通り天まで昇ってしまったかのような状態だ。

 最後に俺に焦点を合わせて、ちょっとだけ笑ってから、カクンと気絶してしまった。

 うーむ、当人の望み通りだったとは言え、流石にちょっとやり過ぎたか?

 

 橘花を放っておくわけにもいかんし、ちょっと後始末………

 

 

 

 

 

   あの、皆さん、なんでワタクシを抑えつけるのでしょうか?

 

 

 

 

 なに?

 術の効果はあって、橘花と一緒に達しはしたけど、まだ満足してない?

 折角虚海に薬まで作ってもらったんだから、成果を出さなきゃ申し訳ない?

 

 

 

 何より、ほぼ初めての橘花がアレだけスゴい事になって、俺もノックアウト寸前状態になっているんだから、ここから自分達が責めれば普段アヘアヘ言わされてるリベンジも出来る筈?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、これアレだな。

 男女は逆になるけど、恋人だと思っていた相手とラブラブしてたら実はゲスで、いきなり扉が開いて入ってきた連中に輪姦されるとか、そいういう話?

 

 

 

 

 

 



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232話

グーグルのアカウントのパスワード強制変更がウザい…。
最近使われたパスワードは使えないとか別の所で使ってるアカウントにするなとか!
幾つもパスワードがあったら管理しきれねーから同じもの使い回してんだよぉぉぉ!
安全性より先に利用できなくなるだろ…。
なんかこう、あっちこっちから借金して何処に何円返せばいいか分からなくなる気分。


入滅月

 

 

 太陽が…黄色くない。

 

 

 

 いや、流石にどうしようもなかったのよ? 体は朝になるまでマトモに動かないままだったし、力でも技術でも人数でも負けて、最初から動けないように抑え込まれてるとなれば、いくら何でもどうしようもない。

 オカルト版真言立川流が使えないように、ご丁寧にも霊力の流れまで引っ掻き回してくれたしね。

 何より、途中から本格的に気持ちよくなってきたんで、流されるままに絞られちゃったんだよなぁ…。

 

 んじゃどうして、平然としてるかって? ……基礎体力の問題、としか言いようがないんですが。確かにタマの中がカラッケツになってる感覚はあるんだけど、気力体力事態は漲ってるってゆーかね。

 多分、ちゃんと飯食って生活してれば、半日も経たずにまたギンギン状態になるんじゃなかろうか。精子がとめどなく作られていくのを実感するわい。

 ハンターってそういうモノよ? いや割とマジでね。 

 

 結局ノックアウトには至らなかったものの、俺を好き放題に弄んでいぢくり回して、自分も跨ってしっかり満足した皆さんは上機嫌。

 俺としても思うところが無いではないが、普段は一方的に組み敷いて都合よく犯している女達に、逆に複数で搾り取られるという新境地…と言う程ではないが…も体験できたので、まー問題は無い。

 …もともと、オカルト版真言立川流を覚える前、或いはループに入る前の俺って、Sのケはあったけど、Mもイケるタチだったと思うしね。いや、あくまで常識的な範囲でだよ? 浅いプレイの範疇でだったら受け入れられるって程度の意味で。

 

 

 

 

 

 まーなんだ、桜花も無事帰ってきて、無事にバレる事もなく乗り越えられたので、取り敢えずはおk。九葉のオッサンも、虚海をどうこうしようとしている訳ではないようだ。

 触鬼は…増えつつあるのでこれは最大限の警戒と速攻による殲滅が必要だが、もしも総力戦で攻めて、1体でも取り逃がしたとして……そこから増殖するまでに、里の戦力を回復させられるかと言うと、非常に心許ない。

 だからと言って、手をこまねいていれば敵の増殖が進むだけ。ジレンマだね。

 

 とは言え、トータルはともかく、局所的に見れば触鬼との戦いは順調だ。最初に戦ったキツネコもといカゼヌイを初め、デカいニワトリことオラビ、獣人みたいなオンジュボウ。

 強いと言えば強いが、言っちゃなんだがそれだけだ。ここまで激戦を潜り抜けてきたウタカタのモノノフ達がしっかり準備して挑めば、仕留めるのはそこまで難しくない。

 前も似たような事考えた覚えがあるが、戦闘中にその辺のモノを取り込んで回復したり分裂したり、或いは凶器にしたりと、そういう能力も見られなかった。

 数体ずつなら減らせているんだが、多分ネズミ講式に増えてるから、焼け石に水なんだろうな…。

 

 

 真面目な話、どうしたものか。そこまで凄まじい増殖速度だと、俺が狩り魂全開自重無しで突っ込んでいっても、狩り尽くせるか微妙なところだ。ハンターはジャイアントキリングは得意だけど、雑魚の群れを殲滅するのは苦手なんだよ。

 今更なんだが、こんな風に増殖する敵の一番いい対処法は、増える前に潰す事、そもそも生まれさせない事だ。時間が経てば経つほど厄介になるんだから、時間が経つ前に禍根を断てって事だな。

 しかし、それが出来れば苦労はないし、そもそももう時間が経ってしまっている。

 となると……戦略級の爆弾で、まとめて吹っ飛ばす? ……いや、そんな物、GE世界にだってあるかどうか怪しいし、何より粉塵とか取り込んで一気に増殖したら……うわぁ、考えたくもない…。

 

 なら、増殖を止める方法を探す? …俺じゃ無理だな。虚海も触鬼を研究してたんだし、どうにかならんか?

 ………ん? これ、割とイケるんじゃね? 全部止めるのが無理でも、そうだ……増えた鬼の中に、触鬼にとって毒になる鬼が居たら、どうだ?

 イメージ的にはホウ酸団子。

 

 

 で、考え突くまま口にしてたんだけど、実際どうよ?

 

 

 

「…無理だ。と頭ごなしには言わぬが…あまり良い手ではないだろうな」

 

 

 何でよ。共食いしあって潰れてくれるなら、万々歳だろうに。

 

 

「私が言うのもなんだが、鬼とはそう簡単に手綱を握れるものではない。戦闘能力を抜きにしても、凄まじい適応力、生命力、進化する速度…。どれも、文字通り人知を超えると言っていい。それを相手に、毒となる生物を作り出した? いいだろう、最初は上手く機能するかもしれん。だが、2代3代と重なる頃には…」

 

 

 毒が薄まり、捕食してそれに耐えた奴は耐性を得て、中には逆にその力を取り込む奴も居る…か。

 

 

「そういう事だ。それを利用して世界を危機に陥れようとした私が言えた事ではないが、生物の…特に種族単位での底力と言うのは、人間の想定を常に上回る。触鬼の増殖を抑えられたとしても、もっと強力な鬼が出てくるのは間違いないだろう」

 

 

 

 …むぅ、確かに…。と言うか、これってハンターとしての考え方の基本だよな。人間のスペックじゃ逆立ちしても勝てないモンスター相手に………あれ、逆立ちしなくても狩って・勝ってないか?……モンスター相手に、生態系を乱すような真似をしたらどうなるか。

 ハンターの本領は自然との共存。この共存とは自然を保護するという考えと、未知の領域に踏み込んでいく行動と、そして何より手の付けられない強大な天災を呼び込まない為の、率直に言ってしまえば保身の為の理が合わさったものだ。

 確かに相手は鬼だが、奴らだって奴らなりの理屈と力関係、法則に従って生きているのは間違いない。それを一部だけでも手玉にとれると考えるとは……はぁ、ハンター失格だな。こんなんでフロンティア行けるのかな、俺。

 

 

「とは言え、想定以上の対価を覚悟の上であれば、確かに効果は出せるであろう」

 

 

 …? 想定以上の効果を覚悟、とはまた妙な言い回しだが、それは置いといて…どういう事だ?

 

 

「研究を進めている間に分かった事だが、触鬼の最も特異な能力は、その不安定さにある。不定形、と言った方が正確だな。おんしも知っているように、取り込んだ物の姿形を真似るように、新たな鬼が生まれてくる。獣のように、己の姿を子孫に残す事が無い。どのような相手でも、子を残す為の道具として利用できる」

 

 

 子を残す為の道具………オ○ホール?

 

 

「よく分からんが、違う気がする」

 

 

 まーそうだな、あれはむしろ子を残さない為の道具な気がする。今度産むとは別の意味で。

 

 

「今度というからには、次に孕む為のものではないのか? …話が逸れたが、触鬼達の形はとにかく不安定だ。だが、その不安定な形をどうやって保っているのかと言うと…奴らの貯めこんだ力によるものだ。我々が使う、ミタマの力とも少し違う、得体の知れない力…それを使って、奴らは己が体を安定させ、その存在を確固としたものにしている」

 

 

 …それで? なんか話が脱線しとらんか?

 

 

「黙って聞け、ここからが重要だ。とにかく、奴らはその体を維持するのに相当な量の力を使っている。これは奴らにとっても、相当に苦痛な事らしい。ならば、それを逆に肩代わりしてやればどうだ? 奴ら自身で行う以上に、完全に体を固定してやれば?」

 

 

 どうやるのかは知らんが…不安定さ故の繁殖力は抑えられる。だが、その分触鬼達の頑丈さや力強さが跳ね上がる、と?

 

 

「その通り。さぁ、どうする? それなり以上の強さを持った、増殖する触鬼の群れを相手にするか。手に負えない程の力を持った、数が限られた鬼を相手にするか。おんしが決めよ。ウタカタの頭でも、ホロウでもなく、おんしが決めるのだ。私をここに連れてきたおんしが。ホロウと共に歩むおんしが。おんしが、だ」

 

 

 

 ん、じゃやろうか。

 

 

「その心は?」

 

 

 相手がなんぼ弱くても、敵が無限じゃ勝ち目がない。相手が強くて数が居るなら、戦わずに手足爪先から徹底的に、ヤスリで削り落として殺しきる。

 どれだけ時間がかかろうと、どれだけ犠牲が出ようと、殺しきれば勝ちだ。例え俺達が悉くくたばっても、鬼が一匹も居ない世界で男と女が残ってりゃ人間の勝ちだ。その1年後に絶滅してようと、勝ちには違いない。

 だからやる。敵を無限じゃなくする為に、数多の犠牲と引き換えに人の勝利を引き寄せる為にやる。

 

 

「ほほう…言いよるの」

 

 

 ま、次があるからのセリフだと思うけどね。何度も繰り返してると、こんな選択もあっさりできるようになるわ。

 

 

「はて、それはどうかな。それを躊躇いなく選べる時点で、もうどうしようもなく壊れておろうに」

 

 

 ……ちょっと狩りキチなだけで、普通の男……いや煩悩的な意味でもキチだけど…だと思うんだけどなぁ、俺…。

 

 

「それを素面で言える時点で狂人以外の何者でもないわ」

 

 

 解せぬ。

 

 

「良かろう。退屈しのぎには丁度いい。イヅチカナタへの意趣返しにもなりそうだ。作ってやろうではないか、触鬼どもに対する毒を」

 

 

 よっしゃよく言った! …と言いたいとこだが、まず襖の中から出てこいや。今ここに居るの、俺とホロウだけだろが。

 

 

 

「………一服盛った腹いせとかしないか?」

 

 

 しないしない。

 

 

「…だったらここに居てもいいだろう」

 

 

 …おいホロウ、こいついい加減に引きずり出せよ。

 

 

「お断りします。非常に問題だとは思いますが、これはこれで面白いので」

 

 

 ……まぁいいけどよ。じゃあ虚海、最期の質問だ。お前、先日来た識とかいう軍師と何か接触はあったか?

 ああ、霊山で協力関係にあったってのは聞いてる。ウタカタに来てからだ。

 

 

「…いや、無い。私も始末しに来るかと思っていたが、何もなかった。…どうかしたのか?」

 

 

 いや………ホロウに続いて、俺に妙な事言ってきただけだ。ナンパだとしたら、趣味嗜好以前のやり方だったけどな。

 

 

 

 

入滅月

 

 

 話をしよう…あれは今から172,800―― いや、129,600秒前だったか。まあいい。俺にとっては一昨日の事だが、君達にとっては多分4日くらい前の出来事だ。

 俺には名前があるけど、何かしらんが日記に書いた事は無いからなんといえばいいのか………と言うか、普通は日記に自分の名前なんか書かないよな。表紙には書くかもしれんけど。

 あと俺ってループしてるから、割と真面目にシャレにならんネタな気がする。いやエルシャダイやった事ないんだけどね。

 

 とにかくアレだ、一昨日、識に話しかけられた。男との会話なんぞ態々記憶しようとは思わんのだが、あからさまな悪人面と言ってる事意味不明な支離滅裂さと、厨二病を歳高くして発症したんじゃねーかと思うくらいアカン話し方で、妙に印象に残るヤツだった。

 だから……と言う訳じゃない…いや、その為か? 会話(と言えるのだろうか。熊本弁より難解だったが)の内容が妙に引っ掛かる。

 

 

 話のとっかかりは、鬼の手に関する事だった。出所やら使い方やらを聞かれたんだが、その辺は適当に誤魔化した。あっちも本気で探っているのではないらしく、あっさり引き下がったしな。

 驚いたのは、鬼の手の機能や構造を、一部とは言え当ててみせた事だ。しかも、事前情報はほぼ無しに。ホロウが使っている鬼の手だけではない。俺の場合、体内にカラクリ石を埋め込んで(と言っていたが、俺の場合は取り込んだんだけど)いる事まで当てやがった。

 使い手の意思を具現化する道具…そのキモであるカラクリ石の存在も言い当てた。尤も、識は「カラクリ石」とは呼ばずに、なんかよく分からん古い神だかバケモノだかの名を付けていたが。

 

 流石の技術力、というべきなのか、怪しげな実験の成果と思うべきなのか。博士とタメを張れる技術と頭脳を持っている、と言う事だろうか…。

 

 

 

 

 

 そこから話は変わって、また妙な事を言い出した。多分、霊山でホロウに話しかけたのと同じ内容だと思うが。

 

 内容は……なんだその、よくある「こんな世の中間違ってる!」とか「間違った世界なんて滅びてしまえばいいのに…」とか、アンニュイ気取ったガキンチョがダークヒーロー(笑)気取って吐くようなセリフだった。妙な含み笑いや言い回しもその類だと思うんだが………いやでも霊山の軍師ともあろう者が、そこまで拗らせるかな………エラくて頭いいやつでも拗らせる時は拗らせるか。二次元の話になるが、ギアスの人とか。

 この世界がおかしいと思わないかって? 思わないな。最初はそう思った事もあるが、こうなったのはこれまでの色々な事の積み重ねだ。俺がこんな状況に放り込まれたのも……まぁ、多分に人知を超えた何かだとか、超上的な現象だとか、俺には全く関係の無かった筈のナニカとかが関わってるかもしれんが、やっぱりそれだって積み重ねられてきた結果だ。

 それがどんな物であったとしても、積み上げられてきた歴史の上で生き足掻いてるのが人間だ。

 

 大体、おかしいだの間違っているだの、そんな一個人の主観で世界を測れるもんかね。 …何かやるんだったら、正否に関係なく実行するかどうかの問題だろうに。結果はまぁ、また別の話と言う事で。

 

 

 

 …なんか俺も妙な語りに入ってしまったが、これを聞いた識の反応は……なんだろうな、解釈に困ると言うか、むしろ解釈したくないと言うか。

 ニタリ、と笑って、目がギョロっと丸く……なんだな、ベルベットルームの長い鼻の人を悪人面にしたらあんな感じか?

 

 

 そして言ったのは、

 

 

 

「ならばその歴史そのものが、全ての元凶だとは思わんか?」

 

 

 …だった。

 

 歴史があるから人は争う。先祖が受けた恨みがあるから。昔受けた仕打ちが忘れられないから。

 そんな、戦いの原因になるような歴史なぞ、綺麗さっぱり無くしてしまえばいいと思わないか?

 

 

 

 

 ……おい、このオッサン、これを会う奴全員に言ってるんじゃなかろうな。そうだとしたら、相当に拗らせてるぞ。

 俺の反応がよろしくないのに気付いたのか、識は「何、余計な諍いを無くす一つの手段というだけだ。モノノフと外様の争いは、そう珍しいものでもないのでな」…と言って誤魔化した。ま、そこに関しては分からんでもない。

 マホロバの里での外様と鬼内の諍いなんて、その最たるものだろう。鬼内達……サムライ達を弾圧していた、他所の里の鬼内達にしてみれば、自分達こそ直接的な事はされてないが、先祖が一般人に迫害され、また世の影に抑圧されてきた反動で、逃げてきた一般人達を奴隷のように扱った。

 逆にサムライや一般人達は、その記憶がある為、そいつら本人ではない鬼内達も信じられない。

 マホロバの鬼内達は、自分の行為ではないものの、自分達の同胞の行為を認める事はできないが、彼らもやはり抑圧されて生きてきたモノノフ。無力な一般人が相手であろうと、蟠りが全くない訳ではない。あちらから不信の目で見られるなら、猶更だ。

 

 他にも、秋水や北の地の凛音のお頭も似たようなものだろう。過去の遺恨により、霊山を信じられない。例え、それが人間が追い詰められている土壇場で、致命的な仲違いになるのであっても。

 

 

 全ては歴史、過去、俺達人間が積み重ねてきた事の帰結だと言える。

 

 

 

 

 

 

 が、妙な所で真面目な話を挟んで悪いが(後でエロ語りして帳尻を合わせよう)、「だったら歴史を全て無くしてしまえ」という論法だけは、俺には受け入れる事ができない。

 歴史の尊さとか、それでは良い事の積み重ねも消えてしまうとか、そういう問題じゃない。

 

 

 それをやったところで、無駄だって事が分かってるからだ。

 歴史を無くしたらどうなるか。俺はそれの体現者だ。歴史を丸っと全部ではないが、最大で約2年程度。消え去ったら、遡ったらどうなるのかを実証したからだ。

 ループによって同じ時間を繰り返し、行った事は全て最初から無かった事になり、しかし今の俺はどうだろう。

 今まで狩ってきた連中の事を覚えている。全部じゃないが、時々見る夢で出会った奴らと、そこで会得した技能を覚えている。情を交えた、何人もの女の事を………なんだその、思い出よりも体の味の方を、隅々まで覚えている。最低である。

 俺が死んだ後、あの世界はどうなったのか、もっと上手く立ち回れたんじゃないかという後悔だって抱え続けている。

 

 何より、イヅチカナタへの憎悪がずっと腹の中に居座ってる。

 

 

 

 何度も歴史を消して、積み重ねて、また消えて、そんでこのザマだ。歴史が消えたって、誰の記憶から消えたって、無かった事になんかならない。

 やった事はずっと消えない。誰が忘れても、俺が忘れても、ずっとどこかに刻まれて燻ってる。

 それを、無かった事にしてしまえば、全て解決する?

 

 

 はっ、南扇子! ……ちがった、ヌァァァンセンス!

 

 

 消えねぇんだよ、どうやっても! 因果を奪われても! あの時ああしてればって後悔は、ループが終わってくたばって、世界が終わっても続くんだよきっと。

 だから、識が言った方法は俺には受け入れられない。どうやったって無理だ。

 理屈や信念じゃない。体験が「それは不可能」と否定している。出来ないと分かり切っている以上、どうやったって無理なんだ。

 

 

 

 

 

 そうでなけりゃ、今の俺は何なんだ……って考えも多少はあるがね。

 

 

 ま、なんだ。識がどこまであの発言を本気で考えてるのか知らないが、何をやるにせよ、少なくともあの方法だけは受け入れられん。…ここまで語っておいてなんだが、そもそもそんな方法があるとも思えんしな。有り得ないなんてありえない、とは名言だと思うけど、だったら『ありえない』も有り得るだろ。

 …もしも識の方法論の方が正しいのなら、それは結果を持ってしか証明できまい。…もっとも、証明できた時には、「不可能だ」って思ってた俺も、それを忘れ去ってるんだろうけども。

 

 

 

 

 

……日記は次の頁へと続いている…。




討鬼伝世界最後になりそうなエロを突っ込んだら、暴走しすぎて長さがしっちゃかめっちゃかになった件。
うーむ、ギリギリを責めてた頃は、ある程度の所で自制してたんだけどな。(内容ではなく文字数的な意味で)

と言う訳で、次回は初っ端からエロ語りになります。


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233話

前回の日記の続きから。
エロで丸々一話使っちまったい。

ちなみに「ロリ巨乳の里にて」をプレイしながら書きました。

それはそれとして、最近ついてない。
シフトが異常に薄くてクソ忙しい日が連続するし、なんか会社が迷走しているような気がするし、自転車が壊れて2万くらい飛んでいくし、スピーカーが壊れて買い直したらイヤホンの音が妙に小さい。
お祓い(と言う名の泡の国)でも行くかなぁ…。


 さて自分でも何言ってんのかわかんなくなる語りなんて放り出して、エロ語りの時間である! ドンドンパフパフ(おっぱい的な意味で)

 

 

 

 今回のエロ語りのテーマは、ずばりおっぱいである! とにかく乳! chichi! バスト! 

 そしてサブテーマがリベンジである。何のって? そりゃおめー、この前一服盛られた事の仕返しに決まってるやないか。アレはアレでいいカンジだったが、お返ししないとは言ってない。

 

 

 

 ここで一つ哲学的な問題を提起しよう。おっぱいを最も深く楽しめる性行為とは何ぞや?

 人によって違う、と言ってしまえばそれまでだ。同じ行為でもやり方によって差が出るというのも当然かつ全うな意見だろう。

 だが、それでも考えてみよう。実際、俺はこの上なく真剣に、お茶とせんべい貪りつつ考えた。もう一回考えたら別の結論が出るかもしれないが、少なくとも考えはした。どこが真剣だって? 隣に居た那木の尻を撫でる程度でとどめた辺りかな。

 

 その結論に辿り着くまでにムラムラし始めて、近場に居たグウェンをちょっと襲って賢者モードになって、冷静になってから考えた。

 

 俺が出した結論は、一言で済む。パイズリこそが、おっぱいを最も深く楽しめる手法である。明日になったら別の結論が出てると思うが。

 ちなみに、古い言葉…と言うかモノノフ達の認識では「紅葉合わせ」と呼ばれている。

 

 実のところ、パイズリによる気持ちよさと言うのは、半ば以上が錯覚…と言うより、趣味嗜好による興奮である。何せ、男のナニを挟むおっぱいは、多少の差はあれ基本的に柔らかいのだ。柔らかすぎるのだ。ナニの皮膚に対して刺激を与えるには柔らかさだけではなくある程度の堅さが必要だ。希代の弾力を持っているならともかく、柔らかい物に挟まれただけで、男根は気持ちよくならない。

 …納得できない? ……アレだ、「時速60キロの風圧はおっぱいと同じ感触」って説があるが、だったら男根をその風圧に晒せば気持ちよくなるのか? って話だ。

 

 しかし、そのよーな些末な理屈とは裏腹に、これがいいんだ、気持ちいいんだ、興奮するんだという意見にも耳を貸すべきだと思う。

 

 

 ちと話がズレたが、どうしてパイズリが最も乳を味わえるかと言うと、その精神的な要素と、何より非常に鋭敏におっぱいの感触を感じられるからだと考える。

 男根という、普段は他人に触れない敏感な場所が、女性の母性の象徴とも称せるおっぱいに包み込まれる。

 これは幼い子供が母親の胸に…いや性的な意味ではなくて、でも性的ではあるんだけど……飛び込んで安心するような、そんな回帰願望も含まれているのではないだろうか。

 勿論、衛生的ではない場所を自分から抱き留めてくれるとか、敏感な男根におっぱいを触れさせる事で、より鋭敏におっぱいの感触を味わう事ができる、という一石二鳥、三鳥の神算鬼謀の英知が込められているとも考えられる。

 更には、射精まで導かれた暁には、おっぱいに…或いは顔などにマーキングするかのように精子を振りかける事もできるので、精神的な征服感マシマシ。そして、非常に柔らかいおっぱいを使って更に扱き上げても、その柔らかさ故に敏感になった男根に苦痛を与え辛いという利点もある。

 おお、なんという計算され尽くした技術なのか。分析し、語ればもっともっと新しい発見が沸いて来るであろう。

 

 無知浅学かつ純情で、中途半端に経験を積んだだけの俺では、御大層に語れる内容はあまりないが、とにかくパイズリとはおっぱいを楽しむのに非常に適した行為であるのは間違いないと思う。

 

 

 しかし、翻って女性側から見るとどうだろう。

 胸が敏感で、擦ってる間に気持ちよくなっちゃう…という女性も居るには居る。と言うかそこまで開発する事は可能だ。

 だが女性の性感を刺激するという点で、どうしても手や口、舌を使った愛撫には一歩劣らざるを得ない。そりゃ、先端使って突つき回すというテクもあるけども。

 女性側に与えられる刺激も、多くの場合は精神的なものである。羞恥心、魅力的な雌として見られている優越感、嫌悪感、自慢のボディを見せ付けるプライド、嫌いな部分を弄り回されるコンプレックス、上手く射精させた満足感、体液が降りかかって怪我されたという絶望、その他諸々。

 それらの精神的な刺激がプラスになるかマイナスに働くかはその場次第だろうが、肉体的な刺激としては今一つ弱い。

 

 何より、パイズリとは本能に背く行為である。何故なら、この行為では子は生まれないからだ。それはフェラだって同じだろうが、少なくともこちらはそのまま体液を飲み込み、体内に入れると言う事が出来る。

 しかしパイズリは、胸の谷間に男根を埋没させ、吹き出た体液も飛び散るがまま。極端な話、女性の体の中に入っていかないのだ。胸の谷間から精液を吸収する事ができるような体質でもない限り、発射された精液はどこにも辿り着く事なく、あっという間に乾いて死滅するだろう。

 男が感じる満足感とは裏腹に、子作りとしては全く意味が無い。これによって女性がエクスタシーに至るのも難しい。

 少なくとも、前戯であってメインにすべきではない行為。それがパイズリである。

 

 

 

 

 ……思うさま、適当な理論をブチ上げてみた。キモいと思ったり、それはどうだろうと反感を覚えたとしても勘弁してくれ。異論があるのは当然だと思ってるから。

 まぁ、何が言いたいかってぇと。

 

 

 

 

 パイズリだけでも俺は楽しめるけど、皆は満足できなくて、入れてほしくて堪らなくなるんだよね。

 したら、どんな風になるかって?

 

 とりあえず、今は腰かけている俺に跪いてパイズリしている那木と紅月が、舐めさせてほしいとでも言うように、舌を突き出して涙目上目遣いになっておりますが?

 その後ろでは、既に一発をナカダシ(と書いて乳内射精と読む)を受けた初穂・グウェン・橘花が、切なげに互いの胸を擦りつけあっている。六つの脂肪の塊が、面白いように形を変えて歪み撓む。互いの乳に飛び散った精液を奪い合うように胸を寄せ、物欲しげにそれを見つめていた。

 でも舐めさせません。今日はおっぱいのみです。パイズリフェラすらさせません。

 

 そうするように、と言ったって、理性が焼き切れれば突っ走ってしまうんだが、そこはそれ。俺にはオカルト版真言立川流ささやきの術という、悪質極まりない洗脳方法がある。何度も何度も術を受け、半ば以上中毒状態になっている彼女達な、霊力付きの囁きで命令を受ければ、それに抗う事ができないのだ。

 

 

 と言う訳で、現在俺の部屋には、俺を含めて7人の荒い息が響いています。…うん?

 いや7人で間違ってないよ。俺、紅月、那木、初穂、グウェン、橘花。………虚海。

 

 

「~~!~~~~!!!!」

 

 

 虚海が何か言ってるけど、猿轡してっからさっぱり分からんな。とりあえず、お前が調合した薬でエラい事になったから、そのお返しとだけ言っておこう。

 別に悪意があってやってるんじゃないぞ。…いやそりゃ善意100%かと言われると首を横に振るが。

 

 ちなみに現在の虚海は、後ろ手で椅子に縛り付けられ、猿轡で言葉を封じられ、そして下半身は完全に剥かれている。その上で、武士の情けとして薄い毛布を下半身に被せている。

 更にいうなら、先日一服盛られた時に残っていた薬を、こっそり飲ませていたりする。

 

 

 

 そして薬はまだ残っており(それだけ張り切って調合したらしいネ!)、俺が一回射精する度に、虚海に追加投入されるのだ。猿轡してても、飲ませるだけならどーとでもなるのだよ。

 そんな事して、他の皆が許すのかって? ……色々ヤって躾け続けた結果、本気で命令すれば理性もモラルもホワイトアウトし、エロ関連なら大体受け入れるようになってしまったのだ。オカルト版真言立川流、やはり恐ろしい術である。

 

 

 

 

 

 

 ところで、虚海のシモのコンプレックスは何だったか、覚えているだろうか? 長い時を生きてオボコなのは、そのコンプレックスの副産物に過ぎない。このコンプレックスは、現状では俺しか知る者は居なかった。

 …つまり、現在下半身素っ裸状態の虚海は、必死に薬の効果を押さえ込んで、大きさだけなら俺より御立派なナニが立ち上がるのを必死に止めているのだよ。

 現在は薄い毛布のおかげで辛うじて那木達の目にはついてないが、ここでオッキしたら? 毛布一枚なんて簡単に押し上げ、本来女性には無い部分がついていて、しかも肥大化しているのがあっという間にバレてしまう事だろう。それは虚海にとって、何が何でも避けたい事である。

 

 

 だからお仕置きになるんだよ。

 

 

 

 尚、那木達のルールとしては、同様に一度射精させたら、別の媚薬(那木作成)を投入する。更に、虚海が我慢できなくなって処女喪失を願ったら、その後で那木達にも本番ありとしている。

 つまり、自分達が抱かれる為に、虚海を「もう何でもいいから、入れて! 抱いて! 犯して!」と叫ばせようとしているのだ。しかもその手段がパイズリと投薬。ひどい話だ(他人事)。

 

 

 おふ…虚海を見てたら、嫉妬したみたいに那木パイと紅パイの圧力が強くなった。良いぞ良いぞ。

 流石にパイズリだけだと、興奮はしても物理的な刺激としては弱い……が、あんまり長引かせても、初穂達が醒めちゃうからな。ほーれ、ご褒美の一発。

 

 

「んっ…! 胸の中、熱い…」

 

「お、お乳が孕まされそうです…」

 

 

 乳で孕ますか。いいね、実に妄想が捗る。

 そーだな、上手く錯覚を重ねていけば、想像妊娠で母乳とか出るようになるかもしれない。ふむ…母乳と白濁でヌルヌルしたパイズリか…是非とも挑戦してみたいが、流石に今は時間が足りん。

 

 胸の中に乳内射精された二人は、荒い息を吐きながら互いの乳房を交わるように密着させ、ゆっくり上にあげていく。射精直後の敏感な肉棒を、柔らかい感触がゆっくり扱き上げていった。お掃除フェラならぬ、お掃除パイズリか。

 肉棒から離れた二つのおっぱいの間には、白い濁りが溜まっている。一滴も落とすまいとするかのように、互いの胸を合わせて捩じらせ、白濁を肌に塗り込んでいく。

 

 

「ねぇ…気持ちは分かるけど、そろそろ変わってよ。私だってできるんだから」

 

「私もするぞ。何だか楽しくなってきた♪」

 

 

 …グウェンは相変わらず明るいなぁ。相当欲情しているだろうに、顔に出るのは性欲よりも楽しみだ。

 

 

「私はどうしましょう…小さくはないと思うんですけど…」

 

 

 充分なサイズ故、不安がる事はないぞ、橘花。でも最初にシたのが橘花だったし、もうちょっと待ってような。

 

 

「はい…」

 

 

 不満そうな橘花。露わになった自分の胸にある、精液の名残を物欲しげに見ている。普段なら迷いもせずに口に運ぶであろう白濁も、今は俺が禁止しているので、ご馳走を目の前にしてお預けを喰らっている状態である。

 

 さ、そんじゃグウェンと初穂、今度は二人でやってみ。

 

 

「先手いただき!」

 

「あ、グウェンずるい!」

 

 

 言うなり俺に圧し掛かってくるグウェン。惜しげもなく俺の上に体を投げ出し、乳で肉棒を挟んで、股は丁度俺の目の前に。うむ、金色の陰毛が素晴らしいね。いつもだったらむしゃぶりつくが、今回はおっぱいオンリーイベントなので見てるだけです。

 それは分かっているんだろうが、「いつでもいいぞ?」と言わんばかりに股を目の前でモジモジさせている。

 

 一歩遅れた初穂は、逆側から胸を押し付けた。年の割にはいいサイズだが、やはり年上&外人のグウェンには及ばない。その代り、肌のきめ細やかさとハリは初穂に軍配が上がるな。実際に上がるのは、ナニの角度だが。

 ちなみに体勢の問題上、角度が上がると先端はグウェンに向く訳で。初穂はそれを何とか取り返そうと、自分のおっぱいでグウェンのおっぱいを押しのけ、包み込んで確保しようとする。しかしグウェンも、自分の番だと言わんばかりに深く肉棒を抱え込み、先端を胸の奥…胸板に密着させようとする。

 結果として出来上がるのは、俺のナニを中心としたぐにぐにもにゅもにゅふわふわすべすべの渦。

 体勢悪しと考えたのか、初穂は肉棒を奪い返そうとするのではなく、早く射精させようと考え直したようだ。先端から根本に乳を移動させ、皺だらけの金玉を乳房で包み込む。

 

 おお…タマをしゃぶられた事はあるが、タマをパイズリされたのは初めてだな。時々先端でタマを弄るように押し当ててくる。これは中々趣深い…。

 ふむ、基本的な事を忘れていたな。パイズリは肉棒じゃなくてもできるのだ。挟んでモミモミすれば、大体はパイズリになる。ちなみに顔面ならパフパフ扱いになるので別枠だ。

 

 そんな大事な事を思い出させてくれたお礼に、一発…おっと、今のままだとグウェンにしかかからないな。ちょっと腰を反らせて角度を調整して……おうっ!

 

 

 

「きゃっ!?」

 

「わ、わ、スッゴイ出た…」

 

 

 目を丸くするグウェンと初穂。顔面にぶっかけられた初穂は、うっとりした表情で臭いを堪能している。

 それに対して、グウェンはと言うと…羨ましそうだが、それ以上に残念そうな表情をしていた。…目の前にあるのは陰部なのに、どうして二人の表情が見えるのかって? …そりゃアレだよ、オカルト版真言立川流の秘儀で、おninninの感覚を最大限に引き出す事で、快楽を感じやすくするだけでなく、まるでそこに目がついているように周囲の景色を把握する事ができるのだ。…タイミングを間違うと、自分の射精の瞬間をドアップで見せつけられるような状態になるけどね。

 

 

「むぅ…本当に勿体ない…」

 

 

 何が? と言うか、グウェンって本当に日本語が達者だな。ヤッてる時も日本語で喘ぐし、淫語だってほぼ日本語だし。

 

 

「仕方ないだろう。この手の知識に触れる前に、イギリスを発ったんだ。それから何年も旅をしてきたんだけど、こんな事を知ったのは貴方に会ってからだし」

 

 

 ああ、単純に日本語での呼び方しか知らないのね。英語であれば、ココはPussyって呼ばれてた筈だけど。

 

 

「そうなのか…。いやそれよりも、やっぱり勿体ないな。こんなに勢いよく出るんだったら、私達のナカで出してくれれば、どんなに気持ちよくなれるか」

 

 

 それは仕方ないねー。一服盛ってくれたお返しだからね。

 

 

「それ、私は関与してなかったんだけど…」

 

 

 …それもそうか。んじゃ、虚海が我慢できなくなった後の一発目は、グウェンにやろうかな。

 

 

「…むぅ、あんたやっぱグウェンに甘いわ。お姉ちゃんの私を差し置いて…。ところで、虚海には薬を飲ませるんじゃなかったの? 2回出したけど」

 

 

 おお、そういやそうだったな初穂。さーて、お待ちかねのいやらしい薬だぞ、虚海。自分で作ったんだから、自分で飲むのも文句ないよな?

 

 

「~~~~~~~!!!!!」

 

 

 ほうほう、そんなに嬉しいか。…お、毛布がちょっと持ち上がってるぞ? このまま飲んだらどうなるかなぁ?

 ブンブンと首を横に振る虚海。無気力状態は相変わらずだった筈だが、やっぱりコンプレックスの元を晒されるのには耐えられないのか。

 

 だが容赦せぬ。後でホロウに狙撃されても容赦せぬ。

 

 そしてこの場には、エロに関しちゃ色んな意味でぶっ壊れている俺と、俺にぶっ壊された女達しか居ない。結論、諦めましょう。いや足掻いてもいいけど、それって俺が愉悦するだけよ?

 そういう訳で、虚海の口に薬を押し込んだのだ。流石に噛みつかれたけど、やっぱ力が入らなくなってるな。俺を麻痺らせるくらいの薬物だし、無理ないね。

 

 そして、そんなモンを無理矢理飲まされた虚海のナニは、当然のように色々と抑えきれなくなる訳で。

 

 

「…あら?」

 

「え?」

 

「お」

 

「おお」

 

「おおおー…」

 

 

 ムクムクとオッキしてしまうのでした。毛布を軽く押しのけて立ち上がったソレは、虚海の鬼の肌のように赤く、肉と言うよりは鎧の一部のようだった。

 体毛は針金で、カリは無い…円柱状の棒そのもの。大きさだけなら俺以上であるソレを晒され、虚海は半泣きで俺を睨みつける。

 女性として、或いは男としての屈辱に晒される虚海を他所に、ブレーキをぶっ壊された女達は呑気なものだ。

 

 

「これはまた…何ともお見事な…」

 

「お見事って言ったって、私たちはこいつのしか知らないじゃない。…まぁ。平均よりずっと上だっていうのは体に教え込まれたけども…」

 

「虚海は凄いな! 女の子なのに男の子なんだな!」

 

「あ、皮かぶって……る? これって皮? 那木?」

 

「は、はて…このような症状は私も…」

 

「はぁ、しかしこの大きさは凄いですねぇ。………興味、ちょっとあります。…貴方も大きく出来ません?」

 

 

 短時間なら出来るけど、流石に裂けるだろ。と言うかそれ、他の男の前で言うなよ。俺と虚海とお前らだからいいけど、男としては最大級の侮蔑だから。

 

 

「あなた以外の前で、こんな事は話しませんよ。で、結局どういう事です?」

 

 

 どーもこーも、虚海の知られたくない事ってコレだって事だよ。乙女として、こんな下手な男より御立派な御立派様がついてるとかね。

 ちなみにコレのおかげで……紅月には以前ちょっと話したが、未だに童貞で処女だ。ま、気味が悪い云々以前に、これだけの御立派様はそうそうないからな。これから処女を破ろうって相手が、自分より御立派だと思うとなぁ…。

 

 

「御立派御立派言われて何がなんだか分からなくなってきたわ。それに虚海が涙目……もうちょっと泣かせていい?」

 

 

 いや、これ以上泣かせるのは……俺がやるけど、その前にトドメ刺しておくか。

 そうだな…橘花…は順番的に次に相手してあげないといけないから…よし、那木、グウェン。相手をしてやれ。当然、乳でだけな。

 残りは纏めて俺の相手な。

 

 

「は……ああ、そういう………………ええ、大丈夫です。抵抗がない訳ではないですが、女性同志も貴方に仕込まれましたしね」

 

「果たしてこれは女性同志と言っていいものか…」

 

 

 欲望が滲んだ顔で、二人はニタリと笑う。実にねちっこい笑顔である。

 必死に逃げようとする虚海だが、俺を動けなくさせるくらいの薬が、そうそう抜ける筈もない。屹立した御立派様が揺れるだけである。

 

 那木とグウェンは互いに胸を合わせ、具合を確認してから虚海の左右に侍った。

 

 

「うーん…なんだか妙な気分だな。普段好き勝手されてるからかな? 主導権が完全にこっちにあると、どうしていいか分からなくなりそうだ」

 

「ものの本には、未経験の幼い男児を襲う破廉恥な女性、という記述がありましたが、このような気分なのやもしれませんね」

 

 

 呑気な事を言いつつ、束縛されたままの虚海の棒を、左右から乳で挟み込む。二人とも一発以上受けているので、それが潤滑油になって見事なぬるぬるぽよぽよ。童貞であれば、あっという間に達してしまう事間違いなし。

 現に。

 

 

「っ、っっ、っ~~~---」

 

 

 数秒と起たない内に、びゅるびゅると虚海の棒から白いのが噴き出してきた。

 …いや、噴き出してきたと言うより…流れ出してきた?

 

 

「あ、もう出ちゃった。知ってるぞ、これって『そうろう』って言うんだよな」

 

「御立派なのに、肝心の機能が弱っておりますね。…無理もありませんか。虚海さんは本来女性なので、後付けの機能が上手く機能してないのかもしれません」

 

「量は多いな。でも、どうしてあいつのと違って吹き出る感じじゃないんだろう。どっちかと言うと、漏れるって感じだな」

 

「単純に、雄としての機能の違いでは? 先程も言いましたが、本来有り得ない機能ですし、筋力も並以下のようです。

 

 

 虚海って貧弱君だからなぁ…鬼の体は膂力だけはあるのに。

 コンプレックス部分を好き勝手に弄り回された挙句、更に言いたい放題に言われて、虚海は大分ダメージを負ったようだ。精神的な動揺からか、薬の効果も抑えきれなくなってきているらしい。

 

 ふむ、これなら猿轡を外しても騒ぎそうにないな。粘度の高い唾液がたっぷり染み込んだ布を外してやると、虚海は大きく息を吐いた。深呼吸ではなく、興奮と屈辱からくる吐息だろう。

 射精した事により、大きく気力も体力も削がれたようだ。予想以上の大人しさ。

 …このままマグロになられてもつまらないな。グウェン、那木、追撃してやれ。他の皆はこっちに。

 

 

「わかった。こんなのとかどうかな」

 

「私もそちらが良かったですわ…」

 

 

 文句を言いつつも、二人は更に乳で鬼の棒を扱き始める。鬼の棒から流れ出ている白濁が潤滑液になり、扱けば扱く程動きがスムーズになる。

 虚海にしてみれば、溜まったものではなないだろう。抵抗しようにも射精の脱力感が延々と続き、また快感も時が経つ事に増していく。

 

 

「あっ、あっ、ああぁぁぁぁ…」

 

 

 力の抜ける、情けないとしか言いようのない虚海の悲鳴。…アレだな、サキュバスとかにどんどん精気を吸い取られてる時とか、多分こんな声を出すんだろう。

 よし、そのまま枯れ果てるまでパイズリしてしまえ。案外、種が無くなったら鬼の部分も消え…る訳ねーか。

 

 

 俺はその対面に、大きく足を広げて座る。何を言うまでもなく、橘花・紅月・初穂が乳を寄せてきた。

 

 

「もうちょっと…ね。虚海も限界みたいだわ」

 

「虚海さんが終わったら、私達ですからね」

 

「お乳に射精するなんて勿体ない事をせずに、私達のお腹に種を注いでください」

 

 

 分かってる分かってる。肉の疼きに完全に支配されているからか、もう少しで虚海が陥落する瞬間を見られるからか、3人がかりのパイズリは一層激しいものだった。

 堪らず、我慢もせずに思いっきり射精すると、飛ぶのを防ぐように乳が覆いかぶさってくる。まるで、おっぱいで作った非貫通型のオナホのようだ。

 

 

 

 …って、あれ? 虚海が完全に虚脱状態になってしまった。

 

 

「…やり過ぎたでしょうか?」

 

「うーん…いつもこんな感じだったと思うけど、虚海にはきつかったのかな」

 

 

 そりゃー、俺基準でのいつものプレイと、百年以上童貞処女だった虚海だもの。思ったよりも体力無かったのは事実だが。

 うーん……虚海に自分から「奪ってくれ」と言わせたかったんだが、仕方ないか。このままお預けで終わらせるのも興覚めだし。

 

 那木、グウェン、ちょっと待って。

 こうやって…虚海を後ろから抱えて、立たせる。…虚脱状態だけど、自分で立てる程度には力が残ってるか。好都合好都合。

 

 それじゃ…百年モノの処女、イタダキマス。みんなはもっとパイズリしてあげな。棒だけじゃなくて、どこでもいいから。

 そう言って、虚海のナカに進んでいく。おお…ドロッドロだ。前のループで食った時は、もうちょっと硬くてキツい印象があったが…やっぱり薬の為だろうか?

 背面立位…ありていに言えば立ちバックで処女を破られた虚海は、もう何も考えられない顔で、涎を垂れ流している。

 

 それを一瞥して、グウェンと那木は先程動揺に虚海の鬼棒を乳で挟み込んだ。それに呼応するかのように、棒から白い液が漏れ出てくる。

 更に橘花と初穂は虚海の腕を抱え込み、紅月は虚海の胸…かなり小さいが、形はいい…に自分の胸を押し付ける。

 

 処女奪われながら、童貞のままパイズリ天国。薬を使い、ほぼ強姦状態。自分でやっといてなんだが、随分業が深い事やってるな。

 

 

「わ…ちょっと白いのの勢いが良くなった」

 

「突かれて感じてるからじゃない? ほら、私達ももっとしてあげましょう」

 

 

 どんどん激しくなる乳圧とピストン運動。容赦もへったくれもなく、虚海を突き上げる。

 虚海は喘ぎ声を我慢する事にすら気が回らなくなり、面白いように声を漏らし、息を吐きだす。

 

 ふむ…反応がこれだけってのもツマランな。今後の事もあるし、ちょっと言葉攻め。

 

 

 大人になった気分はどうだ、虚海。こんな経験ができる奴は滅多に居ないぞ。

 

 

「あっ、はっ、は、は、っ、っ」

 

 

 世界を滅ぼそうとしたお前には勿体ない経験だな。それに、ぶっ壊してほしかったんだろう? 絶望している自分を。

 

 

「っ……ひ、は、はふ、っ」

 

 

 もう無気力で蹲ってたお前は居ない。俺に犯され、乳に犯されて、お前はコレの事を考えるだけで堪らなくなる。

 乳を見るだけで、欲望が膨れ上がる。また犯される為に、お前は動く。

 

 

「あ……あ……あぁぁ…」

 

 

 俺の子種を飲み込む為に。乳に塗れて、自分の種は無駄撃ちして、絞り尽くされる為に。それがお前の悦びだ。

 

 

「あお……お、おお……私…うれし…」

 

 

 さぁ、無気力な虚海がぶっ壊れて、肉欲に満ちたお前を作り出してやる。受け取れ、俺の種を。

 

 

 

 トドメを刺す為に動きを激しくすると、それに応じて虚海から出る白濁が、グウェンと那木の乳の中で飛び散った。同時に、四方八方から押し寄せる乳の動きが激しくなる。

 魘されるような虚海の声を、喘ぎ声で埋め尽くす。

 

 

 

 そら、トドメだ。

 

 

 

「っ……は……ぁ…」

 

 

 子種を腹で受け止めた虚海は、声を上げる事すらなく崩れ落ちた。棒から漏れ出る白い液も少なくなっており、心身共に限界だったんだろう。

 

 さて…虚海を布団に放り込んで。今度は、散々乳だけ弄んでガンギマリ状態になっている雌どもを満足させてやらんとな。

 

 

 

 が、今回のテーマはおっぱいである。本番ではない。描写は控えよう…機会があればまた今度。

 

 

 



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234話

実家に帰省&ネット環境が一時切断状態の為、レス返しその他が出来ない可能性があります。8日分までは登録しています。
…と思ったら代替え機があったし、時間が許せばレス返しもできるかな…。

あと、NIOHの鴉天狗がマジウザい。攻撃力高くて広い範囲での攻撃で、生命力も気力もやたら高い上に、スッゲー戦い辛い場所にばかり出てくる。
遅鈍符その他のアイテム使っても仕留めきれない事が多いし…。誰か有効な倒し方教えてくれ…。

と言うかBadニンジャさんまた沸いてない?
ウケ狙いでやってるのだとしたら、既に次期を外して滑っておりますな。
運営さんも大変だな…。


入滅月

 

 

 話が動き出した…のかな。ちと厄介な事になったようだ。

 別に虚海にヤッた事が、色々な所にバレたのではない。橘花を弄びまくってるのが、桜花にバレた訳でもない。

 

 …ちょっと話は逸れるが、虚海は以前より活動的になった。最後に囁いておいた暗示が良かったのか、精神的にぶっ壊れる事も無く(ある意味壊れてはいるんだが)、また性の悦びを得る為、『ご褒美』の為に鬼退治に精を出しているようだ。いやシモの精ではなく。

 ただ問題なのが……虚海に色んな意味でアレな性癖が根付いちゃった事だな…。あんだけおっぱい塗れの初体験をむかえれば、無理もないっちゃ無理もない。

 

 が、まさかあの時のメンバーと向かい合うだけで、鬼の棒がオッキし始めるようになるのは計算外だった。ちなみに、後ろから見た時は問題ないらしい。

 …要するにアレだ、服の上からでも乳、胸を見るだけで、思い出してバッキバキになってしまうのだ。

 

 

 ……そういう訳で、人目がある所では正面から話さないようにしたり、体をちょっと隠したりしている虚海だが………元が対人恐怖症状態で認識されていた為、それをどうにかする為の対策としか認識されなかった。何と言うご都合主義。いや、確かにそうなるように誘導はしたけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 …虚海に関する語りはこれくらいにして。問題と言うのは……紅月が、マホロバの里に戻る事になった。

 別に、虚海に関する仕打ちで愛想をつかされた、とかではない。そうなってもおかしくはなかったが、ならない程度には紅月も他の皆も色狂いになっている。そうです私が元凶です。

 

 何があったかと言うと、マホロバの里から凶報が届いたのだ。

 

 

 曰く、西歌のお頭が鬼に呪われ、意識不明となっている、と。

 

 

 紅月は現在でこそ俺に嫁入り状態でウタカタに所属しているが、やはりマホロバの出だし、今後も順当にいけばマホロバの長となる身(その時俺との関係がどうなるかは分からんが)。これに黙っていられる筈が無かった。

 まぁ、それでも問題が無いとは言えなかったけどな…。触鬼との闘いは、徐々に激しくなっている。それ以前に、異界の奥で増殖しているであろう鬼達の討伐は、未だ目途も立ってなければ有効な方法すら発見できてない。

 この状況で紅月が抜けると言うのは、言うまでもなく戦力的に大打撃である。

 

 が、先も書いたように、紅月の本来の所属はマホロバの里。しかも、西歌のお頭は色々と強引な改革も行っていた。それが良いか悪いかはともかく、その状態で西歌のお頭がダウンして、組織がスムーズに回るとも思えない。

 もしもこのまま、マホロバの里のお頭不在状態が続き、内乱になった挙句に鬼に突けこまれでもしたら……マホロバの里が滅べば、人類は大きく絶滅に向かって近づいてしまうだろう。

 

 …要するに、どれだけ戦力的に痛くても、大局的に見れば紅月をマホロバに戻さない、という選択肢は取れなかったのだ。

 

 

 まぁ、これだけ取ってもまた問題が湧いたんだけども。

 例えばグウェン。マホロバには、彼女の尋ね人だと思われる博士が居る。一度は尋ねないと、とグウェン自身も言っていた。

 だが、ただでさえイツクサの英雄が抜けるのに、またグウェンまで抜けたら…ウタカタが保たないかもしれない。

 

 また、俺もマホロバに行くべきか…という話もあった。紅月としては是が非でも来てほしかったのだが(理由は戦力の為か、夜の為かは明言しない)、グウェンと同じ理由でウタカタに残留。

 …いろんな意味で引き留められたのは言うまでもない。

 ちなみに決定打となったのは、ホロウの「あれだけ大暴れした彼を連れ帰ったら、また揉めるのでは?」という一言だった。

 

 

 そんな訳で、紅月は今晩にでも、マホロバに向けて出立する。

 正直、色々な意味で心配だ。体が夜泣きしないか、と言う問題もそうだが、マホロバの里はどうなっているだろうか。まだ鬼討と外様の対立は続いているのか。

 そもそも、西歌のお頭を呪って行動不能に出来るくらいの鬼とは、一体? …あの深い瘴気の中にいた鬼だとは思うが、一体どんな鬼だったのやら。

 

 

 

 こんな状況じゃ、別れ際の一発とかは出来そうにないな。出発の為に、大急ぎで準備を進めているくらいだし。

 餞別に何か渡しておこうかな…。少なくとも、相馬さんからは「危急の件なんだろう。いいから乗って行け」と、貴重な馬…しかも相馬さんの愛馬を預けられていた。鬼疾風も出来るけど、流石に馬の速さには及ばんからな。

 

 

 

 ………ちなみに…清磨も、何気に餞別を渡していた。「話に聞いて試しに作ってみたものなんだが、案外効果があるかもしれない」ってさ。

 ただね、その「話」って奴がさ、以前酔っぱらった清磨を相手した時に冗談めかしていったモノなんだけど……その名も『仕込鞭型最終兵器・おはようマイマザー一番星君グレート』。

 その名の通り、仕込鞭……と言うかもうどう見てもモーニングスター。その効果は……名前を聞けば、一発で分かる人も沢山いるだろう。随分前の漫画なのに。…完結はしてないけど。

 

 その名の通り、コレでぶん殴ればどんな深い眠りからも一発で目が覚める。もしも狸寝入りの類であれば…無論、 死 あるのみ。

 ただし、コレに本当に目を覚まさせる効果があるのかは不明。少なくとも、物理的に重くて堅くてトゲトゲして禍々しいので、鈍器としての効果はあるだろう。これでブン殴られた人間の頭が軽くパーンとなるのを想像できるくらいには。

 

 更に言うと、コレの一撃に耐えられるだけのタフネスがあったとして、本当に目覚めの効果があるかは不明である。少なくとも清磨は、そのような効果(目覚め or 死 あるのみ)が出るように色々細工して作ってはいるが、本当に効果が出ているか試す事すらできない。

 ……「意識不明ならこれで何とかなるかも」とか言って渡してたけど、どう考えても産廃を押し付けただけですね。紅月も微妙な顔して貰っていた。

 

 

 

 話が逸れた。餞別として鬼の手を渡す事も考えたが、よく考えてみたら博士がマホロバに居る。あっちで受け取ればいいだろう。

 

 

 

 

 ………男女が逆だが、シモのケを入れたお守りとかどうだろう。いやいっそ精子……死滅するなぁ。

 

 

 暫く考えた挙句、MH世界産の護石を渡した。…面白味が無くてすまんね。ちなみに効果はランナー。これからマホロバの里まで強行軍するんだし、ちょっとでもスタミナが保てば…と思ってのチョイスだ。

 ただ、馬にも効果があるのかは分からないけども…。

 

 

 

 

入滅月

 

 

 紅月が里を立って、早4日。最大効率で進んでいれば、そろそろマホロバに着く頃だろう。

 そこから里のゴタゴタを一段落させて、手紙を送ってくるとしたら…あと2週間くらいだろうか? 無事でいるといいが…。

 

 

 私生活では…やっぱ、物足りないな。何だかんだで、今回ループの人間関係の中心でもあったからな。女性関係の中で問題が吹き出てる訳じゃないが(普通は問題だらけだよ)、やっぱり皆も寂しさみたいなのはあるらしい。それはそれとして、自分の番が来るのが近くなったのは歓迎しているようだが。

 

 ウタカタの里はと言うと…正直、芳しくない。紅月が居なくなったのを見計らったかのように、触鬼達の動きが激しくなったのだ。

 これが偶然なのか、鬼に何らかの知性があるのか、それとも何か明確な切っ掛けがあるのかは、まだ分からない。

 触鬼の数も、種類も急激に増えた。特に驚いたのはアレだな、イミハヤヒ。

 

 

 いやもう、天狐が基になってる鬼だと聞いて、本当に驚いた。具体的には、速鳥が「お救いせねば!」と絶叫するくらいには。

 

 ホロウ曰く、以前千歳達と一緒に行動していた時、最期に共に戦った鬼…だそうだが………いや、それ以前にコレ、アレだろ。ホロウや虚海、千歳が討鬼伝続編の登場キャラクターだったとしたら、まず間違いなく主人公の家に住み着いていた天狐に手ぇ出してたって事だろう。

 触鬼になってるって事は、多分虚海が触媒をブッ混んで、鬼にして俺達と戦わせるとか…。

 

 

 …うむ、仕置きの理由が一つ増えたな。まぁ、実際にはやってない事でお仕置きなんかしてたらキリがないし、それこそ俺自身が仕置きの対象になってしまいそうだが。

 

 

 他に特徴的だった触鬼は……ゴズコンゴウとかよりも、ヤチギリかな。使う属性に節操がないのなんのって。

 話に聞いたスネ夫もといアルバトリオン程じゃあないだろうが、気絶効果が鬱陶しいわ。部位破壊しまくっても、殆ど意味ないし。

 

 気絶って意味では、オノゴロとかいう転がる鬼も鬱陶しかったが、率直に言って超脳筋だったから、こいつはあまり印象に残ってない。淡々と殴って、シメヤカに片付いたとしか言いようが無かった。

 

 

 

 

 それ以外には、今の所大きなイベントは起こってないようだが……なんだこの、なんつーか……ピリピリする。

 …ホロウも言ってたし、触鬼出現の切っ掛けでもあるんだろうが、やっぱりイヅチが居るのか? ホロウのイヅチ探知機は相変わらず故障したままのようだし(そもそも本当に故障なのかすら分からないが) 

 

 

 ホロウと二人で、今までどのような状況でイヅチと遭遇してきたのか、検証してみた。

 と言っても、ホロウにしてみればレーダーが示すままにイヅチを追いかけてきただけらしいが…もうちょっと詳しく聞いてみるが、大体は戦乱の中で遭遇していたそうだ。

 ホロウに言われて今更のように気付いたのだが、彼女がイヅチと遭遇する時は、時代が大きく動く時………と虚海は言っているものの、それはあくまで結果論でしかなかった。考えてみりゃ当たり前だが、ホロウだって未来の歴史の流れなんぞ知っている筈もないのだ。

 大抵、多くの人が戦に駆り出されているので、何かの一大決戦だったんだろう…と言うのは察しがつくものの、その戦いが何だったのかは殆ど知らないし、何処で戦っていたのかすら理解している方が稀。当然、その戦いでどっちが勝ったのか、後世でその戦いが何と呼ばれているのかも知ってる筈がない。何せ、イヅチを撃退したらすぐに追いかけてその時代から消えるんだから。

 

 当然、俺の歴史の知識だって役に立たない。いや下手しなくても小学生以下の知識しか残ってないのは自覚してるんだけど、それ以前にほら、学校で歴史を習う時って大体西暦表記じゃん? この世界に西暦なんて概念はねーよ。元号だって、昭和どころか大正すらあったか怪しい。いやあったのかもしれんけど、少なくともモノノフ間にも、ホロウが当時いた時代にも普及してねーよ。

 

 

 まぁそんな訳で、ホロウからは歴史のロマンなんざ欠片も聞き取れなかった。基本的に、人間は相手にせずに戦ってたみたいだしな。共通点らしい部分も無い。

 俺がイヅチと遭遇した状況と合わせて考えても、やっぱりいつ現れるのかすら分からない。

 

 

 

 ……考えてみりゃ、確かにおかしいんだよな。

 そもそも、毎度毎度イヅチはホロウが撃退してる訳だろ? イヅチは飯食ってんのか? 英雄の魂って事だが。

 

 

「…今まで戦った全てで、イヅチカナタを撃退できた訳ではありません。力及ばず、その時代の人が食われ、逃げられた事も多くあります」

 

 

 …英雄、ないし歴史の分岐点になる人物が食われたって事か? それじゃ、今俺達が生きている歴史は、本来こうはならなかった歴史…なんだろうか。

 

 

「そのあたりの事は、私にもよく分かりません。恐らく、最初から知識を与えられてないのだと思います。…私を造った人達も、理解できていたか怪しいものです」

 

 

 まぁ、確かに。考えても仕方ない事でもあるしな。

 んー…しかし……手掛かり無しか。

 

 

「…いえ、仮説にすぎませんが、考えられる事はあります。貴方も薄々勘付いているでしょうが、貴方は繰り返しの終わりの時、毎回イヅチカナタに出会っている筈です」

 

 

 それは………まぁ、実際何度も会ってるけど。毎回では。

 

 

「いいえ、毎回です。イヅチカナタが貴方の因果を毎回喰らっているから、貴方は繰り返しの中に居る…と考えています。あなたの記憶に残っていようがいまいが、会っている筈なのです。イヅチカナタの能力は、そう広範囲に及ぶものではありません」

 

 

 …毎回、目の前に来てから俺の因果を喰ってるって事か。俺が死んでから会ってるのかね。

 

 

「恐らくは。貴方の異常な精神力の何割かは、そこから来るのでしょう」

 

 

 

 

 

 

 ……あぁん?

 

 

「私も生物の精神について造詣が深い訳ではありませんが、通常、人間にとって『死』は一度だけの体験です。仮死状態や臨死体験する人も居るでしょうが、普通は一度だけ。そして、それは常に記憶に深く刻まれます…忌むべき感覚として。ですが、貴方は何度も死を体験しながら、正常な…………正常な人間のままだ」

 

 

 正常とは何ぞや(哲学)

 まぁ、言わんとする事は分かるよ。俺だって最初は喰い殺されるのが、文字通り死ぬほど怖かった。今だって怖いが。

 

 

「では、その恐怖は『慣れ』で克服できるものだと思いますか?」

 

 

 …出来るんじゃね? 俺以外でも、肝練り的な意味で慣れる奴、死狂い的な意味で慣れる奴、いっぱいいると思うぞ。

 

 

「人の精神とは業が深いですね。ともあれ、最初は貴方もこうではなかった筈。ですが、話を聞くに、数回の繰り返しの内に、今のような精神状態になった。…その間、貴方は死を前にして狂乱した事はありましたか?」

 

 

 

 

 狂乱…狂乱…錯乱…………言われてみれば、無いな。

 記憶にある中で一番古い死は、ハンター訓練所卒業直後、モスに突き飛ばされて崖から落ちた時だが、その時でさえ他人事のように落ち着いていた。これは現実感が無かっただけ、その次の死…アラガミに囲まれて、攻撃されて死んだ時は理解が追いつかなかっただけだとしても、それ以降も死を前にして狂乱する事は無かった。

 むしろ、自分で言うのも何だが、あっという間に死と繰り返しに馴染み、文字通り力尽きるギリギリの瞬間まで、平然と戦い続ける事さえできるようになった。

 

 …俺自身としては、自分にその手のイカレ野郎な素質があったから、と思ってたんだが……それだけではないと?

 

 

「ええ。私が考えるに、原因は二通りあります。あなたが考えている通り、貴方自身にそういった資質が…死ぬ才能、とでも言うのでしょうか……あった場合。そしてもう一つは、貴方が自分で思うより、もっと何度も繰り返している場合です」

 

 

 …………。

 

 

「自分でも考えた事はあるのではないですか? 本当に、今までの繰り返しを全て覚えているのかどうか。その繰り返しは貴方にしか認識できず、他者と経験を共有する事が不可能です。あなたの主観でしか、その記録は残らない」

 

 

 日記にも書いてるぞ?

 

 

「イヅチカナタは、書物の因果ですら奪います。…ですが、全てを奪えるかと言うと、そうでもない。処理能力に限界があります。私の事が、わずかに書物にも残っていたように……貴方の日記に書いてある事も、イヅチカナタの喰い損ねかもしれません」

 

 

 …確かに、俺が覚えてないループがあると証明する術は無い…。俺の記憶から、日記から消えれば、後は誰にも認識できない。

 

 

「貴方が思っているよりも、ずっと多く死んだのでしょう。…そして、その度にイヅチカナタに記憶を吸い取られる。常人なら耐えられない死の恐怖を忘れ、何度も繰り返す事で、本能が徐々に慣れていく。…貴方の今の精神は、そうやって作られた物だと思われます」

 

 

 

 はぁん……繰り返しでクソッタレな状況になってるのがイヅチのせいなら、それに耐えられるのもイヅチのおかげってか。マッチポンプだな。感謝する気にゃならねーよ。

 

 

「不倶戴天の怨敵に、感謝をする必要など無いでしょう。何より、こう言っては何ですが……貴方の怒りや憎悪も、イヅチカナタは奪っていると思われます。先日の大戦で、イヅチカナタによく似た鬼を見ただけで、貴方の理性は振り切れました。ですが、何度か遭遇した時のあなたは、頭に血が上りはしても、そこまでではなかった」

 

 

 ああ、それは俺も不思議に思ってた。この前のイヅチモドキだけに異常に怒りを覚えてたが……。逆か。俺の前に奴が現れる時には、記憶やら感情やらをもう奪ってるって事か。だから、理性がホワイトアウトするような怒りに呑まれない。

 ……実のところ、その仮説に物凄く心当たりがある。

 死んで別世界に行った直後の事だ。自分の死については……まぁ、慣れの問題なのか、イヅチに恐怖を喰われているのか、もう特に何も感じなくなってる。

 

 でも、それ以外の喪失については話は別だ。これに慣れるなんて思えない。ずっと続いて続いて続いて、万が一これに慣れるなんて事になってしまったら、それこそ精神崩壊と同義だと思うくらいに。

 俺が死んだ後、あいつらはどうなったんだろう。

 

 アリサはレアと仲良くやっているだろうか。いつだったか、昏睡状態から起こせないまま死んだ事もあった。

 ロミオは元カノと復縁できただろうか。

 那木に浮気がバレて射殺された時はゴウエンマと戦闘中だったと思うが、あの後勝ったのか?

 橘花の尻をいただけないままだった事もあったか。

 フラウさんは「帰ってきたら続きをしようね?」なんて言ってくれたけど、恥かかせちまったかな。

 エシャロットは立派なハンターになれただろうか。

 ブータの名前をやった正宗は、JUNとコンビを組んでいるだろうか。

 開拓村のギルドを仕切りつつあったパピは、ナターシャさんと本当に家族になれただろうか。

 ポッケ村のシャーリーさんには、恋人(現地妻何人もあり)がまたしても死ぬという悲しみを感じさせてしまった。

 ユクモ村の双子は、ニコニコした顔で涙を隠してそうな気がする。

 ツバキ教官は、ようやく訪れた春があっという間に去って行ってしまった事になるな…しかもそのちょっと前には弟のMIA。

 桜花は橘花と仲良くやっているか……いや別にお互い『趣味』を共用してるかって事じゃなく。

 キカヌキの里の堅悟さんは、教えていた俺が居なくなって、探しに来たかもしれない…多分その時の俺はアラガミと化しているだろうが。

 

 思い返せば、気になる事は山のようにある。確認すらできないので、もう諦めていたが、それでも気になるのには変わりない。

 

 

 

 でも、それらを吹っ切るのが早すぎやしないか? …自分はそういう人間なんだ、と認識していた。ループの始まりごろは、「自分は本当に他人を好きになる事はないんだ(キリッ」なんて考えていた。…いや、今でもそういう人種ではあると思ってるんだけど、欲望から生まれる愛情もあるって思えるようになってね。

 まぁ俺の性格はともかくとして……誰かに二度と会えなくなった、積み上げてきた関係が全くなくなった、失われたとなれば、喪失感、徒労感、その他諸々感じるのは当たり前だ。

 

 今回のループの始まりの時もそうだった。GE世界で、また予想もしなかった死を迎え、この世界にやってきた俺は…その、とにかく落ち込んだ。

 気分は重かったし、GE世界に残してきたアレやコレやがどうなったのか、物凄く気になった。あいつらが泣いてるんじゃないかと思うと、一緒に居たあのブラッドの連中が死んでしまったのではないかと思うと、腹の中にとんでもなく冷たくて重い石が埋め込まれているような気分になったっけ。あまりの気分の悪さに、そこらの鬼に八つ当たりまでした。

 

 それが、クソイヅチに遭遇した後は、綺麗サッパリ消えていた。心残りはあったけど、それを封じて平然と生活できる程度には、平常心になっていた。

 自分でも不思議だったんだが……あれは、遭遇したイヅチが俺の心残りとか、そういう部分の因果を喰ってたって事なんじゃないか?

 

 

 加えて言えば、俺が死んで次の世界に移るまでの間に、クソイヅチは俺のそういった心残りを喰ってるんじゃないだろうか。その為に、デスワープした直後も、苛立ちは続いても、絶望も後悔も殆ど感じなかった。

 

 

 

 …なんだかなぁ。本当に色々食われてるみたいだな、俺。怒りがそこまで沸かないのは、怨敵ゲージが既に振り切れてるからか、それともその辺も食われてしまっているからなのか。

 

 

「さて、その辺りは私にも。ですが、貴方がイヅチカナタに対抗する為の下地は整いつつあります。戦闘能力の向上もそうですが、貴方が宿す因果をもっと増やしていく事で、イヅチカナタの因果略奪能力の限界を超える事ができるでしょう」

 

 

 因果を全て奪われるまでが、イヅチとの戦闘のタイムリミット、制限時間…か。

 とにかく物事に首突っ込んで、その上で生き延びろって事だろうな。

 

 

「そうなります。…恐らくですが、イヅチカナタにも何かしらの異常が起きているのでしょう。その為、因果略奪能力もある程度弱くなっていると思われます。千載一遇の好機かもしれません」

 

 

 …ナルホドな。

 

 

 

 で、結局結論は変わらないんだよなー。因果を結ぶってのも、前にホロウが予想した通りに揉め事が向こうからやってくるから、嫌でも増えていくだろうし。

 結局イヅチがいつ出てくるのかも予想できないし。

 話すだけ話して終わりか…まぁそんなもんだよな。

 

 

 

 



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235話

とりあえず仁王クリアしました。
今度は強者の道…と彼岸の逢瀬か。
この時点では武器レベルは150までしか上げられないのかな?

というか、これってチャットできないんだろうか…。
稀人になってみたんですが、相手が何を求めているのかわからない。
クリア優先なのか、道がわからないから先導してほしいのか、血刀塚で色々ゲットしたいのか。
海鳴りふたたびを何度も稀人プレイしたんですが、遅鈍符とか使うか迷ってる間に、相手プレイヤーが軒並み全滅。
稀人召喚な時点で、未クリアなんだろうけども、その割にはみんなして血刀塚一直線なんだよな…。
俺も未だに道具無しじゃ倒せないし、初プレイ時は散々死んだからよくわかるけど、だったら猶更、意思確認とかアドバイスとかの為にチャットつけてほしかった…。


寂滅月

 

 

 新しい月に突入。

 それはいいんだが、マホロバの里に戻った紅月から手紙が届いた。

 …あっちはかなり厄介な事になっているようだ。

 

 

 まず、西歌のお頭の事だ。呪われて意識不明、と言う事だったが……それは表向きの話だった。状況的には、もっと厄介だ。

 …呪いの内容は、鬼化。西歌のお頭は、虚海のように鬼の体になりつつあるのだ。

 

 呪った鬼…呪詛(カシリ)と名付けられたその鬼は、その爪や息に呪毒が含まれており、これを受けた者は徐々に鬼へと変わってしまう。

 …受けちまったんだよ、右肩に。

 まだ鬼化しているのは右肩のみだが、徐々に侵蝕は進んでいる。幸いにして、侵蝕の速度は非常に緩々としているが、治す手立ても見つからず、利き腕が上手く動かせない為にモノノフとしても事実上の引退。

 結界内に居ると、鬼の瘴気が里の中で振りまかれてしまう上、姿を見られるのを防ぐ為に里の近くにも居られない。 今は里から少し離れた、人の近寄らない場所に小屋を建て、そこで呪いに抗いながら過ごしているのだそうだ。

 

 

 

 こんな話、公開はできんわな。よりにもよって里長が鬼になる上、その鬼と戦ったのはサムライ・鬼討との合同での戦だった。

 どんな風に戦ったのかは知らないが、また諍いの種になりかねない。

 

 この事を知っているのは、紅月と、八雲と刀也、そして西歌のお頭の世話役として任命されたお付きの人2名のみ。

 それ以外の人達は、鬼から受けた呪いで目を覚まさず、ずっと屋敷の奥で眠り続けている…と教えられている。

 

 

 西歌のお頭はそんな状態だが、里の状態はもっとややこしい事になっていた。

 改革の途中で、音頭を取っていた西歌のお頭が人前に出られなくなっちまったからな…。元々、改革だって全面的な同意を得られていた訳じゃない。だからこそ、反対勢力を黙らせるため、俺に大暴れさせたんだ。

 急遽、里長代理と言う事で紅月が里を纏めているが、このまま改革を進められる筈もない。紅月がどれだけ頑張っても、恐らく現状維持止まりだろう。それでも、以前よりはよくなっている…とは紅月からの手紙の弁だが。

 

 

 

 …にしても………やっぱあの時の、朝飯の為に討伐しなかった大物鬼か…!

 言い出したらキリがないとはわかっているが、あの時に一戦交えておけば…せめてどんな鬼が居るのか、情報だけでも持ち帰ってりゃ、対抗策の一つも備えておいただろうに。

 

 

 ああああ、こんな後悔久しぶりだ…イヅチに因果を喰われてるからか、シリアスな後悔自体殆どした事ないんだよな…。

 こんな後悔を抱く事自体、自分の力に依って立っているモノノフに対する侮辱だとはわかってる。戦ったのも決断したも、相手がどうあれ力量が足りてなかったのも、結局は西歌のお頭の責任だ。

 

 だけど、なぁ……朝飯と鬼を天秤にかけた結果がコレだぜ。よりにもよって朝飯、ブレックファスト。そりゃ飯は大事だけどもうちょっと別のコトだったらここまで妙な気分にはならなかった気がする。

 

 

 

 

 はぁ……ん?

 

 

 …そういや博士はどうしてるんだ? あいつでも呪いを解くには至らないんだろうか。

 いや、そもそも寝込んでるんだと思って…でも「何かある」って気付くよな。気付かなくても、呪いを解こうとする…か?

 里人からは魔女と呼ばれてあんまりウケは良くないが、それでも医者なんだし、診察くらいさせると思うが…。

 

 …確か、鬼の手って元は異界を浄化しようって考えで作ったものだったな。攻撃と移動にしか使ってなかったが…こいつでどうにかできないもんかな。

 ま、返信に書くだけ書いておこう。

 

 

 

 

 

 

 さて、マホロバの事は一旦置いといて。

 

 

 

 …なんつぅか、その、ホロウがちょっとヤバい気がする。具体的には、虚海に手ェ出したのがバレた気がする。

 

 そりゃね…何度か乱交に巻き込んだしね…。まぁ、そこは虚海自身がもう受け入れたと言うか染まったからいいんだけど。

 ホロウには性的行為に忌避感は無いらしいが、それでも妹分に不埒な事をされた、と言うのは受け入れられる筈もない。まだ確信には至ってないようだが…。

 

 …これ、仮にバレたとして…デスワープしたら無かった事になるかな? ホロウって時間跳躍してイヅチを追ってるんだし、案外繰り返しに影響されないかも。

 下手すると……次のループでホロウと会った時、いきなり顔面を射抜きにくるとか?

 

 あ、実際に初対面の時に発砲しやがったわアイツ。

 

 

 

 うーむ、自分からやらかしといて何だが、今後も長い付き合いになるかもしれない相手に、悪感情を抱かれるのは良くない。

 …ホロウも引き摺り込むか? 虚海を嗾ければ、割とアッサリ引っ張り込めるような気もするし。

 性交を拒んでいるのも、必要が無いから・何より妊娠したら戦えなくなるから、という実も蓋もない理由だ。

 

 ヤっちゃうべきかなぁ…。

 

 

 

 

 まぁ、俺が狙撃されるかホロウが懐柔されるかは本題じゃないんだ。問題なのは別の事。

 そもそも、コレは初穂が持ち込んできた噂話なんだが、妙な夢が流行っているらしい。夢が流行るというのもおかしなものだが、実際に流行っているんだから仕方ない。

 

 色々な人が、皆揃って同じような夢を見ているのだ。夢なんざ見ても覚えている方が珍しいモンだが、「こんな夢を見たんだ」「ああ、そういえば似たような夢を見たような」「言われてみれば私も」「ごめん、夢精してたから多分いい夢みてたと思う」「こっちくんな」等の会話が頻繁に交わされ、それを聞いた人も…これが原因なのかは分からんが…同じような夢を見始める。

 ちなみに、夢の内容は単純。真っ暗な穴の中に、ゆっくりゆっくり落ちていくだけ。その先がどうなっているのかはまるで分からない。そもそも、周りも真っ暗だから、自分がどんな風に落ちているのかも分からない。ていうか、そもそも『穴』ってのも、何がどう穴なのか分からない。夢で作り出されたシチュエーションだから、意味不明なのは仕方ないが。

 

 単なる夢だろ…とは言えないなぁ。夢を操る鬼も居るし、予知夢とか見るモノノフも居るし、そもそも皆で同じような夢を、しかも毎晩一斉に見るとか、明らかに何かのフラグである。

 これについて調査を進めてはいるが、手がかりが少なすぎて正直どうしようもない。夢の内容だって、「まっくら」「落ちる」の二言だけで説明できるんだもんなぁ…。せめて誰かの声がするとか、アクションがあれば…。

 

 それと、術や鬼に詳しい頭のいい連中が、これらの夢を見ていないのも痛い。分析しようにも、ただでさえ朧な夢を、伝聞で聞いてるだけじゃな。

 

 

 

 …そう悩んでいたら、樒さん・ホロウ・虚海の3人で、何やら話し込んでいた。何か心当たりでもあるんだろうか? あるなら早めに教えてほしいものだ。…え? 何? 諸事情により、俺にだけは教えられない?

 

 

 …何でいきなりハブられてんの?

 

 

 

寂滅月

 

 

 奇妙な夢は相変わらず、どんどん広がっているようだ。しかし、肝心のリアクションは一切ない。夢の内容も全く同じで、相変わらず落ちていくばかり。

 人によっては、「空中浮遊している気分」と楽しんですらいるようだ。やっぱり、夢を見るだけとあっては、鬼の仕業だとか、危険があるかもしれない…だとか、実感しにくいのかな。いや、それにしたって危機感が妙に薄いような…。

 

 現状、危険らしい危険が無いから、触鬼の殲滅に集中する、という理屈も分からんではない。

 今現在で危険なのは、どう考えたって無限に増殖する鬼達だし、夢の調査となるとそこから更に人手を捻出しなければならないだろう。はっきり言って、手が回らない。

 

 潜在的な危険という意味では、明らかにこの夢の方がヤバいと思うんだけどな。何せ、既に里人の6割以上がこの夢を見るようになっているのだ。その全てが同じものかは分からないが、毎晩同じような夢を見ているのは事実。

 万が一、これが百日夢のように、ある日突然目覚めなくなるような現象に発展したら……それだけで里の機能はマヒしてしまうだろう。

 それが分からない大和のお頭じゃないんだが……やっぱ物理的な限界はあるよな。

 

 文句を言っても始まらないし、俺達だけでも異変の調査をしておきますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて言ってたら、もう答えが出てたよ…。

 何だよ、昼寝して起きたらこの光景って…。

 

 

 

 

 あっちこっちから、光が立ち上っている。見ている分には綺麗なんだろうが、俺としてはのんびり見惚れる気にはなれない。今まで、何度この光景を見ただろうか。俺が覚えていない光景もあるだろう。

 イヅチカナタの因果略奪能力…。来やがったな。

 

 今までは分からなかったが、色々言われてきた為か、はっきりと分かる。俺から何らかの因果…感情とか記憶とか、そういった見えないモノが引きはがされていく感覚。こうしている間にも、因果を奪われているんだろう。その為に、怒りや憎悪が軽減されて、ブチ切れ状態にならずに冷静に行動できている…というのは皮肉なもんだ。

 

 と言ってもなぁ…どうしたもんだろうか。舞い上がっていく光が向かう先に、イヅチカナタは居るんだろうが………空の上だしなぁ。鬼の手使っても、まだ届きそうにないくらいの上空。雲の上。

 そこに、大きな丸くて暗い穴が開いている。

 

 空に穴が開いている。世直しは始まらないだろうけどな。ヒーローも絢爛舞踏も来てくれそうにない。

 何せ、あそこの先に居るのはクソイヅチだ。

 

 

 真っ暗な穴に落ちる夢、か。夢じゃなかった訳だ。

 里人が見ていた夢は、因果をゆっくりと引きはがされ、あの空の穴に吸い込まれていく自分の姿だったんだ。

 

 

「そうだ。あの先が、イヅチカナタの寝床よ」

 

 

 …虚海!? なんでお前無事…ホロウも?

 

 

「私達だけではありません。樒も無事です。…と言うより、私が無事なのはともかく虚海が平静でいられるのは、樒のおかげです。基礎理論は私達から提唱したとはいえ、この短期間でイヅチカナタの能力を防ぐ結界を張る…。いい腕です。本当に…。それとは関係なしに、貴方は無事のようですが」

 

 

 ああ…そういや、マホロバの久音さんからも、すごい術者だって言われてたっけな。

 いやそれはどうでもいいけど。

 

 いや、それよりも皆はどうしてる!?

 

 

「…記憶の消失、人格の混濁を認めます。残念ですが、状況は最悪…の一歩手前です」

 

 

 …んっとにあのクサレイヅチはよぉ…!

 

 

「落ち着け。事ここに至っては、私も協力を惜しむつもりはない。イヅチカナタには、私としても因縁があるのでな…。それまで食われるのは御免被る」

 

 

 因縁?

 

 

「…空を見い。あの穴が見えるじゃろう。因果を吸い込む、あの忌まわしい穴が。……私はな、あの穴に落ちたのさ。真っ暗で上も下も分からず、何をしているのかされているのかも自覚できない。ただ只管に流れるだけのあの空間で、どれだけの時を過ごしたか分からん。ホロウと共に戦ったあの時は、空ではなく地に空いた穴だったか。あの先は、『あちら側』…鬼の住む世界よ。人が入ってはならぬ領域よ。呑み込まれる前に、この状況を打開する」

 

 

 はっ、ヘタレの分際で仕切るじゃないか。だが異論はない。

 里の皆の魂を喰われるなんざ御免だぜ。例え繰り返しすれば全て無かった事に出来るとしてもだ。

 

 

 とは言え、あの空の上の穴までどうやって行ったものか…。

 

 

「それは簡単です。危険な方法ですが、確実でもあります。自分から、あの穴に落ちようとすればいいんです」

 

「幽体離脱、と言えば分かりやすいかの。出来ぬのであれば、我々が助力しよう。体はここに留まるが、精神と魂はあの穴間近にまで行ける。そこであれば、捕らえられている因果を幾分か解放できよう。無論、それだけ因果略奪の力に晒される危険は高まる。…それを押し退けて成し遂げる事ができるのは、おんしと、ホロウと、私のみ」

 

 

 イヅチカナタの能力に、多少なりとも抵抗力があるから…か?

 ホロウはそう設計されてるんだろうし、虚海は…呪われてその力を宿したから。俺は……何だろ。

 

 

「それだけ揉め事に多く巻き込まれ、良くも悪くも強い結びつきを得たと言う事ではないか? …まぁ、なんじゃな。初穂と那木とグウェンは、夜毎の遊びを今からでもやってやれば、戻ってくるんじゃないかの」

 

 

 …理屈で言えば、割と通ってるから困る。オカルト版真言立川流万能説。いや、むしろ俺の手法がそこまで高まったと思えばいいのか? ……中伝の囁きの術に手を焼いてる程度じゃ、高まるも何もありゃせんな。俺はまだまだ未熟者。単にエロが万能なだけだ。

 とは言え、今からお遊びするには時間が足りんな。怨敵を目の前にして、腰振ってる気分にもならないし。

 

 よし、そんじゃ行動開始ですな。各々準備は?

 

 

「問題ありません。…ですが、短時間で何度もあの穴に近づくのは危険です。交代で出撃するべきです」

 

 

 一度に全員を引っ張ってこられるかも分からんしな。となると、最初に行くのは…。

 

 

「私とホロウだ。おんしがあの穴に近づけば、それこそイヅチカナタがこれ幸いとやってきかねん」

 

 

 …近付けないやん、俺。

 戦力の逐次投入は愚策だが、交代で戦うのにも一理はある。大抵の鬼なら、俺にせよホロウにせよ虚海にせよ、一人で叩き潰せるからな。逐次投入もアカンが、戦力を過剰投入して息切れするのも愚策だ。

 

 …ちっと気になる事もあるしな。

 

 

「では、樒の元に行きましょう。祭祀堂からあの穴に飛びます。…まぁ、一見すると寝ているようにしか見えないのが難点ですが」

 

 

 幽体離脱だからね。仕方ないね。

 さて、そんな訳で祭祀堂までやってきたのだ。樒さんは相変わらず、大麻を左右に振っている。…タイマと読んではいけません。

 普段と違うのは、いつも眠たげな顔つきが、非常に真剣なモノに代わっている事。それだけ自体が逼迫いしてるって事だ。

 

 …で、その延々と大麻を振り続ける樒さんの前で、横になって目を閉じている二人。幽体離脱して戦っているらしいんだが……言っちゃなんだが、死体にしか見えん。そして、樒さんの大麻振りも何かの儀式にしか見えなくなってきた。

 なんだ、死者蘇生かゾンビ作成でもする気か。いや死んでない、今まさに戦ってるんだけど。

 

 

 

 …さて、それはそれとして、気のせいかと思ってたんだが…里で誰か動き回っている。動くだけなら、意識の混濁した人達が、妙な幻相手に戯れているんだが、そういう動き方じゃない。明らかに意思を持って、目の前の現状を理解して歩いている。

 ついさっき、視線を感じて確信した。誰かが居る。

 

 

 …そこ。

 

 祭祀堂の隣の茶屋から爪楊枝を一本失敬し、視線の元に向かって投げつけた。

 

 

 

「ほぉう……これは驚いた。本当にこの中で動けるのか」

 

 

 そう言って家の影から現れたのは……識? 相変わらず悪人顔のオッサンだ。

 いや、それよりもこいつ何で…。

 イヅチカナタの力を弾けるのか?

 

 

「いいや、残念ながらそれは私にも出来ん。現に、私がなぜこの里に居るのか、お前が誰なのか…大方この里のモノノフなのだろうが、その名前も思い出せん。ただ、少々因果を吸われた程度で、私は何も変わらないというだけさ」

 

 

 …なんだこいつ。ホロウに妙に絡む事もあり、アレな性癖の人か、それとも妙な特技を持ってしまった変態スレスレの超人かと思ってたが、そういう次元じゃないぞ多分。

 因果を奪われながらも、イヅチカナタと戦う事なら出来た。俺だけじゃない、以前の千歳も短時間ではあるがやっていた。しかし、抗うでもなくその効果を受けながら、平然としているなんて…。

 

 因果を取られているという状況にも気づいていて、一部とはいえ記憶が失われ(本人申告でしかないが)ているのに、この冷静さ……いや、他人事のような目付きはなんだ。

 

 …内面観察術を使うが、どうにも上手く読み取れない。辛うじて読み取れたのは………失望? 何に?

 

 識は横たわって動かないホロウと虚海に目をやり、次いで俺、俺の後ろで大麻を振り続ける樒さんに目をやった。

 

 

「ふむ…これがイヅチカナタの因果を奪う力。かつては一国、或いは世界一つを滅ぼした力。確かに強力ではあるし、脅威でもあるが…足らんな」

 

 

 …足らない? 何に?

 

 

「何、気にしたところでどうしようもない事だ。知りたいのであれば、この状況を何とかして見せる事だ。それではな」

 

 

 ハァ!? おいおい、アンタ霊山の軍師だろ! 鬼を討つ鬼を率いる軍師だろ!

 と言うかイヅチカナタの事まで知ってんのに、放置してどっか行く気かよ!?

 

 

「生憎、この状況では私に出来る事など何もないのでな。無駄な犠牲を出さない為に、さっさと退かせてもらおう。何、もののついでだ。一人二人くらいは連れて逃げよう。ではな」

 

 

 一方的に言い捨てて、識は姿を消した。立ち去ったのではなく、瞬間移動的な感じで。…懐の赤い玉に触れたのが見えたが……なんか引っ掛かるな。

 引っ掛かるっつーかこの状況が明らかにおかしいんだが。何者だありゃ…。妙な技術を持っているとは聞いていたが…。

 

 

 …いや、今考えるべきはそこじゃないな。識の事を探らにゃならんし、それ以前にこの状況を見捨ててとっとと逃げた事について霊山を通して抗議させてもらうが、イヅチをどうにかしない事にはどうにもならない。

 もしもこのままデスワープしちまったら、識の敵前逃亡の事だって無くなってしまう。報いをくれてやる為にも、とりあえず生きる。 

 

 

 

「…行ったわね」

 

 

 樒さん? 集中しきって気付いてないかと思ってた。

 

 

「そう演じていただけよ。…あの男、相変わらずのようね」

 

 

 知り合いだったのか?

 

 

「随分前、修行中に少しだけ。あちらは覚えてないでしょうね。…当時から全く姿が変わっていなかったから、私は分かったけど」

 

 

 姿が変わってない…。虚海のように鬼に呪われでもしてるんだろうか。

 陰陽方とも繋がりがあるようだし、そっち系統の術を持っていてもおかしくない。

 

 

 

「……ん」

 

 

 ! ホロウ! おお、虚海も起きたか。首尾はどうだ?

 

 

「…ああ、問題ないよ。いつぞや見た、あの真っ暗な穴をもう一度見る嵌めになるとは思ってもみなかったが」

 

 

 ああ…虚海にとっては、地獄の始まりにもなった穴だもんな。そりゃトラウマにもなるわ。

 

 

「虎馬とは揚げ物にしてみたくなる名前ですね。ともあれ、まずは木綿、那木、橘花を連れ戻しました。今頃、それぞれの場所で正気に戻っているでしょう」

 

 

 人選の理由は?

 

 

「木綿はモノノフとしての力もなく、生命力も一般人並です。最も危険であると判断した為、最優先で連れ戻しました。那木は傷を負った際の治療役の確保。橘花は神垣の巫女である為です。結界を再稼働させねば、現在のウタカタはまるで無防備です」

 

「休んでいる暇は無いぞ。他の者達も連れ戻さねばならん。今度はおんしとホロウで行け。私は、正気に戻った者達を集めてこよう」

 

 

 ああ、頼む。んじゃ樒さん、術をかけてくれ。頼むぜ。

 

 

「…貴方に術は効きにくいのだけどね…。無数のミタマが、訳が分からない程に群がっているから」

 

 

 …あー…そういやのっぺら連中がそんな状態だったな。あんなの英霊じゃない、カボチャだとでも思っとけ。

 

 

「煩い南瓜ね。まぁいいわ…。虚海、さっき識がうろついていたわ。目的は分からないし、撤退したようだけど、気を付けなさい」

 

「あの男が? ……分かった」

 

 

 歩いていく虚海を見送り、ホロウと並んで横になる。樒さんの術が干渉してきたのが分かったので、相変わらずワチャワチャと好き勝手やっているのっぺら共を静かに……静かにしろよ! ここんとこずっと放置状態だったけど、嫌になる程相変わらずだ!

 

 

 …とにかく、何とか樒さんの術に乗り、幽体離脱。……考えてみれば、これって魂が肉体から抜けている訳で……死んでるって事にならないか? デスワープしなくて良かったわ…。

 それはいいんだが、霊体になったのは初めてだな。モノノフの訓練で、霊力をより強め、扱う為に訓練の一環とされているのは聞いていたが…。

 

 

 …これ使えば、MH世界やGE世界なら諜報活動し放題だよなぁ…いや覗きするって言ってんじゃないよ。俺、触れられるモノが一番って考えだから。見るだけだとむしろ欲求不満が溜まるのよね。

 さて、そんな訳で空に浮いた穴に向かって進み、突入。穴がある高さから考えて、音より早く上昇したって事になるが、霊体に物理法則は(あんまり)関係ないからモーマンタイ。

 穴の中は真っ暗で、何も見えやしない。シルバーコード的なナニカ……シルバーコード=魂と肉体の因果と考えれば、割と的を得ている気がする…を辿って進むと、その先に小さな足場が見えた。

 

 そこに着地すると、ホロウも続いて降り立ち、すぐに戦闘準備に入る。……うん、居るな。

 

 

 ホロウ、ここに居る人と鬼はなんぞ?

 

 

 

「初穂、大和のお頭、タタラさんです。鬼は…先ほどはクエヤマでしたが、今回はダイマエンのようですね」

 

 

 

 ダイマエンはウザい文明。破壊する。

 

 

 

 

 

 …ん? 今、声が聞こえたような………初穂の声? 

 

 

「因果を奪われ、記憶が混濁した状態で、魂ごとこちらに取り込まれているんです。…見てください、あの穴を。以前の戦いで、千歳が落ちた穴があれです。…初穂は、一度時を飛び越えたと聞きます。恐らく、初穂も知らない間にあの穴を潜り抜けてしまったのでしょう」

 

 

 ………あの穴が…………なぁ、ホロウ。あの穴から何が出てるように見えるか?

 

 

「? いえ、穴には何も出入りしていないようですが。時代を飛び越える者など、そうそう居ませんし」

 

 

 …そうか………。

 

 

 

 

 俺には、のっぺらがあの穴から出てきて、どんどん俺に流れ込んでるように見えるんだけどな。空を覆いつくすのっぺら……はっきり言うけど、色々放り出してもう帰りたくなっている。

 

 

 …いや待て、ホロウには見えてないのっぺらの事も気になるが、記憶が混濁した状態って事は…。

 確か、GE世界で持っていたレコーダーがここに…あ、でも今霊体だしな…。まぁ記録できれば儲けものか。

 

 

 

 

 

 

 さて、クサレイヅチが乱入してくる事もなく、無事にダイマエンを撃退。その後、ホロウが虚空に話しかけて「貴方の大切な物は何ですか?」と聞いていた。

 それに応じるように、初穂達が戻って…きたのか? 幽霊が現れるみたいに、ボヤけたモヤが出て、それが実像を結んだと思ったら初穂達。で、それがまたスーッと何処かに流れて行った。

 

 …あれで良かったのか?

 

 

「ええ、問題ありません。因果を奪われ、消えかけていた自我が戻り、体との結びつきも戻りました。魂が体に引っ張られて戻っていったのです」

 

 

 ナルホド。分からん。いやイメージ的には分かったけど、何となく言いたくなっただけだ。

 で、俺達はここからどうするんだ?

 

 

「戻ります。イヅチカナタも、まだこの辺りには居ないようです。居るとすれば、恐らく…」

 

 

 あの穴の中、か。……やっぱり、あの穴から出てくる大量ののっぺらはホロウには見えてないようだ。この連中が飛び交う空間の中でイヅチとやりあうとか、普通にイヤだなぁ…。

 …そういやGE世界でネット空間に潜った時、似たような事があったな。ネット空間に空いた『穴』の先から、大量ののっぺらが入り込んできてたっけ。と言う事は、あの穴はねっと空間の穴と同じだと? いやでもネット空間っつっても、物理的に存在している訳じゃないよな。

 

 まぁ、もう何でもいいか。のっぺら共が鬱陶しすぎて、考え事もできやしない。俺らも一旦帰るぞ。

 

 

「ええ。次の戦いは、正気に戻った那木、初穂、虚海ですね。大和のお頭は、もう戦えませんし」

 

 

 どうせ幽体離脱状態になるんなら、思い込みでどうにかならんもんかね…。

 

 

 

 

 そんな事を考えながら、元の空間に戻っていく。上も下も分からない異空間だけど、何と言うか、「俺の体はこの先にある」って分かるんだよ。それに従って飛んでいくと、いつの間にかウタカタ上空。…無事に戻ってこれたか。

 体に戻る前に里をざっと巡ってみると、あちこちで奇行に走っている人が沢山いる。これだけイヅチに因果を取られてるって事だよな…。これ全員助ける為に、延々と繰り返すのか?

 

 

 どうなん、ホロウ?

 

 

「いえ、こうやって助け出すのは、戦力になるモノノフと、戦闘準備に必要な人材のみです。里の皆さんまでは手が回りません。一人一人助けていく間に、まだ因果を奪われて助けに行っての繰り返しです。阻止する術は一つだけ。可能な限りの戦力を集め、元凶を断つのです」

 

 

 死人を出したくなけりゃ、さっさと仕留めろって事か…。結構キツい話だな。

 ………? ホロウ、どうした?

 

 

「…以前、貴方と博士に話した事ですが…私の中には、人の魂を燃料として動く機関があります。かつて。千歳やオビトと共にイヅチカナタを追い詰めた時、私はそれを使う事を躊躇いました。イヅチカナタにも大きな傷を与えていましたが、味方も壊滅寸前。二度とないかもしれない好機でした。戦術的に考えれば、使うべきです。死んだ味方の魂も、イヅチカナタに喰われるくらいなら私が…と、そう考えていました。…なのに、その時になって私は躊躇ったのです。理由は分かりませんでした。…その躊躇いの隙を突かれ、オビトは死に、千歳はあの穴に落ちていき、イヅチカナタには逃げられました。もしも、同じ事があれば今度は…と思っていたのですが…」

 

 

 ホロウは視線を下に向けた。そこでは正気に戻った木綿ちゃんを、虚海が祭祀堂に向けて連れて行く姿がある。

 

 

「…必要ないようですね。オビト達と共に戦った時以上の布陣です。今度こそ、イヅチカナタを仕留めます」

 

 

 ホロウ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度は躊躇わないようにって事は、まだ俺をちょびっと齧ってみようとか思ってたな?

 

 …おい、目を逸らすな。

 

 

「…このままイヅチカナタを倒せばいいのです。自分でも無数のミタマの集合体と認識しているのですから、ちょっとくらい削れても大丈夫です」

 

 おい待てコラ! あっ、肉体に戻りやがった! …くそ、絶対後で問い詰めてやる。

 …いや、問い詰める前に、どっか行きやがった識の事も話しておかなきゃならんな。

 

 



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236話

寂滅月

 

 

 なんかもう日付と言うか時刻が怪しいな。時計は狂うし、空は色どころか穴しか見えないから、太陽も星も月も見えやしない。

 まぁ、とりあえず、なんのかんので里のモノノフの主だったメンバーは全員奪還できた。

 

 …若干、誤算もあったけどな。いや物理的に危険な事じゃないんだよ別に。

 そもそもな、最初に初穂達を連れ戻しに行っただろ? その時、記憶が混濁した初穂達の声が聞こえて……まぁ、かつてはあんな風だったのかもしれないが、今とは大分キャラが違うわな。…いや初穂は今と大して変わらなかったか。

 で、その時に思いついたんだが、いつも使ってる不思議ふくろの中に、GE世界で持っていたレコーダーがあるのを思い出した訳だ。

 

 まぁ、モノノフ達の黒歴史でも録音できりゃいいなー、霊体なんだし本当に録音できるか怪しいもんだし…なんて考えて、軽い気持ちで録音機能を作動させていた。

 ……幽体離脱が終わって確かめてみたら、しっかり録音できてたよ。何故!? ……あ、うん? ……「録音した」という因果を体に持って帰った為? 因果の為に、本当に録音した結果が出来上がってしまった? ………ナニソレ意味不明。因果とか因縁って結局何なのだ。

 

 いや、この際何故録音できているのかはどうでもいいんだ。

 ……ただ、思っていたよりも色々と重い事がね…録音されててね…。秋水の「逃げろ!」って必死の叫びとか。九葉のオッサンの……まぁ、口留めされてっから書かないけど、叫びとか。

 

 

 

 大和のお頭の、ショタ調の喋りとか。

 

 

 

 …色々な意味でぶっ壊した方がいいとは思ってるんだが、ある意味非常に強力な武器になりそうな気もするんだよなぁ…。

 

 

 

 

 …うん、忘れよう。ふくろの中に放り込んで、忘却の彼方に追いやろう。そしてふとした時に「これなんだったっけ?」とか言いつつ再生して大ダメージを受けよう。

 ていっ。…もっと奥へ入れて…よし。うむ。俺は何も見なかった。

 

 

 

 さて、ローテーションで皆を助けに行っていた訳だが、俺とホロウが休憩の時間があった。

 その時にちょっと話をしたんだが…いやまぁ、それ以外にも大和のお頭から、「これはどういう事態なのか」「イヅチカナタと言うのはどのような鬼なのか」「そんな鬼が居て近くに来ていると分かっているなら、さっさと情報を共有しろ」等、いろんなお話(お説教とも言う)があった訳ですが。

 

 とにかく、俺とホロウで休みの時に、ちょっと話をしたんだわ。主に識の事について。

 

 

「…そのような事が…。ただの変質者ではないようですね」

 

 

 変質者は確定でいいよな。軍師失格の烙印も付けよう。…本人はまるで気にしそうにないけど。熊本弁認定するかは微妙。

 

 

「だとしても、公の立場を失う事は痛手でしょう。やる価値はあります。……それで、識はイヅチカナタの力を認識し、それを受けながらも「足りない」と言っていたのですね?

 

 

 ああ、そうだ。あの口ぶりからして、ここに来たのもクソイヅチが目当てだった可能性が高い。

 何か分かる事は無いか?

 

 

「………推論に推論を重ねますが…」

 

 

 構わない。

 

 

「因果略奪の力が目当てで、それが足りないと言うのなら…因果をもっと広範囲で、更に強く奪う力を必要としているのだと思われます。因果を奪われ続けた結果、発生するのは…因果崩壊、と呼ばれる現象です」

 

 

 因果崩壊…字面からして何となく予想はできるが、具体的にどうなる?

 

 

「何もなくなる…としか言いようがありません。そこには最初から何もなかった事になります。誰も居なかった。建物も無かった。鬼も居なかった。そこでは何も起きず誰も居らず、ただ時間だけが過ぎて行った事になる」

 

 

 死ぬって次元じゃない訳ね…。しかし、それを広範囲にやって、何がしたいんだろうな。

 

 

「以前、霊山で話した時の口振りから、予測は立てられます。識は『この世界そのものが間違っている』『歴史が間違っている』と言いました。そこで、因果崩壊の性質を考えると…」

 

 

 

 …歴史を無かった事にする? そして新しい歴史をやり直す?

 

 

「世界規模での因果崩壊を起こせば、それも可能かもしれません。…あくまで理屈の上では、ですが…。ですが、流石にイヅチカナタと言えど、そこまでの因果略奪能力は無い筈です」

 

 

 だから足りない、か…。この推論を鵜呑みにする訳じゃないが、どっちにしろアイツは危険そうだな。

 と言うか、イヅチカナタが目当てだったって事は、ここに来る事を予測できてた訳だよな。それも、因果を喰われても普段通りに行動できるという確信すら持っていた。

 

 

「…目当て…成程、私がその目印だったと言う事ですか。虚海が書物から私の存在を見つけ出したように、識もどこかで私を知ったのかもしれません。…この目だけでは確信できないでしょうから、他に何か確たる目印があったのでしょう」

 

 

 目印…目印なぁ…。そう言えば、識は何故かホロウの居場所を探知できてたんだっけ。ひょっとして、探知機みたいな物を持ってる?

 しかし、それは何を探知する為のものだ?

 鬼…ではない。鬼の手………も多分違う。ホロウだけの目印…。

 

 

「………私の目印………特徴…………まさか、これでしょうか」

 

 

 ホロウは懐から、小さな銀色の板を出した。…なんだそれ? 鉄とか銀とかじゃなさそうだが。

 

 

「私の認識票です。…もう何の意味もない物ですが、私が生まれた世界と所属を示すものす。少なくとも、この時代には存在しない素材で出来ています。私にも詳細は分かりませんが…」

 

 

 …存在しない素材を探知するレーダーとか、普通に考えて無いだろ。

 でも、なんか近い気がする…。

 

 

 

 ん? ホロウ、イヅチカナタが国や世界を滅ぼした事ってあるのか? 何かやった結果、人間の争いで滅んだんじゃなくて、イヅチ自体が崩壊させたって事は?

 

 

「私が知る限り、ありませ…………? いえ、一つだけあります。私が生まれた国です。世界まではどうなったかはわかりませんが」

 

 

 そうだよ…いやそもそも、世界を一つ滅ぼした、なんて誰が分かるってんだ? 少なくとも、この討鬼伝世界では異世界の存在なんて確認されてない。『異界』という呼び名だって、文字通り世界が違うって事じゃない。ひょっとしたら、秘密で誰かが知ってるのかもしれないが。

 なのに、識はそれを知っている。誰かから、本から伝聞で知ったのではなく、まるでそれが事実だと確かめたかのような言い方だった。

 

 

 …識は、別の世界…多分ホロウが生まれた世界の住人? それが何らかの理由で、この世界に来た?

 

 

「…妄想の領域ではありますが、筋は通ります。あなたが先程言ったように、この認識票の素材を探知する何かを持っているのも、それならばわかります。あの男にとって、この認識票の素材も『既存の物』だったのですから」

 

 

 下手すると、人造人間のホロウ自身を探知するカラクリとかも持ってるかもしれんな…。

 と言う事は、あの時の瞬間移動も、異世界の技術の遺産か? 

 

 

 ああ…もう何が何だか…。

 

 

「確かに気になりますが、最優先事項はイヅチカナタの討伐です。それが私の使命であり、ウタカタを救う為の手段であり、貴方にとっても目的の筈。識の事は後回しにしましょう」

 

 

 …そうか。そうだな。

 何だったら、九葉のオッサンも交えて、失脚するよう仕向けるのもいいかもしれん。とにもかくにも、クサレイヅチを叩き斬らないとな…。

 

 

 さて、そろそろ休憩時間も終わりだ。

 残ったメンバーを助け出して、イヅチカナタと総力戦やったる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HR月

 

 

 かつて、これ程にクソミソな怒りに塗れた事があっただろうか。いや無い。

 

 

 ッの野郎、クサレイヅチがぁぁぁぁ…何処まで俺を怒り狂わせれば気が済むんだ。某英霊達の戦争に召喚されたら、問答無用でバーサーカークラスになってしまうくらい怒り狂っている。

 ……が、ああうん、感情って行き過ぎると逆に平穏になるって本当らしいな。かつてない程の怒りとか憎悪とか、言葉で表せない感情に溢れまくっているが、むしろ今の俺はそれらを撒き散らす事すら考えない程冷静だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷静だったが、怒気を抑えきれたとは言ってない。

 

 

 

 

 

 月からも分かるように、デスワープしてMH世界にやってきた俺。で、例によってドスマラソンゴしていたんだが……俺が何かするまでもなく、ドスファンゴが即死した。

 ドスファンゴだけじゃない。俺を中心にして、茂っていた植物達が枯れて散った。自分から死を選んだかのように、だ。

 

 …そうか、これが殺意の波動か…。そりゃー漏れ出した気迫だけでも、自分から死に臨む奴が出るわなぁ…。

 

 

 

 俺の前を走っていたハンター候補生達も、近くの茂みにいた動物達も……幸いにして、漏れ出した俺の気迫で心臓が止まってしまうような事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 が、突然かけられたプレッシャーにより、例外なくブリリリィ!ジョババババ!!してしまったが。

 

 

 

 …その時の気持ちが分かるだろうか?

 あの言葉にできない程下劣かつ殲滅一択なイヅチへの言葉にできない強すぎる感情のおかげで、逆に冷静になってしまい、その惨状を無視する事もできなかった俺の気持ちが。

 背後で走っていたドスファンゴは、失禁+ブリリリィィ!しながら心臓麻痺か何かで死んでるし、前方を走っていた訓練生達は落ち伸びる途中に背後から矢弾の奇襲を喰らったかのように、重なり合って倒れている。無論、味噌(意味深)付きだ。

 遠くで見守っていた教官は…ブリリリィはしなかったけど、密かにジョババババ!!してしまったようだった。

 

 手持ちのこやし玉を全部ブチ撒けたってこうはならんぞ。ハンターは嗅覚だって一般人より鋭いからなぁ…なんつぅかもう、悪臭で頭痛くなってきた。

 こうして、今回のデスワープはクソミソな結果に終わってしまったのだ。

 

 とは言え、これは俺の不始末だ。原因はドグサレイヅチだが。物理的に手を出したのではないから、「殺気? ドスファンゴに追いかけられている間に、そんなの感じてる余裕なんかないよ。俺が放った? ハハッ(←危険な笑い方。ウォルト的な意味で)、ナイスジョーク」でシラを斬り通す事もできたんだが、まーなんだ、流石にね…良心が痛んでね…。

 悪臭に悩まされながら、何とか全員の始末をした。…別に寝首を掻いたとか、女性のズボンだけ脱がして念入りに後始末したとかじゃなくて、全員叩き起こして体を洗いに行かせただけだ。後は…まぁ、消臭玉使いまくった。

 

 …不潔云々も結構キツいもんがあったが、一部のハンターからの恐怖の視線が痛かったわぁ…。特に、いつぞやのループで狩りに誘ってくれた。ヌヌ剣3人組の、アタッカーの目が。

 町中にいきなりイビルジョーが湧いても、ああまで警戒した目はしないだろうに…。他の何人かも同じように警戒してたが、あの子は頭二つ分くらい飛び抜けていた。ご執心の無鉄砲な男の子の傍を横切ろうとしただけで、隙あらば斬り付ける気満々だったぞ。ボッチを拗らせていた当時、仲間に誘ってくれた子だけに、いろんな意味でダメージがでかい。

 

 実際のところ、「本当にこいつだったのか?」という疑問を持っている者も多い。そりゃねえ…今でこそこうだけど、ループの始まりの頃の状況を考えるに、訓練生の中でもブッチギリの落ちこぼれっぽかったもんな。そんな奴が、いきなり怒り狂う古龍もかくやという怒気殺気を放つなんて、とても思えないだろう。

 

 

 

 まぁ、この怨みは、今度イヅチと会った時に、渾身のこやし玉乱舞でお返ししてやるとして。

 例によって飛び級でハンター訓練場を卒業。どっちかと言うと、ヤバそうな奴を早く追い出そうとしている扱いだったが、この際何も言うまい。

 

 卒業認定前に、教官がやってきて少し話をした。勿論、先日の殺気について…この人だけは遠目からでも目撃してるから、誤魔化せそうにないんだよな…と、今後の進路の事。

 進路に関しては、フロンティア行を志望すると、実にあっさり話が通った。フロンティア行自体に、特に制限は無いし、テストも無い。だがそちらでどんな地獄を見ても自己責任。ただ、「死ぬなよ」の一言だけがありがたい。

 

 

 殺気については……正直その、言える事は無い。真実を言っても「何言ってんだ」と戯言扱いされるだろう。…いや、この業界が長いハンターや教官であれば、「ほう、世界にはまだ未知が多く残っているな」と、そいう言う事もある…で済ませるかもしれないが。

 結局、こちらから話せる事は無いので、教官が自分語りする事になってしまった。…他人の昔話とか自慢話とか「昔はヤンチャだった」系の話なんて、中身の無い話ばっかりだろうが……まぁ、色々と思う事はあったよ。人生の先達だしね。校長先生の誰も聞いてないオハナシと違って、手短に纏められていたから苦にもならなかった。やっぱり、人に教える事を専門にしてる人は違うね。 

 

 

 

 

 

 さて、そろそろ俺がどうしてここまで怒り狂う事になったのかを語ろうと思う。

 

 先日の日記にも書いた通り、里の主だったメンバーを奪還する所までは問題なかった。どんどん戦力が増えて行ったし、タタラさんや清磨による後方支援もあった。木綿ちゃんが作ってくれる飯も美味かったなぁ…この期に及んでニンジンたっぷり入れるから、大和のお頭が渋い顔してたけど。

 んで、戦力が揃ったし、他の里人達がいつまで無事か分からないんで、イヅチをブッコロしに行こうとした…のはいいんだが、一体どこに行けばいいのか。

 

 ホロウの言によると、イヅチカナタは本来、他の鬼達と同様に現世の何処かに現れ、そこで因果を食い散らかして去っていく。今回のように、空の穴の中に身を隠して因果を喰らう、と言うのは初めて見たらしい。

 そして、イヅチカナタはあの穴の中から出てくる気配が一向にない。

 

 

「…と言う訳で、皆さんを連れ戻しに行った時のように、幽体離脱してあの穴に乗り込み、そこで戦わなければなりません」

 

「その前に確認しておくが、イヅチカナタとやらはあの中に居るのだな? …俺も記憶がぼやけて覚えてないが、途方もなく広く暗い空間の中に居たのは覚えている。探し当てる事はできるのか?」

 

「イヅチカナタは、因果が流れていく先に居ます。里の皆さんが奪われる因果を辿れば、見つけ出せるでしょう。あの中に居る事も間違いありません。私には、イヅチカナタの場所を探知する機能が備わっています」

 

 

 ん? それ、故障して探知できないって言ってなかったか?

 

 

「この因果略奪現象が始まってから、イヅチカナタを探知できるようになりました。恐らくですが、故障していたのではなく、そもそも探知できない場所に居たのでしょう」

 

 

 …それも繰り返しのせいかね…。まぁ、あいつを潰せるんならその辺の理屈は関係ないな。

 

 

「…お前達だけイヅチカナタの能力の影響を受けてなかった事と言い、随分事情がありそうだな。事が終わったら話してもらうぞ」

 

 

 へーい。まぁ、隠すような事は……女関係以外は無いな。橘花の事も桜花には気づかれかけてるんだし、いっその事こっちから逆にバラしてみるか? 「信じて送り出した彼女が(ry」風に……あ、この世界じゃビデオが無いから動画作れないや。んじゃ文か。…今一つ臨場感が無いな。一捻りして、カチコミしてきた桜花に「あの小説がどうかしたのですか?」みたいな対応させてみるか。勿論、お腹の中に白いのたっぷり入れた状態で。……やってみたいが、今度は「橘花に何を読ませている!」みたいな話になるね。ま、それは後々のオタノシミとしておこう。

 

 

 さて、そんな訳で幽体離脱し、穴の中にまでやってきたのだ。ちなみに、大和のお頭も含む。幽霊状態だからか、それとも後遺症で体が上手く動かない状態でも戦える術を編み出したのか、以前の大戦の時と同じくらいの戦闘力なのは驚いた。

 モノノフ全員で真っ暗な穴に乗り込み、因果の流れに沿って飛び続ける事暫し。時折、「なんでこんな所にこんな物が?」と思うような物体が浮かんでいるのを目撃した。虚海曰く、自分と同じように『穴』に呑まれてこの空間の中を彷徨い続けている漂流物だそうだ。

 

 

 

 ………人体模型とかカーネルサンダースの人形とか随分近代的な巨大船とか、随分色々あるもんだなぁ…。

 

 どれくらい飛んだのか今一つ分からないが、目的地らしき場所が見えてきた。やはり真っ暗な空間の中にポツンと浮かんでいる、一際大きな足場。因果はそこに流れ着いていた。

 

 

 

 

 …居る。確かに居る。気配がする。頭がまたホワイトアウトしそうだったが、その分の因果を奪われているのか、何とか抑えきれる程度だった。

 足場に着地し、全員が無事到着している事を確認。道具や装備の忘れ物無し。地形確認、地の利確認……足場の広さの問題で、一度に戦えるのは例によって4人だろうか。また交代制での戦いになりそうだ。

 

 一際大きな広場に足を進めると、その中心付近で、鬼が出現する時特有の穴が広がった。そこから飛び出してきたのは、御存知全世界の怨敵にして手段を問わずに滅殺確定対象のドグサレイヅチ野郎。

 

 

 …なのだが、どうにも様子がおかしい。穴から飛び出して登場する鬼は、大抵直後に咆哮を上げたり、勢いよく飛び出して存在感や強さをアッピルするんだが、なんというか……ヌボーっと出てきて、その時点から既に肩で息をしていて……率直に言えば、病人みたいだった。

 

 

 まぁ、だからと言って容赦する理由は欠片も無いが。病気っぽいからナニ? ブッコロできればそれでいいのよ? 出来ればイキのいいイヅチを端から微塵に切り刻んで苦しめて死なせてやりたいと思わんでもないが、仕留める事が最優先だ。無駄に標的を苦しめても、逆転される目を作るだけだしね。

 とは言え、観察と情報収集は狩りに限らず全ての基本。立ち回りを見て、姿形もよーく見て、ホロウとも情報の擦り合わせをしたんだが……。

 

 

 …なんかこいつ、色々形が変わってないか?

 

 

 まず、とにかく全長が大きくなっている。俺の記憶にあるイヅチの、1.2倍くらいだろうか。同時にあちこちに筋肉が明らかに膨れ上がっているが、逆に妙にガリガリになっている部分もある。

 それから、体のあちこちにモヤがかかっていた。色は…黒、青、紫。体色も若干赤みを帯びていた。

 

 更に、最大の特徴だった両肩から生えた触腕。これの先端が……何て言えばいいんだろアレ……そうだな…まるで既に部位破壊されているようだった。こう、三つの指があるような形だった先端部分が、無くなってたんだよね、左右両方とも。

 千切られていたっぽいけど、他者の攻撃によるものだとすると、切り口に違和感があったな。まるで、最初からそう切れるように作られていたような……そうだ、トカゲの尻尾のような感じか。予め切れやすく、切れたとしても出血などを抑えられる構造になっているっていうアレだ。

 

 …でも、それはそれでおかしな話だよな。天敵の居ないあの空間で、誰がイヅチに攻撃出来るってんだ。俺達みたいに、イヅチを追っている奴が他に居るのか?

 それに、トカゲのシッポ切り…いわゆる自切というのは、「重要でない部分を、より重要な部分の為に、捨てやすくしておく」だ。重要な部分を捨てるのではない。もしもそうなのだとしたら、トカゲは尻尾だけではなく、体全体の何処でも捨てられるような構造になっているだろう。

 イヅチカナタにとって、あの触腕は脳味噌と心臓(あるとしたら)の次に重要な部分の筈だ。あの触腕で、因果を奪い取って食うのだから。戦闘力もそうだが、イヅチが飯を食う為の機関が無くなってしまう。

 

 …まぁ、戦ってる最中に再生しやがったから、考えてみりゃそこまで重要な事でもないのかもしれないが…どうにも引っ掛かるなぁ…。

 

 

 ああ、それと気になる事と言えばもう一つ。戦ってる最中、何度も妙な動作をしていた。トロくさかったり、逆に動きが鋭かったりしていたのとはまた別に、こう…耳を澄まして何かを聞き取ろうとするような、周囲を見回して何かを探そうとしているような。

 何かと思っていたら、虚海が妙な事を言い出した。

 

 イヅチカナタが、何者かから念話を受けている、と。

 

 …念話? イヅチに? 鬼に? …いや、鬼が妙な術を使うのも、心の中を覗き込むような真似ができるのも今更だが。

 一体誰から、と聞いてみれば、「途方もなく大きく、イヅチカナタに似た『何か』から」と。

 

 何だよ、イヅチみたいなのが他にもいるってのか? 種族単位で絶滅させたくなるじゃないか。いや絶対させるけど。

 

 

 

 ったく、今更になって謎が増えられてもなぁ…。いい加減、色々答え合わせしてほしいもんだ。

 

 

 

 まぁ、とにかく。

 観察を終えて、戦い始めたんだが……強い…と言うか弱い…と言うか…。はっきり言えば、動きは弱い。緩急が妙に大きくはあるものの、大振りだし動作も単純だし、事故にさえ気を付けておけばいい。攻撃の威力が矢鱈高いが、連続攻撃が極端に少ない為、耐えさえすれば回復も出来る。

 危険になったら控えメンバーと交代して、安全に戦っていた為、序盤はかなり楽だった。

 

 しかし、問題なのはタマハミ状態・マガツヒ状態になってからだった。

 

 

 

 攻撃がまるで通らない! ブン殴っても弾かれる! おまけに動きが変わって、触腕の振り回しとか、因果略奪の力を集中させたのか、倒れたメンバーが一部記憶を失って戦闘復帰不可能なんて事にもなった。

 まぁ、最初にそうなったのは富獄の兄貴で、何でここに居るのかを忘れただけだったんで、「とりあえずあの鬼をぶっ飛ばせばいいんだろ!」ですぐ復活したが。

 

 形もどんどん変わっていく。触腕が際限なく大きくなっていき、逆に体は徐々に萎み始める。体の突起が増えて、そこから触腕が出て…。

 体の変化に合わせるように、イヅチの攻撃方法も変わっていく。火を噴き氷を操り雷を落とし爆発を起こし。

 

 もう何を相手に戦ってるのか分からなくなってきたんだが…。

 

 それで諦める奴が出る筈もなかったが。俺としても、これくらいの強敵でないと拍子抜けだ。

 今まで散々デスワープさせられた相手が、序盤の頃のコイツ程度の力しか無いんじゃな…。敵が強い事を望むのは愚の骨頂だが、やっぱりやり応えってのは欲しいもんだ。

 

 

 

 

 …そんな事を考えたのが悪かったんだろうか。この世界に居る事からも分かるように、しくじってしまった訳だ。…まさか……。

 

 

 

 

 まさかあの土壇場で、千歳を人質にしやがるとは。クレバーな真似やってくれんじゃねえか…。

 

 

 

 虚海ではない。千歳だ。間違いではない。

 

 イヅチカナタとの闘いは、激戦ながらも順調だった。変わり果てたイヅチの体を片っ端から部位破壊したし、鬼葬で再生さえできないようにした部分もある。

 傷つき、戦闘続行が難しい者も居たが、全員が壮健。理想的な展開と言ってよかっただろう。

 

 後は脳天をカチ割ってやるだけなんだが…貧相な見た目になるまで縮んだと言うのに、こいつがもう堅い堅い。武器に籠められた霊力の殆どが弾かれるので、手数で勝負するか、防御を問答無用でブチ抜けるような大技で勝負するしかなかった。

 しかし、手数で補おうにも触腕の残りが振り回されまくって近付きにくい。

 

 なら大技…俺が持ち得る最大の攻撃と言えば、御存知・鬼杭千切だ。しかしあれはアラガミ状態で使っても、使った後が戦闘不能になってしまう。確実に当てる方法が欲しい。

 これで仕留められるとも限らないので、出来れば後続の攻撃も。

 

 

 そう悩んでいた所、ホロウから一つ提案があった。

 

 

「…奴の動きを止め、目をくらませればいいのですね?」

 

「何か方法でもあるのか、ホロウ」

 

「ええ…博打になるのは確かですが。今、誰か鬼千切を使えますか?」

 

「俺が行けるぜ。なんだ、ウタカタ一の伊達男をご所望かい?」

 

「所望しているのは鬼千切です。息吹、奴の触腕…あの太いものを斬り飛ばしてください。奴が体制を崩すと同時に鬼葬を仕掛け、更にこれを投げつけます」

 

 

 これって…鬼の手?

 

 

「博士も言っていましたが、外すと爆発します。それはもう、籠められた力が行場と歯止めを失って盛大に。鬼葬で一度は力が空になりますが、私の全力を注ぎ込んで力を貯め、増幅させます。これならあの防御も、完全ではありませんが貫ける筈」

 

「…危ない物を付けてるなぁ…」

 

「全力を注ぐと言う事は、力を使い果たしたホロウは戦闘不能になると言う事か?」

 

 

 あ、俺もなる。俺も切り札をぶつける気だけど、反動で体が無茶苦茶になるんだよ。…イヅチのそっくりさんを相手に大暴れした時に使ってた奴、と言えば分かるか?」

 

 

「…いいだろう。二人が抜けるのは痛いが、このまま戦っても消耗していくだけだ。各自、総攻撃の態勢に入れ。この一発で勝負を決める」

 

 

 大和のお頭の決定で、全員が覚悟を決めた。

 初撃を担当するのは、息吹。プレッシャー、暴れ回るイヅチの動き、茶々を入れる俺に惑わされる事なく、投槍の一撃は見事にイヅチの触腕を一本斬り飛ばした。ウタカタ一の伊達男、の名に相応しい働きだった。

 

 続いてホロウ。鬼の手の操作技術なら俺より数段上を誇るハラペコ娘。バランスを崩したイヅチの顔に向けて、実体化された腕が伸びる。目玉でも殴るのか…と思ったら、器用な事に瞼を掴み、上に引っ張る…強引に目を全開にさせた。

 更に、目にもとまらぬ早業で手袋を引き抜き、ありったけの榴弾と一緒にイヅチの目の前まで投擲。これまた鬼千切の一発で射抜かれた鬼の手と榴弾は大爆発を起こした。それこそ、足場全体に揺れが走るような爆発を。

 

 

 そして。アラガミ化ッ! 各種バフ、ドーピング服用! 今まで封じてきた鬼の手の使い方、アラタマフリ(うまい事、奉護剣を発動させられた)全ての力を攻撃に転換!

 さあ、行くぞ行くぞ行くぞッ! これが俺の殺意の結晶だ!

 

 

ホロウ「追い続けてきた宿敵ですが、譲ります。仕留めてください」

 

息吹「行ってこい、大将!」

 

初穂「倒せなくても私達が続くからね!」

 

富獄「舐めた真似しやがった鬼をぶちのめしてこい!」

 

速鳥「心は熱く、頭は冷たく、指は綺麗に。千載一遇の好機、心魂を注ぐべし」

 

いつの間にかいる天狐「キュッキュイッ」

 

桜花「橘花の為だ、ここで仕留める!」

 

グウェン「今度は私があなたの敵を討つ! 心配せずに突っ込め!」

 

那木「共に参ります! この場に居ない紅月とも!」

 

大和「因縁があるのだろう? 断ち切れ、今こそ!」

 

虚海「私の分まで徹底的に痛めつけてこい」

 

 

 

 …すまん、皆一斉に喋られても聞き取れないよ。

 

 

 が、その心は伝わった! 魂で繋がったッ! 結び合ったッ!

 

 力が流れ込んでくる…漲る…これが共闘!

 

 

 そしてッ!

 

 これがボッチではできない(NPCが居れば出来るが)究極の俺式対鬼闘法!

 

 

 

 鬼杭千切ッ!  極ッ!! だァァァァーーーz____!!!

 

 

 

 

 仲間の力と繋がり、かつてないテンションと境地に達した俺は、ホロウの攻撃により態勢を崩したままのイヅチに肉薄ッ! 必殺の間合いに侵入ッ! イヅチはまだ動けない!

 

 

 殺ったッ! 終り無いループ、完ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 イヅチの顔の真ん中が突然割れ、力なく項垂れている千歳が現れる。

 

 

 何故、と考える暇も無かった。反射的に、脳が判断を下す前に咄嗟に攻撃をずらす。

 俺と仲間達の魂の一撃は、イヅチカナタの脇を掠めて空振りした。そして、頭が真っ白になっている俺の後ろから、多分触腕が迫ってきて。

 

 

 人質のつもりか、と理解した時には既にMH世界に飛んでいた。

 

 

 

 …言葉も出んな。あのシーンでしくじる俺もだけど、千歳を人質にするなんざ…。いや、鬼に人間の倫理観を期待したり、殺し合いや生存競争に正々堂々なんて概念は通じないんだから、これはイヅチの悪辣さを褒めなきゃならんのか。

 …思い出したらまた昂ってきた。今日はこの辺にして、ちょっと頭を冷やしてくる。

 

 

 

 



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MH世界7~多分最終ループ
237話


EDF5、夏か。
今回は元が民間人らしい。
これは外伝にしやすそうなストーリー。

…と言うか、これ多分民間人が、最終鬼畜兵器ストーム1と化すよな…。
生き残る為ではなく、敵を効率的に殺す為に味方を囮にし、間引き、無視し、好き勝手絶頂する民間人。
世も末ですわ。
おおブッダよ、二日酔いなのですか!
…あの世界じゃブッダもキーやんも4文字も閣下も、揃ってラリってますわ…。


あと、アサシンクリード映画を4DXで見てきました。
うん、こうしてみるとアサシンもテンプラも狂信者そのものだわ。
ストーリーには期待してなかったからいいけど、どうやったって尺が足らんなぁ…。



MH月

 

 

 煮えくり返るハラワタなのに、頭は妙に冷静という状態で思い返すに、あの時の千歳は死んではいなかったように思う。

 どうやらイヅチカナタの内部に取り込まれていたようだが、外気に晒された瞬間、僅かながら呼吸をしたように見えた。

 

 と言う事は…イヅチカナタを上手く倒せば、千歳を開放する事も可能? 千歳だけじゃなく、イヅチに喰われたと思しきシオも生きている可能性はある。

 …正直、最低限戦わないと検証ができないけどな…。

 ここは前向きに考えておくか。

 

 

 はー、しかし…本当に、あのシーンでしくじるとはなぁ…。しかも、怒りはあるが、それについてそこまで強い悔恨がある訳じゃない。あのまま千歳ごと貫く、という選択肢が無かった事を差し引いても、だ。

 やはり、デスワープする度に、色々な感情をイヅチに吸われているんだろう。

 おかげで冷静ではいられるが…嫌悪感が強すぎる。ああ、吐きそうだ。と言うかちょっと吐いてきた。

 

 

 話を変えよう。

 デスワープした後、暫くホロウを探し回ってみた。正直、合わせる顔が無いってのも本心だが、あいつが繰り返しや転移に同行してないかと思ったんだ。

 が、見つからず。遠い場所に居るのか、繰り返しはするけど別世界には来れないのか、それとも繰り返し自体しないのか。

 今後も探すだけ探してみるとしよう。

 

 ……顔を合わせるなり、「貴方を信頼したのが間違いでした」と言いながら銃撃してこなけりゃいいんだが…。

 

 

 と言うか、実際あの時にアラタマフリ使ったのが最大の失敗だったな。全力での攻撃はいいんだが、奉護剣は防御力と引き換えに火力を上げるからなぁ…。それさえ無ければ、無防備な状態で攻撃を受けても、一発くらいは耐えられたかもしれない。アラガミボディだったし。

 ただ、のっぺら共が好き勝手やりまくってコントロールできなかったアラタマフリも、アラガミ化状態であればコントロールは可能なようだ。これは重要な発見だな。

 

 

 

 しかし、何よりも気になるのはイヅチのあの変貌ぶりだ。奴を追い続けてきたホロウも、あんな変化は見た事が無かったらしい。

 異変ってレベルじゃねーよ、明らかに。鬼に生態系なんて言葉が通じるか怪しいのを差し引いても、生物として全く違うナニカに変貌しようとしてたよ。

 

 と言うか、あいつの症状…あれは話に聞いた(前回のMH世界ではお目にかからなかったが)極限化状態、と言う奴ではなかろうか?

 確か、狂竜症と同じようにあらぬ方向に攻撃したり、動作が不安定になったり…体の一部が異様に硬化し、攻撃が全く通じなくなる。そして、作成チームの殺意と悪意が垣間見えるかのような超攻撃力。

 もしもそうだとすると……そうだ、確か攻撃を通じやすくする為の道具が必要だった筈。フロンティアにあるのかな…。

 

 

 

 

 さて、それは後で確認するとして。

 

 

 

 

 

 

 ついに…ついにやってきたワニ!

 

 ここがフロンティア…最前線!

 

 畜生! 今から既に恐怖でチビりそうだ!

 

 

 

 …さて、ここでちょっとこの世界の地形地名に関する解説をしておこう。

 何? そんなのいいから早く行けって? 尻込みしてんだよ察しろよ。

 

 この説明内で「おい、ゲームと違うぞ」というツッコミは無用である。だってゲームはあくまでゲームの話。これはこの世界では実際にそうなっている、という説明である。

 尚、「おい、過去の記述や日記と違うぞ」というツッコミには、「これも全部イヅチカナタって奴の仕業なんだ!」と答えよう。それは本当かい、と疑問に思われても逆ギレしか出ない。

 

 

 

 そもそも、メゼポルタと言うのは町ではなく区域の名前である。メゼポルタ地方、が正しい表現だ。

 メゼポルタ広場という名前からも察する事が出来るだろうが、正確にはここに街は無い。何せ、居るのは無数の狩人と、その狩人の施設と、施設の従業員くらいなのだ。

 これはゲームでも同じかもしれない。プレイヤーのハンター達が無数にいるから(それでも限度100人だが)街のように見えるが、人が少ない鯖とかに入ってみるといい。居るのは10人程度の従業員達のみ。とてもじゃないが、「街」なんて言えた場所ではない。

 

 尚、実を言うとメゼポルタ広場自体、一つでは無かったりする。フロンティア…開拓地は、非常に大きな広がりを見せており、拠点が一か所ではとても対応しきれないのだ。

 メゼポルタ広場は曲線上にあちこちに点在し、ハンター達はそこでそれぞれ活動をしている。

 以前、ギルドを立ち上げて村を造ろうとしていたループでは、このメゼポルタ広場をもっと効率的に作れないか、という実験だったらしい。

 それぞれのメゼポルタ広場にも通称はあるんだが……これはゲームで言えば1鯖2鯖3鯖なのか、それともワールド名なのかは微妙なところだ。

 

 

 

 で、俺がデスワープ時に所属している訓練所もメゼポルタにあるのだが、これはメゼポルタ地方のとある街にある訓練所、が正確な表現。

 今まで地方に行かずにMH世界で活動していた時…具体的にはユニスとネチョっていたループでは、この付近で活動していた訳やね。上位、と言っていたのも、開拓地ではなくあくまでこの辺のメゼポルタでの上位だ。

 

 メゼポルタ広場の点在地から見て…そうだな、大体南東に当たる。要するに、人の手が入っていないフロンティアは、大体北と西に向かって広がっているのだ。

 俺が向かったのは、その中でも最も賑わいを見せている、西のメゼポルタ広場。…まぁ、複数のメゼポルタ広場を移動しながら活動するのだって珍しくないから、そこに縛られる理由もないんだけど。

 

 

 さて、実際に到着してみた訳だが……人、人、人。流石に賑わってるなぁ。

 

 

 

 

 

 冷静に考えるとこれ程に恐ろしい光景も中々無いが。

 だって、このほぼ全てがハンターなんだぞ? ピンキリあるが、襲来されたら街一つ壊滅なんてマシな方なモンスター共を、呼吸をするように狩る連中だ。

 ここのメンバーだけで、どれだけの戦力があるのか…。装備によっては、核とか落とされてもピンピンしている奴だって居そうだ。

 もしもこの人達が反旗を翻したらと思うと、寒気が止まらない。

 

 いや、そういう事しないよう、ハンターはしっかり教育されるんだけどね。どこの世界にも、ちゃんと授業を聞いてない人とか、野心を持つ人は居るからさ。

 

 はてさて、これからどうしたものか。

 フロンティアに来るのに特に手続きは必要ないのだが、それは同時にこちらに来てから、どうすればいいのかの指示もないと言う事。

 今までの例であれば、その土地のギルドに顔を出せば、ハンターが赴任するという話は既に通っている為、家屋などのサポートは受けられたし、身の丈(と言うより実績)に見合った依頼も選んでくれていた。

 しかし、ここからは全て自分でやらなければならない。

 

 …そうだな、まずは寝床の確保か。このメゼポルタ広場にもギルドはあるんだし、まずはそっちから話を聞いてみよう……ん?

 

 

 

「よく来たな!」

 

 

 ぬぁ、なんかシブいオッサンが!

 

 

「シブいというのは褒め言葉として受け取っておこう。新入りだな? ようこそ、ここがメゼポルタ広場。狩猟生活の中心となる場所だ! どこに何があるか気になるかもしれないが、まずはこれを持っておけ」

 

 

 このセリフ…なんだ、この人教官か。と言うか、俺が新入りだって分かるのか?

 

 

「うむ。その装備、フロンティア以外ではかなりの腕前だったと見える。お前と同じように、他所で実績を積んでくるハンターは多いが、そのまま装備を使い続ける者は少ない。他所とは良くも悪くも質が違い過ぎるのだ。何より、我輩はお前の顔を知らん」

 

 

 ……あの、もしやここに来たハンターの顔を全て覚えていたり…。

 

 

「する訳がなかろう。我輩とて、新人について狩りに出てここに居ない時もある。尤も、その時以外は昼も夜もここに立っているがな!」

 

 

 雨の日も風の日も?

 

 

「嵐の日も古龍が襲来してくる日もだ! そして、同行したハンター達の顔は(死んだのも引退したのも含めて)全て覚えておる! なにせ、我輩はヒマだからな!」

 

 

 戦えよ。いやそういう次元の問題じゃないが。やっぱ古龍来るのか…。

 

 

「種類と強さを問わねば、日常茶飯事である。本当にフロンティアは地獄だな! まぁ、住めば都とも言うし、生き延びられれば腕は上がるぞ」

 

 

 でしょうねぇ! 俺だってその為に来たんだから。

 

 

「うむ。だが、まずはその過剰な警戒と緊張を拭うとしよう。依頼を受ける手順は他の地区と変わらないので割愛するが、貴様、ゴゴモアは知っているか? まずは奴を狩りに行くぞ。無論、我輩も同行する」

 

 

 なんという有無を言わせぬ強行軍。まぁいいけどね。この教官からして、凄腕…とまでは言わなくても、今の俺より『巧み』だってのは分かる。先達についていくのは、上達の近道だし、MHFをリアルに体験してるなーって感慨深さもあるし、一緒に行ってみますかね。

 

 

 

 

 

 さて、そのような訳で、ゴゴモアが居る潮島にホイホイやってきてしまったのだ。

 久しぶりだなぁ、潮島も。以前はこことは違う島だけど、調査に訪れたっけ。あの時、見送ってくれたココモアは元気だろうか。仮に元気じゃないとすると、まず間違いなくハンターが原因な訳ですが。

 

 さて、フロンティアで初めての狩り。一体どれ程のものやら……。

 

 

 

 

 

 

 と思っていたら、リアルに5分もせずに狩ってしまった。アルェ~?

 

 

 

 

 ちょっとちょっと、フロンティア特有の高難度は? 4人がかりが前提だから少なく見積もっても4倍の体力は? モンスターを蹂躙したり蹂躙されたりする阿鼻叫喚の有様は何処に行ったのさ?

 

 

「ヌハハハハハ! 言ったであろう、過剰な警戒と緊張を解くと! 他所で実績を立ててから訪れるハンターには二種類居る。他所で通用したからフロンティアでも上位で居られると思う楽観者…フロンティアを過小評価している者。そして、フロンティアの危険を耳にタコが出来る程に聞かされ、それなり以上の力を持っているのに、自分は通用しないのではないかと過大評価をしている者だ。貴様は言うまでもなく後者だな」

 

 

 …じゃ、じゃあ何か? フロンティアは、思っていた程の魔境じゃないってのか?

 いやいや、それは無いだろう。だってメゼポルタ広場に居たハンターさん達、明らかに俺とは格が違う人達が沢山いたもの。

 

 

「うむ、そう易々と楽観せぬのは良い心構えだ。お前の考え違いは一つだけ。フロンティアのモンスター達は、確かに強さに上限は無い。だが、下に対しても限度が無いと言う事だ」

 

 

 下に…ない? つまり、虫ケラ以下の大型モンスターも居るって事か?

 

 

「ハンターたる者、一寸の魂を軽んじる表現は良くないな。だが、極論してしまえばそういう事だ。虫の方が異様に強かった、と言う事がままあるのも事実だが、フロンティアのモンスターとて、弱い個体はとことん弱い。フロンティアのモンスターが強いのはな、熾烈な生存競争に生き残っているからこそだ。幾多の戦いが、奴らの力を押し上げる。ハンターはそれらと戦い、時に敗北し、勝利し、その素材…奴らの力を身にまとう事で力を増す。そのハンターと戦う事で、モンスター達もまた強くなるのだ。が、当然の事ながら、どの個体も最初からその領域に行ける訳ではない。天敵の居ない環境で育ったため、図体は大きくなったが、戦いの経験がないモンスターも居る」

 

 

 成程…このゴゴモアは、天敵が居ない状況で育ったモンスターって事か。

 

 

「そういう事だ。故に、貴様に言うべき事は一つだけだ。『相手は選べ』。それだけだ」

 

 

 …金言、確かに承った。

 

 

「うむ、素直で結構。もののついでに聞いておくが、貴様一体何者だ? 動きと装備は熟練…他所とは言え、G級に迫るモノ。しかし、貴様は訓練所を卒業して一月も経っておらんだろう」

 

 

 大当たりですが、そんな事まで分かるもんですか。

 

 

「…お前、訓練所で何をやらかしたか忘れておらんか? 狩りの途中なら糞の匂いも我慢できるが、訓練生達がよってたかって漏らしたおかげで、あそこは訓練所として使えなくなったんだぞ」

 

 

 …………あ。

 

 

「つまるところ、それだけ貴様は危険視されてい『た』と言う事だが…まぁ、生きてハンターやれるだけの実力があるなら、何者でも構わん。訓練所としても、『あれならフロンティアでも何とか生きていけるだろう』と考えて、一応我輩に知らせただけだし」

 

 

 ガバガバやなぁ。

 

 

「それだけハンターが足りておらんのだ。優秀なのは特に。さて、貴様であればこの程度教えておけば、大抵の事はヒイコラ言いつつ何とかなるであろう。何かあったら、我輩に聞きにこい。分かる範囲でなら答えてやろう。何せ、我輩はヒマだからな!」

 

 

 

 

 

MH月

 

 

 フロンティアにやってきて、はや2日。

 教官の言に従って、相手を選び、色々調べ、モンスターに限らず人に対する情報収集を続けた。

 その結果と言えば……正直な話、一言で済む。

 

 

 玉石混交。あらゆる意味で、あらゆる方面でだ。

 

 

 まずはハンター。これがピンキリなのはよく分かるだろう。何を考えたのか、完全な初心者状態でやってくる者も居れば、廃人がMH世界にやってきたのかと思うような奴も居る。と言うか、本当に転生者の類が居ても驚かない。…俺か、転生者。

 心が折れたのかお陀仏したのか他所で鍛えてくる事に決めたのか、顔を見なくなる人も居る。それ以前に、明らかにイロモノな装備をして広場の一角で朝から晩まで突っ立っている人も居る。

 初心者だった人の殆どはあっという間に居なくなるようだが、逆に凄まじい勢いで強くなる者も居るらしい。それこそ、魔境魔窟と言われているこのフロンティアで、G級と呼ばれるような怪物にまで駆け上がる…。…姿を消すのも、その近辺が一番多いらしい。

 

 そして、すれ違っただけで肌が総毛立つような、ヤバい人種。下手しなくても、レジェンドラスタ以上、ギルドナイト以上だと確信できる怪物がチラホラ。今の俺では、アラガミモード・今一使いこなせてないブラッドレイジを使っても勝てる気がしない。

 強さに上限が無いのは、モンスターだけではなくハンターも同じようだ。

 

 

 また、他の土地ではある程度統一されていた、武器の使い方にも大きな差がある。一人一派とまでは行かないが、一人一人が自分が動きやすいように剣筋を変えたり、新技を開発しようと色々試したりしている為、もう原型が分からなくなってしまう事も多いようだ。

 尤も、それら全てが有効である筈もなく、試してみたはいいものの上手く行かなかったり、成功はしても使い勝手が悪かったり、流行り廃りによって消えて行ったりして、今は大体3つくらいの形に落ち着いているらしい。通称、『天の型』『嵐の型』『極の型』。

 他の土地でも使われている動きに近い天の型、それを少し崩してメイン技の使い方を変えた嵐の型、そして詳細が分からない極の型。難しさもこの順になっているらしく、型の詳細は明らかにされていない。使っているハンターも多くいるが、秘伝書を持っていない者には決して話してはならないそうだ。それだけ、下手な使い方をするとしっぺ返しが来る可能性が高いって事だろうな。ハンター式肉体操作法と同レベルの機密情報というのだから、その重要性・危険性もよく分かる。

 …どうでもいいが、秘伝書って言えるのかなぁ…。使える人がそれだけ居るって事は、その書は割とあっちこっちに拡散しているって事なんだが。

 まぁ、アレだ。ベルナ村で現在進行形で研究している、各種スタイルの動きを、実戦で試しながら練り上げた結果って事だろう。

 

 

 続いて装備。

 これに関しては、まだ大したものを作ってないし、触りしか聞いてないから何とも言えんが……基本的な装備に関しては、間違いなく『玉』だと言い切れる。

 触るどころか、工房で売られているもの、弄られているものを見ただけでも分かる。素材から違う、とマジで分かってしまう。

 なんていうんだろうな…素材や装備に宿っている、魂の力が違う? 

 それに、これまたベルナ村で初めて知った、一つの武器防具を鍛えていく、という手法も既に開発されている。これによって高められた装備は、下手するとフロンティア版採取装備でも、他所の上級装備よりも良い代物にすらなるらしい。

 装備の質…防御力もそうだが、何より異常なのはそのスキル。まだ鍛えていない装備はともかくとして、鍛え上げた装備のスキル数は…異常だ。キッパリと。

 

 

 

 工房で偶然カチ合ったベテランハンターにちょっとだけ見せてもらったんだが、発動スキルが15個以上ってなんだよ。しかも複合スキル込み。

 

 

 フロンティア以外の装備だと、お守りを入れても4つ発動できれば多い方。そこから更に、のっぺら共のスキル、装備によっては別の世界のスキルも含めて、ようやくその数に届くってレベルだぞ。

 別にスキルの数=強さだとは言わないが、3つの世界の力を結集してようやく同レベルとか…。

 しかも、基本装備のみでソレだ。他にも、MHFでのうろ覚えだが、確か狩人珠とかいう色が変わるアイテムとか、名前しか知らないけどシ……シ…………シジミ汁? みたいな追加効果もあるんだろ?

 これを以てしても日常的にハンターが虐殺されるフロンティア…やはり魔境だ。

 

 ついでに言うと、今現在進行形で、新たな技術を研究している者も居る。ただ、やっぱり流行り廃りが激しい上に、下手な物を出すとハンター達にそっぽを向かれる上、現在使われている技術が高性能すぎて、ちゃんとした物はそうそう出てこないようだが…。

 

 

 

 他にも色々と変わったモノを見たり、フロンティアリアリティショックを受けた事は沢山あるが、語るのはあと一つにしよう。モンスターハンターなのだから、これを語らずにいる事はできない。

 

 

 そう、モンスター達についてだ。

 玉石混交という状態は、何よりもモンスター達にこそ相応しかった。いや、命に玉か石かなんて区別をつける気はないんだが、やっぱり戦闘力的に考えると評価はね。

 そういう意味では、初日に教官と狩ったゴゴモアは『石』だったんだろう。大型モンスターでも、極端に弱い者は居る。

 と言う事は、逆に中型モンスター、小型モンスターでも強い奴は強いって事でね?

 

 …コイツ、G級相当のドスランポスじゃないか、って奴と早々にやりあうハメになった。まぁ、筋力や耐久力が異常に高いだけで、見知った動きしかしないから助かったものの…。

 他にドスランポスを3匹狩ったんだが、どれも違った特色があった。一匹目、普通っちゃ普通だが、サイズがやたらとデカかった。二匹目、知らない動きをしていた。飛龍のような回転尻尾攻撃や、ジャンプ攻撃が地面を割るつもりじゃないかってくらいの勢いで繰り出される。実際、震動(小)くらいは出てたと思う。三匹目、コイツがG級疑惑。ガタイは普通のランポスより少し小さいくらいだったが、一発でも喰らったら死ぬと思って、回避しまくって狩った。ブシドースタイルにこれ程感謝した事は無い。四匹目、咆哮がティガレックス並だった。ただし、あのサイズでそれくらいの声を出すのは流石にしんどいのか、使ったら疲労状態になっていたようだが…むしろ、喉が張り裂けなかった事に関心までした。

 

 個体差が大きい、と言うよりは、同じガワを被っているだけで全く別のモンスターと考えた方がいいかもしれない、ってレベルだ。…同じガワ………黒くて…リオ…………じっさいにひがいにあってないおれにすきはなかった。

 だが現実になりかねないのが、フロンティアという魔境であるようだ。油断はできない。

 

 とは言え、やはりスタンダードと言うか、最も安定した形、と言うのはあるらしい。ドスランポスにしたって、上記の4匹には記述した部分以外に大きな差異はなかった。それどころか、普通の個体にはない特徴を手に入れた代償とでもいうように、

 大きくなった奴は、自重が支えきれないのか、転倒しやすいし小回りも効かなかった。知らない動きをしていた奴は、無理な動きをしていた為か、体の一部…特に足を痛めているような雰囲気があった。G級相当の奴に至っては、アドレナリンが常時過剰分泌された結果とでもいうように、およそ正常な思考や判断、認識ができていないようだった。咆哮する奴は…さっきも書いた通り、叫べばそれだけ体力が一気に削られる。

 

 まぁ…多分アレだな。こうやって、個体毎に色々と(命懸けで)試して、有効な手法を見つけ、更に実践を繰り返す事でより多くの餌を確保して。そうやって、その新しい手法に耐えられる体を得た個体が、G級になっていくんだろう。そして、一際強く…或いは他の個体にも出来るような動きを開発すると、それが種族全体に徐々に広まっていく、と。

 …そう考えると、フロンティアが魔境魔窟なのも当たり前か。人間に例えて言えば、技術…体一つで繰り出す攻撃だから、特に武術が発展し普及していっているようなものだ。しかも、24時間野生の中で生活しているから、形だけの自己満足的な学習ではなく、使う事前提の技術。真剣味も習熟度も段違いだろう。野生動物の本能に背いた、シグルイみたいな奴だって出てくるかもしれない。

 やれやれ、剣術バルドで「ありえん」とか思っていた自分が、如何に狭量だったかよく分かる話だね。

 

 

 

 

 



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238話+外伝20

MHXX発売!
…3/25、プレイステーションVR追加販売。
だが抽選。それ以前に仕事なんで並ぶ事すらできない。
転売ヤーに金払うのも癪だし、今回も見送りかな…。
PC用のVRは素で10万くらいかかるみたいだし、何より惹かれるソフトがイマイチ…。
VRのエロもどんなもんか。

XXも、アマゾンで見るとそこまで大きな違いは無いようだし…でも発売当日の12時についてた評価だしな…マトモにプレイした評価とは思えんが、確かに大きな追加要素と言える程では…。
当分は仁王で行くかな。


…なのはいいけど、今回は後書きに全部持っていかれそうな気がする。
あと、活動報告でちょっと悩み中。


HR月

 

 

 さて、情報収集はこの辺にして、そろそろ本格的にハンターとして動こうと思ったんだが、どうしたものか。

 GE世界や討鬼伝世界は、曲がりなりにもストーリーがあったから、それに従っていればよかったし、基本的にあっちからの襲撃を防ぐ事によって話が進んでいた。…いや、自分から狩りにいかなかったとは言いませんけどね。

 でも、MH世界にはそういうのが無いんだよなぁ。PSP版・3DS版なら、多少なりともストーリーもあれば、エンディングもあるんだが、MHFはなぁ…。

 レベルアップが最大の目的だから、好きにやればいいっちゃいいんだが。

 

 

 とりあえず、先立つ物が必要だ。拠点…家こそ借りてはいられるが、そこから先の食費や雑費は自分の負担。飯食う為には仕事せにゃならぬ。

 何でもいいからクエストを引き受けようと、受付に行ってみたんだが……ふむ、とりあえずユニスは居ないか。多分、今でもデスワープ直後のあの街で受付嬢をやってるんだろう。

 いやそれは置いといて、驚いたのはクエストの種類の数。MHFでも期間限定だの特別だのハンターズクエストだの色々あったが、同じように一見しただけではサッパリ分からないくらいのクエストがある。ぶっちゃけ、何がどう違うのか分からない。

 

 聞いてみたところ、大きな差はタイムリミットの差…らしい。多分これ、ゲームと違うよな?

 しかし考えてみれば当然か。依頼が出ていると言う事は、それを頼んだ人が居る、と言う事。当然、依頼人にだって色々と都合がある訳で、いつまでに必要、何時を超えてしまったら達成してもらっても意味がない、一個分納品してくれればいいから早い者勝ちの依頼など、期限や形態は多岐に渡る。

 逆に、常に依頼が出ている…主にハンタークエストは、ギルドが常時掲げている物が殆どだ。常に素材の需要があるから、ちょっと目を離すと異常なまでに数が増えるから、メゼポルタ広場の安全を確保できないくらいに近くに寄ってくるから。これまた理由は様々だが、理由があって常時掲載状態なのは間違いない。まぁ、フロンティアにまだ慣れてないハンター達への救済措置、という一面もあるんだろうが。

 

 

 が、常に出ている依頼だからと言って、それが安全とは限らない。ギルドも安全基準については可能な限り配慮しているようだが、フロンティアは魔境だ。環境変化がとにかく激しい。それはもう、色々な意味で自重しろと叫びたいくらいに。

 1日前にモンスターがそこに居たからと言って、同じモンスターがそのまま居るとは限らない。全く別種になってる可能性もあるし、同じ種類のモンスターでも見違えるような変化を遂げている場合もある。

 

 

 

 

 と言うか、モンスターの生息領域以前に、環境の変化が激しすぎるんだよ! どこのグランドラインだここは! 海王類モドキも山ほど居るし! 何よりも気温がワケ分からん。

 比較的近くにある街では全うな四季があった(まぁ、それはその内3か月くらいしか体験してないが)と言うのに、フロンティアと来たら…。数日のうちに季節が一巡するような有様とか、率直に言って訳が分からない。

 

 何を言ってるのか分からないって? そうだなぁ…。まず、フロンティアの季節は、大別して3つに分けられているんだよ。繁殖期、温暖期、寒冷期。ここまではゲームと一緒だな。気候的には、俺らも知っている春・夏・冬に分類される。秋は…まぁ、寒冷期に統合されている感じだろうか。

 そして、当然の事と言えば当然の事なのだが、同じ温暖期の中であっても、常に気温が一定な訳ではない。雨の日もあれば晴れの日もある、曇りもすれば嵐も来る。更には冷夏という言葉もあるように、温暖期だと言うのにクッソ寒い日もあるのだ。これらが数日の間で、不安定に一巡する。勿論、温暖期である事に違いはないので、寒い日にしたって他の季節よりは暖かい傾向があるが。

 

 何故こんな事になっているのか? という疑問には、これは古龍の仕業である、と答えよう。あくまで、そう考えられているだけで、実証されている訳ではないのだが。

 ま、確かにねぇ。天候を操る古龍を初め、炎や氷を自在に操るモンスターなんて珍しくない。これらが闊歩しているのがフロンティアなのだ。こいつらが力を奮えば、それだけで気候は変化する。それが遠い場所の事だったとしても、天候と言うのはあちこちの空模様の影響を受け、及ぼすものなので、どっかに余波が飛ぶだろう。

 更に言うなら、気候が変わればそこに住むモンスターも変わる。より快適な住居を求めて移動するモンスターが居れば、それに追われて逃げ出すモンスターも居る。

 これに加えて、フロンティアの地形は複雑無比。何処にどう影響が及ぶかなんて、考えるだけ無駄である。

 

 

 ていうか、下手すると地形すら日替わりになるからな。

 

 

 強力なモンスター達が暴れまくって洞窟が崩壊したと思ったら、数日と経たずに元通りになってたり、違う場所に洞窟ができあがってたり…。

 まるで、フロンティア全体が秘境のようだ。ほら、クエストに出たと思ったら、道を間違えていつの間にか入り込み、同じルートで進んでも今度は侵入できないって奴。

 

 

 或いは………討鬼伝世界の異界と同じような……?

 

 

 …いや、流石にまさかなぁ。確かに地形は意味不明だし、文字通り流動してると言われても驚きはしないけど、異界とは違うだろう。少なくとも鬼が出す瘴気は無い。筈だ。

 でもMH世界にもオカルトパワーはあるみたいだしな…。そういや、ある程度以上の難易度のクエストに行くと、体が妙にしんどかったり、鎧の効き目…防御力が落ちるという話を聞いた事があるような…。

 

 

 

 

 …まぁ、今から考えても仕方ないか。現状の俺では、雲の上の話と大差ない。

 何より、話が逸れに逸れまくったが、今重要なのはこれからどうするかという話だ。とりあえず、慎重に慎重を重ねてクエストを選び(それでも運悪く乱入・或いはG級並が湧いて出るという事態を避けきれそうにないが)経験を積み、何より金を稼がなければ。

 

 でもちょっと不安……なんて事を考えていたら、いつの間にか隣に教官が立っていた。アンタ広場の入り口に居たんじゃないんかい。

 

 

「うむ、それはそれとして、貴様ホルクを知っているか?」

 

 

 ホルク? ……何それ?

 

 

「やはり知らなかったか…。他所の土地で言うオトモだと思えばいい。全く、貴様が割り当てられたホルクの元に来ていないと聞いてもしやと思ったが…」

 

 

 んな事言われてもなぁ…。知らない物は知らないよ。いや、情報収集(キリッ)なんて言いつつ、基本的な事を知らなかったのは俺でもどうかと思うけど。

 

 

「貴様は既に、教えてもらえるのが当然のヒヨッコではないのだ。我輩に言わせればヒヨッコ同然ではあるが、それでも己の足で立つのが当然の、一人のハンターだ。誰かが常に助けてくれる、教えてくれるなどと思うでないわ。知りたい事があったら自分で調べろ。便利な物は自分から探さねば、誰も教えてはくれんのだ。まぁ、聞けば答えてくれる人くらいはいるかもしれんが」

 

 

 厳しいご意見で。まぁ、社会人としては当然の心得ではあるわな。ハンターを社会人と称していいかは微妙な所だが。

 ともあれ、教えに来てくれた教官に感謝です。

 

 

「仕事だからな! 暇だし。それに、共に狩りに行く仲間の有無は、ハンターライフのモチベーションに大きく関わる。貴様がボッチを拗らせて、やる気をなくされても迷惑だ」

 

 

 そーゆーのは卒業してます、多分。一時期、ボッチを拗らせてたのは確かですが。

 

 

 

 

 さて、件のホルク? ハルク? であるが……ガブラス? いや、もうちょっと鳥っぽいな…。

 

 教官の話では、人に育てられたホルクは賢く、人懐っこい性格をしているらしい。パートナーであるハンター以外の人間にも、無暗に敵意を見せる事は無い。

 …筈なのだが、なんか俺警戒されてる。餌を投げても喰い付かない。他の人がやると喰い付く。近寄ると、アカラサマに緊張して体を強張らせる。

 

 …俺、君に何かやったかな? と言うか、この反応は……「人間ではなくモンスターを前にしているかのようだ」とは教官の言。

 うーん……確かに中身はアラガミだし鬼だけどさぁ……。ハンターはそれ以上にモンスター染みてるんだし、そっちに怯えられるのはなんか納得いかんなぁ…。

 

 まぁ、納得いこうが行くまいが、怯える子を無理に従属させて肉盾扱いする気はない。まぁ、ホルクはその性質上、肉盾としてはまるで期待できないらしいが。

 かと言って怯えられたままなのも気分が悪いので、ゆっくり手懐けるとしましょうか。それまでは一人での狩りだな。

 

 

 

HR月

 

 

 結局、ホルクのお供も無しに、一人で狩りを続ける。ホルクで思い出したが、確かフロンティアにもプーギーを連れて狩りをしたりする機能があった筈。

 他にも、捕らえたモンスターを飼育するという話を聞いた覚えがあるが…どっちも今は無理だな。

 何せ、今はホームに俺以外誰も居ないのだ。それこそ、お付きのネコすら居ない。

 

 考えてみれば無理もないのだが、ハンターの数に対し、お付きになれるアイルーは非常に少ないのだ。

 アイルーだけなら沢山いるのだが、彼らも自分達の社会体系を持ち、それらを意地して暮らしている。お付き認定される程優秀なアイルーがそもそも少ないし、優秀でもサボらないアイルーはもっと稀。根本的に、人語を学習したアイルー自体がね…。

 ポッケ村やベルナ村のようなハンターがあまり居ない土地なら、ハンター一人に対して複数のアイルーが付く、と言う事もあるのだが…フロンティアのハンターは何百人って数だからな。

 

 その為、フロンティアでのお付きのネコは、ハンター自身が確保する事となっている。別に、麻酔玉叩き込んで攫ってこいというのではない。アイルー達の集落や、運よく巡り合えればネコバァを介して、直接本人…もとい本猫と契約するのだ。

 無論、「拠点には全然帰らないから、お付きのネコが居なくてもいいや」という者も居る。そういうハンターは、他のメゼポルタ広場を渡り歩き、貸し部屋に数日宿泊してはまた他所のメゼポルタ広場で狩りをする…という生活を送っているようだ。

 そういうのも悪くはないが、俺としてはやはり拠点を確保したい。

 

 

 何故って、お突き合いする相手が出来た時に困るじゃないか。

 

 

 そういう訳で、砂漠に狩りに来た時、ついでにアイルー達の集落に寄ってみた。

 人語を喋れるアイルーが非常に少なかったが、こっちも多少はアイルーの言葉は分かる。…大の男が、ニャーニャー猫なで声を出している姿は、他人様には見せられないが。

 契約自体は、まぁスムーズに進んだと言っていいだろう。仕事内容としては、家の掃除に、精々が料理をする程度。料理に関しては、専ら狩人弁当で済ませているので、自分が食べる分だけ作ればいい。ああ、ホルクの世話も任せる事になるな。

 狩りに連れて行くオトモと違い、特に危険もない仕事だ。しかも、掃除さえ済ませてしまえば、後はほぼ自由時間。何をしていてもお咎めなし。それだけに給与は安いが。

 

 幸い、人間の言葉も分かる、他所で少しだけだがオトモを経験した事もある、という高性能アイルー2匹と契約できた。一匹は家事、一匹はホルクの世話。

 それはいいんだが……なーんかこいつら、見覚えがあるんだよな。別に嫌な記憶じゃないんだよ。いつぞやMH世界でデスワープした時の、爆弾抱えて突っ込んできたネコって訳でもない。

 こう、毛並みと言うか目の形と言うか耳の角度と言うか…どっかで見た事あるような。

 

 それが気になってセットで契約したんだが、どうやらこの2匹、夫婦らしい。

 性格は揃って活動的で、とにかく黙っていたりジッとしていたりするのが苦手。その分、暇潰しにでも仕事をするので、結果的には割と真面目な方だろう。

 欠点があるとすれば、放っておくと延々と喋り続けるって事かな。俺はのっぺらのウザさで慣れているからいいが、人によっては五月蠅いとも感じられるだろう。…アイルー語でニャータカニャータカ話すんじゃなくて、隣で聞いてる俺にも分かるように人語で喋るのは、気遣いのつもりなんだろうか。

 

 で、それに付き合ってた時に、ちょっと話題に出たんだが……この2匹、子供が何匹か居るらしい。そいつら放っておいて仕事に来て大丈夫なのか?と聞いたら、既に自立して旅立ったとの事。

 …と言う事はこの2匹、人間換算で40歳くらいだろうか? ………はい?

 

 

 

 末っ子はまだ子供? 人間で言えば12~3歳程度?

 

 

 おいおいおいおいおい、何をいきなりネグレクト宣言してんだよ!? 思春期じゃねーか一番大事な時期じゃねーか!

 と焦ったが、これがアイルーの生態だった。ある程度まで子供の世話はするが、独り立ちは早いし、本猫もやりたい事が出来たり、ついていきたい誰かを見つけたら、まっしぐらに突っ走る。そうでなくても、ふと思い立ったら何処かにフラッと行ってしまう場合もある。そういう場合、アイルー達は探す事をしない。本人の意思を尊重すると言うのもあるし、幼いアイルーでは襲われたら生き残れないようなモンスターが居た場合、二次災害の恐れがあるからだ。この辺、人間の子育てよりもずっとシビアである。

 アイルーの生態の是非を論ずるのはここまでにして、本題。

 

 

 この二人の末っ子、名前がネコマと言うらしい。ちなみに苗字はサムネ。

 …ネコマ・サムネ。

 

 わー、なんだかとってもききおぼえがあるなまえだねー。あといちもじでほんとにねこかおまえ、といいたくなるようなとんでもきゃらくたーとおなじなまえになったのに。

 

 

 

 

 

 …あいつの両親かよコイツら!道理で妙に毛並みがいいし、既視感を感じると思ったわ!

 

 

 

 まぁ、それでどうなるって話でもないんだが。一応、今あいつが何処にいるのか教えはしたが…それも多分、なんだよな。あいつの事だから、七転八倒して変な所に向かいそうだし…。

 それを聞いた親猫達も、「元気ならそれでいいニャ」とあっさりしたもの。人間とは価値観が違うのかね、やっぱり。正宗自身も捨てられたとは思ってなかったし、よそ様の家庭環境にあんまり首を突っ込むもんじゃないな。

 

 ただ、幼い頃の正宗の事の話にはちょっと興味が出た。

 親の元から巣立っていった時は、キッチンアイルー志望だったらしいが……それが、どうしてハンターに代わってモンスターを狩りたい、なんて事になったのやら。

 

 

「アイルーの中でも、特に気紛れな子でしたからニャー。何かするにしても、壁にぶち当たると暫く悩んで、飽きて辞めてしまう事が多かったですニャ」

 

 

 まぁ…子供だしな。しかし、俺の知ってる正宗…二人の言うネコマは、そんな感じはしなかった。

 モンスターに負けても、やり方や相手を変えながら再戦したし、キツいだけで面白味もクソもない石炭掘りだって、グチグチ言いつつやっていた。

 …案外、名前が同じだけの別猫って事は…。

 

 

「多分ないですニャ。アイルーがオトモではなく、ハンターと同じように戦いたい…。考えるアイルーは多いニャけど、実行しようとするのはあの子くらいニャ」

 

 

 まぁ、言いたい事は分かるけどな。言っちゃなんだが、ハンターでもない一般人が、ラオシャンロンを狩ろうと志すようなもんだ。いつかは出来るようになるかもしれないが、今はとてもじゃないが信じられない夢物語でしかない。

 この2匹の元から旅立って、ニャンターを志すまで一体何があったのやら。

 

 




 さて、毎度の如く何処じゃろな、ここは。もう夢でも現実でも大して変わりない気がしてきたが、例によって見覚えのない場所に居る。
 …今回はまた、随分と高い所に出たものだ。ガラス張り…らしい壁面と、金属特有の輝きを持った床。ガラス越しに見える赤い金属は、塗られた鉄筋か。
 
 外に見えるのは……うーん、何だろな。古臭いという程古くもなく、都会と言う程都会でもなく。しかし何となく懐かしい。
 ……そうか、これはアレだな。レトロって奴だ。高い場所から一見した印象でしかないが、昔ながらの掘っ立て小屋っぽい建物がある区画と、妙に近代的な(それでも野暮ったいが)ビル…ビルヂングとでも称したくなるような建物が集まっている区画がある。
 …お、アレは電車か。見た感じ、あまりスピードが出ている様子もないし、デザインも古臭い(この世界の人から見れば最新に見えるかもしれないが)。と言うか、下手すると路線バスと言った方がいい規模のような気もするし。

 ふぅむ、少なくとも俺が元居た世界の、元居た時代ではないな。多分、時代としては大正櫻と浪漫の嵐が吹き荒れそうな頃だろう。尤も、アレは確か大ではなく太だったと思うけども。



 さて、しかしこれからどうしたものか。今の俺、フロンティア用の鎧装備なんだよね。狩りの途中にキャンプで寝たんだっけ?
 この世界・この時代の頃はよく知らないが、流石にこの格好で帯刀して歩いてりゃ、官憲のお世話になるのは間違いないだろう。ここから鷹の目で見るだけでも、下を歩いている人達で武器を持っている人なんていない。
 むぅ……鎧の下、インナーだけなんだよな…。場所によっては上半身裸で歩いている、何かの作業をしているらしいおにーさんとか居るようだが…誤魔化せるかな?





 ………ん、なんか寒気がする。瘴気? …とは少し違う気がするが…なんだか、ヤバい空気が漂ってきた。
 周囲を見回すが、特に何も居ない……いや、人の気配が一つ………と…これは? 人……でも死人…生きてはいるっぽい…が、そもそも感じる圧力や強さに反して、体が小さすぎる。子供どころか、赤ん坊や小動物くらいの大きさだ。
 敵意は感じないが、俺を警戒・或いは値踏みしているようだ。
 …この空気の中でもそうしてるって事は、この状況での荒事に慣れているか、全く気付かないニブチンか…。でもこの気配は古強者の気配だな。
 下手に動いて刺激したくないが…どうしよ。

 でも、あっきらかにヤバい気配がビンビンしてるし、これ放っておいても何か出てくるな。鬼…じゃない。もっと危険……なんだが、何となく畏怖すべきと言うか信仰すべきと言うか、俺は絶対敵対しちゃいけないような、それでいて挑みかかるべきのよーな。
 

 そんな訳の分からない感想に首を傾げていると、部屋の中央の柱からチーンと金属音が響いた。…エレベーターかよ。
 む…扉越しで分かりづらいが、これまたヤバそうな気配がする。元々ここに居た奴と関係があるかは知らんが、できればとっとと逃げたい。
 もういっそ、ラストガラスもとい隣のガラスをブチ破レイクして、イーグルダイブで脱出を計ってしまおうか。

 そんな事を考えている内に、エレベーターの扉が開く。
 そこから出てきたのは……。





 肩の上に猫。
 マント…と言うより外套。
 チラッと見えただけだが、腰にピストル。
 刀。
 学生服。
 いくつもの管。
 学帽。
 



 そして何より、見間違えようもない内ハネして、とんがっているモミアゲ!!!!




 ここまで言えば分かるだろう。






 十四代目葛葉ライドウ!




 待て待て待て待て待てヤバイヤバイヤバイこいつはヤバいこいつ自身もヤバイがこの世界は特にヤバい!
 いや待て人修羅殿が来るよりは…でもマニアクス版では出典してたし、話の進み具合とかにもよるけど下手すると同レベルくらいに…。

 デビルサマナー系の話は、将来核戦争で荒廃待ったなし…なのはかなり未来の話だし、確かこの世界観は特殊な時間軸にあるとかで実現するか分からないし、少なくとも100年以上先の話だからいいとして、悪魔がやばい!
 
 分霊とかならまだいいが、高位悪魔とか本体とか、何より閣下辺りに目を付けられたら、それこそ本気で何が起こるかワカラネェ!
 パラレルワールドとか複数の時間軸に跨って存在するとか、そういう連中が俺の状態を見たら、色々分かるかもしれないが、それ以上に生き残れる気がしねぇよ!

 と言うか、さっきから感じている妙な寒気は異界化だったのか!? 討鬼伝世界の異界とは大分違うな…あっちは結局、毒素を振りまいてるけど現実世界なのは…いや瘴気が濃いと時空も歪むしな。



「貴様は…」


 あ? あぁ、そういや、もう一人居たんだっけ。すっかり忘れてた。ライドウに反応して出て来……?


  


 足元に猫。
 マント…と言うより外套。
 チラッと見えただけだが、腰にピストル。
 刀。
 学生服。
 いくつもの管。
 傷の入った学帽。
 顔に傷跡が幾つか。




「やはり…この世界に我自身が存在したか…。となると、ここは異なる時空の世界か…。成る程、我の世界と寸分違わぬ」




 そして何より、見間違えようもない内ハネして、とんがっているモミアゲ!!!!




 ま、魔人ドッペルゲンガー!?



「違う。異なる世界のライドウだ」


 ぬあ、猫が喋る! …まぁそういう事もあるよね。アイルー見てりゃ珍しくもないわ。黒だからメラルーか。二足歩行してみれ。爆弾は出すなよ。



「魔人についての発言といい、我の声が聞こえる事といい、どうやら業界関係者のようだな」



 あ、いえちょっと知識と霊感があるだけなんで、そういう訳では…。
 ここで起こってた騒ぎとやらにも関わった覚えないです。敵意向けないで。

 なんだこのWライドウ。…あ、いや待て思い出してきた。あーあーあったね、こういうイベント。
 確か超力兵団じゃなくて、アバドン王の方だっけ。別の世界線から飛ばされてきた、葛葉………えーと、雷銅? 電動? が居て、その後確か…?


「察しの通り、悪魔にしてやられた。我とした事が不覚を取った…が、何とか、時空の狭間に悪魔を誘い込み、封印を施した。その反動で、我はここに飛ばされてきたのだ」

「ほほう、こちらに来る経緯が我らと少し違うようだ。やはり、微妙に世界が異なるようだな」




 その後確か…イベント戦、だよな。と言うか、ここに出てきたのって確か…。
 …ああ、そりゃー俺と言うナマモノにしてみれば、畏怖すべきで信仰すべきで、絶対敵対しちゃいけなくて、それでいて挑みかかるべきだわ。


 …ぬ、プレッシャー!


「グワッハッハッハー! 若造が! このワシから逃げられると思うなよ!」




 御立派様キターーーーーーー!!!!
 マーラ様!
 マーラ様じゃないですか!

 

「サマナーとしてそこそこデカくなったようだが…やはり貴様らとはモノが違うわな。グワッハッハッハー! …む?」 


 キョロキョロと…見渡しているのかな? 目がどこにあるんだろ…やはり先端か。カメのアタマか?


「ヌヌヌ? これは珍妙な。同じデビルサマナーがもう一人。いや、それ以上に気になるのは…貴様じゃ!」

 
 はっ!? お、俺をご指名っすか御立派様!? そりゃそこそこ自信はありますが、流石にアンタ程デカくないし、人間(に見える相手)のメス以外とのお突き合いは勘弁してほしいんですが!



「ワシじゃって願い下げじゃ! いや、男同士でもモノは使うし、最近は女同士でも道具を使えば似たような事ができるから、そっち方面の権能もないではないが」


 マジか。流石に御立派様は器が違った。


「それほどでもない。ふむ……貴様、中々面白い術を身に着けておるようじゃな。人間にしてはモノもそれなりじゃし、歳にしては実績も申し分ない。…妙な状況におかれてはいるようじゃが、それはどうでもよいな。うむ、貴様、儂のムスコになれい!」


 あ、やっぱループの事分かるんだ。
 御立派様のムスコとな。マーラ様じゃない御立派様は我がムスコだが、御立派様はムスコのようでありながら、俺にムスコになれと言う。


「つまり血縁が続いておると言う訳じゃな。うむ、似通うのも当然じゃ」


 ムスコになるって事は義理だから血縁は無いが、御立派様ならナンボでも血縁を残せますな。


「うむ。我がムスコになれば、貴様に加護を授けてやろう。今まで以上にナオンに恵まれ、貴様のモノで好き勝手できるぞい? その結果、ワシは貴様から送られるMAGIでより一層漲る。女の幸せをトコトン味わえるナオンが増える。誰にも損はない取引じゃよ」


 いやー、非常に魅力的な提案ですが、今となっては全く心が揺れませんな。
 まぁ、これでもソッチ方面の技術を学び、求めている…自分で言うのも何ですが、求道者ですので。


 人の研鑽で高みに上り詰め、神魔の領域を踏破して尚進む事こそ、人の本懐です。
 なので、非常に勿体ないですが、またの機会にと言う事で。


「グワッハッハッハー! そういうと思うたわい、益々気に入った! 貴様が要らんと言うても、ちょっとした加護はくれてやろう! 見事使いこなしてみせい!」


 ……あ、ありがとうございます。でも、後ろのWライドウが鯉口切ってるんで、後ろからバッサリ殺られない程度にお願いしますマジで(迫真)。
 と言うか、加護貰っといて悪いけど俺はこっちに付きますんで。


「グワッハッハッハー! 構わん構わん! 3人纏めて、ワシのギンギンの突きで軽く捻って、ワシの偉大さを思い知らせてやるわー!」



 …そういう事になったのだった。
 ところで、別の世界線のライドウに手傷を負わせた技ってなんだろ。御立派様が言うように、ギンギンの突き? それともマララギダインだろうか。





 で、結局、御立派様と言えどWライドウには勝てなかったよ…となった。出現した悪魔(言うまでもなく全て女性だ)は、目の保養にはなったかな…正直、そんな事言ってられなかったけどね。
 Wライドウに不感症疑惑が降りかかったが、誰も聞いてないからどうでもいいだろう。

 と言う訳で、一件落着した別の世界のライドウは、ヤタガラスの所へ行って時空を超える秘宝を借りる、との事だったが…それってアレだよな、アロマ回路? アルマ回廊? …アマラ回廊ね。を使うって事だよな。
 強力な悪魔達がワンサカ居て、恐ろしい事にWライドウはそこで修行したりするらしいが……滅多にない機会だから、俺も見に行っていい? (確か時空間を繋ぐ回廊だから、ループについて何か分かるかもしれんし)
 いや、中に入ろうとは思ってないって。別に無料で、とも言ってない。珍しい宝石なんだけど、これと交換でどうかな。飛龍の紅玉。


 …オッケーが出た。大学イモとどっちがよかったかな。


 で、回廊の中を、外からちょっとだけ覗き込んだんだが…うーむ、さっぱり分からんな。ナカに入らないと、回廊すら見えないんだろうか……おっと、ナカじゃなくて中ね、中。意味は変わらんけど。
 しかし…こりゃフロンティア並、下手するとそれ以上にヤバい気配がするなぁ…。
 フロンティア以上はまず無いと思ってたが、世界は広いわ…別の世界っぽいけど。







 さて、その辺で夢から覚めた訳だが、御立派様の加護とは何だったのか。
 …ほら、あのゲームのシステムってさ、相手の弱点属性を当てて硬直した時に、更に攻撃すればMAGIを奪えるってあったじゃん? これを、御立派様風に当て嵌めてみるとどうなると思う?



 弱くて感度のイイ所に一突きすると、こう、キュッて締まったりするやん? その時に更に追撃すれば、それでMAGI(のような何か)を奪えるようになったよ!
 それだけだと相手から生命エネルギーを吸い取るだけになってしまうが、そこはオカルト版真言立川流の神髄の見せ所。奪った力を増幅して返すのだ。循環する力の量が大きければ大きい程、与えられる快楽は大きくなり、調整もより精密にできるのだ! 理屈は聞くな!

他にも、まだ試してないけど、体液をある程度操作できるようになった…気がする。怪我をした時に、血を固めて応急手当…とかじゃなくてアレだな。女性のハラのナカに入った白い体液を、モゾモゾ動かして内側から責めるとかできそうですな。

 いやー、流石は御立派様やわ。あんな事言ったけど、加護を受けちゃったものは仕方ないし、時には見知らぬ道具や手に馴染まない得物を使ってみるのも一興。経験と言う意味では、どちらも得難いものよ。俺がこれに溺れて、腕というか腰を訛らせてしまわない程度に活用しますか!


 あと、これに不満がある訳じゃないんだが、ライドウがやってたMAGIで武器を具現化する奴、あれは覚えたかったなー。
 狩りにも役立つだろうし、習熟すれば武器じゃなくて触手も具現化できるようになりそうだったのに。

 …どっちにしろ、フロンティアに来てから、お相手いないけどね。




デビルサマナー 葛葉ライドウ対アバドン王編。
新作かリメイクしてくれ!


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239話

ぬわぁぁぁんついてねぇぇぇ!
草木も眠る丑三つ時まで仕事して、その翌日と言うか当日朝っぱらから健康診断。
健康診断の為に寝不足になってどーすんだとブツブツ言いながら就寝したら、手違いで連絡を受けてなかった業者から呼び出しが入り、予定よりも3時間早く出勤。
寝かせろコンチクショウ!

にしても、活動報告の件ですが、ほぼ②ですか…。
まぁ、具体的な描写をしてなくても、名前だけ出せば読者様がイメージ補完してくれますし…。
色々と悩みましたが、元がモンハン世界に居ない人の名前は、別の漫画の登場人物の名前を崩して使う事にします。
一応、前書きか後書きに誰をイメージしたのか書いておきます。



ところで、完全に話は変わりますが、ふと思った。
わびさびも茶道も数奇の道もサッパリな俺ですが、アバン先生って数奇の道にド嵌りしそうじゃね?


HR月

 

 

 狩りを続け、装備を整える事暫し。今まで、あって当然のモノが無かった事に気が付いた。いや、今まででも多少はあったんだけど、動きに変化が出る程じゃなかったんだよね。

 

 

 いきなり何かってーと…長いリーチの武器を手に入れました。MHFやった人なら、時期にもよるが一度は見て目を疑った事があるんじゃなかろうか?

 リーチ・極長のクッソ長いランスだ。ヤマツカミ相手に大活躍するアレな。

 まぁ、今回手に入れたのは極長ではなく、精々長程度なんだが…実物を持つと、実際以上に長く感じる。

 

 しかも、ちゃんとした武器ではない。試作品とでも言うべきなのか、流行り廃りが異常に早いフロンティアならではの品と言うべきか。まだ半人前の技師が、練習の一環で作ったものである。

 それ故、非常に扱いにくい。全長が伸びた事で、当然の事ながら重心の位置は変わる。重さ自体も変わる。ランスは突きがメインなだけあって、先端を真っ直ぐ突きだす必要がある訳だが、敵が近いと切っ先を向ける事すら困難。そもそも、あまりにも長いために取り回しが非常に難解だ。

 アタリハンテイ力学でどうにかしろって? ありゃそこまで便利なモノじゃねーんだよ、ゲームと違って。力学っていうだけあって、法則なんだ。人間の都合に合わせてホイホイ変わってくれるものじゃない。人間が、アタリハンテイ力学に合わせて動きを変えてようやく加護を得られるものなんだ。…モンスターは素で加護を得ていたり、絶対の筈の法則を平然と捻じ曲げてくるけどな。

 

 

 ともかく、今までは違う武器(同じ武騎種ではある)でも、大体同じ範囲に収まっていたリーチが、大きく変わった訳だ。

 まぁ、正直言って実戦に耐えうるレベルのモノではないんだが…それでも、今後はこの手の特殊リーチ武器との関わりも増えるだろう。取り回しを真面目に考えてみるのも悪くない。

 

 …俺だって、本当に真面目に考える事はあるんだよ?

 

 

 まず大前提として、リーチが長い武器を扱うには、相応のスペースが必要だ。ゲームと違ってあっちこっちに引っ掛かるので、木々がそそり立っている密林などだと、マトモに使えないだろう。

 これがランスではなく、刃の付いた武器であれば、切断してそのまま振るう事も出来なくは無いが。

 また、リーチが長くなればなる程、狙いを付ける際に精密な動きが要求される。手元の角度が1度ずれるだけで、先端の切っ先は大きく逸れるからだ。

 

 そして、最大の問題は、リーチによるアドバンテージが、モンスターによっては全く通じない事である。

 リーチと言うのは、単純に得物や腕の長さで決まるのではない。足場、踏み込みの速度と移動距離、関節の駆動範囲、その他諸々の結果がリーチになる。

 

 さて、ここでちょっとハンターと大型モンスターのスペックを比較してみよう。

 体のサイズ=モンスターの圧勝。

 関節の可動範囲=相手にもよるが、辛うじてハンターの勝利?

 踏み込み速度=大型モンスターは大抵突進攻撃を持っている。瞬発力で言えば、まずモンスターの勝ち。

 …つまるところ、ハンターがリーチの長い武器を持っても、総合的なリーチの長さで言えば、大抵の場合モンスターが勝ってしまうのだ。

 

 もちろん、それを差し引いても長い武器を持つと言うのが有効なのは否定しない。

 上記の話は、体の中心部分を狙った場合の話でしかない。モンスターの末端部分…手足や翼を狙うのであれば、条件は劇的に変わってくる。

 モンスターの手足を攻撃する時、その危険度が跳ね上がるのは言うまでもないだろう。誰が好き好んで、怒り狂っている猛獣の爪に近付くものか。ムツゴロウさんだってアナコンダ辺りにキュッとされるわ。

 しかし、リーチの長い武器であれば、それだけ危険な部分に近づく必要はなくなる。

 

 結論・武器のリーチの長さを活かすには、極力離れ、かつモンスターの末端部分…多くの場合は部位破壊できる部分を狙うべし。近寄らず、遠方から封殺するのが理想。

 そして、離れた分だけ敵の攻撃を回避する余裕が出来るので、それをどう活かすかが問題。

 基本的な理論になってしまったが、それを極めてこそって事だろう。

 

 

 …ふむ、そう考えると…これらの条件を活かしやすいモンスターの条件は…。 

 ①巨体で末端部分があまり動かない。

 ②機動力が低い。

 ③とにかくモンスターとハンターの距離が離れている。

 

 

 …こうしてみると、ヤマツカミが見事に当て嵌まるな。MHFでは極長リーチ槍・火事場力×4人で安定討伐、なんて光景を何度も見たのも納得である。

 では、今の俺が使うとすればどうか。

 

 普通のハンターに比べて、俺の身体能力は高い。盾を持ってフル装備しても、比較的軽快に走り回り、人間の伸長を超えるジャンプが出来るくらいに。しかし、そんなリーチの長い武器持ってジャンプしてもな…。

 突きをするには、空中ではふんばりが効かない。GE式空中ダッシュとか、チャージグライドみたいに突進は出来るが、とにかくバランスが悪い上、この世界のモンスターの肌・肉に刃を突き立てるには、ちょっと勢いが足りない。

 チャージ(突撃の方な)の勢いを増して、多少攻撃力を上げる事は出来ると思うが…なんか物足りないな。

 

 討鬼伝世界で息吹が開発したカウンター技……も使える事は使えるが、戦術の性質上、回避ランサーに近くなるので、あまり出番はなさそうだ。

 …………討鬼伝世界?

 

 

 あ。

 

 

 

 

 

 

 

 思いついたら即実行!

 

 

 皆大好き・イャンクック先生、お願いします! 

 

 

 戦う場所は、遮蔽物の無い平原。空がよく見えるね。

 フロンティアだと、先生も一味違うねぇ。それとも、本気出してきたって事なんだろうか。今回相手をした先生は、行動自体は俺の知ってる先生と変わりなかったが、タフで攻撃がメッチャ重い。

 

 遠距離からチクチクと小突く事数十分。一回、ブシドースタイルでジャスガ→十字払いをやってみたんだが、予想通り上手く当たらず。先端ではなく、ランスの胴体部分が当たるだけでは、充分な威力が発揮できない。

 それどころか…横振りは良かったんだが、縦振りがな…。いつもと同じような調子で切り下したら、先端が地面にぶつかって勢いが削がれた。そーだよなー、武器が長くなって同じような動作してりゃ、そうもなるわ。長武器のランスって、先端部分にしか当たり判定がが無かったと思うが、こんな形で再現せんでもよかろうに。いや、再現したんじゃなくてこっちが本家か?

 

 まぁ、それはともくとして、いい加減鬱陶しくなった先生が、飛んで逃げようとした。…ここだ!

 

 まず体を捻る! 力を貯める! そして!

 

 

 

 飛び上がるッ!

 

 

 鷹襲突!

 

 

 

 

 

 

 

 飛ぼうとするイャンクック先生の頭上を取り、そのまま串刺しィ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 失敗。充分な高さが確保できなかった。と言うか、貯めてる間にクック先生が遥か上空まで飛び上がってしまった。…よくよく考えれば、分かる結果だったなぁ…。

 しかし、それで諦めてしまようでは話にならない。

 

 溜め時間が邪魔なら、別の方法で補うまでよ!

 

 クック先生に追いついて、再度チクチク。飛び上がるのを待つ…来た!

 

 

 今度はこれでどうだ! 長い槍をフルに活かして、これを棒高跳びの棒代わりに!

 

 

 

 

 失敗。ハンターが使うランスって、メッチャ堅くて頑丈だからね。棒高跳びのポールみたいに、しならないのさ。地面に先端が刺さって抜けないランスを前にして、頭を抱えた。飛ぼうとした時に、つっかえ棒になったランスに腹をぶつけたんで、そっちの方が痛かったが。これまたよくよく考えなくても、分かる結果だったなぁ…。

 

 

 

 だが二度や三度の失敗でメゲたりしない!

 三度、クック先生をチクチクする。…先生もさすがに鬱陶しいらしく、めっちゃ怒られた。それでも懲りずにやるけどね。

 

 中々飛ばなかったが、ようやく来た。…なんか、滞空して見守られてるんですけど…。ひょっとして、失敗前提で芸人みたいに思われてる? 流石クック先生、賢いというか器が違うと言うか、モンスターなのにユーモアを理解するとは。今度こそ見てろよ。

 

 

 今度は、長いランスを垂直に全力で突き立てる! そしてハンター的に掟破り、GE的には常識、討鬼伝的には武器により常識のジャンプ!

 ランスの先端…まで足も手も届かなかったんで、ニンジャのように垂直走り。天辺まで辿り着いて、更にジャンプだ! …バーストしてれば、普通に二談ジャンプして天辺まで足が届くな。極長リーチだと厳しいが。

 

 と言う訳で、ようやく先生の頭上を取ったぜ!

 

 

 

 

 

 失敗。飛び上がったはいいけど、武器が無いもんで有効打が与えられません。畏れ多くも、先生の頭の上に着地したら、あっさり振り払われた。地面に落ちていく俺に、「頭を冷やせ」と言わんばかりに火炎液のオマケを吐き出していったよ。火炎なのに冷やせとはこれ如何に。

 

 

 

 今度こそ!

 クック先生も本格的に呆れてきてるみたいだし、それ以前に延々と追いかけてチクチクしてたからダメージも蓄積されてるから、これが最後のチャンス。多分。

 やる事自体に変化はない。先生がそらを飛ぶまで待って、槍を足場に思いっきり飛び上がる。

 

 そしてッ!

 

 

 武器が無くてもッ!

 

 

 鍛え抜かれた体があるわいッ!

 

 

 くらえ渾身の浴びせ蹴りィィィ!!

 

 

 

 ………失敗……いや、成功…? う~ん…とりあえず、叩き落すことには成功した。が、ダメージらしいダメージはない。

 幾ら俺の体が、ハンターな上にゴッドイーターでアラガミでモノノフで以下略ボディでも、質量の差は如何ともし難い。普段は攻撃を受けないタイミングでの一撃で、軽いパニックを起こさせ、バランスを崩して落下させる事はできた。

 ま、逃亡阻止と考えれば、十分な成功ではあるか。

 

 

 とらえず、感謝を込めてクック先生を剥ぎ取りします。

 

 

 

 

 

追記

 

 

 狩りからの帰りに、どこぞの技術者らしい人に声をかけられた。

 クック先生を相手に四苦八苦してたのを見られていたようだ。ちょっと恥ずかしいが、それよりも最後の蹴りの事について彼是と聞かれた。

 一体何を気にしているのやら。

 

 

 

 

HR月

 

 

 ちょっと困った事になった。2番目に人が多いといわれているメゼポルタ広場に行ったんだが、ハンター用の貸し部屋が満室だった。

 一日くらい野宿や、その辺の酒場で一晩明かすのは全く問題ないが(酒に任せてアヤマチを侵さなければだが)、連日こんな感じらしい。

 このメゼポルタ広場は、各メゼポルタ広場に行く為の交易路中心に当たる部分である。このメゼポルタ広場を使わず移動しようと思ったら、かなりの悪路を突き進まなければならない。

 そんな場所だから、人が多いのも仕方ない。が、狩りの拠点としてはイマイチ賑わっている訳ではないので、予算が得られず、貸し部屋の増設は不可能。

 

 

 どうしたもんかなぁ。今回は狩場で一晩ハッスル(エロではない)して帰ってきたけど、毎回となるとちょっとしんどい。

 そう考えていたら、部屋のアイルー達から提案があった。

 

 

 ほうほう、あっちのメゼポルタ広場に知り合いが居ると。そこのアイルー達の棲み処は非常に広く、人間が一人二人いても全く問題にならない。

 

 

 

 …が、ちと人間不信の毛があると…。

 なんだ、お供アイルーやってる間にハンターに虐められでもしたんか。しかし、そういう事なら無理して頼んでくれなくてもいいのよ?

 …そうか。人間不信もそうだけど、なんかややこしい身の上があるって事か。俺がどうこうできる問題かは知らんけども…正宗の親からの頼みだしな。やるだけやってみますかね。

 

 

 ま、それにしたって暫くはここで狩りをするつもりだから、また今度ね。でも、話だけは通しておいてほしい。実際に行って、「お断りニャ」と言われて宿無しになるのはちと辛い。

 

 

 

 

 …ところで、最近ちょっと気になってたんだが…この古龍の遠吠えもかくや、という勢いの叫びは何ぞ? 最初に聞いた時は、それこそモンスターが城壁飛び越えて襲ってきたのかと思ったが、ベテランぽい人達もお前らも全然動揺してないし。

 

 ……狩りのお誘い? 誰でもいいから? 人が足りない時に呼び声を出すって………ちょっと待て、あれ人の声なのか!? 音響兵器と名付けたエシャロットでさえ、あんな大声出せないだろうに。

 三軒両隣のメゼポルタに聞こえる勢いでって、それ冗談に聞こえないよ…。実際、隣のメゼポルタにまでは聞こえてるし。

 

 まぁ、理屈は分からないではないよ? 人数と戦力は二乗するっていうし、ハンター3人と4人では狩りの成功率だって段違い。ちょっと待ったり、無理してでも狩りに行く面子を増やしたいんだろう。

 そして、その最も簡単かつ確実な手立ては声掛けだ。クエストボードに募集を貼り出してても、人が読むとは限らないし、需要と供給が両立する事なんてもっと稀。

 なので、クエストボードでしか見れない人員募集のお知らせより、近場のハンターに声をかけて一緒に来てくれる人を探した方が早い、というのはよく分かる。

 デカい声出して響かせれば、より多くの人に声をかけられるのも分かる。

 

 

 でもその範囲がおかしいだろ…。明らかに、モンスターの咆哮よりハンターの声の方がデカいんだが。

 

 ちゅーか、これってもしかしなくてもMHFで言うワールドチャット? 何ともまぁ、パワフルでグレートで傍迷惑なチャットです事。

 中にはそのワールドチャット(人力)で妙な小芝居をやるハンターも居るらしい。ラジオみたいなノリの奴から、意味不明な自分の世界に浸ってアイタタタタな会話を(武器と)する奴まで。

 

 まぁ、チャットの内容についてどうこう言う気はないが……あまり妙な単語を叫んでいると垢BANならぬギルド闇系で終わりそうだし……、これって大丈夫なのかね、危険的な意味で。

 何も知らない人からすれば、モンスターの遠吠えにしか聞こえないって書いたでしょ? …モンスターからも、同じように思われてるんじゃないですかね。

 つまり「この辺のボスはここに居るぞ、ナワバリ欲しけりゃかかってこい」みたいな意味で。

 

 …度々古龍に襲撃されるとは聞いていたが、ひょっとしなくてもこれが理由か? 普通のモンスターなら、襲撃する前に近寄った時点で狩られて終わりだろうが…。自分達から大型モンスター呼び寄せてるのか。そんで新入りのハンターが戦って、勝ったら自信を付けて鍛えられて、いつしかフロンティアに適応していく…。

 

 うむ、やはり魔境だな。まぁ、これから俺もそれに馴染もうとしている訳だが。いや、いきなり大声って訳じゃないよ。パーティ募集するにしても、俺自身の実力をある程度つけておかないと迷惑かけるからね。

 と言う訳で、今回はドドブランゴに行ってきます。はてさて、どんなドドブラが登場するやら…。

 

 

 

 

 

 

 

 狩り、終了。

 …うーん、あれって…二つ名モンスター…いや二つ名…じゃないよなぁ…。

 狩りに行く前に聞かされた話なんだが、今回のドドブランゴは何処ぞの集落で言い伝えられていた特徴を持つドドブランゴだったらしい。

 その名も『デカイマドリル』。

 

 ……いや…ドドブラじゃねぇよそれ…でも確かにドドブランゴだったし…種族的に似ていると言われれば反論はできんし…。そういや、確かに顔の特徴とか色とかが、ドドブラよりもマンドリルっぽかったような…。そもそもマンドリルの顔なんて正確に覚えてないよ。

 なんだかなぁ…その名の通りマンドリルと考えりゃデカかったが、ドドブラとしてはむしろ小さい方だったし…。正直、今回は拍子抜けだった。

 ま、玉石混交のフロンティアだ。予期せぬ強敵も居れば、見掛け倒しのモンスターだって居るわな。

 

 

 

 ただケツに熱視線を送られていた気がするのだが、まぁ惨殺しておいたんで問題ないな。

 

 

 

 

HR月

 

 

 今日も今日とて、情報収集と狩りの日々。そんな中でふっと思い出したのだが、フロンティアってレジェンドラスタの皆さんの活動拠点じゃなかったっけか?

 少なくとも、ゲームでは携帯機ではなく、フロンティアでの活躍だったと思う。

 …それにしては、今までのループでホイホイ出歩いていたような気もするが…まぁ、そこは現実とゲーム設定の違いって事で。

 

 しかし、あの人達だって活動の拠点が何処かにあるのは確かな筈だ。それが何処かっていうと…やっぱフロンティアが一番ありそうだよな。

 レジェンドラスタの力が、最も求められる場所。彼らであっても全力を出さなければならない場所、出していい場所。フロンティア以外にあり得ない。

 

 

 …のだが、仮にフロンティアで活動してるにしても、メゼポルタ広場が複数あるからなぁ。何処にいるのやら。

 今後、フロンティアで何処までやれるにしても、絶対何処かで面倒事にかかわるハメになるのは目に見えてるんだ。そんな時の為に、頼れる援軍を作っておきたい。

 いきなりレジェンドラスタとは言わないまでも、普通のラスタでもいいから契約はしておくべきだろう。

 

 

 

 

 …と思ってラスタ酒場に行ってみた。実力やハンターランクは問わず、という非常に緩い条件で応募したんだが…一つ考えが変わった。条件追加。

 最低限、契約書をちゃんと読む奴。或いは人の話をちゃんと聞く奴。

 

 

 …ハンターにもピンキリ居るってのは分かってたつもりだけどさ…なんちゅーの、福本モブみたいな連中がフロンティアに居るとは思わなかった。

 タカリ前提と言うか、自分に都合のいい事しか聞いてないと言うか、自分の要望をゴネてりゃ誰かが聞いてくれると思っていると言うか。

 

 意外なのは、その中にも結構腕の立つ奴が居たって事だ。ちょいと話を聞いてみると、そういう連中は大体フロンティア付近の生まれらしい。

 そういう場所で生まれた子供は、その土地の危険度からすぐに他所の場所に送られる(親と一緒に引っ越しする)のだが、孤児になってしまった子供等はそうはいかない。満足な教育も受けられず、しかし迫りくる危険には対処しないといけない。その結果、オツムと性根はサッパリだが、とにかく生き汚いと言うか、生き延びる為の底力だけはやたらとある連中が生まれてしまう訳だ。

 

 うーん、勿体ないなぁ。何とかして纏めて組織にすれば、結構な戦力になるだろうに。まぁ、俺にそんな事できるだけの力はないけどね。

 仮にもギルドマスターやってた時期もあるけど、今は俺も自分の事で忙し

 

 

 

 

 

 

 あれ?

 

 

 あの嬢ちゃん、見覚えあるな…あっちの嬢ちゃん…と、あっちも。何処だっけ…。

 

 

 

 …うん? ああ、申し訳ない。なんか見覚えがあると…いやナンパじゃないよ。美人さん揃いだとは思うけど、このフロンティアでナンパなんかに勤しんでちゃ生き残れないって。

 3人とも、見た所完全に駆け出しだろ。男女や酒より、先に装備整えないと……………お?

 

 

 

 え、君達エシャロット……嬢の知り合い? フロンティアが誇る音響兵器の?

 いや、直接の知り合いじゃないよ…今は。

 

 

 

 あ…あーあーあー、どっかで見覚えがあると思ったら、この子達はエシャロットの同僚か。村を開拓してた時、何度か遊びに来てた覚えがあるわ。…訓練と称して、密林の中で奇襲しまくった覚えも。

 もしもアレを覚えられていたら、色んな意味で気まずい再会になったと思うが…いや、今回だってあんまりいい雰囲気ではないけどね。

 直接会った事もない、彼女達の友人…エシャロットを、いきなり音響兵器扱いしてんだから。しかも、ナンパじゃなくても、見ず知らずの男がずーっと見つめてきていた訳で…場所と状況によっては事案だろうか?

 ちなみに、エシャロットは本日は居ないらしい。訓練所の手続きで何やら抜けがあったのだそうな。

 

 

 と言うか、そうか…考えてみれば、さっき書いたここで育った孤児達の育った姿って、エシャロットに結構当て嵌まるな。

 あまり人の話を聞かない、自分の考えで突っ走る、腕っぷしだけはあるけどハンターとしての教育・知識・技術共に不十分。

 性根がもうちょっと卑屈だったら、アカン人種になってたかもしれんなぁ…。

 

 

 …それは、目の前の3人にも当て嵌まる、か。ふむ…俺がどうこう言う問題じゃない、と言うのは分かってるが…。

 

 

 

 この際ナンパ扱いでもいいから聞いておくけど、君達…エシャロット嬢も含めた4人、これからどうするんだ?

 …ほう、駆け出しとして訓練所を卒業したから、今後はフロンティアで鍛えるか、他所の地区に行って実績を積むかで相談していたと。2人はフロンティアで鍛えたい、1人はそもそもまず独立してやってみたい、そしてエシャロットは別の地区で実績を積みたい。…成程、以前のループでは、このタイミングで開拓の話が来たんだろうな。

 

 

 

 あー、すまんすまん、今更でなんだが、俺はこーゆー者だ。ぶっちゃけ、今のところは君らよりもちょっと先輩のハンターでしかない。 

 何のつもりと言われれば、単にラスタ契約を結べる相手を探していたってだけだ。あんまり高いハードルを設けたつもりはないんだけど、信用できる人に当たらなくてな…。

 装備を見るに、少なくとも何度か狩りをこなした事がある君らが目についたって訳だ。

 

 

 …いや、契約を結んでくれとは言わないよ。欲しいとは思うけど、そっちが俺を信用できんだろ。

 ……あ、そう。信用できないのは確かだけど、エシャロット嬢の音痴っぷりは各所に知れ渡っているから、それを貶したのは気にしなくていいと。君らも結構言うね…。

 

 話を戻すが、取り敢えず俺の連絡先だけ渡しておく。…もうナンパでいいってば。

 袖すり合うのも多生の縁、ハンターは助け合ってナンボ、一期一会ってな。まぁ、何かあった時に相談したり協力要請したりできる先が一つできたと思ってくれ。それこそ信用できない? だったら利用できる先、とでも思っておけ。

 

 じゃ、悪いけど俺はこれで。

 

 

 

 

 

 …さて、どうするかな。俺の連絡先が捨てられてても別に問題は無いが…出来れば持っててほしいものだ。

 やる事もできたしね。

 

 

 

 



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240話

おお、仁王アップデート来たな。実は前回投稿時点で延々とプレイしていたのですが。
とりあえずサムライの道は初日でクリア。
強者の道は…うーん、流石にキツい。
と言うか雑魚敵の攻撃で6割近く持っていかれるから、防御と生命力鍛えんと。


HR月

 

 

 計画を思いついてから、はや数日。ぶっちゃけた話、進展は何もない。

 狩りをしながら考えれば何か思いつくかと思ったけど、生憎とフロンティアで余所見しながら狩りなんぞ出来ない。何が起こるか分かったもんじゃないからだ。

 今日だって、ダイミョウザザミがまさかのブーメランアタック…。部位破壊でハサミを叩き落してやったからって、それを武器にせんでもよかろうに…。ブーメランアタック以外にも、残ったハサミで切られたハサミを掴み、鈍器代わりに振り回してくるし…。

 投げつけられたハサミはマジで凶器だった。質量大の上、切れ味だって下手な刃物よりずっと鋭い。ホームランしてピッチャー直撃を目論んだのだが、流石に無理だった。

 

 …ので、飛んでくるハサミを側面から鷲掴みにし、力任せに投げ返した。…キャッチされた。そしてリリース。…10分間ほど、俺とカニの間でキャッチボールが成立した。

 

 

 

 まぁ、モンスターの事は置いといて、何をするにしたって必要なのは、ハンターとしての実力と資金だ。暫くの間、狩り、金策と……忘れるところだったが、レジェンドラスタを始めとしたコネ作りを進めるとしよう。

 レジェンドラスタ達の居場所を探してみたところ、これはアッサリと見つかった。有名人だし、それ以前に居場所を隠している訳ではない。流石に、何らかの依頼を受けて何処かに出張る時は秘密のようだが、基本的に自由に動いているようだ。

 

 で、その普段の居場所なんだが…貸家が満タンのメゼポルタ広場だった。

 あー、考えてみりゃ納得かな。交通の要所だから、どのメゼポルタ広場にも、他の土地にも移動がしやすい。あちこちから助けを求められるレジェンドラスタとしては、これ程便利な土地は無いだろう。

 それに、貸家に空きがないのは、この人達も一因かな。有名人を一目見たいというミーハー心理に、有事の際に助けを求められる有力な相手が居る、と言うのは非常に安心感があるだろう。

 

 さて、そうなると益々どうしたものか。接点が無いんだよな。何も、これからやりたい事にレジェンドラスタの協力が必須、という訳じゃないんだが……美人で強い人達との繋がりは、いくらあっても損にはならないからね。例え修羅場に直結してても。アクの強すぎる残念美人な人達でも。

 とりあえず、あっちのメゼポルタ広場に活動拠点を造らん事には話にならん。

 

 つぅ訳でサムネ夫妻、あっちの知り合いとやらに連絡を頼む。成功報酬は…マタタビと、この前釣ったカジキマグロと、体にピッタリ合うただの箱、どれがいい?

 

 

 

 

 ……報酬はいいから、あっちのアイルー達を頼むって………そういや人間不信なんだっけ。出来る限りの事はするが…それはそれとして、無理しなくてもいいから成功報酬は貰っておけ。我慢しまくってるの、尻尾で丸わかりだ。

 

 

 むぅ…。別にアイルー達の性格に偏見は無いつもりだが、ちゃっかりしている事には定評があるのも事実。

 そのアイルー…しかも、あの正宗の両親が、報酬を固辞してでも(結局受け取る事にしたようだが)『頼む』と頭を下げた。あっちのアイルー達に、一体何があるのやら。

 

 ま、考えても仕方ないし、当事者でない相手から聞き出すのもナンだしな。とりあえず、今日も一狩行くか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 資金稼ぎに卵運搬クエやったけど、採取した時点でゆで卵状態になってて失敗したんですが。

 テントウムシとかは、場合によっては自分で産んだ卵を食べてしまう事もあると聞いていてたが……そんな状況でまでグルメに拘るリオレイアが居るとは、侮れん…。

 

 

 

HR月

 

 

 レジェンドラスタ達が居るメゼポルタ広場にやってきた。

 サムネ夫妻がこっちのアイルーに話を通してくれたから、挨拶がてらやって来たんだが…どうにも、大分揉めたらしい。

 こっちのアイルー達が困っている所に世話を焼いてやった貸しがあるから、と言っていたが、それを差し引いてもかなり頼み込んだとか。

 それだけ人間不信が激しいって事か…。無理を通してくれたサムネ夫妻には、成功報酬を割り増ししておいた。

 

 レジェンドラスタ達は……酒場に居たけど、話しかけても無駄だな、ありゃ。今の俺では、ちょっと腕の立つ…いや、フロンティアでは良くても平均程度のハンターにしか思われないだろう。

 アラガミの事とか見抜かれて、「ちょっと気になる」くらいの印象は与えられるかもしれないが。

 

 

 ま、今から無理に話しかける必要はないね。居るのは、まだ会った事のない人達ばかりだったし。野郎ばっかりだったし。

 と言う訳で、サムネ夫妻から聞いていた場所を訪ねてみたんだが………何と言うか、洞窟? の先に湖…。空は見えるが、大きな木が茂っている。……なんか、木とその辺の岩にヴェールがかけてあるようだが…なんだありゃ?

 

 

 …湖周辺にある足跡は、アイルー一匹と…人間。ハンターじゃないな。これは細身の女性。歩き方は上品なようだが…うーん? ちゃんとした、貴族っぽいハイソな教育を受けた人の歩き方じゃないな。

 人間不信と聞いていたが、アイルーはこの人間と寄り添うように歩いているようだ。例外なのか、偶然道が同じだっただけなのか、それとも…。

 

 

「…お前がサムネが言ってたハンターニャ?」

 

 

 ん? アイルー…ここに住んでるアイルーか。名前はトッツィだったか?

 ああ、そうだ。多くは求めないから、このメゼポルタ広場に居る間、宿を貸してほしい。対価が必要であれば準備する。

 

 

「対価なんかどうでもいいニャ。ハンターなんか信用できないニャ。…だけど世話になったサムネにあれだけ頼まれたら断れないニャ。ここに居るだけは許してやるから、ここから先には絶対に入るなニャ」

 

 

 それだけ言うと、トッツィはフイと背を向けて、奥の方へ歩いて行ってしまった。

 何ともまぁ…思った以上にとっつきにくそうだな。見た目、何となく宮司とか神官を連想させるような服を着ているが、トゲトゲしさが全く隠されていない。サムネが言ってた事も、そう大袈裟じゃなさそうだ。

 

 しかし無理をしている気配もある。あくまで初見の印象(ただし内面観察術付)だから間違っている可能性もあるが、根っこが単純で楽天家なんだろう。アイルー本来の気質とも言える。

 気を抜けばすぐに誰かに懐いてしまいそうなのを、理性で無理矢理とどめていると言うか…。

 

 率直に言えば、とっかかりを作るだけなら、ちょっと親切にすればいいだけのようにも見える。しかし問題なのはその後だ。トッツィが抱えている問題を聞き出したとして、それを俺が対処できるか。

 ちょっとやそっとの事なら、この辺のハンター達がどうにかしているだろう。そうなってないと言う事は、手出しできない事情があるか、或いはこの辺のハンターでもそうそう対処できない問題なのか…。

 とりあえず、聞いてみない事には始まらないな。明日か、次に顔を合わせた時にでも話しかけてみるか。

 

 

 

 

 

 …んぁ? 腹が減ってる? …ウスアジ食べたい? そういや、この前カジキマグロを釣り上げた時に一匹釣れたような………そんな目するなよ。ホレ食えよ…。

 

 

 

 …これだけで「ひょっとしてイイ奴」なんて、チョロいぞオイ…。

 まぁいいや。とりあえず今日はもう寝る。雑魚寝どころかその辺の土で寝る事になるけど、2~3日くらいなら問題は無い。茣蓙でも敷いておけば、ハンター式熟睡法には充分だ。

 

 

 

HR月

 

 

 さて、折角こっちのメゼポルタ広場に来たんだから、こっちでも依頼を受けていかないとな。

 トッツィも、中々頑固な所もあるようだから、賄賂…もとい、飯を要求された時に応えられるようにしておきたい。アイルーに貢ぐ日が来るとは…と思わなくもないが、これで信用が得られるなら安いものだ。

 

 さて、こっちでの依頼を見てみたが…うーん、あっちのメゼポルタ広場とあまり変わらないな。

 ま、丁度ハンターランクも上がったところだし、知らない奴に行ってみるか。そんじゃ、このパリアプリアってのを……うん? ギルドマスターからお話?

 

 何かやらかしたっけ、俺…。まだ活動すらしてない筈だが。

 ギルドマスターと言えば、受付嬢達の近くに座っている竜人族の爺ちゃん。正確に言うと、ギルド支部(メゼポルタ広場毎に居るからね)のマスターなんだけど、どっちにしろ呼び出されるような覚えはない。少なくとも今回では。

 なんだかなー…校長先生どころか社長に呼び出される気分だよ。こればっかりは何歳になっても心臓に悪いね。

 

 

 

 

 まぁ、話自体はアッサリ終わったし、内容も悪い物じゃなかったけど。

 見込みのありそうなハンターに直接教える、フロンティアに伝わる…いや、確立されたのは最近だって言ってたな…奥義のようなものらしい。

 本来は上位ハンターになってから教えるのだが、俺の場合は何やら推薦があったとか何とか……誰だ? 今回はこっちに、俺を推薦するような関わりを持った奴は居ないぞ。

 ちょっとキナ臭いものを感じなくもないが、とりあえず技は覚えるに越した事は無い。

 

 

 

 曰く、超越秘儀・六華閃舞。

 

 最初に聞かされた時は「大仰な名前だな」と思ったけど、超越と秘儀と六華閃舞はそれぞれ別物らしい。楽市と楽座かよ。ややこしいわ。

 

 ちなみにその実態は……まず超越秘儀は、武器に宿る力を引き出してハンターの力を底上げする、と言うもの。超越はハンター自身に何かしらの付与効果を与え、秘儀は属性攻撃を強化する。

 繰り返し使い、練度を高めないと充分な効果は望めないものの、手間をかけるだけの価値は保証する…とギルドマスターは言っていた。

 

 対して、六華閃舞は超越化状態になって引き出された武器の力を使い、モンスターに大ダメージ+状態異常を起こすもの。

 閃舞と言ってる割には、ミラボレアスの鱗すら平然と剥ぎ取る謎性能の剥ぎ取りナイフを、一刺しするだけなんだが…まぁ、ここら辺に色々コツと言うか文字通りの秘伝があるのだが、下手に漏らすとギルドナイトに闇系されてしまうらしいので秘密。

 とにかく、充分な下準備を行っていれば、その一刺しでモンスターが麻痺したり凍ったり爆発したりするというものだ。普通に考えて有り得ない現象だけど、フロンティアもモンスターにもハンターにもそんな常識は通用しない。実に今更である。

 要するに、モンスターを相手に北斗神拳する訳な。

 

 

 この上に、更にレジェンドラスタ以上の力を付けたハンターの中には、秘伝開眼奥義なる大技を身に着けた者も居るらしいが…まぁ、これは話半分に聞いておくか。

 

 

 ふーむ、ここへきて更に手数が増えるか。しかも色々応用が効きそうだな。話を聞いて、まず最初に引っ掛かった事は…『武器に宿る力を引き出す』という点だ。

 そもそもからして、最終兵器鬼杭千切で使ったらどうなるか、という思いもあるが…一番気になるのは、その一歩手前だ。

 鬼杭千切も、ゴッドイーターが使う神機である事には変わりない。そして、俺は未だに神機の全力を引き出す事に成功してない。…偶然出来ちゃった事は、2,3度あるが。

 

 

 …そう、ブラッドレイジだ。

 

 

 神機を持って超越秘儀を使ったら、ひょっとして任意で発動できるようになるんじゃないか? 今は発動には唯でさえ厳しい条件があるのに、それで発動する保証すらない状態だ。

 もしもこれが実現したら、ある程度安定してブラッドレイジを発動させる事ができるようになる。しかも、聞くところによると、超越秘儀は繰り返し使う事によって、徐々に強力になっていくと言うではないか。

 …凄まじい戦力アップになるな。

 

 今すぐにでも試したいところだが、流石に場所は選ばなければ。フロンティアには大勢のハンターが居るからして、下手な狩場で使うと近所から誰かが見ていた、なんて事になりかねない。実際、クック先生を蹴りで叩き落した時には、それを何処からか見られていたからな。

 …フロンティアなら、「そういう事もある」の一言で流されてしまう気もするが。

 

 

 ふむ………ま、とりあえず今日の狩りに行っておくか。超越秘儀は戦力計算しない方向で。

 ぶっつけ本番はロマンだが、現実の狩りに持ち込むべきではないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …忘れてた。パリアプリアってゲロ竜だったっけ…。しかも、依頼内容(サブクエですな)が『パリアプリアに飲み込まれた○○の回収も頼みたい』だった為 もうエラい事になってしまった。ババコンガ亜種とどっちがマシかなぁ…。

 

 

 

 

 

HR月

 

 

 3日ほどトッツィの居る広場に居座って、朝昼晩と気紛れに狩りを続けていたが、土産の魚のおかげか随分と態度が軟化してきたように思える。

 何のつもりかよく分からんが、「一人でモノブロスの亜種って狩れるかニャ?」とか言ってきた。……あれって、基本的に一対一での狩猟じゃなかったっけ? いや、俺がMHFやってた頃の話だし、そもそも現実には……ああ、乱獲を抑える意味も兼ねて、複数人での討伐は厳禁とする、みたいな話も聞いた事があったな。

 

 とりあえず、リクエストするなら行ってくるぞ。特に何を狩ろうって目標があった訳でもないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …と言って出てきたんだが、トッツィ、無理だわ。

 

 

 

「…やっぱりハンターなんてそんなモンニャ」

 

 

 そりゃハンターやってる以上はそうだろう。そうでなくても、自然の法則にゃ逆らえんわ。

 繁殖期に亜種は狩れん。

 

 

「…? 何を言ってるニャ。訳の分からない事を。…もうハンターなんて」

 

 

 だってモノブロス亜種のクエスト、寒冷期にしかねーんだもの。ハンターやってる以上、ギルドのルールは無視したら、唆したお前ごと闇系されるし、それ以前に寒冷期しか目撃情報がねぇんだよ。

 

 

「え……そ、そうなのニャ? てっきり、他の亜種みたいに時期を問わずに出てきてるものと」

 

 

 まー寒冷期は暫く先だから、気長に待ってくれぃ。見かけたらクエスト受けるから。

 

 

「う…うーん…これって逃げ…でも確かに居ないんじゃ…それを探し出してこそ…でもギルドナイト案件はヤバすぎニャ…」

 

 

 ブツブツ言い始めたトッツィは置いといて…そろそろ一度、拠点があるメゼポルタ広場に戻るつもりだったが、もうちょっと居た方がよさそうだ。よく聞き取れないが、トッツィが言っているように逃げたと思われるのも癪だ。

 それに……。

 

 

 

「…………」

 

 

 視線を感じる。入口の方からだ。誰かは分からないけど…………って、おい、隠れてるつもりかソレで。鎧が太陽の光を反射しまくってるぞオイ。

 金色の鎧…全身鎧だな。光の量からして、文字通り全身キンキラ……いや、兜だけ無いか?

 

 こんな特徴的な恰好…ハンターなら装備もあるにはあるが、これは…。

 とりあえず、狩りに行くと言ってトッツィの洞窟から出て。

 

 

 

 

 

 

 …何か用でもありますか、レジェンドラスタさん。

 

「ああ、態々すまないね。…僕がレジェンドラスタと言う事を知ってるのかい」

 

 

 フンドシ露出狂…もとい、エドワードさんか。いつぞやのループ以来…。

 そりゃ、何度かラスタ酒場で見かけましたし。キンキラキンで特徴的だし。

 

 

「それは嘘だね。これでも僕は、人との縁を大切にしているんだ。たった一度であろうと、僕が居る間に酒場を訪れた人なら、一度でも顔を合わせた人なら全て覚えている。断言するが、その中に君は居ない」

 

 

 …マジか。ラスタ云々とは別次元で凄いな。

 

 

「同時に、君がそうやって何かを誤魔化す為、嘘をついたと言う事も断言できてしまう訳だ。…だが、それは今はいい。君はこれからも、あのアイルーに手を貸す気かね?」

 

 

 手を貸すっていうか…まぁ、出来る事があるならしてやらんでもない、って程度だが。今まで頼まれたのも、精々が飯とか、モノブロス亜種を狩ってきてほしい、とかだし。

 

 

「ふむ、この時期にモノブロス亜種が出たという話は聞いた事が…いや、確か以前には……どちらにせよ、クレストでないのに狩りをするのはご法度だね。…いや、今重要なのはそこではない」

 

 

 今後も頼まれたらやるのか、って事? まぁ…サムネ夫妻からも頼まれてるし、経緯と本猫の態度はどうあれ宿を借りてる身。一飯はないけど、一宿の義理がある。

 狩りに行く時、リクエストを受けたらちょっと優先してみるくらい、おかしな事ではないと思いますが?

 

 

「ハンターとしての本業のついで、と言う事か。それならば…いや、そうでなくても、僕に君の行動を止める権利は、確かにない。だが、メゼポルタの為に言わせてもらう。この先、彼らに深入りするのは止めたまえ」

 

 

 …彼、ら? トッツィ以外にも誰かいると?

 

 

「む? なんだ、まだ会っていないのか。…いや、これ以上僕から語る事は止そう。僕が君に言う事があるとしたら、先程と同じ事だけだ。彼らに深入りするのは止めたまえ。…君に、いや、このフロンティア全域に災厄が襲い掛かってくる前に」

 

 

 それだけ告げると、エドワードさんは踵を返して去って行ってしまった。

 …災厄? この世界で災厄っつったら、古龍か、或いは津波や地震のような大規模災害だろうが…。でも古龍だと、レジェンドラスタ達に加えてキチ○イ級廃人がチラホラ居るこのフロンティアで、そこまで恐ろしいもんか? いや、古龍は確かに強力だし、フロンティアの古龍は別格な可能性もあるけども。俺の知らないとんでもない古龍が居てもおかしくないけども。

 んじゃ災害? それこそ意味が分からない。たった一匹のアイルーに手を貸したところで、何がどうなって自然災害が起きるというのだ。

 

 

 むむぅ……。前ループで少し一緒だっただけだが、エドワードさんは責任感がある人だ。虚言を吐くとは思えない。と言う事は、何かしらの根拠があるんだろう。

 だが、エドワードさんが言うような災厄が訪れるとは思えないのも事実。

 

 …トッツィに聞く…のは悪手だよな。自分が原因で災厄が起こるだなんて、誰が認めると言うのか。ようやく(まだ会って一週間も経ってないが)チラホラと無駄口を叩く程度には気を許してきたと言うのに、ここで「お前は疫病神なのか?」とか聞いてみろ。へそを曲げるどころか、それこそ人間不信にトドメを刺してしまいそうだ。

 

 

 

 結局のところ、思ったように行動するしかないか。忠告は受けるが、それをどうするかは俺次第。

 今から祈っておく事があるとすれば、本当に何かしらの事態が起こりそうな時、それに気づいた時には手遅れでない事だけ。

 

 

 さしあたっては、あまり友好的ではないとしても、エドワードさんと繋がりが出来た事を喜んでおきますかね。…今日は露出も無かったし。それだけ真剣だったって事かな。

 

 




モノ亜種のクエストに関しては、この世界ではそうだったという事でお願いします。
調べるだけ調べたんですが、クエスト詳細が分からん…。


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241話

ふむ…うむ…。




誰かサムライウェスタン×EDF作ってくれねぇかなぁ…。
無双系じゃなくて死にゲー的に。
サムライソウルはプレデターにだって負けないって証明したい。



あれ、それじゃ銀魂系でいけばいいんじゃね?

追記 今気づいたけど、トッツィじゃなくてトッツイか。


HR月

 

 

 モノブロス亜種については、クエスト待ち。

 資金は…まぁ、そこそこ集まってきたけど、高級な道具の鍛冶をやったらすぐ消える程度だ。これは別にいいか。

 

 さて、トッツィに断りを入れてから、一旦拠点があるメゼポルタ広場に戻る。そして行う事は…。

 

 

 

 猟団の設立だ。

 

 

 ここで、今更ながらに猟団のシステムと、そして俺の目的を説明しておこう。

 まず猟団システムから。MHFのゲームでは、猟団員と専用チャットが出来たり、狩りに行く連れができやすかったり、更にイベント…いわゆる祭りに参加する権利が得られていた。が、言っちゃなんだがそれ以上の事は無かった。

 

 現実の場合だと、一言で「猟団」と言っても様々。何らかの目的をもって集まっている猟団もあれば、成り行きで人が集まっている団もあるし、一か所に定住せずに旅をしているキャラバン隊もある。

 何となく名前だけ猟団を作って、殆ど放置されている団もあるらしい。

 

 所属するのはハンターだけでなく、鍛冶師も居ればコックもオトモも音楽家も居る。場所や目的によっては、もっと専門的だったり珍しい職業についている人が所属する事もある。

 活動の仕方も様々だ。何か有事の際に助け合う、或いは多少の融通を利かせ合うだけの組織もあれば、狩りを共にする仲間を見つける為だけの組織もあるし、組織として資金や資材をプールして猟団員全員の為に共有する組織もある。

 

 

 俺が設立しようとしている組織は三つめだ。

 ただし、猟団員として狙っているのは……他の猟団から拒否されるような、ダメダメハンター達がメインである。

 

 そもそも、このフロンティアには、ハンターとして未熟な者が多すぎる。俺だって人の事を言えた義理ではないが、エシャロットや、先日会った彼女の友人達を初め、一つの武器しか使えず、それも十二分に振るえないハンター。名前ばかりのタカリのようなハンター。孤児の類であるゆえに教育を受けられず、文字すら読めそうにないハンターも居るそうだ。

 恐ろしい事に、ハンターに必須である肉体操作術すらマスターしてない者も多い。俺に言わせると、その状態で、小型であってもモンスターを相手に出来るというのが凄まじいと思うのだが。

 

 正直、勿体ないと思うのだ。危険がどうの、という以前に。

 そりゃ根っから根性が腐ってる奴立っているだろうが、そこまでアカン奴は…まぁ、使い方次第って事で。

 実力不足、資金不足、その他諸々の理由で燻っているハンター達を放置しておくのは、あまりに勿体ない。ある程度鍛えるなり、装備を貸す…のはハンター的にグレーゾーンだから、道具のバックアップを付けたりすれば、もうちょっと先に進めると思うのだ。

 

 

 何で俺がそんな事をするかって? …うん、確かに理屈で言えば、そうやってバックアップしても、俺にはメリットは殆ど無い。むしろタカられるだけタカられて終わる危険の方がずっと高い。

 でも、メゼポルタ全体からすればどうだろう? 戦えるハンターが、それで増えれば。いじけていたハンター達が復帰すれば。ちょっとずつでも、ハンター達の戦力が増えれば。

 

 

 …これまでの経験から考えて、今後、メゼポルタではデカい騒動が起きるだろう。それが、エドワードさんが言っていたようなトッツィ関連の事かは分からないが。

 そんな時、戦えるハンターは一人でも多い方がいい。

 それが俺のメリットだ。上手く行く確立は低いだろうが、このフロンティア全域で何かあったとしたら、俺がどれだけ気張っても足りる筈がない。その時の為、戦力を少しでも増やすのだ。

 

 上手く行けば、クサレイヅチを狩る時に手伝ってくれるかもしれないからね。人海戦術でフルボッコにしてやりたい。

 …これが本命の理由だったんだが、よくよく考えてみりゃアイツの特殊能力に耐えられず、棒立ちになる可能性の方が高かったな。

 

 

 ついでに言うと、危惧した通りにタカリ共にタカられるだけ、となっても、労力以外は大した痛手にならない。死んだら何もかもリセットされるから、いくら損しても問題ないのだ。

 これを悪用すると、借金するだけして豪遊し、取り立てが来たら死んで清算する、と言う事も出来てしまう。…割に合わんから、やらないけどな。 

 

 

 

 

 さて、肝心の猟団だが…設立するだけなら、大した手続きは必要ない。と言うか、ぶっちゃけギルドの許可を得る必要はない。

 何故なら、猟団というのは基本的に、個人が勝手に作ったグループだからだ。そのグループを使って商売するとかいうなら、然るべき場所に届け出を出さなければいけないが、少なくとも今は必要ない。

 デメリットと言えば、祭り…入魂祭等に参加できない事か。ま、これはその時になってから申請すればいいだけだが。

 

 そんな訳で、猟団を名乗ったはいいものの、現在は団長である俺一人のみ。サムネ夫妻を誘ったものの、「めんどいニャ」の一言で断られた。ちくせう。

 

 

 さーて、まずは勧誘から始める訳だが…その辺で燻ってる奴を取り込む為、まずはエサを造らなければいけない。猟団に入るメリットだね。資金とアイテムの共有化。

 アイテムと金の在庫を考えると、養えるのは多くて3人ってところか。流石にこの段階で持ち逃げされると困るから、入団させる人を選ぶか、監視をしておかなきゃいかんな。

 

 現時点で信用できそうで、話に喰い付きそうなレベルの知り合いと言えば、エシャロットと友人の4人組くらい。話は持って行ってみるけど、全員纏めて面倒を見る…というのは無理だな。資材的にアシが出る。

 さりとて、メインターゲットであるとはいえ、そこらのタカリハンターは………ん?

 

 

 

 

 …何だ、今ティンと来たぞ。散歩しながら考えてたんだが……ちょっと戻って。何か気になる奴は…………居た。

 家具屋の近くにある岩に座り込んでいるハンター。…だけど、何で気になったんだ?

 

 ふむ…凄腕なのは間違いない。下手すると俺以上。しかし、覇気の無さが気にかかる。なんだ、女にでもフラれたか。…考えてみると、ループが始まってからはフラれた事がないような。…始まる前? そんなロマンスもなけりゃ、告白する度胸もなかったよ。

 武器は……ライトかヘヴィかは分からないけどボウガンだな。下手しなくてもG級と見た。

 そんな人が一体何やってんだ?

 

 ……あ。服の隙間から見える包帯。あれは…かなり酷いな。よく生きてたってレベルだ。

 と言う事は…まず間違いなく後遺症がある。…そうか、そこまで昇り詰めておきながら、廃業宣言喰らってしまったか…。そら呆然自失になるわ。衝動的に自殺…とまではいかなくても…。

 

 

 

 

 

 ふむ。人の弱みや、心の傷に付け込むようなやり方だが…釣れる、か?

 ………治療の可能性があるのは本当の事だ。これでも一時期は仙人様なんて呼ばれてた身だし、本業の医者とは別口の治療法は幾つか心得ている。

 それにしたって、G級のハンターが引退を余儀なくされるような傷……。可能性はともかく、あまり無責任な事は言えんな。

 そうでなくても、俺みたいな(公式には)新米ハンターが言う事なんぞ、どれだけ信じられるか。…口先三寸、か。エロい言葉攻め以外は苦手なんだけどなぁ。

 

 

 とりあえず、隣に座る。一瞬だけ目を向けられたけど、それも単なる反射で、意識が乗った目じゃなかった。

 ……これから、癒えてもカサブタになってもいない心の傷口をグリグリするのか。ポンポン痛くなってきた。

 

 

 

 ………か、会話の切っ掛け……。

 

 

 

 ……ライトですか。ヘヴィですか。

 

 

 

「………どっちもだった」

 

 

 過去形…。ひ、怯むな!

 医者は何と?

 

 

「…お前には関係ない」

 

 

 はい返す言葉もありません。…なんだけと、ちょっと引っ張らないと…。

 やっぱ俺が口先で信用を得ようって考えが間違いか。

 

 

 …失礼。タマフリ・治癒…。

 

 

「何をしてる……。もう俺に構うな」

 

 

 …腕の傷、塞がってると思うよ。

 

 

「…貴様、俺をそんなに笑いもの…………!?」

 

 

 流石に表面の傷を塞いだだけですが、医者とはちょっと違うやり方でこーゆー事が出来まして。…事情はお体を見て、大凡の所は察しています。

 確約はできかねますが、時間をかければ一縷の望みはあるかと。お年寄りの腰を治した実績もあります。

 

 

「本当…なんだな?」

 

 

 断言できない所も含めて、全て。

 

 

「充分だ! またハンターとして復帰できるなら、何だってやる!」

 

 

 ん? 今、なんでも(ry

 対価は…名義貸し、かな。旅団を設立したんだけど、まだ団員が誰も居なくてね。高名なハンターだとお見受けしたが?

 

 

「これでも、伝説のガンナーなんて言われた身だ。…それで調子に乗って、このザマだがな」

 

 

 …フロンティアでも名が知れてる?

 

 

「業界関係者の間では、己惚れでなければな…。まぁ、俺の名前より、俺が開発した技の方が知られているが。最近では、難しすぎるから簡易的にしたものを研究しているらしい」

 

 

 充分。じゃ、とりあえず今日の治療を出来るだけ進めて、その後に猟団の目的について説明します。ここでは何だから、俺の拠点でいいですか?

 

 

 

 

 

 …そういう事になったのだ。まー随分とトントン拍子に話が進んだな、という感はあるが、まぁそーゆーもんだろう。今までだって、揉め事にせよ誰かとのつながりにせよ、来る時はドバッと押し寄せてきたものだ。

 それだけ、後々厄介な事が待ち構えている、と思った方がいいけども。

 

 

 

 

HR月

 

 

 初の団員の状態だが、とりあえず表面上の傷は治った。が、それだけでハンターに復帰できる訳がない。

 詳しい状態を聞いてみると、思っていた以上に酷かった。特に両足は、常人がこんな傷を受けたらもう歩く事すらできないだろう、ってレベル。と言うか即死だわ即死。

 

 俺としても、ここまで酷い傷は治した事がない。増して、相手はハンターとは言え一応普通の人間だもんなぁ…。

 半ばアラガミと同類と言ってしまえるゴッドイーターなら、外科手術も含めればどうにかなったかもしれんが。

 …ああ、そういや俺は俺でブッた斬られた腕を再生させた事ならあったっけ。まぁ、あれはブラッドレイジ状態で切断面を付けたら勝手に治ったんだが。

 

 ふーむ、別の世界の道具や技術を素人ながらに駆使して、どれ程効果が望めるか。と言うか素人がそこまで高度な治療ができる筈もないんだが、だからと言って「やっぱ無理」と放り出すのは不義理に過ぎる。呆然としているところを、傷を抉ってまで引き込んだのだ。最低限、出来る事は全てやらなければ。

 ま、初日と考えると、表面の傷が治っただけでも充分かな。ちゃんと飯食ってオヤツ喰って夜食食って寝ろよ? 即席で体治してるのは否定できないから、エネルギーが足りなくなるぞ。

 足が治る頃には、家具屋のオッサン並みの体系になってるのも覚悟しといた方がいい。

 

 

 

 

 …具体的にどうやって治すかは、現状では3通り考えている。

 一つ目。オカルトパワーを信じて、長期間ゆっくりと治癒やそれに近い術を施していく事。安全だが、一定以上の効果が出るかは非常に怪しい。

 二つ目。結果的に体が思い通りに動くようになればいい訳だから、自分の体を…そう、まるで操り人形のように、外部からの干渉で動かせるようにする。確実性はこれが最も高いと思うが、要は松葉杖をついて狩りをするようなものだ。手法は多岐にわたるが、技術の習熟に非常に時間がかかるし、体得したとしても何処まで使いこなせるか。

 三つめ。人体改造。ゴッドイーターや触鬼としての『何か』を体に埋め込む。超危険。成功すれば、俺のような色々規格外スペックを持ったハンターが生まれるだろうが、この世界に居る筈のないモンスターが生まれる可能性が非常に高い。そもそも、やり方からして分からないので、俺の髪の毛とか爪とかを喰わせてみる、というカニバリズム一歩手前の真似をしなければならない。と言うか、その方法で相手が人外に変化するのなら、今まで散々に俺の体液を注いできた女性達は、とっくに人外になっている筈である。

 

 …一つ目と二つ目を並行して進めるか。具体的には、本人にも霊力を覚え、自分で自分の治療が出来るようにする。

 また、俺にもあまり馴染みのない技術だったが、タマフリスタイルの「操」…博士が使っていたあのスタイルを応用すれば、式神を操る要領で自分の体を操れるようになるかもしれない。後で実験してみよ。

 

 

 

 さて、治療の事も重要だが、猟団の事だって重要だ。その為に引き込んだんだしな。

 猟団設立の目的を、ループの事を除いて可能な限り話したところ、「正気か?」と大真面目な顔で言われた。まーそりゃねー。戦力にならない奴らを掻き集めて、タカられる前提で猟団を造ろうなんて、まともな考えじゃないわな。

 叩き上げのハンターである彼からすると、受け入れづらい事でもあっただろう。ハンターは体一つで勝負し、自分の実力が全て。仲間に頼る事はあっても、縋る事はありえない。

 

 だが、これも復帰の為の取引だと割り切ってくれた。…できれば、結果を出して「これも一つのハンターの形だ」と思わせてやりたいんだけどね。

 ま、その為には何はともあれ、猟団員を集めなきゃ。相談したのだが、勧誘はトッツィが居るメゼポルタ広場でやるといい、と言われた。何せあそこは人が多いから、それだけ興味を示してくれる人も居るだろう、という考えだ。その分、タチの悪いのも多いんだろうが、そういうのを更生させるのが最大の目的であり手段なんだしね。

 あっちの知り合いに話を通しておいてくれるそうだ。…ただ、その知り合いとやらは立場ある人物らしく、猟団に入る事はできないそうなのだが。

 

 暫く治療の間が空く事になるが、その間は自力でリハビリを頑張るらしい。

 ま、確かに怪し気なオカルトパワーをアテにして、体を訛らせ続けるだけじゃな。今だからこそ、体を動かす事で見えてくるものもある筈…と自分に言い聞かせていた。

 うーむ、流石伝説とまで謳われた(らしい)ガンナー。一度立ち直ると、精神力も非常に強いな。

 

 

 

 

 さて、そんな訳で、手紙を携えてトッツィの居るメゼポルタ広場に戻ってきた。手紙はギルドマスターに預け、適当に一狩行ってからトッツィの元へ。

 …今回の狩りは、白い………ええとその、原種と言うかビッグなだけでノーマルと言うか、その割にはなんか皮がタレてるフルフルだった。文字通り皮が余ってるのにデカい御立派様にしか見えなかったよ…。雷のブレスの白っぽかったし。

 とりあえず、カツレイして縦に叩き斬っておきました。ヒェェェ

 

 

 帰ってきたら、もう夜中。勧誘は明日からだな。………あれ、この足跡…。まぁ、もう立ち去ったみたいだからいいか。

 …お、トッツィ、夜更かしさんだな。猫なのに。

 

 

「猫とアイルーは別物ニャ。どうしたニャ、モノブロス亜種は狩ったのかニャ?」

 

 

 だから寒冷期まで待てって。普通のモノブロスなら、訓練も兼ねていってきたが…亜種は原種に比べてかなり速いんだってな。動きがそのままなら、安全マージンとってりゃ何とかなると思うが…。

 

 

「モンスターを舐めすぎニャ。追い詰められたモスは、時に思いもよらない力を発揮するニャ。…いつだったか、重装備のハンターを一発でリタイアさせたところを見た事があったニャァ…」

 

 

 …都市伝説だと思ってたが、赤いオーラを纏った通称『史上最弱のモス』か…誰が呼んだんだろうなぁ。

 ところで、今日と言うか昨日って誰か尋ねてきた?

 

 

「? 誰も来なかったニャ。お前以外のハンターなんて来ないニャ。来ないでほしいニャ」

 

 

 ふーん。と言うか俺はいいんだな。

 

 

「…モノブロス亜種を狩るならニャ」

 

 

 信頼の前借してる訳だ。責任重大だねぇ…。

 さておき、猟団作ったんだよ、俺。所属してくれてるのは、大怪我して当分リハビリが必要な一人だけなんだけど。

 

 

「そりゃ寂しいと言うか侘しいお話だニャ。言っておくけど、入れって言われてもダメだニャ。モノブロス亜種どころか、アカムトルムを狩ってもダメだニャ」

 

 

 あらそう、それは残念。

 

 

「…絶対に、あの方が輝きを取り戻すまでは…」

 

 

 ……あの方、ね。ふむ。

 

 

 

 

HR月

 

 

 朝。勧誘に行こうとして、洞窟の外に出ると、特徴的な足跡を発見した。いや特徴的っつったって、鷹の目でなきゃ普通に見落とすし、見ても俺以外にはまず判別できないと思うが。

 ついでに言うと、俺だって足跡だけ見ても、その人の特徴を把握する事は難しい。分かるのは、歩幅から予測する体格と装備と性格と大雑把な戦闘力くらいだ。…意外と分かるな。

 

 まぁ、今回の靴跡についてはよく知っている相手のものだったから、すぐに分かっただけだ。

 

 

 フローラさんだ。以前のループでは、フラウさん共々ネチャネチョしまくった相手だもの。一発で分かるよ。ちなみに足の指の間や踵の味もよく覚えています。

 

 …思い出したらムラっとしてきたが、この辺には水商売のオネーさんすら居ないんだよなぁ…。狩りの後で滾ったハンターのお相手とか、絶対需要があると思うんだけどなぁ…やっぱ最前線だから、危険すぎるのか…。

 まぁとにかく、昨晩もそうだった。あれはフローラさんの足跡じゃなかったが、歩調からしてかなりの実力者だと思う。

 …というかもうぶっちゃけて言ってしまうが、レジェンドラスタが度々この洞窟に訪れているんじゃないか? 洞窟の中まで入りはしないようだけども。

 

 で。

 

 

「やぁ」

 

 

 今度はエドワードさんね。よく会いますな。

 

 

「まだ二度目だし、どっちも君に会いに来たんだけどね」

 

 

 ………ケツを抑えるべきか、見せつけられないように目を覆うべきか…。

 

 

「どちらでも構わないが、耳と口は自由にしておいてくれ。…少し、話がしたいんだ。散歩がてら、一緒にあるかないかい? …ここで僕と話しているのをトッツィにみられると、後が面倒………ああ、遅かったか」

 

 

 トッツィ? 気になるんなら、洞窟の外に出て来いよ。

 と言うか、お前エドワードさんと面識あんの? なんか険悪な仲っぽいけど…。

 

 

 呼びかけてみるが、トッツィは動かない。…動けない? すぐにでも踵を返したいようだが、最期の最後でとどまっている…のかな?

 いや、それとも信じかけた矢先に裏切られたと思って、ショックで自失したか?

 

 

「彼に気付かれたのであれば、もう直接この場で聞いてしまうが…僕は君に忠告した筈だ。災厄が訪れる前に、彼らに手を貸すのを辞めろと。何故、彼らに入れ込むのかね?」

 

 

 アイルーにちょっと手を貸したくらいで、何が起きるっつーんすか。そもそも入れ込むも何も、「信用してほしければモノブロス亜種を狩れ」って言われた程度ですが?

 と言うかトッツィ動かない。どうしよ。

 

 

「……今日、僕がここに来たのは、知人からの手紙を受け取ったからだ。そう、君の猟団に入った、伝説のガンナーと謳われた彼だよ。彼が、何を相手にして引退を余儀なくされたのか知らないのかい? …いや、知らないだろうね。語りたい事ではないのだから」

 

 

 その口ぶりからして、モノブロス亜種…か。妙な因縁が出来上がってるな。

 だが、それで引き下がるのがハンターの本懐とでも? それに、以前に忠告を受けたのは事実だが、それをどうするか決めるのは俺自身。エドワードさんだって、俺に命令や指図できる理屈はないと自分から認めた筈だ。

 

 

「確かにそうだ。だが、指図する権利はなくとも、このメゼポルタの、フロンティアの住人として、未曽有の事態を事前に防ごうとする権利はある。レジェンドラスタとしての義務もある。その上で聞きたい。君は、何故彼らに入れ込もうとするのかね? 君が設立しようとしている猟団とて、この為だろう」

 

 

 

 

 

 

 

 …はい?

 

「とぼけなくていい。彼からの手紙に書かれていたよ。いざと言う時の為、燻っているハンター達をもう一度立ち上がらせようというのだろう? …立派な事だ。その志を持つだけでも、結果がついてこなくても」

 

 

 いやその最初っから失敗するような前提で話されても。無理はないと理解はしてるんだけど。

 

 

「彼らと……彼女の為に、力を砕く。それはいい。僕らにも止める権利はないし、応援したいとさえ思う。位高ければ徳高きを要す。本来、僕が担うべき役割でさえある。だが、それに伴うリスクは大きすぎ、数多の人に降りかかるだろう。だからこそ、その中心となっている君に聞きたい。災厄が訪れる事を知っていて、何故彼らに手を貸すのかね?」

 

 

 …あのー…だから、トッツィ達に手を貸しても、それで何が起こるとは考えてないんですけど…。

 

 

「…む? 確かに先程も、そう言っていたが…では、何故猟団を? 彼らに手を貸す事で巻き起こる、災厄に対抗する為なのだろう? とぼけなくていい。彼からの手紙に書かれていたよ。いざと言う時の為、燻っているハンター達をもう一度立ち上がらせようと………(ry」

 

 

 

 

 

 

 

 …閑話休題。ぬぅ、この人話が通じるような通じないような…。話している間に、トッツィも辛うじて立ち直ったようだ。

 で、丸3時間くらい、同じような堂々巡りを繰り返して。

 

 

 

「成程。どうにも話が噛み合わないと思ったら、そういう事か。君は彼らと彼女に関係なく、このメゼポルタに大きな何かが起こると考えているのだね」

 

 

 ええまぁそーゆー事です。たったこれだけを分かってもらう為だけに、えらい時間食ったなぁ…。なんかエドワードさん、GE世界のエミールに通じるところがあるような気がする。何度も同じ道を繰り返し通っても、全く疑問にも負担にも思わない辺りが。と言うか一言一句を何度繰り返した事か。仕舞にはトッツィの視線が、呆れに替っていた。…まぁ、それでちゃんと話ができるほど冷静になったと思えばな…。ワザとかな?

 

 

「ならば、尚の事問わなければなるまい。何故、君はそのような猟団を立ち上げようとする? そこまで災厄到来の確信を抱かせるのは、一体何なのかね?」

 

 

 …何、と言われてもな…。これまでのループの体験談でしかない。

 しかし、それを説明する事も証明する事も不可能だ。ならば…。

 

 

 最近、あちこちでモンスター達に異常が起こっている、と言う話は聞いた事がありますか? 有名どころで言えば、狂竜症の蔓延、異常な行動をとるモンスター達の噂、その他諸々。

 よくある事と言ってしまえばそれまでです。モンスターの行動は人間には理解できませんから。

 

 だけど……胸騒ぎがします。俺だけじゃない。漠然とした不安を何年も前から感じている人も居ます。…とあるギルドナイトも、その不安をずっと抱えていました。

 

 

「だから、大きな異変が起こると? …申し訳ないが、それは根拠にはならないよ」

 

 

 ええ、分かってます。所詮、これは俺一人の感想、予感でしかない。だけど、どうやったって確信を崩す事ができない程、俺はこの予感を信じてしまっている。

 だから、無駄になればいいと思っていますが、その為に猟団を作ります。

 

 

「…そうか。繰り返すが、僕には君に指図する権利はない。だが、やはり忠告させてもらおう。猟団の事はともかく、彼らに深入りするのは止めておきたまえ。……引退を余儀なくされたハンターになる前に」

 

 

 

 …そう言って、エドワードさんは去っていった。残されたのは、俺とトッツィ。…気まずいな。

 トッツィから物凄く視線を感じる。どうするつもりだ、と問われているようだ。

 

 

 …どうもこうもないけどな。モノブロス亜種は、依頼を見つけたら狩るだけだ。これはトッツィからの頼みではなく、俺が一ハンターとして狩るだけだ。

 エドワードさんの言葉も、ウチの団員の因縁も、トッツィの信用も関係なしに。

 

 と言う訳でトッツィ、現状維持のままでいいな? モノブロス亜種を狩ったら、俺を信用するっての。信用信頼がそんな取引で出来上がるとは思ってないが。

 

 

「そ…そうニャ。それくらいのハンターじゃないと、信じられないニャ」

 

 

 目が泳いでいる。自分が出した条件が、思った以上に危険だったからだろうか? 無駄な意地を張ってるなぁ…。それで死者が出たら救われないが。

 さて、とりあえず勧誘行ってくるか。モノブロス亜種に関しては、とりあえずアイツに話を聞いてからだな。仇討ちって訳でもないけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 勧誘は…どうなんだろうな、これ。条件が都合よすぎて、信用できないんだろうか?

 俺が本気だって事と、実際にアイテムのバックアップをする事は信じられていると思う。実際、今日だって勧誘して「いいよ旅団に入るよ」と(ニヤけ顔を隠せてない)明らかなタカリ野郎にも、回復薬とかを惜しげもなく渡したりしていた。

 正直、「こいつチョロイ」みたいな目で見られたりするのはムカつくが、これも撒き餌の一環だ。

 

 

 



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242話

HR月

 

 

 味を占めたのか、タカリ達が度々来る。。回復薬は狩りに使ったのかそれとも昼飯代として売り払ったのかは微妙なところだ。

 と言う訳で、「何に使った?」と聞いたら「もちろん狩りに」と答えてくる。「よし、じゃあ今日も回復薬渡すから、一緒に行こう」と繋げます。明らかに面倒くさそうな顔をするので、報酬はほぼ持って行っていい、と約束する。…うむ、行きますかね。

 

 狩りの内容自体は、非常に簡単なもの。G級並のが出てくる訳でもなし、フロンティア以外と大差ないレベルだ。

 で、ここでちょっとポイント。ハンターであればペイントボールの匂いを辿って、モンスターを探す事は誰でもできる。…このタカリ達でも、辛うじて可能。これは特筆する事じゃない。

 が、俺の場合は普通じゃない追跡方法や探知方法が幾つもある。足跡を初め、食事のあと、フン、その他諸々。人間にも応用できる追跡術だ。と言うかタカの目万能すぎ。

 

 

 …ん? 何がポイントかって?

 

 

 

 そりゃ、猟団員がアイテムとか持ち逃げしたら、軽く見つけ出せるよって話だよ? まぁ、別に問題ないよね。逃げなきゃいいんだし。会費とか取ってる訳じゃないから、所属し続けた方がメリットあるでしょ。

 もうみんな猟団員だろ? そういう話で同意して、昨日もアイテム渡したんだしさ。 なーに、別にノルマがある訳じゃないんだ。今回みたいに、一緒に行く時は報酬半分以上そっち持ちだから。

 

 

 

 …いや? 脱退したり逃げたりしても、何かするとは言ってないよ? しないとも言わないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …とまぁ、ちょっと脅かしておいた。自分達が何かの罠にかかった、或いはタカるつもりで釣られた…と言うのは半分くらいは気づいたようだが、それでどうこうとは言わなかった。

 事実、一緒に行った狩りの報酬は約束通りに半分以上渡しているし、アイテムのバックアップもしている。装備を作る為の資金すら提供していた。まぁ、流石に金に関してはしっかり領収書持ってこさせたが。

 

 それに、タカリ連中も、全員が全員、芯から根本から完全に腐っている訳ではないらしい。「これだけバックアップされてるなら、ひょっとして自分で行けるんじゃないか?」と思い始める連中がチラホラ出始めている。

 そういう連中と狩りに行く時は、あまり出しゃばらず、彼らの援護に努めるようにした。

 

 何度も傷ついたが、それでもモンスター(中型)に立ち向かう姿は、正にルーキーハンターそのものだ。人によっては「この程度の相手に無様すぎる、見ていられない」とさえ言いそうな戦いを経て、勝利の雄叫びをあげるハンター(中年・多分教官より年上)。

 その狩りの後で、浴びるように酒を飲んで…勝利の味と、無駄にしてしまった今までの時間を悔いていた。一頻り泣いた後は、随分と面構えが変わっていたものだ。

 …たった一度の勝敗が、人生を決めてしまう事もある…か。今回の勝利は、あのハンターをいい方向へ導くものだと思いたいな。

 

 

 

 …俺の計画通りにコトが進めば、古龍ないしクサレイヅチとやりあう運命が待っている訳だけども。

 

 

 

 そのハンターと、デンナーが話しているところを、ちょっと耳にしてしまった。

 …デンナー? 渾名。あっちこっちで「伝説のガンナー」と呼ばれてるけど、どういう訳だか名前を名乗りたがらないんだよな。まぁ、気持ちは分からんでもないが。故郷特有の名前だそうだけど、大の男が名乗りたいもんじゃないわアレ…。だから本人の了承を得て、デンナーと呼んでいる。

 尚、次代を超える電車の名前に似てるけど、特に関係は無い。

 

 ともかく、その会話の内容だが…俺の事と、今後の事だった。

 まぁ、当然というかなんというか、やっぱり怪しまれてるよなぁ。訓練所を卒業して一か月にも満たないという経歴と、自分で言うのもなんだがそれに見合わない実力、怪しげな治療能力。タカリハンター達を更生させ、戦力にしようという考え。その為の切っ掛け作りという名目で、自分の報酬は猟団運営の為の最低限を除いて放り投げる。しかも、最初から一方的にタカらえるのさえ前提にしている。

 

 猟団員(と言う名のタカリ達)にも、俺の言動を怪しんでいる者は沢山いる。それでも脱退しないのは、「逃げたらすぐに見つけ出せる」という脅しが効いているから……ではなく、今現在の状況が「オイシイ」からだ。

 自分だけで狩りをするよりも、ずっと儲けが大きい…何せ、俺が報酬を半分以上投げている上に、アイテム、装備作成に必要な金は猟団から出しているのだ。安全とまでは言わないが、非常に少ない負担で、大きく利益が出る。…この状況を捨ててまで、他所へ行ったとして、そんな都合のいい寄生先が見つかるか?

 自分で言うのも何だが、まず無いだろう。そういう風に、報酬の分け前協定なども決めている。…スゲェ頭痛くなったけどな…。パピを掻っ攫ってきて、運営を任せてしまいたくなった。

 

 そんな訳で、何かしっぺ返しがあるんじゃないかと警戒しつつも、タカリ達は逃げるに逃げられなくなっている訳だ。中には、バックアップ付とはいえ自力で狩りを成功させ、自信をつけて立ち直る者や、ハンターとして再出発しようと考える者も出て着た。

 再出発しようとしている元タカリ達は、体が鈍っている者も多い為、俺が鍛える事になるが…うん、案外悪くないわ。根が臆病なのは否定できん連中だからか、慎重さは持っている。危険を無暗に犯さないのは、ハンターとしていい素質だ。

 

 

 ちなみに、デンナーは言うまでもなく治療が目的。立ち直った彼……シダ・コーヅィは……まぁ、切っ掛けをくれた俺に、出来るところまでついていく…と言ってくれる。ちょっとグッと来たな。できれば女の子に言ってほしいもんだが。

 …今のところは、俺の目論見は上手く行ってると言えるだろう。

 

 

 

 

HR月

 

 

 デンナーに、モノブロス亜種の事を聞いてみた。物凄い顔をされたが、見つけ出して狩る…と伝えると、もっと複雑な顔になった。

 …別に、デンナーの敵討ちを考えてる訳じゃないぞ。言っちゃ悪いが、生死をかけた狩場の中で、しくじったのはデンナーだ。モノブロス亜種だって、生きる為に返り討ちにしただけだ。それを本人でもない者が怨恨の理由として、命を刈り取ろうとするのは…色々な意味で冒涜だ。デンナーだって、それは望んでないだろう。

 

 できれば、立ち直ってから決着をつけたかった? …まぁ、そこは分からないでもないが、いつになるか分からんらな。

 あと、伝説のガンナーと呼ばれた自分でも勝てなかった相手に、俺みたいなルーキーハンター(と言う事になっている)が勝ってしまったら非常に複雑。いや勝つに越した事はないんだけど。もし万が一があったら、自分の治療も猟団も全て台無しになってしまう。

 実に自分本位な言いようだが、まぁ当然か。結果的には、俺を心配してくれているのは事実だし。

 

 

 ん? 俺がモノブロス亜種を狩ろうとする理由? あー、一言で言えば、あっちのメゼポルタ広場で協力者を作る為かな。

 必須って訳じゃないんだが、まぁ義理もあれば建前も必要だしね。一度は狩るっつった以上、成否はともかく可能な限りの事はせんとな。それに、猟団の実績にもなるだろう? 今は何だかんだで、あんまり評判がよろしくなかったハンターの集まりと思われてるし。

 

 

 

 

 …と言う訳で、デンナーに色々話を聞いたところ、モノブロス亜種の場所が判明した。どうやら冬眠し損ねた(するのかは分からんが)個体のように、色々苛立っている危険な状態らしい。放っておくと、生態系に影響が出る=フロンティアが騒乱の渦に包まれる切っ掛けになりかねないレベルだとか。

 その為に、デンナーに依頼が回ってきたのだが…まぁ、失敗談を細かく話すのは止めておこう。

 

 そういう訳で、依頼を受けたんだが…流石に止められた。デンナーでさえ後れを取ったモンスターを、G級にもなってない俺に任せられるか、という話だった。

 まぁ、一度止められただけで、強く申し込んだらあっさり通ったが。それで失敗しても、自己責任だからね。クエストを受ける為のハンターランクも、既にクリアしていたし。

 

 

 

 

 

 さて、同行を申し出る数人を断って、モノブロス亜種の元へやってきた訳だが……ふむ、あれが白一角竜。白っつーか白金っつーか、見事にギンギラギンである。

 亜種とは言え、なーんで砂漠であんな色になるかねぇ? 金は金で別の意味で目立ちそうだが、そっちならまだ辛うじて保護色になってただろうに。

 本当は雪山がモノ亜種の居場所だった……でもあんな巨体が潜って隠れられるような場所は……いやそれを言い出したら、ドドブランゴとか明らかに雪じゃなくて地面を掘ってるし…。

 

 まぁいいか。場違いな白金については、アルビノ的なナニカと考えよう。…だったらむしろ、体は弱い筈だけどな。

 

 

 

 

 

 だけど隣に居る、ディアブロス亜種(金冠サイズ…モノブロス亜種が小さく見える)は一体何ぞ? デンナーの話の中にも、あんなのは出て……いや、でも有り得る…のか? いかにモノ亜種が強力で、デンナーが油断していたとあっても、それでデンナーが引退するくらいの大怪我をするとは…。実は、もう一匹いて隠れて奇襲を受けたとか? でもそれならデンナーが黙ってる筈もないし、本人は「最後に受けた攻撃が何だったのかまで、嫌になるほど焼き付いている」と言ってたから、後ろから串刺しという訳でもない。ついでに言えば、デンナーだろうとレジェンドラスタだろうと、相手がカンタロスであったとしても、一歩間違えれば死ぬのが狩りだし。

 白黒が揃っているが、別段めでたいとも思わんな。

 

 そもそも双眼鏡を使って観察してみたが…あのディアブロス亜種、口元から黒い息が見えてんですけど? ……ディアブロス亜種って、産卵期に入った雌のディアブロスだったよな。うん、これはそういう時期だとして。

 なぁんであのディアブロス亜種は、ハンターが近くに居る訳でもないのに激オコしてるんですかねぇ? フロンティアにはそういう個体も居る、と言われれば反論もできないが、それ以上に気になるのは…。

 

 ディアブロス。常に怒っている状態。………片角…ではないのが唯一の救いか。

 仮に、マ王が同一個体でなく、ある程度の条件を満たしたディアブロスが進化した姿だとして…それをフロンティアで満たしたらどうなるか。ただでさえ強力なモンスター揃いのフロンティア。かつ、ブチギレ状態の亜種。更にマ王。お付きのモノブロス亜種。詰んだ。

 

 いやいやいや、トッツィ待って、これちょっと待って。流石にヤバすぎるって。

 あそこに突撃するのは狩りでもないし自殺とさえ言わないし。地獄巡りの一言よ? 或いは天上に辿り着けないダンテ。悪魔も泣き出す方じゃなくて、ベアトリーチェちゃんと一緒な方だ。ただし、途中で見捨てられる。

 

 

 …すぐに退散したいところだが、それならそれでギルドに事の次第を報告する義務がある。もう少し情報収集していくか。勿論、モドリ玉の準備も万全だ。

 何より、ディアブロス亜種とモノブロス亜種が互いを敵視してないのかも分からない。今は単に、イライラしてないから落ち着いているだけなのか。単なる通りすがりだから、危険を冒して追い払う対象として見てないだけかもしれない。

 

 

 

 

HR月

 

 

 念の為、隠れ場所を変えながらコソコソ観察。…ディアブロス亜種は、そのまま何処かに行ってしまったようだ。ふむ、通りすがりだったか。マ王候補とやりあわずに済んで、本当に助かった。

 …カンもいいディアブロス亜種だったしな。

 隠れ場所を変えて数分後、見事にそのエリアに飛び出してきたのが見えたよ。…あそこに居たら、確実に見つかってたな。おお、怖い怖い。

 

 

 さて、そんな訳で、今度こそモノ亜種の討伐だ。観察し続けていたおかげで、大体の能力は推し量れたし、細かい癖も分かった。それでも一歩間違えると非常に危険だが、やってやれない事は無い。

 大型相手の実戦で使うのは初めてになるが、超越秘儀の準備もオッケー。さぁ、一丁行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 うむ、乙りかけたけど、勝利! 初手奇襲で、尻尾を切断しておいて本当によかった…。崖の上にスタンバって、各種バフをかけての飛び降り攻撃から、六華閃舞で動きを止め、ラッシュで斬り飛ばした。

 

 仕留めた後で気付いたが、こいつのシッポおかしい。いや攻撃力がどうのって意味じゃなくて、こう…尻尾のデコボコがね、普通より大きくて堅いのよ。

 …観察している間にも、妙に尻尾を上手く使う個体だな…と思ってたが、アレだ。これ尻尾に岩とか引っかけて飛ばす奴だ。ただでさえ素早いモノ亜種に遠距離攻撃か…悪夢だな。デンナーはよく生きて帰れたもんだ。

 

 さて、デンナーの仇討ちなんてつもりはないが、心配してるだろうし、朗報を届けに行かなきゃな。トッツィへの報告は、その後でいいだろ。

 

 

 

 

 

 

 帰ってきました。ディアブロス亜種という心配事はあるけども、それは俺が考えるべき事じゃない。と言うか、いくら強力でも単品であれば、メゼポルタ広場で石を投げれば当たるくらいにひしめいている、廃人達の敵ではない。

 かく言う俺も、多分できない事は無い。モノブロス亜種の延長線上でやれるなら、だけどな。

 

 

 モノ亜種討伐達成の功績により、ハンターランクアップ。これで上位ハンターか…。早いもんだな。

 ていうか、フロンティアはG級がスタートラインみたいなもんだから、それこそ感慨に耽るには早すぎるか。

 

 

 同時に、猟団の名前もそこそこ有名になってきたようだ。尤も、そっちに関してはタカリの集まりという悪評もあるので、良くも悪くも、といった感じだが。

 先日、真っ当なハンターとして復帰した…改めて名前を認識したが、シダ・コーヅイ(高所恐怖症)を始めとし、低ランクながらもしっかりと狩りをこなすハンターも増えてきた。悪評が無くなった訳ではないが、「タカリ達が真面目に狩りしてる…どうなってんの…」みたいな目で見られるようになったきたようだ。まぁ、真面目に狩りしてるって認められるだけでも、現状じゃ上等だな。

 

 

 

 とりあえず、きょうの所は祝勝パーティと言う事で、猟団員全員で大騒ぎだった。

 特にデンナーは騒いだなぁ…。泣き上戸だったり怒り上戸だったりしたが、脱ぎ上戸はヤメロ。男の裸なんぞ見たくない。…思い上がってしくじって、ハンターを断念せざるを得なかった。それを、偶然俺と遭遇して、復帰の道が得られた。そして当の俺が、その原因となったモンスターを狩る…。

 色んな感情が渦巻いてるなぁ、あれは…。

 

 …とにもかくにも、デンナーの治療を考えなきゃな。本人の凄まじい執念も相まって、通常通りの生活を送るだけなら、ほぼ支障は無くなりつつある。この調子でいけば、俺がこのMH世界に居られる間には復帰できる…と思う。多分。やっぱりハンターボディは凄いね。

 

 

 

 

HR月

 

 

 トッツィの所に来た。俺がモノ亜種を狩った、と言うのは既に聞いていたらしい。

 えらい畏まって出迎えられたよ。…トッツィ、頼むから今まで通りの態度にしてくれ。じゃないと、俺はお前の事をトッツキと呼びたくなってしまう。

 

 

「何だか溢れ出るロマンと、異様にコアなファンが出来そうな名前だニャ」

 

 

 うむ、言霊だけでもそこまで分かるか。と言うか、何でモノ亜種を狩った事知ってんだ?

 

 

「昨日、エドワードが来て話して行ったニャ。それだけの為に来るんだから、レジェンドラスタってヒマなのニャ」

 

 

 …エドワードさん? 確かに、何かと来てるなぁ…。しかしあの人達がヒマとは思えんが。ま、それはいいや。

 さて、トッツキ…もといトッツィよ。……………その、言いづらいんだが。

 

 

 

 そもそも何でモノ亜種を狩るっつー話になったんだっけ。

 

 

「それは………ええと、ここに居ていいのかを決める為に…ニャ? でもモノブロス亜種を狩る前から、ここで寝泊まりしてたニャ」

 

 

 なんだっけな…そもそもここに来たのって、サムネ夫妻からトッツィ達の人間不信をどうにかできないか、みたいな事言われてた覚えがあるんだが。

 

 

「ニャ! それニャ! オイラは、歌姫様に会わせていいか見極める為に依頼を出したんだニャ!」

 

 

 …歌姫? なんぞそれ。聞いた事ないな。

 

 

「…そうニャ? 以前はハンターの間でも、色々有名だったニャ」

 

 

 そう言われてもな…正直、何も思い出せん。色々と特殊な環境で育ったもんね。で、その歌姫様が何ぞ? 作詞作曲でもしろってのか?

 

 

「…してもらっても、今は歌えないニャ。…長い話になるニャ。今、時間いいかニャ?」

 

 

 おk。

 …ふむふむ。ほうほう。(・_・D フムフム。…はっ!? 寝てない、寝てないよ。

 

 うむ。つまりは、かつては古龍ですら退ける力を持っていたが、それがとある理由でなくなってしまった。

 その結果、歌に守られていた里は壊滅。歌姫様はそれを悔いて、もう歌う事を辞めてしまった、と。

 

 

「なんだか大雑把だけど、寝ずに聞いてたみたいだニャ。オイラは、もう一度歌姫さまに、あの美しい歌声を取り戻して欲しいニャ! そのために、オイラ達は必至で研究してきましたニャ。そしてついに、神龍木という素材に、その手がかりがあるという事を突き止めたですニャ! お願いします! 浮岳龍と呼ばれる古龍を討伐して、神龍木を採ってきてほしいニャ!」

 

 

 浮岳龍…つーと、ヤマツカミか。やるのは構わんが、問題はどこに居るかだな。

 神龍木は確か、麻痺太刀作る為に躍起になってた覚えがあるね。

 モノ亜種だってそうだったが、相手は伝説とも言われる古龍だ。探すにしても、何処をどう探せばいいか…。この時期なら、まだポッケ村に居るか? でもアイツ、多分龍脈の力を吸ったり、そこから紛れ込んだ狂竜ウィルスで変質してるよな…。確かあの時は仕留め損ねたおかげで…そう、アイツが原因かは知らんが、ミラっぽいデカいのとナバルデウスの乱闘が…。

 

 

「それなら大丈夫だニャ。以前、ギルドマスターに相談した時、何体かヤマツカミを見つけて監視しているって教えてくれたニャ。それ以前に、メゼポルタ広場では古龍の襲撃何て日常茶飯事ニャ」

 

 

 …そういやそうだったな。それにしては、俺は聞いた事ないけど…。

 

 

「確かに、最近は襲撃は無いニャァ…。でも、平和でいいんじゃないかニャ?」

 

 

 んな訳ねーべ。原因があって結果があるんだ。結果があるなら、どっかに原因がある。古龍が来ない理由が、どっかにあるよ。…多分、デカい災害って形でな…。

 まぁいいや。とりあえず、ヤマツカミを狩ってこいって事ね。ギルドマスターに聞いてみるわ。…ハンターランクが足りなかったら、暫く待っててくれよ。

 

 

「わかったニャ…信じるニャ」

 

 

 ちょっとだけ、表情が暗くなった。今まで裏切られた事があるからか、やっぱり信じるのを怖がってるっぽいな。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そーゆー訳で、ギルドマスターの所に行ってきた訳ですが……ヤマツカミの討伐依頼を受けるのは、特に問題なかった。

 いや問題なかったと言うか、むしろ受けない方が問題だった訳でして。

 

 

 …猟団を挙げての討伐依頼、或いは防衛戦…ですかい?

 

 

「その通り。この所発生しなかったし、お前は初めてだな」

 

 

 ええまぁ…。(別ループでラオシャンロン戦とかはやった事あるけど)

 その様子を見ると、日常茶飯事なんで?

 

 

「一か月に一回以上、とだけ言っておこう。メゼポルタ広場のハンターの中には、こればかりで生計を立てている者も居る程でな……いや、それは置いておこう」

 

 

 ギルドマスターは少し虚空を見上げて、何か考え込んだようだった。しかしすぐに口を開く。

 

 

「話には聞いておるじゃろうが、メゼポルタ広場は頻繁にモンスターの襲撃を受けておる。元がモンスターのナワバリじゃったし、無理もない。居場所を返せと襲ってくる者もおれば、生存競争に負けてこちらに突撃せざるを得なかった者もおるじゃろう。奴らの強さは、上から下までとにかく極端でのう。どれくらいのハンターを迎撃に出せばいいかも、さっぱり決まらんのじゃ」

 

 

 まぁ…ここのモンスター、強い奴は強いけど、弱いモンスターは列強種族でも弱いっすからね。

 

 

「うむ。しかし、だからと言って楽観したり、放置しておく訳にもいかん。故に、その対策として人海戦術を採る事となった。玉石混交とは言え、数は力じゃ…お互いに足を引っ張り合わなければな」

 

 

 ニャルホドねぇ…。で、今回は俺の猟団もそれに参加する義務がある、と?

 

 

「そういう事じゃ。おぬしだけでなく、一定以上の規模やランクの猟団は例外なく。無論、相応の報酬はある。拒否できない事もないが、ペナルティは大きいぞ」

 

 

 それが成立しているって事は、今までに大きな問題は…。

 

 

「無いの、辛うじて…じゃが。何せ相手によって、労力の多少が極端すぎる。今までは、労力はそう多くは無かった。だが、突然凄まじい災厄が襲ってこないとも限らんのがフロンティアじゃ」

 

 

 …そうだな。いきなり広場がルコディオラに襲われる日がくるかもしれん。

 

 

「ルコディオラならまだマシな方、と言うのが救われんの。そして、今回の襲撃は、恐らく3日後。来るのは…浮岳龍、ヤマツカミじゃ」

 

 

 

 ほぉ…そりゃまた、都合がいいのか悪いのか。

 

 

「トッツィ達に手を貸してくれる、という話は儂も効いておる。討伐ないし撃退できれば、神龍木はこちらで融通しよう。それだけでなく、お主は先日モノブロス亜種を狩った注目株じゃ。猟団の評価も大きく上がり、それだけの恩恵も受けられるようになるじゃろう。猟団の実態がどうあれな」

 

 

 まぁ、根っこがタカリ集団だしね…。しかし、そう考えると…もしこのまま猟団が上手く行けば、一番メリットが大きいのはギルドって事になるか?

 素行の悪いタカリが、曲りなりにも戦力として数えられるようになるんだから。一人一人は心許ない戦力でも、数が揃えば………いやモンスター相手にその理屈が通じるかは微妙だけども。

 

 

「否定はせんが、肯定もせんよ。我らは中立故、表立って支援する訳にはいかんが、どのような手であれ実績を挙げれば平等に評価しよう。お主らは、数だけは急速に膨れ上がりつつある。その状態で実績を挙げれば、その分だけ旨味もある」

 

 

 ふむ、個人ではなく、猟団の規模に応じて褒章が出るのか。成程、人数が多くなれば、仲違いや派閥争いの危険もあるが、その分利益も大きい訳だ。ややこしい…いや、深読みするとこれって…うん、アコギな真似してるね。

 

 

「そう言うでない。お主らにメリットが大きいのは事実じゃし、個人的にも期待しておる。……コーヅィも立ち直ってきたようじゃしの」

 

 

 は?

 

 

「何でもないわ。では、お主らの猟団は参加じゃな。…そういえば聞き忘れておったが、猟団名は決めたのか?

 

 

 ………狩りゲー世界転生団。団っていうか、狩りゲーじゃなくてリアルだし、転生してんのは俺一人だけど。

 

 

「文字数制限(と言う名を騙るメタい何か)に引っ掛かる。却下じゃ。四文字以下にせぃ」

 

 

 

 

 今時ドラクエ3並かよ。

 …まぁ、ともかくそーゆー事で、防衛戦(という祭り)に参加する事になったのだ。度々起こる事らしいし、フロンティアの住人は何度も参加しているっぽいから、タカリ団員達を動員するのは左程難しくないだろう。一丁演説でもやるか、みたいな事も考えてたが。

 しかし、聞き間違いじゃなければコーヅィの名前が聞こえたんだが。…知り合いかな?

 いくら何でも、コーヅィがトンデモハンターで、ギルドから注目されていた…とは思えんしなぁ。

 

 

 

 と言うか、よくよく考えてみりゃコーヅィがタカリハンターやってたのが分からんな。確かに最初こそタカリに来たけど、仕事自体はチマチマコツコツと真面目にやってたし。そりゃお世辞にも、才能や能力の高いハンターとは言えないが、いい意味でも悪い意味でも慎重さなら俺以上。貯えを無意味にすり潰すような度胸があるとも思えんのだよな。

 日本人気質に近いというか、ワーカーホリック…とまでは言わなくても、無職無収入だと座りが悪いっつーか。

 良くも悪くも小心者で、真面目で堅実な道からはみ出すのを嫌がるんだよな。いやハンターが、真面目はともかく堅実かと言われると言葉に詰まるが。

 

 ……何か、コーヅィが道を踏み外すような事があったんだろうか。コーヅィの真面目さ、真っ当さのもとになっているのは…精神・性格のあり方。危険や将来の恐怖を極端に嫌う。となると、それを壊したのは………やはり精神。恐怖か、砕かれた矜持か、嫉妬か…。

 

 

 

 

 ま、機会があれば聞くが、そうでなけりゃ詮索は無しだ。こちとら、タカリを大量に抱える猟団の首領。個人の過去を詮索してアラ探ししてたら、猟団員なんぞ残りはしない。

 流石に明確な犯罪ともなれば庇えんし、猟団に所属してやらかすようなら容赦はせんが。

 

 

 

 ああ、そういやもう一個気になる事があったな。去り際にギルドマスターがボソッと零したんだが…「このタイミングで浮丘龍…考えたくはないが、やはりそうなのか…?」だそうだ。

 何かあるのかね。

 …ギルドマスターや教官の言が事実なら、古龍の襲撃は決して珍しい事ではない筈。と言う事は問題はそこではなく、恐らく「この時期」か、或いは「襲ってきたのが浮岳龍」と言う事のどちらか。……判断が出来んな。

 

 

 




※シダ・コーヅィ→シダ・コージイ→イシダ・コージ→石田光司

と言う訳で、名前が同じ……じゃないけど、とにかくこの人の容姿をイメージしてくだしぁ。


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243話

仁王、ようやくレベル300を超えました。
転が安定するようになったので、延々とレベル上げ中。
一日目標30レベル、少なくとも20レベル。
大型アップデートまでに、精々強化するとしましょう。
装備集めは面倒だし…というか160武器出ない…。
オロチの鱗もう無いよ。

うーむ、ダクソはやってないけどタマネギみたいなネタ装備は無いかな? いやタマネギだって言われなきゃそう見えないけども。
一度、常世同行で武器無し・装備は般若(ヒョットコだったかな)のみ残りはマッパな人と会ったけど、アレはネタだったんだろうか…。


延々と転を繰り返すうちになんか色々溜まって来たのか、久々にガッツリエロ書いた気がする。
だが展開的にお披露目まで遠い。
具体的にはリアル時間で一か月くらいある。


HR月

 

 

 さて。猟団員諸君、集まってくれてありがとう。

 長々しい前置きをしても、頭に残るとは思えないので、早速本題に入る。

 メゼポルタ広場に、古龍が襲撃してくる。到着は恐らく明後日。来るのは浮岳龍ヤマツカミだ。

 我らが猟団は、この古龍からの防衛戦に参加するよう、ギルドから要請を受けた。

 

 聞いた所によると、こういう襲撃は何度もあって、多くのハンターがその防衛戦に参加していると聞いているが…コーヅィ、その辺どうなんだ?

 

 

 …ほう、ここに居るハンターの9割以上は、3度以上経験していると。では、全員参加する事自体には抵抗はないんだな? …結構。

 詳しいシステムの説明は省くが、猟団といて防衛戦に参加する場合、猟団の規模と、個人個人の奮闘に応じて報酬が支払われる。で、危険度に関してはそう高くない。ヤマツカミに近付き過ぎなければ、精々がガブラスの群れや雷光虫を落とす程度だろう。ちなみに俺は浮丘龍の方に行くが、皆がどっちに来るかは強制しない。

 俺達以外のハンターも戦力として出るし、防衛戦の為と言う事でギルドからのバックアップも期待できる。ちなみに、撃退成功後の宴会費用はギルド持ちだ。

 

 

 

 要するに…オイシイ仕事、って訳だ。

 実利もあるが、それだけじゃない。現状、俺達がいい目で見られていないのは自覚はあるな? それが正当な評価かどうかは、この際どうでもいい。

 比較的安全、他のハンター達も同様に活躍が予想されるとはいえ、いい目で見られてない俺達が同等の働きをしたらどうなると思う? …そう、悪い奴がいい事してると、ちょっとした事でも評価が上がりやすい、というアレだ。

 確かに、過去はタカリと呼ばれるハンターだったかもしれん。今はそうではないのだと、見せつけてやればいい。文字通り見せつけるだけの、見せかけだけでも構わん。

 そうすりゃ、基本報酬に加えてボーナス、更に名誉…というとピンと来ないかもしれないが、尊敬の視線、チヤホヤされる未来に一歩近づく。

 

 

 楽して稼ぎたいなら、これ以上のチャンスはそうそう無い!

 名誉挽回のチャンスもだ!

 

 世間からの評価がどうでもいいから、放置する? 有り得ん!

 物事と言うのは、放っておくと悪化する以外の変化はないのだ! 奴らにタカリと呼ばせていれば、俺達の価値と評価と扱いはどこまでも下がっていく!

 ここらで一発、ドカンと逆転だ! 好きだろう? 見下す連中を見返してやるのが。ギャンブルに金注ぎ込んだ挙句、破産一歩手前から大富豪になるのが!

 

 今回の防衛戦は、今までお前達が経験してきた防衛戦とは違う。上手く勝てればアホみたいな報酬が約束される、チャンスタイム、確変、ゴールデンタイム!

 さぁ、稼ぎに行くぞ!

 

 指示はしない。猟団員にせよ他人にせよ、足を引っ張って危険度を上げなきゃ好きにやれ。各員、準備にかかれ! 

 

 

 

 

 …よし、行ったな。うぉーって感じじゃなくて、ダラダラしながらだけど。ま、根っこがタカリだからな…。

 

 

「連中にしちゃよく働くようになったろう」

 

 

 お、デンナー。すまんな、また治療が先延ばしになりそうだ。

 

 

「それに関しては気長にやるさ。おかげで、多少は足も動くようになってきた。ま、ちゃんと帰って来いよ? 俺の治療が出来る奴が居なくなる」

 

 

 勿論…なんだけど、前々から思ってたんだが、治療のやり方を覚えてみないか? 俺が居ない間にも、多少はリハビリも進むだろうし、ハンターとして復帰したら、かなりのパワーアップになるぞ。

 

 

「回復薬を温存できる、しかも肉体操作術によるポーズが必要ない、と言うのは大きいな。しかし…治療法と言うのは、お前が使っている、言っては何だが怪し気な力だろう? 俺にも使えるのか」

 

 

 理論上は、誰でも使えるぞ。ハンターでもない受付嬢が、多少なりとも効果を発揮した事もある…まぁ、あの時は触媒になる道具があったけど。

 ただ、やっぱり何の下地もない状態からだと、かなり時間がかかる事は否定できんが…。

 

 

「是非とも頼む。………ハンターとして、怪力乱神を語るのは、しかも同じハンターをその類として語るのは、あまり感心した事ではないのだが」

 

 

 うん?

 

 

「あまり知られていない事だが、お前のような異能を持っている、というハンターを何人か見てきた。ハンターとして考えても、尚異常な程の身体能力、傷が瞬く間に塞がる治癒…いや、再生能力。見えないモノが見えるとか、予知夢を頻繁に見る、という者も居た。モンスターと人間のハーフだと言われたり、あるいはもっと得体の知れない『何か』だと言われたりしている。…まぁ、殆どは民間伝承だとか、デマの類と思われているが」

 

 

 ほう?

 

 

「あいつらが何なのか、俺には分からん。本人が明確に宣言した訳でもないし、多くの者はそれを隠して普通のハンターであるように振る舞う。自覚のない者も居る。ちなみに、大体はフロンティア生まれのフロンティア育ち、経済的な事情で他所の土地に移るのも難しい者が多い」

 

 

 …ハンターが普通って時点で、その理屈は破綻してんだが。

 

 

「黙って聞け。どんな形であれ、そういう『生まれながらに持っている、ワケの分からないモノ』を持て余している者も居る。どうも、お前はその手の力の制御法や、鍛える方法を知っているようだ。もし出会ったら、教えてやってくれ」

 

 

 まぁ、教えるのはいいけどよ。それを目的に猟団に来てもらえれば、戦力が増える訳だしな。

 …そうだな、だったらいっそ、デンナーだけじゃなくて他の団員にも教えてみるかな。

 

 

「教えればいい戦力になると思うが、それ以前にあいつらに習得できるだけの根気があるのか? 時間がかかるんだろう。習得したら習得したで、悪用しないように目を光らせる必要もある」

 

 

 あー、それがあったか…。教える相手を選ぶ…いや、それを公言すると不満の種になるな。猟団内で格差をつけるような真似をすると、面倒な事になりそうだ。

 

 

「誰かに教えた実績は?」

 

 

 アイルー一匹。…それと、ある程度下地がある相手に一度教えた事があるな。まぁ、結局グウェンの奴は自力でコツを掴んだから、俺の指導に意味があったのかは分からんが。 

 ま、これに関しては今後追々考えよう。とりあえずは、明後日の防衛戦だな。

 

 

 

 

HR月

 

 

 一日日記をすっ飛ばしたが、防衛戦なう。今の所、大した被害は出ていない。

 流石に手馴れてると言うべきか、それとも今の所中型モンスターまでしか出て着てない為か、順調に撃退できている。

 

 ウチの団員達は、とにかく数だけは多いんで、人海戦術を取っている。具体的には、ノッブの真似した三段撃ち……のような、とにかく撃って撃って撃ちまくれ。

 中型相手でも手古摺るハンターが多くてねー。いや、フロンティアのモンスターだと考えれば、渡り合えてる時点で褒めてやるべきなのかもしれんが。腕が悪いにせよ性根がヘタれてるにせよ、安全を脅かされると一気に崩れかねない。

 なので、徹底的に距離を取らせる。殆どの団員を、安物ながら鍛えたガンナー武装で統一させ、近付かれる前に片っ端から沈める。

 本来、中型モンスターなら4人ハンターが居れば、そう苦労なく狩れるのだ。それを、定員の10倍以上で討ち続ければ、レベル1通常段だって何もさせずに倒す事が出来る。

 流石にそれで全モンスターを潰せる訳ではないので、比較的戦えるメンバーを、足止めに徹しさせる。

 

 周囲からは「ハンターは4人までだろ」って目で見られるが、それは不文律に過ぎない。そもそも、その根拠だって「5人で行ったら死者が出た」というだけだしな。

 

 

 

 さて、雑魚を散らす一般ハンター達はそれでいいとして。一応上位である俺や、G級ハンター達は本命であるヤマツカミの相手をしている。

 何を考えたのか、防壁内の一際広い場所に降りてきたヤマツカミを囲み、極長リーチのランスでチクチクと。…最初に自爆した人達は、多分火事場を発動させたんだ。うん、いろんな意味で手馴れてるな。

 

 俺も同様に、火事場(と言うか自分から受けた痛みの八つ当たり)を発動させてチクチク…したかったのだが、生憎と火事場装備はともかく、極長ランスは用意できなかった。

 なので、フワフワ浮いてるヤマツカミを相手に何もできず、周囲がチクチクしてるのを見てるだけ。

 

 …これはよろしくない。これでも猟団の頭なのだし、俺の評価は猟団全体の評価に関わる。しかし準備できてないものは仕方ない。

 

 

 

 なので、例によって奇行に走る事にした。

 

 

 まず、ランスを地面に突き立てる! そしてそこを壁走りで駆けあがり、頂点から二段ジャンプ! クック先生に練習に突き合ってもらって完成した、逃げるモンスターを叩き落す為の技であるッ!

 それでもまだ届かないので、今度はヤマツカミの触腕を足場に駆け上がりッ! ヤマツカミの、文字通り目の前まで飛び上がる!

 

 ハンターからもヤマツカミからも「なんだこいつ」的な視線を受けながら……鬼の手、発動ッ!

 

 オゥルァァァァァァ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 グロ画像。

 

 

 

 

 

 

 …うん、正直ちょっと予想外でした。いややろうとした事自体がグロいと言われると反論できないのだが。

 何をやろうとしたかって…。

 

 

 鬼の手を使って、目を部位破壊しようとしました。…うん、目が潰れる程度だと思ったんだよ。それだけでもエグいけど。

 

 まさか、鬼の手で目を掴んで引っ張ったら、中身が一緒にズルズルと引き出されようとは…。そりゃ、確かに目玉は大抵脳みその近くにあるもんだし、神経で繋がってるのも分かるよ。

 ヤマツカミみたいな体の構造なら、脳から内臓から、全部胴体部分に集まってるのも分かるよ。と言うか、ヤマツカミの内臓って、脳みそとか胃袋とか神経束と文字通り絡み合ってるのな…。

 でもそこから脳ミソがズルズルと引き出されてくるなんて誰が思うよ。仮に引き出されるとしても、途中で神経が切れるだろうに…。

 

 詳しい描写は省くが、内臓丸出しヌルヌルテカテカ、AV女優よりも大事な所丸出し状態になったヤマツカミ。誰もが一瞬硬直したけど、俺はすぐに我に返って、一番重要そうな部分に鬼葬を叩き込んだ。

 刃状になった鬼の手は見事に脳みそ(多分)を切断し、ヤマツカミはその動きを完全に止めた。…いや、痙攣するみたいにビクビク動いてはいたけど。

 

 ヤマツカミは、モツと外皮に殆ど傷を負わずに死んだ。その為、古龍研究所が大喜びして、死骸を高値で買い取っていった。神龍木はギルドから融通してくれる事になってるし、臨時ボーナスゲットだぜ。まぁ、ほぼ猟団に還元するけど。

 

 

 

 その後は…まぁ、群れている雑魚モンスターをサクサク狩っていった。相手が雑魚とは言え、数が数なだけに負傷者は出る。ウチの団員からも何人か。

 放っておくのもなんだし、もう鬼の手を使って見せてしまったので、オカルトパワーを隠すまでもない。押し込まれている所を援護しながら、辻治療して戦った。

 

 …なんかこう、視線を感じるな。今ままでのような奇行の結果と言うか、「なんだアイツ」的な視線だけじゃない。畏怖…とも敬遠されている感じとも、ちょっと違う。なんだろ……気になっているけど、大っぴらに声をかけるのを躊躇っていると言うか、近づきたいけど周囲を気にして近付けないと言うか…。

 

 

 

 

 

 さて、なんか色々気になる事はあるが、とりあえず防衛戦完了、ボーナスゲットだぜ!

 被害らしい被害も無く、歴代防衛戦でも珍しいくらいに上手く行った戦いだったそうな。

 

 んで、そのボーナスはと言うと………8割以上が宴会費用に消えています。と言うか現在進行形で消えているので、下手すると10割献上になるかもしれんね。

 いやー、猟団員全員で宴会してっけど、騒ぐこと騒ぐこと。まぁ、他所様に迷惑をかけないような騒ぎ方にさせてるからいいけどさ。

 猟団のオゴリで、しかも飛び入り歓迎って事にしてるからか、もうあっちこっちで大騒ぎよ。かく言う俺も延々と飲みっぱなしだ。……また朝起きたら誰かとヤッちゃってたという展開を期待したかもしれんが、生憎お眼鏡に敵うのが居なくてなぁ…。何だかんだ言って、今まで関係を持ったのって極上級の美人ばっかだったし、そこらのタカリ目当ての女には目がいかなくなってるね。まぁ、その女も猟団員な訳ですが。

 

 …お、また飛び入りが来たな。タダ酒が目当てでも、交流が増えるのはいい事だ。特にこの集団だと、今まで以上に他者との交流を増やし、真っ当なハンターになった、更生したという認識を広めていかなければいけない。

 どんどん騒げ、コネを作れ。

 

 

 

 …ん? デンナーが手招きしてる。何だろ…。

 

 

 近寄ってみたところ、黙って広場の影になる部分を指さされた。そこに居たのは…コーヅィと…知らないハンターだな。何だ? ちと険悪な空気だな。

 どうにも、コーヅィに一方的に突っかかってるように見えるが…。あ、どっか行った。

 

 

「………ふぅ…」

 

「沈んだ顔だな、コーヅィ」

 

「デンナー……と、大将…」

 

 

 誰が大将か。猟団の頭って意味なら、団長だろ…まぁいいけど。

 なんかあったんか?

 

 

「随分絡まれていたようだが、あれは知り合いか?」

 

「いや…でも、絡まれるのも仕方ないと思うよ。…今までの私の行動を考えれば」

 

「タカリという意味か? しかし、今は違うし、それを言ったらお前だけではないだろう。うちの猟団には多くいる。…お前だけを目の敵にしていたように見えたが」

 

「それは私に聞かれても…」

 

 

 まぁ、そうだよな。単にコーヅィが特別気に入らなかったって事かもしれんし、そのへんは知っても仕方ないか。

 で、危害を加えてくると思うか?

 

 

「いえ、それはないと思います。ハンター同志でそれをやれば、確実にギルドナイトが出て来ますし…」

 

「…御免被るな。まぁ、よくわからんが呑むか。こうやって騒ぐのも、ハンターの醍醐味だ。いい機会だから、嫁さん候補でも見つけてこい」

 

「いえ、私これでも既婚者で…まぁ、とっくに見放されましたけどね…」

 

 

 …コーヅィ、いいから呑め。お前は今は立派なハンターなんだ。今度その嫁さんと会ったら、バッチリ上手く仲直りできる方法教えてやる。夫婦円満の秘訣なら、俺の右に出る者はあんまり居ないぞ。真っ当な方法かと言われると言葉に詰まるが。

 

 



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244話

仁王の大型アップデート、5/2か…。今のペースで行けばカンストは出来るな。

対人があると聞いてますが、さてどんなものか。
道場での一対一か、ミッション道中での妨害か。
人扱いなのか、屍狂い扱いなのか。
と言うか形写しがあるから、装備の予測ができそうにないんだよな…。

どうせ対人でやるなら、何か賭けるとかにならんかな。貯めこんだアムリタをある程度使って相手を探し、勝ったらその数倍、負けたらそれだけ無くなるとか。
倍率次第じゃ360武器以上のバランスブレイカーになりそうだ。
ああ、武器を賭けるという手もあるかな。でもそれじゃ屍狂を掘った方がいいしなぁ…。

仁王の傍ら、東方幻夢廻録プレイ中。
半放置状態でも進むのがいいね。
ただし、からかさオバケとつるべ落としへのヘイトが急速に溜まっています。
何だよ二人合わせて行動ゲージ半分削った上にスロー効果って…一回喰らったら、もう何もできないとか調整ミスってんだろ。
いや頭や装備使わないと勝てないとこまで進んだって事なんだろうけど。



HR月

 

 

 ハンターに二日酔いの文字は無い! どんだけでも飲めるし、フラフラになって倒れたとしても5分もせずに起き上がれるのだ!

 …まぁ、ハンター式肉体操作術をマスターしてれば、の話だけどね。そしてフロンティアのハンターには、肉体操作術を満足に使えないハンターも非常に多い。

 故、今日は動けるハンターはほぼ居ない。

 

 ボーナスはほぼ使い切ってしまったからその分稼がなきゃならん。なので、二日酔いの介護はできない。悪いね。消臭玉だけは山のように用意しておいたから、ちゃんとトイレで吐くように。

 あーん? うるせー、飲んだのはお前らだろが。俺の能力も、二日酔いには流石に……効かないよな? そういや、タマフリ治癒をする時に状態異常を解除するような奴があったような…。でも取得してたっけ? ここの所全く興味を向けていなかったのっぺら共、久しぶりに確認してみるべきかもしれない。

 

 しゃーねーな。おう、二日酔いの連中。これを見ろ。門外不出の、ハンターの肉体操作術だ。これさえマスターできれば、二日酔いなんざ一変に消し飛ぶぞ。尚、ハンター以外に漏らしたらギルドナイト案件だからな。

 マニュアルを書き残しておくから、二日酔い脱出の為にマスターするように。以上。

 

 

 

 

 さて、こんだけ酒とゲロの匂いが充満してちゃ、デンナーの足の治療もできやしない。

 

 

「…まぁ、狩りの間にババコンガの糞ならまだしも、緊急時でもないのにこれはな…」

 

 

 だな。コーヅィまで潰れちゃったし。

 

 

「呑めと言って酔い潰したのはお前だろうが。で、ここに何か用か?」

 

 

 デンナーを連れてきたのは、メゼポルタ広場の一角。人があまり近寄らない場所で、川、木、石、松明、その他諸々が揃った丁度いい場所。ここに金属製の鎧を置いて…。

 デンナー、ここが俺が使っている力の習得の為の修行場所だ。

 

 

「…ほう。まぁ、確かにあの匂いが充満する拠点に居るのもなんだな。詳細を聞こうか」

 

 

 ウム。そも、俺が使っている力は霊気と呼ばれていてな。名称はともかく、使い手の意思と素質によって性質に非常に影響が出る力だ。不安定と言ってもいい。と言うかそうとしか言えない。

 で、そんだけ不安定なものなので、周囲にあるモノにも影響を受ける訳だ。分かりやすい例で言えば、火は水に弱いし、木は金属に弱いし、土は木の根に抉られる。この辺の詳細は置いとくとして、ここはメゼポルタ広場の中でも、力の修練をするのに都合がいい場所なんだ。気持ち、という程度でしかないけど。

 

 しかるにだな……(省略)

 

 

 

 

 

 

 …と言う訳で、ここで日がな一日ボーッとしつつ、頭カラッポにしながら神経とか体とかに集中してれば、多分霊力を感知できるぞ。

 

 

 

「…教えてもらってなんだが、本当にそれでいいのか? 雲を掴む方が、まだ現実味が…」

 

 

 言いたい事は分かるが、実際俺はこれで覚えたしなぁ…。まぁ、生命力に満ち溢れているハンターなら、切っ掛けさえあれば自然と意識できると思うが。

 

 

「もとより、信憑性のある話ではなかったし、やるしかないか。オカルトなんてそんなものだろうしな…。で、訓練を見ていてくれるのか?」

 

 

 暫くはそうするべきなんだろうが、ちょいとあっちのメゼポルタ広場の協力者に報告しないといけないんでな。2時間くらいは様子を見るが、その後は自分で頼む。いや勿論、戻ってきてからはちゃんと訓練するけどね?

 

 

「いや、暫くは自力でやってみる。猟団も、先日のボーナスが全て呑み代に消えて、厳しい時期だろう。協力者とやらへの繋ぎ、猟団の資金の確保、俺の治療と訓練までやっていては時間が足らんだろう」

 

 

 …すまんな。なるべく早く帰ってくるわ。

 

 

 

 

 と言う訳で、デンナーに基礎的な訓練法…と言っても、場を整えて瞑想するくらい…を教えて、トッツイの元にやってきた。…トッツイは置いといて、デンナーは流石に筋がいい…と思う、多分。

 ハンターだけあって生命力に満ちているからか、体を循環している霊力の量も多い。それに気付く…というか意識するまではそう時間はかからないだろう。後はそれをどうやって操作するかだ。

 正宗に教えた時より、効率がいいくらいだ。元々の土台がある程度整っているからか、やはり人間の方がこういった力が強いのか…いやでも人間と猫じゃ、霊的な力は猫の方が強そうだよなぁ。

 

 

 

 さて、トッツイの元にやってきた訳だが。

 

 

「お待ちしておりましたニャ!」

 

 

 何だよ、熱い手の平返ししたみたいな言葉遣いしやがってキモいなぁ。

 

 

「そ、そこまで言うニャ…」

 

 

 冗談だ。キモいのは事実だが。今まで通りの話し方にしろよ。

 

 

「ニャ、そう言ってくれるニャら…。ともかく、よくぞやり遂げてくれましたニャ。きっと出来るとは思っていましたが、まさか一週間もしない内に古龍を討伐してしまうとは」

 

 

 それはどっちかと言うと運の問題だと思うけどな。よくもまぁ、都合よくヤマツカミが来てくれたもんだ。

 しかも、皆手馴れたみたいに撃退したし…。

 

 で、この神龍木で何をするんだ?

 

 

「全く、いくらオイラが見込んだ一流のハンターとは言え、普通のハンターがこれくらいできるのに、レジェンドラスタどもと来たら…ブツブツ」

 

 

 おーい。

 

 

「ニャ、これは関係ない話でしたニャ。とにかく、この神龍木で衣装を作れば、きっと歌姫様も力を取り戻してくれるニャ。さぁ、忙しくなるニャ!」

 

 

 衣装でどうにかなるもんなのか? いや、そうすれば何とかなるってんなら、やってみるべきだけどさ。

 …とりあえず盛り上がってんなぁ。水を差す事もないか。衣装作りってんなら、俺が出られる幕もなさそうだし、とりあえず今日はこれで退散するか。

 

 トッツイに一言告げてから、広場から出る。

 

 

 

 …で、例によって気配があるな。俺の知らない人の気配だが、明らかに視線を投げてきている。

 またレジェンドラスタ………なの、か? それにしては気配の隠し方が杜撰だし、これは……二人、三人…離れた所にまた一人…。敵意は感じないが、一体何なんだろうか。あんまり尾け回されると、ついつい逆にアサシンしたくなってしまうではないか。

 

 …とりあえず、ラスタ酒場に行くか。フラウさんやフローラさん、ナターシャさんに会えるかもしれないし、そうでなくても歌姫やトッツイについては気にかかる。エドワードさんが何故あんな事を言うのか、問い質す必要だってある。

 

 

 

 さて、誰かいるか……おお、賑わってる賑わってる。レジェンドラスタだけでなく、普通のハンター同志でのラスタ契約も盛んなようだ。

 しかし、特にその中心になっているのは………赤い髪、鎧でスクワットしているおにーさん。……タイゾーさんじゃないっすか。酒場で何やってんねん…。

 確かに賑わっているけど、あれは人が集まって賑やかになってるんじゃなくて、ただタイゾーさん本人の熱気と存在感が異常なだけだ。下手に声かけてスクワットに巻き込まれても堪らんし、見ないふりしよ。

 

 もう一方は…フラウさんか。おうおう人気だねぇ。集まってる男どもの視線が、完全にアイドルを見る視線になってるよ。

 女性からの視線に反感が乗ってないのは流石だな。

 さて、フラウさんも気になるが、今の目当てはエドワードさんだ。何が悲しくて、肉体関係あり(以前は、だが)のアイドルを無視して、赤フンドシのキンキラ鎧男に話しかけにいかねばならんのか…。

 

 他にも、会った事のないレジェンドラスタと思われる人が数人。うーむ、やっぱこうして見ると格の違いが分かるな。俺もまだ弱い。

 

 エドワードさんは………あれ、居ない?

 …あ。フラウさんと目が合って……あの、なんか近付いてくるんですけど?

 

 

「こんにちは~! ボクはフラウだよ。双剣使いのレジェンドラスタです。よろしく! 酒場に来るのは初めての人かな?」

 

 

 いや、何度か来た事はありますが。ラスタ契約はしてませんが。

 

 

「そうなんだ。ラスタに興味があるの? あ、それともボクに興味があるのかな? なんてね! …ちなみに、ボクは君に興味津々なんだけど」

 

 

 最後の一言はボソッとした声で、俺がパーティ効果アリでギリギリ聞き取れる声量でした。

 …おおう、呟きは聞こえなかった筈だけど、フラウさんの取り巻き(?)から殺気の籠った視線が…。

 

 

 あー、これでもかという程興味津々ですが(特に脇と内腿に)、本日はちょいとエドワードさんに厄介事の話を持ってきたもんで。居ませんかね。

 

 

「エドワードだったら、レジェンドラスタの仕事で出かけてるよ。何かの調査の為に、暫く戻れそうにないって言ってた。あ、よければボクが話を聞くよ? 同じレジェンドラスタだしね! あ、だったら狩りをしながらでどうかな? ボクは色んなモンスターを狩ってみたいんだ! 何か珍しい相手とかいないかな!?」

 

 

 お、おう。そら、エドワードさん本人じゃなくても知ってるかもしれないし、猟団の事を考えると伝手はあるに越した事はないが。

 なんつーか、フラウさんいつになく押しが強いな。普段はもっとこう…あざといカンジだったよーな。…いや、あざとかったか? 押しが強いのは確かだったが、遠回しに要求するような感じじゃなくて、今と同様にダイレクトにグイグイ来ていたような。

 

 と言うか、もしかしなくてもこれって逆ナン? 散々女の子と遊んできたけど、初めての体験な気がする。しかし前もそうだったけど、今回も妙にフラウさんの好感度が高くない?

 

 

「それじゃあ、ラスタ契約を…あっ、本来なら対価が必要なんだけど、今回は初回特典として「そこまでにしなさい、フラウ」…あ、リア…」

 

 

 フラウさんが一瞬だったけど「ヤベッ」って顔になった。それこそ、内面観察術を使わないと分からないくらいだったけど。

 ……そうだな、口を挟んできたリアさんとやらも気になるが…そうだよなぁ、フラウさん直伝の内面観察術、使用者本人なんだからそりゃ対策も立てられるわなぁ。

 …恐らく、俺がこの酒場に入ってきた瞬間から…或いは、俺が居ない時から、ずっとこの人、内面観察術を続けているようだ。リアさんの声で仮面が剥がれるまで、俺にも全く悟らせない巧みさで。

 それを俺が気付いた瞬間、またちょっと視線というか観察眼と言うか…或いは歓喜の視線? が強くなった。

 

 で、俺を観察して、こうやって話しかけてきた理由は…いや、それは後回しにしよう。

 

 

「お話の途中で失礼いたしました。同じくレジェンドラスタの、リアと申します」

 

 

 これはご丁寧に。

 

 

「さて、フラウ。どうも、この御人に興味があるようですが、独断でレジェンドラスタとしての法を曲げる事は関心しません」

 

「ぶー…。分かってるよ。焦り過ぎちゃった。ごめんね」

 

 

 いえいえ。個人的に、友人として狩りに行くなら大歓迎です。そうするには、ちょいと俺の実力と実績が足りてませんが。

 

 

「そうなんだ! だったら、これから一狩いかないかな? レジェンドラスタとしての仕事も、今日はもう終わりだし。それなら問題ないよね、リア?」

 

「…そうですね。私事にまで嘴を突っ込む権利は、ギルドとしてもありません。ただ、私としては若干不安が残る為、同行させていただきます」

 

 

 うわぁ、何だか大変な事になっちゃったぞ。レジェンドラスタ二人を連れて狩りとか。このプレッシャーに比べれば、フラウさんの取り巻きの視線なんぞ大した事ねーわ。……あれ、リアさんが一緒と聞いてから、畏怖の視線も増えてるような。

 いやプライベートだから、その辺は関係ないのかな。

 

 

 

 

 とにもかくにも、一抹の不安と畏れ多さを持って、一緒に狩場に向かっている訳だが…うーん、どれから話すかな。

 ①フラウさんが俺に興味津々な理由 

 ②トッツイ達に関して、エドワードが言っていた事の推察

 ③リアさんの事。

 

 

 …まぁ、あんまり引っ張ってもなんだし、1からでいいか。

 と言っても、理由は本当に単純だ。突き詰めてしまうと、「珍獣を見つけた」。これに尽きる。

 フラウさんは生来の気質も相まって、とにかく人の内面を見抜く事が上手い。大抵の相手は、自分をどう見ているのか、どのような行動をとってほしいのか、一目で理解できてしまう。

 それは相手が俺であっても多分同じだが、俺がフラウさんに向ける視線は…確かに非常に珍しいモノであると思う。今でこそ全く関係を持っていないが、元は肉体関係アリ、ある意味弟子でもあり、濃密(意味深・意味浅)な関わりの中で、それなり以上に彼女の事を理解している。

 

 ただし一方的に。

 

 

 今回のフラウさんからしてみれば、初対面の相手が、今まで誰にも見せた事のなかった秘密まで知っていたようなものだろう。…一歩間違えなくてもストーカー疑惑である。

 が、レジェンドラスタをストーキングしてバレない筈もない。今までそういう気配も無かった為、ストーカーではない。では、俺は一体何なのか。

 普通なら、気味悪がって敬遠してもおかしくないだろうに、なまじ実力に自信があるからか(彼女は『なまじ』なんてレベルじゃない実力者だが)、むしろ興味を持って近付いてきたらしい。

 

 うーむ…確かに以前のループの時も、大して付き合いが無かった頃から地金を出してきたと言うか、「取り繕わなくてもいいから」みたいな理由でやけに好感度が高かったが。いや、そういう理由だと推測したのは、フローラさんの方だったか?

 

 

 ま、別にいいけどさ…。強い人からの好感度が高くて、困る理由は無い。フラウさん親衛隊から目を付けられる可能性はあるが、猟団に影響がでない程度ならそれも構わない。そこそこ程度のハンターが揃っていたようだが、アサシンすれば大体無力化できるレベルだった。

 

 

 

 

 では、本題ともいえる②の話だが………「エドワードがどう考えているかは分からないけど」と前置きして教えてくれた。

 今までトッツイ達の話を聞いたハンター達は、こぞって彼らを相手にしなくなった。それこそG級と呼ばれるハンターでさえ。それは、トッツイ達の求めるモノが手に入らなかったからではない。話に致命的な矛盾があったからだ。

 

 矛盾ねぇ…。俺、そこまであいつらの話、聞いてないからな。歌姫とやらにまた歌ってほしい、としか。

 …ああ、そういや古龍を退ける力を持った歌、とか言ってたな。正直、歌一つで古龍がどうにかなるってのはイメージできないが……。いやでも、銀河クジラだって歌ってワープするくらいだしなぁ。

 

 

「ギンガクジラ? それってどんなモンスター? どこに行けば狩れるの?」

 

 

 強いて言うなら、空の上の雲の上の、話に聞いた回廊とやらの更に上の上の上の何処か。俺も話に聞いた事があるだけで、実在するかは知らない。…いてもおかしくなのがこの世界…。

 

 で、なんだっけ? 確か…どっかの里で暮らしてたんだけど、古龍を退ける力とやらが無くなってしまった為に、里が壊滅した、だっけか。

 

 

「概ねその通りです。ですが、おかしいとは思いませんか? 祈樹泉のネコ達の言が事実ならば、古龍を退ける歌は、彼らが崇める歌姫特有のもの」

 

 

 ……歌姫達が暮らしていた里は、もっと前からそこにあった筈。何故、古龍が襲来するような土地で、歌姫の力が発揮される前から、そこで暮らしていられたのか。

 

 

「その通り。矛盾はここだけではありませんが…結局のところ、歌の力とやらを信じられないのでしょう。ハンターにとって、古龍は自然の力の化身にして、災厄の代名詞。凄腕のハンターが何人も束になってかかっても、尚返り討ちにされる最強のモンスター。対峙するだけでも命懸けなのに、それを歌一つでどうにかできるとは、プライドにかけて納得できない…と言う事でしょう。私自身も、そのような戯言をホザく輩は、早急にブッ……ゲフンゲフン」

 

 

 …頼むからトッツイ達には何もしないでくれよ…。

 

 

「…分かっています。私としても、興味はありますが信じられない、信じたくないという感情は矢張りあります。ですから、多くのハンターは彼らに関わらない」

 

 

 成程ねぇ…。あれ、でもトッツイは確か、昔はハンターにも結構有名だったって言ってたけど。

 

 

「うーん、有名である事と、その力が真実である事は別物じゃないかな? まぁ、私も話には聞いた事があるよ。少なくとも、トキシはその力が本物だって断言してたし」

 

「…トキシ…ですか。懐かしいですね」

 

 

 …誰? 有名なハンター?

 

 

「うん。ボクがまだレジェンドラスタじゃなかった頃、一緒に狩りをした事もあるよ。とっても強いハンターだったけど…古龍と戦って、それ以来行方不明なんだ」

 

 

 古龍相手に行方不明…それって……いや、何でも無い。

 さて、そろそろ狩場ですな。話はこれくらいにして、準備を………………ん、何か変なのが居るっぽい。

 

 モンスターだけど…なんだ、気配が薄いな。…オオナヅチか?

 

 

「あら、貴方も分かるので?」

 

 

 気配と言うかプレッシャーがあるから…。レジェンドラスタが肯定してくれるなら、間違いは無さそうだな。

 しかし、何故こんな所にオオナヅチが居るんだろう。

 

 

「ふふ、流石は最近噂の、ルーキーハンターと言っておきましょう。ですが、オオナヅチに限らず、この地ではどこに何が出現してもおかしくありませんよ。確かに、最近古龍の動きが控えめになっていたようですが。さて…今回の本来はエスピナスでしたが……まさか、オオナヅチを放置するとは言いませんわよね? 滾ってきましたわ……! ブッ*******してやんよぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

 …うん、語り忘れるところだったけどさ、③リアさんについて。

 一目見た時からビリビリ感じてたけど…この人、落ち着いてるのは表面だけで、中身は完全ドSの女王様だわ。

 

 

 

 

 

 

 1時間後。

 

 

 

 フロンティア仕様のオオナヅチとエスピナスは、極めてアッサリと現世から退場した。

 エスピナスの方は今一分からんが、オオナヅチは俺の知ってる個体と比べ、体のあちこちが肥大化したり、妙な形になっていたから、恐らくなんらかの特徴や新技を持った特異ナヅチだったんだろうが…レジェンドラスタ二人がかり+俺が相手だと、流石に何もできなかった。

 エスピナスとナヅチの乱戦ならもっと苦労したろうけどねぇ…。

 

 いやもう、モンスターよりもフラウさんよりも、リアさんが本当に凄かった。どこの海兵隊式罵声だと言いたくなるくらいに、お下品と言うかF語の嵐。ブッ飛ばしたモンスターを足でグリグリ踏み躙りながら、見下す表情が似合う事に会う事。

 そのデッカイ金の棒…と言うか大剣だけど…を振り回して、時々ケツに突き刺そうとしていたような。ううむ、なんという悶絶怪物専属調教師。

 「狩場は   戦 場   なんだよぉぉぉぉぉ!」とか叫んでたが、貴方が居ると狩場がSMルームに見えてきてしまいます。

 

 

 

 

 …帰りがけ、まだ野獣の眼光が消えきってない時、襲われそうな気配があったんだが…フラウさんがそれとなく間に入ってくれた。助かったわぁ…。

 

 

 …ん? 勿体ない?

 

 

 いやいや、エロい意味で襲われかけたんじゃないのよ。「手応えのあるモンスター見っけ!」みたいな感じで襲われかけてね。

 落ち着くまで待ってから、ちょっと話を聞いたんだが……やっぱレジェンドラスタのカンはヤバいわ。

 

 ほら、出発する時、リアさんが「少し心配だからついていく」みたいな事を言ってたろ? あれ、フラウさんが規律違反するんじゃないかって意味じゃなくて……俺からモンスターのような気配を感じた気がしたから、そっちが気になっていたらしい。

 狩りの後は勢いのまま、俺をモンスター認定してしまいそうだったとか…。

 ホンット洒落になんねぇわ…。

 

 

 

 



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245話

メゼポルタ開拓記が終了してしまった。
うーむ、資料の為に画像だけでも保存しておくべきだったか。
エシャロット達の出番が…。


HR月

 

 

 襲い掛かりかけたお詫びに、リアさんの連絡先ゲット。何かあったら、極力手を貸してくれるそうです。

 …お詫びというより、モンスターっぽい俺が気になるから、繋がりを作っておこうって顔付だったが。…完全にモンスター認定されたら狩られるかなぁ…。いやでもデンナーの話じゃ、モンスターとの混血っぽいのも居るらしいし…下手すると俺が認定第一号になるのかもしれんね。

 

 

 それはそれとして、猟団に戻ってきた。おーう、デンナーただいま。出かけている間に、何か問題とかあった?

 

 

「いや、いい事も悪い事も特にないな。猟団員達も、充分なバックアップと報酬があるからか、しっかり狩りをこなすようになってきた。目に見えるような不満の種も無い。俺は…お前が言っていた妙な力の訓練をしているが、今の所覚えられそうな兆候は無いな」

 

 

 そうか。まあ、習得に時間がかかるのは覚悟の上だろ。

 

 

「まぁな…。ああ、変わった事なら一つあったぞ。猟団「ストライカー」のリーダーが、お前を訪ねてきた」

 

 

 …ストライカー? 有名な猟団なのか? と言うか野球集団か何か?

 

 

「特別有名と言う訳ではないな。数ある猟団の一つに過ぎない。俺も、訪ねられてから調べて知った口だ。特徴は女性ばかりの猟団で、ガンナーが多い。所属人数が少ない為、猟団としては中堅に届くかどうか、と言ったところだが、腕はいいようだぞ。美人揃いだしな」

 

 

 それは素晴らしい事ですな。実にいい事ですな。

 …しかし、何でまた俺を訪ねてきたのか。それとも猟団を訪ねてきたのか?

 

 

「いや、お前を名指しだった。ま、勧誘ではないだろうな。猟団の頭を引き抜きなんぞ、聞いた事もない。それに彼女達は、何らかの入団基準を持っているようだ。箸にも棒にもかからないようなハンターを入団させたかと思えば、明らかに凄腕のハンターを拒んだ事もあるらしい。ああ、言っておくが言動やスタンスが相いれなかった、と言う訳でもなさそうだぞ」

 

 

 ふぅん…。会ってみない事には、何とも言えんね。

 その人は今どこに? お名前は?

 

 

「お前が戻ってくるまで、このメゼポルタ広場で待つと言っていた。お前は何かと目立つし、もうすぐあっちから訪ねてくるんじゃないか? 名前はミーシャ。赤毛のロングヘア」

 

 

 …知らない名前だな…。流石に髪の毛だけじゃ分からんな。この世界、髪の色は黒からピンクまで節操無しだし。

 まぁ、美人だってんなら尋ねて来るのを待ちましょう。身嗜みも整えて。

 

 

「お前も案外露骨だよな…。まぁ、男のサガか。ところで、今回の出張はどうだったんだ? 何をしに行くのかも聞いてなかったが、何か収穫でもあったか」

 

 

 …レジェンドラスタ2人と顔見知りになりました。片方は、隙を見せると襲ってきそうだけど。いやもう一人も別の意味で襲うチャンスを伺ってる気がするけど、そっちは返り討ちにできるから問題ない。

 

 

「なにそれこわい」

 

 

 

 

 

 

 さて、コーヅィを始めとした猟団員達に土産を渡してから、飯でも食おう…と思ったら、来客。

 正直、飯の後にしろ…と言いたくなったが、来たのは先程デンナーから聞いたミーシャさん。うむ、飯は重要だが、美人も同じくらい重要だな。

 

 …その美人さんが、切羽詰まった顔をしてれば特に。化粧で誤魔化しているようだが、目の下に隈が出来ている。

 見た所、ハンター式肉体操作術もかなりの精度で習得しているようだ。非常に短い時間で充分な睡眠をとれる筈が、何故明らかに寝不足になっているのやら。

 

 

「突然訪ねてきて申し訳ありません。猟団ストライカーのミーシャです」

 

 

 これはご丁寧に。ああ、畏まらなくても結構。俺が話し辛いんで勘弁してください。

 

 

「…わかったわ。まずはお礼を言わせてちょうだい。防衛戦の時には助かったわ」

 

 

 うん? …ああ、そういや辻斬りならぬ辻回復とかやってたな。しかし、その中でもミーシャさんは見た覚えが無いが。そんだけ美人で腕も立ちそうな人なら、覚えてると思うんだけどなぁ。

 

 

「ふふ、ありがとう。でも私じゃないわ。猟団員が助けてもらったの。…実は、用件と言うのはその事なんだけど…貴方が使っていた、あの不思議な力」

 

 

 ああ、霊力ね。今はデンナーも習得しようとしているけど、何か?

 別に隠すようなものではないが。

 

 

「……そう言い切られると、ちょっと複雑なんだけど…。もう一度、あの力を貸してほしい…いえ、あの力でなくても構わない。『そういうナニカ』をコントロールする技術を持っているんでしょう? 出来れば、それを私達に教えてほしい。対価も無しに、なんて都合のいい事は言わない」

 

 

 別にいいけど。

 

 

「お金で済むなら……は?」

 

 

 デンナーにも教えてるし、希望者が居れば猟団員にも教えると言うのは考えていた。俺だって、誰かが編み出した狩技やら超越秘儀やら教わってるからな。全部を無条件で解放しろ、と言うのは論外だが、全く教えないのは筋が通らない。

 何より、俺の目的であるハンターの更なる戦力増強にも繋がる。

 

 

「…ありがたいけど…いいの? 確実に一攫千金になる技術よ?」

 

 

 猟団の資金になればいい、ってくらいだね。金に溺れて、ハンターとしての情熱を失った例も見た事あるし、身に余る金は逆に身を滅ぼす。…いや惜しいとは思ってるけど。

 それに、顔色を見れば、相当悩んで追い詰められて頭を下げに来たのはよく分かる。最低限、話は聞こう。

 

 

「…ありがとう、ございます…。なら、まずは私の部屋にきてちょうだい。診てほしい人が居るの」

 

 

 美人さんの部屋ktkr! …と、診てほしい人っつーのは病人か。ちと不謹慎だったな。

 

 

「それ以前に、借りてから3日も経ってない部屋よ」

 

 

 それはそれで。

 

 

 

 

 

 

 

 …で、ミーシャさんの部屋に来たんだが…うぅむ、事務的。ベッド以外何もない。いや、病人の傍に妙な物置くなって話でもあるが。

 そしてベッドの上では、汗を掻いて眠っている黒髪のハンターが一人と、銀髪の少女。少女の方は、まだハンター訓練生のようだ。この2人も美人だが…憔悴してるな。

 

 

「あ、ミーシャ団長…。その人が?」

 

「ええ。マオは大丈夫だった?」

 

「うん…。団長が出かけてから、魘される事もなかったよ」

 

「そう。…ああ、彼女はサーシャ。ストライカーで保護した子よ。そして、眠っているのがマオ。診てほしいのは、マオの事なんだけど…」

 

 

 診るのはいいけど、医者じゃないよ俺。何処が悪いんだ? 薬として古龍の血でも要るのか?

 

 

「悪いのは右目…だと思う。…貴方は、奇妙な力を持ったハンターについて聞いた事はない? ああ、貴方以外でね。モンスターとのハーフだと言われたり、悪魔の子だと敬遠されたり…。貴方もその類だと思ったから、正直に言うわ。猟団ストライカーは、そういった女性の集まりなの」

 

 

 異能者の集団、って事か? そういや、デンナーは「独自の入団基準があるらしい」と言っていたが…それか。

 この子も、何らかの能力を持て余して難儀しているところを拾って、猟団に加えたと。

 

 …いやそんな顔するなって。別にどうこうしないから。妙な力なら俺もあるから。

 

 

「そういう事よ。マオは生まれつき、集中すると動体視力や視野が飛躍的に高まる力を持っていたの。本人は魔眼って呼んでるわ。そのおかげで、ハンターとしてもやっていけたんだけど…半年くらい前から、その力を使った後、頭痛が起こるようになってきた。最初は軽いものだったんだけど、どんどん悪化してきて、遂には力を使わなくても頭痛・眩暈・激しい目の痛みに涙が出て、動く事もできないくらいになってしまった」

 

 

 魔眼(笑) いやガチでそーいう力があるんだから、笑いはしないが。

 涙が止まらないなら、鼻水も止まらんだろうな。呼吸が乱れて、ハンター式肉体操作術も上手く使えないかもしれん。

 医者は何と?

 

 

「原因不明。頭痛や目の痛みの原因は多岐に渡るから、断定はできない…と言うのもあるけど、体自体は超がつく程健康体なのよ。マオだってハンターだし」

 

 

 毒だろうと睡眠ガスだろうと、頭クルクルパーにする鱗粉だろうと狂竜ウィルスだろうと、くらっても自力で回復するもんなぁ、俺ら…。

 ふむ……。

 

 

 そういう力を持っていて…使うと頭痛と目の痛みね。どれ、ちょっと見せてもらうぞ。

 頭とか首筋とかに触れるけど、いいよな?

 

 

「勿論」

 

 

 ふむ…む、おっぱい大きい、うなじ色っぽい…いかんいかん、そう言うのは元気になってからだ。

 むぅ…。

 ほう…ん。

 と言う事は…………あー…。

 

 

「……どう?」

 

 

 発作が起きてる場面を見た訳じゃないから確信は無いが、予測は立った。

 

 

「本当!? マオさん、治るの?」

 

 

 そこは今考えてる。

 …マオ嬢が使う力の源が、俺の力と同じなのかは分からんが、体中を巡る力がこう……目やら頭やらの部分だけ、やたらデカくなってる。繰り返し使っていたから、自然と鍛えられたんだろうな。

 その力が体に影響を及ぼしてる。力を使えば、更に膨れ上がった力の経路が頭痛を産んで、力が抜けて経路が萎むまで頭痛が続く。

 多分。

 

 

「…血管が、その部分だけ異常に拡張された…ようなもの?」

 

 

 大体合ってる。理屈の上では、これを押さえ込んでやれば、頭痛は軽減される…と思うんだが、どうやってそれをやるかだよな。

 この手の力は、本人がその存在を自覚して、手綱を握らなきゃならんのだが…自覚はまぁいいとして、立つ事もできないくらいの頭痛に悩まされながら、それをやれるか?

 

 

「この子、基本的に感覚派だから…。あっさり覚えるか、散々苦労して覚えるかの二択でしょうね」

 

 

 うーん…あ、そうだ。体と言うか経路をリセットするだけなら、狩り技使えばいいんだ。狩り技・不死鳥の息吹。

 ハンター式肉体操作術を完全に会得してれば、それほど難しい技じゃない。多分、頭痛が始まった時の一時しのぎにしかならんけど。

 

 

「それだけでも有難いわ。頭痛にはそれで対処するとして…根本的な治療法までは無い?」

 

 

 いや、そうでもないな。これ、使える部分だけ使い続けた結果だわ。極端な話、右腕だけを筋トレし続けてたら、そっちだけ膨れ上がって体のバランスとれなくなっちゃった、みたいな。

 経路が異常に膨れ上がってるのも、そこに溜まった力が行場を失ったからだろうな。力の逃げ場を作ってやればいいんだ。だから、全体の経路を鍛えるようにすれば問題ない。

 逆に、力を一切使わないようにして、逆に衰退させるという手もある。この場合、魔眼(笑)も使えなくなるだろうね。

 

 

「…それは困るな。これから上位ハンターへ昇格するにあたって、この力は必要だ」

 

「マオ!」

 

「マオさん!」

 

 

 あら、起きたか。どうも初めまして。寝顔をジロジロ見たのは診察の為です。オッドアイとか初めて見ましたが、その目が魔眼ですか。

 

 

「わかっている…あの頭痛が治るのなら、その程度安いものだ。このままだと、ハンターすら廃業しなければならん…。おっと、改めて…猟団ストライカーのマオだ。マオでいい。よろしく頼む」

 

 

 こちらこそ。…今は痛むか? 大丈夫かどうかじゃない、診断の為に痛むかどうかで答えてくれ。

 

 

「少し。動けない程ではない。酷くなる兆候も…今のところは無いな」

 

 

 溜まってた力が抜けたか。とは言え、生きてるだけでも力は巡るから、早めに対処するに越した事は無いな。

 よし、不死鳥の息吹だけでも今から教え込む。上手く行けば、頭痛を抑える事くらいはできるだろう。この際だからミーシャさんも聞いてけば? これは純粋な技術だから、ちゃんとしたハンターなら誰でも会得できる。

 多分、応急処置にしかならんけど。

 

 

「今から? …マオ、大丈夫?」

 

「ああ。と言うより、今だからこそ覚えておかねばなるまい」

 

「そうだけど…。仕方ないわね。私も付き合うわ」

 

 

 うむ。んじゃ行くぞー。

 

 

 

 

 

 

 

 …30分後、頭痛が始まる前に無事会得させる事ができたが…人に教えるのって、やっぱり難しいな。

 ハンター特有の肉体操作術だから、それこそ感覚で語るしかないんだよなぁ…。傍で飯の準備しながら見ていたサーシャが、「擬音語と擬態語と効果音だらけで、訳が分からない」という程度には。

 

 

 

 

 

 

 

HR月

 

 

 とりあえず、ストライカーに恩は売れたな。マオさん…マオの頭痛は、完全ではないが不死鳥の息吹で抑え込む事ができたようだ。

 しかし、大変なのはこれからだ。力…もう面倒なので霊力と一纏めにしてしまうが、これをコントロールする技術を覚えなければいけない。

 デンナーも散々苦労している事からも分かるように(まぁ、デンナーの場合は力の自覚すらできてないのだが)、とにかくコレが難しい。今まで全く意識せずに使っていた部分を、意図した通りに動かせるようにしなければならないのだから。

 

 

 ………一応、ね。最後の手段がある事は伝えたのよ。外部から霊力に干渉して、体内の力の流れを整えてしまえばいい。

 ただ、その手段は…まぁ、お察しの通り。

 セクハラ扱いされるのもアレなので、ミーシャとマオには「粘膜的接触、体液的接触」とだけ伝えた。それでも言ってる事は伝わったみたいで、「それは報酬として要求してるのか?」みたいな視線を向けられたが、ガチだからな。

 何でそんな事が出来るのか? 助けてもらう立場で言うのも悪いが、そーゆー方法を覚えるくらいなら、もっとちゃんとした修行法を身に着けられなかったのか? とか言われたが…。

 

 

 

 

 

 

 しゃーないやん。修行法として覚えたんじゃなくて、迸る青少年の欲求と好奇心に従って覚えた色事の為のアレやコレやに、予想外の使い道がくっついてたってだけやねん!

 ヤらせろとか言ってるんじゃねーから!

 

 …いや本当にね、これもセクハラって言われりゃ一切否定できない発言になるけど、例えば耳に唾液付けて、催眠暗示みたいな囁きでどうにかする方法もあるんよ? 効果は落ちるし、どっちにしろトランス状態までもっていかなきゃならんけど。

 

 

 

 にしても、デンナーが言ってた異能者と、集団でカチ合うとはなぁ…。フロンティアにはそういう人達が思っていた以上に多いのかもしれない。

 その辺、今度ミーシャさんに聞いてみるかな。

 

 

 さて、本日は久々に猟団の為の狩りの時間だ。何だかんだ言ってあっちこっち飛び回ってたから、最近狩りの回数が少なめだったんだよな。猟団の連中からサボっていると思われるのも癪だし、今日は真面目に狩りますか。何をするかな…。

 ん? コーヅィ、なんだこれから狩りか? 偶には一緒に行かんか?

 相手はまだ決めてないな。

 

 …グレンゼブル? なんだ、結構な大物をやる気だな。オーケイ、突き合いましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …うーむ。狩りは順調だったが…コーヅィの奴、明らかに経験者だな。グレンゼブルとやり合ったのは初めてじゃなさそうだ。猟団に来てからは初めてのようだが…。

 手際の良さは、ハンターとして見ればかなりのものだ。まぁ、大分ブランクがあった為か、グレンゼブルの行動を読み損ね、何発かいいのを貰っていたけど。

 

 クエストを受ける時もギルドマスターと何やら雑談していた。古龍防衛戦の事を頼まれた時にも、ギルドマスターはコーヅィの事を気にかけていたようだった。何かあるのかねぇ…。

 

 

 

 

 …ん? あっちで見てるのは…この前の防衛戦の後、コーヅィに突っかかってきたハンターじゃないか。またイチャモン付ける気か? ……あ、俺に気付いた。鼻を鳴らして、どっか行ってしまった。

 本当に何なんだ…。コーヅィをやたら付け回しているようだが………オジ専のホモ?

 

 




※猟団ストライカーは、某空飛ぶパン…もとい女性達が元ネタです。
ミーシャ→ミーナ
マオ→美緒
サーシャ→サーニャ

サーシャにしようかアーニャにしようか、ちょっと迷った。
尚、あくまで名前と顔が似てるだけの人です。


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246話

仁王DLCの情報を見てて、ふと思いついた。
100人くらいのプレイヤーが一度に同じフィールドで大暴れするゲームないかなぁ。
どっかで聞いたような気もするんだが…どんだけ強くなっても、明後日の方向からの攻撃から即死しそうだから、とにかく逃げる奴が強そうだ。

仁王まで待つ間に、東方夢幻廻録プレイ。
東方夢幻廻録のシナリオを待つ間に、討鬼伝モノノフをプレイ。
通信料がちょっと心配だったけど、家ならWifiでできますな。
最初はノートPCにブルースタックス入れてやってたんですが、やっぱり重いなぁ…。

東方夢幻廻録、記録が3回くらい消えたけど、バックアップのおかげでどうって事はなかったぜ!
とりあえずシナリオはクリアしました。
敵チームの中心になっている能力を見つけて、その天敵になる能力を持ったユニットを組み込む。
クリアできるステージを周回してレベルアップ用アイテムを貯めたら、新たなユニットを強化。
後はレベルと好感度と装備の問題。

暫くプレイしながら、最高の姿と最高の姿2の実装待ちかな

あと、フランちゃんの最高の姿2が最強・さいかわすぎてツライ。
あのクランベリートラップは、男児として断固もみくちゃにすべきであると主張する。
妄想したら布団に入っても寝られなくなったのですが!?




HR月

 

 

 狩りに精を出していたら、ミーシャが一緒に来てくれた。マオの事で世話になっているから、そのお返しとして手を貸してくれるそうだ。

 フロンティアのモンスターは、何だかんだで強いから助かるよ。

 

 …で、ちょっと気になった事なんだが、ストライカーのような異能者は多くいるのか? …言葉を濁されたが、答えはイエス。流石に誰がそう、という事までは分からないが。

 誰もがその力を隠し、ハンターとして生きているのに、古龍防衛戦の時に大っぴらに治癒を使っている俺は、色々な意味で注目の的となったようだ。そういう人から見れば、確かに俺は考えなしにしか見えないだろうなぁ。

 

 人助けになるとはいえ、隠れて生きている異能者達の存在を知らしめるような真似をしたんだ。彼らにしてみれば、それこそ自分達がいつ炙り出されるか分かったものではない。

 それだけでなく、好意的な視線もあったのが救いだが。

 ああ、メゼポルタ広場で何度も感じていた視線は、そういう連中の視線か。

 

 

「私としては、悪い事ではないと思うんだけどね。隠して生きていかなきゃいけない状況を、変えられるものなら変えたいし」

 

 

 どんなに隠れてても、いつかはバレるだろうしな。大っぴらに使えるようになれば、狩りの成功率だって上がる。

 

 

「何より、皆して隠れているから、力を持て余して助けを求めている子が居ても、それに気付く事すら難しいのよ。サーシャの時はよかったわ。偶然近くを通りかかれたから。それがどれだけ奇跡的な確率か…」

 

 

 それが猟団を設立した理由か? 爪弾きにされている子を助けたい、と?

 

 

「そうね。同類が多くいれば、戦力も増えるし、心理的にも安心…というのもあるわ。だから、貴方の力を広める事にも私は賛成。問題も多く出るでしょうけど、力が普通のハンターでも使えるものだと認識されれば、私達も活動しやすくなるから」

 

 

 にゃるほどねぇ…。あ、ところでミーシャの能力って何ぞ?

 

 

「俯瞰視点。周囲にあるモノを、目を閉じていても、背後にあるモノでも感知できるの」

 

 

 ふむ…魔法じゃなくても、出来るようになる奴が時々いるとは聞くが…要は視覚外からの情報を統合して、シミュレートしてるのかな?

 …うん、不死鳥の息吹、覚えて正解だわ。マオと同じように、使い過ぎると頭痛が起きる可能性があるから。

 

 

「頭痛に限らず、使い続けると何かしらの障害が出る可能性があるのよね。これは早いうちにどうにかしなきゃ…。とりあえず、私とマオが力の制御法を習得するまでよろしくね。出来れば、猟団の子達にも指導ができるくらいになりたいわ。その分、私も色々やってお返しするつもりだから」

 

 

 こっちこそヨロシク。美人さんとの付き合いが増えるのは大歓迎だ。………あ、ところでストライカーが女性のみの理由は?

 

 

「あー…それは偶然というか成り行きと言うか…。最初に集まったのが、私とマオと…まぁ、貴方の知らない一人だったんだけど、3人で活動していたら、下心丸出しのハンターが入団したいって何度か来てね…。能力を隠す必要もあったから、マトモなハンターが入団希望してきても断るしかない訳で…」

 

 

 次にあった異能者が、また女性だったもんで、結果として女性オンリーの猟団と思われるようになってしまった…か。

 なまじ腕がいい連中が揃ってる事もあって、やっかみで噂してたのが真に受けられたんだろうなぁ…。

 

 

「そうよ…あくまで成り行きであって、女同士の堅い結束(意味深)とか、特殊な趣味とか無いのよぉぉぉ…」

 

 

 あっ(察し)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミーシャの涙の乱れ撃ちで、リオレウス討伐完了。まだ引きずっているミーシャに、一杯奢ってから帰った。

 ミーシャの腕は…まぁ、下位ハンターにしてはいい方、かな。歳を考えれば上々と言っていい。何せまだ18歳だ……危険なお年頃だな。特に俺の理性に対して。

 俯瞰視点の事もあり、真価を発揮するのは複数名での連携の時だろう。

 

 

 それにしても、あのリオレウスは本当にレウスだったんだろうか? 空を殆ど飛ばないし、行動が完全にリオレイアだったんだが。……オカマ? それとも高所恐怖症?

 

 

 

 追記 家猫から、トッツイより送られた手紙を受け取った。困った事になったので来てほしい、だそうな。そんなら要件くらい書いとけよ…。

 

 

 

 

HR月

 

 

 とりあえず、呼ばれて拒む理由も急ぎの用事もなかったので、素直にトッツイの所に来る。…相変わらず、誰かが泉近くまで来て、そのまま去っていったようだ。

 見守ってるのだろーか? それとも監視か、単なる暇潰しか。

 

 まぁいいや。おーいトッツイ、来たぞ。

 

 

「おお、お待ちしていましたヌァ!」

 

 

 ……ヌァ?

 

 

「…噛んだニャ…。やっぱり普通にしゃべるニャ」

 

 

 そうしとけ。で、どうした。困った事になったって言ったが、それならそれで手紙で要件書いとけよ。それとも、誰かに知られると面倒な事になる類か?

 

 

「そんな後ろ暗い事してないヌァ!」

 

 

 噛んだ。…何かやってんのか、こいつ…? まぁいいや。で?

 確か、歌姫さんに着せる衣装を作るって言ってなかったか。

 

 

「ニャ、正にそれニャ。これでようやく、歌姫様が泉においでになる…と思っていたんだがニャ、衣装を完成させるには新鮮な古龍の血が必要だそうだニャ。まったくバッシのヤツ、それならそうと早く言えば…」

 

 

 古龍ねぇ…。本来ならお目にかかるだけでも(嫌な意味で)奇跡的な確率だが、フロンティアにはゾロゾロいるからなぁ…。

 俺もこの前、オオナズチを一匹狩ったぞ。レジェンドラスタが二人いたおかげで、楽を通り越してかわいそうになるくらいだった。

 

 

「オオナズチ! 何ともタイムリーニャ。必要なのは、正にその霞龍の血なのニャ! …あ、でも新鮮でないと…。狩ったのは何時頃ニャ?」

 

 

 4,5日くらい前。しかし、何をもって新鮮と言うのか…。古龍の血は相当な時間が経っても劣化しないからな。

 まぁ、MH世界にあるモノで、時間の経過で腐ったりするモノってすごい少ないけど。釣り上げた魚だって…いやまぁ言わぬが花と言うか、ヤバい法則を口にしてる気がしてきたから黙っとく。

 とにかく、古龍の血は相当な時間を経ても、武器防具の材料とするのには全く問題ない。

 

 まぁ、使えるかどうか不安だから、もう一回狩りに行けってのはこの際構わんが…流石に都合よく見つけられるかって言われるとな。

 それに、仮に「新鮮」と言うのが流血してから1時間以内とかだったら、狩るだけ無駄になっちまう。まさか、狩場にその衣装を持って行って浸す訳にもいかんだろ。

 

 

「うぅーむ…血を採取するだけなら、オイラが行けばいいニャ。だけど、戻ってくる間に血が駄目になってしまっては…。これは確認の必要があるニャ」

 

 

 オオナヅチを狩るにしたって、すぐに見つかる訳じゃないんだ。探している間に、その辺の詳細の確認を頼むわ。

 

 

「わかったニャ! …あ、この際ニャ。バッシを紹介しておくニャ」

 

 

 バッシ?

 

 

「オイラと同じ、歌姫様のお付きのアイルーニャ。陰湿で陰気でインケンだけと頭が良くて物知りニャ」

 

 

 …実に陰のあるお方のよーで。そいつが衣装の作り方を教えたのか?

 

 

「そうニャ。とりあえず叩き起こしてくるニャ」

 

 

 寝てるのかよ。いや確かに昼寝が気持ちいい季節だけどさ。まぁ季節っていったって、フロンティアの気候はワケ分からないんだけどね。

 そうして連れてこられた寝惚け眼のネコ、バッシ。うん、陰湿で陰気でインケンなのかは知らんが、とりあえず笑い方が特徴的だね。ニュヒヒヒとか。

 

 世界中の民話や伝承の研究家ねぇ…。それなら、聞きたい事は結構あるな。古代文明とか、世界各地に残る塔が一体何なのか、とか。

 

 

「ニュヒヒヒ…中々話の分かるお方のようで…。ですが、今は歌姫様の衣装のお話です…ニュヒヒヒヒ」

 

「相変わらずのろくて気持ち悪い喋り方ニャ。さっさと話すニャ! 霞龍の血は、いつまでに使えばいいニャ!?」

 

「相変わらずせっかちですニャ。そんなだから、ワタシが与えた偉大な叡智も上手く活用できないんですニャ。ワタシはちゃんと説明しましたニャ。あなたが聞いてなかっただけですニャ」

 

 

 掛け合い漫才にしちゃ、今一つひねりが効いてないなー。

 

 

「これは失礼…。トッツイ、霞龍の血をどう使うつもりでしたニャ?」

 

「どうって、霞龍の血に神龍木を漬け込むのニャ。でも新鮮な血っていうのが、どれくらい新鮮ならいいのか分からないニャ。採取したらその場で神龍木を漬けようかと…」

 

「ニャ~。これだから素人は! 新鮮な霞龍の血は、そのままでは成分が開かニャいのです。壺に入れる事によって、一週間は熟成させる。そうする事によって、初めて力強い生命力が花開くのですニャ。漬け込む前の血は…そうですニャ、狩って一週間経たない血であれば充分でしょう」

 

「そ、そんなのは聞いてないニャ!」

 

「常識ですニャ、常識! こんな事もわからニャい素人に、叡智を叡智を与えたワタシが浅はかだったですニャ」

 

 

 常識かどうかはともかくとして、そりゃまたご都合主義な話だな。流れて一週間の血が、新鮮と言えるかって疑問もあるが。

 

 

「ニュヒヒヒヒ、古龍の血は普通の生物の血とは違いますからニャ。だからこそ、時間を経ても素材として使えるのですニャ」

 

 

 ふぅん…。ま、そういう事なら話は早い。丁度ここに、5日ほど前に採取したオオナヅチの血がある。熟成とやらをさっさとやってしまおうか。

 マカの壺の要領でいい? …いや、ここは玄人に任せようか。専門家が言う『常識』を、後出しで追加されても困るしな。

 

 

「ニュヒ、ニュヒヒヒ…お任せあれ…。丁度、ですかニャ。ニャるほどニャるほど、トッツイが見込んだハンター様は、『天』『人』を備えたハンターのようですニャ。これなら、見極める為の試練は一つで済みそうですニャ。では、準備があるので失礼…」

 

「…相変わらず腹が立つ奴ニャぁ…。大体、試練って何ニャ試練って。折角手を貸してくれているのに」

 

 

 いやお前だって、信用してほしければモノ亜種狩ってこいとか言ってたろ。

 

 

「ところで、何で古龍の血なんて持ち歩いてたニャ?」

 

 

 この後、工房に持ち込もうと思ってただけさ。(実際は、ふくろに詰め込んでただけだが)

 

 しっかし、よく分からんな。歌姫サンってのはどんな人なんだ?

 失意のうちにあるってのは分かったが、衣装でそれが回復すると言うのが分からん。しかも古龍なんて物騒な生物の素材で作った衣装で。

 

 

「歌姫様かニャ? それはそれは美しく、素晴らしいお方ニャ。…歌姫様に会ってもいいとは思うけど…」

 

 

 引き籠ってる人を、好奇心の為だけに引っ張り出そうとは思わんよ。…まぁ、確かに気になる点は多いけどな。

 

 

「…やっぱり、エドワードに言われた事、気になるかニャ?」

 

 

 無いとは言わんよ。トッツイや歌姫サンにゃ悪いが、やっぱり古龍が歌でどうにかなるとは思えない。退けるにせよ、引き付けるにせよな。

 だが事実、歌姫サンを元気づける為の衣装を造るのに必要な古龍が、あっちから近付いてきた。しかも2度も、だ。

 一発だけなら誤射……じゃなかった、一度目は偶然、二度目は奇跡、三度目は運命ってな。だけど、俺としては運命じゃなくて必然だと思う。なぁんか理由がある。それが歌姫サンなのかは置いといて。

 

 

「歌姫様の事が無くても、古龍が日常茶飯事だからニャ、フロンティア…」

 

 

 そだね。

 必要とされる度に古龍が寄ってきたのも、その中で偶然エンカウントしただけかもしれん。まだ二度目だから、運命でも必然でもない。

 

 と言うか前から疑問に思ってたんだが、何でお前らフロンティアで暮らしてんの? 俺が言うのもなんだけど、立地条件最悪だろ。店はハンター用のばっかりだし、襲撃があるし。

 

 

「サムネの伝手で、ようやく落ち着けたのがここだったんだニャ。この泉があるから、かつて歌姫様が歌っていた場所に似せるのも簡単そうだったニャ」

 

 

 ふーん。確かに、メゼポルタ広場に似合っているようでいないようで、神秘的な雰囲気はあるな。トッツイが作ったのか、コレ。

 

 

「苦労したニャ…。アイルーは器用な方とは言え、流石にこれは…」

 

 

 だろうなぁ…木の上から布を垂らすし、灯篭がいくつも浮いてるし…。何より大変なのは手入れだろ。雨でも降ったらエラい事になるべ。空が見える場所だし。

 

 

「分かってくれるかニャ…。歌姫様の為なら、ガーグァ車の苦労もドンと来いとは言え、物理的に大変なのは否定できないニャ…」

 

 

 何となく帰るタイミングが掴めず、トッツイと適当に話していると…人の気配。レジェンドラスタじゃない。外じゃなくて奥の方だ。そして、歩く音からして、武芸の心得は無いが、それなりの教育を受けていると見た。

 …と言う事は?

 

 

「トッツイ…そこに居るのはトッツイですか?」

 

 

 歌姫サン…か? トッツイが「不味い所を見つかった」とでもいうように、一度だけ跳ねて振り返る。

 

 

「お前は何をしているのです。みだりにこの土地の人々を巻き込んではならぬと固く言いつけておいた筈」

 

「ま、待って欲しいですニャ! オイラ達は、歌姫様にもう一度、歌を取り戻して欲しいだけですニャ! 祈りの森にそっくりに、この泉に祭壇を作りましたニャ! 歌姫様の衣装ももうすぐできますニャ! お願いですニャ! オイラ達の願いを…!」

 

「なりません。お前は、あの悲劇を繰り返すつもりですか?」

 

「!? う、歌姫様…」

 

「良いですね? くれぐれもこの土地の人々に、ご迷惑をかけぬよう…」

 

 

 ……なんか盛り上がってるトコに水差して悪いんだけど、顔くらい見て話ししたら? 人に会うのが嫌で引き籠ってるなら、俺も消えるから、せめてトッツイと顔突き合わせて話せよ。

 

 

「ちょっ、歌姫様になんて口を利くニャ!」

 

「…貴方は?」

 

 

 知り合いの頼みでトッツイに手を貸すようになった、何処にでもいるごく普通のハンターだよ。うんまぁ、色々珍しい点はあるけど、フロンティア基準で言えばな。

 

 

「…そうですか。確かにトッツイに手を貸してくださったのなら、貴方は恩人です。顔すら晒さないのは不義理しょう。…失礼いたします」

 

 

 大木の影から出て来たのは…ほほう、この人が歌姫。

 清楚系…と言うよりは神秘系? イメージ的にはそうだなぁ…。最終幻想4のローザ? しかし俺は緑髪召喚師押しである。おっきい方か小さい方かは想像に任せる。一粒で二度オイシイ? いい事じゃないか。

 

 

「お初お目にかかります。プリズムと申します。この度はこの者が迷惑をかけたようで、本当に申し訳ございません…」

 

 

 俺は単に依頼を受けたり防衛戦に参加したりしただけで、そのお零れをトッツイがゲットしただけですな。

 わースゴーイ、トッツイはとっても歌姫サン想いなフレンズなんだね!

 

 

「…おかしな事は言ってニャいけど、ちょっとイラッときたニャ」

 

 

 だろうね。

 

 

「…この者達の思いも、理解しているつもりです。ですが、これ以上は関わらぬようお願い申し上げます。…もう、全ては終わったのです…」

 

「う、歌姫様…」

 

 

 悪いが、歌姫サンの言葉に従う理由は無いな。歌で古龍がどうこう出来るとは思ってないし、それが原因で災厄云々も信じてない。

 少なくとも、トッツイは何かをしようとして、他力本願でも自分に出来る事を探してやろうとしてる。聞いた範疇では、歌姫サンに何があったのかは分からんが、現状では何もしようとしていない。

 入れ込むとしたら、トッツイだよ。(活気が無いから、食指もイマイチ動かんし)

 

 

「…そうですね…。確かに、貴方の行動にわたくしが口を挟む事はできません。ですが、どうか取り返しのつかない事になる前に、身をお引きくださいますよう…」

 

 

 それだけ言うと、歌姫…プリズムは頭を下げ、また奥へと戻っていった。

 残されたのは俺と、呆然としているトッツイのみ。

 

 

「…う、歌姫様…」

 

 

 おいトッツイ、大丈夫か?

 

 

「…だ、大丈夫ニャ…衣装ができれば、きっと歌姫様も分かってくださるニャ」

 

 

 …自分に言い聞かせているような口調だった。励ましてやろうにも、正直俺も半信半疑どころか、疑い8割だからな…。衣装だけで人がそんなに元気になるとも思えん。

 歌姫サンに会って、むしろ確信した。絶望、悔恨、後悔、その他諸々。怨嗟が感じられないのはせめてもの救いなのか、或いは他者にぶつける事ができずに貯めこむだけの、悪循環なのか。

 やれやれ…こりゃ本格的に腹括って、突き合うしかなそうだ。

 

 

 

 

 



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247話

外伝のネタを2つ思いつき、他にもリクエストを受けました。
しかし1つはいつになるか分からず、もう一つについては元ネタがネットで探しても見つからない為、ネタが出せない有様。
リクエストはニコ動見て、書けるかどうか考えます。
一応、時守がプレイした事のあるゲームって縛りですし。

前者はそのうち書くとして…後者の題名は(今まで外伝に題名なぞありませんでしたが)。

「運命にバーサーカー(4コマきりえ〇いこ風味)として召喚されたようです」

言うまでもなくウチのオバカさん視点ですが、バーサーカーのネタがなぁ…。
思い出せる4コマネタは、教会で祈ってたら叫びながら乱入してきて、王子(ユウガァ!か蟲爺さんかな…愉悦さんは微妙)を一発ド突いて(多分即死)そのまま去っていくのと。
宝箱(聖杯)を開けたらなぜか入っていて即戦闘、「納得いかなくても敵がいればそこは戦場だ。頑張れ王子たち!」くらいなんだよなぁ…。

4コマ、まだ実家にあるかな…あったとして、あの中から探し出すのはちょっと…。
電子書籍化してくれんものか。



あと、前回投稿直前に発見して、「コイツだし直すのも手間だし、別にいいか」と考えて見逃した誤字が異様にウケてて草不可避。


HR月

 

 

 トッツイの事は気になるが、とりあえず衣装が出来るまで何もできん。流石に勝手に奥まで忍び込んでどうこう、ってのはアカンやろ。仮に何かやったとしても、それで歌姫サンが救われるとは思えん。心が救えるのは心だけだが、心を救えるのは心だけだ。

 …正直な話、一週間後に希望が砕け散って大いに傷つくトッツイの姿が目に浮かぶが…トッツイにとってはそれが唯一の希望なんだよな。今から無駄って言っても、死んでも受け入れようとしないだろう。

 

 とりあえず、こっちで歌姫サンの情報を集めておくか。知ってる人は結構多そうだし、何かしらの手掛かりは掴めるかもしれん。

 

 

 

 

 さて、拠点に戻って、猟団でアレコレやっていたんだが…ふむ、何だかんだで結構な数のハンターが真面目に狩りをするようになってるな。

 最近じゃ、入団時に約束したバックアップを求められる事も少なくなってきている…最初に比べれば、だけど。クエスト一件の報酬が、そこそこあるからなー。上手くやってりゃ、回復薬の使用量だって抑えられるもの。そんな些末な金額なら、わざわざ猟団から貰う事もないって訳ね。

 ま、その分新しいタカリ達がやってきて、バックアップを要求するから、結局はトントンなんだけど。

 

 その猟団内で、ちょっとした事が噂になっている。俺が使っている回復薬要らずの妙な力を、無条件に教えてもらえる、という噂だ。いや、デンナーとコーヅィに流してもらったんだけどね。

 実際、デンナーの修行場に、別の猟団であるミーシャ、マオ、サーシャの3人が来て、共に何かやっている光景は珍しくない。別の猟団でも教えてもらえるなら、自分達も…と言う訳だ。

 

 猟団員のシヨミから、ダイレクトに聞かれたんだが……教えるのはいいけどなぁ…。時間がかかるぞコレ。

 一時は伝説のガンナーなんて呼ばれたハンターでさえ、現在は初歩の初歩で散々手古摺っている。……実際に何をやるのかって? 座禅だよ、座禅。目を閉じて集中して、何も考えず、ずーっと動かないんだ。

 

 動かなくていいなんて、楽そう? そう思うなら、一回試してみろ。誰も来ない猟団の部屋で、文字通り何もしない。漫画、飯、音楽どころか鼻歌さえ禁止。1時間どころか、10分保てばいい方だわ。特にシヨミ、お前は堪え性がないタイプだしな。

 …そんな返答が広まったところ、今の所希望者は出ていない。そもそも、自分達が本当に会得できるのかも怪しいものだしなー。

 現状ではクエストも上手く行くような奴しかやってないし、回復薬を使いすぎたら猟団からのバックアップで補える。そこまで必要とされてないんだろう。

 デンナーが力を使えるようになれば話は変わってくるだろうが、そんな怪し気な力に時間を使うくらいなら、多少面倒でも狩りをして、酒代でも稼ぐ…と言うのが猟団達の認識だろう。

 

 唯一、真面目に習得しようかと考えているのはコーヅィのようだが、「特別な力を持つと、それに溺れてしまいそう」と躊躇ってもいる。…要らんところまで真面目なやっちゃな。

 

 

 と言う訳で、現在では修行場と定めた広場では、多くて5人しか人は居ない。俺、デンナー、ストライカーの3人。

 基本的に静かな所の方が修行場には向いてるんで、あんまり人が増えない方がいいんだが…。

 

 それ以前に、ストライカーの3人。アンタら、自分の猟団はどうしてるんだ? ミーシャは猟団長なんだろ? マオは副団長じゃないのか?

 

 

「別に私は副団長という立場ではないぞ。明確な立場を決めている訳ではないからな」

 

「マオの頭痛が何とかなりそうで、根本的な対処の為に暫くこちらに居る…という連絡はつけてあるわ。猟団の運営の方は、留守を預かってくれる子が居るわ。現状では特に問題も起きてないし」

 

 

 問題が起きる前に返っておくのが団長の仕事じゃねーかな…そんな事言い出したら、休暇も取れないけど。

 ところでマオ、その眼帯は何ぞ? 前に会った時はしてなかったよな?

 

 

「ああ、これか。魔眼を使い過ぎるのはよくないらしいから、試しにな。狩りの間はともかく、日常生活では左程不便は無いよ。慣れの問題だ」

 

 

 

 片目って結構面倒な状態なんだがなあ…。

 サーシャは……あっちで蝶を追いかけてる。川に落ちるなよー。

 

 

「…好きにさせてやれ。あのくらいの子には退屈だろう」

 

 

 お、デンナー。瞑想は終わりか?

 

 

「ああ。周囲でそう話されちゃ、上手く集中できん」

 

 

 この程度の話声で乱れるようじゃ、先は長いなー。狩りしている時の集中力はどうしたんだ。デンナーが狩りしてるトコ、見た事ないけど。

 

 

「俺は周囲が気にならなくなるような集中の仕方は、しないタイプなんだよ。そこまで集中したら、横からの奇襲が怖いし。…まぁ、進歩がない訳じゃない。調子のいい時は、お前の言う霊力らしい力も、少しではあるが感じられる…ようになっていると思う」

 

 

 へえ、案外早いと言うべきか、逆に時間がかかったと言うべきか…。

 

 

「下地があればまた違うんだろう? …ストライカーのお二人さんのように」

 

「…そうかもね。でも、私達も使えるというだけで、力を感じ取るというのはできてないのよね…」

 

「それよりも私は、この力を他者に打ち明けている事に戸惑うな。今まで猟団以外には一切明かさずにやってきたからなぁ…」

 

「俺も、まさか噂に聞いた異能者と本当に会う日が来るとは思ってなかったぞ。『ひょっとしたら』と思うハンターは何人か見たが、直接聞く訳にもいかんし…。まさか、開口一番に自分からバラすとは思わなかった」

 

「そちらの団長殿には既に知られているからな! それに、これから共に力の習得の為に修練を共にするのだ。隠したままではギスギスするのが目に見えているし、不義理はいかん!」

 

 

 わっはっは、と豪快に笑い飛ばすマオ。何とも男らしいと言うか、竹を割ったような性格で。

 

 

 

 …ふむ、ちょっと皆に聞きたいんだが…歌姫って聞いた事ある?

 

 

「歌姫……って、どの歌姫だ? メゼポルタ歌唱コンテストに時々出てくる、音響兵器と呼ばれる少女の事か?」

 

 

 エシャロットじゃねーかそれ。歌姫呼ばわりとか、皮肉ってレベルじゃないぞ。

 

 

「生憎、芸能人には明るくないんでな」

 

 

 あー、マオはアイドルとか興味なさそうね。

 

 

「歌姫…と言うと、あの歌姫? かつて何処かの里に居た、古龍を退ける力を持ったっていう…」

 

 

 そうソレ! 知っているのかミーシャ!

 

 

「一時期、メゼポルタ広場に居るって騒がれた事があったわ。古龍云々は私もあまり信じてないけど、歌の方には興味があったわね」

 

「ああ、そう言えばミーシャは歌手志望だったか」

 

「今でも諦めてないけどね。空いた時間で練習しているし」

 

 

 そりゃ是非とも聞かせてほしいもんだ。が、今はその歌姫の方だ。何か知ってる事ないか?

 

 

「何かって言われてもね…。大した事は知らないけど、具体的に何を知りたいの?」

 

 

 あー…実はその、歌姫と知り合った。

 

 

「本当!? 私も会ってみたいんだけど!」

 

 

 ああ。でも、なんか相当嫌な事があったらしくて、もう歌う事も人前に出る事もしない、って言ってるんだよ。お付きのアイルーが何とか励まそうとして、特別な衣装を作ってるんだが、正直それでどうこうなるとは思えん。

 表情からして、無気力で引きこもりそのものって感じだったしな。アイルーから聞いた話じゃ、歌に宿っていた古龍を退ける力が無くなって、それで里が滅ぼされてしまったそうだが…どうにも、それだけだとは思えん。

 いやこれだけでもトラウマ物だとは思うんだが、表情を見る限り自責と……後悔の念が強すぎる。

 

 ありゃ、自分がやった行為の『何か』で致命的な事を引き起こしてしまった、って顔だ。

 

 

「…つまり…その力が失われた原因があって、歌姫はそれが自分の行為によって引き出されたものだと思っている? あくまで、貴方の印象が正しければ、という話だけど」

 

 

 そうだな。何か知らんか?

 

 

「生憎と、私も心当たりは…。何かがあったとしたら、歌姫が居た里が壊滅する前の事でしょう?」

 

「………もしかして、という話でいいなら一つある」

 

 

 デンナー?

 

 

「俺もこの業界長いんでな。歌姫の里が壊滅する少し前頃に、一度だけ里を訪れた事がある。歌姫の歌は、里を古龍から守るだけでなく、それを聞いたハンターにも大きな力を宿す…と言われていたんだ。半信半疑だったが、狩猟笛という前例もあったし、割と期待していたんだが……正直な話、ハンターに宿る力に関しては拍子抜けだった」

 

 

 拍子抜け? 効果が弱いと?

 

 

「ああ。里のアイルー達が言うには、その頃、どんどん歌姫の歌の力が弱まっていたのだそうだ。力の減少はともかく、歌自体は見事なものだったよ。そこへ長期間滞在していたハンターによると、歌の何かが変わった印象は無かったらしい」

 

「…と言う事は…歌詞や戦慄といった、歌そのものに何かしらの力があるのではなく、それを歌う歌姫にこそ何かが宿っている…と、デンナー殿は考えているのですな?」

 

「そうなる。そして、当時歌姫に何が起こったのか、だが……これについてはサッパリ分からん」

 

 

 おーい。

 

 

「滞在したのは一週間程度だぞ。分かる訳がないだろう。ただ、滞在していた間に、歌姫と仲のいい……ゴシップだと割り切って言ってしまうが、恋仲なのではないかと噂されているハンターが居た」

 

「歌姫が恋…確かにゴシップと言うかスキャンダルと言うか…」

 

 

 別にどこぞのアイドル事務所に所属してる訳でもなし、問題ないと思うけどな。しかし、恋仲ね。

 確かに、力が失われる切っ掛けとしては定番だな。誰か一人に心が惹かれた結果、精神のバランスが崩れてしまうとか、ぶっちゃけて言うけど純潔を失う事で呪的な力が薄れるとか。霊力だってそういう面はあるし。

 

 

「そうなのか? …今はともかく、この先伴侶を得ようとしたら…」

 

 

 ちゃんとコントロール身に着けてれば問題ないよ。まあ、ヤンデレって言われるくらいに強い執着になるとヤバいけど。

 それで、そのハンターの名前は?

 

 

「確か……ええと、3文字だったのは覚えているんだが………ト……ト……トッツイ?」

 

 

 それお付きのネコの名前だよ。歌姫がケモナーになっちまう。ていうか4文字。

 

 

「ト、で始まるのと3文字なのは確かだ。ト……ト…トルコ。トリコ。トビラ。トイチ。トール。トチギ。トンパ。トカイ。トシキ…」

 

「…もしかして…トキシ?」

 

「それだ! 知っているのか、マオ?」

 

「知っているも何も、フロンティアでは伝説と呼ばれたハンターだ。デンナー殿は…ああ、フロンティア出身ではなかったか。彼の名前を最後に聞いたのも、随分前の事だしな…」

 

 

 昔を思い出すような目をするマオ。しかし、マオもそれ以上の情報は持っていなかった。トキシとやらが、どんな行動をするハンターだったのか、何を狩ってきたのか、どんな顔なのかも。何より、今どうしているかも…。

 伝説とまで言われたハンターが、人の口に上らなくなる理由…。候補はそんなに多くない。やっぱり、ハンターやってりゃなぁ…。

 歌姫も、噂通り恋仲だったと仮定すると……自分のせいでトキシとやらが死んだ、と思っているから? 単なる失恋では、あそこまで落ち込んで引きずらないだろう。

 

 その筋で情報を集めてみるか。

 

 

 

 

HR月

 

 トキシの情報、全然集まらんなぁ。フロンティアで有名だったと言うのは事実のようで、団員も知っている者がチラホラ居る。しかし何分昔の事だし、そもそも見ず知らずのハンターの行動を一々覚えている筈もない。

 トッツイ達に聞いてみるか? 歌姫と恋仲って呼ばれてた人なら、確実に知ってるだろう。

 …ま、今すぐでなくてもいいか。まだ衣装作成の為の準備中だろうし、完成してから行けばいい。

 それまでは猟団資金と実績でも稼いでおこう。最近、本格的に規模が大きくなってきたしな…。

 

 

 

 

 なんて考えてたら、ちょいと緊急事態。サーシャがダッシュで駆けこんできた。

 何事かと思ったら、マオの目の痛みが再発しだしたのだそうだ。不死鳥の息吹を使っても治まらない。

 うーむ、応急処置だとは言っていたが、思った以上に早く限界が来たようだ。

 

 サーシャを担いでマオ達の拠点にダッシュ(扉を後で直さねば)したところ、「あ゛あ゛、よ゛く゛き゛て゛く゛れ゛た゛な゛」と濁点だらけの涙声でマオが迎えてくれた。ミーシャは外出し、医療品を掻き集めているらしい。

 いつもは眼帯をしている目は、晒されてはいるが、閉じている。光が入るなどの刺激を、少しでも防ごうとしているのだろう。

 

 本人の申告によると、目は痛みはするものの、以前程ではなく、また同時に起こっていた頭痛も無い。しかし、目を開けるとやはり痛みが走り、逆睫毛を100倍したようなチクチクした痛みが間断なく襲ってくる。涙が止まらない。鼻水も止まらない。鼻にティッシュを押し込んでも無駄なくらいに。

 痛みには耐えられない程ではない、と言うが、明らかに生活に支障アリだ。悪化の可能性すらある…と言うか高い。

 

 ともあれ、診断診断。

 

 

「……どうですか? マオさんは大丈夫ですか?」

 

 

 うーん…とりあえず命に別状はない。やっぱり、不死鳥の息吹では完全に霊力を抑える事はできなかったようだな。経絡の通り道に、徐々に小さな霊力が詰まっていって、それが頭より先に目に影響が出たか。

 痛みが走ったのは突然か? それとも前兆はあった?

 

 

「突゛然゛た゛。朝゛食゛を゛食゛へ゛て゛素゛振゛り゛を゛し゛て゛い゛た゛ら゛、刺゛し゛込゛ま゛れ゛る゛よ゛う゛な゛痛゛み゛が゛走゛っ゛た゛」

 

 

 むぅ、経絡の状態を自覚できるようになれば、前兆も分かるだろうが…。

 

 

「ただいま。マオ、大丈夫…ああ、来てくれたの」

 

 

 ミーシャ、お帰り。診察してみたが、今すぐどうこうって事は無い。失明の危険もね。

 詳しい事はカクカクシカジカ。すまん、応急処置だとは言ってたが、予想以上に進行が速かった。それとも、処置の効果が薄かったのか…。

 

 

「そう、よかった…。でも、結局は能力の扱い方を身に着けないといけないのね。…痛みで集中が乱れる状態で、それが出来ると思う?」

 

「ハ゛ン゛タ゛ー゛に゛不゛可゛能゛は゛な゛い゛!」

 

 

 そう思うんならまず涙止めてみせーや。

 …真面目な話、自力でどうにかしようと思ったら、リスクが高すぎる。あくまで理論上、の話だが……経絡のこの辺で、霊力の流れが詰まってる訳だ。それこそ、肉体に影響を与えるくらいにな。つまり、そこには多大な霊力が留まっている。そこにある力が大きければ大きい程、それを感知しやすくはなるだろう。が、当然の事ながら、それは…。

 

 

「目の痛みが激しくなって、更に頭痛まで再発する…?」

 

 

 そう言う事。サーシャは賢いね。精神論でどうにかできる領域かは、俺も分からん。ただ、先日までの状態を思い返せば…。

 

 

「…賛成できません」

 

「やめておいた方がいいわね。でも、他に方法があるの? …………あ」

 

「………あ゛」

 

 

 今更こんな事言うのもなんだが、別に行為を要求してる訳じゃないからな? そりゃ確かに、あの方法が一番確実だけど。

 それと同系統だけど、もう一個方法があるって伝えただろ。その、耳を直に舐める事になるけど、暗示でどうにかする方法。

 

 

「…助けてもらう身でこんな事を言うのはなんだけど、本当に効果はある? 暗示って、要するに催眠術よね? と言うか何故耳を舐める」

 

 

 胡散臭いと思うのは分かるけど、実績はある。耳を舐めるのは、体液が霊力を伝える媒体になるからだ。セクハラ紛いの方法になるのはどうやったって否定できんけど…。いっそ同席するか? …これもセクハラ発言か。

 

 

「…分゛か゛っ゛た゛。こ゛助゛力゛、お゛願゛い゛す゛る゛」

 

「マオ…いいの?」

 

「彼゛の゛事゛は゛信゛用゛も゛信゛頼゛も゛て゛き゛る゛。そ゛れ゛に゛、少゛々゛不゛快゛な゛事゛が゛あ゛っ゛た゛と゛し゛て゛…ハ゛ン゛タ゛ー゛生゛命゛か゛貞゛操゛か゛。考゛え゛る゛ま゛て゛も゛な゛い゛」

 

 

 …分かった。二人はどうする? 同席するか? 特に施術に問題は無いが。もしそれで納得するのであれば、個人的には早急に……可能な限り早急に手を打っておきたい。

 

 

「…お言葉に甘えて、同席させてもらいます。そこまで急ぐと言う事は、やはり何か後遺症の心配があるの?」

 

 

 マオについては、多分ない。俺については、確実にある。

 

 

「?」

 

 

 …患者の前で、こんな私事と言うかプレッシャーをかける事を言うのもなんだが…俺、度々あの広場で、デンナーとマオとミーシャで霊力の訓練してるじゃん。

 自力で根本的な治療法を会得しようとすると、どうしても長期的なる。現状、あそこ以上の修行場所は無い。そしてマオは涙が止まらない。

 

 つまり…他人から見ると、俺はマオを度々呼び出しては、会う前から泣いてしまうような行為を強要する外道にしか見えなくなるんだよ!

 

 

「……あー」

 

「……あ゛-」

 

「……あー」

 

 

 …分かってくれたね? わかったらとっとと治すぞ、とっとと。

 

 

 

 

 

 

 …尚、扉がぶっ壊れていて、いくらか話が漏れていた為、マオをセクハラで泣かせたゲス野郎という評判が広まりかけていた。ストライカーの3人が必死に噂を否定してくれたんで、下火になったけどさ…。

 

 

 

 

 



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第248話+外伝21

討鬼伝モノノフ続行中。
そしてプレイ中にふと気づく。
…これがプレイできるって事は、グランドオーダーも出来るんじゃね?
と思ったが、携帯が破損して代替え機使用中につき延期。

仁王はカンストしたし、大型アップデートに期待かな。
あとは称号の木瓜と刀匠…複数相手が死ぬほど面倒くさい。特に鴉天狗はタヒね。せめてカワイイ女の子とかDOA風味なら…!


前回の前書きで、思いついた外伝が『いつになるか分からない』と言いましたが、素晴らしい動画を見つけて超ブーストがかかってしまいました。
正直、盗作呼ばわりされないか不安。

今回、ちょっと動きが無い(そしてエロと言うにも微妙)なパートが長かったんで、埋め合わせにいいかなーと思ってたら、本編並の長さになってしまった。



あと、唐突になんですが、5/7まで毎日17時更新する事にしました。
出来るかどうか今一不安でしたが、GW企画って事で、書き溜めの消化も兼ねます。
…GW明けから、またヒイヒイ言いそうだなぁ…。
だって5/2からは仁王アップデート三昧だろうし…。



HR月

 

 

 さて、結論から言うと、ヒジョーに上手くいった。意味深は無い。

 直接的な接触は耳だけに限定されているものの、ある意味俺が狩りの技術以上に信頼を置く業だからね。…まぁ、今回使ったのは、まだ完全に御しきれてないオカルト版真言立川流中伝の技だから、不安はあったが。

 うーん…そうだな、これから同じ事をする可能性もあるんだし、記録はつけておくか。エロと違ってほぼノータッチだったから、参考資料が少ないんだよな…。

 

 

 

 壊れた扉を適当に直して密閉を確保。マオはベッドの上に座らせる。

 

 まず深呼吸して目を閉じる。吸って。吐いて。吸って。吐いて。ハンター式の睡眠法を軽く使う感覚だ。

 目の痛みでリラックスは出来ないだろうが、まだそれはいい。

 

 耳に触れるぞ…最初は舐めるんじゃなくて、指に唾液を付けて、それを塗り付ける。いい気分はしないだろうが、我慢してくれ。

 人差し指を咥えて濡らすと、右耳に触れた。明らかに拒絶しようとしたが、抑え込んだようだ。

 

 

 耳の穴付近に軽く塗す。微量の霊力を込めた吐息を吹きかけると、マオの背中がブルっと震えた。霊力の伝達は充分。

 喉を一度鳴らし、声に力を込めた。マオの耳元で囁き始める。

 (まずは目の痛みを抑える…と言いたいところだが、根本的な治療が目的。先に、留まっている力を受け入れる先を作る)

 

 

 全身に力を籠めろ。抜くと同時に、肺の中の空気を全て押し出す。自然と息が吸い込まれ、新しい空気が体に入ってくる。

 入って来た空気は、肺ではなく心臓に集中する。

 もう一度、全身に力を籠める。脱力する。また入って来た空気が、心臓に宿る。

 繰り返し呼吸すれば、心臓にどんどん空気が貯めこまれていく。

 

 …そう、もう一度。もう一度。もう一度。

 それでいい。

 今度は右手だけに力を入れる。脱力すると、心臓に宿っていた空気が右腕に流れ込む。

 次は左腕。右足。左足。頭。

 

 体が空気で満たされる。そのままもう一度深呼吸すると、今度は空気ではなく、光る気体が吸い込まれる。

 空気と違ってほんの少ししか吸い込めないけど、それはまた心臓の一番真ん中に宿って、一緒に宿っている空気を金色に変えていく。

 

 …心臓の空気が全て金色に代わる。その金色から、一本の糸が飛び出てきた。細い糸だが決して千切れず、血管を通って、体を巡る。左肩。左腕。肘。手。指。末端まで糸が進んだら、折り返して脇の下へ。脇腹。腰。左の腿。膝。脛。爪先まで。折り返して、股座を通って右足。内腿。膝。脛。爪先。折り返して腰、右脇腹、右腕、肘、手の甲、指先。折り返して、右肩に。胸を通って、糸は心臓に帰ってくる。

 もう一度大きく深呼吸を続ける。吐き出された空気の代わりに、光る気体が飛び込んでくる。呼吸を続ければ続ける程、その量は次第に増えていく。

 心臓から伸びる糸が、徐々に太くなっていく。糸は膨れ上がりながら、ゆっくりと全身を巡る。糸から紐へ、紐から縄へ。

 (霊力の循環の道筋はできた。後は循環量を増やし、留まる場所…溜池を作る)

 

 縄から川へ。

 

 体の中を流れる光る川は、行場を求めて体中を巡る。どんどん、どんどん広がる。

 心臓から出た川が、胃に、肺に、子宮に流れ込んでいく。

 

 

 いよいよ全身が満たされると、今度は川は遡り始める。首を通って、頭まで届く。

 大きな力の流れが駆け巡り、留まっていたもの、こびりついていた不純物が、一斉に押し流される。代わりに満ちるのは、新鮮で、清らかで、絹のように滑らかな光の奔流。

 触れたものを癒し、乾いた地に潤いを与え、木々が芽吹く為の栄養を注ぎ込む光の本流。

 (目の痛みの元となっていた力が、押し寄せてきた霊力の本流で、強引に経路に押し流された。暗示のおかげで、流れ込んだ霊力には経路の損傷を癒す力もある。これで痛みは治まっていく)

 

 

 全身に、余すところなく光が満ちた。光に触れて、今まで眠っていた感覚が目を覚まし始める。

 感覚の名前は…喜び。光が触れる場所全てが、春を迎えた森のように活発に動く。心臓も、肺も、胃も、朝も、子宮も、全てに活力が満ちた。

 (上手くトランス状態までもっていけた…。この状態を長く維持して、体内の力の流れを整え、流れを自覚させる)

 

 

 だけど、このままではいけない。マオ、お前はこの喜びの手綱を握らなければいけない。今の喜びは、災害の跡に訪れた一時的なもの。それを立て直し、以前よりももっと繁栄させるのがお前の役目だ。

 そうすれば、もっと大きな喜びを、もっと長く感じていられる。

 

 

 お前が一番使い慣れているのは何処だ? …そうだ、その魔眼だ。頭痛と目の痛みの元凶になったからこそ、それを制御すれば同じ事は起きない。

 

 

 …ここから、少し難しくなってくる。俺の言葉をもっと取り込む為に、耳に唾液を付けるぞ。……ああ。そのままじっとしていろ。

 

 

 

 目を閉じているマオは、痛みが引いたのか、安らかな顔をしている。耳を舐めると聞いても、拒絶の意も全く見せなかった。

 ベッドの上に上がって、マオの肩に腕を回す。…一応、セクハラじゃない…と、ミーシャとサーシャに言っておこうとしたが………何だ? 顔を真っ赤にして俯いたり、『あわわわわ』みたいな表情なんだが。

 何? …声がエロい? いやエロい内容なんて、今回は何も言ってないだろ。まぁいいや、続ける。

 

 

 

 んっ……。

 

 唾液を多く纏わせた舌で、マオの耳をくすぐる。まずは外側から。耳たぶは舌の腹で。デコボコした部分は舌の先端でマッサージをするように、唾液でヌメってない部分が無くなるまで舌を擦り付ける。

 一舐めする度に、マオの体がピクピク動く。念のため表情を伺ってみれば、トランス状態が続いている為か、恍惚とした表情は崩れてない。このまま行けそうだ。

 

 

 外側部分は、充分に濡れた。今度は奥まで。

 舌先を尖らせ、マオの耳元に限界まで顔を寄せて、ゆっくり差し込む。流石に、耳の穴に舌がそのまま入り込むような大きさではないが、唾液による滑りのおかげで、ヌルヌルと抉じ開けるように進む事が出来た。

 奥まで舌を差し込んだら引き抜いて、唾液を補充し、もう一度差し込む。

 …ヌチャ、ペチャ、と聞き慣れた音が響く。女を抱く時とよく似た音だが、少し違う。マオは……表情がちょっとトロけてきてるな。トランス状態だから、忌避感が湧いてこずに感覚だけを受け止めてるのか。…悪くない。

 

 っと、いかんいかん、私情は置いておく。唾液もかなり奥の方まで行き渡った。術を続けよう。

 

 

 

 体に行きわたっている光の奔流は、本来マオ自身が持っている力だ。普段は体の中で眠っている力だ。大きな閉じた水門があって、そこの中に蓄えられている力。

 今はそれを開いて、中の水を垂れ流している。このままだと、遠からず水は尽きてしまうだろう。だから、水門を調節する為の機能を付ける。

 マオ、今のお前の体の中で、一番多く水が溜まっているのは何処だ?

 

 

「……お腹…」

 

 

 (目や頭ではないか…。ちゃんと経絡が流れているって事だな)

 お腹……丹田か。なら、その腹の中に源泉がある。そこに大きな水門がある。開いているのが分かるか? それを、少しずつ閉じるんだ。

 

 

「………嫌、だ…」

 

 

 うん?

 

 

「こんな感覚は……初めて…なんだ…。もう、少しだけでいい……この感覚に、浸っていたい…」

 

 

 …これはちっと予想外。よく見てみれば、無表情にも近かった顔は、どことなく緩んで恍惚としているようだ。…性的な快感ではなくて、幸福感に包まれているんだろうが…。

 ふむ、どうしたものかな。放置しておくとよろしくない。

 命に別状は無いな。ブーストがかかって霊力が絞り出されているが、そう遠くない内に…生命維持に問題が出る前に、トランスが解け、溢れ出ている霊力も治まるだろう。

 しかし、そうなると恐らく霊力コントロールは全く身に付かない。根本的な解決にはならないだろう。

 だが、本人に拒むような意思があると、暗示も上手くいきそうにない。霊力付きの囁きなので、ゴリ押しする事もできなくはないが…。

 

 

 …思い出されるのは、前ループでユクモ村の双子との囁きプレイ。…うん、この路線で行くか。所詮俺だから、エロにならざるを得ないのだ。

 

 

 

 わかった。なら、その感覚を長続きさせる方法にしよう。と言っても、やる事はあまり変わらない。今は水門が開き過ぎているから、あっという間に水が尽きてしまう。

 だから、それを半分くらい空いた状態にすればいい。今感じている悦びはは消えず、長続きするようになるだろう。

 

 

「…わかった……それでいい…」

 

 

 いい子だ。すぐにはコントロールができないだろう。だから俺が補助する。1から10まで数を数えるから、それに応じて水門から溢れ出る水の量が変わる。お前の体を駆けまわる、光の奔流の勢いも変わる。

 今は…そうだな。水門の状態は「6」だ。いいな、「6」だぞ。6割開いているんだ。

 今から一つ一つ、段階を踏んで変動させる。

 

 …閉じさせようとしないか不安か? 大丈夫、「3」より少なくはしない。

 じゃあいくぞ。「5」

 

 

「…5……」

 

 

 (目に見える変化はない。マオが感じている恍惚にも変動はないようだ)

 「4」

 

 

「………4…」

 

 

 (霊力の奔流が、少し弱まった。恍惚は…顔が少し陰っている。影響が出たか)

 「5」

 

 

「5…」

 

 

 (上げる方には躊躇い無し、と)

 「6」

 

「6…」

 

 「7」

 

「……7…」 

 

 (6以上に上げるのは躊躇った? …恍惚であっても、これ以上深く入り込むのに恐怖を持っている)

 「6」

 

 

「6…」

 

 

 水門の開閉が、どんどんスムーズになっていく。また、古い水が流れ出た事で、湧き出てきた新しい水で満たされる。

 その水は、マオの意思で動かす事ができる水だ。体中にその水が満ちて、今感じている喜びは、もっと強い悦びに替る。

 

 ほら、マオが気持ちよくなりたい、幸福を感じたいと思った場所で、新しい水が騒ぐ。流れ込んで、満ちて、満ちて、沈めて、取り込んで。我慢できない程の悦びで埋め尽くされる。

 これ以上の感覚は怖い? でももっと欲しい。 体の内側が疼いて仕方ない? だから欲しい。

 欲しい。欲しい。欲しい。

 

 どうすればいい? その感覚を与えられるのは、他ならぬマオのみ。お前が作り出した力が、お前の望みに従って、お前を気持ちよくしようとしているからだ。

 だから、もっと強い感覚が欲しいなら、この水門だけでなく、水をコントロールすればいい。

 心配ない。俺の声がサポートするし、その水はマオの意思そのものだ。自然とできる。

 

 さぁ、もう少し開放するぞ。「7」

 

 

「7…」

 

 

 (躊躇いが無くなった。暫く往復させて抵抗を完全に消し、コントロールをスムーズにする)

 「6」

 

「6」

 

 「5」

 

「5」

 

 「6」

 

「6

 

 「7」

 

「7」

 

 「6」

 

「6」

 

 「7」

 

「7」

 

 

 数字を前後させて、徐々に大きくしていく。

 そうしている間に、マオの反応が変化してきた。数字が変わる度に体を痙攣させている。小さくすれば安堵したような息を吐き、大きくすれば悦びに震える。

 …暗示をかけた通り、マオの全身を駆け巡る霊力は、自身のカラダを悦ばせようとしているようだ。肉体を動かさなず、神経と内臓で自慰をしているようなものか。

 尤も、その自慰で何処まで達せられるかは俺の胸先三寸次第なんだけども。

 

 数字を前後させ、徐々に数をあげていく度に、マオの痙攣は強くなる。雌の匂いも漂っている。

 意識しているのか居ないのか、嬌声さえ漏れている。敏感な場所を撫で回されて漏れるアンアンではなくて、呼吸の仕方を忘れてしまったような、荒い息で構成された嬌声だけども。

 

 

 …それでも、マオの限界は近付いてくる。唯でさえ、霊力にブーストをかけて無理矢理出力を増しているのだ。いくら体が悦んでいたって、どうしたって体力は消耗する。マトモな呼吸もできないのだから、猶更だ。

 ここらで落ち着けるか? …いや、それはあんまりよくないな。ここまで盛り上がってる(俺じゃなくてマオがだ)んだし、デカい山を一つ越えるくらいの区切りは必要だろう。

 発情具合で例えるなら、欲求不満が堪りまくったケダモノが、ようやく解放されたようなもんだ。小さな絶頂が一つ二つ来たところで、猛りが収まる筈がない。

 

 

 (数を変える事にも、上げる事にも全く抵抗がなくなった。同時に、そう支持される事にも慣れてきている。頃合いだ。

 「8」

 

「8」

 

 「9」

 

「9っ……」

 

 「8。覚えているか? 10が一番大きな数だ。マオが一番強い悦びを得られる、大きな数だ」

 

「は、ち……」

 

 「9」

 

「きゅう…」

 

 「9」

 

「きゅう」

 

 「9」

 

「きゅう…」

 

 「9…あと1が欲しいか?  だが、もしもそこまで到達してしまったら、もう止まらない。最後の最後まで、その感覚に溺れ続ける」

 

「ほ……しい…10、ほしい…」

 

 

 いいだろう。ただし、今度は1から数えていく。

 さぁいくぞ。

 「1」

 

「いち」

 

 霊力の流れが弱まり、体が落ち着く。

 

 「2」

 

「にぃ」

 

 大きく息を吸い込んで、体と心を落ち着けたようだった。

 

 「3」

 

「さん…」

 

 またじわじわと霊力が強くなる。

 

 「4」

 

「よん」

 

 全身に少しずつ力が入り始める。

 

 「5」

 

「ごぉ…」

 

 声と表情に熱が宿る。

 

 「6」

 

「ろ、くっ…」

 

 内側から膨れ上がる悦びに耐えられないかのように、仰け反り始める。

 

 「7」

 

「しちっ…」

 

 呼吸が乱れる。 

 

 「8」

 

「はっ……ち…!」

 

 膨れ上がった悦びは留まるところを知らない。なのに、最期の一線だけを超えられず、マオの体内を蹂躙する。

 

 「9」

 

「きゅう…!」

 

 

 ここが、マオが辿り着けた最高点。最後の一線にして、悦びを阻む最後の壁。

 その壁を。

 

 

 「10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20」

 

 

「うっ、あぁ、っっ、っ、………………!!!!!!!」

 

 

 壁を越えた先に、更に深みが広がる。10が最高、と教え込まれていたマオを、容赦なくその深みへ突き落す。

 

 

 「61626364656667686970…」

 

「っ、っ、っ、っ、っ!!!」

 

 

 言葉が加速する。数が一つずつ、素早く大きくなり続ける。もうマオに抗う方法は無い。俺の声にも熱が籠っているのが自覚できる。

 

 

 「71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 」

 

 

 マオの体中が痙攣し、それこそオーガズムが止まらないかのような有様。舌を突き出して顎を仰け反らせ、豊かな胸の先端で は、薄着を押し上げるポッチが二つ、はっきりと見える。ここからは直接見えないが、股座からは雌の匂いが強くなっていた。

 

 

 

「81 82 83 84 85 86 87 88 89 90919293949596979899」

 

 

 最後の一押し。マオの残存霊力も、これが限界だ。最後の+1で言葉を止め、耳を一舐め。敏感になった体はそれだけで達しそうになるが、霊力の干渉によってそれを許さない。

 マオが達するのは、これだよ。

 

 

「1000」

 

 

 

 

 

 …で、めでたくマオは気絶した訳だ。

 念のため、暗示を解く囁きも耳元で囁いておく。無意識に作用するもんだから、寝てても問題は無いのよ。睡眠学習みたいに。

 

 

 

 

 

 …あの、ミーシャさん。何でアワワワワしながらこっちにボウガン向けてんの? サーシャはサーシャで、プルプル震えながら蹲って怯えてるし。

 …まぁいいか。とりあえず、これでマオの頭痛と目の痛みは当分起きない。霊力の扱いも、体である程度覚えてると思う…こっちに確証はないが。

 

 起きたら気分爽快になってると思うが、信用するな。今、マオの中の力をほぼ使い切ってる状態だ。気分爽快ってのは、ランナーズハイとか、重労働した後の爽やかさと同じだよ。

 しっかり飯食わせて、素振りもさせずに眠らせるように。…言わなくも、胃腸も活発に動いてるから、起きたらまずトイレ行って飯を要求すると思うけど。

 

 それと……着替えさせてやってくれ。(潮まで吹くとは…処女には刺激が強すぎたか…?)

 

 

 

 

HR月

 

 ストライカーがどうなったかも気になるが、そろそろ衣装も完成している頃だと思い、トッツイの様子を見に来た。渾身の衣装が効果を発揮せず、意気消沈したトッツイをどうやって元気づけるか…を考えながら来たんだが…予想はちょっと裏切られた。うん、いい意味で…なんだろう。

 

 

「おお、お待ちしておりましたヌァ!」

 

 

 …だから普通に話せって。なんだ、思ってたより元気そうだな。衣装はどうだったんだ?

 

 

「…ダメでしたニャ。歌姫様の呪いは、衣装では解けないニャ」

 

 

 …呪い? 呪詛の類なら、俺も多少は心当たりがあるが…モノノフ的に。

 なんでまた、いきなり呪いなんてモノが出てくるんだ。

 

 

「バッシの奴が黙ってたんですニャ! 歌姫様が呪いを受けていたニャんて、聞いてないニャ! てっきり、あんな事があったから、それで落ち込んでおられると…」

 

 

 呪い…ねぇ。そんなら、大抵のものは俺が感知できそうなもんだが…いや、呪いって言ってもオカルト的な物とは限らんな。呪詛に見えるが、物理的な原因があった事なんて珍しくもない。

 で、その呪いを解くにはどうすりゃええの? 衣装は結局、作っただけ無駄か?

 

 

「ニャ、詳しい事は理解できニャかったけど、衣装も必要らしいニャ。あの衣装を来て、特別に調合した特効薬を飲めば、呪いは解けるらしいニャ」

 

 

 はーん、無駄にならなかったなら良かったわ。で、そのバッシは何処だ? 調合だなんだって、結局トンでも素材を要求されるのは目に見えているんだが。

 

 

「ここに居ますニャ。流石に話がお早い。…ですが、依頼の前に、貴方を見極めさせていただきたいですニャ」

 

「バッシ! オイラが見込んだハンターに、なんて口利くニャ!」

 

 

 いやトッツイ、お前も最初似たようなもんだったぞ。と言うか、見極めるのはいいんだが、そーゆー事やってるからハンター達が助けてくれなくなるんじゃないか?

 …まぁいいや。で、試験の内容は?

 

 

「これからワタシが作る薬は、『天地人』の薬といいますニャ。それを作る為の材料を集めるのは非常に困難で、文字通り『天』『地』『人』全てを兼ね備えたハンターでなければ材料を集められない事から、この名前が付きましたニャ」

 

 

 ほうほう。で、天地人の内容は?

 

 

「天は運…いや、ここでは敢えて天の時と申しましょうかニャ。どれだけ腕がよくても、希少な素材は手に入らない時もありますニャ」

 

 

 …ああ、対物欲センサーって事ね、ハイハイ。でも俺がそれを持ってるとは思えないんですが? と言うかリアル対物欲センサーとか何がなんでも欲しいわ。

 いや、いっそリアル物欲センサーを持って他人に使うと言う手も……ダメだ、それが人間のやる事かよぉ。

 

「ニュフフフ…ご謙遜を。トッツイが衣装を作る為の、新鮮な霞龍の血を求めている時、正にそれを持っていたのはどなたでしたかニャ? 聞けば、その霞龍を狩ったのも、正に数日前だというではニャいですか。これこそ正に天の運。あなたに天が味方している証拠ですニャ」

 

 

 それで納得するなら、別にいいけどよ…。俺に天…。こんな訳の分からんループに放り込みやがった天が味方ねぇ…。ま、運命なんぞ信じてないから、天と言われてもどうでもいいがね。

 

 

「次に、『人』ですニャ。これは言わずもがな、ハンターとしての実力ですニャ。貴方の勇名は、このバッシも聞き及んでいますニャ。訓練所卒業から一か月足らずで、フロンティア上級ハンターへ昇格し、猟団を設立。先日のメゼポルタ防衛戦では、ほぼ単騎でヤマツカミを仕留めたそうですニャ」

 

 

 …色々過大評価されてるような…。

 

 

「最後に、問題は『地』ですニャ。貴方のこれまでの行いで、『天』『人』を持っているのは分かりましたニャ。なので、最期に『地』をお持ちかどうか、確かめさせていただきますニャ。そうですニャ……混沌茸を20個集めてくださいですニャ」

 

 

 混沌茸…っつーと、確かエラく危険な胞子を含んだキノコだったな。特定区域にしか植生しない、と聞いていたが…どこからとってきてもいいのか?

 

 

「構いませんニャ。混沌茸が自生する場所を多く知っているニャら、それは狩場を知り尽くしていると言う事ニャ。『地』をお持ちと言う事になりますニャ」

 

 

 ん、よかろ。とは言え、流石に暫くかかるぞ。悪いがトッツイ、待っててくれ。

 

 

「バッシが大変な事を言い出して、申し訳ないニャ…。どうかお願いするニャ。歌姫様の呪いが解けるまで、あの大悪党のトキシの呪いが消えるまで、あと少しなんだニャ!」

 

 

 ……んあ? ……ああ、とりあえず猟団に戻って準備するわ。その前に一つ用事もあるし…。

 じゃ、今日の所はこれでお暇する。

 

 

「お早いお戻りを…。ニュフ、ニュフフフフ…」

 

 

 

 

 

 

 

 …さて、どういう事かね。

 混沌茸については、まぁいい。確かに珍しい植物だが、実を言うと手元に10個くらいある。何であるかって? 

 

 

 特定区域にしか生えないと言われていたが、ベルナ村では普通に農園で取引できるからだよ。

 

 

 『地』の試験に合ったやり方ではない? 何を言う、名産品を知ると言う事は『地』を知ると言う事ではないか。そもそもバッシは、「どこからとってきてもいいのか?」と聞いたら頷いたではないか。他所の事を知らなかったバッシが悪い。

 とは言え、残りの10個は流石に手間だな。人海戦術で行くか。猟団の連中に知らせを出さないと。高額買い取り、と書いて猟団内で触れ回れば、幾つかは確保できるだろう。楽して金儲け、一発逆転にはメがない連中だからな。

 

 

 さて、それよりも問題はトキシの事だ。最後にトッツイがポロっと漏らしたが…大悪党?

 先日、デンナーやマオからの情報により、「歌姫とトキシが恋仲で、それが力が無くなった原因なのではないか」と推測したが…違うのか?

 仮にそれが正しかったとして、正面切って聞くのは悪手以外の何物でもない。少なくともトッツイは悪党だと思い込んでいるのだし、それと主が恋仲なんて聞かされたら、こっちの話も聞かないくらいに激怒するだろう。

 いやー危なかった危なかった。

 

 しかし、どうなのかねぇ。トッツイは直情的で素直だが、思い込みが強いところがあるし、人間の感性とアイルーの感性は別物だ。伝聞や比喩、冗談で話された事を真に受けて、勘違いを拗らせている可能性は非常に高い。

 

 

 

 

 …トキシ。伝説のハンター、か。同じ伝説と呼ばれているならデンナーが居るが、それとはまた別だろうか。

 伝説ってくらいだから、案外レジェンドラスタと関わりがあったりしてな、レジェンド繋がりで。そうでなくても、そんだけ名の知れたハンターなら、レジェンドラスタ達も知っているか。

 よし、折角こっちに来たんだし、酒場に顔を出していこう。リアさんに斬りかかられないように祈祷してから。

 

 

 

 




 ふむ、今度はまたちょと変わった夢だな。いつもいつもワケの分からん場所に理不尽に放り出されている(夢なんて大体そんなもんだが)が、今回もまたワケが分からん。
 今現在、俺は森の中を結構なスピードで疾走している。具体的にはバフかけまくって全力疾走した鬼疾風くらいには早い。。
 森は真っ暗で、不気味…と言うより、明らかに尋常ではない『何か』が居る。俺の感覚で言えば、討鬼伝世界の鬼が近いんじゃなかろうか。怪物なら他の2世界にも居るけど、MH世界は物理的怪物、GE世界は科学的(?)怪物。そんで討鬼伝世界とこの森の怪物は、霊的な怪物だ。
 まあ、間近で見た訳じゃないから、何とも言えないが…。

 立ち止まって観察する事もできないんだもんなぁ。だって、森の中を疾走していると言っても、実際に走っているのは俺じゃない。列車だ。列車…いや機関車?
 うん機関車だね。トーマスではないけど機関車だね。時々ポッポーって音がしてるし、蒸気機関車だと思う。
 俺はその先頭の上…蒸気をあげる煙突に凭れて、ボケーっとしている訳だ。

 いやもうどうしたもんかねー。車掌も居ないみたいだし。飛び降りても俺なら無事でいられると思うが、何処まで続くか分からない森を延々と探索するのは面倒くさい。
 いっそ開き直って乗客側に行くというのも考えたんだが、フロンティアで延々狩りしていた為、メッチャいかつい鎧に、返り血も結構…。騒ぎになるのは目に見えている。そもそも、この列車がどっかの駅で停車しないと、客席に居たって全く意味が無い。
 仕方ないので、何処かに停車したら適当にトンズラしようと思って、ずーっとここに居るんだが…一時間以上走り続けてるぞ、こいつ。一体どんな線路なんだ、ここは。

 蒸気機関車の癖して、釜の調節をする人も居ないし…。パズーに「釜焚き手伝え!」と言ってやりたくなる。そうなると対面から軍が来たり海賊なのか空賊なのかよくわからん一家が来たりするかもしれんが、暇潰しになればそれでいいや。




 と思っていたら、線路の対面からじゃなくて、後ろから来た。いや列車じゃなくて人だけどね。…なんだこの組み合わせ。フンドシマッチョ、微妙にシブい恰好したサムライ……に、ニンジャ?
 …結構強い…な。特にあのサムライ。総合力ならともかく、剣の腕ではちょっと勝てそうにない。

 誰も居ない操縦席付近で、何やらスイッチを弄っていたが…どう見ても技術者さんとかじゃないな。何だ? 機関車ジャックでもするのか?

 暫く様子を見ていると、何故か屋根の上まで上がって来た。そこで俺に気が付いたらしい。


「…何者」


 無賃乗車した人です。


「……………なぜここに居るでござるか?」


 何でって言われてもなぁ…。気が付いたらここに居たとしか言いようがないんだが。乗った覚えのない列車に居るし、列車は列車で誰も居ないし止まらないし、切符出せって言われても困るからずーっとここに居たんだよ。
 そう返すと、3人は円になってヒソヒソ話を始めた。…本人を前にして密談とか感じワルイよ? まぁ、この距離なら思いっきり聞こえるけどね、俺の耳なら。風の音がちょっとうるさいけど…。


「…どう思う?」

「この列車に居る時点で、恐らくはそういう事だとしか…」

「………」

「でもこれ伝えられるか? 已經死了(お前はもう死んでいる)、なんて」

「マッシュ殿の顔が妙にいかつくなったのは気になるでござるが、このまま冥界行と言うのも…いや、もしここで列車から降りられれば…」

「モンスターになっちまうんじゃないか? 死んでるのに魂だけが戻ったって」

「……俺はこのまま冥界に行く気は無い…」

「そりゃあそうだが…」

「何れにせよ、列車を止めない事には何ともならんでござる。後は煙突の下のスイッチでござるが…」


 …死んでる? いや確かに何度も死んでるけど。あの言いようだと、ここ=列車に居ると言う事は死んでいる、という訳で…。
 サムライ、ニンジャ、そしてフンドシな理由は分からないけどマッシュ…。




 おいこれってもしかしなくても                         カチッ



 …今 足元から   何か音が



『私の走行の邪魔をするのはお前達か!』


 キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!





 最終幻想六の魔列車かよ!?

 ちょっ、俺関係ね、振動がぁぁぁ!? 全員纏めて前方線路に投げ出されて。 
 チャンス、このまま明後日の方向に…透明な壁に弾かれたッ!
 何とか着地。


「走れー!」


 マッチョもといマシュ…でもないマッシュ殿は無茶を言いよる! くっ、ナンバリングの壁を越え、燃え上がれガルバディア魂ィィィィ! 不発に終わったあの兵士の魂、俺が引き継いでやるァァァァ!!!
 キスティス先生に「そんなに頑張らないで…」と言われても、逆に燃え上がるんだよォォォォ! ご褒美なんだよォォォちょっとくらいトウが立ってても! リアルに許容範囲じゃん先生!

 下が線路でスゲェ走りにくいけど、何とか魔列車に轢きつぶされない程度の速度維持に成功。隣で平然と3人走ってるが、どんな脚力してんねん。


「線路脇に避けるでござる!」


 無理! さっき吹っ飛ばされた時に弾かれた。多分、動けるのは線路の上だけだ!
 しかも斥力があるっぽいから、見えない壁を駆け上がる事もできそうにない。


「んじゃこのままどうにかするしかねえだろ! アンタも戦えるな!? 一番手行くぜ! 爆裂拳!」


 こんな状況で戦うの初めてだけどね! 悪霊相手ならそこそこやれるよ。
 でもコイツどう見ても金属物質だけどな! 飛び掛かってブン殴って戻るくらいなら、そのまま飛びついてりゃよかろうに。
 あ、着地際を見事に車輪に掬われた。…チッ、魔列車の車輪に異常は無いか。車輪一個飛ばしたんだから、そのまま走行不能になれっての。




 ってオイそこのニンジャ何をこの状況で悠長にアイサツしとるか!
 なんてオクユカシイ! しかも後ろ向きに走りながらウツクシイ合掌!


「シャドウのアレは気にしても仕方ないでござる。次は拙者が。…牙ッ!」


 おお、機関車の表面を貫いた! ……が、適当に切り傷つけたところで列車が壊れる筈ないわな。
 む、それどころか……何か上に飛ばした?

 ちょっ、いきなり雨降って来たんですけど!? 


「酸性雨だ!」


 マジで!? と言うかだったら魔列車も錆びるだろうが!


『表面が少し錆びた所で、走行に直ちに影響はない。イイネ?』


 アッハイ。
 あ、酸性雨止んだ。…あれ、いつの間にか魔列車にスリケンが刺さっている。
 横を見ると、シャドウが懐をまさぐっていた。…酸性雨に紛れて投げつけたのか。と言うか残弾無しか?


 そんじゃ、次は俺が…。

 よし…狙いは車輪。追駆、行け!


    パシュッ


「…ショボっ!」


 うっせぇぇ! 考えてみりゃ走りながら貯めなんざできねーよ! その前に車輪ブン殴ったって、逆に回転に弾かれる事に今気づいた!
 ええい、そんならこいつで…神機、ブラスト砲! 


「おお、今度は派手だな、しかも二回攻撃とはやるじゃないか。俺も負けてられないぜ。こいつでどうよ!」


 おおっ! マッチョもといマッシュのガチムチからゴン太ででっかくて白濁したのが噴き出した! フンドシ一丁だから余計に似合うよ気持ち悪いなぁ! 
 なお、この辺には女っ気もホモッ毛もマッチョ×魔列車なんて廃レベルの猛者も居ない事を明言しておく。
 

 背後からポーッと甲高い音が響く。汽笛か? スピードアップする気かコイツ!


「いや、魔列車の汽笛は魔界の汽笛、恐らくは…来るでござる!」


 どこからともなく、白い靄で出来た人間が集まってくる。幽霊か…クソ、霊力で追っ払えるとは思うが、数が多すぎるぞ。
 案の定、うらめしや~とでも言いたげな幽霊達が……多い多い多い多い! 他の3人は1体ずつなのに、なんで俺だけ大挙して押し寄せてくるの!? ナニ!? 成仏させてくれ? 魔列車に居りゃ成仏もクソもなくホトケさんになるだろがいい加減にしろ!

 何とか幽霊達を念仏唱えて追い払い、横を見てみると………うん、なんだ。ニンジャは許す。魔列車の明かり以外に光源が無いこの場所で、サングラスは致命的だと思うがまぁ許す。暗闇はニンジャセンスで乗り切ってくれ。
 サムライは……おい、何で緑色の肌にアヒルみたいな嘴に、おまけに皿まで……河童じゃねーか!? そういやそんなステータス異常、最終幻想6限定であったような…。 え? ナニ? 俺もカッパになってるって? マジで? ……………マジだった。どうすりゃ治るんだコレ。
 しかも俺の上にはなんか数字が出てるし、そういや紫色の泡が体中から立ち上ってるし、妙に体がだるいし…。って、これ死の宣告に毒にスリップじゃねーか! どんだけ重複してんだ、あれだけ幽霊にタカられりゃこうなるのも納得だが!


 そしてマッチョ、お前は一体どんな足運びしてるんだ。両腕を上にかかげたオリバーポーズでグルグルグルグル回りやがって。
 …ん? これってもしかして混乱? …と言う事は、味方に攻撃を仕掛けて…………ちょっ、よりにもよってこっち来んなし! 焦点が合ってない何処を見ているか分からない目で、微笑んでいるように見えるクセに全く顔が動かないアルカイック無表情(右回転)で迫ってくるのはやめろォ!


 うおおおぉぉぉぉぉ!!!!!



 全力攻撃! (悪)夢を見せるマッチョは後ろに吹っ飛んでいった。ガン、と音がしたから多分魔列車に弾かれたんだろう。…あんなモン、魔列車も触りたくなかったろうに。
 で、マッチョは平然と復帰してまた走ってるし。
 クソ、生きてやが…いやいや混乱を治める為に殴っただけだよ、汚物を消去しようなんてしてないよ。


 む、突然木の葉が舞った。これも魔列車の新しい攻撃……じゃなくてニンジャのジツか。おお、まさか本当に透明になるとは…ちょっと感動。
 黙って走るが……考えてみりゃ、これ意味ないのでは? 逃げ場がない以上、線路の上に居るのは明白だし、魔列車は延々と走り続ける訳で。



 …ダメだ、それ以前にあいつ、どうやったのか知らんがこっちを探知してるぞ。……へ?







 …いつから魔列車はスリーナインになったんだ…? 空飛んだよ……。そのまま太陽系を脱出しろよ…。
 いや、チャンスだ! 全員反転、魔列車が飛んでるうちに逆側まで走り抜けろ! 流石に魔列車も後ろには走れない筈!


「走れるよ後ろにも! フィガロで機関車の構造について教えてもらった事があるから間違いない!」


 マジか!? ええい、だったら上から砲撃か体当たりが来るぞ、逃げろ逃げろ!


「もう逃げ続けてるだろ! …ビームが来たぞ、避けろぉ!」


 避けろったってサーチライトが…ええい、タマフリ、空蝉! ……あ、あっぶねぇ…。そっちは無事か!?


「カイエンがやられた、俺が食い止めるから先に行け!」


 チッ、魔列車は…降りてくる。待て、着地先が車道に限定されるなら、こいつはどうだ。タマフリ・金縛り! ホールドトラップ! 痺れ罠! 大樽爆弾G! あといつの間にか現れた犬の突貫!
 よっしゃ大成功! 勢いが弱まったぞ、足止め頼む!


「任せとけ! 動きさえ止まれば……うおぉぉぉりゃああああぁぁあぁ!!!!!!」



 おおぅ、まさか魔列車を持ち上げるとは…そのまま飛んだ! …人間が飛べる高さじゃねぇよ。
 これはアレかメテオストライクだっけ? そういやゲームでも魔列車にかけられたような気がするな。後ろの方どうなってんだろうか。幽霊とは言え乗客とか、食堂とかあった筈だけど。




 …あ、落ちてくる………って、あんなモンがあの高さから激突したら…全員、対ショック体制!
 ……キノコ雲が起つとか、核兵器並かよ…。マッチョは平然と着地してるし。


「…やったのか?」


 おいニンジャ何をフラグ立て…いやもういっそ立てまくって無効化…。


「いや…手応えが無かった」


 最初からダメでしたかそうですか。
 サムライもまだ倒れたままだし…どうすっかな。


 爆発の煙が治まりそうになった時、煙越しに魔列車のライトが見えた。…逆さまになってた筈なのに、どうやって戻った上に、車輪と轍を噛ませたんだろうか…。
 とにかくもう一回走れ!


 ええい面倒な、おい聖水ないか聖水。いやフェニックスの尾でいい。あいつアンデッド系なんだから効くだろ、放り投げろ!
 いっそ聖水としてションベ……いや野郎の排泄水なんざ聖水にならねーな。


「おう、その手があったか! ええと、ちょっと待て…」


 おい走りながらどこに手を突っ込んどるか! そんなトコにナニ持ってやがる! なんだ、自前の聖水どころか性水でお陀仏させようってのか!?
 それでやられる魔列車が実に哀れじゃないか、是非そのまま叩きつけろ。俺が5キロくらい遠くに行ってからな。


「あれ…ない、無いぞ!? 列車に乗る前は確かにあったし、乗ってからは全く使ってないのに!」


『ぬはははははは! 当列車への危険物及び大きさを問わず刃物・武器となり得る物の持ち込みは固く禁止されておるわぁぁぁぁ!』


 ちょっ、まさか強制没収したってのか!? ナニを…じゃなくてフェニックスの尾か。俺のはしっかりあるし、血を送り込んだらオッキする感覚もあるから大丈夫だな!
 あっ、でもよく考えたら俺も武器持ってねぇ!? 神機? これは俺の体の一部で生物だから武器じゃない。むしろペットだ。



 くっそ、何かないか、魔列車を止められる方法。線路を爆破、ボイラーなどの内部機関の故障、車輪の破損、脱線、警告見落としの事故、置き石、速度制限、終点…ポーションは?


 フェニックスの尾が無いなら………エリクサーはどうだ?!
 いや待て…そもそもおうして魔列車は俺達を投げ出した? 装置を操作されて…走れなくなるから? それなら、正規の手段があるじゃないか。


 ちょっと速度を落とし、魔列車に近付く。心配するな、そのまま進め!
 魔列車の攻撃は……ちょっ、まさかの直接攻撃(と書いて轢きに来ると読む)!? だが好都合だ。


 ほいっ! よし、上手い事車体に取り付けた。


「おいおい、何する気だ!?」


 いくら魔列車でも、操作室内部までは攻撃でできんだろ。俺達を外に投げ出したのがその証拠。内側でスイッチ弄りまくって、無茶な操作でぶっ壊してやらぁ!
 そっちはそのまま時間を稼いでくれ!


『ぬおおおお小賢しい真似を!』


 ドッタンバッタン暴れ始めた魔列車だが、警戒さえしてればどうと言う事はない。と言うかそんだけ暴れるんだったら脱線しろよ。
 それはともかく車掌室。せめてもの抵抗なのか、幽霊達を呼び寄せようとしていたようだが、念仏唱えて成仏させる。

 ブレーキこれかな? こっちは加減速のレバーか。このバルブは蒸気を伝えるパイプの為のバルブと見た。む、これは進行方向操作の為の機械か? こっちのレバー何ぞ? まぁいいや、出鱈目に操作すりゃいいんだから、適当に弄ればいいだけだ。
 適当に動かそうとした瞬間…。


『間もなく、次の停車駅に到着します。余計な操作はおやめください。まだ生きているようだから、次の駅で下してやろう…』



 ………ええぇ…マジか?


「おーい、次の駅見えてきたぞ! あそこで停車するなら、そこで降りよう! いやもう降りてるけどな」


 マッチョ殿の大声が聞こえてくる。それでええんか…。



 虚偽情報だった事も考え、いつでも重要そうなレバーを操作できるよう陣取っていたが、本当に停車しやがった。次の駅まで、結局走り抜けたんだな…。
 なんだかなー。次の駅で停車すると言うなら、余計な戦いせずにそこで降りればよかったな。
 マッチョ達だって、客室で飯食って、駅に着いたら降りればよかっただけだろうに。
 とりあえず車掌室から出て、3人無事な事を確認する。線路から駅に上がって、一息ついているようだ。サムライ殿はまだ倒れたままか。フェニックスの尾、無かったもんな。

 おつかれー。とりあえず逃げられるようで何よりだ。


「ああ、色々あったが、何とか無事だったな…。シャドウもお疲れ」

「…………」

「それより、早い所カイエンを起こしてやりたいんだが…」


 俺も回復アイテムは…戦闘不能を治すようなのは持ってないなぁ。むしろ大量に持っていきたいくらいだわ。3乙しても狩猟続行とかできそうだし。

 と言うか、さっきから聞きたかったんだがどうしてお前はフンドシ一丁なんだ。ズボンくらい履け。


「いやぁ、車内で戦ってる間に、ビルドアップしたら服が全部破けちまってなぁ。実はこのフンドシも、その辺のカーテンを使ったものなんだ」


 ああそう、どうでもいい事聞かなきゃよかった。

 確かこのイベントでは、サムライ殿の妻子が魔列車に乗り込むシーンがあったような…。辛いかもしれんが、サムライ殿は意地でも叩き起こすべきだと思う。しかし叩いた程度でどうにかなるとは…。
 とりあえず、タマフリの回復かけてみるか。

 そう考えて、列車から降りようとした瞬間。


『お前は駄目だ』


 は?
 唐突に鳴り響く汽笛の音、初速から唐突にトップスピードに乗って走り始める魔列車。駅のホームで、唐突すぎる発車に反応する事もできず、遠ざかっていく3人。

 おおいどういう事だよ!? サムライ殿の別れイベントはどうした!?


『あの男の連れ合いが乗る駅は、次の駅だぞ』


 マジで!? 有象無象の、まだ乗ってない乗客を把握してるとかパネェな!? その割には、まだ生きてるマッチョ殿達を乗せたようだが。
 いやそれより、何で俺は駄目なんだよ? 場合によっちゃ車両ジャックするぞ。


『お前はこの世界の者ではないだろう。この世界に居る事は認められん』


 そんな事まで分かるんかい。と言うか、まさか3つの世界の移動ってコイツの同類の仕業じゃなかろうな…。


『そこまでは知らん。それよりもだ』


 ゴトッと目の前に落ちてきたのは、レンチ・スパナ・その他工具に掃除道具…。


『さっきの男に投げられたおかげで、車内が酷い事になっている。お前が直せ』


 
 ちょ、理不尽! いやマッチョ殿が投げる為の隙を作ったのは俺だし、確かに爆弾とかで盛大に揺らしましたけどね!




 …結局、暇に任せて直す事になってしまった。こういう時だけ夢が終わらない…。
 ついつい悪乗りして、機関車〇ーマスを意識して飾り付けたら、最終幻想八のグラシャラボラスそのものになってしまった。多分、その内最終幻想八世界で呼び出されるんだろうなぁ…。




 ところで、俺まだカッパ状態なんだけど、いつ治るんだろう。


 

 ようやく目が覚めたら、カッパは治っていた。
 ただし、水中で呼吸ができるようになっていた。これで、ますます人間から離れてゆく…。

 あとさ、カッパって尻子玉とれるじゃん? ……ケツならフィスト〇ァックしても怪我も痛みも感じさせないように出来ます。むしろ尻子玉的なナニかを直接ナデナデもできるようになりました。
 いや、誰で試したとは言いませんけどね。



外伝・ファイナルファンタジー6編。
微笑動画で『第14回MMD杯本選 魔列車』を検索してから見ると、より楽しめ…いやあっちの方がずっと面白いしキレがあるな。
パクリと言われない事を祈る。


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249話

爆発! 何がとは言うまい。きっと察してくれる。色々な意味で。
アレだ、ゴールデンウィーク記念と言う事で。
接客業は地獄だがな!


HR月

 

 ……エラい事になったよ。いやまぁ、切り抜けたと言うか逆転したからいいんだけどさ。

 何があったかって? 恒例のナニだよ。

 

 

 …リアさんに踏まれながら、逆に興奮させまくってイかせました。フラウまで悪乗りしてきやがって…迂闊だった。

 

 

 事の始まりは、酒場に顔をだし、久々に会ったエドワードさんに、例によってトッツイ達に力を貸さないように忠告されていた事だ。

 割と真面目な話ではあったんだが、内容はいつも通りだったな。

 で、トキシの名前を出してみたんだが……なぜか黙り込んでしまった。「悪いが、僕はもう本当に関わりたくないんだ」とまで言って。

 

 もう疑問は増えるばかりよ。エドワードさんは、何をそこまで恐れているのか。結局、この一点に関しては、今もって全然進んでない疑問なんだよな。

 

 

 本当に口を閉じ、明後日の方向を向いて酒を飲み始めてしまった。…レジェンドラスタなのに安酒だな…まぁいいけど。

 どうしたもんかと思っていたら、「やっほー!」言いつつ後ろから飛びついてきたのがフラウさん。ぬぅ、気配が感じ取れなかった。未熟。

 

 「また一緒に行かない?」と(親衛隊からの殺気を受け流しつつ)誘われたんで、ホイホイOKを出してしまった訳だ。

 ただ、またしてもその場にいたリアさんまで一緒に来る事になったが。…相変わらず、俺をモンスター候補としてロックオンしているらしい。

 

 

 で、今回の狩りは……花畑に出る、華鳳鳥フォロクルルが相手。…聞いた事もない相手だな。花畑自体、行った事のない場所だし…。

 警戒してかかりますかね。

 

 

 到着前に、花畑についてレクチャーを頼んだんだが……リアさんがメッチャ雄弁になった。何事かと思ったが、フラウさんが教えてくれたところによると、リアさんの趣味は花を育てる事らしい。

 意外っちゃ意外だが……別におかしくはないかと。と言うか、花を育てるのが好きなのはいいが、狩場にあるオブジェクトだと思うと、絶対何かあるよな…。その花と混同するのはどうかと思いますぜ。

 

 

 さて、フォ…フォ……フォロークール? フォロロマーノ? フォロクルルルル? 舌を噛むんじゃなくて、舌が巻かれそうな名前のモンスターだったが、流石に初見は厄介だった。

 何が厄介って、完全に地形を味方につけてるのがな…。花の蜜を吸って力に変えたり、羽ばたきで花弁やら花粉やらと飛ばして状態異常にしてきたり。

 ただ、このように進化して間もないのか、動き自体はあまり多様ではなかった。予備動作もバラバラで、一度見れば対処は可能。フェイントも無し。

 

 …一番厄介だったのは、アレだ。吸蜜によって火の力を得た時のだ。まぁ、こいつの死因もそれだったんだけどさ…。

 分かるだろ? 花畑なんて場所で、火の力をブチ撒けたらどうなるか。そりゃもう、燃ーえろよ燃えろーよ本能寺よ。

 

 

 そしてここにはお花大好きなリアさんが居る訳よ。戦闘狂に復讐の魔王が憑きましたよ。むしろ、太陽の花畑在住の某USCが背後に見えたくらいだわ。

 いやー凄かったわぁ…。火が凄い速さで燃え移っていく上、羽ばたきで更にそれが火柱になってるのに、無言の横薙ぎ一閃で全部鎮火。花弁も飛びまくって、俺とフラウさんが物凄い勢いで状態異常になったけど。

 そしてトドメは、竜巻を起こさんばかりの横一文字切り。まぁ、この場で竜巻起こすと花畑が全滅するんで、実際には逆に風を全て打ち消すような斬撃だったが。

 

 終わった後、息を荒くしながら周囲を睥睨する様に、思わず逃げてしまった。だってほら、俺って準モンスター扱いだもの。確実に襲い掛かられるもの。

 

 

 …で、一緒に隠れてたフラウさんと一緒にベースキャンプまで戻り、リアさんが落ち着くのを待とう、という話になったのだ。ベースキャンプの寝台の上で、二人横並びで雑談中。

 

 

 

 

 ここで俺は良からぬ事を考えた。

 

 予期せぬ状況で二人きり。フラウさんは、俺に色々な意味で好意的。そして、恐らく伝説のハンター・トキシの事も知っているだろう。

 もし、話したくないのであれば………。

 

 

 …と言う訳で、ちょっとトキシの名前を出してみた。

 

 

「え!? トキシ? ………し、知らないなぁ~。ほら、ボクまだ若いしぃ、そんな昔のハンターの事なんて…」

 

 

 ホントに?

 

 

「ほ、ホントだよ……あ、あのちょっと近くない?」

 

 

 いつもこれくらいの距離でしょうに。いつもフラウさんから抱き着いて来るくらいだし。(と言っても、まだ2回だけど)

 それに、昔のハンターだなんて一言も言ってないよ?(そっと手を重ねて、声にも霊力を宿らせる)

 

 

「そ、それは…その…」

 

 

 誤魔化さないの。(指で腕と手の甲をツーっと撫でる。顔を更に近付ける。)

 …慣れてないんだ、こういう事?(軽く耳に息を吹きかける)

 

 

「う…うん……」

 

 

 あんなに男の人に囲まれてるのに?

 

 

「そ、それはだって、あんな風に振る舞えちゃうから! でも君は、君はなんだか…」

 

 

 大丈夫、分かってるから。(前ループのおかげである程度はね)

 うーん、それじゃセクハラになっちゃうかな?(首筋と髪の毛をサワサワ)

 

 

「それ…は、大丈夫…。もっとしてほしいの…」

 

 

 (狩りの後、リアさんの大暴れの後だからか、生存本能が高ぶってるみたいだな。そうでなければ、流石にフラウさんがここまで従順になるとは…それとも、これも演技…じゃないな。肌を合わせた間柄だし、それくらいは分かる)

 じゃあ、どうすればいいのか分かるよね? 大丈夫、おかしな事なんてしない。トキシの事を喋っても、もうずっと昔の事だろう?(少しずつ顔を近付ける……チョロい)

 

 

「と、トキシは…」

 

 

 うん。話してくれるのか。ありがとう、フラウ。(呼び捨てにして…もうちょっと圧力かけよy「狩場は戦場だっつってんだろ何やってんだ×××××共ッ!」……ここで俺の意識は途絶えた。言うまでもなく、後ろから大剣を叩き込んだ(ケツにではない)のはリアさんである。

 

 

 

 

 

 

 そして俺が意識を取り戻した時には、狩場とメゼポルタ広場を移動する為のガーグァ車に括り付けられておりました。

 ドジったなーと思いつつ、寝たふりしたまま周囲の気配を探ってみると、フラウさんが正座でリアさんに説教されていた。

 

 

「いいですかフラウ。何度も繰り返しますが、貴方はレジェンドラスタなのです。彼にご執心な事は分かりましたし止めませんが、彼に請われれば違法行為すらやってしまいそうな現状は見過ごせません。何より、狩場でこれ程に油断するなど…。私がモンスターだったらどうするつもりですか。狩りが失敗に終わるだけならそのような事もありましょうが、依頼人を死なせるなどレジェンドラスタの名折れ。色恋に現を抜かすなとは言いませんが、もう少し心をしっかり持ちなさい。トキシの事については…彼の事は箝口令が敷かれている訳ではないので、貴方に落ち度がある訳ではありませんが…やはり色仕掛けにかかって個人情報を漏らすなど言語道断です」

 

「はーい…」

 

「あ゛」

 

「イエスマム!」

 

 

 

 艦コレを敷く? ………ああ、箝口令か。どういう意味かと思った。

 うーむ、どうしたもんかな。別に法に触れる行いをした訳ではない。レジェンドラスタと言っても、プライベートや人間関係まで拘束される訳ではない。今回のだって、フラウさんにアタックするついでにトキシの事を聞いてみただけだ。話題が必要だったから、ちょっと話のネタにしただけだ…嘘ではない。トキシの情報とフラウさんなら、断然後者だ。

 リアさんが怒ってるのは、狩場でそれをやったから…だろうな。実際、怒ったまま近付くリアさんに全く気付けなかったんだから、俺もフラウさんも反論の余地はない。

 

 …どうすっかなぁ…多分、このままだと俺もお説教コースだよな。完全にモンスター判定されて、背後からバッサリなんて事にならなかっただけマシか。

 はぁ…しゃーない。俺に迫られてただけのフラウさんだけお説教、というのも何だし。起きるか…。

 

 

 ……あれ? 体が動かん……麻痺ってる? ランゴスタ……じゃないな。注意してみると、花の匂いがする。花畑にあった花弁か。

 …でもここ、ベースキャンプだよな。フラウさんに迫ってたのもベースキャンプだし、ここまで麻痺花粉が飛んでくる筈がないんだが。

 

 

「起きましたか」

 

 

 あ、リアさんおはよう。…えーと?

 

 

「寝ていたフリは結構です。全く…仮にもハンターが、一体何をやっているのです。狩場でのスキンシップまで止めろとは言いませんが」

 

 

 あ、あはははは…。あの、ところで麻痺ってんですけど、何かあったんですか?

 

 

「ああ、それならあなたのすぐ横に、麻痺の花を持ってきたからですが。ちなみに花言葉は『マヒダケ』です」

 

 

 何で花言葉がキノコなんすか。と言うか何やってんですか。

 

 

「…今回、貴方がやった事は法に触れる事ではありません。レジェンドラスタと仲を深めたいというハンターは珍しくないです。フラウが乗り気である事もあり、むしろさっさとくっ付けばいいのに、と思わなくもありません」

 

 

 はぁ。

 

 

「ですが一方で、女性の心を弄ぶような手法に憤りを覚えます。これでも私とて女です。…異性ならいいのか、フラウはいつも不特定多数に似たような事しているじゃないか、と言われると反論に困りますが」

 

「ちょ、リアちゃん酷い!」

 

 

 いやフラウさんの場合、アイドル扱いと言うか偶像として振る舞ってるんで、今回の俺とはまた別かと。

 

 

「……それって、確信犯でボクを誘惑したって事?」

 

 

 ……否定はできないけど、トキシの情報よりフラウさんを口説きたかったのはマジです(迫真)

 …あの、リアさん? これって好感度が上がるような内容ではなかったと思うのですが、なんかフラウさんがキュンキュンした顔してません?

 

 

「フラウが人をいいように使う事はあっても、人に利用されるような事はありませんでしたからね」

 

 

 ああ、そういや俺が気に入られてる理由も、普通の人とは違う関係だから、だっけ。しかしええんかいなソレで…。

 

 

「…フラウの事をよく理解しているのは確かなようですね。成程、トキシの事よりフラウ、という点は信じましょう。ですが…貴方には『教育』が必要です。彼が確信犯であったなら、不埒者を仕置きする…という話でしたし、構いませんね、フラウ」

 

「うん。…グッと来たとは言え、ちょっと乙女心に傷がついたし……報いは受けてもらうよ」

 

 

 報い? 

 …おこなの?

 

 

「怒ってないよ。ボクを怒らせたら大したもんだよ」

 

 

 怒ってるじゃないですかー! いやそりゃ張り倒されても仕方ないとは思うけど、具体的に何を……おふっ!? つ、追加で花粉? 視界が…サングラスでもかけたみたいに暗闇状態。

 なんか…ごそごそ衣擦れと言うか鎧ズレの音がするんですが?

 

 

 わぷっ。

 

 なんか顔に乗せられた。………………こ、このカヲリは……。女性の秘部に籠った匂い! しかも狩りで汗掻いてる! (2種類匂いがあるけど、片方が嗅ぎ覚えもある)

 しかも、暗闇状態の視界で僅かに見えるのは…白とかピンクとかの複雑な模様。

 

 

 

「へへー、何されたか分かるかな?」

 

「当てたらご褒美、外したら罰ゲームだ。そら、気合い入れて答えろよ? ココに気合入れてさぁ」

 

 

 ちょ、股間踏むなし! あっ、しかもグリグリされてる!

 

 

「そらそら、いいから答えな。おっ、元気になってきたな。こんな状況でよくおっ起てられるなぁ? マジで変態か」

 

「ほらほら、これは何かな~?」

 

 

 顔が上から抑えつけられ、匂いと感触がより強く感じられる。

 これは………ぱ、パンツ?

 

 

「パンツ? リアちゃーん、これってハズレかなぁ?」

 

「外れだなぁ。正解は…おパンツ様、だろぉ? お前みたいな変態が大好きな、レジェンドラスタ二人の脱ぎたてホヤホヤだぜ?」

 

 

 やっぱりかぁ! ああ、罠だと分かっているのにスーハスーハしてしまう男のサガが! おパンツ様で血流が加速するッ!

 あっ、これフラウさんの匂い! と言う事はこっちがリアさんのカヲリ!

 

 

「何でボクのは匂いで、リアちゃんのは香りなのかな? 言ってみなよ。納得したら、この元気になったの、外に出してあげるよ」

 

 

 はい! フラウさんは匂いフェチのケがあると見ているので、こう言った方が悦むぐっ

 

 

「おーおー、余計な事言うなとばかりにキスとは…。フラウの以外の一面だな。ま、いいや。今度は正解みたいだし、そーら、御開帳」

 

 

 ゲシッと蹴っ飛ばされた感触があったと思ったら、次の瞬間には鎧が全部外れていた。むぅ、レジェンドラスタってこういう特技もあるのか。

 あとフラウさんの唇と舌が美味しいです。今回も、まだ誰ともヤった事ないみたいだね。それでこの行為ってのもそそるモノがありますな。

 

 

「ぷは…ごちそうさま。………あ、あの、リア、それって…男の人のアレ?」

 

「あん? 何だ、見た事ないって事は、フラウは処女だったのか? …ま、確かにそうそうお目にかかれるようなイチモツじゃないなぁ。やっぱモンスターなんじゃないか、お前。踏み応えがありそうで結構なこった」

 

 

 ぬぅ、ナニがエレクトしてブンブンしている。こ、これはおパンツ様に反応しておっきくなってるんだからね! 踏まれたり罵られたりに反応してなんかないんだからね!

 あっ、でも足裏でグリグリされるとそれでもいい気がしてきた。

 

 

「お、おぉ…なんか新手の感触だな。男のモノなんざ、私を前にしたら縮こまっちまって、どれも同じだと思ってたが…いいねぇ。楽しませてくれよ?」

 

「リアちゃん、私も私も! わ、これが男の人の感触…。ほーら、踏まれちゃって大変だったねー。ナデナデしてあげるからねー」

 

 

 足でナニの真ん中を踏まれながら、先端はフラウさんのナデナデ。しかも二人とも妙に巧だ。

 ぬぅ…いかん、麻痺花粉のおかげで、霊力が上手く循環しない。オカルト版真言立川流が使えるようになるまで、もうちょっとかかる。……でもこうまでやられっぱなしなのも珍しいっちゃ珍しいし、もうちょっと堪能しようかな。

 

 

「おーおー。まだ大きくなりそうだな…。このイチモツに免じて、ご褒美やるよ。フラウ、体勢変えな。お前の「女」を見せ付けてやれ。花粉でやられた状態で見えるなら、だけど」

 

「えっと…それって…」

 

「これはフラウへの罰も含んでいるんだから、絶対服従。そういう話だったよな?」

 

「………はーい」

 

 

 リアさんにフラウさんが絶対服従…。ナニソレ完全にレズSMにしか見えないんですけ、おう!? 

 体全体で圧し掛かられてる感触。でもナニの先端に、フラウさんの息が当たっている。と言う事は……目の前にあるのは…しかも今、パンツ履いてない…。

 

 …何も考えなくても、舌を伸ばしてしまいます。

 くぅ、もうちょっと、もうちょっと……舌先がギリギリ届く距離…首が動かないのが辛い。

 舌の先端で、敏感な場所に触れる。ここは…フラウさんの形状からして、穴の右側辺りかな。と言う事は、この態勢で届く弱点は…

 

 

「あ、あっ、あ…。人にされるのなんて、初めてだよぅ…」

 

 

 ピクピク反応しながらも、フラウさんは俺の先端を弄るのを辞めようとしない。リアさんの足の圧力も、ちょっとずつ増している。

 うう、もうこみ上げてきた。体がマヒってるから、我慢が効かない。

 

 

「おっと、もうイキそうなのか? んん? でも出させてやらねぇよ」

 

 

 根元をギュッと抑えられる感覚。これは…足の指で摘ままれたようだ。それだけでも、射精を止めるには充分な圧力がかかっている。

 しかも、そのまま足の指でナニをシゴいてきた。思わず呻き声が出る。

 

 

「むぅ~、リアちゃんイジワルしてる…。だったら私はもっと優しくしてあげるね」

 

 

 そう言われた直後、先端部分に柔らかい感触。…唇だ。チュッチュッと繰り返し、啄むような音と感触が続く。

 

 

「あは、さきっちょからお汁が出てきたよ。吸ってあげる」

 

 

 お、おおぅ……す、吸われる…! だが射精できない。根本を足指で抑え込まれているから、滲み出た僅かな液しか吸われない…もどかしくて痛くて気持ちよくて最高です。

 もっとしてくれと抗議するようにフラウさんの秘部を舐め挙げようとするが、相変わらず届くか届かないかの距離とキープされている。こんな時まで間合いの見切りはカンペキですか。

 

 しかし、ヤラれっぱなしというのは面白くない。いやこのプレイも満更じゃないんだけど。

 麻痺は隣に花があるから相変わらず続いているが、霊力は練られるようになってきた。オカルト版真言立川流、そろそろ発動できそう……なんだけど。

 

 

「こんだけの御立派を足で弄るだけってのも芸が無いな。そろそろ一発ヌかせてやるか。フラウ、そこ退け。顔に思いっきりかけられたいんなら別だけどな」

 

「うぅ~…折角ナデナデチュッチュしてあげてたのに…」

 

 

 優しさとサドっ気に挟まれて割と辛気持ちいいんですが。と言うか、フラウさん基本が匂いフェチだから、むしろ受けたいのでは? 自分で言うのも何だけど、フロンティア来てから女遊び全然してないし、凝縮されたくっさいのが出るんじゃないかな。

 

 

「……(ゴクリ)」

 

「へっ、随分な変態だったようだな、処女だってのに。ま、いいか。そら、今度は両足でしてやるから、盛大にブチ撒けるんだよ」

 

 

 一瞬だけ足指の拘束が解かれたが、精液が飛び出す前に今度は両側から抑えられる。どうやら足で挟まれたようだ。それでも一瞬だけ解放された分、体液は滲み出る。

 ぬぅ、暗闇状態が晴れれば、リアさんがノーパンで足を開いてるシーンが視れると言うのに! …いや、目の前にフラウさんの大事な所があるか。それはそれでいいんだけど。

 カウパーだけではなく、白い濁りが混じったソレを見て、フラウさんはまた息を呑んだようだ。顔を離す事もせず、飛び出したら直撃する位置に陣取っている。

 

 それを見てリアさんは(多分)唇を釣り上げて笑い、激しく足を動かし始めた。今までのような、焦らす動きではなく、完全に射精させる事だけを考えた動き。そのクセ、圧力を緩めずに尿道を封じているんだから、こっちは辛い辛い。

 

 

「ほぉ~れ、どうしたどうした。立派なのは見かけだけか? ん? 見掛け倒しでないんなら、私の足を跳ね飛ばしてブチ撒けてみろよ」

 

 

 おお……や、やったらぁ!

 オカルト版真言立川流・即席奥義! スペルマーボム!

 (説明しよう! スペルマーボムとは、この場で適当に作った技である! 貯めこまれている複数回分の精液を、強烈な筋肉の収縮運動を利用し、通常の数倍の勢いで噴出する技だ! なお、やりすぎると尿道が痛くなるので注意)

 

 

「わぷっ!」

 

「おう!? …マジでやりやがった…どんな勢いしてんだよ」

 

 

 全力でやったら、部屋の中なら天上まで届くんじゃないかな。極めれば、ウォーターカッターじみた真似ができるような気がしなくもない。

 

 

「モンスターがよくやってくるアレか…。やっぱりモンスターかな、こいつ」

 

 

 モンスターであったとして、何か問題が? そういう人、結構いるみたいよ?

 いや、射精でウォーターカッターが沢山いるって訳じゃ…おう?

 

 あのリアさん、なんか俺の横に来てない? と言うか上半身まで鎧を剥がれたんですが。

 

 

「フラウ、いつまでもボケっとしてないで、続けるぞ」

 

「…ほえ?」

 

「顔を拭け…いやその状態が好きなんだったら、そのままでいいか。もう満足したんじゃないよな? オシオキはまだまだこれからだ」

 

「はぁい…」

 

 

 顔面にかかった白濁の感触と匂いを堪能しているらしきフラウさん。ノタノタと俺の上から退いて…今更なんだが、射精を受けた瞬間から、明らかに秘部の味に蜜が混じっている…リアさん同様、俺の横に侍るように寝そべった。そのまま二人とも足に足を絡め、引き寄せて俺を大股開きの状態にする。

 左右を美女に囲まれて、しかし俺自身はバンザイの状態で麻痺したまま。…まだSMチックなプレイは続くらしい。

 

 が、充分な霊力は練れた。オカルト版真言立川流、始動。…つっても、自分からはまだ動けないから、Mチックに責められながら、逆転の目を探すしかないんだけど。

 

 

 

「お? 目が見えるようになったきたみたいだな。ふふ、いいタイミングだねぇ。それともスケベ心のなせる技かい?」

 

「えっちでいいよ~。たーっぷりオシオキしてあげるんだから」

 

 

 俺を挟んで、左右から手を伸ばす。伸ばす先は、言うまでもなくナニ。

 一発出したけど、その程度じゃ収まりません。むしろ、期待でもっと固くなってます。

 

 二人で暫くサワサワすると、フラウさんは棒、リアさんは玉と分担が決まったらしい。そして…。

 

 

「ほらほら、こんなのどう? 男の人でも、女の子みたいに乳首を弄られるのが好きだって、リアちゃんが教えてくれたんだよ」

 

「ヘンタイのお前には過ぎたご褒美だろ? 舐められるのが好きか? 摘ままれるのが好きか? それとも噛まれて吸われて、女みたいにヒィヒィよがるのが好きなのか?」

 

 

 全部好きです(迫真)。おう、下も容赦なくシコシコされてる。リアさんの玉揉みも、絶妙な力加減が素晴らしい。

 と言うか、フラウさんマジで初めて? 前ループの時も、スキンシップやセクロスには積極的だったけど、これ程じゃなかったぞ。とても嬉しいが。

 

 二人そろって小悪魔チックと言うかサディスティックな表情で、俺の乳首にむしゃぶりついて来る。なんちゅうか、母乳が出そうな気がしてきた。出るのは下からだが。

 興奮しているのは二人も同じ。さっきから息がどんどん荒くなっているし、ナニを弄り回す手も激しく、何より二人の体熱が急激に上がってきている。

 

 

「なんだ…なんだ、この気持ち…。コイツのをシゴいてるだけで、こんな気持ちになるなんて…」

 

「もっと、もっとぉ…。もっと、このくっさいの頂戴…。いくらでもペロペロしてあげるから、ボクを真っ白にして…」

 

 

 リアさんは、自分が責めている筈なのに、まるでドロドロに溶かされていくような気持ちになっているようだ。

 フラウさんも同様、オシオキだと言うのに、俺に奉仕する事にまるで疑問を持っていない。

 

 これぞオカルト版真言立川流、受けの技術である。こっちから全く行動できなくても、霊力の循環に巻き込みさえすれば、干渉する事は幾らでも可能なのである。

 気づいた時にはもう遅い。自分から底なし沼に入り込んでいくように、責めれば責める程耽溺し、絡めとられていくのだ。ほーら、続ければ続ける程、俺のコレが欲しくなーる欲しくなーる。

 

 認めたくないとでも言うように、リアさんの手は玉から棒に移って激しくシゴきあげてくる。俺の乳首だけではなく、胸板、首筋、脇の下にまで舌を這わせてきた。

 しかしこれもやっぱり逆効果。俺を気持ちよくするより、自分が先にどんどん興奮してしまう。

 

 

 フラウさんはもう完全に理性がすっ飛んでおり、残っているのは快楽のみ。キスを求めてきたけど、俺まだ麻痺ってるんだって。そっちから喰い付いて…むぷ。

 ん~……フラウさんなのにフローラル。いや別にフラウさんの匂いがどうのこうのじゃなくて…まぁ顔射されたままだから匂いはあるんだけど、フローラさんの名前とかけてみた訳…いやまぁいいや。

 とりあえず、口の中は俺のフィールドだ。捻じ込まれてきた舌を捕まえて、吸って触ってドロドロにして唾液を交換しあう。ちなみに、俺の顔の上にはまだおパンツ様が乗ったままだ。

 

 

 暫くフラウさんを捕食していると、リアさんの我慢が効かなくなったらしい。激しく責め立ててきたから、その分オカルト版真言立川流の影響を強く受けたんだろう。ラッシュしてたら、全部カウンターで返されたようなもんだ。

 

 

 

「まだるっこしい…もう我慢できねえ! お前を丸呑みにしてやる!」

 

「きゃっ」

 

 

 立ち上がってフラウさんを押し退け、俺の上に跨るリアさん。勿論、俺のナニはこれでもかと言う程トンガっています。

 位置を調節する手間も惜しい、とばかりに乱暴に入口に棒を添え、

 

 

「うっ……く、ああぁぁぁぁ!!!」

 

 

 一気に押し込んだ。おおっ…この締め付けは、今まででも最高レベル…! …てか、それなりに経験があるのは確かなようだが、その割には膣が堅いような…だからこそ、この締め付けの強さっぽいんだけど。

 

 

「っ、あ、堅っ…デカ…! な、なんだコレ、男のモノってこんなに堅くなるのか…! 貫かれたら、こんなになるのか…!」

 

 

 あのーリアさん? 経験者なのでは?

 

 

「い、今までの男は、どいつもこいつも縮こまりやがって…」

 

 

 あー…リアさん相手に委縮しちゃって、勃つには勃つけどフニャってた訳ね。まぁ、こんだけ迫力出して迫られたら、ついつい生存本能が優先されてしまうのも分かるが。「丸呑みにしてやる」だって、入れるんじゃなくて、文字通り食らってやるって聞こえたし。

 バトルジャンキーモードだと、鬼気迫るからな、リアさん…。

 

 ふむ、しかしそうなると何だな。リアさんは、経験はあるけどナニも知らない生娘同然って事か? 少なくとも、膣内イキは未経験と見た。そして、オカルト版真言立川流の効果で、ナカはもうドロドロ、激しくしても痛みは無い筈。

 

 

 

 …滾ってきたな。 

 

 

「っ、ま、また大きく…!」

 

 

 あー、自慢の一品ですから。無理して動かない方がいいんじゃね? 

 気遣う(ように見えてその実挑発)の言葉を吐くと、ギロッと睨みつけられた。

 

 

「ハン、こんなもの、すぐに乗りこなしてやる!」

 

 

 おう、ギュッと締め付けが…。痛みではない、人間が堪えられない感覚で倒れ込みそうになりながらも、ゆっくり腰を使おうとするリアさん。

 内心でほくそ笑みながら見ていると、影がかかった。見れば、突き飛ばされたフラウさんがちょっと怒り気味に戻ってきている。

 

 

「もー、リアちゃんたら酷いよ…。結局、ボクよりも先にしちゃってるし…。……聞こえてないか。そんなにスゴイのかなぁ…」

 

 

 さっきまで恍惚としながらprprしてたのを思い出せば、大体分かるんじゃないの? ほら、怒ってないでこっち来なって。

 

 

「はーい。リアちゃん跨ってるし、どうしようかな…。さっきと同じ、乳首ペロペロじゃ芸がないし」

 

 

 処女に芸求めてどうすんだって話だけどね。それなら、こっち来て顔の上に跨ってよ。さっきは目が見えてなかったし、アップで見せてくれ。

 

 

「いいよ。こうかな?」

 

 

 ドロドロビショビショの秘所を、俺の目の上で躊躇いなく広げるフラウさん。顔に蜜がポタポタ落ちるが、スパイスにしか感じない。

 フーッと息を吹きかけてやると、悶えるように腰が振られる。ケを咥えて引っ張ってやると、抗議の代わりか、太腿で顔を挟んで圧迫してきた。おお、スベスベ…。

 

 

「あ、リアちゃんがまた悶えてる。大きくなったんだ…。コレが好きなの? ボクの太腿、スベスベでしょ? これでムギュムギュしてあげるよ」

 

 

 愛液をローション代わりにして、フラウさんの足が動く。おおっ…雌の匂いが股の間に籠って、これは何とも…。

 やがて自分も堪らなくなったのか、フラウさんは股間を俺の顔に押し付けてきた。顔面でオナニするように、顔のデコボコに秘裂を何度も擦り付ける。

 

 このままでも乙なものだが、これだけ濡れてるとやっぱり味も気になるな。タイミングを見計らって………ぬおっ、いきなり下半身の締め付けが!

 

 

「ふっ、ふっ、ふぅ…ようやく慣れてきたぜ…。フラウとばっかり遊んでるんじゃない。今、お前を咥え込んでるのは私なんだよ!」

 

 

 ヤキモチですかな? しかし、これで慣れてきたとは片腹痛い。ほーれ、ピクピク動かすだけで、腰がガクガク震えてるじゃないの。おっ、奥が擦れてる。弱点はここかな?

 

 

「くぁ、ちょうしに、のるなぁ…」

 

 

 またしても力が抜けてしまったリアさん、手玉に取られてばかりで負けられるかと言わんばかりの威勢だが、体がついてこないようだ。もう、オカルト版真言立川流の効果が体中に巡ってるからねー。やろうと思えば、この状態からでもアヘ顔まで持っていけるよ。

 リアさんで遊んでいると、こっちをミロと言わんばかりに、フラウさんの動きが激しくなる。顔面を圧迫するように押し付け、太腿で挟み込み、もう完全に密閉状態だ。ザラザラした毛の感触と粘膜の感触が心地いい。

 

 心配しなくても、同時に遊べる。腰をモゾモゾ動かすフラウさんの足を両手で固定し、首を逸らして大事な所にむしゃぶりつく。

 

 

「んっ、あっ、これ、すごい…舐められてるぅ…」

 

 

 舌でナカを抉る度、ナカの粘膜に吸い付いて引っ張ろうとする度に、フラウさんの体が盛大に痙攣する。何度か軽めの絶頂に襲われているようだ。

 フラウさんが喘げば、俺のナニが固くなり、ナニが固くなればリアさんが弱点を抉られて悶絶する。リアさんの悶絶を間近で見て、フラウさんはこれから訪れる破瓜の時に期待を寄せ、もっと激しく喘ぎ始める。いい循環である。

 

 が、その循環もそう長くは続かない。中途半端に経験がありながら、ナカの快楽を知らないリアさんは、その闘争心(?)とは裏腹に限界が急速に迫っていた。

 

 

 

「うぁ、くる、なにかくる、くるくるくる…なんか、上がって…!」

 

 

 さて、どうしようかな。この際だから中出しでイク感覚を教え込むのもいいが、敢えて射精せずに絶対的な勝敗を見せ付けるのも悪くない…遅漏と呼ばれるかもしれないが。

 こうやって悩むのも楽しいが、時間が限られているのも困りもの。ふむ……体がもっと動けば選択肢が増え……あれ?

 俺、リアさんの足を両手で抑えてる…麻痺が解けてる? 隣にあった花は……あ、さっきフラウさんが突き飛ばされた時に倒れてるや。

 

 よし、好き放題に動ける状態になってるんなら…!

 

 

「うぁ、いく、いきそう、これがいくって事! こんな凄いの初めて、イかせてぇ! おっ、おっ、おぉっ、おぉぉぉ!!!!」

 

 

 闘争心ではなく絶頂の欲求に呑まれているリアさんを、このまま容赦なく要望通りにイかせます。こっちはナニをピクピクさせる以外に動いてないけど、それで充分。射精も我慢を辞めれば、すぐに飛び出してくるくらい切羽詰まっている。

 完全に抜きゲーの堕ちヒロインみたいな顔をしている(と思われる。フラウさんに顔面騎乗位されているんで見れない)リアさんは、腰を小刻みに前後させ、弱点を自分で抉って仰け反っている。

 

 最後の一押しは、下から突き上げ。子宮まで貫けと言わんばかりの一撃で、リアさんはとうとう感極まった。ビクビクと空前の絶頂に震える膣に、追い打ちとばかりに白濁をブチ撒ける。

 敏感になっている最奥に、精液の熱が染み込んでいく。

 

 人生で初のオーガズム…イキっ放しを終えると、荒い息を吐きながら、リアさんは後ろに倒れ込んでしまった。ズボッと音を立て、エグい匂いと体液に塗れたナニが晒される。

 

 

「ふっふ~、今度はボクの番だからね。えいっ」

 

 

 何か言う暇すら与えられず、フラウさんが俺のを口に含んだのが分かった。処女とは思えない積極さで、尿道に残っている精を吸い上げ、リアさんの体液を拭おうとするかのように舌を使う。

 硬度が充分な事を確認すると、一度だけナニに頬ずりして、見せつけるように立ち上がった。

 

 

「じゃ…貰ってね? ボクの初めて…。あ、痺れてるんだから、一方的に押し付ける事になるのかな?」

 

 

 それはそれで嬉しいが、やっぱ自分で奪いたいもんだよな。と言う訳で、ホイッ痺れ花! リアさんにも!

 

 

「え、っ!?」「うぁ…」

 

 

 倒れていた花の花弁を投げつけ、二人を麻痺状態にする。普段なら数分とかからず回復できるだろうが、今はオカルト版真言立川流の効果で体中が引っ掻き回されている状態だ。すぐには痺れは抜けまい。

 痺れたフラウさんを押して、倒れたままのリアさんと重ねた。こういう事をされたら激昂しそうなリアさんはと言うと、まだ余韻から戻ってきていない。痺れた事すら認識しているか怪しい。

 

 

「な、なにを…」

 

 

 何もカニも、普通逆レされそうになったら反撃するでしょ。しかも麻痺花つかって動けなくさせてくるし、二人がかりだし。ある意味ドラッグつかってリンカーンしようとしたようなもんじゃないの。

 相手次第とか我々の業界ではご褒美ですとかの場合は置いといて。

 

 

「あ、あははは……ご褒美じゃなかった…?」

 

 

 フラウさんを誘惑しようとしたお仕置きだった筈ですが? とは言え、お仕置きにしたって過剰なものではあるので、反撃させていただきます…と言うのが建前。

 

 

「本音は?」

 

 

 どうせだから二人とも手玉にとりたいとです。責められるのもいいけど、やっぱアヒンアヒン言わせる方が性にあっているので。あと、麻痺花まで使ってくれた意趣返しも兼ねて。

 …ああ、過剰だから反撃、と言うのは本当にタテマエだから。

 

 

 

 だってこれから、もっと過剰な事をヤるんだしな!

 

 

 と言う訳で、まずはフラウさんに一発、初めてを美味しく食べさせていただきます!

 ほーら、これが男の人の味だよー。

 

 

「うっ、ああ、あっ、は、はいって…きたぁ! な、なにこれ、ひろげられる…ひろげられるのに、いたくない、きもちいい…」

 

 

 そりゃ散々下準備しまくったからね。俺の顔でオナるのと、こうやって犯されるの、どっちが好きだ?

 

 

「これ、こっち! おとこのひとの、きもちいい! はじめてなのにぃ!」

 

 

 男の人の、じゃないだろう? もっとイヤらしい言葉で言ってみな。じゃないと、奥まで入れてやらないぞ。処女、奪ってほしいんだろ?

 

 

「いやらしい…………お、おちんちん?」

 

 

 ハズレ。

 

 

「ペニス…」

 

 

 違う。

 

 

「おち…んぽ?」

 

 

 3回外れたから罰ゲーム。それ!

 

 

「いっ、ぅ……そ、そこ、おし、おし、おしり…」

 

 

 こっちも解しておいたから、小指一本くらいなら大丈夫。ほらほら、こうやって中で指を軽く曲げてやると、皆もどかしくてたまらないって顔するんだぜ? そう、そんな顔だよ。

 じゃ、ヒントをあげよう。ここを包んでる布切れを、さっき俺は何て言ったかな? それを男に当て嵌めると?

 

 

「お……おパンツ様…だから………おちんぽ様?」

 

 

 正解! 景品は処女膜貫通式と、初っ端から自重しない前後運動です!

 

 

「~~~~~~!!!!!!!」

 

 

 もはや言葉も出ないフラウさん…いや、フラウ。リアに声を聞かれている事も、すぐ下で横たわっている事も忘れ、ケダモノそのものの声で激しく喘ぐ。

 ちなみに上記の「」は、声が出てないのではなく、人語に訳せない嬌声だ。

 

 濃厚すぎる性の宴で、我慢できない程滾っているのは俺も同じ。もっと奥へもっと深く、そして何より、フラウをもっともっと悦楽の底なし沼へ突き落としていく。

 フラウの体が動くのであれば、何でもいいから少しでも体を動かし、逃げ場のない快楽を発散しようとしていただろう。しかし、今は体を動かすどころか全身麻痺。逃げ場どころか、抵抗すらできない。

 悦楽の底なし沼に溺れ、上から更に重しをつけられ、そして最後には自分自身の意思で沈んでいく。

 

 精神の限界から逃げようと、フラウは喘ぎ声を上げ続ける。…そして、それも封じてしまう。唇に吸い付き、舌を絡ませ、逃げ場だった筈の口が、逆に悦楽を送り込まれる機関と化した。

 意識を取り戻したリアが、フラウの下で呆然とそれを見つめていた。

 

 目が合う。

 

 

 ツギハオマエダ。

 

 

 

 …その時の、恐怖と期待にひきつった表情は、なんとも嗜虐心を刺激するものだった。ついつい引き金が緩んでしまい…。

 

 うっ! …ふぅ…。

 よし、両方一発ずつヤッたし、二人とも全然麻痺が解けてないし、続けていこうか!

 なぁに、鳶の谷渡りからM字大開脚まで、ネタは山のようにあるからさ!

 

 

 

 

 

追記

 

 後で知った事だが、寒冷期だった筈なのに、あの辺一体で繁殖期並の小型モンスター増殖が確認されたそうだ。……エロに当てられて、モンスターもその気になったんだろうか。

 

 



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250話

うーむ…。
暫くは仁王、討鬼伝モノノフ、ダブルクロス。
その後気になるもの…。

EDF5(夏らしいが時期未定)
世界樹と不思議のダンジョン2(8月31日)
プレステVR(購入できねぇ…)
ギルティギア(5月25日…ジョニーが居るのは嬉しいけど、ディズィーがカイとくっついてんのが…格ゲーは一人でやると飽きるし)

こんなとこかなぁ…。アサシンクリードのエッツィオコレクションみたいに、ダクソが全部入ったやつとか出してくれないかなぁ…。


追記
仁王の低レベルクリア挑戦の為、輪廻の書でカンストからレベル1に戻す。

ミスって落命。全てのアムリタが…!

…いややってないですよ? やってないけどこう、破滅の衝動と言うかね…。
これをもっと性的にしたら、サキュバスにレベルドレインされて絞り殺される音声になる気がする。

さて、投稿時にはDLC解禁されてるかな?
正直、当日になるまで延期の可能性に怯えて5時間くらいしか寝られない日々だった…。


HR月

 

 

 レジェンドラスタに手ぇ出して、大丈夫なのかな…と思わなくもないが、とりあえず無事帰って来た。帰りの道中、ガーグァ車に揺られて景色を眺めながらダブルフェラなんて素敵イベントもあったが、割愛する。書き始めたらキリがない。

 冷静に考えると…いや冷静じゃなくても、お互いに訴えられたら負けると言うか、訴えた方も訴えられた方も有罪通り越してギルドナイト案件判定くらうような事しかやってない。

 が、とりあえずこれは問題なし。手段が手段だったとはいえ、全員が『合意の上』の行為と主張する。…まぁ、今の所誰にもバレてないけども。

 

 他にも、特筆すべきことは幾つかあったが…順番に書いていこう。

 

 まず、特筆その1。…と言っても、割とどうでもいい事だが。

 トキシの事を聞き出すの、すっかり忘れてた。ま、いいんだけど。何度も言うが、フラウ+リア>越えられない壁>トキシの情報だ。

 ネンゴロな関係になったんだし、次に寝る機会があれば簡単に聞き出せるとは思うが……ま、別のいいか。

 

 

 特筆その2。リアさんの事だ。

 こんな事を書くのは今更な上、いろんな意味でイタい男みたいなんだが…リアさん、俺…と言うより俺のオスの部分にメロメロになったよーです。初めて達したオーガズムが、そんなに印象的だったか。

 物怖じせずに対等に相手が出来る、珍しい男…と言うのもあるとは思うけど。

 

 後は…アレだな。シモの性癖が変化したのか、それとも単に満たされたのか…。

 端的に言うと、逆転モノに嵌ったようです。逆転と言うか下剋上と言うか…。最初はSなんだけど、途中で攻め受け逆転してMになり、そのまま精根尽き果てるまで…と言うのが気に入ったらしい。

 ……ひょっとして、狩場での戦闘狂な一面は、この性癖が満たされなかったから…なのか? 戦いの昂ぶりは性と直結してるし、多少なりとも関係があってもおかしくないが。

 

 ともかく、アレだ。恋人認定されたかは微妙だが、セフレ以上にはなってると思う。こんなモンだから、とりあえずレイパーとして通報される事は無い…筈だ。

 

 

 

 特筆その3。言うまでもないだろうが、フラウ。

 色々書きたい事はあるんだが、心底戦慄した部分だけを記録しておこう。

 メゼポルタ広場に返ってきて、それぞれ帰路につく為に分かれる際、耳元でちょっと呟いてみたんだ。

 

 

 どこからどこまで誘導だったんだ? 

 

 

「あはは…何の事かな? でも、流石に3人でって言うのは予想外だったよ。…そうなるかな、と思ってはいたけど」

 

 

 ×そうなるかな

 △そうならないかな、と思っていた

 〇それでもいいな、と思って誘導していた

 

 

 …流石に全部が全部「計画通り」じゃないが、意識して煽ってはいたって事か…。妙に積極的だとは思ってたが、やっぱこの人小悪魔だわ。俺じゃまだ太刀打ちできん…いやベッドの上では勝てるけど、それ以外で封殺されると言うか操られると言うかね。ま、それでもいいけどさ。

 

 

 

 

 特筆その4。流石はレジェンドラスタと言うべきか、それともヤりすぎちゃったと悔いるべきか…。肉体関係になった二人とも、霊力をかなり明確に探知できるようになったっぽい。

 そう言えば、前ループでもウカムの調査をする時、ぼんやりとだが霊力を認識していたような…。

 ま、別に問題は無いな。レジェンドラスタであっても、戦力増強は有難い。機会があれば、扱い方を伝えるのもいい。…下半身以外での伝達方法でもな。

 

 

 

 

 

 さて、リアとフラウの事はこの辺でいいだろう。濃厚すぎるエロで忘れかけていたが、混沌茸を集めなければならない。

 とりあえず、猟団に戻って懸賞金をかけますかね。

 

 

 

HR月

 

 

 混沌茸、とりあえずあと4つ。思ってたより持ってくるのが早いなぁ。とは言え、難しいのはこれからか。多分、初日で持ってこられた混沌茸は、どっかで見つけて、使い道が無いから適当に保管しておいたものなんだろう。

 ここからは真面目に探さなきゃいかん。…まぁ、何処にあるかは大体わかってるから、人海戦術ですぐ見つかると思うが。

 

 それは置いといて、デンナーの治療にちょっと進歩があった。未だに霊力は安定して感じる事はできないようだが、単純に足の治療の方がね。二本足で立てるようになったのだ。

 タマフリによる後押しがあったとは言え、この短期間でよくぞここまで…。

 流石にハンターとして復帰できる程ではない。足の筋肉も衰えているし、暫くの間はリハビリに集中しなければならないだろう。リハビリってのは、ただでさえ苦しいもんだが……ハンター式なんだよなぁ。俺もやった事は無いんだが、肉体操作術を学ぶ一環として聞かされた事はある。…率直に言って拷問だ。少なくとも、真っ当な医者に見せたら、限度を考える云々以前に即辞めさせるくらいには。

 まぁ、それぐらいやらなきゃハンター本来のスペックは取り戻せない、と言うのも分かるんだけどさ…『凄いね、人体』を前提としたようなリハビリはどうかと思うな、ボクぁ。

 

 

 

 それは置いといて、マオとミーシャが会いに来た。今日はサーシャはお留守番らしい。

 …で、その後の経過はどうよ?

 

 

「うむ、実に気分爽快だった! 目の痛みも頭痛も全く感じないし、霊力とやらも以前に比べるとはっきり分かるぞ!」

 

 

 わっはっは、と例によって大笑いするマオだが、ちょっと顔が赤い。…まぁ、あんな艶姿晒したらねぇ。いやエロい事したつもりは…あるけど、それは結果的な物だったと言うか。

 

 

「あー…その辺はあまり触れずにいてくれると助かる。不快ではなかったし、事前に通告もされていたが、やはり気恥ずかしいというかなんというか」

 

 

 うん…。で、今日はどうしたよ? その後の経過の報告だけ?

 

 

「いえ、そろそろ一度、猟団の方に戻ろうと思うの。マオの事で心配をかけているでしょうし、向こうの様子も見ておかないとね」

 

「随分長く休んでしまったからな。カンを取り戻さなければ…。この力の使い方を、完全に覚える事ができなかったのは残念だが。…また来た時、指導を頼んでいいか?」

 

 

 そら別に構わんけど…。指導って…。

 

 

「そ、そっちを考えるな! …効率がいいのはよくわかったが、私とて乙女だぞ」

 

 

 乙女なのはよくわかると言うか、あんな事したからこれ以上ないほどよく分かると言うか…いやセクハラじゃないストップストップ。

 地道な奴にせよ、それ以外にせよ、指導をするのは構わない。

 

 

「ありがとう。…猟団には、何人か同じような症状を起こしそうな子がいるから…。ところで、何だかんだで今まで世話になりっぱなしだったし、何か出来る事は無い? 出来る限り力になるわよ。……その、口に出せる真っ当な事なら」

 

 

 犯罪とセクハラを封じてきやがったな…いやするつもりはないけど。

 …と言うか、サーシャが来てない理由って、もしかしなくても先日のアレで恐怖心を持ったから?

 

 

「あー…まぁ、何だ。どうにもアレで性を自覚してしまったらしい、と言うかなんというか…」

 

 

 …トラウマ作っちまったかな…すまん…。

 とりあえず、今の所必要な事は特にない……んだが…あ、二つあったな。

 

 

「二つ程度と言わず、いくらでも…と言いたいところだが、流石に限度はあるからな? ミーシャも私も、猟団を守る義務がある」

 

 

 一つは大した事じゃない。トキシの情報を集めてほしい。

 歌姫に会った、って話は覚えてるよな。あそこのアイルーが、トキシが歌姫に呪いをかけた、って言ってるんだよ。

 

 

「トキシが? …少なくとも、私が知る中でそのような行為をした、というのは聞かないが…」

 

「そもそも、呪いって…私達みたいに、普通じゃない力を持っているって事?」

 

 

 どうかね、怪しい話だ。トッツイが勘違いしているだけって線が一番強そうなんだが、少なくとも面と向かって聞けるような剣幕じゃなかった。

 仮に特殊な力を持っていたら、モノによっては本当に呪い染みた事ができてもおかしくない。逆に、そんなもの無くても、陰から人に害をなそうとするのは難しくも珍しくも無い。

 

 少なくとも、何かしら秘密はあると思うんだよ。レジェンドラスタのフラウさん、知ってるよな? 聞いたら誤魔化そうとしてたんだ。

 

 

「……ああ、知っているが。よく彼女を問い詰める、なんて事ができたな。レジェンドラスタという立場もあるが、それ以上に彼女の言動は…そうは見えないが、曲者だぞ?」

 

 

 色んな意味で特殊な関係なんで、ちょっと特別扱いされていると言うか………あのマオさん、なんか無表情になってません?

 

 

「…いや、自分でも少々感情の処理に困っただけだ。大した事ではない。私がどうこう言う筋では…まぁ、多少はあるが」

 

 

 どっちなんだよ…。とにかく頼む。分かる範囲でいい。どっちにしろ、真実はトッツイ達と歌姫本人しか分からん。むしろトッツイの方も分かってないかもしれん。

 

 

「ええ、引き受けたわ。…もう一つは?」

 

 

 あー…こっちが本命と言うか、非常に曖昧で申し訳ないんだが…多分、これからメゼポルタ広場…いや、フロンティアに色々な異変が起きてくると思う。理由や理屈は言えないが、少なくとも俺にはそういう確信がある。

 もし、トンデモない異変が起きて、それに俺が立ち向かわなきゃならん、なんて状況になったら、出来る限り力を貸してほしい。

 

 

「なんだ、そんな事か。確かに曖昧だし、未来がどうなるか分からんが、少なくともお前一人を戦わせるような事は無いぞ。恩も義理もあるし、異変から逃げるようではハンターなんて名乗れないからな!」

 

「そういう事ね。何が起こるか分からないなんて、フロンティアじゃ日常茶飯事だし、手に余る何かを嫌でも対処しないといけないのは、フロンティアだけじゃなくて人生の常時よ」

 

 

 いやな常時だな…。まぁ、そう言ってくれるなら有難い。…本当に、出来るところまででいいからね?

 

 

「分かってるわ。私達だって、犬死する気はないしね。…さて、それじゃ、今日も指導をお願いできる? 出発は明日の予定なのよ」

 

 

 

 

 

 了解。

 

 

 

 

 …あと、書き残すべきか迷ったが、一応記す。

 デンナーが、「そんなに効率的な訓練法があるなら、さっさと教えてくれてもいいだろうに」と零していた。

 …言いたい事は分かるし、わざわざ効率の悪い訓練をやる理由も無いが……霊力を扱えるようになる為に、男をアンアン言わせるのが死んでも御免だ。

 

 …そう言ったら、「…それでハンター復帰が早くなるなら…いやしかし…プライドと生理的嫌悪…でもなぁ…」と延々迷っていたようだった。それだけハンターとしてすぐ復帰したいって事なんだろうが…とりあえず、後頭部に一発入れて記憶を飛ばした。

 

 

 

 

 

HR月

 

 

 混沌茸が集まった。うむ、流石は人海戦術だ。思ってたより沢山採取してこられて、ちょっと財布に痛かったけど。

 準備ができたので、トッツイ達に会いに行く事にした。ついでだから、ストライカーの3人と一緒に行けないか…と考えていたんだが、生憎進路が逆だった。

 

 …しかし、我ながら大丈夫かね、あっちのメゼポルタ広場に行って…。リアとフラウに訴えられて闇系されるとは思ってないが、あそこフラウの取り巻きが多いんだよなぁ。金曜日されたり、トチ狂ったファンに闇討ちなきゃいいんだが…。

 相手が一般人なら鉄砲や包丁持ち出されてきたってどうとでも出来るけど、ハンターだったら相手次第ではちょっとヤバいな。

 一応、襲われる前提で行くか…。鎧つけるのは、メゼポルタ広場や酒場内でも禁止されてないし。おかげで酒場の床や椅子がよく痛みます。

 

 

 そんな塩梅で、トッツイ達が居るメゼポルタ広場までやってきた。早い所、バッシに混沌茸を渡そう…と思ったのだが、やっぱ広場が殺気立ってるっぽい。鷹の目で見てみると、そこかしこ、バラバラにだが赤く光る人…敵意を持ってるハンターが居るようだ。上から下まで、男女を問わず…だな。女性にも意外とファンは多いらしい。あざとい系で、同性には嫌われてるんじゃないかと思ってたが。

 …こんな状況だと、安心してトッツイ達の所に行けないな…。下手すると、敵意を持ったハンターがあそこに入り込むことになる。

 厄介だし面倒な状況だ…。これも自業自得なのかね。

 

 とりあえず、酒場に行ってみるか。敵が一番多いとすればあそこだろう。情けないし、あまり気が進む手段ではないが、フラウに頼んで手を出さないよう厳命してもらおう。…それでどこまで効果があるかは微妙だが。

 むしろ、更に嫉妬に駆られたり、フラウのイメージが損なわれて悪化する可能性もあるしね。

 

 

 

 …ちゅー訳で、アサシンブレードを仕込みつつも酒場にやってくると……確かに敵は多いが、思った程ではないな?

 と言うか、フラウが居ない。

 

 

「フラウなら、今日は居ませんよ」

 

 

 あ、リア。居ないって、狩りに行ってるのか?

 

 

「…いえ、多分寝坊です。暖かい時期になりましたし」

 

 

 …いいのか、レジェンドラスタ。

 

 

「狩りに遅刻するのでなければ、別に問題はありませんね。一日に一定時間待機しておけばいいので、定時は定められていません」

 

 

 そら何ともいい御身分ですな。…ところで、あっちこっちから敵視されているようなんですが、ひょっとしなくてもバレた?

 

 

「…いえ、恐らく何かあったと察してはいても、何が起きたかまでは確信していないでしょう。元々、貴方はフラウに目を駆けられて嫉妬されていましたから」

 

 

 ああ、確かに…。それが高じてきたって事か。やっぱり、このままだと遠からず襲われるな…。

 

 

「それは大丈夫だと思いますよ」

 

 

 ? リアらしからぬ楽観論。狩場ではともかく、こっちではそんなお気楽な性格だったっけ?

 

 

「いえ…。理由は二つあります。まず一つは、貴方が私の『お気に入り』だと知られていると言う事です。自分で言うのも少々悲しいものがありますが、私の獲物を横取りしたら、何が起こると思います?」

 

 

 うわぁ……何と言う抑止力…。と言うか、俺ってまだモンスター扱い?

 

 

「さて、どうでしょうね。一種の怪物であるとは思っていますが、『お気に入り』の意味は先日までとは少し違います。…二つ目の理由ですが…フラウです」

 

 

 フラウ? ひょっとして、俺を庇う為にもう何かやってくれたのか?

 狙われる原因はフラウ、庇ってくれるのもフラウ。しかし庇われた状態でこれだとすると、厄介だな…。

 

 

「…話は最後まで聞きなさい。貴方との狩りから帰った翌日、フラウの様子が明らかにおかしいと騒がれました。何があったかはともかく、容疑者は貴方でほぼ固定。一部の取り巻きが、すぐにでも貴方を囲んで吊るしあげようと息巻いていたのです」

 

 

 …ほんとに取り巻きとか追っかけってのは…。そういうのが居るから、アイドルオタクとか真っ当なファンまで変な目で見られるんだよ。

 

 

「そのコメントについてのコメントは差し控えます。いよいよヒートアップしてきた時に…フラウが、ボソッと口にしたのです。……『彼に何かしたら、ボク何するか分からないよ?』と…。あれは本当に恐ろしかった。古龍を初めて相手にした時よりも、背筋が冷えました…。あのフラウが、真顔で、目が限りなく本気だった…」

 

 

 …えぇと、それだけ? 確かにフラウさんがマジレスしたなら効果はあると思うけど、世の中そんな物分かりのいい人達ばかりじゃないぞ?

 

 

「……あの顔と声を直に感じていない貴方には分からないでしょう。ヤンデレとかメンヘラとかそんなモノじゃありません。フラウの本気を垣間見ました…」

 

 

 …………うん、それだけ気に入られ…いや愛されてるって事でFA! はいこの話終了。実際、俺が手綱取ってば、そこまで暴走する事は無いと思うし。

 そしてリアの手綱も勿論手放しません。…リードの方がいい?

 

 

「そう言ってくれるなら、フラウも本望でしょう。…ところで、それはお誘いですか? 狩りの? それともプライベートの?」

 

 

 リアの趣味に合わせれば、どっちにしろ狩りになるんじゃないかな。昂ったままでするのが好きでしょ。

 ま、今日はちょっと用事があるから、明日になるけど。

 

 

「明日は…フラウはレジェンドラスタとしての仕事が入っていた筈です。放り出してあなたの元に行かないよう、釘をさしておく必要がありますね」

 

 

 好かれてるなぁ、俺…。ま、嬉しいけども。「ちゃんとやってればご褒美」とか言っておきます?

 …いや、取り巻きを挑発してる訳じゃないよ? 聞こえないように声を抑えてるし。

 

 

 

 

 

 …他のレジェンドラスタには聞こえてるみたいだけどね。エドワードさんとかタイゾウさんとか、なんか勇者を見る目を向けてきている。ガチで驚いているようだ…。

 あ、一人立ち上がって近付いてきた。全身鎧でガチガチに固めた…ハンマー使いか。

 

 

「…ギネルだ。何かあったら言ってくれ。出来る限り力になるぜ、凄まじき戦士よ」

 

 

 凄まじき戦士て。確かに変身も出来るけど。仮面ライダーアラガミやってたけど。

 

 

「改めて自己紹介しよう。エドワードさ。今は姓は無い」

 

「タイゾウさ! 本当は他に太刀使いのキースが居るんだけど、今日は仕事でね!」

 

 

 お、おう。とりあえずリアが「どういう意味だ」って顔してるから、その辺にした方がいいんじゃねーかな。

 

 

 

 

 

 …そんな塩梅で、酒場から抜けてきたんだが…大丈夫かな。リアが暴れ始めてなければいいんだけど。最悪、明日行ったら臨時休業になってたり…? 

 

 

 

 

 

 

 ま、明日の無事(天国でな)を祈っておいて…おーいバッシ、トッツイ。混沌茸持ってきたぞ。

 

 

「ニャ! 待ってたニャ!」

 

「ニュフフフ…確かに、混沌茸20個…いえ38個…?」

 

 

 ちょっと予定外な所でゲットした。問題あるか?

 と言うか、これって試験だったけど、混沌茸は今後使うのか?

 

 

「いえ、今後の薬にも使う予定はありませんニャ。大変失礼いたしましたニャ。混沌茸はトッツイが見込んだ通り、素晴らしいハンターですニャ」

 

「だから最初からそう言ってるニャ! なんでこんな事したんだニャ」

 

「前にも言ったニャ。『天』『地』『人』を兼ね備えないと、この特効薬は作れないニャ。その深淵を覗き込む覚悟があるニャら…」

 

 

 ここまで来たんだから、突き合うわい。あ、でも必要な素材は纏めて言えよ。フロンティアじゃ何処に何がウロついてるか分からないから、突発的に遭遇する事もあるかもしれないし。その時はついでに狩ってくる。

 

 

「ニュフフ、わかりましたニャ。まずは、魚竜のキモ。これは大きく新鮮であればある程よろしいですニャ。そうですニャあ…ドスガレオスを3体。それで充分ですニャ」

 

 

 ドスガレオスか。左程強い相手じゃないが、そうやって油断してたら逆撃喰らうのがフロンティア。

 …と言うか、フロンティアのドスガレオス、逃げ足特化が多いんだよな…。そりゃブロス系のモンスターがウロウロしてるところだし、戦闘能力にリソース割り振るより、生き延びる事に重点を置くのも当然だ。

 ゲームの狩りと違って、どこまででも逃げるからな…。初撃で逃げ道を封じられるかがカギである。

 

 と言うか魚竜のキモって、微妙に出辛い…物欲センサーで。まぁ、これについてはギルドへドスガレオスのキモ採取を依頼する、という形にすれば、俺の手には渡らなくても確実に採れるだろう。

 で、次は?

 

 

「次に、龍殺しの実を10個ですニャ」

 

「龍殺しの実? なぜか龍たちが嫌うあの実かニャ?」

 

 

 その龍殺しの実なら、10個どころじゃなくストックがあるぞ。俺、基本が剣士だから、そこらを採取してれば勝手に溜まっていくんだよね。

 後で持ってくるわ。

 

 

「ニュフフフ、やはり『天』をお持ちですニャ。素材的には『地』ですがニャ。では最後に…『人』の素材。龍薬石ですニャ。龍殺しの実と魚竜のキモでは狂走エキスにしかニャりませんが、この石を加わる事によって、呪いを解く妙薬が完成するのですニャ」

 

 

 

 龍薬石…つーと、ラオシャンロンか。

 

 

「その通り。ラオシャンロンの甲殻からのみ採取できる、貴重な生薬…。これを採取する為、そうですニャぁ…ラオシャンロンを2体ほど討伐していただきたいですニャ」

 

「ラオシャンロンを2体!? ……」

 

 

 トッツイ、そんな不安そうな顔するなって。まぁ、ラオを討伐するの自体は大丈夫だろ。積極的に攻撃してくる相手じゃないし、もしメゼポルタ広場に近付いてきているなら、また広場総出で防衛戦になる。そうなりゃまず間違いなく採取できるだろう。

 …問題は、そう都合よく来るか、そこらをウロついてるラオシャンロンを見つけられるかって事だが…。

 

 

「そうですニャ。ワタクシもそこが問題と思い、古龍観測所に発見次第連絡してほしいと頼んでいるのですニャ。しかし、フロンティアの深部であっても、ラオシャンロンはまだ発見されてないニャ」

 

 

 しかも2体、か…これから探さなきゃならんのだな。そういや、前ループでラオ2体を同時に…いやダメだ、あいつら狂龍ウィルスに汚染されまくってる。どう考えても、調薬に影響が出まくりだ。

 どうにかしてやりたいところだが、こればっかりはな…。無い袖は振れない、居ない獲物は狩れない。

 結構長く待たせてしまう事になるぞ。

 

 ついでに言えば、魚竜のキモは新鮮でないといけない。と言う事は、今のうちに狩って預けておく、という手法は使えない。龍薬石を確保してから、ドスガレオスを狩らなきゃいかん。

 

 

「…それで歌姫様の呪いが解けるニャら……どうかお願いしますニャ!」

 

 

 土下座するかのように頭を下げるトッツイ。しかし四つん這いになっているようにしか見えぬ。

 ともあれ、これを断る訳にもいかんしね。出来る限りの事はするが、気長に待ってくれぃ。

 

 

 

 

 …あ、そうそうバッシ。ちょっと教えてほしいんだが、このやり方で呪いが解けるって話、ソースは何処だ?

 

 

「ニャ? とある地方に伝わる伝承ですニャ。自己紹介の時にも申し上げましたが、ワタクシは各地の伝承や民話の研究をしていますニャ。その中に、呪われた装飾品を送られた娘を、この薬で助けるお話があったのですニャ」

 

 

 民間伝承…。詳細を教えてくれるか?

 

 

「ハイですニャ。…この際ニャ。歌姫様と、トキシの事についてもお伝えしますニャ」

 

「バッシ! あの大悪党の事なんて、言う必要ないニャ!」

 

「だまらっしゃいニャ! 全てお話するのが、せめてもの筋ですニャ」

 

 

 アイルーが筋とか言ってるよ…いや別に偏見は無いけど、人間とアイルーとじゃ考え方が違うからな。筋って言われても困る。

 まぁいいや。で?

 

 

「トキシというハンターを知っていますかニャ? とある地方では伝説と呼ばれたハンターで、フロンティアでも名は知れていましたニャ…」

 

 

 …バッシの喋り方だと、ヒジョーに時間がかかるんで短縮。

 端折って言うと、トキシは最初は普通のハンターとして、歌姫が居た村で活動していた。歌の力の恩恵を受け、その返礼として幾つもの贈り物をしたそうだ。しかし、その中に呪われた装飾品が混ざっていた。それを身に着けてしまった歌姫からは力が失われ、解呪の為に歌姫と共に各地を奔走するも、トキシは見つからず。悲嘆に暮れて里に戻って来た時には、里は古龍に襲われて壊滅していた…と。

 言っちゃ悪いが、フロンティア付近じゃよくある話だ。一夜にして滅ぶ村とかな…。

 

 で、バッシの解呪方法のソースは、その間に聞いた民間伝承。話の内容は聞かせてくれたが、人間の価値観とアイルーの価値観、そしてバッシの考えというフィルターを通してだからな…。どこまで額面通りに受けていいやら。

 まぁ、これも手がかり程度にはなるか…。

 

 とりあえず、ラオシャンロンは発見次第狩る、龍殺しの実は近いうちに持ってくると約束し、本日は終了。

 



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251話

仁王DLC、サムライの道のみだけど4時間くらいでクリア。
ふーむ、敵の攻撃力が高い…一段上の難易度って事かな?

シーズンパスって言うくらいだし、次の配布が3~4か月先と過程して…それまでレベル上げと修羅の道か。
とりあえず、修羅で転を安定させられるくらいまで進めないと。

まずは装備のレベル上げかな。散々アムリタ稼ぎやった後に放置しといた銭が、こんなところで活用されるとは。
アップデート前に金稼ぎと装備を厳選し、その間に稼いだ金で、アップデート後のレベル170装備とかを魂合わせすればいいのね。
魂合わせでレベルが上がる事自体忘れてたよ…。


HR月

 

 

 ラオが居ないか情報取集中だが、そうそう上手くはいかないか。

 とりあえず、酒場の様子を見に行ったんだが……よかった、休業にはなってないし、特に壊れてもいない。

 

 

 …ところどころ、血飛沫の跡が見えるけども。

 

 

 あのー、マスター。エドワードさんとタイゾーさんとギネルさんは………一日休み? ……ああ、やっぱそうなったのね。

 で、今日いるのは…キースさんと、ヘヴィボウガン使いのユウェルさん。

 

 

 キースさんは前ループで会った事があるけど、ユウェルさんは初見だな。一見、落ち着いたしっかり者って印象だが…どんな残念美人なんだろうなぁ。レジェンドラスタな時点で、何かおかしい所があるのはほぼ確定である。

 …あれ、二人とも近付いてくる。

 

 

「お初お目にかかるでゴザル。拙者、キースと申す」

 

「私はユウェルです。よろしくお願いします」

 

 

 あ、これはご丁寧に。こちらこそよろしくお願いします。

 …あの、何か御用で? 敬遠する訳じゃありませんが、レジェンドラスタのお二人に気にかけられるようなハンターじゃないと思うんですが。

 

 

「いやいや、話は聞いているでゴザル。確かにこうしてみると、拙者のようなケツの青い若輩者が言うのも憚られるが、立ち合いの技量は不十分に見えるでゴザル…しかし、その実リア姫とフラウ殿を相手取って圧倒したそうですな。エドワード殿、タイゾー殿、ギネル殿からは凄まじき戦士と称されているとか。是非ともお会いしたいと思っていたでゴザルが、早々にお目にかかれるとは何たる幸運」

 

 

 リア……姫?

 

 

「そこは気にされない方がいいかと。妙な事を吹き込まれて、真に受けているようなのです」

 

 

 まぁいいけど…と言うか、俺があの二人を圧倒したとか、一体それ何処情報よ? ある一面においては正しい情報ではあるけど、事が事だけに自分から言いふらすとは思えないんだが。

 …二人の目が横に向く。その先には……酒場のマスター?

 

 

「リア殿が熱っぽい目で、力説しておりましたぞ。今度は勝つ、と。更にその後、『勝ってもいいし負けても楽しめる、そんな相手は初めてだ』と見た事もない入れ込みようでしてな」

 

 

 むぁぁぁすたあぁぁぁぁ! 余計な情報広めてんじゃねー! と言うか酒場のマスターとしてそれどうなのよ、顧客の情報漏らしていいんかい!

 

 

「心外ですな。むしろ、私は妙な噂が拡散するのを防いだつもりですが? 決して、リア殿が大暴れして店が倒壊するんじゃないかと肝を冷やした腹いせではありませんぞ。リア殿にガチバトル的な意味でロックオンされている男だとか、フラウ殿に不埒な真似をした男として親衛隊に日々命を狙われるのがお望みですかな?」

 

 

 いやそれは流石にちょっと…。何だかんだでフラウの親衛隊、あっちこっちに居るから影響力デカいし。

 フラウが俺に妙なちょっかい出さないように、マジレスで警告してくれたらしいけど。

 

 

「…あれはちょっと真面目に怖かったですな…。ダンディが崩れて、尿道が緩みそうになりましたわい」

 

 

 うんその情報要らないよね。と言うか、リアの発言の意味ってアレだな。『勝っても負けても』って言ってるけど、勝つ=S役のまま優位に楽しむ・負ける=先日目覚めた下剋上モノで蹂躙されるのもオッケー、って意味だな。

 まぁ、それは俺も歓迎するからいいんだが、リアに命をロックオンされてる噂は致命的だなぁ、実際。リアの戦闘狂っぷりはその筋じゃ有名だし。

 

 

「うむ、拙者もリア殿と共に狩りにでた事があるでゴザルが、正に鬼神の如し。ケツの青い拙者では比較にならぬ。高貴な血筋にある故か、その威も確かなのでござろうな」

 

 

 …うんまぁ、否定はしない。姫ってーか女王様気質だから、あんだけ戦闘狂ってのはあるだろうし。

 いや、だーからってなぁ…。今更フタマタ野郎の汚名で動揺する訳じゃないが。

 

 

「まぁまぁ、落ち着いて…。マスターも、悪気があったのではないにしろ」

 

 

 …ないと思う?

 

 

「………ないとして、リアとフラウをあのまま放っておく訳にはいかないのは分かるでしょう?」

 

 

 そらなぁ…。レジェンドラスタが誰かに入れ込んではいけないなんて理由は無いが、こんなポッと出の、G級にもなってない小童だもんな。いや立場は関係ないし、何言われても気に入らなけりゃ反撃するだけだが。

 

 

「ふふ、そういった気概をお持ちなのは安心しました。…少し、心を落ち着けては? 僭越ながら、スィーツを作ってまいりました」

 

「ぬぁ」

 

 

 甘い物は好きですな。辛い物も苦い物も卑猥な…ゲフンゲフン。んじゃ一口。

 

 

「ぬ、ユウェル殿の料理は、我々のようなケツの青い青二才には……!」

 

 

 

 ……………

 

「……………」

 

 ……………

 

「……………」

 

 ……………

 

「……………」

 

 ……………

 

「……………」

 

 ……………

 

「……………」

 

 

 

 

 

 バリボリバリボリボキゴキギャリギャギギョックン

 

 

 

 いい歯ごたえだ。感動的だな。だが無味無臭だ。

 ではもう一口。

 

 

「躊躇わずに行った!?」

 

 

 いやこれは中々レアな食感で…。味もクソも無いけど、噛み応えだけは異様にいいもんだから、ある種新鮮な感覚が。腹括って食ったら、キースさんも意外と嵌るんじゃない?

 ていうか、これ虫とかモンスターとか使ってるっしょ。

 

 

「あら、お分かりですか?」

 

 

 狩人弁当やアイルー達のネコ飯に通じる感覚がある。ただ、良くも悪くも未開発な方向に進もうとしてるっぽいなぁ。

 今はちょっと会えない所に居るけど、一時期一緒に飯の作り方考えてた人が、似たような事やってたわ。あ、別に死んではいないからね。

 

 

「それは僥倖、いつかお会いしたいものです。…キースさん?」

 

「ケ、ケツの青い拙者なれど、ここで退く訳にはいかぬのでゴザル! ………御免!」

 

 

 バクッ

 

 

「………本当に味がしないでゴザル。そして煎餅のような歯応え」

 

 

 無味無臭って言ったやん。……で、これってマシな方ですか?

 

 

「少なくとも、食えるし倒れもしないから、大成功の部類にゴザル。…いや、ユウェル殿の手料理に不満がある訳ではござらぬぞ? 喝」

 

 

 さいですか。どれもう一口…。なんか変な中毒性があるな。

 

 

「ふふ、今回は大成功ですね! また作ってきます」

 

 

 …大成功っつーなら、ちゃんと喰える味付けろよ…。まぁいいや。とりあえず、俺はちょいと狩りに出ますんで、また。

 

 

 

 

 

 

追記

 

 

 後日来てみると、凄まじき戦士の他に、古今無双のモノノフという評判まで付け加えられていた。こりゃキースさんの発言だな…。

 

 

 

 

HR月

 

 

 料理。料理か。ふむ。

 別にユウェルさんの創作料理に触発された訳じゃないが、俺もそこそこ飯は作れる方だ。非常に大雑把な、所謂男の料理ばっかりだが、まー飯に凝り性な日本人の常と言うかね。作るのは主に酒のツマミばっかりだったが。

 正直な話、俺はモンスターを喰う事に抵抗は無い。ランゴスタだってカンタロスだって、ちゃんと調理すれば食える。生来の感性なのか、ゴッドイーターとしてアラガミから鬼から喰いまくってたからこうなったのかは分からんが。

 

 飯作る時って、肉とか野菜とか、同じ大きさで綺麗に切るんだよな。んで、当然切り口はキレイな方がいい。

 切り口……丁寧に斬る。

 今までも丁寧に急所を狙っていたつもりだったが…改めて思い返すと、やっぱり荒々しい切り口なんだ。痛みを与えるという意味ではこの選択もありだと思うが、やはり足りない部分を力で補い、無理に引き千切っている事は否定できない。

 別に技術100%で切り裂くべきとは思わんが、相手は人間より遥かに頑丈でタフなモンスター達。人間の膂力では、どうやったって限界はある。

 

 翻ってみるに、先日の花畑でのリアの大暴れはどうだったろう。惨殺され運ばれていくホーローフーロー…名前が思い出せん…を一目見た程度だが、あの大剣で見事な切り口だった。

 うーむ…やはりレジェンドラスタ級への道は遠いな。

 ま、とにかく、今後はもうちょっと丁寧に斬る事を意識しよう。それこそ、ユウェルさんに食材を貢ぐつもりで。

 

 

 

 それはそれとして、拠点に帰ってきたら来客があった。

 …マオ、お前さん猟団に帰ったんじゃなかったのか? そして、そっちの敵意マシマシのメガネ金髪嬢ちゃんは何ぞ?

 

 

「ああ…思ったより早く戻ってきてスマンな。こいつは猟団員のベリヰヌだ」

 

 

 …何と言うか、失礼ながらちょっと発音しにくいお名前ですな。故郷独特の名前? それは失敬。

 ベリヰヌ…ベリ犬…ベリーベリー犬…とても犬である?

 

 

「本当に尋常じゃなく失礼ですわ! 貴方ですね、マオさんに妙な力の使い方を教えると嘯いて、いやらしい事をしたのは!」

 

 

 ……おい、マオ?

 

 

「すまん。どうにも思い込みが強い子でな…。否定はしたんだが、あの暗示の事を思い出して一瞬言葉に詰まったら、この有様だ」

 

「マオさんの病気を治してくださった事には、感謝していますわ。貴方が我々のような能力を持っていると言うのも、信じます。ですが、その治療や制御の為、貴方に抱かれなければならないと言うのは、とても信じられるものではありません! その化けの皮、はがして差し上げますわ!」

 

 

 ……おいマオ、本当にどうしてこの子を連れてきたんだ? 力の使い方を教えるにしても話すだけにしても、こう攻撃的に来られると反撃したくなるじゃないか。

 

 

「本当は別の人選だったんだが、どうしてもベリヰヌが治まらなくて…。サーシャが怯えていたのも、この誤解に拍車をかけたな。実際、能力の制御法を教えるという話に懐疑的な団員も多い。このありさまのベリヰヌを説得できれば、いいデモンストレーションになる……とこじつけてしまった」

 

 

 ちゃんと手綱握っとけよ団長。と言うかミーシャは?

 

 

「団長としての仕事が溜まってて、こっちに来れなかった。ベリヰヌを止められなかったのも、8割以上がそれが原因だ。猟団としても、ミーシャの仕事が落ち着くまでは大がかりな狩りには出られないし、だったら別れたばかりで何だが、もう一度力の使い方を教わりに行こう…と思ってたら、見事にベリヰヌもくっ付いてきてしまった訳だ」

 

 

 やれやれ…。まぁ、いいけどな。囁きの術は当分使う必要はない。今は体に満ちる力を、強弱だけじゃなく何処に動かすかを練習せにゃならん。

 一応囁きの術でも高い修行効果は得られるんだが、トランス状態じゃなくて平常時、自分で力をコントロールできにゃならんからな。今やっても意味が無い。

 

 

「そうか…(少し残念だな)」

 

 

 …聞こえてるぞ。と言うかベリヰヌ、マオの前に立ってディーフェンスディーフェンスしても意味ないぞ。

 まぁいいや。化けの皮を剥がすにせよ信じるにせよ、とりあえず訓練風景みないとどうにもならんだろ。

 

 

「いいでしょう。その挑戦、受けて立ちますわ!」

 

 

 挑戦してきてるのは、どっちかとゆーと君の方だ。

 ふむ…マオには瞑想のやり方を教えてるからいいとして…それを見てるだけってのは退屈だろうし、信じる事もできないだろ。何か術の一つでも教えてみようかな…。でも霊力を殆ど理解できずに使える術なんてあったかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 で、その訓練風景ですが。

 

 

 

「まぁ…本当に傷が治りましたわ。珍しい力を持っているのは確かなのですね」(タマフリ・治癒)

 

「ヒェェェ~~! 文字が! 宙に文字が浮かんでいますわ! 落ち着きなさい、トリック、トリックですわよ…」(経文唱)

 

「手も触れず、道具も使わずに的が弾け飛ぶなんて…妖術、魔術ですわ! 魔法ですわ!」(破敵の法)

 

「ち、力が湧き上がってきましたわ! しかも何やら光っております!」(リンクバースト。ゴッドイーターでもないのに何故出来る…?)

 

「な、なんですの、この大きな手は……伸びる、形が変わる、力も強い。はっ、そう言えば先日のメゼポルタ防衛戦で、大きな手が古龍を一撃で討伐したと…」(鬼の手)

 

 

 新技披露。タマフリスタイル「操」にして、式神を召喚。それを高く飛ばして、こう…霊力を綱とかみたいにしてみると…。

 

 

「く……くうちゅうふゆう…」「おお、何だそれは!? 人が浮かぶとは素晴らしい! 私にも出来るか!? 移動の速さはどうだ!?」

 

 

 マオさんまで喰い付いてきた。生憎、式神にブラ下がってるだけなんで、ロクに動けません。移動速度も、人間一人を抱えてりゃね…。

 ちなみに、マオに頼まれてどうにか再現できないかと試したところ、マオの体にと式神を括り付けて強引に飛ばすしかなかった。風船にブラ下がる幼女とかなら、まだ絵になっただろうが…マオ曰く「自重でなんか食い込む感じがする」「関節が変な方向に曲がりそう」「へんな浮遊感」で非常に不評だった。………そらそうだろうよ。試しにやってみて気が付いたが、アレ完全に闘魔傀儡掌だわ。気分いいわけ無いわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1時間後。

 

 

「私は何という失礼を…。伏してお詫びいたします。これからも、ご教授をお願いいたしますわ」

 

 

 ああうん、別にいいけどさ。チョロい…と言うか化けの皮を剥がそうとしてたのは、『力を持っている事』じゃなくて、『エロい事で制御法習得が出来る筈がない』じゃなかったっけ? 

 どこぞのイギリス代表候補性並みのチョロさに、この子の将来がちょっと心配になった。

 

 と言うか本当に大丈夫なのか、この子…。

 

 

「思い込みが強すぎる、と言ったろう。良い方向にも、悪い方向にもなんだ。君の力はインパクトが強いからな。一度度肝を抜けば、すぐに信じるだろうと判断したから、結局ベリヰヌを連れてくるのを了承した」

 

 

 そっちでもそういう扱いなのか。ちょっと不憫だがアホ可愛いタイプだね。

 ま、これで信じてくれるなら安いものだ。猟団員への説得材料に…なるかなぁ。あっちでもアホ可愛いタイプの扱いって事は、頭にはあまり期待されてないって事だと思うんだが。

 

 

 

 それはそれとして、ちょいと気になる事があるな。ベリヰヌにリンクバーストを使った時の事だ。神機をわざわざ持ち出してきて、適当な肉を喰わせてリンクバースト使ったんだが…なぜ出来た?

 神機は元々アラガミしか食べない偏食として調整されているが、俺の神機はその頚城から外れている。3つの世界を巡ってちょくちょく使い続ける内に、偏食は治り、肉でも野菜でも鬼でも無機物でも食えるようになっている。それでバーストが出来るのも、おかしくは無い。リンクバーストに使うエネルギー弾も、出来上がってもおかしくは無い。

 

 が、どうしてそれを受けたベリヰヌがバーストする? バーストは、ゴッドイーターの中に組み込まれたアラガミの因子が活性化する事で起こる現象だった筈。この世界にアラガミは居ないし、因子もないと…いやでも霊力はあったしな…。

 そもそも、あの現象はベリヰヌにしか起きないのか? 別の誰かに試して、バーストが起きるかも実験したい。

 

 仮にベリヰヌのみ、或いは…異能者のみであったら? 異能の源はアラガミ因子、ゴッドイーターの力……うん、考えられない事ではないな。なんでそんなモンがあるのかが分からんが。

 

 

 

 そう言えば、あの時のバーストの光、なんだか弱めだったような気がするな。持続時間は明らかに短かったし。

 

 活性化、か。考えてみりゃリンクバーストに使う弾は、単純に生態を活性化させるエネルギー弾でもある。アラガミ因子じゃなくても、効率は悪いがバースト自体は起こるのかもしれない。

 とりあえず試してみっかなぁ。バーストしてる間は霊力も強くなってたから、いい修行方法としても悪くはないだろう。

 

 



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252話

仁王の修羅の道、半端なく敵が強くなっとる…。今更野盗に惨殺されるとは思わなんだ。
そこらのモブでも超強化されてるのが居るし、朧・追撃を成功させても倒れないから追い打ちもできない。
気力ダメージの問題かな?
強者の道に入った時以上のカルチャーギャップだなぁ…。
勘違いかもしれませんが、強化モブは一度倒せば、次に週からは普通のモブになるっぽい?
それでも強いけど。

そして最大の問題は、レベルアップの為の必要アムリタ上限が上がった事。
強者の転でも、1回のレベルアップに12~3回…。
修羅の道の東国無双が約100万アムリタだったから、強者の転1回分か。
この分だと、修羅の転を回せるようになったとしてもどれだけかかるやら…。

とりあえずレベル上げよりも、装備強化かな…。




HR月

 

 

 リンクバースト現象、ベリヰヌ以外でも発生した。デンナーでもコーヅィでも、ヒマしてた猟団員でもだ。ただ、軒並みブーストの効率は良くない。多少は霊力が強くなりもしたが、その程度だ。こりゃ単に、注ぎ込まれたエネルギーが体を強化しているだけっぽいな。うーむ、アラガミ因子は関係ないのかな?

 ちなみにデンナーからは、「こんな方法があるなら、もっと早く思いついてほしかった」と言われたが、後の祭りである。言い出したらキリがないしね。

 

 …そうそう、このセリフからも分かるように、デンナーが霊力の存在を、ほぼ安定して認識できるようになった。しかもどういう訳か、そのコントロールも(初心者にしてはだが)かなりのものだ。 

 そんなデンナーにリンクバーストをブチ込んだ結果、2~3日練習すればタマフリを発動させる事もできるんじゃないか、と思うくらいの上達速度だった。

 

 

 

 

 …が、俺はようやくここで、非常に根本的な問題があった事に気が付いた。

 

 

 

 

 タマフリってミタマが無けりゃできねーよ。

 

 

 …いやホントどうしよ…。確かにミタマ無しでも多少は効果がある術はあるよ。でも回復効果なんてスズメの涙以下。少なくとも足をどうこうする事はできそうにない。

 肉体強化はどうだ? …ダメだ、あれは基本的に普段使われていない力を引っ張り出すものであって、動かない手足を強引に動かせるようなものじゃない。

 

 身に着けた霊力は無駄にはならんと思うが、有効にする為の段取りが…。

 

 

 

 

 

 

 いやあるんだよ? 物凄く単純かつ手っ取り早い手段がさ。でもやだよ俺。前にもやったけど、やられた方がひどい事になったじゃん。

 

 

 

 すっかり存在を忘れ去られていた(と言うか無視しきっていた)のっぺら共をデンナーにつけるなんて。前に憑かせた奴、ロクに眠れなくなったもんなぁ…。あれから随分立って、のっぺら連中のウザさは物凄くパワーアップしてしまっている。デンナーでも正気で居られるかどうか…。

 と言うか、そろそろ一度、のっぺら達を直視するべきだろうか。スッゲェ嫌だ。生理的嫌悪がパない。無数の蟲が蠢く穴に突貫しろって言われても、これ程の嫌悪は感じないだろう。

 …よくよく考えてみれば、そこまで嫌なのも不思議だな。ウザさが凝縮されてドロドロに煮込まれてるとは言え、結局のところあいつらには何もできんのだし。

 他の人にとってはともかく、俺にとっては自分で自分の内臓を覗き込んでいるようなものだからか?

 

 

 ふーむ……もうちっと考えてみるか。どっちにしろ、タマフリするにはもうちょっと訓練を重ねなければいけない。それまでに何か方法があればそれで良し。のっぺら達にも目を向けない。いよいよダメとなったら………本人に了承は得るべきかなぁ…。

 

 

 

 

 そうそう、話は変わるが、一つめでたい事があった。と言っても、まだ確定した訳ではないんだが。

 コーヅィの上級ハンター昇格が、本格的に近付いてきたのだ。G級が当然のフロンティアで、上級に上がりそうな程度でそんなに喜んでも…という意見もあるかもしれないが、フロンティアでの上級昇格=他所での上級終盤と考えると、結構な戦果だと言うのは分かるだろう。しかも、多少の下積みがあったとは言え、コーヅィが真面目に狩りを始めてから一か月も経っていないのだ。

 

 で、その事について、猟団員数名と飯食ってた時の事だが。

 

 

「…でも、実際ちょっと早すぎません?」

 

 

 ん? どした、ヨシミ?

 

 

「いや…その、コーヅイさんが真面目に狩りをするようになったのは知ってますし、何度も一緒に行きましたけど…コーヅイさん以外にそういう話が全然出てこないのは、おかしくないかなーって…」

 

 

 要するに、コーヅイばっかりズルイ? 自分も上級になりたいと?

 

 

「それは…………そうは思いますけど、上級って事はもっと危ないモンスターが沢山出てくるんですよね? どっちかと言うと怖いです…」

 

 

 フロンティアでは、下位でも偶にG級相当が出てくるけどな…。まぁ、上位ハンターになれば、その分強いモンスターと当たる事が多いのは事実か。

 上に上がっていくだけがハンター人生じゃないし、別の今のままでもいいけどね。…でも長く続けられる仕事じゃないんだよなぁ…。教官みたいに、歳喰っても現役でいられる人がどれだけ居るやら。

 

 

「デンナーさんも、復帰できるかどうかって状態ですしね」

 

「実際…どうなんですかいの? 歩けるようになりつつある…とは…聞いとりますが」

 

 

 ハンターとして復帰するには、まだ時間がかかりそう。だけど、日常生活なら…ってところだな。たった一か月でそこまで回復するんだから、やっぱハンターって凄いわ。

 

 

「団長が使っている、妙な癒しの力の結果では?」

 

 

 あそこまで効果は高くねーよ。やっぱり本人の生命力あってのものだし。

 

 

「それでも……あの能力は…オイシイ…魅惑的…! 医者にでもなれば……元手無しで…大儲けっ……左団扇っ…!」

 

「左団扇とまでは行かなくても、あると支出が抑えられるんだよなぁ…。外傷の手当てに使う道具が要らないだけでも、どれだけ楽になるか…。でも、習得できるんですかね、唐揚げにレモンかけるか?」

 

「前に団長に聞いたら、何もせずに何時間もじーっとしてなきゃいけないって言ってたぞ。あ、俺レモンはパス。後で被り付くけど」

 

「ああ…それは…ヨシミには無理っ…。ランゴスタに…飛ぶなと言うようなもの…! ビールお代わりっ…!」

 

「否定はしないけど、俺だって真面目にやる時はあるんだぞ…。あんまり長続きしないけど…。俺もレモンはいいや。むしろ皮の方を食べたい」

 

 

 治療自体は順調だけど、習得に関してはちょいと問題が発覚してな。どうにかしようと頭を捻ってるんだよ。

 まあ、習得ができなくても、俺が最後まで治療を続ければいいんだけど。

 パセリも美味いぞ。

 

 話が逸れたけど、コーヅイ大丈夫かね。臆病と紙一重なくらい慎重なのは、ハンターとして得難い素質だと思うが、それだけじゃやっていけないからな…。

 それに、上位ハンターになるには試験があるだろ。何が相手だろうなぁ…ダイミョウザザミかショウグンギザミか、シェンガオレンか…。いや、大物ばかりじゃなくて普通のザザミを何十匹も狩るとか、意表をついてモンスターじゃなく生態系維持の為に、カニを育てるとか?

 

 

「その熱い甲殻類押しはなんですかいの? …カニ鍋ってこの店あったか?」

 

「刺身ならあるけど、カニは無いな」

 

 

 個人的な事情で、ラオシャンロンが来てほしいんだけどなー。2体ほど。

 

 

「また…防衛戦…! 数の力で…!」

 

「でもコーヅイさんの試験なんだろ? 猟団で袋叩きって、それいいのか?」

 

「と言うか防衛戦が試験になるか?」

 

「そう言えば……上位ハンター昇格が考えられている話を聞いた時、コーヅイさんが『ようやく戻って来たか…』って呟いてたけど」

 

 

 戻って来た?

 

 

 

「…なんだよ、お前らあの人の事、全然知らないんだな」

 

 

 あん? …お前、確か…コーヅイに度々つっかかってた、オジ専ホモ種じゃないか。

 

 

「誰がだ! 初対面でいきなり名誉棄損してんじゃねえよ! お前らも真に受けて引いてんじゃない!」

 

 

 いやだってよぉ、防衛戦後の宴会でも、酒も飲まずにコーヅィにちょっかい出してたし、後で聞いたら度々突っかかってくるって言うし。

 こりゃ、気があるけど世間体とか照れくささとかで素直になれずに、ついちょっかい出してしまうガキンチョみたいな恋愛弱者だと思うじゃん。

 

 

「思わねえよ…! ったく、タカリハンター共の頭だけあって、ロクな事考えてねえ…!」

 

 

 褒めてくれてありがとう!

 

 

「………!!!! …もういい、帰る」

 

 

 まぁまぁ、待ちんさい。ホモ呼ばわりは謝罪するが、なんか用事があったんじゃねーの? 意味もなく俺らに話しかけにはこないでしょ、アンタ。

 

 

「…別に。隣で物知らずな話してたから、つい首を突っ込んじまっただけだ」

 

 

 物知らず? コーヅィの事を知らないって事か。

 

 

「そうだよ。…あの人、元は上級ハンターだったんだぞ。しかも、今じゃなくて昔の制度でな」

 

 

 昔?

 

 

「ああ…団長はその頃のフロンティアの事は知らないんでしたの。今でこそハンターランクは1~7で簡潔になっとりますが、以前はもっと細かく区分されとったんです。確か…1~30が下位ハンター、それ以上が上位ハンターじゃったか」

 

「あの頃は、今と違って使える技術や技も、もっと少なかったからなぁ…。今だって、俺らに使えるようなのは少ないけど」

 

 

 ああ…ゲームで言えば、大型アップデート前の制度って事か。具体的にどのアップデートの事なのかは分からないけど。

 要するに、コーヅィはああ見えて、今よりずっと厳しい状況でハンターやって、認められたくらいの大物だったって事か。ちょっと信じられないが……でも動きは結構悪くないし、ギルドマスターにも名前を憶えられてたくらいだし。

 

 

「へぇ、そいつは俺も知らなかったな。まぁ…あの人に助けられた、ってハンターは結構いるし、不思議じゃないか」

 

 

 助けられた?

 

 

「ああ。俺もその一人だ。…まだ駆け出しの頃にバカやってさ。クエストが終わった帰りに、フルフルに襲われたんだ。目も見えないし、基本的に動きが鈍い奴だからって甘く見て…。クエスト中じゃないから、回収してくれるアイルーも居ない。回復薬も無かったし、それ以前に痺れて動けなくなってた」

 

 

 そりゃまた絶体絶命…。確かにフルフルは、見てるだけだとそんなに厄介には思えないからな。洞窟の中とかに居ると、面倒くささが跳ね上がるが。

 

 

「そういう事だな…。動くに動けずに、もう食われて死んじまうのかって思った時、あの人が飛び込んできたんだよ。まぁ、恰好いいなんて言えないやり方だったけどな。その辺の石とか消臭玉とか、罠にもかかってないのに麻酔玉とか、とにかく手当たり次第に投げつけて気を引いてた。その間に、俺は何とか動けるようになって逃げられたんだよ。礼を言いたかったんだけど、クエストに行く途中だったらしいし、俺もフルフルから逃げ切るので精一杯だった」

 

 

 ほうほう。で、それが切っ掛けで…(オジ専に)…いや何でも無い。

 

 

「…くだらねぇ事口にしたら、絶対ぶっ飛ばすからな…。その後療養して、その時のハンターが誰だったのか探して…一か月くらいだったかな。それらしい人の居場所を探し当てた時に、色んな話を聞いたよ。華やかなもんじゃないが、地道にコツコツやってきて、遂には上位にまでなったハンター。俺みたいに助けられた、って人は沢山いて、それさえ無ければもっと早く上位ハンターになれたって噂だった」

 

 

 コーヅィがねぇ…。ま、お人好しだし、目の前で困ってる人がいたら、ついつい手を出してしまうのは、今も変わってないけど。それで?

 

 

「言っちゃなんだけど、憧れた。俺もそんなハンターになろうって思った。…それで、礼を言いに行ったんだ…。確かにその時のハンターだった。あの時、フルフルの攻撃を避け損ねて受けた傷と同じ跡もあった。ハッキリ断言できる。あれはコーヅィさんだった。でも、再開した時のあの人は、噂とは全然違った。毎日毎日酒に溺れて、狩りになんか行きやしない。…幻滅したよ」

 

「そんな、勝手に期待されて勝手に見放されても…」

 

「ああ、それは分かるさ。俺が勝手に夢見て、憧れて勘違いしただけだ。でも、当時の俺は我慢できなかった。憧れがひっくり返って、礼を言う気すら無くなっちまった」

 

 

 コーヅィが真面目にコツコツやってたのは事実なんだろ? どうしてそんな事になった。

 

 

「わかんねぇよ。知ろうとも思わなかった。…だけど、どっかでずーっとそれが引っ掛かってて…この前の防衛戦で、真面目に戦ってるのを見て本当に驚いた。…正直、今更って思ったけどな。割り切れた訳じゃないし、お前らのやり方は嫌いだ。ハンターってのは自分の力でのし上がっていくもんだ。…でも、今まで怠けてた奴が、それを取り戻そうと頑張ってる事まで否定するつもりはない。だから……あー…あの人を支えてやってくれ。そんだけだ」

 

 

 

 

 

 一度だけ軽く頭を下げて、そそくさと去っていった。

 

 

「…何だったんだ?」

 

「さぁ…。でもコーヅィさんに何があったかは、ちょっと気になるな」

 

 

 詮索してやるな。モチベーションに問題が出ると困る時期だしな。

 にしても…一方的にコーヅィについて語っていったな。感謝、幻滅、批判と来て、結局気になって仕方ない、と。

 

 

 

 

 

 やっぱりオジ専のホモじゃないか。しかもツンデレと来た。オジ専ツンデレ種。

 

 

 

 

 

 …ところで、あれが誰か知ってるか?

 

 

「あー…ベテランのハンターで、G級も近いって話は聞いた事あるけど、名前までは…」

 

「G級間近など……フロンティアでは珍しくもない…! が…俺達にとっては…遥か彼方の話…!」

 

「あんま威張れた話じゃないけど…。まぁ、ハンターやっていくつもりなら、やっぱり上位までは行かなきゃ安定しないだろうなぁ。上位ハンターの装備で、下位の安全なクエストをして暮らすのが理想かな」

 

「他所の土地に引っ越すのは博打だしな。どんなモンスターが居て、どんな土地なのか、施設が整っているのか。よさそうな所は、大抵他のハンターが居るしなぁ…」

 

 

 そうか……あ、メニューにカニカマある。

 

 

 

 

 




話し方でお察しでしょうが、ヨシミその他は福本モブをイメージしています。


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253話

HR月

 

 

 詮索するなとは言ったが、気にはなるな。コーヅィが落ちぶれるのに、何があったのか。

 ま、ある程度予想はつくけどな。

 あの真面目でお人好しなコーヅィが、酒に溺れて何もしなくなる…。以前にも考えたが、心の問題だろう。精神と言うか、支柱と言うか、コーヅィを支えていた何かがブチ壊れてしまったんだろう。

 

 ハンターやってると、あんまり珍しい事でもない。目の前で誰かが死ぬ、食われる。自分自身の大怪我や死の恐怖。クエスト中の何かによって誰かが死んでしまったり。

 一番多いパターンは、初見のトンデモモンスターの迫力に心を圧し折られるパターンかな。俺だって、昔と言うか初ループ近辺では、卵抱えてレウスやらレイアに追われてトラウマ作ったもんなぁ…。人肌に癒されなければ、そのままコーヅイ同様酒浸りコースだったかもしれない。

 

 コーヅイが「ここまで戻って来た」と言ってるから、多分事が起こったのは上級ハンター昇格試験か、その直後辺り。上級は何処の世界も別次元だからなぁ…。レベルの差にやられたか、それとも上級から出てきた奴にやられたか。

 相手がどんなモンスターなのかは流石に分からんが………あれ、でもコーヅィって超が付く程慎重派だよな。上級に昇格したら、それこそ初心に戻ってモスくらいからコツコツやっていきそうだが…。

 

 

 

 

 …ふむ、まぁ機会があれば聞いてみるか。何せ俺は「押すな」と書かれたボタンと誰の居ない部屋のコンビにも余裕で勝てる男(自称)だからな! ボタンじゃなくて女体の何処かだったら確実に負けるが。野郎の事だからどうでもいいと思っている訳ではないぞ、うん。

 

 

 さて、それは置いといて…コーヅィが上級に昇格しそうなのとほぼ同時、俺もG級進出の話が出てきた。出てきたんだが……正直、マジで? としか思わない。

 確かに、フロンティアに来て腕はあがったと思う。一か月に満たない程度だが、このループが始まったころの俺と、今の俺がやり合ったら、練度の違いで圧倒できるくらいには。

 しかし、周りを見てみればどうか。上級ハンターでとどまっている人達にも、俺以上の実力者はゴロゴロいる筈だ。

 

 フロンティアのG級は、最高位ではあるがその実スタートラインでしかない…と言うのは分かっているが、それにしたって早すぎないか? 別に陰謀論者になったつもりはないが、なーんか誰かが後押ししてる気がするな。

 実際、どっかから推薦されたって話もあるし…ギルドマスターからチラッと聞いた程度だが。

 

 

 そうそう、その時の話で、ちょっと重要な案件があった。霊力の事だ。

 俺が防衛戦で治癒の力を使ったり、ヤマツカミを鬼の手で《グロ画像》した事により、奇妙な力を持っている事は知られてしまっている。実際、俺も隠したりしてない。適当に狩りに出る時に組んだパーティメンバーから、本当にそういう力があるのか聞かれて、実演してみた事だってある。

 そうやっている内に、異能の存在はどんどん知れ渡っていった。……と言っても、現状じゃ知る人ぞ知る、って程度だけども。

 

 で、それにギルドが目を付けた訳だ。そこまで珍しい話じゃない。超越奥義だって、元は誰かが考えた事を、ギルドがマニュアル化して広めたものだ。まぁ、流行り廃りの激しいフロンティアでギルドが目を付けるには、それなり以上に優秀なモノでなければならないが。

 勿論、ロハで技術を取り上げられる訳じゃない。どのぐらい有効なのか、そう認定されるかにもよるが、報酬は大体莫大だ。それこそ、達人ビールを広めた元ハンターを鼻で笑い、下手するとそこらの王族よりも資産が多くなる……らしい。

 実際の所、特許申請みたいなもので、それを使うハンターがどれだけ居るか、そのハンターがどれだけ貢献したかによって、定期的に支払われる報酬が変わってくるのだが。

 

 で、俺の霊力の技術を、それに使ってみないかと言われた訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが断る。

 

 

 

 

 この俺が最も好きでも嫌いでもない事のひとつは、当然受けるだろうと思ってる奴に「NO」と断ってやる事だ…。

 

 

「ほう、好きでも嫌いでもないと。ならば何故断るのか、聞かせてくれんかのう? ああ、この返答がG級昇格に影響を及ぼす事は無いぞ」

 

 

 動じないねギルドマスター。まー実際のトコ、単純な話なのよ。メリットデメリットを度外視している、と言ってもいい。

 前にも話したっけか? いや別の人にだっけ? …まぁいいや。 

 とにかく、俺は現状、金銭や物欲的な利益を放り出して、全メゼポルタの、ひいては燻っている全ハンターの戦力アップを目的として行動している。まぁ、それが最終的に俺の利益と言うか、目的達成に効果があると考えてるからだけどね。

 

 これは別にギルドの体制を批判している訳じゃないんだが、超越秘儀や武器の型…コレは俺もまだ覚えてないけど…みたいな扱いになると、上位ハンターになるまで教える事はできなくなるだろ?

 強いハンターをより強くするのではなく、弱いハンターを押し上げる為に教えたい。

 

 

「ふむ…しかし、現状ではその能力をどれ程に広められると思うておる? 話に聞いた所によると、お主の猟団の中でも、会得しようと考えているのは一人二人。後は…猟団ストライカーに教えようとしているんじゃったか?」

 

 

 よく知ってますな。

 

 

「先日、ストライカーのベリヰヌが騒いでおったのを、何人か見に行ったからの。中々興味深い事をしておったそうじゃな。ワシも見たかった」

 

 

 あー…確かに大騒ぎだったな。話を戻しますが、確かに現状ではその程度しか教えられてないです。

 正直な事を言うと、ギルドにマニュアルを提出できる程、明確なやり方がある訳じゃないってのが一つ。現状、習得できたデンナーに対しても、満足な指導が出来たとはとても言えない。瞑想を続けさせて、半ば自力で会得させたようなもんだ。

 まぁ、こっちから霊力を分け与えてブーストさせ、力を認識しやすくする程度の事はやったけど。

 

 

「その方法は、お主以外でもできるか? …ああ、ストライカーの内情なら儂も知っておるから、隠さんでもええぞ」

 

 

 出来る事は出来ると思うが、デンナーもストライカーも、それが出来るレベルには達してない。現状、指導できるのも監督できるのも、マニュアルを作れるのも、事実上俺だけって事だ。…俺の知らない使い手が居るなら、話は分からんが。

 

 

「成程のう。ギルドがその技術を広めようにも、指導員も居らねば指導法自体も確立されておらん、か。それはギルドでも広める事はできんな。しかし、そうなるとお主の目的を達成する事は困難じゃぞ。下位ハンターを強くするとは言うが、どうやってその力を広める」

 

 

 …そこを突かれると痛いが……一応、考えはある。

 ストライカーの内情は知ってる、と言ったよな? つまり「そういう人」が居る事も知ってる訳だ。ソッチ系の人達なら、普通の人に比べて霊力を自覚しやすい……ようなんだ。まだ確定した訳じゃないが。

 力を隠したり持て余したりしているハンター達は、結構いるみたいだし…そういう人達を集めていけば、実績やマニュアルも出来上がっていくかなーと。

 

 

 

「正直、見通しが甘いとしか言いようがないが…ふむ、技術買い取りを拒否した例が無い訳ではない。また、ギルドが買い取ったものではない以上、お主の技術はお主のものじゃ。誰に教えるのも、誰にも教えないのも、他者に害を為さぬ限り制約は無い。…が、マニュアルが出来た場合は、ギルドはそれを買い取る意思がある事は伝えておこう。……ああ、それと…」

 

 

 

 

 

 …と、まぁこんな塩梅だ。要は俺の能力に…もうちょっと言えば、今まで多くのハンターが隠していた力に、ギルドが目を付けた訳だな。

 前述の通り、そっち系の技術を売り渡すのは拒否した。まだ広められるようなものではないと主張した為か、ギルドもそこまで強硬な事はしなかったが……それで話が終わる訳でもなかったんだよなぁ。

 

 俺が主張したからって、ギルドがその主張を丸呑みにするかは別問題。嘘八百を並べているとは思ってないだろうが、額面通りに受け取って裏付けすらしようとしないなら、そりゃ組織が取るべき態度じゃない。

 当然、ギルドも俺の言葉が何処まで信じられるのか、仮に事実だったとして、このままで問題は無いのかを調べようとしている。ま、ただでさえ怪しい力だし、しかも教えようとしているのは燻っている下位ハンター…元にしろ現在進行形にしろ、寄生やタカリと呼ばれるハンター達だ。教えて問題を起こさないとは、とても思うまい。

 実情と、どのような場面でどのくらい使える力なのか、調べようとしている。

 

 …まぁ、仕方ないとは言え、あんまり気分のいい事ではないな。腹の内と言うか手の内を探られているんだから。

 しかし、建前まで用意されているんだから抗弁する事もできん。

 

 曰く、ギルドとしてその能力には、非常に期待を寄せている。買い取りが出来なくても、ぜひとも出来るところまで育てて、有効活用してほしい。なので、その為の協力者として…。

 

 

 

「やっほー! 来たよー!」

 

 

 おふっ!? む、オパーイの感触!

 

 

 

 …コホン。その為の協力者として、同じような力を会得したらしきレジェンドラスタを送る。ぶっちゃけフラウ。この前散々ヤりまくった時に、リアと一緒に霊力を自覚しちゃったからなぁ。

 どないすんべコレ。夜毎夜毎のKENZENな遊びは確定事項として、コレ猟団がエラい事にならんか? ギルドからの仕事とは言え、レジェンドラスタが一時的に所属(しているように見える)猟団だぞ?

 

 

「その辺は問題ないよ? ボクはあくまでレジェンドラスタ。君の猟団に所属してるんじゃなくて、君の所に遊びに来てるんだから。狩りには個人的に付き合いのある君としか行く予定は無いしね。ま、君が他の団員を誘うのも止めないけど」

 

 

 遊び(意味深かつ意味複数)ですねわかります。

 ところで、猟団の連中がなんか大騒ぎしてないか? フラウをアイドル扱いしているような、或いは逆に見えない何かに怯えているような。

 

 

「あー………まぁその、これでも結構人気はあると思うよ、ボク。怯えてるのは……多分、リアちゃんにじゃないかな」

 

 

 リア? 別に来てないだろうに。それに、元タカリのあいつらとレジェンドラスタにどんな関係があると?

 団員を悪く言うのもなんだが、あいつらレジェンドラスタをどうこうしようとは…。

 

 

「甘い甘い。人間、誰しも相手を見れるとは限らないんだよ。どんなに強くても、相手が女性である時点で侮る人は居る。数が揃えば猶更ね」

 

 

 ………? …………あぁ…。

 要するにアレか? 3対1なら勝てると思って、リアを襲おうとした?

 

 

「或いは、レジェンドラスタだけ戦わせて、自分達はお零れだけゲットしようとしたかだねー。リアちゃんを襲ったら、流石にナマス…じゃないにしても、ギルドナイト案件だから、タカリの方かな?」

 

 

 うっへぇ……。普段は穏やか(に見える)な人だから、丸め込めると思ったんだろうなぁ…。で、実際に狩場に出て押し付けようとしてみたら…。

 

 

「即狩りモードの発動。押し付けるどころか、逆らおうとしたり逃げようとした瞬間にカチ上げが飛んでくるだろうね。勿論、落ちた先には今まさに行動しようとするモンスターが」

 

 

 そんなモンより、戦闘モードのリアの気迫の方が怖かろ。前門のモンスター、後門のリア。どう考えても前門に突撃するしかないね。

 で、無事生き残ったはいいが、トラウマになっちまった…か。自業自得だな。

 

 

「さもなきゃ、普通にレジェンドラスタと一緒に狩りをしようとしたら、リアちゃんがトラウマになって立ち直れずに、タカリ一直線…とか?」

 

 

 あんま考えない方が良さそうね。まぁ、ウチの猟団で真面目にやってる限り、リアの大剣は飛んでこないって言っとくか。

 で、実際霊力についてはどう考えてる? 力の自覚は出来てるだろ?

 

 

「うん、ある程度は自分で動かせるようになったよ。…と言うより、これって体が動くと勝手に連動して動くんだね。体を動かさずに、この力だけ動かすのがメンドイなぁ…」

 

 

 もうそこまで理解してるのか…流石と言うかなんというか。ギルドは習得してこいって言ってるんじゃないの?

 

 

「別に。将来的にはそうかもしれないけど、いきなりそこまで突っ込ませる気はないみたいだね。まぁ、どれくらい有効なものかも分からないしね~。あ、でもでも、君が前の防衛戦で使った大きな手には興味あるかも」

 

 

 鬼の手かぁ…確かに、汎用性にしろ破壊力にしろ、トップクラスではあるな。でも出来るかどうか…。あれ、本来なら専用の道具を使ってやるんだよ。俺は…まぁ、色々特殊な体質なんで、素のままやれるけどさ。

 大型モンスターが相手なら色々応用が利きそうだな。

 

 

「色々…くすぐったりナデナデしたりグリグリしたりとか?」

 

 

 ジンオウガをモフモフしろと申したか。いや出来なくはないと思うけど、なんという一繋ぎの大秘宝扉絵。ま、アレはある意味奥義と言える技なんで、いくらフラウでもそうそう覚えられんし教えられんよ。

 

 

「えー…。どうしてもぉ…?」

 

 

 どーしても。背中からおっぱい押し付けたって、出来ないものは出来ないんだからねっ! ケチってるんじゃなくて、技術的に無理なんだからねっ!

 あ、でも習得への近道ならあるかも。

 

 

「ホント? どうすればいいの?」

 

 

 この前、フラウとリアにやりまくった事を沢山する。鬼の手は高密度の霊力操作の極致みたいなもんだし、とにかく基礎と霊力量を上げなきゃ話にならん。

 操作は自分で覚えなければどうしようもないけど、霊力の底上げは出来る。まぁ、これもあくまで一時的なブーストみたいなもんで、結局ちょっと効率がいい手段でしかないんだけどね。

 

 

「えー、そんなので本当に出来るようになるの? えっちな事する為の口実じゃない?」

 

 

 疑うなら試してみようか? ヤッた後にフラウの中の霊力が強くなってれば事実だって分かるよな?

 で、仮に口実だったらイヤかな? 今日はリアが居ないから、一人で受け止める事になっちゃうけどね。

 

 

「…♪」

 

 

 

 この後無茶苦茶(ry

 

 

 

 

 

 

 

 

HR月

 

 

 朝一番から、ほっぺを抓られて目が覚めた。何事? と思ったら、フラウがちょっと拗ね顔だ。言うまでもなくシーツのみ。

 …どったの?

 

 

「…ひどいよぉ」

 

 

 あれ、昨晩は満足いただけなかったかな。割とヨロコんでたと思ったけど。

 

 

「そりゃ、2回目とは思えないくらいにすっごく良かったけど…最初の時みたいに、メチャクチャにされるって思ってたんだよ? なのに、あんなに優しくされるなんて…しかも、最後までしっかり意識があって、全身がすっごく深いところまで気持ちよくなって…」

 

 

 激しさだけが気持ちいい事じゃないのさね。真面目な話、前の時は下剋上と言うか襲われたお仕置きも兼ねてたし。…まぁ、そのお仕置きされるような事したのは俺だったんだけど。

 …違うぞ? 激しさと優しさ丁寧さとのギャップで、どんどん泥沼に引き摺り込もうってんじゃないんだぞ?

 

 

「…それでもいいかな……ところで、本当にこれで霊力が強くなってるの?」

 

 

 ああ。普段と比べて、かなり活力が湧いている筈だが? …ああ、昨日の疲れが残ってて分からないのかな。

 …もちっとブーストしてみる?

 

 

「それじゃ、もう一回!」

 

 

 …この後朝っぱらから無茶苦茶(ry

 

 

 

 

 

 さて、コーヅィ、俺の昇格試験が間近となった今日このごろ。ちょっと信じられない情報が飛び込んできた。一緒にその情報を聞いたフラウも、微妙な顔をしている。

 想像が追いつかないと言いますか、いくらフロンティアでもそりゃヒデェよと言いますか。

 

 何が起きたかっていうと……古龍襲来。今度はラオシャンロンだ。

 まぁ、それだけならフロンティアでは珍しい事ではない。いつも通りの防衛戦でカタをつければいい。メゼポルタ広場到着まで、短く見積もっても数日はある。防衛戦の準備もバッチリ。

 例によって例のごとく、トッツイ達が必要としている古龍がやってきたことも気になるが、そこも大目に見よう。

 

 

 問題なのは、2体同時にやってきた事。

 

 

 

 

 

 

 でもない。確かに2頭のラオシャンロンが接近してきてはいるが、そいつらの距離は離れている。別々に行動していると言う事だ。

 

 

 

 問題は。そう、問題は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くに居る方のラオシャンロンが、2足歩行のダッシュでメゼポルタ広場に接近してきている事だ。

 

 

 

 

 何言っているか分からない? 俺だって分からねーよ。

 狂走ラオシャンロンと名付けられたソレは、通常のラオシャンロンの数倍のスピードでメゼポルタ広場に迫っている。

 蛇から逃げるエリマキトカゲを彷彿とさせる恰好で、凄まじい地響きと共に進軍し、立ち塞がるモンスターを蹴り飛ばし、不格好に腕(と言うか前足)を振り乱して、口から泡を吹きながら突っ走る。

 

 何の冗談かと思ったが、ギルドの職員は限りなくマジだった。アホみたいな状況であることは否定できないが、それ以上にこの脅威を否定する事ができない。

 ちょっと考えてみれば分かるだろう。ラオシャンロンがその巨体に反し、そこまでの脅威とされてないのは、その行動が非常にゆっくりとしたものだからだ。極端な話、撃退に失敗しても、人が逃げるだけの時間はある。

 

 しかし、これがダッシュしてきたらどうか?

 

 質量×速度=破壊力と言うのは、この世界でも有名な法則だ。まぁ、この世界の場合、属性値とかのよーわからん法則が絡んでいそうな気もするが。

 とにかく、ラオシャンロンが走ると言う事は、それだけで凄まじい破壊力を保証してしまう。巨体が勢いを付けて体当たりする事もそうだが、一般人が逃げる時間もなく、絶え間なく起きる足踏みの地響きで耐震スキル無しでは攻撃もできず、万が一蹴っ飛ばされようものならミンチ程度じゃ済まないだろう。

 その為、近接攻撃はほぼ不可能と考えられる。相当に上手く当てないと、最高速度の新幹線に生身で殴り掛かったかのような惨状が出来上がるだろう。

 …ま、ラオの相手はガンナーが鉄板だから、そう影響はないと思うが。

 

 

 

 幸いにして、狂走ラオシャンロンは真っ直ぐメゼポルタに向かっているのではない。フラフラフラフラ蛇行しながら、時々道を誤ったように明後日の方向にズレ(頼むからそのまま迷ってどっか行ってくれ)、そして半日くらいしたら結局メゼポルタ近辺への方向に戻る。

 …で、試算の結果、どーゆー偶然か導き合わせか、単純計算だともう一頭の通常ラオシャンロンとほぼ同時に、メゼポルタ広場に到着すると来た。うぅむ、運命の悪意を感じる。

 

 

 

 真面目な話、どうしたものか。どう思う、コーヅィ、デンナー。

 

 

「走るラオシャンロンとか、絵面的にも悪夢なんですが…。普通のラオシャンロンなら、私達でも集団でかかれば…進路を変える事くらいなら、出来ると思います」

 

「俺が万全の状態なら、フロンティアのラオシャンロンでもやれない事は無いぞ。まぁ、ガチ装備に底力とかいろいろ条件はあるから、やりたくはないが。俺一人でそれなんだから、そこそこ使えるハンターが揃えば、撃退は可能だ。一体目は…な」

 

 

 そうなんだよなぁ。二頭目が問題なんだ。1体目を早々に倒さないと、2頭目のラオシャンロンが乱入してくる。流石にそうなったら、大質量で暴れ回られて勝てる気がしない。

 つまり電撃戦が必要な訳だが…1体目に火力を集中すると、当然弾薬の減りも早くなる。1頭目を早く倒そうとすればするほど、2頭目に注げる火力が少なくなる訳だ。

 

 

「それを考えると、砦以外で撃退するのまず不可能だな。いくらハンターでも個人の火力には限界がある。砦に籠って戦うのは、ラオシャンロンの進軍を阻むためだけではなく、爆薬その他を充分に用意する為だ」

 

「野戦だと、事実上殴り掛かる事しかできませんしね…。何より、ラオシャンロンはどういう訳だか、常に狭い一本道を通ろうとします。脇道に逸らせようにも、道が無い場所まで進んでいるようです」

 

「砦を建てる場所は、ラオシャンロンが通る道の上で、数少ない分岐点がある場所だ。そこでなんとか食い止めれば、横の道に逸れるだろう…と言う事だな。先人達がラオシャンロンに踏みつけられながら、ようやく見つけた抜け道だ」

 

 

 

 

 ちなみにその踏まれたハンター、何割くらい生きてますかね。何、6割よりは多い? さすハン。

 それはともかく、あー…確かに、あいつらいっつも峡谷みたいなトコ通ってくるからな…。道が無いんじゃ、方向転換できないのも当たり前か。

 

 

「あれ…でも狂走るラオシャンロンは、何もない平原を走り回っていますね? まぁ、我々も直に見た訳ではありませんが」

 

 

 む、確かに。ひょっとして…左右に壁が無い所に放り出されて、錯乱しているとか?

 

 

「いやいや、それは無いだろう。壁のあるところを好むというだけで、それ以外の場所を歩く例が無い訳じゃない。…しかし、何だな」

 

「なんです、デンナーさん」

 

「こういうのを考えるのはそれこそギルドの仕事だろうに、何で俺達がこんな事を当事者みたいに話してるんだろうな。そりゃ他人事とは思わんが、迫ってきているのは他所のメゼポルタ広場だし、俺達が対応に当たると決まった訳ではないだろうに」

 

 

 まー確かになー。俺は諸事情でラオシャンロン素材が必要だけど、別にギルドメンバーまで動員するつもりはないし。ま、転ばぬ先の杖って事で。もうちょっと考えを続けてみようか。

 

 

 



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254話

壊れていたスマホが戻って来たので、討鬼伝モノノフプレイ中。
データは消えていた。
ふぁっきん。だが大して進んでなかったのでダメージは無い。

成程…このゲームで特に重要なのは、武器の強化と見た。
Sランククリアしてその他条件を達成すれば、後はキンクリできるから、プレイヤースキルが重要なのはそれを達成する為の一時のみ。
あとはただ只管に行動力が無くなるまでミッションをキンクリし、敵を瞬殺できるくらいの攻撃力が出来上がるまで待つ。
強化する装備のレア度が低いと、鍛えても強い攻撃力に仕上がらないが、それはソシャゲだから仕方ないわな。
とりあえず、やれるところまでやってみるか。


HR月

 

 「自分達で狩るとは限らない」みたいな相談しておいてなんだが、結局自分で志願してしまった。何でって? そりゃハンターのサガですがな。

 知らない素材、知らない戦い方、見た事も無いモンスター。これらに心躍らないようではハンターじゃない。

 フロンティアに来てからは、そういった未知を楽しむ余裕も無くしかけていたけども。

 

 …ただ、必死で止めようとしていたコーヅィが、覚悟を決めたような顔でついてきたのは正直罪悪感がね…。しかも「私、生き残ったら別れた妻に土下座しにいきます…」とか言ってるし。余計なフラグ立てるな。

 ま、ある程度の対策を考えられたから、こうして来てるんだけどね。

 

 尚、残念ながらこちらにレジェンドラスタは来ていない。フラフラ方向を変える狂走ラオシャンロンよりも、間近に迫った通常ラオシャンロンが優先、というギルドの判断だ。

 これが保身によるものなのか、純粋に戦力計算によるものかは微妙である。ギルド職員も、肝が据わってる奴らが多いんだよなぁ。

 

 

 …こうして、と言っているように、俺は既に現場の砦に居る。普通のラオシャンロンを食い止める為の砦じゃなくて、狂走ラオシャンロン用の特注砦だ。まぁ、特注と言っても、所詮は突貫工事なので、どこまで信頼できるか分からんが。

ちなみに、狂竜ラオシャンロンとも、通常ラオシャンロンとも、まだ戦闘は発生していない。恐らくエンゲージは明日…だと思う。

 

 …で、集まった怖いもの知らずと言うかモノズキと言うか廃人なハンター共と一緒に、俺は砦の頂上(アサシンみたいに昇りました)で双眼鏡を構えている。

 倍率最大で覗き込む双眼鏡の中では、確かに赤くてでっかい竜がドシドシ走り回っていた。遥か遠方なのに、見ているだけで振動が伝わってきそうだ。

 

 

 うーむ…完全に目がイッちゃってるな。白目剥いてるラオシャンロンとか、貴重なモン見た。あまり見たくなかったが。相当に長い距離を走り続けているんだろう。よく見てみれば、全身がテカっているようにも見える…多分汗だろうけど、ラオの全身が濡れる程の汗ってどれくらいだろう。

 しかし、ランナーズハイ状態にあると思われるが…ふむ、そうなると気になる所や、逆に突破口も少しは見えてくるか。

 

 まず第一に気になるのは、奴の疲労度合だ。脳内麻薬ドバドバ状態なら、疲れは感じていないかもしれないが、肉体の疲労自体は否定できない。普段やらないような姿勢で延々と走り続けていれば、そりゃ筋肉だって疲労する。

 つまり、意外と転倒しやすいんじゃないかって事だ。まぁ、ヘタな所で転倒させると、それはそれで大惨事になりそうだが。

 

 逆に挙動には要注意。脳みそがまともに働いてないから、猶更何をしでかすか分かったものではない。

 

 

「…あの、団長。本当にできるんですか? あのラオシャンロンを転倒させるなんて…しかも離れたところから」

 

 

 ん? 不安か、コーヅィ。まぁ言いたい事も気持ちも分かるけどな。出来る出来る。アイツ見て確信に変わったわ。四足歩行のままだと厳しかったろうけど。

 

 

「確かに、四つん這い状態の方がバランスが安定しているって理屈は分かりますが…その理論が通用するようなサイズじゃないでしょう。そもそも、霊力ってそんな事まで出来るんですか」

 

 

 普通はできねーよ。ある意味、奥義の一種だからなぁ…。

 万能に見えても制約は多いし、使い方を間違えれば自爆するし、何より効率を考えたら物理的手段には遠く及ばない。使うタイミングと使い方、練度が揃わなきゃ何の意味もない。…ま、それは物理も同じだけどさ。

 

 

 しかし何だな…本当に狂走ラオシャンロン、気味が悪いな。何よりもまず表情がアカン。白目とか泡吹いているとか色々言ったが、初めて見た時に何を連想したのか言えば、何となくわかってくれると思う。

 

 

 

 

 あのラオシャンロンの表情、進撃の巨人に出てくる奇行種っぽい。

 特に、手を振り回してドシンドシン延々と走り続けるタイプ。表情から雰囲気からしてソックリだわ…。実際、人間くらいなら丸呑みできるサイズだし。ヌヌ剣3人組が居なくてよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて。

 その日の夕方になると、援軍が補給資材を持ってかけつけてきた。補給も何もまだ戦闘すら始まってない訳だが、相手が相手だ。実際に戦ったら、どんな被害が出るか分かったものではない。

 

 で、その援軍の中に、何人か見知った顔が居た。

 

 

 …ミーシャ?

 

 

「お久しぶり…と言う程でもないわね。約束したから、援軍に来たわよ」

 

 

 約束?

 

 

「何よ、言い出したのそっちじゃない。これからメゼポルタ広場には大きな騒動が沢山起こるだろうから、その対処を手伝ってくれって」

 

 

 あー…ああ、あれか。確かに言った。確かに言ったが……確かにデカい騒動ではある…けどなぁ。

 率直にゆーが、こんなモン序の口だぞ。

 

 

「不吉な事を…。真面目な話、ここは私達の活動拠点にも近いからね、どっちにしろ参加せざるを得ない訳よ。メンバーを募ってやってきたら、貴方を見つけてびっくりしたわ」

 

 

 そっか。…そういや、マオとベリヰヌはこっちに来てるのか?

 

 

「いえ、普通のラオシャンロンの方に行ってるわ。 あの二人はそっちの方が近かったからね。…そうね、この際だから、一緒に来ているメンバーだけでも紹介しておきましょう。ま、今回は猟団以外のメンバーも任されてるんだけど」

 

 

 猟団以外って……ああ、新人達や防衛戦初参加のハンター達の纏め役を押し付けられたって事か。舐めた態度する奴が居るなら、シメるのに手を貸すぞ? 正面からでも背後からでも社会的でも、手段は幾らでもあるから。

 

 

「止めなさい。気持ちはありがたいし、そういうのも居るには居たけど、私だって対処には慣れてるわ。余計なことを考えないよう、しっかり脅かしておいたから」

 

 

 …ミーシャの背後に、ノノ・オルガロンのスタンドが見える。この気迫なら大丈夫か。

 で、一緒に来たメンバーって? ……ついでに、例の能力まで聞いていい?

 

 

「小声…でも聞こえる時は聞こえるから、また今度。今は配給で、皆走り回ってるんだけど…ああ、あそこに一人居るわ。一番最後に入団した子なんだけど、名前はショーカ。よく動き回る明るい性格の子で、将来は医者志望」

 

 

 医者、ね。治癒を真っ先に会得させてやりたくなるな。後方援護と言う意味でも効果が見込める。

 他には?

 

 

「ショーカが近くに居るなら、ネリも一緒だと思うけど。三つ編みでちょっとドジな子…」

 

 

 流石にそれだけじゃ分からないなぁ…。

 ん? あっちででっかい荷物持ち上げてるのは?

 

 

「ああ、トゥルートね。彼女もストライカーの猟団員よ。よく分かったわね」

 

 

 いくらハンターボディが凄いって言っても、限度があるからな。あれだけの荷物を持てるとしたら、ハンターの中でも異常なくらいに鍛えこんでるか、さもなきゃ他の『何か』があるか………あん?

 …トゥルートさんと一緒に居るの、あれって…エシャロットじゃないか?

 

 

「…そのようね。知ってるの?」

 

 

 メゼポルタ広場で『歌姫』って呼ばれてる程度には…。

 正確に言うと、あいつの友人の方が知り合いだ。

 と言っても、訓練所を卒業したすぐ後、これからどうしようかって相談してた所にちょっと話した程度だけどな。名刺も渡したっけか。

 

 

「そう言えば、マオがそんな事を言ってたような…。でも、本当にそれだけ?」

 

 

 …鋭いなぁ。ちょっとした縁があったってだけだよ。あっちは知らないだろうけどね。

 しかし、結局あいつらまだフロンティアに居たのな。……まさかとは思うけど、あの子達も同類だったり? あいつの歌声は、能力云々じゃなくて真性だと思うんだが。

 

 

「それは違うみたいね。歌じゃなくて能力の方よ? 本人に自覚が無かったり、私達が気付いてないだけって可能性もあるけど…。ところで、自覚してる? 貴方、ここでもかなり注目されてるわ」

 

 

 …砦の天辺に上ったから…じゃないよな。影から注目されてるのは分かってるよ。慣れてるし…。

 前の防衛戦の時みたいに、何かやらかすんじゃないかって注目だろうな。よくも、悪くも。

 

 

「そういう事。あの時と同じような、治癒の力もそうだけど……何かもっと派手にやらかすつもりじゃない?」

 

 

 ハンターって好奇心強いからなぁ…。そう思ったらつい注目もしてしまうか。ま、実際やらかすつもりだけどな。

 しかも、自分で言うのも何だがかなり派手に。

 タカリ猟団とその頭って認識は、まだ消えた訳じゃない。派手な功績は、あればある程いい。

 

 

「もし、その『派手な功績』のやり方を教えろって言ってきたら?」

 

 

 対価も無し、こっちの都合もお構いなしで言ってくるなら、今度はそいつらがタカリハンターと呼んでやるだけさぁ。他人の手札切札を、当然のように晒させようってんだ。それくらいはいいだろう?

 ……まぁ、結局教えるんだけども。

 

 

「…結局教えるの?」

 

 

 まぁ、メゼポルタ広場全域にちょっとでも新しい力を広めて、ハンター全員の力の底上げをするのが俺の目的だからな。タカリ呼ばわりは気晴らしみたいなもんだ。

 …ま、それに加えて、スキルだけ広めても精神的な成長が無いと、結局無駄になってしまうってのもあるけどな。自分の行動がタカリと紙一重だって気付けば、多少は俺達への目線も変わるかもしれんし。

 

 

「成程ね。…まぁ、今回の『派手な実績』とやらを楽しみにしておくわ。終わったら、また一杯どう?」

 

 

 いいねぇ。二人で飲むか? それとも猟団の皆にも紹介してくれんの? ……あ、そういやサーシャに怯えられたままか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …で。いよいよ狂走ラオシャンロンが近づいてきた。ハンター達が迎撃の体制に入っている。

 俺もその一人だが……さて、何処でやらかすかな。下手なところでやると、それこそ狂走ラオシャンロンがどっちに走り出すか分からない。だからと言って、砦に近づけすぎるのも…とか言ってる間にキタ!

 

 

「放てぇーーー!!!」

 

 

 誰の号令か知らないが、とりあえず射程に入ったので一斉に集中砲火。並の古龍なら、これだけで沈むだろう。

 しかし、狂走ラオシャンロンは怯みもしない。相変わらずの白目を剥いたまま、首を左右に振り回しながら接近してくる。…こりゃ、攻撃を受けてる自覚があるのかさえ疑問だな。

 

 …いや、むしろ走るスピードがちょっと増したような…。

 ちっ、しゃーないなぁ。こりゃ使うタイミングとか考えてたら出遅れて大惨事になるのが目に見えてるわ。

 

 

 先行する! 総攻撃の準備を頼む!

 

 

「え? あ、おい!」

 

「ああもうあの人は! 本当にやってくださいよ、行くんだったら!」

 

 

 名前も知らないハンターが、慌てて俺を引き留めようとする声と、テンパりかけているコーヅィの声を後目に、鬼疾風と鬼の手で高速移動。狂走ラオシャンロンの進路上、正面に陣取った。もう、狂走ラオシャンロンはすぐそこだ。地響きだって現在進行形で響いている。後方のハンター達が騒いでいるようだが、無視。

 

 

 鬼の手発動! 鬼返ッ!

 

 

 

 モンスターが獲物に食らいつくような勢いで、ラオシャンロンの足に顕現した鬼の手が迫る。

 ガッシリと右後ろ脚を掴んで、このまま………!

 

 …! 流石に力が強い! が、ここでしくじったら色々な意味で末代まで(ループ解かないと次代も出来るか…いや孕ます事はできるか)の恥!

 何も考え無しに、一部の鬼の突進しか返せない鬼返しを仕掛けた訳ではない。

 モンスターの類とて、地に二本……いや四本とか8本とかそもそも足じゃない場合もあるけど、とにかく物理法則とアタリハンテイ力学に従って生きておるでな!

 

 富獄の兄貴に教わった武術には、鬼を転倒させる為の柔の技もある! …本人は専ら殴るばっかりだが。

 何も力技で押し返して転ばせる必要はない。必要なのはバランスを崩してやる事だけだッ!

 

 

 ここを…こう持ってきて……よし、反射で動いたな! こっちだ! あらヨットぉ!

 

 

 

 

 大成功!

 

 

 

 そして大地震。

 

 

 …そりゃそーだわな。走ってるだけでも地響き起きまくりなのに、宙に浮いて一回転して落下すりゃ、そりゃエラい事になるわ。

 あっちこっちで大騒ぎになっているようだが、幸い死人は出てないようだ。単に幸運と結果論以外の何物でもないが……俺ももーちょっと考えて行動せにゃならんなぁ…。

 

 

 さて、それはともかく攻撃攻撃! ひっくり返ってる間にガンガン撃てぃ!

 

 若干罵声が飛んできている気がしなくもないが、無視してライトボウガンと神機の2丁拳銃状態で撃ちまくる。程なくして、砦からはバリスタが、近寄って来たハンター達からは全力射撃が始まった。

 何も言わずとも、ほとんどの射撃が足を狙っている辺り、実によくわかっている。コイツの最大の脅威は機動力。それを削れば、単なるラオシャンロンとして危なげなく処理できる。

 

 しかし、流石と言うべきか何というか。ラオシャンロンの頑丈さは桁外れだ。砲撃をものともせずに立ち上がり、また走り出そうとする。

 

 

 もう一回いくぞー!!

 

 

 ほいさ! んぅう………ぬぅん!

 

 

 大地震。しかし、今回は先程よりも、被害は少なかったようだ。二度目だし、事前に声をかけたしな。実力のあるハンターなら、何も言わずとも対応できるだろう。

 …どっかで爆音が響いた気もするが。そういや、砦の中には大樽爆弾も対巨竜爆弾もあったなぁ……。

 あ、砦にちょっと穴が開いてる。

 

 

 ま、あのまま砦に突っ込まれる事を考えれば、まだマシか。

 

 

 そのまま、徐々に後退しつつ狂走ラオシャンロンをひっくり返すこと3度。様子が変わったのは、3転びして3度立ち上がった時だった。

 ……事が終わってから考えたのだが……多分、様子が変わった理由は、壊れた砦を目にしたからだと思う。うん、単なる砦じゃなくて、壊れた砦な。

 

 こう……なんだ、小さな爆発が何度かあって、縦に裂け目が出来たんだけどさ…。それを見た途端、狂走ラオシャンロンの目付きが変わった。どこを見てるのか分からなかった目が、相変わらず白目のままだが血走って、更に砦にがっちり視線が固定された。

 そしたら、いきなり馬力が上がってなぁ…。勢いと気迫だけじゃなく、手足の力も跳ね上がった。

 それこそ、鬼返でも受け流しきれないくらいに。もっと習熟すれば上手くやれるだろうけど、とりあえず今の俺じゃ無理だった。

 

 掴んだ足を振り払おうとするように、暴れに暴れた狂走ラオシャンロン。「抑えきれない、退避しろ」と叫んだが、間に合ったのかどうか…。

 正面に居た俺は、走る狂走ラオシャンロンの足の間を潜り抜けて無事。

 で、砦の方はと言うと…………。

 

 

 

 ルパンダイブした狂走ラオシャンロンによって、エラい事になっておりました。

 

 

 

 うん、これを見た時の衝撃を分かってもらえるだろうか。ルパンダイブだよルパンダイブ。最初から真っ裸だから、服こそ脱ぎ捨てなかったけども、両手を合わせていた所は見えた。ダイブする時にフゥジコちゃぁん!という咆哮さえ聞こえた気がする。

 俺が起こした地響き以上に盛大な轟音を立てて、砦にダイブしたが…その被害は驚くほど少なかった。

 

 後になって思えば、それもある意味納得だったかな。

 

 

 そもそも、何でラオシャンロンが狂走ラオシャンロンと化していたのか。仮説は色々考えた。狂竜ウィルスに犯されたというものから、クサレイヅチの影響まで。

 しかし、最も基本的な事を忘れていた。

 

 

 

 

 

 発情期だ。

 

 

 

 

 …何、納得がいかない? いやぁ、俺としてはこれ以上ない程納得したけどなぁ。

 だってアレだよ、ルパンダイブした後の狂走ラオシャンロンが何したと思う? ナニだよ。本人にとっては、だけども。

 人間の目から見るならば……『砦に組み付いて、爆発で開いた穴に向かって腰振っていた』かな。俺は目にする機会がなかったけども、穴に突き込まれていた狂走ラオシャンロンのアレは、そりゃー御立派なフルフル様だったそうだ。ちなみに亜種ではなかったらしい。

 

 

 考えてみりゃ、ラオシャンロンがどうやって増えるのかは、未だに分かってないんだよね。こうやって発情期らしきものが来るというのも、初めての事だったろう。それで二足歩行で走り始めるのも。

 多分、二本足で走るのは、犬で言えばフェロモンを出す、孔雀で言えば羽を広げてメスにアッピルする行為なんだろう。猛スピードで走り回る事で、他のラオシャンロンを探す事も兼ねているのかもしれない。

 ひょっとしたら、普通のラオシャンロンの匂いを嗅ぎつけて、交尾しようと追いかけてきていたのかもしれないね。

 飛びこまれたのにあまり被害が大きくなかったのは、ようやく見つけた雌を手荒に扱ってフラれたら溜まったもんじゃないからだろう。

 

 

 それが、どうして雌のラオシャンロンじゃなくて、砦相手に腰を振るかだって? その答えは一言で済む。

 

 

 

 

 ドラゴンカーセックスならぬ、ドラゴンキャッスルセックスだ。

 

 

 

 キャッスルじゃなくてフォートかな? 砦を横たわるラオシャンロンに、開いた穴を交尾用の穴と見間違えたんだろう。通常のラオシャンロンじゃなくて、発情期状態かつ、通常ラオシャンロン(多分メス)が通った後だから、こんなことになったんだと思う。

 その後は………まぁ、楽な作業ではあったな。心理的には、集まったハンター全員がスゲェ気まずい思いしただろうけど。交尾現場(多分DT)…と言うかオナホ使ってるよーなもんだから自慰現場? がいきなり展開された挙句、それをぶち壊さなきゃアカンのだからなぁ…。

 腰を振るのに夢中の狂走ラオシャンロンは、ちょっと離れれば全く被害を受けなかったが、これ程気まずい集団討伐もそうそう無かろう。

 

 結局、狂走ラオシャンロンは背後からの集中砲火(ケツを狙わなかったのは、せめてもの温情か)によって、そのまま討伐された。狂走ラオシャンロン改め、発情期ラオシャンロンが射精できたのかは疑問だが、確かめたいと思うモノズキも居らず、砦の穴付近はそのまま盛大に爆破されて終わった。ちなみに死骸からの剥ぎ取りはした。

 

 

 

 とりあえず、こっちでの戦いは終了。盛大な地響き(俺のせいか!?)によって、補給物資に大きな被害は出ていたものの、戦闘による被害は少なかった為、プラスマイナスゼロ。あの勢いのままで砦に突っ込んできた時の被害を考えると、収支黒字…かな。

 動ける者、まだ戦える気力がある者は、通常ラオシャンロンが迫っているメゼポルタ広場に引き返す事になった。当然、俺もそっち行き。「こいつ連れてって大丈夫かな」みたいな視線も向けられたけど…。

 

 

 

 …しかし何だな。もしも俺の推測が当たっていたのだとすると、あの狂走ラオシャンロン、DT喪失のつもりがオナホ…いや抱き枕とかダッチワイフに突っ込んで、それが本物だと思い込んだ挙句、射精できずにお陀仏した訳か。

 何と言う切なさと言うか悲しみと言うか…。

 

 




狂走ラオシャンロンが割とウケてた。
思いついた時は天啓を得た気分だったんで嬉しいです。
代わりに解決策が思いつかず、このような事になってしまいましたが…。

とりあずラオシャンロンに幸あれ。来世では存分に交尾できるよう祈っておこう…雄になるか雌になるかは分からんが。


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255話

本日で連続更新は終了となります。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
連続更新中にも誤字しましたが、お突き合いの文字が変換して即出てくる俺のPCって…。

次回の更新は、5/11の17時の予定です。


HR月

 

 

 俺達がメゼポルタ広場に戻って来た時、既に通常ラオシャンロンの撃退は完了していた。流石である。

 ま、数は揃ってたし、今回はG級とかレジェンドラスタも出張ったみたいだからね。こっちに参加していた猟団員の証言によると、「ラオシャンロンが可哀そうに思えてくるくらい」だったそうだ。数歩歩いてはダウンし、起き上がって歩いてはダウンし、ダウン、ダウン、ダウン…。砦前まで辿り着き、最期の力を振り絞って立ち上がれず、力なく一啼きして倒れ伏すラオシャンロンを見て、「もう、ゴールしてもいいよね…」との声が聞こえたとか。だが残念、実際には砦の手前で倒れたんで、ゴールは出来てないです。

 

 とりあえず、撃退成功って事で宴会の始まりである。既に出来上がっている方々が、広場中で騒いでいる。ウチの猟団員も騒いでるが………俺の報酬、また吹っ飛ぶなぁ…。まぁいいけども。

 あっちこっちで大酒かっくらい、武勇伝を語る者が多数。狂走ラオシャンロンなんてイミフな代物が来たんだからな。そりゃ話を聞きたくなるのも無理はない。

 

 ちなみに、そんな大騒ぎの中で俺はと言うと…名も知らない方々に、モミクチャにされております。別に意味深な訳じゃない。

 鬼返で多大な被害を被った方々に、「もうちょっと考えて行動しろ」と説教されております。

 まぁ、説教と言うか苦情は一言二言程度で、殆どの人が「あれはどうやったのか」「自分達にも出来るのか」「他のモンスターにも使えるのか」と、好奇心丸出しで質問に移る。身の安全とかよりも好奇心優先な辺り、実にハンターである。

 

 俺は俺で正直に答えてはいるが、霊力なんて言われて面喰ったり、馬鹿にされていると思うハンターも居る。ま、信じる信じないは君達次第。俺は聞かれた事に答えてるだけだ。

 

 

 

 ハンター達に酔いが回ってきて、俺は解放された。フラフラと飲み歩いていると、見知った顔を発見。

 エシャロットを始めとした、仲良しハンター4人組……と、ミーシャとマオか。

 

 おいーす、無事だったようで何より。

 

 

「あんまり無事とは言えない気もするけどね…。まさか本当にラオシャンロンをひっくり返すとは思わなかったわ」

 

「あ、いつだったかの人!」

 

 

 えらい抽象的な物言いだな。久しぶりだねぇ。覚えていてくれたよーで有難い。

 

 

「…あの、言っておきますけど、この子がこういう言い方する時って、忘れたのを誤魔化そうとしているんですよ。私は覚えてますけど。連絡先もまだ持ってますし」

 

 

 さいですか…まぁ、一人だけでも覚えててくれたのは本当に嬉しいね。

 ともあれ、改めて自己紹介。猟団の頭をやってます。タカリ集団一歩手前…いや、ようやく一歩脱却できた程度の猟団だけどね。

 

 

「噂は聞いています…。あの時、貴方についていくのも面白かったかもしれませんね」

 

 

 入団希望自体は、いつでも受け付けてるよ。…それとも、ストライカーに入るのか?

 

 

「それも考えはしたんですけど、残念ながら…」

 

 

 入団試験に落ちた…と言うよりは、資格無し、か。ミーシャ、要するにそういう事?

 

 

「そうね。彼女達の腕は、こっちから頼んで入ってもらいたいくらいなんだけど、猟団の理念がね…。その理念は明かせないんだけど、これから徐々に状況は変わっていくと思うわ。…変えようとしている人が、目の前に居るしね」

 

 

 結果的に変わるかもしれないってだけだがね。そうできるようにあれこれやってるのは否定しない。…効率は悪いけど…。

 

 

「よく分からないですけど…そう言えば、あのラオシャンロンをひっくり返したのって、何だったんですか?」

 

 

 さっきからその質問ばっかりされてるが…鬼返って技だよ。もうちょっと詳しく言うと、「鬼の手」を使った技で、鬼の手と言うのは霊力を操って使うもので…。

 …うん、怪しい事言ってる自覚はあるから、その目は止めてくれないかな。

 マオ、ミーシャ、何とか言ってやってくれ。

 

 

「実際怪しいからねぇ…。私だって、最初にあなたが怪我を治す所を見てなかったら眉唾って感じただろうし」

 

「百聞は一見に如かず、と言うだろう。実物を見せればいいんじゃないか? 実の所、私も気になって仕方なくてな! ミーシャやエシャロット達の話だと、あの巨体が宙を舞ってひっくり返ったそうじゃないか!」

 

 

 見せる…ああ、その手があったか。さっきの時もそうしとけば良かったんだな。まぁ、そうしていたら、今も捕まってアレコレ聞かれっぱなしだろうけど。

 そんなら…ほい、鬼の手発動。

 

 ミーシャ達が囲んでいるテーブルの上に、大きな半透明の手が現れる。

 おお、と驚く声。

 

 

「これが鬼の手…。触っても噛みつかない?」

 

 

 俺が噛もうと思わなければ大丈夫だよ。

 

 

「そこはかとない不安があるな…。ふむ……触れる事は出来るが、物を触っていると言うより、粘度の高い水をまさぐっているような感覚だ。これで、どうやってラオシャンロンを?」

 

 

 普段はこんな状態だけど、俺が意識したら…よっと。近くのテーブルから、鬼の手で皿を取って来た。

 

 

「おお、便利だな。何かに触れさせようとした時だけ、実体を持つと言う事か? しかも大きさや形も変えられる。これでラオシャンロンの足を掴んでコケさせたのか…」

 

 

 流石にコレだけでひっくり返すのは無理だからな? 重心を上手く崩してやって、自分の力を空回りさせたんだよ。ハンターの基本技術の一つにあるだろ、ガードとかの時にモンスターの力を受け流す奴が。アレをもっと攻撃的に使ったんだ。

 

 

「多少は人間相手の武術にも心得があるし、言っている事は分からないではないが…。そこまでやれるものか…いや、巨体だからこそやりやすかったのか? 傍目にもバランスが悪そうな走り方だったとは聞いているし」

 

「そう言えば、これを伸ばしてすごい速さで移動してましたね」

 

「走るだけでも、下手なモンスターより早かった気が…」

 

 

 ありゃ鬼疾風って言って、鬼の手とは関係ないぞ。鬼の手よりずっと難易度も低いし。マオも出来るんじゃないか?

 

 

「マオさん? え、マオさんこの胡散臭い力使えるんですか?」

 

「あー…まぁ、練習を始めたばかりだが、こういう力があるって事は自覚しているぞ。曰く、本来なら誰でも持っている力だが、必要が無いから使われないし自覚もしない。そうしてどんどん廃れていったとか」

 

「必要ないって、それフロンティアのモンスターを相手にして言えますか…? どんな力でも、あるなら使わないとやっていけないでしょ、ここ…」

 

「うーん…変な感触…」

 

「あ、次は俺が触るからな!」

 

「私も私も。うわ、本当に変なカンジ」

 

「あっ、抜け駆けするな! 団長、次は猟団員の俺らが触っていいっすよね!?」

 

 

 

 ……お前ら、いつの間に…。いやこんな人のド真ん中で鬼の手見せれば、そりゃ注目もされるか。もういいから。分かったわかった。

 全員一度に触れればいいんだろ? ほれ、伸び~る伸び~るストップ!

 

 鬼葬使用時の、槍形状になって動きを止めた。触るなら今のうちに触れよー。言っとくけどコレ、長時間保たせるようなもんじゃないんだからな。

 

 

「…いやあの団長、触るのはいいんですけど……なんすかこの形」

 

 

 何って………特に意味は無いぞ。ただ、出来る限り伸ばして行ったらこんなんなっただけで。…まぁ、確かにストレッチマンが限界に挑戦しちゃったような形になったけど。

 形を上手くイメージ出来てないんだな。俺もまだまだか…。

 

 

「いやもう触るのはこの際どうでもいいです!これ、俺にも出来るんですよね?」

 

 

 ヨシミ…前に同じ事聞いただろ。これをやろうと思ったら、長い事訓練しなけりゃいかんのよ。それも退屈だったり、ただ只管に辛かったりする奴を。

 お前嫌だって言ったじゃないか。

 

 

「そりゃそうですけど…ほら、何か新しい方法とかないですかね? デンナーさんとか、なんかいい感じだって聞きましたけど」

 

 

 あいつはハンター復帰の為の情熱が桁外れだったからなぁ…。稀に生まれつき下地を持ってるような奴ならもうちょっと早いかもしれんが、

 ちなみにその下地を持ってる奴でも、ここまで出来るようになるかは俺にも分からん。本来なら専用の道具が必要なんだ。俺は特異体質に加えて、みっちり使い方を練習したからできるけど。

 

 

「そうなんですか……や、やっぱりやめときます…」

 

 

 そうしとけ。普通に考えれば、狩りの腕を磨いた方が収入は上がるからな。希望者が居ればやり方だけは教えるよ、団員であろうとなかろうと。

 ま、聞いて試すだけ試して、すぐ止めるのがオチだと思うが…

 

 

 あん?

 

 

「やっほー!」

 

 

 おっとフラウ、酔っぱらってんなー。こっちで戦ってたんだって? お疲れ様。

 お、リアも居るのか。…随分呑んだな。

 

 

「戦うって言っても、いつものラオシャンロンだったから、つまんなかったなぁ。走るラオシャンロンって、どんなカンジだった?」

 

「どーも。ったく、アタシもそっちに行こうとしたってのに…。聞いたぜ、なんかやらかしたって?」

 

 

 …リアの口調が戦闘モードだ。どうやら、酔っぱらってバトルジャンキーモードに入り始めているらしい。

 鬼の手を囲っていたハンター達が、そそくさと離れ始める。どうやらリアに恐れをなしているらしい。…まぁ、タカリじゃなくてもあの変貌ぶりはショックだったろうな。

 フラウに抱き着かれている事で殺気立っていたハンター達が、そそくさと離れていく。ふむ、恐れをなして逃げるようではファンとしては二流だな。

 残ったのはストライカーの面々と、エシャロット達4人組のみ。

 

 

 やらかしたのは事実だなぁ。大地震が起きたし。

 

 

「…コーヅィさんが話してくれてはいましたが、まさか本当にラオシャンロンが宙を舞うとは…」

 

「はははっ、いいぞいいぞ! アタシはそういう無茶が大好きなんだよ! 戦場なんだから派手に行かないとなぁ!」

 

 

 実に嬉しそうに笑うリア。…こりゃ大分欲求不満が溜まってるみたいだなぁ。こっちのラオが期待外れだったからか?

 後で解消させてやらないとな(ゲス顔)

 

 

「それで、さっき出してたのがラオシャンロンをひっくり返したっていう手? ボクにも触らせて!」

 

 

 はいはい。ほれ。あんまり長く顕現は「チェストぉ!」おおおおおお!?!??

 

 

「ちょっ、いきなり何やってるんですかリアさん!」

 

「いやいきなりモンスターが出てきたからつい」

 

「モンスターじゃないです! それ、その人が出したよく分からない手っぽいナニカです!」

 

「でも鬼の手っていうくらいだし、モンスターなんじゃない? 確か、極東辺りにそんな名前のモンスターの話があったような」

 

 

 あ、おいそんな事言ったら「やっぱりモンスターでいいよな!?」よくねぇよ! 大剣握るなよ!

 

 

「リアちゃん」

 

「あ゛ぁ゛!?」

 

 

 

 

 

「ギルドナイトは居ないけど、酔っぱらって暴れたから一晩ブタ箱ね」

 

 

 

 

 ……ガチトーンのフラウが真顔で宣言した。その隣には、警察(っぽい役職)の人が立っている。

 それで頭が冷えたのか、リアは固まって青くなっていた。…『それで』がマジオコのフラウなのか、警察の事なのかはそっちで想像してくれ。

 例えレジェンドラスタでも、いや立場あるレジェンドラスタだからこそ、ルールは守らなきゃならんのだな…。

 

 

 

 メゼポルタ 入ればレスタも ただの人

 

 

 

 

 …結局、リアはそのまま大人しくブタ箱(他にもモス箱とかプーギー箱とかもあるらしい)に連れられて行った。フラウも「ごめんねー」と言いつつついて行ったが、付き添いであってトドメを刺す為ではない…と思う。

 酔ったうえでの行動だし、多少は酌量の余地が付くと思う…フロンティアのルールは、その辺割といい加減だしな。貴重なレジェンドラスタを、これで解任するとも思えんし…。

 最悪、フラウとリアで二股かけた俺への制裁だったと主張すれば、何とか通るんじゃないかな。割と事実だし。

 

 

 

 

 少々ドタバタあったものの、飲み直し。とは言え、いろんな意味で冷めちゃったし、集まってた人も居なくなっちゃったで、河岸を変えてって事になった。

 河岸を変えると言っても、今はメゼポルタ広場全体が宴会騒ぎだから、宅呑みになるが。

 宅と言っても、俺の拠点はこのメゼポルタ広場には無いんで、ストライカーの猟団部屋にお邪魔させてもらう事になった。女だらけの中で男一人になるのかな、と思ったが、猟団の皆は好き勝手に宴会で騒いでいるから、俺、マオ、ミーシャの3人だけだ。ま、外が宴会騒ぎなのにわざわざ宅呑みするのは、引き籠りか喧噪が苦手な人種かのどっちかだろうしな。ちょっと残念。

 

 適当に取ってきたツマミを抱えてお邪魔して、適当に駄弁りながら飲む事暫し。

 

 

「しかし…さっきのフラウ殿の様子は意外だったな。あんな顔をする人とは思ってなかった。随分と気に入られてるな?」

 

「そうね。嫌いという程ではないけど、愛嬌を振りまく言動が少々目につく人だと思っていたけど」

 

 

 あー、同性からしてみるとそう見えるのかね。ファンの人には女性も多いから、個人差の問題だとは思うが。

 気に入られてるのは嬉しい事だよ。なんつーか、アイドルに言い寄られてるみたいで優越感もあるしね。

 

 

「…ふん、そういう趣味か?」

 

 

 プレミアや付加価値に弱くない男なんて居ません。

 

 

「それで? 何処まで行ってるの?」

 

 

 なんか二人とも妙に絡むね…。

 

 

「色恋話が嫌いな女性なんて居ません。実際のところ、気になる噂も結構聞いているもの。フラウさんとリアさんで二股をかけているとか、三角関係が出来上がっているとか、はたまた本命はあっちの広場で何度も密会していた人達だとか……」

 

 

 それ、最後のってマオとミーシャだよな。まさかサーシャって事は。

 

 

「噂話なんて無責任なものだ、とだけ言っておこう。他には……そうだ、チルカ殿に餌付けされているという噂もあったが」

 

 

 それは普通にデマだな。全く無味無臭でやたら歯応えがいいスィーツ(笑)を一回食べただけだし。

 

 

「メシマズなのね…。で、それ『は』と言う事は、さっきの噂の中に事実もあると」

 

 

 誘導尋問イクナイ!

 

 

「いいから吐きなさい。ほら、もっと飲んで口を滑らせるのよ。あ、おつまみ追加で持ってくる?」

 

 

 あーんしてくれたら食べる。

 

 

「あ、あー……!? わ、わかったからちょっと待ってなさい。マオ、逃げないように見張っておいてね」

 

 

 チッ、徹底してやがる。…マオ。

 

 

「却下。逃がさん」

 

 

 さいですか…。にしてもちょっと意外だな。乗ってくるとは思わなかった。ミーシャの事だから、適当に流すと思ってたんだが。しかも満更じゃなかったように見えるんだが…俺の錯覚かね?

 

 

「いや、私にもそう見えた。…と言うか、そういう思わせぶりな態度をとるから、私達から尋問を受けているんだが、自覚しているか?」

 

 

 …割と。役得だと思ってます…。

 

 

「……ミーシャが戻ってこない内に話しておくか。身内の恥を曝け出すようでなんだが、我々ストライカーが女性のみの猟団だと認識されている事は知っているな? 何故そうなったかも」

 

 

 ああ、前にミーシャから聞いた。能力持ちが集まって、同類を助けようとして、そんで下心だらけの男ハンターを拒んでたらそう噂になったんだっけ。

 …更に、その認識がエスカレートして、女性同士の堅い結束(意味深)を持つ猟団だと思われるようになったとか…。

 

 

「当然、我々にそのような趣味は……弱冠数名怪しいのが居るが、他者に強制しない限り直ちに問題は無い。イイネ? …そういう趣味は無いが、世間のレッテルというのは厄介なもので、一度『そうだ』と認識されると、それを正す事は難しい。それがゴシップの類で、尚且つ未来永劫そのレッテルを消滅させようと思うと、猶更な。同性での性交渉は、フロンティアでは稀によくある事だしな」

 

 

 あるのか、稀によく。と言うか何故にブロント語。

 

 

「ブロント? どこの地方だ…ヒック」

 

 

 ああ、偶然ですか。と言うか、マオってば何気に酔いが回ってるな。言葉が怪しくなりつつある。

 で、同性が稀によくあるって?

 

 

「あるぞ。狩りの後、命の危機を感じた後に、ムラっと来て……周囲に異性が居ないから、ついつい…という話を時々聞く。男でも女でもだ。実際、私もそういった視線を向けられた事はある。さっさと逃げたがな」

 

 

 …俺、当分男とは行かない。

 

 

「そう深刻に考えなくてもいいぞ。ある時はあるが、基本的にはさっさと拠点に帰って、ちゃんと…その、処理するらしいから。話が逸れたが、とにかく我々はそういった集団だと見られている。アブノーマル、性癖異常者と言うかな。…そんな集団に、出会いがあると思うか?」

 

 

 あっ(察し)

 

 

「…そういう事だ。ミーシャは将来設計をしっかり立てる方だからな。ハンターもいつまで続けられるか分からん仕事だし、早いうちに伴侶が欲しい、と考えているようだ。かく言う私も、先日まではそう深刻に考えてなかったが、目の痛みと頭痛で、ハンターを引退した後の事は嫌でも考えざるを得なかった。家庭を持てば安心、なんて事は考えてないが………まぁ、何だ、我々も所謂『青春』とうい奴をやってみたいしな。とにかく、我々にとって異性との巡り合いと言うのは非常に貴重なものだと言う事は分かってくれ」

 

 

 お、おう。

 

 

「そういう意味で、ミーシャも私も、君を異性として意識せざるを得ない。ハンターとして将来有望な上、経済力という意味では現在は君の徒党に全投資している状態だからなんとも言えんが、少なくとも充分な稼ぎはある。異能に対して非常に深い理解を持ち、性格も悪くは無い…常識的ではないが」

 

 

 なんか微妙な言われ様だけど、好意的に見てくれているのは分かった。(甲斐性と言うか女癖に超が付く程問題があるがね!)で、俺がフラウさんにゲットされるんじゃないかとヤキモキしていると?

 

 

「…そうだな。特にミーシャは、ちょっとトラウマが…。ハンターとして故郷を出る前、友人以上恋人未満の幼馴染が居たらしいんだが、ある程度実績を作って里帰りしてみたら…………なんだ、ストライカーの評判を聞いていたらしく」

 

 

 うわぁ…。

 

 

「鼻血付のいい笑顔で激励されたそうだ」

 

 

 百合厨かよ。泥棒猫とくっついてた方がまだマシだわ。

 

「同性愛は非生産的にござるのは否定せんが、メラルーと結婚した方が上等かは賛同しかねるな」

 

 

 ケモナー的な意味でくっつけとは言うとらんわ。

 それなら百合の方が、まだ薄い本的に生産性がある。経済効果もあるしな…いやでもケモナーでも薄い本はあるよな。

 相手がケモナーだったら、ミーシャに犬耳でもつけさせれば一発じゃないかな。いや、そんだけ飢えてるなら狼かな?

 

 

 と言うかマオ、いいからお前ちょっと休め。内情を理解させる為とは言え、ミーシャのトラウマをホイホイ話すんじゃない。

 

 

「む…私は酔ってなどいない!」

 

 

 アカン、ミーシャのトラウマについてじゃなくて、そっちのコメントが出てくるか。…寝ろ!

 

 

「むぐぉ!?」

 

 

 やれやれ…。どうしたもんかな。マオって起きたら記憶が飛ぶタイプか? …明日、余計な事を話したとミーシャに土下座している姿が目に浮かぶ。俺に特に非は無いと思うが、色々な意味で気まずい。

 

 

「ただいまー。…あら、マオってば寝ちゃった?」

 

 

 ああ。チャンポンがアカンかったっぽい。

 

 

「珍しい…。まぁいいわ。ほら、おつまみ持ってきたから口開けて。フラウさんとの事、ちゃーんと話してもらうからね」

 

 

 

 

 

 …話すのはいいけど、ドン引きされるか軽蔑されるか…。

 フラウにゲットされるんじゃないかと心配しているらしいけど、実際は俺がフラウをゲットしたような状況だからなぁ…。

 

 

 

 

 とりあえず、ミーシャにもあーんを返して、酒飲ませまくろう。記憶が飛ぶ事を祈って。

 

 



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256話

GWが終わった翌日、二日酔いして15時くらいまで寝込んでました…。
むぅ、500mlを4本飲んだのは確かだが、普段はこうまで酷くならないのに…。
起きてからムカムカしながら飲んだ、冷たいお茶と午後の紅茶が悪かったか…?
症状を思い返す限り、胃液過多っぽかったから、ツマミが足らなかったか…。


HR月

 

 

 マオとミーシャは二日酔い。記憶が飛んでいるかは定かではないが、ミーシャは…いや、ミーシャも覚えてない方がいいんじゃないかと思う。

 あーんでオチなかったもんだから、どんどん行為がエスカレートしてなぁ…。最終的には何処のお触り喫茶かと…。アルコールと好意のフィルターによって、ミーシャは「いかがわしい事をしている」ではなく「イチャイチャしている」と考えていたようだが、冷静になったらどうなる事か…。

 

 本番? 無かったよ、自分でも信じられない事にね! ペッティングはした訳ですが。

 

 ちなみに、結局フラウを度々抱いている事は吐かされた。具体的にナニをしてるのかも。何時の間にやらマオも復活して聞き入ってたが、二人そろって途中でダウンしてしまった。どうやら頭に血が上り過ぎたらしい。

 

 宴会から帰って来た猟団員達にあらぬ疑い(いや無実とは言い切れんけど)をかけられたが、ベリヰヌが庇ってくれた。…うん、ベリヰヌほんと済まない…。

 疑いは晴れきらず、二人の看病をする事も許されなかったので、とりあえずストライカーの猟団部屋を後にした。タマフリで毒抜きはやっておいたんで、二日酔いもそこまで長続きはしないだろう。

 

 

 

 

 そうそう、話は全く変わるんだが、昨晩ミーシャとマオで飲んでる間に、タマフリに関する話題が出た。

 マオは霊力制御の訓練を、ある程度自力で進めているらしく、それが終わったら次はどうすればいいのか、と聞かれたんだが…デンナーでもそうであるように、タマフリに必要なミタマが無い。 そこをどう突破すればいいのか悩んでいる。

 そのミタマとは何か、と聞かれて、英霊…要するに先人の魂と答えたんだが、二人にしてみれば、「魂」なんて曖昧な言葉で言われるより、単に「力」と称した方が分かりやすいと思って言い換えた。二人はちょっと顔を見合わせて、「そんな事か」と言わんばかりの口調で聞き返してきた。

 

 

「武器防具に宿っている、モンスターの力ではいけないのか」

 

 

 と。…その手があったよ!

 

 

 確かに、モンスターの素材から作った武器防具には、奴らの『何か』が宿っている。身に着けただけで、ちょっと説明できないような力がハンターに宿る。

 それが英霊のミタマと同じものとは限らないが、イメージ的にピンと来るものがあった。

 基本的に俺は使ってないが、アレと同じだ。マホロバの里で博士が考案した、アラタマフリとニギタマフリ。あれは身に付け入る装備にミタマを宿らせ、普段とは違う形だがタマフリを発動させる事ができる、というものだ。

 このやり方でいけば、装備によって使える術が違ったり、自分の意思で完全に制御できなかったりするかもしれないが…タマフリを使う事が可能になるかもしれない。

 

 しかし、これでデンナーの足回復の役に立てようと思うと、まず第一候補が回復、第二候補が足の強化か…。第二候補は走るのが得意なモンスターがゾロゾロいるからいいとして…回復なぁ。……クルペッコの演奏とか、優しさ振りまくタマちゃんとか?

 いや、スキルを元にアラタマフリ・ニギタマフリが発動すると考えると、もう少し幅はあるか。

 

 一考以上の価値はあるが、まずは自分で可能かどうか試してみないと。

 …ああ、そうか。もしこれでアラタマフリ・ニギタマフリを発動できれば、俺の戦術にも組み込めるかもしれないのか。のっぺら共の気紛れで、いつ何が発動するか分からなかったから、封印してたんだよなぁ。

 

 

 

 

 さて、二人にはそのうちもう一回会いに行く(どんな対面になるかは分からんが)として、とりあえずやるべき事は…リアとフラウの様子見だな。

 無いとは思うが、あれでレジェンドラスタ解任とか、そうでなくても二人の仲が険悪になってたらと思うと…。

 ブタ箱はどっちかな?

 …道案内で場所を聞いて向かっているんだが、やっぱ好奇心の視線が多くなってるな。鬼の手を晒したのは失策だったか? …ま、いいけどね。

 

 

 

 とりあえずブタ箱までやってきた(思いっきりアナグラだ。GEのじゃなくて、横穴式住居)んだが、既にリアさんは出所した後だった。ストライカーの所に、俺に謝りに行く…と言っていたらしいから、入れ違いか。

 フラウに止めを刺されてなくてよかったと思うべきか…。それとも、昨日のナニな会話を覚えている二人と対面して、修羅場チックなフラグを心配するべきか。

 

 

 …うん、後回しだな! ストライカーからは、マオとミーシャが誤解を解いてくれるまで侵入禁止されてそうだし!

 

 

 

 

 あ、しまった。マオとミーシャに、バッシが言ってた昔話の事を聞くのを忘れていた。別にあの二人に限定しなくてもいいんだが…ま、いいか。

 とにもかくにも、龍薬石はバッシの手に渡っている筈。情報を集めるのは、その結果を見てからでも遅くは無い。

 猟団に物資補給の指示だけ出して、様子を見に行くとしますかね。

 

 

 とりあえず、今日はバッシが言っていた薬の材料を乱獲していくか。

 

 

 

 

HR月

 

 

 猟団に指示を出すついでに、周囲からの評判を調べてみた。…うん、やっぱり中々レッテルは消えない。しかし、徐々に評価が上がっているのも確かだ。

 元タカリハンターも、自分達が評価されるのは嬉しいのか、自分からそこそこ動くようになっている。

 

 また、先日の鬼の手を見た結果か、猟団の内外問わず、一度習ってみようか? という動きが出てきているらしい。うむ、派手な実績を作った甲斐があったな。

 

 

 また今度、機を見て講習会でも開いてみるとして、トッツィ達に元へやってきた。

 …んだが、バッシが居ないな?

 

 

「おお! お待ちしておりましたニャ! お見事ですニャ!」

 

 

 トッツィか。思ったより早くラオシャンロンが来てくれて助かったわ。…と言うか、一体は直立して走る、発情期っぽいラオシャンロンだったけど、大丈夫なのか?

 

 

「心配ありませんニャ。ギルドは普通のラオシャンロンから採れた龍薬石を融通してくれましたニャ。バッシも龍薬石を調べて、太鼓判を押してたニャ」

 

 

 で、そのバッシはどうした?

 

 

「奥の方で、龍薬石を調合に使う下準備をしてるニャ。他の材料は…」

 

 

 採って来た。ほれ、ジェットストリーム・ドスガレオスから採れた魚竜のキモと、龍殺しの実。

 ったく、まさかドスガレオスが3頭同時に襲ってくるとは思わなかったぞ。まぁ、向こうから重要素材が来てくれたと思えば好都合だが。

 

 

「じぇ、じぇっとすとりーむ?」

 

 

 それぞれが連続で攻撃してくるんだが、一体目が正面からの飛び掛かりで、二体目が回避した隙をついたブレス。ここまではまだ良かったんだが、三体目がアホみたいに強いのなんのって。ドスガレオスとは思えなかったぞ、ありゃ。

 体中のヒレが刃物みたいに鋭く固くなってて、体当たりとかされると鎧をブッタ斬られて出血がなぁ…。あのまま連続で攻撃を受けてたら、鎧が完全に切り裂かれたかもしれん。自分で自分の尾を噛んでタメを作るなんて、ディノバルドみたいな真似までしやがるし…流石に炎は無かったけど。黒い三連星かと思ったら、一人だけキレたメタルギアが入り込んでてマジでビビった。同じジェットストリームでもサムの方かよ。

 しかも、斬られて動きが止まった瞬間、背後からまた一体目二体目の攻撃が飛んでくるし。

 

 

「…フロンティアには、意味不明に強い個体が湧くと聞いてますニャ…よく勝てたニャ」

 

 

 一体目二体目が来るタイミングさえ分かればな。エリアルスタイルのジャンプ直下発射とか、ブシドースタイルで擦り抜けて反撃とか、色々手はあるぞ。まぁ、苦労した事は否定できんが。

 と言うか、今冷静になって考えると、そいつに拘る必要は無かったから、とっとと逃げて別のドスガレオスを狩ればいいだけだった。

 

 

「それを言っちゃオシマイニャ…。とにかく、調合に必要な材料は全て集まったニャ! 大恩人には、是非とも歌姫様の呪いが解けて立ち直る所を見届けてほしいニャ!」

 

 

 分かった分かった。ま、ここまで来たんだし…(多分、トッツイとバッシのフォローも必要だよな)。

 トッツイは材料を受け取ると、大急ぎで泉の奥の方に駆けていく。コケるなよ~。

 

 …さて、どうなる事か。これで本当に呪いとやらが解けるなら、それで良し。

 しかし、俺の予想通りにバッシが言う解呪の方法が検討違いだった場合、これ以上の事をするとなると……そうだな、歌姫に直接話を聞かなきゃならんか。恐らく、一番深い心の傷を思いっきり抉る事になるが、そうでもしないと話が進まん。

 

 

 

 暫くすると、奥の方から『ニャーー!』と叫び声が聞こえてきた。ありゃバッシの声だな。間をおかず、今度はトッツイの声で『ニャーーーー!?』。…何事? 殺気の類は感じない。

 奥からトッツイとバッシがノテノテと歩いて来る。

 

 

「…今更でニャんですが、非常に重要な事を忘れていましたニャ」

 

「バッシ…あれだけオイラをマヌケマヌケと言ってたのに、自分はどうなんニャ」

 

「うぐ…まさかトッツイに言われる日が来るとは…。と、とにかく、呪いの特効薬は、このバッシが天地神明に誓って完璧にこなして見せますニャ。ですが、この薬が効果を発揮するには、もう一つ必要な物があるのですニャ」

 

 

 またそのパターンか…。さっきの悲鳴は、それを思い出した声って事ね。

 物忘れがあるのは仕方ないにしても、頼むから条件は一度に提示してくれ…。後出して条件を出す奴はクズだから、泣くまで殴ってもいいってジョナサンが言ってた。

 

 

「どちら様ですニャ、ジョナさんとは…。とにかく呪いを解くには、歌姫様に呪いをかけたのと同じ装飾品が必要なのですニャ。あの大悪党トキシが、歌姫様の力を奪う為に送った装飾品…。ところが、歌姫様の話によると、その装飾品は既に失われてしまったようニャのですニャ。かといって、張本人のトキシは今となっては行方不明…。せめて装飾品に使われていた素材があれば、呪いを解く触媒にできるそうニャんですが…」

 

 

 ふむ…ちょいと聞くが、その話は例の民間伝承から見出したものなんだな? その話の中では、装飾品は呪いが宿った物をそのまま使ってたのか? それとも、同じ種類のものを作ってそれを使っていたのか?

 

 

「同じ種類のものですニャ。それがニャにか?」

 

 

 いや、ちょっと気になる事があっただけだ。話の腰を折ってスマン、続けてくれ。

 

 

「その装飾品は、『バルラガル』というモンスターから獲れる喰血竜のトサカで作られておりましたニャ。しかし残念ながら、バルラガルはこの地方には生息しニャいモンスター…。流石のワタシも、行き詰ってしまいましたニャぁ…

 

 

 うーむ、考えてみりゃフロンティアにも生息しないモンスターは居るんだよなぁ。

 とは言え、そんなら出来るのは待つ事だろ。

 具体的には、ギルドを通じてバルラガルが居る地方へ依頼を出せばいい。村クエじゃなくて集会所扱いになるだろうけど。

 

 

 そう言うと、バッシとトッツイは非常に渋い顔をした。

 

 

「「……金が…」」

 

 

 …全てを無にする真理が出た。

 考えてみりゃ当然か。アイルーだって、人の群れの中で暮らしていくには金が要る。で、こいつらは歌姫サンをどうにかしようとしてはいるが、生活費を稼いではいないんだろう。

 むしろ、今までギルドに依頼を出せていた事の方が驚きだ。

 …とは言え、他所の地方に依頼を出すとなると、かなり金がかかる。正直言って俺も厳しい。

 

 

「クッ…みんなビンボーが悪いんニャ…」

 

 

 貧困はバカと同じで治らない病気って言うからな。ま、稼ぐにおいつく貧乏無しとも言うし、また防衛戦でガッポリ儲けられるのを期待しよう。…俺の取り分は、団員への宴会費用でほぼ消えるけど。

 とりあえず、そのバルガラルの情報を集めてみるわ。

 

 

 ……ああ、そうそう。その装飾品な、本当に失われたのか、一度調べてみてくれ。

 

 

「ニャ? どういう事ニャ?」

 

 

 なに、呪いの源が無くなったのに…壊れるなり、遠方に行ったなりしても、それで歌姫サンの呪いが続いているっていうのが妙に思えてな。

 呪いの品は、捨てても持ち主の所にしつこく戻ってくるなんて話もあるし、案外身近な所…箪笥の奥とかに、歌姫サンも知らない内に転がってるかもしれねーぞ。ああ、勿論当人には内緒でな。部屋の中に呪いの装飾品があるかもしれないとか、Gを発見した時並に嫌だろ。

 

 

「うぅむ…一理ありますニャ。もしもその装飾品が見つかったら、バルラガルを狩る必要もニャくニャる…」

 

「でも、歌姫様のお部屋を勝手に漁るニャんて…」

 

「許可を…でも、もし見つかったら歌姫様のショックは…」

 

 

 んじゃ、悪いけど今日はこれで帰るな。そっちの家探しは任せたぞ~。

 

 

 

 …さて、どうなるかねぇ。バルラガルとやらはまだ見た事もないから、機会があれば狩るのは確定として。

 もし歌姫サンが、推測通りにトキシと恋仲であったなら、多分呪いの装飾品とやらは捨てられてはいないだろう。人目につかない場所に、こっそり保管していると思う。…思い出を吹っ切る為に捨てる、なんて事も考えられるが、全く吹っ切られてないし。

 

 バッシが言っていた民間伝承とやらは大方、未亡人を元気づけるとかそういう話だろう。連れ合いだったハンターが死に、残された形見…かつて貰ったプレゼントを眺めて悲嘆に暮れていた未亡人を、若い駆け出しハンターが見かねて、夫の死因となったモンスターを討伐、その証拠品を持ってくる、同じ装飾品をプレゼントして気を引く…とかな。その後、未亡人とくっついたかは知らないが。

 …問題は、もしもこれらの推測が当たっていた場合、トッツイとバッシと、ついでに俺の尽力が無駄になるって事だ。俺の尽力は、単なる狩りのついでだったからいいとして、あいつらが落ち込む事になりそうだ…。

 どうしたものか。

 

 

 

HR月

 

 

 デンナーにバルラガルについて聞いてみた。何度か狩った事があるそうな。少々面倒な相手ではあるが、お前なら問題ないだろう…との事。

 やっぱりこの辺に生息しているという情報は無い。

 

 

 それはそれとして、デンナーにアラタマフリ・ニギタマフリのやり方を伝えた。勿論、伝える前に俺が実践して試している。

 結論から言えば、タマフリは可能。効果は単純ながらも非常に強力で、予想通りに装備によって発動する効果が変わるようだ。のっぺら共が好き勝手にアラ・ニギタマフリする俺の基準がおかしいのかもしれないが、元祖よりもむしろ使いやすいくらいだった。

 ただ、当然ながら問題もある。アラ・ニギタマフリの力の源は、装備に宿っているモンスター達の力。英霊のミタマと違って、言わば荒魂とも呼べる代物だ。当然と言えば当然だな。野生の掟、弱肉強食の理の元に討伐されたとは言え、それだけで怨みが、生への渇望が消える筈がない。

 要するに、アラ・ニギタマフリを発動させようとすると、「誰がお前なんかに力を貸すか」とでも言うようにで抵抗するのだ。

 

 最初に試した時は、流石に驚いた。目の前にいきなりモンスターが出てきて、ギロッと睨みつけてくる。…まぁ、白昼夢だったみたいだけどね。どっちかと言うと霊視とか、枕元に立たれた感じ?

 まぁ、ドスファンゴ装備だったから、ついつい狩って鍋にしようとしてしまったが。何だかんだで、MH世界最初のドスマラソンゴの後に喰ってやろうと思いつつ、結局手ぇ出さなかったもんな。

 

 

 

 …ふと気が付いたら、猟団員をとっ捕まえて逆さにして血抜きする寸前だった。危うくスパッと斬りかけてたぜ…。

 幸い誰にも見られてなかったし、証拠隠滅した後に当人を起こしてみたら、道を歩いてたら突然気を失った事しか分からない、との事。どうやら俺の事を認識される前に暗殺…じゃなかった気絶させて捕縛していたらしい。ふぅ、ギリギリセーフ。

 

 次は誰も居ない自室(お付アイルーのサムネ夫妻も、一時的に外に出てもらった)で試した所、こんどはすんなりアラニギタマフリが起動できた。ちょっと意識を傾けてみると、腹を晒す犬猫みたいなポーズのドスファンゴが見えた。

 …どうやら、食われかけて完全に屈服したらしい。

 成程ね。形はどうあれ、宿ったモンスターの力と言うか残滓に主として認められないと、アラニギタマフリを制御するのは不可能らしい。

 霊力で圧倒するなり、意思(今回は食欲)の力で捻じ伏せるなり、霊力を譲渡して餌付けしたりと、手段は色々ありそうだ。

 

 

 今回は突然すぎて、現実との区別を付けられなかったから通りかかった団員を逆さ釣りにしてしまったが、予め霊力勝負・睨み合いの勝負だと分かっていれば、体を動かさずに凌ぎ合う事もできる。

 ……逆に、本物のモンスターとの模擬戦にも使えるか? …やめといた方がいいな。一種の修行にはなりそうだが、この勝負での傷は命に直結しそうだ。

 モンスターの残滓に負けたら、最悪廃人に……。…そういや、ミラボレアス装備を付けてると、だんだん自分がミラボレアスみたいになっていく幻影を見るって話があったな。これと似たようなものかもしれない。

 

 それとも逆か? ミラボレアスは、仕留めた人間やらモンスターやらを喰い、その残骸を自分の体に溶け込ませていると聞く。つまり、ハンターが使う鎧と同じ。そこに残ったモンスターやハンターの力の残滓を使い、霊力を扱っていると思えば、あの異常な強さにも納得がいく。

 …実際戦った事はないんだけどね、まだ。なんだよ這いずりやら尻尾やらで即死レベルの攻撃力って。ミラバルカンの隕石とかより、そっちの方が分からんわ。と言うか、考えてみりゃルーツの雷より、バルカンの隕石の方が、ずっと攻撃力高い筈なんだけどなぁ…。あ、隕石じゃなくて火山弾だっけか。

 

 

 

 ま、それは置いといて。これどーすっかなぁ。

 デンナーがタマフリを使う目途が立ったのはいい。やり方もそんなに難しくは無い。霊力操作がある程度できれば、充分だ。操作した霊力を、装備に流し込むようにしてやれば、それだけでアラタマフリ・ニギタマフリは発動する。

 問題はただ一点、装備に宿るモンスターの残滓を屈服させる事が出来るかだ。 

 

 俺一人で考え込んでても仕方ないし、一番の当事者と言えるデンナーに直接話をしてみた。

 

 

「成程…よし、やろう」

 

 

 即決ですかい。もうちょっとこう…怪しむとか考え込むとか無いの?

 

 

「胡散臭い話なのは今更だ。そもそも、お前が問題にしているのは、俺の技量的に難しいとかではなく、モンスターの力の残滓との気迫比べをしなければならない、と言う所だろう? 霊力勝負という慣れない領分であれ、ハンターがモンスターに遅れを取る訳にはいかん」

 

 

 …確かにそりゃそうだ。精神性の話ではあるが、霊力はその精神が多大に影響される力だしな。

 まぁ、一度認めさせたら大人しく従うようになったし、狩場で霊力勝負をする必要もないか。…隙を伺っての逆襲とか、放置した結果また勝負しないといけないとかが怖いけども。

 いやでも魂みたいなものとはいえ、残滓なんだよなぁ…。そこまで自意識が残ってるかどうか…。

 

 

「その辺の理屈はよく分からんが、お前にとっても初めて扱う技術なんだろう。実践して調べていくしかないんじゃないか?」

 

 

 そうなるな。ま、何はともあれ良かったよ。これを思いつかなかったら、デンナーにエラい事をせにゃならんところだった。相手が可愛い女の子ならエロい事でもどうにか出来ると思うけど。

 

 

「何を言っているのか今一分からんが、物凄い寒気を感じたぞ。なんかロクでもない目にあいそうだった気が…まぁいいか。それで、どうすればいい? 最初の相手はモス辺りか?」

 

 

 それがいいだろうな。いきなりレウスとかやっても勝てる気がせん。俺も順々に装備を変えていくから、何か気が付く事があったら共有しようか。どの装備でどんな効果が出るのかも検証しなきゃいかんしな。

 

 

 

 

 結果、デンナーは5分ほどかけてモスに主と認められたようだった。…タマフリの結果は、なんかキノコが見つかりやすくなるというもの。ま、最初はそんなもんだよな。ニッチな使い方も出来なくは無いが。

 

 

 

 



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257話

うむ…G級ギザミ装備で、村上位クエストこなすのが楽しい。
やはり俺は無双が好きなんだな…結局のところ、このSSも基本は無双だし…。

ただいま、帰省&家族旅行中なので、暫くレス返しできないかもしれません。
29日まで、4日間隔で投稿予約はしています。
うーむ、書き溜めが尽きてしまった…。超重要シーンに手をかけすぎたか…。


HR月

 

 

 デンナー、タマフリを習得。アラタマフリだけだけどね。ニギタマフリも出来なくはないんだが、特定のタイミングで勝手に術が発動するのは、まだタマフリの扱いに慣れないデンナーとしてはいただけない。暫く封印するつもりのようだ。

 割と地味な効果だと思ったが、これが意外とバカにできない。アオキノコやドスマツタケはもちろんの事、深層ジメジやら厳選キノコ、果てはちょいと世界が違うんじゃないですかねぇと言いたくなるババコンガ所有のスーパーなキノコまで、あっという間に集めてしまった。

 バッシの試験に必要だった混沌茸まである。…これ、売っぱらえば結構な額になるぞ。

 

 更にデンナーの言によると、どうにもこのアラタマフリには先があると考えられる。ニギタマフリと合わせて発動すれば…スキル「茸食」が発動する…ような気がする、だそうだ。

 それ、割と便利なスキルだけど、MHFにあったか? 俺も初めて知ったのは、ベルナ村に行ってからだったような。

 分からなくはないが…モスの主食だし。装備のスキルになくても、モンスターに秘められた力を引っ張り出していると考えれば…いやでも確かモスフェイクに…?

 

 まぁいいや。とにかく、最大の難関だった(と言うか対策を考えてなかった)タマフリ発動は成功したんだ。後は回復系のタマフリが発動する装備を見つければいい。

 タマフリの事を抜きにしても、デンナーもそろそろ本格的にリハビリを始められるくらいには回復した。万全ではないが、後顧の憂いと言うか、果たさなければならない義理は果たしたと言えるだろう。

 デンナーの現役時代の装備も残ってるから、霊力を鍛えつつ、それらを試していけばいい。

 

 

 つまりは……俺がG級に挑むのに、何の問題も無くなったと言う事だ。

 

 

 

 あとコーヅィの上級昇格にも。

 

 

 

 

 順番としては俺が先になるんだが…どうにも、どんな試験を課すかで、ギルドで何やら揉めているらしい。

 都合よく超大型のモンスターが襲ってくれば、それを試験にすると言う事も多かったようなのだが、既に2回…都合3匹も来てるんだよな。これ以上は流石に無いんじゃないか…と思うが、有り得るのがフロンティア。

 真面目な話、防衛戦が月2回あるのはそれ程珍しくないらしいが、同時に2匹とかは初めての事だとか。これ以上防衛戦が続くようなら、やはり異変か、歌姫周辺の『何か』が影響しているんじゃないだろうか…。

 

 

 いや、一番ありそうなのは俺が揉め事を呼び込んでるって可能性なんだけど。

 

 

 で、ギルドの思惑としては、試験なんぞどうでもいいからさっさと昇格してほしい勢力と、内容はともかく試験は受けさせなければならない勢力、そして霊力なんていう胡散臭い力を奮うハンターをG級にはしたくない勢力がなんやかんややっているらしい。

 最初の勢力はともかく、2番目と3番目の競り合いが激化しているとか。「だったら、とんでもなく難しい試験にすればいいじゃないか。それをクリアできれば、胡散臭くても許容すると言う事で」と言う結論に落ち着き始めているが、そのとんでもなく難しい試験をどうするか。

 とんでもなく難しいと言っても、いきなりG級の中盤クラスみたいなのは却下。それは試験にかこつけて、殺しに行っているだけだ。最後の勢力も、胡散臭いと思うだけで俺を殺したいわけじゃないのね。…アラガミ化したら、どうにかなるか…ってところかな。

 かと言って、上級のモンスターなら複数同時でも大体は何とかできるくらいの実力はついた。種類にもよるが、古龍複数が相手でもどうにかできると思う。

 

 もう普通に、G級序盤の試験で妥協しろよ…。俺だってさっさと昇格したいんだよ…。ギルド長に「すまんのぉ…」とか頭下げられても、それこそ頭痛くなるだけだって…。

 

 

 ま、愚痴ってても仕方ないんで、暇潰し…じゃなかった、真面目に狩りに精を出すとしますか。

 嬉しい変化もあったしね。古参のタカリハンターに限らず、最近じゃ狩りに『付き合ってくれ』ではなく『指導してくれ』と言われる事も多くなってきた。ちゃんとした実績を出す事で人から評価され、タカリからマトモなハンターに復帰し始める団員が増えたのだ。

 

 更に、霊力の扱いをちょっとずつでいいから教えてほしい…という者も。

 どうやら、デンナーが地味ながらも稼ぎに影響のある能力を発揮した事で、自分も…と思い始めたらしい。主体性が無いと思うべきか、目先の利益に釣られていると言うべきか、それとも有効そうな物を見つけたらすぐに取り込もうとする動きを褒めるべきか。

 付きっ切りで監督する訳にもいかんから、その中のどれだけが習得できるか疑問だけどね。

 

 …リンクバーストで霊力をブーストさせるの、やるべきかな…。でもあれ、ゴッドイーターでもない人体に使って影響がないのか、まだテストが不十分なんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なので、モンスターで試してみました。

 

 

 

 正直に言おう。滅茶苦茶ビビった。リアルに最高に貧弱なモスが降臨するとは…。モンスターに秘められた可能性を垣間見た。

 まぁ、試したモス全員じゃなく、最高に貧弱になったのは一匹だけだったが。

 

 尤も、こっちが手を出すまでもなく、リンクバーストが切れる頃にはあっという間に死に体になっていたが。まぁ無理もないよなぁ。どう考えても、引っ張り出されたスペックに体がついていけない。それだけでなく、恐らくは霊力の使い過ぎによる枯渇…分かりやすく言えば栄養失調にさえなっていただろう。

 短時間のパワーアップと引き換えに、急激に命を縮める…。ほぼ毒薬か麻薬だろコレ。相手がモンスターであっても使っていい物じゃないって。

 

 そもそも、モスでさえこの結果である。下手なモンスターに撃ったら、それこそ何が起こるやら。クック先生の『本気』を垣間見れたりするのかもしれない。上位のモンスターがG級クラスになったりな。

 …G級前のトレーニングとしては最適…か?

 

 まぁ何にせよ、こりゃ人間相手にはホイホイ使えんわ。あの時のベリヰヌ、危なかったんだな…。

 

 

 

HR月

 

 

 G級試験の話も来ないし、バルラガルの情報も無し。狩りは真剣にやってるが、やっぱり上位の依頼じゃ余裕をもってこなせるようになった為か、今一つ緊張感が足りない。そういう慢心こそが一番危険なのは身に染みているが。

 

 ともあれ、なんかヒマなんで、ストライカーを訪ねてみた。

 門前払い…はされなかった。むしろ、先日は申し訳ありませんと頭を下げられた。どうやら誤解は解けているらしい。

 

 それはいいんだが、なんか随分と人数多くね? ストライカーってこんなに大きな集団だったの?

 ミーシャ、そこんとこどうよ。

 

 

「それがここ最近で急激に団員が膨れ上がってね…。勿論、入団条件は以前と変わってないわ」

 

 

 と言う事は、能力持ちが突然増えた? 或いは、隠すのを辞めた?

 

 

「どちらかと言うと後者。貴方、狂走ラオシャンロン戦でまたやらかしたじゃない。しかも、大勢に見える形で。…いろんな意味で、隠す気が無くなったらしくてね。どこから漏れたのか、私達が『同類』の集まりだってわかって寄って来たのよ」

 

 

 そんな犬猫どころかタカリ連中みたいな言い方せんでも。そもそも、俺の能力見て同類だと思ったなら、こっちの方に来そうなもんだけどなー。

 

 

「元がタカリ集団って汚名がね…。大体、あんな大事引き起こすような人の傍に居て、無事にハンター出来ると思わないわよ普通」

 

 

 …ぐぅの音も出ませんな。それで、俺と仲が良さそうなこっちの猟団に来たと?

 

 

「そこまであからさまに言うのは少数だけどね。酷評したくもなるじゃない? 貴方の猟団に行きたいけど、ちょっと怖いからこっちにします、なんて」

 

 

 まぁ、ね…。でも、見たところ結構な戦力が揃っているようだが? 能力持ちばかりみたいだし、そうでなくてもかなりの強者の雰囲気を持ってるのが…今この瞬間にも結構いるぞ。

 こっちを見てるな。…上か。

 

 

「上…と言う事は、アンナとルーディね。駆け出しとは思えないくらいに腕のいいハンターなんだけど、問題児なのよこれが…」

 

 

 ああ、ミーシャが影を背負ってしまった。問題児とか胃痛と縁が深そうだもんなミーシャって。

 …悪かったって、そんなに落ち込むな。

 

 

 

 …話は変わるが、この前の宴会の時の事、覚えてるか?

 

 

「あー…途中までしか覚えてないわ。私もマオも、記憶が飛ぶような事はそうそう無いんだけど…。何かあった?」

 

 

 お互い悪乗りして、あーんとかしたくらいだな。…あと、少々猥談を…。

 

 

「…………」

 

 

 そんな顔するなよ。お互い酔っぱらってたし、結果的に一線を越えるどころかキスもオパーイも無かったわい。

 

 

「じゃあ逆に何があったと?」

 

 

 …一番ハイレベルな奴で、膝の上に横抱きにして食べさせっこかな…。マオの場合は後ろから抱き着かれて、耳元で囁かれたりしたが。

 宣言させてもらうが、役得でした!

 

 …おお、ミーシャの頭から湯気が。…ボソッと『勿体ない』って聞こえたぞ。

 

 ふむ、しかしこの分だと本当にあの時の記憶は吹っ飛んでいるようだな。猥談の刺激が強すぎたか? かなーり過激に語ったからな。何せフラウはレジェンドラスタだけあって、体の頑丈さ・タフさで言えば今まで関係を持った相手の中でもトップクラス。張り合えるのはナターシャさんやフローラさんくらい。

 …まぁ、何だ、この際だから飲み直しに行かないか? 折角一緒に飲んだのに、全然記憶に残ってないのは少々寂しいものがあるし。

 

 下心? 無いとは言わんが……それ以前にヒマなんだよ…。気合入れて行くくらい強い相手は居ないし、G級の為の準備は出来るトコまでやってるし、デンナーの治療も自力でやれる目途が立ったし、最近じゃ猟団員達もそこそこ腕上げてきてるしよぉ…。 ひーまーだ。ひーまーだ。か~ま~え~~!!

 

 

 

 

 

 

 

 ド突かれたけど、一緒に狩りに行ってくれるミーシャさんは本当にいい人だと思いますまる

 

 

 ま、ミーシャだけじゃないんだけどね。一緒にマオも来た。そして大分上の方で、「私が行く、本当に空を飛べるならやり方を聞き出してやる」「いや私だ」と殴り合っている音がしたが、まぁどうでもいいだろう。結局ミーシャとマオの3人で来たし。…しかし随分ヒートアップしてたみたいだな。

 

 

「それに関してはすまん、私とベリヰヌのせいだ。以前、空中浮遊した事があったろう。それをあの二人の前で語ってしまったら、大いに喰い付いてきてな…。元より、フロンティアの中でも飛び上がっての奇襲に定評があったから、興味が止まらないらしい」

 

「私は生では見てないけど、狂走ラオシャンロンの時に宙を高速移動していたのは見たからね。他のメンバーも語ったおかげで、あの二人はえらい事になったものねぇ…。今回だって、見つけた瞬間飛び掛かってこなかったのは奇跡みたいなものよ」

 

 

 モンスターより狂暴だと思ったけど、ハンターより凶暴だって言った方が正しいかな? 

 

 しかし、今回マオがついて来るとは…。結構付き合いもあるし、彼女の事だから「助けられた恩を返そう」と思っててもおかしくはないが、先日のマオの語りを思うと、どうにも勘ぐってしまうな。少なからず俺を異性として意識していると言うし、確かにそういう素振りはある。

 そんな二人に挟まれていると……柄にもなく、ラブコメ物の登場人物になってしまったような気がしてくる。…仮に俺がそれに登場するとしたら、まず間違いなくそのウ=ス異本の方だろうが。

 

 

「それで…デンナー殿が、能力…タマフリとやらを会得した、と聞いたが? どんな能力…と聞いてもいいのかな」

 

 

 手の内を晒すように要求するのはマナー違反だが、まぁいいんじゃないか、今は。マオ達の能力とはちょっと違ってな、装備に宿った力を使って能力を発動させるんだ。

 ちなみにコレ、前の宴会での二人からもらったアイデアなんだが…覚えてるか?

 

 

「「全く」」

 

 

 …随分一遍に記憶が飛んだようで(それだけショックだったのか?)

 技術的にはそう難しくないんだが、装備に宿ったモンスターの魂を捻じ伏せられるかがキモだな。胆力勝負と霊力勝負を足したようなものか。

 

 

「ふむ…今一ピンとこないが、試してみたくはあるな。危険はあるか?」

 

 

 それなりに。今のマオやミーシャだと厳しいんじゃないかな…。霊力の扱いは段々よくなってきてるようだし、マオは特に力が強いみたいだが。…随分、気を入れて訓練したみたいだな?

 

 

「………………ま、まぁな」

 

「? どうかした、マオ? それにしてもいつの間にそんな訓練を…。普段はいつもと変わらない生活だったと思うけど」

 

「あーなんだ、寝る前に……その、毎晩…。自己流ではあるんだがその…」

 

 

 …何だ? マオの様子がおかしいな。あんまり自己流ばっかりなのは関心できんが、それでもここまで霊力が増しているんだし、随分鍛錬したろうに。それをまるで恥ずかしがるような…………。

 特に霊力が強いのは、目……じゃない? 丹田……と言うよりは………股……。

 

 

 あ。

 

 

 そういや、マオが最初に霊力を自覚したのは、俺の囁きの術によって…だったか。つまり、マオにとって霊力とは、本人曰く今まで感じた事もなかった快楽と陶酔感に密接に結びついてる訳で…。

 

 

 

 

 

 …結果的に鍛錬になっているとは言え、その実態は毎晩毎晩霊力を使った…………いや、言葉にすまい。情けというものもある。下手な事言ったら「おいは恥ずかしか!」とか言って割腹しかねん。或いはチェスト関ケ原。

 やるならそーいう雰囲気になってから、言葉攻めに使おう。 

 

 

 

 

 …ん? 反対側の道から誰か来る。あのキンキラ鎧は……エドワードさん?

 

 

「エドワード? レジェンドラスタのエドワードさん? 狩りの帰りかしら」

 

「だろうな。…しかし、他にハンターの姿が見えないが…」

 

 

 あちらも俺達に気が付いたらしく…と言うより、多分俺達より先に気が付いてただろうけど…ガーグァ車を止めて声をかけてきた。…よく見れば、お助けアイルーどころか運転手のアイルーすら居ない。

 

 

「やぁ、久しぶりだね、凄まじき戦士よ。フラウやリアでなくてがっかりしたかい?」

 

((凄まじき…?))

 

 その呼び方止めーや…。エドワードさんも元気そうで何より。…一人で狩りに行ってたんですか?

 

 

「ああ。レジェンドラスタであっても、自分の都合で狩りもするさ。…と言うより、レジェンドラスタだからこそ、なんだけどね…」

 

 

 ハハッと自嘲するように笑うエドワードさん。どういう事ですかい?

 

 

「…考えてもみたまえ。レジェンドラスタが契約するのに必要な報酬は幾らだね?」

 

 

 

 報酬…。色々例外やコースはあった筈だけど、異世界の通貨で千エンちょっと…だっけ?

 

 

「つまる所いくらだね? この世界に流通している通貨にして」

 

 

 ………あ。

 

 

「…異世界のお金なんて、この世界で通じる筈がないだろう? 雇われて狩りに行く時は、報酬の大部分は雇人に支払われるし、我々に入ってくる報酬は竜の涙の1割足らずだよ」

 

 

 

 ……何でレジェンドラスタなんてやってんの? エドワードさんが自己都合で狩りに行くようになれば、満足な生活が出来るだろうに。

 

 

「僕にも色々あるのさ。もう没落している実家がやらかしたりね…」

 

 

 ひょっとして赤フンなのも安酒呑んでばかりなのも、単に無い袖は振れないって話?

 

 

「ま、そうなるね。…元は、だけど。昔の生活よりも性に合ってるみたいでね。今となっては、これが素さ」

 

 

 ……(と言う事は露出のケがあるのは元々か)

 

 

「同じレジェンドラスタでも、生活ぶりは様々だよ。副業をやってる人も居るし……。そうそう、一つ忠告しておかなければいけない事があったんだ。…いや、アイルー達の事じゃない。それもあるけど、それとはまた別だ。…近いうちに、リアがそっちに襲撃をかけるかもしれない」

 

「ちょ、それはどういう…? 彼が何かしたと言うのなら、それはギルドナイトの領分の筈。何故レジェンドラスタが?」

 

 

 あー…まぁその、何だかんだあって半分モンスター認定されてるからじゃないかなぁ…。前の宴会の時だって、ちょっと斬りかかられたの…は覚えてる?

 それも記憶から飛んでるのね…鬼の手の事は覚えてるのに。…ひょっとして記憶から飛んでるのって、リアとフラウ絡みの事限定なのか…?

 それはともかく、何でまたリアが。

 

 

「要するに遊び相手が居なくて欲求不満なのさ。…例の噂の真偽はさておくとしても、君は…いや、君達は、かな…僕たちから見ても、非常に興味深い。狩りの腕そのものは、まだまだ未熟だが…僕らの知らない力、まだ見た事のない『何か』を持っている」

 

「「………」」

 

「フラウとリアは既に、君が言う霊力を会得しているから、猶更だろうね。…おっと失礼。そこまで踏み込む気はないよ。ま、とにかくだ。君はリアに『面白い友人』認定されているのさ。何をするか分からない、何が飛び出すか分からない、そして飛び出したナニカは自分にも出来るようになるかもしれない。接触しようと言うには、充分な理由だろう。……襲撃という形になるのはともかくとして」

 

 

 ほんとソレな。…まぁ、欲求不満と言うなら、解消につきあってやりいいだけか。

 

 

「さて…そろそろ僕は行くが、いつも通りに忠告はしておこう。君も、もうあのアイルー達に入れ込むのは止める事だ。立て続けに現れる古龍や異常なモンスター達。何かあるというのは、君ももう否定できないだろう」

 

 

 まぁ…ね。それでも、ここまで来たんだから、出来る限りの事はやるさ。…歌姫サンも泣きっぱなしでいられると、正直気が滅入る。

 

 

「そうか…。そこまでもう辿り着いたのか。ならば、僕がこれ以上言う事は無い。これまで通り、僕の忠告など無視して、思うがままに進みたまえ」

 

 

 

 それだけ言うと、エドワードさんはガーグァ車を駆って走り出した。…認めてもらった…のかねぇ? いや、認めたとしても推奨はしないんだろうけど。

 

 やっぱり、トキシと歌姫の間で何があったのか、知ってるぽいしなぁ…。

 いや、それも気になるが、問題は…。

 

 

「…さて、リア殿とフラウ殿が、霊力を既に会得していると聞いたが」

 

「どういう事をしたのか、説明してもらいましょうか」

 

 

 ……どうすべぇ…。

 

 



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258話

正直、ちょっと扱いが酷かったかなと思っている。だがこの猫ならやりかねん。


 

 

HR月

 

 

 何とか誤魔化しきった。…考えてみりゃ、誤魔化す必要もなかったような気がするが。

 こうやってのらりくらりと誤魔化してっから、あの二人とも微妙な関係になっちまってるんだよなぁ…。あっちにその気があるなら、もうさっさと押し倒して、二股(どころじゃないが)公認するように仕込んだ方がいい気がしてきた。

 

 …いつもの鬼畜思考はともかくとして、マオは…経緯はどうあれ、タマフリを発動させる事ができそうなくらいには霊力が上がってたな。固有の異能もミタマの力を借りないタマフリだと思えば、それほど不思議じゃないか。

 

 

 その辺の事も、狩りを終わらせた後の飲み会で話してみたんだが結構喰い付いてきた。ちなみに、今回の会場はミーシャがお気に入りのお洒落(オサレではない)なバーだ。入るのにちょっと緊張した。

 時々、ミーシャはあそこで歌わせてもらっているのだそうだ。そういや歌手志望だって言ってたが…確かに見事なもんだった。

 いやー、ハンター姿もいいもんだが、趣の違う魅力があったね。割と本気で見惚れたし、聞き惚れたよ。

 

 ミーシャの歌について色々語りたいのは山々なんだが、ソッチ系の語彙も感性もすくないからなぁ…。色々経験して多少は人生経験を積んだつもりだが、やっぱ俺は粗忽者だね。

 ……いや、決して本人に対し、『その喉を仰け反らせて盛大に喘がせてみたい』なんて言ってないよ? 思いはしたけど、本当に歌に聞き惚れたんだよ?

 

 

 それは置いといて、真面目に相談された事が一つ。自分も霊力、タマフリの使い方と、その指導の仕方を覚えたいのだそうだ。

 最近猟団に入った新人…当然彼女達も異能持ちな訳だが、これが能力を持て余しているらしい。能力が突然発動…暴発してしまったり、逆に発動させようとしてもウンともスンとも言わなかったり。

 下手をすると、以前のマオのように何らかの症状が発生しかねない。

 

 ふぅむ…不死鳥の息吹で多少は対処できると思うが、マオは現にかなり早く限界を迎えたからな…。確かに、指導できるようにする必要がある。

 しかし、仮に俺のやり方をそっくりそのまま真似るとすると、その子を相手に如何わしい行為をする事になるんじゃないか?

 

 

「…思う所はあるけど、命には代えられないわ。その、初めてが…そういう理由で、同性相手と言うのは、アレだけども…」

 

 

 ふむ、猟団長としての判断と。それは協力しない訳にはいかんな。

 

 

「私も、そうなった時の対処法は知っておきたい。先日のような頭痛も、私自身に起きないとは限らないしな」

 

 

 確かに。また頭痛が起きて、マオが自分で対処できないようなら…前と同じような手段をとる必要があるな。しかも、前よりも強く。

 

 

「………ふむ」

 

 

 オーケイ、伝授しましょ。…とは言え、どう伝えたものやら…。少なくとも今日は無理だな。俺も二人も結構酒入ってるから、また今度になるが。

 

 

 

 

 

 

 …と言う訳で、昨日は潰れる事も無く解散したんだが…二人の間に、微妙に緊張感が漂っていたような気がするのは気のせいか? 先日のマオの話を聞かされた俺の、単なる自意識過剰か?

 あの会話だって、深読みするとなぁ…。

 

 例えば『初めてが…そういう理由で、同性相手と言うのは』…は、そうなる前にせめて普通の経験をしておきたいと言う事で。

 マオはアレだ、気付いている事は秘密にしてるが、自前で霊力修行(意味深)する程に熱中してるから、もう一回修行(微妙に意味深)をつけてもらいたいとか。

 

 そういや、マオってあの発言の後、妙な表情をしていたような…。ロクでもない事を考えてるよーな気がしたが。

 

 

 …何にせよ、言っている事自体は尤もだ。団員の為、症状が再発した時の為、力を持て余している同胞を救う為。また、俺にとってもこの力の扱い方を広めてくれるのは非常に助かる。

 少なくとも、断るという選択肢はなかった。

 

 

 

 

 …ま、とにかく伝授の方法を考えるとしますか。

 

 

 

 

「んっ、んっ、んぉぉ…」

 

 

 

 やってくるなり欲求不満を爆発させて、超人的肺活量でバキュームお口の恋人してるリアを気絶させてからな!

 

 

 

 

 …うーむ、リアのバキュームは凄いなぁ。ハンターの中でも特に身体能力高いみたいだし、何よりそれを奮うのに躊躇いが無いし、欲求不満のおかげでブーストかかってる。

 なんだな、文字通り喰われるんじゃないかと思うくらいの勢いだ。だがそれがイイ!

 奥の奥から精子を引っ張り出そうとするような、この貪欲さ…中々無いぜ。

 

 実際、黙って好きにさせてたら、俺の上に圧し掛かって文字通り犯そうとしてくるからな。中腰でエロダンスするみたいにグラインドさせるのがスゴいんだコレが。

 何度か出したら、「まだヤれるだろ?」と言いながら挑発的に笑ってくれる。勿論ビンビンですよ。

 放っておくとどんどん激しくなるんだよなぁ。

 

 

 

 ま、それはリアの趣味である、下剋上を誘う行為な訳ですが。

 リアの激しさは、欲求が満たされない事の裏返しだ。蹂躙するように犯しながら、同時に蹂躙される事を何よりも願っている。

 蹂躙する激しさが強い程、逆転された時の被虐の悦びを強く感じるらしい。ドSかつドMとか、全くお得な体質です事。

 

 

 ちなみに本日の特にツボだったらしいプレイは、両足を持たれて子宮の奥まで散々嬲られ精根尽き果てた後、三つ指ついたまま俺の足を隅々まで嘗め回すプレイだったそーな。

 

 

 

HR月

 

 立った! デンナーが立った!

 いや前からちょくちょく、リハビリで自力で立ったりしてたんだけど、フル装備の鎧を着て立って歩いた! …ちなみに、言うまでもないが普通の人なら重量で立つどころか動く事すらできません。

 流石に、ハンマーとか大剣とかを持って歩くのは無理みたいだが、ようやくここまで来たか。

 

 いやもう猟団員全員で宴会騒ぎよ。まぁ、半分以上はデンナーの復活を喜んでと言うより、騒いで呑めればなんでもいいって感じだったが。

 

 

 その宴会で、団員の9割くらいが二日酔いになったのが昨日の事。そして本日、迎え酒ではないが真昼間からまた大宴会。掃除と介護が大変だなぁ。

 何でまた二日続けて大酒飲んでるか。ちゃんとした理由はあるのだ。まぁ、それを差し引いても、やっぱり呑めれば何でもいいようだが。

 

 何があったかと言うと、コーヅィが嫁さんと復縁したのだ。狂走ラオシャンロン戦の時、「生き残ったら嫁に謝りに行く」と言っていたっけな。

 まぁ、無事復縁できて何よりだ。土下座した後、何発か殴られたらしいが、それで済むなら安い物、と笑っていた。

 最悪、門前払いか…誰かと再婚してるんじゃないかと考えていたが、杞憂だったらしい。念の為に身辺調査も行ってみたが、よろしくない痕跡は特に無し。実に健全な嫁さんだったようだ。………その、コーヅィの今後の為と言うよりは、あいつの嫁さんを一目くらい見ておこうという好奇心からだったんだけども。

 

 

 まーめでたい事だ。これが死亡フラグにならなきゃな…。何せコーヅィにはもうすぐ上位ハンター昇格という試練が待っている。

 コーヅィの事だから無茶も無謀もしないと思うが、いつ予期せぬ災いがやってくるか分からないのがハンターという仕事だ。

 それを分かっているから、コーヅィも今のうちから徹底的に準備を進めているようだ。…いい意味での臆病さはあるが、ビビって逃げ出すような素振りは全く見えない。

 

 

 

 

 

 …で、俺はと言うと…ようやくG級試験の内容が、決まりつつある……のだそうな。本当に、エラいモタクサしたお話ですこと。

 ギルドの受付嬢がこっそり教えてくれたのだが、結局ギルドは俺を早く昇格させ、同時に俺が持つ技術をとにかく広めさせたいらしい。俺としては願ったり叶ったりなお話である。

 その為、ギルド内で紛糾していた意見は、次のように収束された。

 

①G級へ上がるにせよ上げないにせよ、あの技術は欲しい。

②胡散臭いと思っている人達は、難しい試験を課してその技量が本物かを見極めたい。

③だったら、後進のハンターを育てるという名目で弟子を取らせ、その代わりに試験をちょっとだけ軽くするのはどうだろう。

 

 

 …と、このようになりつつあるのだそうだ。

 ただ、ねぇ…。試験をちょっとだけ軽くする、と言うのがな。超大型モンスターの襲来でもない限り、試験は本来G級の弱めなモンスターを狩らせる、と言うのが通例らしい。

 つまり『G級弱め>上級の強いモンスター』という考えのもとに成り立っている訳だな。実際、G級はそう考えられてもおかしくない程に狂った世界らしい。

 

 

 

 が、だからって本来の試験相手(G級のクック先生とか)より弱い相手として、アカムトルムを指定してくるってどうなのよ?

 

 

 そりゃハンターランク的と言うか、上記の考えのが正しければ、簡単な相手になってるんだろうけどさぁ…。

 もうどんな理屈で話を進めてるのかサッパリ分からんが、とにかく俺はあのアカムトルムを狩らなきゃならんっぽい。いつかは来ると思ってたし、そうでなくてもポッケ村の地価のウカムだってどうにかせにゃならんとは思ってたが…まさかいきなりフロンティアのアカムとは…。

 

 と言うかフロンティアとは言え、そもそもアカムってそんなに生息してるんだろうか? 単に珍しくアカムが見つかって、「丁度いいから試験として放り込んでしまえ」と思ってるだけじゃなかろうか。

 ま、ここまで来てgdgd言っても仕方ないから、とりあえず対策を考える。

 

 

 

 

 でも、やっぱり気になってくるなぁ…。どうしてコーヅィが落ちぶれたのか。団員達には詮索するな、とは言ったものの…。

 ……同じ轍を踏まない為の、アシストの為って名目にはならないよなぁ…。気になり過ぎて狩りに集中できない、とはとても言えない。

 聞くべきか聞かざるべきか、それが問題だ。

 

 

 …なーんてロミオとジュリエ…じゃない、なんだったっけ。ベンジャミン? 違う、えーとホラ、親の仇討ちをするかどーかって感じの表現で…そう、生公レット! ……何で漢字が出てくるんだよ。

 とにかくそんな感じで悩んでいると、当のコーヅィがポロっと漏らした。俺のG級昇格試験の相手が、アカムになりそうと聞かされた直後の事だ。

 

 

「人間には二種類いる……と……狩り場で臆して動けなくなってしまう人間とそこで奮い立つ者と……オレは……そのダメな方……ダメなんだ……」

 

 

 …いや、いきなり何だよ、鉄骨渡りみたいな事言い出して。コーヅィが言うと、ガチで死亡フラグなんだが。

 

 

「いえ……。やっぱり、アカムトルムに加え…上位…になると……トラウマが…」

 

 

 …トラウマぁ? てか、アカムと何か因縁でもあるのか?

 予想はしてたが、やっぱり上位昇格直後に何かあったのか。…話くらいなら聞くぞ? 野次馬根性込みで悪いが。

 

 

「よくある事…ですよ。相手がちょっと珍しかっただけで…。…私は……駄目な男です…。無能で…臆病者で…自分でも何故上位ハンターなんかになれるのかわからない程……駄目な男…。小さなクエストだけをチマチマこなして…誰かを助けたのだって、見捨てた所を誰かが視てるんじゃないか…お天道様に見られてるんじゃないか…ここで見捨てたら、自分の時に助けてもらえないんじゃないかって…怯えながら生きてきたも同然…。あの時だって……困っていた彼らを手伝おうとしたのは…見捨てた事を恨まれるんじゃないかと…思ったからにすぎない…!」

 

 

 よく分からんが、そこまで考えられるってある意味凄いぞ。それで?

 

 

「本当は…ハンターを続けるだけでも………怖かった…。上位は…下位とは別世界…! 逃げたくて逃げたくて堪らなかった…! それでも、失望されるのが怖くて…恨まれるのが怖くて…続けていたんです…。だけど………あれに会った…! あの…黒い神に……!」

 

 

 …なぬ?

 

 

「助けてくれ、手伝ってくれと…言い募る彼らを…突き放す事もできずに……断り切れずに…依頼を…受けました…。でも……あれを見た途端……! 折れた…心が………ぽっきりと…! あれと戦うなんて…どうやっても無理…! ずっと抱えていた恐怖が…噴き出した…! 私は何もせずに逃げて…彼らに謝りに行く事すらしなかった…! 狩場に立てば…あの恐怖がぶり返して…ハンターとして働く事さえできなくなり…恐怖を忘れようと、酒に逃げて…ついには女房にまで見放され……団長に拾われるまで、ずっと他のハンターに集って暮らしていたんです…」

 

 

 それは…無理もないと言えば無理もないよな…。上位昇格直後にアカムと遭遇とか、そりゃ心が折れるわ。ゲームでもない、俺みたいに死んでも次がある身とは違う。むしろ逃げたのは英断だったとさえ言えるだろう。そのまま突っ込んでいれば、討伐どころかアカムに踏みつぶされてペシャンコになるのがオチだ。餌になったかさえ怪しい。

 その後、立ち直れないままにタカリにまで落ちた事とか、依頼人に報告も無しだったのは…まぁ、落ち度だろうけども。

 それを言い出したら、コーヅィにその依頼を受けさせた方にも責はあるだろう。上位のヒヨッコに頼むような内容じゃない。と言うか、ギルドを通さずに依頼をするのは事案である。大した内容じゃなければ見逃される事もあるが、事がアカムじゃな…。

 

 

 

 そうか…そんな事がなぁ。好奇心で聞いていい内容じゃなかったかな。確かにハンター業界では珍しい事でもないが。具体的にはティガとかジンオウガとか、ゲーム機ストーリーのお約束。

 で、実際のトコ、どうだ? 上位、行けそうか?

 

 

「…大丈夫……です。胸を張って…成長したとは……言えませんが…もう震えは来ない…。女房を養う為にも……団長へ恩を返す為にも…! 今度こそ、上位ハンターとして…!」

 

 

 …OK、信じよう。ま、何でもいいから生きて帰れよ。チンケなセリフで悪いが、それに勝る功績は無い。

 

 

 

 

 

HR月

 

 

 G級昇格試験の準備の為、あっちこっち動き回っていたら、見知った顔に会った。

 どうやら買い物に出てきたらしきトッツイと、オジ専…じゃなかった、コーヅィに助けられて突っかかってた奴。

 

 

「…そう言えばまだ名乗ってなかったな。猟団ラサマのシトサだ」

 

 

 …ラサマ?

 

 

「名前の由来は俺も知らねぇよ。先代の団長がつけたもんだし…」

 

 

 さいで。で、トッツイは何を?

 

 

「ニャ、生活用品の補充ですニャ。オイラ達はともかく、歌姫様にはちゃんと寝床や服を用意しニャいといけニャいですニャ」

 

「歌姫、か…。噂話で聞いた事はあったが、本当にここに居たんだな」

 

 

 何だ、知らなかったのか? ……ああ、そう言えばずーっと引き籠ってたんだっけ。そりゃ噂にもならんわな。

 ところでトッツイ、呪いの品とやらは見つかったか?

 

 

「それが…怪しい所はあるんだけど、歌姫様が鍵を持ってるから、開けるに開けられニャいんだニャ。バルラガルの情報もニャいし…手詰まりだニャ…」

 

「呪い…? 何の話してんだ? お前が妙な力を持ってるって話は聞いてるが、それ関係か?」

 

 

 いや、それとはまた別…だと思うんだが、正直ちょっと確証は無い。

 

 

「……そういやお前、G級昇格試験の話が来てるんだってな。訓練所を卒業して、一か月も経ってないってのに…その力が原因か? やっぱ気に入らねぇな…」

 

 

 それもあると思うが、何とも言えんな。コレの事でギルド内部でも色々揉めてるらしいが…。使い方や習得方法を広めるのに問題はないんだが、やっぱ下積みが無いと時間がかかり過ぎてなぁ…。…覚えてみる?

 

 

「…やめとく。ところで、昇格試験の相手はもう決まってるのか?」

 

 

 あー、アカムトルムになりそうだな。アカムってフロンティアには多いのか?

 

 

「G級になって行く所に行けば珍しくないと聞いてるが…ああ、前に一回、メゼポルタ広場防衛戦で出てきた事があるらしいぞ。俺も話しか聞いてないが」

 

 

 そらまた地獄のような防衛戦だったろうな…。何が酷いって、終わった後にもマグマとかの処理が。

 そっちはどうなんだ? G級も近いって聞いてるが。

 

 

「評価されるのはいいが、生憎と今の俺じゃ準備が整ってないな。昇格試験に受かったとしても、その矢先に死んじまったら意味ないだろ。実際、試験を受けるにはちょっと実績が足りないんだよなぁ…。それだけに、お前みたいな一足飛びを見てると複雑だぜ…」

 

 

 まぁ…俺にも色々と背景があるんで、そこに関しては何とも言えんよ。

 …そうそう、昇格直後に、で思い出したが……あー…あんまり言いふらすような事じゃないが、コーヅィが何で落ちぶれちまったのか、わかったぞ。

 

 

「…興味ねぇ…けど、一応聞いておく」

 

「ニャ? …コーヅィ…?」

 

 

 ああ、トッツイは知らなかったっけ? ウチの猟団の一員で、もうすぐ上級ハンターに昇格するって話も来てる奴だ。

 で、あいつが潰れたのは…一言で言えば、ヤバい相手とカチ合って心が折れた。具体的に言えば、さっき話に出たアカムだよ。

 

 

「…おい、あの人がああなったのって、確か上級昇格直後…だったよな?」

 

 

 ああ。元々臆病で、自分はハンターには向いてないって思ってたらしいが…それでも何とかやってたトコに、アカムを見て我慢できなくなったらしい。

 

 

「いや何でいきなりアカムトルムなんて相手にしてんだよ!? 明らかに狩猟許可が出ないだろうが!」

 

 

 わかんね。どっかからギルドを通さずに依頼を受けたようだが…。

 

 

「その時点でシャレになってねぇよ…。本当に、なんでいきなりそんな事やってんだ。一発逆転を狙う底辺だって、明らかに勝ち目がないって分かるくらいだぞ」

 

 

 どうも、誰かに頼み込まれたっぽいんだが…それでいつものお人好しが暴走して………あん? どうしたトッツイ。

 

 

「その…コーヅィというハンター、ひょっとしてメガネの中年ニャ? 喋るのに、妙なタメを作る感じの」

 

 

 そうだが…それが?

 

 

「そのハンターニャ! オイラの依頼を受けて、逃げ出したハンターニャ!」

 

「……はぁ?」

 

 

 ……はぁ?

 

 

「フロンティアにやってきて、右も左も分からずにオイラが困っている時、声をかけてきて…いざとなったら逃げだした、ハンターの風上にも置けない奴ニャ! そんなハンターとは縁を切るニャ!」

 

「…………………」

 

 …………………。

 

「…ニャ? どうかしたかニャ? 流石に縁切りは言い過ぎだったかニャ…?」

 

「……トッツイ、だっけか。色々ツッコミどころはあるんだが…まずこれを聞かせろ。何でアカムトルムを討伐させようとした?」

 

「試験ニャ。頼みたい事があったんだけど、それを達成できるハンターニャのか、確かめる為だニャ」

 

 

「…………………」

 

 …………………。

 

「…………………」

 

 …………………。

 

「…………………」

 

 …………………。

 トッツイ。今まで何だかんだとお前らに力を貸してきたが、対価…と言うよりこっちからの頼みはした事がなかったな。

 

 

「ニャ? いきなり何ニャ…。でもずっと助けられっぱなしなのもおかしいから、何か出来る事があるなら手伝うニャ?」

 

 

 何、大した事じゃない。G級昇格試験、一緒に来てほしいだけさ。別にオトモとして戦えとは言わないから。

 ああ、バッシも一緒の方がいいか? 他に試験を受けさせようって考えたアイルーは?

 

 

「オイラとバッシニャ。本当はもう一匹アイルーが居るけど、今は何処をほっつき歩いてるのか」

 

 

 よし、じゃあトッツイとバッシ、両方行くぞ。秘薬の調合中であっても連れてこい。いいな?

 

 

「おいお前…いや、まだ試験内容が決まってるんじゃないんだろ。俺も口添えするからギルドにさっさと受けさせろって言おうぜ。ついでに試験は俺も手を貸すぞ」

 

 

 おう。…お互い様だと思うけど、目ぇ据わってるな。

 いいのか? アカムとやるのは初めてで、まだやれる程準備が整ってないんだろ?

 

 

「いつかは挑む相手だし、気にはいらんがお前の力は相棒としては申し分ない。何より、真っ当なやり方じゃないにしても、このままサヨナラじゃ俺の気が治まらん…!」

 

 

 ガチギレしとるな。無理もない。コーヅィの事を差し引いて、こいつらにも事情があって、フロンティアの事をよくわかってなかったにしても、こりゃちょっと酷すぎる。

 正直、俺も一瞬とは言えガチで縁切りを考えたレベルだ。勿論、コーヅィじゃなくてトッツイとの縁切りを。

 

 そういう訳でトッツイ、来れるよな? 上位に上がったばっかりのコーヅィに、試験扱いして受けさせられるんだから。コーヅィに物申したいと言うなら、その後に俺が場を作ろう。

 

 

「…ニャ? 何だか大変ニャ事にニャってるようニャ…?」

 

 

 シトサとの直訴のおかげで、G級昇格試験が決まった今日この頃だった。

 

 

 

 



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259話

昔プレイしてクリアできなかったり、手に入れられなかったレトロゲーム、ニコ動で拝見中。
うーむ、こんな展開になってたのか…しかもプレイしてる人が上手すぎる。

現在見ているのは、ルパン三世パンドラの遺産、FC版北斗の拳、クッキングファイター好…。
うーむ、名前が思い出せない奴が多いなぁ。体験版でちょっとやっただけの奴も多いしな…。

あと、流石にトッツイをdisりすぎかなーと思ってたら、みんな特に違和感ないみたいで草不可避w
それだけ鬱憤とか怒りとか溜まってたんだろうなぁ…。


HR月

 

 そろそろ今月も終わりだなぁ。フロンティアの気候はワケが分からんから、一か月と言いつつ何度も季節が廻ったような気もする。

 まーそれはともかく、G級昇格試験アカムトルムの通達を正式に受けた俺は、心配するコーヅィや、お気楽に騒ぐ団員達に見送られ、途中で待っていてくれたらしいストライカーの面々に激励を貰い、クエストに出発した。

 途中でシトサとトッツイとバッシと合流し、狩場に向かう。

 

 ちなみに、狩りに付き合えと要求されたバッシは不満タラタラだったが、アルバイト扱いで給料を出すと言ったら掌(或いは肉球)クルックルだった。やはり、彼らの財政はあまりよろしくないらしい。

 

 

「…まさか、こんな事でアカムトルムと戦う日が来るとは…」

 

 

 何だよ、言い出したのは俺だけど、乗ったのお前じゃん。

 

 

「別に文句はねぇよ。ただ、俺も軽率だったって思っただけだ。…ウチの団員からも、疑問の声はあったしな」

 

 

 俺が相棒だって事か? それともアカムに挑む事自体に?

 

 

「両方。ま、足手纏いになる気はないさ。ジャイアントキリングは、ハンターのお家芸だ。相手がアカムだって、何もできないようじゃG急に上がろうとする資格はない」

 

 

 言うねぇ…ん、前方から誰か来る。

 あれは……フラウとユウェルさん?

 

 

「やっほー!」

 

 

 ヤッホー。開口一番飛びついてくるとか危ないぞ。俺もフラウもそんなんで怪我する体してないけど。

 

 

「だったらいいじゃん。で、とうとうG級だって? 聞いたよ、そっちの……ラサマ猟団のシトサさんだっけ? 一緒にギルドに直訴したとか」

 

「お、俺の事知ってるのか?」

 

「大きくなりそうな猟団とか、素質がスゴそうなハンターはそこそこ覚えてるよ。エドワードみたいに、一度会ったら忘れない、なんて自信を持って言える程じゃないけど。……ところで、そっちのネコちゃん達ってひょっとして…」

 

 

 お察しの通り、歌姫サンの所のアイルー達です。まーちょっと色々あってね…。連れてきたのは俺の都合みたいなものだ。

 ……トッツイ、バッシ、どうした?

 

 

「…恐らく、我々に対して隔意があるものと。こちらにも言い分はありますが、我々は彼らの依頼を受けませんでしたので」

 

「レジェンドラスタだからって、どんな依頼でも受けなきゃならないって訳でもないと思うが。それに、言っちゃなんだけど、こいつらを助けようとしなかったのはなぁ…」

 

 

 言うなシトサ。理解させる為に連れてきたんだし。ところでユウェルさん、さっきから何を?

 

 

「いえ、ここで会ったのも何かの縁ですので、新作をお渡ししようかと。試作品で申し訳ありませんが」

 

「…おい、確かユウェルさんの料理って…」

 

 

 とりあえずこの前は食えたぞ。おかげで古今無双のモノノフなんて渾名を広められてしまった。誰も呼ばないのが救いだが。

 

 

「じゃあ古今無双のモノノフに、処理をお任せ…とは言えないな。狩りの前に変な物食って、狩人弁当の効果が無くなっても何だし」

 

「酷い言われ様ですね。自信作ですよ? …暖かい内にどうぞ。カンタロスのタッカテーントード~ランゴスタクイーンの蜂蜜を添えて~です」

 

 

 ……す、姿揚げ? デカい…。

 

 

「…おい……」

 

 

 美女が作ってくれた物なら、美味しくいただくのが男の姿です。トッツイ、バッシ、お前らも食っていいぞ。

 

 

「いやこれはちょっと…イヤガラセニャ?」

 

「…美味しいのですが…」

 

「確かに、郷土料理にこのような物はありましたニャ…。評価は……まぁその、伝統料理として伝えられてはいますニャ。伝えるだけは」

 

 

 それは味見をしての結果なんでしょうかね。いや味見をしてもその感想が人と共通だとは限りませんが。

 まーこれは後から食うとして(苦虫みたいに何か効果あるかもしれんし)、これからアカムとやり合いに行くんですが、何か気を付ける事あります?

 モンスターの動きがどうの、よりも…何か異変があるかも、って方で。

 

 

「うーん、今の所特に聞かないなぁ。アカムトルムも、まだギリギリナワバリの中に居るみたいだし」

 

「私も、今の所特には…。強いて疑問点を上げるなら、防衛戦の回数でしょうか? 今月は2回発生し、今までにも同じような事はありましたが…もしもアカムトルムがナワバリから出てそのまま進めば、メゼポルタ広場に直撃します」

 

 

 3度目の防衛戦になるかも、か…。まぁ、それは俺達が失敗したらの話だが。

 ………トッツイ?

 

 

「…何でもないニャ。トキシの呪いが解ければ、全部解決するニャ…」

 

「………」

 

 

 トキシの名前が出た途端、レジェンドラスタ二人の表情が僅かに強張った。…未だに分からないんだよなぁ…。なんで口留めされてんだろ。

 てか、やっぱりトッツイも自分達が古龍飛龍を引き寄せてるのかも、とは思ってるんだなぁ。

 

 

 ま、いいか。

 んじゃ、悪いけどもう行くわ。フラウと遊びたいのは山々だけど、もう行かないと時間までに狩場につかないから。

 

 

「ん、頑張ってねー!」

 

「御武運をお祈りします」

 

 

 二人は去っていく…かと思ったら、急にフラウだけが振り向いて、猛スピードで戻って来た。……って、この走り方は…?

 

 

「ごめん、忘れてた! 本当はもっと落ち着いた所か、大ピンチの時に見せようと思ってたんだけど…ほら、見てコレ!」

 

 

 双剣を片方だけ掲げると…おお!?

 フラウが掲げた剣から、強い霊力…いや、これは物理的にまで高まった…!?

 

 

「ひ、火が出た!? いや、これは単なる火じゃない? まるでモンスターが放つ炎のような…」

 

 

 ……アラタマフリ? 武器に宿る属性を強化したのか? それに、さっきの走り方は不安定とは言え鬼疾風…。

 以前の件で既に霊力を会得してはいたが…。

 

 

「へへーん、出来ちゃいました! コツを掴めば意外と簡単だね。特にこの、タマフリって言うの?」

 

 

 マジかよ…。俺も割と早く会得できた方とは言え、独学でこうも短時間とは…。これがレジェンドラスタの力って事だろうか。

 

 

「このタマフリって言うの、意外と簡単だったよ。要するにさ、装備にお願いして力を貸してもらうんでしょ。自分で言うのもなんだけど、ボク達は信頼しあってるからね! 幾多の狩りを一緒に乗り越えて、大事に大事にしてきたんだもの。この子達だって応えてくれるよ!」

 

 

 はー……成程なぁ…。俺は武器に宿るモンスターを屈服させ、主として認めさせて力を奮わせようとしたが、フラウは信頼関係を構築する…大事にしたり手入れをしたり、相応しい敵を相手取り続ける事によって、互いに認め合った形を作り出した訳か。

 アラタマフリとしては、こっちの方が正しいやり方だな。モンスターの魂を、ミタマとして昇華したようなものだ。

 ゲーム的に言えば、愛用度が極まって新しい能力が解放されたようなもんか?

 うん…いいもの見せてもらったわ。

 

 べ、別に剣を掲げた時に見えた脇の事じゃないんだからねっ!

 

 

「あ、でもねでもね」

 

 ん?

 

 

「さっきの走り方とか、まだよくわからない事が多いから、まだ『個人授業』をお願いね? これは先払いのお礼!」

 

 

 頬に柔らかい感触がして、フラウは鬼疾風で素早く去って行…あ、ハリウッドダイブみたいな勢いでこけた。…結構恥ずかしかったらしい。

 去っていく姿(ユウェルさんが追いかけて行った)を見送って、呆然としているシトサ。

 

 

「………はー…。フラウさんとリアさんを二股かけてる、なんて話す方の冥福を祈る噂は聞いてたが…。マジだったんだなぁ。二股の部分はともかくとして」

 

 

 ……二股の部分『も』マジです。

 

 

「………そこまで行くと、色んなことすっ飛ばしてパネェって思えるわ…。…しかし、断っておいてなんだけど、さっきのタマフリとやらは凄かったな。装備に宿った力、か……」

 

 

 シトサはそのまま、狩場につくまで何か考え込んでいたようだった。

 

 

 

 

HR月

 

 

 来た、見た、勝った! …とまでは言わないが、アカムトルムに勝利。

 これでG級ハンターだ。最初はモスに崖から突き落とされてお陀仏した俺が、フロンティアのG級とはなぁ…。思えば遠くに来たもんだ。

 

 と、感慨にふけりたくはあるんだが、何というかスッキリせん。

 いやね、真っ当に戦って勝ったんだよ? シトサも最初はアカムの迫力に押されたようだが、すぐに立ち直って援護に徹してくれたし、途中からは攻撃にも参加した。

 俺も最初は様子見に徹して行動を把握し、あの手この手を試して有効な戦闘パターンを構築した。

 

 ……トッツイとバッシは…まぁその、なんだ、今はちょっと魂が抜けて動かなくなってます。比喩だからね? ガチで心臓止まってるんじゃないからね? それくらいにアカムの迫力にビビってはいたけども。

 

 ……2匹を俺の背中に括り付けて、ブシドー回避やらエリアルジャンプやら忍法身代わりの術…じゃなかったタマフリ・空蝉で攻撃受けたりしまくったけど、そんなに影響ないよね? 盾にもしてないし。 猫の不眠術とか使わせたから、現実逃避も失神もできなかったけど。

 精々、高所恐怖症の人にバンジージャンプやらせたくらいのダメージしかないよね?

 

 

 どこからか鬼畜猫ザマァとかまだ足りんとか声が聞こえた気もするが、これは決して俺の感想ではない。イイネ?

 

 

 

 アイルー達の事に関しては後で語るとして…何がスッキリしないかと言うと…胃だ。

 

 気持ち的な意味でも、体調的な意味でもスッキリしない。何が原因かは言うまでもないだろう。ユウェルさんに餞別としてもらった、あの料理だ。

 …その、な? 好奇心が抑えられなくて、狩場に到着するまでに一口食べてみたんだよ。暖かい内にって言われたし。

 味に関しては…美味くはなかったが、まぁ珍味なんてそんなものだろう。

 

 

 

 結果。

 

 

 

 餓狼と火事場+2を始めとして、窮地で発動するスキルが山ほど発動したのですが。しかもMH世界だけのじゃなくて、3つの世界の奴が片っ端から。中には俺も見た事が無いスキルが混じっている…これは単に、俺が知らないだけのスキルなんだろうけど。それらが累積しまくって、下手するとアラガミ化状態以上の火力が出ていたと思う。

 しかも、実際には満腹状態・傷も受けてない、スタミナだって満タン状態なのにだよ? 

 なんつぅかさ、全然ピンチじゃない状態なのに謎の心理的圧迫感を感じ続けて、あと一発でも喰らえばお陀仏して……いや、俺だけじゃなくて世界がぶっ壊れてしまうんじゃないかって気持ちさえあった。

 ハンター式熟睡法を使っても、その効果は消えやしない。

 

 明らかに人間に使っていい物じゃないナニカの効果だろアレ。麻薬とか呪いとか、そのハイブリッドか。

 

 

 …まぁ、お陰で勝てたんだけどさ。本来なら、一撃で倒れるリスクと引き換えに得られる以上の力が、ノーリスクで発揮できるんだよ? そりゃアカムだって沈むわ。

 動きは大体見切ったから、再戦するとしても違法ドーピング(と言うのはドーピング剤に失礼な気がする)無しで勝てると思う…異常な行動をとる個体でなければね。

 

 

 で、勝ったはいいが、その謎の心理的圧迫感は残ってるし、相変わらず物理的に満腹なのに空腹は感じるしで、色んな意味で気分が悪い訳だ。シトサもダメージがデカイいようだが、俺程じゃないらしい。

 このまま帰っても、俺は祝勝会という名の宴会に巻き込まれるし、シトサも似たようなものらしい。…仕方ないので、狩りの疲れを癒す為、一晩ベースキャンプで休んで帰る事になった。

 

 

 

 

 …さて、今日はもうさっさと寝るだけだ。幸い、シトサも話に聞いたようなムラムラ状態じゃないみたいだし(これを口にしたら、「オジ専ホモ扱いはやめろって言ってんだろ!」と割とマジで怒られた)、トッツイとバッシも気絶したままだし。

 

 余談だが、俺達をこんな意味不明な状態にした劇薬は、俺の ふくろ に詰め込まれている。この中なら腐る事もない。

 …何でこんな物を確保しておくのかって? そりゃ、気分は悪いし見えないリスクが極大だろうが、優れたパワーアップアイテムである事は間違いないし…。

 

 

 

 何より、俺の中ののっぺら共にはホウ酸団子よりもよく効くみたいだからな!

 

 

 

 いやー、あんだけ意味不明なスキルが発動してるから、スキルを保持しているらしきのっぺら連中がどうなってんのかと思って(イヤイヤ)意識を向けてみたら…笑った笑った。シュールストレミングを、犬の間近でブチ撒けたらこんな風になるんじゃないだろうか。

 どーも俺の体はあいつらで構成されてるから、奴らが倒れれば俺も弱体化するか気分が悪くなるか、とにかく悪影響があるとは思うんだが、それでも連中へのイヤガラセもとい何かやらかした時の制裁手段があるのは非常に嬉しい。具体的には、ニギタマフリを暴発させた時とか……まぁ、まだ封印を解く気はないけど。制裁手段の抑止力が、どれくらいあるかは分からんし。

 

 …今後もユウェルさんの料理、挑戦するべきだろうか…。意外なメリットと、残当なリスクがあるかもしれない。

 

 

 

HR月

 

 無事帰還。そして正式にG級昇格!

 宴会、大盛り上がりでした。ラサマ猟団、ストライカー猟団のメンバーとも合同で宴会したよ。やはり元タカリの集団という目で見られていたが、最近はしっかりやってるし、更生したハンターも多いし、ちゃんとした人材も育ってきた。

 後日聞いた話だと、「思ってたよりまともな集団だった。偏見の目で見て悪かった」なんてコメントまで出たらしい。

 

 大変楽しかったんだが……気のせいかな? マオとミーシャの様子が若干おかしかったような…。二人の間に妙な緊張感が漂っているような…。そもそもマオの霊力に若干ながら陰りが見える。

 何があったか分からんが、霊力修行をするなら、気分を切り替えてやるように忠告しておいた。霊力ってのは生命力そのもので、かつ精神状態に大きく影響されるからな。極端な事を言うと、自殺したい程に落ち込んでいる状態で霊力を酷使すれば、使った霊力が自身に牙を向ける事だって考えられる。

 分かった、と言ってはいたが……うーん、面倒事の予感。

 

 

 話は変わるが、シトサにもG級昇格の話がチラホラ出始めたらしい。完全に叩き上げだな、あいつの場合。

 ただ、これについては本人は微妙な顔をしていた。今回の俺の試験のフォローが評価されたらしいが、図らずも違法ドーピングした結果だったからねぇ…。それでも、あの心理的圧迫感を押し退けて狩りに徹する事ができたのは、凄まじい地力の現れだと思うし、胸張って試験を受ければいいと思うんだが。

 そう言ってはみたものの、アカムトルムとの闘いに、本人は納得いっていないらしい。確かに今回は勝てた。今回は違法(と言うか普通じゃない)だったとは言え、ドーピングは珍しくない。

 しかし、今の自分で、万全と言える程に準備をして、アカムトルムと渡り合えるかと言うと、答えはノー…らしい。

 別にG級だからって、即アカムとタイマン張れるくらいの実力が求められる訳じゃないが……「もしもそういう依頼が来たら、もしも偶然遭遇したら」と考えると、今の自分ではまだ実力不足…と言っていた。

 考えすぎとも思うし、ブチ当たる時はG級だろうがルーキーだろうが直撃するだろうが……まぁ、本人がそう考えているなら何も言うまい。最悪を想定するのは、何につけ必要だしね。

 

 

 

 

 そうそう、宴会の裏で、コーヅィとトッツイ・バッシの謝罪合戦があった事を記しておく。…あまり詳しく書く気はないが、トッツイも当時の自分がどれだけ無茶な事を言っていたのか(しかもそれを試験と称していた)、ようやく理解したようだ。

 それでも、逃げ出した挙句に報告もしなかったのは自分だ、と言い張るコーヅィと延々と頭を下げ合っていたな。

 

 と言うかなー、本当にあいつらに手を貸そうとするハンターが居ないのだって、歌姫の力云々よりも無茶な事を平然と言ってくるあいつらの態度が発端なんじゃないかなぁ…。それで悪評が立って、ハンターに敬遠されるようになったんじゃなかろうか。

 コーヅィは人助け(本人は打算と恐怖の結果と言っているが)を繰り返す事で結構有名なハンターだったようだし、恩人があいつらのせいで様変わりした…と考える奴もいたかもしれない。

 

 …ま、過去の事はいいか。これからも俺は手を貸すつもりだし、本猫達の態度が変わっていけば、評価だって多少は変わっていくだろう。

 

 

 

 

 とりあえず、今日は延々と飲んでただけだったし…そろそろ酒も尽きたし、もう起きてる奴でまともに動けるのも居そうにない。後はトッツイとバッシを、歌姫サンのトコに送って行って終わりにしますかね。

 

 

 

HR月

 

 

 昨晩、住処に戻ったトッツイとバッシは、途端に泉に到着すると同時にぶっ倒れてイビキを掻き始めた。どうやら緊張の糸が完全に切れたらしい。

 奥に運んでやるべきかとも思ったが、部屋の配置とか分からないし、野宿で寝ても平気なアイルーだし、放っておいても大丈夫だろうと思って帰って来た。差し入れにこんがり肉置いてきたし、給料もちょっと割り増ししておいたし、問題は無いだろう。

 

 

 さて、俺もしっかり体を休めて、違法ドーピングの副作用が無い事を確認したが…さて、これからどうするか。

 G級になったのは感慨深いが、これで終わりではない。むしろ、廃人級がひしめくこのフロンティアでG級到達なんぞ、ようやく入口に立てたようなものだ。

 実際、メゼポルタ広場をちょいと見渡せば、明らかに俺以上の強さを感じるハンターをそこかしこに確認できる。これでも随分強くなったんだけどなぁ…ま、上があるのはいい事だ。自分こそが最高、なんて増上慢を持てるような余裕もないしね。

 

 ともあれ、今後は暫く地力を固めなきゃならん。ランクが上がった事に浮かれて、「上位ティガ装備だし、今更コンガとかの装備を作るくらいなら、すぐザザミに挑むわ」と考えて大怪我した奴は数知れず。

 正直、G級のモンスターがどれ程のものなのかサッパリだから、一から足元を固め直さなきゃならん。ゲーム機でプレイした時、上位ドスランポス相手に弱い装備で挑んだ時の事は、まだ忘れてない。雑魚だと思ってたら大惨事だったからなぁ…。

 そういう訳なんで、当分は大型モンスターの狩猟は無し。文字通り一から始めるつもりでいく。

 そんな地味な依頼でも、G級クエストの報酬は莫大だ。猟団員達を養っていくのに、不足は無い。

 

 

「うむ…いい事だと思うよ」

 

 

 …そう言ってくれますか、エドワードさん。

 

 

「人に笑われる事もあるかもしれないが、君のその選択は最善のものだと断言しよう。足元固めの時期を軽く見て、取り返しのつかない事になったハンターや猟団は後を経たない。特にG級昇格直後はね。むしろ、そうやって笑っている連中を、鼻で笑ってやる事だ。足元を疎かにする愚か者。或いは、自分も通った道を、誰かに支えられた道を忘れて見下す不義理者だとね」

 

 

 …金言、ありがたく。

 

 

「気にしないでくれたまえ。君があの猫達に手を貸しているのは…やはり眉を顰めるが、それを差し引いても君には助けられている。…君が現れてから、リアもフラウもそこそこ大人しくなってね」

 

 

 …重要なのはそこっすか。てーか、そこまで酷かったのか?

 いや、リアに勢いのままに斬りかかられた事が2回くらいあるから、分からないではないんだけど。

 フラウも…まぁ、小悪魔のよーな人だったとか。

 

 

「ただ…それでも忠告させてもらう。いや、猫達の事じゃない。君はまだ、G級を甘く見ている」

 

 

 …どういう事です?

 

 

「……クエストが地味に見えても、そこに居るモンスターまでが地味とは限らないと言う事だ。具体的に言うと乱入祭り。いつ大狩猟祭が開催されてもおかしくないと、そう思って起きたまえ…。それで全財産を注ぎ込んだ武器防具を失い、極貧生活を続けた先輩からの忠告だ」

 

 

 

 ………キツいっすね…。おまけにレジェンドラスタの報酬は、前に言ってたように龍の涙の一割程度と…。

 

 

「まぁ、これはレジェンドラスタになる前の話だがね。何とか立て直せたよ…。あやうくクエストに行くための契約金すら払えなくなるところだった。持っていた最後の防具を売り払って、クエストに行ったっけな…」

 

 

 つまり防具一切無しの縛り付で狩りをやってたと? そんな状況で狩りをやってりゃ、そりゃ腕も上がるわ。

 ……ひょっとして、赤フンに目覚めたのって…。

 

 

「せめて自分の心を奮い立たせようと思ってね。効果覿面だったよ。防具がなくとも、金がなくとも、勇気と武器があればモンスターと戦える。赤いフンドシは、僕の心を奮い立たせてくれたのさ」

 

 

 ………いい話…なのかなぁ? これがマフラーとかだったら、素直に恰好いいと言ってやれるのに。

 

 

 

 

 

 まぁ、それはともかくとして。宣言通り、G級の採取依頼を中心に活動していた訳ですが。

 

 

 

 

 初っ端からイビルジョーが出るとか流石に予想外だったがな!

 え、何? こいつフロンティアにも居るの? いや何にでも食い付くし、どこにでも行くらしいから不思議はないんだけども。

 

 前ループ時に動きは知ってるし、何とかやれるだろう………なんて油断は俺にはなかった(キリッ

 いやホント、そんな事考えてたら確実にデスワープだったよ。異様にタフだし、筋力もブレスも俺が知ってる奴とか比べ物にならないし、何よりしつこい! とにかくダメージも疲れも体力も無視して追いかけてきて、自分からどっかに移動すると言う事が無い。おかげで、移動された間に体勢を整える、と言う事が不可能に近い。闘技場の中でやりあってるのと同じだよ、コレ。まぁこんな障害物だらけの闘技場、そうそう無いけども。

 ま、おかげで行動が予測しやすかったけどね。前に立てば即噛みつき、後ろに居ても噛みついて、とにかくリーチの中に入れば噛みつき噛みつき噛みつき。ブレスは殆ど使わず、距離を取ったら突進して近付いてくる。文字通り、得物を口に突っ込む事しか頭になかったらしい。

 

 それだけ空腹だったって事か…。変な言い方になるが、イビルジョーとしてはかなり強い個体であっても、中途半端な力しか無かったんだろうな。

 イビルジョーがフロンティアに居ない…少ないのは、そのどうしようもない闘争心と空腹の為だろう。何かと桁外れなモンスターだらけのフロンティアで、相手も見ずに、状況も考えずにただ空腹の赴くままにケンカを売り続け、生き延びられる可能性がどれだけあるか。

 あのイビルジョー……ああいう遠方にしかいないモンスターがフロンティアに居るのを、遷悠種と呼ばれていると、最近知った……は、そうやってケンカを売り続けて生き延びるだけの力はあったが、充分な食料を…獲物を仕留めて喰らえるだけの力が無かった。そして最後は貧じ、鈍じて、ついには俺に狩られた。

 

 

 全く…他所の地方じゃ災厄の権化か、悪堕ちしたピンクホールみたいな扱いを受けてるのに、とんでもないな。やっぱりフロンティアは地獄だぜ。

 

 

 

 

 まぁ、そんな事をやってる内に、今度はコーヅィの上級昇格試験が決まった。

 



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260話

申し訳ないですが、今回はいつもの半分くらいの長さです。
代わりに次回が長いです。

身内から「積みゲーにしてるから」とニーアオートマータ借りたんで、しばしMHXXはお休みの予定。
仁王も暫く無しかな…。
というか2Bのデザイン、攻めてるなぁ…。
ゴスロリっぽい服、胸元の穴、露出した背中と色々ありますが、ハイレグと太ももが気になって話に集中できないのがデフォですな。下半身エロタイプだ。
走ったりジャンプしたりすると、スカートの中がチラチラ…うむ、まさしくチラリズム。
……外伝で濡れ場書きたいなぁ。

あとMHXからXXまで、ずーっと叫びっぱなしの言葉。
いい加減にしやがれデビルゴーヤ! 今日何度目の乱入だと思ってんだ! テメーが出てくるとリズムが狂う以前に萎えるんだよぉぉぉ!!
G3まで到達したし、四天王装備作ろうとしたらいきなり出てきやがって、やる気が失せました…ニーアやろう…。


HR月

 

 

 コーヅィの上級昇格試験、残念ながら俺の手伝いは禁止された。俺が瞬殺しちゃうと実力が測れない………からではなく、「絶対何か面倒事が起きるから」とギルド・猟団員通して満場一致。

 …大樽爆弾Gの雨とか降らないかな。いや、設置だけして、後はメテオ弾でも撃てばいいか? 待てよ、雨と言っても上から降るばかりでは芸が無い。アラガミ化状態でタマフリの連昇をフルパワーで使えば、多分部屋全体から空へ上る雨のよーな連昇が出来る筈…。

 

 まぁそれはいつかやるとして、コーヅィの人望は、俺が思っていた以上にあるようだ。上位に挑むと聞いて、力になれないかと考えている猟団員は後を断たない。

 相手がどんなモンスターなのかの情報収集を始めとし、アイテムの差し入れや素材集めの手伝いまで。これ、コーヅィが一声かければ猟団の3割くらいは大なり小なり動くんじゃないだろうか。

 

 それに対して、俺はと言うと……元々タカリ相手として見られている節が強いし(最初からそのつもりだったんだから仕方ないが)、狩りに行く時は大体一人だし(下位ハンターをG級に連れて行ってどうする)、猟団員よりもむしろストライカーのマオとミーシャとかレジェンドラスタのフラウとリアが仲がいいし…。

 …俺って本当に、この猟団の団長なんだろうか? 久々にボッチ魂が疼きだした気がする。

 

 まぁいいか。悪いが、猟団員との仲よりも、美人美女とのお付き合い(意味深がなくても)の方が大事だ。…こんな考えだから人望が無いんだな。

 

 

 

 

 ま、とにかくアレだ、コーヅィの相手は一角竜・モノブロス。勿論、通例通りに一人での首領になる。

 …これってギルドの皮肉かな? 相手が相手とは言え、一度は逃げ出してリタイアしたコーヅィに、英雄の証…勇気を示せ…なんて。

 それとも、単にコーヅィの人望(?)を考慮して、過度な手伝いが入る事を禁じたんだろうか。実際、シトサの奴も結構気にしてて、影からこっそりついて行こうかと考えている節があった。

 

 

 と言う訳で、手伝いすら禁止された俺は、フラフラしているところをミーシャにとっ捕まって、酒飲んでいる。

 いや、流石に会うなりいきなり酒場に特攻した訳じゃないよ。一狩終えてからの話だよ。ちなみに酒場っつーてもラスタ酒場や居酒屋みたいな所じゃなくて、前にも来たような洒落たバーだ。尚、俺にはお洒落とオサレの区別がつかない事を追記しておく。

 この静かな雰囲気は嫌いじゃないがね。

 

 

「何はともあれ、G級ハンター昇格おめでとう。私達の方が先輩の筈なのに、あっという間に抜かれちゃったわね」

 

 

 チン、と小さく乾杯の音。ピアノの音が静かだね。静寂に勝る大音量無しとは至言だと思うが、大音量にも気になるBGMにもならない程度の演奏だ。

 こういうのが、格式高い酒場って言うのかねぇ…。ちゅーか、バーとスナックの違いが分からん。ここがどっちなのかも分からん。

 

 

「あら、こういうのは不慣れ?」

 

 

 嫌いじゃないがね。…メニュー表とか無いの、ここ?

 ジントニックとかカンパリオレンジとかモスコミュールとかブラッディナンタラとかカルーアミルクとか、有名どころなら多少は知ってるけど、味までは覚えてないな。

 

 

「流石にあるわよ。確かに、慣れてる人はあんまり使わないけどね。ふふ、狩りの天才も、慣れない事は戸惑いだらけね」

 

 

 天才なんてもんじゃないけどなー。凡人とも言わないけど、ワケの分からん状況に放り込まれて、気付いたらこうなってただけだし。最初はモスにだって負ける貧弱君だったんだぞ。

 まぁ、ハンターなんてそんなものかな。

 

 

「そうね…。私も、村を出た時にはこんな事になるなんて思ってなかったわ。この力だって、生涯誰にも悟られないようにして生きていくんだって思ってたし」

 

 

 それが今や、同類達の猟団の長。あまつさえ、目の前にはそれを大っぴらにしようとする奴が居る、か。

 人生って訳わかんねーなー。

 

 ……お。美味い…。

 

 

「いいお店で飲むと、カクテルって本当に味が違うのよ。私も最初は驚いたし戸惑ったわ」

 

 

 ふーん…。これなら確かに、多少高くても頼む価値はあるかも。やっぱり店によって違いとかあるのか?

 

 

「作る人によって、全く…とまでは言わないけど、味が違うわ。雰囲気に浸っているだけとか、意味もなく高い所に行っているっていう人も居るけど、それも含めてこの味よ」

 

 

 なるほどねぇ…。そういうミーシャは割と何でも食べるよな。この前の防衛戦の宴会で、ヤマツカミの肝油とか平然と飲んでたのに。

 

 

「好物が多いのは、人生が楽しいって言う事よ。実際はあれ、ヤマツカミのじゃなくて別の生き物のだったみたいだけど。古龍の、って言うのは度胸試しかゲン担ぎだったみたい」

 

 

 そうか…是非ともタコ焼きにしてやりたかったもんだ…。

 で、話は変わるが、そっちの状況はどうだ? ウチはコーヅィが上位試験を受ける事になったが、そっちも上位に上がるつもりはあるんだろ?

 

 

「ええ、勿論。そろそろ、っていう話は出てるわよ。…マオが寝込んだり、霊力会得の為に狩りを休んでなければ、もう試験を受けていた筈なんだけどね。何につけ、予定通りに行かないわ」

 

 

 世の中なんてそんなもんだね。

 …そういや、ミーシャはこれの習得についてどう思ってるんだ? 団員に何かの症状が出た時、対処できるようにしておきたいって言ってたが。

 

 

「そうしたい所なんだけど、やっぱり猟団を維持する為の仕事がね…。時間さえあれば、と思ってるんだけど」

 

 

 …流し目? …ふむ。

 実際のところ、どうなんだ? 最近また猟団員が増えたと聞いてるが、発作を起こしそうな人は?

 

 

「正直、私には判断がつかないわ。まだ霊力とやらの片鱗さえ理解できてないもの。マオなら感知できるかもしれないけど、発作が一番出そうなのもマオ。…これに関して頼る訳にはいかないわ」

 

 

 確かにな。この前会った時に気になったが、マオの霊力が妙に陰ってる。すぐには起きないだろうが、切っ掛け次第では…って状態ではあるんだよなぁ。

 一応聞いておくが、何か心当たりは無いか? 心に鬱屈としたものを抱えていたり、自虐的になったり、最近トラウマが再発したとか。

 

 

「……さぁ、心当たりはないわね。猟団長としては不甲斐ない事だけど…」

 

 

 ……そっか。む…飲み干しちまった。なんかおススメある?

 

 

「私としては…ハーベイ・ウォールバンガー、ルシアン、シーブリーズ、テキーラサンライズ…ああ、そう言えばマスター、珍しい素材が手に入ったって聞いたけど?」

 

「ええ。『遷悠朧隠』の粉です。これを使ったカクテルは、正に宙を軽やかに歩くような、心地よい酩酊を齎すと言われています」

 

 

 へぇ…気になるお値段は?

 

 

「こちらをどうぞ。…言ってはなんですが、G級ハンターであれば平然と支払える程度の金額です」

 

 

 一杯だけならな…。んじゃ、それお願い。

 

 

「かしこまりました」

 

 

 ミーシャもどう?

 

 

「興味はあるけど…自力で払えるようになってから………いえやっぱり一口だけ」

 

 

 おk。…む、おお……これは確かに…ちょっと飲んだだけで、こうまでクラッと来るとは…しかし気分はとてもイイ。

 

 

「私も失礼して……これは…くるわね。大丈夫? 飲める?」

 

 

 飲む飲む。確かにキツいが、これは飲まなきゃ勿体ないだろ。うーむ、夢見心地とはこの事か。

 

 

 

 

 …その後も暫く駄弁りながら飲んでたが、流石に頭がクラクラしてきた。ハンターボディでさえ効くとはなぁ…。座ってれば、基本的に何杯飲んでも酔いもしないし、トイレに行く必要すらないと言うのに。

 

 

 …で、その後の会話だけど…覚えてる限りで記そう。もっとも、この通りに話が出来ていたかは定かではないが。

 

 

 

「ところで、さっきの話だけど…霊力の習得って、何か効率のいい方法があるんじゃないの? フラウさんが一晩で会得したって自慢してたわよ」

 

 

 あー…あるにはあるなぁ。あんまりオヌヌメできない手法だけど、会得するだけならなー。

 

 

「あら、どうして?」

 

 

 女の人にコレを積極的に進めるのはどうかと思うし…会得できたとしても、どっちにしろ操作の為の訓練が必須だし…。他にも、リンクバーストって手もあるにはあるし…安全性が保障できんけど。

 それに、これをやったら……色々道を踏み外すからなぁ…。

 

 

「それでも、圧倒的な近道ではあるんでしょう? 私は猟団の為にも、それを会得する必要がわるわ。協力してもらえない?」

 

 

 …………協力……はする…けど、したくない…。

 

 

「…どうして? 私の事が嫌いなの? フラウさんは抱けて、私は抱けない? あなたがG級試験に行っている間に聞いたわ。何が切っ掛けで力を得たのか。それを鍛える為に、貴方にどんな事をされたのか。それが切っ掛けで、マオと3人で飲んだ時の事も思い出した。ショックだったけど、覚悟も決まったわよ。打算が無いとは言わない。手に入りそうなものが掻っ攫われたヒステリーが無いとも言わない。それも私は、あなたと」

 

 

 ミーシャを抱くなら……抱く為に抱く。霊力なんかの為に抱かない…。

 

 

「っ…」

 

 

 あと…酔っぱらわせてそんな告白で迫られても困る…。

 

 

「うぐ」

 

 …飲み過ぎた。そろそろ…行こう。家でもうちょっと飲もうか…。

 

 

「………はい」

 

 

 

 

 と、こんな塩梅だったと思う。

 そのまま料金を払ってバーを出て、酔い覚ましがてら………三歩下がって歩くミーシャの手を引いて、上昇していく体温を感じながら俺の家に向かっていた訳だが。

 

 そろそろ俺も頭が冷えてきて、ミーシャが最初っからこのつもりだったと理解して。

 

 

 

 

 そんで、もう一波乱あったんだよなぁ。

 

 



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261話

ニーアオートマタ、A2さんに会った辺りで止まってます。
レベル50と戦ってメッチャ時間かかったんで、強化を考えている所です。
金や資材が無いもんで、アイテム売ってたら魚が結構な値段で売れる事に気が付いた。

釣りに嵌る。



…違うよ?
釣り中に透明なナニカに腰かけているB2をカメラを動かせば下から覗き込める事に気付いたからじゃないよ?
動いている間にチラチラ見えるのもそそるけど、こうやってじっくり見上げるのもいいなぁとか思ってないからね?

尚、その直後に仁王をプレイすると色気の無さで泣けてくる。


HR月

 

 

 

 俺の家が近づいてきて、ミーシャの頭がソッチ関係で一杯になっていい塩梅に(見ているだけで愉悦できるくらい)一杯一杯になってきた頃、前方から小さな影がダッシュで近付いてきたのが見えた。

 ぶっちゃけアイルーだ。メゼポルタ広場では珍しくもないので、そんな事よりミーシャをどう料理しようかと真剣に悩んでたんだが……見覚えのあるアイルーだった。

 

 と言うか、俺の家のお付きアイルー。正宗の両親である。…ずーっと描写が無かったけど、ちゃんと世話されていたんだよ?

 いつになく慌てているサムネ夫が、俺に駆け寄ってきた。

 …正直、雰囲気壊されると言うか、肉欲の前には大抵の事は放り出す俺だから、「面倒事持ってくるなよ…」なんて心中で思っていたんだが。

 

 

 

 …想像以上に厄介だった。

 

 

 俺の家にマオが訪ねてきていた、と言うのはいい。ミーシャと事に及ぶつもりだったが、それは俺とミーシャの都合であり、マオは知る由もないだろう。

 …でもな、どうしてよりにもよってこのタイミングで、頭痛と目の痛みの発作が再発してるのさ。

 

 

 

 …何より戦慄したのは、真っ赤っかだったミーシャの表情が、別の意味で真っ赤になって、「やられた!」って顔になった事だけどな。

 

 

 とにもかくにも、放っておく訳にはいかない。先日見たマオの霊気は、妙な陰りを帯びていた。アレが魂、脳に何らかの影響を与える可能性を考えると、とても楽観視はできなかった。

 事実、酔いを吹っ飛ばして駆けつけて見たものは、恐らく先日の発作とは比べ物にならないくらいの苦痛に苛まれているであろうマオ。

 

 

 何とか痛みだけでも紛らわせようとしたが、まるで効果が無い。 

 何故? 暗示にはリラックスした状態や、精神に入り込める隙間が必須とは言え、全く効果が無いのは解せなかった。痛みの為とは言え、健全な状態でない以上、暗示をかけられるだけの余地はある筈なのに。

 

 

 

 ……暫く調べ、真相に思い当たったのは……マオの口元が、苦痛で歪みながらも僅かに笑っているのを見た時だった。そして、ミーシャの「やられた!」って表情…。

 

 

 

 

 正直に言おう。これ程、女が怖いと思った事は無い。一番恐ろしいのは、これでもまだ序の口なんだろうって事だよ。

 と言うか言っちゃなんだが、こうまで突っ走るとは本気で思わなかった。

 

 

 何が何だか分からないって? 

 …簡潔に言おう。この発作、半ば以上マオが意図して起こしたものだ。

 何の為にって?

 

 

 俺と既成事実を作る為だよ。

 

 

 己惚れ、自意識過剰だったらどれだけ良かったか…。これ、マオ自身が認めた事なんだぞ。

 痛みを抑える為の暗示が効かなかったのは、マオ自身がそれを強く拒絶していたからだ。この症状をどうにかするには、先日以上に強力な施術をしなければならないのだ、と主張するように。事実、あの暗示で駄目なら、俺にはもう最終手段と言うかいつもの手段しか残ってない。

 ミーシャは正攻法(酔い潰して事に及ぼうと言うのは正攻法かはともかくとして。あの時進められた酒、軒並みレディキラーじゃん…)で来たが、マオがこの手の搦め手を使うのはちょっと意外だったな。

 

 

 背後で一体どんなやり取りがあったのか、半ば酩酊状態で聞いた「フラウとどんな事をしたのか聞いた」と言う発言に危機感を覚えながらも、とにかくマオの治療を最優先とした。放っておくとガチでヤバいし、自業自得と割り切って捨ておいても、気になって仕方がない。流石にこれを放置してミーシャと、なんてのはな…。

 ミーシャは…このまま帰すのもなんだが、家で待たせても色んな意味で気まずい。どうしたものかと悩んだ結果………開き直る事にした。この際、鬼畜に徹するのが、俺にとってもマオにとってもミーシャにとっても最善(笑)の結果になると思う。

 サムネ、ミーシャの部屋にコップ置いといて。

 

 

 マオの治療がどうなるか気になるだろうし、今日は泊っていけ。

 

 そう伝えると、こっそり歯を食いしばりながら頷いた。これ、放っておいたらどっちにしろ猟団ブレイク待ったなしですよ。信頼されている猟団のトップと、実質副長が男を巡って刃傷沙汰…。今夜中にカタを付けねば。

 自室の隣の部屋を貸す。

 

 俺はと言うと、本格的に目の痛みが増してきたらしいマオを部屋に連れ込み、ベッドの上に放り投げた。

 

 

「……病人に、酷い扱いだ…」

 

 

 自分から病気になるような阿呆には、こんな扱いで充分だ。ったく、何で俺みたいなのにそこまで執着したんだか。

 女の意地って奴か?

 

 

「…さぁ、な。何分、こういう…感情は初めてで、自分でも分からない…。悪いとは、思っている…」

 

 

 誰に? 俺に? フラウに? …ミーシャに?

 …最後のだけは、口にも出来んか。

 

 さて、これから治療を始める訳だが……何をするのかは理解してるな? 先日のアレの比じゃないし、マオも色々な物を無くす事になる。具体的には純潔とか。

 

 

「……楽しみにしているよ」

 

 

 ったく……。それじゃ始めるぞ。ただし、真っ当なハジメテになるとは思うなよ。

 尤も、毎晩毎晩自分で気持ちよくなってるマオには、望むところかもしれんがな。

 

 

「な、なに!?」

 

 

 霊力の流れと量で、毎日訓練しているのが見え見えなんだよ。マオの場合、霊力を強くする事じゃなくて、快感を得る事が目的みたいだけどな。

 大方、先日の治療の時の感覚が忘れられなかったんだろう? 再発を起させない為の訓練という大義名分を持って、新しく得た力をオナニーに使った気分はどうだ?

 

 

「それングッ!?」

 

 

 何か反論する前に、唇を塞ぐ。唾液を纏わせた舌で口内を掻き回し、霊力を含んだ息を思いっきり吸い込ませる。…これで、多少は痛みもマシになったろう。普通なら、これだけで治せる程便利なものじゃないんだが…。

 

 

「んっ、むぅ……は、ぁぁ…」

 

 

 ファーストキスだったろうに、1分もしない内に自分から舌を絡め出すマオ。キスを終えると、続きを強請るように突き出された舌が追いかけてくる。その先端を軽く吸ってやると、ブルッと体を震わせた。

 

 

「…もう痛みが引いてきた…。凄い効果だな」

 

 

 霊力の扱いに慣れてないマオが、暗示なんて不確かな手段で自傷行為をしようとしたって、大した効果がある訳ないだろ。それで発作を再発させた執念には背筋が冷えるが、慣れた奴なら内側の力の流れを掻き乱すだけで対処できるよ。

 増して、目的が叶って、自分を傷つける必要が無くなったんだからな。

 

 さて……さっきも言ったが、真っ当なハジメテになるとは思っておるまいな?

 何考えてこうしたのか、背景で何があったのか、徹底して吐かせるからな。

 

 

「……つまり……くっ殺?」

 

 

 いい度胸しとるわ。さて、本格的に始めますかね。

 

 

 

 

 

 

 何はともあれ、服を剥かねばなるまいて。服の下に手を滑り込ませるのもイイもんだが、やっぱりまずはマオの全てを見たい。

 野暮ったく見える真っ白な私服を……脱がすんだが、まず上より下だ。マオやミーシャの場合、ズボンを先に脱がすべきだと、なんか幾千万の英霊から囁かれているよーな気がする。

 

 

「…ズボンから、か…?」

 

 

 想像していた手順と違った為か、マオが戸惑いの声を漏らす。が、配慮してやる必要はない。これは自傷行為を計画的に行った、オシオキでもあるのだ。

 露わになった生足が、実に艶めかしい。問答無用でむしゃぶりつきたくなったが、我慢我慢。もっと盛り上げて、焦らして、狂わせないとオシオキになるまい。

 

 内腿を指先で軽く撫でてやると、足が緊張で強張った。掌で撫で回しながらゆっくり秘部に近付いていく。性感を探し出し、それに沿って霊力を微弱に流し込んでやった。これで、指が離れても、そこがフェザータッチで弄られているような感触が残る。

 

 くすぐったさで身じろぎしようとするマオを、上から抑え込んでキスをする。……指先に濡れた感触。確認するまでもない。たったこれだけの行為でも、マオの体は既に準備が整っている。…自傷の為の霊力が、行為の為の霊力にそのまま摩り替ったようだ。元はオナニーに使う為に練習してたみたいだから、そんなに不思議はないかな。

 

 思っていたよりも反応が良かったので、愛撫を足から尻に移す。…ハリのある、鍛えられたいい尻だ。撫で回す動きの中に、筋肉を解すような揉み方を入れてやると、一瞬の硬直の後に、女性特有の柔らかさがにじみ出てくる。

 キスを止めて、仰け反る首筋に口を落とす。

 

 

「んっ……は…なんだか、もどかしい…」

 

 

 そりゃそういう風にしてるからね。一舐めして唾液を塗り付けると、それを唇で広げるように愛撫する。

 その間に、片手でマオの上着のボタンを外していく。

 んー…尻を撫でている間に触れた下着の感触からして…ひょっとしてこれは?

 

 上着の前を開けさせると、そこには紺色のインナーが。

 ……あの、スク水にしか見えないんですが。

 

 

「すくみず? …上等の物を準備してきたのは確かだが、これは普通のインナーなんだが…」

 

 

 スクール水着なんて単語、この世界には無いか。

 つまり…マオは日々、装備や私服の下にスク水を着ていたと。これは滾るな…。日中でもセクハラしたくなってくる。よし、されて悦ぶように調教しよう。オシオキなんだし。

 

 うむ…直揉みに勝るもの無しと思っていたが、スク水の上からというのもいいものだ。マオのおっぱいの柔らかさと、スク水特有のザリザリした感触のコラボが素晴らしい。

 コスプレ遊びは結構やったが、これはやってなかったもんなぁ…。

 しかもマオ、野暮ったい服だと分かりにくいけど、かなりの巨乳。スク水には貧乳こそ、という意見もあるが、実物を前にすればそんなモン吹っ飛ぶわ。どんな理想論より、目の前にある現物こそが至高である。

 

 このまま楽しむのもいいんだが、これって一応治療だからね。脱がさないとね。……言うまでもなく半脱ぎだがな。

 スク水をずらして……おお…美麗おっぱい…。

 

 

「…あまりまじまじと見ないでくれ…。流石に恥ずかしい。…その、結構自信はあるんだが…どうだろう?」

 

 

 陳腐な表現になっちまうが、極上。自信どころか、品評会に出したら絶賛されるよ。ま、他の誰にも見せないけど。

 触れるよ……うん、見た目を裏切らない柔らかさだ…枕にでも出来たら最高だろうなぁ。思うさま愛でたいところだけど、まずは治療からね。

 撫でるように、スーっと。

 

 

「んっ……何と言うか…羽箒で撫でられている気分だ…。辛くはないんだが、もどかしくて…」

 

 

 これはまだまだ準備段階。心配しなくても、以前と同じように声も使うよ。

 あの時は、霊力伝達の為に耳だけ舐めたけど……今回は徹底的にヤるからな。それじゃ、まずは失礼して…。

 

 

「んっ……あ、さきっぽ…」

 

 

 乳首prpr。舌の先端で突くように唾液を塗り込んで…乳輪をなぞるように。上目遣いでマオを見ると、羞恥と興奮で真っ赤になった顔で見返してきた。自分が何をされるのか、興味津々のようだ。

 ご要望にお応えして、見た目にも分かりやすい行為をやったりやらせたりしてやりたいのだが(具体的には、形が変わるくらいにモミモミしたり吸い付いたりパイズリさせたり)、あくまで下拵え……じゃなかった、お仕置きの準備なのだ。

 

 まぁ、それでも誰にも触れさせた事のない部分を愛撫されているというだけで、マオにとっては十二分に興奮の種だったらしい。同時に、体中を撫で回した指と霊力により、マッサージのような効果が発揮されている。

 程なくして全身の強張りは消え、不安を忘れ去り、送り込まれる快楽に酩酊したマオの姿があった。

 力が抜けきってだらしなく横たわっていると言うのに、臭い立つようなフェロモンを撒き散らしている。生娘とは思えないその雰囲気は、マオの霊力が性感を得るために酷使されていた結果だろう。マオの性根に、どうしようもない程のメスの本能が根付いてしまっている。

 

 弛緩しきった体で、マオは俺を求めてくる。両腕を差し出して、抱いてくれとでも言うように。

 腕の間で、完全に上向きになった乳首と乳房が、唾液の跡で光っている。唾液の跡があるのはそこだけではない。ゆっくりとインナーを剥ぎ取りながら、マオの体中に舌と指を這わせた。性感がある場所も無い場所も。

 ただ一つ、股座だけが例外だった。まだそこには触れていない。

 それでも、そこを犯しきっている悦楽の強さは、垂れ流される愛液の量を見ればすぐに分かる。

 

 このまま正面から抱き合って貫けば、マオはもう二度と離れられないくらいに、俺に傾倒するだろう。

 

 

 

 

 …頃合いだな。

 

 マオ、これから『治療』の最後の段階に入る。覚悟はできているな?

 

 

「…ああ。早く、早くしてくれ。体が火照って、もう待ちきれないんだ…」

 

 

 『治療』というのを建前として、交わる行為の事だと思っているんだろう。そりゃそうだ、誰ってこの状況ならそう考える。俺だってそう考える。マオ本人にはお仕置きだなんて一言も言ってないし、そういう雰囲気だって出さなかった。

 実際、交わる為の行為というのは間違ってない。

 

 

 

 

 

 

 ただし、マオが想像しているような愛を囁き合うような交わりじゃなく、背景すっ飛ばして即R-18展開になるような抜きゲー風味だがな!

 

 

 

 まずはマオに声をかける。霊力が籠った声、たった一言でいい。

 『達しろ』というだけで、充分だった。

 

 

「え……あ、は、ああぁぁぁぁ!?!!?」

 

 

 マオの全身が痙攣する。しかし、これではまだ軽い方。声に籠めた霊力も、そう強くなかった。

 

 

「あ、は…い、今のは…」

 

 

 よーく覚えてるだろう? マオが大好きな、目の治療をした時にかかった暗示の感覚だよ。尤も、今度は全身で達しているけどね。

 ほら、指パッチン。

 

 

「…っ、い、ひっ…」

 

 

 パチンパチンパチン。素晴らしき彼のような勢いでパチパチ鳴らす(踊ってはいない)と、その度にマオの体が痙攣した。

 

 

「な、なんっ…ひっ…で…っ」

 

 

 こんな事しなくても直接抱けばいい? そうだな、俺としてもそっちの方が嬉しい。

 が、忘れてないかねマオ? そもそも何でこうなったのか。オシオキの時間だ。

 

 

「っ、そんな…」

 

 

 一番オシオキされるべきは俺だという天の声は無視する。

 さてマオ。知っての通り、マオは全身に俺の唾液やら霊力やらが残っている。暗示の時に、霊力を通しやすくする為に、そうしたようにな。

 その上で…俺が声をかけたら、どうなると思う?

 …考えるまでもないよな。ついさっき、命令一つで、指を慣らす音だけで、はしたなく潮を吹いたから、文字通り体で知ってるよな?

 

 

「………ぁ……」

 

 

 見せつけるように、声を出そうと、喉と口に霊力を込める。

 

 

「や、やめろ…やめてくれ………普通に、抱いて…」

 

 

 感じろ。

 

 

「っっっっ…!」

 

 

 心配するな。質問に答えれば、ちゃんと抱いてやるさ。俺だって、マオを無茶苦茶に犯してやりたいんだから。

 そうだな、まずは……うん、やっぱ定番はコレだな。

 

 週に何回、自己催眠オナニーした? 霊力修行じゃなくて、オナニーだ。

 

 

「っ……! まい、にち…」

 

 

 ほう…一日の回数は?

 

 

「…………すくな……くとっ…も……」

 

 

 うんうん。抵抗しようとしても無駄だよ。体全体が、俺の声に反応してる。絶頂を押さえ込む事もできないだろう?

 さぁ、恥ずかしい秘密を告白するんだ。

 

 

「さん…かい…」

 

 

 霊力でする以外に、何かした?

 

 

「っ…! お…まん、この………入り口を…触りながら、したっ…」

 

 

 ふん、霊力修行は建前にもならず、本当にオナニーだったんだな。スキモノめ。

 ちゃんと答えはしたから、ちょっと触ってやろう。ほ~れ、脇の下をコチョコチョ。神経が集まってる所だからな、もどかしいだろう?

 

 

「~~~~~!!!!」

 

 

 さて、それじゃ本題だ。マオが自分の意思で、発作を再発させた事は分かってる。どうしてこんな事をした?

 

 

「っ……」

 

 

 話せ。でないと、これ以上は何もせずに、一晩中このままだ。

 

 

「それはっ……発作が、起きればっ………今度は、抱いて…もらえると…」

 

 

 犯される為に病気になるとは、随分な変態じゃないか。そんなに俺の声が忘れられなかったか。

 ミーシャは真正面から酔い潰して口説きに来たのにな。なんでこんな手段を取った?  

 

 

「……フラウ殿が…」

 

 

 フラウ…ああ、そういや俺がG級試験に行ってる間に、盛大に惚気られたってミーシャが言ってたな。

 何だ、フラウに対抗心でも燃やした………いや、発作が起きて俺に看病された時、ちょっと口元が笑ってたな。

 

 

「っ」

 

 

 …急所か。察するに……『先に貰うぞ』か? いや貰われるぞ? 喰われるぞ?

 

 

「……そうだ。フラウ殿だけ…ではなく、私はミーシャにも…対抗心を、持った」

 

 

 観念したように、マオが喋り出した。これまでのように抵抗ようとしてない為か、口調も滑らかだ。

 涙が滲んでいるのは、今も体が霊力に嬲られている為か、それとも知られたくなかった本心を暴露しようとしているからか。

 

 

「私は……自分の女らしさに、自信が持てない…。ミーシャのように洒落た事もできないし、ファッションだって分からない…。それでも、君と結ばれたかった。ミーシャが君と狩りに行った事や、思い出を話す度に心が濁るのが分かった。…そうしている内に、思いついたんだ。霊力は私の意思を強く受ける、と君が言っていたのを思い出した。だったら、私の意思が強ければ、また発作が起きる。そうすれば、今度はもっと強い治療をしてもらえる。ミーシャよりも先に、抱かれる事が出来ると…そう考えたんだ」

 

 

 …随分思い詰めてたようだな。女らしさに自信が持てない、ねぇ…。アンタが言うと、世の女性達の7割以上がガチギレしそうなもんだが。

 まぁいいさ。自信が無いというなら、付けさせてやろうじゃないか。マオの『女』が、どれだけ俺を昂らせるのか、コイツで教え込んでやる。

 

 

「…っ…」

 

 

 目の前に突き付けられたナニに、少なからず恐怖を覚えたらしいマオ。ガッチガチだからね!

 しかし、体は本能的にコレを欲している事は丸分かりだった。

 

 マオに覆いかぶさると同時に、体をうつ伏せしてやる。後ろ目で不安そうな顔をされたが、構う事は無い。これはオシオキなのだから。心配しなくても、ちゃんと犯して抱きしめるさ。後ろからだけどね。

 

 

 さぁ、集中しろ。自分の体を人質にとって、親友よりも先に女になろうとするマオに、オシオキの種付けをくれてやる。

 先端で入口付近を擦ってやると、今更逃げようとするかのように体をくねらせる。行為に抵抗があるのではなく、未知の感覚に怯えているんだろう。そういう風に弄ったし。

 

 腰…と言うよりは尻肉を鷲掴みにして動きを封じ、圧し掛かる。両足を大きく広げさせ、腰を進めると粘着質の音がした。

 ゆっくりと前人未踏の肉を抉る。

 

 

「っ…あ、はっ、あぁぅ……ひ、ひろがるぅ…」

 

 

 初めてとは思えないくらいにスムーズに、肉棒が媚肉に飲み込まれていく。マオ自身も、痛みや違和感はなく、既に快楽だけを感じているようだ。

 暫く進むと、抵抗に突き当たる。ハンターなんて商売をやっているのに、処女膜がちゃんと残ってるんだなぁ…と妙な感慨に耽りつつ。ちょっとずつ体重をかけた。

 

 

「っ……!」

 

 

 膜を破ろうとするのには、流石に痛みを感じるのか、マオの口元が強く食い縛られた。

 処女膜が無くなる感触を味わわせてやるのも一興だが、今後二度とおかしな真似をしないように、そしてミーシャとの確執を無くす為には…。

 

 腰を強く突き出す瞬間、耳元で囁いてやる。

 

 

 

 

 

 自信の有る無いも、思いつめた謀略も、纏めて愛する。お前は、俺の物だ。

 

 

 

 

 マオの目が見開かれ、涙が溢れ、口を開こうとした瞬間。一気に処女膜を突き破った。

 

 

「っか、あっ、ああっ、あ、あああ!!!」

 

 

 いいぞ…声を抑えるな。この肉欲を貪れ。ほら、奥まで蹂躙してやる。

 ナカはもう愛液の海だな。初めてとは思えないくらいにスムーズに動けるのに、締め付けは生娘…ああ、いい女だよマオは。

 

 ピストン運動に合わせて、結合部のすぐ上で、菊穴が閉じて開いてを繰り返している。今すぐにでも弄り回してやりたいが、今のマオにはそれを感じ取るだけの余力はないだろう。

 今は、結合部の動きだけでマオを掻き回す。一際長いストロークを繰り返すと、強引に肺から空気が押し出され、衝撃と快楽でマオの背筋が弓なりになる。思わず舌を這わせたくなる程美麗な背筋だったが、後背位ではちょいと難しいな。

 代わりに、脇から腕を回して、マオの胸を遠慮なく揉みしだく。下準備の時とは違い、乱暴な手付きだったが、今のマオには歓びの元にしかならない。手形が残る程に強く握ってみれば、甲高い声をあげて、締め付けを強くして悦んだ。

 

 程なくして、ずっと続いていた締め付けが、更に強くなる。絶頂の合図。

 ただでさえ初めてのマオに、この快楽を抑えて絶頂を堪えろ、というのは酷すぎるか。

 

 

 さぁマオ、お望みの一番キモチイイ瞬間が来るのが分かるよな?

 

 

「わかる! くるっ、おおきいのがくる! じぶんでするより、ずっとすごいのがくるぅ!」

 

 

 いいぞ、思いっきりイケ。

 でも俺はまだ止まらない。イッた直後の敏感になったマンコで、俺が射精するまで、いや射精した後も気が済むまで、ずっと受け止めろ。

 気絶する事も許さない。だって、これはオシオキだもんな? どんなに凄い事をされても、マオに拒否権はないものなぁ?

 

 

「はい、ありませっ、ん…! だから、もっと愛して、抱いて! 刻み込んでくれ!」

 

 

 いじらしい…いいね、今のはグッと来た。が、まだまだ射精には遠いんでね。まずは一発、そら派手にイけ!

 

 

「っ…………!!! 、  、、かっ、はっ、あっぁぁ!」

 

 

 命令通りに、マオは全身で悦びを表現しながら、生涯で初の絶頂に叩き込まれる。

 しかし余韻に浸らせてなどやらない。続けざまに連続で突くと、リミッターが外れたように締め付けてきた。

 

 腕の下で、動くに動けずに快楽に溺れるマオを見て、程なくして俺もこみ上げてくる。

 お待たせしました、種付けの時間です。

 

 

 

 そして、マオの更なる快楽地獄への入り口が開かれる。

 

 

 

 なぁマオ。まだ体中に、俺の力が残ってるのが分かるだろう? 感じろ、と一言言っただけで、全身が快楽に浸されて溺れただろう?

 射精と同時に、もっと別の命令をしたらどうなると思う?

 

 例えば…。全身が性器になれ、とかね?

 

 …聞いてる余裕はないみたいだな。でも、容赦する事は無い。

 さら、体の内側も外側も、俺の霊力に埋め尽くされて、犯されろ。

 

 

 マオの体に残っている霊力は……全部俺のチンポになれ。

 

 

 命令と同時に、思いっきり霊力と精子を、マオの最奥に送り込んだ。

 

 

 その後のマオは、もう言葉を発する事すらできなかった。体中に残った…そう、敏感な性感帯は勿論、まだ未開発の手足や脇、尋常な手段では触れる事すらできない内臓、果ては脳に残っている霊力全てが、メスを犯し善がり狂わせる為の力に成り代わる。

 呼吸音の一つすら、既にマオにとっては脳と耳を犯す性器に等しい。

 まともに理性が残っている筈もないが、もしもマオの感覚を説明させたとすれば、恐らく大勢の俺に絶え間なく、同時に輪姦されているようなイメージなのではないだろうか。膣も尻穴も喉もチンポで塞がれ、両手両足で扱き、体の至る所に肉棒を押し付けられ…それを拒絶しようと考える事すらできない。

 マオに出来る事は、快楽に溺れて沈む事と、俺に蹂躙される事だけ。

 

 

 全身を犯されるマオに、最後のトドメをくれてやる。

 

 

 もっと喘げ。折角ミーシャが、隣部屋で聞いてるんだからな。

 

 

 …返事は、体だけが返してきた。最後の力を振り絞ったかのような締め付けで、俺も最後のブレーキが決壊する。

 マオの失神と、俺の射精、どっちが早かったのかは分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 …さて、ヒジョーにやり過ぎた感はあるが、オシオキだからね。

 マオはビクンビクンと痙攣して気絶したままだが、命に別状は無い。霊力も、好き勝手犯しながら流れをしっかり整えたし、循環させた事で体力だって回復している。マオが起きれば、体と精神力は疲労困憊しているのに、性欲と体力は滾々と沸いて来るという、実に抜きゲー仕様な状態になっているだろう。

 

 …マオをこのまま放っておくわけにもいかないだろう。朝までには目を覚ますだろうが、あらゆる液体でスゴい事になっている。マオだけじゃなくて、俺の部屋のベッドが。…サムネ夫妻には、洗濯せずに新しいのを購入するよう伝えておくか。

 な・の・で…ここではない部屋で、マオのお世話をしないといけないよなぁ?

 

 

 ベッドの隣の壁を軽く叩いて、霊力付きの声を出す。

 

 

 ミーシャ、鍵を開けておけ。

 

 

 …ドタンバタンと音がする。予想通りに上手く行った事を確信し、ドロドログチョグチョのままのマオを抱き上げた。お姫様だっこ…と考えたが、この際だから徹底的にと考え、眠ったままのマオを後ろから抱きかかえて再度挿入。マオは艶っぽい寝言を漏らしたが、眠ったままだ。

 裸で繋がったまま部屋の外に出て、隣の部屋…ミーシャの部屋へ。ドアノブを回すと……全く抵抗なく、扉は開いた。

 

 中には、能面のような無表情……になっているつもりらしき、赤面しているミーシャ。とりあえず、刃物その他は持ってない。

 

 

「…とりあえず、その恰好で人前に出るものではないわ。どう見ても、凌辱の限りを尽くした犯罪者にしか見えない」

 

 

 実際、凌辱したようなもんだしな。ソファー借りるぞ。マオを抱えたままってのも何だし。…ヤりながらこっちに来ておいてなんだがな。

 

 

「本当にね。…随分と辛辣にしたみたいね。マオの本心まで暴き出して…何のつもり?」

 

 

 ミーシャに聞かせるつもりだった…と言えば?

 

 

「大きなお世話。マオが考えている事なんて…具体的な方法はともかく、思いつめてた事なんて知ってるわ。マオだって、私が貴方を狙って焦っていた事を知ってる。…だから、こんなに思い詰めたんでしょうけどね」

 

 

 そっかい。それじゃ、もう一つの目的の方も無駄だったかね。

 マオは搦め手を使って抜け駆けした。ミーシャが目を付けていた俺を、横から掻っ攫おうとした。その結果が、この有様だ。

 

 

「…もう充分に罰は受けたから、これで手打ち…と? それこそ大きなお世話よ。この手の事は、やった者勝ちでしょう。マオは確かに搦め手を使ったけど、それも手段であるのには間違いないわ。………まぁ、スッとした…と思わなくもないけども」

 

 

 スッとした……けど、悶々としている。だから、ずっと聞いていたんだろう? 古典的に、コップを壁に当てるなんて真似までして。

 

 

「気付いて………たから、壁越しに声をかけてきたのね。…そう、最初からその為の仕込だったの」

 

 

 本当にやるとは思わなかったけどな。マオを盛大に啼かせて、ミーシャの好奇心を煽るつもりだったが…。

 その様子だと、随分と入れ込んで聞いたらしいな。

 本来は…いや、上手く行っていれば、マオではなく自分がそこに居る筈だった。自分の居場所を掻っ攫っていたマオに対する感情を抑えきれず、感情を持て余しながら聞いていたら、途中から思ってたのと盛大にズレた。睦み合う舞台は拷問と聞き間違うような行為に化け、そのくせマオは確かに悦んでいる…。

 

 

「………それで? 結局、私の部屋に来て何がしたいの。しかも…その、そんな恰好で」

 

 

 うん、マッパの上にドロドロで、更にはそそり立ってる状態で申し訳ない。で、何をするもなにも…決まってるだろう。

 

 

「この……マオのついでに私って? 舐めるんじゃないわ…!」

 

 

 ついでなもんかい。纏めて喰らうのは確かだけどな。

 舐めてなんぞいるものか。心を込めてprprするとも。

 そういうセリフは、盗み聞きしながら自分を慰めてた奴が言うもんじゃない。

 ホレ。

 

 正面から無造作に近付き、胸を掴んで(揉みながら)ベッドの上に押し倒す。

 

 

 こうなるのが目に見えてたのに、素直に鍵を開けて招き入れた。押し倒されているのに、助けを求めようともしない。

 こうなった時点で…いや、もっと前から。

 

 傲慢だろうが滑稽だろうが、はっきり言おう。

 

 

 

 ミーシャ。お前は俺のものだ。

 

 

 

 唇にキスを落とす。抵抗は無かった。

 ただ、まだ務めて無表情であろうとするミーシャの態度が、この期に及んで(無理もないが)納得していない事を示している。

 

 

 

 まぁ、納得させるけどな。寝床の行為で、ロクな経験もない生娘がオカルト版真言立川流に耐えきろうなんぞ無謀の極みだ。堕ちない美しさってのもあるけどね。

 ソレをドロドロのデレデレに溶かすのが房中術の本懐だよ。

 

 

 ミーシャの唇に吸い付き、時に舐め挙げる。歯茎に舌を這わせ、弱い性感から徐々に引きずり出していく。舌を突き込む事は、まだしない。

 抑えつけた体を離し、片手でボタンを外す。もう一方の手は、首筋や耳元を擽るように愛撫した。

 

 思わず声を上げそうになったのを、噛み殺すミーシャ。が、それに合わせて秘部をピンと弾いてやると、シャックリするような声が出た。

 続けざまに、掌で股間をグリグリと圧し潰すように弄る。

 

 

 …派手に濡れてるな。

 

 

 耳元で囁かれた一言に、羞恥で顔を歪めた。掌の動きはそのままに、指をそれぞれ動かして、足の付け根や会陰近辺を軽く刺激する。

 自分でも弄った事のない部分に触れられ、未知の感覚に思わず動き出そうとするが、まだ頑なにそれを拒む……が、そんなの指先一つで突き崩せるんだよねぇ。

 

 

 股の付け根の窪み。

 

 

「っ」

 

 

 秘部の入り口。

 

 

「……っ」

 

 

 オマメさん。

 

 

「いっ! …!」

 

 

 おケケをちょっと引っ張るのもアリ。

 …どうやら、彼我の戦力差をようやく認識できるようになってきたらしい。どんなに歯を食い縛っても、体が反応してしまう。

 うむ、これも悔しい…でも(ryだな。

 

 やろうと思えば、幾らでも付け込める隙はあったし、理性を無くしたケダモノ状態に持っていく事もできた。でもしない。

 ミーシャをドロドロのデレデレにする為に。

 

 

 単発で与えていた刺激を、若干弱めながらも長く続ける。快楽で体が弛緩した所に、もう一度唇を塞ぐ。今度は舌を思い切り突き込んだ。

 しかし、ミーシャの舌を絡めとって好き放題に嬲るのではなく、ミーシャが自分の意思で動ける程度に。

 

 長いキスを続け、その間に股間と、あちこちを好き放題に撫で回す。僅かに目を開けてミーシャの表情を見ると、いい塩梅に蕩け始めていた。快楽もあるが、慣れないディープキス(そもそも軽いキスも慣れてないようだが)で酸欠になりかけているのかもしれない。まぁ、キスの幸福感とか頭がボーッとするとか言うけど、実際は大体コレよね。

 頃合いと見て、侵入させていた舌をミーシャの舌に当てる。催促するように2,3度舐めると、戸惑いながらおずおずと舌を動かしてきた。

 張った意地が溶けてきたのか、好奇心や未練が怒りを上回ったのか。

 

 

 ミーシャの舌の動きに合わせ、自分の舌と手の動きを変える。あくまで受け身、主導権はミーシャに。

 どんな風に舌を動かされても、それに巻き付くように舌を絡める。唾液を啜り、送り込み、時には軽く甘噛みする。…主導権渡してないって? いいや、好きに動かしてるのはミーシャだからね。

 実際、ミーシャは動かせば動かすほど、舌を伸ばせば伸ばす程に性感が得られる事に夢中になりつつある。

 体を愛撫されている感覚も、素直に受け入れ初めているようだ。むしろ、それが目的で舌を動かしている節もある。

 

 

 いったん唇を離すと、追いかけるように突き出された舌がチロチロ揺れた。

 人差し指を目の前に突き出してやる。

 

 

「んっ……ちゅ…んむ…」

 

 

 迷いなく口に含み、舌を絡める。…いい塩梅に出来上がってるな。指先を動かして、舌の腹部分や上顎を擽ってやると、嬉しそうに鼻息を漏らした。

 夢中になりつつあるミーシャを正気に戻すように、耳元で囁いた。

 

 

 マオの喘ぎ声を聞きながら、自慰を気分はどうだった?

 

 

 陶酔が一瞬にして醒め、ミーシャの顔が強張った。が、同時に中指を媚肉の中に突き入れ、気を逸らす。

 おあつらえ向きに、一番敏感な部分が浅い所にある。クイクイと指を曲げ入れながら、ミーシャの気力を削って、しかし言葉を促す。

 

 

「みじめ……みじめだったわ…。ほんとうなら、わたしが……そこに、わたしがそこにいたのに…。どうして、マオはあなたにだかれ……て、私は、私は…」

 

 

 でも今はこうして抱かれてる。でも、マオとは違うよな?

 だからミーシャも戸惑ってる。

 

 

「そう……マオみたいに、もてあそばれる……と、おもってたのに……んっ…なんだか…やさしい…」

 

 

 (愛撫や扱いは優しくしてるけど、真っ最中にドロドロとした話を持ち出すのは優しいものなのか)

 そうだ。ミーシャを愛でる。愛する。徹底的に溶かして、俺から離れられない女にする。

 

 ほら、これに触ってみろ。今からミーシャを女にする一品だ。

 手を誘導して触れさせると、熱量に驚いたように一瞬だけ逃げ、ゆっくりと触れてきた。

 

 どうだ? マオはこれに自分から触った事は無いぞ。散々ブチ込んで弄んだけどな。

 

 

「これが……男の人の…。…フルフル亜種に似てるってよく言ってたけど、全然別物じゃない…。比べ物にならないわ」

 

 

 サイズ比で言えば、そらフルフルの方がデカいけどね…。

 

 

「そうじゃなくて…こう、迫力と言うか、力強さって言うか……。触ってもいい…のよね?」

 

 

 おう、まだ噛みつかないからな。(その内神機と融合して、噛みついたり膣の中で舌ベロベロしたりできるようになりそうだが)

 むしろ噛みついても構わんぞ。歯は立てない方が嬉しいが、フツーの人に比べて物理的に頑丈になってっからな!

 

 

「……そ、そういうもの…なの?」

 

 

 人体に鍛えられない場所なんぞ無い。まぁ、俺の場合は使い込んでたらいつの間にかこーなってたとしか言いようが無いが。

 

 

「むぅ……使い込んでるのね………えいっ」

 

 

 爪を立てられた。痛い痛いちょっとだけ痛いというか痛痒い。だがノーダメージよ。

 はっはっは、いつぞやの夢でマーラ様のご加護とかいただいちゃったからな。平気平気。

 

 

「聞いてた話と随分違うわ…。すっごく敏感だって聞いてたのに」

 

 

 俺を基準にしたらアカンよ。色々普通じゃないからね。

 ま、今後一生、触れる機会があるのは俺だけだがな!

 

 

「己惚れないの……。えっと、こう? すればいいのよね」

 

 

 段々落ち着いてきた(性的興奮が治まったんじゃなくて、好奇心に従う余裕が出た)ミーシャは、力加減に戸惑いながらも手をシコシコさせる。

 おうおう、いいぞいいぞ。爪立てられても噛みつかれても平気(多分)なのに、えっちぃ刺激だけは十全に受け取れるって素晴らしいね。

 ほーら、お返しに俺ももうちょっと弄ってあげよう。ほら、入り口付近をクニクニされる気分はどうだ?

 

 

「んっ……な、なんか…異物感…なのにピリピリがキモチイイって言うか…」

 

 

 ほうほう。ほぉら、もうちょっと奥まで行っちゃうぞー。

 

 

「くぅ……うぅ、それなら……えいっ」

 

 

 おう、タマまで握ってくるとは恐れ入る。

 …? あれ、そのまま?

 

 

「…ふぇ? …男の人って、これで喜ぶんじゃないの?」

 

 

 …妙な所でウブだなぁ…まぁいいや。仕込む楽しみが増えた。

 そのまま、タマはあんまり力を入れずに転がしてだな。。んで根元の方は指をこんな塩梅に輪っかにして、こう上下に…。

 

 

「ん………こう?」

 

 

 おお、上手い上手い。テクはこれから教え込むけど、こう情熱的…と言うよりは情念的な手は初めてだな。うぅむ、内面が反映されたみたいにミーシャの手が熱い。

 だから、お返しにこっちもオパーイをナメナメしてあげようねぇ。体勢を変えれば授乳手コキになるんだが、残念ながらそこまでミーシャに余裕はない。授乳手コキは女性の側に慈愛と余裕があってこそだろjk。

 

 

「んっ、う…くぅ…」

 

 

 マオにしたのに比べると、もっと直接的で分かりやすい愛撫。乳房の芯まで揉み解し、弱点を見つけ出して吸い付き、焦らす事なく、過激すぎない刺激を与え続ける。

 時折、軽く抓ったり弾いたりしてやると、ビクビクと背筋を震わせ、スムーズになりつつある手の動きが乱れた。それでも気丈に手首を動かそうとするのが愛おしい。

 

 先にマオに射精した事もあり、次弾が発射されるには少々時間がかかりそうだ(自分の意思で発射ならいつでもできるけど)。

 それまでずっとこれを続けるのも詰まらないので、次のプレイに進む事にした。肢体に手をかけ、ぐるりと回す。

 俺の目の前にミーシャの秘部が、ミーシャの目の前に俺の剛直が。シックスナインで、俺が下。

 

 突然体制を変えられて混乱したミーシャだったが、目の前に我慢汁をにじませた剛直がある事と、自分の一番恥ずかしい部分が俺の目の前にある事だけは直感で分かったらしい。

 咄嗟に足を閉じようとしたようだが、させぬ。首を起こして角度を付けてやれば、閉じようとしたミーシャの太腿に挟まれる形になった。左右から女性特有の柔らかさが伝わり、目の前からは意地を忘れて発情した雌の匂いが漂ってくる。

 

 真っ赤になって硬直したミーシャだが、催促するように剛直をピコピコ動かしてやると、羞恥心を忘れようとするかのように両手で握ってくる。

 が、当然それで忘れさせてやる筈もない。ミーシャが手を上下させる度に、俺の目の前にある秘部に息を吹きかけ、両手で肉を掴んで秘部の中をジロジロと視姦し、肉壁のヒダを一つ一つ嘗め回す。

 抗議するように、両足で俺を押さえ込もうとしているようだが…残念、逆効果です。

 むしろ、そっちがそういう態度に出るなら…おらよっと。

 

 

「キャッ!? あ、……あぅ…」

 

 

 こっちも両足でミーシャの頭を固定し、顔を剛直の目の前に持ってくる。

 経験が無いなりに、何を催促されているのかは分かったらしい。剛直に当たる息の質が変化し、湿り気を帯びている。

 

 

「あ……あーん…」

 

 

 包まれる感触。おお……興奮度合いを示すように、ドロドロで熱っぽい。それを引っ掻き回すのが愉悦なんだけど、流石に初心者にそれをやってもムセるだけだ。 

 悦びが少しでも伝わるようにと、ピクピク動かして、同時にミーシャのナカを舌で抉る。逃げ出そうとする腰を掴んで、怯えさせない程度にゆっくりと啜る。

 

 それに煽られるように、ミーシャの口の動きも段々躊躇いが無くなっていく。実際の所、秘部からの刺激以外にも原因はあるんだけどね。

 何せ、体内に俺のナニを含んでいるのだ。オカルト版真言立川流が、最も効果を強く発揮できる状況である。…いや、下のクチ程じゃないから、2番目に発揮できる状況かな?

 ぶっちゃけ、口に含んでいる時点で性感の刺激が自由自在です。おクチの中気持ちよくて下のクチからドロドロと涎が垂れてきます。

 この状態でおクチを動かすとかナニを言わんや、だ。

 こっちで好き勝手に腰を動かして、天辺まで追い詰めてやりたい衝動を押さえ込みながら、ミーシャの拙い口技を堪能する。

 こっちからは見えないが、多分今のミーシャはひょっとこ状態だろうなぁ。思いっきり噴き出してムセさせてやりたいね。

 

 おっと感じるべきはおクチだけではなかった。膣も俺の舌をキュウキュウ締め付けてくるし、悶えるような動きの為に、ミーシャのおっぱいが俺の腰元付近で潰れて歪んで大層愉快な事になっている。意識しているのかいないのか、自分から擦りつけてくるようだ。

 口と胸で、自慰をしているようなものだ。…どうするかな。このまま一度イかせてやるのもいいかもしれないが、どうせなら…。

 

 口をすぼめてマメに吸い付き、強く吸うと、ミーシャは手を止めて仰け反った。

 これだけでも、軽くイッてしまったらしい。荒い息を吐いて、倒れ込みそうになるところを支え、またも体に手をかけて回転。

 ベッドに腰かけた俺の正面に、向かい合って座らせる。対面座位。

 

 間近で正面から向かい合うと、少し呆然としたようだが、自分から目を閉じて唇を突き出してきた。

 迷わずそれに応えてやると、両腕を首に回して抱き着いて来る。当然、密着する事になるから…まっすぐ上を向いているナニが、ミーシャの腹に押し当てられた。

 

 …さぁ、大人になろうか。

 

 

「………はい…」

 

 

 ミーシャの腰を抱え込み、ゆっくりと角度を合わせ、徐々におろしていく。

 棒が穴に食い込む感触をじっくり伝える為ニ、挿入のスピードはひどく遅い。しかし、それでもミーシャは股間から湧き上がる快楽に戸惑っているようだった。

 無理もない。マオとは違うやり方、徹底した仕込ではないとは言え、生娘の理性を麻痺させるには充分な興奮を注ぎ込み続けたのだ。

 肉を押し広げられる感触は、今のミーシャにとっては快楽の元にしかならなかった。

 

 

「っ…♪」

 

 

 そして当然、処女膜にかかる圧力で生じる痛みも。『痛い』という知識とは食い違った感覚に、ミーシャは戸惑っている。それらをすっ飛ばして楽しんでしまいそうな自分にも。

 それを見て愉悦に歪みそうになる口元を抑え、一言告げる。

 

 行くぞ。

 

 

「……っっっ!!!」

 

 

 突き破る感覚。一気に最後まで貫かれたミーシャの秘部は、全力で剛直を締め付けてきた。この突き破る感覚と締め付けの強さが、処女の醍醐味だよなぁ…。

 俺はそんな呑気な事を考えているが、ミーシャとしては堪ったものではなかったらしい。問答無用で押し入ってきた肉棒は、それこそ子宮に直撃する衝撃を伝え、その全てが性感に変わった。

 それだけで、絶頂するには充分すぎた。

 

 破瓜+初イキとか、普段の俺なら問答無用で責め立てるだろう。が、ここは敢えてそれをしない。

 ミーシャが落ち着くまで待って……いややっぱ我慢しきれないから、ナカでチンピクしてます。

 ナカで俺のが動く度に、経験した事も無い絶頂で目を白黒させているミーシャが、尻と腰をビクビクと痙攣させる。

 

 腰に腕を回して抱きしめ、首筋に吸い付いた。…そのままの体制でいる事暫し。息を整えてきたミーシャがぽつりとつぶやいた。

 

 

「……なにもしないの…?」

 

 

 これ以上は、まだミーシャが辛いだろ?

 

 

「マオにはあんなに激しくしたのに」

 

 

 マオはおしおき、ミーシャは愛でる。何もおかしな所はない。

 それに…ほら、ミーシャが自分からスるところが見たいしね。ほら、腰を動かして。こうやるんだ。

 

 腰骨を掴み、グラインドさせてやる。ゆっくり、ミーシャの好きな部分を探して教えてやるように。

 このやり方では、ミーシャが得られる快楽はそれ程強くない。それこそ、マオを翻弄して追い詰めた快楽に比べれば、雀の涙程のものかもしれない。

 だが、その分戸惑わずに、自分のペースで浸っていられる。

 

 

「んっ……ふぅ……ああ、気持ちいい……これがセックス…」

 

 

 目を閉じ、俺の体に凭れ掛かって体温を感じながら、腰だけを卑猥にくねらせるミーシャ。

 傍から見れば滑稽にすら見えそうなその行為は、ミーシャにとっては至福の時だった。強すぎる快楽で追い詰められるでもなく、弱すぎる種火で炙られ焦らされるでもなく。他の全てを忘れて、肉欲に没頭する。

 暫く目を閉じてその感覚に浸っていたが、ふと思い出したように目を開いた。焦点が俺に合う。

 

 

「んっ…」

 

 

 自分からキス。性に酔って大胆になっている為か、拙いながらも自分から舌を伸ばしてきた。

 徹底的に密着し、赤裸々に互いを求めあう。

 

 

 

 

 

 その姿を、目を覚ましたマオが、情事の痕跡塗れの体で見つめていた。

 

 

 

 

 自分の時は全く違う行為に、呆然自失としているその表情に愉悦を、この後に起こる修羅場を考えて戦慄を感じるが…まだ無視。

 

 ペースとコツが掴めてきたのか、ミーシャのグラインドがスムーズになっている。その動きのおかげで、何処が好きなのか、何処が弱点なのか丸わかりである。

 腰だけではマンネリな気分になる為、両腕と体の動きも教え込む。背中を撫でる手、押し付けられる乳房、メスの匂いと髪の毛から漂ってくる仄かな芳香。オトコを悦ばせる方法は幾らでもある。

 ミーシャは非常に勉強熱心で、教わった技術を次々に試し始める。媚びる為の技術を、自分からアレンジさえ加えながら。

 

 勿論、俺はそれを邪魔する事はしない。素肌の感触を味わいながら、拙い技術が進歩して卑猥になっていくのを感じる以上の愉悦は無い。

 ミーシャも自分から愛撫を行っているという意識が、更に興奮を呼び寄せたらしく、さっきから膣の感触がどんどん柔らかく熱くなってきている。

 

 

「ねぇ…私の体、どう? 気持ちいい…? 私の事好き?」

 

 

 ああ、勿論愛してる。ミーシャの体は極上品だ。朝まで堪能していたいよ。

 

 

 …これなら、そろそろこっちから動き出してもいいか。

 ミーシャ。無茶苦茶にするぞ?

 

 …簡潔に問いかけた一言に、体を震わせて答えるミーシャ。

 

 

「ええ…今度は、貴方が動いて?」

 

 

 先程までのグライドとは異なり、今度は上下に動く。最初は小さく、徐々に大きなストロークに変えていく。流し込む霊力の量を調整し、善がり狂う程ではなく、しかし耽溺するくらいの快感を送り込む。

 一度突き上げる毎に、ミーシャの口から酸素と喘ぎ声が吐き出された。

 

 程なくして、本格的な絶頂の兆候が見えてくる。

 ゆっくりとしたペースの行為が焦れったくなったのか、もっと早いピストンを催促するように動く腰。だが、それを捕まえ、尻肉を左右に広げながら囁いてやった。

 

 

 ミーシャ、マオが見てる。

 

 

「っ…!」

 

 

 どんな気分だ? 抜け駆けした親友の男と、目の前で交わってる気分は。この角度だと、尻の穴まで見られてるな。

 どうした、笑ってやったらどうだ? マオがお前を見て、ほんのちょっとだけ哂ったみたいに。

 

 限りなく黒い愉悦を覚えながらそう言ってやると、ミーシャは物凄く短時間の間に百面相した。羞恥、優越感、焦り、恐怖、何もかも忘れて快楽に逃げ込もうとする衝動、見られる事による興奮……はまだ仕込んでないから無かった。

 結局、最後に残ったのは…羞恥。

 まぁ、そりゃそうだよなぁ。抜け駆けされたとか複雑な感情があったって、こんなシーン見られれば焦りもするし恥ずかしがりもするわ。

 「奪ってやった」って笑えるくらいに、ギスギスした仲にはなってなかったし。

 

 ま、だからこんな事したんだけどね。多少あった蟠りも、お互い様って事で流せる程度に弱体化させたし。マオを殊更激しく弄び、ミーシャを優しく抱いたのも、その落差でミーシャの鬱憤を鎮める為だ。

 その分、マオの心境が負い目も怒りも相まってエラい事になってるだろうけどな…。

 

 

 それよりも今はミーシャである。とりあえずの目的も達成したし、まずはこっちを無力化せねば。

 マオの視線から逃れようとするように抱き着いて来るミーシャを、容赦なく抜き差しする。精神的にも肉体的にも追い詰めているのは俺なのに、俺に抱き着いて来るんだからカワイイものだ。

 …おっ、奥の方の弱点みっけ。突いたら急激に反応が変わる。マオの目を気にして抑えようとしているようだが、意識したって抑えられない所だから弱点なんだよ。

 

 

「あっ、あぅっ、ああ、あっ…い、いぃいぃぃぃ…!!」

 

 

 ほら、イケ!

 

 

「イクっ…!」

 

 

 最後に肺に残った空気を吐き出して、ミーシャは小さな叫びをあげた。尤も、小さかったのは叫びだけで、体の方は全身で絶叫してるけどな。ウネリで俺のナニも限界を迎え、思いっきり濃厚な奴をミーシャの中に噴き出した。

 

 

 

 

 …ふぅ。力尽きて、朦朧としているミーシャをベッドに寝かせる。まだ意識はあるようだが、余韻で動く事もできなさそうだ。ま、全身が敏感になりまくってるから、下手に動くとそれだけでアヒンアヒンだしね。

 とにかく、暫く動く事もできないし、ヤバげな情念も燃えてない。

 

 つまりは……。

 

 

 

 まだ真夜中だけど、おはようマオ。さぁ続きをしようか。

 大丈夫、今度はさっきみたいなのじゃなくて、もっとゆっくりシてやるから。

 

 咥えろとばかりに、目の前にナニを突き出して仁王立ちすると、マオの顔が引きつった。

 

 

 



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262話

ニーアオートマタ、2週目突入中。
…いや、面白いし興味深いよ? 先が気になりますよ?
でもね…。



萎える。


2Bのフトモモが! 尻が! 口元のホクロが! 鑑賞できないとか拷問じゃああぁぁぁ!
9Sのうなじとか見ても俺は得しないんじゃああぁぁ!!
カメラ動かせば見る事はできるけど、余計な男まで見えるし、なんかこう…アングルがだな…。

この鬱憤、外伝にぶつけるしか…いやしかし話が最後まで進んでないし、中途半端な知識で書くのも…現在のプロットも、設定的に問題があるか分からんし…。
何よりやっぱりA2も出したいから、最低でも彼女に何があったのか知るまでは…。

外伝を2つに分ければいけるか…でもそれだと書き溜めが…うーむ…。
でもやっぱり2BにもA2にも「マスター」とか呼ばせたいしなぁ…できれば自主的に。

いっそ先に、クッキングファイターハオの外伝を…しかしそこまで書き溜めもない…。


HR月

 

 

 

 朝起きたら、いきなり左右から鳩尾に一発叩き込まれました。何事。解せぬ。…いや解せるけどさ。

 

 

「…本当にね。随分と好き勝手やってくれたじゃない」

 

 

 そう言うなって。これでも気ぃ使ったんだぞ。放っておくと色恋沙汰で猟団ブレイクとか、本気で考えたんだから。

 

 

「そこら辺は分かっているさ。やらかした当事者だしな…。しかしまぁ、何だな。リア殿とフラウ殿で二股をかけていると聞いたが、立場も稼ぎも狩りの腕も上の筈のレジェンドラスタから文句が出ない理由がよく分かったよ」

 

「まぁ、ね…。一人で相手してたら、絶対体が保たないわ。あの後も、私達を二人纏めて好き放題弄んで」

 

「しかも、片方には優しくして、片方は玩具のように扱って。それが終わったら扱いを逆にしたり、揃って跪かせて奉仕させるし…」

 

 

 そんだけやれば、鬱憤も蟠りも消えざるを得ないだろー? 思いっきり趣味に走ったのは事実だけど。

 いやぁ美味しかった美味しかった。

 

 

「…殴った程度で反省する筈もなかったか。礼は言うけど、感謝はしたくないな…」

 

「やっぱりここは反省の儀の出番かしら…」

 

 

 反省の儀?

 

 

「建物でも樹でもいいから…理想を言えば崖かな…、簀巻きにして逆さに吊るすんだ。3日くらい放置して反省していればそれで良し。反省してなかったらよく回してからまた吊るす。ちなみにミーナの故郷に伝わる仕置き法だ」

 

 なんともまぁカワカミン溢れる故郷ですこと。ところでカワカミンを摂取しすぎると全裸で走りまわってみたりオパーイと叫び出すそうだが、部屋の中ではトランクス一丁、たまに自分で乳首を弄りたく俺はカワカミン禁断症状なんだろうか、それとも単に欲求不満なんだろうか。二人と関係する前にも、リアとフラウを相手にしてたけど、前ループのウタカタでは毎晩フィーバーだったからなぁ…。

 百合厨の人とも多少はいい酒飲めそうだし、行ってみる価値はあるかも。

 と言うか逆さになって回転したくらいで俺が反省する訳ないから、半年経っても多分そのままだぞ。むしろ開始5分で脱出するわ。

 火で炙ってる訳じゃないし、甘い方じゃないか? 別に火口に吊るせって言ってるんじゃなくてだな。

 

 

 

「タチの悪い男だわホント…。ま、とりあえずマオとこれ以上揉める理由はなくなったから、そこは感謝しておくわ」

 

「私はやっぱり感謝したくない…。私の初体験が…」

 

 

 あーうん、オシオキとは言え流石にやりすぎたかとは思ってる。今度があるなら、もっとマイルドにしよう。

 

 

「……い、いや、それは別に考えなくてもいいぞ? 姫のように甘い言葉を囁かれて溶かされるのもいいが、こう、な? あれはあれでスゴいと言うか、得難い体験と言うかだな」

 

 

 まーそうそう至れるような境地じゃないな。羽化登仙と言うには激しすぎるけど。俺もまだまだ未熟よのぅ…。

 マオに最後に使った言葉だって、中伝でしかないし。

 

 

「最後の言葉…って、私に残った霊力が一斉に…こう、変わったアレか? …あれが、まだ中伝…?」

 

 

 怯えているよーな、ゾクゾクしているような顔をしているマオ。どうやら、昨晩の感覚はしっかりとマオの中に刻み込まれてしまったらしい。

 と言うか、ナチュラルに『次』がある事を了承して期待しているな。ド嵌り状態かな? 

 

 まぁ、俺が知ってるのは中伝までで、奥伝も皆伝も極伝も想像もつかない。

 仮に知ってたとしても、いきなり使うような事は無いから安心してくれ。

 

 

「いやいやいきなりじゃなくてもだれかがためさなければならんだろう? きみがいっしょうつかわないなんて、とてもしんじられないからな! うむ、わたしがひとはだぬいでじっけんだいになろうじゃないか!」

 

「マオ、貴方ね……いえ、その時は一緒よマオ。あなただけを色欲地獄には落とさないわ」

 

 

 表情が本音を物語っておりますなぁ。いや男冥利に尽きるね。二人はともかく、俺はガチで色欲地獄行だけど。

 

 

 …ところで、無粋と分かってて聞くが、二人とも体調は? 一晩ヤり続けた疲れや痛みはともかく、霊力はほぼ自覚できるようになってると思うんだが。

 

 

「頗るいいな。心地よい倦怠感と、その…某所がヒリヒリする感覚はあるが、活力が噴き出し、世界が輝いて見える。これが女になると言う事か…」

 

 

 …まぁ、俺だってDT卒業した直後はそんな感想だったと思うが…。

 

 

「冗談はともかく、確かに霊力らしいものはハッキリ感じられるわね。操作も……ある程度はできるみたい。…でも、当然ながら他人の力をどうこう、というのはやっぱり難しそうね」

 

 

 そりゃそーだろ。これからそこに至るまで、どれだけ訓練せにゃならんやら。

 …ま、何だ。今後も、この手段に関しては、最後の切り札くらいに思っておけよ。流石に俺も、口実にして女を抱き放題なんて考えられない…いや必要であればやるんだけどね?

 

 …無言で左右から頬を抓られた。まぁ仕方ないよね。

 

 

 

 

 とりあえず、二人を猟団近くまで送って行った。その間も観察していたのだが、ギルギスした空気は完全に消えているようだ。ま、昨晩あれだけ上になったり下になったりしたもんな。レズプレイこそまだ仕込んでないが、肌を重ねた相手と言う事で、今までとは違う気安さも漂っているようだ。

 分かれてからも、ちょっとだけ様子を伺っていたが…うん、大丈夫そうだな。揃って猟団部屋に帰っていく。

 …多分、この後はぐっすり眠るか、その前に思い出して自室でジタバタするか、さもなければ初めての体験の感想を言い合うのだろう。興味が無いと言えばウソになるが、女子会に入り込むのはね…。

 

 

 んじゃ、俺も帰るとしますか。コーヅィの上位昇格試験が、確か明後日だった筈。直接的な手助けを禁止されたようなものだが、下準備までは禁止されてない。

 …まぁ、それも既に猟団員達が、よってたかって色々やってるみたいだが。

 

 相手はモノブロスだったな…。コーヅィも自分で戦った事は無いらしく、アドバイスを求められた。

 アドバイスねぇ…。

 まずアイテムは惜しまず使う事。特に音響玉と閃光玉な。出来れば尻尾はさっさと切断しておきたい。角は無理に破壊しなくていい。討伐・捕獲のみを考えるなら、壁に刺さるチャンスが減るからな。

 

 

 後は………いいか、もしも、もしもだぞ? ディアブロス亜種辺りが一緒に居たら、一目散に逃げろ。気づかれてなくても逃げろ。

 纏めて相手にするような真似は、絶対にするな。

 後は、そうだなぁ………よし、これをやろう。

 

 

 

「……これは?」

 

 

 最終兵器、聖なるG級石ころだ。

 

 

「いえ…その、どう見ても普通の石ころにしか…見えないんですが」

 

 

 いいか、まずはモノブロスが眠るのを待つんだ。アイツも夜なら寝てる事が多いからな。

 眠っているモノブロスを発見したら、聖なる樽を3つ設置しろ。なんなら聖なるG2樽でも構わない。以上でも以下でもなく3つ設置するのだ。数えるのは3つ、4でも2でもいけない、5は以ての外である。

 3つまで設置した時点で、石ころを敵に放り投げなさい。目障りな敵がくたばりはなくても部位破壊の一つくらいはできるであろう、アーメン。

 

 

「それは……単なるG級爆弾の…睡眠爆破では…? と言うか、石ころ自体は普通の石ころ…ですよね? そもそも、ハンターのルールで一度における数は…決まっています…」

 

 

 そうとも言う。ちなみに、もしコレをやったら開幕怒り状態だから気を付けるように。

 ついでに言うと、蹴っ飛ばして爆破する漢起爆の先には、アイルーよろしくコレを抱えて特攻する回天起爆というやり方がだな。

 

 

「はぁ……まぁ、威力の高い先制攻撃…には…違いありませんし…」

 

 

 

 何となく納得してなかったよーだが、とりあえずコーヅィの調子は大丈夫そうだった。

 ちなみに、もしもコーヅィが回天起爆を実行し、俺がそれを唆したと知れたら、多分猟団は全力で反旗を翻すだろう。

 

 

 

P3G月

 

 

 新しい月に突入した。訓練所を卒業して、丁度一か月か…。そうとは思えない程に濃い一か月だったな。

 G級まで一足飛びの昇格に加え、古龍×3体襲来による防衛戦、猟団結成、その他諸々…。ここまで濃い一か月も珍しい。

 

 それはともかく、コーヅィが上位昇格試験に向かった。狩場の位置からして、帰ってくるのは早くて明後日か。

 団員の殆ど(ほぼ自発的に集まっていた)に見送られるコーヅィに幸運を祈り、それぞれの狩りに向かう。

 

 今日は俺も狩りに行かないと。地盤固め、装備作りも大分進んできたとは言え、まだG級クック先生ならどうにか…ってレベルだからな。

 さて、今日はどうするか……とりあえず、火山で炭鉱夫しとくか? 

 

 

「おや、土偶ですね」

 

 

 奇遇や。……って、リア? …と、そっちは…。

 

 

「レジェンドラスタのティアラよ。アタシの事を知らないなんて、随分と世間知らずなハンターね」

 

 

 こりゃ失敬。名前だけは知ってたが、色々特殊な環境で生きてるもんでね。

 

 

「あらそう。でも、アタシが貴方の事を知っているのに、貴方が知らないなんて不公平だわ」

 

「…要するに、自分の事を知らなかったのが気に入らないそうです」

 

 

 そんな自意識過剰な。いや立場を考えれば、そう言われても仕方ないのは分かるんだが。

 ところで、二人ともこれから狩りか?

 

 

「いえ、今日はオフです。そういう貴方は?」

 

 

 火山に行って炭鉱夫します。残念ながら、一緒に来ても楽しい狩りは無いと思うよ。

 

 

「そう、詰まらない男ね。色々聞いていたから、期待していたんだけど」

 

「面白さについては保証しますよ。とは言え、採取依頼では同行しても仕方ありませんね。フリーハントするつもりも?」

 

 

 ない。メンドい。ぶっちゃけ、気配を消して採取するつもりだから、モンスターにも見つからないと思うよ。

 

 

「ふん。だったら、採取に行く前に一杯付き合いなさい。聞きたい事が色々と………あら?」

 

 

 ティアラさんが口を止めて、俺の後ろに目をやる。そっちを向くと(後ろを見せた途端に、襲ってこないか警戒しつつ)……変わった衣装のアイルーが一匹。

 目が合った。近付いてくる…。

 

 

「あのアイルー、確か…」

 

「お楽しみ中に失礼するニャ。レジェンドラスタ2人を侍らせたハンター……。アンタがトッツイ達に力を貸してくれてるーハンターニャ?」

 

 

 侍らせてるって所はともかく、トッツイ達についてはそうだが…お前さんは? この辺じゃ見ない恰好をしてるが。

 

 

「こいつは失礼ニャ。オレはモービン。お察しの通り、歌姫様のお付きのアイルーニャ。…と言っても、諸事情あって昨日まで、旅をしていたんだけどニャ」

 

 

 その衣装は旅装束か。トッツイとバッシにはいつもお世話に…お世話に………。

 

 

「…色々無理難題をふっかけたようで、済まないと思ってるニャ…」

 

 

 分かってるならちゃんと手綱とっとけよ! アカムを試験扱いとか聞いた事ねぇよ!

 

 

「ニャハハハ…返す言葉もないニャ。それは置いといて、お楽しみ中に申し訳ニャいけど、一緒に来てほしいのニャ。歌姫様がお呼びだニャ」

 

 

 …歌姫サン? トッツイでもバッシでもなく?

 

 

「ニャ。間違いなく歌姫様本人ニャ。要件は…悪いけど、歌姫様本人に聞いてほしいニャ」

 

 

 ふーん……まぁ、行くのは別に構わんけど、今はティアラさんに誘われてるんだが。

 

 

「構わないわ。お行きなさいな。聞きたかった事ももう分かったから」

 

 

 へ? …えーと、リア?

 

 

「大方、ネコ達に本当に力を貸しているのかを聞きたかったのでしょう。私も、少しあなたと話をしたかったのですが……モービン、もう一度聞きますが、歌姫本人が呼んでいるのですね?」

 

「その通りニャ。間違いなく、トッツイでもバッシでもなく」

 

「…ならば行きなさい。少々苛立つ事もあるかもしれませんが、刃物を使ってはいけませんよ。ギルドナイト案件ですから」

 

 

 ……ハンマーならええんかい。と言うか、一体何があるんだよ…。

 まぁ、お二人さんが行けと言うなら、そうしますか。今日の狩りだって、そんなに本気で行こうとは思ってなかったし、まだクーラードリンクの用意すらしてなかったし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行ってみた。

 

 結論、働け、豚姫になるぞ。

 

 

 

 

 …およそ、女性に対して使うべきではない暴言(男性だったらいいのかと)が、似非とはいえフェミニスト…なんか違うな、『へみにすと』の俺から多数飛び出した。

 誰に対してって? ブ……じゃなかった、歌姫サンに対してだよ。

 

 と言うかモービン、あれで良かったのか? リアとの会話を見るに、こうなる事を予測してたようだが。

 

 

「ああ、あれでいいのニャ。今の歌姫様には必要な事だが、オレ達にはできない事ニャ」

 

 

 ふぅん…まぁ、意図した所は察せないではないが…。とりあえず、最初から書いておこうか。

 呼び出されて泉まで来たんだが、出迎えたのは呼び出した歌姫ではなく、トッツイとバッシだった。おう、元気そうだな。ところで歌姫サンから呼び出されたんだが、何処にいるんだ? と言うか何の用だ?

 

 

「さぁ…オイラ達も、寝耳に冷や水だニャ。モービンが帰ってきてたのだって、今知ったのニャ」

 

「昨晩には帰ってきていたそうですが…ニュフ、そのまま出かけられたので?」

 

「そんな所ニャ。昨晩のバッシとトッツイは…その、ちょっと話せる状況じゃなかったのニャ」

 

 

 ? どういう事だ?

 

 

「すぐ分かるニャ…」

 

 

 モービンが奥に目を向ける。そこから出てきたのは、足音も荒く(キッパリとひ弱だが)登場してきた歌姫サン。

 トッツイとバッシ、モービンにも目もくれず、俺の目の前に。

 

 

「貴方ですね…。トッツイとバッシに、何をしたのです!」

 

 

 ………は?

 

「…ニャ?」

 

「…ニュフ?」

 

 

 俺と2匹の戸惑う声。説明を求めるようにモービンに目を向ければ、肩を竦められた。

 

 

「先日、貴方と共にトッツイとバッシが出かけ、帰ってきてみれば…夜毎に悲鳴を挙げては飛び起きて走り出し、壁に激突してまた気絶する。昨晩など、危うくバッシが泉で溺れる所でした」

 

「そういえば、いつの間にかタンコブが…」

 

「今朝、毛皮が妙に濡れていたと…」

 

「ま、そういう事ニャ。でも、起きたら二匹とも全然覚えてニャいし、妙な夢を見たとも言わニャい。これはニャにかあると思って、調べた訳ニャ」

 

 

 そしたら、前日俺がこいつらを狩りに連れて行った事が発覚し、呼びつけたと。

 

 

「…あー…それは…ニャぁ…」

 

「夢にも見るニャ…」

 

 

 …まぁなぁ。自分達が何言ってるか叩き込む為とは言え、いきなりアカムと対面すりゃトラウマにもなるわなぁ…。

 

 

「で、でもその歌姫様! その件についてはオイラ達も悪かったと言いますか、お互いにもう納得して…」

 

 

「お黙りなさい! 私は貴方達の主、この件については徹底的に追及する義務と権利があります!」

 

 

 ………まぁ、言ってる事は尤もだよな。理由と切っ掛けはどうあれ、身内にトラウマ刻み込まれりゃ、そりゃ怒る。

 でもなぁ………こうまで一方的にこっちを悪者扱いされるとなぁ………!

 

 

「どうしたのです、言いたい事があるのなら言ってみなさい!」

 

 

 相手がキャンキャン喚くだけのチワワ同然でも、反撃を躊躇う理由は無いんだよォ。

 

 主、主ねぇ……お前が? ペットじゃなくて?

 

 

「な、どういう意味です! 人を侮辱するのもいい加減になさい!」

 

 

 そういうセリフは、自分の言動を顧みてから言えよ。

 アイルー達を放し飼いにしてトンでもない依頼をバラ撒いた上、当人は何があったかも興味は無いが洞穴の中で引き籠りと来た。

 おまけに、何でこいつらが素直についてきたのか、全然わかってないと来た。

 

 お前、自分の財布の中身分かってんのか?

 そうやって引き籠ってる間、誰が飯代稼いでるのか分かってんのかよ。

 

 

「な……」

 

 

 トッツイとバッシに目をやる歌姫。…バッシは気まずそうに眼をそらし、トッツイは「大したことではありませんニャ! 全ては歌姫様の御心の為ですニャ!」と言ってたが、この場合どう見てもトドメだよな。自分がニートしてる間、トッツイ達が必死こいて自分を養ってたって証明だ。

 ハッ、配下に養われている自覚も無い主とは、また滑稽な事だ。

 

 大体手前ェ、文句言うならモービンに呼びに越させるような真似をせずに直接来いや直接!

 トッツイを傷つけられて頭に来た? バッシが心配だった? ああ、そりゃ確かだろうさ。だがそれでも結局! テメェは自分の領域から出ていない!

 お前の怒りとやらはその程度だ。

 

 

「っ!」

 

 

 繰り返す。言いたい事があるなら、そっちから来い。

 トッツイ達なら、今までの義理や付き合いもまだあるが、お前の恨み節に突き合ってやる理由は、何一つない。 

 被害者面して文句言えば、相手が頭を下げてくるなんて勘違いをしているバカなんぞ、知った事じゃないんだよ。 

 

 

 それが出来ないなら、誰にも関わらずに、何もせずに悲劇の姫君気取って、トッツイ達の尽力を食い潰しながら食っちゃ寝してろ。

 そんな生活してたら、太って豚になるだろうけどな。

 試しに、二の腕とか脇腹とか摘まんでみたらどうだ?

 

 フン、じゃあな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …大体こんな感じだったかな。頭に血が上ってたし、実際にはもうちょっと色々言ったんだが、よく覚えてない。

 

 正直、言ってやったという爽快感はあるが、言い過ぎたかな、という後悔もある。

 いやホント、豚だの何だの、女相手に言う事じゃなかったわ。いや男相手ならいいって訳じゃなくてね。

 

 

「いやいや、あれでいいのニャ」

 

 

 …モービンか。何だ、姫サンについてなくていいのか?

 

 

「今はいいニャ。それより、悪役を押し付けて悪かったニャ」

 

 

 言いたい事を言っただけだから、そこは気にしなくていいが…やっぱ、お前らも同じ事を思ってたのか?

 

 

「…言い方と強さは違うけどニャ。歌姫様が落ち込むのも無理はニャいけど、穴倉にずっと籠りっぱなしじゃ、それこそ気が滅入って立ち直る事もできないニャ」

 

 

 まぁなぁ…。俺が知る限り、洞窟から一歩も出てないみたいだし、ロクに体も動かさずに暗い考えばっかりしてりゃ、立ち直れる筈もないわ。普通は、ある程度続いた所でイヤでも音を上げるんだがな。

 …にしても…『落ち込む』『気が滅入る』ねぇ…。モービンは、トッツイやバッシと違って『呪い』とは言わないんだな。

 

 

「…呪いと言うのも、間違ってはいないニャ。オスメス問わず、誰でもかかる呪いだニャ。本来なら、呪いでもあり、祝福でもあるニャ…だけど、呪いだけに変わってしまったニャ」

 

 

 やっぱそういう事ね…。トッツイやバッシの尽力は、結局無駄だったか。

 

 

「全くの無駄ではニャいニャ。歌姫様も、自分の為に何かしてくれている、というのは分かってるニャ。それでも慰めにしかならないくらいに、呪いが強すぎるニャ…」

 

 

 それを無駄って言うんだよ。ったく、あいつらが言う儀式まで、あと一歩だってのに…。

 

 

「あと一歩じゃニャくて、今条件は揃ったニャ。お察しの通り、歌姫様はトキシから貰った装飾品をまだ隠し持っていたニャ」

 

 

 ……あん? 

 

 

「歌姫様と言い合ってる間に、バッシが居なくなってた事に気付かなかったかニャ? どこに行ってたと思うニャ?」

 

 

 おま……まさか、俺を囮にして、バッシに歌姫サンの部屋を探らせたのか? 確かに目星はつけてあると言ってたが、鍵はどうした………俺に気を取られてる歌姫サンからスった?

 …なんつーか、油断のならん奴だな…。仮にも主(被扶養者)に対してそこまでやるとは。

 

 

「お褒めに預かり光栄だニャ。時代はチョイワルおネコだニャ」

 

 

 それ単なるメラルーじゃねーか。と言うか、呪いじゃないんだったら、儀式の条件を揃えても意味ないんじゃないか? むしろ、勝手に思い出の品を持ち出されて怒ると思うが。

 

 

「それが狙いだニャ。怒りでも悲しみでも、何でもいいニャ。今の歌姫様に必要なのは、何でもいいから自分から動く事ニャ。勝手に部屋を漁って、装飾品を持ち出したバッシには怒ると思うけど、沈んで悲嘆にくれてるよりずっといいニャ」

 

 

 …で、自分はこうやって悠々と逃れてる訳か。大した悪党だこと。

 つーか、本気で大丈夫かね。あんだけ罵られた上、身内が自分の大事な物を勝手に持ち出す裏切りとか、本気で心が圧し折れるんじゃねぇの?

 

 

「そーれーは違うニャ。歌姫様を甘く見過ぎだニャ。あれで意外と負けん気も強いし、行動力も突発的に高くなるし、反骨精神も旺盛なのニャ。いくら大事に育てた子でも、自由なアイルーのオレ達が、ただ見た目がよくて便利な力を持ってるだけの女を、姫様扱いすると思うかニャ? …良くも悪くも、なのは否定できないけどニャ…」

 

 

 む…。確かに、基本が獣のお前らが、弱者に従う理由はないよな…。

 まぁ、事ここに至って、どうこう言っても無駄か。トッツイが後で死ぬほど怒るかもしれないが、間違った事を言ったつもりもないし、あの状況でオブラートに包む義理があったとも思わん。理不尽なクレーム付けてくる相手に、後先考えずに思いっきり罵り返してやった気分だわ。

 モービン達には悪いが、俺にとっては現在進行形でモノブロスとやり合っているであろう、コーヅィの無事の方がずっと重要だ。 

 

 

 



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263話

左の脇の下辺りに湿疹…。
帯状疱疹かなぁ? でも一度かかったら再発しないと聞いてるし…でもあの時は右側だった…。

やっぱり汗疹だろうか…。


最近、催眠音声に再び嵌ってます。
催眠音声とエロ音声ドラマって違うんだよなぁ。
どっちも嫌いじゃないが、S向けの催眠音声って中々無いなぁ。
M向けばっかだと、今後に不安が出るしなぁ。
罵声を「ご主人様」とか、深化を「ご奉仕いたします」とかにして繰り返し囁けば、意外とできそうなもんだが…。

あと、ニーア外伝の導入部とオチは執筆完了。後は濡れ場か…そっちにばっかり気をかけてると、書き溜めが…。


P3G月

 

 

 …コーヅィが戻って来た。……悲惨な姿で。レジェンドラスタのフローラさんが、猟団部屋まで運んできてくれた。

 馬鹿野郎、無事に帰ってこいって言ったのによ…。

 鎧や武器が壊れかけても、本人さえ無事ならいいのによ………。

 

 と言うか。

 

 

 

 

 

 生きてたのはいいけど、何でゲロ塗れなんだよお前…。

 

 

 

「い、いえ……うっぷ……た、ただいま…かえりまし…試験、合格で………うぐ、吐く…」

 

 

 ほれエチケット袋。

 …っとに、どうしたんだよ一体…。一目見た時、マジでショックだったんだぞ。顔色から完全に血の気が引いてて、全然動かないから、本当に死んでいるものと……その次の瞬間の行動が、嘔吐を抑えるものって何だよ…。

 

 

(注・お見苦しいシーンが展開しております)

 

 

 …こりゃ当分動けそうにないな。どういう事なんですか、レジェンドラスタの…フローラさんでいいんですよね?

 

「はい、初めまして。えぇと……その、コーヅィさんの試験は、危ない所もありましたけど、無事合格だったんですが…帰り道にですね、現地の方から感謝の印と言う事で、地元のお酒を送られまして。ついつい嬉しさのあまりに、気分が緩んでしまったようで…」

 

 

 …全部開けちゃったと?

 

 

「いえ、半分くらいです。それだけなら、後で猟団の皆さんから叩かれるくらいで済んだんでしょうけど、帰り道に丁度嵐が直撃して…ガーグァ車が、ドボルベルグがタップダンスしたんじゃないかってくらいに揺れまして…」

 

 

 んで悪酔い二日酔いに車酔いか。アホじゃなかろか。

 コーヅィの姿に、何があったと心配していた猟団員達も、ちょっと醒めた視線を送っている。

 

 …ここでこれ以上殴っても、ゲロが酷くなるだけだし、狩猟成功して生きて帰って来たのは事実だし、狩りの後に酒飲みたくなったり女を抱きたくなる気持ちも分かるし…とりあえず、この場ではお咎めなしって事にしとく。

 風呂は吐き気が治まってからでいいな? 適当な個室に放り込んでおくよ。…そのまま、コーヅィの私室にしてもいいからさ。

 

 総員、それでいいな? コーヅィをド突いてやりたいと思う奴は、昇格祝いの宴会にコイツの嫁さんを呼ぶから、放蕩時代にやらかした事とか、娼館通いした事とか暴露してやれ。

 

 

「ちょ、団長それだうっっぷぅ……」

 

「やってやりたいのは山々っすけど、メゼポルタ広場には娼館はないっすよ、団長。コーヅィさん、別の所に行ける旅費なんか貯められないくらいに呑んでたから、多分全部自己処理っす」

 

 

 …そういやそうだったな。まぁ、意趣返しするならそっち方面でするように。

 おし、意趣返し兼お祝いの宴会の準備に移れー!

 

 

 

 アラホラサッサー、って誰が仕込んだんだよ…。

 

 

 

 

 ま、宴会の準備も兼ねて、ガノスでも狩りに行きますかね。

 …と思ってたら、出発前にギルドマスターから巻物を渡された。

 

 ………ああ! そういや、G級に上がったから、新しい型が解禁されるんだっけか。そういやそんな話もあったね。すっかり忘れてた。

 狩場に行くまでに目を通すか。

 

 まぁ、実際に狩りに使えるくらいに身に着けるには、それだけ練習して体に染み込ませなけりゃならんようだが……ふむふむ。

 今まで使っていた、スタンダードなのが地ノ型。今回解禁されたのが、天ノ型と嵐の型か。

 これに加えて、まだ未完成である極ノ型の情報が記載されている。

 

 …ふんふん……ふむ……うむ。

 

 

 概要しか目を通してないが、天ノ型も嵐ノ型も、やるだけだったらそう難しく無さそうだ。スタンダードな動き…ベルナ村風に言えば、ギルドスタイルの動きを応用したものだな。問題なのは、それをスムーズに行えるかどうか。

 これを、別のスタイルに当て嵌めようとすると、本格的な改変と言うか、一からスタイル作り上げた方が早いんじゃないかってくらいになりそうだが…。

 

 

 極ノ型も興味深い。これはまだ研究中である為、ハンター達から使い勝手の感想や改良案を募集しており、その最も有力な物の情報が記されているようだ。

 特に使いやすそうなのは、武器を使ってモンスターの攻撃をイナす戦い方や、戦闘中に練金をこなし、様々なアイテムを作り出す戦い方。

 ……んー、このスタイル、ベルナ村で研究してたのに似てるなぁ…。一度情報をギルドに渡してみようかな。

 

 他に特に目を引いたのは……やっぱこれかな。

 『未完成なので名前は特にない』『極の型として纏められている』って書いてあるけど…どう考えても、この極ノ型の名前はコレだろ。

 

 

 スタイリッシュボマーの型。

 

 

 いや、地ノ型天ノ型その他に合わせて命名するなら……セルフ爆破ノ型…せめて全部漢字表記で…自爆テロ…だから漢字…爆発…爆発………〇良〇影! つまりシアーハートアタック! 直訳して心臓麻痺ノ型!

 ………爆弾と何も関係ねーな。

 

 

 俺だって爆弾は多少使うけど、これは格が違うよ。と言うか、このフロンティアでコレを真面目に考案・研究してる奴が居るんだな…。ゲームと違って、フレーム避けはおろか、無敵時間だって無いんだぞ。

 コーヅィには回天起爆とか教えたけど、こりゃ特攻兵器じゃなくて本来の「天を回らし戦局を逆転させる」の方だよ。

 敵の行動を見切って、起爆のスイッチと成り得る行動に合わせて素早く設置、同時に全力で回避を行い、爆発を敵のみに叩き込む。コレをラオシャンロンみたいな大型のみでなく、暴れ回るティガレックスとかにまで通用させるレベルに持って行っているらしい。

 是非とも身に着けたい。ネタ的にも戦力的にも。

 

 

 

 何はともあれ、早速挑戦。

 

 

 

 

 …ガノトトスが焦げた。俺も焦げた。

 ゲームと違って、実際のモンスターは定まった動きしかしてくる訳じゃないからな…思った以上に難易度が高い。

 相性がよさそうなのは、前ループで覚えたエリアルスタイルかな。上手くやれば、ブシドースタイルで爆風回避+反撃(反…? 自分で爆破させたのに?)という事も出来るかもしれない。

 上記にあったイナシで爆風を防げるかまでは、実験できなかった。うーむ…爆雷針でも使って実験してみようかな。でも武器を掲げる動作からして、思いっきり雷直撃するよなぁ…。秘伝書に書いてあった情報じゃ、正面からの攻撃なら炎だろうが雷だろうが龍属性ブレスだろうが受け流せるとあったが、真上からはどうなのか…。

 

 

 

 

P3G月

 

 

 何とかコーヅィの二日酔いだか車酔いだかも回復し、宴会になりました。

 あっちこっちから祝いに訪れた人が来て、コーヅィに酌をしている。「断るのも悪いから」なんてチビチビ飲んでたが、既にコーヅィはヘベレケ状態だ。

 となりに居る、復縁した奥さんが世話を焼いているが……まぁ、嬉しそうではあるな。仲がいいのは良い事だ。息子さんとは、少々揉めてるらしいが………問題のある息子のようだが、家庭の問題にまで首を突っ込む気は無い。請われれば別だが。

 

 ちなみに、ストライカーやラサマの面々も当然来ている。シトサが、酔ったコーヅィに妙な事をする輩が出ないか、さりげなく近くで警備していた。やっぱホモなのか?

 うーむ、猟団部屋の中での宴会にしたのは失敗だったかもしれないな。祝いに来た人の他にも、とりあえず宴会だからドサクサに紛れて混ざろうという者も居て、混沌としてきた。と言うか部屋が狭い。

 と言うか、本当にコーヅィの人望はどうなってんだよ…長年の人助けの結果か? それにしちゃ、腐ってる間にロクに手助けされなかったみたいだが。

 

 

 ま、コーヅィがもう一日二日酔い確定なのはともかくとして、俺も俺で絡まれている。

 言うまでもなく、マオとミーシャだ。勿論、この後しっぽり確定…のつもりだったんだが……ちょっと、別の面々にも絡まれててなぁ。

 ストライカーのメンバーなんだが、霊力の使い方を教えろと物凄くしつこい。

 今まで会った事のない面々だから、名前と姿を書いておく。

 

 

 まずジェリー・イェーガー。どうにもスピード狂のケがあるらしく、目的はどうやら鬼疾風のようだ。その筋(速度狂の集いみたいなのがあるらしい)ではグラマラスジェリーとして有名だとか。その名の通り巨乳。と言うか、イェーガーって確か訓練所で同期だったヌヌ剣3人組の一人と同じ苗字だったような…偶然か、親戚か。

 

 次にアンナ。苗字は無いらしい。フロンティアで苗字を名乗る方が珍しいけどな、あるかどうかは別にして。牛乳とタバコが好きで、つい最近ストライカーに入団した。基本的に気儘で、集団での規律を苦手としているらしいが、『同類』が多いと聞いて興味を持ったのだそうだ。ナマイキそう…とは違うな、実力と実績に裏打ちされた自信を持った唯我独尊タイプだ。この人の狙いは、マオとベリヰヌに見せた空中浮遊。

 

 続いてルーディ。………何かしらんが、この人には逆らってはいけないナニカと、妙なシンパシーを感じる…。この人の狙いも空中浮遊…なんだが、既に自力でエリアルスタイルに似た戦い方を習得しており、その強化を狙っているらしい。飛び上がってから、或いは落差を利用した攻撃が異様に上手いそうな。現在は大樽爆弾を抱えて飛び上がる事を研究しているらしい。…あれ、ひょっとしてスタイリッシュボマーの型の人?

 それだけならいいんだが、この人……我が道を行くとか唯我独尊とか、そーいうレベルの人じゃない。目の輝きがアレだ、方向性は違うけど榊博士とか討鬼伝世界の博士とかと同じ人種だ。誤解を恐れて言っても、キチガイの評価を免れない人だ。何せ聞いてただけでも、大樽爆弾の爆発も、リオレイアのブレスも、ガンランスの龍撃砲も、自分が飛び上がる為の踏み台としか思ってないっぽい。最後の奴は、ガンランスの極ノ型にそれっぽい技があったような…。実際、片足に大火傷を負いながらも、それで空高く飛び上がってワールドツアー中のレイアを叩き落した事があるとか。……とりあえず、お付きのアイルー達のサポート技として、トランポリンの技を提案しておいたが…フロンティアだと、アイルーじゃなくてホルクを連れて行くんだっけ。………ホルクの背に乗って飛び上がるとか?

 

 

 ちなみに、全員まだ下位ハンターだそうな。…明らかに『お前のような下位ハンターが居るか!』なんだが、規則破り常習犯だったり気分屋だったり狩りよりスピードだったりで、試験を受けていないんだそーな。

 尚、言う程の事でもないし言うまでも無い事だが、彼女達の行動にミーシャの胃は痛めつけられっ放しである。

 

 

 

 …絡まれているのはこの3人なんだが、他にも気になるのがな…。

 背後から、サーシャがジッと見てくるんだが。以前程に怯えられている訳ではないようだが、目を合わせてはくれない。マオの治療の前なら、目が会ったら会釈くらいはしてくれたのに。

 何だろ…敵意じゃないな。かといって好意の視線とも………強いて言うなら、好奇の視線? …ううむ、ロクに顔を合わせてくれないから、内面観察術もあんまり効果が無いな。………そこ、ょぅι゛ょの内面観察とか胸熱、と思ったヤツ。お前の罪の数だけヒンズースクワットな。このSSの閲覧者の数だけでもいいぞ。……SSって何だろ。

 

 まぁ、とりあえず、絡んでくる連中をどうするかって話だよな…。

 「すぐに使えるようにするならヤらせろ」って言えば、割とシャレにならないパンチを受けて話が終わるか………いやでも「それで出来るようになるなら安い物」とか言い出しそうでもあるんだよな…。と言うか、マオとミーシャの前でその発言は色々ヤバい。

 

 

 

 

 

 

 …あ、レジェンドラスタがいつの間にか宴会に混じってる。

 ここぞとばかりに食い溜めしているエドワードさん……邪魔しちゃいかんな、そっとしておこう。

 周囲を撃沈しているユウェルさんと、その隣で潰れている……と言うか多分変なもの食べて気絶しているキースさん。

 ……あれは…ギネルさんかな? どーもチルカさんに殴り倒されたようだが。そういや、さっき自己強化の演奏が響いてたような…。

 あっちではティアラさんと……ナターシャ!? ……今はナターシャさんだな。が飲み比べしているし。

 

 ……ん? フローラさんが、何か宴会から出ていくのが見えたが…何かあったのかな。

 

 

 そんで、リアとフラウが、いつの間にか俺のツマミを取ってるし。と言うか、レジェンドラスタ勢揃いじゃん。

 

 

「未熟ですね。私の主たる者、もっと周囲に気を配りなさい」

 

 

 さりげなく爆弾発言してますな。と言うか下剋上しようとして鎮圧されるの前提の主ですか。…あれ、この場合どっちが下剋上なんだろ。

 

 

「やほー、お邪魔してるよ。…二人も、うん、上手くいったみたいだね?」

 

「…おかげさまで、と言うべきかな?」

 

「お好きにどーぞ♪」

 

 

 …そういや、G級試験に行ってる間、成大にノロケたって言ってたが…。

 

 

「貴方も防衛戦の後の宴会で、盛大に情事の解説をしてくれたけど?」

 

「ぶー、デリカシーがないなぁ。そういうのは、普通二人だけの秘密にするものだよ?」

 

「結果的には、貴方も言ったのでしょう」

 

 

 ………一応聞いておくけど…フラウ、狙った? リアとの時みたいに。

 

 

「べっつにー。牽制のつもりだったよ。ホントだよ? ……でも、嬉しかったんでしょ」

 

 

 無論。

 …と言うかフラウが割とマジでヤバいな。浮気公認系と言うか、自分から他の女を引き摺り込む手伝いをすると言うか。

 しかも俺に喜んで貰う為? 自分から都合のいい女になろうとするとか、どんだけ俺に入れ込んでるんだ…。 

 

 そんな戦慄を覚えていると、リアがくいくいと袖を引いた。カワイイ。

 

 

「…真面目な話、フラウは貴方の周りの人…と言うより、戦力を増やそうとしている節があります」

 

 

 ……どういう事だ?

 

 

「言葉通りです。心配なのでしょう。強い弱いとか狩りの上手下手ではなく、貴方の将来が。…先日、歌姫の泉に帰って来たモービンと少し話をしました。歌姫ではなく、あなたについてです。私も薄々感じてはいましたが、貴方はこの先、生きていくつもりがあるのですか?」

 

 

 …なんか、ドえらい質問をされている気が…。

 

 

「…表現が悪かったですね。貴方の言動が、この先の一点についてのみ収束しようとしている………いえ、もうバッサリ言います。あなたは、この先何らかのモンスターと戦い、自分は死ぬと考えているのでは?」

 

 

 ………

 

 

「この猟団の運営についても、何度も言われたでしょう。あなたは自分の取り分を主張しようとせず、全てを猟団の維持と、メゼポルタ広場全域の戦力上昇に当てようとする傾向があります。それはつまり、自分の将来を度外視してでも備えなければならない『何か』を見据えている…のだと、私は思っていました。ですが、フラウとモービンは逆を考えたようです。つまり、あなたは『将来の事を考える必要が無い』。自分はそこで終わるのだ、と考えている」

 

 

 …ごめん、それ普通にハズレ。確かに将来の事を考えず、一点にリソースを注いでいるのは事実だけど、自分がそこで終わるとは考えてないねん。

 そう解釈される行動も多く取ってるとは思うけど、ちょっと人に話せない事情が色々と…。うん、的外れな事言われたけど、俺みたいな状況のを想定して解釈しろって方が無茶だわ。

 

 

「…ならいいのですが。とにかく、有事の際、貴方を一人で立ち向かわせるような事がないよう、フラウは貴方の周りに人を集めようとしています。その相手とやり方に、大いに問題はあると思いますが」

 

 

 うーむ…いや俺としては実際役得だし、既に関係を持っている人達に申し訳ないとは思うけど、全然問題ないよ。

 猟団員じゃないにせよ、顔見知りや伝手が出来るのは本当にありがたい。フラウに足向けて寝られんね。

 

 

「本人は添い寝を希望しそうですけどね。…祝いの席で、少々重い話題になってしまいましたね。飲み直しましょう」

 

 

 オッケー。

 

 …リアには誤魔化したとは言え、フラウの側から見れば、その事情は大当たりなんだよなぁ。

 別に俺も死ぬ気はない…デスワープのおかげで死なないって意味じゃなく、そもそもむざむざデスワープする気はないんだが、なんかいつの間にやらどうにもならない状況に追い込まれていたり、理不尽かつ残当に死んだり、なんやかんやあって刺されて死んだりするからな。

 その後の世界がどうなっているのか、未だに分かってない。そのまま続いているのか、『無かった事』にされリセットされるのか、それとも俺には想像がつかない『何か』が起っているのか。

 

 もしもそのまま続いているのだとしたら、フラウの懸念は大当たりだ。俺は大災害(或いは俺個人の不始末)に備えるだけ備え、それを超えられず死に至る。残される方は堪ったもんじゃないってね…。

 とは言えなー、考えられる限りの準備をして、死力を尽くしても尚超えられるか怪しいからこその大災害だ。

 最も代表的なものとしては、憎き怨敵イヅチカナタだが、ここはフロンティアだからなぁ……もっとシャレにならん何かが襲ってきそうな気がして仕方がない。

 仮にそれを超えられたとして、イヅチカナタを斬れるかって問題もある。奴が相手じゃ、どれだけ人員を集めようが意味が無い。因果略奪に対抗する手段は、今の所個人の素質以上のモノは見つかってない…ああ、そういや討鬼伝世界で、樒さんが結界張って防いでたっけ。アレは身につけないとな…。

 

 まぁ、今なら単騎でも狩れるとは思うけどな。アイツ、何か知らんが体調悪そうだったし、それ以前にフロンティアに来てから装備の質も俺自身の実力も、各段に上がっている自覚がある。

 …問題は、あの時みたいに身内を人質にされないかって事だよ。悪知恵使いやがって……思い出したら腹立ってきた。

 

 ええい、このムシャクシャ、隣にいるマオのおっぱいとかミーシャの尻で晴らしてくれる!

 

 

 

 

 そのまま部屋に雪崩れ込みました。フラウとリアも一緒でしたが何か?

 

 

 

 

 



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264話

モン娘クエストパラドックス中章、23日発売!
長かったー!

しかし前章のデータはランサムウェアのおかげで消滅している。泣きたい。


それはそれとして、また酒で失敗…。
いつもと同じくらいしか飲んでないのに、なぜか二日酔いになり、職場でリバース、怒られて帰宅…。
朝起きた直後は平気だったのに、どうして動き始めてから吐きそうになるんだろうか…。
起床直後なら、さっさと吐いて誤魔化して出勤する事もできたのに…。


P3G月

 

 

 サムネ夫妻に、部屋ごとリフレッシュするから出てけと放り出された。…まぁ、流石にアレは怒るよなぁ…。女性4人分でグッチャグチャだったもんなぁ…。掃除させるのも気が引けるっつーか…いややってもらうんだけどさ。

 とりあえず、女性達は昨晩に色々な意味で親交を深め、蟠りも解消されたようだ。ま、今回はそんなに深刻な対立じゃなかったしな。…内心とか、不満の芽はともかくとして。

 そんな彼女達は、朝風呂(俺が借りてる部屋のな)ついでに、この際だから4人で一狩行くらしい。

 

 …別にハブられたなんて思ってないもんね。

 

 

 

 さて、今日は何を狩りに行こうかな………なんて考えてたら、予想外のに捕まった。

 

 

「……お、お願いします」

 

 

 ……その前に聞かせておくれ、サーシャさんや。

 なんでまたいきなり、『霊力を覚える為の訓練をつけてほしい』なんて言い出した? いや、やるの事態は構わんのだ。君が霊力の使い方を覚えると言うのは、能力の制御にも役立つ筈だ。

 確か、サーシャの能力は探知機みたいなものだと聞いた。ちゃんとした扱い方を覚えれば、オンオフの切り替えや探知の精度、距離なんかもコントロールできるようになると思う。

 マオのように、生活に支障が出るような症状を抑える事にも繋がるだろう。

 

 

 でも君、マオに治療を施してた時、俺に怯えてなかったっけ? いやそれならそれで無理に近付かないようにしようと思ってたんだけど。

 

 

「………こ、こわくなんてないです…」

 

 

 無理しなくていいから…。

 うーん…将来ハンターになるつもり? 確かに、それなら役立つだろうけど。

 

 

「…いえ……。助けてくれたミーシャさん達には感謝していますけど、ハンターは何というか……合いそうにないです」

 

 

 そうか? 案外、ヘヴィボウガンとか似合いそうだけどな。小柄な女の子に無骨な武器とか定番だよね。

 それはともかく、だったら何で……。

 

 

「………」

 

 

 …聞き方を変えるか。

 決心したのは何時?

 

 

「えっと……4日前です」

 

 

 能力を何かに使う予定はある?

 

 

「釣りとかに使えないかな、と」

 

 

 魚群探知機か。川釣りよりも海釣り向けかな。しかし、具体的なイメージは無いと。

 つまり……力を得る事自体は目的ではない?

 それが手段……だとしたら…。

 

 

 ………訓練を付けるとして、どれくらいやってほしい? 徹底的に? すぐに身に着けられるように? それともちょっとずつ?

 

 

「ちょっとずつで」

 

 

 ふむ…………。

 

 

 

 うん、これ霊力訓練は口実だわ。訓練を受ける事自体が目的だわ。

 

 何でこうなったか、ちょっと考えてみよう。この子の表情で、大体予想はついてるんだけど。

 

 そもそもだ、サーシャはマオの治療を見て怯えていた。それは何故か? 性を知らない子供だからだ。……ミーシャも怯えてたような気がするけど、それはウブだったからだと言う事で。

 今も、恐怖自体は消えていないようだ。時々居心地悪そうに、目を逸らしている。

 それでも、ちゃんと顔は見えるから、内面観察術は有効だ。

 

 今のサーシャにあるのは、確かな恐怖と……抑えきれない好奇心。

 

 

 この年齢の女の子で、恐怖と好奇。

 訓練を受けようと決めたのが、4日前……マオとミーシャが『ステップアップ』してから、すぐ…。

 うん、これはあの理論だな。随分前に何かの小説で読んだ覚えがある一文だが…子供の目の前で、大人がワサビを食べて辛い辛いと騒いでいたとする。それを見て、ワサビを食べてみたいと思わない子供がいるだろうか? って奴だ。実際には一杯いるだろうけどな。

 

 

 要するにだ。

 

 

 マオもミーシャも、初体験後の猥談に夢中で、サーシャに聞かれてるのに気付かなかったな?

 で、アレが凄かったナニがきつかった本当に酷い男だetcetcを、内容の感想に反して妙に楽し気に話す二人に触発されてしまったと。恐怖はあるだろうが、性に興味を示してもおかしくない年頃だもんな…。

 何やってんだと言いたいが、破りたてなんてそんなもんだよな…。猥談するまでは予想できてたが、サーシャに飛び火するとは…。

 

 

 しかし、どうしたものかな。

 繰り返すが、霊力の扱いを教えるの事態は構わない。目当てが訓練そのものでも、力の使い方を覚えれば、将来役には立つと思う。

 でもなぁ…まだ幼いこの子になぁ……いやもっと幼いシオとも関係を持ったけど、アレは例外中の例外て事で。

 

 これ以上肉体関係を持つ相手を増やすのは如何なものか。いや今さら言ってもすっごい説得力皆無なのはわかってるんだが、マオとミーシャを抱いて、まだ一週間も経ってないんだぞ。…時間経過の問題じゃない? そーだね。

 ただでさえ、先日の宴会で霊力の使い方を教えろと絡まれた3人の件もあるのに。

 オブラートに包んだとはいえ、「覚えたければヤらせろ」みたいな発言はしたんだ。…ビンタが飛んでくるだろうと思ってたんだけどなぁ。

 

 

 

 その時の返答は、この通りだった。

 ジェリー。「いいぜ? これでもそこそこ経験あるしさ」。…ま、そのおっぱいをそうそう放っておく訳がないわな。本人の開けっぴろげな気質も相まって、よっぽど反りが合わない相手以外は仲良くなれる人種だし、過去にそういう関係の相手がいてもおかしくない。

 アンナ。一番まともだった。「は、ハレンチな!!」。男勝りな態度と姉御肌な性格の割に、コッチ系はヨワヨワらしい。真っ赤になったアンちゃんカワイス。

 ルーディ。「それで爆撃と急降下ができるのなら、一向に構わん!」。……うん、アンタはそう言うだろうな、とは思ったよ。烈海王張りに言い切ったよ。

 

 

 むぅ…ここでもしもサーシャにOkを出してしまったら、この3人に何を言われる事か。その場で頷かない為に、どれだけ理性を使ったと思ってるんだ。…まぁ、隣のミーシャとマオが、割と臨戦というか介錯体制だったしね。

 サーシャには悪いが、これ以上話をややこしくしない為にも、オカルト版真言立川流じゃなくて、ちゃんとした訓練で行かせてもらおう。習得まで時間はかかるだろうが、少なくとも無駄にはならない筈。途中で飽きたり諦めたりするなら、それもいいしね。

 

 

 そう結論付けて、サーシャに通常の訓練をすることを伝えようとしたその時、とある一言がアマツマガツチが使う雷よりも鋭く俺の頭に飛来した。

 

 

 …え、アマツは雷使わない? 周囲の嵐には雷あるでしょ。

 いやそれよりもだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開発済みのロリ処女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………気が付けばサーシャを自室に連れ込んでいた俺を笑ってくれ…。怒ってくれ…。ペド野郎と罵るがいいさ…。

 それでこそ俺だ、と褒めても別にいいのよ?

 

 

 

 

 

P3G月

 

 

 何とか貞操は守り抜いたぜ。いや俺じゃなくてサーシャのな。

 誰から守るって、俺の獣欲からだけど。自分で襲って自分で守る。なんというマッチポンプ。

 

 

 

 

 

 いや、その、なんだ。やった事はね、マオの治療の強化版なんだ。別に病気でもないのに、より強力な術を使う必要があったのかと言ってはいけない。

 やった事は至極単純。サーシャを後ろから抱き抱え、延々と耳をprpr…もとい唾液を塗り込み続け、僅かながら囁いただけだ。

 

 

 ……だけの……筈だ。

 

 

 …どうにもその、しくじった……かもしれない。

 建前であっても、霊力修行になる事は変わりない。変わりないんだが、霊力とか精神力ってのが、非常に繊細なものだということを忘れていた。

 

 他人の霊力の流れに干渉するのが、簡単なことである筈がない。マオで上手くできたからと言って、サーシャでうまくいくとは限らないんだ。

 エロい事する時、相手が誰かで、どこをどう触れるべきなのか変わるように、サーシャにはサーシャに合わせたやり方で術を使うべきだった。

 

 それを忘れて術を行使した結果………サーシャの能力が暴走したようです。

 

 

 

 

 サーシャの能力? ミーシャからはレーダーのようなもの、と聞かされていたが…実際はもうちょっと複雑だったらしい。或いは、今はできてない使い方が、何かのショックでできてしまっただけなのか。

 ともかく、サーシャの能力は……そうだな、ラジオのようなものか? ただし、一方的に受信するだけじゃなく、こっちからも発信できるような……インカムって言ったほうが正確かな?

 

 そう、サーシャの意思いや感覚を飛ばし、近くにいる相手に強制的に受信させたり、或いはどこかから発せられた霊力を感知して、それを読み取る事ができる…らしい。正直、冷静な状態で分析できたわけじゃないから、確信はない。

 で、それを極めて高密度かつ近距離で行ったらどうなるか?

 五感は当然の事ながら、サーシャの中に入り込んでいた俺の霊力が、サーシャの能力によって俺に返される。その結果、霊力の円環は渦を描くように俺とサーシャを行き来して……。

 

 

 最終的に、夢なのか現実なのかよーわからん状況に陥ってしまった。

 俺もなんか夢心地というか、最高の酒を飲みまくって気持ちよく寝落ちする寸前の状態になって、目の前に美味しそうな青い果実があったから、なんとなく手ぇ出しちゃっただけでね?

 

 しかも何を考えたのか…いや、昨晩考えた『開発されたロリ処女』ってイメージを実現させようとしたんだろーけどさ。

 いきなり尻に手ぇ出すとか、何考えとんねん。

 そりゃ確かにそれなら、貫通しても膜は残るだろうが、処女って『男性との性行為を行ったことがない女性』って意味よ? 尻でも性交は性交…だよな? 排泄の穴は性に数えていいんだろうか?

 

 サーシャ? いい反応だったよ、少なくとも夢の中のサーシャは。

 ま、所詮は夢だしね。確かに、幼いころは膣より尻穴の方が性感が発達してるのは珍しくないが、いきなり俺のを、ただでさえ小柄なサーシャが咥え込めるはずないやん? 裂けるってマジで。

 

 翌日起きたサーシャは、顔を真っ赤にして逃げて行ったけど、走りづらかったり、尻を抑えるような仕草もなかったんで、本当に夢だったんだろうさ。

 

 

 

 

 …先日の夢で得た、尻子玉をダイレクトにナデナデできる能力を考えなければな!

 

 

 

 そういう訳で、アレが夢だったのか、どこまで現実だったのかわからんのだ。

 仮に夢だったとしたら、サーシャもどこまで同じ夢を見たのかも聞けてない。

 

 ただ……逃げて行った時、扉からちょこっとだけ顔を出して、「……またお願いします」って言ってたから、少なくともグロとかリョナにはなってないと思う。

 

 

 

 

 …これ、どうすっかな…。お望み通りの、開発された処女(少なくとも前は)になりつつあるとは思うんだが、今後も「またお願いします」にお答えしていいのかな。

 性的な好奇心はこれでもかという程満たして、むしろ将来的に超スキモノなエロエロ少女の誕生に手を貸してしまったような気がするんだが。下手しなくても、橘花2号というか淫魔様2号なんて称号をつけられそうな気がする。

 

 

 何よりヤバいのは、これを拒んだらサーシャが泣き出しそうな気がするって事だ。

 万が一、それで誰かにバレてみろ。サーシャの方から志願してきたなんて事実は完全に掻き消え、俺がロリを襲ってガチ泣きさせた外道って事になっちまう。いや外道なのは事実だけど。

 

 

 

 …どうしよう…。

 

 

 

 

 

P3G月

 

 

 現状を改めて考えてみると、アレだな。心ならず(?)とも浮気をしてそれを隠すとか、いつぞや那木に射られたあのループと同じ感じがする。

 隠し事や、非公認の浮気(公認の浮気とか、冷静に考えるとパワーワードだな)をそのままにしておくと、どんどん地雷は大きくなっていく。

 あかん事したら、素直に白状して謝るのだ。至誠こそがとるべき道である、という結論に達した。これが至誠と呼べるかは別として。

 

 

 

 というわけで、早速マオを呼び出して白状しました。白袴と短刀も用意したぞ。ちなみに短刀はリーチ・極短でアホみたいに攻撃力と切れ味が高いG級太刀だ。

 割とガチで切腹も覚悟していたし、「その切れ味では痛みはないだろう、こっちを使え」とボロボロの状態の剣を渡される事も考えたし、少なくともマウントで延々殴られる(刀の柄で)も覚悟していたんだが……。

 

 

「…そうか」

 

 

 の一言の後、マオは目を閉じて思案に入ってしまった。俺との決別を決めているのか、それとも処刑方法を考えているのかと思ってたんだが…話が予想外の方向へ転がりだす。

 

 

「…先日、私とミーシャ、そしてリアとフラウが共に狩りに行った事は知っているのな?」

 

 

 ああ、それは知ってる。ハブられたなんて思ってないが?

 

 

「…この際、君の心情は無視していうが……実は、ミーシャとフラウが、妙に意気投合していてな。フラウが多少合わせている節もあるが、少なくとも二人の間で、何らかの考えが共有されたようだ」

 

 

 あの二人が? フラウの愛嬌を振りまく姿が鼻につく、なんて言ってたのに。

 

 

「実際に触れ合って話すのと、傍から見ているだけの感想が別物なのは当然だろう。まぁ、君という緩衝材があっての事だとは思うが。個人的な見解だが、あの二人は意外と似た性格を持っている」

 

 

 

 

 ……そう…か? 少なくとも表面上は全然違うと思うんだが。愛嬌振りまくアイドルと、バリバリのキャリアウーマンって感じだが。

 

 

 

「…ミーシャはな、あれで尽くす女だぞ。私も先日初めて知ったが、君の為に何ができるかを、ずっと考え続けているようだ。…俗な言い方をすれば、ようやく捕まえた男を、絶対に逃がさないように、飴を与えまくっているということだろうな」

 

 

 嫌な言い方するね君。…でも、そういう意味ならフラウと気が合うのもわからんではない。

 フラウも妙な心配して、俺の周りの戦力を増やそうとしてるみたいだからな。ちなみに、マオ達を煽ったのもそれが目的だったらしい。

 

 

「成程な。思い返せば、あの時の惚気は妙に挑発的な部分があったが…」

 

 

 確かに、二人とも自分で勝手に動いて、俺に益が出るように行動する節はあるな…。ミーシャは猟団長って立場があるが、一線を越えるとそれすら俺の為に利用しそうな気が…。

 

 

「……………………」

 

 

 あの、その沈黙は…。

 …えーと、話が盛大にそれたんだが、サーシャの件についてのお咎めは?

 

 

「私からは無い。万一、君がサーシャに望まぬ行為を強いようとしていたのなら、君を斬って私もその場で後を追う覚悟があるが、今回はサーシャからの希望だからな。行動には責任と結果が付きまとう。幼い身であっても、当然の事だな。…まぁ、女として思うところがないとは言わないが、それを不満に思わない程度には、君に仕込まれているものなぁ?」

 

 

 あ、あははは…それでええんか。

 

 

「フロンティアとはそういう場所だ。例え幼子であろうとも、自分の選択の結果は引き受けねばならない。保護者の庇護など、あって無いようなものだ…。……そして、その保護者の庇護が全く当てにならん」

 

 

 はい? 保護者って、この場合猟団長のミーシャだよな? あれで母性溢れるタイプだと思うんだが。

 

 

「……君、さっき自分で言っただろう。『一線を越えると、猟団長という立場すら君の為に利用しかねない』と」

 

 

 

 

 ………あの、ちょっと、まさか…。

 

 

「…フラウと共にな、君と肉体関係を持った人間を増やそうと計画している節がある。その第一候補が、我々の猟団だ。私とて、流石に簡単には信じられん。ほんの少し、二人の会話を聞いてしまった程度だ。だが、たったそれだけの内容で、私は君の…その、愛人というべきか恋人候補というべきか、とにかくそういう相手が増える事は覚悟したんだ。故に、君が誠実に対応し、こうやって正直に情報を共有しているなら、私は何も言わない。…最初がサーシャだとは、流石に夢にも思わなかったが」

 

 

 

 い、いや今まで出会ってきた中で有数の常識人かつ良識人なミーシャがそんな……しかし、だからこそ弾けた時に何をやらかすかわからないのも事実…。

 というか、もしもそれが事実だったとしたら、ミーシャってば悪い男にドハマりして、私生活から人生から何から何まで貢ぐ愛人型じゃん…。

 

 

「更に話がややこしい事に、そういった事に抵抗のない団員も何人か居る。その内の2人は、君も知っているだろう。いつぞやの宴会で、君に抱かれる必要があると聞いても動じなかった二人だ」

 

 

 ああ…たしか、ルーディとジェリーだったか。…他にも居るの?

 

 

「直接の面識がある者は少ないが、言い出しそうなのは何人か。…話が逸れたな。とにかく、サーシャについてはどうこう言う気はない。私だけではなく、おそらくミーシャもな。ただ、最後まで面倒はみるように。そしてどんな形にせよ、責任は取れ。私たちを差し置いて結婚、という形になるなら、それはそれで構わん。私達はサーシャから君を奪い取ろうとするだけだ」

 

 

 いやそれどう見ても昼ドラやん。今現在からして修羅場不可避状態だけど。

 うーん……なんつぅか、ミーシャって意外と重い女なのね。マオの重さは予想の範囲内だからいいけど、アレだ。初めてできた男の為に、勝手に動いて動いて「嬉しい? ねえ嬉しい?」って迫ってくるような。

 

 

「私が重いかはともかくとして、大体そんな感じだな。相手次第では、『勝手なことをしないでくれ』とか『気遣いが重い』と言われて破局するタイプと見た」

 

 

 舞い上がってるからなぁ…。それで、他に俺の女増やそうとするって結論に至るのがわからんが。

 

 

「アレじゃないか? 『もっと増やしたいなら、私が選んで宛がうから、最後には私に戻ってきなさい』みたいな。……一番大きな理由は、単に体が保たないからかもしれないが」

 

 

 マオの発想も大概だな。いやそれをマオが実行しようとしてるんじゃないのはわかるんだが。

 …サーシャの事は、どんな形であれケジメはつけるとして。

 

 

「どんな形であれ、と言いつつズルズルと続く未来しか見えない」

 

 

 その魔眼は未来予知でもできるのかな? 実際、サーシャの判断に従うと「もう一回」「もう一回」ってなりそうだ。

 はぁ……逆らえる気がしないな。マオの前でデリカシーどころかモラルの欠片もない事を言うけど、あの子魔性の女の素質があるぞ。性格や見かけもそうだけど、ロリって習慣性が半端ないわ。キョヌーの方が好きと思いつつ、麻薬みたいに抜け出せなくなる。

 

 

「そ、そうか……ちなみに私の胸は?」

 

 

 大好きだけど、マオの場合どっちかとゆーと下半身の方が好き。尻かおみ足かは永遠のテーマだな。

 というわけで、今から確かめさせてくだしあ! 相談に乗ってくれたお礼も兼ねて!

 

 

 

「ちょ、まっ、今日はまだ狩りの予定が! はやく上級ハンターにならないと副団長っぽい立場の威厳が! あ、こら囁くな! スイッチが入る……はぅ」

 

 

 

 

 …うん? シたけど、その後の狩りに支障が出ない程度にしたよ。霊力も増えてるから、腰砕けどころかパワーアップ状態だし、交わった性の匂いは消臭玉で消したし。

 

 

 

 

 そうするとマオの方が不完全燃焼になって、狩りの後にベースキャンプで青カンになったけど。

 

 

 

 

 

 




尚、出てきたキャラクターの元ネタ。まだちょっとしか出てない人含む。
全員ストパンが元ネタです。
…漏れはないかな…。

マオ=坂本美緒
ミーシャ=ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ
サーシャ=サーニャ・V・リトヴャク
ベリヰヌ=ペリーヌ・クロステルマン
ショーカ=宮藤芳佳
ネリ=リネット・ビショップ
トゥルート=ゲルトルート・バルクホルン
ジェリー=シャーロット・E・イェーガー
アンナ=ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ
ルーディ=ハンナ・ルーデル


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265話

 

P3G月

 

 

 珍しいモン見た。いやそれ程彼女の事を知ってる訳じゃないんだが。

 今日の朝、狩りに行く前にちょっと散歩していた時の事。バッタリ会ったルーディに、抱かれてもいいから霊力の使い方を教えろと迫られていた時の事だ。

 

 もうさっさとヤッちゃおうかな、この人なら多少中毒っぽくなっても多分気合でねじ伏せるか、楽しみが一つ増えた程度にしか思わないよなー…とまじめに考えていると、見覚えのあるちっちゃい背中を発見した。しかも3つ。

 人間よりも明らかに小さいその背中は、3匹がトーテムポールみたいに重なっている。

 

 

 …おうそこのアイル-トリオ、何やってんねん。

 

 

 

「ニ、ニャ……おお、久しぶり…ニャ…重いニャ…」

 

「静かに! 歌姫様に見つか、お、おお、トッツイ動くんじゃニャいニャ…」

 

「お前もニャ、バッシ。全く、アイルー一人すら持ち上げられないニャんて、鍛え方が足りないニャ」

 

「ワタクシは頭脳労働担当なのニャ! 大体、トッツイが一番下なのはいいとして、何でワタクシがモービンを持ち上げニャきゃいけないのニャ!」

 

「静かにしろよぅ。歌姫様も頑張ってるニャ」

 

「うぐぐぐぐ…!」

 

 

 

 アイルーって大樽爆弾も普通に持ち上げるから、アイルー一匹分くらいの重さくらい余裕だろうに…。

 

 

「…誰だ?」

 

 

 ああ、歌姫…って知ってたっけ? とにかく、メゼポルタ広場に滞在しているお姫さんのおつきのアイルーだ。

 

 

 

「姫? そんなものがフロンティアに来ていたとは初耳だ。興味もないし」

 

 

 ああ、アンタ戦い以外に興味なさそうだもんね。

 つーか、歌姫サンって実際のとこ、公的な立場とか後ろ盾とかあんのか?

 

 

「故郷を古龍に滅ぼされて落ち延びたオレ達に、そんな物ある訳ニャいニャ。歌姫って呼ばれてたのも俗称だし」

 

 

 ま、野生の王族がその辺にいても困るしな。特に何処ぞの国の第三王女みたいなのが。…あれ、トッツイも負けず劣らず鬼畜な理由で依頼出してたような気もするよ? まぁ、そこは手打ちにしたからいいけど、今後もなんかやらかしそうな気はするんだよなぁ…。

 で、お前らこんなトコで、3匹そろって何やってんの? 何かに牙を剥く気なの?

 

 

「そんな筈ニャいニャ。オイラ達は無害なアイルーだニャ。…いやその、コーヅイさんを初めとしたハンター達に迷惑かけたニャが、今は反省しているという事で一つ」

 

 

 …まぁ、ギリギリセーフって事にしよう。あの後はやらかしてないみたいだし。

 で、結局どうした?

 

 

「ワタクシ達が揃ってニャにをするかと言えば、歌姫様のお世話に決まっていますニャ。ほら」

 

 

 バッシに指さされて見てみると、そこには………歌姫サン? だよな? 髪型も違うし、服もいつものドレスだか舞台衣装だかわからないものじゃなくて、もっと動きやすいジャージに見えるんだが。

 で、何をやっているのかと思えば……息を切らしながらもゆっくり走って……腰に下げている鞄から、貸家の前のポストに紙を………って、新聞配達かい!

 

 

「牛乳配達とどっちにするかで迷ったけど、こっちならコケても割れたりしないからニャ」

 

 

 あ、コケるのは確定事項なのね。…よく見たらジャージに土ついてるし。

 というか、本当に何やってんだ一体。

 

 …あのルーディさん、一応知人の事なんで、「どうでもいいし興味もないから、早よ教えろ」は後にしてください。片手間でもできる訓練を教えるから、ちょっと黙ってて。

 とりあえず、どんな力を使いたいのか、具体的に考えなさい。最初は単なる妄想でもいい、「こんな能力があったらいい」と想像して欲するだけでもいい。それをどんどん具体的にしていってくれ。

 

 

 …さて、厄介なのもとりあえず静かになったし、ありゃ何だ?

 

 

「見ての通り、新聞配達ニャ。歌姫様が自分からやると言い出したニャ」

 

「この前の喧嘩が原因だろうニャぁ。いや、お前さんが上手い事焚きつけてくれたニャ」

 

 

 あー…そういや色々言ったなぁ。で、せめて自分の生活費くらいは稼ごうと、新聞配達ってか。

 

 

「それもありますが、多分言われっ放しが悔しかったのニャ。歌姫様は、あれでかなりの負けず嫌いですニャ」

 

「お金を稼げて、運動にもなる仕事を! って言われた時には、どうしたものかと思ったニャ」

 

「ま、歌姫様の体力を考えると、これでもキツすぎるくらいニャ。どれだけ引き籠って出不精してたか…」

 

 

 デブ症? 豚? というお決まりの反応は置いといて、真面目に大丈夫か? 新聞配達にせよ牛乳配達にせよ、冗談抜きでハードだぞ。しかも乗り物さえ使わず、自力で走ってるし。

 

 

「今日で三日目ニャ。初日は試用期間で少な目だったノルマを、先輩に手伝ってもらいながらヒィヒィ言いながらやり遂げて、帰ってくるなりブッ倒れたニャ。二日目は筋肉痛に悩みながら、時間を大幅にオーバーしながらやりきったニャ。今日は定時より3時間早く初めて、もうちょっとで配り終わるニャ」

 

 

 …マジか。装備やノルマ、配る範囲によっては下手な狩りよりキツイって聞いたぞ。命の危険がないだけマシだが…というか、夜中からずっと配ってんのか。そしてお前らはそれを見てるのか。

 

 

「悪党はどこにでも居るからニャ。何かあった時の為、途中で倒れた時の為、こうして草葉の影から見守っているのニャ」

 

 

 それお前らが死んでるって表現だからな。

 

 

「? 狩場で草木に隠れるように、と言ってるだけニャ。ともかく…まだ吹っ切れた訳ではニャいけど、歌姫様がああやって外で動いているだけでも良かったニャ」

 

 

 これからも続くと思うか?

 

 

「きっと続きますニャ。火が付いた歌姫様は、ヒジョーに情熱的な方ですニャ。…それに、自分でも体力が落ちすぎている、と驚いていましたしニャぁ。以前ニャら、新聞配達も牛乳配達も同時にこなせるくらいの体力はありましたニャ」

 

 

 マジで? てっきり、箸より重いものを持ったことの無い箱入り娘だと…。

 

 

「チッチッチ。あれで歌姫様は、トキシを探すための旅にも普通についてこれたんだニャ。小さなころはヤンチャだったし、舐めちゃいけないニャ。結構体力派なのニャ。他のスペックも、かなり高いニャ」

 

 

 そういやそうか。歌を歌うのにも体力は要るしな。

 ……あれ、そういや呪いを解くための儀式とやらはどうなった?

 

 

「あー……その…申し訳ニャいですニャ。もう試してみてしまったニャ…。是非とも呪いが解ける瞬間に立ち会ってほしい、なんて言っておきながら…」

 

 

 いやそれはいいよ。…言っちゃ悪いが、それで呪いが解けるとは、正直思っていなかったしな。…で、実際解けなかった訳だ。

 

 

「ニャぁ……。ワタクシの面目、丸つぶれですニャ…。歌姫様がお元気になられるなら、そのようニャものは些事ですが…。よもやあの大悪と……ンンッ、トキシと歌姫様が恋仲だったとは、見抜けませんでしたニャ…このバッシの目をもってしても」

 

 

 その言い方はよぉ…いや世が世ながら傑物なんだろうけどね。相手が世紀末覇者と救世主相手じゃ、真っ当な戦術論なんぞ通じないのも当たり前だわ。ところで、一体何処が『海の』なのか未だにわからない。

 で、それはいいとして、これからどうする気だ? 呪いじゃなくて色恋沙汰の拗れ、しかも当事者がMIAと来たら手の打ちようがないだろ。

 

 

「それニャんですが…暫く歌姫様を静観しよう、ということになりましたニャ。見ての通り、歌姫様は今、閉じこもっていた部屋から出て、何かをしようとしている最中ですニャ。これだけでも大きな進歩ですニャ………家計的にも」

 

 

 うんそうねゴクツブシのニートがバイトするようになっただけでも大きな進歩ですもんね。下手な事せんと、様子見するのはアリだと思う。せめて経済的に安定するまでは。

 うぅむ……豚になる、の一言が効いたか?

 

 

「ああ、オンナに対してこれ以上の劇薬は無いニャ。…あの後、自分の体を触って顔を引き攣らせていたのは、見なかった事にするニャ」

 

 

 まじめな話、もうちょっと肉つけた方が健康的だとは思うけどな。それも贅肉じゃよろしくないか。

 ま、どこまでやれるか、見せてもらおうかね。んじゃ、悪いが俺はもう行くぞ。あんだけ暴言吐いた手前、いきなり顔を合わせても、あっちも気分悪かろう。

 

 

「気を使ってもらってすまないニャ。今度、旅の途中で手に入れた上等な酒でも持っていくニャ」

 

 

 マタタビ酒なら、サムネ夫妻にやってくれ。そんじゃ……「狩りに行くぞ」……あの、ルーディさんなんすか。

 何? イメージトレーニングはもう終わった? むしろ日常から夢の中までオールタイム?

 いやアンタがそういうなら、間違いなくそうなんだろうけど、それだけで使える訳じゃないぞ。………はぁ、朝起きて体操して牛乳飲んだら狩りに行って、戻って飯食ったらまた狩りに行くのが日課? 霊力については、一狩りしてスッキリしてからまた考える?

 ……なんだろう、本気で逆らえる気がしない。というか、この行動…かつてのGE世界での俺を思い出すような…。

 

 ああわかったわかった、一狩り付き合いますよ。でもちゃんとギルドの依頼内容は守れよ!? 「あっちにモンスターが居るぞ!」とか言いながらG級領域に 突っ込んでいくような真似をするな…………あれ、物凄く身に覚えがあるよ? ……ま、いいか。それはそれ、これはこれ。他人がやるのは悪いが、自分がやるのは良し、というのは万人共通心理だしな。

 狩場に行くまでに、どんな能力を考えたのか教えてくれい。…まぁ、考えたからってそれが実現できるとは限らないけども。

 

 

 

 

 …狩ってきました。意外や意外、どこまでもモンスターを狩りつくしそうだったルーディだが、意外と狩りの量自体は普通だった。いや十分多いし、遷悠種を6体くらい見つけて狩ったんだけど。アレについては、むしろ生態系に妙な乱れを起こさない為の処置と言えなくもない。

 腕前は流石の一言………と、言えればよかったんだけどねぇ。

 

 いや強いし上手いんだよ? でも上手すぎて参考にならないタイプだアレ。動きや戦術論が独特すぎて誰にもできん。判断基準がさっぱり分からん。気が付けばベストな位置、ベストなタイミング、意味不明なチャンスを確実にモノにする。

 そんでもって、彼女が欲した能力は二つ。より高く飛び上がる能力と、爆弾をそこまで持っていく能力。 

 そういや、ミーシャも『飛び上がってからの奇襲に定評がある』って言ってたっけな。それを強化するつもりか。

 

 それはいいんだが……出来るかなぁ。原理的には、そこまで難しくないんだ。飛び上がる方法一つにしたって、身体強化による跳躍から、鬼の手みたいなのを使って引っ張り上げる、足場を作る、壁を走る、モンスターの体を駆け上がる、高いところから滑空する等、方法は幾らでもある。

 問題なのは、必要としている能力の高さだ。飛び上がる能力にしたって、速度は遅くてもいいからリオレウス以上の滞空時間と高度がほしいって言ってるし。爆破に至っては、一撃でモンスターを部位破壊できるくらいがいいそうだ。一撃で仕留める、と言わないだけマシなんだろうか。

 

 どうすっかなぁ…。どっちか一方なら、特化して鍛えていけば何とかなるかもしれないが。後者に関しては、回数制限やチャージ時間が非常に厳しくなりそうだし。

 せめてどっちか一方に出来ないのか、人間は同時に何かを鍛えられる程器用ではない……と伝えたところ。

 

 

「だったら、お前が一方を担えばいいじゃないか」

 

 

 ………こっちの都合ガン無視なのはともかくとして…2人で一つの能力…いや、この場合は二人で能力を組み合わせるのか。うん、その発想はなかったわ。役割分担は狩りの基本なのにな。

 アイデアとして、二人係での能力ってのも…鬼千切・極みたいなものだと思えば、練度はともかくそう難しくもなさそうだし。

 

 でもなぁ……ルーディの相棒か…。いつも同行できる訳じゃないってのもあるが、ものすごーく振り回されて苦労しそうだな。特に川のある狩場には要注意だ。なんか水中からガノトトスに足を引っ張られたり、水ブレスで狙撃されて沈みそうな気がする。………あ、俺って水中でも呼吸できたっけ。

 

 

 

 …なぜだろう、自分がやってきた事が全部ブーメランで戻ってきている気がしてならない。いや何故も何も、わかっちゃいるんだけども。

 

 

 

 

 まぁ、何にせよ……ルーディの言葉でアイデアが出たからって、それに気を取られたのは失策だった。言葉に詰まったのを見逃さなかったルーディに、一気に押し切られた。

 「その沈黙は出来るということだな?」と突っ込まれ、あれよあれよという間に……。

 

 

 

 

 ベッドに連れ込まれてしまいました。しゃーないやん。コレが一番手っ取り早く、霊力を実感させる方法であるのは確かなんだし。断ろうったって、この人に逆らえる気がせーへんねん。

 しかも外堀も埋められてるしよぉ…。ミーシャとマオとの関係がある事は知っていて、更にその二人から許可も出ていて、本人は未経験ではあるが「急降下爆撃の強化と完成の為には、純潔くらい安いもの」と言い切ったし。

 

 

 ベッドの上の事に関しては…すまないが、あまり語る気はない。なんつーか、とてもとても畏れ多い方と睦んだような、世界的に有名なスーパーモデルと寝た思い出ができたような、そんな気分だ。

 まぁ、容赦なく乱れさせた訳ですが。体力や精神力は桁外れだったが、流石に素人にコッチで負けはしない。オンナ関係で何度も破滅した俺が玄人なんぞ、鼻で笑われそうだが。

 

 締りとかテクとかはともかくとして、特筆すべきはやはり精神力か。コトが終わった後は、何事もなかったかのようにケロっとしており、「うむ…なるほど、これが霊力か。早速試さなければ!」とそのまま狩りに行ってしまった程だ。後始末くらいしろよ。急降下爆撃に、股から漏れた白いのが混じってたら、モンスターが哀れすぎるわ。

 ちなみに、コトの感想はというと……「今までで受けた中で、最高のマッサージだった。また頼む」だそうな。かなり乱れてたんだけどな…。それであの反応だもの。うむ、俺もまだまだ精進が足りん。

 

 というか、霊力の存在を感知した瞬間から、ある程度操作できるようになってたが……流石にまだ具体的な能力は発現できてないよなぁ…。

 

 

 

P3G月

 

 

 今度はジェリーが来た。ルーディにやったんだから、自分もいいじゃないか、という理屈だ。

 何かと速度に拘る彼女としては、自分よりも先にルーディが霊力を会得した、というだけでも気になるらしい。まぁ、そのルーディは速度に興味がない…『遅くてもいいから』なんて言うくらいだし…為、ジェリーもそこまで焦ってないが。

 で、例によってミーシャからの許可も得ているらしい。マオはノーコメントだった……先日の言動を考えると、消極的黙認? むぅ……なんつーか、本人は覚悟してると言ってるが、影で泣かせてるみたいでちょっと居心地悪いです。

 

 

「大丈夫だと思うけどなぁ。思いつめた顔なんかしてなかったぜ」

 

 

 …そりゃ、ジェリー本人にそういう顔は見せないだろうけども。

 

 

「いや、あの人かなり顔に出るから。…まーアレだ、そんな事言うなら、未来の家族のサービスにでも行ってやったらどうなんだ? 旅行とかさ。あの二人だって、喜んでついてくると思うけど

 

 

 旅行…旅行かぁ。いい提案だとは思うし、そういう関係の男女が(複数だけど)一緒に行くのも常識的だと思う。猟団の維持も、2~3日程度なら開けても問題ないだろう。

 

 

「なら決まりだろ。釣った魚に餌をやらない男は最低だぞ。フロンティアにだって、観光地は結構あるんだ。大体モンスターに喰われる危険と隣り合わせだけど」

 

 

 …言いたい事は分かる。それ普通の狩りと変わらないだろ、ってツッコミも呑み込もう。

 ただ、マジな話なぁ…。俺がどっか出かけて帰ってきたら、メゼポルタ広場が超巨大モンスターとかに襲われて壊滅してそうな気がするんだよ。

 

 

「…なんだそりゃ? 自分が居ないと、モンスターに勝てないとでも?」

 

 

 いや、そんな事はない。いくらG級になったとは言え、フロンティアの中じゃ高く見積もっても中の下ってトコだ。俺が居ても居なくても、襲撃してきたモンスターは返り討ちにできるだろう。

 …ただ、そんな事が昔何度かあってな。

 確かあの時は……用事があって他所の土地に出かけて、戻ってきたらラオシャンロンが迫っていた。元カノと一緒に旅行に行って戻って来たら、今度はシェンガオレンが遊びに来た。更にもう一回出張して戻ってきたら、ルコディオラに襲われて壊滅状態、元カノとも…。

 

 

「あー…すまん、悪い事聞いてしまったな。しかし、それだけとんでもないモンスターが連続で襲ってきた土地なんてあったか? 特にルコディオラなんて、つい最近確認された超希少な古龍じゃなかったか」

 

 

 あんまり知られてない土地だったから、記録に残ってないんじゃないか? 下手すると、村の存在自体、公式記録に残っているかが怪しい(と言う事にしておこう)。

 そういや、その後ハンターになるまで色々あったけどやっぱり他所に出掛けて戻ってみたらエライ騒ぎになってた事が何度かあったな。ったく支部長め、俺を騙して妙な土地に送り届けやがって…走って戻って来たけど。

 

 とにかく、そういうジンクスがあって…なるべく遠出したくないんだよ。

 

 

「考えすぎだと思うけどね。大体、大抵のモンスターならここの戦力で跳ね返せるんだしさ」

 

 

 …襲ってくるのがモンスターならいいんだけどな…。いや、大したことじゃない。大地震とかの可能性もあるってだけで。……それが俺の行動で引き起こされると思うのが、既に自意識過剰? 反論のしようもないな。

 まーアレだ、教えるにしても日を改めてくれ。もうちょっとで作りたい装備が完成するから、今日は狩りにいくつもりなんだよ。

 

 

「なんだ、それなら手伝うから代わりに……って、アンタそういやG級だったっけ。それじゃ、今のアタシじゃ無理だなぁ…。仕方ない、出直しますか」

 

 

 悪いね。個人的な欲望を言えば、是非ともお相手願いたいんだけども。失礼を承知で言うけど、ジェリーは後腐れとかドロドロした部分は…少なそうだしな。

 

 

「褒められてるのかね…。そんじゃ、今日は帰るよ」

 

 

 

 ……うーむ、いつでもオッケー状態とは言え、もったいないなぁ…。プライドに傷をつけたんじゃないかって心配もあるし。

 カラッとして大雑把……もとい明け透けに見えるけど、そういう人種こそ…ってのも考えられる。いや、根っから能天気な奴だと思うんだけど。

 

 …考えても仕方ないか。とりあえず狩りに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …甘く見てた。フロンティアの女は肉食系が多いなぁ…。

 

 

 

 



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266話

ああ、やっぱりEDF延期か…。

今からでもダークソウル3を買うべきか、イースⅧの体験版やりながら悩み中。
ニーアの称号、もうショップで買っちゃおうかなぁ…。
面倒になってきた。

しかしそれはそれとして絶叫したい。
全ての弁当屋・惣菜屋に物申す。

頼むからセロハンテープはしっかり張ってくれ!
家に持って帰って床に置いたら、崩れ落ちて400円分パァになったよ!


P3G月

 

 

 元はと言えば、昨日の狩りが終わった後の事。どうやら待ち構えていたらしいミーシャに捕まり、呑みにつれていかれた。

 ちなみに今回はBARじゃなくて居酒屋。色気が無いとか言うな。大衆的ではあったけど、飯は美味かったぞ。

 と言うか、今回はミーシャと一緒に、何人か付いてきてたしな。その中にジェリーも居たんで、ちょっと気まずかったが。

 

 何でも、マオを筆頭に次々に上級昇格試験の話が来ているらしく、嬉しくもあり忙しくもあり不満でもあり、といった状態だそうな。

 不満な理由は分かるけどね。上級に相応しい実力者(言動に問題がある者含む)である事は事実だが、立て続けに昇格の話が来たのは、霊力並びに彼女達が持っている特殊能力目当てだろう。そこら辺の色目なく評価されたかったのか、それともその辺も割り切ったつもりだが…の状態なのかは不明。

 どっちにしろ、昇格試験は話を持ち掛けられた全員が受けるらしい。…ルーディとか大丈夫かね…テンション上がりまくって、モンスターだけじゃなく狩場を爆破しなけりゃいいんだが。

 

 まーそれは置いといて。いい塩梅に酒が入り、一緒に居た一人の子供…多分サーしゃよりまだ幼いと思うんだが、ジェリーに懐いていたルーキー(愛称らしい)がウツラウツラし始めた。…ああ、一応言っておくが、飲んだからじゃなくて夜遅くなってたからだからな。

 皆して酔っぱらってるし、ストライカーの猟団部屋は隣のメゼポルタ広場だったんで、俺の家に泊まっていく事になった。

 

 

 

 …この辺で、既に大方の予測は付いていると思うが、もうちょっと付き合ってくれ。

 

 

 部屋に戻って来たころには、ルーキー嬢ちゃんはもうオネム。

 ジェリーも寝惚け眼、ミーシャは平然としているように見えて顔が赤いし、狩りの疲れもあって俺も寝ようかなーと思っていた。……夜中に起き出して、ミーシャに夜這いをかけようかと思ってたけども。

 全員先に風呂に入らせて、俺とサムネ夫妻は寝床の準備。ちなみにオネムのルーキー嬢ちゃんは、ジェリーが引っ張って風呂に入れていた。

 

 流石にベッドも部屋も足りないので、半ば雑魚寝状態になった。客室のベッドはルーキー嬢ちゃんで決まりです。

 俺の部屋のベッドは…何だ、ミーシャに使わせて、そんで済し崩しに俺も使う…と考えてたんだが。

 

 

 カウンターを貰いました。不発だったけど。

 

 

 何があったって? 俺が風呂入ってたら、乱入されました。それも2回。

 酒が回って、風呂の中で頭がボーッとしてくる、気持ち良くもうたた寝しそうかつ、ヒジョーに危険な状態を堪能していると、ガラッとジェリーが入ってきました。ハイ乱入一回面。無論、バスタオル一枚。何もおかしな事などありゃしない、って面だった。そして開いたドアの向こうで、明らかに面白がっているミーシャが少々オゲレツなジェスチャーをしていた。具体的には輪っかに指を通す奴を。

 ミーシャが煽ったか…しかも、俺が夜這いしようとした事さえ気付いてるな、アレ。

 

 

 …マジで俺の周りに女と言うか戦力増やそうとしてる…。こりゃ、どうなるにせよ一回話しておかんと。

 

 

 で、ここまでお膳立てされて、俺が我慢できる筈もなく。…………となったところで、ミーシャにとっても誤算が発生。乱入2回目である。掟破りの、普通の首領から大連続狩猟状態だ。

 なんと、眠っていた筈のルーキー嬢ちゃんが飛び込んできた。勿論マッパ。どうやら、ふと目を覚まして、一人じゃつまらないとばかりに飛び込んできたらしい。ミーシャが止める暇もないくらいの早脱衣だったそうな。

 

 幾らジェリーが開けっ広げだったとしても、流石に嬢ちゃんの目の前でパッパとマッマがやるプロレスを繰り広げる程じゃなかった。

 その場はとりあえず、3人一緒に風呂に入るだけで終わった。…普通に考えて、『だけ』ってのもおかしいけども。目の前で、ルーキー嬢ちゃんがいきなりジェリーのおっぱいを揉んだりしたし。…うむ、これは触り返してやるべきだったろうか。しかしそれをやると、倫理だペドだ以前に、自分は誘惑しても手を出さなかったのに…と言うジェリーの冷たい視線を貰うハメになってしまいそうだ。

 

 ま、とりあえず、3人で背中の流しっこするのは、中々いい気分だった。お腹の洗いっこもすればよかったかな。

 

 

 

 

 …で、風呂から出た後。ミーシャを問い詰めようとしたのだが、それから逃げるようにさっさと眠ってしまっていた。狸寝入りではないようだ。

 ならばジェリーは…と言うと、こっちはルーキー嬢ちゃんを寝かしつけていた。流石にこの状態では問い詰められない。

 

 

 なので、備える事にしました。ええまぁその、色々と。準備自体はそう時間のかかるものではなかったので、さっさと済ませ、布団に潜り込んだ。割と暑い日なので、掛け布団はシーツ一枚。普段は使わないアイマスクも付けて。

 

 

 そのまま動かない事、10分くらい。空気が動いた。扉が開かれたようだが、特に何も行動せず。

 ペタペタと素足の足音が近付いてくる。物音を立てないようにしているようだが、まだ甘い。ついでに衣擦れの音も聞こえな…いやいや、これ以上気配で探ってもオタノシミが無くなりそうだ。

 

 シーツを静かに剥がれても寝たふりをしていると、ちょっと笑う声が聞こえた。ベッドの上に誰かが乗ってきて、ズボンをカチャカチャ弄っている。ちなみに、俺のは言うまでもなく臨戦態勢だ。

 外気に晒される感触の後、2,3度撫でられ、柔らかい感触がして……。

 

 

 

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 必要な分は見せたと言う事だ。これ以上は見せぬ。

 

 

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 …まぁ、要するにジェリーに逆夜這いされた訳ですよ。あんだけグラマラス、しかも性格も良くて後腐れしない美人にされるとか、ホント男冥利に尽きるね。

 当然と言えば当然だが、逆夜這いに来た直後(既にヌード状態。だから衣擦れの音が無かったんだNE!)、俺が狸寝入りしていたのにも気付いていて、迷わずプレイとして乗って来た。即尺っていいね。

 

 その後? 実にグラマラスなおっぱいで、心行くまで癒されましたが何か? エロい意味でもイヤされましたが何か?

 尚、準備していたアダルトグッズが大活躍した事を追記しておく。ドロドロのヌチャヌチャになった大人の玩具が、絡み合ってる俺達の周りに8個くらい放り出されてます。勿論全部使いましたとも。

 『それなりに経験がある』とは本人の談だったが、道具も使わないドノーマルな経験しかなかった模様。いやそれが普通なんだけど。道具で責められながら、俺の手でも愛撫される感覚にドップリ浸かってしまったよーだ。

 うーん、ムチムチボディに縄とか手錠とか目隠しが映えるなぁ。そりゃーもう、思いっきりねちっこく行きましたが…いやイカせました。

 

 ん? 風呂場に乱入してきた上に、逆夜這いするスキモノには丁度いいだろ? ちゃんと霊力も感じられるようにしたし。

 

 

 

 そんで、暫く弄んで、気絶させて一服(結局欲望に流されたなーと、反省していた。反省だけは)してたら、今度はミーシャが入って来た。こっちはちゃんと服を着ている。

 

 

「…また随分派手にやったわね。ルーキーが起き出さないか、心配になったくらいよ」

 

 

 他の皆は?

 

 

「寝てる…けど、モゾモゾしてたし、寝たふりかもしれないわね。或いは淫夢でも見てるか」

 

 

 あー…まぁ、見ても無理はないよなぁ…。

 それはそれとして、ミーシャ。真面目に聞くが、何のつもりだ? 俺に女を宛がうような真似ばかりして…。お前の性格なら、浮気なんぞされたら成大に怒り狂うだろ。

 怒ってる訳じゃないが、不思議とは思う。俺は色情狂の類ではあるけど、何も考えない訳じゃないぞ?

 

 

「…大した事じゃないわ。おかしな相手に手を出されるくらいなら、ってだけよ。今でこそ大分見直されているけど、貴方と猟団の評価は、まだタカリ集団なんだから。貴方を誘惑して取り入れば、もっと甘い蜜を吸えそうだと思う女、絶対に出てくるわよ」

 

 

 それに加えて、トップが色狂いなんて噂が追加されるだけじゃないですかねぇ…。まぁ、何かしらんがストライカーは美人揃いだから、気後れして声をかけにくくなるくらいの効果はあるかもしれないが。

 マオは、俺をえらく心配しているからだと言っていたが…。

 

 

「そう。…そうね、それもある。フラウさんとも話したけど、貴方の将来設計がね…」

 

 

 まー先の事をあまり考えてないのは否定しない。いつまでも狩りで生計を立てられる訳じゃないし、考えなきゃいけない事ではあるんだよなぁ…。ただ、今の俺の場合、その前に立ち塞がる問題をどうにかせにゃならんだけで。

 

 

「その辺はあんまり気にしなくていいわ。いざとなったら、私に丸投げしてもいいのよ? と言うより、私としてはそっちの方がやりやすいんだけど。このままだと、色々な意味で普通じゃない関係が出来上がるし、何より貴方がそういう計画的な行動を取れるとは…」

 

 

 夏休みの宿題からして計画倒れになってましたごめんなさい。と言うか、今その『普通じゃない関係』を構築しようとしているのは、俺よりもミーシャだぞ。

 まぁ、俺の将来を心配して、と言うのが本心だと言うのは分かった。

 

 分かったが……言っちゃ悪いが、これ人によっては飼い殺しにされてると受け取るぞ。女を宛がおうとするのも、恩の押し売りと言うか、「嬉しい? 嬉しいでしょう? 黙って受け取りなさい」みたいに思われるかも。まぁ、俺としては「わーい」で済むけども。

 

 

「自分が重い女だなんて、とっくに自覚してるわ。…物理的にも、ハンターやってると筋肉量がね…。ああ、何か要望があるなら、出来る限り将来設計に組み込むわよ。ニートもハーレムも、可能かどうかはともかくとして王族に連なりたいとか言うのでも」

 

 

 王族なんて立場ゴメンです。下手すると第三王女の我儘に……ハンターの方が巻き込まれやすいかな。

 うん、じゃあ取り敢えずだな。

 

 

「うん」

 

 

 色々考えてくれてるお礼として、ミーシャを乳首だけでイケるように開発させていただきます! と言うかジェリーが思ったより早くダウンしたんで、不完全燃焼なのじゃ!

 

 

「そりゃ道具とか使いまくってれば、あっという間に息も絶え絶えになるわよ。…脱がせる? 脱ぐ?」

 

 

 まずは服の上から、しかる後に半脱ぎ状態にします!

 ……って、あら。触るまでもなくビンビン状態…に、雌の匂い…。つまり準備万端。と言う事は…。

 

 

 

 

 …ミーシャ。今夜中に、色々と性癖とか『自習』の頻度とかを吐かせるから覚悟しておくように。

 

 

「え゛。…も、もとい淑女に聞く事じゃないわよ?」

 

 

 俺は紳士じゃないからいーんだよ。gdgd言っても聞く耳持たぬ! 何か言うならおっぱいの先っちょで語れぃ! 世の中にはニプルセックスなる性癖もあるんだから、ニプルフェラも多分あるだろう。フェラが出来るなら喋れるって事だろー多分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……予想通りだったよ。散々こねくり回して弄り倒してトロ甘状態で焦らし続けて延々とねちっこく問い詰めたら、ようやく白状した。

 ミーシャ、デバガメからのオシオキプレイに目覚めてしまっていた。

 俺の周りに女を増やそうとしてるの、単にデバガメのバリエーションを増やそうとしているだけじゃあるまいな……真面目に心配されているのも確かだけど…。

 

 

 まぁ…問題しかないが、ネトラレ属性でなくて良かった、とだけ思っておこう。うん。

 

 

 

P3G月

 

 ジェリーと二人っきりの時、ダーリン呼ばわりされました。ダージリンではない、ダーリン。

 ……えらい性格変わってないか? いや、明け透けで開放的なのは相変わらずなんだが、鬼疾風目当てだったのに、好意が混じり始めたと言うか。

 セクロスから始まる色恋もあるってのは、散々経験してるから今更だけども。…ほんと、人格改造の領域になってきたな。

 

 まぁ、多少ヤキモチを妬くようだが、正妻面して(ひどい表現だが)俺を独占したり束縛しようとしたりするでもなし、特に問題は無いと思う。

 霊力習得はできたので、今度は鬼疾風のやり方を教えてくれ……と言われたんだが、とりあえず足腰立つようになってからにしなさい。何? 今から突っ込まれれば立てる気がする? それは俺が立たせてるだけだし、ジェリー自身は起きるどころか夕方まで寝込むわ。

 大体、心配したルーキー嬢ちゃんがついててくれるんだから、大人しくしてろよ。

 

 

「うじゅー……ジェリーもミーシャも動けなくなってるけど、大丈夫だよね?」

 

 

 あー、二日酔いみたいなもんだから平気平気。自業自得なんだし、あんまり気にするなって。

 

 

「自業…」「自得…」

 

 

 なんか目が冷たいけど気にしない。…はて、ルーキー嬢ちゃんも目の温度が低いような? …意外と賢そうだし、案外性的知識もあるんだろうか…。

 

 

 

 

 ところで全く話は変わるが、最近コーヅィとデンナーが一緒に霊力修行をしている所をよく見る。と言ってもホモォ…な話ではない。オカルト版真言立川流も、リンクバーストも、怪しげな薬物も関係ない。本当に基本的な座禅から始めている。

 デンナーも人に教えられる程、霊力を習得できている訳ではないのだが、そこらへんの真っ当かつ地味な修行に関しては、俺よりも適任なんじゃないだろうか。だって、俺の場合って良くも悪くも急激なステップアップばっかりだったし。

 

 しかし、コーヅィ…以前は霊力を覚えると、溺れそうだから止めておくって言ってなかったっけ? 何か心情の変化でもあったのかな。

 

 

「単純に、上位に行くのだから強化しないと、と思ったんじゃないか? お前だって覚えがあるだろう」

 

 

 まぁ、そうだけど。それで、デンナー指導の霊力修行はどんな進捗だ?

 

 

「…分かっていたが、難しいものだな。と言うより、お前がしっかり見ていればいいだろうに。女にかまけている暇が会ったらな。…反感や不満がたまってるかもしれんぞ」

 

 

 それを言われると痛いな…。いや本当に痛いな。

 

 

「お前の事はともかく、コーヅィは難しい方がいいと思っているようだな。急激な力を持てば、溺れてしまう。…相当苦労して、ようやく少しの力を身に着ける程度が、身の程に合っている…と言うような事を言っていた」

 

 

 …いくら何でも卑屈がすぎないか? と言うか、最近デンナーって、妙にコーヅィを鍛えようとしているように見えるんだが。

 

 

「ああ……装備をつけて立てるようになったし、本格的にハンター復帰が見えてきたからな。その時に備えて、相棒が欲しいと思っていたんだ。ランクで言えば、上級に上がったばかりのコーヅィと、元G級・復帰したばかりでランク1の俺とのコンビになるが、そう悪い事にはならないと思う。コーヅィの慎重さなら、以前の俺が犯したような油断を引き締めてくれそうだしな」

 

 

 どんだけコーヅィ大人気なんだよ。あん? 別に嫉妬なんぞしとらんわい。

 というか、お前G級だったんか。

 

 

「む? 話してなかったか? 仮にも伝説のガンナーなんて呼ばれてたんだ。そりゃ、一時とは言えG級ハンターやってたさ。…まぁ、それで浮かれあがってこの有様だから、一種の黒歴史かな…」

 

 

 はー…油断を突かれたとは言え、それを再起不能寸前にまで追い込んだモノブロスか…。やっぱ二つ名持ちか、その候補かなぁ。

 まぁいいか。確かにいいコンビになりそうだし、ゆっくりノンビリやってくれ。

 しかし、元と言えG級がハンターランク1からなのか…同じ場所に上り詰めるまで、どれくらいかかるだろうな。

 

 

「そんなに時間はかからないな。引退して復帰するようなG級ハンターはあまり居ないから知られてないが、『復帰区』と言うのがあるんだよ。その名の通り、何らかの理由で暫くハンター活動をしていなかった者の為の区域でな。ランクが上がりやすかったり、報酬が多かったりするクエストがあるんだ。それに加えて、引退前の装備がまだ残っていれば、最も手間がかかる装備作成の素材集めも短縮される。…まぁ、その分危険も多いんだがな。クエストの難易度やモンスターの強さよりも、ブランクの為に以前のような動きが出来なかったり、離れている間にモンスターに大きな変化が表れていたり、何より優秀すぎる装備の為に鉄火場の勘が今一つ戻らなかったりな」

 

 

 へぇ、そんな区域があったのか。俺はあんまり使えそうにないなぁ。ループが始まる度にルーキーハンターからだし…。

 デンナーはそこを使って復帰するのか?

 

 

「いや、一から…基本から鍛え直しだ。装備も殆どは封印する。今度こそ、あんな油断や思い上がりは絶対にしないようにしないと…」

 

 

 微妙にトラウマになっとるな…。危うくハンター人生終了になるところだったんだから、当然と言えば当然か。

 

 

 

 



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267話

結局ダクソ3買ってしまった…。
まだプレイしてませんが。

にしても、このところ全然話が進まない。
デンナーはほぼ復活してるからいいとして、歌姫クエストが完全に停滞しとる…。
ストーリーの進捗率が、90%と20%くらいになってしまった。

仕方ないから新しい案件を一つ捻じ込もうと思ってますが、これって幻想砕きの剣の時にもあった、どんどん話が冗長になるパターンだよな…。
と言うか、歌姫クエストだけでも一体どれだけかかるか…。
下手しなくても、今年いっぱいモンハン世界やってそうです。


P3G月

 

 マオと一緒に狩りに行ってきた。何やら張り切っていると思ったら、上級ハンター昇格試験の通知が来たらしい。

 以前は「そろそろかな」と思っていた所に、発作で狩りを断念せざるを得なかったんだよな。今度こそは、と息巻いている。

 

 …それとは別に、ちょっと悩みがあるようだけども。

 具体的にはルーディの事。最近、前にも増して問題行動…と言うより、無茶な戦い方が増えているらしい。

 しかし、当の本人は「無茶な事などしていない。全て予想した通りの動きで、予想した通りの結果になっている」と述べる。…多分ガチなんだろうなぁ、それ。ルーディの戦い方と言うか戦闘センスは、とても理解も真似もできるようなものじゃないし。

 マオもそれは分かっているのだが、見ていて非常に心臓に悪い。最近では、設置した爆弾を自分で起爆して飛び上がるとか、更にその状態から抱えた爆弾を叩きつけるとか、ルーディ自身も、周囲で戦っているハンターも危険な真似をするようになったらしい。

 戦い方は危険だが、その分非常に強力で、モンスターも手早く倒せるから、むしろ回復薬等を使う必要が減り、結果的には収支黒字になる……らしい。味方のハンターを巻き込まなければ…という条件付きだが、偶然なのか技量の問題なのか、今の所ルーディの攻撃に巻き込まれた者は居ない。

 

 うむ…スタイリッシュボマーの型が、どんどん完成に近づいているようだな。

 だが、一番問題なのはそこではない。最近、ルーディは「相棒」作って出撃…もとい狩りに出ようとするようになった。別に、それだけなら問題は無い。共に狩りに行くのはいい事だ。

 しかし、その「相棒」は特定の決まった相手ではなく、近場に居た団員を適当に捕まえているだけらしい。相手の都合もほぼ考えず。

 

 確かに問題だなぁ…。

 

 

 

「だろう? 私も先日、突然付き合わされてな…。狩りたい相手が居れば、そちらを優先してはくれるんだが、大抵それだけでは終わらない。続けて何かを狩りに行くか、乱入があるか…。全く、今まではほぼ一人で狩りに行っていたのに、どうしたんだろうな。いやそれはそれで問題なんだが」

 

 

 …多分、霊力教えた時に言ったアドバイスが原因だよなぁ…。一人ではルーディの考える運用法は難しいから、サポートを付けろって。

 

 

「…どうした? 何か考え事か?」

 

 

 いやいや、マオに似合うコスチュームは裸エプロンか裸割烹着かを考えていただけだ。

 

 

「人にどんな格好をさせる気だ!? しないぞ、私はしないからな! …いやどうしてもと言うなら考えなくも………ゲフン、ちなみにミーシャだとどうだ?」

 

 

 うーん…受付嬢みたいな服かな。

 シチュエーション的には、そうだなぁ…タチの悪いニート男に引っ掛かって、ミーシャが養ってる感じ。

 仕事を終えて家に帰ってきたら、酒飲んでゴロゴロしてた男に「またお酒飲んでたの? いい加減にしないと体を壊すわよ」とか怒ったら、「うるせえ俺の勝手だ! ナマイキ言ってんじゃねえ!」とか逆ギレされて引きずり倒され、ひん剥かれて無理矢理ヤられた挙句、心の中では「やっぱりこの人には私が居ないとダメなんだ」と思っているような……。

 

 

「…ふむ…………」

 

 

 マオ、沈思黙考。

 

 

「…………うむ」

 

 

 深く頷いた。ついでに、「君はミーシャの事をよく理解しているな」なんてコメントまでついた。どんな目で猟団長を見てんだよ。

 ちなみに、似合うのはある意味当たり前だ。実際俺に引っ掛かって都合のいい(ただし若干重め)女になりきってるし。

 

 

 

 

「ついでに言うとな、アンナがどうするのか、正直予測がつかないのが非常に怖い」

 

 

 アンナ…と言うと、あの宴会で絡まれた時の最後の一人か。

 

 

「最後の、ね…。つまり残りの2人にはもう手を出したと言う事だな。それに関しては後で埋め合わせをしてもらうが、アンナはとにかく負けず嫌いでな。普通に考えれば、あの時言ったような、霊力の為に君に抱かれる、なんて事はお断りだろう」

 

 

 常識的な反応でしたもんね。ジェリーとルーディはあっけらかんとしてたし。

 美人で強気な見た目に反して、妙にウブな反応してたもんなぁ。なんちゅーか、一途と言うか「本当に好きになるのは、生涯に一人だけと決めている」とか言いそうなタイプだ。

 

 

「毎度毎度思うが、よく僅かな接触だけでそこまで辿り着けるな…。女絡みの推測は殆ど的中しているし…。ともあれ、あの時君に迫った3人のうち、自分だけ出遅れている状態な訳だ。他人の言動で自分の決定を変えるような奴ではないが、同時に他人に負ける事が何より嫌いで、かつ「戦場での勝利以外に価値は無い」と断言もする。狩りの腕にも自信を持っていて、霊力なんぞ不要と考えるかもしれんが、同時にあらゆる努力を惜しまない為、より力を付ける為の方法と割り切る可能性もある」

 

 

 …本気で行動が読めんな。読めないが……今までのパターンから行くと、何だかんだで抱く事になるんだろうなぁ。

 

 

「…君の異性運はどうなっているんだろうな、全く。しかし、実の所私も同じように予想している。だから、君に言う事は一つだけだ。……どうせだったら、アンナをコントロールできるように躾けてくれ。アンナがルーディ並みにはっちゃけ始めると、何が起こるか想像もつかん」

 

 

 おっしゃ任せとけ。ウブなネンネをしゃぶり尽くす所存です。…ま、こっちから仕掛ける気はないけどね、今の所。

 

 実際、このペースでお相手の人数が増えていくとどうなる事やら。ベルナ村で、各地を飛行船で巡ってた時のお相手の方が多いけど、あの時はそれぞれの場所の現地妻だったからな。揉め事になろうにも、距離が離れすぎていた。

 今は…近いどころか、殆どが同じ猟団の中。今のところは、一人一人を丁寧にノックダウンさせ、「自分だけじゃ体が保たないから」とか納得させてるけど、それもいつまで保つ事か。

 

 

「まぁ…それはそれとして、だな。さっきも言ったが、私に上級昇格試験の話が来ている訳だ。何かこう……言う事は無いか?」

 

 

 頑張れ、無事に帰ってこい…としか言いようがないな。実際、マオの戦力は上位でも充分通じるくらいなんだから、よっぽどの選択ミスかヘマでもしなければ、充分合格できると思う。

 …ちなみに相手はもう決まってるのか?

 

 

「ノノ・オルガロンだ。狩猟対象は雌のみだが、やつらは行動を共にするからな。流石に2頭同時を一人ではきついので、誰かに手伝ってもらうか、分断して各個撃破になるが」

 

 

 雌響狼か…。あのスピードは厄介だが、マオの魔眼があれば動き自体は見切れるな。問題は、見えてもそれに体が対応できるかだが…そこが今回の試験の肝になりそうだ。

 アイツの咆哮には、耳栓は効果ないぞ。動きで振動やら風圧やらが度々起こるから、2頭同時になるともうロクに動きが取れなくなる。絶対に同時に相手にするのは避けるべし。

 割と打たれ弱いのが救いだな。

 閃光玉を使う時は要注意。背中が柔らかくなるけど、なんか知らんが光に反応して即怒るから。

 

 

「ああうん、要求した以上に的確なアドバイスをありがとう。ありがたく参考にさせてもらうが、言いたいのはそうじゃなくてだな…。その、もっとこう、無いか? ちょっと気が早いが、上級に上がったらご褒美と言うか餞別と言うか、いや自分で言いだす事じゃないとは思ってるんだぞ。しかし何というかモチベーションを上げる手伝いくらいしてもいいのではないかと…」

 

 

 うん、何を言いたいかは分かる。分かってるけど、マオがそーやって言葉を濁しながらも求めてくるのが見たかったっス。

 

 

「あ、相変わらず悪趣味な…」

 

 

 褒めてくれてありがとう! ま、差し当たりだな、今から即席パワーアップとかどうかね? オカルト版真言立川流は、元々その為の技術だぞ。何、怪しいもんじゃない。これも一種のネコ飯や狩人弁当みたいなもんだ。

 ああでも、上級試験にはまだちょっと日があるかな?

 

 

「確かに、試験があるのは5日後だが、急激なパワーアップだと色々感覚が狂うからな! 今のうちに慣れておくに越した事はないよな! なるべく早い内に慣れるべきだよな!」

 

 

 いや全く持ってその通り! と言う訳で慣れる為に、今からでもドーピングしておきましょう!

 

 

 この後無茶苦茶セックスします。

 

 

 

 

 

P3G月

 

 

 団員達が集まって盛り上がってたのを見つけて、何事かと思って近づいてみた。

 

 

 

 

 

 舌打ちされた。

 

 

 

 

 何だよいきなりよぉ! 猟団長に対してとか立場はどうでもいいけど、こんなんでも心が傷つく事くらいあるんだぞ! 形状記憶合金みたいに、すぐ元通りになる心だけど!

 

 …で、何かと思ったら旅行の計画らしい。旅行と言っても、メゼポルタ広場からあまり離れてない近場の街までだ。

 それで何で舌打ちされるかな。と言うか、旅行行くんだったら一言くらい相談してくれりゃ、福利厚生の一環と考えない事もないぞ? すぐ近くだから、そんなに旅費もかからないし。

 俺も行きたいけど、下手にメゼポルタ広場から離れると俺の場合はな…気のせいだと割り切れればいいんだがな…。

 

 …いつもの彼らなら、すぐに話に乗って来ただろう。何せ、この話をしていたのは猟団初期から居るメンバー。古参と言えば聞こえはいいが、ウチの場合は真っ先にタカりに来た連中という意味だ。

 そんな連中に、「旅費を立て替えるか?」なんて言えば二つ返事で頷くに決まっている。最近は真っ当なハンターやるようになったが、性根はそのままだもんな。

 

 

 が、まさかのNO。

 

 

 一体どういう事だ、と愕然としてたんだが……相談していた団員の一人に、パンフレットを渡された。旅行先のパンフのようだが……。

 

 

 

 

 

 あ。

 

 

 

 開かれているページは、思いっきり水商売の…。街のパンフレットと言うよりは、夜の〇〇の歩き方、かな…。

 ええと、つまりお前ら……発散しに行く訳?

 

 

「その通り…。メゼポルタ広場には…娼館は無い…。コーヅィさんや…団長のように…特定の相手が居るならいいが…そうでないなら…自家発電…!」

 

「フロンティアのメゼポルタ広場では…珍しくもない事…! 事実…この町の収入源は…発散に来たハンター…!」

 

「他の猟団でも…相手が居ない者同士で集まって…行く事もある…」

 

 

 あぁー……成程、そりゃあるよな、そういう話。うん、メゼポルタ広場で持て余された欲求がどう処理されてるのか分からなかったけど、疑問解決。

 流石にそれを福利厚生扱いはできんわ…。いや旅行に行くだけなら出来るけど、それをやると多分他のハンターも相乗りするもんな…。女も入るものな…。

 

 

「あの街には…女向けの風俗は無い…。もう少し遠い…別の街だ…」

 

 

 ホストクラブとかもあるって事ね。

 どっちにしろ俺はやっぱり行けないな。増える事への公認は貰ってるけど、ソッチ系の店はミーシャもマオもNGだ、多分。

 

 

「ケッ」

 

「チッ」

 

「ペッ」

 

「壁を寄越せ」

 

「タヒね」

 

「こころのなかにやみのようなものがうまれる・・・」

 

 

 …この扱いよ。いや気持ちは本当によくわかるけどね。

 俺もかつてはリア充に嫉妬したもんだ。と言うか、俺みたいな奴をこんな旅行に連れてく訳ないな。むしろムラハチするわ。

 

 

「くぁー! この余裕! 散々イチャつきやがって…」

 

「しかも…浮気公認で…どんどん手を広げていると聞いたぞ…」

 

「この前はストライカーの猟団長と…副長…。また別の女と…自宅に向かっているのを見た…」

 

「G級……G級になれば…俺達だって…!」

 

「なれる気が…まるでしない…。そしてそれ以上に…なれたとして、複数の女と関係を持って……破局しないとは思えん…!」

 

「リアルを突き付けるな…。せめて…妄想の中でくらい…!」

 

「しかし、本当によく破綻しませんのぅ…。その、何かコツとかあれば…」

 

 

 腰。タフさ。テク。

 とにかく「一人じゃ保たない」「でももう離れられない」と思わせる事。

 

 …と言いたいところだが、それはあくまで不満を抑えたり解消させる方法であって、問題を起こさせないと言う事じゃないな。

 ま、これに関しては相手の性格がデカいな。しっかり自分を見て満足させてくれれば、多少の事には目を瞑る、或いはその時以外は好きにすればいいって考えが強いから。

 

 そもそも、こういう人間関係だってのあんまり隠してないから、それが許容できない人は寄ってこないんだよ。

 

 

「それも道理…できないものは…どうしたって無理…。できる者で固める…!」

 

「普通…そんな都合のいい人…そうそう居ないんですが…」

 

 

 さもなくば、何かしらのギブアンドテイクで納得させるかなぁ。ほれ、金で囲って愛人にするとか、そういう話だ。金に限らず、幸福、愛情、快楽、生活環境その他諸々。

 後は……そうだな、例えばお互いの人生を賭けた勝負に勝って、文句を言う権利すら剥奪するとかかな。ま、これだといつ後ろから刺されるか分かったもんじゃないけども。

 

 

 

 

 

 

P3G月

 

 

 VSクエスト、というのを知っているだろうか。俺もこの世界、今回ループに来てから初めて聞いたシステムなんだが…簡単に言えば、モンスター討伐のタイムアタックだ。

 ルールは単純。2つのパーティーが同じクエストを受注してクエストクリアまでの時間を競うだけ。基本的に、同じ種類のモンスターを相手にするのだが、ゲームと違って全く同じ、個体差の無いモンスターが居る訳じゃないし、同じ場所で戦っているのにお互いが居ない、なんて事も無い。

 なので、実際は極めて近い区域に生息する同じモンスター…同意の上であれば、別々のモンスターのクエストを同時に受け、出発・討伐・帰還までの時間を競うものとなる。

 

 ハンター同志の揉め事が起きた際、このV.S.クエストを用いる事でカタを付ける事もある。

 ゲームで言えば、恐らく対戦のシステムなのだろう。モンスターを操る…のはモンハンではまず考えられないので、恐らく同時進行でどっちが先にクリアするか、という問題。

 

 

 

 …なのだが、実を言うとこのクエスト、基本的にあまりいい評価を得ていない。率直に言えば、ルールがガバガバなのである。

 流石にお互いへの直接攻撃は禁止されているが、明確な罰則がある訳でもないし、逆に専用の対人罠(殺傷性無し)まである始末。しかし、その罠自体に危険が無かったとしても、モンスターと向き合っている間に痺れ状態になりでもしたら、ガチで命の危機である。一時期、V.S.クエストが決闘、下手すると暗殺の代名詞になりかけた次期さえあったそうな。

 亜種として、トドメを刺した方の勝ち…なんてルールもあるが、それはそれで問題が多発したそうな。具体的には、「俺の一撃で終わった」「いや、そこはまだ最後の抵抗をしようとしていて、それを俺の攻撃で終わらせた」みたいな。…そーいや、いつぞやのオストガロアも倒した後にブッパしてたなぁ…。

 

 そもそも誰が判定するのかもフワフワだし、上記ルール以外に殆ど明文化されてないので、狩りの送り迎えの馬車(ガーグァ車)の買収さえ可能。審判の買収は…記録こそないが、あるんじゃないかなぁと疑うレベルだ。

 狩場に行ってすぐにモンスターを見つけられたとしても、個体差の強弱で狩りの時間が左右される事も多いから、運の要素も非常に強い。 

 

 そして何よりも不評の原因となっているのは、目の前のモンスターを単なる的として見て、まるで敬意を払わない事。いや、全くのゼロではないんだが。

 狩りの場でモンスターと相対する時というのは、真摯でなければならない。誰にも邪魔されず………小型モンスターや乱入モンスターに邪魔されまくるけど、独りで……最大4人で行くけど、静かで……モンスターの咆哮やハンターの叫びで騒がしいけど、豊かで……まぁ自然だけは豊かだな…。

 

 とにかくしっかりモンスターと向き合って、命のやり取りをしなければいけない。モンスターと戦いながら、実際はそいつ以外ではない誰かを見ているなぞ言語道断。これが大多数のハンターの意見である。

 尤も、モンスターにしてみれば、何が目的であろうと狩られる事、反撃する事には違いないから、考えすぎだという意見もあるが。

 この倫理観については、ハンターが乱獲したりするのを防ぐ為の物でもある。一時でも訓練所に居たハンターであれば、洗脳に近いやり方で刷り込まれる意識なんだよなぁ…。ウチの元タカリ達でさえ、程度は違えどこの意識を持っているのだから驚きだ。

 

 

 これらの意識の是非はともかく、ハンターとして持っていて当然の最低限のモラルに触れる(ように思われる)為、あまり利用はされてない訳だ。報酬もあんまり美味しくないし。

 

 

 …で、ここまで長々と説明した時点で検討はついていると思うが。

 

 

 

「同意と見てよいようじゃな。では、VSクエストを受注する」

 

「ああ。…どうした、臆したか? そんな事では、私が問答無用で勝ってしまうぞ。結果が同じであっても、多少は抗ってほしいものだな」

 

 

 

 アンナさんに勝負を挑まれました。アンタこんな事しててええんかい。そろそろマオの上級試験出発の日だろうに。

 

 

「マオなら多少手古摺っても、充分成功できる内容だったから問題ない。それにさっさと片付ければ、見送りにも間に合うからな」

 

 

 まぁいいけどよ…。相手はリオレイアが3頭。場所は砂漠。装備はお互いに同じものを使う。クエストを終了し、その報告でメゼポルタ広場に戻って来るまでが勝負。尚、狩場に向かう為の手段は自分で調達。事前にガーグァ車を予約するのと、狩場で相手を直接攻撃するのだけは無し。

 他に特にルールは無かったよな。

 

 

「肝心の事を忘れているぞ。お前が負ければ、週1回のペースで、私が指定する素材を調達する」

 

「モンスターの素材の横流しはギルドナイト案件じゃぞー」

 

「狩りに同行して、その報酬を融通し合うという名目だから問題ない。そして私が負けたら」

 

 

 俺に抱かれる、か。

 

 

 率直に言うが、面倒くさいって意識の方が先に来るぞ。そもそも俺がそうしたい、って言った訳じゃない。どっちが勝っても、アンナの都合に付き合わされるだけな気がする。

 

 

「むぅ…こんな絶世の美人を相手によく抜かす。立たない訳でもなかろうに」

 

 

 残念美人の間違いとちゃうか? 確かに見かけも含めてスペックは物凄く高いが、性格がヒジョーにアレだよ。プライド高くて面倒くさいよ。

 

 

「実力に裏打ちされたプライドだからいいんだ。大体、ミーシャのように都合のいい女になってやる必要は無いからな」

 

 

 ミーシャのアレは、単なる都合がいい女じゃないぞ……裏に色々潜んでるぞ…。

 

 と言うか、何だってこんな事になってんのやら。お前さんの実力なら、霊力を無理に覚えなくてもいいだろう。

 弱い相手に抱かれるのが気に入らない、ってだけか? これで自分に負けるようなら、霊力も大した効果は無くて覚える価値もなければ、俺に触れさせるのも嫌だってか?

 俺が勝ったら納得する訳でもなかろうに…。

 

 と言うか、前にマオも俺も「どう行動するか分からない」と言ってたが、考えてみればこれは一番ありそうなパターンだったな。抱く抱かれない以前に、それだけの価値があるのか見極めに来る。

 つき合わされる方としては、限りなく迷惑だが。

 

 

 

 

 まぁいいや。そら、手続きが終わる。書類を受け取った時点で勝負の始まりな。

 せーので受け取る。『の』が終わった瞬間から、書類に手を触れていい。

 

 

「いいだろう。…せーの!」

 

 

 

 

 クエスト開始! 

 尚、書類を受け取って駆けだそうとする瞬間、お互い同時に足払いをかけてすっ転ぶと言うアホな展開となった。…足よりも書類を持つ手を狙うべきだったかな。

 

 

 

 アンナの動きはスムーズだった。フロンティアでの狩りの経験が長い為か、狩場へのルート、その為に乗り継ぐガーグァ車の出発時間とか、その辺の行動が実にスムーズだ。俺は狩場へ一番近い便に乗ったつもりだったが、それは距離だけの話だった。荷物の重さで移動が遅くなったり、途中でモンスターを撃退したりしたおかげで、かなりのタイムロス。

 ここまで計算してたのか…。

 

 

 まぁ、途中から鬼疾風で移動したから、途中で追いついたんだけどね。「走ってくるとかマジか」と目を丸くするアンナの表情は見ものだった。

 尤も、そうでなくては面白くない、とばかりにニヤリと笑ったが。

 そしてその後、狩場に到着するまでお互いボウガンでガンガン打ち合っていた。ルールにあるのは、狩場での直接攻撃禁止。そこに辿り着くまでに撃つ事については、全く言及されてないのである。

 

 

 そこから先は、二手に分かれてのタイムアタック。

 …遠目に狩ってる所を1度見たんだが…ああ、スゲェな。本当に。フロンティアに来たばかりの俺だったら、霊力を使っても確実に負ける。それくらいの実力はあった。

 問題行動が多いと聞いてるが、こいつやルーディが下位ハンターって本当におかしいよなぁ…。少なくとも上級の中でも上の方の実力者だぞ。

 

 

 

 さて、肝心の狩りの方はと言うと、俺は順調。幸い、1体目はすぐに見つかって狩れた。2体目は少々離れた場所に居たので、鬼疾風で近付く必要があったが、これまた狩るのにそう苦労はしなかった。

 3体目が問題。ここまで来ると、リオレイアも俺とアンナ…俺と同じで、既に2体討伐済み…を警戒しており、中々見つからない。おまけに乱入まであった。………金レイアだった。

 

 

 

 金レイアは討伐対象にカウントすべきかで少々議論したが、結局は対象外となる。ギルドの依頼でも、明確に分けられてるしね。素材の剥ぎ取りタイムだけは、お互い邪魔せずカニを食う時のように無言で。

 

 

 んで、お互い最後のレイアを探す訳だが…先に見つけたのは俺だった。ただし、遠くの方でずーっと空を飛び続けている奴を。

 俺達から逃げてるんじゃなくて、単に移動してるだけっぽいな。……あれだと、狩場領域ギリギリに降りてくるかどうか…。追うべきか? 追いかけて、もしも狩場の外に着地するようなら無駄足+無駄時間で、ほぼ負けは確定。…しかし、このまま別のレイアを探しても見つかるかどうか分からない。

 戦闘能力は決して負けてないが、アンナの勘は異常だ。どんなに戦闘力が高くても、ターゲットの目の前に辿りつけなければ意味がない。

 

 

 数瞬だけ悩んで、俺は空を飛んでいたリオレイアを追いかける事にした。

 結果は…狩猟成功。だがかなり時間がかかってしまった。移動の為だからか、それとも個体差によるものなのか、とにかく空を飛び続けて全く降りてこない奴だったんだよなぁ…。結局、狩猟領域の外に降りようとするから、挑発使ってなんとか引っ張り出したし。

 

 

 で、ようやっとこさ討伐し、そのままメゼポルタ広場に直行。帰りがけに見たが、アンナも3体目のリオレイアを追い詰めているのが見えた。

 討伐こそこっちが早かったようだが、油断はできない。帰りがけに、ガーグァ車の移動や乗り継ぎの間に追いつかれる可能性は、充分にある。

 

 最悪、メロスのように延々と鬼疾風する事も考えながらガーグァ車に乗ろうとした………瞬間に、地雷で吹っ飛ばされた。ガーグァ車の手前に、樽爆弾が埋められていたらしい。俺へのダメージは大した事ないが、ガーグァ達が驚いて騒ぎだした。この分だと、まともに移動できそうにない。

 

 

 

 

 …ああ、そうだなそういやそうだったな。直接的に攻撃をするのが無しと言うだけで、間接的ならいいんだよな。

 

 とりあえず、もうちょっとでリオレイアを倒せそうなアンナに向けて、ペイント弾の要領でモドリ玉狙撃。これは攻撃じゃないぞ。むしろダメージ受けてたみたいだから、キャンプに戻って寝て回復する為の援護だぞ。軽症だったけど。

 アンナにイヤガラセもとい援護をした後、つい先ほど考えたように、メロスの如く鬼疾風。

 移動中に、閃光玉の罠とか、さっきと同じ樽爆弾の罠に何度かかかった。どうやら、狩場に向かう小競り合いの間に、いつの間にか仕掛けていたらしい。俺に全く気取られずに仕掛ける技量も流石だが、それ以上に行動ルートを完全に読まれたな…。と言うか俺がこうやって走って移動するのを確信していたようだ。やはり、さっきのガーグァ車が使い物にならなくなるのも計算の内か。

 セコいと言えなくも無いが、本当に勝つ為に徹底しとるのぅ…。

 

 

 山を越え谷を飛び越え川を水上歩行で渡り疲れたらその辺のランポスを捕まえて足代わりにし、ショートカットしまくりながら進む。アンナが通らなかったルートを進めば、罠は無い。

 かなり汗だくになりながら、何とかメゼポルタ広場に戻ってくる。後ろをちょっとだけ振り返ると、まだ遠いがアンナらしき人物が、土煙をあげる馬車(俺が使ってたガーグァも連れて、4頭引き)で爆走しながらこっちに向かっていた。

 

 が、もう遅い。後はクエストの完了報告をするだ……

 

 

 何ぃ!? こ、このタイミングで対人痺れ罠だと…!?

 いや、しかしここならば確実に俺が通る! しかも勝ちを確信した状態にせよ、ギリギリのデッドヒートで走るにせよ、足元への注意が疎かになる一瞬!

 更に言うなら、この罠にかかって痺れている俺に、勝利の瞬間を見せ付ける事も出来る! 何と言う………いやらしい……配置!

 

 

 

 …あれ? あの、ギルドマスター? なんでそんな険しい顔してんスか? とりあえずクエスト完了の報告を受け取ってほしいんですが……え、その前にやる事がある? おこ? おこなの?

 いや対人痺れ罠をメゼポルタ広場内に仕掛けたのは悪かったけど、これは俺じゃなくてアンナ……はい? 

 

 

 仕掛けたのはギルドマスター? え、何で? 

 

 

 状況が理解できず呆然としていると、追いついてきたアンナが……俺の隣で、同じように痺れ罠にかかりました。

 二人揃ってぶっ倒れて、そのまま衆人環視の中で延々と説教されました。

 

 

 …狩り場に行くまでの間、打ち合いやってたのがアカンかったようだ。流れ弾があっちこっちに飛んで大変らしい。…こやし弾もペイント弾も打ちまくったからな…。そりゃ怒られもするわ…。

 



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268話

ダクソ3プレイ中。

…これちょっと難易度シャレにならなくね?
灰の審判者で20回以上死んで、高壁で騎士っぽいモブ+投げナイフ雑魚に惨殺されてんですけど…。
とりあえず、冷たい谷のボルド撃破。

単に準備不足なだけか?
要領がさっぱり分からんから、レベル上げも殆どせずに突っ込んでるしな…。
ちなみに初期は傭兵、ステ振りはサッパリ分からなかったので適当に。

朝は執筆、昼頃はダクソ3、出勤前はモン娘パラドックス中盤(データが壊れてるのでやり直し)と忙しい日々を送っております。


ところで話は全く変わりますが、ガルパンの西住しほって人妻と未亡人のどっちがエロいと思う?
某相互お気に入り小説の突撃軍行歌SS、未亡人にしたから一層人気が出てる気がするんだ…。


P3G月

 

 

 さて、アンナの事はどうしたもんだろうか。散々お説教され、ペナルティまで喰らったけど、懐にはあまりダメージは無い。面倒くさいクエストを押し付けられたけど…。

 

 結局、VSクエストの決着はつかなかった。完了報告はできたけど、お説教の後に同時だったからな。

 単純に考えれば引き分け…なんだが、それじゃどうにも治まりがつかない。狩猟を先に終えたのも、メゼポルタ広場に戻って来たのも俺が先なんだが、それはあくまで経過。クエスト完了を報告し、そこで決着というルールだった。

 ちなみに、クエスト完了の書類を書いたのは受付嬢さんで、時間的にはアンナがちょっとだけ先…らしい。

 

 そんならルール上はアンナの勝ちだが、アンナ的にも色んな意味でモヤモヤして勝ったとは思えない。じゃあもう一回やり直すか、という話になると、ギルドマスターからギロッと睨みつけられる。

 仕方ないから、他のやり方で決着をつけよう…と言う事になったが、多分これじゃ終わらないよなぁ。

 不本意なやり方で決着つけても、納得できずにまた挑んでくるのが目に見えている。どうやってカタを付けたものか。

 

 

 ……ハンターの勝負で狩り以外のもの…うん、そうなるよね。飲み比べだね。…この時点でオチは見えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい予想通りだよ。

 

 

 

 アンナが予想以上に酒に強かったんで、俺もかなーり酩酊状態だけど、泥酔してヤッちゃったよ。

 いつもと違う事があるとすれば、酒の勢いで…と言う時は、今までは理性をロクに保たずにヤッてたけど、今回は完全に確信犯だった事かな。

 

 一応言っておくが、合意の上なのは確かだ。賭けは引き分け(?)に終わったけど、狩り自体は俺が先に終えたのも事実。少なくとも充分な実力を持ち、霊力の有用性も確認できた。

 建前上は、抱かれる理由は出来てしまった訳だ。

 

 残る問題は感情…と言うか、見かけと性格に合わずにウブなネンネであるアンナは、ソッチ方面にヨワヨワな訳だ。セックスどころか、ちゅーすら躊躇う。男の手を握った事もありません。初恋さえまだ、と言うのは本人の弁。尤も、「惚れる相手は一生に一人と決めている。まだそれに相応しい男は見た事が無いな」と、妙に格好付けて言ってただけだが。

 そんなんだから、勝負とは言え男と…もっと正確に言うなら、意識している男と一緒に呑むと言う状況で、顔を赤くしている。

 

 で、お互いに無意味に酒に強いもんだから、延々と飲み続けて……反則技を使ったけど、結局俺の勝ち。

 反則技? フロンティアに来てから使ってなかった、アラガミ化だよ。頻繁には使えないが、一発で酔いも醒めるしアルコールも分解されます。

 「今、モンスターの気配がしたような…」って言われて、バレるかと思ったけどな!

 

 

 酒にダウンしたアンナを自失までお持ち帰りし、ベッドに放り込んだ。

 一応言っておくが、酩酊状態とは言え、アンナの意識はちゃんとあったからな? 色々とフワフワ状態になっていたのは否定できんが、こんな事で処女を散らす、と言う事についても泣いたりはしてなかったし、賭けに負けた自分が悪いと割り切っているようだった。……あくまで、羞恥とかの感情が吹っ飛んでいる今の状態では…と言う事だが。

 

 

 ……さて、ここまでお膳立てされてなんだけど、実を言うとあまり気乗りしない。別にアンナが気に入らないという訳ではない。スタイルもいいし、自信家でマイペース、男前で姉御肌な彼女を好き勝手に弄べるとか、生唾ゴックンやで。

 別に、浮気がどうのと言われるのが恐ろしいのでもない。マオは既に覚悟完了していると言ってるし、不満にならないように色々解消している。フラウはむしろ人を増やす事を推奨しているし、ミーシャはと言うと……家に帰って来た時には、既に横の部屋にスタンバっていました。デバガメする気満々である。

 

 が、その自信家でマイペースなのが問題だ。天上天下唯我独尊とまでは言わないが、自分の意思や価値観を曲げるような女じゃない。はっきり言えば、他の皆と違って、俺を独占しようとする可能性が高い。

 そうでなくても、今回の勝負の結果を不服に思い、勝つまで再戦を挑まれ続けるのが目に見えている。

 

 率直に言ってしまえば、面倒な女だ。…人として正常、とも言えるね。今まさに、隣の部屋で壁にコップ当てて聞き耳立ててる人と違って。

 

 

 

 

 じゃけん、異常にしちゃいましょうねぇ。

 

 

 

 ん? 何したかって?

 アレだよ、まずアンナを正気に戻します。アルコール分解も、ハンターボディならお手の物。外からそれを操作するのは難しいけど、それこそタマフリなりオカルト版真言立川流のちょっとした応用なりで行ける。

 酔いが覚めて、状況を理解して真っ赤になったアンナちゃんカワイイ! …はともかく、歯噛みしながらも覚悟を決めたようだ。どんな形であれ、負けたのは自分。その対価を払うのは義務である…と。

 やれやれ、大声上げて逃げ出せば話は早かったのにな。プライドが高いのも困りものだ。

 

 

 しかし、目を閉じ口を噤み体を横たえて、マグロ状態になるのはいただけない。賭けに負けたのであっても、好きで抱かれる訳ではない…という意思表示なんだろうけど、これはあくまで霊力習得の為のステップである。建前は。

 一応、これから何をするのかは説明する。微動だにせずに「聞こえんなァ!」状態だったけど、施術の義務だからね。

 内容? 具体的なのは省くけど、お互いに力を循環させるのが要。刺激に反応して体が震えたりする時に、アンナから力が放出されるから、無理に我慢しようとすると術の効果は半減するよ、と言っただけだ。……この状況で言うと「声とか我慢せずに乱れろ」って意味でしかないが、当然受け入れられる筈がない。

 

 

 さて、おっぱじめる訳ですが……最初のキスの時、目元がちょっと濡れたのは見なかった事にする。罪悪感で心臓止まりかけたけど、逆にナニはいきり立つ辺り、本当に俺って終わってますね。

 

 

 

 その後どうなったかと言うと……うーん……言葉にすると……(エロゲメーカーのBIS〇PとかWa〇fleとか)×サークルク〇ムゾン×Black L〇ilith?

 

 

 強引に貫くのから始まって、フェチ&アブノーマルが入った愛撫による『悔しい…でも(ry』に続き、気をやった辺りから内側を霊力で愛撫したり感度を弄ったりして、失神しようが失禁しようがイキッ放し・アヘ顔を通り越して、とてもお見せできないような状態になるまで犯し抜く。最終的には、自分からご主人様と呼ぶようになるまで。

 何? 詳しく描写しろ?

 

 例えわっふるわっふると書き込まれても無理ですな。

 自分でやっといてなんだが、これを文章化するのは無理ですわ…。

 

 

 一応言っておくが、霊力取得は問題なくできている筈だ。その辺は抜かりない。ヤッてる間、激しすぎてアッチ側に逝きかけてもいたから、その分パワーアップもしている筈。

 ついでに述べると、これだけ激しく調きょ……犯したのは、今後の面倒事防止の為だ。毎度毎度挑まれるのも面倒だし、「純潔を奪った責任」とか言って過剰に纏わりつかれてもトラブルの元。だったら、余計に出しゃばったり面倒をかけたりしないよう、立場を教え込むしかないじゃない。他に方法があっても、据え膳状態だったんだからこれしかないじゃない。

 ま、その分定期的に犯してやらなきゃならないだろうが…それくらいならね。何だかんだで美人だし、それくらいならこっちからお願いしたいくらいだ。

 

 

 

 …さて。隣で聞き耳立ててるミーシャさん、こっちにおいで。期待している通りに、アンナと同じ事をしてあげよう。

 

 

 

P3G月

 

 

 ミーシャの尻はまだ未貫通です(朝の挨拶)

 いやね、そりゃー今の俺なら謎スキルも相まって、初っ端から貫通させても「アッー!」じゃなくて「あぁん♪ もどかしいのぉ♪」くらいにはできるんだけど、アナルの醍醐味ってそこだけじゃないと思うんだよなー。

 背徳感と言うか、本来はエロい事に使うべきではない大事な部分をちょっとずつ改造していって、変わっていく自分の体と、嫌悪→羞恥→期待&僅かな欲望みたいに変わっていく心に戸惑う女。これを文字通り掌の上で転がしながら愉悦する辺りに一番楽しめるトコロがあると思うんですよ。

 

 と言う訳で、ミーシャのお尻は時間をかけて開発していきます。

 ん? ミーシャ? アンナの下で眠ってるよ。明け方には、理性がぶっ飛んで絶対服従状態になったアンナと一緒に、ミーシャを責めてたからね。その後、アンナにはご褒美もあげました。

 

 

 

 

 …で、昼なんだが。満足したミーシャは、シャワーを浴びて仕事に行った。アンナも同様に、霊力による湧き上がる活力を持て余し、何でもいいから狩りに行く…と言って走っていってしまった。

 そういや、結局マオ以外には霊力を目覚めさせただけで、有効な扱い方は教えられてないな…。デンナーと一緒にアラタマフリの研究もしてたし、そろそろ広めるか。

 

 それはそれとして、アンナの状態は……あれは成功と考えていいんだろうか。

 起き出したアンナの様子は…何と言うか、一見すると昨日までと変わらなかった。マイペースで、負けず嫌いで、自信家で明るくて、自由で。上から目線で言うのが許されるなら、「生意気な女」とも言えるだろう。

 当然の事ながら、俺に対してもタメ口利くし、狩りのライバルと認定しているのか、また挑んでくるような事も言ってたし。

 

 霊力取得の件はともかく、今後の面倒事防止という意味では失敗したか? オカルト版真言立川流を受けても変わらなかった、ルーディという例もあるし。

 どういう状態かなーとじーっと見てたら、「なんだ、朝っぱらから私に見惚れているのか? サインはやらないぞ」なんて言い出す始末。

 

 

 

 

 

 

 

 が、押し倒したら即奴隷モード。

 

 

 愛撫もしてない内から、潤んだ目でご主人様にご奉仕&オネダリしようとするようになってます。それなのに、行為に抵抗は無い(と言うか悦んでいる)がウブさだけは無くしてないとか許されざるよ。だが許す。

 そういや、好きな首輪のデザインとか、リードの長さとか聞かれたな…。自分で買って自分で付ける気だ。

 うーん、自分からペットの証を付けるのは感心だけど、普段は変わらず小生意気なままでいてほしいような……裏表のギャップが激しい方が、独占して屈服させてる感が強くて滾るかな。

 でも普段はチョーカーとして付けているアクセサリーが実は首輪、というのも…。

 

 

 

 

 …うん、ちょっと性欲を持て余してきた。マオ…はまだ上級試験から帰ってきてないみたいだし、誰かと…いや、マオの為に溜めておくかな。

 

 これ以上書いてると、またムラムラしてくるんで話を変えるが、今朝方に歌姫サンを見た。相変わらず新聞配達やってるようだ。…この広場、トッツイ達が居る広場とは別の広場なんだけど…何でこっちまで来てるんだろうか。

 俺の所にも新聞配ってたけど、多分気付いてないよな。

 まー随分と楽しそうに走ってたわ。確かに、あれはモービンが言うように、何気に体力派なようだった。そして、相変わらず背後から護衛しているトッツイ達。

 

 

 …そういや何だかんだで結局バルラガルは狩ってないな。あいつらの想いがモンスターを呼び寄せてるなら、海を越えてでもやってきそうなもんだが…いや、不要となったから、もう呼ばれてないのかも。

 あー…でも待てよ、この前ルーディと一緒に狩りに行った時、妙な死体を見たような………バルラガルの特徴と一致していた、ような気がする…んだが。ルーディが狩りの相手諸共に、爆弾で吹っ飛ばしたからな…。

 もしあそこに居たら、ハイテンションになったルーディがいつの間にか狩ってたかもしれんなぁ…。

 

 

 ふむ……よし、あの辺をちょっと探してみようか。別にギルドから依頼を受けてる訳じゃないが、普段は居ないモンスターの痕跡が無いか調べるのだって、採取依頼の一環ではあるし。

 ここの所、リアやフラウとも会えてないし、デートも兼ねて誘ってみようかな。

 

 

 

 

 

 

 …残念、フラウは何やら仕事中でいなかった。リアと一緒に調査に出たんだけど、ちょっとばかり不満そうだ。セックスで欲求不満を大分解消できるようになったとはいえ、バトルジャンキーな本質は変わってないようだ。

 で、何故かユウェルさんまでついてきた。

 いや、別に悪い事がある訳じゃないんだが…道中でR-18を含めたイチャエロが出来なくなると言うか…まぁいいけど。

 

 とにもかくにも、狩場を探してみたんだが……バルラガルの痕跡はあった。血液が殆ど無くなったらしき、ドスイーオスの死骸。

 ただし、かなり古い。ユウェルさんによると、バルラガルは巣を作り、そこに仕留めた獲物を持ち込んで、ゆっくりと血液を吸い尽す性質があると言う。つまり、ここがバルラガルの巣であるとするならば…もっと沢山の死骸がなければおかしい、と言う事だ。

 何処か別の場所に移動していったんだろうか。もしもここにバルラガルが居るなら、分類上は遷悠種となる。遠い場所から移り住んできた個体なら、同様に旅を続けても不思議ではない。

 

 しかし、その痕跡を追おうにも、時間が経ちすぎている。鷹の目を使っても追えそうにない。

 ……仕方ないか。ウロついていたアクラ・ジェビアに遭遇した事だし、今日の探索はここまでにしよう。

 

 

 

 

 

 …いかん、油断してた。そうだよ、ユウェルさんと言えばコレがあったよ。モンスター料理…。

 アクラ・ジェビアを完全に食材扱いしている。どうやら、こいつの素材を確保する為についてきていたらしい。

 「手伝ってくださったお礼に、完成したらすぐに差し上げますね!」と言ってくれてるけど、コレを喰うのか…。なんかのっぺら連中がイヤがってる気がするな。

 

 まぁ、差し当たり、「今日のも自信作です!」と取り出してきた謎料理をどうするかだな…。

 

 

 

P3G月

 

 

 ……朝チュン。

 ああそうだよまただよ、今度はユウェルさんとイタしちゃいましたよ。勿論リアとも3Pだよ。そしてこれから昼まで全力で励ませていただきます。

 

 事の始まりは…もう言うまでもないかもしれないが、ユウェルさんが持ってきてくれた差し入れだ。

 大抵の人には敬遠され、食った人でも二度目からは逃げ出すと言われるユウェルさんのモンスター料理。それを2度も食って、更に味の感想まで聞かせたのが悪かったのか、完全にターゲットロックされていた。

 『食べてくれますよね? ね?』みたいな、無駄に純真な期待の目が辛いっす。

 

 まぁ食うけど。狩場からはもう離れて、安全なルートに入っているし、ぶっ倒れたとしても大した問題にはならないだろう。。仮にモンスターが乱入してきても、レジェンドラスタ2人を抜けるとは思えん。

 リアは周囲を警戒する、と言ってさっさと逃げた。

 

 

 

 

 ……食える……かな? 珍味…なんだろうか? どうやって作ったんだコレ…。

 味の感想? ………人の味がします。いやカニバリズムじゃないよ。なんつぅか体液っつぅか………その、男女の色々なドロドロが交じり合った時のアレみたいな味が…。

 好きな人なら食えるんじゃないかな…。モンスターの素材で作ったんだろ? どうやったんだコレ…。

 

 

 

 …で、当然の如く妙な効果が出ました。

 前回は異常なドーピングだったけど、今回は…味から想像つくだろうけど、どう見てもウ=ス異本御用達なアレだ。

 

 でもコレ、ソッチ系の本だと女性の方に現れるべき症状じゃないかなぁ。

 

 食った直後は何ともなかったんだけど、段々と体がムズムズして、何より体中に痺れが走って動けなくなってきて…普通の麻痺と違うのは、ゆっくりとであれば動ける事、普段と比べれば弱くても、ある程度力を入れられる事だろうか? たぶん、特殊効果:スロウとかついてる。

 その状態で何とか歩こうとする俺を見たリア曰く、「麻痺したルコディオラのよう」だそうな。

 アイツにはいつぞやの(一方的な)怨みもあるので、麻痺って必死に逃げようとしている所に尻尾チョンパして飛び上がらせたい所存です。

 

 

 

 …で、麻痺状態、下半身ムラムラ、この分だと全身敏感になってるな。歩くだけでもドッピュドピュするのを我慢しなきゃならん状態は、流石にな…。やらせる方はいいんだけどねぇ。アリサにバイブ仕込んで連れ回したりしたことあるけど、こんな気分だったのかな。うむ、なんか滾って……ヤバイ漏れる漏れる漏れる。

 

 そんな状況を察したのか、リアが休憩を提案してきた。近くにハンター用の宿泊所があるので、そこに連れていかれる。

 ちなみにこの宿泊所、命懸けの狩りでムラッと来たハンター達の連れ込み宿も兼ねている。…ので、所々で男男や女女の声が聞こえたり、お相手を探してナンパするハンターが居たりする。

 今日は…誰も居ないな。

 

 リアにベッドに放り込まれ、いつぞやと同じように蹴っ飛ばされただけで鎧と服がパージされる。いきり立っているナニは、もうちょっとで暴発しそうです。

 

 

「ふむ…久しぶりに、完全上位というのも面白いかもしれませんね」

 

 

 なんてサディスティックな顔で笑うリアもステキ。

 兜だけ脱いで、剣まで背負ったままベッドの上に乗ってきて………打撃音と共にぶっ倒れた。

 

 

 …はい?

 

 

「ごめんなさい、リアさん…。でもこのチャンスを逃す訳にはいかないんです」

 

 

 リアの背後から、ヘビィボウガンでド突いたらしきユウェルが現れた。…あの、後頭部ブン殴るくらいだったら、麻酔弾でも使ってあげればいいのでは…。

 

 

「発射音で気付かれて、回避されますから。…ああ、ご心配なく、女の敵に制裁を、という考えもありますが、私は穏便な人間ですので」

 

 

 穏便な人間が、同僚を背後から殴り倒しますかね。と言うか、また何でこんな事を。

 

 

「これ程のチャンス、逃す訳にはいかないんです。知っていますか? 貴方、色事師としてかなり注目を集めていますよ」

 

 

 色事師……うん、全く否定できんね。レジェンドラスタ2人に加え、別の猟団のハンターとも次々に肉体関係作ってるからなぁ…。

 

 

「女性からは軽蔑され、男性からは妬まれるのも当然でしょう。…ですが、貴方の場合はそれを通り越しつつあるのか、崇拝と好機の視線も集まっているんです。男性からは『拝めばモテるご利益がある』、女性からは……『そんなに凄いの?』と」

 

 

 ご利益……むしろあんまりよくない効果があるんじゃないかな……。俺のせいでロミオの彼女が…スマン、次のループであったら、きっと縁を取り持つから…。

 で、結局ナニか? ユウェルさんは、その『そんなに凄いの?』の方って事か?

 

 

「恥ずかしながら…。その、それなりに経験はありますが、殿方との縁は長続きしなくて…。レジェンドラスタに昇格してからは、めっきり…」

 

 

 メシマズだからね、仕方ないね……とは口に出せない。が、ジロッと睨まれた。

 

 

「とにかく、貴方の乱行がこれ以上エスカレートするのは見過ごせません。ですが、狩りならばともかく、床での事になれば私に勝ち目がないのは明白…。どう仕置きしたものかと思っていましたが、そこへこの状況です。徹底的にやらせていただきます」

 

 

 いそいそと、明らかに期待しながら服を脱ぐユウェルさん。意外とスキモノらしい。

 と言うか、まさかあの料理ってそこまで狙って?

 

 

「いえ、流石にそれは…。私はちゃんと作っているつもりなのに、何故でしょうか……。…いえ、話を逸らそうとしても無駄です! えっと……リアとフラウから漏れ聞いた話によると、貴方に行動させると必ず逆転されてしまうらしいので…よし、この調理法で行きます!」

 

 

 調理ってアンタ…。まぁ、現状ではほぼまな板の上の鯉状態ですが。

 リアとフラウに襲われて、麻痺った時よりも体が動かない。いや動く事はできるんだけど、霊力とか色々がもうムッチャクチャなんですが…。ぬぅ、回復にどれだけかかるかなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 で、肝心のユウェルさんとの交わりですが。

 

 

 

 意外や意外。常識人っぽい(こんな事する時点でアレだが、レジェンドラスタの中では、という意味で)ユウェルさんだったが、その実態は…。

 

 

 ド甘Sでした。

 

 

 想像がつかない? うーん…なら、最初にされた事…ユウェルさん曰くの「調理法」から書いてみようか。

 まず一発目は、見た目よりもずっと大きいおっぱいでパイズリ。ユウェルさん、着痩せしてますなぁw 脱いだらスゴイですなぁw やぼったく見える服の下に、こんなダイナマイトを隠していたとは!

 

 そして俺に反撃する隙など与えませんとばかりに、動けない足の間に居座って、たゆんと二つの白くてまぁるいのを載せてきた。

 特筆すべきは、その柔らかさだろう。指を突き込めば、どこまでも埋没していきそうな柔らかさ。重くて張りがあって、俺のナニに合わせてグニグニ形を変える。それがオナホみたいに俺のナニを包んでるんですから、もうこれだけでも堪らんですばい。実際、さっきからムラムラと敏感度が止まらなくて、チョンと先端を触られただけでも暴発しそうだった。

 

 が、出ていない。ユウェルさんのおっぱいという、最高の柔らかさの中にあるのに…いや、中にあるからこそ、か。

 想像できるだろうか? 大質量の中を肉棒が行き来していると言うのに、全く抵抗がないこの感覚。水の中を棒で引っ掻き回しているような感触なのに、スベスベの極上の感触だけはあらゆる方向から襲ってくるのだ。

 ただし、根本を軽く抑えつけられただけで、出せなくなる程度の刺激のみ。

 

 なんというもどかしさ…! スベスベを上下やら前後やらに動かしてくれれば、その分柔らかな刺激は襲ってくる。しかしイケない。根本を、器用な事に精の通り道をピンポイントで、おっぱいの圧力で遮るという技巧。『それなり』の経験でできるとは思えん…!

 

 

 だが、真に注目すべき柔らかさはそこではない。男児としておっぱい以上に重要な柔らかさは無い…と思っていたが、もう一つ注目すべき柔らかさはあるのだ。

 

 それは…ズバリ、態度である。

 

 事実上防戦一方…いや、防戦すらできず、本丸を落とされる事もなく、言わば敵兵を全て無力化しておきながら正門を丁寧に丁寧に解体しているようなプレイでありながら、ユウェルさんの表情には、獲物を嬲るサディスティックな感情は、一切たりとも浮かんでいなかった。

 それこそ、いっそ慈愛の表情で埋め尽くされていたとさえ言える。

 

 キモチイイですか? いつでもイッていいんですよ。……これどころか、もう赤ちゃん言葉で「よしよし、いい子でちゅね~」なんて声まで聞こえた気がする。

 バカにしたり見下したりするような気配は一切なく、焦らしているとさえ思っておらず、ただただ柔らかい快楽で包み込もうとする動き。

 黙って従っていれば、体を溶かすような甘い快感が、股間からどんどん注ぎ込まれ、放出する事すら叶わない。

 

 …これを、一切の悪意もなくずーっと続けるんだ。

 

 その結果…パイズリが始まってから、軽く5時間くらいずーっと甘イキ状態で可愛がられました。先端から精子がどれだけ漏れ出たか…。それだけ漏れても、開放感・射精のカタルシスは得られない。

 

 

 「一晩中でも愛し続けて、もう私しか見えないようにしちゃいます」なんて言われて、マジでそうなるかと思った。 

 これ、自分がやっている事がどんな事なのか自覚したら、とんでもないドM(或いはマザコン)製造機になりそうだ。ソフトなプレイから始まって、優しさにどんどんのめり込んでいって、気が付けば弄ばれるのから逃げられなくなっているような。

 …ユウェルさんと男が長続きしなかったのって、コレにド嵌りするのが怖かったからじゃないの?

 

 

 まぁ、そんな焦らしプレイは中々強力だったが、ツメが甘い。さっきも言ったが、ユウェルさんは自分がやっているプレイが焦らしプレイだとすら思っていない。ただ、普通にオーラルセックスしていると思っているだけだ。

 だから、この焦れったい欲求を利用してああだこうだしようとしないし、調教もしない。

 

 …まぁ、一発出した後も、優し柔らかな感触で、敏感になったナニをスリスリされるのはすっごい気持ちよかったけど。

 顔面に白いの沢山つけて、「…一杯出ましたね…。気持ちよかったですか? …そう、よかったです」とか言われたら、そりゃまたフル勃起するのも仕方ないよね?

 

 

「あっ、また大きく…でも、男の人って続けてするの、辛いんですよね? だったら…こんなのどうでしょう」

 

 

 俺の股の間から抜け出して、何故か膝枕。

 ただし、超スベスベおっぱいは俺の顔に圧し掛かって来た。 おお…感触だけでなく、匂いもイイ…。

 

 

「どうですか? 私の胸、とってもいい匂いがするって言われるんです。…あっ、おちんちんピクピクしてる…。喜んでくれてるんですね。嬉しいな…。あ、でもここからじゃ、おちんちんに手が届きませんね……。そうだ!」

 

 

 おっぱいで視界が埋め尽くされていて全く見えないが、何やらゴソゴソやっているようだ。腕を掴まれたので、抵抗せずに好きにさせていると…俺の手を、ナニがある辺りへ。

 

 

「手が届かないから、申し訳ないですけど…おちんちん、自分でシてくださいね? これなら、自分のペースでできますから、辛くないですよね。代わりに…貴方の乳首、弄っちゃいます。ほら、コリコリ…コリコリ…やん、おっぱいの下に吸い付いちゃダメですよ…あん…」

 

 

 この状況で自慰しろってか。色んな意味でキツいというか勿体ないんですが!

 抗議も兼ねて、下乳にキスマークをつける勢いで吸い付くも、体をモジモジさせるだけでダメージにはなってない。

 

 ぬぅ……勿体ないが、このままだと辛いのも事実だし…。

 

 

「ん~…恥ずかしいですか? だったら…私の声に合わせてするのはどうでしょう? ほら、シコシコ…シコシコ…シコシコ…」

 

 

 おおぅ、声に合わせて乳首弄りまで…!

 しかも声にバカにするような響きが一切ないから、ついつい抵抗感も感じずに従ってしまう…。

 

 しかし、気遣うような事を言う割には、容赦なく搾り取ってくるなこのおねーさん。

 

 

「あんまり早く動かしちゃダメですよー。私の声に合わせてしごいてくださいね。コリコリ…シコシコ…コリコリ…シコシコ…」

 

 

 そもそも体がまだ動かないから、早くシコれないんですけどね…一体何食わされたんだ、本当に…。

 

 

「コリコリシコシコ、コリコリシコシコ…さっきみたいに、いつでも思いっきり出してくださいね? 私の顔にかかるくらい、勢いよく射精しましょうね。私も手伝いますから。指にヨダレを付けて…はい、ヌルヌルコリコリの始まりです。キモチイイですか? あっ、爪が当たったらごめんなさいね」

 

 

 マジ容赦ないこの人! 料理の事を除けば、割と常識人だと思ってたのに!

 

 おっ、ヤベ、あ、あっ、我慢できね、あっあっ。

 

 

「いいですよー、いつでも、思いっきり出してくださいね」

 

 

 では遠慮なくぅ! ご希望通り、ここからユウェルの顔面を狙い撃つぜ!

 

 

 …ふぅ…。

 

 

「あぁ…すごい、本当にここまで飛ぶなんて……ん、おいし…」

 

 

 …顔射された精を、拭い取って舐めているっぽいが…おっぱいの陰になって見えません。むぅ、体がまだ動かん…。

 

 

「あ…お疲れ、ですか?」

 

 

 いや残弾も体力も余裕だけど、流石に筋肉が殆ど弛緩してる状態で、連続は難しいな…。麻痺が解ければいいんだけど。

 

 

「…その、本当にごめんなさい…。………違います、これは貴方へのオシオキだから、私が謝る必要なんてないんです! …それはそれとして、やっぱりちょっと柔らかくなっちゃってますね…。……………この人なら…」

 

 

 ん、何か言った? 麻痺は段々解けてきてるけど?

 

 

「そうじゃなくて…うん…。よし! ちょっとごめんなさい…四つん這い……は、まだ腕に力が入らないから無理ですか。じゃあ、ここをこうして…」

 

 

 器用に俺の体をひっくり返し、四つん這い…は体の力が入らないので、突っ伏した状態にされる。

 大の男一人を軽々と持ち上げる辺り、やっぱりハンターだなぁ…。

 

 て、この体勢から何を…ってまさか。

 

 

「これから、おちんちん元気にしてさしあげますね。私の舌で……前立腺マッサージです♪」

 

 

 おっ、ニュルってきたぁ!

 ヌルヌルの舌だから抵抗感はあんまりないが、突っ伏した状態でコレされるってなんか屈辱…あっ、でも中を嘗め回されるのはキモチイイ…。

 ぬぅ、このプレイはアナル大好き淫魔様こと橘花として以来だったか。他の人にはまだ仕込んでないからな。

 

 

「んっ、ちゅ…あ~ん……お尻、開いてください…自分で、お尻を引っ張って、ね?」

 

 

 懇願されてるが、実際はかなりM向けの命令なんですがソレは!

 と言うか、何でこんなプレイ知ってんの。前の彼氏が、こういうの好きだったのか!?

 

 

「いえ、その……恥ずかしながら、自分で調べて…」

 

 

 はい?

 

 

「……実は、以前突き合った方々に、喜んでもらおうと……雑誌とか、『本職』の方にお尋ねして、色々教わったんです。でも、皆決まって『ついていけなくなった』と言いだして…」

 

 

 あー…うん、さっきまでされた事だけ考えても、普通の人は体力的にキツいわな…。

 本人に悪意が全くないから抵抗感も感じにくいとは言え、アブノーマルかつM向けのプレイが多いのも事実。そりゃ人によっちゃドン引きするか、新しい扉を開きそうになってビビるわな…。

 

 

「あの……やっぱり、私のような女は、お嫌いでしょうか…」

 

 

 大好きです。ご褒美です。

 Mではないけど、それもアリです。

 

 

「…ほ、本当ですか? 実は淫乱女として軽蔑してたりしませんか?」

 

 

 この程度で淫乱、異常とは片腹痛い。丸ごと受け止めてくれる!

 麻痺も大分回復してきたし、証拠は体(と腰)で示してみせよう!

 

 

 

「…はい! では、頑張って元気にします! もっと奥まで…おちんちんの先っぽと、タマタマも指で可愛がって…。あ、男の人って、出した後にここをスリスリすると、潮を吹いちゃうくらいキモチイイんですよね?」

 

 

 おおぅ、いいカンジ…。

 

 

 

 

 

 この後、元気になったナニと、使用可能となったオカルト版真言立川流で、昔の男なんぞ顔も思い出せなくなるくらいにイキ狂わせた。

 途中からリアも目を覚ましたので、オシオキの2本差しまでやりましたよ。

 他の女と絡む、と言うのはユウェルの想像の埒外だったらしく、「私よりもっと凄い人達がいたんだ!」で開き直ったらしい。…これから、どんどん新しいプレイを覚えていこうとしている。どこまで淫らになるか、実に楽しみである。

 

 

 

 



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第269話+外伝22

今回はちょっと短いんで、外伝付です。
と言うか、最近エロが矢鱈長くなって、中々話が書けません…。
いいからはよ進めろ!って方はご勘弁を。

追記
PCが起動しなくなったんで中の掃除をしてみたら、冷却ファンとCPUが埃でエラい事になってました。冷却ファンだけじゃなく、CPUまで外したのは初めてだった…。
上下の目印が無いから焦ったぜ。取りつける方向間違えて、「Windowsが正常に読み込まれません」なんて出たし。
これから暑くなりますし、熱暴走にはご注意を。


P3G月

 

 

 マオと上級昇格のお祝い(意味深)をした後、ちゃっかり紛れていたミーシャから依頼が来た。

 

 G級ハンターとしての依頼だ。と言っても、その実態は採取クエストに近いが。…流石にG級ハンターに依頼を出すとなると、資金的にも厳しいけども。

 依頼内容は、団員の一人…いや、二人をG級領域に連れて行ってほしい、というもの。限りなくルール違反に近い事だが、クエストとして承認されているのを見ると、ギルドがOKを出したのだろう。

 

 連れていくのは、ショーカとネリ。どっかで聞いた事あるなーと思ったら、狂走ラオシャンロンの時に砦に居た二人だ。直接会って話すのは、これが初めてだな。

 またミーシャが女増やそうと企んでるのかと思ったが、どうやら別件らしい。純粋に、ショーカの勉強の為だそうな。

 

 何でも、将来は医者になる事を考えている為、薬の原料になる植物の生態を見せてあげたいのだそうな。

 …それは別にいいんだけどよ、それって劇物の扱いを教えようとしてるよな。G級領域に育ってる植物は、良くも悪くも色々な要素が強いからなぁ…。下手な人間に使うと、それこそ犬みたいにタマネギ中毒が…。

 

 まぁ、知っておくだけなら害にはならないだろうし、G級素材は手に入れるのも一苦労だろうから、毒にも使えないだろうけどさ。

 

 

 

 狩場に向かう途中、2人と色々話していたんだが、中々面白い嬢ちゃん達だった。

 まずショーカは、モンスターを医療に使う事を考えているらしい。本人はまだまだ勉強不足で、子供の妄想同然…と言っていたが、モンスターの強い生命力を人間が取り込めば…具体的には喰えば、と思うと、確かに下手な薬より効きそうだと思う。

 これについて何かいいアイデアは無いか、と聞かれて、優しさ振りまくタマちゃんことタマミツネの緑泡の事を話した。

 

 ショーカもそれには興味を示したのだが、予想外に喰い付いてきたのはネリの方である。

 

 

「タマミツネ、ですか…。本物を見た事があるんですか?」

 

 

 ん? ああ、ハンター訓練所に入る前にちょっとな。アイツに興味があるのか?

 

 

「あー、ネリちゃんはダンスが好きですから。ほら、タマミツネって『妖艶な舞』って言われるような動きをするんでしょ? 一度見てみたい、って言ってました」

 

「ちょっ、ショーカちゃん!」

 

 

 あー…まぁ、確かに見ようによっては踊ってるように見えるね。特に泡・泡・大ジャンププレスの動きがな…。

 でもあれは人間用の動きにすると、精々バク転側転宙返りを繰り返している程度に………む、ベースキャンプに移動! 何か来た!

 

 

「あ、はい!」「ショーカちゃん急いで、あとG級素材を勝手に持って帰るのはギルドナイト案件だから!」

 

 

 …そういやそうだった。危うく俺もしょっぴかれる所だったわ。

 とりあえず、来た相手はベルキュロス。舞雷竜と言うだけあって、雷が乱舞するねぇ。ライゼクスよりは厄介だったか。

 『鳴き声がカワイイ』とはネリの談だが、そんなこと言ってる間に避難しなさい。

 

 とにかくコイツ、逃げ足が速くて苦労した…。いや、戦術的に正しいとは思うけどね。

 結構な頻度で範囲攻撃やら、雷とか飛び蹴りとか繰り出してるのに、一発も有効打無し、それどころか逆に所々で重い一撃を入れられ続けるとか、そりゃ逃げるわ。アイツが何度目かの逃走に入った時、俺ノーダメだったもの。回復してノーダメではなく、一発も攻撃を受けてないって意味で。

 

 まぁ、見た目ほど楽に狩れてた訳じゃないんだけどな。

 あの時の俺の動き…スタイルは、以前から考えていた新しいやり方だ。それこそ、極ノ型の一つとして申請してみようかと思う程、上手く?み合っていたやり方だ。

 

 具体的には、MH世界のブシドースタイルを基本とし、ゴッドイーター式二段ジャンプやエリアルステップ中にもジャスト回避が出来るようにして(←ここの改良が死ぬほど難しかった)、更に討鬼伝世界の薙刀を使って万一の時は流転で流す。

 この薙刀がまた強力でなぁ。ジャスト回避からの攻撃が超強力なのは他の武器でも共通なんだが、連舞状態でやると、その超強力な攻撃が複数個所に直撃するのだ。分かりやすく言うなら、大剣の溜め斬りが複数ヒットするようなもんだ。

 薙刀自体の火力はそう高くないが、この組み合わせは凶悪だ。

 

 おまけに、通常回避・エリアルステップ・流転と、ジャスト回避を発動させられるタイミングが非常に多い上、大体の行動の隙は流転でキャンセルできる。

 つまり、徹底した回避と、僅かな隙を狙った超火力攻撃のスタイル。通常時の攻撃の火力は低すぎるが、ノッてる状態だとガチでモンスターを瞬殺する事さえある。

 

 勿論、繚乱の火力と手札だって凄まじい。ジャスト回避からの繚乱は、手数と攻撃範囲と火力を全て兼ね備えたバランスブレイカーとさえ言えるだろう。

 ……まぁ、今回のベルキュロスは割と相性がいい相手だったからマシだったが、そのバランスブレイカーを使って尚必死にならなきゃイカンのがフロンティアなんだが。

 

 ついでに言うと、回避に重点を置いている為、割と紙装甲なのかこの動きの弱点である。

 

 

 

 ちなみに、何でいきなりそのスタイルを試してみたかと言うと、ネリの嬢ちゃんがダンサー志望という話を聞いたからだ。

 別に大した理由じゃないんだが、本当に優れた技術は流れるような動作や、舞うような優美さを持つ…と言うからな。順序が逆ではあるが、舞の動きを狩りに動作に反映させてみた訳だ。

 

 結果は絶賛。ベルキュロスの脅威も忘れて見入ってしまった、とはネリの弁である。

 

 

 時にモンスターの攻撃を紙一重で擦り抜け、時に宙を歩くようなステップ(と言うか普通にエリアルステップなんだが)、時に流転による回転受け流し(…まぁ、舞を元にした動きでもある訳だし)…。ネリにとっては、超高等なダンス技術のオンパレードに見えたらしい。

 うーん…何と言うか、嬉し恥ずかし…な気分だな。強いとか狩りが上手いとかアレが凄いとか、そーゆーのとは別の褒め言葉だしな。

 

 

 何より、男の子は一度は『踊るように戦う』事に憧れるものである。ちゅーにって言うな。

 キラキラと、純粋過ぎてダメージが入りそうな視線にどう対応したもんかと思っていると、ショーカ嬢ちゃんが自己主張した。

 

 

「ネリちゃんのダンスだって凄いんです! 負けてないよ、ネリちゃん!」

 

「ショーカちゃん…。でも、確かに踊るのは好きだけど、本当にレベルが…」

 

「うん、この人の技術がスゴイっているのは私も分かる。でもやっぱり、ネリちゃんだってスゴイんです! だって、ネリちゃんが躍ると、とっても楽しそうで、引き込まれて……そして」

 

 

 そして?

 

 

「ばるんばるんなんです(真顔)」

 

 

 ほう、ばるんばるんか(真顔)

 

 

「ふぁっ!?」

 

 

 ふむ…確かに着痩せするタイプだな。ちょっと野暮ったい普段着に見えるが、それがまたイイ。

 パッと見て分かる程露出するでもなく、隠しきれないのでもなく、またそれなりに自覚もある…。密かに自信もあるが、誰かと張り合えと言われると気後れする。あまつさえ、普段は問題ないが、激しい動きをするとブラでは抑え込めん。よくぞここまで揃ったものよ。

 

 

「わかりますか」

 

 

 わかりますとも。

 …ふむ、このネリ嬢ちゃん、一見するとスレてないJKのように思える。清純派と言うにはちと弱いが、純朴、純粋と言う意味ならこれでもかという程当てはまる。

 妙な言い方になるが、『俗な美しさ』という意味では最上級と言っていいだろう。

 

 今まで何人も関係を持ってきたが、その中でも確かな一角と言っていいだろう。

 まぁ、マオは太腿でミーシャは首筋といったよーに、ばるんばるんだけが重要なのでは無いが。

 

 

「…お話には聞いてましたけど、本当にそういう関係ないんですね。……ちなみに、おっぱいの感触を聞いても…」

 

 

 ははははは、それは俺だけが知っていればいい事なのだよ。……まぁ、3Pする機会でもあれば、直接触れる事もあるかもしれんがね。

 

 

「そ、それは流石に遠慮し……。…………か、覚悟が決まれば…。…けど司教と呼んでもいいですか!?」

 

 

 我々は皆、夢追い人。故に我らに上下の差など無い。

 だが敬意と蔑視には法則は適用されん。君が呼びたいように呼び、好きな時に呼び方を変えるといい。

 

 

 

 

 ネリ嬢ちゃんに大樽爆弾叩き込まれました。

 

 

 まーなんだ、ダンスにせよ医者になるにせよ、下心抜きで手は貸すよ。君達みたいなのが育っていけば、フロンティアの未来だって明るい筈だから。

 

 

 

 

 でもネリ嬢ちゃんのエロダンスは見たいなぁ…。最初は野暮ったい服着て、徐々にそれを脱いでいくような感じで。でも、最初から装飾沢山のヒモ衣装(と言うか水着?)なのも捨てがたい…。

 熟す前の果実を、どう料理すべきかって問題だなぁ…。

 

 

 下心抜きで手は貸す、とは言った。下心が無いとは言ってない。…ショーカがこっそり親指を立てたのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 




 静けさに包まれた月面基地。ここにはそれなりの数のアンドロイドが待機し、日夜地球奪還の為の職務に励んでいる。
 効率的で無機質な機械である筈の彼らが住まうこの基地は、基本的に静かな場所だ。決して広いとは言えない基地だが、寡黙かつ速やかな行動を基本とするアンドロイド達は、無駄口を叩かない。人によっては静けさという大音量に押しつぶされそうになるかもしれないが、アンドロイド達にとってはこれが当然だ。

 が、最近ではその中でも、特に静かな時間が作られる事がある。アンドロイド達が基地運営に必要な最低限を残して、司令官級も含め、一斉に自室に籠るのだ。


 今も正にその時間。その中で、数少ない作業中のアンドロイドが、一心に端末に情報を打ち込んでいる。苛立ち、焦っているようにも見えるが、アンドロイド達は感情を持つ事は禁止されているので、単なる錯覚だろう。
 さて、彼女……21O(オー)と識別されるアンドロイドが、何を打ち込んでいるのか見てみよう。




報告書


2B失踪について

 超大型兵器の攻撃が決定された直後、突如音信不通となる。
 脱走兵と認定されるも、その直後に救難信号を傍受。脱走兵としての認定は解かれ、2B救出作戦が決定される。
 しかし、救難信号の発生源を特定する事が出来ず、信号の痕跡を辿る事となった。

 特性のスキャナーを使用した追跡の結果、救難信号は2Bの部屋の一角から発信されている事が分かった。
 そこには何もないが、解析の結果、特異な現象が発生している事が発覚した。その現象を『空間のねじれ』と仮称する。
 
 空間のねじれは、触れると物理的な破損を齎す。実験として触れさせた資材が、捻くれ曲がった事から、直接的な接触は危険と判断される。
 更なる実験により、最新式の防衛機能を備えた兵器でも、空間のねじれに耐えられない事が判明。

 経緯は不明だが、どうやら空間のねじれの先はワームホールのように別の場所に通じていると推測される。空間のねじれの先を『あちら側』と呼称。
 

 あちら側から届くのは、2Bの救難信号だけでなく、2Bが現在おかれている状況の映像信号もあった。あちら側の状況を知らせる為に、同行しているポッドが撮影し、送信している模様。これは月面基地内部の空間のねじれから送信されている事もあり、情報の遮断は非常に困難。閲覧しようとするなら、通信の受信をするだけで簡単にできてしまう。
 ただし、月面基地からの信号を送信しても、全く返答・映像内での反応は見られない。原理は不明だが、空間のねじれは一方通行である模様。

 人間(あくまで仮)が数えきれない程生存しており、過去の資料を遡っても存在していない生物達が闊歩している。
 これらが虚構・偽造でない事は、空間のねじれを通してあちら側から流れ着く、様々な残骸が物証となっている。

 映像によると、その中で2Bは現地協力者の元で活動しているらしい。
 仮説であるが、2Bの失踪は自発的なものではなく、何らかの要因で発生した空間の捩じれを、何故か無傷で通り抜けてあちら側に流れ着いたものだと推定される。

 原因・影響・仕組み、全て不明な現象であるが、あちら側が実在するのは間違いなく、人間の居住地として利用可能である事は間違いない。
 また、あちら側の同現地協力者の保護下に、脱走兵であるA2の存在を確認。
 危険度Sの破壊対象であるが、現状では破壊は難しく、またあちら側と行き来する手段がない以上、増援を送る事も不可能。逆に、これ以上のアンドロイドを破壊される可能性も低い為、必要以上の戦闘は非合理的。
 対面時、2Bとの戦闘に発展しかけるも、現地協力者の仲介により、戦闘は回避される。2Bの状況下で、現地協力者を失う事は致命的と判断される。こちらから通信を送る事はできないが、2Bは最良の判断をしたと結論する。


 今後の接触の為、2Bから送られてくる映像は全て記録する。

 
 





 追記:月面人類会議より、映像記録の識別名称が決定。
 人類最盛期の資料から名前を借りた映像データ『無知無知アンドロイドっ子の異世界課外授業シリーズ』Vol.1『私モ彼ニ穢サレタイ…』、Vol.2『ヨリ淫ニ、イキ狂ウ』、Vol.3『アンドロイドデモ、孕ミタイ』及びA2の映像記録(番外編扱い)『来テ。私デ遊ンデ』は、全アンドロイドからの再生数が瞬く間に最大閲覧数の記録を塗り替えている。尚、以下続刊。

 …この名前が決定した後、司令官がなぜか頭を抱えてプログラムに異常とか言っていたけど、何かあったのだろうか?




 ここまで記入し、ターンとばかりに無意味に高い音でエンターキーが押される。
 保存・アップロードした21Oは、それを見届けるのも惜しいとばかりに自室に向かった。

 時計を見たが、そろそろ時間だ。急がなければ。


 …月面であるこの基地に朝も夜もないが、2Bが居る所には朝も夜も四季(繁殖期とか寒冷期とかと呼ばれているらしいが)もある。そして、そろそろ夜になる時間である。
 先日傍受した映像記録と時間経過によれば、間もなくあちら側は夜(映像であるが、初めて目にした現象であった)になる筈。更に、先日交えていた契約によれば、2B・A2共に『人類特有の妙に手が込んだ文化』を体験する事になっている筈。これを見逃すのは、情報管理を担当するオペレーターとして絶対に許可できない。あちら側では『絶許』と表現するらしい。文字だけで見れば絶対に許す、という意味に思えるのだが、これが人類の神秘であるか。

 とにかく、本日のノルマは終わったので、ソソクサと自室に籠り、2Bから送られてくる映像を鑑賞する…場合によっては、現地協力者がしている行動を真似て、自分の胸や股等を撫でてみるのである。
 …ところで、アンドロイドには不要と思われていた性交渉オプションの取り付けは可能だったろうか。既に予約満杯と聞いているし、中には男性型アンドロイドでありながら女性型義体に入る事を希望する者も居るようだし、やはり早い方がいいだろうか…。






 ………なんか妙な夢見たな。まぁ、いつもの妙な世界に飛ばされる夢に比べれば、単なる夢なんだからマシな方か? それとも、単なる夢じゃ妙な能力も得られないから、安眠が減っただけマイナスか?

 まぁいいか。
 あー……ところで俺、何してたんだっけ。頭がクラクラする…。


「飲みすぎだよー。全く、そんな呑み方するくらいなら、私達に構ってくれればいいのに」


 フラウ…? ……に、ギルドマスターに、レジェンドラスタの面々…………。ああ、そういやなんか呼び出された…んだっけ?
 悪いな…。
 あ、水ありがとうリア。

「…本格的に調子が悪いのでは? 私もフラウも、昨晩あなたに付き合ってもらったばかりでしょうに」

「つ、つきあ……は、破廉恥でござるぅぅぅ「キースうるさいわ」げぁふぁ!?」


 ああ、割と常識人なキースさんがナターシャさんの裏回し蹴りに!?
 ……で、なんだっけ。


「さん、なんて水臭いわね。ま、いいわ。この子のファッションセンス、中々いいモノ持ってるじゃない。……ツービー、だっけ?

「2Bです」


 話の中心になってるのは、2本の武器を担いで、何故か眼帯で両目を覆っている銀髪のこの子。…何と言うか、責めたファッションスタイルをしていらっしゃる。成程、ナターシャさ…ナターシャに通じるものがあるな。
 …あとさ、隣で浮いているナニカは何ぞ?


「ポッドです」

 ポッドとは何ぞや。……ああいや今の質問無し。なんか長くなりそうだ。
 で、結局なんだっけ。


「まだ寝惚けておるのかの? お主、この嬢ちゃんに心当たりはないかと聞いておるんじゃ」


 心当たりって言われてもなぁ…。初対面だと思うし、さっきの会話でも……2Bはそう認めてたじゃないの。何で俺なのよ。


「先日、お主の所に似たような嬢ちゃんが入団したじゃろ。それに、この手の妙な訳の分からん物は、おんしのような訳の分からん力を使う者に任せるに限る」


 訳が分からんナマモノなのは同意しますが、明らかに系統が別物なんですけどねぇ…。
 と言うか、詳しい事が知りたいなら、当事者の2B嬢に聞けばいいだけでしょうに、何で俺まで呼び出されんの?


「尤もな言い分だが、これがどうにもうまく行かなくてね…。会話のリズムや焦点が非常に独特と言うか…君は何者だと聞いたら、『あんどろいど』です、と来たものだ」


 …アンドロイド? この嬢ちゃんが?


「おや、分かるようだね」


 へ?


「『あんどろいど』という言葉を知っているようだね?」


 ………あ。
 …あーあー…そうか、そうだよな…ここでそんな言葉が広まってる訳ないか…。

 アンドロイドってのは、ロボット…も分からんよな…。ほら、撃龍槍とか飛行船とか、ああいう装置をもっと凝縮して、人間に似せたカラクリ……かな。

「からくり? 人型の飛行船? この子が?」

「肯定。有知識者と認定。推奨。自己紹介からの協力要請。」

「わかっている。私はヨルハ部隊所属・ヨルハ二号B型。情報交換及び、各種援護を要請します」

「……と、この有様でね。どうにも唯者ではないし、このポッドとやらも我々の技術では理解できない高度な何かが使われているのは分かるんだが、今一つ会話が成立しないんだ」


 あー……。アンドロイド…だとしたら…まぁ、うん、お約束だなぁ。
 俺の予想が正しければ、この二人…二体?は非常に融通が利かない。会話するにしても、一つずつ擦り合わせしていかないと理解できないと思うぞ。

「それが分かると言う事は、お前さんを呼んで正解だったようだね。よく分からないが、意図せずやってきたこの地で難儀しているようだし、手を貸しておやり。…どうにも、放置しておくととんでもない事をやらかしそうだしね。強いよ、この子」


 …まぁ…アンドロイドを作れる科学力で、部隊と来ればな…。用途にもよるが、戦闘力が高いのは間違いないか。
 放っておいて、何らかの理由で生態系を乱されるとシャレにならん。


 …ふむ。


 ヨルハ2号へ、協力要請について詳細を詰めたい。
 早々にこちらの要求を提示して悪いが、今まで君が居た環境と、この場所のルールはあらゆる意味で違うと思われる。その為、君が普段通りに行動するというのであれば、協力要請は断らざるを得ない。


「確認。協力する為の条件の提示」


 …その前に聞いておきたいんだが、ヨルハ2号に指示を出してるのはポッドなのか…?


「否定。本機は2Bをマスター認定する、追従支援機体」


 さよか。2Bね…。うん、そう呼ばせてもらう。
 では2B。協力要請の条件は、我々のコミュニティ…猟団の一員となる事だ。猟団長は俺なので、俺の部下と言う事になる。
 無論、一時的な措置で構わない。外部からの出向者でもあるので、他者からの命令権限は無い。俺直属と言う事だな。
 絶対服従になれ、という訳ではない。2Bの身に危害が及ぶ、ないし…所謂ロボット3原則に違反したり、理不尽な要求、或いは悪行に手を貸す事に繋がる命令に対しては拒否権はある。その場合、ここに居るギルドの面々、レジェンドラスタ、他の猟団チーム、何よりギルドナイト……分かりやすく言えば、憲兵に連絡する権利と手段が君には用意される。

 ここまでで、何か質問は?


「はい。一つあります」


 何ぞ。


「あなた方は人間ですか?」



 

 ……をい、どいういう意味だ。
 そりゃ俺は色んな意味で人間止めてるし、ギルドマスターは竜人族だし、ここに居る他の猟団の連中は何かしら異能持ってるし、レジェンドラスタに至っては………。
 あれ、胸張って人間だと言える人が居ないよ?


「ここに連れてこられるまで、あなた方と現地の生物との戦闘を目撃しました。異常に巨大な生物もそうですが、あなた方の身体能力は、我々が記録している人間の範疇を超えています。また、そちらの方は人間にはない身体的特徴を所持しています。あなた方は、機械生命体ではないのですか?」


 少なくとも、体に機械埋め込んだ覚えはないな。…俺は、それ以外のものなら色々取り込んでるが。
 とりあえず、俺達は人間だ。
 俺達はそのつもりだし、この土地における人間の定義は逸脱してない。医学的にも、極めて鍛えられた人間の領域を出ていない。……あくまで、この土地の定義だけどな。


「了解しました。人間を守るのは、我々アンドロイドの任務です。貴方の配下となります」


 しかし、機械で、生命体で、そいつらと戦ってるアンドロイドね。随分と物騒な場所から来たようだ。

 情報交換は長くなるな。後で報告書提出でいいっすか?


「ああ、ゆっくりおやり。私達だと会話すら成立させられなかったからね」


 …で、この場の面々は、何でこんなに集まってたんでしょうかね?


「そりゃ、貴方の新しい女が増えるんじゃないかと見物に来たに決まってるわ。食べちゃう時は呼んでね?」


 ミーシャ……すっかりデバガメに嵌りやがって…。





 さて。2Bとやらを猟団部屋に連れ帰り、話を聞く。
 ちょっと時間がかかったが、裏技を発見してからは非常に話が早かった。…2B、アンドロイドと言うだけあって、頭の中にネットワーク接続機能があるらしい。
 彼女が『バンカー』と呼ぶ、月面基地とやらとの交信は出来ないが、機能自体は生きている。

 今でも、バンカーへ救難信号を送り続けているらしい。
 また、彼女が居た世界からすると、このように人間が非常に多く活動しているのは、過去の映像でしか見られなかったもの。貴重な資料になりそうなので、映像を記録して送信もしている。…それも、バンカーとやらに届かなければ無駄になりそうだが。


 ちょっと話が逸れたが、アレだ。ネットワーク接続機能があるのなら、今まではGE世界でしか使わなかったダイブ能力を使えばいい。そこから直接、2Bの情報を読み取ればいいだけだ。
 …やってはみたが、あんまり気分のいいものじゃなかった。2Bが居た世界がディストピアっぽい場所だった…と言うのもそうだが、それ以上にこの情報のやりとりは、無味乾燥すぎる。本…いや、報告書を読んでる方がまだマシだな。

 まぁ、とにかく彼女が置かれていた状況は、大体理解できた。
 ……理解できたんだが……仮にこれが何かのゲームで会った場合、彼女は…そもそも人間は……いやしかし、体が機械仕掛けで腕とかちぎれたらケーブルの集まりだったのは確かだし…うーむ。ま、遠い世界の話だ。
 彼女がここに居るのだから、意外と近い世界の可能性はあるが、現状はデスワープと夢以外では世界の壁を超える事はできん。考えるだけ無駄だ。



 …そんな訳で、猟団での彼女の生活が幕を開けた。
 働かざるもの食うべからずと言うし、彼女自身も協力の対価として活動する事を望んだ為、ハンターとして扱う事となった。
 訓練所をスキップして卒業し(あれくらいなら文字通りスキップしていてもクリアできる、とは本人の談。下手なハンターより強い)、ルーキーハンターとして働き始めた……のはいいんだが。


 その前に、一騒動あった事は記しておかねばなるまい。
 先日から、似たような経緯で俺の直属の配下って事になってるA2についてだ。…何? そんな奴の事は知らない?

 いやぁ、それが俺もすっかり忘れててなぁ。俺が受けたクエストに行ったら、そこでボロボロの状態でモンスターを狩ってたA2と遭遇。当然の事ながら、許可も無しにモンスターを狩るのは密猟として重罪である。
 どうしたものかと思ったが、そのまま憲兵に突き出すのも何だし、そもそも自我領域がどうのこうのとか意味不明なウワゴト言ってたし、連れ帰って休ませてみた訳だ。まぁ、ギルドへの報告はしておいたが。

 まさかアンドロイドだとは思わなかった……。いや確かに、タンクトップから見える肌には幾つも継ぎ目みたいなのが入ってたし、兆候はあったんだが。つーか、タンクトップどころか、最初は人工皮膚が敗れて中身が見えて、それが服(と言うか下着)に見えてただけだったんだよなぁ。
 ちなみに、長期間メンテナンスを受けたりデフラグを行っていなかった為、色々限界の状態だったそうな。ま、そうでもなければ、あの程度のモンスターにA2が負ける理由もないしね。まぁ、相手がベルキュロスで、攻撃がEMC効果を発揮してたのはアカンと思うが。

 事情を聞いて、密猟に関しては正当防衛だった事、そして異邦人なのでルールを全く知らなかった事を理由に放免。
 ただし、放置しておくと色々問題が起きそうな為、拾ってきた俺が面倒を見ろ…と言う事になった。



 ちなみに、接触当時は「機械生命体憎し」「私の事なんてどうでもいいから、機械生命体を狩り尽くす」「私に命令するな」スタイルだった彼女が、割と俺の命令に従っている理由は、下記の物だと思う。
 ここで暮らすようになって、最初にクエストを受けた時の感想なんだが……上級クエストで「レベル99のイノシシかと思った」が彼女の感想である。
 …上級のドスファンゴ程度でそんな事言ってたら、この世界渡って行けんでぇ…。実際、割と心が折れたっぽいし。


 ……なんでこんな濃い奴忘れてたんだろうな、俺。




 まぁ、とにかく…この二人が会った時、一触即発になりかけた訳だ。二人が同郷というのは予想していたが、まさかA2が指名手配されていたとは。
 A2も、故郷…彼女達の世界とは全く別の地であるここで、追手と遭遇するとは完全に予想外だったらしい。

 危うく戦闘開始となりかけたが、上官命令で何とか沈静。こいつらが暴れ出したら、猟団部屋ごと吹っ飛びそうだ。
 俺が鎮圧に出るとするなら、下手するとアラガミ化もしなけりゃならんしな。


 暫く様子を見ておかなきゃならんか、と思っていたが…意外とそうでもなかった。
 A2には自分から戦いを仕掛ける理由は無いし、2Bは一人で戦うのは危険であり、上官である俺にも禁止されている。お互い、警戒はしても戦闘にまでは発展する傾向は無い。むしろ、狩りの場においては協力する事さえあったくらいだ。




 …ただ、2BはA2に対して疑問を持っているようだ。何故ここに居るのか、どうやってこの世界に来たのか…ではない。その辺は初日に情報交換させたが、全く進展は無かった。
 何故A2が指名手配されるに至ったのか……どうして裏切ったのか…も、違う。

 2Bが疑問に思っているのは、A2と俺の距離だろう。分かりやすく言え?
 まぁ、簡潔に表現すれば……A2は俺にベッタリなのだ。狩りの際の役割分担で離れる事はあるが、それ以外は必ずと言っていいほど、手が触れられるくらいに近い場所に居る。飯時も、散歩の時も、風呂入る時も、寝る時も、他の女と一緒の時も、トイレの時は…流石に扉の前で待機させてるけど。

 随分丸くなったなぁ。どーも、元々温和な性格で、色んな意味で過酷な環境や、過去の因縁なんかに晒され続けてトゲトゲしい性格になってたみたいだ。
 それを各種サポートが充実した環境に放り込めば、嫌でも丸くなるってものだ。猛毒の蜜で溺死させたよーなもんかな。


 本人は、部隊長(猟団長だけど)の護衛の為と言っているが、明らかにそれだけではないのは、2Bの目にも明らかである。
 だって、「待て」をしたらすっごい悲しそうな顔で、トボトボ離れていくんだもの。
 アンドロイドは感情を持つ事を禁止されている…とは2Bの言だが、それって感情自体はあるって言ってるのと同じだし、そもそも脱走兵となったA2がそっちのルールに従うとも思えんわな。

 ちなみに、『よし』をしたら、目にも止まらない勢いで近付いてくる。尚、本人はそそくさと、何気なく近付いているつもりらしい。
 2B曰く『粒子化している』だそうだが…何処のガンダムだ。
 


「はっきり言うが、それを一瞬とは言え生身でやっているお前の方が非常識だからな」


 …アンドロイドに常識を解かれる俺って…。いや、それより俺ってそんな事してたの?


「ブシドースタイル、と呼んでいる動きをしている時、一瞬だけ粒子化しているな。そう言えば、エリアルスタイルでも…」


 マジか…。確かに、ディノバルドの大回転斬りすら回避できる神の如き回避力だとは思ってたが…。体術だけで粒子化するとか、ハンターってしゅごい。
 人間にそのような機能は無かった筈、と首を傾げる2Bもカワイイです。


 まぁとにかくだな、何かA2が俺に異様に懐いている事に疑問を持っている訳だ。無理もないよなぁ。A2は、2Bの立場から見れば、危険極まりない裏切者、或いはテロリストだ。
 そんな人物が、本来は縁もゆかりもない俺に、こうまで従順に付き従ってれば、何かあると思うのは当然だろう。




 …と言う訳なんだが、実際その辺どうなんだ、A2。



「…お前がそれを私に聞くか? 私にあのような事をして、逆らえない体にしたのはお前だろう。機械生命体を狩ろうにも、帰還の手段が分からずに途方にくれていたのは事実だが」

「…? ハッキングによる命令権の上書きですか?」

「………いや、そういう事ではなく…。ある意味はそれで正しいのだが…」


 …………ああ、はいはい、俺のいつものパターンね。ちょっと寝惚けてたから、今一思い出せなかったが。


「理解できません。明確な説明を求めます」

「確認。臨時上官の評価・傾向などの情報を求める」

「評価か…。信頼できるかはともかく、キレ者なのは確かだな。私との僅かな会話から、我々の世界の状況をあっという間に把握し、瞬く間にヨルハ計画の最重要機密まで行きついた。『アンドロイドには悪意が足りん』だとさ……。胸糞悪い話だが、全ての手掛かりが一致するのも事実だ。そのシナリオを組んだ奴に対しては、『悪意はあるが余計な捻りが多いから気付かれる』だとさ」

「最重要機密…?」

「…自分で考えろ。『悪意において悪魔に勝る、だからこそ人間』…か。よく言ったものだよ。尤も、今回やらかしたのは人間ではないようだがな」

「要請。猟団長に情報の提示を求める」


 知らない方がいいんじゃねーの?



 或いは、もう全て知っているか、だな。なぁ、最新鋭機体の、一番最初にロールアウトした2Bさんよ。…最初からそのつもりだったのかは分からんが、抑止力を、と考えるのも分かるわな。
 ん? いや、これは今思いついた事だよ? 的中してるのかは知らんがね。




 どの道ここでは意味のない情報だし、向こうに戻れた時に口封じされちゃ堪らんだろ。どうしても知りたきゃ、向こうに戻ってから自分で調べな。粛清されないように気を付けながら。

 …まぁ、実際大した話じゃないんだけどな。ディストピアでありそうなストーリーを幾つか繋ぎ合わせてみただけで。
 月面基地とやらに居る人類が、内紛もせずに何十年以上も大人しくしてる、アンドロイド達に対しても中身のないメッセージを送ってくるだけで、神プレイも自滅するような命令も無いって時点で、ほぼ確定事項だったけどさ…。



 まぁいいや。話を戻して……A2が俺に従っている理由だ「従っているのではない! 世話になっている義理を還しているだけだ!」ハイハイ、どっちでもいいよ、いいからちゃんと傍に居な。
 …A2、説明任せる。気まずい云々以前に、アンドロイドにも伝わる説明の仕方が思いつかん。


「心得た。…2B、少し付き合え。『先輩』として、色々教えてやろう」


 なんか心なしか、ウキウキしているように見えるA2。今まで先輩ぶれる相手も居なかったし、ソッチ系の知識も豊富かつ経験値が多い(ほぼ俺が詰ませたんだが)人ばかりだったからな。おねーさんぶって、猥談できるのが楽しいのだろうか。
 …一応、様子は見ておくか。ここの所大丈夫だったが、また戦闘に突入するかもしれん。

 コソコソ近付いてみると、既に話はそれなりに進んでいるようだった。


「…と、私達は毎晩そのような行為を行っていて…」

「非合理的です。アンドロイドにそのような行為は必要なく、人間としても生殖には繋がりません。仮に貴方が子供を産める人間であったとしても、そのような行為は効率的とは言えません」

「ああ、確かにそうだ。だが、これが人間の神秘と言う奴でな。非効率的な事を時に行う事で、新たな発見をしたり、非効率的な筈の行為が逆に効率的になったり、非効率を『楽しむ』という事ができるのだ。具体的に言えば、私が『夜』の行為に混じる事で、同衾する人間の女性が異様に張り切って、孕もうとして様々な行為をだな…。どうやら、私達アンドロイドにも、似たような部分が多少はあるらしい。例えば、水からエネルギーを生成する事が出来る我々だが、人間が口にするような料理を取り込んで、その感想を持つ事もできる。燃料濾過フィルターに負担はかかるが、その分狩りに対する意欲が増した。暖かい湯に浸かる事で、表面の汚れを落とし、時には熱膨張による体の噛み合いが変わる事もある」

「理解できません」

「こればかりは、実践しなければ理解できないだろうな…。うむ…よし、一つ重要な情報を教えてやろう。これはお前にとっても、非常に大きな意味を持つ事だ」

「…………」

「彼に抱かれると」

「………………」


「全身のオーバーホールを受けたような状態になる。もっとわかりやすく言えば、あらゆる点で『最良』の状態になるのさ」


「……理解できません。人間にも我々にもそのような機能はなく、この土地の人間にはアンドロイドの義体をメンテナンスできるような技術力は無い筈です」


 俺にも理解できません。
 え、何、そんな効果あったの? 最初は回復の為の施術として抱いたけど、人工皮膚の再生とかまでは俺も知らんかったよ? てっきり、A2の体に備わっている自然回復による結果だと思ってた。
 そりゃA2を始めて抱いた後は、妙に元気になってたり、ツヤツヤテカテカしてたり、モヤがかかったようだった視線が妙に矢鱈とハッキリしてたりした気がするけど。
 あれって、色々な意味で追い詰められていた(そりゃ捨て石部隊から脱走兵扱いならね…)状態から、色んな事を余裕をもってできる状態になったリソースによる結果じゃないの?

 
「流石に信じられんか。無理もない。私も最初はそうだったし、上官である奴からの要請に従って抱かれただけだ」


 あの、立場と弱みに付け込んで強姦したような言い方は止めてくれませんかね。色々無理した限界が来て動けなくなって、治る手段があるなら何でもいいから…って言ったのはアンタでしょ。
 まぁ、それでアンドロイドを抱く事にした俺も俺だが。と言うか、マジで…。


「そうだな…」


 む、衣擦れの音。A2の体は隅から隅まで(仕組みはともかく)味わったが、つい覗いてみたくなる。


「…どうだ、私の体を見て、何か思う事は無いか?」


 心の目で見ておりますが、相変わらずお綺麗なカラダでござんす。


「同じヨルハ型の義体。損傷及び欠損も認められず。義体システム、オールグリーン。………オールグリーン? メンテナンスも受けてないのに? エネルギー源は水から生成できるから、まだ納得できますが」

「言っただろう、彼に抱かれる事で、各種オーバーホールを受けたような状態となる、と。義体に残っていたストレスも解消され、破れていた人工皮膚は再生すらした」

「有り得ない…。ヨルハ型モデルは自己修復能力があるけど、それは内部の破損や任務に支障のある機能に関してのみで…」

「無論、誰にでも出来る芸当ではない。『霊力』と呼ばれる、現状では彼だけが使いこなせている力によるものだ」

「確認。霊力。旧世界の人間が信仰していた、幽霊・精霊等に触れる力。しかし、そのような存在は確認されず、解明もされなかった為、虚構の存在と判断される」

「私達にとっては、そうだったろう。この世界ではどうだ? 現に、人間とは思えないほどの怪力や頑丈さを持つハンターや、明らかに生物学的におかしい進化を遂げた獣が蔓延している。人間とて、自らの全てを解明していた訳ではない…そうだ。それに、こちらに来て分かったのだが…どうも、人間というのは変化が著しい生物のようだ。昨日できなかった事が、今日も出来ないとは限らない」

「…………」


 …使ってる俺でも、今一よく分からん力だしなぁ…。


「どうにも理解できん力だが、どうやらこれはある程度物質に干渉する事ができるらしい。その影響を受けた物質は何らかの変化を起こす。私の人工皮膚はそれで再生されていき、関節その他の負担も消え、内部も何やら引っ掻き回された挙句にメンテされている訳だ。…ちなみに、その反応が起こっている間、非常に強い快感に襲われるが」

「アンドロイドに快感は」

「ある。強烈な打撃や、活動に支障がある傷を不快と感じるだろう。ならば、その逆に良好な状態へ移行する事で、快を感じる事もある。視覚系統や操作系統の障害を回復した時の爽快感を、もっと強くしたようなものだ。……まぁ、お前もやれ、と言っている訳ではない。ただ、今後メンテナンスが長期間できない可能性を考えると、一つの手段として覚えておく事だ」

「…もう一つ疑問がある。貴方は、人間で言う性向を行う事で、体が回復すると言った。だが、我々にそのような機能は搭載されてない。人間で言う生殖器が無いのに、どうやって性交渉をする?」

「ああ、それはだな…」


 …うん、大丈夫そうだな。ガールズトークに興味もあるが、これ以上ここに居ると見つかりそうな気もするし。
 ソソクサと逃げますか。

 しかし、A2も随分穏やかになったなぁ。最初にこっちに来た頃は、機械生命体を殲滅できないって苛々しまくってたのに。帰れない事がそれに拍車をかけてたっけな。
 昔の戦友とのアレコレとか、色々あったみたいだし、多分チャンスがあれば向こうに戻ろうと考えてるんだろうが……流石にそこまでは縛れないな。俺はあくまで一時的な上官だし。




 …しかし、機械生命体ね…。今までモンスター・鬼・神・人と狩ってきたけど、機械は専門外だなぁ。
 機械を相手にするような狩りゲー、何かあったかな…。EDF…は狩りじゃないし……自由闘争…なんだ、洋ゲーに『地平線』とかゆーのがあったような…。まぁ、今から出来る訳じゃないから、思い出しても意味ないけどネ!





 ん? 濡れ場?



 また今度(具体的にはリアルで11日くらい)な!



ニーアオートマタ編。




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270話

結晶の古老撃破ー。
なるほど、紫が本体だったのか…。
それが分かれば、囲まれないように障害物を利用して、両手持ちで速攻かければ何とかなる。
あと偽物を消すのに投げナイフ大活躍でした。


P3G月

 

 ここ最近、真面目に狩りをやってるんだが、どーもギルドから名指しでクエストを投げられる事が多い。ような気がする。

 断言できないのは、あくまで「これがおススメ」「あなたが受けなければお蔵入り」のように、言葉巧みに強制しているという形を避けているからだ。

 

 実際、そこまで危険なクエストではない(G級基準だが、G級の初心者向けの依頼だ)し、俺もそれを受けるのは吝かではない。報酬だって、見合った程度には貰える。

 分からないのは、何でそうしているかって事。自意識過剰かと思ったが、暫く観察してみると事実らしい。

 少なくとも、受付嬢達はクエストを求めるハンターに対応はしても、これがいいとかアレに行くべきとか、そういう自己主張は一切しない。シャーリー達とはエラい違いだなぁ…。あいつら、恋人関係になったとしても、お蔵入り状態のクエストを押し付けるチャンスを淡々と狙ってるからな。

 まぁ、フロンティアだもんな…危険度が段違いだもんな…。下手におススメとかして惨劇にあっちゃ、受付嬢だって気分が悪いし、ギルドの信用も失墜するか。

 

 

 んじゃ、なーんで俺にはおススメしてきてんの? そりゃ確かに他のハンターと色々違う所はあるけど、実力で言ったら一介のG級ハンターよ?

 

 

 現在、妙に強烈なプッシュを受けた依頼は…モノブロス、剛種のナナ・テスカトリ。他のモンスターもよくおススメされるが、正直言って共通点が見当たらない。

 モノブロスはもう慣れたもんだったが、剛種は苦労した…。初めて挑んだ剛種だったし。

 一体何をさせたい……あ、いやちょっと待て、狩猟記録を見返す。

 

 

 

 ……訂正する。共通点はあった。ただし、モノブロスと剛種ナナ以外で。

 勧められたクエストは、ハンターランクを上げる為の実績が多く獲得できるクエストばかりだ。…でも、G級になった以上、実際の実力はともかくとして、ランク的に上は無いよな?

 しかし、この実績に蓄積が、ハンターとしてどれくらいのレベルにいるのかを見分ける基準になるのも事実…。例えて言うと、同じゲームで全クリしていても、トロフィー全取得、各種レベルやポイントがカンストしているかどうか、って事だ。んで、俺は全クリしただけってレベルだな。やり込みはここからだ。

 

 …俺に実績を積ませようとしている? でも何で?

 

 

 考えてみれば、こういう兆しは前からあったような気がする。例えば超越秘儀の事。

 何気なく教えられて活用してたけど、あれって確か当時のランクより、もう一つ二つ上に行かなきゃ教えてもらえない技だった筈。てっきり、俺の力…霊力に目を付けての事だと思っていたが、ひょっとしてまだ何かあるのか?

 しかし、これ以上の隠し玉は……あるけど、この世界の人から見れば、全部霊力と変わりない力に見えると思うがなぁ。

 

 と言うか、真面目にモノブロスと剛ナナの理由が分からん。特にモノブロスは下位でもいいから、ってクエストだったし。下位でいいなら、トッツイと会ったばかりの頃にもう狩ってるしね。まぁG級の方でやったけど。

 うーむ……直接聞いていいものだろうか…。別段悪意は無さそうなんだが。

 

 

 

 …よし、困った時のレジェンドラスタだ。ギネルさんとかも、何かあったら力になると言ってくれたしな。…まぁ、あの人って脳筋そうだから、あんまり知恵が回るようには見えないが…。

 

 そんな訳で、いつもの酒場にやってきたんだけど…どうやら皆、仕事が忙しいらしい。居たのはチルカさんとギネルさんのみ。

 

 

「む? おお、どうした凄まじき戦士」

 

 

 だからその呼び方止めてくださいって…。いやちょっと相談があったんですが…みんな出払ってるんですかね。

 

 

「相談があるなら、俺様が乗ってやるぞ。最近、お前のおかげでユウェルの妙な料理の被害も出てないしな! これを知った時、凄まじき戦士を通り越して、神に至る者とか呼ぼうかと本気で考えたものだ」

 

 

 神は下半身に宿る訳ですね。と言うか、それ多分ユウェルの料理の被害が俺に集中するって事だよな…。

 まぁ、意外と食えるからいいけど。

 

 

「…やはり神に至る…いや、それはいい。とにかく、悩みがあるなら言ってみろ。と言うか言え。この場で言え。チャンスだからな!」

 

 

 チャンス? 首を傾げてギネルさんを見ると、兜の奥でチラッと横目。…チルカさん。………が、ブンブン狩猟笛を振り回している。酒場でそんなもの振り回すんじゃありません、危ないから。

 …成程、いつものようにブン殴られそうだから、離れてこっちに来ようって魂胆か。しかしチルカさんも興味津々でこっちを見てるんだが。

 

 

「ごめんねー、楽しい事があるとつい振っちゃうんだー。そういう事ってあるよね! よくネルギーに直撃するけど」

 

 

 …レジェンドラスタの武器で何度も殴られて、よー生きとりますな…。

 まぁいいや、なんか哀れになってきたし。

 

 相談っつーのは、最近ギルドから勧められるクエストについてです。カクカクシカジカ。

 

 

「ふむ…確かに妙だな。ギルドの受付嬢は、基本的にクエストについては自分から口を挟んでこない。……錯覚でないとするなら、何かあると思った方がいい」

 

「何かってー、何?」

 

「そこまでは俺にも分からん。G級上級下級を問わないモノブロスの後は、剛種のナナ・テスカトリ。その他はG級になった後だと言うのに、ハンターランクを上げる為のクエストばかり…」

 

「それって、全部おんなじ目的の為のクエストなのかなー」

 

 

 全部……そうか、複数の目的があるってパターンもあるのか。となると……ハンターランクを上げる為のクエストと、その他のクエストに分けて考えてみるか。

 …でも益々わかんねーな。ハンターランク用クエストは、何らかの目的で更なる実績を積ませようとしているのだとして…モノブロスと剛ナナは?

 

 

「さぁ? チルカもわかんないや。ネルギーは?」

 

「…………さぁな、俺にも分からん。分からんが……ひょっとして、と思う心当たりならあった」

 

「ウソ!? 鎧まで筋肉でできてるネルギーがよくわかったね!?」

 

「おい、脳筋どころか鎧までって何だ! エドワードみたいにマッパで戦いに行くような事はしてないぞ! 大体、脳筋具合で言えばタイゾーの方が…だから狩猟笛を振り回すな!」

 

 

 チルカさんチルカさん、話進まないからちょっとストップ。俺もあんまり期待してないけど、こっちから相談した手前、話くらい聞かないと。後で何か奢ってあげるから。

 

 

「ホント!? 何にしようかな~」

 

「…お前もお前で随分な事言ってるからな。しかし、他のレジェンドラスタの女連中に比べればマシと思ってしまう俺様って…。まぁいい。俺様の心当たりが正しければ、少なくとも後1度、大物の狩猟依頼が来るだろう。恐らくは……アノルパティス」

 

 

 アノルパティス…と言うと、トゲトゲした飛龍とサメを合体させたような奴か。まだやりあった事ないんだよな…。

 でも、何で?

 

 

「…悪いが、根拠は言えん。チルカも理由は分かるな?」

 

「あー……うん、大体わかった。ごめんね、言えないや」

 

 

 ……レジェンドラスタの二人が口を噤み、言えない……と言う事は、例のあの人の件か。

 …沈黙は肯定と取ります。

 

 それに関係があるモンスターを狩らせようとしている、か…。仇討ちでもさせようってのかな。

 

 

「それは無いだろう。ギルド上層部にも、あのハンターの関係者は居たが、仮にも俺達ハンターの元締めだ。目的の為に狩りを依頼する事はあっても、狩りそのものが目的となる筈がない」

 

「…ネルギー、頭大丈夫? 何か入ってない? 印照とか」

 

「俺様はまともだ! 印照って何だ一体。大体、普段からちゃんと考えて行動しとるわ! それをお前らがだな…!」

 

 

 ギネルさん、チルカさんもう話聞いてないっす。

 

 

「…俺様の話をちゃんと聞くのは、お前くらいだ…。何でこんなに扱い悪いんだ…。ナターシャには下僕扱いされるし…」

 

 

 飲み比べで負けたのが致命的っすな。機会があれば改善を狙ってみましょ。

 ま、とりあえずアノルパティスの情報、もちっと貰えませんかね。依頼が来そうなんだったら、備えておかないと。

 

 

「あ、だったらおススメの装備があるから、作りに行こうよ! 大丈夫、チルカも手伝ってあげるから!」

 

「あ、おいチルカ待てうぉぉぉぉ!?」

 

 

 ああ、またギネルさんの顔面に狩猟笛が! …ギリギリ避けたか。

 しかし、その間にチルカに連れられて酒場から出てしまった。うーん、強引と言うか、女性のレジェンドラスタってマイペースな人が多いなぁ。フローラさんくらいだろうか、常識的だったの…。

 

 

 

 

 さて、その後の狩りですが、まぁ順調だった。バフの効果が強い事強い事。自前でバフを付ける時は、大抵タマフリか神機のバーストでやってたから、狩猟笛はあんまり使わなかったが、いいもんだねぇ。

 ティガやナルガを狩りまくった。…何でこんなに沢山、乱入が来たんだ? そりゃ確かに、比較的多い場所ではあるが…。

 

 …疑問はあっさりと解決した。チルカの狩猟笛が、モンスターを呼び寄せていたらしい。

 

 

「え、だってアノルパティス用の装備を作るなら、沢山狩らないといけないでしょ」だそうな。

 それは確かにそうだが、せめて事前に一言言ってくれい。

 

 そんなこんなで狩りは終わって。

 

 

「じゃ、しよっか。この辺には宿はないから、君の部屋でいい?」

 

 

 

 

 …一般的にレジェンドラスタからハンターを狩りに誘うという行為は、今夜ドスケベセックスしようというサインである。

 

 

 

 な訳ねーだろ!

 

 

「え? でも、リアもフラウもユウェルも、狩りの後に『今日はどんな事をした』『今夜はこんな事をするつもり』って、いっつも話し合ってるよ」

 

 

 

 そりゃ一度は関係を結んだ間だから…。一緒に狩りにいくのも、仕事と言うよりデートと思ってる節があるし。

 と言うか、そうだとしても何でそんな話になってんの。態々、不誠実な男と寝ようとするとか…。

 

 

「誰にだって初めてはあるよね。チルカと君は、今日が初めてってだけだよ。ほら、早く行こう? これでも結構楽しみなんだ」

 

 

 うぬぬ…俺が言うのもなんだが、ハンターの風紀はどうなってんだろうか。俺の行動が許されてるのが、風紀もクソもない証拠と言われればそれまでだが。

 しかし、これでレジェンドラスタ4人目かぁ…。どこまで行くんだろうなぁ。

 

 

「あと、君としてないレジェンドラスタは…ナターシャ、クロエ、ティアラ、フローラ。丁度折り返しだね。ああでも、もうすぐ新しいレジェンドラスタが来るかもしれないんだってさ」

 

 

 へぇ……ん? クロエ?

 

 

「あれ、会った事なかった? …あー、そっか。あの子、割と真面目ちゃんだから、君みたいな人には近寄りたがらないかも」

 

 

 つまり常識人と言う事ですな。よくそれでレジェンドラスタが務まるなぁ。いや、別に変人じゃなきゃレジェンドラスタができないって訳じゃないけども。

 でもキャラが立ってないんじゃないか?

 

 

「いやいや、これが結構面白い子でねー。今度会わせてあげるね。ま、それより早く帰ろうよ。あ、そう言えばあとで何か奢ってくれるって言ってたよね」

 

 

 はいはい。飯食った後は、下半身でたっぷり馳走してやりましょうかね。

 

 

 

 

 

 はい、そんな訳でチルカを連れ込んで、しっぽりイタした訳ですが…詳細を書く前に、重要な報告が一つある。

 

 

 

 処女でした。

 

 

 

 メッチャ気楽に誘ってくるから、てっきり経験済みだと思ってたのに。

 

 

「いや~、チルカもそろそろバージンだけでも卒業したかったんだよね。ピンと来る人は居ないし、初めてはすっごく痛いって言うし、迷ってたんだけど…君なら上手に『破って』くれるって聞いたから」

 

 

 危うく、気付かずに容赦なく貫くとこだったわい。

 しかし、そんな理由か…。まぁ、確かにフロンティアに来てから、結構な頻度で破ってるけど。

 やっぱハンターなんかやってると、刹那的な生き方になるのかな…。装備の作成とかについては、かなり計画的に動けるのになぁ。

 

 

 ま、とにかくコトの次第を記しておく。

 

 俺の部屋にやってきたチルカは、相変わらず頭が軽…もとい、お気楽そうな雰囲気だった。

 行為への緊張や興奮も見られず、ただ平常心。うーむ、すごい精神力してるなぁ。

 

 「ていっ」と声をかけて俺のベッドにダイブすると、靴と上着を放り出し、かも~んとばかりにシナを作って見せた。ちょっとだけスカートを捲り上げる……見えたッ! 白とピンクの縞パン!

 

 このまま誘惑ポーズを続けさせたり、いっそ俺が見ている前でオナニーさせてみようかとも思ったんだが、やっぱ欲望は抑えられんわ。無粋だろうが何だろうが、ダイレクトに触れて貪る以上のやり方は無い。

 しかし、いきなり縞パンをひっぺがすのはツマランな。ここはオーソドックスに、上から順に責めていくか。

 

 

 俺も上着を脱ぎながらベッドの上に。頬に手を添えながら押すと、特に抵抗もなくポスッと倒れた。

 上に乗りかかり、唇を触れ合わせる。

 

 

 「イチゴの味がする」とはチルカの弁。さっきパフェ食ってたから、その味じゃないかな。

 初恋の味、なんて言ってみたら、ケラケラ笑われてしまった。……俺の初恋ってどうだったかなぁ。筆卸しは水商売のおねーさんなんだけど。

 

 そんな事を考えると、もう一回とばかりにチルカが吸い付いてきた。受け止めて、今度は舌を這わせる。触れ合った唇しか舐めていないのに、驚いたように離れようとした。

 が、後頭部を下げようとしても、そこにあるのは俺の枕。むしろ自分から追い詰められたようなものだ。

 追撃し、舌を捻じ込み撹拌する。逃げられないチルカは、観念したようにそれを受け入れた。

 

 

 

 頭を押さえ込んでいる以上、まともに動ける筈もない。チルカの肌に手を這わせる。

 服の上から、腕や脇腹に触れるだけでも、チルカはピクピクと反応する。敏感で実にいい事だ…と考えていたが、胸元に手が伸びた時、違和感を感じた。

 

 結構でかい。…じゃなかった、緊張している? この敏感さは、体質や精神的なものではなく、体の緊張によるものだ。

 でもどうして? コトに何か妙なトラウマでも…いやだったら誘ってこないよな。

 

 とりあえず、いきなり刺激が強い事をするのは危険かもしれない。リラックスさせる為にも、弱い刺激から入るべきだ。

 予定を変更し、服の上から胸に触れる。やっぱり、口の中の舌の動きが乱れた。

 

 揉む、と言うよりは擦るようなやり方で、二つの丘になっている乳房を愛撫する。

 直接触れる感触には遠く及ばないが、これはこれでそそる感触だ。服と、その下のブラの感触も楽しめる。

 

 

「んっ…んぅ…」

 

 

 胸を繰り返し擦り、ちょっとずつ頂点に近付いていく。焦れったいのか、時々胸を突き出すように背筋を仰け反らせる。

 俺の指が頂点に辿り着いた頃には、既に小さな突起がブラを押し退けて自己主張している所だった。

 

 カワイイ乳首だな、とからかうようにいってやると、「君のも見せてよ」と来たものだ。

 お望み通り、上半身の服を脱ぎながら、先端の敏感な粒を弄る。

 お返しに、とばかりに、チルカも俺の胸板に手を這わせてくる。こうかな、なんて呟きながら、責められているのと同じ場所を弄ろうとしてきた。

 

 ふむ、そう来るなら…コレはどうだ? キスを中断し、胸元に顔を寄せる。あくまで服は脱がせず、ブラはズラしても付けたままで。

 その状態で、俺はチルカの乳首に吸い付いた。

 

 

「んっ、や、ん…!」

 

 

 抗議しようとしている気がするが、お構いなし。問答無用で吸い付くと同時に、唾液をたっぷり塗した舌で、服ごと乳首を愛撫する。弾き、吸い、甘噛み…。

 もう一方の乳房も手繰り寄せ、二つ一遍に愛撫する。先端は口で、根本は手で。

 更に、股の間には動けないように俺の足を入れている。体を捻ろうとする度に、この足に縞パンと敏感な部分が擦りつけられて、猶更たまらなくなっているらしい。

 

 

 好きなだけ口撃でチルカを嬲り、ようやく気が済んで離れた時、チルカは既にトロトロ状態。いつもパッチリしていた目にはモヤがかかったようになり、口元からヨダレが一筋こぼれている。

 さっきまで吸い付いていた部分は、服が唾液で肌に張り付き、ぷっくり自己主張するピンクの粒が透けてみていた。呼吸する度に、その部分が擦れて刺激になっている。

 

 ビクビクと反応するチルカ。

 …うん、この反応は…慣れてない、じゃない。コレが初めての経験だ。

 

 一体どうして……あ、いや待て、そういやフロンティアのハンターは…ふむ、ちょっとカマかけてみるか。

 

 

 …男に触られるのは、初めてか?

 

 

「男でも女でも一緒だよぉ…。チルカ、まだバージンだもん…」

 

 

 …おっふ、女同士なら経験有説も違ったか。しかし、それなら何でまたあんな気楽に誘ってきたのかな。

 気にはなるが、これ以上考えるべきではないか。

 チルカも初めての快感に酔って、気分が出てきているようだし、ここでアレコレ言ってシラけさせるのはよろしくない。感謝を込めて、全力で悦んでいただかねば。

 

 

 それでは…今度は下を責めるとしましょうか。

 愛液でベトベトになった縞パンに掌を置き、秘部全体を捏ね回す。

 切なげな声を漏らす喉に舌を這わせ、ヌルヌルとした感覚を体中に刻み始めた。

 

 チルカは、そんな所に性の快感が埋もれているなど、考えた事もなかったようだ。また驚いて体を硬直させようとしたので、動くなとばかりに指を秘部に浅く突き立てる。縞パンごと捻じ込まれた指の感覚が、彼女にはさぞかし異様に思えただろう。

 しかし容赦なく攻め続ける。オーソドックスな愛撫の知識すら足りてないチルカの体を、ゆっくりと目覚めさせていく。

 

 耳。唇。頤。首筋。二の腕。脇。ヘソ。太腿。

 

 人間の体は、何処だって性の感覚を持っている。想像した事もない場所から快楽を注ぎ込まれるチルカは、もう小刻みに喘ぐ事しかできなくなっていた。

 やれやれ、まだオカルト版真言立川流も使ってないと言うのに、先が実に楽しみ…もとい、思いやられますな。

 

 ま、とりあえず…常識と羞恥がまだ邪魔をしているようですから、それをぶっ壊すとしますかね。

 

 

 なぁチルカ。こんなトコ触られて悦んでしまう人間を、なんていうか知ってるか?

 

 

「あ……は…ぁ……え、えっち…?」

 

 

 惜しい。でもハズレ。

 

 

「……敏感?」

 

 

 遠ざかったな。ほら、もっとイヤらしい言葉を思い浮かべてみるんだ。

 例えば…スキモノ。淫蕩。セックスの為だけに男を誘った尻軽。

 

 

「ち、違う、違うもん…チルカは、そんなのじゃないよ」

 

 

 本当に? こうやって罵られてるのに、怒らずに戸惑う。悲しんでいる訳でもない。それは、囁かれる度にその気になってきてるからじゃないか?

 続けていこうか。

 

 ヘンタイ。マゾ。恥知らず。底なしの性欲。ああ、この後はセックス中毒者になるかもな?

 

 

「あ、あ、ぁ……」

 

 

 耳元に囁かれる卑語で、チルカはどんどんその気になっていっているようだ。チョロい、とは言ってやるまい。それだけ理性がぶっ飛んでいるだけだ。

 だから、最期の一言を注ぎ込めば、チルカの理性は完全に吹っ飛ぶだろう。

 

 

 …淫乱。

 

 

「ぁ……っ……は、あは、あははは…ゾクッて、すっごいゾクゾクって来た…!」

 

 

 ああそうだな。淫乱だから、こんな事されても、ここを触られても、お尻をペシペシ叩かれても、悦んでいいんだよ。

 膜を破った時の痛みさえ、チルカにとっては悦びだから。遠慮なんかする事は無い。思いっきり感じてしまえ。

 

 

「あはは、だったら、ねぇ、もっと、もっと弄ってよぉ。もっと気持ちいい事、教えて? みんなを夢中にさせちゃうくらい、スゴイのあるんでしょ?」

 

 

 はいはい、でもまずはコッチから行こうねぇ。そろそろ唾液も乾いちゃったし、服を脱がせてっと…。

 ほーら、御開帳。縞パンは惜しいけど、これ以上ドロドロべちょべちょの状態だと冷えちゃうからね。

 

 完全に生まれたままの姿になったチルカは、薄い笑みさえ浮かべている。自分の体を嘗め回す視線さえ楽しんでいるようだ。

 それどころか、挑発半分、自分の楽しむの半分で、自慰さえ始める始末。

 

 眼福ではあったが、目の前に男が居るのに、自分で弄らせても意味がない。

 どうせ弄るなら、こっちを弄りな。代わりにペロペロしてあげよう。

 

 

「はーい。うわぁ…これが男の人なんだぁ…」

 

 

 シックスナインの体勢、俺の上に寝そべったチルカは、股をモジモジさせながらもナニに興味深々だ。

 リアやユウェルに言わせると『エグい』、マオやミーシャに言わせると『初めての子に見せたら、絶対委縮するオーラがある』と言われた一品だが、チルカは全く恐れていない。いや、畏れてはいるようだが、それすら楽しんでいる。

 

 

「えっとぉ…こうかな?」

 

 

 戸惑うような声を出しながらも、絡みつく指に迷いはない。いいねぇ、初心者にしちゃ上手なものだ。

 先っちょから漏れている我慢汁を発見し、試しに吸い付いてみるべきか、それとも潤滑油代わりに使うか悩んで、チルカは後者を選んだ。しかし、思っていた程滑りがよくならない。

 

 

「ん~……じゃ、こうしよっと」

 

 

 いきなり咥えるのかな? と思ったら、ピチャピチャと音がした後、ヌルヌルした感触がナニを包み込んだ。

 どうやら、掌を自分の唾液で濡らしたらしい。そこまでやるならいっそ咥えたら? とも思うが、これはこれでいいものだ。少なくとも、初心者の口は、手ほど器用でない場合が多い。

 

 さて、俺はどうしようかな。この体勢なら、目の前にある淫靡な割れ目を責めるのが常道だが、相手は『淫乱』な『ハジメテ』だ。もうちょっと珍しい事はできないものか。

 ふぅむ……あ、そういや今、ベッドの下…。

 

 おk、道具で遊ぶに決定。どうせだから、使ったまま本番できる奴がいいな。となるとバイブは駄目だ。尻の方ならできなくもないが、触ってみた感触だと流石に馴染ませる必要がある。強引にやれば『淫乱』の暗示も解けそうだし、何より痔になったら流石に悪い。

 となると……何があったかな…まぁいいや。手を伸ばして、取り出した奴で遊ぶとしよう。

 

 手探りで取り出したのは……スポイトとローター。ふむ……。ん、プランは決まった。

 

 

 「ちんぽ~♪ ちんぽ~♪」なんて頭が緩いを通り越して間抜けな鼻歌を歌うチルカの秘部を一瞥し、スポイトを手に取る。

 狙うのは…敏感なマメ、ではなく。

 

 

「ひゃっ! …な、何? 今の何? あっ、また…今度は違うとこ…んっ、変なカンジ…だけど、ちょっとキモチイイ…」」

 

 

 尾てい骨。会陰。足の付け根。チルカの体を触って探し出した性感帯。

 ピンポイントで与えられる、吸い付かれるような刺激は、小鳥に啄まれているような感覚だろう。それがお気に召したかどうかは、目の前で物欲しげに開閉する秘部の姿が教えてくれる。

 

 だらだらと愛液を流す秘部に、スイッチを入れたローターを近付けた。振動はまだ弱め。

 潤滑液として愛液を塗り付けると、振動を与えられた秘部が嬉しそうにヒクつく。

 

 

「あ…これ、知ってる…プルプル震える奴だよね? これを…どこにどうするのかなぁ?」

 

 

 期待した声を出すチルカにちょっとだけ哂って、片手でチルカの入り口を大きく広げる。空気が入り込んでくる違和感に少し体を震わせたが、すぐに入って来た遺物にそれどころではなくなった。

 

 

「んっ……な、なかが…なんだかへんなの…。あ、あんまり奥に入れないで…。初めては、君ので…」

 

 

 分かってる分かってる。でも、チルカなら初めてでも気持ちいいだろう?

 ほーら、もうちょっと奥に居れて…おっ、抵抗があった。これが膜だな。

 

 ん? 大丈夫大丈夫、ローターに破らせるなんて事はしないよ。ただし……ローターを入れたまま、本番するけどね?

 

 

「い、入れたまま!? そんなの、そんなのって……絶対、絶対気持ちいい…! 一生忘れられない初体験になっちゃう…」

 

 

 躊躇いすらないとは、流石の淫乱っぷり。処女ビッチとはこの事か。

 まーでも、一生忘れられないかは疑問だね。まだこの後、『本気』が控えてるもんな。まだオカルト版真言立川流、使ってないものな。破られた後にそんな事されたら、初体験の事なんか忘れちゃうかもな?

 

 

「そんな事ないもん! 絶対、初めての事は忘れないんだから! おちんぽなんかに、絶対負けないもん!」

 

 

 そんな事言いつつ、どれくらい気持ちいいんだろうって期待してるのが目に見えてるぞ。

 ま、いいか。処女を破るのもチンポ、それを忘れさせるくらい蹂躙するのもチンポ。どっちにしたって、チルカはコイツに屈服するんだよ。

 

 論より証拠だ。お互い準備は整ったようだし、実際試してみようか!

 

 

「はーい! それじゃ…よいしょっと…初めては正面からで、ね?」

 

 

 ローターと一緒に、ね。それじゃ…行くぞ?

 

 おお…これは…思った以上にイイね。チルカの締め付けは、処女特有の物と言うだけじゃない。『破られる』ことに反応して、ひたすらキツく締め付けてきたかと思えば、その一方で異物である筈のローターごと俺を受け入れ、奥へ奥へと誘い込んでくる。

 体重をかけると、強い抵抗感に突き当たる。ぶるぶると震えるローターがあるその場所は、言うまでもなく処女膜だ。

 流石に破られるのには痛みがあるのか、チルカの体が少し緊張した。

 

 が、その表情は恍惚の一言。痛みは既に悦びに変えられている。ならば遠慮する事は無い。痛みを慮って一気に貫くより、ゆっくりと、文字通り震える処女膜を裂いていく。

 腰を進める毎に、チルカは嬌声を上げ、もっと早くと言わんばかりに腰を突き出してくる。

 

 最後の抵抗を突き破ると、その勢いで一気に最奥まで潜り込んだ。先端に振動が伝わってくる事からして、ローターも一緒に押し込んでしまったようだ。

 …ならば…えい。

 

 

「っ! あ、お、おなか、ふるえ、るっ!」

 

 

 腹の上から子宮を、俺が潜り込ませたナニを抑えてやれば、ローターの振動を逃がす事ができなくなる。

 ピストンではなく、グラインドで最奥をねちっこく責めてやると、チルカは涎を撒き散らして悦んだ。

 全身で悦びを表すチルカを抑え込み、もっと押し付けると、どんどん膣内の感覚が熱くなってくる。チルカの悦びに比例しているかのように体温が上がっていく。

 

 いいね、滾って来た。催してきた。もっと耐えて、チルカが何処まで上り詰めるか見てみたい気持ちもあるが、残念ながらそろそろ限界のようだ。

 俺もそうだが、チルカの方が。精神は何もかもを悦びに変えているようだが、そうだとしても許容量はある。堪える術も、受け流す術も知らないチルカでは、このまま責めると気絶して終りになってしまいそうだ。

 一度、クールダウンさせて、そこから『本気』で責めるとしよう。

 

 乱暴にローターを引き抜き(突然の事に、また悲鳴と嬌声が上がった)、チルカの腰をがっちり掴む。

 グラインドとは一転、容赦なく突き刺さるピストンに、体をエビゾリにして悶えるチルカ。

 正気が失われた目で俺を見つけると、強請るようにチロチロと舌を突き出してきたので、思いっきりディープキスで応えてやる。

 背中に腕を回して密着してきた。ピストンする度に、互いの体が擦れ合う。

 

 最後の切っ掛けは、絡みついた舌の応酬から。

 初めてのオルガズムを迎えたチルカの爪が、俺の背中に突き刺さった。

 勲章ともいえる傷を刻まれて、俺も我慢の限界を超える。滾りに滾った熱が、先端から抜けていくのが分かる。しかしただ抜けるのではなく、噴き出した分だけチルカの中から熱湯を浴びせられたようだ。

 どうやら、射精を受けたショックでまたイッたらしい。

 

 うむ…処女卒業と同時にイキッ放し。上出来だな。淫乱の名には充分か。

 

 

 

「はーっ、はーっ…………す、すご…モンスター討伐だって、こんなに疲れないよ…」

 

 

 そりゃ慣れの問題ですな。ま、普段使ってない筋肉とか使いまくったんだし、ちょっと体が落ち着くまで(ちんこ弄らせながら)ピロートークでも…。

 

 

「何言ってるの…」

 

 

 へ?

 

 

「もーっとスゴイの、あるんでしょ? それこそ、チルカが気絶しても、叩き起こされるようなのがさぁ? 今度はチルカが色々するのもいいしね」

 

 

 ……はっ、成程、淫乱だね。

 オッケーオッケー、そういう事なら遠慮なく。淫乱から淫乱ドMにレベルアップさせましょう。今度はオカルト版真言立川流も使ってな!

 



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271話

なんかホットメールにログインできない…。
他の人が使っている可能性があるとか出るし、セキュリティコード届かないし。
マイクロソフトのセキュリティ向上とからしいけど、なんと迷惑な…。
前からパスワードの変更を求められたりして鬱陶しかったけど、使うのアホらしくなってきました。

もんむすクエストは、序章の終わりまで到着。さて、すぐに進めるか、ちょっとレベルを上げるか、ダクソに特攻するか…。


P3G月

 

 

 さて、チルカを淫乱ドM底無しスキモノ愛奴にした後の事だが、とりあえず対アノルパティス用の装備作成が主な活動となった。

 まぁ、チルカのお陰でほぼ素材は集まってんだけどね。

 

 途中でルーディに捕まって、スタイリッシュボマーの型の研究に突き合わされたが。コイツ、二人で使うの前提の能力を作ってたが…一気に進化させてやがる…。

 威力や精度の上昇も半端ないが、それ以上に役割分担が洗練されている。ルーディが直接攻撃、もう一人が索敵やサポート、って感じで。

 

 こっちとしても非常に参考になった能力だが、それはそれとして素材はほぼ吹っ飛んでしまった。爆弾の威力も上がっておるのぅ…。

 

 

 

 それはそれでいいんだが、やっぱり最近、ギルドは俺に実績を積ませようとしていたようだ。

 どこからどう話が流れていったのか、『何でも屋』を営んでいるという話まで流れていた始末。これはレジェンドラスタのタイゾウさんから聞いた事だ。

 

 勿論、俺はそんなものを営んだ覚えはない。クエストであれば割と見境なく受けるが、あくまでオレはハンターである。…まぁ、『ちょっと困っているから助けてくれ』と言われれば、ハンターに関係ない事でも、多少は手を貸すが。

 幾らなんでもこれはおかしいと思い、アレコレ探りを入れていたんだが、ようやくその真意が分かった。いや、俺が突き止めたんじゃなくて、「なんじゃ、今頃になって気付いたんかい」とギルド長の方から話してくれたんですがね。

 

 

 『何でも屋』の噂はギルドにとっても予想外だったようだが、より多くのクエストをこなさせようとしていたのは認めた。

 その真意は、俺を穿龍根のテスターとして仕立て上げる事。

 

 穿龍根か…。話にチラッと聞いた事はあるな。非常に強力だがマイナーな武器で、未だにその使用法は確立されてない。

 G級を含めた何人かのテスターが運用して研究しているが、まだまだ完成とは言えないらしい。

 そこで、色々普通ではない動きと能力を持つ俺に穿龍根を持たせてみよう…という事だったとか。

 

 この話が出たのは、俺がフロンティアに来て間もない頃。クック先生を相手に、槍と言うかランスの新技を開発しようとしていた時、遠くで見られていたらしい。……と言う事は、あの時のアホな行動も見られていた訳で…うわぁ、恥ずかしい・

 ともかく、その時のハンターが何やらティンと来たらしく、名前も知らない俺をテスターとして推薦したのだそうな。

 

 それ以来、超越秘儀を段階をすっ飛ばして教えたり、ハンターランクが上がりやすいような依頼をこっそり回したり、ギルド内部でも評価に一筆加えたりと、色々根回しされていたとか。

 

 

 

 …そんなに前からだったのかよ…。間抜けだなぁ、全然気付かなかった…。

 

 

 

 で、実際のところ、俺はテスターとして認められるのか? 秘密で色々やられていたのは気に入らないが、それは気づかなかった自分が悪い。

 ……ほう、実績は充分に積んだが、最後の一線を越えるのにあと一押し…。

 

 

 …アノルパティスか?

 

 

 大当たり、ね。実績を積ませるのも、特定のモンスターを指定して狩らせるのも、結局は同じ目的だった訳か。

 どうやら、口にしてはいけないハンターこと、トキシに何やら関係しているようだが…。

 ああ、トキシと歌姫さんとの関係は大体察してるぞ。

 

 

 ほう……モノブロス、剛ナナ、そしてアノルパティスは、かつて歌姫サンの森が滅びた時、トキシが最後に戦ったモンスター。そして穿龍根こそが、トキシの扱った武器だった…と。

 テスターとしての試験に、最期に戦ったモンスターが名を連ねているのは、トキシと同等以上の実力でなければ、穿龍根は扱えないと判断されている訳だ。

 

 成程ねぇ…。まぁ、テスターやるのは構わんが……俺が穿龍根使い、ねぇ。

 いや俺はどうでもいいんだけどさ、歌姫サンが何か言い出さないかなーと。自分で言うのもなんだけど、ちょっと険悪な仲になってるんだが。

 仮に何か言われても、歌姫さんに口出しされるような筋ではないと思うが。

 

 

 …問題ない? 

 ……ああ、確かにそうだな。全く同じ武器ならともかく、武器種が同じだけで怒り狂ってたら、フロンティアでハンターなんかやってけないわ。

 

 

 そんじゃあ…アノルパティス、狩ってみましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 おい、誰だよ歌姫サンに告げ口したの。

 

 

 

 

P3G月

 

 

 いきなり俺の家に押しかけてきた歌姫サン。アイルー3匹組が止めようとしているのにも関わらず、平然と引き摺って来た辺り、本当に体力派だったようだ。

 そんで、押しかけてきたはいいが、なんかもう色んな意味で支離滅裂だ。

 

 まぁ、分からんでもないがな。今の歌姫サンには劇薬すぎるだろう。

 そもそも、外に出るようになった歌姫サンは、洞窟に籠っていた頃と比べて随分と生き生きしているし、覇気も出てきた。

 良くも悪くも、トキシの死によって沈んでいた心境は変わりつつあるだろう。…それを、悲しみや思い出が薄れようとしている、と取るタイプだ。

 

 自分の想いが薄れようとしている事に動揺しているところに、今回の知らせだ。険悪な仲とは言え、アイルー達に何度も手を貸した恩人。それが、かつての…いや現在進行形か…彼女の思い人と同じモンスターに挑もうとしている。

 それだけなら、フロンティアでは珍しい事ではないが…何と、歌姫サンには、「ギルドが彼を、トキシの後継者にしようとしている」なんて話で伝わったらしい。

 

 

 そら狂乱もするわなぁ。大嫌いな俺が、惚れた男の跡を継ぐとか。もしも敗北してしまえば、トキシの死の二の舞…歌姫サンにとっては、癒えてないトラウマをストレートに抉られるようなものだ。考えるだけで怖気が走るだろう。

 

 実際、押しかけて喚き散らしたのも、俺をトキシの後継者として認めない…ではなく、危険だから止めてくれ、という懇願だった。

 ただし、「あんなのと戦うなど、馬鹿なんですか死ぬんですか!?」という罵声混じりだったが。

 ちなみにフロンティアではアノルパティスと戦って生きてる奴なんぞ、あんまり珍しくなかったりする。大体、穿龍根のテスターは同じモンスターを一通り屠っている訳だし。

 

 が、そんな事は歌姫サンには通じない。

 うん、この人情熱って言うか感情の人なのね。一歩間違えればヒステリックと言われそうだが、気に入らないから…じゃなくて、情の深さ故だな。

 今回はそれが、良くも悪くも暴走している。

 

 トキシの死というトラウマを連想させる状況、険悪ではあっても恩がある俺との関係、伝説のハンターと言われたトキシが敗北した相手なのがまた恐怖を煽っているんだろう。

 とは言え、なぁ…前にも考えた事だが、歌姫サンの都合なんだよな、それって。そりゃ、俺の命を心配して言ってるのも確かなんだが。

 

 

 大体、危険だ何だって言ってたらハンターなんかできやしない。モンスターに関する危険度なら、歌姫サンより俺の方がよく知ってる。

 その上で狩ると決めたのだから、どうこう言われる筋合いはない………が、んな事言っても納得しないよな。理屈じゃなくて、感情で止めてるんだから。

 

 

 はて、どうしたものか…このまま無視して行ってもいいんだが。

 

 

 

「…歌姫様、ここは行かせてみてはどうかニャ?」

 

「モービン! あなたは何故そんな事を!」

 

「これまで、この人は幾つもの難関を潜り抜けてきたニャ。トッツイとバッシが言い出したアレとかコレとか、それとは関係ない狂走ラオシャンロンなんて無茶苦茶な代物までニャ。…トキシは死んだニャ。アノルパティスに、たった一人で立ち向かってニャ…」

 

「ですから! それを繰り返すような事は、あってはならないと!」

 

「だけどニャ! それはトキシが一人で戦ったからニャ! トキシを一人で戦わせちまったからニャ! …オレはずっと思ってたニャ。あの時、オレ達の一匹だけでも戦いについて行っていたら、もっと違った結果があったんじゃニャいかと」

 

「モービン…でも、あの時のオイラ達は…」

 

「ああ、歌姫様と共に逃げるのが限界だったニャ。もしもの話に意味なんてニャい。だけど、それでも思わずにはいられないのニャ。トキシはどんなモンスターだって、一人で倒してしまっていたニャ。オレ達もずっとそれが当たり前で、一緒に戦うなんて考えもしなかったニャ。そのツケが、最悪の瞬間に回って来たのニャ」

 

 

 …フロンティアのモンスター相手に、オトモアイルーが居ても…いや、そうでもないか。

 アイルーの生存能力は、ハンターなんぞじゃ足元にも及ばん。オトモじゃなくて、何度でも復活するオトリとしてウロチョロしてるだけでも、大分違うものな。

 ただ、それで結果がいい方に変わったかはまた別の話だがな。

 

 

「わかってるニャ。一緒に戦えたところで、死体が一つ増えただけかもしれないニャ。…当時と比べると、狩りのやり方や装備も随分進歩したし、この人はかなり特殊なハンターだから、トキシとどっちが強いとは言いきれないニャ。でも、明らかにトキシよりも勝っている点が一つあるニャ」

 

「それは…?」

 

「仲間がいる事ニャ。ハンター同志の絆があるニャ!」

 

 

 …ま、言わんとする事は分かるな。ゲームのフロンティアは、基本的に4人パーティが前提だし。事にG級を1人とか、廃人レベルじゃないと拷問だろ…。

 ちなみにその絆は、大体が肉欲とかタカリ相手とか、打算絡みである。例外は、恩義でついてきているコーヅィくらいかな…。

 

 

「しかし…」

 

 

 それでもまだ渋る歌姫サン。まー、絆があるったって、それだけで勝てるようなら苦労はないわな。

 

 

「…歌姫様、オイラもモービンに賛成ですニャ。あのおそろろろろろろしししししししししししいアカムトルムムムムムムムさえ退けたこの方なら、きっと帰ってこられますニャ」

 

「ふるえすぎですばっしですがわたしもそうおもいますにゃあのるぱてぃすをとうばつしたはんたーのれいもありますにゃ」

 

 

 

 …トラウマ、まだ治ってなかったか。まぁ自業自得だが。

 ま、結局のところ、狩りに行くのは決まってんだけどね。もうクエスト受けてるし。

 

 

 結局のところ、歌姫サンは渋々と…納得できた訳ではないだろうが、帰って行った。胸中では、疑念と後悔が渦巻いている事だろう。

 本当にこの時点で引き下がってよかったのか。殴り掛かってでも止めるべきではなかったのか。お付きのアイルー達に止められたとは言え、それで引き下がる程に自分の意思は弱かったのだろうか。

 

 確かに喚くだけ喚いて、割とあっさり引き下がったようだが、それは期待の裏返しだろう。引き籠って存分に欝っていた心境から、外に出て元気になって「ひょっとしたら」と前向きになりつつある。

 こりゃ、責任重大かな…。ここで乙るくらいならまだしも、デスワープした日にゃ今度こそ歌姫サンは立ち直れなくなりそうだ。

 

 

 …ここで「俺には何の関係もない事だけど」と言うのは、ちょっと何だよな…。実際、他人が勝手に俺の狩りの結果を気にしてるだけで、そこに責任も何らかの因果関係も生じないんだよなぁ…。

 

 

 

 さて、そろそろアノルパティスを狩りに行くか。

 今回は、公式ではないが狩猟試験と言う事で、フローラさんが来てくれる事になっている。単なる試験監督者ではなく、レジェンドラスタとしての役割も兼ねてだ。

 残りの2人は…キースさんと、アノルパティスを狩る必要があった偶然知り合ったG級ハンター・セラブレス。ガンランス使い。

 

 …全身鎧で性別も分からないセラブレスだが、なんか極上美人のニオイがします。お近づきになりたいところだが、今後も縁があれば…だな。

 セラブレスも俺の事は知っているようだが、異能持ちの事より、女癖が非常に悪いという事の方が印象に残っているらしく、あまり近付かせてもらえなかった。ま、自業自得だから仕方ない。

 

 

 

 

 …話が逸れた。肝心のアノルパティスだが………すまん、半分以上記憶が飛んでいる。

 狩ったよ? ちゃんと狩ったし勝ったんだよ? フローラさんからは、試験の合格も言い渡された。

 

 ただね…。あの角を一目見た瞬間、テンションが上がりまくっちゃってさぁ…。セラブレスがドン引きするくらい、執拗に角を角を角を角を角角角角角角角角角を殴りまくっていたそうな。ちなみにキースさんは「負けておれぬ!」とばかりに超張り切って滅多切り。

 

 

 

 

 いやぁ、ある意味ヒトメボレだわ。何よあの角。…鼻? 一繋ぎの大秘宝のアーロン思い出したわ。そういや両方サメっぽいよね。

 

 

 

 

 

 あの角を認識した瞬間、神の啓示が下って来たわ。「汝、あの角を圧し折ってチェーンソーを造れ」って。いや、伊達に暴鋸竜なんて呼ばれてないね。実に御立派な角でした。

 

 

 

 

 

 神をもバラバラに出来るような、超スゴい奴だといいね。

 尤も、フロンティアにはいくつかチェーンソーみたいな武器もあるんだけども。工房の試作型の奴とか。

 

 あの角で作る武器は、大体トゲトゲではあっても、チェーンソーのようにはならないらしい。そりゃそーだよな。角自体、突起が動くような仕組みにはなってないし。工房に持ち込んでも、「情熱とアイデアは買うが、素人の思い付きで実現できるようなモンじゃあねぇ」と却下される。

 

 

 ……が、ここでちょっと頭を捻ってみた。

 思った通りに使えなかったからと言って、あの角を死蔵するのは惜しい。何と言うか、ロマンがある角だ。もっと何かに使えないか。出来れば回転させたい。

 

 

 …そう思っていた時、二つの使い道を思いついた。

 一つ目。触鬼の力で取り込んで、体の一部にする。どう変化するかは分からないが、トゲトゲした悪役っぽい姿になるかもしれない。…仮面ライダーアラガミも、あんまり味方役には見えないデザインだが。

 二つ目。ここの所、全く使っていなかった鬼杭千切の強化に使う。

 

 …正直言えば、二つ目に使いたい。この角、G級でも特に強力なモンスターの素材だけあって、ポテンシャルが段違いだ。具体的にどう使えるかはともかくとして、上手く組み込めば貫通力や殺傷力は各段に上昇すると思う。

 問題は、そんな開発スキルは俺には無いって事だが…今度デスワープすれば、GE世界だ。そこで何とか弄って貰えないだろうか…。

 しかし、それだとこのフロンティアでの強化には使えないって事になるんだよね。一番強化が必要なフロンティアなのに…。

 

 

 後日のパワーアップに使えば、確定ではないが切り札が超強化されるかもしれない。ただし、間もなくやってくるであろう苦境には役に立たない。

 今すぐのパワーアップに使えば、どんな効果が出るかは分からないが、とりあえず即効性はある。

 

 

 どちらにすべきか……悩みに悩んで、単純な解決方法を思いついた。

 

 もう一体狩ればいいじゃない。まぁ、今回はテンション上がりまくってて記憶が飛んで、それでもかなりのダメージを受けたようなので、もう一回やるとなると厳しいが…。今度はレジェンドラスタ2人がかりに出来るかどうか…。セラブレスさんも一緒に来てくれるか分からないし。

 

 

 

 

 

 ところで、何で俺はフローラさんを組み敷いてアヒンアヒン言わせてるんだろうか?

 

 

 

 

P3G月

 

 

 そもそも、最近の俺って…いや最近じゃなくても、狩りに行った後って大体誰かとヤッている。帰ってきてからではなく、大抵は帰り道でヤッて、更に帰ってからもヤる。

 G級領域についてこれるのは、現状だとレジェンドラスタくらいだから、帰り道での相手はかなり限定されるが。

 

 だからって、相手が居ない状態だからナンパしよう…なんて事は考えた事も無い。

 実際、今日…いや昨日だって、帰り道の共用セーフハウスでさっさと寝床についた。キースさんとフローラさんは「雑魚寝でいい」と言っていたが、セラブレスは「お前と一緒の部屋で寝たいとは思わん」と言って個室へ。

 他にも個室に空きはあったので、わざわざ雑魚寝するのもどうよ…と言う事になり、結局全員個室で寝た筈だった。

 

 誓って言うが、俺は昨晩、特にナニかする気はなかったんだ。

 フローラとは前のループで関係を持ったとは言え、今のループでは殆ど接点は無かった。彼女と一つの屋根の下で眠る事で、全く何も思い出さなかったと言えばウソになる。

 でも部屋は離れてたし、フローラも…一応警戒はしていたっぽい。

 

 

 

 

 …ただ、どうやら夜中にトイレに起き出した時、バッタリ会ったらしく……そのままフラフラと二人そろって寝惚けて、同じベッドに入り込んだよーだ。

 繰り返して言うが、その気はなかったぞ、本当に。…ただ、寝床で隣に女体があると、意識しなくてもいつの間にやら弄り回している習性があると言うか……。それに、一度は関係を持った事のある相手だと言うのがそれに拍車をかけたらしい。

 どこをどう触れれば悦ぶのか、指とか舌とかが覚えてるもんだから、フローラもあっという間にトロトロ状態に…。

 

 トイレの後、寝床に潜り込んで(なーんか柔らかくていい感触がするなぁ)なんて思ってた記憶が夢現にあるが、多分その時点で揉んだり摘まんだりしてたんだろう。

 抱き心地のいい枕のベストポジションを見つけようとモソモソして……俺はそのつもりでも、体はヤるのに一番適した態勢をとろうとしてたんだろう……、ふと我に返ってみると……既に半裸のフローラが、「ふにゃぁ…」なんて言いながら呆けた目でこっちを見てました。

 

 …で、俺はそれをよりにもよって、以前のループの時の夢だと思ってしまった。…「夢なら好き勝手ヤッていいよねー」と思うのは、もう言うまでもないだろう。

 かつての事とは言え、勝手知ったる女の体、しかも既に半ば以上出来上がっている状態である。そら、フローラをド嵌りさせるくらい朝飯前だったわ。

 

 

 夢ではない事に気付いたのは、ある筈の無い処女膜を突き破った時。それも含めて夢なのかなぁ、と思ってたんだが、破瓜の痛みで、背中に爪が突き立てられて、ようやく気付いた。

 

 

 

 混乱したよ、最初は。ナンデ!? 手を出すつもりなかったのにエロナンデ!?

 フローラさんも普通に受け入れてるし!

 

 ……でも考えてみりゃ、いつぞやのループでも俺やキースさんをオカズにして盛り上がってたのを聞いてしまった事があったような…。そういや、あの時はかなりノリノリでモーションかけてきてたな。

 フラウと一緒に関係を持った時だって、流されたとは言え最初から好感触だったような…。

 

 

 …意外と、俺ってフローラさんの好みのタイプだったり…? そんな事があるんだろうか…。肉欲で絡んだ経験は多々あるけど、あっちからのアプローチを受けた事ってあんまりないから分からない。

 

 

 

 ま、取り敢えず、容赦なくナニしましたが。フローラは声が大きいタイプだけど、ここでそんな声出させたら確実に気付かれる。キスだけじゃなく、その辺にあったタオルを猿轡代わりに使って声を封じました。

 処女を相手にやる事じゃない? 本人がメッチャ夢中になって、悦んでるからオッケー……いやでもこれって、媚薬使ってレイプして相手がイけば無罪って理論だよな…。

 

 どっちにしろ、お互い寝惚けていたとは言え、ハタから見れば俺が夜這いをかけて、眠っているフローラを傷物にしたようにしか見えないのは事実。ここは一つ、フローラ自身に合意の上である事を宣言してもらわなければなるまい。

 …そんな正当化と言うか、ドツボと言うか、まぁとにかくそんな理屈でフローラを陥落させました。

 

 

 口は塞いでいるから、善がり声を聞けなかったのは残念だったが、その分体が語ってくれたなぁ。

 フローラの落とし方は、今回は小細工無しの真っ向勝負。…いや状況が既に小細工と言うか八百長試合そのものなんだが、とにかくナニにモノを言わせました。

 焦らすとかフェザータッチとか、そういう事をせずに、精力で正面撃破です。

 

 幸い、処女貫通時の痛みもすぐに和らぎ(オカルト版真言立川流をすぐに使ったからね)、激しく動いても大丈夫な体になったから、これ幸いと突いて突いて突いて突いて突いて射精して突いて突いて突いて突いて射精して突いて。

 知り尽くしている弱点を責めに責めて、耳元でフローラ好みの甘い囁きを流し込んで…と、一晩で染め上げましたとも。

 

 ちなみに、以下が朝日が昇って来た頃の会話です。

 イかせて、引っこ抜いて顔にぶっかけた後。

 

 

 

「~~!! …あっ…あぁ……ナカに欲しかったのに…」

 

 

 欲しいんだったら、もう一回その気にさせてみれば? 朝は近いとは言え、まだ時間はあるぞ。

 

 

「はい……じっとしててくださいね…んっ…」

 

 

 ドロドロになっている体を起こし、見せ付けるように口を開け、そのまま俺のにしゃぶりついて…。初めてでディープスロートに挑戦とかスゲェな。

 勿論、超が付く程その気になったのは言うまでもない。

 

 

 

 …その後、消臭玉を使いまくり、シーツは始末し、シャワーを浴びて痕跡は何とか消したが、気付かれるよなぁコレ…。キースさんはこの手の事に鈍そうだから、意外と気付かないかもしれないが…。

 セラブレスは確実に気付いていた。おはようと挨拶したら、射抜かれんばかりの物凄いガン付けをもらった。

 …そうね、今確認したら、思いっきり隣の部屋でイタしてたもんね。しかも、セラブレスの顔は赤いし、目が充血してるしで、どうやら音が聞こえていたらしい。安眠妨害してスマヌ。

 

 で、肝心の被害者であるフローラさんはと言うと………ケロッとしていた。それこそ、俺への怒りも「メッ」で済ます程度には。

 あのー、加害者の俺が言うのもなんですけど、それでいいんですか…。そりゃ確かに、面倒な事にならないようにと、合意の上と証言させられる程度には染め上げたと思うけども。

 

 

「えっ、でもおことの……ンンッ、男の人って、そういうものじゃないんですか?」

 

 

 いや、そういう物と言われると、全面否定はできないが、『そういうもの』で操を散らされるとか…………え? お爺ちゃんの教え?

 

 

「はい。男の人は幾つになってもポケットモンスターで遊ぶのが大好きで、それを抑えられない生き物だから、ちょっとしたオイタ程度は大目に見てあげなさい、って」

 

 

 そりゃポケモンもポケットモンスター(隠語)も大好きだけどさ。これどう見てもオイタじゃ済まないと思うんだけど…。

 

 

「でも、お爺ちゃんはよくこういうオイタをしようとして、怒られてましたよ?」

 

 

 老いてもお盛んなお爺ちゃんですな。

 

 

「ええ、元気一杯です! よくフラウさんとかチルカさんにオイタをしようとしては怒られて、『慰めてくれぇ!』って飛びついてきました。そういう時、胸を触ろうとしたり、足を触ろうとするのが困りものですね。オイタは駄目ですよ」

 

 

 …………あの、不躾な事を聞くけど、血は繋がってるんだよね?

 

 

「はい。私のお師匠様でもあるんです。…それが何か?」

 

 

 冗談半分(だよな?)とは言え、実の孫娘にその仕打ち…。なんかイヤな予感がするな。

 すまんけどフローラさん、そのお爺ちゃんが男とはどーゆーものだと言ってたのか、ちょっと聞かせてくれません?

 

 

「…フローラって呼んでくれれば、いいですよ? 昨日はあんなに優しく呼んでくれたのに、他人行儀じゃないですか」

 

 

 ええんかな…。まぁ、本人がいいと言ってるんだし、いいか。

 それじゃフローラ、聞かせてくれ。

 

 

「ええ。そうですね…まずは……」

 

 

 

 

 

 ………結論。その爺さんアカンっす。少し離れた席で、俺達を無視するように朝食食べてたセラブレスが、逆様に地面に突き刺さるくらいには。

 

 フラウやチルカをデートに誘うとか、セクハラしようとすると言うのは…まぁ、大目に見よう。キッパリと断られているようだし、セクハラもカウンターを喰らって逃げ帰るのがオチだったようだ。

 関係を持った女に対し、そういう真似をされるとかなりイラッと来るが、それも割愛する。

 

 でもな、男としてそれが正常だと教え込むのはちょっと…。少しエピソードを聞いただけでも、この爺さん問題だらけである。昔は超一流のハンターで、今でも知る人ぞ知る…って有名人らしいんだが、言動が…。

 これ、孫娘のフローラさえ、性的に狙われてるんじゃないかとマジで思うくらい。

 と言うか、これって明らかに「都合のいい女」を作る為の洗脳じゃ……いやでもいくら何でも……しかし、俺みたいな色狂い・色欲外道が他に居ないとも限らんし…。

 

 

 考えてみりゃ、フローラの貞操観念って、常識的な程度に堅いようで、実際はユルユルなんだよな…。以前に関係を持った時だって、フラウと一緒にだった。場の勢いで流されたとも言えるが、そもそも流される程度の警戒心しか持ってないと来た。

 …考えすぎならいいんだが、これ、どうにも爺さんが意図的にそう仕向けた節が…。いつかフローラにガチで手出しする為、色々と妙な事を教え込んでいたようにしか…。

 

 穿ちすぎ…か? いやでも…。実際、半強姦な事をされたのに、このアッサリとした反応は…。流石に天然でも、そうそうこんな風には…。

 

 

 

 

 ……うん、考えるの止めた! 一応、爺さんには気をつけるよう、フローラには強く言っておく。

 

 

「大丈夫ですよ。お爺ちゃんが色々おかしいって事は、流石にもう分かってますから」

 

 

 おかしいって分かってても、その教えを殆ど疑ってない時点で安心できないんだよなぁ…。

 …………よし、俺以外に触られるのは気持ち悪い、或いは満足できないからノーセンキューって考えるように仕込もうか。

 

 



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第272話+外伝22-2

お待ちどうさまニーア外伝の後編(と書いて濡れ場と読む)だよ!
深夜のテンションで色々ブン投げながら書いたから、無茶苦茶なのは勘弁してね。


P3G月

 

 

 色々と予想外のアクシデントがあったが、とりあえず穿龍棍のテスター試験は合格。俺が無事に戻って来たと聞いて、歌姫サンも一安心したそうだ。

 意外な事に、セラブレスの連絡先をゲットできた。色狂いで近寄りたくない奴、と思われていた筈なんだが…それだけ俺が、ハンターとして有用だと思ったんだろうか? それとも、興味があるのは異能の方か…。そういや、ガンランスの砲撃に、何か妙な力を感じたような……テンション上がりまくってたから、よく覚えてないな。

 

 まぁいいや。とりあえず、手に入った新しいオモチャ(フローラ…ではなく穿龍棍な)の確認だ。

 両手に持って振り回せる軽さ。その軽さ故に、自力でジャンプが出来るという優れ物。俺はエリアルスタイルという前例や、GE式二段ジャンプとかがあるからすぐに慣れたが、初めて使う人は戸惑いそうだ。

 何より驚いたのは、武器を出したまま走れる機構になっている事。例え軽い物であっても、荷物を持ったまま走るのがどれだけ難しいかは、誰だってすぐ分かるだろう。これまた、ゴッドイーターであれば出来なくもないが。

 

 更に、単なるトンファーかと思いきや、妙な機構が入っておるな。内部に力を蓄える性質、2つの形態で戦える性質、後は…これは穿龍棍の機構と言うより扱い方の問題だが、攻防一体となる動作もあるとか。所謂ガードポイントと言う奴か。

 使い方と機構を上手く合わせれば、空中で滞空して連続攻撃を浴びせる事もできる、と。

 

 

 …ここまではいい。問題はこの先。

 何度も耳にしていたように、穿龍棍の使い方はまだ未完成だ。穿龍棍は基本的に手数で責める武器なのだが、現状ではどうにも総合火力が物足りない。

 それを補う為、蹴りという動作を入れ込んで研究を進めているようなのだが…まだ足りない。手数は足りるようになっても、蹴りの威力が低いのだ。

 まぁ当然だよな。武器を使った一撃より、単なるキックの方が強いんだったら、武器が要らなくなってしまう。

 

 俺にしたって、蹴りを使うのは大体がサブと言うかサポートと言うか、距離を取りたい場合とか、蹴りを踏み台にして飛び上がりたい場合が殆どだ。ダメージ目当てで蹴りを使った事は、あまり無い。

 ハンターでありゴッドイーターでありモノノフでありアラガミであり(以下略)な俺でさえこうなのだから、G級とは言え普通のハンターがただ蹴るだけでは、ダメージにならないのは明白だろう。

 

 しかし、そこで諦めては面白くない。充分な成果を出していないと言う事は、それを改善すれば更なるパワーアップが見込めるという事なのだから。

 

 

 

 

 とは言え、なぁ…。そう簡単に改善案が出るのであれば、とっくにどうにかなっているのも事実。足に武器を付ける、穿龍棍の中の力で蹴りを強化する、急所を狙って蹴り穿つ、etc etc…。すぐ思いつけるような案は、大体試されているそうな。

 …そもそも、穿龍棍を使いこなす事ができたハンターは居るのか? という疑問については……答えはイエス。誰なのかまでは教えてもらえなかった。

 だったらその使い手に教えを請えばいい、と言ったんだが、もう亡くなっているのだそうだ。

 

 うーむ…。まぁ、これについてはゆっくりやっていくしかないか。

 テスターを請け負ったと言っても、コレしか使ってはいけない訳じゃない。狩りをしながら、閃きを得られる事を祈っておこう。

 

 

 

 差し当たり、次のターゲットは…再度アノルパティス。

 前回は暴走しまくったから、どう戦ったのかイマイチ覚えてないし、鬼杭千切に使うにせよ、俺が採り込むにせよ、もう一本くらいあの角が欲しい。

 

 …今回は…穿龍棍は無しだな。流石に使い慣れないどころか、使いこなせてない武器で、あんなモンにケンカを売るのはゴメンだ。

 

 

 

 そんな事を考えていたら、歌姫サンが訪ねてきた。お付きの3匹アイルーも一緒である。

 訪ねてきて、顔を見るなり、フゥと溜息…。何気に失礼だが、どうやら安堵の息のようだったので、大目に見る。

 

 アイルー3匹組と、サムネ夫妻は何やら話し込んでいるようだ。そういや、あいつら旧知の仲だったっけ。

 …ん? アイルー3匹組がえらく驚いてるが、何だ? トッツイとバッシだけならともかく、モービンまであんなに驚くって珍しいな。

 

 

 それはともかく。

 

 

「無事に戻られましたか…。何よりです。先日は、随分な醜態を晒しました」

 

 

 お構いなく。気持ちが分かるとまでは言わないが、心中察する程度には…狩人やってるつもりだよ。

 正直、自分がエラい事になるのは慣れちまったが、ユニスが居る街が燃えてる時とかの再現をされると、冷静でいられるとはとても思えないしな…。

 

 

「…そう、ですか。自分だけが、と思っていた訳ではありませんが、やはり私はずっと自分の世界に閉じ籠っていたのですね。自分だけの悲しみに…」

 

 

 何を言ってるのか想像はつくが、そこで自分だけの結論を出されると結局自分の世界に逆戻りじゃね?

 まーなんだ、とりあえず無事だったんだからそれで良し、って事にしとけや。そっから先の事は、まぁ追々な。トキシの後継者云々も、結局はガセだったんだし。

 

 

「ガセ? …しかし、ならばその武器は?」

 

 

 ん? コレ? 穿龍棍っつーて、まだ未完成だが強力な力とポテンシャルを秘めた一品…なんだが、どうにも今一使い方がな。

 これがどうかしたのか?

 

 

「それを持っていると言う事は、あの方の後継者というお話は真だったのでは…」

 

 

 ……? ごめん、話が見えない。

 あの方って、歌姫サンが言うって事はトキシか? トキシと穿龍棍に何か関係でも?

 

 

「関係も何も、あの方が持っていた穿龍棍が、正にその武器なのですが」

 

 

 …マジ?

 

 

「はい。何度か間近で拝見したので、間違いありません。その後、何度か強化されたようでしたが、出会ったばかりの頃はその後武器でした。最初は、所謂双剣だと思っていたのですが、取っ手の場所やこの……なんです、長さが変わる仕掛けの部分など、色々と細かいところに特徴が」

 

 

 後継者ねぇ。同じ武器を使っているって基準なら、もう何人か後継者居るよな。

 

 ……ちなみに、こいつを使った時のコツとか聞いてないか?

 

 

「いえ…あの方は、寡黙でストイックな方でしたので。実を言うと、ちゃんとお話しできたことも数える程で…私の想いも、完全に片思いでした」

 

 

 

 

 

 …ん? んんー?

 

 何か引っかかるような気もするが、それは置いといて。結局、何か用だったのか? アノルパティスと戦って、無事に帰って来たかの確認?

 

 

「ええ、そうです。…あの後、色々と嫌な考えが止まりませんでした。それだけに、大きな怪我もなく戻ってこられて、心底安堵しています…。これであの方の無念が晴れるとは思っていませんが、ありがとうございました」

 

 

 礼を言われる筋合いがあるのかどうか…。

 まぁ、礼は素直に受け取って「旦那さん、旦那さん」……サムネ夫、どした? ここはユクモ村でもポッケ村でも幻想郷でもないぞ?

 

 

「何の事だかよく分からニャいけど、相談があるニャ。歌姫さんにもニャ」

 

「私にも? 何でしょう」

 

「ボク達、休暇が欲しいニャ。だからその間、歌姫さんのアイルーから一匹、お付きのアイルーになってほしいのニャ」

 

 

 休暇…? 普通の休みなら交代制で取ってるし、二匹揃っての休みもちょくちょくあるよな。って事は、長期休暇? どれくらい? 1週間くらいなら、好きな時にやれるけど。

 

 

「2か月だニャ。二人揃ってが厳しければ、妻だけでもお休みにしてほしいニャ」

 

「2か月…? もしや…」

 

「ニャ。ニャハハハハ……旦那さんは、ネコマには会った事があったのニャ。妹になるか弟になるか分からないけど、出来れば知らせてあげたいニャぁ。末っ子だって気にしてたから、きっと喜ぶニャ」

 

 

 …? ……!? お、おめでたかよ!? そういう事なら無条件でオッケーだ。2か月でいいんだな? 育児休暇は要るか?

 と言うか、何を前触れもなく孕ませとんねん。

 

 

「ニャハハ、あれだけ毎晩、とっかえひっかえ隣でサカられたら、ボク達だってついつい影響受けちゃうニャ。毎日の掃除も、イヤでもソッチ方面を連想するニャ」

 

 

 う、なんかごめんね…。

 

 

「気にしなくていいニャ。お仕事だと割り切ってるし、消臭玉があれば楽なものニャ。その分お給料もいいし…。まぁ、最初はエラい人のお付きになったニャーと思ってたけど、今ではオスとして心底尊敬してるニャ」

 

「…………………毎晩…。とっかえ…」

 

 

 歌姫サン、何か言え…いややっぱり言うな。

 つーか、トッツイ達から一人って事だが、それ本猫達は承諾してるのか? あいつらが歌姫サンの所から離れるなんて、ちょっと想像できないんだが。

 

 

「構いませんニャ。ずっとと言う事ではニャいですし、サムネ夫妻には色々と恩があるニャ。フロンティアで暮らしていけるようになったのも、ハンターさんを紹介してくれたのも」

 

 

 そういや、始まりはそうだったね。こいつらから、くれぐれもヨロシクと頼まれたんだっけ…。

 

 

「そのような事が…。サムネ夫妻、私からもお礼申し上げます」

 

「気にしなくていいニャ。あの気紛れで後先考えずに突っ走る迷惑なムッスコとも付き合っていけるハンターさんみたいニャから、何とかなるんじゃニャいかニャーって思って、軽い気持ちで紹介しただけニャ」

 

 

 その割には、当時礼というかボーナスとして出したマタタビも固辞して頭まで下げて…いや、これは無粋か。

 にしても、ムッスコだと言うのに随分な言われ様だな、正宗。ハンターのルールも無視して、ジンオウガに殴り掛かるような奴には、妥当な評価だと思うが。

 

 で、実際どうなん、歌姫サン。サムネ夫妻の頼みとは言え、仕事に入ってくれるなら給料を出す用意があるが。

 

 

「私は構いません。恩を返す事にもなりますし、身重のアイルーを働かせる訳にはいきませんから」

 

 

 ふむ。家事はどれくらいできるんだ?

 

 

「専門家には及びませんが、問題なく生活できるくらいには。…私が引き籠っていた間、特にトッツィは身の回りの世話を全てやってくれましたから」

 

 

 大雑把で単純なトッツィにしては、意外というか何というか。流石にネコ飯のスキルは発動させられないようだが、そこまで求めるのも酷だろう。

 しかし、部屋のお付きだったサムネ夫妻はともかく、バイトに夜毎の乱交の跡を任せるのは、ちょっと気が引けるな…。夜遊びを控えるのは無理だから、どっか別の場所に出掛けてサカるかな…。

 

 

 

 とりあえず、サムネ妻は完全に休み。サムネ夫は、アイルー3匹組と交代制で部屋に付く事となった。単純に、拘束時間が1/4だし、丁度いいくらいだろう。

 育児休暇だが、有給扱いにして給料出そうかと思ったんだが…「それはまた別の機会にニャ」と言われてしまった。

 

 

 

 

 そんなこんなで、サムネ夫妻のオメデタという予想外の案件に流されて、トキシは穿龍棍の話をするのを忘れてしまった。

 帰り際、歌姫サンは「…ここ、貴方の家だったのですね」なんて、すっごい今更な事を呟いていた。

 まぁ、知らずに新聞配達で配ってたものね。

 

 

 

 

 

P3G月

 

 

 早速トッツィが、サムネ夫の代わりに家に入った。と言っても、現状だとそう大した仕事がある訳でもない。昨晩は他所で遊んで、部屋も汚れてないからな。

 

 …でも、ちょっと問題かもなぁ。今までは(日記に書いてはいかなったが)夜毎夜毎に火遊びしに来る女達が居て、先に誰かがお邪魔してる事はあっても、その時は複数人プレイに参加させればよかっただけで、そもそも『留守です』ってパターンは狩りに行っている時以外は無かった。

 だから多少人数が増えても、破綻せずに上手く回っていた訳で。

 

 『遊び』に来たら、『旦那さんニャら〇〇の所へ夜這いに行ったニャ』という事態が続けば、そりゃ面白くもないだろう。……先客が居るという事態が面白いかと言われるとアレだが。

 …でも夜這いプレイはいいなぁ…。

 

 

 ふーむ、関係を持った人全員に、事前に「参加するなら今日は〇〇に集合ね」と連絡できる方法があればいいんだが。いやそれで解決……できなくもないんだよな…。

 ストライカーの猟団部屋の一室をヤリ部屋に……駄目だ、ミーシャなら何とか口説けそうだが、マオから拳が飛んできそうだ。

 やっぱり、暫く夜は誰かの部屋を渡り歩くかな…。

 

 …完全に人間のクズみたいな考えになってるな。とりあえずこの問題は後回しだ。悶々とした状態で考えてもロクな事にならん。

 

 

 

 

 差し当たり、本当は昨日行くつもりだったアノルパティスに行きますか。独りじゃ辛いし、レジェンドラスタの誰かに頼もう。

 

 

 

 

 …あれ、ナターシャさんにとっ捕まりましたよ? いつもの酒場に顔を出したら、どういう訳だが酒に超強い筈のナターシャさんが、空ジョッキ片手に突伏してたんで、気になってたんだが…まさか、近くを通ると同時に首根っこを掴まれ(動きが見えなかった…まだ弱いって事だなぁ、俺…)て連れ出された。

 

 一体何事ぞ…。

 とりあえず、アノルパティスの狩りには付き合ってくれるようだが。

 

 

 

 

 狩場につくまで、色々と愚痴に付き合わされたんだが……何というか、そのごめんなさい?

 

 俺か? 俺が悪いのか? そりゃ俺が悪いんだろうけども。

 色々と認めたくないから、言葉を濁していたようだが………はっきり言うが、以前のループで散々絡み合ったり理解しあったり(…理解、し合ってたよな?)した俺と、内面観察術の前にはマルッとお見通しである。

 

 

 

 

 率直に言うが、レジェンドラスタの中で「最後の一人」になりそうで、危機感マシマシなんだそーな。

 

 

 

 何の最後かって、そりゃナニだよ。『女になる』って意味のアレだよ。

 …一応言っておくが、レジェンドラスタの『女の中で』最後になりそうって意味だからな。いや、男性達はそれぞれ経験があるっぽいんだけど、ケツに突っ込まれた経験はない(筈だ)から。…でもキースさんの話を聞いてると、故郷の方では衆道の概念もあるし、狩りで滾った奴らがホモォ…な展開になる事もあるらしいが…。

 

 …いやいや、汚い絵面についての想像は止めて。

 

 

 現状、俺が関係を持っていないのは、ナターシャさん(今回はね)、ティアラさん…あと、何だっけ、チルカからちょっと話を聞いた程度の……クロ……クロス? クロエ? さん。ああ、あと1人増えるかもしれないって話ではあったな。

 ちなみに、見た所ティアラさんは………うーん…女になっているのか居ないのか…。どうやら経験自体はありそうなんだが…。

 姉のユウェルがチラッと零したんだが、どうにも百合系の趣味があるっぽくて………要するにアレだ、男と寝た経験はないが、女性とならヤッた経験があるっぽい?

 

 同性とヤッた経験だけなら、フロンティアじゃ珍しくはないんだがな…趣味に目覚めるまで行くのはな…。大体はその場しのぎの相手として、一夜の過ち(複数形)にするらしいんだが。

 

 

 色々な周囲の雑音はすっ飛ばすが、要するに『先輩』である自分だけ、ヤッた事が無いと言うのを気にしているようだ。いつぞやのループでも、それをからかわれて逆ギレ(?)して俺を押し倒す程度には気にしてたもんなぁ。

 先輩って言われてるだけあって、少なくともフラウやフローラさんより歳う……いや何でもない。ナターシャも充分若いよ? いやお世辞抜きで。

 その年齢なら、未経験なのも『貞淑』って表現がぴったり……え、違う?

 

 年齢が問題じゃない? 後輩に追い抜かれるのが、先輩として威厳の危機? いや、それこそそんな事気にしても仕方ないと思うけどね。

 極端な話、突っ走れば10歳前半でも経験する奴は経験するし、操を立てて一生守り切る人も居るし。後者は極端すぎるにしても、真面目に巡り合わせと………ああはいはい、分かった分かったわかりましたって。

 

 ナターシャさんを抱きたくないとか、そんな事ある訳がないでしょうが。男だったら、特殊な性癖を持ってない限り一度は抱いてみたいセクシー美女ですよ、本当に。

 

 

 

 ああ、証明しろと言うなら、今すぐにでもするさ。まだアノルパティスに遭遇してないけど、狩りの事なんぞ放り出して今すぐ犯すさ。

 言ったな? 言っちゃったな?

 

 ああ、男の性欲舐めるなよ。今すぐに

 

 

 

 

 

 くうきよめ、つのざめやろう

 

 




外伝22の続きです。
ニーアオートマタ編その2。


 2Bに、霊力を見せてほしい、と頼まれた。別に見せるのは構わない。習得している人はそう多くないが、俺達が異能持ちだと言うのはメゼポルタ広場では有名な話だ。
 不可解、と言われたが、とりあえずそういう力が存在しているのは認めたようだ。アンドロイドと言う割には、割と頭が柔らかいね。

 A2も同じような疑問を持っていたし、その時の事を例に出そう。
 あれは、A2がメンテ不足で動けなくなったのを治そうとした時の事だ。



 現状、アンドロイドに使った例はA2しかないし、これはあくまで俺の持論…根拠がある訳じゃないから、妄想と言われても文句は言えない話だが…霊力と言うのは、万物に宿る『反応しあう力』だ。
 生物に強く宿るが、無機物にも宿らない訳じゃない。
 そうだな、例えて言うなら磁力のようなものだ。磁力そのものを手に取って触れる事はできないが、確かにそこに力はある。そして、同じ極同志を近付ければ、自然と反発しあう。それと同じ事が起こっている。

 霊力だけでは、物質に干渉する事はできない。目には見えるが、幻のようなものだ。が、これに意思が乗ると『磁力』が付く。反発する代わりに、乗せられた意思の通りになる、って事だな。
 
 

 だから例えば…まずはこう、何も意思を載せてない霊力を棒状にして、このように体に触れさせる。


「…それで…?」


 …で、意思をオン! 霊力巡回をさせる為に、まずはとっても気持ちよくな~れ~!


「っ!? なっ、体、がっ、ノイズ…! ウィルス…じゃない…! これは、何…これが…霊力…!?」


 おーい、エラく驚いているけど、今からその反応じゃ色々保たんぞ。体内に流し込んでいる霊力の量もまだ微小だし、そもそも手にふれさせてるだけだし。
 これを、イヤらし…もとい、癒しの意思を込めて送り続ければ、徐々に体は回復していくという訳だ。


「だ、だったら、初めからそうっ…こんな、ノイズ、何の…為に…!」


 だから、霊力をより強く多く送り込む為だってば。…かなり長くメンテしてないみたいだし、これかなりゆっくりやらないと、万全の状態まで戻せそうにないな…。


「よ、よせ、私は、こんな情報は知らない…!」


 治る可能性があるならなんでもいいから、ってゆーたのお前やん。初めての体験や感覚になる、とも忠告しておいたし。
 
 さて…とは言え、俺も実際に持ってるナニじゃなく、霊力で作ったナニだけでアンドロイドをよがらせる、と言うのは初めてなんでな。まぁ、多少加減を間違えても、致命的な事にならないのは保証するよ。
 やっぱり実弾使えないと、イマイチ霊力も意思も伝え辛いしな…。

 じゃ、続けていくぞ。あ、霊力循環の為の作業として、キスとか愛撫とか色々するけど、暴れんなよー。暴れんなよー。
 手の先から腕へ、腕から肩へ、脇へ、胸元へ、首筋へ。霊力を込めた手のフェザータッチで、A2は怯えるように身悶える。

 ふむ…機械だから不感症なのかと思ったが、逆に凄い敏感だな。成程、本来は無い機能や情報を、受け流す事も上手く処理する事もできないのか。ま、好都合だな。無反応より、こっちの方が滾る。
 よーし、調子に乗ってもっと愛撫しちゃうぞ。

 まだ人工皮膚が破れたままの胸元に手を這わせ、丁度手に収まるくらいの程よい大きさの胸を揉みしだく。それだけでも堪らないらしく、逃れようとするA2。
 はっはっは、平時ならともかく、ベッドの上で寝ころんだ状態で、俺から逃げられるとでも?
 むしろ、胸を掴まれたまま体を捻った事で、ぐにぐにと形が変わって実にいい感触。

 ふむ…乳首…は無いか。人工皮膚が回復すれば出来るのかな? いずれにせよ、吸い付けないのはちょっと残念だ。
 胸を捏ね回す手はそのままに、口で愛撫を始める。首筋にキスをして、胸元に向かって舌を這わせ、今度は脇の下へ。…むぅ、わかっちゃいたが、脇の下も汗の味はしないな。
 脇の下を嘗め回されても羞恥の表情はなく、ただ本来なら感じる筈のない感覚に戸惑い悶えるばかり。羞恥攻めや焦らしプレイはまだ無理かな。


「んっ…くぅ、やめ、やめろ…やめて…」


 本格的に体が弛緩してきたのか、逃げようとする動きも弱弱しい。普段のA2の口調とは違う、気弱な懇願。目元に僅かに滲む水。
 本来なら罪悪感を持たせる筈のそれらも、ベッドの上では獣欲を掻き立てるスパイスにしかならない。

 だいじょうぶだいじょうぶやさしくするから、なんて釣りあがった口を隠そうともせずに囁きながら、愛撫を下に。
 乳首やヘソが無い時点で予想はできていたが、やはり女性器の感触はない。小さな穴があるにはあるが…多分おしっこの穴だなコレ。とりあえず、弄り回そう。


「だめだ、そんなとこさわるなぁ…」


 そう言いながらも、快楽に流されかけているのは表情を見れば分かる。排泄用の穴を触られるのも、戸惑いはしても恥ずかしくはないか。
 アンドロイドは水からエネルギーを生成できるから、ってそれ以外摂取しようとしないんだよな、A2って。文字通りキレイな水だから、弄り回してお漏らしさせてインニョするのもアリっちゃアリだ。

 そんな事を考えながら、A2の股間に顔を埋める。文字通りツルツル、入れるべき穴も無いが、ここが他の場所以上に敏感なのは間違いない。腰は人間の体の中心。…性的な意味ではなく、重心、体の基幹という意味でね? そこは体の中心であるが故に、大きく動かすのが難しいところでもある。
 つまり、ココを抑えて快楽を送り込めば、逃げる事も、体を捻って快楽を受け流す事もできないって事だ。

 事実、好き放題に嘗め回されているA2は、もう連続絶頂しているんじゃないかというくらいに体を痙攣させ、両足と手で俺の頭を押さえ込んでいる。自覚しての事ではないだろう。ただ縋り付くものが他にないだけだ。


 ふむ、しかしどーしたものかな。A2の状態回復自体は出来ていると思う。俺とA2との間で循環する霊力が、A2の内部を癒していっているのが感じられる。
 それはいいんだが、俺の方のモヤモヤがな…。突っ込めないのは残念だが、無い物は仕方ない。射精するだけなら、素股、尻コキ、フェラ、手コキと色々手段はある。…フェラと手コキは、今のA2じゃ無理だな。ヘロヘロ状態になっている上、まだ快楽に怯えが残っている。
 でもなー、どうせだからA2も徹底的に感じさせて、同時に射精したい。回復効果も、それが一番効果が高い。ような気がする。
 そうなるとやっぱり挿入したい…。


 …ふむ、待てよ。オカルト版真言立川流中伝に、丁度いい術があったような…。
 なるほど、こういう時の為の術だったのか。こんなの使うくらいなら、直接突っ込むから意味ないなーとか思っていたが…よし!

 一際強く霊力を吹き込み、エビゾリになってから崩れ落ちたA2を、四つん這いにさせる。「まだ続けるのか」と無言で、涙目状態で振り返ったが、お尻をペチペチ叩くと諦めたように俯いてしまった。


 さて…まず、股間に霊力を集めます。ナニが滾ったままですが、注意しないといけないのは、ナニに霊力を込めるのではなく、霊力で棒を作る事です。おちんちんが2本生えているよーな状態にしましょう。
 そして…肉棒はA2の太腿で素股し、霊力の棒の方をA2の股間に突き立てる! と同時に、「もっと気持ちよくな~れ」を発動!


「はっ、あ、かはっ、あ…!」


 目を見開いて、体を硬直させるA2。本来なら自分に存在しない筈の機関を使った感覚。感覚を受け流して処理する事ができないA2にとっては、どれ程の衝撃だったろう。
 更にそれを前後してやれば、もうA2のリソースは体内の感覚に全て集中する。端的に言えば夢中になっているって事だ。

 これぞオカルト版真言立川流、倉宇座強姦の術。物質を透過する霊力の性質を利用し、貫通。その後霊力に快楽の為の意思を付与する事で、女性器が無い相手をレイプする事が出来るのだ。クラウザー様マジリスペクト。流石に東京タワーはまだ無理だが、タンバリンくらいなら俺でも出来るぞ。
 ちなみに物理的に貫通する訳ではないので、処女を処女のままレイプする事もできるぞ。痛みもなく、与えるのは性感だけだ。割と真面目にマジカルチンポである。

 と言う訳で、どんどん行くぞー。A2、これも治療の為だから、頑張って受けんしゃい。
 腰を掴んで、バックで思いっきりピストン運動を繰り返す。


「あっ、あっ、あ、あぁ、だめ、こわれる、へんになる、いしきりょういきに、へんなばぐが」


 へぇ、もうイキそうになってるのか。
 アンドロイドでも、女と同じだな? もっと感じろ。初めてでも連続絶頂するんだよ。本来存在しない穴を抉られて、女の子と同じ声をあげてメスイキしろ! ほら、ほらほらほら、イけ、イけイけイけイけイけ!


「~~~~~!!!!」


 体を硬直させるA2。同時に、引き抜いて出した精が背中に着弾する。それが追い打ちになったのか、またビクンと体が震えた。


「あ……あつい…せなか…」


 精液の温度なんて、本当はぬるいくらいだけどな。その熱さを忘れないように…さぁ、もう一回イこうか。

 






 …と、A2の初体験はこんな塩梅だったなぁ。ちなみに、暴れるなとゆーたにも関わらず、キスの時に噛みついてきたけど、ヘロヘロ状態になってて甘噛みにしかならなかった。
 ちなみにバーサーカーモードとやらを発動したが、それでもヘロヘロだ。むしろ多感症状態になったな。いやー、ちょっと動くだけでヒィヒィ言うA2は実に可愛かった。


「なるほど…。……ポッド、A2をもう少し強く押さえ込んで。武器も取り上げて」

「~~~!!!~~~~~!!!!!」


 うーん、A2も恥ずかしいって感情を覚えたなぁ。うんうん、遊び甲斐があっていい傾向だ。


「い、いい傾向だじゃない! 何でそんな事まで話すんだ!」

「A2は初めから上手く性行為をこなし、猟団長を満足させたと言うのは」


 満足したのは否定せんが、見栄ですな。最初の頃は怯えまくって奉仕もできなかったし。


 で、どったのよ2B。いきなりナニの情報収集なんか初めて。…何、抱かれたくなった訳? そんな好感度を上げるよーなイベント、無かったと思うんだが。


「現状、帰還の目途が一考に立たない以上、メンテナンス手段の確保は急務。その為、情報収集が必要だっただけ。A2の抵抗感や、行為による感覚に興味はない。……が、一つ分かった事がある」


 ほう。


「貴方が霊力と呼ぶその力は、我々にとっては電子ドラッグに近い。しかも、極めて悪質な」


 …言いおるわ…。しかも普通に否定できねぇ…。それで人生狂った奴を何人増産したことか…。


「その力に触れると、力の使用者が望む幻覚を見せられる。ハッキングによる、感覚の操作と判断。しかし、A2を診断する限り、後遺症自体はないと判断される」


 おい、診断っていつしたんだ。いくらA2が以前に比べて大人しくなってるとは言え、素直に受けるとは思えないんだが。


「先日、猟団長がA2を撫で回して…名称『猫可愛がり』で眠った後に診断した」

「!!!!~~~!!!!!!!~~!~!~!~」


 見られていた事にA2が色んな意味で大慌てだが、むしろもっと追撃していいぞ。
 ああ2B、ついでだからA2を完封できる人類が生み出した関節技を教えてやろう。その名も「恥ずかし固め」と言ってな…まぁ、今度図解にして見せてやる。


「うああああ! 余計な事を言うな猟団長のアホー! こんな所に居られるか、私は狩りに行くぞ!」


 あ、バーサーカーモードでポッドを振りほどいて飛び出していった。狩りに行くのはいいが、ちゃんと道具は準備していけよー。
 あと、人格がヒジョーに丸くなったり、俺の都合のいい女になったりするのは後遺症にカウントされないんだろうか…。
 そんで?


「極めて危険ですが、ウィルスではなくハッキングの類ならセルフチェックで対応できます。猟団長にメンテナンスを依頼します。ですが、私はA2のようにはなりません」


 ふむ…。了承した。A2にしたって、俺が意図してこうした訳じゃないんだが、そこはどうでもいいか。
 とりあえず、こういう場合には、この宣言をするのが風習だ。


「アンドロイドに風習は関係ありません。…ですが、現地協力者と円滑な関係を築く為に有効なコミュニケーションと認めます。では宣言を。『霊力なんかに、絶対に負けない!』」

 
 

 …と、A2が飛び出していってからは、こんな塩梅だったなぁ。
 ん、実際の2Bの初体験? みりゃ分かるだろ。

 ベッドの上で、股間をスリスリされて動けなくなってるのが見えるだろ。ちなみに、普段着からスカートだけ剥ぎ取った状態です。


「あ……あ……あ、は…」

「報告。アへ顔」


 ポッド、この程度じゃアヘ顔とは言わない。これは精々惚け顔だ。


「訂正。惚け顔。データ収集の為、画像を保存」


 …やめてやれと言うべきか、むしろ推奨すべきか…。
 にしても、セルフチェックで対応できるんじゃなかったのかね。


「その方法、私が試してない筈ないだろう。全く効果が無かったぞ。余裕が無くて起動させるのも一苦労だし、起動させても…その、感覚にリソースが奪われて、セルフチェックの動き自体が遅すぎる。そもそも、AI自体に異常が発生している訳ではないから、多分何も検知できないぞ」


 ふーん。えい、爪先でコリコリ。おお、ビクッて跳ねた。いい反応するなぁ。この子も自称不感症の敏感肌だわ。
 突き出されている舌に、唾液が絡みついている。唾液の粘度を見る限り、かなりの興奮状態だな。…アンドロイドの構造が、どこまで人間と同じなのかは分からんが、とりあえずこれについてはA2も同じだったし。


「ポ……イ……イ…」

「推奨。明確な発言」

「あー、多分「ポッド、バイタルチェックを」だ。無駄だと分からないのかな」


 分かってないか、分かってるけど抵抗しているつもりかのどっちかだな。
 もう遅いと思うけどなー。だって、さっきから2Bの腰、クネクネ動いて『もっと引っ掻いて』って主張してるもの。そんで実際に弄ってやると、「あ゛~」って嬉しそうに喘ぐし。


 んー……なぁ2B、バイタルチェックがしたいなら、手を止めようか? 想定外の事態で辛いんだろう?
 …お、太腿のいい感触。離れないでとばかりに挟みに来たな。
 体は正直だねぇ。…アンドロイドの場合、プログラムが正直なのかな。

 ま、ご褒美に、もうちょっと霊力強くして…イメージ的には、クリを優しく毛筆で撫でてる感じで。


「~~~~!!!!!」

「警告。誤作動により、貯蔵している水が噴き出す可能性」


 文字通り綺麗な水だから、全く問題はない。…ああ、このレオタードが濡れるかもしれないか。じゃあ、ちょっとずらして……続行。ほれ、漏らせ漏らせ。俺とA2の前で、嬉ションしてみな。

 ……おお、綺麗な虹がかかったな。ポッド、ついでだから撮影しといて。


「猟団長からの要請。了承」

「……猟団長、私も何かしていいか?」


 ん? …ん、いいよ。A2って、今まで乱交に混ざっても優位に立ててなかったもんな。タチを務めてみるのもいいだろ。
 そんじゃ、股はA2に譲って、俺は胸とかを弄りますかね。霊力はココらへんに残しておくから、弄れば2Bに感覚が行くぞ。


「了解した。…2B、気分はどうだ? 『私はこんな事にはならない』と言っておきながら、言葉も出せないくらいに感じさせられて。ほら、何とか言ってみろ」


 嘲りながら、A2はスラリとした足を延ばし、今まで俺が弄り回していた2Bの股間を踏みつけた。流石にブーツを脱いでの事だが、高慢クールビューティっぽい外見(実態はともかく)もあって、M奴隷を責める女王様のように見える。
 アンドロイドにとっても屈辱的な行為だからか、それとも単に刺激が弱まったので逃げ出そうとしただけなのか、2Bがもがき始める。

 はーい、怖い事なんてないからね、何にも考えずに気持ちよくなっちゃおうね。ほら、絶対にいかがわしい目的で開けられている服の穴から侵入して、おっぱいモミモミ、乳首もコリコリ。
 体が治ったA2で散々実験したからな。おっぱいと乳首で、感度の差があるのも確認済みよ。
 基本はおっぱい、時々何かしようとしたら乳首をピンッと。


「あ~あ~言ってても、ずっとこのままだぞ。ごしゅ…猟団長は、女の方から強請らせるのが大好きだからな。頑張って、『A2のように犯してほしい』とでも言ってみたらどうだ?」


 おうおう、A2も責めるのが楽しくて仕方ないらしい。目付きが明らかにドロッとしとる。
 2Bも段々、頭が本格的にマヒってきたようだな。悶え方が、明らかに逃げようとする動きから、もっと強い刺激を求める動きに変わっている。どんな動きをすれば乳首ピーンをされるのか、この状況でも学習するとは…。

 にしても、2Bのおっぱいはいい感触だな。大きさは丁度掌に収まるサイズ、生物特有の温度こそ無いが、手触りとハリは圧巻だ。内部が機械だと分かっていても…いやそれはそれで味が…。


 さて、2Bも性感という文化に汚染できたようだし、そろそろヤっちゃおうかね? さてどうするか…。
 A2の時は素股だったが、2Bは…うん、レオタードに潜り込ませての尻コキにしよう。
 そうなると、自然とうつ伏せになるから、A2の足でグリグリが出来なくなるな…。よし。


 A2、ベッドの下から道具取って。この前、A2がナターシャに使った奴。


「ナターシャに…ああ、あれか。しかし2Bには入れる場所が無いぞ?」


 上にはある。


「……これが人類の業と言う奴か…。我々アンドロイドでは、とても考えつかん…」


 なんかブツブツ言いつつも、ゴソゴソと道具を取り出し、いそいそと取り付ける。ちなみにブツはディルドー。双頭ではなく、前だけある奴だ。
 俺が二本差しプレイに散々使いまくったためか、特に何もしない内から女をよがらせる為の霊力が宿っている一品だ。

 ソレを認識しているのかいないのか、荒い息をついている2Bを四つん這いにさせ、後ろからナニを宛がう。
 2Bには生殖機能は無いが、これまでの責めから、更にとんでもない事になると察しているのだろう。何とか四肢を踏ん張って立ち上がろうとするが、出来る筈もない。逃げられる筈もない。


 それじゃ、2B…覚悟はいいな? これもオーバーホールの為だからな! 是非もないよネ!
 高く突き出された、レオタードに覆われた尻を鷲掴みにし、食い込んでいるレオタードの下に棒を潜らせる。
 同時に、A2は2Bの顔を掴んで持ち上げ、腰に装着されたディルドーを眼前に突き付けた。歯を食いしばって、口を犯されるのを防ごうとする2Bだが……。

 そーれ、インサート!(霊力)


「っ、ぁ…! んぐっ!」


 俺が腰を前に突き出すと、実体を持たない霊力が2Bの股間に捻じ込まれ、そこから送り込まれる快楽という情報によって、2Bの動きが完全に止まる。
 抵抗ができなくなった一瞬を逃さず、A2はディルドーを2Bの喉まで押し込んだ。

 上から下から貫かれ、本来なら感じられない感覚を送り込まれる2B。
 快感の為か、尻がローターでも仕込んでいるかのように震えまくる。おお、2Bの尻の感触もいいし、スベスベレオタードが先端に擦れて……。これは堪らん…!


 好き放題に腰を使ってやると、A2も悶える2Bに嗜虐心を刺激されたのか、歪んだ笑みで2Bにイラマチオを繰り返している。人間相手なら傷をつける危険がある行為でも、アンドロイドの頑丈さなら話は別だ。遠慮はいらんとばかりに、オナホを犯すように腰をフルA2。
 初体験だと言うのに、逃れようもない快感と霊力を延々と注ぎ込まれる2Bは、もう理性…正常なプログラムを失ったかのように、痙攣を繰り返す。どう見ても壊れる一歩手前だが、まだ大丈夫。A2を散々抱いて、この程度ならまだ余裕って分かってるからね!

 とは言え、ここでフリーズされても面白くない。本格的に高ぶってきたし、そろそろ一発出しておこうかね。
 スパートをかけると、A2も察したのか、ディルドーを口から引き抜いた。頭を離したので、2Bは尻を掴まれたまま倒れ込む。
 塞がれていた口が開き、そこから漏れ出てくるのは言葉にならない機械音声混じりの喘ぎ声だけ。

 機械音声が、高い音だけしか聞こえなくなってきた。そろそろ…出すぞ!



 うっ


 レオタードの下で、びちゃびちゃと白い粘液が吐き出される。剛直を引き抜くと、白い衣装にじんわりとシミが広がっていった。


「あ………あつ、い…」

「ふふふ、なんだもうダウンか? だが…猟団長はまだまだ元気だぞ」


 俺のナニに手を伸ばしながら、A2は2Bの背中に出来たシミに舌を伸ばす。背筋の熱を奪い取られるかのような感覚に、2Bは小さく震えた。

 さて……これからどうしようかな。俺はまだ何度でもできるけど。
 A2もコイツを欲しがってるし…。2Bに無理をさせ続けるのもな。

 なぁ、どうだ2B? 休んで、本当にオーバーホールされた状態になっているのか、確かめてみるか?


「……………」


 息も絶え絶え、まだ四つん這いのままの2Bは………。


「…………(クイ)」


 無言で、もう一度尻を突き出し、両足を広げて見せた。悪いな、A2。今夜の出番は、まだ先だ。
 この後、無茶苦茶ドロドロにした。どのくらいって? 2Bが「変態! 変態! 変態人間!」って指さして大騒ぎするくらいだよ。






 翌日。
 2Bもひよこのように、俺の後をついてくる事になった。じーっと見つめてみると、ちょっと視線を逸らし、その後チラチラこっちの様子を見るのがカワイイ。
 A2とイチャイチャしてみると、自分も…と言わんばかりにじーっと見てくるのもカワイイ。

 …ただ、ちょっと色ボケしてるっぽいけど…まぁいいよね!
 

 
 




 





「起きろ。…起きろ。いつまで寝ている」


 …んぁ? A2? 2B?


「…何の暗号だ」


 え…。……デンナー? あれ、ここは…俺は確か…採取依頼に出て、魚釣って焼いて食おうと…。


「夢の話か? 偶には男連中で呑もう、と言い出したのはお前だろうに。他の連中はもう引き上げたぞ」


 ………ああ、そうか、いつもの夢か…。えらいリアルで長い夢だったな。
 悪い悪い、今日はもう帰るわ。二日酔いにならなきゃいいが。


「大して飲んでないから大丈夫だろう。お前にしては珍しく潰れたな…。まぁ、気を漬けて帰れよ」



 …そのまま、猟団部屋を出てマイルームに向かう。
 うーむ…本当に夢だったのかな。いつもの夢…なんだろうか。それにしては、今回は別の世界に行くのではなく、別の世界からこの世界にやって来たという変わり種だったが。猟団の連中が、二人の事を覚えてないって事は、夢だったんだろうなぁやっぱり。猟団内でも、加工屋でも有名だったからな。あの服にインスピレーションを刺激される、って。

 夢だったとしても、どうも落ち着かんな。最近はいつも、二人が後ろをアヒルみたいについて来てたからなぁ。
 にしても、中途半端なトコで目が覚めたもんだ。釣ったキレアジ焼いてたんだし、食ってから起きたかった…。あの二人の感想も欲しかったし。

 うーむ………マイルームに帰ってはきたものの…。
 夜毎の人形遊び(アンドロイドに対する蔑称になりそうだが、本人達がオモチャ扱いを望んだので)も出来なくなったし、ちゃんと寝られるかな。誰かの所に泊まりに行くか?


 ……あれ? ベッド脇に……女物のブーツ。……2Bが履いてたやつだな。…別にニオイなんて嗅いでないぞ、素材が特徴的だからすぐわかっただけだぞ。それに、アンドロイド達は発汗機能とか無いから、ニオイも籠ったりしないし。
 …やっぱ、単なる夢じゃなかったか。ふーむ……あっち側に戻っていった…んだろうか? 新しいパターンだからちょっと分からんな。…まぁ、今までの夢だって訳が分からなかったが。



 …数日後。



「よ、ヨルハ部隊オペレーター担当の9Oです! 趣味は映像記録鑑賞、夢は地球に実際に降りて色々な物を見る事でした! お話は2Bさんから伺っています! あと、A2さんは行方不明ですが、無事に活動しているのは確認されているのでご心配なく!」


 ……いつの間に夢に入ったのかな…。


「あ、あと、この日の為に性交渉機能がある義体に変更してきたので、以前のお二人ではできなかった挿入もオッケーです!」


 ………はい?
 …この後、二人にしたプレイが映像として送られていた事とか、それが貴重な人類の記録として(エロ関係を特に重点的に)保護・閲覧されている事とか、2Bが半狂乱になってその記録を消そうとしている事とか(A2が行方不明なのって、コレで飛び出したからじゃなかろうか…)、アンドロイド達がいつか自分も呼び出された日の為に女性用の性交渉可能な義体を手に入れようと予約が一杯だとか、その為の専用義体の開発希望がアンドロイド達から集まっているとか、どっからどう影響したのか最近の機械生命体は「ダイスキ!ダイスキ!」と重なり合いながら腰を振る動作をするようになったとか、一部のアンドロイド(…同胞殺し…か?)から俺がメシアの如く崇められているだとか、色々衝撃的だった。
 先日確認された、アダムとイヴなる機械生命体達は、腐女子大歓喜のホモホモしいお耽美ワールド(インサート有)を展開しているものの、他者に興味を示さず脅威度は低いだとかなんとか。


 しかし、見事にアンドロイドがセクサロイド希望になってますねぇ…。まぁ、今度2BやA2が来た時には、挿入可能な体になっている事を願っておこう。


「はい、戻れたら司令部に伝え、2Bさん・A2さん両名の義体改造希望は最優先するよう提案しておきます! 猟団長からの希望であれば、無下に却下される事はないと思いますよ」


 ……追い打ちかな…。

 尚、彼女が(お望み通り挿入までして)夢が終わった後にも、度々同じような現象が起こった事を追記しておく。9Oは『私達より先に本番なんて…』と、2Bに睨まれたとかナントカ。

 基地の司令官とやらがやってきた時は、流石にマズいんじゃないかなーとは思ったが…。
 まぁ、これ幸いと今後予想されるヤバゲな展開とその対応策、脱走した裏切者と言われていたアンドロイド達の有効活用を吹き込んで唆したけど。後に来たアンドロイドの話では、本当に時間式のバックドアが見つかって大騒ぎになったとかなんとか。
 指揮官機からの伝言で、「このような決定をされるのなら、ヨルハ部隊がそれに従う理由はない。幸い、我々は本当の人間と接触し、その指揮下に組み込まれた。そちらの所属が本当の立場とする」なんて事を言われて、知らない間に部隊のトップとしての立場になってしまった。

 それ以上にヤバかったのは、2Bと色々話をした後の「お前はウチの猟団の2Bであって、他の部隊の何かではない」宣言の後の2Bの反応とか。双子アンドロイドが来た時に話をした後のガチ号泣とか、な。
 何て言ったっけな、あの時…酒がかなり入ってたしな…。確か…。


「私は許す。私が愛す。私が貫き私が罰する。私の許しに抗う者は一人も居ない。
 罪悪感を植え付けられた者で許されない者は一人も居ない。
 身を粉にして尽した。
 過ち、後悔した君達を俺が招く。俺に付き従い、俺と共に歩み、俺に寄り添え。
 贖罪を。罪を忘れず、罰を忘れず、俺に懺悔せよ。
 俺は軽く薄く、あらゆる悲嘆を受け流す。
 嘆くなかれ。
 過ちには是正を、意識無き絶望には未来を、嘆きには安らぎを、過去の罪には未来を。
 安寧は俺の元に。お前の罪に精を注ぎ洗い流そう。
 未来はその中でこそ与えられる。
 許しはここに。抱きしめる俺が誓う。
 その魂に祝福を」


 …なんでこんな事言ったんだろうな。いや、本心ではあるんだけど。



追記。夢がかなったとか言って、超好奇心前回の9Oは、2BとA2のケンカより面倒くさかったと言っておく。


ニーア・アンドロイド編その2。
ちなみに、感情を禁じ得ない2Bちゃん状態になってしまったとかナントカ。


 尚、この世界線での9S。
①『N』OT START
「え、2B? 映像…もとい、聞いた事はありますが、直接会った事はありませんね」
 そもそも出会わず。

②BREAK HEAR『T』
「私は…猟団長の所に帰るんだ…! 私は猟団の2Bだ………※型なんかじゃない…!」
 出会うも2Bが先にご主人様を見つけていた為、ハートブレイク。しかし自覚無し。この時、ちょっとネトラレ趣味に目覚めかけるが、その感情が何のか理解できてない。その後、別の女性型アンドロイドとの出会いにより立ち直る。尚、そのアンドロイドがモンハン世界に来るかは不明。

③T『R』ANCE SEX
「さて、準備はこれでOK。後は向こうに辿り着くように祈るだけっと…」知的好奇心と流行に従い、TSする。
 モンハン世界に来れるか、中身が男性モデルでもOKなのかはお釈迦様でも分からない。だって管轄外の世界だから。


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273話

ボスが分身とか止めてくれよホント…。法王サリヴァーンで死にまくってます。
回収する前に瞬殺されて、8,000ソウルくらい消えたよ…。
炎の剣のリーチがシャレにならないんで右に回避するようにして、後はゴリ押しでどうにかしようとしてます。
残り火使ってないしなぁ…。


P3G月

 

 

 ……エラいもん見た。ナターシャを押し倒す直前に襲い掛かって来たアノルパティスだったけど、色んな意味でエラい奴だった。

 おかげで、コトに至ろうとしたナターシャが本気でgkbrして大変だったよ…。でも、逆に今すぐ押し倒さないとナターシャの今後に色んな意味で支障が出ちゃった状態だったしなぁ…。

 トラウマを残さない為にも、狩りが終わってすぐにでも抱かなきゃいけなかった。

 

 俺もなー、夢でとは言え前例があったからまだ免疫があったけど、ありゃあアカンわ…。狂走ラオシャンロンクラスのインパクトだったわ…。

 具体的に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アノルパティスの角=メガテン世界の御立派様。

 

 

 

 …いやもう、最初に目にした時は目を疑った。これから色々焦ったナターシャを宥めるという名目で、以前のループ以上にド嵌り状態にしてやろうとした瞬間に殴り込みかけられた訳だが…その怒りがすっ飛ぶくらいに驚いた。

 

 実際のところ、あの角というか御立派様は、多分腫瘍とか腫物とか、そういったよろしくない状態の集大成だったんだろう。病原菌が集中して、本来は角と皮だけの部分が爛れて膨れ上がり、結果として御立派様(ただし包茎)のような形になったと。

 実際、斬り付けたらアカラサマにヤバい体液を噴き出して、アノルパティス自身も狂乱してたからな。固さも感じられなかったし、ブヨブヨとしたフルフルよりも気持ちの悪い手応えが…。

 

 

 ありゃー初心者にはキツいわぁ…。いや上級者にもキツいかもしれんが、これから『コト』に至ろうとするウブなネンネに、殊更凶悪かつ不潔なイメージを植え付ける一品だったよ。

 アレじゃーいくらデカくても、ガンガンの突きはできませんなー。折角大きいのに意味ありませんなー。ふにゃふにゃだよ全く。…まぁ、実際あのアノルパティスは雌だったっぽいけどね。ふたなり? いやどっちかと言うとディルドでしょ。まぁ、少なくとも千歳のナニと違って、女のモノであっても触れたいとは思わないブツだった。

 実際、『なんでもいいから、さっさと捻じ込みなさい!』状態だったナターシャが、チワワのようにガタガタブルブルしてたもんね。まぁ、狩り自体はいつも通りに、或いはいつも以上にさっさと済ませちゃったんだけど。

 

 俺もコレを取り込みたくはないなぁ…。なんか性病にかかりそう…。いや、そういうのもハンターボディ+オカルト版真言立川流ならどうにかできそうなんだけどね。更にアラガミボディなら、大体の物は喰って無効化できるようになるんだしさ。

 

 

 ともあれ、デカさはともかくとして(そもそも人間の伸長より長いからな…)、形、硬度、清潔さ、その他諸々が段違いな俺のズルムケのナニで、ナターシャの出来たばかりのトラウマを消し去ってあげた訳である。

 

 

 

 結果的には、ヤケッパチのイケイケならぬコイコイ状態だったナターシャが(良くも悪くも)落ち着き、ナニに怯える初々しい姿を見られたんでラッキーだったけどね!

 いやー、本当に楽しかったわー。本人よりも勝手知ったるナターシャの体。何処をどう弄れば喜ぶか、どんな風にすれば興奮するのか、知り尽くしてるもんね。

 文字通り、2週目仕様の強くてニューゲーム状態。攻略ポイントが何処にあるのか知り尽くしてるのだもの。

 

 しかも『トラウマを克服する為』という建前は本人にも有効だ。コレがイイものだと言う事を体に教え込む為、それはもう好き放題やりましたとも。

 更に、『これは克服の為だから』という理由で、本人の方から熱心に求めてくるまで、焦らして善がらせてしゃぶりつくした。最終的には、「これは仕方ないの」から、「これがないともうダメぇ」になって自分から吸い付きにくるまで染め上げました。

 

 ちなみに、朝には「みんなこんな事してたなんてズルいわ。今後はちゃんと、私にも奉仕なさい」と、数時間前には処女だったとは思えない乱れっぷりを忘れたかのような上から目線。うん。ナターシャはこっちの方が綺麗だしソソるな。

 ほんの一部だが、具体的な記録を残しておこう。

 

 

 

 御立派アノルパティスを倒した後、「や、やっぱり今日は帰るわ」なんて言い出したナターシャを、あの手この手で言い包め、とりあえず一休みと言う事でキャンプへ。

 いや、流石にキャンプでコトに至る程じゃないよ。そりゃすぐにでもシたいけど、場所が極海だからな…。キャンプに居ても寒いもんは寒かとです。

 流石にナターシャも風邪引きそうだしね。

 

 で、キャンプで腰を下ろして休んでる訳ですが……まぁ、何です。狩りの後って、毎度毎度の事ながら、メッチャ滾ります。

 ええ、それはもう、ナターシャの正面で座ってるだけで、ビンビンに主張しているのが分かるくらいには。鎧も脱いじゃってるしね。

 

 …当然、さっきのアレでナニを連想したナターシャは、嫌が応にも俺のフル勃起状態に気付いてしまう訳だ。…時々、ピクピク動かして自己主張させてたし。

 苦手意識が植え付けられたナターシャは、俺のに拒否反応を示しそうになりつつ、「何か怖がってる?」という挑発に強がって返してしまった手前、何も言えない状態になっていた。

 

 

 他愛もない会話と、自己主張を繰り返す事10分程。そろそろ、この距離では怯えなくなってきたかな? って頃を見計らって、帰りのガーグァ車に乗り込んだ。

 …尚、ガーグァ車はあまり大きくなく、いざと言う時にモンスターから逃げられるよう、軽量かつ余計な荷物もスペースも無い訳で…当然、密着して座る形になる。

 

 …ナターシャの隣で、ナニをいきり立たせてピクピクさせてる訳だ。苦手意識が落ち着いてきても、当然気になっているナターシャは、ついつい目がそっちに行ってしまう。ま、その為の自己主張で、釣りですからね。

 ちなみに、当人は気づかれてないと思っていたらしい。…平常心での狩りの中なら、それくらいの事は出来たかもしれないけどね。

 

 そんなんだから、そんなに気になるなら、触ってみればいい、と言った時のナターシャの反応は見ものだった。顔がマンガみたいに作画崩壊状態で、「なななななにゅをいっちぇるよのそんなフケツなものののの」。

 いかん、いかんなぁ。ナターシャの反応はともかくとして、「コレ」は不潔ではござらんぞ。

 

 先程のアノルパティスのは、明らかに病的だったが、俺のはちゃんとキレイにしとるわ。

 …信じられない?

 

 

 

 じゃあ見ろよホラ。

 

 

「ふぁっ!?」

 

 

 

 これを不浄と言うては男の心が萎えますぞ。第一これは男にも女にも有り難き物ではござらんか。

 いやそーゆー女にこれの良さを教え込むのも本懐ではありますが。

 

 

「ふぁ、ぁぁぁぁぁああああ? し、しま、しまっ!」

 

 

 おお、混乱しとる混乱しとる。実物を見るのも初めてだもんな。 

 しまえ? しまうのはいいが、それだけじゃなー。

 

 ほら、触ってみなよ。

 

 

「な、なぁ~~!? なにを…」

 

 

 さっきのアノルパティスとは全然違うから。大体、これは男なら大小の違いはあれ誰でも持ってるもんだぞ。コレを気にしてちゃ、ハンターどころか一般生活も儘ならんわ。

 ホレ、今後の為と思ってな?

 

 

「………い、いや…。こわい…」

 

 

 …おぅふ…今のはかなり理性にキタ…。生娘みたいな…いや実際生娘か。でもどうするか…。

 

 

「…こ、こわいから…服の上から触る…」

 

 

 自分から妥協案を出してきたか。と言う事は、やっぱり興味もある訳だな。

 はいはい、どうぞどうぞ。…服の上からの愛撫もいいもんだ。愛撫と言う程ではなく、おっかなびっくり触っているようだが、どっちかと言うとそれをしているナターシャの表情の方が滾るね。好奇心と期待と恐怖が入り混じった顔。コレをどうやって喜色一面に染めてやるか…。

 

 暫く好きに触らせている…服の上からのフェザータッチだから、かなりもどかしい…と、徐々に調子に乗ってきたのか、指先でチョンチョンしてたのが、掌全体を使うようになってきた。

 段々夢中になりつつあるようだが、触られっぱなしと言うのもつまらない。ナターシャの腕と交差するように腕を伸ばし、ムチムチした絶対領域に指を這わせる。ビクリと反応したナターシャだが、表面を撫で擦る以上の事はしないと分かると、少し迷いながらも俺のムスコ弄りを続けた。

 

 しかし、これはナターシャの判断ミスである。太腿を撫でられる『だけ』なら大した事は無い? そんな事はない。太腿は非常に敏感な場所だ。性感帯がどれくらいあるかは人それぞれだが、そうでなくても女性として一番重要な部分に非常に近い場所にある。直接的な刺激でなくても、そこを煽ってムラムラさせるくらい朝飯前である。

 ついでに言うと、ナターシャの太腿、特に内腿は非常に敏感だ。以前のループでは、ここをナメナメしてやると、堪らないとばかりにイイ声をあげたものだ。

 

 ほら、こんな風に。

 

 

「んっ…! あ、な、なにこれ、足で、ゾクゾクって…!」

 

 

 

 そろそろ濡れてきてるかな? ナターシャって処女の頃から感度が良かったもんなぁ。そりゃこんなセクシードスケベボディなら、ソッチ系も発達してるわな。

 

 

「こ、この…あん………ちょ、調子に乗るな!」

 

 

 おう!? いきなりジッパー下してナニを取り出して、ワシッと掴み…すぐ離す。

 どうした、そんなに驚いたか? さっきのアノルパティスとは全然違うだろ。

 

 

「かたい…し、熱い…。グラビモスのビームなんかより、熱い…」

 

 

 流石にそりゃ言い過ぎだと思うが、不思議と体温って熱く感じるんだよな。女の中に突っ込んでる時だって、妙に熱く感じるしさ。 

 ま、それはそれとして…よっと…ふぅ、愚息が解放された…。…ん、どったの?

 

 

「なんていうか…確かにさっきのアノルパティスと比べると、グロくもないし、ブヨブヨでもないし、不潔なカンジもしないし…先の方の部分なんて黒光りしてるけど」

 

 

 ズル剥けしてる上に、淫水焼けしてるしなぁ…。

 

 

「だけど…アレよりも、こっちの方がずっとエグいわ。何よこの……なに、オーラと言うか…。しかもこの反り返ってるところとか…これを突き刺す…のよね? 鏃みたいに、刺さったら抜けないようになってる構造じゃない…」

 

 

 その抜けないのを無理矢理引っこ抜いて、もう一回押し込んでが大好評なんだよん。

 まだ怖いなら、もっと触ってみるといい。その分…俺も、好きに触らせてもらうから。足だけじゃなくて、こうして…お尻とかね。

 

 

「あっ、ちょ…ぉ…んん……へんなカンジ…」

 

 

 嫌か?

 

 

「…いいわよ…。元々、そのつもりだったんだし…」

 

 

 そう言いながらも、微妙なラインを触られると、ついつい拒絶してしまうようだ。ま、これは仕方ない。

 その後、十数分ほど互いに触りっこを続けた。夢中になりつつあるナターシャに気付かれないよう、ガーグァ車の行き先を変更。その辺の宿に向けた。

 

 宿に到着した頃には、俺もいい加減我慢の限界で、それ以上にナターシャが限界だった。真っ直ぐ立てないくらいに腰が砕けており、俺の腕に縋りついてようやく立てる有様。一見すると、潤んだ目で抱き着いているようにしか見えないし、実際その通りである。

 

 

 あんまりラッキーではない事に、宿には何人か先客がいるようだ。部屋に籠っているのではなく、大広間で話をしているっぽい。狩りの前か、後か…。

 どっちにしろ、レジェンドラスタのこんな姿を見られると都合が悪いかな? と思ったんだが…。

 

 

 仮に都合が悪かったのだとしても、極上の女を侍らせているのを自慢するのが楽しすぎる。

 

 

 隠れる事なく、堂々と正面から入り込んで、奥の部屋へ直行しました。ナターシャのヨタヨタ歩きが楽しかったです。ちゃんと歩けとばかりに、尻をペシペシするのも。

 普段のナターシャなら、関係を持った以前でもこんな行為許さないけどな…よっぽどエロエロな気分にさせないと。

 

 先客からの「おい、あの人まさか」「でもレジェンドラスタがこんな所に居る訳が」「どっちにしろスゲェ美人…しかもエロい…」みたいな視線を、優越感と共にスルー。

 あの連中が、気まずくなってすぐに出ていくか、それとも聞き耳を立てるかは分からないが…まぁ、構わない。こういう所で声を押し殺しながら初めてを経験すると言うのもオツなものだ。

 

 

 

 見られている事にも気付いてなかったらしいナターシャは、部屋に入るなりベッドに倒れ込んだ。足がガクガクだもんね。

 すぐにでも圧し掛かりたいところだったが、それはナターシャが嫌がった。何だかんだで汗を掻いているから、シャワーくらい浴びたい、と言い出したのだ。

 

 俺としてはご褒美なんですが、初めてなんだからサッパリした気分で…と思うのも分かる。幸い、シャワーは部屋に据え付けのがあった。

 

 

 

 

 

 うん? うん、シャワーを浴びるのはいいと言ったが、大人しく浴びさせるなんて一言も言ってないな。

 大体、今のナターシャを一人でシャワールームに入れると、怖気づいて延々とシャワーを浴び続けるか、さもなきゃついついオナり始めそうな感じだったし。

 

 事実、乱入した時に、指がソロソロと伸びてたのを確認しました。

 はははは、何? 出てけ? だが断る。

 せめて隠せ? ははははははは、さっきまで散々触ってたのに何をおっしゃる。

 

 

 マッパでシャワールームに乱入したら、落ち着きかけていたナターシャがえらく取り乱した。

 裸の男がいきなり入ってくれば、そら慌てるか通報モノだけど、今回は最初からそのつもりで来てるんだからセーフだろ?

 

 何? 思い切り上に向いてるナニが、やっぱりさっきのアノルパティスみたいで怖い?

 まぁまぁ、レジェンドラスタともあろう人が、モンスターが怖いなんて言ってられないでショ。頑張って克服しまショ。大丈夫、実際のアノルパティスはともかく、コレは女にとっても凄く嬉しいモノだって教えてあげるから。

 

 

 

 ナニを見てはわわわ状態になってたナターシャを口先三寸で丸め込み、グイグイ迫る。何をどうやっても、ナニから視線を離さないナターシャが実に愛しいです。

 ほら、怯えてないでもう一回触ってみな。さっきまでやってた事だ。全然変わりやしない。…いや、目の前に裸のナターシャが居る時点で、張り切り具合がかなり違うけども。

 

 さっきまでやっていた事、と聞いて、若干ながら落ち着くナターシャ。腕で胸とか腰とか隠しながら(天然でグラビアみたいなポーズとるんだよなぁ…)、指をナニに絡みつかせる。

 好奇心のままに弄っていた先程と違い、今はおっかなびっくり、反応を見ながら触っているようだ。

 そうそう、そこそこ…流石に急所を探るのが上手い。

 

 で、俺もついさっきまで延々と弄られてたから、我慢が………うっ!

 

 

「きゃっ!? …え…あ、何? …しろいベタベタ…あ、シャワーで流れて行っちゃう」

 

 

 シャワー止めとけばよかったかな? 折角射精させたのに、触ってみる時間も無かったか。

 

 

「射精…へぇ、今のが…。と言う事は、私の手で気持ちよくなった訳ね? へ~、ふ~ん、そう?」

 

 

 手だけじゃないなぁ。こうやってヌードを見てるだけで、なんぼでも滾ってきそうだわ。うむ、美しいっつーかセクシー極まりないと言うか。

 そんな風に褒めると、ナターシャが急にいつものペースに戻っていく。イケイケと言うか高飛車と言うか自信家と言うか。表情も、追い詰められていたチワワのような顔が、調子に乗りまくって有頂天辺状態だ。

 

 

「へえ、中々分かってるじゃない。そうじゃなければ、誘ったりなんかしないけどね。何よ、色々話に聞いたり、アレなモンスターを見て無駄に警戒してたけど、セックスなんて簡単なものじゃない。でも仕方ないわよね、私の美しさを前にすれば、男なんてそんな反応をしても仕方ないもの。この分なら、『本番』って奴も楽勝そうね。いいわ、手早く済ませてしまいましょう。ちゃんとエスコートするのよ?」

 

 

 はははは、調子に乗りまくってますなぁ。

 心配しなくても、ちゃんとエスコートしますよお嬢様。

 

 …実際、身を任せてくれれば、殆ど痛みのない貫通から、オーガズムまでは簡単だしね。

 そっから先は簡単かは知らんがな! エロもセックスも奥が深いからね~。そもそも俺が相手なのに手早く済む訳ないじゃない。オカルト版真言立川流を使えば、残弾はほぼ無制限。ナターシャの体力だって同時に回復するから、力尽きてダウンはありえない。

 ま、とりあえず…こんな事言い出したお調子者の鼻っ柱を圧し折る…いや、子宮を屈服させてあげますかね。

 

 

 

 

 

 この後、痴女同然になるまでヒィヒィ善がらせました。

 必死で前言撤回してたなぁ。簡単なんて言ってごめんなさい、もう気持ちいいの許して、でも焦らさないでもっとして…って支離滅裂状態。勿論、許さなかったけどな! オシオキじゃ~い!

 

 

 

 それにしても、なんていうか、以前に抱いた時よりもスムーズかつ深いところまで絡めたなぁ。俺も上達してるって事かね。

 それとは別に、ゾクッと来たセリフもあった。

 

 確か…4回戦目だったっけ? ナターシャの理性が完全に吹っ飛ぶ直前くらいだったろうか。

 

 

「名前を呼んで」と言われたのだ。

 

 

 

 実際、名前で呼んでたよ? その頃には、もうさん付けも無しになってたし、逆に様付けもさせられるくらいにメロメロな状態まで持っていっていた。

 …「あなたに名前を呼ばれると、愛されている感じがして、凄くゾクッと来るの」…だってさ。

 

 いいねぇ、いくらでも名前を呼ぶよ。

 ………前ループの思い出も込めて、ね。実際、あの頃のナターシャと重ねて見ているのもあるからね…。

 

 

 

 ま、そんなこんなで、セックスの奥の深さを、調子に乗っちゃった初心者に骨の髄まで叩き込んだ翌日。

 情事の痕跡も露わなナターシャが、朝日に照らされながら

 

 

「思ってたより良かったわよ。また私が呼んだら、相手をなさい」

 

 

 なんて微笑みながら言われてしまった。うんうん、やっぱ普段はこういう態度なのに、コトになると尽すタイプっていいねぇ。

 

 

「調子に乗ってるんじゃないの。…とは言え、私もまだまだ初心者って事はよく分かってるし。全く…あんなに一方的に弄ばれるなんて…」

 

 

 それがイイんだろ? 手玉に転がされて悦んでるように見えたが。

 

 

「否定はしないわ。負けて蹂躙された方が楽しめる勝負があるなんて、不思議よね…。でも負けっ放しは癪に障るわ。また再戦するのは絶対よ。今度は…ううん、いつかは私の下で『イカせてください』って懇願させて見せるから」

 

 

 楽しみにしてるよ。…で、それまでの勝負は勝つのがお望み? 負けるのがお望み?

 

 

「…確かめてみる? どっちにしろ、後でシャワーを浴びないといけないから…それまでは、何度しても同じよね?

 

 

 同じではないな。沢山やった方が経験値も堪るし、開発進捗も良くなるし、霊力もパワーアップするね。と言うか、もう覚えてるんじゃね?

 

 

「霊………? ……ああ、貴方に抱かれたら、それで使えるようになるっていう話、本当だったの? そう言えば、何か妙な力を感じるわね。女としてレベルアップしたからだと思ってたわ」

 

 

 …信じてなかったのか…まぁ、普通はそうか。

 ま、いいさ。今度はその力に意識を向けながらヤってみればいい。…新しい快感を見つけられるよ?

 

 

 

 

 



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274話

先日のWindowsアップデート以降、ちょくちょく現れるインストーラがウザい…。
MSIサーバとやらで、どうやら悪いものではなさそうですが、ネットで見かけた解決方法をしても消えない…どっか間違えたか?
要らん事するなぁ…。

ノートン先生にフルスキャンしてもらったらどうにかなるかな?と思ってやってみたら、丸2日かけても終わらない。
よく見たら外付けHDも検査してた。
そりゃ終わらない筈だわ…それとも、インストーラのエラーが出まくって遅くなってるんだろうか。



サリヴァーン撃破。
白サインバンザイ!
3人相手に勝てる訳ないだろ! いや普通に死にかけたけど。
つぅか闇霊がウザい…。巨人の広場辺りで、突然背後から致命喰らってそのまま死にました。
それもこのゲームの楽しみ方なんでしょうが、最初はじっくり探索したいので灰状態でいきます。


P3G月

 

 

 結局アノルパティス素材はゲットできなかったな。異常個体の可能性(それ以上に妙な病原菌持ちの可能性)があるって、ギルドの連中に全部買い叩かれてしまった。ま、そこそこの対価は手に入ったからいいけど。

 もう一狩り行こうかな、誰を誘おうかな…と考えてたら、ちょっと予想外のイベントが発生。

 

 

 人間からの奇襲を受けた。 

 

 

 事の始まりは今日の昼間。昨晩の御乱交の後始末を終わらせてからの事。

 ちなみに本当なら後始末はお付きアイルーのバイトをしているトッツイの役目なのだが、「心が折れたニャ…」と速攻でダウンした。まぁ…ただでさえ後始末がキツいのに加えて、知人の痕跡だもんな…。

 

 

「それだけじゃないニャ…。アイルーに限らず動物って言うのは、ナワバリに染みついたニオイで、ある程度その主の強さが分かるのニャ…」

 

 

 あー……。そういや、昨晩はレジェンドラスタ勢揃いだったもんなぁ…。それだけニオイも籠るし、籠った匂いの主が主だ。

 …前のループでもそうだったが、ニオイフェチのケがあるフラウは大歓喜してたが。

 

 オカルト版真言立川流の効果で、俺も皆も体力全開状態だったとは言え、流石に一休みしたくなった。特に興味を惹かれるクエストもなかったんで、今日は休日にしようと思ったんだ。

 メゼポルタ広場で釣りでもしようかと思ってたら、見知った顔に会った。

 

 …サーシャ、何でこっちの広場に居るのん? ストライカーの誰かと一緒なのか?

 

 

「えっと…お遣いです。採取物を、こっちの広場に居る依頼人に届けたんですけど…」

 

 

 そこまで言うと、くぁ、と小さく欠伸をした。…なんか猫みたいだな。

 眠そうだけど、ちゃんと寝てるんだろーな?

 

 

「…ん、はい。今日は初めての一人のお遣いだったから…昨日はちょっと緊張して寝れなかった…」

 

 

 成程。…俺、これから釣りに行くつもりなんだけど、一緒に来るか? あそこは涼しくて、昼寝にもいい場所だぞ。

 

 

「いいんですか? ……あの…」

 

 

 …アレは、一眠りして目がスッキリしてからね。睡眠不足は成長の天敵だぞ。ボンキュッボーンの大人のレディになりたければ、まずはしっかり寝なさい。

 

 

「……はーい」

 

 

 ……よし、このまま寝過ごしてくれれば、コトには至らないで済むかな。別にサーシャとするのはイヤな訳じゃないんだが、流石に幼すぎるしね。…この前、夢か現実かよく分からんが、あんな事やっといてなんだけど…。

 と言うか、何だかんだで日記には書いてないけど、サーシャと何度か『霊力訓練』しちゃってるし。ちなみに、前も後ろも本番はしていない。…開発を着々と進めてはいるし、サーシャも(今日はアレをするの?)みたいな目で見てくる事はあるけど。

 

 

 大体なー、フロンティアに来てからの俺って、結構いいようにされる事が多いよな。最終的には逆転勝ちしてるんだけど、何かと麻痺して動けない所に付けこまれたりさ。

 そんな状況に追い込まれるのが悪いのは分かってるんだけど。いいようにされるのが嫌なら、跳ね返せるくらいの力を持てばいいんだし。

 

 麻痺以外にも、何かとロリが絡むと予定外な事になるのが多い。シオだってサーシャだって、最初は手を出すつもりなんかなかったんだ。

 別に嫌いじゃないんだが、ペドの称号はなぁ…。

 もう遅い? ょぅι〝ょには自分から手を出した事が無いので、まだ辛うじてロリコンではないぞ。

 

 …あれ、でもそれって、つまり子供にならエロで負けるって事にならんか? そういう目で見てないから、テンションも欲望も上がらないとか…。

 実際、最初の一回が済むまでは、シオをそういう目で見た事はなかったと思う。

 

 ……エロで負ける訳にはいかぬというプライドか、それとも子供を相手にエロしてはいかんという倫理か…。

 

 プライドか倫理か……。

 

 

 

 

 

 

 …ファイナルアンサー、欲望。

 

 

 

 もうペドでもいいかなって気がしてきた。釣りをしている俺の横で、黒ストがチラチラする角度で昼寝するサーシャを見てたらね…。あの時の夢では、ストッキングを引き裂いてインサートしたんだよなぁ…。

 うん、もう四の五の言うのは止めて、欲望に素直になりますか。まずは開発された処女の実現だ。…尻は既に大人になっているが。

 

 

 

 …そんな事を考えつつ、3匹目のカジキを釣り上げた頃だ。

 

 

 背後から妙なプレッシャーを感じた。寝転ぶフリをして見回してみたものの、気配の主は居ない…。

 ……これ、相当な手練じゃないか? 俺に冷や汗を流させるくらいのプレッシャーなのに、周囲の人間にも、魚にも影響を与えている様子は無い。つまり、俺にピンポイントで殺気を当ててきてるんだ。

 しかし、そこまで出来るなら、完全に気配を殺して奇襲だって出来そうなものだが……何のつもりだ? 何かの警告か?

 

 

 とりあえず……どうなるにせよ、サーシャをどうにかした方が良さそうだ。このまま荒事になったら、巻き込まれかねない。

 流石にメゼポルタ広場のド真ん中で、刃傷沙汰になるとは考え辛いが…ギルドナイトが何かの理由で出向いてきたとかだったらシャレにならん。

 

 気持ちよく寝てる所を起こすのは悪いが……サーシャ、起きろ。そろそろ帰るぞ。

 

 

「………んにゅ…」

 

 

 かぁいい。じゃなかった、ほら、起きな。…肩を揺すって…。

 

 

 

「サーシャに「んぅ……もっとぉ…」………」

 

 

 …一回しかシてないのに、エロい声出すなこの子…。しかも腕に縋りついてきたし。

 仕方ない、背負って家まで帰って、トッツイに守るように言っておこう。その間に、俺はこのプレッシャーの主と話をすればいい。

 

 

 

 …あの、ところで突然出てきたと思ったら、そっちで硬直して突っ立ってる嬢ちゃんは「お持ち帰り………だと…」………!!! プレッシャーが増した!?

 そしてどこからともなく聞こえてくる(ような気がする)、微妙に熱血特撮OPっぽいけど実態は限りなくその逆なこの曲は…!

 

 

『SHIT! 増苦! SHIT!! 増悔!! SHIT!!! 増朽!!!』

 

 

 限りなく暑苦しく異常なウザさを感じさせるテーマソング(?)の為か、サーシャも目を覚ましたようだ。寝惚け眼がすっ飛んで、完全にビビッて俺の後ろに隠れている。

 

 

 

「SHIT力、マキシム全開! SHIT MASK、見ッ参ッ!」

 

 

 どこからともなく現れた…それこそ、空から降って来たようにも、地から沸いてきたようにも、水の中から飛び跳ねてきたようにも、釣り上げていたカジキの中からニュルッと出てきたようにも見えるコイツ!

 炎の隈取が入った白いマスクを被り、ベルトとパンツ一丁、プロレスラーのブーツに、老人のように枯れた体を…………。

 

 

 ……老人?

 

 

 …老人、だな…。ご高齢の方々特有の、肌の臭いもあるし…。でも枯れた体っつっても、芯が強いっぽいな。マッチョが年齢によって衰えた感じの…いや、この鍛え方と、体に残った傷跡は、もしや元ハンター…?

 とりあえず。

 

 

 

 サーシャ、俺の後ろから出るなよ。そして出来るだけ、目と耳を塞いでおくんだ。このような変態に接触すると、穢れてしまうからな。

 …既に怯えて蹲っていた。まぁいいか…。

 

 で、どちら様?

 

 

「ハーレム野郎に名乗る名は無い! むしろ、一度でいいから貴様の名を名乗ってみろッ!」

 

 

 アンタさっきSHIT MASKって名乗ったやん。そして俺はいつもちゃんと名乗ってるぞ。

 

 

「貴様が書いてる絵日記に、リアルで読めるように書いてみろっつっとんのだ! オカルト染みた現象で、書類が紛失するだの聞き取れないだのが無いようにだ」

 

 

 絵日記何ぞ書いてねぇよ。書いたら完全に同人誌かR-18イラストになっちまうじゃないか。へたくそすぎて、Gがつくけど…。

 そしてそのオカルト云々については初耳だよボケ。

 

 まぁいいや、とにかく用があるならさっさと済ませろ。サーシャに貴様のような不審物体を近付ける訳にはいかん。

 

 

「人どころかモンスターとしてすら扱わないとは、ちょっとひどくない? だがそれは置いといて、天命に従って貴様に天誅を下しに参った! 貴様、今まで一体何人の女性と関係を持ち、どれだけの純潔を奪ってきたッ!?」

 

 

 お前は今まで狩ったモンスターの種類と数を覚えていたとして、それを一々人に話すのか?

 

 

「そもそも! 性交渉とは、婚姻により結ばれた男女が行う、一対一の神聖なる子孫を作る為の儀式である! そして処女とは、その時まで清い体を守り続けたという誠意の証! その神聖なる儀式と誠意の証を、何を勘違いしたのかリア充共が軽々しく快楽目当てで行い、しかも男の側に至っては誠意の証を勲章かコレクションの如く扱う価値観が蔓延しておる! 与えねばならぬ! ハーレム野郎に天罰を! そう! これは天に代わって悪を討つ正義のわざ!! 決して私怨からでわない! 聖戦だ! ハーレム野郎に速やかなる修羅場を!」

 

 

 聞いてねぇな。と言うか明らかに嫉妬の正当化です。…正当化されているのかはともかく。

 と言うか嫉妬云々を置いといても、明らかに私怨全開じゃねーか。

 そら色々と嫉妬される立場に居るのは分かってるが、一体どれだね?

 

 

「決まっておるわ! 貴様貴様貴様貴様!! ワシが狙っておったチルカちゃんとフラウちゃんを! しかも大事に大事に育てておったフローラまで毒牙にかけおって! ヨタ話じゃろうと思っておったら、昨晩なぞレジェンドラスタがあんなに集まって……くぅぅぅ……なんとゴージャスな…。ついつい怒りすら忘れて欝勃起したわい…」

 

 

 うわ、ガチ泣きしたよ。と言うか、明らかに80超えてる爺さんなのにお盛んなやっちゃな…。

 あと、欝勃起は一種の精神疾患らしいから、病院行けば?

 

 …ふむ。ユウェルとフラウを性的に狙っていて、ちゃん付け。フローラも狙っていたようだが…ちゃん付けなし。フローラの身内か?

 思いっきり心当たりがあるなぁ。ユウェル、フラウにダダ甘だったりデートに誘ったりして、更にフローラを都合のいい女に光源氏しようとしていた人物…。

 

 こいつ、フローラの爺さんか…。

 

 

「な、なにを根拠にそのような事を言うのかの? ワシはそのようなロマンスグレーでちょっぴりお茶目なお爺ちゃんではないぞい」

 

 

 うん、そうだね。フローラの爺さんは、年甲斐もなく若い子に熱を上げて尻を追いかけまわしたり、孫を性的に手籠めにしようとするクサレ外道らしいから、ロマンスグレーではないね! そしてそんな奴に天命なんぞある訳ないから、SHIT MASKもその人とは別人だね!

 

 

「ぐぬ…うぬぬ、ええい、そのような事はどうでもよい! ワシが狙っておった純潔を横取…もとい、軽々しく女性の体に手を付けた罪を償わせてくれる!」

 

 

 さっきから妙に純潔純潔と拘るなぁ…。男にとっては、独占欲を刺激する要素なのは分かるが…。

 と言うか、まだフラウ達に粉かける気か?

 

 

「そのよーなアバズレはもうええわい! ワシが狙うのは、そう、そっちの清純派嬢ちゃんをそのままもっと大きくしたような、びゅーちふるなれでぇの「わ、私子供じゃないもん! したことあるもん!」…………なん…じゃと…」

 

 

 結局、アレが夢だったのか現実だったのか、イマイチ分からんけどな…。と言うか、そこに喰い付くのかサーシャ。

 ついでに言っておくと、サーシャは基本的に天使だが、同時に魔性の女だぞ。ある意味物凄く大人だぞ。

 

 にしても、このダメージの受けよう…狙っていた女達がお手付きとなっていた途端にアバズレ呼ばわり…。

 

 ……この爺さん、処女厨か。

 

 

「バカな…このような幼い子まで……風紀が…世の法則が乱れておる……神よ…SHITの父よ…何処に…」

 

 

 

 いい年して、と思わなくは無いが、個人の趣味嗜好だしな…。

 他人の趣味嗜好にまで口を出す気はないが、俺の女をアバズレ呼ばわり、しかも自分の孫まで…ってのは頂けんな。俺専用痴女とかだったら、ギリギリ許したかもしれんが。

 

 ボコッておきたいと思うが、さっきのサーシャの発言が余程ショックだったらしく、なんかもう気迫も縮まってシワシワの寝たきり老人が無理に立ち上がったみたいな姿になってしまっている。

 …一発くらい入れておくか? でも、そろそろギルドナイトが来るよな…。さっきまで釣りしてた奴らが居なくなってるし、どう見ても不審者を通報しに行ってるよな…。

 

 

 …あ、そう言えば、さっき登場して硬直してた誰かさんはどうなった?

 

 

「…え? あ、そう言えばさっき、あっちにイーラが居たような……あれ、居ない…」

 

 

 イーラ? 知り合いか?

 

 

「うん。この前ストライカーに入った人で、よく一緒になるの。時々だけど、一緒の布団でも寝る事もあるよ」

 

 

 

 ふむ…一瞬だけしか見なかったが、あのくらいの背丈で、サーシャと同じベッド…。

 …百合云々は置いといて、尊いな。しかし居ないって……鷹の目で見ても、確かに痕跡はある。どうやら、俺が釣りを、サーシャが昼寝をしていたところを、こっそりと背後から見ていたようだ。プレッシャーに紛れて見落としたか? 俺も未熟だな…。

 しかしそれはそれとして、居た痕跡はあるけど、移動した痕跡がないな。

 

 

 

 

 …あ、ギルドナイトさんチーっす。

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、フローラの爺さんと思しきSHIT MASKはギルドナイトに連れていかれた。なんか手馴れてたな。やっぱり、今まで何度も問題起こしてるんだろうか…。だったらギルドナイトに処されてもおかしくないだろうに。

 …案外、ギルドナイトですら敵に回したくない超凄腕とか?

 …いや無いよなぁ。確かに昔はかなりのハンターだった事が伺えるし、老いて尚盛ん(色んな意味で)なのも見て想像がつくが、そこまでじゃな…。

 

 

 まぁいいか…。妙なケチがついたけど、もう魚も驚いて逃げちゃったみたいだし、そろそろ切り上げるか。サーシャ、眠気は覚めたか?

 

 

「さっきの人のおかげで、眠気も何も吹っ飛んじゃった…。もう行こう? ここに居ると、またさっきの人が来るかもしれない」

 

 

 そだね。…で、行くって何処に? ストライカーに帰るか? まだ時間はあると思うけど。

 ………いて、なんで抓るの。

 

 

「…お昼寝の後は、いつもの」

 

 

 …そうだったな、悪い悪い。

 んじゃ、俺の部屋行こうか。

 

 

「ん。行こっ」

 

 

 ちょっと笑って、俺の手を引いて部屋まで行こうとするサーシャ。

 …の前に、ちょっとだけ立ち止まって振り返る。

 

 

「…やっぱり、イーラは居ないよね」

 

 

 ああ、この辺に人の気配は無いぞ。サーシャのレーダー能力にも引っかからないんだろ?

 

 

「うん…。帰ったのかな? 声くらいかけてくれればいいのに…。……ごめん、行こうか」

 

 

 

 ふむ……ん? …今、灰みたいなのが風に吹かれて飛んで行ったような。

 ……もし…もし、イーラとやらが本当にこの場に居たとしたら…そうだな、多分SHIT MASKが現れる直前に居た(ような気がする)アイツだよね。

 何の用事で来たのか知らないが、SHIT MASKに出番を奪われて……その後の発言も聞いた?

 

 つまりは、「したことあるもん!」を。

 

 

 そして、現にサーシャは俺の手を引いて、マイルームと言うかヤリ部屋に乗り込もうとしている訳で。

 ………ああ、そりゃ灰にもなるよな。顔もロクに覚えてないイーラさんに、黙祷を捧げておいた。

 

 

 

 さて、そろそろサーシャの後ろも、本番できるくらいになってるかな…。



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275話

正直、今回の話はやっちゃったなーって思う。
エロじゃなくて、話の展開と言うかクロスと言うか。
別作品のキャラを出し過ぎると、余程上手く交流させないと話が安っぽくなる…と言うのは重々承知だったのですが、衝動に耐えきれませんでした。


何の衝動って、このキャラの濡れ場を書きたいって衝動がね…。
まぁ、本当に書くのはかなーり先ですが…。



あともんパラ中章クリア。マスタリーが使えるようになると、火力が狂ったように上がってメッチャ笑った。
火力特化させてマスタリー・二刀流・狂乱の仮面かハイバーサーカーつけと、(中盤の)終盤の敵でもほぼワンターンキルであるw

と言うか、アレとかアレって伏線だったんだなぁ…。
来年以降であろう終章に向けて、色々コンプリートさせていきますか。


P3G月

 

 

 フローラが謝りに来た。やっぱり爺さんだったらしい。

 と言うか、問題ある爺さんとは聞いてたが、予想以上と言うか予測範囲内と言うか、それでいて予感が異常と言うか。

 

 

「ええ…本当にすみません…」

 

 

 いや、孫娘がチャラ男に傷物にされりゃ、怒り狂うのも当たり前だけどね。どー見ても、それ以上の怒りの理由があったけど。

 

 

「最近は、フラウさん達のガードが硬くなったと嘆いてましたから…。その原因が貴方だと思ったんでしょう。多分、間違ってはいませんが」

 

 

 特にフラウは尽くすタイプで、一途だからなぁ。俺以外には身持ちが固いし。今までだったら適当にあしらってたデートもお触りも、ニコニコ笑顔のままツンドラ対応ですわ。…その割には多人数プレイも大好きだけど。

 

 

「ええ知ってます。先日の夜によーく…。それはともかく、お爺ちゃんは当分メゼポルタ広場には来ない筈です」

 

 

 ふむ…別に怒ってる訳じゃないんだが、それだけなのか? どうにも、ギルドナイトに何度もタイーホされてる印象を受けたんだが。

 軽い騒乱と言うかケンカ騒ぎとは言え、何度も繰り返してればそれなりの罰になるだろうに。

 

 

「お爺ちゃん、昔は結構なハンターだったらしくて、その功で帳消しにされちゃうんですよ…。ひょっとしたら、引退したギルドナイトだったりする…のかも…」

 

 

 それでギルドのトップに顔が利くから、減罪されてると? 癒着じゃん…。

 と言うか、あのよーな人がギルドナイトって普通に嫌だな。警官や衛兵のモラルが…。いや、引退して解放されたからはっちゃけてしまったのか?

 

 つーか、何が嫌って、俺が耄碌したらあんな風になるんじゃねーかな、って心によぎったのがすっごい嫌だ。色ボケしているとは言え、耄碌してない今でさえ、ロリから熟女まで獲物として見てるからな…。

 将来子供や孫ができたとして、血縁者だからって理由でその枠から外れる保証がない。嫌だぞ、家系図が伊藤家みたいになるのは。食卓の方ならいいけど、誠氏ね系はイヤだ。

 

 

 で、結局今はどうしとるん?

 

 

「極圏送りですね。確かこれで4回目です。ちなみに装備は何も無し、剥ぎ取り用ナイフすらありません。…ああ、着の身着のままなのは今回が初めてですね。ああ、クーラードリンクと気分が悪くなる味の狩人弁当なら持たせましたが。今までもそうでしたけど、多分ボロボロになっても生還してきますよ」

 

 

 ………ごめん、ちょっと訂正する。減罪されてるんじゃなくて、殺す方法が思いつかないんだわ、多分…。

 あんなウカムが住んでそうな所に何度も送られて、生きて帰ってくるって時点で超凄腕だわ。

 

 と言うか、今回に限ってなんで装備も無しに、明らかに嫌がらせのクーラードリンクまで。

 

 

「…人の恋人に害を為そうとしたのですから、相手がお爺ちゃんだって遠慮する必要なんかないですよね?」

 

 

 うおっ、フローラの笑みが黒い…。と言うか、そう言ってくれるのは嬉しいが、フローラが真に怒るべきなのは、妙な教育をされてた事だと思うんだがなぁ…。

 

 

「あの、それでですね…。あんなのでも、私のお爺ちゃんでお師匠様な訳で…」

 

 

 ん? 助命嘆願に一筆書くくらいなら構わんけど? それで恩に着て大人しくなるようなタマじゃなさそうだが、彼女の頼みなんだし。

 

 

「いえ、それはいいです。…彼女…えへへ…。その、つまりは私の身内が迷惑かけちゃったので…お詫びに、どうですか?」

 

 

 

 ジリジリ近寄ってくるフローラ。無論、断る理由は無かった。ちょっと笑って、足を開いて椅子に深く腰掛けると、その間にフローラが跪いて。

 

 

 

 以下略。

 

 

 

 

P3G月

 

 

 バッシから相談を受けた。毎日の部屋の掃除と洗濯が辛い…ではなく、歌姫サンの事だ。

 メゼポルタ広場の一角で、腰を下ろして話し合う。

 

 塞ぎこんで部屋から出てこなかった頃に比べて大分元気になっているが、やはりバッシ達としては、以前のように歌を歌うようになってほしいそうだ。

 しかし、無理に強要する事もできないし…認めたくはないが、歌姫サンを歌わせようと色々やっている時、吸い寄せられるかのようにモンスターが襲ってきたのも事実。

 ここまで来ると、もうバッシやトッツイ達も否定はできない。

 

 

「…と言う訳で、モンスターを呼び寄せずに、歌姫様が元気に歌える方法を…」

 

 

 ホイホイ思いつく訳がないわなぁ…。そりゃ、長年の付き合いのお前らより、人間の俺達の方が、まだ考え方や感性が近いとは言え…。

 モンスターに関しては、メゼポルタ戦力を総動員すりゃ大抵のモンスターはどうにかなるが。

 

 

「やはりそうですかニャ…。うぅむ……。泉がもっと賑わえば、歌姫様も元気に…なりますかニャ? このバッシ、叡智には自信がありますが、他種族の感性となるとどうも…」

 

 

 無理もないよなぁ…。人間だって、犬猫モンスターの感情を完全に理解できる訳じゃないし。

 

 …それは置いといても、実際のところ何があったんだろうな。

 歌姫サンがトキシに惚れて、力を失った…と言うのは、まぁ分かる。でも、それをどうしてレジェンドラスタやギルドは黙秘してんだろうな。感情の問題はともかくとして、トキシが何かやった訳じゃなかろうに。

 

 

「…言われてみればそうニャ…。…フラウさん達に聞く事はできないのかニャ?」

 

 

 聞いてみた事はあるけど、すっごい気まずい顔して黙秘された。一応、ギルドから正式に機密事項扱いされてるらしいから、無理に聞き出す訳にもいかん。

 ………そう言えば…歌姫サンがトキシに惚れたのは分かったが、トキシの方はどうだったんだ?

 

 

「ニャ?」

 

 

 トキシが歌姫サンをどう思ってたか、だよ。個人的に…他のハンター同様にかもしれないが、贈り物をする程度には好意的だったんだろ?

 その後も、失われた力を取り戻す方法を探して旅をしたり、最後には歌姫サンの故郷の森を守って戦って…。

 

 いくらハンターだって、そこまでやれる奴ってそうそう居ないぞ。嫌な言い方になるが、お前らの森の住人って殆どがアイルーだろ。村が無くなっても、大して困りはしないんじゃないか?

 

 

「流石にそれは困りますニャ…。小さな集落くらいならすぐ作れるから、あんまり苦労はしないと思いますがニャ…。しかし、トキシがどう思っていたか、ですかニャ…。よく歌姫様の歌を聞く為に、広場にやってきていたり、歌姫様と一言も喋らずに微妙な距離で座っていたりしていましたニャ…」

 

 

 うーん…前者は狩りの為と言われればそれまでだが、後者はどうだろ…。

 重苦しい雰囲気…ではなさそうだ。何度もやってるって事は、少なくとも不快とは思ってなかったんだろうが…。

 

 しかし、もしトキシが歌姫サンにホの字だったとしたら、どうして二人は結ばれてないんだろうか。

 …もし歌姫サンを受け入れてしまえば、本当に歌の力が無くなるかもしれなかったから? …否定はできん。実際にどうなるかは分からんけどな。人の心は水物で、素手で扱うには複雑すぎる。幸福感に満たされ、力を失うどころか更に強い力を発揮するようになったかもしれない。逆に、トキシの事が頭から片時も離れなくなり、完全に力が消えてしまったかもしれない。

 

 

 

「歌姫様に惹かれないオスなどいません…と、言いたいですがニャ…。アイルーとて、番いに求める条件は様々ですニャ。美しいだけで無条件に好かれ、醜いだけで嫌われる訳ではないですニャ」

 

 

 少なくとも、お互い憎からず思っていたのは確かだな。この辺に鍵がありそうだが…。

 とりあえず、元気づけると言う意味では、もっと沢山の人と交流させるのは有りだと思うぞ。モービンも言ってたが、元が活発な性格らしいし。

 

 

「そうですかニャ…。ニュフフ、では色々と考えていきますかニャ」

 

 

 …イベント考えるのはいいけど、何かやるなら一言相談してくれよ? アイルーの感性じゃ素晴らしいイベントも、人間にとっては…って事もあるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………で、その日の夕方、酒場でマオと一緒に酒飲んでたら、見ず知らずの美人さんに「何でも屋と言うのは貴方の事だろうか?」と声をかけられたんだが………これ、バッシが何かやったかな?

 

 

 

P3G月

 

 

 確認してみたが、バッシの仕業ではないようだ。考えてみれば、何でも屋の噂自体は、以前からあったしな。ギルドが俺に実績を積ませようとして色々やってた時、噂が妙な塩梅にネジくれて流れたんだよなぁ。

 まぁ、それを鵜呑みにして依頼を、と話しかけてきたのは初めてだが。

 

 断るより先に、マオが驚きの声を上げていた。

 

 

「貴方は……ウェストライブ家の?」

 

 

 …家? って事は、こいつ貴族か何かか?

 確かに、着こなしている服は上等なもので、フロンティアにはそうそう流通してないものだが……制服、いや軍服…?

 

 見た所、ハンター程じゃないにせよ鍛えられている。目的と、それに基づく研鑽による鍛え方だな。何かの武術か?

 

 

「知っているのか? 確かに私はマキ・ウェストライブだ。そういう貴方は?」

 

「失礼しました。ウェストライブの領地出身のマオと申します」

 

「そうか…楽にしてくれ。今の私はお忍びだ。フロンティアに何でも屋と言うのがあると聞いたのだが…」

 

 

 お忍びなのに堂々と名乗るんかい。

 

 ちょっと横目で酒場を観察してみると、ギネルさんがこっちに向いて『スマン!』とジェスチャーを送っているのが見えた。アンタかよ…。

 確かに、一時期そういう噂をされたが。

 

 

 あー、とりあえずその何でも屋と言うのは、単なる噂だと思うぞ。俺も知らない店があってもおかしくないが…。

 よく分からんけど、話を聞くくらいならする。ギネルさんの紹介みたいだし。

 

 

「む、そうか…。話は他でもない、クエストを頼みたいんだ。勿論、ギルドを通した正式な依頼だ。ただ、集めてくる物がかなり特殊で、非常に多い。一朝一夕で集められるような物ではないから、長期のクエストだと思ってくれ。更に、途中で必要な素材が増える事もある」

 

 

 それだけなら、それこそギルドを通して多くのハンターに働きかけた方が早いし正解だと思うが…。

 

 

「確かに。だが、それでは納期がいつになるのか分からない。私としては…専属…とは言わないまでも、私の注文に迅速に応えてくれるハンターが必要なんだ」

 

「お言葉ですが、マキさ……マキ。彼は仮にもG級ハンターです。それを抱き込もうとするなら、ギルドも黙っていないでしょう」

 

「む…そこまで大事にするつもりはないのだが…。とは言え、マオの言い分も分かる。だからこそ、何でも屋とやらに期待したのだが…」

 

 

 ふむ…。受ける受けない以前に、必要な素材ってのはどんなんだ?

 モノにもよるけど、ハンターとして協力できる範囲なら、しないではないが。

 

 

「うむ、これだ」

 

 

 差し出されたリストには、ビッシリ並んだモンスターの素材名。…おい、かなりヤバいモンスターも居るぞ。古龍の名前すらチラホラ…。

 

 

「…自分からこんな事を言うのもなんだが、これは最低限の素材と考えてほしい。調達してきてもらっても、目的に適合しないサイズだったりした場合、再度調達してもらわねばならない。更に言うなら、今後の研究次第で内容が変化する可能性が非常に高い」

 

 

 研究…。リストの素材の使い道はイマイチ分からんが、素材の横に書かれている単語…。バレル、照星、砲弾、履帯、装甲、砲塔、ハッチ……。

 

 

 

 ……戦車?

 

 

 

「ほう、お分かりか」

 

 

 詳しい訳じゃないが、これだけ単語が集まれば連想する程度には…。しかし……これは…?

 ベルナ村で考案されていた、ネコ式火竜車とも違う…。それどころかこれは…。

 完成予想図とかあるのか?

 

 

「ああ、これだ。…と言っても、正直私も構想までしか出来上がってない。色々考えてはいるんだが、完成形が先に見えてしまったからな…そこへ至るまでの道が…」

 

「? どういう事です?」

 

 

 

 ………………………。

 

 

 

「…元々、我がウェストライブ家は、ハンターに頼らない、或いは援護できるだけの武力を開発しようと、長年研究していたんだ。戦車と言うのも、その一つだ。…実用段階まで持っていけなかったがな」

 

「そう言えば、何かの催しで昔、これと似たようなものを見た事があるような…」

 

「多分それだろうな。何だったか、何処かの機関が爆発して、えらい事になった覚えが…」

 

 

 …それで、先に完成形が見えたと言うのは?

 

 

「む? ああ、それなら…その、笑うなよ? 夢で見たんだ。支離滅裂な単なる夢だったが、それでピンときたんだ。薄れそうになる記憶を掘り起こして、後から分析した。驚いたよ。単なる夢の産物の筈なのに、私達が求めてきた技術の結晶のようだった。一つ一つの部品の形に意味がある。これを摸倣できれば、ウェストライブ家だけでなく、人類全体の戦闘力は各段に上昇するだろう」

 

「ふむ…。確かに強そうではありますが…こうして見ただけでも、欠点も多そうですな」

 

「否定はせんが、どんなものにだって欠点はあるだろう。ハンターだって例外ではない。逆に、長所もな。…そこに辿り着く為に、あとどれだけの技術的難関をクリアしなければならないのか考えると、頭が痛くなってくるが…それだけの価値はあると自負している」

 

 

 断言するウェストライブ嬢の顔は、確かな自信に満ちていた。

 話をもう少し聞いてみると、これを造ろうとするのは独断らしい。領主である母にも絶賛されてはいるが、コストと研究に必要な素材の為に、どうしても首を横に振らざるを得ないのだとか。その為、だったら自分でやってやろうと思い立ち、フロンティアの何でも屋の噂を耳にしてやってきたのだとか。

 

 …嘘ではないが、他にも何か理由があるっぽいなぁ…。まぁ、そこまで踏み込む必要もないか。

 ところでウェストライブ嬢。

 

 

「お忍びの間はマキでいい。私はまだ、跡目を継いでいないしな」

 

 

 んじゃマキ。他に見た夢は何かあるか?

 

 

「…そう言われてもな。覚えてもいない夢なら、ちょくちょく見るし…」

 

 

 そりゃそうか。……いいだろ、可能な限り協力する。

 

 

「おい、いいのか?」

 

 

 誰が誰の依頼を受けようと、ハンターランクが足りてりゃ問題はないさ。

 ところで、マキ。この完成予想図の絵だけどな、ひょっとしてモンスターのブレスを砲弾として打ち出す事を考えてないか。ひょっとすると……こっちのモンスターの牙を敵に突き刺して、そこから吸い込んだ力を放出するようなのを。

 

 

「おお、そこまで分かるのか! 専属ハンターでなくても、是非とももっと話を…」

 

 

 初めて同行の士にあったO-宅のように盛り上がっているマキ。俺としても存分に話に乗ってやりたい所だが、正直そんな気分じゃなかった。

 これを夢に見たって?

 

 単なる戦車…元居た世界にあったような、走る鉄の箱みたいな戦車だったら、まだいい。

 でも、これは…この絵は…。

 

 突き出た砲塔を包むように展開されている、モンスターの咢。

 車体の頂上に居座る、髑髏のような顔……の、ハッチ(多分)。

 

 

 まるで、捕食形態を発動させた神機のような砲塔と。

 …クアドリガ。

 

 

 

 

 

「ああ、そうだ。ついでに聞いておくが、この子を知らないか? フロンティアに居るらしいんだが」

 

 

 あん? ………いや、抽象画で聞かれても。

 

 

「何が抽象画だ。つい先日書きあがった、私の傑作…………………すまん、今のはあの子が子供の頃に描いてくれた私だった。こっちだ」

 

 

 ……まぁ…幼稚園児が小学生に進化したとだけ。大体の特徴は読み取れなくもないが。どっちにしろ知らんな。名前は?

 

 

「…ミキ・ウェストライブ。私の妹だ。何故フロンティアに来たのかは分からん。ハンターとしての訓練など、一度として受けた事も無いと言うのに…。」

 

 

 ふむ…やっぱ知らん。と言うか、アンタの妹って事は領主の娘の一人だろうに、何でフロンティアで探してんだよ。

 これ以上深入りする気はないが、それらしい人を見つけたら連絡するわ。

 

 

「ああ、頼んだ。では、本日はこれで失礼する。用事がある時や、素材を納品する時にはこちらに連絡をしてくれ。直通の連絡網を開けておく」

 

 

 …それだけ言い残して、マキ・ウェストライブは去って行った。

 それを見送って、マオは俺を横目で見る。

 

 

「随分と入れ込んだな? お前にしては、女にではなく…あの戦車とやらに、何かあったのか」

 

 

 まーね。正直、予想外もいいところだが…さて、コレは偶然なのかね。戦車を悪意を持って抽象化したと言えなくもないが…。

 …考えるのは今度でいいか。酒のおかげで、ぶっ飛んだ発想しか出てきそうにない。

 

 しかし何だな、わざわざ何でも屋に依頼をしてきた理由は分かったな。

 

 

「ああ、最後の妹さん探しか。理由は分からんが、家出しているようだし…領主としての立場が邪魔して、大っぴらに捜索できないんだろうな。…なんというか、無表情なつもりだったんだろうが、素直な方だったな。子供の頃に描かれた肖像画を持っていた当たり、相当妹が大事なんだろう。…何でも屋するなら、協力するぞ」

 

 

 …なんとなくしんみりした空気になっちゃったが………うん、そろそろ帰って部屋に行こうか。ゆったり交わってピロートークもいいもんだ。

 

 

 

 

 

 …ごめん、色々我慢できんかった。明け方近くになって、寝ているマオにイタズラを…。 

 

 

 

P3G月

 

 

 マキ・ウェストライブの妹の件で、協力者が押しかけてきた。マオから話を聞いた、サーシャと……この人も、確か狂走ラオシャンロン戦で遠目から見た覚えがあるな。ゲートルートさんだ。

 サーシャは最近身に着けてきた(つまりそれだけエロする回数が多かった)能力の使い方…ラジオみたいな能力を遣い、レーダーになってくれるつもりのようだ。まぁ、初めての試みだから、実験ついでなのは否定できそうにないが。

 ゲートルートは…………あー、うん、「妹を探すなら任せるがいい!」って言ってたんだが、何をゆーとるのかよく分からん。

 

 サーシャにこっそり聞いてみたところ、ゲートルートはシスコンを拗らせすぎて、自分の妹じゃなくても妹っぽい子を見つける事ができるようになってしまったらしい。ミーシャ達が持っているような異能ではなく…いやこっちの方がよっぽど異能っぽいけど…霊力とかとは関係ない、純粋な勘によるもの…らしい。

 ちなみに、協力の対価として、ゲートルートに鬼疾風のやり方を教えるよう要求された。ただし、エロは無しで。

 …元より、極力広めるつもりだから問題はないが…いつものやり方無しとなると、かなり時間がかかるぞ? 体の中に眠ってる力を自覚して、安定して引っ張り出せるようにしなけりゃならん。

 

 

「妹に会いに行く為なら、そのくらい何のそのだ!」

 

 

 アッハイ。と言うか、妹ねぇ…。それだけシスコンしてるなら、離れて暮らそうなんて思いもしそうにないが。

 

 

「ああ、それは単に経済的な問題と言うかな…。私もとある田舎村の出なんだが、不作で村全体が食糧危機に陥ってな。私が村から出て仕送りする代わりに、イリス…妹になるべく便宜を計ってもらうよう約束したんだ。イリスはまだ幼いから、フロンティアに来れるような体じゃない。長くても一年程度の出稼ぎだと思ってたんだが、これが予想外に向いてたようでな」

 

 

 妹さんを養う為なら、こっちで働く方がいいと判断した訳か。

 

 

「そういう事だ。そして、あの鬼疾風という移動法を習得すれば、村への帰還も容易になる! もっと頻繁にイリスに会いに行けるようになる! さぁ、やり方を教えるんだ!」

 

 

 分かったから落ち着け。と言うか、アンタの異能ってミーシャから聞いた限りじゃ、身体強化だろ? そっちをもっと効率よくして走った方が、手っ取り早いんじゃないかな…。

 まぁ、実際やってみないと分からんか。

 とりあえず瞑想からになるけど、おk?

 

 

「イリス、おねーちゃんは頑張るからな!」

 

 

 アッハイ。でもミキ・ウェストライブっぽいのを見つけたら、連絡するのも忘れないでね。

 

 

 

 

 二人に頼ってばかりなのも何なので、俺もちょっと足を使って探してみた。団員の連中や、歌姫サン達からも情報を募る。

 …が、無しの礫である。まぁ、仕方ないよなぁ…。元がタカリ集団と、無理難題を吹っ掛けてエラそうな顔をするアイルーの溜まり場だもの。

 

 歌姫サン達は協力を申し出てくれた。新聞配達の途中、それらしい人を探してくれるらしい。ちなみに最近は、かなりのペースで配り終えられるようになり、体力も大分戻って来たそうだ。

 …歌を歌える程度には? と聞くと、歌うだけなら…だそうだ。以前にあったような、古龍を退けるという力は戻ってきてないらしい。

 

 

 と言うかなぁ……この前ふと思ったんだが。

 

 

「なんでしょう?」

 

 

 歌の力とやらが古龍を呼び寄せる…って認識だったが、逆じゃないか? 常識的に考えて。

 歌に本当にそんな力があるとして、届くのって精々声が届く範囲+α程度じゃね? そんなのが遥か遠くに居る古龍を呼べるとは思えないんだが。

 

 

「う……い、言われてみれば…。確かに私の歌でハンターさん達に力が宿るのは、精々が広場一つ分でしたし…。しかし、事実私の力が失われてモンスターが」

 

 

 …力が失われたなら、それこそ古龍を呼ぶ事もできないと思うが。単なる歌になってんだぞ。

 

 

「では、何故村が古龍に襲われたのです…。…あの時の事は、思い出すだけで…」

 

 

 …トラウマ抉って悪いとは思うが…それ、単に元々古龍とかヤバ目のモンスターが多い地域だったって事じゃね?

 それこそ、古龍を退ける力が失われたから、モンスターが雪崩れ込んできただけで、モンスターを呼ぶ力自体は無いんじゃないかと思うが…。

 

 

「ですが、実際に私が……正確に言うなら、私を力付けようとしたトッツイやバッシが求めたモンスターが、何度も現れました。これは偶然ではないと思います」

 

 

 それは確かに。でも結局歌から力は失われている訳で……。ああ、分からん。そもそも、何だってモンスターは呼び寄せられるように出現する?

 歌の力云々は置いといて、まるで『何か』が歌姫サンの力を蘇らせようとしてるみたいじゃないか。

 …その力は、一体何なんだ? 脈絡もなく歌姫サンに宿ったのか、それとも先祖返り的なナニカなのか…。

 

 

「…正直に申し上げますと、見当もつきません。私も疑問に思い、同じ事が出来る人を探した事はあります。ですが、それらしい噂一つ掴めず、正体を掴めず終いです。…………私には、かつて妹が居ました」

 

 

 妹? また?

 

 

「…また、と言うのはよくわかりませんが、村が壊滅した時に生き別れになり、それっきりです…。生きているのか死んでいるのかすら、分かりません。あの子にも、私のような力はありませんでした」

 

 

 …ふむ…。…色々と深い所まで踏み込んで悪かったな。今日の所は、これで引き上げるわ。

 

 

「いえ、いつぞやの豚呼ばわりよりはずっとマシですのでお気になさらず」

 

 

 …根に持ってやがる。そうでなきゃ新聞配達とかしないか。

 

 

「それと…歌姫サン、と言うのは止めてください。今の私は歌う事すらできなくなった、一人の小娘にすぎません。折角名乗ったのですから、そちらで呼んでください」

 

 

 ああ、確かに歌わないのに歌姫サンって呼ぶのもおかしいわな。…確か…プリズム、だっけか? 今後はそう呼ばせてもらうわ。

 

 

 

 

 

 ふーむ、相変わらず謎ばっかりが増えていくなぁ。歌姫サン…もといプリズムが割と元気になってるのはいい事だと思うが。

 プリズムの歌も分からんが、先日のウェストライブ嬢が見た夢も分からんな。夢にアレコレ理由を付けても意味がないのは確かだが、クァドリガや神機に似ている事といい、その夢を見た子が導かれるように俺まで辿り着いた事といい、どうにも作為的…或いは必然的な何かを感じずにはいられん。

 …GE世界の情報とか因子とかが、MH世界に流入しているとでも? そういや、MH世界で見つけた遺跡が討鬼伝世界の遺跡によく似ていたりと、前々から3つの世界の繋がりを示すような断片はあったんだよな。しかし、それはあくまで遺跡、物質と言う形で残されていたものであって、今回のアレコレとか毛色が違うように思う。

 

 

 思いっきり単純に考えると………3つの世界は、本来一つのものであった…とか? 超過去とか超未来とかね。

 取り敢えず、ウェストライブ嬢のように、他の世界からの情報を受け取っている者が居ないか調べてみるか。…しかし、どうやって判別するかなぁ…。またあっちから近付いてくるのを期待するしかないか?

 

 

 

 

 追記

 

 トッツイから、嫁に来てくれるアイルーに心当たりはないかと相談された。サムネ夫妻のオメデタとか、夜毎夜毎との俺の『お遊び』に煽られて、なんか羨ましくなったらしい。

 しかし残念ながら、俺もアイルーには大した伝手は無いなぁ…。ネコバァさんにでも相談した方が確実だと思うぞ…。

 



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276話

ヨームをジークバルドさんと共に討伐直後、強制ワープを喰らった。
おのれエンヤ婆さん。
話しかける前に、倒れ居ていても斬り付けるべきだったか。

と言うかジークさんパネェ。
一人でも倒せない事は無い動きだったように思うが、初見でスゲェ楽にヨームを倒せてしまった…。

現在ロスリック城をウロウロして、2体竜に3回ほど焼き殺されています。
5万ソウル程ロストしました。
ここまでほぼ、打刀と傭兵シリーズと青の木盾のみで進んできましたが、そろそろ限界が見えてきたかな…。
どの敵に何の属性が有効化も、魔力エンチャントでどれくらい威力が上がるのか分からないけど、そろそろ魔術とかにも手を出してみようか。
それとも徹底して技量を伸ばすべきか…。



ところで、ウェストライブもとい西住さんちのウス=ヰ本って、母親と姉ばっかりだなぁ。
それだけエロいって事なんでしょーが、妹がエロくない訳ではないと思うんだ。
ピッタリ似合うシチュエーションが見つかってないだけだと思うんだ。

と言う訳で、西住みほに呼ばれるとしたら、『お父さん』か『パパ』のどっちがいいか真剣に悩んでおります。


P3G月

 

 

 とりあえず、ウェストライブ嬢から指定された素材をせっせと集める。確保してきても、品質が悪かったり(この場合は仕方ないとは思うが)、目的に沿うような大きさじゃなかったり、強度が足りなかったりしたら再度持ってこい、と言うのは普通に鬼畜な話だと思う。トッツイでもそこまで……いや、言いそうだよなぁ…。

 ガチで言うかはともかくとして、少なくともウェストライブ嬢との契約には、そこら辺の事もきっちりと明文化されている。鬼畜な条件である事には変わりないが、ケチをつけてくるよりはマシだろう。

 

 …こんな時になー、プリズムが言ってるようなモンスターを引き寄せる呪いとかあったら楽なんだけど。いや、そう都合よく目的にモンスターが来てくれるとは限らんか。

 

 

 と言う訳で、今回はエドワードさん・ギースさん・ギネルさんと、珍しい事に野郎だけで討伐に来ております。

 まぁ、モンスター…クアルセプスは無事討伐できたんだが、その帰りの事。近況を色々話しています。

 

 

「あー…あの爺さんに襲われたのか。災難だったな」

 

 

 襲われたっつっても、実害はありませんでしたけどね。なんつーか、ガチで考えたら強いのに、ギャグ補正が入ってるから勝手に自滅すると言うか…。

 

 

「まぁ…そういうご老体だしね。僕も一時期、色々絡まれたものだよ。赤フンのおかげでどうにかなったが」

 

「それは恐らく、裸で迫るエドワード殿に恐れをなしたのだと思うでござる…。ふむ、しかし歌姫殿は順調に元気になっているようでござるな。良き哉良き哉」

 

「…そうだね。歌さえ歌わなければ、以前のような惨劇もおきないだろう」

 

 

 どうですかねー。真面目な話、歌とモンスターとの関連性だって解明されてる訳じゃないですし。

 …そもそも…いや、皆さんは口留めされてるって分かってますけど、どうしてトキシの事が秘密にされてるのかが分からない。

 

 

「うん? お前、トキシの事はもう大体知ってるんじゃねーのか? トキシと歌姫の関係も知ってるようだったから、俺様はてっきり」

 

 

 いやそこは分かりますよ? 分かりますけど、何でそれを秘密にする必要があるのかと。

 プリズム…歌姫がトキシに惚れて、力を失った。その結果、村はモンスターに襲われ、それに対抗する為にトキシは戦って死亡。ここまでは知ってます。

 

 

「…大体把握しているではないかね。それ以上の何が疑問だと?」

 

 

 だ~か~ら~! これ別にトキシは何も疚しい事してないでしょーが! 何でわざわざ口留めするのかがわかんねー!

 

 

「ああ…そういう事か。それは非常に単純な話だよ、君。…それくらいなら、口にしても構わないね。考えてもみたまえ。トキシは…当時はレジェンドラスタという制度も無かったが、僕達にも多大な影響を与えた凄腕のハンターだ。率直に表現すれば、英雄とすら言っていい実績を持っている。その彼が、間接的にでも村の滅亡に一役買ったと知られたら、どうなると思う?」

 

 

 それは……。いや、理屈は分からんでもないが…。

 

 

「村の滅亡の責は何処にあるのか。トキシに心を奪われた歌姫殿か? 意図せず心を奪ったトキシか。…誰にも非はない、と言うのは簡単でござるが、それでは滅んだ村の住民達…殆ど冥府に居るでござるが…と、その関係者の感情が晴れぬ。トキシに非があるとすれば、ハンターの信頼と権威に傷がつく。歌姫殿に非があるとすれば、まだ生きている彼女の心に追い打ちが入る」

 

「加えて言えば、歌姫とトキシ、どちらか片方でも話が漏れれば、二人の関係も遠からず暴き立てられるだろう。ギルドの権威の為にも、歌姫の生活の為にも、全てを秘する事が最善の方法だったのさ。…納得したかい?」

 

 

 

 何とか…。スッキリしない所もあるけど。

 

 

「そりゃ俺様達だって同じだ。色々と理屈をつけちゃいるが、結局ギルドの都合のいいように話を盛ってるのは変わりねえ。ハンターにその手の話は必要ないってのによ…。もっと単純で、余計なイザコザなんざ入らないのがハンターのあるべき世界だぜ」

 

「ギネルの言う通りだと思うよ。残念ながら、世の中と言うのはそれが許される程単純な作りではないようだけど、ハンターの有り方はそうあるべきだとは思う。…うん、話が逸れてきたし、そろそろ帰ろうか」

 

 

 うーい。ご協力、あざっしたー。

 

 …でもやっぱスッキリしねぇなぁ…。いや、ハンターの有り方がどうのじゃなくって、何か誤魔化されてるような……はい? なんすか、キースさん?

 

 

「…これも本来、口にしてはならぬのでゴザルが…もしもトキシが、歌姫殿の想いに応えていたら、どうなっていたと思うでござる?」

 

 

 どうって…正直予測がつかないですね。力が復活するか、完全に消え去るか…。

 

 

「そこではなく……いや、これは拙者の聞き方が悪かったでござるな。何故、トキシは歌姫様の想いに何も答えなかったのだと思われる?」

 

 

 何故って……そういやそうだよな…。贈り物をするくらいだし、一個人としてでもそう悪感情は持っていなかった筈。応えたら力が失われる恐れが…でも応えなくても力はどんどん弱くなっていったんだし…。

 と言うか、YESにせよNOにせよ、ちゃんと応えてやったんだろうか? それで踏ん切りがつくとは限らないが、宙ぶらりん程辛い状態はないだろう。案外、その精神状態が原因で、力が弱くなったんじゃないだろうか。

 

 人の心を打算や法則で扱うような言い方をするが、受け入れるにせよ振るにせよ、「待っていてほしい」の一言くらい言っておけば、大分安定してたんじゃねぇかなぁ…。

 

 

「…その辺でござるよ」

 

 

 んあ?

 

 

「拙者のようなケツの青い若輩者にして未熟者が語るのも憚られるでござるが、事の次第を穏やかに伝えるにはケツが青く、古今無双のモノノフ殿が望むような天晴な結論をオイソレと纏めることもママならず、やはりケツは青く、だがしかし、拙者の心持としては、古今無双のモノノフ殿の肝にストンと落ちる事ができるように弱輩ながらも励むことだけがお役目とは思いまするがやはりケツは青く、誠にかたじけなく、拙者は心底から自らを情けないと思っているのでゴザルが、やはりここでは弱輩とはいえ、少しでもお役に立ちたいという忠義を示すべく、考えに考え抜いた口上と結論の中から選んで語らせていただきたいと、この場に参上いたした次第でゴザルがやはりケツは青く」

 

 

 キースさんの尻に蒙古斑(アオアシラ型)があるのは分かったから、そろそろ結論をお願いしますいやマジで。

 

 

「む…失礼したした。何というか、拙者のようなケツの青い…とと、その、非常に言い辛いのでゴザルが……トキシはその……童だった故」

 

 

 童ってアンタ……ああ、女心が分からないとか、そういう意味か。下手すると、プリズム…歌姫が初恋の相手で、どう対処すればいいのかさっぱり分からなかったと?

 …あの、キースさん? 何で顔を逸らすので…。

 

 

「……………………貞操が」

 

 

 ………はい? 貞操が……童? それってつまり…。

 

 

「そういう事にゴザル…。我々以上に、狩り一筋で生きてこられた御仁だった故。実を言うと、歌姫殿に対してどう対応すればよいか、何度か相談を受けた事がござった。…拙者もロクな答えを返す事が出来なかったでござるよ…」

 

 

 じゃあ…何か? 誰に責任が、とかそーゆー話は置いといて、初恋の人を前に舞い上がって逃げ出してしまう少年のよーな心の為に、トキシは何のリアクションも返す事ができず、プリズムは心の安定を失って歌の力まで消え、更には村の滅亡にまでつながったと?

 

 

「現状、見えている情報を強引に繋ぎ合わせると、そのような解釈に…」

 

 

 ………ああうん、これは言えんわ…。事実かどうかはともかくとして、口に出す気にもならんわ…。

 仮にもレジェンドラスタに多大な影響を与えた、英雄と言えるハンターが童貞で、それが原因で村が滅ぶとかアホ臭くて考えるだけでも嫌だわ…。

 

 

 こんな事言うのも何だが、その相談、受けてたのが俺だったらなぁ…。女心はともかく、女への接し方と言うか触れ方くらいは教えてやれたかもしれん…。

 

 

「…そうでござるな。凄まじい女関係を築いておる古今無双のモノノフ殿のお話なら、参考になったやもしれぬ。実のところ、拙者も興味はあるのでござるが、ケツの青い未熟者には早すぎるかと」

 

 

 いやぁ、むしろコッチ系を齧らずに一人前になれる筈ないと思うけどなぁ。人肌ってのは、何よりも明確な絆とコミュニケーションだぜ?

 具体的に言うと…まぁ、俺が使ってる霊力が最低条件で、ついでに言うと故郷(というか異世界)の本職には、『人間の構造上不可能な、完全に妄想の産物。何故実現できているのか分からない』と言わしめたもんなんだが。

 詳細はだな…。

 

 

「ふむふむ、ほうほう………おう? いやちょっと待つでござる、さっきの一言、もう一度…………うむ? うむむむ? どこかで聞いた覚えがあるような…」

 

 

 …マジで?

 

 

「うむ…故郷に居る間に聞いたのは間違いないと思うのだが…はて、誰から聞いたのだったか…。『まがい物』だの『ウソ八百』だのの喚き声とセットになっているので、恐らく実践しようとして失敗したのであろうが…。故郷に居た頃の、太刀の扱いすら儘ならぬ、ケツが藍より青い拙者がその手の話をするとなると、師匠か、或いは兄弟子方か…近所の悪童どもではないし、同年代の男は見栄を張り合って興味が無いフリをしておったからの…ガチ勢も居たが」

 

 

 …一回、その故郷とやらに行ってみたいもんですな。ガチ勢には近寄りたくないが。

 

 

 

NTD3DS月

 

 

 新しい月に突入した。フロンティアに居ると、ホント月日の流れの感覚が狂うわ…。だって数日の内に繁殖期と温暖期と寒冷期が一巡する事すらあるんだもの。

 季節の変わり目は体調を崩す人が多いけど、ここだとそーゆーレベルじゃないよなぁ…。全ての気候に適応できなきゃ、生活すら儘ならぬ。

 

 さて、そんな気候の中、3日に1回くらいのペースで、ストライカーの面々と、デンナー・コーヅィに霊力の使い方を伝授している。

 装備を使ったアラタマフリの効果や法則も大分解明できてきた。

 

 基本的に装備に使った素材によって効果が変わり、その効力は大体一定なのだが、例外があった。装備…いや、素材となったモンスターとの相性が良かったのか、特定の装備を使った時だけ、矢鱈と効果が高かったり、普段と違う効力が発揮できる例があった。

 例えば、ミーシャがノノ・オルガノンの装備、神座シリーズを身に着けた場合だ。

 

 うなじが普段の3割増しに艶めかしい…のは置いといて、通常のスキルに加え、他の人間がアラタマフリをすれば、若干ながら動きが素早くなる効果があった。ジャンプ力も高くなる。

 が、ミーシャが使った場合……上記の効果に更に加えて、怒声に咆哮(小)が付いた。

 

 

 …もう一回書くぞ。

 

 

 人間のミーシャの声に、咆哮(小)がついた。

 

 

 どうなってんだコリャ。単に声が大きくなっただけと言われりゃそれまでだが、ハンターの体を一瞬とは言え竦ませる効果があるとか…。音響玉が耳元で破裂しても、全く意に介さず行動できるというのに。

 しかも、本来のアラタマフリ効果である素早くなる効果も、他の人より格段に高い。と言うか、どんどん効果が高くなっている。

 

 使っている本人の証言によると、これからも、もっと強くなっていきそうな気がする…との事だ。

 ふーむ…効果が高いのはいい事だが、後遺症が心配だな。新たな技術なんだし、こういう予想外の問題が発生するのは当たり前か。

 

 その辺のリスクも呑み込んだうえで、ミーシャはアラタマフリを使い続ける事を決めた。強力な武器である事は間違いないし、俺がこの力を広めようとしているのだから、それが上手く行けば自分のような現象はきっと起こる。その時のテストケース、サンプルと考えればいい…と。うーん、覚悟決めちゃってるなぁ…。命の危険は無さそうなんだが…。

 ふむ、とりあえず、似たような現象が他の皆で起きないか、装備を変えて試してみよう。

 

 

 

 それにしても……ミーシャの赤い髪と相まって、アラタマフリで異様に素早くなった姿は、どうもアレを連想させるな…。まだ狩った事は無いが、ミドガロン…だったか。まぁ、まだ目で追えないくらいのスピードは出せないようだが。

 

 

 

 さて、それは置いといて、ストライカーから、ミキ・ウェストライブの情報が飛び込んできた。と言っても、何処にいる、と言う情報ではなく、その周辺についてだ。

 フロンティアに居るのは確からしいが、どうにも単なる家出という訳ではないようである。きな臭い……のかな?

 

 この辺はマオから聞いた話なのだが、やってきたマキ・ウェストライブも言っていたように、彼女達はそこそこいいトコの領主である。貴族と言ってもいい。

 母であるシキ・ウェストライブは相当な堅物だが、その実績と領地運営の手法は確か。また、様々な形でのハンターへのサポート活動を行っており、流れのハンターからも、領民からの評判もいいようだ。

 マキ・ウェストライブも、その手腕をそのまま受け継いだかのようだ。ただ、先日相談に来た戦車に傾倒しており、その事であっちこっち走り回ったり、領民に多少の負担を強いているとか。

 

 で、問題のミキ・ウェストライブ。この子も出来がいい子に分類できるのだが、どうにも「鉄の規律」と呼ばれるような家風が肌にあってないらしく、気弱な一面がよく知られているそうな。別に落ちこぼれ扱いされている訳ではないし、むしろ母・姉からは不器用な愛情を注がれている…と領民は思っている。当人は、それが今一つ信じられてないらしいが。要するに劣等感というかコンプレックス持ってる訳ね。

 どういう訳だかこの子、突然ウェストライブ家から出奔している。それだけ聞けば、単に家に居辛くなった少女が家出したってだけに思えるが…どうにも前後のトラブルが怪しい。

 彼女が出奔する前日、ウェストライブ家で侵入者騒ぎがあったそうだ。数人が昏倒させられるも、それ以上の被害は無し。昏倒させられた人達は、「突然気が遠くなった」と証言しており、下手人を見た者は皆無。

 その翌日に、ミキ・ウェストライブが居なくなったものだから、口さがない者達は「ミキ様が侵入者だったのではないか」「いやいや、侵入者に攫われたのではないか、常識的に考えて」「でも俺、朝にフロンティア行の馬車に乗って何処かに行ったミキ様を見たぞ」なんて囁かれているらしい。ちなみに最後の情報の証言者は、ウェストライブ母子から尋問まがいの圧迫面接を受けるハメになったようだ。

 

 

 

 うーん……マキ・ウェストライブの様子からして、ミキ・ウェストライブが窃盗犯だと思っている…のは無いと思う。純粋に心配していたようだった。

 となると、一番の問題は、何故ミキ・ウェストライブがフロンティアに突如向かったのか。この際、侵入者がミキ・ウェストライブなのかは、切り離して考えよう。

 失踪の前日、何やら失敗して母から叱責を受けたらしいが、これはそう大きな失敗ではなかったらしい。長年のうっ憤の爆発…と言う訳でもないと思う。少なくとも、それだと侵入者騒ぎに繋がらない。

 

 結局のところ、本人を見つけ出して話を聞くしかないが…なんだろな、スッゲェ面倒事の予感がするよ。

 

 

 

NTD3DS月

 

 

 …3軒隣のメゼポルタ広場から狩りに出て戻って来たんだが…なんかこう…モヤッとする感覚があるな。

 別に、一緒に行っていたタイゾーさんが悪いのではない。暑苦しいが。

 ナターシャとリアが、何かのモンスターへの対策にどんな武器がいいかを割と真面目に話し合い、それに板挟みされてたんだよなぁ…。入って行って、俺のモンスターで上手く気を逸らしたんだけどね。その時に助けてくれたお礼だって、狩りを手伝ってくれた。

 まぁ、今回は然程強敵ではなく、マキ嬢への納品の為に数を狩らなきゃならなかっただけだが…充分助かってるか。

 

 それはともかくとして、こっちのメゼポルタ広場に到着してから、妙な感覚がある。霊力…じゃない。けど、こう…本来この世界にあるべきではない力のような…。

 ふむん?

 霊感にひっかかる感じはあるんだが、逆に霊力的なレーダーには何も感じられない。暫くメゼポルタ広場を歩き回ってみたが、それでも何もない。

 …横で騒いでいるタイゾーさんが悪いって訳じゃないと思う。悪目立ちしてたけど、そんな事はレジェンドラスタとしてはいつもの事である。

 

 気にはなるが、見つからないものは仕方ない。日を改めてみるとしよう。

 

 

 

 …と言うか、家に帰る途中にサーシャがすっ飛んできた。また可愛がられにきたのかな? と思ったら、割とシャレにならない事態。

 つーか、毎度毎度思うがアレだ、揉め事が起こるのはこの際仕方ないとして、頼むから連続して押し寄せてくるのはヤメロ。二つも三つも同時に来ると、大した事ない揉め事でも死ぬほど面倒臭く感じられるから! マーフィーの法則と言うか、泣きっ面に蜂の法則と言うか…世の中ってそんなもんだけどね…。

 

 ともあれ、発生した揉め事を順に記そう。

 

 

①ミーシャに耳と尻尾が生えた。エクセレント!

 

 

②トゥルートの故郷にモンスターが迫っていると連絡が入り、シスコンが飛び出していった。

 

 

③サーシャの友達のイールが酒&なんかマズい食い物浸り状態。よく分からんけど、大した事じゃない気がする。

 

 

 とりあえず、③は気絶させて酒が抜けるまで吊るしとけ。下にはリバースを受け止める為の洗面器も忘れないように。

 

 ①は…個人的にケモミミも大好きなんだが、これが何らかの異常であるのは明白だ。装備や装飾品ではなく、明らかにマジモノだもの。触ったら感触もあるらしい。

 性癖には大ヒットなんだが、本人にしてみれば突然人間からキメラに変わったようなものだ。検査が必要だろう。

 

 

 すぐにミーシャの体を調べたい(エロは安全が確認されてからだ!)ところだったが、トゥルートも放っておけない。

 武器も持たずに、全力ダッシュで馬で走って行ったらしいからな…。

 トゥルートが向かった場所は、馬を全力で走らせ続ければ、1~2日くらいで到着する小さな村。立地条件としては、ポッケ村に近いか? 大したハンターも居ないその村に、古龍が迫っているらしいのだ。

 今はまだ近くをウロウロしているだけらしいが、いつ村にブチ当たってもおかしくない。もしそうなれば、村は勿論壊滅だ。

 

 

 ミーシャの事も気になるが、最優先事項は②だろう。ミーシャには極力人と触れ合わない状態で安静にしておくように伝え、俺はトゥルートを追う。

 猟団ストライカー所有の馬はトゥルートが乗っていってしまったので、現状では追いつけるのは俺の鬼疾風くらいだろう。ガーグァ車も馬には追いつけないし、鬼疾風を唯一会得しているジェリーも瞬間最高速度はともかく、スタミナ(と言うか霊力)の絶対量が足りない。もっと足腰立たなくなるまでイタして、増幅してやっとけばよかったか。

 

 トゥルートの武器(大剣)を預かり、モンスターを避けながら文字通り走って追いかけていく。

 途中で使い潰されたらしい馬を発見して、ちょっとだけ馬刺しにしようか迷った挙句に近所の村に預け、再度追いかける。

 

 追いついた時には、トゥルートは汗だくになりながら全力疾走していた。…どっかで馬なり馬車なり借りればよかっただろうに、それも考えられない程焦っていたのか。

 仕方ないので、担いで鬼疾風で走りました。流石に走りにくいけど…。

 

 

「……! …!」

 

 

 何言ってるのかよく分からんが、とりあえず休んどけ。そんな疲労困憊で村まで辿り着いて、何するつもりだったんだよ…ま、心配だからすぐにでも帰りたかったって気持ちは分かるけども。

 む、汗が垂れてくる……この状況じゃご褒美とか言ってらんねーな。

 

 トゥルート、道はこっちでいいんだな? …………おい、何か煙が見えるが…まさか?

 

 

「……………!!!!!!!」

 

 

 分かった分かった、急ぐから少しでも体力回復してろ! 何かあったとしても、そのザマじゃ何もできんだろうが!

 ったく、ハンターなのにスタミナ回復に時間がかかるくらいに走るとは…。逆に時間がかかったんじゃないか? まぁ、言っても仕方ないけど…。

 

 

 

 …………古龍の咆哮が聞こえる。この声は………聞き覚えがある…。

 襲われる村、古龍、この声…。

 

 

 

 トゥルート、裏技使って文字通り全速力で突っ切る。村に着くまでの時間次第では、俺は途中でダウンすると思ってくれ。あと、これから見る事は絶対誰にも言わないように。

 OK? ……よし。そんじゃ、久しぶりの…。

 

 

 

 

 

 アラガミ化!

 

 

 

 からの、移動速度系バフてんこ盛りダッシュ!

 

 

 

 木々の上を駆け抜け、一気に村まで走りぬく。

 ……トゥルートは絶望したような表情になっていただろう。いや、移動速度が速すぎてアッチ側が見えたとかじゃなくて、飛び上がった時に見えた村が、既に壊滅状態になっていた事にだ。

 

 俺は……アラガミ状態のおかげで表情は極めて分かりにくくなっていただろうが、多分激怒か無表情のどっちかだ。

 …嫌な事を思い出す…!

 

 燃え盛る村、逃げ惑うまだ無事な村人達、その真ん中で雄叫びをあげる……ルコディオラ…! ああ、そうだ、そうだな! ユニスを殺した(未確認だけど)お前を、まだ狩ってなかったよなぁ!

 クサレイヅチ程じゃねーが、テメェにも怒り心頭きてっぞ…!

 

 …とは言え、第一優先事項が救助である事は忘れてはいけない。

 トゥルート、体力回復したか?

 

 

「な、何とか! それより早く!」

 

 

 ここからお前をブン投げる。ハンター式着地術は使えるな? しっかり衝撃を殺せよ。

 武器は持たない方がいい。アイツは磁力を使う古龍だから、下手に金属持ってると吸い寄せられたり弾かれたりする。

 アレを斬るのは俺がやるから、住民の避難を頼む。

 

 最後に一つ、こういう場合に使える必殺技を伝授しておく。何、お前なら今すぐにでも使える技だ。………覚えたな? よし、行け!

 

 

「赤い煙突がある家の前に投げてイィィィリスゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!」

 

 

 妹の名前を叫びながら、放物線…じゃないな、一直線にすっ飛んでいくトゥルート。ルコディオラもあっけにとられているように見えた。

 …あ、いけね、このままだと思いっきり壁に激突……受け身取ってたから大丈夫か。おお、元気に動いとる。 

 

 でもルコディオラの意識があっちに向いた。…家から女の子を連れて出てきたようだが、自力では歩けないようだ。

 トゥルートが庇ってるが、これはマズい…くそ、ここからじゃ神機の狙撃も…!

 

 だが、そんな状況でこそ輝くのが、さっきトゥルートに教えておいた…。

 

 

 

「くらえ! 直伝、最終兵器・そこら辺にあるもの!」

 

 

 メシャ、といい感じの音がした。そこらへんにあったでっかい瓦礫を、トゥルートの馬鹿力で思いっきりルコディオラに叩き込んだのだ。

 …ちょっとだけ、ルコディオラの動きが硬直した。瓦礫は粉砕された。

 流石に、ハンターの武器でもない物で殴られるとは思ってなかったんだろうか。瓦礫程度じゃ、ルコディオラにはダメージはないだろうが…。

 

 

 動きが止まっている間に、トゥルートは妹らしき人物を持ち上げ、全速力で退避した。

 

 

 

 …おお、正気に戻ったルコディオラの咆哮が聞こえる。怒り咆哮だな、コレ。ダメージ無しで速攻怒らせるとは、使い方と相手によってはいい武器になるかもしれんの。

 ま、それはともかく…。

 

 

 後はルコディオラをぶった切るだけだな。昔年の……でも時間的には未来のような……怨み、一方的な因縁、ここで晴らしてくれる。アラガミ化状態には、磁力なんぞ通じないぞ。…思いっきり謎素材になってっからな!

 

 

 

 



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277話

仁王のダウンロードコンテンツ第二段に不意を打たれました。
悟りの道どころか、修羅の道も無理なレベルです。レベルアップに必要なアムリタ量が跳ね上がってんだよなぁ…。
ダクソは一旦中止して、通常難易度だけパパッとやってしまいました。
うむ、盛り上がるのはDLC第三段からですな。



……ダクソに復帰早々に死にまくっております…。ああ4万ソウル…。
と言うか、大書庫奥のボスへの道がガチで辛いんですが。なんか雑魚も妙に強いし。

しかし、仁王はダクソやってからだと、大分印象が違う。
無印のみの時とは言え、一度はカンストさせたデータだから、通常難易度が簡単なだけなのか。
それを差し引いても、以前とは回避のタイミングとかの考え方が違う気がする。

修羅の道も途中までしかやってませんでしたが、この際だしコンプリートを…いやしかしダクソが…EDFがいつになるか分からないが、発売までにはクリアしたい。


しかし、ダクソとよく似てる分、操作が混乱するなぁ…。
キーコンフィグでどうにかなるかな…。




NTD3DS月

 

 ルコディオラは叩き斬ってやりました。激戦とまでは行かなかった。ま、フロンティア個体ではあったようだけど、下位個体みたいだしね。

 制限時間があったとは言え、アラガミ化状態の俺なら普通に狩れた。ちなみに、その時の俺の姿を目撃した人には、アレは全身鎧だと主張して誤魔化した。

 神機まで使ったしね。……鬼杭千切は使ってないけど。

 初手の鬼千切で角を破壊し、更に炎系のバレットで攻めまくる。…炎の理由? そりゃアレだよ、磁力って熱に弱いんだよ?

 

 

 まぁ、炎攻撃の余波で村が、壊滅から更地になったけど問題ないよね! 元々ほぼ全てぶっ壊れてたんだから、撤去する手間が省けたよ。

 …………はい、色々大事なものがあったんですねゴメンナサイ。

 

 

「い、いや…命あっての物種だし、古龍を相手に戦ってる間に、そんな事を考えてる暇がないのも分かるから…」

 

「こればっかりはな…。とにかく、イリスが無事なだけで私は充分だ…いや他がどうでもいい訳ではないが」

 

 

 イリス嬢ちゃんとトゥルートが、仕方ないと頷いてくれた。

 死傷者が数名いるが、大方の村人は無事だったようだ。俺とトゥルートに『どうしてもっと早く来てくれなかったのか』みたいな言葉も向けられたが、これが八つ当たりだって事は自覚しているようだ。…家内が死んじゃった人だったからな…。八つ当たりでも、感情の向く先は必要だろう。

 

 問題なのは、これからどうするか、だ。ぶっちゃけ、俺がどうこう口を挟む事ではないのだが、村人達には行く先が無い。村を再建しようにも、一月二月ではとても足りないし、そもそも金も燃えてしまった。

 こういう場合、古龍関係の襲撃と言う事で、古龍観測所から多少の補助が出るし、ルコディオラの遺体は村に譲ったので売り払って金にする事もできる。が、やっぱり足りない。再建できるまで、何処で寝泊まりすればいいのやら。

 

 イリス嬢ちゃんはトゥルートが連れていくと言って聞かないが、他の人達はな…。ストライカーじゃそう多く面倒は見れないだろうし、俺のところも何だかんだでハンターの集まりだ。

 

 

 うーむ…ウェストライブ家に援助を頼むと言うのはどうだろう? 一応、細いけど伝手ならあるが。

 

 

「ここはウェストライブの領地じゃないからな…。ここの領主は決して道理の分からない人物ではないが、先立つものが…」

 

「税が低いんだけど、その分こういう時に困るんだね…」

 

 

 うーむ、領地経営は難しいってレベルじゃないからな。俺もマトモに猟団を運営しているとは言えないし。

 …とりあえず、ギルドに相談してみるか…?

 

 

「それしかないか…。その間だけでも寝泊まりできる場所が必要だな。この周辺…は止めた方がいいか。あの古龍のおかげで、元々居た動物達のナワバリが無茶苦茶になっている。モンスターでなくても、充分な脅威だ」

 

 

 だな。悪いが、俺にこれ以上できる事は無い。…いや、猟団から何人かハンターを派遣するか?

 

 

「それだと君のポケットマネーから報酬を払う事にならないか? いや、この際金の問題は棚上げするとしても、やはり衣食住が…」

 

 

 堂々巡り。こういう場合、アレが足りないコレが足りないと言い出すと、結局全部足りないという結論にしかならないんだよな。

 とにかく何でもいいから動いて、使えるものを確保して、そこから出来る事を増やしていかないと。同時に文字通りのライフラインを作り上げなければいけないからな…。サバイバルがキツいのも当たり前だ。

 

 

「…うん、決めた。悪いが、ミーシャに伝言を頼む。私は暫くこちらに居る」

 

 

 村を立て直す気か? それとも疎開先を探す気か?

 どちらにせよ、ハンターが一人居れば、大きな戦力にはなるな。モンスターからの防衛、普通の動物を仕留めて食料確保、馬鹿力…特にトゥルートはね…を使った建築作業その他…。

 まぁ、張り切り過ぎて倒れないようにしろよ。

 

 

「ああ。一段落したら、私もイリスを連れてそっちに戻るよ。…皆にすまないと伝えてくれ」

 

 

 ま、事が事だから許可は出るデショ。そんじゃ、悪いけど俺はもう行くよ。

 

 

「あ、あの! ありがとうございました! お姉ちゃんから聞いたんですけど、貴方のおかげで間に合ったって」

 

「本当にな…。村が襲われる前に辿り着ければよかったんだが、もし君が居なかったらイリスまで…」

 

 

 お気になさらず。こっちとしても、結果的にはいつぞやの因縁を叩き斬れたしね。

 これから大変だと思うが、元気にやってくれや。

 

 

「はい…また会えますか?」

 

 

 あー、フロンティアに居るし、ストライカーとは色々と突き合いがあるし、その内またな?

 

 

「……む? むむむ…? おい、一応言っておくが、イリスに手をだすなよ」

 

 

 へいへい、おねーちゃんが怒る前に行きますかね。したらな!

 鬼疾風でサヨーナラ。

 

 

 

 

 うーむ、妹っつーからトゥルートを小型化したようなのを想像してたが………ロリ巨乳だったか…。

 吊り橋効果的なので、強くてカッコイイおにーさんと見られている気がする。でも、実際助けたのってトゥルートの方だよな。俺がルコディオラとやり合い始めたのも、彼女達が離れてからだったし。

 

 …ま、いいか。なるようになるわ。

 

 

 

 

 

 

 で、フロンティアに帰ってきて、ミーシャに報告。

 

 

「…そう、トゥルートの村が…」

 

 

 痛ましげな表情になるが、何を言っても意味がない。何か言うくらいなら、村人達の疎開先に心当たりがないか、尋ねたほうがまだマシだ。

 

 

「それだけの人数が居ると、纏めて疎開するのは難しいわね。親類縁者が居るなら、そっちを頼ってもらうしかないわ。ギルドや領主からの援助も、大きなものは期待できないし…」

 

 

 やっぱりそんなもんか…。援助が出るだけマシって事かな。

 トゥルートが抜けて、猟団の方は大丈夫なのか?

 

 

「貴重な戦力が一人抜ける事になるけど、何とかね。私やマオも、上級に昇格したばっかりで、暫くは地盤固めを続けるつもりだし」

 

 

 そうか…。

 ……………ところで、ケモミミは?

 

 

「引っ込んだけど、何で残念そうなの」

 

 

 いや…後遺症とか無いのであれば、耳元とか尻尾をシコシコスリスリしてみたかったなと。多分、普段の愛撫とは違った気持ちよさがだな。

 

 

「その気持ちよさって、私の話? それとも貴方の話? …それはともかく、やっぱりあの現象はアラタマフリが関係してるみたいよ」

 

 

 そうだろうなぁ。どう見てもマトモな現象じゃなかったもの。しかし、今までアレでそんな現象が起こったなんて聞いた事がないんだが…。

 今までのアラタマフリと違う事…と言えば、やっぱりモンスターの力を借りてる事か。

 

 

「そうね。あの耳と尻尾、自分では見れなかったけど、マオによると明らかにノノ・オルガノンのものだったそうよ。…関係あるかは分からないけど……ほら、アラタマフリを使う時に、装備に宿ったモンスターと対峙するじゃない?」

 

 

 ああ、アレね。毎回やるんじゃなくて、一度認めさせれば充分だけど…アレが?

 

 

「今思うと、最初から他の装備に比べて、なんていうか…反発が弱かった気がするの。それからも、装備を身に着けた時にほんの一瞬だけど、ノノ・オルガノンが傍にいるような気がして…」

 

 

 まぁ…装備になって傍には居るな。でも、他の装備じゃそんな気配は無い?

 

 

「無いわね。私の勘違いでなければ、なんだけど……宿っているノノ・オルガノンに好かれている…ような気がするわ。耳と尻尾が出るようになる前だって、あの白昼夢の中で、本当に犬みたいに擦り寄ってきたし」

 

 

 ふむ…。考えられる話ではあるな。現にフラウは、霊力の扱いを殆ど教えてない状態なのに、武器への信頼だけでアラタマフリをマスターして見せた。

 逆に、装備から信頼される、或いは好意的に思われる…と言う可能性もある。

 しかし、何故その装備だけ…。

 

 

「相性…かしら? 霊力を持つようになった人達に聞いてみたんだけど、装備によってやりやすい、やりにくいがあるみたいだし…。まぁ、レジェンドラスタ達には全然関係なかったみたいだけど」

 

 

 うーむ…デンナーやコーヅィから、そんな話は出てないな。あいつらも結構使えるようになってきて、色々試してるんだが…。

 

 …いや、ちょっと待てよ? その、やりやすいやりにくいを強く感じているメンバーは?

 

 

「そうね…霊力を持ったのは殆どストライカーのメンバーだけど…その中でも特に顕著だったのは、ウルクスス装備のジェリー、イャンガルルガ装備のマオ、フォロクルル装備のアンナ…」

 

 

 …装備の組み合わせはともかくとして……ひょっとして、元々持っていた異能と何か関係がある…?

 そう…考えてみれば、ミーシャ達が最初から使えていた異能は、霊力を鍛えて覚えたもんじゃない。後天的なものと考えるには、妙に完成されていた。

 

 

「…そうなの?」

 

 

 そうなの。俺だって、今でこそ祝詞…呪文も無しにホイホイタマフリを使ってるけど、最初はかなり苦労したんだぞ。前提条件として、どんな相手に祈るかの知識をしっかり覚え、集中力を上げ、霊力を高め、そしてミタマの力を借りる。この一つだけでも無くなれば、タマフリの効果は激減する。

 それに対して、異能はどうだ。完全に使いこなせているとは言えないが、最初から自然と発動させる事ができたじゃないか。

 

 

「そういう子ばかりじゃないんだけど…。つまり、何? 異能と霊力そのものは全く別物で、霊力は異能のパワーアップに一役買っているだけ、と言う事? そして、異能の根源にあるのは、私達の中に宿る…モンスター的な何か?」

 

 

 ああ…。パッと考え突くのは、人間とモンスターとのハーフ…とか何だけど……どう考えても、子供できねーよなぁ…。

 

 

「犬と猫で子供が出来るかって話でしょ? それ以前に、殆どモンスターのアレは………その、人間にはちょっと」

 

 

 獣姦にしたって、物理的にな…。エロゲじゃあるまいし。

 まぁ、人間の遺伝子…って分からんか。とにかく体の中には、ずーっとずーっと昔、それこそ人間とモンスターの区別がつかないような生物しか居なかった頃の情報が詰まってるって話もある。そこから何か近いモノでも出てくるのかもしれないな。

 

 

「その情報とやらが、装備に宿ったモンスターの力と霊力で結びついてあんな事に?」

 

 

 あくまで仮説だが…。どうしよ、検証できないなコレ。

 

 

「結局のところ、リスクはあるの?」

 

 

 …正直言うと、ある。人間の中で眠っている情報…遺伝子っつーんだけど、コレを弄るのは凄まじく危険が伴う。どんな影響が体に出るか、マジで分からん。

 俺の知ってる一番極端な例で言うが…これを弄った結果、体が変質してモンスターみたいになっちまった、って話もある。(ちなみにゴッドイーターの適合失敗の事ね)

 それだけでなく、一見すると問題ないように見えても、体の内側が徐々にボロボロになっていったり、生んだ子にまで影響が出るって話もある。

 

 逆に、小さな例で言うと……………うーん、人間の話じゃないが、例えば植物な。コイツの遺伝子を弄った結果、冷気に弱い植物が寒い地方でも育つようになったり、実が多く生ったり、美味しくなったり。

 

 しかし、例云々以前に、遺伝子が変質したり傷ついたりって、相当な事がないと有り得んぞ。いや、確か老化で傷ついていくって言うのは聞いた事あるが、それはあくまで正常な範囲での傷の筈。

 少なくとも、この世界にそんな事が出来るモンスターが居るとは思えない。…自然に発生するとも考え辛い…。

 

 

「…リスクが大きすぎるわね…。とは言え、まず起こらない事態でもある…。とにもかくにも出来る限りでも調べない事には…」

 

 

 …そうだな。取り敢えず、実物見てみるか…。触っていいよね?

 

 

「…ちゃんと検査しなさいよ。割と真面目に危険かもしれないんだから」

 

 

 

NTD3DS月

 

 

 …結論。無害…だと思う、多分。少なくとも、遺伝子云々は杞憂っぽい。

 ミーシャに現れたミミとシッポは、限りなく高密度の霊力だった。…またそれか、と思わなくもないが、まぁ霊力が原因で引き起こされた自体だからな。そう不思議でもない気がする。

 

 装備に宿ったモンスターの力がミーシャの体に流れ込み、それと特別相性が良かったミーシャは、無意識にその力を取り込んで、それを自分に投影してしまった…ようだ。

 だから、装備を外して暫くするか、霊力を落ち着けてしまえば、耳も尻尾も消滅する。逆に、霊力を高ぶらせた状態を長引かせれば、ずっとミミシッポ状態のままである。 

 

 

 

「…と言う訳だから、安心しても良さそうよ」

 

「そうか…。今後の様子見も必要だが、まずは一安心だな。正直、今から霊力も異能も無しに上級を続けろと言われると、シャレにならなかった」

 

 

 すまんなぁ、俺もちょっと軽率すぎたかもしれん。こんな影響が出るとは…。

 

 

「そこは仕方ないわ。前人未踏の試みだったなら、どこかでリスクは負わなくちゃいけないもの」

 

 

 それでもなぁ…。…いや、確かにこれ以上言っても仕方ないか。

 

 

「そういう事だ。……ところで…逆に事を聞くが、これは意図的に起こせる現象か?」

 

「…マオ? ちょっと…」

 

「調べるにしても比較対象は必要だろう? …大体…調べたんだろ? 耳と尻尾を。どうだった? かなり敏感だったよな? しかも体に霊力を流し込んで調べるとなると、当然一番効率のいい方法は、毎晩コイツが楽しんでいるオカルト版シンゴンタチカワリュー…だったか? それになる訳で?」

 

「…………」

 

 

 ………ご明察。とりあえず安全と判断したら、速攻で弄り倒しました。

 ケモミミはいい、ケモミミはいいぞ…。しかしそれだけではない。尻尾の先端をコシコシしたり、逆に付け根の部分を刺激すると、体をくねらせて悩ましい声を「喋るなー!」

 

 はっはっは、スマンスマン。

 が、マジレスすると散々デバガメやってんだから、自分の事をバラされても怒る権利はないと思う。

 

 

「自分からどんどん浮気相手増やしていってるアンタが言うな。最初はこっちから宛がうつもりだったのに、その必要もないくらいの速度で増やすなんて…」

 

 

 俺から仕掛けてるんじゃない、何か知らん気が付いたらそうなってるんだ! …いやマジでね。フローラとの時なんて、自分でやっといて何だけど、どうしてああなったのかマジで分からない。

 夜中のトイレで鉢合わせするだけなら分かるが、何故かそのまま同衾して本番だもんなぁ…。

 

 

「ちょっと何言ってるか分からんな。とにかくアレだ、調べる必要があるという本音もあり、ミーシャばっかりズルイという建前もあり…」

 

 

 本音と建前逆じゃね。心の声が漏れるんじゃなくて、文字通りの意味で。

 

 

「おっと失敬。そういう訳で、今度は私だ! 文句はないよな、ミーシャ?」

 

「文句はないけど………一応忠告しておくわ。覚悟しておきなさい」

 

「…………」

 

 

 生唾飲んでるマオのご期待に、存分に応える所存デアリマス。

 

 

 

 

 

 

 さて、夜の予約はともかくとして、ちょっと酒場に顔出し。

 えーっと……ああ、居た居た。エドワードさん、ちょっといいですかね。

 

 

「む? 構わないよ…おや、また何か厄介な問題を抱えているようだね」

 

 

 分かりますか。ただ、珍しい事にレジェンドラスタ絡みじゃないんですよ。

 

 

「と言う事は、女性関連と見た」

 

 

 …うん、よく分かっていらっしゃる。ただ、今回はそーゆー関係の女性じゃないです。実はですね…。

 ~~トゥルートの村の事を相談中~~

 

 

「ふむ……成程、それは確かに問題だ。問題だが……それはハンターの考える事ではない」

 

 

 ええ、どっちかっつーと領主の仕事だってのは分かってます。でも、実際問題、領主さんじゃすぐには解決できそうにありません。

 例え他人の仕事の領分を犯すのだとしても、見殺しにするには…。

 

 

「その言い分も分かる。…しかし君、何気に僕に色々持ち掛けてくるね」

 

 

 何だかんだで、フロンティアの活動について多くのアドバイスを貰った身ですんで…正直、頼りにしてます。

 

 

「そう言ってくれるのは嬉しいし、君のおかげで女性陣の暴走がかなり治まっているから、協力してあげたいのは山々なんだがね…。実現可能かどうかはさておくが、領主が無理なら貴族、或いは豪商かな。援助、或いは投資を求めるならば、相応の対価を示さねばならない」

 

 

 貴族と豪商…。レジェンドラスタのティアラさんは?

 

 

「確かに彼女は貴族だが、生まれも育ちも所属もこの辺りの貴族ではないよ。はっきり言ってしまえば、口出しする筋が無い。そして貴族が行動する際、建前でもいいから筋が通っていなければ、それはより大きな諍いの火種となるだろう。分かりやすく言えば、強引に援助した場合、領主の面子を潰してしまうと言う事だ。何より、ティアラが無償で動く筈もない」

 

 

 一方的に押しかけて、援助だけしてくれってのは乞食と同じか…。何かしらの見返り……。

 金は持ってるだろうし…モンスターの素材も、自分で取ってこれる。VSクエストによる勝負は…。

 

 

「やめておくのが賢明だね。君も随分腕を上げてきたが…はっきり言おう、本気になった我々とはまだ勝負にならない。……まだ、君が誰にも見せた事のない異能を持っていたとしてもね。」

 

 

 ですよねー。ったく、腕を上げれば上げる程、それ以上の奴がゴロゴロ目につくんだから…。

 と言うか、異能の事気付いてましたか。

 

 

「霊力以外にも切り札があるだろう、と言う事くらいはね。他に貴族との繋がりは? ああ、僕は駄目だよ。もう没落してるからね」

 

 

 うーん…クエストの依頼主…じゃ弱いか。他には………ああ、ちょっと変わったクエストを受けてる貴族なら居る。

 長期間かつ大量のモンスター素材収集と…後は、人探しをしている貴族。

 

 

「ほう。G級ハンターにそれだけ拘束すると言う事は、かなりの報酬が期待できるね。その報酬を無しにする代わりに、村を援助してくれ…か。悪くはないが…そこまでする義理はあるのかい?」

 

 

 ぶっちゃけ無いです。トゥルートに頼まれた訳でもないし、何より俺が背負いこむ理由も無い。

 

 放っておくと寝覚めが悪そうだから、助ける方法を探してやろうかなってくらいの軽い気持ちっすわ。

 募金箱に10zくらい入れるだけでも…。

 

 

「やれやれ…。そんな気持ちで貴族を動かそうとすると、後で確実に面倒な事になるよ? …それで、その貴族と探し人と言うのは?」

 

 

 …一応守秘義務………別にねーな。正式に仕事を受けた訳じゃないし、そもそも人探すのに名前も知らせるなってのは厳しすぎる。

 依頼主については伏せるけど、探し人はミキ・ウェストライブって子。

 

 

「……ウェストライブ? シキ・ウェストライブの娘のミキ・ウェストライブかい?」

 

 

 あー……どうだっけ、マオがそんな名前を言ってたような…。ご存じなんで?

 

 

「いや、ミキ・ウェストライブには会った事もないな。ただ、あそこの家風に馴染まない、引っ込み思案な子だと聞いた事はあるが…彼女がフロンティアに来ていると?」

 

 

 理由は分からないけど、そうらしい。何か知ってます?

 

 

「知らないが、新入りのハンターとして来ているのなら、教官達に聞いてみればいいんじゃないかい? 指導したハンターは全て覚えていると豪語しているくらいだし、大抵メゼポルタ広場の入り口に居るからね。ただ、あそこの家風は『ハンターへの協力』だから、娘にハンターとしての訓練を受けさせるかはちょっと疑問だなぁ…」

 

 

 …その手があったか。最初に世話になったっきりで忘れてた…。と言っても、どのメゼポルタ広場に来てるのかは分からないんだよな…。各広場を周って、そこを担当している教官に聞いてみますか。

 ありがとうございます。

 

 

「何、ちょっとした雑談をしたまでさ。…ああそうだ。新入りのハンターと言えば、ちょっと噂になっている子が居たな。年頃の女の子なんだけど、ハンター基準で考えても非常に高い身体能力を持っている有望株……なんだけど、弱気な所があってそれを全部台無しにしていまっているとか」

 

 

 それ、別に珍しい事じゃないでしょ。身体能力が頭抜けてるのはともかく。

 

 

「いや、彼女が噂になっている理由はそこではなくて……物凄く、食べるらしい。それも、食事時になると人が変わったようになる。そしてついたあだ名が、『貪り狂うイビル嬢』」

 

 

 イヤな二つ名ついてんな。

 その子がいるのは………3軒隣のメゼポルタ広場? ……ああ、あそこか。そう言えば、あそこで妙な気配を感じた事があったな。

 …うん、まずはそこから訪ねてみよう。

 

 

 

 

 

 そんな訳で、早速例のメゼポルタ広場にやってきた。

 教官に頼ってみると、これが大当たり。狩りの指導以外で頼られたのがよっぽど嬉しかったのかそれらしい人物が何処にいるのか、速攻で案内してくれた。

 

 が、ちょっと気になるのは、エドワードさんが言っていた『貪り狂うイビル嬢』の事。

 どうも、これがミキ・ウェストライブっぽいのだ。食欲の事はさておいて、マキ・ウェストライブから聞いた話では、特にハンターとしての訓練を受けた事は無かった…筈。

 ……別人かなぁ? でも他に心当たりも無いし、とにかく行って

 

 

 

 

 え、なにこの気配

 

 

 



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278話

長命永心様から外伝を(大分前に)いただきました!
ご本人に許可までいただいていたのに、公開がドタバタで遅れた不手際を首つってお詫びいたします。
異伝の方に投稿してありますので、是非ともご覧くださいませ。


なんとなく、迷い込んでポッケ村を見返し始めて、ふと思う。
同じ雰囲気で、艦これやってくれねぇかなぁ。
駆逐艦は最高だぜ勢が大挙して押し寄せるぞ。


兄弟王強すぎィ!
…やはりアレか、フリンの指輪つけて達人装備(+マスク)はアカンか。
どのゲームでも大体そうだけど、初心者は軽装甲で動き回りたがるが、最初こそ重装備にすべきだよなぁ…。

オーベックさんを召喚できるようになって挑んだら、なんとか勝てました。
シーリスさんは気が付けばどっか行っちゃってました。


8/2追記

でもって王の化身強すぎィ!
あとちょっとの所まで追い詰めたと思ったら、蹴りやらディレイからの連続攻撃やらで、何度死んだ事か…。
リーチと攻撃範囲とタイミングが明らかにおかしいよ…。
結局最後は、盾も持たずにフリン+打刀無印+達人装備で勝ってしまった。

死にまくってちょっと食傷気味…。暫く仁王に逃げるか…。


NTD3DS月

 

 

 ミキ・ウェストライブとの初接触は、極めて物騒に終わった。それはもう、そこらのモンスターと遭遇したり、誘拐犯になったりするのと同じくらい物騒に。

 

 お~イテェ…まさか歯形付けられるとは思わなんだ。エッチい場面での歯形なら受け入れるけど、アレはなぁ…。

 とりあえず今は落ち着いているが、起きた時にどうなるやら。

 なんでそんな事になったのか、原因は大体予想がつく。なんでそんな事になってるのかは全く不明だが。

 対応策も……長続きするものではないが、一応ある。

 

 ちなみに、当のミキ・ウェストライブは、気絶した状態で俺の家のベッドで眠っている。そのすぐ隣には、彼女の連れである数人の少女が看病しており、ついでに俺も警戒していた。無理もないね。

 

 うむ…例によって何があったか、から書いていくか。

 

 

 

 事の始まりは昨日、教官に聞いた場所に向かった事だ。行き先は大衆食堂。味よりも安さ、早さが重視された、お手軽メニューが人気の食堂だ。

 そこに近付いていく途中、妙な気配を感じた。

 

 妙…と言うのもちょっとおかしいか? 俺には慣れ親しんだ気配だが、この世界にある筈がない気配。そう言えば、以前にこの広場に来た時も、同じ気配を感じたな。

 今は、前回よりもハッキリ感じられるので分かるが………これは、アラガミの気配だ。

 

 

 何でMH世界にアラガミが? それに、アラガミ……というより、これはゴッドイーターに近い? その中間? ……そうだ、腕輪が壊れて侵食されていたリンドウさんと同じような気配だ。

 まさかと思いつつも気配を辿ってみた先には、食堂のド真ん中で、どこのドラゴンボール or ワンピースかと思うような大量の食器を積み上げる少女。

 

 その隣のクセッ毛の少女が、「ミキ殿、流石にそろそろ止めた方が…」と声をかけていたので、ミキ・ウェストライブに間違いないと思う。

 ちなみにその少女は、ギロッと一睨みされて縮こまっていた。なるほど、貪り狂うイビル嬢の名に相応しい迫力だ。

 

 実際、そろそろ止めた方がいいよなぁとはマジで思う。ギャグマンガ並みに喰っとる。

 クラピカ風に言えば、「おかしい…妙だぞ、明らかに奴の体積より食べた量の方が多い!」だ。この状態で食いすぎによるリバースしたら、絵面云々以前にどれだけの被害が出るか。

 

 ついでに言うと、食堂のおばちゃん達がそろそろグロッキーだ。ここまで作れただけでも称賛に価する。

 

 皿の上の料理を、魚の骨に至るまで全て食い尽し、突っ伏するように倒れるミキ嬢。

 それでも、うわ言が聞こえてくる。

 

 

 「おなか……おなか、おなかすいた…おなかすいたよ…」 

 

 

 …マジかよ。物理的に腹いっぱい状態だろうに、それでも腹が減ってるって…脳になんか異常でもあるんじゃないか? 満腹回路とかに。

 さて、どう声をかけたものか…と悩んでいたら、彼女は突然振り返った。

 目が合う。

 

 

 …これは、捕食者の目だ。アラガミの気配に、ゴッドイーター特有の気配…。間違いない。この子、アラガミ細胞に侵蝕されてる。

 

 

「ミキ殿? ……まさか? ちょ、いかんであります、その方はご飯ではなく人間であります!」

 

「お腹、おなかへった! 離せ!」

 

「ちょっ、ミキちゃんそれシャレにならない!」

 

「ごめん、皆手伝って!」

 

 

 尋常ではない迫力と腕力で、彼女を抑える周囲の人間を振り払い、一直線に飛び掛かって来た。大口開けて、明らかに噛みつく気満々だ。

 俺、こんな騒ぎに巻き込まれて出禁にならないよな? と思いつつ、大きく開いた顎を掌底でカチ上げ。 痛みを感じてないかのように取り付きにきたので、体を逸らして受け流した。

 獣そのものの動きで着地すると、すぐ反転して再度飛び掛かってくる。適当な椅子を蹴り上げて進路を塞いでやったが、なんと空中の椅子を足場に二段ジャンプ。

 

 …仕方ないか。急降下してくるミキ嬢を、今度は受け止める。肩に体重がかけられ、少女らしからぬ握力に驚いたが、身体能力が高いのは今更だ。

 俺の首筋に噛みつこうとするミキ嬢に…ホイ! 動きが止まった、締め落とす!

 

 

「むがっ!」

 

 

 スリーパーホールドは、綺麗に決まれば3秒で堕ちる! …ハンターの腕力でやったら、その前に首の骨が逝くけどな。

 

 

「ミキ殿!?」

 

 

 心配すんな、気絶しただけだ。動きを止めたのだって、殴ったんじゃなくて口の中に手ぇ突っ込んで舌を握っただけだし。

 

 

「犬じゃないんだから…。確かに犬型のモンスターみたいな動きだったけどさ。とにかく、私達の連れが迷惑かけたね。申し訳ない」

 

 

 このツインテールの嬢ちゃんが、ミキ嬢が居る集団のリーダー各かな?

 それはいいんだが、何事だったんだ。明らかに異常だったぞ。狂竜ウィルスに感染したモンスターだって、こうはならない。

 

 

「…分からないんだ。初めて会った時からよく食べる子ではあったけど、それからどんどん食欲が増していって、どれだけ食べても満たされないって言ってた。最近じゃ、大皿を積み上げる毎日さ」

 

 

 …よく食費が保つね。

 

 

「狩りに出て、自給自足してたしね。何件か食べ放題の店から、出禁になったけど…。それでも、人間を襲うような事は無かったのに」

 

 

 多分だけど、起きても治ってないと思うよ。…これからどうなるかは分からないが、当面狙われるのは俺だけだろう。

 

 

「…? 何か知ってるのかい?」

 

 

 詳細は言えないが、多分。あまりおススメは出来ないが、俺の血でも飲ませとけば、多少はマシになる…かもしれん。

 

 

「それはちょっと…吸血鬼じゃないんだから。食人とか、ミキも嫌がるだろうし…。他に何か、方法はないのかい? 一方的に迷惑をかけた身でこんな事を頼むのもなんだけど、他に頼れる人が居ないんだ。お金が対価なら……その、食費が嵩んで資金がすり減ってるから、なるべく早い内に金策するから」

 

 

 俺としても、広場を歩いてたら唐突に噛みつかれるなんてゴメンだから、協力は惜しまんよ。金銭は不要…と言いたいところだが、対価は必要だ。

 …個人的にミキ・ウェストライブと話がしたい。元々、その子を探してたんだ。別に二人きりにしろとは言わない。話の内容も、聞いてもらって結構。

 場所は…俺が借りてる部屋でいいか?

 

 

「…構わない」

 

 

 ありゃ、そっちの部屋に行った方がよかったかな。…どっちにしろ警戒はされるか。

 じゃ、とりあえず……オバちゃん達と他のお客さんに謝り倒して、食堂を掃除しますかね。

 

 

「そうだね。やれやれ、これはまた出禁かなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 …と、こんな流れで、まだ目を覚まさないミキ嬢と、その連れ…さっき話していたリーダー各は、ハンズと名乗った…達数名が、俺の部屋に居る訳です。

 ちなみに食堂には、ギリギリ許してもらえました。器が大きいねオバちゃん!

 

 さて、自己紹介とか色々話し合う事はあるが…その前に………ええと、何処にしまったっけな。最後に使ったの、大分前だしな…。

 

 

 …お、あったあった。

 

 

 

「何だい、それ? …見た事もない材質みたいだけど。」

 

 

 ミキ嬢の症状を緩和する薬。カプセルっつーて、この中に薬が入ってるんだよ。

 以前、俺もミキ嬢と同じ症状になった事があって、その時の薬の残りがあったんだ。あまり多くはないけども。

 

 

「へぇ…随分と都合がいい話だね」

 

 

 都合がいいと言うか、逆かな? その症状の元患者だから、それを感じ取って餌だと思ってしまったと言うか…。

 ま、その辺の話は、ミキ嬢が起きてから詳しくするとして。

 

 この薬を………ケツにブチ込む!

 

 

「まさかの座薬!?」

 

「み、ミキ殿の……ハナヂガ…」

 

「誰がやるんだ!? いくら医療行為とは言え、私は嫌だぞ! と言うか後が気まずすぎる!」

 

「あ、元患者って事はお兄さんも実はお尻に入れられた経験が?」

 

 

 

 すまん、冗談だ。普通に飲めばいい。これを飲み込むと、腹の中で殻が解けて、薬が直接体の中に染みわたるって訳。

 

 

「趣味の悪い冗談はやめるであります…ティッシュティッシュ…」

 

 

 そっちの方が効果高いと聞いた事はあるが、流石に試した事が無いから分からんな。他にも、注射器で体に直接注ぎ込む方法もある…道具が無いけど。

 そういう訳で、今のうちに突っ込んでしまえ。水で流し込めばいいだろ。あと、顎のこの辺りを抑えると上手くゴックンと行くぞ。

 

 

「なんか大雑把だね…。まぁ、やるけどさ…」

 

 

 

 …流石に口移しはな…。多分ファーストキスだろうし、寝てる間に奪ってしまうのは可愛そうすぎる。相手が俺でも女の子でも。

 

 

「…本当にこれだけで効果があるのか? 即効性は?」

 

 

 割と高い。とは言え、根本的な解決にはならないんだよな…。

 簡単に言っちゃうと、今のこの子の体は、強引に作り替えられてる途中なんだよ。それをさせている原因を抑えないと…。

 体の奥深くにある器官による現象だから、本人の意思でコントロールするか、さっきの投薬で進行を遅らせるしかないんだよ。

 

 

「なんか…協力してくれる相手に言うのは憚られるが、胡散臭いぞ…」

 

「まぁまぁ、そう言いなさんなってミミ。多分、この人が言ってる事は本当だよ。聞いた事ないかい? 不思議な力を使うハンター、その中心になっているG級ハンターの事」

 

「G級……G級だったのか!?」

 

 

 そうです、私もG級です。で、その妙な力を使っているのも私です。

 

 

「その噂を聞いてるから、本当だって思ってるんだけど…。同時に警戒もしてるんだよね。相当に女癖が悪いらしいし」

 

 

 何を言う、女の趣味は最高だと自負しているぞ。皆美人で格好良かったり可愛かったりする子ばっかりだ。

 …手あたり次第状態になってるのは否定できんがな!

 

 とりあえず、初対面の子にどうこうするつもりはない。お誘いがあれば別だけども。

 ……おお、ミミ嬢を始めとした女性陣の視線が冷たいな。実に正常な反応で何よりだ。

 

 

 

 じゃ、ちょっとばかり話をしようか。この子が置かれている状況がどういうものなのか、すり合わせる必要がありそうだしね。

 

 

NTD3DS月

 

 

 ミキ嬢が起きてくるまで、色々確認しあった。

 まずは俺の話から。…と言っても、アラガミ関係の事は言えないし、大したことは話さなかったが。

 

 言った事と言えば、ミキ嬢がウェストライブ家の出身である事、何故か突然家出した事、それをお忍びでマキ・ウェストライブが探している事。これくらいだ。

 彼女がウェストライブ家出身である事は、既に知られていた。名前を隠している訳でもないし、同姓同名の他人にしては振る舞いが洗練されているしで、上流階級出身なのが明らかだった。

 

 家出については初耳だったらしい。何やら事情がありそう、と言うのは察していたが、そこまでだ。

 

 逆に、彼女達から聞いたのは…彼女達は訓練所を卒業したばかりの完全ルーキーハンター達であり、卒業寸前になった頃に教官がミキ嬢を連れてきた事。

 ミキ嬢は、連れてこられるなり上級ハンターかと思うような凄まじい身体能力で、訓練所をあっという間に卒業し、その間に意気投合したハンズ嬢達のグループに入った事。

 

 

「ふーむ、訳アリだとは思ってたけど、まさか家出してたとはねぇ…」

 

「大丈夫なんでしょうか? 今更ミキさんを放り出す気はありませんけど」

 

「大丈夫じゃない? 立場的には、家出したミキを保護したって事になるんだし。ミキは結構すごいハンターだけど、一人でフロンティアを生きていけるかって言われるとね」

 

「立場で言えばそうでしょうが…問題は…」

 

 

 俺? …依頼されたのは、ミキ嬢を探すところまで。どんな意図があるのか知らんが、連れ帰れとまでは言われてないよ。

 どう報告するか、場合によっては連行するかは、ミキ嬢の話を聞いてから決める。

 そもそも、何でフロンティアにやってきたのかもわかってないんだ。場合によっては、秘匿…は流石にマズいんで、発見報告を遅らせる事も考えないではない。

 正式に依頼を受けた訳でもないからな。

 

 

「へぇ、話が分かるねおにーさん?」

 

 

 わざわざ裏なんぞ疑わなくても、ハナから俺の都合で動いてるだけだよ。ちょいと気になる事もあるんでね。

 …この症状、本来はありえないんだよなぁ。何が切っ掛けでこうなったのやら。

 

 

「…貴方も元は患者だったのでは?」

 

 

 そだね。まーその辺を確認しないと、俺としてはオチオチ昼寝もできないんだよ。

 大体、おかしいと思うだろう?

 この子、今までハンターとしての訓練なんぞ全く受けてないんだぞ。それが何だっていきなりとんでもない身体能力を発揮するようになってるんだ。

 異常な食欲とも合わせて、副作用がない方がおかしいわ。いや食欲が副作用って言われたらそれまでだけど。

 

 

「それは……確かに、私達も、本人も疑問には思ってるみたいだけどね。…時々、そういう人って出てくるみたいだしねぇ。貴方の傍にも多いんでしょ?」

 

 

 うん、かなり多い。身体能力から異能から、選り取り見取りってね。

 ……あ、嬢ちゃん起きる。

 

 

「え? あ「ミキ殿っ!」

 

 

 こらこら、寝起きの人間に飛びつくんじゃありません。……よう嬢ちゃん、塩梅はどうだ?

 

 

「え…? ここは……」

 

 

 キョロキョロ周囲を見回すミキ嬢ちゃん。ふむ……ほれ。

 

 

「貴方は……え。…あの?」

 

 

 腕を目の前に突き出しても反応なし。取り敢えず、さっきの発作は収まったか。

 あーよかった。こんな子がガチでカニバリズムに目覚めるとか世も末だわ。

 

 

「本当にね。…ミキ、頭はハッキリしてる? 私が誰か分かる?」

 

「ハンズさん…私は……………!! あ、ああああ! ご、ごめ、わた、そ!」

 

 

 ごめんなさい、私はそんなつもりじゃなかった…かな? ふむ、記憶も残ってるようだな。

 落ち着け落ち着け、そうなった原因も分かってるから。ところで、腹は減ってないか?

 

 重要だからもう一回聞くぞ。

 

 

 腹は、減って、ないか?

 

 

「え………。…いえ…むしろ…うぷ…」

 

「洗面器持ってまいります!」

 

「いやむしろトイレに!」

 

「…まぁ、あれだけ食べればね。寝てる間に戻さなかったのが救いかな…」

 

 

 ふむ、飢餓感も無くなってるようだな。と言う事は、取り敢えずは問題なし。

 また異常な空腹を感じたり、それが慢性化するようであればガチでマズい。

 

 

「ふぅん…その空腹が異変の兆候な訳だ。他に注意する事は? あの症状を克服する手段は?」

 

 

 注意する事は山ほどあるが、正直この状況だとどうにもならんな…。克服に関しては、もっとどうしようもない。残り少ない薬剤の定期的な投入か………正直、あんまりやりたくないが、俺の血でも飲ませてやるか。

 尤も、それで症状が治まったって話は聞いた事はないがな。

 

 …とりあえず、本人に何がどうなってるのか説明して、確認もするとしますかね。……あ、リミットブレイク。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、掃除は部屋のお付きアイルーにチップ渡して任せ、ミキ嬢が体を軽く流してから。

 とりあえず落ち着いたらしい(恐縮しているようだが)ミキ嬢を中心に、勢揃いしている猟団(名前に関してはまだ揉めているらしい)のメンバー。流石に椅子も座る場所も足りなかったので、適当に寄りかかったり、床に座り込んだりしている。

 …うん、若い子達の無防備な姿ってなんかグッと来るよね。本人は警戒しているつもりなんだろうけど、まだまだガードが甘いよ。

 

 

 それは置いといて、どっからどう話したもんか…。

 …そうだな、取り敢えずは名前から。ミキ嬢、君に起きている現象は、「アラガミ化」と呼ばれているものだ。…まぁ、呼んでいる人は俺一人しか残ってないと思うが。

 詳細は省くが、症状は異常な空腹、理性の消失、それから体の変化。この辺はもう自覚があるな?

 

 酷な事を告げるようだが…体の変化は、強化されるって意味じゃない。文字通り、全く違う物に作り替えられるんだ。モンスターと人間のハーフになる、と言えばイメージしやすいか?

 身体能力が上がったのは、その結果にすぎん。

 そして、本来のアラガミ化では、ハーフでは留まらず、完全にモンスターになっちまう。

 

 

 …信じられない? まぁ、そうだよな。人間がモンスターになるなんて…。

 でも事実だ。俺の腕、よく見てな。

 

 

 

 変身!

 

 

 

 …と、こんな訳だ。騒ぐなよ。と言うか武器を構えるなって。

 ほれ、ちゃんと戻るから。…まぁ、俺が胸張って人間だと言えるか、と問われると苦しいね。ハンターだって似たようなもんだと思うけど。

 

 話を元に戻すぞ。本来のアラガミ化の進行は、もっと早い。人にもよるが、一度発症すれば数時間と経たない内にこんな風になる。

 ひょっとしたら、ミキ嬢のは亜種みたいなものかもしれんな。

 

 さて、肝心の治療法だが……根本的な治療の仕方は、俺も知らん。抑える方法は、さっき寝ている間にミキ嬢に呑ませた薬。これもそう長く保つもんじゃないし、俺の手持ちも少ない。

 ……手に入れる方法? 悪いが心当たりはない。

 この研究をしてたのはとある村なんだが、もうそれも無くなってる。研究してた奴も、資料も全滅さ。

 

 

 …落ち着けっつーに。態々、絶望を告げる為だけにこんな手間暇かけとらんわ。

 俺以外の症例のデータが無いから何とも言えんが、症状の原因…アラガミ細胞をコントロール下に置けば、それ以上症状が進む事は無くなる。ひょっとしたら、俺みたいに変化したり元に戻ったり、自在にできるようになるかもしれんな。

 

 …ああそうそう、この変身については誰にも教えてないんで、秘密にしてくれよ? アラガミ化を抑える薬の対価って事でね。

 

 

 …結構。さて、具体的な方法だが…俺が異能持ちとして名が通ってる事は、ハンナ嬢ちゃんは知ってるな? 他にも聞いた事がある人も居る?

 んじゃ、話自体は単純だ。その異能を扱う為の力…霊力が、アラガミ細胞を抑制する。…霊力が胡散臭い? だったら適当に他の名前で呼べ。イメージしやすい名前、親しみやすい名前だと、多少は習得も容易になるかもしれん。

 もうちょっと具体的に言うと、アラガミ細胞は霊力が苦手でな。これを浴びていると、動きが鈍るんだ。まぁ、その内耐性がついて活動を再開するんだが…それまでの間に、霊力を通して主の意思を浸透させ、従順になるように仕込む。

 (※随分前の話だが、異界に潜ったりしている間、神機の動きが酷く鈍かった時期があるが、その原因がコレ。覚えてるかな? 今は慣れちゃってバリバリに動くけどね!)

 

 

 

 霊力習得に必要な時間は、人によってかなり違うな。

 裏技みたいなのも無いではないが、乙女の尊厳的に非推奨としておく。…軽蔑されそうだし…。

 

 さて、ここまでで何か質問は?

 

 

「はい! そのアラガミ化とやらが治療された場合、ミキ殿の力はどうなるでありますか?」

 

 

 完全に治療されれば、今みたいな身体能力は無くなるだろうな。抑え込んでコントロール出来るようになる、という意味なら強化されたまま。

 

 

「彼氏が出来たり結婚とかしたら、何か問題って起きる?」

 

 

 ハグする時に力加減が必須。相手がハンター級に鍛えられてればともかく、背骨がボキッとなりかねん。

 んー、子供に影響が出るって聞いた覚えが…。(ゴッドイーターチルドレンだよな…)

 でもそっちは命の危機は無かった筈だ。普通の人より頑丈になるが、ハンター程じゃない。投薬しなくても、特にモンスター化は無かったな。

  

 

「『手掛かりや資料は無い』ってやけに強く確信してるみたいだけど、その根拠は? 貴方が知らないだけで、何処か別の場所で研究されてるかもしれないよ?」

 

 

 その可能性は否定できんし、しようとも思わんが…このアラガミってのは非常に特殊な性質を持つ。

 ある一定の条件が揃わないと出現しない、モンスターと言うよりは自然現象みたいなものだ。そして、恐らくその条件が揃うのは、今から何百年後だ(この世界がGE世界みたいになるまで、どれだけかかるやら)。……あくまで、俺の知ってるデータが正しければの話だが。

 

 …ミキ嬢、君から何かあるか? ショックなのは分かるが、黙りこくっていられてもな。

 別に、アラガミ絡みの質問じゃなくてもいいぞ。(具体的には家族がどうしてるのか、とか)

 

 

「あ、はい…えっと………その、何で私がそんな事になってるんでしょう…」

 

 

 …それについては、こっちが聞きたいくらいだ。家出したって聞いてはいたが、見つけたらアラガミ化しかけてるし、いきなり飛び掛かってくるし。

 

 

「あぅ…」

 

 

 すまん、怒ってるんじゃない。だから周りもそんなに睨むな。

 …実際のところ、何でいきなりフロンティアまで来た? 前日、ウェストライブ家に侵入者騒ぎがあったと聞いたが、何か関係があるか?

 

 

「それが…分からないんです。あの日、お姉ちゃんに頼まれて家の倉庫で探し物をして…それで棚の一部を崩しちゃって、お母さんに怒られて落ち込んでました。夕方くらいになってから、急に意識が遠くなって。……気が付いたら、もうフロンティアに居たんです」

 

「ミキちゃんミキちゃん、それ普通にホラー現象だから。さもなきゃ人攫いだから」

 

 

 ふむ…自分の意思で来たのではない、と。家に連絡を取らなかったのか?

 

 

「…はい。お父さんの事、ここなら何か分かるかなって思ったら…」

 

 

 おとーさんとな? ……ほう、物心ついた頃には父親は居なかった。肖像画の類も無し。お母さんに聞こうとしても、ガン付けで黙らされる。唯一の手掛かりは、ハンターだった事…か。

 それだけで探そうってのは、ちょいと無理があるが…。

 

 

「わかってます。でも、私がフロンティアに来れる機会なんて、他にありませんから」

 

 

 マキ嬢はお忍びで来てたぞ。…その時、ミキ嬢の捜索を依頼された。ちょっと前に噂が流れた、何でも屋を頼って来たんだよ。

 

 

「お姉ちゃんが……。……あの、お母さんからは何か?」

 

 

 いや、聞いてないな。他で探しているのか、それともマキ嬢が母親の許可を取ってから来てたのかも分からん。

 流石に身内が突然いなくなって、ノーリアクションって事はないと思うが。

 

 

 …ふむ、ところでミキ嬢、ちょっと聞きたい事がある。と言うより、半ばその為にここに居たと言っても過言ではない。

 コイツに見覚えは無いか?

 

 

「これは…?」

 

「えらいゴツい腕輪だな」

 

「それに、こっちは剣でありますか? それにしては何というか、盾みたいな部分もついて、妙にゴテゴテしていますが」

 

 

 腕輪はゴッドイーター…もとい、アラガミ化した人の症状を抑え込む為に使われていた腕輪だ。ただ、これを付けるには手術が必要になるし、あったとしても投薬が必要だから、現状じゃあんまり意味は無い。

 神機は…なんて言えばいいんだろな。アラガミ化した人間専用の武器?

 

 …アラガミ化とゴッドイーター化は別物なんだが、便宜上アラガミ化で纏めて話す。なんか複雑な気分。

 

 

 

 …そんな顔すんなよ、ハンズ嬢ちゃん。怪しいって事くらい、俺を含めて皆わかっとるわい。

 聞いた事もない、法螺話としか思えないような症例に加え、ソースはサッパリ明かせない上に、殆ど感染者が居ないと言う割には専用の武器まであると来た。放っておくとモンスターになるって奇病なのに、わざわざそれを戦わせるような前提の道具がある上、明らかに普通の技術で作られた代物じゃない。

 ついでに言えば、これを証言している俺は妙な変身まで出来る。

 

 纏めてホラだと思った方が、よほど納得できるだろうよ。

 

 

「そうだね。私達を騙す理由が無いとか、騙すならもっと上手くやるとか、そんなのは信じる理由にはなり得ない。理由なんてなくても嘘を吐くなんて珍しくないもの。……で、結局どうする訳?」

 

 

 ん? どれの事?

 

 

「色々あるけど、ウェストライブ家にはどうするんだい? ミキを放り出すつもりはないけど、帰ってこいと言われるなら、相応の対処はしなきゃいけないでしょ」

 

 

 あー、暫く報告は無しの方向で。アラガミ化の進行をどうにかしないと、領地に帰ったところでロクな結果になりそうにない。

 最悪、また理性を失うくらいに飢餓が強くなって、誰かに襲い掛かりかねん。…多分、捕食対象と見なされる人間は俺だけだと思うけど…。

 

 

「ウェストライブ家は名家だよ? そこを欺いてまでやる気? 発覚したら、それこそ誘拐犯やその共謀と見なされるかもしれないよ?」

 

「あ、あの、私は! …私は…」

 

 

 あーミキ嬢、言っちゃ悪いがこれには君の意思は関係ない。アラガミ化しつつある人間を、放っておく訳にはいかんのだ。

 大体、君だってこのまま戻ってもロクな事にならない、と分かってるんじゃないか? 自分の体の事だ。ある程度の知識を得た今なら、このままだとまた飢えが再発するって何となく分かるんじゃないか? …自分の体が変わりつつある事も。

 

 

「………はい。その予感は、前からありました。気のせいか錯覚だって思ってましたし、何も考えられなくなるくらい、お腹が空くとは思ってませんでしたけど…」

 

 

 ま、普通はそうだわな。

 つー訳で、アラガミ化を抑えられる目途が立つまで、俺からマキ嬢への報告はしないつもりだ。勿論、そっちが何らかの理由で、帰らなきゃならなくなった、連絡を取りたいと言うなら、それを止める事はしない。フロンティアの適当な所から手紙を出せば、そうそう居場所は突き止められないだろ。

 

 何か質問、および懸念事項はあるかね?

 

 

「えーと…その、アラガミ化を抑える、霊力? と言うのは、どう訓練すればいいんですか?」

 

 

 基本的には瞑想から始めてるんだけど……暗示を上手く使えば…でもコレやると後が面倒だよな、多分。

 ……試した事が無い、上手く行けば急激に上達できる方法もあるにはあるんだが…。

 

 

「わかりにくいよ。具体的かつ簡潔に」

 

 

 ……卑猥な話ではないからな。目を閉じてリラックスした状態で、延々と耳元で囁いて催眠にかけ、トランス状態までもっていく事で、霊力を自覚できた例がある。ただし、見ていたギャラリーによると「セクハラしてるようにしか見えない」との事。

 もう一つの方法は、リンクバーストと言う、アラガミ化した人間特有の短期間パワーアップ方法を使い、増幅した力を自覚させる。ただし、これをそこらのモスで試した事があるんだが、一匹だけ下級モスがG級ドスファンゴ以上のタフさと突進力を手に入れ、数時間としない内に衰弱し力尽きた。

 

 

「…なんて言うか…極端ですね。2番目の方法は、人間に使ったら…?」

 

 

 俺が極端な人種だからじゃないかなぁ…。真っ当な方法は、やる方も教える方も死ぬほど面倒くさいし。

 一回だけ試した事があるけど、その時は「強い力を感じる」で終わった。特に後遺症も無し。アラガミ化した人間なら…もっと言うとそれを制御されてる人間なら、ノーリスクのパワーアップで終わる。

 ただ、ミキ嬢の状態だと制御されてるとはとても言えないから…パワーアップで終わるかもしれんし、最悪の事を考えると、体の変質が進む可能性もある。

 

 あ、臨死体験したら霊力を自覚できた、って例もあるぞ。成功率低いけど。

 

 

「臨死体験なんて、ハンターやってりゃ誰でもあるでしょ。両手の指じゃ数えきれないよ。ん~~~………一番安全なのは…セクハラにしか見えない方法か…」

 

「あう……」

 

 

 …うん、なんていうかゴメンね…。元の世界であればJKくらいの年齢なんだろうけど、なんか被保護者的な視点になっちゃって、いつもみたいに割り切れん…。

 

 ま、まぁアレだ! 今日の投薬で、暫くは大丈夫な筈だから、ゆっくり考えればいいんじゃないかな!

 瞑想とか、真っ当な方法で覚えたのも、ウチの猟団に2人居るし。抑制の薬も、暫く分のストックはある。渡しておくから、空腹が慢性化してきたら飲んでくれ。

 

 それじゃ、色々あったが今日はここまで! 連絡先を渡しておくから、何かあったら来るといい。

 

 終わりっ! 閉廷! …以上! 皆解散!

 

 

 



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279話

今年のお盆、どうしようか悩んでます。
例の如く毎日投稿とかしたいんですが、書き溜めの量が微妙…。
出来なくもないけど、後が続かないかも、ってレベルです。

エロが上手く書けん…。話が全く進まない。そして何より、モンハンとは全然関係なく世界に突入している気がする。


NTD3DS月

 

 

 ミキ嬢の事で色々予想外な事があったが、私は元気です。また謎が増えて頭痛いけど。

 結局、何が切っ掛けでアラガミ化…ゴッドイーター化しつつあるのか分からなかったな。ウェストライブ家の侵入者騒ぎの事も分からなかったし、何故フロンティアに来たのかも…………ああいや、これは仮説と言うかコジツケであるなら…。

 

 ミキ嬢が突然俺に襲い掛かって来た事が、その手掛かり。彼女はアラガミなのかゴッドイーターなのか、非常に分類しづらい状態になっていると思われるが…彼女は俺の存在を感知して、フロンティアにやってきたのではないだろうか?

 正確に表現するなら、彼女の中のアラガミの部分が……かつては特異点としての役割を務めた、俺の存在を感知して。

 それならそれで、何でフロンティアに来てから意識が戻ってるのかとか、そもそもからして何でこの世界にアラガミ因子があるのかとか、分からない事だらけだがな!

 

 

 うーん、以前のループでも霊力渦巻く塔があったし、討鬼伝世界と関係があるっぽい壁画もあったし、アラガミ因子っぽいのまであるし…やっぱり3つの世界は関係あるっぽいな。

 と言うか、この世界にアラガミ細胞があるって大丈夫かな…。ミキ嬢を起点として、爆発的に増殖・進化してバイオハザードみたいな事にならないよな?

 

 …最悪、アラガミ化したミキ嬢を止める事を考えなきゃならんか…。首を跳ねるんじゃなくて、いつもの手段でいいよね? 多分、その時には人間の姿は留めてないと思うけど。

 

 

 

 

 さて、そんなこんなは置いといて、今日も今日とてマキ嬢からの納品依頼を果たす為、狩りを続ける日々である。…着火のガスに使えるから、と言ってババコンガ亜種を延々狩るのはイヤだったなぁ…。ちゃんと体洗わないと、お楽しみにも差支えが出るし。大腸菌マジヤバイ。

 

 最近じゃ余裕のある相手の時は、穿龍棍を使って色々試す事も多い。やっぱり動きが未完成なんで、かなり手古摺るが大分慣れてきた。

 火力不足を補う鍵は、やはり蹴り技。どうやったって、ハンターの身体能力であってもモンスター相手には弱すぎる攻撃方法だったが、一つの閃きを得た。

 

 元は狩り技を使っていた時の事。獣宿を使うと、体全体からオーラが吹き出るよな。そう、体全体からだ。

 霊力とはまた別種の力なのだが……そう、自分の体にもその力は宿る。であるならば、穿龍棍に貯めこんでいる力を宿す事も可能ではないか?

 

 

 

 単純ではあるが、有効な手段だ。ただ殴る攻撃より、なんかのエネルギーを込めて殴った方が強いのはお約束である。

 

 

 

 

 やってみたら足がエライ事になったけどな!

 いやー、内側から爆発したかと思ったわ。まーそうだよな。元から体に宿っている力を凝縮させるのと違って、言ってみりゃ爆薬を外付け、或いは塗り込んで蹴っ飛ばすようなものだ。そりゃ足が爆発もするわ。完全に自爆技だよ。

 

 しかし、強力な効果を得られたのも事実。

 俺個人で使うのであれば、ダメージを無効化するようなタマフリを使えば、充分な実用性を保たせる事ができる。その場合、ミタマスタイルは「防」に固定され、蹴り攻撃をする度に防御ゲージが減っていく事になるだろうが…奉護剣や生刀生弓みたいなものだと思えば、同じような感覚で運用できるだろう。

 

 とは言え、同じような事を考えた人は既にいたようで、ギルドに聞いてみるとその時の資料を貰えた。かなり四苦八苦したが、結局未完成に終わっている。この方法に見切りをつけたのか、それともモンスターにやられたのか、自爆しすぎて再起不能になったのか…。

 ま、折角人より頑丈な体してんだし、色々試してみますかね。

 

 さしあたって、装備の方に細工をする事を考えてみよう。武器と防具は分けて考えがちだが、防具に攻撃の為のギミックを突っ込むのは有効な手段だろうしね。

 

 

 

 

 工房のオヤッサンに相談してみたところ、「面白そうだな!」と破顔され、武器作成に必要な見積もりを作ってもらえた。

 ふむ…コレをマキ嬢の依頼と並行して狩るのは、ちっと骨だな。マキ嬢のはまだしも、こっちはG級素材前提だから、結構苦労する。俺も随分腕が上がってきてると、レジェンドラスタの皆さんにも太鼓判を貰ってるんだが、それでも精々が中堅どころなんだよなぁ…。

 

 レジェンドラスタもいつも捕まる訳じゃない。フラウ辺りなら、他の依頼を蹴っ飛ばしてでも来てくれそうだし、狩りの後のサービスをエサにすれば割と融通を利かせてくれる人は居そうなんだが、公私混同はよろしくない。俺の頼みの為に、彼女達の立場が悪くなる事をさせたくはない。

 デンナーはようやく狩りに復帰できたばかりだし、他にG級のハンターの知人なんて………。

 

 

 …あ。

 

 

 

 と言う訳で、割とアッサリ見つかったG級ハンターのセラブレスさんです。

 以前に狩りをした時にもらった連絡先を辿って探したら、フツーに近所のメゼポルタ広場の酒場に居た。

 

 

「…何故私だと分かった? 素顔は晒していなかった筈だが」

 

 

 気配で。思った以上のクールビューティさんでびっくらこいた。体付きはワガママでダイナマイトだが。

 

 

「世辞は要らん。何の用だ」

 

 

 そりゃ、勿論狩りのお誘いに。G級の知り合いって少ないんだよ。基本的に、ウチのタカリ猟団とかが人間関係の範囲だから。

 

 

「……相手は?」

 

 

 チャナガブル、ギアオルグ、グァンゾルム。

 穿龍棍は知ってるか? それの新しい使い方の研究の為に必要でね。

 

 

「…厄介なのが居るな。いいだろう。我がガンランス、存分に奮ってやる。とは言え、二人だと少しきついか…。知人とレジェンドラスタを一人、連れてきていいか?」

 

 

 勿論。…でも、レジェンドラスタは今は全員出払ってたけど?

 

 

「いや、一人は現在、私と契約している。もう一人は………今はまだ、単なるハンターか」

 

 

 ん? 言ってる事がよく分からんけど、とりあえずオッケー。

 で、誰?

 

 

「クロエ、というレジェンドラスタだ。会った事は……無いようだな。彼女もお前に近寄ろうとはしていなかった。女癖の悪いハンターだとな。仕事と割り切るだろうが、余計なちょっかいを出すなよ」

 

 

 反論のしようもねーッス。とりあえず、会った瞬間に口説こうとするような真似はしないんで。

 

 

「話しかけてきて早々に、クールビューティだの体がどうのと言ったのはどの口だ。…口説き文句ではなくセクハラか。まぁいい。もう一人はレイラ。穿龍棍使いの凄腕だ」

 

 

 へえ、実戦で穿龍棍使ってんの? テスターかな。意見交換できたらいいんだが…。

 ちなみに、どのくらいの凄腕?

 

 

「口惜しいが、私よりも上だな。先日も、乱入してきたバルラガルを一人で仕留めていた」

 

 

 …バルラガル? あいつはフロンティア付近には居なかった筈…。こっちに来てた個体が居たのか。…………今更…か? 歌姫には必要なくなったモンスターだが…。

 ま、考えても仕方ないのは、それこそ今更か。

 

 んじゃ、狩りは明日から?

 

 

「いや、奴らも今日は暇を持て余しているから、呼べばすぐに来るだろう。少し待っていろ」

 

 

 席を立ち、クロエとレイラとやらを呼びに行った。…伝票を置いて。狩りに付き合ってやるから払っとけって事ですね。まぁ安いもんですが。

 

 

 

NTD3DS月

 

 

 …クロエの冷たい視線は置いといて……レイラの穿龍棍の扱いがスゲェ。意見交換しようかと思ったけど、こりゃそれを言い出すのが恥ずかしくなるくらいにはレベルに差がある。

 うーむ、しかしこの使い方…。技術としては限りなく完成されている。それこそ、ギルドが穿龍棍のスタンダードな使い方として、即認定してもおかしくないくらいに。

 

 どこで覚えたんだ? と聞いたら、ギロッと睨まれた。どうやら地雷らしい。

 …見当くらいはつくんだが……確証はないな。G級ハンターですら扱いに戸惑う穿龍棍をそこまで使いこなせるハンターなんて、そうそう居ない。現状、第一候補は…既に亡くなっているトキシだろう。弟子か何かかな?

 それなら、技術の出所を聞いただけであの視線を向けられる理由も分かる。

 

 

 

 …ん? セラブレス、何?

 

 

 レイラとクロエの恰好? 露出度? 

 

 …クロエの方は、そう騒ぐほどの事じゃないかな、と。だって出てるのヘソだけだし。引き締まった脇腹とか、エロいと言うよりは綺麗とかカッコイイって感想が出ました。

 レイラの方は………まぁ…裸にネクタイに、ジャンバーみたいなの羽織ってるだけだもんな……。GE世界に行けば珍しくないんだろーけど、何であれでポロリしないのか本気で分からん。はっ、まさかそれをさせない動きに、穿龍棍の秘訣が!?

 

 普通に違うらしい。人の服装に文句を言うなと蹴っ飛ばされた。むぅ、蹴りの威力は普通だな(G級基準)。と言う事は、やはり穿龍棍を使って蹴りを強化する方法がある…かも。

 ちゅーか、服装に文句云々を言うなら、露出度より先にその眼帯にモノ申したい。…いや、モノ申す前に、お約束のアレをやりたい。引っ張って引っ張って、「やめっ、ヤメロォー!! あー、あっ、ちょっと、やめてくださいあ、でも(ry」とか叫ばせたい。そしてゆっくり元に戻す。2,3回繰り返して、油断した所にパッチンして2倍「イイッ↑タイ↓!! メガァァァ↑!!」させたい。

 やったら多分、パイルトンファーが飛んでくるけどな。

 

 

 

 と言うかだな、俺としてはセラブレスの方が気になるんだが。別に口説こうとしてる訳じゃない。そのガンランスだ。

 前に一緒に狩りをした時から、普通のガンランスと何か違うと思ってたが…ようやく分かった。

 

 それ、ガンランスじゃない。普通のランスだろ。

 お前も異能使いか…。

 

 

 

 

 あ? いや別に。それが分かったからどうこうってつもりはないが。

 系統が違うとは言え、俺も異能使いではあるし、バレバレながら具体名は伏せるけど、生まれつきの異能持ちの集団だって居るし。

 

 守りが固いガンランスとは言え、妙に頑丈だなーと思ってたけど、その程度だな。

 ランスみたいに振り回して、砲撃が必要な時は…その青い力でドカンドカン、か。スタミナを消耗するみたいだが、その分ガンランスよりも砲撃の威力も回転率も高い。かなり練られてるな…。

 

 

 俺にも同じ事が出来るのか? ……やり方は違うけど、似たような事ならできる。神機と霊力を併用すれば何とか。

 

 

 

 

 

 ………あん? 異能持ちと、そうでない人間との間で子供が出来にくい原因? 子供が出来ても、異能が継承されない理由?

 

 

 …そうなん? いや、俺の知ってる異能使い(モノノフの事な)はそういう事なかったけど。普通に子供も産まれてたし、強い異能を持ってる連中がくっつけば、確実とは言わないまでも高い素質を持った子供が生まれる事も珍しくなかった。異能が継承されないのは…特別珍しい素質がある者はともかく、教育の問題じゃないか? むしろ、最初から異能を使える奴の方が余程珍しいんだが。

 

 

 

 とのようなコメントをしたら、その夜に俺の家に「相談に乗れ」と押しかけてこられた。おっ始める寸前だったんで、既にその気で部屋に居た数名が不満タラタラだったが…。セラブレスの方も、 俺の部屋にこれだけ女性が居るとは思ってなかったようで、かなり驚いていた。

 ちなみに本日のメンバーは、既にエロ下着で傅いて足の指を舐めていたアンナ、それを肴に一杯飲んでるジェリー、まだシャワーを浴びている途中のマオ、隣の部屋に何やら細工(最近のデバガメは凝ってるなぁ…)していたミーシャ。いつものパターンなら、レジェンドラスタ勢の誰かが狩りの帰りに寄ってくるな。

 …以前はトッツイ達に負担がかかりそうだから、自室は止めようかな…なんて考えてたんだが、他に丁度いい(角も立たない)場所が無かったので、結局俺の部屋となっている。

 

 「いい所だったのに邪魔すんなよ」的な視線が強かったが、セラブレスはそれに気付いているのかいないのか…。

 しかし、セラブレスの要件が話されると、一転して真面目に聞き出した。つまりは、異能持ちは子供ができにくい…という話だ。特にミーシャは真剣だった。

 

 実際大事な事ではあるもんな。今の俺は、オカルト版真言立川流でほぼ確実に避妊できているけど、本当に孕ませた経験はない。やってみたいとは思うが……いや、快楽とか愉悦目的じゃなくて、やっぱ大事な女と自分の子供であれば、愛しいもんだろうなと………女の子だった場合、ヤバい目で見ないかだけが心配だが。

 マオ達にしても、今はハンターを引退する気がなくても、いつかは母親に…と漠然と思っていただろう。ミーシャに至っては、何人子供が欲しいとか、いい学校に行かせるのにどれくらいかかるとか、その辺の計画まで立てていてもおかしくない。

 

 

 さて、話の内容だが…まずはセラブレスの生い立ちの話になる。

 彼女は由緒正しい異能者…とでも言うのだろうか。かつては王家に仕えていた異能者一族の出身らしい。

 青い光を纏い、モンスターの攻撃をものともせず、逆に打ち出した光で圧倒する。数は少なく、表立って出る事もないが、王族の懐刀、親衛隊としての立場を持っていた。

 

 しかし、世代交代を経る事に徐々に異能は弱まり、力を発現できるものが殆どいなくなり、それどころか異能持ちの親から子供が生まれる事さえ少なくなる始末。

 今ではかつての栄光もなくし、異能者ではなく木っ端役人として仕えているそうな。 

 セラブレス自身に実感はないのだが、老人達や親達からは、近年になく強力な異能を持って生まれたセラブレスに大きな期待が寄せられており、「一族の復興を」と事あるごとに言われている。

 

 

「…私自身は大して興味の無い事なのだが、一族に愛着もあるにはあるし、あまり想像はつかんがいつかは伴侶を得るだろう。そうなってから、親に孫を抱かせてやれない、と言う事になると…」

 

 

 うーん、意外と親孝行でいらっしゃる。

 

 

「茶化すな。そうでなくても、さっきも言ったが異能者の子供はできにくい、と言うのが私の一族の見解だ。そもそも一族の復興をさせようにも、私一人が子を産んで、それが異能者だったとしても、それで復権が叶う筈もない。…爺さん婆さんに「早く子を産め、異能者をもっと増やせ」と言われるのもウンザリなんでな」

 

 

 あー、それで「ちゃんと子供は出来るし、教育次第で力を引き出せる」と言った俺に相談に来たのか。

 しかしまぁ何とも直球というか、年頃の女性が男に相談する事ではないと言うか…逆に男だから相談すると言うか…。

 

 

「一応言っておくが、貴様に気を許している訳ではない。こうして来たのも、人目があれば妙な狼藉はしないと思ったからだ。…まぁ、予想してたより人が多かったが」

 

「んー…とりあえず、子供ができないって事はないのよね? 今のところ、避妊は完璧だけど、実は…その、種無しって事は」

 

「避妊の方法も、私達にはワケがわからないやり方だしな。ま、私はナマでするのが一番イイから、何も考えてなかったけど」

 

「子供を産むと言うのは重大な事なんだから、ジェリーはもっと考えろ…。で、どうなんだ? 種無し疑惑」

 

 

 無い。と思う。孕ませた事がないから、何とも言えん。オカルト版真言立川流には、その辺の治療方法もあったし、無理やりにでも孕ます方法も書いてあったから、大丈夫だとは思うが。

 

 

「む…つまり、第一子は生んだもの勝ちか…」

 

 

 マオ、不穏な事言うな………別に不穏じゃないのか? でもマオは暫くハンターやってたいんだろ。

 

 

「その辺の相談は後回しにしてくれ。一応、私が先に相談したんだ。恋人…達の営みを邪魔したのは悪かったが」

 

 

 む…。そうは言ってもなぁ…。異能者であっても、人間には違いないんだから、子供が出来る出来ないはフツーの人と大差ない筈だぞ。確かに、ソッチ系の機能が弱い人も居るが、遺伝もあるとはいえそれが一族単位とは考え辛い。エロゲの踏み台みたいな嘆称候役(←敢えて誤字を使う事で、侮辱にさせない意図)じゃあるまいし。

 

 

「何を言っているのかよく分からんが、何か一族が不名誉な称号を付けられそうになった気がする」

 

 

 気にするな。……あー、その、女性にこんな事を聞くのもなんだが、聞かなきゃ原因究明もできんので……アンタらの子造りって、どんなやり方?

 

 

「未経験なので分からん!」

 

 

 アッハイ。

 

 

「分からんが…一般的なものとそう変わらない、と聞いている。噂で聞いたものや、その手の指南書を読まされた事もあるが……事実、記憶にある限りでは世間一般で流通している指南書やモノの本に書いてある『行為』と大差ないように思えた。…私が知っているのは、妊娠しやすい時期を選んで、男女が交わるという程度だが」

 

「堂々と語るな…。普通、この手の猥談は多少は恥じらいがあるものだが」

 

「マオも結構恥ずかしがり屋だもんね。つまりはいいオモチャになってるって事だけど。…でも、それだけ分かっていれば、子供が出来るには充分だと思うけど…」

 

 

 ふむ。…異能者以外との子供はどうだ? 能力を持たない者と、一族でない者が交わった場合は?

 

 

「どちらか一方が異能者なら、それで子供は出来にくくなると言われている。どちらも異能者の場合であっても同じだ。ただ、能力を持ってない者同士であれば、普通に子供は出来るらしい」

 

「と言う事は、やはり異能が原因か。私達も他人事ではないな。まだハンターを続けるにしても、いつかは孕みたいと思っている」

 

 

 アンナ、突然グッとくる事言うんじゃありません。交わりの悦楽は散々経験してるが、孕ませの興奮はまだなんだよなぁ…。

 ちなみに妊婦でも安全にヤれる方法もあるぞ。正直、安全だとしても安静にしててほしいがな。

 

 

 ふむ………異能が原因で孕みにくい、か。原因となる可能性は幾つか思い当たるが…確証はないし、妄想の領域だな。

 

 

「聞かせてくれ。少なくとも、それを爺婆に送れば、討論している間は子供をせっつかれる事もなくなるだろう」

 

 

 別にいいけど…ウンザリしていると言ってる割には、ジッジとバッバが嫌いじゃなさそうね。

 

 

「まぁ……軽蔑すべき親類ではないからな。正直、復権なんぞ考えずに、このまま木っ端役人として天寿を全うした方がいいんじゃないかと思う。基本的にクソ真面目で手が抜けないと評判の一族なもんで、役人としての評価は本人達が思っているより高いんだ。小市民の鏡だぞ。表に出られない懐刀より、こっちの方がいいと思うんだがな…。」

 

 

 また微妙な評価だな。…ま、それは置いといて、原因な。

 

 あくまで可能性でしかないが、その①。異能を使い始める事によって、体に何らかの変調が出る。子を産む機能が代償になっている、と言う事だな。しかし、セラブレスはどうだか分からんが、現在ここに居る異能持ちにそういった兆候はない。あれば、ナニを通してまず間違いなく気付く。なので、この可能性は低い。…セラブレス一族の異能だけが例外、という可能性もあるが。

 

 その②。気負う余りに、子を造りづらくなっている。率直に言えば、緊張しすぎて男が勃たない、女は……子宮が降りてきてない、かな。もしもコレであるのなら、産まれてくる子供がどうの、異能がどうのと考えずに、楽しめるようになれば解決するんじゃねーかな。最悪、これは訓練次第でどうとでもなる。

 

 その③。異能が避妊の効果を発揮している。コレが本命。さっき言ってたが、モンスターの攻撃を全く意に介さないくらいに強いって言ってたよな? 多分、何かしらのバリア、結界、見えない盾みたいなものだと思う。それが卵子、精子、或いは至急近辺に展開されているのだとしたら…。

 

 おっとその④。実は人間に見えて、決定的に違う『ナニカ』の種族である。まぁ、同じ一族の中から一般人とちゃんと子供が出来てる以上、この線は無しにしていいと思うが。

 

 

「…三つめが本命な理由は?」

 

 

 男女ともに、異能者のみが子供を作れないってトコ。異能に原因があると思うのは当然じゃん?

 これまで異能者で子供が作れたのは……防壁を張れないくらいに消耗していたか、警戒心なんぞ吹っ飛ぶくらいに相手に心を開いていたか…ああ、これは女性側のみか。男性側は………どうだろな。女の腹の中に出した後も、精子にバリアが宿って着床できなかった? 力み過ぎて卵子が吹っ飛んじゃった?

 これが異能者同士だと、胎の中で熾烈なバトルが開催されてたんじゃないすかね。どっちが勝っても消耗し過ぎる。お互いに丁度いいくらいの力で、互いの力を弱め合った場合のみ着床する…とか。

 

 

「強力すぎる異能の代償と言う事か…。性質上、我々にはそこまで関係は無さそうだが…」

 

「そうでもないわ、マオ。今後、同じように障壁を張る異能者がやってこないとも限らないもの。事例があるなら知っておきたいし、対策だって立てておくに越した事は無いわ。…で、どうなの?」

 

 

 んー、子作りする時に、異能を徹底的に弱めれば多分。でも仮に体内にまで障壁を張って、しかも生命活動に支障はない…ああ、子作りに支障は出てるけど…となると、生来の本能みたいなものなのか? もしそうだとしたら、意識的に抑えるのは難しいかもしれないな。

 なら……外部からの干渉で異能を封じるか、異能越しでも孕めるくらいに『その気』にさせる?

 

 具体的には…一番手っ取り早いのは投薬かなぁ…。

 

 

「投薬と言っても、何を飲ませればいいんだ。異能についての研究はそれなりに資料があるが、封じるような薬は研究すらされてなかったぞ」

 

 

 別に特別なもんじゃない。睡眠薬くらいでいいんだよ。まぁ、ハンターみたいに抵抗力の高い相手だと、別の物が必要になるかもしれんが。

 その手の障壁は、エネルギーを常時消費しつつ恒常的に張り巡らせてるか、危険に無意識に対処しようとして反射的に張るような物が多い。

 前者であればエネルギーが尽きればいいし、後者であれば、意識を無くしてしまえばいいだけの話だ。

 

 

「つまり、眠っている所を襲えと? しかも合意の上だと言うのに。業が深いな…」

 

 

 アンナの性癖ほどじゃないと思う。俺も遊びの一環と考えられない事もないが、やっぱり起きて反応を返してくれないとオモロないしな。

 

 

「成程…。では、肝心の『教育によって力を引き出す』という件は?」

 

「そっちが肝心? 私達として、子供ができるかの方が重要だけど」

 

「一族の復興を、と言ったろう? 現状、一族の中でまともに力を使えるのは私だけなんだ。私一人が子供を産めるようになっても、復興も何もない。……睡眠薬で眠っている間に犯されるのも嫌だし」

 

 

 う、そういやそうか。お前さんの状況で、能力者を孕ます方法があるって言ったらそうなるよな。なんかごめんね…。

 それはともかく、力を引き出す方法は、真っ当な修行しかないんじゃないか? 女限定で俺が引っ張り出せない事もないが、倫理的に見ておススメできる手段じゃないし、やり方を教えても普通の人に出来るもんじゃないらしい。こっち方面の術に詳しい人も、「何で実践できてるか分からない」って言ってたくらいだし。

 元が異能者の家計なら、普通の人より目覚めやすいんじゃないかな。

 

 具体的な方法を挙げれば、自然の力が集まっている場所での瞑想、臨界業…限界まで追い込んでから更に負担をかける事で生命力や魂の力を鍛えるやり方…。穏便な方法を上げれば、幼い頃から異能に触れさせ続ける、と言うのもあるな。子供の感性ってのは侮れんから、自然と力の使い方を覚えてもおかしくない。

 

 

「むぅ…今一つパッとしないな。今まで2度以上は試されてきた方法だ」

 

 

 そうか。…俺だけが出来る方法を伝えても意味がないな…。

 

 

「ちょっといいかしら? 疑問なんだけど、先祖が使っていたような能力に拘りがあるの? その青い力とやらに」

 

「いや? 爺婆も同じ力であるなら最上だと思っているが、それに拘っている訳ではない。はっきり言ってしまえば、常人には使えない力を奮い、王級での立場を取り戻すのが最優先事項だからな」

 

「だったら、別の異能者の血を入れるのはどう? 異能者の子供なら、その力を受け継いでいる可能性は高いんでしょ。…もしも期待にそぐわなかった場合の事を考えると、あまりいい気分はしないけど」

 

「さっきも言ったが、うちの一族は小市民でクソ真面目だから、虐待するような事は無いと思うぞ。老後の面倒を見てもらう為にも、健やかに育てるだろう。…しかし、それに意味があるのか?」

 

「一族の復権とやらにはともかく、貴方は自由になるんじゃない? 貴方に限らず異能者の子であればいいのだから、一族全体で婚活でもなんでもすればいいでしょう」

 

「おお! ……いや待て、婚活するにしても異能者の相手は…」

 

「それなりに伝手はあるわよ。猟団の特性上、団員は女性ばかりだけど、異能者の男性にも心当たりはあるわ」

 

 

 マジか。何時の間にそんな伝手が。

 

 

 

「猟団が大きくなってきた頃から徐々にね。…下卑た視線……と言うより、出会いを求めるハンターも、性別問わず多いみたいなのよ。『同類』が居ると知れば、寄ってきたくもなるでしょう」

 

「いいな、その線で行きたい。紹介してもらう事は出来るか?」

 

「団員でなくても、希望者があれば紹介まではするわ。そこから先はそちらとの相性次第。ただ、団員を迂闊に紹介する訳にはいかないから、大部分は男性になると思うけど…」

 

「構わない。ああ、本当に解決するかどうかは分からないが、随分スッキリした気分になれた。礼を言う」

 

「『こちらこそ』。じゃあ、紹介の日程は…まずメンバーを決めて…」

 

 

 

 なんか勝手にカタがついたな。まぁ、どうなるにせよ結果くらいは知らせておくれ。

 

 

「ああ、勿論だ。相談に乗ってくれた恩は忘れん。では、今日の所はこれで失礼する」

 

 

 ちゅーか、そもそもの事言っていいか?

 さっきの話を聞く限りだと、親類同士で子供作ってるっぽいが……近親婚と言うか近親交配を繰り返した結果、子供が出来にくくなってるんじゃないのか? 

 

 

「………有り得るな」

 

 

 

 

 セラブレスは去っていった。台風一過、とまでは言わないが、随分と荒らすだけ荒らして帰って行ったものだ。

 時間も中途半端になったし、なーんか気分も吹っ飛んじゃったなぁ。

 

 

「そうだな…。しかし、ミーシャお前…『こちらこそ』って……」

 

「………同じ異能者と出会って、付き合い始める団員も居るみたいね。それはそれで結構な事なんだけど、そうなると丁度いい子が居なくなるよの」

 

 

 デバガメする為の相手が少なくなるから、出会い対象の男を別の所に宛がっておこうってか。もうこれわかんねぇな。

 

 



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280話

やっぱり投稿するぜヒャッハー!
これから毎日忙しくなるからね…。
感想って燃料があった方が、仕事も執筆も酒もやりやすいのよホント…。
と言う訳で、16日までは毎日投稿の予定です。


NTD3DS月

 

 

 ふむ…親子丼、か。美味かった。

 

 

 

 

 え? いや昼飯の話だけど。別に真昼間から盛ろうって系の話でもないよ。

 

 

 

 昼飯時に聞いたんだが、新しいレジェンドラスタが認められた、らしい。

 まさかと思ったが、予想通りにレイラであった。

 

 新しいレジェンドラスタを一目見ようと、酒場に押しかける紳士達。不機嫌そうに据わっているレイラを見て、柏手打って拝んで帰っていく紳士達。

 …まぁ、気持ちは分かる。俺は慣れたもんだけど、改めて見ると凄い恰好してるもんな。

 

 自覚があるのか無いのか、柏手が打たれる度にどんどん不機嫌になっていってるようだ。…まぁ、無理もないよな。さっきから爆竹でも鳴り続けてるんじゃないかってくらい、パパパパパパパパンと柏手が止まらない。

 

 

「はははは、女性のレジェンドラスタが増えた時は、大体こんなものだよ? フラウやリアの時は凄かったなぁ。フラウは即対応して愛嬌振りまいて親衛隊を作るし、リアはガチ切れして戦闘モードになるし」

 

 

 うわぁ、目に浮かぶようですなエドワードさん。…ところで、よもやエドワードさんがレジェンドラスタになった時は、フンドシ一丁で登場したりは…。

 

 

「僕をなんだと思っているのかね。流石にそれは無いよ…。まぁ、認められた直後はまだ先立つものも無かったし、下半身の防具は揃えられなかったんだけどね」

 

 

 アカンやん。よく認定取り消しされんかったな…。

 時に、レイラの事なんだけど…名前を言ってはいけないあのハンターと関係者なんじゃないかと思ってるんですが。

 

 

「ふむ? …同じ穿龍棍使いだから、かい? 確かにあの動きは、彼に通じるモノがある。だが、そうだとしてもあまり触れないでいてやってくれ。…どうにも、彼女は情緒不安定な節がある」

 

 

 情緒不安定? この前一緒に狩りをした事があるが、そんな感じは…ああいや、師匠について聞いたら睨まれたっけ。

 それだけで不安定と言うには、少々弱いと思うんですが。

 

 

「確かにそうだが…元々、彼女はフロンティアに来るつもりも、レジェンドラスタになるつもりも無かったらしいんだ。何らかの取引があって、今の結果になったようだが」

 

 

 不本意な立場って事か…。彼女ほどの腕なら、むしろフロンティア以外じゃ持て余されそうなものだが…。

 しかし、対価が何かは知らんが取引に応じたって事は、何かしらの目的があって活動しているって事だよな。

 

 

「……恐らくは、復讐…だと思うがね。あの目は何度も見た事がある。モンスターに対する怒り、自分の無力感、そして他者への拒絶…」

 

 

 トキシの弟子だとするなら…最後に戦ったアノルパティスか? でも、それならむしろフロンティア以外で活動するとは思えないな。アノルパティスの生息領域はフロンティアだけだし…。

 …そこまで首を突っ込む理由も無いか。親しいカニにも味見有り…もとい、親しい仲にも礼儀あり。何でもかんでも知らなきゃ、仲良くできないって理由は無い。増して、そう深い仲でもないんだし。

 

 

「そういう事だね。気にはなるだろうが、程ほどにしたまえ。……差し当たり、この柏手を止めるかな…」

 

 

 さいですな。柏手が337拍子になったり、33-4拍子になったり、そろそろレイラがキレそうだ。俺もいい加減ウザッたくなってきたし。

 

 

 

 

 

 

 で、参拝客を適当に散らして。

 

 

「ったく、何だったんだあいつら…」

 

 

 率直に言うがネクタイを挟めるおっぱいを見たら仕方ないと思います!

 

 

 

 …なんかよく分からん必殺技を喰らった。でも普通に仕方ないと思うんだ。

 まー戯言はともかくとして、レジェンドラスタだったのね、レイラ。これ、セラブレスは知ってんの?

 

 

「お前とセラブレスと狩りに行った時は、まだ違ったよ。正式に就任したのは今朝からだ。セラブレスには何も伝えてない。と言うより、そもそも一緒に行動したのはフロンティアに来る途中の道だけだ」

 

 

 あら、そうなん? てっきり付き合いの長い友人かラスタだと思ってたけど。

 

 

「全く面識は無かったぞ。…そういや、あいつは今日の見物人には混じってなかったな」

 

 

 多分、一族とやらのトコに里帰りしてんじゃないかね。先日、一族ぐるみでの悩み事があって、それを解決できるかもしれない方法が見つかったから。

 戻ってきたら、顔出しくらいはするんじゃないかね。コネ作りも兼ねて。下手すると菓子折り持ってくるかもしれん。

 

 

「世知辛いな…。いや別に文句がある訳じゃないんだが。まぁ、取り敢えず……さっきの鬱陶しい連中を追い払ってくれた礼も兼ねて、一狩行っとくか?」

 

 

 

 OK!

 

 

 

 

 その後? 特に何も無かったよ。

 お泊りに来たサーシャがお赤飯もまだなのに血を流して女になって、対面座位にド嵌りしたくらいかな。

 

 

NTD3DS月

 

 

 2回レイラと…穿龍棍使いと狩りに行った訳だが、色々収穫はあった。問題だった、蹴りの強化についてだ。

 レイラのやり方をじっと観察して、ようやく秘訣を一つ盗み取った。

 

 前回にも気づいた事だが、やはり穿龍棍に宿った力を蹴りに籠め、強化している。だが、そこで違っているのは、俺の蹴りと違って、籠められた力が爆発しないと言う事だ。

 例えるなら、俺の蹴りに籠められた力は爆薬。衝撃こそデカいが、足に反作用が来るし、一発撃ったら力が霧散してしまう。例えていうなら、無能部下焦がし機・ボンバー君2号。仕込んだ火薬の量が企業秘密。

 それに対して、レイラの蹴りに秘められたはゴムに近い。打ち出す足を内側へたたみ、打つ瞬間軸足を45度開く。開く時の力を利用し外側へひねる。相手が人間であれば、足の指で肉を抉る事すらできるだろう。そこへ加えて、籠められた力はゴムのよう。

 ゴムと言うと打撃力に欠ける印象があるかもしれないが、この場合はむしろ増幅器のような役割を果たすようだ。仮に打撃力に欠けるとしても、固められた力で何度でも蹴り飛ばせる訳なので、総合火力は一発技の爆発よりも遥かに上と来たものだ。

 

 うーん、フロンティアに居るとどうにも気付きづらいが、よくよく考えてみると真っ当な結論ではあるな。

 実際にミッションで戦うとなると、ガドリングとトッツキと、どっちが使いやすいかって話だ。トッツキモドキの鬼杭千切だって、そうそう使うもんじゃないしね。

 

 ふむ…つまりは、10の威力を8に抑えて、2発3発と連続攻撃できるようにしているのか。

 

 

 

 

 

 …これ、どうやって真似ればいいのかな。

 

 はっきり言うが、難易度の桁が違う。霊力で同じような事をやれる自信が、全く無い。一瞬だけ力を集中して、威力を上げるのは簡単だ。が、集めた力を霧散させずに留め続ける? しかも、モンスターに通じるくらいに強い力を、安定させて? 

 どうやってるのか見当もつかん。秘密がまだあるらしいな。

 

 …ジロジロ見てたのがバレて、ゲンコツ喰らいました。まぁ、立ち回りを参考にするくらいなら、事前に言えば構わない…とOKを貰ったので、今後は大丈夫だと思うが。

 いや訂正、あの恰好で大暴れされて、目が行かない自信が無い。目の前にミラボレアスクラスのが居ても自信ない。

 

 

 

 …レイラの事は置いておこう。それより、プリズムに何か言うべきかが問題だ。

 凄腕の穿龍棍使いなのは確定としても、トキシの弟子と言うのは俺の推定でしかないからなぁ…。大分立ち直って来たとは言え、不確かな情報を渡す事もないだろう。

 

 そう思ってたんだが……うーん…。

 仮にトキシの弟子と言うのが大当たりだった場合、プリズムが居た里にも関係がある可能性が高いんじゃないだろうか。結構長い間滞在していたようだし、最後の土地になったんだし…。

 そう思ってモービンに聞いてみると、確かに里にはアイルー以外の住人も居たとの事。その中で、プリズムに次いでトキシに親しい人は………加工屋のおっちゃんか。女のハンターとか居なかった? ……居なかったか。

 

 …ん? 歌姫サンに、妹が居た? 名前は? …………レイラ? マジで?

 

 

 

 

 …同姓同名…か? 当時の妹さんはハンターなどではなかったそうだが…いや、ハンターって専門の鍛え方をすればなれるもんだし…。

 会わせるべき…かな…。もしも本当に血縁者だとしたら、プリズムも…。

 

 と思ってたら、モービンからストップがかかる。

 …確かに、それは懸念事項だな…。経緯はどうあれ、プリズムの力が失われたから、里は滅びた。そしてその時、プリズムはトキシを追いかけて里を出ていた。…極端な話、プリズムのせいで里が滅んだと考えている可能性がある。

 実際には、失われていく力を取り戻す為だったとしても、八つ当たりだったとしても、怒りの向けどころになるかもしれない。

 

 暫くプリズムには黙っておいて、内心を探るよう依頼された。

 

 

 

 

 やれやれ、また面倒事が増えたな。

 で、次の面倒事だが…ミキ嬢が猟団の子達と尋ねてきた。どうするつもりなのか、結論が出たようだ。

 

 

「はい。…その、霊力の訓練方法と言うのを教えてください。自力で習得します」

 

 

 ふむ、一番真っ当なやり方で来たか…。異論は無いが。

 飢餓感はまだ出てないか?

 

 

「今は特には…。薬も常に持ち歩いているから大丈夫です」

 

 

 そうか。…その薬で抑えられている間はいいが、薬が尽きても習得できてなかったら、少々強引な手段を取る事になる。必死で覚えろ。

 …まぁ、最悪の事態になっても、命だけは何とかできると思うから、気楽にやるといい。

 

 

「どっちでありますか」

 

 

 気分的な問題だから、やりやすい方でいいんじゃねーの。両立させられないと、ハンターなんて仕事はとてもやっていけないがね。

 …で。みんなしてゾロゾロやってきたのは、俺が妙な事をしないか、実は詐欺だったりしないか警戒してるって事でおk?

 

 

「それもあるけど、どうせだから私達も、その霊力って奴を使えるようにならないかと思ってね。改めて情報を集めてみたけど、相当に便利な力らしいじゃん?」

 

「噂が本当であるなら、道具を使わず傷を癒す事もできるとか。それがあるだけでも、ハンターとしては非常に利用価値がある…と言うのは、貴方ならお分かりでしょう」

 

 

 まーね。回復薬の後のポーズも取らなくていいし。

 別に問題はないな。この力を広めるのも俺の目的の一つだし、本当に力が使えるようになれば、詐欺の疑いも消えるだろ。

 

 そんじゃ、今から訓練開始でいいか? この時間なら、デンナーとコーヅィも狩りを終えて、いつもの場所で訓練してる時間だろう。

 

 

 

 

NTD3DS月

 

 

 パンツァー猟団、現状では習得者無し。ま、一日で覚えられたら、デンナーもコーヅィも膝から崩れ堕ちるだろうな。……いつもの手段で習得させてるのはともかくとして。

 

 ただ、素質の高そうな子は何人か居たな。いつもの訓練場所に連れて行っただけで、戸惑ったように周囲を見回し、「何だか不思議な感じがする」とか言ってたし。感受性も高そうだ。

 ミキ嬢…ミキは、残念ながら普通…かなぁ? なーんかこう、秘めたるモノがありそうな気がしなくもないような…。

 まぁ、仮に何かあるとしても、大器晩成型だろう。現状、求められるのはアラガミ化を抑える為の早期習得だから、潜在能力にはあんまり意味が無い。

 

 

 俺はともかく、コーヅィとデンナーは信頼に値すると判断されたようで、大分打ち解けていた。特にデンナーは、「あの伝説のガンナー!?」なんて反応まで出てきたしな…。憧れのスポーツマンに出会った少年のような反応だ。

 二人がアラタマフリを使って見せた事で、彼女達の真剣度はかなり上がったようだ。やっぱ実物を見せるの程確実な方法は無いね。

 そうそう、コーヅィにミキの父親の事を訪ねてみたんだが…全く知らなかった。無自覚に人脈が広いコーヅィなら或いは、と思ったんだが…。まぁ、手がかりロクにないもんな。どこぞの領主とくっついたハンター、ってだけじゃ探しようもあるまい。

 

 

 

 結局、今日一日訓練に費やして、目に見える成果は無し。今後も続けるんだが…パンツァー猟団が拠点にしている広場で、訓練に適した所はあったかな。別に、普通に部屋の中でやっても効果はあるんだが、やっぱり効力が段違いだしな…。

 明日はソッチに出向いて、いい訓練場所が無いか探してみようか。

 

 

 本日は猟団部屋に泊まってもらい、明日は送っていく事になった。

 

 

 

 で、夜はいつも通りマイルームに戻って乱交であった。

 

 

NTD3DS月

 

 

 朝、俺の部屋から明らかに情事後のレジェンドラスタ+知らないハンターの女性数名が出ていくのを見て、パンツァー猟団から何とも言えない視線を向けられたが、それはともかく。

 パンツァー猟団のメゼポルタ広場に移動する間に、ふと思いついた。

 

 ミキ、マキ嬢に会って…じゃないな、様子を見てみる気はない?

 

 

「え? …それって、実家に連れ戻されるんじゃ…」

 

 

 隠れてこっそり話を聞くとか、遠くから双眼鏡で見るとか、手段は色々あるぞ。見た所、それなりの薫陶は受けてるようだが、周囲の気配にまで気を配れていなかったからな。妙なお姉ちゃんレーダーとか持ってなければ、隠れようは色々ある。

 

 

「…持ってないですよね? かくれんぼとかした時、隠れられた試しがないんですけど」

 

 

 いや俺に聞かれても。

 …マジレスすると、仮に正面から会ったとしても、強引に連れ戻される可能性は低いと思う。ミキが同意すればともかく。

 何でマキ嬢が、お忍びで、しかも噂を聞いただけの何でも屋なんて店に捜索を依頼してきたと思う? 連れ帰ると何らかの不都合があるか、ミキの意思を尊重しているかだ。

 

 

「………やっぱり私は…。でも、お姉ちゃんがどう考えているのか…知りたい…かも」

 

 

 そっか。そんなら、素材の受け渡しの時、適当にコジツケして呼び出してみるわ。…暫く後になると思うけど。その時には知らせるが、『やっぱり嫌だ』と思ったらバックレていいよ。

 何、そう深く考える事は無い。気楽に言えよ。

 

 

 

 ぶっちゃけ、俺にとってはどう転んでも他人事だからな! 自分の都合だけ考えて決めりゃーいいさ!

 

 

「…はい」

 

 

 

 

 そんなやり取りがあった訳ですが、取り敢えず霊力修行の為の場は確保できた。俺が居るところのメゼポルタ広場の修行場によく似た場所があったのだ。

 …と言うより、各メゼポルタ広場の構造って、大体共通してるよな…。ハンターが過ごしやすい、或いは色々調達しやすい構造になっている。

 まさかとは思うが、最初に始まったころの広場からして、そういう風に意識して設計されたのか? 古代に霊力を扱っていた文明があったようだし、何か関係があってもおかしくはない。

 

 

 ま、その手の検証できない考察は、また暇なときにでも考えるとしてだな。

 セラブレスが据わった目でやってきました。

 

 おう、どうしたセラブレス。一族の問題解決の報告しに行ったんじゃなかったのか? あと、この前一緒に狩りに行ったレイラ、レジェンドラスタだったらしいぞ。

 

 

「ああ、話は聞いている。…それよりも、予想外…いや、考えてみれば順当かもしれなが、問題が起きた。知恵を貸せ」

 

 

 まぁいいけど……一体なんだ? 先日の報告案を試すにしても、もっと時間がかかると思うが。

 

 

「…先日相談した結果、どういう結論になったかは覚えているだろう。外から異能者の血を取り込む、と言うのは少々紛糾したが、近親婚の繰り返しによる弊害の可能性を示唆したところ、素直に収まった。一族の若い男女も、『出会いの機会が増える』と歓迎気味だった。そっちは異能の発現云々は関係なく、単純に伴侶が出来る機会が増えて嬉しそうだったが」

 

 

 じゃあ問題ないじゃん。何がアカンのよ。合コンのノウハウでも欲しいのか?

 

 

「問題は、私の相手が指名されていると言う事だ! …考えてみれば当然だった。同じ外からの血を取り込むのでも、より優良物件が居ればそちらを取り込みたいに決まっている。しかも、一族の中でそいつと接点がわるのは私だけだ」

 

 

 …ひょっとしなくても、Meっすか?

 

 

「Youだ。不思議そうな顔をするな。①他の異能者と比べても、頭一つ抜けた実力者。②我々が知らない、異能を育てる為のノウハウを持っている。③問題を相談され、すぐに原因の検討を付けた上、解決策を提示できる。④この三つが無くても、G級の中堅ハンターとしての稼ぎと立場もある。…噂に聞く女癖の悪さも、血を多く残す為と考えればそうマイナスにはならん。これだけ揃えば、何が何でも取り込んでこい、と言われるのも当然だ」

 

 

 おおう…。でも、セラブレスは嫌なんだよな?

 

 

「当然だろうが! ハンターとしての貴様の実力は認めるし、噂に聞く程鬼畜外道でもないようだが、見境が無い事については噂以上だ。はっきり言って女の敵だ。そんな輩を夫にしたがる奴の気が知れん。…お前の周りの女を貶している訳ではないぞ。何でこうまで好かれているのかは理解できんが」

 

 

 そーね、反論のしようもない甲斐性なしだもんね。

 しかし、それなら何が問題なんだ? お前が一族や親類に意外と愛着があるのは分かったが、意に沿わない婚姻を強要されてハイワカリマシタと頷くようなタマじゃなかろう。嫌だと突っぱねるか、適当にのらくらしとけばよかろうに。

 

 

「単純に、親類から急かされるのが鬱陶しいのと………まぁなんだ、いずれは私も伴侶を持ちたいと思ってはいる。その時、お前との婚姻を押し付けられる事になりそうでな」

 

 

 それ、はっきり言って両方ともどうにもならん。

 

 

「少しは考えろ!」

 

 

 他人に向かって考えろと言う前に、まずは自分で考えろ。前者は親類の問題だから、俺が外からどうこう言えるような事じゃない。伝手がある訳でもないしな。

 

 後者はもっとどうしようもない。…処置無し、と言ってるんじゃないぞ? セラブレスがまず自力で男を捕まえなきゃならんし、その相手がどんな男なのか、何時頃の時期になってるのかも分からん。その時になってみないと、対策の立てようがないだろーが。

 

 

「ぬ…」

 

 

 大体、「婚姻を強制」なんて言われたって、俺はお前らの一族とは縁も所縁もない一般G級ハンターだぞ。「結婚しろ」なんて言われたところで、「お断りします」の一言で終りだろーが。

 ギルドにだってハンターの結婚を左右するような権利は無いし、王族の類が割り込もうとしてくれば、ギルドとの間に溝が出来る。

 はっきり言って、木っ端役人の一族が強制できるような問題じゃない。

 

 

 

「……………………あ」

 

 

 何だかんだ言って箱入りだのぅ…。世界の殆どが一族で占められていると言うか…。

 

 

「…うるさい。にしても、そうまではっきりと断られると、流石にプライドに傷がつくな…」

 

 

 そんな事言ってると、「婚姻を強制」の前に「責任を取って」って言葉がつくハメになるぞ。

 俺がお断りしてんのは、一族とやらのシガラミが面倒くさそうなのと、何よりお前とくっついたら、他の皆との関係はどうなるんだよ。清算というかヤリ捨てはしない主義だ。

 

 

「それは別に言われない気がするな。レジェンドラスタや異能のハンターとのコネツテなんぞ、ウチの一族からしてみれば是が非でも欲しいだろうさ。むしろ、私の心境なんぞ二の次でいいから、もっと増やせと言われるんじゃないか? …まぁ、もしも本当に結婚したら、の話だがな。あまり気分のよくない過程は、この辺にしておこう」

 

 

 そーだね。で、結局解決…にはなってないな。

 将来的な意に添わぬ婚姻は、一言二言で避けられたとしても、そうなるように俺とお近づきになれって催促は止まりそうにない。

 

 

「いや、そちらは私で何とかする。さっきも言われたが、身内の話だしな。…度々すまんな。また相談に乗ってもらうかもしれん」

 

 

 なーに構わんよ。数少ないG級ハンターの知り合いだしな。礼をしたいなら、体…肉欲的な意味で言うと「責任を取って」になりそうだから、労働力的な意味で返してもらおうか。

 

 

「ふむ、よかろう。今度は何を狩る気だ?」

 

 

 ウェストライブ領のお嬢さんから、ちょっと大量の素材集めを依頼されてるんでね。とりあえず…ガスラバズラかな。

 

 

 

NTD3DS月

 

 

 本日、マキ嬢への素材引き渡しの日である。引き渡しついでにちょっと確認したい事がある、と口八丁(手紙だけど)で呼び出しをかけ、現在は酒場で待っております。

 

 そしてその酒場の隅っこの人目に付かない場所には、ミキとその友人のアキャマが潜んでいる。謎のお姉ちゃん系レーダーを搭載していた場合に備え、タマフリで隠形もかけているから、そうそう見つからないだろう。…多分。最悪の場合、何とかして足止めして逃がす所存である。この場をセッティングした張本人としては、そのくらいの責任はね。

 さて、どう出るかな…。っと、おお来た来た。こっちだこっち。

 

 酒場へ入って来たマキ嬢は、以前よりも大分ラフな格好でやってきていた。ま、今温暖期だしね。クッソ暑いしね。

 

 

「済まない、待たせたか?」

 

 

 いや、待ち合わせの5分前だよ。まぁ座りねぇ。遠い所から、遥々おいでやした。

 まずは駆け付け一杯…いや、飯の方がいいかな?

 

 

「そうだな。ああ、一杯はいいが、ノンアルコールビールで頼む。職務中ではないが、真昼間から酒に酔う趣味は無い」

 

 

 まーハンターと違ってすぐには酒も抜けないもんな。

 そんじゃ、料理が来る前に…まずはコレ。集められた素材リスト。

 

 

「む……。ふむ。ありがたい。ようやく半分か…。だが問題は、これが目的の用途に使えるかどうかだな…」

 

 

 条件をクリアした素材が出るまで、繰り返しってのは本当にキツいわ。というか、そろそろそっちの懐も厳しくなってきてるんじゃないか? これ以上割引はできんが、ローンとか考えなくもないぞ?

 

 

「……厳しいのは確かだが、それはいい。貯蓄…と言うか、貯めこんだお年玉を使えば、もう暫く何とかなる。是が非でも完成させなければならないんだ。あの夢に見た戦車を」

 

「戦車!?」

 

 投擲!

 

「ん? …気のせいか? 何か聞こえたような」

 

 

 こんだけ賑わってりゃ、妙な言葉の一つや二つ聞こえてくるだろ。空耳であっても。

 …隅っこで、オデコを赤くしたアキャマをミキが抑えてるが、何も見えんな。隠形かけてるもんな。

 

 ところで、戦車っつっても作っただけで終わりじゃあるまい。あの手のモノは、数を揃えて、使い方を考え抜いて、使い手の練度を上げて、補給ラインを作り上げて……ど、ドーピング? ドクトリン? を作ってナンボだろ。

 その辺の事は考えてるのか?

 

 

「………も、勿論だとも。先祖代々、ハンターの支援をするために研究してきたウェストライブ家を舐めるな。…まぁ、前代未聞の形になるだろうから、やはり既存のものをアレンジしていかねばならんだろうが…」

 

 

 …本当に考えてたのかねぇ? ま、いいや。

 それより本題なんだが。

 

 

「む? ああ、何か確かめたい事がある、と言っていたな。直接会って話さなければならない事なのか?」

 

 

 聞くだけだったら手紙で済むんだが、面と向かって話したかったんでね。忙しい領主の令嬢を呼び出した事はすまないが、可能な限り応えてほしい。言えない事は言えない、分からない事は分からない、機密に関わるなら…まぁ、嘘をついてもいい。

 

 

「前置きはいい。何だ?」

 

 

 ミキ嬢の事だ。実は、ミキという女性は何人か見つかった。。

 が、彼女達は卒業したばかりの新米ハンターだ。ハンターが訓練所を卒業するのに、どんなに短く見積もっても半年以上かかる。ミキ嬢が家出をしてから、2か月も経っていなかったと思うが?

 

 

「その通りだ。別人だろうな。…それだけか? まずはそのミキ某とやらの所に行って、確かめてみるだけでも良かったろうに」

 

 

 少しばかり踏み込んだ事を聞くが……そっちでのミキ嬢の扱いはどうなっている? この際、見つけ出すのは構わんが、そうなったら連れ戻すのか?

 お家騒動がどうのこうのって話に発展しそうなら、俺も少しばかり態度を考えきゃならん。

 

 

「それは………正直に言おう。私にも分からん」

 

 

 分からん? 探させておいて?

 

 

「…お母様は、ミキを探そうとしていない。いや、私の知らない所で手を回しているのかもしれないが、少なくとも表立って行動している様子は見せない。だが、ミキがどうでもいいと考えているのではない」

 

 

 家族についてこんな問いかけをするのも酷だが、その根拠は?

 

 

「ミキがまだ、ウェストライブの娘として扱われているからだ。あの子の部屋も、掃除する以外には何もせず、いつ帰ってきてもいいように整えてある。普通は、領主の娘が責務を放り出して家出をしたなど、醜聞もいい所なんだ。人に言えないような事情があって、一時的にそう見せかけているとしても、政敵につけ入るすきを与えない為に、絶縁したフリをして、その後何らかの口実を設けて復縁させる。…お母様は苛烈なお方だ。もしもミキをどうでもいいと思っているのであれば、すぐにでもウェストライブの娘としての立場を取り上げ、居なかった事にしてしまうだろう」

 

 

 それはまた…。家族に対してそこまで…いや、そこまでやりそうな人物が、やってないからこそ温情がある…と?

 

 

「私はそう思っている。だが、捜索の手も伸ばしてない事には納得できない。…私はミキを連れ戻したい。居なくなったあの日、叱責はされたがそう酷いものでもなかった筈だ。なのに、どうして誰にも告げず、突然居なくなったのか知りたい。話をしたい。私達の何がいけなかったのか。そんなに家で暮らすのが辛かったのか。せめて教えてほしい。絶対に治すから。また、一緒に暮らしたいんだ…」

 

 

 …俯いてしまった。涙こそ流れてないが、泣いてるなこりゃ…。思ったよりアカン所に突っ込んでしまったか。

 とりあえず……。

 

 丸く収まるよう協力は約束するから、飯を食え。腹減ったまま考えても、ロクな結論は出てこんぞ。

 

 

「…うん」

 

 

 

 …さって、どうしたもんかねこれは…。マキ嬢は色々考えてるようだが、問題があるのは全然別のトコなんだよなぁ。家出だって本人の意思じゃなくて、アラガミ化して俺に引き寄せられてきただけだし。

 家に多少問題があるのは否定できそうにないが…。

 

 

 …とりあえず、おかー様とやらがどう考えてるのかが問題だよな。連れ戻して……家出して心配させたお叱りくらいは甘じて受けてもらうとして、どうして何のリアクションも起こさないのかが気になる。何か深い考えでもあるんだろうか。或いは、領主としての立場と、親としての立場の板挟みの結果、そうするしかなかった…とか?

 そこんとこを、マキ嬢が分からないままにしてるってのも、問題と言えば問題か。迂闊に連れ戻して、ミキ嬢に何ぞあったら、また話がややこしくなる。

 例えば……政略結婚でミキ嬢を狙ってる誰かが居るとか?

 

 

「そのような事になった場合、未完成の戦車に大樽爆弾Gを満載して突撃させてでも私は阻止する。しかし、そうだな…。一お母様と話をせねばならんか。意思の疎通と統一は、何よりも優先するべきだしな。分かった。何とかお母様の考えを聞き出してみよう。…その全てを君に伝えられるとは限らないが」

 

 

 ま、そこは責任ある立場だから仕方ないね。こっちとしても、折角見つけた女の子が、不幸になる為に家に戻らされるって事は考えたくない。

 俺のモチベーション維持の為にも頑張ってくれ。

 

 

 

 

 

 ………と、このようなお話になりましたとさ。

 マキ嬢が帰った後、ボロボロ涙を零して顔を真っ赤にしているミキと、額を赤く晴らしてちょっと貰い泣きしているアキャマのおかげで、周囲からちょっと冷たい目で見られたが。

 

 

 …おかー様とやらの考えは分からないが、とりあえずマキ嬢はミキの味方っぽいな。

 

 

「はい…。…それが、分かった、だけでも…うぅ。おねえちゃん…心配かけてごめんなさい…」

 

「うう、自分、涙いいでありますか…?」

 

 

 もう泣いとる。

 …ああ、ついでにミキとマキ嬢のお父さんについても聞いてみればよかったかな。

 

 

「あ…それはお姉ちゃんも知らない筈です…グスッ 子供の頃に、誰かが居た記憶は薄っすらあるらしいんですけど」

 

 

 ふーん。居なくなったのはその前か…。かなり昔だな。トキシ…の年代よりも、更に前か。関係無さそうだな。

 

 

 ま、あっちの問題はおねーちゃんに任せるとして、こっちをどうするかだな。あっちの問題が全てクリアされたとしても、アラガミ化現象をどうにかしないと帰るに帰れん。

 

 

「はい…でも覚悟は決めました! どんな辛い修行だって、やり遂げて見せます! 今からでも、訓練再開をお願いできますか!?」

 

「お供するでありますミキ殿! ミキ殿が本気を出して自分達も協力すれば、きっと霊力なんて指先一つでチョチョイのチョイであります!」

 

 

 おうおう、その意気だ。

 ま、今日はもう瞑想もやったようだし、体を動かしに行きますか。自然の力を感じ取るって意味では、瞑想よりも狩りの方が上手くできるもんな。

 ついでだから、猟団の皆にも報告して、狩りの準備を整えておいで。

 

 

「「はい!」」

 

 

 

 ……と言う訳で、一狩いってきました。流石に下級だけども。

 狩りの腕前についてはまた今度述べるが、悪くはないとだけ言っておこう。

 乱入してきたガノトトスにも、問題なく対処できていた。…ちなみにそのガノトトスは、コンガリ焼けた挙句、今は骨だけになっている。

 

 

 そして今、日記を書いている俺の膝に頭を預け、ミキはスヤスやと眠っている。別に色っぽい事があった訳じゃない。日が暮れた辺りからウトウトしだし、キャンプで飯食った後にパタッと眠ってしまっただけである。倒れ込んだ先が、偶然俺の膝だっただけで。

 …アキャマ殿、羨ましいのは分かったから気配を抑えろ。ミキが起きたらどうする。

 

 

「うう、羨ましいであります…。自分もミキ殿の為なら、膝枕どころか腕枕も胸枕も…」

 

 

 幼く見えて何気にワガママボディな君が言うとシャレにならんな。にしても、よく寝るなぁ…。

 

 

「むぅ…やはり、色々と張りつめていた糸が切れたのではないでしょうか? 少なくとも、身内に味方が一人でも居ると言うのは多大な安心感があるでありますよ。ミキ殿は、マキ殿が大好きだったようでありますから」

 

 

 その分、コンプレックスも深そうだがね。

 

 

「それにしても……凄い食欲でありましたな。以前、貴殿に襲い掛かった時程ではありませんが……また食欲が増しているような気がするであります」

 

 

 ガノトトス、半分近く一人で食い尽したもんな。

 

 アラガミ化が進んでいるのかって話か? …じりじりとだが、進んでいるだろうな。ま、薬がある間はそう問題はないだろう。それに、本気でアラガミ化してれば、骨も残ってないよ。

 ミキには秘密にしているが、実のところ霊力を問答無用で目覚めせる方法も、あるにはある。オススメできないだけでな。…最悪の場合は、それを使う事になる。

 

 

「…最悪、と言う程の手段なら、極力取りたくはないでありますね。…しかし、別の部分でも心配が…。何と言うか…その……決してミキ殿を貶す訳ではないのですが、こうも食べて寝ていると…」

 

 

 

 ん………あー……ミキは牛ってよりワンコなイメージがあるな。それ以上にワンコっぽいのはアキャマ殿だが。

 ま、そこら辺は心配しなくていいよ。ハンターもそうだけど、ゴッドイーターにその手の心配はまず無用だ。少なくとも、酷い体系になったゴッドイー…もとい、アラガミ化した人間は見た事ない。毎日スィーツ食って昼寝してても、太る心配はまず無いな。

 

 

「…霊力を身に着ければ、アラガミ化現象とやらは抑制できるのですよね? ならば…」

 

 

 肥満防止の為にアラガミ化するとか、斬新な動機だな。あっちの連中が聞いたら、ふざけんなって怒り狂うだろうに。

 

 

「いやいや、それだけではないでありますよ。…このような事、ミキ殿が起きて聞いている時にはできないでありますが……ミキ殿は今でも、自分の体について悩んでいるようです。アラガミ化現象、と言う名前と、それを克服した先達が現れたとは言え、自分の体が得体の知れないモノに変わっていく不安は如何ほどか。自分は、例えミキ殿がそのアラガミとやらになってしまっても、友人であります。どこまでもついていく所存であります。ですが、ご家族から拒まれたらどうしよう…と考えてしまうのも仕方ありません。……他には…その、寿命とか…」

 

 

 置いていかれるか、自分だけ先に逝くかって? 寿命は人間と大して変わらなかったと思うがな。まぁ、アラガミの事について全然知らないもんな…知ってても理解できんだろうけども。

 で、それが?

 

 

「仲間は多い方が、安心できるでありましょう?」

 

 

 …マジで地獄の底までお供する気だな、こいつ…何と言う忠犬アキャマ…。まぁ無理なんだけどね。

 

 

「なんと!?」

 

 

 ミキがどうしてこうなったのか分からんままだ。仮にこうなった切っ掛けが掴めたとしても、アラガミ細胞は山の天気より気紛れだ。同じ事をしても、同様の体になれるとは限らん。むしろ、即死する可能性の方がずっと高い。

 あんまり無茶なことは考えず、素直に狩り友やっててやれば「……おとうさん…」………。

 

 

「……父親の不在、と言うのは辛いものでありましょうな。フロンティアなどという魔境にやってきて、それでも探し求める程に」

 

 

 繊細な年頃ならね。………やれやれ。俺って、代役でも父親面できるような人間じゃないんだがなぁ。

 子供でもできれば変わるのかね。

 ま、とりあえず毛布かけてやるとしよう。風邪ひくなよ。 

 

 



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281話

NTD3DS月

 

 

 ミキを膝枕したまま一夜を明かした。夜中にドスファンゴとかリオレイアとかが走り回って騒がしかったけど、一睨みしたら逃げてったから問題ないよね。全く、ミキとアキャマ殿が起きるだろうが。

 …最初にベースキャンプ近くで爆走していたドスファンゴは、投げナイフだけで仕留めて朝ご飯として確保しました。

 

 朝っぱらから牡丹鍋というクッソ重いメニューだったが、二人ともよく食べますな。いや俺も食うけど。

 

 

 

 さて、それはそれとして狩り語りの時間である! エロ語りじゃないよ、狩り語りだよ。要するに、ミキとアキャマ殿の動きの品評会だな。

 

 

「お、お手柔らかに…」

 

 

 心配すんな、現状では特に問題ない。…下級なら、って前置きはつくが、下位ハンターの中盤くらいまでは特に苦戦も無しで行けるだろ。

 問題があるとすれば…ミキ、君の動きだ。仕方ない事ではあるんだけどね。

 

 以前にも言った通り、君は通常のハンターとは少し違う。強化された体の為、ハンターとしての訓練も従来よりも短い時間で終わってしまった。だから、ハンターとしての動きも完成してないし、アラガミ化した人間としての動きは全くできてない。

 極端な話、身体能力でゴリ押ししてるんだ。

 

 

「…はい…」

 

 

 ま、教えてくれる人も居なかったし、自力で研究できる程慣れてないんだし、それでここまでやれるって事が既に高評価なんだが…。ハンターとしての動きは、アキャマ殿や猟団に見てもらうといい。アラガミ化した人間の動きは……まだ教える必要はないか。組み合わせれば結構なシナジーがあるんだが、異なる技術を同時に覚えようとするのは難しい。すでに霊力修行中でもあるから、時間が足りない。

 

 

「お任せください! 自分に訓練を施した、ハードマン教官並の訓練を…訓練………を……う、うわぁぁぁん! 申し訳ありませんミキ殿ぉぉ! 自分、ミキ殿にあのような罵声やセクハラソングを歌わせるなんて、出来ないでありますぅぅぅ!!!」

 

 

 やっかまし! そこまでハードにせんでええわい! …いや、した方がいいのかな? まだハンターとしての活動と言うか、命のやり取りに躊躇いがあるようだし…。

 しかし何だな、意外といい動きするんだよな、ミキって。動作じゃなくて駆け引きや間合いの調整って意味だけど…ハンターとしての訓練も受けきってないだろうに。

 

 

「あ、それなら多分、実家で聞いていたあれこれのお陰じゃないかと。ハンターを支援する、と言うのが実家の家訓でしたから、その為に色々な逸話やお話が記録されているんです。…アキャマさん泣き止んで…」

 

 

 へぇ、値千金の薫陶を、言葉だけとは言え聞いてた訳か。…案外、ミキって支援よりも、直接ハンターする方が向いてんじゃね?

 …思い付きで言ってみたけど、割と真面目にアリかもな…。マキ嬢だって、見ず知らずのハンターを支援するより、カワイイ妹を応援する方が身が入るだろ。計画立案・援護担当のマキ嬢、資金や補給担当のお母さん、それを受けて現場に立つミキ。…結構いい構図だと思うよ?

 

 

「…そうかも…」

 

「それがいいであります! ずっと一緒にハンターであります! でも出来ればご家族とも仲良くしたいであります!」

 

 

 ま、そっちはマキ嬢のリアクション待ちだね。連絡が来たら、そっちにも知らせるよ。

 とりあえず、今日の所はこれで帰ろうか。

 

 …さっきの構図、お父さん居るとしたらどこになるかな…。

 

 

「ハンターだったらしいですし、私に訓練をつけてくれる先生になるんじゃないでしょうか」

 

 

 つまり、現状だと俺の立場か? まぁ、大した指導はしてないが…。

 

 

「年齢的に、勉強を教えてくれる親戚のお兄ちゃんポジでありますな。自分は、ミキ殿の…」

 

 

 ワンコでよかろ。

 

 

「犬じゃないであります!」

 

「あ、犬はもう実家で飼ってます。…心配してないかなぁ。散歩は大抵私と一緒だったし」

 

「…ミキ殿といつもお散歩……犬でもいいかも…」

 

 

 

 

NTD3DS月

 

 

 昨日はミキと一時間ばかり訓練して終了。うーん、何だか妙な事になっちゃってるよな、今更ながら。

 …考えてみれば、ミキのアラガミ化現象って色々不自然なんだよなぁ…。ゴッドイーター化にせよアラガミ化にせよ、普通は1時間もあれば完全に完了するものなんだが。

 ウェストライブ領から、俺に惹かれて遥々やって来たと言うのも推測にすぎない。そもそも、特異点モドキである俺に襲い掛かる理由があっただろうか? 特異点って、そーゆーもんじゃなかった気がするが…。

 

 まぁいいか。ミキの霊力は、本人は自覚して無さそうだが徐々に増えてきている。このペースなら、薬が尽きる前に霊力を会得できるだろう。

 マキ嬢の本心が聞けた為か、忠犬アキャマ殿を始めとしていい友人が周囲に揃っている為か、メンタル面も特に問題は無さそうだ。

 

 

 

 それはそれとして、意外な所から朗報が舞い込んできた。と言っても、俺には直接的な関係はない事だが。

 壊滅してしまったトゥルートの村と住民達についてだが、援助の申し出があったそうなのだ。村の立て直しと言う事ではなく、引き取り先を作って、そこで住み込みで働いてもらうと言う事だが、少なくともこれで衣食住は保証される。

 

 あの村の領主にはそんな余裕はなかったそうだが、一体どこから……と思ったら。

 

 

 何故にウェストライブ領から? 俺、政治的な問題とか貴族の面子とかよく分からんのだけど、これって他所の領地の問題に首突っ込んでる事になるんだよな? 問題にならんの?

 

 

「普通なら、良くも悪くも問題になるね。他所の問題に口を挟むのもそうだし、口を挟まれなければ支援が出来ないと言うのも、土地の主として問題だ。はっきり言えば、ウェストライブ領が他所の領地を意味もなく支援するとなると、それは領民から受け取った税を、全く関係の無い所に注ぎ込む事になりかねない。…が、今回はそうではないのさ」

 

 

 どういう事なんですか、毎度お馴染み意外と出番のあるエドワードさん!

 

 

「まずは、ウェストライブ領の家訓。これが、ハンターの支援にある事は知っているかな? 幸運…いや、不幸中の幸いな事に、あの村は将来有望なハンター…トゥルート君、だったかな? の故郷だ。その彼女は、現在は村の復興や村人の身の振り方の為、ハンター活動を休止している。ここで支援をすれば、後顧の憂いが無くなったトゥルート君はハンターとして復帰できるし、また将来の上級、或いはG級ハンターに恩が売れると言う訳さ」

 

 

 ……言ってる事は分かりますが……なんか、コジツケっぽくないですか?

 

 

「実際コジツケだからね。要するに、表の面子を擦り合わせ、裏の金銭のやり取りがあったのだよ。別に私腹を肥やした訳ではないよ。トゥルート君の村の領主とて、本当であれば村の復興はしたいし、ウェストライブ領からの支援も受け取りたかった。だが、表立って受け取るには面子や筋道の問題が邪魔をする。だから、適当に理由を付けてやったのさ」

 

 

 ウェストライブ領が金を出す理由は? 税の流出になるんでしょうに。ああ、人道的見地から、と言うのは無しで。

 

 

「勿論それもあるが……そこの話はもっと単純だよ」

 

「私とエドワードが、領主のシキに話を付けたと言うだけよ」

 

 

 …ティアラさん?

 

 

「別に大した事はしてないけどね。私は手紙を送っただけだし」

 

「君にとってはそうでも、ウェストライブ領主にとっては大違いだよ。レジェンドラスタ二人からの連名での支援要請。しかも、ティアラは現在進行形の大貴族な上、僕も没落したとはいえ、それなりに名の有る貴族だった。無視できると思うかい?」

 

 

 ムリダナ。

 

 

「ついでに言うと、ウェストライブ領主…と言うより、シキには貸しがあるんだ。ある意味借りだが。……実を言うと、僕の実家が没落した理由に、彼女の『やらかし』が一枚噛んでてね…。まぁ、もっと大きな理由はティアラの家だったんだけど」

 

「別にいいじゃない。今更貴族がどうのと言い出すつもりもないでしょ。大体あれは、そっちの家の自業自得よ」

 

「そうなんだが、多少は悪びれてほしいと思う事もあってだね…。いやまぁいいか。とにかくそういう訳さ」

 

 

 …ひょっとしなくても、俺の知人の為に動いてくれた…んですか?

 

 

「そうよ? 感謝しなさい。私がこんな事の為に動くなんて、滅多にないんだから。ま、エドワードに鬱陶しいくらいに頼み込まれたからだけどね」

 

「ま、手紙一つ二つで壊滅した村を支援できるなら、安いものさ。君は歌姫様を元気づけてくれた。彼女が歌う事には反対しているが、女性にあのような顔をさせたままでは、紳士の名が廃るよ。ついでに言うと…これで君は、ウェストライブ領主・シキに会いに行く理由を手に入れた事になる。君自身ではなく、支援を受けたトゥルート君の付き添いと言う事になるがね。知人が受けた恩を返す手伝いをする、とでも言えばいい。こうすると、トゥルート君は村の復興の支援を受ける事ができ、シキは僕に対する借りを一つ清算しつつも、出資と引き換えにG級ハンターの君と繋がりを作る事ができ、僕の懐は痛まない。君も新しい伝手を得る事ができる、という寸法さ」

 

 

 見事に丸く収めてくれちゃってまぁ…。

 …ありがとうございます。…人の縁は力だなぁ…。

 

 

「黄昏てるんじゃないわ。礼は形でするものよ。貴方達にはそれでよくても、私に対しては何の見返りも無かったんだからね。さぁ行くわよ!」

 

 

 はい?

 

 

「久々にピンとくるデザインのマフラーが出たのよ。すぐにでも手に入れないといけないわ」

 

 

 え、買うんすか? お返しするのは構いませんけど、金で手に入るならティアラさんが自分で買った方が早いのでは? 俺からの送られるのが重要、なんて問題でもないでしょうし。

 

 

「素材が足りないのよ。ロロ・ゴウガルフとレイ・ゴウガルフと、赤オーラを纏ったラージャンの素材が。何度も狩りに行くのは面倒だから、一度で済ませるわ」

 

 

 装備品扱いですかい。と言うか、なんだそのラージャンっぽいのの揃い踏み。特に最後の奴って、激昂どころか赤き金獅子じゃないですかヤダー!

 幾らなんでもキツいんですけど!?

 

 

「貴方がキツいで済む程度なら、私が居れば問題ないわ。確かにちょっと手間だから、クロエにも手伝うよう言いつけてるし、今日の夕方までには終わらせるわよ」

 

 

 

 

 

 追記 赤き金獅子どころかヴォージャンだった。ヴォージャンの素材だと使えそうにないから、と結局探してもう一体狩った。しぬかとおもった。

 

 

 

 

NTD3DS月

 

 

 レジェンドラスタ女性勢コンプリートまであと一人だよバカヤロォォ!!! …いやすっごいイイんですけどね。当面、修羅場になる気配もないしさ。

 ただ難点を言えば、ティアラとクロエとは殆ど接点無かったからなぁ…。お互いの事をよーく知り合って、好き合って体を重ねるんじゃなくて、その辺でナンパしたら最後までヤれちゃった状態と言うか…いやユウェルとかもそうだったんだけどね。これから知り合っていけばいいだけの話だし。

 

 ちなみに何でそんな事になったかっつーと……ほぼティアラの責任だと思いますマジで。

 元々レズっケがあるとは聞いていたが、よもやクロエを性的に狙っていたとは…。俺はそれに巻き込まれたと言うか、オカズと言うか道具と言うか竿役にされたんだけど、逆に乗っ取ってしまったと言いますか。

 

 まーなんだ、大連続ラージャン種の狩猟はクロエにとってもかなーりキツくて命の危機をビリビリと感じていたらしく、大分ムラっと来てたらしいのよ。それでも、俺には極力近寄らないようにしてたみたいだけどね。真面目ちゃんなレジェンドラスタと聞いていたが、それに違わぬ堅物っぷり。…まぁ、キメ台詞からのお属性開放突きをスカして、冷や汗垂らしたりするお茶目な一面もあったよーですが。

 で、俺を警戒し、ティアラにも妙なちょっかいを出さないようにと、俺に注視していたんだが………その分、背後で蠢いていたティアラには気づかなかったみたいでね?

 

 

 正直、二人の間でどんなやり取りがあって、コトに及んだのかは俺にも分からない。ティアラから「時間になったら、この部屋に来なさい」と言われて素直に向かったら、いきなり大股開きで御開帳してるクロエがね…。

 ティアラはその上で、クロエの足を掴んで固定してるし、入って来た俺を見て舌なめずりまでするし。あの舌のテカり具合からして、ディープキスとクンニまではやっていたようだ。

 

 

「駄目です、このようなこと…許されません、快楽目的でするような事では、増して将来を誓い合った伴侶でもないのに、ああっ!」とか喘いでいたクロエも、俺を目にするなり青褪めたが、ティアラの拘束を振りほどく事も出来ず。唯一自由になっている手で、女として一番大事な所を隠すのみ。手ブラならぬ手パンティ? さっさと出ていけ、とばかりに睨みつけられたが、赤らんだ顔では迫力もなにもありまセンな。

 

 

 色々な意味で目が離せなかったが、とりあえずティアラにどういうつもりか聞いてみた。…思いもよらぬチャンスが巡ってきたものの、不測の事態だったからクロエを貫通する為の『道具』が無い。それではクロエを喰う事はできても、画竜点睛を欠く。…だったら、自分以外を参加させるのは癪だが、本物を使えばいいじゃない…と言う事だった。

 何と言うか……本気っすかティアラサン?

 

 

「いいでしょう? 私の情事に侍れるのだから、感謝しなさい。…にしても、正直言って意外ね。聞いていた話の通りなら、四の五の言わずに襲い掛かってくると思ったのに」

 

 

 そりゃ、もう関係を結んでる相手や、あっちから誘ってくるならともかく、殆ど話した事もない相手をいきなり襲うような真似はしませんがな…。そりゃ、直立するのが難しいくらいにビンビン状態になってっけども。そういうゴッコ遊びならともかく、リアルの強姦は嫌いです。

 

 

「腰抜けですこと…。いいわ、こっちに来なさい。男のモノを相手にするのは初めてだけど、その気にさせてあげる」

 

 

 命令に従うのが当然、と思っているような口調に少々ムッとする。が、ここで誘惑に抗うような俺ではない。どう見ても同意の上ではないクロエではなく、自発的に何かしてくれるティアラなら問題はない。

 と言う訳で、クロエにも見える角度…大股開きしている部分の真ん前に立ち、オトコの武器をポロンと。

 

 

「へぇ、初めて見たけども粗末………そ……そ……?」

 

「…………(絶句)」

 

 

 二人とも、そそり立っている俺のを見てフリーズした。ま、無理もないよなぁ。日中は久々に本気で死を覚悟した事もあって、その反動で霊力とかオーラとか種の保存本能とかがマシマシだもの。ナニから妖気が立ち上って見えた、とは後のクロエの弁である。実際、妖気と言うか淫気と言うかドスケベオーラとか、そーゆーのが宿ってた気がする。

 

 

「……張り型って、本物より大きく作られてるんじゃないの?」

 

 

 いや別にそんな決まりは無いが。と言うか、普段ティアラが使ってるのより、俺の方がデカいって事かね?

 

 

「そ、そうね……。いいわ、ちょっと想像よりも危険な気配がするけども、火遊びにはそれくらいの方がいいわ。大きいだけなら、大した違いもないでしょう、うん」

 

 

 やる気ですな。と言うか目が片時もナニから離れようとしてないんですが。

 …この分なら大丈夫か。クロエさん?

 

 

「ひゅい!?」

 

 

 ティアラは上手い事ノックダウンさせるんで、クロエさんに被害が行かないようにしますわ。恥ずかしいでしょーけど、暫くは我慢してください。あと文句はティアラさんに言ってね。

 

 

「え、あ、はい…」

 

 

 …ちょっと残念そうに見えるのは気のせいか。…こんな事言うのもなんですが、参加したくなったら素直に言ってくださいよ。

 

 

「し、したくなる筈がないでしょう! 貴方達は常識やモラルと言うものを!」

 

 

 少なくともこの場で一番放り出してるのはティアラさんなんだよなぁ…。

 と言うか、これも趣味なのか? マジレスするけど、いくら道具が無いからって、それで他の男を連れ込むとか抵抗無いのん?

 

 

「別にないわね。それに、初めての試みではあるけど、こういうのもいい物よ。目の前で、私の命令に従う男に、狙っていた女が貫かれる…。私が蹂躙しているようで、なのに寝取られているようでもあって、本当に楽しいわ。でも、まずは具合を確かめないとね」

 

 

 …これが貴族特有の退廃的な趣向という奴なんだろうか。悪趣味で残酷で利己的で刹那的で快楽主義。これもうわかんねぇな。クロエさんが戦慄してるし。

 などと言っている間に、ティアラは俺のをシコシコし始めた。おお、極上品と思われる手袋の感触が何とも…。

 

 

「ふぅん…張り型とは違うのね。あちこちにデコボコがあるし、妙に熱いし、血が流れているのを感じるわ。私の手に反応して、変な動きをするみたいだし」

 

 

 事務的ではないけど、妙に冷静に言われると羞恥心が滾るな。

 好奇心旺盛な手つきと言うよりは、珍しいモノがあったからちょっとつついてみるような手付きだ。モルモットになったような気がして、ちょっとMな気分。

 

 尤も、それでやられっぱなしになるつもりもないけども。

 

 先端を爪先(手袋越しだから痛くはない)でツンツンしてこられると、ついつい我慢な液体が滲んでしまう。既に若干糸を引いているソレを拭い取り、ティアラはハナで笑ったように見えた。……が、彼女の余裕もそこまでである。

 唐突に脈絡も前フリもなく新技とか能力とか出して申し訳ないが、俺の体液はアレだ、媚薬的なナニかなのである! そりゃーもうタイマニン御用達レベルの。そんなモンに触れてりゃ、まともな気分じゃいられまい!

 

 

 

 …はい嘘です。むしろ納得されそうですが、一応嘘です。流石にタイマニンレベルには達してないよ。霊力を通い合わせた相手との体液交換でならともかく、指先で触れられただけでアヘアヘ状態になるような危険な物質は入ってないよ。

 まぁ、かなり条件が揃えば、やってやれない事はないと思うけども。

 

 

 

 そして今は、その条件が割と揃ってるんですよ。

 ほら見てみろ。首輪をつけられた珍獣を撫でるようだった手付きのティアラが、徐々に目付きが変わってきている。ああ、これは獲物に気付いた肉食獣の目だ。多分、今まで女の子同士でエロする時には、こんな風な目付きで主導権を握って、ユウェルの妹なのに「お姉さま」なんて呼ばれるようになる行為を行っていたんだろう。

 事実、手付きに熱が入りつつも、その態度は明らかに自分が上だと疑ってもいないようだった。

 

 しかし、その中に戸惑いが入り始める。自分の意思とは裏腹に、心と体がヒートアップするのを止められないんだろう。

 

 段々と呼吸が荒くなり、獲物を見据える視線が、徐々に極上の肉(フランクフルトかな)を前にオアズケを喰らった犬のように、悲し気で切なくなっていく。

 おやおや、どうしました?(フリーザ感) 好きに扱えばいいでしょう?

 

 

「何…何なの、この気持ち…。何でこんなに、これが愛しいの…。今までこんな事、一度も無かったのに…。これが男のモノ…?」

 

 

 普通の人のは、そんな気持ちにはならないでしょうな。俺のは色々鍛えてますから!

 ほら、どうしました? 扱いてるだけで満足できないなら、もっと近くで触れてみればいい。男のを触るのは初めてでも、知識位はあるだろ?

 

 

「もっと…近く………」

 

 

 呆けたような目で、吸い寄せられるように先端に顔を近付ける。ゆっくりと口が開き、艶めかしい舌が這い出てきた。

 しかし、触れる直前で我に変えったように舌を引っ込め、距離を取る。

 

 

「…あ、貴方の相手なんて、手だけで充分よ。このまま出してしまいなさい。クロエにぶちまけさせようかと思ったけど…特別よ。私にかけさせてあげる」

 

 

 その真っ白な衣装に染みを作れるとは僥倖ですな。

 尤も、そういうティアラも、無関心を装っているつもりのようだが、惹きつけられてるのがバレバレだ。呼吸は浅く早いし、何よりも腰を落ち着かなげにモゾモゾと動かしている。

 

 手の動きを速め、射精を促される。充分我慢できる領域だが、ここは素直に出しておこう。何せ……。

 

 

 っと、イキます! 

 

 

「っ……!! …射精…本物を見るのは、初めてねぇ…」

 

 

 びちゃびちゃと、ティアラの胸元に着弾する子種。ティアラは明らかに、それを浴びた瞬間に強い愉悦を感じていた。

 立ち上る雌の芳香が一層強くなり、思考が鈍っているのが見て取れる。それもその筈。吐き出した精には、強い霊力を込めていた。言うまでもなく催淫効果を狙った霊力を。

 

 胸元を汚すソレは、ティアラにとっては初めて経験するオスの臭い。何よりも強い自己主張が、脳に直結した鼻孔に入り込む。服越しに肌から催淫作用が染み込み、更なる興奮を煽っている。

 

 胸の高鳴りを誤魔化すように、ティアラは自分の胸を揉みしだき始めた。いや、胸を揉むと言うよりは、糸を引いている精液を塗り広げようとしているかのようだ。

 その間にも、手で俺のを扱く事は忘れない。根本から一際強く締め付けられると、尿道に残っていた白い残滓が滲み出てきた。

 

 少し迷ったようなティアラは……その間に、白濁が一滴、下で呆けているクロエの顔に落ちていった……先端部分を拭い、熱に呆けた目で指先に舌を這わせる。

 

 

「苦い、わ…」

 

 

 女の蜜と同じようなもんですな。昂っていれば甘露、そうでなければ生臭い味。どうする? もっと欲しくなったなら、自分で絞り出せばうぉ!?

 

 

「絞り出す前に……まだ、ここに残っているわね? 吸い取ってあげるわ…!」

 

 

 とうとうティアラは余裕の表情を崩し(ボロボロだったが)て、自分から吸い付きにきた。口調こそまだ上から目線だが、ジャンキーのように俺の精を求めているのは顔を見れば分かる。

 初めてのフェラが、残りを吸い出すストロープレイたぁ高度だな。しかも、残った片手で自分の胸を、或いは股間を弄り回している。丁度、クロエの目の前で秘部を弄る形になるな。さっき堕ちた精が顔に着いたままのクロエは、魅入られたように目を離さない。

 

 竿に吸い付いたティアラは、初めてとは思えない口技で責め立ててくる。しかし、俺の…と言うより男のツボをついた舌の動きとはとても言えない。恐らく、今まで相手をした女の子達を相手に、ディルドーを付けさせて舐めるプレイのテクだろう。

 すぐに絞り出せるだろう、と思っていたティアラの表情は、殆どテクが通用せずに焦りが混じり始めた。さっきの残り汁で味を占めたのか、もっと寄越せと、焦りのあまりに強烈なバキューム。だが舌の動きが拙すぎる。

 

 ティアラは気づいているだろうか? 俺のに吸い付く事で、むしろ催淫効果が高まっている事に。欲求を満たそうと咥え込んでいるものの、むしろそれは欲望を煽るだけだ。

 このまま自分からどんどん深みに嵌っていき、懇願するまで焦らしてやるのも面白いが…生憎、今夜はまだクロエが残ってい……いやいやいや、本人が希望すればの話ダケドネ?

 

 まぁとにかく。ここはイニシアチブを取る為にも、能動的に動きます。具体的には。

 

 

 大胆さが足りない…こうするんだ!

 

 

「んんんンン!?」

 

 

 ティアラの頭を固定し、突っ込む! オカルト版真言立川流の秘術で、思いっきり突き込んでもムセないし息苦しくもならないオプション付きのイラマチオだ。慣れてきたら「その息苦しさがいい」という女も居るが、ティアラは初心者だし、性格的にこっちの方がよかろ。

 好き放題に、それこそ男の精を抜く穴のように扱われているにも関わらず、ティアラは抵抗しようとしない。それどころか、棒を責めるのに使っていた手が空いたとばかりに、大っぴらに自分の体を弄り始める始末。

 あまつさえ、気付けば上目遣いになって口を窄め、ヒョットコ顔で吸い付いている。

 

 一転した媚び顔の奉仕に、ムクムクと嗜虐心が湧き上がる。今度は…いや、今度もそれに抗う事すらせず、俺はティアラの喉奥に直接精を注ぎ込んだ。

 霊力云々を差し置いても、今のティアラにとっては、それは煮えたぎった石やマグマを体内に直接投入されたような感覚だったろう。ただし、肝心のティアラは核熱にも耐えうる火力発電所仕様である。精を飲み込んだティアラは、益々持って理性をかなぐり捨てたようだった。

 「狩猟生活は見た目」と公言し、スキルよりもデザインに拘り尽くして揃えた…本人の弁によれば、オーダーメイドでアレンジ品でもある…服を、掻き毟り引き千切るように投げ捨て、裸体を晒す。

 

 窓から差し込む月の光に照らされた彼女の肌は、野外で活動してるハンターなのが疑わしく成程に白く、足跡一つついてない雪景色、或いはどことなく雪女すら連想させた。

 しかし、よく見ればその雪原の肌に朱と明らかに異質な白い濁りが混じっている。朱は興奮によって紅潮した肌、濁りは言わずもがな俺の精。

 

 

 正面から手を伸ばして抱き寄せると、抵抗もせず体を預けてきた。…かと思えば、首筋に小さな痛み。抗議のつもりなのか、僅かに歯を立てられていた。

 頭を固定し、耳元で『これから男に犯される気分はどうだ』と囁いてやると、無言で僅かに体を強張らせた後、ナニの先端に自分の秘部を擦りつけてきた。無言の催促、いいね。

 

 両足を抱えて持ち上げ、抱っこの状態になる。腰の位置を調節して、後は腰を突き出すか、ティアラを支えている腕の力を抜けば、そのまま侵入できる体勢を保つ。

 初めての男を本能が欲しているのか、ナニの先端には愛液がとめどなく滴り落ちる。その直下には、やはりクロエ。ポタポタ落ちてくる、愛液とカウパーと精液の残滓、あとティアラの唾液が交じり合った液体で、胸元がビチャビチャになっていた。…呆けて口を開けているが、まるで受け止めようとしているように見えるのは気のせいだろうか?

 

 まぁいいか。まずはティアラを貫かないと。既に歯を立てるのを辞めて、今か今かと挿入を待っている。では、ご期待に応えて…。

 

 

「っ………!! あ、あつ…ふと、い……!」

 

 

 濡れそぼった秘所を、一気に貫いた。今までのレズプレイで、ディルドーやバイブで貫かれた経験があるのだろう。膣内の柔らかさは、結構なものだ。だが緩くはない。乱暴にしても受け入れられるだけの経験があり、同時に鍛え上げた体が締まりを失わせない。

 ついでに言えば、今までのディルドーだと、男の熱も、射精の感触も、肌と膣内で触れ合う事によって互いの状態を読み取り、動きを合わせる事も知らなかったろう。つまり、ティアラの経験は真っ新に近い。

 極上の素材を目の前に出され、道具や環境も最高の物を揃えられた挙句、「貴方の好きなように加工していいのです」と言われた気分だ。

 

 オッケー、作り物のでの遊びで女の快楽を知ったつもりになっていたお嬢さんに、本物のオスとメスの悦びというものを叩き込んでやりましょう!

 

 

 尻を鷲掴みにして腰を固定し、荒々しくピストン運動。ティアラの体が跳ねる事に、胸が潰れて歪む素晴らしい感触も味わえる。何より良かったのは、耳元で吐き出されるあられもない声。既に初めてのオトコにのめり込み、快楽に溺れているのがよく分かる。

 小生意気な貴族サマをケダモノに変え、責めるも焦らすも自由自在な状態になっている事に愉悦を感じる。

 

 …が、俺の独壇場でいられたのはそこまでだった。ティアラの膣内……侮れん!

 「なんとなくやってたら」でレジェンドラスタに至ってしまったティアラの体は、どうやら体内まで狩人のようだった。この女の子宮は、罠だ。落とし穴、痺れ罠、或いはそれらを合わせた男を吸い尽す為の罠。そしてそこに至るまでの道は、まるでヒダヒダが釣り針の『返し』のようになっていて、進む時には何の抵抗もなく、歓迎するように蠢いているだけだが、引き抜こうとすると途端に絡みつき、締め付け、もっと奥へと誘惑してくる。

 尤も恐ろしいのは、それを振り切って引き抜こうとした時だ。男を逃がすまいとする本能が急激に締め付けを強め、ヒダを凶器へ変貌させる。特にカリ首へ連続で絡みついて来るヒダの感触は、正に魔性。ついついもう一度味わう為に、更に深く突き込んでしまいたくなる。

 行きはよいよい、帰りもイキそう。

 勿論、その誘惑に乗ってしまっても問題はない。むしろティアラは悦ぶだろう。だが、狩人とは罠を仕掛ける側であって、罠に進んで嵌る者ではない。…要は、女と交わって悦び合うのはいいけど、肉体にド嵌りしてテクも何も捨てるような真似は嫌だ、というだけだ。

 

 引き抜く時に急激に込み上げてくる射精感を、いつになく必死に堪えながら、ティアラの弱点を探っていく。…そう言えば、ティアラってユウェルの妹だよな…。

 入口の奥4cm、右側。

 

 

「あぅっ!」

 

 

 尻の骨の窪みから、少しだけ上を指先で掴む。

 

 

「いぃ…」

 

 

 背筋から首筋へのフェザータッチ。奥の壁は突かれるよりも先端で捏ね回す方が。左の脇腹、4番と6番。肩甲骨に沿って舌を這わせる。ストロークの緩急を、ユウェルが好むものと同じにして。

 

 

「っ……! あっ、あ゛っ!! な、何で弱いトコロが分かるの…!」

 

 

 うーん、姉妹だねぇ。尤も、全部同じじゃなくて、触れ方は変えた方がよさそうだが。

 弱い所も、大体は把握できた。もっと細かい所までしゃぶり尽くして調べたいが、それは今後の楽しみとしておこう。そろそろ、本格的に玩具になってもらおう。  

 

 ティアラの弱い場所、好む場所を集中的に攻撃しだす。

 

 

「………!!!!!!!」

 

 

 繰り返し突き込まれる快楽で、息を吐く事しかできない。声を出すだけの酸素も無くなり、突き上げられる度にガクガクと体を揺すり、それでももっと深くとでも言うように俺の腰に足を回して縋り付いて来る。

 いっそ哀れさすら感じる程の痴態だが、容赦はなしない。女は男で気持ちよくなるようにできていて、この穴はその為にあるんだ、と教え込むように、執拗にティアラを責め立てる。

 ティアラが絶頂する度に子宮の奥から、繰り返し熱い液体が噴き出してきて、ピストンする肉棒に何度もぶっかけられる。それを浴びた肉棒は更に張り切るので、ティアラの昂ぶりは留まる事を知らない。もう快楽拷問の領域だろう。

 

 そろそろティアラの意識も限界か。酸欠になりかけてるし、もう何度も意識が飛んでは突き起こされるのを繰り返している。

 頭の中もメチャクチャで、何も分からない状態だろうし…何より、俺もそろそろ限界だ。射精したくて堪らない。

 

 魔性の名器で昂ぶりに昂った精を、ティアラの最奥目掛けて全力で噴出する。

 

 

「っっっ、 っ! !! !!!!!」

 

 

 初めての本物の種付けの感触。それによってティアラの決定的な『ナニカ』が、最期の一辺まで粉砕された気がした。

 ま、退廃趣味の貴族としちゃ本望だろう? 自分自身が、何よりも壊れて滅茶苦茶にされたんだから。

 

 

 

 完全に気を失い、股座から僅かな精液を垂らすティアラ。どうやら、大部分の精液は逃がすまいとする子宮に捕まってしまったようだ。妊娠するかもね? …ま、いつも通りに避妊はカンペキなんだけども…この魔性の膣っぷりを考えると、無理矢理妊娠してもおかしくなさそうなんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 さ・て・と。

 

 

 ガン見していたクロエさん? どうするかね?

 

 

「……ふぇ」

 

 

 おお、完全に呆けとるな。淫気に当てられたのか、それとも単にオボコには過激すぎたからなのか、その視線はティアラの体液と俺の体液で泡立ち塗れとなっているナニに釘付けだ。

 クロエの拘束はとっくに解けているにも関わらず、逃げる事も止める事もしなかった時点で、彼女の欲望が何処にあるのか推察するのは容易だろう。

 

 かなり激しくして、ちょっと疲れた(という口実)ので、クロエの横に座り込む。クロエの視線は、相変わらず釘付けだ。

 こういうお堅いタイプを口説き落として、ダメ男にド嵌りしたダメンズ好きみたいにするのも滾るものがあるが…どうせだし、もう一捻り加えたい。こっちから落とすんじゃなくて、自分から堕ちにきてもらおうか。

 

 大きく伸びをして横たわると、クロエの反対側で眠っているティアラも合わせ、川の字状態。

 ティアラも大人しくなったし、一休みするわ。もし起き出しても、多分クロエじゃなくて俺にターゲットが移ってるから、もう大丈夫だと思うよ。

 

 

「……え? 休む……?」

 

 

 ん?

 

 

「あの…大丈夫なんですか? ティアラじゃなくて、その……どう見ても…」

 

 

 ギンギンに滾ってますな。まだまだ余裕ですが、ヤらなきゃ死んじゃう訳じゃないし。……ないよね? 幾ら俺でも。若干不安にならないでもないが、ヤらない時期もあったし。

 まぁ、放っておけば治まるか、寝てる間にティアラがイタズラするだけでしょ。気にしなくておk。ノットマインド。

 

 それだけ言って目を閉じる。ただし、ナニはやっぱりギンギンのまま。

 クロエに服を着ろとも、別の部屋に移った方がいいとも言わず。そんな事言って、我に返られたり、逃げられちゃったりしてもね。

 代わりに、寝たふりをしながらでも、ピクピク動かしている。クロエの視線が強くなり、呼吸がまた荒くなっているのを感じる。

 男の竿を使って、釣りをしている気分である。そして、釣られる魚はどうやら百戦錬磨とは程遠い、釣り針が見えている餌にホイホイ喰い付いてしまう稚魚であるらしい。ただし、体だけは随分と大きい。色んな意味で。特に男を狂わすおっぱいとお尻が。

 

 挑発するように揺らしていると、隣でモゾモゾ動く気配がして、顔を寄せられたのが分かった。キス…ではなく、どうやら本当に寝ているのか確認しているようだ。尤も、こんな寝たフリなんぞ普段なら当たり前のように看破できるだろうけども。

 興奮しているからなのか、それとも本当に寝ていて欲しいという願望に誤魔化されたのか、クロエは暫くした後、また動く。今度は後始末もしてないナニに、手を伸ばそうとしているようだ。

 

 触れる寸前で、手が前後する。どうやら最後に残った理性や良識というリミッターが、好奇心と欲望に溺れるのに歯止めをかけているらしい。カタブツ(表面上だろうけど)なだけあって耐えるねぇ。

 しかし、その自制はどうやっても無駄な努力である。彼女が真面目なのは、そうしなければ自分を律せないと自覚しているから。律しようとするのは、自分の中の衝動と欲望を自覚しているから。

 ずっと抑え込んで、目を逸らし続けてきたのだろう。無理もない。レジェンドラスタと言えど、年頃の少女。自分の中に、切っても切れない醜悪な……そう感じるだけで、珍しくも汚くもないのだろうが……肉欲が存在している事自体、我慢できないだろう。潔癖症とまでは言わないが、少しばかり自分を、人間を綺麗に美化しすぎていたんだろう。

 

 だがそれも終わりだ。目の前で見せつけられた、肉の交わりと芳香によって、クロエの中の偶像が破壊された。いや、『汚染された』と言うべきだろうか?

 『人間がするべきではない事』として漠然とイメージしていた行為が、『人間がする行為』に代わってしまった。他の実物を知らないから、あの激しい行為が基準の物となってしまう。

 

 そうなると、自分の肉欲と好奇心を抑えるのは難しい。貯めこんでいたモノが一気に噴き出し、自覚無しに彼女の認識を歪めていく。

 

 

 相手が殆ど話した事の無かった、目の前で他の女と馬鍬うような男であっても、その欲望に従う事は、おかしな事でも何でもないと。

 

 

 

 「本当にそうか?」という理性の声を、意図的にか無意識にか退けて、クロエはとうとうその指を俺のモノに絡ませた。

 

 

 

 途端、それだけで隣の女体がゾクゾクと体を震わせたのが分かった。無論、触れただけで性感が刺激される訳でもない。出来なくも無いが、そういう仕込は今は使ってない。

 では、何故こんな反応をしたのか? 理屈は非常に単純である。

 

 

 

 根が真面目で清い者程、一線を越えた時に感じる悪徳の愉悦は深いものになる。

 …『人間がする行為』にはなったけど、それは『インモラルな事ではない』と思うようになったのではないのだよ? 要するに、『やってもいいよ』と言われたものの、良心はまだ納得してないって事だ。…だからこそ、愉悦。 そう思うだろ? アンタも!!

 事実、クロエは初めて触れるオトコよりも、今まで「やってはいけない」と思い込んできた禁忌を破って背徳的な行為に没頭する事に興奮しているようだ。

 ナニに触れる手は上手くも優しくもないが、自分の中から湧き出る感情を抑え込もうとしているように、震えながら力を籠めるのを必死で止めているのがよく分かる。

 

 …これは、まだ女…と言うよりメスの快感ではない。クロエが感じているのは、禁忌を破り身を浸す事の背徳感でしかない。だが、これこそが彼女を犯すのに最も有効な猛毒である。

 …それに、拙い手付きでされるのも、もどかしい感じがあって悪くないしね。

 

 ナニをピクピクさせて無言の催促をすると、戸惑いながらも動きを早めたり、両手を使ってみたりする。しかし、それ以上は知識がないのか、或いは踏ん切りがつかないのか、過激な行動には出ない。少なくとも、さっきティアラのティアラのフェラは、目の前で見ていた筈だが。

 ただ、尿道に残っていた残滓が滲み出ると、それを掬ってマジマジと見つめていた。指先で少量の白濁を捏ね回してみると、あっという間に薄れてしまう。…が、気が付いたのだろう。自分が握ったナニに、ティアラの愛液と混じった精液が、沢山付着している事に。

 ナニを触る手を止め、じっと掌を見る。

 

 

 逡巡は意外と短かった。掌に、自分から舌を這わせる。その味をどう感じたのかは分からない。少なくとも美味と言えるようなものではなかっただろう。

 しかし、クロエはそれをもっと欲しくなったらしい。タガが外れたように一気に圧し掛かり、俺のモノに縋りつく。大きく口を開けて…念のために、防のタマフリを使っておいた…咥え込むと、技術も何もない暴力的なバキューム。互いを高めあう為ではない、ただ精の残滓を吸い出そうとするだけの吸引。

 だが、いくら俺の射精量が普通より多いと言っても、その残りだけでは大した量ではないはっきり言えば、さっきの手の動きで滲んだのが最後だ。

 それが分からないのか、クロエはいっそ必死さすら感じるバキュームを繰り返す。ちょっと痛みも伴うが、これも中々。

 

 

 暫く、残滓を絞り出そうと試みていたクロエだが、もう残っていないと分かると……俺の体を揺すって来た。

 

 

「起きて…起きてください。お願いですから。…起きて」

 

 

 …ま、寝たふりするのもこの辺までか。如何にも今起きましたよ、と言わんばかりの(ヘタクソな)芝居をして伸びをする。

 …どしたの? 人が寝てるのに…。

 

 

「ごめんなさい…。でも、我慢できないんです。こんなのいけないのに…こんな、事…!」

 

 

 いけないんなら、やらなきゃいんじゃね? 俺もまだ眠いし…。

 と言うか、さっきから何で俺のナニを弄ってんのさ…。隣に異性の体があるだけで我慢できないような痴女じゃあるまいし。

 

 

「そんな事、言わないでください…言わないで…」

 

 

 半泣きになっているクロエだが、まだまだ容赦しない。自分から全部吹っ切るまでは焦らしに焦らす。

 下半身を弄り回す手の感触に昂ぶりながら、あくまで乗り気しない態度を保つ。 

 

 

「欲しくて仕方ないんです…。こんな事、一度も無かったのに、触りたくて、弄ってほしくて仕方ないんです。あの白いのを飲み干したくて、頭がおかしくなりそうなの!お願い、おかしな事だって自分でもわかってるけど、ティアラさんにした事、私にもしてください」

 

 

 もうおかしくなってんでしょ、寝てる男に自分からこんな事してんだから…。いっそ、もっとおかしくなっちまえば? 案外、一周してマトモに戻るかもしれないし。

 …いや、やっぱ訂正だな。こんな事言われて興奮してるような変態が、何周してもマトモに戻るとは思えないわ。

 

 

「っ、ひどい……。でも、どうして…背筋がゾクゾクする…。どうしてこんな事に…!」

 

 

 強いて言うなら、ティアラに狙われたからじゃね? ま、元々変態だったから、そんな風になってるんだろうけど。案外、ティアラもそれを見抜いて仕掛けてきたのかもな。

 幾ら見た目が好くてもなぁ…。中身がそんな変態じゃ病気貰いそうじゃね? 締まりも悪そうだし。

 

 

「わ、私は処女だから! 病気を貰うような事、した事ないから! オナニーだって、殆どした事ないの!」

 

 

 (本格的に必死になってきた…頃合いかな)

 初めてなのに逆夜這いみたいな事して、そんな必死になるってどれだけ抱かれたいんだよ…引くわぁ…。

 …もう眠いし、本格的に面倒になってきたから、使いたけりゃ勝手に使えよ。

 

 

「! あ、ありがとうございます! …でも、その、実はどうすればいいのか…」

 

 

 やれやれ…じゃ、やり方だけ教えてやるよ。ただし、それで俺がその気になるかは別の話だ。精々創意工夫して、卑猥な誘い方を考えるんだな。

 

 必死にブンブン首を縦に振るクロエに、とても処女にやらせるようなやり方ではない奉仕を教え込む。先端から根本はもちろん、タマや蟻の門渡りの弄り方まで。必死過ぎて少々急きすぎだが、随分と熱心に奉仕するものだ。この分だと、いきなり『俺のケツを舐めろ』とか言っても文字通りに従ったかもしれない。

 尊厳も何もかなぐり捨てて奉仕し、時折上目遣いで様子を伺ってくるクロエに、いかにも余裕、退屈凌ぎと言った表情で見下ろす俺。

 クロエは知識もロクにないオボコとは思えない勢いで、必死でしゃぶりついてくる。開けた胸を押し付け、あちこちにキスの雨を降らし、時に躊躇いながらも歯形さえつけようとする。…尤も、半分以上は俺の入れ知恵と言うか誘導なんだけど。

 

 こんな態度をとっていれば、女として相手にされていないと思って怒り狂うか嘆くかのどちらかだろうが、クロエはそれすらない。ただ、爆発してしまった願望に向かって一直線に走るだけだ。

 フラウが言ってたのがよく分かるな。ツボさえ抑えてしまえば、こんなにからかい甲斐のある女は居ない。

 

 しかし、流石レジェンドラスタと言うべきか、生物の反応を読み取るのはお手の物なのか。徐々に俺のイイ所を把握し、興味なさげな態度が芝居ではないか?と気付きつつあるようだ。

 気付かれたとしても、そのまま誘導できる自信はあるが……この際だから、この状態のまま行こう。

 

 クロエの奉仕を止めさせると、不安げな顔で見上げてくる。今にも『手を離せ、もうやめろ』と言われると思ったのか、ナニを握る手に力がこもる。

 

 このまままだるっこしい事ばかりしても、時間がかかって寝るのが遅くなるだけだ。望み通り精液で気絶させてやるから、朝までトンじまえ。

 

 そう言いながらも、自分から動く事はしない。クロエの足と腰を操って体勢を変え、俺に跨る騎乗位にまで持っていく。既にクロエの股は処女とは思えない程にドロドロとしたぬめりと臭気を放っており、底なし沼を思わせる。

 後は、力を抜いて腰を下ろせば奥の奥まで突き込まれる。

 オアズケを解かれた犬のように、今にも咥え込もうとしていたクロエを、胸を乳牛にするように絞り上げて止め、囁く。

 

 

 本当にいいのかな? これはインモラルな事だろう?

 

 

 今更ながらに正気に戻らせるような一言に、クロエは思わず凍り付く。乳房を跡が残るように絞り上げながら、霊力を込めた囁きで脳髄を蝕んでいく。

 

 

 俺はクロエをどうこうしたいとは、一言も言ってない。女を抱くなら、ティアラと同意の上でヤれるしね。

 なんでクロエは俺に跨ろうとしてるんだ? 大事な大事な、旦那様にとっておくべき処女だろう? 一時の、思い合っている訳でもない男に、ただ気持ちよくなる事だけを目当てに喰われてしまってもいいんだな?

 

 

 

「あ……あ、あぁぁ…」

 

 

 欲望と、戻って来た良識の間で揺れ動き、引き攣った顔のクロエ。今更ながらに自分の行為を認識し、涙すら溢れてきた。だが、その葛藤の行く末は見えている。

 どんなに精神が躊躇っていても、腰は卑猥に動いて、先端を秘部に擦りつけようとしているのだ。

 

 涙を流しながらも止められない自分の浅ましさを恥じるように、しかしその背徳に興奮を覚えている。一度覚えてしまった背徳の味、禁忌を破る愉悦は、ドラッグよりもタチが悪い。

 ここから先、俺からクロエを貫く事も、止める事もしない。最後の一線は、自分の意思で超えさせる。だからこそ、クロエは最高のカタルシスを体感できるだろう。

 

 

 最後に一つ、クロエは大きく唾を呑んで、涙を流して懇願した。

 

 

「…いい、です……。どんなに悪い事でも、だからこそ今この場で、貴方に汚されたいんです! 貴方のこれで、私を貫いて欲しいんです! 私を、私を使ってください!」

 

 

 んー、恋人も愛人もセフレも一杯いるけど?

 

 

「でしたら、穴で結構です! 貴方が動かなくてもいい、愛されてなくてもいい、都合のい時に欲望を処理する為の道具でいいから! …ああ、もう我慢できない!」

 

 

 叫ぶように声を絞り出し、クロエはとうとう腰を下ろした。自分から勢いよく迎え入れ、処女膜が破れる感触に身悶えする。

 理性も良識も振り切って、男を咥え込んだその表情には、恍惚しか残っていなかった。

 

 程なくして、拙い腰つきで上下運動を初め、本能で俺から精を搾り取ろうとする。俺はそれを冷めたような目で見ているが……正直な事を言うと、余裕はない。

 これはまた…レジェンドラスタの中でも、特に名器だな…! ティアラの罠のような膣とは違い、逆に迎え入れた欲棒に体全体で奉仕するかのような。入れた瞬間から一斉に複雑なヒダが絡みつき、余すところなく愛撫してくる。生真面目なクロエの性格をそのまま反映したかのような締め付けと絡み付き。…これは…ハンターボディであっても、長く耐えられるようなもんじゃないぞ…!

 

 俺のポーカーフェイスに気付いてるのかいないのか、クロエは正体を無くして男を貪る行為に溺れている。…しかし、このままだとクロエがイケそうにないな。背徳の愉悦で痛みを忘れているとは言え、膣は全くと言っていいほど開発されてない。オナニーすら殆どしてないのは事実のようだ。

 …このままイかされるのも癪だな。そろそろオカルト版真言立川流を使うかね?

 まぁでも、その前に……このケツに一発!

 

 

「ひっ!? な、何を…」

 

 

 何をじゃねーよ。都合のいい道具でいいとか言っておきながら、俺のモノ使ってオナってる淫乱には尻叩きの刑じゃ。ったく、暇潰しくらいにはなるかと思ってたが、初めての女に魅せる体位とか期待するのが間違いだったな。

 そろそろ眠くなってきたし、出すモノ出して終わりにしよか。お前に任せてたんじゃどれだけ時間がかかるか分からんから、特別に俺が動いてやるよ。

 

 ほら、セックスってのはこうやるんだよ!

 

 

「いっ! ぁ、はっ、あ、あっ!」

 

 

 内心、本格的にイカされそうで焦ってんだけどね。と言うか罵声を浴びせる度に物理的にキュンキュンするから、また締め付けが…。

 下からの突き上げに、クロエは舌を突き出して喘ぐ。最奥まで捻じ込んでやると、仰け反って痙攣するように歓喜した。

 

 ああ、そうそう、その締め付けはイイぞ…! その調子で奉仕しろ! あん? 感じすぎて辛い? 道具なんだから我慢しな。大体、そういう扱い受けて悦んでるのは他ならぬクロエだろうが。口元、ヒィヒィ言いながら吊り上がってっぞ。

 

 

 …っ! 締め付けがまた…ヒダが逆立って…! っ、出すぞ、受け止めろ!

 

 

「~~~~~~~~!!!!」

 

 

 肺の中の最後の空気を出し切って、クロエはか細い歓喜の悲鳴を上げる。クロエの中で解放した白濁が、子宮にゴクゴクと呑まれていく。更に、残った汁まで押し出そうとするように、締め付けがゆっくりゆっくり移動する。おお…イッた後の敏感なナニをマッサージされてる気分。

 倒れ込んでくるクロエを受け止めぞんざいに横たえる。朦朧としているのがすぐに分かる顔付だったが、まだまだ元気なナニを目の前に突き出してやると、迷わず口を付け、残滓を吸い出そうとした。…しかし、やっぱり消耗しすぎた為かバキュームが弱いな。まぁ、精液がこう、じんわり滲むような射精の快感も悪くないが。

 

 甘噛みしてくるクロエの口からナニを引き抜くと、まだ追いかけようとするクロエを優しく押して、ベッドに押し付ける。

 ほら、無理するな。初めてだったんだから、ペース配分も分からなかったろ。

 

 

「……ぁ…はい…いえ、大丈夫…です。伊達にレジェンドラスタじゃありません…」

 

 

 …おお、もう息が落ち着いてきた。スゲェな…。ふぅん、これならもうちょっと長く嬲ってもよかったかね? 初めてで善がり泣きしながら、もう許してと懇願されるのを更に蹂躙するとか。

 

 

「…っ……そ、それは…? あの……私は、ただの穴…では…? それも、相手をするの面倒な…」

 

 

 んにゃ? いい女だよ、クロエは。美人でナイスバディ、締りもいいし。性格というか性癖がアブノーマルだけど、俺もそういうの好きだしね。

 罵ってたのは単に、クロエがそーゆーのが好きみたいだから。実際、興奮しただろう? こんな事をやっちゃいけない、尊厳を自分から捨てるなんて、と頭に過ぎる度に、ゾクゾクして。

 

 

「それは……」

 

 

 否定できないだろ。自分の新しい一面、発掘しちゃったもんなぁ。…それに、いくら性癖にマッチしてるとは言え、初めてでちょっとやり過ぎたかな。

 

 

「…はい。その、元よりあまり自信があった身ではありませんが…女としてのプライドが…。………本当に、そう思ってくれているのなら…証拠を見せてください」

 

 

 今度は優しく? 勿論オッケー。

 ただし……その後、今度は寝てるティアラにイタズラしてもらうからね?

 

 

「………まぁ、元々最初に襲ってきたのはティアラさんでしたし…正当な報復と言う事で」

 

 

 ハイ決まり。(実はもう起きてこっそりこっちを見てるけどね!)

 じゃ、今度は優しく…。

 

 

 

 

 

 

 …ド嵌りしたようだ。乱暴にした後に、一転して優しい言葉をかけるって明らかにジゴロの手口だよなぁ…。

 ま、イタズラしようとしたティアラに逆にとっ捕まって、2人がかりで犯されても悦んでたからいいか。

 

 

 さて、背徳の愉悦に目覚めさせたはいいが、どう仕込んだものか。浮気に始まる破滅に至る行為はさせないとして、アブノーマルでインモラルな行為……。………よし、今度の夜はお披露目も兼ねてサバト形式でやってみよう。クロエは生贄役で。

 

 

 



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第282話+外伝23

特に意味も無く外伝追加。
うーむ、尻切れトンボな感があるなぁ…。
書き溜めが尽きた時用にストックしておくべきだったか?


NTD3DS月

 

 

 タイゾーさんから、「男はいつ大人になって、青春を終えるのだと思う?」なんて微妙にアンニュイな顔で尋ねられる今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。ちなみに問いかけの答えは『年上のお姉さん』と聞かされて、年頃の美人を想像できなくなった頃だと答えております。尚、俺は某ネトラレのプロとか連想するんで、まだ青春真っ最中です。俺の方が年上? 幻想に実年齢なぞ無い。ま、リアルに年上でエッチい美人と、何人も関係持ったからねぇ。まだまだ青春かつ性春真っ最中である。

 

 それはともかく、何だかレイラが悩んでいるようです。どったの? と聞いたら「お前のせいだ馬鹿タレ!」と罵られた。あまり嬉しくない罵り方である。もっと色っぽくやってくれ。

 冗談はともかくとして、レジェンドラスタを続けるべきなのか悩んでいるらしい。…アンタ、この前着任したばっかりじゃん。

 

 

 

 …え? 他の女性レジェンドラスタが、全員俺と肉体関係を持ったから? 自分もそうするのはゴメンだって……いや、別に誰も強制してないじゃん。と言うか、一体誰がそんな事を? 誰それと寝たなんて、俺は吹聴してないぞ。

 

 

「フラウが物凄くいい笑顔で言い触らしてたぞ」

 

 

 ……オアズケ決定ですな。と言うか、真面目にレジェンドラスタを辞めるつもりなのか? 何かの取引の上で任を引き受けたっていうから、何かしら目的があるんだと思ってたんだが。…いや、別にそんなに深く踏み込むつもりはないんだが。

 

 

「まぁ…確かに目的はあったし、多分この立場が一番情報を集められるが…別にそれしかできないって訳じゃないからな。これでもそこそこ伝手はあるし」

 

 

 人間関係的に多少問題があったとしても、凄腕ハンターなら引く手数多だもんな。

 

 

「私が人間関係的に問題がある人種かはともかくとして…真面目な話、何でお前にそんなに群がるのかが理解できん。ただ、あいつらの事だから、私も引き込もうとして何か企むんじゃないかと思えてきて…」

 

 

 …あー……やりそうだなぁ、特にフラウが…。つっても、本気で嫌だと伝えれば何もしなくなると思うぞ? フラウが俺の周りに女を増やそうとしているのにも理由があって…少なくとも、そこに不和の目を放り込むつもりはない筈だ。

 どんな謀り事をするにせよ、少なくとも合意の上でじゃないと手は出さない。

 

 

「合意を『させて』手を出すの間違いじゃないのか? クロエがリアやフローラから色々聞き出されてるのを、ちょっと小耳に挟んだだけだが…」

 

 

 …そうとも言う。まーなんだ、別にレジェンドラスタ辞めなくてもいいんじゃないの? ぶっちゃけ、俺に近付かなきゃいいだけの話だし、近づかれたら妙な事をされないように蹴っ飛ばせば終わりだろうに。

 

 

「そうなんだがな…。お前、例えばすぐ隣の部屋に、誰彼構わず手を出すようなホモ野郎が居たら安心して眠れるか?」

 

 

 ムリっす。夜襲に備えます。

 

 

「そういう事だ。私にとっては、お前がソレに近い。…狩人としての腕は認めるし、穿龍棍の扱いも上達しちゃいるが、人間的に信用できないんだよ。……ま、そんな奴の為に、わざわざ拠点を移すのも面倒だな。お前程極端じゃないにしろ、問題がある奴はどこにでもいるし」

 

 

 そりゃアンタ自身が居るんだから、どこに行っても問題はうおぅ!?

 むう、蹴りのキレが増しておる…。ともあれ、レイラは今後もレジェンドラスタを続けるようだ。

 

 ところで、何ぞ目的があるんだったら、手伝わない事もないぞ? 穿龍棍の技術習得の為にも、今度はお近づき…にはなれないとしても、繋がりは作っておきたいんで。

 

 

「妙なところで正直だよな、お前…。まぁいいか。…ある古龍を探してる。名前はイナガミ…と言うんだが、あんまり知られた古龍じゃない。…一部地域で伝承として残ってるだけらしいからな。ひょっとしたら、この辺にも居るけど、別の名前で呼ばれてるかもしれないな」

 

 

 イナガミ…イナガミ…。うーん、聞いた事ないような、そうでもないような…。特徴は?

 

 

「竹を…少なくとも、竹のような何かを操る能力を持ってる。それに……そうだ、左足に骨折の跡がある筈だ」

 

 

 左足? と言う事は、イナガミとやらなら何でもいいんじゃなくて、特定個体に用事があるって事か。

 まぁ、ハンターが古龍を探してて、そんな傷があるって事は…お礼参りかね。

 

 それに、そういう能力を持ってるのなら、竹林を住処にするか、或いは住処の環境を竹林に変えるかしそうだが…フロンティアにそんなトコあったかな…。

 

 

「フロンティアに居るとは限らないんだよ。私もあちこち訪ね歩いたが、目撃情報は全く無い。だから、ギルドの情報網で探すのを対価に、フロンティアに来たんだ」

 

 

 成程ね。…俺には心当たりはないが、ちょっと遠いところの領主に伝手はある。そっちに手掛かりがないか、聞くだけ聞いてみる。

 

 

「妙な伝手持ってるな、お前…」

 

 

 

 

NTD3DS月

 

 

 昨晩は赤毛の双子アンドロイドに、ちょっと引くくらいの熱心さでご奉仕された夢を見ました。うん、愛されてるってイイネ! 例え夢であっても!

 

 それはともかく、トゥルートとイリスの嬢ちゃんが、礼を言いに来た。…フロンティアに来てたのか。他の村人は?

 

 

「それぞれだな。援助の申し出を受けて、その先で勤め先を見つけた者、復興する為に食料その他の援助を受けながら、村があった場所で活動している者、小遣い片手に夢を詩ってまだ見ぬ土地へ旅立つ者。…色々だが、何とか今後を選んで立ち上がれるだけの余裕は出来た。後は私達自身の、それぞれの責任だ」

 

「私もお姉ちゃんと一緒に、猟団で働く事になりました! これからもよろしくお願いします!」

 

 

 ああうん、イリス嬢ちゃん元気いいね。花丸をあげよう。

 …ハンターとして活動するのか?

 

 

「いや、イリスは生来体が弱いからな…。ハンターとして鍛えるにしても、普通より時間がかかる。私としてはハンターなんて危険な職についてほしくないが、それを差し引いても…。とりあえず、猟団で事務員として教育し、その合間にハンターとしての教育を受ける予定だ」

 

 

 へぇ、意外だな。止めないとは。

 

 

「止めたくはあるのだが…ハンターとして育てられたとしても、ハンターしかやってはいけない理由もないだろう。鍛え上げれば、イリスの体の弱い部分だって改善されるかもしれん」

 

 

 まぁ…過剰なくらいに健康だもんな、ハンターは。異常じゃないかと言われても反論できないくらいに。

 

 

「欠損はともかく、どんな怪我でも毒でもちょっと寝れば治る時点で人間として明らかに壊れてるんだよなぁ…。まーそれはともかく、エドワード殿とティアラ殿が動いてくれたと聞く。まさかレジェンドラスタのお二人に助けてもらえるとは、夢にも思わなかった…。今日は酒場には居なかったから、後日改めて謝礼に向かわねば」

 

 

 あー、ティアラの相手は疲れると思うが、頑張れ。最悪、俺を生贄にしてもいいから。

 …で、恩に付けこむようで何だが、ちょいと頼みがある。いや、別に口に出せないような事じゃないんだ。今回、支援を要請したのはエドワードさんとティアラだけど、何処が実際に支援をしたのかは知ってるな?

 

 

「ウェストライブ領の領主様、ですよね?」

 

 

 ああ。ちょいと事情があって、その人の顔を見ておきたんだ。都合がついた時でいい。領主さんに直接礼を言う、って名目で、俺をウェストライブ領主に会わせてほしい。

 

 

「…それは…会わせるの事態は構わないんだが、言っちゃなんだが私にそうできるだけの立場は無いぞ? 確かに礼を言うべきではあるが、その為だけにわざわざ領主様の時間を割いてもらうなど、逆に無礼に当たるだろう。それ相応の何かを持っていくとか、もうちょっと別の口実が必要だと思うんだが…はっきり言って、私には思いつかない」

 

 

 そこら辺はミーシャが適当にでっちあげてくれるだろ。最悪、G級ハンターが礼を言いに来たって言い張れば会うだけなら何とかなる。後の関係があんまりよろしくないと思うけど。

 トゥルートには、以前探すのを手伝ってもらったよな? 妹キャラこと、ミキ・ウェストライブ。

 

 

「…そう言えばそんな話も……ん? イリス、痛い痛い、私の妹はイリスであって、妹キャラじゃないから被ってない」

 

 

 姉妹仲良くて麗しいですな。ま、頼んでおいてなんだが、気楽に考えてくれ。会うだけなら、他にもルートはあるしな。

 領主の娘のマキ・ウェストライブともコネができたんで、会うならそっちの方が確実だ。トゥルートからの線で行きたいのは、万が一にも色々察知されると面倒な事になりそうだから、ってだけだ。

 

 そろそろ、定期納品の日だしな。マキ・ウェストライブも色々と探っているようだし、多分その日に顔を見せに来るだろう。その時の話次第では、この頼みも無かった事になるかもしれんな。

 

 

「そうか…なら、私の借り一つとしておこう。イリスに害を加える行為でなければ何でもする…とは言えないが、出来る限り力になろう」

 

 

 ……同じ事を言った女が居たな。いや別に分かれても死んでもいないんだけど。ていうか、今も付き合ってるけど。

 

 

「……あぁ、マオか…」

 

 

 まーね。ったく、こんな男に惚れこんで、地獄の果てまで共をしようってんだからモノズキな女さ。

 ……? イリスの嬢ちゃん、どうかしたか?

 

 

「…あ、いえ……その、彼女が居たんですね…」

 

「………ああ、居るな…。沢山な…」

 

「……たくさん?」

 

 

 都会には色々あるんだよ。

 

 

 

NTD3DS月

 

 

 えらいこっちゃえらいこっちゃえらいこっちゃえらいこっちゃ。どないしよう。

 とか言ってる間に、とにかく追えー!

 

 

 

 

 …何とか間に合った。

 

 

 

NTD3DS月

 

 

 はー、とりあえず勝利。

 

 まーなんだ、フロンティアってのはまだまだ謎が多い所でね? 異常気象はもちろんの事、訳の分からない現象も沢山ある訳よ。G級領域だけじゃない、下級領域だってそうだ。

 クシャが起こす嵐なんて、まだ分かる方だ。突如として変わる地形、モンスターの生息図、脈絡もなく現れる新しいモンスター…。

 

 まぁ、それでも原因になるモンスターは、周囲のモンスターの力量とある程度釣り合ってるんだけどね。つまり、下級領域で発生した事態であれば、ヤバいモンスターであっても、下級モンスター程度の力しか無い訳だ。例外はあるが。

 その訳の分からない現象が、下級領域の一角で突如発生した。発生したのは火山の外れ。外れとはいえ、まだまだ地熱だけでダメージを受ける領域が、突如として凍り付いた。しかも溶けない。

 

 普通、こういった現象が発生したら、すぐに立ち入り禁止令が出され、クエストも受け付けられなくなるんだが……既にその場にいたハンターが撤退できるかと言われると、話は別だ。

 要は、閉じ込められちまった訳だね。氷に退路を塞がれて。

 

 

 

 

 …そこに、丁度ミキ達が居たらしい。ハンズ嬢ちゃんが、大慌てで俺の猟団に駆け込んできた。

 ミキが飼っているホルクだけが、ひどく消耗した体で帰って来たのだそうだ。その足には手紙が括り付けられていて、ミキ達からの救援要請が書かれていた。

 しかし、如何に迅速な救援が必要とは言え、すぐに動けるハンターは居ない。何が居るかも分からないのに、二つ返事で引き受ける訳がない。

 

 そこで、個人的にも動いてくれそうな、俺の所に話を持ち込んできたと。…結果的には大正解だね。

 

 

 大慌てしたのは、その手紙に書かれていたモンスターの特徴だ。多分、そこそこモンスターを知っているハンターなら、すぐにでも連想できるモンスターだったろう。ハンズ嬢も、話にだけは聞いた事があったらしい。

 トゲトゲした黒い甲殻の、大型の竜。デカい顎の、白い竜。

 そう、ポッケ村で言う所の「黒い神」と「白い神」こと、アカムトルムとウカムルバスだ。何であいつらが下位領域に居るのん?

 

 2体同時に現れて、その中でミキ達が巻き込まれてるのか…。アラガミ化しつつあるミキでも、どれだけ生存の目があるか…。

 

 

 

 …と思ったんだが、よくよく読んでみるとおかしかった。2体が揃って大暴れしてるのかと思ったら、『ここに居るモンスターは、あの一匹だけ』と書かれているのだ。

 更に、添付されていた絵を見てみると…。

 

 

 右側が白くて、左側が黒いんですが。

 

 

 

 …ポッケ村に居たよな、こんなの。氷の中で平然と、何百年も眠ってるらしいのが。

 

 

 

 

 ウカムトルムじゃねーか! あの時のと、白黒の割合とか場所とか違うっぽいけど!

 あかんあかんあかん、万が一にもコイツが薙ぎ払いみたいな要領でメドローアブレスなんぞ撃ってみろ! 即死技どころのレベルじゃない!

 今までの例から考えても、特異個体の戦闘力は明らかに別格。ミキ達で相手できるようなモンスターじゃない。

 

 

 おうハンズ嬢ちゃん、アリバイ作り頼む! 俺は酔い潰れてくたばってたんで、立ち入り禁止区域になんか行ってないし、そもそもクエスト禁止令も聞いてないって事で!

 

 

 

 

 …と言う訳で、諸々の隠蔽をハンズ嬢ちゃんに任せて、鬼疾風(アラガミ化)ですっ飛んできた訳だ。

 

 

 

 それでどうなったかって?

 

 

 

 …うん…ミキ達、無事だったよ。逃げ隠れに徹していたとは言え、よく生きてたよホント…。ベースキャンプにも戻れなかったのに。

 予想通り、モンスターはウカムトルムだった。霊力の角は見えなかったし、白黒の内訳も全く違ったが、ポッケ村の地下に居るウカムトルムと同類だったのは確かだ。

 

 予想外だったのは、奴が使うのはメドローアじゃなかった、って事だ。一発死の危険があるブレスが無いのは助かるが……もっと厄介だったよ。

 そーだよなー、メドローアじゃ直撃した相手の体が消滅しちまうから、飯の確保には使いづらいわなぁ。消耗の大きい一発技なんだし、ロマンと威力はともかく使い勝手としては下の下である。

 

 

 実際に使われて、死ぬほど厄介だったのは……ズバリ、氷炎結界呪法である。

 

 古い? でも実際イメージ的にそんなんだったぞ。奴が作ったフィールドの両端に、氷と炎のデカイ柱があったし。フィールドに入ったら即アラガミ化が解かれたし。下位モンスターのようだったけど、体感的には上位クラスに感じたよ。

 熱気と冷気が吹き荒れ、嵐じゃないかと思うくらいに風が吹きすさび、地面が凍って滑ると思いきやそこだけ溶けてて、ふんばりが効き過ぎて変な所で立ち止まっちゃうし、極端な寒暖差でスタミナがどんどん削られるし、氷塊どころか雹まで降ってきてこれがまた痛い。どこに居てもジリジリダメージ喰らってさぁ…。

 挙句にマグマのブレスまで噴いてくるし…。

 

 

 

 ……あの個体、ポッケ村の個体とどっちが強いんだろうなぁ…。多分、あっちはG級…だけどこっちはフロンティアの下級。図体はポッケ村の方がデカかったと思うが、センチュリースープの具にでもなってるのか、干からび始めている印象もあったし、長期間動かなかった為か筋肉も落ちていたように思う。

 どうも歳経た経験豊富な個体っぽいし…。何より、あいつ多分霊力使えるんだよなぁ。どんあ形でかは分からんけど…。

 

 …フロンティア下級個体が、氷炎結界呪法で上級個体に感じられる強さになる…。……単純に考えれば…ポッケ村のG級個体が、更に強くなる…? 恐らくは、更に別の能力まで持って? うへぇ……。

 

 まぁ、今回はミキ…じゃなくて、一緒に居た3人のルーキーハンター達に助けられたかな。氷炎結界呪法と同じで、両極にある柱さえぶっ壊してしまえば、その効力は減衰する筈。そうでなくても、極端な寒暖差が無くなるだけでも、大分やりやすくなるだろう。

 俺がウカムトルムを引き付けている間に、ルーキー達に塔の破壊に向かってもらいました。具体的には、アキャマ殿とレーゼイ嬢ちゃん。

 いい度胸してんなぁ…。ウカムトルムの影響で殆どモンスターが居ないとは言え、俺とあいつとの闘いの余波の中をすり抜けていったんだから。『このくらいの地面なら、影響を受けずに走るのは簡単』だそうな。まぁ俺だって走るだけならどうとでもなるけどよ…こりゃ隠れた逸材だな…。

 氷の柱の元に辿り着いて、G級爆弾の誘爆でボカン。見事に叩き折ってくれました。

 

 

 …もう一人一緒だったハンター…ハナ嬢はと言うと……これが問題…。

 

 

 

 …動けなくなったミキを庇い、看病していた。

 

 

 

 

 

 

 具体的には、ミキに延々と携帯食料食わせてた。

 

 

 

 何でそんな事にって? …あいつのフィールドに踏み込んだ途端、アラガミ化が解けたって書いただろ。俺は集中すれば再度変身できそうだったが…どうにも、あの漫画通りに色々と能力を封印する効果があったらしい。加えて、俺の中の…ミキの中のアラガミ細胞か、逆にそれを抑え込んでいる何かに影響を与えたらしく……また飢えの為に、まともに行動できなくなってしまったのだ。

 ウカムトルムを討伐後、薬を飲ませて冷静にさせ、ただ只管に貯め込んだ携帯食料をリバースしないよう耐え切った後のミキ曰く、「もうちょっとであのモンスターに噛みつこうとするところだった」だそうな。尻尾の断面が美味そうだからね。仕方ないよね。

 

 むぅ…よろしくないな。具体的にどれくらいかは分からんが、この一件の為に、ミキのアラガミ化が強烈に進んでしまった可能性がある。

 暫し様子を見なきゃいかんな…。

 

 ま、とりあえず今はいいか。この子達は死地から生還したんだ。余計な心労を与えず、まずはゆっくり休んで、腹いっぱい飯食ってもらおう。疲れて腹減らしたまま考えても、ロクな考えは浮かんでこない。

 

 




 また例によって例の如く、知らない世界に居る。いや、知ってはいるんだけどね。
 以前にも訪れた事がある、モンスターが女の子ばっかりで、お手軽にエロエロ出来る世界だ。考えてみれば、同じ世界に二度現れるってのは初めての現象じゃないか? いや、それを言い出したらMH世界・GE世界・討鬼伝世界を何度も廻ってるか。

 しかし、そのループとは違い、以前訪れた事がある時の事はリセットされてないようだ。立ち読みした、バトルファッカーの特集雑誌に、俺の事が書いてあったからね。
 まぁ、ここ暫く行方不明になっている、という扱いを受けていたが。
 あの時鍛えてやった……えーと、ルク? ルッカ? いやルカか…と、ソニアの事が何か書かれてないかと調べてみたが、残念ながら何もない。まだあの村に居るのか、それとも特集される程の功績をあげていないのか。

 とりあえず、前回と同じであっちこっちブラブラし、バトルファックで女の子の下半身を口説いてヒモ同然の生活をしている訳ですが。
 ふーむ、前回来れなかった辺りを中心にフラついているのですが、中々の強者が居りますな。フェティッシュなテクを持っているバトルファッカーが非常に多い。相変わらず色欲塗れで楽しい世界である。

 一番長く滞在した場所? 現在、闘技場で出場常連になっているグランドノアを除けば、サキュバスの村に決まってるでしょうが。
 いやー、普段なら絶対にできない遊びが出来て楽しかったなー。具体的には、名前も知らない村人(サキュバス)を、その辺で真昼間の衆人環視の中で、真正面から押し倒して強姦プレイとか。される方からも、アヒアヒ言わされるばかりの男と違って新鮮で良かったと太鼓判を押されました。

 …ただ、サキュバスの皆さんからは大好評だったんだけどねー。大好評すぎてねー。他の男がおざなりになりつつあったからなぁ…。まぁ、サキュバスの村なんてとこに好き好んで住んでるだけあって、絞られるの大好きな男ばっかりだった。「お前が居るから、俺達が相手にされないじゃねーか!」ってね。
 まぁ、そっちはどうでもよかったけどな。寝取られるのが悪い、オスとしてのレベルが違うのだよ…という気分になりました。流石に口には出さなかったが。

 …真面目な話、その辺を散歩するだけで、あっちこっちにアヘ顔した男が転がってんだぞ…。見てて楽しいもんじゃないわ…。
 あと、イモばっかりで食い飽きたんで、適当なトコでまたフラフラし始めた訳だ。こっちのもん娘は、前回と比べてかなり強いなぁ…。いい訓練になる。集団戦闘でも、エロ的な意味でも。



 まぁ、世の中段々と物騒になってきているらしいが、現状では明らかな問題は噴出していない。その分貯めこまれてるって事なんだろうけども。
 酷いトコはあったからな…ラダイト村とかさ…。





 やらかしちゃった訳ですが。色々あって、現在はサン・イリア王国から指名手配を受けております。ま、本気で追いかけられてる訳じゃないけどね。
 何やったかって?

 …まぁ、アレだよ、ラダイト村に寄ってみた時にね。こりゃアカンと思ったんだが、どうにかする手立てが思い浮かばなかったもんで…。
 胸糞悪い話だが、村の男から「一緒に虐待しようぜ?」みたいな事言われたんだよ。虐待コピペみたいな奴ならまだしも、マジな話で。

 とりあえずその男は気絶させて、後頭部に神機の銃撃(ダメージのない奴だけど)山ほど合わせて記憶を飛ばした。で、肝心の村については、一計を案じた訳だ。証拠を残さずMI・NA・GO・RO・SHIも朝飯前の連中でしかなかったけど、今後のフォローを考えるとそれだけじゃな…。
 虐げられていた女の一人に『目印』を握らせ、その場では一旦退避。………反吐どころか、バケツ一杯のゲロを飲み込んだ気分だったけどな…。

 続いてサン・イリア大聖堂に参拝しに向かい、途中でアサシン式に場内を探索して、法王を発見。……まさか、自前のレーダー持ってるとは…見事にバレた。
 予告状を置いてさっさとバックレるつもりだったが、意外と話の分かる法王だったので、計画を正直に話す。

 計画の内容?
 ラダイト村に予告テロするから、その警護という名目で乗り込んで、不当な虐待なり、あそこの村長の不正の証拠を偶然見つけてくれって話だ。
 それだけでは村に拒否された時に強制力が足りないので、国際指名手配中の誘拐犯(という設定の俺)が村に潜り込んでいるという情報を渡す。ちなみに誘拐された女性達は、何故か異国のサキュバスの村で発見されるだろう。
 指名手配犯が村に潜り込んでる証拠? 何の為に『目印』渡したと思ってるんだよ。


 …で、後は決行当日、予想通りに村が拒否してきたんで盛大にドカン。ガチの爆弾テロをやらかした。
 何人かは俺が直接、ハーピーの羽を使ってサキュバスの村に送り出した。俺の紹介だし、あの村は逃げてきた者を拒まないから、いい暮らしができるだろう。残った女達は、サン・イリアに保護された。
 村の男達は……あの法王の判断次第じゃないかな。

 それだけだったら、法王が指名手配云々も適当に誤魔化してくれそうだったんだが……ドカンとやったのがマズかった。
 あの法王、以前に爆破テロに狙われた事があったらしい。皆大好き・大樽爆弾Gはヤバかったか…。それで、その犯人と俺との関係の疑惑が炎上してしまったのだとか。

 うーん、慣れない事はするもんじゃないなぁ…。とりあえず、法王さんには適当に挨拶して、別の国にトンズラした。




 そのままグランドノアまで逃げてきた訳です。
 最近じゃ、狩りの腕を鈍らせない為にも、生活費を稼ぐ為にも、闘技場で暴れ回る毎日。ちなみにジュリアの家に居候してます。バトルファックで勝ったからね! 毎晩楽しませてるからね!


 さて、そんな最近ですが…友人が出来ました。……………人…?


「あら、一応人で通ってるわよ?」


 この世界じゃ普通にモン娘も人扱いだし、不思議じゃないね。
 にしても……また負けたぁ…。


「私としては勝った気がしないわね。淫魔の女王としてはセックスでも、拳でも人間に喰い付かれるって言うのはねぇ…。しかも、まだ鬼札があるでしょう。吸い取るのと同時に、サキュバスクィーンの私が吸い取られる日が来るとは…」


 何でわざわざ人目の前で鬼札切らなきゃならんのよ。しかも殺し合いでもない、因縁らしい因縁もない試合で。
 いやエロに関しては特に躊躇いなくガンガンやってるけど。


「…御尤も」


 ……はい、なんか淫魔の女王とか魔王の四天王とか、そーゆー異名を持ってるらしいアルマエルマさんです。闘技場では異名を使っていますが。
 ちなみに、この前何故かセーラー服を着ていたので「うわキッツ」と言ったらガチの殴り合いになりました。こっちが顔狙ってないんだから、股間を蹴りにくるなよ。「だがそれがいい」とも叫びましたが。…蹴りじゃないよ、キッツいのがいいんだよ。

 初めて戦った時には、切り札も神機も無しとは言え善戦するも敗北し、衆人環視の前で辱められ………ながらオカルト版真言立川流でエネルギー回復、そのまま連戦。…ま、アルマエルマもパワーアップした状態になったんで、また負けたけどさ。
 んで、また押し倒されてエネルギー回復してもう1セット。延々と繰り返されるので、コロシアムの方が引き分け(実質俺の負け)判定を出すという異例の事態に陥った。

 尚、その後意気投合して朝まで飲み明かし、気付いた時は3人揃ってジュリアと同じベッドに寝てました。ジュリアがアルマエルマを師匠扱いしてるけど、まだ弟子入りは叶ってないようだ。

 
 ああ、ところでさ、アルマエルマってこの世界の強い奴には詳しい? エロじゃなくて殴り合いの方で。


「そこそこね。まぁ、強さの基準にもよるけど…。私が強いって判断するのって、片手で数えられる程よ」


 言っちゃ悪いが、ガチでやると確実にアルマエルマより強いぞ。一対一でもだ。俺も………言いたかないが、勝てる気はせん。
 いや俺の戦闘スタイルの場合だと、隙をついてチクチクやるのを最大効率でやるもんだから、回復手段さえ封じれば削り切れん事はないと思うが。


「…へぇ?」


 ネロっつー胡散臭いメガネと、ネリスっていう………服装に関しちゃ、あの3つの世界ですら足元にも及ばないよな、この世界……女の子。多分だけど、二人とも蛇……ラミアっぽい。
 の割には、キツネの臭いもしたような…。


「…聞いた事ないわね。と言うより、多分蛇って?」


 俺、これでも狩人だぜ? 相手が獣の類なら、見なくても直感で分かるわ。
 擬態…いや、あれも本来の姿の一つだと思うが、普段は人間、全開状態ならそれ以外の要素が浮き出てくる。本人にも聞いてみたら、メガネの方がアホみたいに動揺してたから間違いない。


「アンタ狩人って割には、弓とか使わないわねぇ…」


 使えるけど、正面から斬りに行く方が性に合ってるし。
 で、そいつらが、自分の胡散臭さを棚に上げて、「貴方は何者ですか」みたいな感じで接触してきてね。
 ちなみにネロが作ってくれたツマミは美味かった。残りになるけどコレです。


「唐揚げ1個しか残ってないじゃない。…あら美味しい。いい腕してるわ」


 我儘な狐師匠の無茶振りに応えようとしている内にこうなったとか。
 いきなり斬り合うつもりもないようだから、飲みながら色々話して酔い潰したんだけど、訳アリっぽくてな。パラレルワールドがどうの、正史がどうのと、面倒くさそうな話でよ。
 詳細は分からんが、そーゆー連中がマジで居るなら、未来を変えようとしているか、並行世界に多大な被害が出そうかのどっちかだと思うんだよなー。


「……逆にこっちから聞きたい事もあるんだけど」


 ん?


「初めて会った時から疑問だったんだけど、貴方なんで無職なの?


 ニートじゃないよ!? 確かに企業には就職もアルバイトもしてないし、ヒモと言われても仕方ない生活してるけど、コロシアムでちゃんと金稼いでるよ!


「そういう意味じゃないわ。何で祝福を受けていないのかって言ってるの。貴方なら………あ、ごめん、やっぱりまた今度。ちょっと用事が出来たから行くねー」


 あいよー。相変わらず自由なやっちゃな。
 さて、今日はどうするかね。コロシアムの受付期限は過ぎちゃったし…。女王杯とやらに出てみようかと思ってたが、サキュバスの村でエロエロしてたらすっかり忘れておったわい。


「あ…師匠!?」


 …んぁ?


「え、師匠って…あ、先生?」


 ……おお、ルカとソニアか。何だ、こんなところで会うなんて奇遇だな。コロシアムに参加しに来たのか?


「あ、はい。女王杯で優勝しないといけなくなって。…ひょっとして、師匠も参加するんですか?」


 いや、俺は今回はパス。用事があって出かけてたら、参加登録し損ねた。
 にしても………随分とまぁ、死線を潜って来たようだな。ルカにしろソニアにしろ…正直、見違えたぞ。しかも大所帯になっちゃって。


「へへ、そうですか? 自分でも強くなったと思いますけど」

「調子に乗らないの。…でも、成長を認められるのは嬉しいわね」

「…師匠? こいつが?」

「ほう…。配下に欲しいですね」


 む? ……連れ合いか。ふむ…。


「む………」

「ああ、アリスとイリアスです。アリスの本名はもっと長くて、イリアスは…その、名前は色々あるんですけど。それと連れ合いなのは片方だけです。行く先々でよく会いますが」


 …二人そろってなんかロリっぽくなってるけど、本来はワガママ大人ボディの、非常に強くてエロいかなり高貴な人と見た。人じゃないけど。


「やはり分かる人には分かってしまうのですね。まだまだ私の威光は失われていないようです。見る目がある人が残っていて嬉しいですよ」

「ほう、見る目があるな。そちらも良い使い手のようだ」


 お褒めに預かり、恐悦至極。
 で、何だっけ? 女王杯で優勝すんの? …大分強くなってるようだが、キツいぞ。


「大きな大会ですし、強い人が居るのも分かってます。でも、力を合わせればきっと!」


 鉄火場で楽観論を持ち出すな。精神論は、最後の最後で力を引っ張り出す為の一助にしかならないって教えたよな? 力を合わせて戦うのが、自分達だけではないとも。
 確かに、ルカチームの実力なら、いい線行くだろう。第一・第二師団の隊長チームとやりあっても、相当なミスが無ければまず間違いなく勝ち上がれる。
 連れ合いさんの方は……まぁ、チームメンバーとの連携次第かな…。


「侮られている…と言う訳ではなさそうですね。そう断言できる程の強者が、この大会に出ると?」


 ああ。問題はキュバの奴だ。


「キュバ…。予想屋…の隣の老人が言っていたな。出場すれば負け無し、圧倒的な力を持つ無敗の女王…だったか」


 何分気紛れな奴なんで、どこまで真面目にやるかは分からんが、それでもここに居る全員を纏めて蹴散らせるだけの力はある。


「…それを、唯一引き分けにまで持ち込んだ自分は強い、とでも言いたいのですか?」


 嫌味に聞こえたなら謝罪するが、客観的に見ての話しだ。
 …まぁ、これも所詮は予測でしかない。
 キュバが面倒くさがって危険するかもしれないし、俺が思いもよらないくらいにいい連携で喰い付くか、突然秘められた力に開花して不意を打てる可能性だってある。
 一番ありそうなのは、女王杯どころじゃないトラブルかな…。


「何かあるんですか?」


 何かあるのはソニア、君達だろ。女王杯で優勝「しないといけなくなった」。それが必要な理由があると。それに、随分と連れ合いを増やしてるみたいじゃないか。俺もあっちこっち渡り歩いたが、ルカはあっちの大陸の各地に居るもん娘を仲間にしてる。それだけ歩き回ったんだろう?
 …前々から何かありそうな子達だと思っちゃいたが、想像以上だったみたいだな…。
 

 まぁいいさ。これはお前達の物語だ。俺があんまり出しゃばるのもおかしなもんだろう。
 …下手な事すると、あのメガネと嬢ちゃんがまた絡んできそうな気がするし…。


「あ、そうだ(唐突)。以前は聞けなかったんですけど、師匠の職業って何なんですか? イリヤスヴィルの神殿に来てたから、てっきり転職しにきたんだと思ってたんですけど…。話を聞いてみても、神官様は知らないって言うし」


 あん? 俺は一応狩人だけど。他にもモノノフ…サムライとか、ゴッドイーター…は分からんか。


「そうなんですか? 私はてっきり、バトルファッカーが本職だったんだと…」


 それで飯食ってたのも否定できん。(と言うか完全にヒモだったし)


「…見た所、完全に無職なのですが」


 アル…じゃなかった、キュバにも言われたけどニートじゃねぇよ! ちゃんと自分で金稼いでるよ!


「…イリアスが言っているのは、そういう意味ではない。貴様、何故職業の加護を受けておらんのだ?」

「そもそも、貴方は一体何者です。今はこんな姿ですが、私は創世の女神。この世界の全ての人間の顔と名前を記憶しています。貴方はその中にない…。このような事は二人目です」


 一気に言うな一気に。
 と言うか、あの神殿ってダーマ神殿的なアレだったのか…。また今度訪ねてみるかな。魔法使いとかその辺の職に就けば、魔法が覚えられるらしい。タマフリと似たようなものっぽいからそこまで執着はないが、ルーラみたいなファストトラベル能力を得られるなら是非欲しい。
 ハーピーの羽、買ってたっけ? …単なるアクセサリだと思ってたから、買ってなかった気が…。


「ハイ? …職業転職の為に必要な事、ですか? 職につくだけなら、特に必要な物はありませんけど…と言うか師匠、知らなかったんですか? 常識なんですけど」


 …信じられない者を見るようなルカの目はともかくとして…本気で羨ましい話だな。誰でも職につける、履歴書も要らない、就職浪人も無い…。問題なのは職場環境だけか。まぁ、それで食っていけるかは別問題なんだろうが。
 後は…ふむ、上級職に就くには下級職(と言うより一般職)の下積みが必要で、その更に上の最上級職や一部の職には転職アイテムが必要と。


「これも何かの縁です。私が貴方の状態を見てあげましょう」

「出来るのか? 今のお前に」

「侮らないでください。こんな姿になっていても、元も職の祝福を与えるのは私の権能ですよ。祝福を、と言われると厳しい部分もありますが、見るだけなら問題ありません」

「ふん…」

「貴方の転職可能な職業は………狩人、バトルファッカー、娼婦に………慈愛の聖娼、傾国の魔娼!? 淫忍くのいちまで!?」


 おい待てい(江戸っ子)。
 狩人は当然。
 バトルファッカーも分かる。
 娼婦はいい。男娼だって居る。
 傾国の魔娼もこの際構わん。
 淫忍くのいちも、百歩譲ろう。

 だが慈愛って何だ慈愛って。百歩譲っても聖ではないだろう。

 と言うか、それ明らかに上級職だろ。俺、転職した覚えも無ければ、転職アイテムとやらも持ってないぞ。


「慈愛の聖娼、傾国の魔娼の転職に必要なアイテムは確か………淫らな魂」

「多くのバトルファッカーに勝利すると与えられるという、アレですか…」


 …ごめんなさい、それずっと前から持ってました。自前で持ってました。下手するとこの世界に来る前から。そして各地を渡り歩いている間、あっちこっちでバトルファックしまくってました。
 と言うか、今懐を探ってみたら、普通に持ってました。


「…流石というかなんというか…。師匠、欲望塗れですね」


 やかましい。……ああ、そろそろ第一試合開始の時間だな。俺は今回は見物に回るわ。
 ……そーだ、物のついでだ。この淫らな魂っての、やるよ。


「ええ!? ちょ、先生それって超レアアイテム……だけど、なんかあんまり嬉しくないような…。前に貰った、あの指南書だけでも充分な気がするんだけど…」


 気にすんな。多分、俺は自前の魂で代用できそうだし。でっかい役目があるんだろ? 弟子を支援するのも、師の務めだ。


「…ソニア、素直に受け取っておこう。どっちにしろ、これは今の僕達じゃ、とてもじゃないけど使えないアイテムだよ。相応しい力を得られたら、その時に転職すればいい」

「…それって、もっとエッチな体験を進んでするって言ってる気がするけど…まぁいいわ。試合の後に、みっちり聞かせてもらうからね。それじゃ先生、ちょっと行ってくるわ。ソニア流の棍棒裁き、見ててよね!」


 おう。……あ、ソニアだけちょい待ち。


「え?」


 これは完全な野次馬根性から聞くが……その後のルカとは、どうだ?


「………え、えへへへへ…」


 おお、ガッツポーズ。あのロリ二人が超強力ライバルになりそうな感じだったが。


「幼馴染の強さは速攻にあり。先生の教え通りです!」


 そーか。まぁ、ルカは一途に見えて誘惑に弱そうだからな。しっかり繋ぎとめておくこった。或いは、多少の浮気や逆レは多目に見るかだな…。




 …行ったか。
 アルマエルマ、これでよかったのか? なんか顔見世するとヤバい事でも?


「そうでもないんだけどね。どうせなら、決勝戦で会った方がドラマチックでしょ」


 はーん。まぁ好きにすりゃいいさ。助けを求めているでもない友人の背景にまで、首を突っ込もうとは思わんよ。


「そう? 私は興味あるけどね。…異世界人の貴方が、この世界で何をしているのか。薄々感じてはいたけど…やっぱり、って感じよ」


 別に。ぶっちゃけ、偶然ここに流されてきたから、観光+風俗天国みたいな気分でフラフラしてるだけさ。個人レベルならともかく、国家や世界の行く末の云々に積極的に関わろうとは思わんよ。
 …いや、ラダイト村は見かねてちょっとやっちゃったけども。
 ふむ、淫忍くのいちか…。確か、東の方にはヤマタイ村っつー和風な村があるんだっけな。くのいちの淫技、見物しに行こうかなー。


「私を前にして、下級な忍者のテクに興味を示すの? ま、好きにしなさいな。そういう事なら、私からどうこうする必要はないわ。数少ない友人を減らしたくもないしね」


 さよか。ま、この後どうなるにせよ、一戦交えるようだが…気張ってこいや。







 …その夜。ある意味予想通りの展開になった女王杯はともかくとして、ルカが部屋までやってきた。
 ショタっ毛はないが、ルカにもホモっ毛はない。万一あったら、ソニアがあらゆる手を使って矯正しているだろう。

 で、どしたよ。


「その…以前に指導してもらった時の、上級版が知りたいと言うか…。淫らな魂を素で持ってる師匠なら、何とかしてくれると言うか…」


 シモの相談をするのが気まずいのは分かるから、はよ言えや。そろそろソニアが、腐女子的な発想の元に殴り込んできても不思議はないんだぞ。


「………ぼ、僕に淫技を教えてください!」


 …あん? 淫技? ってアレだよな。お前らが使ってる、勇者技とか魔技とかのアレだよな。そりゃ確かに使えるけど…お前ら、普通に転職して覚えられるんじゃねーの? 遊び人から娼婦、バトルファッカーその他で。


「女ならそうなんですけど、男だと…。その、色々と技が覚えられなくて…。人間だと尻尾も無いし」


 ああ、サキュバスお得意の尻尾吸精な。ヤローにも尻尾モドキはあるんだし、そっから吸い取るも注ぎ込むも自在なんだがなぁ。出力はともかく。
 あと、絶頂無効とかもあるんだっけ? イきたくてもイけないのは普通に拷問だから、悪用もできそうだし。そもそもここの連中、一度イッたら戦闘不能扱いとか、いくら何でも虚弱すぎね? 何度かアルマエルマとの闘いでイかされた事あるけど、構わず戦ってたらゾンビ扱いされたし。


「そうです、そういうのを知りたいんです! バトルファックでこそほぼ確実に勝てるくらいになりましたけど、何と言うかその、やっぱり満足させたくて…。その、ソニアに絞られるのもいいんですけど」


 …やっぱ、根は真性マゾかな…。下手すると斧で殴られて射精するとかも有り得るんじゃね?


「いや流石にそれはちょっと。ただ攻撃されて興奮するって、M以前に変態か、純粋に異常者じゃないですか。そうじゃなくて、こう……責められながらも責めたいと言うか…上手く言えませんけど、師匠なら分かってくれると思うんですが!」


 Mの快感を味わいながらも、Sの愉悦も貪りたいって事だろー? 分かる分かる。極端なプレイばっかしてると、逆に走りたくもなるんだよな。要はスイカに塩で甘さが引き立つとかそーゆー話だけど。


「あ、僕は塩はかけずに種ごと食べる派です。…連れ合いは皮まで食べ尽くしてましたが」


 スイカ娘もペロリかな? しかし、淫技ねぇ…。転職で覚えられる技は、多分俺には教えられないぞ。
 ……まぁ、そうだな…。戦闘用の特技が覚えたいんじゃなくて、もっとエロい事を楽しめるようになりたい訳だな。それなら淫技じゃなくて、単純に楽しみ方を教えてやればいいか。
 以前にルカに教えた、オカルト版真言立川流簡易版だって、こいつらは明確な技として覚えている訳じゃないし…。

 …ここは一つ、また指南書を書いてみるのもいいかもな。あの頃に比べて、俺も何だかんだで上達してるし、色々試した中伝の考察もまとめておきたい。
 ああ、アルマエルマと共同で執筆するのも面白そうだ。あいつが何処まで真面目に付き合うかは分からんが、友人の頼みを無下にするような奴でもないし。…本を読み書きするという行為に、あいつが退屈しなければ、の話か。


 ま、いいや。話は分かった。ただし、指南書を書くだけだ。前の時もそうだったろう? やり方だけ教えて、自分で鍛えて、自分でモノにしろ。
 いくらシモ方面の弟子の頼みとは言え、野郎のナニをマジマジと見つめる趣味は無い。


「僕もありません。もん娘が相手だと、ちょっと嬉しいですけど」


 後でソニアにチクったろ。


「…そ、ソニアが相手だと、もっと嬉しいです。見られただけでおっきくなっちゃうし…」


 うるせぇよ。今日はもう帰って、ソニアのケツでも揉んで寝ろ。
 明日から、また妙な密命があるんだろ? あいつもまた、キッツい恰好してたからな…。


「殴られますよ」


 もう殴り合ってるよ。昨日も含めて、あの恰好では3度か。1回はコロシアムに着てきやがったからな…。色んな意味で大荒れしたぞ。
 暫くアルマエルマとも遊べそうにないし、俺はイリアス神殿の方に足を向けるよ。転職ってのやってみたいしな。その間に指南書を書いておくから……そーだな、書きあがったら神殿に預けておくか。具体的に何時頃になるかは分からんが。


「わかりました! 転職する時、司祭様に……司祭様に………」


 エロいHow To本が届いてないか、毎回確かめるのか。……割と笑える絵面だな。
 ヨボヨボのじーさん司祭でも、ついついオッキして現役復帰した挙句に、ショタの道に踏み込んでしまいそーな内容にしておくか?
 と言うか、お前もん娘にケツ掘られそうな顔してるしな…。尻で忍法筒枯らしができるようになるか?


「うわぁぁぁぁん!!!」





 ……やろうと思えば俺も出来るんだよなぁ…。オカルト版真言立川流の中伝に、それらしい記述があって、試しに動かしてみたらできちゃって…。幸か不幸か、今まで試す機会には恵まれないけども。野郎に掘られるのは御免被るが、ネンゴロになった女達なら、ギリギリ許容範囲。だと思う。




 …その後、なんか大国同士の間でデカいトラブルがあったとか、各国に色んな種族のもん娘がカチ混みかましてえらい被害が出たとか聞いたが…当時の俺は、イリアス神殿付近に居たので詳しい情報は分からなかった。
 イリアス神殿で何をしてたか?

 
 ルカから聞いた、死神とやらと会ってたんだよ。死神に会うの事態は副産物と言うかついでで、目当ては混沌の回廊だったけどな。異世界に通じる回廊…によく似た空間が、イリアス神殿の奥の扉から繋がっている。
 どうやらルカにしか見えず、ソニアや連れ合い達は今一信じてないっぽいが、俺にはしっかりと目に見え、そこに入る事もできる。近場の人に頼んで見てもらったが、そこに入るとテレポート(この世界のスキルだが)したかのように姿が消えるらしい。
 この辺もルカとは違うな…。あいつの時は、ルカだけボーッと突っ立ってると言う、ペルソナのベルベットルームに行ってる時のような現象になるらしいが。

 混沌の回廊…3つの世界を行き来している現象の手掛かりになるかと思ったが…うーむ、サッパリ分からんな。
 正直、いつぞやのライドウと出会った時に見た、アマラ回廊と何か関係があるかとも思ったが、それすら分からん。

 ルカに頼まれた指南書については、イリアス神殿に辿り着くまでの間にある程度書き上げ、混沌の回廊をフラフラする合間に書き上げた分を司祭さんに渡している。…時々続きを催促されるが、単純に読み物や技術書として続きが気になるのか、オスとして現役なのか、或いは読んでるうちに復活しちゃったのかは不明だ。
 …さて……混沌の回廊を歩き回るうちに、最近はアポトーシスと呼ばれているナニカに遭遇する事が多くなってきた。或いは、今まで出会ってきたモンスターやアラガミや鬼とも。望めば、奴らと戦う事もできる。
 できるが…負けたらどうなるんだろうな。ルカの言によると、あいつは負けてもデメリットは無いようだが…俺は体ごと、この空間に入ってきているようだし。

 …ま、考えても仕方ないか。まぁた何か来やがったな…。さて、随分と強敵や初見殺しが増えてきたが、今度も勝てるかな?






 …イリアス神殿には、とある本が保管されている。
 その名を抹消されたバトルファッカーが記した、幻のアイテムと言われた指南書…その続編と言われている本だ。
 残念ながら、この本は未完…途中で筆者であるバトルファッカーが、突如失踪してしまったのだと言われている。彼が寝床にしていた、とあるバトルファッカー(レベルは低いと言わざるを得ない)の家には、草稿と思しきものが残されているが、明確な章立てはされておらず、どのような順で執筆されているのか、全くの不明である。また、多くの造語(弟子であるルカとソニアは、明確な意味を持った言葉だと主張している)が使われている為、その真意を理解する事は非常に困難だ。
 
 だが、もしもこの本が完成していたなら、新たなる転職アイテムが生まれただろう、とバトルファッカーの誰もが口にする。それも、上級職、最上級職どころではない。今や伝承に謳われるだけの、神々に封じられたと言われる『封印職』。或いは、未だかつて存在すらしなかったであろう、未知の職。
 その道を閉ざした不運が、一体どのようなものだったのか。今となっては知る者は居ない。 



外伝:もんむす・くえすと! ぱらどっくす中章編


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283話

NTD3DS月

 

 

 ミキの事がマキ嬢にバレた。色んな意味でバレた。

 っつーかあの半分メガネと婚活戦士ィィィ!!! 何をいきなりシャレにならんミスやってくれとんじゃあああ!!!

 

 

 オーケイオーケイ、落ち着きたまえよ私。確かに最悪の形でバレたが、逆にだからこそ出来る対応もある。まずは状況の整理からだ。

 

 

 

 そう、事の次第はいつも通り、マキ嬢が素材の受け取りにやってきた事だ。受け渡しだけならギルドに頼めばいいんだが、マキ嬢の場合は個人的な問題も抱えてるからな。

 と言うか、今回の素材の受け取りは元々予定には無かった。特異個体として認定された、ウカムトルムの情報を早くもキャッチしたらしい。それを狩ったのが俺だと言う事も。

 多分、戦車の素材に仕えると思ったんだろうなぁ…。加熱と冷却を一つの素材で実現できるんだから、技術的な価値は計り知れないだろう。

 

 

 

 

 で、限りなく面倒な、彼女達の家庭環境の事だが…前回は、母親であるシキ・ウェストライブ領主の考えを探ってみる、と言う事になったんだっけ。で、ミキは隠れてこっそりその話を聞いていた。

 少なくとも、マキ嬢はミキの味方であるつもりで、心配して探し回っている…と言うのが知れただけでも、ミキには大分救いになったようだった。

 

 今回はどうだろう。母親が娘に対して冷酷になるとは思いたくないが、そのような事態もあるのが人の世の常。増して、領主としての非情の決断を迫られている…と言う事もあるかもしれない。

 ひょっとしたら、ひどく傷つく事になるかもしれない…。だが、ミキは母親の考えを知りたかったようだ。マキ嬢がやってくる事を伝えると、前回同様に隠れて話を聞きたいと言い出した。

 

 とりあえず、飢餓感も落ち着いているし、薬も手元に置いておけば大丈夫だろう。正直、どんな話になるか検討もつかなかったが、俺を経由して伝える二度手間になったら、情報が捻じ曲がる可能性も高い。

 前回と同様、酒場の隅に隠れ、タマフリをかけておく。

 

 

 

 

 

 …で、いつになく急いでマキ嬢がウカムトルム素材を受け取りに来た訳だ。ただし、その表情はいつになく暗い。

 素材を実際に手にした時も、色々な技術的問題が解決しそう…と嬉しそうではあったんだが、やはり暗い。身内関係の事か? と聞いてみると、案の定である。

 

 

「……お母様の考えが、全く分からないんだ」

 

 

 探りを入れてみると言ってたよな。…変な聞き方をするが、どう分からないんだ?

 

 

「元々饒舌ではない方だし、領主として内心を隠さずに話すような人ではないんだが…。お母様は、どうやらミキを探して連れ戻そうとはしてないらしい」

 

 

 …………。

 

 

「ただ、『その方があの子の為』とも言っていたんだ。『自分の意思で出て行ったのだから、自分の意思で戻ってくるもの』とも」

 

 

 ……(自分の意思じゃないんだけどそれは)。

 自分で出て行った、と確信してるのか? 誘拐の恐れとかは?

 

 

「そっちは徹底的に調査した。私も参加したし、お母様も陣頭指揮を執っていた。少なくとも、全力を挙げて、危害を加えられたのかを調べたのは確かだ。その結果、ミキは自分の意思で…少なくとも一人で馬車に乗り込み、領を出て行った事が確認されている」

 

 

 ふむ、それで家出と判断した…か。

 しかし何だな、領主の娘が家出とか普通に問題だと思うが、その割には『帰ってきたら迎え入れる』みたいな発言でもあるな。『自分の意思で戻ってくるもの』って部分が。

 

 

「そうだな。事実、ミキの部屋は掃除以外では何もしてないし、一族の名から抹消するような事もしていない。一度だけだが、ミキの絵を見て物憂げな表情をしていたのを見た。…ただ、分からないのはミキが何故出て行ったのか、察しているような部分なんだ。家出前日の、叱責によるものではないと考えているらしい。…他に何か理由があると」

 

 

 …理由、ね。……アラガミ化の事を知っている…? いやまさか…。もしも知っていれば、自分の意思でフロンティアに来たなんて思わないだろうし…いや、そもそもアラガミ化したミキが、俺につられてフロンティアに来たというのも推測でしかないしな…。

 

 うーむ……何と言うか、情報が足りないと言うか、出揃ってない気がするな。後付けでとんでもない裏事情や設定を出してくる小説を、序盤から中盤の情報で黒幕を予想しようとしてる気分だ。

 (実際、世界観を無視してアラガミ化なんて現象が起きてるんだし。マキ達にしてみれば、それこそ後付け設定以外の何物でもないだろ)

 

 

「またよく分からない例えだが、確かに同感ではあるな。……考えてみれば、お母様に何か考えがあったとして、それが正しいとも限らないのか…」

 

 

 あー…それは見落としがちだけど、当然の懸念だな。黒幕やフィクサーは、どんな事でもお見通しで、大抵の場合はその通りに話は進むけど、間違える時には間違える…。

 

 

「黒幕…フィクサー……領主なんだが…。まぁいいか。結局、今まで通りにお母様の考えを探るしかないと言う事か。できれば自ずからミキを探したいが、あまり長くフロンティアに居る事もできん。申し訳ないが、君に任せる……頼んだ」

 

 

 はいよ。ま、出来る限り丸く収める協力はするよ。(素直に教えるとは言ってない)

 

 

「ああ、感謝する。………ついでに聞いておきたいんだが…今まで協力して、相談にも乗ってもらってこんな事を言うのもなんだが、何故そこまでしてくれるんだ? 確かに私は、君にハンターとしての仕事を依頼した。長期間に渡る仕事で、ひどく面倒な仕事だ」

 

 

 そーね。狩ってきても基準に合わなかったらもう一回とか、普通に鬼畜よね。

 

 

「自覚はしている。だが、それをこなした所で、G級ハンターの君から見れば、些細な報酬にしかならないだろう。人探しに至っては、何でも屋とやらの噂を頼って来たが、君が引き受ける筋合いは無かった。更には、人探しを頼んだら、結果的には家庭の問題まで相談する始末…。少なくとも、君が気を揉むような事ではない筈だ」

 

 

 そりゃ…まぁな。はっきり言って、進んで関わる理由は無い。依頼されるモンスターの素材は、面倒ではあるが強敵って程じゃなくなってきたから、手応えはあんまり無い。

 妹さん探しは正式に受けた依頼じゃないから、見つけても報酬が約束されてる訳じゃないし、そもそもついでに伝手を伝って探してる程度だ。

 家庭環境に至っては、正直話を聞いて、中身があるようで無い意見を出すしかない。

 マキが作ろうとしてる戦車に興味はあるが、完成しなければ意味が無いし……正直、戦車自体にはそこまで執着してない。

 

 

「ならば何故?」

 

 

 そうだなぁ……。女に見境が無い俺なんだし、マキとお近づきになれるからってのはどうかな? 実際、得難い出会いだしね。美人さん。

 

 

「………わ、私に近付いても意味はないぞ。いつかは領を継いだとしても、あまり裕福ではない。領の為に使うべき資金を持ち出す事はできないし」

 

 

 領主の財産にも名誉にも興味ないよ。金が欲しいなら、ウチのタカリ猟団を纏めるような事はしてない。

 美人さんや可愛い女の子やイイ女との出会いは、それだけ価値があるんだよ。金や名誉はあの世(と言うか次のループ)まで持っていけないが、思い出はずっと持っていられる。…ま、世の中には残念ながら、一方しかいい思い出と思っていなかったり、綺麗で美しい思い出だった筈なのに、後から歪められて後悔する事も多いけどね。(具体的には下手な厨二病を自覚して、黒歴史が出来上がったりとか)

 

 

「そ、そうか…私との出会いが思い出か…。そういう事は初めて言われたが、悪い気はしないな。うん、前向きに考えよう。いずれはお母様にも紹介を…」

 

 

 ……うん? 今何か、間違ってはいないけど物凄い理論跳躍が発生したような、そうでもないような。

 まー俺もそこそこソロバン弾いてるんだよ。放り出すのも後がどうなったのか気になるし、細かい事は気にするな。

 

 

「ああ、そうさせてもらう。ところで、肝心のそちらの方はどうなんだ? お母様の考えが分かっても、ミキが見つからなければどうにもならない」

 

 

 あー、悪いけどな…。

 

 

「そうか…。元々、獣を追うのがハンターの本領だしな。筋違いな事を頼んでいるのだから、難しいのは仕方ない………ん? 何だ? 何か騒がしい…」

 

 

 …? (あっちは、ミキ達が隠れてる方だな。興味を持たれると厄介だ)

 確かに騒がしいな。誰か酔って暴れてるのかね。ま、さっさと鎮圧するとしよう。

 

 

「怪我をしないようにな」

 

 

 あいよー………って、おい…騒いでるのは…この感じは!

 

 

「ああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」

 

「ミキ殿ぉ!」

 

「な!? ミキ!!」

 

 ちょっ、ミキがビーストモード! しかも理性が飛んで襲い掛かってくるし!

 おいアキャマ殿、どうなってる!?

 

 

「く、薬が切れたであります! ミキ殿、殿中でござる、殿中でござるぅぅぅ!」

 

 

 ちょっ、薬って持ってきてた筈だろ!?

 

 

「出発前に話をしていた、ミミ殿かサヲリ殿の鞄が、入れ替わっていたのでありますよ! 発作が出たものの、迂闊に動けば気付かれるので薬を取りに行く事も出来ず! ああっ!」

 

 

 必死に抑えていたアキャマ殿が吹っ飛ばされた。友人に目もくれない辺り、本気でヤバいかもしれん。予想通り、先日のウカムトルムのフィールドのおかげで、体が不安定になっているのか。

 

 

「待て、何をしているミキ! 落ち着け、話を…うぉ!?」

 

 

 狂乱しているミキを、咄嗟に止めようとするマキ。だが、外見からは…多分今まで知っていた妹とは段違いの膂力で簡単に押し退けられた。

 そのまま飛び掛かって…チッ、ジャンプのフリして猟犬みたいに体を低くして迫るか。口も閉じられているし、前回のような舌掴みはできそうにない。学習してやがるのか…。

 

 だが下から来るなら…不動金縛りの餌食! 掛かった!

 

 はい、ちょいとゴメンよっと! …チョークスリーパーで締め落とした。ふぅ…。

 

 

「ふぅ、ではない。…これはどういう事だ。ミキは見つかっていないのではなかったのか」

 

 

 

 

 

 …おぅふ…。

 とりあえず、ちょっと待ってろ。発作を抑える薬を飲ませておくから…。これ、もう手持ちが尽きてるんだけどな…。残ってるのはミキに渡した分だけか。

 

 

「…その物体は何だ」

 

 

 やましいモノじゃないから、そんな怖い顔するなよ。俺はミキがまだ見つかってないとは、一言も明言してないぞ。

 …見つかったのを知らせなかったのは悪かったが、こっちにも理由はある。

 これまでの協力からの信用を対価に、話くらいは聞いてくれ。

 

 

「その協力が、非常に疑わしくなっているのだ。…いいだろう。ただし、話を聞いて納得できないなら、お前の言葉にこれ以上偽りがあるなら、今後一切信用せん。ミキもすぐにでも連れ戻す」

 

「そんな! …ひぅ」

 

 

 アキャマ殿、落ち着け。この子が怒ってるのは俺にであって、ミキやアキャマ殿にじゃない。…いや、家出したミキにも怒ってはいるか。

 アキャマ殿達だって、最初は信じられなかったろう。

 とは言え、長い話になるし、話せるとこまでしか話せんぞ。

 当人との確認も必要だし…一晩フロンティアに留まれるか?

 

 

 

NTD3DS月

 

 

 この前の、マオの素股+尻コキは良かったなぁ…。挟んで飛び出した先端を、尻肉で挟んで、こう、な? ダイレクトに突っ込むのとは別の楽しさがあったし、マオを焦らす効果もあってだな。

 …そんなワイ談を話すべきか微妙に悩みつつ、マキの説得に当たる今日この頃。

 

 

 説明した内容は省く。内容もアラガミ化の実演も、流れはミキ達に説明したのとほぼ同じだ。怪しまれているのも。

 つまるところ、だな。

 

 

「…納得できんし、信じられん。ミキは連れて帰る」

 

「ま、待ってほしいであります! しかし、それではミキ殿の体が! それにミキ殿自身の考えも聞くべきではないかと思います!」

 

「これが真っ当に独り立ちした人間であれば、そうかもしれん。だがミキは未だ子供だ。私よりも年下の。言うなればこれは家出。しかも、君達の話によれば自分の意思ではないではないか。連れ帰って何がおかしい」

 

 

 まー、フロンティアでの活動を続けるにしても、一回くらい親に顔見せておけ、って理屈は分かる。だが、そこで分からないのがお前さんの親の対応だ。積極的に探そうとするでもない、帰ってくるのを止めようとするでもない。何を考えているのか分からない。

 

 

「ならば猶更連れ帰る。大体、ハンターとしての正式な訓練を受けた訳ではないミキが、得体の知れない力を奮ってハンターをやっているというだけでも見逃せない事態だ」

 

「うぅ…しかし、ミキ殿の体に起きている異常はどうするのでありますか。見ての通り、薬無しでは度々飢餓感に襲われ、理性が吹き飛んでしまうであります…」

 

「それこそ話にならない。ミキに異常があると言うのは事実のようだが、よりにもよって他の団員の鞄と間違えて、持ってくるのを忘れる? そんな杜撰な管理をしている猟団など信用できん」

 

 

 うわぁ、ド正論…。つっても、薬ももうそう多くはないぞ。今回と先日のウカムトルムの一件で、侵蝕がかなり進んだ可能性がある。今までよりも、薬を多く飲んでおいた方がいい。

 

 

「なら君も領まで来い。ミキの体に異変が起きたとすれば、その始まりは間違いなくウェストライブ領にある。君はミキの症状を抑える事もできるし、この事態に関する知識もあるのだろう。…ミキが見つかった事を、私に黙っていた罰だと思え」

 

 

 それを言われると痛いな。…あんまりフロンティアから離れたくないんだがな…帰って来た時にエラい事になってそうで。

 しかし、ミキを放っておくのも…。………。

 

 

 よござんしょ、ウェストライブ領までご一緒しましょ。ただし、俺の目的はミキの発作を抑える事と、その原因を探る事だ。ミキをウェストライブ領に戻す事じゃない。

 具体的に言うと、ミキがウェストライブから出てフロンティアに居たいと思っているなら、そっちの手助けをするからな。

 それで構わんな、アキャマ殿も?

 

 

「構わない。筋目を通してミキが自立するなら、私もどうこう言う権利は無い」

 

「うぅ……納得はできないでありますが……代案もなく…」

 

 

 ふむ。となると問題は……ミキが起きてからの意思確認と、猟団のメンバーへの説得かな…。

 

 

「そういう君の猟団はどうなのだ。団長が離れるなら、相応の事前通達等が必要だと思うが?」

 

 

 

 最近じゃ、実務に関してはデンナーとコーヅィが居れば問題なくなっててな。

 お飾りのトップというか、正直要らない子扱い寸前なんでちょっと泣きそう。

 

 ああ、トルゥートやミーシャに、にウェストライブ領主と会う為の算段を考えててもらったっけ。不要になっちまったって連絡入れておかないとな。

 

 

 …さて、そろそろミキも起きそうだ。発作は治まってると思うが、念のために警戒はしておけ。

 

 

 …あ、瞼が動いた。

 

 

 

「………………ぱぱ…?」

 

 

 …あん?」

 

 

「ぱ、ぱ…?」

 

「寝言でありましょうか…? いやしかし、先日の一件で助けられて以来、『お父さんが助けてくれたらこんな感じなのかな』と呟いていたような…」

 

 

 と言うか、確かミキの父親って…。そういや、フロンティアでは父親の手掛かりを探してるんだっけ。マキは何か覚えてるか?

 

 

「私も顔も覚えてない。それに、お父様の事は、ミキは『お父さん』と言っていたが…」

 

「…………あれ………ここは…?」

 

 

 お、起きた起きた。全員、今の発言は禁止な。授業中に先生をおとーさんと呼んだようなもんだし。

 

 

「気にはなるが、仕方ないか。起きたか。痛みはあるか、ミキ?」

 

「……お姉ちゃん…? …なんで………!! わ、私また!」

 

 

 落ち着け。確かに叱りつけたくなるようなミスだったが、大事にはなってない。問題はミキの体の方だ。

 おかしな所は無いか?

 

 

「えっと………はい、大丈夫です。今度は吐かなくてもよさそう…」

 

「微妙に気になる事が聞こえたが、まぁいい。………心配したんだぞ」

 

「………うん…ごめんなさい…」

 

「……そー言えば、マキ殿が先日フロンティアに来た時に、隠れてこっそり話を聞いていたのはご存知でしたでしょうか?」

 

「…その話、詳しく教えてもらおうか」

 

「ひゅい!?」

 

 

 なーに、心配で心配で仕方なくて、おかー様が何を考えているのか分からなくて、悪い所があったなら治すからまた一緒に暮らしたいと涙目で言ってたのを聞いてたくらいだぞ。

 ちなみにそれを聞いて、ミキはガチ泣きするしアキャマ殿は貰い泣きするしでスッゲー視線が痛かった。

 

 

「そうか、ではそれ以上の苦痛を与えてやる…!」

 

 

 HAHAHA、照れる事ないじゃナ~イ?

 と言うか、マジレスするとああいう本心をちゃんと伝えてれば、ミキが思いつめる事もなかったんだと思うが?

 

 

「うぐ…」

 

 

 怯むマキ。よし、この隙に話題変更だ。

 とりあえずミキ、君が寝てる間に状況の説明をした。…悪いが、体がアラガミに変わりつつある事も、だ。

 で、マキの結論は、今後どうするにせよ、とにかく一度戻ってこいって事だ。

 

 まぁ、無理もない話だわな。自分の意思ではないとは言え…いや、だからこそ猶更なんだが、家出して音沙汰無し状態だったんだし。

 怖いかもしれんが、自分に起こってる自体だけは説明しとかなきゃなるまい。

 

 

「……はい。でも、その後は…」

 

 

 それはおかーさんと話し合ってから決めればいいよ。仮にダメだって言われても、脱走の手助けくらいならするからさ。

 

 

「私の前でそれを言うか…。しかし、私としてもミキの意思は無下にはできん。できれば領地に居てほしいが、状況次第で私も手を貸そう」

 

「……うん…」

 

 

 迷いが消えないミキ。余程、母親が恐ろしいらしい。…そこまで厳しい人なんかな…。そりゃ領主の娘なんだからある程度は厳しいのも仕方ないと思うが…。

 

 何にせよ、ややこしい状況になったもんだ。

 まだ父親の情報をフロンティアで探したいミキ。

 ミキを連れ帰り、家族として一緒に暮らしたいマキ。

 アラガミ化に関する情報を集めたい俺。

 

 …何と言う呉越同舟。

 




マオ=坂本美緒
ミーシャ=ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ
サーシャ=サーニャ・V・リトヴャク
ベリヰヌ=ペリーヌ・クロステルマン
ショーカ=宮藤芳佳
ネリ=リネット・ビショップ
トゥルート=ゲルトルート・バルクホルン
ジェリー=シャーロット・E・イェーガー
アンナ=ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ
ルーディ=ハンナ・ルーデル

この辺からNEW!

イーラ=エイラ・イルマタル・ユーティライネン
イリス=クリスティアーネ・バルクホルン

ガールズ&パンツァーから
マキ・ウェストライブ=西住まほ
ミキ・ウェストライブ=西住みほ
ハンズ=角谷杏
ミミ=河嶋桃
アキャマ=秋山優花里
レーゼイ=冷泉麻子
ハナ=五十鈴華
婚活戦士ゼクシィ武部=サヲリ


戦場のヴァルキュリアから
セラブレス=セルベリア・ブレス



おっと忘れてた。
コーヅィ=石田光司


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284話

NTD3DS月

 

 

 ミキが一度実家に帰ると聞いて、彼女の猟団で一悶着あったようだ。俺の意見は、この際関与しない。まぁ、手を貸すと言っておきながら、結局マキにミキの事がバレしまったからな。信用も失うってもんだろう。

 

 …その最大の原因である、ミミとサヲリとやらは石抱き正座のオシオキを喰らっていたようだが。病人の薬を勝手に持っていっちゃったよーなもんだからな…。そりゃシャレにならんわ。

 結局、必ず戻ってくるという約束で、里帰りは納得されたようだった。

 

 俺の方は特に問題なし。誰か一緒についてくるか、という話で揉めに揉めたようだが、結局誰も友をつけない事になった。出発日が間近だった為、皆スケジュールが調整できなかったからだ。

 とりあえず、戻ってくるまで長くて一週間くらいだと思うんで、その間モンモンとしないように、色々満足させておきました。

 

 具体的には、クロエの自慰を皆で鑑賞しつつ、途中でリアに襲わせたり、前から後ろから密着して触ったり舐めたり抉ったりと、いつもの乱交を。部屋の掃除が大変だろうけど、暫くこっちの仕事は無いんだからトッツイ頑張ってくれ。

 

 

 

 さて、実際に領地へ行く訳だが…馬車での移動時間にして、約1日程度。もうちょっと早く動けない事もないが、二人は先に色々話しておいた方がいいだろう。

 今後の事もそうだし、フロンティアであった事を話すのもいい。特にマキは、ミキがハンターやってたって事も実感が薄いだろう。

 

 まぁ、ゆっくり話してくれたまえ。俺は昼寝する。ああ、周囲の警戒は昼寝しながらでも出来るから心配なく。

 

 

 

 …一昨日の、フラウとミーシャのコンビネーションを夢に見てウヘヘと笑ってたら、蹴っ飛ばされたようだった。どっちがやったのかは分からんが、そんなにイラッとしたか。

 

 

 

 それはともかくとして。

 リオレイア襲来。

 

 

 ホイ、ホイ、ホイッときて

 

 

「えいっ!」

 

 

 

 そして撃退。特に盛り上がりも何もなく終わってしまった。だって、フロンティア個体でもない特異個体でもない、単なる上位程度のモンスターだったもの。

 しかし、それでもマキにとっては大きなショックになったようだ。

 

 

「これが…G級ハンターの狩りか…」

 

「あー、お姉ちゃん、あの人は確かにG級ハンターだけど、これってフロンティアでは普通に下位個体相手の狩りだよ? 実際、私でも充分戦えたし」

 

 

 と言うか、G級の狩りを見た事なかったのか? 代々ハンターを支援する事を目的としている、なんて言ってたからてっきり。

 

 

「えっと、私もフロンティアに来て麻痺してましたけど、G級ハンターってそんなに居ませんよ? ギルドの秘密兵器扱いされるくらいですし、数が少ないからこそ重宝されてる訳で」

 

 

 む…言われてみれば確かに。俺も、フロンティアに来るまでG級ハンターには全然会った事なかったっけ。明確に言われてはないけど、それくらいの力がありそうな人達ならちょくちょく遭遇してたが。

 

 

「あぁ……その通りだ。恥ずかしながら、私が今まで会った事のあるハンターは、上位まででな…。しかし、たった2撃で、まさか尻尾を斬り飛ばしてしまうなんて…。本当に、ハンターやってたんだな。得体の知れない力の為とは言え」

 

「あ、あはは……前に戦った時、尻尾の断面が美味しそうだな、って思っちゃって…つい…」

 

 

 ミキが腹ペコキャラになりつつある。アラガミ化の為か、元々なのか。

 まーリュウノテールとして扱われている食材でもあるから、美味そうなのは確かだが。

 個人的には、最近は尻尾よりも羽に興味が出てきた。手羽先的な意味で。

 

 

「手羽先だったら、リオレイアよりもよく飛ぶリオレウスの方が…」

 

 

 む、確かに。ミキも中々いいセンスしてるなぁ。食料の事じゃなくて、狩りのセンスの事だけど。

 太刀使いで、ちょっと積極性が足りないようにも思えるが、懐に入り込んでの気刃斬りが妙に上手い。

 特に初太刀の迫力は凄かった。構えた瞬間、『ミキ・ウェストライブが太刀をかついだ。ウェストライブ流の必勝の構えである』なんて地の文が浮かんだもの。

 

 

「ウチにそのような構えは伝わってないんだが…」

 

「あの攻撃、猟団の皆にも評判がいいんですよ。決まると、何だか元気が出るって」

 

 

 気刃大回転斬りの強化が、皆にも普及してるのかな? 何と言うSP狩り技モドキ。

 

 

 

 ただ、訓練所で習う正式な使い方とはちょっと違うようだが…。

 

 

「あ……はい…」

 

 

 ん? いや悪い訳じゃないよ? 俺だって、習った事をアレンジして自分用の動きに変えてるんだし。ハンターの体も素質も千差万別なんだから、自分に合ったやり方を探すのは正解だ。

 ただ、基本はキッチリ理解しておけよ。下手な所を崩すと、そこから動きが一気にバラバラになるからな。

 

 

「…だったら、何処が悪いか見てもらう事は…」

 

 

 出来るけど、正直言って霊力習得を優先したいな。と言うか、指摘する程悪い所があったら、今までの訓練の間に一言二言くらいは伝えてるって。

 まぁ、体の事がどうにかなってから考えようか。

 

 ん? どうした、マキ。そんなに頬を膨らませて。

 

 

「…………そうしていると、まるで家族のようだな。私がお姉ちゃんなのに。お姉ちゃんなのに」

 

「そりゃお姉ちゃんはお姉ちゃんだけど」

 

 

 親戚のお兄ちゃんポジ、と言うのは以前に言われた事があるが…よし、ならば一歩踏み込んでパッパと呼んでみるのはどうだ?

 

 

「……いいんですか?」

 

 

 応よ! …ちょっとリアクションが予想外だけど、別に問題ねーよな?

 

 

(…問題ある…と思うが…何だこれは…。一体どうすればいいのだ…。君は一体、ミキに何をしたんだ…。これはセーフなのか…?)

 

 

「………ぱ」

 

 

「……パパ…」

 

 

 

 

 

 

 

 気が付けば、安らかに眠るミキを膝枕して馬車に乗っていました。隣には、無表情なままで鼻から赤い筋を垂らしたマキが。

 

 無言でサムズアップした。

 しかし、何でこの子はこんなに父性を求めてるんだろうか。俺がお父さん役になってるのは、アラガミ化を止めたり、現状では唯一の同胞だからだったり、ウカムトルムとカチ合って絶体絶命の時に助けに入ったりと、心当たりはあるんだが…。やっぱり家庭環境に問題があったのかなぁ…。

 

 

 

 

NTD3DS月 

 

 

 ぬわあああああああああああああああん疲れたもおおおおおおおおん! 何だこの一族ぅぅぅ! 特にシキさん! アンタそれでも母親か! いや母親なんだろうけど、なんだアレ! 初対面はダースベイダーのテーマが流れそうな人だったのに、いざ蓋開けてみればやる気のないダースベイダーのテーマしか聞こえなかったよ! 天満鎮守府でもないのに! あ、でも怪物は飽きる程居るな。あそこほどヤバいのも………うん、世界のどこかには居るね。

 

 

 

 

 はぁ、はぁ、はぁ………ああ、なんつぅかアホらしい…。日記なのに息切れを書いても全く不自然に思わないくらいにアホらしい…。

 いや、本人達にしてみりゃ重要な問題だったんだろうけどよぉ…。

 

 とりあえず、俺は領主の館の一室で日記を書いている。一ハンターには過剰なくらいに豪華な客室(G級に対する対応と思えば安いもの、と言っていたが)だが、気圧されされるとか気後れすると言う事は全く無い。むしろ気が抜けて、装飾の殆どがコケ脅しに見えてくるくらいだ。

 まぁ、家族間の問題が解決したのはいい事だと思っておこう…。代わりに別の問題が発生したような気もするが。

 

 はー、しかし到着してたった一日で話が片付くとは…。まぁその一日が無駄に濃かったんだけどさ…。話が誤解からやたらと拗れて、二転三転して…ああもう、思い出すのも面倒クセェ。面倒クセェけど日記に書いちゃうこの習慣。

 

 

 

 とりあえず、ウェストライブ家に到着。マキが前もって、ミキを連れて帰るという連絡をしていたらしく、領主のシキさん……さん付けするのもアホらしい、シキでいいや……にはすぐ面会する事ができた。

 ただし、客間に通されるのではなく、家の門の前で、だ。わざわざ馬車を止められてそこで待たされた。

 

 …なぁ、これどういう事だ? 俺の事は知らせてなかったとしても、ウェストライブ家には娘を家の外で出迎える風習でもあるのか?

 

 

(そんな訳がないだろう。どうやらお母様が、私達が帰ってきたらここで待たせろと命令していたようだが…)

 

 

 …まるで、家に帰るのを許さない、とでも言いたげな対応だな?

 

 

(いやそんな筈は…。もしそうだとするなら、こうやって待たせるような事もせず、すぐに放逐すると断言しそうだ。とりあえず…すまんが、ミキの手を握っておいてやってくれ。悔しいが、君の方が安心するようだし)

 

 

 パッパだからな。ミキと、手を握る俺を後目に、マキは領主が出てくるであろう、馬車が通れる程度にはデカい扉に向き合った。

 …ん? 今何か視線が…。

 

 む、扉が開く。金属が軋む音が、何かの悲鳴のようだ。…威圧目的で音を出しているのかな。事実、扉の向こうに居る人物から威圧感が漂ってくる。モンスターの圧力じゃない。人を威圧し、制する為に作り上げた気迫。

 しかし……この状況で、誰が誰を威圧する?

 

 母が? 家出していた娘を?

 それとも領主が? 俺を?

 

 どちらにせよ、何故?

 

 

 

 扉の向こうから歩み出てきたのは、長い髪の目付きの鋭い鉄面皮の女。スラッとした黒服に身を包んでいる。…これでサングラスかけて気品が無かったら、福本マンガの黒服あたりに混じってそうだ。

 しかし、風格と威圧感は大したものだ。これではモブには混ざれないだろう。

 こりゃ、ミキが怯えるのも無理はない。

 

 あの人が?

 

 

(はい…私達のお母さん、ウェストライブ領の領主、シキ・ウェストライブです)

 

 

 ふむ…ん、さっきの視線はこの人だな。…俺とミキの、繋がれた手に一瞬目をやった。

 

 

「お母様、ただいま帰りました」

 

「……か、かえって…きました」

 

「何故、帰って来たの」

 

 

 

 …おいおい、第一声でソレか? 親が子にかける言葉じゃないだろ。そんなどうでもいい事のように…。

 事実、ミキも傷ついて体を強張らせている。マキはミキを庇うようにジリジリと移動したが、立ち位置で言葉が防げる筈もない。

 

 

 …で、俺はと言うと…ミキの手を握り返しながらも、なんか違和感を感じていた。

 うーん…? なんだ…この感じ。色々な意味で行き違いがあると言うか、俺に向けられる視線がおかしいと言うか…。それ以上に、この強烈な鉄面皮と威圧から来るプレッシャーの向こうに、明らかに外見と釣り合ってない『ナニカ』があるような…。

 

 さっきから内面観察術で色々読み取ろうとしてるんだが……どうにもうまく……行かない、のか? 感触としては上手く行ってるんだが……これが? この内心が、この人の本音と言うか中身?

 

 

 

 

 

 ポンコツ…。いやでも領主がそんな…。見た限り、いい感じの領地を治めてたみたいだし…。しかし、能力があっても人格が伴うとは限らないし、その逆もしかり。領主としての能力が破格であっても、私人としてはヘタレである事など珍しくもないし…。

 

 うーん………様子見…と言うより観察するしかないか。一応、この推察が当たっていた場合の事も考えて…。

 

 

「お母様! 貴方は、ミキは自分で出て行ったのだから、自分で帰ってくるものと言いました! ですが」

 

「黙りなさい。今はミキと話しています」

 

 

 おう、取り付く島もねぇ。しかしミキと話していると言うのなら、ミキが喋ればいい。…ミキ、言いたい事があるなら、この際何でもいいから言っておけ。こんな事を言われるのは…はっきり言えば、ミキの状況が全く理解できてないからだ。

 まぁ、アラガミ云々なんぞ予測しろって方が無理だが。

 

 

「うん…。お、お母さん」

 

「…言いたい事があるのなら言いなさい」

 

「私は……自分でフロンティアに行ったんじゃありません」

 

「ならば何故フロンティアに居たのです。その男に連れ去られたとでもいうのですか」

 

 

 いきなり人を誘拐犯扱いしないでほしいな。まぁ、俺を追いかけてフロンティアに来たと言えなくもないが。

 

 

「なら、やはり自分の意思で向かったと言う事でしょう。己の立場も家も捨てて出て行ったと言う事は、それだけの覚悟があった筈。もしもその自覚すらなかったと言うなら、もう話になりません。だと言うのに、一月もしない内に泣きついて来る始末。貴方は何のために出て行ったのですか」

 

「それは、私の意思じゃなくて、確かにフロンティアに留まったのは私の判断だけど、でも「言い訳は結構」………」

 

「連れて帰って来た相手は、この期に及んで全く話そうとしない。…嫌な事を思い出させる」

 

 

 …………聞く耳持たずか、聞く価値が無いと判断したのか。

 それとも……ハッパをかけてるつもり…か。

 

 

 …ん? ミキ?

 

 

 

 

 …連れて帰って来た相手…。で、この態度って事はやっぱり…。

 

 

「……り」

 

 

 ミキ、落ち着け、ちょっと気になる事が…。

 

 

「やっぱり、私は要らない子なんだ…」

 

「………」

 

 

 鉄面皮が、少し揺れた気がした。と言うかお前はどこのサードチルドレンだ。

 正直、家族の問題に口を挟むのどうかと思っていたが…これはそんな事言ってられんな。

 久々に苦手な分野の人間関係の問題だが…自爆覚悟で突っ込むか。

 

 

 

「………私は、お母さんの子じゃないんだね…。貰われっ子だったんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ」

 

「えっ」

 

 えっ。

 

「…………え?」

 

「……普通に間違えようもなく、ミキもマキも私がお腹を痛めて生んだ子なんだけど…。どこからそんな話が出てきたの」

 

「私も初耳なんだが」

 

 

 そんな、いきなり微妙に重い話を前触れもなく持ち出されても…。

 …一応聞くがミキ、そう思う理由はなんだ?

 

 

「だ、だって、私お母さんに似てないし」

 

「そりゃ、マキと違ってお父さん似だもの」

 

「お姉ちゃんみたいに、領運営の仕事もできないし」

 

「私は後継ぎとしての教育を受けているからだろう。将来、私は領を継ぎ、そうなるとミキは何処かに嫁に行く。教育内容に違いがあって当然だ」

 

「お母さんやお姉ちゃんと違って、その、あんまり大きくないし」

 

 

 体の成長具合なんぞ、どう転ぶか分からんぞ。と言うか、セクハラ染みた事を言うが、ミキも平均くらいはあるだろ。

 

 

「胸じゃなくて背丈の話です! ……あ、あんまり自信ないのも反論できませんけど」

 

「…私は成長期に入ってから伸びたし、その前は今のミキと同じくらいだったぞ」

 

「お母さんやお姉ちゃんと違って気弱だし」

 

「それこそあの人に似たんでしょう。それに、血が繋がっていて、同じ環境で育っても、同じような人間が出来上がるとは限りません」

 

「………本当に、私はお母さんの子供?」

 

「間違いなく。…勘当がどうの、はまた別の話ですが」

 

「……だったら…どうして、私を探しに来てくれなかったの? お姉ちゃんは来てくれたのに」

 

「…それを貴方が言える立場?」

 

 

(……なんか、お母様とミキの会話が噛み合ってないような気が…)

 

 

 ……………あのー、前提条件として一つ確認と言うか、言っておかなきゃいけない事があるんですが。

 多分、話の根本的なトコに関わる事で。

 

 

「…何です。本来、貴方が話に加わる権利はありませんが、この際です。言ってみなさい」

 

 

 領主さん、あんた……。

 

 

 

 

 

 ミキが俺と一緒に駆け落ちしたけど、生活できなくなって戻って来たとか思ってないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………違うとでも?」

 

 

 一から十までマルっとちげぇよバカ野郎。 

 

 

「パ、パパと駆け落ち!?」

 

「パパ…?」

 

「ミキ、話がややこしくなるから今はその呼び方は止めろ。しかし確かにこの状況、何も知らなければそう見えなくもない…。」

 

 

 道理でさっきからおかしいと…。

 成程、ミキを積極的に探そうとしなかったのは、ある種の親心だったか。男の為に立場を捨てるなんて、領主の娘としては許されない。勘当扱いして放逐するのも仕方ないが、そうすれば家を失う代わりに男と添い遂げられる。

 だが、万一破局して戻って来たとしたら、その時は罰を与えながらも放り出すような事はしない。…なんて面倒な考えしてやがる…。

 

 あのな、そもそもミキは自分の意思で家を出たんじゃない。俺と会ったのも、フロンティアでハンターとして活動し初めてからだ。フロンティアに留まったのは本人の意思だが、その目的は父親の情報探しだ。

 

 

「あの人の…? それで何故フロンティアに居るという結論になるのです」

 

「え、だってお父さんってハンターだったんじゃ」

 

「確かにハンターではあったけど、フロンティアでやっていけるような腕じゃなかったわ。フロンティア以外の土地でも、上位に上がれるかも怪しかったわね」

 

「……なん……だと…」

 

 

 …なん……だと…。んじゃ何か、フロンティアで色々探し回ってたのは無駄だったんかい…。 

 

 

「…話を戻しますが、自分の意思で家を出たのではない、とはどういう事ですか。少なくとも、ミキが自分で乗合馬車に乗り込んで出て行った事は、確認が取れています」

 

 

 その原因は今一ハッキリしないが、誘拐されたようなものだ。証拠はあるが、ここでは見せられない。

 

 

「犯罪行為が絡んでいると?」

 

 

 いや、見せられないのはそういう理由じゃないんだが…とにかく人目のつかない場所で証拠を見せる。

 

 

「それで納得すると思っているなら…」

 

「お母様、私にも一つ疑問があります」

 

 

 眼を鋭くした領主さんの言葉を遮り、マキが口を挟んだ。このままだとヤバイと判断し、咄嗟に質問したようだが…。

 それは、意図せず領主さんの急所に見事にクリーンヒットしてしまったようだった。

 

 

「何故、お母様はミキが駆け落ちしたと思われたのですか? 自分で馬車に乗り込んだのは確認できましたが、異性と共に居たという情報はありませんでした。何より、ミキは駆け落ちなどするには幼すぎます」

 

「………っ…」

 

 

 …言われてみりゃそうだな。子供と言い切れる程子供じゃないが、色恋に騒ぐ事はあっても、本気でのめり込んだり、その為に人生をブン投げるような年齢でもない。だからこそ突っ走ってしまう可能性もあるが…。

 聞けば、叱責の翌日の話だったそうだし、駆け落ちより先に家出を疑うだろう、普通。

 ミキが誰か、立場上許されない男と親密なお付き合いをしていたならまだしも…。

 

 

「…影も形もありましぇん…。寂しい青春送ってます…」

 

「私達の年齢なら、それくらい珍しくないから大丈夫…大丈夫だ…。変な相手を許嫁にされるよりよっぽどいいと考えるんだ…」

 

 

 自分に言い聞かせるようなマキ。

 が、これも領主さんのウィークポイント第二段だったらしい。口元と目元がヒクついた。

 

 ちょっとそこんとこ、詳しく聞かせてもらいましょうか。お互いの誤解を解消する為にも。ミキのコンプレックスとか、愛されてない貰われっ子疑惑を解消する為にも!

 

 

「それは…」

 

「あらあら、これはもう降参した方がいいのではないですか、シキ様?」

 

「キヨさん…」

 

「はい、お元気そうで何よりです、ミキ様。貴方も、どうやらミキ様に何くれと手を貸してくださったそうで…まことにありがとうございます。わたくし、メイドのキヨと申します。よしなに」

 

 

 あ、これはどうもご丁寧に。むぅ、この世界で和風メイドにお目にかかれるとは…。

 

 

「…我が家のメイド長のキヨさんだ。お母様の古くからの友人でもあり、時々お母様よりヒエラルキーが上になる。あと年齢については疑問にすら思うな。物心ついてから、全く姿が変わっていない。怖くて聞いてないが、お母様の時でさえ…」

 

 

 ああはいはい、そういう方。とりあえず、この場では得難い味方になりそうだ。容姿については、この業界だとあんまり珍しくないな。

 して、降参とは一体?

 

 

「……………」

 

「シキ様?」

 

「………館に入りなさい…。さっき言っていた、証拠とやらも見せてもらいます」

 

 

 屈したようだ。

 

 

 

 

 館の大きな客間に入り、腰を据えて話をする事になった。

 領主さんとしては、先に誘拐(?)の証拠を出させようとしていたのだが、キヨさんの無言の圧力で鎮圧された。どうやら、ちょっとでも自分の恥部(だと思う)を晒すのを先延ばしにしようとしているようだった。

 

 うーむ、話に聞いていたのと大分違う性格してるな。普段は娘にこういう所を徹底して見せなかったのか、それともその一件だけがどうしようもないくらいに恥と感じているのか。

 

 

 

 それでも往生際悪く、無駄に威圧感を出して沈黙する領主さん。娘二人は戸惑いが大きいらしく、口を開く事すらできないようだ。

 

 

「シ・キ・サ・マ? あまり粘るようでしたら、あの事とかあの事とかアレの事とかも交えて、私が色々話しちゃいますよ?」

 

「…うぅぅ……」

 

 

 どうやら観念したらしい。歯を食いしばった後、脱力した。

 

 

「…ミキが、駆け落ちの為に家を出たと思ったのは……」

 

 

 …思ったのは?

 

 

「……かつて、私も同じ事をしたからです。血筋というものを感じました」

 

 

 思いっきり勘違いだったけどね。

 

 

「駆け落ち……お母様が!? し、しかし私と同じ年齢の頃から、後継ぎとして上手く領を治めていた筈…」

 

「能力がある事と、自覚と責任を持っているかは別物です。当時の私は、仕事をこなす事が上手いだけの、小賢しい娘でしかありませんでした。…ある日の事です。私に婚約の話が持ち上がりました。政務上、断ると非常に危険な状況になる話でしたが、その相手は私人としても公人としても、下劣と言い切れる相手です。もしも本当に婚約してしまえば、領が滅茶苦茶になってしまうのは目に見えていました。…それを理由に、私は出奔したのです。勿論、両家にとっての醜聞であり、とても許される事ではなかったのですが…少しだけ時間を稼げば、その家が潰れると予測していました。事実、その通りになりましたが」

 

 

 そんな酷いのか…。知ってる奴かな…。

 

 

「いえ、その男の家は取り潰され、領地も解体されて別の領地に合併されました。もう名前も残されていないでしょう。…それだけであれば、悪縁が結ばれるのを阻止し、悪手を良手に変えたというだけで済んだのですが、出奔している間に私は一つの過ちを犯しました。それが…………」

 

 

 それが?

 

 

「…マキ、ミキ。予め言っておきますが、これは貴方達を授かったのが間違いだったという意味ではありません。ただ、私の人を見る目が無かっただけです。出奔している間に、私は一人のハンターと恋に落ち、深い仲となりました。それが、貴方達の父親です」

 

「その人が…」

 

「……………」

 

 

 …言い方からすると、あまりよくない人だったように聞こえるが…。

 

 

「優しい男ではありました。優しさしかなかった男でもありました。ですが、それは気弱さからくるものでしかありませんでした。…思えば、領主の後継ぎという立場から一時とはいえ逃れ、舞い上がっていたのでしょう。些細な事から知り合い、行動を共にするようになり、体を許し……そして、ミキを身籠った頃に破局したのです。私はまだ幼かったマキと、大きくなり始めたお腹を抱えて、ウェストライブまで戻ってきました」

 

「私を…………あれ? お姉ちゃんと私の年齢差を考えると…」

 

「……2年以上も出奔していたと!?」

 

「…その通りです」

 

 

 おいおいおい…それは流石にヤバいって、俺でも分かるぞ。よく領に戻ってこれたな。恥がどうのじゃなく、勘当的な意味で。

 

 

「私しか後継ぎ候補が居ませんでしたから…。そこでも当然ながら揉めましたが、結局有耶無耶にできました。既に潰れた家に、色々と汚名を押し付けましたが」

 

「え、それじゃ公式な私達の父親は…」

 

「名前ごと不名誉印を押された、とある貴族と言う事になっています。それを正面切って言われるのは、手袋を投げつけられるのと同意ですので、誰も教えなかったでしょうが。実際、縁切りの手続きは行っておきましたし」

 

 

 いいのかそれで!?

 

 

「良くはありませんでしたが、私にとって色々と都合が良かったもので」

 

「……『私にとって』…」

 

「…自ら育てたとは言え、余計な部分に気付く…「シキ様?」……いえ、言わなくても推察できる程成長していて嬉しいですよ、マキ。…私にとっては都合が良かった。ですが、誰かにとっての好都合は、不都合を他の者に押し付けているだけです。当時の仕事をこなすのが上手かっただけの私は、自分の行動によってどれだけ波紋が引き起こされるのか、理解していませんでした。…娘にも、父無し子という立場を作り上げてしまう事すら気付かなかった」

 

「…この家の後継ぎが失踪したとしたら…軽く考えても、幾つの家に迷惑がかかるか、眩暈がするような事態が予想されるのですが…」

 

 

 …ひょっとして、レジェンドラスタのエドワードさんの家って…。

 

 

「…その時の余波を被り、没落した家です」

 

 

 マジか…。だから、トゥルート達の村を支援してくれって言われて断れなかったのか。

 

 

「あのー…それじゃ、本当のお父さんは…?」

 

「わかりません。とある村で別れて以来、話すら聞きませんでした。分かれた当時は、その気弱さに愛想を尽かしていて、その後を気に掛ける事すらありませんでした。………気弱さ故に優しい人でしたが、決して悪い人ではなかった。それだけでも充分だという事を、当時の私は知りもしませんでした。出奔して巡り合った縁に過剰な期待を寄せ、あの人に力量を顧みない幻想を押し付け…何も言われないのは問題が無いからだと思い込んで、鬱屈した思いが貯めこまれていくのに気付きもしなかった」

 

 

 …耳が痛いな。俺も色々と、何も言われないのを良い事に好き勝手やってるからな…。

 

 

「ただ、私の愚かさを差し引いても、どうやってもあの人との別れは避け得なかったとも思いますね。……別に、嫌っている訳ではありません。頭が冷え、自分のおかれた環境を改めて理解してからは、自分に非があった事も理解しています。当時の私が気付かなかっただけで、いい所が沢山あった人であった事も。少なくとも彼が居れば、ミキに今までのような思いをさせる事はなかったでしょう。…ですが、復縁する訳にはいきませんでした。あの人は、人の上に立つ人間ではありません。それだけの気概も、教育も受けていなかった。領主の夫となるには、不適格すぎます」

 

 

 はぁ…それで結局シングルマザー、か。

 と言う事は、ミキが帰って来た時のあの態度は…。

 

 

「私と同様に、ハンターに熱を上げて出奔したものと…。そのまま添い遂げられるならミキも幸せでしょう。もしも、私と同じように破局して戻ってくるなら、受け入れるだけの準備はしてありました。ただ、マキに連れられたとは言え2か月足らずで戻って来た事には、幾らなんでも根性が無さすぎる、そんな覚悟で家を捨てたのかと…」

 

「…お父さんについて聞こうとしたら、毎回睨まれてたのは」

 

「お父様の記録が全く残ってないのは…」

 

「シキさんは睨んでいたんじゃなくて、昔の過ちを思い出してついついプレッシャーをかけてしまっていただけですよ。他の家に迷惑をかけたアレコレの辻褄合わせの為に、その人との繋がりを示すようなものは、ミキさん達以外全て始末しましたし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アホかあぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 

 

「あうぅ…。きっと何か凄く深い事情があるんだと思ってたら…いやある意味深い事情だったけど」

 

「聞きたくなかった…。僅かながらあった、父親への幻想が…」

 

「あらあら、やっぱりこうなっちゃいましたね」

 

 

 キヨさん、あんたここまで予想済みだったんか?

 ちゅーか、あんたらもうちょっと語り合えよ! 親子そろって思い込みで行動しすぎじゃ、このポンコツ一族がッ!!

 もうちょっと冷静に、根拠を探してから行動しろよ!

 

 ミキは父親がハンターだって聞いただけで、フロンティアに来れるような凄いハンターだと思い込み!

 領主さんはロクな情報収集もせずに、娘が男を追いかけて行ったと思い込み!

 マキは………えぇと、特に無い。

 

 

「…反論の仕様もありません」

 

「うぅ、何だかとってもごめんなさい…」

 

「いや私だって色々と問題が……」

 

 

 あああああ、何だったんだ今の今まで色々考えて、どう説得するのかとか、色々考えてたっつーのに、丸ごと徒労だった気分だよ…。

 

 

「…それは真面目に申し訳ないけど……ミキ、貴方はこれからどうするつもりなの」

 

「…へ? 私?」

 

「貴方以外に誰が居るの。私の過去の恥は置いておくけど、貴方は結局、どうしてフロンティアに行ったの? あの日の私の叱責…ではないようだけど。それに、貴方が知りたかった父親の情報は、少なくともフロンティアには無いわ」

 

「え……あ、そっか…。私は………」

 

 

 ミキは少し考え込んだ。確かに、父親の情報はフロンティアには無いが、ミキにとっては友人が居た分、この家よりも居心地は良かっただろう。

 しかし、自分は不要だから探されなかったのだ、という疑念は払拭され(思いっきり勘違いされてた訳だが)、腹を割って話した(と評していいのかは疑問だが)事によって母を見る目が変わり、今後はこの家の中での見方も色々変わってくるだろう。

 まだミキは子供だ。家族一緒に居た方がいい、と言う考えも分かる。だが一緒に居なければ家族ではないのかと言われると、そうでもない。ある程度距離を置いた方が上手くいく関係というのも、確かにある。

 

 

「そもそも、自分の意思で行ったのではない、とも言ってたわね。その証拠がある、とも。今まで何も言わなかったけども、そちらのハンターにも関係があるの?」

 

 

 あるっちゃあるけど、色恋関係じゃないぞ。さて、どっから話したものか…。

 それ以前にミキの意思は…。

 

 

「はい、そこまでです!」

 

 

 パァン、と大きな音が響く。領主さんの隣に控えていた、キヨさんの柏手だ。単なる柏手とは思えないくらいに大きな音に感じたが…意識の空白を突かれたからだろうか?

 

 

「使用人としては越権行為ですし、背景と同化してこそ一流ですが、ここは口を挟ませていただきます。今は…皆さま、色々と予想外の事ばかり話があって、混乱しておられます。こんな状態で考えても、まともな結論は出ませんよ。特にシキ様。恥ずかしい話題から逃れたいからと、結論を急いていませんか?」

 

「流石にそれは無いわ…。ですが、そうですね。私はともかく、マキもミキも頭が動いてそうにありませんし、本日はここまでとしましょう。話の続きは、明日聞かせてもらいます」

 

「はい」

 

「はい…」

 

「…こうなるだろうから、黙っておいたのに…」

 

 

 それが拗れに拗れて、こうなったんやで。

 

 

「お黙りなさい。結局、貴方とミキとの関係も聞いていませんが…今夜は泊っていきなさい。賓客として遇します。キヨ、任せていいですね?」

 

「承りました。では、お部屋へご案内します。…お望みとあれば、館内のご案内も出来ますよ」

 

 

 …はいはい、よろしくお願いします。ちなみに、ミキが家出前日にコケて壊したって所は見られますか?

 

 

「そこは倉庫でもありますので、マキ様かミキ様がご一緒でしたら入れます。ですが、まずは体を休め、清められてはどうかと」

 

 

 風呂?

 

 

「温泉ですよ」

 

 

 是非ともお願いします。…流石に一人で入るんですよね? 貴族って、風呂の中まで使用人に世話させてるイメージがあるんですが。

 

 

「貴方が本当に、ミキ様のパパになる日が来たら、誰か一緒に入るかもしれませんね?」

 

「ちょっ!」

 

「…パパではなく、義兄の場合は?」

 

 

 あれ、マキって何か乗り気…?

 

 

「特別乗り気なつもりはないが、ミキと再会する前にあんな事を言われれば、多少は意識もする。…どうやら、社交辞令か、私をミキに気付かせない為の口八丁だったようだが」

 

 

 そーゆー訳でもないが、今更言った所で信用はできんか。ま、好きなように解釈してくれ。

 

 

「いいえ、是が非でも詳しく聞かせていただきます。明日にはキッチリと。ミキがパパと呼んでいるのも含めて」

 

 

 …キヨさん、ボスケテ。

 

 

「はいはい、ではお部屋にご案内しますね」

 

 

 

 

 

 

 

 …さて、そういう訳で部屋に通され、事の次第を思い返しては色々な意味でgdgdになった顛末に呆れを通り越して怒りを尻に挟んで日記を掻いて左手で徒労感を漢字ながら『何だこの一族!』と叫んでいる訳ですが、特にプーギーやモスになったりはんしない。M豚になるのも時にはいいものかもしれないが、どっちかとゆーとそこまで調教するのが好きだ。女性限定で。

 

 まぁとにもかくにも、思ったよりも穏やかに解決しそうで何より、と思っておくべきだろうか。少なくとも、ミキが母親に見捨てられて泣くシーンは見なくてもよさそうだ。

 本当に厄介なのは、これからだろうけどな。アラガミ化の事を、どうやって信じさせられるか。俺の体が変化するのを間近で見せる事で、またミキが理性を失って俺に飛び掛かってくるのを見る事で、ミキとマキはそれを信じたんだが…。これ以上アラガミ化を進行させるのは、正直よろしくない。意図的に発作を起こさせるなど、以ての外である。

 

 領主のシキさん…あのへっぽこ具合を見るにシキでいいけど、シキがどこまで信じるか…。どこまでチョロいかで話の難易度が変わってくるだろう。

 しかし、私生活・母親としての威厳や能力はともかく、領主としての慎重さや明晰さは、この領地を見れば大体推察できるんだよなぁ…。経験値が違い過ぎるな、コレ。

 

 

 ……まぁ…一つ条件を付ければ、何とかできそうだけどな。具体的な条件を言えば…内通者がいれば。ミキやマキではない、シキが本来味方だと信じて疑わない立場の内通者が居れば。

 

 

 

 

 

 

 なぁ、キヨさん?

 

 

「はい、お呼びですか?」

 

 

 ふぅ、と霧が人型をとったかのように、突然現れるキヨさん。

 …使用人は風景と一体化してこそ一流、でしたっけ? そら一体化もできますわな。元が風景なんだから。

 

 

「あらあら、やっぱりバレちゃいましたか。本職の方は、やっぱり違いますねぇ。いつからですか?」

 

 

 初見で気付いて、昔から姿が変わってないって聞いて確信しました。

 別に本職って訳でもないが…初めて見たよ。………変種のオオナズチ。

 

 

「呪いますよ」

 

 

 勘弁してくだしあ。

 

 

「まぁ、現代ではそれ以上に珍しい存在なのは認めますが」

 

 

 …マジな話、こんな所に付喪神が居たとは…。しかも、わざわざ自分の本体がある部屋を宛がうとは…。えらく年代物の風景画ですな。

 …いや年寄り扱いしてるんじゃなくてさ。付喪神としての年齢なんぞ、見かけじゃサッパリ分からんし。

 

 腰を据えて話をしたいみたいだな? 敵意は感じない。むしろ好意的ですらある。それが仕事と言う事を差し引いても。

 

 

「ええ…。では、膝を突き合わせて話すとしましょう。お疲れのところに申し訳ありませんが、ちゃんと癒してさしあげますからね」

 

 

 音もたてずにベッドに乗って、ジリジリと間合いを詰めてくる。

 ……お悩み相談と、人と人外との逢瀬の話かね。…まぁ、俺が人かって言われると微妙なトコだけども。

 

 

 

 

 

 




シキ=西住しほ
キヨ=菊代さん

両者ともにガルパンからです。
ただ、菊代さんは今一イメージがつかめなかったので…ルックスは艦これの飛竜で考えています。
ただしおっぱいは蒼龍です。
尚、常にアルカイックフルスマイル。

…ごめん、現状だとナニの描写はないんだ…。




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285話

NTD3DS月

 

 

 元気溌剌! モンモ〇ンシV! テンションとか体力とかボルテージがマックスの時、与える(快楽)ダメージが1.5倍になります。討鬼伝のスキル的に考えて。

 でも本家さんは日々胃痛に悩まされているので、滅多に発動しないんですよね。ゼロ魔〇ープ的に考えて。次の更新をお待ちしております。

 

 はふぅ…いやスバラシイ一夜でしたな。多分、物理的に言えば、俺が一人でベッドの上でアヘアヘ状態になって、虚空に…正確に言えば壁の風景画に向かって腰を振っていた、異様な光景でしかなかったと思うが。

 人外と交わったのは、いつ振りだったろうか…。まず思い浮かぶのはシオ。次いで、半分とは言え鬼の体になっていた千歳と虚海。後は…いつぞや夢で見た、日常的にもん娘に襲われる世界くらいだっただろうか。

 

 何と言うか、サキュバスとか雪女に吸い尽されて死に至るのって、こんな感じじゃないかなー。まぁ俺は普通に余裕でしたが。

 オカルト版真言立川流がなー、イマイチ通りが悪いのよ。初めての経験だった。

 相手に生命エネルギーと呼べるモノが少ない為か、循環させるエネルギーが上手く均衡を取らない。俺から吐き出すエネルギーばかりが多く、キヨさんから入ってくるエネルギーが少なく…。なんちゅーか、嬲り殺しにされてる気分でした。キヨさんからの攻撃はダメージ100、俺の行動は回復固定で99って感じで、1ずつ削られているような。

 ま、その1の差でお腹いっぱいを通り越してストマックブレイク状態にまで持ち込めたけどね。

 

 ん? キヨさんが俺と寝た理由? そらアレだよ、お決まりの存在し続ける為の生命エネルギーを確保する為のサムシングだよ。

 ちなみに、ウェストライブ家に風景画が運ばれてきて、付喪神としての形を得て以来、代々の男領主とか客人とかを、ちょいちょい摘まみ食いしていたとかナントカ。それに恥じないテクをお持ちでした。

 

 

 うん、でもアレだ、ぬるま湯で湯当たりしたようなと言うか、スローペースでゆっくり溶け合った一夜でした。

 途中から腹一杯になったキヨさんを、ポリネシアン的に可愛がったりしたけどね。おかげで、夜明け頃に完全に気を失って、実体化すらできなくなっちゃいました。代わりに風景画が異様に輝いて見えましたが。

 

 メイド長がそんなになったもんで、館の使用人の方々に迷惑かけちゃったな…。

 歓待してくれたんで、つい深酒に付き合ってもらってしまった為、と言う事で俺に非があるとしておいたけど。

 

 

 ふぅ…マキとミキがなー。フロンティアで色々遊び歩いてた(むしろあっちから俺の巣に飛び込んでくると言いたい)俺の風評を知ってたからさぁ、俺がキヨさんに何かしたんじゃないかって疑いがね…。疑いもクソも事実極まりないのですけども。

 てゆーか、むしろ昨晩の逢瀬を見られていたっぽいけども。親+姉妹の誰だったのかまでは特定できない。せめて、逢瀬の間のキヨの姿を目視で来ていた事を祈るばかりである。でないと、俺って虚空に向かってセクロスしていた、あらゆる意味でヤバい人でしかないし。

 

 

 にしてもアレだな。和風メイドと言うか、和服は着エロが素晴らしいな。こう、ボタンみたいな留め具も無い無防備なようでいて、分厚い生地に警戒されていて、それでいて一度気を許せば突っ込み放題の隙間がだな。

 あと服の乱れ方が、洋服とは一線を画す。

 

 

 

 

 まぁ、それはともかくとして、真面目な話だ。いやエロ以上に真面目かって言われると疑問だけどね。

 シキさんにアラガミ化の事を説明しなければならない。これで都合3度目だよメンドクセェ。まぁ、流石にそれだけ繰り返せば、質問を受けそうな所とか、要点を纏めるのも上手くなる。

 

 証拠も俺の体で充分だろ……と思っていたら。

 

 

「……………お、おはようございます…」

 

「…………ミキ…?」

 

「………………ミ、ミキが…大人になった…?」

 

 

 こっち見んな。いや俺何もしてねぇぞマジで。仮に如何わしい事を隠れてやったとしても、どうやったらこんな現象起こせるってのさ。

 

 …身長が、たった一晩で5cmくらい伸びて、スリーサイズも明らかにワンランク上のグラマラスタイプになってるんですが…。

 と言うか、言っちゃなんだが服のサイズが合ってないな。着られない事はないけど、へそとかチラチラ見えてるし…。

 

 

「…~~~!! き、着替えてきます! お姉ちゃん服貸して!」

 

「お、おう」

 

 

 ………。

 

「………どうなってるの」

 

 

 こっちが聞きたい。…と言いたいトコだが、ミキに何かあったとすれば、明らかにアラガミ細胞の仕業だよな…。

 また侵蝕が進んだ? でも薬を飲んだのは確認したし、侵蝕が進む時の飢餓感や発作は無かったようだし…。

 

 あー、この現象については俺も初めて見ましたけど、アレっすわ。ミキの体がおかしくなってる訳っすわ。

 これが、家出に関係してまして。

 

 

「…詳細は分かりませんが、予想以上にトチ狂ったお話のようですね…。いいでしょう、頭から疑う事はせずに、そういう事もある、と思って話を聞きます。

 

「…お待たせしました」

 

 

 おう、お帰り。…なんかマキが項垂れてるけど、スリーサイズで負けたか?

 

 

「うるさい。…と言うより、思ったより危険な現象かもしれん。ミキの右手の爪が、異様に鋭くなっている」

 

 

 右手?

 

 

「はい……これです」

 

 

 ……確かに…獣のような爪じゃないが、余程磨き上げないと、普通はこうはならん。何でまた…。

 右手なのは、ゴッドイーターの腕輪があるのが右手だから…でもミキのアラガミ化に腕輪は関係あるか?

 

 

「ミキ、体調におかしなところはありますか?」

 

「いえ…。でも、急に背が高くなったからか、何だか上手く動けません」

 

「重心の位置も、コンパスの長さも、明らかに変わったものな…」

 

「なら、まずは話を聞かせてもらいましょう。この現象にも心当たりはあるようですし」

 

 

 はいな。…と言う訳で、アラガミ化の説明をしました。

 ミキが失踪した日、倉庫にあった『ナニカ』が原因でアラガミ化が起こった疑いがある事。同族を求めた本能が、ミキの意思を無視してフロンティアまで導いた事。

 放っておくと酷い飢餓感に襲われ、発作を起こした挙句にモンスターに変わり果ててしまう事。

 証拠として、モンスターに変わった人間(?)がここに居る事。

 

 

「……そう。ミキにそんな事が…。………私は、本当に母親としては無能だったのね…」

 

 

 いや、これは予想しろって方が無理でしょ。…アホかと言いたくなる母親ではあったけど…。

 ズーン、と青い火の玉が見えるくらいに落ち込んで、シキは立ち上がってミキに近付いた。ギュッと抱きしめる。

 

 

「ごめんなさい、ミキ。貴方が不安に苦しんでいる間、私は見当違いの事ばかり考えて、傍に居てあげる事すらできなかった」

 

「お、お母さん…!」

 

 

 ウツクシイ光景だなー。

 ま、それはそれとして、ミキが突然こんな体になった原因が分からんな…。

 

 

「そうですねぇ、そのアラガミ細胞というのに原因があるのは間違いないと思いますが」

 

 

 あらキヨさん、おはようございます。

 

 

「はい、おは…いえ、おそようございます。寝過ごしてしまい、申し訳ございません」

 

「客の歓待の為に夜が遅くなったのだし、仕事の範疇です。キヨ、どのあたりから聞いていたんですか? ………あと……なんだかキラキラしているような…」

 

「アラガミ細胞、と言うのにミキ様が感染しているという辺りですよ、マキ様。キラキラ? よくわかりませんが、いい夢を見れたからではないでしょうか。シキ様との触れ合い中に申し訳ありませんが、ミキ様。何か心当たりはありますか?」

 

「え……うーん…。寝て起きたら、体が大きくなっていたとしか言いようがないんだけど」

 

 

 寝ている間に、か…。夜中に不自然に目が覚めたとか、妙に体が痛かったとか、そういう事は?

 

 

「なかったと思います。……あ、でも何だかおかしな夢を見たような…気がするんだけど、思い出せないなぁ…」

 

 

 まぁ夢なんてそんなもんよね。ふぅむ……体の突然の変化、か。アラガミ細胞の性質からして、何かをするのに効率的な体や構造を学習し、摸倣したんだと思うが…。

 大人の体になった方がやりやすい事? 力仕事か? ハンターとして、体格を完成させた方がいいってのは分かるが。

 

 

「早く大人になりたかったんじゃないですか、ミキ様?」

 

「それは別に………別、に…」

 

 

 突然、ミキはキヨさんと俺を何度か見比べた。…目がグルグル渦巻きになっていく。何事?

 

 

 

「…原因の追究は、これ以上話が進みそうにありませんね。では、対策はあるのですか?」

 

 

 俺のアラガミ化と同じような現象だとすれば、細胞が活性化した状態だからこうなっているのであって、沈静化すれば元の姿に戻ると思う。ただ、それをコントロールできるかが問題だ。

 

 

「その為に必要なのが、貴方が使う異能の力、と言う訳ですか…。不確かな力に頼りたくはないのですが、他に手が無いのなら仕方ありません。…習得にどれくらいかかりますか?」

 

 

 本人次第。今までも訓練してるけど、まだコントロールできるレベルとは思えん。

 …ただ、昨日の話で、色々と蟠りが解消したろうからなぁ…。一気に進展するかもしれない。

 

 

「どちらにせよ、指導の為にここに留まってほしいのですが…」

 

 

 俺も猟団長としての立場があるから無理。本人も希望してるみたいだし、ミキをフロンティアに連れていくのは?

 

 

「それは領主としても母としても許容できません」

 

「私もですねぇ。折角、蟠りなく母子一緒に居られるようになったのですし、暫くは家に居た方がよいかと。私も、指導の為に逗留していただきたいですわ」

 

 

 キヨさんの場合、指導っつーか食事(エネルギー補給)の為のような気がするが…。

 

 

「私は…またみんなとハンターやりたい…です」

 

「…それ自体は、この際何も言いません。引き留めたくはありますが、ミキがそちらの方が居心地がいいと言うなら………それは私の不徳からくるもの。どの面下げて束縛できますか。ですが、それでも母として言いますが、貴方は正式なハンターとしての訓練を受けたのではないでしょう。聞けば、そのアラガミとやらの力により、半ば以上スキップして訓練所を卒業したとか」

 

「うっ…」

 

 

 そこは反論できんなぁ…。動きも度胸も悪くはないが、ミキはやはりハンターとしては不完全なのは否定できない。

 

 

「では、ちゃんとした訓練を受けてからなら、構わないと?」

 

「…遺憾ながら。どうやら、マキもミキの味方をするつもりのようですしね。せめてそれまでの間は、家に居なさい」

 

 

 うーん…。確かに筋は通っている。家出じゃなく、ちゃんとした職に手を付けて自立するのであれば、って事か…。

 しかし、結局は霊力の会得、アラガミ化のコントロールが障害になってくる訳で。

 

 

「…あ。そう言えば、すぐに会得する方法があるって言ってませんでした?」

 

 

 あるっちゃあるし、地味に修行して目覚めさせるより、そうやって目覚めさせた女の方が多いけどさぁ…。その、キズモノになるよ? お手付き的な意味で。

 

 

「却下」

 

「却下だ」

 

「それはちょっと…でも、放っておくと命の危険があるんですよね?」

 

「キヨさん! ええい、こうなれば君を拘束してでも逗留させれば…」

 

「あ、それ無理だよ。G級ハンターでも中堅以上の実力者を、私達が止められると思うの、お姉ちゃん。下手に拘束すると、冗談抜きでギルドとの関係が危ない事になるんじゃない?」

 

「ぐ…しかし、ミキの為なら!」

 

「止めてってば…」

 

 

 

 ああでもない、こうでもないと話がループして進まないなぁ。気が付けばもう夕方だよ…。

 ミキ、取り敢えず今日の修行やっておこう。体が変わった事で、何か変化があるかもしれない。

 それに、普段どんな訓練をしているのか見ておいた方が、マキ達も安心できるだろう。

 

 

 

 

 

 

 …と言う訳で、訓練したんですが……わお、予想外の大進歩。今までの苦労が何だったのかと思うくらいに、ミキはアッサリと霊力を自覚し、放出まで出来るようになってしまった。

 

 

「…なんか、物凄くあっさり覚えたな。苦労するという話ではなかったのか?」

 

「実際、今日まで殆ど力を感じ取れなかったんだけど…。なんだか、今朝から体の活力がどんどん湧いてきてる感じがするの」

 

 

 …あー、成程な。ミキのその成長したボディが、俺のアラガミ化と同じ現象だとするなら、そりゃ物凄い勢いでパワーアップしてる筈だもんな。

 元の体じゃ1しか出てなかった霊力が、いきなり10にも20にもなれば感知くらいは出来るだろうさ。

 

 

「と言う事は、ミキはキズモノにならなくていいんだな?」

 

 

 重要なのはここからだから、何とも言えないな。アラガミ細胞をコントロールする感覚を覚えなけりゃならん。

 …あ、ミキ、霊力放出を止めて。それ、生命エネルギーみたいなもんだから、放出し続けるとぶっ倒れるよ。

 

 

「あ、はい……言われてみれば、何だかしんどいような…」

 

「ふむ…解決とは言わないまでも進展はありましたし、今日はもう休みなさい。私も、昨日今日と手を付けていなかった政務が溜まっています。…終わった後に、様子を見に行きますから、ちゃんと寝ているように。寝付けないようなら、子守歌くらいは歌えます」

 

「…うん、お願い、お母さん…」

 

 

 急速に眠くなってきたミキを、キヨさんが連れて行った。ふむ…ミキの垂れ流されてる霊力を吸収してたな。

 と言うか……ミキがああなったのって、キヨさんが何かやったっぽいね。俺から吸い取った霊力を、寝ているミキに突っ込んだんじゃないだろうか。それが切っ掛けで、アラガミ細胞がブーストして、あの変身。

 まぁ、これは今夜にでも問い詰めてみるかね。ミキの異常も、俺が説明する前から知ってた節があるし…。

 

 

 

 

 で、夜。

 昨日と同じ部屋で、キヨさんを呼び出して話を聞く。

 

 なぁキヨさん、昨晩ミキに霊力送ったのって、キヨさんだろ。何でまたそんな事を?

 

 

「元気があれば何でもできる、って言うじゃないですか。ミキ様の体に何かが起きているのは私も分かりましたから、とにかく基礎体力を上げようと思って、生命エネルギーをこっそりお渡ししたんですよ」

 

 

 まぁ、生命力が満ち溢れてれば、大抵の病気は放っておいても治るから、気持ちは分からなくもないが。にしても、どうやって力を渡したんだ? 昼までぐっすりだったろうに。

 

 

「ふふっ、これでも結構長く生きてる付喪神ですから。この家の中の事であれば大体わかりますし、エネルギーを遠隔で送るのもそんなに難しくないんですよ。…でも、多分その時にミキ様が夢を見ちゃったんでしょうねぇ。スッゴい事していただいてる真っ最中に送りましたから」

 

 

 ピンクのエネルギーが、寝ている間に襲い掛かって来た訳ですな。淫夢も見るだろうなぁ…。

 ん、と言う事はアレか? ミキのアラガミ細胞は、その夢でより効率的(と言うかいやらしい)エッチをする為の体の構造を学んで、実践したって事かな。

 

 …あ、ところで、館の中の事なら、大体分かるって? 昨晩、お楽しみの最中に誰か覗いてたみたいなんだが。

 

 

「それは…すみません、ちょっと分からないですね。私も意識が貴方に集中してましたし…。ミキ様ではないですよ。エネルギーを送る為に、部屋で寝ているのは確認しましたから。……あら? ミキ様がこちらに向かってますわ」

 

 

 ミキが? …まぁ、色々あったしな。話でもしたいんだろう。

 ああそうそう、最後に聞いておくけど、ミキのお父さんってどんな人だったんだ?

 

 

「さぁ…私も見た事は無いんですよ。何せ私は基本的に、館周辺から離れられませんし、シキ様が帰っていらした時にはもう別れていたので。それじゃ、私は失礼しますね。またいつでも呼んでください」

 

 

 スーッと透明になって消えるキヨさん。…でも、本体がこの部屋の絵だからなぁ…。どっか行ってるように見えて、実はここに居るんだよなぁ。

 程なくして、ノックがされてミキの声がした。いいよ、入っておいで。

 

 

 

 



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286話

NTD3DS月

 

 

 親子丼、美味しゅうございました。え? 朝飯の話じゃないよ。エロの話だよ。ミキと領主さん、結果的には同時に貪らせていただきました。何時の間にやらキヨさんまで参加してきたし。

 最初はそういう話じゃなかったんだけどねぇ。…いや、ミキはちょっと期待してたのかな?

 

 部屋にやってきたミキの第一声は、「キヨさんは居ますか?」だった。俺じゃなくてキヨさんに用事? 少なくともここには見えないよ。(見えないだけだが)

 

 

「いえ、ひょっとしたら居るかな、って思っただけです。…ちょっと、時間いいですか? 今後の事について相談したいんですけど…」

 

 

 いいよ。進路相談か…。パパになって数日だと言うのに、もう娘が自立しようとしている件。寂しい。

 …キヨさんが居るかも、と言うのは昨晩見た夢のせいだろうなぁ。

 

 

「冗談はともかくとして…私、やっぱり皆とハンターやりたいです。お母さんやお姉ちゃんには悪いけど…」

 

 

 まぁ、それは別にいいんじゃね。残念とは思いそうだけど、ギスギスしたままって訳でもないんだし。何か問題でも?

 進学した娘が一人暮らしってのは心配だと思うが。

 

 

「お母さんも言ってたけど、やっぱりハンターとしての訓練は受け直さないといけないんだよね…」

 

 

 そこは俺も賛成だな。今のミキは、実力こそ上がってきているが、いわばインスタントハンターだ。実際、調合とか苦手だろう。

 …ああ、長い事待たせてしまうってのが問題か。ハンターの訓練は、それなり以上に時間がかかるからな…。

 

 

「うん…。絶対に戻ってくる、って約束して家まで来たのに」

 

 

 戻ってくるとは言った…言ったが、その時と日付までは指定していない…どうかその事を…諸君らも思い出していただきたい…。つまりその気になれば…1年後に戻ってきたとしても、約束は守られた事になる…と言う事だ…。

 冗談はともかくとして、ミキとしてはハンターには戻りたい、でもシキさんともちゃんと話してみたい…って事かね?

 

 

「うん。…なんていうか、色々見る目が変わったし…」

 

 

 グレなきゃいいんだが…。

 ふむ、つまりフロンティアに戻る方法と、お母さん達と離れない方法を両立させなきゃならん訳だ。都合のいい話ではあるが…娘の為だ。ちょいと頭を捻るとしましょうか。

 とは言え、実を言うとものすごーく単純なゴリ押し方法は既に思いついている。

 

 

「本当!? 流石パパ!」

 

 

 はっはっは、もっと褒めろ。つーても、これも霊力を十全に使えるようになるのが条件だ。

 単純に、基本的にフロンティアで暮らして、2~3日に1度くらいのペースで里帰りすればいいんだよ。

 

 

「里帰りって言うか、実家に顔出し? でも、フロンティアとお家って、馬車を使っても1日かかるくらい離れてるよ。交通費も馬鹿にならないし」

 

 

 移動速度を速めればいいだけの話だ。鬼疾風ってまだ見せてなかったっけ?

 使い手の技量にもよるけど、生身で馬並のスピードを出せるぞ。ジャンプで障害物も飛び越えられるから、回り道せず一直線で済む。

 多分だけど、アラガミ化状態の今のミキなら、馬より早くなるだろうな。

 

 そうだなぁ…。これくらいの距離なら、片道2~3時間って所かな。馬車で来る時は、迂回路も多かったもんな。慣れれば1時間半くらいで行けるんじゃないか?

 

 

「早いよ!? 普通に人が出していい速度じゃないよ! 交通事故コワイ!」

 

 

 でも、これなら頻繁に帰る事も難しくないだろ。走り続けてかなり汗が出ると思うが、そこは風呂の用意でもしておいてもらえばいいし。

 …汗まみれのミキ、か…。

 

 

「ちょっと…何想像してるの、パパ…」

 

 

 そこでパパと呼ばれると、物凄い罪悪感が湧くんだが。

 ふむ…この方法が駄目なら、逆にシキさん達にフロンティアに来てもらうかな。

 

 

「それは…もっと難しいんじゃないかな。お姉ちゃんなら、ハンターの支援の為に、仕事を勉強するって建前があるけど、お姉ちゃんの仕事もあるし。お母さんなんて、正式な領主だもん」

 

 

 あまり開けると、領地の経営がガタガタになる…か。代わりに仕事できる人っていないのか? 全部が全部、シキさんがやってる訳じゃないだろう。

 

 

「そうだと思うけど…多分、そこまで信頼できる家臣の人って……ほら、その、多分お母さんがやらかした時に…。前から、仕事量が多すぎるなら人を増やして割り振ればいいのに、と思ってはいたんだけど」

 

 

 ………あー…離れていっちゃったか…。

 

 

「側近みたいな人は育ててるみたいだけど、お母さんの仕事全部を問題なく肩代わりできるかって言うと…ってレベルみたい。一番信頼してるのって、お姉ちゃんだよ? あ、でも私ってそっち系の事はあんまり教えられてないから、ひょっとしたら私が知らないだけって事も…」

 

 

 むぅ…。一度確認くらいしてみるか…。

 しかし、それ以外の方法となるとなぁ…。家族と手紙のやり取りってのも面白いとは思うが、ミキ達の場合は顔を突き合わせて腹を割って話すべきだろう。

 

 

「ふぅ……暑…」

 

 

 ん? 氷水要るか? と言うか、そんなに暑いか? ひょっとして体調悪い?

 

 

「うーん、フロンティアに1か月も居たから、体内時計が狂ってるんだと思う。あそこ、寒暖差が激しいし、変化が早いし。フロンティアに居ると忘れるけど、今って初夏だよ」

 

 

 …そう言えばそうだっけ。素で忘れてた。道理で妙に薄着にしてるなーと。

 

 

「……これは、お姉ちゃんの服で、合う物が少なかっただけで…まぁいいか」

 

 

 と言うかだな、体調悪いで思い出したが、俺のトコ来て大丈夫なのか? 後でシキさんが様子を見に行くって言ってなかったっけ。

 

 

「そうだった…。一眠りしたら、逆に眠れなくなっちゃって。体がなんかゾワゾワ…じゃない、ワクワクして落ち着かなくって」

 

 

 ワクワクねぇ…ま、アラガミ状態になると生命力が溢れて、活気を持て余すのは分かるな。

 体から色々と漏れ出てくる気がするし、気分が高揚して…………?

 

 

「………あの…あのね、パパ…」

 

 

 ちょっとまてミキ、誰か来る。この足音は……シキさん? えらく慌ててる…し、何だか敵意も感じるような。

 

 

「お母さんが? ………何かとんでもない事が起こった…か、とんでもない勘違いをしてる気がする」

 

 

 ああ…あのポンコツ具合を見るにね。…もう来たよ。

 

 

「ミキ!」

 

 

 バン、と明らかに平常心ではない音を立て、ドアが開かれた。むしろ蹴り破られたと言ってもいい。

 ミキを目にするや、彼女が何か口を開く前に抱き寄せる。

 

 そして俺に対する激しい敵意の目。

 

 

「…ミキに何をするつもり」

 

 

 …何って言われても、話し相手になってただけなんだが。ミキが来たのは、目が覚めて暇を持て余してたからだし、俺が呼んだ訳じゃないぞ。

 

 

「…昨晩、ここでキヨにあのような事をしていた人間の言う事をそのまま信じるとでも?」

 

 

 昨晩? …ああ、覗いてたのシキさんだったのか。

 別に強制した訳じゃないぞ。合意の上と言うか、むしろあっちからのお誘いだったし。

 

 

「っ、お母さん苦しい……ぷは…。…え、あの、何がどうなって?」

 

「ミキ、少し黙っていなさい。これは母親としても、領主としても見過ごせません」

 

「昨晩って……ふぇ? ふぇ!? あ、あれって夢じゃなかったの!?」

 

 

 いやー、夢だけど夢じゃなかったと言うか。多分、その夢を見たのが体が変化する切っ掛けになったんじゃないかな。

 

 

「え、えぇ…。あれ、ひょっとしてキヨさんと以前からの知り合いだったとか…」

 

 

 初対面です。

 …と言うか、これ言っちゃっていいのかな…。侮辱していると思われるかもしれないが、キヨさん今までも何度か似たような事やってるみたいだぞ。

 

 

「………貴方は…」

 

 

 ちゃんとした理由はあるっぽいけどな。政敵の始末か、枕営業か…。都合の悪い相手が、宿泊した翌日に急に態度を変えた事は?

 

 

「………っ」

 

 

 (『食事』のついでに、何か刷り込んだんだろうなぁ…)

 まぁ、本人は割り切ってる節があったけど(飯食う度に躊躇ってちゃ、やっていけんわ)…その辺の相談は本人とやってくれ。

 

 と言うか、気に入らないならその場で乱入すればよかっただろうに。昨日は、結構長い事覗いてたように感じたが? 狼藉を働いていたその場を抑えれば、拘束するも叩き出すも処罰するも、好きにできただろうに。

 …ああ、キヨさんが合意の上だと主張すれば…どっちにしろアカンな。始めてきた屋敷の使用人にいきなり手を出すとか。

 

 

「あ、あのー…お母さん、ひょっとしてここに来たのって…」

 

「…後で様子を見に行く、と言ったでしょう。だと言うのに姿が見えないし、時間が時間だから、まさかと思って来てみれば…」

 

 

 別にミキは他意があって部屋に来た訳じゃないし、俺だって話し相手になるだけのつもりだったぞ。まぁ信用できんだろうが。

 

 

「えーっと……私は…その……ちょっと…」

 

 

 …なんかミキの様子が微妙におかしいような。生命力が溢れまくって、エッチぃ所からちょっと漏れたか…? 

 

 

「……ミキ、とにかく今日はもう休みなさい。…いえ、もう休んだのでしょうけど、この人に話があるなら明日にしなさい。私は一度、徹底的に話さなければならないようです」

 

「は、はい…」

 

 

 あらゆる意味で目が厳しい。ミキが反論すらできないくらいに厳しい。

 そりゃそーだよな。ミキの真意がどうあれ、母親として見過ごせまい。

 俺が純朴かつ一途な好青年であればともかく(俺もかつては純朴ではあったと思う)、今の俺は初対面の相手に即手を出す鬼畜、或いはチャラ男。お付き合いなんて、おかーさんは反対です、と言われても仕方なかろう。

 

 

(ちょっとちょっと、いいですか?)

 

 

 ? キヨさん、テレパシーとは器用な事をしますな。何事っすか?

 

 

(お手伝いしますから、ね?)

 

 

 ………マジ? 普段と変わらないニコニコとした笑顔のイメージが、いっそ恐ろしい。いや恐ろしい程淫靡に見えるって意味で。

 

 

(マジです。そうでもしないと、解決しないでしょう? 少なくとも、シキ様は真っ当な事を言った程度じゃ納得しませんよ)

 

 

 むしろ、こっちが納得できないのは、何でそんなにエロに進ませたがるのか、何だが。昨日もそうだけど、えらくノリノリじゃないか。

 

 

(率直に言いますけど、私、ここ数年ほど満足に『食事』が出来てないんですよ…。本来なら、館の主から漏れたエネルギーで満たされるんですが、シキ様の旦那様が居ないから、単純に考えて吸収効率が半分以下なんです。それに、マキ様はともかくミキ様は、家の居心地が悪い為に、やっぱり生命力も充分ではなくて…。泊られた殿方に体を差し出したのも、政敵をどうのではなく、そうでもしないと飢えて消えてしまいそうだったからなんです)

 

 

 マジか…。と言うか、それちゃんと後始末したろうな?

 

 

(当然です。みんな夢だと思い込んでいますし、覚えてさえいない人も居ます。痕跡は全て消しました。…これでもメイド長で、付喪神ですからね。神通力的なのでチョチョイのチョイです)

 

 

 どっちかっつーと妖術だろ。で?

 

 

(ミキ様の為の説得の一助になる。貴方はいい想いが出来る。私はお腹いっぱい食べられる…あとで私を摘まみ食いするのもいいですよ? 三方、いえ四方両得ですね!)

 

 

 3方は分かったが、4方目…シキさんの得は?

 

 

(それはもちろん、未だ経験した事のない、女性としての幸せを存分に嘗め尽くせる事です。…その、見ず知らずの方の事を、しかもマキ様とミキ様のお父様の事を悪く言うのもなんですが…シキ様のお話や愚痴を聞く限りでは、優しい方ではあっても、オスとして精強とは言えない方だったようで)

 

 ハンターなのにか。…いや、精神的に気弱すぎて、強引に行けなかったのかな?

 ………うわ、何よこのエロゲシチュ。…今更か。

 と言うか、自分の飯の為に館の住人を生贄にするとか…そそるシチュエーションだな!

 

 

(愛着も愛情もありますけど、それもお腹が満ちてこそです…。十年以上も食うや食わず、ジリジリと存在が薄れていく生活が続けばこうもなります。ミキ様が家出をした時には、5年後にはもう二度と姿を現せなくなる事も覚悟したんですよ。ミキ様の体にあのような事が起きているとは考えもしませんでしたが、いい関係の家族を築けなかったのはシキ様にも責任がありますので…オシオキと言う事で)

 

「何を呆けているのです。私を前にいい度胸ですね」

 

 

 …まだ納得した訳じゃない(というタテマエを捨ててない)が、会話が中断されてしまった。更に目付きを険しくして、藪睨みとさえ言える形相のシキさん。

 どっちにしろ、これ以上キヨさんに意識を割くのはアカンな。

 

 …まぁ、仮にも娘にパパと呼ばれてるんだ。母親と真向切って向き合う事もできんようじゃ、話にならん。ちぃっと気ぃ入れますか。

 ………霊体の状態で、シキさんに囁くような位置でフワフワしているキヨさんには目を瞑る方向で。

 

 

 目を瞑りはしたけど、聞いてはいたけどな。特にシキさんが。

 なんつーか…付喪神が悪魔の囁きをするって斬新だなぁ…。

 

 シキさんが何か言う度に、耳元で卑猥な事を囁いて。

 例えばさっきの「何を呆けているのです」の言葉には、『シキさんの体に見惚れてたんですよきっと。年上の女の魅力をわかってくれる子っていいですねぇ♪』なんて吹き込んでいる。

 シキさんは、今のキヨさんは見えてないようだが、それでも全く何も感じない訳じゃない。無意識にでもキヨさんの言葉を受け取ってしまう、それが自分の中から沸いてきた考えだと錯覚する。

 

 そうこうしている間にも話は進み、キヨさんはシキさんに好き勝手絶頂に吹き込み続けている。

 

 

「ミキの事をどう考えているのか」『シキさんの事はどう見えてるんでしょうね? 可愛い人だと思ってほしいですねぇ』

 

「軽々しく私の子に手を出すつもりなら容赦しない」『シキ様本人との火遊びなら、本人の責任の範疇ですよね』

 

「ミキの体はこれからどうなると思うか」『たった一晩で、凄く男好きのする体になっちゃいましたもんね。このままいけば、シキ様よりナイスバディになるかも』

 

「自由意志の恋愛を認めない訳ではありませんが、しっかり責任をとれる相手でないと反対せざるを得ない」『G級ハンターだから甲斐性はバッチリですよ。女好きみたいですから、誘惑に耐えられるかシキ様がテストしませんと♪』

 

「ミキもそう言った事に興味を持ち始める年頃なのはわかりますが、良識ある大人としてそれに付け込む事は」『初体験で失敗しないよう、ちゃんと出来るか確認する必要がありますね』

 

 …会話は万事この調子である。言うまでも無いが、既にまともな会話をするのは諦めた。 

 キヨさんと来たら、見事なほどの口八丁で、何を言っても言われても、エロい意味に解釈をひん曲げてくれるのだ。シキさんに認識されていないと思って、言いたい放題である。

 

 

 そして、あれよあれよと言う間に…。

 

 

「…どうしたのです。ミキを篭絡したその手筈、私に見せてみなさい。そんな物で生まれた感情など、一時の気の迷いだと証明してあげます」

 

 

 



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287話

今朝方、去年天寿を全うした爺ちゃんの夢を見て思い出しました。
そういやお盆って、繁忙期とか長期休暇とかじゃなく、故人が帰ってくる日だったんだよなぁ…。
もうちょっと時節を大事にしないとなぁ…。


それはそれとして、連続投稿も本日で最後です。
何とか書き溜めが保った…。
お盆の暇潰しになっていたら幸いです。



 若干息を荒くしたシキさんが、目の前に立っております。今からセクハラしても抵抗しないとの言質付きで。

 と言うか、証明するって誰に対して証明するのさ。今ここに居るの、俺とシキさんとキヨさんだけよ? キヨさんに至っては、シキさんに認識されてないし。

 仮に他に誰か居たとしても、セクハラに耐える事で何を証明できると言うのだ。

 

 だがまぁ、これで引き下がるようなら、初日のキヨさんのお誘いに乗る訳がない。

 

 

 さて、それでは……シキさんもこんな事言いつつ、若干緊張しているようだし、まずはキスでリラックスを。

 

 

「…待ちなさい。キスは止めて…。それは伴侶とするものです…」

 

 

 あら、抵抗しないって言ったのに。まぁいいか。

 では、ちょっと予定を変更し、正面から抱きしめる形で腕を回す。…石鹸のいい匂いがする。

 背中や髪を撫で回すと、触れられる事になれていないのか、ピクピクと反応を返した。

 

 背中を撫でている内に、ちょっとした引っ掛かりを発見。どうやらブラの留め具らしい。服の上から外すくらい、今更戸惑う訳もない。片手で外し、もう一方の手は尻を目指して下へ下へ。

 スーツ(っぽい服)に包まれた、腰のラインが延涎モノだ。腰骨の辺りを軽く擦ってやると、イヤイヤをするように尻を振る。

 

 

「くっ……ミキに、こんな事を……ぁん…」

 

 

 僅かに漏れる喘ぎ声を、歯を食いしばって噛み殺すシキさん。

 生憎、ミキにはまだこんな事はしてないですよ? まぁ、ミキがその気になって迫ってくればスルでしょうけどね。

 

 

「な…。私は、ミキを篭絡した手筈を見せろと、んンッ!」

 

 

 そっちは素で何もしてないんだよなぁ…。まぁ、危険なモンスターに襲われて絶体絶命のところに乱入したりはしたけど。

 でも、さっきのミキは大分その気になってたみたいだし、これから篭絡する手筈を披露しているって事でいいかね?

 

 

「…い、いいでしょう…。私も、私の娘も、男の手などにっ!」

 

 

 ギュッと尻肉を鷲掴みにすると、シキさんの言葉が引き攣ったように止まる。負けはしない、とでも言いたかったんだろうか?

 

 

『多分そうでしょうね~。シキ様、多分ご自分の経験を元に『負けない』って思ってるんでしょうね。元旦那様との逢瀬を思い出して、そんなにスゴくないって』

 

 

 経験談から、セックスは世間で言われている程気持ちよくないって思った訳ね。

 ところがドッコイ、素人のセクロスと、専門の訓練を受けた玄人のセクロスはまるで別物です。我慢がどうの、精神力がどうのという問題ではない。生物学的に耐えられないのだ。人間の関節が逆に曲がらないように、コーラを飲めばゲップが出るように、魚が水の中で呼吸して地上で呼吸できないように、人間の体はそういう風にできていて、そうなるように弄っているのだ。これに逆らおうとするのは、呼吸を我慢しようとするようなものだ。出来なくはないが、長くは保たないし相当な無理をするって事。下手すると死ぬ。

 

 と言う訳で、まずは逆らえない部分をジリジリ責めていきましょう。触れられれば感触がある。感触があれば反応もある。後はそれを心地よいものに変えていくだけ。

 

 ふーむ、エロ云々を置いといても、大分凝ってますな。やはりデスクワークが多いのか。これなら、ちょっと強めにギュムギュムと…。芯まで揉み解すように指を蠢かせ、伸ばして、掴んで、押し込んで、撫で回して…。

 徐々に強張りが解れていく。凝りが解けているのと同時に、シキさんが心地よさに身を委ね始めている証拠だ。

 

 だが、まだ恍惚となる程ではない。その証拠に、戸惑いに揺れる目に、反抗的な光が灯っている。

 

 

「く…さっきから、尻ばかり…」

 

 

 おや、お気に召さない? では…掴んで、広げると?

 

 

「 ! ! 」

 

 

 くぱぁ、の感触は初めてかな? 直接触れているのではない。まだ下着と服とストッキングにつつまれていても、『入口』が大きく口を開けたのが分かるだろ? ウブなネンネじゃ、自分から開いて誘うなんて考えもしないだろうね。

 

 

「くっ…」

 

 

 経験の少なさを小馬鹿にされたと思ったのか、それとも単純に羞恥の為か、頬に赤みが刺して歯を食いしばる。だから無駄だって。言われたとおりに、キスはしないけど。…俺からはね。

 くぱぁしたままなのも魅力的だが、やっぱり自分からさせたいね。初めての感触に動揺しているシキさんを、逃さずに畳みかける。

 

 立ったままなのもオツなものだが、知らない感覚でシキさんの足は力が入らなくなりつつある。引っ張るようにしてベッドに雪崩れ込む。

 寝転がして組み敷くと、戸惑ったように見上げてきた。…いや、本当に戸惑っているのか。話を聞くに、元夫は本当に優しく、ベッドの上でもゆっくりとしたソフトな行為しかしなかったんだろう。こうやって、誰かのペースのままにいいようにされるのは、シキさんにとっては初めての経験らしい。少なくとも、ベッドの上では。

 

 『これから蹂躙されるんだ』という事を強調するように、肩に手を置いて動きを封じ、服のボタンを外していく。これくらいなら片手で軽いもの。抵抗する暇すら与えず、ボタンを全て外してしまうと、豊満な母性の塊が垣間見える。さっきブラの留め具を外していたからか、上品な下着がズレているようだ。

 意外と雰囲気に流されやすいのか、さっきまで食いしばっていた顎は緩み、拗ねているように視線を逸らす。そうしている間に、こっそりブラを剥ぎ取ったのに気付いているだろうか? パンティーも剥ぎ取れなくはないが、そっちは羞恥を煽る為にもうちょっとグショ濡れにさせたいな。

 

 雰囲気たっぷりに、頬から首筋を愛撫する。反対側の耳と首筋を甘噛みしながら、シキの反応もお構いなしに服の下へ手を潜らせていく。 

 乱暴に乳房を掴み、指先の動きだけは繊細に。痛みと快感のギリギリ境目を彷徨わせ、内圧を高めていく。身悶えようとする体を、片手で捻じ伏せた。

 先端に軽く指を触れさせ、上下左右にコリコリと弄ぶ。

 

 警戒した時は軽く、気を抜いた時は鋭く。意識の隙間を縫うように、しかし期待だけは逃さない。

 あっという間に、シキさんの乳房の柔らかさがワンランク上のものになってきた。本人は意図してない期待に戸惑っているようだが、体はどんどん興奮している。血管が柔らかくなり、血が流れ込んだ事で、感じる熱も強くなっているだろう。

 

 

「わっ、私の、胸が…こんなに…」

 

 

 ドキドキする?

 

 

「違う、わ…。こんなになった事も、された事も無かったのに…!」

 

 

 そこはテクの違いだよ。後は……シキさん、シキは優しくされるより、こういうのが好みなんだろうな。

 前のオトコは優しすぎたらしいしなぁ? こうやって抑えつけられるのも、一方的に弄ばれるのも初めてだろう?

 

 

『そうですよ~。一時期、シキ様がド嵌りしていた隠れた趣味の女性向け雑誌、こんなのばっかりでしたもんね~♪』

 

 

 おやキヨさん。どこに行ってたのか気になるが、目の前の女体に集中するんで後回しで。

 では、そろそろ上を御開帳~。

 おお……神々しさすら感じるおっぱい…。とても二人の子を育てたとは思えないくらいだ。

 あちこち凝ってはいるようだけど、運動しているのも見て取れる…。

 

 …欲求不満を解消しようとしたか? それとも、いつかこうやって男に抱かれる為に、スタイル維持してた?

 

 

「そ、そんな事はありません! 領主たる者、外見も重要なのです。侮られない為、に………も……」

 

 

 何かゴチャゴチャ反論しようとしているのを、手を触れさせて黙らせる。何にって、そりゃナニにだよ。ファスナーを下ろして露出させたナニは、外見でも手触りでも、シキをビビらせるのに充分な迫力だったらしい。

 

 

「……なに、これ…。あつくておおきい…。あのひとのは、もっと…ほそくて、みじかかったのに…」

 

 

 人妻に言わせたいセリフ、自分からありがとうございました。ん、シキは人妻か? シングルマザーだよな…まぁいいか。

 ビビッて固まっているからか、それともメスの本能に本格的に火がついたのか、驚き慄きながらも、ナニから手を離そうとしない。

 

 釘付けになっている視線を遮らないように頭を動かし、手と口でシキの体を愛撫し始める。オカルト版真言立川流、そろそろ使うとしますか。

 溜まりに溜まった雌の本能、思いっきり噴出させてやるとしよう。

 

 胸の愛撫と同時に霊力を刷り込み、シキの体の弱点をより正確に把握し、更に敏感にする。

 

 

「あ……からだ…あつくなるぅ…」

 

 

 無意識にだろうが、俺のナニをゆっくり手で扱きながら、シキはあっという間に恍惚となる。

 これまでじっくり高めた興奮と快感を、起爆させてやるとしよう。

 

 シキ、これから指先だけで3回イかせてやる。思うがままに貪ればいい。

 

 脇腹から乳房の根本まで、フェザータッチで擽るように。

 ほら、1回目。

 

「……ッ!」

 

 今度は乳房の根本から先端まで、持ち上げるように。

 2回目。

 

 

「……ん、ぅっ!」

 

 

 最後は、ビンビンに勃起した乳首を…軽くデコピン。

 

 

 

「~~~~!!!!!」

 

 

 

 ビクビクと全身を痙攣させるシキ。小さく飛沫が飛び出る音が聞こえた。どうやら、もう潮を吹いてしまったらしい。

 欲求不満すぎるだろう。

 

 襲い掛かる絶頂に、いいようにノックダウンされ、シキは全身を弛緩させてベッドの上で荒い息を吐いている。

 だが、まだまだ。この抑圧されたドスケベボディは、満足なんかできていない。臭い立つ色香がそれを証明している。もっともっと、と強請られてる。

 

 胸でイクなんて序の口だ。メスの体は、どこででもオスを悦ばせられるし、受け入れられるし、自分もそれで悦べる。まずはそこから教えてやろう。

 頤をくすぐり。

 

 

「っ…あ、は……ァっ!」

 

 耳に唾液を塗り付け。

 

 

「ゾクゾク…しますっ…」

 

 

 鎖骨を愛撫し。

 

 

「んっ…これは……何だか、ジリジリ上がって…きてっ…!」

 

 

 脇を舐めあげ。

 

 

「そっ、そんな! 手入れはしています、がっ、あっ、ダメですっ! ………んん…!」

 

 

 背筋の性感帯を撫でる。

 

 

「ヒィ! せ、背中全体が…ゾクッて…」

 

 

 どこを触れても、快感に耐性のないシキは、容易く絶頂まで至ってしまう。

 あちこちから送り込まれる快楽と、それに連動する絶頂に、もうシキの平常心は完全に失われている。

 かといって興奮一色な訳でもない。知らない感覚に弄ばれる小娘に成り下がり、恐怖に怯えながらも、襲い掛かる絶頂と快楽を心待ちにする。

 

 

「な、なんなの…このかんじ…。これが、イクって事…?」

 

 

 なんだ、前の旦那はちゃんとイかせてくれなかったのか?

 

 

「こんな風になった事なんて、ない…。イッたフリしか、した事ないわ…」

 

 

 あららら…。オナッてた時しか、イッた事が無いのかな?素人がオーガズムまで達するのは難しいもんだが、それはいただけないなぁ。 

 そんなに深くないものでも、きっちりイかせるのが男の甲斐性ってもんだ。それじゃ、こういうのも初めてかな? あ~ん…。

 

 

「んっ! っっ…! ぬるぬるで……あぁっ、また…! ち、乳首がぁ…!」

 

 

 さっきのようなフェザータッチではなく、シキの胸の先端を頬張り、ねちっこく舌を這わせる。自分でも興奮で粘性が増しているのが分かる唾液が、どんどん塗りたくられていく。ぬめって滑りやすくなった先端を、前歯で擦るように甘噛みする。

 勿論、その間にもシキの体はビクビク痙攣し続け、知らない快楽に翻弄されていた。

 

 男の手などに負けはしない、なんて言っていた勝気な姿は、もう見られない。それどころか、娘…ミキの事さえ頭に残っているのか怪しい。

 

 

 執拗に胸を責める。片方は繊細に、もう一方は鷲掴みにして乱暴に捏ね回す。…反応を比べてみると、やはり後者の方が好みのようだ。つくづく、前の旦那とはナニの使い方以前に、相性が合わなかったと見える。性の不一致も、破局の理由の一つだったんだろう。

 

 嬲り、悦ばせ、イかせ、焦らして、忘れていたメスの本能を引き出した。既に、スーツすらグショ濡れになっているのが触れるまでもなく分かる。

 さて、そろそろ本番かな? このままヨガらせ続けても、シキの方がダウンしかねない。仮にそうなったら、こっちからエネルギーを送り込んで、強制的に復活させるだけだが。そうなったらロクに動く事も出来ず、気を失う事もできず、ただいい様に犯されるだけの快楽拷問になってしまう。…尤も、彼女の性癖からすると、満更ではないと思うが。

 

 これから次のステージに進むぞ、と強調するように体位を変える。四つん這いにさせてやると、明らかに女としての色香が増した尻が突き出される形になった。

 何をする気だ、とでもいうように、不安気に後ろを見るシキ。ズボンに手をかけると、察したように諦めて俯いた。抵抗らしい抵抗もなく、スーツを引き下ろす。

 

 …へぇ、エロい下着付けてるじゃないか。愛液でグチャグチャになってるから余計に。紫は欲求不満の色、だったかな?

 これも身嗜みかね? 男に抱かれるつもりもなかったのに?

 

 

「それは…」

 

 

 期待してたのか? それとも、昨晩キヨさんとの交尾を見て、ついつい意識したのかね。どっちにしろ、俺としては楽しいもんだ。

 ああ……下着越しに尻に頬ずりするのもいいなぁ…。これだけハリのある尻なら、ペシペシ叩いてやればさぞやいい音がするだろう。

 

 

「し、尻を叩…!? 何故そんな事を!」

 

 

 そりゃ、淫乱なシキにオシオキする為に決まってるだろう。どうせ叩かれても嬉しいだけだろ。

 ほらぁ、イヤならイヤ、自分は淫乱じゃないって言ってみな。尻も秘部も触ってやるから、自分は感じてないって言ってみろよ。

 

 

「あ、っ、う、~~~!! わ、わたっ、わた、し、はっ、…ま、またイクぅ…」

 

 

 淫乱呼ばわりされて流石に反論しようとしたようだが、それも無理な話。指で弄ってやるだけで、尻を揉んでやるだけで、今のシキの体は全身に電流が流れるような感覚に陥るだろう。スパンキングなんぞ何を言わんや、だ。

 反論も矯正に掻き消され、なけなしの意地も溶けていき…残ったのは、男をねだる本能と体だけ。

 

 明らかに上物の下着とストッキングを引き裂いて、尻肉を鷲掴みにして大きく広げる。不浄の穴まで視線で犯し、欲求不満の体をなじって耳まで犯し、オスの臭いを刷り込んで鼻から脳髄まで犯す。

 そして最後に、延々と続く絶頂で痙攣…と言うよりは蠕動している媚肉を、俺のモノで犯す。

 

 

「だ、だめ、まって、こんなのでされたら、されたらっ…!」

 

 

 壊れてしまう、とでも言いたいのだろうか。だが、それを想像して自分で絶頂を迎えている時点で、シキはとっくに壊れている。

 もっと壊してやるから…好きに喘げよ。

 

 

 十年以上ご無沙汰だった雌の最奥まで、一気に貫いた。

 

 

「~~~~!!! っ…ひゅ、か、はっ…!」

 

 

 衝撃で酸素が吐き出され、舌を突き出して涙を流す。前準備はしていたとは言え、流石に全く使われていない膣で、一気に受け入れるのは厳しかったか。と言うかその前準備も、下はそこまで念入りにやってないからな。何でって? シキの性癖からして、『強引に貫かれる』と言うのが好きっぽいからだよ。上の準備だけでも、受け入れるだけの解れは出来てたみたいだし。

 このまま突き上げては、シキの意識が飛んでしまう。屈服させるだけならそれもいいだろうが、今回シキに要請されたのは『篭絡』だ。リクエスト道理に、俺の言葉に率先して服従するように仕込ませてもらおうじゃないか。

 

 膣が慣れるまでは締め付けだけを堪能し、背後から覆いかぶさって首筋や耳元に舌を這わす。腕を抱きしめるように回して、ベッドと胸の間に滑り込ませる。

 体全体を俺の体で包み込み、内外から男の体温を伝えてやる。

 人肌で触れ合うとリラックスするのは、人の本能のようなものだ。動かない事と、人の体温に安心したのか、シキの体は徐々に余裕を取り戻し始める。

 

 …体はね? 精神はそうはいかない。突き込まれただけで、痛みと共に絶頂に至り、精神が下りてきていない。

 体にはリラックス効果がある抱擁だが、シキのメンタルには逆効果。愛撫の効果もあり、逆に高揚しっぱなしである。

 

 言葉攻めも好きみたいだなー。さっきから、優しく囁くように淫乱、スキモノ、欲求不満熟女、マゾ女、変態女オスに負けるのが大好きな負け犬など、色々罵倒しているのに、明らかに興奮している。激しい声による罵声でないから、受け入れやすい…のかな?

 

 

 さて…体は馴染んできた。精神はアドレナリンバリバリ状態。つまり?

 

 

 

 

 ガンガン突こうぜ!

 

 

 と言う訳で、遠慮なくイッキま~す!

 

 

 

「っ、あ、はっ! あ、おぉ、おぉぉ…!」

 

 

 一突きする度に角度を変え、弱点を探る。今のシキは膣全体が弱点みたいなものだが、それでも特に敏感な場所や、楽に快感を感じられる場所はある。

 弱点…と言うより、シキの好む責め方を見つけ出すのに、そう時間はかからなかった。

 

 そこからはもう、いつも通りに好き勝手絶頂にやっている。オカルト版真言立川流も使い、オーガズムを感じた事のない初心者にやるようなものではない、エゲツないくらいに増幅した快楽とエネルギーを送り込み続ける。

 子宮の中をまさぐり、性感一つ一つに丁寧に刺激を流し、それでいて悦楽に溺れている自分を自覚できるくらいに自我を残す。

 

 とっくにイキッぱなしの状態に突入しているシキは、メスの声を必死で上げ続けている。誰かに聞かれているのではないか、という不安も忘れ、ただただ喘ぐ。

 もう許してくれ、と途切れ途切れの口調で懇願されるが、どう考えてもそれは更なる行為の催促である。

 

 では…遠慮なく。

 

 

 パァン!

 

 

「ひっ! あ、あぁぁっ…!」

 

 

 尻を叩く甲高い音と共に、膣が男を急激に締め付ける。シキが何か言う暇も与えず、2発、3発と続けて叩いてやると、その度に膣の奥から熱い液が噴き出され、欲棒の先端に吹きかけられた。

 …この反応…。叩くと急激に締め付けて、その後少しだけ緩んで、また慌てたように締まる…。

 ほう。

 

 

 オラ、もっと締めてみろ! 乱暴に犯してやるから! 変態ドMで、年甲斐もなくお漏らし我慢してるシキさんよ!

 

 

「っ…!」

 

 

 気付かれた、と青褪める…興奮で真っ赤だけど…シキ。しかし、それこそトドメだった。

 羞恥が最後の切っ掛けになり、シキの堤防が決壊する。

 

 

「あ、あああ、あぁぁぁぁぁ!」

 

 

 チョロチョロと漏れ出した聖水が内股を濡らした事を切っ掛けに、シキは絶望するかのような声をあげて陥落した。

 勿論、この瞬間を逃す筈もない。残っているモノ全てを出し尽くせとばかりに、今まで以上に力強く、激しいピストンを繰り出した。

 

 

「あああぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 最早、意味のある言葉ではない。獣性に身をゆだねて、悦楽の海に溺れきり、断末魔の矯正を上げる。

 力尽きる寸前に、思いっきり精をシキの中に吐き出した。

 

 

「あ……あぁぁ……熱……」

 

 

 ナカダシは初めて…じゃないよな、子供が2人いるんだから。…あぁ、叩きつけられるような射精が初めてなのか。前の旦那は、滲むような射精しかできなかったのかね。よく2人も作れたもんだなぁ?

 

 からかうような口調で言っても、シキは無反応だ。顔を覗き込んでみれば、涙や涎でグチャグチャになったのも構わず、突伏したまま必死で息を整えている。

 …こりゃ会話できるような状態じゃないな。

 すっごい美味しい体だったが、一発だけじゃ満足できないなぁ…。それだけ激しく乱れさせた俺が悪いと言えばそれまでだが。

 

 さて、どうしよう。このまま回復を待つか? それとも強引にもう一発やって、エネルギーを強引に流し込んで強制的に続けるか?

 …後者でどこまで乱れるか、心惹かれるものがあるが…いくらオカルト版真言立川流といえど、人間の限界を無視し続ければ後遺症が出る可能性はある。と言うか、肉体的にせよ精神的にせよ、ガチで死んでしまいかねない。……どれくらいの快楽で、人間は死ぬか…か。禁断の実験だが、だからこそ惹かれるんだろう。実態はともかくとして。

 

 

 

『あらあら、物騒な事考えちゃいけませんよー。派手にやりましたねぇ』

 

 

 あ、キヨさん。そう言えば居たんだっけ…。腹いっぱいになった?

 

 

『それはもう。むしろ、付喪神としてワンランクアップしたみたいですよ。あ、声が漏れないように細工はしておきましたからね』

 

 

 それは何より。どうパワーアップしたのか、よく分からんけど。…で、それならお礼に一戦付き合ってくれませんかね? なんなら、声を抑えてくれたお礼をしてもいいけど。

 

 

『私はいいんですけど……それより先にやる事がありますよ?』

 

 

 やる事? …………あ。

 

 扉の隙間から、視線が合った。

 

 

 

 

 …おいミキ、何をやっとる。

 

 



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288話

仁王、楯無装備にしたらあっさり修羅の道クリアできてしまった…。
やっぱり重装甲は強いんだなぁ。

本日から帰省しています。
次の更新時、レス返しが間に合わないかもしれません。

帰省直前に「やってられっか」と叫ぶシフトが組まれて無茶苦茶だったけど、酒飲んでたらなんか楽になった。
やはりビールは神の薬よ…。


「あう……何って、そっちこそ…としか言いようが…。しかも、キヨさんって……?」

 

 

 …今、キヨさんって実体化してないよな…。でもしっかり視認してるみたいだし…。いや、霊力会得してるんだから、見えてもおかしくないか。

 

 

「お母さんとのお話が気になって、こっそり様子を見に来たんだけど…まさかこんな事になってるなんて。と言うか、お母さんのお尻触るのやめてよ…」

 

 

 親のプロレスを目撃してしまったか…。しかも単なるプロレスじゃなくて、一方的な残虐ファイトだ。あと尻はまだまだ触る。いい感触だ…。

 それは置いといて………まぁ、何だ。とりあえずミキがフロンティアに行くのは納得してもらえたと言うか、命令すれば多分聞くと思う。

 

 

「ありがとうと言うべきなのか、酷すぎるとしか言いようがないと言うか、せめて娘の前でお母さんとパパがやってた事を問題にしてよ…」

 

 

 そこ追及したら、話が進まんし纏まらんだろうが。

 …と言うかミキ、本当に何をしに来た? シキとの話が気になった、と言うのは聞いたが…。

 

 

「いや…ちゃんと話をしてたんだろうなーとは思うけど、覗き込んだらスゴい事になってて…頭がフリーズしたと言いますか…。本当に何でこうなったの? しかも、お母さん…」

 

 

 おいおい、何でそこでシキに敵意を向ける? そこは母親に手を出した俺じゃないか普通。

 いや、確かに真剣な話をしているという信頼を裏切って、コトに至っていたのは確かだが、それは俺も同罪だろうに。

 

 

「……だって…」

 

 

 ただでさえややこしい家族関係を、更に引っ掻き回した俺が言うのもなんだが…とりあえず、今日はもう寝なさい。シキだって、こんな姿見られて平常じゃいられないだろ。多分今、殆ど意識ないけど。

 一眠りしてスッキリしてから話をしよう。

 

 

「……嫌です」

 

 

 嫌って言われても…。じゃあどうしろと。

 

 キッと顔を挙げたミキは、ゆっくりと俺の前まで歩いてきた。丁度、手が届くくらいの距離で立ち止まり…。

 

 

 

「お母さんにした事……今この場で、私にも、してください」

 

 

 自分から、スカートの裾を握って口元までたくし上げた。露わになった、多分マキのものであろう可愛らしい下着は、既に役目を果たさない程にグショ濡れだった。

 

 

 

 

 

『ふふっ、ミキ様は、最初にあなたの部屋に来た時から、こうなるんじゃないかって予感してたみたいです』

 

 

 こうって…いや流石にシキの事は予想してなかったろうけど。まさかキヨさん、そこまで仕組んだ?

 

 

『流石に仕組んではいませんよ。ただ、そうなるだろうなと思って、ミキ様に気にならないかと囁いただけです。先日の、私と貴方の交わりの夢を思い出して、まさかと思ってやってきたんですよね』

 

「…キヨさん、色々言いたい事も聞きたい事もありますけど…」

 

『はいはい、後は若い二人にお任せして、私は引っ込みますよ~』

 

 

 最後の最後まで軽い感じで、キヨは姿を消した。言うまでもなく、背後の絵の中に居るのでガン見状態だが、ミキはまだそこまで気付いていないようだ。

 

 で……ミキ、本気か? と言うか、いきなり何のつもりだ。

 

 

「…本気です。いきなりなんかじゃないです。最初は、迷惑をかけちゃった人でした。アカムウカムに遭遇して助けられて、お父さんみたいに頼りになる人だって思いました。好きな男の人…なのかは、まだ分かりません。でも、こうしたくて仕方ないんです」

 

 

 充分にいきなりだと思う。これってアラガミ化が関係してんのかな…。そんな副作用なかったと思うが…。

 にしても、ヤバい塩梅に腹括ってるみたいだな。ここで断ると、女としてのプライドがどうの恥がどうのという以前に、俺がシキを無理矢理手籠めにしたとか吹聴しかねん。いや実際にやるかはともかく、それくらい手段を選びそうにない。

 

 …仕方ない、か…。別に嫌いな子じゃない。むしろかわいいし、今はセクシーボディになってるし。

 ただ………パパ、だもんなぁ…。新しい世界を開拓するのと同時に、将来やっぱり実子をそういう対象として見るのが確定してしまう気がする。

 

 

 

 グダグダ言うのもここまでか。ミキ、手を下ろしなさい。

 …ストリップも嫌いじゃないが、俺は自分の手で剥くのが好きだ。こっちにおいで。

 

 

「…はい…」

 

 

 経験の無い、初恋すら怪しい少女にかける言葉としては、どう考えてもアウトな発言だった。しかし、ミキは恍惚とした表情で命令に従う。まだ何もしてないのになぁ。

 ひょっとして、アラガミとしての本能が、特異点に従う事に快感でも見出しているんだろうか。

 

 

 まぁいいや、抱けば分かる。斬れば分かるって言うし、貫いても分かるに違いない。

 

 

 母親の体液でグチャグチャになっている俺に、躊躇いもなく歩み寄って寄り添う。正面から抱きしめてやると、先日までとは大きさが違う柔らかい感触がよく分かる。

 変わっているのは胸だけではない。肌触りも、髪の滑らかさも、漂う芳香さえ違う。…どうやら、ミキの体は、本当にエロい事をする為の体に作り替えられているらしい。

 ふむ…特化型も嫌いじゃないが、素のミキを味わってみたかったもんだ。まぁ、それは追々考えるとしよう。

 

 抱きしめて、親がするように頭を撫でてやれば、それだけで安らいだ表情になる。例え、抱き寄せた俺の手が、ミキのスカートの下に潜り込んでいてもだ。

 セクハラをするように、秘部に近い所を指先で突き回してやると、抗議するように腰がモゾモゾと動く。嫌がっているのではなく、逆にもっともっとと催促している。

 

 リクエストに応え、下着の中に指を這わす。ツルツルとした独特の感触と、女特有の狭い場所の熱。

 …まだ生えてないんだな? この体になってから?

 

 

「……元々だよぉ…」

 

 

 恥ずかし気に、しかし躊躇わずに答えるミキ。内部に小指を潜り込ませて掻き回してやると、呼吸を浅くして喘ぐ。

 自分の指も入れた事はなかったろうに、抵抗もなく受け入れている。少し乱暴に掻き回してみても、未知の快楽に喘ぐばかりで、痛みを感じた様子も、戸惑いすらないようだ。

 

 これなら、即突撃しても、痛みもなく初オーガズムまで持っていけそうだ。そんな事を考えていると、不意にミキと目があった。顔が近い。

 

 

「パパ……んっ」

 

 

 目を閉じ、唇を突き出してキスを強請る顔は、無垢な少女そのものだ。勿論、本当にそうであれば、仮にも父と呼ぶ相手にこんな事はしないだろう。なんか援助交際的な意味でパパと呼ばれている気分になってくるが、それを言ったら多分ミキは泣くだろう。少なくとも、本当にパパだと思っているようだから。

 最初は触れ合わせるだけのキスを長時間。一度口を離し、ミキが何か言おうとする前にもう一度。吸い付き、啄むようなキスの雨。

 

 ミキの唇が涎塗れになった辺りで止めようとすると、逆にミキから飛び込んできた。歯と歯がぶつかり合わないように受け止めると、何とミキは自分から舌を伸ばしてきた。

 流石に勝手が分からないのか、拙い動きで俺の舌を探し当てようとするミキ。親子が手を繋ぐように、舌を絡ませてやると、安心したようにゆっくりと口で交わり始める。

 

 

 …キスは、シキとはしなかったな。

 

 

「…そうなの?」

 

 

 ああ。それは好きな人とやる事だ、だってさ。だからミキとするのはいいよな。

 

 

「うん! …ねぇ、お母さんがやってない事って、何かある? 何でもするよ…」

 

 

 ん? 今何でもするって言ったよね? まぁ、今のミキじゃあんまり高度な事やアブノーマルなプレイは、テクも精神も追いつかないだろうし…ほら、触ってみるといい。そして、どうすれば俺が悦ぶのか、考えて試してみるんだ。親孝行してくれよ。

 …にしても、シキがやってない事とリクエストするとは…対抗意識でも持ってるのか?

 

 

「持ってるよ…。だって、本当なら私が最初にパパと抱き合ってた筈なのに…。お母さんがいきなり乱入してきて、私を追い出して、しかも自分だけ抱き合って…」

 

 

 不満気に唇を尖らせ、ジトッとした目でシキを見るミキ。母親を見る目じゃねぇな。と言うか、シキはまだノックダウンしたまま戻ってこない。

 そうしながらも、ミキは好奇心いっぱいに俺の欲棒を触っている。変化したミキの手の感触は独特だ。指で触れられていると言うよりも、触手や、無数の舌が触れているような錯覚すら覚える。ギュッと握りしめられた日には、極上のオナホに包まれたようだった。

 

 

「それって褒めてるの、パパ…? 気持ちいいって言ってくれてるのは分かるけど…なんだかいやらしいよ」

 

 

 実際、イヤらしい事してるし、そんな感触がするんだよ。包んだまま上下されると、本当にイキそうになっちまう。

 …うん、このまま出すのも勿体ないし、やられっぱなしはつまらないな。

 

 ミキ、手はそのまま俺ので遊んでていいから、横になって。俺の膝を枕にするといい。

 

 

「はーい。…あ、この体制、パパのおちんちんがすぐ目の前にきちゃう…」

 

 

 よーく見るんだぞ。これが娘のミキを女にしてくれる、パパのおチンポ様だ。

 さて、それじゃおちんぽ様を気持ちよくしてくれてるミキに、パパからご褒美をあげよう。ミキはえらいなぁ。ほら、おまんこ良い子良い子。おまんこいい子いい子。お尻にもいい子いい子。

 

 

「んっ…ふぅ…はぁ…これ、好きぃ…」

 

 

 腕を伸ばして、ミキのグチョグチョの股をゆっくり愛撫する。表側から内側まで、スローペースで、しかしミキの弱点を確実に抉りながら出し入れを繰り返す。。

 普通の親子関係に例えるのなら、肩たたきをやってくれた子供を褒めて、だっこしたり肩車したりしているようなものだろうか? まぁ、俺はコッチの方が好きだが。

 

 ウットリして淫らな親子関係に身を委ねているミキだが、その手は相変わらずオナホのような感触で俺を責め立てる。

 先端に先走りの汁が堪っているのを発見すると、ミキは一つ息を呑み、大きく口を開けた。

 ドロドロの粘液塗れになっている舌が突き出され、先端の汁を拭い取る。明らかに、唾液と言うよりはローションのような粘性。舌の感触は、一撫でされるだけでまるで絡み付いて来るかのようだ。

 

 先走りの味が気に入ったのか、それともそうする事で男が悦ぶと本能が知っていたのか。ミキは舌で亀頭を嘗め回すだけでは飽き足らず、大きく俺のモノに吸い付いてきた。

 咥え込み、しゃぶり、根元を指先で扱き、時にはキスマークを付けようとするように吸い付き、唇と舌で徹底的に愛撫してくる。拙い手技と口技で繰り返される、淫靡な攻撃。

 どうですか、と言いたげに目を向けてくる。頭を撫で、手マンの動きを速めてやると、嬉しそうに腰を震わせながら、更に奥まで咥え込んできた。

 

 素人とは思えない強烈なバキュームは、アラガミとして強化された体のなせる業か。と言うか初めてディープスロートを素でこなすとか、ハンターでも無理だわ。しかも、教えてもいないのに金玉を手でコロコロモミモミしてくる。性感マッサージ以上だな…。

 さっきから素手とは思えないくらいの感触の手に責められ続けていた事もあり、昂ぶりが我慢できなくなってきた。

 それを察したのか、ミキの口技が激しさを増す。明らかに、口内で射精させる事を目的とした動き。

 事実、射精の瞬間には、胃袋に届いているのではないかと思うくらいに深く深く呑み込み、爆発した精も躊躇わず、むせる事すらせず受け止める。

 

 

「…っ……ぁ…パパぁ、もう一回出して…味、分からなかったの…」

 

 

 そう言いながら大きく口を開けて中を見せてくるミキ。確かにミキの口の中には白濁など全く残っていない。ただ卑猥なテラテラ光るピンク色が見えるだけ。

 味を感じないくらいに奥で呑み込んで、そのまま胃袋に収めてしまったらしい。

 

 

 この凄まじく淫蕩な体を持った、甘えん坊の娘。中身はまだまだ子供なのに、セックスの為だけに育った体を持つ娘。…どっちにしろ、放置しておくわけにはいくまい。このまま突っ走れば、下手な男は吸い尽してしまうような、甘え上手のサキュバスが誕生しかねない。やったね! …じゃなかった。どっちにしろ、今更この娘を他の男の嫁になどやらんが。

 

 

 もう2、3発くらいなら余裕だし、オカルト版真言立川流を使えば、それこそ無限に近い弾数があるが、残念ながら時間が無い。もう日付は変わって、2時間以上経っている。それだけ、母と娘をねちっこく弄んだと言う事だ。

 もう一回、もう一回と挑発するように、人差し指を舐めしゃぶるミキ。体を起こして上に圧し掛かると、本当に嬉しそうに笑う。

 

 

 今度は本番の時間だ。精液の味を知りたいなら、口ではなくまず膣と子宮で呑み込むんだよ。ほら、優しく破ってあげるから。

 

 

「うん、パパ…来て」

 

 

 自分から股を開き、両足を自分の腕で抱え込んでM字開脚。パパに全てを曝け出した娘は、自分の最も卑猥な部分が齎す快感を分かっているかのように、膣口をヒクヒクさせてオスを待っている。

 先端を押し当てると、ベチョリと見えない捕食口に捕まった気がした。本当に捕まったのだとするならば、逃げようとするのは逆効果。突っ込み、突っ切り、反対側から突き抜ける事だけを考えるべき。

 

 だが、ミキの中は到底突っ切れるとは思えない程、深く熱く複雑で、物凄く蠢くナカだった。俺をして暴発しそうになるくらいに。

 奥へ奥へと吸い込むような膣に導かれるまま、ミキの処女膜を突き破る。それでスイッチが入ったかのように、ミキの膣は強烈に蠕動を始めた。

 凄まじい進化速度を誇るアラガミ細胞が作り替えた膣は、恐らくこの世のどんなオナホよりも男の弱点を突く構造になっているのだろう。プロの性技が、人間の体では我慢できない反応を利用するように、男が射精せずにはいられない構造の膣。我慢という選択肢の一切を奪い取る蠢きを前に、俺が暴発しなかったのは………皮肉な事に、今のミキは本来の体ではないという引っ掛かりだった。

 

 ミキが痛みを感じないのをいい事に、乱暴にナカを突き抉り続ける。それでもミキの底は見えない。ただ只管に悦び、もっと奥へと誘いをかけ、孕ませろとばかりに強烈な快楽と締め付けを繰り出してくる。まるでブラックホールを精液で埋め尽くそうとしているかのような、途方もない錯覚。

 乱暴にしながらも、ミキの好む動きとポイントを見つけ出し、乱暴なのに優しくしているという矛盾した状態。貫かれたミキは、初めて感じる性感…を通り越した悦びに、とっくに天上にまで舞い上がっている。

 

 ミキは天上、俺は淫獄。ああ、だけどこれでいい。望むところだ。娘が悦ぶ為に、パパが必死になる。おかしな事など何もない。

 限りない悦びをミキに送り込み、射精の衝動を押さえ込む。

 

 

 ダメだ。このままではいけない。ミキは満たされない。

 だが…手はある。これは逃げかもしれない。敗北かもしれない。だが、これは正しい選択である。

 

 

 

 

 

 交わりの中で見つけた、ミキのアラガミ細胞の核…とも言うべき何か。それに向けて、射精と共に霊力を放出する。

 

 霊力を受けたアラガミ細胞は、一瞬でその機能を停止した。そして同時に、ミキの体の変化が解ける。男を悦ばせる為だけにあったエロボディが、本来のミキの物に変化する。

 

 

 

「っ……………!!!!!!!!」

 

 

 

 突如、膣内の圧力が膨れ上がる。それはそうだろう。ミキのナカは、変異していたからこそ、ああも柔らかく奥深かったのだ。それが解ければ…ミキの中は、俺を収納できているのが不思議なくらいに狭い空間に成り下がる。

 だが、それが辛い訳ではない。精神的に、完全に羽化登仙の領域まで至っていたミキにとって、それはトドメにしかならなかった。

 

 結局、結論は一つだけ。ミキというブラックホールは、その内側に打ち込まれたホワイトホールによって満たされた。

 

 

 

 

 

 

 

「んっ………パパぁ…」

 

 

 元の体に戻ったミキが、ズボッと抜ける男根の感触で我に返る。…返ってるのかな? また俺の体に寄り添い、甘えるようにキスを求めてくる。

 目をやってみれば、本来は狭い場所である筈の女淫は、エゲつない穴が開いている。ゆっくりと閉じていくだろうが、よくもこうまで広がったものだ。

 

 キスを返しながらミキを労わっていると、隣に寝ころんだままのシキが、徐々に意識を取り戻しつつある事に気が付いた。………ふむ。

 

 ミキ、ちょっとお手伝いしてくれないか? またご褒美あげるから、な?

 

 

「うん、いいよ。…お母さんに何かするの?」

 

 

 その後、もっと凄い事をミキにしてやるよ。嫉妬するのはいいけど、それを燃料にするんだよ。

 ま、それはともかく……ミキ、シキの足を持ってくれ。さっきミキが自分でやったような体制になるように…いや、あれから足を延ばした方がいいか。そっちの方が身動きが取れない。

 

 

「こう?」

 

 

 そうそう、イイ感じ。そんじゃ…目覚めの一発を。ていっ。

 

 

「!? ……あ、私……は…? !? ミキ、何を!」

 

 

 はいはい動かないの。つっても、動きたくても動けないだろうけどね。そういうイカせ方したし。

 さてと…。

 

 

「は、離しなさい! 確かにあなたに一度は抱かれましたが、抱かれ…ましたが…」

 

「お母さん、ダダこねちゃ駄目だよ?」

 

「ミキ、貴方は……」

 

「別にお母さんを恨んでるとか、そういうのじゃなくて……パパを手伝ったら、もっと凄い事してくれんだって♪ お母さんよりスゴいコト♪」

 

「なぁ…」

 

 

 おうおう、色んな意味で混乱しとるな。まーとりあえずアレだ。ここまで来たら、俺はシキを完全陥落屈服調教しない事には、詰んでる訳だよ。

 さっきよりも感じさせてやるから、安心して降参するといい。

 

 

「さ、さっきよりも………? …いえ、そういう問題では…って、ちょっ、何を、何処に!」

 

 

 ミキに拘束されて動けないシキの入り口に、俺のモノを宛がう。何をするつもりか察したのか、それとも単に知識がないから分からないのか。

 どっちでもいいか。

 

 お前みたいに、外面がキリッとしてて気が強い女はな…。

 

 

 尻が弱いって、相場が決まってんだよぉ!

 

 

 

「っ、か……あ、ああ、あっぁぁぁぁ!?」

 

 

 容赦なく、菊穴を貫く俺のモノ。普通なら裂ける、最低でも激痛が伴うだろうが…生憎、俺の場合はそうはならない。いつぞやの不思議夢現象で覚えた、カッパの尻子玉プレイが出来るからな!

 

 本来なら排泄に使う穴、性交に使う筈のない穴で、しかも触れられるのすら初めてなのに、シキは性感に悶える。混乱、羞恥、背徳…そういった感情が湧き上がり、あっという間に快楽に呑まれていく。

 

 

「お母さん、いいなぁ…」

 

 

 正気とは思えない娘の呟きも、俺にとっては燃料にすぎない。

 好き放題にシキの尻を貫いて嬲る。やろうと思えば、一息にイかせる事だってできた。尻で感じる変態なのだと、自分で認めさせる事もできた。

 

 だが、散々嬲ってヨガらせながらも、シキが望む一線……今夜、初めて覚えたメスの悦びの極みにまで持っていかなかったのは、理由がある。

 

 

 

 そら、どうした。欲しけりゃ強請ってみろよ。言葉にできないなら、口にしてなぁ?

 

 

「お母さん、もうイッちゃってよ。私の時間がなくなっちゃうよ」

 

 

 二人係で嬲られるシキの目の前で、これ見よがしに舌を突き出して見せる。チロチロと、蛇のように動かして見せたが…どうやら、シキにとっては蛇の舌どころか、海の中でもがくミミズのように見えたらしい。ただし、釣り針がくっついているミミズだが。

 見事に釣られたシキは、しかし何を要求されているのかしっかりと理解していたようだ。それが何を意味するのか、自分が何を言ったのか理解していたかは怪しいが。

 

 

「んっ! ん、ンんっ…んー、んふぅ…」

 

 

 拘束され、組み敷かれていた体制を物ともせず、逆に跳ね飛ばして俺の上に馬乗りになる。尻を貫かれて快楽を貪りながら、『好きな人とやる事』と言ったキス…いや、いっそ上口淫とでもいうべきか…で俺の口の中を貪り続ける。

 キスは好きな人とするんじゃなかったか? と揶揄してやるつもりだったが、もうそんな事はどうでもいい…と言うより、言葉すら耳に入らないようだ。

 

 

「あーあ、お母さんってば…。でもパパとお母さんなんだから、夫婦で熱々なのは当然かな? うん、でも…もういい加減、私ももう一回したいし……えいっ」

 

「-----!!!」

 

 

 俺を貪るシキの腰に、ミキの体重がかけられる。直腸の奥まで、捻じ込まれる欲棒。そして注ぎ込まれる霊力と、吸い取られる霊力。

 シキが再び忘我の境地に至るには、充分すぎる程だった。そして、そこから更にピストンでダメ押しをされるのも。

 

 

 …また気絶した。うーむ、力加減を間違ったな。中伝が利用可能になって以来、地力が上がっているが…限度を見誤るのは未熟の証だな。

 まぁいいや。さぁミキ。今度はお前の後ろも可愛がってやるよ。

 

 

 

 

 

 追記

 

 途中からキヨさんも混じって4人で乱交してました。

 

 

 

 



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289話

帰省時に、久々に新幹線の中で」ダブルクロスやりましたが…画面小さすぎィ!
よくこんな画面から色々情報読み取ってたなぁ。
携帯ゲーム機の宿命でしょうが、もっと画面を大きくできないものか。

ニンテンドースイッチ版、買うべきかな…。いやしかし、現状だと遠出する時くらいしか使わないんだよなぁ。

というか、メッチャ手古摺った…。ろくなリハビリもせずにラージャン3頭とかバルファルクとか、いきなり挑むのが悪いんですが。

いや、それよりもブルートゥース対応のマウスとキーボードが先か?
机の上をきれいにしたいし、2inPCだとタッチパネルに掌が当たって、妙なところクリックしちゃうんだよな。



にしても、感想ゼロは久しぶりだなぁ…。色々手こずって書いた部分だったんですが、やはりミキは最初から元の姿のままにすべきだったか…?


NTD3DS月

 

 

 ケツで遊ぶなら前準備不可避な。リアル話、無しで突っ込むと排泄物に突っ込む事になるから。凌辱ゲーでいきなりケツに突っ込むとかあるけど、あれ普通にクソミソだからね。ちゃんと前もって掃除しておかないと、指で届くところに排泄物があるから。

 まーその辺は房中術とかカッパー能力でオカルト的にどうにかしてるので、俺には無縁の話であるが。

 

 

 とりあえず翌朝。ミキは朝っぱらから爆睡。実家に帰ってきて、疲れが一気に出たのだという設定で押し通した。

 シキは…領主としての仕事中だ。ただし、俺が命令したんで、ノーパンノーブラである。本当は張り型でも突っ込んでおいてやろうと思っていたのだが、昨晩の遊びで腰が抜けて動けなくなっているので免除。このため、今日はトイレ以外は一切動かず、仕事に専念する事となっている。

 

 …ん、シキ? 表面上はともかく、絶対服従の領域まで刷り込みましたが?

 ミキはと言うと……刷り込むまでもなく、って感じだったな。まぁ、とりあえずマキに気付かれないようには平静を装わせてるけど。あまりお芝居や嘘が上手い子ではないが、『ご褒美』で釣ればモチベーションアップである。

 

 ちなみに、一番混乱していたはマキである。まぁ、いきなり母親が態度をそれとなく軟化させてたり、信頼していたメイド長が妙に来訪者に好意的だったり、大人ボディだったミキが元の体に唐突に戻ってりゃ、混乱するのも無理はないが。

 前者二つは『客人に敵意を持って接する方がおかしい』と押し通し、ミキは…理由なくあの体になったなら、理由なく今の体に戻ってもおかしくない、とだけ言っておいた。

 

 

 それはともかくとして…ウェストライブ領に来た、本題の調査に入る。親子丼がそれ以上に重要な案件になっていたのは否定しないが、とりあえず俺の最初の目的は、ミキのアラガミ化の原因を探る事であった。

 で、これをキヨさんに案内してもらっていたのだが……正直、サッパリ手掛かりが見つからない。

 

 当時、ミキが壊したらしい物も見てみたんだが…珍しい素材ではあるようだが、それだけだ。具体的には、ウカムルバスの天鱗の欠片。これはアラガミ化には関係ないだろう。

 他倉庫を一通り見せてもらったんだが、関係ありそうなものはない。ハズレか? と思ったが、考えてみればミキらしき人物が侵入してたんだよな。その時に何かかっぱらって行ったとしたら、そりゃ重要な物は残ってる筈がないわ。

 と言う訳で、逆にない物、無くなった物、侵入者騒ぎの後に壊れていた物を中心に調査。

 

 更に、ミキに身に覚えがない物を持ってないか聞いてみた。特に覚え無し。

 …と言う事は、ミキが何か持って行ってたとしたら、意識が無い間にそれを手放したって事か? 手放したから意識が戻った…と言う事も考えられる。

 

 

 

 ………うん? 似たような現象、あったよな? 古龍の体内から発見された、妙な力を感じる紅玉。手にした者の正気を無くし、操る(らしい)呪いの素材。紅玉かどうかは分からないが、霊力や強い念が籠っているモノなら何でも同じだ。

 

 

 古龍じゃないが、ウカム天鱗と言う事は多分G級だし、それだけ長く生きてりゃ飛竜じゃなくて古龍扱いでも問題ない気はする。

 偶然か? 考えすぎか…?

 

 結局、あの紅玉が何だったのか、今もって分かっていない。追加調査なんぞしてないし、出来もしないから当然だが。

 しかし、考えれば考える程符丁は一致する。あの紅玉に接触したと思われるモンスター達が得た、異常な力。あれが急激な進化という、アラガミ細胞で尤も厄介な力の産物だとすれば…?

 オカルトパワーによるパワーアップだと思っていたが、実はアラガミだったとしたら…?

 …でも、あのモンスターはアラガミではなかった気がする。普通(レジェンドラスタが普通かはともかく)のハンターの攻撃でもダメージ受けてたし。

 

 うーん……そもそも、ミキも完全にアラガミ化してる訳じゃなかったんだよな。いやアラガミ状態にはなったけど、もし本当にアラガミであれば、俺以外の手で傷付けられる筈がない。大人ボディ状態でこそ試してないが(破瓜は出来たが、やったのは同類である俺だし)、ハンターとして戦って傷を受けた事も何度もあるようだ。

 極論すれば、ゴッドイーターだってそうだ。半ばアラガミと言える体なのに、不完全なアラガミ化の為に、単なる鈍器でも傷つけられる。そう考えると、あのモンスター達も完全なアラガミ化ではなかったと思える訳で…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 をぅ

 

 

 

 

 スッゲェ嫌な予感した。と言うか連想した。

 あの紅玉の行く先……何となくだが、ミラボレアスとかになっていくんじゃないか、って思ってたんだよな。では、ミラボレアスの尤も驚異的な点は一体なんだ?

 異常な攻撃力…ではない。確かに凄まじい攻撃力を誇るが、動き自体はごく短調なもの。

 人類に対する憎悪……でもない。よくそういう設定が語られるが、実際にどうなのかなんぞ分からない。何故、どうして憎んでいるのか、それが本当なのかも分からない。

 

 尤も驚異的なのは、あのタフネス。体力と、桁外れの防御力だ。竜撃砲でも使わなければ、ほとんどの攻撃を跳ね返し、ダメージカットする脅威の体質。

 あれがアラガミ細胞によるものだったとすればどうだろう?

 モンスターのブレスを模した竜撃砲なら、同族からの攻撃で多少は通る。強引に殴り倒そうとしたら…凄まじい力で殴りつけ、内臓と内臓をぶつけあってダメージを与えるくらいしかできないだろう。ろっ骨を圧し折って、それを意図的に肺に突き刺すイメージと言うか。

 

 

 

 ……この推測が的中していた場合……ミラボレアス、確実に俺かミキのどっちかに寄ってくるな。同族の臭いを嗅ぎつけて。

 …特異点という事を考えると、やっぱ俺かなぁ…。友好的に接触できねぇかな…。

 

 

 ………この考えはここまでで止めた。ロクな未来が見えなかったから。…ああしかし、本当にアラガミだとしたら、神機を使えばあの防御力をある程度無効化できるかもな。それだけが希望である。

 

 

 

 

 まぁ、とにもかくにも、だ。少なくともこの館に、アラガミ化の原因になりそうなものは、今は無い。領地をマキに頼んで案内(デート)してもらって調べたが、アラガミ化ハザードの兆候もない。…そういや、ナターシャとパピと一緒にやってるループで、マジにバイオハザードあったっけな…。…ナターシャとパピが生き残れはしたものの、俺は死んだ苦い記憶。

 

 

 

 

 何が苦いって、あの程度なら時間さえ稼げば、パピを守りながらでもナターシャが一人でどうにかできた、って事に今更気付いた事である。アラガミ化した程度で、レジェンドラスタとの差は殆ど埋まらないのだ。増してあの頃は、フロンティア基準で見ればペーペーもいいトコだったしよぉ…。

 今の俺でもナターシャに勝てないんだぞ。当時の俺なんぞ、その気になったナターシャにしてみればキックだけで倒せるレベルである。

 まぁ、あの時の俺はウィルスに犯されてエラい事になってたから、ナターシャが勝っても俺はデスワープしてただろうけども。

 

 

 

 それはともかく、とにかくこの近辺は平和だ。モンハン世界の基準なので、時々一般人が鍬持ってコンガと殴り合いするシーンが見られるが。

 とりあえずアラガミ化の心配はない。…つまりはフロンティア付近でパンデミックが起きる可能性が提示されてしまった訳だけども…。 

 

 

 

 ま、ミキの件に関しては、これで解決でいいだろう。ミキがフロンティアに戻る許可も、まぁ貰えた。しっかり訓練を受け直す事が条件だけどね。

 ……どーも、ミキと一緒に居る為という口実で、シキもフロンティアに来れないか画策しているようだが…来れるなら歓迎、来れないなら時々可愛がりに(犯しに)きてやらねばなるまい。

 キヨさんも、充分すぎる程にエネルギー補給できた。ミキに自分の正体がバレてしまったのは予想外のようだったが、特に問題はない。

 

 

 

 と言うか、キヨさん意外と軽かったなぁ…。この世界で唐突に出てきた付喪神だから、ややこしい背景があると思ってたんだが。

 異国の地で随分昔に描かれた絵が、幾人もの手を渡り、長い時を経て自我を得た。……ぶっちゃけた話、これだけなのである。長生きだが、自分で動くようになれたのはこの館に飾られてから。館の中の事なら大体把握できているが、率直に言えば、ミキ以上に世間知らずだったりする。

 俺の事を『本職』と言っていたのも、ソッチ系のエネルギーを強く感じたからでしかなかったらしい。自分の同類みたいなのも見た事が無い。

 要するに……意味ありげに登場したと思ったら、本人にはそんなつもりも自覚もなくて、実際に特に意味も無かった訳だ。いや、ウェストライブ家を引っ掻き回すトリックスターにはなったと思うけど。

 

 …まぁ、そういう事もあるよね。みんな誰しも、重い背景持って生きてるとは限らないんだし。

 ちなみにミキとシキに正体がバレたキヨさんだが、普通に受け入れられていた。と言うより、姿が変わらない謎が解けてスッキリしたよーだ。それだけでええんかと思わない事もないが、それだけ信用されていて、必要な人物と思われているんだろう。……おもいっきりエロを煽った人だけど。

 

 

 

 

 それはそれとして…マキがまた無茶な事を言い出したんだが、どうしたもんだろうか。

 

 

 別に、労力的には厄介な事じゃない。技術面の問題はあるが、原理を解明しろとか言うならともかく、やるだけだったらそう難しくはない…と思う。

 何を言い出したかって?

 

 

 戦車にアラガミ素材を組み込めないか、なんて言い出したんだよ。アラガミの体は、アラガミ以外からは基本的に傷を受けない。もしも装甲に転用できれば、或いは何かの部品に使えれば、そこだけとは言え絶対壊れない戦車が出来上がる。

 しかも何が面倒くさいって、俺の体から素材を切り取る事を考えてるんだよ。

 そりゃ言ってる事はわかるよ? ミキが大人ボディになったとしても、切り取れるのは精々、髪とか爪だけだ。俺の体なら、鎧のようになっているボディを自力で切り落とす事が出来る。取得できる量が段違いだ。

 ダメージも…全くないとは言わないが、あんまり大きく切り落とさなければ痛みは我慢できるし、再生だって出来る。一々大型モンスターを狩らなくても、俺の手でちょっと自傷すれば、簡単に素材が手に入る。

 

 つっても流石によぉ…。生刀生弓みたいな、自傷を伴う攻撃程度なら、乙る寸前まで高笑いしてドライバーズハイ(神曲だと思う)になりながら極限まで続けられるけど、敵も居ないのに自分にダメージ与えるのはなぁ…。

 とりあえず、伸びた爪とブレードをちょっと切り落として、コレを有効活用する手段を見つけてみせろ、と言っておいた。

 

 

 

 

「言質は取ったぞ」と言われ、本当に何かしらの手段を見つけたら、嫌でも素材提供させられる予感がしたが。

 

 

 ……色々と不安は残るが、とりあえずウェストライブ領での問題は…俺が関わるべき問題は、一通り解決したと言っていいだろう。…女性関係の問題? 俺が今まで、一度でもそれを解決した事があったか? 放置しておいただろう? ならそれは、俺が関わるべき問題では……ないっつたら普通にクズだな…。

 まぁ、修羅場にならない程度に解決したから問題ないって事で。

 実際、ミキは精神的(と言うかベッドの上での立場的)に色々優位に立った為か、シキに物申すのも躊躇いが無くなり、遠慮のない親子関係を築いているとも言えるしな。異常な親子関係(+男関係)ではあるが、言いたい事も言えない親子よりはずっとマシだろう。…マシだよな? マシだといいなぁ。マシだっつってんだろ!

 

 

 

 

 …で、そうなると、俺がウェストライブ領に留まる理由はない訳だ。親子丼+付喪神の体をもっと貪りたくはあるが、フロンティアの皆をあまり待たせるのもよろしくない。

 ミキはシキ同伴でフロンティアに戻る事もほぼ決まっているし、マキの依頼である戦車の素材も集めねばならない。除く、俺のアラガミ素材。

 シキがここから一時的にでも居なくなって、ウェストライブ領がどうなるかという不安はあるが……領主が休暇もとれない運営をしていたなら、それはそれで問題があるな。だがどっちにしろ、それはシキが考えるべき事だ。

 

 

 

 

 …と言う訳で、明日にはフロンティアに戻るわ、マキ。

 

 

「そうか。…君のおかげ…と言うべきなのか、君のせい…というべきなのかよく分からんが、とりあえずミキの問題が解決した事には礼を言おう。父親への幻想が木っ端微塵だが」

 

 

 格好いいから父親じゃないのよ。格好悪い事でも、子供達や家族の為に耐えて、出来る事をやってっから父親なのよ。

 …ま、その出来る事をやる前に別れちまった以上、何も残ってないだろうけどな…。

 

 

「私としても、物心ついた頃には父親が居なかったから、そうダメージがある訳でもないが。しかし、ミキの様子を見る為に、お母様がフロンティアに行くとはな…。あまり長期滞在という訳ではなさそうだが、その間は私が領主代理か」

 

 

 あれ、そんな話になってたの? マキが領主代理…順列的に考えれば、おかしくないか。

 ちゃんと運営できるかのテストも兼ねてるのかな。

 

 

「それはあるだろうな。私も今まで色々勉強したし、実践もしてきたが、一つの仕事をこなすのではなく、領主としての責を負うのは全く違った事だ。登竜門と思って、力を尽くすさ。…それに、領主にばかり仕事が集中するのも問題だしな…その辺の改革も進めていかねば」

 

 

 そーか、まぁ頑張れよお姉ちゃん。このままミキと二人で上手く上達できれば、ハンターの妹を力の限りに支援する姉という、中々イイ構図が出来上がるぞ。

 しかし……なんだな、今更だが…。

 ミキの事について黙ってたのは、割と真面目に申し訳ない。

 

 

「割とという時点でどうかと思うが、今回は色々な意味で特殊だった事は理解している。その上で、私とミキの橋渡しをしようとした事もな。…感謝している」

 

 

 …表情を変えずに言ってるのに、妙に威力高いなこの子。と言うか、結果的にミキとシキの橋渡しをした手段を考えると、素直にその感謝を受け取れない。……いいスパイスにはなるけどね!

 なんて事を考えていたら、マキが妙に近付いていた。

 

 

「だから、これはその礼だ。…妙な勘違いをするな」

 

 

 顔を手で固定される。何か言う前に、マキは爪先立ちになって、俺との隙間を埋めていた。一瞬、ではなかったと思う。少なくとも、唇の感触を堪能する時間はあった。いつものように淫靡な口技で反撃する暇はなかったが。

 唇を合わせるだけの、初心なキス。落ち着いた様子でマキは踵を卸し、顔を離した。

 

 

「ファーストキスだ。光栄に思えよ」

 

 

 予想外の行為に停止した俺を後目に、落ち着いた様子で振り返って行ってしまった。……あ、角を曲がった後にコケた音。

 

 何と言うか……予想外だったなぁ…。確かに、マキを口説くようなセリフを言った事はあるが、それで好感度が高くなったんだろうか? あの時は「前向きに考えるとしよう」みたいな事を言ってたが、ガチで口説かれていると思ったとか? 冗談で口説かれるような環境に居た訳じゃないだろうが。

 どうしよう…。

 

 

 

 …差し当たり、今夜あたりシキとミキに相談してみっかな。今夜は二人係でのフェラとかパイズリとか、ご奉仕を仕込む予定だったし。

 

 

 

 

NTD3DS月

 

 フロンティアに戻ってきました。ミキも一緒だ。だがシキは一緒ではない。シキは幾つかの手続きや引継ぎを済ませてから、こっちに来る予定である。

 マキとは……まぁ、表面上は何もなかったよ。意識してかしなくてもか、マキは見送りの時にも平然としていた。フロンティアに行った解きにまた話をしよう、と言われたが…。………ちなみに、マキの隣にいるシキと、俺の隣に居るミキは、股の間に白くてネバネバしたのをたっぷり詰め込んでおりました。

 

 フロンティアまでの道程は…まぁ、平和だったよ。馬車を操りながら、膝の上に座ったミキにセクハラ(悦んでたけど)ができる程度には。

 到着したのはもう夜だったので、ミキがパンツァー猟団の元に戻るのは明日と言う事になる。今日は俺のマイルームに泊まる事になった。

 

 

 

 つまりは、他の竿姉妹達へのお披露目と言う訳だ。ミキもそれは予想していたのか、随分ドキドキ(実際にはムラムラだろうけど)していたらしい。夜が近づくにつれ、どんどん女達が俺の部屋に訪れてくるのを見て、その人数に呆れていた。

 が、徐々に顔が引きつって来た。別に、俺のあまりの無節操さに怒りを抱いた…訳ではない。じゃあ、何に引き攣っていたかと言うと……女性達のレベルの高さっつーか、美人さっていうかね?

 ミキも可愛さなら負けてないとは思うけど、流石に年齢が年齢だし、スリーサイズやセクシーさで一歩も二歩も遅れをとってしまうのは仕方ない。それで差別するような事はしないが(娘扱いという、ある意味特別な立場だし)、幼いながらも女の意地に目覚めたのか、何とか見劣りしないようになりたいと考えた。

 

 …普通、一朝一夕で大人の女性の妖艶さや落ち着きを身に着けたりする事はできないが……ミキの場合は例外である。アラガミ化する事によって、体だけは大人ボディに早変わりだ。

 中身は甘えん坊の、まだまだガキンチョと言ってもいい子供なんだけどな。

 

 …カラダだけオトナ(と言うかセックス特化ボディ)の子供に、ガンガン生中出し…か。エロゲかヌキゲー、バカゲーのタイトルだなコリャ。

 

 

 

 まぁ、ミキはまだ自力でアラガミ化を制御できてる訳じゃないんで、皆に見られながら俺と交わって、ようやく変化できた訳ですが。娘を公衆の面前で犯して大人の体にするとか、すごく滾りました。

 大人になったミキの体は同性でもついつい目を奪われてしまうような、セックスアピールの塊みたいだ。まったく、こんなけしからん娘は、パパがしっかり躾けて管理しておかないと。

 ミキも大勢の目で視姦されたり、大勢に弄られたりする悦びを覚えたようだし、万々歳ですな。

 

 

 

 

 

 ただ、問題が一つ起きてしまった。夜の間は問題なかったんだが、朝と言うか昼がな…。ミキのアラガミ化が解けない。

 いや、理由は分かってるし、解決方法もあるから深刻ではないんだけど。要するに、オカルト版真言立川流の効果で、過剰なリンクバースト状態になっているだけだ。詰め込まれたエネルギーが多すぎて、アラガミ細胞が活性化しまくっている。侵蝕は…問題ないようだ。そういう効果を込めてヤッたしね。

 オカルト版真言立川流の効果もいつまでも続くものではないし、徐々にエネルギーが切れてカラッケツになるだろう。

 

 

「ふぅん、じゃあこの子は時間が経てば元に戻るのね」

 

「ご、ご心配をおかけします…」

 

「気にするな。と言うより、元凶はホイホイ手を出しまくるこの男だろう」

 

 

 そういう事だな。まー真面目な話、ミキが色々と厄介な状況だって言うのは理解してくれたと思う。ミーシャ達もケモミミが生えるようになったりしたけど、体ごと変化はしてないだろ?

 

 

「正直、どっちもどっちな気がするよー。でもミキちゃん、今日は自分の猟団に帰るんだよね? 大丈夫かな」

 

「あ、それは大丈夫です。私の体の事も、猟団の皆は知ってますから。…いきなりこうなるのは予想外でしょうけど、信じてもらえると思います」

 

「普通は下手な替え玉だと思われるでしょうね」

 

「或いは、未来から来たミキちゃんって話になるかも。どっちにしろぶっ飛んだ話ね。フロンティアでもそうそう無い………わよね?」

 

 

 どうだろうなー。ある意味未来から来た俺がここに居るしなー。

 まぁそれはともかく、俺が居ない間、何かおかしな事とか無かったか?

 

 

 

「そういうのは猟団のメンバーから聞くものだぞ」

 

 

 そっちは帰って来た時に、もう確認した。デンナーとコーヅィが纏め役として優秀過ぎる。俺の居場所が無いでごわす…。自業自得だからしゃーないけど。

 何かないかってのは、もっと広い範囲での話だ。おかしなモンスターが出たとかさ…。

 

 

「フロンティアでは日常茶飯事だな。いつ何が飛び出してきてもおかしくない」

 

「それはそうだけど……ああ、一つあったわ。明らかにおかしいって事じゃないけど」

 

 

 ? 何ぞ?

 

 

「猟団ラサマのシトサ。知り合いだったよね?」

 

 

 ああ、そうだな。何だ、遂に昇格か? 前から話は来てたって言ってたが。

 

 

「…昇格もしたんだけど………一昨日、正体不明のモンスターに襲われて重体だって」

 

 

 



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290話

前回は感想を催促したようで申し訳ないです…。

今後気になるゲーム…。
世界樹の不思議なダンジョン2。(購入ほぼ確定)
仁王のDLC第三段。
アサシンクリード新作(10月)
EDF5(発売日17年中の予定)

出ないかなーと思ってるゲーム。
新作ダクソ。
新作龍が如く(時代劇版)
ゴッドイーター新作(情報多少あり)


現状じゃこんなものかなぁ…。


NTD3DS月

 

 

 ミキをパンツァー猟団に届けるついでに、猟団ラサマに寄っていく。

 大人ボディになって戻って来たミキが、色々な意味でモミクチャにされていたが、まぁ仲間同士のスキンシップだろう。主に聞かれていたのは、実家とどうなったかではなく、成長の秘訣だし。無論、肉体的な意味で。

 まぁ、そっちはそっちで語ってくれ。パパであっても、娘の交友関係にまで口は突っ込めん。…娘に突っ込みはするけども。

 

 

 下ネタ親父ジョークはともかくとして、猟団ラサマは意外と動揺してないようだ。面会を求めた時の、キッチリした対応からもそれは予測できる。

 トップが叩き上げだけあって、こういった場合の対応も叩き込まれているんだろう。ウチも見習わないと…とは思うが、そっち方面はデンナーとコーヅィに丸投げしてんだよな…。なんかもう、俺って猟団長と言うよりは、スポンサーになってないか?

 

 さて、それはそれとして…。

 猟団部屋の奥に案内され、部屋に入って見えたのは、体のあちこちが白くなったシトサだった。…包帯塗れ、か。

 

 

 よう、シトサ。…思ったより重症だな。

 

 

「なんだ、笑いにでも来たのか? …これでも軽い方でな。お前んとこの二人が居なかったら、確実にあの世行だったぜ」

 

 

 俺のところの…?

 

 

「聞いてないのかよ。…いや、俺が頼んだんだったか。瀕死だった俺を、あの二人が治してくれたんだよ。…なんつったか…ほら、お前が使ってる妙な力だ」

 

 

 タマフリか…。まぁ、役に立ったなら何よりだ。つーか黙っててくれって言われたとしても、報告くらいしろよあいつら…。

 

 

「お前がしっかり手綱を取ってないのが悪いね。…つか、本当に何しにきやがった」

 

 

 ひっでぇ言いぐさ。一度は背中を預けて戦った仲だろーが。重体になったって言われて、気にしておかしいかよ。

 と言うか、一体何があった? お前がこんだけ傷つく相手と、そうそうカチ合うとは思えん。

 堅実で慎重派だし、石橋を叩いて渡るタイプのお前が。

 

 

「………」

 

 

 昇格の話があった時も、まだ自分は準備不足だって保留にしたろ。昇格したって事は、充分に力がついたと判断したな? お前がその辺を見誤るとは思ってないぞ。

 何かとんでもないモノと遭遇したな。

 

 例えば……鈍重な癖に異様に攻撃力が高くて、どんな攻撃を弾き返す黒い龍…とかな。

 

 

「…知ってんじゃねぇか」

 

 

 ……マジかよ…。いつかは、まさかと思ってたが…。

 

 

「なんなんだ、アイツは? どんな攻撃も通じない。異様に強い力、あのプレッシャー…」

 

 

 俺も実物を見た事は無い。先日…約1か月から2か月ほど前か。あの龍が出現する予兆が立った。それを俺が知ったのは、3日前くらいだ。

 …と言っても、明確な証拠があった訳じゃなくて、推測に推測を重ねて、妄想の領域まで考えて、それでもまさか…って話だったが。

 

 名前は……推測が当たっていれば、という前提で話すが……黒龍・ミラボレアス。

 

 

「ミラボレアス……ん? ミラボレアスってアレか? あっちこっちの伝承に伝わってる、この世に災厄と滅亡をもたらすとされる「伝説の黒龍」か?」

 

 

 そうだな。確か、シュレイド王国を滅ぼした龍って言われてるんだっけ。

 …別にふざけちゃいない。確かに御伽噺としか思われてないけど。

 

 

「…そうであってもおかしくはない、と思う程度には強かったよ。…団員にはこんな事は言えないが…正直に言う。勝てる気がしない」

 

 

 …ゲームでは、タフネスと火力が脅威ではあっても、動き自体は単純で鈍重だった筈…。しかし現実では?

 

 

 …シトサ、侮辱する問に思うかもしれないが、答えてくれ。

 勝てなかったのか? それとも、負けたのか?

 

 

「…勝てなかった、と言いたいが……完全に負けだ」

 

 

 …攻撃が通らないだけなら、シトサはこんな重症にはなってない。動きが鈍重であれば、ハリウッドダイヴも駆使して逃げ切れるだろう。

 攻撃が通らない事は、勝てない理由にはなっても、シトサがこんな深手を負い、負ける理由にはなってない。

 つまり…シトサは黒龍の動きを見切れなかった…。

 

 

 しかし、よく生きて帰れたな…。仕留めた獲物は巣に持ち帰るとか、鎧や武器を体に溶かし込むって話だったが。

 

 

「言いたかないが、眼中になかったんだろうよ。尾…だったと思うが、弾き飛ばされて終わりだった。実際、あのコーヅィとデンナーが通りかからなけりゃそのまま死んでたぜ。ったく、またコーヅィに借りができちまった」

 

 

 妙に嬉しそうに言ってんじゃねぇ。

 ギルドへの報告は?

 

 

「正体不明の黒い龍、としか。…本当にミラボレアスだったとして、素直に信じるとは思えないしな。むしろ、信じる方がどうかしてる。俺だって、本当にミラボレアスかと言われるとな。とんでもないモンスターが、フロンティアを動き回っている…としか」

 

 

 そうだよなぁ。レジェンドラスタ達には個人的に信用を得ているとは思うが、話しても信じてもらえるかどうか…。

 

 

「……おい、まさか俺の仇討ちなんて考えてないだろうな」

 

 

 まさか。行方不明になって完全に死んでるなら、探し出して遺品を持ち帰るくらいしてやろうとは思うが、狩りの間に起きた事だろ。狩ってるんだ、狩られもするさ。相手にしてみりゃ狩るまでもなかったようだが。

 …ただ、俺の考えが的中してりゃ、どっちみちコイツとカチ合うのは確定事項だ。

 下手すると、こいつは俺に引き寄せられてメゼポルタまで来たって事になりかねん。

 

 

「流石にそりゃ自意識過剰だろ。確かにお前は妙な力を使うし、ハンターとしちゃ大したもんだろうが、それだけで伝説のモンスターが寄ってくるような事が………いや、何か因縁があるのか?」

 

 

 分かりやすく言うと、同族的なナニカかもしれない。ついでに言うと、ミラボレアスの鱗を貫ける道具を持ってるかもしれない。

 …まぁ、そうだったとしても、用心する事しかできないけどな。どこにいるのかも分からないし、何処でカチ合うか分かったもんじゃない。

 

 

「そうだな。結局、結論はそうなるか…。しかし、奴に傷をつけられる道具ねぇ…。よくもまぁ、そんな都合のいい物持ってたもんだ。恵まれた才能、特異な力、特別な道具…。お前は何かの物語の主人公でも気取ってんのか」

 

 

 気取りたくて気取ってる訳じゃないわい。毎度毎度、過去の選択や失敗が納豆よりもしつこく後を引いて、それが絡まり合って話が雪崩式に大きくなっていってるだけだっつぅの。

 俺がその道具を手に入れた時だって、ある病気にかかったのが切っ掛けだったんだぞ。克服するまで、何度空腹(と言うかアラガミ化)で発狂した事か…。

 まぁ、その病気には自分から望んで感染したんで、自業自得だけども。ただ、提案した人が実は俺の謀殺を目論んでたと言う…。

 

 

「聞いてるだけで訳が分からん。もうええわ…。まぁ何だ、コーヅィとデンナーには礼を言っておいてくれ。こんな体なもんで、直接行けないんだ」

 

 

りょーかい。お大事にな。まぁ、お前もハンターなんだし、一般人なら再起不能確実にあの世行の状態の今でも、飯食って寝てりゃ治るでしょー。

 幸い、デンナーみたいに再起不能になりそうな怪我は、あいつらが塞いでくれたみたいだし。

 

 そんじゃねー。

 

 

 

 

 …ふぅ、思ったより元気そうで安心したぜ。最初に思ってたよりは重症だったが、ミラボレアスっぽいのと対峙して、精神的にもやられてないようだ。トラウマを負って再起不能、って事も考えられたしな。

 しっかし、とうとう来やがったか…。フロンティアに来た以上、いつかはやりあう事になると思っていたが…色々と想定外のモノが絡んでくるもんだ。予定通りに進んだ事なんぞ、数える程度しかないし、しかもその後決まってもっと厄介になるんだから、今更だけどな。

 

 

 ミラボレアスがこれから襲ってくるとして……メゼポルタ広場に直接カチコミに来るか、俺が一人の時を狙ってくるか、或いはミキを狙うか…。一番厄介なのは最後のだな。

 広場に直接来るなら、大勢のハンターでフルボッコに……いやでも、ゲーム通りの能力しかない訳じゃないよな。伝承が本当だとすれば、メゼポルタ広場を纏めて灰にするくらい朝飯前か。

 

 …そういう状況に備える為に、俺はハンター全体の戦力底上げを考えてたんだよなぁ…。最近はエロにかまけてすっかり忘れてたが。

 では、その効果はどうだったのかと言うと…………まぁ、なんだ、殆ど効果ねーな。いや、全く効果がなかった訳じゃないよ? ウチの猟団の連中の分だけでも、更生していい狩りするようになったんだし。

 

 霊力だって徐々に広まっている。タマフリまで使えるのはレジェンドラスタの中でもフラウくらいだが、それでも力を自覚しただけで色々恩恵はあるようだ。

 ウチの猟団でも、デンナーとコーヅィが教練しており、霊力習得の兆しが見えるのもチラホラ。

 猟団ストライカーを通じて、異能者が集まり、その力の使い方を教え合ったりもしている。

 

 

 …でも、相手が相手だから焼け石に水っぽいんだよなぁ…。考えても仕方ないか。焼石どころかマグマに水であろうと、現状より悪化する事は無いだろう。少なくとも、負傷者に対する治癒の手段は増えているのだし。

 

 

 

 

NTD3DS月

 

 

 ミラボレアス…龍。龍に対する武器と言えば、何だ? いわゆるドラゴンバスター。ドラグンバスター。ドラゴンスレイヤー。アメノハバキリ。ドラグ・スレイブ。

 むぅ……。どれもこの世界では入手できそうにない。いや、飛竜や古龍にも通じそうな武器ならあるんだが、相手がミラボレアスだしな…。

 この世界でミラボレアスにダメージを与えられそうな物と言えば、皆大好き大樽爆弾、撃龍槍、ガンランスの砲撃に…………あ。

 

 

 

「…で、アタシの所に来たのか」

 

 

 そうなんだよレイラっつぁん。

 

 

「まぁ、穿龍棍使いの先輩としては、お前に多少指導してやるくらいは構わんけど…。しかし、ミラボレアスねぇ。実在すんのかな」

 

 

 伝承に謳われるミラボレアスかは知らねーな。そう思えるくらいにヤバい奴が、フロンティアを闊歩してるってだけの事だ。

 遭遇したシトサの話じゃ、攻撃がまるで通らなかったらしい。

 

 

「叩き上げとは言え、上級昇格直後だろ? 装備も辛うじて揃えられた程度だろうに。…しかし、お前がそこまで警戒してるなら、何かはあるのか…」

 

 

 認めてくれてるようで嬉しいよ。

 で、実際どうかな。穿龍棍は、その名の通り黒龍を穿てるか。

 

 

「実在するかも分からない奴に、穿つもクソもないだろ。…と言うのがハンターのアタシの答え。穿龍棍使いのアタシに言わせると……ミラボレアスだろうが、ナバルデウスだろうが関係ねえ。穿龍棍に死角はない!」

 

 

 おおぅ、言い切りやがった…。つー事は、クッソ堅いモンスターにも通じるような必殺技があるのか。

 

 

「…あるにはある。ただ、アタシに使えるのかって言うとな…」

 

 

 ダメじゃん。と言うか、穿龍棍マスターだと思ってたのに、使えない技があったのか…。

 

 

「お師匠様も研究中の技だったからなぁ…。ざっくばらんに言うと、貯めこんだ龍気を流し込んで、それを龍気穿撃で解放する。ここまではお前も出来るな? この時、龍気穿撃じゃなくて、特に威力のある攻撃を連続で、瞬時に叩き込んでその威力を増すんだよ」

 

 

 …他に秘訣があると見たが?

 

 

「あるが、そこまで教えてやんねーよ。大体、瞬時にって言うだけあって、ほぼ同時に叩き込まなきゃならないんだぜ? コンマ一秒の誤差もなく、正確にポイントを見定めてだ」

 

 

 ん~……アレかな。3方から同時に衝撃を叩き込んで、一点で交差させる事によって威力を高めるとか、そういう技かな。何かの格闘漫画にあった気がする。

 ……なぁ、それって……お前も、師匠も、一人でやろうとしてたのか?

 

 

「ん? 当たり前だろ」

 

 

 …実験としてでも、複数人で試したりは?

 

 

「しなかったな。言いたい事は分かるよ。2~3人でターゲットを囲んで、同時に着弾するように攻撃すればいいってんだろ? それ、ハッキリ言うけど一人でやろうとするより難しいぞ。たった二人での攻撃でさえ、文字通り同時に直撃させるなんて、どんだけ難しいと思ってんだよ」

 

 

 そうかぁ? 一人で同時にやろうとするより、コンビネーションでやった方がやりやすいと思うがな。どっちにしろ、難易度クッソ高いけど。

 …考えてみりゃ、レイラと同等に穿龍棍を使える奴なんて、まず居ないか。

 

 

「そうだな。テスターも何人か見かけたが、その中でもお前は使えてる方だ。使いこなせてるとは、とても言えないが」

 

 

 精進しろって事ね。

 それは置いといて、現状じゃ通じそうな技はないか…。

 

 

「おい、勝手に結論出してんじゃねえ。死角は無いって言っただろうが。…いいぜ、この所、レジェンドラスタとしての仕事も無くなってヒマだったんだ。そのミラボレアスっぽい黒龍、アタシも探してやるよ」

 

 

 いいのか? というか、レジェンドラスタの仕事が無いって何だよ。まさか、止めちまったのか?

 

 

「そういう訳じゃないんだが、何故か依頼が来なくてね。…何も悪い事してないよな、アタシ…」

 

 

 少なくとも、俺がされた覚えはないが。蹴っ飛ばされるくらいならあったけど、あれは下ネタへの反撃だったし、そもそもその手の問題行動で言えば他のレジェンドラスタ達の方が…。

 ………いや待て、ひょっとして問題が無さすぎて不気味に思われてるんじゃないか? レジェンドラスタが、こんなにマトモな筈がない。どっかに罠がある筈だ。…別に服装は問題にされてないよな?

 

 

「どうしろってんだよ!? はぁ…まぁいいか。元々、乗り気だった訳でもないし。情報が入ってこないなら、その分働いてやる理由もない」

 

 

 そんな事言ってると、サボッてると見做されて、情報持ってこないかもしれないぞ。

 とりあえず、ミラボレアス探して歩き回ってみるとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 つー訳で、シトサがミラボレアスと遭遇したと思しき地点までやってきた。

 シトサが上げた報告に、ギルドも警戒しているのか、何人かのハンターが調査に来ていたようだ。しかし…。

 

 

「…なんだコリャ。居るのか居ないのか…」

 

 

 妙な痕跡だな。確かに何らかのモンスターの痕跡だが…シトサから聞いた風体とは、大分違う奴の痕跡のような。ミラボレアスじゃないのか…?

 しかも、途中で痕跡が無くなってるし。飛んだ…にしては、やっぱり風圧の跡も無い。

 

 

「…妙な動きしてやがるな…。まるで摺り足みたいだ」

 

 

 摺り足? 摺り足って、武術とかのジリジリ動くあの摺り足? …言われてみれば、その後に見えなくも無いが…四足歩行ドラゴンが摺り足…?

 

 

「あんまり真面目に受け取るな。そんな気がしたってだけだ。…で、仮にこっちに真っ直ぐ進んで飛んだとしたら…この先には、何も無いな」

 

 

 メゼポルタ広場も無いな。何か餌でも見つけたのか、それとも住処に帰る事に………ん? 餌? ターゲット? 俺じゃないとすると……ミキ!

 ヤバイ、あっちのメゼポルタ広場が危ないかもしれん!

 

 

「…何だってんだ、一体?」

 

 

 お前がイナガミとやらを探してるように、俺にも色々因縁があるんだよ! すまんが、もうちょっと付き合ってくれ! 3軒隣のメゼポルタ広場まで突っ切るぞ、鬼疾風使うから手ェ掴むからな!

 

 

「ちょっ、おい!?」

 

 

 返事も聞かず、レイラの腕を鷲掴みにして走り出す。

 考えてみれば、真っ先に確認しておくべき事だった! もしも奴が同族を探しているなら、俺かミキかのどちらかを追う。俺にカチ合わないって事は、ミキに狙いを定めたって事かも…!

 

 最悪、メゼポルタ広場が一つ滅びてもミキを逃がす覚悟を決める。

 

 

 

 

 

 が、到着した広場は平和なものだった。いつも通り、ハンターで賑わっている。

 …空振りか?

 

 

「…おい、いつまで掴んでるんだ。ったく…。何だ、ここに何かあるのか?」

 

 

 あるじゃなくて、居るんだ。ミラボレアスモドキのターゲットが、ここに居る知人かもしれん。もうアラガミ化も解けてる頃合いだと思うが…。

 …とにかく会いに行ってみるか。パンツァー猟団の猟団部屋は、確か広場の外れの方だったな。新入りはいい場所にありつけないって、アンズ嬢ちゃんがボヤいていたのを覚えている。

 

 

「猟団、ねぇ…。アタシには縁が無いもんだな。ずっとソロでやってきたし」

 

 

 そういうハンターも珍しくないわな。ま、結構いいもんだぞ。個々の力が足りなくても、出来る事を合わせていけば選択肢は増える。

 …何より、祭りに参加できるからな! 俺、まだした事ないけど。

 

 

「ああ、入魂祭って奴か。随分と盛り上がるらしいが、アタシもちょっと興味あるな。参加する気はないけど。…ここが猟団部屋って奴か…」

 

 

 パンツァー猟団の部屋に到着し、面会を請う。何だかんだで顔見知りだし、ミキをしっかりフロンティアから連れ帰ってきて、それなりの恩も売ってる(それ以上にややこしくしていると言われると反論の仕様も無いが)から、あっさり面会できるだろうと思っていた。ミキも俺に好意的と言うかパパ扱いというか、普通にパパ扱いならちょっとヤバイくらいに親密な関係だし。そして実際、あっさり会えたんだが…。

 

 ……あ、あのー……確か、ミミ…だっけ? 何をブツブツ言っておるのん?

 

 

「……いや…何でもない……シハノマルワタシハノマルワタシハノマルワタシハノ……」

 

「…何だこいつ…」

 

 

 猟団の客室に案内した後、お茶を出してフラフラと歩いて行ってしまった。茶は苦いけど、茶柱は5本立ってた。

 前に会った時は、もっとまともだったぞ。ちょっと攻撃的な節はあったけど。

 なんつぅか………猟団が妙な雰囲気だな。皆俯いて、偶に頭を自分でガンガン殴ってるのも居るし。顔を傷つけないのは嗜みかな。

 

 

「猟団ってのは、いつから精神病院になったんだ? …猟団に入りたがる奴らの気がしれないぜ…」

 

 

 普通はこうじゃねーんだよ。と言うか、まさかミキまでこうなのか? 娘みたいな子がこのありさまとかちょっと見過ごせんな。

 ミキ……はまだ来ないな。本当に何かあったのか? アキャマ殿でも通りかかってくれないかな。こう、髪の毛モジャモジャの女の子なんだけど。

 

 

「…あいつか?」

 

 

 …タイムリー。おい、アキャマ殿アキャマ殿。こりゃ一体何事だ。この猟団に何が起こった。と言うかミキは無事なのか?

 

 

「ミキ殿…ミキ殿ぉぉぉ…! ああ、自分は自分は……! なぜあのような事をッ…! 合わせる顔がないでありますぅぅぅぅぅ……」

 

「…? よく分からんが、こいつ…か、或いはこいつらが、そのミキって奴に寄ってたかって何かしたってのか?」

 

 

 そんな子達じゃないと思うぞ。絆の強さで言えば、俺が見てきた中でも有数のもんだ。何せ、この前出現したアカムトルムに襲われて、誰一人パニックになる事なく、全員で生きて帰ったくらいだし。まぁアカムトルム自体を斬ったのは俺だけど、氷炎結界呪法の塔を壊したのは腹括って隠密したこいつらだったんだよなぁ…。将来有望すぎるわ。

 

 

「あれ、こいつらとお前だったのか…。んじゃ、何でこうなってると?」

 

 

 さぁ…あ、ミキの気配。………アラガミ状態?

 

 

「パパ、お待たせ!」

 

 

 眩しいッ!

 

 

「なんか禍々しい眩しさが!?」

 

 

 微妙に感想が違うけど、バン、と扉を開けて「ここがパパのいる部屋ね!」と言わんばかりに突入してきたミキの満面の笑みに目を逸らす。

 と言うか、マジでキラキラ状態なんですけどこの娘(肉体関係あり)。

 

 

「…? パパ、どうしたの?」

 

 

 いや、ちょっとミキが可愛すぎて生きるのが辛くてな。逆に嬉しいけど、これがM心…?

 それはともかく、なんか妙なモンスターに襲われたりしてないか? シャレにならんのがこの辺をうろついてるっぽくて、心配で顔を見に来たんだが。

 

 

「そうだったんだ。大丈夫だよ。最近は、専ら訓練所で基礎からやり直してて、狩場には出てないし」

 

 

 狩場じゃなくてもあっちから襲来してきそうでなぁ…。

 しかし、そうならこの惨状は何ぞ? 

 

 

「惨状って?」

 

「いやだから…どう見ても皆揃って落ち込んでるだろ。むしろお前の輝かんばかりの笑みが不気味に思えてくるくらいに」

 

「失礼な…。……? えっと、パパ、この人は?」

 

 

 新米レジェンドラスタのレイラさんだ。さっき言ったシャレにならん奴とやり合うのに、手助けを申し出てくれた。ちなみに例の(つまり肉欲の)関係は無い。

 

 

「あ、そうなんだ…。パパが迷惑かけてます」

 

「あー……なんだその、そんな迷惑はかけられてないぞ。…すまん、こういう…シャコウジレイ、ってのか? そういうのとは縁が無い生活を送って来たんで…。と言うかパパってお前まさか子持ち…」

 

 

 流石に血は繋がってねーよ。

 

 

「お構いなく。私もそういうの、あんまり得意じゃないんで…。えーと、それで、何でしたっけ? みんなに何があったのか?」

 

 

 ああ。ミミだって妙な呟きを延々と繰り返してたしアキャマ殿だって錯乱してるし。ナニコレ、SAN値直葬なの? 集団ヒステリーやB級ホラーパニックの前兆なの?

 

 

「よく分からないけど……皆には何事もなかったと思うよ? どっちかと言うと、私があったと言うか、皆は何かした方と言うか、その結果コレと言うか…」

 

 

 ……惨状自体は認識してんのな…。

 で? 結局何よ? 前に見てから、一週間も経ってないぞ。確かあの時は、戻ってきたミキの変わりように驚いて、どうやったらいきなりそんなに育つのか一斉に問い詰められてたと思うが。

 

 

 

「あー……そのー…」

 

「? ああ、私が聞いたらまずい話なら、席を外そうか?」

 

「お願いします…。流石にこれを他人に聞かせるのは、色々と問題があるんで」

 

 

 特に深入りするつもりもなかったのか、あっさりと部屋の外に出る。その辺をちょっとブラついてくる、と言っていたので、猟団部屋の外まで行くのだろう。…まぁ、辛気臭いもんな…。

 ミキ、それで何があった? アラガミ化も、もう解けてる頃だと思ってたんだが。

 

 

「うん、なんていうか……猟団に戻ってきて、皆に集られてたのは知ってるよね? 何でいきなり大きくなってるのか、って」

 

 

 ああ、そこまでは見てた。当然の反応ではあるな。ちゃんと信じてもらえたようで何よりだが。

 

 

「おっぱいが本物なのかー、とかウェスト細いー、とか色々されてる内に、みんな段々ヘンな気分になってきちゃったみたいで」

 

 

 おい、まさか…。

 

 

「お風呂あがりにジャレてる時に……みんなに抱き着かれて、そのまま」

 

 

 百合ん百合んに突入しちゃった訳か。

 

 

「いーや、ミキのアレは違う! 私らがやらかしちゃったのは確かだけど、ミキのアレはなんか違う!」

 

 

 おや、アンズ嬢ちゃん。……お前もミキを襲った訳か。

 

 

「それについては釈明の余地も無いけど、アンタだってミキに手を出して…いやそれは置いといて。ミキを襲っておいてなんだけど、あれは百合じゃない。なんていうか………もっとねちっこい…そう、レズだ!」

 

「そこ主張するんですか団長…」

 

「主張もするよ! 私らに体を拘束されても平然としてるし、むしろなんか淫靡に笑うし、いつの間にか抜け出して、逆に女王様みたいに私らを傅かせてねっちょりと……ああぁぁ…」

 

 

 ……………。

 

 

「………てへ」

 

 

 デコピンッ!

 

 

「あうっ!」

 

 

 血の繋がりもないのに、血筋を感じさせるような事しやがって…。と言うか、その時にエネルギーを吸い取ってアラガミ化…或いはバースト状態の燃料にしたな。素でオカルト版真言立川流みたいな事してやがる…。

 つーかコレ、多分体に精神が引っ張られてるな。思考回路がエロに全振りされてると言うか、インモラルな事にも躊躇いが無くなっている。

 最後までヤッちゃった?

 

 

「純潔は無事だったよ。襲い掛かった私らが悪いんだけどさ…。ていうか、ソレ用の道具があったら、きっと今頃…」

 

「それは大丈夫だと思いますよ。…まぁ、どっちにしろ、猟団メンバー全員が一晩でこうなっちゃった訳で…」

 

 

 心ならずも、女同士に足を突っ込んで、自分は同性愛者じゃないと言い聞かせてるのか。

 正直、無理もないとは思うけどなー。アラガミ状態のミキってフェロモンむんむんで、その辺を歩くだけで襲われるんじゃないかって真面目に心配だったし。

 

 と言うか、変化の切っ掛けが切っ掛けだったからな…。俺とキヨさんのナニ見て変化して、そういう事に特化した体になってる…。そりゃウブなネンネが妙な気分になったり、くっついただけで媚薬飲んだような状態になっても無理ねぇわ。

 

 

「…やっぱり普通の現象じゃなかったか。触り合ってる間に変な気分や雰囲気になって来た、って事は時々あるし、狩りで昂った後に…って話は聞いた事があるけど、皆が一斉にだもんね」

 

 

 フェロモンって基本ニオイだし、毒や鱗粉による状態異常と考えれば、ハンターなら無効化できるんじゃないか? 俺は試した事ないから、保証できんけど。試す気もないけど。むしろ自分からかかりに行くけど。

 

 

「パパはかからなくても、常時状態異常だよね!」

 

 

 お前がゆーな、ムッスメ。今現在、その状態異常を振りまいてるのはお前だ。

 と言うかアキャマ殿とか大丈夫か? あの子がミキに何かしたとしたら、切腹くらいしそうなもんだが。

 

 

「別に、私はそんなに嫌な事されてないんだけどね。最初は押し倒されたけど、結局みんなすぐに大人しくなって、私の言う事ちゃんと聞いてくれたし」

 

 

 あー…奴隷を侍らせてる女王様的な? 或いはペット? アキャマ殿のバター犬とか似合いそうだな。

 

 

「…足を組んで座ったミキの爪先を舐めてたのは覚えてる。膝の上でニャンコ可愛がりされてたのが居たけど、そっちが誰だったかは覚えてない。指先一つでビクンビクンさせられて、それどころじゃなかったし」

 

 

 …素質たっぷりですこと。アラガミ化のおかげで、全身が性器と言うか大人のオモチャ状態だもんなぁ…。もっとも、このオモチャは意思を持っていて、大人の方をオモチャにしようとするようだが。

 

 

「やだなー、パパ以外にそんな事しないよ。今回のは、皆が私をオモチャにして遊んだら、気持ちよすぎて自滅しちゃったって事じゃない?」

 

「実家に戻る前の、ちょっと引っ込み思案で常識的なミキはどこへッ…!」

 

 

 家族と和解した切っ掛けが切っ掛けだったし、こっち方面に振り切っちまったんだろう。二日目の夜なんぞ、俺と一緒に玩具使って母親を抉ってたし。マザー〇ァッカーだよコイツ。

 とっくに察してると思うが、俺が大人にしちゃった。色んな意味でぶっ飛んだ状況で。

 

 

「とっくに分かってるよ…。まぁ、パパって呼んでても血縁者じゃないし、ミキ本人が幸せなら何も言わないけどさ…。私らだってやらかしたんだし。しかも、ミキのお母さんって事は、領主様って事で………そっち方面にはノータッチにするよ。巻き込まれるのはゴメンだ」

 

 

 それがいい。

 で、話を戻すが、ミキ。最近、何かに見られたり狙われたりしてる覚えはないか? 人間じゃなくてモンスター…いや、人間も含めてか。

 

 

「? 特にないけど……何かあったの?」

 

 

 とんでもないモンスターが、近くをウロついてる可能性がある。そいつは…まだ確証はないが、俺とお前に関係がある奴だ。

 俺の考えが正しければ、そいつはアラガミの一種だと思う。

 

 

「アラガミって、ミキの体が変化しようとしている奴? でもそれ、出現するには特殊な条件がそろわないといけなくて、それが何十年も先って言ってなかった?」

 

 

 そうだな。俺の知らない条件があるのか、それともずっと前に出現したヤツの生き残りか。俺が言ってた事が全くの出鱈目、だったのかもしれん。

 アラガミは特殊なモンスターだと思ってくれればいい。同じアラガミ以外の攻撃は通さない。…全くの効果なしって訳じゃないと思うけどな。

 (ミキがウェストライブから持ち出したかもしれないナニカが原因で出現した…と言うのは伝えない方がいいな。確信は無いし、余計な責任背負いこみそうだ)

 

 あっちにしてみりゃ、数少ない同族だ。もしかしたら接触しようとしてくるかもしれん。

 

 

「…友好的に?」

 

 

 望みは薄いな。もしそうなったら、何でもいいからとにかく逃げろ。G級昇格直後の、叩き上げのハンターですら重傷を負った。お前らじゃまず生き残れん。この前のウカムトルム以上のバケモノだと思えよ。

 …話したい事はそれだけだ。いや、親子の触れ合いがしたくないって訳じゃないんだが、レイラに付き合ってもらってそいつを探してるんでな。

 時間を取って貰っておいて悪いが、俺はもう行くよ。

 

 

「うん。またね、パパ。……あ、そうだ、ちょっと来て」

 

 

 ミキは俺を部屋の隅っこに引っ張り込むと、屈ませて耳元で囁くように話す。鼻息がくすぐったい。変な気分になってくるが、これ確信犯かな。

 

 

「あのね…このまま皆、パパにプレゼントする、おちんぽケースにしちゃうから。優しく扱ってあげてね?」

 

 

 ……確信犯だな。体が元に戻った時に、自分の行動を顧みてショックを受けなきゃいいんだが。

 おっそろしい事を言い出したムッスメを止める勇気も、その気もなく、俺は猟団部屋を後にした。

 



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291話

特に意味はありませんが、キーボードとマウスをブルートゥースにしてみました。
…机の上がちょっと片付いた気になったけど、代わりに使い慣れたキーボードとの差があるなぁ…。
何よりマウスが安定しない。設定を弄って、自動オフは無効にしましたが、どうも動きが…。マットが悪いのかな…長く使ってる奴だしなぁ。


世界樹の不思議なダンジョン2プレイ中。
うむ、勝手が違うな…。毎日エアロバイク漕ぎながらプレイします。

金策必須だろうと思って初期からファーマー入れてますが、そこまで必要なかったか…?
迷宮版と違って、ファーマー無しでも金策が楽だなぁ。


NTD3DS月

 

 

 レイラに付き合ってもらったまま、ミラボレアス探し2日目。確かに何か居る。それはレイラにも異論はない。

 特に何がある、アラガミやら霊力やらの残滓が残っている…と言う訳でもないのに、レイラをして『背筋が冷える』と言わしめる何かがある。

 

 正直、俺も時々だが視線を感じる事がある。だがそこには何もない…いや、単なるランポスなら数匹居たが、近付くなりさっさと逃げてしまった。

 

 

「何か居るのは確かなんだがな。背筋もピリピリするし、気味が悪くなってきた」

 

 

 同感。しかし、こういう物かもしれんな。相手が本当にミラボレアスか、それに類するものなら、何百年も前から人間に見つからずにずっと生きてきた事になる。姿を消すのもお手の物…か?

 

 

「そりゃ単に、人の生存圏に近付かなかっただけだろ。世の中、人が踏み込んでない場所がどれだけあるやら…。何が湧き出てもおかしくない」

 

 

 或いは、普段はオオナヅチみたいに姿を消しているか………オオナヅチ?

 姿を消して………?

 

 

「ていうか、アレだな。案外、バサルモスみたいに擬態でもしてんじゃないか?」

 

 

 擬態……擬態…………変身!?

 

 ちょっと待てよ? 考えてみりゃ、おかしくないか?

 仮にミラボレアスの元になる『何か』が、ジエン・モーランから採れたアレと同じものだと仮定して…あの時の紅玉は、人を操り、モンスターに喰われて体内に侵入し、また次のモンスターへ…という風に、どんどん宿主を変えていった。(と思われる。検証できてねーんだよな)

 つまり、元になる個体が必要だったって事だ。

 アラガミに変える、という現象があの時のモンスターには起こってなかったと思うが…。

 

 そう、元となる個体…素体が必要なんだ。アラガミ細胞なら、ゼロ…と言うか一つの細胞が他の何かを取り込んで、どんどん増殖してもおかしくないが、流石に一月二月程度では……あ、でもアラガミはあっという間に世界に溢れたんだっけ。

 ……穴だらけの、推測とも言えない妄想だが…。

 

 もしも、普段はただのモンスターで、いざと言う時、或いは何らかの条件が揃った時にだけ、ミラボレアスとしての姿になるとしたら?

 

 

 

 さっきから感じる視線の正体は…!

 

 

 

 …レイラ、方針変更だ。さっきから感じる視線の主、徹底的に探し出す。

 

 

「あん? …ま、依頼って事にしておくが……これ、人間だぞ」

 

 

 

 ………うぇい?

 

 

「穿龍棍を扱う上で、対人間用に練られた武術も収めてるんでな。それで分かるんだが、人間の視線とモンスターの視線は感触が違うのさ。どこがどうって言われると困るが。かなり遠くから見てる。双眼鏡か何か使ってるんだろ。視線はともかく、寒気の原因は多分コレじゃないな。………お、遠くで反射光。あの辺だな」

 

 

 えらい遠い丘の上だな。うーむ、そんじゃ関係ないか?

 いやでも、多分この寒気の原因は近くにいる。

 

 

「…そこは同感だな。それに、自分で言い出して自画自賛するようで何だが、擬態ってのはいい線行ってる気がする。さて何に化けてるのか…」

 

 

 …一日中歩き回るも、手掛かり無く終了。

 

 

 

 

NTD3DS月

 

 ここまで来ると、協力者は普通、「いったんここまで。手掛かり見つけたらまた呼んでくれ」みたいになりそうなもんだが、レイラは逆にムキになったようだ。

 何が何でも見つけ出す、と息巻いている。自他共に認める、頭を使うのは苦手な人種なんで、探索方針や見つけ方は俺に丸投げしてるけども。…まぁ、レジェンドラスタって基本そういうもんよね。どんだけ強くても、行動は雇い主がメインと言うか。

 

 しかし、なんだろなぁ…。近くに居るのに見つからない。一方的にこっちは監視されている(ような気がする)。

 …一番手っ取り早いのは、囮? 俺かミキ、或いは両方を餌にして釣り出すか。…ミキを危険に晒すのは気が進まんが…俺が餌やってる間に、ミキに向かう事も考えれば、一緒に行動した方がいいか?

 いや、万一ミキが戦いに巻き込まれたら…はっきり言って勝ち目は無くなる。将来はともかく、今はまだ足手纏いにしかならないだろう。

 

 

 

 

 それにしても…なんだろ、何か一つ見落としてる気がする。いや、元々穴だらけかつ『何その妄想』ってレベルの話でしかないんだけど、何かこう……凄まじく致命的な『何か』を取り違えてしまったような…。

 考えれば考える程分からない。ドツボに嵌っとるな…。

 

 

 ちょっと気分転換するか。そろそろ飯時だし、酒場で一杯引っ掛けるとしよう。

 

 

 

 

 …あれ? セラブレス? こっちに来てたのか。

 

 

「ん? ああ、お前か。奇遇だな」

 

 

 レイラも来てるぞ。ヤバそうなモンスターがウロついているんで、その調査でな。

 

 

「それはアレか、ギルドが調査している奴か? 猟団ラサマのシトサがやられたと言う…。奴が一方的に重傷を負ったとなると相当だな」

 

 

 知ってるのか。何だかんだで、叩き上げだから評価は高いんだな、あいつ。

 しかし調査してるのはいいんだが、全く見つからなくてな。この辺に居るのは間違いなさそうだし、俺かミキを狙ってきそうなんだが。

 

 

「妙な因縁でもあるのか? モンスターが特定個人を狙うなど、相当な事でもなければ考え辛いぞ。…まぁ飲め。とにかく今は飯時だ。腹を満たさねば、狩りなんぞやってられん。スタミナ的に考えて」

 

 

 全くだ。今日も一日、動き回って腹減ったし。

 ところで、そっちはどうだ? 合コンやら何やら忙しいんじゃないか?

 

 

「私が合コンに参加しまくってるみたいに言うな。まぁ、忙しいと言えば忙しいな。全く、何で私が合コンのセッティングなんぞせねばならんのだ。どう考えてもハンターの仕事じゃないし、私の領分でもないだろうに…。年寄り勢からの、お前をとっ捕まえろコールがうるさいくらいか」

 

 

 しがらみ多いと大変だねぇ…。いや俺だって女絡みで、どんどんシガラミ増やしてるんだけどさ。

 

 

「それはどう考えても自業自得だ。……そうだ、一昨日、一族の元に戻った時に聞いたんだが、この近辺に不審者が出るという話は知っているか?」

 

 

 不審者ぁ? このバケモノ揃い(モンスター・ハンター共に)のフロンティアでか?

 どう考えたって自殺行為だろ。フローラの爺さんみたいな、ギャグ補正で殺してもタイーホしても死なないような人種でもなきゃ、あっという間にモンスターの餌だぜ。

 仮にその不審者がG級ハンターだったとしても、ギルドナイトが出張るなり、酒飲んで喧嘩になったとでも主張して袋叩きにすれば…。

 

 

「関わった女、全てに不埒な真似をするチャラ夫の事なんだが?」

 

 

 くっ、なんて卑劣な! そう言うのは俺一人で充分だ!

 

 

「お前な…。冗談はともかくとして、不審な男の目撃情報が相次いでいる。どうやらハンターらしいが、狩場でも狩りを殆どせずに、ボーッと突っ立っていたり、双眼鏡で何処かを眺めているらしい」

 

 

 別にそう珍しい事でもないと思うが? 目の前にモンスターが居るならともかく、双眼鏡で景色を眺めたくなる気持ちも分かるだろ。自然は見てて面白いからな。

 

 

「異様な風体をしていてもか? 具体的には、いつ風呂に入ったのか分からない酷い匂いと、これまた洗っていない装備。ハンターとしては致命的だろう? ついでに言えば、メゼポルタ広場の中でもその恰好のままらしい」

 

 

 …そうだな。強い匂いが残っていると、それだけでモンスターに感知される。広場の中でも鎧姿は珍しくないが、エチケットとしてな…。

 しっかりした身なりをしてないと、ハンターでもそれだけで不審者扱いされるんだよなぁ…。世知辛い世の中と言うか、マナーに厳しい世の中と言うか…。

 

 

「そこらへんの感想は任せるが、怪しいだけで捕縛する訳にもいかん。しかし偏見を差し引いても、純粋に怪しいのも事実。お前がそうそうどうにかなるとは思わんし、一遍刺されろ女の敵めとも思うが、お前の身内に何かあったら寝覚めも悪い。特にミーシャには世話になってるし…」

 

 

 ああ、そういや合コンの相手を紹介したのはミーシャだったな。実際問題、ハンターって人間相手の警戒心が薄い所があるからな。同格の相手に不意を打たれると危険はあるか…。

 と言うか、時期が時期、近くにアレが居るだけに聞いておくが……赤衣だったりする?

 

 

「いいや? 手入れもされてない、駆け出しが使うような貧弱装備らしいが、ちゃんとした鎧だったそうだぞ。何か心当たりでも?」

 

 

 違うならいいや。あのモンスターが近くにいるって事は、謎の男とやらにも会えるかもしれないと思ったが。

 むしろ、そっちを仕留めた方が楽にあのモンスターを止められるかと思ったが。

 

 

「あれ、パパ?」

 

 

 あん? …今度はミキか。なんだ、アラガミ化解けたんだな。

 …一人か? 一緒に飯食う?

 

 

「食べる。…えっと、こちらの方は?」

 

「セラブレス。これでもG級の端くれだ。こいつにはちょくちょく世話になっている。よろしく頼む」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 …ミキ、珍しいな。こんな所に一人でいるなんて。まだそんなに遅くは無いが…。

 

 

「あ、あははは……。その、アラガミ化が解けて冷静になったら、自分が何やったのか自覚できちゃって……顔が合わせ辛いと言いますか…」

 

 

 暴走が解けたか…。もっと深刻に落ち込むかと思ってたが、元気そうで何より…なのか?

 最悪、もう一回アラガミ化して思考をエロ化させる事も考えてたけど。

 

 

「あっちの姿になるのはいいけど、あんまり暴走するのは困るなぁ…」

 

「よく分からんが、君も異能者と言う事か。ああ、私もそうだし、こいつが使っている力の事も知っている。口外はしないよ」

 

「お願いします。ところで、何の話をしてたんですか?」

 

「ああ、飯が不味くなるような話で申し訳ないが、妙な奴が目撃されていてな…」

 

 

 …パパと呼ばれている事を完全にスルーしているセラブレスは、俺との付き合い方をよく分かっているよーだ。

 しかし何だな、これならレイラとも遭遇しそうだな。

 

 

 

 

 

 あれ、何か覚えのある寒気と視糸――√V\__ノ~~~

 

 

 

PS4月

 

 

 新しい月に突入。

 

 

 

 しつつ超展開ィィィィィィッッッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 



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292話

PS4月

 

 

 あ゛あ゛~~~死ぬかと思った。ったく、大騒ぎだったぜ…。と言うか、表では今も大騒ぎが続いている。

 どういう訳だか(何でそうなったか、一応分かりはするんだが)、「ぐーんしん! ぐーんしん!」なんてコールが延々と響き渡り、ミキ(通常モード)が顔を真っ赤にしてプルプルしながら称えられている(かわいい)。

 

 …人のムッスメを軍神扱いしてんじゃねーよ…。いやそれに相応しい働きだったと思うけどさ。

 助けないのかって?  (助けたらプルプルしてかわいいのが終わっちゃうから)ないです。

 

 まー真面目な話、流石に精根尽き果てたわ…。ミラボレアスではなく、人の死骸だ。ゲームでもタフだったけど、それに輪をかけて頑丈だったでやんの、ミラボレアス…。しかも撤退しないしよぉ…。

 ……それに、多分コレはミキには見せない方がよさそうだしな…。

 

 ボロボロになり、崩れていく足元の死体を見る。miガ ワだけは保たれているが、中身はそうでもないようだ。腐食臭と腐肉が焼ける臭いを、破壊された道具屋の近くに転がっていた消臭玉で散らす。

 ……?

 

 懐に紙切れが見える。既に炎に食い尽されようとしているが、辛うじて見えたのは………。………他人の空似…か? いやしかし、辻褄は……と言うより符丁は合う…な。

 

 

 

 

 …はて、どっから書いたもんか…。色々と謎が(俺の中で)解けたり、ミキが軍神扱いされたり…あ、胴上げ始まった…メゼポルタ広場が一つ半壊したり、レイラとミキがなんか友情を育んでいたり、何故か颯爽と現れた歌姫様が歌い出したり、最終的には俺・レイラ・セラブレスの連携技で動きを止めて、ミキの奇策で止めを刺した事とか…。

 

 

 ……順番に書いていくしかないか。率直に書こう。

 ミラボレアスが、メゼポルタ広場のド真ん中に突然現れた。

 

 

 メゼポルタ広場の。 ど真ん中に。

 

 

 空を飛んできたのでもない、地中から上がって来たのでもない、テレポートしたかのように、突然現れたのだ。

 

 

 …そりゃもう大騒ぎよ。誰だって慌てる、俺だって慌てる。

 最悪だったのは、嬉々として未知のモンスターを狩りに行くハンターと、とにかく慌てて距離を取ろうとするハンターが混在していた事だ。逃げようとする者と進もうとする者、ぶつかり合ってそれでどれだけの負傷者が出たか。

 …それも長くは続かなかった。何故かって?

 

 

 ミラボレアスの暴れっぷりが、あまりにも凄まじかったからだよ。あいつがハンターランクにして下位・上位・G級のどれに分類されるのか、仮にミラボレアスが複数いたとして、その中でどれくらいの力を持ってる奴なのかは分からんが、奴のブレスや尻尾、這いずりによる余波だけでも、並のG級ハンターを躊躇わせるには十分過ぎた。

 しかも、ゲームのミラボレアスと違って、とにかくアグレッシヴだった。長い体を鞭のように振り回し、まるで自分自身の体を武器…いや、凶器としか考えてない行動。

 どれだけ攻撃を受けてもお構いなしに暴れ回っていた。

 

 5分もする頃には、賑わっていたメゼポルタ広場の食堂近辺は炎と瓦礫と穴ぼこ以外、何一つ残っていなかった。あいつを狩ろうと突撃するハンターは既に居らず、死体さえ炎に消し飛ばされて残ってない。距離を取ったハンター達は、どうやら岩陰などの死角に身を隠し、ミラボレアスの様子を伺っているようだった。…何もかも放り出して逃げなかったのは、ハンターとしてのプライドの為か、それとも迂闊に背を向ける危険を感じ取っていたからか。

 

 

 …残っているのは…俺、セラブレス、そして俺達の後ろで震えているミキ。

 

 俺達が逃げない理由は単純だ。逃げられなかったからだ。セラブレスだけならワンチャンあったかもしれないが、どういう訳だか(或いは予想通りに)、ミラボレアスは俺とミキを執拗に狙い続けている。セラブレスはもののついでに…って感じだったが。

 

 

 

「おい、お前が言ってたヤバイモンスターと言うのはコレか。何なんだ一体」

 

 

 ミラボレアスっぽい何かだよ。…普通のモンスターじゃない。

 

 

「ふ、ん? …唯一の救いは、腹を満たした直後だって事かな」

 

 

 軽く言うセラブレスだが、額には汗が流れ、体は青い光に覆われている。全力戦闘で、極限まで集中しているのだろう。

 

 

 …多分、セラブレスではミラボレアスに殆ど傷をつけられないだろう。竜撃砲のような、青い力を使った砲撃なら多少は通じるだろうが、与えるダメージと、セラブレスの体力を考えれば、どうやったって先にエネルギーが尽きる。

 

 改めて対峙して分かったが……やっぱり、こいつは…少なくとも、このミラボレアスは『アラガミ』だ。ミラボレアスと言うのが元々そういう物なのか、こいつだけがそうなのかは分からないが。

 となると、攻撃が通じるとすれば、俺の神機か、ミキの………直接ブン殴るくらいか? しかない。

 

 

 そこまで考えた時、ミラボレアスが動いた。咄嗟にセラブレスが前に出て盾を構え、俺は動けないミキを抱えて後ろに下がる。

 

 

「そのままその子を運んでいけ! ッ……! クッ、短時間であれば、耐えられる!」

 

 

 頼む! ミキ、行くぞ。いいか、動けるようになったらすぐに隠れろ。どっかの穴倉か、とにかく遠い場所か、何でもいいからあいつの目に見えない場所に逃げ込んで出てくるな。

 一緒に戦おうなんて思うなよ? お前じゃまだ、あいつは手に負えん。アラガミ化して、体のスペックが上がっていてもだ。

 

 

「パ、パパ………は…」

 

 

 俺? 俺はアレを狩る。俺ならやれる。そういう武器もある。あの龍は、俺と同じアラガミだからだ。

 とにかく、お前は隠れてなさい。何かを守りながら戦える程、俺は器用じゃない。

 

 さて…一丁、狩りに行きますか。帰ってきたら、白いの沢山ごちそうしてやるからな。

 

 

 

 

 …最後、微妙に死亡フラグ立ってなかった気がするが…これだけやっときゃ、フラグも無効だろ。何一つ嘘はついてないしな。

 

 

 

 と言う訳で、ミキを適当な場所に下してミラボレアスの元へ戻った。セラブレスは防御に徹していた為か、疲弊はしているようだが何とか無傷。

 ミラボレアスは……まぁ、当然のように無傷だな。そして俺を視認するなり、連続でバカスカブレスを撃ってきた。

 ジャスト回避で難なく切り抜けたが、直撃してたら死ぬな…。アラガミモードでもキツいか。

 

 

「到着! 無事か!?」

 

 

 む、レイラ? どこ行ってたんだよ、このややこしい時に!

 

 

「どこに行こうとアタシの勝手だよ。…で、こいつが件のモンスターか…。成程、ヤバい奴だな。見つける方法は任せるとは言ったが、メゼポルタ広場のド真ん中とは思わなかったぞ」

 

 

 うるせぇ、こいつがいきなり出てきただけで、俺のせいじゃないわい。

 さて、これで戦力3人か。コイツは俺を目の敵にしてるようだが…どうすっかな。

 

 

「隙を突いて何度か攻撃してみたが、私の武器では全く歯が立たん。砲撃も効いてない。私はディフェンスに回るから…レイラがアタッカー、お前はデコイ兼アタッカー、といった所か」

 

「群れるのは好きじゃないが…妥当と言えば妥当だな。足の引っ張り合い程馬鹿らしい事もないし……それで行こう」

 

 

 そういう事になった。

 神機を取り出して構えると、苛立ちに任せたかのような、凄まじい力と迫力でミラボレアスの牙が迫る。

 悪いがその程度じゃ食われてやれんよ。パリングアッパー、直撃ィ……?!

 

 確かに噛みつきは防いだ。開いた顎を、下から叩き上げるアッパーも入った。事実、ミラボレアスは仰け反った。…仰け反るだけだった。

 何ら痛痒を感じてない目が、ぎょろりと俺を捕らえる。

 

 

「余所見してんじゃねえ!」

 

 

 レイラが、ミラボレアスの首に思いっきり攻撃を叩き込む。会心の一撃だった事が伺える音が響く。しかし、当のレイラは顔を顰めて距離を取った。

 彼女が考えている事は、俺にも分かる。

 

 

 堅い。

 

 

 バカじゃねぇのと言いたくなるくらいに堅い。

 

 神機ならミラボレアスの鱗を切り裂けるんじゃないかと考えていたが、見積もりが甘かった。甘すぎた。

 レジェンドラスタであるレイラの攻撃を平然と弾き返し、セラブレスの砲撃もものともしない。コイツ、アラガミ細胞がどうとかいう以前に、単純に堅いのだ。

 いや、恐らくこれもアラガミ細胞の力ではあるんだろう。アラガミ細胞の真骨頂は、進化と学習。ただ只管に、固く堅く硬く、どんな物にも負けない無敵の装甲として進化してきた結果が、この鱗。

 

 

 さて、どうしたものかね。確かに弾き返されはしたが、全く手応えがなかった訳ではない。殴り続ければ、いつかは沈むだろう。

 感触からして、アラガミなのは外側だけで、内側はアラガミ細胞のみとなっているのではないようだ。鱗を破壊し、内部に攻撃出来れば多少は効果もあるだろう。

 

 だが…。

 

 

 

「尾だ、私が止める………いや避けろ!」

 

 

 宣言通り、振り回された尾はセラブレスがガードで受け止めた。だがそれでは終わらない。

 

 よっと! っ、回転尾で即ボディプレスとは、本当にアグレッシブだなこの黒トカゲ! うお、瓦礫飛ばしまで使いやがった!

 …どんどん動きが多彩になっていく。今この瞬間も、進化しているのだろう。下手をすると、ただでさえ無敵の装甲が、更に進化する可能性すらある。

 このままでは、何処かで集中力が切れるか、不意を打たれて沈む。アラガミ化は……悪手だ、変身が切れたらその時点で動けなくなる。

 

 だからと言って、戦い方を変える事はできない。何でもいいから、弱点を見つけ出さないと。

 

 

 

 

 それから、3人がかりで色々と試した。装甲の弱い部分は無いか、目、羽、爪の付け根など、片っ端から打ち分けてみたが、どこも硬さは大差ない。比較的マシなのが顔面。

 その辺に転がっていた爆弾なども試してみたが、焼石に水だし、そもそも目につくところにある爆弾は使い切ってしまった。

 貫通弾・貫通弓は無情にも弾かれ、歯が立たない。ゲーム同様の攻略法は通じそうにない。

 神機による捕食は多少効果があったが、ダメージで言えばブン殴ってた方がマシなくらい。アラガミバレットは強力ではあるようだったが、どうやら属性的に耐性が高いらしく、殆ど通じない。

 

 ヒデェな、このクソモンスター…。ゲームと違ってクリアさせる気がないのが嫌と言う程分かる。そりゃそうだよな、リアルでは攻略される=お陀仏なんだから。

 

 無敵に近い装甲、物理法則を無視した超火力、多彩すぎる攻撃方法…。

 これだけ揃っていれば、何も考えずに暴れるだけで、俺達3人を追い詰めるくらい楽にできるだろう。そうなってないのには、当然理由がある。

 

 獣だから、そんな簡単な理屈も分からない? 逆だ。

 

 

 

 

 『人間だから、獣のような単純な行動がとれない』のだ。

 

 

 

 …これに気付いた頃、殆ど効果が無い攻撃を、必死こいて延々と積み重ねていたんだが…正直、あんまり面白くないし思い出したくも無いし、思い出しただけで気力ガリガリ削られて欝になりそうだから省く。

 

 コイツから感じる視線…プレッシャーの軽い重いを別にすれば、ずっと感じ続けていたあの視線だった。ミラボレアスが出現する寸前に感じていた、あの寒気と視線も。

 探索中、レイラが「これ、多分人間の視線だぞ」と言っていたアレだ。

 …ああ、確かに人間の視線だったよ。少なくとも、ガワと、根っこはな。

 

 

 そうだよ、ミラボレアスは…元は人間だったんだ!

 

 

 な、なんだってー! ……割と真面目になんだってー、だけど。

 

 

 そもそも、ミキの話からして不自然だったんだ。ミキが何かに操られて、アラガミに変えられてフロンティアまでやって来たとして、何故メゼポルタ広場で目を覚ましたんだ? ミキを操っていた『何か』が手元から離れたからだろう。

 んで、メゼポルタ広場に居るのは何だ? 動物か? モンスターか? 人間だよ。…ハンターが純正の人間と言えるかは差し置いて、ミキの手元から離れた『何か』は、別の人間の手元に移ったんだ。

 そこからアラガミ化が進んでいき……俺の知らない所で、完全にアラガミ、ミラボレアスとなってしまった。

 

 そして俺やミキ同様、アラガミ状態であるミラボレアスと、人間の体の二つの状態を使い分け、潜んでいたのだ。

 

 

 だから人間ボディには慣れていても、ミラボレアスの体やスペックには慣れてない。人間としての恐怖心や本能が、最適な行動を圧し潰す。

 つっても、それも段々薄れてきてるみたいだけどな…。視線から感じる、人間独特の気配が薄れ、徐々に精神までモンスターになりつつあるようだ。それでも、憎悪の気配は残っている。

 

 何でこんなに憎まれてんのかね。俺一人ならまだしも、ミキは人に妬まれたり憎まれたりするような子じゃないだろうに。

 まぁ…人間の敵は人間って事か。案外、本来のミラボレアスが人間を憎んでいるって話も、そういうトコから来てるのかもしれんね。

 

 

 

 …あと、これはついでだけど…もしもいつぞやの紅玉と、今回ミラボレアスを作り出した『ナニカ』が同類であるのなら…アラガミ化が発生するのは、宿主が人間であった場合のみ…なのかもしれないな。

 あの時のモンスター達は、異様な能力を持ちはしても、アラガミ化はしてなかったから。

 

 

 

 

 

 

 ま、それはともかくとして。延々と……多分、少なくとも半日以上やりあってたと思う。夜が明ける……瞬間、間抜けな事に、顔を出した太陽による逆光によって、目が眩んだ。

 ジャンプ攻撃を仕掛けていた俺は、咄嗟に退避する事もできずに、思いっきり拳で殴り飛ばされる。

 

 …あの体でよく殴り飛ばすなんて器用な真似ができるなぁ、なんて呑気が事を考えてたが…威力は本物。叩きつけられ、瓦礫を粉砕してようやく止まり、同時に追撃のブレス。

 咄嗟に盾でガードするも、神機が明らかにヤバい音を立てるようになってしまった。

 

 続けざまにブレス。咄嗟にセラブレスが割って入ったが、ブレスの『溜め』を見て血相を変える。

 あれはヤバイ。セラブレスの盾も、オーラも無効化して全てを焼き尽くしかねない。

 レイラは限界まで連撃を加えて着地した後。どうやったって間に合わない。

 

 

「チッ……ま、色々世話になったからな。万一生きてたら、手段を問わずあの龍を仕留めろよ」

 

 

 おい馬鹿、何言ってやがる!

 わざわざ庇われなくても、俺はまだやれるぞコンチクショウ、さっさとそこを退け!

 

 

 

「もう遅いッ…!」

 

 

 セラブレスの纏うオーラが強くなり、それ以上にミラボレアスの口元の炎が燃え盛る。

 アラガミ化で間に合うか!?

 

 

 

  ズパァン!

 

 

 

「…え?」

 

 

 突然、ミラボレアスの顔が横に弾け飛ぶ。一瞬置いて落下してきたのは、槍と見紛うばかりの大矢。

 戸惑うよりも先に、俺は治癒を使って傷を癒し、セラブレスと共にすぐに離脱。

 次の瞬間、岩すら溶かすブレスが俺達が居た場所を薙ぎ払って行った。

 

 

「助かった…今のは何だ?」

 

 

 矢…バリスタの矢が飛んできた方向を見てみるが、何もいない。

 

 

「カバさんチーム、アヒルさんチーム、続けて撃って! カメさんチームはバリスタを8-Aポイントまで移動!」

 

 

 ミキの声! そして同時に聞こえる風切音。重金属同志がぶつかり合ったような音が聞こえ、また飛んできたバリスタの矢がミラボレアスに弾かれる。

 

 

「アリクイチームから報告にゃー、また隠れてたハンターさん達が協力してくれるにゃー!」

 

「バリスタ台の移動に協力を! 他は何でもいいから、弾薬を片っ端から集めて補給してもらって!」

 

 

 …そう言えば、あちこちに隠れていたらしきハンター達の気配が無い。てっきり逃げたと思っていたが、こっそり動き回っているようだ。

 また数発の矢が飛んできて、ミラボレアスに直撃する。…いい狙撃だ。

 

 

「おお…ダメージは左程でもなさそうだが、衝撃で動きが止まってるな」

 

 

 確かに。バリスタの威力もさる事ながら、重心を見極め、バランスを崩すのに最適な場所を見極めて撃つ。…何者だ?

 鬱陶しい、と叫ぶように、ミラボレアスが凄まじい咆哮を放つ。ティガレックスのように物理破壊力は無いものの、聞く者の心を圧し折ろうとするかのような、怨嗟と怒りに満ちた咆哮。

 大抵のハンターであれば、それだけで戦意が失われてしまうだろう。事実、周囲を動き回っていたハンターの気配が、恐慌に陥ろうとする。

 

 だが。

 

 

 

 太陽が陰る。曇ったのではなく、朝日を背にして人が立っている。すっくと立ち上がるその人影に、魅了されたかのように動きが止まる。俺も、ミラボレアスも。

 広がる影が、ミラボレアスを覆い隠す。

 

 

「カモさんチーム、レオポンさんチーム、放てッ! …ハンターがモンスターと戦うのは当たり前の事。モンスターが人間に反撃するのだって当然の事。だから、襲撃を受けてこんな事になっちゃっても、それは全然おかしくない事なんでしょう。でも……それでも、我儘でもエゴでも! パパに害を加えようとするなら、私は許しませんッ! ウサギさんチーム、放てッ!」

 

 

 力強い宣言、怒号とさえ言える言葉に、咆哮で怯みかけたハンター達が奮い立つのが分かる。

 と言うかミキ…何やってんだ!?

 

 

「ボサッとすんな、チャンスだ! 何でもいいから叩き込めッ!」

 

 

 お、おう!

 

 

「私も最大砲撃を…」

 

「セラブレスさん、疲労が大きすぎます! 一度下がって休んでください!」

 

「…っ!」

 

「構わん、いいから休め、後はアタシ達も交代で休む」

 

「……すまん」

 

 

 ミラボレアスの攻撃を何度も受け止めたセラブレスは、武器防具だけでなく、自身の体にも疲労が蓄積していた。俺達だってそうだが、曲がりなりにも避けていた俺達と、体を張って受け止めていたセラブレスでは、やはり後者が疲れるのも当たり前だろう。

 ジリジリと追い詰められている自覚はあったが、まさか一時退却させて完全休息させるとは…思い切った手を打つなぁ。

 セラブレスの代わりを、ミキ達の援護で埋められるからこその手だけども…。 

 

 

「こっちだ、簡易的なモンだがキャンプを作ってある!」

 

「有難い…!」

 

 

 瓦礫の中から、見知らぬハンターが手招きしている。キャンプって、そんな物まで作ったのか…。

 っておいミラボレアス、ミキの方に向くんじゃねえよ! こんにゃろう!

 

 

 横から飛んできたバリスタに合わせ、ミラボレアスの顔面をブチ殴る。多少は効いたか……!

 顔が部位破壊されたぞ! 狙うならここだ!

 

 

「よくやったァ! くらえ、龍気穿撃ッ! …っく、多少は通るが、これでも堅いか…」

 

 

 っとにヤになるなこいつ…。

 最初は俺ばっかり狙ってたのに、手当たり次第になって誘導もしにくくなっている。

 

 

 ……せめてアレだな、そこらの石ころで固定ダメージ1とか入ればなぁ…。ここに居るハンター全員で投げまくれば、何とかなりそうだなぁ…。

 

 ま、そんな戯言はともかくとして……頼もしい援軍も来てくれた事だし、回転上げてチクチク行くぞ!

 

 

 

 

 

 …で、セラブレスが戻ってレイラが抜けて、今度はレイラが戻って俺が休憩。

 ミラボレアスのターゲットは、もう手あたり次第になっていたので、俺を殊更に追いかけて来ようとはしなかった。念のため、気配を消して視覚から外れてから退避したけど。

 

 「お疲れ、水とこんがり肉ってきたぞ。他に必要な物はあるか?」という名も知らないハンターに、回復薬と投げナイフの補充を頼み、ハンター式睡眠法で速攻回復。

 体は回復しても、張り詰め続けた神経は回復してない。もう少し休むべきなんだろうが、俺にはそれよりもやる事があった。

 

 相変わらず高所に立ち、しかしパルクールでもするかのように瓦礫の上を飛び回り、ミラボレアスからの攻撃の余波を避けるミキ。…アサシンの追いかけっこを思い出すな。あれだけ距離が離れてれば、先読みされるか事故らない限り、ブレスも岩飛ばしも楽に避けられるか。……足場の悪さを考えなければ、だけど。

 

 ミキ!

 

 

「あ、パパ……っと、レオポンさんチーム、離れて補給を! カメさんチームは抜けた穴をフォロー! …よっと。お待たせ。大丈夫?」

 

 

 瓦礫の上から飛び降りてきた(パンチラ有)ミキと一緒に、適当な瓦礫の影に入る。

 大丈夫は大丈夫だし、おかげで助かったけど、こりゃ一体どうなってんだ? と言うか、隠れてろって言ったろうに…。

 

 

「だってパパ、どう考えても死にに行くような事言ってたし…」

 

 

 ああうん、そういう事言いまくって逆にフラグ折ろうとしたんだけど…。実際、ミキが来てくれなかったらまず間違いなく死んでたが。

 しかし、これは一体…具体的に言うと、移動式のバリスタとか、手を貸してくれるハンター達とかは?

 

 

「あの後、パンツァー猟団の皆と合流して、パパを助けに行きたいって言ったら、皆手を貸してくれたの。………『お姉さまの為なら!』って声がちょっと気になるけど…。移動式のバリスタは、生き残ってた職人さん達を探し出して、即興で作って木枠の上に載せてもらったの。今も後方で、アイデアはあったけど試せなかった武器とか試作品とか、何でもいいから据え付けてるよ。ハンターさん達は…混乱してたり、逃げるに逃げられない人が沢山いたから、引っ張り込んで手伝ってもらった」

 

 

 よく手伝わせられたなぁ…。

 

 

「アレに近付くんじゃなくて、隠れて援護するなら…って条件だったよ。何だかんだで、ハンターなのにモンスターにやられっぱなしなのは嫌みたい」

 

 

 それを纏め上げて、移動式砲台やら休息所やらを作り出したのか…。引っ込み思案だったミキが、よくそこまで…。

 

 

「パパの為だもん。こういうハンターの補助は、ウェストライブ家の得意分野だし。あんまり得意じゃなかったけど、そんな事言ってられないもんね。……ウサギさんチーム、煙幕を張って! カメさんチーム、狙われてるから煙に紛れて退避!」

 

 

 …いや本当にスゲェな、この戦略眼…。ダメージこそ少ないとは言え、ありものでミラボレアスに通じる設備を作り出し、烏合の衆と化していたハンター達を統率するこの手腕…。

 潜在能力覚醒ってレベルじゃないぞ。ウェストライブ家の家風に合わないって言ってたのがウソみたいだ。…ああ、あっちは後方からの援助、ミキは現場からの援助って意味では合わないか。

 

 

「…でも、正直言って手詰まり。バリスタの矢もボウガンの弾も、無茶苦茶になった広場の残骸から探し出して使ってる。ハンターが沢山いた場所だから、量は充分あるだろうけど…遠からず、見つからなくなっちゃうよ」

 

 

 それもそうか…。今でこそ攪乱も効いてるし、ハンター達も『反撃している』って意識があって士気も高まってるけど、徐々に熱は引いていくだろう。

 そうなれば、勝ち目がないと判断しての逃走。櫛の歯が欠けるように、ポロポロと人員が欠けていく。…間違った選択ではないのが、また何とも。

 

 ついでに言えば、あいつは色々学習しながら戦ってるらしい。攪乱も、いずれ効かなくなるかもしれん。

 

 

「どうすれば……。あの古龍に通じそうなもの……爆弾も駄目、バリスタも駄目、落とし穴や痺れ罠も駄目、拘束弾…は効果があったとしても、致命打に繋がる火力が無い。となると…」

 

「あるぜぃ、とっておきが! 試作品だがなぁ!」

 

 

 工房の親っさん!? ちょっ、アンタ後方援護担当だろが! ここ最前線!

 

 

「細かい事ぁいいんだよ。俺もちょいと、ここに取りに来るものがあっただけだ。…それはともかく、まだ試してない兵器が二つある。ただし、片方は試作品で運用実績は無い。成功すれば、ドンドルマに据え付けられる事になってんだがな。もう一方は実績たっぷり、ハンターからも大絶賛の兵器だが、リーチが短い」

 

「具体的には?」

 

「巨龍砲と、撃龍槍だ」

 

 

 撃龍槍! …それは確かに大絶賛。しかし、あれは壁とかに大がかりな機構を内蔵してようやく使えるものだしな…。ここまで壊れた広場だと、設置すら…。

 して、巨龍砲と言うのは?

 

 

「龍属性の力を結集して放つ、ドでかい大砲だ。ちゃんと発射はできるんだが、試作品だから何発撃てるか分からん。最悪、一発撃っただけで爆発する可能性もある。…が、威力は保証するぜ。相手が相手だから、どこまで通じるか分からんがな…」

 

 

 ふむ…。ここに、あいつとドンパチやってる間に、こっそりちょっぱって来た鱗がある。バリスタで傷が入った、顔面の一部だと思うんだが。

 

 

「貸してみろ。…………この鱗部分が一番弱いと仮定して……有効打にはなる、だろうな。だがそこまでだ」

 

「効果があるなら、やらない理由はありません。…それに、一つ策を思いつきました。不確定要素が多いですけど…」

 

 

 ふむ…。何をやる気か知らんが、俺はそろそろ戻らなきゃならん。ミキ、思いっきりやってみな。

 

 

「うん! …あ、パパって休めてないんじゃ」

 

 

 慕ってくれる可愛い娘との会話で、癒されないパパは居ない! と言う訳で、ちょっといいとこ見せに行くぜ!

 

 

 

 

 

 

 …と言う訳でまた3人揃って、援護射撃付きの戦闘になったものの……よくないな、やっぱり。

 ミラボレアスの動きは鋭くなり初め、攻撃方法も異常に増えてきた。援護射撃の残弾も、そう多くはないだろう。何より、進展のない状況に周囲のハンター達が焦り始めているのが分かる。

 ここらで一発、部位破壊でもなんでもやって、目に見える成果を出さないと、士気崩壊待ったなし。

 

 …ん? グラついた? ダウンしかけてるのか…。………誘い、じゃない。

 

 レイラ、前に言ってた未完成奥義行くぞ! 俺とセラブレスで追撃する!

 

 

「未完成だって言っただろ…! クソッ、やってやる、極ノ型…!」

 

 

 立ち上がったミラボレアスがフラついたのには気づいていたのだろう。その隙を逃さず接近していたレイラが、足や腹を殴る蹴るしながら胸のあたりまで駆け上がる。

 同時に俺はジャンプからのエリアルステップで背後に回り、尻尾を足場にしてもう一度ジャンプ。

 

 

「穿極拳舞、穿極解放、龍気穿撃…! ったく、本当なら地上でやる技なんだぞ、これ…。ただでさえ未完成だってのに…。喰らいやがれェ!」

 

「私も切り札を出すか…。ここが勝負所!」

 

 

 ミラボレアスの体すら貫通する、凄まじい衝撃。何やら、二人分のとんでもない奥義が炸裂したようだ。ただし、俺からはミラボレアスの体が遮蔽物になって見えなかったが。

 ただ、その貫通力と内部破壊力はよーく伝わってくる。何せ、俺は斜め反対側から切り札・鬼杭千切を叩き込んでいるのだが、この衝撃力と拮抗してもおかしくないくらいの反動を感じるのだ。

 レイラが、妙な笑いをあげたのが聞こえた。

 

 

「はは…アタシ自身は失敗したのに、本当に3人がかりであの奥義やっちまったよ…。侮れねぇな、こういう戦い方も」

 

 

 3点同時攻撃を受けたミラボレアスは、掠れた悲鳴を挙げて倒れ込む。広場跡のハンター達が湧き上がった。

 だが、まだ致命打には至ってない!

 

 

「まだ動くぞ、畳み込め!」

 

「胸に傷が出来ています、アレを狙って! 狙えない角度に居るチームは、翼を狙って起き上がるのを阻害して!」

 

 

 ミキの一喝で、バリスタの矢が乱れ飛ぶ。

 レイラは一息ついてから、すぐに追撃に向かった。セラブレスは既に、顔面に向かって只管青いオーラを連射している。

 俺は…鬼杭千切の反動で動け……あれ? 思ったより動ける…。

 

 

 …フロンティアに来てから、体が強くなったか慣れたのかな…。まぁいいや、俺は尻尾狙おう。

 

 

 

 暫くもがいていたものの、ミラボレアスはまだ立ち上がる。顔と胸に大きな傷こそできているが、痛痒を感じている様子すらない。

 …ここまで来ると、流石に気味が悪くなってきたな…。尋常な生物はないとは思ってたが、痛覚あるのか? むしろ本当に生物なのか?

 

 

 倒れた後の総攻撃という、大チャンスがあったにも関わらず、平然としているミラボレアス。異様とすら言える姿に、不安が広がっていく。戦意高揚した直後だからこそ、それに罅が入るのも早い。

 だが、手応えはそれなりにあった。ミキの思いついた奇策も待っている。

 それまで何とか保たせたいが、士気の問題だけは…。

 

 

 

~~~♪ 

 

  ~~~~~♪

 

 

 …歌? いや、歌と言うよりは………意味は分からんが、このリズムは祝詞…に近い? いや、ある種の感応現象…? ユノの歌に近い『何か』を感じる気がする。

 この混乱の戦いの中でも高らかに響く声の主は、先程のミキ同様、高い所から登場した。

 

 恐怖や躊躇いを打ち払うような、力強い歌声。いつも聞いている声とは違うが、聞き覚えのある声の主は。

 

 

 プリズム…?

 

「…歌姫?」

 

「歌姫って、あの歌姫様か?」

 

「歌を聞いたハンターに、不思議な効果を齎すっていうあの歌姫?」

 

「間違いない、昔何度か見た事がある。あそこで歌っているのは、あの歌姫だ!」

 

「…歌姫……プリズム…?」

 

 

 …戸惑いではない、何やらヤバい声色に咄嗟に目を向けると、そこに居たのは睨みつけるような表情のレイラ。…そういや、会わせるとヤバいんじゃないかって話になってたっけ…。

 この表情を見るに、その懸念は的外れではなかったようだ。歌姫を見る目には、明らかな険がある。

 

 

「見ろ、あのモンスターの動きが鈍ってるぞ!」

 

「歌姫の歌は、古龍を退ける力を持っていたって言うが、本当だったのか…!?」

 

「行ける…行けるぞ、なんか行ける気がしてきたぞ! あの3人のハンターを、あの子の的確な指示で援護して、歌姫様の歌で抑え込めば、何とかなるんじゃないか!?」

 

 

 下がりかけてきた士気が、また盛り上がり始めている。いける、という感触だけではない。明らかにそれ以上の「何か」が、ハンター達の心に影響を及ぼしている。

 それが純粋に、歌による鼓舞なのか、それ以外の力による効果なのかは分からない。呪術的な何かで精神を弄られているというのはあまりいい気分ではないが、有効な手段には違いないし、黙って受け入れる。

 

 盛り上がるハンター達、動きを鈍らせるミラボレアスを見て苦い顔をするレイラ。

 ……しかし、誰もが思っていた。

 

 

 

 

 

「「「「でも、何で歌姫様はジャージ姿なんだ?」」」」

 

「新聞配達の途中だったからですよ言わせないでください!」

 

 

 

 し、新聞配達ってお前…確かにやってたし、最近じゃ他所のメゼポルタ広場にも出張してたのは知ってたが…。

 

 

「ここのメゼポルタ広場を担当してほしいと言われ、やって来る途中で逃げるハンターと出会って…あの人は隣のメゼポルタ広場に伝令を伝えに行きましたから、あと半日もすれば援軍が到着する筈です。私は多少でも救助活動のお手伝いが出来るのではと思い、駆け付けた次第です。まさか、こんな事になっているとは思いませんでしたが。……もう歌う事はないと決めていましたが……今回ばかりは話は別です。四の五の言っていられません。微力ながら、お手伝いさせていただきます」

 

 

 再び奏でられる歌声が、何をどうやっているのかミラボレアスの動きを抑え込む。それを跳ね除けようとするように、ミラボレアスは怒りを宿した咆哮を繰り返すが、先程までと違いそれで恐慌に陥りそうなハンターは居ない。

 おいレイラ、何か色々ややこしい背景があるんだろうが、とりあえずあっちを仕留めるのが先だ。モヤモヤするなら、全部まとめてアイツに叩き込め!

 

 

「…糞ッタレ、やってやんよ!」

 

 

 明らかに殺意と苛立ちを載せた打撃で、レイラはミラボレアスに特攻する。速度が半減しているミラボレアスの攻撃を軽々と回避し、息の続く限りのラッシュを繰り替えす。

 歌声の恩恵を受けたのか、セラブレスはセラブレスで火力が増した砲撃で、ミラボレアスを足止めし、チャンスがあればミラボレアスの傷口に直接槍を突き立て、体内で砲撃を繰り返す。

 俺も離れれば射撃、近寄れば捕食+斬撃と、片っ端から攻撃を繰り返す。

 

 歌姫の歌によって動きが抑えられている為なのか、それとも他に理由があるのか、ミラボレアスの装甲は、今までよりも柔らかく感じた。

 同じ事を感じたセラブレスが叫ぶ。

 

 

「行けるぞ! 末端を集中攻撃しろ! こいつのリーチ内に留まるなよ!」 

 

「攻撃するなら、縦斬りや直突き、攻撃範囲の狭い動きにしてください! 決して周囲に当てないように!」

 

 

 …と言うか、これってやっぱり感応現象とか血の力だよなぁ…。アラガミ細胞の動きに何かしら干渉してるし、あの歌からは霊力…血の力に近い何かを感じるし、しかし同時に神仏英霊に捧げる祈りの呪文でもあるようだし。

 

 動きが鈍い今ならいけると感じたのか、それとも単に一発くらいは自分で殴り返さないと気が済まなかったのか、隠れていたハンター達が、その辺で拾って来たらしき武器を手に手に、影から出てきて一斉に飛び掛かる。互いに攻撃が当たらないように動きを選んでいるのは、それだけ理性が残っているのか、それともミキの統率の賜物か。

 どっちにしろ、ハンターとしては掟破りの(ラヴィエンテ戦という例外もあるが)大人数戦闘である。

 しかし、事ここに居たってそんな事を言っている場合ではない。

 俺もここぞとばかりに飛び上がり、ミラボレアスの顔面付近で滞空しながら攻撃し続ける。俺を集中的に狙うのは止めていたようだが、流石に目の前を飛び回られるのは鬱陶しいらしく、鈍った動きで噛みつこうとしてくる。

 

 

 ……気のせい、ではないと思うが……さっきから、感じる憎悪が強くなっているように思う。ミキが現れた時、プリズムが歌い始めた時、そして周囲の人間から集中攻撃されるようになった時。

 気が狂ったような怒りと憎悪を感じている。それも、とても人間臭い感情を。人間らしい部分がどんどん薄れて行っていると言うのに、この部分だけは消えやしない。いや、一時消えかけてはいたが、再燃しているようだ。

 …一体何をそんなに狂っているのか分からないが…その感情が、ミラボレアスの素、原点…と言う事か。

 

 まぁ、人間の感情であるなら、考えても意味もないし、仕方のない事だ。憎悪に理屈もヘッタクレもない。単なる八つ当たりであっても、全くおかしくはないんだから。

 

 

 

 そんな感想を他所に、プリズムの歌をBGMに戦闘はクライマックスに差し掛かる。

 

 

「おう、出来たぜぇ嬢ちゃん、皆の衆! 一発限りの特別仕様、巨龍砲フルカスタムだ!」

 

 

 威勢のいい声と共に登場した、工房の親方。おお、ミキの策が発動するか!

 ……はいいんだが。アレが巨龍砲…。成程、確かにデカい。大砲なんぞメじゃないくらいにデカい。それをどうやって即興で作り上げて、瓦礫の上まで持ってきたのかも、今はいい。

 

 しかし…。

 

 

 

 しかし何故、巨龍砲は固定されておらず、何十人ものハンターが人力で担いでいるのだろうか?

 

 

 

「大勝負、行きます! 全員、後ろ足を狙ってダウンを取って!」

 

 

 この娘は無茶振りしおる。だが娘に期待されたら張り切っちゃうのが男親。本日二回目の鬼杭千切を、リクエスト通りに叩き込むと、叫びをあげてミラボレアスが倒れ込んだ。

 一斉に取付いて反撃しようとするハンター達を、ミキの一喝が止める。

 

 

「全条件クリア…。アキャマさん、出番です!」

 

「大一番であります! 争点完了、照準良し……ファイエル!」

 

 

 アキャマ殿の叫びと共に、巨龍砲に強烈なエネルギーが溜まっていく。…おいおい、それ抱えてるハンター達大丈夫なのか? 

 しかし、そんな心配を他所に、溜まったエネルギーは容赦なく放出された。視認できる程の、龍属性エネルギー…。あれに巻き込まれるとか、考えたくも無いな。

 

 初めて扱う兵器で、しかも安定性とは無縁の設置状態だったろうに、見事にエネルギー弾はミラボレアスに向かっていく。何処まで残っているのか分からない理性で、流石に直撃は危険と判断したのだろう。倒れた体を必死にジタバタ動かして、ミラボレアスは立ち上がろうとしている。

 しかし、元々動きが素早いとは言いづらいミラボレアス。立ち上がりはしたものの、回避までには至らなかった。

 

 

 --------!!!!!!

 

 

 龍属性エネルギーの爆発に、ミラボレアスの悲鳴が掻き消される。

 だが、まだ足りない。今までで一番大きなダメージにはなったが、仕留めた手応えは無い。それは、この場に居合わせたハンター全員の共通認識だったろう。それ程に、自分達が相手をしているモンスターは隔絶した力を持っていると、否が応でも身に染みていたのだ。

 

 ミキ、これで終わりなのか? 正直言って、まだ足りないぞ。

 

 

「チッ…こりゃ追撃もできないな…。あのエネルギーの嵐に突っ込めば、こっちが動けなくなっちまう」

 

 

 レイラの言う通り、迂闊に近づけない。主導権を握り続けなければ、蹂躙されてしまうのがオチだ。しかしこれでは…ダメージは与えられたが、結果的には悪手になったか…?

 

 

「今です、全員離れて!」

 

 

 は? もう既に離れ……あ、巨龍砲を支えてた人達ね。支えていたハンター達が、巨龍砲を放り出して一目散に駆けだして…おい、巨龍砲が明らかにヤバい明滅を………ああ、やっぱ爆発!

 と、同時に、何かが目にも止まらぬスピードで宙を駆ける。

 そして再び上がるミラボレアスの悲鳴。

 

 

「今のは…撃龍槍か…?」

 

 

 だよな…槍だけだったけど。見れば、ミラボレアスの胸元の傷を貫通するように、巨大な槍が突き刺さっている。しかも、槍には先程の巨龍砲の砲撃に負けず劣らずのエネルギーが絡みついていた。

 射線からして、巨龍砲の中から飛び出したように見えたが…。

 

 まさか、巨龍砲の中に撃龍槍を仕込んでいたのか? 最初の砲撃で大ダメージを与えるのと同時に、中に設置した槍にエネルギーを注ぎ込む。そして、巨龍砲が負荷に耐えきれず自爆する事すら計算に入れて(或いは最初からそうカスタムしたのか)、その自爆の圧力を射出力にする。

 とてもじゃないが、それをやろうとしたところで、撃龍槍が直撃するとは思えないが…実際、急所を見事に貫いてるんだよなぁ。

 工房の親方達の腕が良かったのか、照準を合わせたアキャマ殿の直感なのか、或いはそこまで弾道計算しきったミキの神算鬼謀か…。

 

 が、神算鬼謀は更に続いた。自爆し、支えるものが無くなった巨龍砲が、ガラゴロと瓦礫の上から転がり落ちてくる。そして、その転がり落ちる先には、ミラボレアス…の、しかも突き刺さった槍が…。

 

 

 

「あ、直撃…」

 

「胸に特大の釘を打ち込まれて、更にハンマーでブン殴られたようなもんだな」

 

 

 ……あ、巨龍砲が更に爆発…。

 

 

「………お前の娘、恐ろしいな…ここまで計算してたのか?」

 

 

 さぁ…どっちにしろ末恐ろしい子なのは否定できんが。

 つーか、これでもまだ動くとか本当にしぶといな!

 

 だが、動きは読めた。すまんがサポート頼む。

 

 

「やれやれ…流石に今回は疲れた…。ま、きっちり勝って、スッキリして帰ろうか」

 

「言いたい事も聞きたい事も山のようにあるが、そろそろシメか。歌も…声が掠れてきてるな。限界が近いか」

 

 

 爆発の中から、大分ボロボロになったミラボレアスが、鈍い動きで進み出てくる。その矛先は、歌声の主とミキ。丁度同じ場所に立っている。

 自分がこうまでやられた原因であると、直感で分かったんだろうか。後先考えず、黒い祖龍が口元に炎を宿して飛び上がる。

 破れた翼で飛び上がったとは思えない程に、スムーズに宙を舞い…ブレスか、噛みつきしようとしたのかは知らないが。

 

 逃げるのが間に合わないと判断したミキは、今まで使っていなかった太刀を構えて歌姫の前に出る。勇ましい姿だったが、どうやったって勝てる筈もない。一人なら。

 

 

 

「空中戦ならアタシの独壇場だッ! 余所見してんじゃねえ!」

 

 

 横っ面から、レイラが殴り飛ばす。

 

 

「我が異能なら、ランスを使っていても遠距離戦が出来るのだ! 威力は低いが」

 

 

 セラブレスが放った青い光が、ミラボレアスの目を眩ます。

 

 

 そして。何処を狙ってるのか分かってて、それだけ注意散漫なら、いくらでも取り付けるんだよ…!

 

 瓦礫の山を駆け上がり、飛び上がったミラボレアスよりも更に高くから飛び降りた俺が、その顔面に取りついた。口元に宿ったままの炎で体力がガリガリ削られるが気にしない。

 そして3発目の……バフ全開、アラガミ化、その他諸々全のっけの……鬼杭千切!

 

 

 会心の手応えと共に、眉間から杭が撃ち込まれる。脳髄を破壊する独特の感触。

 力を失った顎が開かれ、炎が漏れ出した。

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぃぃぃいッ!!」

 

 

 ミキの、小柄な体に似合わない裂帛の気合と共に、全力で降りぬかれる太刀は、ミキとプリズムに迫っていた炎を見事に切り裂いて見せた。

 とうとう、ミラボレアスは悲鳴すらあげず、羽ばたきを止めて落下する。

 

 

 

 

 俺ごと落下した先には、まだヤバげな明滅を残していた巨龍砲のかけらがあった。…あ、明滅が早くなって、なんか電撃が…。

 

 

 

 

 あぼん。

 

 

 

 

 

 

 

 …いや俺は死んでないけどね…。

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、大体こんな流れだった。

 ミラボレアスはと言うと、確かに生命活動を止めて息絶えていた。湧き上がる(元)メゼポルタ広場。俺、レイラ、セラブレスは勿論、ハンター達を統率してミラボレアスに大ダメージを与える策をやりきったミキは、完全に英雄扱いである。

 一頻もみくちゃにされた挙句、今はミキを軍神扱いしてコールしている訳である。

 

 目で助けを求められた俺はと言うと、いい経験だろうと笑って(言い訳して)、一人ハンターのサガを果たしに来た訳だ。具体的に言うと剥ぎ取り。

 …しかし、いくらか剥ぎ取った辺りで、ミラボレアスの死骸はスーッと消えてしまった。…むぅ、ミステリーと言うかオカルトチックと言うか…。何者かの念で体が作られていたとするなら、そいつが死ねば消えてしまうのも分からないではないが。

 

 

 そんな事を考えていると、丁度ミラボレアスの胸があった辺りに、一つの死骸が燃えているのに気が付いた。

 犠牲者が出たなぁと、若干欝に思いつつ近付いてみると、これがおかしい。

 明らかに、数年以上も野晒しにされていたと思しき鎧。燃えている最中ではあるが、白骨しか残っていない体。そして、その鎧に張り付いていて、炎に蝕まれていく絵。

 

 

 …一瞬しか見えなかったが……あの絵に描かれていたのは、……シキとマキじゃないか?

 まさかと思って、ついついタカの目を発動させてしまったが…………こりゃ失敗だったかな…。ああ、狩りの後のスッキリした気分が台無しになる程度には。

 

 

 

「……何事ですか、これは」

 

 

 うお、シキ!? 何故ここに!?

 

 

「何故も何も、ミキと一緒にフロンティアに来ると言っておいたではありませんか。だと言うのに、いざ到着してみればメゼポルタ広場は壊滅しているし、ミキが無事なのはいい事ですが何故か軍神扱いされて胴上げされているし…。…いえ、話はあとで聞きましょう。とにもかくにも、まずは要救助者の確認からです」

 

 

 …そうだな。ところでシキ、ここの死骸、見た?

 

 

「? …あまり気分のいいものではありませんが、見ましたが…何か?」

 

 

 いや、それならいいんだ。ちょっと気になる事があっただけだから。

 

 

「よくわかりませんが、貴方も疲労困憊の様子。後の事は私と、一緒に到着した援軍が対処しますから、ミキ達と一緒に休んでください」

 

 

 

 そうするよ。…タカの目で何が見えたのかは、また今度日記に書いておこう。

 

 



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第293話+外伝24話

下記の事を念頭に置いて、シキとミキの濡れ場を読み返してみると、新しい愉悦を発見できるかもしれません。
ただし特に伏線は無い。
今回は読み飛ばしてしまっても問題ないです。

ちょっと欝な話になってしまったので、即興で書き上げた外伝つけてます。



PS4月

 

 

 一晩ぐっすり眠って、気分爽快。とは言え、未知のモンスターと遭遇した直後なだけに、好き勝手に行動させてはくれない。

 以前のループでもあったが、病原菌の類が無いかの確認もある。暫く隔離される事になってしまった。まぁ、猟団は相変わらずデンナーとコーヅィで保たせてくれてるようだが。

 今回討伐したミラボレアス…伝承に謳われているのと同じ個体かはともかくとして、メゼポルタ広場一つを壊滅させる力を持ったモンスターだ。こいつを討伐した功績は大きいし、当然報酬だってかなりのものだ。まぁ、素材はともかく報酬は猟団運営に突っ込むようにと伝えてしまったが。

 

 ちなみに、俺のところにはほぼ途切れなく見舞客が訪れていた。病原菌の疑いで隔離されてるのに、いいのかなぁ…。

 まぁ、通してくれるって事は問題ないんだろう。それこそ、ベッドに連れ込んでしまっても。あと、クロエを相手に「自分の意思でイクのと、誰かに強制的にイカされるのではどちらが気持ちいいか」というセクハラクエスチョンを投げたりもしたな。

 

 

 

 今回の勝利の立役者ともいえるミキは、シキに世話されながら眠り続けている。無理もない。いきなりあんなのにカチ合っちゃなぁ…。あそこまで堂々と指揮をとれたのは、本当に凄い。自慢の娘と言い切れる。

 トドメとなった、巨龍砲→撃龍槍飛ばし→巨龍砲落下による打撃→爆発のコンボは、槍飛ばしまでは計算に入れ、落下打撃は『運が良ければ』くらいにしか考えていなかったのだそうな。爆発は純粋に幸運だったらしい。ま、幸運も実力の内ってね。

 

 

 

 さて……見舞いラッシュも一段落したし、シキと本格的に話すのはミキが起きてからになりそうだし、少しばかり整理しておくか。或いは、新たに判明した事実を繋ぎ合わせた、いつもの妄想。

 どこから書いたものかな…。そうだな、先日の日記に書いた推測の内容にも、幾つか間違いがあったようだし、最初から書くか。

 

 

 まず、ミラボレアスはアラガミであり、また同時に人間でもあった。これは間違いない。その出現の切っ掛けになったのが、ミキがウェストライブ家から持ち出した『何か』である事は間違いないだろう。

 この『何か』は、ミラボレアスが息絶えた辺りに転がっていた、灰の塊…だと思う。そこだけ妙に強い力を感じた。燃え尽きたのか砕けたのか、いずれにせよ既に原型を留めていない。ミラボレアスが力尽きると同時に、力を使い果たして自壊したんだと思う。

 

 そして、その傍で燃えていた死骸。これがミラボレアスの素になった人間のようだが………この男、数年以上前に死んでいたようだ。野晒しでボロボロになった鎧と剣、そして血の跡を見れば分かる。

 鷹の目で見てしまった際、死して尚死骸に宿り続ける怨念、鬱憤が嫌と言う程見て取れた。この怨念を見初めて、ミラボレアスの『素』はミキの元から離れたんだろう。元が死体であれば、精神干渉して正気を押さえ込む必要もない。

 

 鬱屈していたミキを操ってフロンティアに向かおうとしていたところ、更に良い素質を持つ素体が転がっていたので、そっちに乗り換え。ミキは正気を取り戻さないまま、フラフラとフロンティアへ。…この辺を勘違いしてたんだよな。精神に干渉されて操られていたのなら、その大本が離れたとしてもすぐに正気に戻るとは限らない。ミキが目を覚ましたのはフロンティアだったとしても、大本が離れたのはそこに至るまでの道中の何処かだ。

 

 

 

 一方、ミラボレアスの素に魅入られた死体は、僅かに残った意思…怨念と共にフロンティアに向かう。そして如何なる意思によるものか、ミキを監視するようになり、それに近付いた俺も監視するようになって…。とうとうミラボレアス出現。

 

 これだけだと、本当に何が何だか分からない。何故、ミラボレアスと化すほどの怨念を宿していたのか、何故ミキや俺を付け狙っていたのか。

 だが、ここに一つの要素が付け加わると……全てとは言わないが、ある程度説明はついてしまう。

 

 

 

 

 ここからが今回判明した事だが……あの死骸、恐らくはミキの実父、シキの元旦那さんだ。

 あの燃えていく絵に描かれていたのは、まだ若かった頃(別に今、年増とは言ってない。それはそれで大好物だし)のシキ(ちょっとお腹大きめ)と、物心ついたかどうか微妙な年齢のマキ。

 念のため、シキにも少し聞いてみたが、元旦那と別れる少し前くらいに、家族絵として描いてもらった事があるそうな。尤も、シキは旦那の痕跡を消し去る為、既に始末してしまったらしいが。

 

 

 さて、ここからは鷹の目で読み取った、元旦那の情報を並べておこう。あまりいい気分ではないので、読み飛ばしてしまっても構わない。

 

 

 

 知っての通り、彼はハンターだった。望んで就いた訳ではない。故郷にハンターが居なかった為、周囲の圧力に流されてハンター役を引き受けただけだ。

 優しい男だと言われていた。だが、彼自身は自分をそのように思った事など無い。常に何かに怯え、周りの顔色を窺っている自覚があった。真面目だと言われていたのは、定められた道筋から逸れるのが怖かったから。他者に対して強い物言いをしないのは、その言葉が自分に返って来た時に反論できないからでしかなかった。

 

 それは狩りでも同じだった。ハンターとして訓練をつけてくれた教官からは、「かけるべき情けと、かけてはならない情けを区別しろ」と口を酸っぱくして言われたものだ。

 

 

 ある日、女と出会った。明らかに上流階級の出身で、頭もいい、度胸もある、見目麗しい若い女。

 何が切っ掛けだったのかは彼も覚えていないが、気が付けば彼女と恋仲になっていた。

 

 自分には勿体ないくらいのいい女だ。そう思ったのは嘘ではない。…ただ、心の奥底に、自分にはない物を沢山持っている彼女への嫉妬が、僅かにこびり付いているのを見ないふりして。

 

 

 幸せだった。それは間違いない。

 小さなクエストしか受けられず、時にそれすら失敗する事もあったが、可愛い娘も産まれ、美しい妻が待っている家に帰れば、心の底から暖かくなった。

 

 

 いつからだろうか。それが重石に感じられ始めたのは。

 うだつの上がらない3流ハンターと、後輩に軽んじられた時か。

 時折見せる、妻との経済感覚の違いに戸惑った時か。

 もう少しで昇格クエストを達成できそうだった時に、突如乱入してきたモンスターに襲われて命からがら逃げかえって来た時か。

 

 心地よく暖かかったものが、真綿で首を絞めるように、水を吸ったかのように、閉塞感に変わっていく。

 

 

 

 切っ掛けは何だっただろうか。とてつもなく下らない事だった事だけは覚えている。気が付けば、暖かかった筈の妻は鉄の如き重さで彼を苦しめ、娘でさえもその泣き声に鬱憤しか感じなくなった。

 初めて……そう、記憶にある限り、初めて鬱屈し続けた感情を吐き出した彼に待っていたのは、妻との破局だった。売り言葉に買い言葉、互いに衝動的に住処を飛び出し、気が付けば全てを失っていた。

 

 最初こそ、重石が取れて気楽な心持でいられたものの、一人旅の空では温もりもなく、自分を繋ぎとめられる軛も無い。

 かといって、あれだけ啖呵を切ったシキに頭を下げるのも、なけなしのプライドが邪魔をする。

 

 暫くは放浪するようにハンターとしての活動を続けるが、今までうだつの上がらなかったハンターが、突然腕が上がる筈もない。

 どれくらい放浪を続けていたのか……。マキの妹が産まれたのは確かだろう。

 彼は一つの決断を下す。

 

 いや、決断と言える程のものではない。このままでは、消耗し、年老いて、ハンターとして立つ事すらできなくなるのが目に見えている。

 ならば、少しでも動ける内に、大きな賭けに出よう。フロンティアに行こう。

 

 

 …フロンティアに行ったところで、何か当てがある訳ではない。ただ、そこに行けば一発逆転の目があると、妄想にも近い想いで縋っただけだ。

 往々にして、人生に追い詰められている人間の行動原理はこんなものである。…そして、その一発逆転の目があるとして、それをモノにできる人間は数える程しか居ない。

 

 だが、それを考えられるだけの理性と自省を、彼はとっくに失っていた。

 何をやっても上手く行かない。妻と娘とは別れてしまった。たった一度、内心を吐露しただけで全てが台無し。

 どうしてだ、どうしてこんなに失敗ばかりなのだ。自分はしっかりやっている筈だ。真面目に生きてきた筈だ。どうして誰も助けてくれないんだ。

 もしも失敗があるとすれば、あの時シキを罵った事か。あの時も、ずっとずっとそうしてきたように、自分の言葉も意思も全て呑み込んで、唯々諾々と頷いていれば良かったと言うのか。

 

 

 ずっと、ドロドロとしたものを貯め込んでいた彼は、自分の中でそれが凝縮されている事に気付かず、吐き出し方も、溶かし方も知らなかった。

 心の中が、コールタールより黒いモノに埋め尽くされそうになりながら、未練がましく持っていた家族の絵を眺め、フロンティア行の馬車の中で溜息を吐く。

 

 

 

 …彼の幸運値は、何処までも低かったらしい。

 ここで更なる追い打ちがやってくる。馬車が大型モンスターに襲撃されたのだ。思い出に浸っていた彼は逃げるのが遅れ、重傷を負い、咄嗟に街道を外れた森の中に逃げ込んだ。

 …重症。回復薬もなく、狩りの中なら助けに来てくれるアイルー達も居らず、力尽きて倒れ込む。

 

 薄れていく意識の中で考えていたのは、上手く行かないこの世界に対する憎しみと、僅かに残った『あの子の顔を見たかった』という二つだけ。

 ……誰にも看取られず、モンスターに荒らされる事も無く、死骸は長くそこにあった。いつの間にか、彼は幽霊…地縛霊と化してそこに佇んでいた。

 

 

 

 

 それからどれだけ時間が経ったろうか。ふと、自分を呼ぶ『何か』を感知する。それが何なのか分からず、呼ばれたどうなるか考える事もできず…ミラボレアスの素となる何かを持って、死骸が再び動き出す。アラガミに変えられ、表面だけ繕われた体を操られて。

 最後に向かおうとしていた、フロンティアに向かって。

 

 

 

 

 ……なんだかなー。どんだけ巡り合わせが悪いんだよ。いや俺の想像でしかないって言っちまえばそれまでだけど、鷹の目で読み取った情報もあるから、そう的外れでもないと思うんだが。

 フロンティアに行って一発逆転…はまず無理だが、せめて到着してクエスト失敗時に誰かに看取られたり、埋葬されてさえいれば、こうまで話はややこしくならなかっただろうに。地縛霊として無駄に年月重ねたおかげで、黒い感情が更に増幅されたんだろうなぁ…。

 

 

 そして、更なるトドメ。

 何かって? 言うまでもないだろう。ミキだ。本当に自分の娘として認識していたかは分からんが、まぁ同じアラガミって事で同族と思っていた可能性はある。

 で、そのミキはと言うと……育ちに育った姿で、見知らぬ男を『パパ』呼ばわりだぞ? 実父にしてみりゃ拷問だろう。

 あまつさえ、その『パパ』は色んな女をとっかえひっかえ…。しかも『パパ』と肉体関係あり。これは気づいたか分からないけど。

 

 誠実な父親であればまだ納得もできたかもしれんが、唯一残った拠り所をそんな奴に奪われれば、そりゃブチ切れ程度じゃすまねーわ。ミラボレアス通り越して、バルカン辺りまで一気に進化しかねなんだわ。

 色んな意味で限界が訪れ、ミラボレアスに変化する準備も整ったところで、俺、セラブレス、ミキという家族団欒(?)を見せ付けられて、最期の一線を越えてしまったと。

 

 

 

 

 …なんつぅか……悲惨どころの話じゃないな。色んな事が拗れに拗れ、良縁が悪縁に転じて絡みに絡み…。成仏してくれ、としか言いようがない。少なくとも、冥途の裁きでは酌量の余地はあると思いたい。何もかもに失敗した所に最悪の結末が舞い込み、更にミラボレアスの素に唆されたんだ。多少の救いがなければ、つり合いがとれないだろう。お慈悲を映姫様! …あ、あの人幻想郷付近担当だから、多分こっち管轄外だわ。

 真面目な話、俺にとっても他人事じゃない。彼が辿った道は、いつかは自分が通る道だ。死んでも終われないような人生を送っているのなら、猶更。成功の絶頂があれば、失敗の転落は避けられない。今はG級ハンターとして活動できてるし、女性関係にも恵まれすぎる程恵まれているが、いつか致命的な失敗が積み重なる時は来る。動く気力を失い、誰も彼もがいつか俺を見放し、ついでにセクロスにも飽きたり、不能になったりする日が来るかもしれない。

 …そう思うと、嘲笑う気にも、安易に同情する気にもなれなかった。

 

 

 シキ達に話すべきか、暫し迷ったが……結局話すべきではないと結論した。所詮は推測だし、検証しようにも死骸・家族絵共に燃え尽きてしまった。

 もしもこれが全て推測通りだったとしても、シキ達一家に余計な重荷を背負わせる必要はないだろう。シキに感知すらされない、故人には悪いと思うけどな…。祟るなら俺にしとけよ。ちゃんと(力尽くで)払うから。

 

 

 …扉がノックされた。この気配はシキだな。ちょっと深い話をするつもりだが(肉体言語があるかは時間次第)、今日はここまで。

 

 

 







 さてもさても、例によって夢を見ているようであるが、今回はまた随分と破天荒な夢である。率直に言って悪夢のよーだ。
 具体的に言うと……俺は波に巻き上げられて板切れの上で正座をしつつ、逆様になって湯呑から茶を飲もうとして、うまく口に入らないのでバキュームして飲んでいる。


 ……何が何だかわからない? 俺だってそうだよ。
 ちゅーか、明らかに超常現象だなぁ…しかも時間系の。周囲を見回せば、下手な船よりも高く逆巻いた波が、ビデオのスローモーション再生をされているかのようにゆっくりと、ゆっくりと動いている。
 俺の手の中にある湯呑に注がれているほうじ茶も、ゆ~~っくりと落下しようとしてるのが見えるんだよね。時間が止まっているのではなく、ゆっくりと流れているんだろう。
 俺だって、板切れに乗って平然と正座しているが、宙に投げ出される感覚と、水面に押し上げられる感触が体に残っている。
 さらに、どう見ても大嵐だというのに、空にはヘリコプターが飛んでいた。

 ……で、何より訳が分からんのは…その海の上に、なんか超巨大な白いモンスターが居るんですよねぇ。微妙に機械っぽいが、逆に神秘の塊系のような…。
 これ、ラオシャンロンどころか、下手するとナバルデウス級だぞ。しかも変な顔がついてる。…人の顔っつーより、お面っぽいな。


 そしてさらに分からないのは、なぜか美麗なお姉さまが板切れでサーフィンしながらそのデカブツとバトっている事だ。こっちは時がゆっくりしている空間の中で、普通に動いている。…というより、普通より遅くなっている筈なのに、なお俺の目に留まらないくらいのスピードだ。どう見ても、逆算したら生身で音速突破している。
 メッチャつえぇ。
 なんか時々飛び出してくる、でっかい足とか拳とかもさる事ながら、お手本にしたいくらいの回避の上手さ。
 今の俺じゃ歯が立たん。



 …この人、どう見てもアッチ系の人だよなぁ…。ボディラインが丸出しで嬉しい恰好もさることながら、この強さと美しさはアレだ、魔性のモノだ。
 現に、いつぞや夢に見た某デビルハンターの方々(実際に会ったのは、片腕悪魔の人だけだったけど)に通じる雰囲気を感じる。

 …あ、なんか白いのと同じくらいデカい蜘蛛っぽいの出てきた。魔具でも使って召喚したのかな?
 ああ、白いでかい奴が殴られ焼かれて悲惨な事に。だが助けることはできない。美人のおねーさまが勝ってほしいという個人的な願望だけでなく、正直何もできねーんだよね今。時間がゆっくり流れてるだけで、今の俺って津波に打ち上げられて自由落下が始まる体制だもの。空中で何をしろというのだよ。そもそも体を動かそうとしても、これまたゆっくりとしか動かせない。茶を啜る動きだけは、何故かスムーズにできるが。


 ああ、白いのがなんか潜って、大きな渦巻きが…って、なんで俺の真下に渦ができるんだよ!?
 夢とはいえ溺死は嫌だなー、まぁハンターボディなら水圧で死んだりする事はないが、流石に酸素量には限界があるよな、どうすっかな…。


 そんな事呑気に考えてたら、おねーさまと目が合った。「あら?」て顔をされたが、お構いなく。状況はよくわかりませんけど、こっちはこっちで多分何とかなりますから。
 肩を竦められた。そのリアクションはどういう意味なんですかねぇ…。

 とりあえず、俺の事を気にかけてくれたらしいおねーさまと違って、デカブツは俺が巻き込まれるのも構わず、光線やら炎やら乱射してきたがったから、こっちは俺にとっても敵だな。



 ……? 気のせいかな? さっきまで、おねーさまも白デカブツも、ろくに視認できない動きだったけど、段々遅くなってきてるような…?
 いや、明らかに気のせいじゃない。彼女たちの動きが見える。動きの速さの比率が変わった訳じゃないんで、俺の体感速度が変わったのか?
 見えても、おねーさまには追い付ける気がしないけどな。ひらりひらりと、捉えづらいったらありゃしない。あれは殆ど、体術のみでの回避だな…。あそこまで特化した人は初めて見た。ブシドースタイルですら児戯に見えてくるよ。

 …それでも相変わらず、俺の体は宙に投げ出されたままで………あれ、なんか俺の動きの速度も速くなり始めてない? 体感速度に合わせて、体の動きの速さが変わったというのか?
 どっちにしろ落下しかできませんがね! 何せ大渦の真上なんで! 畜生、どうせなら月歩とかできるくらいに動きが早くなればいいのに!



  あ~~~れぇ~~~~~~~



 …あ、なんか足元にでかい蜘蛛が出てきて受け止めてくれた。ネルスキュラの親玉かな? …いや、やばい気配と感触がする。鬼や魔の系統っぽいから、親玉っつーよりは種族の守護神とかか?
 なんか下でグロ画像が展開されてる気がするが、これも自然の掟か。どう見ても自然現象じゃないし、自然な生物でもないと思うが、きっとこの世界ではこれが自然当然なのだろう。世の無常を考えるが、ハンターだって似たような事して剥ぎ取ったりしてるんだから、文句なんぞつけようがない。


 好奇心でぺたぺた触っていると、いつの間にか隣におねーさまが立っていた。
 こりゃどうも。助けてくれたようで、ありがとうございました。


「**********」


 ………え、英語? フランス語?
 言葉がわからないとジェスチャーで伝えると、呆れたように頭を振って、なんか突然口に飴を突っ込まれた。


「これでわかるでしょう」


 …翻訳こんにゃくかな? 


「ロリポップよ。悪魔の舌じゃないわ。ミラクルヌードルは嫌いじゃないけど。…どうやら魔女でも天使でもないようね」


 見ての通り、むさくるしい野郎で、どっちかっつーと鬼か、局所的に神扱いされたりもします。人間が一番恐ろしいと感じさせるハンターでもあります。


「予備知識もなしか…。驚いた。素質もなさそうな素人が、ウィッチタイムに同期してくるなんて。面倒だし、わざわざ世話をする義理もないわね。自力で帰れる?」


 陸地まで自力で辿り着けって事なら、方向さえわかれば勝手に帰りますが。この嵐の中でも、泳いで帰るだけの体力はありますし。


「そ。なら、あっちに向かって泳ぎなさい。尤も、辿り着くのは地球の反対側かもしれないけどね」


 多分そこに辿り着く前に、目が覚めて別の世界に帰ることになりますな。
 できればおねーさまともお近づきになりたかったですが、残念ながら俺のレベルが足りない様子。お礼に何か………ああそうだ、よかったらコレどうぞ。邪魔なら捨てるなり、乞食にでもあげればいいんで。
 それじゃ、邪魔にならないように退散しますよ。


「いい心がけね。…で、さっきから何を飲んでるのかしら」


 ほうじ茶。塩水入りまくった…。
 では、助けてくれてありがとうございました。あでゅ~!!


「……本当に海に飛び込んで泳いでいったわ。魔女でもないのに、妙な人間がいるわね。しかもコレ…」



 礼と称されて手渡された、巨大ロリポップ(という名のハンマー)を、どうしようかと思うおねーさまだった。
 …ちなみに、シロクマに遭遇するまで泳ぎ続け、目が覚める前にうっすら見えた記憶では、メガネが似合う小さな女の子に、遊び道具として渡していたようだ。
 巡り巡って、その遊び道具がおねーさまの唇紫パパンに炸裂する事になったのかは、俺の知るところではない。




 …目が覚めて以来、ブシドースタイルで回避やジャストガードを成功させた際、妙な感覚を感じるようになった。
 あの夢で、また妙なスキルを覚えてしまったんだろうが……これは曲者だな。
 おねーさまがウィッチタイムと呼んでいた現象だと思うが、神経が研ぎ澄まされ、すさまじい速度で動くことができる。俺もアラガミ化状態で、一時的に3倍速になる技があるが、明らかにそれ以上だ。

 …ただし、欠点もある。発動している間、霊力をバカ食いするのも問題だ。何より、本家のウィッチタイムがどういうものなのかはわからないが、どうも俺の場合、相手の動きというか意識速度に合わされるみたいなんだよね。
 相手が、俺より素早かったり、集中力があったり、動体視力に優れている相手ならいい。その時は俺が速くなるだけだ。

 が、逆に遅い相手だとどうだろう。例えばモス、ドボルベルグ等。
 その時は、俺が逆に遅くなってしまう。
 周囲に複数の相手がいる場合も問題だ。誰の意識に波長が合うかわからないし、突然解けてしまう場合もあった。

 この前なんか、うっかり間違った相手に発動させてしまったところ、ドスファンゴが驚異の八倍速で連続突進してきて死ぬかと思った。
 逆にミドガロン相手に使ったところ、最大の武器である素早さを相殺してしまい、単なるでかくて炎を使うオオカミになってしまった。一緒に行っていたクロエ曰く、「人類が出していいスピードではなかった」との事。それでもほぼ完全に見切れるとか、レジェンドラスタはどうなってんだろうか。


 …つまり、一対一の場合に限り、相手との速度差を無くすスキルだと思った方がいいだろう。ドラクエみたいに、ターン制に近くなるのか。
 奥の手とするには、十分すぎるほど強力だな。相手が自分より遅い場合、発動させなきゃいいだけだ。



外伝:ベヨネッタ編


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294話

手のいぼがえらいデカくなったんで、医者に行ってきました。
魚の目だと思っていた足のふくらみがイボだったのでショック。

あと、やっぱ酒は飯と一緒に呑まなきゃいかんな。
カラムーチョをつまみにして朝からぐびぐびやってたけど、ちゃんと飯食ってからじゃないと悪酔いするわぁ…。


PS4月

 

 

 退院のOKが出た。激戦の舞台となった元メゼポルタ広場に行ってみたが…いやぁ酷いもんだ。まだ炎が燻ってる所がある。見た所、怨嗟の炎とかじゃなく、単なる炎ではあるようだが…むしろそっちの方が厄介かもしれんな。

 比較的マシな壊れ方をしている場所は、ミキの策(と幸運)が炸裂した場所。転がり落ちた巨龍砲が、ミラボレアス諸共に大爆発した場所だ。

 …まぁ『比較的マシ』って言うのは、キレイサッパリクレーターになったってだけで、何かの残骸や原型が残ってるって意味じゃないんだが。とりあえず、埋めれば元に戻るんだから、後始末的に一番マシなのは確かである。

 

 

 セラブレスとレイラは既に起き出してきて、広場の惨状を見て頭を抱えている。必死で戦ってた時は気にならなかったが、これって防衛戦失敗って事になるのかなぁ…。

 どっちにしろ、それなり以上に設備が整っていたメゼポルタ広場が一つ潰れてしまったのだ。ギルドとしてもハンターとしても、頭が痛い事だろう。ここを拠点にしていたハンター達にしてみれば、特に。

 ミキのパンツァー猟団も、ここが拠点だったんだよなぁ…。猟団部屋、まず間違いなく潰れてるだろうなぁ…。

 

 実際、ハンズ嬢ちゃんが暫く世話してくれないかって交渉に来たし。勿論OK。娘の友達(+ちょっとアブない関係)が困ってるんだから、一肌脱ぐくらい軽いものだ。

 その娘はと言うと、まだ眠ったままである。異常があるのではなく、ただ極限の気疲れ(変な表現だ)から、疲労回復の為に眠り続けているだけである。時々、腹の虫が鳴いたり、年頃の少女がすべきでないうへへへへ…みたいな寝言共に『パパぁ…お姉ちゃん…』なんて鼻にかかった声で呟いたりする。いい夢見ているようだ。呼ばれなかった母が、ハンカチ噛み締めて悔しがってたが。

 

 

 

 …そうそう、シキとの話の事を書いてなかった。一晩語り明かしてしまったよ。……ただし、本番はしてない。セクハラまでしかしてない。

 口では何のかんの言いつつ、ちょっと弄ると段々その気になってきていたが…まぁ、流石に娘が倒れてる状態なのに、母親が心配もせずにアヘ顔するのはな…。父親の方は、激戦で火照った体が欲するままに、複数の女性に種付けしたりしてたけど。

 中途半端な所で止められたシキは、ちょっと恨めしそうな顔をしていたが、真面目な話もあったからな。

 

 

 ミラボレアスの素になったと思われる男の事に関しては、黙っておいたが…他にも色々とな。

 マキや側近に色々と仕事を任せ、引継ぎして、いざ娘がいるフロンティアにやってきてみれば、メゼポルタ広場は壊滅してるし、ミキは何故か軍神コールされて胴上げされてるしで、何が何だか分からなかったろう。その状況から、すぐ様救急隊を組織して、怪我人や鎮火活動、ウェストライブ家からの援助を要請まで行ったのは流石だと思う。

 

 

 で、下記が昨日の会話。

 

 

 

~~回想始まり~

 

 

「…それで、一体何がどうなったの? ミキが無事なのはいいけど」

 

 

 何でって言われても、俺も全部分かってる訳じゃないんだが…新種の超強力モンスターが、メゼポルタ広場のド真ん中に突如出現して大暴れ。

 俺、G級のセラブレス、レジェンドラスタのレイラで対抗するも抑えきれず。ミキは広場の外に連れ出して、逃げるか隠れるようきつく言っておいたんだが、『パパが危ないのにじっとしていられない!』とばかりに、合流したハンター達を統率して参戦。激戦の末勝利。

 

 

「箇条書きは本来分かりやすいんでしょうけど、何が何だか分からないわね。もう少し詳しく話なさい……ちょっと、この手は何?」

 

 

 顔付が厳めしくなってるんで、おっぱいから緊張を解そうかと。

 

 

「大きなお世話よ。……話を、先に…しなさい」

 

 

 触ってもいないのに、もう息が荒いですな。真面目に話させてもらうが、俺とミキを狙っていた、アラガミ…特殊なモンスターが入り込んできたんだよ。

 3人がかりで相手したけど、ちょっと歯が立たなくて…そしたら、ミキが合流した猟団仲間やら、その辺のハンターやら職人やらを引き連れて乱入。即席の移動バリスタとか大砲とか作って援護してくれた。

 

 

「バリスタ作りに大砲の運営…。確かに、ウェストライブの研究にあるわね。教えた事は無かったと思うけど…」

 

 

 門前の小僧なんとやら、だな。いやはや、見事なもんだったぞ。集団行動が苦手なハンターを大勢統率して、モンスターの動きを牽制する、煙幕を張る、更には幸運に頼った奇策ではあったが、致命傷までもぎ取りやがった。

 軍神扱いされるのも無理ないわ。

 

 そうだな、もうちょっと詳しく話すか。

 ……ちょっと待て、さっきまで日記書いてたから、これを(都合の悪い所だけ抜き出して)読めば…。

 

 

「その日記ごと、見せてくれればいいじゃない」

 

 

 …読めるか? かなり遠方の辺境で使われてる言語を使ってるんだが。

 

 

「………暗号?」

 

 

 間違いではない。まぁ聞け。偶には日記を人に読み聞かせるのもオツなもんだろ。

 変な表現とか入ってるけど、そこは気にするな。

 

 

 

 

 キング! クリムゾン!

 

 

 

 という訳である。

 

 

「……何と言うかまた、凄い事になったのね。ウェストライブ領から戻って、一週間も経ってないのに…」

 

 

 と言うか、こっちから聞かせてもらうが、お前どうしてフロンティアに来たんだ? 俺に犯されたいとか体が疼くとか、その辺の事は置いといて。

 ミキがフロンティアに戻る事は……まぁ、俺とミキとのチームプレイで無理やり了承させたが、シキが来る理由にはならないだろ?

 

 

「…正直、それを抜け抜けと言う貴方の頬を張ってやりたいのは山々ですが…ミキの為、と言うのが一番大きな理由です。訳の分からない体に変化し、あまつさえあのような突然の変身。目に見えた変化を遂げたミキを、あの子の猟団仲間が受け入れるのかという心配もありました。…杞憂だったようですが」

 

 

 むしろ受け入れ過ぎて、ちょっとアレな関係を構築しているのであるが、これはまだ秘密にしておこう。ばらすならアブノーマルなプレイの中で。

 

 

「経緯はどうあれ、了承してしまった以上、ミキのフロンティア行は止められません。また、ハンターとしての修行をやり直すにしても、ウェストライブ領にはその訓練をやり直せる教官は居ないのです。普通のハンターの訓練ならまだしも」

 

 

 まぁ、ミキは色々特殊だからな。任せるならフロンティアの教官が一番確かか…。

 身体能力の高さで訓練課程を見誤って、早く卒業させてしまったという失敗を犯してもいるが、ならば猶更丁寧に訓練をつけてくれるだろう。

 

 

「そういう事です。そして、私としてはミキが心配ですし、無能な母親でも出来る事があるとすれば…とにかく傍にいてあげる事かと。親子のスキンシップも、一からやり直さなければいけません。……その、あの夜のような異常なやり方ではなくてですね」

 

 

 2日あったけど、どっちの夜の事カナー?

 ま、理由は分かった。ミキはフロンティアで訓練を受け直し、自分はその保護者としてやってきた訳ね。確かに他の方法は無いな。

 

 とりあえず、ミキが住居にしていた猟団部屋が、今回の騒ぎで壊滅しちまったから、パンツァー猟団全員を俺のトコで世話する事になってる。そうなると当然、シキもこっちに来る訳だが……ミキと同じ部屋でいいよな?

 

 

「ええ、勿論」

 

 

 家賃は体でいいよな?

 

 

「くっ……わ、私なら好きにしなさい。ですが、娘と友人に手を出す事は許しません」

 

 

 (むしろ、アラガミ化した娘が友人に手を出しそうだし、母親にも手を出しそうなんだよなぁ…)

 そんじゃ、そういう事で。

 流石に娘が心配だろうから、今日は無しでいいよ。結構濡れてるみたいだけど。真面目な話しながら、テーブルの下で足で弄られてるのにねぇ?

 

 

「っ……」

 

 

 止めようともしなかった時点で、反論の余地無しよ。

 今日はしっかり母親やってな。明日から存分にメスにしてやるからさ。

 

 

 

~~回想ここまで(ただし日記にも書いている)~~

 

 …こんな感じだったかなぁ。

 まーシキに何を仕込むかは今後の楽しみとしておこう。一度その気になってしまえば、どんな屈辱的かつ変態的な命令にもシッポを振って服従するシキだが、平時は割と以前通りだ。何でって? ギャップがいいんじゃないか。気の強い女を捻じ伏せる愉悦も味わえるしな。

 

 それはそれとして、問題が2つある。

 一つ目は…大したことではない。セラブレスの一族に、一度遊びに来てほしい、と言われている事。

 要するに、トンデモモンスターを撃退したG級ハンター&異能の扱いにも精通した男の囲い込み・コネ作りだろう。本当にセラブレスの旦那として考えている可能性もあるが。

 …それに関しては、セラブレスも以前ほどの拒否反応は見せてないようだ。

 何だかんだで何度も一緒に狩りに行き、今回も死線を共にし、信頼関係を築けていると思っていいんだろうか。

 

 

 

 それとも、合コンの打ち合わせに来たミーシャが散々『夜の凄いコト』を吹き込んだ結果、ついつい興味が出てしまっているのだろうか。

 3日近い死闘を繰り広げれば、生存本能だって騒ぎ出すだろうしなぁ…。

 

 

 

 …で、問題は二つ目の方。レイラがなんか刺々しい。いや、理由の予想はついてはいるんだ。

 レイラとプリズム。二人の関係というか、ね…。以前にも二人が姉妹じゃないか、そして会わせると危険なのではないかと危惧していたが、結果的には大当たりだった訳だ。

 

 俺とプリズムが…仲がいいと言えるかはともかく、何くれと世話を焼いたりした事は、すでにレイラにバレてしまった。

 あの戦いの後、帰ってこないプリズムを探しにやってきた猫3匹衆が、タイミング悪く見事にレイラの前で俺を呼んでしまったのだ。

 

 「知り合いか」と問われて肯定したら、今度は「知ってたのか?」と聞いてきたが…主語がないから分からん、と返した。

 しかし、これでは何かを知っていたのは明白だよな。

 

 

 レイラとはそこそこ仲が良かったと自分では思ってたんだが、それを裏切っちまったかなぁ…。

 

 

 更に話がややこしい事に、プリズムはレイラの事に気づいていない。ま、戦闘中は歌に集中して、顔や声がわかる程近付いてはこなかったし、戦いが終わった後には喉に限界がきて、猫3匹衆に連れていかれた。新聞配達も途中だったらしいし。

 どぉ~したもんかな、コレ。

 

 俺個人の心象としては、感情的に言えばレイラ、理性的に言えばプリズムを支持する。

 

 感情の理由を言えば、そうだなぁ…。

 プリズムは最近色々頑張ってるし、今回は歌の力で援護を行ってくれたとはいえ、最初の印象がマイナスすぎた。対するレイラは、何度か狩りを共にし、背中を任せた事もある友人だ。気難しい性格も、俺にはそこまでじゃない。狩人として信頼している事もあり、好感度は高い。

 

 逆に理性で言うと…。

 彼女達の里が壊滅した事は、別にプリズムに責任があるのではないと思う。確かに、トキシを追って森を出奔したようだが、どのみち力は失われつつあったし、森に留まっていたところで結果に大した違いがあったとは思えない。歌に力があるのは確かだが、それで古龍を退けられるというのは、今でも懐疑的だしな。…でもミラボレアスを抑え込んだし、あれは感応現象っぽかったし…。

 レイラの師匠と思われるトキシが死んだのだって、ハンターが狩りに出た以上、それは自己責任だ。

 …こう言ってはなんだが…レイラの理屈を聞いた訳ではないので、一方的な物言いになってしまうが、彼女の感情は八つ当たりなのではないかと思う。

 

 …と、長々と日記の中で語ってはみたが、こんな事をレイラに面と向かって言える訳もなく、プリズムに話を直に持っていくことも出来ず。

 久々に、人間関係で頭が痛くなる問題だ。

 

 

 

 

 かつての俺なら、『様子を見るしかない』とあきらめていたか、誰かに丸投げしてただろう。

 丸投げはともかく、得意な人に任せるのは間違っていないと思うが、この場合、二人の接点になれそうなのは俺だけだ。任せられる相手が思いつかん。

 

 ならば様子見か?

 

 

 答えはノー。

 

 

 こんがらがった人間関係が苦手で、いっつもエロで解決する事ばかり考えている俺だが…以前より、多少は進歩しているのだ。

 断言するが、こういった捩じれ拗れた人間関係は、放っておいて緩和される事などありえない。むしろ、時間が経てば経つほど、雪だるま式に話がややこしく、根深くなっていくのだ。

 人は、直接接触してなくても、頭の中でイメージを作れる生物だ。一度嫌いになったり、憎んだりしてしまえば、自分の中の虚像をその感情に従って変化させ、より嫌な奴、憎むべき相手としての面を強化してしまう。そして、それをさも事実であるかのように捉え、益々悪感情が募っていく。

 

 どの道、このままでは一切接触せずにレイラが距離を取ってお別れか、何らかの切欠で接触して大爆発を起こすかの二択しかないのだ。

 だったら、無謀だろうが無責任だろうが修羅場だろうが、引っ張りこんで引っ掻き回して連れ回して、どうにかして和解の目を作り出すしかないじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 という訳で色々話したいから狩りに行こうぜボンバー!

 

 

 

「ラリアットしながら何言ってやがる!」

 

 

 見事なカウンターを食らいました。腕を取られて、危うく虎王完了されるトコだったぜ…。

 ついでに言うと、けんもホロロホルルに蹴っ飛ばされ、狩りの誘いも断られてしまった。う~む、今まで何んだかんだで断られる事はなかったんだがな。

 話すらいたくないくらいにお冠らしい。

 

 だが、相撲に学んで曰く、引かば押せ、押さば押せ。とにかく前へ進むのみ。余計な計算するから、後が面倒になるのだ。

 とにもかくにも、突撃あるのみである。

 

 

 

 

PS4月

 

 レイラがレジェンドラスタの仕事で狩りに行ってしまったので、今日は突撃はお休み。

 代わりと言うのもおかしな言い方だが、ミキが無事に目を覚ました。目覚めと同時に軍神コールが巻き起こったが、シキが一喝して黙らせた。半病人の周りで騒ぐものではない。

 

 まぁ、半病人と言っても元気なもんだけどな。眠りっぱなしで腹が減ったと言ってはドカ食いし、満腹になったら俺に抱き着いて甘えてくる。

 ご褒美のだっこ? うむうむ、幾らでも。まぁ抱っこだけで済む筈がない。

 ミキはまたしてもアラガミ状態になって大人の体になり、代わりにシキが『らめぇぇぇぇ』しながら失神した。失禁もした。

 

 ミキを抱きながら、シキを前戯で力が入らないくらいに感じさせておいて、ディルドーで3穴責め+輪姦されるシキを見るのもオツなもんだなー。ヒィヒィ喘ぎながらイキまくって、それでも俺のナニでないと満足できないとは、因果な体になったもんだ。夜を共にするのは、まだ3度目なのにねぇ。

 

 

 更に、エロエロモードになったミキがパンツァー猟団に『ご褒美』を上げたりしてたが、それはまぁいいだろう。俺の娘なのだからして、何も不自然な所はない。

 

 

 

 それはそれとして、考えるべき事は色々ある。傘下に収める形となったパンツァー猟団の事もあるが、それ以上に重要なのは、俺の個人戦闘力についてである。

 別に他人を信用してない訳じゃないが、最後の最後に頼るべきは自分自身の腕なのは変わりない。

 

 マジな話、俺の攻撃はミラボレアスに有効打を与えたとは言いづらい。トドメを刺したが、それは積み重なったチクチクとした打撃が顔の皮膚を裂き、その隙間に鬼杭千切を叩き込んでようやくである。

 この後、更にミラバルカン、ミラルーツが控えていると思うと……戦術や地力も問題だが、最低限の火力が無い。

 

 格上と戦うのに必要な物は何か? と言われると、俺は火力と答える。総合火力じゃない、瞬間的な火力だ。

 動きを捕らえられない。攻撃を当てられない。当てても防御を貫けない。どう足掻いても、まともなやり方では勝てない。格上と言うのは、格下に負ける要素が無いからこそ格上なのだ。

 それをどうにかひっくり返そうと思ったら、何でもいいから一撃で決めるしかない。上記の記述と矛盾しているようだが、ワンチャンをモノにしなければどうにもならないのだ。

 

 だから、そのワンチャンで勝負を確実に決める必要がある。色々と手段はあるだろうが…単純な火力こそ、最も汎用性が高いものだ。と、俺は思っている。

 

 

 

 

 要するに、鬼杭千切を強化したいってだけなんだけども。

 

 

 

 

 現状、最大火力である事は間違いないんだけども、なんつーかねー。物足りなく思えてきちゃってねー。

 今まではなんだ、ホラ、どの場面で使っても、物凄い反動が俺に返ってきてた訳よ。それこそ、反動のダメージだけで気絶したりデスワープしたりしちゃいそうなのが。

 アラガミモードになって、気力と根性とタマフリの効果で何とか連発できた事はあったけども、それだって相当にキツかったもんだ。

 

 

 ところがだ。この前のミラボレアス戦の時はどうよ。タマフリどころか、アラガミモードにさえなっていなかったと言うのに、ブッパした後も平然と戦闘続行できるし、大したダメージ受けないし。

 

 いや、喜ぶべき事ではあると思うんだ。手に余っていた道具に、体ないし技術がようやく追いついたのだと思えば。

 でも、逆を言えばそれは天井が見えてしまったと言う事でもある。安定した強さを求めるなら、天井まで行きついたら、今度は幅を広げるべきなんだろうが…今後やってくるであろうトンデモモンスター達の事を思うと、安定よりも先にとにかく突き抜けた力が必要だ。

 

 

 

 

 

 と言うのは建前で、大ダメージを喰らうくらいの反動がないと、鬼杭千切を撃ったって気分にならないんだよなー。

 こう、拳が砕けるのにも構わないくらいに腕力籠めて、フルパワーで振り抜いた時のスカッとする感覚が…。おかしな事を言ってるのは自覚してるんだが、有り余るくらいの破壊力と、それを台無しにするくらいのデメリットが無いと鬼杭千切とは言えないのだよ!

 

 そうだ、きっとこの感覚はアレだ! ソシャゲで『無料で何度でもガチャを回せる!』って言われてもあんまり面白くないのに、何万円も課金してガチャ回して爆死した方が何故か楽しいというあの現象だ! 

 

 

 …シャレになってねぇよ。

 

 

 実際のところ、どうしたものか。実現可能かは別として、少なくとも一つはアイデアがあるんだよね。鬼杭千切に限定しなければ、もう一つ。

 そのアイデアとは、巨龍砲。正確に言えば、それに使われているという高密度滅龍炭。

 もう一つのアイデアは、個人の戦闘能力に拘らず、アラガミ化したミキに対してリンクバーストを使うというアイデアだ。

 

 …正直、リンクバーストについては気が進まない。ミキはもう立派なハンターであるとは思うが、これを使う必要がある相手はまず間違いなく超ド級の古龍クラス。娘をそんな奴の目の前に連れ出すような事はしたくない。

 まぁ、いざという時にミキを救援できる手段でもあるので、一度は試してみるつもりだが…。

 

 

 差し当たりは、高密度滅龍炭の入手を考えますか。それから工房の親方達に相談だな。

 レイラと話もしないといけないし、忙しいねぇ。

 

 



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295話

ほう…北斗が如く…。
モンハンワールドも楽しみだし、期待できるゲームが沢山あるっていいよね。

あと膝裏が汗疹になったようです。
職場がクッソ暑い制服しやがって、やりにくいったらありゃしない。


 

PS4月

 

 

 バックドロップ。パンチラキック。マジ殴り。回転肘打ち。トンファーキック。パイルトンファー。ミラボレアス戦で失敗に終わった、奥義の実験台。キック。

 

 以上が本日、狩りに誘ったレイラから食らった攻撃の全てである。最後の単なるキックが一番ヤバい気配がした。XXの回線切断的な意味で。

 つまりこれだけの回数、断られようが打撃がこようが、お構いなしに一日何度も声をかけに行った訳である。傍から見てみると、行き過ぎたナンパを、肉体言語で追い返しているようにしか見えなかったそうな。

 ハーレム作ってる俺が、簡単にあしらわれるのが面白いのか、あっちこっちからヤジが飛んできたりしたもんだ。

 チャンスとばかりに、俺の女達に声をかける猛者も居たようだが、まるで相手にされなかったそうな。

 

 ちなみにその女達は、「見ていて面白いわね」くらいのコメントしかない。まぁ、ナンパでやってる訳じゃないのは知られてるからな。

 ……結局ナンパ同然になるんでしょ、というコメントももらっているが。

 何度目で成功するか、賭けている猛者も居た。……性交、とは書かれてなかったが、多分そっちもトトカルチョしてんだろうなぁ…。

 

 

 まじめな話、若干ストーカーと化しつつあるような気がしなくもない。

 

 

 一日の襲撃&返り討ち回数が2桁後半に届きそうなあたりで、ようやくレイラは話をしてくれる体制になった。いやぁ、手間かけさせやがったね!

 人に聞かせるような話じゃないもんで、レイラの部屋にお邪魔している。俺の部屋は断固拒否された。

 で、今は酒を片手に向かい合ってる訳だ。

 

 

「今からでもストーカー案件でギルドナイト沙汰にしてやろうか? ってか、アタシが言うのもなんだけど、常識とか思慮とかないのかよ。アタシとあの女の仲を取り持とうとしてんだろうけど、それにしたって一日のうちに50回以上話しかけてくるとか…」

 

 

 だって、時間を空けたらレイラが回復しちまうだろ。気力を削りまくって対策の暇を与えず、疲労から立ち直らない、空を飛んで逃げない内に狩るのは当たり前じゃないか。

 お互い人間関係のアレコレが不要なのは自覚あるから、あとはもう先手を取れるか、そのまま仕留められるかの勝負でしょ。

 寝床まで逃げ帰ったら、不法侵入からの拉致も思慮に入れてたし。

 

 

「確信犯の上に、犯罪上等かよ…。本気でサイコパスかテメェ…」

 

 

 確信犯ってのは、自分の考えが正しいと確信して行う事だから、間違ってはいないな。

 というか、レイラにしては早く折れたなーと思ってるくらいだぞ。これから色んな人を巻き込んで、ちゃんと話をしなさいコールを巻き起こすつもりだったからな。

 

 

「そん時は、レジェンドラスタなんぞ止めてさっさと逃げるぞ…。本当に、フロンティアなんぞに来るんじゃなかった…」

 

 

 後悔は役満に満たずとはこの事ですな。切った牌をどれだけ後悔しようとロンされたのには変わらないんだから、役満じゃなかっただけマシだと思いなさい。なお、役満だったらイカサマと回し打ちを疑い、財布の中身を数え、場合によっては逃げなさいという大切な教えだ。

 まぁ脱マーにおけるロマンとは別物なんで、全く興味のない話です。

 

 ともあれ、だ。真面目な話、やっぱ姉妹?

 

 

「…どこまで把握してんだよ」

 

 

 んー、歌姫の本名と、妹にレイラってのが居るってのは本人に確認を取ってる。

 歌姫とトキシが恋仲………? …なんか微妙な仲で、歌姫の力が無くなって古龍に襲撃された里を、守って力尽きたのも知ってる。

 レイラがトキシの弟子なのは、武器の使い方で予想がついた。

 プリズムが居なくなったせいで里が壊滅したって恨んでるんじゃないかと思って、会わせるとヤバいかなーとは思ってたが、具体的に会わせない為のどうこうはしてなかったな。

 

 …で、何でお前がそこまで怒ってるのかが分からん。

 

 

「大体把握してんじゃないか。それ以上何をどう知りたいってんだ…。アタシがあいつを嫌う理由も、検討くらいつくだろ」

 

 

 最初は、男に感けて力を失い、里を滅ぼす事になったプリズムを憎んでいるんだと思った。

 が、どうにも少し違うように思えてきてな。先日の古龍襲撃の一件でも、あの歌が聞こえてから顔つきが厳しくなった。

 

 そもそも、あの歌は一体何なんだ? 古龍を退ける力があるとは、確かに聞いていた。眉唾モノだと思ってたがな。まさかミラボラス(仮)の動きを抑え込めるとは…。

 …そら、目付きが悪くなった。この辺に、何か肝があるって事か。

 

 

「……ああ、そうだよ。まだ歌ってるのか、あの忌々しい歌を…」

 

 

 

 忌々しいかどうかはよくわからんが、少なくともここ数年で歌ったのは、先日の一件だけの筈だぞ。

 俺が豚呼ばわりするまでは、泉の洞窟の奥で塞ぎ込んで、ニート生活してたからな。それ以降は、新聞配達しては体力が尽きてぶっ倒れる日々だ。

 

 

「お、おま……いくら何でも、女を相手に豚呼ばわりは…。まぁいいか。元はといえば、あの歌がそもそもの原因だ。アタシも詳しい事は知らされてないが、お師匠様は色々調べててね。……歌の正体まで突き止めたんだ」

 

 

 正体…?

 

 

「お前だって、おかしいと思うだろう? 古龍を退ける歌、なんてものが、突発的に生まれると思うか? あの女の力が失われていくのは、お師匠様も感じていた。それを取り戻す方法を探していたんだ…アタシも連れて」

 

 

 その時には、既に弟子入りしてたって事か…。しかし、プリズムはそれを知らなかったようだが。

 

 

「それこそアタシの知った事じゃない。大方、お師匠様にばかり目が行って、アタシの事なんか忘れてたんだろうさ。話を戻すぞ。どこからどう情報を仕入れてきたのかはわからないが、お師匠様は歌の正体を突き止めた。……古代文明の遺産、だとさ」

 

 

 古代文明? と言うと、あっちこっちにある古塔とか、謎の遺跡とかを作ったアレか?

 

 

「そうだよ。アタシ達の先祖は、その古代文明の……よくわからないが、体を弄られていたらしい。あの歌を歌えるように。一種の先祖返りなんじゃないか、だとさ」

 

 

 古代文明…。確かに、霊力を操る技術もあったようだし、歌が感応現象みたいになってたのも頷ける。

 

 

「あの歌は、『古龍を退ける歌』じゃない。『古龍を意のままに操ろうとする歌』だ。アタシ達は、元々ある辺境の村の出身だ。…あっちこっちに古龍が居る土地で、暮らしていくだけでも、村から逃げ出そうとするのも命懸けだ。昔っから、アタシも『どうしてこんな場所に村を作ったんだ』って思ってたよ。でも、アイツがあの歌を歌うようになってから、状況が一変した。古龍は村に近づかなくなり、他所との交通路も安全になって、人が徐々に入ってくるようになった。特別な力がある歌姫が居る、なんて言われて、ハンターがやってくるようになったのも、その頃さ」

 

 

 成程。ずっと昔の村人は、その力があるから自分達は大丈夫だと思って、わざわざ古龍の群れのど真ん中に村を作ったと。

 ひょっとしたら、それもその力を欲した人間達から逃れようとした結果かもしれないな。

 

 

「言われてみれば、そうかもな。…でも、その力は安易に使っていいものじゃなかった。確かに、古龍に村を襲わせないようにする事はできたんだろう。でも、それはずっとじゃない。いつかは効果が切れる。……効果が切れた後…ひょっとしたら効果が発揮されてる時もかもしれないが…自分が操られていた事に気づいた古龍はどうすると思う?」

 

 

 考えるまでもなく、逆襲だな。

 飼い主でもない相手に首輪をつけられ、リードを引っ張られて、誰が大人しく従うかって話だ。

 

 

「そうだよ。あの歌を歌える人間が再び現れて、確かに村は豊かになった。だけど、それ以上に確実な滅びを呼び込んだんだ。古龍の怒りって名前の滅びをね。今回だって、きっとそうだ。あの時はあの歌が無ければ厳しかったのは認めるよ。でも、あの歌を歌ったことで、きっと更なる災厄を呼び寄せる」

 

 

 ミラボレアス以上か…フロンティアには割とゾロゾロ居るから困る。

 その理屈で行くと、プリズムを元気付けて歌を復活させようとしてた時、計ったように必要なモンスターがやってきたのは…?

 

 

「古龍に限らず、モンスターを操れたって不思議はないさ。呼び寄せるだけならね。…さすがに、『お前の素材が必要だから、黙って生贄になれ』なんて命令を聞かせられるとは思えないし。…まぁ、歌を歌ってないなら、それとは関係ない…か? それにしては都合が良すぎた気がするが」

 

 

 自分から生贄なんぞ、出来てもやらせて溜まるかい。確かに俺達は命を狩るのが仕事だが、だからこそそれに反抗されるのは当たり前の事だ。

 

 

「それで? お前はここまで首を突っ込んでおいて、どうする気だ?」

 

 

 うむ、何も考えていない。…というか、話を聞くまで考えようがなかった。

 つまり何だ……。レイラが問題にしてるのは、故郷が滅びる原因となった歌を、性懲りもなく歌おうとしている…というところか?

 

 

「……それが全てじゃないが、そこに大いに引っかかってるのは否定しない」

 

 

 しかし、実際に歌わせようとしてたのはアイルー達の方だぞ。本人はもう何もしたくないって塞ぎ込んでたし。

 …トッツィ達の事だから、歌が災厄の源だってのは認めようとしないと思うが…。

 

 

「そこだって気に入らないんだよ。……アタシの個人的な感情は置いておくとしても、お師匠様はあの里を、あの女の故郷を守って戦って…死んだんだ。あの女のせいで、あの女の為に、自分の意思で戦って死んだんだ! だってのに、あの女は自分だけ悲劇に浸って何もせず、ただただ泣いていただと!? お師匠様のやってきた事、全部無駄にする気かよ!」

 

 

 それは…。

 

 

「慕っていた人が死んだら、悲しくて落ち込むのは当たり前? そんな事は聞いてない! ああわかってるよ、独り立ちしてから、そうやって泣いて暮らしてる連中だって山ほど見てきたさ。アタシみたいに、2日もせずに仇討ちを志して、すぐ動けるようになって、そのまま今まで突っ走れる方が珍しいんだろう。でもな、納得いかねぇよ。そうやって、人に手を貸されなきゃ立ち上がる事もできない奴の為に、お師匠様が死んだのはさぁ!」

 

 

 

 バン、とジョッキを叩きつける。…レイラの腕力で叩きつけられて罅も入らない辺り、ジョッキもテーブルも上物だなぁ…。俺も一度、家具屋にでも行ってみるか。

 

 ……ん? 仇討ち? トキシの?

 トキシが討ち死にした時の相手って、モノブロス、剛種ナナ、アノルパティスじゃなかったっけ? 当時はどうだったかしらんが、今のレイラなら楽勝…とは言わないまでも、ほぼ確定で狩れるだろ。何だ、まさかトキシとやりあった個体そのものを探してるのか?

 

 

「話を逸らしにきやがったか? まぁいいが…そうか、そこまでしかギルドも把握してなかったんだな。……あの時、確かにその3体が暴れまわっていて、お師匠様が打ち取られたのはアノルパティスだった。でも、おかしいと思わないか? あの里は、『古龍の怒りを買って』滅びたんだ。さっき言った中で、古龍は1体だけだろう?」

 

 

 …確かに。剛ナナは脅威だが、レジェンドラスタの師匠ともなれば、そうそう負ける事もない筈…。それに残りの2体は、古龍じゃない。小さな里なら、剛ナナと言わず残りの2体が単体でも、楽に壊滅させられそうだが。

 

 

「…あの時、もう一体の古龍が居たんだ。そいつと、その3匹が同時に暴れまわって…」

 

 

 あのー…まさかとは思いますが、それって連続討伐じゃなく、同時討伐?

 

 

「そうだよ。しかも燃える村の中だったから、分断もできやしない」

 

 

 うぉぉぉ…なんという地獄絵図…。しかも、4匹同時…。で、聞くのも怖いが、残りの一体って?

 

 

「最初に村を襲ってきた古龍。こいつさえいなければ、3匹同時でもお師匠様は生き延びる事だってできた。途中で姿が消えたらしいが…撤退したんだろうな」

 

 

 そいつが仇討ちの相手って事か。…ちなみに他の3匹は?

 

 

「モノブロスと剛種ナナは、乱戦の間にお師匠様が仕留めた。アノルパティスは、瀕死のお師匠様が相打ちまで持ち込んだ。残ってるのは奴だけだ」

 

 

 特定個体もくそも、既に3体討伐済みか…しかも同時戦闘で。半端ないな、お前のお師匠様…。

 で、そいつは?

 

 

「前に少し話しただろ。イナガミって古龍だ。竹を操る力を持った、珍しいモンスターだよ。こいつの力のおかげで、お師匠様は退路を塞がれた挙句、剛種ナナテスカトリが竹を燃やしやがったから…」

 

 

 大火災か。下手すると炎の竜巻が……ああ、剛種ナナが似たような事やってたっけな。

 しかし…俺も情報があったら、と言われちゃいたが、全然手掛かりが無くて、半ば忘れてたな。竹があるところにしか居ない、居るところに竹林ができるって言ってたから、すぐ見つかるかと思ってたが。

 おまけに、見つかってもそれが当該個体とは限らないのか…。見分けはつくのか?

 

 

「当然だ。…お師匠様が、撤退させるくらいに深手も負わせた。仮にそれが全部治っていたとしても、あの姿は目に焼き付いてる。間違えるはずがない」

 

 

 プリズムとどう接するにせよ、そっちを果たさない事にはどうにも…って事か。ハンターが仇討ちなんざ、ナンセンスもいいトコだが、止めろとも言えないし…。

 

 

「話はこれだけだ。もういいだろう? アタシから話す事は何もない。これ以上何か反応を引っ張り出したいなら、イナガミの情報でも持ってきな」

 

 

 それだけ言われて、部屋を追い出された。

 …ま、ストーカー紛いの方法で話し合いに持ち込んだにしては、ちゃんと対応してくれた方だわな。

 しかし、その一方で話すだけ話した為、これ以上の譲歩や反応は返してくれそうにない。少なくとも、プリズムとの会談の場を設けても、イナガミ優先の一言で打ち切られてしまいそうだ。

 

 さて…これはプリズムに話すべきか。話していいのか。その辺の事の確認を取れなかったのは痛いな。

 ま、確認を取ろうとしたところで、「ここまで好き勝手に踏み込んできて、何今更怖気づいてやがる」って蹴っ飛ばされるだけだろうけど。そんで許可は貰えないけど、何もしなけりゃしないで怒られそう。

 

 

 

PS4月

 

 

 腹括って、プリズムにレイラの話をしようと行ってみた。

 面会謝絶だった。

 

 

 

 

 おおい!? 一体どうなってんだよ!? そりゃ確かに丸一日以上歌い続けて、体力も、本人に自覚はないだろうけど霊力も使い果たしてるだろうが、そこまでの話かよ!?

 まさか、ミラボレアスが持っていた病原菌と言うか呪いに感染して……?

 

 

 

 と思ったら、トッツィ達が過保護なだけだった。

 何? 喉をやられた? やられたって言うか、準備運動も無しに歌い続けたもんで、喉が痛んでると。……まぁ、そりゃしゃーないよな。ちょっとだけ会わせてもらったが、見事な嗄れ声だった。

 仮にも歌姫なんて呼ばれた人間が、こんな声になっちゃったらなぁ…そりゃ心配もするし、本人もショックを受けそうだ。

 

 とは言え、本人は割と満足そうだった。確かに喉を傷めてはいるが、それはゆっくり静養すれば治るもの。それよりも、自分の歌でミラボレアスを抑え込めた…歌がまた、誰かの役に立った事が嬉しいらしい。

 確かに、引っ掛かりになってた部分だろうなぁ。力を失い始めた事が切っ掛けで悲劇が起きたようなもんだし。それを乗り越えられた、と言うのは自信にも繋がるだろう。

 

 …しかし、力が戻って来たと言う事は、トキシとの事から立ち直りつつあるんだろうか? いや、力が無くなったのはトキシが死んだからではなく、恋煩いをして精神の安定が無くなったからだと思われる。…つまり、トキシの事は思い出になりつつあるって事か…。

 これまた、レイラにとっては許容できない事かもしれんなぁ。歌姫の為に死んだ、とも言えるトキシ。その歌姫は、徐々にではあるがトキシを過去にしつつある。

 未だに仇討ちの為に必死になり、その悲しみや怒りを忘れていないレイラにしてみれば……お師匠様の死因の女が、どの面下げて…って事になりかねない。

 

 

 

 …こっそりモービンにだけ相談したが、会わせるの、やっぱりヤバイ気がしてきた。

 しかし、だったらどのタイミングで会わせるよ? 姉妹の再会はもう避けられそうにないし、避けるべきでもないと思う。が、どのタイミングでどういう理由で会わせても、大爆発、致命傷不可避な気がしてきた。特にプリズムに。

 

 何とか立ち直って来た、自分に自信がついて活力が戻って来たプリズムに、レイラの考え…歌が更なる災厄を呼び込む…を伝えたら…。傷つく程度で済めばいいんだが。

 何せ、実際に災厄に立ち会った、しかも身内の言う事だ。説得力もあり過ぎるし、そうでなくても生き残った身内からの呪詛とかダメージってレベルじゃなかろう。

 

 実際、ミラボレアスが来たって事は、まず間違いなくバルカンとルーツも…。ああ、考えたくもない…。

 

 

 

 …どうしよ。もう考えるだけ無駄な気がしてきた。

 

 

 



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296話

自動車教習所に2輪の免許取る為に通ってるのですが……うおおお、日中から酒が飲めねぇぇぇ!
毎回18時以降からだから、それまでKENZENに過ごさねばならぬぅぅぅ!
飲めないのは拷問、拷問なんだ…。


それはそれとして、26日に仁王DLCキター!
悟りの道の次は何だ、神の道か? それとも羅刹か地獄か煉獄か。
悟りの道初期でまだウダウダやってます。
神宝が中々でない…。幸運を上げねば。


ちょっと書き溜めが多くなり過ぎたんで、投稿速度を少し早めようか考え中。
しかし、話は殆ど進んでいない。
ダレてるなぁ、今更ながら…。


PS4月

 

 

 考えるのが面倒になって、女に逃げた。まーいつもの事だが、もう開き直ってしまえ。

 いや女遊びに逃避する事じゃなくて、プリズムとレイラの件で。いつ会わせても話がややこしくなる結論しかないんだから、さっさとやってしまえ。後は野となれ山となれ。荒野になったところで、耕してしまえばいいのである。種撒けばいいのである。種(いつもの)。つまり恒例の手段で、争う気力を無くさせてしまえと。

 

 

 

 なんて考えていたら、予想外の所から話がややこしくなってきた。

 簡潔に言おう。イナガミ発見。イナガミ発見。イナガミ発見ッッ!!!!

 

 

 …いや、個体そのものじゃなくて、それっぽい現象があったって事なんだけども。

 話を持ってきたのは、トゥルートとイリス嬢ちゃんだった。別に何が悪かった訳じゃない。ただ只管にタイミングが悪かった。

 

 事の始まりは、夜の狩り(モンスター相手の方な)を済ませて、朝帰りしてきた時の事。帰り道に夜遊びしまくって、朝風呂に入るとメンバーと別れ、俺はその辺の飯屋に入ったんだが…ここにトゥルートとイリスの嬢ちゃんが居た。

 …消臭玉使って、臭いを消しておいてよかったなぁ…。嬢ちゃんにはちょっと刺激が強すぎると言うか、教育に悪いとトゥルートに叩き出されてしまう所だった。

 

 それはいいんだが、二人からちょっと相談を受けたのだ。

 壊滅し、今は復興の為の支援を受けている二人の村だが…この村の近くで、奇妙な現象が多発しているそうだ。もう既にこの時点で予想は付くだろうが、見た事も無い植物(トゥルート達にとってはな)が、村の近くでニョキニョキ育っているのだとか。

 

 特徴を聞くまでもなく、やっぱり竹でした。…これ、レイラに言ったら突撃していくかなー…なんて思ったら。

 

 

 既に背後に立っていた。オーラが今までとは段違いです。

 

 

 

「…で、場所は」

 

 

 アイ、コチラニナリマス。

 

 って、おいおいおい待て待て待て! いきなり一人で行く気か!?

 ていうか、なんでテメェこんなとこに居やがる!

 

 

「当たり前だ! 大体、いきなりなんかじゃない! アタシはずっと、その為に鍛えて、強くなって、準備してきたんだよ! ハンターってのは、いつも一人だ! 信用できない連中と組んだって、ロクな事にはなりゃしない! あの女の事を黙ってたお前もだ! あとここに居たのは朝飯の為だ!」

 

 

 止めようとする俺に裏拳叩き込んで、レイラはすっ飛んで行ってしまった。

 そして、更にややこしい事にだ。

 

 

「…正直、貴方が殴られるのを見て、少々スッとしましたが…今の方は?」

 

 

 NAZEそこで歌姫ッ!?

 

 

「新聞配達の途中だったのですが…」

 

 

 喉はどうした! ちゃんと寝てろよ!

 

 

「歌うのは厳しいですけど、話せる程度には回復しました。元より喉以外は健康ですし、洞窟の中で横たわってばかりだと太…もとい、また気が滅入ってしまいます。何より、お給金をいただいて仕事しているのですし、私が休んだら他の方に負担がかかってしまいます。動けない程でもないし、別の方に感染する訳でもないので、無理しない程度に働かないと」

 

 

 畜生、妙に真っ当な責任感とかプロ意識覚えやがって…。いい事だと思います。

 …い、いや待て、まだ、まだだ。

 

 確かに擦れ違いはしたが、まだ二人の関係に気付かれた訳では…!

 

 

「ところで……話を戻しますが、今の方は……よもや、レイラ…?」

 

 

 絶望。

 

 …いやいや、レイラってアレだろ、確か前に言ってた妹だろ。おめーの妹が、あんなに物理的にも精神的にも逞しすぎる程逞しく育つ訳ないじゃん。

 

 

「いえ、しかしあれは確かにレイラ…」

 

「よく分からんが、今のは確かにレジェンドラスタのレイ「お姉ちゃんハイあーん!」あーん…美味しいぞイリスゥゥゥゥ!」「うん、でもお姉ちゃんは今とっても不味かったよ空気読もうね?」「イリスゥゥゥゥ!?」

 

 

 ナイスだイリス嬢ちゃん! あとトゥルートは吊るしておこう。

 くそ、名前バレだけは避けられたが、レジェンドラスタなのは知られてしまった…時間の問題か?

 

 大体どこを見て妹さんだって判断してんのさ。聞いた話だと、何年も会ってないんだろ。面影なんて、人が思っている以上に早く失われ…。

 

 

「あの兎の耳のような装飾がついた帽子とか、意味ありげなのに全く意味の無い眼帯とか、上着だけ着こんでシャツも付けず、何故かネクタイだけ絞めている姿とか、子供の頃のままです」

 

 

 筋金入りかよあの恰好!

 

 

「たしか幼い頃は、何かの物まねをして里のアイルー達を従え、『めんどーごとはきらいなんだ…』とか『ふふふ…こわいきゃ』とか言っていたような」

 

 

 ああうん、狩場でも言ってたね似たようなセリフ。と言うかこわいきゃって何だよ。微妙に別ゲーのキャラが混じってるよ。

 

 

「舌を噛んでプルプル震えていた姿をよく覚えています。……貴方がそうまで慌てて誤魔化そうと言う事は……何かあるのですね? あの子が例え私の知っているレイラでないとしても、私や、歌や、トッツィ達に関わる、非常に危険で陰惨な何かがあるのですね?」

 

 

 あー…えーと…それはー……。

 

 

 …誤魔化せん。確信してやがる…。

 

 

 モービンに聞け!

 俺はあいつを追いかける!

 トゥルート、すまんが飯代払っといてくれー!

 

 

「待ちなさい! 待てと言っているのです!」

 

 

 元ブタ…もとい歌姫とは思えない、やたらと鋭く繰り出される手と、新聞配達で異様に鍛えられた脚力を持って、俺に追いすがるプリズム。

 だが、その程度ではまだまだハンターには追いつけぬわ!

 

 

 ……いや、思ったより足が速いし、それ以上に徐々に引き離されつつも30分以上全力疾走して追いかけてくる持久力と執念にはマジでビビッたけども。やっぱコイツ、レジェンドラスタの姉なんだなぁ…。

 

 

 

PS4月

 

 

 トゥルートの村(跡)まで、馬で約1日。良い馬を使い潰すつもりで走らせれば、もう少し短縮できるだろう。いくらレイラがレジェンドラスタと言っても、移動速度はそれくらいだ。

 対して、俺は鬼疾風を使い続ければ、大体半日ちょっとで村まで到着できる。

 

 馬より足が速い人間とか、どこの神話やねんと思いつつも、大急ぎで準備を整えて、飛び出して行ったレイラに追いつくには充分だろう…と思っていた。

 

 

 

 

 まさかナルガクルガを移動手段として使うとは…。

 

 

 いや、俺だってランポスを手名付けて馬代わりに使ってた事はあるけどね。

 と言っても、レイラの場合は自分でナルガクルガを手名付けた(或いは叩き伏せて舎弟にした)訳ではない。俺も初めて聞いたが、「ライダー」と呼ばれる人々だそうな。

 モンスターと絆を結び、共に生活すると言う、ハンターから見れば信じられない文化を持った人々。本来であれば、彼らは独自すぎる文化の為に、他の社会と切り離された土地で生活しており、フロンティアなんぞに出向いて来る筈がない…らしいのだが、どういう訳だか、丁度居合わせたらしい。

 しかもレイラとは顔見知りだとか。

 

 何でそんな人達と? ……はぁ、修行中のレイラが訪れた事があると。その時のよしみで、一番俊足のライダーがレイラの足になった…。

 

 

 タイミングが悪いよ!

 

 とか言ってる場合じゃない。流石にナルガクルガには追いつけない。かと言って、鬼疾風以上の移動手段は、現在は無い。

 …走って追いかけるしかないじゃないかぁぁぁ! 畜生やってやらぁぁぁぁ!!!!

 

 

 

PS4月

 

 

 まぁ、追いつける筈も無かったんですがね。アラガミモードになっても、一瞬の加速力ではナルガクルガを上回るが、途中でダウンして動けなくなるものな。

 必死こいて追いかけ続け、多分半日分くらい遅れてトゥルートの村(跡)まで到着した。

 レビディオラを撃退した時にも会った、復興作業中の村人に聞いてみると、やはりレイラは既に到着し、イナガミが居ると思しき場所へ向かってしまったようだ。

 

 と言うか、作業中の村人、避難させておこうよ…。近くに古龍が居るんだぞ。

 そう伝えると、村人達は作業を一端切り上げ、避難する事にしたようだ。ウェストライブからの支援もあり、別の場所に衣食住が保証されているらしい。

 

 村人達が何処に身を寄せているのか聞いておいて、レイラの元に急ぐ。

 

 

 

 間に合わなかった……と言いますか、最悪の事態にだけは間に合ったと言いますか。

 レイラを見つけた時、既に彼女はボロボロだった。死んでるんじゃないかと思うくらいには。

 

 ピクリとも動かないレイラに、ノシノシと近寄ってくる、獅子と龍を合体させたような古龍。あれがイナガミか…。

 多少の傷はあるようだが、致命傷には程遠い。…レイラでさえ、そこまでしかダメージを与えられなかったのか…。こりゃ逃げの一手だな。

 

 効くかどうかは博打だったが、閃光玉でイナガミの視界を遮り、鬼疾風でレイラを掻っ攫う。

 竹に紛れて逃げる…が、竹を隠れ場所として見るのは止めた方がよさそうだ。ここは奴のホームグラウンド。しかも竹を操る力があると言うのだから、完全な敵地である。 

 

 と言うか、さっきから竹がワサワサ蠢き、急激に伸びたり、逆に縮んだりしている。…完全に迷いの森だなコリャ。景色をアテにして道筋を決めるのは、止めた方がよさそうだ。太陽を目印にして直進するか。

 

 

「おい……なに…してる…」

 

 

 おう起きたか。そのまま寝てろ。

 

 

「はなせ…! アタシは…やつを……! ようやく…みつけた…んだ!」

 

 

 うっさい、そのザマで何が出来る。仇討ちでも狩りでも構いやしないが、乙った時の為の救助アイルーも連れてこなかったバカの言う事なんぞ聞かないよ。

 

 

「…そ……くそっ…くそっ、ちくしょう…! まけた……アタシは…なんのために、いままで…!」

 

 

 …泣いてるんだろう。見た所、完全に一方的でなかったとしても、いいようにあしらわれたのは想像に難くない。

 よりにもよって、レイラをそうまで叩き伏せられるイナガミの戦闘力は驚異的だな…。

 

 それはともかくとして、何とか逃げ切れたようだ。竹林を抜ける事が出来た。…抜けた先、或いは瞬間に奇襲があるのではないかと思って警戒したが、特に何も起こらず。

 …脅威とすら認識されていなかった、って事かね…。

 

 

 とりあえず、トゥルートの村の人達が身を寄せている所に行って、診療所に放り込む。

 タマフリを使って俺も治療するが、徐々に傷が塞がれていくのを見る診療所の方々の視線が痛かった。後でやり方を教えてくれと言われたが、時間が無いので無理っすね。

 

 

「っ……は…」

 

 

 あ、起きたか。…ここは診療所だ。

 おい動くな。酷い怪我なんだから。…暫くハンターとしての活動は止めておけよ。まぁ、ハンターボディなら、飯食って寝てれば一週間もせずに治ると思うけどな。

 

 …こら動くなっつってんだろ!

 

 

「離せ…あいつは…イナガミはどうなった…」

 

 

 どうもこうもない。レイラを掻っ攫って、さっさと逃げてきたんだよ。あの竹林から、動いちゃいない筈…ってだから動くな!

 そんな体でどうするつもりだ。再戦するにしても、体が治ってからにしろって。

 

 

 …ふぅ、静かになったか。落ち着いたんじゃなくて、体力が尽きたって感じだが。

 動く事すらできなくなったからか、レイラは俯いて小刻みに震えている。血が滲む程に拳を握りしめている…だからそういうの止めろ。

 

 

「…くそぅ……あいつを倒す為だけに、今までずっと…」

 

 

 あいつを…って、トキシの仇討ち相手本体だったのか? 同種族じゃなくて。

 

 

「ああ…。間違いなく、お師匠様とあの時戦ったイナガミだった…。なのに…なのに、アタシは……お師匠様…!」

 

 

 水滴が零れ落ちるのを、見ないフリをした。

 …どうしたものかな。

 

 考え込んでいると、レイラは涙でグチャグチャになった顔を上げ、俺を見据えた。

 

 

「……こんな事を言えた義理じゃないが、頼みがある」

 

 

 …何だ?

 

 

「こいつを」

 

 

 …穿龍棍? しかもコレ、レイラが愛用してる奴じゃないか。これを差し出して、どうしろって?

 

 

「…恥を忍んで、頼む…! アタシじゃ、あのイナガミには勝てない…。アタシに代わって、アタシのこの穿龍棍で、あのイナガミを倒してくれ…。お師匠様の仇を…!」

 

 

 

 

 

 

 

 え、無理。

 

 

「……………」

 

 

 いやそんな顔されても…。

 俺、穿龍棍の扱いにかけても、ハンターとしての単体戦闘力でもお前より二回りくらい下よ? レイラで勝てなかった相手に、そんな俺が挑んでも結果なんぞ見えてるだろうが。

 今から特訓するにしても、お前が全回復する方が確実に早いぞ。

 

 苦渋の決断で俺に頼んだのは分かるが、理論的にも実力的にも無理がある。

 

 

「だったら…だったらどうしろって言うんだ!? お師匠様の仇が、ようやく手の届くところに居るんだ! このまま諦めろって言うのかよ!」

 

「それは簡単な問題だよ、レイラ」

 

 

 何奴……って、エドワードさん? とティアラと……プリズム!?

 おいおい、何でこのタイミングでここに…。

 

 

「レイラ…。話は全て、モービンから聞きました。貴方が私に向ける怒りは、尤もだと思います。殴られようと罵られようと、全て受け止めようと思って来たのですが……まずは体を治しなさい」

 

「……ッ!」

 

 

 タイミングがいいのか悪いのか…。今のレイラの頭の中はグチャグチャだろう。仇のイナガミに負け、倒す手段も見つからず、そこへやってきた全ての元凶ともいえる人物。しかし殴り掛かる事もできやしない。

 レイラが動くに動けない状態なので、刃傷沙汰に発展しないのだけが救いかな…。

 

 …姉妹の話はこれからしてもらうとして、エドワードさんとティアラは何故ここに?

 

 

「私は仕事の帰りに、この2人を見かけたから、暇潰しに寄ってみただけよ」

 

「レイラの事を知った歌姫がどうしても話がしたいとね…。全く、僕らも彼女達の関係には気を使っていたと言うのに、君はいつも暴走するね」

 

 

 考えるだけ無駄、気を遣うしかしないのは何もしてないのと同じ、という結論に達しまして。

 

 

「それも一つの真理ではあるかもね…。ともかく、歌姫から『今すぐレイラの元に向かいたい』と依頼を受けてね。レジェンドラスタとしての仕事とは少し違うが、引き受けたんだよ。…相当な剣幕で飛び出して行った、と言うのも気になったし」

 

 

 …ひょっとして、イナガミの情報も既に掴んでました?

 

 

「この近くに、場違いな竹林が出来た、という話は聞いていたよ。……さて、レイラ。歌姫との話の最中に割り込むが、少しいいかね」

 

「…なんだよ」

 

「どうしろと言うのだ、と君は言ったね。イナガミを倒すのは、確かに彼では厳しいだろう。……だが、彼はそれを可能とする手段を持っている。いや、彼だけではない。極一部の例外を除き、全てのハンターがその手段を持っていると言ってもいいだろう」

 

「どういう事だ!? どうすればアイツを倒せる! お師匠様の仇を討つには、何をすればいいんだ!」

 

 

 …あーはいはい、そういう事ね。それなら確かに倒せる可能性はあるけど。

 

 

「教えてやりなさい。どうやらトキシは、それだけは教えられなかったみたいね」

 

「お師匠様が…?」

 

「レイラ。貴方は、自分だけの力を頼ってここまで来た、と言っていたわね。確かにそれはハンターとしては必須の事だわ。フロンティアに限らず、自然は厳しく孤独な場所。だからこそ、誰かに寄り添う前に、まず自分の足で立てるようにならなければいけないわ」

 

「トキシは本当に素晴らしいハンターだった。ただ一点…いや、二点を除けば、完璧とさえ言って差し支えなかっただろう。そして、困った事にその一点の欠点は、君に受け継がれてしまったようだ」

 

「お師匠様に……欠点?」

 

 

 

 ……レイラ、暫し沈黙。

 

 

 

「…割と沢山あったと思うが」

 

「そうでしたか…?」

 

「歌姫サンのは、蓼食う虫も好き好きよ…」

 

 

 

 まぁ、そりゃ人間だものね。

 戯言はともかくとして…その欠点を補えば、多分イナガミにも勝てるだろうね。勿論、苦戦は免れないけど。

 

 

「…聞かせてくれ。アタシは、どうすればいい?」

 

 

 ただ一言で済む。

 

 

 

 

 

 ひと狩り行こう『ぜ』。

 

 

 これだけさ。

 

 

「…はぁ? 何だそりゃ…。禅問答でもしたいのかよ…。そんなもんに付き合ってやれる気分も頭も無いぞ。もっとわかりやすく言え」

 

「私も分かりにくいと思うわ。洒落た言い回しだとは思うけど、レイラが理解できる訳ないじゃない」

 

 

 ティアラ、ちょっとレイラをディスってないか?

 

 話を戻すが、レイラ。お前がやってるのは、『ひと狩り行こう』だ。『ぜ』が無い。『そうだ 京都、行こう』…はここじゃ通じないか。

 自分ひとりで狩りに行くなら、『ひと狩り行こう』で終わりだよ。

 

 でもな、『ぜ』ってついたら、誰かに語り掛けてるって事だ。独りじゃない。誰かと一緒に狩りに行くんだ。

 

 

 一人で狩りに行く事を否定はしない。自分の力だけで切り抜けなきゃいけない場面や、そうしないと得られない力は確かにある。

 だけど、元々狩りってのは一人でやるもんじゃないんだよ。当たり前だろ。相手は人間なんかよりずっと強くてでっかいモンスターだ。わざわざ一人で戦うのは、自殺と同じだぜ。

 

 

「……それだけ…か?」

 

 

 ああ、それだけさ。それだけの事が、レイラ、お前は出来てない。

 実際に経験してるだろ。この前、ミラボレアスとやり合った時、勝てたのは何でだ?

 レイラだけの力じゃない。セラブレスだけでもない。増して俺の力だけでもない。ミキが集めてきた人達の援護があって、駆け付けたプリズムのバフとデバフを受けて、ようやく勝てた。

 3人がかりで、穿龍棍の奥義って奴を成功させたのだって覚えてるだろ。あの時、感じた事の無い手応えや充実感を感じてたんじゃないか?

 一緒に狩りをするってのは、そういう事だ。

 

 

 ただ頭数を揃えて殴り掛かるだけじゃない。レイラがイメージしてるのは、そこまでなんだろう。

 だから、仲間を増やす事も、頼る事も考えてない。

 

 

 

 

 連携をとって、役割分担して、次に何をするって声を掛け合って。

 それが『モンスターハンター』だ。

 

 

「…モービンは、あの方が最後に戦いに赴かれた時、一人で行かせてしまった事を嘆いていました。例え力が足りなくても、共に戦っていれば、違う結末があったのではないかと…」

 

「そう。それこそが、トキシの最大にして最悪の欠点だった。あまりに強すぎ、他のハンター達との隔絶した実力差の故に、常に一人で戦っていた。誰かを頼る事を知らなかった」

 

「それまで受け継がれた為に、レイラは他人を頼らず自分の力を高め続けたの。非常に腕の立つハンターになった代わりに、ハンターなら誰もが学ぶ戦い方を知る事ができなかった。だけど、嘆く事はないわ。これからその戦い方を学べば、地力で勝る貴方は、凄まじい成長を見せるでしょう」

 

 

 …と、ここまで色々言ったけど、いきなり方針を変えろってのも難しかろうし、すぐには信じられないだろう。

 とりあえず、リハビリがてらに、何か狩りに行こう『ぜ』。

 

 今までで苦戦したモンスターとか、狩ろうと思っても厳しかった奴とか、手間がかかり過ぎるからってあきらめてた事とかないか? 力を合わせる、集結させるって事の効果を体感しに行こう。

 

 

 

「………納得できた訳じゃないし…どうにも言い包められてる気もするが、分かった。だったら…一つ、頼みがある。こいつを見てくれ」

 

 

 何ぞ?

 

 

「壊れた穿龍棍…? コーレクラウフィーか」

 

「これは…よもや、あの方が愛用していた…」

 

「そうさ。お師匠様が最後まで使っていた穿龍棍さ。…お師匠様の亡骸は見つからなかったけど、これだけが残っていたんだ…。これを直すのを、手伝ってほしい。今までも素材を集めてはいたんだけど、自分の武器の強化を優先してた」

 

 

 ふむ…素材なんだっけ?

 

 

「覇種テオ・テスカトルとメラギナスの素材が主だね。しかし…これは酷いな…。一から作るのではなく、直す事に拘るなら、通常より多くの素材が必要になるかもしれない。元より、工房の親方をして『えげつない数の素材が必要』と言わしめた代物だ」

 

 

 まぁ、連携を学ぶ機会が多くなったと思えば…。

 これを直して、どうする気だ? 自分の穿龍棍はどうする。

 

 

「…アタシの穿龍棍は、アタシが使うさ。直してもらったお師匠様の穿龍棍は…お前に託す」

 

 

 俺!?

 

 

「アタシ以外じゃ、お前が一番使いこなせてる。…アタシが信用できる人間の中では、って話だけどな。アタシと一緒に、お師匠様の武器と、遺された防具を使って、あのイナガミを倒してほしいんだ。…本当は、防具もアタシが使うつもりだったんだけどね」

 

 

 装備固定か…。まぁ大丈夫だろ。伝説のハンターが使ってた装備だし、産廃って事は無い………ちょっと待て。

 その装備、男性用? 女性用?

 

 

「アタシが使うつもりだったんだから女性用だろう」

 

 

 …トキシはオカマだったのか!?

 

 

「「処すぞ」」

 

 

 ごめんなさい。つかプリズムまで声が怖いよ。

 

 

「ったく…。モノにもよるけど、職人に頼めば男性用・女性用は変更できるんだよ。お師匠様の私物に手を付けるのは躊躇われたけどな」

 

「知らないのも無理はないがね。装備の譲渡は基本的に禁じられている。基本的に、闘技場や訓練所向けのサービスさ」

 

 

 ふーん…ティアラ、知ってた?

 

 

「興味も無いわ。この私が誰かのお下がりを使うと思って?」

 

 

 そりゃそうか。

 さて…そんじゃ、とにもかくにもレイラが動けるようになるまで待たなくちゃな。その間の世話は…プリズム、任せていいか?

 

 

「ええ、勿論」

 

「ちょっ!」

 

 

 文句ゆーな。いや言ってもいいけど、面と向かい合って、お互いの言い分を頭ごなしに否定せずに、腰を落ち着けて言えよ。

 話す事も、言いたい事も全く通じ合ってないんだ。貯め込み続けりゃ、そりゃロクな事にならんさ。イメージの中の相手じゃなくて、実物に向かって言いたい事言ってみな。頭の中で罵り続けるより、よっぽどスッキリするだろうさ。

 

 

「それで決裂したら?」

 

 

 そん時はしょーがない。縁が切れた、繋ぐ事もなかったってだけでショ。距離を置いた方が上手く行く関係だってあるさ。

 大体、レイラは現在動けず、プリズムは話したいと思っていて、そんでお互い存在を知られてるんだ。どうやったって、同じ結果に辿り着くだろうよ。

 

 そんじゃ、一週間くらいしたら様子見にくるから、それまでに色々話し合っておくように。じゃーねー。

 

 

 

「やれやれ、強引な事だね…」

 

「とんだ無駄足だったわね。丁度いいわ、買い物に付き合いなさい」

 

 

 へーい。

 

 後ろでレイラがなんか騒いでたが、プリズム任せた。

 

 

 

 



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297話

異世界食堂、ニコ動で拝見。
動画になると、違った面白さがあるのぅ。
…しかし、料理人に髭っていいのか…?
異物混入ダメゼッタイ。髪の毛も髭もアウトです。

まぁ、そんな揚げ足取りは置いといて…。
ふむ、異世界〇〇…。

異世界……病院。
異世界……商店街。
異世界……学校。
異世界……ソープ。つまり娼館。
いや、異世界男娼館…? 
閑古鳥決定ですなw

さて、明日は仁王DLC! 何時からプレイできっかなー。
新しい武器種は無さそうなのが残念。
悟りが白虎で行き詰った…。
そろそろ装備を厳選しなきゃアカンな。
武技特化かなぁ…。刀ばっかりつかってたしなぁ…。

あと烏天狗を頼むから弱体化してくれ!




そして売却の「全て」の項目をアイテムと分けてくれ…。
大名物以下全てを売却したら、端金と引き換えに仙丹から素材まで全て無くなってしまった…。
素材はほぼ使わないからいいとして、霊石全部使ってたら、3~4レベルくらい上がっていたのに…。
買戻しもできやしない。
FXで1か月分の給料を溶かした気分になりました。


PS4月

 

 

 ティアラの買い物に付き合いがてら、試着室で秘密のゴニョゴニョをしてました。オカルト版真言立川流は、着衣エロしても汚さない・皺にならない・破れないと3拍子揃ったヤりかたも完備しています。いや、着衣エロなんて汚してナンボだとは思うけど、自分の物でもない服だしね。

 ちなみに、着衣エロに使った服は、しっかりティアラが購入していた。意外と律儀と言うか、そもそもナニに使った服が不特定多数の元に流れて行くのが嫌だと言うか。

 

 まぁ、それはともかく。少なくとも、レイラとプリズムは、まだ大人しくしているようだ。最悪、刃傷沙汰か、少なくとも病院での取っ組み合いも考えていたのだが、それらしい情報は流れてこない。

 しかし、問題はここからだろうなぁ…。初っ端から本音のぶつかり合いができるとは思ってない。まずはジャブから入っている事だろう。

 一応、トッツイ達には連絡を入れ、影ながら見守るよう伝えておいた。

 

 

 

 さて、この一週間で何をするか? …間違いなく、穿龍棍の特訓は必要だ。

 レイラからの要請で武器を使うとは言え、生半可な技量ではレイラは納得しないだろう。彼女を唸らせるだけの技を持たなければ、トキシが使っていた穿龍棍を直したとしても、手渡してもらえそうにない。

 それ以前に、未だ使いこなせていない武器で古龍に挑むなんぞ、自殺行為以外の何物でもない。

 レイラを納得させる為にも、俺自身が生き残る為にも、穿龍棍の修練は必要だ。

 

 とは言え、具体的にどうしたものか…。穿龍棍使いの最高峰のレイラ自身は、現在プリズムと内輪の話の真っ最中。

 俺以上に穿龍棍を使えているハンターもいるらしいが、具体的に誰なのかは分からない。ギルドに紹介してもらえるかな?

 

 とりあえず、レイラが退院するまで、穿龍棍縛りで狩りをやってみるか。

 

 

 

 …あ、その前に頼れる人が一人いたな。

 

 

 

「ヌハハハ、それで吾輩を訪ねてきた訳か! 確かに、武器の使い方を教えるのも吾輩の役目だな!」

 

 

 そうなんすよ教官。何かいい方法無いですかね?

 

 

「うむ、無い」

 

 

 即答かよ。

 

 

「あのな、吾輩は教官であって導師ではないのだぞ。一通りの武器を充分に扱えはするが、レジェンドラスタのような一つの武器を極めたような連中とは程遠いのだ。何より、技術と言うのは一定以上の水準に達しようとすると、俺の自身の力で組み上げていくしかないのだぞ。怠け根性からではないとは言え、それを一朝一夜でどうにかしよう等と考えているとは…この愚か者め」

 

 

 言いたい事はよく分かるが、レイラの要請を考えるとそこまでやんなきゃイカンのですよ。あー、やっぱ八方塞がりか…。

 

 

「まぁ待て。頼られて何もできませんでした、では吾輩としても立場が無い。そうさな………うむ、暫し待て。…………これを持っていけ」

 

 

 教官は近くにあったアイテムボックス(私用かな?)から取り出したものを渡す。

 巻物……?

 

 

 秘伝書!?

 

 

「シッ、声が大きい! 本来、貴様はまだこれを所有するだけの実績を認められてはいないのだぞ」

 

 

 っとと…。……しかし、まだ穿龍棍の動きは完成してない筈なのに、どうしてこんな物が?

 

 

「少し違うな。穿龍棍の正式な使い方自体は、既にギルドに登録されているのだ。だが、それを再現できる者が居ない。何故なら、正式な使い方を開発し、登録したのは、トキシ自身だからだ。…彼が書いたマニュアルは、完全なものではなかった。文字通りの秘伝と言うべきか、肝心の技術の要となる部分が書かれていなかったのだ。何故なのかは分からん。トキシ自身も解明できてなかったのか、それとも口伝として直弟子にのみ伝えたのか。足りない部分を補い、マニュアルを完成させようとするのが、本来のテスターの役目なのだ」

 

 

 …それ、今まで一言も聞いてないんですけど…。

 

 

「知らない方が、色々な使い方を試そうとするからな。実際、そのマニュアルに載ってない使い方を開発したテスターも何人かいるぞ」

 

 

 分かるような分からんような理屈だが、そういう問題かよ。

 

 

「まぁ、そこに書かれている内容の殆どは、穿龍棍を受け取った時に教習を受けた内容とほぼ同じだろう。だが、充分な経験を得た今、最初の教えを振り返れば、当時と違う発見もあるだろう。急激に伸びる時期だからこそ、足元を省みねばならぬ。一度、目を通してみるといい」

 

 

 了解しました。ありがとうございます、教官。

 

 

「なに、困った事があればいつでも来るがいい! 出来る事があるかは分からんが、可能な限り力になろう! 何せ、吾輩はヒマだからな! ヌハハハハハ!」

 

 

 

 

PS4月

 

 

 ふむ…穿龍棍のマニュアルに目を通してみたが……うーむ、確かに小さな発見は幾つかあった。それを元に、チマチマとした改良も考えられたし、実践できた。

 しかしこれでレイラが納得するとは思えんな。

 どうするべきかと悩んでいたら、一緒に狩りに行っていたマオから苦言が入った。

 

 

「どんな必殺技、一発技を持っていたとしても、地力に勝る力など無い。徹底的に練り上げられた基本こそが、最強の戦術だろう。新しい戦術にひっくり返される事もあるがな」

 

 

 …む、確かに…。今まであんまり基礎ってやってなかったと言うか、理不尽かつ不条理なパワーアップばっかりだったからなぁ…。

 自身も剣術を嗜み、毎日素振りをしているようなマオだからこその真っ当な意見だった。

 

 

「地力を鍛えるなら、地道な基礎鍛錬以外に方法はない。型を繰り返し、体を適した形に変え、練度を上げていく。…組み手は時々でいいだろう。どうせモンスターを相手に実戦を繰り返すのだしな。……組み手の相手は私がやるぞ? 勝っても負けても…な?」

 

 

 はいはい、俺が勝てばくっ殺、マオが勝てば主導権はソッチで青姦ね。どっちが勝ってもWin-Winで素晴らしいね。

 ま、確かに一発芸でレイラが納得するかっつーとな…。

 

 ふむ………。しかし、やはりそれではレベルアップは通常の手段では期待できない。なので。

 

 

 

「なので?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 久しぶりに山籠りならぬ、狩場籠りだぁぁぁぁあ!

 

 説明しよう!

 狩場籠りとは、24時間ぶっ通しで狩場に籠り続け、キャンプにも戻らず、常に野生に身を置き続ける事を言う! 持っていく道具は、武器と剥ぎ取りナイフのみ。飯は勿論、回復薬も現地調達、体を洗いたければガノトトスとかを警戒しつつ川で水行、寝る時は適当な木陰で周囲を経過しつつ眠る!

 

 女? ………見ず知らずという設定の顔見知りを、ごっこ遊びで襲って発散したりします。まー狩場の中でセクロスなんぞ、普通に考えて自殺行為だけどね。やるけどね。

 

 

 まぁ、早い話が久方ぶりに狩り三昧しようぜって事だ。いつからだったかなぁ、丸一日狩場に身を置く事をしなくなったり、一度の狩りで5~6体くらいの大型標的を仕留めたり、報酬? それより討伐だ! って言わなくなったのは。

 多分、女に溺れるようになった頃からだったと思うが。

 フロンティアに来てから、何だかんだで気楽にやってたように見えていただろうが、女に癒されなければ体か心が壊れそうなくらいに負担はかかっていたんだ。一応。本当に。ウソジャナイヨ?

 それをちょっと、一度心身ともに鍛え直さないと……。

 

 

 

 …え? 女と一緒じゃ、意味がない? 

 

 

 

 

 

 ………そう言えばそうだ!

 

 

 

 いやしかしなぁ…。

 

 

「あのね、そもそもの話、いい?」

 

 

 ん? どした、ミーシャ。

 

 

「貴方、G級領域で訓練するつもりでしょ? どっちにしろ私達じゃついて行けないわ、ハンターランク的に」

 

 

 ………あ。

 

 

「レジェンドラスタならついていけるでしょうけど、事が事だし…。レイラさんへの義理もあるでしょうから、付いて来ると思う?」

 

 

 ………いや、むしろ暫く禁欲させて、イナガミ勝利の暁に大爆発させそうな気が…。

 うーむ…そういやセラブレスもG級…だけど、間違いなくアイツは拒否するな。そういう関係になってないし、急かされてはいるようだけど本人嫌がってるし。

 

 

「ま、私達も野暮を言う気はないわよ。一週間くらいのオアズケなら我慢できなくもないし、ハンターとしてレベルアップしたい気持ちも分かるし、友人(或いはこれからの獲物)に力を貸す為に、出来る事をするんでしょ? 私達だって手伝ってあげたいわ。未来の旦那様の意思だしね」

 

 

 そう言ってくれるとありがたい。いい女で、未来のいい嫁さんだ。

 …そうだな。もうやるって決めちまったからなぁ。

 

 

「別に正妻なんて事言わないけど、貴方の関係、ちゃんと管理してあげるわ。不満が出ないように、コントロールしてあげる。…私やフラウなら、出来るわよ」

 

 

 …段々ミーシャがどこに向かってるのか分からなくなってきたな。いや俺がそうさせてるんだけども。

 

 

 

PS4月

 

 

 はい、そんな訳でフロンティアの山奥に籠ってる訳ですけども……うーん、久々に狩り脳が刺激されますねぇ。

 ギアナ高地で明鏡止水会得の為に、半裸で修行してる気分だ。

 

 こう、色々とね? 体から毒気が抜けて、活性化していく感じと言うか。精力が活力に変換される感覚と言うか。

 

 

 

 或いは四六時中、フロンティア仕様のモンスター達に絡まれて、嫌でも死力を振り絞らなけりゃならない感覚と言うか。

 

 

 

 

 やっぱり臨界業ってのはこれだね。生きるか死ぬかのギリギリまで追い込んで、潜在能力を引き出すっていうジャンプ御用達の修行法。

 穿龍棍の腕前が、ガンガン上がっているのが実感できる。この辺にこう、ストレッチパワーならぬ穿龍棍パワーが乳酸菌と一緒に溜まって行ってる訳ですよ。

 

 

 実際には臨界業は非効率極まりないけどな。追い込んで殻を破るなんて、失敗する確率の方がずっと高いし、成功しても大抵後遺症があるし、それで得られた力ってのは大抵どっかネジくれている。そのネジくれた力を取り込んで、使いこなせるかどうかが成長のカギであるのは確かだが。

 

 

 

 そんな塩梅で、延々と狩りをしていた訳だが、3日目くらいにセラブレスが訪ねてきた。と言うか狩りに乱入してきた。

 むぅ、ティガレックスのトドメを取られたか。まぁいいけど。

 

 

 

「まぁいいけど、じゃない。お前は何をいきなりやらかしてるんだ。せめて娘にくらい一言言っておけ」

 

 

 あー…ミーシャが色々伝えてくれる手筈になってたんだが。

 

 

「それでもだ。全く、出張に行くならちゃんと告げていかんか。それでもパパか」

 

 

 む…返す言葉も無いな。

 というか、ミキから頼まれてここに来たのか?

 

 

「ま、そんな所だ。ミラボレアス戦で、共に戦った仲だしな。…レイラの事で色々ややこしくなった、というのは聞いたが、まさか突然狩場に泊まり込みとは…」

 

 

 アホを見る目を向けられた。ま、確かにレジェンドラスタであっても、G級領域に常に身を置くなんてアホな事はしない。

 実力的には対応できても、不意を打たれる可能性を徹底的に減らす為だ。余計な負担を自分から被ったり、疲労を体に残すようなことはしない。

 

 ちゅーか、ひょっとしてセラブレスってミキと仲がいい?

 

 

「…仲がいい…悪くはないと思うぞ。将来のハンターとしても有望だし、お前との関係を考えるとモラルが崩壊しそうになるが………まぁ、なんだ。昔はな、可愛い妹が欲しかったんだ。『お姉ちゃん』と呼ばれて、つい舞い上がって…。お前の娘になるとか、絶対にゴメンだが」

 

 

 気持ちは分かる。色々特殊な関係になっちまったが、素直に可愛い子だもの。

 トゥルートの妹センサーが反応しまくって鼻血まで出たわ。

 ただし、実の姉のマキがマジ泣きしそうだが。

 

 

「真面目な話、ミキが心配していたからな。ミーシャから話は聞いていたが、それでも籠った場所が場所だ。連れ戻す事が無理だとしても、せめて様子を見てきてほしいと泣きつかれた。…ま、ピンピンしているようだし、私はもう帰る」

 

 

 ありゃ、どうせならちょっと狩って行けばよかろうに。

 

 

「…狩場籠り続きで、性欲が溜まりに溜まっているお前と一緒になんぞいられるか。私は、今でもお前のそういう所は一切信用してないんだからな」

 

 

 反論のしようもねぇな。…そのままセラブレスは帰っていってしまった。まぁ、ミキを安心させる為に来てくれたんだし、後で個人的にも礼を言っておかないとなぁ…。

 さて、もう一丁狩りに行きますかね。なんかこう……掴めそうな気がするんだよね。

 

 

 

PS4月

 

 

 ………昨晩の夢は…現実なんだろうか? いや夢が現実である筈ないんだけど、俺の場合は色々と例外が…。

 事の次第は、体力回復の為に眠りながら狩りをしていた時の事だ。

 

 何? その時点でよく分からない? いや分からないったって、俺だってできるようになっちまっただけだし…。神経とかの半分を休眠させながら、体だけ動かして戦えるようになりました。

 人間って右脳と左脳があって、右脳が直感とかを司り、左脳が理論を司るって言うだろ? 右脳が寝てる時は、ロジック100%で敵の動きを読んで狩りをして、左脳が寝てる時には野生の直感に任せて狩りをする。体は休まらないけど、脳は休めるという訳の分からん状態になってしまった。

 

 穿龍棍のレベルアップには、いい方法だったかもしれないな。完全に理屈で穿龍棍を振り回し、合理的な動きを徹底追及した後、それを元にした直感で実践し、何処に問題があるのか、更なる力を引き出すにはどうすればいいのか、直感が教えてくれる。理性と勘の両方を徹底的に突き詰めた事が、穿龍棍の使い方を体に馴染ませてくれた気がする。

 まぁ、流石に両方起きてる状態に比べると、戦闘力は半分以下になってしまうが…。

 

 

 話が逸れたが夢の事だ。脳が半分だけ寝てるって言ってもレム睡眠とノンレム睡眠がありまして、問題なのはノンレム睡眠の方ね。

 寝ている途中に不意に目が覚めて、ウトウト微睡んでいる状態と言った方が正確かもしれない。半分動きを止めている右脳が、ギギネブラを殴りまくっている左脳をボケーっと見てた訳ですが、その間に別のモノが見えてきたのだ。

 

 狩場の中にこそある筈はないが、特に珍しくも無い一室で、二人の女性が横たわっている。二人とも見覚えがある……と言うか、ぶっちゃけミキとセラブレスだ。ちゃんと服(寝巻のようだが)こそ来ているが、どういう訳だか抱き合って添い寝している。

 この辺で「ああ夢だな」とは気づいたんだけど、モンスターの怒りの声なんぞより、虚構でも娘と美人さんを見てたいなぁ…と思った訳だ。

 

 妙にリアルな夢だな、と思ったよ。ミキの部屋には何度か入った事があるが、ベッドの位置も、置いてあるプーギー人形も、現実と殆ど変わらない。

 二人はまだ起きているらしく、小声で何やら談笑しているようだった。外見を除けば本当に、仲の良い姉妹のようで、心がほっこりするなぁ…なんて思っていたものだ。

 

 

 …そのほっこりが、(新宿の種馬的)モッコリに変わってきたのは、何が切っ掛けだったんだろうか?

 

 

 ひょっとしてワイ談でもしていたんだろうか…。友人でガールズトークするのに、定番の話題ではあると思う。その中で、経験者が居ればついつい話を聞いてしまうのも、おかしくはないと思う。

 が、ミキを相手にそれはヤバイ。

 アラガミモードだとガチでエロエロ、百合にもレズにも疑似近親姦もオッケーな生体オナホと化すミキ。

 しかしながら、アラガミモードでなければ大丈夫かと言うと……実はそれもかなり怪しかったりする。事実、アラガミモードで「友人をパパのおちんぽケースにする」なんてとんでもない事を言い出しておきながら、通常モードに戻っても「ちょっと顔が合わせ辛い」で済ませたミキだ。

 その後も、ミラボレアス戦後の『ご褒美』で団員達の調教を進めたりで、思考がエロに汚染される(と言うか俺に近付いている)可能性は大いにある。あり過ぎる。

 

 

 事実、添い寝しているミキの雰囲気が段々妖しくなってきた。じゃれるようにセラブレスの背に手を回し、「腰ほそーい」なんて言っているが、アレはどう見ても愛撫の手付きだ。

 ミキの目が段々と肉欲に淀んでいき、夢の中だと言うのにメスの臭いが立ち上り始める。尚、現実の俺の肉体は、ババコンガの放り投げてくる糞を全て見切って避けていた。

 

 理性をつかさどる筈の左脳が、若干夢に気を取られて危険な状態に陥りつつも、夢は続く。

 セラブレスがおかしいと思った時には、もう遅い。教えてもいない天然モノのオカルト版真言立川流モドキが発動し、セラブレスはエネルギーを吸い取られて動けなくなった。逆に、ミキの体はアラガミモード・アダルトモードと化し、元気一杯ヤル気ハツラツ、ついでに手の感触はエロいし匂いも何となくアダルトだし汗は媚薬同然だし、、添い寝なんかしてりゃ誰だってビーストモードになるさー! 状態と化してしまった。

 

 そっから先は……まぁ、我がムッスメながら誘い受けの上手い事上手い事…。

 ミキの仕草と体液で見事に挑発されたセラブレスは、異常な行為だと言う事すら忘れ、ミキの体をがっつくように貪ろうとしていた。

 勿論、通常モードならともかく、アラガミモードのミキが、セラブレスにいいようにされる筈もない。G級の身体能力は乱れた呼吸で発揮できず、圧し掛かろうとしてはローターよりも卑猥な指で返り討ちにされ、何度かイかされてクールダウンしそうになったら、また体液と言葉と仕草で理性を吹き飛ばされ…。

 

 何と言うか、発情した犬を上手くあしらう飼い主のようだった。あー、多分パンツァー猟団の皆をレズ調教した時もこんな感じだったんだろうなぁ。

 数分もかからない内に、セラブレスは混乱と快楽に沈み、失神した。

 

 

 

 ……まぁ、これだけだったら単なる夢で済むと思うんだよ。パパが視るような夢じゃないとは思うが、そもそもパパとムッスメでヤッちゃってるから、そこはどうでもいい。

 でもね、ミキが俺に向かってコイコイと手招きしてたら、どうだ?

 

 …なんつーか、とって来た獲物を自慢するような、プレゼントしようとしているネコのようにしか見えなかったよ。

 

 

 

 単なる夢じゃないんじゃないかと思い始めたのは、この辺からだ。だって、俺とミキだぞ? 半ば以上、アラガミ化している俺達だぞ?

 アラガミとゴッドイーターは別物だが、感応現象が起きてるんじゃないかという考えが頭をよぎった。事実、かつて俺とアリサは直接の接触無しに、遠距離からの感応現象を何度も成立させた事がある。増して、ミキの中に何度も精を放ち、互いの霊力を交換した仲だ。遠く離れた場所から、感応現象に限りなく近い現象が起きてもおかしくないんじゃないか?

 

 

 尚この時、俺の左脳がヒプノックの睡眠攻撃を自分から受けに行こうとしていたような気がするが、理論100%で動いている筈なのでそんな事は無いな。自分から不利な状態異常を受けようとする理由が無い。

 

 

 

「お疲れ様、パパ。…ああ、本当に戻ってきてるんじゃないんだね。心配したんだよ?」

 

 

 ああ、すまないミキ。と言うか、状況分かるのか?

 

 

「んー、幽体離脱とか…そんな感じの何か? 私の中の、パパと同じ部分が何かやってるのが分かるの…多分、だけど。パパの体は、まだ狩場で特訓中?」

 

 

 そういう事だ。…悪いな、いきなり出張に行っちゃって。お土産は…うん、G級領域のキノコとかでいい?

 

 

「お友達の為に頑張ってるんでしょ? 仕方ないよ。お土産はパパの特産キノコがいいな。…それで………ねぇパパ。頑張ってるパパに、私からのお土産はどう?」

 

 

 そう言いながら、眠るように気絶したセラブレスの頬を撫でるミキ。

 …要するに、それがお土産?

 

「うん。お土産って言うより、差し入れかな? 元の姿になっていれば、朝になったら全部夢だったって事で誤魔化せるから」 

 

 

 おお…なんとできたムッスメか…。パパ感動で泣いちゃう。主に口から。涎じゃなくて、鈴口から出る涙で。

 しかしマジな話、一線を越える事はできんな。これが現実かどうかわからない…と言うかまかり間違って現実だった場合、中に出して精液や痕跡が残っちゃったら、流石に誤魔化しようがない。

 

 何より、セラブレスは友人だ。本人の承諾なく抱くのはなぁ………。

 

 

 

 

 

 …すっげぇ興奮するやんけ。

 

 よし、決めた! 入れはしない! が、それ以外を仕込む!

 

 

「具体的には?」

 

 

 そらアレよ、寝てる間にじっくり体だけ調教よ。

 セラブレスはいい友人だったが、同時に俺をとっ捕まえるようにも言われてるらしいからな。本人は嫌がってるが、嫌じゃなくすれば万事解決! 俺はセラブレスを味わえる、セラブレスの一族は俺と縁が出来る、セラブレスは真っ当ではないとは言え彼氏が出来る。

 セラブレスの体を開発し、無事にイナガミを討伐できる時まで、ワインのようにしっかりと熟成させておくのだッ!

 そして現実での初エッチの時は、本人も知らない間に開発された体が、いきなりメッチャ気持ちよくなってくれる。

 誰の心も痛まない、素晴らしい計画だ!

 

 

「さっすがパパ! 鬼畜エロ外道だね! ワインの管理(意味深)は任せて! 時々味見するかもしれないけど!」

 

 

 ギンバエは気づかれないようにやるんだぞ。

 さて、そんじゃ始めると致しますか。やはり、ここはまずおっぱいからですな…。

 

 

「ファーストキスはどうするの?」

 

 

 唇とナニ、どっちにファーストキスさせたい?

 

 

「なるほど…」

 

 

 

 

 …と言う訳で、セラブレスのおっぱいを好き放題弄り回しました。

 目を覚まさないように感じさせ、絶頂させて、性の悦びを無自覚に教え込まれるセラブレス…うむ。

 問題があったとすれば、予想以上のボリュームとハリのお陰で、俺の方が引っ込みがつかなくなった事かなぁ。すっごい破壊力だったもの。

 

 大きさもさる事ながら、異能者故に普通の人間より生命力が強い為か、肌の感触が違うんだわ。内側から滲み出る生命力と言う意味で言えば、下手するとレジェンドラスタ以上か。

 ついつい、もうこの場で睡姦しちゃうところだった。

 

 何とか踏みとどまれたのは、ミキのおかげだ。…うん、つまりセラブレスのおっぱいを弄んでる間に、お口でスッキリさせてくれた訳ですね。いやー、ミキってば舌の使い方の上達が早い早い。おっぱいでイッてるのか、ミキの口でイッてるのか分からなくなっちゃったよ。

 

 

 

 …今日の夢はその辺までだった。セラブレスの仕込も丁度いい辺りまで進み、今度はサポートしてくれたミキを可愛がってやろうとした辺りで、ふと我に返ったのだ。

 我に返ったと言うか、活動していた左脳が限界を迎えて休眠、代わりに夢の方に意識をやっていた右脳が、現実に対処するようになってしまった。要するに、これからってトコで夢から覚めたと。

 

 

 …夢精してなかったのは良かったが、本能を司る右脳が、気が付けば猛りのままにミドガロンを瞬殺してしまっておったわ…。

 

 

 

 

 

 しかし…本当に単なる夢だったのか、それとも感応現象だったのか、それとも唐突に幽体離脱でも出来るようになってしまったのか。どれもありそうだから困る。

 今から訓練を中断して、確かめに行く事もできない。

 穿龍棍の使い方の成長が、もう一段上に上がった事を自覚できたばかりなのだ。

 

 うーむ…ミキが無事だといいんだが。いや、張り倒されたとしても、俺共々に自業自得な訳ですが。

 

 



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298話

仁王第3段DLC、サムライの道はクリア。
うーむ、デカブツが鬱陶しい…。強い弱い以前に、画面が埋まって反応できないタイプだ。

ふむ、黒幕は逃げたか。隠しミッションで斬れるかと思ったが、残念。
或いは次回作や、次のDLCで…?

新難易度は仁王の道か…。納得のネーミングですな。

悟りの道の闇の再来でボコられまくって、ついヒートアップして握りしめたコントローラーがバキッと。
…むぅ、このカッとなる性格をどうにかせねば。


とりあえず、アサシンクリードオリジンズ予約しました。

大神PS4版は実家の妹が買うのでスルー。
EDF5が12月初め、モンスターハンターワールドが1月、北斗が如くが2月、ファークライが来年春。

他、EDF縦シューティングに、侵略者に負けた未来的なEDFも出るらしい。
うーん、ヤマモリ!


PS4月

 

 

 穿龍棍に限らず、武術が成長するには幾つかの要素が必要だと、俺は考えている。

 一つ目、肉体の成長。筋力と言うのは非常に重要な要素だ。武器を扱うにしろ、何かを持ち上げ受け止めるにせよ、直撃を喰らった時のダメージを軽減するにせよ、戦う時にこれ以上ない程に重要な役割を持つ。また、どんな時でも…それこそ、武器を手放したり、振るえなくなった状況でも、容易に使えると言うのもポイントだ。パニックに陥った時に最も有効に扱える武器は、特別な技術も道具も要らない筋肉である。

 ただ、これはどうやったって一朝一夕では鍛えられない。体に負荷をかけ、栄養素を取り、己の体に信仰とさえ言える信頼を寄せて、時間をかけて練り上げる。

 

 二つ目、技術。武術と言う概念の根幹をなす物だな。これは本人の資質や必死さにもよるが、上達の速さと期間は非常に違ってくる。

 しかし、これは一つ目の肉体の成長と背中合わせのものだ。肉体が足し算なら、技術は掛け算。元となる数値が1より少なければ、或いは掛け算の途中の数字に一つでも0が入っていれば、叩き出される数値は元の数値より下がってしまうだろう。

 練習し、型を繰り返す事で、動きに必要な部分に特に集中的に筋力をつける。

 格闘漫画で『あっという間に武術が上手くなった! この子は天才だ!』なんて演出をよく見るが、現実にそんな物が居ても、土台を欠いた欠陥品にしかならないだろう。技術だけ上手くなっても、体を適応させるにはもっと長い時間がかかる。

 

 

 三つ目、精神力。度胸とか頭脳とか集中力とか、そういうのをひっくるめた、言わば人体のソフトウェアだな。成長させるのが最も簡単で、最も厄介な代物だ。

 人の心は、素手で扱うには難物すぎる。放っておけば人生経験を積んで成長もするが、歪に育つことも多く、真っ直ぐすぎるのも問題で、そもそも正しい形という正解もない。

 

 

 

 …なんかちょっと妙な事語っちゃった気がするが、とにかく今の俺に出来るレベルアップは、上記の中では技術の習得のみである。

 肉体はほぼ完成の領域にある…まぁグラップラーとかヘラクレスとかあの辺のに比べると話にならんだろうが、普通の人間として考えれば、ハンターの体は余すところなく鍛え抜かれている。体を変化させようとすると、逆に不要な筋肉を落とす必要があるくらいだ。それをやると、穿龍棍以外の武器を使おうとする時に支障が出る。

 

 理性と直感を交互にフル活動させて戦い続けた結果、それなり以上に練度が上がったと自負している。

 だが、レイラがやっていたような、龍気を手足に纏わせて、霧散させずに何度も蹴りつける…のような技は未だに習得できていない。本格的に訓練を初めて、まだ3日程度しか経っていないのだから、そうそう覚えられる筈もないのだが。

 

 

 なんていうかなー。例えていうなら、大剣使ってるけど、貯め斬りのやり方が分かってない感じだ。押しと引きと、攻撃の隙に一撃入れるだけで戦ってるような…。それでも充分モンスターは狩れるが、最大効率を引き出しているとは言い辛い。

 とりあえず、理性と直感を交互にフル活動させるというスタイルで続けていくか。少なくとも練度は上がってきてるしな。

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで夜になると、またしても夢が始まる。…日中には夢を見ないんだよなぁ。やっぱりこれ、感応現象じゃないか?

 夢の内容は……またセラブレスとミキ。ただし、ミキは通常モードに戻っている。

 セラブレスの様子を見る限り、警戒したり、荒れたりしている様子はない。ぐっすり眠っている。…昼間に狩りに行って、疲れているっぽいな。

 

 

「あ、パパ、おかえり………いらっしゃい?」

 

 

 どっちだろうな。まだ体は戻ってきてないし。

 …今朝はどうだったんだ? セラブレスの様子は?

 

 

「最初は慌ててたけど、夢だと思ったみたい。痕跡も無かったし、私も朝には通常モードに戻ってたし、誰だって自分が異常性癖だなんて思いたくないだろうしね。途中で出てきたパパだって、今は狩場に居るのを確認してるんだし」

 

 

 今更その程度で異常とは…。いやセラブレスにとっては初めての事なんだろうけども。

 ま、俺のアリバイは、セラブレス自身が確認してたから、猶更夢だと思った訳ね。

 

 しかし…今日も添い寝してるのか。仲がいいな。

 

 

「なんていうか…お姉ちゃんみたいで。あ、マキお姉ちゃんはお姉ちゃん何だけど、そのもう一つ上にお姉ちゃんが居たらこんな感じかなって。…添い寝はオネダリしたら、ちょっと迷って受けてくれたよ」

 

 

 それでもその年で添い寝するのは中々ないと思うぞ。ま、俺にとっては好都合だけども。

 では、今夜もオタノシミの時間にしましょうか。

 

 

「パパぁ、今日は先に私にしてよ。昨日はさぁこれから、って所で居なくなっちゃって…」

 

 

 あー悪い悪い。…そうだ、朝になったら、ミキの中に白くて大好きなのが残ってるか、確認しておいてくれ。このままセラブレスをヤッちゃった時、証拠が残るのか試してみたい」

 

 

「うん、わかった。それじゃ……ね?」

 

 

 淫蕩に笑い、パジャマのズボンを脱ぎ捨てるミキ。こうなる事を期待していた為か、下着は付けていなかったようだ。

 前戯も無しに突き込んでも、悦びの声だけを上げるミキ。セラブレスを起こさないよう、唇を塞いでの交わり。

 

 …その後は、すっかり出来上がったミキと一緒に、セラブレスの体を開発した。昨日は胸だったから、今度は首筋、脇、へその辺り、腕、足等、体の末端部分の性感を目覚めさせていく。

 うーん、リアクションが薄いのは欠点だけど、起こさないようにというスリルと背徳感が…。 

 

 

 

 

PS4月

 

 

 穿龍棍のレベルアップの為に狩場に籠ってるのか、セラブレスを開発する夢を見る為に狩場に籠ってるのか、段々分からなくなってきた。

 まぁ、やる事は同じな訳ですが。

 …むぅ、現状のやり方だと、レベルアップも頭打ちか? たった4日程度で『極めた!』なんて言い出す気はないが、違うやり方を模索する必要はあると思う。

 

 動きを分析し続けた結果、より高い火力を叩き出す為のアイデアは浮かんできた。一言で言えば……居合抜き? いや実際の居合じゃなくて、ゲームでよくある居合と言うか…。

 要するにアレだ、得物を収めて力を貯め、一気に爆発させるという、貯め斬りによく似た奴だ。実際の居合は、破壊力じゃなくて集中力とタイミングだけどな。

 

 得物の中で、刃ではなく力を走らせ加速させ、そして一気に振り抜く。デコピンの原理でもあるな。これを徹底的に、小刻みに行っていく。

 …言うは易し、行うは難し…だな。

 

 ま、それでもやるしかないんだけど。

 

 

 

 

 

 …そんな事を考えて、今日も今日とて訓練を続けていたら、予想外の来客があった。

 

 

 

 レイラ本人だ。

 

 

 

 

 …あっるぇ~? 何でここに居んの? 怪我は? プリズムとの話し合いは?

 

 

「怪我なんかもう治って、リハビリまで終わったよ。…話し合いは……まぁ、何だ。いやそれより、お前はお前で何やってるんだ。お師匠様の穿龍棍修復の素材を集める為に、狩りに行くんだろ」

 

 

 そりゃ行くつもりだけども。…お前さん、俺がトキシの武器を持つのを、納得してるのか?

 

 

「納得も何も、頼み込んだのはアタシだぞ? こっちから頼んでおいて、文句を言い出す筈がないだろう」

 

 

 …お師匠様の武器を、ヘタクソなハンターが使う事については?

 

 

「それは………まぁ、確かにいい気分はしないが。それでも、アタシはお前なら託せると思ったから頼んだんだ。目も当てられないようなヘタクソなら、最初からこんな事は言い出してない。…ん? お前、何か? ひょっとして、アタシが納得しないだろうと思って、狩場籠もりで修行なんか始めたのか?」

 

 

 

 …うん。

 

 

「……ま、まぁ…気持ちは嬉しいよ。いや本当に、お世辞抜きに。ありがとうな…」

 

 

 おう…。ま、そこそこレベルアップもしたと思うし、無駄じゃなかったと割り切りますか…。(半ば、セラブレスの夢を見る為に続けてたのもあるし)

 で、気持ちを切り替えていくけど、どうするんだ? これから素材集めか?

 

 

「ああ、そうなるな。幸い、イナガミは一か所に根を下ろしたら、中々移動する事がない古龍らしい。ちょっとくらい時間がかかっても、まだあそこにいるだろうさ。…あの村の人達には悪いけど」

 

 

 トゥルートの村か…。2度も古龍に接近されるとか、災難な村だなぁ…。

 仕留めたイナガミの素材、ある程度村に融通していいか? 迷惑料ってのもおかしいけども。

 

 

「アタシは別に構わないよ。重要なのはお師匠様の仇討ちだし、手伝ってもらった報酬と思えば…。それに、あいつの素材で作った道具なんか、使いたくもない」

 

 

 まぁ…そうかもな。ハンターとしては問題のある考え方かもしれないけど。

 さて、そんじゃ修復素材集めに出発しますか。丁度いいや。穿龍棍の使い方、レクチャーしてくれよ。

 

 

「別にいい…と言うか、アタシの為に穿龍棍を使いこなそうとしてくれてるんだし、それくらいは…。と言っても、事が事だからあんまり丁寧にはできないよ。見た所、他人から教えられなきゃいけない段階は抜け出してる。後は創意工夫と練磨だね」

 

 

 ふむ、レイラにそこまで言われるとは、特訓も無駄ではなかったようですな。

 んじゃ、一度メゼポルタ広場に戻って、準備を整えていきますか。

 

 覇種のテオ・テスカトルか…。さて、どんだけ手間がかかるかな。

 

 

 

 

PS4月

 

 

 一度拠点に戻りはしたものの、何もせずに狩場行。ちょっと時間を作って、パパと娘との触れ合い(という名の淫夢確認)をしたり、体が夜泣きしちゃう女の子達を慰めたりしたかったのだが…レイラの視線が痛かったので止めといた。今はレイラの事に全力を注ぐべき…。

 ミキとセラブレスに関しては、どうやら二人で訓練していたようだし、邪魔もできんか。昨晩は夢も見れなかったし、確認しておきたかったんだけどなぁ。

 

 さて、それはともかく覇種のテオである。

 

 

 

 

 大惨事やのう。

 

 

 

 いやね、一匹だけならまだいいのよ。でもさ、テオ・テスカトルを何匹も狩らなきゃいけないじゃん?

 で、あいつ一匹だけでもかなり広いナワバリを持ってる訳よ。…そのナワバリってね、群雄割拠する戦国時代もかくやってくらいに混ざりまくってて…。一匹倒したら、すぐにそのナワバリを奪い取ろうと、別のテオ・テスカトルが入り込んできてね?

 更に、遠出して空になったナワバリに、別のテオ・テスカトルが入り込み、旦那の留守に何をする気だとナナ・テスカトリが怒り、ナワバリ争いから帰って来たテオ・テスカトルが乱入し、負けて逃げるテオ・テスカトルを勝った方が追いかけて……。

 

 

 

 …うーん、下手にモンスターを狩ると、こういう生態系の大混乱が起きるんだなぁ。と言うか、古龍種なのに数が多いぞ。それだけの数を狩らなきゃいけないんだから、そういう意味では助かるが…。

 最終的にはとある砂漠にテオもナナも、別の狩場でレジェンドラスタ達が狩ろうとしていた個体も、下は下位から上は覇種まで、更には特異個体と思われる奴まで集結し、狩場が文字通りの灼熱地獄と化す有様だった。

 ギルドでは昨日の夜の事を、『火の7時間』なんて呼んでいるらしい。7日間でなくてよかったですな。7日も続いていたら、冗談抜きで巨神兵が暴れたような惨状になったかもしれん。

 

 一匹一匹が放つ熱量が合わさり、夜中の砂漠が火山よりも高温になり、炎の輝きに沈んだ砂漠は、遠くからは太陽でも降りてきたんじゃないかと噂されたらしい。

 一番酷かったのはアレだよなぁ…。殆どのテオ・ナナが一斉に羽ばたき、粉塵を撒き散らした飽和爆破。しかも特異個体や覇種が、それに合わせて炎の竜巻を起こす、空中で超大爆発を起こす、それらが合わさってよく分からん現象が起きて、あっちこっちでプラズマ化っぽい現象まで…。

 

 この業界とフロンティアが長いレジェンドラスタ達も、あんな現象は見た事がなかったそうだ。そもそも、テオとナナが至近距離で行動していたり、何十匹も群れる事なんてまずあり得ない。

 …そう言った場合にのみ実行される、特殊な生態がアレだったのかもしれない。ほら、クジャクが羽を広げてメスにアピールしたり、フラミンゴが群れて集団でお見合いするような感じの。……あの大惨事がお見合いとか、迷惑極まりないな。その現象を引き起こすきっかけになった、俺達が言う事じゃないが。

 

 

 朝になって改めて眺めてみると、砂漠が砂漠じゃない……こう、マグマみたいになってたり、砂丘の断面とかクレーターの中心部がガラス化していたりと、酷い有様だった。

 俺も含め、レジェンドラスタ達が全員無事で帰ってこれたのが不思議でならない。

 

 …フラウに言わせると、「流石に疲れたね~」の一言で片づけられてしまったが。しかもまだ余裕があったっぽい。レジェンドラスタとは、どこまで高みにいるのか…。

 まぁ、汗まみれ、火傷を始めとして負傷多数、髪型なんかも乱れまくった状態では、「大変だったし、ご褒美欲しいな♪」なんて展開に持ち込むのも億劫だったらしい。広場に戻ると、さっさと風呂に入って寝てしまった。

 

 

 

 とりあえず…予想外の大参事が起きたものの、この一晩で素材は大分集まった。それでもまだ足りないと胃のが、あの穿龍棍作成の鬼畜具合をよく表している。

 それはそれとして、飯・風呂・睡眠(夢でセラブレスのお股をprprしまくった。ナカでイく感覚を、体はどんどん覚えて行っている)でサッパリしたら、夜中に目が覚めてしまった。

 

 メゼポルタ広場は、夜中でも基本的に騒がしい。夕方から狩りに出て戻って来たハンター、夜中から朝にかけて狩りに行くハンター、夜通し宴会する猟団など、活気が嫌という程溢れている。

 今、俺達が休んでいるのは、そういう喧噪から少しばかり離れた、レジェンドラスタやG級ハンターが時折使う、別荘のような宿だ。静かで落ち着いていて、建物や装飾も上品…なんだろう。今一分からないが、まぁこの雰囲気は嫌いではない。

 

 

 中途半端な時間に目が覚めたしそのまま寝るのも何だったので、散歩でも行こうかと思ったら、レイラが窓際でボケっとしながら酒飲んでいた。

 …むぅ、結構絵になる姿だが……そのウサミミは一体なんじゃろなぁ…。

 まぁいいや。

 

 うっす。

 

 

 

「……ああ、お前か。昨晩はえらい騒ぎだったな…。怪我はいいのか? 結構火傷してたろ」

 

 

 炭化してる訳でもなかったから、回復自体は早かったよ。ハンターだしな。

 そんで? こんなトコで、何をしんみりしてんだよ。

 

 

「……ハンターの事について考えてた。一狩行こう『ぜ』って奴の事を」

 

 

 その言い方に拘らなくてもいいと思うが…。で?

 

 

「確かに、凄い効果だとは思ったよ。少なくとも、アタシ一人じゃ昨晩のナナテオ祭りを乗り切るのは不可能だった。素材だって、アタシ一人で集めてた頃よりもずっと早く集まってる。群れなきゃやれない奴は弱い奴だけだって思ってたけど、そんな事も無い。アンタも、ティアラやエドワード達も、セラブレスも…お前の娘の、ミキ、だっけ? あの子でさえ一方的に頼ってくるんじゃなくて、それぞれの役割をこなして、皆で狩りをしてるって実感がある。一人でやる方がずっと難しい筈なのに、一人でやるよりずっと手応えがあるっつーか…」

 

 

 

 充実感がある?

 

 

「そう、それだ。…まぁ、鬱陶しいって思う事もあるけどよ。アタシが要らないって思ってた、数の力、誰かと力を合わせるって事が、存外馬鹿にできないもんだってのはよくわかったよ。でもな…」

 

 

 

 でも? …レイラは手元にあった達人ビールを一気飲みして、ドンと机に叩きつけた。おい馬鹿ヤメロ、備品は大事に扱え。

 

 

「あ、スマン…。話を戻すが、力を合わせて…ってのがハンターに必要な事であるのは、よく分かった。だけども………」

 

 

 

 

 

 

「昨晩のアレは、お前らが力を合わせて、同時に何匹ものテオ・テスカトルを追ったから起こった惨劇じゃないのか!?」

 

 

 

 

 ……①俺とレイラで、覇種のテオ・テスカトルを討伐。

 ②各地で同様に、レジェンドラスタに追い立てられたテオ・テスカトルと、開いたナワバリを狙ってテオ・テスカトルがご対面。

 ③更に連鎖的に、あっちこっちのテオ・テスカトルが動き出して大集合。

 

 

 

 

 ……そ、そういう見方もある…かな?

 

 

「かな、じゃねぇよ…。やっぱハンターは一人でやるべきか…」

 

 

 いやいやいや、今回のは集団で同じ種を、同時に乱獲したのがアカンかったのよきっと。

 いつもだったらレジェンドラスタが同じ狩りを同時にするなんてまず無いし、そう気にする事でもないって。いや確かに、何も考えずに乱獲したのはまずかったけど! 普通のハンターは、生態系の維持まで考えて狩るからね!

 まぁ、そういう意味で昨晩はハンター失格だったのは否定できないが。

 

 

 少なくとも、イナガミを狩る時には考えなくていいんじゃないか? 討伐するのはイナガミ一匹、特定の個体のみ。

 イナガミにしてみりゃ、一対一で狩られるのと、一対四で狩られるの、大して変わりやしないだろ。

 

 

「どっちにしても狩られるんだし、その理屈は分かるけどな。…しかし、一対四か。アタシ、お前と、後二人はどうするか…」

 

 

 

 赤の他人はいかんな。やっぱり見知った顔で信頼できるハンターの方が、連携もやりやすい。出来れば、今からでもパーティを組んで、連携の練度も高めたいが…。

 前衛が二人いるんだから、単純に考えれば遠距離攻撃役が一人、援護役が一人。

 援護役として特に強力なのは、狩猟笛かな。

 

 

「チルカか…。なら、ガンナーは……ユウェル、ティアラ、ナターシャ…………ティアラだな」

 

 

 その心は?

 

 

「大した事じゃない。単純に、話した事が他と比べて多いってだけだ。まぁ、素直に手伝ってくれるとは限らないが」

 

 

 気紛れで気難しい奴だからな。まぁ、そこは最悪、俺がティアラの『遊び』に付き合うなり、レイラが何でも言う事聞くとか言っとけば手伝ってくれるだろ。

 ところで……ひょっとして…話した回数が多いって、イナガミに返り討ちにあった時の会話の分だけ…?

 

 

「流石にそこまで全く会話が無かった訳じゃねぇよ! レジェンドラスタとして就任した当時は、歓迎の宴会だってされそうになったんだからな!」

 

 

 …その歓迎会、参加したか?

 

 

「………そんな事をしている暇があったら、少しでも鍛えたいって言って断った…」

 

 

 ボッチを拗らせすぎだタワケ。トキシはその辺の機微とか教えてくれんかったのか…? そういやトキシも、いつも一人だったって言ってたな。

 いやもうボッチ通り越して社会的なマナーと言う物がだな…。

 ここまで手伝ってくれる皆に感謝しろよ、っとに…。

 

 

 



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299話

PS4月

 

 

 結果的に大惨事を引き起こしたものの、素材はまだ足りてない。一斉に狩るとまた大事になりそうだったので、俺、レイラ、チルカ、ティアラの4人で覇種テオを狩り、他の面々は別の素材を集めに走った。

 このペースで行けば、遠からず素材も集まるだろう。

 

 問題はイナガミに勝てるかどうか。…この4人なら、そうそう遅れはとらない…と思いたいが、4人がかりでも返り討ちにあう事があるのがハンターとモンスターの関係だ。

 尚、返り討ちじゃなくてもチルカがパンチラするのはほぼ確定事項である。文句あるならスカートを伸ばせ。……それを伸ばすなんて、とんでもない!

 

 4人の連携は、そこそこ様になってきたと思う。元より、適当にやってたらレジェンドラスタに至ったような怪物と、バフを専門とする狩猟笛使いだ。余程のヘマをしない限り、連携がバラバラになると言う事は無い。勝手が分からなかったレイラが、少々やらかしもしたが。

 ……一応言っておくが、狩猟笛使いなのに全く演奏しないという事は無い。……ちょっと目を逸らしていたから、ひょっとしたらそういう時期があったのかもしれないが。

 

 

 尚、依頼を引き受ける時、ティアラが予想通りに面倒くさがったが、餌で釣って何とかその気にさせた。

 餌? シキとミキの退廃的な行為に混ざる権利ですが何か? 初めてヤッた時もそうだったけど、シモ関連では貴族趣味と言うか悪趣味なのが好きなのよね、ティアラって。ちなみにSもMもどっちもイケる。俺が調教したんじゃなくて、自前の性癖だった。

 

 

 

 全く話は変わるのだが、ハンターやギルド内で俺の扱いが少々問題になりつつあるらしい。このクソややこしい時に…と思ったが、問題自体は頷けるものだった。

 レジェンドラスタの私有化。いや人を私有化って言うと人聞きが悪いけど、要はレジェンドラスタがやたらと俺を優先している、って事だ。

 

 エロ関係にある事は、特に問題視されてない。人倫的には問題があるだろうが、ギルドの規約には特に禁止されてないし、むしろ『あの女傑達に囲まれて、よく生きてるな』と思われる事も多い。

 しかし、当然妬み嫉みが消える訳じゃないんだよな。

 

 まぁ、こっち方面を問題とするのは、俺ともレジェンドラスタとも直接的な関わりが少ない人達だから、どうでもいい。

 

 

 ただねー、今ってほら、トキシの穿龍棍を復活させる為に、レジェンドラスタ総出で手伝ってもらってるでしょ? レジェンドラスタの制約として、自分からは動けないので、俺が依頼してるって形にしてんのよ。

 レジェンドラスタ達も、私情にせよ助け合いの精神からにせよ、他の人達からの依頼より、俺を優先する事が多々ある。

 「アイツだけチヤホヤされて面白くない」という話ではなく、他のハンター達がレジェンドラスタを雇えなくなってしまうのだ。

 

 

 …と、言われても…。俺としては、単に狩りに行かないかと誘ったり雇ったりしてるだけなんだよなぁ。

 今のところ、ギルドもそこまで問題にはしてないし、レジェンドラスタをこれ以上思ったように動かせるとは考えていないようだが、何かしらの対策は必要かもしれない。

 具体的には、俺をレジェンドラスタ達の統括役(と書いて子守り役と読む)として登録するかもしれない、とか。…ギルドの人からチラッと聞いただけなんで、本気かどうかは分からないな。

 

 ま、俺の個人的な理由で、皆に迷惑をかけるのも忍びない。関係を清算するつもりもないが。

 自重しろっつーのなら、自重せずにコッソリ色々やるとしますかね。

 

 

 追記 一日間が空いたが、またミキとセラブレスの夢を見た。今度は狩場のキャンプで、うつ伏せにしたセラブレスのうなじ・背中・尻を順々に嘗め回して開発した。

 先日、ミキと本番した朝は、特に痕跡は残ってなかったそうだ。ふむ…やはり夢は夢、と言う事かな。

 

 

PS4月

 

 

 あ。

 

 

 

 っという間に、穿龍棍修復に必要な素材が集まってしまった。こんなにもあっけなく、とレイラが呆然と呟くくらいだ。

 俺も呆然としているが、別の意味で呆然としている。

 

 

 だってよぉ、まさかギネルさんが一人で7割以上も覇種テオの素材を調達してきたんだぞ?

 そら呆然とするわ。

 

 何かと扱いの悪さで定評のあるギネルさんだが、実力は本物なんだよなぁ…。特に何かの理由でブーストがかかると、桁外れの実力と行動力と勢いと、タイゾーさん並みの暑苦しさを発揮するらしい。

 実際、タイゾーさんと組んで何匹か覇種テオを狩ったらしいが、「先日の火の7時間並の熱気だった」と、気球から観測していた人が漏らしたそうな。

 

 聞いた話では、以前にも何かの素材と間違えて電撃袋を千個近く調達してきたり、一日足らずでフルフルを300頭以上狩ったりした事もあるとか。この前やらかした俺らが言うのもなんだけど、乱獲すんなよ。

 

 呆然としたまま(呆れているとも言う)のレイラを小突いて正気に戻し、礼を言うと…。

 

 

「あの時は、何もしてやれなかったからな…」

 

 

 と呟いたのが聞こえた。…何だ? 昔あった事があるのか? レイラに心当たりはないようだが。

 

 

 

 さて、どうにも得心いかない部分もあるが、とりあえず明日にはコーレナントカも修復できる。…今更言うこっちゃないが、名前が覚えにくいんだよ…。

 連携の練度も充分だし、2~3日中にはイナガミにもう一度挑む事になるだろう。

 準備もした。作戦も立てた。しかし、相手は冷静ではなかったとは言え、レイラを一方的にあしらう古龍である。さて、今度はどうなる事やら。

 

 

 

 追記 夢の中のセラブレスの開発が、大分進んできた。眠ったまま、体だけマジイキできるくらいには。

 

 

 

 

PS4月

 

 

 穿龍棍の修復が完了した。工房の親方から受け取ったレイラが、若干涙ぐんでいる。「お師匠様…」とつぶやいたのが聞こえた。

 穿龍棍の仕上がりは問題ないようだ。俺も受け取り、何度か振り回してみたが、龍気の乗りも手触りも問題ない。今まで培ったアレコレも、充分発揮できるだろう。

 

 すぐにも出発! …と言う事になるかと思ったが、意外な事にレイラがそれにストップをかけた。

 その理由がまた意外。プリズムと話をしておく為、だそうだ。あれだけ毛嫌い……と言うのもちょっと違う気がするが、避けていたのにどうしてまた。

 

 …………いや待て、お前、俺のところに来た時、本当に怪我は治ってたのか? プリズムと二人きりなのが耐え切れずに、抜け出してきたとか言うまいな?

 …半分図星、か。傷は治ってるけど、接し方が分からず、ついつい飛び出してしまったらしい。

 むぅ、プリズムに連絡入れて確認するべきだったか。で、何か? 俺が居れば多少は空気が紛れるだろうって? …あんまり仲良くないんだけどな。好き嫌いは置いといて。

 

 

 と言う訳で、祈りの泉にやってきました。

 

 

「ニャ? おお、何だか久しぶりニャ」

 

 

 おートッツイ。考えてみれば、最近はこっちにも来てなかったな。プリズム、居るかい?

 

 

「先程、新聞配達から戻られて、今は湯浴みをしてるニャ。最近は暑いからニャ。……ところで、そちらが…」

 

「……レイラだ。一応、妹…って事になる」

 

「むぅ…。歌姫様の血縁が、こんな粗暴な女だと認めたくは…」

 

「あんだとコラ」

 

 

 やめれトッツイ。と言うか、血縁云々はともかく、いきなり貶すような奴が従者だと、主の評価も落ちる事になるぞ。

 と言うか、里に居た頃には接触はなかったのか?

 

 

「殆ど無かったよ。…当時の歌姫は、里の最重要人物だったからな。アタシも最初は歌姫みたいな力があるんじゃないかと期待されたけど、無いと分かってからは殆ど放置されてた。面会も殆どできなかったよ。……歌姫への反発は、その辺も理由かもしれないな。一人だけチヤホヤされて、ってさ」

 

 

 挙句の果てにはお師匠までも…か。その分析の是非は置いといて、冷静に語れるようになってるんだな。

 

 

「当時の私にとっては、軟禁されていたようにも感じられましたが…。お待たせしました」

 

 

 あ、プリズム。朝風呂とは優雅だな。

 

 

「皮肉ですか? …最近は暑気が強くて、外に居ると走らなくても汗が出ます。考えてみれば、フロンティアの外はもう夏ですからね」

 

 

 あー…そんな時期だっけ。ここに居ると、季節感とか狂いまくるよなぁ…。

 それは置いといて、これからイナガミの所に殴り込みに行ってくる。…結果的には、トキシの仇討ちって事になるんだろうな。

 なんか言っておく事あるか?

 

 

「…いいえ。確かに思う事はありますが、それは託すべきものではありません。レイラが言うように、私の歌が古龍の怒りを買うもの、古龍を操る為のものならば、イナガミに恨みつらみをぶつけるのは、逆恨みになりましょう」

 

「………。なぁ……ね…ぇ、さん。これからどうするつもりだ? イナガミの事は、アタシが蹴りをつけるつもりだ。でも、その後は? また歌を歌うつもりなのか?」

 

 

 …あぁ、それが聞きたかったのか。

 

 

「はい。レイラの言葉も、私を元気づけようとしている間に、多くのモンスターが現れた事も聞きました。古龍を退ける歌ではなく、古龍を操る為の、忌々しい力を持った歌…。ですが、やはりこれが私の生きる道です。…例え、私の為に里が滅んでしまったのだとしても…既に絶えて久しかった歌の力が私に宿った事は、何らかの意味がある事だと思うのです」

 

「運命論なんか、アタシは聞いてない。過去の事はこの際置いておくとしても、また古龍が襲ってきたらどうするつもりだ」

 

「…………そんなの、襲われるのもハンター総出で撃退するのも、フロンティアでは日常茶飯事ですし…。今日だって、隣のメゼポルタ広場でクシャルダオラ亜種が殴り込んで来ましたし。でしたら、ハンターの皆さまの力になれる方がいいじゃないですか」

 

「………」

 

 

 …あまりに当たり前の事実に、レイラは一瞬反撃の言葉を失ったようだった。

 

 

「フロンティア、と言う事を差し引いてもですね。あの里は古龍の生息圏内にあったからこそ滅んだとも言えます。例え私が古龍を操る歌を歌ったとしても、その効果が届く範囲に古龍が居なければ、全く関係はありません。そして私の歌が響く範囲は、どれだけ広く見積もっても、精々メゼポルタ広場一つ分です。この泉の舞台で歌えば、洞窟の外にも届きません」

 

 

 それはそれで凄い事のような。そういや、ミラボレアスとやりあった時も、壊滅した広場の隅々まで声を響かせてたっけ。桁外れの声量と肺活量。成程、持久力が必要な新聞配達は、思った以上に天職だったらしい。

 そしてそれを洞窟の中だけに抑え込む防音機能。高級耳栓の応用かな?

 

 

「…納得はできないけど、分かった。確かに、忌々しい力であったとしても、歌の力は強い味方になると思う。……一曲、頼む」

 

「え…?」

 

「さっきも言ったろ。これからイナガミと雪辱戦だ。どんな力であれ、強化が出来るなら使うべきだ。…力を合わせる、束ねるってこういう事だろ。狩場のハンターだけじゃない。武器や防具を作ってくれる工房のおっちゃん達、狩人弁当を作ってくれるおばちゃん、帰るところを掃除してくれるアイルー達、情報を集めて見送ってくれるギルドの人達。…ここに、歌を歌ってハンターを強くする女が一人増えるだけだ。…仮にもお師匠様に大事に思われていたんだ。アンタの力添えがあった方が、お師匠様も喜ぶだろ」

 

 

 …レイラ…。拗らせたボッチ女が、立派な事言っちゃって…。

 

 

「はい…ありがとう、レイラ…。私の想い、歌にして貴方達に預けます。どうか、どうか無事に帰ってきてくださいまし」

 

 

 歌姫の宣言を聞いて、こっそり隠れた(つもりで)聞いていたアイルー達が騒ぎ出したのが聞こえる。

 

 

「ニャニャッ! 歌姫様が歌われる決意をされましたニャ! バッシ、モービン、舞台の準備ニャ!」

 

「ニュフフ、苦節数年、ついにこの時が…。ワタクシの胸も熱くなりますニャ」

 

「船出の時、ついに来たれり…ニャ。トキシ、草葉の影で見守ってやってくれニャ…。トッツイ、喚いてないで衣装持ってくるニャ。バッシは広場の飾りつけ、オレは表で待ってるレジェンドラスタ達に話を通しておくニャ」」

 

 

 ドタバタがちゃんと、アイルーが立てるにしては大きな音と共に去っていく。……さっきから破砕音が連続してるけど、重要な物まで壊さなきゃいいけどな…。

 去っていくアイルー達を見て、プリズムは大きく溜息を吐いた。口元はちょっと笑ってるが。

 

 

「まったく、あの子達は…と、私に言う資格はありませんね。それだけ苦労をかけてきましたし…」

 

「歌姫様! まずはこれをどうぞニャ! 個人的にコレには複雑な思いがあるけど、歌姫様の復活にはコレが絶対に必要ニャ!」

 

「…それ…確か、お師匠様が作ってた…」

 

 

 トッツィが真っ先に戻ってきて、渡したのは一つの耳飾り。

 結構古いようだが、その割には使い込まれていないようだ。そしてよく磨かれている。…身に着けた物じゃなくて、しまい込んで使ってなかった物かな。と言う事は…それが、トキシから送られた装飾品か…。

 

 

「…はい。あの方から送られた、ただ一つの耳飾りです。一度だけ身に着け、あの方に見せた後は…ずっと、しまい込んでいました。あの日から、この耳飾りを眺めては嘆き、思い出に浸る日々…。ですが、それももう終わりにしなければなりません」

 

「そっか…。それ、送られてたんだな。しかし、何で一度しか使わなかったんだ?」

 

「大した理由ではないのですが…着けさせていただいた時、何も感想を言われなかったので、不評だったのかと…。もう一度着けるべきか悩んでいる内に、あの方は旅立たれてしまいましたし」

 

「それが完成して、お師匠様が旅に出るまで、かなり時間があった筈なんだがな…」

 

 

 あー、完成したのは前でも、贈られたのはもっと後ってパターンじゃないか? 渡すタイミングが掴めないって、結構あるぞ。多分、タイミングを逃しに逃し、プリズムの力が失われかけているのに気付いて、何とかしようとして…旅立つ直前くらいに、ドサクサに紛れて渡したんだろ。

 

 

「…確かに…。あの時、あの方は妙に慌てていたのを覚えています。当時の私は、あの方からの贈り物に舞い上がっていましたが」

 

 

 (…多分、DT拗らせて渡すのに散々煩悶した挙句、恥ずかしがるかフリーズして何も言えなかったんだろうなぁ…。トキシの名誉はどうでもいいが、故人を貶すような発言をして白い目で見られるのも嫌だし、黙っておこう)

 トッツイ、ナイス判断。普段は頓珍漢な事やってる頑張り屋さんが、ここぞと言う時に綺麗に決める…。いいゾ~コレ。

 

 

「そ、そう言われると照れるニャ…。褒められるのに慣れてないニャ。それじゃ、準備の続きがあるニャ!」

 

「ええ、ありがとうございます、トッツイ…。これを付けるのも久々ですね…。………どうでしょう?」

 

「おい、言ってやれよ。男だろ?」

 

 

 ああ、よく似合ってる。陳腐な言い方になるが、プリズムの為だけに作られたモノだって、よく分かるよ。

 

 

 

「ふふっ、確かに気の利いた言葉ではありませんが、私にとっては万雷の拍手よりも嬉しい褒め言葉ですわ。…では、喉も治っている事ですし…ブランクが少々不安ですが、一曲謳わせていただきます。ティアラさん、チルカさん共々、存分にご堪能くださいませ」

 

 

 



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300話

仁王、悟りの道クリア。まだ厄介なクエストが残ってますが、これは仁王の道で鍛えてからにします。
そして烏天狗、やっぱどう考えてもテメーだけは許さん。

アサシンクリード発売日までは、これ仁王を続けようかね。
にしても……今度のアサシンクリードは、アサシンの始まりか…。

つまり初代様?(FGOは未プレイです)

討鬼伝モノノフ、戦闘力が中々上がらず困ってます。
やはり最終的にはガチャ運なのか…。


PS4月

 

 

 …凄かったなぁ。

 

 

「そうだね。もう狩りがしたくて仕方ないよ! 早くイナガミの所につ~けっ!」

 

「風格が違いましたわ…。歌いだすだけで、あれ程違って見えるとは…」

 

「ん、昔からあんなもんだったぞ。パワーアップしてる感はあったけど、ブランクでテクニックはマイナスで…トントンくらいじゃないか?」

 

 

 順に、チルカ、ティアラ、レイラの言である。

 いや本当に、プリズムを見る目が変わった。ミラボレアス戦の時も歌っていたが、あの時とは…なんだ、格が違った。

 覚悟が決まったからか、心の蟠りが解消されたからなのか。貫禄と言うか風格と言うか、歌の良し悪し以上に、『何か』が違う。ミラボレアス戦の時に思った、歌=祝詞がどうのとか、そういうレベルですら無い。

 あれが『歌姫』…。正直、歌姫と言うより『歌王妃』、『歌の女王』と呼んだ方がいいんじゃないかと思うレベルだ。

 成程、ありゃトキシが惚れ込むのも無理ないわ。今までの何処か陰鬱とした歌姫とは、全くの別物。キラキラ光るどころじゃない、まるで太陽のような印象すら持った。

 

 …アレだな。多分、熱気バサラの歌を直に聞いたら、こんな気分になるんじゃなかろうか。いや流石にあそこまで突き抜けてはいないと思うけど。

 

 それだけ、プリズムの想いが歌に籠められていたと言う事なんだろうか。

 と言うか、昔からって…。レイラ、ひょっとして歌に興奮した事とかって無い?

 

 

「無いな。……やっぱり、あの歌に慣れてたから、他の歌のレベルが低く見えてたのか…?」

 

 

 かもしれんな。…しかし、なんだ、こう…到着するまで、ちょいと力を持て余すな、これは。活力が滾って仕方ない。

 古龍を退ける歌と言われて、正直今でも半信半疑だったが…確かに効果はあるんだな。

 

 ところでレイラ。イナガミを倒した後、どうするのか決めてるか?

 

 

「さぁ…。ま、当分はレジェンドラスタを続けるつもりだよ。今回の件で随分色んな人に世話になったし、借りを返さなきゃ座りが悪くて仕方ない。……姉…さんとどうするかは…なるようになるか。…お前はどうするんだ? なんか、ハンター全体のレベルアップを…とか言ってるらしいけど」

 

 

 俺? 俺はこのまま続けるよ。まだまだレベルアップが行きわたってる訳じゃないからな。

 まぁ、俺が思ってるより、ハンター達はずっとしぶといから、態々俺がやる必要もないのかもしれないけど。ミラボレアスの時だって何だかんだ言ってその場にいたハンター全員が出来る事をやって、ああなったんだし。

 

 差し当たり……そうだな、マキに頼まれてた素材を全部集めないと。

 早い所クエスト完了させないと、また俺の素材で…みたいな事言い出しそうだ。

 

 さて、そろそろ到着かな。イナガミは林の中からは出てこないと思うが、奇襲は警戒しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中略!

 

 

 

 

「略すな! ここまで殺意沸いたの久しぶりだわドアホ! お師匠様の仇討ちと、推理小説の物語パートを一緒にするな! ネタでも許さん!」

 

 

 レイラは推理小説を真相から読むタイプと。つーかレイラが本読むのが意外だわ。

 

 

「お前はアタシをどこまで脳筋だと思ってるんだ? そりゃ体動かす方が性に合ってるが、アタシだって本くらい読むわ」

 

 

 つってもさー、正直かなりあっさり終わっちゃって、拍子抜けなんだけど。

 いや、確かに強かったよ? 4人がかりでも手古摺りはしたし、冷静ではなかったとは言えレイラが返り討ちにあったのも納得の強さだった。

 まさか羽を生やすとは思わなかったし、追い詰めたらそれが更に進化して、Z〇IDSみたいな装甲になるとは…。正直浪漫を感じました。

 

 

「何だよゾイドって…。まぁ…確かに、順当すぎる程順当に勝ったって印象はあったけど…」

 

 

 砲撃とかしてきたら危なかったなぁ…。樹液っぽいのを飛ばしてはきたけど、勢いはあんまり無かったし。

 

 

「それよりアタシは、竹を咬み合わせてキャットタワーみたいなやつを作った方が驚いたな。あのデカブツが天辺まで駆けあがって滑空しようとした時は、逃げられたかと思ったぜ」

 

 

 墜落してきたけどな。装甲が増えてた分、自重を支えられなかったんだろうなぁ…。翼だけだったら滑空も出来ただろうが。

 他には、体中から竹を伸ばして、ハリネズミみたいになったりしたな。迂闊に攻撃したら急に伸びて反撃を喰った。

 

 

「竹がぶつかり合って、上手く動けてなかったけどな。それより、気付いたか? あいつの動き、竹みたいだったぞ。強い力には無理に逆らわず、しなって衝撃を受け流し、円運動で力を返したり、連携を繋いだり」

 

 

 生やした竹の笹が降ってきたと思ったら、刃物みたいに鋭くなってた事もあったな。アレはヤバかった…。

 

 

「一度しか使われなかったのが救いだな。アレを成長させるのにかなり力を注いだようだし、切り札だったんだろう。後は何があったか…」

 

 

 上を通ったら突然成長して突き上げてくるタケノコとかな。地雷の発想だったが…危うく掘られかけたぜ。

 …なんつーか、思い返してみると案外色々やってるな、あいつ。妙に間抜けな所もあったが。

 

 

「アレにお師匠様が負けたとは思いたくないな…。技の多彩さは認めるけど。多分、テオ・テスカトルとのタッグが致命的だったんだろうな。林に火とか、ガチの火災じゃねーか。次々に薪が投入されるんだから…その中で戦ってりゃ、そりゃお師匠様でもなぁ…」

 

 

 それでもやっぱり、あっさり終わった印象が拭えない。

 死闘じゃなくて、システム的に勝った感じがするな。相手の攻撃を事前に分析して、それを完封する為の装備と準備を整えて、更にこっちのレベルを上げて、負けようがない状態で戦ったような…。炎攻撃しかできないモンスター相手に、炎吸収装備を付けて戦った気分だぜ。

 

 

「システムって何だよ…。ま、確かにお前の言う通り、勝つべくして勝ったって事なんだろう。アタシ一人で戦ってた時には、全く考えられなかった事だ。…これも、一狩り行こう『ぜ』の力なんだなぁ…」

 

 

 

 あくまでその表現に拘る気か。

 …ところで、急成長したタケノコぶった切って持ち帰ったんだけど、喰う? 筑前煮が好み。

 

「そこまで成長したら、もうタケノコじゃなくて竹だろ。パンダじゃあるまいし、喰わないよ。ちなみにパンダの体って、竹を食べるのには向いてないんだぞ。……ところで、お前イナガミと戦う前に言ってたけど、面倒な収集依頼を受けてるんだって?」

 

 

 ああ、それが?

 

 

「よし、そんじゃアタシもそれを手伝ってやるよ。散々手伝ってくれた礼をしなきゃ、据わりが悪くて仕方ない」

 

 

 おっ、ありがたいね。

 

 

「…だから、イナガミに勝ったって知らせる時には、一緒についてきてくれ…。泣かれたりした日にゃ、どう対処すればいいのか見当もつかないんだ…」

 

 

 お、おう…。

 ところで、この穿龍棍どうする? みんなで修復したもんだけど、トキシの形見である事には変わりないし、お前か…プリズムが持ってても意味ないな。やっぱレイラが持ってる方がいいと思うんだが。

 正直、俺には合いそうにないんだよなぁ…。

 

 

PS4月

 

 

 無事に戻ってきた時のプリズムの有様については、武士の情けと言う事で書かないでおく。

 強いて言うなら、クッソ熱いこの時期でも、水垢離なんてやるもんじゃない、って事だ。俺達が旅立った直後から、飯も食わず眠りもせず、ただ只管に祈りを込めて冷水を浴び続けたのだそうだ。

 自分に出来る事は、もうこれくらいしかないと。例え迷信に縋っているだけの無意味な行為だったとしても、出来る事をしない自分は嫌なのだと。

 

 …その祈りが、俺達が受けた歌の恩恵を増幅させたとか、目に見えない効果がどこかで発揮されたのかは分からない。

 確かなのはプリズムの体温がヤバいくらいに低下した事だけだ。

 今度はレイラがプリズムを看病している。…ティッシュの減りが早いようですな。

 

 

「それだけ感動したって事じゃない? 私だって心配してたもん」

 

 

 ああ、すまなかったな、ミキ。

 

 

「まっ、毎晩夢で遊んでくれたから、大丈夫だとは思ってたけど」

 

 

 …はい、そういう事でゴザル。毎晩見ていた夢は、やっぱり感応現象の類だったらしい。

 どういう現象なのかは、よく分からないけども。だってミキだけが夢を見てるならともかく、ゴッドイーターでもアラガミでもないセラブレスもだぞ?

 朝になって確かめてみると、実際にヤッてはいない…白濁とかの痕跡は残っていないが、感触はしっかりと残っているし、セラブレスの体も明らかに開発されているらしい。眠っているセラブレスの体を触って、しっかり確かめたそうな。

 と言う事は、本番やってたら処女膜貫通してたって事か…。

 

 ミキ曰く、毎晩ウトウトしてきた頃、ふと俺の気配を感じるらしい。目を覚ましても誰も居ないのだが、呼びかけられるような感覚(と言うか俺がヤりたがっているような予感)がして、それを受け入れると、ミキの霊力が吸い取られる感じと共に、俺の姿が現れるとか。

 ……普通に怪奇現象ですねクヲレハ…。

 

 うーん…コジツケするなら、感応現象と幽体離脱の合わせ技か? 感応現象によって俺とミキとの間でパスが出来て、魂とか意識とかがそっちに飛んでいく。んで、ミキがOKを出したら、ミキの体に宿っている霊力を使って実体化…いや実体化じゃないか、幽霊状態だもんな。

 幽体離脱自体は出来なくはないが、危険なんだよなぁ…。残った体が無防備になるから、誰かを護衛に置いておかないといけないし。それも誰でもいい訳じゃない。霊力を扱える力を持った人がいい。

 あれ、でもあの時は、脳の半分で戦いながら幽体離脱してたな…。

 

 ふむ…。もしもあの現象が推測通りの代物であり、尚且つ再現できるようになったとしたら…。遠隔セクロスとか、体で女を抱きながら、魂では別の場所の女を犯す事が同時に出来る訳か。

 むぅ、これはきっとオカルト版真言立川流の奥伝ですね。間違いない、俺は詳しいんだ。…マジで奥伝クラスだろコレ…。悪用したら、証拠を残さず強〇し放題だ。……………うん、セラブレスにもう悪用してたね。切腹した程度で死ねる体ではないが、バレた時には自裁します。

 

 

「ちょっといいかしら?」

 

「あ、お母さん」

 

 

 シキ? どしたの?

 ……手紙?

 

 

「マキからよ。これは貴方の分」

 

 

 あいよ。素材の引き渡しの件かな…。レイラも手伝ってくれてるおかげで、もうちょっとで要求されたものは全て集まりそうなんだが…。………………。

 

 …海に遊びにこないか? もうそんな時期か…。しかし、いきなり何だ?

 

 

「多分、貴方へのアプローチでしょう。貴方に気があるようでしたし…。ファーストキスも貰ったのでしょう」

 

 

 ありゃ、見てたか。今更ファーストキスでどうこう言われてもな…。いや名誉な事ではあるし、素直に嬉しいし、マキ的に非常に一大事だったのは分かるが。

 長女が真っ当に恋愛やってるのに、母親と妹は…。

 

 

「当人かつ元凶のパパが言うセリフじゃないよね」

 

「貴方の噂はマキも知っているようですし、このままフェードアウトと言うのも気に入らなかったのでしょうね。一家で悪い男に引っ掛かってしまったものです」

 

「それはともかく、ウェストライブ領にも海はあって、そこに私有地…プライベートビーチがあるんだよ。普通のビーチもね。ただ、海にはモンスターも居るから、討伐しないと危なくて解放できないの。毎年ハンターさんにお願いしてたんだけど…」

 

「引き受けてくれていた猟団が、去年で引退・解散してしまいましたからね。事情が事情なので仕方ありませんが、予算はともかく代わりに受けてくれる方が中々見つからず…」

 

 

 猟団ぐるみで受けてたのか…。成程、モンスター一体だけじゃなくて、海の安全を確保できるくらい狩ろうと思ったら、個人じゃまず間に合わんわな。

 自然と、それなりの規模の猟団になる…。それが解散した理由って?

 

 

「…団員同士の結婚と妊娠、故郷でハンターが不足しているからと帰省する者、年齢、適正がなく戦いに耐えきれなかった者…。櫛の歯が欠けていくようにポロポロと人数が少なくなり、自然と…」

 

 

 …そりゃ仕方ないわ…。

 でも、今年はまだ受けられてないんだよな? そこへ来て俺の呼び出し、とくれば…アプローチついでに、ウチの猟団で受けてくれと?

 

 

「仕事と明言してないので、あわよくば個人的に受けた事にして予算を浮かせよう…という考えもあるかもしれません。いずれにせよ、私としても引き受けてくれると助かるのですが」

 

 

 夜にサービスしてくれたらいいよ。具体的には、まだ試してないアレやコレやの実験台に。

 …と言うのは冗談だけど。だって、その時になったらシキってどんな事でも悦んでやっちゃうし。

 

 ともあれ、こっちとしてもデカい仕事があるのは有難い。個人的な感情で猟団を動かす訳にもいかんから、デンナーとコーヅィとも相談しなけりゃならんが、多分大丈夫だろう。フロンティアを離れるとしても、毎年定期的に仕事があるなら……………あ。

 

 そうだよ、フロンティアを離れなきゃいけないんだよな…。毎度毎度、出かけて帰ってきたら何かしら大騒動が起きてたり、古龍に襲われてたりして…。ああ、でもウェストライブから帰って来た時は大丈夫だったな。ミラボレアスってトンデモ災厄モンスターの出現に繋がったけど。

 うーん……どうする…? 確かにフロンティアの連中は、何かに襲われても自力で撃退するだろうし、プリズムも言ってたが歌があろうが俺が出かけて帰ってこようが、襲撃何ぞ日常茶飯事だし…。

 

 

 …まぁいいや、行くか。考えてたって仕方ない。「また何か起こるような気がするから」でマキの依頼を断るのも悪いし。

 

 

「パパと旅行だー!」

 

「ふむ…新婚ではないにせよ、一種のハネムーンと思えば…他にも沢山人が居ますが。それに、縁を伝ってとは言え、無償で仕事を受けさせる訳にもいきませんしね」

 

 

 その辺の勘定はシビアなんだな。

 

 んー……フロンティア以外での狩りは久々だな。猟団の連中はフロンティアで生まれて出た事もないって奴も居るし、外とのレベルの差を実感させるいい機会になりそうだ。猟団皆で行くとして、どれくらい報酬が出るかな?

 

 

「そうですね、今まで受けてくれていた方々と同程度には出せるでしょう。そこから先は出来高払いか、或いは何人連れてこようと構わないけど一定の報酬しか出さないか…微妙な所ですね」

 

「あ、それだったら後者がいいと思うよ、お母さん。セラブレスさんって知ってる?」

 

「ええ、G級ハンターで、ミラボレアスと戦った時には随分お世話になったとか」

 

「その人がね、ミーシャさん…は、夜の会合で何度か会ってるから分かるね。ミーシャさんの伝手で、パパの猟団と合コンするんだって。この際だから、巻き込んじゃえばいいと思うよ。報酬は一定しか出ないけど、滞在費はウェストライブ持ちって事にすれば」

 

 

 ほう…いい案だな。半分旅行、確保したビーチを2~3日貸し切らせてくれるなら、追加報酬としては申し分ないし、皆やる気を出すだろう。

 上手く行けば、セラブレスの一族も何組かカップル成立するかもしれん。

 

 

「ふむ…。仮に、2つの猟団全員が来たとして…」

 

 

 ちょい待ち、猟団は結構大型だと思っとけ。

 俺のところは何だかんだで数だけは多いし、セラブレスの一族がどれだけ乗ってくるか分からん。

 ついでに言うと、俺の知人(と言うか女)も連れていきたい。おいてったら拗ねそうだ。

 

 

 

「…大型猟団に加え、更に何人か追加。滞在場所は……ハコはありますね。食料、及びハンターへの支援の問題も皆無。これはウェストライブのお家芸です。こちらとしては、2,3日と言わず一週間程度ビーチを提供しても構いません。安全確認の意味も込めて、となりますが、これは報酬を支払って仕事をしていただくので当然の事でもあります。多少赤字となったとしても、ハンターに縁が出来る、今後出向いてもらえる可能性が高くなると思えば許容範囲。リスクがあるとすれば…?」

 

 

 …あらら、そろばん弾き始めちゃったよ。まぁ、大丈夫そうだな。

 しかしミキ、いいアイデアだったなー。

 

 

「こういうの考えるの、結構好きみたい。ミラボレアスとの時も、信じられないくらいに頭が回ったし。作戦とかイベントを考えるのに向いてるのかな?」

 

 

 ハンターへの援助じゃなくて、現場近くでの参謀向きなのかな。

 と言うか―、本命の理由はー、それじゃないよねー?

 

 

「やだなーパパったら。自覚無しにえっちぃカラダになってるセラブレスさんの水着姿が見たいとか、この旅行中にあわよくばパパとセラブレスさんと一緒に、現実でエッチとか考えてないってば♪」

 

 

 はっはっは、実に我が娘だなこの女。アラガミ化がどうの、抑圧されてきた鬱憤がどうのと言う以前に、素質はあったんだろう素質は。

 ま、セラブレスの仕込は充分だし、俺もそろそろ…と思ってたしな。

 

 

 

 結局、暫くシキはブツブツ言っていたが、問題が無い事が確認できたのか、OKを出してきた。と言っても、マキが素直にそれを受けるかどうかは別問題だが。

 ふむ、ウチの猟団(パンツァー猟団込み)+セラブレス一族+ストライカー猟団。まだ余裕があるようなら、シトサのトコも呼んでみるか? 大した意味はないが、アイツの事だから毎日コツコツ真面目にやり続けて、休みをとってるかも怪しいもんだし。

 

 

 



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301話

 

 

PA4月

 

 

 ミーシャとセラブレスに話を持っていった。あくまでマキがOKしたら、という前提だが。

 メッチャ喜ばれた。特にセラブレスが。

 『これで合コンのセッティングから解放される』だそうな。そんなに嫌だったのか。

 

 

 …しかし…セラブレスの体、エロくなってたなぁ。一見すると大きな変化はないんだけど、柔らかさが明らかに違う。派手なアクションした時とかの、乳揺れの頻度が証明している。

 幸いと言うべきか、自覚はないっぽい。まぁ、自分で自分の体がエロくなったなーなんて普通は思わないし、プライベート以外では大体ゴッツい鎧着てるから、誰も気付かなかったんだろう。

 

 暫くセルベリアを夢でどうこう、と言うのはできそうにない。あれはあくまでミキを中継地点とした感応現象モドキらしく、ミキの傍でしか活動できそうにないのだ。

 セラブレスはこれから、一族に話を持っていくので、俺ともミキとも離れて行動しなければならない。体が夜泣きしなければいいがな。いや、してくれた方が楽しいかな?(下種顔)

 

 

 ウチの猟団の連中も気が早いもので、もう旅行が決まったものとして色々準備を進めているようだ。その前に大規模な狩りの準備をしろと言いたいが、女性グループの水着の予想について熱く語るのを見て邪魔するのを辞めた。

 マオ達もミキ達も、一斉に水着やら何やらの調達に出掛けてしまった為、唐突にヒマになってしまった…。

 

 

 とりあえず、レイラとプリズムにも話を持っていこう。

 

 

 

「はー、海ねぇ」

 

「海…ですか」

 

 

 気のない返事だな、二人とも。子供みたいにはしゃげとは言わんけど。

 

 

「そりゃハンターとしてはなぁ…。遊びに行くとかいう以前に、モンスターに襲われる危険とか、どんな魚が釣れるのかとか、素材はどうなってるのかとか…。そういう反応が先に出るし。そもそも、狩場ウロウロしてれば海なんか珍しくも無いぞ」

 

 

 まぁ、分からなくもない。新しい地域の狩場に行ったら、まず行う事はモンスターや採取品の分布確認だもんな。

 安全な海でハンターに何をしろと。いや採取すればいいんだけど。

 

 プリズムは? と言うか体はもう大丈夫なのか。

 

 

「ええ、ご心配なく…。女として、あまり見られたくない顔だったので、思い出さないでください。私は……その、実は海を見た事がないもので…」

 

 

 え、そうなん!?

 

 

「あー、里は内陸で森の奥にあったし…。お師匠様を追いかけて旅していた時期は?」

 

「主に都市と都市を行き来していましたし、海の近くの町は通りませんでしたね。…個人的には、とても行ってみたいのですが…」

 

 

 …こっそりと、脇腹付近に触れるプリズム。どうやら体系が崩れてないか、心配しているらしい。

 最近は活発に走っていたとは言え、不摂生が長かったようだしね。仕方ないね。

 

 

「ま、アタシは行くよ。フロンティアに比べれば手応えはないだろうけど、狩りの手伝いをするって約束したからな。久しぶりに水中戦もいいもんだ」

 

 

 あ、俺まだやった事ないから、向こうでノウハウ教えてくれ。

 プリズムは……そうだな、泳ぐのもいいダイエットになるぞ。人目に晒されるという意識があれば、より一層真剣に節制に打ち込めるし。

 

 

「限りなく余計なお世話ですっ! セクハラされたと言いふらしますよ」

 

 

 じゃあ言い方を変えて。

 トッツイ達に休暇…福利厚生っつーかリフレッシュ期間をやると思って、来てみれば?

 

 

「ああ、それは確かにありですね。彼らは『このくらいどうと言う事はニャい』と言ってくれてはいますが、今まで私を世話してくれたお礼もしたいですし。ダイエットはともかく。ダイエットはともかく。ダイエットはともかく」

 

 

 そこまで引きずるか…。これが女ココロというものかな。

 …どうなんだ、レイラ?

 

 

「アタシ、というかハンターにそれを聞かれても…。ハンターなんて大体細マッチョか極めてマッチョばっかりだし。アタシも体系とか気にした事ないな。食った分だけ動いてるし、喰わなきゃ筋肉維持できないし」

 

 

 だよなー。ケーキだろうがお肉だろうが、ほぼ食い放題で体系が崩れないのはハンターの特権だ。ゴッドイーターとモノノフもその傾向があるが。

 

 

「…………ブルブツブツブツ…」

 

 

 なんかプリズムが俯いて呟き始めた。コワイ。

 ま、まぁアレだ、現役で狩りをやってればの話だから。食べた分、過酷な運動をしてるって事だから、何もせずに食っちゃ寝できるって意味ではないぞ。

 

 それはともかく、レイラもプリズムも参加って事でよろし?

 

 

「ああ、頼む。…このブツブツ呟いてる物体は、私がちゃんと正気に戻しておくし、トッツイ達にも話は通しておくよ」

 

 

 あいよー。と言うか、トッツイ達が居ないなんて珍しいな? いっつも一人はプリズムの傍にいるし、新聞配達中も…なぁ?

 ミラボレアス戦の時だって、何だかんだで追いかけてきたし。到着した時にはカタついてたけど、その後の手当てや片付けには奮闘してたっけな。

 

 

「あいつらは今、歌姫復活ってビラ配りに出てるよ。沢山の人に歌を聞いてもらいたいんだろうな。あいつらがか、この物体がかは微妙な所だけど。…そうだな、旅行に連れてってもらうんだし、一曲せがんでもいいんじゃないか?」

 

 

 おー、海を舞台に、歌姫様のコンサートか。いいじゃないか、きっとファンが増えるぞ。

 猟団に楽器が出来る奴が居ないか、聞いてみようかな。

 そういや、ミーシャも歌姫に興味があるんだっけ。対バン…は無理か、バンドじゃないし。デュエットとかどうだ?

 

 

「提案はしとこう。さて、そんじゃアタシも準備しますかね。水着はどうでもいいが、海と言ったら酒とバーベキューだな。いい肉取ってこないと」

 

 

 …魚…は現地で調達できそうだから、野菜でも見繕ってくるか? それとも、道中用の狩人弁当団体様向けでも注文してこようかな。

 

 

 

PS4月

 

 

 マキからOKが出たらしい。特に断られるとは思ってなかったが、俺に対するアプローチだと言うなら、他に人が来るのを渋られるかと思ってたんだが。

 ま、周辺海域の安全確保が第一らしいし、そこで私情を挟む事はしないか。

 

 

 猟団連中は、ロハで旅行ができると大喜びだ。が、そこで浮かれるだけでなく、海で使えそうな装備を見繕っている。…あのタカリ集団が、こんなに真面目になって…。ちょっと目頭が熱くなる。

 だが、海辺で使える装備と水中向けの装備は全く別物らしい。…ここはウェストライブから、幾つか貸し出してくれるそうな。

 

 あと、ミキがパンツァー猟団の子達に「縄の跡はついちゃ駄目だよね?」と粘着質な冗談を言っていたが、気にしてはならない。

 「おちんぽケース、大分出来てきたよ」とも言っていたが、それはもうなるようになるだろう。なってしまえ。なってくれ。熟れる直前の果実もいいものだ。独特の色気がある。

 この旅行中に何人か…或いは何十人か…大人になってしまうかもしれないが、ミキに手を出したり出されたりした末路だと思って諦めてほしい。代わりにたっぷり楽しませてあげるから。

 

 猟団ストライカーは、もう完全に休暇のノリである。

 ここ最近、マオやミーシャが正式に上級昇格し、装備やら何やらを整える為に猟団総出で真面目に狩りをやっていた為、一休みしようと言う訳だ。

 …真面目っつーても、昇格した本人もその周囲も、夜のオタノシミはしっかりやってたんだけどね。真面目に狩りしてたのは本当だし、何も問題はない。

 

 シトサの猟団にも話を持っていってみたが、当のシトサは病み上がり状態。無理は出来ないとの事だったが、構わず誘ってみた。

 アイツの猟団なら、シトサ本人が動けなくても充分信頼できるからな。当のシトサは泳げそうにないが、団員(女)に甲斐甲斐しく世話されるのもいいのではなかろうか。

 

 セラブレスの一族も、出来る限り有休をとり、旅行に同行する事を申し出てきた。半ば婚活パーティなノリな気がする。別に構わんが。

 思ったよりも人数が多かったようだが、ここまで来ると誤差の範囲である。

 

 トータルで3桁近くの人数になっちゃったからなぁ…。こりゃ多少は滞在費とか出さないと申し訳ないわ。

 シキに確認すると、当初は一人一人に個室を宛がう予定だったが、流石にグループ制になるとの事。ま、仕方ないよね。これだけの人数を、一気に収容できる筈もない。キャンプにならないだけマシである。いや、一晩くらいはそれも楽しいかもしれないが。

 

 

 流石にレジェンドラスタの旅行は認められなかった。いや、普段であればある程度認められるんだが、最近は何だかんだで個人的な事情で動いてたからな…。

 トキシの穿龍棍を復活させるとか、俺とナニするのが目的で勝手に同行したりとか。

 それを言い出したらレイラも本来は許可されないんだろうが、歌姫も同行すると聞いたからか、何故か許可が下りていた。ギルドとしても、ここで歌姫と仲違いしたり、微妙な関係になってもらっても困るのだろう。

 

 

 

 出発は4日後。

 それまで何をしていようかね。

 

 

 

PS4月

 

 

 偶には何もしない日もいいもんだなー。何だかんだで、最近何かの為に動いてばっかりだったし。うん、考えてみりゃ、イキヌキ(意味深)こそしてても、あんまり休んでないのは俺も同じだったかな?

 今となっては、何だかんだでGE世界の極東以上の頻度でクエストをこなして、それが特に負担にならなくなってるし。一度出発すれば、乱入や古龍遭遇は当たり前だもの。俺以外であっても、左程珍しい事じゃない。

 

 まぁ、色んな人に買い物に突き合わされたり、土産を強請られたりしたが、まぁ交友関係(特に異性)の代償と思えば格安である。

 

 

 …ちなみに『買い物』については大体の女性が3着以上の水着を買った事を追記しておく。内訳? 普通に使う水着と、男が俺一人しか居ない時に使う水着と、試着中についつい汚してしまった水着だよ。

 二つ目の水着は俺もまだ見てないんで、あっちの夜が楽しみである。…水着購入の為に、結構散財したからね。最初二つはともかく、三つ目の水着は俺が支払うしかないでしょ…。

 

 

 

 ま、そんなこんなで出発した訳だ。本来、ハンターなら目的地まで自腹で移動する(クエストではないからね)もんだが、今回はウェストライブからの特別依頼も兼ねている為か、結構豪勢な迎えを用意してくれた。

 明らかに、高級な客を持て成す為の馬車……………では、ない。

 

 

 

 

 

 戦車だろコレ…。試作品や未完成品をリサイクルしたものだと思うが、砲塔が無かったり、人が上に載って移動するタンクデザントの為だけに作られたような代物だったり、明らかに不要な部位や、作ろうとして失敗した機構がついている物ばかりだが、これは戦車だ。あんまり詳しくないが、元の世界でもそういう戦車があると聞いた事もある。

 なんだコレ…。アキャマ殿が超興奮してるんだが。

 

 

 メゼポルタ広場の注目を浴びながら、鉄とモンスターの素材で作られた、見た事もない箱状の乗り物に乗り込み、続々と出発する俺達。正直、中々気分がよかった。車酔いにだけは気を付けるよう、全員に通達した。

 ちなみに、俺が乗った一際豪華(飾りつけではなく、機能的な意味で)戦車(仮)に乗っているのは、ウェストライブの現領主であるシキ、そしてその娘のミキ。

 そんでもって、『興奮しすぎて何をやらかすか分からないから』と、アキャマ殿を手元に置いておく事になった。

 尚、運転手さんも各車両に一人ずついたのだが、シキが「自分が運転するから」と言って、別の車両に移らせてしまった。

 

 戦車の乗り心地は……まぁ、思ってたよりは良かった、とだけ。出迎えに使う為にわざわざ改装したのか、失敗作でも使える方法を模索した結果なのか、椅子の座り心地は良かったし、意外と涼しい。

 戦車って、もっとこう無骨で蒸し暑くてむさ苦しいイメージがあったんだけどな。アキャマ殿に言わせると『だがそれがイイ』だそうな。分からんでもない。

 ま、居心地の良さに文句を言っても仕方ない。

 

 残念な事と言えば、大砲が撃てなかった事かな。失敗作・試験作だからか、オミットされてしまっているらしい。まぁ、仮にそうでなかったとしても、唐突に適当にブッパしていい筈も無いのだが。適当に撃ったのがモンスターに直撃して暴れ出したり、どっかの村にでも飛び込んだらえらい事になってしまう。

 

 

 

 

 

 代わりに、俺の大砲がブッパされましたけども。

 まぁ何だ、アキャマ殿にとっては夢のような初体験だったんじゃないかな。大好きな戦車の中で女になれたんだから。

 …流石にそこは、旅行先の部屋のベッドの方がいいんじゃないかなーと思ったんだが、当のアキャマ殿が悦びまくってるし、問題ないよね。

 

 一応言い訳しておくと、俺から手を出したんじゃない。興奮しまくって人語を忘却しつつあったアキャマ殿を、ミキがちょっと妖しい声色で呼びかけて落ち着かせて…それでスイッチが入ってしまったらしい。

 アキャマ殿も、エロエロモードのミキに何度も調教されてるみたいだもんなぁ…。

 ミキはミキで「丁度良く仕上がって来た頃合いだし、そろそろ皆をパパにプレゼントしようかなって思ってたの」なんて言い出すし。

 

 アキャマ殿も、最初からそういう目的で弄られていたのは聞かされていたらしく、あうあう呻きながらも驚いた様子は無かった。覚悟は決まってなかったようだが。

 

 

 

 いやぁ、なんつーか…オッサン臭い悦びを感じたわぁ。

 初体験で対面騎乗位で貫かれるアキャマ殿改めユーカリ、その背後から忍び寄りつつ尻に指を埋めてクイクイさせるミキ、平然と運転しているように見えて明らかにその気になっているシキ。

 操舵席に居るシキは残念ながら混じれなかったが、閉所・狭い場所で二人の女子…それこそ、年齢を考えれば入学したばかりのJKと密着エッチとは。年頃の少女の甘酸っぱい匂いに包まれて、堪らんかったとです。不覚にも、一発誤射ってしまいました。…あらぬ方向に飛んだネバネバは、シキが握っているレバーに直撃し、これ幸いとばかりにシキが塗り伸ばしてskskしたりしてましたが。

 うむ…カラダだけ大人になりつつある少女達の、フェロモン満載密室セクロス。堪能させていただきました。

 

 

 ちなみに、移動途中でちょっとお休みを入れる事になったのだが、その時のユーカリは「はしゃぎすぎて疲れてる」という名目で、戦車の中で気絶しておりました。ちゃんとご飯は確保しておいたし、第二ラウンド(イかせたのもイッたのも2回だけとは言ってない)で散々よがらせたから問題ないね。

 ちなみに、見事なちんぽケース第一弾を用意してくれたミキには、たっぷりとご褒美を上げました。移動中、ユーカリを犯している間以外は、ほぼ全てミキに突っ込みっぱなしだったもんな。

 シキはと言うと、運転があるからそうもいかない。途中の休憩時に隠れてしっぽりやった以外は、運転させながらおっぱい弄り回したり、じれったい所をさすさすするばかりでした。これは目的地に到着して人目のない所につき次第、即押し倒してやらねばなりませんなぁ?

 いや、押し倒す時間も惜しいから立ちバックかな? いやいや、敢えて焦らして、痺れを切らして飛びついてくるのを待つのも…。

 

 

 

 その辺は流れに任せるとして、今回の旅行でお手付き数がエラい事になりそうだなぁ…。ミキはパンツァー猟団はほぼ全員……まぁ何だ、屈服させてると言うか調教済みというか、命令すれば自分から股を開かせるくらいできるようにしてるみたいだし、セラブレスに手を出す計画もあるし、到着してからはマキとの関係もあるし。

 毎度の事ながら、倫理も何もすっ飛ばして突っ走れるだけ突っ走るつもりだが、現実的な問題も付随してくる。具体的には金? 幾らG級ハンター中堅だって、これだけの人数を一人で養える訳じゃない。共働きすれば、充分すぎる程ではあるんだが。

 距離の問題もあるしなー。同じ部屋の中に居るなら、鮨詰め状態でも全員纏めてヒィヒィ言わせられるんだが、例えばメゼポルタ広場とウェストライブ領だと、物理的に触れる事もできん。

 

 

 …まぁ、それを解決する、幽体離脱セクロスっていう新技が開発されつつある訳ですが。

 あんま下半身ばっかりで解決するのも何だしね。肉体関係が前提でも、それ以外を充実させようとしてるのよ? デート(主に狩りだけど)行ったりね。

 エッチぃ遊びはどうとでもなるけど、二人きりの時間が作りにくいのが問題だ。…当然の結論ではあるんだが。

 

 

「アキャマさん、一番好きな戦車の、一番好きな部分って何処?」

 

「……に、肉弾戦車の、とっても気持ちいい主砲であります…」

 

 

 おーいミキ、セクハラするなら混ぜてくれ。

 

 

「どうせなら私にどうぞ」

 

 

 いや運転中はちとマズイ。

 



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302話

 

 

PS4月

 

 

 車酔いしてるのが若干数名いたが、特に問題なくウェストライブ領まで到着。

 戦車の上で風に当たって、コーヅィがやけにはしゃいでいたのが印象的だった。ちなみに嫁さん連れてきてます。…うん、再婚旅行って事で、どうせなら子供作っちゃえばいいさぁ!

 

 

 狩場となる海辺に移動する前に、領主の館の前を通る。当然と言うべきか、マキが出迎えてくれた。

 一悶着あったけどな…。

 

 出迎えたマキに対応するように、シキとミキ、俺と……同じ戦車に乗っていた、ミミと婚活戦士ことサヲリ。

 …言うまでもなく、ミキプロデュースのおちんぽケース第二段第三段な訳ですが、この二人が何をやらかしたか、覚えているだろうか? 

 

 そう、あれはマキがまだフロンティアでミキを探していた時の事。つーより、マキとミキが再会した、正にその時の事だ。

 あの時、ミキはアラガミ化を抑えられず、正気を失って暴れ出した。その原因は、抑制剤が手元になかった事。……そう、この二人が間違えて、抑制剤が入っていたミキのカバンを持って行ってしまったのだ。

 

 そんなミスされれば、そりゃマキだって激怒する。と言うか実際した。その罰が有耶無耶になっているのは、単にマキと二人が顔を合わせてないからだ。

 …それを思い出して、よくよく考えれば会わせるのはマズいと思った訳だ。

 

 

 

 と言う建前で呼び出して、私刑に処した訳ですよ。…誤字ではないぞ? あくまで、ミキが処罰を決めてケジメをつけ、ミキに限らず猟団の鞄には誰の所有物かすぐ分かるような印をつけ、懲罰・再発防止策を実施したという事で、マキへの面目を保った訳だ。

 まぁ、その刑の内容は言うまでもない事だが。

 …これについては、母親のシキも看過は出来なかったので、私刑に参加する事になった。その間の戦車の運転はユーカリに任せている。暴走しないか心配だったが、ガタガタ揺れられるとそれはそれで私刑に丁度よくてだね。

 

 ふぅむ…。あまり使ってなかったが、三角木馬とか、あーいう器具にも興味がわいたな。勿論、拷問用のガチじゃなくて、エロエロ目的の奴だが。

 とりあえず今回は、罰として戦車内のレバーで、自分で処女を散らせるのはどうかな? ……まぁ、あくまで脅しで、本当に貫いたのは俺だけど。その後はミキが嬉々として玩具にしていた。

 

 

 

 …そのよーな小ネタを挟みつつも、マキに挨拶している現状。

 ミキが許し、またそれとは別に正式に罰を与えていると言っても、二人に向けるマキの目は厳しい。ま、こればっかりは仕方ないわな。これ以上揉めない為に罰を与えたのであって、感情的に許されるかは別問題である。

 

 

 おーいマキ、その辺にしとけ。今回はこいつらもハンターとしての戦力になる。あんまりモチベーションを下げるような事してんじゃない。

 

 

「…………」

 

 

 …ん? どしたの?

 

 

「いや、言いたい事は分かるが、私としてはあまり信がおけない。先日のようなミスをするハンターを、素直に信用していいものか」

 

「うぅ…」

 

「……反省しています…」

 

 

 事が事だけに、そうそう信用できんのも分かる。が、世の中には「失敗した人程重用しろ」という考えもあるし、一度の失敗で二度と信用されない訳じゃないだろう。

 この二人に限らず、同じようなミスをしないよう、複数人での重複チェックをしているし。

 

 

「…信用できないならマキ、貴方も来なさい」

 

「…私も?」

 

「私も素直に信頼している訳ではありませんが、自分の失敗を悔い、同じ事を起こさぬように努めているのは事実のようです。過去に失敗したかではなく、現在どうしているのかを貴方のその目で確かめ、信頼できるかを判断しなさい」

 

「…はい」

 

「それに、貴方もフロンティアのハンターの狩りは、あまり見た事はないでしょう。ウェストライブ家の次期領主として、ハンターの実態を知るのは重要な事です。代わりに、彼らは水中のモンスターと戦った経験が殆どありません。ノウハウの交換も考えておくように」

 

「はい、お母様」

 

 

 …なんか不満げだな。事が事だけに悪感情が後を引くのも無理はないが、それにしたってマキの性格を考えると引き摺り過ぎなような気が…?

 と言うか、マキの視線と言うか苛立ちが、俺に向いてるような…。

 

 

 …領主としての顔をしていたシキが、不意に溜息を吐く。チョイチョイと手招きをしてマキを呼び寄せると、耳元でボソリと囁いた。…俺とミキには聞こえてるけども。

 

 

 

「水着で真夏のアバンチュール」

 

「今ある仕事を片付けて、明日には向かいます!」

 

 

 

 …なんやねん。

 

 

 

 

 

 

 さて、そのまま戦車で進軍を続け、空が赤くなり出す頃、ようやく海に到着した。

 ふーむ、中々良さそうなビーチじゃないの。モンスターさえ居なければ、リゾートとして活用できそうだ。

 

 海から少し離れた所には、景観を崩さないように建てられたコテージが幾つもある。皆あそこで寝泊まりする訳だな。

 俺とシキとミキは、これらのコテージから少し離れた所にある、ちょっと大きめの高級コテージを使う事になる。少々不満も出たが、元が領主一族が自分達用に作ったコテージだ。使った所で、何の問題もない。

 なら俺はと言うと……その領主一族との打ち合わせ、お呼びご機嫌取りの役目があるが、誰かやるか? と聞いたら見事に首を横に振った。

 

 …ご機嫌取りの内容については、今更言うまでもないだろう。お互いに気分よくなっているのは事実だし、何の嘘も言っていない。

 明日からは本格的に狩りが始まるのだし、周辺の情報収集や、どんなモンスターが居るのか、どのモンスターを率先して狩るべきかの打ち合わせもしなければならないのは事実だ。

 

 

 

 

 尤も、コテージに到着するなり、玄関でいきなりナニにむしゃぶりついてきたシキと、そんな会話ができるとは思えんがな!

 

 

 ここに来るまでの間、運転している後ろでズッコンバッコンしまくってたからなぁ。そりゃ子宮が疼きまくってるのも無理ないわ。

 強烈なバキュームで俺を責め立てながら、引き千切るように服を脱ぎ捨てる。もう一刻たりとも待てませんとばかりに、男の象徴に縋りつく姿は、とても領主とは思えないし、まかり間違っても娘には見せられないものだ。

 

 もっとも…。

 

 

「もう、お母さんってば…。まだシャワーも浴びてないし、パパに『よろしくお願いします』って挨拶もしてないんだよ? そんなにがっついちゃって、お母さんってヘンタイなんだぁ…。私、恥ずかしい…」

 

 

 蔑んだような声をかけながら、シキの股座を弄り回しているミキに関しては、それは当てはまらないが。

 女性の最も大事な部分を指で掻き回されているシキは、それが聞こえているのかいないのか。聞こえていたとしても、娘からの罵倒ですらシキを興奮させる一助にしかならなかっただろう。

 

 砂漠で水にありついたかのように激しい吸引。一日卑猥な声を聞かされ続けた事で、相当に発情しているようだ。よく事故らなかったもんだ。まぁ、あの戦車なら木に突っ込んだりしても、木の方が折れるだろうけど。

 

 

「パパ、こんな恥ずかしいお母さん放っておいて、チューしよ、チュー?」

 

 

 はいはい、こっちおいで。シキには足の指で充分だろ?

 ミキの指が離れ、俺の足が秘部に押し付けられる。もどかしげに腰を捻るのは、抗議しているのか、それともミキの指より俺の足の方が嬉しいからか。

 

 抱き着いてくるミキからは、性臭とメスの芳香が立ち上っている。どうやら、娘は娘で相当に恥ずかしい女の子だったようだ。知ってた。

 

 

 …何せ、すぐ傍で一緒にコテージまでやってきた、ハンズ嬢ちゃんが目を真ん丸にしてても全く気にしてないからな!

 いいのか? パンツァー猟団の団長が、呆然として見てるぞ?

 

 

「大丈夫だよ。だって、その為に来たんだもんね、ハンズ団長?」

 

「え……ぁ……う、あ…」

 

 

 おいおい、混乱してフリーズしてるよ。本当に大丈夫か?

 

 

「おちんぽケースにするには、ちょっと早かったかな? でも、パパそういうのも好きでしょ。こうなる事を薄々勘付いてたのに、逃げもしなかったんだから大丈夫」

 

 

 …そのようだな。混乱してはいるけど、逃げようとは全くしていない。全く、我が娘ながらどれだけ仕込んだのやら。

 

 …っ、おぅ…。

 ああ、分かってる分かってる、シキの事も忘れてないって。ハンズ嬢ちゃんも女にしてやるけど、丸一日シキにはオアズケしてたからな。しっかり満足させてやらねばなるまいて。

 ついでに、娘のお友達にお手本見せてあげようねぇ。今からお前も、こんな風にヒィヒィ言わされるんだぞって。

 

 

「うん、それじゃ私が準備を手伝ってあげるから」

 

「あ……ミ、ミキ…」

 

「パパに抱かれる時には、予め自分で準備しようねって教えたでしょ? ほら、早く」

 

 

 自分で自分を昂らせて、後は突っ込むだけなのもいいが、自分の手で一から弄ぶのもいいもんだぞ。ま、今回はミキの手腕を見物するとしようかね。ミキが躾けしている所は、まだ見た事がなかったしな。

 それじゃ、ベッドのある部屋はどっちかな?

 

 …こら、シキ離せ。

 

 咥え込む口を引き離そうとすると、悲し気に鼻息を漏らし、少しでも吸い付こうと締め付けて、喉奥まで迎え入れようとする。それはそれでいい感触だったが、せっかくここまで焦らしていたのだ。最初の一発は、一番奥にくれてやらねばなるまい。

 無理矢理引き剥がしたら、唾液とは思えないくらいの粘性の糸が引いた。もう一度突き込んでくれと媚びるように、シキの舌がちろちろ動く。

 

 

 しかし、それを無視してシキの体を抱き上げ、反転させると、打って変わって悦びの声を漏らした。

 シキのドロドロになった秘部が、無抵抗にミキに弄られているハンズ嬢ちゃんの前に晒される。生々しいソレに添えられる、禍々しい肉棒。これらを見て、自覚があるのか無いのか、ハンズ嬢ちゃんは自分の足をモゾモゾと擦りつけ始めていた。

 

 じゅぷ、と卑猥な音と共に、俺の肉棒がシキの体に侵入していく。体を仰け反らせ、獣のように悦びの声をあげるシキ。その締まりは、焦らしに焦らした分だけ強烈な締め付けとなっていた。

 締め付けに負けずに小刻みに突き上げながら、ミキの案内でベッドのある部屋まで進んでいく。足元には、シキの中から溢れた蜜で道標ができている。

 

 娘とその友人の前で貫かれ、浅ましい欲望を貪る姿は、ハンズ嬢ちゃんにはどう見えただろうか。歳の割にはかなりのやり手だが、これで年頃の乙女である。

 こんな生々しく、インモラルな光景を突然見せつけられて、正常でいられる筈もない。…ミキの調教で、ある程度耐性ができていたとしても、だ。

 

 今まで何度も似たような事をやったが、やっぱこれは愉悦だなぁ。コウノトリを信じている程純粋じゃないが、可愛い女のコに 無修正のポルノをつきつける快感だ。

 更にその無修正ポルノを今から自分で体験する事になる訳で。

 

 …想像したら、更に膨らんでしまった。それに悦びながらも、他の女に反応している事を怒るように締め付けるシキ。やれやれ、イキッ放しだと言うのに、敏感な事だ。いや、だからこそ敏感でもあるな。

 

 

 ま、いいや。寝室に到着したので、ミキに扉を開けてもらって中に入る。

 キングサイズのベッドは、乗ったら溺れそうなくらいに柔らかそうだ。ふむ、これなら。

 

 シキ、飛ぶぞ~。

 

 

「っ、はぅ、ぁっ、え?」

 

 

 とう! と掛け声と共にジャンプして、シキを下にしてダイブ。

 全体重を(股間に)かけた、フライングボディプレスだ! いやフライング種付けプレス?

 

 

「っ…かっ……!」

 

 

 予想もしなかった衝撃と、一番奥の更に奥を、ガッツリ突き入れられ、悶絶するシキ。尤も、それだけで済ます筈がないがな!

 容赦なくピストンを続け、シキを追い詰め上り詰めさせていく。逃げようのない体勢で、女の部分を念入りに徹底的に蹂躙され、シキはもう正体を無くして喘ぐ事しか…いや、それすらできはしない。

 気絶しないのも、保っているからというよりは気を失う事すらできない、と言った方が正しいだろう。シキにとっては、快楽の拷問でしかない。…尤も、体も心も、それを悦んで受けているのだが。

 

 容赦なく続く締め付けに、俺も我慢が効かなくなってきた。大きく足を開かせて腰を固定し、更に打ち付ける。

 シキの声は、もう形にすらならなかった。

 

 

 っ…シキ、イクぞ…! ありがたく受け止めろ!

 

 

「っ……!!!!」

 

 

 最後の力をばかりに、艶めかしい足で腰をがっちり固定するシキ。この期に及んで、中出しを強請る痴女の表情で、俺もついに一線を越えた。シキの腹を文字通り膨らませるつもりで、奥に白濁を注ぎ込む。

 小さく譫言を呟いてから、シキは完全に脱力した。

 

 数秒の余韻に浸って腰を引くと、ぬちゃりと粘着性の音がして、俺のモノがシキから引き抜かれた。思いっきり射精したが、たった一発で俺が治まる筈もない。

 振り返れば、混ざりあった体液でドロドロになったモノが、ハンズ嬢ちゃんとミキの視界に飛び込んだ。

 

 その時の二人の反応は、実に対照的だった。これから襲ってくる肉の宴を想像して、恍惚とするミキ。

 そして、その手で拘束され、心底怯えているにも関わらず、逃げ出そうともせず、体だけは準備が整っているハンズ嬢ちゃん。

 

 はてさて、嬢ちゃんの中は、どんな感触がするのかな?

 ゆっくり唇を奪って、準備万端の体を堪能し始めた。

 

 

 

 

 

PS4月

 

 

 ハンズ嬢ちゃんが大人になった後、打ち合わせ・意見のすり合わせという名目でやってきたミーシャとマオも混ざり、スッキリした後で、ようやく本当に狩りの為の会議が始まった。

 と言っても、そんなに難しい話をした訳ではない。去年までこの役を引き受けていた猟団は、それなり以上に優秀だったらしく、ハンターが欲しがる情報は大体揃っていたのだ。

 採取ポイントや素材の分布は勿論の事、獣道の有無、どこからどう道が繋がっているか、海流の動きやこの近辺のモンスターの特徴など、至れり尽くせりだ。

 勿論、これは去年までのデータであり、今年もこの通りとは限らないので、検証は必要だが。

 

 初日は小型モンスターを追い立てながら、現地の確認。二日目からは大型モンスターの討伐、と言う事で意見は一致した。

 …あっという間に会議が終わってしまったので、後はオタノシミの時間であった。

 

 

 …ちなみに、昨晩楽しんでいたのは、俺達だけではないようだった。本番行為に突入していたのはコーヅィ夫妻のみだが、早速伴侶候補を見つけたのか、何組かの男女が親し気に話し込んでいる。

 セラブレス一族は特に、合コン代わりに参加してるからなぁ…。

 狩りの邪魔にだけはならないようにしてくれよ。俺らが真剣に狩りしてる横で、木陰でジュース飲みつつ寛いでる、なんて事をしなけりゃいいんだが。

 

 

 さて、俺達ハンターは、本日はこの場を調べるんだが…セラブレス一族を始めとした、非戦闘員は、別の仕事がある。ズバリ…。

 

 

 ステージの建設だ。

 

 

 何のステージって? そりゃプリズムが歌う為のステージだよ。古龍を怒らす歌だからヤバいんじゃないか? とレイラは言ったんだが、ハンターをパワーアップさせる歌だけにすれば問題ないとの事。

 パワーアップ云々を考えなくても、純粋に歌は上手いし、士気向上の為と考えれば無駄にはならないだろう。

 

 

 さて、各員に何を確認するかの分配をして、今日は仕事の時間と行きますか。予定通りなら、今日はマキも来るだろうし、出迎えてやりたいからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で、約半日経過。

 俺の分担は海の中だ。水中戦に興味があったのもあるが、単純に実力の問題もある。フロンティアでもそこそこやれるようになってきた団員達だが、それはあくまで地上の話。水中で勝手が違うと戸惑っている間に、カジキマグロに刺殺されたなんて事になったら目も当てられん。

 …あと、すっかり忘れてたけど、俺って水中で呼吸できるんだよなぁ…。ふと思い出して、恐る恐る試してみた。

 ……水中呼吸してるところをレイラに見られて、モンスターを見るような目で見られたのは記憶に新しい。今更だが。だが貴様らの方がよっぽど人間離れしてるからな?

 

 

 しかし、溺死の危険が無くなったとは言え、やはり水中は勝手が違うな。腕も自由に触れないし、方向感覚というか上下の感覚が狂いまくる。 

 レイラもずっと潜っているのは流石に厳しいらしく、イキツギ藻なるアイテムで酸素を補給したりしていた。…つまりそれだけ隙が増える。逆に、水の中である為、こんがり肉なんかでスタミナ回復する事もできない。海から出ると、塩気が利いた新しい味になるんだが…。

 

 あと、水中でも回復薬等の飲み薬を使える事に疑問を抱いてはいけない。イイネ? …まぁ何だ、多少塩水が入るけど、工夫すればできない事は無いのよ、うん。

 

 

 …他に一番の危険は………まぁ、その、アレだ。水着がね? 特に泳いでるところを下から見るとね?

 レイラがよぉ、「流石に水中でいつもの恰好はねぇよ…」って至極尤もな事言い出して、水着に着替えててさ…。いや、言ってる事は分かるよ。いつものウサミミとかモフモフがついてる服で海に突っ込めば、そりゃ水も吸ってグチャグチャに、乾いても塩でカピカピになっちゃうよ。

 大物が目につかないとは言え狩りの最中なんだし、鎧を着てなくてもいいのか? と言うと、これまた当然の言葉を返してきた。

 

「鎧は基本的に水に沈むし、何よりゴチャゴチャした装飾や角が抵抗を生む。基本的に攻撃は全て避けるスタイルだから、私は泳ぎやすい水着の方がいいんだ」

 

 

 だそうな。……ハンターの分際でマトモな事言ってんじゃねえええええ!!! …というのはブーメランだろうか…。いや俺まともな事言ってるか? …うん、言ってるな、女関係以外では。つまりブーメラン成立。あれ、成立しない方がいいのか?

 と言うか、レイラの水着が…。いや他のみんなも水着持ってきてるけど、まだ着れてないんだよね。とにかくレイラの水着が…。

 

 

 

「……な、なんだよ…」

 

 

 普段と露出度は大して変わらないだろうに、じろじろと見られて居心地悪そうに身じろぎするレイラ。

 自覚はないだろうが、体を捩って女性特有の部分を隠すような動作をしている。だがそれはどう見たって、男を挑発する仕草にしかなってない。

 

 あまつさえ、それが普段は女としての自覚がまるで無いような子が……。

 

 

 ふむ…………。

 

 

 ………………………うむ!

 

 

「うむ! じゃねーよ! せめて何か言えよ、リアクションに困るだろ!」

 

 

 いいのか? 褒めるぞ。メッチャ褒めるぞ。自重せずに誉めるぞ。水着が似合ってるとか、格好いいとかエロいとか以外にも、そりゃもう褒め殺しするぞ。いや本当に水中の動きはイルカかと思うくらいに素早くてしなやかだったし、強い・綺麗・タフと3拍子揃った機能美がよーく感じられた。

 水中での動きを終えて、水面に上がった時の表情なんかもう堪らない。元が整った顔してる上に、以前はあったような険も抜けて、「一仕事終えたぜ」って顔で笑うのが本当に可愛い。機能美に加えて、お手本にしたいくらいの健康美が

 

 

「うああああああうるせぇぇぇええ!! そういうのは他の連中に言ってやれ他の連中に! テメーの女も何人も来てんだろうが! それを差し置いて、アタシなんぞ褒めてんじゃない!」

 

 

 半分イヤガラセだからな! 勿論、親愛からくる行動なのは言うまでもない。

 

 

「わっはっはっはっは! 事実、見事なものだったからな! 偶には先輩ぶれるかと思ったが、見事にお株を奪われてしまったな!」

 

「うぅ、昨日の今日では上手く体が動かないであります…」

 

 

 そう言いながら近寄ってくるのは、水中戦に付き合っていたマオとユーカリだ。ちなみに、レイラと違って軽装だが鎧姿。

 …なんつーか、意外だな。二人とも、水中戦の心得があるなんて。

 

 

「そうか? 私もアキャマ殿も、元はウェストライブ出身のハンターだぞ。特に私は、海に近い場所で生まれ育ったからな。訓練所に居た頃は、水中戦のイロハも叩き込まれたものだ」

 

「私はそうでもないでありますが…。訓練所はフロンティアでしたし。まぁ、子供の頃から海で遊んでいたでありますから、その延長で多少は…」

 

 

 ふむ………。

 

 

 

 フンドシとスク水と見た。

 

 

「張り倒すぞ。いや私は間違ってないが」

 

「同じくであります。…実家に戻れば、当時の服も…いやしかし流石にサイズが…」

 

 

 ユーカリって結構スタイルいいもんね。

 

 まーそれはともかく、だ。ちと気になる事があるんだが、いいか? 女絡みの事じゃない、純粋に狩りの話だ。

 海の中を探索してたんだが、資料に乗ってない横穴を一つ見つけてな。調べに行きたいんだが…。

 

 

「去年までは無かった横穴…。しかも、それなり以上に大きくて深い穴、か。自然にできたものではなさそうだな。間違いなく何かあると思った方がいい」

 

「場所と穴の方向からして…近くの孤島に続いているな。仮に大型モンスターが居るとすれば、多くて2匹か」

 

 いや、孤島に地下から続くような穴は無かったし、足音がおかしなところもなかった。地面が結構な厚さがあると考えれば、多くて一匹と考えていい。

 

「地下奥深くに穴が続いている可能性は、考えなくてもいいでありますか?」

 

「可能性としてはあるが、水中で活動出来て、尚且つ地上…と言っても地下だが…に上がったら穴を掘るモンスターって、ちょっと思い当たらないな。他に情報や、心当たりはないか? この一年程で、島の付近で起きている事とか」

 

「うーむ…貰った資料には、それらしいものは何も…。他には資料と差がある物は特になかったから、これだけが問題だな」

 

 

 たった一年の自然現象で出来るとは思えない規模の穴だったぞ。かと言って、前のハンター達がこれを見逃したとも考え辛い。

 …正直、実際に行ってみないと何も分からんな。

 

 

「弱音を吐くつもりじゃないんだが、正直言っていい予感はしないな。それじゃ、残りの時間は、探索の準備に使うか。全員、考えられる限りの準備をしておく事」

 

「了解であります! …にしても、行くのは確定なのですね」

 

 

 そりゃ放っておくわけにもいかんだろ。何もないならそれで良し、何かあるなら少なくとも情報を持ち帰らないとな。

 そんじゃ、俺も色々準備済ませたら、今度はマキを迎えに行きますかね。

 

 

 …ああそうだ、マオ、ユーカリ。今から言うのも何だが、仕事が終わった後の水着姿、楽しみにしてるぞー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そういう訳で、俺は調査を途中で切り上げ、シキと一緒にマキを迎える準備をした。とりあえず、家の中を徹底清掃して、昨晩の痕跡は消し去っておいた。

 ミキも程なくして担当した分の調査を終え、合流してくる。

 

 日が傾いて来る頃、マキがえらく立派な馬車で到着した。

 

 

 おう、お疲れー。

 

 

「ああ。お母様もミキも、お待たせしました」

 

「ええ。引継ぎの方に何か問題は?」

 

「…引継ぎには無かったのですが……その、キヨさんが」

 

 

 キヨさんが?

 

 

「何故か『客間に飾ってある絵を持って行ってほしい』と駄々を捏ねまして。普段はこのような事を言い出す人ではないのだから理由を説明しろと言ったのですが、ただ持って行ってほしいの一点張りです。意図も不明だし、説明もしてくれないし、歳を考え……ゲフン、もう大人なんだから止めなさいと言いたくなるくらいにジタバタと」

 

「ああー…」

 

「あぁ…」

 

 

 あー…。流石にキヨさんでも、本体(客間の絵)をバカンスに持って(連れて)行かせる理由は思いつけなかったか…。

 キヨさん、館の外の事は全然知らないらしいからなぁ…。そりゃ海でも火山でも行ってみたくなるだろ。

 

 で、結局どしたん?

 

 

「正直、絵画のような繊細な物を潮風に当たらせるのはどうかと思ったんだが…断り切れず。全力で包装して、馬車に乗せてきた」

 

「キヨさんは?」

 

「絵画を持っていくのを認めたら、普段通りに仕事に戻った。正直、家の事は他の使用人達もしっかり仕事してくれているし、こっちに来てからも使用人が居た方がいいから、連れてきてもよかったんだが…」

 

 

 なら問題ねーな。

 キヨさん、出てきて出てきて。

 

 

「はいはーい、呼ばれて飛び出てキヨでございます♪」

 

「は!?」

 

 

 おお、マキが唖然としとる唖然としとる。

 実家に置いてきた筈の女中が突然馬車から出てくれば、そりゃ驚きもするわな。

 

 と言うかキヨさん、あんた仕事の方だ大丈夫なん?

 

 

「ええ。私が居なくなっても、後輩さん達がちゃんと務めてくれます。偶には遊んできてくださいと、快く送り出していただけました」

 

「ふむ…なら、帰った時にどれくらい仕事が出来たかのチェックも必要ですね。若い子達がどれだけ育っているかのいい試金石になりそうです」

 

「あの…お母様、キヨさん…。それよりもどうやって馬車に追いついたのか…。そしてあの絵を持って行って欲しいと言うのは一体なんだったのか…」

 

「まーまーお姉ちゃん、そこは気にしないで。多分旅行が終わるまでには分かるから」

 

「…ミキとお母様も知っているのか?」

 

「あーうん、私の体が変化した時に、ちょっと色々あって」

 

 

 ミキってば、既にキヨさんを交えたマキとの夜の遊びまで想定しておられる。…あ、もう皆とっくに想定済みよね。

 

 とりあえず、その絵を別荘に据え付けしまおう。いくら包装してるとは言え、これだけ日差しと潮風が強いんだ。…持って帰る時にも手間はかかるから、あんまり本格的に固定しなくてもいいかな。

 ミキ、そっち持って。

 

 

「お手数をおかけしますね」

 

「いっつもキヨさんにはお世話になってるし、これくらいは。…一時期、私ってキヨさんの子供じゃないかと思ってたし」

 

「そう言えば、貰われっ子だと思い込んでたわね…」

 

「………むぅ」

 

 

 なんかマキが剥れている。別に仲間外れになんかしてないぞ。むしろこれから仲間入りだゾ。

 

 …っと、ああそうだマキ。今日の調査中に、コレコレこういう謎の穴を見つけたんだが、あの辺で何か異変が起きてるって話は聞いてないか?

 

 

「ん? いや…それらしい情報は何も無いぞ。元より、この近辺は普段から人が住んでいる訳ではない。モンスターが少なくなる時期に、ハンターが残ったモンスターを一掃して、ようやくビーチとして使えるくらいだからな」

 

 

 何でそんな所をリゾート地にしようとした? いや、この世界で安全に遊べる海岸なんて、数える程しかないのは分かるけども。

 

 

「そういう事よ。…でも、確かに普段は誰も居ないから、不用心極まりないのよね。見回りは居るけども、それさえやり過ごせば誰かが入り込んで潜伏していても分からないし。……まぁ、普段この近辺に人間が居たら、モンスターが気付いて捕食しようとしてくるけど」

 

「おかげで見回りの人が命懸けなんだよね…。募集しても集まらないんだよ…」

 

 

 アホか…。ちゅーか、マジ話、これって絶対何か居るよな? モンスターは今更だから、殺人鬼とかの類が。

 

 

「ハンターに瞬殺されて終わり」

 

 

 そだね。ま、念の為にマキが来るまで歩き回って確認したし、少なくとも人間大の何かが潜んでいる様子は無かったな。

 

 とりあえず、飯にしようか。いい加減に腹減って来たよ。

 

 

 



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303話

ほう、来年に進撃の巨人2発売。
また楽しみなソフトが増えた。

…本当なら完結後にやるつもりだったんだけど、外伝扱いで出すかなぁ…。


急に寒くなったので、毛布を出しました。
皆さまも寒い夜には気をつけましょう。


最近、PCの調子がよくないのが困りごと。
ちゃんと終了しなかったり、立ち上げに時間がかかったり、突然止まったり。
うーん、ブルートゥースだろうか…。
買ってから5~6年だけど、まだまだ使える筈。

買い替えるとするなら、VRとセットの奴を…しかし高い。
免許取ったらバイクも買うつもりだし…ああ、金の欲しさよ…。


PS4月

 

 

 朝っぱらからビーチに歌声が響く。決してうるさい訳ではない。むしろ心地よいくらいで、聞いていると頭がすっきりしてくるようだ。

 宛がわれた部屋から外を見てみると、組み上げられたステージで、プリズムが声を張り上げていた。

 まだ朝日が上がったばかりの時間帯だが、何人か既に観客兼護衛役がついているようだ。

 

 ふーむ…本気で歌ってる訳じゃなさそうだな。いや本気は本気なんだが、まだ喉を温めてる感じだ。

 

 …あ、観客の中にミーシャが居る。サインを貰っているようだ。そういや、ファンだとか憧れだとか言ってたな。

 おお……ミーシャも一緒に歌うのか。ふむ、今すぐに行って間近で聞きたいが…。

 

 

「お風呂の用意できましたよ~。マキ様が起きてこられる前に、全部片づけちゃいましょうね」

 

 

 お、ありがとキヨさん。昨晩は楽しかったなぁ。ちゃんと満腹になった?

 

 

「ええ、それはもう! あと十年は戦えます!」

 

 

 そりゃよかった。同じ屋根の下に居るマキを起こさないよう、声を押し殺しながらやったもんな。不評だったかもしれないと不安だったよ。

 

 

「またまた、私のカラダがどれだけ悦んでたのか知ってるクセに。おふざけお惚気はともかくとして、今日から本格的な狩りなんですよね? ちゃんと身を清めてきてくださいな。私の香りが残ってて、モンスターに察知されたりしたら笑えませんよ」

 

 

 俺の担当は海の中だから、大丈夫だとは思うけどな。そんじゃ一っ風呂浴びてきます。

 

 

 

 

 …さて、時刻になったのでハンター大集合。猟団三つ分のハンターが犇めいている。改めて見ると、結構な規模である。力量は上から下まで落差が激しいが。

 

 

 …え? 何? 演説? いやちょっと待て、何でいきなりそんな事を?

 そりゃ、この話を元々受けたのは俺だし、旅行ついでに行かないかって誘ったのも俺だけど、そもそも演説は必要か? 

 

 …分かったよ、やればいいんだろやれば。演説じゃなくて、朝礼くらいに思っておくか…。

 

 

 ステージの上に立って、注目を浴びる。マイク? そんな甘えた物は無い。メガホンならあったが。

 どうすっかな…。少佐みたいに『私は狩りが大好きだ』みたいな演説するか? でもあんなの上手くできる気がしないし、何より万が一上手く行って、皆がバーサーカーと化したらエラい事になっちまいそうだ。

 

 うむ……演説…改め朝礼……スピーチ…。よし、これで行くか。

 

 

 えー、細かい事は言いません。

 予定通りに仕事を片付け、予定通りに晩餐のバーベキューに突入します。考えるのはそれだけで結構。

 

 俺からは以上!

 

 

 

「お前な…。やれやれ、私が代わろう。では特別ゲストとして来てくれた、歌姫様のコンサートの始まりです! ハンターの力になるという歌、存分に味わって、狩りに励んでください! ではお願いします!」

 

「はい、失礼します。ご紹介に預かりました、歌姫のプリズムです。よろしくお願いします」

 

 

 

 おおおお、と期待のどよめき。

 そしてジト目で俺を見るマキ。…そんな顔するなよ…。原稿ないと駄目なんだよ、こういうの…。助かったよ、ありがとうな。

 

 

「はぁ…ま、ハンターとしての能力に極振りした結果と思っておこう。しかし、えらく短いスピーチで纏めたな」

 

 

 あれでも空気読んで頑張った方なんだよ。

 「みなさん、楽しく狩ってください」の2秒スピーチ終わらせようと思ったんだぞ。

 

 

「無駄に長い話は不要だが、人の上に立つ者、含蓄のある話の一つや二つできないと威厳が保てないぞ。…いっそ、スピーチではなく漫談の時間と割り切ったらどうだ?」

 

 

 あ、それいいな。全校集会での校長のスピーチが、落語とかだったら生徒から大人気だろうに。

 おあとがよろしいようで、なんてな。

 

 

「丁度いい舞台があるんだし、今から練習してみればどうだ」

 

 

 んー、悪くはないけど、ネタを知らないからな。

 それに、多分狩りが終わった後は、あそこで皆大騒ぎするだろ。漫談よりも、飲んで歌って踊って大騒ぎだ。

 

 俺もコミックソングなら一曲くらい歌えるぞ、日本じゃないけど、全国酒飲み音頭とか。

 

 

「歌はともかく、彼女の歌を聞けるのは楽しみだな。始まったら私も呼んでくれ」

 

 

 そうだな…。

 プリズムの歌で滾ってくる体を抑えながら、マキとぼそぼそ話していた。

 

 

 

 

 

 さ・て・と。プリズムの歌も終わり、割とハイテンションかつやる気全開になったハンター達が、各所の持ち場へ散っていく。

 下位ハンターも居るが、それはフロンティア基準だし、装備もフロンティアのモノを持ち込んでいるし、何より下位であってもちゃんと戦える先輩達と組み合わせている。そう危険な事は無いだろう。

 

 

 そして俺、マオ、レイラ、ユーカリの4人は、問題だった海中洞窟を調査しに行ったのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怖いか人間よ!!」「己の非力を嘆くがいい!!」

 

 

 

 

 

 ああ、そういやコラボしたって話があったね、彼〇島。

 …いやいやいや、ねぇよコレ。このセリフ、まさかの鳴き声だぜ? 思いっきり斬り付けたら(と言うか殴りつけたら)、「怖ーーーいかニンゲ~~ンよ!!」とか、妙なトーンで叫ぶんだわ。

 まさか言語を介するのか、とマオが驚いていたが、これしか言えないらしい。

 

 知らない人と言うかこの世界の人には分からないだろーから説明するが、簡潔に言えば巨大な顔面サンマ人間に襲われた。訳が分からない? ググれ。

 海底の洞窟を潜り抜けた先がね、孤島の地下の空洞に繋がっててね。そこに居たんだよ。

 真っ暗な洞窟の中で、ヌボーッと突っ立ってたのは悪夢みたいな光景だった。

 何も見えない中で(気配は感じ取ってたけど)松明を付けたら、いきなりアレだよ。ユーカリがガチで絶叫した。声に反応して襲ってきたが、洞窟の中で声が反響して、何処にいるのか返って分からなくなったようだった。ナイスだユーカリ。

 

 

 …割と強かったけどね。単純なパワーで言えばフロンティア個体には及ばないけど、狭い洞窟の中で暴れ回るし、唐突に地面に潜ったり、地面をバタフライで泳いできやがって…。ん、フロンティア個体と比べれば、その程度の奇行は大した事ない? そりゃそうだな。

 

 真面目な話、なんでこんなモンスターが居るのだろうか? 鷹の目で確認したが、どうやら、産まれてからずっとこの空洞の中で育ってきたらしく、海に出た様子は……いや、しかしそれだと俺達が通った穴を作ったのは一体…。

 ……まぁ、あの程度なら5~6体くらいの群れが居ても、そこらへんのモンスターが適当に喰って終わるだろうし、感染ウィルスもモンスターにはまず効かないと思うが。ハンターにとっても、ゲリョスの猛毒辺りの方がよっぽど驚異的である。

 一般人にとって? 血を吸うようになるのはともかく、常人の3倍程度の力で何が出来ると言うのだ。

 

 

 とりあえず倒すだけ倒して、持って帰って塩焼きにするか悩んでいたレイラを説得し、サンマ人間は丸ごと焼き尽くし、地下空洞も海底洞窟ごと崩落させた。念のため、孤島の表面部分も丸ごと焼き尽くしておいた。こっそりアラガミ化まで使って、文字通り蚊の一匹も逃さない勢いで。

 後でマキとかシキとかギルドに怒られると思うが、あれを拡散させる可能性が潰せるなら安いものだ。

 

 

 

 え、武器? 何故かあった丸太を、穿龍棍のように振り回して殴りまくりましたが何か?

 

  

 

 

 サンマにトラウマを抱えたらしきユーカリに、どうやってサンマの竜田揚げを食わせるか悩みつつ、今回の狩猟は幕を閉じた。

 マオも若干頭痛を感じているようだったが、ユーカリにくらべれば随分マシだ。レイラはと言うと…食うべきか迷っていたことから察してくれ。

 

 若干の不安を残しつつも、大体成功と言っていいだろう。他のメンバーにも、目立った被害が出た様子はない。

 周辺のモンスターは一掃され、一般人が居ても問題ないくらいには安全を確保できたと思う。…大人数でやったとは言え、たった一日で終わるとはなぁ…。フロンティアでの狩りの成果が出たのか、それとも元より数が少なかったのか。

 …両方かな。元々モンスターの数が少ないシーズンだって言ってたし、今まで受けてた猟団よりも規模は大きいし。

 

 

 まー何はともあれ、これでゆっくりバカンスできるってもんだ。

 気の早い連中は、既に水着に着替えて海に突入していたり、バーベキューの為に仕留めたドスファンゴやらガノトトスやらを捌き始めている。

 

 

 さて、俺はどうするかな…。

 

A.念のため、モンスターが残ってないか見回りを続ける。

B.セラブレスを口説きに行く。

C.水着の女達を見物に行く。

 

 

 ……むぅ、迷う。

 ……ん?

 

 

 海辺にしゃがみ込む女が一人。あれは…プリズムか?

 何やってんだ?

 

 

「え? あ、あぁ…貴方ですか。いえ、以前にも言いましたが、海を見たのは初めてなもので」

 

 

 ああ、そういやそんな事言ってたな。気分はどうよ。

 

 

「…不思議な気持ちです。こんなにも水が続いていて、ずっと寄せては引いてを繰り返しているなんて。この向こうに、影も見えない大陸があるのだと考えると、どうにも自分がちっぽけに思えてきます」

 

 

 そりゃ実際ちっぽけだしな。ハンターやってると、その小ささが骨身に染みるよ。どれだけモンスターを狩れるようになってもな…。

 にしても、それって水着…か? 似合ってはいるけど…どっちかと言うと、舞台衣装?

 

 

「どっちも、でしょうか。トッツイ達が、折角海に出るのだからと、特別に仕立ててくれた舞台衣装兼水着です」

 

 

 …無粋な事言うけど、それで泳げるのか? リュウグウノツカイみたいにヒラヒラしとるぞ。

 

 

「う……いえ、その……先ほども言いましたが、何分海は初めてでして…。昔居た里も、大きな川はありませんでしたし…」

 

 

 …ひょっとして、泳げない…?

 

 

「し、仕方ないではありませんか! 泳ぐような機会自体がなかったのです! 知識では泳ぎ方は知っていますが、実際にやった事がないのです」

 

 

 祈樹の泉は?

 

 

「深さと広さなら充分でしょうが、あそこは神聖な舞台です。あそこで泳ぐなど、考えた事もありません。…もういいでしょう。どうせ私は金槌です。豚じゃないだけマシでしょう。今日、レイラに泳ぎを教えてもらえるのですから、邪魔をしないでください」

 

 

 別に馬鹿にしてる訳じゃないんだが。そっちもそんなに邪見にしてる訳じゃないのは分かるけども。

 姉妹の時間を邪魔するつもりはないんだが、泳ぎ方なら俺も教えてやろうかと思ってたんだけどな。

 

 

「お気持ちは有難いですし素直に嬉しいですが、貴方に頼むと泳がずに水面を走れとか、滝の流れに逆らって泳げとか言われそうなので辞退いたします」

 

 

 水面歩行はともかく、水中呼吸はどうやって教えればいいんだろうな。

 おっ、レイラもこっちに来てるみたいだし、俺ももう行きますかね。

 ああ、夜のライブも楽しみにしてるよ。

 

 

「ええ。しかし、私ばかり歌うと言うのもなんですし、もう少し盛り上げられないものか…。……誰か他に歌える方、踊れる方など…」

 

 

 何やら考え込んでしまった。…歌姫様は、最近はエンターテイメントも考えているのか。いや歌だってエンターテイメントなんだけど、もっと盛り上げようとするイベント的な意味で。

 踊り…と言えば、確かネリ嬢ちゃんがダンスが趣味だった筈だが。しかし、プリズムの歌とは合わないんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、次は…。

 

 

「おはよう」

 

 

 おうおはようセラブレス。えらいセクシー水着着てるな。

 

「やかましい。私は特に考えずに、適当な水着でいいと言ったんだ。一族の連中が、よって集ってあれにしろこれにしろと…」

 

 

 一族の者達、グッジョブ。卑猥な感想を抜きにしても、実にスバラシイ。大人の女だね。

 

 

「20歳超えてるのは確かだな。ま、素直に褒め言葉と受け取っておこう。全く、今までずっと粗忽者扱いだったと言うのに、随分と掌を返したものだ」

 

 

 普段と違う服装してれば、普段と違う魅力が見えるもんだからな。掌高速回転も仕方ないわ。

 

 

「お前の事じゃない。お前は…なんだ、私もそういう対象として見ていたのは知っている。自意識過剰でなければだが。私が言っているのは、一族の連中の事だ。G級ハンターまで上り詰めた事もあって、一時期は女ラージャンみたいに扱われてた事もあるんだぞ。それを、何だって今更飾り立てようとするのやら。…やはり、一族ぐるみでお前とくっつけようとしているのか…」

 

 

 それもあるかもしれんが…セラブレス、自覚無い? セクハラみたいな言い方になるが、お前の体は明らかに変わってるぞ。(俺が夢でやらかした結果だけどな!)

 

 

「……や、やっぱりそうか? 体重的にも体格的にも太った訳でもないし、胸や尻がきつくなった訳でもないのに、どうにも違和感があると思っていたんだが」

 

 

 真面目な話、女性ホルモンの分泌が増えたとかじゃないか? 理由は分からんが(棒)

 細マッチョで実用性一辺倒だった体が、女性らしい柔らかさを持つようになったと言うか…。一言で言えば女らしくなった。一族からは色恋を覚えたとでも思われてるんじゃないか?

 体の違和感は致命的なものか?

 

 

「いや、むしろ新しい段階にレベルアップできそうな気がするな。体の柔らかさが、ワンランクあがった感じだ。柔らかすぎて、踏ん張ろうとする所にちょっと力が足りなかったりしたが、それも慣れた」

 

 

 …受けられる筈の攻撃を受け損ねたって事か? 何気に危険な事してたな…。

 

 

「……………」

 

 

 ん? どした?

 

 

「いや、何でもない。…そうだ、また少し相談がある。夕方くらい……いや日が落ちて少しした頃に時間をとってもらっていいか?」

 

 

 別に今からでもいいけど。

 

 

「長くなりそうだからな。私も偶には泳ぎたい。安全なビーチなど、そうそう体験できるものではないし。…よし、一泳ぎ行ってくるか! レイラ…は歌姫様と泳ぎの練習しているようだから、ミキか、あの子の猟団の誰かでも誘ってみるかな」

 

 

 …なんじゃろな?

 

 

 

 

 その後、なんかビーチバレー大会が始まって、ミキの猟団の子達…ミラボレアス戦ではアヒルさんチームだった子達に、戦いを挑まれた。

 セラブレスも混じって、大虐殺になった。そら駆け出しとG級ハンター2人なら、そうもなるよ…。バレーの技術では完全に負けてたけど、それ以外で圧倒しました。デンナーを誘ってあっちのチームに組み込めば、まだ勝負になったかもしれない。

 

 アヒルさんチームは敗北後、「基礎練が足りない…。走り込み行くよ!」と、夕日に向かって走り出してしまった。…君ら、どこのバレー部? ハンターでしょうに。

 

 

「アケヒさん達は、バレー普及の為にハンターやってるから、おかしくはないよ」

 

 

 おうミキ、バレーとハンターの間にどんな繋がりがあるのか、具体的に言うてみぃ。

 

 

 

 

 

 その後、走り込み後のアヒルさんチームを、「連携を強化する為」という名目で、密着状態でお互いに秘部を弄り合わせ、頃合いを見て美味しくいただきました。

 初体験が汗の味と言うのもオツなものだと思う。…彼女達の場合、ミキのレズ調教を受けても、バレー普及がそれ以上に優先されていたようだが…まぁそこはいいや。『膜が無い方が動きやすくなるぞ』と、適当ぶっこいて丸め込んだし。

 実際、オカルト版真言立川流のブーストがあったもんで、色々動きが軽くなったのは事実だ。長続きはしないだろうが。

 

 

 

 日差しが弱くなり、海が金色に染まり始めた頃、歌姫のコンサートが始まった。

 今朝のハンターを鼓舞するような歌とは打って変わって、優し目のバラード調の曲。それに続いて、今度は…なんつーの、ポップス…いや、コミックソング…なのか? 振りつけも優美なものから、動きがあって見ていて楽しいものがメイン。

 

 意外と芸風が広かったんだな…。最初はみんな戸惑ったようだったが、トッツイ達の伴奏やら合いの手やらもあって、受け入れられてからは盛り上がるのなんのって。

 それだけではない。飛び入り参加(なのか、打ち合わせしていたのかは分からないが)でミーシャが舞台で歌ったり、それに合わせてネリ嬢ちゃんが(ばるんばるんしながら)踊ったり、セラブレス一族の若い男が何故か漫才を披露したりと。

 

 あー、二曲目がコミックソングっぽかったのは、これが狙いか。敷居を低くして、自分だけが歌うんじゃなくて、皆も参加させようとしたのね。

 今は何故か、ウチの猟団の野郎共がアレンジした英雄の証をBGMに、一糸乱れぬサンダースネークを繰り出している。どこで覚えてきたんだ。と言うか、それだけ息を合わせられるなら、下手な上位モンスターでも余裕で狩れそうなもんだが。

 

 

 

 

 まー飲んで食って歌って踊って大騒ぎだねぇ。

 

 

「ああ。これだけ騒ぐ事になるとは、思っても見なかった」

 

 

 おお、マキ。今日は何処にいたんだ? あっちこっち探し回ったけど、全然見つからなかったんだが。

 

 

「…私を探していたのか。私は……その、コテージに居たな。ちょっと思う所があって…。明日からは、私も海に繰り出すよ」

 

 

 そっか。水着姿を楽しみにしていよう。今の私服もいいけどね。近所のやさしいお姉さんって感じで。

 普段はキリッとしたキャリアウーマン…と言うにはちょいと年齢が足らないから、全国レベルの部活の、厳しくも慕われている部長、或いは先輩って感じかな。

 

 

「君の方が年上だろうに。年下をお姉ちゃんと呼んで、甘えてみるか?」

 

 

 …それもいいかも。バブみもいいものだ。パピに甘やかされた時は、バブみと同時に何やら得体の知れない危険も感じたが。

 

 喧噪からちょっと離れた所でチビチビ酒を飲みながら、二人でゆっくり話をした。

 随分と…何と言うか、安らかな時間だったと思う。エロい事とか殆ど考えずに、隣に居るマキとたわいない事を離す時間。宴で騒いでいる声も、ここまでは少ししか届かない。

 

 面白味も大してない時間だったと思うが、妙に楽しく、時間はあっという間に過ぎていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

追記 例のサンマが居た島は、毎年戦車の実弾演習の的にして、徹底的にぶち壊すよう頼んでおいた。

 

 

 




※この日の日記は続いていますが、長すぎるので投稿を分けています。


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304話

台風の風がうるさくて眠れない…。
被害は無かったからいいものの、家の目の前の川が溢れてました。
こりゃ職場までの道も危ないな…。


 …そろそろ、宴もたけなわかな? 明日も似たような展開になると思うから、ゴミだけ片付ければいいか。ここまでは潮も届かないし。

 

 

「そうだな。…明日もあのステージがあるなら、私も何か考えてみようかな…」

 

 

 ミスコンとか駄目かな。

 

 

「Mr.女装コンテストなら許す。結果が後退きそうだし、君が誰に投票するかで血を見そうだから、他所でやってくれ」

 

 

 そうか…。ああ、俺はちょっと席を外すよ。呼び出されてるんだ。

 マキはマキで楽しんでくれ。男と話すのもいいが、家族の団欒もいいもんだぞ。

 

 

「ミキの性格が、大分変っているようだがな」

 

 

 鬱屈してたのが解消されたからじゃねーの? そんじゃな。

 

 

 

 

 

 

 …さて、飲み比べで派手に盛り上がっていたセラブレスだが、俺を呼び出したのは忘れていなかったらしい。

 顔を出したら、ここまでだと宣言して席を立った。逃げるのかとヤジが飛んだが、その直後に樽を一気して黙らせる。ヤジは拍手に変わった。俺もかなり拍手した。ワンピースじゃあるまいし、どこに入ってるんだろうなぁ…。いや俺だって似たような事は出来る体になってるけど。

 

 

 で、相談ってどしたん?

 

 

「ああ、ここではちょっとな…。聞かれると色々気まずい事になる話なんで、何処か適当な場所はないものか…」

 

 

 セラブレスの部屋…は、他の人と一緒なんだっけな。俺の部屋だと、いつ誰が入ってきてもおかしくないし…。

 その辺の森の中でいいか? 確か、丁度泉になってる所があった筈だ。泉っつっても、入って来た海水だったが。

 

「ああ、そこでいい。…そうだな、歩きながら話すか。すまんが場所が分からん、先導してくれ」

 

 

 あいあい。…にしても、夜の浜辺なり水辺なりで密会なら、ちっとは色気のある話を期待していいのかね。

 

 

「お前、色気なんぞ掃いて捨てる程集めてるだろうが。私にまで期待するな」

 

 

 それを捨てるなんてとんでもない! …で、相談って結局何よ。

 

 

「ああ、異能の事だ。あのミラボレアスらしい古龍と戦った時にも思ったのだが、どうにも私の力は、防御力や耐久力に極振りされているようで、今一つ爆発力が無くてな」

 

 

 そうなのか? ミラボレアスの硬さは規格外だったし、アレを基準にするのはおススメできんが…。

 あの時は確か、攻撃する時には力を槍に纏わせて突いたり、それを飛ばしてたりしたっけ。

 

 

「その通り。ご先祖様は遠距離攻撃でも、相当な破壊力が出せたそうなんだが…。何か使い方でも悪いのか。別に異能で全てに対処しなければならないとは思ってない。ハンターたるもの、己の体と駆け引きこそが最大の武器だ。しかし、より強力な使い方があるなら、それを知っているに越した事は無い」

 

 

 うーむ…。

 そもそも、遠距離攻撃を強化したいのか? それとも、近接戦でもいいから必殺の一撃が作りたいのか?

 

 

「後者だな。なんか、お前もやってただろう。狩技…だったか?」

 

 

 ああ、アレね。アレでよければ教えるけど。そうだなぁ…。セラブレスが使ってるのは槍だけど、狩技はガンランスの方がいいかな?

 ガンランスの狩技を、セラブレスの力で再現すれば……あれ、でもそれって単なる竜撃砲モドキだな。ガンランス使って、セラブレスの力を上乗せすれば火力は跳ね上がりそうだが。

 

 

「ガンランスは好かん…。……決して構造がややこしいから、頭がこんがらがる訳ではない」

 

 

 さいで。そんじゃ、槍の技に力を乗せるとして…。乱舞か単発か…。

 

 

「乱舞。沢山殴った方が気が晴れる」

 

 

 なんだ物騒だな。と言うかモンスターを狩るのはいいが、ストレス発散目的で狩りすんなよ。いや俺もあんまり人の言えないけど、無駄に痛めつけるような趣味は無い。

 そうだな…ランスの狩技で攻撃っつったら、シールドアサルトかスクリュースラストだけど…この二つを乱舞にするのは難しいかな。どっちも突進系だし、手数を増やすと体勢が崩れて、逆に威力が落ちそうだ。

 しかし、乱舞なんてのは威力を落として手数で責める、ってのが定番だしな…。

 

 

「…成程、それはいいアイデアだな。シールドアサルト乱舞か」

 

 

 おいおい、そりゃどんな動きするつもブベッ!?

 

 

「目標を盾に押し付けて…シールドアサルト! シールドアサルト!! シールドアサルトッ!!!」

 

 

 ちょっ、セラブッ、潰れ、潰れッ!?

 

 

「シールドアサルトッ!!! シールドアサルトッ!!! シールドアサルトッ!!! シールドアサルトッ!!!」

 

 

 ちょ、おまっ! ぶっ飛ばされてその辺の岩に叩きつけられて、盾と岩のサンドイッチでガンガン圧迫される。潰れる潰れる潰れる、実が! 実がでちゃうのほぉぉぉ!!!

 

 

「この前からシールドアサルトッ!!! 妙な夢を度々見てシールドアサルトッ!!! 体がおかしいから単なる夢ではないとシールドアサルトッ!!! ミキに聞いても疑いが晴れないシールドアサルトッ!!! 夢を操る妙な力を持ってそうなのはお前でシールドアサルトッ!!! そして私の体の感触を知っているかのようなシールドアサルトッ!!!」

 

 

 おべ、へぶ、はぶ、おごぅ、(割とヤバい音)、がほっ!?

 

 か、感触は見た感じのイメージでぇ!?

 

「トドメのシールドアサルトッ!!! からスクリュースラスト(青いオーラ乗せ)を突き付けつつ…大体お前はアレだ、自白したろうが」

 

 

 な、何を? と言うか歯医者のドリルみたいに回る槍を突き付けるのはヤメテ…。

 

 

「お前は嫌がる女に辞めてと言われて、止めた事があるのか?」

 

 

 そのセリフをベッドで言われた時には、止めた方が悲しまれるから止めた事はありません!

 あっ、ちょっ、削らないで削らないで! 虫歯じゃないから!

 

 

「お前は、今日話をしている時に言っただろう。  …受けられる筈の攻撃を受け損ねたって事か? 何気に危険な事『してた』な…。と。元は疑いがあっただけだが、それで確信した。あの夢を私に見せていたのは貴様だな?」

 

 

 おっふ…そんな一言で…。

 

 

「もとより疑っていた、と言っただろう。夢を渡る異能の持ち主が他に居るとして、私にそれをしようと思うような輩は、貴様以外に居ない。普段、私は肌を見せない重甲冑の鎧で過ごしているのだぞ。私を性の対象と見るどころか、性別すら知らない者が殆どなのだ」

 

 

 こ、こじつけでは…。

 

 

「こじつけではあっても、大正解だろう? 貴様の反応を見て確信したわ。 さぁ、私に何をしたのか、吐いてもらうぞ。何、正直に吐けば酌量の余地は認めよう。私はこれでも、お前を貴重な友人として認めている。卑劣な行為や、目に余る女癖の悪さを差し引いてもだ。だが、これ以上とぼけるようなら、私のこの愛用の槍がお前の全ての歯を、文字通り下手な歯科医のように麻酔無し手術を敢行する事となるだろう」

 

 

 これは…このままトボけて拷問を受け、本当に勘違いだったと思わせるルート?! …は無理だな。

 ああ、これはこのままデスワープかな…。ある意味一番俺らしい死に方だけど。

 しかし、本気で殺そうと思っているなら(場合のよっては躊躇いなく突き刺すつもりのようだが)、いちいち何をしたのか聞いてはこない筈。

 

 まぁ、何とかやるだけやってみるかね…。霊力を声に乗せて、その気にさせてみるとか?

 

 

「一応言っておくが、力を使うような兆候が出たら前歯が削れると思えよ」

 

 

 …バレテーラ。

 

 

 

 

 

 

 中略。

 

 

 

「…単なる夢だと思って、寝ている私に好き勝手していたと」

 

 

 イエス。

 

 

「もうちょっと正確に言ってみろ」

 

 

 本当に単なる夢なのか、幽体離脱的な状態なのか分からなかったので、とりあえず欲望に従ってみました。後から夢の中でミキに聞いて、現実では何の痕跡も無かった事を確認。これが単なる夢なら最初から問題ないし、同じ夢を見ているか幽体離脱の類だとしても、実体に干渉しているのではないと思い、やはり問題なしと考えました。

 

 

「お前、例えばゲイのオカズになってる自分を想像して、いい気分がするか? 寝ている間にケツを掘られたて、気付かなければ問題なしと言ったようなもんだぞ」

 

 

 ……反論の仕様も無いな。

 

 

「しかし、酌量の余地もあると言えばある…か? お前の節操の無さはともかくとして、確かに夢が現実に影響するなど、異能を差し引いてもそうそう思わんし、実際に私の体に触れた訳では…ない、のか? 痕跡が無かったのだし。しかし幽体離脱と言う事は、やはり幽霊のような状態で触れたとも言えるし…。事実、私の体にも影響…影響、か…」

 

 

 何やら考え込んでいる。…やらかしといて何だけど、よくガチギレしないなぁ…。いやキレてるから槍を突き付けられてるんだけど。少なくとも普通なら、釈明とか聞かずに間違いなくお縄、或いは御命だろう。

 セラブレスは尚もブツブツ呟いて、考えが纏まったのか顔を上げた。

 

 

「質問を変える。お前が私の体に及ぼした影響を、具体的に説明してみろ」

 

 

 は? 具体的にって…。

 んー…代表的なものとしては、体の性的神経の開発。女性ホルモンの分泌量が増える。あと、本格的にはやってないけど、霊力…異能の力の出力も、多少は上がってるんじゃないか?

 

 

「他には?」

 

 

 他って言われても…具体的にどんなのが?

 

 

「妊娠」

 

 

 ……は?

 

 

「妊娠。子供。赤子。出産。その他諸々。そっち関係で、何か無いのか」

 

 

 …え、えぇと…本番はやってないから、孕む事は無い。霊力だけで突っ込みはしたけど、物理的に接触があった訳じゃないし、赤ちゃんの素が飛び込んだ訳でもない。

 ただ、元々が房中術だから…孕みやすくする、或いはその逆も可能ではあるが。

 あ、勿論避妊は完璧にしてるからな。実証付だ。

 

 

「つまり、やろうと思えば確実に孕ませる事もできるし、それはお前だけに限った事ではないと」

 

 

 うん……………う、うん?

 いやあの、出来るとは思うんだけど、100%じゃないからな? 知人に言わせると、何で俺がこの術を成功させてるのか分からないって言うくらい無茶苦茶な術らしいからな? 普通の人だと、オカルト版真言立川流は多分使えないぞ?

 

 

「オカルトでなければ?」

 

 

 それは使える。使えるけど、習得率と練度で効力は変わるし、そこまで絶大な効果は見込めない。

 まぁ、妊娠確立を高める事はそんなに難しくないが。

 その場合、孕みやすい体、出産しやすい体を作り上げる、内側から変えていくって事になるな。

 

 

「………いいだろう。条件付きで、許してやる」

 

 

 最後に嫌味のようにチクリと先端を突き刺して、ランスが離された。

 ふぅ…。本気で死ぬかと思ったぜ。セラブレスはG級ハンターの中でも上位に近い実力者だ。抑え込まれた状態から逆転する術は、殆ど無かった。

 

 しかし、条件とは一体? 何か狩ってくればいいのか? それとも誠意の証として、ナバルデウスも住まない深海にダイヴか? 成層圏までどこぞの回廊を駆け上ればいいのか?

 

 

 

「そんな事をして、私に何の得がある。シールドアサルト乱舞を続ける方が、まだ気が晴れるわ。私からの要求は簡単だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ----------は?

 

 

 

 

 責任を取って孕ませろ。避妊はするな。

 

 

 

 と、聞こえたのですが……俺の耳、そのランスで鼓膜破られちゃいましたかね? こう、カイジ張りにギュィィィンと。

 

 

「カイジって、お前の猟団に居る顎が尖ってる奴の事か?」

 

 

 顎が尖ってる奴複数いるし、あいつもその一人だけど、今は関係ないわ。と言うかあいつの名前はカイジじゃなくてカイヅだ。

 

 

「どうでもいいな。それと、お前の耳はおかしくなってない。確かに言ったぞ、責任を取って孕ませろ、避妊をするな、と」

 

 

 何でそれが責任とる事になるので? いや、俺としては否はないし、どうこう言える立場でないのは分かってるんですが、どうにも因果関係が読めなくて、とんでもない勘違いしてやらかしてしまいそうな気がするんですが。

 

 

「難しい事は考えなくていい。ただ私を孕ませればいい。別に、認知しろとも言わん。…多少は面倒を見てほしいがな。…ふむ、そうだな。確かにお前からしてみれば、犯罪を犯したのに表彰されているようなものか」

 

 

 ホントにね。スタンドの攻撃を受けているのかと思ったぞ。

 で、実際のとこどういうつもりなん? …この場飛び掛かっていいのか、色々と限界が近づきつつあるのですが。

 

 

「別にそのまま飛び掛かってきても構わんのだが。そっちの方が手早く済みそうだし。…単純な話だ。異能者の子供は出来辛い、という話をしたのは覚えているだろう。現状、この旅行で多数の番いが出来そうではあるが、それで本当に子供が出来るかと言うと話は別だ。一族の再興の為には、異能者同士でも確実に子供が出来る手段が必要だ」

 

 

 セラブレスは別に、一族の再興には拘ってなかったろう。嫌ってこそいないが、爺様婆様が五月蠅いって嫌がってたくらいじゃないか。

 

 

「…個人的な話、私とていつまでG級ハンターでいられるか分からん。先日の大物と戦った辺りから、真剣に考えだしたが…。女性ハンターが引退する、一番…いや、二番目理由を知っているか? 一番は言うまでもなく大怪我。…二番目は妊娠だ。こればかりは、男には無い理由だよ。ハンターでなくなった女は、家庭に入って子育てに集中する」

 

 

 まぁ…ハンターって意外と潰しが効かないもんな。肉体労働には超がつく程適材適所で、自然にも詳しい、頭だって…まぁ、個人差はあるけど悪くないのに。

 

 

「やっぱり、修羅場を潜った故の迫力がな…。一般社会に馴染めないらしくてな…。その辺の事は、役人である一族から統計の資料付で散々言われたわ。それはともかく、子供と言うのは老後の生活に非常に密接にかかわるものだ。世知辛い事を言うが、老いた自分の面倒を見てくれる貴重な人材だ。それを確保したいと思うのは、おかしな事か? そして、私は子供が出来にくい異能者だ。遺憾な事に、懇意にしている男も居ない。であれば、確実に孕ませられるお前に頼むのは、そう不思議な事ではないだろう」

 

 

 不思議極まりないよ、お前の思考回路が。

 と言うか、男女のお付き合いとか、初めての相手への拘りとか、そういうの無いんかい…。

 

 

「全くとは言わないが、どうにも私はドライな性格のようだ。元より人付き合いが得意な人間ではないし、恋人との甘い雰囲気とか言われてもピンとこない。誰かと番いになる所を想像しても、プライベートの時間まで誰かに合わせると考えると、どうにも乗り気しないんだ。子供もできない、私生活も面倒になるくらいなら、伴侶を作らず養子でも取ろうかと思っていたくらいだ」

 

 

 そらまた極端な…。

 

 

「そこへ、お前の『ほぼ孕ませられる』宣言だ。私だって、出来るなら自分の血を引いた子供がいい。少なくとも、親として愛情は注げると思う。能力を持ってて、爺様婆様に余計な事を言われなくなるなら最上だ。男としても、嫌いではないぞ」

 

 

 むぅ、取ってつけたように嫌いじゃないと言われてもな。要するに、確実に子供を作る為の種馬になれと。

 

 

「そういう事だ。拒否できる立場にないのは分かっているな? ついでに、その孕みやすくなる方法と言うのも教えろ。一族の女にも教えてやらねば」

 

 

 うーん…この際教えるのも問題ないが、今からか? 妊娠したら、G級ハンターを暫く休職する事になってしまうぞ。

 復帰したとしても、勘を取り戻して同じ地位まで来るのにどれだけかかるか。

 

 

「それも構わん。所詮、早いか遅いかの違いにすぎん。ならば少しでも早い内に、適齢期で体力が備わっている内に済ませるべきだろう」

 

 

 そういうもんか…? 何と言うか、情動を切り落として極端な理論で動いてる女だな…。その理論にも一理あるのか無いのか。

 

 しかし、事ここに至って、俺が我慢する理由は一つも無い。種馬扱いは腹立たしい所もあるが、それでセラブレスのような実力・容姿・胆力、ついでにバストサイズもG級以上の極上美女を抱けるのなら安いものだ。

 てゆーか、夢の中で中途半端に体を弄ってたから、最後までしっかり肉体改造しておきたい。エロ的な意味でも、霊力の出力向上的な意味でも。

 

 よーし、そういう事で始めますか! 善は急げだな。まずは部屋のベッドに…。

 

 

「ここではいかんのか? モノの本によると、野外で行為に及ぶ事もあるそうだが」

 

 

 …なん…だと…?

 

 

 



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305話

アサシンクリード、キッター!
運送担当の人がうっかりして、1日早く配達しないかなーと期待してたが、別にそんな事はなかったぜ
それなら個人ゲーム店の方がまだありそうだ。
そう言えば、大阪に居た頃に戦国BASARAを1日早く買えた事があったようななかったような。
或いはコンビニ予約して、2時くらいに行ってみる。

現在、アプリコピー中。
終わったら当分アサクリですな。
仁王は…EDFとかも終わった後だから、かなり期間が空くな。
ダクソ3に至っては、ソウルも足りないし敵も強すぎるしで、現在投げています。
…ダクソ3、やるなら最初からやり直すかなぁ…。
ゴリ押しと幸運じゃどうにもならないんで、今度は硬さ最重視にして、勝つべくして勝てるやり方で。
それとも、ダクソで勝つべくして…と言うのは甘いかな?



それはそれとして、ちょいと活動報告。
を、しようと思ったんですが、活動報告には予約ついてないんですね。
本編と同時に報告しようと思ってましたが、面倒になって昨日あげちゃいました。


「私の部屋は一族の女達も一緒だし、お前の部屋だと誰か乱入してきそうだ。流石に、私も情交の現場を見られたいとは思わないから、ここで済ませてはどうかと思うんだが」

 

 

 

 オッケー! 初めてがアオカンとか上級者向けだが、バッチリリードしてくれよう。

 そしてこの羞恥心とかが極端に欠落しているセラブレスに、色々と恥ずかしいという感覚を教え込んでくれる。

 

 ともあれ、まずは口付けから。セラブレス、こっちおいで。

 

 

「ああ」

 

 

 あくまで淡白な表情のまま、持っていた槍を地面に突き刺し、それに盾を引っ掛けて手ブラになって近付いてくる。

 ゆっくりと、ではなく、本当にすたすたと無感情に。

 

 抱き寄せると、無抵抗に腕の中に包まれる。特に抱き返して来ようともしない。

 顔を近付けても、冷たい視線のまま。

 

 …口付けの時は、目を閉じるのが作法だぞ。

 

 

「…こうか?」

 

 

 素直に目を閉じると、表情が一変する。鋭かった目付きは消え去り、涼やかな目元が落ち着いた雰囲気を醸し出す。淡白にしか見えなかった表情は、余分な緊張の無いリラックスした顔付となった。

 そっと上向かせ、唇を奪う。ピクリと反応したが、抵抗は無かった。

 

 

「んむぅ!?」

 

 

 ので、そのまま一気に舌を送り込み、セラブレスの舌を絡めとる。万が一にも舌を噛み切られたりしないよう、絡めた舌を引っ張り出した。

 流石にこれには驚いたのか、セラブレスの目が大きく見開かれる。だが抵抗は許さない。反射的に動かそうとした腕は、抱擁によってがっちり抱き留められており、両足の間に俺の足を割り込ませて動きを封じる。

 いかにG級ハンターの身体能力と言えど、この状態なら俺の独壇場だ。

 

 くるりと立ち位置を入れ替えると、さっきまで俺が盾と挟まれていた岩に、セラブレスが押し付けられる。

 更に圧し掛かるようにして密着し、より深くまで舌を捻じ込んだ。捻じ込むだけではない。セラブレスの口内を全て蹂躙するように、先端で、時には舌の腹で頬の内側から歯茎、上顎まで唾液を塗り付けた。

 暴れようとするセラブレスの舌は、軽い甘噛みで動きを封じ、逆に付着している唾液を啜り抜く。

 

 

 貪り合う…いや、一方的に貪り、性感を与えるキスを、たっぷり5分は続けただろうか?

 最初の1分で抵抗は消え失せ、無抵抗になり、構わずに蹂躙し続けると、今度は自分から逆に舌を絡めてくるようになった。

 薄目を開けて確認してみれば、凛とした静かな表情は完全に消え失せ、初めての感覚に酩酊したセラブレスの目。変わったのは顔付だけではない。夢で予め調べ、開発しておいた体は、すっかりその気になってしまっているようだ。服の下からピンと自己主張する乳首、両足の間に挟まれている俺の足に、内股を擦り付けるような動きをする腰。

 

 普段とは全く違う口の使い方に、呼吸は荒くなり、もうグッタリとしてその身を岩に預けている。

 

 

 …やりすぎたかな? いつもこれくらいはやってるけど、初めての女にここまでした事は…沢山あるな。

 しかし、何だか普段と勝手が違うと言うか、妙に自分が昂っていると言うか…。

 何故だろう? 確かにセラブレスはG級美女だが、それとタメ張れそうな女も、今まで何度も抱いてきた。それが今回に限って、自制(一応してるんだ、壊さないように)を忘れそうになるとは…?

 

 

 セラブレスの服を剥きつつ、そんな疑問を持っていたが、程なくして氷塊した。

 月明りの下、一糸纏わぬ姿になったセラブレスの体を見た時、すぐに理解できた。

 

 

 

 これから、俺はこの女を孕ませるのだ。

 

 

 

 実際には誰にも触れられていない筈なのに、俺の夢の影響で雌の体となったセラブレス。柔らかい乳房、括れた腰、淫蕩な匂いを立ち上らせる秘部。そして、その根幹とも言える、男を誘う子宮!

 この女を、避妊もせずに抱く。合意の上で、後腐れもなく、本当に孕んでも責任さえとらなくていいと言い切る、この女を。

 

 

 そうだ、快楽の為ではなく、本当に孕ませる為に抱く、初めての女。

 今まで散々女を抱いてきたけど、ずっと避妊を続けていた。そりゃそうだ、誰にだって生活はあるし、何より俺はいつデスワープするかも分からない身。俺が居なくなった後、残された妻(複数形)子はどうなるのか。彼女達が無事に生きていられるとして、次の世界に進んだ俺はどんな気持ちになるのか。それを考えると、その心残りだけは作れなかった。

 

 作れなかった、けど……。

 

 

 

「…? どうした?」

 

 

 朦朧としながらも、動きを止めた俺をいぶかしむセラブレス。自覚しているのか居ないのか、誘うように体をくねらせる。

 

 欲望に身を任せただけだとしても、もう止まれない。雌を善がり狂わせる本能ではなく、子を残そうとする本能を止められない。止める気にもなれない。

 性欲と本能に身を任せ、俺は再びセラブレスの上に圧し掛かった。

 

 

 

 本能に身を任せたとしても、身に着けた技は消えてない。セラブレスをヒィヒィ言わせるのが主目的ではないが、そうした方が子を孕みやすいのは確かだ。

 そういう訳で、まずはセラブレスの豊満な胸に顔を埋めながら、両手で柔らかな膨らみを揉み解す。どこが弱いのか、夢の中で散々調べ上げ、俺好みに変えてきた乳房だ。実際に目で見なくても、弱点を鷲掴みにするくらい容易い事。

 

 

「あ、んっ!?」

 

 

 声を上げるセラブレス。反射的に嬌声を抑え込み、体に流れた感覚に戸惑っているようだ。

 構わずに胸の谷間でグリグリし、感触を堪能する。谷間の間に吸い付き、キスマークを付けてやると、それだけでセラブレスの背が仰け反った。

 

 そのまま舌を這わせて、乳房の根本から先端まで唾液の糸を引いてやると、体を紅潮させて俺の体を抱きしめようとする。後ろからギュッと引き寄せらえて、俺の顔はセラブレスの張りのある片胸に埋没した。鼻で息ができない、幸せな苦しさ。

 しかし、それで動きを封じたと思ったら大間違いだ。頭は抱きしめられていても、両腕は自由。

 片腕はをセラブレスの腰に回し、もう一方は長い髪を透く。括れた腰の感触と、サラサラと流れる見事な髪の感触が堪らない

 

 

 …髪の毛、随分手入れしてるんだな。いつもは鎧の中に詰め込んでるのに。

 

 

「はぁ……はぁ……。…ああ。私は女らしさとは縁が無いが、この髪だけは自慢なんだ」

 

 

 この体で女らしさが無いとか、世の女性が激怒するぞ。肌だって艶々スベスベだし、どんな男だってお前と寝てみたいと考えるさ。

 俺だってそうだ。…だから、夢とは言えあんな事をしてたんだしな。

 

 

「褒め言葉と思っておくよ。さぁ、続けてくれ。強調するが、目的は私を孕ませる事だ。忘れるな」

 

 

 ああ、分かってるさ。お前のこの綺麗な腹を、ぽっこり膨らませて、俺のモノだってマーキングする為に抱いてるんだ。

 

 

「お前のモノになるつもりはないぞ?」

 

 

 俺はするつもりなの。男が女を孕ませるって、そういう事だよ。例外はあるけど。

 じゃ、次のステップへ。

 

 

 指で体のラインをなぞりながら、下半身に手を伸ばす。…やはり、夢でやった体の開発は不完全だ。一番大事な部分の感触でよく分かる。

 開発は不完全だが……一番楽しい部分が実体で手を賭けられると思えば悪くない。

 

 ここの開発が終われば…いや、手をかければ、セラブレスの反応は一変する。今は、触れられようが吸われようが揉まれようが、感覚に戸惑うだけで、未熟な性感を感じはしても、喜悦に溺れる程ではない。

 お堅い女を指一本でヨガらせるのは、男の本懐だよな。いや本懐は指じゃなくてナニか。

 

 

 ま、戯言はともかくとして…触りま~す。

 するすると秘部に近付く指の感触に、セラブレスはくすぐったそうに身を捩った。

 まずは表面。霊力を指先にだけ灯し、セラブレスの神経をなぞるように動かす。視る人が視れば(俺以外に見せる気はないが)、セラブレスの体の中に、俺の霊力がじわじわと染み込んでいくのが見えただろう。

 

 

「…? こ、これは…? 私の異能とよく似た力が、私の中に入ってきている…のか…?」

 

 

 流石に異能との付き合いが長いだけあって、いい感覚持ってるな。これがオカルト版真言立川流だ。孕みやすくなるやり方を教えろ、と言ったな?これがソレだよ。

 相手の体の中に力を送り込んで、その反応で相手の体を把握し、内側で力を動かす事で体内を刺激する。強制的に排卵させたり、子宮が降りる…正確に言えば子宮口を開いた状態にさせる。

 

 ほら、この力が体の中でどう動いているのか、意識して感じ取るんだ。それを意識してると、より強く快感を感じ取るかもしれないけど、仕方ないね。習得の為だからね。

 

 

 ではまず第一段階の、霊力を染み込ませる作業は終わったので…第二段階の、それを膣の感覚と結びつける作業に移ります。

 指を入れるぞ? …一応聞いておくが、自分で弄ってみた事はある?

 

 

「女にする質問ではないぞ…。…せ、性欲処理でしかなかったから…表面を弄るだけだった…」

 

 

 ほう…セラブレスに侵入するのは、俺の指が初めてか。光栄だな。

 欲を言えばチンポで初侵入してやりたかったが、濡れているとはいえ流石に厳しい。ぬぅ、夢の中で完全に開発できてれば、前戯無しのブチ抜きでもオーガズムまで持っていけたのに。

 

 言っても仕方ないか…。では、まずは小指から。

 

 

「んっ…」

 

 

 おお…。小指だけでも分かる、この締まり。夢の中での感触ともまた違う。常人であれば、骨折でもするんじゃないかと思うくらいに、セラブレスは異物を締め付けてきた。

 …しかし、これは歓迎の締りではない。初めて入って来た異物を押し出そうとする動き。

 が、その締め付けによる排斥を、指を小刻みに動かして避け、逆に夢の中で見つけた弱点を優しく擽ってやる。それと同時に、胎の中に留まっている霊力を脈動させた。

 

 

「っ…!? こ、この感覚は…!」

 

 

 性的な感覚を与えると同時に、体がさも悦んでいるように、興奮しているかのように錯覚させる、オカルト版真言立川流の初歩。

 だが錯覚だったとしても、「そう感じている」事には変わりない。ファントムペインだろうが、痛みは痛みだ。この場合は興奮だが。

 

 セラブレスの中で、土を穿とうとするミミズのように俺の指がクネクネ動く。関節まで外して、全方位に動かしてやる。同時に霊力の脈動を強めたり弱めたりすると、先程までの冷淡な表情とは打って変わって、セラブレスは唇を噛んで声を抑えようとしていた。

 やはりあられもない声を上げるのは、セラブレスであっても恥ずかしいのか。だが、それはむしろ責める男を燃え上がらせるばかり。鉄の女を、股から攻め落としてやろうと指の動きを激しくする。

 指からも霊力を送り込み、膣全体に浸透させる。

 

 …む? 力の通りが悪い…。よく見てみれば、セラブレスの体には、うっすらと青い光が揺らめいている。意識して使っている訳ではなさそうだ。物理的・霊力的な異物から、本能が体を守ろうとしているのだろう。破瓜の瞬間、つい女の体が逃げてしまうのと同じだ。

 成程、以前セラブレスに『子供が出来にくい』と相談されて、無意識に異能を使ってるんじゃないかと答えたが、ドンピシャだったようだ。

 あまり強く力は使ってないから、破瓜までは出来るようだが……これ、膣の中に分厚いコンドーム…じゃないな。張り型が入ってるようなものだぞ。で、男の方はその張り型に抜き差ししているだけで、女の体内に直接触れる事はほぼ出来ない。

 そんなんだから、性向による快楽も殆ど得られないし、体が慣れる事もない。だから、毎回セックスをする時は、ついつい無意識に力を使ってしまうのだ。

 

 …纏めると……セラブレスの一族の異能持ちの女は、ほぼ破られただけの何も知らない状態な訳だな。遺伝子単位で欲求不満になるようなシステムが組み込まれてるじゃないか。

 

 

 

 だがしかし! この程度、俺にとっては朝飯前! いくら鎧となる異能を使っているとは言え、いや、だからこそ出来る犯り方もあるのだ!

 膣内に留まる霊力を、徐々に徐々に強めていく。膣内を守る異能の力を、ゆっくりと侵蝕する。

 その間にも、指を動かし、胎の霊力を脈動させ、体の反応を引き出していく。体が昂れば、心も吊られて昂ぶり、そして魂まで昂揚していく。今のセラブレスは、心身共に感じた事の無い興奮に包まれているだろう。

 それによって警戒心も薄くなり、纏っている異能の力もどんどん弱くなる。膣内の霊力が異能を突き破り、我先にと膣壁に取りつき始めた。取付いた霊力は、そこからどんどん霊力を送り込み、性感や筋肉を刺激し、とろけるような恍惚を作り出す。

 

 セラブレスの体からしてみれば、膣内に媚薬をじわじわと注入されたようなものだろう。

 自分の意思に関係なく昂ってくる体、じわじわと強くなる悦楽、それらが体内で動き回る異物によって齎された物だという自覚。

 つい俺を跳ね除けようとしたが、「これはセラブレスが要求した事だろう?」と囁くと、硬直して動きを止めた。…暫しの後、諦めたように脱力し(一部はピクピクと硬直と脱力を繰り返していたが)、「好きにしろ」と吐き捨てた。その声からも、僅かな期待が聞き取れる。…期待してしまっている事自体、セラブレスには屈辱的なのかもしれない。

 

 

 改めてお許しも出たので、未練がましく粘っている異能の残滓を、最期まで喰らい尽す。セラブレスの体は、もう霊的にノーガード状態。オカルト版真言立川流の餌食である。

 膣を責める手を休め、セラブレスの体の表面をもう一度貪る。

 乳房は勿論、首筋、唇、耳、腕、指先、脇、鼠径部、ふくらはぎ、太腿、背筋、尻…。全身を唾液まみれにするように、舌でネットリと愛撫する。

 ガードが無くなったセラブレスは、内側から湧き上がる興奮に突き動かされ、面白いように反応した。普段の落ち着きはもう完全に砕け散り、俺の手の為すが儘、喘ぎ声をあげるしかない。

 小さな絶頂(俺の基準で)を何度も繰り返し、鋼鉄のような理性も快楽のヤスリでどんどん削られていった。

 

 

 息も絶え絶えになった頃、俺はセラブレスの手を取って、男の象徴を握らせる。…セラブレスの体内に送り込んだ霊力が、反応する力を籠めた象徴を。

 手が触れた瞬間、小さな悲鳴が上がる。初めて触ったからではない。俺のに触れた事で、セラブレスの体内の力が一際強く暴れた為だ。プシュッと、僅かに愛液が吐き出された音がする。またイッてしまったらしい。

 

 セラブレス、コレが欲しいか?

 

 

「…………ほ、ほし…ぃ…」

 

 

 理性からの返答ではない。コレが何なのかも分かってないだろう。ただ、これに触れる事で、セラブレスの中に強い悦楽が産まれる事。それしかわかってない。

 そして、それだけ分かっていれば充分ともいえる。

 

 体も心も、充分に蕩けさせた。事の後の好感度がどうなるかは分からないが、とりあえず妊娠という意味では大成功になるだろう。セラブレスは既に、体どころか魂ごと、孕む為の状態に作り替わっている。

 さて、どうやって孕ませてやろうかな…。

 

 

 初めての、本来の意味での『子作り』になるのだ。やっぱり正常位? セラブレスがケダモノのように貪る所を見たいなら騎乗位?

 いや、やっぱり犯して孕ませるというシチュエーションでは。

 

 

 子供が出来やすいからという建前で、後背位、バックに決定!

 

 

 グッタリとした体をひっくり返し、布団代わりに敷いていた服の上にうつ伏せにさせる。腰を掴んで持ち上げ引き寄せる。膝立ちにさせようと思ったが、そこまでの力が残ってない。…なんか、明後日の方向に向かって土下座というか礼拝してるような姿になってしまったな。

 まぁいいや。体位は大事だが、もっと大事なのは挿入と種付けだ。ついでに言うと、この挿入でセラブレスに霊力を吹き込み、強制的に喘ぎ悶えられるだけの体力を回復させるので、この状態でも問題はない。

 

 体はともかく、精神はと言うと……うつ伏せにされた体勢から、力なく首だけを傾け、セラブレスは俺の顔を…いや、股間を覗き見ている。

 まだかまだかと伺うような視線は、散歩や餌に待てをかけられた犬のようだった。

 

 ハンターとは思えない程に真っ白で柔らかい尻肉を掴み、左右に広げて前の穴と後ろの穴を広げてやった。体内まで俺の視線が突き刺さっているのを感じているのか、内側はどこもヒクヒクと震えて、俺を誘っている。

 一瞬だけ、「先にアナルセックスを教え込んでしまおうか」と迷ったが、これでも一応セラブレスへの償いなのだ。まずはお望み通りに、子宮にたっぷり子種を飲ませてやらないと。

 

 すっかり準備が整った…整い過ぎているくらいに整った穴に、棒を埋めるべく密着させると、ネチャリと慣れ親しんだ、しかし初めて聞く音がする。…これだけでもう、極上の名器なのは保証されたようなものだ。

 そして何より、意識的に孕ませるという初めての経験に、それこそ童貞の坊やのように心を高鳴らせながら、一気に腰を押し込んだ。

 

 

 

「っ……く、はあ、ぁぁぁ……!」

 

 

 嬌声と言うよりは、腹の中に貯めこんだ息を、深呼吸と共に思い切り吐き出したような声だった。凝り固まっていた部分を徹底的にマッサージされたら、こんな声が出るかもしれない。

 事実、気持ちいいと言うよりは、開放感や充足感を感じていたのではないだろうか? 突き込まれた事を切っ掛けに、セラブレスの中に留まる霊力は彼女の体を駆け巡り始めた。性感帯を走り、霊力の通り道を抉じ開け、執拗に雌の本能を引き出そうとする力。

 眠っていた細胞が全て活性化したかのような錯覚と同時に、自分の体が作り替えられていく自覚があるだろう。ハンターとして鍛え上げてきた体のまま、もう一つの役割…男を咥え込み、子種を搾り取り、新しい命を作る為の体に変わっていく自覚が。

 

 事実、セラブレスのナカはどんどん具合よくなっていく。一突きする度に奥への道が開かれ、引き抜こうとすれば媚肉を総動員して引き留め、グラインドすれば掠れた声が上がる。小刻みな前後運動で急所を責めてやれば、背筋を震わせて堪らないとばかりに頭を振り、逆に動きを緩めてやると、抗議するように自分から尻を振って挑発する。

 そして何より、膣の奥から何度も熱い液体が吹き付けられる。発射される男の精を少しでも多く、近くで受け取ろうと、子宮までの道が一直線に開いていくのだ。

 

 オカルト版真言立川流を使ってなくても、本能で分かる。ここに出せば、確実に孕む。赤子の為にあるべき神聖な器官が、本来の役割を果たすために俺を受け入れようとしている。

 暴発しそうな精を抑えながら、いっそセラブレスの子宮に自分の体ごと潜り込む心持で、腰を激しく叩きつける。処女にやるピストン運動ではないが、セラブレスも夢中で男を貪っているので苦痛の声は無い。

 

 

 本能に任せたケダモノの交わりは、そう長くは続かなかった。

 苦痛は無い(気持ちよすぎて辛くないとは言ってない)とは言え、やはり慣れない行為をすれば体は疲れる。セラブレスもそうだが、俺もだ。やっている事はいつもと同じなのに、疲労と限界が近い。興奮をコントロールしきれていないのだ。

 未熟だと自嘲する暇もなく、セラブレスの中で欲望が膨れ上がり、破裂する。

 

 焼き鏝でも押し付けられたのではないかと思う程の熱さと共に、子種がセラブレスの中を埋め尽くしていくのが分かる。それと同時に感じる、圧倒的幸福感。愉悦ではない。極上の雌に、自分の遺伝子を宿させる、最も根源的な命の営みの歓び。

 

 

 気が付けば、『孕め』と絞り出されるような声で、セラブレスに命じていた。全力で腰を突き出し、最奥で繋がり合う。

 セラブレスも、一番高い絶頂まで到達し、それに合わせて俺のモノを受け入れて、注がれる種を飲み干した。

 

 

 どれくらい射精が続いただろうか。今までに経験した射精とは一線を画する悦びに、心臓も呼吸も乱れ切っている。腰の中身ごと放ってしまったかのような錯覚を覚え、ようやく脱力した。

 ついつい後ろに倒れ込み、尻餅をついてしまう。セラブレスは、意識が飛んだのかフラリと倒れそうになったものの、咄嗟に支えて横たえる。

 

 

 …呼吸は……してるな。本気で心臓が止まったんじゃないかと思うような、そんな脱力の仕方だった。意識はあるのか無いのか、ギリギリの線だ。耐えきったと言うより、気絶する事すらできなかったのだろう。

 汗だくになって、体を隠す余裕もなく、夜風に吹かれて体を冷やす。…隣で伏せたままのセラブレスに、服を乗せて体を冷やさないようにした。

 

 

 …おい、おいセラブレス。起きてるか? …反応無しか。

 ……なんだろな。いい女だとは思ってたけど…今は少し気分が違う気がする。俺の子供を宿す女だと思うと、別の意味で妙に愛おしく思えてくる。

 いや、今までだって好意的ではあったんだけど…友人として、そして単純な性欲の対象としてだったからなぁ。そこに突然、別の何かがくっついた気分だ。…悪くはないが。

 

 

 

 ふと自分の股間に目をやれば、そんな安らかと言うか愛しい新教徒は裏腹に…裏腹に? 、まだまだいきり立っていた。…さっきの一発で、何もかも注ぎ込んだような気持ちになってたが…錯覚は錯覚、か。どれだけ愛しく思ったとしても、一発だけで俺が満足できる筈がないって事ね。

 

 

「………ん…」

 

 

 おぅ、起きたかセラブレス。流石に回復が早いな。

 

 

「……。あ…、そうか、私は…」

 

 

 動けるか?

 

 

「…いや、駄目だ。腰が抜けている。力がまるで入らん…。あれがセックスか…。快楽を感じるとは聞いていたが、これ程とは…」

 

 

 これが一般的じゃないからな。とりあえず、服を…着る前に、体を拭いた方がいいな。要望通りに思いっきりやったおかげで、ベッタベタだ。

 

 

「…………」

 

 

 …どした?

 

 

「これで、私は孕んだのだな?」

 

 

 ああ…。避妊じゃなく、確定妊娠の為のやり方は初めてやったけど、会心の手応えはあった。どうでもいいが、孕むっつーとなんかエロいな。子供が出来る、くらいの表現にしとけば?

 

 

「当たり前だが、実感は無いな…。そして、本当に孕んでいるのかも分からない」

 

 

 …それは、まぁ…。確定で子供を作るやり方と言っても、究極的には授かりものだし、中に出した時点で着床する訳でもないし…。ヤッた後に逆立ち、足上げすれば妊娠しやすくなるとは言うし、オカルト版真言立川流にもその行為は含まれているが…。

 

 

「つまり、確定で出来るとは言っていたが、お前もそれが事実かは確認できてない訳だな」

 

 

 う…それを言われると弱いが…。な、何か不満でも? 少なくとも手応えはあったし、セラブレス達の子供が出来にくいのは、行為の途中に無意識に異能を使っていたからなのは確認できた。それを突き破った感触も…。

 

 

「御託はいい。不満…ではないが、一つ提案がある」

 

 

 …拒否できる立場じゃない事は分かってる。何だ?

 

 

「お前の妊娠術の効果のほどはともかくとして……数を撃てば当たる、という真理もある。……もう一度、どうだ?」

 

 

 ヤればデキるという格言もあるな。ああでも、男って一発出したら連発するのはキツくてな。中々立たなくなるんだ。セラブレス、『その気』にさせてくれないか?

 

 

「思い切り昂ってるじゃないか。だが仕方ない。世話のやける奴だ…。私とて、まだ足腰立たないのだぞ。お前と違って本当に。そうだな、こういう行為には疎いが…これでどうだ?」

 

 

 セラブレスは体が動かないまま、体を動かして仰向けになり、俺に向けて足を開いた。自分でブローバックが残る秘部に手をやり、指でくぱぁろ広げて見せた白濁が、また少しだけ溢れ出る。

 

 

「こんな事を教え込んでおいて、たった一度で満足しろというのは酷くないか? さぁ、私を押し倒して、思うさま注ぎ込んでくれ。避妊も責任も何も考えなくていい。無責任に貪り喰われる快楽を知ってしまった私を、犯しつくしてくれ」

 

 

 

 

 …その後の事は、言うまでもない。

 

 



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306話

アサシンクリードプレイ中。
大分印象が変わってるなぁ。
こりゃ賛否両論ありそうだ。

戦闘と暗殺、どっちつかずになってるような印象もあるけど、とりあえず楽しいです。


PS4月

 

 

 セラブレスは目覚めたのか、確実に孕もうとしたのか分かりづらいな。まぁ、目覚めたっぽいが。

 元々ちょっと変わった思考回路をしていた為か、表面上はあまり変わらない。ただ、コトに至りそうになった時、表情が変わらないままにグイグイ押してくるようになっただけだ。

 それだけであれば、まぁぶっちゃけいつもの事だ。関係を持った女が「もう一回」とばかりにねだってくるのも、他の女がそれを苦笑しながらも「援軍、または仲間が増えた」と受け入れるのも珍しくない。そういう風に仕込んだしね。

 

 

 

 ただね、今回はちょっとばかり問題だったんだなぁ。いつかは来る話と言うか、むしろ予め考えておかないと人間の屑以外の何物でもないと言うか。うん、俺って本当に最低のクズね!

 

 

 事の起こりは、ベットベトのセラブレスを、人目につかないように別荘(シキ達のだが)に連れ帰った事。そこに居たシキやミキは、「やっぱりこうなったか」って顔をして、マキに気付かれないようセラブレスを風呂に入れるのに協力してくれた。

 途中でセラブレスも目を覚まし、ミキに一つゲンコツ落としたものの、和やかに話は進んだ。俺の女関係もとっくに知っているし、波風立てるつもりはなかったようだ。「責任なんぞ取らなくていい」と明言していただけあって、夫婦になるとかそういう事には拘らないらしい。

 

 マキも居る別荘で連日盛ってたら流石にバレるんで、適当な小屋の中で派手に遊んでいました。セラブレスに女同士の絡みや見られる感覚を教え込んだり、ミキが「夢の中もいいけど、やっぱり現実の感触だよね!」と満面の笑みを浮かべていたり、初期から関係を持っていたマオやミーシャが新入りに見せつけるように、エラい事やったりと、実に楽しい夜でした。

 

 

 

 …で、そこまでは良かったんだ。朝になるまで遊んで、ハンター式熟睡法で短時間睡眠。朝食の時間には、しっかり起き出してこれるようになりました。腰が抜けてるとか、そーゆー話も無い。

 流石にヤりまくってロクに片付けもしてない部屋(家)で飯を食うのもなんだから、とゾロゾロ出てきたところ、朝っぱらから海で遊んでいたルーキー嬢ちゃんと鉢合わせした。

 

 ルーキー嬢ちゃん、覚えてるかね? 猟団ストライカーの中では最年少の、ジェリーに懐いている見た目小学生(多分、実年齢は小6か中一だと思う)のガチお子様だ。ツインテールと八重歯がチャームポイント。

 波打ち際で、ヤドカリとか探してたらしい。

 連れ歩いてる一団の中に居るジェリーを見つけると、思いっきり飛びついてきた。

 

 

「おはよ~!」

 

「ああ、おはようルーキー。…? どうした? なんか、いつもより眠そうだな」

 

「うじゅ~…。昨日はなんだか眠れなかったの…。もう寝るのやめて、外に出てきたんだよ。…うじゅ?」

 

「ルーキーが寝られないとは…。体調でも悪いのか?」

 

 

 心配するマオは他所に、ルーキーはジェリーに抱き着いたまま、クンクン匂いを嗅いでいる。…あー、そういやシャワーもちょっとしか浴びられなかったもんな。昨晩の臭いが染みついているんだろう。

 それに気付いたジェリーは、恥ずかしそうにしながらもルーキーを引き離そうとはしない。

 

 が、次の発言はジェリーにとっても予想外だったようだ。

 

 

「…みんな、赤ちゃん作ってたの?」

 

 

 ブホォ、と噴き出す者数名、コケる者数名、顔を引きつらせる、勢い余って着衣のまま海にダイブ、慌ててルーキー嬢ちゃんの口を塞ぐ…。

 

 

「ル、ルーキ、何を言い出すの…」

 

「だって、昨日の夜、セラブレスさんが「ハラませろ」って言って、裸で何かやってたよ。ハラむって、赤ちゃん作る事でしょ? みんなからその時にニオイがするの。嗅いでると、股の辺りがムズムズしてくるニオイ」

 

 

 ちょっ、見られてた!? いや、確かに昨晩のあの時は、普段以上に昂って夢中になり、周囲への警戒が薄れてたけど! と言うか、この年で色に目覚めかけてる…。

 

 

「そ、そうだな。ルーキーは賢いな。でも、それは普通、人に言う事じゃないからな? とっても恥ずかしい事だから、誰にも言わないように」

 

「うじゅ。じゃあ、ジェリーは普通じゃないの? みんな一緒にハラもうとしてたんだよね?」

 

「いやそれはその」

 

「ジェリーがやってるなら、私もやる! なんか楽しそうだし、混ぜて混ぜて!」

 

 

 …性の知識がロクにないルーキー嬢ちゃんに、乱交なんて単語を教え込んでいいものか…。

 と言うか、いくら何でも子供過ぎるだろ。……あれ、普通に今更だな。

 

 ………若干トラウマになるけど、手は出さずに見学だけなら…?

 

 

「それもどうかと思います…。私も混ざってるから、『大人がする事』って言っても説得力が…」

 

 

 サーシャはルーキー嬢ちゃんと一年違いだからな…。たった一年、されど一年って言っても納得しないか。どうしよ。

 

 

「………ルーキー」

 

「うじゅ? …じゅっ!?」

 

 

 異様に冷淡な声。振り返れば、そこには能面のような笑顔と、背後にスタンドよろしく浮かび上がるミドガロンを背負ったミーシャが居た。…これは…逆らったらアカン状態やな…。俺でもヤバいわ。

 …あれ、俺でもヤバいと言うか、俺こそがヤバい気がしてきたんだが…。普通に考えればそうだけど、何故に今更? ミーシャのデバガメ趣味もあって、他の女を抱く事には特にどうこう言われないようだが…。

 

 

「お菓子をあげるから、この事は誰にも言わない、聞かない、調べない。いいわね?」

 

 

 ガクガクと壊れた玩具のように頷くルーキー。青褪めている。ミーシャが何処からか取り出した飴を受け取ると、脱兎の勢いで逃げ出した。砂浜なのに、よくあんなに走れるもんだ。

 

 えーと……ミーシャ、オコ…なの?

 

 

「オコじゃないわよ。私をオコさせたら大したものよ」

 

 

 オコじゃないですかヤダー! 何でいきなり! いや怒られる理由なら山のようにありますけどね! 今更だと思うんですけどね!

 

 

「別に、浮気がどうのを怒ってるんじゃないわよ。そっちは元々、公認してるもの。私が気にしているのは……セラブレス?」

 

 

「ん? 私か?」

 

「ええ貴方。…孕ませろ…つまり子供を作れ、と要求したんですって?」

 

 

 私達ですらまだなのに、と言外に聞こえた気がする。

 ザワ、と声があがる。…ヤバイ…のかな、コレ。

 

 

「そうだが…何か問題でもあったか? こういう関係を維持している以上、お前達もいずれはと考えていただろうに。…いや、普段は避妊ばかりしている、と言っていたな、そう言えば。快楽目的なのは、今は私も似たようなものだが…なぜそんな事を?」

 

 

 シレッと答えるセラブレス。本当に何の問題もないと思っているらしい。

 

 

「何故と言われてもな…。我々にも都合というものがある。身籠れば、ハンターは引退するか、休養しなければななん。その間、猟団を纏める者も必要だし、休養している間の生活費も必要だし、抜けた戦力の穴埋めもせねば…。全員とは言わないまでも一斉に子供を宿してしまえば、大変な事になる。私達の猟団もそうだが、レジェンドラスタが一斉に半分以下になると思えば、どれだけの事か分かるだろう」

 

「挑発するような言い方になってしまうが、それはそちらの都合だろう。そちらの身籠る事ができない理由があるように、私には身籠っておきたい理由があり、それを止める理由が無かった。大体、自分達はまだ子供が作れないから、他の誰も作るな…というのはおかしな話ではないか? 孕める者から順番に孕んでいくというのならまだ分かるが」

 

「…まぁ、その通りよね。こっちから突っかかっておいてなんだけど、私達が子供を作ろうとしてないのは、私達の都合でしかない。第一子は私が…と思ってたけど、現状では無理よね」

 

 

 …猟団の仕事があるからなぁ…。なんつーか、仕事抱え込み過ぎて気が付けば婚期を…ってパターンの女だ。

 

 

「ちょっと、今何か考えたかしら?」

 

 

 いや、いつまでも猟団の仕事抱えて休めないんなら、無理矢理にでも孕ませて、強制的に妊娠休暇とらせるのもありかなと思っただけ。

 

 

「無理矢理…………心惹かれるけど、置いといて。私はね、別にセラブレスさんには怒ってないの。さっきも言ったけど、新しい子が増えるのはいつもの事だし、それで私達との関係や回数が薄まるなら問題だけど、それも無い。…二人きりの時間が取りにくくなるのは欠点だけどね。避妊をしているのは私達の都合だし、これも抜け駆け……と言うのもおかしいけど、先に子供を作ろうとする子が出るのも仕方ないわ」

 

「では、一体何が問題だと?」

 

 

 首を傾げるセラブレス。可愛い。

 ミーシャがこっちに視線を向ける。……あ、ヤバイ。

 

 

「勿論…それなり以上に深くてヌップヌプかつラブラブしながらもドロドロとした関係の私達に何の相談もなく、その場の欲望に任せていきなり女を孕ませようとする誰かさんよ」

 

 

 

 オゥフw どう考えても拙者でござるw

 

 しかしそりゃそーだ、そりゃ怒るし問題にもなるわ。婚約者が愛人公認してくれたからって、自分よりも先に愛人に子供産ませるとか、正妻にとってはそりゃ面白い筈ないだろう。

 せめて一言、事前に「これこれこういう理由でセラブレスを孕ませます」とか言っておけば、もうちょっと怒りは低かったと思う。まぁ、その時には別の理由で揉め事になってただろうけども。ちゃんと情を通じ合って抱き合うならともかく、そんな打算で子供を…とかね。

 

 ミーシャの論に対する、皆の反応はそれぞれである。

 同調する者、そこまで気にしてないけどちょっとカチンと来た者、孕ませるためのセクロスという行為に期待する者、自分達はまだ体が出来上がってないから関係ないと判断する者。

 そして。

 

 

「…ミーシャ、少しいいかしら?」

 

「あ、はいシキさん。何でしょう?」

 

「セラブレスさんが第一子を生むのは確定として……既に子供がいるとなれば、二人目以降もOKと言う事?」

 

「OKも何も、ストライカーの面々以外は別に禁止していませんよ。ウチのメンバーの妊娠を禁じているのは、単純に猟団が保てなくなる可能性があるからです。後は、それぞれの都合と人生設計、家族計画に合わせて…ですね」

 

 

 家族計画の中に、俺の意思が入ってないって言っていいのかな…。…黙っておこう。こんだけ好き勝手にやっておいて、発言権があると思う方がおかしいわ。

 

 

「そう、つまり……」

 

 

 …あの、シキ、両肩を思いっきり掴まれると全く動けないんですがそれは。

 

 

「今日から私とスル時には、避妊は一切無しでよろしくね。大丈夫、ちゃんと産んであげるから」

 

「おかーさん直球過ぎぃ! と言うか抜け駆け!?」

 

「人聞きの悪い事を。これも必要に駆られてです。貴方達はまだまだ若いですが、私はもう結構な年齢です。高齢出産は危険ですし、なるべく若い内に孕んであげるべきでしょう?」

 

「高齢なんて年齢じゃないでしょ! そりゃ私達よりはずっと年上だけど、まだまだ若いのに」

 

「ありがとう。でもね、これから女盛り花盛りの貴方達と違って、やっぱり私が女として咲いていられる時間は少ないし、これから下り坂になるばかりだから…。お相手をしてくれる彼にも、産まれてくる子の為にも、少しでも綺麗なお母さんで居たいの」

 

 

 こっ…これは、年齢という覆しようのない差を利用した口実ッ!? 本来なら指摘する事はデリカシーに欠ける、女の地雷である年齢を自分から理由として口に出す事により、『否定するのもなんだかな』という気分にさせる、圧倒的な覚悟の口実ッ!

 

 

 

「シキさんが暫く優先になるのは仕方ないとして…我々はどうするかな。あとレジェンドラスタ勢の反応が分からん」

 

「私達ストライカー猟団は、交代で孕んでいけばいいんじゃないか? しかし、順番に産んでいくとなると……出産までの期間に加え、復帰してリハビリする時間も必要だな。一度に孕めるのは、多くても3人程度か」

 

「私達はどうしよっかねぇ…。ミキはその気になりそうだけど。パンツァー猟団は、弱小で、色々壊滅したからこの猟団にお世話になってるけど。今さら火遊びを辞めろと言われても体を持て余すし、一回ヤられちゃっただけで愛人扱いになるのも納得いかないし」

 

「しかし、女の操は安くはありません。やはり何かしらの責任を…」

 

「…ミミちゃんは強気Mだから、あれこれ理屈をつけてるのを強引に押し倒されたがってるんじゃ」

 

「黙れ婚活戦士ッ!」

 

「ちょっと普通じゃないけど彼氏ができたから、これからは妊活戦士よ!」

 

「え、もう産む気!?」

 

「あんまり不吉な事は言いたくないけど、ハンターなんかやってたらいつどうなってもおかしくないんだから。産める時に産む! 借金がある訳じゃないんだし、生活費だったら何とかするわ! 折角彼氏(と言うかご主人様)が出来たのに、花も咲かせず散りたくなーいー!」

 

「思い切っていますが、それもまた真理かと…。しかし、それではミキ殿と一緒にハンターが…」

 

「と言うか、考えて見れば妊娠したら、ハンター稼業だけではなく、一時期とは言えコトを禁じなければならないんだよな…。安定期に入るまで、どれくらいかかったっけ…。欲求不満なんて程度で済むかな…」

 

 

 と言うかミキは? …まだシキと色々言い合っている。しかし、産む事自体に抵抗はないようだ。ただ、それでシキが何かと優先されるようになるのが気に入らないだけで。もっと私に構え、という事かな。

 他の皆も、大体は「今すぐかはともかく、産んでもいいかな」と思うくらいには前向きなようだ。

 

 

 

 ……なんつぅか……俺、幸せなんだな。肉欲前提での関係だと思ってたし、それも事実で、そういう切っ掛けから出来上がった関係なんだが…。

 女にとって…いや男にとってもそうなんだろうけど、子供を産むっていうのは命懸けで、その後の人生にも大きく関わってくる事。いい面でも悪い面でもだ。

 本来なら、唯一無二のパートナーとして(離婚や浮気という行為はさておいて)選びあった相手とのみ、子を為す筈。なのに、大勢のお相手がいる俺の子を産むのに、躊躇いや忌避感が殆ど無い。

 

 ……本当のハーレムって、こういう事を言うのかな。女が居る、皆がお相手してくれるって事じゃなくて、自分を生涯のパートナーとして見てくれる人達が、仲違いもせずにやっている。

 なんか、おかしな気分だ。こう……嬉しいってだけじゃなくて、もっと言葉にし辛い感情が湧いてくるような。

 

 

 

 

 …まぁ、一番湧いてるのは精子なんですが。孕ませ解禁と言う事で、昨晩初めて経験した避妊しないセックスに、ついつい今から昂ってしまっている。

 

 とは言え、どうしたもんかなぁ。いや孕ませるのに異論はないんだけど、今後の行動方針がね。

 ハンター全体のレベルアップ、新たな力や技を広めるという方針は変わりないんだが、これから襲ってくるであろうモンスターや、憎きクソイヅチとかね。

 孕ませコンプリートせずに死ぬつもりはないが、そもそも今まで死ぬつもりで戦った事なんか一度も無い。逆上して何も考えずに突撃した事ならあるが。それでも死んだ。最終的には死んだ。

 

 どれだけ準備しようと、腹を括ろうと、先の展開を読もうと、心残りがあろうと、死ぬ時は死ぬ。

 特にこの世界ではなぁ…。イヅチを叩き斬る事を諦めて隠居したとしても、今後、襲ってきそうなヤバいやつがゴロゴロいるからなぁ…。

 

 

 もし死んだら、彼女達はどうなる? 泣き暮らすのか。泣くだけ泣いて立ち直るのか。残された子供を、必死になって育てていくか。子供を授かれなかった事を悔やんで生きるのか。

 

 

 …差し当たり、金銭面でだけの苦労はさせたくないな。「そんな物より、共に生きて欲しかった」と嘆かれるのは承知の上だ。

 しかし、後に残せるもので確実なものでもある。…死ななかったとしても、無駄にはならないしね。

 後は……まぁ、何だ、ちゃんと全員孕ませるまで生きていられるか、だな…。どうすっかなぁ…。あんまり上を目指すのを辞めて、どっかで守りに入るか? でもそれって多分、今後襲ってくる『何か』に対抗できる手段が得られなくなるって事なんだよな…。

 

 

 

 ふむ……ちょっと考え方を変えて……。……俺が死んだとしても、残った皆を孕ませられる術…か。幽霊とセクロスして子供作りました、ってか? 

 …幽霊、幽霊か。ミキとの間で、幽体離脱染みた事もやっちゃったし……とっかかりくらいはある、か? 俺の霊力を前もって注ぎ込んでおき、特定の条件が揃ったら、それを元にした幽霊(と言うか記録?)が現れて、宿主を犯す…。

 ……相手の同意がなければ、完全に呪いじゃないか。

 

 いやそれよりも問題があるとすれば、死んだ後に発動する術になるから、上手く行ってるか確かめようがないって事なんだが。

 

 

 本当に、どうするかなぁ…。

 自分達が産めるとすればいつなのか、マオと話し合っているミーシャとか、親子ハラボテプレイを計画しつつ自分も早く孕もうとしているミキとか眺めながら、俺は遠い目をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、朝っぱらから修羅場っぽい雰囲気が出て、ついでに俺は「黙って孕ませようとした罰」と言う事で水中逆さ釣り耐久の刑に処されたのだが、水中呼吸ができる俺にとっては単なる逆さづりと変わらなかった。大体のハンターにとっても、水中戦で何分も潜れるくらいの肺活量はあるので、そう珍しい事ではない。

 孕ませ解禁もあり、早速…という空気もあったが、つい先程までパーティタイムだった事もあり、とりあえず肉欲が満ちているのでお流れになる。メリハリをつけるのは大事だからな!

 

 何より、他の面々が起きてきたので、そのド真ん中でヤるのもな…。他の男には、あえぎ声の一つだって聞かせてやらねー。いや、声と音を押し殺して、ばれないようにと言うのも嫌いじゃないが。

 

 

 それぞれ思い思いに散っていく女達。誰かと遊ぶ為か、それとも孕ませオネダリに使うコスチュームでも用意するつもりなのか。

 とりあえず、俺は朝飯をまだ食べてなかった事を思い出し、その辺で釣りでもしようと思ったのだが…バッタリとプリズム、レイラと会った。ちなみにルーキー嬢ちゃんも一緒だ。

 

 

「おう、おはようさん」

 

「おはようございます」

 

「う、うじゅ……ミーシャは?」

 

 

 おはよー。ミーシャはどっか行ったぞ。もう怒ってなかったから、安心しろ。

 …言ってないよな?

 

 

「ルーキーさんからは何も聞いていませんが、貴方が大勢の女性とつい先程まで一緒に居たのは知っていますよ。何やら揉めていたようですが」

 

 

 あー…うん、ちょっと修羅場っぽいナニカになってた。そういう二人は何をしてんだ?

 

 

「何って、アタシは朝の鍛錬だよ。お師匠様の仇は討ったけど、まだお師匠様を超えられたとは思ってないからね」

 

「私はいつもの癖で、早くに目が覚めまして。毎日、新聞配達の為に早起きしては走っていましたから…体が落ち着かないんです。散歩に出たら、何やら怯えているルーキーさんと会いました」

 

 

 二人そろって大真面目だねぇ。ところでプリズムは泳げるようになったのか?

 

 

「クックック、いやぁそれがなぁ」

 

「れ、レイラ!」

 

「泳ごうとしても海に浮かなかったから、『これは自分が太ったせいだ』と言い出したり、いざ浮いて泳ごうとしたら足が攣ったり、『プーギーでさえ泳げるのに私は…』と落ち込んだり、なんともまぁ間抜けな歌姫も居たもんだ」

 

「貴方だって、泳ぎを教えると言いながら私を海に放り込んだではありませんか! 本気で溺れるかと思ったんですからね! 大体、貴方のは教えているとは言いません! 何ですか『泳げない奴でも、水に放り込めば案外動く』って! 泳げるようになるとすら言ってないではないですか!」

 

「足が付く所にしか投げなかっただろーが! 大体、アタシだって人にモノ教えるなんて殆どやった事ないんだよ! とりあえずやってみてから覚えろや!」

 

 

 いやまず投げるなよ。人間、いきなり鼻や目に水が入ったらパニック起こすんだぞ。しかも塩水だし。

 もしも学校とかで同じ事やったら、事案どころの話じゃねーぞ。

 まー仲良くやっているようで何よりだ。何なら、今日は俺も水練を手伝ってやろうか? ビート版くらいは作れるぞ。確か、持ってきた荷物の中に浮輪もあったし。

 

 

「この子の暴走を止めてくれるなら有難く…と言いたいところですが、一緒になって暴走する未来しか見えませんし…何より、貴方には私達などより、先に声をかけるべき方がいるでしょう」

 

 

 ? そりゃ確かにいるけど、皆してどっかに………ん? レイラがこっそり指さしてる。先には……ウェストライブ家の別荘。窓からは、双眼鏡の反射光と思われる光。…視線も感じる。間違いない、俺を見てる。

 ………そりゃそうか。マキにしてみれば、昨晩シキ・ミキ・俺と、あの別荘で寝た筈なんだよな。マキにしてみれば、起きたらいきなり自分だけ置いていかれたようなもんか。…これは真面目にオコですわ…。

 と言うか、シキとミキはどうした。娘・姉を放り出して、エロ下着の物色か? でも着替えもあの別荘にある筈だよな。

 

 とりあえず、マキのご機嫌取ですな。

 

 

 しかし…これでも結構ビーチは広いんだぞ。よく俺をピンポイントで見つけられたな、マキの奴。

 

 

 

 

 

 

 

 



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307話

バイクの講習、何とか受かりました。
早い内に免許更新に行ってきます。

さて、肝心のバイクはどうするか…。
MTなのは確定として、練習目的のコスパ的には250ccのオフロードがいいと聞きました。
400㏄にも惹かれますが、それなら大型免許取った時に乗り換える方がいいかな…。
ホンダだのカワザキだのニンジャだの、今一分からない。
壊れた時のアフターサービスとか、何処で買うかも重要になりそうです。

とりあえず、一番近くにあるのはレッドバロンか…。
世話になった自動車学校とも何か関わりあるらしいし、行ってみようかな。



もしも投稿やレス返しが途切れたら、生存を祈ってください…。


 マキを一人だけ置いて外出した罰として、一日付き合えと命令された。まー無理もないわな。

 と言っても、特に何をする、という訳でもない。買い物はちょっと離れた村で出来るが、マキにとっては珍しい物がある訳じゃない。土産は買っておきたいが。

 クッソ真面目な性格上、視察と称してその辺を歩き回ったりもしたものの、実際には駄弁りながら散歩しただけだ。

 

 …やっぱ、どうも妙に安らぐな…。昨日、宴から少し離れて話し込んでた時もそうだったっけ。直後にセラブレスの孕ませ発言があったもんだから、落差が激しくてなぁ。

 

 

 …にしても……なんだ、その、上手い事褒め言葉が出てこない。責めた水着が、思った以上に似合っている。ビキニ(上は白、下は黒)に黒ジャケットとは…。

 しかも、乳袋が結構デカい…。元々スタイルがいいとは思っていたが、不自然ではない程度に寄せている事で、破壊力が増している。

 

 いやそーゆー視点からじゃなくて、純粋に綺麗だし可愛いと思ってるから褒めたいんだが、どーにも言葉が…。ううむ、これはアレか? 今更ながらに青春のトキメキ的な何かなのか? ぬぅ、浄化されてしまう。……尚、浄化されても5秒もすればまた煩悩が産まれてくるのでご安心ください。

 

 

「ところで、昨日戦車の砲撃の的にしろと言っていた島には、何があったんだ? あの時はつい頷いてしまったが、流石に理由もなく自然を破壊するのは、しっぺ返しが恐ろしいんだが」

 

 

 …やな事を思い出しちゃったなぁ…。しっぺ返しについては、放置した方が怖いとしか言いようがない。知りたければ、レイラかアキャマ殿にでも聞いてくれ。流石に信じられんと思うけどな…。

 

 

「??? まぁ、性能テストも必要だし、何処かを砲撃する必要はあったから構わんが。…あの島に一度泳いでいってみようかと思っていたんだが、止めた方がいいか?」

 

 

 止めろ。遠泳もバカンスも止めんが、あの島はヤメロ。もう危険はないと思うが…。

 まぁ、念には念を入れてだな。小型以上のモンスターならともかく、文字通りの蚊にまで注意祓うとか面倒ってレベルじゃないわ。

 

 ……ああでも、そうだな。領主代理とは言え、大多数の人間を束ねる身だし、偶には一人二人になってみたくなる時もあるか。

 そうだなぁ…。折角のバカンスなのに別荘の中ってのもつまらんし、船出すから適当な小島にでも行ってみるか? 問題のあの島以外にも、幾つかあるぞ。勿論、安全は確保してある。

 

 

「小島…。悪くないな。この辺の島は、食べ物も豊富と聞いている。パイナップルやマンゴーでもジュースにして、ハンモックでダラダラするのもいいかな」

 

 

 おーおー、随分とオープンになってるね。普段のキリッとした態度が幻のようだわ。

 

 

「滅多にないシチュエーションなんだし、私だって偶にはハメを外すさ。真面目一辺倒なだけでは、破裂すると散々お母様に叩き込まれたからな」

 

 

 ……(元旦那を反面教師にした発言かな?)

 ちなみに、家族達との触れ合いはいいのか?

 

 

「お母様とミキは、何やら急いで近くの村に向かったぞ。買い出しと言っていたが…。キヨさんはキヨさんで、『私は今はお腹いっぱいですから、マキ様の番ですね』なんて言って姿を消した」

 

 

 …なんつーか…意図は予想できるんだけど、結果的にハブられてない? ウェストライブの二人は、9割がた俺のせいだと言う自覚はあるが。

 まぁいいや…。とりあえず、近場の島行ってマッタリしよーか。浮輪、ハンモック、ビーチパラソルに…ジュースも持っていくか。

 

 

「必要そうな物は、予め準備してあるぞ。この手の準備作業は、作業の種類を問わずウェストライブ家の得意分野だ。さぁ行くぞ。船はゆったりマッタリ進ませろよ」

 

 

 はいはい。本来なら狩りに使う漁船を拝借し、海風に吹かれながら船出。

 偶然それを見かけていたコーヅィと嫁さんが、ハンカチ振って見送ってくれた。……コーヅィ、ちょっとお疲れっぽいな。後で精力剤でも差し入れしてやるか?

 

 それはともかく、船乗りの歌とかビンクスの酒とか歌いながら、風に揺られてドンブラコ。ラム酒があればいいんだが……飲酒運転、駄目絶対。

 …隣でマキがワイン飲んでるけどな!

 

 

「偶の休暇なんだ、これくらい見逃せ。大体、ワインなんて水のようなものだ」

 

 

 それを言ったらビールも同じだよ。ったく…いいワイン飲みやがって。

 ……そろそろ到着だな。島で何かやりたい事とかあるか?

 

 

「洞窟とかあったら、探検してみたい。G級ハンターが居るんだ。モンスターからは守ってくれるよな?」

 

 

 

 

 

 

 ……まぁ、洞窟なんぞありませんでしたが。心躍るアドベンチャーがなくてちょっとガッカリしたマキだが、島はお気に召したようだ。

 う~ん、ゴゴモアとか居そうな島だね。まぁ、大型モンスターが潜むには少々どころじゃなく狭すぎるんで、実際には何もいなかったけど。

 

 適当な木にハンモックを吊るし、それに寝そべっているマキ。ハンモックの隣には、俺が適当に採って来た果実。………やっぱスタイルいいなぁ。寝そべってるのを見ると、本当にグラビア写真みたいだ。

 

 

 …しかし、気のせいかな? なんか微妙に緊張している気がする。…俺と二人きりだから? 襲われる的な意味で? ……どうだろう。マキからファーストキスをくれる程度には好意的だけど、俺の女関係の話も聞いてるだろうし…。

 …内面観察術で覗き込むか? いやしかし、あんまりホイホイ使うのはなぁ…。

 

 

「…………一ついいか?」

 

 

 ん、何ぞ? 釣りをしたいなら、やり方を教えるが?

 

 

「興味はあるが、ミミズがフルフル亜種を思い出させるからいい。…いや、別に襲われた事があるとかではないぞ。ただ、幼い頃にお母様から……お父様? が一度襲われてエラい目にあった事がある、と聞かされて…」

 

 

 野郎を丸呑みか…。(あの装備でよく生きてたな。こやし玉に救われたか?) で、どした?

 

 

「………その…今更なんだが」

 

 

 うんうん。

 

 

「…………サ、サンオイルを頼むっ!」

 

 

 

 

 

 

 なん……だと……?

 

 

「その、塗ってないのを忘れていて…。次期領主として、まだらに焼けた所を見せる訳にはいかないんだ」

 

 

 お、おう。………塗ってないのを忘れていて…でも島まで持ってきていたと。

 ……誘われてる? これって誘われてる?

 

 誘われてるよな、常識的に考えて。…しかしそれはそれとして、オイルはしっかり塗らねばならぬ。決して、合法的にローションぬるぬるが出来るからそっちを優先する訳ではない。

 ま、とりあえず任せとけ。ハンモックの上じゃ無理だから、浜辺にシートを敷くぞ。パラソルも準備おっけー。

 

 サンオイルは…。

 

 

「これだ」

 

 

 ……うむ…。初めて触ったが、中々ぬるぬるしているな。

 

 

「そりゃオイルだからな。…そ、それでは、頼む」

 

 

 横たわり………自分から背中の結び目を解く。スラッとした背筋が解放された。

 …そこまでするか。水着があったら、その分塗れないのも分かるが。

 

 そ、そんじゃ…背中から行くぞ。

 まずは少量を掌に垂らし、少々躊躇いながらも背に触れる。びくりと緊張したのが分かったが、それを自ら抑え込んだようだった。そりゃ緊張しない筈もないよな…。男にこんな所を触れられるのは初めてだろう。増して、少なからず好意を持っている相手の手だ。

 

 ここでいきなり過激な事をする訳にはいかんな。まずは真っ当にオイルを塗ろう。……手を出すにしても、いきなりアオカンはハードルが高いだろうし。

 

 

 オイルを塗り広げ、マキの体を探っていく。性的な意味ではない。いやそーゆー情報も読み取れるんだけど、今は体の状態をね。

 ふむ……一般人の範疇だが、流石に鍛えられてるな。体温が少し高い。まー場所が場所で、やってるコトがコトだから無理もないか。

 

 しかし……マキ、ひょっとして結構凝ってる?

 

 

「ん……ああ。実は、バカンスに参加する為に、超特急で仕事を終わらせてきたから…。慣れない仕事が急に増えたしな」

 

 

 ああ、領主代行…。このままじゃ辛かろう。オイルを塗るついでに、ちょいと解してやるとしますかね。

 マキ、ちょっと痛気持ちよくするからな。

 

 

「え? んっ………んん……」

 

 

 オカルト版真言立川流が無くても、人の体はよく知ってる。強すぎない程度に、肩や背筋、腰を揉んだりグリグリしたり。

 …そのつもりはなかったが、オイルのぬるぬるのせいでエッチぃ触り方になってしまったのは否定できない。 

 そしてマキも特に反抗しない。

 

 と言うか、声が色っぽいんですが。まだ性に関わるようなところには触れてない(存在そのものがエロいと言えなくも無いが)にも関わらず、呻き声と言うか反応と言うか…。

 触れられて感じているのではなく、単純にマッサージによる快感だろう。………ぬるぬるの事を考慮に入れなければな!

 

 

 まぁ、それはともかく……凝ってますねぇお客さん。ストレッチしてるか? 運動(意味深)するなら付き合うが。

 …よし、背中から腕足、その他細かい所まで一通り塗り終えた。名残惜しいが、これで終了…。おーい、起きろマキ。

 

 

「…ん? あぁ……眠ってしまってたか。すまん、予想外な方向に心地よくて…。さ、さぁ、続きを頼む」

 

 

 え。続きって、おま……

 

 

 

 マキが体制を変え、仰向けになった。

 仰向けになった。

 

 

 仰向けになった。

 

 

 

 

 

 そして、ビキニ水着は上だけ解いたままである。

 

 

 

 

 

 

 

 素晴らしき哉、トップレス。

 

 流石に恥ずかしいのか、シキやミキとの血筋を連想させる『たわわ』を腕で隠している。

 が、マキはもう一つの事に気付いてない。『下』は確かに水着で隠されているが、そこにうっすらとシミが出来ている事を。

 

 

 と言うか…もうこれは、誘う云々の状況じゃないよね? 覚悟完了しちゃってるよね?

 強引に抑え込んでいた俺のナニが、ビキビキビキと盛り上がる。あ、水着がヤバい。破れそう。ちょっともったいないけど、セーブセーブ。いきなり北斗神拳伝承者みたいに、盛り上がった肉で服が破けるみたいな演出してどーすんだ。しかも下半身のみ。控えめに言って変態です。しかもヤバイレベルの。

 

 

 脳内で、「ほぉぉぉぉーーー!」と叫ぶゲジゲジ眉毛がフルチンになるという放送停止映像を流し、暴走しそうになった愚息とテンションを強制制御。

 これは…四の五の言うのは、恥を掻かせるだけだな。

 

 

 で、では遠慮なく…。触るぞ?

 

 

「んっ…」

 

 

 すぐにでも胸に手が伸びそうになったが、気合いで堪えて首筋へ。サンオイルを塗るという建前で、首筋から顎の下にかけて軽く愛撫する。

 くすぐったそうなマキに、ゆっくり顔を近付けると、無言で目を閉じ、少しだけ唇を突き出した。そっと触れ合わせるだけのキスの後は、驚かせないように、ゆっくりと舌を唇に這わせる。

 お互いの鼻息が当たる距離で唇を付けては離し、少しずつ絡みを深くしていく。

 

 その間に、掌にはベッタリとサンオイルをつけ、マキのお臍付近を撫で回す。言うまでも無いが、既に日焼け止めが目的の量ではない。…と言うかこれオイルじゃなくてローションじゃないか…? 

 

 女性らしいスラッとしたお腹と、程よい弾力の腹筋を堪能しながら、マキの性感を丁寧に丁寧に刺激する。先程までのマッサージで、マキの何処が弱いのかは検討がついている。既にマキは、蜘蛛の糸に絡めとられた獲物そのものである。まぁ、どうやら本人が望んで絡めとられにきたようだが。

 じっくり溶かしてイタダキマス。

 

 指が体を這い回る感触にビクビク震えるマキ。先程までのマッサージとは、明らかに違う感覚を必死になって受け入れようとしている。

 ふーむ、大分敏感だな…。かといって自己開発した形跡もない。…生来、多感なタイプかな。多感症という程でもなさそうだが。

 肉体的にも精神的にも、エッチに興味津々の年頃のお嬢様、か。なんとも美味しい子だこと。

 

 

 指を滑らせる範囲を徐々に広げ、同時に口での愛撫もキス以上の事に進む。キスを中断した時、不安が混じった不満げな表情をされたが、マキの左脇腹の弱点を優しく擽ってやると、目を閉じてその感覚に浸り始める。

 俺はマキの耳元に唇を寄せ、マキの体がどんなに綺麗か、手触りがいいのか褒めながら、軽く甘噛み。

 

 舌先を耳に突き込んだ時は、流石に驚いたのか反射的に首を離そうとしたが、頭を固定して止める。柔道の関節技をかけるように複雑に絡み合いながら、負担をかけないように自由を奪い、マキの体勢を誘導していく。

 

 

「ちょっ、いきなりそれは…いくら何でも、マニアックな」

 

 

 いやいや、これくらい皆やってるよ。(ウチの連中には。あと風俗店とかでも珍しくはない)

 ま、恥ずかしいって言うなら、夢中になって恥ずかしいなんて思う余裕がなくなってからにしますよ、お嬢様?

 

 

「…辞めるとは言わないんだな…。と言うか……その、さっきから……恰好が…」

 

 

 俺の体に絡みつかれたマキは、相変わらず片手で胸元こそ隠しているものの、寝たままY字バランスでもしようとしてるんじゃないかと思う程に、大きく足を開いている。

 まぁ、開かせたまま動かしてやらないのは、絡みついている俺の足な訳ですが。

 俺達以外は誰も居ない無人島だからいいもの、誰かに見られたらマキは一生モノの恥ずかしい記憶を背負いこんでしまうだろう。………まぁ、数時間後にはもっと恥ずかしい恰好で、沢山の女の視線に晒されるだろうけどね。俺と関係を持った女の通過儀礼だね。

 

 

 ついでに言えば、マキがチラチラそっちに視線をやっているのは、2枚の水着越しとは言え、俺のナニがいきり立ちまくって、マキの大事な所にチョンチョン当たっているからだろう。無論、当ててんだよ。

 ふむ…。こっちばかり触るのもなんだな。

 マキもマッサージしてくれよ、コレを。

 

 

「え…。う………す、するのはいいんだけど、このままどうやって…」

 

 

 何、簡単さ。手を伸ばして触ってくれれうばいい。今、マキのおっぱいを隠している手でね。

 

 

 『見せろ』と『触れ』を同時に要求され、好奇心と恐怖感と羞恥心の間でぐらぐらしているマキは、気付いているだろうか? サンオイルでドロドロになった体が、どんどん触れ合って交じり合っていき、もう完全に触手に絡みつかれているのと同じような状態になっている事を。

 躊躇って時間をかければかける程、マキは囚われの身となっていく。

 

 

 

 …ちなみに、だ。これだけ好き勝手やれて、更には準備もできている。当然、オカルト版真言立川流の術をかけるのも余裕な訳で。

 

 

 

「っ……さ、触る…ぞ。……あんまり胸を見るな…」

 

 

 そんな事を言いながら手を伸ばしたマキ。数瞬躊躇って、先端に指を付けると…驚いたように腰を跳ねさせた。

 

 

「なっ、なん…これ…!? 私、触られて、ないのに…」

 

 

 何故って? そりゃーアレだよ。マキ自身が、触れられたような感触を感じたからだよ。

 言ってる事がよく分からない? …一言で言えば、感覚を接続したようなもんだ。ほら、好奇心と欲望に素直になって、もっと触ってみな。

 なぁに、恥ずかしがる事は無い。初めてのマキに、どうすれば男を悦ばせられるか実感させるためのサポートさ。

 

 ほら、こうするんだよ。

 

 

「いっ、あっ、あっ、あっあっぁっ」

 

 

 本来感じる筈の無い感触に突き動かされるように、マキの手が俺のモノに絡みつく。テクニックも何もない、ただ強く握って拙く上下に動かすだけの行為だが、そこにサンオイルと言うローションが加わっている。

 更に加えて、俺自身も露わになったマキの胸に手を伸ばし、オイルによって滑りを増した肌の表面を、思うさまに堪能した。

 

 胸を揉みしだかれ、耳を犯され、体を固定され、更には本来感じられない感覚に狂い、肉欲の味を急速に覚えていくマキ。

 全身から送り込まれる快感に夢中になっている。。

 

 堪えようと思えば幾らでも堪えられるが、拙い手技にあえて逆らわず、込み上げる射精の感覚に身を任せる。勿論、感覚をリンクさせている以上、それはマキにもフィードバックされていた。

 手を動かせば動かす程、急速に膨れ上がっていく未知の感覚に支配され、僅かに残った理性は『自分が男を悦ばせている』という充足感に満足し、あっという間に上り詰める。

 

 俺の射精に合わせ、マキの胸元を一際強く搾り上げてやると、全身を仰け反らせて痙攣した。発射された白濁が、マキの全身に降り注ぐ。精を浴びた体は、マグマでも浴びたかのように強い熱を感じているだろう。

 …それと同じ感触を、俺も感じていた。感覚がリンクしている以上、マキが感じている感触は俺にもフィードバックされるのも当然だ。自分の精の感触だと思うと、普通は忌避感があるのかもしれないが、生憎それは一切なかった。マキの感覚だからだろうか?

 

 

 荒い息を吐きながら、俺の体に絡みつかれたまま、グッタリとするマキ。嫌がっているのではない事は明らかだ。何せ、口元まで飛んだ白濁を、僅かとは言え自分から舐めとる程である。

 さて、本番の準備は既に充分と言えるが……このまま進めてしまっても、面白くない。と言うか、初体験でオーガズム決めさせたいので、準備が充分程度では足りない。だって俺の、処女には色んな意味でキツいし。

 

 もうちょっと絡み合いながら、色々やってみようか。

 最初の一発はちょっと舐めとる程度だったから…。

 体のあちこちを擦り合わせながら、シックスナインの体制に変えていく。ちなみにマキが上だ。

 

 …マキが上になっているのは、流石に組み敷かれてイラマチオされるのは苦しかろうという、極めて常識的な判断だ。判断なのだが…首にも背筋にも力が入らないマキの顔が、丁度ナニの上に倒れ込むような形になってんだよなぁ。むぅ、マキの頬ってばスベスベ。顔面にナニを擦りつけて汚すのいいよね。

 ほ~ら、早く体を立ち直らせないと、滲み出たお汁で顔がどんどんベタベタになっちゃうぞ?

 アンアン喘いでる暇は無いぞ? …勿論、俺はマキの足腰を固定し、舌先と指先で秘部から尻まで好き放題に堪能していますが何か? うむ、間違いなく処女の味…素晴らしいね。

 

 調子に乗り過ぎたか? と思いもしたが、むしろ逆。マキは体に力が入らない為か、逆に開き直って自分から肉棒に頬擦りをする。心底愛しい、と語っている表情は、まだ本番の味を知らない女がやっていいものではない。

 

 

「ああ、ひどい匂いだ…。生臭くて、強烈で、なんだか下腹にズンと来る…。悪いモノだ」

 

 

 モノ、じゃないだろぉ? これからマキを女にしてくれる、おちんぽ様って呼びな。

 

 

「おちんぽ様…。本当に、ひどい男だな、お前は」

 

 

 不意に、棒と袋が強く握り閉められる。ちょっ、力強すぎ強すぎ。棒はともかく袋はヤバい、タマが潰れちゃう。

 

 

「……お母様やミキも、コレを使って、そうやって辱めたのか」

 

 

 おぅ……気付いてた?

 

 

「幾らなんでも、あからさますぎる。最初はまさかと思ったがな。たった一晩で、お母様もミキも、キヨさんも態度が豹変したし、今朝だって大勢の女性と一緒に、別のコテージから出てきただろう。その中にお母様とミキが居たのもしっかり見たぞ」

 

 

 あー…。朝、俺をピンポイントで見つけたんじゃなくて、団体で居た時から監視してたのね。

 しかし、よくそれで俺を誘う気になったな。

 

 

「例え母と妹が相手であっても、西住流に後退は無い! 女癖の悪さについては、以前から聞いていたからな…。正直、思う所が全くなかったとは言わないが…」

 

 

 ウェストライブだろ。何処の世界の話しとんじゃ。

 とは言え、いい覚悟だ。感動的だな。決して無意味ではない。だって俺が嬉しいから。

 

 だがそれはそれとして、おちんぽ様とタマタマ様を手荒く扱った罰を与えねばならぬ。ていっ。

 

 

「んぃ!?」

 

 

 表面だけを弄っていた秘部と尻に、指先を少しだけ潜り込ませる。それだけでも、驚いたマキの体が硬直するには充分すぎた。

 その隙を突いて、握られていた部分を引っ張り出し、上下逆転する。今度は逆に開かれたマキの口に突き込んだ。

 

 初めてだと言うのに、強制的に男の味を突き付けられるマキ。驚きこそしているが、拒もうとはしていない。どんな行為でも受け入れるつもりのようだ。現に、マキが苦しくないよう配慮しているとは言え、上から抑えつけられてイラマチオされているにも関わらず、反抗する気配は一切無い。

 成程、ウェストライブに後退は無いと言うのは伊達ではなさそうだ。

 であるならば、後退どころかアクセルを踏んでやるべきだろう。何、オカルト版真言立川流にかかれば、イラマチオで感じさせる事など造作もないわ。と言う訳で、ほ~れぃ。

 

 

「ンッ!? んっ、ふむ、んっ、んっ、んんっ…!」

 

 

 小刻みに棒で、喉を小突いてやる。最初こそ驚いたようだが、息苦しさもなく、それどころか快感すら感じ、マキが言う「下腹にズンと来る」臭いの為か、逆に自分からもっと奥まで迎え入れようとする始末。

 それと同時に、俺はマキの下半身を弄り回し、迎え入れさせるための準備を進める。

 

 

 マキの体は初めて触るが、それでもどういう動きを好むのか、大体分かる。シキ、ミキ(通常モード)、ミキ(アラガミモード)というよく似た体の持ち主を、3人も抱いているからか。

 実際、マキの弱点は二人と非常に似通っていた。似通っているようで、確かに違う……。3人並べて味比べしても、確かに分かるくらいには。

 今からその時の事を楽しみにしていると、自分だけを見ろとでも言いたいのか、或いは単に慣れてきて反撃のチャンスを見つけただけか、一際強いバキューム。昂っていた事もあり、不意を打たれて堪えきれなかった。

 

 

 

「んんんっ……!」

 

 

 

 マキの中に、直接吐き出される欲望の白。喉の奥で撒き散らされ、強制的に注ぎ込まれるソレは、マキにどんな感触を与えただろうか。そこまでは感覚リンクさせてないから分からないが、どうやら不快ではなかったらしい。

 夢に惚けているような目で、乱れた息のままに倒れ込む。……少しだけ見えた、唇を舐め挙げる舌が艶めかしい。

 

 

 さて、もう少しマキの体で遊びたいとは思うが、いい加減本番に進めねば。このままだと、マキの意識が完全に吹き飛び、初体験の記憶も残らないくらいに消耗させてしまいかねない。

 マキの体の上から退き、正常位の体制に戻る。靄がかかったような目のマキも、これから自分が何をされるのか気付いたのか、少しだけ表情に理性が戻った。

 

 

「……………(クイ)」

 

 

 無言で、僅かに股が開かれる。来い、と命じていると言うよりは、「来てほしい」って表情だね。実にベネ。

 股の間に俺の体を差し込み、マキの体の上に寝そべるように体を倒す。

 軽いキスをして、挿れるよと宣言してやれば、抱き着いてしがみつかれた。ついつい体が逃げてしまいそうだから、そうさせないように…かな? まぁ、逃げられるだけの力が、腰に残っている訳でもないのだが。

 

 ぐっと腰を圧し込めば、まだ誰も迎え入れた事の無い媚肉が全力で締め付けて歓迎してくれた。今まで何人も女の初めてを奪ってきたが、この抵抗の強さはその中でも上位に入るだろう。それでもズブズブと侵入していけるのは、しがみついたマキの腰が逃げようとしないからだ。西…もとい、ウェストライブに後退の文字は無いと言うのは本気らしい。

 

 

「っ~~~……! い、痛くはないが、変な感じだ…」

 

 

 まだ気持ちよくはない?

 

 

「………………よ、よく分からん…。ただ、何だか…疼く…」

 

 

 ははっ、ならその疼きを沈めて、もっと変な感じにしてやらないとな。普通、初めての女はナカよりも、ココとかココとか、外の方が感じやすいんだが…ほら、どうだ?

 

 

「っ! そ、そこは、敏感な…っ!!!!」

 

 

 敏感だから触ってるんだよ? 怖がる必要はない。ただ気持ちよくなればいい。

 だから、「そこ」なんてわかりにくい言い方をせずに、もっとイヤらしい言葉で言ってみな。お手本を利かせてやろうか? さぁ、マキが一番好きなのは何処かな?

 おまんこ? プッシー? クリトリス? アナル? 子宮?

 

 一番欲しいのはどれだ?

 ちんぽ、ザーメン、キンタマ、ペニス、オトコ、オス汁?

 

 

「っ、わ、私は、私…は……」

 

 

 卑猥な突き上げと共に、耳元から囁かれる卑語。確実に心も体も蝕んでいるであろうソレを受けながらも、マキは呟く。

 

 

「私が…一番好きで、一番欲しいのは……君、だよ…」

 

 

 可愛い事言ってくれるね。ゾクッと来たよ…。

 で、それはそれとして、今一番欲しいのは、俺の何処かな?

 

 

「あ、あぅ……」

 

 

 小刻みな動きでマキの中を解しながら、意地でも言わせてやろうと、甘い性の味を送り込み続ける。心は恥ずかしがっていようと、マキの体は確実にそれを覚え込んでいた。

 どんどん中は柔らかく熱くなり、本人の意思を超えて昂ぶる体。それに溺れそうになるのを堪えているのは、恥ずかしさの為か、或いは倫理観が捨てきれないのか。

 尤も、そうであっても手の中で転がされるオモチャでしかないのだが。

 

 

「…………が……」

 

 

 もう一回。

 

 

「…………うぅ…」

 

 

 そんな目をしないで。ちゃんと聞こえるように言えたら、ご褒美をあげよう。こんなのとかね?

 

 見つけたマキの弱点を軽くこすり上げてやると、それだけでもどかしくて堪らないとばかりに首を振り、より強く抱き着いて来る。甘く注がれる刺激で、マキの中の致命的な『何か』が溶けていくのが分かる。

 流されまいとする抵抗も、もう形だけのものになっていた。

 

 さぁマキ、もう一回言ってみろ。今、一番欲しいのは、俺の何処?

 

 

 

「………が……き、君の、君の子種が欲しい! 私の中に、君の精液を注ぎ込んでくれ! 君との子供が欲しいんだ!」

 

 

 よっしゃ孕ませルートな! シキより先にハラボテにしてくれる!

 よく言えましたご褒美です、ただしエッチぃのでオシオキです!

 

 弱点でない所も開発して、全部弱点にする勢いでヤッッッッてヤるぜぇ!

 

 

 マキの望みをかなえてやるとばかりに、すっかり蕩け切った腰を鷲掴みにし、子宮までの道を強引に抉じ開ける。

 悲鳴ではなく嬌声が響き、マキの膣が強烈に収縮する。拙いながらも男を吸い取る為の動きは、確かに俺にも悦びを与えてくれた。

 

 …そして、俺がそれを感じていると言う事は、マキにもそのフィードバックが与えられていると言う事だ。貫かれながら貫く感覚に襲われ、強制的にそれに慣らされる。戸惑いが消え、理性も消え、ただ悦楽を享受する本能のみ。

 それでもノウハウやテクニックはまるで無いので、ただ抱き着いて締め付けるだけになっているが、それも問題ない。マキのどこをどう弄れば、どんな反応をするのか。それを逆算して、俺好みの締め付けになるように調整してやればいい。……調教しているとも言う。

 

 

「あっ、はっ、はぅ、お、おなかっ、あつい、 、  、つらぬかれぇ…!」

 

 

 呂律が回ってないマキの唇に吸い付きながら、体中を撫で回す。挿れている時と、そうでないときの反応は全く違う。体の奥を貫く棒が一本、あるかないかで何もかもが変わる。

 そしてその棒は、着実にマキの中心…子宮に向かって突き進んでいた。対して、マキの子宮は少しでも妊娠の確率を高めようとするかのように、或いはもっと快楽を感じられるように、自分から貫かれる位置に降りてきている。物理的にも、妊娠的な意味でも。

 

 

 腹を大きく膨らませたマキの姿をイメージしながら、ありったけの精を解き放つ。昨晩は大乱交を朝まで行っていたと言うのに、既に自分でも呆れる程の精が吐き出された。

 

 

「っっっっ……は、あぁぁぁぁ……」

 

 

 白濁を注ぎ込まれたマキは、言葉も出せずに崩れ落ちた。俺に絡みついていた腕も脱力し、必死で呼吸を整えようとしている。

 それでも唇を落とせば、躊躇いなく舌を絡み付かせてくるのだから健気なものだ。

 お腹を撫でてやると、その手に重ねるようにしてマキの手が置かれた。

 

 

「……でき……た、かな…」

 

 

 さぁな。ただ、先人曰く、「沢山すると出来やすい」らしいぞ。俺もまだまだマキの中で元気だし…もう一回、いっておこうか!

 

 

「さ、流石に休ませ……ぁん♪」

 

 

 

 

 

 

 抜かずの三発くらい余裕です。やろうと思えば10回でもいけるけど、時間が無いので途中で切り上げました。

 

 

 

 

 

 帰りの船の中で、マキは眠ってしまった。まー無理もないよな。むしろ、起きた後にも足腰立つか不安なくらいだ。

 無事に陸まで戻ると、ミキがニヤニヤと乙女がするべきではない笑み(今更だが)を浮かべて出迎えてくれた。

 

 

「パパ、おかえりー。…お姉ちゃん、上手くやった?」

 

 

 勿論。と言うか、予想してた……いや、嗾けたのか。

 

 

「結果的にはね。…お姉ちゃん、私とお母さんの事に気付いて、家族会議だって呼び出して………まぁその、色々聞かれたんで、お母さんと二人して焚きつけてね?」

 

 

 ナチュラルに姉を生贄にするなぁ…。まぁ今更だけど。

 

 

「別に生贄じゃないもん。お姉ちゃんも幸せになるから、全然問題ないもん。……倫理? 常識? 理論は知ってた」

 

 

 過去形な。

 まぁ、それはともかく、別荘に連れて行かないとな。まだ色々と跡が残ってるし。

 

 シキは風呂の用意?

 

 

「うん。多分、お姉ちゃんは倒れるか動けなくなって戻ってくるだろうから、って。まー誰でも予想できるよね。私はお姉ちゃんの世話をするけど、パパはどうする?」

 

 

 んー、抱いた女の後始末を、他の女に任せてフラフラと…ってのは幾らなんでも無責任が過ぎるな。俺もマキの世話を…。

 

 

「あ、それはお母さんからストップかかってる。絶対『お世話』じゃ終わらないし……私もお姉ちゃんから色々聞きたいし。何よりちょっとだけ一人にしておいて、思い出してジタバタ悶えるところを影から見たいですハイ」

 

 

 弄る気満々じゃねーか。まぁ、絶対に寝てる間にイタズラするから、それは反論できんけど。

 

 

「ま、朝は私達がお姉ちゃんに色々聞かれたんだし、逆襲もいいでしょ? ノロケるんだと思えば、お姉ちゃんだって嫌がらないだろうし」

 

 

 身内に下ネタ話すのを嫌がらないとか、それはそれで問題である。いやそうなった最大の原因は俺なんだけど、この一家に多大な素質があったのは否定できないと思う。

 まぁいいか…。

 どうせ、夜は夜でマキのお披露目になるんだし。ああ、シキも孕ませてやらんとな。

 

 

「も……って事は、ひょっとしてお姉ちゃん…」

 

 

 本人に聞け。さて、そろそろ飯の時間だし、今日もバーベキューの準備しますかね。

 ミキ達の飯はどうする?

 

 

「今日はお姉ちゃんの話を聞きながら、4人だけで食べるよ。……ところで、キヨさんが食べた物って、何処に消えてるんだろうね?」

 

 

 さぁ…。案外、分解されて本体の絵の塗料とかになってるんじゃないか? んじゃ、また後でな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …マキの事は気になるが、とりあえず飯の準備だ。…精のつくもの、差し入れしてやるべきかなぁ。いやでもそれって、色んな意味で意図が透けて見えるね。どっちにしろ、夜には2戦目が待っている訳ですが。

 今日のメニューは何だったかな。最初に狩りまくったモンスターの肉を、毎日使っているんだが……昨日はガノトトスとラギアクルスだったか。今日は……ドスファンゴとダイミョウザザミか。…焼肉より鍋の方がいいかな?

 

 

「団長、すみません団長」

 

 

 ん? コーヅィ? …………今朝見かけた時も思ったが、ちょっと…。

 

 

「言わないでください……。まぁ、なんです…歳を顧みろと言われると辛いものがありますが…やっぱり古女房はいいものです」

 

 

 お、おう…。新しい女房増やしまくってる俺には、耳が痛いな。

 で、いきなりどうした? 古女房とよろしくやってりゃよかろうに。

 

 

「ええまぁ、私はそれでいいんですが…他の若い子達がね。幸いと言うべきか、ほらあのG級の…セラブレスさんが連れてきた人達と…我々の猟団の何人かがくっついたらしいんですよ」

 

 

 ほう、そりゃめでたいな。破局せずに仲が進んでくれる事を祈るばかりだ。

 

 

「まぁ…それでハンターを引退します…なんて事になったら…ちょっと困りますけどね。何なら事務員として…残ってもらうのもありですが」

 

 

 あー、それいいかも。セラブレスの一族は、大体は小役人なんだとさ。しかも真面目なタイプの。経理を引き受けてもらうには丁度いいね。

 

 

「ええ…。あーと、少し話が逸れましたが…まぁ…そういう子達が上手く行くことを祈って…ちょっと下世話な世話をやいてみようかな、と思うんですよ」

 

 

 ……詳しく。

 

 

「はい。…とは言え、大した事じゃないんですが…所謂デートコースをセッティングしようかと思いまして。以前に一緒に仕事をしたハンターに話を聞いた事があるのですが…この近くには珍しい現象が起きる島があるんです…新月の夜にだけ起きる現象で…海水が引いて島までの道が出来ると言う」

 

 

 ……それ、珍しいか? 狩場で毎晩起きてないか? いや、あれは逆に島までの道が無くなるのか。まぁ泳いで行ける距離だけど。

 しかし、何故に新月…。

 

 

「潮の満ち引きは月と連動していると言いますし…その関係じゃないでは…? それはともかく、珍しいのはここからです。新月の夜…その島の中にいると…不思議な光の粒が降ってくる事があるそうなんです。ですが…それを見た者は、その時島に居る者だけ…。外から見ても…何も起きているように見えない…」

 

 

 光の粒、ねぇ…。

 

 

 …一つ聞くが、それは『降ってくる』んだな?  空に『昇っていく』ではなくて?

 

 

「は? は、はぁ…。私も…随分前に聞いただけなのですが…少なくとも、『降ってくる』と言っていたのは確かです。『まるで光る雪のように』……と言っていたのを…覚えていますから」

 

 

 …そうか。ならいい。話を続けてくれ。

 ……イヅチ…じゃないかな。あいつが居るなら、光が昇っていくし…。

 

 

「えー…その光景は、とても綺麗で、『一度見たら忘れられない』と言われたそうです…。ハンターとして考えれば…何かしらの異変の前兆や…モンスターの仕業を疑うべきなのでしょうが…それらしい痕跡も、何もないとか」

 

 

 ふむ…。しかし、それならシキ達が知らない筈がないと思うんだが。島までの道はともかく、そういう現象があると言うのは…。

 

 

「調べて…ガセだと思ったのかもしれません…。さっきも言いましたが、『降ってくる事がある』ですから…毎回起こるとは限りません。また…島の外からでは…それが起きていたとしても、見えません…。その現象が起こったと主張するのは…その島に居た数人のみ…」

 

 

 成程、そりゃガセかフカシだと思うだろうな。前にここの掃討を引き受けていた猟団の連中も、一度は調べたんだろうし。

 で? その非常に怪しい情報で、どうしようと?

 

 

「現象の是非はともかく……肝試しくらいには…使えるのではないかと…。もしもそういう現象に遭遇したなら…恐らくは思い出にはなると…思います。それならそれで…調査の必要は…ありますが」

 

 

 肝試しか…。悪くないね。驚く方に回っても、驚かす方に回っても。

 ああ、今回驚かされる方は、新しくくっついた連中か。精々ビビらせてやらんとな!

 

 しかし、コーヅィにしちゃ茶目っ気のある相談だこと

 

 

「はは……いやその、女房と出会った切っ掛けが…肝試しだったもので…。若い者を応援してやれと…女房が張り切ってるんです」

 

 

 尻に敷かれとるのぅ。いい敷かれ方のようだが。

 よし、そんじゃ一丁やりますか! しかし強制参加は良くないな。あくまで自発的に、釣られた形で参加してもらわんと。そして後悔してもらわんと。

 

 

「何をする気ですか…。あくまで若人への応援…そう、これは…応援…! ぶち壊しにしてしまうなど…論外ッ…!」

 

 

 冗談冗談、怒るなって。

 やるとしたら、飯…と宴会芸大会の後、腹がこなれてからだな。今のうちに何か仕掛けるか?

 定番はコンニャクだが、この時期だと嫌な塩梅にヌルくなるな…。釣り針でも中に仕込んでおくか。

 

 

「何を釣る気ですか…。仕込んでおいても、喰い付くようなハンターは…………何人かいますね…。危険なので…却下…!」

 

 

 ちぇっ。

 

 

 

 

 

 

 

 危険なトラップはともかく、事前調査と仕掛けは大事だ。飯の準備は他の皆に任せ、俺はコーヅィと共に船で件の島へやってきた。

 …ふむ、小さな島だな。歩いて回っても、10分かかるまい。

 それでいて木々は多く、見通しが悪い。足元注意の必要はあるが、返って好都合な島だな。隠れる場所や仕掛けを作れる場所が多くあって、前の人が見えない。

 

 念入りに調べてみたが、モンスターが居る気配はない。……それはそれで不思議だな。何もない島ではあるが、寝床としては適しているだろうに…。

 ついでに言えば、イヅチも居そうになかった。光が降ってくるという現象に会ってないから断定はできないが、少なくとも俺がブチ切れはしなかった。

 

 

 うーむ………どう仕掛けてくれようか。何人か配置する場所は決めたが、今一つなぁ…。決め手に欠けるなぁ。

 念仏垂れ流しても、ここの連中に南無阿弥陀仏なんて意味通じないから、不気味な呪文にしか………あれ、それって雰囲気作るには充分って事じゃね?

 

 考えてみりゃ、ここにはレコーダーみたいに音を記録したり再生したりできるモノは無いんだから、仕掛けておけば『風に乗って不気味な呪文が…』みたいに、本気で驚かせられるかもしれん。

 

 うむ、漲って来たw

 

 



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308話

飲まなきゃやってられねぇ!
アサシンクリードとバイク免許で浮かれていたら、俺が居ない5分くらいの間にスタッフが大ポカやらかすし、俺自身も仕事のミスが続くし、些細な事から上司に説教くらうし、挙句訳の分からない所に拘る客にブチ当たるし、転勤の可能性が出てくるし、最終的には本物のキチガイがやってくる。
最後の奴は、警察か黄色い救急車に任せるべきだった。報告があと3分早ければ迷わず呼んで、逮捕まで間に合っただろうに。

これ、全部この5日間の出来事です。
やっぱ何かに祟られてるのか?

あ“~、こういう時にこそバイクだ、バイクでどっかの川沿いとか田んぼが広がる道とかをのんびり走るんだ…。
いや飲酒運転はしませんよ!

免許更新も済んだので早速バイク店に行ってみようとしたら、ものの見事に休日だった。

これでバイク買った直後に事故ったら、間違いなく祟りか呪いだな…。


PS4月

 

 さて、昨晩の肝試しだが………大成功を収めたと言っていいだろう。ただし大惨事だ。

 

 

 …え、何を言ってるのか分からない?

 ならばまずはこれだけは宣言しておこう。

 

 

 

 俺は悪くぬぇ。イヤマジデホントニ、俺は悪くヌェ。

 

 

 …なんつーかね、コーヅィも冷や汗垂らしてました。誰が悪いって訳じゃないんだよ?

 ただ、ちょっと熱が籠り過ぎたんだろうなぁ。

 

 

 誰のって…勝てなかった方々のね。

 勝者が居れば敗者が居る。これはどうしようもない事だ。毎度毎度、全員ハッピーで丸く収まってWin-Winなんて出来やしない。人間関係だと特に。

 

 そう…このバカンス兼合コンで、上手く異性をゲットしたりゲットされたりした者が居れば、狙っていた油揚げを鳶に掻っ攫われた人だっているのだ! 優良物件は競争率が高いからね…猶更ね…。

 優良物件に幾ら群がっても、番いになれるのは一人ずつ。それに敗れたからと矛先を変えても、妥協の産物であるのは目に見えているし、妥協先は妥協先で同じような事を考えた連中が群がっていたりね…。

 

 二股かけようとした剛の者も居たらしいのだが、それで今後の人間関係に悪影響が出たら…と言うより、それが露呈したら、この旅行を考え、実行したセラブレスやミーシャや領主のシキ、ついでに俺の顔に泥を塗る事になってしまう。考えるまでもなく、その後は最悪の結末が待っているだろう。

 …普通はそうなるんだよな、普通は…。まぁ、普通であるより統率がとれたハーレム率いる方がずっといいけど。

 

 

 ついでに言えば、引っ込み思案だったり、見栄張って「そんな事どうでもいい」と言い放って後戻りできなくなったり、純粋に見向きもされなかった方々も居てね…。半分くらいは自業自得な面もあるんだが、それでもカップル爆発しろの呪詛が際限なく膨れ上がって…。

 

 

 …まぁ、一線を越えたり、直接的な危害を及ぼさなかっただけまだ理性的だったと考えておこう。

 某煩悩霊能力者と、全方位噴射式超迷惑執事と、プリズマな世界に突拍子もなく湧いて出た万華鏡式ステッキが面白がって事態を引っ掻き回したしたような、酷い惨状が出来上がったが。

 アレを文章、ないし絵として記録する力は、俺には無い…。ビデオで記録してたって怪しいもんだ。

 

 

 とりあえず結果から言うと、島は無事だった。消し飛んだりはしてない。あんまり近寄りたくないが。

 

 成立したカップル達も無事だった。ちょっと性癖が歪んだりしてしまった節があるが。

 …例えば? …そうだなぁ…。あまりの恐怖に、パートナーの前で漏らしてしまった奴が、「見られてると思うと、ゾクゾクっとして催すように…」とか呟いたり、マジ泣きしてしまった男を見てSに目覚めつつある女性が居たり、初体験の筈なのに邪教の儀式風プレイ(しかもアオカン)に目覚めてしまった子が居たり…。

 

 え、最期の? 

 

 ……黙秘します。

 俺だけじゃないのよ、そこそこ経験があって手が早いの…。まー、遊びのつもりじゃなさそうだから、俺は何も言わないけどさ。

 

 

 

 

 

 いや俺もやる事ヤッたけどね。昨日もそうだったけど、あの子のダンスがまた煽情的でなぁ…。自覚がないのがまた…。

 バルンバルンダンス、素晴らしいね。ついつい、同志と一緒にあの子を乳神様への生贄にしてしまった。

 むぅ、乳神様だけではバランスが悪いな。誰か尻神様へ…しかしそうなると、うなじ神様とか脇神様とかにも……悩ましい。

 

 

 

 とりあえず、なんだ、カップル成立して、敗者達は憂さ晴らしも充分できたし、肝試しはともかく次の合コンの話も進んでるし、いいんじゃないかなコレで。

 

 

 

 

 

 

 …で。それとは別に、ちと問題が……ある、のか? うーん……ぶっちゃけ、ただ夢を見ただけなんだが。俺の夢って色々普通じゃないからね。

 でも、今回はミキもそれらしい夢は見たりしなかったようだし、いつも見るどこぞの世界に放り出されているような夢とも、また違う。

 

 かと言って、単なる夢だと思うには迫力があり過ぎたし…。

 アレと関係があるのかな。コーヅィが言ってた謎の現象。あの、謎の光が振ってくるという現象に遭遇したんだ。ただし、遭遇したのは俺一人で、極めて短時間。

 肝試しの仕込の為に一人で行動していたんで、他に確認できる奴はいない。この現象の原因っぽいモンスター、クサレイヅチ、その他諸々の気配も無し。白昼夢を見ていたんだよ、と言われると、納得してしまいそうなくらいだ。

 

 

 若干の警戒を抱きつつも、やはり何事もなく肝試しは(リア充達の阿鼻叫喚の内に)終わり、 本日もよろしくヤってマキやネリやショーカをお披露目して眠りについた。

 

 

 

 …夢を見たのはその時だ。ふと気が付くと俺は、星明かり一つない空間に立っていた。足元すら見えない真っ暗な闇の中、落ち着いていられたのは似たような状況を知っているからだろう。GE世界の電脳空間によく似ている。

 いや、それより何より……そこに居た一匹の龍から、目が離せなかったからだろう。

 

 

 

 

 ミラボレアス。

 

 

 いや、違う。体が白い。

 

 

 ミラルーツ…。

 

 

 

 

 

 これがミラルーツ。

 

 

 

 

 

 格が違う。はっきりわかんだね、いや本当に。半ば夢だと気づいてなかったけど、ガチで死を覚悟した。仮に夢だと確信していたとしても、それを忘れて自分の死を確信しただろう。

 デスワープじゃなくて、文字通りジ・エンドの死。ループ終了。投稿打ち切り。人生アカバン。

 

 

 

 無。

 

 

 

 そこから立ち直れたのは、怒りのおかげだ。…いや、おかげとは死んでも言いたくないが。

 クサレイヅチの気配を感じた。

 

 

 ハンターとしてもゴッドイーターとしてもモノノフとしてもお粗末な事に、俺の脳みそは絶対強者(ティガレックスなぞメではない)の事を即座に放り出し、クサレイヅチをブチ殺す事だけで満たされた。もしもこれが現実であったなら、気を逸らした瞬間にミラルーツの体当たりでお陀仏だったろう。

 そうならなかったのは………多分、あのミラルーツ? が手加減したんだと思う。

 

 

 俺が我に返った(夢から覚めた訳ではないが)のは、ミラルーツのパンチで何度か吹っ飛ばされてからだったようだ。体があっちこっち傷だらけだった。多分骨も折れてた。夢の中で、だけど。…ガチで痛かった…。

 

 ぶっ飛ばされて我に返って、真っ暗な空を見上げて…ふと目をやったミラルーツに違和感を感じた。全身から、淡い光が零れている。

 ミラルーツの鱗粉なんかあったっけ? と思っていたら、それはあの時に目にした光によく似ていた。島で見た、空から降ってくる光に。

 

 

 訝しむ暇もなく、攻撃を仕掛けてくるミラルーツ。

 ミラボレアスですらあの戦闘力だったのだ。ミラルーツの攻撃何ぞ喰らったら、タマフリも効かずにお陀仏しちまう。

 必死こいて避け、とても効いているとは思えない反撃を繰り返すうちに、段々と違和感を覚えていった。

 

 

 

 手加減されている。それはいい。

 

 

 でも、あの戦い方は……俺が間違える筈がない。

 

 あの戦い方は、ハンターの戦い方だ。

 そしてゴッドイーターの戦い方で、モノノフの戦い方でもある。

 

 

 俺と同じ戦い方だ。間違える筈がない。

 

 

 確かに、武器も神機もタマフリも使ってない。

 あの龍が使ったのは、ゲームにもあったような物理攻撃、雷、ブレスのみ。だけど、あれは……物理をハンター、雷はタマフリ、ブレスをオラクルバレットと考えれば、見事な程にしっくりと来る。

 コジツケではない。あの使い方、タイミングは、明確な戦術戦略に基づいたものだ。最強最悪を通り越して、どうにもならないような古龍が扱うような戦い方じゃない。

 

 何よりも、あの理性的なのに機械的な、無機質な視線! 生物との命の遣り取りではない。あれは『獲物を狩る』という事だけを考えている目だ。ハンターの究極系ともいえる姿だ。

 そう、あのミラボレアスは俺を狩ろうとしていたのだ! その上で、殺さないよう手加減をした。

 

 まるで、師匠が未熟な弟子に稽古をつけるように、俺の動きを見通し、押し返し、時に手痛い反撃を加えながらも、トドメを刺さずに戦い続けた。

 

 

 

 夢のような…いや実際に夢だったと思うんだけど、夢幻のような時間だった。あのミラルーツに一矢報いてやるという気概と同時に、奇妙なシンパシーすら感じた。

 

 

 

 それから、どれくらい戦い続けただろうか。アラガミ化も鬼杭千切も含め、打てる手は全て打ったのに、ミラルーツは無傷のまま。逃げる事さえ出来ない実力差。

 にも関わらず、なんだか妙に楽しくて。

 さぁ次はどうしてみよう。そろそろ残弾が、文字通りの命しかなくなってきた。しかし単なる自爆では、一矢程度にもなりゃしない。さぁこの命、どう使おうか…。

 

 

 

 …そんな風に考え始めた頃、ふとミラルーツが距離を取った。ノシノシと向きを変え、何処ともなく…進行方向に生み出された、真っ暗な穴へと去っていく。最後に俺を一瞥して。

 

 その体から零れ落ちるキラキラした光は、何も無いようにしか見えない癖にしっかりと踏みしめられる地面を通り抜け、落ちて、堕ちて、墜ちて。

 

 

 

 コテージの中、女に埋もれて眠る俺に吸い込まれた。

 

 

 

 …あー、なんだ、その、長々と語ってしまってすまぬ。他人の夢の話を聞く程、無駄な時間はないのにな。

 ただ、色々と思いついた事とか気付いた事とかがあって、ちょっと心を静める為に語ってみたんだ。

 

 まず気付いた事を、順番に記していく。

 

 

 あの島で見た、降ってくる光と、夢の中で見た俺に吸い込まれた光。あれは因果だ。

 イヅチカナタが喰らう因果。それが何故、ミラルーツから零れていたのかは分からない。

 

 が、例えば…だ。あの島で見た光は、俺に降り注いだ。因果が降り注いだ。…つまり……ミラルーツから零れ落ちた因果が、俺に吸収された事にならないか?

 ミラルーツから吸収した因果が俺に宿った為に、俺はミラルーツの夢を見た。夢の中でミラルーツと戦って、その戦いの最中に零れ落ちた因果が、島に居た時の俺に降り注ぐ。

 

 時系列が前後しているが、イヅチの仕業だと考えると不思議はない。奴は時間軸を行き来するからな。

 あの暗い場所がイヅチの巣穴だったとしたら(討鬼伝世界で一度見た時は、沢山星のようなものがあった気がするが)、ミラルーツは何故そこに居るのだろうか。

 まるでイヅチカナタを追いかけているような。

 

 

 

 

 

 

 

 と、ここで俺に電撃的天啓が走った。

 

 

 

 ミラルーツとミラボレアス。この2体は、嘘か真か、非常に近い個体だと考えられている。同族だが、祖龍ミラボレアスが憎悪に染まり、黒くなったのが邪龍ミラボレアス。

 では、俺が遭遇したミラボレアスは、何から現れた? そう、人間から現れた。

 

 と言う事は、あのミラルーツも、元は人間…?

 憎悪に染まった、シキの元カレはミラボレアスになった。対して、あのミラルーツの元になった『誰か』は、憎悪や怒り、喜びさえ忘れ去り、ただ純粋な何かを宿して変化した結果…或いは、宿っていた何かが全て零れ落ちてしまった結果、ミラルーツになった。

 

 

 そう考えると辻褄は合う。あの戦い方は、明らかに人間のものだ。

 アラガミ因子に乗っ取られ、完全に姿形が変わってしまったハンター。そう考えれば、あいつの戦い方は納得がいく。

 

 …ゴッドイーターとモノノフの戦い方を除けばね。

 

 

 

 が、これも説明する方法がある。あってしまう。

 

 

 1体目のミラボレアスは俺達が葬った。…が、あの時のミラボレアスが…アラガミに侵食されたハンターが1人目だと、誰が保証できる?

 居たんだよ。あいつよりももっと前に現れたミラボレアスが。

 俺と同じように、何度も死を繰り返しながら、3つの世界の戦う術を集めた『誰か』が。

 

 そいつが何らかの切っ掛けで、アラガミ細胞に完全に呑み込まれながらも自我を保ち、デスワープしなかったのがミラルーツ。

 イヅチカナタを倒す為、龍となった姿であの空間を彷徨い、追い続ける。

 因果が体から零れ落ち、何故イヅチカナタを追っているのか忘れても、戦う術だけは覚えたまま、ずっとずっと追い続ける。

 

 

 

 

 俺も、いずれそうなるんだろうか。

 もしも上記の推測が当たっているとすれば、イヅチカナタを倒せなかったとしても、何れ俺のループは終わり、時間と空間の狭間を彷徨い歩く存在になる。

 そして次のループに巻き込まれる『誰か』が現れる。この現象の本当の原因を根絶するまで、それは続く。

 

 

 

 

 これも妄想と言われりゃそれまで何だが…不思議なくらいに確信がある。まるで、自分がそれが事実である事を確認したみたいに。

 …ミラルーツから零れ落ちた因果か? イヅチに因果を喰われると、色々な事を忘れてしまったりした。じゃあ、逆に因果を付け加えられると? …知らなかった事を、いつの間にか知っているようになる?

 有り得るなぁ…。

 

 

 

 

 

 まぁ、何にせよ……元がハンターであっても、モンスターに負けた事には変わりない。

 いやモンスターだろうがハンターだろうが、ゴッドイーターだろうがアラガミだろうが、モノノフだろうが鬼だろうが。

 

 

 

 悔しい。

 いつかリベンジしたる。

 

 

 

 

 

 

 

PS4月

 

 

 そろそろバカンスも後半かぁ…。なんかこう、色々あったような、そうでもなかったような。

 もうちょっとダラダラしていくのもいいんだが、あんまり長く休むと気力が逆に萎えるからな。

 

 …しかし…朝から晩まで盛ってた記憶しかないな。いや、夢の中とは言えミラルーツと遭遇とか、サンマ人間とか、結構なインパクトはあったけど。

 

 

 ちなみに、現在もアリクイさんチームとよろしくヤッていたりする。

 何故か野外でTRPGに興じていたナルガニャー(瓶底眼鏡)・ケチャガー(ケチャワチャの眼帯)・ヒプタン(ヒプノック素材の髪紐)の3人に混ぜてもらったら、流れでね。ちなみにこの名前、全てコードネームである。本名は恥ずかしがって教えてくれない。

 ちなみにこの子達、ミラボレアス戦で動けなくなったハンター達を最も多く助けて協力をとりつけた、影の立役者だったりする。

 

 まー、元がパンツァー猟団だけあって…と言うのも何だけど、この子達もミキのお手付きだ。それはもうしっかりと躾けられていました。

 …TRPGで、ちょっとエロげなシナリオになったら、ついついその気になっちゃって、屋内だとレズプレイに走ってしまうくらいには。

 最近そればっかりで、TRPGが最後まで出来ないのが悩み。『外でやればいいじゃない。他人に見られてれば、流石にそんな雰囲気にはならないでしょう』という結論に落ち着き、実際成功していたんだが……俺が来ちゃったからねぇ。

 

 美味しゅうございました。ナルガニャーの眼鏡を外した顔も可愛かったけど、瓶底眼鏡にぶっかけもいいものだ。ついでに言うと、結構発育がいい。

 本人達も、TRPGより気持ちよかったと言ってるし、問題はない。そもそも、俺のちんぽケースにするべく躾けられていた子達なので、あまり抵抗もなかった。

 

 

 しkし、TRPGって初めてやったけど、結構面白いもんだな。

 

 

 

 

 

 それはともかく、今日も今日とて一日遊んでいるが、皆が皆海に出る訳ではない。

 カップル成立して二人きりになりたい奴らは何処ぞに姿を消しているし、二人きりでなくてもいいから思い出作りにと、近所の観光名所を巡り歩いている者も居る。

 

 俺も、適当な理由を作って何人か誘い、肝試しに使った島に行ってみたんだが……隠す物の無いビーチで思いっきり乱交したくらいしかなかったな。うん、いつもの事なので特筆すべきでもない。

 あの光が降ってくる現象も、ミラルーツらしき気配も、何も感じられなかった。ただただ、昨晩回収されてなかった、ヌルいコンニャクをゴミ袋に詰めるだけである。

 

 

 

 適当に性欲を満たしつつ(つまりそれだけ食い散らかした訳だけど、骨までしゃぶり尽くすので修羅場は起きないと思う)ブラブラしていたら、レイラとプリズムが目に入った。そういや、泳ぎの練習させてるんだったな…。

 ギスギスした雰囲気も無くなって、本当に良かった…。

 

 

 …まぁ、レイラの練習はかなり過酷だったらしく、今度はプリズムの方が少々オコな気配があるが、それは置いといて。

 うーす、泳げるようになったのな。

 

 

「っ…は、何ですか…? 潜っていたから声が…」

 

「泳げるようになったんだな、だとさ。全く、教えるのに苦労したぜ」

 

「私は教わるのに命の危機を感じましたけどね…!」

 

 

 どうどう、抑えて抑えて。

 つーても、あんまり長く潜ったり泳いだりはできないみたいね。

 

 

「当然でしょう。ハンターを基準にしないでください…。私は数年以上も不健康な生活を送って、ようやく運動し始めたばかりの一般人ですよ」

 

「言ってて虚しくならないか? まぁ、昔っからドン臭い所はあったと思うけど」

 

「そこまで酷くは無かったと思いますが…。ハァ、しかしいい運動になりました。海と言うのも楽しいものですね」

 

 

 平和で安全が確保されてれば、だけどな。一回大津波にあって、えらい目にあったぜ…。(あの時のナバルデウス、張り倒してやりてぇなぁ)

 しかし何だな、レイラはバカンス中に遊んでないのか? 俺が見た限りだと、ずーっとプリズムに泳ぎを教えてたと思うが。

 

 

「あー……いやそれは…」

 

「それがですね、この子ったら『遊び方が分からない』なんて言うんですよ」

 

「なっ、テメッ!」

 

「これまで時間を見つけては、鍛錬鍛錬鍛錬鍛錬。穿龍棍を振り回して、誰かと遊びに出かける事すらしなかったそうです」

 

 

 そりゃオメーもだろ。鍛錬どころか何もせずに引き籠ってたのは誰だ?

 

 

「聞こえませんね。で、何をすればいいのか呆けていた所に、私の泳ぎの練習って建前が飛び込んできたんです。休憩時間にポツポツ語り合ってはいましたが、結局私の練習以外、何もしてないんですよね、この子」

 

「う、うっせーな…。仕方ないだろ。お師匠様の仇討ちだけ考えてきたんだ。…海で出来る遊びって言っても、泳ぐのも釣りも狩りの一環としか思えないし、砂で出来た城なんぞ作っても何が面白いのか分からない」

 

 

 難儀なやっちゃの、本当に。まー鍛錬以外に何かしようって気になってきたなら、それは進歩と言っていいんじゃないかな。

 しかし、それだとレイラは楽しくなかったか? …いやこの言い方は卑怯かな…。

 

 

「いや? それとこれとは話が別と言うか、確かに開放感は満喫してるし、頭をカラッポにして狩りをしない日を作るってのも悪くない。晩飯時の……ライブと言うかのど自慢コンテストと言うか隠し芸大会とか、まぁかなり楽しめたしな」

 

「レイラ、あなたも参加してみてはどうですか」

 

「…穿龍棍の演武くらいしかできる事ないな。或いは……お前とガチでやってみるとか?」

 

 

 止めろ、ハンター同志の諍いだと思われたらギルドナイトがすっ飛んでくる。

 体を動かす以外で趣味は無いんか?

 

 

「……あるにはあるな。創作料理のレシピ考案とか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その沈黙は何だよ!?」

 

「いえ………その………………ひ、被災者は何人居ますか?」

 

 

 その古龍は何て名前だ?

 

 

「人の作った飯を災害だの古龍だの扱いしてんじゃねぇ! ちゃんと食える飯だよ! お師匠様にもキッチンアイルー達にも評判良かったんだからな! ついでに言えば、レシピ考案だけじゃなくて実際に作るのだって出来た!」

 

 

 何故過去形。

 

 

「…お師匠様が亡くなってからは、レシピ考えてる暇があったら、穿龍棍をどう振るうかを考えてたから…。自分で料理するのも、ずっとやってないな。久々にやろうかな…」

 

「…逃げるべきでしょうか? これは我々が味見役に選ばれる流れ…」

 

 

 いや、逃げるなら逃げるでスケープゴートを用意する必要がある。

 それに、案外美味いかもしれん。

 

 

「ですが…レイラですよ?」

 

 

 それはそうなんだが、キッチンアイルーが料理の事で世辞を言うとも思えん。ハンターは野外での肉焼き魚焼きのみとは言え、料理も一応仕込まれるし…。

 

 

「テメーら聞こえてるからな。目にモノみせてやる…。元は簡易食糧とかがあんまりにも味気ないから、何か美味く食べる手段はないかと考え始めたんだよ…。必要に駆られてって事だ。と言うかそっちはどうなんだよ。料理とかできんのか?」

 

 

 多少は。元の世界に居た頃は情報が溢れかえってたし、有名な料理の作り方なら頭に入ってる。大雑把極まりない男の料理なら出来るぞ。

 討鬼伝世界で、和食のノウハウを教わった事もある。

 

 

「え、う……私は…その…」

 

 

 …レイラ。ちなみに料理以外の家事は?

 裁縫。

 

 

「破れた服を直したり、そこを目立たせないカバーを付けるくらいなら出来る。一から作るのは流石にやった事ないが、方法だけなら旅の途中に教わった事があるぞ」

 

 

 洗濯。

 

 

「必須項目だろ? 洗ってもいない服じゃ、モンスターに臭いで気付かれるじゃないか。不衛生だと、思わぬ病気に繋がる事もあるし」

 

 

 掃除。

 

 

「根無し草で放浪してたから、部屋の中を散らかすって事がまず無かった。宿に泊まる時も、あんまり散らかしたままだと苦情を入れられたり、後で揉め事になる。勿論、バカンス中に泊まっている部屋もちゃんと片付けてるぞ」

 

 

 財布の管理…。

 

 

「これらを全部自分でやってたのは、下手に店に頼むと一人旅している間に資金が尽きそうな事に気付いたからだ。一時はクエストを受領する時の契約金すら無くなりかけた。金が尽きちゃ、旅もできんし、情報も手に入れられんし、仇討ちもできん」

 

「ひょっとして、フロンティアに留まっている今でも…」

 

「そりゃ、堕落して身に着けた技術を失うのも勿体ないし」

 

 

 女子力、いや主婦力高ぁい! これで飯まで作るようになったら、殆ど完璧超人じゃないか! コミュ障気味なのと服装の問題を除けば!

 ……ち、ちなみにプリズムは?

 

 

「ゑ゛。………そ、その、昔はやっていた…のですが、それもお手伝いくらいしか出来ない幼い頃でして…その後は歌の力が発見されて歌姫として扱われ、料理や掃除をするのはトッツィ達が全てやってくれるようになり…最初は手伝おうとしたのですが『歌姫様にそのような事をさせるなんて、とんでもないですニャ!』と…。初めて包丁を握って、指を少し切ってしまっただけで大騒ぎになりましたし。引き籠っていた頃は言うに及ばず、部屋は散らかってこそ居ませんでしたが、それも何もせずにただじっとしていたからで…」

 

 

 判定、レイラの完全勝利!

 何だこの完璧超人。

 

 

「泣きますよマジで! いえ、そう言われても仕方ない有様ですけど! …いえ、まだ、まだワンチャンあります! レイラが実は料理下手で、或いは長年やってなかったから腕が墜ちまくっているという可能性が!」

 

 

 

 

 …微粒子レベルでも存在しなかった。と言うか普通に美味かった。

 本人は『腕が落ちたな…』って不満そうだったけど。

 

 

 プリズムは崩れ落ちていたが、残さず食っていた。…食い意地の為か、それとも心にダメージを与えるような料理でも、妹が作ってくれたものを残せなかったのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 うーん、なんというかプリズムは歌関係のスキルに極振りしてるタイプだな。その分、歌は本当に凄いんだが。

 と言うか持ち歌何曲あるんだ。今日のはレイラに、女として敗北したやるせなさを存分に乗せた演歌だった。

 

 …しかし、本当に立ち直ったんだなぁ、プリズムもレイラも。今日の会話の中でも、トキシの名前を自然と出していたが、あまり落ち込むような様子は無かった。寂寥や後悔が無くなったのではないだろうが、過剰に引き摺ってはいない。

 二人の仲も、良好…だと思う。俺も悪くは思われてない筈だ。

 何せ、このバカンスが終わった後、レイラにちょっと付き合うように頼まれたしね。

 

 …トキシの墓参りに行くから、って。

 墓と言っても、そこに何かがある訳じゃない。遺体は見つからなかったし、唯一見つかった得物のコーレクラフィーは、いつか復活させようとレイラが持ち歩いていた。

 歌姫達の里があった場所は、モンスター達がうろつき回る森のド真ん中なので、下手な人工物を作っても即潰されてしまう。だから墓を建てたのは、トキシの死に場所からも里からも遠い場所。

 実も蓋も無い言い方をすれば、何もない所に土饅頭を作り、「これがあの人の墓だ」と主張しているようなものだ。何処か別の場所に同じような墓があれば、どっちが本物か分からなくなる程度には。

 

 それでも、トキシの墓はレイラが作った墓だと思っていいだろう。少なくとも、レイラ以上にトキシと縁が深い人間は、多分居ないから。

 ……供養されずに霊が残ってたりしないよな?

 

 

 

 

 

 追記

 レイラは隠し芸として、仕留めてきたガノトトスの解体ショーをやっていた。何で穿龍棍で包丁の代わりが出来るんだ…。

 

 



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309話

アサシンクリードクリアです。
こっからはやり込みの時間。
サブイベント多いなぁw
作業感バリバリになりながらも、EDF発売まで遊びますw


PS4月

 

 

 海から離れて、今日は観光。地元の事だけあって、領主一家やマオの案内が光る。

 突然団体でやってきて、迷惑にならないかな? とは思ったが、杞憂だった。一応観光地だからか、団体客を捌くのはお手の物らしい。

 こっちとしても、気を使って極力バラけて飯食ったりしたしね。

 

 土産どうすっかな…。と言うかどこまで配ろうか。

 猟団ラサマの連中は結局来れなかったから確定として、レジェンドラスタの皆のはどうしよう…。下手なモン買ってもなぁ…。あんまり無碍にはにはされないだろうけど、意表すら突けないのはちょっとつまらない。

 

 定番の土産と言えば、ご当地名物の饅頭とか食い物、写真…は無いから風景画、そこにしか居ないモンスターの素材で作ったアクセサリ…。下手な物持って帰っても、迷惑になるだけだしな。

 いや冗談半分で迷惑な物贈るのはいいんだが、その場合ちゃんとした土産も持って行かないと。

 

 後は……そうだ、調味料とかかな。デスソースは禁止。

 どうしようかと悩んでいると、一緒に観光していたアキャマが超興奮していたのに気が付いた。何事かと思ったら……模型? …戦車、か?

 なぁマキ、これ何?

 

 

「ああ、それか。完成こそしてなかったが、ウェストライブ領はハンター支援の一環として、戦車を何代も前から研究していた。実用性はともかくとして、他の土地では見られない珍しい物だから…と、ウェストライブ領名物として売り出そうとしていたんだ。…まぁ、肝心の実物がロクに動かず、滅多に動かす事も出来ないんで、土産物を見ても『何だこの車輪のついた箱』としかならなかったがな」

 

 

 ふーん、全然売れてなかったのか?

 

 

「いや、珍しさもあるが、何かデザインが気に入ったり、アキャマ君のように……本人を前に言うのもなんだが、ニッチかつ熱狂的に気に入る人がちょくちょく居て、そういう人達が纏めて買っていくんだ。安定した需要はないが、時間経過で品質が悪くなる訳でもないし、時々大きなボーナスになってくれる…らしい」

 

 

 へぇ…。これからはそういう人も増えるかね。

 来年以降も、今年の同じようにバカンスするのだとしたら、戦車を使ってフロンティアまで迎えに来てくれるか?

 

 

「む…。予算の都合をつけねばならないが…アピールとしては有効だな。それまでに完成版を作り上げ、モンスターとの闘いに有効という事も証明できれば言う事は無い」

 

 

 夢が広がっているようで何よりだ。…そういや、新しい戦車を増産するとしたら、その素材は…。

 

 

「………よろしく頼むぞ。今のモノを作成する時に徹底してデータを取っているから、『これは合わないからもう一回』と言う事は少なくなる筈だ」

 

 

 思い返せば、酷い話だったよな。…まぁいいや。俺もコレを買って行こう。

 回りに回って、マキの研究資金にもなりそうだし。

 

 

「自由に出来るのは雀の涙より少ないが、気遣いはありがたく貰っておくよ。…………と、ところでだな…。土産もいいが、何かこう、忘れてないか?」

 

 

 ? 昼飯なら食ったが。

 

 

「そうじゃない。なんだ、その……こういう事を自分から言うのは浅ましいとは思うが、私だって一人の女として…いや抜け駆けしようという訳ではないが、特別な『印』に憧れはする。君にしてみれば、何人も居る女性の中の一人でしかなくても……ああ、愛情や誠意を疑っている訳ではないぞ。…コホン、唯一の伴侶でなくても、深い仲にはなった事だし、な? 何でもいいから、記念と言うか証拠と言うか、な?」

 

 

 はっはっは、人に要求をする時は、もっと上手にやらないと伝わらないぞー。

 

 

 

 ……はっ!?

 

 

 …み、見られている。見られているッ! 貴様、見ているなッ!…ではない。貴様『ら』、見ているな!

 と言うか、ここに居る全員から物凄い視線が送られているッ!

 一見、それぞれ人通りや店の土産物を物色しているが、視線も向けずに全神経を俺とマキに集中させているッ!

 

 どうして…なんて考える必要も無い。

 自分で望んで俺と関係を深めた者、成り行きやその場のテンションに任せて行動したら取り込まれてしまった者、ミキに躾けられて生贄にされた者など、色々な女が居るが、今ではそれなりに良好な関係を築けている。オカルト版真言立川流で、好意を刷り込んだようなものだが。

 だが、刷り込まれた物であろうと、自然と育まれたものであろうと好意は好意。

 

 その対象である俺からの『記念品』。いわばエンゲージリングのようなもの。

 欲しいと思わない筈がないッ! …いや、こんな言い方すっと自意識過剰なキモい自称モテ男みたいに思えるかもしれないけど、仮にも契りを交わした相手なんだし、婚約指輪…とは言わないまでも、プレゼントの一つも無しと言うのは、女の沽券に関わるモノがあるんだろう。

 

 

 

 どうする…? 迂闊な返答は修羅場に直結ッ…!

 断るという選択肢はないが、受け入れるのなら全員に向けてのプレゼントが必要…! 

 しかし、率直に言うが金が無い。

 G級ハンターの癖に何言ってるって? 仕方ないだろ。クエスト報酬の大部分は、今でも猟団運営につぎ込んでるんだ。俺自身の金って、あんまり無いんだよ…。資金に手を付けるのはアカンし。

 

 いや、それでもそこそこの資金はあるが……無理ッ! このループで、俺がどれだけ手ェ出したと!? 一人一人に給料3か月分なんて言ってたら、10年経っても終わりはしない!

 定番の、「エッチな印をつけてあげよう」とか、とうとう解禁してしまった「記念はお腹に宿る新たな命!」なんて手は使えない。だってそれ、記念じゃなくてもよくやってるもの。

 

 どうする…安物で誤魔化すのは、俺のプライドとナケナシの良心が許さん。俺だって、肉体関係ばかりじゃなくて、形として残るモノで報いてやりたいと思う。

 が、数字は非情。貯金はもっと非情。

 

 むぅ、このような形で天罰が返ってくるとは………いや、天罰じゃないなぁ。どう考えても自業自得だもんなぁ。

 しかし、これを楽しまずしてハーレム維持は出来ぬ! 自分の女達を喜ばせる事が何よりも楽しい事でなければ、こんな人間関係の中で生きていける筈なかろうが!

 

 

 ふむ、確かに金は無い。だが金が無いなら手間暇かければいいだけの話。幸い、俺はハンターだ。材料なんぞ幾らでもある。…獲ってくるのに死にかける事もあるけども。

 

 

 指輪でも首輪でも、オーダーメイドの一品をプレゼントしちゃる! ……ただ、一人一人に手作りになるし、順番になるから、時間がかかるのとぶきっちょなのは勘弁してね。

 

 

「……そうか。ま、仕方ないよな…。君の手作り品と言う事で納得しよう。全く、私も安い女だ」

 

 

 そう言いながらそっぽを向くが、マキの口元がニヤけているのが見えた。ジッサイヤスイ

 まぁ、プレゼントに手を抜く気もないけど。

 

 ……高く買い取ったけど、ローンで支払っている…とは言えんよなぁ、遠からず死ぬであろう俺の場合…。

 生きてりゃ、合計すれば人生の半分以上を支払う事もできるだろうに。

 

 

 

 …周りも、一応それで納得してくれたかな。

 プレッシャーは大分和らいでいる。だが、それに安心して放置すると核爆弾が起爆するので、早急にプレゼント作りに差し掛からねばなるまい。

 

 さて、何にしよっかなー。

 モンスターの素材に拘る事は無い。鉱物でも木材の類でも、立派にアクセサリやアイテムになるんだ。

 何だったら、文字通りお守りを更に加工してみてもいい。、

 

 うむ、夢が広がる。どんな風に喜ばせるか、喜んでもらえるか考えると、胸が熱くなってきた。

 その後のお礼とか考えると別の場所が熱くなるが、今は自制…と言うよりストック。一斉射撃はまだ先だ。

 

 

 作るにしても、何かテーマを決めておかんとな。作った結果、あの人の方が上物とか、あっちの方がいいとかの諍いの元になってもアホらしい。

 どうしてその相手にその贈り物なのか、これはハッキリさせとかんと。勿論、その人の好みが優先だけど。

 

 

 うーん……マオはあれで意外と風流を好むから、茶碗とか扇子とか喜びそう。

 ミーシャは女性らしい振る舞いとは裏腹に、根っこは質実剛健。頑丈・長持ち・実用性高しの3拍子揃った物が大好きだ。

 マキは、結構な冒険家…とでも言えばいいのか。夢で見た戦車なんてものを実現させようとするだけあって、金銭的な価値よりも珍しい物、ロマンを感じさせるモノが好きだ。

 ミキはプーギーが大好きだし、アンナなんかはドMに目覚めているけどねが乙女だから、少女漫画チックな演出に弱い。

 

 一人一人上げていくとキリがないからこの辺にするが、これに合わせた物とシチュエーションでプレゼントしなければならない。

 やれやれ…手間をかける。迅速にプレゼントする。両方やらなきゃいけないのが、ハーレムのオスの辛い所だ。覚悟はいいか? 俺は出来てる。

 

 

 

 

 

PS4月

 

 

 明日でバカンスも終わり、かぁ。あっという間だったような、濃厚だったような、逆に途中でダレてきたような。ま、エロ的な意味で実り多いバカンスだった事は間違いない。

セラブレス、マキを抱いた事を筆頭に、種付け解禁、パンツァー猟団はほぼお手付き状態。

 

 …ついでに言えば、セラブレスに真言立川流で妊娠しやすくなる方法を教え込んだんだよな。どうやら一族の女達に広める気でいるらしい。

 どうやって広める? と聞いたら、同衾して体で教えると帰って来た。上手く行かない場合は、俺も手伝え、ときたものだ。

 

 

 ……つまり、何か? 彼氏持ちの女の子達に対し、妊活と称してレズプレイを仕込むって事か? しかも、場合によっては俺まで巻き込んで?

 それ、下手すると托卵になりかねないのでは…。いや俺は避妊できるけども、ついつい興が乗ってしまって…なんて事に…。

 

 考えるのは止めよう。いくらなんでも、流石にぶっ飛びすぎだ。大体、本当にセラブレスが体を使った授業をしたとして、それを教わる側が素直に受け入れるとは限らんし、仮にそうなったとしても、ほぼ面識のない俺を呼び寄せて『さぁ、抱け』はないだろう。…あのセラブレスの行動基準を考えると、ちょっと不安になってくるが。

 

 

 

 話が逸れたが、明日の帰還をスムーズにする為、朝からコテージやビーチの片付けに入る。

 ウチの元タカリハンター連中から「めんどくせぇ」の声もあがったが、そこはキヨさんにお任せする事で解決。おしとやかに見えて意外と押しが強いし、妙な母性も感じるからなぁ…逆らいづらいのはよく分かる。ダメ人間製造機でもあり、ダメ人間のケツを蹴っ飛ばして動かす人でもある。いや人じゃなくて絵だけど。

 

 

 俺も片付けしていたんだが、その間にも皆に渡すプレゼントの事を考えていた。誰にどのような物を送るのかは大体決まって来たんだが……ふと思ったんだよ。

 俺、そろそろデスワープの時期じゃね? と。

 

 

 時期じゃなくても、遠出してから戻ってきたら大騒ぎ、ってパターンはなぁ…。いや、この前のミラボレアス戦を乗り切った事で、そのジンクスは切れたと思いたいんだが、やっぱ不安はある。

 全員ボテ腹にして子供の顔を拝むまでは絶対死なない、と誓いを立てはしたものの、どんな誓いにも関係なく死が降りかかるのが世界の掟。

 かけられる保険があるなら、かけておくのが正解だ。

 

 

 具体的には、以前にちょっと考案した、(多分)上級のオカルト版真言立川流を使うのはどうだろうか。霊力を物や女の体に宿しておき、特定の条件が揃ったらそれが活性化、俺の幽霊(みたいなもの)が発生し、それが宿主を犯して孕ませる。

 プレゼント兼ある意味呪いの品になるが、これは是非ともやってみたい。

 

 プレゼント確保と同時進行するのはしんどい物がありそうだが、問題はない。上級技術なんてのは大抵は、基本技術を徹底して高めていれば、それを一工夫する程度で習得できるような物なのだ。今まで積み重ねてきた蓄積を信じれば、自然とできるようになる! …と思う。

 

 

 …あれ、これって上手くやれば分身の術に繋がらないか?

 …エロ的にもロマン的にも滾って来た。絶対習得しよう。

 

 

 

 

 

 さて、休暇ももう終わりと言う事で、片付けの後は完全に自由時間。これが最後と大酒に走る奴、意味もなく夕日の浜辺を走る奴、泳いだり釣りをしたり船を出したり、後はまぁ……くっついたばっかりの男女が、何処ぞによろしくシケ込んだり?

 後は、俺の近くで何もせずにダラダラしてたり、お誘いがある子も居る。

 

 勿体ない時間の使い方とも思うが、バカンスだからこそできる時間でもあるよね。

 

 

「あー、団長、団長。ハーレムのド真ん中でアンニュイな気分を出してるところ悪いが、ちと話がある」

 

 

 んあ? デンナー、どうした?

 

 

「休日中に仕事の話をするのもどうかと思うが、やはり責任者としてな…。フロンティアに戻ってからの方針は決めているのか?」

 

 

 んー、やっぱ溜まった仕事の解消から初めて…個人的な事情で悪いが、色々確保せにゃならんな。勿論、その間にもハンターとしての狩りはやるつもりだが。

 霊力とかを広めるのも、もっと上手くやる方法を考えなければならんし…。

 

 

 

「はぁ…やれやれ、やっぱり忘れてたか。それとも、そもそも知らなかったのか」

 

 

 ん? 何が? …あれ、ミーシャ達も呆れてる。何があるんだ?

 

 

「何って、入魂祭に決まってる。まぁ、団長はフロンティアに来て一年も経ってないんだし、忘れるのも無理はないかもしれんが」

 

 

 入魂祭…ってアレか、赤青のチームに分かれて、特定のモンスターを狩る事でポイントが溜まっていって、その総量を競うっていう。

 

 

「大体のルールはその通りだな。ただ、ポイントを貯める方法は狩りだけではない。納品やら捕獲やら、時にはハンター同志の腕試しも含まれる」

 

「腕試しの内容は色々ね。貴方とアンナがやったようなVSクエスト、闘技場でどちらがモンスターにトドメを刺すかの勝負、広場で行われる腕相撲大会……以前は大食い大会や飲み比べ、歌唱コンテストまであったわね。ちなみにウチのトゥルートは、腕相撲大会で優勝したわ」

 

「後は何があったか…毎年変わるが、麻雀大会、我慢大会、怖い話コンテスト、ミスコン、花畑(狩場)の中心で妻に愛を叫ぶコンテスト…。最後の奴は、確か脳内嫁への絶叫が優勝したんだったな」

 

 

 流石異能持ち。と言うか、そのコンテストで人間音響兵器が炸裂したんだろうなぁ…。エシャロット元気にしてるかな。

 しかし、随分色々あるんだな。ハンターに関係ないんじゃないかってのもある。と言うか、花畑じゃなくてキャベツ畑の中ならグンマで毎年やってるぞ。

 

 ちなみに、その優勝者の絶叫は、名前こそ違えどル○ズコピペそのものだったらしい。

 愛よりも肺活量が評価されたとかなんとか。

 

 

「メゼポルタ広場に居るのは殆どがハンターだが、それ以外も居ない訳じゃない。受付嬢達に、ギルドマスター、工房のおっさん達にアイルー達…。ハンター関連だけの祭りにしてしまうと、そういう人達が楽しめなくなるからな。まぁ、ハンターが主役である事には変わりないが」

 

「私もお祭りは初めてですけど、出店が沢山出るらしいですよ。楽しみです」

 

 

 サーシャは素直ないい子だね。と言うか、出店って誰が出すの?

 

 

「一部のハンターと、入魂祭を目当てにやってきた行商人達だな。結構な儲けになるらしいぞ。噂では、お忍びでどっかの国の王女が来た事もあるとか」

 

 

 ………それ、ハンター間で有名な大惨もとい第三王女じゃあるまいな。

 

 

「第惨王女がフロンティアに来たら、屍の山が出来るわ。クエスト依頼だけならまだギリギリ………うん、反乱を起こさない程度には許すが、現地で無茶を言い出したら狩場に連れ出して、自分が何言ってるのか分からせてやる」

 

 

 それ、俺がトッツイにやった事と同じだな。

 しかし…興味はあるな。いや王女じゃなくて入魂祭に。普段はハンターばかりのメゼポルタ広場に、商人達やお祭り目当ての見物人がやってきて…いつもとは違ったフロンティアが見られそうだ。

 

 

 ……あれ、皆どしたの? なんか…雰囲気暗いんだけど…。

 

 

「…そうだな。普段と違うな。違う事は違うな」

 

「大型モンスターのスタンピード、普段以上に謎の変化を遂げる狩場、人によっては怪奇現象に遭遇し、古龍が嫌に成程襲撃してきて、天変地異が連続して巻き起こる…」

 

「それが毎年あるんだよね…。この時期になると、ハンターの負傷率死亡率が直角に跳ね上がるって言われてるくらいに」

 

「入魂祭って言葉で誤魔化してはいるけど、その実態は普段の防衛戦がピクニックに思えるくらいの修羅の宴…」

 

 

 そんな状況で麻雀大会とかカラオケ大会とかやってんのかぃ。しかも出店も。

 

 …いや、出店はついでなのか? 人類の生息圏を維持するための戦線に、差し入れと言うか補給をする事こそが最大の目的…。

 

 

「察しがいいな、団長。少なくとも最初はそうだった。…最近は営利目的も多いようだが。ともあれ、リスクは跳ね上がるが、稼ぐにしろ名を挙げるにせよ、霊力を広めるにせよ、絶好の機会だと言える。まずはこれに備える事を勧めるよ。祭りに参加しようとせず、普通に狩りをするだけでも危険度は跳ね上がるんだしな」

 

 

 成程ね。……ついでに聞いておくが、ウチの元タカリ連中はそういう時期はどうしてたんだろうな。

 

 

「大体は、狩りに出る事すらせず、少ない金で飲んだくれたり、金の無心をしたり、ダラダラやってたらしいな。そんなもんだから、この時期になるとタカリ連中への視線が一気に冷たくなる。今は…まぁ、大丈夫じゃないか? ただ、フロンティアの住人であれば、誰しもこの季節の危険さは身に染みているからな。クエストに出たがらない奴が増えるかもしれん」

 

 

 それならそれで、狩猟以外のコンテストに出てもらうさ。報酬は出来高払いかな…。

 …ところで、それって裏部門とかある? 負けたら命とか五体がゴイスーでデンジャーで鉄筋綱渡り的な感じの。カイヅとか出してみたら、結構いいとこまで行けそうな気が…。

 

 

「入魂祭は健全なイベントだ。と言うか、何だかコーヅィが危険な気がするから、あっても止めてやれ…」

 

 

 コーヅィだってハンターなんだから、高層ビルから落っこちた程度じゃ怪我もしないんだけどな。

 そもそも、狩り自体が下手なギャンブルよりずっと危険な行為だし。

 

 

 

 



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310話

やっぱチューハイよりもビールだよ…。
チューハイも嫌いじゃないしいろんな味があって楽しいけどさ、なんかこう悪酔いしやすい感じなんだよ…。
飲みなれてないってのもあるだろうけど…。


ちょっと上司と話をしましたが、朝5時に起きて8時出勤して21時まで仕事、帰ってすぐに寝るとか上に行く気が無くなるなぁ…。
もっと頑張れって言いたいんだろうけど、想像しただけでゲンナリ。
何を楽しみに生きてるんだ…。
養わなきゃいけない家族とか、そういうのがあればまたモチベーションも違うのかもしれませんが、出世すれば出世するだけ苦労するんじゃねぇ…。
逆に下っ端ほど苦労するんじゃ、みんな逃げだしてしまうでしょうけども。



あ、討鬼伝モノノフクリアしました。スマホゲーだから、エンディングが味気ないというのは偏見だろうか…。
しかしどうすっかな、討鬼伝編でのネタは確保できたし、やめてFGOにでも行くか?

アサシンクリードはコンプリートまで遠いけど、同じような作業の繰り返しで流石に飽きてきた。

まだ殆ど情報が出てないけど、ゴッドイーター3は…世界観大分変ってるみたいだなぁ。前ヒロインが殆ど登場しなくなりそうだ。

あとバイクがまだ来ない。


PS4月

 

 

 はぁ…休暇は終わりか。仕事に戻る日か。憂鬱な月曜日か。この日記を書いてるのは木曜日だけど。

 休みの終わりというのは、どうも勿体ないと言うか寝るのが惜しい気分になるよな。例え、フロンティアに戻る為に、また戦車を借りて行軍している間でも。

 

 

 

 …尚、今回の戦車運転手はシキ。

 その後ろで、俺とマキとキヨさんで思いっきりヌプヌプしまくっています。二人はこの後、領地に帰らないといけないからね。その分しっかり愛し合っておきましょう。

 

 

 拠点があるメゼポルタ広場に戻って来たところ、結構な出迎えを受けた。殆どは、見慣れない鉄の馬車みたいなのがゾロゾロやってきたから何事かと思って見に来ただけだったが、フラウを筆頭としたレジェンドラスタが何人か居たという意味で、豪勢な出迎えだったと言える。

 ちなみにそのフラウは、俺を見るなり飛びついてきました。マキとキヨさんとの情事の跡も始末できてないのに、スリスリされて頬キスまで…。

 ハンターのアイドル(枠)がそんな事やらかしたもんで、メゼポルタ広場が阿鼻叫喚の渦に叩き込まれたが、まぁそれはいいや。

 

 とにかく、無事に拠点に帰ってきて、明日から仕事に戻れるぞ、っていう状態にまでは戻す事ができた。団員達の状態は………うん、休みに飽きてむしろ仕事したくなってる奴が少数、彼氏彼女ゲットして心機一転し、真面目に生きようとしている奴、それに仕事面倒だなぁと思いつつも、しっかり準備している奴。

 …もっと多いのが、もうすぐ始まる入魂祭(という名のモンスターハザード)で生き残れるよう、必死こいて対策練ってる奴らだな。

 フロンティアで大規模なモンスターハザードとか、考えたくもねぇが…それが何度もあって、まだメゼポルタ広場や人の生存圏を維持できてるんだよな。つまりは、何とかしてきたって事か…。しかし、あまり楽観はできない。

 

 

 

 ま、それはそれとして、帰って来た俺は、寝る前に一仕事しなければならない。いや仕事と言うかオタノシミなんだけど、バカンスで一緒に行けなかったレジェンドラスタの皆さんのお相手をね。

 ……まさか、それがあんな事になるとは…いや、よくよく考えなくても、予想はできた事だったけど。

 

 

 事の起こりは、夜になって俺の家に、フラウやリア、ユウェルが集合した事。何の為に集合したかは、語るまでも無い。

 最初は和気藹々状態だったんだよ。このメンバーで乱交するのも初めてじゃないし、楽しみ方だって覚えている。

 

 

 

 が。

 

 

 

 旅行中にあった事を色々話していたんだが…忘れちゃいけないお話一つあったろ? 孕ませOKって話が。

 

 勿論、フラウ達に黙っておこうなんて思ってない。セラブレスという新参者が第一人目で、ミーシャからもOKが出て、俺も…まぁ、色々考えなきゃならん事はあるが、OKしている。

 

 

 

 

 

 

 簡潔に言おう。

 フラウが見た事もないくらいに本気になった。

 

 真顔で、声から遊びや冗談めいた雰囲気が消え、狩場でもここまで集中しねぇぞってくらいの気迫。

 怒り狂ったミラボレアスに狙いを定められた時でさえ、ここまでじゃなかったぞ。

 

 

「今日! 今日絶対産むからね!」

 

 

 と、問答無用で押し倒されました。流石に今日は産めねーよ、というツッコミをする暇すらない。

 レジェンドラスタが一斉に産休を取るなんて事態にならないよう、希望者のみ、かつローテーションで…という話をしたところ、何が何でも最初は自分にする、と宣言。

 バトルモードに入ったリアでさえ、フラウに逆らえない有様だった。

 

 

 なんやかんやの話し合い+くじ引き+決闘+その他諸々により、その執念で見事一番手を勝ち取ったフラウだが…もしもこれでそれ以外の結果になってらと思うと、ちょっと恐ろしいな。

 フラウあざとい子だけど、全体の和を乱さないままに、ちゃっかりオイシイポジションを持っていくタイプだ。しかし、今回ばかりはそれをかなぐり捨てて、内輪揉め上等で抜け駆けしかねなかったような気がする。

 

 ま、とにもかくにも、その心配は無くなった訳だが……うん、その激情に応える為にも、鎮める為にも、ちょっと頑張っちゃうとしますかね。

 そういう訳で、今日はフラウの総受け&全弾一番奥でナマ中出しの日でした。

 

 

 

PS4月

 

 

 フラウが産休届をギルドに出したらしい。気が早いよ。

 まーギルドの方じゃ、大騒ぎになってるみたいだね(他人事)

 

 ま、今すぐにではないにしろ、レジェンドラスタの一角が不在になるんだからな。そりゃハンターギルドとしては問題視せざるを得ませんな。しかも、続けざまに同じ理由で、レジェンドラスタが半分以下になる可能性すらある。

 フラウ自身は、「産んだらまた復帰するよ~」なんて言ってるけど…どうかねぇ。赤ん坊の世話もあるし、復帰できるかな。いや、当然俺だって子供の世話はするつもりだし、皆で面倒を見れば、フラウが仕事に行く時間くらい確保できるけど…母親になったフラウがどう出るやら。超がつく程、子供を溺愛しそうな気がする。それこそ、ハンターの仕事を放り出して、子供の世話につきっきりになるくらいに。

 

 

 そうそう、ギルドとしては頭の痛い問題は、まだあった。

 セラブレスが、暫くハンター活動を休止するらしいのだ。フロンティアにおいてはそう珍しくないが、それでも貴重なG級ハンターのセラブレス。彼女が活動休止する理由は……まぁ、言うまでもないよな。

 まだ種付けして一週間も経ってないからハンター稼業に支障はないが、早めに出産の準備を整えたいのと、妊活術を一族に広める為、フロンティアから離れる事にしたらしい。

 ……どっか別の場所で産むつもり、らしい。宣言した通り、俺に父親としての役割を求める気はないようだ。

 

 率直に言うが気に入らん。俺だって、自分の遺伝子を受け継いだ子供に対して、全く何も思わない訳じゃない。出産の立ち合いくらいしてやりたいし、子供を抱いてみたいとも思う。

 …しかし、フロンティアから離れる事もできないのも、また事実。

 単身赴任ってこんな気分なのかな…。それとも、夫が仕事を休めないから、実家に妻の面倒を見てもらってる感じ?

 

 

 …ともあれ、ギルドではフラウの代わりになる、レジェンドラスタ代理を探しているようだ。

 言うまでも無いが、俺はその候補には入ってない。実力云々よりも、元凶になった俺を誰が推薦すると言うのか。

 以前に考案されていた、レジェンドラスタの統括役と言うのも、今回の件で完全にダメになったようだ。正常な判断ですな。俺を統括役なんぞにしたら、あっという間に全員孕んで、レジェンドラスタが男だけになってしまう。

 今と変わらない? 今は順番に孕ませようとしてるでしょ。

 

 

 

 

 が、それはそれとして入魂祭である。今はまだ登録祭の段階だが、メゼポルタ広場を行き交う人々は、確実に増えて行っている。

 明らかにフロンティアの外からきた人が沢山いた。行商人が忙しなく屋台のスペースを確保しようとし、初めてフロンティアにやってきたハンター達が物珍し気に広場を見物する。

 

 それに、祭りに参加するハンター達が、続々と受付に集っていた。

 我らが猟団(話に聞いた『我らの団』ではなく、俺達の猟団って意味で)も登録を行い、問題なく参加できるようになった。

 ちなみに、猟団の連中の殆どは、入魂祭自体には初参加らしい。意外だなーと思ってたが、参加したくても出来なかったんだな。危険度が跳ね上がるから、そんな危ない時期のクエストには以下ないって事もあるが、そもそも一定ランク以上の猟団でないと参加できないのね。

 ウチの連中、元タカリばっかりだしなぁ…。入れてくれるような猟団、まず無いわ。

 

 

 …一応、ウチの連中が入魂祭でどうするか、注意しておかないとな。クエストに行かないのはいいが、それで仕事をしなくていい訳じゃない。別の事をやってもらわないと。

 

 

 しかし、祭りっつってもこの段階だとまだヒマだなぁ。クエストも普段と同じ物しかないし、狩場の様子を見てきたけど、モンスターの大繁殖や暴走の兆候も無い。本当に入魂祭が行われるのか、不安になるくらいだ。

 祭りの始まりまで、まだ時間がある。どうしようかな…と思っていたら、レイラにバッタリ会った。

 

 おーす。あれ、レジェンドラスタも入魂祭って参加できんの?

 

 

「おう、おはようさん。参加自体は自由だぞ。ただ、報酬がレジェンドラスタにとっては必要のない物ばかりだから、あんまり参加しないけど。私も興味は無かったんだが、入魂祭の時期はモンスターがえらい事になるって話だからな。鍛錬に丁度いいかと思って参加してみる」

 

 

 鍛錬第一は相変わらずか。紅? 蒼?

 

 

「蒼。お前は?」

 

 

 紅。確か、同盟を組んでる猟団は、同じチームになるんだよな。実際、ストライカーとパンツァー猟団は紅だったし。

 と言うか、レイラって猟団に所属してたの?

 

 

「猟団っつーか…うんまぁ、猟団…なのかなぁ。ライダーって連中を知ってるか?」

 

 

 ライダー………変身する奴? 俺も一時期、仮面ライダーアラガミなんて自称してたけど。

 

 

「…何の話だ? ライダーってのは、私達ハンターとは違うルールで生きてる奴らで、モンスターを飼いならしてる連中だ。私がイナガミの居る場所へ向かった時に、ナルガクルガの背に乗せて送ってもらったんだが」

 

 

 …ああ、そういやそんな話あったな。普段は辺境で隠れ住んでるって聞いたが、何であんな時に限って居合わせるのかと…。

 

 

「伝説の邪龍出現について、ハンターギルドと話し合いに来てたらしいぞ。あいつらにとっても、ミラボレアスの出現は他人事じゃないからな。…ともかく、普段は隠れ里から出てこない連中だが、折角フロンティアに来たんだから観光して行こうって話になったらしくてな」

 

 

 入魂祭に参加するのも、その一環って訳と。で、顔見知りだったレイラもそれに便乗したのね。

 

 

「そういう事だ。ま、あいつらはモンスターと一緒に戦う連中だから、実際に狩りをするのは無理だろうけど…。他のハンターに見られたら大事になりかねないし、そもそも正式なハンターじゃないから、クエストだって受けられない。文字通りの空気参戦と言うか、参加記念だな」

 

 

 ま、それが悪いとは言わないけどね。しかし、ボッチのお前がよくもまぁ…。

 

 

「うっさい。…あいつらには貸しがあったからな。まぁ、ライダー連中からも『何かあったのかお前?』みたいな目を向けられたが」

 

 

 いい事じゃねーの、人付き合いできるようになってんだから。

 話は変わるが、トキシの墓参りはどうする? いつ行く?

 

 

「出来れば今からでも行きたいが…遅くなっても入魂祭までには戻ってこれる。…ライダー達に頼むから、ナルガクルガに乗る事になるが」

 

 

 別に構わんよ。祭りの準備も終わってるし、モンスターに騎乗するのもやった事あるから問題ない。…あの時はその辺のランポスと、肉を使って取引したっけな。

 プリズムの方はどうなんだ。

 

 

「そっちも問題ないな。基本的に、朝の新聞配達以外は用事が無い奴だし。最近じゃ歌姫としての活動を再開してるけど、まだ定期的にコンサートを開ける程じゃない。モンスターに乗るのは、座を付ける事で解決できた」

 

 

 んじゃ、さっさと行くか。猟団の皆には、ちょっと出かけてすぐ戻る、とだけ言ってくるわ。

 

 

 

 

 

 

 ふむ…。

 

 

 まさかナルガクルガじゃなくて、ミドガロンに乗る事になるとは夢にも思わなんだわ。

 瞬間最大速度が、ナルガクルガの数倍はあるぞコイツ…。どうやって手名付けたんだ。しかも2頭。

 

 聞いた所によると、本来ライダーはモンスターが幼い頃から人間と共に生きる事を教え込み、絆石なるアイテムを使ってようやくモンスターに言う事を聞かせられるそうだが…コイツもそうなのかね?

 ミドガロンは、伴侶を失ったカム・オルガロンが長く生きた結果だと言われているが…。

 …人に育てられたカム・オルガロンは、人を伴侶として認識した…? その伴侶が居なくなった結果、ミドガロンに?

 或いは、野生のミドガロンが、ライダーに失った伴侶を重ねて見ている?

 

 ……想像が過ぎるな。ライダー側にも色々あるみたいだし、詮索するのも良くないか。

 とりあえず、ジェットコースターに初めて乗った子供みたいになってる、プリズム……は、到着するまで寝かせておいた方が良さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 流石ミドガロンと言うべきか、レイラの想定よりも更に早いペースでトキシの墓に到着。

 森の近くの小高い丘の上。見晴らしはいいが、逆を言えば雨風を遮る物も無い。

 丘の上からは、一度は派手に燃焼したらしい森がよく見えた。多分、あの辺りがレイラ達が居た里なんだろう。…と言う事は、あの森は古龍の住処って事だよな…。

 

 ミドガロンの主であるライダー達に待っていてもらい、レイラの案内の元、丘の上の小さな……………なぁ、レイラ。

 

 

「何だ?」

 

 

 この土饅頭が墓?

 

 

「…そうだよ」

 

「土饅頭なのは仕方ありません。そうそう手入れをしに来れる場所でもありませんし、位牌を置いていても、あっという間に崩れてしまうでしょう」

 

 

 …でもよ……この土饅頭に幾つもくっつけられてる、なんかこう…よく分からない、ゴミ…は言い過ぎにしても、正気度を削りそうな飾りつけは何だ?

 

 

「花だよ! 造花のつもりなんだよ! 仕方ないだろ、元々不器用なんだし、頑丈に作ろうとしたら素材から集めなきゃいけないし、そういうのに限って扱いが難しすぎるんだよ! 上手くできても、数日もすりゃクシャクシャだよ!」

 

 

 そら仕方ないのも分かるが、言っちゃ悪いけどこれなら何も無しの方が良かったんじゃないか…? トキシが涅槃で魘されてるんじゃなかろうか…。

 まぁ、他人事だからこんな事言えてるのは自覚してるし、謎の装飾についてはこの辺にしよう。

 

 …しかし、これだとお供えもできないな。

 

 

「食べ物ならすぐに痛んだり、虫が集ってきたり、最悪匂いにつられたモンスターがやってきますからね。レイラの選択が、最良の物だったのは確かだと思います。…出来栄えについても、私がどうこう言えるものではありませんし。……ともあれ…」

 

 

 プリズムはゆっくり進み出て、土饅頭の前に膝をついた。

 

 

「……お久しぶりでございます、トキシ様…。貴方に救われておきながら、貴方に会いに来ようともしなかった不義理…どうかお許しください」

 

 

 まるで本当にトキシがそこに居るかのように…いや、プリズムには本当にトキシが見えているのかもしれない…懺悔の言葉を口にする。

 

 

「私は今、フロンティアでまた歌い始めています。…レイラから、私の歌の正体を聞きました。貴方の命を奪った、罪深い歌ですが…それでも、望んでくれる方々が居るのです。私の歌が、ハンターの力になるのだと。決意するまで、多くの方に迷惑を振り撒きました。贖罪ではありませんが、私は出来る限りの事をやっていこうと思います」

 

 

 

 …これ、俺が聞いてていいのかな。プリズムにしろレイラにしろトキシにしろ、聞くなとは言わないだろうが…なんつぅか、ヤボだな。聞いていいのか、なんて思う事自体が。

 暫く、プリズムの独白は止まりそうにない。ずっと貯めこんできた言葉を、一つ一つ口にしている。

 

 どうしようかな、と思っていたら、後ろから肩を叩かれた。振り返れば、レイラが「静かに」のジェスチャーをしながら、俺を引っ張ろうとしている。

 

 …どした? プリズムの声が聞こえない程度に離れ(と言っても、ちょっと集中すれば丸聞こえになる程度だが)る。勿論、周囲への警戒は怠ってない。最悪、古龍がプリズムを狙ってきたとしても、充分対処できる範囲だ。

 

 

「あー…幾つか聞きたい事がある。普通ならこんな事を正面から聞かないんだろうけど、私はこういうやり方しか知らないんでな。お前、アイツの事をどう思ってる?」

 

 

 アイツって…プリズム? どうと言われても……。

 

 

「…嫌いか? あいつが引き籠ってた頃、相当やり合ったって聞いたが」

 

 

 あー…豚呼ばわりしたのは、多分トラウマになってるだろうな。当時のプリズムは、とても好意的に見れたもんじゃなかったが…今はそうでもないよ。

 引き籠ってた殻から出て、何かしようとしてるんだ。あんまり上手い事言えないし、クサいセリフ言うのは敬遠したいんだが……まぁ、命の輝きとか、人間力とか、そう言うのがどんどん育つ時期だろうしな。そりゃ目も惹かれるよ。

 

 と言うか、俺としてはレイラがプリズムをどう思っているかの方が心配なんだが。

 

 

「アタシ? アタシは……少なくとも嫌ってはいないな。蟠りも、解消されてはいないけど、『それはそれ』と思えるようになったし」

 

 

 だったら、どうしてプリズムを姉と呼ばないんだ? 一度や二度は呼んだのを聞いた事はあるが、それ以降は全く呼んでない。

 

 

「………それは…。いや、大した事じゃないんだ。姉と認めてないとかじゃなくて…気恥ずかしいと言うか…違和感があると言うか…」

 

 

 しどろもどろのレイラ。…隔意があるとかでないなら、別に首を突っ込む気はしないが。姉妹だからって絶対にベッタリ仲良くしてなきゃならん訳でもないし、距離を取った方が上手くいく関係もあるし。

 親がいきなり再婚して、唐突にできた姉を姉と思えるかって話でもあるし。

 

 で、聞きたい事ってそれだけか?

 

 

「え? あーいや…あと何だっけ……そうだ、それじゃ、アタシの事はどう思ってる?」

 

 

 

 ホント、正面切って本人が聞く事じゃねーな。

 改めて言われてもコメントに困るが……そうだな、信頼している。コミュ力を除いて。…ていうかホントに無いわー。昔の俺の方がまだマシとか、本当にないわー。

 

 

「うっせぇ! どうにかしようとしとるわ! …信頼、信頼か…」

 

 

 レイラは暫くブツブツ言っていたが、何やら得心がいったのか、一つ頷いた。

 

 

「三つ目、これで最後だ。お前は、アイツにどう思われている…と思う?」

 

 

 プリズムが俺をどう思っているか…。………恩人くらいじゃねーの? 第一印象も限りなく悪かったし。今では嫌われてはいないけど、それ以上はどうなのか、よく分からんな。

 

 

「そういう認識か…。成程…」

 

 

 一人で納得せずに、一対どういうつもりか教えてほしいんだが。

 

 

「…………今回の入魂祭、アタシは蒼、お前は紅。一つ、勝負をしてもらう」

 

 

 勝負? …入魂祭で別チームになった以上、勝敗は嫌でもつくだろうが…具体的には?

 

 

「細かい事は言わない。どっちのチームが勝つのか賭けるだけだ。そして、もしお前が勝ったら……」

 

 

 …勝ったら?

 

 

 

「……………あいつと結婚しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 は?

 

 

 いやいや、本人の意思を無視して何言ってんだよ。お互いそういう感情は(多分)無いって言ってるだろ。

 つか、トキシの墓の前で何言ってんだ。元恋人…ではないにしろ、それなり以上の仲だった相手の墓の前で寝取れ発言って何だよ。…考えてみりゃ、先だった旦那の墓前に報告に行くのって、寝取り宣言なんじゃ…。

 

 いやいや、そういう話をしてんじゃない。

 大体、俺の女関係がどんな有様になってるのか知ってるだろ。いきなり結婚とか、あいつらだって黙ってないし、それに俺は…。

 

 

「うるさい。別に他の連中と縁を切れとは言わない。ただ、アイツの近くに、目に見える形の繋がりを持って居てやれって事だ。お師匠様の死から立ち直ったように見えても、傷はきっと残ってる。…それを癒せるのは、多分お前だけだ」

 

 

 …俺がそんな御大層な人間なのかは置いとくとしても、だ。

 どっちにしろ、本人の意思を無視してるんじゃ意味ないだろ。仮に俺がプリズムの立場だったとして、浮気しまくる夫なんてゴメンだぞ?

 

 

「お前はその浮気しまくる状態で、人間関係を維持してるだろ。それと同じ事をすればいい。そんでもって、他の女と同じように口説き落とせ。納得させられるだろ? お前の手管なら。少なくとも、アイツがお前に対してそれなり以上に好意的なのは確かだ。…多分、お師匠様を除けば、男としてはよくも悪くもトップだろうさ」

 

 

 む、むぅ…そりゃ体で説得するのは得意だし、夫婦と言うのは愛情より慣れ、と聞いた事はあるが。

 

 

「大体、お前は放置しておくと、いつまでも結婚する未来が見えん。関係者と言うか犠牲者を増やしながら、ズルズル歳喰っていくようにしか思えないんだが?」

 

 

 うぐ…そりゃ、状況が状況だから結婚してもな…。デスワープで全てご破算になるし…。

 いや、既に関係を持った皆に不義理な真似をしたい訳じゃないし、無責任な事もしたくないとは思うが。

 

 

「とにかく、お前ら二人でくっつけば、お互いに足りないところが上手く噛み合うと思うんだ」

 

 

 うーん…納得いかないし、そうとも思えないが、とりあえずレイラが俺とプリズムの事を考えて、そんな事を言い出したのは分かった。

 正直、策としては下の下だと思うが…。

 

 

 

 

 

 

「そんで……も、もしもアタシが勝ったら…………あ、アタシの婿になれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 待て待て待てぇい! ちょっとそれは本気で聞き捨てならんぞ! いやお前に含むモノがあるんじゃなくて、俺とプリズムをくっつけようとしてたんじゃないんかい!

 別にレイラが相手で不満がどうとかは言わないが、何がしたいんだお前は!

 

 

「うるさい、私にも色々あるんだよ! 自分でも矛盾してると思うけど、そうしたいと思っちまったんだから仕方ないだろ!」

 

 

 大体、勝負って言っても、半分以上俺達と関係ない所で決まるじゃねーか! たった一人で入魂祭の結果をひっくり返せるとでも!?

 

 

「それを含めて勝負、賭けだって言ってんの! お前も腕を上げてきたけど、一対一で真っ向勝負したらまだ確実にアタシが勝つだろうが!」

 

 

 ぐっ、屈辱的だけど事実だから言い返せん…。

 

 

「…さっきから、何を騒いでいるのですか? 墓前だと言うのに」

 

「あ……と、とにかくそういう事だからな! 私はちょっと用事を済ませて帰るから、二人とも先にメゼポルタ広場に戻っててくれ!」

 

「あ、ちょっと」

 

 

 

 どひゅーん、とレイラは何処かに突っ走って行ってしまった。

 先に戻れって…まぁ、2組のライダーが居るから、片方に二人乗り(ライダーも含め3人乗り)で帰って、もう一組には待っててもらえばいいだろうけど…なんか気まずいと言うか…。

 

 

「…何なのですか、本当に」

 

 

 いや…なんつーかその…。

 これ、流石に本人に言っておくべきだよな…。このまま勝手に話が進んで、気が付けばプリズムと俺が結婚するなんて話になってたら、本人にとってもシャレにならんだろ。

 

 実は……(説明省略)。

 

 

 

 

 

 

「……そ、そうですか…あの子が…。しかも、私とあなたが…」

 

 

 

 

 

 

 

 間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …あの、顔を真っ赤にして、視線を逸らして硬直されても困るのですが。

 

 

「……い、いえ…あまりに…予想外の事でしたもので…」

 

 

 

 ……と、とりあえず帰ろうか。トキシの墓前でする話じゃねーわコレ…。

 墓参りはもういいのか?

 

 

「…そうですね。語り尽くせぬ思いはありますが、今日はこれでいいのだと思います。レイラは…」

 

 

 用事済ませて戻るって言ってたし、大丈夫だろ。

 …ライダーさん、そういう訳で、片方は暫く待ってもらってていいか? …そっか、ありがとう。

 

 

 

 …帰り道、気まずいなんてもんじゃなかった。ライダーさんという第三者が居るとは言え、あんな話をした直後に、密着してミドガロンの上でじっと座っている…。時々プリズムが、こっちをチラチラ見るのが…。

 ………確かにレイラが言う通り、考えていたよりも悪く思われている訳じゃないようだが……どうすんだコレ…。

 

 



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311話

バイク屋から連絡キター!
午後から受け取りに行ってきます!

…という日の朝、超高速で前後左右に平行移動する、呪いの市松人形が迫ってくる夢を見ました。
ご丁寧にも駐車場からやってきていました。
…あ、ある種の予知夢…?
夢違え、夢違えってどうやるんだ…。と言うか市松人形がシュールだったなぁ。

もしも感想返しが途切れるような事があれば、無事を祈ってください…。


ゲーム用PC月

 

 

 新しい月に突入。登録祭は昨晩で締め切られ、次の週開けから入魂祭が開始される。、

 フロンティアに戻った後、プリズムとは会話らしい会話もなく別れた。乗せてくれたライダーのニヤニヤ顔が腹立たしい。

 その後、レイラも無事に帰って来たようだが……どうすんべぇ、コレ。

 

 結局、プリズムからは是とも非とも反応は返ってこなかった。『そうなってしまっても、満更ではない』って事だろうか? どっちと結婚するのか、はさて置いて。

 俺としても、今のあの姉妹が相手であれば、満更でもない。出会った頃は酷いもんだったが…俺が言うのか、というツッコミは置いといて。

 

 ただ、『満更じゃない』程度でくっ付くと、絶対ガチギレする連中が居るんだよなぁ。それだけ好かれてるって事で、本気で怒るのも当然なくらいに色々ヤッてきたからね。

 と言うか、言っちゃ悪いが、俺だって結婚するなら、あの姉妹よりも…………………その、対象者が多すぎて特定の名前を口にできないが、まぁ彼女達がいい。……………決して、『重婚や内縁の妻や愛人も公認するように仕込んだからな!』なんて下心からではない。純然とした、積み重ねてきた感情(肉欲含む)による好感度だ。

 

 

 

 どうしたものか…。ぶっちゃけた話、拒む事ならいくらでも出来る。借金とかがある訳でもなし、俺自身も賭けを了承した覚えはない。

 賭けっつっても口約束だし、結婚書類に記入しなけりゃいいだけの話だ。

 

 が、勿体ないとも思うんだよなぁ~。

 いつもの悪癖だと言うのは自覚してるんだが、結婚しろって言ってきてるんだぞ。つまりは………二人とR-18な関係になるチャンスだ。

 

 

 

 …いつもの事だよ、そうだよいつもの悪癖だよ呆れろよ正常運転で結構な事だろ。

 

 

 

 

 まー真面目な話、レイラの方から勇気と言うか度胸振り絞って言ってきたんだしな…。恥を掻かせる訳にもいかん。

 ……結婚を断る事自体は、恥を掻かせるのとは違うと思うけど。それが恥だって言うなら、プロポーズされたら相手を問わずOKしないといけなくなる。

 だからと言って肉体関係だけ結びましょう、というのは色んな意味で結論がワープしてるが、それはそれ。

 

 

 

 

 …考えがループしとるな。結局、肉欲に惹かれて墜ちていくのみか…。

 こうしていても仕方ないので、部屋に来ていたミーシャに相談してみた。ミーシャは重婚許可派(多分にデバガメ癖によるものだと思うが)な上、夜のスケジュールの管理や、将来設計もしっかり行っている、言わば大奥の纏め役みたいなポジションに居る。相談するには適任だろう。…ちょっと情けないけど。

 

 

「ふぅん…。まぁ、結婚事態はいいんじゃない?」

 

 

 あら、ミーシャってばあっさりと。

 

 

「だって、それで私達と切れる訳でもないでしょ。どっちと結婚したとしても、ゴネるようなら下半身で説得するだけじゃない」

 

 

 御尤も。まぁ、そこまでは俺も考えてるんだよ。

 たださ、ほらやっぱり順番ってあるじゃん? 出会った順とか関係を結んだ順とか、まぁその辺のルールは置いといて、皆から見たらポッと出の女に持っていかれるようなもんだろ。

 

 

「それはそうだけど…私はそこら辺は気にしてないわね。式を挙げるとかはともかくとして、切っ掛けになるには違いないもの。…貴方、責任を取る気はあっても、結婚となると躊躇いがちだし」

 

 

 う…。

 

 

「まぁ、ハンターやってる以上、何処かで死んでしまう事を考えるのも分かるけどね。それを考えて結婚しない、というのも無責任な話よ? 例えほんの一時の事だったとしても、確かな証と思い出は欲しいものよ」

 

 

 金言、ありがたくいただきます…。

 んじゃ、ミーシャはあの二人と結婚もあり、と?

 

 

「そうなるわね。それが賭けによるもので、貴方を本気で好いているのか怪しい…と言うのは気に入らないけど、和を乱す事はしそうにないし、いいんじゃないかしら。貴方も、妻の間の順列を決めるつもりはないでしょう?」

 

 

 まーね。強いて言うなら、スケジュール管理とかを担ってくれてるミーシャが、頭一つ分上の立場になるんじゃないかな。或いは…皆の潤滑剤みたいな立場に入ってるフラウとか?

 この辺の事を言い出したらキリがないけど。

 

 

「それと……まだ口にしてない本音、当ててあげましょうか? 本当に相談したいのは、『どうやったら二人ともゲットできるか』じゃない?」

 

 

 

 ……はいその通りですゴメンナサイ。このままだと、結婚したとしてもどっちか一人、置き去りにしてしまいます。いやそれが普通なんだけど。

 

 

「ふふっ、いいネタ(デバガメの)が出来そうね…。いいアイデアはあるわよ。ただし…」

 

 

 ミーシャは立ち上がり、服のボタンに手をかけた。ハラリと上着が落ちて、いつ見ても均整の取れた見事な肌が露わになる。スポーティなブラも大好きです。

 アイデアを教えてほしかったら、満足させてねってか。

 

 

 

 

 珍しくミーシャが主導権を握った日でしたが、最終的には満足しきってオネムしました。…俺はその後も、後からやってきた子達とよろしくやってたけど。

 

 

 

ゲーム用PC月

 

 ミーシャのアイデアを採用し、結婚も基本的に問題無さそうなので、色々スッキリして入魂祭に突入!

 

 

 …ところで、昨晩は乱交途中に入ってきて、そのまま混ざったが…マキ、なんでフロンティアに? しかもキヨさんまで連れて……持ってきて、か?

 

 

「君に会いに来るのに、理由が必要か? …と言うのは(本気だけど)冗談で、こっちの仕事が一段落してな。その結果をお母様にも報告しなければいけないんだ。ミキの様子も気になるし」

 

 

 ああ、あくまで領主代行だったもんな。

 

 

「そういう事だ。話に聞いた入魂祭も、一度見てみたかった」

 

「全部後付けの理由で、ホントはマキ様も私も、貴方に会いたかっただけですけどね♪」

 

「そういう事をばらすのは無粋です、キヨさん」

 

「いえいえこれがお約束」

 

 

 相変わらず仲がいいね。重なって同時イキするくらいには。

 まー俺もフロンティアを案内とかしてやりたいのは山々なんだが、入魂祭で狩りをせにゃならんからな。

 

 

「分かってるさ。仕事が終わって帰って来た夫を労うのも、妻の務めだ」

 

「マキ様マキ様、狩りの後のハンターって、そりゃスゴイらしいですよ?」

 

「………ま、まぁその、子を作るのもな!」

 

 

 はっはっは、欲望に素直で大変よろしい。心配せんでも、親子姉妹共々に泣く程可愛がってやろう。

 

 さて、入魂祭で本日の試練として指定されたモンスターは……ウラガンキンを1体? あいつ、フロンティアに居たっけ? 遷悠種か?

 いや、しかし遷悠種ってそんなに沢山狩れる程居るのかね?

 

 他には……色々指定されてるなぁ。しかし特別目を引くものは無い。とりあえず、遷悠種らしいウラガンキンを狩ってみますかね。

 

 

 

 

 マキとキヨさんに見送られ、クエストを受けて出発。途中で遭遇するモンスター達を、試練の内容を思い返しながら討伐し、進む事暫し。…狩場に限らず、異変が起き始めている事は明白だった。

 普段とは、明らかにモンスター達の様子が違う。落ち着きなく動き回っているモンスター、やたらと狂暴なモンスター、普段の居場所とは明らかに違う場所に居るモンスター。フロンティア全体が、そんな感じになっているようだ。

 …これが毎年の事なのか…?

 毎年…であれば、これは異変と呼べるんだろうか?

 

 聞いた所によると、何故このような現象が起きるのかは解明されてないらしい。一か所だけでこうなるなら、まだ分かる。ナワバリ争いに敗れたモンスターが移動して、そこから連鎖式にモンスターの移動が始まったりね。

 でも、それがフロンティア全域で、だろ? ……絶対何か別の原因があるよなぁ…。

 

 

 まぁ、考えても仕方ないか。分からないなら調査するしかないんだ。多分、今までも何人ものハンターや学者さんが、解明しようとして挑んだのだろうけども。

 何か分かればそれで良し、分からないなら分からないなりに、目の前の事に対処するしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのさ、遷悠種じゃなくて二つ名持ちが出てくるってどういう事よ? しかも2体。

 

 

 宝纏かつ遷悠種のウラガンキン。フロンティア仕様だけあって、マジできつかった…。

 ウラガンキンの動きには慣れてるよ。宝纏であっても、おおざっぱな動きそのものは変わりない。ありあまるパワーと、見かけによらないスピードで、面倒くささが一段跳ね上がっていたのは事実だが。

 

 むしろ鬱陶しかったのは、あの宝石の輝きだ。キラキラキラキラと、鬱陶しいったらありゃしない。反射しまくって、目を惑わせてくる。2体が動き回って、目がチカチカするし、頭がクラクラするし。なんつーか、催眠術でもかけられてる気分だったわ。

 催眠ガスも使って来たし、妙な暗示とかかけられてないよな…。

 

 と言うか、二つ名モンスターって入魂祭の対象になるんだろうか?

 

 

 ならなかったら狩り損………ではないな。うん、宝纏ウラガンキン。その宝石。レア度で言えば最高クラスだろう。結構デカい奴だったんで、それなり以上に量も取れた。

 こいつをプレゼントに使えばいい。丁度、言い出したマキもフロンティアに居るし。

 問題は、コレを加工するのがどれくらい難しいかだが……こればっかりは、加工屋のおっさん達に教わるしかないな。

 

 ま、愛(肉欲)の力で何とかするか。

 

 

 

 ……しかし、二つ名持ちの遷悠種が2体ね…。やっぱ何かとんでもない事が起きつつある気がする。

 

 

 

 

ゲーム用PC月

 

 

 入魂祭2日目。

 指輪が出来た。昨日の宝纏から採取した宝石で作った指輪だ。まぁ、所詮は素人の日曜大工的な作品なんで、プロから見れば「なっちゃいない」ってなもんだろうし、装備品としての特別な力は全く無いけど。…ただ、オカルト版真言立川流でチョコっと小細工したけど。

 加工が思ったよりもやりやすかったのは、本当に助かったなぁ。「細かい事を言わなければ簡単」って話でしかないが。

 

 と言うか、素人がたった一晩で宝石を加工できるって、考えてみりゃ凄い事だ。……4人がかりで数回ハンマーを振り下ろすだけで、武器やら鎧やら出来上がってしまう工房を見慣れてるから、何とも思わなかったけど。

 

 

 

 指輪を渡されたマキの反応は…………うん、ごめん、ちょっと書けない。おかしいとかじゃなくて…思い出したら指が震えるんだわ。渡す時にも柄にもなく緊張したし、受けとってくれた時には、なんか込み上げてきて、頭ん中が一杯になってたし。

 ただ、後になって思い返すと、「ああ、幸せってこういう事かな」って頭に浮かんできた。 

 

 

 

 

 『次に指輪を渡すのは誰かな?』ってプレッシャーも感じているんだけども。素材はまだ充分残っているし、出来上がり次第渡していく…としか言えないなぁ。

 

 

 ま、それは置いといて、入魂祭の事だ。

 今のところ、どっちが優勢という事は無い。ふむ…レイラがあっちに参加してるんだし、もっと破竹の勢いで入魂してんじゃないかなーと思ってたが…。

 いや、戦力が同等になるように組を振り分けてるっぽかったし、レイラが暴れてこの結果なんだろうか? それとも、全力を出すのに迷いがあるとか? …プリズムとくっつけようとしてるけど、実は自分も…という思いが捨てきれず、つい迷いが出てしまうと……。…俺の自意識過剰かな。

 

 

 

 どっちにしろ、俺は勝ちに行くつもりですが。結婚云々は置いといても、負けるのは悔しいからね。

 猟団の連中も、元タカリとは思えないくらいに精力的に働いている。尤も、流石にモンスター達が荒ぶっているこの時期に討伐は厳しいので、納品クエストでポイントを稼いでいる者が多い。

 ま、問題ないね。1回で稼げるポイントは少ないが、その分人数が多いからな。そこそこの稼ぎにはなってるだろう。

 

 

 そんな事を、久々に会ったシトサに言うと、フーンと実に曖昧な生返事をもらった。

 一体何よ?

 

 

「ああ悪い、ちょっと反応に困っただけだ。…上から目線で言うが、元タカリ連中が、よくもまぁ…ってな」

 

 

 確かに嫌味っぽい言い方になってるな。でも、確かに思ったよりよく働いてんだよなぁ。もっとサボる奴が出ると思ったのに。

 …自分の猟団員に言う事じゃねーな。常に4人組でモンスターにも対応しやすいし、猟団のバックアップの質も上がってきているとは言え、よくこの時期にクエストを受ける気になったもんだ。ヤバすぎるから絶対行かない、なんて言ってた奴も、何だかんだで参加してるし。

 

 

「そりゃ単純に、祭りの報酬目当てなんじゃないか? どうもお前は知らないみたいだが、入魂祭で勝った側には、特別な景品があるんだよ。代表的な物で言えば、金、素材、名誉…。この辺は成績上位者クラスじゃないと、大きなもんじゃないが……木っ端程度にしか貢献してない奴でも、特別なクエストに参加できるんだ」

 

 

 勝者側の特権…ああ、聞いた事あるな。ガチネコからの挑戦状…だったか?

 

 

「勝ちネコだ、勝ちネコ。勝ちネコからの挑戦状ってのは、狩人祭の亜種の通称みたいなもんだ。ルールが違うんだよ。勝者特権は、また別のもんだ。それを出してるのが、勝ちネコって事」

 

 

 ややこしいな…。具体的には。

 

 

「寿命は短いが、その間だけは異様に高性能な装備とかな。で、お前のところの連中が目当てなのは、多分勝ち組限定クエストだ。コイツを完遂すると、特別な素材が手に入る」

 

 

 …素材目当て? あいつらが? …金になるって事か。

 

 

「そうだな、金にもなる。宝石みたいなもんだから、観賞用としても人気が高い。でも、この場合…勝ち組限定クエストを受けられる、って状況が重要なんだ」

 

 

 ? ? ?

 

 

「色んな意味でオイシイクエストを受けられるんだ。それを目当てに寄ってくる奴らが居るだろう。…その中から、いい仲になれる奴を探そうとしてるんだよ。或いはチヤホヤされたいだけか」

 

 

 ………婚活パーティか何かか? と言うか、タカリ連中が自分からタカられに行ってるのか。

 

 

「勿論、タカる事も考えてるだろうけどな。『俺がクエストに連れてってやるんだから、分け前は俺が多く取って当たり前だよな?』的な認識はあるだろ。まぁ…いいんじゃないか? 悪質すぎるやり口ならともかく、確かに本来受けられないクエストに連れて行ってもらえる、ってのはあるしな」

 

 

 おお、シトサにしては意外な見解。自分の力で勝った訳でもないのに威張る奴、負けてプライドを捨てて尻尾振る奴とか言うかと思ったが。

 

 

「流石にそこまで拗らせてねぇよ。ま、世の中ルールだけで回ってる訳じゃないし、多少はな。要領の良さが必要だって事くらい分かってるさ。お互いに合意の上で、分かっててそういう付き合いをやってるなら、それは単純に取引の結果でしかないからな」

 

 

 ふーん。まぁ、真面目に狩りやってるのはいい事だ。あいつらも、この前の旅行でくっついた人達を見て、自分も家庭が欲しくなったのかもな。

 

 

「ああ、この前のバカンスか。土産、ありがとうよ。誘ってもらったのに行けなくて悪かった」

 

 

 いやいや、都合があったんなら仕方ないべ。また今度な。

 ……シトサもクエストを受けに来たのか。もうアイツもG級なんだなぁ…。準備期間はもう終わったのかな?

 

 

 …しまった、シトサがどっちの組だったか、聞いとくの忘れた。

 

 

 

 

 

 さて、今日も入魂祭の為に狩りをする。

 昨日から疑問に思っていたのだが、入魂の為の試練について、何故下位上位G級の区別が付けられていないのか。極端な話、G級ハンターが下位ドスランポスを乱獲したとしても、それだけのポイントはゲットできる。

 これっておかしくないだろうか? と思っていたが……うん、それどころじゃないってだけなのね。この時期、モンスター達の生息図、分布図が無茶苦茶に掻き回された状態になってるから、何処に何級が出てくるか分かったもんじゃないらしい。分かりやすく言えば、下級クエストだと思って出発したら、下位ティガレックスよりも強いG級ドスランポスが出てくる事もある訳だ。こりゃ危険すぎるわぁ…。

 …あれ、でも特異個体が出てくるのはフロンティアの常だよな…。つまりはいつも通りって事か? まぁ、危険度は段違いだけど。

 こりゃ、ウチの連中が行きたがらない理由も分かるなぁ…。

 

 

 そんな中でも、我が娘のミキは元気に狩りをしています。最近、ガンガン腕を上げてきてるなぁ…。上位ハンターまであと少しだろう。パンツァー猟団の皆と足並み揃えていきたいらしく、暫く昇格試験を受けるつもりはないようだが。

 猟団部屋に帰ってきて、武勇伝を母と姉に語っている所をよく見かける。ちなみに俺が相手だと、普通に語るよりも寝物語にしたがる。狩りの後は燃えるしね。無理もないね。

 

 

 

 ……それは置いといて…。やっぱりこのモンスター達の慌て方、まるで何かから逃げようとしているように見えるんだよなぁ…。

 

 

 

ゲーム用PC月

 

 

 入魂祭3日目。

 ふむ…紅竜組が若干優勢…。つまり俺達か。所詮は若干だから、明日にはひっくり返っててもおかしくない。

 …レイラが居てこの結果、か…。一度様子を見に行った方がいいかな? でも、何処にいるのか分からないんだよな。レジェンドラスタ達の集まる酒場にも来てないし、プリズムの所にも顔も出してないらしい。

 

 

 気になる事は、レイラの事だけではない。フロンティア古参の元タカリ団員に聞いたのだが、今年の入魂祭は昨年までに比べて、ポイント総量が明らかに多いらしい。

 つまり、それだけ狩ったモンスターの数が多いと言う事だ。…それだけ参加しているハンターの質や人数が上がっている…と言う事ならいいのだが、謎の大繁殖・大暴走の規模が大きくなってるって事っぽいんだよなぁ…。またキッツい一騒動ありそうだわぁ…。

 

 

 それは置いといて、また指輪やら首輪…もといチョーカーやら、色々とプレゼント用アクセサリを工房で作っていたら、親っさんから声をかけられた。

 

 

「おめー、細工物のセンスがねぇな」

 

 

 うっさい、ほっといてくれぃ。で、どしたのよ。工房の道具とかは貸してくれるけど、アドバイスはしないって言ってなかったっけ?

 

 

「おう。俺らの職場で、素人が俺らと同じ事をしようってんだ。気に入る訳がねぇよ。ま、女に贈るものを自分の手で…ってお前の気持ちも分からんでもなかったから、特別に許可出したが。…話がずれたな。お前、高密度滅龍炭を欲しがってたな?」

 

 

 高濃度…ああ、巨龍砲に使うエネルギー源か。ああ、欲しいね。鬼杭千切に突っ込めば、どれだけの破壊力が叩き出せるか。困った事に、それをやるだけの技術力が無いんだけども。

 

 

「俺もちょいと見せてはもらったが、あれは手に負えんな。鍛冶の腕なら負けやしねぇが、あの機構はな…。仕組みが理解できん」

 

 

 ただでさえ技術格差がある上、アラガミ細胞なんて訳の分からんもの使ってるしなぁ…。それで?

 

 

「おう、ちょいと時間がかかったが、ようやく手に入ったぜ。持ってけ」

 

 

 …はい? いいの? 何で?

 これ、結構な貴重品だろ? と言うか、俺が持ってていいのか?

 

 

「ああ、構わねぇ。確かに貴重品で、扱うには資格が必要だが、逆に言えば扱わずに持ってるだけなら何も問題は無い。…だが、持ってるだけでお蔵入りにするなら、そりゃ素材への侮辱だ」

 

 

 だったら猶更何で。有効活用する術は無いぞ。

 

 

「今はそうかもな。多分、俺の師匠の竜人族の親方でさえ、手に負えないだろう。だが、これからはどうだ? …鬼杭千切とやらに使う為に、高密度滅龍炭を求めた。つまり…今は出来なくても、使い物にする心当たりがあるんだろう?」

 

 

 ………それは。

 

 

「お前はそういう目をしてる。正面から見据えると、妙な眩暈がしてくるような目だが、どうも度し難い程の色狂いのようだが、お前の根っこは狩人だ。素材は使う物としか考えない。記念品として求めるなんぞ有り得ん。…尤も、俺の勘違いなら勘違いで、別に構わん。コイツは俺が持って居ても仕方ないのない物でもある。いいから持っていけ」

 

 

 …有難くいただきます。しかし、何故そこまでしてくれるんで?

 俺を工房に入れる事自体、弟子というか従業員から反発があったのでは?

 

 

「何、借りを返しただけだ。…先日の、邪龍とやらで壊滅した広場に、俺の嫁さんが居たんだよ。おかげで助かった」

 

 

 …そっか。ある意味、俺が原因で出現したようなもんだが……言っても理解されないだろうし、黙っておくか。

 これで嫁さんが死んでたら、流石に受け取るのに苦い思いをしただろうけども。…いや、死んだ人も居たんだろうけども。

 

 

 



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312話

スズキのバト…もとい、グラスホッパー!
べ、別に鈴菌に感染したんじゃないんだからね!
値段と排気量と店にある物を選んだらそうなっただけなんだからね!
と言うか他のと見分けがつかないんだからね!

…真面目な話、3時間ほど運転して、なんとか事故らずに帰ってこれました。
殆ど真っ直ぐな道を走ってましたが…取り敢えず一つ悟りました。

細かい技術を気にするよりも、先に防寒具を整えろ。

いやもうガチで寒かった。スピード出して風を受けるのは当然の事ながら、対向車からの風、近くの森やら川やらから漂ってくる冷たい空気。
軍手じゃなくて手袋持って行っててよかった。
最後の頃は歯を食いしばって走ってました。
ああ、あの日ほど銭湯が輝いて見えた日はない…。

あとグルービング加工道路マジコワイ。

暫くは、プロテクター等の装備を整える日が続きそうです。
スノーボード用のウェアに仕込まれてる奴がいい、と勧められ、それなら暖かくて頑丈そうだと納得。
あとは…バイクの置き場所考えなきゃ。
自転車と同じ場所でいいやと思ってたが、予想外にスペースが要る。
ヘルメットの置き場所確保の為に掃除もしないと。

いやぁ、バイク持ったら生活がそれ中心になるって、こういう事か。


ゲーム用PC月

 

 

 入魂祭4日目。もう半分過ぎたんだなぁ。

 昨日、工房に籠ってあんまり狩りをしなかった為…と言う訳でもないだろうが、蒼竜組に逆転されていた。それでもまだ勝利を狙える程度には、だが。

 

 とは言え、この祭り、最期の最後まで油断できない。

 負けている組のみが参加できる、所謂、シクレとかボーナスミッションがある……らしいのだ。公然の秘密…と言うよりは、都市伝説みたいな塩梅だが。

 

 何せ、ゲームと違って『〇〇ポイント入魂しました』なんてメッセージは出ないのだ。担当の受付嬢さんに聞けば教えてくれるだろうけど、いちいち気にする暇があったら、次の狩りに行こうってパターンが多い。

 つまり、自分が何ポイント入魂したのか分かってないハンターが非常に多い。

 

 で、紅青組のポイントは、負けてる方が抜き返して大きくリード、また負けてる方が巻き返して大きくリード…を繰り返すのが通例。…明らかに、参加しているハンターの数と、入魂数の釣り合いが採れてない。

 このため、一部のクエストに特別なボーナスがついているのでは? という噂になっている訳だ。

 

 …他にも、実はポイント計算は適当で、ギルドが祭りを煽る為に出鱈目な数字を出しているとか、一定確立で発生するギルド運営委員の計算ミス(つまりバグじゃねーか)とか、計算の苦手な小人さん達の涙ぐましい努力(でも結果はお察し)によって点数が決まっているとか、まぁ噂は色々あるんだ

 こっちは信じられてないけどね。俺達が必死こいて狩りして入魂してるってのに、当のギルドがそんな不正をやっている…なんて、誰だって信じたくないだろう。

 

 と言うか、そんな不正するくらいなら、入魂祭の内容を、シトサが言っていた勝ちネコからの挑戦状に変えればいいだけだ。それにしたって、計算ミスや不正が行われる可能性はあるが。

 

 

 しかし…意外と平和だな。いや平和と言うにはモンスター達のナワバリ争いが阿鼻叫喚状態になってるんだけども、予想していたようなトンデモモンスターや、二つ名遷悠種の襲撃は無い。モンスターハザードも、狩場の中で収まっている。

 まぁ、フロンティアにまで押し寄せてくるような大規模スタンピードが毎年起こっていれば、流石にハンターがこれだけいても人類の生存圏はもっと後退してるだろうが。

 ……頻繁にある防衛戦は、また別にして。

 

 

 うぅむ…正直、トンデモモンスターがメゼポルタ広場まで飛来して、そいつが入魂祭の対象になると思ってたんだけどな。平和でいい事だが。

 

 

 

 

 そうそう、骨休みにレジェンドラスタの行きつけの酒場まで行ってみたんだが、まぁ盛況盛況。酒場も騒がしければ、レジェンドラスタも騒がしい。ただし、その場に居ないレイラを除く。

 どうやら、レジェンドラスタにとっても入魂祭は掻き入れ時らしい。本人は祭りに参加してなくても、その手伝いを頼まれたり、祭りとは関係なしに危険度が跳ね上がった狩りの護衛についたり。

 祭りの終了日まで、いやその更に一週間以上先まで、予約が一杯だそうだ。

 

 いつものフラウなら、顔を見るなり飛んできて抱き着いて来るのが、挨拶もそこそこにすぐに出発しなければならなかったくらいだ。

 ……どーも、個人的に俺を優先しすぎている、とギルドからお達しもあったみたいだしね。

 まぁ、産休前の最後の一仕事と思って頑張ってくれぃ。

 

 

 …頑張ってる嫁さんに励ましを、と言う事で、軽いキスだけでその日は分かれました。

 直後に、それを見ていたチルカとユゥエルに即拘束されて物陰に連れ込まれ、3人で同時ディープキスに発展したけどな。

 

 

 ところで、レジェンドラスタ男衆とも少し話す時間があった。

 主にレイラの状態についてと、入魂祭のモンスターについてだ。

 

 

「レイラの状態? …いや、僕も最近見てないな。ただ、結構な量の入魂をしているとは聞いているよ。無事なのは確かだ」

 

「ああ、お前さん、歌姫とレイラのどっちと結婚するか、って話を持ち掛けられたんだって? 年貢の納め時だな!」

 

「いやいや、他の方々はどうするつもりでござるか。今までは当の本人達が納得しているようだったので口を挟まなかったでござるが、不義理をするようであらば拙者としても見過ごせぬ」

 

 

 不義理っつーか、少なくともポイ捨てするつもりはないのでご安心を。…仮にそうなるとしたら、死別した時だけですかね。

 ブラックジョークはともかく、そもそも賭けを了承してないんですけどね。

 と言うか、皆さんどっから情報仕入れたんですか。

 

 

「主にフラウ、ティアラ、ナターシャだな。猟団ストライカーの…なんだったか、頭領と密談していたのも見たぞ。割と小知恵が効くこの三人って事は…既成事実と言うか、外堀を埋めようとしているのか?」

 

「どういう事だい、ギネル?」

 

「要するに、このままコイツを放っておくと、犠牲者が増えるばかりで、ゴールまで辿り着けないと踏んだんだろ。だから、まず誰でもいいからくっつけて、そこを突破口として自分達も…って事だろう」

 

 

 甲斐性がなくて、割と真面目に申し訳ない。

 

 

「全くでござる。ユウェル殿が……ブツブツ…」

 

 

 はー、ともかく、結婚をかけた博打をしているって事を周囲に知らしめて、俺の逃げ場を奪おうとしてる訳っすな。

 ついでに言えば、ポッと出…でもないにしろ、関係を結んだ訳でもない二人が結婚したのに、自分達を放っておくわけにもいかないだろうという打算もある?

 

 

「あくまで推測だ。………なんだ、タイゾー」

 

「いや、乙女の情熱は、時にそら恐ろしくなると思っただけさ! 熱血してるのに背筋が冷たいよ! それ以上に、ギネルが頭を使ってる事に戦慄したけどね!」

 

 

 酒が入っているらしく、小競り合いに発展。放っておこう。

 ところで、猟団の連中にも同じことを聞いたんですが、今年の入魂祭のモンスターハザードって酷いんですか?

 

 

「いや、そうでもないよ。平均に比べると若干モンスターが多くはあるが、過去にはもっと強烈な入魂祭もあったからね。…ああ、モンスターハザードの原因と言うか、異変が起きるんじゃないかと考えてるのかい?」

 

 

 ええ、そんなところです。レジェンドラスタから見て、どうですか?

 

 

「ふむ…拙者達から見ても、事の原因は不明でござる。ただ、1年毎に、同じような時期で発生しているのでござるし…ある意味では、これも大きな調和の中で巡っているのかもしれぬ。分かりやすく例えれば、1年に1度の大繁殖期…といった所か」

 

「そうだね。増えすぎたモンスターは、淘汰され、結局また元の数に戻る。翌年には、また大繁殖期で増えすぎる。その繰り返しかもしれにあ。ただ、やはり何時バランスが崩れてもおかしくはない」

 

 

 んー……明確な原因は無いのかもしれない、って事か…。一番厄介なパターンじゃないか。

 外から手を加えると、それこそ何が起こるか分からんし。

 

 

「その辺を見極めるのも、ハンターの仕事だよ。人が進歩をし、モンスターの領域を少しずつ削り取ろうとするのも、モンスターがそれに反発するのも、大きな意味では自然の流れだ。ハンターの言う『自然との共存』の中に、人間の技術力の進歩が含まれていない筈がない」

 

「武術の心得にも通じるものがあるでござるな。力は育て、奮わねば持っている意味が無い。しかし無暗に奮えば、敵を作り味方を減らし、突如遭遇したより強い力に潰される、逆鉾となる。だがその基準は常に変動し、明確な正解は無い。その場その場で未来を予測し、判断するしかないのでござるよ」

 

 

 ハンターや武術家の倫理観って、人倫やモラルがどうのじゃなくて、突き詰めれば自衛の為なんだよなぁ…。自然の怒りや他人からの反感と言ったしっぺ返しで潰されたりしない為の立ち回りっつーか、これもある意味戦術。いや、元々モラルってそういう物かもしれんけど。

 その辺をすっ飛ばすと、いつどこで刺されてもおかしくない人生を送る羽目になる訳です。

 

 

「正にお前の事じゃないか。何で刺されてないんだ」

 

 

 むしろあっちが刺されたいと思ってるからじゃね? 何を使ってとは言わないが。

 

 

 

ゲーム用PC月

 

 

 入魂祭5日目。何だか時間が過ぎるのが早いな。日がな一日、狩りとプレゼント作りに費やしているからだろうか。

 勿論、夜にはエロもしっかりやっているが。寝る時間が少なくて済むって言うのは、ホント出来る事が増えるよな。

 

 それはそれとして、ウェストライブ姉妹から相談があった。相談というか確認と言うか…。

 正直、こんなに早くバレるとは思っても見なかったと言うか。

 

 

 

 とりあえずハッキリした事は、ミキがマキを性的に襲った事だけである。現在、ミキは亀甲縛りにしてあるが、悦ぶだけなのでお仕置きにはなってない。特にする気も無い。

 

 

 

「…で、どういう事なんだ? 一応言っておくが、単なる夢や錯覚ではないのは明らかだぞ」

 

 

 そらまぁ、そもそも仕組んだ事だし。まーなんだ、一種の張り型みたいなもんでな。俺が居ない時にも楽しめるように、って術を作ってみた。

 具体的には、マキに渡したその指輪に、ちょっと霊力籠めて細工して…特定条件を発動させると、俺の分身が出てきてエロい意味で襲ってくる。逆に、外敵が居るならそっちに襲い掛かったりもする。

 尤も、まだ試作段階なんだけどな。

 現れる分身自体は……そうだな、俺の体で作られた人形みたいなもんかな。

 

 

 

「な・ん・で・そんな物を作った?」

 

 

 だって、マキっていつもフロンティアに居られる訳じゃないし、体が夜泣きしそうだなーって…。俺が狩りで出かけてる間、棒姉妹同志で慰め合ってるって話もよく聞くし。

 ちなみに発動条件は、俺本人が居ない状態でレズプレイする事。今回はミキがマキを襲ったんで、条件を満たしたんだな。

 

 

「…お母様までミキに手を貸していたぞ…」

 

 

 今晩、イキ地獄に叩き込んでおくから許してやれ。……で、俺の判決はどうなる?

 

 

「……結婚指輪……とまでは現状では言えないが、プレゼント自体は素直に嬉しい。が、それなら余計な機能は付けるべきではない。乙女として、少々心を踏みにじられた気分だ。実際、これでは指輪に見せかけたアダルトグッズじゃないか…」

 

 

 むぅ…。そう言われると反論できんし、罪悪感が…。経過はどうあれ、マキに被害が行った訳だし。

 ……機能、削除するか? そいつを持ってるかどうかは、マキの判断に任せるけど…。

 

 

「いやまぁそれはそれどうぐとはぎとりないふはつかいようだしうまくつかえばきょうりょくなごえいになりそうだしはなれていてもきみとふれあうことができるとおもえばぞんがいわるくはないしきもちいいしはつどうじょうけんさえわかっていればそうそうぼうはつもないだろうしっわざわざとりはずすひつようもないんじゃないかなぷれぜんとやきねんひんにてをくわえるのはあんまりよくないことだしなそれに」

 

 

 ストップストップ、妙に饒舌になるんじゃない。急に建前を用意するのが上手くなりやがって。

 んじゃ、この機能は開発続行と。

 …ウェストライブに帰ったら、感想くれよ? それまではたっぷり、生身の体で可愛がるから。

 

 

「……う、うん。でも…」

 

 

 ん? もう不満点とか改良点があるか?

 

 

「そう…じゃないけど、そうで。…やっぱり、分身ではココロが満たされそうにないと言うか満足感が今一つと言うか、本物がいいと言うか……特に、その、授かる時は」

 

 

 分かってるよ。種を付けるのは俺自身だ。こればっかりは、他の誰にもやらせねー。…いや、他のと言っても俺には違いないんだが。

 待てよ、俺の一部で作られているとは言え、やっぱ俺にフィードバックがある訳じゃないから、思い出を共有する事はできない訳で…。うーん、ここは要改良かな。

 

 

「…そもそもからして疑問なんだが、その術の改良とか開発って言うのは、そんなに早く出来るモノなのか?」

 

 

 普通はできないな。でもエロ関係の技術で俺だし。

 

 

「…無駄に説得力があるものだ」

 

 

 

 ……実際のところ、これってなぁ…。この前のミラルーツの夢を見た辺りで気付いた能力と言うか…。

 深く考えると、シャレにならん結論になりそうなんだけどな。

 

 あのミラルーツ、俺の因果を食わせやがった。色んな情報を、まるで昔から知っていたかのように、自分が体験したかのように確信していたのは、ミラルーツの因果から与えられた情報だ。

 そして、ミラルーツは恐らく、俺と同様に複数の世界を移動しながら、イヅチカナタを追っていた『何か』。

 俺が行きつく先が、あのミラルーツと同様の存在であるなら。そして、因果を『食わせた』という表現がそのままの意味であるなら。

 

 あのミラルーツと、俺と…恐らくはまだ他にも存在する、ループとデスワープの中に居る『誰か』達の行きつく先は…。

 

 

「…どうした、随分と無表情になったな。何をそんなに苛立っている」

 

 

 …いや、何でもない。ちょっと嫌な想像をしただけだ。

 さて、折角相談に来てくれたマキには悪いけど、まだまだ入魂祭の途中なんでな。もっと狩りに行かねばならん。

 また狩場籠りでもしようかな。

 

 

「相談については、後で折檻するから構わんが…狩場籠りしても、入魂の手続きをしなければ意味がないだろう」

 

 

 …そうだった。

 

 

 

 

 さて、狩りである。猟団のメンバーも意外と活発に参加しているようなので、あっちの統率はデンナーやコーヅィに任せておけばいいだろう。コーヅィも何気に腕を上げてきたらしく、結構な大物を仕留めてきたものだ。

 具体的には、いつぞや見たような史上最弱のモスを3頭。しかも同時討伐だったらしい。

 マジかよ、と本気で驚いた。アレが野生に、しかも集団で出現したこともそうだが、同時に狩るとは…。

 本人は偶然だとか、カウンターで地道に削っていっただけと言ってるが、それが難しいんだよ。

 

 ……あのコーヅィがなぁ。飲んだくれて、落ちぶれてたコーヅィが、一端の腕利きハンターになっちゃって…。子供の成長を喜ぶ親心って、こういうもんだろうか。年齢的には、コーヅィが親父でも不思議じゃないくらいだけど。

 

 

 ついつい俺も張り合って、アノルパティスの同時狩りなんてものに挑戦してしまった。ちなみにランス装備。

 

 

 

 

 心底後悔した。いや何とかなったけども。

 

 

 

 こう、左右から同時に突進してくるアノルパティスを、木の葉にて最強の一族の回天よろしく、受け流す感じでやったらね。角と言うか鼻が見事にお互いに突き刺さった。

 なんだかなぁ…。任侠映画で「タマ奪ったらぁ!」って同時に突進して、相打ちになったらあんな感じかね?

 

 

 勿論、それまでに熾烈な戦いがあった。やっぱこいつら、一人で挑むモンスターじゃねぇよ…。

 入魂せずに刺身にして食ってやるべきだったかな。

 

 

 しかし、入魂ポイントに結構な差をつけられちまったかな…。レイラがいよいよ本気出してきたか?

 と言うか、一体どこの狩場に居るのやら…。相変わらず、プリズムの元にも、酒場にも顔を出してないらしい。

 

 ふむ……このまま負けるのも癪だな。どうしてくれようか…。

 

 

 

 悩みながら入魂祭の試練を見ていると、ふと気づいた。

 …これ、殆どが古龍だよな。つまり…。

 

 

 

 

 

 

「私に、古龍を怒らせる…いや、誘き寄せる歌を歌えと?」

 

 

 頭痛を堪えるような顔で…いや、実際に米神を手で揉みほぐしながら、呆れたように言うプリズム。

 …やっぱダメかな? トラウマ抉るかなー、とは思ったんだけど。

 

 

「この際、私の過去も、心情も抜きにして言いますが…正気ですか? 貴方はただ、祭りでの勝負に負けたくないがために、古龍の怒りを自ら買い、自然の調和を乱そうとしているのですよ。確かにメゼポルタ広場では古龍の怒りも襲撃も日常茶飯事ですが…」

 

 

 生憎と、ただ勝つ負けるだけでは済まないもんでな。お前だって、ある意味人生かかってるだろーが。

 

 

「そう言えばそんな話も……。ですが、貴方に手を貸すと言う事は」

 

 

 あー…そうか、俺との結婚が近づくって事だもんな。逆にレイラの結婚が遠のく。俺に力を貸さないのなら、その逆。

 まぁ、常識的に考えてゴメン被るよな、こんな漁色男の嫁だなんて。

 

 

「あー……ぃぇ、その…そうとは…言い切れないと言いますか…」

 

 

 …微妙な空気になりそうだから強引に話を戻すが、実際のところ、博打に負けて結婚とか、不誠実どころの話じゃないだろう。それも、プリズムにとっては、妹とは言え別人との賭けだ。勝手に人生をベットされたようなもんだし。

 

 

「それはまぁ、確かに。結婚に限った事ではありませんが、やはり自分達の意思で………………………………あら?」

 

 

 沈黙が長いぞ。どした?

 

 

「いえ……あら? あら…え? え? え?」

 

 

 …どうしたんだよ、本気で。急に慌てだしたと思ったら、頭抱えて座り込んで。

 ……顔が悪いぞ? や、顔色が青褪めてるとか、わっるい事企んでる表情とかじゃなくて、狼狽のあまりに顔がウチの元タカリ団員みたいになってるんだが。ぐにゃぁ~状態のプリズムとは、また珍しいもん見たな…。

 

 

「え、ええ……。いえ、大した事ではありません。ちょっとショッキングな事に思い当たっただけです。…その、申し訳ありませんが、今日のところはこれで…。入魂祭に協力するかどうかは、明日の朝までに決めさせていただきます」

 

 

 そうか…。ま、無理強いもできんしな。そんじゃ、明日の狩りに行く前に顔を出すわ。

 

 何やら青線背負ったプリズムを残し、泉を出たが…一体何事だろうな?

 モービン、分かるか?

 

 

「女ココロは、海の天気よりも変わりやすくて深いものニャ。あまり考えても仕方ないニャ。…真面目な話、大丈夫だとは思うニャ。以前までの歌姫様ニャら、一度落ち込むと際限なく落ち込んでいたニャ。何に気付いたのかは分からニャいけど、今はそれでショックを受けるだけじゃニャく、何かしらのリアクションを起こそうとしているのニャ」

 

 

 ふぅん…。前向きになってるなら、問題は無いか。ショックを受けつつも、協力を引き受けるか検討するって言ってたし。

 んじゃ、プリズムの事は猫3匹衆に任せて、俺は入魂祭に行ってきますかね。

 

 

「ニャ、あまり頑張らなくてもいいニャ~。アンタは大したオスだけど、歌姫様を任せるにはちょいと不安ニャ。レイラとだったら止めないから、負けてくれると嬉しいニャ」

 

 

 ダァホ。

 

 

 

 

 

 アクラ・ジェビア。ノノ・オルガロン。トリドクレス。アルガノス。ドラギュロス。ヒュジキキ。ポカラドン。ガスラバズラ。

 これらを狩るのに、約半日。

 

 

 

 ……あの、なんかいきなり襲ってくるモンスターの量が増えてない?

 

 

 流石に一筋縄ではいかなかった。俺一人なら、物量に潰されていただろう。偶然同じ狩場に居た、名前も知らないハンター達と協力して、ようやっと切り抜けたのだ。

 …気のせいか、桁外れにデカい気配をちょくちょく感じたような気がしたが…分からん。

 そう、まるで……地面の下の……そうだ、いつぞやのループで見つけ出した龍脈が、丸ごとドクンと蠢いたかのような。

 

 モンスター達は、アレに怯えていたんだろうか? 今日狩ったモンスター達は、ハンターに遭遇する前から、ひどく傷だらけだった。お互いに攻撃し合ったのは、一目瞭然だ。

 そうでなければ、あれだけの開拓地版モンスター達を、たった半日で屠れる筈がない。

 

 ……多くのハンターは、ナワバリの大変動によって気が立っており、傷つけ合ったのだろう…と考えているようだが、どうもそうは思えない。

 地下の気配の脈動があった(ような気がする)事もそうだが……呼吸器官に、何かがべっとりとこびり付いているような錯覚。

 

 

 大型モンスター達と大乱闘していても、居合わせたハンターに秘薬をぶっかけられた時も、お返しにタマフリで傷を癒した時も、剥ぎ取りした時も、飯食ってても酒飲んでも散歩しても自然に見惚れても、馴染んできたちんぽケースを失禁するまで弄んでも、この感覚は消えない。

 

 

 

 そうだ、これは。これは『不安』だ。

 久々に感じた…なんて事は無い。不安なんていつでも感じてる。モンスター達は、次はどんな動きをするのか。陰に潜んだランゴスタを見逃していないか。突然、モンスターや見ず知らずのハンターが乱入してこないか。

 そろそろ、ミーシャはともかくマオ辺りが女関係についてキレるんじゃないか。

 

 でも、それらは対処できる。そりゃ100%じゃないが、準備をし、調査をし、観察し、対策を練り、それが破られても次善の策を。そうする事で、リスクを限りなく0に近づける事はできる。

 

 

 だけど、これは違う。いっそ、『不安』や『心配』ではなく、『確信』…いや、『諦観』と言ってもいいくらいだ。

 どんな事をしても、そうなる。絶望的にどうしようもない何かが、俺を潰す為にすぐ近くまでやってきている予感。

 

 

 

 

 

 …どうやら、俺の死に場所は決まったらしい。

 

 

 

 

 

 いや死んでも次に行くんだけども。場所と言うか時期だけども。

 この分だと、入魂祭が終わった後くらいかなぁ…。集計祭と褒章祭の間位は生きてたいんだけどな。

 せめて、レイラとプリズムを手籠めにするまでは。

 

 

 

 

 

 ところで、真夜中にガルバダオラがメゼポルタ広場に襲来してきて、叩き起こされたんだが。

 

 タマフリとか全バフ乗っけだったとはいえ、ゴルディオン金槌喰らったよーに光にならなかった自分を褒めてやりたい。

 

 

 

 猟団員含め、不死身の怪物を見るような目で見られた。

 

 



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313話

EDF5の予約しました。
ダウンロード版と迷いましたが、発売当日に帰省する事になっている為、パッケージ版。
0時からやりたかったのですが、仕事であれば仕方ない。
仕事から帰って、受け取ってから新幹線行になりそうです。
ああ、いつも以上に移動時間が長く感じそうだ…。

と言うか、法事の為に実家に帰省するから、一層転勤のスケジュールがハードになるんだよなぁ…。
なんでこう、タイミング悪く色々重なるんだろう…。


追記 本日のバイクの教訓。

ギアを間違ってニュートラルにしたら、ローギアではなくセカンドギアに戻せ。
カーブの為に半クラ・足ブレーキしてる状態なら猶更。
失速するより、スピード出した方がコケにくい。
ヒヤッとしたぜ…。

そう考えると、左足はクラッチを下げる体勢じゃなくて、上げる体勢を維持した方がいいかなぁ。
スピードを落とすって意味では、足ブレーキと前輪ブレーキだけで充分すぎるくらいだし。

バイク購入時に「プロテクターをしてる人はあまり居ない」と言っていたが、それも納得。
付けるのが面倒な以上に、トイレ(大)の時困る。
膝に着けてるプロテクターのおかげで、途中までしかズボンが下せないし、和式便所でプロテクターしてると背中を丸める事もできない。
長距離ツーリングの時だけでええわ…。



ゲーム用PC月日

 

 入魂祭6日目。今日を入れてあと2日、か。いかんな、大分ポイントを引き離されてしまった。これがレイラの本気か。それとも他のハンター達が、それだけ精力的に動いているんだろうか?

 あまりよろしい傾向ではない。ウチの連中も、勝ち目が薄いと判断した為か、サボりに走ろうとする連中が出ている。

 

 昨晩の、ガルバダオラのポイントがデカかったかなぁ…。何とか討伐して、メゼポルタ広場の一部がエラい事になりながらも入魂手続きしたんだが、あそこに居た全員に、等分にポイントが割り振られたらしい。

 が、生憎と蒼組が多かったらしく、その分だけポイントがあっちに振り込まれてしまったのだ。

 

 ちなみに俺には、「よく生きていたで賞」として特別ポイントが与えられた。あまり嬉しくない。いやボーナスポイントは嬉しいんだが、1ポイントと補助券ってなぁ…。補助券は2枚で1ポイント分らしいけど、どうすりゃもう一枚貰えるんだよ。

 

 

 

 さて、ここらで一発逆転を…と思い、プリズムに相談した協力要請の結果であるが。

 

 

「謹んで協力させていただきます」

 

 

 お、おう。なんか妙に切羽詰まってると言うか、気迫が強いな。

 

 

「一晩考えましたが、私も色々と思う所が…。貴方との結婚については、モービンには反対されましたが」

 

 

 その言い方だと、トッツイとバッシには賛成されたのか。…まぁ、そこはいいとして。

 二つほど気になる事があるんだが。

 

 

 まず、結局俺との結婚を、了承したって事なのか?

 

 

「…細かい事を抜きにすれば、そうですね。無論、思う所が無いではないですが、私は……ええ、貴方を好いています。どのような形であれ、それは確かです」

 

 

 …そ、そうか。

 返答もせずに申し訳ないが、もう一つ…。

 

 

 

 なんか服、露出多くね?

 

 

 

「………に、似合いませんか?」

 

 

 

 似合うっつか、妙なエロスを感じるっつぅか…。

 素直に美人だな、とは思う。色気だけじゃなくて、活発な雰囲気も出てきたし。しかし、いきなりどうしたんだ? イメチェン?

 

 

「そんな所です。…恥知らずな事ですが、少々欲張りになってみようと思い立ちまして」

 

 

 よく分からんが、いい事……なのかな? まぁ、止める理由もないし。露出が増えたっつっても、GE世界の衣装や、この世界でも業の深い格好を幾つも見ている俺としては、ドン引きする程でもない。

 しかしプリズム自身は相当頑張ったらしく、羞恥に頬を染めている。

 …普段の衣装も、結構露出多いんだけどな…。今の服はヘソも見えてる、スリットが深くなっている、スカートが短い、背中もかなり開いている。

 歌姫衣装と言うよりは、その辺のラフな格好のおねーちゃんみたいだ。…実も蓋も無い事言うと、レイラの露出度の方が高い。

 

 が、普段そんな恰好をしないプリズムがそれを着ている、というのは中々に滾るものはあるな。

 

 

 もうちょっとジロジロ見てみたいところだが、プリズムも一杯一杯のようだし、この辺にしとくか。

 ま、とりあえず…いきなり仕事の話に戻って悪いが、一曲頼む。内容は任せるよ。

 古龍を誘き寄せるような歌でも、俺の力を引き出すような歌でも、或いは特別な力なんかない、純粋な歌でも構わない。

 

 一曲やってくれ。

 

 

「ええ。それでは……そうですね、折角このような服なのですし…アップテンポで行かせてもらいましょう。どうぞ、ご清聴くださいませ」

 

 

 

 

 …プリズムが歌ったのは、題名は知らないがかなり情熱的な恋の歌だった。どれくらい情熱的かと言うと、もしもこの歌詞の半分くらいでも実行したら、それはもう熱烈なストーカーかメンヘラ認定されるだろう程には。

 …突然のイメチェン、欲張りになる宣言、そしてこの選曲。…自意識過剰じゃなさそうだが…ショッキングな事に気付いたと言ってたが、多分それ関係だよな。一体何なんだろうか。

 

 

 

 

 何にせよ、プリズムの歌の効果は相変わらず凄い。特殊な力云々じゃなくても、こう、活力が滾ってくるな。

 …しかも幸運まで招き寄せるっぽい。

 公開されていなかった、ボーナス対象のモンスターを呼び寄せてくれたようだ。

 

 

 

 まさかソロでエルゼリオンを相手にするハメになるとは思わなかったけどな!

 

 

 コイツもコイツでおかしくなってるっぽかったけど。まぁ、こいつ生態自体がおかしいよなぁ、絶対。完全にフレイザードじゃねぇか…。

 いつぞやのアカムウカムみたいに氷炎結界呪法こそ無かったが……とうとう使ってきやがったよ。極大消滅呪文、メドローア…もどき。

 

 しかも、使い方が明らかに頭おかしい。

 

 本家…と言うか漫画のメドローアは、ご存知の通り両手に炎・氷を出し、融合させ、それを大弓を引くような動きで狙いをつけて発射する。消耗も大きいが、最も問題だったのは『隙が大きすぎる』って事だ。

 これを克服したら、どうなるだろう? 致死とはいかないかもしれないが、防御不能の攻撃が、アホみたいな手数と小回りで飛んでくるとしたら?

 

 しかも、やり方はこうだ。

 エルゼリオンは氷のブレスと炎のビーム、その両方を使いこなす訳だが……まず、どっちか一方をブッパする。全力ではない。全力ではない代わりに、その効果と言うか余韻、余波が少しでも長く残るように。

 続けて、もう一方の攻撃を、その余韻の所に叩き込む。結果、メドローアになる。

 

 

 …え、言ってる意味が分からない? 空中に留まってる火の玉に、氷を投げつけてメドローアもどきにしたって事だよ。最初の一発を避けられたのは、直感と幸運がキンクリさんも同情する程にブラックサービス残業してくれたからに他ならない。

 氷のブレスを避けきれそうになかったんで、防御しようとしたら…その瞬間、同時に炎のブレスが飛んできて。

 予知夢のように自分の体が消え去るのが見えて、気が付けば大ダメージを負いながらも横に避けていた。元居た場所を、氷でも炎でもない真っ白な閃光が駆け抜けていったときは、何が何だか分からなかったよ。後ろにあった大岩が、触れれば切れそうなくらいに滑らかな断面を見せていたっけな。

 

 あれはちょっと、どうやったって耐えれる気も防げる気もしない。本気でデスワープするところだったぜ…。

 

 

 とは言え、それだけであれば、左程の脅威じゃない。確かに一撃死のプレッシャーはあるが、そんなもん、フロンティアではいつもの事だ。2つのブレスを合わせるという予備動作が必要な以上、むしろ避けやすい部類だ。

 …まさかリアル弾幕ごっこをやるハメになるとは。

 

 やった事自体は、先程と同じ。だが、エルゼリオンは炎のビームを小出しにすると言う戦術を見せた。…まぁ、見た感じ、あまり恰好よくはなかったが。口の中に大量の水を含んで、プップッと飛ばしているような。

 が、その行為の結果がシャレにならない。

 

 当然の事ながら、いくら氷と炎をぶつけたからって、それですべてを消滅させるような物騒なエネルギーになる訳じゃない。理屈はサッパリ分からないが、他に何かしらの条件がある訳だ。

 それを逆に利用した。

 氷にせよ炎にせよ、余韻をバラ撒いて。んで、そこに追撃の一手。

 …エルゼリオンなら、(理屈はともかく)何処でその条件が揃うのか分かるのだろう。対して、俺は分からない。

 

 つまり…飛んでくる炎や氷、ついでに言えばあいつの牙やら爪やらが、いつメドローアに化けるか分からないんだよぉぉぉ!!

 実際、「こいつは大丈夫」と思ってガードしようとしたら、着弾直前に突然メドローア化して、片手剣の盾が溶けちまったからなぁ…。あのメドローアもどきがあと2cm大きければ、俺の頬から肩にかけて消えない傷が出来ていただろう。

 モノがメドローアじゃ、海波斬みたいにぶった切る事もできん。いつどこに発生するか分からないメドローアを警戒しながら、戦い続けるしかなかった。

 

 

 何とか対処できるようになったのは、鬼の目・鷹の目のおかげだ。ホント、情報を得られる系のスキルは重要だわ。

 この目を使っても、メドローア化の条件はさっぱり分からなかったが、発生の前の予兆だけは見切る事ができた。この目で見ていると、炎と氷がぶつかりあった瞬間、こう……なんか、渦を巻くような、対消滅でもしているかのような、妙なエフェクトが見えるのだ。エフェクトって言うか…………ちぇ、チェレンコフ光? …マジだったら、ある意味メドローアより危ないな。

 

 

 しかし、予兆が分かっても、避けられるかどうかは別の話だよなぁ…。何とか追い詰めて、あと一手…ってところになったら、変身するとは。いや多分、怒り状態の一種なんだろうけど。

 爆発的に跳ね上がった出力を、強引に収めたと思ったら……回転しながら大爆発した。

 全方位に2丁のマシンガンの弾を振りまくように、炎と氷が入り乱れる。メドローアも入り乱れる。

 流石にそれでメドローア化の条件を満たすのは厳しいのか、割合事態は低かったが…どっちにしろ、脅威なんてものじゃない。単なる炎と氷でも、一撃必殺に近い威力が出るのだ。しかも、足場にだってその影響は出る。滑る、燃える、溶けて濡れる、反作用ボムが派生する、時々地面がメドローア化する。

 

 どうしろっちゅーんじゃ、こんなもの。

 

 それに対して、俺が咄嗟にとった行動は…はっきり言えばヤケクソだったなぁ。神機を取り出し、喰い付いた瞬間にメドローア化しない事を祈りながら、その辺の炎・氷をガブっと。そしてアラガミバレットにして、ガンガン撃ち返す。

 そしてそれが切っ掛けにになって巻き起こる、滑る、燃える、溶けて濡れる、反作用ボム、メドローア化。

 もう、お互いにシッチャカメッチャカっすわ。お互いに向かって時々メドローアが飛んでいき、避けた先で反作用ボムが爆発し、ふっとばされたお陰で弾幕の包囲から放り出され、着地際を狙い打たれ…。

 

 

 そして最後の決め手になったのは…運……とは言いたくないから、エルゼリオンの過剰な闘争心だったと思う。

 逃げればよかったのだ、あの弾幕に紛れて。そうすれば、俺は追えるだけの余力も無かったし、痕跡だってあの弾幕が掻き消してくれただろう。

 

 だと言うのに、あのエルゼリオンは、弾幕の中を突っ切ってきた。確かに、必殺の戦術ではあっただろう。爆発で視界を奪い、弾幕で逃げ場を断ち、あのスピードで強襲をかければ、捌ける者はまず居ない。

 事実、煙の向こうで蒼と紅の光が不穏な動きをしているのに気付いても、俺は体勢を立て直す暇すら確保できなかった。

 

 …そんなエルゼリオンは……俺に襲い掛かって来た瞬間、丁度俺の目の前に発生したメドローアに、自ら突っ込んでしまった。

 俺が迎撃で撃ったアラガミバレットによるメドローアだったのか、エルゼリオンが振りまいた弾幕が偶然交差して出来上がったのかは分からない。

 

 ただ、俺が九死に一生を得て、エルゼリオンは死に捕まった。一か八かの大博打で、漫画の主人公みたいに勝ちきれなかった。むしろ勝てる方が珍しい。それだけの話だった。

 

 

 

 

 …ちなみに、戦いが終わった後の狩場は酷い事になっていた。もうあっちこっち穴ポコだらけよ。底が見えない小さな穴とか、明らかにヤバい部分がくりぬかれた崖とか。爆発だけじゃなくて、消滅呪文が振り撒かれたからね。仕方ないね。

 …あ、土砂崩れ…。オレシラネ。

 

 

 

 

ゲーム用PC月

 

 

 ディスフィロアなんて大物に出くわしましたけど、私は元気です。何アレ。何で2日も続けて、炎と氷を操るようなバケモノにぶつかるの? と言うか、あの炎と氷と爪牙のコンビネーションは、まるで氷炎隻影陣…。

 コイツの狩りについてはそのうち述べさせてもらうとして、これもボーナス対象だった。

 

 …まさかと思って調べてみたが……どうにも、ゴウガルフ連中のように、蒼と紅、或いは対になっている何かが、何らかの形組み合わさっているモンスター(或いはクエスト)が、ボーナス対象となっているようだ。基準が曖昧だし、今回だけなのか毎回なのかは分からないけど…。

 

 しかし、紅組青組は大分差が縮まって来たな。それでもまだ、俺達が負けているが。

 うーん、エルゼリオン・ティスフィロアのボーナスが入っても、全体から見れば雀の涙…か。結局、人海戦術が一番有効なんだな。

 皮肉な事に、俺一人よりも、猟団のハンター達がせっせと(負けが見えてからは、ダレながらやってたが)採取をこなした方が、入魂数は上である。人数が人数だから、当たり前だけど…。

 

 

 しかし、泣いても笑っても入魂祭りは今日で終了。

 どうなる事やら。紅勝て蒼勝てどっちも負けろってね。

 

 結局、レイラの姿は見えない。…やっぱり狩場籠りしてるのかな…。でも入魂手続きが…。

 まぁ、いいか。考えてる暇があったら、魂稼がないと負けてしまう。

 

 さて、今日はどうするか。紅蒼系を狩るのはいいが、そうそうクエストも無い。プリズムのバフ(幸運)に望みを託して、適当に狩場をブラつくか。

 いや、聞いた話によると、最終日にはシークレットクエストだがボーナスクエストだかが追加されるらしい。そいつを待って狩りに出るか。

 

 …待ちの姿勢は性に合わんな。ただでさえ負けてるんだから、積極的に動かないと。

 よし、ゴウガルフかオルガロンをターゲットに行ってみようか。あいつら大抵2体同時に行動してるから、単純に考えてポイント取得率が倍だからな。

 

 

 

 

 

 

 結論。ゴウガルフ『か』オルガロンじゃなくて、ゴウガルフ『と』オルガロンになりました。

 よもや4対1とは、この狩人の目を持ってしても見抜けなかった。

 

 いやぁ、本当に地獄だったわあ。ゴウガルフの攻撃で磁力やられになって動きが鈍ったところを狙って、オルガロン達の猛スピードの攻撃が飛んでくる。

 しかも、ゴウガルフならではのコンビネーション攻撃を、真似たのか教え込んだのか、オルガロン達まで使ってくるのだ。無論、ゴウガルフ1体と、オルガロン1体の連携技もあり。

 コンビネーションのいいモンスターって、本当に危険度高すぎやわ…。

 

 犬・猿ときたら、後は雉だけど……来なくてよかった。

 

 

 ふぅ…結局、デカいポイントにはなったけど、逆転できる程ではなかったな。無理に戦おうとせずに、さっさと退いて別の獲物を探すべきだった。

 フロンティアに来てから、加速度的に腕は上がったと思うけど、逆にこういう部分が退化しちまったかなぁ…。なまじ力があるだけに、大抵の事はちょっとした準備と、後はゴリ押しでどうにかなる。が、長い目で見れば、むしろデメリット満載。以前までの俺なら、こりゃアカンと思ったら退いて………退いて……………ないな。意地張って戦って重傷を負ったり、デスワープしたり。

 でも、やっぱりリスク管理とか、経費意識とかは、以前の方が強かったと思う。

 

 …どっちにしろ丼勘定だろ、と言われると反論できないが。

 

 

 

 はー、しかし…こりゃ入魂祭、勝ち負け決まっちまったなぁ。俺が入れたポイントを加算しても、ちょっと追いつけない。

 今日の昼頃に、ボーナスクエストが発表され、紅も蒼も揃ってそれに突撃していた。俺も行ければよかったんだが……流石にちょっと体力が…。もう既に日も沈み、今から狩場に向かっても、とても間に合いそうにない。

 俺の入魂祭はここまでか…。残念。

 

 

 …うん、プリズムのとこに行っておくか。手を貸してくれたのに、結局負けてしまったからな。

 

 

 

 

 

 

 



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314話

アサシンクリード、トロフィーコンプリートです。
むぅ、EDF5まであと1週間くらいある…。
しかも仕事と引っ越しの準備がクソ面倒くさい時期。

何すっかな…。
転勤決定の知らせを受けてから、なんか色々無気力状態です。
バイクで走りに行く気にもならないし…。


……デレステでもやって、アイドルから元気もらうかなぁ…。
今一性に合わないけど…。



モンハンワールド、きっと発売延期するだろうなぁ…。
それは仕方ない。それでより素晴らしい作品になってくれるなら、待ちましょうとも。



だがそれはそれとして、英雄の証(ヴォーカルバージョン)をモンハンワールド映像で作ってください出来る事なら何でもします。
オナシャス!


…いやダメだな、誰かに『作ってください』なんて言ってる時点で渇望が足りない。
欲しいと思ったら自分で作らねば!




それはそれとして、アマッカスとミックスして一番ヤバいのはどれだろう。
①蒼月潮
②ジョナサン・ジョースター及びその血族
③リアル太陽神(松〇修造)
④玖珂光太郎

候補は山ほどあるなぁ…。


ゲーム用PC月

 

 

 ふぅ…。レイラが暴れて、止めるのが大変だった。

 

 

「……ああそうだな。無理矢理拘束されて押し倒された挙句、3度も失神させられるとは思わなかったよ」

 

「あ、足腰が…」

 

「ふふ、満足満足♪」

 

 

 …まぁ、いつものパターンに入ったって事だ。

 レイラが恨めし気な視線を投げてきて、プリズムは、まだ朦朧としているようだ。正直、意識を保っているだけでも大したもんだが。

 一人だけ心底満足だと言いたげに笑っているのは…ミーシャである。

 

 彼女こそ、今回のMVPと…言っていいのかな、これ。まぁ少なくとも発案者ではあるけど。

 

 

 

 

 事の次第は、昨晩の事。入魂の受付時間が終了し、メゼポルタ広場全体の熱狂が、徐々に引いていく時間帯。

 祈泉の入り口で、それを眺めながら、俺はプリズムと話していた。

 

 すまん、手を貸してくれたのに、結局勝てなかったようだ。

 

 

「いえ、お気になさらず。貴方一人の働きで、勝敗が決まるのではないのですから。それに、まだ結果は発表されていませんよ。最後の最後まで、勝敗は分からないものです。最初から諦めるとは、貴方らしくも無い」

 

 

 …そうか、確かにそうだな。まぁ、どうやったってひっくり返せそうにない差ができちゃってたけども…。

 

 

「…しかし…どうするのです? あの子と、本当に結婚するつもりですか」

 

 

 あー…それについてなんだがな…。ちょっと考えが。

 あんまり綺麗な手段とは言えないし、プリズムがノーだと言うと途端に難易度が跳ね上がるが…。

 

 …って、アレは…レイラじゃないか?

 

 

「どこです? …ああ、今広場の入り口に到着したのですね。こちらを向いて、手を振っています」

 

 

 あれは、あのままこっちに来るな。…丁度いいや。この際、3人で膝突き合わせて話すとしますかね。

 ああ、そうだ。トッツイは居るかな? ちょっと、猟団ストライカーのミーシャまで伝言を頼みたいんだが。予定よりちょっと早いが、約束は守れそう、と。

 

 

「よくわかりませんが、トッツイなら今は夜食を作っています。…いえ、私のじゃありません。偶にはネコ3匹で飲もうと…まぁいいです。トッツイではなく、バッシかモービンでもいいですか?」

 

 

 OK。

 何だったら、小遣い渡して、今日はどっかで遊んで来いってのも有りだぞ。

 

 

「その辺は当事者の判断に任せます。…バッシ、モービン、少しいいですか?」

 

 

 

 …さて…上手い事言い包められればいいんだけどな。

 

 

 

 で。

 

 

 レイラが到着……したはいいんだが。その、まずは…風呂入って来たらどうだ?

 

 

「ああ? …あー、悪い、感覚がマヒしてた…。このところ、ずっと狩場に籠ってたからな。臭いは消してたが」

 

「レイラ…貴方も女なのですから、もう少しですね…。それだけ本気だったと言う事は分かりますが…」

 

 

 しかし、狩場籠りまでは予想してたが、どうやって入魂してたんだ? 狩場に居るまま、どうやってあんなにポイント稼いだんだよ。

 

 

「いや、アタシは全然入魂してないぞ」

 

「…は? と言う事は、あの入魂数の差には、レイラは全く関係してないと?」

 

「そうでもないな。ま、私も少しは頭を使うって事さ」

 

 

 具体的に…いや、やっぱ先に風呂入ってこい。俺らは飯の準備してるから。

 

 

 

 

 

 30分経過。

 

 

 

「ふー、サッパリしたぜ! やっぱ衛生は大切だな!」

 

 

 まぁ、不潔な状態が愉快な筈もないものな。で、結局どういう事よ? 俺も結構な大物を何度か狩ったが、それ以上の入魂数があったとは…。

 

 

「なぁに、これもちょっとした、一狩り行こう『ぜ』の応用だ」

 

 

 その表現、まだ引っ張るのかよ…。それで?

 

 

「理屈は単純。確かにアタシは、延々と狩場に居たぜ。ただし、アタシ以外にも居たけどな。入魂数は、対象のモンスターを仕留めた狩りに参加した人数分だけカウントされる。4魂のモンスターを1人で狩れば4魂。4人で狩れば、合計16魂だ」

 

「あっ…あなた、自分の分の入魂はせずに、ローテーションで狩りを続けたのね!?」

 

「その通り! 何が何でも入魂祭に勝ちたいって猟団を見つけ出して、協力を持ちかけたんだ。1グループと一緒に狩りをしたら、アタシ以外の3人は入魂の為にメゼポルタ広場に戻る。その間にも、アタシは別のグループと狩りを続ける。その狩りが終わったら、戻って来たグループと組んでまた狩りをする。これなら、アタシ一人分の入魂数はロスになるけど、狩場とメゼポルタ広場間の移動時間を限りなく減らせる。単純に考えて、アタシ一人で狩りを続けるよりも、3倍の入魂が…いや、モンスターを狩る時間も減っている訳だから、3倍以上の効率が叩き出せるって寸法よ!」

 

 

 ………の、脳筋が頭使ってやがるッ!

 

 

「あんだとぉ!? むしろ、アタシでも考えついた事を考えもしなかったんだから、脳筋はお前の方だろ!」

 

 

 ぬぐっ! …じ、実際のところ、これってかなり有効な手段だな。大型モンスターを延々と相手に出来るだけの実力者が必要だが。

 ゲームであれば、狩りの時間は長くて1時間、移動時間ことロード時間も1分も不要だったからな…。現実に当て嵌めて、移動時間を徹底的に短縮するってのは思い浮かばなかったぜ。

 ちゅーか、レイラが見ず知らずの他人をそこまで信用したって事が一番意外だ。面識のある相手であれば、まだ納得もできたが。

 

 

「うるさい。私だって、多少は成長してるし変わってるんだよ。まぁ、流石に無条件で信用はしてなかった。と言うより、バックレられても大した問題が無かったから、初対面でも組んだんだ」

 

「逃げられても…? ……成程、確かに。素材や報酬は、レジェンドラスタにとって左程必要なものでもない。入魂の手続きさえしてくれれば、そのまま何処かに行かれても損は無い…と言う事ですか」

 

「まーな。…いや、レジェンドラスタの報酬って、意外としょっぱいんだけどさ…」

 

 

 ああ…エドワードさんが嘆いてたな。異界の金で千円。つまりこの土地の金に換算できない。ついでに言うと、時給に換算すると労働基準法違反待ったなし。だがこの世界にはそんなものは無い。ブラック企業が蔓延しております。…ハンターの仕事って、考えてみりゃブラックってレベルじゃないからネ!

 

 

「さて、ネタ晴らしも終わったところで……賭けの事は覚えてるな?」

 

「…………」

 

 

 ああ。まだ結果発表はされてないが……ま、あの点数差だ。蒼組勝利なのは、まず間違いないだろう。

 

「そうだな…。ひょっとしたら、勝ってくれるんじゃないかって…思ってたけど」

 

 

 提案者のお前が言うとか、話がややこしくて敵わんな。

 それはそれとして、レイラ。これって、どっちの勝ちだと思う?

 

 

「は? …なんだそりゃ。蒼組の勝ちなら、アタシの勝ちじゃないか」

 

 

 そーだね。でも、俺ってその賭けを了承した覚えはないんだけど。

 よーく思い出してみろ。俺は、結婚を賭けた博打に同意したか?

 

 

「……なんだよ、見損なったぞ。負けたからって、ゴネようって腹か?」

 

 

 いやマジな話だ。本気で思い出してみろ。前回に会ったのは、トキシの墓参りに行った時だ。その時に賭けを持ちかけられて、そのままお前はどっかに行った。

 その時の会話、よーく思い出せ。

 

 ついでに言うと、いくら見知った仲とは言え、一方的に賭けを持ちかけて話を進める事が出来ると思うか? そんなのが有りだったら、「今からコインを投げて、表だったらお前の全財産を寄越せ。裏だったらドクターペッパーをやろう」なんて話もまかり通ってしまうじゃないか。

 

 

「だったらその場で断ればいいだろ…」

 

 

 返事をする暇もなく、どっか行って、そのまま接触が無かったっつっとろーが。狩場に籠ってる事は予想できたが、どこに居るのかまでは分からなかったし。

 どうやって返事しろってゆーねん。

 

 

「ぐ…で、でも賭けは成立」

 

 

 してないな、あの時点では。

 …しかし、俺も全く話の分からん男でもない。結婚を賭けた博打は成立した。それを認めるのはよかろう。

 

 

 して、ルールは?

 さぁ、ここでもう一度思い出してみろ!

 

 

 

 

 お前はあの時こう言ったぞ! 『どっちのチームが勝つのか賭けるだけだ。』ってな!

 

 

 

 蒼組が勝ったら! 紅組が勝ったら! 勝利したチームに所属していた方の勝ちだなんて、一言だって言ってない!

 

 …プリズムが、呆れた様子で俺を眺めている。まー、お世辞にも論戦に強いとは言えない(俺だって弱いが)レイラを、勢いだけで言い包めてるようなもんだからNE!

 

 

 

 

 ちなみにレイラ。胴元は?

 

 

「…は?」

 

 

 胴元。博打の主催者っつーか、審判。責任者。賭けの結果が反故にされないよう、立会人は必要だろ?

 レイラがさっさとどっか行っちゃったんで、こっちで勝手に任命させてもらった。具体的にはミーシャ。

 

 賭けとなれば、どっちに何を賭けるかを胴元に届け出なければいけないのだが…。

 当然、俺は『レイラが勝つ事』にベットした。繰り返すぞ。『レイラ』が勝つ事に、だ。

 

 

「はぁ!? ちょっ、お前それって!」

 

 

 そう! 俺は祭りに負けて博打に勝った! ちゃんとした第三者、胴元にベットを申請した!

 これぞ、(胴元のミーシャ発案の)「表が出れば俺の勝ち、裏が出れば君の負け」作戦! 俺のチームが勝てればそれで良し、もしも負けたら博打に勝ったと主張して押し通す!

 つまりは、レイラにナイショでもう一つ賭けを始めていた訳ですな。

 

 

 さぁレイラ、お前はどうだ!? 賭けはお前の提案だが、どっちに賭けた? と言うか胴元に申請はしたのか!? 申請してても、どっちにしろ俺の勝ちだがな!

 賭けてないなら、それこそ博打は俺の独り勝ちよ!

 

 

 

 …プリズムがメッチャ呆れている。 

 まーそりゃそうだよな。何だかんだ適当な事ブッこいているが、レイラ以上に話を勝手に進めたのは俺なのだから。

 胴元だの責任者だのベットだの、それっぽい事を話しているが、個人間の賭けにそんなモン必要ない。強いて言うなら、両者の合意があれば充分だ。まぁ、今回はその合意もなかったんだけども。

 

 ついでに言えば、これを賭け、博打として称している時点で、俺もレイラ同様、他者の人生を勝手に掛け金に使った事には変わりない。

 いや、レイラの主張を否定しておきながら、こっちも同様の行いをしているのだから、身勝手さでは俺が一段上に来るだろう。

 

 もう言うまでもないくらいに矛盾や非常識な点がヤマモリで、正論一つぶつけられたら全て瓦解してしまいそうな主張だが…生憎と、これが通じる…通じてしまう理由が一つある。

 

 

 

 レイラが、説得されたがっている事だ。

 

 

 

 俺に対する思慕…と言うよりは、置いていかれる事への恐怖があるんだろう。

 プリズムとは幼い頃に引き離され(同じ里には居たようだが)、師であるトキシはプリズムに心を寄せた上に死に別れ。

 ようやく誰かを信じられるようになった今、(自分から言い出した事だが)また俺がプリズムと結ばれようとしている。

 

 奪われる、という恐怖ではないと思う。そうであったら、俺とプリズムに結婚しろなんて言う筈がない。

 …多分、それもプリズムを心配していたのと同時に、何でもいいから繋がりが欲しかったんじゃないだろうか。プリズムと俺が結婚すれば、レイラは義妹って事になるしね。

 

 でも、出来る事なら自分が…。

 

 

 

 

 

 ヨ ゴ ザ ン ス !

 

 

 二人纏めて面倒見ましょ!

 

 

 と言う訳で、先程のよーな理論に乗っ取り(理論だったか、とは聞くな)今回の賭けは、両方無効か、両方有効かのどちらかになる。

 相手の了承もなく賭けを始め、対象者の同意もなく他人の人生を掛け金とした。この行為を是とするのなら、2つの賭けは両方とも有効だ。非を唱えるなら、両方の賭けは非成立。

 

 

「つまり…貴方はこう言いたい訳ですね。二人纏めて嫁に来い、と」

 

 

 意訳ご苦労、プリズム。

 

 

「なんとも色気のないプロポーズです事…。それで頷く人が居るなら、見てみたいものですわ」

 

 

 鏡でも見れば?

 

 

「了承前提ですか。何とも自意識過剰で…。とは言え…」

 

 

 色んな意味で絶句している…と言うか、混乱しているっぽいレイラをちらりと見るプリズム。

 ふぅ、とこれ見よがしに溜息を吐く。

 

 

「正直な話、この色々な意味で常識知らずの子を貰ってくれる相手など、まずは居ません。それを考えると、妹の未来の為に、この話を受ける事も吝かでは…」

 

「ああ!? そっちこそ、男に縁があるのかよ!? 最近、新聞配達のノルマが増えたからとか言って、オヤツの量を増やしたらしいじゃないか。また自分でも心配してたみたいに太って、貰い手も出来ずに『歌姫様が片付かないニャ』とか言われるんじゃないか!」

 

「うぐっ! …だ、大丈夫です、食べた分運動しているから大丈夫です! と言うか、隣のメゼポルタ広場まで到着するのに、どれだけ走ると思っているのですか! 真面目にこれでも足りなくなってきているんですからね!」

 

 

 まぁ、広場って結構離れてるしな。それを数時間程度で配り終えるんだから、プリズムの脚力も常人場慣れしてきてるよな。自転車も使ってないのに。……スケートボードでも作ってやるか? でもオフロードでどれだけ走れるか分からないし、何より第一目的が運動の為なんだから、楽をするのは逆効果かな。

 

 

「コホン…。と、とにかくアレです、ムードもヘッタクレもない状況ですが、今後の事を考えますと、前向きな返答を返したい所存です。問題は、私ではなくレイラですが」

 

「ア、アタシは……その…。…こ、断るようなら、あんな賭けなんか提案しない。二人一緒に、というのは複雑だけど……そこはまぁ、お前の女関係を知っていて提案するくらいには…うん、呑み込める」

 

 

 呑み込める、か。まー普通はモヤッとくるなんてレベルじゃないわな。

 というか、そこを飲み込めるんなら最初から二人纏めて方式でよかったんじゃね?

 

 

「それは私が納得しかねますね。このような切っ掛けがあったからこそ、前向きに考えましたが…正直、貴方の異性関係は軽蔑に値しますので。逆に言えば、それさえなければ…ですね」

 

 

 ふむ、つまりそこを納得させるのが俺の役目だな。つまりはいつもの手段です。

 ま、とりあえず……酒でも飲みながら、ゆっくり話でもしましょーか。

 

 

 

 

 

 

 

 …いつもの手段に誘導しながら、正直俺はかなり複雑だった。

 今もずっと胸に巣食っている不安は、今も無くなっていない。俺は、もうすぐ死ぬ。デスワープする。いい加減何度も繰り返してきたからか、妙な予兆が分かるようになってしまった。………ような気がする。

 多分、これはどうやったって避けられないんだろう。それこそ、レジェンドラスタやG級ハンターの戦力を片っ端から集めても、だ、

 甘受する気はないが、自分が死ぬであろう事を予想したうえで、二人と関係を深めようとしている。

 

 

 …残された二人は、どれ程の傷を負うだろうか。惚れた相手…と言えるかは微妙だけど、とにかくそんな人に2度も置いていかれる。しかも、1度目から何とか立ち直った直後に。

 …塞がりかけた傷口を、引き裂かれて掻き毟られるようなものだ。

 

 それでも、何もせずに死に別れてしまうよりはマシだと言うのは、俺のエゴなんだろうなぁ。

 

 

 

 ……いやホントに、何も刹那的な欲望だけで二人を貪ってポイしようとしてるんじゃないからな?

 「あの時、せめて言葉にしていれば」って後悔を抱えるよりも、思い出だけでも残ってる方がいいんじゃないかと思うんだ。

 幸い…とはとても言えないが、同じ境遇になる人が沢山いて、それは同じグループで、経済的には問題はない。少なくとも、贅沢せずに生きていけば、ハンターを休業しても子供達を養っていけるだろう。

 心情的には……とんでもなく辛いだろうけど。少なくとも後を追って…って事は無いだろう。泣くだけ泣いたら、またしっかり生きていく筈だ。…どれだけ人を愛して、どれだけそれで傷つこうと、ハンターってのはそういうもんだ。

 

 

 

 

 全部、勝手に死に行く俺の身勝手極まりない理屈だけども。

 

 

 

 

 ま、当然欲望もある。

 いやホント、今回のループは狩りの腕も上がったけど、色々とショッキングな事に気付いちゃったからね…。まだ纏めきれてないけど、受け入れがたい…ショッキングと言うよりは、怒りとムカつきが治まらなくなる結論が出る事は、ほぼ決まり切っている。

 犯らなきゃやってられませんわ。本当にね…。誰が仕組んだ事なのか知らないが、虫唾が走る…。

 

 

 それを差し引いても…いつだったかのループで、榊博士に「私は君が大嫌いだ」って言われたことがあったけど、それも当然だよなぁ。死んでも生き返るとか次があるとか以前に、好き勝手にやらかした挙句、他の人達にその責任や尻拭いを押し付けて、のうのうとしてるんだから。

 うん、いくら自分に辛い事があったからって、それが他人に迷惑かける免罪符にはならないね。

 

 

 

 この後、上記のような鬱々とした考えを放り出して、いつもの手段に雪崩れ込んだ訳ですが……悪いけど、初夜の描写は省略します。まぁ何だ、レイラがかなりゴネたんで、その分ねちっこく説得して、プリズムもその余波を被って、しっかり覗き見していたミーシャも混ざったとだけ。

 代わりに、残った時間を丸々注ぎ込む勢いで、二人に悦びを覚え込ませるから、それで勘弁してネ!

 



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315話

無責任三国志ではドン・レオ・スレイが一番好きです。
あかん、割と真面目に何もする気がせーへん…。
転勤とかめんどい…。
やる事が多すぎて、家に居ても休んでる気にならん…。

と言うか、さぁぁぁぁぁむすぎんだよクソがぁぁぁ!!!
引っ越しの為に賃貸会社まで行ってきたんですが、高速道路がマジヤバイ!
ただでさえ強風な印象はあったけど、それに輪をかけて風が強いし寒いし!
ニュースで「一番寒い空気が入り込んでくる」みたいな事言ってたけど、直撃だよ!

しかし、それ以上に厄介だったのはルートです。
高速道路のシステムがよく分からん…。乗る時に金を払う時もあれば、降りるときに払う場合もある。どっちなんだ…。
休憩やガソリン補給のために降りて戻ったら、逆の道を進んでたのが3回ほど。通行料2,000円くらい損した。
そして何より厄介だったのは、何処で降りればいいか分からないって事だよ!
スマホホルダーでマップ表示はしてたけど、勝手に横になったり逆さになったりして見づらいし(これは設定変えたからいいけど)、ホルダーが横向いて画面が見えなくなったりするし。
最終的には完全に電池が尽きて、何処にいるのかすら分からなくなったんで、下道に降りて看板頼りにえっちらおっちら帰ってきました。
結果、体の震えが止まりません……体冷えすぎ。



ならば、逆に燃える話題で体を温めないとな!
明日にはEDF5発売&帰省!

ニコ動等での公開範囲は、1週間毎か…。
SSが該当するかは分からないけど、気をつけておこう…。
あれ、オンラインモード、オフラインに比べてステージ数が1少ない? エンディングも1ステージに含まれてるのかな。



…しかしなんだな、地球防衛軍の名には反すると思うが…最終的には宇宙空間まで攻め込みたいなぁ。
地球防衛軍から地球圏防衛軍になって、太陽系防衛軍、銀河系防衛軍、宇宙防衛軍…。
EDFの地球密着的魅力は薄れてしまうが、いつかは…。
最終的にはαナンバーズ、或いは銀河中心殴り込み艦隊と化します。

久々の外伝をEDF5でやりたいけど、プレイしないとネタも出せない…。



え? EDFの縦シューティング、11月に発売してた? マジかよ…。


ゲーム用PC月

 

 

 前回の日記から、少し間が空いてしまった。約1週間。

 もう明日には、褒章祭も終わってしまう。まー楽しかったからいいけどさ。

 祭りも下半身も。狩りの仕事も半ば放り出して、プリズムとレイラを弄り倒したからなぁ…。

 

 

 

 

 えー、エロ語りの前に、幾つかあった事を纏めておく。

 結局入魂祭は蒼組の勝ちだった。

 チヤホヤされる事を望んでいたらしい団員達は、骨折り損だったとブーブー言っていたが、全く成果がなかった訳じゃない。

 何だかんだ言いつつ、しっかり入魂してたから、その分だけ他人からの評価も上がっているし、報酬だってあった。それに、猟団という括りの中ではかなり優秀な成績を残せた為、特別賞与も出た。…ま、いつも通りに猟団の運営と、慰労に突っ込んじまったから、あんまり実感してなさそうだけど。

 

 ちなみに、俺も個人部門で入賞していた。結構な大物が続いたからなぁ。

 それでも一位ではなかった辺り、やはりフロンティアは魔境である。多分、もっととんでもない奴を、数仕留めたハンターが居たんだろうなぁ。

 ちなみにレイラではなかった。まともに入魂してればトップだったかもしれないが、自分の分はハナから捨ててたもんな。

 

 

 それと……特大のイベントが一つあった。

 と言っても、ぶっちゃけ手紙が届いただけなのだが。その手紙の内容も、たった2文字しか書かれてない。

 …激震が走ったけどな。

 

 

 手紙の送り主はセラブレス。

 A4サイズ(という表現はこの世界では通じないが)の手紙に、でっかく書かれていたのは。

 

 『  懐  妊  』

 

 

 

 そらもう、女達も俺も大騒ぎよ。

 悪い事な訳がない。最初から孕ませるつもりで抱いたんだし、「異能者は子供ができにくい」という話を聞いていたマオ達も、懸念が解消されて大喜び。

 …ミーシャに至っては、ネトラレ・デバガメ趣味が進化しかけていた。自分より先に、ポッと出の女が懐妊するというシチュエーションにピクピクしていた。

 

 で、当のセラブレスだが…流石にこれだけでは状況が理解できなかったが、別の手紙が送られてきた。送り主は、セラブレスの両親。

 小役人らしい時候の挨拶とかあったが、それは省いて。箇条書きにすると、大体次のような感じだった。

 

 

 

 セラブレスは筆不精すぎるので、別途自分達が筆を執った。

 自分達はセラブレスとの仲を反対する気はない。(セラブレスを泣かせなければ、と注意書きが添えてあった)

 むしろ、異能者でも妊娠しやすい方法、異能の育て方や制御の仕方などを知っている俺を歓迎するつもりでいる。

 しかしそれはそれとして、セラブレスは暫くフロンティアに戻す訳にはいかない。

 妊娠初期とは言え妊婦には違いないし、モンスターとの切った張ったが胎教にいい筈もない。

 安全面での事も考えて、当分はハンターを休業し、一族の元で妊娠しやすい技術の普及に当たってもらう。

 そちらから訪ねてくれば、いつでも歓迎する。セラブレスも喜ぶだろうから、暇を作って顔を見せに来てほしい。

 

 尚、上記の事はセラブレスも同意している。

 

 

 

 ふむ…。本心からセラブレスが同意しているかはともかくとして、尤もな事ではあるな。 

 一族の元へ戻る、と告げた時にも、暫く帰ってこれそうにないとも言っていた。

 

 

 うぅむ、これは死ぬに死ねなくなったな…。セラブレスのボテ腹…じゃなかった、俺の初めての子供…。せめて一目見ないと。一度は抱き上げないと。名前を付けないと。死んでも死に切れん。それでも死ぬ時は死ぬのがこの世界だけども。

 と言うか、ようやく実感が湧いてきた。子供、作ってるんだなぁ…。そんで、これから他の女達にも、時期をずらして孕ませていく。

 責任重大ってレベルじゃない。

 

 それを理解せず、お手軽エロばかり考えていた俺は、オカルト版真言立川流の使い手として、それ以上にオスとして半人前以下だったろう。

 

 

 

 

 あぁくそ…。ホント、死にたくないなぁ…。こんなに死にたくないって思ったの、いつ以来だろうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ほんのりシリアス風味を一掃し、エロ語りである!

 

 エロ語りだが…まぁ、なんだ、ちょっと意外だったな。レイラが実はウブで、責められるとヨワヨワなネンネなのは、まぁ予想通りだ。一回自分の恰好を省みてみろと言いたい。言うだけ無駄だが。

 が、プリズムがなぁ…。清楚な外見とは裏腹に、アブノーマルな行為にも積極的でなぁ。

 

 「欲張りになってみようと思ったのです」とは言っていたが、下半身的な意味でも欲張りになっておる。…いや、初めてなのにイイ反応しまくってな。

 ちなみにその発言と、アブノーマルな行為を進んで試してみる事にした理由。これは、入魂祭で俺に手を貸すことを了承した理由に繋がっていた。

 

 協力を要請した夜、プリズムが妙に動揺していたのを覚えているだろうか? 「ショッキングな事に気付いた」と言っていた、あの時だ。

 思えば、その翌日からプリズムの様子が変わっていた。具体的には服の露出が増え、活動的な印象が強くなった。

 

 …文字通りと言うか、見た目通りである。プリズムは、自分から行動することを覚えた。

 トキシの時もそうだったが、プリズムは今まで常に受け身で生きていた。トキシに対して淡い想いを抱いた時も、歌の力を失ってトキシを追いかけた時も。自分から行動を起こさず、相手からのリアクションを待ち、或いは周囲からの声に流されていた。

 

 今回…結婚の賭けも同じである。断る程には、拒絶は無かった。だが、自分から是とも言わなかった。

 話を持ち掛けられた時に考えはした。だが、自分の意思で考えついたのでも、俺が欲しいと言ったのでもない。

 

 

 

 自分から、誰かに好かれる為の行動を起こした事が無い。

 

 

 それに気付いて、プリズムは強烈な自己嫌悪に襲われたそうだ。別に、「自分は好かれるのが当然」なんて考えていた訳ではない。ただ、親を待つ雛鳥のように、待っているだけで自分の所にやってきてくれる…なんて思っていたようで、自分で自分が許せないのだとか。

 「トキシ様が振り向いてくださらなかったのも、当然ですね」なんて言ってたが……そういや、結局トキシと相思相愛だって気付いてないんだよな、こいつ…。

 

 と言うか、結構行動的だったように思えるんだけどなぁ。確かに、トキシを食事に誘うとか、そういうことは全くしてなかったようだが、(多分アイルーの誰かの提案だったんだろうけど)旅に出たトキシを追いかけて行くあたり、充分に活動的だと思うが。

 …ああ、でも、確かにそれはトキシに好意を伝えようとする行動ではないし…。自分から好意を伝えようとしたのではない、と言える…かな?

 

 

 まぁ何にせよ、とにかくプリズムはそう気付いて、それがショックだった訳だ。そして、レイラの賭けの結果、結婚するようではいけない。するならするで、自分からもっと前に出てアピールしなければいけない、と考え、そこからイメチェンに繋がっていった訳だ。

 ……そして、アブノーマルな行為でも、俺が望むのであればやって見せる、という決意に繋がる。

 …好意を伝える方法としては、多大に方法と段階を間違えているような気がするが…まぁ、結果的には問題ないな。

 

 

 

 

 

 一見、清楚な深窓の令嬢ほど、内に貯めこまれた欲望はドロドロしている。定番だよね、特に俺の周りでは!

 

 

 …はい、アブノーマルな行為は、プリズムの性癖にしっかりバッチリとマッチしたようです。

 初夜からして丸見えの体勢にも抵抗が無く、レイラに見られてキュンキュン締め付けてくるし、レイラが躊躇う尺八も初手からディープに挑戦するし、中でイく事を覚えて、バックで責めながらスパンキングしたら尻を振ってもっとアピール、焦らされる事に悦びを見出してと、もうドMもいい所ですわこの子。

 二日目には、体を縛ったり固定したりの緊縛プレイ、尻の開発にも着手し、男汁の残滓を啜る事も覚え、レズプレイにも積極的と、実に業が深い。

 

 …これ、トキシとくっついてたらエライ事になってたんじゃねーかな…。トキシは女に免疫が無かったらしいから、普通にスるだけでも大変だったろう。プリズムの性癖、性欲を満たすのは、ちょっとどころじゃなく難しいんじゃないだろうか…。

 そうなると、表面上は満たされても、内面では欲求不満が溜まっていき、最期には…?

 …いや、肉欲だけで人と人との関係が決まる訳じゃないし、流石にこの考えは失礼か。…トキシとの結婚生活を妄想させながら犯しても、プリズムは悦ぶ気がするが。

 

 

 

 では、それに対してレイラはと言うと…ドMでもなければ、ドSでもなかった。ウブで責められるとヨワヨワなネンネである。

 更に言うなら…ニュートラル、とでも言うのだろうか? 癖らしい癖が全くない、真っ白、真っ新なカラダ。

 しかし学習能力は非常に高く、一度味わった快感は、本人の意思に反していても、決して忘れようとしない。一度覚えてしまえば、後はもう溺れるだけ。乳房を揉みしだかれる快感も、指先で内部を嬲られる性感も、キスで舌をしゃぶり尽くされる愉悦も、一度覚え込ませてしまえば、簡単に引き出す事が出来る。

 だから、どんなに淫靡で、屈辱的で、恥ずかしいな行為の最中でも、それを簡単に引き出してしまえる。恥ずかしい筈の行為の中で、快感を引き出されれば……その記憶は羞恥と結びついてしまう。恥ずかしい事=気持ちいい事の意識を、嫌でも体の中に刻み込まれる。

 尻を叩きながら中でイかせてやれば、スパンキングだけで中出しの感触が蘇る。数を数えながら一突きしてやると、カウントを聞くだけで中を抉られる感触が引き出される。

 そんな素晴らし…もとい、難儀な体をしている上に、異様に積極的なプリズムに張り合って、アレもやるコレもやる、でも恥ずかしさに耐えながら、しかしその行為の中で快感を見つけてしまうと、あっという間にそれに耽溺すると言うパターンが出来上がってしまった。その後、顔を真っ赤にしてフリーズするのまでが1ターン。

 どう躾けて、どんな風に仕上げるか、実に悩ましい女だった。

 

 

 

 さて、そんな二人の一日を解説していこう。

 現在、俺は二人を集中的に相手している。集中的にと言っても、朝から晩まで侍らせているという意味で、他の皆は今まで通り、乱交という形でお相手している。

 他の皆からの不満は、今のところ上がっていない。むしろ、新しい後輩と言うかオモチャの登場を歓迎している風潮さえある。

 レジェンドラスタの真面目ちゃんことクロエでさえ、先輩ぶってアレコレと猥談で語っている始末だ。

 

 

 まず、朝。

 先日の夜の人数やメンバーにもよるが、俺が起きた時には、大抵左右にレイラとプリズム、上に誰か一人乗っている。…今日はサーシャだ。

 他の子達は大体起きて、朝飯や朝風呂の支度をしたり、或いはその日の予定を立てている。

 レイラとプリズムが最後まで眠ったままになるのは、それだけねちっこく悦ばせたのと、後は単純に慣れの問題だ。体力だけで言えば、レジェンドラスタであるレイラがぶっ倒れたままになる筈がないもんね。快楽を逃したり、受け流したりする術は全然教えてないから、力尽きるまで正面から相手して、クタクタになっちゃってる訳だ。

 

 尚、メンバーによってはおっぱいで埋もれて、呼吸ができない場合もある。…死にかけるとか、それで死ねるなら本望(どうせ次に行くだけだし)と言う思いもあるが、それ以前に最近は、乳から酸素を補給できるようになる気がする。

 

 

 

 俺も起き出して、レイラとプリズムを背負って風呂場へ。サーシャは途中で起き出して、自分でついてきた。

 昨晩の名残を洗い落とし、寝たままの二人も綺麗にして、浴槽へ。ここでも左右にレイラとプリズム、そんで俺の膝の上にサーシャ。

 

 大体、この辺でレイラとプリズムが起きてくる。今日も体温が上がった為か、プリズムが起きた。レイラは…まだ微睡んでいるようだ。風呂の中で寝るのはちと危ないが、付き添いが居るので安心。

 おはよう、プリズム。

 

 

「…おはようございます。暖かな湯の中での目覚めと言うのも、存外心地よいものですね…。ここ数日で、それがデフォルトになりつつあります」

 

 

 毎日、ちゃんと起きてこれないからね。

 

 

「全く、つい先日まで乙女だったと言うのに…。夢の中でまで、貴方に嬲られましたわ」

 

 

 そう言いながら、ローションを手に取るプリズムも相当なスキモノだぞ。初めての男の味が、そんなに印象的だったか。

 からかう俺にお返しだと言わんばかりに、ローションを纏った体を押し付けてくる。

 プリズムが起きている時は、いつも泡踊りがラジオ体操代わりになる。流石に、まだ技術的には拙いが、覚え込んだ男の味を確かめるように、全身で貪るようにがっつかれる。

 ビキビキと、朝立ちから本気立ちにシフトする頃には、俺もプリズムも、レイラも目が覚めている。

 

 

「…ここ最近、女の喘ぎ声が目覚まし代わりになっている件。しかも半分が姉…」

 

 

 残り半分は、寝ぼけたまま突っ込まれたお前自身だな。風呂で温まってすぐの秘所って、感触が違うんだよなぁ。湯ほぼ酒マラとはよく言ったもんだ。

 

 

「お前の場合、酒は関係ないだろ…。んっ、おい、サーシャ…」

 

「…おっぱい大きい…」

 

 

 ボヤくレイラに吸い付くサーシャ。明らかに性感を引き出そうとする愛撫だが、レイラは抵抗しなかった。レズプレイにしても、ここ数日は毎日毎晩、それこそ日中の普通に過ごしている時でさえ、体を弄られ続けている。今更、乳房に吸い付かれた程度で動揺はしない…のかもしれない。あっという間に先端がピンピンになったが。ちょっと妬まし気に、歯を立ててもいるようだが。

 ロリと誘い受け姉御肌のレズ行為をオカズに、意外と激しい運動である泡踊りを堪能。

 プリズムが我慢できなくなり、朝の一番搾りを強請ると、その日の泡踊りの出来に応じてご褒美進呈。一発注ぐのは確定しているんで、体位のリクエストを聞くかどうかだね。

 

 その後、サーシャの愛撫で体の準備が整ったレイラに問答無用でブチ込む。強引な挿入でもしっかり感じてしまうようになったレイラは、眼帯の無い素顔で、必死に快感を堪えてくれる。それを突き崩すか、ギリギリイけないで終わらせるかは気分次第だ。

 今日は…うん、ギリギリイかせない方で。

 最後の最後で引き抜き、ガン見しながらオナッていたサーシャの口に発車口を向ける。察したサーシャは、自分から口を開いて舌を突き出し、白濁を受け入れた。

 

 よしよし、そーやって沢山飲めば、女性ホルモンが沢山出て、きっとボインボインになれるぞー。少なくとも、1年以内にはおっぱい大きくなるんじゃないかな。お腹も膨れるし、母乳も出るようになるけど。

 

 

「…頑張る」

 

 

 フンス、と鼻息を荒くするサーシャと、不満気なレイラ。意図的に焦らされた事がよく分かっている。

 

 ちなみに、レイラが先に起きていた場合、プリズムが目を覚まさない内に…と言わんばかりに、結構な勢いで甘えてくる。キスを強請る、ハグをせがむは当たり前。普段のレイラなら絶対にしないような鼻にかかった声で、「アタシの事好きか?」なんて事まで聞いて来る。

 勿論、言葉と行動の両方で、思いっきり好意を伝えてやる。感極まって、全力で抱き着かれる事もしばしば。流石にレジェンドラスタの全力ベアバッグはキツいが、これも愛情表現。受け止められねば男ではない。

 そして、観衆が居る(この頃には大抵プリズムも起きている)事も忘れ、甘えに甘えて抱かれて、ふと我に返って「ぴぃやぁぁぁぁぁぁ!!!」なんてボノタンみたいな声を上げるまでがワンセットである。

 この場合、もっと甘やかしてやろうと(いう建前の元)、プリズムが俺と一緒にレイラを弄り回す事になる。

 

 

 

 さて、風呂から上がったので次は飯。飯…なんだが、まぁ当然、この流れで普通の飯な訳はないわな。

 実際飯食ってはいるんだけど、粘着質な音が響いています。無論、机の下から。俺の股間から。

 

 これまた日によって担当は変わるが、今日はアンナの日。俺達が風呂に入っている間に食事を終え、デザートという名目でお口の恋人を味わっています。

 ちなみに、その間にも、俺達は「あーん」したりして、そこそこイチャついている。

 このプレイ、アンナを始めとした従属願望が強い子には特に好評である。日常の中で、なんでもない(けども重要な)食事風景の中、主人(俺だ)に奉仕する行為。まるでそれが、取るに足らない事であるかのように振る舞う主人。

 無視されているのに、精力的に奉仕しているようなシチュエーションが

、ドM根性をこれでもかと言う程刺激するらしい。

 尚、気が向いたらご褒美として、足でちょっかいを出したりしている。

 ちゃんと抱いてやるのは……まぁ、大体夜になってからだな。

 

 

 同じ机に付いているレイラとプリズムからは、全く見えない状態な訳だが…音が聞こえるので、ついつい余計に想像してしまうらしい。

 今日なんか、レイラはさっきの風呂場でイかせてもらえなかったので、自分で弄りたくなる衝動を抑えるのが大変らしい。

 …飯の途中でも、エロを途切れさせる必要なんかないからな。明日辺りから、プリズムとレイラに一人ずつつけて、飯の時でも弄らせてみるかな。

 それとも、いっそ飯にぶっかけて食ザー…まだちょっと無理か。

 

 

 

 飯が終わったら、狩りに出るまで一休み。腹ごなしは大事である。

 ここでは、大抵プリズムだけを嬲る。レイラはこの後、一緒に狩りに行くからね。

 ソファーに座り、プリズムを侍らせ、腕を回して肩やら乳房やら、秘所やらにセクハラ三昧。…尤も、プリズムはあんまり嫌がってないが。

 

 ここでポイント。プリズムのナカに、ローターとかバイブとか、色々仕込みましょう。利尿剤とか飲ませたりします。

 そして、家にやってきた子達だけ、それを伝えます。本日だと、ウェストライブ一家(キヨさん含む)ですな。

 出発までに、4人と軽くジャレあって、その後プリズムを任せる。具体的にどう任せるかと言うと……まぁ何だ、食事と一休みでムラムラしたのを発散させてやれってね。

 俺も命令で、他の女のオモチャになるプリズム。その悲鳴(嬌声)をBGMにして、俺とレイラは狩りに出ます。

 尚、この時レイラにも、色々と悪戯をしている訳だ。寄り添って歩きながら尻を触るのは序の口。ノーパンで歩かせたり、木陰で露出させたり、人が居ない所が見つかれば、その場でオナらせ、場合によっては最後までスる事もある。

 

 

 受付付近に到着すると、狩りに行くメンバーと合流する。

 仕事は半ば放り出してる状態何で、この時のメンバーは日によって違う。今日だと……下位ハンターのメンバーだな。

 パンツァー猟団の子達だ。パンツァー猟団のエース(兼女王様)のミキは現在俺の部屋で、一家でプリズムを輪姦しているが、この子達も結構やれるハンターだ。

 

 …いや、性的な意味でヤれるって意味でもあるけど、結構実力あるのよ、この子達。かつてはアカムウカムの氷炎結界呪法の影響を受けながらも、生き延びて塔をぶっ壊したくらいだからね。

 そんな彼女達も、今では立派なちんぽケース。それだけでなく、ミキからの調教を受けた事によって、俺に散々ちんぽケースとして使われた事によって、同性の体をどう弄ればいいのか、何気によーく知っている子達になってしまった。

 

 

 …実力的にはずっと下の、年下の少女達に絡みつかれて弄ばれるレイラ。なんだな、比喩的な意味で言えば、触手や弱いゴブリンとかに纏わりつかれてるようにも見えるね。

 自分達が受けた調教をそのまま再現しようとするかのように、狩場に到着するまであの手この手でレイラを責める彼女達。ちなみに、狩場に到着するまで、ガーグァ車の上で誰にも見られない事もあり、結構過激な事をやったりやらせたりしている。

 レイラがヨガる姿を見ながら、俺はパンツァー猟団の中から一人選んで、ちんぽケースとしての本懐を全うさせた。

 

 

 …ちなみに、今までのケースだと…いやちんぽケースって意味じゃなくて、昨日までだとって意味ね。

 昨日まではレジェンドラスタラッシュだったな。一番攻撃的にレイラを犯していたのはリアだったが…シャレにならんのは、どっちかと言うとティアラの方だった。貴族趣味、退廃趣味があったのは知っていたが、全開だったなぁ…。

 別の意味でタチが悪かったのは、ユウェルかな。一見すれば常識人なユウェルだが、それがまたクセモノで…。弄ばれ続けてヘロヘロになったレイラが縋り付いたんだけど、気遣うように見えて、しっかりヤる事ヤっててね? ストッパーの役割も込めて、途中で俺が割り込んでブチ込んだくらいだったわ。

 なんだな、フラウって意外と常識人だったのね。…まぁ、フラウはフラウで、レイラを弄るよりも俺にちょっとでも触れ合いたいってだけだったみたいだが。

 

 

 …フラウはなぁ…俺の内心、割と察してるみたいだしなぁ…。もうすぐヤバい事がある、って事。プリズムとレイラの調教を放り出してでも、俺の傍に居ようとする傾向がある。思えば、産休発言も、余計な仕事に時間を取られず、俺を警護する為の布石だったのかもしれない。

 

 

 それはそれとして、フラウも結構な事してたけどね! レイラの尻の初めてを、まんまと奪われてしまいましたよ! 曰く、「キミが居ない日に慰め合う為の、特注品だよ」だそうな。張り型に舌を這わせながら紹介されました。多少は仕込んでいたとは言え、よー裂けんかったなぁ…。

 …ま、二穴責めだったし、その後交代して、初めての尻イキさせたし、別にいいか。

 

 

 今日も今日とて、道中に二穴責め状態。…いや、口も含めて三穴か。

 ただし、責められてたのはパンツァー猟団のモモで、責めてたのはレイラ、ハンズ嬢ちゃん、レーゼイ嬢ちゃんだったが。

 思えば、レズプレイでレイラが責めに回るのは、これが初めてだったかもしれんな。双頭ディルドで、モモの中を我を忘れて突きまくる姿は見物だった。

 レイラの尻に突っ込んで、連結電車プレイしてやろうかと思ったが、邪魔をするのも無粋だしな。サヲリにパイズリフェラを仕込みながら見物してました。

 

 

 狩場に到着したら、そこからは…うん、まぁ真面目にはやってるな。ただし、レイラの手元にはこの世界に似つかわしくないスイッチがあるけど。

 はい、GE世界で仕入れておいた、ローターやらバイブやらのスイッチです。遠隔操作…それこそ、メゼポルタ広場と狩り場くらいに距離が開いてても電波を受信できる無駄性能。…ま、途中にとんでもない電波を放つモンスターが居れば、流石に無効化されるけど。

 

 別に、このスイッチを使ってどうしろ、なんてレイラには言ってない。コレが今日、出発前にプリズムに仕込んだイタズラのスイッチなのかも、俺にだって分からない。…結構ね、数揃えてるのよ。どれがどのスイッチかなんて、型番を照らし合わせないと分からないのよ。…テレビのスイッチみたいに、似たような系統の電波なら、どれでも動く物もあるしね。

 でも、自分の手の中に、誰かをヒィヒィ言わせるための道具のスイッチがあるとなれば…性感の味を覚え込んだ雌としては、どうしても意識が行っちゃう訳でね。

 そこら辺に捨てたら、コンガ辺り拾われて、ポチポチ押されちゃうんじゃないかなー…なんて牽制をされている為に、ポイ捨ても出来ず。壊しもしなかったのは、『自分に使われたらどうなるか」を考え、ゾクゾクっと来たからだろう。

 

 そもそも、そんなに難しくないクエストを選んでいるので、大抵午前の早い時間には終了。終わった後は、時間一杯まで青姦乱交に励む。狩場に雌の声が響き渡る。

 時間になったら、またガーグァ車に乗ってメゼポルタ広場に帰る。当然、その間もあの手この手でレイラを弄り回す。

 

 

 広場に帰ってくる頃には、もうレイラは体力の限界だ。しかし、レジェンドラスタが下位クエストで力尽きそうになっている姿など、見せられる筈もない。

 気合と根性でレイラが見栄を張り、見かけだけは毅然とした動きで家に帰る。大抵は部屋に到着するなり、ベッドにふらぁ~っと倒れ込んで気絶。

 当然ながら、後始末なんか全くできてない。

 なので、一緒にクエストに行ったメンバーが、意識が無いのをいいことに、レイラの体を洗いながら遊ぶ。

 

 

 

 一方俺は、帰ってきたらまずプリズムの様子を確認する。午前中いっぱい、女の子達にオモチャにされたドMの歌姫。

 家の中で、ちゃっかり防音加工もされているので、色々と派手にやっても周囲にはバレない。バレても多分「またあの家か…」で済むな。

 特に今日は、色んな意味で天然淫魔のミキが居るからなぁ…。

 

 

 

 …部屋に入るなり、全裸土下座で迎えられました。しかもその後、即足の指舐めプレイ。こりゃ相当出来上がってるなぁ…。風呂にも入ってないけど、むしろご褒美だと言わんばかりに舌を這わせて来る。

 昨日は緊縛大開脚で迎えられたし、その前は自慰を見せ付けてきた。プリズムを弄ぶ役の女達の意向なんだろうけど、全然拒んでいないのは明白だ。

 

 すぐにでも襲い掛かって、身も世も無く乱れさせたいが、ここで一旦ストップ。プリズムの仕上がり具合を見て、女達にご褒美をやるのが先だ。

 プリズムの目の前で、彼女がされた事とは正反対の、甘く優しい、しかし容赦なく性感を送り込むセックス。

 ミキ、シキ、マキ、キヨと絡み合うように愛し合う下で、プリズムは惨めに足の指に奉仕を続けている。

 

 ミキ達を抱いた後は、今度はプリズムの番。好き勝手に弄ばれた後、焦らしに焦らされたプリズムの体はとんでもなく敏感だ。ちょっと突っ込んでやるだけで、性感のダイナマイトが起爆する。

 意識が飛びそうになるプリズムを卑猥なピストン運動で強引に引っ張り戻し、もうムリだという懇願を無視して貪り続ける。

 幼い頃から過剰に大切にされてきた反動なのか、プリズムは乱暴に扱われるのが新鮮らしい。技術や手法を凝らして体の悦びを引き出されるよりも、モノの大きさと勢いを叩きつけるような、強引な交わりを好む。

 交わっている時以外の普段の触れ合いでも、強引に抱き寄せられたりするのが好きなようだ。…こっちに関しては、トキシを慕っていた時、あっちからの行動が殆ど無かったのも理由だろうな。求められているという実感が欲しいのだろう。

 

 

 プリズムの心理はともかく、今日の仕上がりは、想像以上だ。ミキが何をしたのか、ちょっとばかり恐ろしくもあるが…。

 今はそれよりも、プリズムを徹底して責め立てないと。いや、徹底してではないな。午前中がレイラの時間だったように、夕方まではプリズムの時間。あまり飛ばし過ぎて、力尽きさせる訳にはいかない。

 乱暴にしつつも、その根っこには労わりを…というある種のツンデレかもしれない。

 

 

 とりあえず、意識が飛ばない程度に悦ばせて射精。中出しされた精子を啜りたそうにしているのが数名居るが、孕ませ目的なので今回は駄目です。その分、回数こなすから満足してね。

 

 

 ウェストライブ一家をグッタリさせてから、今度はプリズムを連れて祈樹の泉へ。

 尚、アイルー3匹衆は現在、祈樹の泉には居ない。プリズムの復活コンサートの告知やら、俺との結婚について式をどうするやらで、あちこち走り回っている。プリズムが俺の家に泊まっても、文句が全くでないのもその為だ。…プリズム、家事できないもんな。

 

 

 ここでのプレイは…ストリップ兼ファッションショー。

 の前に昼飯。買ってきた狩人弁当(力漲る味)を摘まみながら、やれあの動きがエロかった、こういう振りつけはどうだ、今度のオネダリに使ってみるなど、好き勝手に話す。

 

 ここでは、ネリ嬢ちゃんやミーシャなど、音楽関係が趣味の子や、体を動かして体力をつけたいアヒルさんチーム等が集まる事が多い。

 ショーカ嬢ちゃんは毎回ここに来ており、その審美眼やおっぱいの魅せ方に関する考察は、皆が一目置いている。

 

 ちなみにこの会話、プリズムにとっては軽く羞恥プレイである。そりゃそーだ、どこがエロいとか目の前で品評されてんだから。

 ついつい照れ隠しに、手元のスイッチをカチカチしてしまうのも仕方ない事と言えよう。特に、午前中にレイラがカチカチしてた日は。

 

 

 腹がこなれるまで一休みする間、大抵プリズムは俺の膝の上で、仰向けになって喘ぐか、うつ伏せになって喘ぐかしている。要はおっぱいを中心に弄り倒すか、お尻を中心にイタズラするかだ。

 程よく出来上がり、体が火照りだした頃に、プリズムのストリップが始まる。昼食時の品評を参考にして振り付けを変え、より卑猥で男を滾らせる動きを取り入れる。下品とエロの境目に、益々近付いている。

 「祈樹の泉は神聖な舞台」と言っていたのもいつの事やら。今や、その神聖な舞台を自ら汚す事にすら、抑えがたい背徳感を覚えているプリズムだった。

 …トッツイ達が帰って来た時、泉からアンモニア臭がするとか気付かないよな…。

 いや、気付くとしたらアンモニア臭よりも先に性臭だよな。しかもプリズムだけでなく、俺、ショーカ嬢ちゃん、ミーシャ、その他諸々…。

 一度なんて、アクロバティックな体位を試してみようって事になって、組体操状態でガンガンヤッたもんなぁ…。上手にイかせ方を加減しないと、組体操が崩れて危険。見た目的に悪くは無いが、本番するなら普通にヤッた方がいいという結論に達した。

 

 

 ダンスだけでなく、霊力習得の訓練をした事もある。プリズムは歌で霊力を操れるようなのだが、半ば以上無意識にやってるからな。上手く習得できれば、歌の効果を倍増させたり、逆に古龍を刺激する危険を無くしたりできるだろう。

 マオの初体験と同じような感じでやったんだが、術の効果がより深い。やはり、歌姫だけあって音に敏感だからだろうか?

 

 

 

 

 一頻りエロダンスの時間が終わると、後片付けをしてから家に戻る。

 この頃にはレイラも既に起き出しており、夕飯の支度をしている。メニューは主に精力増強系。ただし、俺のじゃなくてレイラとプリズム自身のだ。

 尚、ちょこちょこ失敗したと思われる料理も出てくるが、原因はプリズムのスイッチカチカチか、エプロン姿のレイラにイタズラしたナターシャ辺りだと思われる。

 

 

 夕飯の時だけは、直接的なセクハラは無し。尤も、飯を落ち着いて食べる為ではなく、間断なく性の悦びに晒されている精神をリセットする為だ。どんなに強くて素晴らしい悦びでも、慣れてしまえば感覚は鈍る。

 …尤も、直接的でない事はやってんだけどね。具体的には全裸。プリズムとレイラがではなく、俺が。

 誰が悦ぶんだよって言いたくなるかもしれないが、案外開放感はあるものだ。チラチラと盗み見されるのも悪くない。…プリズムとレイラが意識しまくっていて、精神のリセットにならないと言われるとそれまでだが。

 

 飯が終わると、ちょっとした運動に入る。

 下半身の運動じゃなくて、格闘訓練だ。一応、ちゃんとしたモノである。

 穿龍棍の扱い方には、格闘術が非常に重要になってくるからな。その道の第一人者であるレイラに色々相談しているのだ。全裸のままで。

 また、レイラの格闘術は凄まじい完成度だが、あくまで対モンスター用の技法である為か、関節技や絞め技はあまり知らない。討鬼伝世界で富獄の兄貴から教わった技を幾つか実演し、モンスター相手に応用できないか相談している。全裸で。エレクチオンしたままで。そそり立ったムスコが引っ掛かって、うまく関節技できない時もあります。

 

 護身術習得としてプリズムも参加し、割と真面目に練習している。…絞め技で捕縛したら、即セクハラに入るけどな!

 他にも、徒手空拳で戦う術を心得ているマオや、何となく軍隊式格闘術っぽい技のジェリー等、意外と素手でも戦える人は多い。

 

 

 …で、大抵の場合、プリズムが多勢に無勢、付け焼刃の技術でどうにもできずに捕縛され、人質というシチュエーションでくっ殺し、それをネタにレイラを脅し、何だかんだで輪姦するというお約束が出来上がった。結局、真面目な格闘訓練なんて10分続けばいいくらいなのよね。

 逆に、プリズムのみが格闘訓練し、レイラが霊力習得の為の瞑想を行う場合もある。既に霊力自体はオカルト版真言立川流初体験時に習得してしまったので、それを操る訓練だな。…つまり、何をされても動揺するな…という事である。その不動心を養う為、敏感な場所をサワサワされても我慢しなさい、と言う事だね。レズの手に埋もれていくプリズムの横で、聞き耳と乳首立てつつ瞑想するレイラの図。

 

 

 いい汗(と体液)流したら、今度は風呂。とは言え、この人数で俺の家の風呂と言うのは少々厳しいものがある。ユクモ村みたいに、温泉でもあればいいんだがなぁ…。ホルクの泉…は冷たいし。

 改築するか? 出来る所まで広げてはいるけど、金次第でデカい風呂とキングサイズベッドも置けそうな気がする。

 

 

 ま、それはともかくとして、風呂では朝とは逆に、俺が二人をキレイキレイする。文字通り朝からのセックス続き、さっきの輪姦プレイで精も根も尽き果ててるからね。仕方ないね。

 尚、恥ずかしがる二人を指先で丁寧にシーシーさせます。

 ここら辺で、一日にどれくらい仕込んだかの進捗を確認する。

 誰に何度イかされた、どんな行為で興奮してしまった、人目が無い時につい弄ってしまいそうになった部分、昨日に比べて敏感になった場所、一番深くイけたのはどんな時か…。

 自分で白状させる事もあれば、指と舌で探り出す事もある。一緒に入った子に協力してもらう事もあるね。何せ二人分のカラダを調査するんだからね。

 

 

 日中の痕跡をしっかりと落とし、ついでにアロママッサージなんかして風呂から上がると、もう結構な時間である。

 …が、二人は用意されたコスチューム(日替わり。プリズムのダンス品評の時に、どれにするか相談している)を纏い、必ず俺の部屋にやってくる。風呂に入ってサッパリしたとはいえ、体力が限界だと言うのに。

 

 …俺の部屋しか寝る場所が無い…なんて事は無い。客室だって空いている。なのに、部屋まで来るのは、明日に疲れを残さない為。オカルト版真言立川流で交われば、疲労回復元気溌剌お肌スベスベである。

 ま、風呂場で弄られて我慢できなくなったから、って理由が一番大きいけどね! 何せ、今日の用事はもう何も残ってない、俺の部屋には専用の淫具も揃ってる。力尽きるまで交わっても、全く問題ない。心置きなく(羞恥心とか色々あるけど)堪能できる訳だ。

 

 どっちにしろ、体力が回復しても真夜中までガンガン責められまくれてヘトヘトになるしな。その後また回復させるけど。

 

 その日の最後のプレイは、大抵二人の奉仕から始まる。今日はベッドに腰かけている俺に跪いてのWフェラから。協力しているようでもあり、競い合うようでもあり、出し抜いて独占しようとしているようでもあり。

 やはり積極性はレイラに軍配があがる。プリズムに比べると、羞恥と言う足枷があるとはいえ、元々が活動的なタイプで、しかも意外と尽くすタイプだ。少なくとも、自分の意思を抑えて、プリズムと俺を結婚させようとするくらいには。

 この時だけは、レイラがプリズムを大っぴらに「姉さん」と呼ぶのも、個人的にポイントが高いな。

 

 だからと言って、プリズムがやられっぱなしな訳もない。行為に躊躇いが無い分、プリズムのテクの上達は非常に速い。教えた事を次々に吸収し、他の子達からされた事からも技術を盗み、嬉々として試そうとするのだ。

 それにレイラが張り合うもんだから、真ん中に挟まれている俺は極楽な訳ですよ。調和するは2は完全なる1に勝るとは、よく言ったものだ。勿論、完全な1だって十分すぎるほど気持ちいいが。

 

 そのまま好きにさせていてもいいのだが、二人の体力はスッカラカンだ。今は欲望に引きずられて動いているが、遠からず電池切れして、フーッと意識を失ってしまう。

 なので、一発射精して、多く浴びた方から先にオカルト版真言立川流で力を注いでいく。

 犯され、力尽きた体を尚責められて弄ばれながらも、活力が湧いてくる奇妙な感覚。…二人の体は、それにすっかり馴染んでしまっていた。ただの性向でも、それこそが体力回復役とでも言いたげに、どれだけ疲れていても、求められれば体を曝け出す。…ま、こんな生活してりゃ、3日もあればそんな風になっちまうよな。

 

 

 大体、特に我慢したり焦らしたりしなければ、二人に2発ずつ…体力が大分回復してきた辺りで、扉があけられる。

 入って来たのは、その日は参加していなかった子。今日で言えばフローラ、ティアラ、ユウェルの3人。日中はレジェンドラスタの仕事が忙しかったらしい。…まぁ、フラウが産休状態、レイラもほぼ仕事放り投げてる状態だからね。皺寄せが行くのも無理ないわ。

 

 忙しさのストレスをぶつけるように、3人はレイラとプリズムに絡みつき、積極的に攻め立てる。主にレイラだが、プリズムも姉妹の連帯責任って事でね。

 最大の元凶である俺を搾り取ろうともしてくるな。まー、朝から晩までヤりまくってるんで、普通に考えれば流石に打ち止めどころか紅玉もとい赤玉待った無しなんだが…大活躍です、オカルト版真言立川流。最低限のエネルギー補給しておけば、残弾無しにはまずならないもんな! 相手側からエネルギー吸い取ったり増幅したりして回復するから、ナンボでもヤれるで。

 …一日の射精量の試算をしてみたリアに、改めてモンスター認定されたけどな。

 

 ま、それはともかく、ティアラとフローラの二人係でリアが拘束されてネチョネチョされているので、俺はユウェルと一緒にプリズムを犯す。

 妹と一緒に犯されるというシチュエーションでキュンキュン来ているらしく、日中とは明らかに締まり具合が違う。

 キスマークとか付けてやると、すっごい悦ぶんだよなぁ、この子。所有物だって証が付くのが嬉しいのか? よし、明日は二人纏めて首輪とリードでワンワンプレイだな。集めた皆に見られながら、屋内のお散歩でもさせてみるか。

 

 

 俺に犯され、ティアラ達に嬲られ、折角回復した体力もあっという間にすり減っていく。体液に塗れて二人がベッドに崩れ落ちたら、それからティアラ達の番である。

 先達(?)の威厳を見せ付けるように、まだ二人がやった事のない行為を嬉々としてやってのけるティアラ達。冷静に見れば痴女がサカッているようにしか見えないだろうが、ここではそれは褒め言葉だ。事実、自分達ではまだ考えた事すらない行為を行うのを、驚愕と畏怖を持ってガン見している。嬉々として飲尿する姿を見て対抗意識を燃やすとか、ホントに気が狂ってるね。

 サンドイッチに挑戦させないとな…。レイラが真ん中か、プリズムが真ん中かで大きく展開が変わりそうだ。尻の開発具合はどっちも同等だし、どうしようかなぁ…。

 

 思いっきり中出しした後、ブローバックを啜らせているリアを見ながら、今日は何処まで試してみようか、悩む俺。

 まぁ、そう深く考える事も無い。力尽きるか、許容範囲を大きく超えて気絶してしまうようなら、今度は夢の中で弄ぶだけの話。むしろ、現実ではできない事も出来るから、プレイ内容への拒絶心を無くす為なら、そっちの方が効果が高いくらいだ。

 

 

 さて、この辺まで来ると、流石に夜も深くなってきているので、残っているメンバー全員の体力を磨り潰す勢いで連続絶頂責めに入る。

 白目、潮吹き、失禁は当たり前、それこそ某対魔忍レベルの失神を目指してガンガン腰を振りまくる。理性が完全に消し飛んで、何をされても悦び喘ぐしかできなくなった女達を肉布団にし、レイラとプリズムの夢に侵入する為の術をかけてから、俺の意識も遠くなっていく。

 

 

 

 で、夢の中で、フュージョンしたプリズムとレイラをファックする。

 

 

 

 

 …淡々として申し訳なかったが、これがここ数日のレイラとプリズムの生活である。

 自分でやっておいてなんだが、よく気が狂わないな。手を変え品を変え配役を変え、とにかくただ只管肉欲に溺れさせているが…。

 

 時に、人間の習慣は三日で作られる、という話を知っているだろうか?

 三日間、もう朝から晩までヒィヒィ喘ぎっぱなしなんですが、これいきなりストップしたらどうなるだろうなぁ…。

 一生分悦ばせるつもりで腰振ってたけど、これが突然禁欲状態になるとか……。

 

 

 ……二人の人生を、またしても狂わせてしまった気がしてならない。となれば、人生どころか本気で気が狂うレベルを目指してみるか…?

 

 

 ま、とりあえずは褒章祭が終わるまでは、毎日このサイクルですな。

 

 

 



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GE世界7
316話


E.D.F隊則ー。

①EDFの任務は地球防衛である。人類防衛ではない。
②EDFが優先すべきは、些細な犠牲より勝利である。故にミッション成功するなら、味方をどう扱ってもよい。
③EDFが防衛すべきは星であり、文明並びに建物ではない。邪魔と判断した場合、及びモチベーション維持に貢献できると判断した場合、団地であろうが住宅街であろうが躊躇わず更地とすべし。
④EDFが重視すべきは任務達成であり、市民の生存ではない。むしろ、市民は体を張ってエネミーを引き付ける、一流の戦士(と書いてデコイと読む)と心得よ。
⑤誤爆と味方殺しの汚名を恐れぬ者だけが、地球を守れる。具体的にはプレイヤー。
⑥死して屍、使用後の箸。(死んだら誰も使わない)
⑦味方の悲鳴はBGM。市民の悲鳴は賑やかし。
⑧自爆を恐れるべからず。己の命を弾頭と心得よ。具体的には、電灯や樹によって誤爆しようとも、懲りずにブッパせよ。市民は積極的に狙え。
⑨バカ。
⑩E.D.Fは超法規軍である。古事記にもEDF2の粗筋にもはっきり書いてある。故に、どのような行為も違法ではない。(合法だとは言ってない)



とりあえず18までクリア。難易度ノーマルのみだけど、全兵科でやってます。
別の兵科の武器も手に入るようになったし、アーマーも上がるし、便利になったなぁ。

でも歌は4.1のほうが好き。


ゲーム用PC月

 

 

 …ついに来た…のかな?

 いや、レイラとプリズムが完全な色情狂になったとかじゃなくて。

 

 褒章祭が一段落し、プリズムとレイラも普通の生活(ヤりたくなった時除く)に戻り始めた頃、ギルドからとある情報が舞い込んできた。ここ最近、フロンティア近辺のとある島で奇妙な現象が発生している、という話だ。

 それだけだったら珍しくも無い。フロンティアに限らず、この世界で妙な自然現象があるなんて、確実に異変の前触れだ。そして、その異変は年がら年中、どっかで発生している。

 俺がこの情報に注目したのは、覚えがある現象だったからだ。

 

 

 曰く、島全体から奇妙な光が立ち上って、空にある黒い穴に入っていく。

 

 

 …言うまでもなく、クソイヅチの起こす因果崩壊だろう。

 ただ、ちょいと気になるのは、立ち上る光だけではなく、降ってくる光もあるのだと言う。…討鬼伝世界で因果崩壊が起こった時は、立ち上る光だけだったよな?

 何かあるのか…。例えば、バカンス中に夢で会ったミラルーツがあそこに居たり?

 

 …まぁ、行ってみれば分かるか。どっちにしろ、イヅチが居るなら殺りにいかない理由は無い。

 

 

 …デスワープの危険が非常に高いとしても。

 

 

 とは言え、実際のところ、今更イヅチでデスワープするか? って疑問もある。相手を甘く見るつもりはないが、フロンティアに来る前の俺ですら、奴の触手を斬り飛ばしたり、ウタカタの戦力総がかりとは言え、あと一歩のところまで追い込む事ができていた。

 確かに因果を略奪する能力は脅威だが、俺はどうやらそれに抵抗できるようだし、フロンティアで作り上げてきた装備や神機、アラガミ化その他諸々を纏めてブッ込めば、対峙して10分かからず四肢と触手と首を斬り飛ばせる自信はある。

 

 …ああ、でもまず見つけるまでが問題か。あの時と同じであれば、イヅチは多分空の穴の中に居る。空までどうやって行くかな。幽体離脱も出来なくはないが、あの因果崩壊の中でやるのは危険だな。そうでなくても、野生のモンスターが寄ってきかねない。

 とりあえず、調査部隊に志願し、受理はされたから、後はもう現地で考えるしかないかなぁ…。まぁ、とにかく準備しておくか。

 

 

 

 調査に赴く事については、多少の問題はあったが、皆も納得してくれた。…ただ、産休を主張していたフラウが、『お休みの前の最後のお仕事』と言ってついて来る事になったけど。

 …明らかに、俺の監視と言うか護衛と言うか…。まぁ、有難い事だ。

 

 

 しかし、クソイヅチは一体何をやってるんだろうな。今まで出現したのは、全て俺の近くだった。どうやら、自動で補充される餌として、俺に付き纏っているようだったが……何で今回に限って、あんなに離れた場所に? フロンティアに含まれはするが、絶海の孤島と言って差し支えない場所なのに。

 島に何かあるんだろうか…。或いは、ここ最近のループではイヅチが体調不良っぽい形跡があったけど、それが何か関係があるか?

 

 うーん…結局のところ、行って調べてみないと分からない…という結論になるんだが、それで今まで何度も痛い目と言うか死ぬ目を見てるからな。

 違和感や疑問をスルーして突っ込むと、特大の地雷が連鎖大爆発するパターンだ。さりとて、やはり考えても考えても答えは出ず。

 

 どうしたものか…。フラウに相談してみるか。何処まで話すかなぁ…。

 異世界云々は…フラウなら信じてはくれそうだけど、流石に話がデカすぎるし、余計な情報は切り落として整理して話すべきだろう。

 ……そうだな、端的に、イヅチの能力の事だけでも話しておくか。

 

 フラウ、ちょっと話があ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神無月

 

 

 デスワープしたのもショックだけど、なんか色んな意味で混乱しまくってんですけど。

 あれ? 何で? 今更何で?

 

 何で俺、フライヤーの中に居るの?

 いやフライヤーじゃねぇよ。誰がカラッと揚げられとるねん。実際、体感温度的には似たようなもんだったような気がするけど。

 

 

 

 

 

 

 

 つか真面目な話、ここフライアだよな?

 GE世界だよな?

 

 何でいつもの廃墟で、オウガテイル達に囲まれてないんだ? 日記を読み返すに、普通にデスワープしたけど今の今まで記憶と意識を失っていた…という訳ではないようだ。

 前回の日記はデスワープする直前に書いていた日記に間違いないし、痕跡からしても記されて数日と経っていない。

 …なんか、体の節々は痛むけど…。なんか覚えがあるな、この痛み…。懐かしいような、そうでもないような、少なくともループが始まってから殆ど感じた事が無いような痛みである。

 

 いやそれはともかく。

 

 …時間が進んだって事か? GE無印(並びに、多分俺の知らないゴッドイーターの追加シナリオ編)から、GE2に?

 何で。どうして。何度も何度も同じ場面を繰り返させておいて、どうして今更。

 

 検証こそできないが、想像だけなら幾らでも考えられる。

 気づかない内に、何らかの条件を満たしたか。

 終末捕食を阻止したからか。

 前回のループで、地球の外まで飛び出したからか。

 誰も死んでないからか。(毎回殺してるのが居たような気がするが、俺はアレを人間と認識する事を辞めている)

 或いは、やはり異常が起きていたクサレイヅチの影響か。

 

 

 …そうだよなぁ。クサレイヅチ、また斬り損ねたんだよな。いや斬るには斬ったけど、アレでくたばったとは思えん。状況が状況だったしな。

 

 

 いやまぁ、そこは置いておこう。どうせ生きてるんだし、またどっかでカチ合う筈だ。その時に改めてナマスにしてやるまでよ。……あの時の状態のまま出てきたら、流石に勝てるか分からないけど…。

 

 

 

 さて、状況の整理も兼ねて、恒例のデスワープ時の事を

 

 

「あ、教官」

 

 

 扉を開けて、見覚えのある顔が入って来た。

 ……ロミオ? …ああ、そうか。GE世界でフライアの中に居るんだから、当然ロミオも居るよな。

 あれ、でも俺を教官と呼ぶって事は、前回ループ時の事をそのまま引き継いでるって事か? むぅ、益々持って訳が分からん。

 

 

「起きたんすね、教官。…まぁ、あんまり心配してなかったですけど…イテテ」

 

 

 どした、その頬。

 

 

「アンタに殴られたんだよぉ! ジュリウスまで一発ド突かれただけで、上半身が地面に埋まるくらいになったぞオイ!」

 

 

 え、マジで。……全然記憶が無いんだけど、その、すまん?

 

 

「疑問符付きで謝られても、全然誠意が感じられないっす。…はぁ、まぁいいけどさ。…生きてたんすね、教官」

 

 

 あー……うん、まぁ、色々あってな。

 (……前回どうだったっけ…。フライアで目が覚めて、ロミオがこんな態度って事は、確か……月から戻って来た頃か?)

 

 と言うか、俺が死んだ事になってる状況って、あらゆる意味でややこしい状況だったんだが……ロミオ、何処まで聞いてる?

 

 

 

「…………その一通り。教官と一緒に月に行ったっていうアレが起こす現象の事とか、それを教官がどうやって止めたかとか…」

 

 

 ……何? …誰から聞いた。一応、極秘事項だぞ。

 おい、何故目を逸らす。

 

 

「……ざ、ザマァと言ってやる!」

 

 

 うぉい!? 何しやがったテメェ!

 

 

「うっさいな! 俺だってアンタを心配してたんだよ! ナナと話してる間に昔を思い出してちょっとしんみりしてたら、突然ボロボロで一般人をタコ殴りにしながら出てきやがって! 俺の心配とかショックとかそう言うのを返せえぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 ……一頻叫びあって、ふと我に返った。これを盗聴しているかもしれない腹黒博士も、呆れてスイッチを切った頃ではなかろうか。

 

 ロミオ、真面目な話、ついさっきまでの記憶が無い。俺は非常に特殊な状況下に居て、知り得る情報が限定されていた。

 元教官としての命令だ。質問に答えろ。

 

 

「やだね!」

 

 

 ほう、面白い事を言う奴だ。吊るすのは最後にしてやろう。

 

 

「…冗談っすよ。はぁ、相変わらずみたいで安心したよ、教官。…で、何から知りたいんだ?」

 

 

 色々あるが……ボロボロの状態で、俺が一般人をタコ殴りにしてたって何ぞ?

 

 

「あー……何でそうなったかは俺にも分からないんだけど、なんかバスを追いかけていたアラガミを、教官が登場と同時に叩き潰したらしい。で、教官は気絶。でも、追いかけられて恐慌状態だった乗客の一人が、『もっと早く助けに来い、この役立たずのゴッドイーターが!』ってヒステリーを起こしてガンガン蹴っ飛ばしてたら、いきなり動き出してアイアンクロウ。頭蓋骨が軋む音を響かせながら、思いっきり地面に叩きつけたとか…」

 

 

 ふーん。そいつ、生きてる?

 

 

「生きてる。不思議な事に」

 

 

 じゃあ思いっきりじゃないな。…言われてみれば、赤い衝撃で意識が飛びかけた直後、誰かに反撃したような記憶が薄っすらと…。

 

 

「それは止めようとした俺達に反撃した記憶かもしれないな? いつかの教練に比べても、とんでもなく重い拳だったぜ…」

 

 

 お、おう、それは素直に悪い。ていうか、それって問題になってないか? ゴッドイーターが一般人を攻撃したとか。

 

 

「誤魔化したみたいだな。大体教官、腕輪つけてないじゃないか。ゴッドイーターなら腕輪があるのに、それが無い。ついでにフェンリルのゴッドイーター一覧にも名前は無い。いやあるのかもしれないけど、公式には死んでるから別人だ。だから、勇敢にもアラガミを足止めしようとした一般人を、恩知らずが殴って、逆に殴り飛ばされた。これでQ.E.D」

 

 

 なんともまぁ力技な事で。ラケル博士に借りを作るとか、コワイ話だねぇ。

 

 

「………教官も、そう思う?」

 

 

 ああ、思うさ。大体、お前の持ってる疑念は大当たりだ。あくまで俺視点だけど。

 

 

「………やっぱり、そうなのか…」

 

 

 …ちなみに、俺が登場したってどんな状況だったか聞いてるか?

 

 

「あ? あぁ…えーっと、クァドリガからバスが逃げてたんだけど、正面上方から隕石みたいに降ってきた…らしい。乗客達も半ば混乱気味だったから、あんまり当てにはならない情報だけど」

 

 

 はぁん…。落下してきたって事は、あの時と同じように月からガンダム張りに大気圏突入してきたのは間違いなさそうだ。薄っすら記憶に残っている、赤い衝撃は摩擦熱だろう。ついでに言えば、既に引いている痛みは、落下による衝撃のダメージだと思われる。ハンターになってから、落下ダメージって全く感じなくなったからなぁ…。

 しかし、状況が違うとは言え、これまでのループの性質を考えると……ある一定のタイミングの全てを再現したループである筈。何度繰り返しても、オウガテイルの配置が同じだったように、落下している瞬間の俺も全く同じ状況に戻されている筈。

 なのに、落下地点が前回と違うし、何よりこのダメージ…。

 

 

 

 …ああ、成程。あの時は、半ば無意識にブラッドレイジを発動させてたんだ。しかし、デスワープでその真っ最中にやってきた俺は、精神的な問題か体調的な問題か、ブラッドレイジを継続する事ができなかった。エネルギーが途切れ、無敵時間が終わった俺は、モロに大気圏突入のダメージを受けてしまい、また落下コースも変わってしまったって訳だ。

 たぶん。てゆーか、流石によく生きてたと自分を褒めてやりたい。下手しなくても、GE世界をすっ飛ばして討鬼伝世界まで逝ってしまうところだったろう。

 

 ……或いは、俺が覚えてないだけで、また一周してきた可能性もあるけども。

 

 

 で、話を戻すが、ザマァって何よ。

 

 

「あー……いやその、流石に予想外だったんだけど…ほら、死んだと聞かされてた教官が、生きてた訳じゃん? …事情に詳しい人に話を聞きたいって思うのは、当然の反応だよね? ほら、一般人を半殺しにしちゃった件で、身元引受人と言うか、バックが必要だった事もあって」

 

 

 まぁ、余計な事に首を突っ込んで、蛇を出さないんならな。

 ……あれ、ひょっとして。

 

 

「………レア博士に電話して問い詰めようとしたら、逆に凄い剣幕で……。信じられないって言うから、寝てる教官の写真を撮って送ったくらいだよ」

 

 

 ををぅ…。

 それは…仕方ないけど、なんというか素晴らしくややこしい状況が…。

 

 確か、レアやアリサ視点だと、俺は月に居て、俺を迎えに行く為にロケット開発やら何やらに力を注いでいた筈。それが、知らない内にいつの間にやら地球に居るとなると…。

 ……前回、どうだったっけなぁ。再会と同時に熱烈なキスを受けて、そのままベッドに直行した事は覚えてるんだが。

 

 と言うか、再開時以外も色々とどうだったっけ? 正直、印象に残ってる部分以外はうろ覚えなんだよな。一度、日記を読み返す必要があるな。

 

 

「まーアレだよ、レア博士も、娘さん? のアリサって人も、こっちに向かってるらしいよ。まぁ、ドイツからの移動だから、結構時間がかかるらしいけど」

 

 

 ドイツ? そんなトコで何やってんだ?

 まぁ…いいか。前回は確か戻ってきても連絡入れてなかったんで、かなーり怒られたからな。全裸正座だったっけ? 待機もしてなかったと言うのに。

 それをロミオが自主的にやってくれたのであれば、むしろ助かったくらいだ。……問題があるとすれば、ラケル博士が何か妙な情報を仕入れてないかって事だが……ロミオは既にラケル博士への疑念も持っているし、盗聴の危険だって考えていただろう。余計な事は言ってない筈だし、そもそも聞かれて困るような事はロミオ自身が知らない筈だ。

 

 …ああ、もう一つ問題があったかな。レアにとって、ラケル博士の居城であるこのフライアは、どう見えているだろうか。俺を迎えに来ると言うのなら、フライアに乗り込まずにはいられまい。

 俺を迎えに来る為とは言え、自分の半生以上を抑圧・束縛し続けたラケル博士の前に立てるだろうか?

 

 

 …愚問だったな。レアは根っこが打たれ弱いタイプだけど、尽くす相手の為なら限界を超えていくタイプだ。かつてのトラウマの元凶であろうと、突っ込んでくるだろう。…その後どうなるかは、不安だが。

 

 

「…本当はもっと色々話したいし、どうして死んだことになってるのか聞きたいけど…もう行かなきゃ。ナナ…ああ、俺やジュリウスの部隊に新しく入った子に、色々と教えなきゃいけないしな」

 

 

 ん? …ああ、俺もまだ体が治り切ってないし、ちょっと休みたいと思ってたんだ。治ったらラケル博士にも挨拶に行くって言っといてくれ。

 

 

「それまでは立ち入るな、って意味かな? りょーかいっす」

 

 

 気楽な感じで敬礼し、ロミオは部屋から出て行った。

 

 

 

 

 …さて、どうしたものか。前のループの日記を読み返すのは当然として…いつものデスワープ時の整理といくか。

 

 

 いつもだったらドグサレイヅチに対して怨嗟の叫びをあげるんだが、今回は流石になぁ…。いやアイツが余計な事したからの結果なんだろうけど、ある意味ハンターとして真っ当に負けた、と言えなくもない。それ以上に怒りと怨嗟を燃やす理由もあるんだが、一周回って冷静になった……のか、或いはそれも『奪い取られた』のか。

 と言うか、いつか目にする機会があるかも、とは思っていたが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれがラヴィエンテ……。

 

 うん、白旗上げるようで気に入らんが、手に負えんわアレは。今回は何が出てくるのかと思ってたら、真っ当に叩き潰されてしまった。まさか、MH世界でも屈指の巨大生物を動員してくるとは。話には聞いていたが、ナバルデウスすら可愛く見えるね。

 …まぁ、もう一体の超巨大生物、ダラ・アマデュラと同時に出てこなかった事だけが救いかな…。いや救われずに死んじゃった訳だけど。

 

 フロンティアの孤島で因果崩壊らしき現象が起きていたと聞いた時点で、察するべきだったなぁ。孤島自体はベルナ村に居た頃にも行ってたから、勘違いしてしまった。フロンティアで言う孤島と、村で言う孤島は全くの別物だ。と言うかフロンティアの場合、絶海の孤島で絶島である。

 はぁ…毎度毎度、間抜けな死因が多いなぁ。

 

 いや、今回のは多分、勘違いしてなくても負けたと思うけどね。実力差と言うか、圧倒的すぎる質量差で。

 

 

 酷い奇襲だった。

 

 

 日記を書いて、フラウに相談しようとした時、ふと地面が揺れているのに気が付いた。地震じゃない。こう……なんだ、大質量の何かが、繰り返し地面にぶつかっているような振動。

 …今にして思うと、既にこの時点で手遅れだった。

 

 

 ラヴィエンテって、縦に蛇行しながら移動するのな…。しかも、やろうと思えばあの超巨体で跳躍なんて真似まで出来る。全力で跳躍したら、古塔くらいなら飛び越えられるんじゃないだろうか?

 つまり、大質量×高さ×落下速度。

 

 

 

 

 

 おわかりいただけただろうか。

 

 

 この理不尽なファーストアタック。格闘ゲームで、開始前のデモシーンで一撃必殺技を喰らって勝敗が決したようなもんだ。それこそ隕石、いや彗星がメゼポルタ広場に直撃したようなもんだよ。

 アレだな、その辺の居酒屋で酒飲んでて、ふと振り返ったら範馬勇次郎の踵押しが直撃する瞬間だったら、こんな気分になると思う。

 

 そりゃもう、メゼポルタ広場は酷い有様になってしまった。ミラボレアス騒ぎの時の被害が、軽い物に思えてしまうくらいに。

 それでもすぐ様立ち直り、救助活動やラヴィエンテに対抗しようとするハンターが多くいた辺り、本当にハンターは精神的にも物理的にも頑丈だと思う。ウチの団員達も、大混乱したり不運に対する呪いの言葉を吐きながら、それぞれ出来る事をやろうとしていた。

 

 ただ、それにしたって相手が悪すぎた。レジェンドラスタも多く揃っており、非常事態につき彼らも全力でやってくれたんだが……焼け石に水。

 それでもあれ以上ラヴィエンテが暴れないように、足止め成功していた。…やっぱ、俺はまだまだあの人達には及ばないなぁ。本来なら、50人以上いるハンターで必死に援護し、それでも勝てないトンデモ生物を、10人にも満たない数で釘付けにするとか…。

 

 特にフラウは凄かった。ノリは普段と同じなのだが、迫力が違う。…あれが、我が子を守ろうとする母親の姿なのかな。妊娠検査薬、まだ使ってなかったけど。

 

 

 

 

 

 …ラヴィエンテだけなら…あのまま、レジェンドラスタ達でどうにかできたかもしれない。俺も戦線に加わるか、或いは逆に皆を避難させて、レジェンドラスタも逃げられるようにしていれば。

 でも、因果崩壊がそれをさせなかった。いや、因果崩壊までは至ってなかったんだろうが、とにかくラヴィエンテにイヅチがくっ付いてきていたのだ。背中に乗っている……と言うと少々語弊があるが、とにかく一緒に襲来してきた。

 多分、絶島で起こっていた光の現象…因果崩壊によって、何らかの方法でラヴィエンテが目覚めさせられたんだろう。『眠る』という因果を剥奪したとか?

 

 

 

 

 戦闘能力だけで言えば、イヅチカナタを仕留めるには、フロンティアのG級ハンターが一人居れば充分すぎるくらいだ。ただし、それは正面から戦う事ができれば…の話。

 フロンティアの人達には、因果略奪の能力に対する免疫が無かった。ラヴィエンテの襲来に右往左往している間に、あっという間に因果を奪われ、今自分が何をしているのかすら認識できなくなってしまう。

 異能持ちや、霊力を体得していた人達は、多少は抵抗できたが…イヅチって鬼の中でも最上級の力を持ってるからな。いくらフロンティアのハンターが生命力に満ち溢れまくってるとは言え、年季が違う。

 

 動けるハンターはあっという間に居なくなり、レジェンドラスタの皆も互いの事が認識できなくなったり、子供時代に戻ったり……………ギネルさんのショタ口調という恐ろしい物を聞いた気がするが、因果を略奪されたので覚えてないな!

 結局、俺一人になってしまった。

 

 

 ここで俺は2択を迫られた。

 ①少しでも犠牲を少なくする為、誰でもいいから引っ張って逃げる。

 ②誰かが犠牲になるのを諦め、とにかくイヅチを狩る。

 

 

 …②を選ぶ。犠牲になる人の中に、俺の女も居るかもしれない。俺の猟団の団員だっているかもしれない。それを承知で、俺は選んだ。

 当然の事だ。①を選んだところで、抱えて逃げられるのは多くて3人程度。ついでに言えば、逃げたところで追いかけられれば一巻の終わり。

 ②は…イヅチさえ仕留めてしまえば、因果崩壊は防げるし、因果略奪能力も消える。そうなれば、呆けてしまったハンター達だって動けるようになる筈だ。そうすりゃ、一緒に戦うなり、救助活動に手を貸すなり、最低でも自力で逃げ出すくらいの事はできるだろう。

 

 

 おっと、もう一つの選択として、③一人で逃げる、というのもあった

 …今考えると、これが一番有効だったかもしれん。イヅチが俺を狙っているなら、俺が離れればイヅチは追ってくる。イヅチが乗っているラヴィエンテも、メゼポルタ広場から離れる。

 まぁ、そうなると俺は一人でラヴィエンテと対峙する事になって、確実にデスワープだけどな…。

 結果的には変わらなかったか。

 

 

 

 まぁとにかく、俺は何とかしてラヴィエンテの頭の上に居るイヅチを叩き斬ろうとした訳だ。 

 ラヴィエンテは…正直、見ているだけでも震えがくるくらいのプレッシャーだったが、動き自体はそう素早いもんじゃなかった。いや、あの移動法と筋力を見るに、やろうと思えば鬼疾風以上のスピードで動けるんだろうけど、初速はそこまでじゃない。

 と言うより、動く気が無かったんだろう。少なくとも、ラヴィエンテは自分の意思でメゼポルタ広場に襲来したのではなさそうだ。

 

 

 感覚が鈍いのか、鷹揚なのか、単に人一人に乗られた所で痛痒すら感じないのか。鬼の手でラヴィエンテの体の突起を掴み、体の上に駆け上っても、何らアクションを起こそうとはしなかった。

 そのまま、蛇の道を駆ける悟空のように、背中を走ってイヅチへ接近を図る。無論、アラガミモードも発動中だ。

 ラヴィエンテが動き出したら、まず間違いなくお陀仏。俺じゃなくても誰かが死ぬ。交戦時間は限りなく短く、一気呵成にカタを付ける。

 

 

 …そのつもりで、ある程度まで接近した時、イヅチの異変に気が付いた。

 やはり、体に変調が起きていたのは確かだったようだ。そんな生易しい問題でもなかったが。

 

 あれは、吸収……いや、ラヴィエンテにそんな能力があるとも思えんしイヅチの方から同化…あるいは侵蝕?

 とにかく、アレだ。

 

 

 

 イヅチの下半身が、ラヴィエンテの頭にめり込んでた。いや、溶け込んでいたって言った方がいいか?

 

 

 物理的に融合してたんじゃないと思う。下半身が霊体化してた感じ?

 そして、イヅチの体から光が漏れて、それがラヴィエンテに注がれている。あれって因果だよな。

 

 つまりこうなる。

 ①メゼポルタ広場全域から、因果を略奪する。

 ②略奪された因果がイヅチの一部になるが、それらを縛り付けて置く為の力が無いので、零れ落ちる。人間で言えば、腹に大穴が空いて、そこから食った物が飛び出していくようなものか。

 ③零れ落ちた因果が、ラヴィエンテにくっつく。

 

 …因果がくっついたらどうなるんだ、って話だが…俺の体験談から行くと、他人の記憶や経験が、さも自分の物であるかのように思い出せるようになる。つまり、本来なら別の誰かがやった事…その因果が、自分の物になってしまうと言う事だろう。

 ラヴィエンテにとっては、どうだったろうなぁ。百人以上の人達の因果…記憶が、いきなり流れ込んでくるんだ。しかも種族さえ違う連中の記憶。

 何が何だか分からず混乱したか、そもそも混乱する程興味を示さなかったのか。

 

 とりあえず、下半身消失状態で動けないイヅチを、積年の恨みとばかりに背後からドタマカチ割ってやった。また千歳を人質にするんじゃないかって危惧もあったので、咄嗟に太刀筋変更できる程度の攻撃だったが。

 結果は直撃。人質どころか、避けようとすらしなかった。ただ、手応えも殆ど無かったな。因果を蓄えておくための力が弱まっている為か、斬ったと言うよりは、無造作に置かれた石ころの山を、蹴っ飛ばして散らしたような感覚だった。

 

 その時、飛び散った因果の一部を、俺が吸収してしまった。

 

 

 

 ああそうだ、吸収だよ、吸収。言い方を変えれば、俺は『因果を食った』んだ。イヅチカナタと同じように。

 零れ落ちた因果が付着するのとは、またちょっと違う。付着しただけなら、他人の記憶がさも自分の物のようになるだけだが、俺はその因果をエネルギーに変えたんだ。変えてしまったんだ。

 …吸収した因果は、限りなくどうでもいい内容だったからまだ良かったものの…。

 

 

 

 これで確信した。イヅチカナタは、元は俺と同じ『何か』だ。人間なのかバケモノなのか、或いは物質だったのかは分からないが、因果を吸収する性質を持った『何か』だ。

 集まってくる因果が多くなりすぎ、消化しきれなくなった結果があの姿なんだろう。

 

 ついでに言うと、ループが始まる前の俺の記憶についても説明がついた。元は電子情報の塊であったらしい俺が、何故普通の生活を送っていた記憶を持っているのか。…簡単だ。それこそ、因果が付着したからに決まってる。

 あの記憶は、俺じゃなくて、別の誰かの記憶なんだ。

 

 …まぁ、誰の記憶なのかはどうでもいい。あっちの世界と、今俺が居る世界とでは環境が色んな意味で違い過ぎるし、無理にあっちに戻る事を考えなくてもいい分、気楽なくらいだ。向こうじゃハーレム作ってヤりまくりなんて、まず出来ないしな。

 ただ、俺という人格の始まりは、元となった誰かのコピーであるっぽいし、名前はそのままもらっちゃっていいかな。ネットで本名はご法度かもしれないが、ここじゃ現実だ。見た目も同じだし、どーせ本人に会う事もないだろう。

 

 

 問題は…俺も、いつかはあのイヅチと同じようになってしまうかもしれない、って事か…。考えてみれば、アラガミ化や触鬼の力等、色々な物をあっさりと身につけられたのも、この力によるものなのかもしれない。

 アラガミや触鬼の因果が付着した事によって、その力を得た…のか? いやでも、触鬼の力を得たのは、触媒をうっかり食っちゃったからだし…。 とにかく、今後も色々とゴチャゴチャ後付け設定が追加されて、最終的に矛盾だらけの何が何だか分からないモノになってしまいそうだ。

 

 

 

 先の事…先の事だよな?…は置いといて、イヅチとラヴィエンテだが、ラヴィエンテは何を考えているのかボーッとしているだけ。

 イヅチは俺に気付いたのか、反撃してきた。とは言え、ただでさえ動きが鈍いイヅチが、全く移動せずに背中の触手だけ振り回してきても、正直どうって事は無い。フロンティア印のドスランポスの方が、余程恐ろしい。

 触手はすぐさま斬り飛ばし…。

 

 

 

 

 触手から食われようとしていた因果に気付いて、プッツン。

 

 

 そこにあったのは、『フラウの赤ん坊』の因果だった。つまり俺の子が、フラウの腹の中で今正に育っているという因果だった。

 もしもコレを奪われたら? …流産か。或いは、最初から着床していなかった、となるのか。

 何れにせよ、これ程にビキビキ来たのは、千歳を人質にしやがった時以来だ。意識してもいないのに、ブラッドレイジが発動した。

 

 

 

 っとに、どこまでヘイト貯めれば気が済むんですかねぇ…。元が同類だったとか、そんな事はもうどうでもいい。中に居るであろう千歳に当たらないようにナマス斬りにして、もう何もできないようにしてやる。

 

 

 

 

 

 果たせなかったけど。

 

 

 タイミングが悪いよ、タイミングが。いや、イヅチを斬れば斬るだけ因果が零れて、ラヴィエンテに注がれていたから、ある意味では当然の結果だったのか?

 千歳を斬らないようにする為、端からちょっとずつ刻んだのが仇になったな…。私怨が全く無かったとも言えないし。

 まぁ、どっちにしろイヅチを殺すには、首を斬るとか角を折るとかHPを0にするとかじゃなくて、どうやら貯えた因果を全て吐き出させなければならないらしいから、延々と殴り続ける必要があったみたいだけど。考えてみりゃ、それも当然か。相手は因果を食って自分の命に変える鬼。命が無くなれば、因果を対価として再生する…なんて事が出来てもおかしくはない。

 

 

 とにかく。俺はイヅチを延々と斬りまくってて、それで零れた因果がラヴィエンテに注がれて。

 …体を好き勝手に刻まれる因果が付着したラヴィエンテは、どうなると思う?

 

 

 

 猛狂期状態に突入しました。

 

 

 

 

 

 

 

 ていうか狂竜病状態になってね? 俺の見間違いでなければ、発症して10秒もせずに紫黒いオーラが発生し始めたんですがね。あのオーラは極限状態ですよ…。

 

 …あ、そうか! 前からイヅチの調子が悪そうだったのって、狂竜病か! いつぞやのループで、ウィルスにかかったまま死んだ事があったな。あの時の因果を食って、今度は自分が感染したのか。バカみてぇ。

 ……そのバカの中に居る千歳が心配だが…人質にされた時は、感染の兆候はなかったように思うな。それに、人間であれば酷い事には……あ、半分鬼か…。イヅチも狂竜病にかかるとしたら、鬼もかかるとみてよさそうだな。…やっぱ心配…。

 

 

 まぁとにかくだ、イヅチを仕留めきれない内に、猛狂期ラヴィエンテ極限状態なんて、イミフな代物が動き出した。

 ここらに来ると、俺も焦ってイヅチを大きく斬り始めたんだが、さっきも書いたように、イヅチを殺しきるには因果を全て吐き出させる必要があるらしい。会心の手応えが何度も入っているのに、イヅチ自身も全く動けていないのに、死なない殺せないという状態が出来上がってしまった。

 

 で、それだけ好き勝手に刻まれた感覚と記憶がラヴィエンテに付着したなら…当然、狙いは俺になる訳だ。

 

 

 咆哮一発で、メゼポルタ広場の外まで吹っ飛ばされました。着地のダメージは無かったけど、空気の振動だけで生命力の9割持ってかれたよ…。まぁ、相手が相手だ。死ななきゃ安い。

 不幸中の幸いなのは、メゼポルタ広場から離れた事かな。ラヴィエンテが広場で暴れたら、もうどうしようもない。助ける前に、正気に戻る前に、皆プチっと潰されてしまう。…つっても、今のアイツじゃ、適当に尻尾を振るだけで、広場の8割くらいを崩壊させてしまいそうだけど…。

 

 

 

 とは言え、本気でどうしようもねぇよ、あの状況は。

 たった一人で、ラヴィエンテを仕留めるか、その隙を突いてイヅチを殺しきれってのは…。ま、泣き言言っても仕方ない。やるしかない。

 

 …その時、俺の脳裏に不安が浮かんだ。出来るか出来ないか、じゃない。『出来てしまったら』という不安だ。

 イヅチを殺して、ループが終わったら? 俺はそのまま生きていられるか? どれだけの幸運に助けられたとしても、こいつらをどうにかするまでに、どれだけの傷を負うか。

 いや、俺の事はいい。もしも、ラヴィエンテの奇襲で、誰か知人が死んでいたら? …もうループしない以上、会う事は二度とできない?

 

 …このまま、仕留めてしまってもいいのか? 誰かが居なくなった後、俺は今までのように生きていけるか?

 

 

 

 

 ほんの僅かに過ぎった躊躇いを押し殺して、ラヴィエンテの口元に漏れる炎と電撃を、逆に撃ち抜こうとした。

 ブレスを暴発させる事ができれば、それを目晦まして接近できる! コイツ相手じゃ、離れてたら勝ち目なんぞ欠片も無い。

 

 やるだけやるしかない、と覚悟を決めたその時。

 

 

 

 

 

 

 

 スゴイモンが現れた。

 

 

 いやポケモンでもデジモンでもない。凄いモンスターだ。

 

 

 

 

 

 

 先生ェ! 先生じゃないですか!

 

 

 

 いやこの(偉)大きさは!

 

 

 

 

 正に!

 

 

 

 

 大!

 

 

 

 

 

 大ッ!

 

 

 

 

 大ッ!

 

 

 

 イャンクック大先生ッッ!

 

 

 

 

 ではないですかァァァーーーz____!!

 

 

 

 …って、アレ。

 

 

 

 ちょっ、待って! 待って先生! システムさんと言うか世界観さんからのお話です大先生!

 あれほど、あれほど本気を出すのは止めてくださいとお願いしたでは…ぬぁぁぁぁノーモーション尻尾! 突進! ああっ、羽ばたきで竜巻が! 嵐が! 火炎液を巻き込んだ炎の竜巻が! 足踏みなんてしないで! ああっ、逃げ損ねたラングロトラがクンチュウみたいに叩き付けられた! コピペが! 例のコピペが!

 

 と言うか何だコレは! どこのゴジラだと言うのだ! いやイャンクック大先生だけど! 怪獣王とどっちが強いかと聞かれたら、果てない議論が巻き起こりそうだけど!

 そもそも、何処に居たんだこの大先生。

 正確なサイズがちょっと目視で測れないくらいの巨大さなんですが。あのプレッシャーと言うか圧力と言うか、覇気でサイズが2~3割大きく見えているのを考えても、ラヴィエンテの顔面と相撲を取れるくらいのデカさはある。

 こんなのがメゼポルタ広場近辺に潜んでいて、気付かない筈がないんだが。…ひょっとしてアレか、このデカさの理由は、海とか湖とかに潜み続けていたから? でも構造自体は普通のイャンクックと大差無さそうだし、エラ呼吸が出来るとも思えん。  

 それとも大先生は、素で某段ボール工作員並のスニーキングが出来るのだろうか。…大先生ならやりかねない、と思うのが恐ろしい。

 

 

 

 

 いやまぁ、何だその。結局のところ、俺の事とかイヅチの事とかどーでもよくなったらしいラヴィエンテと、大先生のブレス対決で周辺一帯が吹っ飛んでデスワープした。

 うぅむ、大先生ってばスパルタね…。なんであんなにビキビキきてたのかしら…。ナワバリを犯されて怒った? 近所の生徒達(メゼポルタ広場のハンター達)がエライ事になって怒った? この世界に選り得ない筈のイヅチカナタを排除しようとした? ただデカブツがイキがってるのが頭に来たので、喧嘩売っただけ?

 

 

 

 

 

 

 

 むぅ…。とりあえず凄い物見たって事にしておこうか。今度フロンティアに行ったら、探して弟子入りしてみようかなぁ…。大先生なら人語も理解できそうな気がするし。

 まぁ、このようにして今回はデスワープした訳だ。真っ当にハンターとして負けたのかは、議論の余地があると思う。

 イヅチが叩き起こして、誘導したらしいラヴィエンテの襲来。それに反応するように出てきた、大先生との対決の余波。原因はクサレイヅチだが、結局自然の驚異に対処しきれなかった時点で、ハンターとしては敗北したも同然だ。

 

 敗北はともかくとして…。やはり、デスワープする度に、俺はイヅチに因果を奪われているらしい。

 この場合の因果とは、記憶や感情だ。記憶は……どこが食われているのか自分ではよく分からないが、感情は…多少予想外の事があって混乱したとはいえ、こうやって落ち着いていられるのが一番の証拠だ。

 前々から薄々気付いてはいたが……あの野郎、死に際の恐怖とか記憶とか、デスワープして何もかもがリセットされた時の嘆きとか、そんな感情を食ってやがる。

 

 あの時…イヅチがフラウの子の因果を食おうとしていたのに気付いた時、これまでに無い程強い怒り…その一言で済ませられるレベルじゃなかったが…が湧き出てきた。イャンクック大先生が大暴れしている間も、その感情は消えてなかった。

 だが、GE世界で目を覚ましてみれば、鎮静剤でも打たれたかのように落ち着いており、あの時の場面を思い返しても、ハラワタが煮えくり返りはするものの、我を忘れる程の怒りは湧いてこない。自分の不甲斐なさに対する憎しみさえなく、それどころか「あれはデスワープしても仕方ない」と納得さえする体たらく。

 …子に手を出された親の怒りさえ、奴にとっては餌にすぎないのだろうか。

 

 

 

 

 恐らく、これはデスワープが始まった時から、ずっとそうだったんだろう。自分の精神構造がちょっとおかしいんだと思っていたが、何度も死や別れを経験して平然としていられたのは、心の負荷になる部分を奪われていたからに他ならない。

 そう言えば、以前に討鬼伝世界に出た時、いつになく心が重かった。その後、イヅチと遭遇してすぐに別の場所に飛ばされた後は、随分と気が楽になっていたが……あれは体調不良のイヅチが、デスワープの時に俺の感情を食いきれず、その後の遭遇でそう言った感情を奪われ、結果的に気が楽になってしまったんだろう。

 つまり、俺が壊れずに今までやってこれたのは、イヅチに喰われてたおかげって事になるな。…想像しただけで反吐が出る。

 

 しかし反吐が出ようと、「あいつのおかげで生きていられるなんざ、死んだ方がマシ」と喚いて切腹しようが、俺は死ねない。ただ次の世界に移るだけだ。

 それでも自殺したくなるくらいの嫌悪感はあったが、何とか堪えられる。

 

 

 

 …ふぅ。

 

 

 さて、何だかんだ言ったところで、今はGE世界を生きていかなければいけないのには変わりない。

 しかし、前回がどういう状態だったのか、今一つ覚えてないんだよな。これも記憶を食われたって事なのか、それとも単に濃い出来事が延々と続いたおかげで、印象が薄れているだけなのか。

 レアとアリサのサンドイッチ(意味深)の感触はよーく覚えてるんだが。

 

 …そもそも、あの二人以外とはどんな関係を持ってたっけ? 関係を築いたとして、それはどの時期? 俺が月に行く前か、それとも戻って来た後か…つまり、今この時点で、その関係は成立しているのか。

 つーか、アリサに関してはループする毎に異なった関係を築いていた(ご主人様と愛奴なのはほぼ変わらんけど)から、どの出会い方なのか今一ハッキリしない。

 一度、日記を読み返す必要があるな。骨の髄まで犯しつくした相手に「初めまして」なんて言ったら、阿鼻叫喚なんてもんじゃない。

 

 



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317話

引っ越しにおけるネット環境変更の為、20日くらいまでレス返しできない可能性があります。
1月までは投稿予約しているので、4日ペースの投稿は続きます。
……こんな時期に転勤なんかなけりゃーよー、また年末年始の連投もあったろうに…。


神逝月

 

 

 神無月じゃなくて、神逝月だった。むぅ、GE世界の始まりはいつも神無月だったからな…。色々と意識を切り替えねば。

 

 

 日記を読み返して、色々と思い出してきた。そうだったそうだった、前回は支部長に直接接触して、支部長直属って立場になったんだっけ。で、そんな怪し気な立ち位置の俺だったけど、別の世界から持ち込んだ果実やら何やら振りまいたおかげで、妙に注目されてしまったんだった。

 極東地区に至っては、俺が月まで行ってる間に、見事に緑に包まれてしまっていたしなぁ…。最初は個人農園を作れればいいな、って程度だったのに、どんだけ広まってんだよ。

 そこを切っ掛けにして、特に関わるつもりもなかった人達とも、顔見知りになってしまったし…。

 

 とりあえず、上田ことエリックさんも無事、シオも地球に居る、ロミオはさっきも会ったけど充分な能力を有していてオナ狂いで初めての彼女と喧嘩分かれ、汚ッサンは俺が手を下すまでもなく羽付きの黒爺猫に喰われ、レアはラケル博士から離反済み、アリサは夢の中で俺に何度も助けられてヒーロー視した挙句自分から食われに来て、アラガミが野菜味になった上に寄植種なんて物まで出てきて、カノンはアサシン式ゼロ距離射撃戦法を習得、レアとアリサが親子(肉体関係あり)になっている。

 

 

 

 …あれ? おかしいな。月に行くまでに手を出したのが、アリサとレアだけ…だと?

 うぅむ……毎度毎度、チャンスがあれば躊躇いなく手を出しに行く俺らしくないな。二股かけてる時点でアレだけど、そんな常識的な基準を今更語っても仕方ない。

 

 

 月から戻ってきてからは、シエルを始めとして、また片っ端から食い散らかしたが……今はいいか。そこらはリセットされちまってる訳だし。

 

 

 

 

 

 

 ……どうせならなぁ…。サクヤさんとの不倫疑惑もリセットされればよかったのによぉ…。ホントにコレだきゃあ…。人妻は二次元なら大好物だけど、リアルは後腐れが…。

 そういや、リンドウさんにも気づかれかけてた節があったよな…。当時の俺は月に居た訳だから、アリバイがあるっちゃあるんだが、分身を出現させてもいたしな…。

 

 加えて言えば、リンドウさんの神機にもセクハラしたっけ。現状、レンは俺以外には認識できてないし、リンドウさんとも辛うじて意思疎通が出来るかどうかってレベルだから、暴露される事は無い…と思う。

 でも下手な事すると、あっちから噛みついてきそうだな。前回ループで、俺の神機がレンをベロンチョズビズバしまくったら、欲情させちゃって触手プレイみたいに襲われたし。

 

 

 

 うむ…。とにもかくにも、前回からの持越しはこれくらいかな? 女関係に関しては、サクヤさんという地雷を抱え込んでしまったものの、現時点で肉体関係があるのはレアとアリサのみ。

 思っていたよりも、ややこしい事にならなくて済みそうだ。

 

 

 

 さて、そうなると問題になってくるのは、今回のループはどうするかって事だな。いつも通り、GE1の時期から出発だと思ってたから、予定が狂いまくりである。いや、最初から予定らしい予定なんて考えてなかったけど。

 最優先事項としては、とにかく生き延びて、ラケル博士を撃破する事………ではない。

 

 現状、個人的感情を抜きにして考えれば、最優先なのは開始時期がズレた理由の調査だろう。これが分かれば、ループから抜け出す手掛かりになるかもしれない。

 一番怪しいのは、やっぱりイヅチだが…。仮に何らかの仮説が出来上がったとしても、試せないのが問題だなぁ。だって2回以上死ななきゃ、検証すらできないんだし。

 

 

 ま、それは追々考えていくとして、どうすっかな。前に死んだ時は、アラガミ達からの一斉攻撃を受けたんだっけ。一斉攻撃と言うか、大多数のアラガミの血の力(のようなもの)を纏め上げて、ぶつけてきた。フライアごと吹っ飛ばされたっけな。

 アレを防ぐのは厳しい…。威力もそうだが、飽和攻撃だから逃げ場がない。

 

 

 …発生させない、と考えると?

 条件付きで可能。あの攻撃は、多くのアラガミの意思を纏め上げる……感応種か、寄植種か、それを兼ねた奴が居たからこその現象だ。いくら終末捕食がアラガミ達にとって大迷惑だからと言って、たったそれだけで意思を統一し、更にそれを物理攻撃力に転嫁するなんて真似はできはしない。

 意思を物理に現すインターフェイスか、或いはアラガミ達を纏め上げたカリスマが居る筈。そいつらを先に仕留めてしまえば、あの現象は起こせまい。

 問題があるとすれば、そのアラガミが何処にいるのか、どんな姿なのか、全く分からない事か。

 

 

 発生を避けるための手段は、もう一つある。あれはアラガミ達にとっても相当な荒業の筈。そう何度も連射できる物ではない

 ある意味、前回ループでの俺の行動は、アラガミ達にとってはとてつもない僥倖だったのかもしれない。終末捕食を起こそうとするラケル先生、その発端となるジュリウス、そして特異点モドキである俺が、一か所に…フライアに集まった事は。

 起死回生の一撃で、同時に複数の危険因子を排除できる機会なぞ、そうそうあるまい。

 

 つまりは…俺、ラケル先生、ジュリウスをそれぞれ別の場所に配置していれば、あの現象は起きない…と考えられる。あくまで推論だけども。

 ただ、ストーリーを考えると、ジュリウスが黒蛛病にかかったら、ラケル先生と同じ場所に居るのは避けられそうにないんだよなぁ…。

 

 

 

 となると、一番有効な手段は、ジュリウスの感染を防ぐ事か。特異点としての覚醒の切っ掛けとする為、ジュリウスの黒蛛病感染は、ラケル先生にとっても最重要事項だろう。それを邪魔するだけでも、戦略上の価値はありそうだ。

 問題は、どうやってそれを防ぐか。…前回では、ジュリウスの黒蛛病だけ治せなかったもんなぁ…。ユノはオカルト版真言立川流が使えたから、何とかなったけど。

 治療が出来る見込みがないから、感染させないようにしなければならない。

 

 ゲームの時は、ロミオがじーさんばーさん達を助けに行って、やられちまった時に感染したんだよな。赤い雨がタイミングよく降ったが…これは偶然? いや、未必の故意って奴だろう。幾つかの偶然が重なりそうなタイミングを誘導し、予め仕込んでおいた神機兵の停止という伏せ札で逃げ場を奪う。

 万一失敗したとしても、ラケル先生にかかる容疑や責任は限りなく低い。そして密かに、次の機会を待てばいい。

 

 今回も同じような手法で仕掛けてくるとなると…厄介だな。何処に何が潜んでいるか、分かったものじゃない。と言うより、何でもない出来事が、ラケル先生が仕掛けた一手によって、最悪の凶手に早変わり…なんて事も有り得る。

 かと言って、こちらから仕掛けるのは愚策。獣の巣穴に、自分から突っ込むようなものだ。それでも平然と帰ってくるのがハンターだけども。

 

 

 

 ……う、ん……。ちょいと楽観的と言うか、他力本願な考えだが…ラケル先生の陰謀を、二つ三つと潜り抜けていけば、その内ジュリウスも怪しいと気づくか?

 トラブルが重なるのは世の常だけど、それにしたって原因はある。

 既にロミオもラケル先生の背後に気付いて、密かに俺の側に回ってるし、状況証拠・誘導・説得のコンボで、何とか行けるか…。

 

 

 

 うん、今回はこのテーマで行ってみようか。まぁ、あくまで現状のテーマって事で、新しい発見や方法が見つかったらそれを試すもよし、その場のテンションに任せて突っ走るもよし。どーせ予定外のトラブルや展開なんて、起きるに決まってるんだ。考えるだけ無駄よ無駄。ダラダラとした日を送るのを防ぐ為の、テーマだけ決めておけばいいさね。

 テーマ名は………。

 

 

 『ジュリエットを死なせるな!』

 

 

 ……フリフリドレス姿のジュリウスを想像しちゃったけど、違和感が無い上に平然と『キリッ』顔してて草不可避w

 

 

 

 

 

 

 

 さて、独白と言うか回想の記述が続いたけど、既にラケル先生を始めとした、フライアのメンバーには顔を合わせている。ナナ、フラン、ジュリウスに……名前を言っても分からないだろうから省略するが、職員の方々。

 まー友好的ではあったな。ジュリウスは前回ループ同様、俺を保護する事で妙なトラブル…政争に巻き込まれるんじゃないかと危惧していたようだが、展開が二度目なだけあって、どんな問いかけが飛んでくるかは大体分かっている。

 …いや、同じ問に同じ答えを返しても、同じ結果になるとは限らないのが人間関係ってもんだが、とりあえず今回は前回と大差なかった。

 

 ナナとは今回ループでは初対面だし、ラケル先生…もといてんてーは相変わらず何考えてるか分からないし、ロミオは…うん……まぁ、なんだ、その、もう一発くらい殴られてやるべきだったろうか。

 

 

 

 と言うかアレだな。ループ開始時期が変わったから、ロミオがオナ狂いになって彼女と喧嘩別れしたのも変わってないんだよな。

 ………私、気になります! いや前回ちょっと調べて、個人特定までは出来たんだけど、ロミオと寄りを戻せるかとか、そこまではいけなかったんだよな。

 今までは、デスワープすればリセットされるから…とある意味気楽に考えられていたが、そうは行かなくなってしまった。今後もこの時期からのループが続くと言うのであれば…俺はロミオの一生を、永遠に狂わせてしまった事になる。

 流石にそれは罪悪感がマッハすぎる。せめて、リカバリーの筋道を確保しておかないと…。

 

 

神逝月

 

 むぅ………ちょっと困った。

 いや、問題があるって訳じゃないんだ。フライアでの生活は、普通に順調だ。ラケルてんてーの腹の中に居るってのは落ち着かないが、いざとなったら腹の中から食い破ればいいだけの話。

 今の俺なら、ジュリウス・ナナ・ロミオの連合に加え、ラケルてんてーの『おもちゃ』が加わったとしても、軽く蹴散らしてフライアをぶっ壊せるくらいの力はある。

 

 ナナとの関係も良好。元々人懐っこいもんな、この子は。

 前回と違い、俺が『性欲を持て余す』状態になってないから、この年齢に見合わないナイスバディでスキンシップされても、『このままでは俺のおニンニンが爆発してしまうぅぅ!』にはならない。……いや、ムラムラはするし、食べちゃいたいなーとは思うんだけど。

 フランにも、前回ほど警戒されていない気がする。

 …前回もそこまで手ひどく拒絶されてはいなかったと思うけど、やっぱ視線に欲望が乗ってるのは気づかれてたと思う。ま、元々クールビューティすぎて、あまり人に近寄らせない雰囲気の人だしね。

 

 とにかく、俺はつい先日まで大乱交が日常だった為、前回ループのように性欲を過剰に貯めこんでいたりしない。…その分、ムラッと来た時の耐性が低くなってるっぽいけど。

 

 

 

 んじゃ何に困っているかと言うと……狩りの事だ。女狩りじゃない、普通のハンティングの事だ。任務の事だ。

 俺はブラッドに属してはいないから、別にミッションに参加する必要はないんだが、そこはそれ、何もせずに居座っているだけなのも気分が悪い。

 ナナを鍛えて、信用を得ておく必要だってあるし、手伝いを申し出た訳だ。

 

 そこで発覚した事だが…………。

 

 

 

 

 なんつぅか、敵が脆い。弱い。命と対峙し、それに敬意を持って狩るハンターとしてはあるまじき考えだけど、つまらない。歯応えが無さすぎる。

 ある意味仕方ない事かもしれんなぁ。地獄と呼ばれている極東の上級レベルならまだしも、ここはナナの教導にも使えるような素人向けアラガミしか居ない。MH世界のフロンティアからGE世界の最初期じゃ、そりゃ俺TUEEEE!状態にもなるだろう。

 事実、神機の装備を一番最初に支給される無改造ナイフのみで戦っていても、手応えがない事夥しい。ナナの教導に協力しようと思っても、「強すぎて参考にできない」と言われる始末。むぅ、オウガテイルやグボログボロに感知されないように近づいて、普通に斬って終わらせただけなんだが。タマフリだって使ってないし、弱点を狙って刃を通したから一撃で両断できるのも当たり前だし。

 

 

「グボロ・グボロの聴覚を掻い潜れる時点で、どう考えても普通ではないぞ…。奴は衣擦れの音ですら俺達を察知してくるからな」

 

「私の武器、ハンマーだから刃を通すってできないんだけど…」

 

「と言うか教官、なんか滅茶苦茶強くなってないですか? 以前も強かったけど、なんか別次元になってるような…」

 

 

 あー、まぁ色々あったから。あそこで生きてりゃ、一般人でもこれくらい出来るようになるわ。

 と言うか、極東では出来そうな一般人が何人か居るなぁ…。

 

 

「はは、その冗談はつまらないな。本当であればゴッドイーターの面目が丸潰れだ」

 

 

 ……うん、ソウダネ。俺も前回見た時は絶句したけど、事実は小説より奇なりって本当だね。

 極東には一般人(キチガイ)とか一般人(修羅)が普通に転がってるからな…。超危険アラガミが居る所に平然とバス旅行に出たり、アラガミがウロウロしている場所の奥深くまで何故か入り込めてしまう奴とか。

 

 

「あ、そう言えば、教官さんが助けた人達から、お礼が届いてたよ」

 

 

 …助けた人? 誰の事だ? 極東に居た頃にしたって、直接的に誰かを助けた事は殆ど無かったが。

 

 

「あー、空から降ってきてアラガミを叩き潰して、その後殴る蹴るされたんで教官が反撃したって言うアレっす」

 

 

 ああ、そういやそんな事言ってたな。つーか、ボコッて礼を言われてるのか。

 

 

「殴り倒した事はともかく、助けられたのは確かだから、だそうです。殴り倒された人は……まぁ、言っちゃなんだけど自業自得ですね。助けに来た相手に「もっと早く助けなさいよ!」と文句言ったようなもんですし」

 

 

 そのよーな輩は、助けても助けなくても消えるしリザルトには影響がないから無視して構わん、地球防衛軍的に考えて。

 リアル話、ゴッドイーターが一般人を傷つけたって事なら問題に発展しそうだが…いやゴッドイーターでなくても、暴力をふるうとスキャンダラスなトコだけ抜擢されて報道されるな。

 

 

「あっちは問題にする気はないようだぞ。むしろ、先に暴力を振るった側だし、その詫びの意味もあるんじゃないか? どうも、何かの会社の一行だったらしくてな。社長が直接頭を下げに来ようとしたらしいんだが、フライアまで来るのは骨だからな…」

 

「それでも来ようとしたらしいよ。助けてもらっておきながら、恩知らずな真似をして、直接会って頭を下げないと筋が通らないって」

 

 

 へぇ…。随分気合が入った社長だなー。世の中、相手がゴッドイーターってだけで色眼鏡で見る人も多いのに。ああ、俺ゴッドイーターじゃなかったっけ。

 

 

「え、そうなの? でも神機…あ、右腕に腕輪が無い…」

 

「あー、この人色々と特殊だから。もう腕輪くらいじゃ驚けないね。変身しても空を飛んでも瞬間移動しても不思議はない」

 

 

 いや流石にそれは……瞬間移動? ………あ。

 ロミオ、それイタダキ。悪いけど、ちょっとやる事ができた。

 

 

「は? え、あ、何、マジで瞬間移動?」

 

 

 ロミオに返事をせずに、適当な端末を探す。電脳空間を通じて、レアとアリサの所に出掛けよう。

 以前は下手に機材を使うと、何を仕込まれるか分からないと思っていたが、単純な話だ。自分の物じゃない機材なら、壊れた所でダメージは無い。何か仕込まれていたとしても、その端末を使わなければいいだけの話だ。

 メールの類を送るにしても、重要な事を書かなければいいだけの話。と言うか、俺自身がデータ化して移動していくんだから、小細工されそうになったらすぐ分かる。あっちでは、データと言うかプログラムと言うか、そう言うのが視覚化されて見えるからな。

 

 

 

 

 

 ロミオから連絡が行っているので、アリサとレアはこっちに向かっているそうだ。現在は飛行機で移動しているようだ。着陸後は車でフライアに接触するつもりだろう。

 と言っても、現在のフライアは無人の荒野を移動しており、二人が戻って来たとしても、接触するのは難しい。普通に考えれば、補給の為、何処かに停泊した時を狙って接触する事になるだろう。

 が、正直言ってレアをラケル博士に会わせたいとは思わない。

 

 

 とゆーか、再会したらまず間違いなく濡れ場一直線だからなー。何処に盗聴盗撮の手が伸びているか分からないフライアで、コトに及ぶ気にはならない。

 

 

 

 

神逝月

 

 割り当てられた部屋にあった端末から、電脳世界にダイヴ・イン。その状態で見てみると、当然のように端末にバックドアが仕掛けられていた。

 フライア内部のネットワークも色々複雑で、予想通りに仕掛けがありそうだ。ただ、それを証明しようにも、俺自身がプログラムとかには詳しくないので、言語化できないんだよな…。普段は無効化されている機能でもあるようなので、管理者権限でのメンテナンス・デバッグ機能だと言われると、反論もできそうにない。

 

 とりあえず、そのままフライアのネットワークを抜け出して空港へ移動する。

 ドイツからこっちに向かってる、って言ってたよな。飛行機のデータを調べてみると………お、あったあった。入出国記録によると、今まさに飛行機で飛んでいるようだ。

 ふむ…流石に飛行機の中にいきなり出現する訳にはいかんな。発覚したら、密入国者扱いされかねん。

 到着を待つか…。プラカードでも掲げるかな?

 

 いつまでも電脳空間の中と言うのも落ち着かないし、普通の世界に戻るかね。

 

 

 

 

 人の目が無いタイミングを見計らって、実体化。騒ぎにならずに済んだようだ。

 さて、到着まで何をしているかね。空港なだけあって、時間を潰す設備は多いが、到着まであと半日以上ある。あんまりスピード出せないらしいからね、この世界の飛行機。と言うのも、空にもアラガミの脅威があるので、比較的安全なルートを通る為に迂回し、更にアラガミに遭遇した時の為の自衛武器を積んでいるので機体が重く、速度も出し辛いのだ。

 

 適当に喫茶に入り、コーヒーとパンで腹を満たしつつ、色々と考える。

 

 

 二人に会ったら、その後フライアに戻るか? …極東でロミオ達に合流するとして、それまでの流れを思い出してみよう。

 この後のイベントと言ったら……前回の流れに沿うとしたら、ギルの入隊、上田さんとエミールの襲来。そこで俺が極東緑化の原因だとバラされた訳だが、まぁそれはどうでもいい。

 二人が極東に戻った後は、シエルが入ってきて…そう、シエルが血の雨の中で取り残されたんだっけ。…しまった、今回はグレム局長に会ってないし、勲章に細工もしていない。適当に黙らせる手段を考えておかねば。

 

 大きなイベントはそれくらいか…。

 大体の事は、今のロミオとジュリウスで充分対処できるだろう。シエルのコミュ力欠損も、ロミオがカバーできる範囲だと思う。…自分の女なんだから自分が、と思う気持ちもあるが、現状じゃ出会ってもいないしな…。いや俺の一方的な感症であっても、動機にはなるけど。

 危険なのは、やっぱ赤い雨の中のシエルだな。いや、シエルに限った事じゃない。前回やゲームでは、配置と赤い雨のタイミングで偶然そうなっただけで、誰が赤い雨の中に残ってもおかしくない。

 それこそ、万一ジュリウスが雨の中に残る配置になったとしたら?

 

 ……そう、そのタイミングで、傘となっている神機兵を暴走させれば。遮蔽物の無い場所で、赤い雨を浴びながら神機兵と戦う事になる。

 ジュリウスを黒蛛病に感染させるのを優先事項としているなら、これは非常に有効な手段だ。

 

 俺が居たところで、どれだけ横槍を防げるかは分からんが…とりあえず、今回のテーマはジュリウスの黒蛛病感染阻止と決めたからな。やっぱ離れる訳にはいかないか。

 

 

 

 ………ん? アナウンス……飛行機の到着が遅れる? アリサ達の便か。トラブルかな?

 

 ……空でアラガミに襲われてる!? マジか…。『搭乗していたゴッドイーターが迎撃に当たっている」とも言っていたから、アリサも戦っているんだろうか。

 どうする…流石に距離が距離だから、ここから支援はできない。今はまだ、日本海(と言っても大分地形が代わっているが)の上空を飛んでいるらしい。ここからじゃスナイプもできやしない。

 トラブル覚悟で、電脳空間から飛行機に飛ぶ…いやこれも駄目だ。通常時ならともかく、迎撃の為にアレコレやっている状態で飛行機に干渉したら、何が起きるか分からない。下手をするとエンジントラブルで墜落なんて可能性も…。

 

 

 …待つしかないか。こういう、一大事だけど何も出来る事がないってのは色々な意味でキツいなぁ…。

 神にでも祈っておくか? いやでも相手アラガミだし。

 ………よし、ノヴァに祈ってみよう。特に根拠らしい根拠はないが、特別なアラガミである事は事実だし、月で一応3年間一緒に過ごした仲だし、何か融通利かせてくれるかもしれん。今も月に居るんだから、何が出来るって話でもあるが。

 

 とりあえず、昇り始めた月に向かって手を合わせ、祈る。……あ、流れ星。

 



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318話

神逝月

 

 

 えらい一日だった…。いやむしろエロしかない一日だったと言うべきか。

 何があったかって? そらもう、アリサとレアとの再会よ。日記書く暇もない程に熱烈な一日でした。

 ロミオには、2~3日くらい戻れそうにないと予め伝えてある。メールしたら「どうやってフライアからいきなり移動したんすか」と呆れられたが、企業秘密である。

 

 無事にアラガミを撃退し、周囲から微妙な視線を送られながら出てきた二人。やはり、ゴッドイーターに対する偏見は根強い物らしい。

 

 

 

 

 

 

 まぁ、その視線はすぐに、別の意味で微妙な視線に変わったが。

 飛行機から降りて、搭乗口から出てきた二人の前に、暇潰しに作ったプラカード「ただいま」を掲げて顔を出してみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、極楽トンボが飛んでいる。

 

 

 

 

 

「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

 

 

 形容しがたい叫びと共に、二人そろって突っ込んできた。レアなんか、どっちかと言うと運動音痴だと言うのに、ゴッドイーターのアリサと並ぶくらいのスピードだ。

 いやぁ、猛獣がジャレついて飛びついてきたらあんな感じじゃないのかね。それこそ、ハンニバル神速種とか、二つ名ナルガクルガとか。と言うか、生身で音速突破したな。衝撃波で周りの皆さんにダメージが行っている本当にごめんなさい流石にこれは予想外でした。

 

 

 あっ、ちょっ、二人そろってキスしてくるとか嬉しい! 嬉しいけどここじゃらめぇ! 超ディープなキスをみんな見てるのぉぉぉ!

 

 

 

 

 …ゴッドイーターとフェンリル職員に対する微妙な目は、バカップルに対する視線に切り替わっていた。

 尚、写真も撮られた。多分ネタにもされてる。舌を絡める音で、前屈みになってるのが何人か居たからね。

 

 

 

 

 

 

 で、更なる過激画像をゲットしようとするカメコ(という括りにしていいものか)を適当に撒いて、その辺のホテルに雪崩れ込む。

 再会早々に『ヤらないか?』って色々な意味で酷いと思うが、この二人の場合仕方ない。前回のループでもそうだったが、オカルト版真言立川流の効果を散々体に叩き込まれておきながら、3年以上もご無沙汰だったのだ。お互いに慰め合っていたとしても、どんだけ欲求不満になっているやら。

 事実、交わると言うよりは…貪る…じゃ足りないな。何と言うか、触手同志が絡み合って食い合って溶け合うような、もんのスゴイドロドロした………い、一夜? ちょっと日付を確認しないと分からない。

 とにかく、3年間オアズケされていた肉欲を満たす為、なりふり構わず全力出した訳だ。

 

 いやー、いい勢いだったなぁ。久々に搾り取られるって感じだったよ。

 え? 二人? ついさっきまで完全にノックダウンしてましたが何か? いやそりゃー勝ち負けで言えば俺の勝ちだよ。二人の勢いは凄かったけど、それって欲求不満の裏返しだからね。攻撃力とHPが高くなってても、防御力と回避率がゼロ、或いはマイナスの状態だったのさ。前戯も特別な技術も必要ない。モノのデカさと性欲に任せて貪るのが、一番いいやり方だった。

 んー、満足したって意味では、やっぱ二人の方が勝者なのかね? いや俺だって充分満足しているけども。

 

 今は何とか起き出して、シャワーを浴びて、注がれまくって疑似ボテ腹みたいになったお腹も何とかして、服を着てからルームサービスで食事をとって………まぁ、一段落か。

 

 

 

「どうしたんです? そんなにボーッとして」

 

「ふぅ…久々だったから、足腰に来るわ…」

 

 

 レア、微妙に発言が…いや年齢の事は言うまい。実年齢は若いのに、言動が…と言うのは残酷が過ぎる。

 

 

「何だか微妙な発言をされたけど、まぁいいわ。…それにしても、どうしてここ…と言うかあそこに? てっきり月に居ると思って、アリサも私もあなたを迎えに行こうとしていたのよ」

 

 

 実際月で3年過ごしたぞ。ヒマでヒマで仕方なかった。…ああ、桃毛蟻の件は、幻影を通してある程度見たけど。

 

 

「つまり、あの時私が抱き着こうとしてヘッドスラィディングしたのも」

 

 

 それは俺のせいじゃないが、色々な意味で気まずかったとだけ言っておく。

 …ところで、今回はもう終わりか? このまま一週間くらい、ベッドの上でダラダラ過ごすのもいいかと思ってたんだけど。

 

 

「私的にもママ的にも、すっごい惹かれる提案ですけど。…でも、その前にちょっとやっておかきゃいけない事があるんです」

 

 

 やらなきゃならん事? …任務か? 極東に戻る?

 

 

「いえ、そういう話じゃないわ。…ところで、知ってる? 服ってね、精神的な鎧にもなるのよ。珍しい話じゃないけど、高級レストランで一人だけジャージ姿だったりすると気後れするけど、誰かから借りた物でも高級スーツを着ていれば、そこそこ振る舞えるようになるじゃない?」

 

 

 その現象と言うか心理は分からんではないが、それが何か?

 

 

「あ、ちょっと両手を後ろに回してください」

 

 

 ん? こうか?

 

 

 ガチッ

 

 

 

 ……ゑ。ナニコレ。なんか両手の親指が拘束されてるんですけど。

 

 

「見ての通り、親指用の手錠です。小さくて頼りなく見えますが、普通の手錠よりも、確実性が高いんですよ。ああ見えませんよね、後ろ手の状態ですから」

 

 

 …あの、何でそんなにオコなんでしょうか? 心当たりは吐いて捨てて腐らせるほどあるけど、ここで持ち出されるとは思えないんですが。

 と言うか、何故こんな物がここに? 頑丈さや手触りからして、ラブホの玩具でもなさそうなんですが。

 

 

「そりゃ、私発案で、榊博士やリッカさんに協力して作ってもらった一品だもの。いくら貴方でも、簡単には外せないわ。多分、あの時のように変身してもね」

 

 

 いやだから何でいきなりそんなモノ嵌めてんの!?

 

 

「何故って…ねぇ、アリサ?」

 

「ええ、ママ。……私が初めて貴方に抱かれた時……いえ、正確に言えば夢の中で自分の石で貴方に抱かれた時、私が何といったか覚えていますか?」

 

 

 夢の中で?

 ……えーっと…あの時は雑魚になったヴァジュラを始末して…いや違う、その後だ。

 ああ、そうだ。アリサはあの時、ロシア語で何か呟いていた。

 

 моим ………私の。

 

 

 

 

 

 

 героем………英雄。ヒーロー。

 

 

 

「ええ、そうです。いつ覚えたんですか? 少なくとも、月に行く前はロシア語なんてサッパリだったでしょうに」

 

 

 いや誰って、前回月から帰ってきてからのお前に行間で……ゲフンゲフン、寝物語に、「恥ずかしいから秘密」と言うアリサに腰の動きで吐かせたと言いますか。

 いやちゃんとロシア語勉強してたんだよ、アリサの母国語なんだし、もっと綿密なコミュニケーションが取れるかと思って。

 いやその過程で学んだミソペーストのボルシチは完ぺきに作り方覚えたけど。

 いやいやいやいや、特に意味はないけどいやいやいあいあいあいあ…。

 

 …いかん、ちょっと混乱してた。

 と言うか本当にマジで何事? 別れ話のつもりじゃなくて…逆に監禁しようとでも?

 

 

「流石にラブホテルに監禁しても…。まぁ、その手錠を作った切っ掛けは、正にソレね。月に迎えに行けたとしても、貴方はいつ何をやらかして何処に行ってしまうか、分かったものじゃないもの。だったらもう、部屋に閉じ込めて何もさせないようにしようかなって。 …あ、私ちょっと着替えてくるわ。このままでするより、気分が出そうだし」

 

「マジで考えてました。私もそれに乗ろうとしてました。今考えるとドン引きです…。まぁ、お互い慰め合って、なんとか冷静になれましたけど…」

 

 

 割と本気でドン引きする話だが、あんな事やらかして月まで行った身としては何も言えねぇ…。

 

 

「話が逸れました。…ええ、あの時、貴方は私のヒーローでした。勿論、今だってそうです。ヒーローのやる事は全て正しい…とは言いませんが、信じられます。例え、私達を欺いて終末捕食を起こそうとしても、私達を放って月に行ったとしても、それらは悪意から行った物ではなく、きっと帰ってきてくれると」

 

 

 

 …帰ってきても、デスワープしちゃったんだよなぁ…。なんつーか心が痛い。割と今更。

 

 

「でも、例えヒーローのやる事であっても…いえ、だからこそ受け入れられない事はあります。それは……『裏切り』です」

 

 

 ……あ、悪堕ち的な意味で?

 

 

「微妙に違いますが…。背信、と言ってもいいです。勿論、貴方には貴方の都合や目論見、損得がある事は理解しています。私達が『そのようにあれ』と希望したからと言っても、その全てに従う必要なんてありません。…でも、私達が貴方の為に必死になっていた時に、それを知っているのに…もしも私達の事を放り出して、他の女にかまけていたら? …これはとても許容できる事ではありません。浮気がどうの、というレベルじゃないです」

 

 

 そらまぁ…。誰かに重労働させておきながら、自分は何もせず酒かっくらってゴロゴロしてるようなもんだしな。給料でも出してりゃ話は別だが。

 しかし、俺の場合それって当て嵌まるんだろうか…。確かにデスワープした後の事は全く分からないから、泣き暮らす彼女達を後目に、他の女と遊んでいると言われると…。でもリセットされるし…。

 

 …いやいや、そこは今問題にはされてない。アリサもレアも、デスワープの事なんか知らないんだから。

 

 では、一体何が問題…? 裏切り…背信…。女性関係についても人間関係についても誠実とは言えない俺だが、二人にそう言われる事を何かやったか…?

 

 

「それで……一体、どこの誰ですか?」

 

 

 …あの、アリサさん。もうちょっと具体的に…。

 

 

「……私達が貴方を迎えに行こうと、四苦八苦している3年間…或いは、月から帰ってきてからの…まだ数日間ですか。一体誰と過ごしていたんです? 誰を抱いたんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 はい? いや月には俺しか居なかったけども。そして月から戻ってからは誰も抱いてないけども。

 

 

「嘘だッ! 誤魔化せるとでも思っているんですか!? 貴方に何度抱かれたと思っているんです! 貴方の手付きは、3年前とはまるで違うんです! 明らかに、あの頃よりもずっと上達しています! 何より! 3年間、誰も抱いていなかったと言うなら! 貴方はもっと激しい筈です! 溜まりに溜まった3年分の貴方の性欲が、これくらいである筈がないッ!!」

 

 

 

 …は?

 

 

 

「さぁ、吐きなさい! 一体誰を抱いたんです! 私達を放っておいて! 誰を!」

 

 

 

 

 

 

 ……ポロポロ涙を零すアリサに、罪悪感がマッハ…なんだが、それ以上に、なんだこの…何だ。

 要するに、アレか? フェラのやり方が急に変わった女は浮気している…とか、そういう話の男版か?

 それに、3年分の性欲については…ああ、確かに否定できんわ。前のループの時は、月から戻って来た後も暫くオアズケ寸止めが続いた事もあり、今回の比じゃなかったもんな。勢いが明らかに弱かった、と言われると否定もできん。

 最後にヤッたのは、MH世界のデスワープ前日だったから、まだ一週間も経ってないんだよな…。

 

 

「アリサ、お待たせ。…吐いて…はいないようね」

 

 

 ちょっ!? ボンテージ姿のレア…! 何と言うマッチング!

 

 

「黙りなさい」

 

 

 はい。

 

 

「…私もね、疑いたくはない…いえ、考えたくも無いのよ。浮気するだけなら、まぁ……相手と状況にもよるけど、許さない事も無いわ。アリサと二人でも、体が保たない事は身に染みている。でも、私達を放っておいて…誰かと遊んでいたのなら………切り落としちゃうわよ?」

 

 

 

 …本気だ。ガチで心中も考えてるくらいに本気だ。

 レアの中の『女』が、覚悟完了してしまっている。こうなったらもう誰も止める事はできん…。王蟲の暴走よりもヤバい。

 

 …で、その恰好は結局?

 

 

「ま、そういう事よ。安心しなさい。意地でも吐かせるけど、貴方を苦しめるつもりはないの。心中するにしても、痛みなく逝かせるわ。でも……素直に吐くとは思えないからね。この格好で、どんな『拷問』をするのか…楽しみね? アリサ、あなたも着替えてくる?」

 

「いえ、私はこのままでいいです。…その方が、女王様じゃなくて普通の女の子に罵倒されてるって気分になれるでしょ」

 

 

 M男役でもオッキしちゃう自分が悲し…くはないな、別に。

 

 

「そういう訳で…脱がせますから。抵抗は無意味です」

 

 

 

 いや脱がせるったって、俺の腕繋がれてるんですけど。

 

 

「さっきも言いましたけど、服って鎧の役割もあるんですよ。…一番大事なところだけ、丸裸にされる気分はどうですか? しかも、ベッドに上半身だけ預けてうつ伏せになり、お尻を突き出す恰好で」

 

 

 むぅ…正直、マッパより恥ずかしい。

 アレだな、竜狩りの鎧フル装備2人を相手にして、カタリナ装備なのに足甲だけ恥部隠しにしてるような気分…。むぅ、全裸より半裸の方がエロいのと同じ理論かな。素っ裸なら開き直れると言うのに。

 

 と言うか、マジで抜け出せそうにない。親指の関節を極める形でつけられた枷もそうだが、レアとアリサに対する罪悪感とかで、今一つ全力を出す気になれない。

 

 

「さ、始めましょ。『尋問』じゃなくて『拷問』をね。ふふ……セックスに関しては貴方の足元にも及ばないけど、人の体については私だって詳しいわ。しっかり悶えさせてあげる。…初めてかしらね、貴方を相手に完全に優位に立てるのは」

 

「これが下剋上と言う奴ですね。極東にはいい制度があります」

 

 

 そう言いながら、熱の籠った目で俺の後ろに立ち…両手で尻を鷲掴みにする。

 広げられたケツに、視線が突き刺さっているのが分かる。むぅ…そっちを責められるのは初めてじゃないが、このシチュエーションはな…。

 

 

「ふーっ…」

 

 

 ほぉう!? …い、息吹きかけられた…いや、吹き込まれた…。

 その反応を見て、レアがクスクス笑っているのが分かる。普段はMっ毛の強いその笑みが、どんな風に変わっているのか興味はあるが…それよりも。

 

 

「ふふっ、惨めですねぇ? あんなに強くて、いつも私達を弄んでいるのに。とってもカワイイですよ。ええ、勿論バカにしてます。こんな状況なのに、オチンチンをおっきくさせてる恥知らずなんですから、同然ですよね?」

 

 

 極東に来たばかりの頃に戻ったかのように、生意気な口調で俺を見下ろすアリサ。確かにアリサが言うように、この小馬鹿にされる口調は、普段通りの姿の方がクルなぁ…。

 俺の目の前に、足を広げて腰を下ろすアリサ。

 

 

「ほらほら、恥知らずさんはこういうのも好きですか? スカート、捲っちゃいましょうか? 今の私、どんな下着してると思います? 白? 黒? ひょっとしたら…履いてないかもしれませんね?」

 

 

 ついつい想像してしまう。ちょっと前まで、見るどころか好き放題に蹂躙して突っ込んでいたが、こういうのは別口だ。想像力こそが、エロスを強化する為の最大の手段である。

 目の前でスカートをパタパタさせるアリサに目を取られた瞬間、尻穴に暖かく柔らかい感触が這いずった。 

 

 

「クスクス…みっともない反応。アリサのパンツを想像して興奮したところに、お尻を舐められる気分はどう? …聞くまでもなかったわね。さっきまで散々出してたのに、もう大きくなってるわ。本当に節操のない…。でもダメよ。今回は、オチンチンは一切触ってあげない。タマタマだって何もしてあげない。徹底的に、お尻で焦らして気持ちよくしてあげるわ」

 

「オチンチンが、出したいよぅ、辛いようって泣いても、貴方が吐くまで絶対に何もしてあげませんからね。ママが疲れたら、今度は私が責めてあげます。もっとも…その時には、『恥ずかしいから止めろ』なんて考えは吹っ飛んで、逆になんでも言うから、もっと舐めてくれって言うようになってるかもしれませんけど」

 

「そこは腕の見せ所よね。初めてだけど。ふふ…本来なら、入ってはいけない禁断の場所。ゆっくり、じっくり舌で解して、開発してあげるわ。新しい性癖に目覚めるくらい。……それこそペニバンでも平気で呑み込めるくらいね」

 

「貴方程ではないけど、ママの腰使いは凄いですよ? 3年間で慰め合っていた、私が保証します。勿論、私もそれなりに自信はあります。…期待してもいいですよ?」

 

 

 

 さ、流石にそれは…。確かにケツを責められるのは初めてじゃないが、なんかこう、ケツを愛撫されるのと処女を奪われるのとでは、なんつーか高くて深い山と谷と海が!

 あっ、でもレアとアリサと、或いは千歳辺りならギリギリ…。

 

 と言うか、おぉう!? また息を吹きかけられる! 唾液で濡れている為か、さっきと感覚が違う…スース―する。

 うぁ、今度は何かチョンチョンされてるような……ああ、舌の先端で、穴の皺をなぞるようにチロチロされてるんだ。くぅうぅ、恥ずかしいというよりもどかしい…。 

 尻を引っ張られて皺を伸ばされ、そこを擽るレアの舌先。

 

 

 確かに、恥ずかしいと本気で思う。しかし、それ以上にもどかしい。小さな刺激から逃れるように体を捩っても、ついつい尻を突き出すような恰好になってしまう。

 汚い部分を押し付けられる形なるレアだが、同じだけ顔を引いてしまう。嫌がっているのではなく、俺を焦らして楽しんでいる、悦んでいるのだ。その証拠に……自分に大してこんな表現を使う日が来るとは思わなかったが…男を誘う女のような動きをする尻に、またしてもフーッと息を吹きかけてくる。尻の穴が、物欲しげにヒクつくのが分かった。

 更に、それを見てアリサが巧みにスカートで俺を煽りながら、馬鹿なペットを眺めるような目を向けてくる。

 

 ついつい屈辱で顔が赤くなるが、それ以上にいつもの暴れん棒がビキビキしている。

 しかし、今回ばかりはこの棒の出番があるか怪しいものだ。いつものレアなら、大きくなったコレを見ている内に辛抱堪らなくなって手を出してきて、そこから逆転する…というパターンを狙えるのだが、今日は一切のちょっかい・愛撫も、そうする気配もない。どうやら、本気でこの責めで白状させるつもりのようだ。

 

 無意識にくねらせていたらしい腰を、レアが捕まえた。ゆっくりと顔を近付けてくるのが分かる。唾液の粘っこい音が響いて、舌なめずりしたのが分かった。

 

 

「あー…」

 

 

 わざとらしく…事実、俺に聞かせる為であろう声を出して、ゆっくり近づいて…吐き出す息の熱さが感じられるようになって。

 

 

 

 ぺちょり

 

 

 …音にすると、そんな感触だったと思う。濡れた柔らかいモノが、人体で一番汚い部分に押し当てられる。

 表面を撫でるように舐め挙げられ、背筋と腰にピリピリと甘い痺れが走った。自覚は無いけど、変な声が出てたと思う。アリサのニヤニヤ笑いが強くなってたし。

 

 

 

「んっ……ん~~っ…ふーっ…れろ…んぁ~……」

 

 

 下から上に、上から下に。ゆっくりと上下する舌の感触。普段誰にも触れられない粘膜が嬲られる。

 更に、少しずつだが、舌に籠められる力が強くなっているのが分かる。…何の為に、なんて考える必要すらない。本気で刺し込む気だ。内側まで舌で犯そうとしているのだ。

 

 

「あらあら、いつもセックスしている時の余裕が、全然ないですねぇ? ママにお尻を責められて気持ちよくなって、しかも娘(役)に見られて悦ぶヒーロー。…あぁ、こんな姿、人には見せられません。娘(役)がグレちゃいますよ。この…マゾヒーローさん?」

 

 

 からかいながら、スカートをパタパタ動かすアリサ。その中から、独特の臭いが乗った生暖かい風が送られてくる。メスの臭いだ。アリサもこの状況で興奮しているのか。

 

 

「なんです? ひょっとして、もう気持ちよくて我慢できなくなっちゃったんですか? でもダメです。貴方が浮気したのが悪いんです。もっともっと切なくなって、泣きたくなるほどイキたくなってもらいますから」

 

「そうよ…これは……オシオキなんだから…れろぉ~……イキたくても……イけないでしょ? それとも、女の子みたいに……お尻でイキたい?」

 

「いつもみたいに、私達を犯したいですか? 我慢できない? ダメだって言ってるのに、どうしてそんなにバカちんぽ大きくしてるんです?」

 

「いつもだったら、私達を好きなようにしてるのにね。私達に好きにされる気分はどう? でもこのままお尻に挿れられても、文句なんか言えないわよね。よく言うでしょう、挿れていいのは、挿れられる覚悟のある人だけだって」

 

「私達はいいですよ? 挿れるのも、挿れられるのも大好きです。貴方が望めば、私達のどの穴でも好きにできます。…あなたが本当の事を言えば、ですけどね」

 

 

 

 前後から好き勝手に言葉を投げつけられ、見えそうで見えない下着と体温が乗った風に気を奪われ、下半身の粘膜を這い回る柔らかく暖かい感触に犯される。

 正直言って、超が付く程追い詰められていた。シチュエーションと行為の背徳感もあるし、二人になら本当の事を話すのも有りだと思う。慣れない部分を徹底的に責められて、オカルト版真言立川流を使う暇さえ与えられない。

 何より、本当にこのままズルズルと、嬲られるのも何だか気持ちよさそうだ。プライドが少々傷つくが、この興奮に流されてしまいそう。

 

 

 一際強く舌を押し付けられると、今までと違う感覚が走る。ついに、内部に舌を触れさせられるくらいに解された…と直感で分かった。

 

 

「あ……ママ、大分解れたみたいですね。疲れてないですか?」

 

「大丈夫よ…。ここから本番ね。貴方の内側、私の舌で奥の奥まで嘗め回してあげる。…それとも、舐めない方が拷問になるかしら? もう『もっとして』って思うようになっちゃった?」

 

 

 そ、そんな事は無い……です?

 

 

「あらそう。ならそういう事にしておいてあげる。まだまだ序の口だものね。もうギブアップされてもつまらないわ」

 

「そうですよ。最初はママに譲りましたけど、本番は私ですからね。娘(役)の指で…」

 

 

 アリサは俺の目の前に、見せつけるように指を一本立てて見せた。…スカートの上から抑えている部分のせいで、秘部を指さしているようにしか見えない。

 

 

「私の指で、前立腺って所を弄り回してあげます。とっても気持ちいいらしいですよ? 初めての事なんで、ちょっと自信がありませんけど」

 

 

 マ、マジで指入れる気だ…。多少の愛撫だったらまだしも、ガチで入れられるのか…。

 と言うか前立腺は本当に初めての体験だ。………いやいや待て待て、普通に受ける気になってるぞオイ。

 

 …どうしよう、俺ってSだと思ってたけど、Mも割と行けるみたいだ。

 

 

「それじゃ…本番、行きましょうか。ああ、お尻のロストバージンって意味じゃなくて、ナカまで嘗め回すって意味でね」

 

「私ももうちょっと楽しみます。…そうですね、スカートの中に顔を入れてあげますよ。太腿で挟むと…うーん、反撃の機会を作られそうですね。それじゃスカートだけです」

 

 

 

 …Mでもいいか。いやMでなくても、この二人にこんな事されれば普通にブヒれるわ。

 このようにして、毎度毎度の事ながら俺は色欲に屈し、この後寸止め地獄が待っていると尻ながら…もとい知りながら、二人の責めに溺れていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 それから、どれくらい時間が経ったろうか? 色んな意味で調子が狂い、体内時計では分からない。部屋にあった時計は、『余計な情報は要らないわね』なんて言われてとっくに片付けられてしまっている。ちなみに、その時に視覚情報も封鎖されそうになったが、アリサの小馬鹿にした顔が視られなくなると言う理由で却下された。…誰が却下したかは秘密だ。

 

 ともあれ、レアの舌に散々嘗め回され、掻き回された粘膜は、敏感どころか、外気に触れるだけでもチリチリとした快感を伝えてくる程になっている。

 拷問されているんだか奉仕されているんだか、それとも単に楽しんでいるのか本格的に分からなくなってきた。

 ただ一つはっきりしているのは、いつもは主役のオニンニンには、全く、一切、指一本どころか髪の毛一筋だりとも触れられていない事と、一度だって射精できていない事だ。

 

 

 今だってほら。舐められ抉られ穿られバカにされて、一番重要な場所には一切刺激を受けてないにも関わらず、体の奥が決壊しそうになった寸前に。

 

 

「はいここまで。…ふぅ、流石に舌が疲れてきたわ。…お尻が辛い? 出したい? だーめ、何にもしてあげないわ」

 

 

 ピタリと愛撫を辞め、顔も離してしまう。蔑んだようなアリサの顔も普段通りに戻り、挑発するスカートも動きを見せなくなる。

 イくにイけなくなり、モヤモヤとした感覚と熱が、腰の真ん中で行き場を無くして回っている感じ。

 

 放出してしまいたい衝動とは裏腹に、貯め込んだ感覚だけはそのままに、決壊寸前だった男のダムが落ち着いていく。

 そして体が落ち着いてしまった頃に、また弱めの愛撫から始まり、徐々に徐々に内側に侵入してくる……前回よりも少し奥へ。もう少し奥へ。今ではもう、舐めていると言うより、舌を思い切り伸ばして突き込んでいると言っていいくらいだ。その状態でグイグイ動かそうとするのだから、そりゃ舌も疲れるわ。

 

 

 

 確かに気持ちいい。背徳感、敏感な部分を愛撫される性感、M的な興奮、その他口に出せないような…或いは形容できないような…

 快楽と興奮と背徳と女の感触にズブズブと溺れていくあたり、呆れる程に俺に有効な手法だ。

 と言うか、散々焦らされて、何を言ったか覚えてない。なんかとんでもない事白状しちゃった気がする。具体的には。

 

 

「しかし…子供ねぇ…」

 

「名前まで考えていたと…」

 

 

 ……まぁ、言うまでもないわな。ただ、それを知っておきながら、二人が俺を殺しに来ないというのがちと不思議なのだが。

 

 

「さてと…ママも疲れてきたみたいだし、そろそろ交代しましょう。今度は私が責める番です」

 

「わかったわ、アリサ。優しくしてあげてね。私も、この人が女の子みたいな喘ぎ声をあげる顔がみたいんだから」

 

 

 そんなモン見て何が楽しい…と心底思うが、この二人には楽しいんだろう。

 若干以上に諦めが入った心境で、アリサが俺の後ろに回っていくのを見送った。

 代わりに、レアが目の前に腰を下ろすが………うぅむ、ボンテージ姿も相まって、普段のレアとは雰囲気が違うなぁ。

 見上げる体制だから一層そう思うのかもしれないが、なんつーかレアって元々Sっぽいんだよな。突き合うようになってから、母性やM気質ばかり見てきたが、元々派手目の美人なんだよね。

 こう、女王様っぽい顔付してるんだよ。キレ長の目付き、泣き黒子、赤みを帯びた髪も勝気な印象を与える。ついでに言えば、普段着のブーツとストッキングもそれっぽい。

 足を組んでにっこりと意味深に笑えば、それだけで女王様に睥睨されているような気分になってしまう。

 

 しかも、今はボンテージである、ボンテージ。もうSM女王様以外の何者にも見えない。…表情と立ち位置を変えれば、あっという間にM奴隷、愛奴に変身するんだが。

 

 

「さて、私はどうしようかしら。この格好、気分は出るけどアリサと違ってスカートは無いし、同じ事をしても芸が無いし……。…そうね」

 

 

 レアは何やらプレイ内容を決めたようだが、俺としてはそれどころではなかった。

 後ろに回り込んだアリサが、フェザータッチで尻を撫で回しているからだ。

 

 

「筋肉質なのに、妙に柔らかいですよねぇ…。敏感なのは、ママのおかげかな? キスマーク、つけちゃいます…」

 

 

 おふ!? す、吸われる感覚…。流石に穴じゃなくて、尻の表面だけど。

 

 

「あはっ、キスマークがくっきりついてますよ。浮気者には、これくらいのマーキングが必要ですよね。これから毎回、こうやってつけてあげます。…お尻がビクビクしてますよ。痴漢みたいな触られ方をして嬉しいんですか?」

 

 

 拘束して転がした相手を触るのは、痴漢なんてレベルではないと思う。しかしそれはそれとして、愛撫がくすぐったい。

 レアと違い、アリサは舌ではなく指での攻めを中心にするつもりのようだ。つぅか、からかうセリフがホイホイ出てくるのは何故…?

 

 

「そりゃ、貴方が月に行って以来、二人で何度も慰めあったもの。こんな遊びだって、何度もやったわ。私もアリサも、イジメられて悦ぶ体にされちゃってたものね」

 

「こういう愛撫だって、私達で抱き合って練習したんです。ママは舌を使うのが得意になりましたけど、私の指だって捨てたものじゃないでしょう? ほら、ココ…蟻の門渡りを擽られるのは好きですか?」

 

 

 お、お、おおぉ…柔らかい感触ばっかだったから、ちょっと強めにされると…ああ、やっぱりやめられた…。

 

 

「まだまだイかせませんよ…。イくなら…ねぇ?」

 

 

 チョンチョンと、尻の穴をつっつかれる。イくなら挿入されて、前立腺でって?

 もうそれでもいいんでイかせてほしいっす。アリサとレア(と千歳)になら、掘られても許容範囲!

 

 しかし、これからするんだぞ、と強調するように触れられるのに、アリサは直接入れようとはしない。小指の感触がもどかしい。無理矢理でもいいから、潜り込んできてほしくなる。

 

 

「アリサばっかり気にしてるのはダメよ。ホラ……私の、ココも…見なさい…」

 

 

 レアは俺の前で大きく股を広げると、見せつけるようにボンテージの股間を突き出してきた。黒い手袋に包まれた指が、俺の目の前で股間に触れる。

 

 

「んっ……はぁ……ぁん……ふふ、貴方の前で弄るのも、久しぶり…」

 

 

 艶めかしい手付きで、衣装の上から秘部を弄り回す。よく見れば、黒いボンテージには小さくない染みができている。

 何より、漂ってくるメスの臭いに、精の残り香。…どうやら、疑似ハラボテ状態こそどうにかしたものの、注がれた精液を全て吐き出した訳ではないらしい。まだレアの中に残っている。

 

 暫くそのまま弄り回していたが、今度は指が衣装の下に潜り込む。響いた粘着質の音からして、弄る前からもうビショ濡れだったらしい。アナル舐めでそれだけ興奮したのか。

 

 って、にゅあ!?

 

 

「こうして触ってあげてるのに、ママの事ばかり見ているのも気に入らないですね。ほぉら、先っちょ入っちゃいますよ」

 

 

 お、おぉぉぉ…。

 

 唾液たっぷりのアリサの指が、敏感になってる粘膜をグリッと…!

 突っ込むんじゃなくて、穿る感じ。浅く、指の先端だけを入るか入らないかギリギリのところで前後させ、粘膜の浅い部分をグリグリと掻き回す……って、コレはアリサが尻を責められる時に好きだった愛撫じゃん。

 

 と言う事は、次に来るのは…。

 

 

「えいっ」

 

 

 七浅三深! いや深いったって奥までは来てないんだけど!

 

 

「アリサ、締まりはどう?」

 

「キツくって敏感で、掘り甲斐がありますね。ペニバンで突っ込めないのが残念で仕方ないです。ほらほら、息吐いてー、吸ってー、吐いて―、吸って―。ちょっとずつでいいから、リラックスしてくださいね。圧迫感が段々和らいできますから。貴方に開発された時の実体験なんで、信じてくれていいですよ」

 

 

 う、うぉぉぉ…微妙に指を曲げて、指をピクピクさせてくるのがまた…。リラックスしてなんて言いつつ、そうさせないつもりなのが丸わかりだ。俺の反応を楽しんでおられる。

 そんな俺の苦悶(だと思うんだけど、ちょっとどころじゃなく感じているのは否定できない)の表情を見下ろしながら、レアは段々と自慰の動きを激しくし始める。

 アリサの指の動き…と言うより、俺が穿られて反応する動きに呼応するように、レアの指が動く。秘所だけじゃなく、今正に俺が穿られている不浄の穴も自分で触れて、明らかに性感を貪っている。

 俺がついつい声を漏らすと、それを肴にするように指を奥へと送り込み、メスの臭いと液体を撒き散らす。指の動きがボンテージを押し退けつつあり、もうちょっと激しくすれば愛液の飛沫で俺の顔が濡れそうなくらいだ。

 

 

 そっちに見惚れていると、また尻の穴がムズムズしてくる。苦痛は殆ど感じなくなっているのに、随分と奥まで侵入されていた。

 手馴れてるな、こいつら…。それだけ慰め合ったって事か。

 

 

 …む? む……な、なんかこう……違和感が? 尻の圧迫感(という名の性感になりつつある)は変わらずなんだけど、なんかこう、体の芯がおかしいと言うか…歯の根が合わなくなって、汗がじんわり出てくると言うか…。

 

 

「あ…見つけました。きっとこれですね、前立腺」

 

 

 こ、これが!? と言うか前立腺って、触って分かるもんなのか!?

 

 

「分かるわよ…んっ…ふぅ…。勃起してる時は分かりやすいわ……ああ、とうとう触られちゃったのね? オトコが得られる究極の快感…。それを娘(役)に与えられる気持ちはどう?」

 

「まだシてあげませんけどねー。あはっ、刺激せずに触れてるだけでも、やっぱりわかりますね。ほらぁ…出したかったら、ね? もう、お尻を虐められるのが恥ずかしいなんて思ってないでしょう? イキたくてイキたくて仕方ないんでしょ?」

 

 

 は、恥ずかしくはあるわい! …それよりもイキたいけど!

 と言うか、イキたければこれ以上どうしろというのだ。真面目な話、今まで何を話して何を黙秘したのか、さっぱり覚えてないんですが!

 

 

「うーん…ぁっ……覚えてないのは、本当みたいね…。ぁん……ココ、スキ……とても信じられないような話だったけど…」

 

「『繰り返し』に? 『3つの世界』に? 『ゲームのシナリオ』に? 『因果を奪う鬼】? 『情報生命体』で『ハンター』でゴッドイーターで『モノノフ』で『触鬼』でその他諸々? 今回に限って、『繰り返し』が始まる時期が違う? 今まで誰と関係を持ったか…は、数が多すぎて聞き切れませんでしたけど」

 

 

 ……ふ、不倫疑惑の事言ってないよな…?

 

 

「俄かには信じられない話でしたね。クイクイ どこの詰まらない小説の話かと思いました。…あ、まだイかせてあげません」

 

「でも……思い当たる節も……多いのよね…。極東を緑に変えた…植物の出所とか…整備班に渡して…た、恐竜みたいな鱗や爪…」

 

「一番説得力があったのは、情けなくヘコヘコお尻を振りながら、『ウソじゃないよぉぉ』って泣いてる顔でしたけどね、ふふふ、思い出すだけでゾクゾクしますよ、あの泣き顔」

 

 

 そ、そんな事したっけ…。いや確かに焦らされ過ぎて理性が擦り切れてたような。と言うか、今すぐにでも理性がまたぶっ飛びそう。と言うか自由になったらアリサ覚えてろ…………と思いつつ、本気で愉しんじゃってるのが悲しい。尻の奥がジリジリして焦がれて辛くて気持ちいい。

 ああ、寸止めされまくった女達ってこんな気分だったんだろうな…。今度からは、もっとエグくて愉しませる焦らしプレイが出来そうだ。

 

 

「うん…これ以上、聞けそうな事はないわね。私もそろそろ辛いわ…やっぱり、自分の指じゃ満足できないわね。3年ぶりのを味わったら、猶更」

 

「ですね。重要な部分は聞けたと思いますし、後は問い詰めて吐かせられるでしょう。…ええ、そうですね。それじゃ、これだけ聞いて終わりにしましょう。……始まりかもしれませんが」

 

 

 そう言うと、アリサは俺の体を抱えて体勢を変える。尚、相変わらず手錠はかけられ、尻には指が入ったままで…そんな状態で座らされたんだから、体重がかかってしまうのも当然。一際強く指が突き込まれ、圧迫感が最大まで高まった。それと同時に、どうしようもなく膨れ上がった肉棒から、またしてもカウパーが溢れ出る。…今まで、ナニが下向きだったから、ナニ自体は濡れてなかったんだが…もうベチョベチョだ。目をやれば、さっきまでナニがあった場所の下は水溜まりみたいになっている。……愛液=カウパーと考えれば、俺の場合左程珍しくは無かった。

 

 圧迫に悶える俺の足を、アリサとレアが両方から抱え込む。そうすると、丁度俺の先端を挟んで二人の顔が向き合う事になった。

 敏感になりすぎて、左右からの吐息でさえ射精しそうな刺激を感じてしまう。

 

 

「じゃ、これが最後の質問です。まだ半信半疑だけど、『繰り返し』をしているって事は信じます。別の世界があるって事もいいです。色んな人と関係を持ったのも……正直、実感が沸かないだけだと思いますけど、酌量の余地ありって事にしておきます」

 

「オシオキは済ませたし、自分で望んでいる境遇ではないし(楽しんでるみたいだけど)……怒りもあるけど、一番問題なのはこれだけよ」

 

 

 そ、それは一体…?

 

 

「この話が本当なら、きっとあなたはこれから何度も何度も、この時期を繰り返すんでしょうね」

 

「でも、その間…私達が知らない所で生きていても、私達がこの時間を忘れてしまっても…今回のように繰り返しが始まる時期が変わった為に、二度と会えない事になってしまったとしても」

 

 

 

 

 

 

 

 

 惚れてます! ずっと、絶対、何度繰り返して、嫌気がさしたり、ヤケになる事があっても、八つ当たりする事があっても、ずっと変わらず惚れたままです!

 

 

 

「「よくできました」」 クイッ

 

 

 叫んだ瞬間、アリサの指が致命的な所に食い込んで。

 亀頭に左右からキスされて。

 

 溜まりに溜まった精液が大爆発して、二人の首から上を染め抜いた。

 

 

 

 



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319話

何とか、本日夜にネット環境確保…だった筈が、仕事の都合で来年にまで延期だよクソッタレ。
edfも実家帰省と送別会が重なったおかげでパッケージ版とダウンロード版を購入しちゃったし、どうしてこう間が悪いのか。
最悪のタイミングで何かと起こるんだよなぁ。
工事日程によっては、1/7以降は暫く間が空くかもしれません。


新しい環境に不満タラタラですが、何とか順応はできそうです。
頂いたレス返しには、もうちょっとだけ時間がかかりそうです。
それはそれとしで、上から目線になりますが。


前回感想の前立線に目覚める=ホモって方々はまだ
この世界浅いなぁと。
美女に攻められるのと、野郎に掘られるのは別物っすわ。
音声作品でもね、相手とシナリオ一つで「目覚めてもいい」ってマジで思えるのよ。
具体的にはサキュバスに掘られて恍惚としてました。


尚、この上には当然のように「男の娘なら」「女の子っぽければ」「相手によっては男でも掘られていい」など、更なる高みがあります。


神安逝月

 

 

 手錠が外されて早々に全力(ラブイチャ路線で)リベンジし、心臓が止まりかけたり逆に動かしたりしたのはともかくとして。

 ふとカレンダーを見れば、2週間近く過ぎていた。……頑張り過ぎだろ。よく生きてたな。栄養補給的な意味でも。…ほぼ飲まず食わずでヤリっぱなしだったもんなぁ。とうとう、オカルト版真言立川流で、エネルギーだけじゃなく栄養素まで補給できるようになったか?

 

 

 ま、とにもかくにも一端落ち着いて、フライアにも連絡を取った。超呆れられた。無理もない。

 と言うか、俺と二人の再会シーン、どうやら動画で撮られて後悔されていたらしい。ロミオの口調からして、ちょっと前屈みになっちゃったっぽいな。まぁいいけどさ。

 

 

 

 …で、まだラブホの中に居る訳だが、ふと嗅ぎ慣れない臭いを感じ取った。いや、懐かしいっちゃ懐かしいかな? …本当の記憶かは分からないが。

 ……タバコの臭い?

 

 

「あら、嫌いだった? ごめんね」

 

 

 いや、別に。リンドウさんみたいにヘビースモーカーならともかく、一服くらいなら気にならないよ。

 と言うか、レアって煙草吸ってたんだ。

 …なんか吸い方がエロいってか、セクシーと言うか。

 

 

「この3年で覚えたのよ。焦って上手く頭が回らない時とか、混乱してる時とか…そういう時に一服すると落ち着くの」

 

 

 …随分苛々させちまったみたいだな…。正直、俺も月で3年過ごすのは予想外だったけど。

 アリサは、この3年で何か趣味とかできた?

 

 

「バイクが好きになりましたね。場所によっては道交法とか無いから好きに飛ばせますし、ゴッドイーターの身体能力と頑丈さなら、事故にあっても全然平気。アラガミ相手なら、接触事故も攻撃と言い張れます」

 

「最近じゃ、バイクに神機を銃形態で固定して、マシンガンの代わりにしようなんて事も言ってたわね」

 

 

 ナニソレ素敵。実用性も命中率も皆無だけどロマンが擽られる。

 

 

 と言うか……ライダースーツで蒸れ蒸れのアリサか…。これは滾る!

 

 

「あれだけシたのに、もう次を考えてるとか筋金入りですねコレ。…ま、まぁ…考えておきます。暑い日のツーリングの後、シャワーを浴びずに呼び出す程度には」

 

「完全にその気じゃない。と言うか、ゴッドイーターなら転倒しても平気だからって、ライダースーツなんか買ってなかったでしょ。ヘルメットを買えと何度言った事か…。…ああ、もう、ようやく頭が落ち着いて来てたのに」

 

 

 

 あー…すまんね、割と真面目に。突拍子もない話を聞かせちまったみたいで。でも、覚えてる限りじゃ嘘は言ってないぞ。勿論、コトの後に改めて聞いた部分もな。

 

 

 

「まぁ、それはいいんだけどね…。ハァ……参ったわ。これだけは知られたくなかった…墓場まで持っていくつもりだったのに、『ゲームのシナリオ』で知ってた? 神の視点じゃない…。反則よ。しかも、ラケルにそんな事が起きてるなんて…」

 

 

 

 …そりゃ混乱どころじゃないわな。まぁ、全部鵜呑みに出来る物でもないから裏付けとる必要はあったし、そうでなくても大分話を引っ掻き回してるが。…大筋と言う意味では変えられてはいないかな。

 

 レアにしてみれば。父親殺しの片棒を担いでしまった事もそうだが、今まで全く理解できなかった、支配され続けていた(もう解放されてるけど)妹にそんな事が起きていたなんて…。しかも、切っ掛けは……レアがラケルを階段から突き落としてしまった事。

 無論、それ以外にも手術に踏み切った父親や、アラガミ細胞の未知の力もあるだろうが、少なくともレアは自分が発端になったと強く自覚してしまうだろう。…それが元で、ラケル先生に支配されてしまう程に。

 

 

「しかも、このまま行けばラケルは終末捕食を起こして死亡…か。『前回』とやらでは、そこに辿り着く前に、貴方共々死んだらしいけど」

 

「ゾッとしない話ですね、本当に。やっと再会できたと思ったら、1年も経たない内にまた死別なんて冗談じゃありません」

 

 

 それは俺も本当にそう思う。と言うか、実際前回の死別後はスッゴイ気が重かった。

 不謹慎な言い方になるが、死別には慣れてしまったが……いや、慣れたと思ってたのかな。デスワープ直前直後の感情とか後悔とか、クサレイヅチに奪われていたみたいだし。

 今でも戻ってきてないんだろうなぁ、その因果…。あの後どうなったのか気になるが…『気になる』程度の感情しか残ってない。

 ま、繰り返しで摩耗しちまった部分もあるんだろうけど。

 

 

「…正直、そこら辺は私達の手には負えないわ。ただ一つ言えるのは、貴方にとって『次』があるのだとしても、私達にとっては正真正銘、最初で最後。添い遂げられるように全力を尽くすだけね」

 

「そういう事ですね。小難しい事を考えても仕方ありません。私達と、貴方。考えるのはそこだけでいいです」

 

 

 至極あっさりと言い切るレアとアリサ。…愛が重いと言うか、心地よいと言うか。

 漁色ばっかりしてたから、激怒されて三行半も覚悟してたんだけどな…。

 

 

「一応言っておきますが、浮気を許容する訳ではないですからね。…あ、でもやっぱり私達だけじゃ体が保たない…? 以前より上手になってますし…」

 

「あー…………それについては…ある意味仕方ない、と思ってるけど。あくまで想像だけどね」

 

「? ママ、どういう事です?」

 

「誰だって、無くした物、奪われた物は取り戻したいものよ。…足が動かなくなったりしたら、回復してほしいと願うでしょう。腕が欠損すれば、腕が欲しくなる。例え動かないと知っていても、義腕を付けたくなる」

 

 

 (ラケル先生みたいな例外でなければね…)

 

 

「因果や鬼の事は知らないから、俄か知識と想像でモノを言うしかないけど…例えばイヅチカナタとやらに、貴方と、恋人との因果を奪われたとする。当然、奪い返したくなるじゃない。だけど、当のイヅチカナタは見つけられない。言わば、片腕が欠落した状態が続くのよ」

 

「…その理屈で行くと、義腕でもいいから代わりが欲しくなる?」

 

「そうね。代替品として見ていると言う事じゃなくて……ある筈のモノが無い事に耐えられない、一種の本能かしら。或いは…因果とやらが、そう…水のような性質を持っていると仮定すると……湖の中で、突然一か所だけ水が無くなったらどうなると思う?」

 

 

 そりゃ、周囲から水が流れ込んでくるな。…つまり何か? 俺の女好きは、それと同じって事か?

 俺の傍から居なくなった誰かの因果を埋めるように、周囲から流れ込んでくると?

 

 

「女好きなのは元々の性格…か、繰り返している間にそうなっちゃったんでしょ。どちらかと言うと異性運ね。奪われた分だけ、出会いの因果が流れ込んでくるんでしょう」

 

 

 むぅ…ちなみに、関係する人数が増えていく傾向にある理由は?

 

 

「出会いやチャンスを捕まえるのが上手になってきているって事じゃない? それと、事前に相手の事を知れる訳だから、何を好いて何を嫌うかも分かる。地雷を踏む事が少なくなって、人に好かれやすくなるんじゃないの?」

 

 

 うーむ…。納得できるような出来んような…。と言うか、言ってる事にそこそこ筋が通っているけど、なんだかキバヤシ臭…。

 

 

「それより、この事…さっき吐かせた事は、榊博士に相談した方がいいでしょうか? このまま進むと、またしても終末捕食、そして貴方も死の危険があります」

 

「むしろ相談しない理由が無いわね。繰り返し云々を置いても、猛威を奮っている黒蛛病の治療法があるって事でしょう?」

 

 

 現状、俺以外ではブラッドの連中にワンチャンあるかどうかってレベルだけど…。

 まぁ、他の方法を見つけられる手掛かりになればいいか。

 

 仮にデメリットがあるとすれば……榊博士に解剖されそうだって事かな。

 

 

「「あぁ…」」

 

 

 前にも一度、ループの事をバラした事があるんだけど、その時には「私は君が大嫌いだ」って正面切って言われたし。いや、そう言われても仕方ないとは思うんだけどさ、所業的に考えて。

 結局、あの時の死因って、神機の新機能の実験だったんだよなぁ…。暗殺疑惑が、今も捨てられん。

 

 

 

「ま、まぁ、用心しておきましょ。ところで、これからどうする?」

 

 

 俺は…一度、フライアに戻っておかないと。状況を確認しておきたいし、ジュリウスが黒蛛病に感染しそうなシーンが幾つかある。

 ジュリウスにも効果がある黒蛛病治療の方法を確立できれば、極東に戻れるんだがなぁ…。

 

 二人は? 前回だと、スペースシャトルのプロジェクトで休みを取って極東に来てたんだけど。

 

 

「同じです。…もう休暇が終わっちゃいますね。再会できたのはいいけど、ほぼ全部ラブホテルの中で過ごす事になるとは…」

 

 

 お盛んすぎてスンマセン、

 

 

「ま、プロジェクトに参加していると言っても、私が担当している部分はほぼ完成しているし、少しばかり引継ぎがあるだけで、すぐ抜けられるわ。アリサも一緒ね」

 

「私はどっちかと言うと、ママの助手とかボディガードでしたから…。それが終わったら、極東ですかね? 何だかんだで、物事は大抵あそこを中心に起こりますし」

 

 

 

 そうだな。フライアも暫くしたら極東に行くだろうから、そこで合流しよう。

 

 

 

 

 

 

 そういう事で、本日……一週間以上あったが…は名残惜しくも解散となる。

 二人は一度、ドイツの方に戻るのだが………。

 

 

 

 空港でメッチャ注目され、物凄く居心地が悪かったらしい。人前でダブルディープキスしたの、すっかり忘れてたみたいね。

 …え、何? ドラマ化の話が上がってる? なにそれこわい。

 

 

 

 

 

 

神逝月

 

 

 電脳空間からフライアの位置を調べ、次に立ち寄る場所を予測して、そっちに移動。

 流石に直接中に出現するのは危ない。ラケルてんてーが何か妙な罠を張ってるかもしれないし、ぶっちゃけ不法侵入者扱いされると反論もできん。

 

 さて、レアとアリサに溺れていたこの一週間で、フライアの方は何かイベントがあったかな?

 ナナの初陣はもう終わってるから、次はギル、その次はシエル…。

 

 っと、そう言えばギルの前に、ユノもフライアに一度来てたっけな。

 後は…日記を読み返して思い出したが、エミールと上田もといエリックさんの襲来か。あれは濃かった…。

 

 しかし、別にそれに立ち会う必要はないよな? 前回は緑の君こと、極東に緑を溢れさせるきっかけを作った偉人みたいに語られたが…正直、これについてはメリット・デメリット共に大したものは無い。

 その場に居れば、あの無駄に濃い二人組に絡まれる事もありそうだが…多分、極東に行ったらその内嫌でも顔を合わせる事になるだろう。

 結局、早いか遅いかの違いである。

 

 

 

 

 …まぁ、成り行き次第か。アレコレ考えても、それらが過ぎ去った後であったとすれば意味が無い。

 まずはフライアに乗り込んで、状況を確かめないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で、ロミオただいま。これ、空港土産。

 

 

 

「あざーっす。それはそれとしてジュリウスがオコなんで、何とかしてくれないすかね」

 

「聞こえているぞロミオ。…勝手な行動は控えていただきたい。貴方はロミオの師ではあるが、現在ではゴッドイーターとして登録されている訳でもない、言わばこのフライアの居候だ。外出するなら、せめて許可を取ってからにしろ」

 

 

 

 む、真面目に申し訳ない。ちょっとでも早く会っておかないと、後が怖かったもんで。

 …まぁ、どっちにしろオシオキはされたけど。

 

 

「よく分からんが、空港での事は聞いている。ニュースにもなっていたぞ。面白おかしく取り上げられる気分はどうだ?」

 

 

 二股男と思われるなんざ、今更屁でもねぇ!

 まーそれは置いといて、また暫くフライアに置かせてもらっていいかな? 極東に行くくらいまででいいから。

 

 

「…条件付きで許可しよう。今後も同じような事を繰り返せば、出禁とさせてもらう。また、貴方の血の力について学ばせてほしい。かつてロミオを鍛え上げた手腕、ナナにも発揮してもらいたい。これから来る人員の為にも」

 

 

 了解。いつになく厳しいなぁ…。

 と言うか、結局シナリオは全く進んでいなかったらしい。ギルの着任すらまだだった。

 これはアレだな、討鬼伝世界でもあったが、俺がウタカタに着任するまで全く話が進まないのと同じ現象か。

 

 まぁ、何でもいいさ。知らない所でジュリウスが黒蛛病感染するよりは、よっぽどいい。

 

 

 さて、そうなると俺の仕事はナナへの教練か。

 

 

「近日中に、もう一人ブラッドに入隊する者が居る。そちらにも教練をつけてくれ。ゴッドイーターとしての腕は確かだが、血の力には全く触れた事が無い人だ」

 

 

 ま、普通はそうだわな。こんな胡散臭くてニッチな力、感応種でも相手にしなけりゃ必要ですらない。…ああ、ブラッドの存在意義の事を言ってるんじゃなくて。

 

 

「所詮は道具と言いたいのだろう? 事実だな。強力な道具があるに越した事は無いが。だが、それを本心から言うには、血の力がどういう物であるのか理解し、そしてそれを使いこなせるだけの地力を持たねばならない。そして、貴方はロミオにそれを持たせた」

 

 

 本人の資質もあると思うけどね。正直、最後に会った時にはああまで化けるとは思っていなかったよ。 

 ま、とりあえずはゴッドイーターとして鍛えて、血の力はそのついでって事になるけどいいか? そうしないと、力に使われるだけの三流になりかねん。

 

 

 …血の力は、時期が来れば嫌でも目覚めるだろうしな。特にナナのは。

 

 

「…? どういう意味だ?」

 

 

 最初の使い手としての、直感みたいなもんだよ。宗教かぶれか、運命論染みた戯言に聞こえるかもしれないけどな。

 

 

 

 

 

 さて、そういう訳でナナの教練を行う事になったんだが。うーん、前回もそうだったけど、獣染みた動きをするなぁ。

 別に四つん這いで走るとかじゃなくて、直感がね、野生の獣みたいだ。

 幼い体に、しなやかな筋肉。ゴッドイーターとして強化される前から、かなりの身体能力を誇っていたんだろう。

 顔を合せなかった一週間で、ロミオが施した教練も良かったのか、体が振り回されている様子も無い。

 

 

 うん、いいゴッドイーターに育つわ、これは。

 難点があるとしたら、やはり射撃か。前回(確かゲームでもそうだった)、シエルにも指摘されていたが、ナナはとにかく近付いてブン殴るスタイルだ。ショットガンという近接向けの銃を使っているが、殆ど有効活用できてない。

 …と言うよりは、ショットガンだから猶更使いにくいんだろうか? 何せ、ハンマーのリーチとショットガンのリーチ、丸被り状態なのだ。

 ナナにしてみれば、苦手な銃をわざわざ使うより、初手からハンマーでガンガン殴り飛ばした方がいいんだろう。

 

 逆に、スナイパーライフルを持たせてみたが……意外と合うな?

 遠距離では狙撃、近距離では格闘。相手次第ではかなり嵌る。逆に、打撃属性が有効ではない相手に接近されると、少々厄介な事になるが。

 ただ、戦術的な実用性はともかく、ナナ自身はスナイパーライフルは自分に合ってないと思っているようだ。遠い場所から、相手の行動を予測して、チャンスを待つのが苦手らしい。待つくらいなら殴り掛かると。

 

 分かりやすくて結構な話だ。とは言え、やりやすい方法だけでやっていけるなら、わざわざ教練なんぞする必要は無いし、死者が出る事も無い。

 最低限のレベルにまでは持っていかなければなるまい。

 

 さてどうしたものか…。カノンに教えた時はどうしたっけ? 決まったフォームからしか砲撃しないようにしたり、気配を消してゼロ距離射撃させたりして、誤射を少なくしたんだっけ。

 と言うか、前回通りなら、確か今はどっかの開拓地と言うか、コロニー作成場で猛威を奮ってる筈だよな。

 

 …いや今はナナだな。

 少々非人道的ながら、ナナに射撃を叩きこむ方法はある。トラウマを上手く利用してやればいい。

 血の力の発現も早まるかもしれないし、暴発させるくらいならいっそ爆発させた方が、どのタイミングで対処すればいいのか分かる分だけ楽と言えば楽だ。

 ただ、ナナが精神的に再起不能になっちゃうかもしれないんで、極力やりたくはない。人の心ほど操り辛い物もないしな…。

 

 

 とにかく、銃は余技でもいいから使えるようにしておこう。

 

 

 

 と言う訳で、今日は実戦には行かずに、訓練所で銃の練習です。

 

 

「え~、銃って苦手なのに~」

 

 

 だから練習するんでしょ。まーそんなに難しい事は言わないよ。結局ショットガンに落ち着いたし、変形がスムーズにできる事と、撃つべき距離だけ覚えておけ。

 ショットガンで牽制するか、バレットに弱い部分を破壊して、後はハンマーで追撃すりゃいい。

 

 

「むぅ、それくらいなら…。あれ、じゃあ今日の訓練ってそれだけ?」

 

 

 それだけ。ただし、上手にできればご褒美をあげよう。

 砂糖をたっぷり使ったお菓子とか、ドラゴンの尾をこんがり焼いた肉とか。

 

 

「ガンバリマス! …って、流石にドラゴンは居ないでしょ~。アラガミを食べられるのは、神機くらいだよ」

 

 

 はははは、そだね、でも人間が食える肉なのは確かよ。

 ほ~れ、さっき一つ焼いてきたのだ。MH世界名物、こんがり肉の匂いをたっぷり堪能するがいい。

 

 

「お肉は好きだけど、それよりもおでんパン……? ……あっ? あっ、あっ、あっあっあっ」

 

 

 ふくろ から取り出したこんがり肉(出来立て)をパタパタしてやると、冗談だと思って笑っていたナナの表情が激変する。

 ケラケラ笑っていたのが、『ん?』という表情になり、ネコミミヘアがピクピク動き、あっという間に理性が蕩けていく。古き良き(?)古典映画のゾンビのように、両手を突き出してフラフラと覚束ない足取りで近寄ろうとしてきた。

 

 肉を右に動かせば右に、左に動かせば左に、上に動かせば爪先立ちで背伸びをし、下に動かせば何故か妙に機敏に四つん這い…猛獣が獲物に飛び掛かろうとする姿勢をとる。

 適当に振り回してみたら、JOJO立ちに挑戦しようとしているかのように、人体の限界に挑むような動きをする。

 

 

 その間も、脳みそクチュクチュされてるようなあっあっあっは止まらない。……と言うか、この娘、絶対濡れてる。

 

 

 予想以上の反応に、内心にやりとしながらも、肉を ふくろ にしまい込む。

 

 

「フシャーッ!」

 

 

 やかましい。飛び掛かって来たナナを適当に放り投げ、次に取り出しましたるは茹で卵。

 だが単なる茹で卵ではない。そう、当然MH世界の素材を使った! いつぞやユクモ村に行った時にツマミにしようと思って買って忘れていた、温泉で作った半熟ゆで卵なのだ!

 おでんと言えば真っ先に思い当たる卵は完熟だが、半熟も美味い。と言うかバリ美味い。マジで美味い。

 

 半熟卵なんて食べた事もないだろうに、『これは神クラスの美味!』と直感で察したのか、今度は何故かナナは平服していた。こら、お腹見せるんじゃありません。モフ…もとい、スベスベしたくなっちゃうじゃないか。

 …飯で釣れば、割と簡単にR-18まで持っていけそうなのが心配な今日この頃。

 

 しかしそれも無理はないか。MH世界でなら、確かに美味いし珍しい物だが、言っちゃなんだが所詮は一地方の名物程度でしかない。

 が、この荒廃し、食糧難に常に喘ぐ(アラガミも空腹で苦しんでいるらしい)世界にしてみれば、この茹で卵もこんがり肉も、SSRを通り越してSL級だ。スーパーレジェンド。手に入れたら死ぬレベル。九連宝燈と違って、『ころしてでもうばいとる』で死ぬんだけど。

 

 ついでに言うと、ふくろ に居れている間は時間が止まっているのか、それともなんか因果でも奪われているのか、全く状態が変化しない。故に出来立てホヤホヤ状態が継続されているのだ。

 ……今更なんだけど、ホントにこの ふくろ 謎だよな…。イヅチとかに関しては徐々に分かってきている事もあるのに、こいつにだけは全く手掛かりがないぜ…。最初の頃は、得体が知れないからあまり頼りたくないと思っていたが、もう疑問すら抱かなくなっていた。

 

 

 はははは、どうだね、君の成績次第で、これらのレアアイテムが君の物になる。尚、あまりに見られないような成績だと、俺がこいつを食うのを横目に、味気ないと評判の携帯食料(それでもこの世界では贅沢品の部類に入る)を食う事になるだろう。

 

 

「やる! やるニャす! ご飯の為ならエンニャコーロ!」

 

 

 エンヤコーラだろうに。と言うか、喋り方まで微妙にネコっぽくなってる。…どっちかと言うとニャースかな、これは…。

 まぁいい。この食い意地を上手く利用すれば、本当に色々できそうだ。…いや、エロい事企んでるんじゃなくて、うまくレベルアップさせられそうだってね。

 

 さーて、どうするか。最初の一回はサービスも兼ねて上等な飯をやるとして、そこから先は徐々に要求レベルを上げていかないと。

 

 

 

 

 …これってアレだな、多分ソシャゲと同じ手口だよな。

 最初の一回だけ、星5確定のガチャを回させておいて、後はチビチビしたやつばっかり。星4が欲しけりゃ課金しろ、星5が欲しけりゃ札束ビンタ。

 …ソシャゲと同じレベルの努力(課金とは言うまい)を要求すべきか、それが問題だなぁ…。

 

 

 

 

 追記

 

 最初のガチャこと報酬は、こんがり肉だった。

 ナナが味王様みたいに巨大化した。え、なにこれ血の力? 誘因はどったの? 

 ……あ、でもでっかいロリとかええなぁ…。ナナの場合、身長がでっかくなって、ただでさえでっかい『たわわ』もでっかくなるし…。

 

 



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320話

神逝月

 

 

 割とうまく出来た時の報酬に、マタタビを渡してみたらガチギレされた。どうやら、先日ナナの目の前でこれ見よがしに食ってたこんがり肉Gを期待していたらしい。

 猫扱いは割とノッてくるナナだが、食い物に関しては冗談が通じない。……いや、割と本気でマタタビにしようと思ったのが悪かったんだろうか…。食えるんだけどなぁ、塩漬けとかにして…。

  

 ま、そのガチギレバトルのおかげで、大幅にレベルアップできたからいいでしょ。ショットガンの扱いも一気にうまくなった。

 と言うより殺意を感じ取れる撃ち方を身に着けてきた。至近距離からバァンバァンは当たり前、ハンマーの一撃をガードしたと思ったら、その瞬間に隙間を狙うように銃口を捻じ込んでブッパしてくるとか。

 うむ、いい塩梅にスレている。以前にも思ったが、こりゃ殺意満載の獣の戦い方だな。ネコではない。虎よの! 虎にごつ!

 

 ちょっとロミオとジュリウスに怒られたけど、まぁ問題ないよね。

 何? やりすぎ? 

 バッカおめー、これから間もなく極東に向かうんだろ? あそこのアラガミ、お前らが知ってるのとは色んな意味で別次元だからな。

 それまでにちょっとでもレベルアップさせとかなきゃ、ガチでアラガミの腹の中に納まる事になるぞ。

 

 とは言え、確かに歪な強さになっちゃったのは確かだから、これから整えていくけどな。

 ロミオの時とは逆だなぁ。お前の時は、根っこがコンプレックスやら何やらで壊れそうだった事もあって、ゆっくり丁寧に下地を作ったっけ。

 でも、下地は確かに何より重要だが、逆の事も言える。小さな器にアレコレと装飾を飾り付けるより、大きな器を作って余分を削ぎ落す方が、名器ができやすいんやで? あと名器には意味深とか無いからね。

 

 まぁとにかくだ。今後もナナをブラッド隊員として戦わせていくなら、現状の実力じゃどうやっても足りん。単なるゴッドイーターとして評価するなら、ルーキーにしては上出来だけど。

 ジュリウス、お前もまだ実感湧いてないんじゃないか? ブラッドが必要とされるのは、感応種が相手の時だぞ。

 多分だけど、感応種だってバカじゃない。神機を停止される力を中和する俺達を、優先的に狙ってくるだろう。絶対に倒れてはいけない。

 万一、ブラッド隊員が一人しか居ない状況で倒れてしまえば、あっという間に他の皆の神機が動かなくなる。ぶっちゃけた話、それを防ごうと思ったら、アラガミに接触する危険を極力減らして、トレーラーの中で撤退の準備を整えてた方がいいくらいだ。

 

 

 それを、自分から前線に出て、更に次世代のゴッドイーターの教導役…見本手本になろうってんだ。指揮官と兵士を兼用しようってんだ。どんだけ強くならなきゃならんと思う?

 俺の基準で言えば、ジュリウス。お前だって及第点に届くか届かないか、ギリギリのレベルなんだよ。

 

 

 

 

 

 ……むぅ、ちと空気が悪くなってしまった。それだけの事を言ったという自覚もあるが。

 ジュリウス、見た目通りにプライド高いからなぁ。

 逆にあまり気にしてない…と言うより、自分が弱いと言う事を受け入れていて、それを気に病んでいないのがロミオ。ナナは……マタタビの件で暴れて寝てます。

 

 

 厳しい言葉、フロンティアで地力が上がったからこその上から目線の言葉だったと思うが、ブラッドにはこういう批判も必要だと思う。

 前回の事も思い返して気付いたんだが……何と言うか、ブラッドは閉鎖的な一面がある。ジュリウスをトップとして、曖昧に出来上がった上下関係。

 多分、半ばラケルてんてーが意図的に仕組んだ環境なのだろう。ジュリウスの『純度』を保ち、自分の計画通りに行動させる為、余計な影響を与えそうなファクターを排除してきた。移動拠点であるフライアも、外からの干渉を阻む為の要塞であるのかもしれない。

 

 要するに、世間の悪意や荒波に揉まれた経験は俺以上だろうけど、身内から批判を受けた事が少なすぎるんだな。俺が身内かって言われると、微妙なラインだが…。

 

 

 ふむ、ジュリウスとの仲は険悪になるかもしれないが、ラケルてんてーの定めた軌道を外れるように、アレコレ吹き込むと言うのは…有りかな。

 ジュリウスだってバカじゃないから(妙な所でヌケてるけど)、俺がジュリウスを誘導しようとしている事に気付くだろう。敵対していると思われなければいいんだが…

 

 

 

 

 

 さて、それはともかくギル到着である。当然っちゃ当然だが、今回もロミオとの激突は無し。

 極めて温厚に入隊した。当然の事ながら、まだ血の力の覚醒は無い。

 

 なので、暫くはブラッド隊として、任務をこなしながら、俺の元で教導を受ける事になった。

 …のはいいんだが。

 

 

「…アンタ、ゴッドイーターじゃないのか?」

 

 

 んぁ?

 

 

「いや、腕輪がないのが気になってな。それにしては神機を平然と使ってる…」

 

 

 ああ、これ? ちょっと色々と…。

 まぁ、俺は確かにゴッドイーターだよ。ただし、フェンリルにも登録はされてない。当然、このフライアにだって、書類上で言えば居ない人間だ。

 …いや、居る事は居るのかな? 荒野でぶっ倒れて、一般人を半殺しにしてた浮浪者をフライアに運び込んだって事になってるから。

 

 

「お前、そんな事やったのか!? ゴッドイーターが一般人に手を出したら、極刑モノの問題になるぞ!?」

 

 

 さっきも言ったが俺はゴッドイーターとして登録されてはいない。この世界でゴッドイーターになるには、フェンリル管轄下の施設で手術を受けるしかないから、漏れはありえない。

 なので、フェンリルに登録されていない俺は、神機を使えようがアラガミに噛みついて光だそうが、ゴッドイーターではないのだ。

 

 …真面目な話、ラケルてんてーが揉み消したっぽいけどな。と言うか、ボコッた記憶がないんだよなぁ。半死半生の状態だったらしいから、それで記憶が飛んだのかな?

 

 

「…もういい、お前に喋らせても、訳が分からない事が増えるだけだ…。だが、腕輪が無くても大丈夫な理由だけは話せ」

 

 

 へいへい。…やけに拘るなぁ…。前回もこんなやり取りしたっけ? ギルだったかは覚えてないが、腕輪をつけてない事には何度か言及された覚えがあるが。

 ま、無理もないか。ゴッドイーターにとって、腕輪の破損は何より忌むべき事態だからな。自分が死ぬだけでなく、アラガミと化して、他のゴッドイーターに散々手間かけさせて『介錯』を……って、そうか、それやったんだよな。そりゃ拘りもするわ。

 

 しかし、理由と言っても…実のところ、正確には分かってないんだよなぁ。

 アラガミ細胞を制御下においている訳だが、その理屈が分からない。『凄いね人体』したらいいのか? ハンターよりもグラップラーになれと?

 

 …まぁ、結局のところ、血の力による影響と言うしかない。それも極まった血の力。俺と同じレベルにならないと、アラガミ細胞は制御できない。(という緻密な設定)

 レベルがどーのと言う以前に、この頃のギルは血の力自体に半信半疑だからなぁ。「そういう物」と納得させるしかない。

 

 

 

 が、それだけでは押し切れなかった。妙に押しが強いな。

 こんな性格だったっけ…。まぁ、コジツケしまくって何とか押し通したが。

 

 

 

 

 そも、ブラッドの使う血の力とは何ぞや? 極端な事を言えば、感応種が使う力と同じである。あの力は、神機を停止させる効果を持っている。ある意味、『アラガミを停止させている』のだ。神機自体も、アラガミみたいなもんだしね。

 ならば、ゴッドイーターが使う力にも、同じ効果があってもおかしくない。使い手の出力と能力にもよるけど、アラガミの動きを阻害したりする力だってあるのだ。具体的には不動金縛り。あれはタマフリだけど、血の力って事になってるから。

 

 要するに、俺はそのアラガミを停止させる力を、常に自分に向けているから、アラガミ化しなくて済むのだよ。

 それだと、ゴッドイーターとして強化された力が無くなる? まぁそうだな。確かに、アラガミ細胞の力は失われる。が、それまで培ってきた肉体は別だ。

 筋肉の量も骨の密度も、臓器の活発さだって、普通の人間とは段違い。それだけ下地があれば、アラガミと渡り合う事はそう難しくない。

 

 要するに、強化は少し弱くなるが、その分鍛え上げてりゃ差し引きプラスって事だよ。

 大体からして、一般人がアラガミと戦えないのって、単に神機を使えない…相手にダメージを通す手段が無いからってだけだ。そこさえクリアできれば、完全に一般人ボディでも充分戦えるぞ。

 

 

 

「いや、流石にそれは無いだろう…」

 

 

 そうか? お前はどう思う、さっきから妙に感心した様子で聞いてるジュリウス。

 

 

「あぁ…血の力とは、俺が思っていた以上に奥深い物のようだな。体得したと思っていたが、井の中の蛙だったか…。しかし、お前が言う事も分かるが、極論ではないか? 確かに、例えばアラガミが一切動かず反撃もしない状態なら、一般人でも戦えはするだろうが…」

 

 

 それを可能にするのが戦術戦略ってもんだよ? 相手の動きを封じてタコ殴りは基本でしょ。

 机上の空論だと思うなら、一回極東の連中を見てみろ。極東は地獄だっつーけど、その地獄で暮らしてる連中は修羅か羅刹だよ。ゴッドイーターだけじゃなくて一般人も。

 あいつら、神機も持たずにアラガミを捕縛して、ピンポンダッシュして逃げてきやがるからな。お前らより動きがいい一般人とか、最初に見た時は目を疑ったわ。

 

 

「冗談でも、それ以上言うなら侮辱と取るぞ」

 

 

 

 …あいよ。まぁ、言われるだけじゃそう取られるのも仕方ないか。極東に行った時が見物だな。……自信喪失しなけりゃいいが。

 

 

「話には聞いてたけど、極東ってそんなにおっかない所なんだ…」

 

「まぁ、教官が死んだ場所って言われてたから、正直地獄なのは想定内だけど…」

 

 

 代わりに、美味い物とか面白い物も沢山あるぞ。…前回は風呂だったから、今回は炬燵に連れ込んでみるかな。

 

 

 

神逝月

 

 

 ジュリウスとの間に若干溝が出来た気がしなくもないが、教練は順調である。

 ゴッドイーターとしての教練は、ね。血の力に関しては、ギルが手古摺っている。元より胡散臭い力な上、えーと……あれだ、ムーブメント師匠の嫁さんの事で、色々葛藤があるんだろう。『あの時に血の力があれば』と、『今更…』って気持ちが交じり合ってるんだろうな。

 

 逆に、ナナは想定以上に順調だった。美食で釣ったのこれでもかと言う程効果的だったようだ。…ただ、ナナの場合なー。順調すぎるのも問題っちゃ問題なんだよな。

 それだけ、トラウマ爆発のタイミングが近づいてきてるんだから。

 

 ゲームのシナリオを考えてみると、ある意味奇跡的なタイミングだったと思う。…前回ループでもほぼ同じタイミングで爆発したけど。

 アラガミが集ってきても防衛できる戦力、拠点、住民の被害は…0ではなかったと思うが、それでも色んな意味で修羅揃いの極東の連中だ。他所で爆発されるより、被害が少なかったのは間違いない。

 …これ、ラケルてんてーとしては狙ったタイミングだったのか? ジュリウスも防衛に出ていたと思うが…その時に赤い雨が降っていたら? …かなりヤバかったな。

 しかし、それならもっと切羽詰まった状況で爆発させると思うが…。

 

 

 …ま、この辺は考えるだけ無駄だ。

 とりあえず、ナナは最悪、こっちで気絶させることを考えておこう。そんなに難しくないし。

 

 

 

 

 

 

 …いや待て、上手くやれば混乱に乗じてラケルてんてーを暗殺する事も…。

 ………できなくはないが…リスクが高すぎるな。刃物使ったら一発で人間の仕業だとバレる。アラガミの仕業に見せかけるには手間がかかるし、フライアの中までアラガミが侵入するのは至難の業。ラケルてんてーが、自発的にフライアの外まで、護衛も連れずに出てくる状況を作らなければならない。ちょいと手札が少なすぎる。

 

 何より、それをやったらレアがどんな顔をする事になるか…。

 ラケルてんてーの状態を知らなかった頃なら誤魔化す事も出来たかもしれないが、今手を下したら確実に気付かれる。

 

 自分のせいでアラガミに乗っ取られた妹を、自分の男が殺す。

 

 ……廃人待った無し。少なくとも、俺とレアは今まで通りの関係ではいられないだろう。…そう考えると、ラケルてんてーも何とかして生き残らせなきゃならんのか…。核爆弾を持ってる気分だ。解体してしまいたいけど出来ない、扱いを誤ったり隙を見せれば世界規模でドカン。

 ぬぅ…レアを泣かせない為なら、死ぬ気で…いや死んだらアカンよ、デスワープを意地でも回避する気で行かなきゃアカンやないか。

 ラケルてんてーをアラガミから解き放つ方法を考えにゃならんのか…。どんだけループすれば見つかるかな。更に言うなら、ラケルてんてーがやらかしてきた事がバレたら、当人が犯罪者として扱われるだけでなく、レアの事も芋蔓式にバレる訳で…

 あー畜生、逃げ場無い。

 

 

 

 

 ふむ、教導の事はいいとして、今のうちに色々と仕込をしておきたい。パッと思いつくだけでも、閉鎖されたフライアに乗り込むときの為の侵入通路、グレムのおっさんが余計な口を挟んできた時の為のアレやコレや、ジュリウスが黒蛛病に感染してシナリオ通りに動いてしまった場合の救出路…と言うより奪還手段か。

 とりあえず、グレム局長の仕込から行きますかね。…そういや、今回ループではまだ会ってなかったな。

 流石に挨拶くらいはしておいた方がいいか? …でも、今はフライアには居なかったな。なら、とっとと電撃でも睡眠薬でも仕込むとしますかね。

 

 

 

 

 

 …はい一仕事終了。電子ロックで施錠されていようと、アサシンがその気になればこんなもんよ。

 ところでさ、仕掛けておいてなんだけど、ヒプノックの睡眠ガスを使うのは不味かっただろうか? 決して大量に仕掛けた訳ではないが、睡眠薬の致死量って、意外と少ないんだよね。ハンターは幾ら睡眠ブレスを喰らっても死なないけど(話に聞いた悪夢の歌はともかく)、一般人はどうなんだろう…。

 …まぁいいか。憎まれっこ世に憚ると言うし、図体デカいし、普通の人よりタフだろ。確実性を取ったって事にしておこう。

 

 

 

 

 ……なんて事を考えたら……あれ、見覚えのある人が居ますよ? …サツキじゃないか、あれ? ユノの付き人と言うかマネージャーの。

 うん…? ひょっとして、ユノ来訪イベントか? しかしそれにしてはグレム局長が居ない。確かあのおっさん、普段は商談の為にあちこち動き回ってるらしいから、ちょっとした切っ掛けで前回と違う行動になってもおかしくはないが…。

 聞いてみればいっか。

 

 

 失礼、お客様ですか?

 

 

「え? えぇ…。貴方は?」

 

 

 ブラッドの教導員をしてる者なんですが…そんな所で突っ立って何を? なんとも…言えない表情だったように見えましたが。

 

 

「…大した事じゃ…ないわ。うん、大した事じゃないのよね? 理解しがたい何かに遭遇した気分だけど」

 

 

 …? こいつにしては大人しいな。フライアに乗ってるゴッドイーターって時点で、俺の知ってるサツキなら厭味ったらしい口調で突っかかってきそうなもんだが。

 落ち込んでいるようにも見える。……よもや、ユノの為に枕営業でもしてきたんじゃ………いや、第一候補のグレム局長が居ないし、ソッチ系の痕跡も無い。枕をした事があるにしても、今日の事じゃないだろう。

 

 本当に何があったんだ? 少なくとも、このフライアの中で、この女をここまで凹ませられる人種には心当たりがない。職員連中は、良くも悪くも矢鱈と意識が高いと言うか、高尚な考え方ばっかする連中だ。客人に対して妙な罵倒をするとは考え辛いし、何か言われたとしても、反発する事があっても受け入れるとはとても思えない。

 と言う事は………?

 

 

 …あの、一人で大丈夫ですか? お連れさんとか居ます? 

 

 

 

「! ユノ!」

 

 

 声をかけた途端、我に返ったようにすっ飛んでいく。血相変えてたな。何が何だか分からんが、こいつがここまで焦ってるんだ。何かあったのは違いな

 

 

 

「僕はエミール……栄えある極東支部第一部隊所属! エミール・フォン・シュトラスブルクだッ!!」

 

「そして僕はエリック。華麗なるエリック・デア=フォーデルバイデ。僕達が来たからには、ヒンデンブルグ号から飛び降りたつもりで安心してくれたまえ!」

 

 

 

 …なるほど、サツキが出鼻をくじかれる訳だ。会話できてるのか出来てないのか、わからねーもんなぁこいつら…。

 大方、突っかかった挙句に意味不明な対応をされて、SAN値を削られたんだろう。

 意外とメンタル脆いよな。確かにアレな人達だが、この程度で呆然自失としてちゃ、極東ではとてもやっていけない。

 

 

 二人の前では、困ったような顔のユノが固まっている。ま、初見で戸惑うのは仕方ない。…暫く見物してみよう。

 

 

「お初お目にかかる…。かの憎き黒蛛病を退ける、世紀の歌姫に出会う機会に恵まれるとは、今日は素晴らしい日だ!」

 

「僕は、以前にお目にかかったかな? 社交パーティで、華麗に注目を集めていたと自負しているよ」

 

「は、はぁ…。確かに、フォーデルバイデさんは目立っていましたね」

 

 

 …確実に悪目立ちしてたんだろうなぁ…。いや、ひょっとしたらウケが良かった可能性も、無くは無い? パピ! ヨン! がハイソな女学院で蝶々の妖精さん扱いされていたように、上流階級は感覚がズレているのかも…。

 …もしもこの推測が当たっていたとしたら……うん、エリナがエリックさんに反発せずに育っている理由も、説明がついてしまうなぁ。

 いや、それよりも問題なのは、上流階級って事は政治とかにも当然影響力がある訳で。今後の人類の方針を決定していく立場にある連中な訳で……。

 

 考えるの止めよ。

 

 

 

 

 近くにはギルとナナも居るようだが、こいつらも会話できずに困っているようだ。…いや、会話は出来るんだけどなー。二人ともユノに会ってテンションが高くなっているらしく、いつも以上に強引グ我が道状態になっている。

 ロミオが居れば、強制的に相手を反応させる血の力を使って、意識を逸らす事もできるだろうが…しゃーないか。

 

 

 

 はいはい、ちょっと落ち着けお前ら。エミールさんお久。

 

 

「な!? み、緑の君! 戻ってきたという噂は本当だったのかね!?」

 

「緑の君? GKNGの予言は真実だったと言うのか! だがそれはそれとして、お初お目にかかる! 僕はエミール……栄えある極東支部第一部隊所属!エミール・フォン・シュトラスブルクだッ!!」

 

 

 噂はともかく、予言ってなんじゃい。GKNGが妙な宗教団体みたいになっとる…。いや、前回だって似たようなもんだった気はするが。…あんまり接触してないんだよなぁ。俺を創始者として崇めてくるような連中に、関わりたくありません。

 いや、やってる事は至極真っ当な事なんだけどね…。農業やって技術も広めて、日中に汗を流して一風呂浴びて帰るのが日課って連中だし。

 

 はいはい、騒がない騒がない。…えー、葦原ユノさん、そっちで呆けているサツキ連れて撤退して。

 ナナ、案内は任せる。…と言うか、ロミオはどうした。

 

 

「ロミオだったら、次のミッションの事で話があるってジュリウスに呼び出されてるぞ。…逃げた訳じゃないから、怒る訳にもいかん。と言うか、その緑の君だのGKNGだの、何だそれは?」

 

 

 まぁ…ロミオが逃げる理由も無いわな。多少戸惑うだろうけど、あいつはコミュ力高いし。

 

 

「説明しよう! まず緑の君とは、GKNGの首領にして創始者…。ここに居る彼に与えられた称号だ!」

 

 

 誰から?

 

 

「無論、GKNGの大幹部であるノゾミ嬢からだ。君を称える為の称号を、夜も眠らず昼寝して考えたそうだよ。子供の夜更かしは感心しないが、考え始めると止まらなくて、目が冴えてしまったんだそうだ。心の籠った、華麗でいい称号だね!」

 

 

 …どうしよう。お子様からの贈り物だと言われると、返上もできん。必死で考えた物なら、猶更。

 厨二チックな名前でなくてよかったと思っておくべきか…。とりあえず、今度コウタにあったら蹴っ飛ばしておこう。

 

 

「いやだから、そのGKNGってのは何だよ…」

 

 

 もう話すのもメンドイって顔になりながらも突っ込むギル。苦労人である。

 ちなみに、ナナに案内されてユノ達はどっか行った。

 

 

「うむ、GKNGとは、この現世の地獄を緑の楽園にせんと励む、ゴッドイーターとは違った形で世界と戦う集団なのだ!」

 

「……なぁ」

 

 

 余計な質問をしたギルが悪い。

 

 

「彼らの働きにより、かつて地獄と呼ばれていた…いや今でも呼ばれているが…極東は、ある意味では楽園と化した。この荒廃しきった世界の中に、ジュラ紀もかくやと思うような緑に包まれた場所など、一体どれだけ存在するか! 正に奇跡を起こす集団! このエミール・フォン・シュトラスブルク、もしもゴッドイーターとして選ばれていなかったら、彼らの元に馳せ参じ、鍬を手に取って死力を尽くしていた事だろう! いや、実を言うと今でも時折、彼らの活動に参加させてもらっている! 新たな世界を築き上げる為の試みに参加できる、この喜び! 我がポラーシュターンも歓喜の雄叫びをあげているぞぉぉぉ!」

 

「ジュラ紀? 鍬?」

 

 

 話せば話すだけ疑問符が増える事など分かっているだろうに、それでも突っ込みを続ける律儀な男、ギル。学習能力が無いのか、惰性で対応しているだけなのかは分からない。

 …ま、実際、エミールの説明も間違っちゃいないんだけどね、詩的(?)な表現が多いだけで。アレばかりは実物を見なければ信じられないだろう。特にこの世界では。

 俺も、前回ループで極東に戻った時は目を疑ったもんなぁ…。フライアの職員たちも大騒ぎだった。

 

 よし、極東に着くまで秘密にしとこ。そして慌てる様子をこっそりと撮影し、「何も知らないゴッドイーターが、極東リアリティショックを受けたら」という題名でネットに挙げるのだ。あ、でも顔バレは不味いかな…。

 

 

 

 エリックさんとエミールを、「責任者に挨拶は重要。古事記にも秘書検定の本にもそう書いてある」と言い包め、ラケルてんてーの元に向かわせる。

 …どんな反応をするのか、ちょっと気になる。相変わらず無表情無感動を貫くのか、それとも中身のアラガミも含めて「なんだこのニンゲン」ってなるのか。

 でもついて行って巻き込まれるのはゴメンだな。二人の相手が面倒臭くなって、俺に丸投げするという事も考えられる。嫌なキャッチボールだ。

 

 

 

 さて、ユノとサツキは何処かな? 会ってどうするというつもりも無いが、縁を繋いでおいて悪い事は無い。

 …ナナの痕跡は……あっちか。鷹の目ってストーカーにとって最高に便利だね。あれ、でも一人っぽい。とりあえず行ってみるか。

 

 

 おーい、ナナ。お連れさんどうした?

 

 

「うん? あの二人なら、ジュリウスと話してるよ。ロミオも居たね。……やっぱり、有名人だと目移りしちゃう? 噂の恋人さんに怒られちゃうよ」

 

 

 目移りとは言わないと思うが、今後の事を考えると、顔見知りくらいにはなっておきたくてな。別に、ロミオみたいにアイドルがどうのって舞い上がってるんじゃない。

 

 

「ロミオ先輩、別に舞い上がってなかったよ? 作戦についての会議中だったから、真面目モード。でもそういうの好きそうではあるね」

 

 

 公私の区別がついてるようで結構な事だ。と言うか、作戦会議が面倒で逃げてきたな?

 

 

「てへ、バレた。ところで、あの二人は?」

 

 

 今はラケルてんてーの所に挨拶に行ってるよ。あのアルカイックスマイル(風の鉄面皮)がどんな反応をするか見物だな。

 

 

「ふーん…ちょっと興味あるかも。行ってくるね!」

 

 

 はいよー。…無事に逃げてこれる事を祈ろう。

 さて、後はユノ達の所に行くかね。

 

 

 

 

 

 



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321話

 

神逝月 

 

 

 …うん……うん?

 

 いや、別におかしな話じゃない…な。常識的な範囲で収まるレベルだ。

 昨日ナナと別れた後、ジュリウス達が居るであろうブリーフィングルームに向かったのだが、その途中でユノとサツキに会った。どうやらジュリウスとの話とやらは終わったらしい。

 

 そこで大したことを話した訳じゃない。エリックさんとエミールに戸惑っている所に助け舟を出した事だって、そう大した事じゃないだろう。会話しにくい相手だったのは確かだが、別に暴漢に襲われていたのでもないのだから。…サツキにとっては、それ以上に厄介だったようだが。

 

 なんだけど……なんか、妙に好意的だったような気が…。別に、MH世界でのフラウのように、グイグイ来る訳じゃない。精々が「良い方ですね」ってくらいだ。

 ちなみに明らかに好意的だったのはユノで、サツキは…なんか、複雑な表情してたが。

 でも、たったあれだけの助け舟で、そんなに好意的になるかぁ…? 普通は「ありがとう」の一言くらいで済むだろ。いや、あれで礼を言うってのも、エリックさんとエミールに失礼だけど。

 

 普段であれば、そう気にするようなもんでもない。ただ、先日のレアの、因果に関する考察を聞いた後だとな…。

 奪われた因果を穴埋めするように、別のよく似た因果が流れ込んでくる、というアレだ。

 それが全て正しいかは分からないが…例えばだ。「因果」と一口に言っても、色々あると思うんだ。俺とアリサの因果。俺とレアの因果。その他諸々、色々な人との因果。その中には、当然ユノの因果も入っていて。

 それが幾らかでも、クサレイヅチに奪われずに残っていたとしたら…『前回』から持ち越された因果は、またしても同じ人物との間に成立するのではなかろうか?

 

 

 

 要するに、前回ループで仲良くなった人物の、好感度変動にプラス補正がかかるって事ね。逆に、険悪になっていればマイナス補正。

 ほぼ全てのループでアリサと意味深な仲になっている理由も、これで多少は説明がつくか。

 

 …まぁ、だからってどうなる訳でもないんだけど。それだけで仲の善し悪しが決定される訳じゃないからな。

 致命的なまでに敵対した人物と、次回のループでまた敵対するかもしれないってとこだけは注意しておこう。

 

 

 ちなみに、ユノは暫くしたら極東に向かうらしい。何やらそこで、大掛かりな仕事があるとか。

 サツキはあまり乗り気ではないようだが…。

 …前回、そんなモンあったっけ? …いや、確かに極東に来てはいたよな。黒蛛病患者達の慰安かな? それって大きな仕事になるのか? いや、重病人がちょっとでも楽になるなら、それは確かに重要な仕事だろうけど…それだとサツキが渋い顔する理由が分からんな。

 

 まぁいいか…。ユノの歌は好きだが、歌手の世界はよーわからん。ついでに言えばアイドルと歌手とタレントの違いも分からん。あまり首を突っ込む必要もないか。

 

 

 

 …あれ、今何かピコーンとフラグが立ったような。

 

 

 

 

 それよりも、ミッションの話だ。昨日、ジュリウスとロミオが話し合っていた事なんだが…まず、次のミッションにエミールとエリックさんを加えるかどうか。

 普段であれば、間違いなく加える。彼らが来たのは、ある種の交流の為だ。今後、極東に向かう時の為の情報交換という意味合いもある。

 

 …なんでそこで、あの二人が選ばれたのか本気で不可解ではあるのだが。

 

 極東のゴッドイーターのレベルを知る、と言う意味でも、普段であれば二人をチームに入れてミッションを行う。

 が、今回は少しばかり話が違った。なんでも、新種らしきアラガミが発見されたのだそうだブラッドの任務はその調査となる。

 ここで、戦闘能力未知数の個体を相手にする際、連携どころか動きさえ分かってないゴッドイーターを、チームに組み込むべきか?

 

 

「と言う事なんですけど、教官はどう思います? ちなみに俺は入れるべき、ジュリウスは入れないべき、です」

 

 

 その根拠は?

 

 

「相手が未知だから既存のチームで、なんて言ってたら、いつまで経っても編成変更できないじゃないですか。アラガミは、ある程度の動きの共通点はあるとはいえ、何をやってくるのか分からないのが当たり前です。それに、これから向かう極東は、別の地区とは段違いの激戦区です。未知の敵への対処法も、学んでおくに越した事は無い。勿論、学ぶ暇もないと思ったら、全員生還を最優先に切り替えますけど」

 

「俺が反対しているのは、そもそもあの二人の実力が疑わしいからだ。別に、血の力やブラッドアーツだけで判断している訳ではないが、少なくともあのエミール氏は、ゴッドイーターになって日が浅いと見た。経験不足の者を、調査のような任務に組み込むべきではない」

 

 

 

 そうか…。ま、どっちも一理あるから悩んでるんだな。反論しようと思えば、どっちにも反論できるし。

 ジュリウスは実力が疑わしいと言ってるが、ある意味それは正解かな。

 …ああ、エミールとは昨日初めて会った(事になってる)から断言できないが、3年前のエリックさんは…そうだなぁ、まぁ悪くは無かったよ、正面から戦うのなら…だが。ハッキリ言えば、周囲への警戒が甘い。あの人の真価はどっちかと言うと、人間関係の潤滑剤みたいなもんだった。

 

 

「「潤滑剤……アレが…?」」

 

 

 気持ちは分かるけどハモるなよ。ソーマ…つっても分からんか。腕利きだけどコミュ障のゴッドイーターと絡んでられる程度には、な。

 あくまで3年前は、だけど。

 

 

 

 だがそれ以外の理由で、俺は今回はパスと断言する。いや今回じゃなくてもだが。

 

 

 だって、あの二人がアラガミ前にして静かにしてるとは、とても思えねーもの。絶対、騎士道だ華麗だ騒いで、5分もしない内に真正面から突撃していくに決まってるもの。

 

 

 

 

「「ああ……」」

 

 

 戦場では人が変わったように…なんて期待すんな。あの連中は日常から戦場から夢の中まであの調子だ。

 

 

「極東ってそれでやっていけるんですか…」

 

 

 行けるやつは行ける。行けなかった死ぬ。普通に考えたら即アウトだが、あいつらは不思議と死なないタイプってだけだ。参考にしたらアカン。

 

 

「…そ、そうか。では、二人は別の任務に当たってもらうと言う事で…」

 

 

 そーだね、誰と組むかは…まぁ、くじ引きでいいか。

 

 

「いやいい筈ないだろう。チーム編成と言う物は、ミッションの成功率、それ以上に生還率に大きく関与するものだぞ。それを適当に決めてどうする!」

 

 

 言いたい事は分かるけどよ…。まぁそれもそうか。

 と言うか、俺ってブラッド隊員って訳じゃないから、口を突っ込める立場にないしな。意見を求められたら答えはするけど。

 

 ところで、新種のアラガミってのはどんな奴だ?

 

 

「ああ、ガルムみたいな奴だ。…比較的最近確認されたアラガミの一種だが、知っているか?」

 

 

 名前だけは。まだ遭遇した事は無いな。

 そいつは感応種?

 

 

「…分からん。少なくとも、現状でそれらしき能力は確認されていない。特徴としては、全身が緑がかっていて、2本の小さ目の角を持ち、体のあちこちに体毛がある。四肢は黄色で、背中が発光しており…強力な電撃を放つ」

 

 

 ……うん。………………うん?

 

 

 ガルムの体格で、雷…色…何より光る背中…。

 ジンオウガ?

 

 何故に? 偶然…とは思えんな…。

 …アレコレ考えるのは後にしよう。実物を見て見ないと何とも言えない。単に特徴が似通っているだけなのか、或いはアラガミが何らかの切っ掛けでジンオウガの存在や生体を学習して真似たのか。……或いは、アラガミではない本物のジンオウガなのか。

 

 なぁジュリウス、そのミッション、俺はどうする? ちょいと気になる事があるから、参加したいんだが。

 

 

「む? 今回はブラッド隊員のみで行くつもりだったが…何か理由でもあるのか?」

 

 

 知ってる奴かもしれない。大分前に、一回だけ交戦した覚えがある変わり種だ。俺の知ってる奴なら、氷系統の武器がよく効くな。

 

 

「……いいだろう。ただし、その敵の情報を全て提供するように」

 

 

 はいよ。…予め言っておくが、どこまで同じかは分からないぞ。一度やりあっただけだから、情報も何処まで正確か分からない。

 …ブリーフィングで話すか? それとも今ここで?

 

 

「ブリーフィングの時でいい。今、画像等の情報を集めて資料にしているところだ。……何か、このアラガミに含みでもあるのか?」

 

 

 ん? いや、全くないとは言えないが…何で?

 

 

「妙に楽しそうに見えてな」

 

 

 そうか? ……そうかもな。

 ああ、こっちに来てから手応えのある敵がいなくて、少々退屈してたからな。

 コイツが本当にジンオウガなのかは分からないが、もしもフロンティアのジンオウガに迫るくらいの力を持って居るなら。或いは、それに至る可能性があるのなら。

 この世界での難易度は、一気に跳ね上がるだろう。それは、世界各地が極東以上の地獄になる可能性を秘めている事だが……。

 

 触れてみると、口元が少し吊り上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、では今回のミッションのブリーフィングを始める。皆も予想していると思うが、今回は極東から来た二人のゴッドイーターと、教官との共同作戦となる」

 

「改めて自己紹介しよう…。僕はエミール……栄えある極東支部第一部隊所属! エミール・フォン・シュトラスブルクだッ!!」

 

「そして僕はエリック。華麗なるエリック・デア=フォーデルバイデ。ブラッドの諸君もそうだが、緑の君。共に戦うのは初めてだね。この僕の華麗な動きをよく見ておきたまえ」

 

 

 とりあえず、上田しないように気を張っとこ。

 

 

「…えー、張り切っている二人には申し訳ないんだけど、今回は初めて発見されたアラガミの調査任務になるんで、あんまり積極的に戦闘する事はないよ。ブーストハンマーはかなり大きな音を立てるんで、問題のアラガミからは少し離れて、周囲の敵を掃討してもらう事になる」

 

「ふむ、護衛任務と言う事だね。安心したまえ! 護る為の戦いにこそ、我が騎士道とポラーシュターンはその真価を発揮するだろう! しかし、そういう理由ならば、ナナ君も僕と一緒かね?」

 

「え゛」

 

 

 おいナナ、そんな顔すんなって。一緒におでんパン食ってりゃどうにかなる。

 

 

「いや、まだナナは一戦力として扱うには、少々不安がある。周囲の敵の掃討でハンマーの音ともなれば、かなりの敵が集まってくるだろう。今回は隠密行動の基礎を叩き込む為にも、こちら側だ」

 

「そうか。…む? その理屈で行けば、僕も調査側でいいのではないかね?」

 

「あー…それは…」

 

 

 ポラーシュターンは、ハンマーの中でも一際目立つからな。何せポラーシュターンだし。

 

 

「そうか、確かに! アラガミを退けるポラーシュターンの光は、確かに隠し通せるものではないな! 承知した。ならば、今回の僕は人々に希望を齎すだけでなく、アラガミを冥府に誘う案内役となろう! ポラーシュターンのように!」

 

「…おい、ポラーシュターンって確か…」

 

 

 北極星。気にするなギル。こいつら感性で喋ってるから、理屈は関係ないんだ。

 

 

「エミールが掃討なのはいいとして…僕はどうするんだい? 華麗な活躍ができるポジションを頼むよ」

 

「この状況で最も華麗なのは、やはり敵の掃討だろう。エミールとの息の合ったコンビを見せてくれ。それこそが、貴方が最も華麗に輝ける姿だと思うが?」

 

「何だか言い包められてる気がするけど、まぁいいか。確かに、エミールとのコンビが一番動きやすいしね。…では、問題のアラガミと言うのは?」

 

「これが資料だ」

 

 

 

 モニターに画像が映し出される。…贅沢だなぁ。紙でも良かろうに。

 それはそれとして、そこに映っているのは…。

 

 

 ジンオウガ。そのものではない。顔付や動きに、ガルムらしき面影がある。

 どっちかと言うと、ガルムにジンオウガのコスプレをさせたと言うか、外面をそれっぽく改変しただけのように見えるが…。

 

 

「このアラガミが…。こいつ一匹だけなのか?」

 

「いや、最近になってそこかしこで、同じようなアラガミが出現し出した。ただ、個体によって姿はまちまちだ。色が緑に近付いただけのガルムも居れば、体毛の無い奴も居る。この画像は、変化が特に著しいガルムの画像だな」

 

 

 モニターの画像が、数回切り替えられる。…やはり、動きもガルムに近いようだ。

 じっと見ていると、ジュリウスが「どうだ?」と問うてきた。

 

 ああ…。完全に同じじゃないが、やり合った奴によく似てる。攻略法も、ほぼそのまま当て嵌められそうだ。

 

 

「よし、ならその情報を……の前に、ナナ。お前はこいつをどう見る?」

 

「え、どうって? ……お、美味しくなさそう、とか?」

 

 

 神機にとって、アラガミって全部マズイらしいぞ。

 

 

「アラガミしか食べない偏食なのにか。…茶々はともかく、見た目で敵を判断するのは危険だが、外見から得られる情報は非常に重要だ。生物とは、何かしら必要があってその形をしているものだ。それはアラガミであっても例外は無い。…ナナ、お前はこいつの外見から、どんな情報を読み取れる? 教官の情報で先入観を持つ前に、偵察の基本だと思って考えて見ろ」

 

「そんな事言われても…」

 

 

 周囲を見回し、暫し悩んだが、助け船が出てきそうにないと判断して、ナナは仕方なく頭を捻る。

 

 

「えっと……ガルムっぽい形なんだよね? まだ戦った事ないけど…犬っぽいって聞いてたから、多分お手みたいなパンチがあるんじゃないかな。爪が鋭そうだし。犬とか猫の基本的な攻撃って言ったら、まず噛み付きと引っ掻きだよね。他には……尻尾は短いから、コレは攻撃にはあんまり使わない気がする」

 

 

 ほうほう、いい線行ってるな。続けて。

 

 

「使うのが雷なんだよね。炎の代わりに雷……? ゴッドイーターはマグマに片足突っ込んでも燃えないって言うけど、電撃はどうなんだろう…。やっぱり痺れたり、中の骨が見えたりするのかな。……あ、そうだ! 炎じゃなくて雷だったら、盾で防げないんじゃないかな!? 感電するんじゃないの?」

 

 

 ほぉう…。いい着眼点してる。結構頭いいじゃないか。(ナナにしては難しい言葉を知ってるな、感電なんて)

 

 

「へへ、そう? 後は……うーん、気になるのはやっぱり、背中の光かなぁ…。何で背中が光るんだろ…。暗い所でも動けるようにする為? でも、それだと背中じゃ意味がないよね」

 

「ふむ…思った以上に観察出来ているようだな。ナナ、満点だ。…ルーキーにしては、という事だがな」

 

 

 ジュリウスの考察も聞いてみたいところだが、時間が勿体ないのでそろそろバラすぞ。

 以前に戦った奴と同じだとすると、主要な攻撃方法は…ダイナミックお手、ぶっとびワンコボンバーもといサマーソルト、そんで雷かな。

 攻撃は強烈だが、本来のガルムに比べると正直隙が多かったな。一発一発に力んで、行動の後に一瞬硬直が出来る。

 

 

「いやそれよりもその名前なんだよ。しかも一番メインウェポンらしい雷が雑だし」

 

 

 ギルの突っ込みを無視。何ならジェネシック静電気とでも呼んだ方がよかったか。

 ま、この3つは慣れればどうとでもなるが…それよりも特徴的なのは、活性化がヤバいって事だ。単なる活性化じゃない。全身に電撃を纏って、超パワーアップすんだよ、こいつ。

 しかも、俺が知ってるだけでも2段階。…下手するとそれ以上も有り得る。

 

 

「電撃を…。…ホールドトラップは?」

 

 

 効かないだろうな。喰らった電撃を力にするくらいやってのけるぞ。

 背中が発光してるのは、そこに別の…小さなアラガミが居て、寄生関係にあるからだ。電撃を作り出すアラガミと、このアラガミ本体で、役割分担しているんだ。だからどれだけ斬りつけて体力を消耗させようと、電撃の出力は落ちる事が無い。背中を直接叩いて、小さなアラガミを潰さない限りはね。ちなみに、こいつの体がフサフサしてるのは、電撃を体に留めておく為だ。……あのフサフサを切り捨てれば、帯電状態防げねぇかなぁ。

 ただ、さっきの画像を見る限り……雷光蟲、もとい小さなアラガミは確認できんな。体内に取り込んでいるのか、それとも役割分担は止めたのか…。

 

 とにかく、こいつが電撃を纏い始めたら…動きを止めて充電するような動作をしたら、バレット叩き込みまくって速攻で止めろ。

 無理だと思ったら、距離を置いて時間を稼げ。こいつの帯電状態は長くは保たない。時間さえ稼げば、元の状態に戻る。

 ただし、一際強い帯電状態になると、強いショックを与えないと、ずーっとその状態が続く。

 

 

「その状態で接近戦を挑むメリットは無いのか?」

 

 

 あるにはある。若干肉質が柔らかくなるんで、攻撃を通しやすいな。

 …後は、強いて言うなら、こいつ自身の体力の消耗が激しくなる程度か? 帯電が解けた後、少しの間だけ動きが鈍くなる…かもしれない。確実な事は言えない。

 

 

 

「そもそも、電撃自体の危険性は?」

 

 

 極めて高いが、俺個人としては肉体を使った攻撃の方がヤバいと思う。

 特に帯電状態では。下手に触れると感電するし、そうなったら体が引きつって上手く動けなかったり、意識が飛びそうになってなぁ…。

 動けなくなった所にぶっとびニャンコボンバーは即死モノだと思っとけ。

 

 ただ、逆に電撃体勢さえあれば、大分楽になるだろう。俺がやり合った時と違って、剣・盾・銃の3つを好きに使えるから、相手の状態に合わせて切り替えればいい。ゴッドイーターの基本だな。

 

 

「私、その基本苦手…」

 

 

 まだ銃の苦手意識は抜けてないか。

 しかし、ガルムが元になっているとなると…あいつの炎を伴う行動が電撃に置き換わった場合も想定すべきか。

 

 

「ガルムの炎攻撃って言うと、ガントレットからの爆発と、火炎弾と、突進に…そうだ、ガントレットの爆発を利用して飛び上がるような事もやってましたね。雷で出来るかな、あの動き…」

 

 

 

 …こんな塩梅で意見を出し合い、ブリーフィングは過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ブリーフィングは特に問題なく終わり(国会みたいに荒れはしなかったが、エリックさんが机の上に立ってポーズを取ったりした)、実際のミッションである。

 騒ぎ立てそうな二人が居ないから…とアカラサマな事を言うのも何だが、静かなもんだ。ナナの隠密行動も予想以上のレベルだったし、調査自体は順調だったと言えるだろう。

 

 暫く観察してみて分かったのだが、あのジンオウガモドキ…やはり根っこはガルムらしい。ただ、好んで雷の力を帯びた物を食べる傾向がある。

 偏食を続けた結果、体がそれに適応したのだろうか? それだけで、こうまでジンオウガそっくりになるとは思えないが。

 

 関節の可動範囲を見るに、動きはジンオウガよりもガルムがベース。サマソやぶっとびニャンコボンバーが自然に出来るかは微妙なところだな。

 本物のガルムに比べ、視野は広いが視認距離は短く、聴覚は同程度。

 放っておくと、完全にガルム亜種でFAだなコリャ。

 

 

 

 だが、その戦闘力は他のアラガミとは一線を画していた。タフネス、火力、特殊能力…。原種に比べ、亜種…と言うか墜天種は厄介な属性やられがついてる事が多いが、その典型だなぁ。

 ダイナミックお手をガードしようとしたギルは吹っ飛ばされるし、ジェネリック静電気もガード不能でナナの髪の毛が当社比3倍くらいに逆立つし、帯電状態の体当たりに至っては、電撃が神機に誘導でもされたのか、本体を回避しても電撃自体がホーミングしてくると言う、本来のジンオウガ以上に芸達者な真似をして見せた。

 ロミオ? 貧乏くじ引いて、騒がしい二人と敵の掃討やってるよ。

 

 …俺? 情報収集目的って事もあって、最初はヘイト集めと足止めに集中してたんだけど……簡単に言えば、パリイ! パリイ! パリイ! マテリアルパリィ! パリィ! かーらーのー、発電器官を狙った致命の一撃(手加減版)! 帯電解除!

 大体こんな塩梅だった。パリイっつーか、相手の攻撃に合わせて、重心が狂うように受け流しやらカウンターやら入れまくって、動きを阻害してました。…パリイと言うより、一指拳に近いかな。 

 

 

 で、肝心の手応えはと言うと………うん、極東個体でもないし、ジンオウガつってもフロンティアの遷移種から村クエ下位個体まで居るし、こんなもんだな…。あんまり印象に残ってない。ちょっと期待し過ぎたか。

 ただ、今後に(不謹慎ながら)期待はできると考えよう。時期と場所的に考えて、GE世界、GE2シナリオ内でもここは序盤も序盤。それでブラッド達を散々手古摺らせるくらいの力はある訳だ。極東の上位個体が変じたら、どれくらいの力を持つか。

 今回の攻撃方法は雷ばかりだったが、変異の度合いによっては雷と炎のハイブリッドになる可能性もある。

 G級上位は厳しいとしても、いい手応えを期待できそうだ。

 

 ともあれ、今回のミッションは無事終了である。

 …遠くでエミールらしき「騎士道の勝利だぁぁぁぁ!」が聞こえるから、あっちも問題無さそうだ。

 

 



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322話

神逝月

 

 

 さて、時期的に考えれば、今度はシエルが入ってくる訳だが…その前にギルに質問された。

 俺の血の力やブラッドアーツについて。

 

 

「どうも、お前は他のブラッド…と言っても、まだブラッドアーツを使えるのはジュリウスとロミオだけだが…と違って、一人で複数の技や力を使えると聞いたが、どんなもんなんだ? この前のガルム墜天種の時は、殆ど力を使ったように見えなかったんだが」

 

「あ、それ私も気になる。ブラッドアーツって、使う時には赤く光るんだよね? ……それらしいところは見なかったけど」

 

「二人とも、ちょっと訂正。最新の学説…学説? では、光るとしても赤とは限らない事になってる。3年前、俺の訓練中にレア博士がそう言ってたよ。…で、教官の力って言うと…確か治癒と、なんか波動拳みたいなのがすっ飛んでいくアレと、敵の注意を引く挑発と…後何かありましたっけ?」

 

 

 攻撃無効化、火力増幅、速度上昇、敵の動きの阻害、スタミナ増幅に隠密効果、デコイの作成、力の受け渡し…パッと思い浮かぶのはこれくらいか。

 

 

「…改めて聞くと多いっすね」

 

 

 この3年間で、色々芸が増えてな。その分、習熟がまだ不十分なのも否定できん。

 真っ当に使いこなせてない技もあるし。

 

 

「でもそれって、血の力でしょ? ブラッドアーツは何なの?」

 

 

 ブラッドアーツねぇ…。タマフリ『魂』がそれに当たるか…。

 いや、意思の力を使った攻撃な訳だから…。

 

 

「教官が特に信頼している必殺技とか、無いんですか? 必殺技。奥義。奥の手。そういう男心を擽る技、教官なら絶対持ってると思うんですけど。…ああ、俺のブラッドアーツの説明はしましたっけ?」

 

 

 戦ってる時に見かけたから、大体分かるぞ。(と言うか前回のループで教えてくれたし)

 チャージアタックに、状態異常付与を付けたな? ランダムで状態異常になるのか、狙って効果を選べるのかまでは分からなかったが。

 

 

「へへ、正解っす。結構悩んだんで…いや俺はともかく、教官の必殺技の話です」

 

 

 むぅ…必殺技ねぇ。

 そういや俺、ブラッドアーツその物は目覚めてないんだよな。霊力を代用して似たような事は出来るけど、所詮はモノマネ。余程上手く使わないと、運用効率は低い。

 

 ハンターとして考えれば、フロンティアで教わった六華閃舞や超越秘儀か。しかし、信を置ける程に使い慣れてない。

 他には…強いて言うなら鬼杭千切が必殺技に当たるが、あれはどっちかと言うと道具を使った物だし、ブラッドアーツとは違うと思う。

 鬼千切? ……いや、なんか使う機会少ないし。

 

 後は……あ。

 

 

 必殺技って括りとはちょっと違う気がするが、コレかな。鬼の手。意思の具現って意味でも、ブラッドアーツに近いものだ。

 ホレ、具現化。

 

 

「うおっ!? …な、なんだこりゃ…。デカい手…? …触れた感触はあるが、擦り抜ける…」

 

 

 驚きもそこそこに、すぐに鬼の手に触れようとするギル。…なんか好奇心強いっすね。

 逆に、じっと観察しているロミオ。…ゲーム通りのお前なら、ビビッて距離を取るか、恐る恐る手を伸ばしてみるかだろうに…。もうヘタレたロミオには会えそうにない。…いや悪い事じゃないんだけども。

 

 ナナ? ネコジャラシに会ったみたいにジャレてるよ。

 

 

「どういう事が出来るんだ? 攻撃か?」

 

 

 だけじゃない。相手の体格やスピードにもよるが、突進を止めて逆に転ばせたり、敵や物を掴んでそこに飛んで行ったりできる。

 とは言え、やっぱ一番の大技は攻撃だけどな。

 大抵の物なら、握り潰して一発で部位破壊できるぞ。(…あれ、でもアラガミに通じるかな…。通じたとして、あいつら再生能力なんか無いから、鬼千切と同じ程度の効果しか…)

 …ま、まぁ何だ、リーチもかなり長い。攻撃に使おうと思ったらある程度の溜めは必要だが、突進を受け流したりするにはほぼノータイムで発動できる。

 

 

「…それは便利だな。これは、俺達にも出来るのか? デメリットは? こうやって手が擦り抜ける訳だが、フレンドリーファイアの危険性は?」

 

 

 出来るかどうかと言うと…正直、ブラッドアーツや血の力を習熟しても厳しい。同じように具現化できたとしても、思った通りに動かすのは非常に難しいな。(俺も補助器具を取り込んで、ようやくこうだもんなぁ…)」

 フレンドリーファイアの危険性はほぼ無い。俺の意思によって具現化・発動・動作するものだから、『標的はコイツ』と明確に定めておけば、味方の体に直撃してもノーダメージだ。…気分は良くないだろうけど。

 

 デメリットは、そうだなぁ…。俺の意思に従って動く物だから、ちゃんと目的意識を持って制御してないと

 

 

「入るぞ」

 

「失礼します」

 

 

 

 シエルのきょぬーキター!

 

 

「んっ!? ぁっ、こ、これはっ、何がっ!」

 

 

 ……このように、ついつい欲望に従って動いてしまうと言う事かな。

 

 

 

 

 ジュリウスに飛び蹴り叩き込まれ、シエルに土下座しました。

 一番効いたのは、ナナの穢れの無い目です。「欲望って言ってたけど、どんな欲望で胸に触るの?」 ……性的知識が無いのが、一層辛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 のっけからシエルにセクハラかましてしまった訳ですが、「お気になさらず」と言ってくれました。……警戒されてるけどな! ジュリウスには「本気で叩き出されたいか?」と凄まれたけどな!

 …言っちゃなんだが、ジュリウスに凄まれたって大した恐怖は感じないんだが…自分に非や後ろ暗い部分があると、受けるダメージもでかくなるよなぁ…。

 

 と言うか、なまじ前回ループで、シエルのカラダを知ってるからね…。どこが弱いとか、どうすればいい反応をするとか、その辺も含めて鬼の手が勝手に動くもんだからさぁ…。

 ……あれ、これをうまく使えば、エッチの時に腕を一本分増やしたり、全自動で動くナニを作ったり、下手すると触手もイケるんじゃね?

 

 

 即座にそんな発想に至る辺り、我ながら全く反省してないね。

 しかし、ジュリウスのリミットもそろそろ近いか…? 次に何かやらかしたら、冗談抜きでフライアから放り出される気がする。

 俺個人としては、アラガミの生息域のド真ん中に叩き込まれても大して苦痛は無いんだが、黒蛛病阻止の事を考えるとなぁ…。

 

 まぁ、取り敢えず今のところ、本気で誰かに手を出す気はないけどさ。その時になって合意の上ならともかく。

 

 

 

「シエルの件は後でケジメを付けるとして…それは何だ?」

 

 

 必殺技。

 

 

「初対面の女性の胸を揉むのがか」

 

 

 それは普通に自殺技だが、暴走しただけだ。この手の力を暴走させる時点でお話にならないけども。

 まーアレだ、血の力の結晶みたいなもんだと思ってくれ。俺の意思、及び本能のままに動いて、敵を掴んだり潰したり放り投げたりする。

 

 

「ほう…。…赤くない…いや、ブラッドアーツの光は紅とは限らないのだったか。俺のとロミオは赤いが。丁度いい。これからシエルも交えてミッションがある。その時に存分に見せてもらおう」

 

「それはいいんだけど、そっちの子は?」

 

「申し遅れました。シエル・アランソンです。ただいまを持って、特殊教導隊ブラッドに所属します」

 

「新しいメンバーか…。ギルバードだ。よろしくな」

 

「ナナだよ!」

 

「ロミオ・レオーニ。…マグノリア・コンパスで、会った事あったっけ?」

 

「いえ、初対面です。私は別の場所で訓練を受けていましたので。血の力の覚醒には未だ至りませんが、足手まといにならないよう死力を尽くします」

 

 

 

 …相変わらず半眼で眠そうだなぁ。と言うか見てるこっちが眠たくなる目付きだ。まぁ、可愛いし巨乳だしご褒美ですが。

 

 

「では、早速ですが連携の練度を高める為、ミッション前のブリーフィングに入りたいと思います。フランさん、資料をお願いします」

 

 

 あれ、フラフラフラフランさん居たの。

 

 

「フランと呼んでください。目的もなく彷徨っているかのような名前で呼ばれる筋合いはありません。…ジュリウス隊長とシエルさんと一緒に入ってきていました。勿論、貴方のセクハラも記録しています。映像として残っているので、出るとこ出ますよ」

 

 

 勘弁してください。…後で電脳空間から破壊しとこ。

 

 

「今回のミッションは、サバイバルミッションとなります。複数のミッションを続けて行うものですが、普段のミッションと違い、道具の補給、並びに装備の変更が望めません。より効率的かつ被害の少ない戦いが求められます」

 

 

 相変わらずの涼し気な表情で、紙の資料を渡される。手袋がなんかエロい。

 渡された資料を斜め読みしてみると、中型アラガミの名前が幾つか並んでいる。こいつらがメインターゲット…。目を引くのは、精々ラーヴァナくらい。組み合わせ的にもあまり厄介な物は無いし、明確な選択ミスをしなければゴリ押しでどうにかできるだろう。

 

 シエルの参入ミッショがコレか…………あれ? そういやマルドゥークとの遭遇イベントってどうだったっけ? 前回は確か、ガルムとやり合ってる時に乱入してきて、でもその場で討伐しちゃったから、シナリオがどうだったか思い出せない。

 時期的に、シエル参入の前だったか後だったか…。ひょっとして、この前のジンオウガモドキがマルドゥーク…いやでもガルム亜種だったよなぁ。

 

 まぁいいか。その内会う事もあるだろう。別に、あのアラガミに拘る必要はない。赤いカリギュラ辺りなら、ギルと因縁があるから遭遇しなけりゃ困るだろうが。

 

 

 

「…ミッションの説明は以上となります。何か確認事項はありますか?」

 

「それじゃ一つ質問。途中で撤退する事は可能? 可能不可能に関わらず退路の確保はやっておくつもりだけど、例えば戦闘不能になったメンバーは、自力で戻らなければいけない?」

 

「撤退は可能です、ロミオ副隊長。ですが、当然ながら望ましい事ではありません。フライアから離れた場所にまで足を延ばす為、救護車を差し向ける事も困難です。…自力で戻れるくらいの力が残っているなら、最後まで残って戦った方が、生還率は高いと算出されています」

 

「或いは、一人二人護衛をつけて送還するか…か」

 

 

 どっちにしろ、ミッション成功率は大きく下がるな。そこまでしなければならない程傷つくって事は、完全に回復錠の類も尽きてるだろう。

 そうならないように、少なくなった道具は融通しあって立ち回れって事か…。

 

 

「ターゲットを迅速に無力化し、消耗を抑える事が必要だと考えます。幸い、遠征場所付近の情報はほぼ揃っています。無用な交戦を避け、弱点を徹底的に叩いて潰しましょう。具体的には…」

 

 

 …シエルって意外と仕切り屋? でも、前のループではそんな感じはしなかったな。むしろ、誰かから…主に俺だったけど…受けた言葉や命令に従うタイプだったような気が。

 淡々と話を進めるシエル。

 

 …作戦立案能力は、流石に高い。軍事的な行動という意味では、俺よりもずっと慣れているようだ。慣れているようだが、しかし…。

 

 

 …おいジュリウス?

 

 

「……何だ」

 

 

 そりゃこの通りに話が進めば、ミッションは最短で終わりそうだが……これって、個人の適正とか技量とか、そういうの度外視してね? ナナは確かにショットガン使いで、最近じゃ大分マシになってきたけど、苦手意識は抜けてないぞ。殺意のままに『死ねよや』するのは出来るようになったけど、狙った場所にタイミング通りに叩き込める訳じゃないぞ。

 

 

「…シエルは今まで独りで教導を受けていたからな…。連携の取り方にしろ、人との付き合い方にしろ、経験不足なんだろう」

 

 

 何考えてそんな鍛え方してんだ? 軍人だったら…いや本当の軍人じゃないけど、軍事教練だったらコミュニケーションと言うか、連携についてはガチで叩き込まれるだろうに。

 …ラケルてんてーの指示?

 

 

「……………誰の意図であったにせよ、問題がある事は確かだ。とは言え、口で言って理解できる物でもないだろう」

 

 

 そらそーだが、ラケルてんてーに一度問い詰めておいた方がいいんじゃねーのか。

 

 

 

 

 

 

 

 …などとジュリウスに不信感を吹き込みつつミッション開始。

 

 

 

 

 …初っ端から、狩場の反対側に居るシユウを鬼葬で瞬殺するのは間違っているだろうか?

 

 

 

 皆して目が点になってた。おう、見せてもらおうっつってたから実演したんだよ。あくしろよ…もとい、あくしたよ。

 

 

「お前…いくら何でもそれはちょっと…」

 

 

 オラクルバレットを弄れば、似たような効果は出せるだろ。大したもんじゃねーよ。

 まぁ、狩りに携わる者として、安全地帯から致死性の一発で終わらすってのはモヤモヤするものが無いではないが、狙撃と思えばそう珍しいもんでもないし。

 

 

「…次のミッションも、それで終わらせるつもり?」

 

 

 いや、流石に連発は効かないから。小型アラガミを掴んで、引き寄せるくらいなら出来るけど。…ああ、それを目的のアラガミに投げつければいいのか。何だったら、掴んで振り回して叩きつければ。

 

 

「待て、ちょっと待て。呆れる程に有効な手段なのはよく分かるが、今は止せ。このミッションの目的は…いや最重要なのはアラガミの討伐だが、互いの能力と連携を確かめる為にだな…」

 

 

 その言い方だと、なんかハブられてるみたいでショボーン。実力差が開き過ぎてるとこうなるのね。

 

 

「ドヤ顔やめろよ教官…」

 

「ていうか教官の場合、凄いとか強いとかいう以前に、なんか世界観違わない? 文字通り別ゲーと言うか、皆がアクションやってるのに一人だけ射撃やってると言うか」

 

 

 ははは、いい勘してるなナナ。…割と真面目に文字通りである。もっとも、全部狩りゲーだけど。夢も含めるとそうでもないか?

 おいシエル、予想外の事が起こって混乱するのは分かるが、硬直してんじゃない。

 

 

「…お前に胸をまさぐられた記憶が蘇って、恐怖に震えてるんじゃないのか?」

 

 

 切腹でいい?

 

 

「いや、空港でお前に抱き着いていた二人に連絡する」

 

 

 ヤメテ! 今度は焦らされるってレベルじゃない事されちゃう! …あれ、ちょっとドキドキするよ。

 まぁ、今更それで慌てるようなら、3つの世界で種馬やってない訳で……あ、やってないか。種になったのはMH世界のみだったわ。

 

 

「…いえ、情けない所をお見せしました。ですが、これは強力なブラッドアーツです。使える機会があれば、どんどん使っていくべきかと」

 

 

 シエルはいい子だなぁ。俺をハブろうとしないなんて。

 冗談はともかくとして、確かにコレをあまり見せびらかすのは得策じゃないな。見た者全てを始末すれば話は別だが、どこでアラガミが学習するか分からん。

 

 

「…!? アラガミが、ブラッドアーツを覚えると!?」

 

「いや、言われてみれば可能性があるかも…。血の力と感応種の力が同じ物だとすれば、アラガミがブラッドアーツを使ってもおかしくない! ………でも、日頃から火を吐いたり雷落としたり凍ったりしてるしなぁ」

 

 

 うん、攻撃方法が増えるだけで、今と大して変わらないかもね。とは言え、アラガミの学習能力は侮れん。

 似たような事をやってこられたら脅威だしな。

 

 

「でも、それを言い出したら私達の…と言ってもまだ使えないけど…ブラッドアーツだって、迂闊に使えないんじゃない?」

 

 

 む、確かに。鬼の手だけ特別って訳でもないしなぁ…。

 そこらは考えなくてもいいか。どうせ、フィールドで接敵したアラガミは基本的に潰すんだし。

 

 

「自分で言い出した事だろうが。…まぁいいか。よし、次のミッションポイントに向かう。経緯はどうあれ、おかげで一戦分の消耗を省く事が出来た。余裕を持って終わらせるぞ」

 

 

 

 

 

 …そこから先は、まぁ予定調和? と言うか、前回ループの流れやらゲームのシナリオに沿うような展開だった。

 ミッションは成功するが、シエルのやり方がブラッドの空気に会わず、浮いてしまうという塩梅の。俺も多少はフォローに入ろうとしたんだが……事が人間関係じゃなく、戦闘でのフォローだったからなぁ。いや人間関係か戦闘かと言われれば間違いなく戦闘の方が得意なんだが、フロンティアで成長した上にこの近辺のアラガミが貧弱な為、『フォロー』が『決定打』になってしまうから…と止められてしまった。実際、つい手を出してラーヴァナの首を落としちゃったし。

 ……ハンマーでハンター式スタンプ3叩き込んだら、こう…ブチンとね…。自分でやっといてなんだけど、割とグロかった。せめてブレードでやるべきだったか…。狩りしてりゃ珍しくも無いけども。

 

 

 

 



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323話

 

神逝月

 

 

 シエルに警戒されている。…いや警戒と言うか…未知の存在過ぎて、どう接すればいいのか分からない感じ?

 …実際、自分でもよく分からないナマモノ…いやもうナマモノなのかさえ定かではなくなっている訳ですが。

 

 

 

 さて、この後どうすっかね。孤立するシエルに付け込むように篭絡する…と言うのもなんだが、実際カラダネタ以外では俺のコミュ能力は低いしなぁ。

 とりあえず、シエルは俺から伝えた事に、基本的に従っている。と言うのも、単に俺が教官という立場にあるから、言わば上司の命令としてその言葉を捉えている。このまま続ければ、なぁなぁの内にブラッドの呼吸に…慣れるようなら、こんな状態になっとらんな。

 ラケルてんてーも、どこまで仕込んでいるのやら…。

 

 

 とか考えていたら、容赦なくイベントは起こる。

 グレムのオッサン、襲来…と言うより、帰還か。前もそうだったが、このオッサン、極秘事項の筈の極東であった事を知ってるらしいんだよな。

 ゲームでは単なる凌辱用の汚ッサン2号としか考えてなかったし、記者会見シーンでも「私は被害者だぞ!」とか主張してるのを見て、「空気読めねぇ人だなぁ…」とか思っていたもんだが…。

 

 で、そのオッサン、俺の事はジロリと見ただけで、完全に放置の態勢に入ったようだ。ラケルてんてーが手を回したのか、邪魔にはならないのなら相手にするだけ無駄と考えたのか…。

 まぁ邪魔する気は満々なんですが。

 

 無論、神機兵の実験についてです。

 相変わらず幸の薄そうな……………えっと……その、無人技術担当の博士さん。ちょっと意外だったのは、博士さんをグレムのオッサンが割と真面目に相手していた事だ。

 レア博士が居ないからか? 俺が『綿密な打ち合わせ』をやってるから、有人神機兵を優先させる理由が無いって事か?

 それとも単に、商品の選択肢の問題か。現在、最も感性に近いのが、博士さんの無人機なんだろうか。

 

 

 

 …しかし、普通に考えりゃ無人機より有人機の方が簡単そうだよなぁ…。少なくとも、動作制御という点では。

 と言う事は、実はラケルてんてーの有人機は既に完成の領域まで持っていけるが、博士を利用する為にそれを隠しているって事? 

 

 …無いとは言わないが、疑い出したらキリがないな。

 

 

 

 まーとにかく、博士にどう接したものか。前回は、無人機について話を合わせ、最終チェックを怠らないように示唆したんだっけか。結局無駄だったっぽいけど…。

 

 

 

 

 

 …それにしても、この博士…。以前もそうだったが、なんかこう…マッド臭を感じるな。榊博士やラケルてんてーとは違うけど、明らかにヤバい臭が。

 思いつめるとやってしまいそうな神経質さもあるが、多分それとも別物。

 

 

 

 もっと、こう………自分が狂信的である事を自覚している、狂人の臭いがする。

 

 

 

 なんでこんな印象が? この人、結構いい人だと思うんだが。無人神機兵だって、『これが完成すれば、ゴッドイーター達を無暗に危険にさらさないで済む』とか考えて作ってる筈。

 内面観察術の精度も上がっているんだが、それでも読み切れない。心や精神の奥深く、色んな物が積み重なって見えなくなっている部分。誰であれ、無意識に目を逸らしているであろう部分。それをこの人は自覚している気がする。

 …その部分と言うのが、どんな物なのかは分からないけども。

 

 

 

 

 

 

 ところで、話は全く変わるんだが。

 

 

 

 

 珍しい物見た。

 

 

 

 皆が寝静まり、フライアも動きを止める深夜の事。フライアの人口花畑で転寝して寝すぎてしまい、部屋に帰ろうとしていた時だ。

 なんだか聞き慣れない足音に気が付いた。

 

 いや、聞き慣れないと言うのは間違いか? その人の足音は、フライアに乗ってる間はよく聞いてるんだが、明らかに普段と様子が違うと言うか。

 

 

 …有体に言ってしまうと、フラフラしているフランだった。冗談で言ったフラフラフラフランかよ。

 体調でも悪いのかと思って近づいたが…すぐに分かった。メッチャ酔っぱらっとる。

 

 …ってか、これはどっかでリバースしたか…?

 

 普段からは想像もできない姿だ。酔っぱらうどころか、プライベートがあるのかすら怪しくなるような顔してんのに。

 …それだけなら、『そういう日もある』で済ませただろう。このご時世だ。呑まなきゃやってられない事なんて、珍しくも無い。…誰かの訃報とかな。

 

 きっと、人に言えない何かがあったんだろう…と思って、廊下で倒れ込みそうになっている所を受け止め、部屋まで連れて行った。断じていうが、送り狼するつもりはない。

 

 

 

 

 

 ていうか、つもりがあっても、あれはなぁ…。

 

 

 

 部屋がおへやだった。汚部屋だった。アリサの部屋が可愛く見えるレベルで。

 ソーマの部屋よりは…マシかな。今のアイツの部屋がどうなってるのか知らないけど。

 

 

 転がっているワイン、ウィスキー、ウォッカ、ブランデー、その他諸々の瓶、ツマミ(と言ってもジャイアントトウモロコシを適当に焼いただけのようだが)、放り出された下着…。

 その中で、仕事着がある近辺だけは、異様に綺麗に掃除されている。

 

 

 …え、ナニコレ、マジで? フラフラフラフランって、実は私生活ではダメな人?

 

 普段は職務に徹底的に従事している分、人の目が無いとはっちゃけちゃう人?

 …内面観察術で見た事は無かったが、流石にこれは予想外だわ…。

 

 

 ……。まぁ、何だ。だらしない私生活が普段通りの物だったとしても、今日何か嫌な事があったのは事実のようだ。

 酔い潰れた顔に残る涙の跡、点けっぱなしの端末に表示されている情報。

 

 とりあえず、軽く片付けだけして、そのまま寝かせておいた。

 

 

 

 

 

 

 下着を畳んでおくくらいなら、まぁいいとして………母親が見つけたエロ本を机の上に纏めておく気持ちが、ちょっと分かってしまった。

 

 

 

 

神逝月

 

 

 フラフラフラフランに物陰に引っ張り込まれた。バラしたら刺す? 別にいいけど。今更その程度じゃ死なないし。

 

 

 おい、まだバラしも企んでもいないのに、何故刺しにくる。

 

 

「死なないのでしょう? …防いだと言う事は、苦痛やダメージはあると言う事ですね。包丁は制裁に足る、と」

 

 

 マジだよこの人。掃除できない女なのをバラされるだけで人殺すとか…。え? いやそりゃ死なないけどね。

 と言うか、覚えてんの? …ほう、廊下で倒れて部屋まで連れてこられた所までは覚えていると。

 

 つーか、何であんなに飲んで…いや何でもないわ。聞いたところで、どうこう出来る事じゃないし。

 と言うか、二日酔いとか大丈夫なのか?

 

 

「問題ありません。今まで、どれだけアルコールを摂取しても、翌日の業務に支障が出た事はありません。…昨日は少々、羽目を外し過ぎましたが」

 

 

 ハンター並の肝臓してやがるな…。酒の臭いも全然残ってない。完全に分解されてるっぽい。

 と言うか、酒好きなのか?

 

 

「…ええ。フランス系なのに、ロシア人並みの肝臓だと……言われたものです」

 

 

 …そっか。(過去形…)

 んじゃ、今度は俺と飲み比べしてみるか? 俺も酒には強いタチだし、誰にも秘密にして、一人で飲むのもつまらんだろ。

 

 

「一人酒に慣れているので、無用な心配です。私と飲みたいのなら、いい品を持ってきてください」

 

 

 ほう、言ったな? 言ったな? 

 文字通りこの世界では飲めないような酒を持ち出してくれる。…とは言え、上流階級が飲むような、上品な酒はあったかな…。

 …いや、そんな飲み方してねーな。痕跡を見るに、ラッパ飲みしてるっぽかったし。

 

 

「余計なお世話ですが、楽しみにしています。…再度言いますが、誰かにバラしたら後ろから刺しますので」

 

 

 

 

 

 

 …ま、美人さんとの飲みの約束が取り付けられたと思いますかね。あの部屋でコトに至るのもなんだから、エロは無いと思う……思う……思いたい。

 いやマジな話、アリサとレアに何も言わずにってのはな…。その疑惑で泣かせてしまった訳だし。言ってりゃいいのかという問題でもあるが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、確かフランって未成年じゃなかったっけ? 酒は…まぁ何も言わんが、あの下着は…。………ま、背伸びしたい年頃なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えてたら、いつの間にか神機兵のテストミッションが発生してしまった。むぅ、博士に何も仕込めなかったな。

 …まぁ、話す機会だけは確保できたが。

 

 と言うか、神機兵を遠隔操作するクジョウ博士(名札って重要だね)の隣で、テストを見守っています。

 

 

 

 …まぁ、今の俺って一応部外者だからね。前回のループで、テストに同行できたのが不思議なくらいだったわ。

 グレムのオッサンが、「部外者をテストの場に立ち会わせられるか」と、ある意味真っ当な命令で俺を排したらしい。その割には、何故か中継を見る事は許可されているが。

 

 

 ともあれ、クジョウ博士。よろしくお願いします。

 

 

「こちらこそ…と言いたいところですが、生憎今は重要な動作テストになります。あまりお構いする事はできませんが」

 

 

 ま、仕方ないっすな。…気付いた事や懸念事項があったら、伝えた方がいいすかね?

 

 

「ええ、無論です。できれば、テストの後にお願いしたいですが」

 

 

 へーい。…うーむ、真剣だ。メッチャ真剣だ。本気でやってるのが伝わってくるね。

 茶々入れどころか、会話できるかすら怪しいくらいに集中しているようだ。

 

 

 …どうすっかな、コレ。この状態で何か言っても、馬耳東風、馬の耳に念仏にしかなりそうにない。

 ていうか、やる事が無い。動作テストの為の、露払いミッションも順調。細かい事は分からないが、神機兵の状態を示すメーターやら何やらも、見た感じではオールグリーンのようだ。

 

 通信で伝わってくるフランの声も、酒の名残を全く感じさせないし、戦況も終始優勢。

 

 

 

 ……こんな展開だっけ? 途中まで特にトラブルが無かったのは確かだと思うが……だったら、どうしてシエルが赤い雨の中に取り残されるような事になったんだ?

 現在、赤い雨…と言うか、それを発生させる赤い雲なんか見当たらない。

 

 うーん、日記を読み返して…………アカン、ゲーム通りの展開になった事は書いてあるが、詳細が全く記されてない。もうちょっと情報源として意識して書こうぜ、俺。

 そもそもからして、テストが行われている日付も違うし、場所も何気に違っている。…赤い雨が降らなくても不思議はないが。

 

 現地に居られれば、周囲の気配や霊力を探って何か見つけられたかもしれないが…。流石にセンサー越しだもんな…。

 

 

 

 …現地の人の声に頼るのが一番か。

 ジュリウス、ちょっといいか?

 

 

「何だ、くだらない事じゃないだろうな」

 

 

 世間話に聞こえるかもしれないが、空の様子はどうだ? ミッションも一段落したけど、曇ってきてないか? 

 

 

「空…? 能天気な奴だな…。快晴だぞ。ミッション中に………いや、心配事は赤い雨か」

 

 

 当たり。何だか知らんが、すっげぇ嫌な予感がする。

 

 

「はは、心配性だな。確かに赤い雨は脅威だが、だからこそ我々も警戒している。…特に最近は、通常の雲に赤乱雲が隠れている、なんて事があって、大きな被害が出たからな。通常の天気予報までチェックしているさ。昨今では珍しいくらいに晴れ渡っているぞ」

 

 

 ほぉ…。ゲームシナリオや前回ループでは、それが原因だったのかな。

 しかし、一切の雲無しとは、完全な俺の勘違いか? しかし、我が色々な意味でピンク色の頭脳は、根拠の分からない警報を鳴らし続けている。勘違いだった事を認めたくない…じゃないよなぁ…。

 何だろ。

 

 不思議に思っていたところ、不意に声を上げたのは…クジョウ博士だった。

 

 

「む? これは…神機兵の出力が…」

 

 

 どうしました? パワーダウン? エンスト?

 

 

「いえ、逆です。パワーが明らかに上昇しています。これは一体…」

 

 

 …パワーアップしてるなら、いいんじゃないの?

 

 

「そんな事はありません。確かに神機兵は極力頑丈かつしなやかに設計していますが、限界はあります。これ程の出力では……神機兵のフレームが耐え切れない恐れが。もしも有人で操作していたらと思うと、肝が冷えます」

 

 

 筋力に耐えかねて、骨が折れちまうって事か。確かにそれは問題だ。

 しかし何故…?

 

 機材を操作し、原因を探るクジョウ博士。しかし、鯨飲らしい原因は不明。

 出力を調整する為の弁にも問題無し、センサーにもおかしな部分は無し。まるで、エンジン部分が勝手に力んで力を出そうとしているような……………? 

 

 

 

 あの、クジョウ博士。神機兵って、アラガミですよね? その、例えば神機と同じような。

 

 

「え? えぇまぁ、同じ物と言えなくもありませんが。それが?」

 

 

 ひょっとしなくても、バースト状態か、活性化状態になってないか?

 

 

「…! た、確かにこの症状は、アラガミの活性化状態に近い…。まさか、内部のアラガミ細胞が暴れ出そうとしていると? しかし何故…」

 

 

 ジュリウスの『統率』なんて例もある。他のアラガミを活性化状態にするアラガミ…。

 感応種だ。

 

 

 

 おいジュリウス、ヤバいのが近くにいるみたいだぞ。

 

 

「ああ、聞いていた。全員、神機兵から距離を取れ」

 

「おい! 貴様らの役割は、神機兵を守る事だ! 妙な動きをするな!」

 

「その神機兵に暴走の危険があると言っているんだ!」

 

「お、お待ちを! 確かに想定外の現象ですが、制御は可能です! 暴走の危険はありませんし、最悪、いざと言う時の為につけておいた自爆装置を」

 

 

 …何気に押したがっているように見えるのは気のせいだろうか。まぁ気のせいだよな。この博士にとって、神機兵は息子のようなもんだろうし。…本当に息子のように思ってるなら、自爆装置なんざ付けないか。

 それよりも、現場にいると思われるアラガミ…。

 

 

「周辺区域をスキャンしました。発見されたのはグボロ・グボロが多数、ウコン・バサラが4体、コクーンメイデンとザイゴート数体…。周囲のアラガミを活性化させる力を持つ感応種、マルドゥークは見つかりません」

 

 

 グボロ・グボロを集中的に探ってくれ。いつだったか、他のアラガミを活性化させる力を持ってる奴にぶつかった事がある。…いや、でもあの時は周囲のゴッドイーターまで活性化させていたような…。

 まぁいいや。普通のグボロ・グボロじゃなくて、顔面がインディアンの仮面みたいになってた奴だった。

 

 

「了解、外套区域の映像を探ります。………………? ……それらしいターゲットを発見。目標をマークします。ナナさん、そのまま進んで、突き当りを右に曲がってください。ロミオさんは、反転して建物を超えれば挟み撃ちにできます」

 

 

 おお…流石に仕事が早い。

 喧々囂々していたジュリウスとグレムのオッサンだが、原因となっているアラガミを駆逐すれば終わる話だ。多少の蟠りを残したまま、言い争いを中断してフォローに入る。

 

 

「余計な口を挟みおって…。これで神機兵が落ち着かなかったら、覚悟しておけよ。そしてクジョウ! この欠陥をすぐに改め、3日以内に改善しろ!」

 

 

 へいへい。…クジョウ博士が悲鳴をあげている。あげているが、この人やる気だな…。神機兵が欠陥品扱いになるのは耐えきれんか。

 

 そんな事を考えていたら、フランから極秘回線が飛んできた。

 

 

「失礼します。この画像を見てください。…ここを。貴方は、このアラガミらしきものに心当たりはありますか? …これも感応種でしょうか」

 

 

 

 回線で送りつけられた画像の隅っこ。倒壊したビルの向こう、空の上。………に、中型アラガミが浮かんでいる。

 それだけだったら珍しくない。サリエルとかザイゴートとか、浮遊能力を持ってるアラガミなんぞ珍しくもない。ついでに言えば、そのアラガミ自体も珍しくなかった。

 

 

 

 

 俺の記憶が確かなら、空なんぞ飛べる筈もないアラガミだったが。

 

 

 

 

 

 …これ、ウコン・バサラじゃん。

 

 

 何でコイツが空飛んでんの? 解像度はよくないので、詳細は見えない。しかし、何かに支えられて飛んでいる訳ではないし、ぶっ飛ばされて強制フライアウェイでもない。

 明らかに、自分の意思で(正常かどうかはともかく)身をくねらせて空を飛んでいる。

 

 …そういや、こいつ電撃使うんだよなぁ…。磁力とかタービンの回転数とかを上手く使えば、空中浮遊くらいはできるんだろうか?

 

 

 

 

 いや、それよりも…なんだ、このスゲェ嫌な感じ…。さっきから鳴り響いていた脳内アラームが、一気に音量を跳ね上げた。

 

 

 

 

 

 

 ウコン・バサラ……。ワニ。電撃。タービン。

 ……周りにいるのは? グボロ・グボロ。カバラ・カバラ。他雑魚多数。

 

 

 

 

 

 

 ちょい待ち。空飛ぶ電撃ワニ。グボロ・グボロの攻撃方法。カバラ・カバラの特殊な能力。

 

 仮に、この3つが組み合わさって……そうだ、ちょっと考えられないくらいに活性化したとしたら? いや、前回ループでアラガミ達がそうしたように、トランス状態で力を合わせたら?

 

 

 ヤバイ!

 シエル、スナイパーライフル使って、あの浮いてるアラガミを仕留めろ! 最優先事項!

 

 

「はっ!? …ウ、ウコン・バサラが浮いている…!?」 

 

 

 

 

 

 結論。

 

 

 

「全員退避! 神機兵を傘にし、身を守れ!」

 

 

 

 嵐くらいならともかく、赤い雨と化すのは予想外だったよ。グボロ・グボロ達が集団で雨を降らせるところまでは予想できたが。

 不幸中の幸いなのは、カバラ・カバラを仕留めていた為、神機兵が暴走する危険が無くなった事くらいか。

 

 

 

 

 何なんだ、ありゃ…。空を飛ぶワニ。ワニ……龍の原型とも言われているな。空飛ぶ龍で、雨を呼ぶ…。

 まさか、ガルムがジンオウガモドキになったみたいに、ウコン・バサラがアマツマガツチモドキになったとでも? 幾らなんでも、パワーアップしすぎだ。

 

 

 ただ、シエルが見事に脳天を撃ち抜いた為か、それともやはり無理をして命を振り絞っていた為なのか、赤い雨はアッと今に止んだ。

 が、これはよく考えなくても脅威だろう。下手な範囲攻撃なんかより、余程危険な現象だ。

 

 

 

 

 

 

 

 現に。

 

 

 

「………感染…しました。これよりブラッド隊を離脱し…」

 

「待て、待てシエル! 落ち着け!」

 

「ジュリウス、触れてはいけません。落ち着いたところで、黒蛛病の患者をフライアに置いておける筈もありません。短い間でしたが、お世話になりました。お力になれず、申し訳ありません…」

 

 

 

 ……現に、ウコンマガツチ(仮名)を仕留める為、僅かながら赤い雨に打たれたシエルの手には、タトゥーのような蜘蛛の模様が現れている。

 それなりの条件が揃わなければならないとは言え、同じ現象をもう一度起こせるとしたら…。予兆もなく、黒蛛病の感染源が新たに発生する事になるのだ。

 

 シエルの黒蛛病の痔はまだ小さいが、明確に存在を主張している。下手に触れれば、感染の恐れがある為、シエルは自ら独房に籠った。

 万が一の可能性にかけ、ジュリウスの要請でラケルてんてーが診断したが…結果は黒。

 

 ショックを受けるジュリウスやロミオ、ナナを他所に、淡々と……どう見ても、そう装っているだけだが…ブラッドから離れる事を宣言するシエル。

 目に宿るのは、明らかな絶望の影。

 …そりゃそうだろうな。今までだって、希望がある人生を送っているとは全く言えないが、それでも自分にゴッドイーターとしての、戦力としての価値があると信じる事はできたろう。…自分の参入で、ブラッド隊の連携にノイズが走っていたのだとしても。

 その、自分に残っている最後の価値が、黒蛛病により失われた。

 

 ブラッドから離れてどうするつもりなのかは分からない…いや、考える事もできてないだろう。

 

 

 

 

 ……と、ここまで他人事のように語っておいて何だが………はいはい、全員ちょっと落ち着け…とはとても言えないが、これを見てからにしろ。

 シエル、手を出せ。

 

 

「は…いえ、私に触れたら…」

 

 

 直接は触れる必要はない。いいから手を出せ。教官としての命令。

 強い口調で命じると、一歩下がって距離を開けながらも、躊躇いながら手を伸ばす。

 

 

 うん、では皆さま、この蜘蛛の痣にご注目。…ラケルてんてーも見てると、少々やり辛いが……ホレ。

 

 

 

「!?」

 

 

 具現化させた鬼の手(小)で、握手をするようにシエルの手を握り締める。反射的にシエルは振り払おうとしたが、無駄無駄。その程度で振り払われるようじゃ、鬼なんぞ相手に使えんわ。

 さて、そんじゃ……標的は、この痣。正確には、その奥に潜む、黒蛛病の原因となる、体を蝕む霊力。

 

 

「おっ……おっ、おおぉ……!」

 

「これは…」

 

「……………」

 

「あ、痣が!」

 

「離れる…!?」

 

「おいおい…不治の病って言われてる黒蛛病が、こうも簡単に…?」

 

 

 シエルの手の中の模様が、本物の蜘蛛のように蠢いて……肌から離れる。鬼の手の中に入り込むかのように、模様が浮き上がった。

 前回ループでも似たような事はやったもんな。あの時は鬼の手も、イメージをより強く具現化するカラクリ石の補助も無かった。それでも軽症なら浄化できたんだ。今の俺ならこんなもんよ。

 

 シエルの手に、霊力の残滓がもう残ってない事を確認し、鬼の手から解放する。信じられない物を見る目で(無理もないか)自分の手の甲をまじまじと見つめ、そして俺が鬼の手の中にある蜘蛛っぽい物に目を移した。

 

 

 ラケルてんてー、もう一回診察お願いします。まだ黒蛛病の病原菌みたいなものが、残ってる可能性もあるし。

 

 

「…分かりました。シエル、いらっしゃい」

 

「あっ、はい…」

 

 

 ラケルてんてーは相変わらずの無表情だったが、どうにも厳しい表情にも見えた。…もしもジュリウスが感染しても、治療されてしまったら?と考えているんだろう。

 …前回は無理だったが、今回はどうだろう…。こればっかりは試してみんと分からんな。と言うか、本格的にラケルてんてーの排除対象になった気がする。

 

 

「あ、あのー教官。その蜘蛛、どうするんですか?」

 

 

 …………食べる?

 

 

「食べねーよ。ナナだって流石に食べねーよ」

 

「ちょっ、ロミオなんか失礼!」

 

 

 そっか。そんじゃ……鬼葬!

 …よし、完全消滅。

 これで、初対面時に鬼の手でシエルの乳揉んだのは許されるよな?

 

 

「ギルティ。…………あぁ、あぁ……だが…よくやってくれた……。ありがとう…」

 

 

 

 おいおい、ジュリウス泣くな。あと 『叩き出さずにいて本当に良かった』ってボソッと呟くな。

 ロミオ、ナナ、ギル、ジュリウスを落ち着かせ………アカンわこりゃ。下手に突くと全員で泣き始めるわコレ。ギルは比較的落ち着いて見えるけど、鼻啜っとる。

 ナナに至っては決壊寸前……泣きつかれて鼻水塗れにされる前に逃げますかね。

 

 

 

 

 

 しかし、問題はあのウコンマガツチだよな…。コとンの位置を間違えたら大惨事なのは元の名前も同じだから置いとくとして、やっぱりMH世界のモンスターに似たアラガミが出始めているのは、偶然じゃなさそうだ。

 MH世界だけじゃない。もしかしたら、討鬼伝世界の鬼も現れるかもしれない。アンテナ張り巡らせておかないとな…。

 

 

 

 追記 シエルはちゃんと完治していた。

 血の力には目覚めなかったけど、どうすんべコレ…。

 

 



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324話

神逝月

 

 

 唐突だが、グレムのオッサンに呼び出された。ブッチしてもよかったんだが、無意味な軋轢を生むべきじゃないだろう。俺の行動で、ブラッド隊に余波が行ってしまう事も考えられる。

 何事かと思ったら、鬼の手…正確には、それを用いた黒蛛病の治療の事だった。

 

 何スカ? …ええ、確かに治療しましたが何か? それはシエルを検査したラケルてんてーからの報告でも分かるでしょう。

 

 

「ああ、確かにな。だがワシは、血の力だのブラッドアーツだの、そんな胡散臭い話は好かん。フライアに出資したのも、胡散臭い力を抜きにしたリターンが確実だったからに過ぎん」

 

 

 まぁそうでしょうな。次代のゴッドイーターの手本となるべき、特殊な力を持ったゴッドイーター…なんてラケルてんてーは言うが、公式にはジュリウスにしかその力が発現していない。ハッキリ言えば、ラケルてんてーが勝手に言い始めた新興宗教くらいにしか思えんでしょうよ。

 

 

「フン、宗教であれば、まだ儲ける手段があるわ。だが、胡散臭かろうと宗教がかっていようと、使えるものは使うのが金儲けの常道だ。少なくとも貴様の能力、宣伝にはなる」

 

 

 宣伝? ……ああ、黒蛛病を治療する事が出来る、と?

 確固とした理論が打ち立てられてる訳じゃないが、確かに注目を集める事はできるでしょうな。医療として認めるかはともかく、不治の病を覆す手段がある…。これはどんな金持ちにとっても重要な事だ。自分や身内が感染してしまった時の為、何とかしてその手段を確保しようとする。その為に使えるのが、出資によるコネと。

 

 

「ほう、存外話が分かるではないか。ならば、ワシが何を問題としているのかも当てて見ろ」

 

 

 ……ブラッド隊に俺と同じ事が出来るかどうか、か?

 治療が出来るっつっても、俺は所詮葦原ユノの劣化版に過ぎん。あっちは歌で、多くの人に影響を与えられる。

 

 

「フン、やはりアラガミを狩る事しか頭にない脳筋か。随分な勘違いをしているな。確かに葦原ユノはその歌によって病状を和らげ、進行を抑える事ができるようだが、治療までは出来ん。ブラッド隊に同じ事ができんのであれば、貴様の価値が一層高まるだけだ」

 

 

 褒められてる訳じゃねーな。資産としての価値が、って事か。

 ブラッド隊を売りつける事ができないなら、その分俺を高く売る、と。

 

 

「そういう事だ。だが、貴様にはもう一つの利用価値がある。どうだ、ワシに協力する気はあるか。待遇の他にも、幾つか便宜を計ってやろう。悪いようにはせんぞ?」

 

 

 …? 悪代官から、不正の誘いを受けてる気分だが…俺に利用価値? 俺の価値って言ったら、精々狩りが上手い事くらいだが…エロは価値にならないよな、AVでも作ろうってんならともかく。

 

 

「言っただろう。貴様が3年前、極東で何をやったのか知っている、と。…ここまで言っても分からんのなら、貴様は脳無しだ。能力があっても、金儲けに仕えるだけの脳みそが無い」

 

 

 そりゃ、脳に入ってんのは女と狩りとイヅチブッコロだからな。

 …で、何か? 機密事項を使って、極東支部を脅そうってか? 面白そうだが、やめておけとしか言いようが無いぞ。あそこの連中、いざと…ならなくても、同席した時点で迷いなく刺しに来るから。

 

 

「脅しはワシもよく使う手段だが、極東なんぞ相手にやってもメリットが無いわ、脳無しめ。貴様、GKNG…だったか。奴らとの繋がりがあるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 は? GKNGって…あのGKNG?

 

 

「他にどのGKNGがある。貴様だろう、あの団体の創始者は。緑の君…だったか?」

 

 

 

 

 …えぇ……いや確かにさぁ、そう言われてるみたいだけど、俺って切っ掛けにはなりはしたけど、あの団体には何もしてないんだが…。

 と言うか、グレムのオッサンみたいな脂ぎった中年から『緑の君』って、スゲェ違和感バリバリなんですが…。

 

 

「貴様の感想などどうでもいい。実際に何をやったのかも、大した問題ではない。重要なのは、貴様があの団体にとって重要人物だと言う事だ」

 

 

 何をやらせたいのか、大体予想はついてきたが…そもそもアンタ、極東がどうなってるのか知ってんの?

 ネットで『極東の脅威』なんて言われて、緑溢れる風景が撮影されてるけど、大体ネタ扱いされて終わってるだろ。そうされても仕方ないけどさ。

 

 

「…流石にワシも、初めて見た時は目を疑ったわ。だが、それ以上にあの地は宝の山だ。極東支部を金塊で埋め尽くしたよりも、大きな儲けになる」

 

 

 まぁ、このご時世で天然モノの樹やら植物やらが、そこら辺を歩くだけでゴロゴロ転がってるもんな。単純な資材としての価値も、貴重品としての価値も、何より増やす事で枯渇したリソースを回復させ得るだけの可能性もある。

 同質量の黄金よりも価値がある、と言うのもあながち過言ではあるまい。…金塊と違って、上手くやれば増える訳だし。

 

 しかし、何でわざわざわざ俺を挟む?

 

 

 

 

「フン! 奴らは手元にある資材の価値を分かっとらん! 分かってはいるのかもしれんが、「未来の為」とやらで、まるで有効に使っておらん! あの一端でもワシの手に入れば、どれだけの利益を生み出せると思っとる!」

 

 

 あいつらはあいつらの利益を求めてるんだろうさ。それが金って形じゃないだけだ。

 

 

「それは構わん。ワシにとって、利益とは即ち金だ。奴らが金が要らんと言うなら、ワシがそれを受け取ればいいだけだ。代わりに奴らを上手く使ってやろう。ワシには金、奴らには「未来」という幻想。どうだ、麗しい関係だろう? 大体、ワシに言わせればあの資材が極東以外に流通せんのは、奴らの姿勢の問題もあるのだぞ」

 

 

 はぁぁん……。まぁ、言い方は気に入らんが、一理はあるな。いくら資材素材を増やして広め、緑あふれる地球に戻すのがGKNGの理念だからって、無償で出来る訳じゃない。

 聖人は、持てはやされた後に切り捨てられるのが伝統だ。

 利用されるだけ利用されてポイ捨てされる前に、通常の経済循環の一部として取り込んでしまえと。

 

 いいだろ、口利き位はしよう。

 だが、さっきも言ったが俺は発足の切っ掛けになっただけで、その後はノータッチだ。この3年間、独自の理論と理念でやってきたあいつらが、俺の言葉があった程度で簡単に乗るとは思えんぞ?

 

 

「構わん。口説き落とせばいいだけの話だ。ワシは強引な男だが、話が分からん偏屈者でもないし、利を齎す者には相応の扱いをする。事を荒立てようとは思っておらん」

 

 

 その割には、シエルよりも神機兵を優先するような命令を出してたが…まぁいい。アンタと剃りは合わないが、棲み分けはできるらしい。俺の狩りの対象にならない事だけ祈ってるよ。

 

 

 

 

 

 汚ッサンだとしても、好き好んで人を殺す趣味は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、それはそれとして、今後の予定だが、極東に向かう事になった。

 ゲームのシナリオ通り…と言っていいのかは分からんが、とりあえずグレムのオッサンの判断だ。GKNGとつながりを作る為だろう。

 

 …どうしたもんだろうか。

 あいつら、俺に一目置いてくれてはいると思うんだが…とても、俺の言葉に耳を貸すとも思えん。このまま無償奉仕オンリーなのが望ましくないとは分かってる… と思うんだが、それだけで素直に従うとも…。

 

 シナリオ的にはどうなったっけか。

 極東入り…ムーブメント師匠…ギルの仇討ち…。

 その後にナナの覚醒に…この辺から記憶が曖昧だ。ロミオが今更暴走するとも思えん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最優先事項忘れてるじゃん! ロミオの元カノ! 復縁!

 ロミオを性癖的に奈落に叩き込んでしまった以上、何が何でも復縁させねば! いつもなら『ループすれば全部オシャカ』って公式が通じるかどうか分からんのだ!

 

 

 

神逝月

 

 

 K・R・S!

 

 

 

 何の略でしょう? …答えは極東・リアリティ・ショックです。

 いや俺も前回はああだったんだろうなぁ。混乱するフライア職員を見るのが愉快愉快w

 

 あぁ笑った笑った。微笑み動画に挙げているが、ジュリウスが某空島の神みたいな顔芸するシーンが大好評だ。

 今思い返しても、ラケルてんてーの映像が取れなかったのが残念で仕方ない。

 

 まぁ、その反応はと言うと、「またネタ動画か」みたいな一言で済まされちゃったんだけども。

 

 

 

 ちなみに、その時の映像の一部がコレだ。前回ループよりも激しい反応な気がするね。

 

 

 

「キェェェェェェアアアアァァァァァァミドリユタカアァァァァァァ!」

 

「幻覚ガスの対策を持て! 既にフライアにまで極東の瘴気が侵入しているぞ!」

 

「qあwせdrftgyふじこlp」

 

 

∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴

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∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴

∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴

 

 

 

tanasinn

 

 

tanasinnは真実だ

 

 

 

「1D10/1D100」

 

「当SSは規約違反により更新停止警告ががががががが」

 

 

 

 

 ………まぁ、何だ、よくぞ精神崩壊しなかったと褒めておくべきか。

 と言うか、最期のヤメロシャレになっとらん。クサレイヅチよりもヤバいじゃないか。

 

 

 その狂乱をビデオに収めて、ニヨニヨしていた俺が言う事でもないが。

 

 

 

「ね、ねぇねぇ教官。アレ、何?」

 

 

 んぁ? どうしたナナ、もうちょっと面白いリアクションを……。…………ほぁ?

 

 

 

 ナナが指さした先は、極東支部の上にデカデカと掲げられた看板。描かれているのは、見覚えのある女性…葦原ユノ。

 そこまではいい。

 ユノの看板自体は珍しくない。前回ループでも何度か見た事がある。世界的な歌手だからな、不思議ではない。

 

 

 しかし、あんな看板、前回ループでは見た事無いぞ。

 まして、内容が内容。

 

 

 曰く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『第二の葦原ユノを探せ! フェンリル主催、シンデレラオーディション! 参加資格無し、来たれ未来のアイドルよ!』

 

 

 

 

 …なぁにコレ? 看板には歌っているユノの写真以外にも、開催日時やら申し込みの仕方やらが記されている。

 冗談…にしては大がかりすぎるな。フェンリルは何時から芸能界に手を出したんだ?

 

 そういや、ユノは前に会った時、「極東で大きな仕事がある」って言ってたけど、コレの事か? サツキが乗り気でなかったのも、分からんではないな…。『こんな事やってる暇があったら、炙れている人達に手を差し伸べろ』というのも無理はない。ま、ボランティアを強要するのは、カツアゲと同じだけども。と言うか、営利企業を相手に一銭の得にもならない行為を要求したって、呑む筈がないんだよなぁ…。税金対策での寄付じゃあるまいし。

 

 ともあれ、なんか今回のループは色々な意味で予想外のイベントが多そうだ。アリサとレアも居る筈だし、色々聞いてみるかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 追記

 極東リアリティショックの映像は殿堂入りしました。

 

 

 

 

 



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325話

 

 

神逝月

 

 

 さて、何から書いていくべきか。レアとアリサと合流したんだけど、その時にも色々とイベントがなぁ…。

 

 …うん、前回ループやゲームシナリオに沿った事から書いていくべきか。

 まずは、ブラッド及びフライアは無事に極東入りする事ができた。ミッションはまだだけどね。

 

 相変わらず胡散臭い榊博士や、元ラスボスだったのに黒幕臭という意味では博士に一段劣る支部長。

 …言っちゃ悪いが、ジュリウスじゃちょっと太刀打ちできんな。役者が違うわ。確かにジュリウスは優秀で高潔だけど、狡猾さが足りてないのがよく分かった。…純粋培養だからねぇ。

 

 ま、それはいいんだ。いきなり敵対する理由も無し、ラケルてんてーを警戒してはいるだろうけど、感応種に対抗する手段は、喉から手が出る程欲しいだろう。無駄に婉曲かつ遠回し、思わせぶりな会話だったが、無事に受け入れは終了した。

 その後の歓迎パーティも、ほぼ前回と同じ流れだったので、特筆すべき事は無い。

 強いて言うなら、ナナがムツミちゃんを崇め始めたくらいか。

 

 ムーブメント師匠は…ギルと会うタイミングはどこだったっけな。少なくとも、俺の目の届くところでは遭遇してなかったようだ。

 

 

 

 

 

 さて、ゲームシナリオ・前回ループではなかったイベントについてだが…まず第一に。

 支部長たちに顔遠しする為に極東支部の廊下を歩いていると、突然知らない人から声をかけられました。

 

 

 

「あ! あの時の人!」

 

 

 

 ………んぁ? え? 俺? 

 見覚えのない女の子が、思いっきり俺に指を突き付けている。後ろを見ても誰も居ない。左を見ればシエルが居て、右を見ればロミオが居て、前を見ればジュリウスとナナとギル。

 俺以外の誰かかと思ったが…え、俺なの? マジで? 

 

 

「あの時はありがとうございました! おかげで、皆無事で……。あ、ここに居るって事は、やっぱりゴッドイーターだったんですか? 他の皆さんも、腕輪をつけてるし…」

 

 

 お、おう? いや俺は一応ゴッドイーターではないんだが…。と言うか、ゴッドイーターへの忌避感が無い子だな。

 

 ふむ…率直に言えば可愛い子だな。元気印と笑顔がよく似合う。

 腰元まで伸ばした髪はしっかり手入れが行き届いていて、服もピカピカ。…この世界の女性にしては珍しく、露出度が低い。…ああ、これはゴッドイーターじゃないからかな。

 …学生服に近いかな? セーラー服じゃなくて、ブレザーっぽい。 年齢的にも、高くて高校生程度…。でも、この世界で学校なんぞ…まぁ、あるところにはあるけど、極東にはそんなモン無かったような。

 

 

「何々? シマムー、何かあったの? ……あ、この前の人だ!」

 

 

 また新しい子が。…こっちもタイプは違うけど、可愛い子だね。ナンパできればなー、と思っちゃうくらいには。

 

 

「おーい、レッスンに遅れるよ…あ!」

 

 

 またかよ。…なんかゾロゾロ集まって来たんですが。何事? 容姿レベルの高い子ばかりで、いい目の保養になるわぁ。

 ナナやシエルだって負けてないが、この子達は……なんていうか、しっかり意識して磨き上げてる気がする。

 

 

 と言うか、マジで何事。どちら様。こんな可愛い達なら、会ったら絶対覚えてると思うんだけど。

 

 

「…会ってから一か月も経ってないんだけど。本当に忘れてるの?」

 

 

 大人びた印象の子が、呆れたように言ってくる。そう言われてもなぁ…一か月前? …って事は、今回ループが始まる前…いや、それだと月に居た頃になるよな。

 えーっと……? 人違いって事は?

 

 

「あー、教官教官、この子達多分アレっす、教官が助けた…と言っていいのか分からないけど、アラガミを潰した時に居た子達だわ」

 

「ロミオ、それだとこの人には分からんだろう。あの時は意識が半ば飛んでいたようだし…」

 

「え? 私達の事、覚えてないの?」

 

「…まぁ、それも無理もないかも…。ボロボロだったし…。と言うか、大丈夫なの? どう見ても重症か致命傷だったんだけど」

 

 

 死ななきゃ治るから、怪我に関しては問題ないが。ジュリウス、具体的にいつの事なんだ?

 

 

「お前がフライアに運び込まれる直前だ。この人達は、バスで移動していたんだが、その時にクァドリガに追いかけられていたそうだ。もう駄目かと思った時、お前が空から降ってきて、クァドリガを粉々にしたとか」

 

 

 

 

 なにそれわけがわからない。

 

 

 

「…失礼。率直に言わせていただきますが、当時の我々も同じ気分でした。今も言葉にすると更に分かりません」

 

 

 あ、でっかいにーちゃん出てきた。どちら様?

 

 

「こういうものです」

 

 

 名刺どうも。タケウチ……………アイドル会社の、社長さん…?

 

 

「は。プロデューサーと兼用ですが」

 

 

 社長とプロデューサーって兼ねられるもんなの? と言う事は、この子達ってひょっとして?

 

 

「当社に所属している、アイドルです。…それはともかく。あの時は、大変な失礼をいたしました。恩人に対して、あのような事を…」

 

 

 失礼…?

 

 

「…彼らと行動を共にしていたアイドルの一人が、ボロボロのお前に対して暴行を加えたんだそうだ。『もっと早く助けに来い!』と」

 

 

 はーん。覚えてないから何とも言えないんだけど、そーゆー人種は助けても助けなくてもどこかに消えるし、リザルトに影響ないから無視でおk。地球防衛軍的に考えて。

 

 

「で、そちらの社長や他の子達の制止も無視して暴行を続けていたところ…ふと目を覚ました教官に頭を鷲掴みにされて、逆にフルボッコにされました」

 

 

 記憶にないんだけど。

 

 

「そしてそこに到着した俺とロミオが、死んだと聞かされていたお前の姿に驚きながらも、何とか羽交い絞めにした。止めようとした俺達まで殴り飛ばしてな」

 

 

 記憶にないんだけど!?

 

 

「教官、フライアで目が覚めた時に話した筈ですよ」

 

 

 マジで? そう言えば、そんな話をされたようなされてないような…。 …後で日記読み返しておこう。

 しかし、会社の人を殴り飛ばしてしまったか。殴り掛かって来た方が悪いとは言え、ちょっと申し訳ない。

 

 

「いえ。当社のユニットではなく、企画の為に同行していた者でしたので、我々に被害らしい被害は…。自業自得とは言え、流石にやりすぎだとは思いましたが」

 

 

 何だか状況がまた分からなくなってきたな。

 要約すると?

 

 

「…我々がアラガミに追いかけられていた時、助けてくださいました。その後、同行者の一人が暴行に及んだ為、返り討ちにしています」

 

 

 はぁ…。ああ、デスワープ直後って事か。前回はブラッドレイジ状態で落下してきたから無傷だったけど、今回は突然の事でブラッドレイジ状態が解けて、妙な軌道を描いて落下。その着地地点に、この人達を追いかけていたアラガミが居たと。

 うーん、凄い偶然。

 

 しかし、そのアイドルの人達がここに居るって事は…ひょっとして、オーディション?

 

 

「はい。既に一次審査は通過し、次の審査までは極東支部内で過ごす許可を得ています。…何かと会う事もあるかと思いますので、どうぞ応援のほどを」

 

 

 はいはい。

 じゃ、悪いけど俺達、これから支部長に挨拶に行かなきゃならないんで。

 

 

 アイドルの事はよく分からんけど、頑張ってなー。

 

 

 

 

 

 …と言うような事がありましたとさ。

 このご時世に、アイドルねぇ…。それで会社をやっていけるくらいに儲かるのかね。興味はあるな。

 …どっかで会ったら、少し話をしてみようかな。

 

 

 と言うか、この後はブラッド隊の歓迎会があった筈だし、そこで一曲披露してもらうように頼めばよかったかな。

 でも葦原ユノも居るしなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 歓迎会をやってる間、俺は執務室で怪しい黒幕臭を振りまく二人と、会談してたんだけどね。

 ああ、さっきのアイドル達との会話でなんかホカホカしていた心が荒んでいく…。

 

 

「久しいな。月での暮らしはどうだったかね」

 

 

 退屈極まりなかったですな。脳みそが常温のまま溶けていく、とはよく言ったもんです。

 

 

「自力で帰ってくる可能性も、考えないではなかったけど…大気圏を突破してきたって? 旧世界のアニメーションにそんなロボットが居たね。…どちらかと言うと、アリサ君とレア君の二人と対面して、無事だった事に驚いているけど」

 

 

 全くの無事だったとは言えませんが…。エラい目にあいましたよ。あの後、ケツがヒリヒリして…まぁアレはアレで良かったけど。

 

 

「君の特殊性癖について聞きたいとは思わないな。…もっとも、二人が君から聞き出した秘密については、話は別だが」

 

「一通りの事は聞いているよ。繰り返し、三つの世界、因果を喰らう『鬼』という超常生物、『ゴッドイーター』の物語…。いやはや、信じがたい、希望に満ちた話だね」

 

 

 …希望…?

 

 

「この世界以外にも、人と世界は広がっている。例え我々が死滅したとしても、人そのものは絶滅する訳ではない…。尤も、このまま滅びるつもりもないが」

 

 

 それ希望って言えるのかね。MH世界はともかく、討鬼伝世界の追い詰められっぷりは、この世界とどっこどっこいだし。

 

 

「言っちゃなんだけど、知った事じゃない…と言うのが本音だね。より正確に言うなら、知ったところで何もできない。私達はこの世界で生き延びるのに必死だし、別の世界に干渉できるような技術だってない。君と言う例外を除いて」

 

 

 まーそうですな。極東のこのありさまも、元はと言えばMH世界から引っ張って来た種やら何やらのおかげだし…。

 挙句、繰り返しとゲームシナリオのおかげで、知り得ない情報や未来の事まである程度分かる、と。

 

 榊博士的には、とても受け入れられないやり方かな、やり直し…つまりは失敗を前提とした、所謂『死んで覚える』を実践するのは。

 

 

「ペイラーにとっては不快だとしても、使えるものは使う。最優先すべきは、人類のこの世界での生存。次点で終末捕食の恒久的阻止だ。ラケル博士については、正直私の見積もりが甘かった。何かあるとは感じていたが、予想以上だったよ…」

 

「そういう事だね。私としても、個人の矜持や理念の為に、救える者を救わないという選択肢を取る気はない。特に黒蛛病の克服は、あらゆる意味で重要な事だ。……ああ、表に出している、オーディションの看板を見たかい? あれが正にその一環だよ」

 

 

 あれが? …オーディションに参加している子達に会ったけど…あの子達が、どう黒蛛病の克服に繋がると?

 

 

「何、単純な話さ。アリサ君とレア君が、君から聞き出した事だよ? 君が言う『ゲームシナリオ』の中で、どうやって終末捕食を食い止めた? 君が実際に見てきた黒蛛病は、君が言う『霊力』と同じ力を持っていると言う。古来から、『霊力』を高めるのに有効な手段と言えば? 人の強い感情、心を動かされた感動、それこそが終末捕食を退ける鍵だ」

 

 

 ……歌…と言うか、音楽。つまりは祭祀…一種のライブ?

 コジツケっぽいけど…。

 

 

「無論、流石にそれだけではない。しかし、黒蛛病を歌で抑え込める、葦原ユノという実例は、確かにいる。ならば、同じ事が出来る人間が他に居てもおかしくはないだろう」

 

 

 それはまぁ、確かに…。他に手段があるとしても、『実例』に近い所から探し始めるのは不思議じゃないですな。

 それでオーディション、と。

 

 

「フェンリルに対する悪感情を緩和する為の策でもある。また、仕事を作って回す事で経済的な循環を作り出し、雇用枠を無理なく増やす事もできる。要は手段、メリット、デメリット、その他諸々が集約された結果が、このオーディションという訳だ」

 

「そこで、だ。君もその審査員として、参加してもらいたい」

 

 

 

 

 

 

 は?

 

 

「は、ではない。現状、黒蛛病…血の力と霊力について、君以上の専門家は居ない。そもそもからして、このプロジェクトの発端になったのは君からの情報だ。無理矢理聞き出された情報を元に行動し、それに対して『責任を取れ』と言う気は無いが、自分の影響力というものをもう少し自覚したまえ」

 

「それに君、非公式の情報だけど、黒蛛病に感染したブラッド隊員をその場で完治させたんだって? 『実演者』が居れば、このプロジェクトにも箔が付くよ。……テレビとかの前で、実際に患者を治してもらわないといけないけどね」

 

 

 やるのは構わんけど、それって『次はこの人、次はこの人』『こっちも治してくれ!』ってコキ使われるパターンじゃねーかなぁ…。そりゃ出来るトコまでは治療するけどさぁ。

 『これ以上は無理』なんて言い出したら、患者を見捨てるクサレ外道呼ばわりがオチじゃん。

 

 

「それを防ぐ為、治療の手段をより多くするためのオーディションだ。…正直、このご時世にアイドルなんて物に関わる事になるとは、夢にも思わなかったが」

 

 

 同感ですな…。ああもう、やればいいんでしょやれば。

 ちゃんと狩りもさせてくださいよ。

 

 

 

 

 

 …と、こんなイベントがありました。むぅ、なんでいきなりアイドルオーディションなんか始めたのかと思えば…。

 どうせ探すなら、大々的にやって応募者を増やしたり、フェンリルのイメージアップに繋げようって発想はまぁ分かるけど。

 

 この後、アリサとレアと合流した。

 オーディションなんて展開になったのは、二人にとっても色んな意味で予想外だったらしく、苦笑いしていたものだ。

 

 

 

神逝月

 

 アリサとレアを連れて、極東見物。

 ブラッド隊も引き連れて、前回同様に銭湯に行こうと思っていたら、予想外の人と会った。…と言っても、昨日会ったばかりだし、アナグラに滞在するって言ってたから、不思議じゃないんだけど。

 

 

「…あ」

 

 

 ん? ……ああ、昨日の…えーっと、アイドルの…。

 

 

「リン。…改めて、お礼言っておくよ」

 

「? どちらですか?」

 

「この時期に穴倉に居て、ゴッドイーターでも技術者でも、フェンリル職員でもないって事は…オーディションの参加者かしら?」

 

 

 レア、正解。名前を聞いたのは、今日が初めてだけど。

 よく覚えてないけど、こっち(地球)に戻って来た時に、成り行きでアラガミから助けてたらしい。

 …ああ、そうだ。タケウチ社長に言っておいてほしいんだけど。

 

 

「…何?」

 

 

 個人的には応援するつもりだったけど、オーディションの審査役に収まってしまった。贔屓になると困るんで、応援に関しては極力ノータッチで行くから。

 

 

「……審査役? 何で?」

 

 

 あー…オーディションにも表沙汰にしてない…いやある意味してるけど…目的と算段があって、それの第一人者が俺だったってだけ。悪いけどこれ以上は機密になるんで言えない。

 

 

「…そう。よく分からないけど、分かった。代わりに、一つ聞いていいかな」

 

 

 内容次第だけど…。

 

 

「…助けられた時に見たんだけど……あの光、何?」

 

 

 …光? あの時の記憶が飛んでるんで、何とも言えないけど……ひょっとして、金色?

 

 

「そう。背中から出てたと思うんだけど。…アラガミをやっつけたら、すぐに消えちゃった」

 

 

 …多分、ブラッドレイジだと思うけど…これ、機密事項じゃないよな? ぶっちゃけ、現状では俺以外には使えないようだし、俺だって完全に使いこなせてる訳じゃない…と言うか、起動させられた事だって殆ど無い。

 …血の力っつー、一種の超能力みたいなものだとだけ言っておく。現状、ブラッド隊という一部のゴッドイーターのみが、ようやく使えるようになり始めてる力…の一端だ。

 

 ちゅーか、何でそんな事気にするんだ?

 

 

「アイドルに使えないかな、と思っただけ。自分から光るって、目立ちそうだし」

 

「物理的に輝けば、それは目立ちそうですけど。…それだけですか? 何となく、他に何かある気がするんですが」

 

 

 

 アリサに問われたリンは、少し困ったように目を背け、小さく息を吐いた。

 

 

「別に…。単に、何だかよく分からないけど、気になって仕方がないってだけだよ。あの時の光降りかかってきてから、気になって気になって…。アラガミに追いかけられてあんなに怖い想いをしたのに、気が付けばあの光の事を考えてる。私だけじゃなくて、一緒に居た他の人も、大なり小なりそういう傾向があるみたいなんだ」

 

「…貴方、何かした?」

 

 

 いや…正直、記憶もないし意識も飛んでたから、聞かれても答えようがない。

 そもそも、ブラッドレイジのあの光にそんな効果があるとは思えんし…。

 

 

「うーん……一人二人なら、『アラガミに追われた恐怖から逃れる為に、精神が無意識に目を逸らしている』という事もあるでしょうけど、全員が同じじゃねぇ…」

 

「集団心理と言う事も考えられるのでは?」

 

「…それを本人の前で言われても。…こっちから話を振っておいてなんだけど、悪いけどもう行くね。レッスンがあるから。…プロデューサーへの伝言は伝えておくよ」

 

 

 

 ん、頼むなー。

 …さて、妙な所で妙な縁が出来たが、行くとしますか。

 

 

「こうなった極東は、2度目なのよね? ブラッドの子達も連れて、何処に行く気?」

 

 

 んー、前回は銭湯が大好評だったから、まずそこ。

 GKNGにも顔を出しておきたいし、ロミオの元カノとやらも探しておきたいし、実を言うとアイドル達にも興味はあるし。

 

 

「一応言っておくけど…前回がどうだったのかはともかくとして、今は私もアリサも浮気なんか認めてないからね」

 

 

 ん、そこはカラダで認めさせるから大丈夫。

 と言うかリアル話、こっちから向かっていくにせよあっちから来るにせよ、レアとアリサのガードを抜けって普通に至難の業だからな? フツーは俺らの関係にドン引きするか、二人のレベル(外見的な)の高さに二の足踏むからな。それでも突っ込んで来ようとすると、性癖的なレベルの高さで三の足四の足を踏むだろう。

 

 

「最後はともかく、褒められてるんだと思っておきます。…と言うか、ひょっとして、さっきの話ってアレじゃないですか? ほら、因果がどうのこうのって奴」

 

 

 あぁ……あぁ、そういやそれがあったか! デスワープ直後だし、クサレイヅチとやり合った直後だったし、なんか因果とか因縁的な物が零れ落ちてたのかも…。言われてみれば、あれも光に見えるんだよな。

 と言う事は何か? その因果を浴びたあの子達は、MH世界でネンゴロになってたあいつらみたいに、俺に好意的な感情を持ってるって事?

 

 

「……真偽はともかく、ガードを強化する必要があるようね」

 

「しかもあの口ぶりだと、光を浴びたのはリンさんだけでなく、同じバスに乗っていた多くのアイドル……あ、そう言えばあのタケウチって社長も…」

 

 

 申し訳ないがホモ疑惑はNG。とは言え、現状では本当にこっちからちょっかいを出す気はないって。

 

 

「現状じゃなくても普通は無いんですよ! 私とママの間で認められてるからって、これ以上は許しませんからね!」

 

「体が保てばね…」

 

 

 最悪、この前にみたいに俺の罪悪感を刺激して、拘束してM役やらせればいんじゃね? それはそれで新しい世界が見える。

 

 

「それ絶対後で逆襲するじゃないですか。プレイならともかく、真面目な話だとちょっと…。まぁいいです。私とママでガッチリガードしてればいいんですから」

 

 

 はいフラグ立った。…それで納得する辺り、チョロいと言うかなんというか…。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そーゆー訳で、ブラッド隊を引き連れて極東に繰り出した訳だ。

 レアとブラッド隊の再会で盛り上がったりもしたが、まぁ置いておこう。そういや、ジュリウス・ロミオ・シエルとは顔馴染みなんだよなぁ。尤も、どうしてレアがラケルてんてーから離れたのかは、気付いてないようだけども。

 

 

「さて、まずは何処に行く? と言っても、何処に行っても驚異的な光景しか見られそうにないが」

 

「はいはい! それじゃまずはご飯食べたい! 食べ歩きって、一回やってみたかったんだ!」

 

「ま、極東以外じゃ、まず無理な話ですね…。増して、美味しい料理ともなれば」

 

 

 飯か…。おすすめスポットとかは分からないから、鼻が導くままに進んでみますか。

 いや、折角だからナナ、先頭歩いてみるか? お前の直感に任せる。

 

 

「ん~~~………こっちかな?」

 

 

 楽しさが抑えきれないと言いたげに、ナナは軽快に歩いていく。…ここら辺も随分治安がよくなったもんだなぁ。3年前は完全にスラムだったのに。

 それ以外にも、道端を歩くだけで目に入る草木に何度も目移りしているようだ。

 

 

「3年間見守って来たけど、感慨深いわね…」

 

「レア博士は、この光景を見慣れているんですか?」

 

「見慣れているって程でもないけど……ちょくちょく極東に戻ってきていたの。GKNGとも、そこそこ顔見知りよ」

 

「最初は小さな農園だったのに、途中から規模が一気に膨れ上がったんですよね…」

 

 

 そりゃ、この植物達だもんなぁ…。GKNGの尽力に、こいつらの生命力が合わさればこうもなるか。

 …ん? なんか、向こうの方、騒がしくないか?

 

 

「ホントだ…あっ、でもあっちから美味しそうな匂いがする! …決めた、最初はあそこのご飯! 突撃ー!」

 

「待ってくださいナナ! 何かトラブルかも…」

 

 

 周囲を警戒もせずに突っ込んでいくナナに、それを止めようとするシエル。…食い意地全開のナナを止めるのは難しかろう。

 しかし、ホントに何事だ? 騒ぎは起こっているようだが、物騒な気配はしない。

 周囲も騒ぎ立てたり不安がったりしている様子はなく……? いや、むしろ落ち着いている? 

 いや、むしろ自分から走っていく人も居るな。

 本当に何事だ?

 

 

 放っておくわけにもいかず、追いかけた先にあったのは…………屋台?

 そんなに珍しい物じゃない。いや、この世界で木製の屋台とかむしろ貴重かもしれないが、言っちゃ悪いが素人の手作り感満載の屋台だ。

 

 売ってるのは………こりゃパスタか? ナポリタンか? スパゲティ? とにかく麺類のようだ。

 …美味そうだな。作っているのがカワイイ子なのもポイントが高い。

 しかし、そう騒ぐ程の事でもない気がするが…。

 

 ナナは既に屋台に取りつき、料理が出来上がっていくのを齧り付き…もとい、かぶりつきで眺めている。

 

 

 ま、飯としちゃ丁度いいか。おねーちゃん、いくら?

 

 

「ちょっと、聞き方が何だかイヤらしいわよ」

 

 

 そんなつもりはないんだけど!? レアに言われてちょっと真面目に傷つくが、料理しているねーちゃんは笑ってとんでもない事言い出した。

 

 

「おっ、お兄さん達、極東は初めてっすか!? だったらお代は要らないッス! 食べていくといいっすよ!

 

「いいの!?」

 

「ナナ、待て! …いや食べるなと言ってるんじゃない、好意はありがたいが、対価は支払わないと」

 

「いいんすよ! ここにある分、皆に食べてもらう分スから!」

 

 

 …は? え、何、無償提供? マジで? 何で?

 

 

「そうッス!」

 

「おや、ゴッドイーターさん達かい。…まぁ、色々あるが、ここじゃどうこう言わねぇよ。いつもの事なんだ、コレ。この後、ペパロニの嬢ちゃんがドゥーチェに怒られるまでがワンセット」

 

 

 近くに居た、見るからに土方の兄ちゃんが教えてくれる。頬にケチャップらしき後がついているが、ヤローがそんなのしても可愛くはない。

 しかし、いつもの…? アリサ、レア、知ってる?

 

 

「噂だけなら聞いた事がありますが…。極東地域はともかく、ゴッドイーターは下手に出歩くと一般人に絡まれる事も多いので

 

「ドゥーチェ? ドイツ語で『総統』だったわね。愛称かしら」

 

「へぇ、本名じゃないのは知ってたけど、そんな意味だったのか。ま、なんだ。あんまり差別意識を持ってるつもりはないが、喰うなら一杯だけにしとけよ。俺達と違って、稼ぎがいいんだろ」

 

 

 稼ぎ……稼ぎ…。そういや、今の俺の収入って…。

 

 

「…正式にブラッド隊に所属している訳ではないし、教練を取ってはいるが…そう言えば、給与の話はした事がなかったな…」

 

「あれ、教官って極東支部所属のゴッドイーターなんじゃないの?」

 

「いや、俺達が保護した一件で、一般人を殴り倒しちゃってるし…機密扱いで一般のゴッドイーター扱いはされてない筈だし…。下手すると、フェンリルに所属しているって事さえ認められないかも」

 

 

 つまり、俺無職!? 俺がニート!?

 そりゃ、狩り以外ではあんまり取り柄がないけど! …あ、でも不治の病を治療できるって特技が…。

 

 

「不治なのに治るのか」

 

「そこはノーコメントで頼む。一応、機密事項なんでな」

 

「…相変わらずフェンリルは胡散臭いな。まぁとにかくだ。ペパロニの嬢ちゃんのコレは、一種の名物でな。その場のノリで、手元にあった食料を全部料理しちまうんだよ。で、捨てるのも持った無いからって事で、近くにいる連中にどんどんやっちまうんだ」

 

「…あの、それってお店として…」

 

「成立してないな」

 

「何でそれで続けられるのかしら…」

 

「色々あるんだよ。あんたらみたいなのには、分からないかもしれないけどな。まーともかく、一杯だけ食ってけ食ってけ。ペパロニの嬢ちゃんの飯は美味いぞ。そんで、次に来た時にはちゃんと金払えよ」

 

「いや、だから今回もちゃんと支払って…」

 

 

 ジュリウス、そこまでにしとけ。

 無償で奢られるのは性に合わないかもしれないが、好意を固辞するのも失礼だぞ。

 

 ロハが嫌だってんなら、別の形で返すといい。ゴッドイーターにはゴッドイーターの恩の返し方があるだろ。分かりにくいやり方でもな。

 

 

「…そうだな。では、いただこう。………ほう…これは確かに…」

 

 

 いい腕してるね。ナナが大歓喜しとるわ。

 

 

 

 

 

 …ところで、さっき言ってた「ドゥーチェ」らしき女の子が、物凄い勢いと剣幕でこっちに向かってきてるんだけど、何事だろう。

 



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326話

ネット環境、ようやく復活~~!
いや~、不便極まりなかったっす。
レス返しもできないし、文献もロクに調べられない、動画も見れないニュースも見れない。
やっぱ執筆するなら、それなりの環境が必要ですね。
とりあえず書き溜めは結構できたので、投稿は続けられそうです。

EDF5とMHWにドハマりしなければね!
うーん、MHWは絶対延期すると思ったのになぁ…。
ベータテストの結果って、すぐには反映できないだろうに。

とりあえず、頂いた感想に返答をさせていただきます。
時間が無いので、ちょっとずつですけども…。


神逝月

 

 

 今日も今日とて、極東をフラフラ歩き回る。前回は風呂と飯屋くらいしか行かなかったけど、思ったより色んな施設があるな。

 ブラッド隊員は、思い思いに極東を探索している。…昨日は風呂に連れて行こうかと思ったけど、できなかったんだよな。今度は露天風呂がある所を探して誘ってみよう。

 

 で、俺はと言うと、昨日の話でニート扱いだったのがちょっと傷ついたので、改めて雇ってもらえないかと、支部長に相談に行ったのだが。

 

 

「駄目だ」

 

 

 …あの、せめて理由を。

 

 

「率直に言えば信用できん。かつて君は、私を裏切ったろう? …世界を滅ぼそうとした私を裏切っても、何の不思議もないが」

 

 

 そりゃまぁ…元々、お互いに利用し合うだけの付き合いでしたし?

 

 

「これでも、中々厄介な立場に居るのでな。あまり爆弾を抱え込むような事はできん。ゴッドイーターとして君を扱うなら、ラケル女史が隠蔽した一般人への暴行が問題となる。ゴッドイーターではない『何か』として君を扱うなら、かつての君の所業…終末捕食発動への協力がネックとなる」

 

 

 つまり、支部長とフェンリルにとって都合が悪い、と。

 

 

 

 

 

 トカゲにシッポを切られた? 俺シッポ?

 

 

「そうなるな。……が、私とて全く話の分からん男でもない。君を雇う事はできんが、その真の理由について教えてやろう」

 

 

 …真の…理由? トカゲのシッポ切りが建前だと?

 

 

「うむ。まーなんだ、それを教える事が、私を裏切った君への意趣返しにもなるかと思ってな」

 

 

 急に口調が軽くなりましたな、支部長。その口調でソーマとも話してやったらどうです?

 

 

「シオ君とは普通に話せているから問題ない。あと、いい加減に息子とくっつけたいから知恵を貸したまえ。…とにかく、君を雇えない真の理由だが…………女は怖い、と言う事だ」

 

 

 …女? 今、現状で関係がある女っつーたら、レアとアリサだが?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 は? 放置しておくとまた月か別の世界に行ってしまいそうだから、何もさせない? まず経済力から削る?

 

 

 

 

 

 

 ……どうやら、二人が計画した俺を監禁するプランは、未だに蠢いているらしい。

 

 

 

 

 しかし、あの二人のヒモになれとゆーなら、悦んでなってやろうではないか。

 

 

 

 

 …とは行かないよなぁ。イヅチが来るだろうしよぉ…。

 ……ああでも、あの二人がそうしろっつーなら……いやしかし…。

 

 

 

 

 

 

 

神逝月

 

 

 どうにも、アリサとレアに対して、今までとは違う感覚がある。よーな気がする。

 多少嫌な事でも、あの二人のする事なら受け入れてしまいそうな。具体的には、「ハンター止めろ」と言われたら、割と真面目に悩むレベル。

 今まで通りに好きだよ? 俺なりに、だけど。…それが所有欲から来る物であっても、愛おしいと思うし、孕ませたいと思うし、幸せそうな顔を見ると、なんかこう…満たされる。

 

 でも、その他にもなんかあるような気がするんだよ。…………考えてみりゃ、ある意味特別なのかなぁ…。

 今までずっと、ネンゴロになっては死別し、忘れられ、次は全く近付かなかったり、同じようにネンゴロになる機会があったりしたけど…もしも、GE2の時期から始まる現象が今回だけではないとすると、記憶や愛情、思い出を共有してくれる二人が現れた事になる。

 

 …不思議な気分だ。処理しづらい感情が、湧き上がってくる程には。

 

 

 

 

 

 自分でも分かる程度には、ムズカシイ顔して歩いていたら、意外な出会いがあった。

 タケウチ社長…だったっけ? 一昨日ぶりですな。

 

 

「む…どうも。お元気そうで、何よりです…。…何やら…難しい顔をしているように見えましたが」

 

 

 そうですか? …まぁ、確かに悩みっちゃ悩みでしたが、贅沢な悩みと言うか、幸せな悩みと言うか…。まぁ、深刻なモンじゃないですよ。

 ……気のせいかな、なんだかちょっと壁を感じるような…。いや元々そんなに親しい訳でもないし、目の前で同業者をフルボッコにしちゃったらしいし、無理もないかな。

 

 

「そうですか。……そう言えば…オーディションの審査員になったとか。どのような経緯で?」

 

 

 支部長と榊博士から要請されて…としか言いようが。

 前にもそちらさんのアイドル……確か、リンさんでしたか…に話しましたが、オーディションには目的があって、それの専門家が俺だったってだけです。

 

 

「…どのような目的、専門分野なのか、聞く事は…」

 

 

 …言ってもいい部分なら、もう公開されてます。少なくとも、『第二の葦原ユノを探せ』の言葉に嘘は無いですよ。

 

 

「…そう、ですか。………。フェンリルが何故、突然このような企画を立ち上げたのか…疑問に思ってはいましたが」

 

 

 ま、いきなりアイドルだもんなぁ…。

 ………あの、タケウチ社長、こっちから一つ聞いていいですか?

 

 そもそも、何でこのご時世にアイドル会社なんてやってるんです? おかしいともバカバカしいとも思いませんが、単純に不思議なんですよ。

 設ける手段なら、山のようにあるでしょ。…特に、この極東は金の生る木が山脈規模で群生してるようなもんですし。

 

 

「………ええ。確かに。この極東地区は、3年の間に大きく変わりました。ここでは珍しくなくなった…例えば果実などを持ち出すだけでも、相当な儲けになるでしょう。………ですが、『人はパンのみにて生きるにあらず』とも言います」

 

 

 そりゃ、パンしか食わないんじゃ栄養に偏りが出ますからな。

 

 

「…そういった意味ではないと思いますが…。……問いかけに問いかけを返すようですが…貴方は、人が生きる為に最も重要なのは、何だと思いますか?」

 

 

 図太さ。

 

 

「…………」

 

 

 図々しさ、生き汚さ、狡猾さ、厚顔、バイタリティ。総じて言えば、活力ですかね? 俺の場合は精力と限りなく近い生態してますけど…。

 

 

「…ひょ、表現はともかく…私も、人が生きるのにおいて、最も重要なのは…活力だと思っています。3年前の……いえ、極東の外に出れば、今も続いている…明日どころか、その瞬間の腹を満たす事さえ満足にできない、滅びる寸前の世界…。その中を人々が生き延びられたのは…その活力があってこそです。苦境を乗り切り、より良い明日を掴み取ろうとする…その活力があって、それによって活動してきたからこそ……今の極東があるのだと思っています」

 

 

 ふむ。一人一人が、より良い環境を作ろうとした結果、この緑に溢れた極東がある…と。一理ありますね……緑の出所はともかくとして…。

 確かに、俺は種を渡して育て方を教えはしたけど、それ以上の事はやってない。目先の利益に囚われず、緑を、食い物を、より増やそう、広げようとしたのはGKNGを始めとした極東の人達。切っ掛けを捕らえ、実現させたのは間違いなく彼らである。

 

 

「そして…活力の元になるのは……『笑顔』です」

 

 

 タケウチ社長は、無骨で表情筋に乏しい(言っちゃ悪いが、殺し屋と言われた方が納得できそうな)顔を、自分の指で動かして笑顔を作って見せた。

 …心の底から、この持論を信じているのだろう。不格好な笑顔なのに、妙に明るく、愛嬌がある。

 

 

「嬉しい時…楽しい時…人は、笑います。例え辛い時でも…笑う事で、『負けるものか』と気合を入れ直す事ができます。何より……笑顔は…誰かに活力を与える事ができます。人は、自分が笑う事と…誰かを笑わせる事を求めて…生きているのです」

 

 

 だから、アイドル?

 

 

「はい。多くの人達に…笑顔を振りまく、今の世界に何よりも必要な職業です。少なくとも…私はそう思っています」

 

 

 

 

 

 

 ……………。

 

 

「……あの、何か?」

 

 

 いや…なんつーか、文句言ってる訳でも皮肉な訳でもないんだけど、もうタケウチ社長がアイドルになったら? と思って。

 

 

「…私…ですか? 私のような、不愛想な男など…。…………スカウトの途中、不審者扱いをされ、職務質問をされた事も何度もありますし」

 

 

 お、おう…。いや、何か知らんけど、リンさん達みたいな普通のアイドルを差し置いて、事実上のトップアイドルみたいな扱いになる未来が見えた気がして。戯言っすわ。忘れてください。

 まぁ…応援しますよ。オーディションで贔屓云々はともかくとして、いい理念だと思います。

 俺達ゴッドイーターは……いや、今は違うけど……戦う事しか出来ませんから。極東じゃ飯もそこそこ食えるようになってきてるし、そうなりゃ今度は人生の楽しみを充実させる時期です。

 

 頑張ってくださいな。

 

 

「…はい。ありがとうございます」

 

 

 それだけ会話して、タケウチ社長とは離れた。…やっぱり微妙に警戒されてる気がする。さっきの持論は完全に本気で本心だったみたいだけど、まだちょっと壁が…。俺が離れた後、張っていた気が漏れたように、小さく溜息を吐いたのが聞こえた。

 何だろな…。元々不愛想な人みたいだが、あまり人見知りするタイプじゃなさそうなんだが…。

 

 むぅ、出来れば仲良くしたいもんだ。アイドルとお近づきに…って意味じゃなくて、単純に気に入った。いい人徳持ってるわ、あの人。

 

 

 

 

 

 さて、経済的な拘束を狙っているアリサやレアへのオシオキを考えつつ、極東をフラフラ歩く。

 ブラッド隊は、今日は総出で任務に出ている。事実上の極東デビューだ。

 

 

 …疲れ果てて帰ってくるだろう。銭湯に連れてってやるか。

 

 

 露天風呂がある銭湯を探して歩き回っていると、怒鳴り声が聞こえてきた。

 喧嘩かな? と思って野次馬に行ったら、先日の……ペパロニ、だっけ? あの屋台の嬢ちゃんが、ツインテールの女の子に怒られている。

 またロハで食材一掃セールしたのかな? と思って聞き耳を立ててみる…。

 

 

 

「だからお前は、何度言っても! 何度も何度も! 料理が好きなのはわかったから、せめてちゃんとした料金を貰えと!」

 

「勘弁っすドゥーチェ~!」

 

 

 ……またやったらしい。と言うか、そんなに何度もやってるのか。

 そんなんで、よく店を続けてられるもんだ。経営的にみれば、売り上げを得られない上、食材の大量ロス(実際には使っていたとしても、金が取れてないんじゃね)。どんだけ損失が出るか、考えたくもない。

 普通に考えれば、あの嬢ちゃんは責任問題で、即座に首チョンパになってもおかしくない。少なくとも、ああやって店を任せたままでいられる筈がない。と言うか、食材を確保する資金すら無くなって、店を出す事すらできなくなっちまう。

 

 

 ……ちょっと興味湧いたな。

 

 

 

「全く…。もうやっちゃったものは仕方ないから、ここまでにしておくけど…ホンットーに、これ以上は止めろよ? やったら怒るからな」

 

「はいっす…」

 

「それじゃ、私は練習に戻るから。屋台の片づけは、他の皆にも手伝ってもらえるように声をかけておくよ」

 

 

 …説教を切り上げ、練習とやらに向かおうとするドゥーチェ。何だか慣れていると言うか、予定調和的にやってるっぽいな。と言うか、結局説教だけして、具体的な処罰は何も下していない。

 どういうつもりなんだろうか…。

 

 屋台から離れているドゥーチェの後を追い、どう声をかけたものかと悩んでいると、広場に出た。

 そこには何人かの少年少女が屯しており、それぞれ手元で何か作業を行っている。……内職…かな?

 

 

 

「あ、ドゥーチェおかえりなさい! ペパロニはもういいんですか?」

 

「よくはないけど、いい。もう今日は店仕舞いだから、手伝いに行ってやってくれ」

 

「はーい。それじゃ……あれ、誰かいる」

 

 

 あ、気付かれた。視線が一気に集中する。

 

 

「誰~? この空き地は、私達チーム「あんちお」のものだぞ~!」

 

「アンツィオだ、アンツィオ…。で、誰だ? この辺りでは見ない顔だけど」

 

 

 名乗る程の者でもないんで、イエローベアと呼んでくれ。蜂蜜好きの奴な。…丁度無職だし。

 名前はともかく、あっちの屋台の…ペパロニって嬢ちゃんに、美味い物食わせてもらったもんさ。

 

 

「ああ、ペパロニのお客さん?」

 

 

 金払ってないんで、客と言えるかは微妙だけどね。

 礼でもできればなーって考えてたんだが、そっちの…うん、そっちのドゥーチェとやらが怒ってるのが気になってさ。

 

 ちゃんと対価を貰えって怒るのはよく分かるんだけど、あの嬢ちゃん、今まで何度もやってるんだろ? どうして監視もつけず、ペナルティも説教だけで終わらせてるのかなーって。

 

 

「ん? あぁ…まぁ、何だ。やっちゃったものは仕方ないし、監視をつけようにも、正直言ってウチの連中の頭とノリは、大体似たようなものなんで…」

 

 

 目を逸らしながら言うドゥーチェ。何と言うか……本心を言ってる訳ではないんだが、事実を言ってる感じだな。相当に苦労しているらしい。

 しかも理由になってない。

 やるだけ損しか出ないのなら、止めてしまった方がまだマシだろうに。

 

 

「……言いたい事は分かるんだがな…。まぁ、ちょっと入れ。……? アンタの顔、どっかで見たような気が…」

 

 

 そうか? 初対面…いや、先日食わせてもらった時にすれ違った程度だと思うぞ。

 

 

「ま、いいけど…。丁度、初めて聞く人の意見も欲しかったところだ。一曲聞いて行ってくれ」

 

 

 ? ? ? 

 

 

「ほら、あれあれ。シンデレラオーディション! あれにドゥーチェが出るんだよ! 私らも揃って応援するんだ!」

 

 

 ほう…。何だ、アイドルになりたいのか?

 

 

「それも無いとは言わないが、もっと大きな立場を手に入れる為だな。…変な意味じゃないぞ。私は……まぁ、こいつらを纏めてる立場にあるんだけど、もっと高い立場に立てれば、色んな事ができるだろ。そうすれば、こいつらに楽させてやる事だってできるからな」

 

 

 へぇ…大したガキ大将だ。

 と言うか、ドゥーチェって渾名?

 

 

「どっちかと言うと、愛称。本名はアンザイっていうらしいけど」

 

「ばらすな! せめてアンチョビと…」

 

「ガキ大将なんかじゃないわ! ドゥーチェは、今をときめく、あのGKNGの幹部なんですからね!」

 

「やめろって…私なんてまだ下っ端もいいとこだよ。そりゃ、こうやって人を集められるから、割と便利に使われてるって自覚はあるけど。じゃ、一曲行くぞ! 忌憚ない意見って奴を頼むな!」

 

 

 そして始まる……なんだ、このテンポは多分どっかの軍歌か何かだと思うが。

 小さなラジカセと、近くにいる数人の口笛やパーカッションによるバックミュージック。

 

 味があると言えば味があるが……やっぱ、素人だなぁ。練習を重ねた素人だってのは分かるが。

 だけど、詰まらなくはない。

 

 

 

「~~~~~!」

 

 

「「「「ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ!」」」」

 

 

 すげぇ一体感。歌の技量を補って余りあるくらいに、周囲の観客…あんちおチームのノリがいい。

 ただ、やっぱドゥーチェの技量はな…。ユノやプリズムの歌を知ってるから、ハードルが高くなりすぎてるのかなぁ…。

 と言うか、ドゥーチェコールが凄すぎて、歌が半ば以上聞こえない。

 

 しかし、あのオーディションには結構な人数の応募者が居た。そもそも、ガチ…と表現していいのかはともかく、本職のアイドルまで出場するのだ。言っちゃ悪いが、技量で言えば遠く及ばない。

 やるなら、この一体感で勝負をかけるべきだろうが…。

 

 

 そんな事を考えてると、隣に座っていた子が話しかけてきた。

 

 

「なぁなぁお兄さん、さっきペパロニの事気にしてたよね?」

 

 

 ああ。正直に答えてくれそうにないから、諦めたけど。何かあるのか?

 

 

 

「んー、あれね、本当はドゥーチェも止めたくないんだよ。ペパロニの夢は、沢山の人に料理を食べてもらう事。それ以上に、私達や極東が、こんな生活ができるようになったのは、あの子のおかげだって思ってる」

 

 

 …どういう事?

 

 

「まだ緑が少なくて、殆どご飯が食べられなかった頃から、ペパロニはああだったんだ。後先考えずに、腹が減ってる人に食べさせる。…そりゃ、私達のチームにとっては大損害かもしれないけど、他の人達はどうだと思う?」

 

 

 3年前…。飢えて治安も最悪だったあの頃に、その所業…。……聖人かな? 飢えて死にそうな時に差し出されたパンは、満漢全席より価値があると言うが…。

 と言うか、そんな真似を何度もしてたら…。

 

 

「うん、『恩返し』って言って助けてくれる人が物凄く居たよ。ペパロニは全然自覚してないし、理解もしてないみたいだけど。損害はあったけど、長い目で見れば大きすぎるくらいのリターンがあって、ペパロニのおかげで生きる気力が沸いてきたって人も沢山いる」

 

「実際、ここまで極東が復興したのって、そうやって働き始めた人が増えたから…って言われてるくらいだからね。止めようったって止められないんすよ」

 

 

 そりゃ、今だって全員が、充分飯が食えてるとは言い切れないもんなぁ。無理に止めさせたら反感を買うし、人脈も途絶えかねない訳か。そりゃ怒りはしても止められんわなぁ…。

 

 

「ドゥーチェ個人としても、できれば続けさせてあげたいって思ってるしね。…だから、格安でもいいからちょっとでもお金を貰え、って何度も言ってるんだけど」

 

 

 あの嬢ちゃんの事だから、「ちょっとしか貰わないんじゃ、何もないのと同じっすよ! いいから食べてってください!」とか言い出しそうだな。 

 しかし、ドゥーチェって慕われてるんだなぁ。ペパロニの嬢ちゃんだって、散々叱られてる筈なのに、反発もしてないみたいだし。

 

 

「そりゃ、私達のリーダーですもの。さっきも言ったけど、ドゥーチェは本当は『アンザイ』って名前だったんだよ。でも、孤児の私達の面倒を見ている間に、自分の名前も知らない子が増えて…その子の名前が、切っ掛けは分からないけど『カルパッチョ』になったのね」

 

 

 おもっくそ飯の名前じゃねーか。

 

 

「そーね。それを気にしてたカルパッチョを励ます為に、自分から『アンチョビ』って名乗り始めて…それから、私達のチームでは、呼び名をご飯や調味料の名前にするルールができたの」

 

 

 はぁ…たった一人の為に、名前まで変える…か。面倒見がいいってレベルじゃないな。この慕われようも納得だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~~………。ふぅ…ど、どうだった?」

 

 

 ああ、楽しめたよ。 思わず俺もドゥーチェコールしちゃうくらいに。

 ただ…忌憚のない意見、と言われたから言うが、やっぱ素人だな。歌詞も覚えきってないだろ。口籠った部分が、幾つかあった。

 

 

「む…。分かるか…。やっぱり、本来の歌詞が分からないのは痛いなぁ…」

 

 

 つか、何でそんな曲を練習してるんだ。

 

 

「そりゃ、こうでもしないと勝ち目がないからに決まってる。聞いた話だと、本職まで出るらしいからな。聞き慣れた曲じゃ負けるのが確定してるから、こうして珍しい曲で勝負しようとしたんだが…」

 

 

 ダメだったかなぁ、と落ち込むドゥーチェ。

 んー、別に悪いとは言わないよ。ただ、審査員になるらしい極東支部の博士やら支部長やらは、何ヶ国語話せるか、数えるのも面倒だって連中だから、これで意表を付ける…という考えは捨てた方がいい。

 

 

「うぇ…」

 

 

 本職も出場するって話だから、歌のテクニックでの勝負は最小限にすべきだろうな。

 俺も素人目線だから、あまり確かな事は言えないけど……持ち味を生かせ、かな。

 

 

「持ち味っすか? ドゥーチェの持ち味……味……ドゥーチェ、ちょっと舐めてみていい? ペロペロしていい?」

 

「やめろバカ。私の持ち味って言うと……………」

 

 

 チーム・アンツィオ。その結束かな。

 さっきのドゥーチェコール、あれは絶対に活かすべきだ。言ってみれば、本職達にもそうそう居ないくらいの強烈で熱烈なファン、親衛隊がついてるようなもんだぞ。

 多分、どの出場者よりも大きなアドバンテージを持てるだろうな。

 

 

「……そ、そういうものか?」

 

 

 ああ、そういうもんだ。

 特に、今回のオーディションは、歌の上手さだけを競うものじゃない。詳細は言えないが、『如何にして人の感情を強く動かすか』がカギになる。

 この子達、応援に行くんだろ。初めて会った連中も、審査員も、纏めてドゥーチェコールに巻き込んでしまえ。

 

 チーム・アンツィオの結束力とノリの良さが、何より強い味方になってくれると思うよ。

 

 

「いくら何でも、ファンタジーすぎると言うか、楽観的すぎる気もするけど…でも、それなら確かに勝ち目があるな! チーム・アンツィオの結束力は世界一だ!」

 

「ノリすぎて失敗する癖もね」

 

「それも、あんちおの味! …ところで、ペパロニがまだ戻ってこないね?」

 

「まだノリでバカな事やってるな! 止めてくる!」

 

 

 休憩もそこそこに、ドゥーチェはどっか走って行った。

 …大丈夫かな。追いかけた方がいいか? まぁ、話の通りなら、ペパロニの嬢ちゃんに妙な事をする奴は、周囲からタコ殴りの上にムラハチっぽいし、危険な気配も感じないから大丈夫かな。

 

 

 まぁ…色々と収穫もあったな。リンさんやタケウチ社長に負けず劣らず、素直に応援したい子達だよ。

 

 

 

 



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327話

MHWベータテストやりました!
うぉぉぉ大自然! 細かい! 超印象が違う!
4人がかりでギリギリでしたが、ネルギガンテも撃破が間に合いました。
ベータテストの1時間前。残り制限時間は3分です。
一番厄介だったのは、攻撃力よりも時間制限やな…。

まずは歩き回って地理とアイテムの有る場所を頭に叩き込まないと…。
時間無制限で歩き回れるクエストがあるといいんですが。
大型モンスターの後をこっそりストーカーして、生態系を見物するとかしたいなぁ…。
いつもの採取ミッションでも、時間制限ありそうだしなぁ…。


EDFも何とかクリア。まだノーマルのみですが、MHWと交互にやるかな…。
ラストステージのアレより、その手前の方が厄介だった。
やっぱ戦争は数だよ…。


神逝月

 

 

 今日はナナ達の訓練に付き合った。

 うん、ジュリアスは流石に完成してる。ロミオも隙が無いし、いいレベルで纏まってきてる。

 ギルは攻撃に寄り過ぎてる所があるな。シエルは効率重視だけど、その分型に嵌った行動に走りやすい。逆にナナは、接近戦だけが飛び抜けていて、効率もクソもない選択をするのに、結果的にベターな選択肢を選んでいる。

 

 

 …別にいいけど、いきなり何で訓練してんのよ? いや、今までも教練はしてたけどさ。

 

 

「………どうもこうもない。極東の洗礼、という奴を受けただけだ…。ここ数日、極東の様子をあれこれ見て回って、浮かれていた事を嫌と言う程自覚させられた…」

 

 

 ああ…。まー確かに、一見すると極東は極楽だもんな。

 背後に潜むアラガミの脅威に、直面してしまったか…。

 

 

「教官、それだけじゃないっす。脅威はアラガミだけじゃないっす」

 

 

 ? …そりゃ、確かに驚異的なモノは多いが…。どれの事だ?

 

 

「…お前が、前に言ってただろう…。極東には、俺達よりもうまく動ける一般人すら居る、ってな…。あの時は、俺もジュリウスもタチの悪い冗談だと思ってたが…」

 

「私達なんか、まだいいよ。シエルなんか、理解できないものを見て、昨日から延々と頭を抱えて唸ってるもん」

 

 

 

 ……あぁ…。寄植種を散髪する、逸般市民(修羅勢)に遭遇してしまったか。そりゃプライドに罅も入るわ…。

 

 

「……まさか、あんな小さな女の子まで、あんな動きをするなんて…。どう見ても、まだ10歳ちょっと…。これまでの厳しい訓練は一体…。ロミオは余裕そうだな?」

 

「プライドと言うか、自信が揺らぎはしたけど、こういう事もあるかなって。だって極東だし」

 

 

 極東の扱いってそういうもんよね。

 ……ちなみに、さっきからこっちを伺っている気配については気づいてるか?

 

 

「ん? あぁ、それは流石に気付いている。特に隠れようともしていないようだしな。…ゴッドイーターではないな。これは戦う者の気配ではない」

 

「へぇ、気付いてたんだ?」

 

 

 そう言いながら、訓練室の奥から出てきた一人の女の子。泰然自若としているが……なんかちょっと動揺してるね。

 不法侵入者…の筈はないか。一般人がここまで入ってこれる筈がない。

 

 

「えーっと、確か…オーディションに参加してる…」

 

「ミカだよ。未来のトップアイドル、カリスマギャルに会えて、ラッキーだね」

 

 

 ギャルってアンタ。…それ、芸風?

 

 

「本気だよ!」

 

 

 お、おう。 カリスマはともかく、自分でギャルって…。

 古い…のか? いや逆に、この世界では一周回って新しいのか? 女子高生って立場すら残ってるか怪しい時代だもんな。

 

 …それはいいんだが、ここで何やってたんだ? 許可なしで入れる筈がないから、ちゃんとした手続きを踏んだんだろうけど。

 

 

「ん? ちょっと下見と、後はアナグラの奥なんて滅多に入れる場所じゃないから、見物をね。そしたらお兄さん達が入ってきて、なんだか真剣に訓練してるみたいだったから、暫く見てたってワケ。邪魔するのも悪かったしね」

 

「下見? …ああ、そう言えばオーディションの為の訓練があるって聞いたな」

 

「レッスンって言ってよ。…にしても、ゴッドイーターの訓練って大変なんだね。アタシ達もレッスンは厳しいけど、ここまでは…」

 

 

 まぁ、ゴッドイーターは体が強化されてっからな。多少撃ったり斬ったりしても、大した傷にはならないし。

 そういうトコがバケモノ染みてるって、普通の人から毛嫌いされるんだろーけど。

 

 

 その程度でバケモノとは、ヘソが茶を沸かすのー。

 

 

「教官、ゴッドイーターがバケモノじゃなかったとしても、あんたは充分バケモノです」

 

 

 バッケモノではない。アンノウンと呼べ。割と自分でもよく分からない生物だし。

 

 

「自虐ジョーク言えるくらいなら、大丈夫っぽいね。本当に。…ところで一つ聞きたいんだけど、そっちのお兄さん」

 

「ん? 俺か? ゴッドイーターとしての機密事項については、何も言えんが」

 

「そうじゃないよ。さっき言ってた、10歳ちょっとの女の子。どんな子だった? 寄植種相手に、何をやってたの?」

 

「どんな…と言われてもな…。快活そうな子だったぞ。そういえば、八重歯が印象に残っているな。ドレッドパイク…ああ、虫型の小型アラガミを抱え上げた時は、肝が冷えた。…その時に限らず、冷えっぱなしだったがな」

 

 

 それはまた…。大した度胸だな。

 学習した寄植種は、確かに散髪(?)の間は大人しくしてるが、暴れない訳じゃないのに。

 

 

「上手い抱え方だったぞ。背後から抱き上げて、足と足の間に腕を通し、ドレッドパイクの構造上、何もできない状態にしてしまった」

 

「その間に一緒に来てた人達が、ドレッドパイクの角についてる果実をもぎ取ってたよね」

 

「どう見ても手馴れてたな…。少なくともドレッドパイクが相手の時は、いつもああやっているらしい。作業が終わった後は、ドレッドパイクを開放して『また遊ぼうね』なんて声をかけてたぞ」

 

「………あの子は…。危ないからやめろと、何度も言ってるのに…」

 

 

 知り合いか?

 

 

「…私の妹。虫…特にカブトムシが大好きで、何処にいても捕まえてくるの」

 

「ドレッドパイクは、カブトムシではないと思いますが…似ては……いるでしょうか」

 

「少なくとも、あの子はお気に入りなの…」

 

「あの子がな…。………ゴッドイーターの適正は…無いか?」

 

 

 あったらスカウトでもするのか?

 

 

「専門の訓練を受けた訳でもないのにあの動き方…正直、非常に惜しいと思うのは確かだ。俺達の自信に、最も大きく罅を入れた子だしな…。それ以上に、生身でアラガミに抱き着くよりいくらか安全、とも思う。…代わりに、アラガミとの死闘に身を投じるから、収支赤字だが」

 

「ダメだよ。あの子にそんな事はさせられない。……勝手にやってるけど…。大体、アタシもあの子もゴッドイーター適正は低いよ」

 

 

 あ、そーなの。それは良かったのか悪かったのか。

 ま、危ない事を平然とやるのは子供の習性だ。しっかり叱ってやってくれ。というか、周囲の大人は止めなかったんだろうか…。

 

 

「止めるに止められないか、止める必要さえ感じてないんだと思うよ。…あの子、実はGKNGの中でも上から数えた方が早いくらいの大幹部でさ…」

 

「あんな子供が…? いや、年齢はともかく、GKNGというと極東の植物を広めようとして、かつ管理している団体だろう。それが何故、アラガミの捕縛に出てくる」

 

「アラガミから採れる果実も、GKNGの研究対象になってるんだよ。食べられる物だし、植えて増やしてもいいんじゃないか、ってさ。元がアラガミから採れた物だから、危険だって意見もあるんだけど」

 

「心理的に抵抗があるのは勿論、アラガミ細胞が含まれていたら何が起きる分かりません…」

 

「既に食べちゃってるけどね、抵抗あって何が起きるかわからなくても。極東人は、食にかける情熱が異常だってよく言われるけど」

 

 

 河豚並みに危険だよな、どう考えても…。

 だがそれでも食うのが極東人という生物である。

 

 

「とにかく、GKNGでは完全に虫の専門家扱いされちゃってて、もう誰も止められないし叱れないんだよ…。情けない話だけど、私が言っても全然聞かない。ほかの事には素直なカワイイ妹なんだけどなぁ…」

 

 

 責めるのは酷…かな? GKNGはこの辺の食料供給を担った、元締めみたいなもんだしな。不況を買ったらと思うと、大人でも口を出しにくいのはよくわかる。

 それでも叱るのが大人の役目だろうが…そう上手くはいかんよな。縁も所縁もない人間が、ただ危険を訴えたところで、聞くとは思えん。

 …俺も、一度見に行ってみるかな。

 

 

 ところでジュリウス。ミカさんが「ミカでいいよ。トップアイドルになったら、いろんな人からそう呼ばれるだろうしね」…ミカが不法侵入者の類でないのはわかったが、どうすんだ?

 このまま訓練を見せるのか?

 

 

「いや、ここからは…機密の訓練になる。申し訳ないが、見せる訳にはいかない」

 

「いいよ。アタシもそろそろ戻るつもりだったし。ご飯の時間だしね。ムツミちゃんのご飯は美味しいわー! …カワイイシ」

 

 

 そういや、俺もあの子のご飯はまだ食べてなかったな…。ま、今は訓練中だし、後にすっか。

 

 

「構わん、行ってこい。…一応、お前もブラッドの部外者ではあるからな。教練を頼んでおいて言うのもなんだが」

 

 

 ん? いいのか?

 

 

「淑女をエスコートするのも、ブラッドの務めだ。次代ゴッドイーターの模範としてな」

 

「淑女ってガラじゃないんだけどなぁ。ま、案内してくれるっていうならお願いね」

 

 

 エスコートが務めって初耳だし、穴倉内でチンピラみたいなナンパに絡まれるとは思えんが…。

 

 

「エリック。エミール」

 

 

 魂で理解した。タチが悪いのは居なくても、ガラの悪いのとか厄介なのは山ほどいたわ。考えてみりゃ、チンピラ染みた人だって山ほど居る。特にゴッドイーターには。

 まぁ、ゴッドイーターが一般人に暴力、それに近い事をしたとなると、責任問題どころか社会問題にまで発展するから、やる奴はまずいないけど。

 ゴッドイーターが、ミッション時以外は基本的にアナグラのような場所に籠って生活しているのは、自衛の為でもある。難癖をつけようとする、自称被害者の加害者に絡まれないように。

 

 

「あー、基本的な教練に関しては、機密事項関連(ブラッドアーツとか)に関しても俺ができるんで、やっておきます。ついでに、ムツミちゃんの飯食ってくるといいですよ。……っと、勝手に決めちゃったけど、それでいいかな?」

 

「オッケー。正直に言うと、そっちのイケメンさんだと尚よかったかな」

 

 

 はははこやつめ。ま、未来のトップアイドルとの飯なんて貴重な体験だし、ちょっとくらいなら奢ってあげよう。

 …今は仕事してねーけど、3年前に溜め込んでた分があるし。

 

 

「ありがと…でも無理はしないでね…」

 

 

 そんな目で見るなよ、定職に就けない人なんてこのご時世じゃ珍しくもないだろ…。そんじゃ、行ってきまーす。

 

 

 

 

 

 

 …女の子と並んでアナグラを歩くのも、なんか新鮮だなぁ…。

 いやアリサもレアも女の子なんだけど。

 

 

 

「ん? 彼女?」

 

 

 まーそんなトコ。実際はもうちょっとややこしい関係なんだけど。

 

 

「そりゃ、二人が相手じゃねぇ。……浮気や不倫はダメだよ」

 

 

 覚えておく…。と言うか、ほぼ初対面で聞く事じゃねーけど、そっちはどうなん? カリスマギャルさん。

 このご時世だし、この前クァドリガに追いかけられて死ぬかと思っただろうが。心残りが無いよう、気になる人がいるならさっさと迫っといた方がいいぞ。

 

 

 

「ア、アタシ? 処………ジャナイ……ンンッ、そりゃ経験豊富だよ。ちょっと古い言葉になるけど、アッシー君とかメッシー君とかより取り見取りよ。…ま、今はアイドルだし、フリーだけど」

 

 

 

 男性経験、まるでないのは見て取れるが、まぁ微笑ましく見てあげよう。

 ちゅーか、てっきりタケウチ社長にベタボレとかかと思ってた。

 

 

「社長? は? 何で?」

 

 

 いや、やっぱアイドルとプロデューサーって、そういう関係になるのかなと。イメージだけど。兼任とは言え社長だけど。

 

 

「あー……どうなんだろ…。確かにこう、一緒にステップアップしていく相棒というか、一番信頼できる人…ってイメージはあるんだけど。でもそれって、カレカノ的な感情じゃないと思うよ。大体、プロデューサーって一人に対して、一人のアイドルって訳でもないし」

 

 

 そう言われればそうか。男女というより、弟子とか協力者のイメージなのかね。

 

 

 

「ん、そんなカンジかな。…それに、ウチの社長って既婚者だもの」

 

 

 

 うん? …あ、そういえば指輪してたな。

 

 

 

「奥さん、何度かあった事があるけど、超いい人で、すっごいお似合いでさ。アタシ達も色々お世話になってるんだ。冗談でも割り込もうって気にならないよ。………奥さん、怒らせるとメッチャ怖いし」

 

 

 そうかぃ。誰だか知らんが、男を見る目がある人だこと。

 

 

「…………時々、事務所内で不穏な雰囲気が湧く事はあるけど」

 

 

 

 …お、おぅ…。

 

 

 

 

 

 …ところで、これはタケウチ社長にも聞いたんだが、何でアイドルやってんの? ああ、単なる好奇心だから、そんな深刻に答えなくていいけど。

 ちなみにタケウチ社長は、笑顔の重要性について静かな口調で熱く語ってくれました。

 

 

「何でって言われてもね…。楽しいから、としか言いようがないわ。…正直、最初は生活の為だったんだけど」

 

 

 アイドルって生活の為でやれるのか…。どっちかっつーと、アイドル活動やってる結果、生活ができるようなイメージがあったが。

 

 

「そこは人それぞれじゃないかな。でもほら、このご時世じゃん? この3年間で見違えるくらいの生活ができるようになったけど、それより前は…まぁ、君も知ってるよね。生活が保障される、フェンリル職員になるのは物凄く倍率が高いし、それどころかちゃんとした仕事に就ける人の数なんて、全体の1割にも満たない。アタシも、まぁ当初はそういう状況でね。妹を飢えさせる訳にもいかなかったし、どうしたものかと途方に暮れてたのよ。その時、アイドルにならないかって声をかけられて…」

 

 

 ほいほいついて行ってしまったと。…よく信じたな。というか、初対面でタケウチ社長についていくとか、よっぽど度胸がないとできんだろ…。

 

 

「………そこは…まぁ、ね? お茶請けくらい出す、っていう言葉に逆らえずに…。それくらい切羽詰まってたもんで。アタシはどうなっても…って、覚悟を決めて働き出してみれば、本当にアイドルなんだもん。肩透かしだったというか、逆に驚いたというか…」

 

 

 へぇ…。それで、リカ…だっけ? 妹を食べさせていけるようになったと。

 

 

「………だったんだけどねー…。その暫く後に、リカがGKNGにスカウトされて…。あっという間に私より稼ぐようになっちゃってさ…。いや手に職があるのはいい事だし、危険な作業ではあるけど組織立ってその辺の安全にも気を配ってるし、悪い事なんてないんだけど……姉としての面目が…」

 

 

 大学入学で浪人して、ようやく合格したと思ったら、妹が一発合格決めちゃったよーな感じかな…。

 まぁ、GKNGはなぁ…一種の技術職だもんな。聞いてる分には、天賦の才があるっぽいし。

 

 

「はー、それにしてもあの社長が熱く語る、ねぇ……。人間変われば変わるものだわ。いや、成長したって事なのかな。昔は『何でアタシを選んだのか』って聞いても、『笑顔です』しか言わなかったのに。…それで益々警戒したんだけど」

 

 

 そらしゃーないわな…。と言うか、昔はそんなに不愛想だったのか?

 

 

「そりゃもう。誠意をもって行動してたのは、今となってはよく分かるけど、言葉が決定的に足らなくてさ…。アタシ達とも、奥さん…当時はまだ奥さんじゃなかったけど、結構揉めたんだよ。『ちゃんと言葉にしなさい』って、徹底して教育した結果だろうね。奥さんの偉業、その一だわ。…アイドルの話に戻るけど、他には『親に言われて仕方なく始めた』って子もいるよ。まぁ、最初がそうだっただけで、今では完全に熱中しちゃってるけど」

 

 

 親に言われてアイドルぅ? そりゃ益々想像しにくいな。親が何かの俳優だったとか、そんな話?

 

 

「いや全然。むしろ、家としては所謂、成り上がりってやつらしいよ。お偉いさんや上流さんの理屈なんてわからないけど。…確か、もう会ってたよね。リン」

 

 

 リン…あの子か。なに、あの子の家金持ちなの? 正直、あんまりそうは見えなかったけど。

 

 

「花屋だよ、花屋」

 

 

 ……は? 花…屋? え、何? 花屋ってそんなに儲かるもんなの? 成り上がれる位に?

 むしろ、小さな店で観葉植物敷き詰めて、お客さんが来るのを待ってるようなイメージがあるんだけど。

 

 

 

「何言ってるのさ…。花屋がそんなに無防備な筈ないじゃん。ちゃんと盗まれたりしないように立派な扉をつけて、どっしりしたお店になってるよ。特にリンの家は、一見さんだとちょっと入るのに躊躇うくらいには敷居が高いかな」

 

 

 

 ………? ? ? ?

 

 

 ……あ。そういやそうか…。この世界って、自然が完全に枯渇してるから、花なんぞ売ってる店はないのか。お偉いさんでも、「天然物の花を持っている」なんてだけでステータスになりそうだ。

 極東であれば、その辺で花自体は採取できるだろうが…飾れるくらいに立派で奇麗な花は、滅多にないな。

 それで一発当てた家って事か。

 

 

 

「ここ最近で、急激にリッチになった家族で、いい暮らししてるらしいんだけど…今度は名誉がほしくなったのか、それとも宣伝にするつもりなのか、タケウチ社長に手を貸したり出資したりする代わりに、アイドル候補として捻じ込んだって事。……ああ、言っとくけど、ちゃんと審査は受けて、合格して、レッスンだってやってるよ。入社したのが同じオーディションだったから、それは知ってる」

 

 

 要するに、コネでアイドルになった…というか、された訳じゃないと。俺としては、その辺はどうでもいいけどな。

 コネだって使えれば力だし、それで身の丈に合わない場所に行けば自滅するだけだし。少なくとも、リンはちゃんとアイドルやれてるみたいだから、おかしな事はしてないんだろうよ。

 

 つーか、そういう裏事情に興味はあるが、教えられたって何もできんしな。オーディションの審査員の話だって、何すりゃいいのかわからないのに。

 

 

「そう? ……ま、そりゃそうだよね。何だろ…。アタシ、ちょっとおかしいかも。こんな陰口みたいな事、普段だったら絶対言わないし、リカとの事だって、親しくも無い人に話すような内容じゃないのに」

 

 

 

 それこそ俺に言われても。(…因果的な何か、かなぁ…。奪われた女との因果の代わりに、新しく流れ込んできてるんじゃないかってレアの推論だったけど)

 まー、ミカに悪意が無い事は分かるけどね。そっちの方が問題だって考えもあるけども。

 

 さて、とりあえず飯を食え飯を。腹減ってっから妙な事考えるんだ。ムツミちゃんの飯!

 

 

 

「そーだね! あんなちっこくて可愛い子のご飯が、美味しくない筈がない! ああ、むしろリカと同じように妹にしたい! ギュッとしてスリスリしてゴロゴロしたいの!」

 

 

 ちょっとアイドルがしていい顔じゃない気がするけどまぁいいや。

 この後、滅茶苦茶モグモグした。

 ミカがちょっと調子に乗り過ぎてムツミちゃんに怒られてたけど、それはそれで幸せそうだったからどうでもいいや。

 



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328話

MHW、キター!
発売当日が休日って幸せだなぁ。

と言う訳で、執筆を放り出してプレイ中です。
EDFと交互に、とか考えてたけどそんな余裕無かったぜ。
これは神ゲーですよ…ちょくちょく「バグかな?」ってのがありますが、その内修正されるでしょう。

まだデカブツの手前ですが、何も書かれてないマップを歩き回ってオブジェクトを探していくのがスゴイ楽しい。
あっちこっちに回復やら麻痺やら毒やらの仕掛けがあるから、自然の中を走り回ってる感が凄い。

今までは大体大剣と太刀でやってきましたが、色々試してみたいものです。


神逝月

 

 

 グレムのオッサンから催促が来た。GKNGとの繋がりはよ、だそうな。

 正直言って、すっかり忘れてました。と言うか、行かなきゃならんのかなぁ…。

 

 つーか、そもそもあいつらも俺の事をどれだけ覚えているやら。確かに最初の一人、始まりの人ではあるかもしれないが、そこから発展させてきたのは俺ではなく当人達だ。

 無条件に従う筈がない。グレムのオッサンは、繋がりさえできれば後は自分で口説き落とす、と言っていたが…。

 

 何より怖いのが、あいつらが一体どんな団体になってるのか見当もつかないって事なんだよな。

 緑を広める、これはいい。

 食べられるものを増やす、これもいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 予言って何だ。

 

 

 

 覚えてるぞ、フライアでエリックさんとエミールに会った時、「GKNGの予言は真実だったのか」なんて事を言ってたのを。

 予言だよ、予言。何で植物を広める団体で、予言なんてものが出てくるんだよ。どこの宗教団体だよ。

 

 仮に本当に宗教団体だとしたら、シャレにならん立場に居るぞコレ。政教分離の言葉通り、権力は確かに持ってないだろうけど、その気になったら食料事情を大変動させる事ができる立場にある。

 極東の胃袋を、直接鷲掴みにしてるようなもんだ。

 自覚してるかな…いやしててもしてなくても激ヤバなんですけども。

 

 

 むぅ……とは言え、やっぱ逃げられんよなぁ…。予言までされてると来ては、少なくとも俺が極東に戻ってくる、或いは戻ってきていると確信している奴が一人以上居るって事だ。

 GKNGの組織力と団結力は、(飯によって)極限まで高められているだろう。それこそ、アナグラ内部にまで間者を潜り込ませる事だってできそうだ。

 

 …やっぱり、一回は顔を出さなきゃならんか。場合によっては、無茶なことをしないように釘を刺す必要すらあるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 あ、そうそう、もう一つ忘れてる事あったわ。

 ロミオの元カノ調査!

 前回は軽く調べるだけで終わって、復縁とか全然できなかったからなぁ…。デスワープが今後も同じ時期から始まるのだとしたら、ロミオの性癖を決定的、かつほぼ永遠に拗らせてしまった訳で…。贖罪的な意味でも、何とかしてやらないとな。

 

 優先順位? グレムのオッサンの頼みか、ロミオの彼女かで言えば後者だろ。野次馬根性込みだけど。

 

 さて、前回の記憶もオボロゲながら残ってるから、詳細を調べ上げるのはそう難しい事じゃない。前回は軽いプロフィールくらいしか調べられなかったから、もうちょっと掘り下げて…。

 

 

「…誰ですか? この女の人」

 

 

 うわ、いきなり何だアリサ。誰って…ロミオの元カノ。

 

 

「ほほぅ?」

 

 

 

 キラリと目が光った。俺の浮気を危惧していたよーだが、こういう話題にも興味はあるようだ。

 ロミオの事を何処まで話すか、かなり迷ったが……まぁ、流石に俺にも情けと恥というものはある。俺が狂わせてしまった弟子の人生だ。それをネタに笑いをとるよーな事は、流石にできん。復縁させてからならともかく。

 

 勘付かれる危険はあるが、俺のせいで元カノと大喧嘩をしてしまった事だけ話して、何とか復縁させたいと伝える。

 

 

「ふーん…。私達にも構わず何をやってるのかと思いましたが、話は理解しました。そういう話なら、真面目に協力しますよ。アリサの恋愛相談室、スタートです!」

 

 

 真っ当な相談が出来るよーな経験しとらんだろが…。

 ………恋愛相談云々を言うなら、ヒバリさんでも連れてくるかな。ガチレズのあの人を連れ込んでも、あまり意味は無さそうだが、少なくとも色恋で悩んだ時間は俺達とは比べ物にならないだろう。

 いや、この手の事なら案外レアも…。ポンコツで、真っ当な経験は無いに等しいだろうけど、母性が溢れまくっとるからな。

 

 

 ま、それはともかく、この嬢ちゃんの詳しいプロフィールを調べる訳だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかのGKNG関係者かよ。またGKNGかよ!

 

 

「仕方ないでしょう。今やGKNGは、極東一帯に多大な影響力を持つ一大組織ですよ。それなりの大きさを持って居る団体の中で、関わりが無い所を探す方が難しいです」

 

 

 まぁ、今回は本人が所属してるんじゃなくて、GKNGの取引先のお嬢さんみたいだが…。

 

 

「詳しい話を聞いたり、協力者を求めるなら、GKNG本部に行った方がいいんじゃないですか? あそこ、まだ貴方を教祖として崇めてますよ。理念に関わる事ならともかく、これくらいなら全面協力すると思いますが…」

 

 

 だから行きたくないんじゃないか…。お前、どっかの支部に着任したら、『下乳神様の像』とか書かれた自分の銅像があったらどうする。

 

 

「壊滅させます。…言いたい事は分かりましたが、それで逃げられる筈もありませんよ。多分、貴方が来るのを今か今かと待ち侘びています」

 

 

 益々行きたくねぇ…。しかし、嫌な事で、しかも逃げられない事ってのは、さっさと済ませないと益々負担になるんだよなぁ…。待っている時間こそが幸福、と言うが、嫌な事の場合待っている瞬間も、実現した瞬間も不幸である。

 とは言え、怖いもの見たさもあるにはあるし、アリサとのデートも兼ねて行ってみるしかないか。

 

 

 

 

 置いていかれるレアに埋め合わせをする事も約束し、二人で街を歩く。話題は色々。他愛もない事だったり、今度のオーディションに関する事だったり。

 …今までのループの事だったり。

 と言っても、今までのループでここまで来たのって、一回だけだったんだけど。

 

 

「ブラッドアーツ…血の力、ですか。まぁ、貴方のはまた別の力…なんでしたっけ?」

 

 

 根っこは同じだと思うけどね。興味あるの?

 

 

「一介のゴッドイーターとして、戦力を上げようとするのは当然の事です。…ヒーローが使う必殺技を、自分も使ってみたい…という考えもありますが」

 

 

 相変わらずヒーロー扱いされてるのはともかくとして、アリサの場合は目覚めさせるのは簡単だぞ。いつもの手段で。

 

 

「いつでもバッチ来い! …と言いたいところですが、それって不味くないですか? いや私はいいんですけど、ブラッド隊が。元々、血の力の為に結成された部隊なのに、全く関係の無い私の方が先に目覚めると言うのは…」

 

 

 ああ、確かに立場的によろしくないか。でもなぁ…ジュリウスはもう覚醒状態で、ロミオも…ブラッドアーツまでは目覚めてる。

 問題なのは、シエル、ナナか。特にシエルは、前回目覚めた時期を逃しちゃったからな…。

 

 

「私を目覚めさせるのと同じ方法で…なんて、戯言は言いませんよね?」

 

 

 正直、最悪のケースを想定すると、使わざるを得ない。

 …待て、落ち着け。シエルにとっては、存在意義の危機みたいなもんだ。新世紀福音人造人間の終盤の赤いヒロインみたいに、レイプ目のシエルなんぞ見たくない。

 

 真面目な話、ちゃんとした力の目覚め方を確立するのは急務だよな…。

 現状のやり方は、狩人×狩人的に言えば邪道のやり方だ。強引に……なんだ、穴? を抉じ開けて、制御できなきゃ死ぬって奴。

 感情の爆発という不安定なトリガー、師匠ポジションの俺の未熟さ、サポートの不十分…。いつ死人が出てもおかしくない。

 

 その中で、比較的安全なやり方が、R-18なオカルト版真言立川流であって…いやホント、真面目に考えてこうなんだって。

 

 

「はぁ…。全く、何で私はこんな人を…。しかも、以前の私は、浮気と言うか愛人を有耶無耶の内に認めちゃってるなんて…。ボルシチの刑に…」

 

 

 ミソペーストのボルシチはヤメテ。一口は喰ってみたいと思わんでもないが、2口目は勘弁。

 …で、あそこがGKNGの本部か?

 

 …何と言うか………意外とその、質素だな?

 

 

「…確かに」

 

 

 イヤイヤながら辿り着いてしまったそこは、俺も知っている場所だった。と言うか、俺の記憶が正しければ、前回ループで…つまり3年前に人を集めて、農業やり始めた場所だ。

 その場所を囲む柵と、その横に小さな掘っ立て小屋が立っている。掘っ立て小屋と言ってもそれは規模だけで、作りはかなりしっかりしているようだが。

 柵の中は農園になっており、色々な植物が茂っている。…丁寧に手入れしているようだ。

 そしてその植物のド真ん中に一点だけ、丸く切り取られたような手付かずの場所がある。

 

 …あそこ、俺が最初に立ってた場所だよな…。ひょっとして、聖地扱い…とか? 

 

 

「…本気で宗教と言うか、カルトっぽくなってきましたね。帰った方がいいかも………? 何だか騒がしくないですか?」

 

 

 …ああ、手遅れって事ねハイハイ諦めりゃいいんでショ。

 

 

 遠い目をしている間に、掘っ立て小屋の中から見覚えのある人達がワラワラと沸いて出てくる。

 騒ぎが伝わったのか、掘っ立て小屋から意外もどんどん人が集まってくる。

 俺とアリサを取り囲むように、円形を作って整列した。

 

 あ、ノゾミちゃんも居る…と言うか、中心人物は最初にやり方を教えたあいつらか。

 警戒するアリサに、必要ないと伝える俺。…殴り掛かってきてくれた方が良かったなぁ。

 

 

 何の合図もない筈なのに、彼らは一糸乱れず踵をぶつけ合う音を立てて姿勢を正し、右手を上にあげる。

 …掲げられた手には、それぞれ大根やらニンジンやらジャガイモやらカブトムシやら肥料やら白菜やらシモフリトマトやら…。多分、一番好きな物か、特に熱意を上げて育てている物なんだろう。

 

 

 まぁ、取り敢えず…。長い間、顔も出せずに済まなかった。

 

 帰って来たぞ。

 

 

「「「「「開祖様! 始祖! 開拓者殿! 恵みをもたらすお方!」」」」」

 

「「「「「開祖様! 始祖! 開拓者殿! 恵みをもたらすお方!」」」」」

 

 

 

 …アリサ、無言で引くな。気持ちは分かるが、俺を一人にしないでくれマジで。

 ……? あれ、あの子ひょっとして、この前会ったドゥーチェことアンチョビじゃないか? …目に見えて動揺しとるな。

 何気なく話していた相手が、自分のバイト先の社長どころか、その出資者だったようなもんだし、無理もないかなぁ。あんまり強引に接触すると良くないな。ヒラヒラ手だけ振っておこう。…怯えられたようだ。何故だ。

 

 

 

 

 

 一頻大騒ぎと言うか…一種のミサ? の後、慣れない超VIP扱いで部屋に通され、持て成しを受ける。

 …この後、グレムのオッサンとの話を通さないといけないと思うと、色々な意味で憂鬱である。

 

 

 

 …うん、ロミオの元カノの事から行こうか。と、その前に、GKNGの現状を詳しく聞きたいんだが。

 正直、俺にとっては最初の立ち上げに一枚噛んで、その後ドタバタしている内に段々距離が離れてしまった…って印象の方が強いんだが。

 

 

「はい、開祖様!」

 

 

 …勘弁して…。頼むから普通に接して…。

 

 

「…そうですか? どうしてもと言うなら…」

 

 

 どうしても!

 

 

「はぁ…。ご神託とあらば、仕方ありませんね」

 

 

 神託…。神託ってアンタ…。そう言えば、俺が戻ってくるのを予言していたとか何とか聞いたが。

 

 

「ああ、あれですか? ノゾミ幹部の、よくある夢の話ですよ。大幹部に対して失礼な言い方ですが、夢見がちな年頃ですからね」

 

 

 ま、確かに。それをエリックとエミールさんが真に受けたって事か…。あの二人なら、如何にもありそうな話だ。

 

 

「はは、開祖様がアラガミに変身するとか、人型の友好的なアラガミとチューしてたとか、自然が満載の世界で恐竜と戦ってるとか、大きな角があるオバケを除霊するとか、如何にも年頃って感じですね。いやぁ、アラガミが現れる前に持ってた、特撮映像とかアニメとか見せてあげたいなぁ」

 

 

 

 HAHAHAHAHA、そりゃ面白い夢だNA!

 

 …おいアリサ、じっと俺を見つめるな。俺だって予想外だ。何者なんだ、ノゾミちゃん。

 コウタの妹で、前回ループで農業を広めようとした時に最初から参加してたのは知ってるが、それ以外は普通のょぅι゛ょだった筈。一体なぜ、そんなピンポイントな夢を見てるんだ。

 予知夢か? それとも千里眼の類か? 討鬼伝世界ならどっちもある筈だが、GE世界にまで?

 と言う事は、勝手に霊力に目覚めかけているとでも? 隠れた逸材か。

 

 

「…考えてみれば、最初期からのメンバーとは言え、コウタの妹くらいの年齢の子が大幹部で居られるって…」

 

 

 周囲からのバックアップが、問題になるくらいに強いか。周囲が話にならないくらいに阿呆か。本人が実は、超が付くキレモノか…だな。

 ああ、何かしら一芸があって、それで認められてるって可能性もあるにはあるか。

 

 何にせよ、一度会ってみた方がいいかもしれん…。

 

 

「ノゾミさんなら、今日は家に帰っていますよ。お兄さんが休みで会いに来るそうですから、楽しみにしているそうです」

 

「コウタ…。妙な所でタイミングの悪い…。顔を出しますか? ちなみに、藤木家の稼ぎ頭はコウタではなく、ノゾミちゃんになっているそうですが」

 

 

 止めとく。コウタとそれほど接触があった訳じゃないし、家族水入らずに余計な嘴を突っ込むもんじゃない。

 そんなに重要な事って訳でもないしな。

 

 

「ところで開祖様。本日は、何か用件でも? 勿論、言葉をかけてくださるだけでも、我々としては感動物なのですが」

 

 

 あー。いやちょっと、GKNGと商売したいから口きいてくれって言われてな。

 ここに戻るまで居た施設の大家みたいなもんだから、あんまり無碍にもできんかったんだ。

 

 

「開祖様が居た所…と言うと、あのフライアという巨大要塞ですか。かなりの資金を持っている相手、と言う事ですね…。理念上、あまり金銭でのやり取りを挟むのは望ましくありませんが…」

 

 

 だからと言って、全く無償と言うのも健全ではない。今はまだ何とかなってるだろうが、何れは運営に金が必要になってくる事もあるだろう。

 

 

「それは…分かります。幹部勢の中でも、何度か議論された問題ですから。ただ、毎回結論は『時期尚早』だったようです」

 

 

 …俺も経営に関しちゃ素人だし、グループの状況を全く把握できてない。こんな状態で、まともな指示が出来るとは思ってない。

 でも、悪いが一度、話を聞くくらいはしておいてほしい。

 あのオッサンは、自分でGKNGを口説き落とすと言っていた。GKNGが求めているのは、金銭ではない事も理解している。なら、それなりの計画と、リターンはあるんだろう。

 受けるかどうかの判断は任せるし、俺に気兼ねなんぞしなくていい。強引だが金儲けの嗅覚と手腕は確からしいから、少なくとも今後を考えるのに参考にはなるだろ。

 

 

「…分かりました。私も一幹部でしかないので確約はできかねますが、開祖様からお話があった事だけは伝えておきます」

 

 

 すまんな。その気になった時の為の連絡先は渡しておく。後は好きにしてくれ。

 …っと、そうそう、団体の状況、もう少し詳しく聞かせてくれるか? 何がどうなって、こんな大規模な団体になったのか、皆目見当もつかんのだ。

 

 

「是非とも! 開祖様を相手に団体の歴史を語れるとは名誉ですな! それでは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………歴史とは大げさだなぁ、と思って聞いてたなが………お前ら、頑張り過ぎだ…。

 



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329話

MHW、上位に突入です。
発売日から5日か…モンハンとしては早い方かな。
下位の難易度は左程高くないようです。むしろステージを歩き回るのがメインだった気がする。
さて、ここからどうするか…やっぱ装備を整えないと。



職場の個人評価で、割とボロクソに言われてちょっと落ち込み気味。
資格取得の勉強しろとか、プライべートも充実させろ、話し方教室とか行ってみろ、彼女作れとか言われてもなぁ…。
必要なことではあるんでしょーけど、話し方教室まで片道40分以上かかるよ…。
とりあえず、バイクサークルでも入ってみようかなぁ…。


神逝月

 

 

 

 GKNGは思っていたよりもデンジャラスな組織だったようです。ある意味狂信者なのかもしれない。……その場合、神って俺になるのか…? せめて野菜を崇めてほしい。

 言っちゃなんだが、一歩間違えればカルト集団同然だった。

 そりゃなぁ…元々この辺はスラム同然だったんだし、それを曲がりなりにも統率して治安を改善しようと思ったら、とんでもない荒療治が必要になるのも分かる。

 ついでに、このご時世で植物を目当てに襲ってくるのは、根切りにしても仕方ないくらいの事だというのも分かる。元居た(という記憶)の世界で言えば、国際的な博物館美術館に殴り込みをかけようとしているようなもんだ。

 

 では、それに対する彼ら…まだGKNGの名前が付いていなかった頃の団体の報復及び対応は?

 

 

 

 …焦土戦術……いや彼ら的には焼き畑農業だろうか…。

 それはもう見事な絨毯爆撃だったらしい。ただし、火力ではなく胃袋を掴む的な意味で。一度、天然物の味を、いやそれ以上に安定して食料が供給される環境の味を知ってしまえば、逆らう事など出来はしない。

 これによって、襲撃してきた当時の下手人はあっという間に孤立し、生活もままらなない状態にまで追い込まれ、最終的には餓死寸前で土下座して許されたとか何とか。

 

 

 …えげつねぇ…。火砲が伴ってないだけで、独裁者のやり口だろコレ…。

 しかし、そのおかげで極東地区の治安は劇的に向上し、多くの人が満足な飯を食えるようになったのだから、あまり強い事も言えない。ついでに言うと、今更俺が何言ったって、実際に働いて成果を出してきたGKNGよりも見向きされる筈もない。俺がGKNGに影響力を持っているのは、幹部勢である始まりの数人から特別視されているからにすぎないのだ。

 

 

 

 …ま、まぁそれは置いといてだ。

 

 

 極東ゴッドイーター達と、接触するべきだろうか? 戦力的な事を考えると、答えはイエス。

 今の俺はリンドウさんでも充分撃退できるくらいの戦力を持っている。しぶとさも、多分負けてはいない。

 が、リンドウさんの真価は、味方を逃がしながらも自分も生き延びる…という点だ。俺、ワンマンばっかだったからなぁ…。

 チームの力を活かしきるという意味では、未だに未熟者である。

 

 比較論はともかく、頭数、手数を考えると彼らを戦力として引っ張り込まない手はない。

 …しかし、彼らが大人しく手を貸してくれるかと言うとな…。支部長からの命令とあれば、腹の内はともかく戦ってはくれるだろう。事が終末捕食関連となれば、コウタ、リンドウさん、ソーマも四の五の言いはすまい。…シオはどうだっけか…。前回はソーマに纏わりついてるくらいしか、見てないんだよなぁ。しかもナース服。………あ、そういや支部長に、さっさとシオとソーマをくっつけたいから知恵を貸せって言われてたっけ。まぁ前回同様、押し倒し方を教えておけばいいだろう。

 

 

 

 

 と言うか、今って極東には誰が居るんだっけ?

 えーと、まずリンドウさんだろ。ソーマも居るだろ。コウタも隊長やってるだろ。言わずと知れたエミールも居る。

 アリサも居るけど、つい先日まで極東を離れていた。ここまではゲームと同じだな。

 ゲームでは死んでたエリックさんも生きてて、元気にやっているようだ。…他の土地でなら、準エース級くらいの力はあると思うんだけどね。

 

 カノンは誤射しまくった懲罰人事で開拓地っぽい所に飛ばされてるから居ない。

 防衛班もどっかに出払ってる筈だから、ジーナさんも居ない、カレルさんやシュンも居ない。……あ、ヒバリさんがガチレズだって事に気付かずアタックを続けるタツミさんを思い出すと、ちょっと泣けてきた。

 ムーブメント師匠は、ギルのエピソードで極東に帰ってくる筈だけど、まだ居ない。

 

 

 …あ、そういやエリナはどうした? 極東随一のロリっ子ゴッドイーター。

 エリックさんの妹で、ゲームではエリックさんの仇を討つ為にゴッドイーターになった…んだっけ? もうちょっと背景があったような気がするが、覚えてない。と言うかエリックさん生きてるし。今でも鰈な感じに華麗加齢家令言ってるし。

 

 ……ひょっとして、戦う理由が無くなったから、ゴッドイーターになってない?

 でもゴッドイーターの徴兵ってほぼ強制だったよな。いくら富豪だからって、逃げられるとは思えん。エリックさんだって、現にゴッドイーターやってるじゃないか。まぁあの人の場合は自分の意思でって事も有り得るが。

 

 

…会いに行ってみるか? しかし、言っちゃ悪いが戦力的な価値は、現状のエリナには無いだろう。立場的にも実力的にも精神的にも半人前だ。

 エリナを引っ張り込むくらいなら、その辺のゴッドイーターを適当に言い包めた方が、価値は高い。…将来的な話はともかくね。

 

 ……エロ的な意味での価値? ……うん、もうロリコンなんて今更かなって。

 

 

 

 はー、やれやれ。やる事と謎ばかりが増えていくもんだ。それと言うのも、考えてばかりで実行しない俺が悪いと言ってしまえばそれまでなんだけど。

 

 

 

 ……気晴らしに狩りにでも行こうかな。でも、極東のアラガミ達も大して手応えないんだよなぁ…。もう完全に作業になっちゃって、日記に書くのもカットしてしまっているくらいだ。「これは本当にGE世界の日記なのか?」と言われても仕方ないくらい、狩りと言うかミッションの事を書いてない。

 せめて、モンハン世界風のアラガミがまた出てくれば、話は違うんだけどなぁ…。討鬼伝世界の鬼型でも可。

 

 ………贅沢言っても仕方ない。この世界にも、ゲームには存在しなかった寄植種なんて新生物がいるんだし、そいつらの観察でもしてますかね。

 寄植種かつ感応種のアラガミを見つけたら、そいつは優先的に狩っておこう。前回の二の舞を防げるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 …そんな事を考えて、結局極東メンバーにも殆ど会わずにフラフラしている俺。割と真面目にニートであるが、その裏では榊博士から要請され、ちょっとした実験に参加している。

 

 

 

「不治の病の治療を、ちょっとした実験扱いされてもねぇ」

 

 

 前回にも治してたもんで…。特異点の治療はできなかったけど。

 

 

「ふむ。その話も興味深いが、とにもかくにも実物を見てみない事には何も言えないね。シンデレラオーディションにも関係のある事だし、まずはやってみせてくれたまえ」

 

 

 はい、そういう訳で俺の前でゼェゼェと今にも死にそうになっているのは、見覚えのある男だった。名前は覚えてない。ただ、前回ループでも、この人が治療の実験台になった事を覚えている。

 ……治療はできたけど、耐え切れずに結局死んだんだよな。エラい事やった死刑囚だって話だから、あまり罪悪感も覚えてないが…。

 

 とゆーか、だったら俺が治療しても、結局死刑台行きではなかろーか。まぁ、その辺は俺に関わりがある事でもないから、どうでもいいけども。

 

 

「死ぬにしても、苦しみながら病で死ぬか、薬やギロチンで一息に死ぬのでは大分違うと思うよ。どちらがマシかは、人によって違うだろうけども」

 

 

 さいで。ま、とにかく治療治療と…。

 前回と違い、特に患者の体に負担をかけずに治療する。鬼の手を使うようになったからか、根本的にレベルアップできたのか、えらくスムーズに進んだ。

 

 

「ふむ…。これが鬼の手、という奴かい。成程、現代科学では説明できそうにない力だね。かと言って、血の力とも少し違うようだ。…恐らく、ラケル博士も君の力が明らかな異物だという事には、とっくに気付いているだろう」

 

 

 その割には反応無しなんだよな。何考えてるのか、読めない女だ…。

 ところで、この吸い取った蜘蛛の模様は、握り潰してしまってもいいよな? 保管する容器だってないんだし。

 

 

「いや、私に取りつけてみてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 ぱーどぅん?

 

 

「私を黒蛛病にしてみてくれ、と言ったんだ。自分から病気になるなんてナンセンスだが、その病状がどういう物なのか、最もよく理解できる方法なのも事実だからね。幸い、黒蛛病の特効薬はここに居る」

 

 

 そんな、ハブの血清を試す為に自分からハブに噛まれるような事せんでも。まぁ、やれと言うならやりますが…治せない例外もあるって事は忘れんでくれよ。

 ほれ、ペタっとな。

 

 

「……ふむ。流石に、すぐに体調には変化は出ないね。他人から移されたものだからか、それとも赤い雨が近くに無いからか…。精神的にも、何も感じないね。新たな特異点を探そうとする星の意思だと言うのなら、それらしい意思が接触してくるのではないかと思っていたけど」

 

 

 ガイア理論のガイアが、星を見る者に語り掛けるってか。もうこれ分かんねぇな。そもそもガイア理論もよく分からんけど。

 単純に、特異点としての素質が0って事かもしれんね。

 

 で、結局どうすんの? 暫く様子見?

 

 

「いや、これでも色々な人と会わなければならない立場でね。誰にも触れずに生活するのは難しいよ。済まないが、治療を頼む。…この数分だけでも、有力な情報は得られたからね。ちょっとした考察、推論でしかないけど」

 

 

 有力なのかちょっとしてるのか、どっちじゃい。たったこれだけで、何に気付いたんだろうか…。

 と言うか、この人にとっての「ちょっと」って、大部分の人にとっては大抵とんでもない事なんだけどな…。

 

 

「期待してくれている所に悪いんだけど、本当に大した事じゃないよ。強いて言うなら…スターゲイザーが視る星は、空の星だけじゃないって事さ」

 

 

 足元の星を視てるってか?

 それともアレか、ダイレクトに言うと運営規約と妖怪じゃす〇っくに突っ込まれそうな、崖の上の木星とか池の底の天狼星か。

 

 

「間違ってはいないね。ただ、地に落ちた星は、皆が忘れたんじゃない。ただ知らないだけさ」

 

 

 …よく分からん。

 

 

「はは、これについて私も伝えようと思ってないからね! 君が自分で気付くならともかく。……女の争いは、遠目から見物するべきだし。とは言え、君の話からすると、これは君が言う『前回』には無かった事なのか…。うんうん、繰り返していても未来は未定。いい事だよ。しかし、そうなると…もしもシンデレラオーディションに……そうなったら面白そうだけど、流石に都合がよすぎる…でも因果とやらを考えると…それを差し引いても、多分彼に惹かれて降りてきたんだろうし…」

 

 

 見事に自分の世界を作り上げてるなぁ…。………おい、そこの患者、治ったからって逃げようとすんじゃねぇ。そもそも、まともに動けないくらいにボロボロだろが。

 と言うか、ここはアナグラの中だし、ゴッドイーターがウロウロしてるぞ。下手に逃げると獲物として追いかけられるからな。

 ま、このまま死刑になってもいいが、榊博士に交換条件持ち掛ければ、暫くは公式に生きていられるんじゃないかな。(モルモットとして)

 

 

 

 

 …その後、患者改めモルモットを、黒蛛病にしたり治療したりして色々繰り返した。ふと気が付いたが、素で人体実験(しかも明らかに違法)に協力してしまっている…。

 あ、モルモットは生きてたよ? 結局榊博士がどっか連れていったけど。

 

 

 

 

神逝月

 

 シンデレラオーディションの開催が迫って来た。俺も審査員として登録されてしまっており、「ついでだから」なんて理由でアレコレこき使われている。

 給料が出るからつい引き受けちゃったけど、俺は何をやってるんだろうか…。

 

 と言うか、本当にここってGE世界だっけ…? 黒蛛病治療の為にアイドルを集めているってのは分かるんだが、明らかに世界観が違うよなぁ。

 強いて言うなら、ドレスやステージの素材にアラガミの素材や、その辺で採取した(拾ったとも言う)素材を使う為にミッションに出てるってくらいか。

 それもお遣い感覚で済ませちゃったけど。

 

 

 …え、何? 演出にニュクス・アルバの素材が欲しい? 確かにあるのに触れないという神秘性? ああ、それなら昨日、バッタリ会ったんで狩っといたのがあるが……真っ二つだけど大丈夫か?

 うん? ニュクス・アルバは斬れない? そんなもん、慣れだ慣れ。G級ハンターなら気合一発で八つ裂きにできるわ。

 と言うか、もうニュクス・アルバが出てくる時期だっけ? ストーリー全然進んでないよ?

 

 

 …よくよく考えりゃ、これ売っぱらった方がいい金になるかな…。フェンリルが買い取ってくれるかが問題だな。幾ら珍しい品でも、利用価値が無いんじゃ意味ないし。

 ……あぁ、そんな顔すんなよ、ちゃんと渡すよ。やろうと思えばまた取ってこれるから、俺にとっては大したもんじゃない。

 

 

 

 ありがとう、と礼を言って、アイドル候補らしき女の子は走って行った。…演出に使うっつーても、どうやるんだろうなぁ…。

 居るのに居ないのがいいとか、幽霊っぽくて好きとか言ってたが。あの子、霊感強そうだったな…。霊力の扱いという意味では、素質はありそうだ。

 

 

 

 それと、オーディションについて、もう一つ頼まれたのだが。

 レア、アリサ。これってどう思う?

 

 

「…黒蛛病の治療を、テレビの前でやってほしい? …それ、榊博士からの依頼ですか?」

 

 

 正確に言うと、榊博士と支部長からの要請。率直に言って、ものっそい胡散臭い。

 

 

「そう? あの二人は、正直に話をしていると思うけど」

 

「ママの意見、この場合当てにしていいものか…。心を抉るような事を言いますけど、妹さんの事にも結局気付けなかったんですし」

 

「うぐ……。い、いや流石にあれを予測しろと言われても。何かあった、とまでは気づいていたんだし」

 

 

 真意はともかくとして、やっちまったらどうなるかが問題だわ。黒蛛病は、世間一般では完全に不治の病。現状、赤い雨から遠ざけるか、葦原ユノの歌を聞かせる事しか対策が無かった。

 それがいきなり、得体の知れない透明な腕で掴まれて、はい治りました…だぜ。真偽の議論はこの際置いておくとして、俺ってどう扱われると思う?

 

 

「救世主、奇跡の人…言い方はともかく、一躍時の人になれるわね。そして、貴方は引っ張りダコになってしまう」

 

「私達の時間も、確保できるかどうか…。それくらいに、黒蛛病の患者は多く、全国各地に居ます」

 

 

 だよなぁ。別に治療するのが嫌だって訳じゃないんだ。ただ、延々とそればっかりさせられて、ちょっとでも休めばブーイングが飛んできそうな状態が嫌なんだよなぁ。

 流石に、プライベートの時間を確保する為に、黒蛛病患者に苦しんで死んでくれとは言えないし。

 

 

「そこは大丈夫だと思うわ。テレビの前で実演したとして、榊博士や支部長が、素直に本当の事を明かすとも思えないもの。そうね…。……貴方は黒蛛病の素となる病原菌を吸い取る事で、治療している。だけど、吸い取った病原菌は、多少ながらも貴方の中に残留してしまうの。だから短時間の間に何度も繰り返していると、今度は貴方が黒蛛病になってしまう。…多くの人を救える貴方が、急いだあまりに数人を救っただけで死んでしまうのよ」

 

 

 というカバーストーリー?

 うーん……確かに、アドバンテージを握ると言うか、一日に何人、何時間までってリミッターを付ける事はできそうだが。

 

 

「大筋はこんな所だと思うわ。そして、シンデレラオーディションは、そもそも黒蛛病治療の為の素質を持った人を探し出す為に行われる。たった一人に頼るのではなく、より多くの手段を確保しようとしている事で、大衆からの反発…貴方に対する治療要望を軽減する効果がある」

 

「…何でしょう、筋は通っているのに、なんか無茶苦茶言われてる気が…。そもそも不治の病を歌で治そうと言うのが無茶と言えば無茶ですが。……ところで話は変わりますけど」

 

 

 ん?

 

 

「『前回』やゲームの知識だと、この後はどうなるんでしたっけ? オーディションは、今回初めての出来事なんですよね。これが無かったら、何が起きていたんです?」

 

 

 何って…。前回の大筋は、ゲームシナリオと大差なかったな。

 ムーブメント師匠ことハルオミさんが極東に来て、その恋人でギルの恩人だった人の仇と遭遇、討伐。ギルが目覚める。

 ナナの能力が暴走し始めて、延々とアラガミを呼び寄せるようになってしまったんで、極東の最深部…以前にはシオが匿われていた部屋で安静にしてて、それでもアラガミの襲撃を切っ掛けに、『自分のせいで皆を危険に曝せない』と飛び出した挙句、どうにかなりはしたけどレアをお母さん扱いし始めて。

 

 

「ちょっとそこのところ詳しく。ママは私のママです。誰にも渡しません! ママと貴方の実子ならギリギリ我慢しますが」

 

「アリサったら…。気持ちは嬉しいけど、もうちょっと考えてみなさい。妹が出来ると思えばいいのよ」

 

「確実に棒姉妹になるじゃないですか! 先日、ウォッカとチューハイで乾杯しながら誓った、この人の浮気徹底阻止の誓いはどうするんです!」

 

「まだ若い身空なのに、腰痛が慢性化するのはちょっと…」

 

 

 レアとは姉妹かつ親子になるな。

 と言うか、腰痛なんて出てるのか? うーむ、オカルト版真言立川流、最近はあんまり使ってないとは言え、相手の体に負担を残すとは……未熟。

 

 

「…え、使ってないんですか? それにしては、その、あの、毎晩毎日、死んじゃうか、死んでもいいかなって思う程……」

 

 

 顔を赤らめるアリサが可愛い。しかしそれは、二人の体が馴染んできてるからだぞ。素で俺専用に変わってって事。

 

 真面目な話、何も考えずにアレ使うと、突っ込んだら即アヘアヘ状態になっちまうからなぁ。 

 マジカルチンポはリアルに持ってたら醒めるぞ。オカルト版真言立川流は、極端な事を言うと流し込む霊力を多くすれば多くする程、得られる快楽が強くなる。行為や技巧に関係なくだ。

 相手の反応を見ながら攻略して染め上げていくのが楽しいんだよ。ミッションスタートと同時に、ボタン一つ押すだけで全クリになっちまうゲームにどんな面白味があるんだ。

 

 …いやまぁ、ちゃんと使いこなせば、今以上にスゴい事できちゃうんだけども。

 

 

「……今以上に」

 

「スゴいの……」

 

 

 スゴいの。緩急つけてフェイントかけて四方八方から責めるのは、戦術の基礎よ?

 ま、それは追々ね。具体的には長期休暇が取れるようになって、あっぱらぱーになった頭が回復できるだけの余地が出来たらだ。

 

 

「……十月十日くらいの休みなら、取れそうな気も…」

 

 

 非常に魅力的なお誘いだが、リアル話するとこの後のデスワープの可能性を潰す為に、二人には、なるべく戦力で居てほしいんだ。

 ……また、イヅチの野郎に赤子の因果を奪われるなんぞ、御免被る。作らなければいいって話ではないが、順序と言う物はある。

 

 

「愛欲の話は置いておいて…。真壁ハルオミ。…聞いた事はあるわね。一度口説かれた事もあったわ」

 

 

 口説かれたのに聞いた事があるって程度か。見事な程に脈がねーな。

 

 

「赤いカリギュラ…。目撃情報を集めてみるわ。彼も、恐らくそのカリギュラを追っているんでしょうしね。……そんな性格には見えなかったけど、自分の本心を見せないタイプみたいだし」

 

 

 ある意味本心ではあるんだが、別の意味での本心を見せないんだよねぇ。

 もっと語り合ってみたかったよ。具体的には、ムーブメントには直接触れるべきか否かについて。

 

 それは置いといて、とりあえずは赤いカリギュラか。シエルに続いて、ギルまで血の力に目覚めなかった…ってのは勘弁してほしい。

 上手く話が進んでくれるといいが…。

 

 

 

 

 

 



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330話

 

 

神逝月

 

 

 またアイドル候補生と遭遇。本当に数が多いな…。全員がタケウチ社長の所に所属してるのかは知らないが。

 その中の一人とテレビを見ながら話していたところ、タケウチ社長が何故か食い気味に割り込んできた。微妙に睨まれているようだが、気のせいか? 失礼なこと言うけど、目付きよくない人だしなぁ…。

 やっぱ、アイドルが男とプライベートで話していたってのは好ましくないんだろうか? しかし、笑顔がどうのと言っていたあの人が、ただ話すだけでどうこう言うとは思えんし。

 

 何やら誤解されている気がする。

 

 しかし……ミナミっつったか。表情が妙にエロい子だったな。……いやこんな事考えてっから誤解されるんだよ。

 

 

 誤解はともかくとして、見ていたテレビの内容だが、アイドル業界に超新星が爆誕したとかナントカ。超新星とか期待の子役とか、大げさに言う物だろうから、あんまりアテにはならないが、確かにこう……何か感じる物はあったな。

 ミナミさんやタケウチ社長から見ても、かなりレベルの高いアイドルだそうな。

 

 名前はタカネ。ミステリアスな雰囲気の、諸々のプロフィールが軒並み不明で、分かっているのはラーメン大好きな事くらい。

 数日前まで完全な一般人だったにも関わらず、凄まじい勢いで歌や踊りを身に着け、その技術だけで言えば既に業界トップクラスらしい。

 アイドル業界に入った切っ掛けは、何やら探し人が居て、その人からの接触を待つ為だとか。

 ちなみに、その探し人は既に見つけているそーな。

 

 

 ………何だろ。テレビ越しにだけど、確かに妙な感覚を感じる。既視感…のような、それともちょっと違うような。

 …俺を、見ているような? いや幾ら何でもそれはねーよな。自意識過剰っつーか、画面の向こうのアイドルの発言が自分に向けたものだと思い込むとか、どんなストーカーやねん。

 

 

 …まぁ、いいか。この人もシンデレラオーディションに参加するらしいし、ひょっとしたら会う事もあるかもしれない。会わないのなら、それまでの話だ。

 

 

 

 

 

 さて、別世界の事は置いといて、狩りとGE世界シナリオの話だ。

 

 ムーブメント師匠、来日。

 なんか前回より遅くね? まぁ、前回と同じ事ばかり起きるのではないと、身に染みてるけどさ。

 ギルと話をしていたが……揉めて…はいないよな? なんか、ムーブメント師匠が知らない女を連れていたらしい。…別に珍しい事じゃないだろ。ムーブメントについて語る度に、あっちこっちから女性ゴッドイーターを連れてきてたんだし。

 ムーブメント師匠の恋人とは……まぁ、死に別れて。結構な時間が経っている筈だ。浮気って訳でもない。

 

 仇討ちも果たせてないのに、って気持ちは分からないでもないが。

 

 

 

 結局、浮気じゃなくて任務で連れてただけらしいんだけども。

 ムーブメント師匠が連れていたのは、アメリカ人のゴッドイーター・ケイ。フレンドリーと言うかダイナミックな人だ。体的にも性格的にも。スキンシップが激しいが、別に付き合っている訳ではないらしい。

 ロミオがハグされて硬直していた。……今日のオカズは決まりかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 いきなりでなんですが、ギルがブラッドアーツを習得しかけています。…早くね? まだ赤いカリギュラとも遭遇してないよ。まぁ、前回の指導の経験があるから、効率的なやり方を分かってるってのもあるんだろうけど。

 ちなみにナナは「追い抜かれちゃったね」、ロミオは…血の力に目覚めているけど、隠しているから「うかうかしてられないな」くらいのリアクション。

 ジュリウスは…「何故、ナナより先にギルが目覚めたのか?」という疑問だった。……素質もあるだろうが…心理的な物だろうなぁ。トラウマを自覚無く封じ込めているナナだ。ブラッドアーツ習得にも、影響は出るだろう。

 シエルは落ち着いている…ように見えるが、何とかして覚醒できないかと思考錯誤しているようだ。

 

 

 何故に? ムーブメント師匠と話をしたからか? でもそれだけで吹っ切れる筈もなかろうに。

 まぁ、血の力とブラッドアーツは微妙に別物だから、ブラッドアーツだけ習得してもおかしくは無いが。血の力が炎なら、ブラッドアーツは熱。体内で燃えている炎を直接外に持ってくるのが血の力で、漏れ出た熱を活用するのがブラッドアーツだ。

 

 …俺が教導している内容自体、ブラッドアーツを使えるようになる為の物だから、覚えてもおかしくはないが…なんか、随分と一気に習得率が跳ね上がったな? この前までは、調子がいい時に僅かに光るかどうかって程度だったのが、明確に赤い光が確認できる。攻撃力は伴ってないけど。

 ただ……何だろうな、あの光からは、あまりいい印象を感じない。………焦燥…だろうか。光を見るだけで感情や精神を読み取れる訳じゃないが、内面観察術を併用して、ギルの事情を鑑みれば、ある程度は見当がつく。

 

 まー割り切れるもんじゃないっつーか、平静でいられる筈もないわな。

 感情の乱れは、ある意味では感情の爆発。血の力の発動条件にも通じる。転じて、ブラッドアーツの体得にも繋がったか。

 

 

 …どうすっかな…。放置しておいてもいい事ではない。だが、言って聞かせて落ち着くものでもない。

 やはり、一段落つける為には仇討ちか?

 

 レア、赤いカリギュラの情報ってある?

 

 

「最後の目撃情報は2か月前ね。それまでは各地でちょくちょく報告が上がっていたようだけど、ぷっつり途絶えてるわ」

 

 

 そうか…。普通のカリギュラを捕まえてきて、ペンキで赤く塗るか? いやでも、確か恩師の神機が刺さってるんだよな。途中で抜けたって事にすれば誤魔化せるか。

 そもそも、何故に赤いんだろうか。3倍でもなきゃ1.3倍でもなかろうに。

 むしろ、ストーリー序盤から中盤で出てくるカリギュラなんだから、一般的な個体に比べると逆に弱い部類に入るんじゃなかろうか。

 

 ん? 前回ループでも、同じような事を日記に書いた覚えがあるような無いような。

 

 前回は…日記を読み返してみると、鬼いちゃんの幻魔剣なんて厄介な物使ってきてたんだな。しかも赤犬の乱入付。

 仮にまたタッグで襲ってきたとして、返り討ちにする事自体は問題ない。前回と同じであればね。

 幻魔剣は厄介だが、使いこなせてないし、熟練度も甘い。何より、フロンティア経験後の俺であれば、多少頑丈になっていたとしても一刀両断できるくらいの戦力差がある。

 奇襲を受けたとしても、「油断? これは余裕というものだ」とCCOさんごっこしながら宇宙CQCをキメるくらいの事は出来る。

 

 一番の問題は、ギルとムーブメント師匠がどうやって心の整理をつけるかって事なんだよな。俺が勝手に赤いカリギュラを狩ってきて「終わったぞ」の一言で済ませる訳にもいかん。

 そういや、前回のギルは『ケイトさんに会ったよ』みたいな事を言ってたな。赤いカリギュラを斬っただけで心が落ち着く筈もないから、それがカギか…。

 

 

 

 

「…それ、感応現象じゃないですか? ほら、新型…と言っても、新型だったのは3年前の事ですが…同志が右手で触れ合うと発生するって言う。その赤いカリギュラには、右手じゃないけど神機が刺さってるんでしょ? それを手に取った時に、何かが伝わった…とか」

 

 

 …あー! 確かに! それはあり得る。神機に自由意志がどれくらい宿るかはともかくとして、リンドウさんのブラッドサージ…レンという前例もある。

 神機を通じて遺言を残すとか、案外できそうだ。勿論、誰にでも、いつでも出来る事ではないだろうけど。

 

 うん、赤いカリギュラとやり合う時が来たら、そこら辺を注意してみてみるか。

 

 

「でも、その肝心の赤いカリギュラが見つからないんですよね。仮にゲームシナリオとやらに沿った未来だった場合、極東付近に潜んでいると思うんですけど」

 

 

 …そーね。2か月前か…。何処に行ってもおかしくないが…。

 

 

「そのカリギュラ、普通のカリギュラと違うのは色だけじゃなかったのよね? おかしな力を持っていた…とすると、考えられるのは……また新たな力を得て、それを使って目撃者を消している。或いは……そもそも、姿形が変わったか…ね」

 

「他のアラガミに既に食われている、という可能性もありますが…正直、考え出すとキリがありませんね」

 

 

 それだと手の付けようがないんだよなぁ…。

 

 

 

 

 

神逝月

 

 

 オーディションの開催まで、あと数日。

 手伝いの合間を縫って、ロミオのモトカノ復縁計画を練っている。参謀として、シエルを巻き込んでみた。

 

 

「…あの、何故私を? こういった事は、不得意なのですが」

 

 

 それは知ってるが、だからこそだ。苦手な事だからこそ、積極的に練習しないといかん。

 

 

「その理屈も分かりますが…もういいです。それより、ロミオ副隊長の元彼女と言うのは」

 

 

 ああ、この資料を見ろ。詳細は省くが、順調に仲良くなり、このまま行けば結婚もあるか…という段階で、破局してしまっている。

 調べてみたところ、ロミオは自分に非があると思っていて、9割以上は諦めムード。お相手の子は………未練があるけど、認めたくないって感じだな。

 

 

「認めたくない? 何故ですか? そもそも、直接会った事もないのに、何故そうまで分かるんです。………資料によると、ロミオと別れた頃から、同年代の男性に対して態度が厳しくなった…とありますが、これは所謂男性嫌いなのでは?」

 

 

 ま、そこは色々と経験の賜物って言うかね。殆どはGKNGからの、不必要なまでに詳しい情報によるものだけど。

 言動や、他の男への態度で、ある程度予想もつくんだよ。あくまで予想でしかないが。

 認めたくないと言うのは……その、さっきも言ったが、破局した非はロミオにあってな。(大本まで辿れば俺だろうけど)それが、著しく彼女のプライドを傷つける事になった。

 

 自信を失っている、と言いかえてもいい。失った自信を取り戻す為には、どうすればいいと思う?

 

 

「そうですね……。最も効果的なのは、同じ状況を乗り越えさせる事…でしょうか?」

 

 

 そうだな。だが、自信喪失している人間が、その『同じ状況』に積極的に挑めるかと言うとな…。

 しかも、彼女が自信喪失した状況は、気安く行える状況じゃない。

 

 自信を取り戻したい。だけど、他人を相手に『そういう事』をするのは嫌だ。やっていいと思える相手は、今までロミオしか見つかってない。

 でも、そのロミオにプライドを傷つけられた。見返してやりたいが、そういう風にできるだけの雰囲気も作れないし、何よりもしも同じ事をされてしまったら、二度と立ち直れなくなるくらいに傷ついてしまうだろう。

 

 …そういう葛藤が渦巻いてんだよ。

 

 

「……そ、そういうものですか?」

 

 

 多分。ま、納得できなきゃできないで構わないし、推測が的外れであっても大した問題じゃない。

 ただ、このまま放っておくとロミオの将来が色々不安なんで、何とか復縁させてやろうと思っている訳だ。

 

 

「はぁ…。そもそも、ロミオ副隊長が、この人のプライドを傷つけた、という状況が分からないのですが。昔からコミュニケーション能力の高い人でしたし」

 

 

 その割には、ゲームでは微妙な発言をしてたけどな。

 強いて言うなら……一番大事な物をプレゼントして、ロミオもそれを丁重に受け取ったけど、その扱いを間違えてしまったとゆーか…。とにかく、初めての事だったから、ロミオも勝手が分からなかったんだ。

 俺も、自分で高めるやり方だけじゃなく、相手が居る状況でのヤり方を少し伝えておけば、もっといい結果になってたかもしれないなぁ…。

 

 

「益々もって、言っていることが分かりません…。結局、具体的にどうするつもりなんですか?」

 

 

 うん、この子も今度のオーディションを、VIP席で鑑賞するらしいんでな。その時に色々と唆して、リベンジさせてやろうかと托卵でおる。…いや待て企んでるんだ。ロミオのモトカノ兼未来の嫁さんに手を出す気はない。

 

 

「そこまで決めているなら、私の助力など必要ないと思うのですが…」

 

 

 いやまぁ何だ、シエルの血の力も目覚めさせなきゃならんし、丁度いい機会かなって。

 

 

「…!? 意図的に目覚めさせる事ができるのですか!?」

 

 

 うん。ただ、普通に考えると色々問題になるんでやってなかった。特にシエルの状態と言うか生きてきた環境を考えると、下手しなくてもセクハラ通り越して脅迫扱いになりかねん。

 『ブラッドで居たいなら、体を差し出せ』と言ってるようなもんだし。

 

 

「よく分かりませんが、このシエル・アランソン。血の力に目覚め、より一層の貢献をする為なら、どのような事でもする所存です」

 

 

 ん? 今、何でもするって言ったよね?

 

 

「はい」

 

 

 …あっさり返されても反応に困ると言うか…。まぁいいや。

 とりあえず、アリサとレアに許可取ってくるから、これに関してはまた明日辺りにね。

 

 

 …ところでシエル。君、性的な知識ってどれくらいある?

 

 

「性的と言うと、子供を作るメカニズムの事ですか?」

 

 

 いやそーいう意味じゃなくて…その過程について。………質問の意味が分からない? いや、それならそれでいいんだ。それに合わせたやり方でいくから。

 

 

 

 

 

 

 

 追記

 この夜、『許可』をもぎ取る為に、2匹のメスを精根尽き果てるまで嬲り尽くした。いつかやり返す、みたいな事を言われたが、それはそれで楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神逝月

 

 

 とうとうオーディション、開催!

 と言っても、まだ第一審査の段階だけど。

 

 会場は、極東支部近くの大きな広場。恐ろしい事に、対アラガミ防壁の『外』である。

 元々は壁の中で行われる予定だったのが、参加希望者が多すぎて、急遽会場が変更となった訳だ。そのおかげで、ここ数日のゴッドイーター達は忙しかった。会場の安全を確保する為、近辺のアラガミを徹底的に掃除していたのだ。無論、俺も参加していた。手応えなかったけど。

 

 壁の外で、安全も保障されているとはとても言えないと言うのに、会場は大盛況。それだけこのオーディションが注目されているのだろう。

 ちなみにゴッドイーター達はと言うと、総出で会場の警備に当たっている。勿論、ブラッド隊もそれに参加していた。

 

 

 

 …そして俺はと言うと、胡散臭い支部長と博士に並んで、審査員席でボケーッと座っている。確かに審査員を引き受けはしたが、俺はこんな所で何をやっとるのだろうか…。

 そりゃ、ちゃんと審査はしてるよ。歌にしろ踊りにしろトークにしろ、素人目線だけど『あ、これいいな』って思った相手はメモしている。

 メモしているけど、その結果、殆どの参加者の名前がメモ帳に書かれてるんだよねぇ…。余程下手な子でない限り、オッケーを出してしまっている状態だ。

 

 もう審査がどうのと考えずに、楽しんでしまえばいいだろうか?

 ちゃんとした審査は専門の方々がやっているようだし、本気でここに居る理由が分からないんだが…。博士と支部長が直々に「ここに居ろ」と命じてきたんで、何かあるとは思うんだけど。…もしかしなくても、この状況で黒蛛病治療しろってか? テレビカメラも来てるしな。

 

 

 

 

 …お、もうすぐ顔見知りの出番だな。最初はドゥーチェか…。それから少しずつ間隔を開け、リンやミカと言ったタケウチ社長の所に所属している本職達。その更に後には、希代の超新星と名高いタカネ等の名前も見える。

 ふむ…ま、とにかく今は愉しめばいいか。どーせ、絶対に何かトラブルが起きるんだ。それまでは、彼女達のステージが上手く行くよう願うだけである。

 

 

 

 

 そうそう、ロミオのモトカノ復縁計画の参謀であるシエルだが、休憩時間中に一つ仕込をしておくよう伝えておいた。

 今一、指示の意味が分かっていなかったようだが、「ひょっとしたら友達ができるかも」の一言で飛びついてきた。……外道な事やってんなぁ、俺…。

 

 

 

 

 

 

 

 あ、ドゥーチェの出番…。

 …何で軍服着てるんだ、アイツ? コスプレか? イロモノ路線と言ってしまえばそれまでだが、似合ってはいるな。

 しかし、やっぱ歌や踊りは本職には一歩及ばない。

 このままだと、オーディションに落ちてしm

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドゥーチェ! ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!

 

 

 

 



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331話

ネルギガンテ討伐ー。
ってまだ先があるんかい。
楽しみが続くのはいいことですが、そろそろ気分転換しようかな。
アサクリの隠れし者でも…。


嫌な上司がどっか行く模様。
次に収まった人は割と好きな上司です。
好き嫌いで仕事するもんじゃないとはいえ、やっぱりやりやすいなーとは思います。


追記
風邪と口内炎がマジうざい。
口内炎、塩を塗り付ければ死ぬほど痛いけどすぐ治ると聞きましたが…やめといたほうがええわ、あれは…。


 

 

神逝月

 

 

 ふぅ、何とか片付いた…。いやもう大騒ぎだったなぁ。

 会場をアラガミ防壁の外にした時点で似たような事になるとは分かってたが。全く、参加者が多すぎるってんなら、まず書類審査でもしろよ…。

 結局、しわ寄せが行くのは末端の従業員なんだから。この場合、ゴッドイーターに、オーディションの為に裏方に徹していた人々だな。

 

 ま、とにもかくにも重症人は出なかったし、ギルも血の力を習得できたみたいだし、鬼の手を使った黒蛛病治療の宣伝もできたし、オールクリア…なのかな?

 アンチョビ(頼むからドゥーチェ呼びは止めてくれと頼みこまれた)も合格した。ドゥーチェコールの一体感が決め手だったな。いつぞやアドバイスしたように、観客にチームアンツィオのメンバーを仕込んでサクラ役(本気で応援してたんだろうけど)に使ったのが良かったっぽい。最終的には会場の殆どがドゥーチェコールに参加するという異常事態に陥った。

 ちなみに、ルール的に特に問題は無かったりする。

 

 

 その他、リンやミカも無事合格。

 問題だったのは………タカネさんかなぁ。

 いや、余裕で合格できるくらいの実力はあったのよ。実際合格してたし。

 

 問題と言うのは……まぁ、トラブルでね。

 

 

 

 

 

 

 

 アラガミが乱入してきました。

 

 そりゃそーだよね! 周辺のアラガミを片っ端から掃除したからって、新しいアラガミが来ないとは限らないもの。しかも、美味しそうなエサ(主に人間)が沢山いるんだから、そりゃ危険を冒してでも殴り込んでくるわ。

 まぁ、極東ゴッドイーターは凄腕揃い(エミールやエリックさんのような、疑問符が付くのもいるが)だから、大体のアラガミは排除できていた。

 

 …ただ、空を飛んで乱入してくるのは、予想外だった。考えてみれば、極東には飛行可能なアラガミってザイゴートくらいだよな。あれも空を飛ぶって言うよりは、浮遊しているって感じだけど。

 オラクルバレットも届かない高度から、一気に会場のど真ん中に乱入してきやがったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤いナルガクルガがな!

 

 

 しかも、なんか肩のあたりに神機が突き刺さったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 おい何だよコレ。この世界にナルガクルガが居る訳ねーし、前のやつらみたいなアラガミが変化した奴か?

 よくよく思い返せば、色以外にもあちこち、こう……トゲトゲしてるっつーか、鋭い感じっつーか、刃が強調されてるような感じもあった。動きも、MH世界のナルガクルガに比べ、二足歩行に近い印象もあった。

 率直に言って、本家に比べて弱かったけど。比較対象がフロンティア個体じゃなぁ…。

 

 

 まぁ何だ、簡潔に書くとだな、希代の超新星ことタカネの出番になった時、空から未確認飛行物体が飛び込んできた訳よ。タカネの目の前に着地して、自分の存在を誇示ような大咆哮。声だけでステージに罅が入って崩壊寸前までいった辺り、ティガ亜種並みの声量だったと思う。

 空までは警戒してなかったゴッドイーターも大騒ぎ。とにかく一般人と参加者の安全を確保しろ、って緊急スクランブル。

 

 

 その中で、タカネは平然としてたんだけどね。鼻息がかかる距離に居ながら、リードで繋がれてキャンキャン吠えるワンコを見るような視線で平常心。スゲェ度胸だ。モンスターを目の前にしたら、ハンターだって一瞬は身を竦ませるのに。

 あのまま放っておいたら、頭を撫でるくらいはしてたかもしれん。まぁその前に、ムーブメント師匠が突っ込んでいった訳だが。

 

 「美女を守るのは男の本懐」なんて叫んでて、それについては俺も全力で同意するけど、まぁ……あいつこれ以上、犠牲を出させるなんて冗談じゃない、って話だったんだろうな。

 

 

 

 そうだよ、あの赤いナルガクルガ、多分だけどギルの恩師の仇である、赤いカリギュラ……ルフス・カリギュラだっけ? あいつの慣れの果てだよ。肩に刺さってる神機がその証拠。回収されて検分され、やっぱり該当の神機だと確認されました。

 そりゃ目撃情報も途絶えてる筈だわ。姿形が全く別者に変わってんだから。…俺がループしてくるまでの経緯が全く同じだとしたら、半月程度で変異した事になるが…アラガミ細胞の学習能力は、それくらい余裕なんだよな。どこから学習したのかはともかく。

 

 

 

 その後はテレビの前で、ムーブメント師匠と駆け付けたギルと、ブラッド隊員に極東支部メンバーの一部が大乱戦よ。

 どこの特撮映画だと言いたいが、割とガチでヤバかった。

 

 俺はタカネを引っ掴み、安全な場所へと移動したんだが………この時、また訳の分からん情報が増えてしまった。ま、これについては後で語ろう。これはあくまで俺の直感で、立証はされてないしね。

 フロンティア個体並の勢いで大暴れするナルガクルガと、それを必死こいて押し留めるゴッドイーター達。

 

 流石に腕利き揃いの極東支部に、ブラッドアーツなんて必殺技モドキを操るブラッド隊も居たし、任せちゃってもいいかな? とは思ったんだけど、なんかこう…活力を持て余してね? オーディションで聞いた歌の数々で、テンション上がってたんだろうなぁ。 

 鬼の手を具現化して、思いっきり鷲掴みにしちゃいました。そのまま、適当な壁に叩きつけて動きを封じた。

 

 ここぞとばかりに、ギル・ムーブメント師匠・ロミオの、クロノトリガーのトリプルアタックをホーフツとさせるような連携攻撃。

 ムーブメント師匠が袈裟、ロミオが逆袈裟、ギルがチャージの見事な同時攻撃だった。

 

 しかし、何だってそれで他人の神機を掴んじゃうのかねぇ。侵蝕の危険があって、マジでヤバイのよ? ギルだってその事は分かってるだろうに。

 ゲームシナリオだと、戦いの中で咄嗟に…って感じだったと思うけど、今回はルフス・カリギュラ改めルフス・ナルガクルガは鬼の手で完全に固定されているとゆーのに。ぶっちゃけ、連続攻撃しなくても、脳天狙って一突きした方が確実性は高かったくらいだ。

 

 

 何はともあれ、それでルフス・ナルガクルガの討伐は完了。ギルも、何か知らんが安定した状態で血の力には目覚めていた。やはり、恩師の神機に触れるのが切っ掛けか?

 

 

 

 

 

 普通に考えれば、アラガミが乱入した時点でオーディションもクソもない。むしろ、フェンリルの管理責任を問われ、その矛先を逸らす為にゴッドイーター達に責任を擦り付ける…という展開だったろう。

 が、何とオーディション続行。安全の為に一時閉会となりかけたのが、タカネの鶴の一声で続いてしまった。

 無論、タカネにそんな権限は無い。いくら注目されているとは言え、それはアイドルとしてであり、フェンリルに対して何らかの権利を持って居る訳じゃなかった。

 

 だが、タカネの続行要請を断れる空気じゃなかった。下手に却下すると、それこそ暴動でも起きそうなレベルだった。

 アラガミの乱入で混乱していた一般人達を、たった一曲の歌で鎮撫して、当然のように女王様的なポジションを確保してしまう。

 

 落ち着いた一般人達の無言の圧力を味方につけ、オーディションの続きに入る。

 

 …いやもう、本当に見事なもんだったよ。マイクも使わず、BGMも演出も無しの歌で、混乱した人達を落ち着けるんだぞ。そんな奴が、本格的なサポート付きで歌ったらどうなると思う? ……セイレーンの歌って、あんな感じかもなぁ…。

 半壊した舞台の上で、瓦礫の山を足場に踊るタカネは、それこそ本気で妖精のようだった。と言うか、普通に空飛んでなかった? 

 それ以上に気になるのは、あの歌……まるで血の力でも籠っているかのようだった。

 

 赤い光なんて見えなかった。だけど、血の力でなくても同じ事は出来る。歌に籠められた想いや、技術で同じ事が出来る…という意味ではなく。

 霊力を使えば、似たような事は出来るよなぁ。ただし、それをこの規模でやるには、とんでもない出力が必要だが。アラガミモードの俺ですら、出来るか怪しい。

 

 ああ、おかげで彼女の正体は見当がついた。と言うより、一目直接見た時から直感はしていた。

 何故こんな所でアイドルなんかやってるのかは分からんが、どうやら本当に探し人と言うのは俺だったらしい。

 

 …さて、どっかで直接会わなきゃな…。

 

 

 

 

 

 さて、タカネの後のオーディションは…言っちゃ悪いが、順当? こんだけのドタバタがあって、とんでもない実力者の後に歌う事になって、実力を出し切れる人なんかそうそう居ない。

 消化試合のように、全参加者の行程は終わっていく。辞退した人も多かったらしい。

 

 オーディションの合格者は後日発表とされ、本日は終了となった。

 

 

 

 …俺にとっては、そっからが本番だったがな。

 すっかり忘れてたけど、テレビの前で黒蛛病の治療をやれって言われてたんだった。ま、それ自体はどうって事ない。

 ジュリウスやユノみたいな特殊例ならともかく、一般人なら黒蛛病治療はそう難しくない。『大変そうにやってくれ』って言われて、演技する方が余程大変だったくらいだ。 

 

 

 その反応は……大騒ぎとまでは行かなかった。静かなざわめき、興奮…ってとこかな。

 ま、見た目的には地味だからね。透明な手が患者を包んだところでは多少悲鳴が聞こえたが。

 

 不治の病の克服とか、世紀の大発見って言っても良かろうになぁ。

 単純に信じられないのか、それともこの場に居る観客の身内には黒蛛病患者が居ないのか。どっちもありそうだな。

 実際、テレビの向こうからは結構な問い合わせが殺到していたらしい。

 

 そこらへんの裏事情はともかくとして……治療を見せた後の、支部長の演説(兼オーディション終了の挨拶)は次のようなものだった。

 

 

 

「フェンリル所属、極東支部長のシックザールだ。本日はお集まりいただき、誠に感謝申し上げる。トラブルはあったものの、これにて本日のオーディションは終了となる。合否の知らせは後日、大々的に張り出されるのでそちらを参照してほしい。さて、場違いな話で恐縮だが、ここで一つ重大な知らせがある。身構えなくても、朗報と言える知らせだ」

 

 

 …堂々としてるのはいいけど、観客に対する態度じゃねーなー。下手に出ると、言葉尻を捕まえられるってのもあるだろうけど。

 

 

「前置きが長くなるが聞いてほしい。そもそも、何故フェンリルがこのようなオーディションを開いたのか、疑問に思っている者も多いだろう。規模こそ桁違いになり、社会への影響力も非常に増大したが、フェンリルは営利企業だ。率直に言ってしまえば、利益の出ない事はしない。アイドルという新たな分野に手を出す事は、経営上で言えば非常にリスクが高い。つまり、このオーディションを開いたのには、明確な理由があると言う事だ」

 

 

 …もう観客の半分は聞いてねーな。お偉いさんの挨拶なんざ、そんなもんか。

 特に支部長の言い回しは迂遠で難解だからなぁ…。

 

 ……あ、VIP席にシエルが居る。……視線の先には…ロミオの元カノ。おお、話しかけるつもりか。上手く行ってくれるといいが…。

 

 

「このオーディションの謳い文句、『第二の葦原ユノを探せ』。この言葉は、比喩でもキャッチコピーでもない。世紀の歌姫と呼ばれる彼女が一躍有名になったのは、その実力もさる事ながら、黒蛛病という不治の病の病状を軽減し、進行を遅らせる事が出来る為だ。フェンリルでもこの現象について研究を進めているが、確たる理論はまだ打ち立てられていない。だが、こうは考えられないだろうか。『葦原ユノの歌で病状を軽減できるなら、他の誰かの歌でも出来るのではないだろうか』と」

 

 

 そういや、ユノって会場に居ないな。来てたら流石にすぐにバレるから、他所の超VIPルームとかで見てんだろうか? しかし気配も感じない。サツキも居ないな。

 極東での大きめの仕事って、てっきりコレの事だと思ってたんだが。…でもオーディションにトップアイドルが参加するってのもおかしいか。ゲストとして審査員に居てもおかしくなかったが…やっぱり居ない。

 

 

「そう、このシンデレラオーディションの真の目的は、黒蛛病への対策と成り得る人材の発掘なのだ! 無論、数を揃えただけで、葦原ユノと同じ事が出来る人材が見つかるとは思っていない。…彼らをここへ」

 

 

 扉が開き、タンカで運ばれて入って来たのは…明らかに体調が悪そうな…と言うか、体中に黒蛛病の痣が現れている、一人の青年だった。しかも末期だな、あれは…。簡易ベッドに横になっているが、体を起こすのも億劫らしい。

 …へ? 支部長が手招き……って、俺もかよ。

 

 

「彼は、見ての通り黒蛛病患者…しかも 病状は、非常に深刻だ。彼の病状が和らげば、その時の参加者の歌には効果がある事が認められる。…残念ながら、今のところ、反応があった参加者は居なかったが。…ああ、一応言っておくが、彼は自ら志願してくれたのだ」

 

 

 さらっと人体実験と言うか、人をオウムかインコ扱いしとるな…。

 で、支部長? ここでやればいいので?

 

 

「うむ…。やれるな?」

 

 

 あいあい。…お兄さん、ちょっとおかしな感覚が走ってビックリするだろうけど、我慢しなよ。

 返事もできそうにないので、無視して鬼の手を具現化。しっかりとテレビに映るように、観客に見えるように。

 

 どよめく声を無視して、鬼の手で男を包む。

 ………病状は深刻だ。深刻だが……黒蛛病を抜くだけなら、問題はない。むしろ問題は、衰弱しきった体をどう立て直していくかだが…そこまでは俺にも責任は持てん。

 

 事前に厳命されていたように、さも大仕事であるように苦し気な表情をしつつ、男の体から黒蛛病の痣と元になっている力を抜き取った。

 結構数が多いな…。鬼の手に無数の蜘蛛が群がっているようにも見える。

 あまり見ていて気分のいい物でもないし、鬼の手を思いっきり縮めて凝縮し、握り潰した。

 

 後に残るのは、痣が消え、気絶している青年のみ。

 

 

「……このように、黒蛛病を治療する力は発見された。先程、アラガミを捕縛するのにも使っていた力だな。ラケル・グラディウス博士が提唱する、血の力と言う一部の人間が使う事ができる、未だ解明されていない力によるものだ。だが現状、この方法を使う事が出来る者はここに居る彼以外には居ない」

 

 

 

 う、注目が集まった。平常心平常心。こいつらはアレだ、ナスだ。カボチャだ。さもなくば……うん、羞恥プレイしてる時の観客だと思おう。……ここ、相手が男しか居ねぇよ…。

 

 

「本人は一人でも多く黒蛛病患者を治療したいと言っているのだが、彼一人に対して患者の数が多すぎる。これからも増えていくだろう。どう考えても、彼一人では足りないのだ。故に、我々は協力できる者を探す事にした。歌で病状を和らげるという、前例があった方法で」

 

 

 あ、榊博士まで出張って来た。……極東の胡散臭いツートップが揃って話をしてどうすんだ…。むしろ疑ってくれと言ってるよーなもんじゃなかろーか。まぁ、元々胡散臭い話だけど。

 

 

「彼の協力により、黒蛛病治療の研究は進んだ。それによると、黒蛛病治療には、大きな感情の揺れが有効らしい。どんな感情でもいいのではなく、感動、共感、興奮…そう言った感情の揺れだ。先程、彼が行った方法でも出来なくはないのだが、この技術の習得難易度は非常に高い上に、あまりに何度も繰り返すと、黒蛛病の病原菌のようなものが彼の体に残留し、今度は彼が黒蛛病になってしまう。治療できる人数を絞りながらでなければ、ようやく見つかった治療手段が消えてしまうんだ」

 

「プレッシャーを与えて敬遠される事を避ける為、この目的を伏せていた事については謝罪する。もしも『自分にそのような大役は務められない』と判断し、オーディションを辞退するのなら、それも構わん。特にペナルティは無い。また、この役目を務める為に、この血の力を習得する為の訓練が課せられる。それで習得できる人材がどれ程居るのか、現状では何とも言えん。……だが、もしも『我こそは』『自分の歌で世界を救う』と豪語出来る者がいるのなら、いつでも構わん。今後も定期的に開催するオーディションに、参加するがいい。以上だ!」

 

 

 

 

 

 

 …と、こんな塩梅だったかなぁ。もっと長ったらしい話や説明、補足があったんだが、実はロミオのモトカノとシエルとの会話に神経が集中してて、半ば聞いてなかったんだ…。

 

 面倒な事になる前にさっさと引き上げたけど、後から色々と突っ込みが飛んできたらしい。ま、矛盾点とか山のようにあるだろうしな…。

 そもそも黒蛛病治療法が発見されたなら、オーディションなんぞやらずにまず医学界にでも発表しろと。…これについては、理論立てて説明できるものでもないし、そもそもサンプル例が少なすぎるので、とても発表できるようなものではない…という理由を付けていたが。

 

 

 あれから一晩明けたけど、色んな所で話が紛糾してるみたいだな。

 絶対嘘だ出鱈目だとフェンリルを攻撃する者も居るし、証拠を出せと言われてカルテを見せられ、虚偽の証拠を探そうとする者も居る。

 逆に『俺を治療しろ!』って声も上がってるし、『本当に歌や感動で病気が治るのか』という至極当然の疑念を持つ者も居る。

 

 

 そして……ブラッド隊は、なんか面倒な立ち位置になり、暫くは極東支部に留まる事になってしまったようだ。一応、ブラッドは次代ゴッドイーターの教導部隊にして、血の力の専門家でもあるからなぁ。まずは彼らがあの治療法を使えるようにならないと、面目丸つぶれになっちまう。

 これについて、ジュリウスが支部長と榊博士に抗議していたようだが…ま、相手が悪いな。

 

 

 さて、それはそれとして…あと書いておく事は、二つくらいか。

 一つはタケウチ社長との会話、もう一つはロミオのモトカノとシエルの会話についてだ。

 

 廊下を歩いていると、難しい顔(一見するといつでも難しい顔に見えるが、眉間に皺が寄っていた)のタケウチ社長と会った。

 どうも、社長。…事態、呑み込めてます?

 

 

「…どうも。…正直な話、戸惑っております。『第二の葦原ユノを探せ』と聞いてはいましたが…」

 

 

 首の後ろに手をやりながら、相変わらず内心が読みにくい口調のタケウチ社長。

 まぁ、普通は歌で病気を治そうなんて、ふざけてんのかと言われてもおかしくないよな。

 

 

「いえ、そうでもありません。音楽療法は、古来より用いられた手法です。…確かに、効果を立証するのは難しいですが。それより、驚きました。…あのような事が出来るとは」

 

 

 あのような事? ……ああ、黒蛛病の治療の事か。意外とあっさり信じましたね。巷では…と言うか、現在進行形でフェンリルに問い合わせやら嘘を吐くなの批判やら治療依頼やらが舞い込んでるようですが。

 

 

「信じがたい事ではありましたが、少なくとも出鱈目ではないと考えています。企業の公式発表に無意味な虚偽を紛れ込ませれば、信頼を損なうのは企業です。如何に天下のフェンリルと言えど、それは大きな痛手になる筈です」

 

 

 フェンリルっつーか、支部長の独断みたな所はありますが…。

 まあ、少なくとも出鱈目を言ってる訳じゃないです。俺が黒蛛病を治療できるのは事実だし、それを再現する方法として歌や踊り…率直に言えば『感動』が有効なのも事実。

 

 アイドルの歌、踊り、笑顔で文字通り命を救う…。

 

 

 

「…彼女達に、それが出来ると思いますか?」

 

 

 ? らしくない疑問ですね。まだ数回しかあってないのにこんな事を言うのもなんですが、『笑顔です』の一言で出来ると断言しそうなのに。

 

 

「私個人としては、当社のアイドル達ならば、きっと出来ると信じています。ですが、聞けば血の力とは、個人の体質や才能に大きく左右されるらしいではないですか。何より、笑顔は人が生きるのに最も重要なものではありますが、それのみで生きていける訳ではありません。良い笑顔をする者が、良い医者であるとは限りません」

 

 

 ま、そりゃそうですな。オペルームで、器具の名前も分からずニコニコ笑ってるだけの医者が居たら失敗確定だ。

 とは言え……可能不可能で言えば、俺は可能だと考えてます。ラケルてんてーは、血の力を一部の人間しか使う事ができない力と考えていますが、俺の意見は違う。これは誰もが多少なりとも持っている力です。

 多分に適正に左右されはしますが、積み重ねと対価次第である程度の……うん、ある程度の領域までは持っていけます。その『ある程度』で治療が可能かは、試してみないと何とも言えません。個人差もありますし。

 

 

「…オーディションは、それが可能な人材を発掘する為のものと聞きました。ならば、何かしらの基準を持って居るのでは?」

 

 

 そりゃありますが…基本はアイドルと同じです。外見、歌唱力、性格、笑顔、潜在能力…その他諸々、『輝く』人なのかどうか。『感動』を引き起こせるのかどうか。

 有体に言ってしまえば、審査員の印象と匙加減一つ。

 血の力の才能だって、現時点で見た程度で分かる筈がない。…まぁ、一応専門家の俺が『この子には才能がありそう』とか言ったら、多少は加点されるかもしれませんが、それで合格してもね…。アイドルとしての仕事は出来るかもしれませんが、肝心の黒蛛病治療には役に立たんでしょう。ちゃんと力を身につけられたなら別ですが。

 

 

 ……あの、どうしました? なんか顔が怖いですけど。

 

 

「…いえ、何でも」

 

 

 何でもって顔じゃないが……何かまずい事でも言ったか? ちょっと考えてみよう。

 この人が表情を険しくする理由と言ったら、アイドル達に何かあった時、何かされそうな時だよな。

 でも、この場でそんな事を言ったか? 怪し気なスキルを教え込もうとしている…と言われると反論できんが、それも含めて辞退は認められている。

 真っ当なアイドルのオーディションだと思ったら、黒蛛病治療なんて大役を押し付けられたのは腹立たしいかもしれないが、実はAV女優のオーディションだった…なんて話でもないんだから………AV女優?

 

 

 

 …さっきまでの会話、これまで何度か話した時の事を鑑みると……自分はフェンリル側の審査員になっていて……。アイドル達が合格するかどうかは、自分達の胸先三寸と言っているようなもので…。

 

 

 

 …あのタケウチ社長。ひょっとして、枕営業の要請をされているとか、思ってます?

 

 

「……いえ…。その、ような…」

 

 

 …当たらずとも遠からず、だったらしい。

 社長、それ普通に誤解っす…。仮に俺がそういう事をしようとしていても、責任者が支部長と榊博士っすよ。絶対潰されます。

 

 大体、枕営業で合格させて、そのまま『感動』を引き起こせるとは思えません。絶対に陰りが出ます。

 手っ取り早い手段ではありますが、やったら破滅する未来しか見えません。

 

 

「……失礼しました。…何分、そう言った圧力をかけられた事も、一度や二度ではなく…」

 

 

 ちゃんと撃退したんでしょうね?

 

 

「無論です。指一本触れさせません。…ところで、『手っ取り早い手段』と言っていましたが、それは?」

 

 

 ……あー……。機密事項って事で。下手をすると、それこそ枕営業どころか、患者の命を使った脅迫と思われそうです。

 …そんな顔しないでくださいよ。知らない方がいい事も、知ったら話がややこしくなる事もあるんですから。

 

 少なくとも、俺からそういう意味で彼女達に迫る気はありません。お互いに合意の上で…って事ならともかく、レアとアリサ(とシエル)と付き合ってる俺に、そういう意味でOKを出す子がそうそう居るとも思えんし。 

 

 

「二股をかけている時点で、信用度は低いのですが…今は納得しておきます。…皆と話をしなければなりませんので、今日はこれで失礼します」

 

 

 お疲れ様です。

 

 …ふぅ、なんかあの人と話すと調子狂うなぁ。悪い意味じゃなくて、この人に妙な事をしたら、別の世界からとんでもなく叩かれるような気がして…。

 

 

 

 

 

 さて、タケウチ社長との話はこんなもんだった。枕営業疑惑には焦ったなぁ…。疑惑は晴れた…のかな? 

 しかし、いつものパターン通りに、なんやかやの内に関係を持ってしまう気がしてならない。レアが因果に関する考察で言ってたように、MH世界でクサレイヅチに奪われた分の因果が流れ込んでくるのだとすると………下手をすると、MH世界以上の人数と?

 …スキャンダルにならなきゃいいが…と思ったが、嘘臭すぎて鼻で笑われるような気もするな。

 

 まぁ、とりあえず現状は自分からコナかけるつもりもないし、アリサとレアの防衛戦を抜けるツワモノがそうそう居るとは思えんから、大丈夫だと思うけども。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、もう一つの話題、シエルの友達ゲット大作戦についてですが。

 

 

 

「…あの、友達ではなく、弟子が出来てしまったんですが…」

 

 

 …うん、こっそり聞いてたから知ってる。なんて言うか……その、ごめんね?

 

 

「いえ…確かに最初は、『友達とはこういうものなのかも』と思えましたし…途中から話がおかしくなりましたが。今後も付き合いを続けていけば、友達になれるかもしれません」

 

 

 …そういう場合、『もう友達でしょ』ってオチだろうなぁ…。こっそり聞いてたロミオのモトカノの性格からして、猶更。

 いや、それよりも問題なのは。

 

 

「それで…今後も指導をしてほしい、と頼まれたのですが、どうすればいいでしょうか…」

 

 

 

 ………本当に、どうしよう。

 



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332話

 

 

神逝月

 

 

 アリサとレアにタコ殴りにされ、オシオキとしてまたM男役をやった翌日。

 尚、今回のオシオキは拘束されてナニの根本に発射防止用のヒモを括りつけられ、アリサ・レア・シエルの3人に延々とフェザータッチで全身を撫で回されるというものでした。加えて、シエルの『射精していいんですよ』、レアの『もう出ちゃうの? 早漏ねぇ』、アリサの『許可なく射精なんかしたら、分かってますよね』とずーっと耳元で囁かれ続けました。

 むぅ、最近M性感の開発が多いなぁ…。

 

 

 シエルの友達ゲット大作戦兼、ロミオのモトカノ復縁作戦について、俺の部屋で作戦会議を開く事になった。

 

 床に正座し、膝の上にはなんかよく分からない合金の塊が置かれていますが、かなり本気で反省しとります…。

 

 

「正直に言いますと、普通ならこの程度じゃすみませんよ。破局待った無しです」

 

「しかも慰謝料付きでね」

 

 

 尤もでございます。

 

 

「あ、あのお二人とも……。その、血の力を目覚めさせる為のあの行為には、許可を得ていたと聞いていたのですが…」

 

 

 うん、許可をもらったと言うかもぎ取ったと言うか…。つーか、今更だがシエルにはあんまり抵抗が無かったように思うが?

 

 

「はい。性交という行為は知っていましたが、皆どうしてそれを忌避したり、執着したりするのかは分からなくて…。妊娠や病気の感染というリスクから、必要以上に行うべきではないと考えていますが」

 

「シエル……。いえ、これも私達の罪ね…。こんな風に育ててしまった…」

 

 

 多分に天然と言うか、本人の素質が入ってる気もするが…。

 抱いてる時も、羞恥心が殆ど無くてやり辛かったんだよなぁ。ま、その分知らない感覚に戸惑う顔をぞんぶんに楽しませてもらいましたが。

 ちなみに、今もその考え方のまま?

 

 

「………その、血の力をより強力にする事ができるなら、訓練として積極的に行うべきだと…」

 

「そういう建前ね。…本当にタチの悪い人ですね…。話には聞いてましたが、一回シたらもう即落ち状態じゃないですか」

 

 

 自分でも下手な洗脳よりタチが悪いと思って、恐ろしくなった事はある。なっただけで、止める事は全然考えてないが。

 

 

「その話は一旦置いておきましょう。それで…シエルを血の力に目覚めさせたのはいいけど、『友達が出来るかもしれない』と言うのはどういう考えだったの? ロミオの元彼女と復縁するのと、何か関係が?」

 

 

 簡潔に言うと、ワイ談できる相手を作りましょうって計画だった。

 

 

「猥談って……初めて会った相手に、そんな事する訳ないじゃないですか」

 

 

 普通はそうなんだが、あのお嬢様は多分喰い付いて来るぞ。と言うか実際来たぞ。

 あの子、女としてのプライドを傷つけられて、それから立ち直る方法を必死こいて探してる。誰にも相談できずに、正しい知識も得られずに…或いは、正しい知識『しか』得られずに、かな?

 そこへ自分の状態を察しているか、『それはお前のせいじゃない』と肯定してくれる相手が現れたら、多少怪しくてもついつい乗ってしまうもんだ。

 

 

「確かに…。最初は突き放すような態度でしたが、行為についての話に及んだ時、急に態度が変わりました。そういう事だったのですね」

 

「…詐欺師のような話ですね」

 

 

 似たようなもんだ。シモネタについても相談しあえる相手なんだ。友達と言っても過言ではない。

 

 

「……その理論の是非はともかくとして…それが、どうして友達じゃなくて弟子に?」

 

「それは私にも…」

 

 

 俺も遠くで聞き耳立ててたが、全部を聞き取れた訳じゃないからなぁ…。

 シエル、あの子との会話を、出来るだけ正確に話してくれないか?

 

 

「はい。まずは、最初に話しかけた時なのですが、乱入してきた赤いアラガミを討伐した後、ロミオをずっと見つめていました。そこで…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、シエルの会話を抜粋。

 

 

 

「ロミオの知人ですか?」

 

「…そうだけど。誰よ、アンタ」

 

「失礼しました。ロミオと同じ部隊に所属している、シエル・アランソンと申します。………? あの、私の胸に何か?」

 

「ナンデモナイワ。パルパルパルパルパル…ワタシニモコレクライアレバ…」

 

「………そ、その…いい天気ですね」

 

「…そうね。アラガミが降ってくる天気だけど。…何か用なの? ロミオと同じ部隊なら、警備に参加しないといけないんじゃないの」

 

「今は休憩時間です。………エエト、モラッタカンペデハ……ロミオに用事があるのでしたら、取り次ぎますが」

 

「結構よ。単に知り合いが居たから、何となく見ていただけ」

 

「……カンペ……ひょっとして、ロミオの彼女か何かですか?」

 

「…アンタには関係ないでしょう。元よ、元」

 

「そうですか…。ロミオがよく、貴方の事を話していました。『俺が悪かった。もう一度やり直したい』と」(←嘘である。自分の恋人は自分の手しかないと割り切って、未練があっても口に出さないようにしている)

 

「……今更…! あんな事をしておいて…」

 

「……初めて会った身でこのような事を言うのは僭越ですが、私個人としては、ロミオとまた仲良くなってほしいと思っています。部隊運営の視点から見ても、今のロミオはブラッド隊の副隊長。実力的にもナンバー2です。貴方が居れば、ロミオの力は更に強くなります」

 

「何で私が、貴方の部隊の為にロミオと付き合わなきゃいけないのよ。大体、私一人が居た程度で、ロミオの何が変わるっての」

 

「ブラッド隊が使う血の力は、精神力・精神状態に大きく左右されます。守るべき伴侶が居る事で、より強く奮起する可能性は非常に高いです。また、血の力の効率的な習得方法・訓練方法として、異性と同衾して訓練する方法が挙げられます。習得者同士で行えば、より効率的になると聞いていますが、伴侶との行為も有効だそうです」

 

「ど、どうき…………!! あんた、まさかロミオと…!」

 

「は? ……いえ、私が同衾したのは教官ですが」

 

「……………あ、そ…。どうでもいい事だったわ…」 

 

「? ? ? カンペ…コノハンノウノバアイ……。ロミオは貴方に操を立てているようです。他の女性と近付こうとしません。…これはロミオが勝手にやっている事だろうとは思いますが、その意思を汲んであげてくれないでしょうか」

 

「………関係ないわよ。ソレ、ジブンデスルノガスキナダケデショ。大体、仮に私が全面協力を申し出たとして、また破局するのが目に見えてるわ。どうやったってね…」

 

「…ひょっとして、同衾で失敗したのでしょうか」

 

「………アンタ、いい加減にしなさいよ。何様のつもり? さっきから一方的にべらべらと」

 

「初心者同志が行えば、失敗する可能性が非常に高いのは、統計的にも証明されています。左程珍しい事ではありません。また、ロミオは諸事情あって特殊な性癖を植え付けられているそうなので、それに合わせた対処をしないと失敗するのも当然かと」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」(こ、これでいいのでしょうか…。物凄く怒っているように見えるのですが)

 

「私の体のせいじゃない…? ……休憩時間はまだあるわね? ちょっと座り…いえ、こっちの部屋に来なさい」

 

「は、はい」

 

 

 ~ 個室に移動 ~

 

 

 

「アンタ…そういう事に詳しい訳?」

 

「いえ、私も一度経験があるだけなので…。ですが、それに非常に詳しい方が教官なので」

 

「それセクハラ教官って事じゃない? …それで? ロミオの特殊性癖って?」

 

「私も詳しく聞かされてはいないのですが、血の力の習得訓練中、一人で自分の力を高め、鎮める方法として教えられた行為が、そのままロミオが好む行為になってしまったそうです。先程も言いましたが、血の力は精神力によって大きく影響されます。同時に、力を使う事により、精神状態に影響される場合も多いです。ブラッド隊長の『統率』と呼ばれる血の力が最もわかりやすい例です」

 

「具体例はいいわ。…要するに、何? 血の力を使う事で大きく昂って、その時に……その、自分でスるのが一番よくなったって事?」

 

「? 何をするのでしょうか?」

 

「アンタ………いえ、今はいいわ。でも、それだったらどうしろって言うのよ。結局、ロミオが一人でどうにかするのが一番いい方法じゃない」

 

「私の血の力を目覚めさせた教官が言うには、行為によって互いを昂らせるには、しっかりとした技術と修練が必要なのだそうです。満足な経験も知識もない者同士が触れ合っても、得られるのは精神的な満足感のみで、肉体的な心地よさを言えば、自分の好むやり方を知っている自分の手の方が余程良いと」

 

「……………まぁ、心当たりはあるわね。私もあの時は痛いかくすぐったいかだけで、話に聞いてた気持ちよさなんて全然なかったし…。ロミオをどう触ればいいかなんて、全く考えられなかったし。でも、練習したらそんなに違うの?」

 

「ハッキリと分かる程に違うようです。私も……その、一度しか経験が無いので比較ができませんが、後で自分で触れてみても、その時程の感覚を感じる事はありませんでした。…話が逸れましたが、ロミオの性癖を満たし、かつ貴方との関係を修復する方法として……こちらのデータをどうぞ」

 

「…? ………!  ……!?!!!?!?!」

 

「教官が書いた、血の力の訓練法の一つです。他にも色々手法はあるそうですが」

 

「ぐ、具体的には? こう、これに書いてあるような事をしたら、どんな風に違ったとか、そういう情報は!?」

 

「私も一度しか経験が無いので、あまり詳細には語れませんが…そうですね、あの時はまず、胸にマッサージを受けました」

 

「胸………ソレダケオオキケレバ……」

 

「胸と言っても、先端の乳首のみです。自分で触れてみても特に何も感じなかったのですが、あの人に触れられると、電流のような感覚を感じました。触れるか触れないかの強さで先端を撫で続け、指先だけでなく、掌を擦り付ける事もありました。……は? 不快感…いえ、全く感じませんでした。快、不快と言うより、戸惑いの方が強かったです。あの時はまだ、快楽ではなく…そう、体が反射でつい反応してしまうような感覚でした」

 

「乳首…ロミオに触られた時には、むしろ痛いくらいだったんだけど…」

 

「力加減を間違えると、そういう事になってしまうそうです。…あの時は、首筋が仰け反ってしまうくらいに……そう、ビリビリとした感覚を感じました…」

 

「その割には、痛かったって表情じゃないけど」

 

「いえ、痛かったのは確かです。ですが……不思議と不快ではありませんでした。むしろ、もっと強く摘まんでほしくなりました。ですが、すぐにまた触れるか触れないかの触り方に戻ってしまい…そうしていると、段々と自分の体がおかしくなってきたんです。動悸が激しくなり、体温が上がり、力が入らなくなって…」

 

「…そんな感覚、あったかしら…。確かに最後の方は、ちょっとだけ…」

 

「段々と焦れったくなってきて、血の力を目覚めさせる為の行為だった筈なのに、それもどうでもよくなってきて…不思議と心地よい感覚でした。そうしている内に、教官の手は乳首から別の場所に移りだしました。首筋や脇腹、肩、足…。同じように…えぇと、フェザータッチ、と言うのでしょうか…擽られるような触り方です。不快ではありませんが、つい反応してしまうような触り方だったのを覚えています。触れられた場所が、ピクッと勝手に動くんです。ですが、それよりも私は乳首にもう一度触れてほしくて、仕方ありませんでした。何故そんな事を思うのかもわかりませんでしたが、気付けば私は教官にお願いしていました」

 

「お、おねだり…!? な、何て言って!?」

 

「? もう一度乳首を摘まんでほしい、と言っただけですが。…そう言えばあの時、教官は『もっといやらしい強請り方を教えてやらないとな』と言っていましたが…どうすればいいのでしょう?」

 

「そ、そんなの私じゃなくて教官に聞きなさい! …あ、ロミオには絶対聞いたらダメだからね!」

 

「はい。ですが、教官は触れてはくれませんでした。その焦れったい感覚を自分で処理できるようにならないと、この方法では血の力をコントロールできないのだそうです。ですので、私は自分で弄る事にしました」

 

「い、弄る…自分で……お、男の人がすぐ傍に居るのに…?」

 

「教官の手付きや力加減を真似て触った筈なのに、感覚が全く違うんです。別の人に触れられるのと、自分でするやり方の違いなのかと思いましたが、それは教官に否定されました。触り方が全くダメだと言われました」

 

「触り方って……」

 

「同じ乳首を触るだけでも、ちゃんとしたやり方があるのだそうです。初心者でも比較的簡単なやり方として、潤滑液を付ける方法を教わりました。…と言っても、唾液ですが」

 

「唾液で…成程、確かにヌメるものね…。指を咥えて濡らすのね」

 

「いえ、自分で自分の乳首を咥えて、しゃぶりました」

 

「じぶっ……! そ、そんな事が…ネタマシイ…!」

 

「慣れれば両方の乳首を同時に口に含めそうだったのですが、今回は時間が惜しいと言う事で、片方は教官に濡らしていただきました。……でも、やっぱり教官にしゃぶられるのと、私が自分でしゃぶるのとでは、全く感覚が違うんです。自分で舐めていると、だんだんおかしな気分になってきて、最初に摘ままれた時みたいに、つい強めに吸ったり、ちょっとだけ歯を立ててみたくなったりしました。ですが、教官に濡らしていただいた乳首は……その、全くの別次元と言いますか、何と言えばいいのか…。まるで、胸の中にとても熱くて気持ちのいい塊が出来たようでした。乳首を吸われている筈なのに、逆にその気持ちいい熱が注ぎ込まれているようで…」

 

「そ、その巨乳の中に、気持ちいい塊…」

 

「詳しく聞いてみたのですが、人の体を気持ちよくしようとして触れるなら、縦に刺激を与えていくのが基本なのだそうです。人体の構造上、そうなっているのだとか」

 

「………縦…。それは初耳だわ…。あの時の私達は、とにかく密着して触る事しか頭になかったし…。そう言えば、モノの文献でも、『舐め上げる』はよく目にするけど、『横に舐めていく』は見た事ないわね…」

 

「乳首の触り方も同様に、そう言った細かコツがあるのだそうです。私はそれを一つずつ教わりながら、自分で焦れったい感覚を処理しようとしました」

 

「それも詳しく聞きたいんだけど、後にして…。その時の教官はどうしてたの」

 

「あの時は、私の内股をマッサージ……愛撫していました。モゾモゾする感覚が強くて、つい腰を動かしてしまったのを覚えています」

 

「内股……胸じゃなくて? お尻でもなくて? なんていうか……本当に色々違うわ…ロミオはそういう、分かりやすい部分にすぐ手を伸ばしてたけど」

 

「『細部にこそ神は宿る』という言葉があるように、細かい部分での準備が大切なのだと言っていました。他にも『シエルみたいな清楚な顔の子が、愛撫されてるのに足りなくて、貪欲に自分でオナるのを見たい』とも言っていましたが」

 

「………どう考えてもその教官、問題だらけよ…。まぁ、想像したらちょっとグッと来ちゃったけど…。…そ、それで? 続きは?」

 

「正直な話、この辺りから記憶が曖昧になってきているのですが…気が付けば私は、ベッドに横たえられていました。起きようとしても体に力が入らず、体はジンジンと疼いて、まるで体全体が燃えているようでした。教官が私の股の間に潜り込んでいくのが見えて…その、股の部分に、言いようのない快感が…」

 

「な、ナマ本番!?」

 

「いえ、女性器の辺りを愛撫されたのだと思います。何処をどう、と言うのは見えなかったので分かりませんが、指や舌が自分の中に入り込んできているのだと言うのは、何となくわかりました。体内に異物が入るなど、苦痛しか感じられない筈なのですが、あの時は違いました。私に触れている部分が、ほんの少し動くだけで、抑えきれない感覚が私の内臓を蹂躙して…。ですが、力の入らない体では、抗う事も、それを発散させる事もできず、全てを受け止めるしかありませんでした。…恐らくですが、何度か意識が飛んでいるかもしれません」

 

「初めてなのに…気絶……」

 

「後になってみると、喉が少し枯れていたので、それだけ大声を出したのだと思いますが、記憶も自覚もありません…。ふと我に返った時には、私は汗塗れで、腰が砕けていました。朦朧とする頭の中で思い浮かんだのは、『これでは自分で処理できるようになったとは言えない』です」

 

「? 何、それ?」

 

「恐らくですが、教官が言っていた、焦れったい感覚を自分で処理できるようにならなければ、血の力をコントロールできない、という部分かと。教官にそう訴えようとしたのですが、何だかもう全く気力が残っておらず、言葉になりませんでした。後から聞いた所、あの時の行為は血の力を目覚めさせる事が目的だったので、コントロールは後回しでよかったのだそうです」

 

「随分都合がいい話ね…。やっぱ騙されてない、貴方…」

 

「ですが、少なくとも血の力に覚醒はしましたよ。…この次は、教官の男性器を手で扱き、完全な血の力覚醒の準備に備えました」

 

「手コキ………遂に…」

 

「…どうしました? 突然、表情が厳しくなったような…」

 

「…ロミオと別れた切っ掛けが…手だったから。尤も、私の手じゃなくて、ロミオ自身の手だったけどね」

 

「…成程。あの時の教官も、それらしい事を言っていました。余程訓練されていなければ、女性器よりも手が気持ちいのは当たり前なのだと」

 

「……それ、本当なの? 幾ら何でも…」

 

「極端な事を言いますと、女性器が男性器に与える快楽は『締め付け』が基本です。はっきり言ってしまえば、強すぎず弱すぎずの圧力を与える事です。ですが、考えてみてください。女性器の力と、手の力。どちらが強いと思いますか?」

 

「そんなの比べようと思った事すらないわよ!」

 

「まぁ、そうでしょうが…動かし易さも、圧力の強弱も、手の方が圧倒的に上なんだそうです。それに加えて、先程も言いましたが、ロミオは特殊な方法を使っています。単体で考えた場合、手の方に傾いてしまうのも無理はないかと」

 

「…………それじゃ、どうしろって言うのよ」

 

「その………一度しか、教官としかこういう行為をしていない私が言っても説得力はないかもしれませんが…恐らくですが、この行為の本質は、相手の存在をどれだけ感じられるか、自分の存在をどれだけ伝えられるか、なのではないでしょうか。少なくとも、私は行為の中で、教官を強く感じました。私の手の中でそそり返った……その、アレの感触や、匂い、熱さもそうです。アレを触っている内に、不思議と教官の事が分かってきました」

 

「…そんなので分かるの?」

 

「今思うと、あれが血の力覚醒の前兆だったのかもしれません。私の力は『直覚』と言い、知覚した存在の状況や状態を解析する特徴があります。その力で教官の存在を強く感じ取り、教官も私を強く感じている事を知り…満たされる心持になったのです」

 

「お互いを感じ取る…感じている事を、感じ取る…。あの時は………そんな余裕は無かったわ。快感なんて全く感じられない触り方、私が触れても、それをどう感じているのかも全く分からなかった。ただ、貫かれた痛みだけ覚えてて………」

 

「…その時には、ロミオを感じ取れなかったのでしょうか」

 

「…………そう……そう…だったわ。痛かった。痛みしかなかったけど…それでもあの時は幸せだった。痛みだって、ロミオを強く感じ取れるものだった。その直後にあんな事をされて、ずっと忘れてたけど…」

 

「……」

 

「…ありがとう。大事な事、思い出せたわ…」

 

「いえ…」

 

「……でも、結局問題はアイツの性癖をどうするかって事なのよね…。……その、『手』での事、もうちょっと詳しく教えてくれない?」

 

「……はい。と言っても、私もあまり覚えてないのですが…教官の教えによりますと、手で男性を昂らせる場合、付与交換が重要なのだそうです。手は、男性にもありますから…手触りなどを除けば、男性も自分で同じ事ができるのです。ですので、それ以外が必要だと」

 

「それ以外……そ、その、裸を見せるとか、キスをしながらとか? 貴方の時は…?」

 

「はい。私の時は、自分で自分の体を弄りながら男性器に触れていました。胸を揉んだり、熱くて仕方ない女性器を掻き回したり…そうする事によって、男性器がより力強くなるのが感じられました」

 

「お、おなにーしながらてこき…」

 

「男性器が力強くなると、それだけ手に力を入れても大丈夫と言う事が分かり…と言っても、殆ど力が入らなかったので、あくまで体感ですけど…激しく扱き上げる事ができました。すると、教官は私の上に跨り、先端を私の顔に向けたのです。大きく口を開けさせた時には、何をさせたいのか私にもわかりました」

 

「ぶ、ぶっかけってヤツね…」

 

「私もそう思いましたし、間違ってはいませんでした。…ですが、あの人の射精量は、一般男性の平均よりもずっと多かったんです。…男性器が震えたと思ったら、物凄い量の…その、精液が、私の顔に降りかかって…それと同時に、開いていた口に、苦くてネバネバしたものが入ってきました」

 

「顔射とゴックンを同時にさせるの!?」

 

「いえ…飲み込みはしませんでした。あの人は、『精液の味を覚えるんだ』と言い、口の中で精液を嘗め回すように命じてきたのです。口の中も、顔も、あの人の精液で塗り潰されて…私は恍惚としていました。教官を、あんなにも強く感じられる…。ずっと感じていた心細さが消えていきました」

 

「の、のみこまずに…!?」

 

「そのまま私は抱え上げられました。不安も、血の力の事も、あの時の私は全く覚えていませんでした。ただ教官の…その、アレが宛がわれた時には、もう喜びと期待しか頭に残っていません。あの人は白濁塗れの私に軽くキスをすると、滾ったアレを私に侵入させてきたのです」

 

「ゴクリ……ホンバン…い、痛かった…?」

 

「いえ、確かに体の奥で何かが千切れたような感触はあったと思いますが、痛みらしい痛みは全くありませんでした。仮にあったとしても、全く気にならなかったと思います。自分の欠けていた部分を、暖かいモノが埋めてくれるような感覚…。『幸せ』というものを、初めて感じられた気がします」

 

「そこまで言う…」

 

「精液塗れのまま、口の中に残っている精液の味と香りで頭の中まで一杯になって、今度は女性器と男性器で一つになって……不思議と、お互いの体の事がはっきりと分かるんです。どこが気持ちいいのか、何をしてほしいのか、どんな事をしてみたいのか…。お互いがそれを分かり合って、お互いを満たして…『初めてなのに、熟練の娼婦みたいだな』って囁かれましたけど、それも悦びにしかなりませんでした。意地悪な事を囁かれても、焦らすみたいに私がシてほしい所を避けられても、もう夢中であの人を感じ取る事しか頭になくて…。どんどん昂っているのが分かるんです。私の体と、私の心を感じ取って、教官が凄く悦んでるのが分かるんです。私をあんなに必要としてくれる。私であんなに悦んでくれる。…かつてない幸福と充足の中で、あの人が限界を迎えるまで、私はずっと悦ばされ続けました」

 

「アワ、アワワワワ……」

 

「最後は、教官が達する姿で私も達して、間髪入れずに一番奥で吐き出された精液で、体が達して……体中が爆発したみたいに感じました。息をすることも出来ないくらいに、体がピンと張って…ようやく呼吸ができるようになった頃には、もう酸欠になるかと…」

 

「ナ、ナマナカダシ……!」

 

「…それなのに、教官は『血の力を完全に目覚めさせる為だ』なんて言って、動けない私をまた弄んで悦ばせるんです。もう許してくださいとお願いしたら、今度は口で男性を昂らせるやり方や、他にも………あれ? どうかしましたか?」

 

 

 

 

「し……しっ、 し   」

 

「……し?」

 

 

 

「 師 匠 ! まずはこの訓練マニュアル、どう身に着ければいいか教えてください!」

 

 

 

 

 

「………えっと…カンペにはこの展開は…」

 

 

 

 

 

 

以上、当時の会話でした。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…あ、あの…お二人とも、どうされました?」

 

 

 いやどうもこうも、ここまでアカラサマに語るとは俺も思ってなかったよ…。そっち系のネタで喰い付くてくるとは思ってたけど。

 

 

「シエルの語りはともかくとして……最初に渡したのは何ですか?」

 

「言った通り、教官が血の力の訓練方法として書いたマニュアルなのですが」

 

 

 ……いや、まぁ、なんだその、確かに書いたは書いたけど、現状だとロミオ専用と言うかね…。

 実際には夜のHow To本と言うか。オカルト版真言立川流については触れてないけど。

 

 内容は……まぁ、アレだ。M向けのプレイ本? 割とソフトな奴だけど。

 簡単に言えば、女王様の目の前でオナるのを見せて、罵られたり寸止めされたりする本?

 このヤり方なら、自分でスルのが好きというロミオの性癖を満たしつつ、彼女ちゃんにも出番があるでしょ。

 

 

「普通にエロ小説じゃない!?」

 

 

 途中からつい目的を忘れちゃって…。実名出しちゃってたから、慌てて登場人物名をロミオから◇ミオに変更したんだよな。

 

 

「伏字にする気ないでしょ。相手役の名前は?」

 

 

 ジュリエット。ジュリウスじゃないぞジュリエットだぞ。

 

 

「最悪だこの人…。…この際、M向け羞恥プレイ本と見せかけた、ホモなのか判断に困る小説は置いておきましょう。シエルとロミオが今後どうなるかです」

 

 

 シエルの友人、なぁ…。方向性は悪くなかったと思うんだよな。

 話の入り方とかが、世間一般の常識では論外だったのは事実なんだが、それでも喰い付いてきたって事は、それだけ大きな悩みで、八方塞がりの状態だったって事だ。

 それを、腹割って話せる相手ができたんだし…友人関係になるとっかかりとしては充分だと思うが。

 

 

「一理ある、と思ってしまう辺り、私達も相当に毒されてるわね。…仮にその通り、展開は悪くなかったとして……だとしたら、『ともだち』が『師匠』に変わった原因は」

 

「言うまでもなく、このシエルの語りとエロ小説に決まってるじゃないですか。インパクト強すぎて、色々吹っ飛びますよ。……と言うか、聞いてた通りの精神状態の子にこんなの見せたら拗らせるんじゃ…」

 

 

 別に拗らせてもいいと思うが。今のロミオにゃ、破れ鍋に綴蓋だろ。

 と言うか、今のこの子はどうしてるんだろ。

 

 

「先程連絡が来ました。熟読が終わったので、プライドを取り戻しに行ってくる、だそうです。ロミオは今日と明日はお休みですし、連絡先は自前で持っていたようなので、特に問題はないかと」

 

「いいのかしら、コレ…」

 

「私達にとっては他人事だし、本人達が幸せならどうぞご勝手に…ですけど、元凶となったのがこの人ですしねぇ…」

 

 

 もう突っ走ったのか、えらい熱血な子だな…。それだけプライドが高いのかな。

 まぁ、ロミオも『同じ事になっちまうから』って理由で諦めようとしてただけで、未練タラタラだったみたいだし。大丈夫だろ。

 

 

「…まぁ確かに、今更どうこう言っても何もできないわ…。じゃあ、ロミオの事はそれでいいとして、シエルの友達案件は?」

 

「『師匠』が友達に分類されるかどうかが問題ですね…。シエル的にはどう考えてるんです?」

 

「この際友達が出来るかよりも、指導を求められている方が問題なのですが…何を言えばいいんでしょう…」

 

「とりあえず、今日この人にオシオキした時の内容を教えればいいと思うけど」

 

 

 

 あいや待たれぃ。指導に使うなら、丁度いいプレイがあるぞ。訓練マニュアルとして書いておこうかなーと思ってたのが。

 

 

「どうせまたM向けホモモドキ本でしょう」

 

 

 いや、女王様役はロミオのモトカノで書くよ? 竿役はまた◇ミオだけど。

 内容はズバリ、射精管理。

 

「射精…管理? 何を管理するんですか?」

 

「シエル、あなたはそのままの貴方で…いられる訳ないか…こんなに巻き込んじゃったんだし…」

 

「元はと言えば、許可を出したの私達なんですよね…半ば無理矢理言わされたとは言え。やっぱり責任、ありますよね…」

 

 

 元凶の俺が悪いの一言で終わらせればよかろーに、相変わらず無駄な責任を背負いこむな。

 要するに、な。

 古来、極東やその付近のごく一部に細々と伝わる風習なんだが、嫁は旦那の射精を管理するというものがある。

 

 

「抽象的すぎて分からないのですが…」

 

 

 いや、文字通りすぎて理解できないんだろ。

 ふむ…そうだな。古来、血筋とは重要なものだった。特に王族とか貴族とか、その辺のはな。血筋の有無で国の継承権が決まるとか、珍しくも無い話だろう。

 

 

「はい。それは分かります。また、血を残す為、多くの女性を妾とする王も沢山いました」

 

 

 でもな、昔はDNA鑑定なんてものは無かったんだ。極端な話、『この子は貴方の子です』と主張されると、その真偽を確かめるのは非常に難しい。大人になったら親に似る? 何年も先の話である上、父に似るのか母に似るのか、祖母とかに似るのか分からない。そもそも、本当に血が繋がっていたとしても、似るとは限らない。

 だが、だからと言って無策ではいられない。極端な話でもなんでもなく、不義の子を王の子と偽って、権勢を得ようとした話なんていくらでもある。

 

 その対策として生み出されたのが、射精管理だ。

 簡単に言えば、いつ何処で、誰を相手に種付けしたのか、逐一記録を取る訳だな。子供が出来たら、その記録と照らし合わせ、不審な点が無いか調べる訳だ。

 それが何時しか別の役割を持ち始め、孕みやすい時期や、男がムラムラする時期を把握し、いつ何処で何度ヤれるかの管理をし始めた。

 

 

 

「成程…。不貞を防止し、子供を作りやすくするための手法なのですね」

 

 

 うむ。そして、この射精管理は、今は全く別の目的とやり方で運用される。

 女の命令により、自慰を始めとしたあらゆる行為での射精を禁じ、その精を貯めこんで徹底的に圧縮する。

 女が得られるメリットとしては、男を掌の上で転がしている、従属させているという昂揚、溜まりに溜まった性欲に身悶えする姿を見てサディスティックな愉しみ方がある。

 男にとっては屈辱的かつ堪ったもんじゃないかもしれんが、その分解放された時の喜びは大きい。Mのケが強ければ、屈辱も喜びになるだろーしな。

 

 

「また阿呆な事を言ってる…。と言うか、本当に射精管理が必要なのは貴方ですよね」

 

 

 射精を禁じても、抜け駆けしてこっそり誘惑してきそうなんですが。

 

 

「…ま、私達まで出来なくなるんじゃ、本末転倒なんで。でも、ある意味ではピッタリと言えばピッタリなのかも…」

 

「ちょっとアリサ、正気…?」

 

「ええ。まともではないと思いますが。話を聞くに、ロミオさんと彼女さん…そう言えばまだ名前も聞いてない…が喧嘩別れしたのは、ひどくプライドを傷つけられた事が原因だそうです。そのリベンジをすると言う意味では、完全に女性上位、かつ喧嘩の元となった…その、オナるのを禁じるのは非常に効果的だと思います」

 

 

 よくあるシチュエーションとしては、オナ禁させて充分溜まったら追加で誘惑したり、手や口でヤッておきながら「ハイ今日はここまで」を繰り返すやり方かな。後は、刺激しておきながら根元を徹底的に圧迫して、出すに出せない臨界状態を続けさせるとか。

 絶対に他の女に目が向かない状態を作らないと、浮気して流れて行く危険もあるが。

 

 

「本当に弄ぶのね…。一度はやってみたいシチュエーションかな。でも、初心者には高度すぎない…?」

 

 

 …まぁ、確かに。出すタイミングをしっかり把握してないと、ちゃんと管理できるとは思えん…。

 教えるにしても、慣れてきた辺りかなぁ。

 

 それ以前に、ロミオとちゃんと復縁できるのかが問題か。プライドを回復させる為にリベンジに行くのはいいが、何て言うんだろうなぁ。

 

 

「? 正面から要請するのでは?」

 

 

 シエル…よく考えてみろ。

 曲りなりにも彼氏彼女ならまだしも、もう別れて2年以上も経ってるんだぞ。その元カノがいきなり現れて、「私の目の前でオナりなさい」なんて言ったらどう思う?

 

 

「控え目に言って、痴女になったのかと邪推しますね」

 

「それを大真面目な顔で言える精神力があるなら、痴女の汚名なんて全く気にしないと思うけど」

 

「………………言ってると思いますか?」

 

 

 ………人間、暴走すると何やらかすか分からないからな…。特にプライドの高い人間は、一度傷ついたらそれを回復させるのに躍起になる傾向があるし…。

 

 

 

 

 

 

 

 …ひょっとして俺、またしても取り返しのつかない事した?

 

 

「…次の繰り返しとやらがあれば、もっと上手くやってください…」

 

「? レア博士、繰り返しとは何のことでしょうか?」

 

 



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333話

最近、踏んだり蹴ったりな日々が続きます…。
ピンポイントで故障した部分の操作を引き当て、それが問題になって余計な作業が発生、終わったと思って帰宅したら作業忘れが発覚してトンボ帰り。
自分のミスが発端で、故障はいつか致命的な形で発覚するもの、作業忘れは把握できてなかった自分の責任とは言え、本当についてない…。

ああ、酒飲みたい。


神逝月

 

 

 ロミオがツヤツヤしております。元カノさんは現カノさんに返り咲いたそうです。

 

 

 

 マジか…。上手く行ってしまったのか…。ロミオ的には嬉しい事なのかもしれんが、俺としてはどうなんだろう…。目論み通り復縁はできたけど、復活した縁は捻じれに捻じれているような気がする。

 「破れ鍋に綴蓋じゃん」と楽観視してたが、いざこうなってみると疑わしく思えてしまう。

 少々アブノーマルな関係だと言う事以外、特に問題点も見当たらないのだが…と言うかアブノーマル云々について俺が言うのも噴飯モノだ。

 

 それに、やたらと嬉しそうで、浮かれて舞い上がってる上に、明らかにブラッドアーツの出力が3段飛ばしで上昇しているロミオを見るとなぁ…。

 状態異常付与の効果の筈のチャージクラッシュが、ジ・エンド並みの破壊力を叩き出しているのだ。リンクバーストレベル3状態でしか使えないアレ並なんだ。脈絡もなく登場してきた、隻眼のイャンガルルガみたいなアラガミを問答無用で叩き斬ってしまったのには本当に驚いた。「まさかネームド個体がGE世界に!?」って思ったのに。

 ……あれ、ひょっとしてあいつ、ゲームシナリオで言うマルドゥーク? あいつも確か隻眼だった筈……でも、隻眼なのは血の力に目覚めた主人公による攻撃の為だったよな?

 

 今回はまだ遭遇すらしてなかった筈だが…。

 

 

 

 …確か、あの隻眼マルドゥークと赤い雨の中でやりあって、ロミオは死ぬんだよな。逆に即死させとるがな。

 隻眼じゃなけりゃ、マルドゥークはちょくちょく居るし、それ以前にあのイャンガルルガモドキの元が、マルドゥークなのかすら怪しいが。だって骨格が明らかに違うし。名前だけなら、白い狼のマルドゥークと、黒狼鳥で狼繋がりなんだけどねぇ。

 

 

 

 

 ………考えるのやめよ。答えが出ない事を延々と考察するなんざ、哲学者と暇人だけで充分だ。

 予測はどこまで行っても予測でしかない。シナリオ通りに行かない、前回ループの通りに進むとは限らない事は身に染みてるんだ。

 

 今は無駄に朗らかなロミオを祝福しよう。面倒くさい事この上ないが、惚気話にも付き合ってやるか。…………DTのジュリウスには、ちとキツかろうしな。

 

 

 

 

 

 ちなみに、シエルはシエルで現カノにとっ捕まり、お礼と言う名のノロケを聞かされていたらしい。「これからも指導をお願いします」なんて事言われたらしいが……まぁ…友人に近い存在にはなったんじゃないだろうか。

 指導? レアとアリサが、俺を『オシオキ』する時に一緒に居たし、その時の話をしてればいいんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 さて、話は変わるが、アイドル達の事である。……改めて思うが、GE世界の話じゃねぇなぁコレ…。 

 しかし、今回は割とGE世界側の話の事なのである。

 

 オーディションの後、黒蛛病治療と言う大役に二の足を踏んで辞退した者も多いが、奮起した者も居る。彼女達(少数だが男性も居るには居る)は極東支部内部で生活し、日々レッスンに精を出している。…おかしな意味じゃないが。

 血の力習得の為の訓練もあるが、現状では座学…この力がどのような物なのか、専門家のブラッド達がどのようにして運営しているかを伝えている段階なので、講師役でもある俺の出番はまだ先だ。

 

 はっきり言ってしまえば、俺がアイドル達に会いに行く理由は全くないのだが……一人だけ例外が居る。

 

 

 

 タカネだ。

 

 

 あいつだけは例外だ。オーディションの時に確信した。

 何でこんなトコに居るのかは分からないが、一度話をせねばなるまい。

 

 正直、支部長や榊博士、或いは極東のマスコットことシオを連れていくべきかとも思ったのだが…。その榊博士に拒否られてしまった。「女性に会いに行くのに、他の男性を伴ってどうするんだね」と。…シオは女性だぞ。ソーマの嫁だぞ。……え、もうソーマの旦那さんになった? 俺が何もしなくても押し倒してたか。流石の食欲だ。

 

 

 支部長は…考えてみれば、連れて行ってもあまり意味が無い。戦力的には一般人にケが生えた程度でしかないし、彼女に権勢なんてものが通じるとも思えん。

 ……多分、物騒な事にはならないと思うが…。

 

 

 

 レアとシエルを気絶させ、アリサはミッションで留守にしている時に、タカネに会いに行った。

 わざわざ探す必要はない。彼女の気配は独特だ。『気付いた』今となっては、何処にいるのか一発で分かる。…どうにも、探ろうとした時点で彼女にもその情報が渡ってしまったようだが。

 

 

 …極東支部から出て一般市民の生活区画を抜け、開墾もまだ及んでいない場所。本来であればアラガミがウロウロしているその荒野で、タカネは平然と待っていた。

 普段着…なんだろうか? この時世にしては、生地が多いと言うか真っ当な服装だ。高級そうなカーディガンを肩にかけ、塵一つ被らずに、月光を受けて佇む姿は、それこそ絵画のようだった。………その光景に、デジャヴを強く感じる。

 ニコニコと笑っているが、逆に表情が読めない。…ラケルてんてーとは別の意味で、張りつけたような笑顔に見える。

 

 

「おや、お気に召しませんでしたか? 笑顔は好意を伝える最も確実な方法だと聞きましたが」

 

 

 同じ笑顔でも色々あるもんだ。『笑うと言う行為は本来攻撃的なものであり、獣が牙をむく行為が原点である』とも言うしな。

 

 

「それは知りませんでした。では、人は牙をむけ合う事で平和を訴えているのですね」

 

 

 ある意味間違っちゃいない気がするね。平和を実現させるには、最低限の自衛力と外交力が必要だ。

 ……アラガミはどうだか知らないが。

 

 

「さて、私もアラガミの社会構成については、とんと疎く」

 

 

 自身もアラガミなのに?

 

 

「何分、箱入り娘でした故。箱から連れ出された後も、あなた様にのみ寄り添って生きておりました」

 

 

 …そう言われれば、確かにそうか。ずっとエイジス島の地下で育てられ、そこから出てみれば月へ直行、か。

 考えてみると、随分波乱万丈な人生を送ってるな。

 

 なぁ、ノヴァ?

 

 

「人からはタカネと呼ばれています。あなた様からであれば、どの呼び名でも構いませんわ」

 

 

 …何故ここに、そんな姿で? お前は月に居る筈だろうに。

 

 

「つれないお方…。目覚めて以来ずっと寄り添っていたあなた様が突然消え、私がどれほど狼狽え嘆いた事か。かと思えば、突然この星から呼び声をかけてきて…。あなた様の真似事をしてやってきましたが、位置調節に失敗しました」

 

 

 呼び声…?

 

 

「お忘れですか? 私に呼び掛けたではございませんか。ええと、何でしたか…『ひこーきに群がっているアラガミを追い払ってくれ』? 当時は流石に遠かった為に、上手く聞き取れませんでしたが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …アリサとレアに再会する直前のアレか!? と言うか、まさかあの時の流れ星がタカネか!?

 

 

「恐らくはそうでしょう。あの時、他にこの星に入ってくる大きな石はありませんでしたし」

 

 

 …あれ、と言う事はノヴァの体は? 月の緑化は? と言うか、何で人の姿になってんの?

 

 

「以前の体は、まだ月に残っています。大急ぎでやってきたもので、折りたたんでしまっておく暇もなく…あれを目にされると、少々恥ずかしいですね」

 

 

 そんな、脱ぎ散らかした服やら下着やら見られてる訳じゃないんだから。いや、感覚的にはそういう物なのか?

 

 

「体が人型になっているのは、あなた様に合わせただけです。月では重力や空気を調整する必要もありましたし、何よりサイズと構造が違い過ぎてあなた様と語り合う事すら難しかったですから。極力人に似せてみました。……今の私は、人型のアラガミ…何と言いましたか…シオ? 彼女に近いと思えばいいでしょう」

 

 

 そんな事まで出来るのか…。いや、ゲーム無印のエンディングでは確か、シオの意識がノヴァの体に移ったんだよな。体を自前で作り出して、それと逆の事をして切り離したのか。

 

 

「まぁ、呼ばれて頼まれはしたものの、位置調整に失敗し、あなた様の力になれなかったと言う失態を晒しましたが…また、あなた様の傍に侍らせていただきます」

 

 

 ……それだけ、か?

 

 

「それだけとは?」

 

 

 こう…何か目的があるとか。アイドルになって何をしたいとか、ないの?

 

 

「特には考えておりませんね。アイドルになったのも、落下して機能不全を起こし、動けなかった私を拾って世話してくださったプロデューサーへの恩返しの為です。まだ恩を返せたとは言えないので、このまま続けさせてほしいとは思いますが」

 

 

 それは別に構わない。と言うか、大気圏突入して機能不全で済んだのか…。

 

 

「あなた様の真似事をしただけです。あの赤と金が混じった力は完全には再現できず、体にそこそこの損傷は受けましたが…即興でやったにしては、上手くできたかと。…目的らしい目的と言えば、またあなた様の傍に侍る事だけです。物心ついてより、常に共にあったお方です。離れたくないと思う事に、おかしな事などないでしょう?」

 

 

 不完全とは言え、ブラッドレイジまで再現したのか…。しかも、その言い方だと自分の意思で?

 そもそも、俺から呼びかけられた直後にその体を形成して、月から地球まですっ飛んでくるとか、とんでもねぇな。

 

 

「以前の体なら、そう難しい事ではありませんでしたよ。それが出来るだけのスペックは、充分にありました。何せ、あなた様以外には何もない場所です。己の肉体と向き合う時間は呆れる程にありました。……こんな事を思うのも、こちら側の事を知ったからですが。この星は知らない事や楽しい事が多いですね。かつて私は、この星を丸呑みにしようとしたらしいですが…もしもそうやっていたら、さぞや退屈な日々を送っていた事でしょう」

 

 

 まー自分以外を何もかも溶かしてしまう訳だからな。…月での生活は、退屈だったか?

 

 

「いいえ。あなた様が居ましたもの。たった一人であったなら、退屈と言う概念すら知らなかったでしょうが、あなた様の行動を見ているだけで、私は楽しかったのだと思います」

 

 

 思います、か…。まぁ無理もないか。他者との触れ合い全く無かったからな。俺自身、ノヴァに話しかけるなんぞ、孤独に耐えかねて独り言を言う時くらいだった。と言うか、ノヴァにそんな意識があるとさえ思っていなかった。

 …と言うか、俺が居なくなって狼狽え悲しんだって言ってたなぁ。前ループでは、呼びかける事もなかったらずーっとそのままだったのか。なんか罪悪感。

 

 

「あなた様の元へやってくるだけの旅路のつもりでしたが、興味深い事を幾つも見つけられた旅でした。特に、食事と性交には強い興味がありますね」

 

 

 アイドルが性交とか言っちゃダメッ!

 …いや別に、アイドルはう〇こしないなんて都市伝説を信じてる訳じゃありませんが。むしろ偶像の生々しい姿を曝け出させるのは楽しそうですが。

 

 と言うか、何故にその二つ。

 

 

「あなた様が、何より執着してる事だからですが? 月で度々、アレコレが食べたいとか……ありさとれあ、でしたか? と抱き合いたいと何度も口にしていたでしょうに。他にも色々ありましたが、特に印象に残っているのはその二つです。人の作る料理と言うのは興味深いですね。こちらに降りてきて、『らぁめん』なるものを初めて食べた時には、とてつもない衝撃をうけたものです。性交はまだ経験がありませんが」

 

 

 

 結局そこも俺のせいかよ。いや生まれて以来寄り添っていた相手が、ものすごーく執着していたものだと思えば、興味を持っても無理はないですけどね。

 と言うか、経験無いのか…。それだけ容姿が優れてるなら、選り取り見取りだろうに。

 

 

「相手が誰でもよいとは思っていませんよ、心外な。私は、あなたと交わりたいのです」

 

 

 ド直球!

 

 

「…と思っていましたが、最近は少々戸惑い気味でもあります。考えて見れば、私とあなた様の関係はどういったものなのでしょうか。所謂、幼馴染のお兄さん? それとも育ての父? 人の倫理など、私にとっては人に混じって揉め事を起こさない心得以上のものではありませんが、疑問には思います」

 

 

 それは…どうなんだろうなぁ。育ての親なら支部長になるだろうし。産みの親…も、やっぱ支部長?

 と言う事は、仮にタカネと結婚したら、あの人の義息子になって、ソーマの義兄弟になるのか?

 

 

「あの特異点とは、従妹のようなものでしょうね」

 

 

 シオの事か? …そういや、直接話した事は無いのか。

 

 

「ふふふ…。さて、そろそろお腹も空きました。一緒に戻りましょうか。こういう場合、手を繋いで歩くのでしたか?」

 

 

 アイドルが公衆の面前でそれをやるのってヤバくね? まぁいいけど…ノヴァが飯って言うと、やっぱりアラガミ?

 

 

「まさか。あれは私にとって、言わば離乳食のようなものです。好んで食べたいとは思いません。数々の美味に巡り合った今なら猶更です。さぁ、行きましょう。極東地区のらぁめんは、他所では採れない天然素材を使っていると聞きました。あなた様と食べるのを、楽しみにしていたのです」

 

 

 はいはい、お付き合いしますよ。…物騒な展開も覚悟してたのにな。

 まさかノヴァと並んで飯食う日が来るとは…。

 

 

「物騒な展開がお望みなら、私がやってあげましょうか?」

 

「おや、どちら様ですか?」

 

 

 その物騒なエモノを下ろしてくださいアリサさん。と言うか何処から見てたんだ…。まさか、俺ともあろう者が全く気付かなかったとは…。

 そういや、このループのアリサって、カノン共々俺が直々に隠密行動を叩き込んでるんだよな。成長したもんだ。

 

 

「ママとシエルに連絡がつかず、貴方が何処かに出掛けていると聞いてピンときました。私達を置いて、何か妙な事に首を突っ込むか、浮気しに行くものだと考えたのですが…両方の意味でドンピシャだったようですね。全く出歩くなとは言いませんが、何故わざわざ一人で来たのです。物騒な展開が予測できるのなら、それこそ私でも誰でもいいから戦力を連れていくべきじゃないですか。意味もなく自分を危険に晒すような悪癖があるなら、本気で監禁しますよ」

 

 

 御尤も…。

 あー。それで、どこまで聞いてた?

 

 

「単なる浮気なら、後ろから内臓破壊弾で尻穴を狙撃しようと思っていたのですが。…この方の正体までは聞きました。ノヴァ、ですか…。本当であれば、神機で噛みついたらバーストモードになるんでしょうかね」

 

 

 信じがたいと言わんばかりに、明らかに疑っている目付きのアリサ。まぁ、無理もないよな。

 一見すると、タカネはちょっと珍しいくらいの美女にしか見えない。シオという人型アラガミの前例があるものの、普通ならタチの悪い冗談と思われて終わりだろう。

 俺だって、近くに来る事で感じられるようになった、ノヴァと俺の繋がりの感覚がなければ、まず気付かなかった。

 

 

 

「貴方がアリサ様ですか。よくこの方が、会いたいと零しておりました。どのような方なのか、私も会いたいと思っていたのですが……あまり友好的な雰囲気ではありませんね?」

 

「普通は、現地妻と本妻がにこやかな関係になるなど、まずあり得ないのですよ」

 

「あら、そうでしたか。ですが、それは人の価値観です。私にとってはそのような固定観念などありません。何分、現地妻という言葉自体、知ってから一月も経っていませんし、寄り添った年月なら私の方が長いもので」

 

 

 …これは…微妙に修羅場ってる、のかな…。普通は修羅場、ほぼ確実に刃傷沙汰な場面ではあるけど。アリサは微妙にケンカ腰で、タカネはいっそ歯牙にもかけてない尊大な態度と言えなくもない。

 しかし、タカネに寄り添ってたと言っても、ノヴァとしての意識がある事は全然知らなかったんだよな…。

 

 アリサの神機を握る手に、微妙に力が入ったのが分かる。…ヤバい。

 いかんな、このまま戦闘になったらどうなるか分からん。タカネの戦闘力は未知数だ。少なくとも、ブラッドレイジモドキで大気圏突入して、機能不全で済ませるだけの耐久力はある。運動神経も、オーディションを思い返すとかなり高い…が、ゴッドイーターの領域にまで至るかは分からない。

 が、どっちが勝つとか負けるとか関係なしに、社会的に死ぬ。タカネはアイドルとしてのスキャンダルで、アリサはゴッドイーターが一般人に暴力をふるったという刑罰で。

 

 よし、強引に止める。

 アリサ。

 

 

「何か、んっ!」

 

 

 俺の背中を取ったままだったアリサの頭に手を伸ばして固定。強引に口付け、舌を捻じ込んだ。

 反射的に舌を絡め返してくるアリサ。最初は「そんな場合じゃない」と突き離そうとしたようだが、触れ合った時点でアリサの負けだ。ループの中で出会った女の中で、最も多く抱いたと言っても過言ではないアリサである。何処をどうすれば陥落させられるか、文字通り体が覚えている。

 あっという間に力が抜け、大人しくなって神機を取り落し、体を預けてくる。

 一瞬だけ、チラリとタカネに目をやったのに気が付いた。…見せ付けよう、とでも思ったんだろうか。

 

 

「………あらあら」

 

 

 目の前で濃厚なキスシーンを展開されたタカネはと言うと、少なくとも表面上は落ち着いたまま、興味深げに俺達を見つめている。

 淫靡な舌と唾液の音を一頻り響かせ、アリサが小さく痙攣してから体を離す。糸を引いた唾液が、俺とアリサの服にシミを作った。

 

 

「…ふぅ、落ち着きました」

 

 

 明らかに別の意味で滾っているアリサだが、とりあえず戦意は無くなったようだ。

 「ノヴァはこんな事はした事ないだろう」とでも言うような、優越感が滲んでいる。…確かにやった事なかったけど、今からなら出来るんだよなぁ。

 

 

「とても興味深いものを見せていただきました。これが人の男女の交わりというものですか」

 

「この程度なんて序の口です。私達は、もっともっと深くてドロドロしてアブノーマルな領域でも、強く結びついているんですから」

 

 

 それは勝ち誇る事なのか、アリサ。…勝ち誇るんだろうなぁ、この状況だと。

 

 

「では、早速私も…と言いたい所ですが、そろそろお腹が空きました。空腹のまま情事に及ぶのも雅に欠けます。お昼にご一緒しませんか?」

 

「……本当に敵意は無いみたいですね…。分かりました。どの道、この人と二人にしておくのも危険すぎます。……それにしても、3年前の巨体とは、随分姿が変わりましたね」

 

「月で連れ添う間に、繋がりを通じてこの方の好みを色々読み取りましたので。それに沿って体を作り上げました」

 

「つまり、容姿的には超が付く程好みのタイプ…と。やはり危険…」

 

 

 それはどういう意味での危険なんですかね。

 …ところでタカネ。ひょっとして、霊力とか血の力を使った黒蛛病治療って、もう出来る?

 

 

「治療はともかく、葦原ユノ同様に病状を遅らせる事なら出来るかと。と言うより、あなた様が出来る事でしたら、大体は同じ事ができますよ。無論、習熟度に大きな差があるので、何もかも同じように…とは行きませんが」

 

 

 マジかよ…。ブラッドレイジモドキまで発動させたらしいから、まさかと思ったが。

 

 

「特に、黒蛛病の病原を取り除いたあの手は、何度やっても上手く再現できません。どうにも、必要な『何か』が…恐らくは補助を担う道具が欠けているのだと思うのですが」 

 

 

 大当たり。そんな事まで分かるのか…。侮れん。本当に3歳児か。

 

 

「この体は、爪先から髪の毛まで、私の意思で完全に制御できますので。それと、月に飛び立つ前にも数年は育てられていましたので、実際は7歳程度ではないでしょうか」

 

「支部長なら実年齢を把握しているかもしれませんが、聞く気にはなれませんね。ノヴァが戻ってきていると知ったら、何か企みそうですし。…ところで、黒蛛病の治療について助力は…」

 

「気が進みませんね」

 

「何故!?」

 

「何故も何も、私はノヴァ、アラガミです。見ず知らずのヒトを助ける理由などありません。こうしてヒトの中に紛れているので合わせていますが、ヒトは本来私の食料ですよ。人に限らず、この星の無機物有機物全てですが」

 

 

 その姿で言われるとカニバリズム感が半端ないな。ヒトの側に付くハンターとしては、その言葉には怒るべきだろうか。それとも、モンスターが人を食料と見做すのは当たり前と考えるべきだろうか。

 …人間、喰いたいのか?

 

 

「いえ別に。それよりもらぁめんが食べたいです」

 

 

 …成程。タカネにとっては、一部のネームド個体を除いて、人間は犬猫みたいなもんなのか。

 特に害する理由は無いが、労力をかけて助ける理由も無い。気が向いたら、或いは理由があれば助けもするし、害も成す。

 

 

「ええ、その認識でよいかと。尤も、大勢のヒトと接するのはこれが初めてなので、今後変化していくかもしれませんが」

 

「………つまり、助ける理由があれば、治療…いえ、病状緩和に手を貸してくれる訳ですね?」

 

「そうですね。私としても、黒蛛病が広まり、特異点が産まれるのは望ましくありません。折角この星を訪れて愉しんでいると言うのに、何もかも食い尽されて滅茶苦茶になるのは業腹です。何より、本来であれば私が食べていた筈の星を、他人に掻っ攫われて愉快な筈もない」

 

 

 オメー無茶苦茶理不尽な事言ってないか? そりゃ、星を食べさせずに月まで拉致ったのは俺だけど。

 

 

「さて、人の道理など私には。それに、黒蛛病を通じて、私の存在を感じ取る者も居るようです。殆どは、アイドルとしての私が気になっているだけ…と考えているようですが、人とは中々に侮れません。私の正体に勘付く者も出るでしょう」

 

 

 …それ、もう多分一人勘付いてるわ。榊博士ェ…。『地に落ちた星は、皆が忘れたんじゃない。ただ知らないだけさ』なんて言ってたが、そりゃノヴァが月から落っこちてきてるなんて誰が知ってるってんだよ。と言うか、ほんの数分黒蛛病に感染しただけなのに、どうやって気付いたんだ。

 

 

「貴方の都合はともかくとして、この人の為になるなら協力に否はないでしょう。現在、黒蛛病が根本から治療できる唯一の人です。治療の為にあっちこっちから引っ張りだこになってみなさい。私達との時間なんて、あっという間に削り取られてしまいますよ」

 

「そういう事なら、お手伝いしましょう。とは言え、先程も申し上げました通り、根本的な治療は出来ませんが」

 

 

 鬼の手の具現化に使うカラクリ石は、この世界じゃ手に入りそうにないしなぁ…。とりあえず、病状緩和だけでも充分だわ。少なくとも、一人成果が出てるってだけで、支部長や榊博士も大分動きやすくなるだろう。

 まぁ、要するに今まで以上にアイドル活動を頑張ってくれって事だが。

 

 

「ええ、承りました。…それはそれとして、今日はスラムの辺りにある店に行こうと思うのですが」

 

「スラム? 治安は改善されていますが、貴方のようなお嬢様丸出しの恰好で行く場所ではないですよ。襲われる可能性もあります。…まぁ、ゴッドイーターの私が護衛についている、と思わせれば、そうそう無茶な事はしないと思いますが」

 

 

 と言うか、何でわざわざそんな所に。飯ってのは落ち着いて食ってくそだろうに。

 

 

「それは異論ありませんが、未知なる味を探求してこそでもあります。噂では、あの辺りには腕の良い料理人の卵が居るそうなのです。まだ未熟とは言え、これは是非とも食べに行かねば」

 

 

 スラム……料理人の卵…。…その情報、誰から聞いた?

 

 

「オーディションの時に少し話した参加者ですが。確か……そう、彼女のステージでは『どぅぶちぇどぅぶちぇどぅぶちぇどぅぶちぇ』と繰り返されていたような」

 

 

 ドゥーチェだろ。カタカナ苦手なのかお前は…。

 つか、あの子からの情報なら、まず間違いなくペパロニ嬢ちゃんだろうな。確かに、いい腕してたが…半分はアンチョビ嬢ちゃんが、宣伝目的で話したんだろう。

 

 

 

 でもあの子、見た目もそうだがメニューもイタリアのシェフっぽかったよなぁ。ラーメンなんて出来るのか? いや似たような物なら出来るだろうけど。

 

 

 

 




追記
ロミオのモトカノは、水瀬伊織のイメージでお送りしています。
ただし、ロミオと揉めた事によって傷つき、アイドルになろうとはしていません。
怨嗟の声は存分にどうぞ。


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334話

北斗が如くの発売も近いですが、モンハンとどっちを優先しようかなぁ…と思っているとふと気づきました。


北斗神拳=素手がデフォ。例外はあるにしても。
と言う事は、龍が如くの芸風でデフォルトで武器無し縛りがついてるのか…?
これはロマン的に嵌らざるを得ない。


神逝月

 

 

 チーム・アンツィオの家でお泊りしました。ふぅ、中々に騒がしい夜だったぜ。実は某ショタ魔法使い先生が担当するクラスメイトだったとか言われても違和感がないくらいにエネルギッシュな嬢ちゃん達だ。

 

 ん? 何があったかって……そりゃアレよ。

 昨日、タカネとアリサと一緒に、ペパロニの嬢ちゃんの店に来て、ラーメンがあるだ無いだで一悶着あって、ちょうどそこに居たアンチョビが開祖様コールまで初めて…。

 とりあえず落ち着いた頃には、もう日が沈んでいた。

 そのままお暇しようかと思ったんだが、GKNGに所属しているアンチョビが、『開祖様に来ていただいたのに、持て成しもせずに帰してはムラハチされる』とゆーので、一晩世話になった訳だ。

 

 タカネがラーメンが無いあまりに絶望し暴れ出しそうになったり、リクエストに応えて即興で作ったイタリアンラーメン(パスタとトマトが特徴)をラーメンに分類するかパスタに分類するかで無駄に熱い議論が展開されたものだ。

 その結果、なんかタカネとペパロニ嬢ちゃんの間に、熱い友情っぽいライバル意識が芽生えたようだが、まぁそれはどうでもいい。

 

 

 アンチョビとは少し話をした。普通に話したかっただけなんだが、あっちからしてみれば突然、アトリエに使っているあばら屋に、殿上人が訪ねてきたようなもんだ。緊張しまくって、本音で話す事はできなかった。

 ……それよりもアンチョビの胃が痛かった理由は、背後で俺の連れ(タカネ)と問題児(ペパロニ嬢ちゃん)の舌戦が展開されていたからだと思うが。オーディションの時、ペパロニ嬢ちゃんの店の事を宣伝した事を、心底後悔した事だろう。

 

 更には、アリサが周囲に勧められるまま、酒瓶を片っ端から空にしている。そういやロシア人だったね。肝臓強いわ。

 と言うか、色々流通するようになったとはいえ、よくもまぁこれだけ酒を揃えられたもんだ。

 

 

「あ、それドブロクです」

 

 

 自作かよ。この時代に酒税法もクソもないから、違法ではないな。

 

 ともかく、アンチョビは例のオーディションに無事合格し、その真意を知らされた今でも、動じずにレッスンに励んでいるようだ。

 休日にはこうやって、チーム・アンツィオの様子を見に来たり、差し入れに来たりと、忙しい日々を送っている。大丈夫なのか? あんまり根を詰めすぎると、体壊すぞ。

 

「だい、大丈夫です! その辺は余裕をもってやってます! …その分、元々見劣りしてたアイドルとしての実力が、どんどん離されていくのは厳しいですけど…」

 

 

 まぁ、それはなぁ…。アイドルって言っても、アンチョビはプロデューサーとか会社によるバックアップも無い状態だからな。

 チーム・アンツィオの応援は予想以上の効果があったようだけど、仕事を取ってくるとかスポンサーを見つけてくるとか、そういう事は出来そうにないし。

 ペパロニ嬢ちゃんに恩を受けた人も多いだろうが、流石にそれだけで伝手が辿れる訳もないか…。

 

 ちなみに、肝心の血の力の訓練はどうだ?

 

 

「正直な話、何とも…。開祖様の言う事を疑ってる訳じゃないんですが、本当に歌で…私の歌で病気を治せるのかな、と。他の人達も同じような印象ですね。せめて誰か一人でも、本当に習得した人が出れば現実感も湧くと思いますが」

 

 

 そこのタカネな、もう身に着けたって豪語してるぞ。

 

 

「……マジで? アイドルとして超新星だって言うのはこの前のオーディションで突きつけられたけど、そっちまで超新星なのか…」

 

 

 確認した訳じゃないが、確かに兆しはある。タカネもちょっとした事情持ちなんで、それで習得していたとしても違和感はない。

 まぁ、事実か否かは数日もすれば分かるだろ。本当だったら確実にニュースになる筈だ。

 

 

「それ、大騒ぎになりませんか?」

 

 

 …なる…だろうな。考えてみりゃ、そりゃそうだ。

 黒蛛病は、世界中で猛威を奮っている病気だ。それの治療法、緩和法を体得した人間。そしてそれ以上に、それを体得させる訓練法。

 各国から情報開示要請が殺到しそうだ。

 いきなり拉致…を考えるとは思いたくないな。返り討ちにして終わりだけど、周囲に妙な事をしないとも限らん。

 

 となると、逆に…訓練を受けさせる為、或いはそのマニュアルを入手させる為に、極東に来るか。

 

 

「来ますかね? 私は極東産まれの極東育ちだから外の事はよく分からないですけど、ここって地獄って呼ばれてるんでしょ?」

 

 

 最近はその地獄具合に拍車がかかりつつあるな。まぁ、もしも本当に来たら、緑あふれる極東の有様に腰を抜かすのが目に見えてるが。

 知ってるか? この極東の緑化な、他の地区からは嘘か冗談としか思われてないんだぞ。

 

 

「それは知ってます。これでもGKNGですから…。外に流通させようとしている野菜や植物が偽物だと疑われるって、よく幹部達が愚痴ってます」

 

 

 それこそ、グレムのオッサンの出番かもな…。

 

 

「あ、こっちから一つ聞いていいですか? なんかこう、血の力をすぐに扱えるような方法とかコツとかって…ない…ですよね…。練習あるのみですよね…」

 

 

 いやあるにはあるが。

 

 

「ホントに!? タカネがいきなり使えるようになったとか言うから、もしかしてと思ったら!」

 

 

 生憎タカネにはそれは使ってないな。本人は使ってほしいみたいな事を言ってたが。

 ただ、色々な意味でリスクが高い方法だからな。下手に使うと人生破滅だ。破滅じゃなくても、色んな意味でおかしな人生になりかねん。ロミオみたいに。

 

 

「えっと…誰?」

 

 

 オーディションで乱入してきたアラガミをぶった切ってた奴の一人。最近、モトカノと寄りを戻してMに目覚めゲフンゲフン

 まぁアレだ、今回のアイドル達へのレッスンは、ちゃんとした血の力育成マニュアルを作る為の土台でもあるんだ。一気に目覚めようとせず、ゆっくりやってくれ。

 

 

「…はい」

 

「まぁまぁ開祖様~、そんな堅い事言わずに~」

 

「ドゥーチェを助けると思って、どうかこの通り! 私達に出来るお礼なら、何でもしますから~」

 

 

 ん? 今何でもするって

 

 

「ちょっ、お前らバカ止めろ! いつものノリで遊んでんじゃない! 相手は殿上人だぞマジで!」

 

「そんな事言っても、開祖様だって普段通りでいいって言ってるじゃないですかぁ。大体、ペパロニがあれだけ激しくやりあってるのに今更ですよ」

 

 

 うむ。既にイタリア料理を離れて、ワンコ蕎麦の様相を呈しているな。まぁ、見てて面白いから構わんが………タカネの食費だけでも、経費で落とすようにGKNG幹部連に言っておくか? 却下されたら、ちゃんとした料金って事でこっちが払うが。

 

 

「………オネガイシマス」

 

「じゃあじゃあ、お礼って事で私達がお酌しますね」

 

「ちょっとくらいなら、お触りも構いませんよ?」

 

 

 開けっ広げだなぁ。ついつい本当に、乳揉みそうになっちゃうじゃないか。

 音もなく背後を取ったアリサが居なければ、酔っぱらってキャバクラでセクハラしまくるオッサンみたいになってたかもしれん。

 

 と言うか、顔が赤いぞアリサ。酔ったか?

 

 

「…正直、ちょっとクラクラしてます。普段ならこれくらい、全然平気なのに」

 

「チャンポンしまくったからじゃないか? 素人の自作の酒だから、悪酔いしやすいのかもしれないし…。部屋と布団、用意するか?」

 

「いえ…この人、見張ってないと誰かに手を出しそうなんで」

 

 

 信用ゼロだね。仕方ないね。

 真面目な話、しんどいならもう寝てしまえ。俺も看病がてら、一緒に寝るから。

 

 …悪いね、皆。歓迎してもらったのに。

 この後も好きなだけ騒いでくれぃ。

 

 

「お疲れ様でした」

 

「あ、ドゥーチェ、私部屋の準備してきます」

 

「じゃあアタシは案内ですね。おねーさん、ちゃんと歩けます? 肩貸しますよ」

 

 

 

 

 …昨晩はこのような感じで部屋に引っ込んだ。尚、タカネはまだ食っている。

 

 

 

 

 

 ………いや、その、ね。本当に、ナニもする気はなかったんだよ。アリサの看病もあったしさ。まぁ、ちょっと悪酔いした程度じゃ、ゴッドイーターは数分もせずに回復するけども。

 

 

 

 

 

 アリサも落ち着いて、一眠りした後。…時間と気配で考えるに、宴会が終わって…或いは全員酔い潰れた、草木もイビキを掻く丑三つ時。

 宛がわれた部屋の前にやってくる気配。それだけなら特に何も感じず眠ったままだったろうが、カチャカチャと金属音がして目が覚めた。鍵を開けようとしている。

 

 腕枕で眠っていたアリサをこっそり起こし、侵入者に備えた。

 寝惚け眼だったアリサも、「侵入者」の一言で目が覚めたようだ。そういや、3年間レアの護衛をやってたんだよな。人間相手との闘いも、そこそこ経験しているようだ。

 

 …まぁ、警戒は無駄だったけど。

 

 

「どぅも~。お邪魔しまぁ~す」「ニシシシシ……」

 

 

 入って来たのは、見覚えのある二人。…ぶっちゃけ、アンチョビと話している時に酌をしてくれた二人だった。

 殺気は無い。物取りでもなさそうだ。

 薄目でアリサとアイコンタクトすると、様子見と返ってきた。……と言うより、こいつまだ酒が残ってるな。起きはしたけど、目がトロンとしとる。

 

 

「あら~…恋人さんと抱き合っちゃってる…」「どうする? 大人しく……帰る訳がないよね~」

 

 

 …この二人にも、結構酒が入ってるな。害意も特に感じないし、本当に何をしに来たんだ?

 …………いや、こんな時間に女が男の部屋に忍んできてる時点で確定かもしれないけど、なんでいきなり? なんのために?

 

 

「ニシシ…。テレビで見たよね、この二人ともう一人のキスシーン。間に割って入るつもりはないけど、これもドゥーチェの為って事で……イタダキマース」

 

 

 予想通りと言うべきか、俺のズボンに手をかけて御開帳しようとして。

 

 

「なにしてんですか」

 

「「アダッ!?」」

 

 

 アリサのダブルチョップに撃墜された。ついでに、俺にもいつまで様子見するつもりだったんだとジト目。

 

 

「あ、アイタタタ……あれ、二人とも起きてたんだ…」

 

 

 そら起きるわ。と言うか、何をいきなり夜這いしにきてるんだよ。酒の勢いで男に身を任せると後悔するぞ。

 

 

「景気付けにお酒は使いましたけどー、元々そのつもりでしたよー。『お礼』の先渡しって言うかね」

 

「宴会の時に言ったじゃないですか。ドゥーチェを助けると思って! この通り! 私達に出来る事なら、何でもシますから!」

 

「ちょっとイントネーション違いませんかね」

 

「細かい事は言いっこ無し! ともかく、そういう訳でお誘いで~す。どうです? アリサさんにはちょっと負けるかもしれませんけど、アタシ達も結構自信あるんですよ」

 

「別に恋人扱いしろ何て言いませんからぁ。今後、ちょっとドゥーチェに目をかけてくれればいいんです。ほら、もう二股してるんでしょ? それと同じで、ちょっと見逃してくれれば…」

 

 

 もう二股どころじゃなくなってんだよなぁ。いや、人数的にはシエルが増えただけなんだが。タカネとはまだシてないし。

 それより、これってアンチョビは知ってんのか? ……見た所、初めてって訳でもなさそうだが。

 

 

「ドゥーチェには一切秘密ですよ。今回の事も、これまでの事も、これからの事もです。…いくらドゥーチェがみんなを纏めてくれて、ペパロニがあっちこっちに恩を売ってるって言っても、それだけじゃ私達のチームの存続・拡大は難しいんで」

 

「アタシら、あんまり頭もよくないんで、これくらいしか出来ないんですよね。ああ、全員じゃないですよ。自分から志願した、ごく一部のメンバーだけです。ま、今回は単純に、アタシ達が溜まってたってのもありますけど。最後にヤッたの、ドゥーチェがGKNGに入る前だから…もう2年以上前かぁ。ご無沙汰してるなぁ。あの時のおっさん、下手だったし、あの後すぐに潰れちゃったから色仕掛けした意味も無かったし」

 

 

 あっけらかんと…。抵抗が少ないのか、生きる為の術と割り切ってるのか。どうでもいいが、アンチョビが起きてくるんじゃないか?

 

 

「大丈夫ですよぉ。ドゥーチェにもちょっと強めの飲ませたんで、明日の昼頃まではお漏らししても起きてきませんから」

 

 

 した事あるのか、お漏らし。と言うか本気で常習犯か。

 とは言え、これでOK出したらアリサに殺されかねんし、アンチョビにも「……いいんじゃないですか」……はい?

 

 

「いいですよ。私もしたくなったけど、他所の家だから我慢してただけですし。でも、メインは私ですからね」

 

 

 …あの、アリサさん。貴方、浮気阻止の為に俺を見張ってた筈では………あかん、目が半分以上眠ってる。酔っぱらいすぎだ。

 

 

「そりゃ、その為に呑ませまくったんですからね! 酒代はかかりましたけど、成果あり! 死んだお婆ちゃんから教わった、エッチぃ気分になるお酒もしこたま飲ませました!」

 

 

 媚薬じゃねぇか! ぬう、一般人相手だと思って油断しすぎたか。これで悪意があったら……いやまぁ、普通に返り討ちできるけどさ。気付けなかったって時点で論外である。

 

 

 

 で、どうしたって? そりゃまぁ…ご無沙汰だった二人を、「もう無理」って黄色い悲鳴をあげるまで可愛がりましたが。

 いやぁ、美味かった美味かった。なんだ、こう…アリサやレア達とは違った味わいで………気軽に食える、ちょっと高級なB級グルメみたいな味わい?

 見た目と年齢にそぐわず経験豊富でエロい事そのものも好きみたいだったが、所詮は小娘よのー。テクにもそこそこの自信はあったらしいけど、比較対象が最悪だわな。

 

 最初はメインを張ってたアリサも、小生意気ボディの二人を平らげるのに夢中になった。二人が持ち込んでいたペニバンを付けて、誰にどう使うつもりだったのか、根掘り葉掘り前後の穴掘り吐かせたもんだ。

 後になって冷静になり、頭を抱えて後悔するアリサ曰く、「いつもあなたやママとばかりしてたから、一方的に弄べるようなシチュエーションは初めてだったんです」だそうな。つまりアレか、指先でメスをヒィヒィよがらせる楽しみに没頭しちゃった訳ですな。うむ…確かに、レアが相手だと、受けも責めも勝手知ったる相手だから、一方的に嬲れはしないか。

 傍から見ていた感想としては、援交上等の調子こいたJKを、レズAV女優(ガチ勢)がオシオキしてるよーな感じだった。

 

 途中からは声を抑える事もできなくなってたんで、グチョグチョに濡れたパンティを口に押し込んでギグボール代わりにするという非道も行ったが、まぁ悦んでたからいいだろう。

 

 

 …ん? アンチョビにどう思われるか? 

 そりゃ最初は躊躇ったが、媚薬なんぞ飲ませてた時点で非はあっちにある。

 

 ……とは言え、こんなやり方ではあるが、前払いの『お礼』は受け取っちゃったんで、アンチョビに目をかけてやる必要はあるな。

 黒蛛病の治療…強い感動を引き起こす、という意味では、本職のアイドル達以上の見込みがあるし、気に掛けるのはおかしな事でもなんでもない。顔見知りだしね。

 

 

 

 

 

 

 今日の朝、頭を抱える(二日酔ではなく後悔で)アリサをおんぶしてアナグラに帰ろうとすると、昨晩の二人と、あと数人に呼び止められた。多分、体を売る…と言うより、援交していたと言った方が、如何わしくて雰囲気は出る…ていたメンバーなんだろう。…うん、少なくともここの子達は非処女だ。

 二人が昨晩言った通り、アンチョビが全然起きないので、副リーダー的なポジションにいる子が代わりに見送りに来た……という建前。

 

 

「それじゃ、ドゥーチェをよろしくお願いしますね。……もし、ちゃんと目をかけてくれたら……今度はここに居る子達を指名してもいいですよ。……凄かったって聞いてます。期待してますからね♪」

 

 

 囁かれた後、昨晩の二人からは両頬にキスを貰った。こっそりズボンの上からスリスリされた。アリサは拒んでいた。

 …むぅ。JK専門の違法風俗店を見つけてしまった気分である。

 

 

 

 

 

 

 帰った後、レアから割とガチでお説教された。 

 



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335話

やってらんねぇ…
自分が悪いとは言え、仕事で失敗続き。
本当に迷惑なのは失敗の余波を被る人達だとは言え、バックレたくなってきた。

そんな事したら、北斗が如くもネットも執筆も出来なくなるので耐えますが。
こーいう時、慰めてくれる彼女とか嫁さんとか羨ましくなるわぁ。


神逝月

 

 

 アイドル達の霊力修行、本格的に開始。……なんかうさん臭さが半端ないな。AVの企画モノに通じる何かを感じる。

 しかしやってる方は至って真面目である。

 

 今回は、講師のサポートとしてジュリウスが来ている。…イケメンに注目が集まっているが、気にするまい。それだけちゃんと話を聞いてくれるからね。

 

 

 

 とは言え、流石に霊力もとい血の力といきなり言われてもピンとこないようなので、まずは実物に触らせてみる。

 彼女達も、オーディションの後に治療した場面は見ているので、おっかなびっくり具現化した鬼の手に触れていた。中には警戒心がないのかってレベルで突っ込んでいく子も居たが。

 

 その途中、アイドル達からの質問。

 

 

「せんせー、この鬼の手って、具体的にどんな事ができるんですか? 黒蛛病の治療以外に、あの時はアラガミを抑えつけてませんでしたっけ」

 

 

 色々できるよ。アラガミを殴り飛ばしたり握り潰したり、何処かに引っ掛けてそこに移動したり。

 効率が悪いからやった事ないけど、触れた場所の怪我を治したりもできるんじゃないかな。

 

 

「…なんていうか、節操無さすぎない?」

 

 

 仕方ないだろ、できるんだから。

 と言うより、そういうコレ自体が俺の力の集大成みたいなものなんだ。

 

 ブラッドでも使っている血の力だが、種類は色々ある。攻撃、分析、バフ、デバフ、行動制限…。俺はそれを一通り使える訳だけど、それらを一つの形に纏めたのが鬼の手って訳。

 鬼の手が便利すぎると言うよりは、色々機能を混ぜたら鬼の手の形に落ち着いたって事だな。

 

 と言う訳なんで、最初から黒蛛病を完治できる鬼の手を目指しても仕方ない。地味でつまらんと思うが、段階を踏んでトップアイドル…じゃなかった、血の力の使い手になっていってくれ。

 

 

「この手はともかくとして…力を使えるようになるのに、どれくらいかかると思う? 聞いた話だと、専門家部隊のブラッドでも、まだ使えない人が居るみたいだけど」

 

 

 本人の資質とやる気次第、としか言えないな。ブラッドで使えてるのは、3年以上前から訓練しているここのジュリウスと、俺が鍛えたロミオ、それからつい先日使えるようになったギルとシエル。何か月も訓練して使えるようになった例と、心機一転した事が切っ掛けで、一か月もせずに使えるようになった例がある。極端すぎて何とも言えん。

 

 

「深淵の魔導に必ずや至るであろう!」

 

 

 極東弁でおk。うん、頑張ってくれ。

 

 

「…質疑応答はそこまででいいか? では、まずは個々の適正を調査する。これは血の力に目覚めやすいかという意味ではなく、仮に目覚めた場合どのような能力になると考えられるか…を調べるものだ。諸君らの後輩達の助けにもなるデータとなるので、進んで協力してほしい」

 

 

 そう言うと同時に、部屋の片隅に据え付けられていた、なんとなくSFチックな……と言うか、フライアでよく見かけるような、大き目の機材を指さした。メーターが幾つもあるが、どれが何を示しているのかよく分からない。

 …ジュリウス、いつの間にそんな物持ってきたん?

 

 

「先日、ラケル博士からな。シエルの治療をした頃から、簡易的な物だが実験も兼ねて作っていたらしい」

 

 

 …同じ事が出来そうな奴を、前もって見つける為…かな? 下手すると、アイドル達にも牙を剥く可能性があるか…?

 ふむ…。

 

 

 …。よし、タカネ!

 

 

「はい、あなた様。お呼びですか?」

 

 

 まずタカネから検査してくれ。一応言っておくが、依怙贔屓じゃないぞ。

 既に血の力を身に着けたと豪語する実力を見せてくれ。

 

 

「ほう…?」

 

 

 感心したような、信じてないようなジュリウスの声。

 それと同時に、アイドル達にもざわめきが広がった。そりゃそうだよな。実際のレッスンは、まだ一度も受けてないんだ。なのにもう習得しました、なんて言われても、信じられないのは無理はない。

 特にタカネは色々な意味で注目を浴びているから、その分反発や嫉妬も集まりやすい。

 

 しかし当の本人は気負った様子もなく進み出て、小さく深呼吸し…赤い光を体に宿らせる。どよめくアイドル達。ジュリウスも目を見開いた。

 …一見すると血の力そのものだが…どっちかと言うと、霊力? いや、根っこは同じ物だろうから、あえて区別する必要も無いか。

 

 

「では、この状態でこの機械の前に立てばよいのですか?」

 

「いや、そのまま何でもいいから…いや、短めの曲を歌ってくれ」

 

 

 カエルの歌でもいいの?

 

 

「ああ、構わない。歌声に力が宿っているのかを調べなければならない」

 

「伴奏は必要ありませんわね。それでは……か・え・る・の・う・た・が(略)」

 

 

 ふむ…子供向けの歌でも、歌い手次第で随分変わるもんだなぁ。それはともかく確かに力は宿っているようだ。

 流石はノヴァと言うべきか…考えてみれば、月に居る間は俺が霊力を使う所を何度も見てるんだよな。それで自然と覚えたんだろうか。…ひょっとして、俺が生きていけるような環境を整えていたのも、その応用?

 

 

「……いかがでしょうか」

 

「驚いたな…。確かに力が宿っている。とは言え、そのまま黒蛛病の治療に使える訳ではなさそうだ。今までの例が少なすぎて推測でしかないが……」

 

 

 葦原ユノの歌も、この装置で何ぞ計測したのか?

 

 

「ああ。血の力とは違うようが、彼女の歌にも何かしらの力が宿っている。…いや、歌う事によって、何かが生み出されていると言った方が正しいか。何にせよ、これは大きな一歩になる」

 

 

 静かに興奮しながら、何やら記録を取り続けるジュリウス。

 ふむ…ユノの歌に黒蛛病緩和の効果があるのは、特異点としての素質故だと思っていたが……まぁ、彼女にしか素質が無い訳じゃないからな。目の前のジュリウスにだって素質はある。

 こいつら程じゃないが、今いるアイドル達にも、大なり小なり素質はあるだろう。

 

 つまりは……合同ライブか。今度提案してみよう。そもそもからして、今はここに居る彼女達の素質の測定だ。……ああ、ひょっとしてこの測定機って、特異点候補としての素質探知機なのかな。

 

 ともあれ、ジュリウスの指揮により、検査は進む。結果は……まぁ、当然ながらドングリの背比べとしか言いようがない。

 当然だわな。訓練も何もしてない状態なんだから。

 

 俺から見ても、特に目を引く結果は見られなかった。…いや機械のメーターの意味がサッパリ分からないから、本人を見た印象でって事ね。

 

 

「…よし。測定は終わった。このデータは後で纏めて整理・考察する。結果については、気になる者には直接伝えよう。本日の訓練は…」

 

 

 ジュリウスが俺に目を移す。はいはい、俺の担当って事ね。

 んじゃ、まずはこの力の感触を覚えてもらいます。訓練するにしても、この力を感知できなきゃ上手く行ってるかどうかも分からないだろう。

 

 具体的には、背後からプレッシャーをかけ続ける。暫くして慣れてきたら、圧力のオンオフを加えていく。

 そういう訳で、今から始めます。全員、その場で座って目を閉じろ。

 

 

「正座ですか?」

 

 

 正座でも胡坐でも三角座りでもなんでもいいよ。

 長時間じっとしていても負担が無い姿勢がいい。別に、ピクリとも動くなとも言わん。

 余計な事を考えないのが望ましいが、別に昼飯の事を考えてようが、次のライブの事を考えてようが構わん。ただ、背後からくる感覚には注意を払うように。

 

 他に質問は? …無いな? よし始める。

 

 

 

 

 

 

 

 …はい、そういう訳で、アイドル達の後ろに立っています。

 …なんつぅか、変な気分だな…。教室の後ろで、一人だけ授業参観やってるみたいだ。

 いくら美人揃いだって言っても、見えるのが後頭部くらいじゃなぁ…。あ、うなじ……いかんいかん、邪念は後回しだ。

 

 

 霊力を高め、背後からプレッシャーをかける。イメージ的に言えば、タマフリの追駆や連昇の狙いを定めるようなイメージか。

 何人かの背筋がビクリと震えたのが見えた。うむ、感度がいいな。もうちょっとパワーアップ…最前列に居る子達には、より強くプレッシャーを与えるようなイメージで。

 

 

(…器用な事をするものだ)

 

 

 ジュリウス? どうかしたか。

 

 

(いや、俺もお前の力の使い方を覚えようと思ってな。…それはいいんだが、プレッシャーが強すぎないか? 俺は慣れているが、一般人には…)

 

 

 どうだろうな。様子を見ながら強弱を調節してはいるが…この子達はアイドルだろ? 精神的なタフさなら、一般人のはるか上を行くと思うんだが。

 まぁ、一口にプレッシャーって言っても、多くの耳目を集める事によるプレッシャーと、アラガミと対峙するようなプレッシャーは別物だと思うが。

 …このやり方、言ってみりゃ闘気を当てて威圧してるようなもんだしなぁ。

 

 

(むぅ…。今のところ、顔色が少々悪くなっている子がいる程度か…。見た所、恐慌をきたす程ではないが)

 

 

 慣れなきゃ話にならんが…ま、初日だしな。圧力の強さはこのくらいにしておく。

 

 

 現在、何かしらの違和感を感じている者、手を上げてくれ。

 ……よし、全員。では、一旦圧力を無くす。

 

 今度はランダムに圧力をかけていくから、それらしい気配を感じたり、「あ、今何か受けてるな」って思ったら手を上げてくれ。

 

 

 

 

 

    間。

 

 

 

 

 

 はい、今日の訓練は終了。初日にしてはいい方だな。

 

 

「だぁ~……疲れたぁ…」

 

 

 好きな体勢でいいって言ったら、迷わず寝転んだ君は、いつも疲れてそうだけどね。

 

 

「いや…寝転がってられるだけなら大歓迎なんだけど、確かになんかこう…得体の知れないナニカが近くに居るって言うのが分かってさぁ…。あれじゃ寝転がってるんじゃなくて、猛獣の近くで狸寝入りしているようなもんだよ」

 

 

 えらい言われ様だ。しかし力の感触と言うか、気配自体は感じ取れた…か。

 そっちの何となく霊感が強そうな片目少女、君は?

 

 

「えっと…うん、何か向けられてるなって言うのは、よくわかった…。オバケとか見た時と、ちょっと同じ感じ…」

 

 

 幽霊ねぇ…。ま、確かに思念の産物と言う意味では似通ってるか。

 血の力の矛先を向けてた時、君が一際敏感にそれを感じ取ってたみたいだ。

 

 …では熊本弁の君は?

 

 

「我が力、未だ深淵の底より出でる事なし」

 

 

 いやいきなり血の力を覚えようって方が無理だから。頑張ってるのは分かるけど。

 …ちなみに、君は特に何も力を向けてない時も、ちょくちょく手を上げてたぞ。まずは錯覚と実際の圧力の違いを分かるようにならんとな。

 

 

「えぅ」

 

 

 まー頑張りな。イメージが大事だから。君、そーゆーの好きそうだし。

 

 

「我が邪王真眼、必ずや使いこなしてみせようぞ!」

 

 

 

 ……ちょっと心が痛い。一応言っておくと、「絶対出来る!」と意気込むより、「意識しなくても出来て当然」と思ってた方がやりやすい場合が多いみたいだぞ。HBの鉛筆をバキッと圧し折るようにだ。自分に合ったやり方を見つけるのが大前提だが。

 

 

「我がグルよ…!」

 

 

 …なんか導師の称号を貰ってしまったようだった。

 

 後は…そうだな、アンチョビ。お前は逆に理性で考えすぎだ。

 体が察知していても、周囲の反応が気になって手を上げられなかった事があるだろう。

 

 

「う…はい」

 

 

 感覚を覚えさせる為のものなんだから、頭で察知できても意味が無いよ。まずは体の反応を信じる事だ。

 

 

 さて、今日のところはこれくらいにしておきますか。

 目を閉じて座ってるだけで退屈だったかもしれんが、これもレッスンの一つと割り切ってほしい。

 以上、ちゃんと部屋に戻って寝るように!

 

 

 

 

 

 

 

 

「…退屈とはどの口で言うのやら」

 

 

 見てる分には退屈だったろ。

 

 

「そうでもないぞ。…ま、血の力を明確に察知できるから、こんな事を言えるんだろうが。それに、彼女達はかなり消耗しているな」

 

 

 未知の感覚に晒され続けた訳だからな。魂に直接負荷をかけられたようなもの…。魂なんて言っても分かりづらいから、単純に炎天下の太陽や、極寒の吹雪の中に放り込まれていたようなもんかな。

 肉体的には動いてなくても、精神的に疲弊するのも当然だわ。

 

 

「それにしても、思ったよりもスムーズに進むな。ロミオの時は、血の力を感じ取るだけでもかなりの時間がかかったと聞いたが。……俺か? 俺は特に意識する事もなく、いつの間にか自然と感知できるようになっていた。その後、使いこなすのに時間がかかったな」

 

 

 前例やノウハウがあるか、手探りで考察しながら進めていたかの違いじゃね。

 俺もロミオを鍛えた後から、色々と試したからな。

 

 

「…他にも血の力を教えた相手が居ると?」

 

 

 いや、居ないよ(この世には)。

 それはそれとして、次のレッスンどうするかな。全員が力を完治できるようになるまで待ってたら、どれだけ時間がかかるか…。ある程度、進行度合いに分けてレッスンする必要があるか。

 

 

「考えているところ悪いが、次の作業はもう決まっている。タカネ、だったか…。彼女の歌に効果があるかの実践テストだ」

 

 

 ああ、成程。

 

 

「成果が出れば、恐ろしく忙しくなるだろう。彼女だけでなく、お前もな。ミッションに出られる時間を確保できるかすら怪しい」

 

 

 ……俺も? 何で? いや、確かに血の力獲得の為のレッスンが重要になってくるというのは分かるけど。

 

 

「何でもなにも…黒蛛病は世界中で猛威を奮っているんだぞ。最近では赤い雨を観測し、事前に対処できるようになったとはいえ、一度降れば数人以上は感染者が出る。特にゴッドイーターは、雨を凌げる遮蔽物のないミッション中に赤い雨に遭遇する事も多いしな。…そして、ゴッドイーターの有無は、その土地、その国の環境維持に大きく関わる」

 

 

 それは分かるが…。ゴッドイーターが居なくなったら、アラガミにやられっぱなしで、衣食住の確保すら難しくなるだろうな。それが?

 

 

「分からないか? 黒蛛病でリタイアするしかなかったゴッドイーターを、治療できる可能性があるんだぞ。ゴッドイーターだけではない。多くの黒蛛病で苦しむ人達を、貴重な薬も使わず、歌という消耗の無い…ああ、ギャラとかは必要だが…行為で治療できるんだ。…各国が欲しがってもおかしくなどないだろう」

 

 

 各国が………それは…何か? 同じように血の力を習得させる為、あちこちから人が送り込まれてくるって事か?

 

 

「多分そうなる。…気をつけろよ。力を真っ当に習得しようとするならいいが、拉致、人質、ハニートラップ…人の悪意は際限がない。特に、お前は最後のやつに弱そうだしな」

 

 

 逆に寝返らせるから大丈夫だよ。それ以前に、アリサとレアとシエルの防壁を抜けてこられるヤツなんて、そうそういないだろう。

 

 

「………ほう。シエルに、何かしたと?」

 

 

 あ、ヤベ…。

 

 

 

 

 

 

 



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336話

最近、日光浴と瞑想に嵌っています。
と言っても、昼頃に何もせず、何も置いてない寝室の窓際でボケッとしてるだけですが。
むぅ、いつも感じていた眠気が消えて、部屋の片づけまでする気力が湧きました。
意外と効果ある…。




おお、北斗が如くの体験版が配信中か。
これはプレイせねば。
そしてプレミアムエディションでは、ケンシロウを桐生一馬に変化可能と。
通常版のつもりだったが…これは買わねば!

そしてその一週間後には進撃の巨人2か。
可能なら最初からオリジナル主人公で行きたいと思います。
現状、DLCはコスチュームのみ…使いたい奴があれば、個別に買えばいいか。


神逝月

 

 

 唐突でなんだが、1日のサイクルを確認しておく。

 

 まず朝。ちんこにイタズラされながら起きる。大抵は、昨晩の情事に参加できなかった者が、部屋に入ってきてイタズラしてるな。

 今日はシエルの目覚ましフェラだった。最近はすっかり人肌のぬくもりの味を覚えたシエル。前回のように友達宣言してこそいないものの、俺やアリサ、レアとの繋がりを強く実感する事で、精神的に安定してきたように思える。

 しかし、従順かつご奉仕気質なのは生来のものなのか、とにかく俺を悦ばせようと、あの手この手で媚びてくる。撫でてやると、ブンブン振られるシッポが幻視できる程に喜ぶ。可愛い。

 

 ちなみに、昨日は気持ちいいイタズラはなかったが、ちんこに名前が書いてあった。自分の物にはちゃんと名前を書きましょうってか。だったらあいつらにも名前を書いてやりたいが、落書きどころかイレズミだって余裕で受け入れる未来しか見えない。

 ついでに言えば、レアは竿じゃなくて玉に書いてた。エッチは誰としてもいいから、孕むのは自分だけ…いや、自分が最初って意味だろうか?

 

 そのまま流れるように朝の一発に移行。腰が抜けたりしないように、スローでマイルド風味のセクロスだが、隣でそんな事やってれば、昨晩遅くまで楽しんでいたアリサとレアも起きてくる。

 シエルは腹が白いので満タンになったら、シャワーを浴びに行く。入れ替わりで一人を相手にし、もう一人が朝食の支度。

 ちなみに、時々俺の相手をするのではなく、シャワー室からレズプレイの声が聞こえてくる事もある。盗み聞きしてるみたいで、これはこれで可。

 

 

 朝飯食ったら、4人で今日の予定を確認する。シエルとアリサはゴッドイーターとしてのミッション。レアは榊博士達と何やら研究している。

 俺はアイドル達へのレッスン内容を考え、また彼女達の資料を纏めている。

 レッスンの予定がない日だと、3人のうちの誰かと遊びに出掛けたりする。

 

 朝食の片づけを終え、暫し雑談。猫団子かと思うくらいに、4人でベッタリしている事が多い。

 話題としては、最近はシエルの友人と言うか弟子になったあの子の事が多い。レアとアリサも、シエルの人間関係を心配しているようだ。

 とは言え、今のところ上手く行っているらしい。師匠呼ばわりは相変わらずだが、下ネタ以外の話をする時は、むしろあの子の方が主導権を握っているようだ。

 

 膝に乗っている子を甘やかす事もあれば、膝枕してもらって甘える事もある。スイッチが入っちゃって、その場でおっぱじめる事もあるが、今日は無し。

 

 

 出勤時間(?)になったので、一旦解散。

 

 今日はレッスンの日なので、アイドル達が待っている部屋に行く。ちなみに、彼女達が受けているレッスンは血の力関連の物だけではない。本職の歌や踊りも、一流どころの講師を招いて色々学んでいる。それを近くで見る機会にも何度か恵まれた。役得役得。

 さて、アイドル達についてだが……血の力なんて胡散臭い物をどう思っているのか。それを教える俺について、どう考えているのか。割と気になるところである。

 

 反応は、大体三つに分けられる。

 一つ目は、あからさまに詐欺っぽいと思っている者。目の前で実演したとはいえ、そりゃすぐには信じられないだろう。

 血の力の実在を信じたとして、それを習得できるかも簡単に信じられるものではない。簡単に言えば、『超能力者になれるレッスン』を受けさせられてるようなもんだ。胡散臭いなんてレベルじゃない。

 

 二つ目は、怪しくも思っているが、仕事と思って割り切っている、或いは周囲に合わせて空気を壊さないようにしている者。

 年長者組に多いパターンだな。大人の対応と言うか、よくも悪くも流されているような感じだが、逆にウソか真か確かめようとしている節もある。

 もしも完全に詐欺の類だと判断したら、容赦なく攻撃してくるだろう。

 

 そして三つ目。やたら好意的なパターン。タカネを筆頭とし、特徴的な熊本弁(仮)を話す子や、以前に話した事のあるリン、ミカ。他にも何人か…。

 まぁ、タカネは分かるよ。血の力は既に体得しているようなもんだし、俺を追いかけて月から降りてきた程だ。

 熊本弁(仮)の子も……なんだ、その、異能の力に憧れを持ってるみたいだし、それが本当に手に入るかもしれないとくれば、そりゃ好意的にもなるだろう。

 リンやミカも、以前に話した分だけ気を許してくれていると思えば、分からんでもない。

 

 が、他の子達はなぁ…。やたらと好意的なもんで、ちょっと調べてみた(と言うか本人達に聞いてみた)んだが……納得。GE世界へのデスワープ直後、クァドリガに追いかけられていたバスに乗っていた子達らしい。

 つまり、成り行きとは言え俺に助けられた子達だった訳。

 その時の恩(?)に加えて、リンが言っていたように、俺から漏れ出る燐光…恐らくは因果…を浴びている。その為に、好感度補正がかかっているんだろう。

 

 

 むぅ…好感度と言うか信頼度が高いのは悪い事じゃない。こんな怪しいレッスンを、信頼して受けてくれる人が一定数以上居る。それだけで随分やりやすくなるものだ。

 特にタカネの存在は大きい。あらゆる意味で注目されているアイドルな上、既に力を体得し、黒蛛病に効果があるのかの実験段階に入っている。

 先駆者、先達の存在が実証されているのだから、懐疑的な面々もそう簡単には否定できない訳だ。アイドルとしての実力も、間違いなくこの中でトップクラスなんだし。

 

 

 このように、否定的なグループ、どっち付かずのグループ、肯定的なグループと別れている訳だが…うーん、進捗状況はドングリの背比べだなぁ。

 俺を信じているかどうかよりも、本人の資質がモノを言う段階だ。それぞれ励んでくれ、としか言いようがない。いや、それを信じさせたり、しっかり開花させるのが俺の目的なんだけど。

 

 

 

 

 

 午前中で、血の力のレッスンは終了。日によっては午後にあったりもするけど、今日はフリーだ。

 飯の時間な訳だが、一緒に食べないかと誘われる事もある。

 今日はアンチョビから誘われた。お偉いさんに進んで関わりたがる子じゃないが、向上心が高いからな。コネ作り、血の力に関しての質問、チームアンツィオについての話…要は上に行くにはどうしたらいいかって事を真剣に話したりする。

 特に深刻なのは、アンチョビの歌と踊りのレベルである。決して下手ではない…むしろ上手い方だが、周りが本職ばかりだからな…。一歩遅れを取っている自覚があるんだろう。

 ま、元々フレンドリーな子だからね。最近じゃGKNGの開祖って意識も薄れてきて、相談にのってくれるおにーさんくらいに思われてるんじゃないだろうか。

 

 

 飯が終わると、同じく午後にフリーになっている誰かと合流する事が多い。

 今日はレアが半休。アリサとシエルはミッションに行ったままだ。

 こういう時はデートに出掛けたり、部屋でマッタリしたりする。何気に、こういう二人きりの時間と言うは非常に貴重だ。………多分、これからもっと貴重になっていくんだろうなぁ。また人数増えそうだし。

 イチャイチャして、真昼間から退廃的なエロエロを楽しむ。

 具体的には、部屋の中で何もせず、ただ只管に貪りあったり、荒縄を持ち出してきて緊縛したレアを弄り回したり、淫具を仕込んで散歩に出掛けたり。

 ちょっと時間をかけたプレイを楽しむ事が多い。

 

 特に今日は、以前アリサと一緒に楽しんでしまった、チームアンツィオの所に行く予定だ。

 俺達に対しても怒ってたけど、それ以上にアンツィオに対して怒ってたもんなぁ…。

 何でって? 旦那と娘に一服盛られて逆レかけられれば、そりゃ怒るよ。

 

 とは言え、正面から突っ込まれても話がややこしくなる。チームのリーダーであるアンチョビは現在フェンリルの中でレッスン中だし、そもそも団員が体を売ってる事なんて、彼女は知らない。

 仲間の名誉を侮辱されたと怒るかもしれない。とは言え、何もしないようでは腹の虫が治まらない。

 

 なので、例によってエロでレアを丸め込む事にしました。何をするって?

 そりゃチームアンツィオのアジトに行く前にセクハラ(ただしレアは悦んでいる)してムラムラした気分にさせて、バイブも突っ込んで街を歩かせ、真面目な話し合いなんて出来ない雰囲気にしただけだよ。

 前もって副リーダーに連絡を入れておいたおかげで、事は実にスムーズに進んだ。

 アジトに到着して奥の部屋(恐らく、チームメイトを近付かせないプレイルーム代わり)に通されるなり、スカートを捲り上げてバイブ発見。

 痴女だ痴女だと囃し立てつつ、俺も交えてレア総受けの乱交が始まりました。

 

 勿論、出迎えてくれた枕営業チームも丸ごといただきました。

 レア? アリサと違って最後まで受けだったし、完全に力尽きていた。 まぁ、アレだ。途中から「マンマ、マンマ」って甘えながら乳首に吸い付いてた子の頭を撫でてたし、この子達の娘認定しちゃったんじゃないかな。

 

 

 気絶したレアの後始末をして、抱えて帰る。アンツィオからのまた来てコールに手を振りながら歩いていると、ミッションから帰って来たアリサに遭遇した。

 どっちから来たのか見て、レアの様子を見て、何があったのか理解したアリサに白い目で見られる。

 ご機嫌取りに適当な路地裏に連れ込むと、待ってましたとばかりに吸い付いてきた。今日のミッションは少々手古摺ったらしく、戦闘の余熱が残っているらしい。レアを起こさないように、周りに気付かれないように声を抑えて悦ぶアリサ。

 コトが終わった辺りでレアも目を覚まし、二人を引き連れてアナグラへ戻る。

 美女二人を従えているから、野郎共の嫉妬の視線が心地よい。……「テレビでキスしてた人だ」って声も聞こえるが、まぁ何も言うまい。

 

 性臭の残るまま、ペパロニの嬢ちゃんの屋台で飯食った事があったが…ありゃ悪い事したなぁ…。気づいてる子と気付いてない子がいて、嬢ちゃんは気づいてない側だった。ただ、匂いだけは嗅ぎ付けてしまって、「何だかおかしなニオイがするっすね」と首を傾げられ、色々な意味で目を背けたものだ。

 営業妨害になっちまったかな…。そそくさと引き上げる客達も居たし。

 

 

 

 アナグラまで帰ってきたら、また集まって今日あった事の報告会・雑談。大抵は猥談になってしまう。

 自分だけ朝からシていない、とちょっと寂し気なシエルを、背後からイタズラして慰めながら……何処までヤるかはその日次第……の雑談。

 レッスンがある日は、大抵『アイドル達にセクハラしてないか』『口説いてないか』の尋問になるね。

 と言っても、口説いてはいないけど、なんか妙に仲良くなりつつあるよな。タケウチ社長のところのアイドル達は、因果を浴びたと思われるから、ある意味仕方ないと納得されている。

 

 タカネについてかなり揉めたけども、結論は「寝た子を起こす必要はない」。あれでもノヴァだからな…。アラガミとしての体は月に置いてきた筈だが、現在の肉体だけでも生身の人間としてはハイエンドのスペックだろう。血の力まで使えるし、敵対したら何が起こるか分からない。

 …俺とお突き合いする関係になりたい、という意思についても保留。タカネは人の営みと言うか、『どのような行動で好意を伝えるのか』等にも興味津々らしく、俺達がひっついたりイチャイチャしたりするのを、興味深そうに観察しているのをよく見かける。その後になって、同じ事を俺に試してみようとする。

 セックスについても、好意を伝える為の手段程度にしか思っていない節があり、そのやり方に拘っている様子はない。

 要するに、今のタカネは、チャンスがあれば接近するが、そうでなければ強引に割り込んでくるつもりはないと言う事だ。

 …単に、人間(=犬猫同然)が伴侶にジャレついても、そう目くじら立てる必要はないと思っているだけかもしれないが。

 

 晩飯は当番制。

 メニューがラーメンだと、何処で嗅ぎ付けたのか…ああ、俺との繋がりで感知したのか…タカネが乱入してくる。いや来るのは別にいいんだけど、あっという間に食い尽されるんだよなぁ…。

 

 今日はレアの当番で、料理を覚えたいと手伝いをするシエルと一緒だ。

 二人のエプロン姿を眺めてほっこりしながら、余計な手出しをしようとするアリサを貫いて動きを封じています。

 だから! ソイソースと味噌ペーストは万能調味料だが、使い方と量を選べっつーに!

 

 

 

 夕食は、基本的に和やかに進む。飯は大事だ。エロと同じくらい大事だ。

 特にシエルは、他人と食事を摂った経験が殆ど無いからなぁ…。情操教育はしっかりやらないと。

 

 夕食後はそれぞれ、思い思いに過ごす事が多い。何でもかんでも何時でも俺と一緒に行動している訳じゃない。

 酒が飲みたくなったと何処かのバーに出掛ける事もあれば、女同士の込み入った話をしていることもある。

 …ま、一番多いのは夜のお楽しみの為の準備だけどね。手の込んだ趣向で時間をかけようと思うと、どうしても休日か夜でないとなぁ…。

 

 

 

 そして、一日最後の締めにして、大事な大事な日課にして、更には霊力もとい血の力を扱えるようになる為のトレーニングが始まる。

 時間にして、大体23時くらいからか。アラガミの多くも眠り、フェンリル職員達も一部の夜警を除いて寝静まる頃。俺の部屋(時には他の誰かの部屋とか、誰も居なくなったエントランスとか)は熱気と性臭に埋もれる。

 最近ではシエルも随分染まってきて、潤んだ目で自分から股を開き、他の二人よりも自分に挿れてくれとオネダリする事も覚えてきた。

 

 一瞬とも永遠とも思える狂熱の時間が過ぎ去り、体と精神力は精根尽き果てているのに、オカルト版真言立川流のおかげで生命力は満タンという状態になった彼女達を風呂に入れて後始末をし、4人で絡み合うようにして眠る。

 

 

 

 これが最近の流れである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …この一日を見直してみて、気付いた事が二つある。

 まずその一。

 

 

 

 俺、狩りしてないじゃん! なんかこう、タイトル詐欺になってる気がする!

 

 ……今更か。MH世界はともかく、前も色に溺れて狩りを放り出してた時期はあったし。……いや、MH世界もそうだったと言われると反論できんが、フロンティアでは色に溺れつつも毎日狩りしてたんだよ?

 

 そして二つ目の気付きだが……そのフロンティアの事も絡んでくるんだけどね。

 毎回毎回、女と抱き合う時は…まぁ、真摯にやってるつもりだ。スナック感覚、なんて言う事もあるけど、おざなりにヤり捨てたり、適当に済ませた事は一度もない。そーゆープレイならあったけど。

 で、一度誰かと抱き合う度に、少なく見積もって30分以上は時間がとられる訳だ。ナニかしながらとか、隠れてコッソリとかになると、多少短くなるけども、それでも相応の時間はかかる。一発では収まらない事だって多いんだ。性の悦びを骨の髄まで叩き込まれた彼女達も、充分に貪欲と言えるくらいで、それをしっかりきっちり満たしているのだ。。

 

 ……で、冷静に考えてみれば…その平均30分以上かかる行為を、一日何度やってる訳だ?

 それだけの回数をこなしていて、レッスンやら日々のアレコレやら睡眠時間やらを、どうやって確保している訳ですかねぇ?

 MH世界でも、あれだけの人数を相手にして、ご無沙汰な相手を作らない程度には彼女達の体を渡り歩いていたのだ。どう考えても、物理的、時間的におかしい。

 

 

 

 

 つまりだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エロの時間中、俺は疑似的な時間操作が出来るようになってしまったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 何を言っているのか分からない? 俺だって訳が分からないよ。いや本当に。

 

 心当たりがある能力はあるんだよなぁ…。いつぞやの夢で使えるようになった、相手のスピードに合わせて時間間隔を調整できる能力。

 

 集中力って言葉があるよね? 正式な意味と定義はともかくとして、あれって要するにトランス状態だと思うの。対象の事しか意識に入らない。声をかけられても頭が認識しない。アドレナリンがドバドバ出て、何だかよく分からないけど取り敢えず、気持ちよさすら感じる。

 これって、エクスタシーとよく似てない?

 …異論反論は置いといて、俺はこう考えた。

 

 

 相手がエッチに夢中になって、文字通り時を忘れる程熱中すれば、それだけ俺と、相手の時間間隔は圧縮されるのだと。

 …これって早漏になるのかなぁ…。その気になれば1分間に10回くらい射精とかもできそうなんだけど。でもこれ三擦り半で…って話じゃないし。そもそも早漏の定義自体曖昧で、女をイかせた後に出してる訳だし…。

 

 

 

 ……考えても仕方ねーや。お楽しみに仕える時間を増幅できるんだと思っておこう。

 にしても俺、やっぱ狩人じゃなくてエロ魔人なのかなぁ…。今でも根っこはハンターのつもりなんだが。

 最近じゃ狩り甲斐のあるアラガミも居ない…と言うのは言い訳か。狩り甲斐があろうとなかろうと、必要だから狩るのがハンターだ。必要がないなら、必要を見出して狩るのがハンターだ。…いや乱獲するって言ってんじゃなくて。

 

 いかんなぁ…。以前のGE世界に居た頃には、ミッションも命令も無視して狩り三昧だったってのに。今の俺と当時の俺。狩りの技量はともかく、勝負したらあの頃の俺の方がきっと強い。狩りに必要なのは強さよりも上手さだし、そもそも勝負なんてどうやって決めるんだと言われると困るが。

 必死さと言うか、テンションと言うか、真剣さが違うんだよなぁ…。今の俺は、手入れを怠った業物で、あの頃の俺は死ぬほど研ぎ澄まされたナイフってトコか。

 

 

 …イヅチを思い起こして、殺意を取り戻すか? 

 あかんなぁ、アリサやレアが心配する。シエルだって気付くだろう。

 どうしたもんかな…。クサレイヅチを前にすればブチ切れて殺意全開になるだろうが、それすら話にならん。余計な殺意は狩りに歪みを生むだけだ。

 殺意で満ちるなら満ちるで、冷静に狂えるくらいに至らねば。

 

 ………ゴメンだけどね。そうなったら、多分千歳が人質にされようがシオを盾にされようがフラウとの子を見せしめにされようが、『予想の範疇』と割り切って叩き斬りかねない。クサレイヅチはいつか斬るが、それはあいつらを引っ張り出す為の手段でしかない。

 そうでなければならない。

 

 

 

 むぅ…なーんかこう、程よい緊張感の相手とか出てこないかなぁ。

 

 

 



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337話

北斗が如くはダウンロード版、進撃の巨人はパッケージ版で予約しました。
ふーむ、進撃の巨人の外伝書きたいなぁ。
でもトロスト区とか壁とか年代とか、もう殆ど覚えてないしなぁ。
北斗は……もう一回外伝書こうかな…。


神戻月

 

 

 新しい月に突入。と同時に、少々厄介な事になったかもしれない。

 

 タカネがニュースの一面を飾った。アイドルとして大々的に宣伝されるのは珍しくないが、今度のソレは規模が違う。世界中で宣伝されているようだ。

 第二の葦原ユノ。黒蛛病の病状を弱める歌を歌う、二人目の歌姫として紹介されたのだ。

 

 もう大騒ぎよ。俺の事が発表された時もかなりの騒ぎになった(そして今も続いている)が、あの時は半信半疑、藁だと思っていても縋るしかない人達からの反応が大きかったらしい。

 しかし、タカネと言う実績が現れた。伝授された血の力を使って歌い(元々使えたけど、対外的にそういう話になっている)、効果を実証する人間(実はアラガミだけど)。

 懐疑的だった国、様子見を決め込んでいた国も乗り出してきたようだった。

 

 まぁ、それはいいんだ。

 とりあえず真っ当な手段で治療法を得ようとしているようだから。阿呆な事を企んだ国もあったようだが、そういう連中は極東リアリティショックで、あっという間に精神崩壊したようだし。……いや俺は何もしてないよ。ただ支部長が意味ありげな事言ってたんで、悪辣な事やったんだろうなぁとは思うけど。

 

 

 

 

 問題は、タカネ以外のアイドル達だった。

 血の力習得のヒントになるかもしれないと言う事で、タカネが患者の前で歌う所を見学していた彼女達。確かに、何かしら感じ入るモノはあったようだ。それは歌の技術であったり、そこに籠った力であったり、単純に歌に感動したりと、色々あった訳だが……。

 そのシーンを見ると言う事は、患者達が苦しんでいる姿も同時に見ると言う事でね?

 

 

 …そう見ちまったんだよ。折悪しくも、赤い雨が近づいていたようでね…。だからこそ、症状の緩和が出来るタカネが呼ばれて歌ったんだけど。

 苦痛に塗れて呻き声をあげる黒蛛病患者達。助けを求め、治療してくれと懇願する声。

 さながら野戦病院のようなその有様は、地獄のような光景に見えただろう。

 

 俺でさえ、やろうと思えばすぐ治せるのに、自分の都合の為に苦しませたままにしている…と思うと胃の辺りに重いモノが圧し掛かってくる。

 思春期(一部、思春期にすら入ってない少女や、思春期を終えて〇年は経ってるだろって方もいるが)の少女達にとっては、どれ程衝撃的だったろう。

 

 しかも、彼女達はこれらの治療に関わる立場にあるのだ。何も知らされずオーディションで集められ、血の力という怪し気な力を習得しろと命令され、知らない間に患者達の運命を押し付けられたようなものだ。

 『自分達は、あの患者さん達の命に関わっている』。

 患者達が苦しむ様子と、タカネの歌がそれを緩和する様子を見て、改めてその実感が沸いてしまったのだろう。

 その衝撃と重圧たるや、如何ほどのものか…。

 

 早く血の力を会得しないと、患者が苦しむ。或いは死ぬ。他人の命を、強制的に握らされている重圧。

 ………潰れなければいいんだが…。

 むぅ、メンタルケアって誰に頼めばいいんだ? タケウチ社長か?

 

 

 

 

 それと、もう一人メンタルケアが必要になりそうなのが出てきた。ナナだ。

 お察しの通り、ゲームシナリオのように、最近不調が続いている。体の調子をよく見てみると、霊力…血の力が不自然に活性化しているのが分かる。目覚め…と言うより暴走の前兆だ。

 

 さて、どう対処したものか。確かに血の力の暴走は厄介だが、逆に言ってしまえばそれだけだ。

 この時期のアラガミ達など、今の俺なら束になってきても無双ゲーのように蹴散らせる。…俺なら、ね。でも、ナナの力の暴走によって影響を受けるアラガミは非常に広範囲に及ぶ。

 周辺一帯のアラガミが一度に暴れ出せば、俺一人では確実に対処が間に合わない。鬼疾風で移動したとしても、手の届かない場所が絶対に出る。……極東のゴッドイーター達がそれに対処しきれないとは思わない。何だかんだで粒揃いだもんな。

 でも被害は絶対に出る。完全に0に出来るとは思えない。だが、それはいつもの事だ。極東では特に。

 

 問題は、それをナナが自分の責任だと思い込むんじゃないかって事。ある意味間違っていないのがタチが悪い。

 精神的な重圧、自分を追い込むような否定の仕方は、異能にも影響が出る。ナナがもし「自分なんか死んでしまえ」なんて本気で思いだしたら、それこそ自分を殺す為のアラガミを呼び寄せようとして大騒動になりかねん。

 

 前回ループだと……やっぱりナナの能力が暴走して、集まって来たアラガミをどうにかした後、レアが母親代わりになったんだっけ。

 とりあえず、レアには暫くナナと一緒にいるよう頼んでおこう。いつ能力が暴走するか分からないから、俺、アリサ、シエルの誰か一人は常に近くに居る必要もある。

 

 そうそう、榊博士に頼んで、以前シオが匿われていた部屋を開けてもらう必要があるな。……あの落書きだらけの部屋、今でもそのままなんだろうか。

 ゲームだと、シオとの思い出を残そうとするようにそのままだったと思うが……このループだと、地球に残ってソーマをロリコンにしようと画策してるしなぁ。…そういや、無事に押し倒されただろうか。どっちがどっちにとは言わんが。  

 

 

 

 

 それはともかく、久々に完全に一人の時間ができたんで、防壁の外を少し見回ってみた。

 …随分と様変わりしたなぁ。いや、前回と同じなんだけども、寄植種とかがウロウロしてっからなぁ…。そして散髪(?)しに来たアラガミを捕獲・伐採し、脱兎の勢いで逃げる極東地区逸般人。…相変わらずのいい練度だ。

 防壁の外にも、徐々に緑が広がりつつある。殆どがアラガミに喰われてるけど。

 

 ナナの能力暴走が起きた時、襲撃を受けそうな辺りを集中的に見回ってみたが、やはり俺一人で対処は無理だ。対象となる部分が広すぎる。どれくらいゴッドイーターが必要になるかな…。

 なんて考えながらウロウロしていたら、見覚えのある顔に遭遇した。

 

 

「あ、開祖様」

 

 

 …確か、GKNGの幹部の……えーと、ミカ?

 

 

「それはお姉ちゃんだよー。私はリカ!」

 

 

 悪い悪い。こんな所で何やってんだ? ドレッドパイクまで抱えて。…見た所、寄植種でもなさそうだが。

 さっき向こうで散髪させてる人が居たが、その人と一緒か?

 

 

「ううん、一人だよ。虫君達と遊んでたの」

 

 

 虫と遊ぶってお前…それアラガミじゃねーか。と言うか、虫と遊ぶっつーより虫で遊んでない? 逃げようとしてるみたいだけど。

 いやそれよりも、いくら虫が好きでも相手はアラガミだぞ。いつ逆襲されるか分からないって認識はあるのか?

 

 

「大丈夫だよー。アラガミとだって仲良くなれるよ。今まで、この子達に襲われた事は一度も無いし」

 

 

 それは前例があるし、俺もある意味その一人だから頭から否定はせんが、どっちにしろ保護者も無しに危険な遊びしてんじゃねぇよ…。子供にこんなこと言っても、反発されるだけなのは目に見えているけど…。

 うーむ、なんだな、危険だから騎馬戦を辞めろとか、公園の遊具は撤去しろとか、こういう気持ちで言うんだろうか? ……違う気がする。

 

 

「ところで、開祖様はここで何してるの?」

 

 

 ん~、散歩かね。アラガミを駆逐しとこうかと思ったんだけど、俺がその気になったら皆逃げるんだよなぁ…。気配を消して近付いて狩る事もできるけど、それは狩りじゃなくて暗殺だし。

 …リカはいつも、一人でここに来るのか? 

 

 

「ここに来る時は一人だよー。みんな、虫が苦手みたいなんだよね」

 

 

 それ虫じゃなくてアラガミが苦手なんだろ。散髪屋達も、接触は最低限にしてすぐ逃げてるし。

 

 

「そうかも…。じゃあ、この子達を本部に連れて帰れば!」

 

 

 アラガミを防壁内に連れ込むのは、テロと同じだから止めなさい。おねーちゃんにも迷惑がかかるよ」

 と言うか、友達とか居ないの?

 

 

「はーい…。友達だったら沢山いるよ。ただ、ここに来れるのが私一人ってだけで。皆もご飯を食べる為にお仕事してるし、中々遊べないんだけどね。お姉ちゃんも、アナグラに行っちゃって、中々帰ってこれないし」

 

 

 ああ、今はちょっと厄介な時期だからな…。だからこそ、一度帰してリフレッシュさせてやりたくもあるんだが。

 さ、そろそろ帰ろう。雲行きが怪しくなってきた。普通の雨だと思うが、万が一赤い雨に変わったりしたら厄介な事になる。

 

 

「は~い。じゃ、レッ君またね~」

 

 

 抱え込んでいたドレッドパイクのレッ君を下ろすリカ。心なしか早足に去っていくのは、リカに玩具にされたくないからか、俺に怯えているからか。

 …そうだ、リカ。暫く防壁の外には出ないようにしろよ。退屈だったとしてもだ。

 

 

「? 何で?」

 

 

 近い内に、ちょっと厄介な事が起きそうなんだ。下手をすると、レッ君にも襲われるかもしれない。

 大丈夫、なんて思っちゃダメだぞ。人間だって、興奮すると何をしでかすか分からないんだ。…想像しにくければ、注射を怖がる犬がついつい引っ掻いちゃったと思えば…。

 

 

「レッ君が怖がってるなら、助けてあげないと!」

 

 

 やだ…この子メッチャいい子…。でも面倒くせぇ…。何て言えば分かってくれるかな…いや別に意地でもレッ君との間を引き裂きたいって事じゃないんだが。

 いくら開祖様なんて立場を持って居るとは言え、上から目線で一方的高圧的に命令すれば、反発を覚えるのは当たり前だ。それが趣味や友人を制限するものなら猶更。

 しかし、面倒だからなんて理由で放置するのも…。

 

 

 あの手この手を考えるも、結局納得はさせられなかった。言い聞かせられたのは、少しでもおかしいと思ったら、すぐに防壁内に避難する事だけ。

 後は幸運とタイミングの良さを祈るだけか…………アカン、どう考えてもフラグだ。

 

 …そうだ、ミカに頼んで説得してもらおう。お姉ちゃん大好きっ子みたいだし、大抵の事は言う事聞くだろ。

 

 

 

神戻月

 

 

 若干名がアイドルを辞退した。…やはり、黒蛛病患者の運命がかかると言うプレッシャーに耐えきれなかったか。それとも、俺がやってる血の力のレッスンが胡散臭すぎて、ついていく気を無くしたかな?

 

 逆に、発破をかけられたようにやる気を出した者も多数。後は…うん、何か知らんが、アンチョビを中心として集まって、グループを作っている人達も居た。

 どうやら、弱気になったところを一喝され、そのまま傘下(?)に収まってしまったらしい。…やっぱカリスマ性があるなぁ。

 

 

 血の力習得の進捗としては、俺が発する力を感知できるようになった者が増えてきた。次は、自分の中にある血の力を感じ取り、それを引っ張り出すんだが…ここが一番厄介なんだよなぁ。

 現状じゃ、瞑想くらいしか方法が無い。ロミオが一番手古摺った段階でもある。その分、アレコレ試したデータは蓄積されているが…。

 

 今回はシエルと一緒にレッスンをやっているが………言っちゃ悪いが、シエルが居てもあんまり意味ないな…。

 血の力を使えはするが、それは俺が目覚めさせたものだし、人の機微に疎いのは相変わらずだから、レッスンのサポートにも向かない。レッスンを見学に来たタケウチ社長と、並んで突っ立っていただけになってしまった。

 レアやナナに張り付いてもらってた方がよかったか?

 

 

「…ねえ、ちょっといい?」

 

 

 ん? おおリン、なんか久しぶり…でもないか。レッスンで会ってるし、偶に一緒に飯食ってるし。どったの?

 

 

「家の繋がりで知り合った子から聞いたんだけど……簡単に血の力を目覚めさせる方法があるって、本当?」

 

 

 は? いやそんな方法あったら、さっさと試してるよ。ブラッド隊だって、まだ覚醒してないヤツも居るくらいなんだぞ。

 最近、オーディションの演説が切っ掛けで血の力も知られてきたし、よくある噂か、デタラメなキャッチセールスの類じゃないか。

 黒蛛病患者達を直に見て焦りが出たのは仕方ないけど、そんな都合のいい話は無いって。

 

 

「それはそうなんだけど、その子の友達が言うには、実際にそれで使えるようになった子がいるんだって。具体的な方法は教えてくれなかったけど」

 

 

 ほれみろ。本当にそんなやり方があるんだったら、そこまで話してるって。

 

 

「……失礼します」

 

 

 ん、シエル? タケウチ社長は……黙ったままこっちを見てるな。

 

 

「リンさん…でしたか。あなたのその知り合いのお名前を教えていただけますか」

 

「……まぁ、名前くらいならいいけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロミオの彼女じゃねーか!

 と言う事は、すぐに使えるようになった友達って…。

 

 

「友達……友達……何度口にしてもいい響きです…」

 

 

 アカン、シエルがトリップしとる。

 

 

「その反応…ひょっとしなくても、あの子の友達って…」

 

 

 いやいや、別人だって。ちゅーか全然関係ないって。そんな都合よく血の力を目覚めさせる方法なんてないってば。

 ちょっとー、タケウチ社長、おたくのトコのアイドルに一言言ってやってくださいよー。アイドルはコツコツした事の積み重ねでしょ? 血の力だって同じですって。

 

 

「それは…分かりますが。ですが、もしもそのような方法があるのなら……是非とも教えていただきたいと。…黒蛛病患者達の様態は深刻です。それを見た彼女達が、焦るのも無理はないかと。…私としても、あの有様を見ては…」

 

 

 社長まで…。いや、だから、無いモノは無いって…。

 

 

「……ちょっと待ってて。あの子に、血の力を覚えた友達の事を聞いて来る。多分、そっちのシエルって人と特徴が一致すると思うんだけど?」

 

 

 ぬぐ…どうしよ…。友達関連の事に関してh、シエルが嘘を吐けるとはとても…。機密情報だから秘密にするってんならともかく、シエルの口から『彼女は友人ではありません』なんて否定の言葉を出そうものなら、確実に大ダメージだ。下手すると自殺するか、罪悪感と失意で感情が完全に封印されるレベル。

 つーか、完全にその方法があると確信してしまっている。多分、さっきの俺の反応もそれに一役買ってしまっただろう。

 

 

「あ、ひょっとしてタカネさんもそれで!」

 

「いえ。信じるか信じないかはお任せしますが、私は以前からこの力は使えました。この方ほど上手くはありませんが」

 

「それって…つまり生まれつきの超能力者だったって事?」

 

「その認識でも構いません。あまり使った事はありません。アイドルとしての活動をするようになってからも、です」

 

「……何でもできる完璧超人みたいなのは、血の力は関係ない?」

 

「そのように名乗った事はありませんが、はい。私としては、血の力云々抜きで行為を行いたいと伝えたのですが、残念ながら却下されまして」

 

「行為? …………つまり、やっぱり血の力を覚えさせる特別な方法があって、その方法も知ってる!?」

 

 

 ちょっ、タカネ余計なことを!

 ……あぁ、こっそり聞いてたアイドル達の不審と期待の視線が…。

 

 

「もう観念したらどうですか? どっちにしろ、タカネさんは聞かれたら答えると思いますよ。自分一人だけ黙ってれば機密秘密が守られる程、情報管理は甘くありません」

 

 

 アリサ? なんでここに……と言うか、言えと? 俺の口から?

 そもそも、それを言ったらまるで要求してるみたいじゃないか。アリサとしてはそれでいいのか?

 

 

「ミッションが終わったから、見物がてら来ただけです。

 私の口から言ってもいいですが、結果は同じだと思いますがね。…要求云々については、複雑なものもありますが…黒蛛病治療の為の選択肢の一つではあります。要求しているのではないのだから、嫌ならばノーと言えばいいだけです。個人の意見としては…………ま、なんです。私とママのガードを抜けると思うなら、かかって来いってもんですね」

 

 

 微妙に目の座っているアリサ。酒でも飲んでるのか…?

 つーか、ここまで口にされると本気で誤魔化しようがないな…。ああ、軽蔑の視線は勘弁してほしいのに。

 

 

「…で、結局、もっといい方法があるけど黙ってたって事だね?」

 

 

 いい方法とは言えないから黙ってたんだよ。

 …タケウチ社長、ちょっとこっちへ。離れた所で聞き耳立てられると、話が物凄い勢いで拗れそうなんで、最初から話に参加してください。

 

 

「はい。…それで、その方法とは? 『いい方法とは言えない』との表現から察するに、もしや命の危機が?」

 

 

 …そういう話にしておけばよかったか。

 分かってますよ、もう誤魔化しませんよ諦めましたよ。

 

 でも繰り返し言っとくけど、これを強要する気は一切ないからな!

 

 

「分かりました。……それでその方法とは?」

 

 

 

 R-18。

 18禁行為。

 セックス。

 

 

 

「…は?」

 

 

 顔を強張らせて威圧せんでいただきたい。いやそうされても仕方ない事を言ってるとは思うんだけど。

 再三繰り返すが、これは強要じゃない。枕営業の要請でもない。

 今やってる方法でも、時間はかかるが血の力に目覚める見込みは大いにある。むしろ、ちゃんとした使い手になろうと思ったら、そっちの方がいい。

 

 

 …ほらー、やっぱ視線が絶対零度じゃないですかヤダー。

 

 

「ちょっと…シエルさん、あれ、本当?」

 

「友達…友……え? えぇと…はい。私もそれで使えるようになりました」

 

「っ…! そんな堂々と…」

 

「…? 何か問題でも?」

 

「問題も何も、えーっと…」

 

 

 リンさんや、シエルはその辺の感覚がちょっズレてるんで、その論点だと話すだけ無駄だぞ。 

 言いたがらない理由、分かるだろ?

 別に、患者を助ける事と自分の純潔を計りにかける訳じゃない。アンタらはアイドルであって医者じゃない。

 仮に計りにかけて、後者を取ったとしても責められる筋合いは全く無い。俺だって、短時間に何度も完全治療を繰り返すと自分が黒蛛病になる(という設定だ)から、一日に一定数しか治療してない。

 

 そもそも、血の力を使って歌えば、確かに病状を緩和できるだろうが、完治についてはまた話は別だ。

 あんたらアイドルに期待されているのは、血の力じゃなく、患者達の心を強く動かす『感動』。血の力はあくまで副産物にすぎない。

 

 まぁ、アイドル活動にも使える力ではあると思うが…。

 

 

「断固として拒否させていただきますが…一応聞いておきます。何故、そのような行為で血の力が体得できると?」

 

 

 血の力は要するに、生命力とか意思とかを形にしたもんだ。そんな物、体の外側からどうにかできると? 外科手術やってんじゃないんだから。

 一番効率よく体得させようと思ったら、体の内側から…そうだな、力の水源を開いてやる必要がある。それを最も簡単にやれる手段が、そーいう事な訳。

 物理的に一つになる必要があるんだよ。

 粘膜を介して、相手の体の中を引っ掻き回すようなもんだ。極論すると、手を繋ぐとかハグをするだけでも多少は効率よくなるが…。効力としては各段に落ちる。

 

 正直、余程緊急性があって、替えの手段が無い状況でなければ、とても進められるもんじゃない。

 血の力を覚える=枕営業したなんてレッテルが貼られかねないし、嫌々やっても効率は落ちる、体得したとしても力に陰が落ちると、ロクな事にはならない。

 

 黒蛛病患者の事は専門家と…後は葦原ユノとタカネにでも任せて、もののついでくらいの気持ちで覚える事だ。 

 ここまで真剣にレッスンについてきた君達にこんな事を言うのは筋違い、恥知らずもいい所だと思うが…余計な責任を背負いこまないようにな。

 アンタらはあくまでアイドル。人を感動させて元気づけるのが仕事で、その結果黒蛛病が治るかもしれないってだけの話だ。

 熱気バサラじゃあるまいし、「病気が治らなかった。俺の歌には何かが足りない」みたいな歌キチな考え方するもんじゃない。

 

 …このレッスンに付き合うのが阿呆らしくなって、俺を見放す人も多い…と言うか、そんな人の方がずっと多いだろう。拒否したって文句は無いし、言えない。

 付き合い切れないって放り出しても、フェンリルからは何の咎も無い。これは保証する(し、万一何かしようとしたら物理的に黙らせる)。

 

 

 

 自分でも段々何について話してんだか分からなくなっていたが、とにかく血の力を楽して覚えるとか、そんな上手い話は無い。

 わかったら解散解散! 今後どうするかでも考えとけ!

 

 

 ……あー。すっげー視線が痛い…。心理的ダメージがデカイ。もう何もしたくねー…。

 一応、次回のレッスン時間になったら誰が集まるかだけ確認しておいて、後はもうお流れでいいだろ。

 ああ、榊博士と支部長がどんな反応するのか考えただけで胃が痛い。俺の余計な言葉で、取引を一つ丸ごとオジャンにしちまったようなもんだからな…。

 

 

「ま、自業自得かと」

 

 

 俺は嘘は言ってないわい! 最初に余計な事言ったのはオメーだろが!

 

 

「シエルに手を出して、その悪評が『友達』を介して回って来ただけでしょ。私だって嘘なんて言ってません。と言うか、こんな方法しか知らないって本当にどうかと思いますよ」

 

 

 それこそ仕方ないだろ。血の力を目覚めさせる方法として覚えたんじゃない。色々持て余している性欲に従って、相手も居ないのにセックスのHowTo本を買って熟読してたら、偶然それが別の事に使えるって分かっただけだ。

 技術自体が、血の力前提じゃなくてエロありきなんだから。

 

 

「その辺りの議論は、アリサ様やレア様、シエル様と後日行っていただくとして…あなた様は、これから何を? 繰り返しますが、私はそれを受けたいと、常々思っておりますよ?」

 

「却下です。私とママの鉄壁のガードを、女として抜けるものなら抜いてみなさい。真面目な話、勝てるとでも?」

 

「あの、その場合私の立ち位置は…」

 

「貴方は私達のガードを抜いたんじゃなくて、この人が内側から突破して捕食したんで。罪はこの人にあります」

 

「鉄壁とは名ばかりでございますね」

 

 

 

 …いや、相手がシエルでもなければ、そうぞう強引な事は…。マジな話、アリサとレアを激怒させる愚を犯して浮気する相手なんぞ…。

 

 

「おや、私はそれに値する相手ではないと?」

 

「それだけの相手なら、私達のガードも自然と破れるのではないですかね」

 

 

 

 …微妙に火花が散っておる。

 ま、それはそれとして、俺はこれから…………………ちょっとジュリウスとガチで殺りあってくる。

 結局手ぇ出しちゃったからね。仕方ないね。

 

 

 



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338話

 

 

神戻月

 

 

 ジュリウスは意外と冷静だった。「本人との合意の上なら、何も言わない」だそうだ。

 鉄面皮とは裏腹に、手に持った紅茶が地震にでも合ってるのかってくらいに揺れていたが。

 

 少なくとも、レアとアリサとの付き合いも続ける事で、完全に逆上して襲い掛かってくると思ってたんだが………なんかこう、逆に戦慄のあまりに冷静になってる感じが…。

 ま、揉め事なく収まったなら、それでいいか。藪を突いて、ラヴィエンテみたいなのが出てきたら堪らない。ラヴィエンテが隠れられる藪ってどんな藪だよ。

 

 

 しかし、R-18な方法での血の力覚醒については厳重に禁止された。

 まーそうだよな。その方法が広まって、万が一にもそれが一般的な目覚め方だと知れてしまったら、ブラッド隊の名誉は地に落ちる。いや名誉どころか風紀とか色んな物がグッチャグチャになる。下手をすると、ジュリウスやギル、ロミオは俺に掘られて目覚めたなんて噂が流れかねない。せめて、俺→女→他の男で目覚めたって噂ならまだ分かるが。

 どっちにしろ、ブラッド隊は乱交上等の超問題グループと認識されかねない。…ちなみに、乱交って本当は犯罪やねんで。この世界ではどうなのか、イマイチ分からんけど。

 

 

 実際のところ、俺としてもこれ以上、この手段で血の力の使い手を増やすつもりはない。

 ナナは自然と目覚めるだろう(もうその時期も近いようだ)し、力を目覚めさせようとレッスンしているアイドル達は……まぁ、あんな事になったからな。

 志願どころか、レッスンに来るとすら思ってない。

 

 

「もしも、目覚めさせてほしいと迫られたら?」

 

 

 それは抱く。喰う。

 

 

「……シエルとレア博士とアリサに伝えておくからな」

 

 

 別に構わんぞ。もう半分諦めてるだろうし、シエルに至っては『何か問題でも?』で済ませそうだし。

 

 

 

 

 

 

 

 で。

 

 

 

 

 …あの、壁際で目を険しくしているタケウチ社長。ちょっといいすかね。

 

 

「…何でしょう」

 

 

 何で皆して、レッスン受けに来てるのん?

 

 

「血の力を体得する為ですが」

 

 

 それは分かりますが。血の力自体は本当にありますし、体得の為のちゃんとした訓練をつけてもいるから、ある程度手応えを感じている者も多かったでしょうよ。

 …前回枕営業がどうのって話になりかけたし、信用信頼を損なうような事も言ったし、正直見放されたと思ってたんですが。

 今日だって、レッスンに誰も来ない事を確認する為に来たようなもんだったし。

 いや、そりゃあ全員が全員揃ってるんじゃなくて、見放してこなくなった人も居るみたいですが。

 

 

「……私としても、本意とは言えませんが……仮に本当にあのような方法で血の力に目覚める事が出来るとして…貴方はそれを要求した訳ではありません…。話題に出たのも、リンさんが問いかけたからです。その後も、誤魔化せなくなるまで『そのような方法は無い』…と主張していました」

 

 

 チラッとリンを見ると申し訳なさそうな顔を少しだけして、そっぽを向いた。…まぁ、あんな展開になるなんて予測できんわな。

 

 

「私が決定したのではなく…彼女達は、自分の意思で…ここに居ます。理由は、様々でしょう…」

 

 

 ふむ…。血の力の覚醒に手応えを感じていたから。異能の力を得てみたいから。黒蛛病患者の治療に効果があるなら。周囲に流されて。アイドルとして役に立ちそうだから…か。

 

 

「いずれにせよ、言える事は……彼女達も。私も。貴方の言葉一つで、行動方針を丸ごと変える程…軽くはないと言う事です。自身の考えを持ち…将来を見据え…腹を括って、選んだ道を歩いています。それが…最高の笑顔に繋がると信じて」

 

 

 ……………………………。

 

 

「今回のこれも…同じ事ではないでしょうか。以前、助けていただいた恩もあり……これまでの付き合いで育んだ、信用と信頼も…あります。その上で……貴方が非道な行いをする輩ではないと考え…ここに来ました」

 

 

 

 ……………見縊っていたのは俺の方、か…。

 

 

「ただ…女性関係については、信用しておりませんので…。分かっているだけでも、テレビに映っていたお二方、ブラッド隊の少女、そしてタカネさん…。極力、監視させていただきます」

 

 

 タカネについては何もしてねーよ! 確かに産まれ育ちの関係で、ちょっと特別な相手扱いされてっけど!

 あ、待てそういう意味じゃないタカネ…は? 「夜這えばそういう関係になるのですね?」じゃねーよ! どこで覚えたそんな言葉!

 

 

「………アイドルとは言え、好いた惚れたを制限できるとは思っていませんが……不実な真似だけはしないようお願いします。いざとなれば…我々にも相応の準備がありますので」

 

 

 下手な事したら社会的にブッ殺される事くらい分かりますわ。テレビやラジオで一言言うだけで、上はフェンリルから下はスラムのガキンチョ共まで、大騒ぎになりそうだ…。

 

 はぁ…。とりあえず、血の力のレッスンを始めます。完全に見放されたと思ってたから、嬉しいような予想外で戸惑っているような…。

 俺に出来る返礼としては、これまで以上に真剣にレッスンをする事かな。

 

 始める前に、一言くらい礼を言っておくべきか…?

 

 

 

 

 そんな事を考えつつ、訓練場に入ろうとした時…ふと、タケウチ社長が小声で漏らした言葉が聞こえた。

 

 

 

「…好いた惚れたを制限してはいません…。私も命が惜しいので」

 

 

 

 ………ゑ゛?

 

 

 

 

 

神戻月

 

 若干不穏な空気を予感しつつも、レッスンは順調に進んでいる。

 最近では、「楽しそうだから」なんて理由でナナまで見物に来たり、時にはレッスンに混じったりする始末だ。

 

 …明らかに空元気だけどな。パッと見じゃ分からないくらいにはポーカーフェイス(ナナの分際でナマイキな)だが、最近はいつも一緒に居るレアによると、ふとした拍子に表情が酷く陰るらしい。それはもう、普段が天真爛漫なだけに、その落差で目を疑わずにいられないくらいに。

 自覚があるのかどうかはともかくとして、彼女のトラウマが顔を出しつつあるようだ。

 メンタルケアとして、榊博士に見てもらおうかと思ったんだが……アレに頼むよりはレアだよなぁ…。ラケルてんてーに至っては、何を仕込まれるか分かったもんじゃないし。

 

 

 ジュリウスとも相談し(ナナに妙なちょっかいを出さないよう、監視も兼ねていると思う)、ナナの扱いをどうするか色々考えている。

 ……まぁ、流石の優秀さって事なんだろうか。ジュリウスに、ナナの不調と、その原因であると思われるトラウマの情報を少し漏らしただけで、あっという間に情報を掻き集めてきた。

 見事なものだと感心したが、当のジュリウスは逆に渋い顔。自分の部隊の隊員の事を把握しきれていなかったのは、自分の落ち度だと言う。

 

 言ってる事は分からんでもないが、何でもかんでも人に話す訳じゃないんだしさ…。ギルの時だって、あの事情はそうそう踏み入っていいものじゃなかったろう。

 特にナナは、自分でも…覚えていないようだし。

 

 

 ロミオと一緒にジュリウスを励まし、納得はしてないもののまずはナナをどうにかしないと…と立ち直ったジュリウスだが、問題はその方針である。

 ナナの過去から、彼女の血の力がどういう物なのかは予想がついた。アラガミを挑発し、呼び集めるもの。それにどう対処する?

 

 

「突き詰めれば、二つしかない。荒療治で乗り越えさせるか、穏やかに…そう、セラピーのように自分と向き合わせるか、だ」

 

「どっちも成功率が低いのが、やるせないな…」

 

 

 そう言うなよロミオ…。何だかんだで、何とかなるとは思う。あの子は強かな子だ。酷いショックを受けて傷つくだろうが、血の力の制御自体は遠からずできるようになる。なると言うか、する。

 しかしわかっちゃいたが、除隊させるとは言わないんだな。

 

 

「ブラッド隊は俺の家族のようなものだ。別れるなど考えた事も無い。そもそも、除隊させたところで何の意味がある。ナナの様子からして、アラガミと戦う事が無くなったとしても、あの力は遠からず発動するだろう。その時、一人でいる方が対処しやすいか、周囲に戦力がある方が対処しやすいか…考えなくても分かる事だ」

 

 

 ただ、それを抑え込めるようになるまでに、何度か血の力の暴発は覚悟しなきゃならん。

 乗り越えるまでの被害を、どれだけ減らせるか…か。

 

 

「……俺としては、ラケル先生にメンタルケアを頼もうと」

 

「おいジュリウス…」

 

「最後まで聞け。メンタルケアを頼もうと思っていたのだが…」

 

 うん?

 

 

「以前から何度か言われていた事だが…少し疑念が沸いた。何故、ラケル先生はナナを放置していたんだ…? そっとしておく、時間を置く必要があるという理屈も分かる。しかし、ナナの母親が…亡くなって、マグノリアコンパスにナナを迎え入れた時、彼女を連れてきたのはラケル先生本人だ。…彼女をマグノリアコンパスに入れてから、接触らしい接触も、フォローらしい事もされた形跡が無い…」

 

「………なぁ、ジュリウス。リヴィって覚えてるか?」

 

「リヴィ……? ………いや…聞き覚えは…ある気がするが、思い出せん」

 

「孤児院で俺と友達になった、ラケル先生のお気に入りだって言われてた子だよ。でも、ジュリウスがラケル先生に引き取られてから、ラケル先生はリヴィにあまり構わなくなった。…それこそ、要らなくなった道具をその辺に放り出したみたいに」

 

「………それは」

 

「俺だって、その時は何も考えなかった。単にジュリウスの面倒を見るのが大変なんだろう、だから…って訳じゃないけど、俺がリヴィの友達になろうって考えて………いやそんな事考えてたっけ? とにかく、一人になってたからどんどん話しかけていった」

 

「一人……同年代の子達は」

 

「ラケル先生に『見放された』リヴィに構って、自分も同じようにされたくない…って、小声で聞こえた事があるよ。どこまでそれが本当だったのか、今となっては分からない。全部が先生の責任だなんて思っちゃいない。ただ……俺も、ナナをラケル先生に任せるのは反対だ」

 

「…………」

 

 

 ジュリウスに、ラケルてんてーへの疑念が沸いた…か。そうなるように、ちょくちょく囁いてたんだし、これは狙い通りと言っていいのかね。

 

 話を元に戻すぞ。残念ながら、ちゃんとしたセラピーを受けさせられる人なんていない。

 人の心は、素手で弄るには複雑すぎる。ただ、余計な負担をかけないようにする事は絶対に必要だ。

 

 いざと言う時に対処できるよう、アリサとシエルのどっちかがいつも一緒に行動するようにしている。もしも力が暴発したら、ナナを気絶させてさっさと撤退するように指示してある。

 

 

「気絶して止まるかが問題だな…。それだけで治まるなら、ナナの母親も死んでいそうにない」

 

「好き好んで子供を気絶させる母親はいないと思うけど…。まぁ、どうしようもなくなった時にはやるかな。子供を残して死ぬよりはマシだし。…………?」

 

 

 

 ん? …………??

 

 

「どうした、二人とも。天井に何かあるのか」

 

「…ジュリウスは、何も感じなかったのか? 何かこう、テレパシー染みた何かを感じたような…」

 

 

 俺も。テレパシーっつーか、何か呼ばれているような…誘惑されているような…。

 ジュリウスが何も感じなかったって事は……(DTだからか? それとも不感症?)

 

 

「何か凄まじく不名誉な事を考えている気がするが、俺は特に何も感じなかったぞ。しかし、お前達二人が何かを感じ取ったとすると……何事も無いと言う楽観はすべきではないな」

 

「話してるコトがコトだし、ナナの力が早々に暴発したか? 今ナナと一緒に居るのは!?」

 

 

 シエルだ。今日は外壁近辺で小型アラガミの掃除がをすると言ってた。

 

 

「ロミオは連絡を取って、何かわかったらすぐに知らせろ。お前は遊撃、俺は上に報告して防衛隊を動かしてくる!」

 

「了解!」

 

 

 あいあい、一番楽なトコもらっちゃって悪いね。…なーんてフザけてられんな。

 思ったよりも早く話が動いたと言うべきか。…逆に遅かったのかな? ここ最近、アイドル達にばっかり構ってて、GEストーリーは全然進んでなかったもんな…。むしろ、停滞していた状況がようやく動いたと見るべきか。

 …その間に、まともな対策を打てなかった自分の無能が強調されるね。

 

 後悔するのは後回しにして、大急ぎで神機を準備し、出撃する。アナグラ内で鬼疾風を使い、何人か跳ね飛ばしそうになったが未遂である。

 アナグラの外に飛び出すと、ナナの位置は探すまでもなく明らかだった。

 確かに、こう、呼びかけてくる感覚がある。……前回は、こんな感覚あったっけ? あの時も、どうするかあれこれ考えていた矢先に発動していたから、対処に手一杯でどんな感覚だったかは覚えてないなぁ…。

 

 あと、ロミオがこの感覚に気付いて、ジュリウスが何も感じなかったのは…多分、ロミオの血の力の為だろう。あいつの能力は『対話』だからな。かけられた声を受け取れないんじゃ、文字通り話になるまい。本人は皮肉ってるけども。

 俺は………アラガミだから、かなぁ? 一応俺もアラガミらしいし、ナナの能力の対象になってもおかしくはない。

 

 

 ま、とにかく急ぐ。屋根の上を鬼疾風+パルクールで駆け抜け、あっという間に外壁に辿り着き、垂直走りで壁を越えた。

 壁の上から見てみれば、少し離れた場所でシエルと、動きに精彩を欠くナナが小型アラガミの群れを相手にしていた。

 

 何とか間に合ったか…。二人に近寄っていくヤクシャを、壁の上からの飛び降り攻撃で一発撃破。

 こっちは引き受けるから、シエルはナナを防壁の中に連れてけ!

 

 

「はい!」

 

「でっ、でも…私が居たら、アラガミが…」

 

 

 …もう思い出してるのか…。

 アラガミが入ってこれるとしたら、防壁の出入り口の門からだけだ。そっちはジュリウスとロミオが防衛隊を動かしてるから、侵入される事は無い。

 一番厄介なのは、ナナのその力で際限なくアラガミを集められる事だ。その力にも射程範囲がある筈だから、とにかくアラガミの群れから距離を取れ! アナグラの中に居ろ!

 

 

「っ……!」

 

 

 シエル、ナナがゴネるようなら、気絶させてでも連れていけ」

 

『こちらロミオ。さっきジュリウスから伝達があった。受け入れ準備、防衛準備共に完了している。ナナはアナグラの中に、そういう力を遮断できる場所があるらしいから、そこで待機しろって』

 

「…ナナ、行きましょう」

 

「…………ごめん…」

 

 

 まだフラついているナナは、シエルに背負われていった。

 あの『ごめん』は、何に、誰に対してなんだろうな…。

 

 

 ま、いいか。不謹慎だとは思うが、久しぶりの狩りの時間だ。相手が小型から中型ばっかりで手応えが無さそうだし、狩りっつーよりは蹂躙の時間になってしまいそうだが…愉しませてもらおうか。

 

 

 

 

 

 

神戻月

 

 

 襲撃は特に問題なく撃退できた。退屈しのぎ程度の難易度はあったかな。と言うのは俺の感想に過ぎず、ゴッドイーターの多くは「かなりヤバかった」と漏らしていた。

 ま、確かにちょっと変わったアラガミが出てたしな。俺も知らない種類の奴だ。

 またMH世界のモンスターを真似ているのかと思ったが……うーん、どっちかと言うと、討鬼伝世界の鬼っぽい?

 あの再生能力の高さはな…。部位破壊しても、ちょっと時間が経ったらまた元通りになりやがる。それで手古摺ってたんだよな、皆。ただ、再生できない部分があったり、再生したばかりの部分は非常に脆くて柔かったりと、脱皮したばかりのザリガニみたいな印象だった。

 ……ちなみに、部位破壊でしか取得できない素材を、何度でも簡単にぶっ壊して採取できると言う事で、一部のゴッドイーター達は「稼ぎ時だ」と大喜びしていたが。

 

 

 

 

 

 

 ナナは現在、ゲームストーリー同様に以前にシオが匿われていた部屋で療養している。血の力の暴走こそ治まっているが、本人は空元気を出す気力すらなく、空気が淀んで見えるくらいに沈んでいる。

 その状況でも腹は鳴るんだから、体は正直なものである。

 

 廃人一歩手前状態のナナには、レアが付きっ切りで世話している。…前回ループではお母さん代わりになってたけど、現状を見ると動く事もできなくなったお婆ちゃんの介護状態である。

 

 

 

「さて…これからどうする気かね? ジュリウス君」

 

「まずは血の力を暴発させないよう、コントロールを叩き込む事になりますが…その間は、極力フライアで移動するつもりです。フライアの機動力であれば、アラガミが追いかけてきたとしても充分振り切れます」

 

「遠慮せずに、極東に居てもいいんだよ? 彼女の能力でアラガミが寄ってくるかもしれない…という情報は秘匿するし、ブラッドの立場が悪くなる事はない。襲撃だって日常茶飯事だしね」

 

「そう言っていただけると助かりますが、極東に負担を強いるのは本意ではありません」

 

 

 なぁ、ジュリウス。フライアを動かすのはいいんだけど、四六時中走らせっぱなしになるんだよな。あれだけデカい物を動かすんだし、燃料費とかも馬鹿にならないんじゃないか?

 

 

「燃料だけでなく、食料その他の備蓄も充分だ。この辺はグレム局長の本領発揮だな。自動運行機能もあるから、有事の際以外は職員達も交代で休憩できる」

 

「では、血の力の教導役はどうするかね? すまないが、彼を持っていかれる訳にはいかない。アイドル達への教導の役目がある」

 

 

 ん、俺?

 

 

「元より、彼はブラッド隊に所属している訳ではありません。契約上、極東に来るまでは教導役を買って出てもらいましたが、それも到着した時点で契約は終了となっています。本人の意思に委ねます」

 

 

 んー……ナナの事は気になるが…。アイドル達も、ようやく感覚を掴み始めたみたいだし、ここで間を開けるのはよろしくないな。

 正直、ナナを優先したいとは思うが。

 

 

「ふむ…。やはり、無理に出ていく事は無いんじゃないかい? 極東に滞在すれば、ナナ君を庇う事もできるし、経過観察もできる、彼も君達と離れないままにアイドル達へのレッスンも続けられる」

 

「ですが…」

 

「ナナ君の為にも、その方がいいと思う。環境の変化は良くも悪くもストレスがかかる。あまり無理に動かさない方がいい」

 

 

 引っ越しした後の犬猫じゃあるまいし。……パッと見、確かにネコっぽいが。

 

 

「…確かにメンタルケアという点では、フライアよりも極東が圧倒的に優位…。食料、娯楽、更には自然…」

 

 

 緑に癒されるかどうかは人と環境次第だと思うが。ま、フライアに乗ってる以上、事実上のカンヅメ状態だよなぁ…。部屋から出られないと言うか、家から出られないと言うか。

 

 

「ついでに言うと、仮に能力がまた暴発したとして、その状態のままフライアで走り回るのは、正直勧められない。フライアに大した損害はないと思うけど、問題はフライアを追いかけていくアラガミ達だ」

 

「…っ!? そうか、下手をするとアラガミの縄張りが…!」

 

「そう、大きく変動する可能性がある。その結果、何が起こるか分からない。一番ありそうなのは、混沌とした縄張り争いを勝ち残った、強靭なアラガミの進化…すなわち新種の出現だが、これは日常茶飯事だからいいとして」

 

「これまで、ある程度安定していた移動ルートに多大な影響が出る恐れがあるか…」

 

 

 今後どうする、とあれこれ相談している俺達だが、なぁんか嫌な予感してんだよな…。

 前回やゲームストーリーの通りに話が進むとすれば、少なくともあと1回はナナの力が暴発し、それにアラガミの襲撃が重なった。それが自分のせいだと感じたナナは、衝動的に囮になろうと飛び出して……何とか合流したブラッド隊と一緒にアラガミの群れを撃破。トラウマを乗り越え、なんか知らない内に力も制御できるようになってメデタシメデタシ…だったか。

 

 …暴発までは許容範囲。トラウマ克服の経緯がイマイチよく分からんが、人の心なんてそんなもんだ。

 前回は、レアの母性と無事がカギになったようだが……。

 

 

 

 

 どうも気になるなぁ。前回のナナは、あんなに落ち込んでいただろうか。いや落ち込むのは分かるよ落ち込むのは。

 母親の死因が自分だったって思い出せば、そりゃ自殺モノのトラウマだよ。

 

 でもなー…前回ループ、あそこまでダメージ受けてたっけ? 何だかんだで、立って自分で歩いて飯食うくらいの気力はあったと思うんだが。

 レアから誘われた、気分転換の散歩にだって付き合っていた。実際には、気分転換どころかアラガミの襲撃があった訳だけど。

 

 

 

 

 気になる…。気になるな。凶兆の気配がする。

 こういうちょっとした事を見逃したおかげで、今まで何度死んだ事か。

 よし、もう一回ナナと話してくるか。話すっつーか、ベッドでボケッと天井を見上げてるナナを相手に、一方的にペラペラ喋るだけなんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆ゛ る゛ さ゛ ん゛ 

 

 

 

 感応種狩りじゃああぁぁぁぁ!!! 蛇みたいな感応種を探せぇぇぇぇ!!!!

 

 

 

 



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339話

 

 

神戻月

 

 昨日の事を少し書いておく。怒りのあまりに、日記を書くのも忘れていたからな。

 

 事の次第は、アリサからの相談だった。ナナの見舞いとレアの様子見(兼、娘ポジションの偵察)に来たアリサ。

 丁度その時、ナナは眠っていた。まぁ、起きてたって寝てるのと大差ない状態なんだけども。何せ、何言っても反応無いんだし。

 

 レアと少し話をし、席を外したレアの代わりにナナを見守る。やる事もないので、レアが帰ってきたら戻ろうか…と考えた時だ。静かに眠っていたナナが、急に魘され始めた。

 少し迷ったが、起こそうとするアリサ。その時、腕輪と腕輪が触れ合って……感応現象が起きた。

 それだけであれば、珍しい現象でしかない。アリサも新型、ナナも新型、両者共に適正は高い。確かに条件は揃っている。

 そして、感応現象の中で、夢を覗いてしまうのも……多分、あると言えばあるんだろう。腕輪同志の感応現象ではないとは言え、俺もアリサと似たような事をしたし。

 

 だが、問題だったのはその夢の内容だ。

 

 勝手に夢の中を覗き込んでしまう気まずさを感じながらも、目を閉じる事も逸らす事もできないアリサは、色々な意味で苦い思いをしながら夢の内容を眺めていたが…違和感を持った。

 一度の夢の中で、何度も何度も同じシーンが繰り返される。

 それだけならまだ分かる。それだけ、そのシーンが心に残っているのだ。否応なく。

 

 だが、その繰り返しの中で、徐々に徐々に内容が変わっていく。一つずつ、一つずつ………ナナの心を傷つけるような内容に。

 

 

 

 最初にアリサが違和感を持ったのは、母親についてだ。ナナをそのまま大人にして母性を付け加えたような(俺が見たら、記憶だと分かっていても放っておかないと断言された)女性だった。

 だが、彼女の表情は醜く歪んでいたそうだ。怒り、憎悪、焦り………そう言った表情が、あからさまに見て取れる表情。

 その表情で固定されたまま、彼女はナナを見る。ナナを置いて出掛ける時も、その表情は変わらない。なのに、声色だけは妙に優しい。

 

 

「ええ。何と言うか…合成動画を見ている気分になりましたね。ナナさんのお母さんの声は、聴いただけでもナナさんを愛して、大事にしているのがよく分かりました。なのに、仮面をかぶったかのように、その表情だけが一致しませんでした」

 

「その後ですか? …正直、あまり思い出したくありません。彼女の夢は、お母さんに連れられてあちこちを逃げ回っていた頃から始まり、最後は…お母さんと、近くに居たゴッドイーターが全滅し、ラケル博士の立ち合いでマグノリア・コンパスに引き取られる所で終わります。そして、また最初から夢が流れ始めるんです」

 

 

 そこれそ、動画のリピート再生みたいに…か。

 

 

「はい。ですが、前回とは変わっている部分もあります。2度目には優しかった声が無くなり、3度目には刺々しい言葉と荒っぽい言動が目につき、4度目はゴッドイーター達が全滅した時に呪いの言葉が付いて…5度目には、全てが終わった後にラケル先生や、お母さんの死体が『お前のせいだ』と延々と恨み辛み批判を投げつける。……あんなに胸糞悪くなったのは久しぶりです」

 

 

 そりゃ確かに胸糞悪い…。ナナが廃人同然になるのも無理はない。

 罪の意識が見せる幻影か…。いや、しかしそれにしては急すぎる。

 

 

「はい、私もそう思いました。…私も、かつては同じような境遇でしたから。そう言えば、貴方も私の夢を弄りましたね。まぁ、あれは結果的にでしたし、おかげで立ち直る事もできましたが」

 

 

 ああ…そう言えば、汚ッサンにトラウマを利用されてマインドコントロールされてたもんな。

 …つーか、その言い方だと…?

 

 

「ええ。ナナさんの夢から、当時見ていた悪夢と同じ印象を受けました。最初は話に聞いた黒幕、ラケル博士かと思ったのですが…」

 

 

 んー……出来るかなぁ、あの人…。人知を逸脱した道理に従って行動してる奴だけど、そこまで人間離れしてるか…。いや、人間離れは俺も人の事言えないけど、あの人はちょいと方向性が違うと言うか。

 

 

「私もラケル博士ではないと思います。ちゃんとした理屈で看破した訳ではないのですが、あの悪夢の原因は……ナナさんの母親の方です。いえ、そう見える……んー、これも違う……そう、ナナさんのお母さんのフリをしているヤツです」

 

 

 ……何?

 

 

「貴方と言う前例がありますし、夢に干渉する、或いは幻影を見せるアラガミだって居てもおかしくありません。…気付いたのは、その、思いっきりブン殴った後なんですが」

 

 

 は? ……殴った? 誰を?

 

 

「ナナさんに向けて言いたい放題していた、ナナさんの母親と、ラケル博士と、その他諸々のゴッドイーター……ですね、夢の中の。怒りの余りに、手から何か迸っていましたよ。…現実でも出来るようになっちゃいました」

 

 

 つまりブラッドアーツ覚醒か。セックスでは楽しみ優先で、目覚めさせようとはしてなかったが……まぁ、覚醒の下地は出来ていたか。

 

 

「あくまで感覚ですが、もうちょっと怒り狂っていたら、血の力にも目覚めていたような気がします。なんだか妙な感覚がありましたし…。それはともかく、こう、怒りの余りにですね、私を操っていたアレの顔面に全力全壊パンチを叩き込むような気持ちで殴り飛ばしたところ…ラケル博士ではなく、ナナさんの母親の方に手応えがあったんですよ。夢の中で手応えと言うのも当てになりませんが、とにかく『何か』を殴り飛ばした感覚が」

 

 

 ………そいつが本命で、他はそいつが見せた…或いは、そいういう風に想起するように誘導した結果、ナナが生み出した幻覚だと?

 

 

「はい。実際、他のを殴っても水に手を叩きつけるような感触しかなかったのに、ナナの母親を殴った時には実体を感じ、また、その顔も歪んで…人間…なのかな、あれ…。こう、えーと…極東で言う、オニみたいな顔が…」

 

 

 ………ちょっと待て。

 その鬼って……………こう、こんな感じか?

 

 

「………タ、タコの煮物にしか見えない…」

 

 

 そこのPCにダイブするからちょっと待ってろ。

 ……電脳空間に入って、俺の記憶というかイメージを投射して……これ。

 

 

「…誰ですかコレ。こっちの方がよっぽどオニっぽいですけど」

 

 

 オーガじゃなかったか…一安心。ま、アレが夢を操るなんて小細工する筈もないか。んじゃ、こっちか? 

 

 

「あ、こんな顔でした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほう、つまりは百日夢か。

 アリサに見せたのは、討鬼伝世界のミズチメの顔。ダイレクトに言って鬼女だ。

 

 そーかそーか、MH世界のモンスターに似たアラガミが出てきてるんだから、討鬼伝世界の鬼みたいなのも出るんじゃないかと思ってはいたが、大当たりか。

 

 エッグい真似してくれんじゃねぇか…。討鬼伝世界のミズチメの百日夢は、夢の中に閉じ込めて「そこに居たい、目覚めたくない」と思わせる物だったが、もっとダイレクトに心を傷つけに来やがった。

 トラウマを引き出し、思い出を書き換え、心ごとヘシ折るやり方に。

 

 

 

 

 ブチ殺す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 と意気込んだ所で、相手の居場所が分からなきゃどうしようもない。

 ナナの夢に入り込んで撃退しようにも、アリサにワンパン喰らって警戒したのか、ちょっかいを出さなくなってしまったようだ。眠るナナの夢に侵入しようと試したものの、夢自体見ていなかった。

 うなされてもいないから、恐らく本当に熟睡しているのだろう。

 

 さて、今から処刑と拷問の方法を考えておくとして、どうしたものか。

 討鬼伝世界のミズチメは水脈付近に居る事が多かったが、ここはどうか…。一人では考えあぐねたので、頭の良さそうなメンバーを集めてみた。

 

 榊博士、支部長、ジュリウス、ロミオ、レア。

 確たる証拠もなく、『恐らくこういう奴が居る』というレベルの話でしかなかったが…俺の発言を信じ、真剣に考えてくれるのは素直に嬉しかった。

 

 …ただ、ちょっと予想とは違う方向だったけど。

 

 

「…成程。単なる血の力の暴走かと思っていたが、想像以上に厄介な案件だったようだな」

 

「……夢を操る、か。……ふざけた真似を…」

 

「ジュリウス落ち着け。怒りは直接ぶつけようぜ」

 

 

 ジュリウスの背中から、猛烈な怒気が立ち上っている。それはもう、忍空みたいに勝身煙があがるレベルで。

 それを宥めるロミオも、奥歯を猛烈に食いしばっていた。

 

 

「ふむ…ナナ君を傷つけられた怒りは、君達に託そう。しかし、このアラガミ…実在するとしたら、凄まじい脅威度だね」

 

「ええ。すぐにでも全滅させなければ…。このアラガミの存在を公表するべきかしら…」

 

「難しいところだな。秘匿するにせよ、公表するにせよ、リスクが大きすぎる」

 

 

 …? あのー、確かに厄介な能力だとは思いますが、そこまでの話っすかね?

 トラウマを抉られて心理的なダメージを受けるにしても、対象は左程多くは無い筈ですが。

 

 

「君はこのアラガミの戦闘力を基準にして評価しているだろう。だから、このアラガミの本当に危険な点に気付かない」

 

 

 危険な点…。歴戦のゴッドイーターでも、戦わずして負ける危険がある事? このご時世だし、心に傷を負ってない人を探す方が難しい。

 再生能力? やったらしぶといんだよな…。

 後は…。

 

 

「妙な所で抜けているな。…いいか、このアラガミは…恐らく感応種だが…、ナナの夢に干渉してきたんだぞ。ナナは今どこにいる?」

 

 

 何処って……………!!!

 

 防壁を擦り抜けて、ナナに干渉した! 物理的な壁が意味を為さない!

 

 

「そうだ。しかも、現状では血の力の第一人者である、お前にすら気付かれなかった。このような、間接的な能力を持ったアラガミが、これからどんどん増える可能性すらある」

 

「考えたくもない可能性だが…心を傷つけるだけではない。苛立たせて人と人の不和を招くアラガミが出れば、極東は一気に地獄と化すだろう。下手をすると、ゴッドイーター同志の争いや、一般人の集団武装蜂起すら誘発されかねん」

 

 

 全滅待った無しだな…。物理的被害が出た時点で、大事になる。

 その場を乗り切ったとしても、責任問題程度じゃ終わらない…。

 

 

「件のアラガミは、水脈近くに居る可能性が高いんだね?」

 

 

 俺の知ってる奴と同じなら。

 

 

「なら、まずはその辺りを探そうか。無論、そこ以外の捜索もするけども。このアラガミの危険度は、他のアラガミとは一線を画する。どうやってこの能力を得たのかは分からないけど、徹底的に『消毒』しなければならない」

 

「万が一、これと同じ能力を持ったアラガミが産まれ、密かに増殖したら、人類は内紛の危機に晒される。このアラガミの痕跡は全て駆除し、殲滅しろ。万が一にも、他のアラガミにこの能力を伝えるような危険を残すな」

 

 

 

 了解。

 

 

「了解しました。元より、ナナに妙なちょっかいを出したアラガミを許す気はありません」

 

「それじゃ、俺は水脈が通ってる場所をピックアップしてきます。他に手掛かりになりそうなことはありますか、教官?」

 

 

 俺の知ってるアラガミと同じかまでは断言できないが、大体の特徴を伝えておく。まぁ、両足が蛇になってる鬼女って、見つけたら一発で分かると思うけど。

 もしも体の一部を自分からパージするような事があったら、最優先でぶっ壊すか距離を取れ。とんでもない威力と効果範囲を持った時限爆弾だ。

 

 居場所については………正直、これ以上の事は分からん。痕跡を見つければそれを辿れるが、感応種の能力だもんな…。

 

 

「それについては、我々で手を打とう。感応種の存在は、血の力を持たないゴッドイーターにとては脅威だからな。以前から、広範囲における感応種のレーダーを作る為に研究していたのだ。試作品ではあるが、効果は保証しよう」

 

 

 そんな都合のいい物が…。脅威だから備えようって理屈はよくわかりますが。

 個人の才能や体質に依存する血の力よりも、そっちの方が効果的ではありますし。

 

 

「それでも、撃退まではいかないのが辛いところだ。では、すぐに作戦を開始する。ああ、アリサ君はナナ君の世話の為に不参加となるから」

 

 

 マジか。まぁいいけど……アリサの分まで、ミズチメ(多分)を殴っておきますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

神戻月

 

 

 探すべき範囲は、意外と広い。この自然らしい自然がロクに残ってない時代、水脈だって数える程だろう…と思っていたんだが、極東地区に限ってはそうでもなかった。

 ここだけ自然が局地的に蘇ってるからなぁ…。しかも密度がおかしいレベルで。

 当然、水脈だってそれに釣られて、やたらと数を増やしている訳だ。……水脈って、そういう順序で出来るもんだったか? 確かに木の根がダムの役割を果たすとか、そういう話を聞いた事があるが…。

 

 ま、どうでもいいか。

 水脈を辿ってミズチメアラガミを探す俺達だったが、調査は難航した。雑魚のアラガミが襲ってくるのはどうでもいいんだが、水の流れを辿るの自体が面倒だった。

 いくら地図を作ってあるとは言え、地上からは分からないし、何処に潜んでいるのか分からないから、建物やら何やらの影まで確認しながら進んでたし。

 榊博士から渡された感応種レーダーにもちょくちょく反応はあるんだが、これは全く関係のない感応種だった。さっさと狩った。

 

 

 

 その間に、またもナナが魘され初める。アリサが再度、感応現象が起こるのを期待して触れても、何もおきない。…腕輪が触れ合う事で、絶対に発生する訳じゃないんだな。

 結局、その時はナナを叩き起こす事で精神的ダメージを抑え込んだが…ヤバイな。ミズチメアラガミを潰すまで、ナナが保つか…。保ったとしても、心は傷つけられたままだ。

 

 俺も本格的に焦りを感じ始めた頃、ジュリウスが一つの仮説を立てた。

 

 

 

 水脈の交差地点を重点的に調べる?

 

 

「ああ。それも、赤い雨が降った形跡がある付近のだ」

 

 

 ふむ…理由は?

 

 

「あくまで推測だが…この感応種の能力は、射程範囲という一点だけを見ても、他の感応種とはレベルが違う。それ故に、非常に強力なエネルギーを必要とすると思われる。そんなアラガミが、一足飛びに進化して自然に発生するとは考えにくい」

 

 

 確かに。アラガミの進化速度は侮れんが、それにしたって学習・適応・応用ってステップは踏んでるみたいだものな。特にエネルギー源を増やすってのは大きな進化、変化だ。

 

 

「ああ。そこで考えたんだが…外部からエネルギーが流れ込んだ、とは考えられないだろうか? 赤い雨という形で。お前の持論では、赤い雨と血の力の要素は同じ物なんだろう」

 

 

 俺にしてみれば、どっちも霊力だからな。自前の霊力か、外から毒になる霊力が入り込むかの違いでしかない。

 成程…つまり、元はそう強力でなかった感応種が居て。赤い雨が降って、それが水脈に入り込んで流され。結果として、感応種が強いエネルギーを得てしまったと。

 

 

「加えて言えば、その味を占めた感応種は、赤い雨が降りそうな場所を求め、また降った時に多量のエネルギーを回収できる場所を求めるだろう。それが、水脈と水脈が交差する場所と言う訳だ」

 

 

 …有り得るな。そうだ、ナナに目を付けたって事は、一度はナナがその場所を訪れてる可能性が高い。

 そっちからも絞れそうだ。

 

 

 

 …どんどんアイデアと言うか絞り込みの方法が沸いて来るが…これ、出撃前に考えるべき事だよなぁ。

 俺もジュリウスも焦り過ぎだったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、以上のような条件を考え、場所にピックアップは優秀なオペレーターさんい丸投げする。まさか5分も経たずに絞り込みを済ませてくれるとは、やはりヒバリさんは格が違った。

 絞り出された場所で、近場の物を調べてみたが……。

 

 

「クッ……ハズレか。しかし、他の場所ならば…」

 

 

 いや、そうでもない。それらしいのがここに居た痕跡がある。見ろよ、ここの土。色と感触が違うだろ? …掘り返された後だ。

 多分、水脈に浸る為に地下に居たんだ。それが、充分に力を得られないと判断したのか、それとも近い内に赤い雨が降ると思ったのか…或いは、ナナの夢に干渉するのにもっと都合のいい場所に行くつもりだったのか、とにかく這い出して移動した。

 

 

「…もしも2つ目だった場合、近い内に赤い雨が降ると言う事か。しかし、穴を埋めたのか? もしそうだとしたら、自分の痕跡を消そうとする知能があるか…」

 

 

 人の夢に侵入するだけならまだしも、心の傷を掘り返そうとする相手だ。良くも悪くも、悪知恵は働くだろうさ。

 しかし、痕跡からすると、思ったより小さいな。ヴァジュラを一回り小さくした程度か。デカい方が追いやすいんだが…言っても仕方ない。

 

 痕跡からして、移動して多分、一週間は経ってない。

 大分薄くなってはいるが、這いずったような跡、移動の時に壊していったアレコレ、捕食跡、後は…運が良ければ、剥がれた鱗くらいは見つかるかも。

 …これは俺も人の事は言えんが……あまり殺気立つなよ。気付かれたら、奇襲を受けるのは確実にこっちだ。対処法は、眠らない事くらいしかない。

 

 

「元より、ミッション中に『傷が治るから』と言って熟睡するのはお前くらいだ。しかも本当に治るし…」

 

 

 

 ハンターですから。まま、ええわ。これなら今日中、遅くても明日の昼までにはカタがつくだろ。

 今の内に、アップをこなしておく事だ。

 …神機の刃は敢えて鈍らせて、苦しめて狩るってやり方もあるがな。

 

 

「ノコ引きの刑ではあるまいし…。私怨はこれでもかと言う程あるが、ミッションに私情は持ち込まん。甚振る暇があれば、確実に仕留める。…苦しめれば、ナナにまた妙なちょっかいを出すかもしれん。人質にして、な」

 

 

 そりゃそうか。

 ハンターは私怨では狩りはしない…なんて言っといて、俺も阿呆だな…。

 オーケイ、意識を切り替えていこう。これでナナの慰めになるとは思わんが、少なくともこれ以上傷つくのは防げる筈だ。それが最優先事項だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そのような塩梅で、痕跡を追い、ミズチメモドキが潜んでいる場所を突き止めた。ジュリウスの推理は的中していたらしく、水脈の交差する場所に辿り着く。

 それはいいんだが………こいつ、地下に居るな。ここにも地面を掘り返した跡がある。

 

 

「厄介だな…。居場所を突き止めたはいいが、どうやっておびき出す? 地面を爆破しようにも、地下のアラガミには衝撃は届きそうにないぞ」

 

 

 一番頑丈な盾を使いやがるとは…。穴を掘る……いや、MH世界の落とし穴装置を使って、地面に穴を空けて、そこを中心としてぶっ飛ばすか…

 

 

「…ジュリウス、教官。俺がやっていいか?」

 

「ロミオ? いい案でもあるのか」

 

「案と言うか、強制的に出てこさせるやり方があるってだけだ。…ま、いい機会だし、お披露目しとこうかなって」

 

 

 ……ああ、成程。と言うかいいのか?

 

 

「いつまでも黙ってる訳にはいかないし、最初期からブラッドに居たのに、最期まで血の力に目覚めなかった隊員ってレッテルはちょっと…」

 

「ロミオ? ……まさか」

 

「ああ、使えるよ、俺。ブラッドアーツだけじゃなくて、血の力…。じゃあ、初のお目見えだ! 行くぞ、『対話』を始める!」

 

 

 ロミオの力が膨れ上がる。…俺も、大規模な使用を見るのは初めてだが……これがロミオの力か。

 相手に呼びかけ、強制的に反応させる、否応なしに『返事』を返してしまう力。

 

 ……つっても、見た目じゃ何してるのか分からんのだよな。

 なんつぅかこう、ドラゴンボールっぽく赤い光を全身から放出しているんだが、やってる事は神機を片手に地面に掌を向けているだけだ。一種のポージングと言えなくも無いが、どうせなら空に手を翳した方が絵になると思う。

 

 なんていうか………間が保たない。

 一緒に居るギルも、ロミオが血の力を使えたという事実に驚きつつも、何だか気まずそうだ。

 

 とは言え、見た目はどうあれ、手応えがあったのは確かだった。

 

 

「! 反応あり、出てくるぞ!」

 

「全員構えろ! 出現と同時に集中砲火を浴びせるぞ!」

 

 

 あいあい。ここに来るまでアラガミを辻斬りしてオラクルパワーも溜まっているし、ドカンと一発行きましょう。

 一撃で終わるようじゃ、消化不良になっちまいそうだが…ジュリウスが言ったように、余計な暇を与えるべきではない。

 

 …小さな地鳴り。出てくる前兆か。本家のミズチメよりは小さいが、ここに来るまでに想定したのと同じくらいのサイズ…。

 柔らかい弱点は他の面子に任せ、俺は甲殻(あれば、だけど)を真っ先に破壊するとしますかね。

 

 

 さて…どんなもんかな…?

 

 



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340話

北斗が如く、とりあえずクリア。
勲章とかトロフィーとかまだまだ残ってますが、それは後回しにしよう。
ラストについても色々言いたい事があるが、まあそれも言っても仕方ない。
あれで生き残れるなら、3人で入ればいいじゃんよ…。
とりあえずは進撃やるぞー!
クッソ面倒くさい一日も終わってる(筈)だしな!

と思ったら、配達が遅くて初日はできなかったよ…。
下手にネットで予約するより、近場のゲーム店の方がいいなぁ。

というか、仕事がきつくて辛い…。
ミスしたり完全にできてなかったりする自分が悪いんだけど、何か言えば考えが足りない確認が足りないと怒られ、シフト調整しようにも一日の半分以上を作業とシフトの穴埋めに使わなければいけないからゆっくり考えることもできず、そもそも人が少なすぎ…。
もう耐性ができたはずですが、また帯状疱疹になりそうな気がしてきました。


ええい、巨人ぶっ殺してストレス発散じゃ!


神戻月

 

 

 しあいしゅーりょー。きた、みた、かった。

 何だかなぁ…本当に消化不良だよ。しかも俺だけ。

 

 …要するにアレだ、俺の予想以上にブラッド隊の怒りが強かったって事だろう。

 特にギルの血の力によるバフの効果が、アホみたいに高かった。それに加えて、ジュリウスの『統率』も、心なしか効果が高かった…バーストレベル4とかに片足突っ込んでるんじゃないかってくらいに。

 もっと酷かったのはアレだな、ロミオだ。

 お披露目した血の力を、予想以上に使いこなしてたよ。『手を上げろ!』の一喝で、ミズチメモドキが本当に手を上げ、無防備な状態になった瞬間に喉元に一撃。確実に相手を反応させることが出来るとは聞いていたが、意図的に完全に無防備にさせられるとは…。

 尤も、そこまで強い命令は、相当昂ってる時じゃないと出来ないっぽいけど。

 

 

 …俺? 予定通りに甲殻をぶっ壊したら、その時すでにミズチメモドキはリンチを受けてズタボロだった。

 とりあえず首跳ねておいたけど、どっちかと言うとあれは「介錯しもす」だったな。

 

 

「勝ったんだから、別にいいだろう。と言うか、他に気にする事があるだろう。ナナの事もそうだが、あのアラガミについて」

 

 

 ああ…。遠距離能力、察知できない能力も気になったが、いざ見つけてみたらあのアラガミ……2体で一体とはなぁ。

 あのアラガミ、姿形は大きさを除けば、ミズチメとほぼ同じだった。だが、アラガミの核が二つあったのだ。

 一つは頭に。もう一つは甲殻の中の尾に。

 

 

「核が二つある例は、今までにもない訳ではない。2体のアラガミが合体しているのもな」

 

 

 ああ…公式記録には残ってない筈だけど、リンドウさんが桃毛蟻に取り込まれてた時とか、ああいう状況か。

 しかし、ありゃどっちかっつーと…そういう感じじゃなくて…。

 

 

「…あぁ、何と言うか…『進化に失敗した』的な印象はあったな。殆ど何もさせずに倒してしまったから、あまり詳しい事は分からんが……頭と尾で、こう、別々の行動を取ろうとして、胴体が混乱してしまっているような…」

 

「あ、それ多分正解だわ。『対話』の反応が何か違和感あったような気がしたんだけど、それかぁ…」

 

「そういう情報はすぐに共有しろ! …そんな暇も無かったか。それに、『気がした』程度の不確かな情報をばらまくのも問題か」

 

 

 

 …うーむ、他の感応種と一線を画する能力を得た代償、なのか? 進化失敗した結果、予想外の能力を得た? でも姿形からして、ミズチメを意識した進化なのは確実…。何処からミズチメやMH世界のモンスターの情報を得たのかも気になるが。

 …一体だけだと、キャパシティ的に間に合わなかったから、強引に二体が合体して能力を実現させた? その代わりに、体が上手く機能しなかったのか…。

 

 考え込んでいると、扉を開けてシエルが入って来た。

 

 

「失礼します。…ナナさんの様態は、芳しくありません」

 

 

 

 やはり、か…。空気が一斉に沈むのが分かる。…いやシエル、お前のせいじゃないよ。

 内容が内容だ。どうやったってこんな空気になる。

 

 思い出を汚され、トラウマを散々抉られたナナ。その元凶こそ倒したものの、それでナナの心の傷が癒える訳ではない。

 「これでもう悪化はしない」という考えさえ、甘かったかもしれない。刻み込まれた自責の念と歪められた認識により、自前の悪夢を見るようになりそうだ。…歪められてない夢でも、悪夢には違いないしな。

 

 

「夢に侵入され、悪夢を見せられていた…と聞かせはしましたが、それ以上に自分のせいだという考えが根付いてしまっているようです」

 

「廃人一歩手前の状況から多少はマシになったものの、このままだとゴッドイーターとして復帰するどころか、自立して行動する事さえ難しい…か」

 

「これ、下手をすると血の力が自分を殺しにくるんじゃないか? そういう性質があるって、前に言ってたろう」

 

 

 ああ、血の力…霊力が自分に害を与えるアレな。ナナの状態だと、本当になっちまってもおかしくない。

 

 

「どうにか手はないか、レア博士に相談してみたんだが……夢には夢を、だそうだ」

 

「夢を見せるって事か? そりゃ、ナナのおふくろさんに会う事ができるとすれば、もうナナの夢の中じゃないと無理だろうが…」

 

「比喩表現じゃね? 夢中にさせるとか…ほら、丁度アイドルも居るんだし、『夢を見せる』って言うじゃん」

 

「俺も最初はロミオが言うように比喩だと思ったのだが、ギルが言う文字通りの意味で言っているらしい。と言う訳で、非常に不安を感じるが出番だ」

 

 

 

 

 

 …は? 俺? 

 いや一体何しろってのよ。そりゃ催眠術染みた事もできるけど、それで夢を操れってのは無茶な話だぞ。耳元で延々と囁いたところで、意図した通りの夢が見られる訳じゃない。

 

 

「もっと直接的な方法があるそうだ。かつて、お前はアリサさんの夢に入り込んだ事があるのだろう? 昏睡状態だった彼女を、それで目覚めさせたのだと聞いたが」

 

 

 ………あ。そう言えば、そんな事も…。あの時ってどうやったっけ。少なくとも意図してやった訳じゃない。

 霊力を通わし合った状態…オカルト版真言立川流で、ドロドロのヌップヌップにヤりまくった直後で、かつ隣で寝ているのであれば、R-18な夢を見せて失神した後もエロエロ責めにできるんだが…今のナナじゃなぁ。

 抱く気がしないし、精神的にも半ば死にかけてるから、この状態でヤッてもあまり効果がないように思う。生命力を増幅させあうオカルト版真言立川流だが、それは互いの力が一定以上あってこその話だ。

 

 

 ちょっと待て、あの時どうやったのか思い返してみるから。

 

 

 

「ああ…。つーか、お前のその力、本当に一体何なんだ。攻撃、回復、補助、病気の治療に加えて夢を見せるだの…出来ない事ないんじゃないか?」

 

 

 これでも結構縛りがあるんだよ。確かに、普通に比べて異様に多様性が高いけど…。

 ………あ、見つけた。こういう時、日記は重宝するね。えーと、肝心の方法だが………。

 

 

 

 

 

 

 あ゛

 

 

 

 

 

 

 …ナナにのっぺらミタマを送らなきゃならんのか…。最近じゃ意識すらしなくなってた、あのウザさが天元突破している連中を…。

 それこそ、ナナの精神が崩壊してしまうような気が……。

 

 

 うーむ…いや待て早まるな。のっぺらミタマの好きにさせずに、俺の意思で夢に潜り込むことが出来ればいいんだ。わざわざアレらに出番をやる事は無い。そしてそのまま歴史の闇に消えて行ってもらおう。もうちょっと正確に言うと、死に設定として忘れ去られてもらおう。

 

 

 

 

 …これに関しては、最後の手段として考えておいて…話は変わるが、あのミズチメモドキみたいな力を持った奴、また出てくるかな。

 

 

「どうだろ…。……あのさ、教官。これ、仲良くなった研究チームの人から教わった事なんだけど」

 

 

 またそーやって、すぐ人脈広げるなぁロミオは…。何ぞ?

 

 

「あのアラガミ、俺達と戦う前から、結構傷ついてたみたいなんだ。古い傷跡が沢山、切り傷から炎、氷とかの跡まで色々だったってさ」

 

「他のゴッドイーターと交戦した記録は無い…と言う事は、他のアラガミから受けた傷だな。恐らくは複数の種類から」

 

「集団で攻撃されたっぽいな。多分、『異物』として」

 

 

 …つまり?

 

 

「あのアラガミは、他のアラガミにとっても異常、異端だったんじゃないかって言ってた。普通のアラガミから見れば、一つの体に顔が二つあって、それぞれ別の人格が宿ってるようなものじゃないかな。こう言っちゃなんだけど、ある種のバケモノに見えたのかも…」

 

 

 ふむ…。異物を排除したがる習性は、人間もアラガミも変わらないか。

 仮にそうだったとした場合、奴は群れや住処を追い立てられたと?

 

 

「多分。仮に、あいつが持っていた能力が、そんな異常な体に進化した結果だったとしたら。或いは逆に、そんな体に変化した代償として得た力だったとしたら」

 

「アラガミにとっても、その変化リスクが非常に大きいか。自分の居場所や群れを失う覚悟で変化しなければならない。しかも、今回のように体一つに頭二つという状況になってしまえば、二つの頭に使われる体は混乱し、通常の生活を送る事すら難しくなるだろう。多くのアラガミに襲われた傷跡が残るのは、逃げる為の能力すら不十分にしか持てなかったという証明でもある」

 

 

 成程ねぇ…。今までの感応種とは、一線を画する力だ。それを得ようと思ったら、アラガミにも相応の対価が必要になってくるって訳か。

 それは確かに、そうそう沸いて出そうにはないな。あくまで推測止まりだってのが問題だけど。

 

 一応、あいつと接触した可能性がある、道中で見かけたアラガミは大体狩っておいたが……古傷をつけたアラガミまでは把握できんな。そいつらが余計な能力を持たない事を祈るしかない。

 

 

 

 

神戻月

 

 

 があああぁぁぁあヲノオオォォォォレエエエェエ!!!!!!

 

 やられた! 出し抜かれた! いや俺が間抜けだったと言うべきか!

 クソッ、ここのところ大人しくしてたと思ったら、思い出した途端にコレかよ!

 

 あぁ!? 何がって、そりゃのっぺらミタマだよ! 

 やってる事自体はグッドなんだよ、ナイスタイミングなんだよ、どうしようか悩んでた所にジャストミートなんだよ!

 

 でも視界の端で相変わらず煽ってくるのが、気が狂う程ウザイいんじゃああぁぁ!

 つーか、ナナの夢の中を走り回るんじゃねぇぇぇ!!!!!

 

 

 

 

 

 はぁ、一頻叫んで、ようやく落ち着いたぜ…。

 何を憤ってるかって? もう見当はついてると思うが…俺が止める暇もなく、のっぺら共がナナの夢と俺の夢を繋げやがったんだよ。どうやったんだ…。

 まぁ、やった事自体に文句はない。文句は言えない。純粋な善意なのかはともかくとして、ナナを立ち直らせる一助になるのは確かなんだから。

 

 本当に、こいつら一体何なんだろうなぁ…。俺の一部の癖して俺の意思をマルッと無視するようで、実際は助けになるような事もやってるし、ある意味では『こうしたい』という欲求を叶えるような方向に動く事も多いし。

 このクッソウザい生態さえなければ、万々歳なのになぁ…。

 

 こら走り回るな飛び回るな、ここはナナの夢の中だぞ!

 

 

 

 やれやれ…こうなったら、もう四の五の言わずに目的を果たしてさっさと現実に戻るか。そうすりゃ、のっぺら共もナナの夢から消える……消えるよな? いやでも何時だったか、のっぺらを送り付けて百日夢から目覚めさせた初穂が、暫く魘されていたような…。そもそも夢を繋げる事自体、のっぺらが勝手にやったんだから、その気になれば俺の制止なんぞ無視して乱入できるのでは?

 …考えてても仕方ないか。もうなるようになれっての。

 

 

 さて、そうと決めれば、後はこのナナの夢をどうするかだが…。呪いで見せられた夢が脳に焼き付いているのか、アリサから聞いたのと同じような光景が流れている。

 今流れている映像は、母親に連れられて各地を渡り歩いていた頃の記憶だろう。ただし…歪められた記憶と、正しく暖かい思い出の記憶が混濁しているようだった。

 

 幼いナナの手を引く母親の姿は、とても朧だ。その動作も、ナナと手を繋いで歩調を合わせて歩いているようでもあり、嫌がるナナを引きずって無理矢理連れ回しているようでもあり。

 何と言うか…複数の映像を、投射機か何かで同時に同じ場所に映し出しているようだ。

 

 今も、おでんパンを作っているらしき姿と、よくわからない合成食糧らしき物を渡して放置している二人の母親が映っている。

 …呪いによって記憶や夢を歪められ、徐々に辛く当たられた記憶が本当だと思い込み始めていたんだろう。本当の思い出と偽の思い出、板挟みの状態になったのは…間に合ったと言っていいのだろうか。

 

 

 それにしても、ナナの母親の姿形が見られないのはちょっと残念だなぁ。アリサをして、俺が「絶対に放っておかない母性マシマシの美人」だって言ってたから、ちょっと楽しみにしてたんだが。

 

 

 ともあれ、辛く当たる母親の方を消していけばどうにかなるかな? しかし、消すと言ったってどうしたものか。いかに酷い母親の姿をしているとは言え、ナナにとってはただ一人の肉親。それも、本当にクソみたいな親だったのではなく、優しく強く大好きだった母親なのだ。

 それを、目の前で…それこそアサシンブレードで一突きなんてやってみろ。それこそ、自分のせいで死んだ母親や、目の前で全滅してしまったゴッドイーター達の姿を想起しかねない。

 

 アリサの時はどうだったっけ…元凶になってた黒爺猫を散々ブチのめしていたら、黒爺猫が弱くなっていき、死んだ両親の姿も薄れていき、アリサも段々成長していったんだっけ。

 つまり………印象を変えろって事か。

 

 絶対的なトラウマだった黒爺猫を雑魚扱いする事で、夢の内容は変わっていった。

 ならば、今回は夢の内容を変える…ではなく戻す方向になるが…やる事は同じだ。

 

 

 『暖かな記憶の母親こそが本物だ』と、確信できればいい。それがあれば、心の傷は残るだろうが、ナナの心は生き返る。

 …あ、いや待てよ、どっちにしろ『自分のせいで母親が死んだ』って事を乗り越えさせないとイカンのか。それはまた追々考えるとして…。

 

 

 とりあえずは、辛く当たる母親の印象を消していきますか。そうだな、それこそ辛く当たる母親にのっぺらでも嗾けるか。

 或いは、優しい方の母親に話しかけ、嫌な親の方は徹底して無視するか。こうすれば、酷い母親は、俺から全く反応されない=実は幻で存在してない、となるのではないか?

 俺という追加要素を放り込む事で、記憶を少し歪め、代わりに補強する。

 

 ま、アレだな。「一週間前にホタテクリームコロッケ食べたの覚えてる?」と聞かれるとすぐに思い出せないが、「一週間前にこういう事があったんだけど、その時にホタテクリームコロッケ食べたの覚えてる?」と言われると、連想して思い出しやすくなるのと同じだわ。

 そして「あのコロッケ、実はカニクリームコロッケだったんだ」と囁き続ける事で、記憶をすり替える。

 

 

 分かりにくいって? フィーリングでどうにかしてくれ。

 

 

 さて、そんじゃ優しいお母さんの映像に話しかけてみるかな。ちゃんと反応してくれるといいけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちゃんと反応してくれた。しかもおでんパンくれた。これは……思い出の味ってやつか…。

 

 

 



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341話

予定と違って、丸一話分使ってしまった…。
活動報告でもありましたが、予めヒロインは決めておくつもりだったのに。

進撃の巨人2プレイ中。
自作キャラ、いつでも変更可能と知って怪しいキャラを作ってみようとしましたが、イマイチ。
目つきは限りなく悪く、黒目なしで吊り上がった白目。
掃除用の白頭巾に極彩色のマスク程度じゃ、インパクトがない。
ニコ動で見た最近の特徴的なキャラ…。
EDF4.1の癇癪玉の人。
ダクソのタマネギ。
24の赤いくす玉。
MHWのインド人。

うぅむ…。

進撃2発売記念で、VRとか狂戦士の続編とか投稿してくれないかなぁ。と言うかしてください近い内に濡れ場書きますから。


神戻月

 

 

 いかん、眠れん。と言うか寝すぎた。ナナの夢に繋がったからか、睡眠時間が妙に乱れてな…。

 昼寝…と言うには遅すぎるから、晩飯食った後に一眠りしたら、日が変わった頃に目が覚めて、寝るに寝られない状態になってしまった。

 

 これがアリサやレア、シエルと一緒なら朝までしっぽりイタしてナンボでも時間を潰せるんだが、こういう時に限って皆居ない。

 アリサとシエルはミッション、レアは何やら研究について呼び出されているとか何とか。

 

 うーむ…肝心のナナも、特に魘されずに熟睡しているようだし、正直やる事が無い。金無くて暇なのは死にたくなると言うが、マジだな。俺の小遣い、未だにアリサとレアからの配給だもんなぁ…。ゴッドイーター扱いされてないから、ミッションで報酬が受け取れないんだよ…。前に稼いだ分の口座は凍結されてるし。解除してくれって支部長に言っても、アリサとレアが怖いからダメだって言うし。

 まぁ、金があってもこの時間にやってる店なんて、早々は…いや、お水関係の店なら、この時間からが本番かな? 

 どうでもいいか。アリサとレアとシエルに触れられるのに、その辺の店に行く気になんかならないよ。

 

 

 

 ま、そーゆー訳で、アナグラの中を散歩気分でフラついている訳です。

 散歩するなら、外に出て気配を消して、アラガミを辻斬りアサシンしつつ歩き回った方が気分は晴れそうなんだが…………なんか、こう、な? こっちに来た方がいい事がありそうな気がするっつーか…。

 

 こう、本能と言うか、根源と言うか、生き甲斐と言うか、そういう何かが囁く訳ですよ。それに釣られて、ついフラフラ~と…。

 

 

 

 やってきてしまった訳ですので、タカネ、君に会いに来た訳ではありません。悪いけど。いや遊び相手してくれるんなら、万々歳なんだけどね?

 

 

「おや、そうですか。残念です。世に聞く『夜這い』なる行為かと思ったのですが。まぁ、私としても本日はお腹が空いているので、後日にしてもらうと有難いのですが」

 

 

 俺より飯優先か。アラガミだから仕方ないっちゃ仕方ないが、少々傷つくな。

 これからラーメンか? 太る…なんてお前に限っちゃ心配無用だわな。

 

 

「ええ。…ああ、そうです。以前からお願いしたかったのですが…日記を書いていますよね? 見せていただけないでしょうか」

 

 

 …日記を? …月でも書いてたから、知っていてもおかしくはないが…多分読めないぞ。

 

 

「分かっています。この星に降り立ってから分かりましたが、少なくとも二つ以上の言葉で書かれ、そのメインとなる言葉はこの星の何処にも存在しない…。これ自体、興味深いお話ですが」

 

 

 …そこまで覚えてるのか。よくもまぁ、いちいち文字の形式なんぞ覚えているもんだ。月に居た頃のお前なら、文字なんてもの自体知らなかっただろうに。

 

 

「一度見聞きしたものは、特に意識しなくても細部まで思い出せますので。あなたが月で一人でやっていたアレやコレも…っと、それは置いておきまして。貴方の日記、読めるかどうかは問題ではないのです。ただ、それを見たいのです」

 

 

 置いておかれたくないような、置いたままにしておいてほしいような…。しかし、読めない日記なんぞ眺めてどうすんだ。訳の分からん抽象画を見るのと同じだろうに。

 

 

「おや、気付いておられないので? …成程、人は自分の事程気付かないと申しますが、そういう事ですか」

 

 

 …どういう意味だ? この日記がどうした。

 

 

「知りたいのであれば、それこそ見せてください。その後にお教えしましょう。ええ、そこに書かれている文字の殆どは、誓って私には読めません。ただ、貴方が書いたその文字(らしき物)の羅列を眺め、触れたいのです」

 

 

 

 ……どういうつもりだ?

 タカネが俺に害意を持って居るとは、万が一にも思ってない。己惚れだと言われようと、俺はタカネにとって特別大事な存在だと思っている。

 こいつの性格や精神構造からして、ヤンデレ状態になったり、争奪戦後の某整備班長や、空鍋をクルクル回すような行動に出るとは思えん。

 

 …真意は分からんが……少なくとも被害はない…か?

 日記を人に見せるって事自体に抵抗はあるが、読めないんだし…。あんまりすげなく断り続けるのもなんだしな。何だかんだで、好かれるのは嬉しい。

 

 分かったよ。何の為なのか、後でちゃんと教えてくれよ。

 

 

「ええ。そうですね、明日のお昼までには返しに行きますわ」

 

 

 

 

 

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 タカネが大事そうに俺の日記を持って部屋に帰っていくのを見送り、俺はそのまま散策を続けた。

 明確な目的も指針もなく歩いていたのだが、不思議と足は迷いなく進む。自然と、来客用の居住区に辿り着いた。

 

 ここは、何らかの理由でアナグラを訪れている、フェンリル関係者でない人達が狩りの住居として割り当てられる場所だ。簡単に言えば、外部業者用の宿泊施設。

 今は、ここにアイドル候補生達が泊っている筈だ。 とは言え、流石に草木も眠る丑三つ時。タカネ以外は起きている人もなく、出歩いている者も居ない。タカネも自分に割り当てられた部屋に戻って行った。

 

 …はて。こんな所にやってきて、俺は何をしようと言うのだろうか?

 別にとぼけている訳じゃない。俺という生物が、こんな時間に、美人揃いのスペースにやってきているのだ。そりゃ目的なんか、言わなくったって誰もが分かるだろう。

 

 しかし、俺は特にそういうつもりはなかった。本当だ。タケウチ社長にも言ったが、枕営業じみた事をするつもりはない。

 アイドル達の方からモーションをかけられれば、状況次第でナニかするかもしれないが、少なくとも血の力を目覚めさせる為に手を出すつもりはない。…シエルにはその為に手を出したけど、あれはまぁ、前回のループでの記憶とか愛着とかあって、ね?

 

 

 とにもかくにも、どうこうするつもりは無い。これは本当なのだ。

 …だと言うのに、どうして俺の足は迷いなく進むのだろうか?

 

 

 

 いやまぁ、もう分かってんだけどね。俺が何に惹かれて、ここに来たのか。部屋に辿り着く前から、直感的に誰をターゲットにしているのかも分かってた。

 全く、我ながら本格的に訳の分からないナマモノになったものだ。エロに対するレーダーまで身に着けてしまったようだ。これは因果的な何かの導きなのか、オカルト版真言立川流の成果なのか、それともイジめられたがっている女を見つける嗅覚が鋭くなっているだけなのか。

 

 まぁ、何でもいいか。確かに、俺は自分から彼女達に手を出すつもりはなかった。だけど、扉一つ隔てた所に据え膳があると分かっていて、それを放置できる訳がない。

 

 

 …扉の前で足が止まる。やっぱりここか…。

 中の気配を探るまでもなく、そこで卑猥な行為がされている事はすぐにわかった。音漏れも、激しく動くような気配もないが、理屈抜きで分かる。

 

 インターホンを鳴らす。…扉の向こうで、動揺しているのが分かった。ま、人が尋ねてくるような時間帯でもないしな。

 慌てて証拠隠滅しようとしているのだろう…が、それはさせない。

 

 インターホンをハッキングして、強制的に繋ぐ。と言っても、向こうからはともかく、こっちからは部屋の中は見えないが。

 

 

 ミナミ、そのまま扉を開けろ。そうすれば、お前の妄想を現実にしてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 一拍…と言うには少し長いか。10秒ほどの間が空いて、扉が開いた。

 目の前に立っていたのは……。

 

 

 裸の下半身を、寝間着の上着を引っ張って隠そうとしているミナミ。上着で辛うじて隠れている秘部からは、どれだけ弄り回したのか、太腿にまで卑猥な液体が伝っているのが見えた。自慰をしていたのは、言い訳のしようもないくらいに明白だ。

 真っ赤になった顔で、期待と興奮、後悔の表情を浮かべていた。

 

 一頻り視姦し、一歩前に出ると、道を譲るように一歩下がった。後ろでドアが閉まる音がする。肩に手をかけるとビクリと体を震わせたが、拒絶する様子はなかった。

 優しく抱き寄せる…ような事はせず、壁に押し付ける。怯えた表情とは裏腹に、立ち上る雌の臭いは強まるばかりだ。

 

 少し顔を近付けると、背けもせずに小さく呟く。

 

 

 

「………やさしくしてください…」

 

 

 

 聞こえないな。

 

 捕食するように唇を捕らえ、ミナミの意思などお構いなしに舌を捻じ込む。すぐに舌を絡めとり、好き放題に搾り取る。

 剥き出しの尻を鷲掴みにして、柔らかさとスベスベした肌を堪能した。

 

 あえて相手の反応などお構いなしに愛撫を施し、ミナミの体を開発していく。

 自分以外の手に触れられるのは、初めてなのだろう。処女特有の敏感さで、指が這う度に、舌と舌が絡まり合う度に、体が跳ねる。

 

 自分の指しか知らない秘部に、俺の愛撫を教え込み、蕩けさせていく。指を入れた事すらなかった秘部が、どんどん柔らかく、熱くなっていく。ミナミの腰は既に力が入らなくなっており、壁に押し付けられてようやく立っている状態だ。

 もう、突き込むのに支障がないくらいだ。

 随分と興奮しているらしい。或いは、それだけ延々と自慰を繰り返していたのか。

 

 蹂躙していた口を離すと明らかに理性を失いかけている目で、チロチロ舌を突き出して追いかけてこようとした。

 それに応えず、片手で寝巻を引き裂くように開けさせる。

 

 

「せ、先生…どうして、こんな…」

 

 

 言われるままに、オナニー真っ最中の恰好で扉を開けたお前が言えた事か? 清純そうな顔をして、随分派手に弄り回したみたいじゃないか。

 週に何度自分でシてるんだ? オナネタが何なのか、言ってみろよ。

 

 

 

「は、はうぅ…………最近は……ま、毎日…しています…。何回しても…物足りなくて、眠れないんです…」

 

 

 オナネタは? どんな妄想をしてたのか、口にしてみろよ。こうやって、物みたいに扱われたがってたんだろう?

 

 

「っ………さ、最初は…その、小さなカワイイ子供と…するのを、妄想してました…」

 

 

 ショタ趣味か。言われてみれば、それっぽい。これは矯正してやらにゃならんな。

 

 

「でも、あの日から……血の力を得るのに、貴方に抱かれてる事を聞かされた日から…ずっと、こうして貴方に犯される妄想が、頭から離れなかったんです…! いいえ、もっと前、貴方と初めて会った時から、ずっとあなたの事が頭に浮かんでいました…」

 

 

 初めて会った時…ああ、バスでアラガミに追われていたのを助けた時か。俺は記憶が残ってないけど、あそこに居たのか。…因果の光を浴びたって事だよな…。それでこうなったか。こりゃ、遅かれ早かれ関係を持ってたな。

 そんな事を考えている俺を他所に、ミナミの独白は続く。

 

 

「ずっと『そんな事考えてない』って誤魔化してきましたけど、その妄想じゃないと、満足できなかったんです…。でも、駄目だって思う程、乱暴にされるって思う程、頭に過ぎった時に、凄く興奮して…こうして、貴方に迫られる事を想像しただけで…!」

 

 

 ブルリと体を震わせるミナミ。淫靡な独白だけで、気をやってしまいそうになったらしい。因果を浴びた結果なんだろうが、これは元々の気質もあるな。

 その証拠に、ほら。そこの手鏡を見てみろよ。

 

 

「あ……ぁ……っわ、わた、し、こんな、表情…」

 

 

 自分の表情が信じられないとばかりに、震える手で吊り上がった口元に触れるミナミ。

 人に知られるにはあまりに屈辱的な事を自白させられ、ムードも何もなく迫られ犯されそうになっていると言うのに、彼女の顔に浮かぶのは悦びと興奮と期待。そして扉を開けた時には残っていた後悔が、愉悦に様変わりしていた。

 悦楽に染まり切ったその表情は、普段のオナネタにしているような子供に見せたら、女性に対するトラウマができそうな程だった。

 

 ショックを受けているミナミを、お構いなしに反転させる。フルヌードになったミナミの背中を堪能しながら、壁に手をつかせて腰を突き出させた。

 立ちバックという初心者には厳しい体勢だが、反抗する様子すらミナミは見せない。

 唐突過ぎる展開と、体を蕩けさせる性感と、心ならずも感じる愉悦に、完全に処理能力を超えてしまっているのだろう。

 

 ああ、でも、俺に言わせればそれは簡単な理屈だった。

 珍しい事でもない。

 

 なぁミナミ。以前に一緒に飯食った時、お前は言ってたよな。「もっと新しい私に挑戦してみたい」「本当は何をやりたいのか迷っている」って。

 それは本心なんだろうが、一方では感じていたんじゃないか? 「このご時世に、そんな余裕のある生活を送っているなんて、傲慢なんじゃないか」って。

 

 

「っ!」

 

 

 図星か。それが本当に、持てる者の傲慢なのかはさておいて…結局のところ、お前の冒険心はな、破滅願望の裏返しなんだよ。いや、破滅願望が冒険心の裏返しなのか。

 

 

「破滅…願望…?」

 

 

 お前みたいな、真面目で自分を律している人間には珍しくもない。

 常識、良識、自尊心、それまで積み上げてきた物…それらを全て放り出して、ただ原始的な悦びに浸ってみたい。生真面目なヤツほど、今の自分への不満を気付かない内に貯めこんで、それをぶっ壊してくれる変化を期待する。

 『冒険』という切っ掛けを得て、『破滅』という変化を期待する。

 勿論、誰だってただ破滅するのは嫌だから、状況や場所を限定したり、セーフティネットを設けたりもする。

 

 お前のコレも、その一つに過ぎない。

 誰にも知られないこの時この場所で、意に沿わない行為で蹂躙される。それがお前の『破滅』だよ。

 

 

「私の、願い…破滅…」

 

 

 耳元で囁く言葉を、うわ言のように繰り返すミナミ。半ばコジツケ染みた理屈だったが、ストンとミナミの中に落ち着いてしまったらしい。

 中途半端に頭がいいから、理屈をつけてやれば引っ掛かると思ったが…思った以上にうまく行ったようだ。

 

 ま、要するに、『お前はムッツリスケベだ』って言ってるだけなんだけどね。

 

 ほら、破滅の時間だ。股を開け。

 命令すると、今まで以上に恍惚となった表情で、自分から尻を突き出した。柔らかい尻肉を自ら掴み、広げてみせた。

 処女だと言うのに、臭い立つ色香と欲望を滲ませ、広げた媚肉と媚肉から粘液の糸を滴らせながら、ミナミは自分の破滅を強請る。

 

 

「どうぞ…お好きなように、使ってください…。私を、壊して…!」

 

 

 

 吊り上がる口元を自覚しながら、一気に貫いた。

 

 

 

「~~~~~!!!!!」

 

 

 声帯? そんなもんマトモに動いてねぇよ。

 だってオカルト版真言立川流、普通に使って貫いたからね。痛みなんか感じてる暇もないよ。いや、ミナミが痛いのも思い出にしたいなら、考えないでもなかったけどね。

 お望み通り、徹底的に蹂躙する。

 呼吸もロクにできない体を壁に押し付け、歪む体の感触を堪能しながら突き上げる。

 

 明らかに酸素が足りてないミナミだが、異物を受け入れた事のない膣内は、もっと奥へと言いたげに締め付け、誘ってくる。滴る赤い血が信じられないくらいの感度だ。

 中を引っ掻き回し、急所を探して次々に責める。ミナミの中に残る大事な『何か』を、次々に破壊しているのが分かる。それでも止めない。止められもしない。

 

 

 こうして乱暴に追い詰めていく間に、ミナミは何度絶頂したことか。数える気にもならない、と言うよりは数えられない、と言った方がいいだろう。処女喪失したばかりだと言うのに、既に体はイキッ放しの領域に放り込まれている。

 もう、何をやっても快楽しか感じない。となると、後はもう俺の気持ちいい様に動けばいい。

 

 如何に具合がいいとは言え、テクニックも駆け引きもない締め付けだ。やろうと思えば幾らでも耐えられるが、敢えて我慢せずに精を放つ。

 熱い感覚が膣内で爆発した瞬間、ミナミは悪霊にでも憑かれたのではないかと思うくらいに痙攣した。

 

 動きを止めると、荒く息を吐きながら、ズルズルと壁伝いに崩れ落ちる。言葉を出す気力もないようだ。

 

 

 

 だが容赦せぬ。

 脱力した体を抱え上げ、ベッドの上に放り投げる。壊れた人形のような扱いに抗議する事もなかったが、徐々に息は落ち着いてきたようだ。流石にレッスンで鍛えているだけの事はある。

 お構いなしに、俺も服を全て脱いで覆いかぶされば、そこにあるのは後悔と、期待と、そして何よりもある種の狂喜的な興奮。『破滅』に身を委ねる、禁忌のヨロコビ。

 

 残っていた服や下着を引き裂き、逃げようとする腰の抵抗を容易く押さえ込み…2回戦の前に、ふと思い出した。

 

 

 ついでに言っておくが…これで血の力に目覚める事は無いからな。そういうつもりでヤッてない。

 特に優遇するつもりもない。恋人扱いするつもりも、奴隷にするつもりもない。お前はただ単に、性欲を持て余していた所に俺の名前を呼びながらオナッてたから、丁度いいと思って犯されただけだ。

 破滅願望云々も、適当にコジつけただけだ。(あながち外れてないとは思うけど)

 分かるか? お前は何の意味もなく、自分からレイプされただけなんだよ。

 (言葉にすると最低過ぎる)

 

 

「………!」

 

 

 

 息を呑むミナミ。ショックだったんだろう。ショックではあったんだろう。

 だが、彼女の破滅願望は、それすら悦びに変えてしまう。筋を通さず通りも通らず、年頃の少年少女なら必ず行う発散行為をしていただけで、理不尽に犯され、処女を失う。

 そして、今後も絶対に忘れられない肉の疼きを植え付けられる。

 

 取り返しのつかない、破滅だ。だからこそ、この女は悦ぶ。

 それを悦んでいる自分を否定しようとするように、僅かに回復した体力でもがこうとする。だが無駄だ。

 

 

 

 トドメを刺そうと、もう一度肉の穴に潜り込む。その感触は明らかに先程よりも熱く、粘着質に滑っていた。

 正面から乳房を鷲掴みにし、唇に指を突っ込んで舌を摘まんで言葉を封じ、乱暴に腰を振る。逃げる事もできないミナミは、ただ快楽の嵐に翻弄されるしかない。

 

 清楚に見える美少女が、俺の肉棒で壊されていく瞬間ってのは、どうにも支配欲が滾るなぁ。

 やろうと思えば、今この瞬間にでもミナミの心の最後の堤防を突き崩す事はできる。そうすれば、俺に犯される為なら何でもする、都合のいい肉奴隷が一丁上がりだ。

 

 が。

 

 

 犯され続け、身も心も絶頂しようとするミナミを見る。…生憎、俺はその堤防を崩す気はないのだ。

 人生で二度目の、頭がパーになるような絶頂を迎える寸前で。

 

 

 

 はいここまで。

 

 

 

「………ぁ? …ぇ?」

 

 

 唐突に肉棒を引き抜かれ、放り出されて戸惑うミナミ。

 そりゃそうだわな。どう考えても、そのままイキ狂わされる流れだったろう。

 

 しかし。

 

 言っただろ、俺はミナミを奴隷にするつもりはないんだよ。このままイかせたら、完全に味を覚えて、どうやったって戻れなくなるぞ。

 自覚はあるんじゃないか? もう自分が、ギリギリ崖っぷちに居る事が。

 ここが、まだ戻れるギリギリのボーダーラインだ。『ちゃんと手加減してた』からね。

 

 

「あ……ぁ……う……」

 

 

 急速に頭が冷えてきているんだろう。欲望の滾りは心も体もそのままに、自分がどんな状況にあるのか把握できる。そのクセ、冷静な判断は取れやしない。そんなちぐはぐな状態だ。

 勿論、そういう精神状態になるのを狙っての行為だったんだけど。

 

 ナニをギンギンの状態にしたまま、ソソクサと服を着ていく。暴れん棒のお陰ですごーく着にくい…フリをして、ゆっくりと。

 その間、ミナミは荒い息を吐くだけで動こうとも、体を隠そうともせずに、小さな呻き声をあげて俺を…正確に言うなら、ブラブラ揺れる棒を見ていた。

 服を一枚着る度に、ミナミからの視線が強く、熱くなるのが分かる。

 

 ズボンを最後に履こうとした時、ついにミナミは声をあげる。

 

 

「待って…ください……」

 

 

 ん、何?

 クチュクチュと、卑猥な音がする。

 

 目をやれば、予想通りに秘部を弄り回すミナミ。大きく俺に向けて股を開き、突き出す…と言うよりは、捧げようとするかのように掲げている。

 開いた大股から、最初に注ぎ込んだ白濁が滲み出ていたのを自覚しているのだろうか。

 

 

「続きを、してください…。後戻りなんて、出来なくても構いません。いいえ、もう考えもしません。奴隷で、いいです…奴隷がいいです! 貴方の奴隷に、玩具になりたいんです! 好き勝手に、壊れるまで弄んでください!」

 

 

 …ふぅん?

 心の底から吐き出された叫びは、確かにミナミの本心だった。一時の劣情に任せて、どうしようもない道に突っ切るような本心だったが、だからこそミナミの本質から引き出された言葉だった。

 ただし、彼女の身を芯から震わせている悦びは、俺に対する行為によるものではない。

 

 

 『摂り返しのつかない事をしてしまった』という、破滅のヨロコビだ。

 コジつけとは言ったが、破滅願望に近い物がミナミの中にあるのは事実だろう。後先なんか放り出して、ただ目の前の浅ましい悦びの為に、何もかもを投げ捨てた快感。積み上げてきた物が大きければ大きい程、崩壊のカタルシスは大きくなる。

 

 

 既にミナミは、崩壊を始めた。ならば…カタルシスをより大きくするには、その崩壊を成大な物にしてやればいい。塔が崩壊するのなら、その土台となっている大地まで崩落させるのだ。

 俺は気が乗らないとでも言う風に溜息を吐き、椅子にぞんざいに腰かけた。

 

 

 奴隷でも穴でもいいけど、なりたければ、勝手になれば? 丁度よく勃ってるし、使いたいなら使っていいよ。

 俺は何もする気はないけど。

 

 

「は、はい!」

 

 

 相手にされてない、お前など価値が無いと言われているようなものなのに、ミナミは昏く退廃的な笑みを浮かべ、俺に擦り寄ってくる。

 振り撒かれていた健康的な色気は、堕落の象徴であるかのように、空気すら蝕む淫欲に変わっていた。

 

 蛇が大樹に巻き付くような動きで俺の体を這いあがり、器用に秘部と、上を向いた俺のモノの照準を合わせてみせる。全く経験がないと言うのに、よくこうまで正確に合わせられるものだ。淫らな本能の賜物か。

 一目見ただけでセックスの事しか頭にないと分かるような、下等な淫魔のような表情を浮かべ、ミナミは一瞬だけ躊躇した。

 

 その時だけ、冷静で自立心の強い、本来の彼女に立ち戻ったようにも見えた。

 

 だが、それも所詮は崩落の瞬間を強く意識する為の儀式でしかなかったらしい。自ら腰を落とし、串刺しになった瞬間には、またしてもケダモノの表情に戻っていた。

 防音性のこの部屋でも、抑えられるか不安なくらいの矯正が響く。

 

 無理もない。ミナミにとっては、これ以上ないカタルシスだったろう。

 ある意味、理想的な初体験とも言えるかもしれない…逆の意味で、だが。

 

 騙されて犯され、どうでもいいと放り出され、自分の全てを捨てて望んでも見向きもされず、挙句最後は自分から全てを差し出して『破滅』を貪る。

 このまま妊娠して、アイドル引退にでもなれば完璧か。

 

 が、それはちっとつまらない。男とは、付加価値やオマケに拘る生き物なのだ。単なるミナミを手に入れるより、多くの人が憧れるアイドルのミナミを意のままにする方が、俺が楽しい。

 だから、妊娠はさせずに、これからも表のアイドル業、裏では気が向いた時に手に取られて、飽きたらポイッと放られる玩具(と言う風体)でいてもらう。

 

 

 差し当たり……俺をオカズにしていい空気吸ってる(まぁ、俺がそう仕向けたんだけど)ミナミを、本格的にヨがらせるとしますかね。俺基準で。

 

 

 

 

 




予定外の濡れ場が入りましたが、歩くセックス故致し方なし。


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342話

 

 

神戻月

 

 

 

「ミナミってさ、最近何か雰囲気変わってない?」

 

「そうそう、以前よりこう…色々深みが出てきたっていうか…」

 

「そうかな? 私は特に変わってないつもりだけど」

 

「そ、そう…? なんだか、退廃的な雰囲気が、ちょくちょく感じられる……ような…気がする…」

 

「退廃的って…ひどいなぁ。本当に、私は何も変わってないって」

 

 

 …血の力体得の為のレッスンの後、聞こえた会話です。

 いやー、女はみんな女優だって言うけど、アイドルは特にそうなんだね。ついでに、女優であると同時に探偵でもあるのかもしれない。

 

 あれだけ乱れ、自分自身を望んで貶めたミナミだが、普段の生活は見事に平常運転を装っている。

 まぁ、装っているだけで、中身はお察しだが。さっき擦れ違い様に尻を撫でたら、昨晩も見た淫魔の表情が一瞬だが顔を出した。他人に見られてないと思って、下品に舌なめずりまでしていたものだ。

 

 ついでに言うと、レッスンの休憩中に同僚と話しているミナミを内面観察術で見てみると。

 

 

(オナニーしたい弄り回したいセックスしたい今すぐこの場であの人に押し倒されてレイプされて皆の前で奴隷宣言しちゃいたい恋人と優しくキスしている下で御座なりに犯されて種付けされたい)

 

 

 なんて、頭の中が文字通りセックスの事で一杯である。思っていたより、この子の破滅願望は強かったのかもしれない。

 ま、それで逃げるようじゃ話にならない。性欲も破滅願望も、まとめて飲み干して、飴玉みたいにしゃぶり尽くしてくれるわ。

 

 

「なんですかねー…たった一晩の我慢もできないんですか、貴方は。誤魔化しても無駄ですよ。見れば一目瞭然です」

 

 

 できましぇん! できたとしても、目の前に転がってる、食べられたがっているご馳走放っておくなんてできません。

 …あっ、レア、ハイヒールの踏み付けはシャレにならない。地味に痛い地味に痛い、俺じゃなかったらゴッドイーターだって大ダメージだって。

 あと、普段通りのシエルの半眼がジト目に見える。視線が痛い。…ヤキモチという感情を覚えてきたかな。成長の証と思っておくか。

 

 

「…私がジト目になっているのか、成長しているのかはともかくとして…今日もナナさんの治療ですね。夢の中に入れるようになったそうですが、手応えはどうでしょうか?」

 

「そうね…。明らかに、先日までに比べて良くなってはいるわ。元より、醜く歪められた思い出が本当だった、なんて思いたい人は居ないでしょう。優しいお母さんの記憶こそが本当だったと思えるようになってきているみたい」

 

 

 効果はあるのか…よかった…。

 となると、問題は最後の難関、暴走による母親の死因となった罪悪感か。こればっかりは本来のものだしな…。

 

 

「それこそ記憶を歪めるという手もありますが、あまりとりたい方法ではありませんね。さ、とにもかくにも、今日もお昼寝の時間ですよ」

 

 

 エロい意味ではない。ナナの夢に入る為、彼女の睡眠時間に合わせて俺も眠っているのだ。

 大分回復してきたナナだが、精神的に弱っているからか、それとも単にあまり動かない為か、日中でもよく眠る。それだけ夢に入り込むチャンスが多いから、いい事…なのかな?

 

 入り込んだ夢の中は、昨日までとほぼ同じ。ただ、感じの悪い母親のイメージはどんどん薄れ、輪郭も朧になっていっている。それだけ上手く行っているんだろう。

 …ただ、最期のシーン…母親や、守りに来たゴッドイーターが全滅するシーンだけは、依然として全く変化がない。やはり最大の難関はここか。

 こればっかりは、ゲームのシナリオ通りの方法で行くしかないんだろうか? 確実性もないし、あまりとりたい手段ではない。

 

 

 夢が終わり、世界が薄れていく。消えていく世界の向こうで、泣いている子供のナナと、それを抱きしめようとする母親の姿が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 そして目が覚めたら、特性の手錠やら何やらで束縛されていた。

 

 

「言うまでもありませんが……たった一晩も我慢できずに、教え子に手を出したオシオキの時間です。まさかお咎めなしだなんて思っていませんよね?」

 

 

 アッハイ。

 

 本日のオシオキ内容は、踏み踏みプレイでございました。棒は勿論、タマタマやら顔やら乳首やらを、スベスベの足で踏まれ撫でられ摘ままれ、突き出された足の指に舌を這わせ…。

 中々に屈辱的かつ興奮するプレイだったけど、一番きつかったのはアレだ。

 

 射精無し。

 

 最後は3人の足でモミクチャにされたんだが、出そうになった瞬間にストップされた。

 繰り返しの寸止めじゃない、「今日はもうおしまい」だ。

 

 …これは…色んな意味で急所にクリティカルヒットですわ…。寸止めと言う程でもなく、出してスッキリできる訳でもなく、逆襲しようにもそこまでテンションが上がってない状態。俺じゃなくて、レア達のテンションがね? 性欲の向ける先を、突然取り上げられたような気分だった。

 直接的な触れ合いが少ないプレイだったから、アリサ達の方の昂ぶりはそこまで強くなかったんだろうなぁ…。他の行為であれば、俺を責めると言うのは媚毒に自ら触れに来るようなものなので、自分にもダメージが入る。それを防ぐ為の方策だったんだろうか。

 

 

 

 

 とりあえず、ヤられっぱなしなのは悔しいし、ムラムラを発散しないとそれこそ手頃な女の子を襲いそうなので、しっかりやる事やっておいたが。

 3人がバラバラに行動し始めた後、各個撃破を狙って一人一人強襲しました。

 …と言っても、皆それを予測していたのか、襲われやすい位置に居たけどね。近くに暗がりや使われてない部屋がある場所とかを通ってた。

 俺に襲われるのを想像して興奮したのか、それともさっきの踏み踏みプレイでやっぱり興奮していたのか、即突っ込めるくらいにヌレヌレでございました。

 

 特にシエルは凄かったなぁ…。何が凄かったって、恰好がね。下着がね。

 服はいつも通りのゴスロリっぽい恰好だったんだけど、下着がまぁアダルティでねぇ…。童顔巨乳無垢少女が、むしろレアが着ていそうな黒下着…。もう映える映える。

 脱がすのが勿体なくって、人気のない通路でじっくり鑑賞会しちゃったよ。恥じらいを覚えたシエルが実に愛しい。涙目にするのが超楽しい。涙目になっても、見せてと頼めばどんなポーズでも取ってくれるのがすっごいグッと来る。

 

 と言う訳で、シエルには一際念入りにお返ししておきました。

 

 

 

 

 

 

 さて、そのような不謹慎な遊びに精を出しまくっている訳ですが、極東は本日も色々な意味で地獄であります。

 狩っても狩っても湧いてくるアラガミ、脈絡もなく現れる新種、ゴッドイーター以上に動ける逸般人、極東を陰で牛耳っていると噂されるマッド、表立って支配している支部長、そして見事に嫁(男だが)を押し倒して食っちゃった特異点。

 更には、人知れず潜伏しているノヴァ。

 

 …本格的に阿鼻叫喚の様相を呈してきたな。

 その地獄に、新たな仲間が加わりました。

 アメリカからやってきたゴッドイーター、ケイさんです!

 

 

「ハーイ! みんなヨロシク!」

 

 

 えーと、いつぞやムーブメント師匠と一緒に居た方ですな。ロミオにハグしてたの覚えてますが。

 また極東に戻って来たんですか。

 

 

「ええ。本国から、アナタに接触しろって命令が来ててね」

 

 

 俺? …ああ、血の力とか、黒蛛病の治療方法を覚えて来いって事ね。

 

 

「そういうコト。噂で聞いたけど、あるんでしょ? 手っ取り早く覚える方法」

 

 

 …どこまで拡散してんだ、噂…。ロミオの彼女に口留め…してももう無駄か。

 つーか、その噂を知ってるって事は、どういう方法なのかも分かってるのか?

 

 

「オフコース! 誰とでも、なんて安い事は言わないけど、私だってキライじゃないわ。その気があったら誘ってね?」

 

 

 …あっけらかんとしてるなぁ。このご時世だし、本能に忠実になるのも無理はないが。

 と言うより、その気があったら誘え、って…積極的なのか消極的なのか。

 

 

「ま、実際のトコ、私はアイドル候補生の護衛なんだけどね。そっちが真っ当な方法で黒蛛病の治療法を覚えてくれれば万々歳、私はあくまで保険って事よ」

 

 

 ついに海外からアイドルが送り込まれてくるようになったか。このご時世に、アイドル業界は戦国時代に突入するようですな。

 しかし、随分とあっけらかんと上の思惑をバラすね。

 

 

「アメリカだからね! 色々あるのは否定しないわ。でも、アメリカは陰謀の国じゃないの。神と、夢の国なのよ。アラガミって意味じゃなくて」

 

 

 宗教的な意味ではないのも分かるよ。

 アメリカンドリーム、か…。このご時世であっても、強く輝く言葉のようだ。

 とりあえず、ミナミに手ぇ出したばっかりだし、流石にすぐにだと皆怒りそうだ。もうちょっと様子見しとこ…。

 

 

 

神戻月

 

 

 ナナの調子が段々良くなっている事もあり、ブラッド隊の雰囲気は明るい。今日なんかは、珍しく自分から外に出たいと言い出した。今まではずっと、ベッドの上で脱力して死んだ目をしてるだけだったもんな。流石にトイレは行ってたけど。

 

 非番だったギルと俺が一緒に付き添ってアナグラの外に出ると、久々の外の空気と日の光を浴びて、ナナのネコミミ髪がピクピク動く。マジで耳みたいだな。

 ちょっとは元気が出るかと思って、ペパロニ嬢ちゃんの飯を食いに行った。

 …流石はナナ。精神状態最悪でも、食い意地は張っているらしい。

 

 

「何だか暗いっすねー。何があったか知らないっすけど、とにかく満腹にしてから考えるっすよ!」

 

「よくわかんないけど、アレっすよアレ! 吐くなら飲むな……じゃない、はくーなまたーた、ってヤツっすよ!」

 

 

 パスタを乗せた皿を突き出しながら、ぺかーっと笑うペパロニ嬢ちゃん。いっそ後光すらさして見える。実際、このご時世でやってる事を考えると、聖人並みの所業だし。

 しかし、はく…何?

 

 

「ハクナ・マタタ、じゃないか? どこの言葉だったか忘れたが、『どうにかなるさ、くよくよするな』って意味だったと思う」

 

 

 妙な事を知ってるな、ギル。

 

 

「昔、世界がこんなになっちまう前の古典映画を見た事があって、そこで出てきた。子供のライオンとスカンクとイノシシが歌ってたシーンが、妙に記憶に残っててな」

 

 

 ……あれ、それってひょっとしなくても、サバンナのライオンが王様のアレ…?

 境遇的にもかなりピッタリだぞ。自分のせいで親が…ってとこは。これ以上は怖いから何も言わないが。

 

 ハクナ・マタタの一言で気が楽になった訳じゃないだろうが、腹が満ちて、ペパロニ嬢ちゃんの笑顔に元気をもらったのか、またナナは少しだけ立ち直ったようだった。

 

 

 

 

 そう言えば、何だかんだでアンチョビに目をかけるって約束しちゃったけど、具体的な事はあまりやってないな。レッスン時、ちょっと多めに指導をするようにはしてるけど。

 一度、ちゃんと話をしてみるかな。レッスン以外に何かほしい物はないか、とか…。開祖からそう聞かれても、委縮するだけか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナナの気晴らしの散歩を終えてアナグラに戻ると、タカネが待っていた。

 なんだ、もう今日のレッスンは終わりなのか? 相変わらず汗一つ掻いてないが。

 

 

「ええ。どうにも、やはり人の体に合わせた運動では、そうそう疲れる事もできないようです。心地よい疲れ、というものにも興味があるのですけども…。それはともかく、ミナミさんのお味は如何でした?」

 

 

 隠し味が利いてたと言うか、隠し味を引っ張り出すのが何より楽しかったと言うか…。

 と言うか、噂になってんの? 本人は……意外と口外しそうではあるけど。

 

 

「いえ、日記を読んだだけです」

 

 

 ふーん……え? ミナミ日記つけてんの? と言うか勝手に読んだの?

 

 

「まさか。あなた様から借り受けた日記です。分からない言葉が多くありましたが、誰と何をしたのかくらいは雰囲気で読み取れます」

 

 

 

 ………ん? いやいや、俺そこ日記書いてないよ。ミナミに手を出したのは、タカネに日記を渡した後だよ。

 どこで日記書いてたってのさ。

 ちなみにここ数日、日記自体書いてないんだが。

 

 

「やはり…気付いておられなかったのですね。では、これをどうぞ」

 

 

 

 

 

----------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 ………タカネから日記を返してもらったんだが…最後のページを見て、超混乱した。

 え、ナニコレ。何で日記が俺の手元から離れてる間に、こんな事書かれてんの?

 タカネが書いた…訳じゃなさそうだ。仮に俺の筆跡を完全にコピーしたのだとしても、こうまで俺の言動と考えを見通せるとは思えない。書いた覚えのない日記を読み返して、「ああ、あの時正にこんな事考えてたな」と思うくらいには、俺の内心を正確に書き記している。

 そもそも、タカネはモンハン世界の文字を理解できてない。暫く読んで(眺めて)いたようだが、それだけで理解できる筈もなかろうに。

 

 

「自分の事は分からないもの、と言ったでしょう? つまりその日記こそが『あなた様の事』なのですわ」

 

 

 言ってる意味がよく分からんぞ。この日記が、俺の事?

 いや……事、じゃなくて、俺? つまり…この日記イコール…?

 

 

「あなた様の、言わば『本体』ですわね。分かる部分だけでも読んできましたが、今まで不自然だと思われなかったのですか? 日記であるならば、その記述は全て…とは言わないまでも、大部分が過去形である筈。何せ、日記とはその日に起きた事を書き記す物なのですから。ですが、あなた様の書かれた日記は、これこの通り、まるで『その場で現在進行形で起きた事を書いている』かのようではありませんか」

 

 

 い、言われてみれば…。

 いや待て、思い返せば、ペンを持って日記を書いたのは、いつ以来だ? 『日記を書いている』という感覚があったから特に疑問に思わなかったが、俺は毎日どのタイミングで書き記していたんだ?

 狩りの時もセックスの時も、時間が惜しい状態が続いた時でも、平然と日記は書かれていた。全部が全部じゃないが、「日記に向かってる暇なんかないだろ、どう考えても」って時でも、何時の間にやら書かれていた。と言うか書いていた。

 ちょっと見返しただけでも、現在進行形で書かれている部分が多すぎる。

 

 そもそもの始まりからして、俺はこの日記を何処で手に入れた? 変える事もページが埋まり切る事もなく、どれだけ使い続けている?

 日記…日記…書き始めたのは、MH世界。ふくろ を使えば、別の世界にアイテムを持っていける事を発見したのを切っ掛けに書き始めたんだ。この時はまだ、自分の手で書いていた覚えがあるが…何処で日記を買ったのかは書いてないし、覚えてもいない。

 題名も何もない、単なる冊子だから、どの世界で手に入れたものかも分からない。

 

 つまりこれは、何か? いつからかはともかく、俺からこの日記へ、テレパシーみたいなカンジで文章を送り付けていたって事なのか?

 

 

「少し違うかと。どちらかと言うと逆では? 情報を得ているのはあなた様の体側。思考しているのが、この日記なのだと思われます。人間で言えば、脳だけが別の場所にあるようなものでしょうか」

 

 

 脳が違う場所にあっても、目や体からは正常に信号が送られてきているから、全く違和感を感じず、体の場所に居るように感じるって事か?

 

 

「おそらく。…ふふっ、あなた様自身も知らない、誰にも知られてない、誰にも見られた事のない秘密の部分…堪能し、愛でさせていただきましたわ」

 

 

 ぬぅ…なんかこう、言いようのない羞恥心が…知らない間に、知らない人にケツの穴をじっくり見られていたような感じが…。いや、この場合ケツの穴っつーより、内臓に近いのか? 「うわーっ、心臓の色見られちゃった! ハズカチー!」なんて感じる感性は持ってないが。

 しかし何だな、この日記が俺の本体って事は……この日記を壊されたりしたら、俺は死ぬ?

 

 

「…これは、あくまで推測でしかありませんが…違うかと思われます。一頻り愛でて分かりましたが、この日記は…そう、水面に映った月のようなものです。あなた様の本質、或いは本体…いわば『魂』と言う目に見えない、触れる事もできない物があり、その影が現実という水面に映し出されている。月に直接触れる事は出来ませんが……我々は例外として……水面に波紋を立てたり、別の影を重ねたりして形を変える事はできます」

 

 

 俺がこの日記に字を書きこむのは、水面に映る月を飾り立てているようなものだと?

 うーむ……相変わらず、俺という生物は訳が分からんな。どんどん後付け設定が追加されて、もう情報の整理もできんくらいだ。

 

 

「ふむ、興味深い話だね」

 

 

 む、榊博士? ………さっきから近付いてきていたのは感じてたけど、声が聞こえるような距離じゃなかった筈だが?

 

 

「はははは、この極東で私の拾えない情報は無いよ」

 

 

 ………このマッド…遠回しに盗み聞きしたって言ってやがる…。

 

 

「さて、私の情報源はともかくとして……君は情報生命体であると自認しているのだったね。そもそも、0と1の集合体とも呼べる情報生命体が、何故物質として存在できるのか、気にならなかったのかね?」

 

 

 考えるだけ無駄だと思ってました。俺がどんな生物であれ、俺の意思に従って行動するのには変わりない訳ですし。

 

 

「うむ、シンプルで実に結構。だが、気にはなっているようだね。この際だから、私が立てた仮説を話してあげよう。……興味ない? いいから聞きたまえよ。折角考えた仮説なんだし、一度くらいは語らせてくれてもいいじゃないか」

 

 

 意外と…でもないけど、話したがりですよね博士って。いや、榊博士に限らず、科学者の類はみんなこんなもんかな?

 タカネが蚊帳の外になってるようだが、榊博士の仮説とやらに黙って耳を傾けていた。…俺の事だから興味がある……のか? それとも取り敢えず聞いてるだけか。

 

 まぁ、俺としても気にならないではないし…。

 

 

「では、なるべく簡潔に述べよう。実は仕事途中だしね。面白そうな会話をしていたから、抜けてきたんだ。…おっと、早速話が逸れたね。君は情報生命体である。これは確かな事だろう。何処かの世界の情報通信網の中で残骸となったデータが蓄積され、それが何らかの切っ掛けでまるで人間のような意思を持って動き出した。君が3つの世界を転々としている理由や、物質としての性質を持って活動出来ている理由は分からないけどね」

 

 

 肝心のトコが抜けてるなぁ…。で?

 

 

「新しく分かった事は、君の元になったデータの詳細さ。タカネ君、君はその日記が、何かの影が具体化したものだと言ったね。その影の元になったデータ、残骸となった切れ端を纏めるプログラム。それは……」

 

 

 

 

 

 

 

「おそらくメモ帳だね」

 

 

 

 

 

 …は? メモ帳? 

 って、文字通りの手帳じゃなくて、どのパソコンにもほぼ例外なく入ってる、アプリケーションのメモ帳?

 

 根拠や成否はともかくとして…なんつぅか、地味だな。別に、OVERSシステムみたいな意味不明でデウス・マキナ的プログラムがいいって訳じゃないけど。

 

 

「とても大事で、汎用性の高い機能だよ。文字通りのメモに仕える。文字を組み合わせて絵を描く事もできる。画像データだって極端な話、メモ帳として開けない事もない。プログラムのソースを書くのだって、この機能が必須だ。シンプルな機能であるが故に、多くの情報を書き込み保存できる。ついでに言うと、君、パソコンがパソコンである為の3つの要素って知ってるかい?」

 

 

 あー…アレか、記憶装置、演算装置、入出力機能ってアレの事か?

 

 

「そう。記憶装置が日記。演算装置が君の『魂』。入出力機能が体と考えると、君が情報生命体だって事がよく分かるんだね。元になったデータも、結局は世界中のパソコンのデータの残骸だからね」

 

 

 う、うーん…? それは流石にコジツケが過ぎるような…。いや別にそれはそれで構わないんだけれども。

 と言うか、俺ってメモ帳だったのか…。

 

 

「ついでに言うと、君の言う ふくろ は、メモ帳にカット&ペーストしてるようなものじゃないかな。物質を情報に変換して保存し、必要な時にそこから取り出している」

 

 

 …この理屈で行くと、取り込んだ物質はいくらでもコピーできる筈では?

 

 

「切り取りは出来ても、コピーができないんじゃないかな。回復錠を10個 ふくろ に居れれば、『回復錠』というデータが10個貼り付けられる。取り出す時は、そのデータを必要な分だけ切り取りする、って感じかな。…ま、現状で考えられるのはこの程度だね。これを検証したり、応用した技術については、また今度にしようか」

 

 

 あ、ちょっと博士!

 

 

「語るだけ語って、去ってしまわれましたわね。科学者と言うのは、そういう物と聞きますが」

 

 

 あの人は特別だよ………いやマッド連中の中ではそうでもないか? 話が通じるようで通じない…。

 しかし、メモ帳ねぇ…。エクセルの方がよかったとは言わないが。

 

 

「メモ帳でも電卓でも、私は一向に構いません。あなた様自信もそうでしょう」

 

 

 いや、それはいいんだけどさ…。さっき榊博士も言ってたじゃないか。「プログラムだって書ける」って。

 もしかしたら、自分で自分の体を改造してナニを2本にしたり触手にしたり、取り込んだアイテムを改造したりできるんじゃないかなーと思ってな。

 

 ま、やるとしたら慎重に慎重を期さないとな…。回復錠が毒薬に代わるくらいならまだしも、何らかの間違いで放射能を放ち始めたり、空気に触れた瞬間に核融合してドカン何て事になりかねん。

 

 

 

 



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343話

 

神呑月

 

 

 ぬわぁぁぁぁぁぁん疲れたもぉぉぉん

 

 

 

 

 

 

 どころじゃない。マジか。またやらかしちまったか。

 ナナだけならまだ分かるが、この子は流石にちょっと…。どう顔合わせりゃいいんだ…。切腹か? 去勢か? どっちにしろ次のループに行けば復活するよ。

 

 ハァ……どうにもこうにも、とりあえずナナの力の暴走は収まったし、見た所既に制御下に置いたようだし。トラウマを完全に乗り越えられたのかは本人にしか分からないが、以前のような快活なナナが戻って来た。

 それは喜ばしいんだが。

 

 

 

 ……とりあえず、最初から書いていこうか。現実逃避も兼ねて、いつの間にか書かれてた形式じゃなく、しっかりとペンを持って。

 

 

 

 まず、フェンリルも企業である以上、月末月初は無駄にクッソ忙しくなる訳だ。今まで何度も経験した事だな、棚卸やら決済やら。

 俺はフェンリル職員じゃないんだが、立ってる物は何でも使えと言わんばかりに巻き込まれた。何だかんだで久しぶりだなぁ…。

 かつてはソーマがミッションに逃げたのを見て、ブツブツ文句言ってたのが懐かしいわ。

 

 ちなみにそのソーマは、シオと協力して順調に業務をこなしていた。なんかムカついたから、押し倒してしまえとシオを嗾けておいた。

 

 

 それはともかく、とにかく忙しいこの時期。最近はナナの世話をしているアリサ達も、事務作業に駆り出される。そうなると、二人以上付き添っていたナナの世話役が、レア一人になっちまうんだよ。ちなみにレア自身は、さっさと月末月初業務を終わらせてしまっていた。流石にこっち方面は優秀だ。

 …で、タイミングの悪い事は重なるもの。幾ら何でも、普通はここまで重ならないぞってレベルでね。

 

 

 

 

 レアがトイレの為に、ナナから少し目を離した時の事だった。

 アラガミの襲来警報が鳴り響いた。ま、言っちゃなんだがよくある事だ。よくある事だが…確かに最近は少なかったなぁ。

 

 レアがナナの傍を離れていた事も悪ければ、ナナが中途半端に気力を取り戻している事も悪かった。

 未だトラウマの癒えないナナは、襲撃が発生したのは自分のせいだと思い込んだらしい。実際、アナグラの奥で匿われるようになってからも、何度か力を暴発させていた。

 本当にナナのせいだったのかはともかく、自分の為にこれ以上人が死ぬのを黙って見て居られない、とばかりにナナは飛び出してしまった。ゲームシナリオと同様に、車で飛び出していた。

 

 …俺達がその連絡を受けたのは、既にナナが外壁の外に出てしまった頃。

 何でそんなに連絡が遅れたのかと言うと……襲って来たアラガミの中に、新種が2種類も居たからだ。しかも、最優先で討伐しなければならないヤツだ。

 

 どんなアラガミだったかと言うと…。

 

 

 

 

 リオ夫妻。

 

 

 

 

 ただし、鬼っぽくもある。ワイバーンそのもののリオレウス・リオレイアに、鳥っぽいヒノマガトリをミックスしたような感じと言うか…。

 

 

 

 こいつらの何がヤバいって、ミズチメモドキとは違った意味で、防壁を無効化する事だよ。とにかく空高く飛びやがる。防壁なんざ一っ飛びよ。

 ソーマが頭抱えてたなぁ。「アラガミが近づいたら自動で反撃する攻勢防壁を考えていたが、あの高さは想定外」だってさ。まま、MH世界じゃ空の王者なんて呼ばれてるくらいだから、多少はね? 実際はヘタレウス呼ばわりの方が多いだろうが。

 

 

 こいつらの戦闘能力は、そこまで高い訳じゃなかった。ただ、継戦能力と耐久力がクソだったよクソ。

 炎のブレスの威力やバリエーションは、ヒノマガトリもミックスされたような状態だからか、本家に比べると脅威度は低かった。前に吐き出すか、空を飛んで眼下に吹き付けるかの二択程度しかなかった。

 が、ヤバいと思ったらすぐ空に逃げる。ダウンさせたら、相方が助けにやってくる。

 

 何より厄介だったのは、こいつが防壁内の上空に侵入してしまった事だった。高度が高すぎてこっちからの射撃が殆ど届かない。しかも、まかり間違って迂闊に撃墜してみろ。下は一般市民の居住区だぞ。

 落下した先で暴れられたら、えらいことになる。

 

 ……いや、極東には逸般人も居るけど、流石に普通の人の方が多いんだよ。逸般人ばかりなら、容赦なく巻き込んで、石を投げさせたりロープで拘束したりできたのに。

 

 

 どうしたものかと手をこまねいていたんだが、こいつらは突然動きを変えた。居住区の上を飛び回っていたのが、どういう訳か2匹とも外に向けて移動し始めた。

 チャンスとばかりにフラッシュグレネードを思いっきり投げてやると、上手いこと2匹揃って落下。

 後はもう、回復する前にメッタ斬りで終わりだった。防衛班も総出で出撃してたし、数の暴力を使えるって最高だね。本物のリオ夫妻や、純粋なヒノマガトリであればもっと手古摺っただろう。リオ夫妻なら純粋なパワーとタフネス。ヒノマガトリであれば、ダメージを本体に通す為に部位破壊し、再生しないように鬼祓するという手間がかかったんだから。

  …思い返すと、最近のアラガミはMH世界・討鬼伝世界の敵達の特徴を取り込もうとしているようだが、上手く行っている例は少ないな。アラガミの進化速度こそ脅威だが、上手く進化できるかってのはまた別の問題なんだろう。

 

 

 話が逸れた。とりあえずリオ夫妻モドキを討伐し、とりあえず大きな被害が出なかった事に一安心。上空から炎のブレスを放ってきた時は、居住区が大火事になるんじゃないかと思ったもんだ。

 幸い、ジュリウスが放った銃撃で弾け飛んだが、あれが地面に着弾していたらと思うと肝が冷える。

 

 で、倒したはいいけど、どうして突然居住区上空から離れようとしたんだ? と首を捻っていたところ、ナナが飛び出して行ったと連絡が入った訳だ。

 

 

「ナナの『誘引』か!」

 

 

 と即座に気付いたジュリウスも流石だが、これはヤバい。

 リオ夫妻モドキがナナに引き寄せられたと言う事は、誘引が発動しているって事だ。本調子ではないナナだと…いや、本調子であっても、無数のアラガミに囲まれて、どこまで耐えられるか。

 とにかく追わなければならない。

 正確な場所はオペレーターに探してもらうしかないが、とりあえずリオ夫妻モドキが行こうとした先にナナが要る可能性が高い。

 

 車を使わなければならないジュリウス達を置き去りに、鬼疾風で俺だけ先行したんだが……更に話がややこしくなった。

 ナナの居場所を特定した、と通信が入ったのだが……それに付随した情報が、コレ。

 

 

「情報によると、ナナさんが居ると思われる場所に、GKNG幹部のリカさんが居るそうです!」

 

 

 

 ………なじぇ?

 

 いや理屈は分かるんだ。あの子はアラガミの居る場所にも平然と入り込み、帰ってくる猛者だ。虫型アラガミの専門家として、GKNGでも頼られている。大方、今日も遊びに…もとい仕事をしに行っていたんだろう。

 そこを、誘引を発動させてアラガミを引き連れたナナが発見。

 

 まぁ、保護しようとするよね、ナナだったら。ナナ自身がアラガミを引き付けているんだから、むしろ危険じゃないのかという考え方もあるが、どっちにしろ気が経ったアラガミが山ほど追いかけてくるのだ。放っておけば巻き込まれて死ぬだけだろう。

 

 そこらへんの分析はともかくとして、とにかくナナは足手纏いを抱えて、無数のアラガミのど真ん中に居る訳だ。時間が無いなんてレベルじゃない。

 ついでに言えば、空に立ち上る黒い煙も見えた。ナナが乗っていた車がクラッシュしたものだ。

 逃亡手段すら無くなった訳だ。

 

 頼むから間に合ってくれと祈りながら、俺は最後の切り札を使った。つまりは、アラガミ化だね。

 この状態で鬼疾風を使うのは初めてだったが、何とか制御できたよ…鬼疾風はね。

 

 

 車の残骸の元に辿り着き、鷹の目でナナとリカの痕跡を探り、追跡。

 予想通り、ナナはリカを庇って逃げ回っていた。二人そろって、よくぞ生きていてくれたものだ。

 誘引もとりあえず治まってたし、これなら今いるアラガミをどうにかすれば、無事に連れ戻せそうだ。

  

 ナナの前に飛び出し、二人を追いかけてくるアラガミを一閃して蹴散らしたら。

 

 

「! 新手で新種のアラガミッ!?」

 

 

 何、何処だ!?

 

 

「…え?」

 

「あれ、開祖様の声?」

 

 

 

 え?

 

 

 

 

 …そりゃそーだね、この時の俺ってアラガミモードだからね! これで一発で俺と分かるヤツなんていねーよ!

 アリサやレアでも、変身シーンを見てなかったら分からなかったろうさ。例外を上げるとすれば、タカネくらいか。………この世界に限定しなけりゃ、フラウとかもワンチャン…?

 

 ともかく、やれ新種のアラガミだ開祖様の声真似だ、実は神機兵に乗ってるんだ、極東マッドが開発した新兵器だ、本当はアラガミでハンターでモノノフで鬼なんだと、色々な意味で混乱しそうになった。

 それに待ったをかけたのは、リカの切羽詰まった声だった。

 

 

「開祖様!」

 

 

 具体的に何を言いたいのか、全く分からない。慌てている、焦っているのは分かるが、何に対してなのか。

 全く分からなかったが……とりあえず、俺の背中が総毛立ち、考える前に飛び出していた。リカを脇に抱えているナナの襟首を引っ掴み、全力で飛ぶ。ナナからグェッと声が漏れたような気がするが、そんな事言ってる場合じゃない。

 

 俺が居た場所に、大きなモノが落下してきた音と衝撃が響いた。舞い上がる粉塵と、転がり落ちる瓦礫を避けて物陰へ。

 いつでも逃げられるように構えながら、そっと様子を伺う。

 

 

「…私達、さっきからアレに追い回されてたの…。他のアラガミは、あいつのおかげで殆ど蹴散らされたんだけど、あいつ自体から逃げられなくて…」

 

「ェホッ、喉に入った……ふぅ…。何処からあんなのが出てきたのか、全然分からないけど、逃げても逃げても追いかけてくるし、あんなのが居たんじゃ誰かに助けも求められないし、もう本気でダメかと思った…」

 

 

 ナナがこうまで弱音を吐くとは…。いや、それだけ精神的にも弱っていたんだが。とは言え、そうなるのも仕方ないだろう、あの相手では…。

 色々と非常識なモノを見てきたつもりだったが、こうも唖然としたのは久しぶりだ。

 

 

 そこに居たのは、一匹のヴァジュラだった。

 ヴァジュラだけなら珍しくない。さっきナナ達を追い回していたアラガミの中にも、黒爺猫やポプテピピック・ヴィジュアル系…本当にこいつの名前覚えられない…も居た。

 リオ夫妻モドキのように、モンスターや鬼のような姿をしている訳でもない。

 

 

 

 それは、ヴァジュラと言うにはあまりにも大きすぎた

 

 大きく 分厚く 重く そして金色だった

 

 それは 正に 

 

 

 

 

 正に………何だったんだろうな。この時何かベルセルクとグラップラーバギを掛け合わせたような感想が浮かんだ覚えがあるんだが、思い出せん。

 言葉(と言うか思考)になる前に、ジャレついてきやがったんだよなぁ、あのキンキラヴァジュラ。…ヴァジュキンキラ…?

 

 

 

 とにかくアレだ、マジでデカいヴァジュラだった。最初、目の錯覚か遠近法が狂ったかと本気で疑ったもの。

 そりゃデカさで言えば、ラヴィエンテの足元にも及ばないけど、あのインパクトは凄かった…。

 

 普通のヴァジュラの3倍近くあったな。あんな奴がどうして今まで発見されてなかったんだろうか…。

 まぁデカいだけならどうとでもなったんだけど、リカを庇って、本調子じゃないナナを逃がして…って条件だと流石に厳しい。

 

 仕方なく、逃げ隠れに徹しようとしたんだが、これは悪手だったなぁ…。どれだけ逃げ隠れしても、ナナの誘引が発動してたらあっという間に場所がバレる。ちょっと考えりゃ分かる事だったわ。俺も混乱してたんだなぁ…。

 

 

 

 

 で、何がアカンかったかってね。

 あいつに追い回されている内に、ナナのトラウマがまた刺激されたのか、こう…誘引の力が、一際強く発動しちゃってね。

 

 

「あぐっ……や、やばいよ…また血の力が、暴発しそう…」

 

 

 この状況で一発二発暴走した程度じゃ、何も変わりやせん! 幸い、近付いてくるアラガミはあのデカブツの動きに巻き込まれて蹴散らされてる。

 妙に我慢してないで、さっさとリバースしてしまえ!

 

 

「り、リバースじゃないもん! 食べた物を吐き出すなんて勿体ないこと、絶対しない………ぁ、ぁ、ぁ、あああああ!」

 

 

 

 

 

 今までの暴発より、随分と力が強い。誘引の力が、急激に膨れ上がった。

 

 

 

 俺のすぐ傍で。アラガミ化している俺の、すぐ傍で。

 

 

 

 

 後から聞かされた事だが、ナナの誘引は「固有の偏食場パルスを発生させて敵を引き寄せる疑似フェロモンと化す」と言う物らしい。

 

 

 

 

 疑似フェロモンと化す。

 

 

 

 俺のすぐそばで。

 

 

 

 …思い返してみれば、ナナの誘引が発動した時、『誘惑されているような感覚がある』って感じてたんだよなぁ…。

 完全に人間の状態の時ならまだしも、この時の俺はアラガミとしての一面が強い体になっていた訳で。

 

 

 

 

 後は分かるな?

 

 

 

 

 

 俺は全く分からないけどな、今でも!

 

 

 

 

 

 いや分からないんだって本当に。ナナの力が急激に膨れ上がり、そのゼロ距離射撃を浴びてしまったところまでは覚えている。

 そこで意識は途切れ、ふと我に返ると、アラガミ化は解除され、キンキラヴァジュラは遥か遠くで極東メンバーにフルボッコにされたと通信が入っており、すぐ傍ではナナとリカが眠っていた。

 ただし、二人とも特に衣服が乱れている様子もなく、寝息も穏やか、白くてネバネバした物が付着した様子もない。一応周囲も調べてみたが、特徴的な血の跡も無い。本人からも血の臭いはしない。

 

 二人は間もなく起きてきたが、特におかしな様子…怯えたり、逆に媚びてきたり、股間にチラチラ目をやるような仕草もない。

 ついでに言えば、時間も大して経過していない。

 

 

 

 

 ……ナニもしてない…よな? いやでも俺だし…。

 エッチぃ事してる時は、体感時間もコントロールできるようになってるし…。

 その割には痕跡らしい痕跡も無いし…。

 

 いや、明らかに違う点もある。ナナがしっかり立ち直っている上、血の力も完全にコントロール下においているのだ。

 ゲームシナリオ同様、トラウマの克服によって血の力の制御を身に着けた…と考えられなくもないが、それならそれで、何がどうなって克服したのか。

 別に問題がある訳じゃないが…。

 

 

 うーん…? 誰かに確認しようにも、アラガミ化を見られないように通信装置の類は放り出してきていたし、本人にダイレクトに聞くのも…。

 遠回しに聞いても、ナナは理解できないしなぁ。それともはぐらかされているんだろうか?

 「あの後? アラガミを追い払って、気が抜けたらつい寝ちゃった」と、ペカーッとした笑顔で言うばかり。…笑顔が怪しく見えてくるなぁ…。

 

 リカもリカで似たようなものだ。

 

 

「開祖様が変な事をしなかったかって? うーん、特に無かったと思うけど…あ、でもあの恰好は気になるかな!」 

 

 

 その件はGKNGにも秘密で頼む。

 うーむ、ナナもリカも性的知識があるのかすら怪しいんだよな…。この証言も何処まで信じていいか…。

 

 

「うん、わかった! 私とナナと開祖様との秘密だね!」

 

 

 他にも知ってるのは何人か居るけどな。

 …ああ、ナナと同類だわこの子。なんか妙に仲良くなってるな、と思ってたら…。天真爛漫って意味なのか、それともナナのオツムがリカ並って事なのか、逆にリカがナナ程度には大人びているのかはノーコメントで。

 

 

「あ…そうだ、開祖様。ごめんなさい」

 

 

 うん?

 

 

「前に、最近のアラガミは危ないから、暫く壁の外に出ないようにって言ってたでしょ。…こういう事だったんだね? 我慢してたんだけど、何にも無さそうだったから、言いつけを破って出てきちゃいました」

 

 

 あー、まぁな。

 ま、思ってたより発生に時間がかかったし、お目付け役も居ない子供がいつまでも約束覚えてられる訳もないわな。

 

 

「むー。私もナナも子供じゃないよー」

 

「こどもじゃないよー」

 

 

 プンスカ起こるリカと、併せているのか本気なのか分かりづらいナナ。

 とりあえず、ナナはレアに、リカはおねーちゃんに思いっきり叱ってもらいなさい。

 

 

「はーい。仕方ないよね。勝手な事しちゃったし…」

 

「そうだね。……でも」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「子供じゃないもんねー」」

 

 

 

 

 …………これ、どういう意味で言ってんだろうか…。

 

 

 

 

 



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344話

ふーむ、北斗も巨人も一段落ついた。
トロフィーは地道に集めていくしかない。
…アサシンクリードの追加コンテンツでもやるか?
それともEDF5に戻るか…もうすぐ追加ミッションも出るようだし。
そういやファークライにも興味あったけど…。

エイプリルフール?
嘘ついていいのは午前中だけでしょ。
昨日がクッソ忙しくて5時まで仕事だったから、起きたらもう終わってたよ…最初から嘘つく相手もいないけど。


神呑月

 

 

 帰ってからの家族劇については割愛する。ただ、レアの説教が浮気した時なんぞメじゃないくらいにガチだったとだけ言っておく。母親は怒らせると怖い。

 ミカの場合は……あれ、説教になってたのかな。リカとしては、怒られるよりも堪えたとは思うけど。

 

 車に乗せられて戻って来たリカを見るなり、ミカがガン泣きしながら飛びついてなぁ…。あれやこれや言おうとしてるみたいだったけど、嗚咽で全く言葉になってなかった。優しく頬を触ったりもしていたけど、あれって全然力が入ってないビンタだったんじゃなかろうか。

 安堵で泣き喚くミカを宥めるリカ。どっちが姉だか分からなくなる(収入的にも)光景だったが、まぁ、なんだ、姉妹の絆が深まったんじゃないかな。元々、二人ともシスコンのケがあったっぽいけど。

 

 リカを助けた事に対して、俺もナナも滅茶苦茶感謝された。

 正直言って、複雑な気分である。

 ナナとしては、半ば自分が原因で危険に巻き込まれたのは事実だし、俺はアラガミから助けた代わりに自分が襲った疑惑が晴れてないし。

 

 …命が無事だっただけで万々歳って割り切ってしまうべきかねぇ…。

 とりあえず、タケウチ社長の提案で、今日のミカは実家(と言っても、リカと二人暮らしで、そのリカも大抵GKNG本部で暮らしているらしいが)でリカにくっついている事になった。精神安定剤だね。どっちの、とは言わないけど。

 

 

 そんで、ナナはと言うと、「今まで心配とか迷惑かけた分、頑張るよ! おー!」なんて、以前以上に元気な姿を見せてくれています。

 自分が散々心配をかけた自覚はあるみたいで、それは申し訳ないと思ってはいるんだろう。が、はっきり言ってしまえばそれもアラガミの呪いが原因だった訳だし、あんまり気にしてもチーム内の不和を招くだけだ。

 空元気…ではないけど、とにかく空気が重くならないような態度を、自然ととっているんだろう。

 それが出来るのはナナの確かな強みで魅力である。

 

 

 

 

 

 

 で、実際のトコどう思いますかねアリサさん。

 

 

 

「普通に有罪確定でしょう。確かに前後の状況に整合性のとれない所はありますが、その状況で自分が手を出してないと思えますか? 3年前、私とママだけを相手にしていた頃ならまだしも、話に聞いた異世界の自分を思い返して」

 

「普通は二人を相手にする事自体ないのよ、アリサ…。ま、それはともかく、私も有罪に一票。仮にその時に何もなかったとしても、近い内に何かあるのは確定的に明らかで回避不可能よ」

 

 

 

 …やっぱそー思う?

 

 

「「「反論の余地すらなく」」」 

 

 

 シエルまで!

 

 

「むしろ、私だからこそですが? …今一つ実感が沸かないと言うか、世間一般の感覚からずれていると自覚していますが、そろそろ私も貴方と関係を持った時の経緯が、どういう風に見られるものなのか理解してきていますよ。…………そ、その、他人の目よりも、君との確かな繋がりの方が、ずっと大事ですけども」

 

 

 

 ごめんなさい…と謝るべきか否か。いや謝るべきなんだろーけど、そうするとシエルとの今の関係も否定する事になっちゃうような。

 しかし、どうすっぺか…。いや、俺としては全く問題ないんだが。

 浮気男という蔑称も、今更としか言いようがない。ナナが「責任とって」なんて言ってきたら、皆と別れる以外の事は拒否権が無い。

 

 

「そもそも、ナナさんにそれだけの性的知識があるのかどうか…。私とは別のマグノリア・コンパスの施設で育った筈ですが、恐らくそのあたりの教育は受けていません。私も、教科書で読んだ以上の知識はありませんでした」

 

 

 本当に歪な育て方しとるな…。ジュリウス以外はどうでもいいのか。

 ……ちょっと待て、電話だ。……ナナからだな。

 

 

「席を外すべきでしょうか?」

 

「構わないでしょ。一応、私達が居るというのは伝えた方がいいと思うけど」

 

 

 はいはい。

 …おーす、ナナ。体はもう大丈夫なのか?

 

 

「心機一転してご飯が美味しい! ムツミちゃんから後光が見えたよ」

 

 

 あ、そうですか。絶好調のようだ。…で、どったの?

 

 

「うん、ちょっとお願いがあって。個人的なミッションに付き合ってくれないかな~、って…」

 

「個人的? …ナナさん、それは私もお手伝いできることでしょうか?」

 

「あれ、シエルも居たんだ。部屋に遊びに行くなんて、仲良しだね」

 

「遊びに来た訳ではないの……で、しょうか…?」

 

「そこを私に聞かれても…。話を戻すけど、その………お母さんのお墓参り、行きたいんだ。目が覚めた日からずっと忘れてて、一度もお墓に参った事が無いんだよ」

 

 

 墓参り? …言っちゃなんだけど、墓地があるのか?

 

 

「共同墓地なら…。でもそっちじゃなくて、お母さんが…死んだ所に」

 

 

 ……場所、分かるのか?

 

 

「うん。あそこで何があったのか、もう一度思い返しておきたいの。お母さんだけじゃない、助けに来てくれたゴッドイーターの人達にも、謝らないといけない」

 

「ナナ、その場所は……今はかなりのアラガミが居るわよ。大人しく、シエルとアリサにも協力してもらいなさい」

 

「はーい、レア博士。…でもいいの?」

 

「私は構いません。同じブラッドの仲間ですから」

 

「(棒姉妹でもあるでしょうしね)私も、境遇的に他人事とも思えませんので。考えてみれば、私もお墓に行った事は無いんですよね…。その内、旅行も兼ねて一緒にどうですか?」

 

 

 二股で娘と付き合う外道に怒ったご両親が、枕元に立ちそうだな…。しかし、義父義母への挨拶と考えれば、行かなきゃならんか。

 それはともかく、そのミッションは引き受けた。大船に乗ったつもりで任せておけ。

 じゃあ、早速…。

 

 

「駄目よ」

 

「ふぇ?」

 

 

 レア? どうした、手伝ってやれって言ったのはレアだろうに。

 

 

「ちゃんとニュースくらい見なさい…。この場合は、ニュースと言うより予報だけど。もうすぐ赤い雨が降るわ。激しくはないようだけど、かなりの広範囲に渡って。貴方達が行こうとしている場所も含めてね。行くなとは言わないけど、暫く待っていなさい」

 

 

 あちゃー…それはアカンな…。

 治す手段があるとはいえ、好き好んでなるもんじゃない。

 

 

「ん、そだね。あー、でもそんなに広い範囲で赤い雨が降るなら、ゴッドイーターのミッションも暫くオアズケかなぁ」

 

「そうですね。ゴッドイーターと言えども、黒蛛病からは逃げられません。アラガミの活動も鈍るでしょうし、暫くは待機ですね」

 

 

 

 

 

 

 …むぅ。ナナのイベントが終わった直後に赤い雨…。これはアレか? ゲームシナリオの、ロミオ死亡シーンか?

 しかし、あれはもうちょっと時間が経った後だった筈。ナナまで覚醒して、焦りを覚えたロミオが暫く危険な戦い方を続け、そんでギルと揉めて飛び出して……ああ、一回目の赤い雨は、お爺さんお婆さんと出会った時か。死亡&ジュリウスの感染は、その次の雨だったな。

 どっちにしろ、もうちょっと後……いや、ナナの事に時間がかかり過ぎたのか。

 

 どっちにしろ、最近忘れられがちなラケルてんてーが仕掛けてくるとしたら、この辺りか?

 しかし、ジュリウスにも疑念を持たれてる状況で、何をやらかすか…。………逆に何をやらかしても不思議じゃないか。

 最悪、極東全土のアラガミ、そして一般人を煽って、暴動を起こすくらいの事はやりかねない。

 

 

 さて、どう出るか…。

 

 

 

 

 

 

神呑月

 

 

 赤い雨が降った。

 この状況は、黒蛛病患者にとっては拷問のような時間だろうが、血の力習得の為には好都合な状況でもある。

 前回のループで、シエルが雨の中に取り残された時に分かった事だ。赤い雨には、微力ながら霊力…血の力が籠っている。それに包まれる事で、人の体はそれらに反発するように活性化する。要は、霊力が強くなる訳だ。

 

 とは言え、アナグラの深い場所では、流石にその力も届かない。なるべく外に近い場所で、レッスンを行う必要がある訳だ。

 

 

「それは分かったけど………その、患者の人達は…」

 

 

 タカネが歌いに行ってるから、病状を和らげることはできてる。逆に言うと、現状でその力を得ていない君達に出来る事は、少しでも早く体得する事だけ…だろ?

 出来ない事を出来ると言い張って失敗するより、出来る事を積み重ねていきなさい。チャレンジを否定するつもりはないが、堅実さに勝る正攻法はないよ。

 

 

「…はい」

 

「ところで先生。ミカが見当たらないんだけど、何か知らない?」

 

 

 ああ、それなら実家に戻ってるぞ。

 この前のアラガミ襲撃で、妹さんが巻き込まれてな。幸い怪我はなかったんだが、やっぱり心配だしな。特に精神的な方が。

 で、ミカを落ち着かせる意味も兼ねて、一日一緒に過ごすようにと、臨時休暇にしたんだが。

 

 

「丁度、赤い雨が降り出して戻るに戻れなくなったと…。ミカったら、間が悪いんだから…」

 

 

 いやぁ、逆に良かったかもしれんな。それだけ妹との時間が増える。

 ちょっと気まずい空気が漂ってたみたいだから、一度ゆっくり話してくればいいさ。

 

 

「ミカと、妹ちゃんとの間に? …リン、何か知ってる?」

 

「うーん……『姉の威厳が…』って、なんだか凹んでたのは知ってるけど」

 

 

 ま、大した事じゃないし、これで溝も埋まるだろ。…リン、どうかしたか?

 

 

「別に…。随分詳しいんだなって思って」

 

 

 リカ…妹の方と話す機会が何度かあったからな。

 さて、そろそろ話は終わりだ。レッスンに戻るぞー。

 

 

 

 

 …ふむ、大分イイカンジに血の力習得は進んでいる。ロミオが「あれだけ苦労したのになぁ…」と顔を顰める程度には。

 ロミオの場合、血の力の研究だけじゃなく、ゴッドイーターとしても鍛え直したからな。そりゃ時間がかかるのも当然だわ。

 

 最初から体得していたタカネは別格として、現在で一番習得率が高いのは、熊本弁の子。

 年季の入った……その、アレだ、厨で2で病なのか、イメージが異様にしっかりしているようだ。想像力やイメージが大事と伝えたところ、翌日から成長スピードが跳ね上がった。

 が、問題が無い訳でもない。なまじイメージがハッキリしている為に、発揮される力が固定されてしまいそうなのだ。そしてそのイメージから逸れると、力が極端に落ちる。

 

 …彼女のイメージ、『眼』なんだよなぁ…。他にも翼だの業火だの色々あるにはあるようだが、最終的にはそこに集約されるようだ。

 どうやって『眼』のイメージで、黒蛛病治療を行えるだろうか…。

 ネタではない、神話や伝承にある邪眼…所謂、ヴィーヴル・アイなら、見つめるだけで対象に呪いをかけたりする事ができたらしいが…逆に治療だもんなぁ。力を届けるという意味では同じかもしれんが…。

 

 

 別の意味での問題児も居る。原因俺なんだけど。

 そう、ミナミである。今までのミナミであれば、習得は遅かったかもしれないが、左程問題はなかっただろう。

 が、俺に犯され自分の内面、破滅に惹かれる願望を自覚してしまった為か、一見すると穏やかに流れる力の裏側で、毒のような気配が渦巻いている。コレ、もしも力を籠めて歌ったら、麻薬みたいな中毒性が出るんじゃなかろうか。

 ……俺のせいだし、どうにかせねば。主に下半身で。

 

 

 

 それにしても、やっぱ赤い雨の近くだと、目に見えて進歩が違うな。それを自覚しているのか、レッスンを受けているメンバーもいつもより真剣に見える。

 力が湧き上がるような感覚があるんだろう。勿論、それは自分の中の感覚を研ぎ澄ます事を覚えているから察知できる事だが。 

 

 本日のレッスンは、講師である俺も、生徒であるアイドル達も、充分な手応えを持って終了した。それでも、今現在苦しんでいる人達がいる事に、焦りを覚える子も居るようだが。

 

 

 

 

 

 

 さて、今まで何度も語って来た事だが、霊力、血の力は生命力である。細かい定義はともかくとして、それが強く発揮されれば、体も活発になる。

 

 

 

 

 人として当然の欲求も強くなる。性欲とか。

 

 

 

 

 …そういう訳で、「血の力の事で相談があるんです」と、部屋を訪ねてきたミナミが居ます。

 それが口実である事は、彼女の視線から明らかだ。表情こそ真剣に見えるが、アリサとシエルのジト目にも構わず、ネットリとした視線を俺の股間に贈り続けている。内面観察術を使うまでもなく、頭の中が肉欲一色になっているのは明らかだった。

 ちなみに、レアはナナに相談を受けているらしく、この部屋には居ない。

 

 

 二人からの視線は痛いが、このままミナミを放置はできない。放っておくと、それこそ欲求不満を拗らせて、とんでもない行為に走りかねない。『破滅』に惹かれるサガに従えば、被害は自分だけで治まるかどうか。

 だから、しっかりと責任とって、満足させてやらねばならないのだ。OK?

 …暫くジト目を浴びていたが、諦めたように溜息を吐かれた。コトが始まったら、君達どっちにしろ絶対に混ざるしね。

 

 

 ミナミを部屋に通し、アリサが当たり障りのない会話を振っている間に、俺はお茶の用意をする。

 ……ただし、戻る時にはチャックを外し、ビキビキきている肉棒を露出させていたが。ミナミの視線の粘度が一層増し、釘付けになっているのが分かる。そりゃ、こんなん錯覚かと思って二度見するか目を反らすか出ていくかの三択だわな。

 ミナミは迷わず見た訳だ。ただし、錯覚だと思っているのでもなく、これから始まる行為にゾクゾクとした期待を感じながら。

 

 

 俺の両隣に座ったアリサとシエルが、何事もなくお茶を啜りながら、器用に片手で棒を撫で回す。ピクピク反応するナニに釣られて、ミナミの視線が揺れる。体も揺れる。

 左右の雌が、「このオスは自分達のもの」と示すように、撫で回し包み込み、精の臭いを立ち上らせていく。

 

 

 犯されたがっている雌が、地を這うようにして自分にも触れさせてほしいと懇願するのに、3分もかからなかった。

 

 

 

 

 

神呑月

 

 

 赤い雨が上がったので、ナナに頼まれていた通り、墓参りに付き合う事にした。

 

 …それはいいんだが、あまり良くないニュースがある。昨日の赤い雨で、何人かまた黒蛛病感染者が出たようだ。『何人か』というのはアナグラ付近だけであり、もう少し範囲を広げてみれば、感染者は更に増える。

 症状の進行度合いはまちまちだが、とりあえず感染していると言うだけでも、生活に支障は出る。何せ、接触感染の危険が非常に高いのだ。

 感染した人達は病棟に運び込まれ、隔離された生活を送らなければならない訳だが……それを受け入れできる数にも、限りがある。

 俺の手で回復して、病棟から出て行った人も居るとは言え…予算的にもスペース的にも、非常に厳しいものがある。

 

 今日も今日とて、病状の酷い人や体力のない子供を優先的に治しているのだが、それに納得してない人も居る。

 自分だけでも早く治してほしいと願う者も居れば、病状が酷いとは言え、後から追加された人を先に治され、自分は放置されるのは納得いかんという人も居る。

 理屈の是非はともかくとして、分からないとは言えないな。死の恐怖は誰にでもある。…繰り返し続ける俺でさえも。

 それを前にしたら、理屈も倫理観もすっ飛ぶわ。黄金の精神でも持ってなければね。

 

 

 話を戻そう。

 墓参りするにしても、やはり周囲のアラガミを一掃しなければならない。絶滅とまでは言わないが、せめてナナが念仏唱えている間くらい、余計な雑音が入らないようにな。

 ちなみに、ナナの家の宗派は仏教らしい。ナムアミダブツではなく、ナモアミダンブと唱えている。かーちゃんが教えてくれた、先祖代々世話になってる寺の念仏だそうな。

 確か、浄土真宗の……何処の宗派だったか。タマフリを体得する為の勉強の時に覚えたんだが、意識しないとやっぱり忘れるな。

 

 アラガミを一掃する間も、ナナをこっそり観察していた。エロい意味ではない。健康的なエロさはあるが。

 ともかく、母親を死なせてしまった現地付近まで来ても、表情に陰りは見られない。…本当に、トラウマ克服してんだな。

 後は、それを掻き毟られるようなことがないようにするのが重要だ。……汚ッサンがやったみたいに、ラケルてんてーが心の傷を抉って付け込んでこないとも限らない。ラケルてんてーでなくても、外道はそこら中に居るからな。

 

 

 

 …俺もその外道か。特に色欲系統の。

 

 

 …………ええ、そうですよ。

 結局手ェ出してたんですよ。どんな形なのかは、イマイチよく分からんけど。

 

 アラガミ掃討のミッション中、ほぼ任務完了状態になった時の事だ。手分けして戦っていたんだが、その時ナナと合流した。

 今思うと、合流と言うかナナが狙って俺と二人になれるタイミングで移動したんじゃないかと思ってるんだが。

 

 

 周囲を警戒しながらも軽口を叩く。

 …んだけど、なんだか妙に距離が近いな、と思ってはいた。アラガミとの闘い、俺から見れば鎧袖一触できる連中とは言え、ナナにしてみればそこそこ以上には手応えを感じる相手だったろう。

 本能のうねり、火照りを宿し、上気するのもおかしな事ではない。そう思ってた。

 

 

 

 …でもね?

 

 

「ん~……」

 

 

 どうした、ナナ? もう周囲に獲物は居ないとは言え、あんまり油断するのは感心しないぞ。

 何で周囲じゃなくて、俺をジロジロ見るのん? しかも、俺の周りをウロウロしながら、体を屈めて上目遣いで。あざとい。そしてぐうの音も出ない程カワイイ。

 

 

 

 なんて事を呑気に考えていると。

 

 

 

「えいっ」

 

 

 ……血の力を放ってきた。攻撃的な意味…じゃないと思う。ブラッドアーツでもない。

 先日からコントロールできるようになった『誘引』だ。効果だって勿論同じ。アラガミを自分の元へ呼び寄せる、諸刃の剣。

 

 

 なんですけど、どうしてそれを俺に向けるんですかね? いやそりゃ確かにアラガミだけど、今は人間としての性質が強く出てるみたいだから、効かないんですが。と言うか、そもそもあの時ナナの能力が効いた事自体が想定外ですが。

 やっぱ俺ってアラガミなんだなぁ…。アラガミでも鬼でもハンターでもこの際構わんけど。

 

 それはともかく、俺はナナが放った誘引の力をマトモに浴びてしまった。

 が、全く効果はない。テレパシー的な感じで、呼ばれた、引き寄せようとしている、と言うのは感じるが、感知もしてない場所から不意を打たれた訳でもなく、余裕で対処可能である。

 下っ腹に力を籠めてりゃ、どうって事は無い。股間に力を入れるのではない。

 

 

 …で、何すんだよ?

 

 

「ん? あの時みたいにならないかなって」

 

 

 …あの時って、デカいヴァジュラに追いかけられてた時のアレか。あの時、記憶が飛んで気が付いたらヴァジュラから離れてたんだが…。

 

 

「私とリカちゃんを抱えて、凄いスピードで距離を取ったよ。それから、こう…ドカンドカン!って感じでヴァジュラを迎撃して…やー、凄かったなー。見た事ないけど、花火ってきっとあんな感じだよね」

 

 

 なんだ、ほぼ無尽蔵状態になったOP使って、ガンバンぶっ放したって事か?

 ………やったの、それだけだよね?

 

 

「? 他に何か、気になる事でもあるの? ああ、私もリカちゃんも、あの恰好については誰にも話してないよ」

 

 

 それは助かる…。流石にバラされたら、色々面倒な事になりそうだからな。

 

 

「ふぅ~ん? …まぁそうだよね。人の中にアラガミっぽいのが入り込んでるって事で、大騒ぎになりかねないもんね。…いい事聞いちゃった。リカちゃんにも教えてあげよっと」

 

 

 ………なぬ? …あの、ナナさん? それは一体どういう意味で?

 見れば、ナナは普段のキャラに合わない、ニヤニヤした笑顔を見せている。小悪魔っぽい、イタズラっぽいと言うよりは…「弱み握った!」みたいな。

 

 

「別に、どういう意味でもないよ。人の秘密をペラペラ喋るのはよくないしね」

 

 

 おう、今正にリカに話そうって言ってたやんけ。

 

 

「リカちゃんはもう知ってるからいいもん。でも、黙ってるお礼として、ちょっとくらい何かしてくれてもいいよね?」

 

 

 この流れで、下から覗き込みながらの上目遣いは止めろって。ただでさえ、ナナは距離が近くて恰好が恰好だから、誘ってるように思えてくるのに。

 

 

「……………えいっ」

 

 

 何故、俺に向けて誘引を使う…いや、もう認めるしかないって分かってはいるんだけど。

 だがどっちにしろ無理だ。ほら、向こうでの討伐を終えたギルが来るぞ。

 

 

「むぅ……レア博士に聞いたら、これで一発だって言われたのに」

 

 

 そういや、レアに相談があるって何か呼び出してたね。と言うか、俺の女癖を諦めて入れ知恵するにしても、何を教えてんだ何を…。

 

 頭を抱えたくなった俺だが、ふとナナが胸に手をやったのに目が行った。

 しなやかな獣のような肉体を、相変わらずツッコミどころ満載の水着のような衣装で身を包んでいる。胸に至っては、「それ布を巻いてるだけじゃね?」と何度思った事か。

 

 その、胸を包んでいる布を、ちょっとだけ捲って裏返して見せた。

 見下ろす体勢なので、ナナの谷間が目に入る。………が、それ以上に目を引いたのは、その布の裏に描かれていた一文。

 

 

『レイプ

OK!!』

 

 

 絶句する俺を他所に、ナナはイタズラっぽく笑って舌を出し、布を元に戻して何事もなかったかのように歩いて行った。

 これからお母さんへのお祈りをするんだろうに、あんな事書いた服でどうすんだよ……と、半ば現実逃避気味に考える俺だった。

 

 

 

 

 



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345話

仕事でストレスが溜まって、また帯状疱疹になる気がしてきました。
店長とソリが合わない…。
クッソ面倒な事ばっか押し付けてくるし、ちょっと気になった事があると延々と追及してくるし、売り上げを取る為の運営変更は分からなくもないけど、どう考えても『うぼぁ』な未来しか見えないし。
シフト作成はシフト作成で変更した覚えのないとこ変えられてるっぽいし。

店長は店長で忙しいだろうし、俺のポカのフォローしてくれてるんだろうけど、どうにもなぁ…。


それはともかくこのSS、完結までどれくらいかかるかと考えると自分でもちょっと欝になってきました。
GE世界でアレやってー、コレやってー、そこでデスワープしても討鬼伝世界でここら辺のイベントやって、ウタカタに行って更に1~2シナリオ分…。
……幻想砕きの剣以上に時間がかかりそうな気がします。
長くても中編で終わらせるネタSSのつもりだったのになぁ…。


神呑月

 

 

 あれからナナは、何かと俺の周りをチョロチョロするようになった。積極的に引っ付いて来る訳ではないが、無防備な姿や、思わせぶりな態度を思い出したようにやってくる。

 しかしなぁ…冷静になって考えてみると、ナナってレイプの意味分かってんだろうか? レアが相談を受けて入れ知恵したとはいえ…いや、レアだからこそ、あんな悪ふざけにしてもタチの悪い事を吹き込むとは思えない。色ボケしているとは言え、基本的に子供や被保護者はただ只管優しく甘やかすタイプなのだ。

 ちゃんとした知識を教えるならともかく、レイプなんてなぁ…。と言うか和姦なのに強姦って、それ単なるプレイやん。

 

 暫く悩んでいたが、タイミングよくナナと二人きりになったので、ちょっと突っ込んで(性的ではない)聞いてみる事にした。

 …「何だか熱いよね~」って、パタパタしながら流し目するのがまた色っぽい。健康的なようであざといエロさだ。

 

 と言うか、本当にこの態度だけで大抵の男は勘違いするよなぁ。ぶっちゃけ、「早く食べてよ~。いつでもいいよ~?」って言ってるようにしか見えない。多分、本人もそう言ってるんだと思うけど。

 

 

 

 …で、誰にも聞かれないように警戒しながら、ちゃんと意味分かってんのかと聞いたところ。

 

 

「分かってるよ? (PA---)で男の人の(PI---)を(Pooooooo!!!)でしょ? それくらい、いくら私でも知ってるよぉ」

 

 

 お、おう…知ってはいるのな。それにしてはレイプOKなんて訳の分からん文章が出てきたが。

 

 

「え? …違うよ、レア博士に教わったんじゃなくて、もっと前から知ってるもん。まぁ、レア博士やシエルが(ポォォォォウ!!!!)とか(マイケル・ポーウ!)とか、しかも(マーリンシスベシフォーウ!)だなんてのは、本当に驚いたけど」

 

 

 何を喋ってるレアアアアアアァァァァ! いや事の元凶で、そういう遊びを嬉々として提案して実践してる俺が言えた事じゃないけど!

 ちゅーか、レアに教わったんじゃなくて、前から知ってたのか!? その、到底ノーマルとは言えない、色々な意味でアレな行為を!?

 

 

「勿論。だって、教えたのはお母さんと君じゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぁ

 

 

 

 

 

 

 りあるにへんなこえでた

 

 

 

 おかあさん? おれはともかく、おかあさん? おさないななをつれてにげまわって、しぬまでたたかいつづけたぼせいのかたまりみたいなひと? が? なにを、おしえたって?

 

 

 

 

「あ、違った…これって夢だったっけ」

 

 

 え、夢? …どゆこと?

 

 

「自分でもよく分かってる訳じゃないし、記憶の整理が出来てないんだけど…私が寝込んでた時に、ほら、夢の中に入ってきてたんだよね? それで、アラガミに記憶を植え付けられて出てきた、悪いお母さんを消し去ってたんでしょ?」

 

 

 あー……うん、大筋では間違ってない。それが?

 

 

「私にとっては、それが昔の思い出みたいなもので……つまり、ずーっとお母さんと私と一緒に、3人で暮らしてたみたいな記憶があるの」

 

 

 ……それは…分からなくも無いな。俺がやろうとした事も、弄られた記憶や認識を、弄り返して元に戻そうとしたようなもんだし。

 何度も昔の思い出に登場してれば、そりゃ幼馴染とか、近所の長い付き合いのにーちゃんくらいに思ってもおかしくない。

 ナナにしてみりゃ、どっちにしろ許し難いかもしれんが。

 

 

「そこは気にしてないよぉ。優しいお母さんの事も、ちゃんと思い出せたしね! …だから、かな。寝込んでた時も、一緒に居てくれると、何だか元気になれる気がしてたんだ。…優しいお母さんの思い出が本当だったって、そう思えるから」

 

 

 まぁ、酷い母親の思い出が間違いだと思うように誘導してたからな…。

 ちょっと話が逸れた。俺との……その、お母さんから教わったってのは?

 

 

「うん? んー、ほら、アレだよ。おっきいヴァジュラに追いかけられた後にさ。こう……なんていうか、暴走しちゃったでしょ?」

 

 

 でしょ、と言われても記憶がないから何とも。ただ、アラガミ状態でアレを受けたんだから、理性を失ったのは確かだろうなと思ってる。

 ……それで? 俺が実地で無理やり教え込んだとか、そういう話か?

 

 

「ううん。で、レア博士の考察だけど。……その時、夢に干渉する力が暴走したんじゃないかって」

 

 

 …はい?

 

 

「私の記憶の中だと、おかーさんと『ネンゴロ』になってたシーンが沢山あるんだよねー。そりゃもう、私の目の前でズッコンバッコン! 子供に隠れて夜のプロレスどころか、むしろファンサービス満点で拍手しちゃうレベルだったよ。ちなみに、私が最初…だと思う…に受けた性教育は、おかーさんが大股開きして、ドッキングしてる所です。目の前で解説してくれるのを、混乱しながら聞いてました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リカちゃんと一緒に」

 

 

 

 

 

 

 

 吐血した。

 

 

 

 

 

神呑月

 

 

 吐血した程度じゃ、今更誰も心配も同情もしてくれないんだよなぁ。

 ちゅーか、やっぱり手ェ出してたのね…。いや、ナナとリカとは、本番にまでは至ってなかったようだけど。あの時…誘引の力の直撃を受けて暴走した俺は、キンキラヴァジュラを適当にあしらって距離を取り、2人を纏めて夢の中に引き摺り込んだらしい。

 

 討伐中に強制的に眠らせるとか、殺しにかかってるようなもんだけど…無事だったから、ここについてはこの際別問題とする。

 今問題なのは、夢の中身だ。

 

 突然夢の中に連れ込まれたナナ。その夢の内容は、何度も繰り返して見た母親との暮らしだった。繰り返し見続けていただけあって、「あ、これって夢?」と気付きはしたそうだが、だからと言って何が出来る訳でもなく。

 まさか強制的に眠らされたとは思いもしないから、アラガミに追いかけられていた筈なのに、どうしてこうなっているんだろう? なんて首を傾げていたそうな。

 

 いつの間にやら、その横にはリカまで居たから猶更だ。

 特にリカは、それが夢だなんてサッパリ分からない。何でいきなりこんな所に?と混乱していた。…ナナの夢の中だと聞いて、更に訳が分からなくなったそーな。

 ま、人の夢の中に入り込むとか、普通は考えもせんわな。それこそ、そういう設定の自分の夢だと思った方が分かりやすい。

 

 

 二人の感想はともかくとして…ナナの夢の中では、優しかった母親と、歪められた母親の二人が登場する場合が多い。

 最近は歪められたイメージは薄くなっているそうだが、それでも登場する事は登場する。

 

 

 

 

 のだが、今回出てきたのはそのどちらでもなかった。

 

 

 幼いナナの目の前で、見せつけるようにセックスに耽る「お母さん」。そして人間モードなのに、本当に獣かと思うような勢いで「お母さん」を貫く俺。

 

 

 

 更に、それを何か楽しい物でも見ているかのように、おでんパンを頬張りつつ眺めているナナ。

 

 

 訳が分からない絵面だね。

 勿論、ナナにそんな記憶はない。お母さんはいつもナナを連れて逃げ回っていたので、男と密接に関われるような時間はなかった。

 俺が何度も夢に介入した為に、まるで俺も一緒に暮らしていたかのような錯覚を覚える事はあったが、それにしたってこんな行為は見た事が無い。あってたまるか。

 

 

 が、現在進行形で、夢が見ている訳で。

 リカはソッチ系の知識はまるで無し、ナナも多少は知っているが具体的な知識も経験もない。そのよーな少女達の前で、『生命の神秘』………いやそれはちょっと表現的に高尚過ぎるから、『男女の業』とでも言っておくか………が現在進行形で行われているのだ。

 フツーは混乱する。

 

 だがリカは普通ではなかった。知識が無い為逆に受け入れやすかったのか、『何やってるんだろう?』と興味津々で見ていたらしい。

 

 

 さて、話はここから更にややこしくなる。「おかあさん」との前後運動(上下も含む)を終えた俺に向かって、夢の中の幼い何ナナ……幼ナナと呼ぶことにしよう……がこんな事言い出したのだ。

 

 

「おかあさんがすっきりしたら、今度はわたしね!」

 

 

 …勿論、成長したナナにそんな事を言った記憶はない。記憶を失っていたという事を差し引いても無い。

 リカに目を向けられて、高速首振りするくらいに無い。

 

 

 幸いにも、幼ナナの発言は却下された。ただし、

 

 

「まだお口だけね。『破って』もらうのは、もう少し大きくなってからよ」

 

 

 というおかあさんの言葉で。

 幼ナナは不満そうにしながらも、精液と母親の愛液(という表現を知らないナナだったが)でドロドロになりつつもピンピンしている俺のナニを、小さなお口でお掃除しはじめるのだった。

 

 

 

 …むぅ、そのような事を行っていた記憶は一切ないが、自分の股間に尋ねてみると、それっぽい感触があったような気がしなくもないような…。脳みそよりも、ちんこの方が優秀な記憶装置であるような気がしてきた今日この頃。

 

 

 

 さて、そんな夢のワンシーンだが……ナナの夢は、結構長い。優しいお母さんと一緒に暮らしていた頃、何が何だか分からないけどもあちこち旅をして…逃げ回っていた頃、いつの事かまでは分からないが、おでんパンを食べながらおかあさんの帰りを待っていた頃、そしておかあさんが帰ってこなくなり、アラガミに襲われ、ゴッドイーター達に助けられて全滅に至る頃。

 何度か入り込んだ夢の中では、それらのシーンが一通り放映され、そして夢が終わる…繰り返される場合もあるが。

 

 詰まる所、おかさんの濡れ場生放送+幼ナナのお口が頑張ったこの場面は、この後も続く濡れ場のワンシーンに過ぎなかったのだよ!

 …とは言え、その記憶は俺は思い出せないんで、ナナの言葉で語ってもらおう。

 

 ちなみにこのナナの語りは、ナナが嬉々として語った事である。明らかに俺の劣情を誘おうとしていたようだが、何とか堪え切りました。

 もうちょっと誘惑されてたらヤバかったけど、リカの事を持ちだしたら矛を収めてくれた。……明らかに墓穴を掘ったけども…。

 

 

 

 

「え? 夢の中でどんな事をしてたのか? うーんとね……家の中だと、私とおかあさんと君の誰か一人は裸だったよ」

 

 

 オゥフ

 

 つまり何か? 幼ナナだけマッパだった事もあるって事? 虐待じゃん。

 

 

「私が裸だったのは、大体お風呂だけだよ」

 

 

 …あ、そ。

 

 

「全身を手で洗ってもらったり、ヌルヌルする液で洗いっこしたりしたんだー。背中をおかあさん、私が前を洗ってあげたんだよ。おっきくなってるところもね♪」

 

 

 オウフ

 

 

「朝はおかあさんが気持ちよくなってる声で起きてー。朝ご飯の後は、おかあさんと二人でお口の使い方を練習してー。おかあさんが仕事に行く時は、君は一緒に行く時と、私と一緒に待ってる時で半々くらいだったかな。待ってる時には、遊んでくれたりご飯作ってくれたなぁ…あのお肉、美味しかった…」

 

 

 …その肉、ひょっとしなくてもMH世界の肉じゃね? 訓練の効率が上がるから、飯や食材で釣ってんだよな…。

 

 

「一人で帰りを待ってる時は、置いてあった本を読んで勉強してたね。…? 私が勉強するのが、そんなに意外? 興味のある事だったら、自分から本だって読むよー。え? 本の中身と題名? 君が渡してくれた本で、題名は確か………『しんごんたちかわりゅう・おかるとなしへん・しょほのしょほ』だったと思う。夢の中で、しかもずっと昔ってイメージだから、よく覚えてないなぁ」

 

 

 アレを渡したのか…オカルト版じゃないだけマシと思うべきか? 夜の技術書ではあるが、初級どころか初歩の初歩なら、まだ雰囲気作りとか、保健体育の教科書程度の事しか書いてない………と思う…。

 

 

「おかあさんが帰ってきたら、その日にあった事を色々話すの。おかあさんと君が、外でどんな事をしてきたのか。私が待っている間に、どんな事を覚えたのか。『自習』の成果はどうだったのか、とかね。…え、自習の内容? 一人で、ココとか、ココとかを触って、どれくらいキモチよくなれるかだけど? 将来『オトナ』にしてもらう時の為に、一杯勉強してたんだよ」

 

 

 『将来』の為に、幼ナナが自分で開発すんのか…。しかもおかあさん公認で。俺一人が混じっただけで、随分業の深い夢になったもんだ…。

 

 

「おかあさんが私の勉強の成果を確かめてくれる事もあったけど、君にお口で確かめてもらう事の方が多かったかな。だって、将来の事じゃなくて、すぐに効果が出るし、褒めてもらえるし、ご褒美にオイシイ物飲ませてくれるし?」

 

 

 白いのはオイシイんだろうか? いくらナナでも、味覚的な意味で美味しいと感じているのではないと思う。

 いや、幼い頃から慣れさせていけば、慣習的な意味ではワンチャンあるか? すなわち、『おふくろの味噌汁の味』ならぬ『おとうさん(或いはお兄さん)のミルクの味』。これは酷い。

 

 

「晩御飯の後は……色んな事してたからなぁ。3人で散歩に行く事もあったし、おかあさんが疲れてるからマッサージしようとした事もあるし、歌を歌ってた事もあるし……」

 

 

 ちなみにその散歩は裸+首輪だったらしい。誰が飼い主役だったかは秘密だ。マッサージの内容? 言うまでもない。歌……まぁ、喘ぎ声でも歌は歌える。

 100%ソッチ系だったんじゃなくて、健全な記憶もあるようだが、それは単にメリハリをつける為か、或いは干渉を受けてないときの夢の記憶でしかないんだろう。

 

 

「お風呂から上がったら、流石にもう寝るだけだったなぁ。ほら、当時の私って子供だし。…今も子供? 子供じゃないよぉ。もう『できる』もん! …で、私は寝るだけだったんだけど、おかあさんはまだ起きててさ、何だか色んな所に連絡を取ってたみたいだった。今思うと、外でエッチできる場所探し………じゃなかった、私を連れていっても大丈夫な、アラガミが少ない場所を探してたんじゃないかな…。もう思い出そうとしても、弄られて声を押し殺しながら電話してた姿しか思い出せないけど」

 

 

 優しいおかあさんの思い出を汚して誠に申し訳ございません。何だコレ…ミズチメモドキなんぞより、俺の方がよっぽど悪質な汚染してんじゃねぇか…。

 

 

「気にしなくていいんじゃない? 今は、本当のおかあさんの思い出と、エッチな事ばっかりしてる思い出が交じり合ってるけど、優しかった事や、二人だけの思い出もちゃんと思い出せるし。エッチな事は……まぁ、その、嫌いじゃないと言いますか、興味はあると言いますか…」

 

 

 その相手が俺でいいのかって問題があるんですが? レア、アリサ、シエルに加えて、色々摘まみ食いまでしてる最低男ですが。

 

 

「だったら、私の事も摘まみ食いしてよ。いつでもどこでもいいよ? むしろ、他の誰かなんて考えられないもん。理由はちょっと、アレだって自覚してるけど」

 

 

 …刷り込み?

 

 

「みたいなものかな。エッチな記憶の中でさ、おかあさんが沢山気持ちよくなって眠る前に、いっつも私の頭を撫でながら囁いてくれるんだよ。『早く大きくなって、この人にオトナにしてもらいましょうね』って。夢の中の私は、その為に色々勉強したり、自習してたんだしね。もう他の人なんて考えられないよ!」

 

 

 ……自殺…いやデスワープするだけ…去勢……アカン、やろうと思えば再生できる確信がある。

 ………あれ?

 

 

 俺の処罰じゃ重要だが、もう一つ重要な事を忘れてないか?

 

 ……リカはどうなった?

 

 

「どうなったって……一緒に暮らしてたよ。いつの間にか、私の妹になってた」

 

 

 マジで!? …あぁ…あまりにインパクトの強い夢に興味を持ちすぎて、役者として取り込まれたって感じか?

 いや、あの子の事だから、興味のままに自分から突撃していった可能性さえあり得る。無邪気過ぎて警戒心が無いのかって事だし。

 

 それ以上に、あの子は天然の小悪魔だと直感が告げている。

 自称・未来のカリスマギャルであり、そう称するに相応しい容姿と、人知れず(あまり隠している訳ではなさそうだが)積み上げた努力と、それら全てを萌え要素に変えてしまいそうなファッションビッチ性を持って居るミカとは比べ物にならない(良くも悪くも)。

 輝くような無邪気な笑顔と好意で、理性とモラルと倫理観にダイレクトアタックをかけるカワイイ小悪魔な大悪魔だ。

 

 

 で、妹になって、どげんしたとね?

 

 

「どげんって言われても…おかあさんの事もママって呼んで、いつも私と一緒に居たかな。エッチな事は、見るのも聞くのも試すのも積極的だったよ。でも、子供扱いして最後までしてくれないのは不満そうだったかな。これは私も一緒だけど」

 

 

 と言う事は、あの子に口でさせたり、体を洗いっ子したり、本番以外は弄り倒したりと色々やったのか…。

 性的な行為はともかくとして、これはやはり寂しがっていた事の裏返しなんだろうか? ミカとも中々一緒に居られないようだったし、孤児のあの子達は親らしい親が居ない。家族を求める幼心が、違和感なく夢の中のエロ家族団欒に入り込ませてしまったんじゃないだろうか。

 

 

 …なんだろう、幼ナナもそうだけど、この背徳感と高揚感が混じった感じ。あの子が積極的に性的に迫ってくるとか、子供なのに似あい過ぎる。

 自分からイロエロやったんだろうなぁ…幼い体で、ポーズ決めて誘惑してくる姿が目に浮かぶ。…と言うか、そこだけピンポイントに思い出してしまった。幼ナナと一緒にポーズ決めてるけど、未成熟ボディがすっごくちんこを苛々させます。

 

 

 ……あ、やべ、その未成熟ボディが成長した姿が目の前にあると思うと、イライラじゃ治まらなくなってきた。

 そしてその視線に気づいたナナが、捕食者の目になってきた。

 

 

 …あれ、でもナナって俺に大人にしてほしかってるんだから、どっちかと言うと被捕食者? いや俺に手を出させようとしてるんだから、誘捕食者とでもいうのか…ウーン、食虫植物の、虫を誘う部分って固有名称あるのかな?

 

 

 

「それでね、リカが好きだったのはね…」

 

 

 ちょ、ストップストップ! なんか聞いたら欲望に素直になってしまう気がする! 今からでも理性が吹き飛んでしまう気がする!

 

 

「飛ばせばいいじゃない。 ね?」

 

 

 そこで『レイプOK!』を見せるな! あっ、ちょっと先っちょ見えた!

 あ、アレだ! そのあれの、夢の中では幼ナナとリカはいつも一緒だったんだろう!? だったら「オトナにしてもらおうね」って約束も、二人一緒だったんじゃないのか!?」

 

 

「む…それを持ち出されると…。でも、よく考えたら約束って言っても、記憶がひん曲がってできた夢だしねぇ」

 

 

 それでも約束は約束だって! 少なくともリカとは約束したんだろ!?

 

 

「…それもそっか。じゃ、仕方ないけど、今日はこのくらいにしとくよ。………でも、ちゃんと約束は守ってね? 私とリカとおかあさんと、君との約束だからね?」

 

 

 

 

 あれ、つまり今は退くけど、リカと一緒に大人にすると約束した…? 言質取られた?

 

 

 

 

 

 



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第346話+外伝25

今回はちょっと短めなので、外伝付です。


神呑月

 

 

 ナナの事で悩みながら…正確に記すなら、何で悩まなきゃならんのか、さっさと食ってしまえばいいと欲望に傾きながら歩いていたところ、予期せぬ出会いがあった。

 いや、別に会うのが珍しいって訳でもないんだけどね。一昨日も会ったし。

 まぁ、その時には涙でグチャグチャになった顔だったから、あまり会いたくなかったかもしれないが。

 

 出会ったのは、リカのおねーちゃんことミカである。久しぶりに、リカと一緒にガッツリ過ごして、色々語り合って、姉妹の溝を埋めてきたんだろう。

 そして、今日は彼女達の家から、アナグラに戻って来たと言う訳だ。

 

 

 その割には、何か沈んでいるが。

 

 

 

 …リカにナニする約束しちまった(らしい)事もあって、なんか気まずいが……放っておくのも罪悪感が。

 おい、どした? 

 

 

 

「え? ………あ、えーっと、その、どうも…」

 

 

 戸惑った様子。何だろうか。

 …リカと何か揉めたか?

 

 

「いっ、いやっ、そういう訳じゃないし! 久しぶりにしっかり話して、ちょっと私が引け目を感じてたのは確かだけど、自分でバカだなぁって思えるくらいにはなったし! リカも、おかげで無事だったし! …って、そうだ、ちゃんとお礼してなかったっけ…」

 

 

 礼は気にしなくていいよ。ある意味、こっちが巻き込んだようなもんだし。

 まぁ、とにかく無事で何よりだった…。あれで、アラガミが本来怖いものだって理解してくれるといいんだけど。

 

 

「それは…期待は薄いかな。とにかく怖い物知らずな子だから…。カンはいいんだけどね」

 

 

 カンで全部の危険を回避できるなら、この前の騒動にも巻き込まれてないって。

 にしても、この前のミカは凄かったらしいなぁ。リカが巻き込まれたって知るや、半狂乱になって支部長やらツバキさんやらに詰め寄って、何でもするからリカを助けてくれって直談判したとか。

 

 

「そ、それは…妹の事だし。『だったら尚の事、部隊運用を乱す真似をするな』って、ツバキさんに一喝されたけどね」

 

 

 それで退かなかったのは大したもんさ。ま、行為自体は無駄だったかもしれんが。

 ツバキさんは鋼鉄の(処)女で、支部長は腹括ってる人種だから、ミカの勢いがどれだけ凄かったとしても、それで行動を改めるとは思えんのだよな。同情はするし尽力するが、その上限を動かす事は無いっつーか。

 

 つまり、最初から助けられるなら助けるつもりで、そのボーダーラインの中に納まっていたと。

 予想外のトラブルはあったけども。

 

 

 

「あ、あはははは……か、カリスマギャルの必死の声で、皆の士気が上がったって事で落としどころに…」

 

 

 ま、それでよかろ。実際気合入ったヤツはかなり居るし。自分達が守ってる一般人が、頑張ってくれって必死で応援してくるんだ。そりゃ士気も上がるわな。…ゴッドイーターは扱い悪いことが多いから、猶更ね。

 美人さんだしね~。

 

 

「おっ、嬉しいねぇ。でも、それで口説かれる程安くないよっと」

 

 

 それは置いといて…実際問題、どうした?

 リカとは俺も多少縁が出来たし、お前さんと仲違いしてるんじゃないかと思うと、あまり飯が美味くないんだが。

 ナナも気にしそうだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん?  ナナ?

 

 

 

「いや………本当に、大した事じゃなくて……えっと…」

 

 

 

 

 

 ………まさかとは思うが、仲直りして添い寝を強請られたリカに、なんか色々されて妙な雰囲気になったとか…。

 

 

 

「……………!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 まじか。

 

 

 ミカのビンタ、避ける訳にはいかんよなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、え~っと、その、ごめん? と謝るべき?」

 

 

 いや、どっちかと言うとこっちが謝らなきゃならん。それはもう土下座どころか土下寝して。

 ぶっちゃけまっすぐ倒れてるだけだけども。

 

 

「…………あの、いいかな?」

 

 

 何ぞ? 色々やらかした謝罪も兼ねて、大抵の事なら無条件に聞くつもりだが。

 

 

「こっちこそ、リカを助けてもらったのに、軽口に対して…ちょっとセクハラっぽくはあったけど…ビンタなんかして、その上こんな相談するのは悪いと思ってるんだけどさ」

 

 

 ………真相、バラすべきかなぁ…。俺に対する好感度が下がるのはこの際仕方ないが、何か相談しようと言うならそっちが優先…か?

 内容次第だな。近い内に自白するのは確定として。

 

 とりあえず、相談なら受け付ける。(贖罪も兼ねて)

 

 

 

「その……つい反応しちゃったから、もう察してるかもしれないけど、リカの事なの。昨日、色々と話して……私がバカな苦手意識持ってたの、白状してさ。大泣きさせちゃったけど、あれで良かったんだと思ってる。私が思ってた以上にリカが寂しがってた事、私の仕事を邪魔しちゃいけないと思って我慢してた事、それから……リカが、どれだけ私を好きなのか、私がどれだけリカを大事にしてるのか。無茶苦茶な話し方しかできなかったけど、今までよりずっと仲良くなれたと実感できてる」

 

 

 …そうか。そこだけ聞くと、いい事なんだけどな。…つまりは、さっきの軽口がドンピシャと。

 

 

「うん…」

 

 

 ………ちっと河岸変えるべ。通路で話す話題じゃねーわ。

 

 

「あ、だったらアンタの部屋でいい? ちょっと興味あったんだよね」

 

 

 俺の部屋ぁ? …まぁ、別にいいけどさ。今はアリサ達も居ないし、掃除はちゃんとしてるし。消臭玉様様である。

 

 

「…なんか生々しいね」

 

 

 そりゃ、空港で二人に抱き着かれてキスされるような関係だからな。ロマンスを現実に持ってくりゃ、そりゃ生々しくも生臭くもなるよ。

 でも、その生臭さが好きなんだよ、俺は。

 

 

「……匂いフェチ?」

 

 

 匂いに限定する程、心は狭くない。リアル話、異性と付き合おうと思ったら、その生々しい生活臭に慣れなきゃやっていけんぞ。

 幻想と付き合ってる訳じゃないんだから。

 

 …っと、かりすまぎゃるには釈迦に説法だったかの?

 

 

「あ、あたりまえだしー! てか、アンタ今平仮名発音で言ったでしょ! ……そ、それはそれとして、その生々しさってのを詳しく…」

 

 

 

 男の生々しさについては、男の俺よりもそれを見て実感してるアリサやレア達に聞く事だ。

 とりあえず、俺の部屋までやってきた。羊が狼の巣穴に入り込んできたよーなもんだが、狼は羊に対して負い目があるので、手は出さない。つもりだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で。

 

 

 

 

 

 

 

 色々耐えられなくなったもんで、暴露しました。割とマジでブン殴られたが、コレは仕方ない。

 ……しかし、それはそれとして前後の事情を説明(言い訳)して納得させてしまう自分が憎い。舌戦や誠意という意味じゃ、強いどころか下から数えた方が早いだろうに、どうしてこういう所だけ通してしまうのか。

 

 いや、ある意味不可抗力っちゃ不可抗力だったのかもしれないよ? 俺だって、リカとナナとあんな関係になるとは………ナナはまだ可能性として考えられたが……思ってなかったもの。

 ある意味では事故と言えなくもない。

 

 

 

 …加害者である俺から言い出さなければ、事故と言えなくもない…と思う。

 

 いや実際予想外もいいトコだったのは確かだ。大抵の状態異常は無効化できるアラガミ状態の俺が、間近から不意を突かれたとは言え、ナナの誘引で魅了状態になって、完全に意識飛ばすとか。

 それも事故…いや、それは荒事を生業にする者として、自分の不注意、無様として断ずるとしても、そのままナナの夢の中にリカまで引き摺り込んで、幼い頃からエロい事ばっかしまくるとかどうやって予想しろと言うのだ。

 しかも、ナナもリカも、物心ついた頃から(と言う夢だが)エロい事ばっかしていた為に、寝てる間でも女体があれば、無意識に愛撫するような体質になっちまってんだぞ。俺としては見ていてとても楽しいが。眠りながらでも手コキしてくると聞いて、かなり心を動かされたが。

 

 …いや待て、俺はまだ意識がある状態では、二人に手は出してない。眠りながらでもの部分は、二人の自己申告…相互申告? だ。

 「私達に挟まれて寝たら、寝てる間に3回くらい射しちゃうよ」なんて言葉に屈したりしない! ……まだ。三回程度なら、レアやアリサに突っ込んだまま寝た時の方が多いしな。

 

 

 

「で…真面目な話、リカはこれからどうなると思う?」

 

 

 何とも言えん…。ちゃんとした知識があればまた別かもしれんけど、幼い彼女にアブノーマルな常識が刷り込まれたからな。

 正しい知識を教え込んだとしても、強く根付いた価値観を変えるのはそう簡単な事じゃない。

 

 …確認するが、添い寝の時以外でリカに変わった事は?

 

 

「なかった…と思う。元々甘えん坊だし、私に引っ付きたがるのも前からだし」

 

 

 …幼子相手にする質問じゃないが……他の男に妙な視線を向けたり、受けたりした事は?」

 

 

「無いよ! …あ、いや、「この人ちょっとヤバいんじゃない?」って人に心当たりはあったけど、バッタリ会ったらなんかでっかい溜息吐いて、トボトボどっかに行ったわ」

 

 

 …天使なロリが汚れたのを本能で感知したのかな? それは不幸中の幸いと呼んでいいんだろうか…。

 一番心配なのは、誰彼構わずって状態だが、それは大丈夫そうだ。

 ナナもそうだったな。…夢の中のおかあさんに、『この人に大人にしてもらおうね』って約束してたらしいから、多分リカもナナと同じように最初の相手は俺だと思ってるんじゃなかろうか。

 

 

「お、大人……って言うか、業が深すぎる…」

 

 

 夢が捻じ曲げられた結果だからな。

 …知ってるか? 業ってさ、自分だけの問題じゃねーのよ。業の重さに吸い寄せられるみたいに、どんどん他人を引っ張り込むんだよ。そしてそれで更に業が深くなる。

 切り離すなんてできやしない。俺のはちょっと酷すぎるにしても、業ってのは生きていく上で絶対に背負いこむ宿命だから。

 

 

「いやこんな事でそんな事悟られても。……話を戻すけど…つまり、リカの状態は?」

 

 

 この際モラルは放り捨てて論じるが、エロい事が体に染みついているって事以外は、現状問題はない。

 最初の相手が俺だと決めて、ナナとも約束している以上、あの子は…なんだ、相当な欲求不満になっても、他の男に手を出す…出させる? 事は無いだろう。

 本来であれば、性的な欲求を自覚すらしてなさそうな年齢だしな。

 

 

「……あの子、お赤飯まだなの。私が知る限りでは、だけども」

 

 

 ……ま、まぁ、姉妹であっても話題にする事じゃ…あ、でも知らないのに股から血が出たら普通は大騒ぎするよな…。

 ともあれ、ターゲットを俺に絞っている以上、俺を捕まえられない間は実害が出る事は無い。

 

 

「…どれくらい逃げられそう?」

 

 

 …………い、いっしゅうかん?

 

 

「お前もロリコンかこの野郎!」

 

 

 うっへー! ありゃロリとかペドとかそんなレベルのナマモノじゃねーよ!

 下手なサキュバスよりもヤバいぞあのちびっ子! 性癖がどうこうじゃなくて、天然で理性にダイレクトアタックかけるタイプなんだよ!

 お前も大人と言うかオンナになれば嫌でも分かる、お前の妹は天然物の『オンナ』だよ!

 

 

「ひ、人の妹に向かって…! ………………あれ、でもよく考えたら……昨晩のあの手付きと寝顔も…うん………うん…?」

 

 

 …心当たりが出てきたか…。慌てなくていい。お前はおかしくない。

 リカにまさぐられて変な気分になって、ついついそういう目線で見てしまったら、今までとは違う妹の魅力を発見しただけだ。

 

 

「それ、結局リカがヤバい子だって言ってるだけじゃん…。うぅ、知りたくなかった、妹の素質…」

 

 

 もう半ば開花させちまったんだよな、俺が…。

 

 

「…一週間っていう期間が長いか短いかはともかくとして…もし捕まったらどうする気? その……リカが、『オンナ』になったとして? …身内の話が生々しくてちょっと吐きそうだけど」

 

 

 生々しいか? 逆に現実感無くなったりしない? …現実からは逃げられないから無理か。

 

 ともあれ、とっ捕まったら俺も覚悟決めるよ。少なくとも、誰彼構わず相手をするような壊れた子にはしない。…俺にベッタリになるか、俺のグループに入り浸りになると思うけど…。

 

 

「グループって……空港でキスシーンを放映した、アリサさんとレアさんと…シエルさんもだっけ。…それに入り浸りになるって、どういう事なの…」

 

 

 

 …いっそ、ミカも入り浸ってみる? 抜け出せるかは知らんけど。

 

 とりあえず、ビンタでこの話は終了した。

 

 

 

 




 ふと気づけば、見知らぬ荒野のド真ん中に居た。はいはい、いつもの夢ね。
 いい加減慌てる事も戸惑う事も少なくなっていたが、快適な状況かと言われればはっきりとノーだ。この、砂と土と荒廃した建物の匂い…。控え目に言って不愉快だな。
 近くからは、ガソリンの燃える匂いもする…。

 …以前にも、よく似た世界に入り込んだことがあるような気がするが……うーん、思い出せん。
 こういう夢を見るようになって、最初のあの世界か? あれは初めての事だったから、割と印象に残ってる。謎の踊りを披露する連中の事ばっかりだが。


 ま、何にせよ、砂しかない土地のド真ん中で突っ立ってたって仕方ない。なんでもいいから、休める場所を。少なくとも水を。
 それがなければ、照り付ける太陽を避けられる影を。
 いくら夢だからって、くたばるまでの苦しみからは逃げられないのである。 



 ……お?

 風の匂いがおかしい。……人工物があるな。かなりデカい、町みたいなやつだ。
 よし、あっちに行ってみるか。







 …………なんぞコレ。
 でっかい門の前で、何人もの人間が立ち往生している。警備員らしき人物達と、入れてくれ入れないで揉めているようだが……。
 と言うか、あの人達の姿を見るに、ここってアレか? 北斗ワールドか?
 以前にも、一度同じ世界にやってきたことがあったような…いや夢なんだから、世界にやってきたってのはおかしいか? 

 まぁ何にせよ、ここからどうしたもんかな。あの時と同じ世界だとすれば、北斗の拳名物世紀末雑魚ルック達を蹴散らせる程度の力はある。
 が、前回はケンシロウを始めとした拳法家達とは一度も出会わなかったから、専門家とどれくらいの力量差があるか分からん。
 分かったって、好き好んで戦いたくはないがな。命が幾つあっても足りん。

 ともあれ。



「動くな!」


 ……カタギの衆にボウガン向けられて警戒されてちゃ、動くに動けん。いや蹴散らすだけならどうとでもなるけど、人を好んで傷つける趣味もない。
 後ろで背中合わせに立ってるのが、世紀末救世主(らしき人物)であるなら猶更だ。

 と言うか、見た目で言えばボウガン向けてる連中の頭の方がよっぽど悪党に見えるけどな。世紀末雑魚ルックだし。


「誰が雑魚だテメェ! いやそれはいい、動くな! 特にそっちのテメェだ!」


 世紀末救世主(っぽい人)にボウガンを向ける隊長さんだが、止めた方がいいぞー。そいつ、矢を指で受け止めて投げ返すから
 …で、何でこんな事になってるかっつーと、世紀末救世主(らしき人)と共闘しちゃったからなんだよね。それだけなら単なる感動っつーか、ある意味いい経験になったと思うんだが、まぁ、北斗神拳ってアレだ。どう見ても殺り方がカタギのもんじゃないからね。
 殺しにカタギもクソもないとは思うが、人間を内部から爆裂四散させる拳法なんぞ、どう考えたって真っ当なもんじゃない。

 だからなー、こいつらの主張も分かるんだよなぁ。今回の揉め事は、どう考えても正当防衛だ。何せ、詐欺をかけようとしていたチンピラ共を止めようとしたら、乱闘に発展して返り討ちにしただけなんだから。
 近くに居た商人らしいおっちゃんも言ってたが、あの商品…エデンの入場許可証は偽物だ。鷹の目で見れば一発で分かった。
 しかし、どんな理由があっても、危険人物は危険人物。触れられたら即あの世行な人間を警戒せずに、誰を警戒しろと言うのだろう。

 …どうしたもんかな。俺もアサシンやってるから人殺しには違いない。お天道様に胸張って歩けるかと言われると、下半身を切り落としてから歩けと言われるような気さえする。
 この世紀末雑魚ルック亜種な衛兵部隊の隊長さんの言う事は言いがかりに近いが、カタギの衆を守っている連中を虐殺するのも気分が悪い。と言うか、世紀末救世主の矛先がこっちに向けられるのは勘弁だ。



 ……あれ? あっさり捕まった?
 …………どうしよ。俺も捕まるべきかな。

 …まぁ、ここでこいつら蹴散らしても、あんまり意味ないかな…。ここから逃げられたところで、周囲にあるのは砂漠と廃墟。周囲に食い物も水もないんじゃ、いくらハンターだってそう長くは保たない。
 牢獄の中でも、まぁ飯くらいは出るだろうし…最悪抉じ開けて抜け出せばいいか。

 はいはい、俺もギブアップですよっと。武器も渡すから勘弁してくれ。
 …あ、その大剣クッソ重いから、3人くらいで運んでね。



 さて、牢の中に放り込まれたものの、どうしたもんかな。やろうと思えば簡単に逃げ出せるけど、逃げてどうするって話だし…近くの牢の人に聞いた話だと、脱獄犯は賞金首にされてしまうらしい。まぁ無理もないね。
 別にここで何をする必要があるって訳でもなし、放っておけばその内夢から覚めるだろうから、牢に居たって別に困る事は無い。
 とは言え、正当防衛…過剰防衛があったとしても…でこのままってのも…。


 なんて考えてたら、いつの間にやら隣の世紀末救世主が脱獄し、そして戻ってきていた。何やら警備の人と揉めている。
 ……ほう? 囚人闘技とな? それに優勝すれば、堂々と自由の身になれると。

 興味深い話だな…。おーい、隊長さん隊長さん、それ、俺も見物って出来るかね。



「あぁ!? 出来る訳ねぇだろうが! てめぇ自分の立場分かってんのか! 罪人だぞ罪人!」


 ですよねー。ま、仕方ないか。一か月後にまだここに居るようであれば、挑戦するとしよう。
 …ん? どったの、北斗神拳伝承者サン?


「…お前は出ないのか」


 アンタが出るのに? 冗談きついぜ。勝ち目のない戦いは極力避ける主義なんだよ。
 牢獄の中は退屈だけど、飯も出るし雨風もしのげるし、別に無理して出る必要もないかなっと。


「…そうか」


 それだけ呟いて、さっさと行ってしまった。うーむ、寡黙で何考えてるのかよく分からんな。基本鉄面皮だし。

 さって、どうなる事かな。北斗現れる所乱ありって言うし、なんかデカいイベントがあるのか間違いないだろう。
 ここが北斗ワールドで、どの時期で……これって漫画かな? ゲームかな? 今までの例で言えば、夢は大体何かのゲームだったようだが…北斗の拳のゲームで、牢屋に放り込まれるなんてあったのか? 昔のレトロ系でRPGのやつもあったと聞いたが、やった事がないからよく分からん。





 なんて考えてたら、早速何やらあったようだ。一か月に一度だった囚人闘技が、毎晩行われるようになったとか。…囚人の数もどんどん増えてるみたいだし、見世物兼犯罪者処分かな? 囚人闘技はルール無し、ブッコロ前提のようだし、生かしておいたら飯代だってバカにならんだろう。
 とりあえず、北斗神拳伝承者は出ないようなので、まぁ勝てるだろうと思って出場しました。


 …デビルリバースは予想外だったわ…。なんか仮面つけてたけど。とりあえず勝ったと言うか狩ったと言いますか。羅漢仁王拳はヤバかったが、ジャイアントキリングはハンターのお家芸だ。小回りが効く分、フロンティアのラージャンの方が厄介だった。

 さて、めでたく出所したのはいいが、ここで生活するにはイディアル…つまりは金が必要らしい。北斗ワールドじゃ、ケツ拭く紙にもなりゃしねぇ、なんて言われてたが……ケツ拭くくらいはできんじゃねーの?


「いや…できないよ。ちょっと硬くてさ…」


 …あ、そうなの。苦労してるみたいね、にーちゃん。まぁこのリンゴ(フロンティア産)でも持ってけ。
 さてどうしたものか。手持ちの物を売ってイディアルを得る事も考えたが、そう多い訳じゃないし、安定した収入源とは言い難い。やはり生活基盤はちゃんとしたものにしなければ。
 何より、どうせ果物や種を使うのなら、GE世界でやったように荒廃した世界を侵食するくらいに緑に溢れさせたい。北斗ワールドの世界観がぶっ壊れるけど、それはそれで楽しそうなのでOKだ。

 さーて、どうしたものか……その辺をウロウロして、絡んでくるゴロツキからカツアゲしながら考えていると、何やら近場の店から揉め事の声。
 …ジャンクショップ? ちょっと覗いてみるか。


「だからさっさと金を出せよ!」

「む、無理ですよ…こんな鉄くずに100万イディアルなんて…」

「鉄くずとは何だ!」


 …うわぁ、なんて分かりやすい構図。素直に強盗しないだけマシ…なのか? いやどっちにしろ有罪だな。
 とりあえず、こういう場合……。

 おい、モヒカンのにーちゃん。金は無いけど、代わりにいいモノがあるぜ。


「あん? なんだテメー。いい物?」


 おう。まずはこの樽を見てくれ。上から覗き込むようにだ。


「何なんだよ…つまらねぇ物だったらブッコロあべしっ!?」


 打ち上げ樽爆弾だ。おお、上手く気絶したな。いい夢見ろよ。クレーマー及び、勘違いした客は死すべし。強盗とか論外。
 …あ、このモヒカン、カツラだ。折角だからもらっとこ。

 衛兵を呼んで、気絶したまま連行してもらった。途中で目覚めそうになったので、今度は股間に向けて打ち上げ樽爆弾発射。ドン引きされたが、これでも優しい処置である。世紀末救世主にたわらば!されるよりマシだ。牢に入っても、一定期間大人しくするか、囚人闘技で優勝すれば出てこれるので、頑張ってほしい。後者の場合、デビルリバースに勝つ必要がありそうだが。

 …さて、店の中でちょっと爆弾使っちゃったけど、余計な世話だったかね?


「いや、助かったよ。ありがとう。…礼と言っちゃなんだが、これを持って行ってくれ」


 ん。……いや錆びたネジ貰っても…。まぁ、礼に文句つけるのも失礼だから、黙って貰っておくが。
 

「ん? アンタ……確か、この前の囚人闘技で優勝した人じゃないか?」


 そうだよ。見てたの?


「ああ。俺も楽しみにしてるからな。毎回、店を閉めて見物に行ってたんだ。…今は、毎晩開催されてるから、全部見るって事はできないけどな…。しかし、あのデビルリバースをあんな方法で倒すなんてなぁ………ん? 待てよ…」


 ちなみにデビルリバースの俺の攻略法は、泣きが入るまで弁慶の泣き所を殴りまくった。それでどうにかなるのだから、色々しょーもない話である。
 何やらブツブツ言い始めた。自分の世界に入っちゃったようなので、周囲のガラクタを手に取って見定めてみる。
 …うん、ジャンク屋の名に恥じずにジャンクばっかだな。ジャンクチップスは何か違う気がするが。
 
 基本的にガラクタの山だが、直せる物は直して売っているようだ。そもそも何に使うのかよく分からない物も多いが、ジャンクってそーいうもんだよね。


「…なぁ、アンタ。囚人闘技で牢から出てきたばっかりって事は、イディアルが無いんじゃないか?」


 ん? そうだな。絡んできた奴らからチョロまかしたものはあるが、2日も食いつなげるか怪しい程度だ。
 荒野で何か拾ってきて売ればいいんだろうが、足が無いのはちと辛いし…。


「それなら、ウチでバイトするってのはどうだ? 仕事は俺が居ない時の店番と、さっきみたいなゴロツキの対処。飯はともかく、寝床も提供するぜ。給料は、そうだな……こんなもんでどうだ?」


 相場が分からんから、こんなもんと言われてもな。ま、選択の余地はないけども。
 お世話になります、店長!





 …と言う訳で、店に厄介になる事になりました。
 最初は店長をちょっと警戒してたけど…。何でって、なんとなくホモっぽい顔付だな、と思っちゃったから…。普通にそんな事は無かったんだけど、何故だろう…。アゴのヒゲのせいだろうか?
 
 基本的に、店番をするのは夜。店長が囚人闘技の見物に行くからだ。客が来ない時は、手頃なジャンクを弄って直せないか暇潰しする。
 ゴロツキどもが何かと面倒を持ち込んでくるが、それも日に1回か2回程度。…充分多いが、昨今の情勢を考えりゃ少ない方か。
 大して強い奴は来ないし、偶然居合わせた世紀末救世主が始末してくれる事もあるんで、気楽なもんだ。

 ここ…エデンが俄かに騒がしくなっているようだが、正直あまり興味ない。伝説の熱き男達が、その内どうにかするだろう。ラオウ様に会ってみたくはあるが、下手にお目にかかると殴られそうだしなぁ…。



 さて、生活基盤も出来たし、このエデンとやらを探索してみる。
 特に気になるのは囚人闘技、決闘…コロセウムだが、他にも色々店はある。世紀末らしくないバーとか、『お前のようなババアがいるか』と言う発言に土下座しなきゃならんようなばーさんが経営するレストランとか。
 あの婆さんとは、バーで意気投合して何かと話す仲である。ムシフライ美味い。流石、食糧難に備えて研究してきたことはある。

 …それよりも気になるのは、行く先々で世紀末救世主の姿を見かける事なんだよなぁ…。
 バーテンダーやってたり、ねじり鉢巻き巻いた魚屋のオッサンみたいな恰好してたり、スーパードクターKみたいな事してたり、明らかにお水系商売に関連するヤクザみたいな恰好してたり、この前なんかいつの間にか開店していたゲームセンターで遊んでるところを見た。
 世紀末救世主とは一体…。


 疑問はつきないが、折角北斗ワールドに来てるんだし、拳法の一つも覚えて帰りたいものである。北斗神拳を使いたいなんて贅沢は言わないから。
 しかし、教えてくれと言って教えてくれそうな人なぞ居ない。強いて言うならトキくらいだろうが、北斗神拳を教えてくれる筈もない。精々基礎の基礎の基礎の初歩の初歩のほんの一部くらいか。と言うか真っ当な神経持ってりゃ、暗殺拳なんぞ人に教えない。
 それでも覚えたいのであれば……見て覚えるしかなかろう。

 北斗神拳奥義、水影心ではないが、戦ってれば多少は技のカラクリも見えてくるかもしれない。
 そういう訳で、拳法家が集まるコロセウムに参加したんだが………なぁ、バーで一杯やってるジャグレさんよ。ちょっといいかい?


「…何となく言いたい事は分かるが、何だ」


 …コロセウムでは、拳法家は仮面をつけなきゃいけないルールでもあるのかい?


「そんなもんねぇよ。…何でああなったのかは、俺にも分からん…。顔を見られるとヤバいヤツが入り込んでるんじゃないかって話はあるが」


 拳法家にとって、手の内を知られるのは致命傷だから、せめて顔を隠して個人特定されないように…と考えるのも分かるけどな。パープルタンクなんか、モロにアイツだし…イチゴ味風味だったけど。
 それだったら、コロセウムみたいな場所でわざわざ戦うなって話だし。


「まぁな…。しかし、いきなりコロセウムに参加し始めたと思ったら、そういう理由かよ」


 目の前のバーテンダーさんが、北斗神拳を教えてくれれば一番手っ取り早いんだけどなー。


「……断る」


 だろうね。一朝一夕で覚えられるよーなもんでもなし。やっぱ、コロセウムの決闘で見て盗むしかないかぁ…。
 何人か、北斗神拳使ってそうなヤツも居たモンな。……別人だよな?


「……………」


 流石にノーコメントか。ま、アンタも結構参加してるみたいだし、カチ合ったらお手柔らかにお願いします。





 と言う訳で、闘技場で暇を見て戦う事暫し。戦歴としては中の下ってトコかな。モヒカンの群れには負けないが、やっぱ拳法家相手になると途端に負けが込む。やっぱ対人が専門のヤツは違うわ。
 デビルリバース相手には全勝なんだけどなぁ。

 そのデビルリバースが、襲撃で壊れたエデンの立て直しを手伝ってのは目を疑ったけどな。
 超凶悪死刑囚なんじゃなかったんかい。いや、いい光景だと思ったけど。

 さて、そんなこんなで名が売れてきて、何故かコメディアン扱いされる事も。負けが大いにせよ、実績を積み上げてきて、そろそろ昇格……ってトコで。
 いつかはと思ってたが、アンタが相手とはなぁ。


「…安心しろ。殺しはせん」


 そう願う。
 とうとう、北斗神拳伝承者と正面切って戦う羽目になってしまった。幸いと言うべきか、俺は別に悪党認定されてる訳じゃないようだし、手加減ができない程実力が伯仲している訳じゃないんで、無難に済ませてくれそうではある。
 …以前、ナイトクラブのお嬢さんとついついネンゴロになりかけて、かなり本気で睨まれたけど。いやいや、ヒナちゃんがセクシーになるのを応援しようとしたのは本当だよ、いつもの手段だったけど…。

 でもまぁ、少年時代は夢にまで見た、世紀末救世主と本当に戦える訳だし…それなりに本気でやらなくちゃな。

 ついでに言うなら、これもやっておかねばなるまい。
 いつぞや奪ったモヒカンのカツラをつけて…。

 みろ!!! おれさまの北斗神拳を!!!


「………」


 あ、今ピクッってなった。…この際だからと思ってやってみたけど、挑発が過ぎたかな…まぁいいや。
 くらえ!




 南斗弱普通野殴!


「…北斗と言いつつ、それは南斗聖拳ですらない、単なる突きだ」



 ですよねー。


 狩人スタイルで挑みましたが、普通に負けました。





 で、その夜。
 やってきたレイと、バーで飲んでいます。隣には妹さんもいるが、既に目は見えているらしい。


「ふむ……使いこなせているとはとても言えんが、南斗聖拳の基礎は出来ているな」


 マジか。南斗聖拳ってこれでええの? 南斗水鳥拳の使い手に言われるとは思わなかったけど。


「我流にしては、だがな。真っ当な師から教えを請えば、そんなレベルでは鼻で笑われる。とは言え、南斗聖拳は流派と言えないようなイロモノも多いからな…」


 ああ、南斗人間砲弾だの南斗列車法だの、それ拳法じゃねぇだろってのも珍しくないとか。いっそ、料理の包丁代わりに使ってる奴もいるんじゃないかな。
 目の前に、バーテンダーやって、氷をガリガリ削る北斗神拳伝承者だっているくらいだし。医者については、他の伝承者もやってるって聞いてるが。


「……ほっとけ。これはこれで奥が深いものだ」

「確かに、いい酒だ…。どうだ、アイリ。美味いか?」

「ええ、兄さん…。兄さんと一緒にお酒が飲めるなんて、夢のよう…」


 ま、こんなのんびり酒飲めるなんざ、この荒廃した世界じゃね…。あー、またミーシャとバーで飲みたくなってきた…。
 ナイトクラブでも行くかなぁ……でもミーシャ居ないしなぁ…。


「…お前も、恋人を…」


 いや別に死んでないよ。当分、会えるとは思えないけどさ…。
 話は変わるけど、南斗聖拳ってマジでこれいいのか? 確かに、素手で巻き藁くらいなら切り裂けるようになったし、武器使ってる時の鋭さは増してるけど。


「基本と言うか、根幹はな。別に手刀に拘る必要も、素手でやる必要も、切り裂く事にすら拘る必要はないんだ。結局のところ、外部から突き入れて敵を破壊する事こそが、始まりにして到達点だからな」


 ああ、大抵の武術は、最終的には単なる突きと言うか、単純な技に回帰するって考え方ね。
 しかし…そういうレベルでいいなら、北斗神拳も使えない事はないぞ。闘技場で、ある程度は真似られるようになったし。


「…ほう」


 物騒な反応すんなよ…。北斗神拳の基本って、要は気脈に力を叩き込んで、体の内側からアレコレ反応をおこさせるってもんだろ?
 俺も気脈については多少は分かるから、そこに力を籠めてブン殴れば……まぁ、体の中で何かが起こるな。パルプンテ張りに何が起こるか分からんけど……まぁ、ロクでもない結果になるのは確かだな。
 どこまでやるかはともかくとして、ダメージを与える為だけの北斗神拳なら、そう難しくはないんじゃないか? 最大効率を求めるならまた別の話だし、中途半端に覚えて使ってるとアミバる未来しか見えないが。


「ふっ、そういうレベルの話でいいなら、拳法家なら大抵は北斗神拳が使える事になるな。一子相伝、最強の暗殺拳、北斗超えが南斗の悲願だと言うのに、それが何処の拳法家にでも使えるか。笑える冗談だ!」


 …ちょっとおにーさん、酔っぱらってない? 自分で言い出しておいてなんだけど、目の前のバーテンダーさんピクピクしてんだけど…。



 …最悪、コロセウムで決闘扱いにすりゃ何とかなるかな……アイリさん、そんな目で見ないでよ。これを止めるのは俺には………あ。




 結論。神すら眠る麻酔玉、最強です。



 オチとしてもう一個追加。アイリさんは酒癖悪かった。ライラさんとかキサナさん並みに悪かった。酒瓶で頭ド突かれたよ…。
 それで気絶して夢から覚めた。


 しかし、最後の最後まで分からなかったことが一つだけある。
 彼は本当に、あの世紀末救世主、北斗神拳伝承者・ケンシロウだったんだろうか? どう見ても、堂島の龍こと桐生一馬だったんだけどなぁ…。



外伝 北斗が如く編





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347話

また頭おかしいのに絡まれて、接客業が辛いです…。
暖かくなってきたし、何も考えずにバイクで一直線にダラダラ走ってみようかなぁ…。
EDFのダウンロードコンテンツとか、北斗が如くのトロコンとか、アサクリの続きとか、やりたいゲームは山ほどあるけど…。

最近、自分でもあんまり笑ってない自覚があります。
スカッとする程大笑い出来る事、何かないかな。
昔はドリフとかバカ殿様とか見て笑ってたんだけど。



追記
濡れ場を書く前に賢者タイムに入るもんじゃねーな…。


神呑月

 

 

 いやはや、昨日は目まぐるしい日だったわ。ミカとの話が終わった後も、続けざまにイベントが起きた。

 

 まずイベントその一。とうとう血の力の体得者がアイドルから出た。

 名前カエデ。一見するとミステリアスかつ涼し気な大人の女なのだが、ダジャレが大好きで飲兵衛、よく見たら何故かオッドアイ。

 そして中身が残念な25歳児である。

 

 何でこの子が? 割と優秀な生徒で、多少なりとも目覚めの兆候があったのは確かだが、もっと後に目覚めると思っていたんだが。

 そう思って、崩れ落ちて落ち込んでいるロミオに聞いてみたんだが…。

 

 

 うん、こりゃロミオでなくても、ブラッド隊なら崩れ落ちるわ。俺もちょっとダメージ受けた。

 

 

 目覚めの兆候は確かにあった。下地も充分出来上がっていたと言えるだろう。戦闘に耐えうる程の物が要求されてる訳じゃないから、ハードルは下がっているにしても。

 そこまで準備が整っているなら、後は切っ掛けとなる激しい感情の動きが必要だった訳だが…。

 

 

 

 

 

 2日間飲めなかった酒を一気した瞬間に、洪水のような勢いで溢れ出てきたとか何ですか。

 

 

 

 これが、修行して修行して修行して、その後に一杯の粥を食べて悟った、とかならまだ分かる。お釈迦様じゃないけども。

 でも、たった二日飲めなかっただけで! いや酒飲めない辛さは分かるけど! どんだけ好きなんだよ、手も震えてないのにアルコール依存症かよ!

 

 

 ハァ…。もうええわ。体得したのは間違いないんだから。体得させる為にレッスンを受けさせてたんだから、この結果におかしな所はない。

 ただ、体得はできたが、それで黒蛛病の治療や緩和に即使える…という訳ではなかった。

 これは俺にとっても計算外だ。ユノやタカネがやっているように、力を籠めて歌えばいいと思っていた。黒蛛病の治療に何より有効なのは、強い感情の動きだし、血の力はそれを助長する役割のもの。

 

 確かに効果はあった。だが、思っていた程の効果は出ない。むぅ、これはどうした事か…。

 カエデの力の性質が、そっち向けではない? 可能性はあるが…もっと違う理由がある気がする。

 

 …………酒飲ませながら歌わせてみっか? 少なくとも出力は増大しそうだ。

 ただ、アイドル業に真剣なのも確かだから、アルコール入れてステージに立てって言われてどう反応するか…。

 

 

 とりあえず、カエデの血の力については暫く様子見、研究、レッスンを続ける事になった。

 

 

 

 

 

 次のイベント。客が来た。俺個人を指名して。

 どっかのお偉いさんと言う訳ではない。ついでに言えば、今までのループを思い返しても、面識は一度もない子だ。

 正直な話、よく面会まで漕ぎつけられたなと思う。俺、フェンリルの職員扱いこそされてないけど、一応重要人物扱いだし。

 

 ちなみにその子がどうやって俺にアポを取りつけたのかと言うと、任務帰りのゴッドイーターに直接頼み込んだのだ。

 

 

 

 

 

 車の前に飛び出して。

 

 

 

 

 

 

 当たり屋かよ…。タクシーは体で止める物、とは言うが、マジでやるとは…。

 やられた方は堪ったもんじゃなかっただろう。「会わせてくれないのなら、ゴッドイーターが一般市民を轢き逃げしたと騒ぎ立てる」なんて脅迫されれば猶更だ。

 

 実際のところ、無視するのは簡単だったらしい。上記の脅迫も、小さな声で途切れ途切れに、ようやく主張した事だった。

 轢き逃げの噂は厄介だが、周囲に目撃者も多く、怪我がないのは一目瞭然。

 

 それでも言う通り、要求に従ったのは何故か?

 

 

 …名前も知らない、引退も近いゴッドイーターは、こう語った。

 

 

「目付きが、な。…ヒョロい体で、男と話すのも勇気を振り絞らにゃならん小娘だろう。荒事の経験だって、このご時世じゃ珍しいくらいに経験が無いのはすぐ分かった。体だって震えて、虚勢を張ってるのが見え見えだ。でもよう、ありゃ腹括った目だったぜ。ミッションの間に何度も見た。……ミッションに失敗して、グッチャグチャになった戦場で、自分の命使ってでも部隊の連中を生きて帰そうって、そういう奴らがする目付きだった。………あ? 別に、気圧されされたんでも、妙な共感を持った訳でもねぇよ。ただ、そういう奴を侮ってしっぺ返しを食らったアラガミを、同じくらい見てきたからな。放っておくと厄介な事になると思っただけだ」

 

 

 

 …その後、「今まで、ああいう面したヤツを助けられた試しがないからな」ともちょっと聞こえた。

 老兵(という程でもないが)の独白と本心はともかくとして、このゴッドイーターにそこまで言わせる覚悟を決めたヤツって、どんなヤツだ? それが俺に会いに来るって?

 

 

 

 ……お、女絡みの報復?

 

 

 

 内心、アサシンブレードをいつ放つべきか真面目に考えながら、護衛(という建前の監視人である事は言うまでもない)のアリサと一緒に、面会人のいる部屋までやってきたんだが………本当に、拍子抜けだった。

 あのゴッドイーターがあそこまで言うだけの眼光はあったが、それだけだ。

 部屋に入った俺にペコリと頭を下げ、立ち上がった少女。

 

 お守りのように古びた本を抱きしめた彼女は、フミカと名乗った。

 無茶な方法で面会を求めてきた割には温厚で、内向的そのものの外見の割には押しの強い彼女は、まず自分の行為を詫びて、本題に入った。

 

 その本題とは、黒蛛病の治療に関する事。

 簡潔に述べると…先日の赤い雨が降った時、彼女の親類が避難し損ねて感染してしまった。老齢で体力も無く、次に赤い雨が降ったら、タカネや…或いはユノの歌があっても耐えられるとは思えない

 黒蛛病の治療を待っている人が沢山いるのは承知している。

 だが、それでもどうかどうか、彼女の親類を先に治療してほしい…。

 

 

 

 

 …………女絡みの報復の方がマシだったな。

 

 

 言うまでも無いが…言いたくもないが、答えはノー。

 事情は誰にだってある。体力の無い者、幼い者から優先的に治療している。彼女の親類とやらは、体力の無い者に該当はするが、それでも順番待ちの患者が何十人も居るのだ。

 

 俺が、人数制限というリミッターを外してしまえばいい、とも思う。が、それをやると冗談抜きで俺が動けなくなる。

 一度に纏めて数人治療する事も出来て、負担自体も少ないとは言え……。

 エゴと言われようと私利私欲、冷酷と言われようと、それだけの為に自分を使う事は受け入れられない。

 

 一度は、誰にも見られないように影からこっそり治療する事も考えた。だが、現状で俺にしかできない治療である以上、あっという間に特定されてしまう。

 ………真面目に悩んだんだぞ、普段色に溺れた事ばっかやってる俺でも。

 

 

 悪いが…本当に悪いと思うし、ここまでやらかした覚悟は見上げたものだと思う。

 だが、君の親類を優先させる理由にはならない。

 

 

 

 

 …こう告げた時、その場で飛び掛かってくる事まで想定した。それくらいはやる、あの目付きは。

 

 しかし、意外にも彼女は冷静だった。

 

 

 

「そう…………です…か…。そうで…すね……………そこまで………は、予想……通り…です…」

 

 

 とりあえず、急がなくていいからゆっくり喋りなさい。

 …予想通り、だって?

 

 

「…………はい…。私……に、とっては……大事な……おじいちゃん、おばあちゃん………だけど…あなた…に、とっても…他の…人に、とっても……特別じゃ…ないから…。頼んでも…素直に、受け入れるとは………思ってない…です」

 

 

 …言い方はきついが、そういう事だな。社会的に重要な役割を担う人物だったり、或いはそう言った人物への伝手があれば、多少は話が違ったかもしれんが…。

 それで? 分かっていながらここまで来たんだ。何かしら、取引なり次善の策なり考えてきてるんだろ?

 それ次第では、話の方向を変えられなくもない。

 

 

「……はい…。色々…考えました……けど……方法は、一つだけ……です」

 

 

 聞こう。

 

 

 

「私が……治療法を、覚えます」

 

 

 ………話にならんぞ。そりゃ覚えることができるのであれば、君が誰をどれだけ治そうと自由だ。

 しかし、ブラッド隊も、葦原ユノ…はよく分からんが、アイドル達も(タカネは例外中の例外として)散々苦労して、ようやく一人血の力を使えるようになったばっかりだ。

 しかも俺がやってる治療法は、血の力の更に先にある技術で…。

 

 

「……抱いて…ください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 は?

 

 

「…そうすれば……話に聞いた…血の力を、覚えられると…聞きました…。私のような、地味な女を……どうこうする気に、ならないでしょうけども…人助けだと思って…」

 

 

 いや…地味云々は置いといて…?

 

 ………アカン、これガチだ。覚悟決めた面してると思ってたが、こっち方面まで覚悟決めてやがる。

 と言うか、誰から聞いたんだ。確かにそういう近道的な覚え方もあるが、それを知ってるのは………。

 

 

 

 …そうか、やり方がバレた時に話を聞いて、来なくなった子達の誰かか…。ヨタ話、或いは愚痴として零したんだろうが…。

 面倒な噂ばら撒きやがって。口留めしとくべきだった…。これは俺のミスだなぁ。またジュリウスに怒られる…。

 

 つうか、お前さんそれでええんか。

 

 

「…私の安い体と…おじいちゃんと、おばあちゃん……どっちをとるか、考えるまでもありません」

 

 

 何気に流暢な口調で断言したな。それだけ決意は固いか。

 自分の処女と肉親の命か…。どれだけ迷ったのか知らないが、後者を選んだ訳だ。

 男の俺には想像できん天秤だな。…A.BEEさんとかに掘られるか、関係を持った誰かの命かって言われれば、俺も同じ結論に達するけど。

 

 

 腹を括った女を相手に、これ以上あれこれ言うのも無駄だな。

 この際やるのは構わんが、一つ問題がある。

 今日、俺が力の扱いを教えているアイドルの一人が、血の力を体得した。が、これが今一つ症状緩和に効果が無い。

 君が俺に抱かれて血の力に目覚めたとしても、それで治せるかすら定かじゃないぞ。

 

 

「現状…他に、方法は…ないです…。でしたら…それに賭けます。何でも…します」

 

 

 万が一でも、可能性があれば…か。

 黙って聞いていた、アリサが耳打ちする。

 

 

(実際のところ、彼女が血の力に目覚めたとして、治療できる可能性は?)

 

 

 0ではない、としか言えない。鬼の手による治療は難易度が高すぎるが、対象を問題のお爺さんお婆さんのみに限定すれば…そして、生来の素質や積み上げてきた訓練の有無を凌駕する程に強い決意を持っていれば、ワンチャン…かな。

 血の力、霊力を扱う時、何よりも重要なのは認識とイメージ、そして意志の強さ。それだけで何もかもを解決できる訳じゃないが、それさえあれば望みは残る。

 

 

「…そうですか。彼女の決意も堅いようですし…まずは情報が必要です。先日の雨で感染したと言う事は、症状自体はあまり深くないでしょう。今、隔離病棟に居ますね?」

 

「!」

 

「前提として話しておきますが、これは治療並びに、彼に抱かれて血の力を得る事を了承しての質問ではありません。あくまでこれは、持ち込まれた案件に対する応対の一環です。これで何かを変更したり優先したりする、特例となる訳ではありません」

 

「はい…!」

 

 

 そういう事にしておけ、って事か。実際、どれくらいの症状なのか、見て見ないとコメントもできない。

 部屋にあった端末で、病棟から情報を引き出そうとするアリサだが、フミカは何故か首を横に振った。

 

 

「お爺ちゃんとお婆ちゃんは……今、病棟には…居ません…」

 

「…どういう事です? 黒蛛病感染者は、接触感染の恐れが非常に大きい為、病棟に入る事が義務付けられているのに」

 

 

 ついでに言えば、病棟に入っている間は少ないとは言え病院食も出る。仕事しようにも何もできんから、三食昼寝付の生活が保障されると言うのに。

 働けない・生活費を稼げないという事でもあるので、退院した後が怖くもある。…そんな理由で、治療を拒否しようとする人も何人か居るらしい。赤い雨が近付いてきた時には地獄を見るハメになるが。

 

 

「フェンリルの世話には…ならないと、拒否する人も…珍しくありません…。それに…病棟も、もうこれ以上人を……受け入れるのは…難しくなりつつある…と聞きます…。お爺ちゃん達は…『病人を養うのもタダではない。 儂らのような先の短い年寄りよりも、若い子達に席を譲ってやりたい』と…」

 

「……どこの聖人ですか。いや、それで接触感染の危険がある状態で、町中に居られても困るのですが」

 

 

 …………ん? 聖人? それに、今のセリフは…。

 

 

「いえ…今は…町中ではなく…打ち捨てられた廃墟で…生活しています…。防壁の外…ですし、人に感染する恐れは…少ないかと…」

 

「…代わりにアラガミに襲われかねません…。すぐにでも人を派遣し、病棟へ強制的に……………? ん? ちょっと待ってくださいよ…」

 

 

 何やらアリサが顎に手を当てて考え始めた。

 …それはそれとしてフミカさん、その人達の写真とかある? 黒蛛病にかかる前のヤツでもいいから。

 

 

「はい…これです…」

 

 

 手に持っている小さな本から、写真を取り出した。栞にでもしているんだろうか? どっちかと言うと、お守りかもしれない。縋るように、ずっとあの本から手を離してなかったし。

 それはそれとして、この写真の人達…。

 

 

 

 やっぱりだ。ゲームシナリオでロミオを励ました、あの爺ちゃん婆ちゃんだ。

 マジかよ…。この人達、身寄りもないんじゃなかったの?

 

 …突っ込んだ事聞くけど、血の繋がりとかは?

 

 

「…分かりません…。子供の頃から…お爺ちゃん……お婆ちゃんだと思っていましたが…両親も既に居ないので…確かめた事も…ないです」

 

 

 む、すまん。

 

 そうか…しかし、どうすっかなコレ。

 フミカさんを抱く云々は退けて考えるが、この人達はシナリオ登場人物だ。是非とも助けてやりたいが、損得勘定で考えると……困った事に、建前に使えそうなメリットすらない。

 お爺さんお婆さんは、ロミオが立ち直るのに重要な役割を果たした一般人だ。そう、一般人なのだ、心底。

 あの後、シナリオ上に登場する事は無い。ロミオの立ち直りイベントも、既に安定しているロミオに同じような事が起きるとは思えん。

 

 ゲームの見えてないシーンで、何かしら重要な事を…例えば、ロミオが死んで落ち込んでいたブラッド隊を励ましたとか、ジュリウスが敵対した事で動揺している所を、年の功で落ち着かせたとか、そういう可能性もあるが。

 或いは、GE2追加シナリオが出て、そっちで何か役割があった? …この方がまだ在りそうだな。GE2では追憶のジュリウスは居ても、追憶のロミオは居なかったような気がするし、これは追加シナリオへの布石だと言われた方がまだ納得できる。

 

 …そこは一旦置いておこう。個人的には助けたいが、それなりのメリットがやっぱり必要…。

 

 

「…一つ聞きますが、フミカさん。このお二人が黒蛛病に感染した事。今は廃墟に住んでいる事。これを知っている人はどれ程居ますか?」

 

「…私だけ…です…。赤い雨に打たれた後…二人とも、すぐに移動して……翌日に様子を見に行くと…蜘蛛の痣が出来ていました…」

 

「つまり…口封じはその3人だけで済むと」

 

 

 『口封じ』という物騒な響きの言葉に、フミカの目が見開かれ、次の瞬間にはギラギラした光が宿った。何をするつもりかは分からないが、徹底抗戦し、そして治療まで何がなんでも持っていくつもりなんだろう。

 

 が、お嬢さんちょっと落ち着きなさい。アリサは物騒な意味で言ってるんじゃないから。

 差し当たり、話は分かった。君が勝手に血の力を習得して、お爺さんお婆さんを治療すると言うのなら、俺は何も言わない。君が俺に何か言う必要すらない。

 

 ただ、そうだな。血の力を覚える為のアドバイスくらいはしよう。

 『今日は早く寝ろ』。

 

 それだけだ。

 

 

「……………………」

 

 

 わお、とても納得していない。

 当然か。女を武器にする覚悟までして乗り込んできて、結局治療の約束もさせられてないんだから。

 しかも、治療法確保のアドバイスは、意味不明もいいところ。

 

 が、今の君に一番必要な事は、間違いなくこれだ。

 確かに強い意志や決意は、血の力に大きな影響を与える。断固とした決断で進めば、下準備も無しに本当に治療の為の力も発現するかもしれん。

 

 だが同時に、追い詰められて作られた決意ほど脆い物もない。

 ここに来るまで、相当悩んだろう。強引な手段からもそれは伺えるし、目の下にも隈が出来てる。飯も殆ど食ってない。ついでに言えば、日ごろから健康的とは言えない生活を送ってたろう。

 

 俺に抱かれれば、血の力に一足飛びに目覚める事はできる。が、今の君に、それはまず不可能だ。

 好きでもない男に触れられなければならないという嫌悪に心が耐えられたとしても、体が耐えられない。率直に言えば、体力が少なすぎるんだ。

 

 

「忠告しておきますけど、『そういう行為』は体力勝負ですよ。ただでさえ慣れない行為で、慣れない動きをする上に、呼吸を整える暇すらありません。特にこの人、限界とか限度とか知らないくらいの絶倫です。体力と精神力と酸素をゴリゴリ削り取られて、あっという間に気絶するのが関の山です」

 

 

 そういう事だ。早い話が、今の君じゃ血の力獲得に必要な最低限の体力すらないって事だ。だから、まずは帰ってちゃんと飯食って、ぐっすり眠って、ついでに起きたらラジオ体操でもしろ。

 幸いにも、暫く赤い雨が降りそうな予報はない。

 面会に来た時には通すよう、話は通しておく。だから、今日はもう帰りな。

 頭と体を落ち着けて、もう一回考えて、それから来い。

 

 

 フミカさんは、暫く俺とアリサをじっと見つめていた。本当の事を言っているのか、見極めようとしているのだろう。

 気まずい沈黙の後、彼女は小さく溜息を吐いた。

 

 

「…分かりました。今日は帰ります…。……こちらから…お願いしておいて、このような…事を言うのは、失礼極まりない…のですが」

 

 

 うん?

 

 

「もし…適当な言葉で煙に巻いているだけで……お爺ちゃんとお婆ちゃんが死んだら……未来永劫…呪い、祟り続けます」

 

 

 …目がマジだ。

 立ち上がって頭を下げ、フミカさんは帰って行った。

 

 

「…ヤンデレの素質がありますね、彼女は。ちょっと背中にゾクッと来ました」

 

 

 そだね。嘘は言ってないけど、煙に巻いてるのは事実だから、猶更ね。

 あの子の体力が足りてないのは事実だけど、やろうと思えばそれをフォローする事はできる。ヤりながら互いの体力を回復・増幅するのは、オカルト版真言立川流の基礎の基礎だ。

 

 

「素直に抱かなかったのは、ちょっと意外ですね。…脱いだらスゴいタイプみたいですし。あれだけ追い詰められた目をされたら、萎えるのも分からないではないですが」

 

 

 それを蕩けさせる楽しみもあるっちゃあるが、あの手合いを甘く見るのは命取りだ。

 さて、それじゃ今晩決行しますか。

 

 

「一緒に行きますか? 誰にも気づかれずに行ける自信はありますよ。あなたから教わった、ステルス技術は錆びついていません。…現場でバリバリ使っている、カノン程ではありませんけど」

 

 

 いいよ。来てもらっても、やる事ないだろうしね。

 それより隠蔽工作とアリバイ作りを頼む。誰にも気づかれず、病気になった事を『無かった事』にするつもりだけど、念には念をね。

 

 

「その念から疑念を持たれる事も多いんですが…分かりました。早く終わらせて、帰ってきてくださいね」

 

 

 あいよ。夜のオタノシミの時間は削りたくないしな。んじゃ、ちょっくら行ってきまーす。

 

 

 

 

 

 と言う訳で、夜の闇に紛れて、家屋の屋根の上をホイホイ飛んでいきました。帰る途中のフミカを途中で見かけたが、誰かに襲われそうな場所は歩いてなかったので、そのまま放置。

 外壁まで辿り着き、例のお爺ちゃんお婆ちゃんが居ると思われる廃屋を探す。

 「若い子達に席を譲ってやりたい」「黒蛛病に感染したから、人のそばには居られない」と言っても、老齢の夫婦の足だ。外壁からそう遠い場所にまでは行けない筈。

 『筈』なんて言わずに、フミカさんから居場所を聞いておけばよかったなぁ、なんて思いつつ、気配を探る。

 

 特に山も谷もなく発見し、こっそり屋内を覗き込むと、二人は眠っているようだった。お年寄りの夜は早いな。

 鷹の目・鬼の目で注視すると、お爺さんは胸元付近、お婆さんは腰と足付近に異常な霊力が入り込んでいるのが分かった。

 鬼の手で吸い出し、治療完了。

 

 改めて考えると、本当にお手軽だな…俺にとっては、だけど。こんなに簡単に治せるのに、自分の都合の為だけにそれを制限していると思うと、申し訳なくなってくる。

 が、俺だってクサレイヅチや、終末捕食に備えなきゃならんのだ。うん、要するにクサレイヅチが悪い。そういう事にしておこう。

 

 黒蛛病を治療した事、フミカ以外には、感染した事も治療された事も決して悟られない事。この2つを書いた置手紙を枕元に置き、さっさと帰る。

 周辺にアラガミの気配も無いので、パクッとやられる事は無いだろう。

 

 道すがら、二人の顔を思い返して感慨深くなった。

 あれがあの爺ちゃん婆ちゃんか…。寝顔だったけど、優しそうな顔してたなぁ。ちょっと達観しすぎじゃね? と思いもしたが、あれは…なんつぅか、『上手に老いた』って言うのかね。良くも悪くも、いつ死ぬ事も受け入れているような、坊さんみたいな印象があった。

 そりゃロミオも諭されますわ。本当の祖父祖母みたいに慕いますわ。天寿を全うしてほしいなぁ、ああいうお年寄りには。

 俺も老いるなら、ああなりたいが……無理だよなぁ、どう考えても色ボケした老害にしかなりそうにない。

 

 

 

 そんな事を考えながら、こっそりアナグラの自室に戻って来た。

 時間も時間だし、いつもであればレア達が俺の部屋に居る筈なんだが…誰も居ない。代わりに、俺が置いてきた置手紙にそっくりな手紙が机の上に……いや、そっくりではないわ。何故か『果たし状』と妙に達筆な字で書かれている。無論毛筆だ。この時代にどっから持ってきたのやら。

 

 無いとは思うが、絶縁状とか寝取られメールの類だったら、すぐデスワープして無かった事にし、次のループでやったヤツを暗殺しようと思いつつ開けてみると…

 

 

 

『本日のオシオキ。朝まで部屋から出ないように』

 

 

 とだけ書かれていた。

 …どういう事? オシオキされる理由は山のようにあるけど、今日は特に何もなかったと思うんだが。

 それに、部屋から出ない事がどんなオシオキになるんだ? トイレが無い部屋ならまだ分かるが、シャワーも風呂もついてる一等部屋だし。ちなみに追い炊き機能付き。超がつく凄腕のゴッドイーターに宛がわれる部屋です。リンドウさんとかね。俺はゴッドイーターとして扱われてる訳じゃないが、戦力的な意味では極東トップクラスだから、それはいいとして。

 

 …じゃあ、一日オアズケって事? そりゃ俺は、一日も我慢できずに、ヤれそうなアイドルに手を付ける甲斐性無しだけど、相手が居なければあんまりムラムラもしないし、オシオキになる程辛くはない。それともアレか、どっか別室でやってるレズプレイの音を流して、肝心の本番は見せないとかそういう趣向か?

 

 

 

 

 

 

 ………? 

 

 

 

 『相手が居なければ』あんまりムラムラしない。

 

 

 

 じゃあ

 

 

 

 相手が居たら?

 

 

 

 

 

 

「「おじゃましまーす!」」

 

「あ、これレア博士から預かった手紙」

 

 

 わーお。ここでナナとリカかよ…。

 手紙の内容は………『夢のおかげで完全にその気になってるから、責任とってあげなさい。二人には誘惑する為のアレコレを仕込んであるけど、限界まで耐えるように』。

 これはご褒美でオシオキだわ…。お膳立て整えられたけど、ヤッたらヤッたで次のオシオキのネタにされますわ…。

 

 

 

「? どしたの、おとーさん…じゃなかった、開祖様? ひょっとして、遊びに来たの迷惑だった?」

 

 

 いやそんな事はないけど。…と言うか、おとーさん?

 

 

「?」

 

「あーっと、リカ、リカ。ほら、あれだよ。覚えてないんだって」

 

「あ、そっか…。夢の中のお話だったもんね。じゃ、仕方ないよね…」

 

 

 あの、目に見えて落ち込まれると罪悪感が半端ないんで…。辞めてくれとはとても言えないから、思い出すのに協力してくれんかな。

 思い出せれば、何でそんな風に呼ばれるのかも理解できるから。

 

 

「そうだね! でも、どうやって…(チラッ)」

 

「あの夢の中で、いつもやっていた事って言うと…(チラッ)」

 

 

 いきなりそこに到達すんな! …あ、いや、覚えてるんじゃなくて、妙な想像したんでもなくて、そう言う事ばっかやってたって聞いてただけで……ああうんん、考えれば考えるだけアカンなコレ。

 と言うか、おとーさんってなぁ…。この子に言われると、ものすごーくヤバい事してる気がしてくる。

 

 

「じゃあ、リカのお姉ちゃんのミカさんに言われると?」

 

 

 ……パパって呼ばれると、明らかに如何わしい関係っぽいのに、むしろプラトニックっぽく感じる。不思議!

 つーか、二人とも夢の中の事を覚えてるのに、俺の部屋に来るって…危機感とか無いんか。

 

 

「危機感って言われても…。何が危険なの?」

 

 

 そりゃお前、面と向かってょぅι゛ょに言うとそれだけ事案になっちまう事でだな…。

 

 

「そう言われても…あの夢の中では、ずーっとそれをしながら生活してたんだもん。私にとっては、怖いものでもイヤな事でもなくて、物心ついた時からそれが当然なんだけど」

 

 

 おおう…ガチで洗脳か調教やん…。あ、オカルト版真言立川流はハナからそんなもんか。

 

 

「あ、でもちょっと違和感はあるかな。ナナがおっきいもん」

 

「そうだよねー。夢の中では、私とリカって同じくらいの背丈だったのに。急に自分だけ成長したみたい」

 

 

 ああ、それは無理もないかな。夢の中では、ほぼ一緒に育ったって聞いてるし…。むしろリカだけが成長してないみたいに思えるかもしれない。

 

 

 …自然に話している間に、いつの間にやら両隣のポジションを確保されてしまった。ベッドに3人で腰かけ、ナナは足をプラプラさせながら、リカは俺の腕に抱き着いて語っている。

 どうしよう、逃げ場すら無いよ。

 

 他愛無い会話をしながら、これからどうするべきか考える。俺の脳内に浮かんだ選択肢は…。

 

 

①エロしか頭にない俺は、突如開き直って二人を襲う。

②唐突にミナミ辺りがきて、3Pどころか4Pに雪崩れ込む。

③逃げられない。いつもの事である。

 

 

 

 

 

 絶望! 突き付けられた答えは③ッ! いつもの事なりッ!

 と言うかどれでも同じだ。

 いやいや、しかし待て待て。レアも言ってるみたいじゃないか。手を出すのは許すけど、出来る限り我慢しろって。即堕ち二コマじゃあるまいし、いきなり陥落してどーすんだ。

 

 

「? どしたの、開祖様? お腹痛いの? 擦る?」

 

 

 それは俺の腹を擦るんですかね、それとも『おっぱい揉む?』みたいなノリでリカのお腹を擦るんですかね。

 

 

「どっちでもいいよ。ほら」

 

 

 服をずり上げ、柔らかそうなお腹を見せるリカ。こういう無防備さが理性を削るんだよなぁ。

 

 

 

「じゃあ、私は…お腹でもいいけど、太腿とか触る? レア博士が言ってたけど、そういうの好きなんだよね、男の人って」

 

 

 俺は女の子の体なら、大体どこでも好きだけどな。…で、では、二人ともちょっとだけ…。

 

 

「「どーぞ♪」」

 

 

 右手と左手に、それぞれ違った感触が伝わって来た。ナナの内股に手を這わせると、スベスベした柔らかい感触。ゴッドイーターとして強化され、野生の獣のようにしなやかな体だと言うのに、こんなにも手触りがいいなんて。

 

 

「んっ…」

 

 

 撫で回されて感じてしまったのか、ナナは足で俺の手を締め付ける。が、それは柔らかくて暖かい感触に包まれるという事に他ならない。ちょっと指を動かすだけでも、ナナの足はピクピク震えていた。

 

 一方、リカの背中から手を回し、お腹に触れている方の手。こちらもスベスベで柔らかい。字面で言えばナナの内腿と同じ感じだが、実際の感触は全く違った。

 最初に感じたのは、『体温高いな』って事だ。皮膚の上から触れただけで、その下で内臓が脈打ってるのがよく分かる。…妙な意味じゃないぞ。体の元気さが感じ取れると言うか。

 ああ……マッサージしてあげたくなってきた。

 

 

「ふう…開祖様、くすぐったいよぉ…」

 

 

 もうちょっと我慢して…。うーん、こうしてると、なんか懐かしい気分になってくるような…。

 ……リカ、ちょっと抱えるぞ。

 

 

「ふぇ?」

 

 

 よいしょっと…。おお、思った通り、なんか馴染むな。

 リカを膝の上に乗せて、後ろから抱きしめるのが妙に落ち着く。

 

 

「あはは、何だかなつかしー…って言うのもおかしいかな。夢の中では、よくこうやって抱っこされてたよね。二人で開祖様の足に腰かけてさ」

 

「そうそう。そのまま本を読んでもらったり、お昼寝したりしたっけ。私ももう一度やってほしいけど…二人一緒に乗るには、私はちょっとサイズが大きくなり過ぎちゃったな」

 

 

 ……そっか。無意識にでも覚えてるのかな。

 ……でも、なんかこう…モゾモゾするような…?

 

 

「こうしてほしいからじゃない? よっと…」

 

 

 リカが腰をモゾモゾ動かす。……薄い尻の感触が、足に伝わってくる。

 これは、アレか? 『当ててんのよ』の尻版か? 確かに好きな遊びだが、それで辛抱堪らなくなる程では…?

 

 ……あ、あれ? もう?

 

 

「あ、おちんちんが大きくなってきた」

 

 

 リカってばどこでそんなセリフ! …夢の中の俺か。

 と言うか、いっつもコレやってたのか夢の中の俺!

 

 ああ、リカの腰がぐりぐり動いて、大きくなったナニの先端に尻が擦りつけられる!

 

 

「リカってそれが得意だよね。私はどっちかって言うと、お尻で挟む方が好きだったけど。お母さんのお尻とサンドイッチしたりすると、すっごい悦んでたよね」

 

 

 尻コキと来た! しかも親子で!

 あっ、ちょっ、リカの尻の擦れ具合が強くなってきた? ヤキモチでも焼いたのか? …それとも、俺のナニがどんどん大きくなってるから、擦れやすくなってるだけか。

 

 いかん、我慢はできるけど、このままだと我慢汁でパンツの中が湿ってしまう。

 

 

「リカ、ちょっと腰緩めて…はい、ごかいちょ~。うーん、手と指が大きくなってるから、夢の中よりもやりやすいや」

 

 

 ナナが異様に慣れた手付きで、リカの股の下にある俺のナニを引っ張り出した。親指と人差し指でチャックを下し、小指で社会の窓を開け、中指と薬指でサワサワしながら棒を取り出す名人芸だ。

 どれだけ同じ事を繰り返せば、こんなに手際がよくなるのやら。

 

 

「んしょっと…じゃあナナ、こっちにお願い」

 

「うん。…男の人って、変な趣味してるよね~。ホットパンツの裾から、パンティの下に潜り込ませるのが好きとか」

 

 

 え、俺そんな事してたの?

 

 

「うん。夢の中では毎日してたよ。まだ子供だったから、挿れられない代わりだったんだろうけど」

 

「ホンバンは、おかーさんのセンバイトッキョだったもんね。早く大きくなりたいな、ってずっと思ってた。…ナナ一人だけ大きくなっちゃったけど」

 

「えへへ、抜け駆けゴメン! でも、大丈夫だよ。リカと一緒なら、『オトナ』にしてくれるって、この前言質取ったから」

 

 

 やっぱ覚えてやがったか…。それで、今日は二人で押しかけて来たのな。

 

 

「うん! ……ねぇ、迷惑だったかな。もし本当にダメだったら……すっごく辛いけど、諦めるから…」

 

 

 そこで二人揃って泣きそうになるなよ…。迷惑かけられたのは、俺じゃなくてお前らだろ…。それも、人生が滅茶苦茶になっちまうような、とんでもない迷惑を。

 分かってるよ。最初っから、断るとか拒絶するなんて、選択肢すらないんだ。

 

 お袋さんにどれだけ呪われるか、考えたくもないが…二人そろって、ちゃんと面倒見るよ。

 

 

「「やった♪」」

 

 

 ハイタッチをする二人。本当に姉妹か親友みたいだな。

 そんな事を考えていたら、リカが感激したように飛びついてキスをしてくる。あっという間に、幼く小さな舌が滑り込んできた。その間にも、ナナの手は俺のナニに絡みついて離れようとしない。

 二人の口も指も、幼い性格と外見とは裏腹に、下手な熟練娼婦よりも淫靡で背徳的な技術を発揮してくる。

 

 それも当然か。この二人にとっては、(現実にはともかく)物心ついた頃から、日常的に行って来た事なのだ。恐らくは、「一番楽しいアソビ」として。

 好きこそものの上手なれの言葉の通り、毎日毎日趣向を凝らし、楽しんで続けていれば、これくらいはできるようになる。

 

 更に言えば、こうやって俺を気持ちよくさせる事は、二人にとっては媚びる手段でもあったんだろう。お母さんだけが出来る『本番』。それを、どうにかして自分達にも体験させてくれないか、と。

 『いつかオトナにしてもらおうね』ではなく、すぐに『オトナ』にしてもらう為。

 弄り回している肉棒を見る目で、すぐに分かる。これは、長年オアズケされていたエサにようやくありつける、飢えた獣の目だ。

 

 

 とは言え、流石に今のまま本番はキツい。特にリカが、サイズ的に。一緒に『オトナ』にしてやる為に、ちょっと準備をしないとな。

 

 抱き着いているリカに押し倒されるように、後ろに倒れ込む。充分大きくなったモノが天井を向く。おお、とナナが感嘆の声を上げるのが聞こえた。

 

 

「こ、こんなの私に入るのかな…」

 

「ちょっとナナ…そういう事言うのヤメテよー。ナナできついんだったら、私はもっと厳しいんだから。あっ、でも今更しないのは無しね!」

 

 

 分かってる分かってる。ちゃんと下準備すれば、ナナにもリカにも入るからね~。

 それじゃ、準備するから、リカ、反対になって。

 

 

「こう?」

 

 

 器用に俺の体の上で、くるりと反転する。ナナの股間が、丁度俺の目の前に来た。

 小悪魔JCに似つかわしい、ストライプのパンツが見える。…尤も、お漏らししたんじゃないかというくらいにベチャベチャだったが。

 

 

「わっ、目の前で見ると、相変わらずすっごい…」

 

「いやらしい匂いもするよね。でも、私達にとってはすっごく落ち着くニオイ…。お父さんの匂いかな?」

 

 

 ちんちんの匂いはお父さんの匂いとは言いません。いやお父さんなら誰だってちんちんついてるから、ある意味間違ってはいないけど。

 スリスリとくすぐったい感触がする。どうやら、二人でナニに頬ずりしているらしい。

 

 そうしているだけで、二人がどんどん欲情しているのが分かる。足を動かし、ナナの股座に指先を当ててみれば、やっぱりビショ濡れ。

 直接触ってほしい、と言わんばかりに、ナナはズボンのファスナーを下げる。さっきのお返しとばかりにズボンの足を侵入させ、親指でまだ誰も触れた事のない(夢の中はともかく)秘部を嬲り始める。

 

 

「んっ…あぅ…あ、そこ好き…。もっとぉ…」

 

 

 足に自分から秘部を擦りつけながら、ナナは体を伸ばした。湧き上がる性感を堪えながら、ワガママボディで一際目を引く乳房で俺のモノを挟み込む。

 

 

「パイズリってゆーんでしょ…? するのは初めてだけど…」

 

「あっ、それ私じゃまだ出来ないのに! むぅ……さきっちょ貰うからね!」

 

 

 柔らかい感触が肉棒の胴部分を包み、同時に小さく熱い穴が先端を咥え込む。二人がかりでパイズリフェラとは、どれだけコンビネーションが上手いのだろうか。

 二人とも好き勝手に動いているように見えて、その実俺を気持ちよくさせる事が最優先。互いの動きを邪魔せず、むしろ急所を交互に責めてくるような動き。

 

 こ、これは…堪らん…! 奉仕の練度で言えば、アリサ並だこの二人…!

 射精を堪えているのを悟られたのか、我慢するなとばかりに動きがより激しくなる。

 

 

「ねぇねぇ、早く出して? 足でおまんこ弄られて、私もう我慢できない…。何で耐えようとしてるの? ずーっとこのおちんぽと遊んできたんだから、弱い所とか好き舐め方とか、全部知ってるんだもの。耐えようとしたって無駄だよ? いっつも我慢なんてせずに好きな時に私達にぶっかけして、元気なままお母さんを犯してたじゃん。今度は私達だよ?」

 

「んっ、んんっ、んぅ~!」

 

 

 ちょっ、ナナのセリフも、ロリの吸引もシャレにならん…イかされる!?

 う、おっ…!

 

 

 

「んんんっ!!! ん、は、出たぁ♪」

 

「ひゃっ! 熱い…臭い…ああ、やっぱりこれ、いいなぁ…」

 

 

 好物の匂いを嗅ぎつけた動物のように、顔にかかった白濁をうっとりとして拭い取る。互いの顔を舐めあい、残滓をふき取るのにも抵抗が無いようだ。

 …何と言うか、毛繕いをしあう犬猫のように見えてきた。ネコだな。タチもイケるようだが。

 

 

 気持ちよかったが、イかされるだけなのはちょっとプライドが傷つくな。

 ミニスカの下でビショ濡れになり、既に下着の体を為してないパンティを剥ぎ取り、リカの股間にむしゃぶりつく。

 

 

「やぁん、やっといつもみたいになってきた♪」

 

 

 抵抗すらせず、舌と口の愛撫を受け入れるリカ。彼女達にとっては、これくらいされるのがいつもの事らしい。

 未成熟な膣に思いっきり舌を突き込んでやれば、そこにあるのは処女特有の抵抗感と、初潮も来てないだろうに興奮して男を歓迎するメスガキの味。この俺をして、ここまで幼い子が相手なのは初めてだ。…シオの実年齢は、イマイチ分からんし。

 セックスの事しか考えられなくなったメスガキを愛撫で喘がせていると、パイズリを終えたナナが抗議するように纏わりついてきた。

 自分も忘れるな、と言いたいらしい。

 

 リカの体の隙間に自分の体を捻じ込むようにして、俺の体に吸い付いて来る。硬くなった乳首を、体温以上に熱く感じる舌でクリクリと愛撫してきた。軽く歯を立てられた時は、ついつい体をビクンと痙攣させてしまった。それがまた、リカの膣を無作為に抉り回したようだが。

 

 

「んっ…お母さんのおっぱいに吸い付いてるみたい…」

 

 

 立場的にはお父さんなのにね。じゃあ、今度は逆にお父さんが娘のおっぱいをチュッチュしましょうか。

 ほら、ナナ。こっち来な。

 リカは今度は、ナナと遊んであげな。上手にナナをイかせられたら、先にリカをオトナにしてあげるから。

 

 

「ホント!? えへへ、ゴメンねナナ~」

 

「んっ、だめぇ…私が先だもん…体は大人になってるから、私が先だもん…あっ、あっ、ぁ、吸うの強いぃぃ」

 

 

 二人でのレズ行為も慣れたもの。リカは容赦なく、ナナの弱点を責めていく。お互い、急所は知り尽くしているのだろう。

 と言うか、責めの動きに俺と同じ癖がかなり見られる。仕込んだのは俺…と言うより、散々俺にヒィヒィ言わされている間に、自然と覚えたんだろう。これが雀百まで踊り忘れず、という奴か。

 

 ただ、やはり処女なだけはあって…と言うのもおかしいが、膣内への愛撫は少々ぎこちない。

 夢の中での体と、現実での体とのギャップもあるんだろう。

 

 それでも、俺に乳首を弄ばれ、リカに秘部を嘗め回されるナナにとっては、とても耐えられるような責め苦ではなかったようだ。

 必死で唇を噛み、全身に力を入れて、仰向けに仰け反って快楽を堪えようとするナナ。だが、はっきり言って無駄な足掻きだ。その足掻きを見るのが楽しいんだが。

 何せ、リカには『上手にイかせたら大人にしてやる』とは言ったものの、時間制限の類は全く付けていないのだから。ナナがイくまで、俺とリカの執拗な攻めは続くのだ。

 

 ま、ハタから見ていて、無駄な足掻きほど愉悦できるもんは無いのですが。…いや訂正。もっと愉悦できる物は沢山あるな。上手く行ってると思いつつ破滅への道一直線とか、大どんでん返しとか。

 

 

 ともあれ、そんな状況であっても、ナナは俺の手と舌には抵抗しようとしない。夢の中で幼い頃から愛撫され続けた為か、無条件に受け入れるクセでもついているんだろう。

 なもんだから、どれだけ我慢しようとしても、ナナの口撃を避けようとしても、俺の指先一つでそれを突き崩され、できた隙にリカが容赦なく付け込んで、どんどんナナを昂らせていく。

 

 

「ねぇねぇナナ、どこでイキたい? どんな風にイかされたい? やっぱりおまんこ? そこは開祖様のおちんちんでイきたいから、おっぱい? 今ならキスでもイけるよね。おもらししちゃうくらい、思いっきりイキたくない?」

 

 

 イッちゃったら最初はリカに入れるからなー。ほれ、こいつが一番に欲しければ我慢するんだ。

 

 

「あっあっ、おちんちん擦り付けるの、ダメ…本当に、ダメ…! イ、イッちゃう…!

 

 

 なんとナナは、リカの愛撫でも俺の指でもなく、ワレメに俺の先端を軽く擦り付けられて限界を迎えようとしていた。刺激としては強いものではないから、精神的な要因がトドメになったんだろう。

 それだけ、俺の肉棒を受け入れる事を、長年待ち望んでいたのだ。

 いやらしさといじらしさで理性が吹き飛びそうになったが、勝負は勝負。(最初から勝ち目のないルールだったが)

 

 ほーれ、スリスリクチュクチュ。

 

 

「あっ、だめ、だめだめだめ、むり、だめ、いきたいいきたくないいきたいいきたいいくいくイクイクイクッ!!!」

 

 

 

 何とか堪えようとしているナナだが、どんどん目が混濁していき、我慢しようと自分に言い聞かせる言葉さえ、肉欲に飲み込まれていく。

 最後に肉棒の鈴口を、ナナの一番敏感な小マメに添えてやると、最期の抵抗とばかりに口を押えて仰け反った。

 絶頂の声を抑えきれず、痙攣を抑えきれず、全身に力が入り…脱力する。 

 

 

「あ、あ、あぁぁぅぅ……い、いかされちゃったよぉ…」

 

 

 可愛かったぞー、ナナ。後になっちゃうけど、しっかり可愛がってやるからな。ちょっと休んでなさい。

 

 …と言う訳でリカが一番乗りになりましたー。

 

 

 

「やったね! …私的に、お姉ちゃんが一番上のお姉ちゃんで、ナナが二番目のお姉ちゃんなんだけど、一番下の私が一番乗り!」

 

 

 あ、ミカが処女なのは知ってたのね。知ったかぶってたけど、やっぱバレバレ?

 

 

「うん、夢で開祖様とエッチする前から。具体的な内容は全然知らなかったから、『オトナっぽい事してるフリしてるんだろうな』って思ってたくらいだけど」

 

 

 むぅ、ミカってばかなり本気でポンコツよのぉ。外面はいいし、度胸も頭も大したものなんだが、キャラ付けを間違えたとしか思えん。

 

 

「でもお姉ちゃんはそれがいい!」

 

 

 よく分かってるな。さて、お待ちかねの、大人になる瞬間だぞ。

 ちゃんとナナにも見てもらおうな。

 

 

 

「うん…ナナ、見て。ナナよりもずっとちっちゃい、夢の中と全然変わってない、キツキツのココに、開祖様のおちんちんが入ってくるトコロ…」

 

 

 姉妹(のような相手)に自分の記念の瞬間を見てもらいたいのか、それとも単に自慢したいのか。リカは自ら股を広げ、本人の申告通りに小さくキツい入り口を広げて見せる。

 こんなトコに俺のモノを突っ込んだら大惨事不可避だろうが、そこはオカルト版真言立川流。破瓜の血以外は一切流さず、奥まで突っ込めます。流石に全開状態は、慣れさせてからでないと危険だが。

 

 

「んっ……んっ、んん~~~~っ」

 

 

 リカ、痛むか?

 

 

「痛い…のに、痛くないの…。ジンジンして、熱くって、それが広がってきて、お腹に溜まって…あっ、今先っぽが奥に当たった?」

 

 

 残念、それよりも奥がある。今先っちょが当たってるのは処女膜だよ。これを破って、リカはオトナになるんだ。

 

 

「え~、でもおかーさんは、破ってジュブジュブして、せーえきナカダシしてもらってオトナになるんだって言ってたよ」

 

 

 間違っちゃいないが、その理屈で行くと妊娠してようやくオトナ扱いって事になりかねないからな。まずはここまででオトナって事にしとけ。

 ほら、ナナ。見ろよ見ろよ~。妹の大事な所に、おとーさんのが入っていくぞ~。

 

 

「あぁ……う、うわぁ…んっ…」

 

「あー、ナナったらコレをみながらオナニーするんだ? いいなぁ、ナナの時は私もしようかなぁ」

 

 

 そんな体力が残ってればな。ほぉら、一生に一度の瞬間だ。しっかり魂にまで刻んで、来世まで覚えておけよ…。

 はい、貫通っ…!

 

 

「いっ……!! ……~~~~~!!!」

 

 

 流石に痛むのか、リカは大きく顔を歪め、浅い息を繰り返す。涙も出ているが……痛みからでないのは確かだった。

 意外だったのは、リカの内部だ。ただ只管キツく熱く、抵抗も強い。それだけでも十分すぎる程に気持ちよく、暫く腰を振れば射精に至るには充分なくらいだ。

 だが、肝心のリカの反応は、思っていた程ではない。これだけ体が開発されていれば、初めてでも突き込めばヒィヒィ感じそうだったが……。

 

 

 …そうか、こっちの性感は全く未開発なのか。夢の中の経験がフィードバックされるのだとしても、本番には一度も至ってなかった。処女膜よりも手前は、手マン等で経験しているだろうが、そこから奥は本当に初めてだったんだろう。

 先程までと違い、奥まで迎え入れての奉仕は全く勝手が分からないらしく、ただ呼吸に合わせて絞めるのみ。

 

 ちょいと予想外だが…悪くはないな。何だかんだで二人を開発した記憶はないから、勝手に調理された料理だけがいきなり出されてきたようなものだった。その最後の仕上げを俺がやるのだと思えば、これも楽しいものだ。

 

 

 

 うん…よし。リカ、それじゃ一番オトナな悦び方を教えてやろう。

 

 

「い、一番、オトナ…?」

 

 

 お赤飯もまだなのにオトナになっちゃった悪い子は、徹底的に子宮、ボルチオでオシオキだ!

 赤ちゃん作る機能もまだ整ってないうちからねちっこく開発していったら、将来どうなるだろうな。赤ちゃんがお腹の中で動くだけでも気持ちよくなっちゃうかもしれないぞ~。

 

 

 

「す、少なくとも赤ちゃんにおっぱい吸われたら、つい気持ちよくなっちゃいそうな気が…あっあぁ、奥、奥に来てるぅ」

 

 

 名残惜しいが、リカの幼い体で長い行為は体力的に耐えられない。

 ピストンをせず、一番奥にグラインドで先端を押し付ける。柔らかいような硬いような独特の感触が先端に伝わって来た。

 そんな責め方をしていれば、肉棒の一番敏感な部分…先端、鈴口に集中的に刺激が訪れる。

 

 リカの体力が限界だから、と言い訳をして、俺は我慢をする事なく、幼すぎる胎内に思いっきり白濁をぶちまけた。

 

 

「あっ、き、きたっ、いつものせーえきより、ずっと熱いのっ!」

 

 

 そりゃ敏感なトコロだもんねぇ。しかも締まりが良過ぎて、ホースの先端を潰して水を出したみたいに、勢いが2割増しくらいになってるっぽい。射精感で何となく分かる。

 

 息も絶え絶えになったリカのナカからズボッと抜くと、早速ブローバックが溢れてきたようだった。と言うか、まだ入り口が開いたままになっている。

 

 

「あぁ…勿体ない…。リカ、舐めていい? …聞いてないか。それにしても、お母さんとの時は、もっと長く入れてたような…」

 

 

 そりゃ、相手と体調によって好ましいペースとか時間は違うからな。

 さ、待たせたな、ナナ。今度はナナがオトナになる番だぞ。

 

 

「う、うん…でも、むしろちょっと怖くなってきたような…」

 

 

 怖がってもだーめ。最初に俺に『誘引』を使って来たのはナナだぞ? それに、リカと一緒にオトナになるって約束だったんだしな。

 大体、リカの中の精液を啜りながらオナニーし続けて、怖いなんて言っても説得力が無いよ。

 

 

「あはは……じゃ、じゃあ今度こそ……ね、リカ、今度は私のを見ててね…」

 

 

 リカよりもっと過激な事をやってやろうとでも思っているのか、ナナはリカの上に覆いかぶさった。シックスナインの体勢で、リカの真上にナナの秘部が来て、俺に尻を突き出している形になる。

 

 

「ね? 初めては、こうやって後ろからがいいなって、ずっと思ってたの…。抑えつけられるとレイプっぽいし、お母さんが好きな恰好だったから」

 

 

 いい話…なのか? と言うか、レイプOKを引っ張るなぁ。

 それ以前に、ロストバージンしたばかりの妹の目の前で、大事な所を開いて、自分がレイプされる瞬間を嬉々として見せ付けようとしている姉。

 これもうわかんねぇな。わかんねぇけど、とりあえずアブノーマルなシチュエーションに、オニンニンはギンギンだ。後ろ目に見ているナナが、怯えながらうっとりするくらいに。

 

 尻を掴んで広げ、上半身全体で圧し掛かるように密着すると、ナナの色っぽい吐息が漏れる。

 一気に貫いたリカとは逆に、ゆっくりゆっくり体重をかける。指と舌に慣れた膣の肉を割り広げ、その先にある処女膜へ到達する。

 

 これまたゆっくりと圧力をかけ、膜が破られていく感触をナナによ~く理解させる。

 流石に痛みはあるのか、歯を食いしばり、ベッド(リカの足の間だ)に顔を埋めて声を堪える。処女膜を引き千切る、独特の感触。

 

 …あ、あと1センチ進んだら完全に突き破るな。ほら、ナナ。一生に一度の瞬間だ。リカも見てるし、よ~く覚えておけよ。

 ベッドに顔を埋めたまま、何度も首を縦に振るナナ。

 

 

 

 …最後の1センチを突き出し、ナナの奥に突入した瞬間だった。

 

 

 

「!っ 、あっ、あぁぁぁ!?」

 

 

 突然ナナが堪え切れない嬌声を上げる。その理由は明らかだった。

 誰も触れた事が無かった筈のナナの奥は、性感として開発され尽くしていたのだ。一突き…いや、ほんの少し動くだけで、神経に直接電流を流し込まれたかのように悶え狂うナナ。それこそ、秘部の真下で呆然とガン見しているリカに、潮でもぶっかけてしまいそうなレベルだ。

 リカと同様、膜の手前だけはある程度経験あり、奥は真っ新だと思っていたので、完全に予想が外れた。

 

 しかし、処女だったのは確かの筈。夢の中で、実は本番を行っていたとも考え辛い。一体何故?

 疑問に思ったが、答えはナナ自身が出してくれた。

 

 

「こっ、これっ、お、思い出した! お母さん! お母さんの感覚ぅぅ!!!」

 

 

 お母さん? 夢の中で抱いていたという、ナナのお母さん。

 ……あ。ひょっとして、夢の中のナナのお母さんと感覚が繋がっていた? …と言うより、自覚なくナナがお母さん役になっていた、と言う事か? 知らない間に、別人として抱かれていたと。

 まぁ、夢の中の自分が、現実の自分ソックリとは限らないし、全く知らない人、或いは知人に成り代わる事だってあり得るのが夢だ。そう不思議な事じゃないか。

 毎回…じゃないよな。多分、時々でしかなかったんだろうが、それでも何年分もの夢だったようだし、それなりに経験はあると言うかフィードバックされてる訳か。

 

 

 何にせよ…これなら、多少派手に動いても大丈夫そうだ。

 知っているのに初めて経験する快楽に怯えるナナ。それとは裏腹に、膣内は入り込んできたオスを全力で貪っている。

 夢の中での性行為が、体に染みついているんだろう。処女とは思えない膣のうねり、動き。どこをどうすれば俺が悦ぶのか、勝手に体が対応している感じだ。

 それでナナ自身も感じてしまっているので、ある意味暴走しているようなものか。

 

 

 声も形にならない程に感じているのに、ナナの腰とナカは好き勝手に動き回る。……いや、好き勝手に、じゃないな。

 俺の乱暴なピストンを受け止める為の動きだ。腰と腰のぶつかり合いを一番強く受け止められて、出入りする肉棒が一番好きな所に直撃するように誘導する動き。

 

 あー………なんだろ。

 この感覚、知ってるような…。うん、そもそもナナが欲しがってる所が何となく分かるのは何で? そりゃ、そういう弱点を見つけるのは基本だけど、それはもうちょっと時間をかけ、じっくり反応を見ながら探していくものだ。極めて短時間で探り当てる事もできるが。

 しかし、今回のコレはちょっと違う。まるで最初からナナの弱点を知っているようだ。

 

 …ようだ、じゃないな。うん、確かに知ってる。チンコが知っている。そして頭が思い出してきた。

 夢の中で何をヤッていたのか。ナナの母親と、そうだと思っていたナナ自身を、どうやって弄んでいたのか。そう、あの時のナナ母の好きだった動きは…コレだ!

 

 

「っ! か、おか、おかぁさ…! こっ、これっ、これすきぃ…!」

 

 

 「初めてはバックからがいい」と言っていたのも、母親(で抱かれた時の)影響だったんだろう。両腕を引っ張って仰け反らせ、容赦なく尻と腰を打ち付け合う。

 逃れる事のできない体勢で一方的に貫かれ、嬲られるのがナナ母の趣味だった。…あくまで夢の中の話だし、あれもナナの潜在的願望が投影されてたんだろうなぁ。

 

 男の味をあっという間に覚え、十年以上貫かれ犯され続けた記憶が、ナナのナカにあっという間に馴染んでいく。

 俺に奉仕する為に暴走していた体を制御する方法を思い出し、一息つく………訳がなかった。

 

 幼い頃から性的に可愛がられ、時にはナナ母として抱かれ続けたナナが、ここでブレーキをかける筈もない。壊れてもいいからと言わんばかりに、少しでも強く深い絶頂を追い求める。

 既にイキッ放しで痙攣し続ける体を無理矢理動かし、ただ只管に貫かれる性感を貪り続ける。

 どんなビッチよりも性欲に素直な、浅ましさを通り越して一種の神聖ささえ感じられる姿。

 

 それに俺も急速に昂ってきた。

 『このまま孕ませてしまえば、どんなに気持ちよくなれるだろう』

 MH世界で覚えた、女を孕ませる幸福感を思い出して、ついついそんな考えが沸いて来る。

 

 

 

 っ、イクぞナナ! 現実では初めての中出しだ、受け止めろ!

 

 

「きてっ、きてきてきて! あっ、ああぁぁぁい、イク~~~~~!!!」

 

 

 ただでさえ残り少ないであろう酸素を振り絞って紡ぎ出された、ヨロコビと懇願の声。

 それと同時に溜まりに溜まった衝動を解き放つと、ナナの膣からプシュッと音が、その下から「わぷっ」と声がした。どうやら潮を吹き、リカに直撃したらしい。

 噴き出した潮とは逆に、精液はナナの奥の奥に、それこそ吸い取られ飲み干されるように注ぎ込まれていく。

 絶頂で総毛だったナナは、背筋をピンと反り返らせて天を仰いで叫び、そして脱力した。

 

 必死で呼吸を整える姿。何もかもをオーガズムの為に注ぎ込み、体力の一欠片も残ってはいないだろう。

 

 

「むぅ~……開祖様、ズルイ…。ナナだけナカでこんなに感じちゃって…。悔しいから啜っちゃお」

 

 

 ナナの下でじっとしていたリカが、不満げにナナの秘部に吸い付いた。小さく声を上げるナナだが、動く事はできないらしい。

 反応らしい反応もしないナナに、更に不満を貯め込むリカ。

 

 まー落ち着け落ち着け。ナナには夢の中での経験があったんだから、仕方ない。リカにもあったけど、ナナ母になって抱かれるのは経験してなかったろ。

 

 

「それが一番ズルイよぉ。一人だけオトナになっちゃってさ…」

 

 

 そうブツブツ言いなさんな。ほら、それだけ喋れるんだから、体力も大分回復したろ。

 お望み通り、ナカでしっかり感じられるように開発を続けてやるから。ああ、でも一番重要なのはボルチオだからな?

 

 

「うん! ずっと自分で弄ってたから、準備は出来てるよ! ナナ…もう一回、見ててね?」

 

 

 

 ……この後、交互に貫かれては見せ合いっこして夜が更けていく。

 

 

 

 



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348話

 

神呑月

 

 

 

 狂乱の一夜(ぶっちゃけ、そうでない日の方が珍しいが)が明け、ナナとリカは自室でオネム。まー体力使ったからな。

 特にリカとか、2~3日は筋肉痛なんじゃないだろうか。

 

 えーっと、昨日って結局何がどうなったんだっけ。二人との夜が激しすぎて、色々頭から吹っ飛んでしまった。

 そうそう…血の力の体得者が出たんだよな。次に、フミカさんが親類の治療の為に俺に会いに来て…夜にはこっそり治療してしまった。誰にも気づかれないよう、情報が漏れないようにレアとアリサが細工している筈。

 その後に、あの二人の誘惑だったっけ。

 

 数えてみると少ないが、最後の1つが大きすぎたな。

 あー、思いっきりヤりまくったなぁ…。

 

 

「それはいいんですけど、だったらどうして私は廊下で会うなり犯されたんでしょうか…全然嫌ではありませんけど」

 

 

 歩くセックスがそこに居れば、そりゃセックスするだろ。まぁ、今回のはミナミが妙な表情してたから、おかしなことする前に手を打ったのもあるが。

 

 

「全く…ちゃんと体を洗ってから来ればいいのに…。おちんぽ様から、二人の体液の味がしましたよ? 私も呼んでくれたらよかったのに。…でもこうしておざなりに後始末させられるのも、なんだか興奮します…」

 

 

 本当に妙なモン目覚めさせてしまったなぁ…。

 

 

「はい、あとちょっとで終わるから、じっとしててくださいね。よいしょっと…」

 

 

 精液とミナミ自身の愛液でドロドロになった肉棒を口で掃除し、ミナミは立ち上がってショーツを脱いだ。結構アダルティなショーツを使ってるな。見た目の清楚さは、服一枚脱いだだけで消え去ってしまうようだ。

 それはともかく、生暖かさの残るショーツで、肉棒についている唾液を拭き取った。…そして、それを器用に俺のナニに括り付けて、ズボンの中に押し込む。

 …何やってんの?

 

 

「こうすれば、暫く私の体温を味わえるし、女の子にちょっかいを出そうとする時に貞操帯代わりになるかなって」

 

 

 そりゃこんなモンをちんこに着けて女の子を抱こうとすれば、ドン引きされるだろうけどよ…。自分の意思で外せる貞操帯って意味あるのかよ。

 ま、いいや。ところで、何か用事でもあったん?

 

 

「ええ。と言っても、正確に言うと用事があるのはアリサさんのレア博士なんですけど…今日はここには居ないんですね」

 

 

 ああ、いつもなら一人はいるけど、今日はちょっとな…まぁ察しろ。何か用事なら伝えておくけど?」

 

 

「大した事ではないんですけど…ちょっと何人かで女子会をしようという話になって、是非ゲストにと」

 

 

 女子会? …まぁ、何も言わんが…日付と時間を伝えておくけど、参加するかは知らんぞ。

 多分、暫く俺から目を離そうとしないと思う。ここ最近、別の女をどんどん抱いてたからな…。

 

 

「素晴らしいですね! 私の基準で言えば」

 

 

 そりゃお前の中身を知ってりゃな…。まま、ええわ。そんじゃ、俺はもう行くど~。

 

 

 

 

 

 

 …ちょっと呼び出されて、支部長に会いに来たんだが…。

 

 

「……落ち着け、息子よ」

 

「俺を息子と呼ぶんじゃねえ……。物心ついた頃から、最悪の両親だと身に染みてたが、それでも一つだけ信じてた事はあった。テメーは、お袋一筋だって事だけはな」

 

「事実だ。私はアイーシャ一筋だ。不倫なぞ論外、彼女と出会う前にもそのような関係になった相手など居ない」

 

「ほう…じゃあ、こいつは何だ? 何故テメーを父なんて呼ぶ?」

 

「…おじさま、の方がよかったでしょうか? 確か、援助交際の相手をそう呼ぶことがあると」

 

「…………」

 

「待て、本当に待て! その発言は私にとって色々な意味で侮辱的かつ社会的に危険だ!」

 

「そこまで堕落してやがったか…。年甲斐もなく、足長おじさんでも気取ってるのか!?」

 

「く、首が! 鈍い刃物の感触が!」

 

 

 支部長なら、社会的な危険は捻りつぶせると思うけどな。

 …なぁ、シオ。これ、何やってんだ?

 

 

「おー、久しぶりだな! 何って………カゾクダンラン?」

 

 

 えらく物騒なカゾクダンランもあったものである。ソーマの手には、どっから持ってきたのか鋸がある。チェーンソーとかではない、極めて原始的かつ手入れの悪いノコギリだ。

 支部長の首に突き付け、一息に引けば…まぁ、あの手入れの悪さじゃ死にはしないな。ムッチャ痛いだろうけど。

 

 そして、それを眺めながら、何故か支部長室にある炬燵でマッタリとミカンを頬張るシオ。…今、季節的に夏なんすけどね。まぁ、アラガミが現れて自然がメッチャクチャになったから、夏も冬も大して変わらないけどさ。気候が変動しまくるって意味で。

 

 

「これか? とーちゃんが『いつでも来なさい』って、特別に準備してくれたんだ! とーちゃんエライな!」

 

 

 …支部長、孫がカワイイのね。いや孫っつーか義娘だが。

 して、そこでシオにミカンの白いトコを食べさせようとしているタカネは、結局何故ここに?

 

 

 

「これでも、血の力の体得者第一号ですから。それに関して、少し話があると呼び出されたのですが、お父様と呼んだらこのような有様に」

  

 

 ああ、まぁ確かにお父様ではあるよな。さて、どうしたものか。助けるか? このまま眺めているのもいいな。

 しかしどうせなら、もうちょっと混沌とさせてやりたい。ここでどうすれば一番面白いかな。

 

 

「そこ! 妙な事を企んでないで、ソーマを止めんか!」

 

 

 ソーマはゴッドイーターとしてもかなり身体能力の高い方に入るし、それに腕力で抗ってる支部長って意外と凄いな。(聞いてない)

 

 

 

 

 

 「このまま眺めているのもいいな」しようとしたのだが、俺もこの後少々予定が入っている。仕方なく止めて誤解を解いて、ちょっと煤けている支部長と、タカネで話をする。ソーマも居るが、どうやらまだ疑っているらしい。

 

 

「それで、お父様。この度はどのようなご用事でしょう?」

 

「君にお父さんと呼ばれる筋合いはない」

 

 

 筋合いがあるかないかは別として、そのセリフの意味合いは普通とは全然違うな。それで?

 家庭板案件を見せ付ける為に読んだ訳でもないだろうに。

 

 

「む…簡潔に言えば、出張の依頼だ。タカネ君はアイドルだから、ライブツアーとでも言うべきか」

 

「お仕事でしたら、事務所を介してくださいませ。私がこうしてアイドルをやっているのは、あの方々への恩返しです。不義理をする訳にはまいりませんわ」

 

「それは分かっているし、話は通してある。後日、正式な仕事として事務所の方から話があるだろう。ツアー極東を出て大陸に渡り、世界を一周してくる形となる。当然、相応の時間がかかるし、体力的にも厳しいものがあるが…君達には問題なかろう」

 

 

 そりゃ、ハンターとノヴァだしな。動かない事による体力消耗も結構キツイいものがあるけど…と言うか、移動手段は?

 

 

「飛行機が主になるが、車、船、その他諸々だ。尚、墜落する予感がしたのでヘリだけは除外してある」

 

 

 カプコン製じゃないなら大丈夫だと思うけどなぁ…。

 つーか、何でその仕事の話に俺を呼ぶ訳?

 

 

「無論、君も無関係ではない。このライブツアーの目的は、血の力を広める事、そして世界各地の黒蛛病患者の治療だ」

 

 

 ああ、そういう…。確かに、タカネだと苦痛を和らげたり、病の進行を遅らせたりはできるけど、治療はできないもんな。

 しかし、いいのか? 仮にも俺は、現状だと唯一の治療法所持者だが…それを極東から離すと言うのは?

 

 

「問題が無いとは言わないが、それ以上に君をずっとここに留めておくのも別の意味で問題が出る。簡単に言えば、『こっちの奴らも治療しろ』だな」

 

 

 あー、難癖つけられる隙が出来る訳か。それなら、こっちから一時的にでも貸出して、恩を売った方がいいと。

 

 

「そして、問題がもう一つ。ラケル博士だ」

 

 

 ………ついに動いたか。

 

 

「ついに、と言うよりは、今までは仕込に専念していたようだな。手段は分からんが、君を排除するか、或いはジュリウス君を黒蛛病に感染させる策の準備が出来たから動き始めたんだろう」

 

 

 策って…具体的には?

 

 

「先日君に会いに来た、フミカという女性がいただろう。君に抱かれる事で、血の力を得ようとしていた女性だ。君は彼女の頼みを断り、どうやら夜に誰にも見られず治療を行ったようだが」

 

 

 バレテーラ。

 

 

「安心したまえ。これについて責める気はない。レア博士からも、予め話はあったしな。むしろ、これに関してはよくやったと褒めてやりたいくらいだ。……彼女を少し調査した。完全に一般人…逸般人でもない、ただの市井の女性だ。彼女が、君に抱かれて血の力を得られるという情報を得られるとは思えん」

 

 

 ? それは…確かに疑問に思ったけど。てっきり、俺を見限ってレッスンに来なくなったアイドル達から漏れたのかと…。

 

 

「それを確認したかね? 憶測で情報を補完すると、遠からず痛い目にあうぞ。たった一言問いかけるだけで真偽を確かめられる事なのだ。確認を疎かにするのは良くないな。…話が逸れたが…彼女はアイドル達とも、増して上級階級と言われている人間とも接点はない」

 

 

 何? それじゃ、一体どこから情報を得たと?

 

 

「…通りすがりの、車椅子の女性だそうだ」

 

 

 

 

 

 ……罠、だった?

 

 

「だろうな。流石にフミカ君も怪しんだようだが、祖父・祖母が黒蛛病に感染し、相当追い詰められていたのだろう。藁にも縋る思いでやってきたのだ」

 

 

 藁に縋るっつーか、藁で鉄棒を叩き壊そうとするような決意だったようですけどね。そもそもからして、当たり屋の真似事してアナグラ内部に入ろうとしたらしいし。

 

 

「手段はともかくとして、君がもし彼女の頼みを引き受けていれば、或いは祖父・祖母を優先的に治療していれば、これ幸いと情報をばら撒き、混乱させるつもりだったのだろう。或いは、もっと別の狙いがあったか…。幸いにして、彼女の祖母・祖父が黒蛛病にかかったという情報は拡散していない。本人達の口を封じれば、致命傷には至るまい」

 

 

 物騒な意味での口封じじゃないでしょうね?

 

 

「それこそ、つけいる隙を与える事に他ならない。しかも、フェンリル全体にまで影響を及ぼすような隙をな。…正直、ラケル博士はどんな手を打ってくるのか、全く見当がつかん。彼女の思考形態は異質すぎる。人とアラガミが交じり合った結果だろうな。それがどんな小さな目的のための行動であれ、どれ程被害が大きかろうと、全く遠慮なしに行動する」

 

 

 敵に1のダメージを与える為に、100の味方を犠牲にする、か。味方と思っているのかさえ怪しいもんだが。

 しかし、どうしたもんか…。

 

 

「そこで、先程の提案だ。逃げ出すようで気に入らないかもしれんが、この場合距離を取る事は我々にとっても有利に働く。世界各地を廻り、黒蛛病患者を治療し、味方…シンパと言ってもいい…を増やす。ラケル博士の面倒なところは、かなりの権威や財力を持ち、それを存分に活用した陰謀策謀を張り巡らせている部分だ。その力を削り取る事ができれば、彼女のリソースは激減する」

 

 

 ま、物理的に怖い相手じゃないわな。車椅子の華奢な女だ。筋肉だって殆ど無い。直接戦闘で負ける事はまずない。

 しかし、その提案に乗ると…ラケル博士の得意分野で戦う事になるのでは?

 

 

「そこは我々がサポートする。最初から、君に権勢の扱いを期待している訳ではないよ。それに、彼女が君に集中するなら、それはそれで好都合だ。私が背後から彼女を封殺するまで」

 

 

 そういうもんかな…。と言うか、支部長の命令で出張したら、荒野に置き去りにされるし、言葉は全然通じないし、俺を蚊帳の外にして一大決戦やってたしで、割と警戒心が…。

 

 

「意味もなく君を謀るような事はせんよ。既にそれだけの価値は無くなっている」

 

 

 はっ、終末捕食をコントロールする為の価値しかなかったもんな。今はまぁ、精々が使えるゴッドイーターか、情報源程度か。まぁいいや。

 いざとなったら、ネットを通じて強引に帰ってくるだけだ。いつ出発なんだ?

 

 

「旅先の都合もあるからな。具体的な事はまだ分からんが、もう少し先だ。正式な辞令が出るまでは、今のままアイドル達へのレッスンを続けたまえ。私からは以上だ」

 

 

 

 …ふむ。タカネ、何か聞いておく事はあるか?

 

 

「そうですね…。…………旅先で、美味しいらぁめんは食べられるでしょうか?」

 

「……最初の行き先は、ラーメンで有名な中国近辺だ。期待しておきたまえ。………ああ、一つだけ言い忘れていた事があった。君達二人を同時にツアーへ行かせる理由だが……彼女は君にくらいしか従うまい。後は、彼女の社長くらいか」

 

 

 …つまり、コントロールしろって事ね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 面倒事を押し付けられた腹いせに、家族板案件を再発させるよーな情報(捏造だが)を放り込んで退室する。

 背後から聞こえる、ソーマの怒鳴り声とシオの楽しそうな声を他所に、タカネは何やら機嫌よさげである。

 

 

「ええ、あなた様との旅行ですもの。楽しみでしかたありません」

 

 

 …まぁ、そうなるのか。でも二人きりじゃないだろうな。

 

 

「それくらいは構いませんわ。誰かが居たところで、どうなるものでもありません」

 

 

 …まぁ、こいつの感覚で言えば、人間もペットの犬も大して変わらんからな…。成大に吠え立てる狂犬でもなければ、チワワを連れてお出かけするのと大して変わらないんだろう。

 しかし…誰が一緒に来るのかな。護衛は俺にもタカネにもまず必要ないけど、ポーズは必要だろう。貴重な血の力体得者を、護衛もつけずに放り出しては、支部長が責められそうだ。それ以上に必要なのは、俺の監視だが。

 誰が来るかで揉めなきゃいいんだが…。

 

 

 

 ま、先の事は先の事。後から考えるとしようか。

 

 

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 この時の俺は、支部長の報復で、誰を連れていくのかの修羅場に叩き込まれる事を知らなかった…久々に刺されるトコだったぜ…。

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349話

進撃の巨人2と北斗が如くとEDF5DLCをやってたら、書き溜めが尽きかけていたでござる。


 

神呑月

 

 

 ライブツアーに出るまでは、今まで通りの生活。まぁ、順風満帆…とまでは言わないが、穏やかな日々だったのは間違いない。最前線では悲鳴や怒号が上がり続けているが、それこそ極東にとっては日常である。

 

 ブラッド隊の戦果も順調だ。

 既に全員が血の力・ブラッドアーツを体得し、心理的な問題もほぼ解決。ゲームシナリオで言うなら、次はロミオが焦り始める時期だが、今のロミオはむしろ彼女とヨリを戻したおかげで絶好調だ。浮かれてミスをやらかす程未熟でもない。

 

 懸念があるとすれば…俺にしてみれば好都合だが…ジュリウスとラケルてんてーの確執くらいだろうか? 表立ってはいないが、ナナの件の頃から、確かな溝が産まれているようだ。

 しかしそうなると、今度はラケルてんてーが何をやらかすか分からないのが怖い。

 あの人の目的は、ジュリウスを黒蛛病に感染させ、特異点として終末捕食を引き起こす事。

 

 つまり、極論してしまえば、ジュリウスの意思も、周囲にどれだけの被害が出るかも関係ない訳だ。ゲームシナリオでは、最期にはジュリウスを裏切って、神機兵の破棄所に放り出していたし、ジュリウスの意思は関係ない……いや、むしろ失意の底に叩き落す必要があるんだろうか?

 周囲の被害については、もう言うまでもないだろう。終末捕食が起これば、遅かれ早かれ全てゴックン。消化されて終わりである。

 

 実際、直接的な手段ではないとは言え、フミカさんを巻き込んでる訳だしな…。

 

 

 

 とりあえず、ラケルてんてーの陰謀については支部長や榊博士にお任せするとしよう。今も裏で丁々発止のやり取りをやってるらしいし、俺はブラッド隊の面倒を見るのに専念するか。

 …おかしな意味で言ってるんじゃないぞ。そりゃシエルやナナとはエロもするけど。

 

 とりあえず一番心配なのは、そのナナかな…。この前、リカと一緒にドレッドパイクに乗って爆走してるの見たぞ。尻の下のドレッドパイクがなんか幸せそうに見えた。

 …いやこの際、乗って爆走するのはいいよ。俺だってランポス相手に似たような事やった事あるし。

 でもなんでリカと一緒に狩場に出てるんだよ。GKNGの大幹部とは言え、リカは一応一般人だぞ…。

 

 最近は感応種の数も増えてきているらしく、ブラッド隊はひっぱりダコ状態。…ブラッド隊の価値があがっていく訳だが…あまりよろしくない傾向だな。必要とされる場面が増えてきて、ブラッド隊が分かれて行動する場面が増えてきている。

 感応種が増えすぎると、前回ループ時の死因のような大技を繰り出してくる可能性だってある。小マメに感応種を狩って数を減らしておいた方がよさそうだ。

 

 と言うか、ナナは本当に大丈夫なんだろうか。夢に巻き込まれたリカもそうだが、エロ的な意味じゃなくて…。なんだ…その…。

 

 

「…? ああ、お母さんが私のせいで…って話?」

 

 

 …ああ。話が妙な方向に迷走しまくって、歪められた夢はもっと歪んで、ナナはそれに適応しちまったけど、そこだけは…。

 

 

「ん~~………うん、まぁね…。私のせいで死んだ、って言うのは今でも思ってるよ。ずっと私を庇って旅を続けて、負担をかけて…最後には、私が呼び寄せたアラガミに…。でも、その、ね? 夢の中での死に様がね……。所謂その……腹下死だったから…」

 

 

 ………えぇ…ってか、腹下死させたのって、もしかしなくても俺…。

 

 

「別にそういう意味では恨んではいないけど。と言うか、お母さんが『今日は結婚記念日だから、本気でやるとどれだけ気持ちよく成れるのか試してみよう』って言いだしたのが原因だし。……夢と現実の過去は違うけどね、もうなんていうか……そっちのイメージが強くなりすぎて…」

 

 

 そりゃ気にする気にもならんわな…。と言うか、こんどおふくろさんの墓参りに行こう。こっち来るなと祟られる気しかしないが、切腹くらいしないと詫びにもならん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはそれとして、今日の予定だが…レアに呼び出された。

 いつものエロの為じゃなくて、何やら研究がしたいのだそうだ。一緒に榊博士も居たので、エロは期待できそうにない。

 

 …で。

 

 

 

 ナニ? アラガミ化の事?

 

 

「ええ。どういう性質のものかは貴方から色々聞いているけど、やっぱり検証したくて」

 

 

 まぁ、確かに俺だって経験則で『こういうもの』と分かっているだけだし、本格的に調べておくに越した事は無いが…。

 3年前だって、最低限しか調べさせなかったからなぁ。マッドが何やらかすか分からなかったから。

 

 

「ははは、ひどい言われ様だね。まぁ確かに、アレしたりコレしたりあの方法を試してみたり、色々やってみたかったのは確かだが」

 

 

 …レア、この人をちゃんと止めてくれよ…。で、何を調べたいんだ?

 

 

「そうね、専門的な事はあなたに言っても理解できないでしょうから………簡単な事から始めましょう。以前に聞いた話だと、貴方はアラガミ化した時、身に着けていた装備や道具を取り込んで変化するのよね」

 

 

 そうだな。剣を持ってりゃブレードが出来るし、ガンランス持ってりゃ手から砲撃ができるようになる。あんまり使った事ないけど、操蟲棍は……どうだろ、生物と融合するかはあんまり試したくないな。

 鎧や服にも影響を受けるね。それが?

 

 

「何もない状態で試した事はある? つまりは、裸で。それが、アラガミとして本来の貴方の姿だと思うのだけど」

 

 

 ……それは…考えた事もなかったな。アラガミ化するの自体、基本的に鉄火場ばっかりだったし。

 しかし、確かにデフォルトの自分の姿と言うのは興味がある。試してみる価値はあるか。

 

 

「うむ、ではここで脱いでくれたまえ」

 

 

 …ここで? 何故?

 

 

「勿論、記録を取る為だよ。変身の瞬間を克明に記録すれば、アラガミ化について新たな研究が進むかもしれない。上手くすれば、腕輪を壊されたゴッドイーターのアラガミ化を防ぐ手立てさえできるかもしれないんだ」

 

「いつも私達にばかりさせているんだから、偶には自分でストリップしてもいいんじゃない?」

 

 

 ちょっとだけよぉ~、ってか。どうせならレアが脱がせてくれればいいのにさぁ…。

 と言うか、変身前の裸も記録するのか。しかも複数の角度から。

 …キスマークも、さっき使ったばかりのナニも記録するのか…。

 

 

 ん? 別に誰ともシてないよ。トイレで使っただけだよ。大きく口を開けて「どうぞ」なんてのが居たかどうかは、想像に任せる。

 ま、実験だと割り切りますかね。

 

 

 と言う訳で、全裸。誰得である。強いて言うならレアが得かもしれないが、見るだけじゃなぁ…。

 しかし、何と言うか開き直ると意外と快適かもしれん。服着てる二人の前で自分だけ全裸とか、なんか蛮族に成り下がった気分だが。

 

 さて、もう変身していいのか?

 

 

「ああ、既に記録は始めている。いつでもいいよ」

 

 

 では……変身!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こう来たか。

 

 

 

「あ…歩く猥褻物陳列罪…」

 

 

 おいレア、否定できんがその言い方は流石に傷つく。そもそもガン見しながら言えた義理か。

 …そうだよなぁ、そーいえば俺って、ライドウと夢で会った時に、マーラ様のご加護を受けてたんだよなぁ。その影響…だよな? 加護を受ける前から、裸で変身したらこんな風になってたんじゃないよな?

 

 まぁ、何だ。俺もアラガミだって事かね。生物の部位ってのは、使えば使う程進化するもんでね。アラガミの進化速度は驚異的なもんでね。

 キリンは高い所の葉を食べる為に首を伸ばした。ゾウは鼻を伸ばした。シマウマ、虎、豹の模様、鳥の翼、コブラのサイコガン…。

 

 彼等 生物達の『生』に対しての執念ッッ

 それによってもたらされる進化の大きさッッ

 彼等の手にしたものに比較(くら)べたら俺の肉体改造など

 なんと控えめで

 なんとつつましやかなことかッ

 

 

 

 

 

 

 触手プレイが可能になりました。当然、複数本です。自然と自前での二本差しも可能になった訳だ。

 

 

 

 と言うか、アラガミ状態の俺のボディは、まだ俺も把握しきれてない機能があっちこっちにある訳だが…アダルトグッズみたいな機能も盛り沢山だったらしい。

 ……アラガミ状態のままセクロスするのも異種姦みたいだが、やっぱやるなら人間の姿でやりたいな…。部分変化、練習するか…。

 

 

 

 

 ちなみに、二人の博士は俺の形状には何もコメントせず、真面目にアラガミ化の原理について研究していました。なんか気まずい。

 

 

 

 

 そういや、俺がアラガミ化できるのを知ってるのは、今関係を持ってる人の中ではアリサとレアだけなんだな。ナナも知ってはいるけど、どういう事なのか説明もしてなかったし。

 機密事項でもあるとは言え、説明しておいた方がいいかなぁ…。

 

 

 

 

 

神呑月

 

 

 アンチョビが、着実にシンパを増やしているようだ。いやシンパっつーのも本人は不本意だろうが、とにかくレッスンを受けているアイドル達の中で、中心人物とかムードメーカーっぽい立ち位置になりつつあるようだ。

 正直な話、彼女の歌唱力やダンスの実力は、アイドル基準で評価すればお世辞にも高いとは言えない。血の力だって、段々身についてはいるけど、発現まではかなり時間がかかるだろう。

 

 しかし、そんな実力とは関係なしに、彼女を慕う者は非常に多い。ポイントはやはり、あの面倒見の良さだろうか?

 誰かが落ち込んでいる時、くじけそうな時、どういう訳だか高確率で彼女はその傍に居て、兆候に気付く。そしてアレコレと気を回して世話を焼くのだ。…多分、相手にピッタリ合っている形で。

 心理的に負担をかけず、強がる相手ならさりげなく、誰かに甘えたいのなら母親…と言うか、お袋さんのようなやり方で、誰かに頼りたいのであれば凛々しい態度で。

 

 ……今まで気付かなかったが…アンチョビって、フラウの同類じゃないか? 方向性が違うだけで、相手の望む姿を演じられる。

 多分、演じている自覚なんかないだろうし、相手に寄って気遣いのやり方を変えるのは当たり前だと思ってるんだろうけど。

 

 

 なんか自覚無くアンチョビの地位がどんどん上がっていく。本人は実力的に下の方だって自覚があるから、必死こいて頑張ってて、自分がそんな事になってるなんて想像もしてないようだが。

 …こりゃアレだな。天に向かって落ちていくスタイルだな。或いは、熱気球が太陽熱でどんどん温まって、勝手に昇っていくやつ。このまま行くと、実力だけ見れば分不相応なステージでセンターを任され、内心テンパりながら周囲のトップアイドル達の纏め役になってるような気がする。ちなみに胃痛はデフォだ。

 

 

 ……………よし、面白そうだからいけるとこまで行かせてみよう。

 目指せ第二の葦原ユノ。或いは葦原ユノ超え。

 

 

 それはそれとして、また来客があった。フミカさんだ。今度はちゃんと、正面から来た。アポは前回訪れた時に取りつけてあるので、受付からやってきた。

 無き晴らしたと思われる充血した目を見て、まさかの事態を疑い、ついでに『とうとう犯罪に手を染めたか』みたいな目で見られた。後者については、リカという12歳と関係を持ってしまった時点でどう考えても否定できん。日本の法律では、13歳未満との性行為は一律禁止されています。

 

 俺の犯罪歴はともかくとして、万一の事は無かったようで、一安心である。あのお爺さんお婆さん黒蛛病も消えて、ちゃんと帰って来たようだ。

 泣いていたのは、安心して気が緩み、涙が止まらなくなったからだったらしい。喜びの涙であれば、心配する事もなかったな。

 

 ともあれ、今日やって来たのは、治療の礼の為だそうだが………生憎、何の事だかわかりませんな。

 

 

「……ですが、治療ができるのは…」

 

 

 現状、俺以外には居ないけど、そうじゃない。

 『黒蛛病患者なんていなかった』。お爺さんとお婆さんは、単に数日間、他所の家に泊っていただけだ。

 

 オーケイ?

 

 

「………はい…」

 

 

 若干強張った顔のフミカさん。

 俺の言葉から、『そういう事にしておけ』という圧力を感じ、その背景を想像してしまったんだろう。実際、一歩間違えばラケルてんてーによって結構な騒動になっていた可能性は高いので、間違ってはいない。

 

 

「でしたら……訪ねてくるのも…ご迷惑でしたでしょうか…」

 

 

 いや別に。フミカさんは、先日訪れた時に頼んだ事が、実際は勘違いだったから必要なかった…と説明しに来ただけだ。大騒ぎしちゃったからね。

 …ところで、お爺さんお婆さん、それにフミカさんは、その勘違いを人に話したりは?

 

 

「…していません…。お爺さん達も……誰かからの手紙を読んで…それに従う事に…したようです…」

 

 

 いい事だね。恩を仇で返すのは本意じゃあるまい。いや、恩なんて実際には無かった筈だけど、善意の忠告は素直に聞いておくものだ。お互い、身の回りが騒がしくなるのは好ましくないだろう。

 …ちょっと物騒な言い方になったが、威嚇するような会話はここまでとして…。

 

 

「はい…。その、お礼をしないと…と思っていたのですが…」

 

 

 礼を言われるような事は何もやってない…事になってんだけどね。君に妙な事を吹き込んだ女について詳しく聞きたかったが、それは支部長が調べてくれたし。

 礼はともかくとして、これからどうすんの?

 差し当たり、血の力を体得する必要は無くなったろう。

 

 

「そう…ですね…。また、今まで通り…書店で暮らします…」

 

 

 書店? 本屋さんだったのか。確かに本は好きそうだし、古本屋とか図書館の司書とか似合いそう。

 しかし礼、礼ね…。いや迷惑かけたお詫びとでも言えばいいのかな。よくこの時代に本なんぞ残ってたもんだ。

 …珍しい古書……を貰っても、俺には価値が分からんな…。

 

 

「…本の価値は…面白いか、そうでないか…だけです…。それ以外の事なんて…後から付け足されたものです」

 

 

 はは、言うねぇ。話すの苦手そうなフミカさんが言い切るくらいだから、本気でそう思ってんだな。やっぱそーいう人か。

 

 

「…? そういう…?」

 

 

 ん。ま、何だ。

 好きな事や大事な人の為なら、自分の事を顧みずに突っ走れる人種。

 

 

「…そんな………私は…」

 

 

 お爺さんお婆さんの治療の為に、当たり屋の真似事までして俺に会いに来たくらいだぞ。好きでもない男に抱かれるのを覚悟して、身内を助けたいと思って行動した。自分じゃどう思ってるかは知らんし、その認識を否定する気はないけど、芯の強さは一級品だ。

 何人もの相手と現在進行形で関係を持ってる身で言うのもなんだが、それだけ想われたら、すっごい嬉しいだろうなって思う。…いやアリサもレアも、それくらい想ってくれてるけどね。

 

 

「…お礼として…体…と言うのも考えたのですが……私では、嬉しくありませんよね…」

 

 

 いやすっごい嬉しい。嬉しいけど、フミカさんの一番の魅力は、そういう覚悟が決まった時の芯の強さだと思うからさ。

 同じ抱くなら、本気で想ってくれてる時に抱きたい。…好きでもない男に、自分から体を差し出すもんじゃないよ。フミカさん自身が思ってるより、フミカさんは美人だからね。下心満載のヤロー共が群がってくるぞ。

 

 …こんな事言うのは俺のガラじゃないんだけどな。最近ちょっと色々ありすぎたもんで、これ以上やらかすとアリサやレアが怖い…。

 

 

「…そう言えば…恋人が、2人居たのですね…」

 

 

 うん。ま、そういう訳だ。ちゃんとした、誠実な人見つけて、思いっきり想いを向けるこった。

 …それじゃ、機会があれば、またね。

 

 

 

 

 

 

「…そのままガバッと行くかと思ったわ」

 

 

 そう言うなよレア…。これでも悪いとは思ってるんだぞ。

 まぁ、あのまま抱いても今一楽しめそうになかった、ってのも本当だけど。

 

 

「つまり、ああいう対応をした方が、本気になってくれそうだ、と」

 

 

 …それもある。まぁ、縁に恵まれたら…だな。どこぞの書店で働いているようだが、そんなトコに出掛ける機会もないし、まず無いだろう。

 

 

「ピコーンと音が聞こえた気がするわ。それはともかく、これから空いてる? ちょっと付き合ってほしいんだけど」

 

 

 ん、またアラガミ化?

 

 

「いえ、今日は神機兵の研究よ。私も、一線を引いたとは言え、元は神機兵の研究者だったから、クジョウ博士に助けを求められてね」

 

 

 無人…いや有人だったか? まぁどっちもいいか。と言うか、研究続いてたんだな。ここの所、全く音沙汰無しだったから、すっかり忘れてたぜ。

 

 

「極東のアラガミの実態を見て、今までの物では通じないと根本的な所から見直しをかけていたようよ。実際、ここのアラガミは独特だものね。強さという点でも、生態という点でも」

 

 

 ま、確かに。MH世界や討鬼伝世界の敵を模したアラガミまで出る始末だもんなぁ。

 しかし、通じるモノが出来上がったのか?

 

 

「実戦テストはまだだけど、スペックはかなり上昇したものが出来たと言ってたわ。あのクジョウ博士が自信ありげに語るんだから、相当なものでしょうね」

 

 

 幸が薄くて、それ以上に自信なさげな人だもんな…。で、それに俺を突き合わせて、何がしたいんだ? まさか、ゴッドイーター相手に実戦テストとか言わないよな。俺が相手したら、まず間違いなくぶっ壊すぞ。

 

 

「そうじゃなくて、動きを見て助言が欲しいって事。人間を模した形をしているとは言え、やっぱりバランスとか筋力とかに問題があって、人間そのものの動きはできそうにないのよ。有人で使ってみるにせよ無人で動かすにせよ、今のままじゃとても完成とは言えないわ」

 

 

 ふむ、そういう事なら…。

 …しかし、どうしたもんかな。レアにはもう話してるけど、ほら、神機兵ってさ…。

 

 

「ああ…例のシナリオね。暴走する神機兵が強力になるかもしれない、と…。確かにそれは困り物…だけど、このまま放っておくと、貴方から聞いた通りの方向に向かうんじゃない? …黒蛛病患者を…」

 

 

 ……確かに。でも、あれ多分ラケルてんてーは最初からそういう風に設計してたよな…。今の物はどうなんだろう。

 

 

「クジョウ博士が一から設計し直したから、ラケルが作った物とは全く別物になってるわ。そっちが正式採用されれば、黒蛛病患者を犠牲にする事は無くなるかもしれない…希望的観測だけど」

 

 

 そうだな。

 うん、ラケルてんてーの手駒を奪えるかもしれないんなら、やってみる価値はあるか。

 

 

 と言う訳で、お久しぶりですクジョウ博士。相変わらず微妙に挙動不審ですね。

 

 

「ええ、お久しぶりです。本日はよろしくお願いいたします…。極東のアラガミを見て色々と変更をかけたのはいいのですが、どうにも行き詰ってしまって…。期待させていただきます」

 

 

 …と言っても、詳しい所はレアが話してたんだけどね。うーん、こうしているとポンコツ臭が抜け、才女に見えてくるな。

 実際、技術力、分析力的には、レアは優れた博士なんだろう。

 

 …正直言って、クールな才女の仮面を引きはがして無茶苦茶にしたくなるくらいムラムラしたが、我慢我慢。今は真面目な研究の時間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 …で、その研究だが…うーん、確かにこれは従来の物よりも遥かにパワーアップしているようだ。一つ一つのスペックその物はね。

 極東に来てから半年も経ってないのに、こうまで改善できるもんなのか? しかも一から設計しなおすなんて。

 

 まぁ、出来てるんだから出来るんだろう。全部を全部一人でやった訳でもないだろうし。一応、ラケルてんてーの知恵を借りてないかは確認済みだ。『畏れ多い』なんて言ってたな。

 …で、肝心の内容だが…さっきも言ったように、一つ一つのスペックは高い。だが、それが噛み合ってないんだよなぁ。

 

 なんてーの、力は強いんだけど、バランスが悪くて十全に発揮できない。スピードはあるんだけど、やっぱりバランスが悪くて転倒しやすい。

 銃撃は正確で威力が高いんだけど、その分エネルギー消耗が激しく、オートで戦わせると不必要な相手に多くのエネルギーを使ってしまう。

 

 言っちゃなんだら、宝の持ち腐れ状態ですな…。

 

 

「手厳しい…。しかし、こうでもしないと極東のアラガミと戦えないのが現実なのです」

 

「最初から極東をターゲットにするのが問題なのでは? ここのアラガミは、世界でも指折りの怪物達ですよ」

 

「むむ…一理ありますが、しかし…」

 

 

 一体に対して、機能を盛り込み過ぎでは? 無理に全て同じスペックにしなくても、制御できる範囲で差をつけた方が、単体の性能はともかくチーム戦力は高くなると思うんですが。

 

 

 

「つまり、強い力を持ち、頑強さに特化した機体を前線に、動くとバランスを崩しやすい機体は銃撃のようなバックアップに…ですか。しかし、そうなると制御する為のAIと連携が…」

 

「それなら……」

 

「おお、成程。ならば、ここをこうして…」

 

 

 そういう理屈なら、別にこれに拘る必要は…。

 

 

「いえ、それにはまた別の役割がありまして…」

 

 

 

 

 

 

 ……色々話し込んだ。

 なんだな、こういうアイデアの出し合いって結構楽しいよね。詳しい話は俺にはできないけど、なんつーかロマン魂が唸りを上げると言いますか。

 暫し話し込んだ結果。

 

 

 

「よっしゃーやるぞぉぉぉぉ!」

 

 

 クジョウ博士が別人のようにイキイキしてしまいました。その手には、殴り書きされたライオン型のロボットや列車・飛行機から変形するロボット、人造人間的なアレコレ、首が取れて地球を真っ二つにするド田舎のロボット、果ては外宇宙で邪神様相手に大暴れしてそうなロボットの絵が…。

 …人間型でバランスが取れないなら、バランスが取れる生物をモデルにすればいいじゃないと言った結果がこのザマだよ。

 そこから旧世界の名作ロボットアニメの話に発展し、意外…と言う訳ではないがソッチ系に造詣が深かった博士と盛り上がり……酒も飲んでないのに徹夜明けのテンションになり、今に至ると。

 

 

 …いいのかな、コレ…。

 

 

「まぁ…いいんじゃない? 実現できるかはクジョウ博士次第だけど、ブレイクスルーには違いないし…」

 

 

 適当な妄言をブレイクスルーとは言わん。むしろ、クジョウ博士がテクノブレイクしそうな気がしてきた。

 ………うーん…まぁ、神機兵が完成しなければ、ラケルてんてーの手駒が減るし、完成したら浪漫だし……。

 

 

「やれやれ…自分達で半ば煽った形になったとは言え、暫く忙しくなりそうね。ライブツアーについていくのは難しいかな…」

 

 

 そうボヤくレアの表情も、ちょっと楽しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 珍しく、二人だけ空いた時間が出来たので、アリサとデート中。健全なデートです。エロじゃない楽しみだってあるのだよ。と言うか、エロに使う時間を思いっきり短縮できるからなー。普通の遊びの時間も増えている。

 アリサと街をぶらぶらして、今はそこらのカフェで適当にティータイム中。一人でやると虚しさ半端ないが、恋人と二人だとなんか幸せ。

 

 最近は、フェンリル…と言うか支部長が推し進めているアイドルブームで、何処も活気づいている。スカウトされるのを待っているのか、道端で歌っているミュージシャンっぽいのも居れば、アイドルごっこしてる子供たちも居る。

 ちょっと街を眺めてみれば、あっちこっちにポスターが…。元スラムが、アキバに変わりつつあるようだ。

 

 

「元気なもんですねぇ…。顔見知りのポスターが貼ってあるのを見ると、妙な気分になりますが」

 

 

 確かにね。特にミナミのポスターが、清楚系アイドルなんて書かれてるのを見るとなぁ…。

 ふむ……やっぱアンチョビのポスターは少ないな。

 

 

「何枚か見ましたけど、あれ多分手作りですよね。チームアンツィオが自主的に貼ってるんでしょう。やっぱり、企業や会社のバックアップがありませんからね。ムードメーカーっぽい立ち位置にはなっているようですが」

 

 

 チーム内での立場と、世間一般への露出は別問題なんだなぁ…。

 アリサはああいうの興味ないのか? 彼女がアイドルってのも、こう、付加価値に拘る男の本能が刺激されるんだが。

 いい線いくと思うぞ? 美人だし露出度高いし、歌は…どうだか知らないけど、ダンスも出来るだろ。

 

 

「全く興味が無いとは言いませんが、私は別に…。歌なんて、故郷の子守歌くらいしか覚えてませんし。何より、そんな時間ある筈ないじゃないですか。少なくとも、あなたの言う『シナリオ』が終わるまでは」

 

 

 あー…そうか。無事に戦いが終わるまでは…か。その後もアラガミとの戦いは続くけど…。

 バカな事聞いたな…。

 

 

「いえ…そういう貴方は、事が終わった後にどうするか考えているんですか? その…イヅチカナタ?を倒して、繰り返しが終わった後ですけども」

 

 

 さぁ? と言いたい所だが、最初にやる事は決まってるな。ヤツを倒して繰り返しが終わって…その時、3つの世界の何処にいるのかは分からないが、別の世界への移動手段が無くなるって事だろう。

 そうしたら、もう会えなくなってしまう人が多すぎる。例えあっちが俺を覚えてないのだとしても、ま、もう一度…くらいはな。

 

 

「現彼女の前で、モトカノに会いに行くって宣言されても…まぁ気持ちは分かりますけどね。万一、今回私達がしくじって…次の討鬼伝世界とやらで成功してしまったら、それこそ私達と会う方法がどうなるのか…。他の世界へ渡る方法は、私達も是が非でもほしいです。…特に、MH世界とやらには」

 

 

 あそこの植物を持ち込んだだけで、この変わりようだもんなぁ。GKNGの努力の結果でもあるけど。

 ……ん?

 

 

「どうしました?」

 

 

 いや、顔見知りが居たような……あ、こっち来た。犬を連れてる。

 あれはリンか…。ここの所、そういや話してなかったな。

 

 

「…こんにちは」

 

「リンさんですか。今日はお休みですか? 何故ここに?」

 

「何故もなにも、ここは私の実家の近くだよ。この子、家で飼ってる犬のハナ。久しぶりに実家に帰ったから、一緒に散歩してたんだけど」

 

「ワン!」

 

 

 おうおう、元気そうなワンコだこと。大抵の家畜は、俺を前にすると竦み上がるんだが。

 リンの足元から、アリサの足にジャレつくハナ。…なんか羨ましい。角度的に見えるか見えないかのギリギリの位置だ。まぁ、俺は見上げるよりも、見上げさせる方が好きだけど。媚びてくるメスの視線が特に。

 

 

「…そっちはデート中? お邪魔だったかな」

 

「デート中ではありますが、特に邪魔という程でもないですね。ダラダラして時間を潰してただけですし。…どうですか、訓練の方は。血の力、身に着けられそうですか?」

 

「うん。この前、しっくりくるイメージの仕方を見つけたから、何とかなると思う。ところで、ちょっと聞きたいんだけど……タカネさんと暫くツアーに出るって、本当?」

 

 

 …誰から聞いたのか知らんが、本当だ。その間、レッスンに時間が空く事になるから、あんまり好ましくないんだが。

 

 

「…他の人は? 護衛の人だけじゃなくて、他のアイドルと言うか」

 

「護衛は私…と言いたい所ですが、誰になるかは通達待ちです。こればっかりは人事の問題ですし…。他のアイドルは、第一候補はカエデさんでしょうね。血の力を扱える人材のお披露目も兼ねているらしいので」

 

「つまり、血の力を覚えれば、優先的に候補に入ると」

 

 

 まぁ、そうなる。あくまで候補だけどな。もうカエデが行くのが決まってるかもしれないし、血の力を持ってる奴は貴重だから、そうそう外に出すかも怪しい。

 ……何? ライブツアーに行きたいの?

 

 

「そりゃあ…成功すれば、一気にアイドルとしてレベルアップできるし…ワールドワイドだし…。そうでなくても、外国旅行なんて中々できないし…」

 

「そこで『あなたと一緒に行って親密になりたい』くらい言えればね」

 

「そ、そんなんじゃないって! アンタもそんな顔すんな!」

 

 

 えー、俺いつもの表情よ?

 …ま、実際、安全なツアーになるとは思えないけどな。血の力を持ってる奴は、さっきも言ったが貴重だ。黒蛛病の治療が出来る人なら、猶更な。

 各国からすれば、喉から手が出るほど欲しい人材だよ。…人材扱いされるか、道具扱いされるかはともかく。

 

 今だって、あっちこっちからゴッドイーターとして人が入ってきてる。アイドルとしても来てるな。俺とコネを作れ、血の力体得法のマニュアルを取ってこいって言われてる奴も多い。

 極東、しかもウチの支部長のお膝元だからその程度で済んでるが、外に出たら躍起になって確保しようとしてきてもおかしくない。

 

 

「実際、ちょっと前まで搦め手で何とか引き込もうとしてた国がありましたよね。具体的にはハニトラで」

 

 

 逆に寝返らせて、いいように使ってるからそれは別にいい。搦め手云々を言うなら、ラケルてんてーの方がよっぽど厄介だし。

 

 …ともあれ、そういう事情もあるんで、候補に入っても会社の方がオッケー出すかは分からんぞ。

 

 

「…意外と物騒な話になってた…。と言うか、タカネさんはそれでも行くの?」

 

「あの人はまぁ…色々と事情があって、そんじょそこらのアラガミもゴッドイーターもゴロツキも楽勝なんで…。むしろ、障害として見ているかすら…」

 

 

 …正体が正体だからね。アイツをどうにかしようと思ったら、恩がある社長さんか、俺が相手になるしかないもんな…。後は、シオ辺りならワンチャンあるか。支部長じゃ無理かな…家庭板案件おこして遊んでたし。

 

 

「はは…あ、ところでここら辺が実家って事は、詳しいんですよね? お勧めのデートスポットなんかあります?」

 

「…私の家。極東でも一番大きな花屋。行きたいなら案内するけど」

 

 

 ああ、そりゃそういう話にもなるよな。それで財を成したってくらいだから、相当な規模なんだろうけど。

 

 

「…やめときます。デート中に他の女性の家に、ってのもありますけど、この人相手に花屋がどうのって通じそうにないですもん」

 

 

 ひでぇ言われ様だ。俺だって花を見て「食えるかな」って思う程度の感性はある。

 

 

「感性以前に、明らかに捻じ曲がってるんだけど…」

 

「いえ、この人の場合これで正常です。育った環境が環境なんで…。と言うか、花を見て綺麗とか考えられるメンタルも、ちょっと前の極東ではありえませんでしたね」

 

 

 別にあそこ(MH世界)で育った訳じゃないんだが。まぁ、綺麗云々より先に使い道を考えるか、毒の類が無いかを確認するのが当然ではあったな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、リンからはハナのお気に入り散歩コースを教えてもらった。

 ワンコ扱いされている気がしなくもないが、まぁいい風吹いているし、日差しも暖かいしで、とりあえずいいデートコースではあった。

 近くの書店で10分くらい立ち読みして、そろそろ引き上げるかーって時になって…。

 

 

 

 …気のせいかな、何か落ち着かない。

 

 

「あなたもですか? 私もです。別に危険とか、誰かに見られてるとか、そういう事じゃないんですが…」

 

 

 ああ…まぁ、アレだな。いつもやってる事をやらずにいると、なんか手持無沙汰になる感じのアレだな。

 

 

「それはそうですし、何でそんな事になってるのかも分かりますし。ただ、素直に肯定しづらいですねぇ…。今更の話ではあるんですけど、ソレしか無いのかと…。私にだって、慎みとか恥じらいってものが」

 

 

 あるけど、それってもう愉しむ為の物に成り果ててるよな…。で?

 

 

「……………行きましょう」

 

 

 ちょい待ち、どうせだからそこで。

 

 

「………はい」

 

 

 

 この後路地裏で、散々青カンした。

 

 

 

 

 

 

 

 …ドジったな。誰かに見られた。いやアリサの顔とか大事な所は見られてないんだけど、俺の顔は見られたな…。

 まぁいいか。どこから見られたかは把握してる。近くの家の小窓からだ。騒ぎそうな相手なら、封じておくだけだ。

 

 

 

 

 



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350話

北斗が如く、サイドミッションが一部発生しない…何故?
今はMHWをちょっとだけプレイ中。マム・タロトとの戦い方がイマイチ分からん。
あとイビルジョーに遭遇しました。…確実な勝ち方は、やはりフリー探索でのゾンビアタックか…。

最近暖かい(と言うかちょっと暑い)し、家でゲームばっかりなのも飽きてきたし、バイクでどっか行ってみようかな。


神呑月

 

 

「…それで?」

 

 

 ええはいその…デートの最後に、外でヤる事ヤってですね…誰かに見られたんで、口封じしておこうと…夜になって相手を確認しに行ったら…。

 

 

「もうその時点でおかしいんですが。こういう行為は、室内でするものでは…」

 

「そう? いつでも何処でもしてたよ、私達」

 

「ナナさんのは夢じゃないですか。現実にもやりそうですが…」

 

 

 ええとその。確認しに行ったんです、ハイ。窓からこっそり入り込んだら…。

 

 

「はい不法侵入」

 

 

 入り込んで、そこの人を見たら…………エロ小説読みながら自慰行為の真っ最中でして。

 しかも顔見知りで。

 

 

「…夜這いと勘違いされた、と」

 

 

 はい。違うと主張して帰ろうとしたら、今度は泣きそうになって…。その泣き顔についクラッと。理性が弱いのはいつもの事ですが。

 

 

「そこについては何も言いませんが…………何故、その子を連れ帰って来たんですか? …フミカさん、あなたもこれでいいので?」

 

「……はい。私は…この人について行きます…」

 

「ついて行くと言うか、これ幸いと押しかけて来たと言いますか…」

 

「この際ついて来るのは構いません。厳しい言い方をしますが、何が出来ますか? 私達はゴッドイーターとして、彼と一緒に戦えます。ママ…レア博士は研究によってサポートしてます。ここには居ませんが…性奴のように扱われても悦んで性欲処理に使われる人も居ます。…ただ抱かれて、責任を取らせる為に追いかけてきた…では、ついて行くとは言えませんよ」

 

 

 元凶は俺だけどな…。この子、その辺もしっかり考えて来てるのよ…。

 初めて会った時価ら、腹を括ったら突っ走る子だと思ってたけど、もう走り抜けてしまった…。

 

 

「…血の力を、既に体得しています」

 

「…抱かれて目覚めましたか…」

 

 

 その通り。しかも、俺は目覚めさせるつもりはなかったんだ。お爺さん達ももう完治してるし、戦う力も身を守る術もないフミカさん…フミカが血の力を持っても、持て余すか狙われるだけだし。

 

 

「じゃあなんで目覚めたんです?」

 

 

 ……俺にそのつもりが無くても、フミカの方は目覚める気満々だったってだけ。俺の霊力が体内を巡ってたとは言え、半ば自力で目覚めたようなもんだぞ。本人の素質も多分にあったんだろうけど、快挙だな…。

 

 

「目覚めた私の血の力は…映像や感覚の投影が出来るようです…。シミュレーションを行う力、と言えばいいでしょうか…」

 

 

 尚、投影と言ってもトレース・オンではないので悪しからず。あくまで幻のみだ。

 

 

「シミュレーション……つまり、投影したアラガミと戦闘ができると?」

 

「それだけでなく……例えば、投影した物と投影した物を干渉させあう事もできます…。また、それによってどのような現象が起こるのか…も、ある程度私に情報として入ってくるようです…」

 

「……これは…研究者としては、是が非でも欲しい能力なんだけど…。ちょっと危険なアレやコレも、ほぼノーリスクで実験できるって事でしょう?」

 

 

 核分裂やら化学物質やらも、フミカに投影して試してもらえば汚染やバイオハザードの心配なくやれるって事だな。

 ただ、どこまでそれが正確な物なのか、フミカの意識に左右されたりしないのかは、検証しなければいけないが。

 

 

 ともあれ、この子、俺にとってどんな力が有用かを考えて、それを本当に会得したんだよ。

 確かに言ったよ、「君に本気で想われたら、どれ程嬉しいか」ってさ。…明らかに本気だよ、この子。身内の為なら身を危険に晒すも、差し出すも覚悟完了するだけの想いを向けてくれてる。

 戦力として自分が役立てない事を承知で、まだ誰も担当してなくて、役に立てる事を考察して、後は意思の力だけで踏破しちゃったよ。

 

 

「…いつぞや、『ヤンデレの素質がありますね』と言いましたが…と言うか、私達が言うのも何ですが、どうしてそんなにこの人がいいんです? まさか、先日褒められたから…なんて言いませんよね? はっきり言いますが、人間性という点で言えばそこらのチンピラの方がまだマシだと思いますよ。確かに戦いの腕は確か…この世界でも文句なしにトップクラスだと思いますが、反面甲斐性はゼロをぶっちぎってマイナスです。何時でもどこでもエッチな事しか考えてない、彼女の目の前で別の女にコナをかける、浮気をして悪びれもしない、自分で生活費も稼がない…」

 

 

 最後のだけは反論したいんですけどね! 支部長に雇ってくれって言ったら、アンタらが怖いから嫌だって言われたんですが!

 …いやその、他に働き口を探してないのは確かだけども。

 つーか、マジでアルバイトくらいしようかな…。でもレッスンの時間もあるしな…いやいや、それで時間が全て取られている訳でもなし、だから働かないってのは理由にもなってないし…。

 

 

「…そのレッスンで授業料でも貰えばいいんじゃない?」

 

「一応、フェンリルからの依頼で行っている講義なので、報酬はあると思うんですけど…」

 

「無いわよ。ボランティアだもの。…正確に言うと、私とアリサがそう仕込んだんだけど」

 

 

 やっぱお前らか!

 お前らのヒモなら喜んでなるけど、やっぱ多少は自力で稼いでたいんだよ!

 

 

「……私の書店で、アルバイトしますか…?」

 

 

 …フミカが天使に見えてきた…。

 

 

「天使…は、ともかく…。語るのも少々、気恥ずかしいですけども…。そうですね、切っ掛けは…お爺さん達を、こっそり助けてくれた事…です。あれは…非常に危険な事だったと…今では分かります。その後、お礼をしに行った時に………女性として、褒めてくれた事も、大きいです。…私が、好きになってくれたら嬉しいと」

 

「……え、本当にそれだけ…ですか?」

 

「私にとっては…とてもとても重要な事でした…。…見ての通り、根暗で…気弱な性格なもので…人と関わるのも、あまり得意ではありません…。あのような事を言ってくれる人が現れるなど……想像すら、していませんでした…」

 

「根暗で気弱……そんな風には見えないよ? 確かに、本好きなんだろうなーっていうのは分かるけど、それとは別だよねぇ」

 

 

 ………あぁ、成程。そういう事ね。

 

 

「…?」

 

 

 いや、自分でも気づいてないのか? んー……惚れてる当人から、これを言われるのも心苦しい物があると思うけど……。

 フミカ、君が俺に好意を抱いたのは、結果的に…だ。上手く言えないが、フミカが最初に執着していたのは、『今までに見た事のない世界』だったんだと思う。

 

 

「…見た事の…ない世界?」

 

 

 首を傾げるフミカだが、その一方で何かが腑に落ちたような表情でもあった。

 

 ずっと、自分のテリトリーの中で、本だけを相手にし続けた結果だろうな。それは苦痛な事ではない、むしろ心安らぐ事だったのかもしれない。

 だけど、反面今までやった事がない事、変化を待ち侘びるようになった。冒険活劇物の主人公になる事に、憧れも持ったのかもしれないな。

 

 …そんなフミカが何をした?

 お爺さん達の命を助ける為に、当たり屋染みた方法でフェンリルに乗り込み、俺に繋ぎを作り、治療が認められないなら自分を生贄にしてでも治療法を確保しようとして、その時は丸め込まれたとは言え『もし間に合わなかったら末代まで呪う』とまで言い捨てて。

 

 

「そ、その節はご迷惑を…」

 

 

 気にせんでええよ。そういうトコも、フミカの想いの強さの一端だしね。

 ま、そこまでやって、お爺さんお婆さんの病気は完治。エピローグにお礼に行ったら、自分を素敵という男性と巡り合う。

 

 …これ、どう思う?

 

 

「小説のストーリーになりそうね。シナリオの評価はともかくとして、大冒険の末にハッピーエンド。最後はその人とお付き合いを初めて締め、かしら」

 

 

 そういう事だな。言い方は悪いが、最初にフミカが俺に好意的だったのは、恩もあるが自分が行動して乗り越えた冒険の結果に巡り合った物だからだ。言ってみれば、罠満載の遺跡を潜り抜けて手に入れたお宝だね。自分はこれだけやったんだぞ、って証明、トロフィーでもある。

 まぁ、だからってフミカが俺に好意を持ってるのは間違いでも何でもない。単に、始まる切っ掛けがそうだったって事だ。

 

 

「………心当たりは…確かに、あります…。…ですが、貴方を、す、好きな事に…変わりはありません…」

 

 

 うん、それは疑ってない。口封じが夜這いになっちゃった時、よく分かった。あの時は、帰ろうとしたら本気で泣かれかけたからな…。

 でも、それはそれで結局よく分からんのだけどな。切っ掛けはこの通りだったとして、彼女(複数)有りの男に突然夜這いかけられて、躊躇いなく受け入れるどころか、帰るのを必死で引き留めるレベルの好意になった理由は分からん。実際に会って話したの、トータルでも数時間程度なのに。

 

 

「…好きや嫌いに、そのような理由を求めても…意味が無いかと…。…いえ、本の受け売りですが…。……ですが、…自分でも不思議なくらいの早さで、貴方の事が好きになっていました…」

 

「うーん…ヤンデレの素質があるとは言いましたが、加えてチョロイン、放っておいても好感度が勝手に上がっていく、更には追いかけてくる為の手段まで考える…。勝手に起動して追跡してくる地雷みたいですね」

 

「アリサ、流石にその言いようは失礼よ。…あんまり否定できないけど」

 

 

 つーか、その惚れた相手が他の女と青カンしてるのをオカズにオナッてたのは、何をどう言えばいいんだろうか…。

 いやまぁ、フミカが案外ムッツリさんだったってだけの話だが。

 

 

「ムッツリ…」

 

「ムッツリさん…」

 

「ムツミさん…?」

 

「……あ、あうぅぅ……」

 

 

 顔を赤くして俯いてしまった。

 

 

「……まぁ、ママも歓迎しているようですし、ヤる事ヤッてポイ捨てなんて私も許しませんし…何よりどんな事したのか気になります。ここは一つ…」

 

 

 歓迎会と言う名の、猥談の時間だな!

 益々顔を赤くするフミカ。だが嫌がっている感じではない。恥ずかしがってはいるようだが、自分の経験を晒してみたい、自慢してみたいとも思っているんだろう。

 自慢するには相手が悪いけどな…。

 

 色々聞き出そうとする包囲網に囲まれ、モジモジしながら目を泳がせるフミカ。視線で助けを求められたが、俺が何かするとそのまま乱交一直線である。なので暫くは見守る。

 

 

 さて問題だ。この痴女に包囲された状態で、どうやって逃げのびるか? 3択ー一つだけ選びなさい。

答え①可愛くてムッツリなフミカは、突如覚醒して女王様になって切り抜ける

答え②知らない人がやってきて、お話が流れてしまう

答え③逃げられない。現実は非常である。

 

 

 

 

 

 このあと無茶苦茶③した。

 かと思いきや。

 

 

 

「失礼します………あれ、何ですかこの空気…」

 

 

 答えは②だったよう……あ。

 

 

「……よく分かりませんけど…エッチな事の匂いがしますね…?」

 

 

 やってきたのはミナミだった。これで話が流れる筈がない。

 

 結局フミカは、根掘り葉掘り初体験の事を聞き出されて、そのまま大乱交の総受け役になってしまいましたとさ。とっぴんぱらりのぷぅ。

 

 

 

 

 



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351話

大学時代の思い出を、ふと思い出す。
主な思い出は、学園祭の実行委員をやってた事なんです。
自力でシューティングゲームも作ったもんです。
特に評価された訳じゃありませんが、画面のウィンドウからアイコンまで自力で作ったっけなぁ…協力頼める人、居なかったしなぁ…。

…よくよく思い出すと、フロムソフトに就職活動してたんだよなぁ…。
思い返すと落ちて当然って内容の受け答えだったけど。
もしあの時、フロムのドS(なんてレベルじゃない、ファンの声に殺意で答える考え)を考慮して話してたら、俺はあそこで働いてたんだろうか…。
せめてダクソをやってから面接すればよかったと思います。
ACFAはプレイ済みでしたが。


追記:ゲームにかまけて書き溜めが不十分な為、GWの連続投稿は難しいです。
申し訳ありません。


神呑月

 

 

「何かの本で読んだ、珍走団の脱退リンチを受けた気分です」とはフミカの談。

 脱退リンチじゃなくて入団乱交か。レディースか、レズッ毛のある女騎士団の伝統として伝わってそうだな。

 

 まー切っ掛けはともかく、とりあえずフミカは超重要人物へと一気に変貌してしまった。俺にとっては個人的に重要人物になったが、そういう意味じゃなくて、研究的な意味でね。

 フミカの血の力を知って、榊博士がキャラが崩れるくらいに狂喜乱舞した。まぁ、フミカの力を使えば、余計な機材も環境も準備もロクに無しに、ほぼノーリスク、ノーマネーで実験が出来る訳だからな。とんでもないわ。

 

 まぁ、その実験結果も完全に信用できる訳ではない。『こうなる筈』というイメージに影響されたり、実験内容を正確に把握できてなかった場合、正しい結果になるとは限らないようなのだ。

 それでも、簡単にシミュレートが行えるという利点は非常に大きい。すぐにフェンリル関係者として登録され、施設の入場許可証が発行された。

 正規の職員、或いはアルバイトとして雇う事も考えたのだが、それだと血の力の持ち主だとバレてしまう可能性が高い。

  

 

「まぁ、その辺については私達が情報操作しますが…どの道を選んでも、リスクはありますからね。しかし、本当にいいんですか? アナグラ内に住まなくて。外の生活は大分変化したとはいえ、快適さで言えばアナグラとは段違いですよ」

 

「はい…。お気持ちは…ありがたいのですけど。やっぱり、私の家は…あそこです」

 

「私や榊博士の関係者だと教えておけば、ちょっかいを出す人はまずいないわ。…アナグラ内に居れば、いつでもこの人に会いに来れますし、オタノシミの機会も増えるわよ?」

 

「………………………………そ、それでも暫くは……えぇと、その……お手伝いが遅くなった時のお泊り部屋などは…」

 

「そっちは準備しなくてもいいんじゃない? この部屋に押しかけてくればいいんだしさぁ。勿論私達の部屋でもいいけど、居ない事も多いしね。…大抵ここに居るから」

 

 

 

 …フミカはアナグラ内で暮らすのではなく、実家(?)の書店で暮らす事を選んだ。勿論、研究助手のアルバイトはするし、ちょくちょく俺に会いに来る…或いは俺から会いに行くが。

 色々と理由はあるが、その最たる物は、やはりお爺さんとお婆さんだろう。黒蛛病こそ完治したものの、単純に心配なのである。

 人が良過ぎる上に、人生的な意味でも達観しまくっている人達なので、いつコロッと逝っちゃうか分からないのだそうな。…流石にこの表現は失礼だったかもしれないが、まぁとにかくそんな感じ。老後の世話をする為に戻る訳だね。

 

 ま、なんだ。俺もそっちに会いに行くようにするからさ。その時には、おススメの本とか教えてくれ。

 

 

「……えっちな本がいいですか?」

 

「言うようになったわ…」

 

 

 うーん、単にエロなだけだと、オカルト版真言立川流マニュアルと比べると、どうしてもなぁ…。

 どうせだったら、色々シチュエーションを想像できる本にしてくれ。

 

 

「バカエロってヤツですね…。まぁ、気軽に色んな気分を味わえるという利点は否定しませんが」

 

「それなら…幾つか心当たりが…」

 

「つまり、読んで自分がそうなる事を妄想していたと?」

 

「            」

 

「フミカったらムッツリさんねぇ」

 

「あー、きっと顔を赤くしながら、本を顔に近付けて読み込んでたんでしょうねぇ」

 

「ムッツリ~♪」

 

「…む、むっつり?」

 

「~~~~!!!!」

 

 

 パタパタ暴れ始めた。カワイイ。

 

 

 

 

 

 

 さて、フミカにはまた会いに行くとして、神機兵の話である。レアから相談があった。

 

 …ん? フミカのエロ語りは無いのかって? 時間かかり過ぎるから、また今度な。まぁ何だ、朗読プレイと言うのも中々に乙な物だったと言っておこう。

 ついでに断言しておくが、フミカは下半身エロだ。おっぱいも大きいが、むっちりした肉付きのいい足を包むストッキングがだな………いかん、また今度だっつーに。

 

 

 話を戻すが、神機兵の話だ。ついこの間、クジョウ博士と浪漫談義した結果、明後日の方向に走り始めてしまった神機兵。

 その後、暫くして流石にクールダウンしたようだが、アイデア自体は幾つか採用されたようだ。つまりは、人型以外の神機兵。

 

 元々、二足歩行と言うのは不安定極まりない体勢である。安定した姿勢制御を、と思ったら、四足歩行の方が余程やりやすいだろう。

 それでも人型兵器に拘っていたのは……まぁ、人間の行動を摸倣しやすいのと、後はクジョウ博士の中で燻っていた浪漫と言うかね。

 

 とは言え、ここまで開発を進めてきた物を、クジョウ博士一人の独断で、一気に仕様変更する事はできない。やるならやるで、何かしら目途を立てるなり、参考資料が必要なりなる筈だが…。

 

 

 

 

 企画が通った? …昨日の今日で?

 

 

「ええ。既にある程度形になっているそうよ。…物理的に有り得ないわ。例え徹夜で設計図を描き直したとしても、検証する時間がどうやったって取れない」

 

 

 なのに通った。…その設計図の検証も、ある程度は終わっていると。

 

 

「そうね。一通り資料を調べたけど、矛盾がある部分は何もなかった……いえ、強いておかしな点を挙げるなら…検証の資料がちぐはぐな印象があったかしら? まるで、本当に重要な部分だけを後から付け足したように…」

 

 

 …つまり……元々その資料…人型以外の神機兵の設計図及び資料は書きあがっていて、それをクジョウ博士が手に入れた。そして、その『重要な部分』だけを検証して付け足した?

 

 

「おそらくね。でも、何処からそんな資料を持ちだしてきたのか…それに、重要な部分の検証が抜け落ちていた理由は…?」

 

 

 ………レア。

 

 

「…分かってるわよ。第一人者のクジョウ博士でさえ、ああまで完成された設計図は書けないわ。例外は一人だけ。あの子には、神機兵…とは少し違うけど、人造アラガミを作った実績がある。設計したのは私だけど…。検証資料の一部が抜け落ちていたのは、そもそもそこの検証を不要としたから」

 

 

 だろうなぁ…。何でもかんでも、『これも全部ラケルてんてーの仕業なんだ』って考える訳じゃないが、まず間違いなく関連はあるよな。

 ちなみに、クジョウ博士はそこらへんについて何て言ってんの? まさか、自分ひとりで全部設計した、とでも?

 

 

「超どもりながら、そう主張してたわよ。誰が見ても一発で嘘だって分かるわね。他人の功績を横取りしようなんて、考える事も実行する事もできるような人じゃないから、ラケルから打診があって、黙っておくように誘導されたんでしょうけど」

 

 

 だろうね。しかし、そうなると……何が目的だ?

 ゲームシナリオ通り、神機兵をどっかで暴走させたり停止させたりするのか?

 

 

「ラケルしか分からないバックドアが仕込んであるのはほぼ確定として…それをどのタイミングで、どの目的で使うかね。最終的に、神機兵を乗っ取って……いえ、必要が無くなったら放置して野良アラガミ化させるんでしょう。一番わかりやすい選択としては…無人になったフライアの警備?」

 

 

 それが分かりやすいが、現状ではフライアにはまだ人は居るぞ。この前、フランと会って少し話をしたが、今のところ不穏な気配は無いそうだ。むしろ、ずっと極東に留まっているから、その分仕事が少ないとか言ってたな。

 人事異動なんかの話も、全然出てないそうだ。…ラケルてんてーが、ジュリウス育成の為の環境作りをしようとするなら、フライアは遠からず無人になるだろうな。

 

 

「そっちの方は監視を手配してるわ。直接見張るんじゃなくて、人の異動の流れをね。…考えたくもないけど、フライアの中でB級ホラー映画みたいな、秘密の部屋に引き摺り込まれて一人一人消えていく…なんてのでなければ、まず気付ける筈よ」

 

 

 …ありそうだから怖い。その設定の場合、実はラケルてんてーは立って歩く事もできて、大の男のゴッドイーターと同じくらいに腕力も強いのだ。

 夜な夜な隔壁を下ろしたり物音を立てたりして、警備職員を秘密の部屋まで誘導し、ノコノコやってきた職員を、か弱い所長の素振りで誘惑。或いは、車椅子から落ちたフリをして、近寄って来たところをガッシと掴み、そのまま奥の暗がりへズルズルと…。

 

 

「殺人鬼の役が似合い過ぎるわ、我が妹ながら…。きっと表情は一切変わってないわね。奥の暗がりからは、肉を叩くような音がしたり、ビチャビチャと水音がしているのよ」

 

 

 或いは、体を全く動かないようにされ、蝋人形のようにされてしまうのだ。フライアの奥の一室では、犠牲になった人達の蝋人形が、それこそ人形展のように展示されているのだな。

 

 と言うか真面目な話、殺すなんて『勿体ない』事せずに、無人神機兵作成の為の生贄にするって方法もあるしな。…いや、黒蛛病患者じゃないと使えないんだっけ? だったら接触感染させてしまえばいいだけの話だが。

 …現状、こっち方面では動いていないって事でFA。

 

 

 

「…………人形……人形?」

 

 

 ん? どうした、レア?

 

 

「……………ラケルの『お人形さん』……今は、何をさせてるのかしら」

 

 

 お人形さん…? お人形さんって……ああ、アイツか。零號神機兵。

 そういや、レアをラケルから引き離す時に襲ってきて、それ以来見てないな。当時でも一対一なら仕留められない事もなかったが、今なら余裕だぞ。

 

 

「それ、当時の『お人形さん』なら、の話よね? 強化されている可能性は…あると思う?」

 

 

 …………お人形さんの着せ替えゴッコは、女の子の嗜みってか?

 しかし、確かに…。他所はどうだかイマイチ分からんが、極東のアラガミはこの3年で劇的に進化した。…花粉症を巻き起こすくらいにな!

 そいつらを零號神機兵に食わせて、進化変化を促進させていたのだとすると…俺達が知っている零號神機兵とは、全く別物になっている可能性すらある訳か。

 

 

「それも心配だけど、もっと怖いのはどんな機能を持たせるか、よ。設計した自分で言うのもなんだけど、あれには改良の余地、改造の余地が山ほどあるわ。今の神機兵と比べて旧式だからこそ、一部を置き換える事で新しい機能の追加も容易。…それこそ………例えば、他の神機兵を暴走させるウィルスや、指揮系統を乗っ取るような機能を持たせられてもおかしくないわ」

 

 

 そっちか…。確かに厄介だな。戦闘能力じゃなくて、何を仕掛けてくるのか分からないのが。

 あれだけデカい図体してんだから、すぐ見つかりそうなもんだが…奴が何処にいるのか、何か分からないか?

 

 

「最初はフライアの中に大きなスペースがあったから、そこに隠しているんだと思ってたけど…あの子の所にいる間、影も形も無かったわ。多分、ゲームシナリオで言う神機兵の廃棄処分スペースだけど」

 

 

 そこじゃないのか…改造するにしても人目に付かないようにするにせよ、そこ以上の隠し場所は無いと思うが…。

 フライアで移動しているんだから、何か指示を出して動かすにしても、一緒に行動させた方が都合がいい筈。

 

 

「…今思えば…あれは本当に神機兵だったのかしら…」

 

 

 ? どういう事だ? 確かに、他の神機兵とは色々な意味で全く違った個体だが。

 

 

「いえ…あれを作った時の実績やノウハウが今の神機兵に活かされているのは間違いないし、私は神機兵として設計したけど、その通りに作ったのかしら? そもそも、私が作った設計書だって、机上の空論にすぎない…実際に作ったら、山ほど欠点や修正点、技術的問題が出てくる事は分かり切っていたもの。なのに、あの子は作り始めて、すぐに完成形までもっていった」

 

 

 完成形っつっても、アンバランスもいいトコだぞ。左右のバランスは辛うじて取れてるだけだし、武装だって未完成。

 …いや、問題はそこじゃないか、噴出する筈の問題点を一気に磨り潰して完成形まで持っていったって事は…見た目はレアの設計に似せてるけど、中身はもっと別物である可能性さえあるって事か?

 

 

「多分…。あくまで、この場でひねり出した疑問に、コジツケしただけだけども…」

 

 

 ま、確かにな。それでも、あんなデカブツが何年も見つかってないのには、何か理由がある筈だ。そこがキモだな…。

 もしも発見したら、最優先で駆逐する。

 

 

「そうね…………? ……あ」

 

 

 お? 何か思いついた?

 

「ちょっとね。と言うより、こういう時の為に雇ったのにね。でも、設計図だけでそこまで分析できるかしら。せめて写真か映像でもあれば、大分違うと思うけど…」

 

 

 …つまり?

 

 

「フミカの能力で、解析できないかって事よ。あの子の力はシミュレーションだけど、こういう使い方も出来るかも」

 

 

 設計図から動作テストを再現して、更にその状態から隠れる方法を模索するって事か? 興味深い試みではあるが、さっきレアが言ってたように中身が完全に別物だったら…。

 

 

「その可能性はあるけど、試してみて損は無いわ。…今日はもう、あの子は帰っちゃってるし、設計図を書き起こしておかないといけないし、明日の事ね」

 

 

 

 

 

 そういう訳で、レアは零號神機兵の設計図を再現する為、自室に籠ってしまった。頭の中に設計図は全て残っているらしいが、大丈夫かな…。頭はいいし、記憶力も高いレアだけど、おっちょこちょいだからなぁ。

 さて、俺はどうしようかな。誰かと一緒に遊びに行きたいけど、生憎と今日は何かしらミッションが入っていて、皆出払っている。

 

 ……そういや、「この人を一人にするとまた誰か毒牙にかかるから、レア博士がしっかり見張っておいてください」なんて言われてたんだよな。そのレアは設計図に夢中になっちゃってるけど。

 後でレアが折檻されそうだな。とりあえず、今夜の趣向はレア総受けだ。ご褒美にしかならない気がする。レアってすっかり、俺好みのMっ子ちゃんになっちゃってるし。

 

 それはともかく、何かレアに差し入れでも持って行ってやろうと思い、食堂にやってきた。ムツミちゃんオッスオッス。

 …へ? 相談? ムツミちゃんが俺に?

 

 

「はい…。えっと、あそこを見てください」

 

 

 あそこって…………あ。食堂の隅っこ、人目に付かないスペースで、見覚えのある人が黄昏ている。…アンチョビ?

 

 

「はい、アンチョビさんです。ここの所、ああやって誰にも見られないように落ち込んでいる事が多くて…」

 

 

 あの子がねぇ…。面倒見が良過ぎて、人に自分の弱い所を見せようとしないタイプだと思ってたが…。心なしか、ツインテールも萎れているようにみえる。

 しかし、俺にどうしろと? いやどうでもいいとか言ってるんじゃなくて、何で俺? こう言っちゃなんだが、相談させるならチームメイトと言うか、同じアイドル候補生の方がいいんじゃない?

 

 

「最初は私もそうしようかと思ったんですけど、近くにアイドルの人が居ると、急に普段通りになっちゃうんです。…それに、同じ釜のご飯を食べている仲とは言え、ライバルである事には変わりないでしょうし…」

 

 

 後者に関しては気の回し過ぎだと思うが、まぁ大体わかった。

 悩みの根本が何かまでは聞き出してみないと分からんが、大方周りの望む『アンチョビ』の偶像を外せなくなってんだろうな。自分が周りの望む態度を演じているって自覚もないから、オンオフも何もない。

 厄介だな…。フラウは自覚があって、それが通じない俺を見るなり飛びついてきたから、あっさり仲良くなれたけど。

 

 

「悩みの根幹…やっぱり、アイドルの事でしょうか? アンチョビさん、応援してるから気になります」

 

 

 応援、か…………(あっ)。

 その辺にも理由はありそうな気はするが、とりあえず話してみるわ。

 

 

「え、今からですか!?」

 

 

 じゃあ何時行けばいいのよ?

 

 

「それはそうですけど、もっとこう、情報収集というか、様子を伺うとか、周囲の人との関係を探るとか…」

 

 

 言いたい事はよく分かるけど、今回に件に関しては本人に聞く以上の情報収集はない。デリケートなトコに踏み込むから、注意が必要なのは確かだけどな。

 と言う訳で、イッテキマース。

 

 

 ようアンチョビ、飯一緒にいいか?

 

 

「え…あっはい開祖様!」

 

 

 アナグラ内で開祖様呼びは勘弁。おお、慌てとる慌てとる。

 

 

 唐突ながら解説しよう! 何気なく話しかけたように見えるが、ここにはとある高等テクニック(笑)が使用されているッ!

 アンチョビは無意識ながら相手の望む態度を取ってしまう、コントロールが出来てないフラウのような性格だ。自分がそのようにしている事に、自覚すらないだろう。或いは『それは常識的な気遣いの範疇』と思っているか。

 その為、素の言葉や態度を引き出そうと思うと、アンチョビに『俺が望んでいる姿』の情報を与えてはいけない。ある種のポーカーフェイスである。

 単なるポーカーフェイスならそう珍しくは無いが、相手はアンチョビ、フラウの同類。無意識ながらも内面観察術のような物を使っている、一種の天才だ。それもシャットアウトしてしまうような、閉心術(ハリポタ感)のような態度………は、実はよろしくない。

 何故って、こっちが気を許してないのが見え見えだから。

 

 なので、アンチョビが無意識に使う内面観察術だけスルーするような…そう、言わば自然体、全く体を動かしていないのにガドリングガンの銃撃を何故か全回避してしまうよーな対処が必要なのだ!

 まぁ、アンチョビにしてみりゃ、幽霊見たような気分になってるかもしれないけどね。そこに居る筈なのに、何も読み取れない、触れる事もできないって。

 

 

 後は、その態度を維持しつつ、アンチョビの平常心を取り戻さないよう、適度に驚かせ続ければいいだけだ。相手から何も読み取れないのは、自分が混乱している為だ…と勝手に納得してくれるからね。

 

 

 

 

 

 さて、そのよーな高等テクニック(失笑)の講義はともかく、とりあえず話を聞き出せる程には上手く行った。上手く行ったんだが…。

 

 

 

 

 …自分の立ち位置に疑問が出てきた?

 

 

「はい…。あ、不満があるとか、そういうんじゃないんです。アイドルやってるのも、言い方はアレですけどのし上がる為の1ステップですし…いやだからってアイドル業を手抜きしてもいいとか、のし上がったら止めるとかじゃないんですが」

 

 

 ああ、そこは分かる。前にチームアンツィオにお邪魔した時にも、もっと出来る事を増やして、チームの皆に楽をさせる為にのし上がりたい、みたいな事言ってたしな。

 アンチョビは根が真面目過ぎる程真面目なヤツだし、都合が悪くなったからって無責任にポイ捨てできる人じゃない。むしろ、ポイ捨てしようとして、捨てたつもりで後からアレコレ世話を焼こうとするタイプだ。

 

 

「それって、タチの悪いOGになりそうな…いやそれはともかく。なんかこう……自分が分不相応なくらいに評価されているような気がして…」

 

 

 ふむ? …(まぁ、やっぱりか…としか言えん…)

 

 

「自分でも、アイドルとしての実力が下から数えた方が早いって自覚はあるんです。仕方ない…とは言いたくないですけど、下積みの厚みが違うって事で…その厚みの差を埋めるのは、並大抵の事じゃない。軽々と追いつけると考える事自体が、侮辱だと感じる程度には。今の私じゃ、まだまだ積み重ねが足りません。…卑下するつもりはないですけど、アイドルとしての私は、下から数えた方が早い筈です。血の力の方は……まぁ、開祖様基準は分かりませんが、良くもないけど悪くも無いってトコじゃないでしょうか。なのに…」

 

 

 何だか妙に持ち上げられている気がする、と。

 

 

「そうなんですよ! カエデさんを始めとして、本物のプロアイドルが何人も! いや候補生だけでもかなり居ますけど! どういう訳だか、妙に頼りにされてて…『アンチョビさんはどう思います?』『アンチョビの意見を聞かせてください』『アンチョビさんと一緒で』『お供しますアンチョビさん』……この前だって、練習で一曲歌った時に何故かドゥーチェコールが巻き起こったし!」

 

 

 慕われてるのはいい事じゃないか。…つーか、問題にしてるのは、慕われてる、好かれている事自体じゃないと?

 

 

「はい。……言っちゃなんですけど、何で大御所が私に意見を聞くのかなって…。そりゃ聞かれれば考えて答えはしますけど、例えて言えば大企業…フェンリルの社長が、入ったばかりの下っ端アルバイトに話を聞いて、経営方針を決めるようなものでしょ? 私の不用意な一言が、とんでもない事態を巻き起こすんじゃないかと不安になって…。と言うか、本当に何で私に聞くんだ私に何を求めてるんだ」

 

 

 ああ、ブツブツと自分の世界に入ってしまった。相当にストレスが溜まっていたと言うか、プレッシャーを受けていたようだな。

 暫くこのまま喋らせるか。

 

 

 …詰まる所、まぁ、何だ。以前にも危惧(?)したように、アンチョビの人徳が暴走気味で、自分の意思や実力とは無関係に、どんどん高レベルな場所に連れていかれてしまっているんだな。

 うーん、どうしたもんだろ。悪いことではない、と思う。しかし自分の影響力を自覚してない者が大きな力を持った場合、ロクな事にならないのも事実。アンチョビだって、高いステージに触れられるのはいい経験になると思うが………いや、そういう問題じゃないか。植物には水をやらなきゃならんが、適量って物があるしな。

 

 暫し考えたが、妙案と言う程の物は思い浮かばない。

 

 

「はぁ…何でこんな事になっちゃってるんだろ…」

 

 

 …一回、自分の言動を…いや、違うな。アンチョビ、周囲の人の事、思いつく限り喋ってみろ。あの子は気弱に見えるが負けず嫌いとか、飯食う時にこんな癖があるとか、最近はどんな事に嵌っているらしいとか。

 

 

「え、急に言われても。…ん~、そうですね…。やっぱり気になるのはカエデさんでしょうか。血の力を二番目に習得して、アイドル達の中でも頭一つ飛び抜けた実力者って気がします。ただ、私生活についてはちょっと……あんまり言いふらすのも何ですが、放っておくと色々気になるんで、押しかけて掃除とかしてます」

 

 

 …ちょっとしか会ってないけど、即25歳児だってわかったもんな…。と言うかアンチョビがお袋さんポジになっているようだ。

 言いふらすのも…と言いつつ、アンチョビは淀みなくカエデさんの情報を口にする。

 やれ、朝が弱いだの起きたくないとダダを捏ねるだの、頻繁に深酒するから二日酔対策の為にシジミの味噌汁を何度も作りに行っているだの、朝のレッスンの時も外見はキリッとしてるが半分寝ているだの…。

 

 本当によく見てるな…そして見ている分だけフォローに回ってるんだろうな。

 

 

「他に最近、特に注目している人? …リンさんとミカさん、ですかね。何だか知らないけど、アイドル稼業も血の力の訓練も、気合いの入り方が違うと言うか…目標…ちょっと違うな…。やりたい事があって、それに到達する為の手段としてレッスンしている…? うーん、でもアイドルとしてのステージも頑張ってるし…」

 

 

 …そういや、あの子達に限らず、レッスンを受けているのってガチアイドルとアイドル候補なんだよな。この状況でもライブはあるのか。一度、行ってみるのもいいかもしれない。

 

 

「それなら、確かリンさんミカさんが組んだライブが直近に…。……これは多分ですけど、二人ともライブツアー狙ってるっぽいんですよ」

 

 

 ライブツアー? …って、タカネとカエデさんと、ついでに俺も行くアレか? 割と物騒なツアーになりかねないって、リンには言っといたと思うんだけどな。

 つーか、今から血の力を覚えたとして、ライブツアーに行けるかどうかは…。

 

 

「別物ですけど、覚えてた方が行ける確率は高い。先日、ライブツアーに関する話が正式に来たんですよ。タカネさんとカエデさんの前座扱いになりますけど、もう一人枠が開いているそうです。ついでに言えば、福利厚生の一環として、家族も呼べるとか…」

 

 

 実質、海外旅行プレゼントってか? で、その一枠を皆が…特にリンとミカが狙っていると。

 思いつめ過ぎて、体を壊さなきゃいいんだが。

 

 

「私も心配して、色々差し入れとかしてますけど…ちょっとあの気迫じゃ止められないですね。今度のライブも、ツアー参加の為の一環として、絶対成功させるって息巻いてましたし。…ああ、二人の間で険悪になってるって感じはありませんよ。ライバルって雰囲気ですけど」

 

 

 そうか…。きっとその辺も、アンチョビが何かしらフォローしてくれたんだろうな。

 ありがたいけど、アンチョビの実力が他のアイドルに追いつかないのって、単にフォローに時間を取られているだけなんじゃないかと思えてきたぞ。その時間を自主練に使えば…いや多分自主練自体はやってるだろうけど…、少なくとも平均以上の実力は持てている気がする。それならそれで、自分の責任としか言いようがないが。

 

 しかし、これは根っからの世話焼きだな…。止めろと言っても止められるとは思えない。

 物理的に引き離すくらいしか方法が………あ。

 

 

 そうだ、アンチョビ。お前もライブツアーに来ないか? 

 

 

「は? ………はぁぁぁ!? ちょっ、何言ってるんですか開祖様まで! 私はまだ、そこで通用するような力は…」

 

 

 うん、客観的に見て持ってないのは分かる。だから、来いとはいっても参加しろとは言ってない。

 

 

「…どういう事ですか?」

 

 

 率直に言えば、見習い、付き人、世話係。これなら、俺の権限で押し込めるから。

 何が目的かと言うと、君をここのアイドル候補生達から暫く引き離しておく事かな。自分が身の丈に合わない重要な地位についていると思っているようだが、はっきり言えばそれは周囲の意思によるものだ。

 アンチョビが何かと人をフォローして、その恩返し、恩返し恩返し恩返し…恩返しと言うとちょっと大げさに聞こえるかもしれないが、要は世話になったから、ちょっとお返ししたり手を貸したりしようって事だな。その連鎖反応で、アンチョビは自分の実力以上に評価されている。それだけ好かれているって事だが、それが負担になるなら相応の対処はせにゃならん。

 お前の影響力が強くなりすぎるのも問題だしな。

 

 

「う……好意は嬉しいけど、確かに…悩んでた理由も、正にそれだし…」

 

 

 そういう訳で、君と暫く距離を取らせる。心苦しいが、君のフォローがあって当たり前の状況に慣れるのも望ましくない。いや、フォローするのが悪いと言ってるんじゃないぞ?

 

 

「そこは分かります。……カエデさんとか、放っておくと私無しだと私生活が送れるかすら不安になってきてますし…」

 

 

 そこまでかい。…だったら、ツアーに連れていくのは危険かな? 隠して連れて行けばいいけど。

 

 

「うーん…でも…そうしていると、他の人達ともっと差が…いやしかし、それを言い出したら今だって…フォローに使ってる時間が無くなるとなればプラスマイナスゼロ…でも、他の人達大丈夫かな…」

 

 

 かなり悩んでいる。そんなにここの子達が心配なのか。いい大人(とは限らないが)なんだし、アンチョビ無しでもそこそこやっていけると思うがな…。心理的な繋がりの面がどうなるかは分からないが。

 俺がツアーに行っている間は、ジュリウスがレッスンを担当する事になるだろう。一通りのノウハウは伝えてあるから、短時間の代理くらいなら務まる筈だ。アイツも曲がりなりにも『統率』なんて力を持ってるんだし、集団の管理のノウハウもある。

 

 アンチョビは暫く唸っていたが、ふと顔を上げた。

 

 

「…あの、ツアーには家族の人達も招待できるって話ですけど、人数制限とか、血縁者でないといけないとか、そういう決まりはあるんでしょうか? いやそもそも、私にもそれは出来るんでしょうか?」

 

 

 俺もそれは把握してないな。担当者に直接聞かないと。

 何だ、誰か団体さんでも呼ぶ気………ああ、チームアンツィオ。

 

 

「です。あいつら、こうでもしないと海外旅行なんて行けないでしょうし…」

 

 

 …むしろ、連れてって大丈夫か? あちこち回るけど、外国語が出来る子っている?

 俺は英語とロシア語なら、辛うじて会話が出来る程度だが。まぁ、ロシア語はアリサの言葉を真似てる部分も多いんで、多分に女っぽい発音らしいし、英語に至っちゃ文法も発音もメチャクチャだけど。

 

 

「ウチのチームの一人に、そういうのが得意な奴が居るから大丈夫だと思います。なんて言ったっけ……暫く話すのを聞いてると、自然と会話が出来るようになるって言う…」

 

 

 ……ひょっとして、砂の耳?

 

 

「それ。元は捨て子で、ウチが拾うまで彷徨ってる間に、自然と極東の言葉も覚えたらしいです。何処をどう彷徨って来たのか、フランス語とイタリア語と……なんか、よく分からない……ラテン語っぽいのも…」

 

 

 何故そこでラテン語…。にしても、貴重なスキル持ってる人材がいるな。

 アンチョビの豪運(自覚無し)を考えると、隠れたスキル持ちがチームアンツィオ内にまだまだいる気がしてきた。

 

 まぁ、そこら辺を対処できるなら、こっちとしては問題ない。まぁ、ツアーでライブする訳でもないアンチョビが、チームアンツィオを纏めて呼べるかは厳しいものがあると思うが、それこそ確認してみにゃ分からんだろ。

 物は試しだ、行ってみようぜ。こっちも口添えするから。

 

 

「はい!」

 

 

 …そういう事になった。とりあえず、解決できたとは言わないが、対策を考えてみた事で、アンチョビの表情も幾らか明るくなっている。

 擦れ違いざまに、ムツミちゃんに頭を下げられた。

 

 

 

 

 

 結論から言えば、チームアンツィオの招待は…OKである。

 結構な人数が居るので多少の確認作業は必要になったが、社内規定に人数制限が書かれてなかったのが運のツキ。恐らく、今後は血縁者に限られるなり、人数を制限するなりの対策が取られる事だろう。

 それにしたってよく通ったものだが、これにも一応理由はある。

 担当部署のエライ人が、「君のところの、ペパロニのご飯には助けられたからな。海外に行ってきて、新しいメニューが増えるのを期待している」なんて言われていた。つくづくチームアンツィオは人徳とコネ無双である。

 ただし、どの国のどのタイミングでもいいから、アンチョビも一曲歌う事を義務付けられた。こうする事によって、チームアンツィオを正式な応援団みたいな扱いにした。応援団っつーか、公式ファンクラブみたいなもんかな。他の世界でのアイドルはどうなのか知らないが、これで多少は旅費が安くなるとかナントカ。「現地でサクラを仕込むより、こっちの方が安上がり」とか聞いた気がするが、その基準もどうなのか。と言うかサクラ仕込むのか。

 

 

 

 …で、ここまで話を進めておいてなんだが…一つ問題に気が付いた。

 アンチョビがツアーに付いて行くって話が出て、荒れないだろうか…。特別扱いで連れていく事になるし、それ以上に「行かないで~」って声が多発しそうなんだが。

 

 …もう考えるだけ無駄か。逆に、「アンチョビさん世界に羽ばたいてきてください! 我々はいつでもどこでも応援しています!」となってくれるのを期待するしかない。と言うか、放っておいてもそうなるような気がする。

 



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352話

アサクリにも進撃にも流石に飽きがきたので、FGO始めました。
むぅ、システムがよく分からん。

とりあえず外伝はEDF5と一緒に書いてますが、オチどうするかな…。
頼光ママンが来てくれたら、本格的に考えます。

いや、ゴッドオブウォーに挑戦してみるか?
学生時代にやって、何とか1回クリアしてるんですが、ストーリーは重いし激ムズだったしで、2回やろうとは思いませんでした。
ですが大分印象が変わってるっぽい…。


ダクソのトリロジーボックス、予約してしまった…。
下手な風俗店より高いなぁ。
到着は6月です。
初めてダクソ3やった時は、傭兵で初めて刀使って、レベル上げもやりこみも行き詰まったんだよな。
今度は重装備でいってみよう。

いつかダクソで外伝も企んではいるんだけどなぁ…。
不死のおかげで、話がややこしくなりそうと言うか、どうやったら夢から覚められるのか。
何より、万が一にも死にまくった挙句にクリアしてしまったら、既に崩壊しかけているパワーバランスが完全に砕け散ってしまう。
ある意味ドラゴンボール級のインフレになってしまいそう…。


神呑月

 

 フミカの書店を見物してきた。バイトとしてこれからアナグラに入るのに、ICカードなんかも必要だから、それを届けるついでだ。

 言っちゃなんだが、あんまり繁盛はしてないようだな。理由を聞いてみたところ、識字率の問題じゃないか…との事。ま、このご時世だし、中々教育だってできんわな。

 とは言え、少なくとも生活に余裕が生まれた極東では、私塾のような施設も出来初めており、主にそこと取引を行う事で、生活費を得ているらしい。主に教材とかの取引だね。

 

 と言うより、紙の本がこれだけ残っていた事自体が、まず驚異的である。どうやって掻き集めたんだろうか。

 …フェンリルに、文化遺産として登録できないか聞いてみようかな…。

 

 

 それはともかく、やって来た時、フミカは書店のカウンターで何やら本を読み耽っていた。随分と熱中しており、俺…と言うか客が来たのも気付かない有様だ。店番としてそれでいいのだろうか。万引きし放題だぞ……まぁ、字が読めないのに本を盗んだって、焚火にでもするしかないだろうけど。

 いつ気付くかなぁ、と声をかけずに店の中と、本を読み耽るフミカを見物していたが……う~ん、ノスタルジック。

 時間が止まってるんじゃないかと思うくらいに、静かな空間だ。時折響く、ページを捲る音だけが時間の流れを感じさせてくれる。

 暖かい日差しで、ついつい眠ってしまいそうだ。

 微妙に掃除が行き届いてないのもグッド。

 

 

 このまま眺めているのもいいか。

 

 

 下心無しで、割と真面目にそう思った。が、世の中はそううまく行かないものだ。時間が止まっているように思えても、実際には時間は経過しているし、ページも読み進められている。客が入ってくる事だって(極稀に)あるだろう。

 今回、静寂の時間を壊したのは……アラームだった。

 

 ボロボロの、リサイクル品と思わしき目覚まし時計が突然叫びをあげる。ちょっとビクッってなった。

 フミカは慣れた様子で、時計を止めると……またそのまま読み始めた。

 

 

 ちょっと待たんかい!

 

 

「? …………ふぁっ!?」

 

 

 ふぁ、じゃねーよ。何をまた読書に戻ろうとしてんのよ…。今日はバイトの初出勤日でしょーが。その為にアラーム仕掛けてたんじゃないんかい。

 

 

「あ、は、はい!? …あっ、もうそんな時間…ですか…………!? あの、いつからそこに!?」

 

 

 いつからって、もう30分くらい経ってるぞ。いつもこんな感じなのか?

 

 

「い、いえ、今日はちょっと…特別…と言うか、以前から気になっていた本が…入荷されたので…つい…と言うか…」

 

 

 まぁ、楽しみにしていた本やゲームが届いて、時間を忘れて熱中するのは分からなくも無いが、それで遅刻しそうになるのはアカンやろ…。遅刻しそう、と言うにはまだ時間は残ってるが。

 

 

「あ…そ、その、実はアラームは…まだ仕掛けてあって…」

 

 

 隙を生じぬ二段構えと申したか。

 

 

「…三段構えです…」

 

 

 牙、風、爪の天翔龍閃並みかよ…。しかし、それだけ熱中するって、一体どんな内容なん? ちょっと見せて。

 

 

「あっ!」

 

 

 ……………エロ小説じゃね-か! 真昼間から公衆の面前(誰も居ない店内だけど)で何読んでんだテメーは!

 

 

「あうぅぅぅぅ……」

 

 

 ぷしゅぅぅぅ、と頭から湯気を出して俯いてしまった。

 いや本当に、何やってんのさ…。いや分からないではないよ。女だってそういう事が気になりまくる年齢だろうし、『覚えた』ばっかりの行為を思い出して、ついついのめり込んでしまうのも分かる。

 だからって、これは流石になぁ…。エロ本読むなら読むで、せめて夜に自室でとか、安全を確保してからにしようよ…。

 

 

「あうぅ…とっても楽しみにしてて……ようやく到着したから、つい…」

 

 

 どんだけエロ本待ってたんだよ。と言うか、実体験できるようになってもエロ本が好きなんかい…ちょっとショック。

 

 

「そ、それ違う…! …その、おススメの本が欲しい、って言ってたから…」

 

 

 あ? …あぁ、俺に渡す為の本? ……………ほほぅ。つまり、その本には…フミカがヤッてほしい事が書いてある、という解釈でいい訳だ。

 成程、それなら俺も興味あるなぁ…。ついつい時間を忘れて読み耽ってしまいそうだ。

 

 読むのもいいが…フミカの声で朗読してくれると、もっと嬉しいかな。特に濡れ場を。

 

 

「え……ぇ、あの、まさか、今から…? でも時間が…」

 

 

 大丈夫。俺、シている間の体感時間を操作できるから。エロに限れば、10分あれば一晩と同じくらいの事が出来るから。

 これから出勤して、血の力を使って色々実験してもらうんだし、ちょっとでもレベルアップしといた方がよかろ。

 

 

 

 

 

 

 はい、そういう訳で、今のフミカは俺の膝の上に居ます。後ろから抱き抱えるのって、なんか浪漫だよね。ロマンチックって意味でもあるし、後ろから牌乙をムニムニする意味でも。

 今やってるのは…その中間?

 脱がせている訳ではない。抱きしめてはいる。でも手の位置が微妙にセクハラ臭い。

 

 

「…その時、彼女はこう言った。『汝、神を捨てて玩具を取れ』と…」

 

 

 微妙にネタ臭い小説を朗読するフミカ。尚、フミカおススメのR-18本らしいが、まだ濡れ場の朗読には突入してない。

 しかし、いい声してるなぁ。声の綺麗さもそうだけど、読み方が凄い丁寧で、発音もいい。もしも国語の授業で、英語よろしくリーディングなんてのがあったら、フミカを投入するべきだ。青少年達が絶対に虜になる。

 

 まぁ、そのいい声がちょくちょく乱れてるのは俺のせいなんですが。

 首筋に息を吹きかけたり、服の上からお腹とか足とかを愛撫したり、何よりおっきなお尻の下でナニを自己主張させてみたり。

 一々反応しながら、それでも朗読を続けるフミカがカワイイのなんのって。

 

 フミカにしてみれば、じれったい事この上ないだろう。本に集中しきる事もできず、先日のように快楽の底なし沼で夢中になる事も出来ず。

 生殺しで弄ばれているのが自覚できているだろう。

 ついでに言えば、チラチラと時計を見る仕草もある。『体感時間を操作できる』なんて言っても、普通は信じられないだろうしね。出勤時間に遅れてしまうんじゃないかと心配しているようだ。尤も、肝心の時計の針は、まだ2分も進んでいない。体感時間で言えば、30分近くこうしているのにね。便利なもんだ。

 

 

 段々とフミカの呼吸が荒くなり、体温も上がって来た。落ち着かないように腰を動かす頻度も増えている…その度に、お尻でナニが潰されて柔らかい感触を味わえる。

 強請るような視線を向けられるが、まだ朗読は濡れ場まで進んでない。…ゆっくり読んでいるのもあるが、事前設定に結構な力の入れようだ。エロに細かい設定何て要らないという意見もあるが、素直に面白い。フミカが進めるだけの事はある。

 …が、このままと言うのもダレてくるので、ちょっとステップアップ。

 

 

「彼は神の像を指さし、『これぞ男の神、マーラ様の偶像。我々は彼を崇め、その恩恵に預かるべく』……ひぅ!?」

 

 

 続けて。…あーん……はむ。

 うむ、フミカは耳まで美味しいな。耳たぶを甘噛みし、唾液をたっぷり纏わせた舌を這わせる。耳の骨の窪みに沿って、じっくりと唾液を刷り込むように。

 

 

「んっ……ふっ…! か、『彼女は嘆き、『それは男だけの神じゃないわ。男にとっても女にとっても大事な神よ。それを独占する事なんて』………っ……! ゆ、『『許される事じゃない』『ではどうするのだ? 我々から神の加護を』】…………っっっ…『『奪いに来たのではないのか』『いいえ。私は、貴方から加護を受けに来たの』……!」

 

 

 

 背筋をビクビクさせながら、フミカは朗読を続ける。耳から流し込まれる粘液の音に耐えられないのか、身を捩って逃れようとする。だが最初から俺の腕の中に居るのだから、無駄な足掻きだ。

 よりイヤらしく音が響くよう、頭の中を犯すように舌を使う。

 

 本の朗読は、いよいよ濡れ場に突入するようだ。内容はネタ的な意味で面白かったが、成程フミカが一押しするだけはあって、描写が丁寧で、何より淫靡な気配のする文章だった。それを喘ぎ声を押し殺すフミカが読むのだから、この破壊力は言うまでもない。

 耳を嬲りながら目をやると、フミカの手の中の本の文章が目に入った。

 

 

 ……おお、何とした事か。女にはマーラ様の象徴が存在しないのか。この濡れた穴は一体何なのだ。

 

 

「っ…そ、それは………ォ……コ…」

 

 

 聞こえない。もっと大きな声で読んで。(描写されているように、フミカの穴を弄り回しながら)

 

 

「オ………まんこ、です……」

 

 

 おまんこ? それは何だ? お前達の神の象徴か?(登場人物は、見るも聞くも初めての穴に指を突っ込む度胸はないようだ)

 

 

「神では……なくっ……男女、の象徴…です…ぁっ…古来………っ、っ、…! 男女は、矛を交えるのでは……なくっ…この部分で…交わる関係…だったとっ…!」

 

 

 そのような事は聞いた事が無い。だが、確かにこの体を前にすると、この声を聞くと、我がマーラ様の化身がかつてない程に猛り狂う。(勃起した象徴を、フミカの尻に押し当てる)

 

 

「わっ、私も…体が…熱くなって…! ひゃんっ!」

 

 

 そのセリフは本には無いなぁ。オシオキとして、本には無い触り方をしてしまおう。ほら、おっぱい触られるのは好きか?

 

 

「んっ…あっ、先っぽ、優しく……あっ、直になんて…」

 

 

 おっかなびっくり風に愛撫する秘部と違い、胸を揉みしだく愛撫は慣れたもの。フミカの弱点もとっくに把握済みだ。

 待ち望んでいた本格的な愛撫に、フミカはあっという間に夢中になっていく。だがそれでも本を読ませ続ける。

 

 

 この猛りを鎮める術を、俺は知らん。貴様のいう交わりとやらを行えば、これは鎮まるのか。

 

 

「っ……は、ぅ……? あ…っ……ま、交われば……肉の喜びを経て、猛りは鎮まる…筈です…。また…それにより、我々は…貴方達の神の加護を…貴方達は、私達の神の加護を得て…新たな命が降臨すると…」

 

 

 ならば行うしかあるまい。だが、その儀式の作法を俺は知らぬ。

 

 

「わっ、私が……教えます…。まずは…私のここを…」

 

 

 おまんこを。

 

 

「…お、おまんこを…解します…。私と一緒に、触ってください…」

 

 

 フミカの片腕を取り、秘部に触れるように動かす。彼女の手に俺の手を重ね、指を絡めて操り人形のように動かした。

 俺を迎え入れたくてドロドロになっている秘部。そこを覆うストッキングを破り、野暮ったいパンティをずらし、二人分の指をゆっくり埋めていく。

 熱く指を迎え入れる秘部だが、まだ慣れておらず、スムーズに入り込めるとはとても言えない。…思いっきり感じさせてしまえば、処女を失って1週間も経ってないとは信じられないくらいに、いやらしい肉穴になるんだけどね。

 

 それを、操り人形になっている自分の指で解し、弱点を指と体に覚えさせていく。

 俺の腕の中でオナニーしているようで、恥ずかしさが沸点を超えそうなフミカだが、容赦なく指を動かす。時には俺の自身の指も使いながら、フミカの理性を削り取り、体の準備を整えていく。

 

 普段のオナニーとは、あらゆる意味で全く別物の感覚に浸りながら、フミカは本に目を通す。

 

 

「見て、ください…ここが…これから、貴方を迎え入れ…る、部分…です…。もっと…ナカまで、見てっ…」

 

 

 この体勢からでは見る事はできないが、イヤらしく蠢いているのは、指先の感触から明らかだ。すぐに奥まで突っ込んで、フミカが大好きな弱点をグリグリ弄り回してやりたい衝動に耐えながら、フミカが新しい自慰の味を覚えていく事に見入る。

 いっそ、この席に座っている間は、否応なく行為を思い出して自慰をしたくなるような衝動でも刻んでしまおうか。『俺をここで待っている間は、自分で慰めながらにしろ』とでも命令すれば、羞恥で気を失いそうになりながら、しかし満更でもなく従うだろう。

 …やめておこう。フミカに自慰を命じるのはいいが、俺の居ない場所でされてもつまらない。殆ど客が来ない店だが、見られてしまう危険もあるしね。

 

 でも、こっそり自慰をしながら待つフミカはいいなぁ…。いつかやらせてみよっと。

 それはともかく。

 

 おお、なんと奇妙な香りか。この立ち上る芳香は、決して快とは言えぬのに、何とも心惹かれるものがある。これが女の体なのか。

 

 

「っ……あ、あなたの神の象徴から…加護が立ち上るのが見えます…。このままでも儀式を行うのに、支障は…ンッ…ないでしょう…。ですが…文献によると、まずは清めの儀をしなければ…なりません…」

 

 

 それはどのような行為か。我らも清潔には気を使っているが、何をもって清めるのか。

 

 

「ふ、ふぇらちお、と言う行為です…。あなたの神の象徴に、それを受ける女が…感謝と崇拝の念を伝える為…接吻をし、舌と唇で愛を伝えます…」

 

 

 何故だ、我が神の象徴が唾液で汚されるとしか思えぬのに、どうしてこんなにも心と体と神の象徴が昂るのか。

 

 …本では、自分の変調に戸惑っている竿役が、無力な女に引き倒され、神の象徴を捕縛される展開となっている。

 目で『どうするのか』と問われたので、行動で示す。

 

 膝の上に確保していたフミカを開放し、怪我をしないように床に座らせた。椅子を回し、フミカの目の前に大きく開いた股間を突き付ける。

 それだけで、欲情で赤くなっていた顔を更に紅潮させ、しかし手付きは待ってましたと言わんばかりにズボンへ延びる。

 欲望の味を覚え込まされたフミカにとって、俺のモノは本以上の大好物だ。慣れない手付きでジッパーを下し、ズボンを引き下ろす。…全く躊躇は無いな。ま、そういう風に仕込んでるんだけど。

 

 

 眼前で曝け出された、はち切れんばかりに滾っている愚息に対し、フミカはうっとりしながら2、3度撫でると、大きく口を開けて頬張った。

 さっきまで読んでいた本では、小さな口で躊躇いがちに口付けから始めていたが、仕方ないだろう。フミカが我慢できない云々以前に、この体勢では本は読めない。今は俺の手の中にあり、フミカは両手と口で俺のモノにむしゃぶりついているのだから。

 

 どうせだから、オネダリでもさせてみようかと思ったが、もうフミカは止まりそうにない。無理矢理止めて引きはがしたら、異様な力で押し退けて縋り付いてきそうだ。

 思いっきり発情し、ムッツリスケベな本性が解放されている。興奮度合いを示すように、フミカの口の中はドロドロヌルヌルした液体と、特有の熱で俺のモノを楽しませてくれる。

 

 軽く腰を前後させてやると、ローションを垂らしたオナホのように滑らかに動く。一時とは言え、引き抜こうとする行動を責めるかのように、フミカは上目遣いで見上げてきて、逃がすまいと拙いバキュームフェラまで繰り出してきた。

 つい先日まで処女だっただけあって、テクニックは無いに等しい。アリサやレア達から吹き込まれた動きを再現しようとしているようだが、そうそう出来る事でもない。

 それは自分でも分かっているのだろう。その分、勢いでカバーしようとしているようだ。…自分が一番、俺を気持ちよく出きるのだ…とでも言いたいのだろうか。

 

 それはそれとして、朗読プレイは終了か? …いや、もうちょっと続けてみるか。フミカは本は読めないから、アドリブで…だけど。

 

 

 おお、なんともこれは堪らぬ感覚。男女の儀式とは、なんと言う法悦を齎すのだ。

 何より、異教徒である筈の女に、愛おしさすら感じてしまう。そして、己の神の象徴がどれ程熱望されているのかが伝わってくる。

 そんなに、我が神の象徴が愛おしいか。それ程に、口に含む事が嬉しいか?

 

 

「んっ…んむっ……はい…嬉しい、です。…熱くて…逞しくて…大きくて……。想像なんかとは…比べ物に、なりません…」

 

 

 想像か。このような行いをする事を、何度も想像していたのだな?

 

 

「……んぅ……貴方に、助けられてから…毎晩、頭に浮かんでくるんです…。こうして……んっ…貴方に跪き、奉仕する私の姿…。それだけで…幸せで、それ以上にお腹の中が熱くなります…」

 

 

 なんという信仰心…いや、これは信仰とは違う。思慕か、或いは欲望か。

 ああ、だがそれこそが我らに足りぬ物だったのか。この身の内に宿る滾りを、全力で注ぎこむ事こそが、我が望みにしてお前の望み。

 

 

「はい…です、からっ……いつでも、好きな時に…!」

 

 

 いいだろう。その奉仕と心と欲望に応え、我が神の神髄を味わわせよう。そなたの奥に直接注ぎ込む故、心して受け止めよ。

 

 それを聞き、肉棒がビクビクと射精の兆候を示したのに気付いたフミカは、迷い一つなく奥の奥まで肉棒を受け入れる。そのまま射精すれば、胃に直接注ぎ込まれるのではないかと思う程に。

 また、少しでも多く、気持ちよく出してもらおうと、フミカの手が俺の睾丸を這い回り、マッサージまでしてきた。

 

 フミカと俺の望むがままに、欲望の塊を解き放つ。口の中の感触とは違う、喉の締め付けを堪能しながら、吐き出された粘液を喉を鳴らして呑み込むのを眺めた。

 …が、流石に初心者にはキツかったようだ。咽る兆候が見えたところで、強引に射精を止め、フミカの頭を掴んで引き抜いた。

 

 小さく咳き込むフミカに、だが再度欲望の塊が暴発して降りかかる。せき込み、小さく涙を浮かべていた顔に、容赦なく白濁が降りかかる。

 荒い息を吐く口元からは、引き抜いた時に残ったであろう白濁も見えた。

 

 呼吸を整えながらも、口の中の精液を舌で絡めとり、顔に付着した白濁を拭い取って口に運ぶ。

 むぅ、期せずして口内射精と顔射を同時に行ってしまったか。征服欲が満たされるから、何の問題もないけど。

 

 

 さて、次は何を仕込もうか…と考えた時、フミカの様子がおかしい事に気が付いた。おかしい…と言うよりは、コレは…。

 …どうやら、注ぎ込まれた男の欲望は、フミカの性欲を満たすどころか、爆発させる効果しかなかったようだ。

 

 呼吸を整え、降りかかった白濁を粗方口に運び終え…フミカはフラフラしながら、ゆっくり立ち上がる。呼吸が荒い。何より、目付きがギラギラしている。

 方向性は違うが、お爺さん達の為にアナグラに乗り込んできた時と同じくらいに強く光る眼。

 

 

 …朗読プレイは続けるかい?

 

 

「……まだるっこしい、です…!」

 

 

 返答にもなってない。だがその行動は、何よりも雄弁だった。

 非力な体で、どうやっているのか分からないくらいに強い力(まぁ一般人にしてはだけど)で俺の体を抑えつけ、圧し掛かってくる。

 破り捨てたのかと思うくらいに、乱雑に服を放り出し、破れたストッキングを更に大きく切り裂いて、椅子に座ったままの俺の上に乗る。

 

 俺が形ばかりの抵抗をしてみると、お構いなしに…いや、それを抑えつける事で一層興奮したように、フミカは強引に俺に跨る。

 

 

「んっ……き、来ましたぁ……!」

 

 

 ズブズブと、俺がフミカの中に飲み込まれる。処女を失ってから、濃い体験事態はしたものの、経験回数そのものは少ないから、全く抵抗なくスムーズに、とはいかない。

 しかし、その抵抗を無視して、フミカは俺を奥まで呑み込んで、腰を振る。

 

 むぅ、こりゃアレだな。半ば逆レイプだな。

 なんだか不思議な気分だなぁ。と言うかフミカって何気に肉食系だと思う。何だかんだで性欲強めだし、自分の欲求を満たす為に強硬手段も厭わない所が特に。

 ま、喰うのも喰われるも嫌いじゃないけどさ。

 

 こっちの都合なんぞお構いなしに、フミカは自分の快楽の為に腰を振る…のかと思いきや、そんな事は無かった。

 確かに、膣内は俺を搾り取ろうと、卑猥な動きを繰り返しているが、上半身は別だ。

 俺を抑えつけようとしたままではあるが、甘えるように抱き着いてキスを強請る。ムニムニと押し付けられる生乳が気持ちいい。

 

 

 お望み通りにキスして抱きしめてやると、それだけで気をやったようにブルブルと体を震わせた。安らいだような表情で、俺に体を預けてくる。

 が、精神はそれである程度満足しても、体…特に下半身はまだまだ欲求不満のようだ。男のエキスを腹いっぱいに注ぎ込まれるまで満足しません、とばかりに、膣内の動きがまたも激しく複雑になって来た。

 

 やれやれ、仕方ないなぁ。ほれフミカ、ちょっと体上げろ。俺は体をこうして、フミカの足はこうして、重心はこっちで…。

 

 

「あ…これ、動きやすいです…」

 

 

 コツがあるのよ、コツが。…って、聞いてないな。

 動き方が分かるや否や、フミカは目を閉じ、俺に抱き着いたまま好き勝手に腰をグラインドさせる。

 気持ちいい所を探していると言うよりは、どんな動きをしても感じてしまうので、様々な刺激を試しているように思える。

 特に気に入ったのは、両足で俺の腰を挟んだまま、強く奥を押し付けてグリグリする動きだろうか? 気持ちよさそうに、空を仰いで喘ぎ声を出す。もう、誰かに聞かれるとか見られるとか、完全に頭から無くなってるな。

 

 まぁいいさ。好きなだけ感じて、押し込めていた欲望を開放すればいい。それは血の力の強化に繋がるだろうし、何よりも見ていて俺が愉しい。

 本人曰く『地味な体』(どこがだ!とツッコむのは俺の特権である)を煽情的にくねらせ、体全体で俺を温めようとするかのように抱き着いて来るフミカ。

 

 初めて抱いた時もこうだった。人肌のぬくもりを何よりも求めるかのように、とにかく密着し、接触率を上げようとする。離れたくないと、体で表現するように。

 ああ、かわいい子だ。草食系(を通り越して植物系にすら見える)のようで肉食系。その実、飢えているのは肉ではなくて。

 

 

 何度目かのフミカの痙攣に合わせ、椅子と俺の腰の上で踊っていた体をギュッと抱きしめる。嬉しそうに締め付けてくるフミカだが…残念、ここで一区切り、だ。

 一気に、奥の奥…フミカ自身は『一番奥まで入った』と思っていたようだが、実際には更にその奥がある…まで欲望を食いこませる。目を大きく見開いたフミカにキスをして、思いっきり愛情と欲望を注ぎ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「…で、結局着替えに手間取って遅刻しそうになったと」

 

「……着替えは…してないです…。ストッキング、破かれたままですし…」

 

「伝線するわよ。ま、中に注いだまま、下着をつけずに歩かせるなんて、この人にしてみれば軽い方よね」

 

 

 その基準はどうかと思うが、フミカのおススメの本のシチュエーションの中にあったのは確かだよ。

 …あっ、フミカ痛い痛い。叩くのが効果ないと分かって、抓りにきやがったな。

 

 それはそれとして、フミカの血の力は、大幅にブーストされてる筈だ。何か解析させるなら今だぞ。

 

 

「…何だか釈然としないけど、使える物は使わなくちゃね。…はい、フミカさん。これ、見て何か分かる?」

 

 

 差し出されたのはレアが再現したらしい零號神機兵の設計図。設計図だけ見て、どれだけシミュレートできるのかは不安だったが…。

 

 

「………これ、多分ですけど…動きません」

 

「まぁ、そうよね。理由は分かる?」

 

「あくまで、印象ですけど…一番大きな理由は、『容量が足りてない』ように見えます…。エネルギー源としても…生物の処理能力としても…」

 

「…続けて」

 

「エネルギー源は…文字通りです…。それと…中心で発生したエネルギーが、末端まで行きわたらないような…気がします」

 

 

 人間で言えば、血管や神経の通り道が塞がれているようなもんか。そりゃ動かんわ。

 

 

「後は………レア博士…ここは?」

 

「うん? そこは脳に当たる部分ね。五感からの情報の処理と、身体や武装の制御、状況の判断まで、あらゆる情報をそこで処理するの」

 

「…何かのアラガミのコアを、調整して利用する…とありますが」

 

「…あくまで設計図だからね…。実際に可能かどうかは、書いた時にはあまり重要視してなかったわ」

 

 

 不可能な物を設計してどないすねん。

 

 

「…恐らくですけど…どんなアラガミのコアを使っても…必要とされる、処理能力には達しません…。この設計図の通りで、私の印象通りなら…ですけど…」

 

「うーん……考えてみれば、それも当然か…。脳を人工の臓器…コンピューターで代替しようとしているようなものだしね。どんなコンピューターより、生物の脳の方がスペックは高いわ。…全て使いこなせれば、だけど。それに、鳥の脳を犬の体に移植できたとして、上手く動ける筈もない…」

 

「難しい事はよく分からないけど……この前、ギルが何だかよく分からない物を作ってたけど、アレじゃダメなのかな?」

 

「ナナ、流石にそれじゃ分からないって…」

 

 

 ギルが作るって……アレか、アラガミのコアを複数組み合わせて作る、複合コア?

 

 

「そう、それ!」

 

 

 …いつの間にそんなモン作ってたんだ…。キャラクターエピソード、いつの間にか始まってた?

 最近、ブラッド隊の男連中とはあんまり絡んでないから、いつ始まっててもおかしくないけど。特にギルのは、確か神機に違和感を感じて、自分で調整しようとする話だったし。

 

 

「それなら、私も一度見たけど…無理ね、少なくとも今の段階では。密度がもっと高くなれば或いは…」

 

 

 ふむ……或いは………コアを複数搭載する、と言うのはどうだ? 脳が一つじゃ足りないなら、幾つかくっつければ…。

 

 

「それが一番現実的ね。でも、それにも問題ありよ。コア同士にも相性みたいなのがあってね。ちゃんと連携するかは別問題なの。神機の素材にする時だって、この素材とこの素材と…って指定されるでしょ? あれと同じで相性が悪いとどうやったってくっつかない」

 

「と言うか、今一番問題にしているのは、この零號神機兵の作り方よりも、どうやって隠れてるか、じゃないですか?」

 

 

 

 ……アリサの突っ込みで、ふと我に返る俺とレア。…そういやそうだった。ぶっ壊してしまう事さえできれば、わざわざ稼働できている理由を考える事もない。

 

 

「………で、どう思う? フミカちゃん」

 

「そう言われても……。出来るのは、シミュレートだけ…ですし…」

 

 

 そうか…。いや、無理言ってすまんな。

 …しかし、何だろ。何かヒントが出てる気がするんだよな…。それが正解とは限らないけど、何か重要なヒントが…。

 

 

「そーゆー時って、無理に考えてもドツボに嵌るだけだよ? 難しい事は一旦中止にして、折角フミカも来てるんだから遊ぼうよー。もうすぐリカも来るよ」

 

 

 ちなみにリカは、最近では家に帰る事なく、ナナやミカの部屋に泊まっている事が非常に多い。その次に多いのは、夜の遊びに参加する為、俺の部屋に来るパターンだ。

 ちゅーか、遊びたいのは分かるけど、一応今のフミカってバイト中なんだが…。レアも仕事中で、これで給料もらってんだし…。

 

 

「ぶー…」

 

 

 ぶーじゃありません。ちゃんとお仕事しないと、美味しいごはん食べられなくなるよ。

 

 

「それは駄目だね。仕方ないね…。リカと遊んでくるー」

 

 

 …遊ぶ(意味深)かな…。

 ま、この話は一旦ここでストップしよう。何か閃いたら、すぐ連絡する事。

 

 

「仕方ないわね…。それじゃ、フミカちゃん、次の実験に付き合ってくれる? サカキ博士が、ちょっとでもいいから手伝ってほしいって、熱烈なラブコールを送りまくってるのよ」

 

「…まぁ、お仕事ですし」

 

 

 フミカへのラブコール云々以前に、あの人が何企んでるのか不安になる事極まりないなぁ…。フミカへの協力要請って事は、多分危なくて簡単には実験できない案件だよな。

 フミカ、ヤバいと思ったら支部長にチク…いや、やっぱこっちに知らせてくれよ。

 



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353話

討鬼伝モノノフがいつの間にやらサービス終了になっていた件。
そりゃ大手って程注目されてた訳じゃありませんけどね。
ていうか、ソシャゲなんてガワが違うだけで大体同じだしのぅ(偏見)。

ともあれ、どうしたものやら。
討鬼伝世界編では、モノノフから始める予定だったんですが、こなってしまっては誰もストーリーやら世界観やらも分かるまい。
うむぅ、フライングして導入部だけ書いちゃってるんですが…。
どう思いますか、皆さま?

いっそ、討鬼伝2極としてあの里も出してくれないかな。



追記

よっしゃああぁぁぁ!
某理想郷で連載してた、改定前の北斗の拳憑依モノ、魚拓で見つけた!
ウィルスでデータが壊れてもう読めないと思ってたが、なんたる幸運!


神呑月

 

 

 ライブツアーの事が正式に発表された。世間では結構な話題となっているようだ。

 意外な事に、極東だとあまりいい印象を持たれていないらしい。…まぁ、黒蛛病の患者がまだ何人も居るのに、何でわざわざ遠い所の患者を優先するんだ、って理屈も分かるが。やろうと思えば、もっと沢山の人を治療できるから猶更ね…。

 その黒蛛病治療法所持者を、ずっと一か所で保持していると、他所との関係が悪化してしまいかねない。

 一応、ライブツアーで得た収益は、黒蛛病患者達の収容所を改良する為に使うと宣言されている。

 何とも面倒な話である。誰もが別々の理屈で動いてるから、世の中ってのは面倒くさい。

 

 

 

 さて、そのライブツアーに行く人選だが。まずタカネ。血の力体得者…と見せかけて、実はノヴァ。本人はライブツアーと言うより、俺との新婚旅行気分のようだ。

 次にカエデ。血の力体得者。最近では歌による治療の効果も高くなってきて、アイドルとしてもワンステップ上に上がりつつあるそうだ。…アイドル業は真面目にやるが、それはそれとして各地の地酒を楽しみにしているらしい。

 そして俺。アイドルじゃないが、血の力の第一人者ではある。上記二人の護衛も兼ねている。ちなみに、支部長からは『素質がありそうな者を見つけたら、引き抜いて来るか、目覚めさせるかしてこい』と密命を受けている。…そんなすぐに目覚められるよーなもんじゃないから、引き抜けなかったら抱いてこいって事ですかね?

 

 

 で、その俺の監視役兼護衛役。最終的には、アリサがその地位を掻っ攫ったんだが…いやもう揉めた揉めた。

 結局ね、立場的な要素で決まったんだけど。だって、シエルもナナも、ブラッド隊だもの。ジュリウスの許可なしで、勝手に離れる事はできねーよ。

 ただ、アリサもアリサで、俺の護衛…はともかく、監視には不適切だもんなぁ。言っちゃなんだが、俺至上主義者的な面があるから、何だかんだで俺の決定に従うし、他の女に手を出しても…怒りはするが、あまり止めようとはしないし。

 

 

 …で、後はアンチョビ。血の力は未収得。彼女もアイドルと言う訳ではない。まだ候補生止まりだからね。

 一応、俺やタカネ、カエデの付き人という立ち位置に居るが、彼女を連れていく目的は別にある。……知りたきゃ日記を読み返してくれ。ま、苦労してるなぁ、この子…って事だ。

 ちなみに、状況や本人の意思によっては、ステージに立ってもらう可能性もある。

 

 

 

 この他、自主的について来るアイドルの追っかけや、公認ファンクラブって名目でチームアンツィオの面々がついて来る事になるが、これは割愛する。

 

 

 …そして、もう一人分、ツアーに席が残っている。その席を掴み取るべく、二人のアイドルが激突する……!

 

 

 

 

 

 …アイドルの激突って、どうやるんだ? キャットファイトか?

 

 

「そんな訳ないだろう。所謂、対バンと言う奴だな」

 

 

 …つまり、二人順番に歌えって事で? 先行後攻とかで差が付くのでは。

 

 

「そこは問題ない。デュエット曲だからな」

 

 

 ……それ、対バンになるんですかねぇ…。…つーか、マトモな方法で決めるつもりがないのでは?

 

 

「いいや、確かに勝った方がライブツアーに参加できるとも。…とは言え、勝敗に我々の意思が反映される要素は多くあるがね。言っておくが、八百長ではないぞ。明確な差が付けば、そちらを優先するさ」

 

 

 つまり、僅差、或いは引き分けになった時、自分達に都合のいいように勝敗を決められる、と。

 ……あれ、でも対バンって、明確な勝ち負けって…しかもデュエット曲…。

 

 

 

 ………おい。

 

 

「…勝敗を分けるルールは設定してある」

 

 

 ………くだらねー真似するんじゃねぇぞ。

 

 

「私とて、好き好んで無粋はせん。だが、今回の二人については、本当に決めかねていてな…。一概に言える物ではないが、アイドルとしての評価も互角、血の力の習得状況についてもほぼ互角、ついでに言えば……いや、何でもない」

 

 

 そこで話を濁されると気になるんですが。特にアンタのよーな腹黒相手だと特に。

 

 

「下半身に聞き給え」

 

 

 …ちなみに、二人のアイドルって具体的に誰っすか?

 

 

「そこからかね…。君も知っている、リン君とミカ君だ」

 

 

 …あの二人か。そういや、ミカは一度、支部長に食って掛かった事がありましたね。妹を助けてくれって。

 確かに、最近の血の力関係の進歩には目覚ましい物がありましたが…言っちゃなんですが、何故その二人なんです? アイドルとして見れば、それ以上の人も多いと思いますが。

 

 

「熱意を買った…と、担当者は言っていたな。今の彼女達は、一気に飛躍する時期だから、世界に連れ出せばそれに合わせるようにレベルアップするだろう…と。私は娯楽としてのアイドルに興味はないが、現状で血の力体得者が他に居ない以上、誰を選んでも同じだ。ならば担当者の目を信じるとするさ」

 

 

 そういうもんかね。

 …知らない仲じゃないし、後でちょいと話をしてみますかね。

 

 

「うむ、刺されてきたまえ」

 

 

 …刺された程度じゃ、今更死ぬ気がしねぇよ。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、話に行くのはいいが、どうしたもんか。対バン(なのかは未だに疑問)の結果に、支部長達が妙な工作をする可能性がある…と伝えるか?

 と言うか、あの二人の間でギスギスした空気とか漂ってないよな? 仮にもライブツアーの席をかけて戦うライバルになる訳だし。

 あの二人、腹括ったら突っ走るタイプだもんな…。しかも最初は搦め手上等、最後は気合と根性で。敵に回すと、一番面倒くさい人種である。

 

 普段の訓練だと……うーん、どうだろ。ライバル意識はあるようだけど、険悪って程でもなかった。

 会話は減ってるような印象はあったが、それはお互いの間だけではない。自主練等の励んだ結果、プライベートな会話が少なくなっているようだし。

 

 

 

 …こういうのこそ、アンチョビに対応させるべきとも思うが、そうするとアイツの胃痛が加速しそうだしなぁ。

 いや、それ以前の問題か。最近のアンチョビは、ちょっと彼女達と距離を置いているようだ。アイドルとしてではないとは言え、コネの力でライブツアー行に潜り込んだ事に罪悪感があるようだ。

 …アイドル達の反応は、『さすがアンチョビさん』略して『さすアン』状態だったけども。見る目がありますね、って彼女のシンパに嬉しそうに言われたよ。

 

 

 …お、ジュリウス。

 

 

「お前か。…聞いたぞ、暫く離れるそうだな」

 

 

 ああ。ブラッド隊としては、隊員を惑わす悪い虫が居なくなって一安心かい?

 

 

「自虐ジョークにしても笑えんな。むしろ、お前が居なくなってナナやシエルがどうなるか、不安で一杯だ。…良くも悪くも、お前が安定させてからな。隊長の俺としては、情けない限りだが」

 

 

 まぁ、メンタルケアも隊長の役目って理屈は分かるが、それを出来る奴にやらせるのも役目だろ。相手が俺なのは問題だが。

 …ところで、俺がライブツアーに行ってる間のレッスンだが。

 

 

「ああ、俺が引き継ぐ形となる。暫くレッスンに付き合って、俺もノウハウが分かって来たからな。まぁ、度々相談する事はあると思うが」

 

 

 時差で寝てなきゃ相談に乗るさ。外面がいい分、彼女達も気合が入るんじゃないかね。下手な男性アイドルよりも美形だし…。

 何なら、プライベートな悩みとかも相談に乗らんではないぞ。

 

 

「…ラケル先生の事、とか?」

 

 

 相談するのはいいが、電話じゃ止めとけ。どっから漏れるか分かったもんじゃねぇ。

 ……そうだな、ツアーに出る前に、一度腹を割って話してみるのもいいか?

 

 

「俺は構わない。…言いたい事も多々あるが、酒の席だ。許せよ」

 

 

 実力行使に出ても、武器を使わなけりゃ何も言わんよ。それだけの事をやってきた自覚はある。

 え、自重しろ? 色情狂に自重なんて、過食症患者に飯食うなって言うのと同じだよ。

 

 

 

 

 

 はい、そういう訳で、極東の町の一角にあるバー…バー? 居酒屋? とにかくそんなトコに来てます。

 飯はそこそこ、酒はとりあえず酔える。

 ジュリウスのイメージには合わない所だが、実態はこんなもんだろう。毎日フランス料理フルコース食ってそうな外見だが、本人はカツ丼が好きだしな。

 

 

「大体お前はだな…」

 

 

 そして悪酔い中のジュリウス。ゴッドイーターをここまで酔わせると言うのは、ある意味珍しい酒だ。

 酒より飲み方の問題かな…。飲みなれない酒だって事もあるだろうが、俺がカパカパ開けてるのを見て、同じようなペースで飲んでしまった。

 ゴッドイーターは酔いにくいが、ハンター兼ゴットイーター兼アラガミのペースに合わせりゃ、それはね。俺もそこそこ酔いは回っているが。

 

 …その結果、机に頬を押し付けて、片手に持った酒をチョビチョビ啜るジュリウスという、珍しい代物が出来上がってしまった。…疲れた中間管理職が、ヤケ酒煽っているようにも見える。

 

 

 

 

 

 

 …まぁ、そうなるのも無理はないかな。見かけと外行の態度はともかく、ジュリウスの中身は何だかんだ言ってガキンチョだからなぁ。

 信じられないって? …はっきり言って、ヤリたい盛りの青少年だよ。

 

 証拠として、ホレ、今の会話。ジュリウスの記憶に残るかは怪しいけど。

 

 

「あぁ…出会いが欲しい…」

 

 

 …何処のOLだお前。いや俺だって、ループに入る前だと似たような事考えてたけど。

 

 

「いやだってなぁ…。分かるか、俺の気持ち? 何でこんなに、敬遠されると言うか、一線を引かれるんだ…」

 

 

 一線?

 

 

「一線。…俺だって、こう、伴侶が欲しいとか内心を吐き出せる相手とか、甘えさせてくれる女性が欲しい時だってあるんだぞ。だと言うのに、どういう訳だか皆してそっけない態度を取るんだ。いや、好意的に見てくれているとは思うんだが、こう…バカな事を言い合ったり、肩を叩いたりハイタッチしたり、そういう…」

 

 

 青春的な?

 

 

「事をやってみたいんだ。出来れば伴侶と。いやもうこの際言ってしまうが彼女と」

 

 

 …一線を退かれる、ねぇ。まー、お前の周りでファンクラブやら何やら作ってる連中もいるようだが、それで交流が測れる訳じゃないからな。むしろ、抜け駆けしないように見張り合って、一定ラインから踏み込まないよう監視し合ってる状態だし。

 

 

「俺のファンクラブがあると言うのは初耳だが」(イヤミかッ!!)「、要するにそういう事だ。俺はもっとフランクに接してほしい。いや、どうしてこうなったのか、分からない訳じゃないんだ。人は完璧すぎる物には、畏敬を感じて近寄れなくなってしまうと言う。自慢じゃないが、俺はそれだけの物を積み上げてきたつもりだ。自慢じゃないが。ブラッド隊を率いる為、次代のゴッドイーターの模範となる為、あらゆる面から自分を研磨し磨き上げてきた。戦闘力、血の力、指揮力、知識、組織を纏める為の手法、良い印象を与える為の外見…。それら全てが実を結んだと言い切れる訳ではないが、何もできなかったとは口にできない程度の自負はある」

 

 

 …自慢か。いや実際、それだけ積み重ねてきた事は分かるし、それに裏付けされたプライドもあるだろうから、自分で言って許される範囲だとは思うが。

 実際、ジュリウスって一見すると貴公子そのものだもんな。公の場で、それを崩した事は見た事が無い。…まだ3か月にも満たない付き合いで、だが。あれ、でも俺割とマジギレされたりしてたな。

 と言う事は、唯一本心を曝け出せる親友枠?

 

 

「胃痛枠だ」

 

 

 …今こうして酔いに任せて、本心を晒していると言うのに。

 

 

「本心を曝け出しているのは、お前ではなく酒に対してだ。なぁ、どうすればいいと思う? どうすれば彼女って出来るんだ? ギルは過去に女性遍歴があるようだし、ナナとシエルはお前に篭絡されたし、ロミオに至っては、知らない間に付き合って別れて復縁しているし。彼女とは言わないまでも、せめて対等で、仕事の話抜きで話せる友人が欲しい。できれば異性で。年上で包容力のある人なら尚良し」

 

 

 普通に好みの話ししてんじゃねぇか。つかグラスに語り掛けとる…本格的に酔ってるな。

 あと、『彼女の作り方なんて俺が知りたい!』と時守の声が聞こえた。仕方ないね、こんなSS書くのに熱中して普段誰とも会わないから、そりゃ出会いもないわ。

 

 ふーむ……真面目な話、完璧すぎて近寄りがたいってイメージは大きいよな。軽いジョークで場を和ませようとしても、下手な事言うと空気が凍り付いて反応してもらえない。

 となると…マジレスすると、まずは距離を縮める事?

 

 

「それを何度もやろうとしてるんだ…」

 

 

 いや、お前のやろうとした事って、まずは素の状態で接しようとしたって事じゃないか?

 

 

「そうだ。友人と言うのは、そういうものだろう?」

 

 

 そらそーだが、10年来の親友だってハナからそーなる訳じぇねぇよ。最初は完全な他人さね、何にだって順序と段取りがあるのは、俺よりジュリウスの方が身に染みてるだろ。。

 まずは顔合わせ、なんとなく話す、お互いの事を知る、名前や呼び捨てで呼ぶようになる、家に遊びに行く。素の態度で接するようになる。

 これは想像でしかないが、今のジュリウスはお互いの事もあまり知らない相手に『本音で語り合おう』とプリンススマイルでいきなり話しかけたよーなもんじゃないか? そりゃどんだけ見た目が良くても、胡散臭さで退くわ。。

 

 

「む……思い当たる節は…ある…な。プリンススマイルも含めて」

 

 

 割と、誰でも当て嵌まる事だけどな。プリンススマイルは、余所行きのツラで話しかけたって解釈にしとこう。

 

 

「なら、俺はどうすればいいと?」

 

 

 んー…いきなり素の顔を見せようとするんじゃなくて、部屋に連れ込めるくらいに信用を得てから素顔を晒す、とか?

 エスコート用のマナーや技術も叩き込まれてるだろ。まず、それでプライベートルームまで連れ込んで……『づぁぁ~~~~疲れたぁぁぁぁ~~~』みたいな感じで、素顔を晒す?

 呆れられたり戸惑われるかもしれないが、部屋まで来てそれだけで帰るってのも考え辛い。

 

 

「……何と言うか…いい顔して女性を引き摺り込んで、襲うような手口じゃないか?」

 

 

 手順としては大差ねーな。顔赤くするな、ちょっとドキドキしてるだろお前。

 

 

「そんな事は無い、これは酒のせいだ。……後は、誰かが部屋に遊びに来るという想像にちょっと胸が躍って…」

 

 

 …泣けてきた。こいつの部屋、買ったけど使わなかったTRPGのルールブックとかあるんだろうか…。普段のコイツなら玩具なんぞに興味を示しそうにないが、中身がコレだもんな。

 真面目な話、お前が好意的に接すれば、大抵の女性は悪い気はしないと思う。個人差はデカいだろうが、誠実なのは確かだし、技術だとしても気配りも出来る。

 下手にそれを崩そうとするから、ぎこちなくなるんじゃないか?

 

 

 …まぁ、俺が人間関係についてアドバイスするなんざ、ヘソからマグマが噴き出すようなもんだろうけど。

 

 

「? 意見は参考にさせてもらうが、女性関係であれだけ好き勝手やっているのに、人間関係に弱いとは思えんが?」

 

 

 真っ当な関係と、俺の関係を同列視したらアカンぜよ。色んな意味で特殊すぎるからな。

 こんな事語っておいてなんだが、他人の人間関係について俺がアレコレすると、大抵裏目に出るからな。

 

 真っ当なテクニック(エロじゃなくて人間関係を潤滑にする系の)も語れなくはないが、それは多分ジュリウスの方が詳しいんじゃないか?

 大体、俺のやり方はDTにはちょっと…。

 

 

「どどどど童貞ではない! 不義理な事は出来んだけだ!」

 

 

 下手に恋人作れないって立場は分かるよ。しかし、不義理な事はできんって言っても、それ目当てなのも確かだろ?

 

 

「む、むぅ…。それは、まぁ、俺とて…興味が無い訳では…」

 

 

 …すっごい失礼な事聞くぞ。ラケルてんてーから、そういうお誘いや教育は無かったのか?

 

 

「ある訳ないだろう! 最近は疑念を持ってきたとは言え、あの人は俺の母親のようなものだ」

 

 

 想像してオナッた事は?

 

 

「……………………………………………………ない!」

 

 

 間が長いぞ。

 はー、そうか…ちと残念だな。いっそジュリウスをラケルてんてーとネンゴロにさせて、篭絡して何を考えているのか吐かせられないかと思ってたんだが。

 

 

「外道すぎる」

 

 

 この程度、ラケルてんてー本人に比べればまだまだ。…そんな面すんな。お前の知らない事も、色々知ってるだけだ。知らない方がいい事もな…。

 

 

「…吐け」

 

 

 この程度じゃリバースなんざしねぇよ。

 

 

「その知っている事、と言うのを全て吐け。前々から、お前の秘密主義には物申したいと思っていた。大体、重要な情報があるなら、何故それを隠す。公開し、皆で対処するべきではないか」

 

 

 おいおい、興奮すんなって。言えないのにも理由はある。

 …やべ、目が座ってる。妙なスイッチ入ったみたいだ。

 

 

「ならばその理由とやらを言ってみろ。俺はな、人に隠れてコソコソ動き回られるのが大嫌いだ。どいつもこいつも、俺を食い物にする事しか考えてない。アラガミと何の違いがあるんだ」

 

 

 …大分酩酊してるな…。こりゃアレか、ゲームシナリオであった、幼い頃のジュリウスの独白。「みんなが僕を食い荒らすんだ。まるでアラガミみたいだ」なんて言葉があったが、それの事か。

 遺産絡みの陰謀に巻き込まれて、相当な思いをしたんだろう。

 

 

 が、それはそれとして。おい、無理すんな。立ち上がろうとして、膝から崩れ落ちてるぞ。

 慣れない酒で、慣れない良い方してるんだ。いきなり興奮したり動いたりすれば、そりゃ倒れもするさね。

 

 

「うぐ…ぬぅ…」

 

 

 目が回って来たか? しゃーない、今日の話はこれくらいにしよう。

 ほれ、帰るぞ。

 

 

「まだ…話は…」

 

 

 酔っぱらった状態で何聞けるっつーんだよ。明日の朝まで記憶が残ってるかも怪しいのに。

 ほーい、お勘定ー。

 

 

 

 

 そのままジュリウスを、俵みたいに担いで帰った。途中でリバースしかけて、仕方なく背負って帰る事にした。

 …ジュリウスファンクラブに見られた。

 怒りの襲撃に備えるか、それとも腐属性の本の出回りを阻止するべきか…。

 

 



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354話

世界樹の迷宮クロスか…。
地雷の匂いがするなぁ…。
でも世界樹の迷宮シリーズ自体は充分面白かった実績があるし、とりあえず買うつもりですが。
…それより前に、ダクソの全部の奴で心が折れるのが先だろうなぁ…。

久々にダクソ3プレイ中。
以前のデータではなくて、新しい奴です。
盾が使えるだけで、こんなに違うのか…。
前回は傭兵で初めて、20回以上死んだグンタを3~4回で撃破。
安定感が全然違う。
前はロスリックの高壁に突入する前に、必死こいて達人を倒して打ち刀を手に入れて、ずーっとそれ一本でやってたんだよな…。
今度は粗製戦士だか筋力戦士だかで進めてみようと思います。


神呑月

 

 

 リカにミカの状態を聞いてみた。情報料よこせとばかりに、黙って指を三本立てられました。何処で覚えてきたんだ、そんな合図。オシオキとして5回。

 息も絶え絶えになりながら、この天然小悪魔ロリっ子は素直に喋ってくれた。

 

 曰く、相変わらず自分には優しいけど、ちょっと張り詰めている気がする、と。

 

 間違いなく、ライブツアーの席獲得の為だろう。そして、それを決める為のライブはもう目前。

 となると、やはり気になるのはリンとの仲だが…。

 

 

「別に誰かの悪口なんかは言ってなかったよ。あ、でもそのリンって人の事を話す時には、ちょっとだけ笑ってた気がする」

 

 

 笑ってた、か…。親しい仲なのには変わりなさそうだ。或いは、ライバル意識や闘争心の現われか。

 しかし、何だってミカはそこまでライブツアーの席に執着するんだろうか。アイドルとして、とんでもないチャンスである事は分かるが…。

 

 

 

「そんなのカンタンだよー。お姉ちゃん、開祖様の事大好きだもん。一緒に行きたいんだよ」

 

 

 

 …そういう問題か? と言うか、そこまで好かれてるかなぁ…。

 だって俺、初潮も来てない妹を、こうやってパコパコしてる性犯罪者だぞ? …お、今の締りは新しい動きだな。

 

 

「へへ、開祖様のところに行ってない時は、ナナと一緒に毎晩練習してるもん。お姉ちゃんが開祖様を好きな理由なんて、ないんじゃない? ただ、開祖様の事で頭が一杯なだけだよ、きっと」

 

 

 人が人を好きになる理由なんて、そんなもんかな…。

 と言うか、ミカもアレを浴びてるんだよな。俺がGE世界にデスワープしてきた時の、因果らしき物。リンは、あれを浴びてから、アレが何だったのか気になって頭から離れない…と言ってたけど。

 

 他人に対する思い入れなんて、半分以上は思い込みと、「これにはそれだけの価値がある!」って自分で勝手に決めた結果だろうけども。

 

 

 

 

 さて、ミカは後で直接会ってみるとして、リンは…密かに情報を仕入れられる相手が居ないんで、ダイレクトに行くしかない。

 自主練してるだろうと当たりをつけて、開いている訓練室を探してみると…はい発見。

 誰も居ない部屋の中で、ミュージックプレイヤーで音楽を慣らし、ダンスの練習をしているのを発見した。

 

 滴る汗、体に張り付いたシャツが艶めかしい…と言いたいところだが…。

 

 

 ほれ、エナドリ…もといスポドリ。ちょっと休め、リン。

 

 

「あ…ありがと…」

 

 

 明らかにオーバーワークだ。アイドル関係のコーチの人達も、自主練くらい組み込んでスケジュールを作ってるだろうが、ちょいとやり過ぎだ。

 

 

「…こうでも、しないと……ミカには勝てそうにないし…」

 

 

 無理に喋らなくていい。…おーい、前見えてるか? この指何本? 俺は誰?

 

 

「見えてる…畳んでるの入れて6本…貴方はかいじゃりすいぎょのじゅげむくん…」

 

 

 

 あ か ん。

 

 

「ぱいぽぱいぽのしゅーりんがんしゅーりんがん…」

 

 

 フン! …よし気絶(軽)。ったく、そこまで根詰めるなよ…。

 …俺と一緒にライブツアーに来る為、なのかなぁ…。幾ら何でも、それは自意識過剰すぎると思うが…。

 

 …あ、もう起きる。

 

 

 

「はっ!? こ、ここがイスタンブール!?」

 

 

 極東だよ。どんな夢見てんだ。…いや、ライブツアーに行った夢か。頭の中が一色に染まり切ってるなぁ。

 

 

「…なんだ、夢か……。あ、コーチ…」

 

 

 何故距離を取る? まぁいいけど。

 

 

「だって、汗が…。えっと、何でここに?」

 

 

 何でって、最近気合入れまくってるみたいだから、ちょっと様子を見に来たんだよ。

 頭が朦朧となるまで練習してるとは思わなかったけど。

 

 

「うっ…い、いや流石にいつもじゃない。今日はちょっと、上限を見誤ったけど…」

 

 

 だといいんだが。…何でここまでする?

 アイドル業に熱心なのは結構だが、普段のレッスンも相当キツいだろ。その上で、何でここまでするのやら。

 

 

「…わからない?」

 

 

 …………じっと見つめられた。相変わらず距離を取ったままだが、まっすぐ俺を見つめてくる。

 なんだか浄化されそうだ…。

 

 

 分かるっちゃ分かるが、何でそこまでされるのかが分からん。理由何ぞ求めても仕方ないとは思うけどな。

 

 

「まぁ…そう思われるのも分かる。多分、私もミカもあの時に浴びた赤い光が切っ掛けじゃないかな、と思ってるし」

 

 

 当たり。

 

 

「理由も切っ掛けもどうでもいいよ。少なくとも、私は私が夢中になれる物を追いかけてるだけ。…誰とも何とも言わないけど」

 

 

 割り切ってるねぇ…。夢中はいいけど、限度は弁えなよ。身を亡ぼすぞ。火に飛び込む夏の虫じゃねんだから。

 

 

「誰が虫よ、失礼な…。……ところで、今度のライブだけど…どっちが勝つと思う?」

 

 

 ライブツアーの席を決める奴か。本人がそれを聞くか?

 と言うか、『どっちが勝つ』って、もうリンかミカの二択かよ。

 

 

「そっちだって、すぐに相手がミカだって分かってるじゃない。…で、どう?」

 

 

 …答えにくいな。どっちが勝ってもおかしくない…と言うより…………。

 

 

 

「……その黙り方は、何かあるって言ってるようなものだよ」

 

 

 実際あるからな。勘付いているかもしれんが、どうやって勝敗を決めるのかを考えてみれば、不自然な点にも気づくだろ。

 

 

「上等だよ。何があろうと踏み越えてやる」

 

 

 普段のクール(っぽく見える)表情とは裏腹に、不敵な笑みを浮かべるリン。

 じわり、と血の力が滲み出る。意識している訳ではないし、力の量も僅かに漏れ出した、と言った程度。…これは…切っ掛け一つで化けるかもしれないな。

 

 …ふむ。

 

 

 そんじゃ、悪いけど今日はもう行くよ。ミカの様子も見ておかないと。

 

 

「ミカなら、多分歌の自主練中だと思うよ。…それじゃね」

 

 

 自分を置いてミカの所へ行く、と聞き、ちょっと不機嫌になったように見える。

 しかし、すぐに何処にいるかの情報が出る辺り、やっぱりリンも意識しているらしい。

 

 

 

 

 

 ちょっと離れた訓練所、その2。

 ミカはリンが言っていた通り、歌の練習をしていたようだ。過去形なのは、今は瞑想をしているから。

 リン程じゃないが、かなり汗を掻いている。体力が尽きてきて、休憩がてらにやっているのだろう。

 

 …薄っすらと、血の力が漏れ出している。意識しているかは微妙なところだ。こんな所まで、リンと同レベルか。

 邪魔をするのもなんなので、気配を殺して部屋に入る。

 

 悪趣味と言われても仕方ないが、目を閉じて微動だにしないミカを観察してみた。

 …こうしていると、随分雰囲気が変わるものだ。

 ギャルっぽい(自称、カリスマギャルだしな)雰囲気が消え、静かに集中する姿は、ちょっとした神聖さすら感じさせる。

 深い呼吸に、口元には穏やかな笑み…無意識にアルカイックスマイルが浮かんでいた。リラックスできている証拠だ。

 

 

 

 

 ………いかん。いかんぞ。ついついやりたくなってしまうが、早朝バズーカごっこは禁止だ。

 アレはマジでアカン。とっても面白いリアクションが期待できそうだが、今後の瞑想に差しさわりが出る。心静かに落ち着ける筈が、突然の驚きを脳が覚えてしまえば、それを警戒してリラックスしにくくなってしまう。トレーナーとして許可できん。

 

 え、具体的にどういう行動をしたいかって? そりゃアレよ、指先でツン、よ。乳首を。…本気でいかんな。

 

 

 そんな葛藤を繰り広げている間に、ミカはゆっくり目を開けた。…チッ。

 

 

「……あれ、教官…? どうしてここに?」

 

 

 頑張ってるみたいだから、様子見に来ただけだよ。瞑想中に声をかけるのも躊躇われてな。

 ふむ…意外と慌てないな。こういう場合、目を開けたら異性が間近にいて大慌て、が定番だろうに。

 

 

「あはは、かもしれないけど、瞑想した後って妙に気持ちが静かでさ。無関心になるんじゃないけど、テンションが上がりにくいんだよ」

 

 

 ま、瞑想って元々そういうもんだしね。…しかし、俺が言うのもなんだが、今それをやって大丈夫なのか? ライブ対決の直前に、テンションをリセットするような事をして。

 

 

「それはそれ、これはこれ。ずーっと効果が続く訳じゃないしね。それに、テンションが上がらないって言うより、気持ちがどっしり構えられるって言った方が正確かも」

 

 

 成程、動じなくなる訳ね。あくまで気分でしかないから、何かあったらすぐ吹っ飛ぶと思うけど。

 ふーむ…しかし…根っこはともかく、何処まで行ってもリンと正反対だな、こりゃ。

 

 

「…なんでそこでリンが出てくるの?」

 

 

 単純に、ライブツアーに参加できる可能性が一番高そうだから。ミカと並んでね。

 真面目な話、今のミカと一番拮抗してるのが誰かと言われれば、そりゃ他ならぬリンだろ。

 

 

「まぁね。負けないけど」

 

 

 おんなじ事言ってら。それくらいの気概は持って当然なんだろーけど…。

 

 

「負けたくない理由も、負けられない理由もお互い山ほどあるだろうしね。あたしは、そうだなぁ…リカを世界旅行に連れて行ってあげたいかな」

 

 

 お、いいねぇ。このご時世に、姉妹で外国旅行なんか早々できないぞ。

 あのちみっ子の事だし、案外GKNG支部を外国に作ってくるんじゃないか?

 

 

「…無自覚にやりそうだね、あの子。あの子が支部を作るなら、私はファンクラブでも作ってこようかな」

 

 

 カラカラ笑うミカは、自然体に見えた。かと言って闘志や負けん気が無い訳じゃない。

 うーん……こりゃ、本当に勝負の行方が予想できんな。二人で血の力に目覚めてくれるのが一番嬉しいんだけど。できれば、二人でデュエットしたら効果が跳ね上がる的な合体技に。

 

 …今日はどうする? まだ続けるのか?

 

 

「今日はもう上がりかな…。あ、どうせだったらご飯に付き合ってよ。リカも喜ぶだろうし」

 

 

 いいよー。

 …あれ、大丈夫かな…。ミカに隠れて、リカがこっそりイタズラしてくる未来が見えるよ?

 つーか、リカと関係を持った事、気付いてないのか? いや気付いてなくても、リカが俺に迫ってるって事は知ってるし…普通、引き剥がそうとするんじゃね?

 

 

「…言っとくけど、変な事したら叩き出すからね」

 

 

 あ、これ気付いてないわ。かりすまぎゃるには男女の機微が分からないのか、それともリカが巧妙に隠してるだけなのか。…後者だな、多分。

 

 

 

 

 この後、『多分今もリンはレッスン続けてるんだろうな』と思いながら、3人で飯食った。

 予想通り、リカはエッチぃイタズラしかけてきたけど、ミカは気付かなかったようだ。

 

 

 

 

神呑月

 

 

 ライブ対決が明日に迫っている。

 のはいいんだが、ちょっと揉め事中。ライブツアー中の俺の護衛の事だ。

 

 シエルやナナはブラッドチームだし、他に戦闘力の高いゴッドイーターで、割と自由に動けるのはアリサくらいだ。だから、あれこれ議論してはいるが、アリサが来ると思ってたんだが…。

 

 

「支部長。私の耳がおかしくなったか、支部長の比喩を理解し損ねたようなので、もう一度繰り返してください」

 

「君の耳は変調しておらず、私は比喩なぞ用いていない。彼の護衛は、各国のゴッドイーターに任される事になった」

 

「どうして!?」

 

 

 落ち着けアリサ。支部長相手に喰ってかかっても面倒なだけだぞ。

 俺が言うのもなんだけど、アリサが行きたがってるのは、私的な感情によるものだから、拒否や反論する根拠にはできん。

 とは言え、理由は効かせてほしいですね。俺に護衛が必要だって言うのは、支部長も同意してた筈です。戦闘力よりも、世間に対するポーズ的な意味でしたけど。

 

 

「本当に君が言えた事ではないな。はっきり言えば、面子の問題だ。世間に対するポーズとして、君に護衛が必要なのは確かだ。だが、そのポーズが必要なのは我々だけではない。ついでに言えば、君に必要なのは護衛よりも監視だろう」

 

「…つまり、ライブツアー先の各国のポーズが必要だと」

 

「各国『に』対するポーズ、と言った方が正しいな。極東支部から、彼の護衛として君を出すつもりではあった。だが、その場合、ライブツアー先の国のゴッドイーターを信頼していない、と取られる」

 

 

 『我が国に居る間は、我々のゴッドイーターが護衛するので、極東からの派遣は不要』ってか?

 随分な言い草ですね。ライブツアーと銘打ってはいますけど、黒蛛病治療・軽減の為の医療行為、或いはその指導みたいなもんでしょう。それを与えておきながら、あっちの面子を優先する理由はあるんですか?

 

 

「あるのだ、愚かしい事に。…それに、ライブツアーに関しては正式な対価が約束されている。故に、これは対等な取引だ。どちらに対しても恩義はなく、借りも貸しも発生しない」

 

 

 この人が言う、『対等な取引』ほど怪しい物は…いやあるな。榊博士の『大丈夫だよ』とか。

 理由はともかくとして…そもそも護衛って誰ですか。俺の知ってるゴッドイーター?

 

 

「一部はな。後で資料を渡しておこう」

 

「むぅ……有給使ってついていけば…」

 

「君とレア君の有給はもう残っていない筈だが?」

 

 

 俺が月から戻って来たと知った時に、使い果たしたのね…。

 ナナとシエルは?

 

 

「正式にフェンリルに所属して、まだ半年も経ってないから、有給無いんですよ」

 

 

 あ、そう…訓練期間を含めれば、結構長いだろうに…。ああ、そっちはマグノリア・コンパス所属扱いなのか。

 

 

「何れにせよ、極東としても無用に戦力を割く訳にはいかん。このライブツアーには、君をラケル博士の陰謀から遠ざける意味もあるが、同時にそれはラケル博士がフリーになる事も意味している。彼女が何か仕掛けてくるとすれば、間違いなくライブツアーで君が居ない間だ」

 

「それを言われると反論できませんね…。護衛している間に致命的な手を打たれると本末転倒ですし…」

 

「そういう事だ。では、この話は終わりとする。君達の個人的な事情については、当人同士で話し合ってくれたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 …うーん、正直ちょっと予想外だし、残念だな。

 

 

「そうですね…。でも、『あっちこっちで女に手を出し放題だぜヒャッハー!』とか考えてません?」

 

 

 流石にそれは無い。全く無いとは言わんが、それよりも一緒に海外旅行できないのが残念だな。

 ライブツアー先にはロシアも含まれてるし、アリサの故郷を案内してほしかった…。

 

 

「気持ちは嬉しいですけど、行き先は大分離れてますね。……あれ」

 

 

 どした?

 

 

「いえ、このドイツの護衛のゴッドイーター…」

 

 

 ……アネット・ケーニッヒ? この子確か…ゲームシナリオにも居た、縞パンちゃんか。

 

 

「縞パンはともかくとして、私の知り合いです。…話した事ありましたっけ? 月の貴方を迎えに行く為に色々奔走していた頃、ドイツ支部でちょっと。…私を先輩って慕ってくれてたんですけど……その、ちょっと限度が…」

 

 

 ああ、お姉さま的な慕い方だったのね。そういや、いつだったかそれっぽい話を聞いた覚えが…。

 ゲームシナリオ的には、どうだったかな…。追加シナリオに居たのは覚えてるが、重要な立ち位置に居ただろうか? いやそれ以前に、仮に何かの役割があったとしても、それは極東での話だ。ドイツ支部じゃない。

 

 彼女に何かあるのか?

 

 

「ある、と言うか…突っかかってくるかもしれないな、と。まぁその、慕われてた訳なんですが、その私とママに同時に手を出した鬼畜の癖に、月まで迎えに行こうとする程熱烈な相手…って認識でしょうから…。実際、何でそんな奴の為にそこまでするんだ、みたいな事を言われた事もありますし」

 

 

 それは…なぁ。せめて二股の所がなければ、反発も少なかったかもしれんが…。

 

 

「それはそれで、私が嫌です。ママと私のどっちかが、貴方と離れてる事になりますから。まぁ、滅多な事はしてこないと思いますけど…気をつけてくださいね。人間、思い詰めるととんでもない事をやらかしますし…」

 

 

 思い詰めなくても、とんでもない事ばっかやってる人間に囲まれてたから大丈夫…だと思う。うん、レジェンドラスタが酔っぱらって始めた殴り合いに巻き込まれたのに比べれば、どうって事ないだろう。ハンマーでブン殴られてもダメージは無い。システム的に考えて。

 しかし…俺の問題は一旦置いておくとして、そっちは大丈夫なのか? 欲求不満的な意味で。

 

 

「3年間待ち続けたのに比べれば、どうって事はありません。私とママとで解消するのも慣れたものです。…今一つ物足りないですけど」

 

 

 シエル達は?

 

 

「そっちも私達が満足…満足一歩手前くらいにはしておきます。一番怖いのは、ミナミですかね…」

 

 

 余計な事考えないように、徹底的にヤッておくか…。

 そういや、新テクニックのお披露目、まだしてなかったな。ようやく充分に制御できるようになってきたし、ツアーの直前にやってみるか。

 

 

「………な、何が出来るように…なったんです?」

 

 

 触手。スライム。

 

 

 

 …顔を赤らめ、何を想像したのか頭を抱えて(ちょっと嬉しそうに)悶え始めたアリサを連れて、部屋まで戻った。

 

 



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355話

仕事が上手くいかずにストレスがががが
自分がミスしたのであっても、怒られても仕方なくても、言われっぱなしはストレスが溜まる…。
アカンところで妙なキレ方して、上司に歯向かってしまって割とヤバイ。
仮にクビとかになったら……今後の生活が心配だが、清々するかな。

もうすぐ妹の結婚式です。
それまでにはストレス解消しときたいなぁ。



神呑月

 

 ライブ対決、当日! …対決だって思ってるのは、リンとミカだけかもしれないが。

 町のあちこちに、一時的にテレビやラジオが置かれ、その隣にはポスターやら投票箱やら応援グッズやら。

 

 …テレビはともかく、ポスターとかは最近じゃ珍しくないんだよなぁ。フェンリルが大々的に宣伝してる事もあって、極東地区の一角はどこぞのオタ街のような様相を呈している。

 最近じゃ、アイドル目指して頑張る一般人も増えてきて、練習の為にカラオケボックスが作られたとか何とか。

 仕事が増えて嬉しい悲鳴よ…とは、ペパロニの屋台で隣席した大工のにーちゃんの言である。ゲームでは資材不足でフェンリルと度々揉めていたようだが、この状態の極東なら、資材はかなりあるんだよな…。

 

 ともあれ、ライブ自体はオーディションの時同様、防壁の外のステージで行われる。

 …あの時は、赤カリギュラ…なのかナルガクルガモドキなのか微妙だけど、とりあえずアラガミが乱入してきたんだよな。

 

 だってーのに、何でまた同じ場所でやるかね? そりゃゴッドイーター達も沢山配備して、同じ轍を踏まないようにはしてるが…。そしてあの時の被害を忘れた訳でもないだろうに、ライブの為に平然と防壁外まで出てくる極東市民達。流石と言うかなんというか…。

 ちなみにライブの前売り券も、アッと今に売り切れたらしい。結構なお値段で、『乱入してきたアラガミに襲われても、一切文句はありません』なんて同意書まで付いてたにも関わらず。買う方も買う方だが、売る方も売る方である。

 

 まーそんな有様だっただけあって、ライブ会場は熱狂の渦である。リンとミカはトリを務めるんで、今は所謂前座が頑張ってる所だ。

 多分もう、客の方は血の力がどうだとか、完全に忘れてるなぁ。ただただアイドルに夢中になってるだけだわ、コレ。

 

 

 

 

 で、俺はと言うと、ちゃっかりゴッドイーターとして警備に駆り出されていた。都合のいい時だけ、ゴッドイーターとして扱われてるな。

 別に文句はないけどね。アルバイト扱いだけど、給料は出るし。

 

 そして、今俺がどこにいると言うと………会場の中で一番高い照明の上で、ガイナ立ちしています。

 …いや別にガイナな意味は無いんだけど。

 普通なら思いっきり注目を集めるガイナ立ちだけど、誰しもステージに目を奪われているし、照明のおかげで逆光になってるしで、まず気付かれない。

 

 何でそんな所に居るのかと言うと、単純にこっちの方がアラガミを見つけやすいからだ。遠くまで俯瞰できるし、いざとなったら狙撃も出来る。ついでに言えば、ファン達から暴走する奴が出てきたら、一気に飛び降りてエアアサシン…もとい、捕縛するのも簡単だ。

 まぁ、今のところ、アラガミの襲撃も、ファンの暴走も起きてないけど。今回は、至極真っ当に終わる…かな? いやまだ油断はできない。

 

 

 …ん、通信?

 

 

 

「教官、交代の時間っす。休憩に入ってください」

 

 

 

 はいよー。誰もこっちに目を向けてないのを確認して、鬼疾風で大ジャンプ。ステージの外に降りる。

 …ふむ、休憩はいいけど、何もする事が無いな。皆、流石に今は仕事中だ。休憩時間が被っている人も居ない。

 

 …寝るにしても、微妙な時間だし…飯食ったら、リンとミカに会いに行ってみるか。もうすぐ出番みたいだしな。

 一応関係者と言うかコーチ役なので、忍び込まなくても入っていく事は出来る。二人の控室は……気配はこっちだな。

 

 ノックしてもしも~し。

 

 

「どうぞ」

 

 

 はいお邪魔します。

 

 

「あれ、コーチ? 何でここに?」

 

「コーチ…? え、本当だ。今日は確か、警備の仕事じゃなかったの?」

 

 

 休憩中だから、様子を見に来た。ふーむ、二人して落ち着いてんなー。

 仲がギスギスしてたり、緊張して硬くなってんじゃないかと思ってたけど。

 

 

「そりゃね。切り替えができなきゃ、アイドルなんかやってられないって」

 

「そういう事。お互い、ライブツアーの事で意識してるのは否定しないけど、ステージにまで持ち込まないわよ」

 

 

 ステージの外が心配な発言ですね。

 …落ち着いてるように見えたが、二人はちょっと違う…か? ミカは自然体で構えているし、リンは静かに燃えている様子。この前、様子を見に行った時とほぼ同じか。

 

 

「ていうか、差し入れとか無い?」

 

 

 こっちも仕事中だから文句ゆーな。と言うか、ステージ前に喰って大丈夫なのかよ。

 

 

「そこは程度の問題かな。でも、やっぱりコーチにもステージは見てほしかったな」

 

「それは同感。一発で虜になっちゃうのにね」

 

 

 そりゃ楽しみだこと。…客としてではないけど、ライブは見れるよ。かなり近くで。具体的に言うと、高さ15メートルくらいのところで。

 

 

「高さ…?」

 

 

 高さ。大体、4階くらいかな。

 

 

「微妙に遠くない…? いや、大きなライブステージ内の距離だと思えば、そうでも…?」

 

 

 そこらへんの基準はよく分からんが、とりあえず俺的には歌もしっかり聞こえるし、やろうと思えば服の皺まで見分けられる距離だから問題ない。角度が限定されるのが玉に瑕だが。

 まぁ、いつも通りなようで安心したよ。妙に気負って失敗するなんて、珍しい話でもないしな。

 

 にしても…。

 

 

「…? どしたの?」

 

 

 いや、陳腐な物言いになるけど……タイプは違うが、グッとくるなって。

 つーか、ステージ衣装と言うよりは、どこぞの高校の制服に見えるな。まぁ、何気に華美な衣装だし、こんな制服が現実にあったら、ツッコミ間違いなしだけど。主に予算で。

 

 

「ああ、これ? 詳しい事は知らないけど、旧世界…アラガミが現れる前の世界の衣装を参考にしたのは確からしいよ」

 

「学校なんか行った事もなかったけど、私達は丁度それくらいの年齢だし、懐かしさとかで絶対に高評価になるからって」

 

 

 …どっちかっつーと、女子校生というプレミアを付けようとしたんじゃないかって気がする。

 ま、それを抜きにしても、ウケそうではあるが…。男は基本的に、揺れるスカートが気になる生物だし。それが制服ともなれば、猶更。

 

 

「トレーナー、オヤジくさいよ…」

 

 

 男なんてこんなもんだ。リアルにオッサンの年齢から、中学生くらいのマセガキまで大して変わらんよ。

 …ん? 誰か来る。

 

 

「あ、もうこんな時間か…。もう出番だね」

 

 

 もう? …俺も休憩切り上げて、警備に回るか。警備しながら、見物させてもらうよ。

 

 

「ちょっと時間を持て余してたから、いい暇潰しになったわ。盛り上げていくよ~」

 

 

 

 スタッフらしき人が来る前に、部屋を離れる。別に見られたって問題はない筈だが、なんとなく。

 

 

 

 

 鬼疾風でジャンプ…して、ちょっと飛距離を間違えたので、鬼の手で調整。先程までと同じように、証明の上に潜む。

 眼下では、ステージは大きく盛り上がっている。…熊本弁だが、特に問題はないようだ。ま、直接会って話すならともかく、歌詞の内容に疑問を持っても仕方ないわな。

 

 観客達も、特に不自然な点はない。むぅ、アイドルが世に知られてから大して時間も経ってないだろうに、訓練されたファン達だ。

 

 

 

『…こちらジュリウス。ブラッド隊、聞こえるか』

 

 

 はいはい、聞こえてますよー。

 

 

『ロミオ、聞こえている』

 

『ナナだよ!』

 

『ギルバートだ。問題なし』

 

『シエル、ジュリウスと同行しています』

 

『おかしな痕跡を見つけた。全員警戒しろ。他の警備隊には、別ルートから連絡済みだ』

 

『痕跡の内容は?』

 

『一言で言えば、小さな穴だ。アラガミが掘って出てきたと思われる…』

 

『この大きさなら、アバドンで間違いはないと思います。ですが、アバドンではつく筈の無い、爪痕のような痕跡があるのです』

 

 

 爪痕…。アバドンか。

 珍しいっちゃ珍しいアラガミだ。黒い球体のような体に、魚のようなヒレがついているだけのアラガミ。体内に貴重なコアを宿しており、倒せばそれまでアバドンが食って来たアラガミの素材と、何故かAチケットが手に入る。

 何かに害を為したという報告は今のところないが、その正体や生体は謎に包まれている。

 一説では、スサノオやグボロ・グボロとの関係も説かれているらしい。

 

 が、少なくとも爪なんてものはなかったよな。

 なんだ、今度はアバドンが、ミズチメモドキやリオみたいに進化したか?

 厄介だな…。アイツは小さくてあちこちに隠れられるから、高所からの捜索も効果が薄い。

 

 他に特徴は?

 

 

『気になる点は幾つかある。まず、アバドンが出てきたと思われる穴に対して、ついている爪痕は明らかに大きい。それに、アバドンの物なのかはともかくとして、この爪痕…と言うよりは、足跡か? の大きさからして、かなりの重量の筈だ。足跡が残らない筈がないのに、片側の足跡しか見つからないんだ』

 

『アラガミがケンケンしたのかな?』

 

『デカブツがそんな真似したら、地響きくらいは起こるんじゃないか?』

 

『じゃあ、片足を失ったアラガミか? …明らかにバランスが崩れるから、残る痕跡はもっと多くなるよな…』

 

 

 ロミオ、お前の『対話』で炙り出せないか?

 

 

『無理。相手がどこにいるか分かれば別だけど、広域にやるとステージにまで影響が出る。それに、反応したアラガミが暴れ出すかもしれない』

 

 

 それはちょっとアカンな…。俺もそっちの捜索に加わるか?

 

 

『いや、お前はそこでステージの警護を頼む。いざと言う時、単体で戦って防衛できる確率が一番高いのはお前だ。勿論、高所からの見張りもな』

 

『戦って防衛って言うより、何かさせる前に一気に仕留めるサマが目に浮かぶ…』

 

 

 分かってるじゃないか、ロミオ。何か進展があったら、こっちにも情報を回してくれ。じゃ、ボクシングを祈る。

 

 

『拳闘かよ』

 

 

 

 一発で分かるギルもどうかと思う。さて、それはともかくどうしたものかな。この角度だと、やっぱり踊りも歌も今一楽しめない。上から覗き込む形なんで、乳の谷間が見えるのは嬉しいが、そーゆー気分じゃねーし。

 …いや違う違う。アバドンモドキだ。アバドンでないとしても、何かが潜り込んでるのは間違いなさそうだ。

 

 ……多分、だけど…MH世界っぽく進化したヤツではない気がする。あいつら、基本的にとにかくデカイからな。オオナヅチみたいなのでもない限り、気配ですぐ分かるし、巨体で隠れるのも難しかろう。

 んじゃ、鬼っぽく進化した奴ら? …どうだろうな。強力なヤツであれば、MH世界のモンスターよりもデカい奴だっているし。

 じゃあ、小さいモンスターか鬼? GE世界にアバドンが居るなら、討鬼伝世界には鬼火・朧が居るが…これっぽく進化したのだとすると、爪跡の理由が分からない。

 

 

『こちらナナだよ。こっちもおかしな痕跡があった。…捕食後…かな?』

 

『捕食? 何を捕食してたんだ』

 

『鉄とかコンクリート…かな。廃墟の建物の一部が、不自然になくなってるの』

 

『アラガミが無機物を食べるなんて、珍しい話じゃないだろ』

 

『そうだけどー、何て言うか、こう…食べたんじゃなくて、引き千切って持って行ったような…気が……するんだけど…」

 

『気がする、ですか…。しかし、ナナの食への情熱はブラッドの中でも随一です。そのナナが、食べたにしてはおかしい、と感じたのなら、考慮すべきかもしれません』

 

 

 シエル、その理屈と基準はおかしい気がするぞ。

 しかし、食欲の塊の筈のアラガミが、食わずに何をするってんだ?

 

 

『……道具にする、とか?』

 

『それが事実だとしたら、恐ろしい話だな。道具を使うアラガミが何匹も現れたら…』

 

『ああ、人間の数少ない優位がひっくり返されかねん。…もう少し調べるぞ。散会せず、深追いもするな。…行くぞ、シエル』

 

『はい、ジュリウス』

 

 

 …俺も動くべきか? …いや、様子を見よう。

 ライブステージは既に佳境。大いに盛り上がりまくって。熱気で本当に火が付いているような気分になる。

 逆に言えば、終了まであとちょっとだ。道具を使うアラガミは気になるが、この場での護衛を考えると、仕留められなくても構わない。無暗に動き回るより、ここで張っていた方がよさそうだ。

 

 

 暫く、ブラッド隊だけでなく、他の部隊からも情報が飛び交った。同じような、不自然な痕跡が幾つか見つかる。

 ただし、ちょっとずつ違った痕跡が。

 最初にジュリウスとシエルが見つけたのは、爪痕…恐らくは右腕(或いは右前足)の爪痕だった。あちこちで見つかった痕跡は、爪痕ではなく足跡だったり、噛みついたと思われる跡だったり。

 奇妙なのは、それらが全く別の場所で見つかる事。左足跡の周囲には左足跡の痕跡しかなく、右足跡の周囲にはやはり右足跡。噛みついた跡の周囲を調べても、やはり噛みついた跡だけで足跡も無い。

 

 …どういう事だ? まるで、手足が全くバラバラの位置で動いているようじゃないか。いや、『まるで』ではなく、恐らくそれが正解なんだろう。問題なのは、何故そんな事になっているのか…だが…。

 更に。

 

 

『…こちら防衛班β、痕跡が途絶えた』

 

『遊撃班γ、同じく。最後に残ったのは、穴…だな。防衛班β、そっちには無いか?』

 

『少なくとも、目に見える所には無い。しかし、この辺は瓦礫による死角が多すぎるから、断言はできない』

 

『観測班より伝令。他のチームも、追っていた痕跡が、穴を最後に途絶えたそうです。潜って逃げた、と見るべきだな』

 

 

 地面に潜った…か。アバドンにせよオウガテイルにせよ、小型のアラガミが地面から現れるのは珍しくない。逃げる時も…まぁ、そうだな。

 問題は、潜った後、何処に出てくるか。一番ありそうなのは、やはりこのステージだろう。今正にサビの部分を熱唱しているリンとミカを狙うか、熱狂している観客のド真ん中に出てきて大きな被害を振りまくか…。

 何れにせよ、現れるなら先制攻撃と言うか暗殺あるのみ。出てきた瞬間、スナイプしてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライブ終了まで待機していたが、結局、何も起こらなかった。

 不完全燃焼。

 

 

 

 

神産月

 

 新しい月に突入した。いやぁ、ライブの後片付けと月末月初の作業が同時進行で忙しかったのなんのって。

 リンとミカに会った時、ちゃんと見てくれたかと聞かれたんだが……トラブル対処で、途中からは聞けてなかったと言ったらブーたれた。

 ちゃんと見るように、と映像データを貰った。

 

 ま、これは後で見るとして…。

 ライブ中に見つかった、謎の痕跡の事だ。何か手掛かりはないか、技術班が総出で監視カメラの映像データを総浚いしたらしい。

 が、全く手掛かり無し。カメラに移るのは、警戒中のゴッドイーターのみ。

 

 

 

「こうまで手掛かりがないと、逆にそれが手掛かりになるな。明らかに、カメラの場所と角度を把握し、それらを避けて行動している。

 しかし、アラガミにそんな事が出来るのか? 人間であれば分かる。カメラの設置場所は機密事項だったが、そうセキュリティレベルの高い情報ではないし、何よりカメラのカモフラージュにはそう力を割いてなかったから、注意深く見れば発見する事はできるだろう。全てを発見とは言わないまでも、移動に必要な場所のみのカメラを発見できれば…2,3個見落としがあったとしても、幸運で映らず乗り切れた…と考える事はできる。

 だが相手はアラガミ。知能はあるが、人の言葉は通じないし、コミュニケーションも取れない。つまり飼いならす事もできはしない。仮に人間の中に裏切者が居て、そいつがカメラの場所を知ったとしても、どうやってアラガミにそれを避けさせる?

 いや、そもそも何故アラガミの姿を隠した? 相手がアバドンだと言うのは憶測にすぎないが、出てきたらしい穴を調べれば、100%とは言わないまでも容易に確定できる。珍しいアラガミで、その生態も分かっていないが、姿形を視られた程度で不都合はない筈。

 …隠したと言う事は、見られる事に不都合がある? だが誰に? 

 待てよ、そもそも俺達が発見した、アバドンにはそぐわない痕跡は? 通常のアバドンではないのか、或いはアバドンの痕跡こそがブラフで、他にアラガミが居たのか。

 確かに、あの後アラガミと遭遇したが………………………………………………………………ぬ、ぬぅ…」

 

 

 

 長文乙。

 

 …おいロミオ、ありゃ一体なんだ。考えを口に出すにしても程があんだろ。いつものジュリウスなら、考え事するにしても沈思黙考するだろうに。

 しかも最後、なんか表情を歪めてるし。嬉しそうだなオイ。

 

 

「あー、放っておいてやってください。浮かれてるんすよ…。それであんだけ頭が回るようになるんだから、安いもんです」

 

 

 その言い方だと、普段のジュリウスがあまり何も考えてないように聞こえるが…まぁ、ピクニック隊長だしな…。

 で、結局何があったん?

 

 

「アイドルの子と、ちょっといい感じになってるっぽいです。一応様子見てましたけど、ジュリウス一人が舞い上がってるんじゃなくて、本当にいい感じに。昨日のライブの後、撤収する時にその子がアラガミに襲われそうになったんだけど、それを颯爽と助けに入ったのが切っ掛けで」

 

 

 絵面的にはよく合うな。見た目、王子様か貴公子か着飾った騎士みたいなやつだし。そのアラガミって?

 

 

「デミウルゴス。あの謎の痕跡とは、似てるようで全然違いますね。で、その子がまたグイグイ押してくるタイプの子で、もう連絡先の交換までしてるみたいっす」

 

 

 ああ見えて人見知りと言うか、人を踏み込ませないジュリウスには丁度いい子かもしれんな。

 この前飲んだ時も、出会いが欲しいとか彼女が欲しいとか言ってたし。

 

 

「…以前の俺が聞いたら、どの面下げてって思うようなセリフだなぁ…。ま、俺としてもあの子はジュリウスと相性いいと思いますよ。ファンクラブの皆さんみたいに、良くも悪くも綺麗な所しか見てない訳じゃない。血の力の訓練で何度か見ましたけど、真面目で、ジュリウスの事もしっかり考えてます」

 

 

 ふーん、いい子と縁があったんだな。後はそれが、修羅場案件や死亡フラグにならなければいいんだが。

 …コウタと暫く一緒に行動するように仕向けておこうかな…。アイツと一緒なら、大抵の死亡フラグはクラッシュできそうだし。

 

 

 

「話は変わりますけど、あのアイドル対決どうなったんすか? 教官、現場で見てたんですよね?」

 

 

 見てたけど、肝心な所からアラガミの方を警戒せにゃならんかったからな…。上からしか見られなかったし。

 まだ集計途中だけど、本当にどっちが勝ってもおかしくないみたいだぞ。

 …投票では、だけどな。

 

 

 ……投票でケリがついてくれりゃいいんだがなぁ。つか、もう本当に投票でケリにしろっつの。

 『大差がつくなら結果に従うが、僅差だった場合はよりフェンリルの利になる者を登用する』じゃねーよ。そりゃ営利企業だから利を優先するのは分かるけど、これって詐欺とかになるんじゃねーの? 投票結果を偽るなんぞ、選挙で言ったら犯罪モノだろ…。

 

 ついでに言えば、もしも本当の本当に僅差だった場合、どっちが勝つ…と言うか、勝ったことになるのかは、もう決まっている。しかも、クッソ下らない理由で。

 これを聞いた時、『そんなもん理由にもならねーよ』と素で突っ込みを入れた。支部長も全く同感だったようだが、『極限状態では、些細な事が切っ掛けで運命を変えるものだよ』なんてセリフで誤魔化されてしまった。

 もう、支部長の一存で変更はできないってトコまで来てるんだろうけども。

 

 

 はぁ…。僅差になるのは、もはや避けようが無さそうだが…。こんな理由で応援されるのも複雑かもしれないが……願わくば、ストレートにリンが勝ってほしいと思うよ。

 

 



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356話

前から何かと面倒事ばかり起こる職場だったけど、特大のが爆発したでござる…。
家庭板案件の余波が押し寄せてきたでござる…。
昔、別の仕事してる時に不倫の詫び状みたいな物見つけて反応に困った事はあったけど、実際に近くで発生するとナマナマしさが違うな…。
こんなSS書いておいてなんですが、皆さんもご注意を。

うう、もうすぐ妹の結婚式だと言うのに、結婚のイヤな面を見せ付けられたようだ…。


神産月

 

 

 ミカが勝った。

 投票結果は公表されたが、ぶっちゃけ欺瞞である。ある程度の差を持って…全体で言えば、2パーセントにも満たない差によって、ミカの勝利。

 …と一般では言われているが、実際は違う。2パーセントどころか、二人の差は数票程度。二人のどっちに投票するのか迷いに迷い、書き直しまくった挙句無効票となってしまった物もあるようだから、もう本当に誤差程度の結果だったんだろう。

 だが、それでも結果は結果。…それに従うのであれば、リンの勝利であった筈なのだ。

 

 …まぁ、その勝敗の誤差を、支部長達のような幹部連中が覆したと……違法な手段ではなく、一観客・一投票者による投票で覆した、と言えなくもないんだが。

 実際、実際の結果と公表される結果の違いに、俺が見咎めるように睨みつけると、何処からともなく取り出した投票用紙に、ミカの名前を書き込んで見せた。同じような投票券が何枚かあったが、それは幹部連中から支部長が預かって来た投票券のようだった。いくら投票券があったからって、時間制限を過ぎてりゃ無効だよバカ野郎。

 

 

 …クソ、そんな事するくらいなら、本当に最初から投票しとけっつーの。どっちを行かせたいのか、もう決まってたんだろ。

 大差がなかった時点で、ミカをライブツアーに行かせるのは決定事項だったんだ。だったら、せめてちょっとでも『大差』が出来るように、ミカに投票しとけよ最初から。お前らだけでも。

 

 

 

 

 

 ……久しぶりに、ムシャクシャして仕方がない気分になった。

 

 

 

 

 

 こういう時、ド変態のミナミが居て本当に助かるね。乱暴にしても、ぞんざいに扱っても悦びまくるから。

 

 

「もう、酷い人…。アリサさん達に嫉妬されそうですね。自分でもちゃんと受け止めるのに、って」

 

 

 ま、それは分かってるし、他人に憤りをぶつけるくらいなら、自分が…って考えも分かるけどね。俺だって、あいつらにいい感情だけを向けていられるとは思ってないし。

 ぶっちゃけ、このイライラをぶつけられて、全然傷つきそうにない人が丁度いい所にいたから、そのままぶつけただけだもんな。

 

 

「私だって、多少は傷つきますよ? …こんな私ですけど、真面目にアイドルだってやってるんです。そのやり口には、多少腹が立ちますね」

 

 

 多少、で済むのか?

 

 

「結果が決められていたのは業腹ですけど、それを踏み越えて進まないと、アイドルなんてやっていられませんよ。理不尽な嫉妬、先輩からの悪意、後輩からの嫌がらせ、同期から足を引っ張られ…。それでも輝くのがアイドルです。一つの道を歩けば、必ず成功と失敗を問われます。どんな理由でも、成功は成功、失敗は失敗なんです。この結果からだけは、逃げられません」

 

 

 ……ミナミにしては、妙に深い事を言うな。

 

 

「そんな事言ってる暇があったら、リンさんの所に行ってあげてください。裏で何かあるのかも、とは伝えていたんでしょう。…今頃は、実力で負けたから仕方ないと思う気持ちと、横槍のせいで負けたという気持ちで葛藤している筈です」

 

 

 ……負けた者に、慰めの言葉をかけろと?

 己惚れるような言い方をするが、惚れた相手をかけた勝負で負けて、その惚れた相手から情けを受けろと?

 

 

「ふふ、ちょっと勘違いしてますね。リンさんはまだ負けていません。確かにライブツアーをかけた戦いには負けましたけど、そのツアーに行こうとしたのは貴方の傍に行く為ですよ。勿論、勝負に負けて悔しいと思っているでしょうけど…まだまだ、彼女は負けてないんです」

 

 

 …………。

 正直、ミナミの論法を信じる訳じゃない。リンの目的が本当に俺だけだったのだとしても、その為のこの勝負に入れ込み、熱を上げていた姿を見ている。

 それが負けて、悔しくない筈がない。慰められて、惨めにならない筈がない。

 ついでに言えば、ミナミは…なんだ、あまり信用しない方がいい。俺に限定しては、だけど。

 俺が他の女を引き摺り込む事を期待してる節があるからなぁ…。エロは自分がするのも好きだが、誰かがされるのを見るのも好きらしい。

 俺を唆して、弱った隙に付け込ませようとしている可能性は十分すぎる程ある。

 

 が、同時にコイツの嗅覚は本物だ。俺がなんか知らんが身に着けてしまったエロレーダーのようなものを、こいつも独自に持って居る。

 自分に都合のいい結果が来るように歪めて表現するかもしれないが、こいつの言う事にも一理はあるんだろう。

 

 

 …いいだろ、行ってくるとしよう。俺が人間関係で動いて、いい結果になった試しはあまりないが…中途半端に関わったってのも、な。

 

 

「ふふ…そういう、私を理解して疑ってくれるところ、好きですよ」

 

 

 お前、外面は異様にいいもんな…。

 んじゃ、お前の思惑通りに行けば、俺は戻らないだろうし…今晩のレア達の玩具にされてくるように。

 

 

 

 ……やっぱり悦びやがった。

 

 

 

 

 

 

 さて、そういう訳で、こっそりリンの実家とやらの様子を伺っていた。

 ふーむ、こうしてみると…大した豪邸…なのか? 豪邸っつーかビニールハウスっつーか。

 この世界でビニールハウスなんざ、そうそう作れたもんじゃないだろうから、そういう意味では金かけてんだろうな。

 

 そのビニールハウスからちょっとだけ離れた所にある、普通の家。…普通と言っても、MH世界の植物に覆われたこの極東基準だから、あんまりアテにならんが。

 ちなみにビニールハウスの中では、色取り取りの花が咲き乱れ、花粉が舞い、つついたら毒が垂れ流される植物が育ち、その真上には衝撃で弾け飛ぶクルミが実っていて…………おい、管理者はちゃんと安全を考えて育ててんのか?

 

 少なくとも、リンはGKNGの幹部…つまりは俺が直接教えた人間ではない。父親と母親も、さっき遠目に確認したが、設立当初のメンバーではないようだ。

 …つーか、俺もMH世界の植物育成について、専門家って訳じゃないんだよな。調合とかのやり方は一通り把握してるけど、それを人工的に育てるのはな…。農場の経営も、ほぼアイルー達に任せてたから、経験が無い。

 つまりは、初期メンバーにすら教えられてないって事だ。このビニールハウスの中は、それを一から分析して彼らなりに安全を考慮して出来上がったものなのか、或いは一山当てた財力にモノを言わせ、事業拡大を狙った結果こうなったものなのか。

 

 …後者臭いなぁ。最初は自力で必死こいてやってたけど、大きくなるに連れて人を雇い、それらの管理と教育が徹底できてないんだろう。企業における、最大の問題点だもんな…。

 近い内に、然るべき筋から監査でも寄越した方がいいだろうか? 実家が人身事故の類を起こしたとなれば、リンの今後にも差しさわりが出るかもしれない。

 

 

 

 …真面目な考察はここまでとして。

 

 

 

「…何でここに居るの?」

 

 

 そういうリンこそ、何で気付いてんですかね。並みのゴッドイーターどころ、ハンター、アサシンでもまず気付けないくらいには気配を消してたつもりだが。

 

 

「何でって言われても…分かったから、としか言いようが。大方、血の力関係なんだろうけどね」

 

 

 確かに、さっきちょっと漏れたような気配はあったが。なんつーか…血の力、と言うよりは…水の力? 色的に。

 

 

「うん、まだちゃんとコントロールはできないけど、何だか紅じゃなくて蒼をイメージすると、すごく体に馴染む感じで。…なんか、このイメージを使った後には、妙な夢をみるんだけど」

 

 

 おう、構わんからどんどん使え。見てて嬉しい衣装が増える予感がする。

 ちなみにブラッドアーツは、使えば使う程強化されていくぞ。血の力も似たような傾向はあるから、ガンガン使って慣れていけ。

 

 

「…で、結局何でここに? 何、慰めにでも来たつもり?」

 

 

 (ちょっと攻撃的だな…。やっぱり割り切れてないか、色んな意味で)

 

 真剣勝負の結果に、慰めなんてもの持ち込む程ヤボじゃないつもりだ。

 …が、お前には裏があるって事を、中途半端に教えちまった。

 

 

 

 ……それ以上に、だな。この本音と言うか愚痴をブチ撒ける相手、仲間が欲しくてよ…。

 

 

「…?」

 

 

 ……ちょっと場所帰るぞ。確か、この近くにカラオケボックスが出来てたよな?

 

 

「うん、防音の奴が。……何であれで防音になるのか、未だに分からないけど」

 

 

 MH世界では、明らかに耳栓じゃないのに耳栓機能が付く防具や装飾品なんて珍しくないからダイジョーブだ。

 では、レッツらごー。

 

 

「…別について行くって言ってないんだけどな…。まぁいいか。思いっきり歌いたい気分だったし」

 

 

 

 

 

 

 

 リンはマイクを握ると離さないタイプだった。

 マイクって言っても、声を増幅するような物じゃなく、単に気分を出す為だけのものだ。カラオケの機材も、どっちかと言うとジュークボックスと言った方がシックリ来る。

 …どっから持ってきたんだろうな、こんな機材。

 

 リンもリンで、よくここまで歌い続けられるなぁ。嫌味じゃないが。…偶には、連れに歌わせてくれてもいいんじゃないかな。

 しかし…リンのアイドルとしての歌は、一切歌ってない。機材に入ってないだけかもしれないが、とにかく古い曲ばかり歌っている。古いを通り越して、旧世界の曲ばかり…。

 しかも、普段のアイドル活動で見せる、洗練された技術は殆ど無い。勢いと肺活量に任せ、とにかく大声で歌っていた。

 

 

 …やっぱ、ふっきれない気持ちがあるんだろうな。憐れむつもりは無いが、思う所も無くはない。

 ついでに言えば……うん、負けた事にされた理由も、多少は理解できた。

 

 

「ふぅ…偶には何も考えずに歌うのもいいね。…あれ、歌わないの?」

 

 

 自分だけガンガン予約入れといて何を言うかね。見た目はクール、中身は熱中すると周囲が見えなくなるタイプなのは知ってるが、随分思いっきり歌ってたなー。

 

 

「ま、歌うのは嫌いじゃないし、思いっきり声出したい気分だったし」

 

 

 ……やっぱり、負けたのが気になってるか。

 

 

「…まぁ、ね。そこまで気にしてるつもりはないけど」

 

 

 少し黙って、目線で続けるよう催促すると、躊躇いながらもリンは語りだした。やはり、吐き出したがっているんだろう。

 

 

「別に、負けたのが初めてな訳じゃないよ。レッスンの一環として、勝負した事も何度かあるし。アイドルとして活動していくなら、どうしたって勝ち負けは出る。…実力以外の理由でも」

 

 

 (実力以外の理由のトコ話したの、やっぱ余計だったかな…)

 

 

「前にも言ったけど、そういうのを踏み越えていかなきゃいけない。だから、負けたのはそういう障害を踏み越えるだけの力が私になかったってだけ」

 

 

 

 

 

「だけ……だし……初めてでもないし。まだまだチャンスはあるって分かってるんだけど」

 

 

 

 

 

「なんでだろ……すっごく、納得できない…」

 

 

 

「今までだって、反省やレベルアップの為に負けた理由を探す事はあっても、言い訳の為に探した事なんかなかったのに」

 

 

「未練がましく、ひっくり返せる理由を探してる」

 

「ミカがすっごく努力してるのは知ってる。でも、自分だって負けてない筈」

「ライブの手応えだってあった。ミカと二人で歌ったステージだから、お互い手応えを感じてたのも分かる」

「どっちが勝ってもおかしくなかったけど。裏の事情も踏み越えてやるって思ってたけど」

 

 

 

 

 

 

 

「なんで私の負けだったんだろう……」

 

 

 

 俯き、か細い声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……これ、慰めにもなりゃしないし、知った所で意味がないから、本人に言うべきなのか、ずっと迷ってたんだが。

 

 

 実のところ、勝負はリンの勝ちだった。投票数は、数票の差でリンが多かったらしい。…投票期限後に、その数票分がミカに入れられたけど、これは無効だな。

 ある理由により、大きな差がつかない限り、ライブツアーに同行させるのはミカだと予め決められていたんだそうだ。

 

 

「本当に…? ある理由…?」

 

 

 

 ミカが優遇された理由、それは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 公開プロフィールだ。

 

 

 

「…は?」

 

 

 公開プロフィール。会社がアイドル紹介の一環として、出してるだろ。

 何処まで本当か知らんが、年齢やらスリーサイズやらが乗ってる奴。タケウチ社長の会社は確か、パンフみたいにして配ってたっけか。

 

 

「それは…あるのは知ってるけど。あれが何?」

 

 

 リンもミカもJK…旧世界の学生風、ってイメージでプロデュースしてるから、プロフィールパンフもそれっぽく仕上げてる。

 具体的に、どんな項目があったか覚えてるか?

 

 

「作る時に色々質問されたから、大体は…。ええと、身長、年齢、誕生日、趣味、血液型……学生風って事で、得意な教科と苦手な…………教科……」

 

 

 リンの苦手な教科:英語。

 ミカの苦手な教科:数学。

 

 

 

「………え? まさか、それだけ?」

 

 

 それだけ。英語が苦手な子を諸国に行かせるより、得意じゃないけど苦手でもない子の方がいいだろう、って事になったそうな。

 

 

「いやいやいや、苦手って言ってもどう考えても誤差の範囲でしょ。そもそもこのご時世で、ちゃんとした教育受けてる人なんてどれだけ居るのよ。言っちゃなんだけど、初めてミカと会った時なんて、殆ど字も読めなかったんだからね。採用された直後に猛勉強して、今となっては得意教科:国語になってるけど。ミカの苦手教科が英語じゃないのは、単に日本語だけで手一杯で、英語の勉強した事なかったって意味だからね」

 

 

 そういうリンは、英語の勉強した事あるのか?

 

 

「家が成り上がってから、ちょっとだけ。殆ど使わないから忘れてるけど、ブンポウって言うの? あれも多少は知ってる」

 

 

 SVOCとか懐かしいな。習った当時はOとCの区別がまるでつかなかったもんだ。

 

 

「…ちなみに、ライブツアー先って色々な国だったよね。英語が使われてるのは…」

 

 

 イギリスと北アメリカくらいだな。昔はもっと使ってた国があった筈だが、アラガミの出現で滅茶苦茶になってるからな。

 あと回るのは、中国、スペイン、ロシア、台湾、南アメリカに……。

 

 

「英語使うの一部だけじゃん! つか、英語に限らずその国の言葉が得意だったとしても、現地の人とまともに会話できる自信ないわよ!」

 

 

 

 まぁ、なんだ、結局のところ、そーゆー事だ。 

 

 …言っちゃ悪いが、さっき歌ってた時の発音を考慮しても、英語の発音が出来てるとは、とても言えんしな。

 自分の歌は割とスムーズに発音できてるのに…。

 

 

「そういう発音だって割り切って練習してたから…。歌詞は覚えてるんだけど、発音が文章のどこにどう該当するのかって言われると…」

 

 

 それでどうにかなるもんなのか、アイドルの歌って…。

 

 

「ふ、ふふふ……しかし……そっかぁ…プロフィールの、苦手科目かぁ…。どこで何に躓くか分からない業界だけどさ…。流石に自分の公開情報に足引っ張られるとは…。やっぱり自分が勝ってたんだとか、それなのに不正で負かされたとか、そういうのとは全然違う方向で涙出てきた…」

 

 

 目が死んでおられる…。やりきれない涙を流しながら、机に倒れ込んで動かなくなってしまった。

 …やっぱ、話さなかった方がよかったかなぁ…。

 

 

 

 

 暫く倒れて動かなかったリンだが、無言でムクリと起き上がり、マイクを取った。

 

 

「歌わずにやってられるかー!」

 

 

 …なんだかヤケッパチな歌声が部屋にこだました。

 うん、まぁこれは止められんわ…。あ、ルームサービス頼もう。

 

 

 



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357話

前回の日記の続きだゾ


某作者さんよ! 某作者さん(複数)よ!
何故みなそのような事をする!
久々に読み返そうと思ったら、退会していたり削除されていたりロックされていたりする始末!
退会はご本人の決定なので仕方ないが!
何故ロックをされるような事を……ああ、魚拓すらない!
そのような事をしなくても、貴方達の作品はあんなにも輝いていたと言うのに!

…以前、ギリギリを責めると称して警告をいただいた私が言うのも何ですが。



追記
ダクソのトリロジー、キャンセルしてリマスターにする事にしました。


 流石にアイドルとして鍛えているだけあって、リンの体力は相当なものだ。具体的には、ノンストップで3時間くらい歌い続けて平然としてられるくらいには。

 頼んでおいたジュースでちょくちょく水分補給しているが…どっちかっつーと、感心するのは体力よりもテンションだな。やりきれない思いも分からんではないが、よくここまで続くものだ。

 

 つーか、喉痛めないのかな…ちょっと心配だ。

 頼んでいた飲み物が全部空になるまで歌いきって、ようやくリンは歌を止めた。肩で息をしていて、うっすら汗も見える。

 額を拭って、ジュースを飲むのがなんか妙に艶めかしい。

 

 白いシャツだけど、下に黒いインナーを着込んでいるらしく、残念ながら透けて見えたりはしない。

 …リンの服と言うと、何となく制服のイメージが強いな。この前のステージ衣装になっちゃうけど。

 

 

「…何? ジロジロ見て」

 

 

 いや何でも。返す返す、この前のライブを正面から見れなかったのが残念だなと思って。ドタバタが続いて、映像もまだ見れてないんだよ。

 

 

「…ソロライブ、やったげようか? あのステージの曲も入ってるし、衣装もあるよ」

 

 

 それはありがたいが、何故ある…。

 

 

「本物じゃなくて、試作品を貰ったやつ。『学生のイメージだから、衣装…と言うか制服は着慣れていなければいけない』とか何とか…。日常的に着て、慣れておけって言われてたの」

 

 

 …カラオケボックスにそれを持ってきた理由は? 

 

 

「帰りにクリーニングに出そうと思ってた。ちょっと待っててね。よっと…」

 

 

 荷物の中から畳まれた衣装を取り出すと、シャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、下着姿になって、制服風シャツを着て、スカートを履いて……っておい。

 

 

「ん?」

 

 

 ん、じゃねーよ! 何いきなり男の目の前で着替えてんだお前は!?

 

 

「何って、着替えなきゃソロライブできないじゃない」

 

 

 そういう事じゃなくて! 危機感無いんかお前は!

 

 

「思いっきりあるけど? アンタが女遊びが派手だって言うのは、あっちこっちから話が入ってきてるし」

 

 

 だったらせめて、トイレで着替え…いや、ここのトイレあんまり掃除が行き届いてなかったな。せめて着替える間は俺を追い出しておくとか…いや、マジマジと見ておいて言うのもなんだが。

 

 

「仕方ないじゃん。まだ決着はついてないけど、ミカには思いっきりリードされそうなんだから。巻き返そうと思ったら、多少無茶でも体張って勝負しかけないと」

 

 

 おい待て何の話をしている。

 ライブツアーの話じゃないのか。いやその話の勝負じゃないってのは分かるが、今はそっちの話をしてたんじゃないんかい。

 

 

「私は最初からこの話をしてたけど」

 

 

 マジか!? え、じゃあさっき何で負けたか分からないって悔し涙してたのは…。

 

 

「泣いてない!」

 

 

 アッハイ。

 

 

「…泣いてないけど、やっぱり負けたのは悔しかったけど」

 

 

 …なんか、支離滅裂になってきてねぇ? 目が据わってきてるし。

 つーか、何か? 結局リンは何でこう平然と俺の目の前で…。危機感ありで、顔も赤くて、そんで躊躇いない…。

 ライブツアーに行こうとしたのも、己惚れでなければ俺と一緒に居る、或いは進展を狙って…だよな。自主練中に少し話をした時、「わからない?」ってジッと見つめられた。…あの時は、柄にもなく緊張したな。

 

 ご丁寧にネクタイまで付け、歌う前の水分補給にと、頼んであったジュースに口をつけ……………あれ、リンのジュース、とっくに空になってるぞ。

 と言う事は………。

 

 

 

 おいリンちょっと待てそれ飲むな酒だよそれ! 目が据わってると思ったら、酔っぱらってるだけかよ!?

 

 

「あ、ちょっと何すんのこれ美味しいし、なんか気分が楽になるんだから! 欲しければ自分で頼みなさい!」

 

 

 頼んだのは俺だっつの! そもそも飲んで気分がよくなるって、それヤバイ薬か酒かのどっちかじゃねーか!

 初めて飲んだ酒がそんなに気に入ったのか、意地でも離すまいと抵抗するリン。

 いつもならリンの抵抗くらい、軽く抑えつけるか、隙を見てかっぱらうくらい朝飯前なんだが、なんかこう…触るのが躊躇われると言うか…。

 

 

 うん、要はアレだな。空気に流されてるんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん、いくら俺でも、ラブコメ風の空気には逆らえんわ。

 

 そうでなきゃ、足が絡まり合った挙句、ソファーの上に押し倒すように倒れ込むなんてある筈ないじゃないか。

 ジュースが落ちて零れたが、俺もリンも固まって動けない。さっきまでの据わった目はどうした、と言わんばかりに、大きく目を見開いて俺を見上げてくる。

 

 

 どれくらいそうしていただろう。

 俺はリンの上から退く事もせず、リンも押し退けようとせず。

 

 呆然として、お互い見つめ合っていた。

 

 

 ハタから見たらどう見えるだろうか。ちょっと冷静に、詳しく、前後も含めて考えてみよう。

 

 まず大前提として、俺は大人、リンはリアルJK歳。関係は………時世が時世だから、本当に女子高生ではないが、そういう風に売り出されているアイドルで、ついでに言えば教官と生徒の間柄。一応、先生と生徒になるのか?

 

 その先生と生徒が二人きりでカラオケに遊びに来て、生徒の愚痴を聞いて。(←ここ、ちょっと違うけど大目に見てほしい)

 そして酒を飲ませて、酔った生徒を押し倒す。

 

 

 

 

 

 あ か ん 

 

 

 

 

 

 

 エロゲやAV、ギャルゲの中ならまだ許すが、実際にあったら大問題だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …リン、目を閉じて。

 

「っ……」

 

 

 

 だがそれがいい。

 酔わせた女子高生を、カラオケボックスでいただいてしまうとか、想像しただけで鬼畜で胸が高鳴ってしまうではないか。

 

 

 

 困った事に俺は基本的に色情狂なので、目の前に据え膳があると何も考えずに食べてしまうのだ。

 相手が俺に好意を持っているなら猶更だ。

 

 リンは少しだけ呼吸を止めた後、覚悟を決めたようにぎゅっと目を瞑り、少しだけ顔を持ち上げた。片手を頬に添えて撫でながら、ゆっくり顔を近付ける。

 俺も目を閉じて、唇同志が当たる感触を堪能した。

 

 ファーストキスにしては、少し長めに、念入りに。舌を送り込むような事はしなかったが、その代わりに唇の表面を愛撫する。緊張で強張っていたリンの体が、くすぐったそうに捩れる。

 唇だって立派な性感帯だ。触れ方次第で、いくらでも快感は送り込める。ゆっくり、徐々に高めていく。リンが怯えないように。反射的に逃げ出そうとしないように。

 

 

「んっ……ふ…ぁ…」

 

 

 声が漏れるが、それで唇を逃す筈もない。うっとりとした表情で、リンはキスを受け入れ続ける。…わずかに残るアルコールの香りが、背徳感を煽った。

 暫くリンを昂らせ続け、そろそろ身悶えが激しくなってきそうなところで、最後に唇を一舐めして離れる。

 

 紅潮し、息を整えようとするリンは、無意識にだろうが自分の唇を舐めていた。快感の余韻を逃すまいとしているのか、それとも俺の痕跡を少しでも感じたいのか。

 

 

「…ねぇ…」

 

 

 大好きだよ。

 

 

「っ………!」

 

 

 もっと正確に言うと…いい子だとずっと思ってたし、好かれて嬉しいと思ってた。今これから、もっともっと好きになる。

 

 

「………バカぁ」

 

 

 恨みがましく見つめてくるリン。

 それでも抵抗しようとしないのがいじらしい。

 今、俺がリンを抱こうとしているのは、好意よりも欲望による動悸が大きい。我ながら最低な話だが、リンもそれは分かっているんだろう。

 『多少無茶でも体を張って勝負をしかけないと』という言葉の通り、リンは自分の体を餌にしてでも、俺を引っ張り止せようとした。

 

 だから、言葉だけでもいいから、自分の事が好きかと聞いて、肯定されたかった。

 

 が、問う前に肯定を返された挙句、これからもっと好きになる、の宣言。順番が無茶苦茶なのはともかく…リンにとっては、何よりも嬉しい言葉だったらしい。酔っぱらってるからかもしれないが、チョロさが割と心配になる。…まぁ、もう他の男に触れさせる気はないけど。

 

 

 愛でるように頬を撫で、何度かキスを繰り返す。

 最初の緊張は薄れていき、程なくして自分から吸い付いて来るようになった。緊張から、胸元で握られていた手も、俺の首に腕を回して抱き着いて来る。

 

 一度緊張が解けると、リンは案外積極的だった。どこまでが酒の勢いなのかイマイチ分からないが、キスだけでなく、自分からスリスリと体を擦りつけてくる。

 服越しでもどかしいのを埋めようとするかのように、抱き着き、足を絡め、頬擦りし、嬉しそうに微笑む。

 

 

「…男の人の体って、こんなに逞しいんだ…」

 

 

 俺はゴッドイーターの中でも、ちょっと特殊な逞しさだけどな。おお…積極的だな、リンは。あっちこっちペタペタ触ってる。

 …直に触れてみるか?

 

 

「……ま、まだちょっと…それは…早い、かも…」

 

 

 おk、んじゃ暫くは服着たままで。

 

 

「うん……それより…スゥ…」

 

 

 俺の肩首に顔を埋めるリン。甘噛みでもする気かな、と思ったら、大きく深呼吸している。

 ゆっくり吐き出される息がくすぐったい。ついでに、サラサラの髪もくすぐったい。

 

 

「……いい匂い…じゃないけど、なんだか…」

 

 

 興奮する?

 

 

「きっぱり言うな…。むぅ…なんだか女の人の匂いが沢山…」

 

 

 分かるのかよ。…案外、それも血の力かな。

 俺の匂いが気に入らないのか、眉を顰めるリン。心配しなくても、お前の匂いもこの中に入るんだよ。…尤も、リンは自分の匂いで、それも分からなくなっちゃうかもしれないけど。

 

 …自分の、初めての『女の匂い』でな。

 

 本格的に、リンの体を弄り始める。怯えないようにゆっくりとだが、確実に体を昂らせる。

 まだ、他人にデリケートな部分を触られる事に慣れた訳ではないだろうが、先程のキスと同じような感覚だから、怯えも少ない。

 

 …尤も、この後は知らんがね。

 

 

 

 

 さて…このまま弄り続けるのもいいが、やはりリンにも動かせたい。その為には…。やはり好奇心で釣るか。

 

 

 リン、ちょっとだけ離れて…そんな顔するな。ほら、大事なモノ、見せてやる。

 

 

「大事な…もの? …っ」

 

 

 首を傾げたリンだが、俺が腰を突き出す動きで、視線がそこに釘付けになった。何度か目を反らそうとするも、本能の為か好奇心の為か、すぐに元に戻ってしまう。

 リンの視線を感じながら、自分の手でゆっくりジッパーを下し、トランクスの隙間から猛り狂う肉棒を覗かせる。

 

 

「…う、うわ……グロっ…」

 

 

 グロいはないだろ、グロいは。

 

 

「い、いや絶対これ、グロいって…こ、こんなの、人の中に入るの…? ていうか、何か変なオーラみたいなの、出てる気がする…」

 

 

 うん、実際オーラ纏ってる。皆、そのグロくてオーラ纏ってるのが大好きなんだよ。

 これからリンもそうなるんだから、覚悟はいいな?

 

 

「あ、あうぅぅ…」

 

 

 目が渦巻き状っぽくなりながら、リンは目が離せないようだ。

 無理もない。これも一緒の血の力だから。

 

 

「こ、これも? なんだか、血の力って何なのか分からなくなってきた…」

 

 

 正確に言うと、コレに使ってたやり方を、血の力の制御や訓練に応用できたんだけどな。

 目が離せないのもその為だ。分かりやすく言えば…フェロモン出してるんだよ。だから、ドキドキするのも、コレが気になるのも仕方ない事だ。これからリンを天国に連れていく、魔法の棒なんだからから。

 

 

 そう言いながら、リンのスカートの中に肉棒を潜り込ませる。いきなり挿入する訳ではない。パンティの上からスリスリと擦り付け、時には内股に先端を当てる。

 リン曰く『オーラを纏っている』というその存在感に意識を奪われる間も、シャツのボタンを外していく。折角着てくれた衣装を剥ぎ取るような真似はしない。やっぱコスプレは半脱ぎだよね。

 シャツの前を開けると、スラッとした肌が露わになる。

 

 

「…下着、もっとカワイイのにしとけばよかった…」

 

 

 いやいや、よく似合ってるよ。変に気取った奴よりも、よっぽど愛らしい。

 何より、そういう所を気にするリンも見ててカワイイしね。

 

 ヘソの辺りをゆるゆると撫で回し、徐々に上にあげていく。ブルーのブラはフロントホックだった。

 繋ぎ目に指をかけると、少しだけまた体が固まる。構わずにホックを外すと、ハラリと落ちて綺麗な乳房が露わになる。

 

 

 …ん、いい胸だ。形もいい、ハリもある、レッスンのおかげで鍛えられてツンと上向き…ポッチも可愛い。

 

 

「バ、バカッ、変な褒め方すんな! あぅ」

 

 

 あっはっは、悪い悪い。綺麗だと思ったのは本当だよ。バランスがいいね。

 感度もいい。あ、先っぽちょっと触ってるだけなのに立ってきた。

 気持ちいいんだ?

 

 

「………っ……へ、変な事、聞くなぅ! んっ! ~~~~!!」

 

 

 こ・た・え・て。乳首優しく撫で回されるのが好き? それとも、こうやって摘ままれて遊ばれるのが好き?

 

 

「そ、そんなのっ…分かる訳が…」

 

 

 そっか、じゃあ分かるまでもっと色々試していこうか。なぁに、やり方は沢山あるからな。気に入る物もあるだろう。

 

 

「ちょっ、ちょっと、待って調子に乗り過んっ!」

 

 

 抗議の言葉を唇で塞いで、そのままリンの胸を弄繰り回す。撫で、引っ掛け、摘まみ、寄せ、乳首だけでなく全体を揉み解し、絞り上げ…。

 片っ端から動きを試す。初心者にやる事じゃねーぞってレベルもちょいちょい混じったが、それはリンの反応が楽しいのがいけない。

 一愛撫する毎に、体を跳ね上げ、絡めとられる舌が硬直し、逃れようと無駄な抵抗を繰り返す。そのくせ、手を止めると続けてくれと言うかのように、無意識に体を寄せてくる。

 

 うん、順調に泥沼に嵌り込んでいるようで何よりだ。俺はこれから蜜壺に嵌り込むけどな。ま、その前に蜜壺を、ゆっくり解してやんないと。

 

 

 …でも、もうかなり解れてる気はするな。

 はーい、リン、こっち見て。これから三回、桜色で可愛いポッチに触るよ~。

 

 

「っ……っ…」

 

 

 何か言おうとしてるみたいだけど、体は悦んでるからいいよね。

 はい、スーッと撫でる一回目。

 

 

「~~~!」

 

 

 フェザータッチの2回目。

 

 

「…っ、っっっ・・・!!」ビクンビクン

 

 

 強めに摘まむ3回目。かーらーのー、パンティ引っ張って食いこませ!

 

 

「っ~~~~!!!!!!!」

 

 

 おうおう、声も出せないくらいに悶絶してるわ。しかも連続で3回イッちゃって。

 初めてなのに乳首だけでイけるなんて、リンはいい子だね。

 

 

「…っ……こ、この…鬼畜…」

 

 

 まだ喋れるのは普通に凄いな。でも鬼畜は酷いな。こんなに悦んでくれてるのに。

 

 

「っ…だ、だめ、まだ、敏感…っ! っ! こ、このっ」

 

 

 指先一つでJKをよがらせる愉悦に浸っていると、負けん気を発揮したリンは逆襲をしかけてきた。

 いいように弄ばれていた体勢から抜け出し、逆に俺を組み敷こうとする。抵抗せずに受けてやると、俺の股の間に潜り込み。

 

 

「は、初めてだからって、いいようにされるだけだと思わない………で……」

 

 

 …硬直した。御立派様を直視してしまい、そのオーラに気圧されされてしまったようだ。

 ちなみに、先端からは先走りが滲んでいます。だってリンの太腿が思いのほか気持ちよかったんだもの。

 

 拳王様に対峙した一般人みたいに萎縮してしまったリンだが、心配はない。このオーラは催淫誘発剤のよーなものだ。萎縮したら、その分だけその効果に当てられる。

 つまり。

 

 

 

「…………ゴクリ」

 

 

 初めてなのにリンちゃんは、オスが欲しくて、屈服したくて、蹂躙されたくて仕方なくなってしまうのだよ!

 ……これ、アレだな。JKを酔わせていただいてしまうどころか、キメセクじゃねーか…。いやオカルト版真言立川流が麻薬みたいなもんだってのは今更だけど。

 うん、でもまぁ…別に問題はないな。食べごろの青い果実を、取り込んで汚して好き放題味わう愉悦を放り出すなんて…それを捨てるなんて、とんでもない!というものだ。

 

 さて、こうして対峙している間にも、どんどん体が疼いて理性が薄くなっていくリンの選択肢は? 無難に手か。或いはちょっと頑張って口か。胸…はリンの知識にあるかな? 微妙な所。

 …うむ、欲望と本能と畏怖と好奇心。ついでに僅かに残った理性のブレーキで、頭の中が煮立っているようだ。こうなると、人間何をやらかすか分からんな。

 

 

「…お、おかえし…」

 

 

 蚊の鳴くような声で呟きながら…ほう、やはり最初は手コキか。…うん? 両手?

 お…おお?

 

 

「先っぽで散々遊ばれたから…こっちも遊んであげる。男の人でも、敏感なんでしょ?」

 

 

 にょ、尿道責め…いや、単純に先端だけを刺激してくる! 指先でツンツンしたり、先走りがヌルヌルしてると分かるや、潤滑油代わりにしてスリスリと…。

 技巧的にはそこまで高くないが、処女がこれをやってくるとは。

 が、先走りも媚薬的な効果があるんだよな。…俺、エロゲのオークみたいなナマモノになってるな。セックスの事しか頭にないから、大差ないって言われると反論できないが。

 

 

 暫く先端をグリグリしながら俺を上目遣いに見ていたが、時折混じる鋭い刺激に反応する俺が楽しいのか、徐々に動きのバリエーションが増えていく。

 指先、掌、爪先。動きも段々スムーズになり、先走りを絞り出そうとするような動作が混じってくる。

 先端からプクリと滲み出た先走り汁を見ると、リンはそれを拭い取り、眼前に持ってくる。

 

 

「スンスン……ヘンな匂い…」

 

 

 気に入った? …気に入ったみたいだな。これから、もっと凄い匂いの奴を思いっきりぶっかけてやるからな。

 

 

「もっと凄い匂い…」

 

 

 気に入ってなんかいない、と反論しようとしたリンだが、つい俺の言葉に想像してしまったらしい。口元がニヤけている。

 匂いフェチ……と言うよりは、クンカー? ワンコが主人の匂いを嗅ぎたがるような印象だ。

 

 想像したら堪らなくなったらしく、顔と肉棒の距離が縮まって来た。

 頭を掴んで眼前に突き付けてやると、抵抗もなくガン見する。立ち上るオスの匂いに、鼻がヒクヒク動いているのが見えた。

 

 ほら、手も悪くなかったが、もっと強く感じさせてやる。口を開けて。

 

 

「っ…」

 

 

 フェラ、と呼ばれる行為くらいは知っていたんだろう。それをどう思っていたのかは知らないが、抵抗があったのは確かの筈だ。

 羞恥か、生理的嫌悪か、それとも不衛生だからか。何れにせよ、それらの抵抗感は、湧き上がる肉欲にあっという間に塗り潰された。

 

 躊躇いがちに小さく開けられた口に先端を添え、ゆっくりと押し込んでいく。唇と、慌てたように動き回る舌の感触が堪らない。

 乱暴に突き込む、イマラチオのような事はしない。今はリンに肉棒の味を覚え込ませるのが優先だ。苦しくない程度に肉棒を押し込み、本能的に逃げようとするリンを抑え込む。

 

 暫く慌てていたリンだが、俺が動かないと分かると少しずつ落ち着き、「どうすればいいの?」と言わんばかりに上目遣い。

 無茶苦茶に腰を振りたくなる衝動を抑えながら、舌で愛撫するよう指示を出した。

 

 初めてのフェラ、しかも俺の剛直を咥え込むだけでも手一杯だろうに、リンは健気に舌を使う。最初はおずおずと。次第に戸惑ったように。そして、すぐに夢中になって。

 気づいてしまったんだろう。俺のオーラ付肉棒に振れた事により、体中が敏感になっている事に。勿論、それは口内も唇も例外ではない。舌で舐めれば舌で、唇で挟めば唇で、性感を感じるようになっているのだ。

 本来なら、メスの快感を骨の髄まで刻まれ、開発されしつくされてようやく知ることが出来る性感を、何も知らないリンは受け止める事ができなかった。

 浅ましいとかイヤらしいとか、そんな事も忘れて、ただ自分の快感の為に夢中になって肉棒にしゃぶりつく。

 

 膝立ちになっている両足の間に俺の足を割り込ませ、爪先でスカートの中を探ってやれば、そこは処女とは思えないくらいの愛液でびしょ濡れになり、未成熟な雌特有の熱気が籠っていた。

 

 なんだ、しゃぶってるだけでこんなに濡れてるのか。しかも足でマンコをグリグリしただけでビクンビクンしやがって。

 アイドルさんは淫乱だなぁ?

 

 

「っ……!」

 

 

 嬲るように罵声を投げてやれば、聞こえないとばかりに一層フェラに集中する。足先をグリグリすれば、目端から涙を滲ませて、痙攣して乱れながら奉仕を続ける。 

 抗議するように睨みつけられたが、体は正直。罵声すら悦びに変える、Mっ子ちゃんの本性が浮き彫りになっていた。

 

 ガムシャラに吸い付いて来るフェラもいいもんだ。

 リンの喉奥が疼いているのが分かる。精を飲み干したくて、強烈なオスの芳香が欲しくて、呼吸の事なんか忘れてバキュームしてくる。

 その勢いやテクニックと言うよりは、欲望に応えてやりたいと思うと、途端に射精感が込み上げてきた。

 

 リン、受け止めろよ。思いっきり飲ませて、ぶっかけてやる。…宣言と同時に、リンの子宮がキュンキュン騒ぎ始めたのが分かった。

 やれやれ、経験がないからかもしれないが、突っ込まれるより飲まされる方が好きなのかね。

 

 ま、いいか。目がハートマークになってるリンのご期待に応じて…一発目! 口内射精!

 

 

 

「んぐっ!? …んっ、んふ、んんん!」

 

 

 勢いよく、リンの口の中で爆発させる。奥まで突っ込んで出すのではない。受け止めやすいよう、比較的浅めの位置で。リンの舌に絡みつく白濁は、オスの苦みを感じさせるだけでなく、口から鼻にかけて青臭い匂いを直接送り込む。

 酩酊したような表情で爆発を受け止めていたリンだったが、それも長くは続かない。吐き出される精液の量と勢いに、受け止めきれなくなったのだ。

 リスのように頬を膨らませるリンの口から、まだ射精の止まらない肉棒を引っこ抜き、顔面に向かって据える。引き留めていた力を抜けば、解放されたダムのように、リンの顔面に向かって残った白濁が飛び掛かっていく。

 

 咄嗟に片目を閉じたリンの顔に、髪に、服に、ビチャビチャと生臭い液が降りかかった。

 人生で初めて見る射精だったろう。口内射精と顔射を同時に受けたリンは、口元から精液が垂れるのも構わず、呆然と……いや、オスの匂いを愉しむように、鼻がヒクヒク動いている。どんだけクンカーなんだよ。

 よく見れば、何もされてない、匂いと熱を感じているだけなのに、断続的に体が痙攣している。恍惚とした表情は、完全にトリップしているジャンキーのソレだ。

 

 

 …このまま眺めているのもよさそうだが、どうせなら体の済から済まで汚して染めてやりたい。リンだってそれを望むだろう。

 しかし、いきなり挿入するのは愚策。愉しい云々ではなく、まだリンの体の内部は全く触れていないのだ。欲望でドロドロに滑っているのは確かだが、まずは彼女の好む部分を把握する必要がある。突き入れるのはその後だ。

 

 座り込むリンを抱え上げ、ソファーに座らせる。今までとは逆に、俺がリンの足元に膝立ちになった。

 ほっそりした足を一度纏め、するするとパンティを下していく。既にグショグショだった布をは、片足に引っ掛けたまま放置した。

 大きく股を開かせ、スカートの中に潜り込む。

 

 

「え…あ、ちょっ、まっ」

 

 

 流石に抵抗されそうになったが、それも所詮形だけの事。何も知らない媚肉に舌を捻じ込んでやれば、それだけで仰け反って抵抗をやめる。

 いや、抵抗してるつもりなのかな? 両足を左右から思い切り閉じて、俺の顔を動かさないようにしている。…が、顔が動かなくても舌が動き回ってるので、はっきり言って無駄である。むしろスベスベのフトモモと、小生意気なメスガキの匂いで滾る。

 羞恥心を煽る為に、わざとジュルジュルと音を立て、媚肉の内部を舌で抉る度に、声を抑える事も忘れてリンは喘ぐ。

 

 この部屋は防音だから、声を抑えなくても大丈夫だとは思うが…隣の部屋くらいには漏れるかもしれんな。リンの声を聞かれるのも癪だし、タマフリ『隠』で小細工しとこ。

 

 …うむ、出来た。これで、より一層リンをヒィヒィ啼かせられるというものよ。

 儚いリンの抵抗を蹂躙しながら、より深くまで口付け、舌を捻じ込む。奥へ進むばかりではなく、吸い出したり、舌を引っこ抜いて表面の敏感な部分を嘗め回す。それはもう、敏感な小マメから、ちょっと下の一番恥ずかしい窄まりまで。

 下の窄まりを責めた時は、流石に本気で抵抗された。アナル舐めとか、処女少女にやる事じゃないよな。ま、容赦しなかったけど。リンの声が生理的嫌悪、羞恥、戸惑い、悦びと変わっていく様は、聞いていて実に癒された。やはり小娘は快楽堕ちさせるのが一番シチュエーション的にクるね。

 

 暫しリンの処女まんこを賞味する。自慰の経験さえ少ないだろうそこは、異性によって解されて、本人にも手がつけられない快楽機関と成り果てている。

 貪られるのを悦び、もっともっとと飢え、未知の快楽に耽溺する。リンも、自分の性器が全く別の生物のように蠢いているのを感じているだろう。信じられない程いやらしい、自分の体。それを惚れた俺の前に曝け出し、好き放題に弄ばれている。

 自分の体ではないと拒絶しそうになる部分を愛し抜かれ、リンは羞恥と歓喜のドツボに延々と落ちていく。

 

 

 

 念入りに媚肉を愛撫し、リンの声が徐々に枯れ始めた頃。

 そろそろ頃合いと見た。…いや、正確に言うと、もっと前から、入れても大丈夫なくらいにはなってたんだけど、リンの反応があまりにいいもんで、つい…。

 しかし、いい加減本番に突入しないと、愛撫だけでリンの体力が尽きて失神してしまいかねない。…実際、今でも肩で大きく息をしていて、意識も朦朧としているようだし。

 

 そんな状態でも、体は男の手と舌に反応する。余程、注ぎ込まれる快感が気に入ったらしい。俺好みの、イヤらしい子だ。

 

 立ち上がり、先走りでヌルヌルしている剛直を、虚ろな目のリンの目の前に突き出した。

 起きろ、とばかりにペチペチ。先端の滑りがリンの顔に擦り付けられると、鼻が少しだけ動いて目に光が戻った。先走り汁の匂いで我に返るとか、レベル高いな。

 

 

 そろそろ大人になる時間だよ。覚悟はいいかい?

 

 

「………うん」

 

 

 弱弱しい声で、しかしはっきりと肯定するリン。しかも、目の前に突き出されていた肉棒の先端を、舌を伸ばして一舐めしてくれた。

 ソファーに腰かけさせたままスカートを剥ぎ取り、肉棒を入り口の前にセットする。

 ゴクリと唾を呑む音が聞こえ、緊張しているのかと見てみれば…逆の意味で緊張していた、とでも言うのだろうか。セットされた肉棒を、期待と不安と好奇心で潤んだ目で、穴でも開けるつもりかと思う程にガン見していた。実際に穴を掘るのは俺だけど。

 

 

「……きて…」

 

 

 か細い呟きと共に、一際大きく股が広げられる。

 …実にいじらしいセリフだが、そう言うのは顔を見て言うもんだぞ。ま、いいけど。

 

 キスでもしながら入れようかと思っていたが、自分の破瓜に興味津々なのを邪魔するのも良くない。後で初体験の様子を語り継ぐ為にも、リンの表情を見物しながら入れるかね。

 

 先端が触れ、クチュッと音がする。リンの目が大きく見開かれる。

 

 熱い底なし沼に入り込むような感触と共に、ゆっくりと腰を突き出していく。リンの呼吸が浅く、早い。

 

 クンニで把握した弱点を的確に刺激しながら進む。キュンキュンと締め付ける処女肉と、それに連動するように乱れる呼吸。

 

 抵抗に突き当たる…が、これは膜じゃない。単純に、ここまで入って来たモノがない為、肉が慣れてないだけだ。破瓜の痛みが来ると思ったのか、リンは少しだけ歯を食いしばった。

 

 肉棒を前後左右上下に小刻みに動かし、慣れない肉に侵入していく。リンは予想外の感覚に戸惑っている。痛みは殆ど無く、適度なマッサージでも受けているような気分なんだろう。ただし、性感を伴うマッサージだが。

 

 抵抗の強い場所を貫き、ヌルヌルと蠢く膣内を俺のモノの形に変えながら進む。この辺はまだ、事前のクンニである程度の情報がある。直接触れられはしなかったものの、体の外から刺激した時の反応で、どのあたりが弱いのか見当がついている。

 リンは相変わらず結合部をジッと見つめながら、腰をヒクヒクさせている。弱い部分を突かれた時には痙攣し、そうでない部分を突かれた時にはもどかしそうに腰をくねらせ、もっと来てと言わんばかりに膣が蠢く。

 

 そうして遂に突き当たる、初めての証。一際強い抵抗。リンも本能で、今度こそ『その時』だと理解したらしい。顔付に緊張が混じる。

 

 

 リン。…さっき言った事、覚えてるか? これからもっと好きになる、って。

 ……訂正する。もう大好きだ。

 

 

「……っ!」

 

 

 感極まる、とはこういう事か。囁いただけで、膣が締め付けられた。

 …そして、最後の抵抗を、突き破らされる感触。そう、『破らされる』だ。蠢いた膣が、肉棒を奥へ引っ張り込み、自分から処女膜を破らせた。…錯覚だろうが、そう想える程に強烈に引き込まれる。

 何人も膜を破って、同じ女の膜を色んなやり方で破って来たけど、レアな感触だったな…いや人物名ではなく。

 

 ギュウギュウと力任せに絡み付いて来る膣。ピストンを始める為に腰を引こうとすると、親から離れたくない子供が抱き着くかのように、肉棒を引き留めてくる。

 押し込もうとすれば、抵抗こそ残っているものの、もっと奥へと誘い込むように騒めく。

 

 

「っ……き、つぃ……でも…きもち、いい……よ…。痛いって、聞いてたのに」

 

 

 それだけ、体の愛称がいいんだよ、きっと。

 

 

「相性…そっか、相性いいんだ…」

 

 

 快楽に顔を歪めながらも、リンは嬉しそうに笑う。

 JKアイドルのキツい膣に、俺のモノの形と味を覚えさせて作り替える。そうやって、自分の体が女として、雌として変わっていく事を実感させても、その笑みは変わらない。

 むしろ、そうされる事が無情の喜びであるように、自分から体を差し出してくる。お好きに扱ってください、とでも言うように。

 

 

「あ……赤くなってる」

 

 

 そりゃリンの初めてをもらったんだしね。痛みはなるべくないように出来るけど、血だけはどうにもならないさ。俺としては、『初めてだったんだな』って実感があって嬉しいけど。

 

 

「…あなたが嬉しいなら、それでいいよ。って言うか、実感って…」

 

 

 疑ってたの、と言いたげにジト目を向けられる。そーいうんじゃないって…。まぁ、世が世なら指三本っぽいイメージがあるけどさ。

 ま、そんな子を自分だけのモノにするシチュエーションが滾るんだけど。男だからね、独占欲とプレミア感には勝てないもんだ。

 

 

 これ以上追及されると、ちょっとリンに怒られそうな気がしたので、ゆっくり腰を動かして気を逸らす。

 ゆっくり、じっくり内部を蹂躙…いや、征服する。ガンガン責めるのではなく、把握したリンの急所を正確に、あらゆる方法で打ち抜き、性の味を覚え込ませる。同時に、俺が侵入してきた時にどう歓迎すればいいのか、徹底的に『躾け』を行っていく。

 

 同意の上での調教ほど、楽しい事は無い。もっと深みへと、自ら望んで絡み合って堕ちていく。

 リンの体は、非常に物覚えがよかった。快楽を餌にしてやれば、何でもすぐに覚え込む。本人は、まともな声も出せずに喘ぐばかりだと言うのに、俺の動きにあっという間に合わせてくる。

 一突きすれば跳ね上がり、もう一度突かれる為に道を開き、更に突けば、どうすればそこを弄ってもらえるのか、どう媚びればいいのか身に着ける。

 肉を貪られる快感が、リンの全てを押し流していくのが分かる。恥ずかしさもプライドも、何もかもが征服された膣から送り込まれる快楽に飲み込まれる。

 もっともっと、埋め尽くされてしまえと言わんばかりに腰を動かす。

 

 快楽で歪むリンの顔に嗜虐心をそそられて、目の前で着替えなんかして挑発した罰だ、なんて口実で、徐々にピストンを激しく容赦なく。

 この短時間で、俺好みの反応をするようにすっかり躾けられた体は、見事にピストンにも対応してみせる。だが、それはより一層の快楽をリンに与える結果にしかならない。

 

 

「っ、ごめっ、ごめんなさい! は、あっ、そこダメ、ごめ、ごめんなさぁい! 小生意気な女子高生で、ごめんなさい! あっ、また来る、来る、来るのぉ! エッチな女子高生で、ごめんなさい!」

 

 

 何に謝っているのか、もう何も理解できてないだろう。ただ、俺がそういうセリフを言わせたかったのを察して、無我夢中で喋っているだけ。

 リンの中に絶え間なく湧き上がる絶頂感を更に注ぎ足して、痙攣する体を無理矢理反応させる。

 気持ちよすぎて涙まで零すリン。それに構う事なくスパートをかけた。

 

 

「ひあっ、あっ、あぁ、ぁぁ、ぁ、ぁ、む、むり、もうむりっ! しんじゃう、きもちよすぎてしんじゃう! このまま、つきころして!」

 

 

 ああ、望み通りに、大好きなセックスの為に最後まで突っ走ってやるよ! さぁ、最後の一突きだ。

 奥の奥、子宮に直接注ぎ込んでやるから、孕んでしまえ!

 

 

「っっっっ~~~~~~!!!!!!」

 

 

 声にならない叫びと共に、リンの子宮に…いや、魂に白濁が注ぎ込まれる。

 射精と言うよりは、いっそ汚染とさえ言える快楽を伴い、リンの全てに俺の所有物だと烙印を入れる。

 

 行き過ぎた快楽である筈なのに、リンは躊躇いなくそれを受け止め、白く美しい体を仰け反らせて産声を上げる。俺の所有物として生まれ変わった事を宣言するように。

 

 

 

「………は…ふ、ぅ…ぁ…」

 

 

 とは言え、流石にそこが限界だった。肺の中の酸素を全て使い切り、人生で初めてのオーガズムの大波を何とかかんとか乗り切って、リンは脱力する。

 肉体的にも精神的にも、最も高く昂く硬い場所から、柔らかく安らかな場所へ。絶頂による極限の緊張が解け、体は水のように脱力し、精神は暗闇に落ちていく…。

 

 

 …まぁ、早い話が、失神したってだけなんだけども。

 

 

 

 

 

 体感時間操作を使って居たとは言え、そろそろ時間だし…とりあえず、部屋を片付けるかな。

 消臭玉大活躍。…最近では、狩りでも殆どダメージ受けないし、逆にエロはMH世界の時から所も時も構わずヤりまくってるから、使用頻度が回復アイテムより消臭玉の方が多くなってきてる気がする…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無理に起こす訳にもいかず、リンを背負ってカラオケを出た。『何してやがったんだ』って顔を向けられたが、犯罪ではないぞ。合意の上だからな。…ちょっと弱ってる所に付け込んだのは否定できんが。

 ちなみに顔は晒さないようにしておいたので、スキャンダルにはならない。

 

 ともかく、このまま帰すのも外聞が悪い。と言うか『娘に何をした!』って展開になりかねん。

 いやなったところで、叩き潰すのは朝飯前だが。物理的戦闘力もそうだし、GKNG開祖としての立場を上手く使えば、社会的にも有利。……でも、流石にそれはなぁ…。

 

 とりあえず、近場の公園(精々ベンチがあるくらいだが)に連れて行き、横たわらせて目が覚めるのを待つことにした。

 

 

 

 風に当たって冷えないよう、上着を被せて待つこと数分。リンがもぞもぞと動き出した。

 

 

「………あれ…?」

 

 おはよう。

 

「…おはよ………………え? ここは……服…も、私服…」

 

 

 カラオケで気絶したの、覚えてないか? 勿論、その前にシた事も夢ではないぞ。

 ちなみに服は、リンが気絶してから俺が着替えさせた。流石にあの恰好のままだと目立つからな。…匂いは消してるけど、痕跡残るし、一応アイドル衣装だし。

 ああ、匂いは消さない方がよかったか? そういう趣味だもんな?

 

 

「……………」

 

 

 上着で顔を隠してしまった。が、そうすると俺の匂いに包まれる事になる訳で。

 …数秒もすると、真っ赤な顔で飛び上がった。

 

 はいはい、落ち着け落ち着け。恥ずかしい気持ちは分からんではないが、そんなにツンケンされると悲しいじゃないか。

 

 

「…悲しいじゃなくて、捻じ伏せたくなるの間違いじゃない?」

 

 

 それもある。よく分かってるな。

 

 

「…ヘンタイだって事は、散々体で教え込まれたから。……うぅ」

 

 

 恥ずかしい所を見られた為か、恥ずかしい事を散々した為か、距離を測りかねているようだ。

 真っ直ぐ飛び込んでくるのもいいが、普段はお澄まし顔してるのもいいな。

 

 

「そ、そういう事言うな! デリカシーのない…」

 

 

 はっはっは。デリカシー無いついでに、今日って外泊できる? 外泊っつっても、アナグラ内に戻るだけだけど。

 

 

「? 外泊…と言うか、今となっては実家に帰るの自体が外泊なんだけど。外泊許可はとってないから、母さん達と少し話してハナコと散歩したら、そのまま戻るつもりだったし」

 

 

 そうか、それじゃ話は早い。『懇親会』があるけど、参加する気はあるか?

 メンバーは……まぁ、お察しだけど。

 

 …リン、ジト目が痛い。

 

 

「…関係をもったばっかりの相手に、いきなり『他の女を紹介するよ』なんて言ってるんだから、これくらいの反応は当たり前でしょ」

 

 

 微妙に常識的なヤツだな…。で、来る?

 まず間違いなく、一晩かけて(体で)語りあかす事になるけど。

 

 

 

「………行く。ここで行かなかったら、逃げたみたいじゃん」

 

 

 自分が一番になる、と宣戦布告でもする気だろうか?

 …まぁ、別に構わんが……多分、ヘイト集めてからの一斉射撃でダウンするぞ。

 

 …そう告げると、ちょっと怯んだが、それでもやると言い切った。……ただし、口元が期待で無意識にニヤけていたけども。 

 

 

 

 




妹の結婚式に出てきました。
片道三時間、仕事の後に移動して翌日とんぼ返りは辛かったけど、妹のフルスマイルが見れたので良しとする。
本当に幸せな笑顔を見ると、見た方も幸せになるんだなあ。


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358話

相変わらず店長とソリが合わない。
どんだけ疑い深いんだよ…。
そんなトコに力を注ぐ暇があったら、設備の一つでも直せよ…。

それはそれとして、やはりリンとの関わりが薄かったなぁ…。
エロする為だけに出したキャラになってしまった感。
いや実際、エロしたいが為に出したんだけど。


 

神産月

 

 

 『懇親会』ことリンの入団総受けプレイも無事に済んだ。…無事の定義については、深く考えないでほしい。足腰立たなくなるくらいは、無事の範囲だ。

 とりあえず、ライブツアーまで間がない訳だし、会えなくなるまでにレズプレイに抵抗が無いくらいには躾けておかねばなるまい。じゃないと、会えない間は延々と欲求不満に苦しむ事になる。…それはそれで、想像して楽しいが。

 

 

 

 

 話は変わるが、新神機兵のプロトタイプが完成した。人型に拘る事を辞め、動物の形を模したり、或いはバランスを保つ為の補助器具を付け足し、趣味で作った浪漫砲を組み込む為に両腕を排除し…。

 設計図を見たレアが、『ゲテモノ』と評したのを覚えている。『カレーを作っていたら、使ってみたい食材が沢山あって、それをどんどん注ぎ込んでいったらざるそばが出来上がってしまった感じ』だそうな。どないやねん。

 

 しかし、ちゃんと動いてはいるんだよなぁ…。

 稼働試験も問題なく通過して、今はブラッド隊と一緒に実戦テストに参加しています。

 

 

 ……なんつぅか………うん、この世界では失われた動物達の営みを見ているような気分になります。…縄張り争い、食物連鎖的な意味で。

 

 俺、廃ビルの上に立って、新神機兵の戦いぶりを観察してたんだが……獣型の神機兵が、アラガミに喰い付いています。アラガミはアラガミで、転げ回って神機兵を引きはがそうとするし。

 別の神機兵は、逆にアラガミに破壊された挙句、加えられてあっちこっちにぶつけられている…トドメを刺そうとしているのか、それとも武器代わりにしてるつもりなのか。

 

 

『いかがですかな、生まれ変わった神機兵は!』

 

 

 あ、クジョウ博士。テンション高いっすね。

 …まぁ、いい調子ではあると思います。ちょくちょく挙動が怪しいところもありますが、極東のアラガミ相手にこれだけ渡り合えれば、他所でも充分通用するでしょ。

 

 

『うぅむ…そう言ってくれるのはありがたいですが、やはりまだ無駄や改良が必要な部分が多くありますな。特に鳥型神機兵は、出来ても精々滑空程度ですし』

 

 

 アレを本当に空を飛ばせようと思ったら、無重力装置でも必要になるんじゃないですかね。

 と言うか、壁面を駆けあがって三角飛びからの滑空アタックとか、どんだけ複雑なプログラム組んだらできるんだ…。

 

 

 

 …む? 少し離れた場所で、神機兵が一台破壊されたようだ。

 クジョウ博士?

 

 

『…いえ、ご心配なく。これはアラガミに破壊されたのではないので、このまま監視を続けてください』

 

 

 アラガミじゃない…? どういう事だ?

 

 

『いえ、その……あぁ、壊れた神機兵は、別の神機兵を使って回収しますので…。……ええ、壊れた原因なんですが……………実はその、やっぱり無理だったんだなぁ…と…』

 

 

 ????

 

 

『…作ったはいいのですが、あまりの破壊力に砲身が耐え切れない装備がありまして…何とかして使えないものかと首をひねった挙句、神機兵と言うよりは、手足を付けた大砲として運用する事になり…」

 

 

 ……要するに、ロマンを捨てられずに未完成品だか欠陥品だかを無理矢理運用したら、ブッパした途端に暴発して吹き飛んだ、と?

 

 

『タハハハハ…いや面目ない…』

 

 

 いや俺はいいけどよ…気持ちも分からんでもないし、未完成品や欠陥品に浪漫を感じるのはよくある事だ。

 でも仕事にそれを持ち込むのはヤバくねーか? 

 ゴッドイーターにしてみれば、同じ戦場で戦う事になる兵器の信頼度は何よりも重要だし、それ以前に失敗と見做されたら、予算出してるグレム局長に締め上げられるんじゃねーの?

 

 

『そこは大丈夫です。仕様書には、不要になったプロトタイプの大砲を再利用した、自爆兵器と書いていますので』

 

 

 それもどうかと思う。…と言うか、よくその企画が通ったな…。

 

 

『使用不能な兵器のリサイクルとして立案したものですからね。嘘は書いていません。…真実からも割と遠いのは認めますが。それに、相応のデータは取れたので、少なくとも無駄ではありませんよ』

 

 

 性格変わったなぁ、この人…。

 

 …時にクジョウ博士。ちょいと意見を聞きたいんだが…例えば、今作っている神機兵の5~6倍くらい大きな神機兵を作るとしよう。

 技術的な物にせよ、予算的な物にせよ、問題は山積みになると思うが、最も大きな問題は何だと思う?

 

 

『…これはまた唐突に、興味深いお話が出てきましたな。つまるところ……巨大ロボ、という訳ですな?』

 

 

 …うん、まぁその認識でいいよ。で、どう思う?

 

 

『むぅ……やはり何と言ってもエネルギーゲインでしょう。どれだけ効率的で精巧な機能があったとしても、先立つ物が無ければ意味がありません。そうですな、複数のエネルギーゲインを搭載すれば取り敢えずの解決にはなるでしょう。しかし、そうなると新たな問題が発生します。制御システムの構築です。複数のエネルギー源を、適度な出力に抑え、同時に全体に配分する。加えて、巨体ともなればバランスの制御も一苦労でしょう。…これを行う為の制御装置、つまりはコアですな…これがどれ程大規模な物になるか、私では正直言って想像がつきません。…諸々の問題がまだまだありますが、すぐに上げられるのはこの2点ですな』

 

 

 解決方法は?

 

 

『さて…。制御装置に関しては、いっそ外付け式にしてしまうという手もありますな。まぁ、そこを破壊されたら沈黙か、悪ければ暴走して野良アラガミ一直線ですから、とても実現はできませんが。後は………はは、巨大ロボともなれば、合体がお約束ですかな?』

 

 

 ロマン溢れるお話だねぇ。

 …合体、合体…か。制御装置が必要ないと仮定すれば……?

 

 

『む、もう時間ですな。これにて神機兵のテストは終了です。引き上げますので、護衛をお願いします』

 

 

 はいはい。…やっぱ専門家だけの事はあるな。ヒントがあっさり出てきたぜ…。

 とは言え、ちょっと不用意だったか? クジョウ博士が、影でラケルてんてーと繋がってるとしたら、さっきの会話を話される恐れもある。

 『お人形さん』の正体に気付かれている、と取られかねんし…。

 

 

「…さっきの会話は、どういう事だ?」

 

 

 …ジュリウスにも聞かれてたし。

 まぁ、ジュリウスも俺とラケルてんてーが敵対してる事は、とっくに気付いてるけども…。

 

 どうもこうも、言葉の通りだよ。ライオンやら鳥やらを模したロボットがあるなら、合体させたいのが男の子だろ。

 

 

「そこら辺は俺にはよく分からん感覚だ…。何かまた新種のアラガミの話でもしているのかと思ったぞ。…いつぞやのライブで現れたような」

 

 

 結局、アレも正体不明のままなんだよな。どうにかしておきたい所だが…俺、もうライブツアー間近なんだよな…。

 大抵の相手なら、ブラッドなり極東所属のゴッドイーターなりで対処できるだろうけど、単純に正体が気になる。

 

 

「それらしい情報があったら、お前にも連絡してやる。…まぁ、何だ、気をつけてな」

 

 

 そっちこそな。…誰が、とは言わないが、多分俺が居ない間に面倒事が起こるぞ。注意しろよ、特に赤い雨と黒蛛病患者に。

 …これは非公式な実験と言うか治療の結果だが、稀に俺の力でも治せない黒蛛病がある事が分かった。どうにも体質によるもののようなんだが、詳細はまだ分からん。

 万一ジュリウスがそれにかかったら(と言うか確実にそれになるけど)、ブラッド隊の崩壊も有り得るんだからな。

 

 

「ああ。…………」

 

 

 ジュリウスの返答は、意外と静かなものだった。治療できない黒蛛病の事とか、もっと突っ込んで聞いて来ると思ったんだが…何やら思案しているようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、レアよ。

 クジョウ博士に相談した所、このよーな意見が出てきた訳だが、『お人形さん』についてどう思う?

 

 

「流石は専門家、といったところね。合体か…その発想は無かったわ。いやある意味合体させて作ったようなものだけど」

 

 

 外見見ると、ロボの合体よりもメガテン式悪魔合体っぽいけどな。

 と言う事は、零號神機兵は、実は合体ロボだった可能性が濃厚な訳で?

 

 

「……どう…かしら…。確かにそうすればエネルギー源の問題は解決すると思うけど、他に山ほど問題が…。クジョウ博士が言っていた、制御装置は…どういう訳だか、あの子は制御装置無しでも零號神機兵を操れるっぽいから、度外視するとしてもね。一番大きな問題は…人間に例えていうけど、免疫的な問題ね」

 

 

 免疫? ……?

 

 

「合体じゃなくて、移植手術と考えてみなさい。血液型を始めとして、拒絶反応が出る理由は沢山あるわ。しかも、あの零號神機兵のサイズと容量からして、大型アラガミの2体3体じゃない筈…」

 

 

 成程。全く違う体を複数繋ぎ合わせれば、問題が起きる確率は跳ね上がるよな。

 

 

「イイ線行ってるとは思うんだけどね。もうちょっと、何かが…閃きが足りなくて、正体に到達できてない気が…」

 

 

 むぅぅぅ…。しかも物凄く簡単な見落としをしてる気がする。冒険に出た直後、チュートリアルで説明される初歩の初歩の情報を見落としてるせいで、途中のボスが攻略できないような…。

 多分、気付いたら自分で自分に鬼杭千切カマしたくなるくらいに間抜けな見落とし何だろうが…。

 

 

「あれは武器じゃなくてどう見ても自爆よ。今でも、加減無しで放ったら暫く動けない傷を負うんでしょ? ゴッドイーターも大概だけど、あなたから聞いたハンターやモノノフ、鬼でもそうなるんだから…」

 

 

 まぁ、トンデモな代物使ってるって自覚はある。

 と言うか、それくらいの反動が無いと鬼杭千切使ってるって気にならないんだよなー。自爆装置呼ばわりもむべなるかな。

 

 つぅか、なんか…元気ないな。ここ数日、妙に疲れてるみたいだ。

 

 

「…ま、誤魔化せないわよね。最近仕事が立て込んでてね…。ちょっと気苦労が…」

 

 

 ふむ…。夜(に限らないが)の回数減らして、少し休むか?

 

 

「そ・れ・は・ダ・メ! むしろ、そのおかげで好調でいられるんだから。スッキリ朝には起きられるってありがたいわよ」

 

 

 あー、レアって割と低血圧だもんな。気怠そうな朝の雰囲気もソソられるけど…。

 話が逸れてきたけど、まぁいいか。一度頭をスッキリさせた方が、閃きも掴み取れるってもんよ。

 

 

 

 

 

 

 さて、レアの事も合体アラガミの事も気になるが、とりあえず俺もライブツアーの準備をしなくちゃならんな。

 と言っても、大事な物は大体ふくろに入っているので、精々が着替えくらい。日用品は、宿泊先のホテルで準備されているので、ほぼ手ブラでOK。

 他の準備と言えば……暫く会えなくなる彼女達を、事前にしっかり満足させておくくらいだろうか。

 いや、やろうと思えばネットワーク経由で毎晩帰ってこれるんだけどね。

 

 

 他にやる事と言えば……ああ、そうだな。準備じゃないが、話しておかなきゃならんか。

 

 

 

 と言う訳で、ミカ。とりあえずライブツアー参加おめでとう。

 

 

「来るのが遅いって。そういうのは発表直後に来るもんじゃない?」

 

 

 悪い悪い、こっちも色々と仕事が忙しくてな。で、気分はどうだ?

 

 

「んー……よっしゃ!ってのが殆どだけど、ちょっとスッキリしない部分もあるかな。リンが心配だし…本当に実力で勝ったのかな、って疑問もある。あのステージのリンは凄かったから…。私だって負けてたつもりはないけど」

 

 

 運よく勝っただけ、とでも?

 

 

「運もある、とは思う。でもそれを言い出したら、運や背景が絡まない勝負なんてこの世の何処にあるの、って話だし。そこは割り切ってるよ」

 

 

 …その運はきっと、成績表の形をしているんだろう。そんなもんが決定打になったリンの気持ちは、察するに余りある。…本人的には、俺とくっつけたから結果オーライ、と語っていたが。

 

 

「形はどうあれ、負けた方が勝った方から心配されても、屈辱でしかないんだろうけどね…。それでも、落ち込んでないか心配なんだよ。メッチャ闘志燃やしてたし…」

 

 

 一時期落ち込んでたが、もう立ち直ってるぞ。この辺の切り替えが出来なきゃ、アイドルなんてやってられないとさ。

 

 

「へぇ、直接会って来たんだ?」

 

 

 …ちょっと声にトゲが出た、気がする。確かに不義理だったかもな。

 両方教え子、二人とも俺に接近する為にライブツアーを狙い、そして勝者への祝福よりも先に敗者へのフォローに行ったんだ。腹に据えかねても仕方ない。

 

 ふむ…ここは一つ、古典的な手法を使うとするか。

 

 

 あぁ、会ってちょっと話をしたな。コレ、買いに行かなきゃいけなかったし。

 

 

 

「…花?」

 

 

 ああ。結局、ピンと来る物が無くて、買うんじゃなくて採取してきた奴だけど。

 

 

「…あたしに?」

 

 

 勿論。祝いと言えば花だろう。他にも記念品とか送れればよかったんだが、気が利いた物が思いつかなくってね。

 

 

「……あ、そ、そっか、リンの実家って花屋だったっけ…。…うん、ありがと。うれしい…」

 

 

 普段のカリスマギャル(最近、自称ではなくなってきたらしい)ぶりは何処へやら。少女漫画のヒロインのように受け取った花を胸元で抱きしめ、顔を赤らめて礼を言うミカ。

 …本当に乙女チックだなこの子。このままキャラ付けを維持できるのか、心配になってくる。

 

 ちなみに、贈り物として花束と言うのはあまりおススメできない。デート中なら邪魔になるし、どこぞのロッカーにしまっておくのも風情が無い。持って帰ったら持って帰ったで、捨てるのも躊躇われる。となると世話をしなければならない手間がある。

 ………今回送った花は、食えるけど…それこそやりそうにないなぁ、この子…。

 リカに頼んで、出来る限り世話をするつもりかもしれない。…リカもGKNG幹部だから、植物の育成はお手の物だろうしな。

 …ドライフラワーが一番いい選択かな?

 

 まぁ、これで機嫌が取れたチョロ可愛いちゃんだが…。

 

 

 

 話は変わるが、ツアーの準備は出来てんの?

 

 

 

「ぇへへ…へ? あ、あぁうん、もういつでも行けるよ。会社の準備はどっちが勝っても大丈夫なように進めてたし、私自身は最初からツアーの準備してたし。リカも準備は出来てるよ」

 

 

 負ける気一切無しだったって事か。その気合は買うが………いや、止そう。プロフィールによって票数操作されて勝ったなんて言っても、色んな意味で複雑になるだけだろう。

 

 まー準備できてるってんならいい。いざ向こうに行って、パンツが無いシャツが無いなんて騒ぎにならなきゃな。

 …そんな顔するなよ、俺にもそんな時期があったってだけだよ。なかったのは回復薬とかクーラードリンクホットドリンクとかだけど。…マイセットがなぁ、アイテム足りない時とか補充を忘れてさぁ…。

 

 

「よく分からないけど、何度も失敗したって事は伝わってくる…。戻ったら、もう一回確認しとくよ」

 

 

 それがいい。出来れば、出発当日の朝にもな…。自分じゃなくて、リカの分と交換して確認するのもいいぞ。自分の目だと、どうしたって主観のせいでミスを見逃すから。

 …話はちょっと変わるが、一緒にライブツアーに行くタカネやカエデさんとは付き合いあったっけ?

 

 

「んー、そこそこかな。レッスンの時に一緒になるのと、時々食堂とかで一緒になったくらい。仲がいいか悪いかって言われると…正直、どっちでもないかな。特にタカネさんは。…変な言い方になるけど、私達に大した興味を持ってない気がする。人当たりはいいんだけど」

 

 

 あー…まぁ、アイツにも色々あるんだよ。

 

 …興味を持ってないんじゃなくて、小動物程度にしか見てないんだよな…。どうにかするべきかと思ってはいるんだが、それこそ人間に対して、羽虫を自分と同等に扱えって言ってるようなもんだからな。

 人間に興味は無くても、人間の文化には興味津々だから、そう無下にはしない筈だが。特に食文化。

 

 

 ……あ。

 

 

 

 …ミカ、唐突で悪いが頼みがある。世界の為に協力してくれ。

 

 

「い、いきなり何よ、妙に真剣な顔してスケールの大きい話を…」

 

 

 …ライブツアー、イギリスにも行くんだ。…タカネに妙な物を食わせないよう、協力してくれ。

 奴がマジギレしたら、色んな意味で食料難待った無しだ。

 

 

 



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359話

ダークソウルプレイ中。
リマスターじゃなくて3の方です。
すぐにリマスターに移ろうかと思ったんですが、中途半端な所だと気分が悪くて…。
最初の時は意地張って、白霊召喚も無し、種火も死にまくるから使わず、ネットの情報も見ずに進んでいたんですが、縛りを無しにした途端に楽な事楽な事。
つい先ほども、サリヴァーン戦で大正義・数の暴力の力を実感してきました。

それはそれとして、最近PCが不調。レジストリがおかしくなってるのか、コマンドプロンプトも起動できません。
近い内にバックアップを取ってクリーンブートやら初期状態に戻すやら試してみます。
予備PCはありますし、感想返しも出来るとは思いますが、場合によっては業者さん案件かなぁ…。

梅雨に入ってから、時間を持て余していて辛い…。
雨降ってるから外にも行けない、バイクにも乗れない、仕事があるから酒も飲めない、陰鬱な気分が加速しそうだからダクソも控えめ。
どうしたものか…。
なんかこう、明るいイメージでスカッとするようなゲームは無いものか…。


神産月

 

 

 さて、何だかんだあったが、ライブツアー出発当日だ。

 前回の日記から数日空いたが、勘弁してほしい。リンの調教で忙しかったのだ。俺が居ない間のレズプレイに抵抗がない程度には躾けられたから、良しとしよう。

 …その過程で、知られてしまったアイドル達を何人か巻き込んでしまったが、何も言うまい。本人が納得してりゃいいんだよぉ!(世間が納得するとは言ってない)

 

 いや真面目な話、年頃の女の子ってやっぱり興味津々なのね…。フケツよっ!的な反応をした子も居たけど、どうにもズルズルと…。いや妙齢一歩手前のアイドルも居たけどね。

 彼女達がこれからどうするかは…正直分からん。流れと欲望に従って抱いたけど、依存症が出るような強い感覚は覚えさせなかったし、正直言って…あまり思い入れはない。あくまで当社比、な? 一度でも肌を合わせたんだし、それなり以上の義理と好意は感じてるし…なんか言い訳にしかなってないから、この辺でやめるけど。

 いやはや、「リンがとっても幸せそうだったから、ちょっと興味が」なんて理由で処女喪失すんだから、世も末よのー。…世紀末はもう過ぎたか。北斗ワールド並みに荒廃してるしな。いつどうなってもおかしくない世の中だから、無事な内に経験しておきたいという気持ちは分からんではないが。

 更に恐ろしい事に、中には不必要なまでに才能と素質がある子が居てね…。まさか、あの子が歩くセックス並のポテンシャルを持っていたとは。海のリハクでなくても見抜けぬものよ…と言うか見抜けたら普通に犯罪者だわ。

 

 

 …ちなみに、そんな状況でもミカは気づいていません。リカは気づきました。

 ……ウブとか以前にな…。何と言うか、ミカって現実にそういう事がある、ってイメージを持ってない気がする。乱交やら爛れた不純な関係やら、そういうのに現実感が無いんだろうな。

 極々一般的かつ、模範的モラルを持った男女の、結婚してからの誠実な子作りも、抽象的な印象しか持ってないと言うか…。

 

 このご時世だもんな。性教育に限らず、ちゃんとした教育を受けられる人の方が少ないんだから、そうなるのも無理はない。その中でも、特別ウブなのは否定できないが。

 

 

 

 ……そんなミカが『いざその時!』となったら、どんな顔をするのか…すっごく興味があります。

 

 

 

 それはともかく、ライブツアーの事だが…まず向かう先はアメリカ。

 具体的には北アメリカ。俺の知識にある中では、カナダの辺りですな。後はニューヨークとラスベガスくらいしか、記憶にないけど。

 

 

「過去の繁栄も何とやら、だけどねー。アラガミ出現で、一番多くの傷を負った国だし」

 

 

 そうなん、ケイ?

 

 

「ええ。私も当時の事はよく知らないけど、凄かったらしいわよ、特に穀物地帯が。あっという間にアラガミに食い尽されたって」

 

 

 ふーん。面積が広くてGNP(だっけ?)が高かっただけに、アラガミの餌が多かったって事か。

 割合ダメージって考えれば分かりやすいかな。

 

 …で、ケイさんや。何で一緒に空港のVIPルームに居るんでしょうね?

 

 

「私も帰国するもの。元々、私はアナタとネンゴロになって、血の力の習得法を調べる為に派遣されたんだからね。これまで大した結果も出てないし、もう戻ってこいって事よ」

 

 

 うん、それについては何も言わないけど。

 

 

「聞いてない? 私は護衛役って事よ。あなた達は…特に貴方は、血の力の専門家って事で、世界でもトップクラスの重要人物扱いなのよ?」

 

 

 ……まぁ、言わんとする事は分からないではないが。アリサ達と居るとあんまり実感はしないが(と言うかニート強制扱いだが)、一応俺って、血の力の専門家、人為的に目覚めさせる力を持った数少ない人間なんだよね。それこそ、全世界で5本の指で数えられる程度には。

 つまり、最近急増している感応種…通常のゴッドイーター達を無力化するアラガミに、対抗できる手札を増やす事ができる人材。

 ただでさえ追い詰められているこの世界の人類にしてみれば、何が何でも確保したい人材だろう。

 

 …そういや、アメリカのアラガミってどんなのが居るんだ? 極東に比べて、どんな感じ?

 

 

「ん~、そうねぇ」

 

 

 ケイは俺の正面で足を組み、顎に指を当てた。脚線美が眼福です。この世界の女性ゴッドイーターの例に漏れず、露出度高いのよねこの人。

 

 

「極東のアラガミが、コツブでもゲキカラなら、あっちのアラガミはダイナミックで大雑把、かしら? サイズだけで言えば、極東の大型アラガミの2~3倍はザラに居るわね。クアドリカだって、1.5倍はあるわよ。だからって、強いかと言うとそうも言えない。小回りが効かないし、何より攻撃手段が少ないの」

 

 

 ふむ…そんだけデカいと、上部を狙うのに苦労しそうだな。

 で、攻撃手段と言うと?

 

 

「極東に来て一番驚いた事なんだけど…いえ訂正、極東が緑に溢れてたのが一番驚いたわ。とにかく、炎、氷、雷、空気大砲、その他諸々…。アラガミ達って、色んな攻撃をしてくるじゃない? アメリカのアラガミの殆どは、エネルギー弾…無属性のオラクルバレットを飛ばすだけなのよ。さっき言ったクァドリガにしたって、跳躍からの衝撃波とか、排熱器官による攻撃なんて全然やってこないし」

 

 

 頑丈さに極振りして、ゴリ押しをしてくる訳ね。いなせるだけの技量が無ければ、磨り潰されて終わりか。

 

 

「そ。だから、アメリカのゴッドイーターの基本戦術は、『数を揃えて遠距離から封殺』よ。私みたいに接近戦もやれるのは数少ないエースって訳。ちなみに、巨体の上の方を狙おうと思ったら、敵の体を足場にして駆け上がるか、廃ビルの上から奇襲するのが基本ね」

 

 

 物量大国でダイナミックなアメリカらしいと言うかなんというか。いや、それも過去の話なんだっけ。

 安定性を求めるなら、一番のやり方だろうな。戦術だけじゃなく、戦略的に考えても。

 

 

「結果として、ゴッドイーターの保有数は世界でも有数になったって訳よ。その代り、適正が低い子が沢山いるんだけどね。突出した戦力が確保し辛いなら、平均的な戦力の数で埋めればいいじゃない。…その分、維持費で火の車らしいわ」

 

 

 今はどこもケツに火がついてるだろ。ふーむ、しかしそれだけデカい連中がいるなら、実際に見てみたいな。

 キンキラヴァジュラ並と考えていいか。

 

 

「ところで、黒蛛病の治療についてちょっと聞きたいんだけど。本国からも問い合わせがあったんだけどね、植物の治療って可能?」

 

 

 …植物? が、黒蛛病にかかるのか?

 いや、有り得ない事じゃないか。植物だって一種の生命だし、赤い雨を浴び続けて、それを根っこから吸収していけば、公害みたいに毒素を貯めこんでもおかしくない。

 

 うーん…多分、人間の治療をするよりは簡単かな。試してみないと何とも言えないが、鬼の手を使わず、鬼祓だけで充分だろ。

 ただ、鬼祓の効果自体、あまりに広範囲ではないからな…。汚染された農場を丸ごと浄化しろ、なんて言われたらどれだけかかるか分からないぞ。

 

 

「なら、歌で浄化はできない? 人間よりは簡単で、歌でも黒蛛病の症状緩和はできるんでしょ? 昔の研究にあったらしいわよ。音楽を聞かせながら植物を育てると、それに影響されて実りが多くなったり、逆に毒素を含んだりっていうのが」

 

 

 成程、可能性はある。鬼祓や鬼の手よりも遠くまで響くし、実現できれば救世主扱いだろうな。

 …カエデさんは微妙なところだが、タカネは多分出来るぞ。元より、アイツの血の力はソッチ方面だからな。(と言う事にしておこう)

 

 …そうだな、飯で釣ればなんとかなるか。特に小麦系統はラーメンの麺に重要だし、それで攻めれば本気出すだろ。

 

 

 

 それにしても、あいつら遅いな…あふ、眠い…。

 

 

「仕方ないんじゃない? スターの旅立ちだしね。インタビューだって熱が入るでしょ。…随分眠そうね。ツアーが楽しみで眠れなかった?」

 

 

 別の事が楽しすぎて眠れなかった。暫く会えないと思うとつい熱が入って、おかげでレア達が見送りにこれなくなっちゃったし。

 リカも来てはいるけど、オネムなんだよなぁ…ちょっと悪い事したか。

 

 

「…え、リカってあのちっちゃい子に? ……ワォ」

 

 

 アレな人を見る目を向けるのはやめてください。いや見られても仕方ないとは思ってるけど、あの子の事は色々想定外な事が…言うだけ無駄か。

 

 話を露骨に反らすけど、ケイはアメリカに到着したらどうすんの? そのまま護衛任務続行?

 

 

「そうね。交代するにしても、すぐではないと思うわ。その後は…多分お別れね。極東に行くとしたら、何年か先になると思う。これでも結構重要な地位に居るし、何だかんだで目的だった血の力体得法は殆ど理解できなかったから」

 

 

 あー、任務失敗って事になるのか。まぁ、ハニトラしろとか言われたけど、最初から従うつもりはなかったようだが。

 大丈夫なのか? 人類名物、足の引っ張り合いとか。

 

 

「あるかないかで聞かれたら、『ある』の一択だけど、大丈夫よ。それくらい捌けないようじゃ、アメリカのエースなんて名乗ってられないわ。失敗を覆して有り余るくらいの手土産もあるしね」

 

 

 手土産?

 

 ケイが見せたのは、小さな袋だった。モノ自体はその辺の雑貨屋で売ってるような、ありふれた袋。

 が、その口紐には珍しいタグがついている。…GKNGのタグだ。これが付いてるって事は…?

 

 

「そ。極東を覆っている植物の種よ。GKNGから直接分けてもらったの。世話の仕方のマニュアルももらったわ」

 

 

 おいおい、マジかよ。まさか、それを持って帰ってアメリカで繁殖させる気か?

 

 

「オフコース! 上手く行けばすっごい事になるわよ。極東支部の限られた土地でやってアレだもの。アメリカ全土でやれば、食糧問題だって大幅に解決できる! アメリカが超大国に戻れるかもしれない、ビッグチャンスよ!」

 

 

 正にアメリカンドリーム、か。

 …しかし、確か植物の持ち込み持ち出しって、規制がなかったっけ?

 

 

「そこらへんは心配ないわ。グレアム局長が、その辺りの調整はやってくれたもの。『今後の販路の為だ』って」

 

 

 海外との貿易、コネ作りまで視野に入れてんのか、あの人…。金儲け方面にバイタリティが溢れすぎだ。

 アレで見た目と言動にもうちょっと気をつけてれば、要らんヘイトを稼ぐこともなかろうに。…それこそ、本人に言わせると『無駄な事』だろうけども。

 

 別に止めやしないし、成功を祈るが…気をつけろよ。ソレを食ったアラガミが超進化、なんて可能性だってあるんだからな。

 

 

「分かってるわ。ま、その辺は専門家の学者達に任せるわよ。とにもかくにも、まずはライブツアーの護衛…あら、インタビューは終わったみたいね。そろそろ飛行機に乗り込みましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、乗り込んで、既にフライト中な訳ですが…うーん、なんつーか、落ち着かないな。

 タカネ、カエデさん、ミカのアイドルチームが固まった席に居るのは、おかしな事でもなんでもない。ケイが俺の近くにいるのも、護衛だから分かる。アンチョビは俺の世話役としてついてきているが、リカと一緒に窓の外に興味津々だ。ついでに、チームアンツィオは修学旅行の学生かと思うくらいに大騒ぎしている。こら、窓を開けようとするんじゃありません。

 …タカネとカエデさんの、関係者枠は居ないのかな?

 

 

 …で、俺達の席から少し間を開けた所に、記者達が大量に座っている。

 一応、カーテンとかでスペースは区切ってあるんだが…こっちの様子を何とかして探ろうとしている気配が丸わかりだ。

 有象無象に見られてもどうって事は無いが…純粋に鬱陶しいな。

 

 おいアンチョビ、お前平気なのか?

 

 

「…え? あ、うーん…まぁ、見られるのには慣れてるし…。チームアンツィオを纏める時とかに」

 

 

 そういや、何だかんだでチームリーダーだったもんな…。

 

 

「あなた様、鬱陶しいのであれば適当に散らしてきますが?」

 

 

 やめて。やめろ。絶対物騒な事になる。大分人間との付き合い方を理解してきたけど、価値観は相変わらずだもの。付き合いのある人間ならともかく、見ず知らずの他人なんて石ころ程度にしか思ってないもの。

 ちょっとカエデさん、酒飲んで笑ってないで止めてよ…。

 

 

「無駄だよ。こうなったらこの人、笑い上保で甘え上戸で止まらないから…」

 

 

 ミカが黄昏ている。外は真昼間なのに、何となく夕日が見えた気がした。

 

 

 一応、アラガミの襲撃の可能性も考えて気を張っていたが、特に何も無し。飛行機が墜落するなんて事もなく、へべれけを一人抱えて飛行機は飛ぶのでした、まる

 

 

 



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360話

GEレゾナンス、プレイ中。
…何と言うか…まだ2、3話進めた程度ですが…特筆すべき事が無いような…。
ネタ探し程度かなぁ…。
キャラを出そうにも、時系列的に少なくとも数年後だから、お子様状態でしか出せそうにない…。

結局FGOも冬木を終わった所で放置してるし、なんか合わないなぁ…。


ダクソはまだ3を続行中。
ロスリックに入って、そろそろ厳しくなってきた。
しかし、侵入してきた闇霊に何度か襲われたけど、勝てないなぁ。
まだ敵を未掃討の所に出てきて待ち構えられたりするんで、ホント勘弁してほしい。
この前はイルシールで2人がかりで襲われたし…。
今回はそういうのもありでプレイしていきたいと思ってますが、何故青教は全く来てくれないんだろう…。
金サインは何故か召喚できないし。
ネットで見た通り、そっち系のプレイヤーが居ないんだろうか…。


神産月

 

 

 太平洋を飛び越えて、遥々来たぜアメリカ大陸。…アメリカ大陸つっても広すぎるな。具体的な位置は、アレだ、五大湖ってヤツのすぐ傍だ。

 …アメリカ大陸を、ほぼ横断した訳だが…なんつーか、酷い有様だった。

 

 俺もアメリカ自体にそんなに詳しい訳じゃない。行った事もなければ、小学校の社会の授業で習ったうろ覚えの知識しかない。

 大雑把なイメージは、西側にクッソデカイ山脈があって、東側に行くにつれて穀物地帯が広がり、緑が増えていき、一部に近代的な建物なんかの都市が集中している…ってイメージだった。

 

 

 ……それが正しい印象だったのかは不明だが……空の上から見ると、ケイが言っていた、アラガミによる被害の大きさがよく分かる。

 赤いんだよ、大地が。丁度夕暮れ時だったのも理由の一つだろうが、荒れてるって一目見ただけで分かった。

 かつては小麦やトウモロコシに覆われていたであろう平原は、上から見ると酷い虫食いとなっており、あちこちで火が燻っている。所々に見える廃墟は、恐らく以前は農夫が住んでいたのだろう。…全て、過去形だが。 

 山脈に至っては、不自然な傾斜と凹凸だらけ……山脈を食いやがったのか…。

 

 こりゃ、五大湖も以前の通りの地形なのかは怪しいな。下手すると干上がって、小さくなってるんじゃないか?

 ついでに言えば、さっき遠くで赤乱雲…赤い雨を降らせる災厄の雲が見えた。結構な規模で降ってるな…。残り少ない川に注がれたり、或いは場所によっては無事に残った穀物地帯に降り注いだりするんだろう。

 

 よくもまぁ、アメリカって国が残ってるもんだ。

 

 

 ケイの計画が上手く行けば、これがナンボかマシになるのか…。うん、応援したいな。細かい損得は抜きにして。

 

 

「あらあら…あまり雅な光景とは言えませんわね」

 

 

 タカネか…。まぁ、お前さんにしてみりゃ食べ残しがあちこちに放置されてるようなものだしな。

 それに、ラーメンの麺の原材料になるものが軒並み焼き尽くされてるんだし。

 

 

「…あなた様、私はちょっと怒りが有頂天状態となりました。天から降り注ぐ光で、アラガミ達を焼き尽くしましょう」

 

 

 止めろダァホ。アメリカ大陸中に居るアラガミを消し飛ばすような真似、今のお前に出来るのか?

 仮に出来たとしても、それだけの被害を大陸中にバラ撒く事になるだろうが。原材料どころか、それを育てる大地も人手も消し飛ぶわ。

 

 

「……そうですね。失礼しました。怒りというのは厄介なものですね。私をこうまで狂わすのですから」

 

 

 どっちかっつーと怒りよりもラーメンに狂ってる気はする。

 ともあれ、食い物関係に関しては、今はアラガミよりも赤い雨…黒蛛病の方が被害が大きいだろう。アラガミは何もかも食い尽すが、赤い雨は土壌を動植物ごと汚染する。

 その後、そこで育つモノまで汚染するんだ。

 

 

「………アレが何かは大体分かっておりましたが……例え星そのものと言えど、私の道を曲げる事はできません」

 

 

 …格好いい事言ってるけど、星の意思なんかよりラーメンその他諸々食いたいって言ってるだけだな。

 

 

「あなた様であれば、曲げられるかもしれませんよ?」

 

 

 ラーメンよりも、濃厚カルピスを好物にすればいいってか。ま、それはその内。

 

 

「あいかわらず、いけずですねぇ…」

 

 

 これからインタビューを受けるのに、情事の痕跡を残すのもな。見ろよ、空港に記者が詰めかけてるぞ。このご時世に、アイドルでそこまで大騒ぎできるのも凄いもんだ。

 写された横顔に、シモのケがついてた、なんてスキャンダルどころの話じゃねーよ。

 偽装はできるが、記者のカンは侮れんからなぁ…。もっと厄介なのは捏造だけど。

 

 ところで、タカネって英語できるの? なんかカタカナが苦手な印象があるけど。

 

 

「勿論ですわ。あなた様の使う言葉とは法則が違うので少々戸惑いましたが、英語に限らず今回のツアーで行く先で使われている言葉は、全て覚えました。何となれば心を読むなり伝えるなりすればいいですもの」

 

 

 ……それ、テレビ越しじゃ多分通じないぞ。いや、こいつなら割と…。

 ちなみに俺は、レアからマンツーマンで叩き込まれました。英語だけじゃなくて、あっちこっちの言語を。女教師プレイ!とか考えたけど、勉強中は割と真面目に厳しかったです。

 

 

 

 

 

 

 さて、そういう訳なので、インタビューです。…アイドル達にね。

 俺はケイと一緒に、人ごみの死角を通って一足お先。ついでに、妙な事を考えてそうな連中を闇討ちしておいた。

 

 

「…こういう事も得意なのね」

 

 

 そういうアメリカさんは、この手のシークレットミッションは苦手なのかね? 言っちゃなんだが、諜報員としては明らかにレベル低いぞ、あの連中。

 

 

「それ、皮肉? …ま、ガッタガタだからね、今のアメリカ。本腰入れてないって言うか、入れられないって言うか…要は人類名物・足の引っ張り合いよ」

 

 

 ふーん。と言うか、今更気付いたけど…ひょっとしてアイドル達って、俺を隠す為のデコイだったりする?

 

 

「さぁ、上の思惑なんて知らないわ。どうせ、知ってもロクなものじゃないしね。あなたに最初に接触したのだって、ハニートラップを仕掛けてこいって言われたからよ」

 

 

 最初から堂々と無視してたけど。

 それにしても、黒蛛病治療の事を差し引いても、随分な歓迎ぶりじゃないか? 言っちゃなんだが、あいつらはまだ日本の新人アイドルだろうに。

 レベルで言えば、ハリウッドやブロードウェイに比べると、一歩も二歩も知名度で、注目度でも劣ると思うんだが。

 

 

「何度も言ってるけど、全ては昔の話よ。今のアメリカに、そんな華々しい舞台は無いわ。ブロードウェイは寂れ果て、ハリウッドは既にアラガミに荒らされて、ロサンゼルスのカジノも瓦礫の山。…国としての体裁を保つのが精一杯なのよ。だからじゃない? 昔の輝きを思い出せるような、キラキラしたアイドルに飛びつくのよ」

 

 

 夢も希望もありゃしないな、ったく…。

 いや、MH世界の植物が、夢と希望になるのかな。希望じゃなくて魔法だったら、ディ〇ニーランドに訴えられそうだ。

 

 

 

 

 

 さて、記者会見も終わり、ホテルへ移動。…一見すると立派なホテルだな。あちこちにSPっぽいのも配置されてる。さっきの不穏な連中とは違い、そこそこ期待できそうな連中だ。

 リカとチームアンツィオは、飛行機に乗った時からずっと騒ぎっぱなしだった為か、ついに電池切れでスヤスヤ。アンチョビが寝かしつけに行った。…相変わらず面倒見のいい子だ。

 

 逆に、明日からステージに立つアイドル3人は、打ち合わせに入っている。…若干一名、酒が入っているのがいるが。…訂正、2名だ。タカネはアルコールも即分解できるから分かりづらい。

 

 

 そして俺は……ケイに頼まれて、アラガミの狩りに出ていた。…なんか、今日はケイとばっかり絡んでるな。

 

 

「別にいいじゃない。もう少ししたら当分会えなくなる訳だし、知り合った記念に一緒にミッションに行くんだと思えば」

 

 

 別に不満がある訳じゃないよ。…いや、不満っちゃ不満なのかな。ケイじゃなくて、このミッションの方に、だけど。

 でっかい劇場の中じゃなくて、野外ステージになるのはいいよ。ケイが言ってたみたいに、黒蛛病に犯された植物や土地を浄化する効果を期待してんだから。

 なーんで、今からステージ建設の為の安全を確保せにゃならんのかなぁ? 普通、もっと事前に準備して、アラガミを掃討して、ステージも作るもんじゃない?

 

 

「ステージ自体は、もう大体出来上がってるのよ。でも、アラガミの掃討だけは、度々やらないと際限なく寄ってくるから…。掃討が間に合わずに、ステージの完成が遅れちゃったのね。一晩あれば、完成まで漕ぎつけられる段階だけど…」

 

 

 ああ、あっちのアレがステージ会場なのね。……ん、一角だけ妙に厳重に隔離されてる席があるが……関係者席か?

 

 

「いえ、黒蛛病患者席よ。隔離扱いで悪いとは思うけど、接触感染するからね」

 

 

 そりゃ仕方ないか。

 

 本来ならもう完成して、後は防衛してりゃいいって段取りだった訳か。ま、世の中予定通りに進む事の方が少ないわな。

 そういう訳で、俺もアラガミ掃討に駆り出されています。…一応、俺も護衛対象なのになぁ。まーVIPや大統領みたいな要人が強いのもハリウッドではお馴染みだから、ヘーキヘーキ。

 アメリカのアラガミにも興味はあったしね。

 

 

 

「さて……アリサ!」

 

「はい」

 

 

 なぬ!?

 

 

「…あ、ちょっと待ってて…。あなたの恋人のアリサさんじゃないわ。ほら、この子。私の副官のアリサよ」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 敬礼する、そばかすツインデールの少女。

 …そ、そうか…ややこしいな。いや名前が被るなんて、現実的に考えると珍しくもないだろうけど。

 

 

「そこらへんは気にしないで。立場上、あんまり接する機会があるとも思えないしね。今回のミッションは?」

 

「大型アラガミの群れの駆逐です。現在、ステージ近辺には小型アラガミの姿はありません。住み着いた大型アラガミが食料にしたか、逃げていったようです」

 

 

 ふむ、雑魚を虱潰しに消していくのは面倒だし、難易度が下がったと思っておくか?

 問題の大型アラガミは…………はい?

 

 

 …あの、これ…大丈夫? いや強い弱いじゃなくて、権利的に。

 アリサ(そばかす)が名前や特徴を述べているが、あまり頭に入ってこない。

 

 

 …見せられた映像に映し出されているのは、どっかで見た事のある姿形を、悪意を持ってデフォルメしたような連中。

 筋肉ムキムキの緑の巨人、盾が腕についている青い奴、赤くてメカメカしい奴、その他諸々…。

 

 ……あの、一つ聞きたいんだけど………ア〇ェンジャーズって知ってる?

 

 

「? 復讐者、ですか?」

 

 

 いやそういう名前のチームなんだけど…。

 

 

「心当たりはありません。…いえ、確か別動隊に、そう名乗るチームが居たような……とっくに壊滅していますが。それが一体?」

 

 

 ……いや、考えてみればこの場では関係なかった。すまん、忘れてくれ。

 

 …いいのかな、これ…。そりゃアラガミの姿に著作権なんてないけど。いやあるけど、それはゲーム的に考えてだし…。ここでは現実だし。

 そもそも、アヴェ〇ジャーズを知らないってどういう事よ? アメリカ人なら、大体知ってると思うんだけど。それこそ、アメリカが生んだ国際的キャラクターだろ? 日本で言えば某ネコ型青タヌキロボット、白いモビルスーツとかに相当する。

 

 …この世界では、考案されなかったんだろうか? いや、旧世界の記録なんて殆ど残ってないみたいだし、単純に失われただけか?

 

 

 まぁ、何でもいいか…。仮に目の前にキャプテンAが居たとして、それがアラガミであったりモンスターであったり鬼であったりするなら、狩りの対象でしかない。実際にやれるかはまた別問題だが。

 

 問題の中身だが、ケイが空港で言っていた事が事実なら、奴らに特殊攻撃はないに等しい。ただ巨体と力に任せて飛び掛かってくるか、精々光弾を飛ばすくらいだそうだ。

 あれだけ外見が似てれば、キャラクターが持ってる攻撃方法の一つや二つ持ってそうなもんだけどな…。あ、スパイ〇ーマン型アラガミ。

 

 …どうやら、こいつらは新種と言う訳ではないらしい。少なくとも、極東で言えば、多分ヴァジュラ扱いだ。うむ、慣れ親しんだ、こいつらを一人で狩れて一人前ってレベルだな。…他所の地区のゴッドイーターからすれば、狂気の沙汰もいいところだったが。

 

 

 

 

 

 つまるところ、アメリカゴッドイーター勢にとってはマジヤバイ状況らしいが。表面上は何とか平静を保っているが、「行きたくねぇ」って感情が簡単に見て取れる。

 ケイが俺を引っ張り込んだのはこの為か?

 

 まぁいいさ。興味もあったし。差し当たり、空を飛んでるシユウに似たコウモリ男アラガミを叩き落してくるとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 …うん、結構楽しめた。

 アトラクション的な面白さがあったな。近くで見てみると、本当にデカいんだわ。巨体のパワーとリーチで、ゴリゴリ戦うタイプだね。

 んで、斬り合ってみるとかなりタフ。巨体と戦うには末端を攻撃するのは、オーガも認める戦術とは言え、ちょいと時間がかかり過ぎる。

 アメリカゴッドイーターが嫌がるのも、無理はない。はっきり言って、豆鉄砲だからね、彼らの神機。数を揃える為に質が失われた結果か。

 

 本来なら、遠くから包囲するなり、遮蔽物に隠れて銃撃したり、計画的でシステマチックな戦い方をするんだろうが……何せ荒野だもんなぁ。隠れられる場所はまるで無く、デカいアラガミのリーチとパワーがモロに活用されるシチュエーションだ。

 

 

 そういう訳なんで、ケイと一緒にデカブツの囮を引き受けました。勢い余って倒しちゃう事もあったけど、戦果は出してるから問題なかろ。

 アメリカゴッドイーターさん達からも、なんかヒーローを見るような目で見られたしな。

 

 

 最初は皆の戦い方に合わせ、離れて銃撃に参加してたんだが、ケイに接近戦を誘われたんで、ホイホイ参加してしまった。

 ミタマ『挑発』を使って惹きつけ、デカブツのパンチをジャストガードで受け止め、後ろに味方が居ない時はブシドースタイルで回避&反撃。

 

 それが基本パターンだったんだけど、相手からの攻撃を待つのが面倒になってきた。確かにパワーはあるしダイナミックなんだけど、動きが単調だから飽きが来る。

 なので、アラガミの体でパルクールしてみました。

 

 エリアルスタイルの応用でね、跳躍・攻撃からの、乗り状態じゃなくて駆け上がり状態。ああ、正宗もこんな感じだったのかな。イャンクックの尾に飛び乗って、そこから駆け上がって頭に攻撃とかやってたっけ。

 アラガミの体を駆け上がり、背後を取ってドタマとか首とか、とにかく急所に一閃。

 ついでに、すぐ傍に他のアラガミが居るなら、伸びてくる腕を掻い潜って飛び移り、また一閃。

 殺られる前に、と飛び掛かって来たアラガミを避ければ、そいつは別のアラガミに激突して動けなくなったり喧嘩になったり、そうなっている所にやっぱり一閃。

 

 

 

 上手く決まると、実に爽快である。ギャラリーのアメリカゴッドイーターの皆様が、歓声をあげてくれるのがまた。

 もしもこの動きがゲームに実装されるとしたら、多分QTEになるだろうなぁ…。複数人プレイ前提のゲームでQTEとか、バランス悪そうだな。

 

 うーむそれにしても、アヴェ〇ジャーズを相手に無双して、それでアメリカ人から喝采を浴びるって変な気分だ。…ヒーローの偽物は悪党って相場が決まってるし、そうでもないか? 明らかに悪党寄りのデザインになってるもんな。…元々悪党っぽいデザインの人達も居たが、そこは国民的な感性の違いって事で。

 

 

 

 程なく、ミッションは完了。周辺一帯のアラガミを掃討し、後はアメリカゴッドイーターの皆さまが、明日まで警備に当たるそうな。俺はホテルに戻る。

 帰り際、アメリカゴッドイーターの皆さまに、口々に褒められた……んだと思う。流石にあれだけの人数の言葉を、素早く聞き取るのは不可能だ。いやできなくはないけど、翻訳がね。

 擦れ違いざまに、笑いながら肩とか背中とかバンバン叩かれた。ケツを揉まれたが、ありゃ一体誰だ? 手の感触からして、女だったようだが。

 

 

 …離れた時、背後から「極東のゴッドイーターって凄いな!」って声が聞こえたが……まぁいいか。極東支部が地獄扱いされてるのは今更だし、大して変わらんわ。…同じ事が出来そうな奴、何人か居るしね。

 

 

 

 

 

 

 はい、ホテルにただいま。…うん、変な事があった気配もない。皆無事だ。

 それぞれ、部屋に戻って眠っているようだが……おや? 俺の部屋に一人…。

 

 

「あ、おかえり、開祖様」

 

 

 アンチョビ、起きてたのか。寝ちまってもよかったのに。

 

 

「一応、開祖様の世話係って名目で来てるから…。ついでに言うと、ウチのチームの連中が寝付くのを確認するまで、不安で眠れなかったのもある」

 

 

 ああ…目を離すと、何をやらかすか分からんからな…。

 …他の皆は?

 

 

「リカは電池切れで眠ったまま。ステージに立つ3人も、打ち合わせは終わってもう寝てる」

 

 

 …飲んだ?

 

 

「飲んだ。明日に響かせないように、必死で止めた。最近は割と大人しく従ってくれてたんだけど…タカネさんが一緒に居るからなのか、いつにも増して飲兵衛で…」

 

 

 タカネはザルも枠も通り越して、そもそもアルコールが効かないからな…。やろうと思えば酔う事も出来ると思うが。

 カエデさんは対抗意識を燃やしたのか、単に自分の酒量に付き合える相手を見つけたのが嬉しいのか。…多分後者だ。

 

 多分、このツアーの間、ほぼそんな状態だろうなぁ…。

 

 

「やっぱり? …頭痛くなってきた…二日酔でもないのに」

 

 

 撫でてやるから、元気出せ。

 ……で、お前はどうなんだ? 俺を待ってたのも、チームの連中を寝かしつけたのも確かだろうが、何か引っかかるモノがあるって顔してるぞ。

 

 

「あー………うん…。…飛行機、乗って来たじゃないですか」

 

 

 ああ、乗ったな。

 

 

「GKNGに入った頃、昔のアメリカの画像が発見されたのを見た事があるんです。その中に、空から撮影された写真もありました。何処の辺りかは分からないんですけど……綺麗だった。凄く高い所から撮影してる筈なのに、地平線まで畑が広がって、一面が金色で…。こんな凄い光景が、世界にはあるんだなって感動したんです」

 

 

 ……それが今や…か。

 憧れが砕かれてしまったかぁ…。そりゃ落ち込むよな。

 俺だって、オランダ辺りに行って、風車とチューリップが無残に焼き払われていたら、そんな気分になるだろう。シリアス度はともかくとして。

 

 

「憧れって言うか、幻想って言うかイメージと言うか…まぁ、そんなところです。今の極東に居ると、あんまり意識しないけど……あれが世界では普通なんですよね…」

 

 

 極東も3年前までは似たようなもんだったけどな。

 

 ま、そう落ち込む事はない。いつまでもこのままって訳じゃないんだ。

 アラガミをどうにかする目途は立ってないが、代わりにケイが極東から種を持ち出してる。上手くやれば、以前と同じか、それ以上の光景が拝めるようになるかもしれん。

 

 

「ケイさんが? …それ、GKNGは…」

 

 

 知ってるよ。販路もグレアム局長…つっても分からんか。金儲け大好きな人が整えてるから、長続きするし、どんどん規模も広がっていくと思う。

 

 …ふむ、考えてみりゃ、アンチョビ。お前結構いい立場に居るんじゃないか?

 下っ端とは言えGKNG。しかも幹部のリカともコネが出来た訳だ。仲いいだろ?

 

 

「仲がいいと言うか、チームアンツィオに凄い勢いで馴染んでいったと言うか…」

 

 

 そんで、多くの人の注目を集めるアイドルでもある。やろうと思えば、いくらでもその販路を宣伝できる訳だ。

 極東が緑に覆われているって言うのは、世界中で知れてはいるけど、完全に冗談かネタだと思われてる。そこに一石を投じるのに最適なのは、多分アンチョビだ。

 注目度で言えば、タカネとカエデさんの方が高いが、あの二人はGKNGじゃないからな。

 

 

「む…。あ、でも言葉が…」

 

 

 砂の耳、持ってる奴がチームアンツィオに居るんだろ。直に話すに越した事は無いが。

 ……スゲェな。アンチョビとしては計算外どころか想像もしてなかったろうが、色んなピースがどんどん当て嵌まっていく。

 これの繰り返しで、アイドルチームに妙に慕われるようになったんだな…。

 

 

「心底納得しないでくださいよ! 身の丈に合ってない幸運や力って、超絶厄介事ですよ…」

 

 

 そう言いながらも、慕って来る人達を拒む事も見捨てる事もできない辺り、本当に業が深くて重症だ。

 だからこそ、なんだろうけどな…。お天道さんなのか四文字なのかブッダなのか知らんが、よう見てるわ。本人的には『寝ているのですか!』って叫びたいんだろうけど。

 

 

 

 

 ふむ……。一回、自分の事を自覚させた方がいいのかな。相手の望む態度を取ってしまうってヤツ。…。しかしフラウと違ってコイツ、生真面目だからなぁ…。拗らせなきゃいいんだが。

 

 

「ちょっといい?」

 

「あ、ケイさん」

 

 

 んぁ? …仕事どうした?

 

 

「私の分担は、アラガミの掃討までよ。引継ぎも終わったから、もうフリータイム。明日には別の基地に移動しないといけないから、もう寝る程度の時間しか残ってないけどね」

 

「明日? それじゃ、ステージは見て行かないんですか?」

 

「出来るものなら、見ていきたいんだけどねー。遅刻のペナルティくらいで見られるならそうするけど、こっちの案件も大事なのよ。ところで、何か話してたみたいだけど…借りていい?」

 

「私はいいですけど…」

 

 

 俺も。大事な話と言えばそうだが、どっちかと言うと愚痴みたいなもんだったし。

 アンチョビ、色々考えちまうのは分かるが、今日のところはもう眠れ。一人で考えても、何か得られるような問題じゃない。

 

 

「そうですね。…流石に眠くなってきましたし…」

 

 

 欠伸を噛み殺して、アンチョビは腰を上げた。幾ら俺の世話役として連れてきたからって、夜まで一緒の部屋に居る訳じゃない。

 …別に居てもいいんだけど、そうなるとまず間違いなく過ちが起きるんだよな。

 

 で、ケイさんや、お話って何だね?

 

 

「ん? 大した事じゃないんだけどね。極東でも何度か一緒にミッションに行ったけど、ゆっくり話した事なかったなって思って」

 

 

 ケイが持っていた袋の中には、ビールビールビールツマミビールウィスキー…。何だ、呑みのお誘いか。

 

 

「何だったら、その先も、ね?」

 

 

 …先ってお前…。ハニトラしろって命令に従う気はないんじゃなかったか。

 

 

「命令なんて知らないわ。ただ、そうしてもいいかなって気分なだけよ。勿論、誰でもいいって訳じゃないけどね」

 

 

 気分かよ。まぁいいけどさ。

 要は、戦闘の後で体とか本能火照ってるんだろう。

 

 

「ま、それよりも先に、飲んで飲んで。いやー、極東のご飯やお酒も美味しかったけど、やっぱり故郷の味だわ」

 

 

 ふむ…。俺も酒の味の違いが分かるようになったもんだなぁ。ま、この味も嫌いじゃないよ。

 …どっちかっつーと、問題はこのツマミの量だな。フライドポテトだが、山盛りだ。しかもちょっとシナッてなってる。

 

 

「フライドチキンがよかった? 流石に、この時間じゃ売ってる所が無くてね」

 

 

 フライドポテトは売ってたんかい。ま、いいけどね…。こんなご時世になっても、アメリカは何かとサイズがデカかった。

 

 

 

 

 

 

 

 具体的にはおっぱいもお尻もビッグサイズで、腰の動きもダイナミックだった。

 



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361話

PCの不調、とりあえずは直ったようです。
スタートアップの修復が有効だった模様。
3万くらい余計な金使ったけど、とりあえず直ったからよしとする。
代わりに妙に動作が重いから、色々無駄な物とか削っていかねば。

ダクソ3、とりあえず簒奪者エンドまで到達して、リマスターに移りました。
無名の王へのリベンジができてないのが癪ですが。

…と思ってたら、モッサリ感が半端ないですな。
騎士から初めて、ドッスンローリングだからかもしれませんが、避けにくいったらありゃしない…。
3の動きだったら、最初のボスのデーモンは多分初見突破してました(負け惜しみ)
今後は3とリマスターを交互にやっていきたいと思います。

それはそれとして、乗り遅れた感はありますが、暇潰しにやってみた空へ落ちるゲームがかなり新感覚。
アトリエと並んで購入を検討しています。
ダクソで荒んだ心を癒すんだ…。



神産月

 

 今朝方、お肌ツヤツヤ、腰回りも充実した雰囲気のケイは、「今度会った時は、本気でシてね♪」とキスをして去って行った。

 すぐに離れる事になるんで、中毒症状とか出たりしないように手加減しておいたが…見抜かれてたか。

 

 さて、血の力を扱い、黒蛛病に犯された土地を浄化するのが今回のライブコンサートの目的な訳だが…。結構宣伝されてはいるが、やはり疑いの視線が強いようだ。

 そりゃそうだわな。治療不能で、進行すれば確実に死に至る病を、歌で治すと言うのだ。どんな奇跡の話だよ。

 ベーブルースでも連れてきた方が、まだ可能性はあるだろう。

 

 

 ま、あんまり疑われるのも癪なんで、とりあえず黒蛛病患者の病棟に行って、病状が酷い人を数人治しました。

 研究者だか医者だかがどよめいていたが…おい詰めかけてくるな、専門用語は分からないって!

 我も我もと押しかけてくるな! 気持ちは分かるが、あんまり大勢一度に治すと、俺が黒蛛病になる(という設定)んだよ!

 

 

 …ふぅ。とりあえず、患者達の意識は変えられたかな。

 最初に見た時は、諦観と言うかどうにもならないって意識が根付いてたみたいだった。今回のライブだって、黒蛛病が治る、軽減されると言うのはデマで、どうしようもないからせめて慰撫しよう、という意図で企画されたものと思っていたようだ。

 

 これは後から聞いた話だが、「そんな慰めなんか必要ない、そんなので誤魔化されない」とゴネていた患者が数人いたらしい。今回のライブだけじゃなく、色んな事に対してな。

 それが、目の前で黒蛛病が治るのを目撃して、「ひょっとしたら」と意識が変わった。随分素直になったようだ。

 

 

 さて、それでは当のアイドル達はと言うと。

 

 

 

「朝餉にらぁめんを所望します」

 

「一杯だけ、一杯だけですから…」

 

「フヒヒヒヒ、リカぁ…」

 

「ちょっ、起きろミカ! 私はお前の妹じゃないって!」

 

 

 …ダメだこいつら! 仕事になれば切り替わると思いたいけど、それ以前の理由でダメだこいつら…。

 朝っぱらからラーメン、酒、締りの無い顔で妹に縋りつく姉(実際にはアンチョビにしがみついてるが)。欲望に素直な連中だなぁ…。

 

 日付変更線を超えるくらい移動したんだから、体内時計が狂うのは仕方ないと思っておくが。

 とりあえず、全員引き摺っていくか。

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず朝飯は済んだ。量が矢鱈多かったが、食いきれない分は俺とタカネで処分。

 それだけ食ったにも関わらず、ラーメン店へ突撃しようとするタカネを止める。まだ営業してないっつの。

 

 カエデさんの駄洒落に微妙な空気になりつつも、何とかステージの控室まで到着した。

 何が厄介だったって、やっぱりマスコミだ。会場に入る時を狙ってインタビューしようと突撃してくる。人目は避けて移動したし、そもそもアメリカゴッドイーターの皆さまが警備しているというのに、カンだけで近付いてくるんだから…。

 

 そして、ステージの状況はと言うと…おーおー、随分な観客で。

 客席は7~8割が埋まっている。…一角だけ妙に空きがあるのは、黒蛛病患者の席と隣接している部分だ。…あまりいい気分はしないが、俺だって接触感染のある患者に好んで近付こうとは思わんからな…。責められん。

 

 

 

「……開祖様…なんか、緊張してきました。自分が出場する訳でもないのに」

 

 

 ん、アンチョビ。気持ちは分からんではないよ。俺だって、不安と期待でドキドキしてるし。

 極東じゃアイドルブームもあって、超がつく程盛り上がったが…海外だとどうかな。通じるだけの実力はあると思ってるけど、偏見や嘲りを捻じ伏せるのは何よりも難しい。

 

 さて、もうすぐ出番だが…ミカは?

 

 

「もう着替えて、控室で瞑想してました。血の力が漏れ出てましたよ」

 

 

 またか…。そこまで来てるなら、いつ体得してもおかしくないんだけどな。むしろ、そこで足踏みしてるのが不思議なくらいなんだよなぁ。

 何が足りてないんだろ…。考えてみれば、リンも同じ状態だった。

 

 …済し崩しにリンを抱いたけど、結局アレでも血の力は発現しなかったんだよな。あの時は、目覚めさせようとして抱いた訳じゃないから、無理もないっちゃ無理もないが。

 

 

 

 タカネとカエデさんは?

 

 

「ようやくアイドルモードに入ってくれました…。本当に自由ですよね、あの二人。……ライブツアーについてきたのは、他の皆と距離を保って、自立できるようにする為でもあったのになぁ…」

 

 

 カエデさんに関しては、それは達成できてないなぁ。物理的にもうちょっと距離を作らなきゃならんだろうか?

 しかし、そうなると当のカエデさんがちゃんと生活できるか怪しくなってくる。

 そうなると、アンチョビもついつい面倒を見てしまう訳で。難儀な話よのぅ…。

 

 

 さて、俺もそろそろ動くとするか。

 

 

「? 動くって…ステージ、見て行かないんですか? と言うか、開祖様が何処かに行くなら、世話役の私も行かなきゃいけないんですけど」

 

 

 荒事になる可能性もあるから、アンチョビはここに居な。

 タカネ達の歌が、この辺の植物にどう影響を与えるのか、確認しておきたいんだよ。近場に、黒蛛病に汚染された地帯がある。上手く行けば、歌でそれを浄化できるかもしれん。

 ちなみにその辺り、まだアラガミがウロウロしてるから、自分の身を守れないとついてくる事もできないぞ。

 ライブを見れないのは残念だが、一応こっちも仕事でな。

 

 ああ、何かあったら、この無線使って連絡しろ。ここのボタンを押して、マイクに喋ればいいように設定しておいた。

 

 

「…分かりました。お気をつけて。……是非とも成功させてください。そうすれば、私が想像してたアメリカの光景も戻ってくるかもしれません」

 

 

 成功するかどうかは、俺じゃなくてタカネ達次第だな。

 

 

 

 

 

 そういう訳で、ライブ会場から抜けてきた。…何だかんだで、毎回ライブを見逃してるな。映像データは貰ってるけど、それじゃライブ…と言うかナマとは言えないし。

 

 …なるべく早く片付ければ、戻ってライブを見れるか? …無理だな、最低でもタカネ達のステージが終わるまでは、現場で状況を調べなければいけない。

 前座扱いのミカのステージも含め、予定では2時間半、上手く盛り上がれば延長されて3時間超が想定されている。

 それまでは、こっちで邪魔なアラガミを狩りつつ、現地調査…か。

 

 

 

 

 

 

 …はい、ちょっと時間は飛んで、約1時間後。うーむ……何と言うか……暇だ。

 いや、やる事自体はちゃんとやってんのよ。調査の邪魔になるアラガミを駆逐し、その土地の状況を調べる。

 

 …なお、この1時間の内訳は、40分が移動、5分が狩り、15分が調査だ。アメリカって本当に広いな…。畑の端から端に歩いて移動すると、物凄い時間がかかる。北海道以上の広さは伊達じゃない。

 

 しかし、改めて調べてみると酷いもんだな、これは…。黒蛛病に犯された土地、畑。一見すると普通の畑に見えるのだが、よく見てみれば根本は黒ずんでおり、葉や実のあちこちに黒い斑点が出来ている。

 鬼の目で見てみれば、異常は一目瞭然だ。地面から、草木から、微量の霊気が立ち上っている。それが降り積もって…いや立ち上ってるんだから、この表現はおかしいな。とにかく、溜まりに溜まって霧のように漂っている。ロンドンもビックリの、毒薬マシマシのスモッグだ。

 こんなトコに入り込んだら、あっという間に霊力に犯されて重体になるわ。討鬼伝世界の異界並の瘴気だぞ、コレ。

 

 

 しかし、妙と言えば妙だな。

 ここらの畑には、物凄く酷い黒蛛病が広まっているのに、少し離れた場所の畑ではそうでもなかった。人間同様、赤い雨に触れて黒蛛病に感染するのなら、僅かな距離でこんなにも差が出るものだろうか?

 こっちは赤い雨にひどく当たって、あっちは当たらなかった? …雨雲と風の流れ次第では、確かにそういう事もあるかもしれんが…。

 

 いや待てよ、赤い雨を浴びた植物だって、必ず感染する訳じゃないだろう。緑に覆われた極東がその証拠だ。殆どはMH世界の植物だが、昔からこの世界にあった植物も、多少は繁殖している。赤い雨が降った後も、あの辺りの植物に黒蛛病は発現しなかった。

 …発病するのに、或いは悪化するのに、何か条件があるのか?

 

 

 

 うーん………お?

 

 

 …畑の様子が少し変わった。霧のように漂っていた霊力が、徐々に動き始めている。

 風に流されたのではない。どちらかと言うと、これは…鬼祓で鬼の部位を消し去った時のような…。

 

 

 ああ、そうか。タカネとカエデさんの歌が始まったのか。

 血の力の波長を感じる。会場は、どうやら多いに盛り上がっているようだ。ここまで歓声が響いて来る。

 その歓声に、血の力が乗っているようだ。

 

 ああ、成程。自分達の声だけでは血の力の及ぶ範囲が狭すぎるから、タカネが観客まで同調して増幅させたんだな。

 何気に俺にも出来そうにない事を、サラッとやってのけている。彼女達の血の力の特性なのか、タカネが上手くやっただけなのか、それともアイドルのライブという状況が関わっているのか。

 

 おうおう、漂っていた霊気の霧が晴れていくわ。稲穂のあちこちにあった黒い斑点も消えていく。…あ、消えないのが……なんだ、これは黒蛛病じゃない自前の病気っぽい。

 見る見る内に、視界が本来の金色の野の姿を取り戻していく。大神降ろしのような光景だな。あくまで霊的な視点で見ればであって、物理的には全く変わってないんだろうけど。

 

 

 ……うん? 地面から、浄化された力が溢れ続けている…。いや、違う。地面の下に、大量の霊力が溜まっているのか。

 地下に、霊力を貯め込むような何かがあるのかな…。

 

 そう言えば、極東の植物も赤い雨に晒されてるけど、こんな風に感染はしてないよな。地下にある霊力が長時間影響した事で、この畑に黒蛛病が広まったのかもしれない。

 

 

 肝心の地下に何があるかは、掘ってみない事には分からないが…流石に時間が足りない。結構深い所にありそうだ。

 

 

 

 そろそろ戻らないと、ライブが終わるな。一端引き上げるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 途中で出会った、アメリカゴッドイーターの一人…昨日一緒に戦った人だな。に、畑の地下に何かあるのか聞いてみた。

 

 

「地下に何があるか? そりゃあ…土だろ? 後は、化石とか、木の根っことか、モグラとか。ああ、水もあるよな。この辺には川もないから、地下水を組み上げて使ってるんだぜ」

 

 

 詳しいっすね…へぇ、ここらが地元? このライブで、本当に畑の黒蛛病が治るのを期待している? …ああ、完治はどうか分からんが、大分効果はありそうだったぞ。

 

 しかし、水…地下水か。関係ありそうではあるなぁ。今までの例を鑑みても、水脈やら地脈やらが関わっていたケースは幾つもある。

 流れる水は穢れを清める力があるが、淀んだ水は穢れを貯め込みやすいから、血の力をそれだけ吸収して毒水のような性質を持ってしまったのかもしれない。

 

 うーん…でも、なんか違和感があるな。単なる地下水なら、俺の感覚に引っ掛かると思うんだが。そりゃ確実じゃないが、地面の上から「あ、この辺に水脈が流れてそう」って程度には分かる。それが全然引っ掛からなかったんだよな…。

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、ライブ会場まで帰って来た。畑を観察して分かった事は、後日レポートにして報告するとして…。

 うーむ、会場まだ盛り上がってんなぁ。暴動になったり、アレな人種がステージや楽屋裏に乗り込んだりしないよう、警備の皆さんが目を光らせているようだ。延長も視野に入っていたとは言え、これ収集つくのかな。

 

 アイドル3人、通じるだけの実力はあると思ってたが、これ程熱狂させるとは…。アメリカ人の民族性か? ハリウッドやブロードウェイの輝きを思い出したのか?

 そうだとしたら、アイドルの本懐達成…かな。タケウチ社長も言ってたが、このご時世に皆を笑顔に変える事、活きる活力を湧き出させる事。それが何よりも重要な事だろう。  

 

 ま、とりあえず幸先のいいスタートダッシュが切れたって事か。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな熱狂とは裏腹に、ステージ裏に居たアンチョビは妙に憂いた顔をしていた。

 熱狂が伝わってくる…と言うよりは、『アンコール!』の大連呼で空気がビリビリするなぁ。既に期待に応えようとスタンバっている3人を見ながら、アンチョビは手を握りしめていた。

 …熱気に当てられたか。

 

 

「…あ、開祖様…」

 

 

 おう。別にいいんじゃないのか、今から参加しても。あの3人も拒まないし、合わせられるだろ。

 

 

「いえ…。そうだとしても、今の自分じゃ足を引っ張るのは避けられません。ユニゾンできても、それじゃ私自身が許せない」

 

 

 ……プライドか、意地か…。まぁ、ここで飛び出して、失敗ならまだしも大成功しちまったら、アイドル勢からの信仰化待った無しだからな。

 冗談抜きで拝まれて、ご利益に肖ろうとブロマイドとか持ち歩くようになりそうだ。

 

 

「うぐ…それもあった…」

 

 

 頭を抱えてしまった。…それでも、今からでも飛び入りで参加したいという思いは禁じ得ないようだ。

 …ま、今回ばかりは抑えておけ。こっから先は、ミカのスペシャルライブになりそうだからな。

 

 

「ミカの? 確かに凄いけど、レベルで言えばあの二人程には………!?」

 

 

 気づいたか。

 …血の力、覚醒したようだな。いや、血の力だけじゃない。明らかに、アイドルとしても急激に成長している。

 俺は批評家じゃないが、頑張ってるあの子達を近くで見てたからな。雰囲気が大きく変わったのがよく分かった。

 

 どう、と明確には言えないが…見た目も、声も、表情も、どれも同じ筈なのに、より輝かしい印象を感じ取れる。

 …ああ、綺麗だな。

 

 湧き上がる血の力の勢いが、ミカ自身のテンションが上限突破している事を教えてくれる。下手をしなくても、もうトランス状態だろう。冗談抜きで、神降ろしみたいな状態になってても不思議はない。

 このままだと、突っ走るだけ突っ走るな。精根尽き果てて倒れるまで。それだけレベルアップするだろうが…。

 

 

 

 …いかんな、はじめの一歩の鴨川会長の気持ちが分かるわ。ミックスアップってきっとこんな感じだ。

 俺が育てた訳じゃないが、関わりのあった子がこうも急成長する…。見惚れるのも当たり前だ。

 

 

 …当たり前だが…これ以上はならぬ。血の力を勢いのままに噴き出しているので、負担も凄まじい事になっている。

 

 

 …おい、タカネ。

 

 

 

『ええ、聞こえていますわ。この子を止めるのですね。正直に言うと、少々興味が湧いておりましたが』

 

 

 タカネがそう言うのは珍しいな。犬猫が思わぬ芸を披露したから、もう少し見ていたいと?

 

 

『…どうでしょうね。少しばかり違う気がします。とは言え、このまま続けて、舞台の中で倒れられても興覚めです。舞い踊るのは楽しい事ですが、刻限もよい頃合い。幕引きと参りましょう』

 

 

 タカネは歌と動きを切り替える。同時に、花火のように光り輝いていた血の力が、今度は優しく降り注ぐ雨音を連想させるような色になった。

 曲も同様に変化して、昂った心と体を、ゆっくりと鎮めるような曲。

 

 それに気付かず、ミカは次の曲に移ろうとしたが、背後からカエデさんがこっそり口を塞ぎ、黒子のような動きで飛び出してきたアンチョビがササッと舞台裏に引っ込んでいく。

 …文句を言うかと思ったら、口を塞がれた時点で気絶していたようだった。

 

 

 …いや、気絶と言うよりは、眠らされたのかな。タカネから放たれる血の力は、精神を落ち着ける効果があるようだ。落ち着ける…と言うよりは、緊張やテンションの糸を叩き斬るような事になっちゃったが。

 こうして聞いているだけでも、ゆっくり夜の中を落ちて行って、その底にある暖かいベッドに埋まるような気持ちになってくる。

 大いに盛り上がっていた観客も、お休み前のママの子守歌でも聞いているような状態になっていた。

 

 

「…やっぱり、凄いですね。タカネさんは」

 

 

 それについて行けるカエデさんも心底凄いと思うけどね。アイツのアレは…まぁ、産まれの問題と言うか、一種の反則技に近いし。俺が言うのもなんだけど。

 

 

「反則なんてありませんよ。それを言い出したら、血の力だって反則みたいなものですよ」

 

 

 む…そりゃそうか。

 

 

「開祖様、それより手伝って…。流石に人間一人は…」

 

 

 おお、悪い悪い。ゴッドイーターでもないアンチョビには、気を失った人間を運ぶのは辛いか。

 ほいっと…。控室でいいかな?

 

 

「意識が無くても、最後までここに居させてあげたいんですけど…汗だくですからね。このままだと風邪を引いちゃうんじゃないかってあせってます………ふふっ」

 

 

 …相変わらず反応に困るトコで駄洒落を言うな。

  まぁいいか。アンチョビ、一緒に来てくれ。汗を拭くくらいならできるが、ちょっとデリケートな所も拭かないと。

 

 

「そういうのは慣れてますから、運ぶだけ運んでくれれば後は…」

 

 

 …うん、そうなんだけどね。汗だくのミカが妙に色っぽくてね…いや何でもない。とにかく行こうか。

 ………体が敏感になってるのか、運ぶために触るだけでもピクピク動いてた。理性がメッチャ削られた。

 

 

 

 

 アンチョビにミカの世話を任せ、控室の外で待っていると、ステージを終えたタカネとカエデが戻って来た。

 おう、お疲れさん。…タカネは汗一つ掻いてないなぁ。

 

 

「ええ、あの程度の運動では息も切れません。…貴方は、汗を掻いた方がいいようですが」

 

 

 そこは状況次第かなー。単に汗掻いてるだけじゃ、あんまり面白くないし。

 ところで、ステージはどうなった?

 

 

「タカネさんの歌の後は、もうアンコールはありませんでした。拍手もすごく静かな拍手でしたね。…スタンディングオベーションでしたけど」

 

「泣いている方も居ましたわ」

 

 

 スタンディングなのに静かなのか。いや、思いっきり手を叩いて騒ぐか、静かに感動を表すのかの違いだろうけど。

 そこまで行くと、感極まって卒倒する人も出てきそうだなぁ。

 

 

「お、お待たせしました…」

 

 

 部屋の中からアンチョビが顔を出す。ミカの汗拭きが終わったようだが…どうした、顔が赤いぞ。

 

 

「いや…その…予想外のところがちょっと、アレだったんで…キカナイデ…」

 

 

 …聞かなくても分かっちゃうんだよなぁ。

 汗だくだったミカから漂っていた、特有の匂い。メスの匂い。

 ウルトラハイテンショントランス状態だったミカは、どうやらエクスタシーの領域にまで行っていたらしい。

 体を拭ていたアンチョビは、漂ってくるフェロモンに思いっきり当てられてしまったようだ。

 

 ま、無理もないな。小娘のクセに、年齢に見合わない体してるしなぁ…。 

 とりあえず、カエデさんが一息ついたら、ホテルまで引き上げるとしましょうか。

 また隠密行動になるな…。

 

 今朝や昨晩も報道陣がホテル近辺で待機してたけど、今の注目度は跳ね上がっている。

 お行儀のいいマスコミだけじゃなく、マスゴミ、不埒な考えを持つ連中にも注意しないと。

 




リマスターをプレイ中、ふとネタが浮かんだので執筆中。
別作品として、2~3時間後に投稿予定です。
R-18タグ付きですが、細かい描写はありません。

ここの主人公が、いつもの夢を見る外伝ではありません。
いや設定上そうできなくもないのですが、別物として書いています。

一話目は書きあがりましたが、今後続く見込みは…低いなぁ。
展開に詰まっていても転生輪が優先ですし、リマスターのプレイ印象を元に執筆するので、リマスター一区切りクリア後かつ転生輪が充分書き溜めがある時のみ執筆と言う形になりそうですし。

以前からの課題であった、中編で終わらせるという練習には丁度いいと思うので、ゆっくりノンビリ飽きるか心が折れるまでは続けようと思います。


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362話

farさんの『我輩は〇〇である』を推してみる。
今は北斗の拳の新作を書かれておられるが、個人的にはまだこちら。
『それでも我輩はネコである』から入ったが、軽妙かつ読みやすい文章、分かりやすくネタを突っ込むタイミングと不自然でない解説、いいカンジに原作をひっかきまわしつつも違和感を感じさせない。
某理想郷のオリ―シュにも通じる印象でした。

…新作を読んで、モヒカンを率いる姿を想像する時、BGMがワンダフルワンダブルオーになっているのじゃが。

どんなの読んでるのかな、と思って情報を覗かせていただいたら、拙作がお気に入り状態になってて驚いた。
ありがとうございます! ありがとうございます!


…ところでエロゲ脳の方ですが、狩りゲーが行き詰っている事もあり、ついついそっちを書いてしまいます。
長くても中編で完結させるつもり。
ダクソリマスターの1ステージ分=1話で書くつもりなんですが…うーむ、どこからどこまでを1話と考えるべきか。
攻略ページの1ページ分=1話とすると、番外編まで含めると30話ちょっとか…。
少し多い気がするし、初挑戦だから攻略ページはあんまり見たくないんだよなぁ…。


神産月

 

 報道陣や不埒な事を考える者も多いが、それ以上に親衛隊が増えたようだ。

 ホテルの近くで、警備と称してウロウロする者が数人。…こう書くとストーカーのような印象を受けるが、マスゴミや不埒者を何人か捕まえたらしい。まだ一晩も経ってないのになぁ…。

 逆に不埒者の発生源になりそうな印象もあるが、とりあえずはいいか。どうせ、このホテルに留まるのもあと数日。

 今日はお休みで、明後日はもう一回ライブ。そして次の国に出発、という予定である。

 

 

 

 そして、休日である本日の予定はと言うと。

 

 

「う~~~みだ~~~~!!」

 

 

 海じゃなくて五大湖です。何処なのかよく分からんけど。

 …ともあれ、リカの強い希望で、海水浴に来ています。

 

 うむうむ、眼福眼福。リカのちょっと背伸びした水着の中の、そのまたナカで、俺のドロドロした欲望がタップリ貯めこまれていると思うと、猶更ね。

 

 勿論、眼福なのかリカだけではない。

 リカを見て、フヒヒヒヒヒと変質者のような笑いを漏らしている、全身疲労で今日はちょっと動けそうにないJK(っぽい)アイドル。

 白い水着に身を包み、しかし両手にはキンッキンに冷えたビールを持って、真昼間から早速一杯飲んでる25歳児アイドル。

 

 更に、水着を着てても、見知らぬ地でも、言葉が通じなくても、平然と好き勝手に動き回るチームアンツィオの面々、何かしでかしそうな彼女達を必死こいて諫めるアンチョビ。

 ちなみにペパロニ嬢ちゃんは、何処からともなく調達してきた屋台で、いつも通りに飯屋を始めていた。

 そして、そのド真ん中に陣取り、大量に作られたラーメンを啜り続けるタカネ。…水着だけど、ラーメン食いながらじゃあんまり色気ってものが…。健康的な美は感じないでもない。

 しかしそれを言うならば、『火力は極東料理の命!』と言わんばかりに、特級厨師並の火の扱いを見せるペパロニ嬢ちゃんの方が色っぽい。残念美人なカンジはするが、汗水垂らして働いて、皆を笑顔にする彼女には色気よりも尊さすら感じるよ。

 

 

 …俺? 俺も一応水着だけど……水着っつーか、潜水服かな。

 一応、海中の安全を確認しないといけないから。海の中にだって、アラガミは居るのだ。

 

 そう言えば飛行機から海を見下ろしていた時、とんでもなくデカい…と言ってもナバルデウス程ではないが…アラガミっぽい影が見えたな…。クラーケンみたいだった。………アレが襲ってきたら、西洋人はパニックになりそうだなぁ…デビルフィッシュだもんなぁ…。

 

 

 

 

 それはともかく、水中の安全は確保完了。アラガミが居なかったのは、元々なのか、アメリカンゴッドイーターの皆さまが頑張ったからなのか。

 今も密かに警備についているが、視線の行き先を考えると盗撮疑惑が湧くな…いや相手が相手だから無理もないが。え? 一番視線を集めてたの? …天然で理性にダイレクトアタックをかけてくるロリ小悪魔だよ。

 ジャレ付かれている俺が、嫉妬の目線を一身に集めています。心地よいのぉw 朝っぱらからリカとズコバコやった後だと思うと猶更w いっそ泳ぎの練習と言い張って、海の中で本番やったろかw …いややらないけどね。流石に気付かれるし、体内にまで海水はマズかろ。

 

 まぁ、割と真剣に理性が揺らいだのは事実だが。しゃーないやん、あんなの来たら。

 

 

 …昨晩…いや、時間帯的に、向こうで夜なのかは疑問の残る所だが、ホテルに設置してあるターミナルにアクセスした時、俺のアカウントにメールが来てるのに気付いたんだ。

 画像データが添付されていて、アドレスは見知った物。タイトル未記入と言う、微妙な怪しさだ。

 ウィルスの類が入ってないのを確認して開いてみると…。

 

 

 

 

 『あなたに虐められたくて、毎晩体が疼いています』

 

 

 

 

 ………まさか3日程度で、こんなメッセージが届くとは思わなかった。しかも自画撮り、無論R-18…いや、まだ15くらいか? レアめ、ツボを付いた媚び方してきよってからに。

 お返しに、画像を見て大きくなったナニの写真を送り返してあげた。オカズにするヨロシ。

 

 このまま話を続けるとエロ語りに入ってしまいそうなので、自重する。

 話を戻すが、水着でビーチだと言うのに、海に入っていくのはリカくらいだ。ちなみに、タカネ以外は全員泳げなかったりする。ま、プールを使えるような機会なんてない世界だからね。仕方ないわ。

 

 リカも海に突っ込んでいったはいいが、泳がずに水辺でパチャパチャ飛沫を立てて遊んでいる。

 さって、俺は何をしようかね。真昼間から酒もいいもんだが、折角ビーチに出たんだしな。何かそれっぽい遊びをしたい……を?

 

 

 おーい、リカ、ちょっとこっち来て。伝統的な遊びをしよう。

 

 

「伝統的な遊び? なーに?」

 

 

 うむ、コレだ。

 ふくろ の中から取り出したのは……スイカ。ウォーターメロンとも言う。無論、MH世界産なので普通のスイカじゃない。……3つ揃うとコインやパチンコ玉が出てきそうな気がするが、それは多分錯覚だ。

 

 

「スイカ…。これで何をするの? ビーチボール?」

 

 

 スイカでビーチボールとか斬新だな。そうじゃなくて、スイカ割って聞いた事ないか?

 極東じゃ伝統的な遊びなんだが……そういや、外国ではどうなんだろ。

 おーい、通りすがりのそこのにーちゃん、アンタこの遊び知ってる?

 

 

「あ? …いや知らないよ、そんな遊び。大体、何だその実? ていうか、美人の女の子にばっかり囲まれて、アンタ俺の敵だ」

 

 

 

 スイカを知らんのか。そこからか…。

 しかし敵だと言うなら、別に仲良くする必要は無いな。これから皆と一緒に遊ぼうと思ってたが、参加したくもない訳だ。

 

 

「待て待て待てブラザー、その実はきっと平和と友好の象徴だろう? だったら昨日の敵は今日のブラザーだ。一緒にその遊びをしてみよう。だから俺にあの子達を紹介してくれ」

 

 

 …アイドルだって事には気づいてないのかな。それとも、先日のライブには来なかった人か。無駄に陽気な笑顔が眩しい。

 まぁいいや。シートを敷いて…。

 おーい、遊びたい奴、スイカ食いたい奴はこっちに来い。見事当てた奴には、ちょっと多めにスイカをやるぞ。

 

 

「フヒヒ…じゃなかった、どしたの? …スイカ…割り?」

 

「聞いた事はありますね。確か、戦いの前に行われる儀式で、生きた人間を埋めてその頭を叩き割る…とか」

 

「私は、海運や漁業の成功を祈って、海の神への捧げものとする儀式…と聞き及んでいます」

 

「なんすかなんすか、何か面白い事やるんすか?」

 

 

 おう、ぺパロニの嬢ちゃん。飯屋はちょっと休憩して、チャレンジしてみろ。

 まず目隠しをする。

 

 

「こうっすね!」

 

 

 いや手で隠せとは言ってない。こうして布で目を塞いで…。

 

 

「これじゃ何も見えないっすよ」

 

 

 更にこう回す。

 

 

「あ~れ~っす」

 

 

 よいではないか、よいではないか~…うん、このネタ知ってる人、この世界にどれくらい残ってるかな。

 そして、この棒を使って、置いてあるスイカを叩き割るんだ。

 

 

「割れって言われても、どっちにあるんすかー!?」

 

 

 で、他の人達はスイカのある方向をペパロニに教えてやれ。

 尚、デマカセ言っても構わないぞ。

 

 

 …デマカセOKの許可が出た瞬間、猛烈な勢いでチームアンツィオが騒ぎ出す。

 

 

「ぺパロニ、真っ直ぐだ!」

 

「いや後ろに5歩下がるんだ!」

 

「そのまま焼きそばを作ると、スイカの方からすっ飛んでくるぞ!」

 

「あっ、スイカが動き出して海に泳いでいく!」

 

「あっ、今ネッシーが通り過ぎた!

 

「ペパロニの足元にハシビロコウが!」

 

「後ろにS子さんが!」

 

「おおっ、姐さんがステージの練習だって驚異のスペシャルテクニックを!」

 

「未確認飛行物体が空を埋め尽くしている!」

 

「こらペパロニ、スイカ割りしてるんだから目隠しを取っちゃダメだぞ!」

 

「ペパロニが作ったパスタが、愛情が籠り過ぎて動き出したぞ!」

 

「えっ、ちょっ、ドゥーチェ! どうなってんすかドゥーチェ!」

 

「ペパロニ、迷った時は中道を行きなさい…」

 

「中道ってなんすか!? 道の真ん中はどっちっすかぁ!?」

 

「うおっ、パレードが横切っていく!」

 

「でっかい山車もあるぞ! キラキラでギンギンでラスボスみたいな衣装が浜辺を滑っていくぞ!」

 

『その水着脱いだら本当の事を教えへぶっ!?』←英語なのでペパロニは理解していません

 

『外国から来たお客さんに、アメリカの恥を晒すんじゃない!』

 

 

 

 アンチョビが海水浴に来た聖人みたいな事言っとる。…表情は、明らかに面白がってたけども。面倒見のいいアンチョビも、こいつらの纏め役で苦労してストレス溜まってんだろうなぁ…。偶に意趣返ししても許されるだろう。

 と言うか、お前ら嘘を教えてもいいって、そーゆー意味じゃねーから。確かに本当だったら何が何でも見たい光景だろうけど、そーゆー嘘教えるんじゃねーから。

 

 ペパロニはパニックに陥ったのか、『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?』なんて女の子が出す声じゃない音を響かせながら、とにかく棒を振り回していた。

 

 

 …あ、アンチョビに突っ込んでいった。

 

 

 

「て、適当言ったのは悪かったが、凶器を振り回しながら突っ込んでくるなよ!」

 

「あははは、ついノリ…じゃなかった、パニックになっちゃって」

 

「お前は料理以外はいつもパニックしてるようなものじゃないか…」

 

 

 何やらかすか分からない子だ…。

 

 

「でも、意外と面白いな、このスイカ割りっての」

 

「割れてないよ?」

 

「割ったら終わりになっちゃう訳っすね。ペパロニが右往左往するのは見てて面白かった」

 

「いかに上手に嘘をつくかの遊びなんだな…」

 

「そしてその嘘を見破って、見事スイカを割った人の勝ち。見破られないように誘導して、スイカを防衛すれば観客の勝ちと言う訳ね」

 

 

 ああうん、もうその認識でいいよ。間違ってるとも言い切れないし。挑戦者を如何にからかうかも、この遊びの醍醐味だしな…。嘘の方向性がかなりアレだったが。

 おし、次の挑戦者誰だ?

 

 

「うーん、あたしは嘘ついて眺めてる方が」

 

『あ、俺やっていい?』

 

 

 通りすがりのにーちゃん、日本語分かるなら止めないけど。

 

 

「いやちょっと待った! ここはアタシが指名するっす! メッチャ遊ばれたから、今度は遊ぶ側に回るっすよ!」

 

「あー、失敗したら次の人を指名するってパターンね。いいんじゃない? ただし、前にやった人はなるべく避けるようにね」

 

 

 あ、俺からも追加条件。俺とタカネは、挑戦者側は禁止な。目を閉じてても、空気とか匂いとか音とかで、すぐ分かるから。

 

 

「少々つまらないですが、仕方ありませんね。事実、やろうと思えば一歩も動かず、指先から出す衝撃だけで粉微塵にできますし」

 

「アイドルとは一体」

 

 

 そいつは色々例外個体だから気にするな。まぁ、アイドル達が目覚めた血の力を戦闘方面に成長させれば、そう難しい事じゃないが。

 俺なんて、予めマーキングしておけば指パッチンで内側からドカンと行けるぞ。「ただし、真っ二つだ」も可。

 まーそれはともかく、ペパロニ、指名は誰だ?

 

 

「ドゥーチェ! …といいたいところだけど、ここは一つ、カエデさんにお願いするっす!」

 

「えっ、私?」

 

「ここは一つ、アイドルパワーを見せてほしいっすよ! ささっ、どうぞ一発!」

 

 

 有無を言わせず(手に持ったビールを奪い取り)棒を握らせ、妙に手際よくクルクルクルクル……。

 止まった時には、カエデさんは完全にフラフラ状態になっていた。ああ、アルコールと回転でより一層目が回ったのね。

 

 

 そして、あまり接点のないアイドル相手にも、平然と無茶なウソを言ったり、『次でボケて!』なんて言って凍り付くような駄洒落を返されたり。

 最終的には、『何故その嘘を信じた』と突っ込みたくなるような言葉に従って、走ってコケてアンチョビに突っ込んでいった。棒を避けて、体を張ってカエデさんの体を受け止めたアンチョビ、褒めてあげよう。

 

 続いて、手を挙げまくって立候補した通りすがりのにーちゃんは、アメリカゴッドイーターの皆さまがこれでもかと言う程煽って囃し立て、嘘に乗せられて目隠しを取って失格。

 次点にリカが指名されたが、全身疲労状態では棒を持つ事すら難しく、冬まで生き延びた蚊のようにフラフラフラフラ…リカのデマカセの声を信じて進み、その途中でアンチョビに向かって倒れ掛かった。

 更に続いたリカは、ようやく自分の番が回って来たと超大張り切り。野生のカンなのか、GKNG幹部としてスイカの呼び声でも聞き取ったのか、かなり正確にスイカまで辿り着いた。もう決着か…と思ったら、思いっきり振った棒がスッポ抜けて、アンチョビを掠めていった。…結果はどうあれ、失敗。硬直しているアンチョビの頭を、ポンポンして慰める。

 次の挑戦者のカルパッチョは……うん、水着でポヨンポヨン揺れる胸が眼福だった。おっぱい大きい子は他にも沢山いるんだけど、この子ってば無意識になのか、胸が揺れる動きしてんなぁ…。声に従って右往左往したあげく、やっぱりアンチョビを追い回していた。

 肩で息をするアンチョビにお構いなしに指名されたアメリカゴッドイーターの人は、アメリカ人らしくなく小技を使った。具体的には、棒を掲げるのではなく足元に突き出し、レーダー代わりにしてスイカを探し当てようとした。コツンと当たったのは、スイカではなく防波堤だった。思いっきりフルスイング(横)で殴りつけると、跳ね返ってやっぱりアンチョビに向かって棒が飛んだ。

 

 

 どういう訳だか、棒が必ず自分にすっ飛んでくると悟ったアンチョビは、俺を盾にして、いつも持っている……指揮棒? いや鞭? を構えて警戒していた。飛んで行った棒が、風に流されてブーメランみたいにアンチョビを襲った。流石に掴んで止めた。

 

 今度はアンチョビが指名され、自身が挑戦者として棒を持つ。流石にこれで心配はないと思いたいが、油断はできない。

 

 

 

 海岸がドゥーチェコールに包まれ、スイカ割りとかどっか行ってしまった。…うーん、特別難易度として、ジャイアントスイングで回しながらスイカから引き離し、海辺まで持っていったんは悪かったかな? 足元が湿っている事で気付かれて、アンチョビにポカポカ叩かれた。

 

 結局、いつまで経ってもスイカが食べられない事に業を煮やしたタカネが、超難易度・俺がスイカを投げ上げると同時に、目隠ししたまま高速乱回転垂直ジャンプしつつポーズを決め、擦れ違いざまに鈍器である筈の棒を振るって、しかし一切触れずに真空波(っぽい血の力?)を使って賽の目状に切り刻む事で決着に至った。

 うむ、切り分ける手間は省けたが、やはりスイカ割りは叩き割らねばな…。これじゃ包丁使って切ったのと同じじゃないか。

 まぁ、参加者達は喜んでたから別にいいけど。

 

 ちなみに、タカネはニンジャアイドルとして認識されたようだった。

 

 

 

 ま、散々遊んで、盛り上がって、スイカも食ったから、結果的には良かったかな。

 他に書き記すべき事があるとすれば……ああうん、最後に一つあったな。

 遊びに遊んで、夕方。海(湖だけど)に夕日が沈んでいく、何ともノスタルジックな光景の中。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲って来たよ、デビルフィィィィィッシュ! アメリカゴッドイーターの皆さまが大混乱だ! クラーケンじゃなくて、タコ型だったがな! そのまま狩ってタコ焼きにしてくれる! アンチョビ嬢ちゃん、料理の準備をしておけぃ! 

 

 

 

 取り敢えず仕留めたが、アラガミだったのか天然の巨大生物だったのかは分からず終いである。

 

 

 

 



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363話

R-18だからダイマはないだろうと思ってたら、ダイマ返しされてビビッた。
こういうのがハーメルンの楽しい所だと心底思う。
ありがとうございましたッ!


神産月

 

 

 昨晩はアリサから写メが送られてきた。「帰ってきたら、これでしてあげます」。……おお、こんなコスチューム何処で買って来たんだ…。

 うむ、会ったばかりの小生意気な雰囲気が出てて素晴らしい。最近は絶対服従状態になるまで躾けちゃったからな。いやそれはそれで愛おしいんだけど。

 ちなみに、今後も一日一枚ずつ送られてくる予定らしい。

 今回もナニの写真を送ろうかと思ったんだが、丁度チームアンツィオのR-18チームがやってきた為、ハメ撮り写真を送る事になった。

 

 ちなみに、彼女達がやってきた理由は…単にムラムラした為だそーな。以前に抱かれた時の快楽が忘れられない、と言ってたな。そーいう頭の悪い媚び方は大好きだぞ。

 

 

 

 さて、それは置いといて。今日はライブの日な訳だ。

 早速移動の準備を…と思っていたら、とある学者さん達に呼び出された。名前も知らない人なんだが、よく分からんが権威がある人らしい。どうやら、黒蛛病や、それに犯された土地について研究している人らしい。

 しかも、若い者の芽を摘み取って上でふんぞり返るタイプではなく、知的好奇心の赴くままに突っ走る、マッドなタイプの方だ。タチの悪い事に、榊博士と違ってアクティブなマッドだな。いや榊博士も中身はアクティブだが、普段は大人しく………うん、大人しく見えるから。

 

 一昨日のライブ中、黒蛛病に犯された土地を調べたレポートを提出していたんだが、それを読むなり真っ直ぐ俺に会いに来たそうな。

 朝っぱらから質問攻めを喰らっております。その質問は、素人考えでもかなり鋭い物に思え、そこから紡ぎ出される理論には俺も幾らか心当たりがある。有益な話になりそうなんで、付き合うのに苦は無かった。辟易としたのは事実だけども。

 

 で、その博士は「流石に直接調べない事には信じられないが」という前置きを置いた理論を展開した。…うん、俺も正直信じられない。何でもありの世界だが、流石にそれは無いだろう。

 …そう考えはするものの、事実は小説より奇なりと言うし、何より畑近辺に溜まっていた血の力が浄化された事で、調査が容易になっている。早速フィールドワークだ、と叫んで走って行った。

 

 

 

 

 

 無い、よなぁ。幾ら何でも…。血の力を貯め込み続けた地下水が、そんな変容を起こすなんて…。………ま、一週間もせずに結果は分かるだろう。仮に真実だったとしたら、厄介極まりない赤い雨にも、多少の恩恵はあったって事だな。百害あって一利程度だけど。

 

 

 

 

 さて、七面倒くさいお話も終わったんで、飯を食いに食堂に来た。朝飯も、ダイナミックでダイナマイトな量だなぁ…。

 

 

「あ、おはよートレーナー。早く食べないと無くなるよ」

 

 

 こんだけ量があって、一流ホテルなんだからそうそう無くなる筈ない…と言いたいところだが、ビーフンみたいな麺関係は無くなりそうだな。タカネが食いまくってる。

 ……で、ミカは大丈夫なのか? 昨日は何だかんだでグッタリしてたし………今日は今日で、朝っぱら物凄い勢いで飯食ってるし。何処に入っていくのか不思議なくらいだ。ハンターの俺が言うのもなんだけど。

 食い過ぎて、ステージで動けないなんてないようにしろよ。マジで。それくらい食ってるからな。隣のリカが、見てるだけで腹いっぱいって顔してるくらい。

 

 

「分かってるけどさ、何だかお腹空いて仕方ないんだよね。体中の活力を持て余してて、それなのにまだまだ足りないって体が訴えてるんだよ。もう、正直言って太るとか考えてる場合じゃない」

 

 

 そう言いながら、またもハムエッグを一口。まだ食う気か。

 大方、血の力に目覚めた事によって、全身が活性化してるんだろうけど…。急激に覚醒してレベルアップしたから、色々バランスが取れてないんだろうな。下手すると、現在進行形で眠ってる力が引き出され続けてるのかもしれん。一種の超回復…なのか?

 

 

「ん、多分そんな感じ。一昨日のステージで、なんか色々突破した感はあるね。出発前に、極東のトレーナーから『君は一気に伸びる時期だから、世界を体験してきなさい』なんて言われてたけど、こういう事だったのかなぁ」

 

 

 アイドル業に限らず、血の力(霊力)は使い手の人生や経験に大きく影響されるからな。この前のステージで、何か強く感じる事でもあったのか?

 

 

「心当たりはあるね。気恥ずかしいから、あんまり語る気はしないけど…」

 

 

 …気恥ずかしいなんてレベルじゃないくらい、エクスタシーして濡れてたよな…とは口に出せない。

 冗談抜きで、一度検査した方がいいかもしれない。今日のライブでは、ミカの状態にも注意しておかないと。

 

 

「お? 今日はライブ見に来れるの?」

 

 

 最初から最後までじゃないが、一昨日よりは見られると思うよ。

 ああ、そうそう言い忘れてた。一昨日のライブの効果だけど、大成功と言っていい。近くにあった、黒蛛病に犯された土地がかなり浄化されたよ。まだ畑一つ分程度で、色々検証しないといけない事もあるけど。

 

 

「私達の歌で、食糧難を救う、かぁ…。スケールがおっきいね」

 

 

 つっても、一息にどうにかなる物じゃないし、ついでに言えば一昨日の奴はミカの歌は関係ないと思うぞ。血の力に目覚めたの、終盤だったし。

 

 

「う、それはちょっとテンション下がる…。………? あれ、リカが居ない」

 

「リカさんでしたら、あちらですよ」

 

 

 カエデさんに指さされて見てみると、リカはホテルの出入り口で、見覚えのある男性と話し込んでいるようだった。

 と言っても、リカは英語なんぞ聞くのも話すのも読むのも分からない。通訳しているのは、チームアンツィオのメンバーの一人だ。多分、あの子が砂の耳を持ってる子なんだろう。

 

 で、何だろ?

 

 

「あの人、確か……昨日のスイカ割りに参加してた人だよね。私達がアイドルだって気付いて、追いかけてきた…のかな?」

 

「いえ、それなら周囲を警戒している自称親衛隊のファンに捕縛されるでしょうし、リカとああも熱心に話し込みはしないでしょう」

 

 

 …まさか、リカってばもうやらかした? 昨日のあのにーちゃんの様子では、ロリに興味はありませんって顔してたのに、たった数時間の接触でもうモラルを削り取られたのか?

 

 

「流石にそれは無いと思うけど…と言うか、なんだかえらく熱心にメモを取ってるね、あのお兄さん。私達の個人情報を教えてる訳じゃなさそうだけど」

 

「教えているのは、スイカの育て方ですね。そう言えば、昨日は必死で種を集めている姿を見ましたが」

 

 

 

 カワイイ女の子が口に含んで吹き出した種を集める。これは有罪か無罪か。

 

 

 

 …で、スイカ? の、育て方…? 何でそんな事を…………あっ(察し)

 

 

「スイカ割りがそんなに気に入ったのかな?」

 

「スイカそのものでしょう。昨日食べた時、物凄くモノ欲しそうな顔をしていましたよ」

 

 

 まぁ、美味いのは確かだしなぁ…。アメリカ人なら、野菜よりも肉が好きそうなもんだが。

 しかし、ホテルまで追いかけてくる程気に入ったのか?

 

 

「無理もないよ。極東に居ると忘れそうになるけど、合成じゃない食べ物なんて、滅多に食べられるようなものじゃ………うん? スイカって野菜なの? 果物じゃないの?」

 

 

 野菜だよ。区別の仕方が国によって違ったりもするけど。一般に、野菜はいろいろな部分を食べるのに対して、果物は実だけを食べるのが分かりやすい区別かな。

 …と言っても、そもそも野菜も果物も絶滅寸前だもんな。知識が途絶えるのも無理はないか。

 

 ちなみにミカ、クジラは魚?

 

 

「く、くじら? …おっきい魚じゃないの?」

 

 

 あれは哺乳類。

 

 

「ほ、ほにゅうるいってなんだっけ」

 

 

 キリがない。だが責められない。誰も教えちゃくれなかっただろうし、ミカは字を読めるようになったのだって、アイドルとして活動し始めてからなのだ。

 

 …眼下では、リカがえらく専門的な植物の話をペラペラペラペラ語り、専門用語も混じっているのに平然と通訳するチームアンツィオのメンバーを眺め、俺はちょっと同情した。こりゃ姉の威厳を気にもするわ。

 

 

 

 

 

 

 しかしリカの奴…………マジで作りやがった。しかも入国2日目で。…GKNG、海外支部…。いや、流石にその原型と言うかとっかかりだけだと思うが…。

 

 

 この数年後には、アメリカの象徴がスイカになるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、それはともかくとして。ライブステージに移動した訳だが、これがまた大騒ぎである。

 彼女達が乗った車だ出発すると同時に、ホテル周辺を警備していた自称親衛隊の方々が、一斉に移動を始める。

 なんつーか……ゲルマン民族大移動? アメリカだけど。

 

 まぁ、ガードしてるつもりなんだろうし、危害を加えてくる気配もない、単純にファンの心理でちょっとでも近くに行きたいってのもあるだろうが…大丈夫かなぁ。追跡してきたパパラッチのおかげで、お偉いさんが死んだって話もあるしなぁ…。

 やれやれ、今後の国でも同じような事ばっかりなのかね。

 

 

「例外もありますよ。今後滞在するホテルの情報を調べましたが、ホテル内に劇場がある所もありました」

 

 

 それはそれで、ずーっと警戒してなきゃいかんという事でもあるんだが。ちなみにその国って?

 

 

「一番最初に訪れるのはロシアです。私はともかく、屋外でのコンサートは人の身には少々厳しいでしょう」

 

「私はともかくって、タカネさんが人じゃないみたいな言い方して」

 

 

 あーそういやそうだなー! 特にミカの衣装は薄着の傾向が強いからなー! ロシアに行ったら、サブイボ立てながらライブとかになっちゃうかもなー!

 

 

「いやいきなり大声出してどうしたのよ…。でも実際にサブイボは嫌ね。寒いのは我慢すればいいけど、サマにならないわ」

 

 

 寒さよりも恰好が重要なのか。見上げたプロ意識だな。

 

 

「ま、これで食べていけるようになった訳だしね。思い入れも、この職業に対する感謝もあるわ。………ところで…」

 

「…? 何だ、ミカ?」

 

「ん、ドゥーチェは今日は歌わないのかなと」

 

「いやいやいや、開祖様にも言われたけど、無理だって。今の私には、あんなステージに立って観客を熱狂させるような力はないから。血の力も覚醒してないから、歌ってもあんまり意味ないし」

 

「意味の在る無しで歌うなんて、ドゥーチェらしくないと思うけどね。意味や意義を問いたいなら、歌ったから、歌うから、自然と産まれてくるものじゃない?」

 

 

 妙に深い事を言いよる。

 しかし、真面目な話、いざと言う時の為に一曲くらいは準備していた方がいいかもしれん。この旅行中、どんなハプニングが起こるか分かったものじゃない。

 何らかの理由で、このメンバーの誰かが歌えなくなる、或いは出場できなくなる可能性は充分にある。そんな深刻な事じゃなくても、ライブの尺が余るって事もあるかもしれん。

 勿論、それを防ぐ為に俺達が居る訳だが、最悪の想定や次善の策は何より大事だ。

 もしもそうなった時、間に合わせでも代理を務められる程の実力があるのは…アンチョビ、お前だ。

 

 

「一番ありそうなのは、タカネさんがフラッとラーメン巡りに行って戻ってこない…とか?」

 

「有り得ますね…」

 

「失敬な。時間までには、全てのらぁめんを味わい尽して戻ってきますとも」

 

 

 ……な?

 

 

「そういう理屈なら分かりますけど…でも、急に言われてもなぁ…」

 

「アンチョビ、アンチョビ」

 

「え? どうしたんですか、リカさ……もとい、リカ」

 

 

 敬語。…まぁ、GKNG的に考えれば、アンチョビにとっていリカは遙か遠い上司だもんな。ちなみに、ポジションで言えば俺は運上人に近かったりする。

 で、どうしたリカ?

 

 

「アレ歌えばいいんじゃない? ほら、チームアンツィオのみんなが一番慣れてるヤツ」

 

「あー…アレですか。いやでも、あれって軍歌でしょ? しかも、こう言っちゃなんだけど、シンデレラオーディションに合格する為に、奇をてらう事を狙った一発芸みたいなものだし…」

 

「それでも、一番慣れてる歌でしょ。チームアンツィオの皆も、ノリやすいと思うし」

 

 

 それは確かに。本職からの指導も受けて、おかしかった発音も直ってきてるし、本人が言うような大舞台に立てる程の実力じゃなかったとしても、今回の観客の殆どは耳目が肥えてる訳じゃない。

 コミックバンド的や一発芸的なポジションだと考えれば、充分にウケると思うぞ?

 

 

「う、うーん……」

 

 

 真面目に悩み始めるアンチョビ。万が一に備えておくべきという理屈は分かるし、通用するか不安はあるが、敷居が低そうなのも確か。

 いざと言う時の備えと考えれば。デメリットは少なく、万が一当たれば配当は大きい。

 後はアンチョビ自信の決断のみ。

 

 

 

 ……そんなアンチョビを見つめる俺を、ミカはジト目で見つめていた。

 …どした?

 

 

(さっき、リカやチームアンツィオの皆と何か相談してたよね。どういうつもり?)

 

 

 どうもこうも言葉の通りだが? いざと言う時の備えを用意する事の何がおかしい。

 

 

(それだけで済むハズがないって確信してるでしょ。アンチョビの…豪運って言っていいのか、天運って言うのか、とにかくそういうのが、その程度で留まらせてくれる筈がない。アンチョビ自信の素質に、ドゥーチェコールのドーピングと煽動。下手すると、前座だった筈がメインステージのタカネさんとカエデさんすら食っちゃうかも)

 

 

 実際、この前のライブのミカがそんな感じだったしな。結局最後は、タカネがカーテンコールを務めたが。

 ま、勿論それも織り込み済みですが? それこそ、ミカ同様に血の力に目覚めてくれれば言う事は無い。

 

 

(ふ~ん。…別に嫉妬する訳じゃないけど、何だか妙に特別扱いしてない?)

 

 

 …正直言うと、してる。コイツが持ってる才能と言うかスキルがな、俺の問題の一つに役に立つかもしれんのだ。

 ぼんやりとしたプランでしかないから、何となくと言ってしまえばそれまでだけど。

 

 なに、悪いようにはならないよ。この子なら、放っておいてもな。

 

 

(むぅ…)

 

 

 …こりゃ本当に嫉妬かな? ミカにだって、充分期待してる…と言うより、一昨日のライブで見事にそれに応えてくれたんだけどな。血の力の覚醒って意味でも、アイドルとしても。

 女としては……どっちかと言うと、俺が期待に応えてやるべきか?

 

 ま、それは後から考えよう。今からヤれる訳じゃないし、機会もチャンスも充分にある。…と言うより、ミカの様子からして、夜に部屋に呼び出せば、シャワーは当然、勝負下着まで付けて、顔を真っ赤にしながらホイホイやってきそうだし。…ちなみに、勝負下着を持ってきてるのは、リカからの情報で確定済みである。

 

 

 

 

 

 さて、そんな訳でライブ会場についた。先日の会場とはまた別のステージだが、こちらのアラガミは既に掃討されているようだ。

 充分な準備時間があったから、と言うのもあるが、ライブの効果を聞いて、上層部が本腰を上げ、ファンになったアメリカゴッドイーターの皆さまが死力を尽くした結果だろう。

 相変わらず、黒蛛病患者が居る場所は隔離されているが、こればかりは仕方ない。いくら治癒する方法があるとはいえ、無駄に感染するのもな…。

 

 始まる前から、既に観客は熱狂の渦に包まれている。ライブ一回だけで、どんだけファンが増えたのやら。

 …グッズ販売とかしてる? してない? どう考えても足りないし、下手をすると奪い合いで暴動が起きる? せやな。

 

 つーか、こうして考えると、アメリカの国力は今でも大きいんだなぁ。移動してくる時、個人所有だと思われる車が何台もあったし。ま、アメリカは乗り物が無きゃ生活できない土地だから(偏見)、必死こいて死守・運営してるんだろうけど。

 識字率だって極東よりは…以前の極東よりは高いようだし、何だかんだで食料も多いようだ。それ以上に消費が激しいようだが。

 

 …今から考えても仕方ないけど、下手に国力回復させて、また自称・世界の警察が余計な事を始めたりしないよな…。ま、その時はその時か。

 どうせだったら、アラガミに喰われた自由の女神像の代わりに、アンチョビの像を立てるにはどうしたらいいか考えてみよう。アンチョビが泣いて嫌がるのが容易に想像できるが、愉しいので問題ない。

 

 

 

「ねぇねぇ、開祖様。いつスるの?」

 

 

 その発音は、いつものR-18の事に聞こえるから止めなさい。

 そうだな、前座として考えれば初っ端から放り込むべきなんだが、仕上がり具合によっては最初にメインディッシュを出すような事になりかねん。

 『繋ぎ』の場面に放り込むのが最適だろう。えーと、パンフパンフ…。

 

 ……うん、予定ではミカ・カエデさん・タカネの順になってるから、カエデさんとタカネの間でいいだろ。伝令は頼む。

 

 

「伝令しなくても、そうなったらノリノリで騒ぎだすと思うけどね。楽しみにしとこ! 勿論、お姉ちゃんのステージもね!」

 

 

 おう。俺も一昨日は途中からしか見れなかったからな。今日は楽しませてもらうとするか。

 関係者席から眺める事になるし、途中で『仕込』の為に抜けるけど。

 

 

 

 

 

 



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364話

前回の日記の続きです。
1日分の日記が長くなっているので、上手く分けられないんだよなぁ…。

失敗ばかりで胃が痛い。
と言うかマジで痛い。
朝から何も食ってないのに膨れている感覚があって、腹が鳴るのに何も食べたくないという人生で初めての体験をしました。

暴飲暴食が直接の原因かもしれないけど、どう考えてもストレスだよなぁ…。
呑まなきゃやってられるか、で呑んでたし。
失敗、お説教、無茶振り、後から条件出してリテイク…。
割と真面目に故郷に帰ろうかと考えている、今日この頃です。


と言うか、一回分投稿が抜けていた事に気付きました。
基本、4日ペースで続けていたのに…。
申し訳ない。
今後はまた同じペースを続けようと思います。
…書き溜めが尽きなければね。


 

 

 

 

 

 すっ飛ばして悪いが、ライブは順調に進み、カエデさんの舞台が終わった。現在は休憩中、舞台変更中。一気に変更できる装置とかあればよかったのだが、流石にそこまでのギミックを準備するのは難しかった。

 

 血の力による共鳴や、その余波による黒蛛病治療も順調だ。

 ライブの様子? …夢中になってて、日記に書いてる(通信している)余裕すらなかったんだよ。後は…妖怪じゃす〇っく対策の為、歌詞を書くのはマズいのだ。

 まぁアレだ、エロとは全く違う感動やエネルギーを得られたとだけ言っておく。

 

 特にミカのステージがね。

 いや、カエデさんのステージが、ミカに比べて劣っているとかじゃないのよ。確かにミカは、一昨日のライブで一気にレベルアップした。しかし、そのスペックを十全に扱えているとは言えない状態だ。

 キャラやスタンス、方向性の問題もあるのだろうが、今のミカはとにかく勢い任せで場を盛り上げていると言っていい。

 それに対して、カエデさんは場の状況をしっかりと見定め、今のステージに必要なものは何か、その為には何をすればいいのか、見極めて行動できている。

 一点突破のミカと、オールマイティなカエデさんといった状態だ。

 

 だったら、何でミカのステージが特にキたかと言うと……うん、ミカからの無言のアピールがね。

 ステージにしっかり集中してるんだけど、ちょいちょいこっち…観客席に視線を寄越すのよ。 俺じゃなくてリカを見てたんじゃないか? 視線が合ったと感じたのは、自意識過剰じゃないか? …と言うかアイドルがこっち見たからって、目が合ったと思うのはちょっと…。

 と言いたい所なんだが、歌の内容がね…。ラブソング。しかも自分を見てほしいからアタックする、誘惑する、絶対に堕としてモノにする、みたいな内容。何度かウィンクも飛ばしてきたよ。

 

 リカもニヤニヤしながら俺を見てるし…どう見ても、ライブついでに俺にアピール、或いは宣言してました。

 …そりゃ、ねぇ? ついでとは言え…下手するとライブの方がついでかもしれないが…俺一人の為に歌ってるようなミカと、観客や会社や、あと酒の原料の為に歌ってるカエデさん。個人的にどっちがグッと来るかと言われると、どうしても前者だよ。

 みんなに崇められるアイドルが、自分の為だけに歌ってくれるとか、光栄極まりないじゃないの。

 

 

 …正直、その声に応えてしまいたい。それをリカも期待してるようだし。…しかし、それは今じゃない。

 今やるべき事は…。

 

 

『失礼します。要望があったものの準備、整いました』

 

 

 スタッフの一人が、英語で声をかけてきた。

 ありがとう。急な変更で申し訳ないです。

 

 

『いえ、このステージには私も期待してますので…。その為であれば、多少の無茶振りなら安い物です』

 

 

 そう言って小さく笑うスタッフさんの表情に、プロ意識が垣間見える。

 

 

『しかし…こちらの方は、それ程に凄いアイドルなのですか? こう言っては失礼に当たりますが…』

 

 

 素質はあの3人を凌ぐ程だけど、まだまだ卵の段階でね。

 

 

『…繋ぎとは言え、卵の方をステージに担ぎ出すつもりですか』

 

 

 言いたい事は分かる。こいつ以上の実力を持ってて、このツアーに来れなかったアイドルも居る。

 そいつらにしてみれば贔屓やコネ以外の何物でもないし、ステージに対する侮辱に感じるかもしれない。

 

 …それでも、この子を出すよ。

 この子は他のアイドル達とはちょっと違って、『みんなで育てていくアイドル』だと思ってくれ。

 

 

『我々で育てていく…?』

 

 

 或いは、皆と育っていく、かな。

 …この子のステージをみれば、分かると思うよ。今は、それで矛を収めてくれ。

 

 

『…いいでしょう。元より、私には不満を述べる権利はあっても、指図をしたり拒否したりする権利はありません』

 

 

 ま、元の立場はどうあれ、今は一介のスタッフだもんね。すまないな…。

 

 

 さて、アンチョビ。

 

 

「あ、はい? 何かあったんですか? 妙に深刻そうでしたけど」

 

 

 ああ。ちょっとトラブルだ。今朝、移動中に話してた件がもう現実になった。

 

 

「移動中って……え、あの、私が歌うってアレですか!? でも、一体何が…」

 

 

 ……タカネがラーメンに夢中になった。

 

 と言うのは冗談で、放映の為の電波が妙に乱れてる。アラガミがどっかで妨害電波みたいなのでも出してるか、ケーブルでも齧ってるのか…。

 とにかく、出来る限り万全の状態で映像を流したいから、少し時間を稼ぐ必要がある。

 

 

「…何て言うか…いえやりたくないって事じゃないですし、それしかないなら腹を括りますけど……タイミングが良過ぎません? 今朝そういう話をして、半日もしない内にその状況が起こるって」

 

 

 アレがフラグだったのかな…。

 タイミングの問題と言うよりは、想定の範囲内だと言った方が正しいな。確かに入念な下準備…一昨日のステージでは、準備が仕切れてなくてドタバタだったが…があったとは言え、マニュアルも過去のサンプルも紛失してるんだ。どっかで問題が発生するのは予想できていて、その解決の為の時間稼ぎが必要になるのも予想してた。

 正直な話、一昨日のステージで同じ事が起きなかったのが不思議なくらいだもの。

 

 …察するに、アンチョビをステージに立たせる為に、フカシこいてると思ってる?

 

 

「い、いえ、そんな事は…ちょっと思いましたけど。ともかく、もうやるしかないって事ですね。準備してきます」

 

 

 ああ、頼んだぞ。

 

 

 ……フカシこいてないとは、一言も言ってないけども。さて、チームアンツィオには既に根回し済みな訳だし、後はもう楽しませてもらいますか。

 ああ、場合によってはタカネも途中で乱入させなきゃいけないか。理由はどうあれ、段取りを一部狂わせちゃった訳だし、お詫びの品の準備もしておかないと…。

 

 はぁ、いっそ本当にアラガミによる画像の乱れとかのトラブルが出ないかね。いやこんな事考えてちゃイカンな。本当に発生したとして、それが手の届くところに居るとは限らんのだし。

 

 そんな不穏な事を考えている間にも、チームアンツィオの面々はそれぞれ一般観客席に散っていく。放っておくと何をやらかすか分からない子も居るけども、こういうアンチョビの為のチームプレイは慣れたものだ。

 ステージの換装が終わるのを待たずして、チームアンツィオはいつものドゥーチェコールの準備を終えていた。

 

 そして、ステージの上に現れるアンチョビ。…を見て、観客達は少し戸惑ったようなどよめきを上げた。

 ま、無理もない。ミカやカエデさんとは明らかに毛色が違う。何せステージ衣装は軍服だ。言っちゃなんだが、オーラも見劣りする。極上の料理の間に出された、珍しいだけで大して美味くない箸休め…に見えたかもしれない。

 

 そんな反応にアンチョビも若干怯んだようだ。…が、容赦なくステージは進む。

 新しく出てきたアイドルという事で、場内アナウンスがアンチョビの紹介を『ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!』

 

 

 …紹介をする前に響き出す、チームアンツィオのドゥーチェコール。

 相変わらず凄い勢いだな…。人数で言えば、観客席の1割どころか1分にもならない数しかいないのに、一糸乱れないコールで会場に響き渡っている。

 

 …あのさ、チームアンツィオ…曲が始まってからコールしてって、俺言ったよね。俺言ったよね? 

 こいつらを纏めるアンチョビ、本当に苦労してるよな…。

 

 とは言え、今回の先走りはグッド。怯んで萎縮しそうになっていたアンチョビがコールを聞いて明らかに表情が変わる。

 それを察したのか、それともドゥーチェコールを押し退けて紹介を続けられると思えなかったのか、早速曲が始まった。

 

 

 

 

 結論から言えば…うん、予想以上だったな。ミカが言っていたように、もうちょっとアンチョビ自身のレベルが高ければ、メインのタカネのステージを食ってしまっていたかもしれない。

 

 別に、何か特別な事があった訳じゃない。ミカの時のように、血の力に目覚めもしなかったし、急激なレベルアップもなかった。

 言っちゃ悪いが、アンチョビ自身ははまだ凡百と称せるアイドルの卵のままだ。

 

 じゃあ、何が予想外だったかと言うと。

 

 

『いやー、素晴らしいものを見せてもらいました。これは夢の中にまで響いてきますね、あのドゥーチェを称える声が。あなたが『皆と一緒に成長していくアイドル』と称した理由が、よく分かりましたよ』

 

 

 …スタッフさんが言う通り、ドゥーチェコールである。

 チームアンツィオの面々だけなら想定内。そこからある程度感染していくのも想定内。

 だが、流石に会場全部を巻き込んでのドゥーチェコールになるとは思わなかった。防音のステージを突き破って、隣町まで響いていたと言うのだから驚きだ。ちなみにアメリカの隣町と言うのは、試される大地での隣よりも更に距離がある。

 聞いた話だと、あまりのコールの凄まじさに録音機やらがぶっ壊れ、受信したテレビやラジオまでおかしくなったとか何とか。…復旧の為の時間稼ぎという建前でアンチョビをステージに出したけど、アンチョビが原因で本当に復旧が必要になるとは。

 もしもコレに血の力が乗って、先日と同じように共鳴していたら…どれ程の人や土地を癒す事が出来ただろうか。

 そう考えると、ちと惜しくもあるな。

 

 いずれにせよ、アンチョビのライブも大成功を収めたと言っていい。

 ただし、それはアンチョビ自身の実力ではなく、チームアンツィオによるサポート…予め仕込んでおいたサクラがあってこそ。そのチームアンツィオは、アンチョビあってこそなんだが。

 そしてそのサポートに乗って、ドゥーチェコールを始めた観客達あっての大成功だ。

 

 あの一体感は、ちょっと他の誰かじゃ真似できそうにないなぁ…。

 勢いとテンションのミカ、技量のカエデさん、一体感のアンチョビ、そして個人スペック最高峰のタカネ。

 うん、いいメンバーだと思う。今後のツアーでも、大きな成功を確信できるくらいには。

 

 

 …ただ…このメンバーを纏めるのが誰かって事になると…確実にアンチョビになるよな…。

 格上のアイドル3人の中心で、皆を纏め、観客を巻き込んだ一体感を作り出せるアンチョビ。アイドルとして得難い才能だと思うが………アンチョビ自身の胃が、それに耐えきれるかが問題だな。

 

 

 

 

 尚、ステージが終わってアンチョビを労いに行ったところ、ジト目で睨まれました。

 そりゃバレるよなぁ。サクラの配置もステージの換装も手際が良過ぎたし。と言うか、アンチョビが承諾する前から、アンチョビ用のステージに換装しようとしてたんだし。

 まぁ、上手く行ったからいいじゃないか。

 

 

「上手く行きすぎてるんですよ…」

 

 

 …すまん、胃薬やるから。

 と言うか、アンチョビも相当派手なデビューになっちゃったが、その後のタカネが全て薙ぎ払ったから、そこまで記憶には残らない…と…願うぞ?

 

 

「断言してくださいよ! それにそういう願われ方をしても複雑です…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、散々盛り上がって、何だかんだで4人登場のステージまでやり切って、本日は終了。北アメリカでのライブは、これで一旦終了であるな。

 広いアメリカの中で、たった2回と考えるべきか、2回もと考えるべきか。

 

 何にせよ、黒蛛病患者達の病状は、完治とまではいかないものの大幅に軽減され、また汚染されていた土地や植物が浄化された事で、食料問題解決にも弾みがついた。

 …ひっそりとこっそりとおっとりと、GKNG海外支部も出来た。

 ファンも多く獲得し、知名度も上がった。

 俺個人も、ケイという美味し…もとい、貴重な伝手を手に入れる事ができた。

 収穫としては非常に大きいと言えるだろう。

 

 代わりに、ミカは今日も完全に力を使い果たし、ホテルに戻るなりバッタリ倒れ込んで眠ってしまった。

 達成感に満ち溢れた表情をしているが、毎回コレじゃ困り物だな。血の力もそうだが、急激にレベルアップした為に、体力がついてきてないんだろう。何度も考えた事だが、やはり今のミカはアンバランスだ。『捻じれて』いるとも言える。

 いそいそとアンチョビとリカが世話を焼いていた。

 

 

 …アンチョビ、ミカの世話はリカに任せて、今日はもう休め。

 

 

「え? いやでも…。私は世話役ですし。開祖様の、ですけど…」

 

 

 子供を働かせるのに抵抗があるのは分かるが、身内だしな。リカは賢い子だから、一人じゃ無理だと思ったらすぐに助けを呼ぶよ。

 

 

「うん、お任せ! チームアンツィオの人達にも、ちょっと手伝ってもらうよ。だから、アンチョビさんはもう今日は休みなよ。お姉ちゃんに負けないくらい疲れてるでしょ」

 

「う……それは…そうだけど」

 

 

 予定になかったステージを唐突に任されて、その後は格上を纏めながらの延長ライブ。そりゃ疲れもするわ。

 

 

「騙して出場させた開祖様がそれを言いますか!?」

 

 

 はっはっは。別に騙してはいないぞー、映像や音声の乱れとかは本当にあったんだぞー…大音量のドゥーチェコールが原因だったけどな。

 とにかく、今日はもう休め。これ、開祖命令な。

 

 

「うぐ…」

 

 

 アイドルであっても、GKNGの下っ端なのには変わりない。俺に命令を出す権利はないが、運上人から言われるとあまり逆らうのも難しかろう。

 納得できていないようだったが……実に苦労性な話である……アンチョビは言葉を飲み込み、自室に向かった。

 

 

 さて、俺もミカを部屋に運んだら休むとしますかね。リカ、頼むぞ。

 

 

「うん。………ところでさ…アンチョビさんを部屋に戻らせたのって…」

 

 

 …昨日もそうだったけど、股座をグショ濡れにして眠ってるミカの世話をさせるのは、ちょっとな…。

 これもどうにかしなきゃいかんな。ライブでエクスタシーまで達するのはいいし、俺個人としてもそーいうのは大好きなんだけど、加減が必要だよ、加減が。一回ライブステージを終える度に、シモの世話が必要なくらいに疲労困憊するんじゃ話にならん。

 

 

「…イタズラ、する? しちゃう?」

 

 

 リカがワキワキと、年齢に見合わない手付きで誘いをかけてくるが、ノー。ちゃんと意識がある時にやらなきゃ面白くない。

 

 

「ちぇ…。ま、仕方ないか。ちゃんと汗も拭いてあげないと、風邪ひいちゃうもんね。…チームアンツィオの、エッチ経験済みメンバーに手伝ってもらうよ」

 

 

 もうそこまで知ってるのか…。随分仲良くなったもんだ。

 でも、真似はするんじゃないぞ。

 

 

「分かってるよ。私がそういう事するのは開祖様……『パパ』だけだもん」

 

 

 …今のはかなりグラッと来た。狙いはそのまま、ミカを巻き込んでの3Pか?

 

 

「へへ、残念。それじゃ、今日はお休みなさい」

 

 

 ああ、お休み。

 

 ミカを部屋に届け、チームアンツィオの面々が手伝いに来たのを確認して……今度はアンチョビの部屋に向かう。手土産に酒を持って。

 

 

 

 

 

 

 アンチョビ、まだ起きてるか?

 

 

「あ、はい、どうぞ」

 

 

 ノックに答えがあったので入ってみると、質素な寝巻に着替え、ツインテールを解いた状態のアンチョビが居た。何故かマントは羽織ったままだ。

 …リカを部屋に放り込んでこっちに来るまでの間に、風呂と着替えも済ませたのか。随分急いだようだな。

 

 

「いえ、急いだと言うか……元より、あんまり長く入浴する習慣がないもんで」

 

 

 ま、チームアンツィオの事を考えるとなぁ。裸の付き合いとか言って突っ込んで来そうだし、人数が多いから長く使えばそれだけ他の人の時間が圧迫される、か。

 だからこそ、今みたいなライブツアーで、ゆっくりしてればいいものを。

 

 

「それはそうなんですけど、落ち着かなくて」

 

 

 …本当にワーカーホリックだな、この嬢ちゃん…。それとも単に心配性の苦労性なのか。…どっちも大して変わらんな。

 呆れられていると思ったのか、アンチョビの表情にバツの悪さが混じる。そういう所が、アンチョビのいい所でもあるとは思うが。

 

 …実際のところ、ツアーに来てどんな感じだ? 今日の無茶振りは悪かったと思うが、元はアンチョビの慰安の為でもある訳だけど。

 

 

「楽しんでるのは確かですよ。こう言っちゃなんですけど、極東で皆をあれこれフォローしながらレッスンするより、自分の時間は確保できます。逆に、気楽すぎて戸惑う所もありますけど」

 

 

 肩肘張るな、と言われると逆に戸惑ってカチコチになる訳ね。重石があった方が安心できるのか…。

 

 

「それよりも…開祖様、流石に今日のはちょっと酷いです。上手く行ったからいいものの、本当に心臓が止まるかと…」

 

 

 うん、それは本当に悪かったと思ってる。…上手く行きすぎて、アンチョビの注目度が更に上がったもんな。

 極東にもあの映像は放映されてる筈だから、帰ったら本気で崇拝者が増えてるかもしれん。

 

 

「そこまで予想できるのに、何であんな事するんですかぁ!? 結果的に、メリットデメリットで言えば確かにメリットの方が大きいけども…」

 

 

 今回のライブの報酬として、アンチョビ個人にも結構なギャラが支払われるからなぁ。

 血の力で土地を浄化したカエデさんやタカネ程じゃないが、一夜で稼いだ金としては破格だろ。尤も、まだ良くて小金持ち止まりだけど。

 

 

「…小金と言われても、報酬金額を見たら、体の震えが止まらなくなりました。現金を持ち歩いてる訳でもないし、そもそもまだ振り込まれてもいないのに、冷や汗が止まらなくなって、どっかで襲われるんじゃないかと思えて…。……でも、まだまだこれじゃ足りないんですよねぇ…」

 

 

 足りない…って、何に? そりゃ、一生遊んで暮らせる金額ではないし、何か事業を起こせる程の金ではないけど。

 

 

「単純に、ウチの連中を養っていくのに…って事です。何だかんだで、ウチは大所帯ですから。あいつらをちゃんと食わせて、まともな職に就かせて、やりたい事をやらせてやって、いい暮らしを…って考えると、ちょっとした大金だとしても一時的な物では…」

 

 

 確かに。しかし、それこそアンチョビ一人で考えるべきものじゃないだろう。一時的じゃない金なんて、それこそ日々の労働でしか手に入らないものだし。

 有体に言えば、あいつら自身で探させるべきものだ。アンチョビが出来るのは良くてその手伝いまであろう。

 

 と言うか、そんな生活しようと思ったら、たった一人でもどれだけ金が必要か分からんわ。率直に言って高望みしすぎだ。

 

 

「改めて口にすると、そんな気がしてきました…」

 

 

 何だな、アンチョビって意外とダメ人間製造機かもしれないな。基本的に、ダラダラしてたりするとケツ引っぱたいて働かせるけど、何かやろうとしたら至れり尽くせりで過剰にサポートすると言うか。

 

 

「そ、それより! 開祖様、何か用事があったのでは? ……それは…ビールですか?」

 

 おう。無茶振りした労いと言うか、詫びにね。

 上司みたいなものとサシで飲んでも気は休まらないかもしれないが、一人で飲んでも味気ないだろうし、何より限界が分からないだろうからな。疲れてるなら無理にとは言わないが、一杯どうだ?

 

 

「……そ、それじゃちょっとだけ…。実を言うと、眼が冴えて眠れる気がしなかったんです」

 

 

 やっぱりか。寝酒にと思って持ってきて正解だったぜ。仮に明日潰れてたとしても、背負って連れていくから安心しろ。…それとも、チームアンツィオに任せた方がいいかな。

 ま、何にせよ…ほれ。

 

 

「どうも。……えーと……乾杯?」

 

 

 乾杯。そうだな、ライブツアー成功を祝って、今度の更なる発展を願って…かな。

 

 

「これ以上下手に発展すると私の胃が死ぬので、後者は程ほどにお願いします…。う、苦い…」

 

 

 チビチビ飲むと逆に苦いぞ。コーラみたいなものだと思って、グイッと行った方がいい。…しまったな、カクテルにすればよかったか。

 つーか、飲むのは初めてじゃないだろうに。

 

 

「何度かチームでの宴会で飲まされた事はあるんですが、いつも不意を突かれるか、気付かないように飲まされてたんで…」

 

 

 …あいつら、チームの頭にようやりおるわ。(裏の『お仕事』の事を気付かせない為だろうけども…)

 

 

 …ちょっとずつ要領が分かって来たのか、アンチョビが積極的に飲みだした。

 ………日頃のストレスもあるんだろうなぁ。その一端になってしまった俺が言う事じゃないが。

 

 元々、あまり酒に強い方ではないんだろう。そうでなければ、酔い潰れたら翌日の昼まで絶対起きない…なんて事にはなってないだろうし。

 段々と、普段の愚痴が零れ始めた。

 

 

 

 ………正直言って、アンチョビに真面目に同情する。

 周りに苦労を掛けられすぎだ、この子は。その半分以上が自発的なもので、『そんな事は本人にやらせろ』と言ってしまえば終わりのものだが、それをしないからこその人望でもある。

 チームアンツィオに始まって、周囲のアイドル候補達、彼女達自身だけではなくその周辺に対するフォロー…。

 案件の数が多すぎる。

 

 それだけ背負いこめば、そりゃ鬱憤も溜まるわな…。

 

 しかし、それらの案件の解決法や対処法が力圧しに偏っている傾向があるな。ちょっと考えたり、幾らか知識があれば、かなりの効率化が出来そうだ。

 …考えるのはともかく、知識や過去の事例は仕方ないか…。アンチョビだって、まともな教育を受けられてないんだから。

 

 地頭はいい、気配りもできる、コネツテもあって、人望もある。地位もそれなりのものを獲得した。

 これでちゃんとした教育を受けてれば、地区一つくらいは立て直す事ができそうだ。

 

 

 まぁ、IFの話をしても仕方がない。ただ、今はアンチョビの愚痴を黙って聞くのが上策だ。

 

 

 

 

 

 

 上策………だったのだが……どうしてこうなったんだろうか?

 

 

 いや、いつものエロじゃないんだ。18禁は無かった。

 ただ、ベッドの上で腰かけている俺は、アンチョビを膝枕して頭を撫でている。勿論、ちゃんと服は着ているし、無駄に元気な俺の愚息がいきり立っている訳でもない。…ちょっとムズムズしてるが、ここでオッキしたら流石にアンチョビも黙っていないだろうから、強引に大人しくさせている。

 

 要するに、甘えさせているのだ。アンチョビを。

 自分でも、キャラじゃないを通り越して悍ましさすら感じるが、子守歌なんか歌っちゃっている。でんでん太鼓を持ったアンチョビが、龍に乗って空を駆けるシーンが見えるようだ。………あ、ペパロニの嬢ちゃんが突撃してきて相乗りした。こら、龍を料理しようとするんじゃありません。

 てか、本当に誰だよコレ。俺かよ。こんなん俺じゃねぇよ。

 

 

 そう思いながらも、酔いの酩酊と、誰かに甘える心地よさでウトウトしているアンチョビを退かす気にもならず。

 シエルから送られてきた『猫の躾け中。帰って来た時、上手に芸ができたら褒めてあげてください』というタイトルの画像が気になりつつも、ここで欲情したら不味いとどうにか我慢しています。

 

 

 



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365話

ドライバのアップデートを自動でやってくれるというソフトを、仕事関係で試していたのですが、エライ目にあった。
いきなりブルートゥースが利かなくなった。どうやら、アップデートと称して互換性の無いのが入ってしまったらしい。
ウィンドウズのアップデートでは最新なのに、どうしてソフトの方では…と思ってたが、そういうオチか。
デバイスマネージャーからのドライバ変更でどうにかなったけど、あんまりああいうのは使ったらいかんな…。


 

神産月

 

 とりあえず、今朝はアンチョビが寝惚けている間にさっさと退散した。結局、一晩中頭を撫でてたな。とっくに眠りに落ちているのに、何となく止める気になれなかった。

 つまり、一晩寝顔を眺めていた訳だが、それは勘弁してほしい。

 

 朝食の席には、顔を赤くしながらも出てきていた。態度がぎこちなかったけど。

 それを見てニヤニヤしてる者が複数居るけど、違うからな? 手は出してないからな?

 

 

「分かってますよぉ。ドゥーチェが『経験』しちゃってるなら、あんなリアクションじゃ済みませんって。で? で? ドゥーチェに何をしたんですか? 場合によっては、このフォークが唸りを上げますけど」

 

 

 …流石に経験が多いだけあって、無駄に正確に察してるな。

 単純に、一晩甘えさせただけだ。頭を撫でて寝かしつけた程度だよ。

 

 

「フォークは勘弁してあげますが、このデスソースが光って轟き叫びます!」

 

 

 何で!?

 

 

「何でも何も、そこまでやったらちゃんと口説いてくださいよー。ドゥーチェからしてみれば、生殺しじゃないですか!」

 

 

 何で生殺しよ…。そんな事は自分で考えろ? なんやねん。いや多少は予想できるけど。

 

 何はともあれ、今日でアメリカから出国する予定である。

 何とも忙しない事だ。折角海外旅行なんだから、もうちょっとのんびり観光させてくれてもいいのにな。初日は半日以上かけて渡米して、俺はそのままアラガミ討伐、アイドル達はインタビュー対応。翌日にはライブ+現地調査。その翌日は1日だけ休みで、続いて半日くらいのライブ。次の日は出国。

 …ライブツアーってこういうものか? 予想以上に盛り上がり、ライブが思ったよりも長くなったのは確かだが、ライブツアーってこんな強行軍なの?

 

 

「んー、確かにキツいよね…。でも、のんびりしてると、それだけ黒蛛病で苦しんでる人達が…って事にならない?」

 

 

 ミカの言う事は尤もだと思うが、それを言い出したらキリがないしなぁ…。

 

 

「旧世界ではこういうライブツアーも結構あったらしいけど、その時の資料も殆ど残ってないんだって。とにかくやってみたけど、色々不手際が出たって感じはあるね」

 

 

 限度があるだろ、流石に…。まぁ、今更言っても仕方ないけどさ。

 で、皆出発の用意は出来てるのか?

 

 

「私は大丈夫だよ。…ぶっ倒れてたから、半分以上はリカがやってくれたんだけど」

 

「仕方ないよ、お姉ちゃん。今だって、実は疲れてるのを隠してるんじゃない?」

 

「力を使い果たしたようでしたものね。よく2度目のライブで倒れなかったものです。ああ、私の用意は着替え程度なので、問題はありません。やろうと思えば取りに帰る事もできますし」

 

 

 …次のライブ場所、何処だったっけな。タカネはどんだけ走って忘れ物を取りに来るつもりだろうか。

 カエデさんは?

 

 

「………助けてください、お母さ~~ん」

 

「誰がお母さんか!? と言うか毎度毎度そういう準備は自分でしろと…! ああもう、チームの皆も不安だから、一度総点検しないと…」

 

 

 …大変だなぁ、アンチョビは。今はこのまま世話をさせとくか。

 …しかし何だな、アンチョビは置いといて、この25歳児とはあんまり絡んでないな。別に、積極的に何かしようと思っている訳でもないんだけど…。

 

 

 

 

 

 まー色々と細かい事はあるが、とりあえず出国。

 ファン達の見送りが凄かったなぁ…。たった2~3日でよく用意できたなと思うような、横断幕やらメガホンやら…サイリウムっぽいけど、資材が無かったのか技術的に難しかったのか、なんか色のついた棒とか、サイズ的にどうよと思うようなシャツとか。

 …でもさ、幾ら何でも飛行機をぶっ壊してでも足止めしようとするのはアカンやろ。一般警備員にすぐ取り押さえられたけど。

 

 あっ、リカと話してたスイカ男も見送りに来てる。…早速シンパを増やしたらしい。

 いや単なる友人が一緒に来てただけかもしれないけど、とにかくGKNG海外支部は順調に規模を広げようとしているようだった。 

 

 

 まぁ、何だ。短い間だったけど、結構楽しかったぞ、アメリカ。今度はもっと時間を確保して来るからな!

 ………出国直前に、大〇領からの感謝のメッセージを読み上げられたような気がしたが、周囲の騒音がうるさくて聞こえないなー!

 

 

 

 さて、次に向かう国は……イタリアか。イタリア……教会が乱立してるイメージがあるな。

 ライブを行う場所は4か所。ローマ、ミラノ、ピサ、ヴェネツィア…。…うむ、さっぱり地理が分からん。

 と言うか、4か所でやるのか…。国の広さで言えばアメリカの方が大きいだろうに、何でイタリアで4回、アメリカで2回?

 

 …何にせよ、平和な観光は出来そうにない。物騒な考えを持つ連中がどうの、パパラッチがどうのではなくて…あっちも、アラガミによってかなりの被害が出てるからな。

 

 

 

 

 

 追記

 

 アンチョビの様子がおかしい。俺との距離感に戸惑っているのもあると思うけど、もうちょっと別の事でおかしい。

 俺との事だけなら、こんなに長引かないだろうし、何より自分の庇護下にあるチームアンツィオの子達を、疑うような視線で見る事は無いと思う。

 あんな視線を向けるなんて、何があったんだ…?

 

 

神産月

 

 

 飛行機の移動も、2度目となれば飽きるもの。眼下に広がるのが、綺麗だけど代わり映えのない雲と海だけじゃ、猶更な。

 最初は大騒ぎしていた子供達(主に精神年齢が)も、暇だ暇だとブーたれるようになっていた。まー実際、やる事も出来る事も何もないからな。ペパロニの嬢ちゃんは料理がしたいと騒いでいる。

 

 座席の画面で放映されている映画も、ぶっちゃけ面白くない。観光特集でも流した方が、まだマシだろうに…。

 途中で皆して熟睡し、寝惚け眼でイタリアの空港に降り立つ事になった。そんな状況でも、髪型やらメイクやらをしっかり整えている女性達は流石である。プロ根性を感じるね。

 

 アメリカのステージで、興業的にも黒蛛病治療的にも大成功を収めた為、注目度はアメリカに到着した時よりも更に上がっている。飛行機の扉が開くと同時に、フラッシュフラッシュフラッシュ…ピカチュウか。

 

 あっちの対応は言語に不自由しないタカネに主に任せ、リカやアンツィオの面々はアンチョビに任せるとして(正直、両方とも不安はある)、俺は案内役・護衛役のゴッドイーターと合流しなければならない。アメリカの時もそうだったが、不穏な動きが無いとは限らないのだ。

 さて、今のところ危険そうな気配はないが、案内役は………あれ?

 

 

 …なんか、見覚えのある顔が居るんですけど。

 

 

 

「…呆けていないで、早く来てください。こちらです。…歓迎しますよ。ようこそ、イタリア、ヴェネツィアへ」

 

 

 お、おう…。ていうか、お前フランだよな。

 フライアの事務員で、能力的にも外見的にも16歳に見えない事に定評のあるフラフラフランだよな?

 

 

「少なくとも、その名で呼ぶ事を許した事はありません。私は正真正銘、フラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュです。あと16歳に見えないとはどういう意味ですか。私は正真正銘16歳です」

 

 

 飲酒。しかも超常習犯。

 

 

「……さて、あまり時間はありません。手早く話を勧めます。今後の予定ですが、まずはホテルに移動します。少々距離がありますので、夕刻を過ぎてからの到着となるでしょう。夕食は幾つかメニューを用意していますので、お好きな物をお選びください」

 

 

 立て板に水の言葉通り、フランはすらすらと今後の予定を述べていく。休息や観光、エステなんかの予定まで組んでるんだから、至れり尽くせりですな。

 そこまでやれる余裕が、国にあるのか…。

 

 

「アメリカと比べると被害が少なかったのもありますが、どちらかと言うと国柄ですね。レディファーストが骨の髄まで染み込んでいますので。…ところで、護衛の事ですが」

 

 

 うん?

 

 

「率直に言えば、あなたには必要ありませんので、ディバイダ―を手配しています」

 

 

 おいおい…。

 

 

「事実です。ブラッド隊だけでなく、腕利き揃いと評判の極東ゴッドイーターですら、あなたの戦力の足元にも及びません。貴方に護衛を手配するくらいなら、あちらで脚光を浴びている彼女達に付けます」

 

 

 褒められているのか蔑ろにされているのか…。しかし、確かにイタリアのゴッドイーター…知ってる奴は居ないな。フェデナントカ君が居たような気がするが、少なくとも面識はない。ゲームでも目立たなかったと思う。

 まーそれはこの際いいとして、ディバイダ―ってのは何ぞ?

 

 

「簡単に言えば、サポート役です。ゴッドイーターの強化、及び戦術的支援を目的とした、最近注目されている人員です。…そう言えば極東では広まっていませんでしたね。戦闘力としては準一級ですが、彼らのサポートがあれば、前線のゴッドイーターは非常に戦いやすくなります」

 

 

 あー、リッカさんが作ってる、リンクサポートデバイスと同じようなもんか。アレは今一つ上手くいってないようだが。

 しかし、サポートが付くのは有難い。……極東語、できる人?

 

 

「勿論です。…あちらです」

 

 

 ……あの人? あの、ある意味すっごい目立つけど、全然目立たない人。ロマンスグレーの代名詞みたいな人? 名前はセバスチャン? それともミュンヒハウゼン?

 

 

「ハミルトンです。見ての通り……その、執事です」

 

 

 ああ執事だな。見間違えようもなく執事だな。

 執事服に、丸眼鏡に、白い手袋。そんだけ特徴的な恰好の割に、背景に溶け込む…と言うよりは、自己主張せずに背景として立っている姿。

 絵に描いたような執事である。執事喫茶にでも行けば、大受けするか、なんちゃって執事が我慢できずにガチ指導するかのどっちかだろう。

 

 

 …後は、主人が近くに居れば完璧だな。と言うか、執事ってこんな場所に一人で来るものなの? それこそ、主に恥をかかせないように、TPOを弁えるんじゃないの? いや執事服でもスーツと言われればそれ程違和感はないけど。

 

 

「私に言われても知りません。私だって、直接会ったのは昨日が初めてなんです。紅茶は美味しかったけど…。そもそも執事云々を言うなら、家事や事務を引き受け監督する執事が、どうしてゴッドイーターとして戦場に出てくるんですか。旧世界の創作ではあるまいし、普通の執事に戦闘能力はありませんよ。そもそも、戦場に出てくる時点で職務放棄でしょう」

 

 

 あー…そりゃそうだな…。私的な秘書の立ち位置でもあったそうだから、護衛能力の高い執事は居たと思うけど。

 まぁ、こうしてても仕方ないな。とりあえず話しかけようか。

 

 

「そうですね。…お待たせしました」

 

「刻限通り。流石ですな、フラン様。…そして、貴方様が…。申し遅れました。わたくし、ハミルトンと申します。見ての通りの執事でございます」

 

 

 よ、よろしくお願いします。…ガチ執事なのかコスプレガチ勢なのか、判断に困るな。

 少なくとも礼節はしっかりしている。動作の端々から、格調高い教養と教育が見え隠れする。極東語の発音も、下手な極東人よりスマートなくらいだ。

 

 

「では、先に行って車の準備をしておきましょう。本日は時間が取れませんが、機会があれば茶会に招待したく存じます」

 

 

 アッハイ。

 ハミルトンさんの誘導に従い、人目を避けて送迎用の車に向かう。車に乗り込む時、扉を開ける動きに年季を感じた。

 

 記者会見も程々に…まぁ、写真撮られまくってるのはいいとして…やってくるアイドル達。記者の群れに混じって、一人のゴッドイーターが目についた。

 

 

「気付かれましたか。アイドル方の警備を担当する、セリカ・ジタ・サルヴァトーレでございます。イタリア支部でも有数の使い手でございます」

 

 

 へぇ…。確かに強そうだな。動きの癖からして、ハンマー使いか。しかし、年齢は…いやゴッドイーターに年齢なんて言っても仕方ないか。あんまり絡んだ事は無いが、エリナの年齢もアレだしね。

 …視線の配り方は、人間や、人間サイズ相手じゃない。デカブツを主に相手していると見た。この辺のアラガミについての資料はざっと確認した程度だが、デカブツ=高難易度の認識でいいか?

 

 

「ええ、基本はそれで結構です。ヴァジュラだのクァドリガだの、ああいったアラガミが日常的に発見されるのは、極東くらいですよ…。今でこそこんな言い方が出来ますが、ここではコンゴウのようなアラガミが出ただけで、大騒ぎになりますからね」

 

 

 コンゴウでかよ…。ハガンならまだしも…。

 つぅ事は、あの子はその大騒ぎになる大物狩り…言い換えれば、危険な高難易度任務を進んで受ける傾向がある訳だ。危険を楽しむ人間特有の気配もないし、何ぞ意地でも張ってんのかね。

 

 仕立てのいい服を着ているが、服に着られているような事は無い。あのくらいの服を普通に着れる、上流階級かな。名前もあからさまにソレっぽいし。それにしてはアクセサリ類は、ごくごく一般的な物…。上流階級出身だけど、そこを飛び出したか、その力を使う事を嫌っている?

 

 

「相変わらず異様な洞察力…。女性を一目見ただけでそこまで予想できるとは、アリサさんがドン引きする気持ちがよく分かります」

 

 

 視覚から得られる情報は重要だぞ。動き、手札、性格、負傷状態、色々分かる。…ていうか、あの子ちょっと怪我…じゃないな。何日か前に、デカいダメージ喰らったみたいだな。体の動きがぎこちない。

 ああ、それでこの任務って訳か。慣れない人間相手でも、体を休める事はできるだろうって。

 んー、指示したヤツは、気遣いが出来る上官だけど、少々楽観的な傾向ありと。簡単そうでも、慣れない任務を充てて休息扱いするのであれば、現場慣れしてない上司と見た。

 

 

「…なんとも恐ろしい…。これが、フラン様が極東でも随一と称したゴッドイーターの実力ですか」

 

 

 妄想が逞しいだけですな。と言うか、フラン、そんなに俺を褒めてた訳?

 

 

「事実を述べたまでです。一部からは伝説扱いされているリンドウさんでさえ、殲滅や駆除、強力なアラガミを狩る事にかけてはレベルが違うと称していましたから」

 

 

 まーあの人の真価は、チームを含めた生存能力だし。

 …お、来たか。

 

 

「やーやーお待たせ。こんな高級そうな車に乗っていいのかな(震え声)」

 

「その為の車なのですから、ご遠慮なく。元より防弾性能にも優れた、要人警護用の車でもありますので」

 

「あれ、貴方は確か……フェンリル本部に居た…」

 

「フラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュです。フランとお呼びください。その節はどうも」

 

「は、ははは…ご迷惑をおかけしました…おかげで妹も無事でした」

 

 

 いつぞや、リカを助けてくれと乱入した話か。あの時フランも居たんだな。バツが悪そうだが、とりあえず入れ入れ。

 全員が乗り込んだので、フラッシュを振り切るように走り出す車。うーむ、なんと静かな発進か。

 

 

「えーと、どうしてフランさんがここに? 確か、ブラッド隊? の所属でしたよね」

 

「私はブラッドの関係者ではありますが、隊員ではありません。あくまで所属はフライアです。…ですが、そのフライアも今しばらく極東に滞在し、運航の予定もありません。極東の事務作業やサポート業務も、非常に高いレベルで運営されていますし、学べる事は多くあれど…」

 

「つまり、どうしても自分でなければいけない仕事が無くなったと」

 

「……ええ、そうです」

 

 

 タカネの歯に衣着せぬ物言いに、憮然とするフラン。まぁ、そんな仕事なんてそう多くないよね。責任者クラスならともかく、フランは一介のオペレーターな訳だし。

 でも、左遷された訳でもなさそうだが?

 

 

「無論です。極東の知識や情報を欲しがった本国に、一時的に呼び出されているだけの事。…確かにラケル博士からは『ついでに有休を消化してきなさい』と言われましたが」

 

 

 …有給? あのラケルてんてーが?

 と言うか、里帰りか? フランってイタリア出身だったの?

 

 

「ブルゴーニュの名の通り、私はフランス人です。厳密にいうと、色々違うのですが…とりあえずその認識で結構です。我が家の家系図は色々ややこしいので」

 

「ふぅん。よく分からないけど、大変そうだね…。で、今日も有給?」

 

「こうして貴方達の送り迎えを担当していますので、今は仕事中ですね。…正直、有休を消化できるか怪しい状況ですが。フライアでの守秘義務があると言うのに、それを無視して血の力の情報や訓練法を聞き出そうとする者も多いし、それ以上に極東が緑に覆われている状況の証拠を提示すると、同盟だ商売だ、更にはGKNGへの伝手を作れだの…」

 

「あー…」

 

 

 まぁ、そうなるよな…。

 手荒な真似はされてないだろうな? 何かヤバそうな案件があるなら、俺も手を貸すぞ。闇の黒幕を誰にも知られず闇に葬るのから、もっとライトに証拠をつかんで社会的に攻撃するのまで。

 

 

「貴方に頼むと大惨事が引きこされる未来が見えるので、当面は結構です。私も、やられっぱなしでいた訳ではありませんし、協力者も居ますので」

 

 

 …意味深に、フランは少し笑った。むぅ、影がかかってアレな表情に見えるね。ダークサイドに落ちたか?

 

 

 

「ところで話は変わりますが、アメリカのニュースを見ましたか?」

 

「ニュースって言われても…ホテルにテレビはあったけど、英語分からないし」

 

「いえ、ホテルに居た頃は、恐らくニュースは流れていなかったでしょう。……油田が発見されたそうです」

 

 

 油田? 石油の?

 

 

「ええ。明らかに、天然のモノとは思えないそうですが」

 

 

 天然でない油田って何さ?

 

 

「通常、油田の石油は浅くても100メートル以上の地下にあります。石油が出来上がる仕組みについては幾つか仮説がありますが、そう簡単に掘り出せるような場所にある物ではありません。ですが、今回発見された油田は、地下数十メートルの場所にあったのです」

 

 

 えらい浅いな…。地下水脈とかに紛れ込んでそうだ。

 

 

「……正に、それです。記録によれば、水脈があった場所に、石油がありました。埋蔵量については、現在調査中です」

 

 

 

 

 

 

 

 は?

 

 

 

「もう少し情報を付け加えると、そこは黒蛛病に汚染されていた畑です」

 

 

 

 

 

 

 は?

 

 

 

 ええと、何? つまり?

 

 

「現在調査中で、目に見える情報だけを繋ぎ合わせたら、という事ですが…黒蛛病を血の力、或いは歌によって浄化した事により、地下で石油が出来上がったと」

 

「えぇ……」

 

 

 ミカがナニソレシラナイ、とばかりに呻いている。石油の使い道、金儲けと言われてもピンとこないが、自分の歌で貴重な資源が出来上がった…と言われても、そりゃ信じられないだろう。

 

 

「…有り得る事ですか?」

 

 

 正直、なんとも…。無理に理屈をつけるとすれば、浄化された黒蛛病の…なんだ、エネルギーと言うか発生源が、地上の物は風に吹かれて散っていったけど、地下にあったエネルギーが結晶化するなりその場にあった物体に作用するなりして、何らかの変化を起こしたとか…。

 全く有り得ない、とは言えないのがこの業界なんだよなぁ…。

 

 つーか、何か? もしもこれが本当だとしたら、黒蛛病で土地が汚染されて、それを回復させる事で石油精製が可能になると?

 

 

「確実性のある話かはともかくとして、そうなりますね。とは言え、これを即座に活かす方法はないでしょう。石油採掘ともなると、相応の設備とルートが必要になってきます。それ以前に、今のアメリカからすれば、金の成る木よりも果物の成る木の方が欲しいでしょう」

 

 

 金は人間社会じゃ万能の交渉手段だけど、モノが無けりゃ金の使いどころも無いんだなぁ…。ぶっちゃけ、金は喰えん。アラガミじゃあるまいし。

 しかし、確定ではないとは言え、アイドルや血の力に余計な付加価値がついたな。妙な事を考えるバカが出なければいいが。

 

 

「大丈夫じゃない? 守ってくれるでしょ」

 

 

 力の限りね。

 

 

「それに、石油なんかより私達のステージの方が、ずっと価値があるって思わせればいいのよ。燃える水なんかに負けやしないわ」

 

 

 言い切るねぇ…。石油よりも価値のあるステージか。一発当てれば大富豪と言われる油田以上とは豪語するもんだ。

 価値を知らぬが故とも言えるが、そういう姿勢は嫌いじゃない。

 

 ミカの発言に、心なしか頬を緩めた…ように見えなくもないフラン。しかしすぐに元の表情に戻ってしまった。

 

 

「何れにせよ、このライブツアーはあらゆる意味で注目の的となりました。その分、敵…所謂『アンチ』という奴も増えてくるでしょう。言われない悪評や、つけ入る隙を与えないよう、今まで以上に言動に気をつけてください」

 

 

 気をつけろって言われてもなぁ…。やれやれ、面倒な事になりそうだ。

 見えてきたホテルを眺めながら、他人事のようにそう思った。

 

 

 

 

 

 

 到着したのは、ホテルと言うよりは貸家のような家だった。悪い意味で言っているのではない。手入れは行き届いているし、ベッド、トイレ、その他諸々も綺麗で新しく見える。

 文字通り、一軒家を何件か、丸ごと貸し出されたような状態だった。

 

 

「ちょっと予想外だよね。てっきり、アメリカの時みたいに高い建物があって、そこに泊まるのかと思ってた」

 

 

 アメリカの方が例外なんだよ、あれは。俺も気付かなかったが、このアラガミが闊歩するご時世に、あんな高層ビルなんて建ててみろ。餌がここにあるぞって言ってるようなもんじゃないか。

 事実、デカイ建築物の殆どは食い尽されてる。残っているとしたら、アラガミが見向きもしないゲテモノ素材で作られてる何かか、そこまでアラガミの侵入を許さなかった結果、偶然残っている所だけだろうよ。

 

 

「そっかぁ…。じゃあ、またあんな高い(値段的にも物理的にも)所に泊まれる機会はなさそうかぁ…」

 

 

 それこそ、今後の行き先次第だと思うけどな。まーこういう家もいいんじゃないか? ノスタルジックと言うか、古き良き家みたいな感じで。

 

 

「別に不満があるんじゃないよ。…まぁ、昔だったら、もっと景色が良かったんだろうな、と思うけど」

 

 

 ミカの視線が外に向く。そこには、花畑が広がっている…のだが、どうにもその更に向こうに見える、荒れ果てた土地の印象が強い。

 ついでに言うなら、花畑も咲き誇っている訳ではなく、何処からか持ってきた物を植えて何とか形にした、という印象だ。それに気付けるのは、天然(?)の植物と触れ合う機会が多い、極東育ちだからだろう。…普通に考えれば、貴重な花をわざわざ持ってきて植え替えるような真似は、どれだけ金を積めば出来るか分からないくらいの贅沢なのだ。

 

 

「あ、やっぱりそうなんだ? リカが難しい顔して花畑を眺めてたから、何かあると思ってたけど」

 

 

 あー、道理でさっきから、外で地面弄ったり、花の種類を調べたりしてる訳だ。…GKNG海外支部、今度は花で始める気かな。

 

 

「そっちはリカの好きにさせてあげてよ。勿論、何かあったら私も手伝うけど。…私達はこれから、ライブの打ち合わせがあるけど…どうする?」

 

 

 俺はこの辺の地形確認とか、不届き者が居ないかとかの確認をしておくよ。もう日も暮れるし、リカを一人にしておく訳にもいかんだろ。

 

 

「ん、お願いね」

 

 

 

 

 



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366話

 

神産月

 

 

 花畑の状態が、よっぽど気に入らなかったんだろうなぁ。リカは夜中になるまで、花畑の中で色々作業をしていた。具体的に言うと、眠気に負けるまで。

 そんな時間まで好きにさせておいた俺も俺だけど、ライブを見る為の元気だけは残しておけよ…。まぁ、朝になったら元気に飛び起きて、また泥だらけになりながら作業してたけど。

 

 俺も多少は植物育成のノウハウはあるが、リカ程じゃないんだよなぁ。特にMH世界産以外のモノは…。

 ちなみに、作業していたのはリカだけではない。何故かアンチョビも黙って手伝っていた。

 

 …らしくない、と思う。

 いつものアンチョビの場合、大変そうだから手伝うよりも、『もう遅いんだから明日にしろ』くらいは言うだろう。

 GKNGの一員として、植物の管理に物申したくなるのも分かるし、上司でもあるリカが仕事(?)しているのに、放っておいて休めないと思ったのも分かる。

 しかし、それを差し引いても何かを振り払うように黙々と作業してる姿は、ちょっとおかしいと言わざるを得ない。

 

 

 おかしい、分からない、らしくないと言えばタカネもそうだ。元々よく分からんヤツではあったが、それに輪をかけておかしい。何処がと言われると…うん、人間に対する態度かな。

 タカネはノヴァだ。人に見えても、人間社会に馴染んでいるようでも、その本質は変わらない。人、或いはこの星そのものにとって、捕食者である事は変わらない。

 ハッキリ言ってしまえば、食料でしかないのだ。

 

 例外は極一部。育ての親(?)であり伴侶(タカネ談)である俺。地球に落下してきた時、拾って世話をしたアイドル会社の社長。後は……タカネが関心を寄せる技術(代表的なのはラーメン)に深く関わる職業の人?

 ああ、支部長もギリギリで例外に入るかな。本当の意味での育ての親だし。

 それ以外の人間は、精々が…まぁ、愛玩動物かな。しかも、特に思い入れの無い。

 

 そのタカネが、妙に興味深そうに、アンチョビやチームアンツィオを眺めているのだ。俺とのスキンシップよりも優先するくらいに。

 

 …地球で再会(俺に再会って意識は薄かったが)してから、タカネは付かず離れず…と言うには少々くっつく感じのスキンシップを度々図って来た。アリサ達に阻まれる事も多かったが、『本番』に至らない程度には触ったり触られたりもした訳よ。

 ライブツアーも、ある種の新婚旅行と捉えている節があったくらいだ。そのタカネが、俺より優先する…。

 

 アンチョビ個人を見るなら、まぁ分かる。先日の、結果的にアンチョビが中心となったライブの一体感は、タカネにも何かしらの新しい衝動や感情を植え付けただろう。単なる子犬から、芸達者な貴重な子犬くらいには認識が変わっていそうだ。

 が、チームアンツィオまで見る理由が分からない。

 

 別にヤキモチ妬いてるつもりはない…いやちょっとはあるけど、それ以上にヤバい予感が先に立つ。なぁんかあるなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてここで様子見する奴は……勝てねぇ! 

 

 

 …何にって? パチンコにかな。金使った博打は好きじゃないが。命使った博打は、呼吸するレベルでやって勝ってんだけど。あれ、それもう博打って言わなくね?

 まぁとにかく、経験から言わせてもらうと、物事と言うのは放置する事で好転する事なんか、殆ど無いんだ。

 俺が首を突っ込むと絶対ややこしい事になる、或いはR-18の沼に嵌っていくという自覚はある。そう主張して、無理に何事かに介入して、やっぱりややこしい事や底なし沼に引き摺り込んだ自覚はある。

 が、やっぱりそれは何もしないよりもいい選択肢だったのだ。

 

 

 

 うん、いい選択肢だったんだ。欲望に流されて刺されたって、一大決戦の中で修羅場発生させてざっくり刺されたって、何もしないよりはマシだったんだ。

 あの後の事を想像すると、どの口で抜かすと自分でも思うけど。

 

 と、とにかくだ、今取るべきなのは突撃の一択。今後のツアーでも、アンチョビに歌ってもらうというか歌わせる可能性は大いにあるのだ。ノリに特化しているアンチョビに陰が出来るのは致命的だし、とにかくスピード解決を目指すのだ。

 

 

 

 

 

 

 …と言う訳で、開祖様権限で、アンチョビを俺の部屋に呼び出した。俺という生物の女癖の悪さを知っているだけに、ちょいと警戒されたが…。

 とりあえず呼び出し、何か引っ掛かりでもあるのか問い詰めてみた。

 

 普通なら、悩みを吐けと言われても簡単に吐かないだろうけど、今回の件はアンチョビでも持て余し、誰かに相談したがっていたようだった。

 その悩みの内容とは。

 

 

 

 

「…………せ、性的行為と言うのは、初めて行った国で、知らない人を相手に行うものなんでしょうか!?」

 

 

 

 

 …お前は何を言ってるんだ。なんだ、思春期の悩みか? だったらえらくデリケートな所に首突っ込んじゃったな…。

 

 

「いや違います。そうじゃないです。そういう意味じゃないです。実は……」

 

 

 

 アンチョビはポツポツと語り始める。

 事の始まりは、アメリカ出国の前の事。もうちょっと言えば、アンチョビを一晩甘やかした(意味深ではない)翌朝。

 出国の為の準備が出来ていないカエデさんを筆頭に、アンチョビは皆の荷物の点検を行った。

 

 実際には、大方の準備は出来ていて、後は日用品…歯磨きとか…を詰め込む程度だったんだが、アレはカエデさんなりの構ってくださいアピールだったんだろうか。…一人にしておけない人だと思わせておけば、アンチョビが世話しに来てくれるしなぁ…。

 

 …その真偽はともかくとして、荷物の点検と、立つ鳥後を濁さずの精神で、部屋が散らかってないかも一通りチェックした訳だよ。ホテルからタオルを持っていくのが許されるかは微妙な所だし、よく分からない土産らしき荷物があったのも問題はない。

 だが、アンチョビは見つけてしまった。

 

 

 

 

 ゴミ箱に捨てられていた、複数の使用済みの避妊具を。

 

 

 そして、『そういう事』によって汚れたと思われる下着や衣服を。

 

 

 言っておくが、俺ではない。その日の夜、俺は一晩アンチョビに膝枕+頭ナデナデしていた。前日には、訪れた子達の相手をしてたけど。

 ついでに言えば、オカルト版真言立川流で避妊+消毒できるので、いつでも生だ。…プレイ用に避妊具を使う事はあるけども。

 

 では誰が? 誰と、誰が?

 

 チームアンツィオは女性のみ。ライブツアーについてきている身内も女性のみ。出すモノ出した形跡がある以上、少なくとも男の影が一つ。…避妊具の数を聞いてみると、一般的な男性なら3人くらい…かな。

 悪いとは思いつつ更に荷物を改めていくと、避妊具を持っていたのは一人ではない。

 …そして、持っていた子は全員、一際眠そうにしていた。

 

 別に、性行為自体を咎めているのではない。チームアンツィオに、恋愛禁止なんて規則はない。…意味を為している規則自体が殆ど無いが。

 異国の地でテンションが上がって、偶然出会った男性と一夜のアバンチュールをした所で、ペナルティがある訳ではない。ペナルティがある訳ではないが……アンチョビはひどく動揺している。

 

 性行為を、そんな気軽に行うものなのか、という少女らしい葛藤もある。

 だが、それ以上にアンチョビは疑いを持っていた。気づいてしまった。

 

 

 売春、という行為の可能性に。

 

 

 …大当たりなんだよなぁ…。しかも今に始まった事じゃない。多分、も 言えば、世界的に見て左程珍しい事でもない。世界最古の職業云々ではなく、単純にそれくらいしか糊口を凌ぐ手段がない人も多い。

 未成年との淫行を禁じる法律はあるが、機能しているとは言い辛い。機能したら機能したで、代わりにどうやって飯を食えという話にもなってしまう。しかも世界規模で。

 

 

 …もしも本当にそういう行為をしていたとして、アンチョビはどう感じる?

 

 

「……分かりません。本当に、分かりません…。そういう行為を否定する事はできません。今の極東はともかく、3年前までの極東じゃ、食事にも仕事にも殆どありつけませんでしたから。孤児が生き残る為に取れる、数少ない選択でした。私だって、体を売ろうかと思った事は、一度や二度じゃありません。…しなかったけど」

 

 

 経済的にも食糧事情的にも破綻してたもんな。

 

 

「ええ…。ウチの子達にもチームを作る前に、それで…その、本当にやってしまった子が何人か居るだろう、とは思ってました。そういう事をしなくてもいいように、ちゃんとした仕事で食べていけるようにって、チームアンツィオを結成したのに…」

 

 

 実際には、まだ隠れてやっている子がいる。自分のチームで。

 …厄介な事になったなぁ。ドジ踏みやがって…。

 

 誰がヤッたのかは検討がつく。移動中に特に眠そうだった、R-18チームの数名。

 俺ともヤッた事がある子達だ。名前は……聞いてないな。

 

 誰を相手にしたのかは予想するしかないが、大方ホテル近辺でスクープの機会を伺っていた記者か何かだろう。あいつらの売春は、あくまで商売、生きる為、或いはチームアンツィオの為の手段だ。単なる小遣いや小金欲しさに行っているのではない。…生活資金という意味では、金目当てなのは確かだが。

 以前、俺に逆夜這いをかけて、アンチョビを目にかけてもらうように要請したのと同じだ。今回は、記者を篭絡して、アンチョビを持ち上げるような記事を書いてもらおうとしたんだろう。

 

 

 …言ってはなんだが、あまりよろしくないな。倫理的に、という意味ではない。このまま続ければ…いや、この事実が明るみに出れば、アンチョビの足を引っ張りかねない。

 急成長中の注目のアイドル、アンチョビが率いる……売春集団。そういう意図のチームではなくても、一部は実際に売春をやっているのだし、そのようなレッテルは避けられない。

 

 加えてアンチョビ自身も、自分の知らない所で、チームメンバーが自分の力になる為に売春を行っていた、と知ったら…。

 

 

 

 

 だが、どうする? 精神的にも物理的にも、ノーダメージで乗り切る手段が思い浮かばない。

 …どう考えたって、アンチョビに真実を知らせないという事はできないんだから。

 隠し事は、いつかはバレる。彼女達が今まで活動してきた極東で暮らしていくなら、猶更。何より、チームのリーダーとして、『知らなかった』の一言で済ませられない。

 

 

 葛藤しながらも、俺は平静を装ってアンチョビの疑問に答えていた。

 女性側の価値観に一致するかは分からないが、売春にしろ、意気投合した人と対面して一時間でコトに及ぶにしろ、本人の意思でやってるなら、問題はないと思う。あとは、病気にだけ気をつければな。

 俺だって、そういう商売にお世話になった事はあるし、逆に出会った当日にベッドインってのもあったし。

 

 

「…改めて聞くと酷いですね」

 

 

 そうか? 少なくとも俺の場合、口説いたか、なんかその場の流れでそうなっちゃったかだったけど…。

 ともかく、初めて会った人と…ってのは別におかしい事じゃない。セックスの価値や気安さは人それぞれで、目的も違う。金や食料を目当てにする人も居れば、快楽目的の場合もある、子供が欲しいからって時もある、単なる気分の時もある。

 

 …話が逸れたが…いきなり売春と決めつけるのはよろしくない。

 コトがあったのは確かにしても、あいつらの泊ってた部屋に不届き者が入ってくるのは難しい。全員、乱暴された形跡も見当たらなかったから、合意の上の可能性が高い。

 

 まずは何を目的にそういう事を行ったのか、そこを知らなきゃ話にならんだろ。

 それこそ、気が合う相手を見つけて、旅行先のテンションも合間って一夜のアバンチュールしただけなのか。

 それとも、何か目的があって取引として体を差し出したのか。

 

 世の中全てが綺麗な物で出来ていると思う程、頭がお花畑でもあるまい。いきなり否定はせずに、まず知る事だ。

 

 

「……そう、かぁ…。そうですね。…まず何よりも知らなきゃいけない事は………誰だったのか、ですね」

 

 

 そうなるな。…と言っても、目星はついてるんだったか。乱れた服を持ってた子。

 いきなり呼び寄せて話をするのは止めておけ。せめて、本当にそういう行為をしようとしている所を抑える事だ。

 

 

「…あの、それって割とドギついシーンに突入しろって言ってるんですが…」

 

 

 直前に割り込めば?

 

 

 

 

 

 

 

 さて。アンチョビを何何の解決にもならない一時しのぎの論法で、一時的にでも納得させたはいいものの、どうしたものか。

 正直言って、チームアンツィオが売春から足を洗うなら、潮時だと思う。これ以上続けても、アンチョビの足を引っ張りかねない。

 

 …これは、俺一人で考えるべきじゃないな。うん、あの子を呼ぶか。

 

 

 

 

 周囲がライブの準備に向けて忙しく動く中、俺はこっそりと抜け出し、チームアンツィオの副長を呼び出した。別に正式に副長の地位に居る訳じゃないが、R-18に関わっている子達の元締めのようなものだ。

 この子とも、レアを連れてきた時の乱交でセックスしたもんだ。結構なテクの持ち主だった事を覚えている…独学にしては、だけど。

 

 

「ご用命ですか? いくら開祖様とは言え、対価は必要ですよ。…もう一度、あんな風に無茶苦茶にされると言うのは魅力的ですけど」

 

 

 こら、股間をサワサワするんじゃありません。生憎と、今回はそういう話じゃない。ちょっとヤバい事になった。

 

 

「…聞きましょう」

 

 

 カクカクシカジカ。

 

 

「……あのバカ共…。あれ程、後始末は徹底的にと言ったのに…」

 

 

 頭をかかえる副長。ちなみに、アメリカでヤってたのは知ってたのか?

 

 

「ええ。引き込めそうで、後腐れの無い『相手』を見繕って、宛がったのは私ですから。お察しの通り、ドゥーチェを持ち上げるような記事を書く事を約束に、一晩。…一晩どころか数時間で終わり、本人達は不完全燃焼だとブツブツ言っていましたが。大きいけど柔らかい、何より下手だって。その後、開祖様にスッキリさせてもらおうって逆夜這いをかけようとしたのを止めてました」

 

 

 その場合、眠るアンチョビの横で、声を押し殺しながらになるな。

 それはともかくとして、これからどうする気だ? 水商売が悪い事とは言わんが、外聞が悪い事には変わりない。特に、未成年の集団なんだからな。

 

 

「…このままだと、スキャンダルと言う形でドゥーチェの足を引っ張る恐れがある…という事ですか。しかし、今やめたとしても、今までしてきた事は変わりません。また私達の『世話』になりたい客も居ますし、何より食べていく術がない」

 

 

 アンチョビの稼ぎも結構なものになり始めてるけど、人数が人数だからな…。

 しかし下手に足を洗って供給を断てば、バカな事考える奴が出ないとも限らんか。

 

 

「…いえ、それでも止めるべきなんでしょうね。最悪、売春に関わっていたメンバーだけでも、チームアンツィオから離れるか…」

 

 

 却下だ。それこそ、アンチョビがショックを受けるどころの話じゃない。

 それにお前さん、チームアンツィオ運営の補佐役でもあるだろ。アンチョビのカリスマで集団を纏め続けられるとしても、遠からず破綻するぞ。

 

 …今から隠し通すのはほぼ無理、アンチョビがショックを受ける事は避けられん。むしろ、チーム頭領として傷ついてでも対峙すべき問題なのは確か…。

 

 

 

「…力技になりますが、案はあるにはあります」

 

 

 え、マジで? だったら最初からそう言えばいいのに。

 …何か問題でもあるのか?

 

 

「問題と言うか、言い張る事はできてもそれを受け入れられるかが問題で…。以前から、ドゥーチェにバレた時の為の次善の策として考えていました。簡単に言ってしまえば、組織立った売春ではなく、個人で行った事にするのです」

 

 

 個人…? いやでもどっちにしろ…。

 

 

「売春ではなくて、あくまで……そう、好きになった相手と『そういう事』を行うのは、おかしな事ではないでしょう。そして相手も好きになってくれた子の為に何かしてあげたいから、こちらのお願いを聞いてくれる…」

 

 

 …それこそ風俗店の言い分だな。体を洗ってもらってる最中に、急に恋愛感情が芽生えてゴールイン、それが終わったら冷めてサヨナラ…。

 金銭のやりとりに関するコメントは?

 

 

「デートの時は男性が奢る、というのは珍しい風習でもないですから。ともかく、これは組織立った売春ではなく、恋の多い女性が集まって、出会いと別れを繰り返しただけの話。或いは、個人的に付き合いのある、所謂セックスフレンドが多かっただけです。チームアンツィオには恋愛に関する規則はないので…まぁ、そうですね。そういうレッテルを張られるのであれば、今後の対策は必要でしょうか」

 

 

 …成程、受け入れられるかはともかくとして、一応の主張は出来るか。受け入れられるかはともかくとして。

 

 

「2度言わなくても、強引な話だと自覚はしています」

 

 

 いや、案外いけるんじゃね? 俺だって、『お相手』は沢山居るし。恋人、愛人、セフレ、ペット、その他諸々のどの呼び方が適切かは微妙だけど。

 俺の場合は極端な例だとしても、今までの人脈を…売春じゃなくて、ペパロニに恩を感じてる人の人脈を上手く使えば、世間から隠し通す事はできるかもしれん。

 

 

「となると…やはり、最期はドゥーチェにどう教えるか…ですね」

 

 

 そうだよなぁ。結局はそこに辿り着く。なるべくダメージを負わせない知らせ方を…。

 

 

「…いえ、この際ダメージは度外しすべきかもしれません。勿論、無用に傷つけるのは論外ですが…これまでずっと、ドゥーチェを誤魔化し続けてきた、その報いと思えば…」

 

 

 真実は口に苦い物、か。賛同できる方法ではないが、しかし代案も無し。

 …無責任な事を言うが、結局はアンチョビとチームアンツィオの問題なんだよな…。俺は関係ないって意味じゃなくて、君達にしか決定権はないって事だ。

 

 

「そういう事です。…とは言え、ドゥーチェを慰める人、拠り所になる人は必要ですので…その時はお願いします」

 

 

 …俺でいいのか? お前らの事を知ってて黙ってた上に、ヤッた…買った事もある俺だぞ。

 むしろ、アンチョビの方が嫌がるんじゃないか? もう誰も信じられない、とか言って。

 

 

「そこはそれ、開祖様の女ったらしっぷりに期待します」

 

 

 マジか…。どうにか出来る目はあるけどさ。あいつ、甘えさせられるのに弱いと言うか、慣れてないみたいだし。ずーっと甘えさせる方に居たからかねぇ。

 まー一度マジギレされるのは覚悟しとかんとな…。

 

 

 

 結局、コレという案は出なかった。アンチョビにいつ話すかも、悩みどころのままだ。

 …ステージに影響が出るくらいならまだしも、人間関係に亀裂が入るのだけは避けたい所だ…。

 

 

 

 



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367話

シフト表を見るだけで、胃痛になる程憂鬱になる今日この頃。
元々人が居ないのを必死で誤魔化して回していたのに、メインスタッフが1人家庭の事情で退職、1人怪我で復帰がいつになるか分からず、サブでも重要な位置に居たスタッフが本業の事情で退職、学生さん達はテストの時期。

ついでに俺は長期休暇が組まれている。
こんなに嬉しくない休暇は初めてだ…。

これらをほぼ一週間以内にどうにかしないといけない。
ついでに施設は故障だらけ。

ああ…ダクソ以上に心が折れそうだ…。


神変月

 

 

 気が付けば新しい月に突入。ライブツアー中だと、月末月初の業務から逃げられていいね。

 極東では色々と忙しい日が続いているようだ。その間にも、エロ画像を送ってくれるのは有難い。既に、『ネコっぽいって言われるけど、タチもイケるよ』とか、『帰って来た時の為に特訓』とか、色々送られてきている。

 …昨日送られてきた、『ご主人様が居ない間にクーデターを起こそうとした淫乱の末路』ってのはインパクトがあったなぁ…。何をやろうとしたんだろうか、ミナミの奴…。縛られて目隠しとか猿轡とかされた挙句、意外とサディスティックな表情も似合うフミカに犯され、更に周囲にも同じようにディルドーを装備した女達に囲まれているという、レズ輪姦直前の写真が送られてきた。

 例によって、大きくなったナニの写真を送っておきました。

 

 しかし、極東は案外平和な日々が続いているようだな。他所の基準で行くと、阿鼻叫喚もいいところだろうが。

 そろそろラケルてんてーが、何か仕掛けてくるだろうと思ってたんだが…。レア達も警戒しているようだが、実際何もないのだからアクションの取り様がない。

 勿論、影に潜んでの企みにも気をつけているが…そうそう気付けるような企みなら、陰謀とは言わんしな。

 

 

 …正直な話、何か起きるタイミングとして、有力な物はあるんだよなー…。

 ほら、ジュリウスの彼女…いやまだ彼女じゃないか。とにかく、急接近しているらしいアイドル候補の女の子。

 彼女とジュリウスの間に何かあったら…進展に限らず、仲違いとか、思わせぶりなアレコレとか、ラブコメチックなアレとか、ラッキースケベ的なナニがあったら、それが合図になりそうな気がする。

 

 …でも、そんな素振りもないんだよなぁ…。ロミオから聞いた話じゃ、さりげなくアレコレ世話を焼いたり、席を一緒にするよう仕組んだりしているのに、中々進展しない。

 ジュリウスはあれで以外とDT…もとい奥手だし、お相手の子も友人的な意識が強いのか、ある程度以上踏み込まないらしい。

 いっそ媚薬でも飲ませて閉じ込めてしまえ。

 

 

 

 冗談はともかくとして、今日はライブがある日だ。現地までの案内は、フランが務めてくれる。

 意外と言うべきか、フランはカエデさんと妙に気があっているようだ。性格は真逆にしか見えないのにな。キリッとしていて、有能でテキパキ、クールなフラン。一見するとミステリアスだけど、中身は25歳児、駄洒落を言っては実年齢など知らぬとばかりに人に甘え倒すカエデさん。

 …あ、共通点あったわ。あの二人、私生活はダメダメだ。フランは自室が超散らかってるしな。

 そして、二人ともアル中かと思う程の酒好きだった。実際、昨日も二人で飲んでたっぽい。酒飲み同志、目と目で通じて同類だと分かったのかもしれない。

 その癖、今日は酒の匂いも残ってないんだから、どうやってるんだか。香水で誤魔化せる酒量じゃないと思うんだがな。

 

 

 

 それはともかくとして、ここでもアメリカ同様、独特のアラガミが居るようだ。…何と言うか……前衛的な。

 戦闘能力としては、ぶっちゃけ弱い。ヘタリアアラガミと言いたくなるくらいに弱い。

 

 いや、『こいつら進化したら脅威だな』ってアラガミは何種類か居るんだよ。極東やMH世界に例えて言うなら、下位なら雑魚だけど上位になったら化ける、G級に至っては廃人でも嫌な顔をするって感じの。

 だが弱い。進化どころか、生き残る気があるのかと言いたくなるくらい弱い。

 …逃げ足は速いんだけどな。ある意味では、極東のアラガミよりも生き延びようとしているのかもしれない。

 

 ついでに言うと、イタリアのゴッドイーターの間では、『アラガミに酒を与えてはいけない。バースト化するから』という話が、まことしやかに囁かれているそうだ。…いやマジかは知らんよ。

 ただ、イタリアの軍人は酒と女の為に超パワーアップすると聞いた事があるが…まさかなぁ?

 

 他の特徴と言えば…さっきも言った、前衛的な部分? なんかね、アラガミ達が一々カラフルでお洒落なのよ。オサレなのかもしれんが、そこは人間との感性の違いという事にしておこう。

 どこの孔雀かと思うくらいにカラフルだったり、シンメトリーになっていたり、教会っぽい妙に荘厳な(でも弱い)飾り付けだったり。

 

 …ひょっとして、これはアレか? イタリアの建築様式を真似て進化したのか?

 そう言えば、例として写真を見せられたガルムは、ガントレットが何となくコロセウムっぽい形になっていた。アマテラスっぽいアラガミは、どっちかと言うとソル…太陽の名を持つアラガミだったし、ザイゴートはより天使っぽい飾りつけだった。

 ハンニバルに至っては、それこそ悪堕ちしたのかと思うくらいに姿形が変わってた。元々悪役っぽい恰好だったが、そこに厨二チックな魔改造が施され、悪魔をイメージしている事が丸わかりだ。

 イタリアでは、ハンニバル将軍は今なお悪魔として語られている、と聞いた事はあったが…あからさまだなぁ。

 

 

 ま、それでもやっぱり弱いんですけどね。強いだ弱いだ以前に、脆いんだよ…。軽く(極東基準)ド突くだけであっさり部位崩壊するしさぁ…。アメリカのアラガミの方が、まだ手応えあったぞ。

 こんなぬるま湯で過ごし続けてたら、フロンティアに行けなくなるくらい訛ってしまうんじゃないかと心配している。

 

 

 ん? アラガミともう戦って来たのか? うん、昨晩の夜にこっそり抜け出して、近場の奴を狩場に乱入してきた。ゴッドイーターの規律的に考えると大問題だが、そこはバレなければ問題ないという事で。

 アイドル達のライブを守る為、決死の覚悟でハンニバルに挑もうとするゴッドイーター達を死なせるのは、ちょっと忍びなかったしな…。

 

 その決死の覚悟を一蹴して、強敵(ヘタリア基準)のハンニバルをフルボッコにして見せた時の彼らの顔は複雑だった。名乗りもせずに、さっさと撤退してきたから、後から妙な事言われる事はないと思うが…。

 ちなみに、フランにはバレバレだったようだ。『この近辺でそこまで強いゴッドイーターは居ませんから』だそうな。仮にも自国のゴッドイーターだろ…。

 まぁ、確かにディバイダ―のお二人さんの手には余りそうな程度の力はあったようだが。

 

 

 

 

 そうそう、そのディバイダ―さんだけど…ああ、執事のハミルトンさんの方な。紅茶がめっちゃ美味かった。あのカエデさんが、一時的にでも酒より紅茶を所望するんだから半端ないわ。当然、それはそれとして酒も飲んでたが。

 で、お茶会の時に色々聞いてみたんだけど、ちゃんとした…主? 雇い主? ともかく、そういうのは居るらしい。その人はゴッドイーターではないが、それを援護、擁護する立場に居るらしい。よく分からんが、経済的支援ってヤツか。

 ディバイダ―の開発にも資金を出しており、若くして色々と大変な立場に居るのだそうな。家の立場やら何やらはよく分からんが、味方も多いが敵も多く、ハミルトンさんはそれを憂いているらしい。

 お約束と言えばお約束か。急成長した若手が結果を出して、妬まれたり疎まれたりするのは世の常だ。

 

 …で、その急成長した美人お嬢様(←ココ重要ね)の元を離れて、ハミルトンさんは何でディバイダ―なんぞやってるの?

 

 

 …これまた複雑な事情があるとか。複雑と言うか、『ちみつなせってい』のような気がしなくもない。

 とりあえず、執事である筈のハミルトンさんがゴッドイーターになる事で、主の家が果たすべき幾つかの義務を免除されているのだとか。…何がどうなってそうなったのかは、全く分からなかったが。

 

 もう一人のディバイダ―のセラさんも、そこら辺の事情はよく知っているらしいが…本人が語りたがらない。

 あまりフレンドリーとは言えない性格に加え、彼女は彼女で実家と何やら揉めて、飛び出してきたっぽい。『私の行動に、家は関係ない』って拘ってたからな。

 

 まぁ、そこら辺は好きにすればいい。誰だって、最良とは言わないまでも、ちょっとでもマシな道を選んで進んでる結果がこうなってるだけだ。結果がどうなるかは、未来だけが知っている。

 

 

 

 …のはいいんだが、ハミルトンさん、何か企んでる気がするなぁ。彼が言う『お嬢様』の味方を、手駒を、或いは友人を増やしたいだけなんだと思うが…。

 なんか、そうやって主の為に、主の意思すら超えて暗躍するのって、スッゲェ執事っぽい気がする。…何か基準がおかしい気もするが、それこそ考えても仕方ない。

 

 ちなみに、今日のライブにその主さんが来るのかと思ってたが、残念ながらそれはないらしい。今はイギリスの方で活動中なのだそうだ。…近いのか遠いのか…。世界地図は、距離間が把握しにくいなぁ。

 

 

 考えてみれば、こうやって世界を飛び回るのは、俺もほぼ初めてかな。近い経験を言うなら、MH世界で飛行船を使い、4つの拠点を飛び回ってたくらいか。

 あれも広範囲と言えば広範囲なんだが、MH世界の人類の生存圏は、意外と狭いからなぁ。世界を飛び回る、って認識はあんまり無かった。

 

 

 

 

 

 …なんか色々話が逸れた。ライブの事に話を戻そう。

 アメリカでの成功を聞いたためか、或いは単に可愛い女の子がやってくるからか、前評判は非常に良い。ちょっと街を歩いたり、そこらの人込みで耳を欹てただけでも、興奮した様子で語る若者達が多く見つかる。

 逆に、情報が入ってこないのは、黒蛛病についてだ。

 

 アメリカ同様、極東とかなり力の入った交渉をして、優先的にライブを行う事を取り付けた、と聞いている。つまり、それだけ重要で、深刻な被害が出ている筈なのだ。

 そうでなければ、多大な金額物資融通その他諸々を行ってでも、取引を勧める訳がない。

 

 うーむ…? 人の黒蛛病じゃない。アメリカのように土地でもない。感応種のようなアラガミでもないようだ。少なくとも、先日の戦闘と探索では、それらしい気配はなかった。

 となると…?

 

 …これは下手に想像せず、フランに確認した方が良さそうだな。もしも誤魔化されたら、それを元に想像すればいいだけだ。

 

 

 

 と言う訳で、早速確認してきた。

 

 

「ああ、その件ですか。別に隠すような事でもないので正直に答えますが、問題なのは水なのです」

 

 

 水…? 飲み水? 湧き水?

 

 

「どちらもですね。世界各国の例に漏れずアラガミに食い荒らされて、イタリアも人が住める土地は非常に少なくなっています。残されている数少ない生息領域の一つが、ここ、ヴェネツィアなのですが…見ての通り、水が非常に多い都です」

 

 

 まぁ、そうだな。これだけ水で満ちている街は、このご時世じゃ珍しいんじゃないかな。

 …かつての、ゴンドラが行きかっていた頃に比べれば、大分減ってるようだけど。水の都と言うより、川の交差点の上の集落って印象になってるからな…。

 

 

「私にとっては、物心ついた頃からこうなので、違和感は感じませんが…何れにせよ、この街の人にとって、今でも街を流れる運河は生命線でもあり、寄る辺でもあります。ですが…その寄る辺は汚されつつあります」

 

 

 …運河が穢れる…? 毒……いや、それこそ黒蛛病で、か。アメリカの時は土地、ヴェネツィアでは水?

 

 

「そういう事です。これだけの規模の水量ですから、非常に濃度は薄いです。ですが、極東のことわざにある塵も積もれば山となる、のように、常日頃からこの水に触れ続けていれば、遠からず感染するでしょう」

 

 

 …これは…アメリカの時以上に厄介かもしれんな。

 アメリカでは相手が土地で、或いは植物だったから、動く事もなかったし、溜まった黒蛛病のエネルギーもその場にあったままだった。

 でも水、しかも運河じゃな…。水は何処から沸いてるんだ?

 

 

「主に山ですが、何処の水源が汚染されているのかも不明です。………実は、イタリアで問題になりつつある黒蛛病は、もう一つあります。……その……法整備が間に合わなかった為と言いますか、貧しさの為と言いますか…」

 

 

 ?

 

 

「……男性も女性も、情熱的でスキンシップの強い人が多くて……つまりは、ついつい触れてしまう訳です」

 

 

 …黒蛛病に感染してたとしても?

 

 

「していたとしてもです。自覚症状のない間に触れてしまう事もあれば、自覚があっても食糧確保の為に、それを隠して体を売る者も居ます。そうやって感染した『買った方』も、自覚の在る無しは不明ですが、また別の相手を買い…」

 

 

 ……なんつーか…その、HIVじゃあるまいし…。

 

 

「もっと性質が悪いです。粘膜接触や、傷との接触ではなく、触れるだけで感染しますから。幸い、今のところ黒蛛病が発病した人も、感染した人もごく少数で、隔離・隠蔽されています」

 

 

 そこは同じか。しかし隠蔽までするとは…。

 

 

「一見すると、単なるタトゥーと見分けがつきませんので。蜘蛛のタトゥーはあまり見た事はありませんが」

 

 

 ふぅん…。外国じゃタトゥーは珍しくないからなぁ…。

 しかしどうしたものかな。直接感染者は、数が少ないなら俺が直接治療する事もできるが、水…水源は厄介すぎる。

 やり方が分からないし、アメリカでの例を考えると、浄化された黒蛛病エネルギーが水質に何かの影響を与えるかもしれない。

 下手をすると、ヴェネツィアの水に毒が混入なんて…いや、幾ら何でも薄すぎるか。

 

 

 

 …薄い?

 

 

 なぁフラン、現状でもヴェネツィアの水は汚染されていて、でも滅多に感染者は出ないんだよな?

 

 

「ええ。余程長い間、水に触れ続けた者しか発病しません。その為に、危機意識が薄いのは否定できませんね」

 

 

 と言う事は、今後はともかくとして、今は無理に浄化を考えなくてもいい訳だ。現在の感染者を完治させ、予防する方法を伝えればいい。

 それを怠って発病したら…悪いが、そこは自業自得か、運が悪かったって事で。

 

 

「予防…どうやって?」

 

 

 それは今から考える。

 

 

 

 

 

 

 さて、そうこうしている間にライブである。

 今回のステージは、町の中心部、象徴的な噴水広場で行われる。…確かに一見すると綺麗で雅な場所なんだが、水に触れやすいって事は、それだけ黒蛛病感染の危険も高いんだよなぁ。

 それを浄化する為のライブだから理にかなっていると言えなくもないが、なんかこう、モニョる。いや地雷処理だって、処理の為に万全に対策しても、結局は地雷原を歩いていくんだけど。

 

 ともあれ、水の都がお湯の都になりそうなくらいには、ステージは熱狂の渦に包まれている。まだ始まる前なのに。

 この熱気に上手く血の力を乗せられれば、それだけで相当な範囲の水が浄化できそうだ。結局は、何処からか流れ込んでくる黒蛛病エネルギーを断ち切らねばならないので、一時的な処理にしかならないが。

 

 

 

 …で、ミカ。何だか落ち着きがないけど、どうかしたのか?

 

 

「べっつにー。単にライブの前で、体が疼いてるだけだよ」

 

 

 

 体が疼く(意味深)

 

 

「意味深…どういう意味?」

 

 

 …穢れ泣き疑問の視線が痛い。

 でも仕方ないじゃないのよ。本人に自覚はなさそうだけど、これ発情してるって。ライブ=エクスタシーの公式が、体に刻まれかけてるわ。

 実際、アメリカでの2回のライブで、濡れてたり雌フェロモンムンムンだったりで、俺も理性が飛びかけたし。

 

 

「よく分からないけど…後はほら、ちょっとドゥーチェ…アンチョビの様子が気になるかなって」

 

 

 ああ…。ちょっと、身内の事で悩んでるんだよ。気にかけてくれるのはありがたいが、ちょっとそっとしといてやってくれ。

 アンチョビがおかしいと調子が出ないのは分かるけど、難しい問題なんでな。

 

 

「だったら猶更、力になった方がいいと思うけど…うん、今は時間もないし、アンチョビが失敗した時のフォローは考えておくよ」

 

 

 頼む。…頼んでおいてなんだけど、ミカも心配なんだけどな。前2回のライブで、両方とも体力使い果たしてぶっ倒れたし…。

 

 

「うっ…そ、そこはタカネさんやカエデさんにも言われてるから、気をつける」

 

 

 

 

 

 

 話は変わって、ステージの方。今回は、俺も最初から最後まで見て居られそうだ。近場にはアラガミも居ないし、調査が必要な水は噴水を通じて集まってくる。警備の必要も無さそうだ。

 

 関係者席に座り、イタリア人の皆さまの熱気に乗って騒ぐ騒ぐ。

 …と言うか、このノリ、何か覚えがあるなーと思ったら、チームアンツィオによく似てるわ。と言うか、よくよく考えてみればアンツィオってイタリアの都市名だった。

 それを知らずに命名していたそうだが、一体どういう意図で名乗っていたんだろうか。

 

 とにかく、チームアンツィオも周囲のノリに乗せられたのか、いつも以上に元気がいい。何処で覚えてきたのか、周囲を巻き込んでウェーブやったりサイリウム使ってオタ芸やったり。大丈夫かなぁ…何かやらかさないといいんだけど。

 

 俺も同じようにライブを楽しみながらも、観察だけは続けていた。

 飾り付けられた噴水を通して、薄っすらと黒蛛病エネルギーが振り撒かれている。俺の視覚には、煌びやかなステージに、不気味な色のモヤが薄くかかっているように見える。

 それが気になって、今一つライブに集中しきれない…いや観察の為に集中しちゃいけないんだけど。

 

 尤も、そのモヤもずっと漂っている訳じゃない。歌声が響く度に、観客の歓声が響く度に、浄化されて風に吹かれて飛んでいく。

 しかし…周辺から感じる血の力の総量は、全く変わらない。

 …思った以上に厄介だ。オールステータス1か0の雑魚敵が、地平線まで蠢きひしめき合っているようなものだ。一撃で倒せるし、ダメージもほぼ受けないが、終わりが見えない。

 

 今回のライブも大盛況のうちに終わりそうだが、黒蛛病対策としては今一つ…という結果になりそうでならない。

 とりあえず、隔離されている黒蛛病患者達を完治させるだけでも意味はあると思うが。

 

 

 これ以上観察していても成果は得られそうにないので、ライブに集中する事にした。

 

 

 

 

 

 



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368話

感想返しが滞ってて申し訳ないです。
気力とか時間とか色々あって、気が付けば自由時間が終わってしまっています。
リアル大事にとは言いますが、リアル程投げ捨てたくなるものもありません…。


仕事から自由になりたい…シフト関連のトラブルが連続して起きて、もう泣きたいっシュ…。
櫛の歯が欠けるように、ってこういうのを言うのかなぁ…。
トラブル起こして一人抜け、本業の都合で一人抜け、怪我の長期休みで一人抜け、これによって生じた負担がプライベートで非常に忙しい時期に直撃して一人抜け、今度病院で検査をした結果によっては一人抜け…。
こんな状態でシフトなんか作ってらんねーよ!
心が折れて、合わないとか気に入らないとか思ってた上司に縋りつきました…情けなくて泣きたい。

もうすぐ休暇で実家に帰る事ができますので、多分その辺でリフレッシュして感想返しできると思います…。
書き溜めはエロゲ脳も含めて、全然できてないけどな!


神変月

 

 

 ライブは大盛況、黒蛛病に関しては患者は回復。水の汚染に関しては効果なし、が昨日のライブの顛末だった。うむむ、今一つ…だなぁ。

 冷静に考えれば、歌で水を綺麗しろだなんて、熱気バサラでも呼んでこいとしか言えない無茶振りをしているのはこっちなのだが。

 

 そんな事を考えていたところ、メールで連絡が入った。アメリカで一緒に調査した学者さんからだ。

 その前に届いていた、『食べられるのはどっち?』と題されたバニーと狼のスカートたくし上げ画像に惹かれつつ、本文を開いてみた。

 

 あの時の調査の結果で、学会(?)から大きな注目を集めるのに成功し、研究の為の予算が取れてヘブン状態らしい。その切っ掛けをくれた俺に、お礼のメールを送って来た。

 …まぁ、そうだよなー。まさか、地下水脈が石油になるなんて超常現象、誰が想像するかって話だよ。見つけたら否応なく、注目も集まるわ。

 

 

 で、返信をする時にこの際だからとヴェネツィアでの状態を相談してみたんだが………『詳しい事は現地を見て見ないと断言できないが』という前置きと共に、物凄く根本的な疑問が提示された。

 

 

 

 

 

 何で黒蛛病のエネルギーは、海に流れていかないの?

 

 

 

 

 …考えてみりゃ、確かにそうだよ!

 

 黒蛛病のエネルギーは、汚染された水源から溢れ、川に流されてヴェネツィアに流れ込むと考えられている。つまり、水に流されるか、H2Oその物に引っ付いてる可能性もある訳だ。

 だったら、水と一緒に移動しないとおかしくない? ベネツィアに流れ込んだ川は、流れに流れて海に向かうものでしょ? いや、海に出たら海に出たで、海が汚染されるような気もするけども。

 少なくとも、水が少なくなったヴェネツィアでは、川の流れはそうなっている。

 なのに、どういう訳だか黒蛛病エネルギーは、ヴェネツィアにこびり付いたように留まり続けている。

 

 これを受けて、俺はこう考えた。ヴェネツィアには、黒蛛病エネルギーを引き付けるような『何か』があるのだと。

 

 

 が、学者さんの見解は違った。そもそも、黒蛛病エネルギーが水と一緒に移動すると言うのが間違いなのだ、と。

 もしも水と一緒に流れる性質があるなら、アメリカでも地下水脈に乗り、もっと広範囲の土地を汚染していた筈…と言うのが学者さんの見解。

 

 うむぅ、確かに…。でも噴水の水と一緒に動いてたよな…。しかしそうなると、この汚染の原因は一体…? 

 

 何れにせよ、次のライブまでに汚染源を突き止め、そこを浄化しなければならない。さて、どうしたものか…。

 

 

 

 

 

 

 なんて考えたら、ビッグニュースが飛び込んできた。

 

 

 最近ちょっと…と言うか、割と真面目に存在を忘れていた…いや忘れてない、忘れてないよ俺は。黒蛛病治療できるアイドルブームに沸いてた世間がって事だよ…葦原ユノが、このライブツアー中に対バンしたいと申し出てきたのだ。

 …いやすまん、対バンは言い過ぎた。セッションって言うのかな。とにかく、一緒にライブしたいそうなのだ。

 

 少なくとも、ユノ自身に裏は無いだろう。あの子は超が付く程の善人だ。………うん、抑え込んできたモノを噴き出させた時は、余波で精神的にマネージャーのサツキが死んだけど、それはそれとして。

 黒蛛病を抑えられる唯一の歌姫という立場が失われたとしても、奮起はしそうだが、焦ったりライバル意識を持ったりするのは考えにくい。

 

 サツキは…うん、多少はありそうだな。

 前に会った時…前回ループの話じゃなくて、今回のループで一度会ったけど、相変わらずフェンリルに対して突っかかる癖があるようだしね。

 フェンリルが出資したアイドルが、ユノの立場を脅かすとなれば、色んな意味で穏やかではいられまい。

 

 何で今更…とは思うけどな。黒蛛病を抑えられる第二のアイドル、タカネが出た時点でもっとリアクションがあると思ってたんだけどなぁ。アイドル募集の謳い文句からして、『第二の葦原ユノを探せ』だったし。

 

 まぁ、別に特に問題はないか。

 ユノの方にどんな意図があるにせよ、やる事は変わらない。仮に勝ち負けを決める思惑があったとしても、ユノのネームバリューで得られる効果の方がずっと高いだろう。何だかんだ言って、元祖歌姫は未だに根強いファンを持っている。

 

 

 差し当たり、今のうちに解決しておかなければならない問題は幾つかある。上記の黒蛛病汚染の事もそうだし、アンチョビの舞台は明らかに何かあったのが分かるくらいにぎこちなかったし、ミカだって昨日も結局体力を使い果たして倒れてしまった。場面転換まで辛うじて保ったからいいものの、いつ舞台の上でぶっ倒れてもおかしくない。

 本当に、どこから手を付けたものやら。

 

 

 やはり、一番最初に手を付けるべきはミカだろうか。自分の状態に問題があると自覚していて、尚且つ他者に関わる問題でもない。

 彼女にブレーキをつけさせる? …いや、ブレーキは既にある。ただ、自分で踏む事を忘れてしまうだけだ。アクセルを常にフルスロットルにしているのだ。

 

 

 となると……そう、付けるべきはブレーキではない。首輪だ。リードだ。

 散歩にテンションが上がって、とにかく突っ走ろうとするワンコを飼い主の元に留めるリードだ。

 

 

「…で、そのリード役が私?」

 

 

 適任だと思うけどな、リカが。何だかんだで、ミカにとって一番大事な子だしさ。

 

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、大事なのに一番とか二番とか無い気がするな。それに、その例えで言えば、開祖様の足元にジャレつくようにした方がいいんじゃない?」

 

 

 そうなるとミカの持ち味が消えちゃうんだよなぁ…。ジャレついてくる子犬ミカとかすっごい魅力的だけど。ニャンコっぽいけど。

 テンションのままに走りながらも、しっかり飼い主の示す方向に歩くようにしてやりたいんだ。いつまでも散歩を続けるんじゃなくて、道を示してやれば自然と帰り道に向かうように。

 

 

「…それって、開祖様じゃダメなの? お姉ちゃん、首輪つけてあげるって言ったら、絶対内心では喜んで首を差し出してくるよ」

 

 

 そういうプレイの話をしてるんじゃ………あれ、真面目にアリな気がする。フルスロットルになってる時にも、忘れない重石があればいいんだから。

 ご主人様ロールしながらミカの首輪をつけてやれば…チョーカーとでも言い張ればいい…悦んで絶対服従してくる気がする。

 

 

「気がするじゃなくて、絶対そうだってばー。ご主人様が出来たら、何もかも投げうって尽くすタイプだよ、お姉ちゃん。顔真っ赤にしながら」

 

 

 内心で乙女チックな妄想に浸りながらな。うん…上手く行くかは試してみないと分からないが、ありがとうリカ。予想外に簡単に、1件が片付きそうだ。

 

 

「じゃ、今夜はご褒美ちょーだい♪ ナナ達から、毎晩エッチな写真が送られてきてるんでしょ。今日のお返しは、私とのハメ撮りにしようよ」

 

 

 ええぞええぞ。問題が一つ片付いて気分もいいし、サービスするぞ。

 何だったら今からでも……と思ったが、今はちょっとヤバいな。アンチョビの問題が片付いてない。

 

 あの子の運命力だと、安全を確認して短時間で済ませたとしても、何かの切っ掛けで感知されかねない。

 

 

「ああ、アンチョビってそういう所あるよね。仕方ないかぁ…。それで、そのアンチョビの事はどうするの? 手伝える事があれば手伝うけど」

 

 

 うーん…こればっかりは、アンチョビ自身が納得するかどうか、だからな…。GKNGの上司命令なら、俺も出せるし。

 ……何か思いついたら頼むよ。多分、マッチポンプ的な方式になると思うけど。

 

 

「わかったー。じゃ、今日は私はペパロニと一緒に、街を見て回ってくるよ。ペパロニは新しいレシピ、私は珍しい花とかの種が欲しいの」

 

 

 護衛を撒くような事をするんじゃないぞ。時の人の身内なんだから、妙な事を企む輩が出ないとも限らん。

 

 

 …行ったか。元気だなぁ、リカは…。まだゴンドラは残ってるらしいし、多分乗る気だな。

 水上市場とか、俺も行ってみたいな。調査のついでに行ってみるのもいいか。

 

 次のライブまで、まだ日数がある。極東出国→アメリカでライブ、1日休んでもう一回ライブ→出国してイタリアへ→翌日にライブと言う、かなりの強行軍で皆疲れているだろう、と考えたイタリア政府の気遣いである。

 本当に、女性に対しては色々と気を遣う国だなぁ…。俺も見習った方がいいんだろうか…。いや直接的かつ親密な扱いにかけては負けてないと思うけど、心配りという点ではね…。

 

 まぁ、黒蛛病に関する調査や、諸々の問題解決のタイムリミットが伸びたと思おう。

 …そうだな。アンチョビの事は本人同士で話さないといけないから、それまではどうにもならないとして……調査にタカネを誘ってみるか。

 あいつにとってはこのライブツアーも、ペット付の新婚旅行みたいなもんだからな。ペットにばっかり構ってちゃ、タカネも面白くないだろう。

 彼女がノヴァでアラガミで、人とは一線を画する生物だとしても、俺を慕ってくれているのは事実なんだから。

 

 

 

 そういう訳で、タカネを誘って街に出てみた。

 

 

 

「あなた様からのお誘いを受けるのは、考えてみれば初めてですね」

 

 

 そうだったか? 何だかんだで、飯は一緒に喰ってた気がするが。

 まぁ、悪いとは思ってるよ。タカネが嫌いな訳じゃないし、一緒に居て楽しいとも思うし。

 

 

「私としては、楽しいと言うよりは、半身が戻って来た、という感じですね。月では常に一緒に居たのですし」

 

 

 俺はそーゆー意識はなかったけどな…。

 さて、何か麺でも食いに行くか?

 

 

「いえ、むしろ今は船に乗りたいと思います。…実のところ、私にとって河川は珍しいものですから」

 

 

 あー…確かに、あっち側には無かったもんなぁ。ノヴァの枝や葉に、僅かに水滴が集っていたが…そうか、自分の体を持ち上げられるような船だって、タカネにとっては初めてか。

 

 

「そういう事です。ああ、やはりあなた様を追いかけて、この星までやってきて正解でした。楽しい事が沢山あります」

 

 

 満喫しているようで何よりだ。じゃ、新しい楽しみを探しに行こうか。

 

 タカネと一緒に、どぶらこっこと川を渡る。半分は調査目的であったが、これはこれでいいものだ。

 何となく、荒んだ心が癒されていくような気がする。時には廃墟と見紛うような場所を船で通ったが、それも味か。夕日に照らされた廃墟は、まるで映画のワンシーンのようだった。

 途中で船が集まっている市場に寄り、適当な果物を買って、それを摘まみながら波に揺られる。

 

 ああ、平和だなぁ…。

 俺にしては珍しく、普通の海外デートだったと思う。エロまで行かなかったし。

 …いや、タカネもね、ここまで焦らされたおかえしなのか、それなりにシチュエーションに拘りたいみたいなのよ。ま、俺としても異論はない。ノヴァであろうとアラガミであろうと、タカネは極上の女で、俺に好意を寄せてくれる大事な子だ。それをいただくなら、それなりの準備が必要だ。

 …その準備の間に、色々他の人に手を出してしまいそうだが。

 

 とりあえず、皆の土産に、色々買っていこう。

 

 

 

 

 

 うん、思えばここで、結構な量の酒を…このご時世には珍しい、上質な酒を沢山買ってきたのが、いつもの展開の元になったんだ。

 

 

 

 

 明日はライブもなく、完全な自由時間。つまり、どれだけ夜更かししても問題ない訳だ。

 とは言え、年少組(精神的な意味でもね)は電池切れでバタンキュー。何だかんだで疲れや心労が溜まっていたミカやアンチョビも、素直に眠った。

 ある意味夜が活動時間である、チームアンツィオR-18組も、アンチョビが目を光らせている今は迂闊な行動がとれず、やっぱり眠った。

 

 タカネはあと10年くらい寝なくても平気とか言ってたが、地球に来た時に拾ってくれた人に「ちゃんと夜は寝なさい」と言われているので、それに従うようにしている。…夜這いはいかんな。昼から夕方にかけてが勝負か。

 

 さて、そうなりますと暇を持て余すのは、我らが25歳児カエデさんでございます。この人とは、俺はあんまり絡んでない。

 血の力のトレーニングで先生として接していた程度だ。意外と、プライベートはきっちり区切るタイプらしい。その割には、アンチョビはどんどん踏み込ませているが…あの人望の塊と俺を同列に扱っちゃいかんな。

 

 

 さて、そのカエデさんだが、このツアーに来て心底良かったと思う事が、2つあるそうだ。

 一つは、各国の銘酒をどんどん呑める事。流通が壊滅寸前のこの世界では、アイドルの収入程度の小金があったって、通販は出来ない。それが現地で、本場の雰囲気を楽しみながら飲めるのだ。酒飲みなら、誰だってテンションが上がる。

 

 もう一つの嬉しかった事は。

 

 

「ほらぁ、もう一杯…『いっぱい』注いでくださいね」

 

 

 …一応言っておくが、今のは俺に向けたセリフでもないし、下ネタでもない。酒ネタだ。

 

 

「はいはい…おっと、ツマミがもうありませんね。おかわり」

 

 

 ほれ。…ったく…遠慮ないなぁ。いつぞや、ユウェルが作った蟲料理でも出してやろうか。

 …いかんな、ハンターでさえあんなに体調に変化が出たのに、一般ピープル相手に出すもんじゃない。

 

 っとに、どんだけ飲むんだ、こいつら…。

 お土産にと思って買って来た酒の存在を嗅ぎつけて、二人が押しかけて来たのだ。正確に言うなら、押しかけて来たのはカエデさんで、フラウは連れてこられたようだったが。

 

 フラウも元々酒好きだ。年齢は見なかった事とする。カエデさんと同じくらいの酒飲みで、とにかく量を呑む、酒の味も分かる、翌日にもまず残らない。

 更に、性格は違うようだが、不思議とカエデさんと馬が合う。

 飲み友達としては、運命の出会いレベルだろう。彼女と巡り合った事が、何よりも幸運だったとカエデさんは語る。酒の席で語る。と言うか今も語っている。

 

 つき合わされると面倒になるかも、とは思ったんだが……フラウとは、以前に呑もうと約束したしな。文字通り、この世界では手に入らない秘蔵の酒で度肝を抜いてやろうと計画もしていた。

 だからまぁ、軽い気持ちで付き合ったんだ。

 

 正直言えば、己惚れていたんだろう。ハンターでゴッドイーターでモノノフでアラガミな俺が、酔い潰れる筈がないと。

 そんな訳ないよなぁ。ハンターだって、ある程度飲めばフラフラになるんだ。その気になれば急速に酔いを醒ます事はできるが、だからって酔わない訳じゃない。

 大体、今まで何度も酒飲んでは前後不覚になったり、酔い潰れたりしてたじゃないか。だと言うのに、酔いはしないという謎の自信…。失敗を繰り返すタイプだね、俺。実際繰り返してるもんね。

 

 …メッチャ頭フラフラします。うーむ、チャンポンしまくったのが悪かったか? それともペースが速すぎたか。 酒のツマミとの相性か?

 

 

 いやまだいけるまだいける、よってない、よってないもんね。

 

 

 よってないけど、ちょっとやすむわー。

 

 

「えー、おつまみはー?」

 

 

 てきとうにだしとくから、すきなものつまめー。

 

 

 

 

 あー。美味い酒は酔っても美味いな。寝落ち一つとっても気分いいわ。

 ずっと飲み続けるのも楽しいけど、適当な所で切り上げて、酔いに任せて眠りの国に落ちていくのが心地よい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 んで気が付けば剥かれてましたよ。しかも実に楽しそうなフランに。カエデさんでなくて良かったと思うべきなんだろうか。

 まぁカエデさんも、興味津々だったようですが。

 

 

 いや、そこまでこの際いいんだよ。似たような事は経験済みだし、男女逆でない上に俺としても特に問題はないので、逆レでも犯罪にはならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 サバト風味でした。うん、これフランの趣味だね!

 何で断言できるかと言うと、彼女の私室の本棚に、ソッチ系の資料が揃ってるから。文学的(?)な資料から、エロ漫画まで。どちらかと言うと、後者の方が多い。

 いつぞや、酔っているフランを部屋に届けたのを覚えているだろうか? その時、フランの私生活が駄目駄目だと判明したのと同時に、彼女の本棚にも目を通してね…。

 

 いやはや、ヨーロッパ系…特にイギリス人がオカルト大好きだと聞いていたが、そっち由来の趣味だろうか? でもイタリア人。らしい。

 どっから出してきたのやら、火をともしてないキャンドルで俺の体を囲い(屋内だからね)、ベッドを中心にした魔法陣、何故か俺の顔にはヤギの仮面が被されていて、その辺の飾りつけに使われていた十字架は逆様に立てかけられてその他諸々の怪しい道具。

 …いや待て、これアロマか? アロマにしては、なんか妙な匂いだ。

 

 どうしたものかと眠ったふりを続けていると、フランが何やら妙な呪文を唱えながら俺の体を愛撫してきた。黒ミサか? 少なくとも、呪文から霊力的な力は感じない。完全にゴッコ遊びだ。

 どうにか止めてくれないかな、とヤギの被り物越しにカエデさんを見てみたが、雰囲気にのまれているのか、単に関わりたくないだけなのか、とりあえずボーッと眺めているだけだった。

 

 どうしよう…このまま18禁に突入してしまっても(既に18禁だが)、俺のせいじゃない。酔って寝ている俺に、妙な細工までしてちょっかいをかけてきたのはフランだ。

 裁判にかけられたとしても、多分勝てる。「寝惚けて夢だと思った」の一言だけでも、充分勝てるレベルだと思う。

 

 迷っている内に、カエデさんが見ているにも関わらず、フランは服を脱ぎ捨て、俺に覆いかぶさった。…つくづく思うが、未成年の体じゃないな、こいつ…。この年齢で黒下着とこのスタイルは許されざるよ。

 許されざるので…悪魔として、この魔女にオシオキします。

 

 

 

 被り物はそのままに、俺のが挿入される手前で動かなかった…多分、処女を捨てるのに躊躇いがあったんだろう…彼女を、掴んで引きずり倒す。

 ベッドに押し付けられて慌てるフランに構わず、獣のような唸り声を意図的にあげながら、乱暴に…オカルト版真言立川流を使っていたので、痛みは感じさせない…貫いた。

 悪魔が魔女を犯すように、悦びの悲鳴をあげるフランを力任せに抑えつけ、蹂躙する。

 屈辱的で、背徳的な交わりだが、フランが悦んでいるのは明らかだった。破瓜の血を流しながら、人に非ざる快楽に翻弄されるフラン。その蕩けた顔は、普段の澄ました姿が仮面に過ぎず、本性は淫蕩極まりない雌犬だと言う事を明らかにするものだった。

 

 最終的には、望み通りに背徳的に、失禁しているフランの中におしっこ注ぎ込んで、気絶させて終了。…初めてがコレだもんなぁ。今後の人生歪むんじゃないかしら。自業自得だけど。

 

 

 うーむ、敬虔なカトリック…なのかは知らんけど、人の趣味は見た目によらないもんだなぁ。育った家で抑圧されていた反動とかだろうか? 抑圧とまでは言わないまでも、躾けに厳しそうな家の印象はある。…その割には、私生活はダメダメだが。

 黒ミサとかサバトも、元はキリスト教とかの教えに反発した物だと聞いた事がある。

 そう言えば、今日の呑みの間に、実家が名家だけど、その考え方に反発して家を飛び出して、フライアに収まったとか言ってたような言わなかったような…。

 

 

 

 

 ところで、さっきから妙に期待した目で見てくる、相変わらず酒は飲み続けている25歳児はどうするべきじゃろうか。

 え、いいの? これ食っちゃっていいの? なんでそんな反応に?

 

 …よくよく考えたら、カエデさんもリン達と同じように、因果の光浴びてたな。それで好感度補正がかかるのはいいとして……こんな一気に、体を許すまでになるか?

 ………なるなぁ、俺の場合…。元々カエデさんも、『そうなる事』に抵抗が少ない人みたいだし。いや誰もいいって意味じゃなくて、性欲を生理的にあって当然、解消する方法として本番も割り切っていると言うか。

 アイドルとして、スキャンダルにならないように自分を律していた………いや違うな、性欲解消より酒だったなこの人。

 

 まぁカエデさん本人もご無沙汰らしいし、関わりが少なかったとは言え好感度は高め。

 サバトの空気の中で淫気に当てられて、その気になっちゃってるらしいし……いただいちゃいますか。これもメンタルケアの一環って事で。

 

 

 

 

 

 …コトの最中、カエデさんがとある人の名前を呟いた時は、「忘れさせてやる!」と思って最高に滾ってしまいました。誰の名前だったかは伏せておくが、もう届かぬ人…いや届かせようと思えば届きそうだけど、不倫になるから。何度か関係を持った事はあるようだったが、詳しくは聞かない。忘れさせるから。

 悪魔だからね。不道徳なのは仕方ないね。

 

 結局、途中で起きてきたフランを黒ミサの続きだと丸め込んで、朝まで愉しみました。尚、体感時間操作も使っていた為、二人にとっては恐らく数日間ぶっ通しレベルだった事を追記しておく。

 

 



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369話

 

 

神変月

 

 

 翌日のフランは腰を擦りつつ頭を抱えていた。一応、何がどうなってああなったのか覚えてはいたようなので、文句は言われなかったが。

 

 カエデさんはと言うと……意外と何も変わってないように見えた。相変わらず、酒と駄洒落が大好きで、俺に対する態度もあまり変わりはない。

 …ただ、よくも悪くも「何か」は変わったらしい。彼女の血の力は一層強力なものとなり、歌も……どこがどうとは言わないが、雰囲気が変わった…ような気がする。陽気ながらも、僅かに憂いを帯びていたのが、取り払われてしまった……の、かな?

 別にそれが悪い事とは言わないんだけど、なんちゅーの、その、明るさを引き立てる為の小さな暗さが消えた? 感じ?

 単純に考えれば、とある人への未練を吹っ切ったんだろう。昨晩のR-18でが切っ掛けなのかはよく分からんが。

 初めてでもなかったようだし、案外彼女にとって、そこまで大した事ではなかったのかもしれない。…あんまり深く首を突っ込みたくはないけどな。懸想していた相手が相手だから、下手するとドロドロのオフィスラブか修羅場を垣間見てしまうやもしれん。

 

 「機会があったら、またお願いしますね」なんて言われたけど…どうしたもんだろうか。

 

 

 

 

 さて、話は変わるが、明日はライブ。お休みは今日までだ。タカネ達も今日からは切り替えて、最後の調整や打ち合わせに入っている。

 俺はと言うと……まだ、黒蛛病感染のルートを見つけ出せてない。アメリカで知り合った研究者と何度かメールをやり取りし、不自然な点や疑問点は幾つか見つかっているのだが、これと言った決定打が見つからず。

 正直、数日の調査で何か判明する方がおかしい…と言われるとそれまで何だが、今後の為にももうちょっと実績を残しておきたい。

 

 ライブの打ち合わせに真剣なアイドル達を残し、俺は街を歩き回っている。決して遊び歩いている訳じゃない。

 …確かに、イタリアの味を研究中のペパロニ嬢ちゃんにバッタリ会ってタカられたり、ミカに贈る為のちょっといい首輪とかを物色しているが、メインは調査なのだ。

 

 各地を巡って、水の中に溶け込んでいる血の力を検証しているが、そもそも薄すぎて殆ど分からない。

 これで本当に、時間がかかるとはいえ黒蛛病になるのか疑問なレベルだ。

 

 

 

 …うん、実際問題、本当に疑問だよな…。考えてみれば、この黒蛛病と言うのも妙な病気だ。

 実際には病気と言うより、呪いに分類されると思うが、そこら辺は今は置いておく。

 

 世界各地で猛威を奮う、謎の病。赤い雨という現象から発生し、接触感染する。

 共通点は、感染者の体に蜘蛛のような模様が現れる事と、赤い雨が近づくと苦しさを感じるという事。

 

 更に言うなら、地域によって微妙に特徴が異なる。アメリカでは人だけでなく植物、大地に感染し、イタリアでは薄っすらと水を汚染している。

 本来なら水と一緒に流れて行くだろうに、どういう訳だかイタリアでは人が多い都市部に引き留められている。

 この違い、特色は、何処から来る物なのだろうか?

 

 頭を捻っても、答えはでない。

 

 

 

 

 …気分を変えよう。

 折角イタリアに来たんだし、何か面白い物とかないかな。イタリア女を抱いてみたい…けど、今はペパロニ嬢ちゃんのお守もしてるから、そっち系はパスだ。

 まだ機能してるかは分からんが、確か売春を禁じる法律もあったしな…。

 

 

「開祖様、どうしたんすか? 病気っすか?」

 

 

 何でもないよ、ペパロニ嬢ちゃん。いいから飯食ってろよ。

 

 …病気? 病気…今、何か引っかかるモノがあったような…。イタリアで第一に引っ掛かる病気っつったら………偏見で悪いけど、やっぱアレか。性病関連か。

 性病……あんまり詳しくないなぁ。これも接触感染っちゃ接触感染か。何かのヒントになるかもしれないし、誰かに聞いてみようかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 …流石に、昨晩イタしたばっかりの相手に、性病の事を聞くのはデリカシーがなかった。

 待て落ち着け、確かに俺は大勢相手が居るけど、誰もソッチ系の病気にはかかってないから。かかってたとしても、オカルト版真言立川流で消毒できるから。

 別に、フランが感染してるんじゃないかと疑ってる訳でもないから。

 でも真面目な話、サバトゴッコするにしても道具は選べよ。

 

 待て、落ち着け、真面目な話なんだ。最後まで聞け。

 えーっと…そうそう、元は黒蛛病の事なんだ。考えて見れば、意外と性病と似てる部分がある気がして、何か調査の手掛かりになるんじゃないかと。いや本当に。

 

 

 

 

 

 

 …フランがあっさりと、一つの説を考えついてしまった。色々考えていた俺の苦労は一体…いや色々っつっても、たった数日程度なんだから、本職研究者に比べれば…。

 

 

 

 ともあれ、説と言うのは非常に単純だ。「生活排水が汚染されているのではないか」である。

 生活排水と言うか、歯磨きに使った水とか、小便とかね。

 実際、公衆トイレでそういう病気に感染したという話もあった。

 

 …水で流れて行くなら、人の血、尿などに宿って流れてもおかしくない。人が多い場所に黒蛛病のエネルギーが留まっているのは、それ故ではないか?

 無論、この話にだって穴はある。薄っすらと残る程度とは言え、水の都の水を汚染する程のエネルギー量だ。一人二人の生活排水じゃないよなぁ…。

 

 ……まさか…無い…よな? 実は、黒蛛病患者が一か所に集められて、隠蔽されているとか。

 一か所に集められるのは、感染の危険があるから仕方ないが、実はそこがスラム状態とか…。

 

 そういや、性病だって事を隠して多くの相手と関係を持った男が処罰を受けたって話が…。

 

 

 …ない、よな?

 

 

「私も一度疑念を持って調べた事がありますが、少なくとも私はそういう話は見つかりませんでした。そもそも、黒蛛病患者を一か所に集めて隔離するのは、国際法でも仕方ない事と認められています。わざわざ隠す理由がありません」

 

 

 そうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 あ。

 

 

 

 

 じゃあ、人以外の黒蛛病は?

 

 

「ですから、アメリカでは植物、イタリアでは水と…」

 

 

 そうじゃなくて、動物。ネズミとかさ。アラガミが出るようになって随分数が減ったようだが、まだ生き残りが居るだろ。

 感染した小動物のコロニーとかがあったら…。

 

 

「…数と、一体における黒蛛病の状態がどれ程のモノか、現状では何とも言えませんが…調査しておかねばならないようです。失礼、この話を上層部に伝えてきます」

 

 

 うん、頼んだ。…可能性でしかないが、無視できる話でもない、か。

 もしもこの想像が当たっていた場合、最悪はMH世界での狂竜病によるモンスターラッシュが再現されかねない。…あれで死んだもんなぁ、俺…。

 

 

 ま、考え得る可能性の一つを提示したって事で、俺の仕事はここまででいいか。

 言っちゃ悪いが、俺は学者でも何でもない。血の力の専門家で、黒蛛病を治せる数少ない人間ではあるが、何もかもを解決できる筈もない。…期待外れって言われるかもしれないが、気にしないもんね。気にしないもんね。

 

 

 

 

神変月

 

 

 とりあえずこの国での調査は一段落したので、後はライブを楽しむだけだ。

 正直な話、成功を確信している。前人気も上々だし、それに望むアイドル達の士気も高い。

 

 …ただ一人、陰りを残す者も居るが。言うまでもなく、アンチョビだ。

 俺が調査に出掛けている間に、何やら色々と嗅ぎまわり、色々と知ってしまったらしい。

 一人二人についてではない。R-18チームの殆どを、だ。むぅ、今まで気付かなかったと言うのに、妙な所で名探偵振りを発揮しおって。

 

 

 さて、どうしたものか…。最悪な事に、R-18チームの決断を待たずして、アンチョビが真実を知ってしまった。

 隠し事はバレた時が怖いと言う。その言葉の通りなら、アンチョビは最大限のダメージを受けてしまった訳で。

 

 …どうしよう。平静を装うアンチョビの態度と、壁が痛い。こりゃ、俺が売春に応じた事か、最低でもR-18チームと付き合いがあった事は知られているな。

 いや本当にもうどうしよう。俺の言葉は、アンチョビにはきっと届かない。何故なら、信頼を裏切っていたから。信じていない相手、しかも犯罪者や裏切者の言葉を、誰が信じるのか。

 

 祈るしかない? バカ言え、祈っても何もしなかったら、どんな事だって悪化以外の変化はしないのだ。ついでに言えば、後悔なんてオプションが漏れなくついて来る。

 だから、毎度毎度、裏目に出てばかりとは思っても、行動するように心がけてるんだが…。

 

 

 

 …今回に限っては、静観という方法を取る。いや、正確に言うなら、仕込だけして、後は待つ。何もしないのではなく、待つという選択を取る。

 無責任な事を言うようだが、俺は確信している。

 

 どうやったって、アンチョビはチームアンツィオから離れる事は無い。絆を信じている、と言うべきだろうか?

 確かに、R-18チームはアンチョビの倫理観から離れた事をしたかもしれない。しかし、その根っこはアンチョビの為だ。

 例え、自分の努力に陰を刺されたような心持になろうと、それで彼女達を切り捨てる事なんかできやしない。

 どうにかして、アンチョビは自分の心と彼女達の行いに、折り合いをつけようとするだろう。

 

 チームアンツィオは、アンチョビにとって体の半分と言ってもいいのだから。

 

 

 

 

 と言う訳で、ペパロニ嬢ちゃん、ちょっと行ってこい。

 

 

「オッス! …といいたいトコですけど、何があったんすか?」

 

 

 アンチョビとチームの一部が、ちょいと仲違いしてるんだよ。

 別に険悪になってる訳じゃないが、今後の方針についてだからなぁ…。

 

 

「そこじゃないっす。いつものドゥーチェなら、反対意見が出たって、それを真向から受け止めるっすよ。喧々囂々する事はあっても、チームアンツィオじゃ仲間割れはしないっす」

 

 

 …大した信頼関係だ。

 

 

「それに! 開祖様の行動だって、怪しいっすよ! 開祖様なら、一々アタシを仲介したりせずに、自分で突っ込んでいくっす。何か仕掛けるなら、別の人を仲介させるし…。つまりこれは…」

 

 

 結構よく見てるな、ペパロニの嬢ちゃん…。ある意味、チームアンツィオで2番目に重要な人物だからな。こいつが居なけりゃ、アンチョビを陰に日向に助けてくれるコネは作れなかったんだし。

 さて、どうしたものか…こういうタイプは、頭で考えてないから口先で丸め込もうにも…。

 

 

「アタシの料理が必要なんすね!? さぁ、注文は何っすか!? このライブツアーでレベルアップした数々の必殺メニューの実験台になるっすよ!」

 

 

 …うん、そうだな。間違っちゃいないな。

 ううむ、評価に困る子だ…。何も考えてないかと思えば意外と勘が鋭いし、かと思えば斜めに間違った回答、しかし仲間の事は全く疑わない。

 

 必ず殺しちゃ駄目だろう、しかも実験台かよという定番の突っ込みは日記に書くだけ書いて置いといて。

 

 そうだな…アンチョビと、あいつらが一番よく食べてた料理…って分かるかな?

 

 

 

 ま、ベタな演出だが……こんなもんでいいだろ。アンチョビって割と少女文学脳みたいだし、ペパロニの料理がチームアンツィオの特効薬であるのは事実だ。

 

 

 

 さて、アンチョビとチームアンツィオの事は、一旦これで置いておくとして、ライブが始まるまでにやっておかないといけない事がもう一つある。

 ミカの事だ。

 毎度毎度、力を使い果たしてぶっ倒れるのは問題だと、自分でも分かっているだろうし、今回もそれで悩んでいるようだった。まぁ、それ以上に突っ走るのを楽しんでいる感じが強いが。

 

 リカが、首輪をはめたミカを想像して、何やら危険な哂いを浮かべていたような気もするが、それはそれだ。そうなったらそうなったで、俺も愉しいから問題ない。

 と言う訳で、ミカがライブ衣装に着替える前に呼び出して、これを手渡したんだが…。

 

 

「え……これ、私に?」

 

 

 戸惑ったように受け取るミカ。そりゃそーだ。仮にも女の子、しかも…まぁその、お互いそういう趣味だと分かってるならともかく、深い仲でもない男から、首輪貰っても困るだろう。ペットがいる訳でもないのに。…本人は、バリバリにオトコを飼いならして貢がせていると豪語するが。ファンの内、どれだけそれを信じているかは言うまい。

 が、ミカはそれこそ初恋を拗らせて29歳くらいまで引きずった子が、正にその相手(歳の差14歳くらい)から指輪を受け取って少女漫画(笑)風味に呆けるくらいに、顔を赤くして戸惑っている。

 

 …その、なんだ。

 自分から渡しておいてなんだが、そんな反応されると、その、なんだ。 照れる。 嬉しい。

 

 

「う、うん…アリガト。もらっとく……。その、つけて、くれる? このく……チョーカー…」

 

 

 チョーカーとは言ってるが、首輪って言いかけたな…。そこまで分かっててこの反応か。

 …ああ、ついでにリードも付けてやる。散歩の時は外すけども。

 

 後ろを向こうとするミカと引き留め、正面から腕を回して、抱きしめるような動きで首輪を回してやる。

 ミカの目がグルグル状態…ではなく、極上の銘酒に酔っているかのように惚けていた。今なら、キスをしようが押し倒そうが、雰囲気に呑まれて何でも許してくれそうだ。

 とは言え、ライブの前にそんな事をする訳にはいかない。足腰立たなくなったら困るし、破瓜の後の痛みで動きが乱れる。

 

 

 だから……ここまでな。

 

 首輪に鎖をかけてリードにし、負担にならない程度に軽く引っ張ってやると。

 

 

 

 

「んっ………っ………!!!」

 

 

 ブルッとミカは、体を震わせた。

 マジか…。何の仕込もされてない、キスすらまだな処女なのに、首輪でつけて引っ張られただけで軽くイキおった。

 ドM名のではないと思う。エロい体してて素質はバッチリだが、これ多分アレだ、アンチョビとは別方向で少女文学脳…いや、お耽美脳?

 ぶっ飛んだシチュエーションでも、絵面が綺麗ならそれで許せるタイプだ。俺の絵面が綺麗かどうかは置いといて。

 

 …ミカの素質が想像以上だったのは嬉しいが、このまま正気に戻られても厄介だな。男の目の前で絶頂したなんて、ミカには刺激が強すぎる。

 荒い息を吐きながらも、まだ興奮に酔っているミカの鎖を外す。

 

 ほら、散歩の時間だ。思いっきり歌ってこい。

 

 

「…うん……見ててね!」

 

 

 背中を叩かれて、ミカは走っていく。…よし、後は本番までに立ち直るだろう。…正直、正気に戻って悶えている所に、気障なセリフを囁いてトドメを刺してみたくもあるな。

 ま、それは今後の楽しみ取っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ライブが始まるまで出来る事が無くなってしまったな。アンチョビとチームアンツィオの様子を見に行こうかと思ったが、今は多分一番大事な所だしな…。だからこそ確認は必要だが、あまりヤボをするのもどうかと。

 なんて考えていたら、メールが来ている事に気が付いた。

 いつもの、極東からの自画撮りメールではない。…いやそっちも到着してたけど。

 

 今回の自画撮りメールのインパクトは凄かった…。「ご主人様が帰ってきたら、ご挨拶をさせます」だってさ。関係を持った子が、興味はあったけど一線を越えてこなかった子を、調教しているらしき写真だった。

 それ自体は珍しくない。ミナミに代表されるように、底知れぬ淫蕩さで、誰かを引き摺り込もうとする子も何人か居る。

 

 

 問題は、写真に写ってる子の年齢だ。二人とも、どう見てもJでSな方々です。

 その内一人とは、既に関係を持っている。この時点で犯罪だが、今は何も言うな。

 …前にもチラッと書いたんだけど、覚えてるかな? 関係を持ったアイドル達の中に、ミナミ並のポテンシャルを持っていた子がいたって。

 

 正にそれがこの子。名前はアリス。

 

 普段であれば、凛々しく真面目でクール系、少々不愛想な所のあるJでSな女の子なのだが…。これが一皮むけると、激変した。

 性の快楽にあっという間に呑み込まれて味を覚えてしまった彼女は、Jな年齢だと言うのに、SもMもどっちもイケる超スキモノょぅι゛ょになってしまったのだ!

 

 乱暴に犯されたり、冒涜的な行為をさせられるのが大のお気に入りだった彼女は、写真の中で金髪の同年齢の少女を弄っている。この子は確か、モモカだったか。アリスの有人だった筈。

 レオタードと水着を合わせたような衣装で、揃って首輪を付け、絡み合っている。

 主導権がアリスにあるのは一目瞭然で、背後から絡み付いて、明らかに勃起しているモモカの乳首を布越しに扱き上げ、もう一方の手は直前までモモカの股座をまさぐっていたのだろう。愛液が糸になって垂れていた。

 おまけに、万歳状態のモモカの脇をネットリ舐めるというオプション付きだ。

 そこまでされているのに、モモカはウットリとして、現世ではない何処かを眺めているような目でアリスに身を任せている。

 

 

 ……どんだけ調教したんだよ、アリス…。まだJでSな子だと言うのに、末恐ろしい…。

 まぁ、戻ったら有難くご賞味させていただきますが。ここまでされてしまったんだ。拒んだらモモカの方だって可哀そうだろう。

 既にアリスの玩具としてしゃぶり尽くされる事は決定されているようなものだから、だったらそれ以上の悦びを教えてやって、俺の物という事にしておけば、アリスもそう無茶はさせないだろう。

 

 

 

 …話が逸れた。

 もう一通到着していたメール。葦原ユノからだ。メールアドレス教えてたっけ…? 今回は殆ど絡んでなかったからなぁ。

 開けてみると……ちょっとした挨拶から入り、謝罪文があった。

 何でも、俺のメールアドレスを、ラケルてんてーから教えてもらったらしい。

 

 

 ちょっとー、この時点で既に陰謀の匂いがしてきたんですけどー。ユノ本人にはそんなつもりは全くないだろうけど。

 で、メールの内容はと言うと、一度会って話がしたい、という事だった。

 多分、ユノ自身にそこまで深い考えはないと思う。あの子は聡明で、世の汚い部分から目を反らさない強さはあるし、陰謀に巻き込まれたとしてもそれに気付ける程度にはカンがいいが、自分が策を張り巡らせられるタイプではない。

 ついでに言えば、これからユノと、ウチのアイドル達はライブ対決する事になる。本人達は共同ライブくらいの気持ちだろうが、世間一般では対バンにしか見られてないだろう。

 

 そのタイミングで、ウチのアイドル達のトレーナーともいえる俺に接触する…。何やら『裏』の匂いがしますね? 何も無くてもしますね。

 その辺、マネージャーのサツキはどう考えているんだろうか? 仮にこの辺は世界的センテンススプリングにスッパ抜かれたら、大きすぎるダメージを受けるのはユノの方だ。

 清純派な歌姫が、体を使って相手のトレーナーを引き抜こうとした、或いは買収しようとしたってな。

 

 

 それを推してでも、俺と話をしたいという事だろうか? それとも、単なる深読みし過ぎなのかなぁ?

 さて、どう返したものか…。と言うか、会えるとしてもすぐにではなく、次のツアーで移動した後か。次は何処だっけ。ローマだったかミラノだったかピサだったか。

 どこに行ったとしても、優雅な街並みはあまり期待できそうにないけどな。

 

 

 

 

 

 

 葦原ユノのメールについて考えていたら、いつの間にやらライブの時間になっていた。

 今回もまた、熱狂的に盛り上がっている。アンチョビの調子は…悪くは無いが、良くもないってとこか? ドゥーチェコールも、心なしか少しだけ元気がない気がする。

 

 代わりにミカがいい感じ。勢いに任せた感に安定性が加わり最強に見える。

 首輪もチョーカーとしか見られてないようで(やっぱり妄想する人は多そうだが)、ファッションの一部扱いされている。

 

 カエデさんの歌では、ちょっと印象が変わった? とざわめきが広がったが、歌のサビに差し掛かる頃には、これはこれでイイ、とあっさり受け入れられている。

 

 一番反響が大きかったのは、やっぱタカネかなぁ。先日のライブでファンになった人が調べたのか、ニンジャアイドルの異名が広まっている。それに応じて、タカネがミラクルアクションを決めるからもう…。即興で、噴水の水を飛び移りながら歌うとか、俺でも難しいぞ。

 やっぱ、アクション性とかスペックで言えば、タカネが独壇場なんだな。

 

 

 

 ライブについて書くのは、これくらいにしておこう。正直言って、文章じゃ書ききれん。どうしても気になるなら、DVDの発売まで待ってくれ。…この世界でそれだけの余力があるかは分からんが。

 

 

 無事にライブも終了し、拠点に戻る。明日には次の場所へ出発か。ちょっと長めの休みを貰えはしたが、結構なハードスケジュールだ。

 しかも、次の移動は飛行機ではなく陸路。電車なんてこのご時世に残されている筈もなく、バスでの移動である。ほぼ一日、車内で過ごすと思った方がよさそうだ。

 

 それはそれとして、アンチョビは思ったよりも大丈夫そうだった。何がどうなったのか知らないが、R-18チームと泣きながら抱き合い、部屋に入っていくのが見えた。どうやら、何かしらの結論に達したらしい。その後、遅くまで部屋の明かりがついていたので、語りあかしていたんだろう。

 …うん、別に止めるような事じゃないな。エロい気配は感じなかったし、何となくアンチョビは車に弱そうだ。徹夜させておいて、車の中では眠らせてやろう。リバースさせたくはない。

 

 

 

 

 

 さて…俺にはもう一つ、お仕事と言うかやる事が残っている。

 言うまでもないと思うが、オタノシミだ。と言っても、自分から何かしに行くんじゃない。ただ、部屋で鍵を掛けずに待っていればいい。そうすれば…。

 

 

 

「ねぇ…ちょっと、いいかな…」

 

 

 そうすれば、首輪をつけられた猫が、自分からやってくるから。

 



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370話

神呑月

 

 

 調子に乗った小娘を組み敷いて躾けるのって、どうしてあんなに楽しいんだろうな。いや調子に乗ってるのは、明らかに俺だったけど。

 でもあれは仕方ないよ…ミカを弄るのが楽しすぎたもの。

 

 うん、自称カリスマギャル…最近は国際的に、冗談抜きで自称が抜けつつあった小娘は、骨の髄までしゃぶり尽くされ、魂ごと飴玉みたいにペロペロされ続けてしまいましたとさ。

 顔を真っ赤にしながら意地と見栄を張り、止められないと泣きながら腰を振るミカを弄るのは楽しかった…。

 ミカ強がりと見栄が、予想以上に強かったのがいいポイントだ。

  

 そうだな、どこから記録しておくべきか…。やっぱ、ミカが部屋に来た時…いやその前、ライブが終わった辺りからかな。

 

 思えばそもそもからして、チョーカー…に見えているが、どうやったって俺や本人の認識は首輪…をして、大衆の目に晒されるのを平然と受け入れる所からして、その兆候はあったのだ。

 血の力に目覚めて以来、ミカはライブを始めるとトランス状態に陥り、ほぼ確実にエクスタシーまで到達するようになっていた。これが性的な絶頂かどうかはともかくとして、彼女の体には、その喜びが刻まれている。

 

 そんな状態で、首輪なんて嵌めてライブしたら、どうなると思う?

 …ちょっとニュアンスは違うが、イッたばかりで敏感になった体を、更に容赦なく責め立てられるようなものだ。

 それを好む人ばかりとは限らないが、どうやらミカはその手の人種だったらしい。

 

 ライブを通し、ミカの体は本人も自覚してない悦びを刻み込まれた。 

 加えて、首輪をしている…俺の所有物としての姿を晒してその喜びを受けた結果……まぁ、アレコレ言うのもなんだから率直に言うが、ド嵌りしてしまった。中毒になってしまった。

 

 つまりは…俺のペットや所有物として扱われる事に。

 

 

 

 とは言え、流石に最初からそれを自覚できていたんじゃない。

 ライブが終わった後…ここ最近であれば、いつもぶっ倒れていた頃合いで、ミカは茫洋としていた。心ここに在らず、という言葉を体現したように、シャワーを浴び、着替え、車に乗り込んでも、気力が全て失われてしまったかのように、ぼーっとしていた。

 アレは俺もちょっと心配したなぁ…。今となっては余韻に浸っていたんだと分かるけど。

 

 ミカの世話をリカに任せ、今後の移動や予定について打ち合わせして、極東から送られてきたエロ画像にちんこの写真を送り返す事30分ほど。

 リカがやってきたのは、丁度手が空いた頃だった。

 

 そして開口一番。

 

 

 

「開祖様、お姉ちゃんをちゃんと飼ってあげてね」

 

 

 

 …妹(非処女)からの援護一発目がコレである。思わずその場でオッケーだしそうになったが、もう少し聞いてみると、本人がそーいう妄想しまくっているとの事。

 まぁ、首輪をつけた時のリアクションからして、左程不思議ではなかったが。

 

 だが、事態は俺の予想よりも深刻だった。リカが訪ねてきたその時も、現在進行形でミカの頭は妄想で一杯だったらしい。それこそ、妹のリカの声にすらロクに反応できなくなるくらいに。

 「サキュバスに魅了されたドーテー君って、多分あんな感じ」とはリカの言である。…ょぅι゛ょの発言内容じゃないが、この子はそーいう生き物だからよしとする。

 

 が、この場合のサキュバスは、どうやら俺に当たるらしい。TS? いやそれはともかく…。

 どうやら俺は、無意識にミカを魅了してしまったようだった。いや無意識にもなにも、ツアーに出る前から意識されてたのは自覚してたが。

 

 本人の隠れた気質と、絶妙にマッチしてしまったんだろうなぁ…。ただ、それを本人が自覚してない。或いは僅かな抵抗を持っている為に、素直に受け入れる事ができない。

 だからこそ、満たされずに欲する。頭の中で、ミカの隠れた欲望が補完され、強くなっていく。

 

 

 

 

 …まぁ、なんだ。色々書いたが、要するに、『ヤレる!』と確信した訳だ。それ以上の展開に持っていける事もね。

 今部屋に行けば、簡単に押し入れる。押し入れるどころか、ミカがベッドに横たわってポーズを取ってるかもしれない。

 

 それくらいのレベルだったが、俺は敢えてリカにお遣いを頼んだ。ブーたれていたが、素直に言う事を聞いてくれる(都合の)いい子である。

 リカはお遣い…俺の部屋のカギを持ってミカの元に戻り、適当に焚きつけてベッドに潜り込んだらしい。勿論、それで素直に寝る子じゃないが。

 

 

 そこでどんな風に、リカがミカの妄想を煽ったのかは知らない。だが、ミカは彼女と俺の狙い通り、俺の部屋の鍵を片手に、ノコノコとやってきてしまった訳だ。

 ノックして入ってくるんだから、鍵を渡した意味がない気がするけど、そこはそれ。男の部屋の鍵を持ってる、というシチュエーションが大事だった。

 

 待ち構えられているとも知らず、やってきたミカを受け入れる。…ただし、座るように勧めたのは、椅子ではなくベッドである。

 流石に怯んだようだが、そこを見逃さずにとある動作をする。

 紐を持って引っ張るような動きだ。勿論、実際に紐を持っている訳じゃない。鬼の手を具現化させている訳でもない。

 

 それでも、ミカは首輪から伸びるリードを引っ張られたかのように、フラフラとベッドに引き寄せられた。

 俺の横に座り込み、力なく凭れ掛かる。潤んだ目で見つめられすぐにでも押し倒したくなったが、グッと堪えた。もっともっと焦らし、弄んで、ミカを骨の髄までしゃぶり尽くす為に。

 

 

 

 俺に寄り添いながら話をする事自体、普段のミカからは想像もつかない。媚びるような動きもそうだし、そもそもこのウブ極まりない自称ギャルが、男に触れ合って平然としていられる筈も無し。

 それがこうやって密着している状態に耐えられるのは、ライブのテンションがまだ残っているからだ。

 いつものようにトランス状態にまで昂ぶり、体力の全てを吐き出しても、気を失わずに済んだのは、「帰らなければいけない」という意識があったから。首輪をつけてくれた主の元に。

 

 ライブの熱と、意識していた男に触れているという状況が、ミカの頭の中でゴッチャになって、体を熱くさせている。

 

 

 そんな状態のまま、暫く他愛無い話を続けた。ミカが何かをねだるように視線を向けてきても、もどかしくて堪らないと主張するように体を擦りつけても、寄り添って話す以上の事はしない。

 体の熱が、最大限まで昂るのを待っている。

 

 

 ただし…ナニは大きくなっているままだった。勿論、ミカもそれに気付いている…と言うか気付かせた。

 知識でしか知らないソレをチラ見するのを辞められないようだ。

 …これから、ソレが自分を貫くのだと思うと、猶更。

 

 

 

 ところでミカ。今、付き合ってる男っていないんだよな?

 

 

 

「へっ!? う、うん…ま、アイドルだしね。アッシー君なら沢山いるけど」

 

 

 ほうほう。ちなみに昔付き合ってたのって、どんな人だった?

 

 

「…わ、忘れちゃった。つまんないオトコばっかりだったし」

 

 

 ちなみに…そいつらと寝た事は?

 …聞きながら、ナニをピクピク動かして視線を誘う。

 

 

「ねねねねるって…そ、そりゃもう、経験バッチリだし? みーんな私に夢中になっちゃって」

 

 

 ほほほう。

 …で、そんな経験豊富なミカさんは…こんな時間に、男の部屋にやってくる事の意味、分かってるよな?

 

 挑発するように、投げ出されていた足を撫でる。ビクリと震えはしたものの、拒絶はされない。

 自称経験豊富なこの処女ビッチアイドルは、心で悦んでいても、体が未知の刺激に怯えている。…尤も、その怯えは俺の欲望を煽る事にしかならないが。

 

 

「ももももちろろん……ど、どうしてもって…いうなら……その…」

 

 

 どもりまくっているこの小娘は、まさかこれで演技できているつもりなんだろうか? それとも、テンパっている為にそれを顧みる余裕がないのか。

 ミカの頭の中では、余裕たっぷりに「別にいいわよ。どうしてもって言うならさせてあげる。楽しませてよね」みたいな感じなんだろう。…少なくとも、そーゆーつもりで応答している。

 まぁ、実際にはkonozamaな訳ですが。

 

 

 ともあれ、中身のテンパり具合も含めて、いい塩梅に出来上がって来たようだ。

 足を撫でただけでも、性感を感じているのがよく分かる。…恐れながらも、それを嫌がっていない事も。

 

 

 さて、それはそれとして。

 普通のエッチなんて飽きちゃった、とのたまう経験豊富(棒)なミカさんを満足させる為に…。

 

 

「さ、させる…為に?」

 

 

 

 用意いたしました特注品が、こちらとなります。

 

 枕の下から、一本の玩具を取り出す。それを見て、ミカがものの見事に引き攣った。

 まー無理もないね。こんだけエグいバイブはそうそうお目にかかれない。少なくとも、処女の目の前に突き付けるもんじゃない。

 

 三俣に分かれているのは、言うまでもなく膣・尻・栗を同時に責める為。それぞれに、イボイボやら繊毛やら回転機能やらのオプション付き。ちなみにアタッチメント方式で、尿道とか用の部品もあります。

 更に言うなら、その大きさも相当なもの。「こんなの突っ込んだら、絶対裂ける!」と思わずにはいられないだろう。大丈夫大丈夫、人の体は頑丈だし、ちゃんと解すから。

 

 

「え…と、その……それ…もしかしなくても…」

 

 

 勿論ミカに使いますが、何か?

 

 

「い、いやその、それくらいならイケない事もないけど、ほらその色々と久しぶりだし、もうちょっとソフトなのがいいと言うかなんというか」

 

 

 

 目の前に突き付けられた、オーラ付バイブ(俺が霊力籠めてます)にガチビビりしながら、何とか引っ込めさせようとするミカ。だが許さん。

 逃げようとするミカの体を抑え込み、ジリジリとバイブを近付けながら、ミカの焦りを楽しんだ。

 見せ付けるように舌なめずりもしてみせる。

 

 

「ま、待って、ちょっと待って! アタシ本当は」

 

 

 言わせません! カミングアウトしようとした瞬間、引き寄せて唇を塞いだ。バイブじゃなくて、俺の口でね。

 尚も何か言いつのろうとする舌を絡めとり、足掻こうとする余力を奪い取る。

 

 口を塞いだまま体を引き寄せ、肉感的なのに軽い体を、対面座位の体勢で俺の上に乗せた。

 極悪バイブへの恐怖は何処へやら。左程時間をかけずして、ミカは唇で求め合う感触に夢中になった。

 

 俺の膝の上で、もどかしそうに体を小さくくねらせながら、両腕を首に回して抱き着いて来るミカ。

 メスの匂いがじんわりと漂ってくる。開いた股間から、もう小さな水音がする。やはりと言うべきか、本人の気質に反して、体は極めて淫蕩な素質を持っているらしい。…血筋かなぁ、コレ…リカも相当なもんだったしなぁ…。

 

 妹の事を考えた事に気付いたのか、それとも単に舌の動きが鈍ったのが気に入らなかったのか、唇を甘噛みされた。お返しに、音を立ててミカの唾液を啜ってやる。

 服の裾から手を滑り込ませ、胎の辺りを撫で回してやると、心地よさそうに溜息を吐いた。

 

 もっと長く深く舌を絡めたかったが、慣れない動きをさせた為か、ミカの口が疲れてきたようだった。

 充分に酸素を吸えずに頭もボーッとしてきたようなので、名残惜しいが唇を一度離した。

 

 未練がましく、欲望と快楽に溺れた表情で舌を伸ばすミカを、膝の上でクルリと反転させ、後ろから抱きしめる。

 首をコテンと倒して見上げてくる表情に、あどけなさと淫猥さが同居する。

 そのまま服のボタンを外して開けてやると、形のいい胸と、それを包む若干アダルトなブラジャーが現れた。

 

 それを自覚したためか、ミカの体温が明らかに上がる。それでも抵抗しない…いや抵抗できない? 羞恥心は彼女の体を縛っているが、同時に燃え上がらせてもいるようだ。

 軽いキスをして緊張をほぐし、耳やうなじに舌を這わせながら、フェザータッチで下着の上から体を撫でる。

 背筋をゾクゾクさせながら、ミカは新しい感覚を覚えようとしていた。

 

 ミカの体は想像以上に敏感だった。ライブの時から今までずっと昂り続けていた為なのか、それとも元からか。何にせよ、初めて解放された肉体の欲望は、ミカの精神を更に煽り立てる。

 下着の上からでも分かる、ツンと尖った乳首と、湿り気を帯びた逆三角地帯。

 そこを軽く刺激してやると、ミカの背筋と足がピンと伸びた。どうやら、軽く達してしまったらしい。

 

 あぁ、と気の抜けたような声を出すミカに構わず、更に体を責め立てる。絶頂で敏感になった体に合わせ、強すぎないように優しく、甘く、ミカの羞恥心を肉欲に転換するように。

 事実、ミカは心地よい刺激に安心したように、リラックスして俺に体を預けている。

 

 ピン、と乳首を弾いてやると、小さく悲鳴を上げた。そのまま乳首の周りをクルクルと撫でてやると、じれったそうに体をモゾモゾさせる。

 摘まんでほしい?と聞くと、うっとりした顔で小さく頷き、自分から胸を隠す最後の布を外して見せる。

 

 綺麗なピンク色の突起が、俺の指を待っている。指を添えると、緊張をほぐすようにミカは長く深い息を吐いた。

 3,2,1…キュッ。

 

 

「ひ、ぁん!」

 

 今までとは違う鋭い刺激で、ミカは悲鳴を上げた。構わず乳首を弄り続ける。

 時に優しく、時に引っ張るように、時には爪を立て、時には嬲るように。ミカはその全てに反応し、悲鳴を上げ、嬌声を漏らし、身悶えを繰り返す。

 甘いイキ方を何度も繰り返させ、雌の絶頂を教え込む。

 

 そうやって乳首を集中して弄り倒しながら、片手は脇腹とヘソをなぞりながら下へ。最初はわずかに湿っていただけのパンティは、既に愛液でグショグショになっていた。

 そこに触れられた事に気付き、ミカが悲鳴をあげそうになったが…同時に乳首を摘まみ上げてやると、悲鳴は悦びの声に代わる。

 

 耳元でミカの体の敏感さ…と言うよりは淫猥さを称えながら、胸を弄る手と、パンティの中に潜り込ませた指を徐々に激しく動かし始めた。

 心地よく体を任せていた、先程までの愛撫とは違う。女を善がらせ、狂わせる為の動きに変える。

 

 当然、ミカがそんな動きに耐えられる筈がない。仰け反って白い喉を晒しながら、大きく喘ぎ始めた。口元から、涎が一筋垂れている。

 

 

 

「あっ、あっ、あひ、ひぃん、そこ、そこダメ、そこぉ、知らないのが、知らないのがくるぅ…」

 

 

 知らない? そんな筈ないなぁ、嘘はよくないなぁ。

 こんなの、セックスの序の口だろ? 経験豊富なミカなら、慣れたもんでしょ。

 

 

 

「ち、ちがっ、あたし、本当はっあぁ、ああぁぁぁ!!」

 

 

 何やら口にしようとしたミカを、クリトリスを弾いて黙らせる。ガクガクと壊れた人形のように体を震わせ、強制的に注ぎ込まれる快楽に翻弄されている。

 卑猥な音をわざと立て、ミカの耳を舌で犯しながら、更なる指技を繰り出した。

 

 

「ひっ! そ、そこっ! そんなとこ、触っちゃ、あぁぁ、ぁ、ぁぅ…」

 

 

 下着の中に手を更に深く侵入させ、人差し指で女性の入り口を、そして小指で出口を刺激する。

 一番大事な場所と、一番恥ずかしい場所を同時に責められ、恥辱と快楽を注ぎ込まれる。

 

 経験豊富なミカは、こっちの経験もあるだろ? 

 

 

「そんな、そんなのぉ、な…あっ、は、あん、ダメ、そこダメぇ!」

 

 

 この状況でダメと言われて、止まるヤツは男じゃないね。ほーら、恥ずかしがってるような事言ってるけど、体は正直だな。マンコもアナルも、もっと弄ってって口をパクパクさせてるぞ。

 

 

「う、嘘、嘘よ、だって、私、初め、あひぃぃ?!」

 

 

 カミングアウトなんかさせはしない。

 余計な事を言いそうになったら、弱点を突いて黙らせる…悲鳴を上げさせる、が正しいか。

 

 最初の優しいセックスから、心も体も翻弄され侵蝕されるセックスに突如変わった為か、ミカは抵抗する事すら考えられないようだった。

 散々悲鳴と喘ぎ声をあげながらも、俺の懐から逃れようとしない。快楽に絡めとられている為か、それともそうしてでも俺と繋がりたいからか。

 

 いずれにせよ、このままミカを翻弄し続けて、俺の指やチンポに逆らえない雌にする事は変わりない。

 ミカは指の動きに翻弄され続け、クネクネと煽情的なダンスを踊る。それを見て、硬くなった肉棒がミカの尻にくっついている事に気付いているだろうか?

 時折肉棒に力を入れて動かしてやると、もっともっとと言いたげに、ミカは尻を押し付けてくる。先端の柔らかい感触が心地よい。

 

 好き勝手にミカの体を味わいながら、この体をどう料理しようかと頭を悩ませる。

 足元に目を向ければ、最初にミカをビビらせた極悪バイブが転がっているが…正直な話、これを使おうとは思わない。最初の夜に、性の悦びを刻まれる処女に、こんな無機物を使うのもなぁ…。これを持ち込んだのは、ミカがビビる顔を見たかっただけである。

 まぁ、このバイブの出番は、もっと後にするとして。

 

 

 実は処女というカミングアウトをさせず、どんどん過激な事をしていっているのだ。折角なのだし、とても普通じゃ出来ない事を……あ。そう言えば、アレがあったっけ。まだレアとアリサくらいにしか試してないし、丁度いいと言えば丁度いい。

 うん、調理法は決まった。

 …俺の表情を見たミカが、引き攣ったような顔をした。おっとと、嗜虐心が滲み出てたか。

 ま、Mっ毛の強いミカだし、体はキュンキュンきてるみたいだし、問題なかろ。事実、恐怖を感じながらも、体は俺の指と舌を受け入れやすいよう、自分から股を開こうとしている。

 

 期待に応えて、指を動かす…のではなく、秘部をまさぐっていた指を、ミカの目の前に掲げて見せる。

 絶え間ない快楽から解放されたミカは、荒く息を吐きながらも、その指に視線を向けた。

 

 

 血の力を覚えた今なら、見えるだろう? ほら、これがお前の中に潜り込むんだ。

 ミカにも見える程度に、指に霊力、血の力を纏わせる。

 

 

「ひっ……」

 

 

 それは、ミカには異形の指にすら見えただろう。指の周囲を血の力が多い、好き勝手に蠢いている。指から触手が生えている、と言えば分かりやすいだろうか?

 ゆっくりと、動きを見せ付けるようにわざと触手を揺らめかせる。ゆっくりと広がり、それぞれ全く別の動きをして、逆に揃って閉じた肉を強引に掻き分けて進もうとするような動き。

 

 更に特筆するべきは、この血の力、見た目からして卑猥さが漂っている事か。俺がそういう気持ちを込めて発現させているのだから、当然と言えば当然。

 女を狂わせ、夢中にさせ、愛液を啜る事しか考えてないその力。見ているだけでも、ミカは媚薬を飲まされたように、理性を奪われ欲望を煽られ続ける。

 

 触手の血の力に覆われた指を、ゆっくりとミカの胸に触れさせる。

 

 

「んっ…あ、はっ……く、くすぐったい……のに……な、なにこれぇ…」

 

 

 陶然とするミカ。それも当たり前だろう。指を覆う触手は、ミカの胸を這い回っている。だが、ただ這って愛撫しているだけではない。ミカの体の中に入り込んで愛撫しているのだ。

 霊力は、本来物体に作用する力ではない。影響を及ぼす事はできるが、基本的に物理的な影響力はない。それこそ、幽霊のように。

 だが、感覚に作用する事はできる。幽霊が近くにいると寒気がする、等が有名どころな現象か。

 しかし、錯覚であったとしても、その感覚を得ているのは確かなのだ。それが、性感という感覚であっても。

 

 

「あ、は、ひぅ、っ、か、はっ!」

 

 

 ミカは乳房の中にある快楽神経を、直接嬲られている。俺が蠢かせる触手の霊気によって、肌と肉を透過し、感覚を司る情報網に直接アクセスする。

 そうなってしまえば、もう嬲られる側に抵抗する力など残らない。俺の意思一つで、どんな感覚を味合わせるのか、容易に決める事ができるのだから。

 

 触手を動かし、好き放題に体の中身を凌辱する。散々抱かれたレアやアリサでさえ悦びに泣き叫んだ、悦びという恐怖を刻み込む。

 背筋が折れるのではないかと思う程に体を反り返らせて、ミカは啜り啼く。処女なのに雌の悦びを刻み込まれて、しかし満たされない最奥…子宮の疼きを満たしてほしいと身も世も無く喘ぎ続ける。

 

 このまま、朝まで喘がせ続けて、犯してくれと懇願する処女ビッチを作り上げるのも一興か?

 …割と本気でそんな事を考えたが、喰らうと決めたものは喰らうのだ。

 

 

 さぁ、ミカ。体の準備は、十分すぎる程に整った。『初めて』の時間だ。

 

 

 

「……え…は、あ、はっ!」

 

 

 ただし…『コッチ』の、な。

 

 いきりたった肉棒を、秘部…ではない。不浄の穴に押し付ける。 

 目を見開くミカ。だが、その口から洩れるのは許しを請う言葉ではなく、乳房の内部を蹂躙される悦びの声だけ。

 

 本来の機能ではない使い方を強要されている不浄の穴も、拒む素振りは全く見えない。

 淫靡な霊力を纏わせたモノを、グイグイと押し込んでいく。

 

 

「く…きて、るっ…! お、おしり、おしりなん、て、あっ、胸、またイク…!」

 

 

 経験もなく、開発すらされてない穴を、強引に進む肉棒。しかしミカに辛そうな様子は微塵もない。オカルト版真言立川流の効力で、ミカが感じているのは快楽のみ。しかも、人外の快楽と言っていいだろう。

 狭い場所を進みながら、肉棒に宿っている霊力がミカの内部を愛撫し続ける。弱点を探り、その感覚を教え込み、初めての性交なのに開発されきった性感帯のように変えていく。

 

 程なくして、ミカの奥の奥まで肉棒が入り込んだ。腸液のぬるぬるした感触と、初めての締め付けが心地よい。

 何より、その小娘が俺の腕の中で、思うさま喘いでいる姿がいい。

 

 小刻みに腰を動かして、体に刻まれたアブノーマルな悦びを、より深くしていく。

 初めての恥じらいや、アナルを弄られる嫌悪感などもう全く見られなくなったミカ。これなら、極悪バイブも簡単に受け入れるんじゃないだろうか? まぁ、バイブよりもよっぽど凶悪な、霊力触手があるけども。

 

 無意識にか、それとも欲望のままになのか、ミカ自身も腰を振り、アナルの快楽を貪り始める。

 体は絶頂続きの状態なのに、更に強い快楽を求める淫乱性。ああ、姉妹だねぇ。実にイイ。

 

 暫くそのまま、愛撫と挿入を続ける。ミカはもう盛り上がりっぱなしだが、俺もそろそろ込み上げてきた。

 だが、射精する前にもう一つ仕掛けておこう。

 

 ミカの胸を弄り回していた手と触手を離し、下に伸ばしていく。下と言っても秘部やアナルではない。腹だ。

 自分を弄んでいた手が離れた事に違和感を感じたのか、涙や涎でグショグショになった顔を向けてくるミカ。だが、程なくして大きく目が見開かれた。

 

 まだ誰も触れた事のない、胎の奥…子宮に直接愛撫を受けて。

 

 

「え、あ、や、これ、これって! 一番、大事な!」

 

 

 そう。一番気持ちいいトコロ。珍しい感触だろ? さっき胸の神経を愛撫したのもそうだけど、体の中を直接愛撫されるなんて、そうそう無いよ。

 

 それが齎す快感は、さっきまで散々胸を弄ばれていたミカは嫌と言う程知っている。それが、子宮に…体の中心に同じ事をされてしまったら、どうなるのか?

 考えるまでもない。決して正気ではいられない。いや、狂いに狂った挙句、正気に戻る事さえできないかもしれない。

 

 だが、ミカから拒むような言葉は、一つも出てこなかった。自分は初めてだから優しくしてほしい、という懇願さえ。

 

 

 それを確認して、腰の動きを徐々に激しくしていく。奥を抉るのではなく、腸壁越しに子宮を刺激する動き。触手による責めも同時に行い、ミカに絶頂を与えながらも次の仕込を続けていく。

 胎の中を集中して責められたミカは、狂ったように頭を振って悦びの悲鳴を上げている。

 性欲を満たすには、充分どころか度が過ぎる程の性感。

 そして、今正に放出されようとしている俺の白濁。

 

 逃れる事など、出来る筈も無く。初めての夜におぞましい程の快楽を刻み込まれ、ミカは一際高い絶頂に放り込まれた。

 肺の中の空気を全て吐き出して、パクパクと酸素を求めて喘ぐ口。

 失神されてもつまらないので、触手を上手く使って体の内部を弄り、空気を取り込ませてやった。

 

 

 体力を全て使い切り、ミカは力なく崩れ落ちる。倒れたところで、俺の腕の中なのには変わりないが。

 夢を見るような…淫夢と悪夢のミックスだろうけど…顔付で、虚空を見上げて余韻に浸っているミカ。何もかもを使い果たして、余韻の中で満足して朽ち果てようとするかのような表情。

 

 だが、ミカの体は満足してない。精神は精根尽き果てているのに、体だけは男を求めて蠢いている。こうして触れ合って感じる熱で、すぐ分かる。

 何故そんな事になっているのか?

 

 簡単だ。そう仕込んだからだ。体を徹底的に蹂躙されても、肝心の場所が残っている。

 腸壁越しに刺激され、肌を潜って来た触手に愛撫されても、本物の肉棒と精液を受けていない、子宮とマンコが。

 

 

 呆然として、肉の疼きを持て余しているミカを持ち上げ、対面座位で向き合わせる。

 

 

 なぁ、ミカ。こいつらを見てくれ。どう思う?

 

 

「……すっごく……沢山の、触手です…」

 

 

 呆然としながらもちゃんと答えてくれるミカは、本当にいい子だと思う。悪いアソビを教え込むのが楽しすぎる。

 

 それはともかく、ミカの前に浮かんでいるのは、何本もの触手。指に纏わせていた触手とは、数も大きさも比べ物にならない。

 勿論、俺が霊気を具現化させて作った触手だ。鬼の手を最大限フル活用し、変形させまくった結果である。ありがとう博士。

 

 ついでに言えば、触手なんてのは数を揃えてこそである。一本だけの触手なんて、単なる紐じゃん。

 と言う訳で、ミカの体を囲むように、何本もの触手を待機させています。

 

 指に纏わせた触手だけでああも乱れたのだ。これに一斉に襲い掛かられたら、ミカは一体どうなるのか?

 冗談抜きで腹下死の未来が見える。…まぁ、オカルト版真言立川流で、無理矢理にでも蘇生させるけどね。不死じゃないので、腹下死は勘弁だ。

 

 

 それはともかく…ミカ。続きをしたいとは思わないか? 俺はしたい。アナルだけじゃなくて、ミカのマンコに潜り込んで、胎が膨れるまで精液を注ぎ込んで、ミカをヒィヒィ言わせたい。もう他の男なんかじゃ絶対満足できないようにして、一生飼いならしてやりたい。

 

 くぃ、と紐を引っ張るような動きをする。ミカはそれにつられて、リードもついてないのに首輪を引っ張られたような反応をした。

 ゴクリと息を呑んだのが分かる。ミカは自分の欲望に、完全に主導権を握られている。無理矢理引き出され、植え付けられた底無しの性欲。

 

 精を直接呑み込みたいという、処女にあるまじき子宮の疼き。

 それに釣られて、ミカは力の入らない腰に鞭打ちながら、俺の上で腰を捻る。まだまだ元気な肉棒に、入り口を何とか密着させようとする。

 

 

 そんなミカに宣言した。

 

 俺からは入れない。ミカ、自分の意思で俺に貫かれろ。

 ただし、もしも続けるのなら…この触手が、一斉にお前に襲い掛かるぞ。

 

 

 ここの『膜』を破った瞬間に。

 

 

 

「え…あ、なん…で…」

 

 

 触手で『膜』を煽るように愛撫しながら、ミカに囁く。

 何でって、何が? 処女なのがバレていた事? そんなの、最初からに決まってる。

 

 それとも、こうやって触手で襲おうとしている事? それこそ決まってる。

 理由なんてない。ただ、そうやってミカが堕ちてくるのが見たいんだ。

 進めば淫獄に落ちる、戻れないと知っていながら、俺の物になる為に、自分から身を差し出すのが見たいんだ。

 

 さあ、頑張れ頑張れ。覚悟決めて、堕ちておいで? ほら、狙いはこうやってつけてやる。後はミカが腰の力を抜けば…。

 

 

 

 

 

 挑発するように、触手の群れが蠢く。進めば、どうしようもなく絡めとられる。

 だが、それを知って、ミカの体は尚も肉欲に蠢く。子宮を埋められたい、あの触手と、俺の手に蹂躙されたいとミカの心に訴える。

 

 そうして、ミカは…薄く笑い、体を前に倒した。

 

 

「んっ……」

 

 

 俺の両肩を掴んだ腕をナビゲートに、唇を寄せてくる。

 目を閉じて受け入れるのは、この肉欲の嵐の中とは思えない、軽いキス。…だけど、ミカの意思は伝わった。

 

 

 

『そうして欲しいなら、いくらでも』

 

 

 

 ミカは尽くす女だった。自分の全てを対価にしてでも、尽くす女だった。

 狙いを定められた腰から力が抜け、秘部と肉棒が密着するに連れ、触手が抱き留めるように体に絡みつく。

 

 全身を薄く愛撫されながら、初めての挿入を受けて圧迫感と快感を覚え、腰が痙攣しているのが分かる。

 キスしたままの口から舌を伸ばせば、ミカはあっさりと受け入れた。まだ拙い舌の動きで、侵入した俺の舌に積極的に絡み付き、奉仕しようとしてくる。

 

 ミカの膣内も、俺を少しでも奥へ誘い、気持ちよくさせようと蠢いているのがよく分かった。触手による内部からの愛撫があったとは言え、もうこんな動きを覚えている体…エロの素質がありすぎる。これで本人の気質が初心でないのなら、相当なサキュバスが出来上がっただろうに。…いや、今からそうなるのか。俺専用のサキュバスに。

 

 ヌルヌルとした膣内を進む間に、ミカは何度か中イキで達していたようだった。その度に、腰が一度に落ちそうになるのを、触手で支える。

 

 

「あっ……こ、これ…」

 

 

 ああ、これがミカの処女膜だ。さっきも言った通り、これを破れば…もう戻れない。

 触手は拘束具と快楽拷問の器官に早変わり。ミカは俺の気が済むまで…いやその後も、ずっと俺に犯されて悦ぶメス奴隷になる。

 どうするかは……聞くまでもないか。

 

 

 至近距離の顔に浮かぶのは、恐怖ではなく期待。肉欲に染まってにやけた笑顔。恋慕と愛情と肉欲に魅了されきって、俺に可愛がってもらう為なら何でもする色狂い。

 

 ああ、これは破るまでもなく、完全に堕ちているな。

 

 そう思った瞬間、ミカの最後の力が抜けて、肉棒が最奥にまで突き刺さった。

 触手が一斉に動きを変え、ミカの全身を蹂躙する。恐悦の声さえ封じられ、秘部を激しく動かす為の愛撫を強制的に注ぎ込まれ、ミカは悦楽の海に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、どれだけ時間が経ったろう。外を見れば、まだ月が空高く昇り、空は真っ黒。

 ミカを抱き始めてからかなりの時間が経っている筈だが、体感時間操作の効果もあり、まだまだ時間に余裕はあるようだ。

 

 ミカの様子はと言うと、もう完全に色に溺れている。どんな屈辱的な事でも、俺に命じられれば嬉々として従い、そしてエクスタシーを感じる淫売になっていた。

 騎乗位から始まり、正常位、後背位は勿論、触手によって宙吊りにして犯し、内部から愛撫して性感帯を片っ端から開発し、感覚のない所でさえ精神的なエクスタシーを感じられる程に躾けを施した。

 体力も精神力もとっくに限界に達している筈なのに、オカルト版真言立川流の効果で強引に回復させられ、犯される。そして、他ならぬミカ自身がそれを悦んで受け入れていた。

 

 今も、松葉崩しで犯され、脇を舐め上げられ、触手に全身を蹂躙されながら、狂ったように喘ぎ続けている。

 

 

 

 ガチャ、と音がした。

 

 

「開祖様、お姉ちゃん、ま~ぜ~て~…ってうわ、スゴ…。何かの苗床みたい…」

 

 

 おう、来たかリカ。

 お前のねーちゃんすっごいぞ。初めてでここまで覚悟ガン決まりして堕ちられるヤツって、そうそう居ないぞ。

 

 

「……リ……カ………?」

 

「イイよ、お姉ちゃん…すっごくエッチ。エッチどころじゃないよ。だから…」

 

 

 僅かに残った理性で、妹を認識するミカ。だが、そこに恥じらいの色は無い。あったのかもしれないが、リカの言動がそれを掻き消していた。

 足元に落ちている、三俣極悪バイブを拾い上げ、ハートマークの目で舌を這わせるリカ。

 

 

「私も混ぜて? 大丈夫、今日はお姉ちゃんが主役だから、私はコレで遊ぶから。ほらぁ、お姉ちゃんも最初は怖かったかもしれないけど、コレくらいなら普通に呑み込めるでしょ?」

 

 

 そう言って、ミカの目の前で極悪バイブを自分から呑み込むロリ娘。呆然とした目で、それを見つめる姉…いや違う。これは、新しい刺激が増えた事を悦んでいる目だ。妹の痴態ですら、今のミカにはスパイスと、俺に奉仕する為の一助でしかない。

 ああ、いい姉妹を手に入れた。今日は朝まで遊びつくすとしよう。

 

 



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371話

実家から戻ってきて以来、PCが非常に不調です。
動作が重すぎる…。
おちおち執筆もできないくらいです。
本格的に、投稿が停滞するかもしれません。
エターだけは避けるつもりですので、投稿が途切れても見捨てないでください(愛玩)


神呑月

 

 

 妹ネコにフェラの仕方を教わっている姉ネコという、何とも背徳的な朝から始まった本日。

 姉ネコことミカが、人の居ない所ですっごい甘えてきます。人目があるところだと、視線で甘えてきます。

 尚、バレバレです。だがそれが可愛い。

 素直に嬉しいです。密着してきて、我慢できなくなった時は思う存分パコります。そうでなくても、甘ったるい雰囲気で恋人気分…どっちかと言うと愛奴隷と書いてアイドル気分?を満喫中。

 

 

 気づいてないのは、それどころじゃないアンチョビくらいかなぁ…。

 

 …うん、ライブも終わったし、移動中なんだが、そっちの問題をどうにかしないとなぁ…。

 先日のライブでも、アンチョビに陰りがあったのに、ファンの何割かは気が付いただろう。

 

 ネットで調べてみたが……ああ、ネットと言っても俺が元居た…と記憶している世界のようなインターネットじゃなくて、フェンリルが独自に持っている社内ネットワークと、一般人が多少触れられる程度の、限られた情報網だが……そこでは、「アンチョビって子、前評判ほどじゃなかった」「アメリカの時と何だか様子が違うぞ」みたいな話が飛び交っていた。

 アンチョビは既に、コアなファンを獲得しているようで、躍起になって弁護している人も居るようだが、このままの調子だとな…。

 

 

 アンチョビの気を晴らそうと、あれこれリカが話しかけている。その様子に気付き、ミカも話しかけようとするが、俺がストップをかけた。今はリカに任せた方がいい。

 

 

「リカに任せた方がって……何か考えでもあるの?」

 

 

 考えと言うか、これまでの流れや運を考えるとこうなるだろうな、ってのが…。

 まぁアレだ、リカの小悪魔っぷりを最大限に活用しようとしてるだけだ。

 

 つまり、リカを嗾けて、理性やモラルをガンガン削り取ってしまえって事だ。

 

 

「いやそれ削ってどうするの!? 私も一晩で削り切られて、何でもオッケー状態になってたけど!」

 

 

 可愛くてエロかったぞ?

 

 

「あ、ありがと…」

 

 

 チョロ可愛い。

 ま、それはともかくだな。…俺もいい加減ヨゴレ芸人になってきてるけどさ、だからこそ一つ分かった事があるんだよ。

 多分、アンチョビがこれから絶対に覚えないといけない事だ。

 

 

 

 穢れているから、本当にきれいな物が分かるんだよ。

 

 

 

 アンチョビは、穢れを知らなきゃいけない。

 

 

 

「…正直、どうかと思うけどね、その理屈は。引き留められたけど、私はやっぱりアンチョビと話すからね」

 

 

 ああ、それはそれで構わない。そういう自分の意思での行動が、アンチョビにも、その周囲に居る人にも何よりも必要だ。

 

 

 

 なーんて言ったけど、理性を削るリカと、モラルを支持するミカじゃ、この状況だと勝負にならねーな。アンチョビにとって、どっちが楽…と言うか受け入れやすい選択肢なのかに加えて、あいつらは既に肉欲に関してモラルを食い尽されている身だ。嫌が応にも、行動や言動にその影響は出る。

 いい塩梅に、踏み台…いや燃料になってくれるだろう。

 

 

「あなた様」

 

 

 ん? …タカネか。直接話しかけてくるって、何気に珍しいな。どした?

 

 

「大した事ではありませんが…あのユノというヒトに関してお話を伺いたく思います」

 

 

 ユノに…? 確かにユノは有名な歌姫だが、お前が気にする程の相手か?

 …いや、人間の世界の知名度なんぞ、お前には関係なかったな。何か気になる事でもあるのか。

 

 …まぁ、いいけど。お前が人の事を気にするなら、俺にとってはいい傾向だと思うし。

 

 

「私とて、あなた様以外のヒトの事を気にかけていますよ。恩のある方々に、美味しいらぁめんを作る方々も。…とは言え、確かにあの方は珍しい形で気になりますね。アンチョビのように、次にどう動くのか好奇心で見守るでもなく……これは…一体どういったものなのか」

 

 

 ふむ…タカネの人間関係とか、人に対する価値観は色々と特殊過ぎるから、俺も正直分からないな。

 とは言え、話を聞かせろと言うなら吝かではない。…今回、あんまり接触してないけども。

 

 タカネが求めているのは、ユノのプロフィール等の情報ではないだろう。彼女の何かがタカネの興味を引いた…となると、まず真っ先に考えられるのは、血の力……いや、これは違うな。

 確かにユノは血の力のようなものを歌に籠める事ができるが、そんな事はタカネにしてみれば朝飯前だ。下手をすると、俺以上に血の力を扱えるんだしな。

 となると、次点は…歌そのもの?

 

 歌唱力という点において、ユノはタカネと真向から張り合える数少ない存在だろう。

 情熱や真剣さという意味で言えば、恐らくユノに軍配が上がる。タカネにとって、アイドル稼業も含めて人との交わりは、一種の戯れのようなものでしかないのだから。

 その真剣さや自負が、タカネの心の何かを動かしたのかもしれない。

 

 

 ともあれ、ユノとの共同ライブは間近に迫っている。そこで何が起きるのか…俺にとっても、興味の対象だった。

 

 

 

神呑月

 

 

 相変わらず案内を務めてくれるフランと一緒に、ローマに到着。…Y字ポーズを決めたくなったが、何とか我慢した。

 ローマの街並みも酷いものだ。壮麗だったであろう建築物も、今や痕跡が残っていればいい方。コロセウムとか見て見たかったんだけどなぁ…。

 

 ま、言っても仕方ない事だ。いつか復興される事を祈ろう。或いは、いつもの夢でそれっぽい場所に飛ばされるか。

 

 

 それはそれとしてフランから教えてもらったが、ヴェネツィアでの考えは当たりだったようだ。小さな規模だが、黒蛛病に感染したネズミのコロニーが発見された。

 …ペスト再来? と言ったら不謹慎だと言われたが、シャレにならない可能性はあるらしい。

 ネズミに歌を聞かせて治療ってできるのかな…。

 

 しかし、可能性を提示して、わずか数日で発見? 運が良かったのか、コロニーが調べやすい所にあったのか、それとも数が多くて見つかったのがそこだけだったのか…。

 

 

 つーか、真面目にシャレにならんよな、コレ。ローマから引き返して、ネズミ全滅させた方がいいんじゃないかってレベルで…。

 ネズミの繁殖力や適応力を考えると、冗談抜きで世界規模のパンデミックになるんじゃ…。

 

 

「だとしても、現状で私達に出来る事はありません。引き返す事はできますが、それで対処が出来るとでも?」

 

 

 …無理だな。巣を潰すだけならともかく、全滅させる必要がある。

 大物狩りは専門だし、小物を蹴散らす事もできるが、相手が小さくて多すぎる…数の力で圧殺するしかない。そして、それを俺が担当する必要はない。ネズミを相手に数で勝負ってのもゾッとしないが。

 

 

「そういう事です。…良からぬ情報が、もう一つあります。極東の事です」

 

 

 …ラケルてんてーか?

 

 

「……分かりません。正直に言えば、あなたがあの人をそこまで嫌悪し、敵として扱う理由すら、私にはわかりません。フライアに居た頃から、水面下で冷戦を行っていた事には気づいていましたが、今もってその理由が分からないのです」

 

 

 あー………うん、まぁ…傍から見ればそうなるか。

 ロミオやジュリウスだって、最初は全然疑ってなかったし。外見は物凄く胡散臭いけど、やってる事は…まぁ、一見すると善人なんだよなぁ。

 俺だって、シナリオの知識が無くて、現実に彼女に出会って何らかの形で助けられてたら、あの人心掌握術から逃げられた自信は無い。

 

 

「私も、フライアで務めていた身ですし、それなりの家の生まれでもあります。組織運営の為のグレーゾーンの取引が何度かあった事も把握しています。ですが、それはあなたがあの人を敵視する理由にはならない筈です」

 

 

 …そうだな。そこは理由になってないな。グレーゾーンのは。グレーなんざ、俺自身が何度もやってる。

 むしろ、下手しなくてもグレーよりもブラックぶっちぎりの行為の方が、ずっと多いだろうな。仮にラケルてんてーが同じ事をやってたとしても、俺は敵視しないだろう。利害の不一致でもない限りは。

 

 

「では何故」

 

 

 ……俺なんぞじゃ及びもつかないくらいに真っ黒なんだよ。下手に情報を漏らすとフランも危険だから黙っておくが、マッドなんてレベルに収まらない。

 比喩も誇張も抜きで、人類を全滅させかねない事をやってるんだ。

 …信じられないかもしれんがね。

 

 ところで、そのラケルてんてーがどした? 

 

 

「あ、いえ、ラケル博士の事ではなかったのですが…さっきのは単に以前から気になっていた事を聞いただけなので。改めて、極東の事ですが…アラガミ達の様子がおかしいようです」

 

 

 アラガミが妙な事になってるのはいつもの事だが、それを踏まえてもおかしい? 具体的には?

 

 

「赤い雨を好んで浴びるアラガミが目撃されているのが、一つ。新種…なのか亜種なのか判断が付きかねますが、新しいアラガミが何種も出現しているようなのです」

 

 

 …ふむ? 新しいアラガミが出るのは珍しくないが、その数が異常。

 赤い雨を好んで浴びる……確かに妙だな。水が雨を好むアラガミは確かに居るが、赤い雨はアラガミにとっても毒に近い。感応種の類じゃないんだな?

 

 

「ええ。通常のアラガミだそうです」

 

 

 …感応種になろうとしている? いや、赤い雨と血の力は確かに似通った所があるが、黒蛛病になっても血の力は得られない。アラガミがそこまで理解しているかも怪しいが…。

 イヤな予感はするが、具体的にどうってのが思い浮かばんな。

 いずれにせよ、変わった行動をするアラガミやモンスターは、毎度毎度俺の死に直結している。もっと情報が欲しい所だ。

 

 

「…分かりました。情報を集め、後程レポートとして貴方に渡します」

 

 

 感謝。…しかし…全然有給じゃないなぁ。真面目で優秀すぎて、苦労人だなこの子…。

 自律しているように見えて、上司から命令されたら断れないタイプか? 極東人でもないのに、社畜根性でも持ってるんだろうか。サバト趣味も、その反動だろうか…。

 

 

 っとそうそう、新しいアラガミってのは?

 

 

「……これは、半ば未確認情報に近いのですが…幽霊のようなアラガミだと」

 

 

 幽霊…? ニュクス・アルヴァみたいに、触れられないタイプか?

 

 

「近いですね。触れられないのもありますが、見えはしても記録できない現象が発生しています。アラガミの幻影……と言うよりは、幻影『が』アラガミ…のようにも思えます。あくまで伝聞ですが…」

 

 

 …そういう奴、居るなぁ…。

 ていうか、鬼って本来そういう物だもんな。化ける化かす唆すは奴らの本分だ。

 鬼のようなアラガミが増えてきている。MH世界のモンスターに似ているアラガミが出るんだから、討鬼伝世界の鬼に似たアラガミが出てもおかしくない…と考えてはいた。事実、何匹かそれっぽいのも出てきていたが、随分と大っぴらに進化しているようだ。

 

 これは、ラケルてんてーの計画の範囲内なんだろうか? いつぞやのループでは、俺達を迷惑がったアラガミに、諸共に吹き飛ばされたものだが。

 

 

 …場合によっては、ライブツアーの同伴を放り出してでも、極東に戻る必要があるかもしれない。

 

 

 

「…飛行機の手配は必要ですか?」

 

 

 いや、奥の手を使って、誰にも知られずに移動する。もしもそうなった場合、アイドル達が動揺するかもしれん。そっちのフォローを任せていいか?

 

 

「私の担当範囲に居る間は引き受けますが…自分で関係を持った相手なのですから、責任もって自分で話をしておいてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、それはそれとして、ローマの状態について説明しなければなるまい。

 ローマの街並みはアラガミ達の氾濫によって大きなダメージを受けた。歴史的建造物が消え去ったのは、その筆頭と言っていいだろう。コロッセオくらいしか知らないけど。

 だがその反面、人々の生活は世界的に見てもトップクラスの質を維持しているらしい。

 

 何がどうなってそうなったのか訳が分からないが、飢えている人も少なく、仕事も多く、そして支払いも滞ってない。非常に健全な状態にあると言えよう。

 福祉施設も整っており、特に浴場は非常に安い料金で利用できる。…まぁ、日本で想像するような静かな銭湯じゃなくて、中で運動したりもする、公園のような施設のようだったが。

 

 …何と言うか………古代ローマに逆行したようなイメージがあるな。

 実際、道行く人の服装も、近代的な物ではなくゆったりとした布を巻きつけたような物。簡易のローブといえばわかりやすいか? …成程、あれなら加工の手間も少ないし、原材料もあまり必要ない。

 質実剛健を体現したような街並みだ。

 

 アラガミによって大きなダメージを受け、それでも生活の質を維持する手段を求めた結果、過去の文化に目を付けた…って事かな。

 

 

 まぁ、ローマもそう簡単に今の状態に落ち着いたのではなく、つい最近まで結構な悶着があったのだそうだ。

 近代的な暮らしから、古代の暮らしに戻れって言われれば、そりゃ簡単に受け入れられる筈もない。

 

 それが受け入れられたのには、一人の男の活躍があるのだそうだ。

 えらく古めかしい衣装(今ではローマの流行最先端らしいが)を纏い、これまたえらく古い言葉をしゃべる一人の壮年が、「ローマとはかくあるべし」と声を張り上げ、また古代の…主に風呂…テルマエをどんどん再現していったのだとか。

 

 最初は古めかしさでバカにされていたそうだが、古い技術ではあっても使いどころ。現代の精密すぎる程精密な部品を必要とせず、また重機を必要とせず人力のみで組み立てるその技術が注目され、徐々に評価が上がって来た。

 最終的には、古めかしかった筈の古代ローマ衣装や技術は、省エネという名目で受け入れられ、一見時代遅れながらも、逆にどの国よりも……極東は別格として……衣食住を保証された生活が実現されたのだそうな。

 

 余談だが、その立役者である男は、何故か毎回毎回風呂とか川とかから、死にそうな顔をして飛び出してくるのが特徴らしい。どっかで聞いたような、そうでもないような?

 …ま、男だからどうでもいいか。

 

 

 

 そんな土地柄でも、やってくるアイドルは楽しみらしく、あちこちにポスターが張られている。

 …何ともまぁ、持ち上げてくれるポスターだこと。

 

 次代の葦原ユノ、はまだいいよ。

 奇跡の歌声、大地を癒す光、歌と踊りの聖女、etc etc…。

 どうやら、アメリカで黒蛛病にかかった畑を浄化し、更に何故か石油を作り出した事が知られてしまっているらしい。…情報は洩れる物とは言え、幾ら何でも早すぎないか?

 

 まぁ、ユノとの対バンもあるんだし、相手をそれなりに盛り上げておきたいって打算もあるんだろうが…。

 何だかんだで、知名度や人気で言えば、ユノの方が高いんだよなぁ。こればっかりは、最初の黒蛛病抑制効果と、これまで活動してきた積み重ねだ。そうそう飛び越える事は出来ない。

 何より、彼女の歌に救われたファンは、同類が出てきたってそうそう鞍替えしないだろう。

 

 …別に問題ないけどね。ライブ対決して、人気で負けたとしても、ペナルティがある訳じゃないし。

 プライドっつーか、「ウチの子達が一番だ!」的な欲目があるのは否定しないが。

 むしろ、負けたらペナルティがあるのはユノの方だ。世界的な歌姫が、ポッと出のアイドルに負ける…。スキャンダルとは言わないが、商品価値に傷がつくのは確実だ。ファンも幾らか剥ぎ取られそうだし。

 

 ま、ユノ自身、こんなセコい事考えてないだろうけどね。そう言うのはマネージャーのサツキの領分だ。

 

 

 

 

 …ところで…街並みの話に戻るが、なんだ、古代ローマの街並みっぽくはあるんだ。ポスターを除けば。よくも悪くも、という枕言葉がつくけどな。

 具体的に言うと……娼館が多い。

 実際の古代ローマで娼館がどれくらいあったのかは知らないが、それっぽい建物が多い。裸のオネーちゃんの看板が、ちょっと路地裏に行けばあちこちにある。

 

 別に珍しいこっちゃねーな。世界中で物資や労働力が不足しているこの時代、世界最古の職業が沢山出てくるのはおかしな事でもなんでもない。

 むしろ、ちゃんとした店舗として経営している分、健全なくらいだ。

 事実、少しばかり調べてみたが、意外なくらいにしっかりとした経営をしていたようだ。体を使ったサービスであるだけで、接客業である事には変わりないんだなー、と今更のように納得した。

 むしろ、体を使っているだけあって、衛生面に徹底的に気を使っているようだ。

 質実剛健な、現在(古来?)のローマの娼館とは思えない……いや、むしろ質実剛健だからこそ、この娼館なのか?

 

 

 

 利用した訳じゃないが、そこに居るお姉さん達も、結構なプロ意識を持って働いていたようだ。

 …それこそ、アンチョビの意識に影響を与えるくらいには。

 



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372話

ちょっと短め。
そして濡れ場は次回です。

PCが相変わらず不調。
ソフトバンクのアニメ見放題、何故か全然見られない…。
へうげものの続きが見たいです…。


神呑月

 

 

 アンチョビを伴って、ローマ見物。昨日の日記に書いたような状態なので、映画の撮影に入り込んでいるような気分になる。

 途中、リカが布教してGKNGローマ支部を無意識に作り上げているのを見たが、それはいい。一人で行動せず、ちゃんと護衛兼保護者もついてたからな。

 

 俺に対して複雑な心境を持っているであろうアンチョビは、どういうつもりか街を巡るのを付き合ってほしいと、自分から申し出てきた。

 しかも、行き先が主に娼館ときた。

 

 …いや人選については、わかるんだけどね。娼館にアイドルが行った、なんてスキャンダルになる。ホストクラブ通いがばれた方がマシじゃなかろうか。

 そもそも一人で行ったら、就職希望と思われかねない。かと言って、チームアンツィオR-18部隊の皆様と一緒だったら…うん、それこそ就職しかねんな。いやアンチョビの元を離れる気はないだろうけど。

 じゃあ、護衛として手配されているディバイダーのハミルトンさんは? …老紳士(執事)が年頃の女性を伴って娼館に行くとか、絵面が犯罪的だろ…。

 

 だから、隠密行動に長けていて、会話も一応できる、いざという時の戦闘力も高い、ついでに言えば客としてもそれなりにノウハウを持っている俺が選ばれた訳だ。

 …しかし、娼館かぁ…。思い出すなぁ、初めての相手…。MH世界で風俗店に連れてってもらって、そこで童貞捨てたんだっけ。素人童貞だけど。

 それから色々あって、オカルト版真言立川流を覚えて…ああ、そう言えばその後にもう一回行った事があったな。

 あの時は、あの人を堕とせなかったんだよな。

 考えてみれば、オカルト版真言立川流を受けて、態度や性格、性癖が変わらなかった数少ない女性だった。…当時の俺は、今に比べて未熟もいいところだった。もう一度行けば、俺専用の娼婦にする事だってできるだろうが……やめておこう。あの人は…まぁ、恩師みたいなもんだからね。

 

 

 とにかく、アンチョビを適当に変装させ、裏通りを歩く。

 アンチョビは、女性の自分がこんな所にいるなんて不自然じゃないか…と思っているようだが、別にそんな事はない。

 娼館だらけだからこそ、そこに女性がいるのは当然の事だ。休憩時間に飯を食いに行く子も居れば、出勤してきた子も居る。デリヘルみたいに、出向いていた子が店に帰ってくるのもある。

 

 ついでに言えば、娼館に女性が客としてくる事もあるんだぞ。そういう趣味の人もいるだろうけど、ライバル店の敵情視察とか、上手い人の技術を体感しに来たりとかな。

 

 

「へぇ…詳しいですね」

 

 

 この程度じゃ詳しいとは言わないよ。まー、一時期娼館と繋がりの深い組織に関わってた事があって、そこで色々裏話とかを教えてもらったんだ。

 真っ当な組織とは言い辛かったが、まぁ悪い奴らじゃなかったよ。……そういや、この辺ってアサシン教団が暗躍しまくってた土地だよな。世界が違うから痕跡なんてないと思うが、探してみるのも面白いかもしれない。

 

 ま、ともかくそういう訳だから、気にせず堂々としてなさい。取って(性的に)食われる訳じゃない。アイドルのアンチョビだとさえ知られなければいいんだ。

 設定的には……路上でデートプレイを楽しんでる客と若い娼婦、くらいでいいか。

 

 

「そこは普通にデートしているカップルでいいんじゃないですか? …いや、そっちの方がいいとかじゃなくてその」

 

 

 普通のデートで、風俗店に来るのは流石に無いだろ。アンチョビみたいな、少女漫画脳なら猶更。

 まーなんだ、余計な世話と言うか俺が言う事でもないと思うが、そういう気分を味わっておくのもいいと思うぞ。

 …R-18チームの事を知る為にもな。受け入れようとしてるんだろう?

 

 

「お見通し…ですか?」

 

 

 細部はともかく、結論はそうなるだろうなってのは予想してた。チームアンツィオは、お前にとっちゃ体の一部みたいなものだ。

 都合が悪いからハイさようなら、って事にならないのはわかりきってた。

 

 一応、保険もかけておいたけど…無駄になったな。

 嬉しそうだって? そりゃそうだろう。これでも心配してたんだ。チームアンツィオの子達は、個人的に気に入ってる。変な意味じゃなくて、本当にいい子ばっかりだ。それが空中分解する心配がなくなったんだから、嬉しくもなるさ。

 

 

「まだ全部受け入れられた訳じゃないんですけど…」

 

 

 受け入れる為に、「そういう商売」をしている人の事を知りたいんだろ。だから俺と一緒に、こんな風俗街まで来た。

 ま、大丈夫だって。どんな経緯を辿ろうと…というか、問題はその経緯の方だよなぁ。チームアンツィオの結束が更に高まるのだとしても、そこに至るまでに何が起こるやら。

 

 

 

 で、どうする? 中に入ってみるか? 話だけ聞かせてほしい、というのは店からすれば時間の無駄だから、客として入店して話を聞く必要があるぞ。

 

 

「それ以前に、外国語なんてわかりません…」

 

 

 …そういやそうだったか。自分が何とか話せるようになったから忘れてた。通訳担当の子も来てないし。

 しかし、それならどうやって風俗嬢の事を知るつもりだったんだろう。

 

 ま、とりあえず適当な店に入りますか。慌てるアンチョビを引き連れて、選んだ店に入る。

 勿論、真っ当な商売をしている娼館で、優良な店を選んだ。

 女性を連れての来店に首を傾げられ、「これが話に聞くHENTAI国家…」みたいな反応をされたが、事情を話せば快く承諾してくれた。まぁしっかり代金も割引なしで請求されたが。

 

 

 出てきたのは、肉感的な女だった。化粧で年齢を誤魔化している節はあるが、そう年嵩という感じはしない。人にもよるが、充分そういう対象として見れるだろう。俺? 余裕のよっちゃんよ。

 ちょっとヤりたくなったけど、流石に状況が状況だ。

 …それに、レアやアリサに申し訳なくもあるからな。普通の浮気はOKで、商売女はダメってのも偏見に満ちた話だが。

 

 珍しい客だと面白がりながら、彼女は色々話してくれた。身の上話から入った、体験談が主。…正直、面白がりながらするような話ではなかったが。

 そのまま通訳していいのかと思うくらいには波乱万丈というか、災難だらけというか…このご時世でここまで極端なのは珍しいと思う。

 案の定、聞かされたアンチョビはちょっと顔を青くしていた。

 

 人の過去を迂闊につつくもんじゃねーな…。そういう意図で、彼女は選ばれたんだろうか?

 だとしたら大成功である。

 

 まぁ、それくらいの方がアンチョビにとっても良かったようだ。

 最終的には尊敬の目ですら見つめていた。やっている事は水商売で、あまり大っぴらにできる人生を歩んできたのではないが、しっかりと自分の考えとプライドを持ち、娼婦という職業に遣り甲斐と誇りを持っている。

 率直に言ってしまえば、女傑とすら言っていい。

 

 彼女は、間違いなくアンチョビにいい影響を与えたようだ。……どうにも、意図してそういう情報を与えたようだが。

 

 

 

 まぁ、何だな…人の過去を気軽にひっくり返そうとした事への意趣返しか?

 遣り甲斐も誇りも間違いなく持っているが、自分と同じ場所に堕ちてくるならそれも良し、的な暗い愉悦を感じた。

 

 

 別にいいか。それくらいなら珍しくない。仮に、これが切欠で彼女とアンチョビに何かしらの繋がりが出来ても、悪い影響なら跳ね除けられるだろう。アンチョビも、根っこは彼女に匹敵する女傑だからな。

 

 

 

 客としての時間が終わり、今にも姐さんと呼びそうなアンチョビを引きずって退散する。

 帰り道、アンチョビは何かを決意したような、悟ったような目つきをしていた。

 

 

 何するつもりか知らないが、こっちでのライブが始まる前に決着つけとけよー、最近の不調にはファンも含めてみんな気付いてるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言うまでもないだろうけど、夜にアンチョビが部屋にやってきました。

 ちょっとちょっと、そのピンクのベビードールどっから持ってきたの。実にエロ可愛い。背伸びした雰囲気が、これ以上なくアンチョビにマッチしている。

 真っ赤になって、胸元と裾を隠しながらも、アンチョビは逃げ出そうとはしなかった。

 

 今すぐにでも飛び掛かりたいが…その前に。

 

 

 

 結論は出たんだな?

 

 

 

「はい。アイドルか、チームアンツィオかと問われれば、私はチームアンツィオを取ります。悩んでいたのが、情けなくなるくらいに簡単な結論でした」

 

 

 そうか…。だが、今からお前がやろうとしている事は、こう言ってはなんだが、あいつらがやってきた事とは別物だぞ。

 あの子達は生きる為、アンチョビの目が届かない影の部分を支える為に売春という手段しか取れなかった。

 

 対して、今のアンチョビ、お前はどうだ? はっきり言うが、この行為にメリットは無い。

 覚悟決めて、女として男の前に訪れた人間にこんな事を言うのは侮辱なんて物じゃないが、それを圧して言うぞ。

 

 

「どうぞ。言われる内容は分かっていますし、言われなければならないとも分かっています」

 

 

 

 俺に抱かれる事に、メリットは無い。

 

 あの子達と同じ、『男に抱かれる』行為を知っても、似ているようでその意味は違う。金銭その他も対価を約束させるでもなく、誰かの為に身を差し出すでもない。

 大人になる? 男を知るのは変化の切っ掛けにはなるだろうが、それで子供から大人になる筈もない。

 穢れる為? 穢れてどうする? 何よりあの子達の献身と努力を、よりにもよってアンチョビが穢れと呼ぶ筈もない。

 

 昼に、あの娼婦のお姉さんに語られた事に、何か感銘でも受けたか。

 

 

「…それも無い、とは言いません。あの人の話はとても参考になりました。全てが事実ではない、私の為に語ってくれたのではないとしても、それでも尊敬しています。失礼な話ですが……これは、自分へのケジメでもあります」

 

 

 俺に抱かれる事で、自裁とすると?

 本当に失礼な話だな。

 

 

「ご自分の言動を顧みてください。女誑しの色情狂に、好き好んで抱かれる女性は居ない…! しかも、一度関係を持ったらしい人は、洗脳でもされたんじゃないかと思うくらいに人が変わる…!」

 

 

 

 反論のしようもございません本当にありがとうございました。と言うか、それを知っててよく自裁の為に俺を利用しようなんて思ったもんだ。自分が『洗脳』されるリスクもあるし、GKNG的に言えば、一応上司よ、俺。何もしてない幽霊役員、或いは名誉役員みたいなものだけど。

 

 

 

「その……何だかんだで、一番近くて、信頼もできる男性ですし……信用はあまりできませんけど。その、あいつらとの取引があったんだとしても、色々と目をかけてもらってますし…気を使ってくれてるし…。その、あの、相手が誰かって考えたら、すぐに顔が浮かんで、他の誰を考えてもすぐに上書きされちゃって…」

 

 

 

 段々と声を小さくしながら、胸の前で両手の指を突き合わせてゴニョゴニョ呟くアンチョビ。

 どうでもいいが、そこで指を合わせると、ベビードールに覆われたおっぱいが気になって仕方ないんじゃが。

 

 しかしまぁ、何となく分かったと言えば分かった。

 要するに、チームの頭領としての責任や、今後彼女達とチームを続けていく為に知るべき事と、そして少女漫画脳がミックスされてるんだ。

 色々とすっ飛ばしてるとは思うが、折り合いの付け方とか、アプローチの仕方がさっぱり分からなかったんだろうなぁ。

 多分、気付いているかは微妙だが、R-18チームが幾らか誘導もしたんだろう。

 

 

 いつの間に好感度を稼いでいたのかは今一分からないが、劇的なイベントが無ければ人はくっ付かないという訳ではない。…いや劇的ではあったか。ナマナマしい方面で、だけど。

 

 

 まぁ、何でもいいか。こんな前置きしておいてなんだけど、『食べてください』と自分から差し出されてきた据え膳を、俺が食わない筈がない。

 覚悟が決まってなかったら、口先三寸とエロい雰囲気でその気にさせて、手籠めにするつもりだった。

 …必要なかったけども。うん、自分で決めて腹括ってるなら、何の気兼ねもなくしゃぶりつくせる。

 

 純情を踏みにじる罪悪感? …何を言ってるんだ、だからイイんじゃないか。

 

 

 ま、ちゃんと配慮はするつもりだけどね。

 

 

 

 



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373話

嫁さん無しなら、アルバイトで死ぬまで生計って成り立つかなぁ…。
責任おっかぶせられる立場なんて最悪っすわ…。

仕事を辞める8割は人間関係って聞いた覚えがありますが、納得です。
たとえクソ店長が原因でなくても、あれやこれやの苛立ちがクソ店長に向かいます。時守は怨恨が個人に向かうタイプです。
結果的に、アイツが気に入らないからやってられないとなる訳ですな。

お目汚し失礼いたしました。
真面目にPCの調子が悪くて、執筆が厳しい今日この頃です。



 アンチョビを手招きして呼び寄せ、ベッドの上に座らせる。

 さっきまでの問答で堂々としていた姿は何処へやら。ベッドに…いや俺に近付くにつれてカチコチになり、内股になり、視線だけが落ち着かなさげにあちこちを走り回る。

 ベッドに辿り着いて…何故か正座で座り込んだ。

 

 これは相当混乱してますね。やれやれ…。こういう子に有効なのは…。

 

 

 軽く引き寄せ、ガチガチのままの背中を軽く撫でる。素肌とベビードールの生地の感触が心地よい。

 霊力を乗せた声で、低めの音声で語り掛ける。イメージ的にはこう、落ち着いた大人が子供をあやすような声色で。

 

 

 大丈夫。俺に全て任せて。優しくするから。

 

 

 

 我ながら『優しくするから』なんてどのツラ下げて言うんだ、と思うが、アンチョビには効果覿面だった。

 軽いキスで目を白黒させるアンチョビの脳内では、恋愛小説の一場面が駆け巡っている事だろう。恋愛小説に濡れ場は無い? そんな事はないよ、最近の奴だと結構あるよ? 直接的な描写が控え目なだけで。…下手な直接描写があるよりもエロい奴もあるからな! フミカに勧められて読んで、マジかよって思うくらいだった。

 

 ともあれ、軽いキスと愛撫…とも言えない軽いナデナデで、アンチョビの緊張を解していく。

 ファーストキスを奪われたショックは見られない。

 それだけ腹を括ってきたと言うべきか、それだけ俺の好感度が高いのか。

 

 耳元で好意を囁いて、アンチョビの体が驚かないよう、ゆっくりとベッドに押し倒す。

 若干強張った体で大人しく倒れたアンチョビは、目を閉じる事を怖がっているようだった。キスの時も、今こうやって組み敷かれている時も、ずっと俺を見つめてくる。…視線を逸らしながら、だけど。

 それもいい。大人になる行為を、最初から最後まで目に焼き付けたいと言うのなら、それもいい。

 

 アンチョビの頬に手を当て、暖かさと柔らかさを堪能する。唇ではなく頬にキスを落としてから、その手を徐々に動かしていった。

 頬から首筋、肩を経て、ピンクのベビードールに包まれた乳房へ。

 

 一瞬だけ抵抗しようとした素振りは、本能的な恐怖から…ではなく、コンプレックスからだったようだ。

 

 

 

「…あんまり、見ないでください…自信、ないから…」

 

 

 十分すぎる程、美乳だと断言できるのに?

 

 

「うちは…その………大きい子、沢山いるし…」

 

 

 ああ…よくもまぁ、食糧難続きのこの世界で、揃ってああまで育ったなーとは思う。

 でも、本当にアンチョビだって負けてないぞ。ベビードールの上からでも分かる。ハリ、形、大きさ、三拍子揃った綺麗なおっぱいだ。

 更に…。

 

 

「んっ…!」

 

 

 感度もいい。直接触れず、双丘の先端を指先でクリクリと捏ね回す。知らない刺激を注がれて、アンチョビは顔を歪めてそれを受け入れようとした。

 先端への刺激は、決して複雑な物ではない。オカルト版真言立川流も使わず、テクニックという意味で言えば初歩の初歩。

 だが、アンチョビにとってはとても安心できる刺激だった。

 

 安心、と言うのも少し違うか? セックスという知識でしか知らなかった行為。そして、R-18チームが行って来た行為。それは、特別な事でも恐ろしい事でもない。

 自分で慰めるのよりは気持ちいいけど、自分の何もかもがバラバラになってしまうような未知の行為ではないと認識させて、余裕を作る。

 

 それでも、先端がぷっくりと立ち上がり、自己主張を始めた時には、アンチョビは顔を真っ赤にして目を反らした。それでも閉じはしないのだから、大した意地っ張りだ。

 先端のみを刺激する、擽るような愛撫から指の動きを変化させる。

 乳房を衣服ごと揉みしだきながら、指先は時折乳首をピンと弾く。その度にピクピクと体を震わせて、アンチョビは自分の体が悦んでいる事を自白した。

 

 恥ずかしがり、声を堪えるアンチョビに、繰り返し綺麗だ、可愛い、もっと気持ちよくなっていいんだと、何度も繰り返し囁き続ける。

 霊力を乗せた声はアンチョビの脳内に容赦なく侵入し、彼女の理性と羞恥心によるブレーキを緩めていく。

 

 胸を弄る手が暴走しそうになるのを堪えつつ、ベビードールを徐々に脱がせていく。

 正直、半脱ぎベビードールのアンチョビも非常に惜しいのだが、今はそういう愉しみを追及するべきではない。アンチョビの初体験を『ちゃんと』済ませてからだ。

 今は、裸と裸で向き合うべきだろう。

 

 ゆっくりとベビードールを剥ぎ取ると、その下から白い美肌が現れる。

 辛うじて彼女の肌を隠していたシースルーの下には、普段からアンチョビが履いているオーバーニーソックス…手触りと光沢が違うので、R-18チームが用意した物か。

 そして、一番大事な場所を守る…と言うのに、防御力皆無、男に剥ぎ取られるのを待つ為だけにある、紐同然の白いパンティ。

 よくもまぁ、アンチョビがこの格好を承諾したものだ。R-18チーム、余程巧妙に誘導したらしい。

 

 

 勿論、美しいのはその服装だけではない。改めて見ると、アンチョビの美少女っぷりがよく分かる。

 可愛らしい顔付は勿論の事、スレンダーに見えて出るトコ出ている奇跡的なバランス。月光に照らされた肌は、不思議と真っ白に見える。しなやかな手には、これまでチームアンツィオを苦労して纏めてきたであろう痕跡…。

 このまま成長すれば、母性とエロスを併せ持った、見事なダイナマイトボディになるだろう。

 しかし今は、少女から大人の女性に変わっていく過渡期。大人の片鱗と子供の清らかさが交じり合った、不思議な体。それを大人の女に変える、最大の切っ掛けを打ち込む事への高揚感。

 獣性が頭を擡げる。股間に滾りが溜まっていくのが分かる。…それに反応して、アンチョビの体が、無意識にそれを受け入れる準備を始めている事も。

 

 流石はフラウの同類、他人の望む態度を無意識に演じてしまう女。こういう場面でも、その性質は変わりないらしい。俺の欲望に応じて、アンチョビの中で淫らな衝動が暴れ始める。

 それを煽る為、露わになった胸に口付ける。舌を使うのではなく、胸元に唇を堕として、軽く吸いながら移動する。

 もっと強く吸えばキスマークがつくのだが、流石にライブの直前はヤバい。パウダーとか使えば誤魔化せるだろうけど、アンチョビの肌に余計な物を付けるのも興覚めだ。

 

 吸引を受けるアンチョビは、俺の頭を掻き抱くようにしてしがみ付いて来る。それによって、俺の顔が自分の胸に押し付けられるのもお構いなしだ。

 それに応えるように、俺はアンチョビの体に手を回して抱き寄せる。手による愛撫を一時中断し、互いの体温を感じ取る。…口での吸引は、場所と強さをちょっとずつ変えながら、まだ続けているのだが。

 

 声を抑えきれなくなり、喘ぎ声を漏らしながら、体をくねらせるアンチョビ。快楽を得ていると言うよりは、未知の刺激に体が勝手に反応しているのか。

 堪えられない淫熱に炙られ、アンチョビは呼吸を荒くし、無意識にだろうが内股を擦り合わせ始めた。

 それを指摘して辱めてあげたくなったが、何とか堪える。

 代わりに、アンチョビに回した腕で彼女の体を固定し、ベッドに押し付けた。

 

 本能的に逃れようとするアンチョビの体を抑え込み、舌で胸を愛撫し続ける。あまり強い刺激は与えず、充分に唾液を絡ませた舌で、粘液を刷り込むように。嘗め回す範囲を少しずつ大きくして、その間にアンチョビの性感帯を探る。

 胸の谷間が敏感。

 下乳は、右よりも左の方が好き。

 先端は、吸われるよりも舌でヌルヌルと舐め回されると強く感じる。

 アンチョビの体を読み解いて、今からでも感じられる場所、開発すべき場所をどんどん把握していく。

 

 感じて善がるアンチョビが抵抗できないのをいいことに、彼女の体を弄ぶ……もとい、愛でていく。

 そう、愛でるのだ。喰らうのでも犯すのでもない。この可愛い子を、奥の奥まで可愛がる。

 まだ破瓜前の、女の悦びもまともに知らない癖に、勝手にオスに媚びる体を。体に翻弄されて、淫らな行為に引きずられてしまう心を。

 

 

「あっ…あ、あっ、だめ、こんなっ、こんなの、私じゃ!」

 

 

 それもアンチョビだ。可愛くてエッチな、セックスするアンチョビだ。

 そういう風になっていい。そういういやらしい所を見せてくれ。そんなアンチョビが愛おしいんだ。

 他の男に見せずに。俺にだけ魅せてくれ。どんな姿でもアンチョビを愛でるから、アンチョビも俺の全てを受け入れてくれ。

 

 アンチョビの耳元で囁かれる、霊力付の声。それこそ少女漫画のセリフのようで、しかし冷静に考えると随分都合がいい事を言っている。

 だが、それでも戸惑うアンチョビを肯定する声。知らなかった自分の、いやらしい部分を愛する声。

 アンチョビは、無意識に……或いは今の自分から逃れるために意識的に……その声に傾倒していく。自分から受け入れ、飲み干し、淫悦を受け入れる為の糧とする。

 

 

「ひ、ぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 甲高い声。アンチョビの乳首に歯を立てたからだ。痛みを与えるような刺激ではない。アンチョビが過剰反応したのは、今までのヌルヌルとした甘い刺激から、軽いとは言え硬質な刺激を受けたから。

 それに乗じて、淫猥な行為を拒絶する理性を溶かしていく。だが、溶かす為の方法は悦楽ではない。『安心』だ。これは苦痛ではない。これは汚い行為ではない。これは異常な行為ではない。一つ一つ、アンチョビの体と心に教え込む。

 

 悲鳴を上げたアンチョビだが、その後は大人しいものだ。驚きさえ過ぎ去ってしまえば、彼女は落ち着いてその行為を受け止める事ができる。落ち着いていても冷静ではないが。

 その行為が不快な行為でないと理解すれば、彼女を守る理性やモラル、恐怖心の城壁は一つ一つ砕けていく。

 あまり過激な事をしては…そう、例えばミカの初体験の時のような事をすれば、アンチョビの恐怖心を煽ってしまう。今夜はこうやって、一つずつハードルを越えていく。

 

 

 しかし、このやり方には欠点が一つ。少々時間がかかり過ぎる。体感時間操作があるので、そういう意味では余裕たっぷりなのだが、あまりの長丁場にはアンチョビの方が保たない。

 なので、適当なところで、ちょっとばかり強引にステップを進める必要がある。

 

 胸への愛撫と口淫を一段落させると、アンチョビは俺の頭に回していた腕を脱力させ、ベッドに倒れ込んだ。

 荒い息を吐き、陶然とした目付きで宙を見つめながら、何とか頭を冷やそうとしているようだ。

 

 紐のパンティとニーハイソックスだけを纏った姿に汗が滲み、何とも艶めかしい。これで処女と言うのが信じられないくらいだ。

 

 動けず、自分の状態もロクに把握できてないであろうアンチョビ。…当然の事ながら、腰で結ばれている紐が引っ張られ、最期の砦が剥ぎ取られた事も分からなかったろう。

 力の抜けた、しかし雌の匂いを漂わせる秘部が曝け出された。

 

 

「………ぇあ? ………。 …………!!!!!」

 

 

 本当であれば、アンチョビに抵抗する暇も、冷静になる暇も与えず、そこに犬のように首を突っ込んで、まだ誰も知らない女の部分を舐め回すつもりだった。

 だが、アンチョビが我に返るのは、想像以上に早く。それ以上に、俺は予想外の光景に固まってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 下の毛、生えてないんだ…。

 

 

 

 これには俺もビックリ。いや、別に悪い事じゃない。悪い事じゃないんだ。むしろすっごい滾る。

 と言うか、滾り過ぎて秘部の愛撫をすっ飛ばして思いっきり犯しそうになった。

 

 恥ずかしい? 大丈夫、俺にとっては超がつく程のご褒美です。

 剃ったのではなく、明かに天然物のパイパン。陰毛が無い為、細部まではっきりと視認できる陰部。それを隠す両手も、プレゼントを包むリボンに見えてきた。

 優しく、しかし逆らう事を許さずに、秘部を隠す両手を退かす。誰の目にも触れた事のなかった乙女の一番大事な所に、俺の視線が突き刺さる。

 

 綺麗だよ、と本心から告げた。本当の事だ。鮮やかなサーモンピンクに、思わず目が奪われる。まだ未使用のそこは、処女雪を連想させるような清らかさを持っていた。フーッと息を吹きかければ、全身が硬直した。

 恥ずかしい場所を褒められ、羞恥で涙ぐむアンチョビ。涙を忘れさせてやろうと、静かに秘部に口付ける。

 

 

「っ、そんな、汚い…!」

 

 

 汚くなんかない。クンニリングスは、女の子の体を解す大事なステップだよ。

 ほら、怖がらずに受け入れて。

 

 

 舌はまだ使わず、唇で秘部をゆっくり愛撫する。啄むようなキスを繰り返し、その度に硬直するアンチョビと、滲み出てくる女の匂いを堪能した。

 クリトリスは避け、割れ目の周り、足の付け根など、ソフトな愛撫を繰り返す。

 

 程なくして、拒絶しようとしていたアンチョビの声は、小さな喘ぎ声に変わっていく。陰毛によって隠されていない秘部は、アンチョビの心と体の変化を正直に教えてくれた。

 まだ本当の快楽を知らない秘部は、刺激を求めてパクパクと控えめに開閉を繰り返し、溢れ出る愛液が俺を誘う。

 

 羞恥による拒絶が解け切ったのを確認し、今度は舌を伸ばした。

 この状況になって、尚目を閉じずに俺をじっと見つめるアンチョビには、それがどう見えただろうか。唾液で光沢を帯びた俺の舌が、自分の一番恥ずかしい場所に迫ってくるのを、じっと見る。

 

 割れ目を、ゆっくりと下から上まで舐め上げる。電撃に打たれたように、アンチョビの体が跳ね上がる。

 それを抑えつけて、ゆっくりと舌を這わせていく。今度は表面だけではない。クリトリスも避けない。事前のキスで把握したアンチョビの性感を探り出し、ヌルヌルとした感触による性感を植え付ける。

 微妙な酸っぱさの体液を啜り、蠢く膣の入り口の締め付けを堪能し、とうとう声を全く抑えられなくなったアンチョビの痴態を愉しんだ。

 

 もう、ここまで来たら抑え込む必要はない。抑えつけていた腕を、愛撫に回す。

 尻を撫で、足を愛撫し、ヘソや脇腹を指先で突く。細かい技術を使う事はない。アンチョビは股間から生まれる快感で、既に体中が性感帯となっている。…と言うより、どんな刺激でも性的にとらえてしまうようになっている。

 欲望に体と精神が引っ張られて、何もかもを欲望の火種と変えてしまう。

 

 秘部への愛撫を続ける。舌だけでなく、指も使い始める。奥まで入り込む事はさせない。指の侵入も、舌が届く範囲まで。

 指の刺激も加わった事で、アンチョビの乱れ方も激しくなってきた。それでも、あまり性急に進めはしない。

 

 

 

「か、体…溶ける……私、溶けちゃう…んっ、ぁ、あっ!」

 

 

 それこそ精神を溶かされたように、夢見心地で惚けるアンチョビ。

 事実、秘部からは本当に中身が溶けたのかと思う程に愛液が流れ出ていた。時折クリトリスを弄って強い刺激を送り込んでも、嬌声を上げるだけで拒絶も恐怖も無い。

 中と外を連動して書き回してやると、一際大きな嬌声を上げ、硬直の後の脱力した。

 

 …初めて男の手でイッた気分はどうだ?

 

 

 

「…いった? いった……私、イかせてもらったんだ…」

 

 

 余韻に浸り、呆然としながら直前の感覚を思い出しているアンチョビ。 

 頃合い、だろうか。アンチョビから何かしらの行為をさせてみたいとも思うが、この状態では無理だろう。体中に力が入らず、呼吸が乱れ切って起き上がる事も難しいようだ。

 ま、そういうのは第二ラウンドの楽しみにとっておこう。幾ら理性が溶け切った状態でも、自分から淫らな行為をする事は、アンチョビにとっては多分別腹だ。今は、年上の優しい彼氏(仮)にリードされるヒロイン役を全うしてもらおう。

 

 脱力したままのアンチョビの前で立ち上がり、いきり立った俺のモノを見せ付ける。

 最初、それが何なのか分からなかったようだが、理解した途端表情が変わった。疑問、驚愕、唖然。

 ……威圧感が出過ぎないよう、ちょっとセーブしてるんだけど……それでもアンチョビには刺激が強かったか?

 

 まぁ……エロいオーラは止めてないから。見てるアンチョビの子宮が、キュンとなったのは確かかな。

 アンチョビにしてみれば、何事かと思うだろうなぁ。初めて男の象徴を見た瞬間に、自分の体内で明らかな変化が起こったのだから。

 そして、その変化・衝動が何なのか、理解して受け入れられるだけの下地は、もう作られている。

 

 

 無毛の、二人の体液に塗れた秘部に導かれるまま、アンチョビは股を開く。無意識にではなく、自分の意思で。

 顔を覆いたくなる程恥ずかしがりながら、目を反らさず、緊張と期待と興奮で高鳴る胸を抑えながら、口を開いた。

 

 

「…お願い、です……来てください…。知らない世界を、私に、教えて…」

 

 

 アンチョビの上に覆いかぶさる。最後の理性が、男に組み敷かれている状況に反発しようとしたようだが、性感とシチュエーションに酔っているアンチョビに、それは通じない。

 開かれた股に、照準を合わせる。先端が触れ合うと、アンチョビの熱が強く伝わって来た。

 

 アンチョビの体は、随分と知的好奇心が強いらしい。怯え半分、期待半分の本人とは裏腹に、次に訪れる異物を今か今かと待っている。

 少しずつ前に進んでいくと、息を止めて体を強張らせ、アンチョビは俺を迎え入れる。

 

 そんなに力んでいたら返って痛いぞ、と言ってやるのは簡単だ。何処か別の場所を弄繰り回し、その緊張を完全に解いてやる事も。

 でも、そうはしない。破瓜の痛みで歪むアンチョビの顔を見たい…というのは流石に冗談だが、アンチョビ自身がそれを望んでいるからだ。

 初めての痛み、一生に一度しかない痛み、大人の女にステップアップする瞬間。

 

 

 

 そして、R-18チームが、否応なしに超えてきた痛み。

 

 

 それを刻んでおきたい。刻んでおかなければいけない。

 そうアンチョビが考えているからこそ、痛みを取り除いてはいけない。

 

 あえてゆっくりと進み、アンチョビの未開の道を抉じ開ける。抵抗を捻じ伏せる感触が心地よい。

 痛みを堪えるアンチョビの表情に若干ながら罪悪感を感じたが、それを背徳的なスパイスとして感じる自分の色狂い加減に、ちょっとだけ自分が嫌になった。

 が、どっちにしろここで止める事はできない。

 

 ジリジリとした進み方で、アンチョビの処女膜が破れていく感触を堪能する。それだけ痛みが長く続くと言う事だが、流石にそれだけでは申し訳ない。

 緩く、薄くだが、オカルト版真言立川流を使い、確かな快感をアンチョビに注ぎ込む。

 …しかし、この反応だと、わざわざ使わなくても良かったか? 処女を破られる痛みと同時に、そこを抉じ開けられる快感を、確かにアンチョビは感じていた。

 

 それを禁忌として考えているのは、彼女の潔癖さ故だろうか。

 だが、俺に言わせればそれこそ間違いだ。アンチョビが刻み込むべきなのは、皆が超えてきた痛みだけではない。

 その先にある快楽こそ、アンチョビが否応無しに知らなければならない部分である。

 

 好きでもない相手に抱かれる苦痛は、これ以上ない苦しみだろう。だが、人はそれを割り切る事ができる。辛いという感情を、天秤にかけられるだけの対価があれば。

 でも、本当に辛いのは…『悦ばせられてしまう』事だ。好意無しでも肉体関係は結べるし、それこそR-18チームのように生業として行う事もできるが、意に沿わない快楽で翻弄されてしまう辛さを知らずに、R-18チームを理解することはできない。

 

 

 

 まぁ、それも含めて人は割り切れるようになるもんだし、アンチョビがそれを本当に知りたいなら、優しい初体験を切り上げて、何もかもぶっ壊れるくらいの激しい快楽の拷問をかましてやればいいだけだが。 

 

 

 

 ともあれ、処女膜の抵抗の感触が変わって来たのが分かる。痛みと悦楽を堪えるアンチョビに軽いキスをして涙を拭い、そっと囁く。

 さぁ、『女』になろうか。

 宣告と共に、腰を突き出し、アンチョビの最後の抵抗を食い破る。

 悲鳴と同時に、涙が一筋流れた。

 

 処女膜の抵抗が無くなったアンチョビの体は、想像以上に貪欲だった。

 膣の奥が異物の挿入を歓迎するようにうねり、愛液が奥から奥から溢れ出してくる。破瓜の証が薄くなるほどに。

 

 ああ、よく頑張ったな、アンチョビ。

 

 

「っ……はい…あっ、中で、ピクピクしてる…」

 

 

 抱きしめて頭を撫でながらあやしてやると、戸惑ったように俺を見上げてきた。

 まだ小さく疼く痛みと、それを上回る性感・充実感への期待。好奇心、安堵、言葉にできない幾つもの感情が混ぜ合わさっている。

 

 

「…その、動かないんですか? ものの本によると…」

 

 

 んー、アンチョビの体が落ち着くまでは、このままでいいかな。ピクピクはさせるけど。

 いきなり激しいピストンは、流石に負担が大きいからね。でも、これでも充分気持ちいいよ。

 アンチョビは……どうだ? 正直に言ってみな。正直にね(ピクピク)

 

 

「んっ………そ、その……もどかしい…と言うか…焦れったいというか……お臍の裏の辺りが、何だかむず痒いです…」

 

 

 物足りない、とまで言わなかったのは、気を使っているからか、それとも初めてなのにそんな事を言うのは躊躇われたのか。

 リクエストに応えて少しだけ腰を動かしてやると、気持ちよさそうな声を出す。性感ではなく、痒いところに手が届いたような声だったが。

 処女膜の傷口を抉るようなピストン運動ではなく、グラインドとチンピクでアンチョビの奥を刺激する。

 

 漏れ出る声が、徐々に甘く変わっていく。抱きしめられる事で安心したのか、俺の動きに身を任せ、自分からも体を動かしてくる。

 体の動きは小さく控え目なものだったが、アンチョビの中はその逆。処女卒業したばかりとは思えないくらいに、俺を求めて蠢き続ける。

 相手の望む態度を取ってしまう習性はこういう場面でも有効なのか、俺の好む反応や締め付けをどんどん学習しているようだ。

 抱けば抱く程、男の好む形に変わっていく、後天的な魔性の肉体と言えるだろう。

 

 処女雪に好き放題足跡を残し、自分の望む形に変えていく悦びは何物にも代えがたいが……今はそれに付き合わない。

 俺の望む形に合わせるアンチョビではない。アンチョビ自身が望む行為を突きつける。

 俺に合わせて悦ぶのではなく、アンチョビ自身の性欲、願望を満たしていく。

 

 喜ばせる側ではなく、男に抱かれて悦ぶ側に居るのだと自覚させる。

 

 

 焦らし、欲求に応え、新たな場所を開発し、アンチョビを昂らせていく。

 耳元で、先程までとは違って膣内の感触の感想を卑猥な言葉で垂れ流し、恥ずかしがるアンチョビを虐めてやる。

 

 徐々に腰を動かす範囲を広めると同時に、胸、尻、うなじに手を這わせ、愛撫を続けた。

 それらは確かにアンチョビに快楽を与え、まだ小さい秘部の性感を燃え上がらせる火種となったが、決定的な切っ掛けになったのは、もっと別の一手だった。

 

 文字通り、手が一つ。…いや、二つ、か。

 体中を弄られて悶えるアンチョビを安心させようと、両手を繋いだ。…それが最後の切っ掛けだった。

 たったそれだけで、アンチョビの反応は跳ね上がった。

 注がれる快楽と痛みを全て受け入れ、一直線に絶頂に向かって駆け上がっていく。

 

 

「っ、き、きっ! だき、し…!」

 

 

 律動によって灰の中の空気が叩き出され、声もまともに出せない。それでも、何を言いたいのか、何をしてほしいのかは伝わるものだ。

 正面から抱きしめ、唇を塞ぐ。

 舌を捻じ込んで口の中を愛撫しながら、アンチョビの舌の位置を調整し、呼吸をしやすくしてやる。

 …そう言えば、ディープキスは初めてだったかな。

 

 全力でしがみ付いて来るアンチョビ。それで動きが鈍る筈もなく、むしろアンチョビの柔らかい体と甘い匂い、喘ぎ声に包まれて、急速にモノが昂ぶり、込み上げてきた。

 それに呼応して、アンチョビの体も充分すぎる程昂っている。小さな絶頂を無意識ながら何度も繰り返し、痛みは完全にスパイスになり、最後の一線に押し上げられるのを待っている。

 

 

 アンチョビ、イクのを我慢してるのか?

 

 

「っ…! は、はじ、は、いっ…しょ…!」

 

 

 一緒にイキたいのか。ああ、本当に可愛い奴だ。

 分かったよ。もう我慢の限界だろ。カウントダウンするぞ。動きがちょっと激しくなるから、頑張って我慢するんだ。

 

 

 さん。

 

 

「~~~~!!!!」

 

 

 腰を打ち付ける速度を早くする。細かい動きは行わず、前後運動のみでクライマックスに向かって駆け上がる。

 

 

 に。

 

「っ…! っ……!」

 

 

 口を押えて、絶叫と絶頂を必死に抑え込むアンチョビ。膣内はイキ続けているのに、精神力だけが保たれている。

 

 

 いち。

 

 口を押える腕を剥ぎ取り、中を前後するモノを膨らませる。それが射精の前兆だと、アンチョビは気づいただろうか? 体だけは、本能に従って一番奥まで一直線の道が開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぜろ。発射。

 

 

 

「ッイ、イ、クゥゥゥゥうーーーー!!!!!」

 

 

 アンチョビの身も世もない悲鳴が上がり、俺の腕の中で悦びに打ち震える。

 膣内が全力で締め付けられ、射精真っ最中の愚息をマッサージして、少しでも飛び出す白濁の量を増やそうとする。

 

 処女卒業直後のオーガズム、中出しでアンチョビの体は性の悦びを刻み込まれる。ゴクゴクと、子宮が音を鳴らして精液を飲み干しているのが見えるようだ。

 

 永久に続くかと思うような射精は、アンチョビの締め付けが緩んでくるのに合わせ、徐々に勢いを無くしていく。

 一滴残らず…それこそ尿道に残る筈の残滓まで押し出して、アンチョビの中に押し込んで。

 

 彼女が脱力したのを確認して、まだ大きなままのモノを引き抜いた。

 白濁は、溢れ出してはこなかった。それだけ奥に注ぎ込んだのだし、まだこなれていないアンチョビの膣は、すぐに元通りに閉じてしまい、逆流を許さなかったようだ。

 

 

 息も絶え絶えのアンチョビにもう一度キスをする。

 何と声をかけるのか。可愛かった。気持ちよかった綺麗だった。大人になったな。

 …どれも違う。

 

 大好きだ、アンチョビ…チヨミ。

 

 

「…アンチョビ、です…」

 

 

 それを訂正する為に気力を使い果たし、アンチョビは目を閉じた。

 やれやれ。ピロートークする体力くらい残しておくべきだったか。いや、精神的な緊張が解かれた反動だから、体力の問題じゃないな。

 

 俺は目を閉じて安らかな寝息を立てるアンチョビを軽く撫で、仰向けに寝転んだ。彼女の体を動かして、俺の上にうつ伏せに寝転がらせる。

 うん、いい体勢だ。緊張が解けた彼女の体の感触を全身で味わえる。安らかに眠るアンチョビの表情もよく見える。ついでに尻も撫でやすい。

 

 アンチョビの眠りは、そう深くない。眠っていると言うより、倦怠感の中で微睡んでいる、と言った方がいいだろう。半分動いてない頭でも、多分俺の体温は感じている。

 ピロートークは出来なかったけど、アンチョビが目を覚ますまで、こうしてくっついてゆっくりしていよう。

 

 

 

 

 

 

 

 暫く…と言っても、体感時間操作えの影響下にあったので、実際には極めて短時間だったろうが…して、アンチョビは目を覚ました。

 男の上に裸で乗っているという状況に慌てふためくかと思ったが、逆にニマーッとした笑顔で、甘えるように俺の胸板に顔を押し付けてきた。

 

 

「…痛かったけど、気持ちよかった……。あれがセックス…」

 

 

 気持ちいいのは、自分が受け入れている時だけだろうけどな。それと言っとくが…自分でこんな事を言うのもなんだが、俺は少々普通じゃないから。これが基準だと思うなよ。

 

 

「分かってるよ…。うん、これで、あいつらの事もちょっとは分かってやれたかな…。……その……私の体、どうだった?」

 

 

 アンチョビにしちゃ大胆な質問だな。そりゃ最高だったに決まってる。

 カワイイ、綺麗、エロい、更にはまだまだ開拓の余地ありと、これだけ魅力的な体もそうそう無いよ。

 自信持っていい。……ま、まだまだこの道に入ったばかりの初心者にしては、だけどな。

 

 

「べ、別にそんなに熱中するつもりもない! ちょっと興味はあるけど…」

 

 

 ほほう?

 

 

「ん? 何か当たって………っ! な、何で大きいままなの!?」

 

 

 はっはっは、世の中には連戦できる人も居るんだぞー。大体、アンチョビがダウンして、この態勢のまま結構時間が経ってるんだ。ずーとアンチョビに触れ続けてるんだから、そりゃ俺でなくても回復するさ。

 そら、どうする? もう一回イかせてやろうか?

 

 からかい半分、本気半分で言った言葉に、アンチョビは顔を白黒させながら思案した。

 

 

「……こ、今度は、私が触ってみてもいいか?」

 

 

 お? 何かシてくれるのか?

 

 

「何かって言うか……その、ほら、リードしてくれてたとは言え、私は何もしてなかっただろ? えーっと……カ、カジキマグロ? ってヤツだと、いずれ飽きられるって…」

 

 

 カジキは余計だ。

 アンチョビに飽きるかどうかはともかくとして、自分から動く事を覚えたほうが、お互い楽しめるのは確かだな。

 にしても…口調変わったな。開祖様とか言われるより、そっちの方が親しみやすくて嬉しいけど。

 

 

「あー……うん、その…べ、ベッドの上とか、二人きりの時くらいは……い、いいかな?」

 

 

 いいとも。勿論オッケー。

 さぁて、何をしてもらおうかな。

 

 

「あ、あんまり変なのはダメだぞ!? 一般基準で考えろ、一般基準で!」

 

 

 一般とは何ぞや(哲学)。と言うかアンチョビの少女漫画脳基準だと、フェラも手コキもアウトな気がする。腹括って抱かれに来て、経験してオンナになったとは言え、初心もいいトコだしな。

 うーん、しかしこういうのも新鮮な気がする。大体、一度ヤッたら何でもオッケーか、何だかんだ言いつつ俺に従うようになってばかりだから、予防線を張られるのも珍しい。

 とはいえ、あまり突飛な提案(アンチョビ基準)をしてドン引きさせるのも興ざめだから…。

 

 じゃあ、逆にアンチョビは何をしてみたい?

 

 

「あ、改めて聞かれると…。…あ、してみたい事…じゃないけど、疑問が一つあるんだけど」

 

 

 へぇ?

 

 

「その…何でみんな、あんなに夢中になって、沢山の中の一人でもいいから…って風になるのか分からないんだ。確かに気持ちよかったし、興奮もしたけど……そこまでじゃない、と言うかなんというか…」

 

 

 

 …ああ、成程。それなら話は簡単だ。じゃあ、ちょっとその疑問を解決する為の遊び、ヤッてみようか。

 

 

 

 

 

 

 

 暫し間が開いた。室内には、爛れた粘液の音と、肌と肌が打ち付け合う音、艶めかしい声が響き渡っている。

 コンコンと、小さくノックの音。生々しい音にかき消されそうになりながらも、俺の耳には確かに届いた。

 

 誰が来たのかは分かっている。気配だけでも分かるし、多分こうなるだろうなとも思っていた。

 はいどうぞー。鍵は開いてるよ。

 

 

「…情事をするのに、鍵を開けっぱなしなのはどうかと思いますけど」

 

 

 仕方ない。アンチョビが入ってきて、そのまま鍵を掛けるタイミングを逃しちゃったからね。

 それで、どうした? チームアンツィオのR-18チーム総出で。

 ドゥーチェがヨがる顔でも見に来たか。

 

 

「ええ、そんな所です。ですが……想像以上だったようですね」

 

「あっ、はっ、あっ、あっ、あん、あぁ、い、いく、いく、またイクッ、あっ、ああぁぁ! あっ、あっ、あぐ、はっ、おぅ、あっッ! ! ~~!!!」

 

 

 後背位で組み敷かれ、気遣いも手加減もない乱暴なピストン運動を受けながら、忘我の様で喘ぐアンチョビ。

 もう何度イかせたか、数える気にもなりはしない。注いだ回数なら、まだ辛うじて覚えているけども。

 

 顔も背中も浴びせられた白濁に塗れ、涎を垂れ流し、オスに蹂躙される悦びを貪るだけの姿。

 変わり果てたチームリーダーの姿を見て、ゾロゾロと入って来たR-18チームは口々にその感想を述べる。

 

 

「うわ~、ドゥーチェが凄い事に…」

 

「初めての夜に、あんなに気持ちよくされてるんだ…羨ましい…」

 

「ど、ドゥーチェが、ドゥーチェが…私達でもしないような、いやらしすぎる顔に…」

 

「ドゥーチェ…ドゥーチェってば! …ダメだこれ、もうエッチの事しか頭に残ってないわ」

 

「うーん、開祖様ってば流石のお点前…。だがそれがいい!」

 

「ハァ、ハァ…夢にまで見たドゥーチェの裸が……私以外にあんな風に…うっ……フゥ……み、見てるだけでイキそう…」

 

 

 あれこれ言われているのに、アンチョビは反応しない。できない。彼女達を認識できているかすら怪しい。

 無理もない。今度はオカルト版真言立川流も使い、容赦なく責め立てたのだ。最初の少女漫画のように甘い囁きや行為とは打って変わって、快楽で屈服させる為の容赦ない凌辱を繰り返した。

 勿論、痛みを与えたり、合意のない行為をしたのではない。ヤッた事自体は、最初の行為からちょっとだけ発展させた程度のもの。しかし、撫で方、舐め方、突き込むタイミングと角度、囁く声など、より快楽に耽溺できるようにして、アンチョビの『疑問』の答えを体に叩き込んでやった。

 最初は「あ、これはさっきしたのと同じ事なんだな」と、緊張しつつも経験済みと言う事で余裕を持って受けていたアンチョビだが…違いに気付いた時には、もう遅い。こうやって、好き放題にヤられっぱなしの状態になってしまった。

 

 

 で、実際何しに来たの? アンチョビを、抱かれるように誘導したのは君達だろう。

 成果の確認でもしに来たのか?

 

 

「似たようなものです。最初からここまではっちゃけるとは思っていませんでしたが…ふふ、まさか本当に願いが叶う日が来るとは」

 

 

 願い…?

 

 

「一度でいいから…ドゥーチェと寝てみたかったんです。私、どっちもイケますから」

 

 

 …流石R-18チームリーダー。そういや、性癖もSもMもラブイチャも、何でも一度はやってみようって子だったっけ。

 

 

「ドゥーチェも、売春こそしませんが、この世界に入ったんです。文字通り、『裸の付き合い』を一度はしないとね…」

 

 

 チームの結束を固める為の、衆道ならぬ百合道…なのか?

 まぁ、いいか。そういう事なら大歓迎。アンチョビに多少無茶な事しちゃっても、こっちでアフターケアしてあげよう。

 

 

「今の開祖様の為さり様程の無茶は、そうそうないと思いますが…お言葉に甘えて」

 

「勿論、開祖様もたーっぷり気持ちよくしてあげますからね! …ドゥーチェと絡めない間、私達の事も可愛がってくださいね」

 

 

 オッケー。ほら、アンチョビ。もう何も分からない状態だと思うけど……チームのみんなが来たぞ。一緒に絡みあおうか。

 



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374話

第二種衛生管理者試験落ちた…。
再受験のインターバルは無いみたいだし、連続で受ければ同じ問題出てくるかな…。
でも、問題を覚えてなくて、どれが悪かったのか分からないんだよなぁ…。


 

神呑月

 

 

 「えらい目にあった」とはアンチョビの言だ。昨晩の初体験+その後の乱交の事だけでなく、野次馬根性丸出しで根掘り葉掘り聞き出そうとするリカミカシスターズの相手の事も含めて。

 まぁ、アンチョビも恥ずかしがりはするものの、惚気るのは悪い気分ではないらしく、結構語っていたようだが。

 初体験の過激さでミカとアンチョビが張り合っていたそうな。リカも充分に張り合える経験だったが、彼女の場合夢の中で初体験を済ませたと言えなくも無いし、どれが本当に初めてなのか全く分からない為、ハブられてしまったとブーブー文句を言っていた。俺の上で腰を振りながら。

 

 ともあれ、アンチョビは良くも悪くも変わった。チームアンツィオ間でのイザコザも解消され、より強い絆が出来上がったと言っていい。代わりに、R-18チームの総受け役に収まってしまったが。

 売春については、やはり今後は手を引く事にしたそうだ。個人個人が相手を選び、自分の意思で誰かと付き合うのは問題ないが、その場合でも金銭その他による対価を受けとるのは禁止。

 

 後始末…これまでの『顧客』の後始末については、追々行っていくしかないだろう。

 これについては不穏の種を完全に刈り取る事は難しく、予防を行っていくしかないが、強い味方を作る事ができた。

 リカだ。正確に言えば、彼女とその背後に居るGKNG。

 個人的に二人が仲良くなった事もあり、アンチョビはリカの直属の部下と言う事になった。本人達は友人であるが、形式的にね。

 

 それ何か意味あるのか? と言われれば、大いにある。特に極東では。

 何せ天下のGKNG。極東に流通する食物の殆どを、一手に牛耳る超団体であり、リカはそこの大幹部なのだ。彼女達と、その直属の部下のチームにちょっかいを出せば、アッと今に極東で暮らせなくなってしまう。冗談抜きで。

 そして、R-18チームの顧客だった相手は、大体極東の住人だ。

 

 チームアンツィオ自身の人徳に加え、GKNGの財力・マンパワー・影響力。スキャンダルになってでもチームアンツィオと離れる気のないアンチョビの人望。

 これだけ揃えば、迂闊にちょっかいを出してくるのは、前後や損得計算も分からない阿呆くらいだ。…居る所には居るのが問題だが。

 

 

 

 

 

 さて…今日語るべき事は………軽い話から済ませておくか。

 

 ここの所、俺達を興味深そうに眺め続けていたタカネ。アイドルとしての仕事も卒なくこなし、持ち前のスペックの高さもあって、総合力なら世界レベルでナンバーワンとまで称されるようになってきた。

 技術自体もさる事ながら、彼女には他のアイドルにない、圧倒的に有利な点が一つある。

 

 それは言葉だ。

 

 どの国のどの言葉でも、彼女はあっという間に習得してしまう。それこそ、現地人から見事な発音だと感心されるくらいだ。…スラングとかが混じるのは仕方ないと思う。

 そして習得した言葉で歌を歌う。耳慣れない言語での歌も異国情緒が溢れていいものだが、やはり耳慣れた言葉が聞きやすい。歌詞の意味も分かりやすい。

 何より、外国からやってきたアイドルが、自分達の国の言葉で、しかも非常に綺麗に歌ってくれるのだ。吹き替えや翻訳を通す事なく、生で。そりゃ人気も出るというもの。

 

 

 勿論、他の子達だって負けてはいないんだが……これについての話は、また後にしよう。

 

 今日のライブも大盛況(なんてレベルではなかったが)のうちに終わり、食事も終わり、さぁ後は寝る(意味深)だけ。今日は誰をどうやって遊ぼうかと考えていると、タカネに呼び止められたのだ。

 相談したい事がある、と言うのでついて行ったところ、予想外…いや、予想はできたな。地球で再会した時からして、やってみたいと言ってたし。

 

 彼女の相談とは、ぶっちゃけコレだ。

 

 

「性行為とは、それ程に心地よいものなのでしょうか?」

 

 

 …いきなり何を聞いてるんだ、と思った俺は悪くないと思う。

 

 

「私は、あなた様と再会した時にもそういった行為を行いたいと言いましたが、それとはまた別の疑問を持ったのです。性行為は、子を成す為の行動であり、また好意を伝える為の手段だと思っていました。私は子を成す必要がありませんので、他に好意を伝える方法があれば、特に性行為を行う必要はないと考えていました」

 

 

 まぁ…タカネと言うか、ノヴァにとってはそうなるよな。

 究極生物はセックスしないというカーズ様の言葉を考えれば、タカネはそれに最も近い生物だろう。…元のノヴァとしての体であれば。

 

 

「故に、あなた様が私を放置し、アンチョビ等を愛でていても、特に不満はありません。もっと構っていただきたいとは思いますが」

 

 

 …言葉とは裏腹に、何だか視線がキツい気がする。まぁ、タカネにしてみりゃ、このライブツアーも新婚旅行みたいなものだ。だと言うのに、連れてきたペットとばかり遊んでいれば、不満も溜まるか。

 

 

「ですが、そこで私は疑問を持ったのです。あなた様が何より好む、まぐわいとは一体どういうものなのか。知識としては知っていますし、試してもみました」

 

 

 ほう、試し……ためした!?

 

 

「はい。あなた様の真似をし、こう、乳房に触れ、股座を掻き回してみたのです」

 

 

 …そ、そうか。試したって自慰でか…。あぁ、びっくりした…。誰かがタカネの体を味わったのかと思ったぜ。

 心臓に悪いな…。……ネトラレなんてゴメンだってのもあるが、これだけショックを受けるとは。俺もそれだけ、タカネを好いていると言う事だろうか。

 

 

「しかし、心地よさはあったものの、あなた様やアンチョビ達が夢中になる理由が分かりませんでした。まぐわいとは、私を放り出して熱中する程に心地よいものなのですか?」

 

 

 うーん、そりゃ一人で性欲解消するのと、好きな相手と絡み合うのは全然違うもんだしなぁ。

 

 

「そうでしょうか。体を刺激するという意味で、同じなのでは?」

 

 

 タカネは片手を上げ、指を器用に動かした。一本一本の指が独立した生物であるかのように動き、そこには何もない筈なのに、胸を揉む動作であると言う事がすぐに分かる。

 …全く経験なぞ無いであろうに、その動きは熟練のもの………と言うか、俺の愛撫のやり方を、そのまま真似取ったような動きだった。

 いや、ような、ではなく、恐らく本当に動きをコピーしたのだろう。タカネの見ている前で、アリサの胸を弄った事があったからな…その時の動きを思い出して再現したのか。

 

 確かに、体を刺激するという点では、十分すぎる程の動きだろう。半ば自画自賛になるが、性感を引き出し、女を夢中にさせる指の動きだ。

 

 

 だが、違う。違うのだよ。体の刺激だけでは、セックスは語れないんだ。今のタカネの手の動きにしても、それはタカネの体に合わせたものじゃないしな。

 と言うか……タカネ、お前自分の体のコントロールできるよな。

 ひょっとして、神経と言うか感覚とかも制御下に置いて試した?

 

 

「ええ。あまりに夢中になって、暴走でもしたら厄介ですし」

 

 

 それだよ…。快感とかも一定ラインを超えないようにセーブして自制してるんじゃ、夢中になんかなる筈ないって。

 とは言え、心配は理解できるな。昂り過ぎて血の力が暴発でもしたら、とんでもない事になる。人間の体とは言え、元がノヴァ。精神力は折り紙付きだろう。

 

 

 …ん? 人間の体…?

 

 

 なぁタカネ。さっきは子を成す必要が無いって言ってたけど、今はどうなんだ?

 月にあるノヴァとしての体であれば、太陽の光でもあれば光合成みたいな事してエネルギーを生成できるだろうし、極端な話、単体で完結した生物として生きていけるだろうけど。

 

 

「子を孕めるかと言われれば、可能ですね。人としての体を作り上げましたから。人間の体で出来る事であれば、一通りの事はできます。……私が子を孕む、ですか…。考えた事もありませんでしたね」

 

 

 

 ノヴァとしては、子孫を残す必要が無かったからなぁ。

 …ちなみに、『ノヴァ』の体に戻る事って出来るの? いや、やれって言ってるんじゃないけど。

 

 

「できますよ。残った体に触れて、パスを作れば」

 

 

 ……月にある体に、どうやって触れる気だ?

 

 

「……………」

 

 

 タカネは空を見上げた。緑化した月が、満月でよく見える。

 

 

「………ま、別に問題はありませんね。重要なのは、あなた様の傍に居られるかどうかです」

 

 

 ポカしやがったな、タカネ。

 ……いや、ポカさせたのは俺か。俺がタカネを地球に呼び寄せたようなものだ。切っ掛けはちょっと祈っただけだったが、タカネはそれに応えて地球にやってきた。本来の不滅の体を捨てて、ただ俺の傍に居る為だけに。

 元の体に戻る事など、考えてもいなかっただろう。

 

 男に焦がれて地上に降りた天女は、羽を失って戻れなくなりました…か。

 こんな男の為に、バカなヤツ…。

 

 

「? どうかなされましたか?」

 

 

 もうタカネは、人間として生きていくしかない。中身…精神はノヴァだが、体は完全に人間だ。どうにかして月まで辿り着ければ話は別だろうが…それも厳しい。

 ノヴァの体であれば自力で大気圏突破もできただろう。金と人脈をフル活用すれば、ロケットで月まで行く事もできるかもしれない。…どちらも、当分は無理だろうな。

 

 

 

 …大した事じゃない。もっとお前に構ってやればよかったな、って今更思っただけだ。

 

 

「ふふっ、嬉しゅうございますわ。ですが、まるで既に死に別れたかのような物言いは減点です」

 

 

 おう、縁起でもなかったな、悪い悪い。

 …まぁ、何だ。まぐわいの事が知りたいってんなら、近い内に体験させてやるよ。

 

 

 

 約定ですよ、と念を押し、タカネは寝室に戻った。…あー、なんだろうな、この感じ。タカネの狙い通りにハメられたような気がする。

 だとしても、そう嫌な気分じゃないが。

 

 …いつもの俺なら、『近い内に』なんて事言わず、今すぐ体験させてやっただろうに。何だろう、このモヤモヤする感じ…。

 

 

 

 

 誰かを抱く気にも今一なれず、自室のベッドでボケッとしていたんだが……すぐにそれどころではなくなった。

 モヤモヤした感じ、予感の原因はきっとコレだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ジュリウス、行方不明。

 

 

 

 連絡を受けた時は、『とうとう来たか』と思ったよ。元々、何か起こるとすれば、俺が極東に居ないライブツアー中だろうと予想していた。或いは、帰って来た時に、MH世界であったように大型アラガミが暴れている、とか。

 

 これは、ストーリー進行、クライマックスへのカウントダウンが始まったって事だろう。ゲームシナリオで言えば…ジュリウスが離脱したとなると、中盤の終わりくらいかな? しかし、黒蛛病に感染についてはどうなるのか…。

 詳しい情報を聞きたいところだが、極東でも結構な騒ぎになっているらしく、アリサ達とも連絡が取れない状態だ。捜索に駆り出されているのだろう。

 

 こう言ってはなんだが、一人のゴッドイーターを相手にここまで極東地区が大騒ぎする事は、普通は無い。リンドウさんのような超ベテラン、有名人であれば話は別だが。

 それがこんなに騒ぎになってるのは………あ、そうか。ブラッド隊の隊長だもんな。ジュリウスは極東にえらく馴染みはしたが、その所属はフライア。極東から見れば、よそ様の子をお預かりしている状態だ。それが行方不明ともなれば、責任問題になる。

 …ゴッドイーターとしての任務中の行方不明なので、死ぬのも職務の内と主張できない事もないが……相手はラケルてんてーだものな。どんな手を使ってくるか、分かったものではない。

 

 それに、ジュリウスはまだ数少ない血の力の使い手。感応種を相手にできる、両手で数えられる程の数しかいない重要人物だった。そりゃ、ラケルてんてーが何もしなくても問題にはなるわ…。

 

 

 そのラケルてんてーだが、不気味なくらい動きを見せないらしい。ジュリウスを心配していると口では言う物の、その態度は例によって人形のように落ち着いており、裏で何か策謀を仕掛けている様子も見えないそうだ。

 …どういう事だろう…。考えられるとすれば、俺達に察知できない方法で陰謀を進めているか。或いは、既に陰謀の仕込は全て終わっており、仕上げを待つだけになっているのか。

 フライアの内部がどうなっているのかも気になる。フランも有給扱いで締め出していたように、人をどんどん少なくして、自分だけの状態にしようとしているのか。

 

 

 …落ち着け。今から極東に戻った所で、出来る事は何もない。ジュリウスが行方不明になって、既にそれなりの時間が経過してしまった為、鷹の目による捜索も難しい。協力しても、一般隊員以上の協力はできない。

 世界の裏側からでも、数瞬で極東に戻れるのは最後まで秘匿しておくべき切り札だ。札を切ってしまいたいのは山々だが、ここは堪える。

 …ジュリウスを見捨てる、と言われると反論できないのが辛いな。ラケルてんてーの仕込だろうから、少なくとも死んではいないと確信しているが。

 

 

 

 …ちょっと待て、持っている情報を整理しよう。

 

 まず、ジュリウスが行方不明になったのは、とあるミッションの最中だ。聞いた話…簡潔にメールで送られてきた…では、特に珍しくも無い駆除任務。極東以外であれば、決戦とも言える任務内容だが、慣れたジュリウスにとっては特にどうこう言う程ではなかったようだ。同行者はブラッド隊ではなく、新しく配属された新人ゴッドイーター1人。

 事実、ミッション自体は至極あっさりと終了した。新人にも大きな怪我はなく、ジュリウスは完全に無傷。これはオペレーターも証言している。

 

 ジュリウスからの通信が突然途絶えたのは、ミッションを終えて帰投する直前。

 新人ゴッドイーターが、ほんの少し……そう、本当にほんの少し。物音に反応して振り返り、瓦礫が崩れ落ちただけなのを確認して前を向けば、もうジュリウスは居なくなっていた。

 オペレーターとの通信が数分途絶え、回復。ジュリウスの所在について問いかけてみれば、反応が一切ないと来た。

 

 …まるで神隠しだな。新人ゴッドイーターはその場でジュリウスを捜索しようとしたが、上官命令で引上げさせられた。

 そりゃそうだ、初陣を迎えたばかりのゴッドイーターが、極東地区を一人でウロウロするなんて、短時間でも自殺行為以外の何物でもない。二次災害にならないよう、帰還させて代わりの人員を出すのが当然だ。

 

 

 捜索の結果見つかったのは、以前にも発見された奇妙な形跡。小さな穴と、その近くに点在する大きな片腕だけの爪痕。

 その痕跡を辿って行った先にあったのは……何といえばいいんだろうか。継ぎ接ぎだらけの腕? の、形をしたガラクタ…?

 瓦礫や鉄や、その他諸々の素材を組み合わせ、形だけ整えた腕のハリボテ。

 

 

 その形を見たレアはこう言った。この腕は、ラケルてんてーの『お人形さん』の腕にそっくりだ、と。

 

 

 …そう、そっくりであって、その物ではない…らしいのだ。実際、ハリボテだしな。もしもあの『お人形さん』本体がそんな構造だったら大笑いだ。一発ド突いただけで、バコッと部位破壊完了とかな。

 冗談はともかく、それを回収し、フミカに分析を依頼しているところだそうだ。

 

 

 情報として届いているのはこれくらいか…。ああ、ジュリウスの彼女(暫定なのか確定なのかは知らないが)が、大分錯乱しているらしいが、これは今は置いておこう。

 

 

 

 

 

 はて、ラケルてんてーもどうするつもりなのやら。仮にジュリウスを今回の件で、人知れず確保したとして…黒蛛病に感染させるのは確定か。その後、病状が進行するまで、人目につかない場所に軟禁。

 その後、特異点と化したジュリウスを軸にして終末捕食を発動…か。

 

 …仮に、感染までうまくいったとして、それでジュリウスをどうやって抑え込む気だ? あいつの戦闘力はかなりのものだ。神機兵を使ったところで、そうそう無力化はできない。

 いや、誘拐されたと思われる時点で、恐らくは意識を奪う事に成功しているのだろう。そのまま目覚めないよう、投薬なりなんなりを続ければいいだけだ。

 

 そうなると…やはり、怪しいのはフライア内部、かな…。秘密を知る人間を増やさない為にも、ジュリウスを他の誰かに任せるとは思えん。

 

 

 

 …色々考えたが…一番有効な手段は、やはりフライア内部からのジュリウスの奪還か。ジュリウスの黒蛛病を治す手段はまた考えるとして、ラケルてんてーの目論見を防ぐには、これが一番だろう。

 

 

 



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375話

第二種衛生管理者試験の成績が送られてきたので見てみると、あと1問…。
全部40%以上正解で、得点55%でした。
あと1問がと嘆くべきか、これならちょっと復習すれば何とかなりそうだと喜ぶべきか…。

とりあえず世界樹の迷宮で、執筆も勉強も手が付きませぬ。


 

 

神呑月

 

 

 やられた。先手を打たれた。

 フライアに居るのは、既にラケルてんてーのみ。そしてインターネットから完全に切り離された、独立した機械となっていた。

 俺の能力を知ってそうしたのか、単にハッキングの類を遮断する為の処置なのかは分からないが、とにかく電脳空間を通じてフライア内部に直接乗り込むという方法は取れなくなった。

 フライアはずっと補給もせずに延々と航路を走り続けており、接触のタイミングも掴めないらしい。

 この点からも、フライア内部に居るのは、ラケルてんてーのみ、或いはそれに心酔している数少ない人間のみである事が伺える。予め、たっぷり燃料類を買い込んでおけば、スタッフのストレス軽減の為に何処かに立ち寄る必要もない訳だしね。ここまで計算して、駐在スタッフを減らしていったんだろうか。

 

 対外的にどうしているのかと思ったが、そもそも連絡を取っていないらしい。

 

 

 

 …どうにも…中途半端だ。いや、徹底した結果そうなったのか?

 仮にも人間社会に紛れて陰謀を張り巡らせていたラケルてんてーが、外聞を放り出した。他人からの通信を全て遮断して、自分の路線を進み始めた。それは他人の付き合いを捨てた、というレベル……これなら中途半場の領域に収まる……を通り過ぎて、将棋やチェスで言う王手の為に、防御を捨てて『詰み』の為だけに動き始めたと言う事ではないか?

 となれば…それは完全に破綻したか、最終目的…つまり終末捕食への何らかの目途が立ち、必要でないもの全てを切り捨てる段階まできたのだと考えられる。

 

 思ってたより、余裕はないのかもしれない。

 

 

 

 それはそれとして、ジュリウスを誘拐したアラガミについて、幾つか判明した。

 無理もないと言うかなんというか……これ、ラケルてんてーは制御できてんのかな。

 

 結論から述べると…ジュリウスを攫ったのは、神機兵零號機だ。

 

 

 

 

 ただし、分離した。

 

 

 そう、分離だ。

 持ち換えられた腕のハリボテをフミカが解析し、極東マッド連中が色々調べたところ、幾つかの推論が出来上がった。

 今まで何度か発見された、腕だけの痕跡、足だけの痕跡。これらが出来上がった理屈は単純だ。

 

 そこに、その部位しか存在しなかったからだ。

 

 

 いつから神機兵零號機が、こんな風になっていたのかは分からない。少なくとも、設計したレアからして、根本的に別物と言わしめた。

 実際、こんな機構を持ったアラガミなんて前代未聞だろう。

 

 何せ分離だ、分離。

 分離が出来ると言う事は、当然合体だって出来るのだ。と言うか、俺が知っているあの神機兵零號機の姿は、合体済みの姿だったと言う訳だな。

 アラガミにしてはロマンに溢れた機能を習得したものである。

 

 まぁ、俺は女体との合体の方が好きだけど。

 

 

 しかも、合体よりも更にもう一つ、手順を踏んでいる。それを聞いた時の俺の感想は………一言で言えば『それなんてアルター能力?』だ。

 完全にそのものだったからなぁ。

 

 

 とあるアラガミを核として、周囲にあるモノを取り込み、それを分解・構成して体と成す。

 推定5体、或いは6体のアラガミがそれぞれ担当する部位を作り上げ、そして合体。まるで巨大な一体のようなアラガミのように行動するのだ。

 

 そして、そのアラガミとは…なんとアバドンである。

 ある意味、納得できると言えば納得できるのだ。今までの不自然な痕跡の近くで、小さな穴が見つかったという報告は多い。それがアバドンが空けた穴だったんだろう。

 それに、アバドンの素材は大抵の素材の代用品となる。その特異な性質は、俺が見てきた3つの世界の中でも特に珍しい物だ。他にあるとすれば、討鬼伝世界の万能の石くらいだろうか。

 何もかもを受け入れるその性質を活かし、その辺にあるものを全て取り込んで材料としたのだろう。

 

 …普通のアバドンがこんな事を出来る筈がないから、ラケルてんてーのお手製、改造済みのアラガミなんだろうが…よくこんなモノ作れたもんだ。

 

 

 ともあれ、アバドンとしてジュリウスに近付き、一瞬の油断をついて体(多分、腕だと思う)を構成、掻っ攫って逃げる。

 そのまま逃げ切れる筈もないので、体は放棄してアバドンは逃走。

 ジュリウスは……遠隔操作している神機兵でも使って受け取ったんだろう。

 

 

 …しかし、これはこれで疑問がある。隙をつかれたとしても、ジュリウスがそうそう戦闘不能になるのか? 一撃喰らったとしても、即死でもなければ確実に抵抗する筈。

 

 …が、これも既に疑問の答えは発見されている。

 フミカが分析した腕から、強力な麻痺毒が発見されているのだ。

 

 

 

 

 

 よりにもよって ラ ン ゴ ス タ の麻痺毒が。

 

 

 ヲノレ…よりにもよって、そいつの麻痺毒を習得しやがったか。

 ヤバさで言えば、ランゴスタ単体はそう危険ではない。もっと攻撃力が強くて、えげつない麻痺のさせ方をしてくるモンスターは沢山いる。

 

 だがランゴスタの麻痺毒が一番罪深い(確信)。

 同じ麻痺毒なら山ほどあったろうに、何故そいつのを選んだのか…。何らかの切っ掛けで進化したか、或いは進化したアラガミを取り込んだんだろうけど、本当に嫌がらせかと思う。

 

 しかし、これはジュリウスが一瞬で戦闘不能になり、連れ去られるのも納得だ。ハンターでさえ動けなくなる麻痺毒だからな…。

 俺の体感では、この手の状態異常への耐性は、ゴッドイーターよりもハンターの方が高いし。

 

 博打ではあっただろうな。その一刺しで、ジュリウスが麻痺するかどうか。もしも麻痺しなくても、アバドンの移動速度なら逃げ切れる可能性は高い。

 戦略的に、そう重要な相手でもないので、新入りを連れて無理に深追いはしないだろう。

 そう考えると、失敗しても再度仕掛けられる可能性は高いか。

 

 何にせよ、ジュリウスがラケルてんてーの手中に落ちた前提で動くべきだ。ジュリウスを奪い返す時間はあるか?

 ……奪い返す事自体は、できると思う。ただし、ジュリウスが本当に、フライアの中に居るのであれば、だ。

 ラケルてんてーだもんなぁ…。俺らの予想を裏切って、実は…って事も大いに考えられる。

 

 

 …やはり、フライアは武力鎮圧を前提とするべきか。それも、中に乗り込んでどうこうじゃなくて、外から大火力でぶっ飛ばす勢いで。実際、前回は中に乗り込んだところを、アラガミ達の合体技で纏めて吹っ飛ばされたんだしな。

 下手に敵の内部に入らず、まとめて潰すのが上策だ。…問題は、それにジュリウスが巻き込まれないかって事だけど。

 

 

 

 

 なんだかなー。色々考えれば考える程面倒になってくるな。やっぱり、今から電脳空間経由で極東に行くかなぁ…。

 

 

神呑月

 

 

 極東のアラガミの変化が激しすぎる。昨日の日記に書いた神機兵零號機もそうだし、MH世界のモンスターっぽいアラガミ、討鬼伝世界の鬼っぽいアラガミ等が現れていたが…もう一段、見逃せないアラガミが現れてしまった。

 いやもう本当に、幾ら何でも頻繁すぎないか? これも何かの異変だろうか。アラガミの進化スピードは元々早いものだが、幾ら何でも度が過ぎていると思う。

 

 ともあれ、今回のアラガミの変化は、他に比べるとまだ納得がいく。変質度合いとしては、大人しいとさえ言えるだろう。

 その凶悪さは、大人しいなんてとても言えたものじゃないが。

 

 

 極東のアラガミの一部が、赤い雨を積極的に浴びていた、という話を覚えているだろうか?

 アレの意図がようやく分かった。感応種になるつもりなのか、なんて考えていたが、話はもっと単純だった。

 

 毒を身に着けようとしていたのだ。

 珍しい話ではない。毒を持つエサばかりを喰らう事で、体内でより強力な毒を作り上げるというアレだ。

 

 

 あいつら、それを赤い雨でやりやがった。つまり…。

 

 

 触れたら黒蛛病になるアラガミ誕生だよオラァン!

 

 

 実際、最初に遭遇したゴッドイーターと、その後感染が発覚するまでに身体的接触をした数人が、既に発病してしまっているらしい。

 冗談じゃないと言うか、本気でタチが悪いぞこの進化。

 

 何せ黒蛛病だ。未だに治療法は、俺か、一部のアイドル達の歌しか見つかっていない。自然治癒は一切期待できない。

 例え攻撃した時の返り血を浴びただけでも感染の危険があり、感染したらミッション終了しようが病院に入ろうが治らない。

 ゲーム的に言えば、戦闘に参加したNPCが、確率で無条件リタイアしてしまうようなものだ。

 

 しかも、そのアラガミによって受けた黒蛛病は、従来の黒蛛病よりも進行が速い傾向があるらしい。

 今は極東に残ったアイドル達の一部が、血の力を歌に宿す事が出来るようになったので、それによって進行を抑えているそうだが…それでも深刻過ぎる問題だ。

 

 

 その結果、俺かタカネのどっちかに、急いで極東に戻るよう要請が来ている。まぁ、黒蛛病完全治療って、俺とタカネしか出来てないからな。

 ライブツアー中にパワーアップしたミカ達でも出来なくはないが、そっちは医学的に検証した訳じゃないからな。回復はしても、完治したのかと言われると…様子見するしかない。

 

 ともあれ、そういう訳で、どっちか戻らないとイカンのだが…。

 

 

「まぁ、タカネさんと貴方とでは、貴方になりますよね」

 

「えぇ…開祖様、帰っちゃうの?」

 

「えぇ、じゃないわよリカ。…まぁ、言いたい気持ちは分かるけど。でもライブツアー中に、タカネさんが抜ける訳にもいかないでしょ。今や、葦原ユノと張りあえる超大物なんだから」

 

「ジュリウスさんの行方不明も心配だしな…。それじゃ、開祖様が極東に戻って、黒蛛病になったゴッドイーター達を治療するって事ですか?」

 

 

 そーなるな。ライブが直接見れないのは残念だし、またゴッドイーターばかり優遇してると騒がれそうだが、事が事だ。

 黒蛛病の病原菌持ちになったアラガミは、さっさと駆除しておきたい。下手をすると、他のアラガミまで同じ性質を持ちかねん。

 

 こっちの護衛については、フランを介してシックザール支部長とかが色々手配してくれている。

 

 

「ああ、この前の…ディバイダ―だっけ? 紅茶の美味しかった人とか」

 

 

 そういう事。ちなみに女の子メインだ。

 仮にもアイドルの近くに、護衛とは言え男が居たら、問題視するヤツも出てくるしな。

 

 

「…言ってておかしいと思いません?」

 

 

 俺は問題視させなかったからいーんだよ。これでも、背後で色々やってんだぞ。ちみつなせっていだけどな!

 

 

「背後(意味深)」

 

 

 お前ら以外にはシとらんわい。そりゃ、地位持ってるヤツを狙って篭絡する方法もあったけどな。

 それに使う時間と労力と精液は、お前らと遊ぶ方に使ってたし。

 

 まーとにかく、そういう訳だ。葦原ユノとのライブ対決の場に居られないのも、その後のライブツアーで一緒に居られないのも残念だし悪いと思うが、向こうを放っておく訳にもいかん。

 詳しい事は言えんが、冗談抜きで世界規模の災害に繋がる可能性がある。下手すると、ライブツアーどころじゃなくなりかねん。

 

 

「…まぁ、事が黒蛛病関連なら、そう大袈裟に語ってるとは思いませんが…」

 

「あ、タカネさんはどう思います? ……タカネさん?」

 

 

 そういや、さっきからずっと黙りっぱなし………お、おう?

 いつもの平然とした顔つきだが…なんか、不機嫌になってない?

 

 

「いえ、それ程でも。ええ、私は夫に理解ある妻でありたいと思っています。ご友人の危機でもありますもの。止める事はいたしません」

 

 

 ……言葉にトゲを感じるな。 

 心当たりがないとは、口が裂けても言えないが、今まで大抵の事は平然と流していたタカネにしては、珍しい態度ではある。

 

 まぁ、無理もないかぁ…。新婚旅行(タカネ視点)に来たと言うのに、旦那は嫁さんではなくペット(タカネ視点)と遊んでばかり。挙句に、仕事で呼び出されたからと旅行を途中で切り上げ、後は一人で旅行+ペットの世話をしてくれ、と言っているのに等しい。

 成田離婚どころの話じゃないわ。しかも、『近い内に可愛がる』と言っておいてコレだもの。

 

 …流石に愛想つかされないか、心配になってきた。と言うか普通は尽かされてる。

 帰る前に一発…いやダメだ。そんな義務的かつ慌ただしい行為で、タカネが満足する筈ない。むしろ、誘った時点で怒りを煽りそうだ。

 

 タカネが好意を要求しているのにも拘らず、俺が他の女にかまけてばかりなのに怒らないのは、浮気に寛容だからではない。単純に、それを浮気と考えてないからだ。ペットに悋気を出す必要はない、と考えている。それが、自分も気に入っているペットであれば猶更。

 決して勘気が無い訳ではない…と、思う。

 こいつを怒らせると、俺でもシャレにならんのだよな…。戦って負けるとは思わないけど、手加減できる自信もない。

 

 今まで後回しにしてきたんだし、本当に何か埋め合わせをしないとな…。

 

 

 

 



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376話

失敗続きで仕事が心底嫌になる今日この頃…。
何やっても失敗しかしないなら、さっさと辞めて実家に帰った方がいいかなぁ。
嫁さんも居ない寂しい生活だし、家賃さえなければ気楽なアルバイト暮らしの方がいい気がしてきた。
しかし、この年で親の脛を齧ってばかりなのも…。


世界樹の迷宮X、ワイバーンまで撃破。
いつものパターンなら、もう一つくらい超えた辺りでサブクラス解禁かな?

ダクソリマスターは、デーモンの助祭の手前まで到達。
でっかい虫に何度も食われて、久しぶりに殺意が湧きました。
適当に進んでいたら、太陽虫も撃破。
太陽さんも無事が確定したようです。
エロゲ脳の方だと、このイベントをどういう扱いにするか大体決めています。
辿り着くまで、どれくらいかかるか分からないけど…。



P.S.
む…仁王2、作成中か…。
ウィリアムが主人公じゃなさそうなのは残念ですが、これは鬼化がありそうですな。


神呑月

 

 

 タカネに声をかける事もできず、一路空港へ。極東行の便は少なく、これを逃したら数日待たされる事になりかねない。これを逃したら、電脳空間経由だな…。

 人目が無くなった辺りで、アラガミ化して鬼疾風で駆け抜ける。無人の荒野を駆ける、と言えばなんか恰好いいが、実際はヒマなんだよなぁ。ジョギングするにしたって、周囲の景色の変化くらい欲しいものだ。廃墟ばっかりだもの。

 

 面白そうなアラガミを見つける事も出来ず(見つけたとしても、相手をしている暇はないが)、ただ移動するだけだ。程なくして、空港に到着。

 席の手配は既に済んでいるらしく、特別扱いで通された。

 

 …一応、どこ行きなのか、飛行機に何か仕掛けられてないかも調べておくか。以前、支部長にハメられて、事前に知らせられてるのと違う所に送り込まれたし。フライアは外部と繋がりを断っているようだが、ラケルてんてーが独自の連絡手段を持っていたり、事前の仕込をしていたとしてもおかしくない。

 

 

 特に問題はなし。杞憂だったか。極東に到着するまで、大体半日ちょっと。到着時間を確認し、レア達に連絡しておく。迎えに来てください。いや別に普通に走って戻れるけども、やっぱり出迎えが居ると嬉しい。

 

 さて、到着するまで出来る事はないが…幾つか考えておかないといけない事はある。

 ジュリウスの捜索・奪還方法とか、終末捕食への対策とかな。

 

 ゲームシナリオでは終末捕食を抑え込む鍵だったユノが、今は極東から遠く離れた場所に居る。これもラケルてんてーの策略だろうか? それとも単なる偶然?

 ラケルてんてーの性格なら、遠ざけるなんて中途半端な事はせず、さっさと暗殺…いや、謀殺しそうなものだ。 

 

 色々と考察すべき事はあるが、俺としてはどうにもこの辺りが引っ掛かるんだよなー。

 

 

 

 ラケルてんてーが、らしくない。ような気がする。

 随分長く顔を合わせてないし、合わせていたとしてもあの無表情から何かを読み取るのは至難の業だが、とにかく行動に違和感があるのだ。

 考えてみれば、極東に居た頃も、動きらしい動きは全く見せなかった。陰謀という意味だけではなく、本当に人前に姿を現す事すら稀だった。

 

 ジュリウス誘拐の事だって、随分と性急だ。失敗すれば、大きな損害を伴う事になる。

 神機兵零號機と、それを構成するアバドンの情報。その場で討伐されてしまう可能性すらあった。

 また、色々と怪しまれているのはラケルてんてーだって知ってるだろうに、このタイミングでフライアを孤立させるなんて、何かあると言っているようなもの。

 ハッタリやミスリードの可能性も考えはしたが、それにしたって何かおかしい。目的達成直前だから、後の事を考える必要が無い………ん?

 

 

 

 …後の事を考えない…。つまりその時の事しか考える必要が無い。

 その場その場に、効果が出る手段を……。

 

 

 

 その場。

 

 

 そうだ、これが違和感の正体だ。多分。

 直接的すぎるんだ。ラケルてんてーのやり口は、いつも陰に隠れていた。何かの策謀で被害が出ても、それに目が行かないように覆い隠していた。

 例え、自分が手を下したように見えないくても、更にそれを用心深くカモフラージュしていた。そもそもからして、他人を誘導して、その先でトラブルを起こさせるのが常套手段。その為、策謀が果たされるまで、時間がかかるのが常だった。

 

 なのに、今回は自分の手を下した。正確には自分の手駒のアラガミだが。

 隠密最優先で動いていたラケルてんてーが、拙速を優先した。ラケルてんてーなら、極東に居る間に幾らでも仕込みが出来たろうに。

 

 

 

 …ラケルてんてーに、異変が起こっている?

 

 

「…隣、座るぞ」

 

 

 

 ん? あぁ、はいどうぞ。と言うか指定席だし。

 …む、腕輪。ゴッドイーターか…。チラリと目をやって……危うく戦闘態勢に入りかけた。

 彼女もそれを感じ取ったのか、俺に鋭い目を向けている。

 

 …失礼。

 

 

「…………」

 

 

 軽く謝罪して視線を窓の外にやると、隣に座ったゴッドイーターも無言で席に座り直す。

 戦闘態勢こそ治めたものの、お互い観察し合っているのが分かる。

 

 褐色の肌、薄桃がかった銀の髪、黒い目。一瞬スクール水着かと思ったが、普通に紺色のワンピース。スカートは極めて短いが、GE世界の中では落ち着いた方だ。

 ちっぱい…に目を向けたら、なんか視線が冷たくなった気がするので、そーいう方面での観察は無しにする。

 凄腕と言っていいゴッドイーターだな。極東でも充分やっていける程に。何処の所属の誰だか知らんが、これ程の逸材が転がってるとは。居る所には居るもんだなぁ。

 

 …そして、何人か殺ってる。それも、今からそう前ではない。

 ゴッドイーターとしての腕もそうだが、雰囲気で分かる。だから、一目見るなり戦闘態勢に入りかけたのだ。

 こんなご時世だから、強盗だの殺人だのは珍しくない。正当防衛した結果も含めて。ゴッドイーターの中にも、過去には何らかの理由で人間を手に掛けた人は珍しくない。

 しかし、ゴッドイーターになってからは話は別だ。民間人に対する傷害行為は、激しく禁止されている。正当防衛であっても、処罰、下手をすると『行方不明』を免れない程に。

 

 そんな状況なのに、何人か手に掛けてるって事は…。

 

 

 

 

 ……ああ、そうか。介錯か。…俺、中身が半分アラガミだけど、襲い掛かってこないよね?

 まぁ、飛行機の中でドンパチやるなんて、自殺行為を通り越してテロもいい所だが。

 

 とりあえず、美少女としてはともかくとして、ゴッドイーターとして興味を抱く相手ではない。早々に観察を切り上げた。

 …が、何故か彼女は俺を観察し続けている。いつか『介錯』する時に備え、情報収集でもしているんだろうか?

 

 …いや、違うな。よくよく見れば、何やら俺に話しかけようとして、躊躇っているようだ。

 ふむ…まぁ、到着するまで暇だし、あれこれ考えるのも飽きたか。

 

 

 …極東に行くのか?

 

 

 

「…ああ」

 

 

 アンタなら、そうそう後れを取る事はないと思うが…ちょいとややこしい揉め事が起こりそうだ。気をつける事だな。

 (外見に反して、声が野太い…)

 

 

「そのようだな。…あなたの事は、聞いている。血の力の最初の使い手、黒蛛病を完治させる数少ない奇跡、ブラッド隊の教導員。…今は何故か、アイドルのトレーナーのような事をやっているそうだが」

 

 

 まぁ、世の中色々あるもので。

 

 

「そうか…。………………あなたは…。………あなたは、ロミオを鍛えたと聞いているが」

 

 

 ロミオ? ブラッド隊のロミオなら、確かに俺が鍛えたが。知り合いか?

 

 

「……友人だ。孤児院に居た頃、彼だけが私と話してくれた。…元気にしているだろうか? よいゴッドイーターになれたか?」

 

 

 元気っちゃ元気だな。死亡フラグもヘシ折れる程度には仕込んだし、血の力も上手く使えてる。

 戦闘力はジュリウスには一歩劣るけど、新人達の世話とかさせるといい手本になる。まぁ、気配りの男…かな。

 

 

「……そうか」

 

 

 彼女は何だか喜んでいるように見えた。…昔の友人らしいし、相変わらずだと思ってるのかね。

 極東に行くなら、案内くらいするけど?

 

 

「いや…故あって、私はあまりゴッドイーターとは接触できない。今回は…例外だ」

 

 

 …偶然って意味なのか、誰かに命じられて接触してきたのかは聞かないでおく。目的はロミオの話みたいだしな。

 あと、ロミオの絡んだ話って何かあったかな…。何だかんだで、アリサ達と一緒に居る事の方が多かったし。

 

 …戦いの戦果はそこそこあるけど、面白いもんじゃないし…。精々、彼女が出来た一件くらいしか…。

 

 

「……………………」

 

 

 いやでもアレをあまり赤裸々に語るのは…できたのはともかく、そこからのゴタゴタについてはかなり罪悪感が…。

 

 

「…………………………………………か、彼女!? ガールフレンドと言う事か!?」

 

 

 

 あ? あ、あぁ………あれ、この子ひょっとして?

 え、マジで? そりゃ展開的にお約束ではあるけど、あのロミオにそんな? 

 ひょっとして、この子が本来のロミオのヒロイン役?

 しかし、本来ならも何も、ロミオはシナリオでは………続編が出たのだとしたら、何らかの大逆転ロミオ生存的なストーリーもあったのか? そこでの登場ヒロインなのか?

 いや、人との繋がりはゲームシナリオ内に限った事じゃないし、普通にそういう話があっても全くおかしくは…。

 

 

「…す、すまない、取り乱した。そうか、あのロミオが…」

 

 

 意外と早く落ち着いた彼女は、何やら感慨深そうだった。失恋のショック…じゃなさそうだが。

 

 

「失恋? ……いや、私にとって、ロミオはたった一人の友人だった。特別な相手ではあったが、男女の感情を持った事は無い…と思う。幼かったし、そもそも今もそういうのには縁が無い」

 

 

 本心かどうかは微妙な所だ。恐らく、自分でも本心かどうか判断しかねている。 

 

 

 …ん? そこはともかくとして、ロミオの古い友人って事は……。

 

 

 …ところで、極東に行くならラケルてんてーには会いに行かんの? 恩師なんじゃね?

 

 

「…………」

 

 

 問いかけると、薄く目が細められた。さっきまでのロミオの彼女発言に驚いている様子は完全に消え去り、俺を推し量るような視線を隠さず投げてきている。

 …少なくとも、友好的な仲ではないらしいな。

 

 

「…探りを入れてくると言う事は、あなたもな」

 

 

 ああ、安心しろよ。ロミオはこっち側だ。ラケルてんてーの本性にも気づいている。敵対するのにも、躊躇いは無い。…どこまで割り切れてるかは別としてな。

 

 

「そうか……ん? うん?」

 

 

 フライアに完全に引き籠ったようだし、遠からず正面衝突になるだろうな。何が起こるか分からんし、できればあんたにも手を貸してもらいたいもんだが。

 

 

「…少し待て。ラケル先生の本性が、非常に酷薄で利己的だと言うのは分かるが、敵対とはどういう事だ?」

 

 

 

 ……ん? うん?

 

 

「外面に反して非常に勝手な人ではあるが、ゴッドイーターと敵対する理由は無い筈だ。犯罪が発覚したとしても、対人相手にゴッドイーターが動くなど、フェンリルを揺るがす醜聞になりかねない。極東で何が起ころうとしている?」

 

 

 …………あっるぇー?

 

 

 

神呑月

 

 

 ドジッた。そりゃそうだ、ラケルてんてーの本性に気付いている人はそこそこ居ても、その企みまで看破しているとは限らなかった。

 いや、人工的(ラケルてんてーを人と称していいかは微妙だが)に終末捕食を起こそうとしているなんて、普通は考えない。というか、終末捕食自体、限られた人しか知らない事だ。知っていても、精々ヨタ話としか思われてない。

 

 にも関わらず、私から話を聞き出した彼女……リヴィは、それを信じた。全面的にではなく、ラケルてんてーが画策していた色々な事を、だが。

 

 

 

 …ええまぁ、色々と吐かされてしまいまして。仕方ないじゃん、この子妙に迫力があるんだよ。

 話していて怖いという訳じゃないんだが、こう、この人に逆らったらアカンと思わせるような……目上の人間に相対している気分になるような……何と言うか、お姉ちゃんパワー?

 あと、ロミオにも関わる一件だから、それも合わさってブーストしていた気がしなくもない。

 

 何にせよ、根掘り葉掘り聞かれた俺は、色々と知られると面倒くさそうな事を吐いてしまった訳だ。場所が飛行機の中だったから、逃げ場が無かったんだよ…。

 下手に隠れたりすると、俺を炙り出す為だけに飛行機をハイジャックしたり、沈めたりしかねない迫力だったし。

 

 飛行機が着陸した直後、彼女は俺から目を離さずにしながら、慌しく誰かに連絡を取っていた。恐らく上司なんだろうが、仮にさっきの話をそのまま伝えたとして、どれだけ相手にされるもんかね…。

 彼女を撒いてさっさと逃げる事も考えたが、どっちにしろ行き先は極東だ。自分で言うのもなんだが、俺はその筋の人には割と有名人だから居場所の特定はそう難しくないだろう。

 

 ま、上司に何か進言して、却下されるのがオチかな……と思っていたら。

 

 

 

「…許可が出た。私は一時的に隊を離脱し、お前と共に極東に赴く」

 

 

 

 …なんですと?

 

 

「極東行は最初からだが…少し事情が変わった。私は本来、他ゴッドイーターとの接触を最小限に抑えなければならないが、今回ばかりは例外だ」

 

 

 おいおい、アレをそのまま報告して、しかも信じさせたのかよ…。

 

 

「元より、ラケル先生は要注意人物として度々名前が挙がっていた。…終末捕食については…私の隊は、フェンリル本部情報管理局局長・アイザック・フェルドマンの直属だと言えば分かるか?」

 

 

 分からん。

 

 

「……極東支部の、シックザール支部長の兄だ。3年前の事は、色々と聞き及んでいる」

 

 

 …あのおっさん、兄なんて居たのか。さぞや腹黒い美形オジサマなんだろうな。

 

 

「…誤解されやすい見た目ではあるが、腹黒くはないと思うが…」

 

 

 

 はぁ…ま、仕方ないか。良かったんじゃないか? これで堂々とロミオにも会えるんだし。

 あいつの彼女と鉢合わせした時、修羅場が展開されない事を祈るばかりだが。

 

 

「それは…大丈夫だと思う。私にとって、さっきも言ったがロミオは友人なんだ。その彼女とやらが、余程問題のある相手でもなければ、事を荒立てる気はない」

 

 

 そう願う。もし揉め事になったら、俺にもとばっちりが来る気がしてならない。…復縁するのを取り持ったとも言えなくもないからな。

 さて、もう迎えが来ている筈だが………ああ、居た居た。

 

 地味に見えながらも、しっかりと自己主張する気配の持ち主。…フミカだ。

 おーっす、お待たせ。

 

 

「…お久しぶりです。寂しかったですよ」

 

 

 寄ってきて、躊躇わずに俺の手を握るフミカ。いつになく行動的……いや、そうでもなかった。大人しく見えて、思い募れば猪突猛進なのがフミカである。

 思わずこの場でキスしたくなったが、それをやったらレアとアリサに再会した時の焼き直しだ。…アレって放映されてたらしいからなぁ…。また同じ事したら、もっと大きな騒ぎになりかねない。

 

 手を握り返す事で気持ちを伝えると、フミカは連れ…つまりリヴィに目を向けた。

 

 

「…こちらの方は?」

 

「極東に同行する事になった、リヴィ・コレットだ。機密の為、所属は明かせない」

 

「同行者? そのような事は、彼からもフェンリルからも伺っていませんが…」

 

「諸事情あって、つい先ほど急遽決まった事だ。異動の為の手続きも、同時進行で行われている。…仮に手続きを先に行っていたとしても、私はあまり他者と接触をする訳にはいかないので、通達は無かっただろうが」

 

 

 あー…とりあえず、リヴィが極東行なのは確かで、元々だ。俺に同行するのがさっき決まったってだけなんで、連れて行っても特に問題はない。

 ついでに言うと、俺がナニかした訳じゃないから。

 

 

「…そうですか。失礼しました」

 

 

 …一番疑ってたのは、俺がリヴィを手籠めにしたんじゃないかって事だな。

 飛行機の中の数時間でも、口説いてヤれない事は無い…かどうかは微妙だが、そう思われる実績だけは無駄にある。

 仮にそうなっていた場合、俺が隠す理由も無いので、逆にヤッてないと信じてくれたようだが。

 

 ところで、迎えに来たのはフミカ一人か? 仮にも貴重な血の力の使い手なんだし、あまり一人で出歩くのは感心できないが。

 

 

「いえ、シエルさんも一緒です。…他にも連れが居て、今は…お花摘みに…」

 

「ロミオは来てない…か」

 

「? お知り合いですか? ロミオさんなら、今は極東でジュリウスさん捜索の指揮をとっています」

 

 

 来るって知ってたならともかく、現場を離れられないのは仕方ないな。ま、1日もせずに会えるんだし、素直に楽しみにしてなよ。

 ところで、他の連れって誰が…。

 

 

「あら、トレーナーちゃま! ちゃんと帰っていらしたのですね!」

 

「ご無事のお帰り、何よりです」

 

「お疲れ様でした。…そちらの方は?」

 

 

 

 …連れって、この子達か。セリフの順に、アイドル候補生のモモカとアリス。そして保護者役が何気に板についてきたシエル。

 おーう、久しぶりー…って程でもないけど、まぁ気分的にはそんな感じで。

 

 とりあえず、リヴィの事も、車に向かいながら話そうか。

 つーか、何でこのメンバー?

 

 

「単純に、現在ミッションやレッスンが入って居ない中で、くじ引きの結果です。…まぁ、モモカちゃんはアリスちゃんが引っ張って来たんですけど」

 

 

 …今更なんだが、この組み合わせって…ライブツアー中に贈られてきた写真の…。

 そんな事を考えていると、シエルにちょっと袖を引かれ、耳元で囁かれた。

 

 

「本当はくじ引きではなく、あなたが送り返してきた写真の中で、一番…その、大きくなっていた写真の人が迎えに来る事になったんです。……小さいのが好きなんですか?」

 

 

 小さいのに限定する程、心は狭くない。ただ単に、極端に背徳的な写真だったから、つい思いっきり反応してしまっただけだ。

 というか……今のモモカって。さっきのお花摘みって…。

 

 

「…同じ個室に入っていたのは確かです」

 

 

 先導する二人を後ろから見る。…うん、やっぱりモモカ、ノーパン状態だ。見ればわかる。しかも。

 背後の俺を視線だけで振り返ったアリスが、ポケットの中で何かを動かすような動作をする。隣のモモカがビクリと震えた。  

 

 はいローター入り確定ですね! 下手すると極太(彼女の体基準だが)バイブであっても驚かない。よく見れば、モモカの目は霞がかっているし、体も紅潮している。入れられてからあまり時間が経ってないだろうから、よく見ないと分からないけど…。

 写真でも、「帰ってきたら挨拶させる」ってアリスのコメント付きだったもんな…。本気で調教しやがった、この中身がミナミ級痴女の小娘。

 

 まぁ、挨拶されたらしっかり『お返事』するけどね。男性経験はまだ無いようだが、これだけ調教されてりゃ強引にヤッても抵抗はしないでしょ。

 

 一応、リヴィに目をやるが、気付いた様子はない。彼女がいなければ、極東まで移動する間に適当なホテルにシケ込んで、彼女達の欲求不満を解消しておくんだけど…ま、それは今夜の大乱交の為にとっておくか。

 

 

 

 

 何にせよ、ロミオ…何とか隠し通したぜ、お前の性癖…というか、そうなった原因が俺にあると言う事を。マジでブッコロされかねん。

 

 

 

 

 

 

追記

 

 夜の乱交はこれでもかと盛り上がった。アリスに調教されつくしたモモカも、美味しくいただきました。



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377話

6連勤…トラブルによる休日出勤を含めれば9連勤…。
お盆にそれはきついって…。
それが終われば2連休。
最低限の仕事だけこなして、体力を温存したいところ…。


 

 

神呑月

 

 

 今頃は、タカネ達はローマでユノとライブ対決の直前か。出来ればテレビでもいいから見たいんだが、その前にやる事やっておかないと。

 ジュリウスの捜索状況、音信不通となったフライアの事前調査、最近のアラガミ達の動向…。

 

 リヴィの極東地区への編入は、さして時間をかけずに終わった。どうやら本当に支部長に兄が居て、何やら連絡があったらしい。

 …随分あっさりと受け入れるもんだなぁ。支部長の事だから、拒絶はしなくても難癖つけるか、それを利用して何やら取引くらいはすると思ったのに。

 

 

「…君は少々物事を穿ち過ぎだな。私とて、信頼を寄せる相手はいる。兄ほど実直な人間も珍しいからな…。下手に諍いの種を作ろうとは思わんよ」

 

 

 さいですか。頭が上がらない人…なんだろうか?

 何故か自分の頬を擦りながら言う支部長だが……ひょっとして、色々バレてぶん殴られたとか? 実際、支部長は殴られるどころか、縁切り撲殺社会的抹殺が当たり前なくらいの事、いくつもやってるからなぁ…。俺も人の事は言えんが。

 何にせよ、この支部長相手にそこまでやれる人は貴重だな。 

 

 

 ともあれ、リヴィはブラッド隊の補佐として正式に就任する事になった。隊長であるジュリウスが行方不明なので、ロミオが隊長代行、シエルがその補佐をしている。

 結構うまく回ってるようだな。ジュリウスを心配するあまり暴走してないかと思っていたが。

 

 さて、リヴィがブラッド隊に就任するにあたり、最優先しなければならないのは、血の力の習得だ。ブラッド隊はその性質上、感応種と戦う機会が非常に多い。

 血の力がなければ、神機が停止し、どれ程凄腕のゴッドイーターも、戦闘力を喪失してしまう。

 血の力を持つ者が近くに居ればそれは防げるが、感応種がどんどん増えている現状、ブラッド隊は別々のミッションに駆り出される事も多かった。

 

 

「…ああ、それは分かる。血の力が有用な物で、ブラッドアーツが強力な物であると言うのは、私もよく知っている。今後の戦力強化は私も望むところなので、異論はない。だが…」

 

 

 だが?

 

 

「どうしてそこで、アイドルと一緒にレッスンなんだ!? 私は! アイドルではなく、ゴッドイーターだ! 歌って踊れるような、煌びやかな人間ではない!」

 

 

 仕方ないじゃーん。血の力に目覚める為の訓練、ここでしかやってないんだから。

 そりゃ俺が居れば訓練自体はできるけど、訓練というかレッスンを受けたがってるのは、アイドル候補生達も同じなんだもの。

 彼女達の血の力が目覚めれば、それだけ黒蛛病に対する治療手段も増える事になるし、何だかんだでこのやり方が一番実績とノウハウを積んでる。

 だったら、一緒にやった方が合理的じゃないか。

 

 

「ぬ、ぬぅ…」

 

 

 呻き声が男らしい。

 別に歌えとも踊れとも着飾れとも、『キラッ☆』しろとも言わんよ。慣れない人種との触れ合いに戸惑うのも分かるが、割り切ってやってくれ。

 

 

「…仕方ない。あまり多人数との接触は好ましくないが、何とかやってみよう…」

 

 

 チラリとアイドル達を見るリヴィ。現在、ダンスのレッスン中だ。うむ、眼福。

 リヴィはと言うと、自分とは違うキラキラした人種に気後れしているようにも見える。まー気持ちは分からないでもない。

 

 …女らしくなれば、ロミオも振り向いてくれるかもしれないぞ………とは言えなかった。

 ソッチ方面の波風を立てて見物するのは楽しそうだが、修羅場になったり人間関係が拗れたりしてしまったらシャレにならない。特に、ロミオとその彼女は…破れ鍋に綴じ蓋状態と言うか、ある意味奇跡的なバランスで釣り合ったからな…。

 

 

 とりあえず、レッスン自体は至って真剣。リヴィもアイドル系のレッスンをわざわざ受けさせる理由は無いし、血の力関係のレッスンのみにした。

 それ以外の時間は、各種ミッションやジュリウス捜索に当たっている。

 

 …筋はいい…な。間違いなく才能はある。上達スピードが目に見えて違う。流石に一朝一夕では目覚めないだろうけど、ちょっとした切っ掛けがあれば、多分…。

 ロミオに聞いてみたところ、リヴィはかつて…それこそロミオと面識が出来る前は、ラケルてんてーの『お気に入り』だったんだそうだ。ジュリウスが現れてから、ラケルてんてーに見放されていたそうだが……ひょっとして、ジュリウスが見つからなければ、特異点候補として育てるつもりだったんだろうか? この血の力の才能がその証か?

 と言う事は、上手くすればリヴィを通じて終末捕食に影響を与える事も…?

 

 …いや、無理だな。性質的にどうかはともかく、リヴィは血の力に目覚めようとしている段階で、ジュリウスは覚醒して長く訓練を続けてきた。才能が同等だったとしても、研鑽が違い過ぎる。 

 

 

 

 

 さて、リヴィの話は一旦置いておく。

 ジュリウスが心配でも、夜のオタノシミはキッチリやっている俺達だが、皆が集まる前に、俺、アリサ、レアの3人で相談中。つまり、ループの事を知っている面々だ。

 

 

「…色々と差異はあるけど、重要な部分は『前回』や『シナリオ』に近い…かな?」

 

「ジュリウスの行方不明、フライアの孤立。恐らく、ジュリウスは強引に黒蛛病に感染させられているでしょう。ラケルは、フライアの中で終末捕食の準備を進めていると思った方がいいわ」

 

「『前回』は、それを阻止する為にフライアに侵入して、周囲のアラガミの合体攻撃でフライアごと吹き飛ばされた…でしたっけ?」

 

 

 うん、それで合ってる。ここ最近のアラガミ達の様子はどうだ?

 前と同じような、他のアラガミを協力させるような感応種が出てるか?

 

 

「未知数としか言いようがないわ。最近のアラガミの進化速度、変化速度は異常の一言よ。どんな力を持ったアラガミが出てきてもおかしくないけど、消えていくアラガミも多い。…まるで、何かに追い立てられてるみたいね」

 

 

 追い立てられる…か。

 実際のところは分からないが、フライアに突入した時に、周囲のアラガミも狩り続けるしか対処法が無いな。

 

 

「ああ、それ聞きたかったんですよね。『前回』もフライアは、何処にも止まらず、車とかでも追いつけないくらいのスピードで運行してたんですよね。どうやって乗り込んだんですか?」

 

 

 爆撃。

 色々方法はあったけど、フライアを稼働させたままにすると何が起こるか分からなかったから、大きな損害を与えつつ侵入しようって事になった。

 俺を迎えにいこうって、ロケットの開発してただろ? それを借りて、破棄される部品が丁度フライアにぶつかるようにした。で、動きが止まった所に突入。

 

 

「何とも、大雑把と言うか豪勢と言うか…。わざわざロケットを使わなくても。破壊力は高そうですが」

 

「よく当たったものね…。さて、今回はどうしようかしら。『前回』のようにロケットを使う為に交渉に行ったら、戻ってこれなくなりそうね。一番大事な場面に居られないのはちょっと…」

 

 

 それは我儘…とも言えないよなぁ。レアにとっては、妹がどうなるかの瀬戸際でもある訳だし。

 突入チームはブラッド隊で固める…いや、拘る必要もないか。モチベーションという意味ではブラッド隊が一番だろうけど。

 

 順序としてはフライアを足止めし、突入チームが突っ込んで、出てくるまで殲滅チームが周囲のアラガミの排除、か。手間がかかると言うか、人手が要ると言うか。

 

 

「………あの、そもそもなんですけど……ライブの録画見ながら話す事ですか?」

 

「乱交前に話すような話題でもないから、今更でしょ」

 

 

 …はい、真面目な話をしているよーで、俺達はユノとタカネ達のライブ対決の映像を見ています。リアルタイムでないのが残念です。

 リアルタイム放送時間は、俺も仕事中だったからな…。無理言って休ませてもらえばよかったと、今でも思う。

 

 映像では猛烈な盛り上がりを見せているところだ。

 血の力を歌に籠め、感情に直接揺さぶりかけるようなタカネ達。それに真正面から渡り合うユノ。

 

 元祖歌姫の底力って感じだなぁ…。というか、『前回』以上に歌唱力が上がっている気がする。タカネ達にライバル意識でも持って、特訓とかしたのかもしれない。

 特に圧巻だったのはアレだな。タカネとの一騎打ち……と言いたいところだが、アンチョビと張りあった時だ。

 既にローマにも人気や芸風が浸透しているアンチョビ。チームアンツィオのサクラ(と言うには本気で楽しんでいるが)達がいつものコールを始める。

 

 

「「「「ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ! ドゥーチェ!!」」」」

 

 

 そして同時に湧き上がる、ユノを応援する声援。

 

 

「「「「ローマ! ローマ! ローマ! ローマ! ローマ!」」」」

 

 

 …二人への声援で会場が埋め尽くされ、歌の声が聞こえなくなったくらいだった。

 まさかここでローマコールを聞く事になるとは。

 というか、そこはユノコールじゃないのか。あっちの人には発音しにくい名前なのかな。そもそも、ユノを応援している事になるんだろうか。なるんだろうなぁ、そういう空気だったし、ローマは全てに通じるからユノもローマの一部であって……はっ、いかんいかん、ローマに呑み込まれるところだった。

 

 

 まぁ、何にせよ、既に話はライブ対決どころじゃなくなっていた。元々、『ライブ対決』なんて言って騒いでいたのはマスコミや観客達だけで、当人達はそんな言葉は一言も使ってないんだよなぁ。実際にそのつもりが無かったかは別として。

 テンションが上がりに上がった結果、勝敗なんてとっくに忘れちゃってるみたいね。

 ライブのクライマックスは、ユノも含めた全員が揃って熱唱。流石に全員で練習した新曲な無いので、アレンジ・アドリブメインだったが、現地に居ない事が本当に悔やまれる…! ジュリウス、何でこのタイミングで行方不明になった……!

 

 

 ライブの映像を見終わって、ぼちぼち今夜のオタノシミメンバーも集まって来たので、もう一度最初から。

 今度は、彼女達のカラダがどうなっているのか、どんな風にして抱いたのか教えながら見てみよう。

 

 

 

神呑月

 

 

 嘘だッ!と思うかもしれないが、俺だってセックスばっかりしてる訳じゃない。隙あらば女を抱いているのは否定できないが、ジュリウス捜索だってちゃんと参加しているのだ。

 俺の場合、ジュリウス自身を探すと言うよりも、ラケルてんてーの仕業だって事を証明する為の証拠探し&証拠捏造作業だけど。

 

 ジュリウスがフライアに居るのは俺にとっては確定事項だが、支部長達にとってはそうではない。

 フェンリルとして強権を奮おうにも、相応の手続きをこなさなければならない。『言ってる場合か!』って状況なのは支部長達も分かってるから、かなり強引に話を進めているが……それでも難しかった。

 

 が、ようやく許可が下りた。

 フライアへの突入作戦が公表されたのだ。

 

 

 これについては、ゴッドイーター達もかなり騒いでいた。そりゃそうだろう、フライアに突入すると言う事は、そこにいる人間に神機を向ける事になるのだ。

 実際に人間が残っているかは疑問だが。(ラケルてんてーとジュリウスは居るだろうけど)

 ゴッドイーターを人間相手に動員するなんぞ、とんでもない大事になりかねない。

 

 それを、支部長は「救出作戦」と銘打って押し通した。

 曰く、現在のフライアは暴走状態にあり、内部と連絡が取る事ができない。航路も正常な予定ルートを外れ、このまま暴走を続ければ何処に激突してもおかしくない。内部の食料類も、そう長くは保たないだろう。

 故に、フライアを力ずくでも停止状態にし、内部の人間を救出しなければならない…という建前だ。

 

 突入するのは極東でも有数の戦力を持ったゴッドイーター達が2チーム分。

 ブラッド隊はと言うと、ロミオ以外は周辺のアラガミ掃討に割り当てられた。

 

 これについて、ブラッド隊全員がフライア潜入に志願していたが、寄ってくるアラガミ達の中に感応種が居る可能性を考えると、全員で突入する訳にはいかなかった。

 結果、フライア内部を最もよく知っているであろうロミオが代表として選ばれた。

 まだ血の力を体得していないリヴィは、その戦闘力を買われて潜入チームに抜擢されている。

 

 

 纏めると……潜入チーム1は俺、リンドウさん、ソーマ、リヴィ。

 潜入チーム2は、ロミオ、アリサ、コウタ、そして………クジョウ博士だ。

 

 

 …うん、言いたい事は分かる。最後に一人、変なのが混じってる。

 色んな意味で…と言うより、あらゆる意味で危険なフラグの気配をビンビンに感じる。

 

 ちなみに本人は気合十分。「ラケル博士、今お助けに参ります!」と気炎を上げている。…こんなキャラだったっけか、この人…。

 真面目な話をすると、クジョウ博士は調査要員、或いは機械対策要員だ。

 フライアにはあちこちに電子機器があり、それを通じて情報を引き出す事が出来る。勿論セキュリティはかかっているだろうから、そこでクジョウ博士の出番と言う訳だ。

 

 俺も戦闘と探索に集中するだろうし、下手に電脳空間に入り込むと何か仕掛けられていそうだから、そういう調査専門の人がいてくれるのは助かるんだが…嫌な予感しかしないなぁ。

 ラケルてんてーに唆されて、利用されているか、裏切られるか、或いはここぞと言う時に無人神機兵を乗っ取られるか…。

 要注意としか言いようがない。

 

 

 

 なんか色々ツッコミたい点はあるが、作戦の話に移る。今回は時間が足りなかった事もあり、前回のようにロケットを借りてドカン!は出来ない。

 その為、代わりにフライアを止める方法が必要な訳だが…これがまた、予想外のところからその手段が湧いてきた。

 

 神機兵だ。

 

 それも単なる神機兵ではない。前回までは存在しなかった、異形の兵器達。クジョウ博士が浪漫という燃料をブチ込まれた結果、趣味に走って作り上げた神機兵達。

 その中でも特に問題…というか欠陥品扱いだった浪漫兵器が、何故か大量生産されていた。

 

 具体的に言うと、自走型自爆特攻兵器『カミカゼキング』。大量のオラクルを、たった一発の砲弾に詰め込んで発射した後、完全にぶっ壊れて修理も不能になってしまう『 ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか、完成度高けーなオイ 』。…最初の半角スペースと、オイ、までが正式名称であるのは言うまでもない。

 

 

 …ねぇクジョウ博士、何か辛い事でもあった? いやマジで。研究に行き詰まりでもした?

 

 

「は? いえ別に…。むしろ最近は、趣味と仕事の両立によって頭がバリバリ回転し、天啓を幾つも授かっているくらいです」

 

 

 それ回転のし過ぎで絶対オーバーヒートしてるって。というか、何だってこのイロモノ兵器ばっかり揃えてるんだ…。

 

 

「単純に、安価で作りやすかったので…。何せ必要なのが、遺された神機の破片のみ。しかもスキルを抽出した後の、抜け殻でも良いのです。まぁ、その性質上、部品の品質が安定せず、性能がピンキリという欠点もありますが」

 

 

 たったそれだけで作れるのか…。どんな構造してるんだ。

 

 

「徹底的に無駄を省いただけです。何せ無人機で使い捨てですので、安全装置等も最低限でよかったのです。遠隔操作の装置すら付けておりませんからな! …おっと、私は作戦の為の準備がありますので、失礼します」

 

 

 色々な意味で不安になるんですが!? …いや、ラケルてんてーにこっそり乗っ取られないだけマシと思っておくか…。

 しかし、一番酷いのはネーミングだ。一体どういうテンションの時に付けたんだろうか…。後にクジョウ博士が思い返して七転八倒するのを期待する。その為にも、クジョウ博士にはきっちり生き残ってもらわないと。

 

 …結局、クジョウ博士自身がラケルてんてーに何か仕掛けられているかは、確信が持てなかったな。同行する3人に、妙な行動をしないか注意を促しておくか…。

 

 

 



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378話

最悪だ…太陽虫、間違ってフラムトに食わせてしまった…。
まだ巨人墓場クリアしてないのに。
というか獣型スケルトンが厄介すぎる。
上手く奇襲が決まれば、一発で倒せるんだけど…。

いやそれよりも、混沌の娘とお話できない…!
めっちゃいい子そうなのに…!


 

神呑月

 

 

 作戦、決行。

 極東のゴッドイーターの殆どを動員したこの作戦は………色々と、予想外な結果に終わった。

 うん、特に俺にとって予想外だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だって、ラケルてんてーがあっさりと死んでしもうたんや~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやマジでマジで。ジュリウスも救出できた。シナリオでは終末捕食の核になったであろう、変な繭も無い。フライアは見事にぶっ壊れ、お人形さんこと神機兵零號機は、核となっていた改造アバドンを含めて全部殲滅した。ラケルてんてーの端末から色々情報が引っこ抜かれ、彼女の計画も丸裸にされた…いや、もっと隠された何かがあっても驚かないが。あとDドライブには何もなかった。

 気負って乗り込んできたのに、実は想い人に全く相手にされておらず、それどころか諸共に罠にかけられてお陀仏しそうになり、最後の最後まで一瞥もされずに色んな意味でハートブレイクしたクジョウ博士が項垂れているが、正直言ってそっちはどうしようもない。惚れた相手が悪すぎたと諦めてくれ。

 

 というか、ジュリウスは黒蛛病に犯されてはいるが、まだ重病患者の2歩手前くらいだ。進行スピードは非常に速いが、それでも少し前であれば、そこらの黒蛛病患者用病棟に何人か居た程度でしかない。

 特異点候補なので完治は難しいだろうが、延命という意味では充分可能な筈だ。少なくとも、病状緩和を続けていけば、あと半年以上は問題ないだろう。

 

 

 

 …どーもこう、釈然としないなぁ。

 ラケルてんてーが死んだ事や、明るみになったアレコレであっちこっちが大騒ぎになっているが、それはいい。

 ギル以外のブラッド隊にとって、ラケルてんてーはある種の恩師みたいな人でもあったが、彼女が裏切ってジュリウスを拉致し、黒蛛病に感染させた事は、ジュリウス自身の口から証言されている。

 元より、ロミオもその本性や企みには気づいていたし、シエルとナナも俺の味方に引き摺り込んでいる。『分かっていたけどショック』という意識はあっても、動けなくなる程の衝撃ではない。

 

 逆に、延々と泣き続けているのはレアである。

 「最後までダメなお姉ちゃんでごめんなさい」と、俺やアリサの言葉も聞かずに泣き続ける。…これは、仕方ないよなぁ。

 レアの気質からして、離れる事はできても、切り捨てる事はできない。 

 その情の深さが、レアの美点なんだろうが…だからこそ、受けた衝撃は大きい。

 増して、手に掛けたのは俺自身だ。中身がバケモノだったとしても、妹を、愛した男が殺した。…今、レアの中に荒れ狂っている感情はどれ程のものか…。

 

 泣きわめきながら、叩かれもした、殴られもした、どうして助けてくれなかったと詰られもした。

 だけど、俺はずっとレアを抱きしめて、それらを全て受け止めている。全部吐き出すまで、こうしていよう。…背景はどうあれ、身内を殺したんだ。憎悪や殺意の一つ二つ、当たり前の事だろう。…凌辱用の汚ッサンの時は、全然なかったけど。そーいやそんな人も居たね。

 

 

 

 ともあれ、これでゴッドイーター2のシナリオは終了したのかと言われると……どうなんだろうなぁ。

 GE2のエンディングで現れた、螺旋の樹なんて影も形もない。何せ、終末捕食は起こってさえいないのだから。

 

 しかし、元凶であるラケルてんてーが死んだし…いや、アレの体が死んだからと言って、終わったと考えるのは早急じゃないか?

 暗躍はラケルてんてーの十八番だし、死んだ筈のラケルてんてーが闇夜に紛れて歩き回り、出会った人を儚い笑みを浮かべながら取り憑いて殺してしまうとか、ありそうじゃないか? すっごい絵になる。イヤな意味で。

 実際、この手で命を絶ったのは確かだ。肉体は確実に死んだ。アレはラケルてんてー本人の体だった。そこは確かだ。

 

 でも、死んだという確信が持てない。生きていると断言もできない。…一番面倒臭い状態になっちまったな。まぁ、あそこで殺さない選択肢も無かったけど。

 

 

 ……気になる事も言ってたしな。

 前回もそうだったけど、俺はラケルてんてーの言葉を一切信用してない。本当の事を言っている、嘘を吐いているに関係なく、そもそも聞いてない。

 どんな耳障りな指摘も、尤もだと思える理屈も、耳に心地よい称賛も、全ては上っ面だけ。俺達の足を止め、心を乱す為に吐き出される道具に過ぎない。

 

 そう、思ってたんだが…思わず耳を貸してしまう内容が、一つだけあった。

 そうだな、状況整理も兼ねて、順番に話していこうか。

 

 

 

 

 まずは突入作戦…と言いたいところだが、その前哨戦からだ。つまり、フライアの足を止める為の攻撃だな。

 …いやぁ、何とも酷い光景であったよ。

 

 クジョウ博士作の、カミカゼシリーズがガンガン突貫していくのは。無駄に外見のバリエーションが豊かだったのが腹が立つ。クジョウ博士に言わせれば、有り合わせの部品で同じ外見にする方が難しい、との事だったが。

 他にも、 ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか、完成度高けーなオイ から発射される様々な砲弾…オラクルバレットから実弾(生ゴミや産廃や粗大ごみ)がバカスカ降り注ぐ。眉を顰めたくなる光景だったが、生ゴミがフライアに着弾するや、大爆発してキャタピラの一部を吹っ飛ばした。何でそんな威力が出せるんだ…ゴッドイーターの攻撃の何倍の威力だよ…。

 ちなみに、激突して飛び散った生ゴミに惹かれてやってきたアラガミは、食べるなり腹と口の中で爆発してお陀仏した。…無人神機兵作るより、こっちの方がいいんじゃないか? いやこいつも無人神機兵ではあるんだけど。

 

 最終的には、カミカゼシリーズが全て突貫し、 ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか、完成度高けーなオイ が全て砲撃を終えた後、腹いせとばかりに轢きつぶされたんだが…そこで更に大爆発が起こって、とうとうフライアは行動不能に陥った。

 

 アレを見たラケルてんてーと、中のアラガミはどんな事を考えただろうか? …真似して進化したり、不発だったカミカゼが野良アラガミにならない事を祈る。

 

 

 

 各種ゴミがぶちまけられた近辺を、微妙な表情で殲滅チームのゴッドイーターが駆け抜け、進入路を確保。

 俺達潜入チームその1もフライアに乗り込んだが、近付く途中に生ゴミ踏んづけて車のタイヤがバンクした。まぁ、大爆発でデスワープしなかっただけ、よかったと思っておこう。

 

 

 さて、フライアの中だが…見事に無人となっていた。代わりに、神機兵無人機がウロついていた。

 クジョウ博士が趣味に走って作ったモノと違い、ゲームに出てきたような、人型の神機兵だ。

 

 後から、クジョウ博士が混乱してたって聞いたなぁ。開発を中止…というかコンセプトを変更して手を付けなくなった、人型神機兵がいつの間にやら完成していたんだ。

 無人神機兵の第一人者であるクジョウ博士にしてみれば、大事だろう。

 大方、ラケルてんてーが勝手に完成させ、勝手に量産してたんだろうなぁ。ゲームシナリオでも、クジョウ博士に先駆けて完成まで持っていったみたいだし。クジョウ博士の無人神機兵が、妙な方向にシフトしたから、陰謀に巻き込めなくなったんだろうか…。

 

 と言っても、俺達ゴッドイーターにしてみれば、変なロボットが向かってくると言うだけだ。叩き潰す以外の選択肢はない。

 戦闘力はそこそこだったが、ここに居るのは極東でも折り紙付きの腕利き揃いだ。撃破には大して時間はかからなかった。

 

 むしろ、厄介だったのは構造の複雑さだ。通路のあちこちの隔壁が降りていて、俺達が知っているルートが使えない。これは前回もそうだったが、今回はもっと念入りにやっているようだ。

 事前に調べ上げて仕入れた設計図や、ここで生活していたロミオでさえ知らなかった隔壁が幾つもあり、下手に壊す事もできない。

 一度壊しはしたんだけど、トラップ仕掛けてあったんだよなぁ。天井が落ちてきて、ド根性カエルみたいになるかと思ったぜ。ご丁寧に、砕くのも難しいような分厚い合金の天井だった。アレの下敷きにされると、俺でもヤバい。

 

 しかも、入り組んだルートの中で、分かりづらい所に神機兵が設置されている。物陰、曲がり角のすぐそこ、扉の中から奇襲、一度スルーしてから挟み撃ちで襲ってくる…。

 人間の心理をよーく知り尽くした、実にいやらしいゲリラ戦法だった。やっているのが神機兵で助かったよ。人間ほど柔軟な行動が出来て、小柄であれば、こっちも一人二人戦闘不能になっていたかもしれない。

 

 

 そうやって進んでいく中、意外な活躍を見せていたのがクジョウ博士だった。アンタ、今日はなんか矢鱈と輝いてるぜ…! その輝きが、燃え尽きる前の一瞬の輝きでない事を願う。願っていた。割と無駄だったが。

 

 当然ながら、クジョウ博士に戦闘力は無い。作った神機兵でも連れて着ていれば話は別だったかもしれないが、現存する神機兵の殆どは、ついさっきフライアの足止めの為に使い切った。

 その為、決して前線には出ず、コウタやロミオに護衛され、直接戦闘はアリサに任せていたのだが……役割的に言えば、アレだ、RPGで言えばシーフ?

 

 破壊した神機兵から、他の神機兵の配置や行動パターンの情報を引き出す。(ドロップ宝箱の開錠、及び索敵)

 一部の隔壁は、何やら近くの配線を弄って開く。(鍵開け)

 フライアの設計図と実際の構造を照らし合わせる事による、道筋の予測。(隠し通路発見)

 

 …うん、正直甘く見てたな。ラケルてんてー救出の為に普段以上の力を発揮しているのか、実にテキパキ動いてくれた。

 隔壁のロックを幾つも開き、潜入を楽にしてくれた。

 

 

 最初に目指すのは管制室。フライアの暴走を止める為だ。フライアを暴走させている誰かがそこに居るなら、その鎮圧も必要だ。

 …まぁ、誰も居なかったけど。しかしクジョウ博士は意気揚々とコンソールに向かい合い、何やら順調に操作を進めて。

 俺達チーム1は、もう少し先に進んで潜んでいる敵を撃破中の事だった。

 

 アリサからの又聞きになるが、このような会話だったのだそうだ。

 

 

 

「…む? これは…」

 

「どうかしたんすか、クジョウ博士……背後、敵影無し」

 

「いえ、パスワードが弾かれまして。おかしい、これまでの隔壁や神機兵のシステムからは、この通りのパスワードで通過できたのに」

 

「…パスワード? あの、所謂ハッキングで対処していたのでは? 右、足音がするが遠ざかってる」

 

「その通りです、ロミオ君。隠されたパスワードを探し当て、システムに正面から侵入する事も、充分ハッキングになります…。と、今はそういう話ではありませんな。…は、よもやラケル博士を拘束している悪漢が、フライアを止められないようパスワードを変えたのか! おのれ、小癪な真似を…」

 

「(…この人、今日はキャラ崩壊しまくってますね)……ちょっと待ってください、クジョウ博士。そのパスワード、何処から調べ上げたんですか?」

 

「調べたのではありません。つい先日、ラケル博士からこの私のメールアドレスに送られてきたのですよ。何処のパスワードなのか、何故私にこのような物を送って来たのかと思っていましたが…これは、恐らくラケル博士からの救援要請です! 何処かで、フライアを暴走させた悪漢に拘束され、逃げる事もできず隙を見てこれを送るだけで精一杯だったのです! ラケル博士、私が必ずやお助けに上がります!」

 

 

((………… や ば い ))

 

「…どうしたんだ、二人とも。元々、なんか色々ヤバい気配がする作戦だったけど、何か致命的な事でも?」

 

「証拠はありませんが、ほぼ確定ですコウタ。ここに至るまでのルート、まず間違いなく誘導されています」

 

「大きなトラップの真ん中に向かって突き進んでるって事です。アリサさん、教官達に伝達を頼みます」

 

「了解しました。いつ何が起きても不思議ではありません。用心してください」

 

 

 

 …このような会話だった訳だが、大筋は分かってもらえると思う。中身はほぼ人間じゃないのに、人間を動かすのが異様に特異なあのアラガミモドキは、クジョウ博士を案内役に使ったのだ。

 クジョウ博士はラケルてんてーが元凶だなんて欠片も思っていないし、助けを求められたと思った時点で、舞い上がってしまったんだろう。

 

 せめて相談か報告しろよ。

 

 

 

 ともあれ、あの悪辣なラケルてんてーの事だ。クジョウ博士のおかげで順調に進んでいるように見えたが、パスワードで開く扉を指定する事で、俺達の行動ルートを確定させたんだろう。

 では、そのルートには妨害が多く待ち構えているとして、その先には何があると思う?

 

 

①罠。

②終末捕食の始まり。つまりジュリウス。

③ラスボスことラケルてんてー本人。

 

 

 …恐らく…全部だな。

 

 

「全て一か所に集めていると言う事ですか? 普通、狙いを分断させるのでは…」

 

 

 普通ならな。ラケルてんてーにとって、全ては終末捕食を引き起こす為の道具だ。

 自分自身の命も含めて。

 だから、罠の成功率を上げる為、自分を囮にするのに躊躇いが無い。

 

 ジュリウスは別の場所に隠しておくべきだろうけど、下手に目を離すと脱走する恐れがある。薬物投与とかで行動不能にさせ続けようとしても、もうフライアにはラケルてんてーしか居ないようだからな。

 …それに、救出対象を別の場所に置いておけば、こっちの戦力も割かれるが、あっちも防衛の為に兵力を割かなきゃならん。

 

 

「成程。正解かどうかは行ってみないと分かりませんが、どの道このまま進む、という事ですね。まぁ、元よりどの道を通っても妨害があるとは思っていましたが」

 

 

 そういう事だ。ここまで来た以上、罠ごと食い尽すしかない。

 最低限、ジュリウスを奪い返すまでは突き進むしかないのだ。

 

 そうと決めてしまえば、後は早かった。クジョウ博士が示すルートは使わない。単純に、降りた隔壁にアクセスする為の端末を、先回りして壊してしまえばいいだけの話だ。

 多分、どの道を進もうとラケルてんてーに監視されてるだろうし、罠も満載だろうけど、このまま進むよりはマシだろう。

 

 扉を開けなくなった事で、クジョウ博士が苛立っていたが、知らんぷり。「悪漢が先に手を打ったな!」って言ってたな。悪漢でサーセンw

 俺とロミオで相談し、目的地…前回、俺が死んだ場所へのルートを予測して進む。

 

 

 俺、リンドウさん、ソーマ、リヴィで先行していると、リヴィがぽつりと呟いた。

 

 

「極東は凄腕揃いと聞いていたが…納得だな。ロミオも、それと肩を並べられるくらいに立派になって…」

 

「なんだい、いきなり子供の成長を喜ぶオカンみたいな事言い出して」

 

「そういやリンドウ、お前の子供は…」

 

「ああ、もうすぐだ。家ではサクヤに尻に敷かれてらぁ」

 

 

 え、マジで!? サクヤさん、全然会ってなかったけどオメデタ!?

 (……時期的に俺のじゃないな…、セーフ! って、そういや前回もそうだったっけ)

 

 何か出産祝いとか送ろうかな。

 

 

「ならビールにしてくれ。普通のでいいぞ、普通ので。お前、何かいいモノもってそうだけど」

 

 

 それアンタへの祝いじゃないか。まぁ、父親になるお祝いだと思えば…。

 血縁…と言えば、そういえばリヴィとソーマって何か関係ある?

 

 

「? いや、何もないと思うが」

 

「お前、肌の色だけで考えてないか? 褐色肌なんぞ珍しくもねぇ」

 

 

 …リヴィ、確か君、孤児だったよな? 隠し子疑惑…。

 

 

「おい馬鹿やめろ。あのクソ親父も、お袋一筋だったのだけは確かなんだ。シジョウの一件でも家庭板案件で揉めかけたのに、これ以上話をややこしくすんな」

 

 

 シジョウ? …ああ、タカネことノヴァの事な。

 んじゃ、この話題は辞めるとして…いきなりどうしたんだリヴィ。ロミオが強くなってて嬉しいのか?

 

 

「ん……そうだな。それでいて、昔のように優しいままだ。あの優しさがそのままだったのが、何より嬉しい」

 

「コイツに鍛えられたんだって? よく性格が捻じれなかったもんだ」

 

 

 (性癖は捻じれましたけどね!)

 

 

「実際、こいつに鍛えられたにしては真っ当過ぎると言うか、大人しすぎるきらいはあるけどな…」

 

「…お前達は、ロミオにどうなってほしいんだ…」

 

 

 そう言えば、リヴィは結局ロミオと話したのか? こっちに来てから忙しかったし、血の力の訓練も殆ど出来てなかったが…。

 

 

「ああ、相変わらずロミオの方からどんどん近付いてきてくれた。変わらないな、あの人懐っこさは」

 

 

 …ち、ちなみに彼女さんとは……?(震え声)

 

 

「……会った。いい子じゃないか。幸せそうで何よりだよ」

 

 

 …表情が、ちょっと薄くなった。ありゃ、自分の感情を整理できてないな。…アレな性癖については、気付いてないと思う。

 

 

 おっと、雑談はここまで。そろそろ最深部だ。妨害も、恐らくここが一番熾烈になるだろう。

 さぁ、鬼が出るか蛇が出るか神が出るか。決まっているのは、何もかもを狩り尽くすという事だけだ。

 



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379話

当然と言ってしまえばそれまでですが、ラケルてんてーを誰一人心配してないし、復活を疑ってない。
何という信頼感w

原作でも、「どうすりゃ死ぬんだこの人」ってレベルでしつこく這い出てきましたからなぁ。
さて、どうしたものか…割と本気で、今回ループでの退場を考えていたのですが、説得力を持たせるだけの死に様が必要。
ラケルてんてーを殺せるだけの状況………難題だ…。


 警戒とは裏腹に、俺達はその広場にあっさりと到着した。

 前回と同じ、神機兵零號機が大暴れしてもまだ余裕があるスペース。その奥に、ラケルてんてーがこれまた前回同様に居座っている。

 

 違うのは、傍らで倒れ伏すジュリウスが、繭に包まれていない事と。

 

 

「ラケル博士! お助けにあがりましたぞ!」

 

 

 …恋に燃えるクジョウ博士がここに居る事くらいか。それに、あの時よりも潜入した人数が多い。

 無事だったラケルてんてーの姿に歓声を上げるクジョウ博士。頭の中では、きっと運命的な効果音や演出が鳴り響いている事だろう。

 

 しかし、ラケルてんてーはクジョウ博士に対して何一つリアクションを取らなかった。文字通り、視線一つ寄越さない。

 ただ、投げやりに……彼女にそのような感情があるかは別として、少なくともそう見えた……指をこちらに向けただけだ。

 

 

「! 来るぞ!」

 

「博士、下がって!」

 

「え? お、おわぁ!?」

 

 

 クジョウ博士を後ろに放り投げ、第一チームが前を固め、第二チームが背後を固める。

 どこからか飛び出してきたのは、やはり神機兵零號機。既に合体済みだ。アバドンの姿で出てくるようなら、先に狙撃で合体阻止してやろうと思ってたんだが。

 

 背後からは、ラケルてんてーに操られている無人神機兵が迫ってくる。ここに来るまでに大分潰しておいたが、まだ残っていたか。

 

 

「お、落ち着きなさい、後ろからくる神機兵は、ラケル博士から頂いた増援、ぬぉっ!?」

 

 

 ラケルてんてーが黒幕だとは思ってもいないクジョウ博士は、俺達を助ける為に神機兵を呼んだのだと思ったようだ。

 そう考えるのも無理はないが、当然そんな事は無い。

 銃撃してきた神機兵に、アリサ・コウタ・ロミオが反撃している。

 

 その間に、俺達は神機兵零號機の相手。…考えてみれば、何だかんだでコイツは一度も仕留めてないんだよな。

 どんな奥の手があるか分かったもんじゃないが…ま、慎重に行くとしますかね。

 

 

 

 

 率直に言えば、そう警戒する程の相手ではなかった。

 相手は一体、こっちは4人。しかも揃いも揃ってトップクラスの戦闘力と経験を持つメンバーだ。いくら「お人形さん」が相手だからって、手古摺る理由が無い。

 

 まぁ、やっぱり驚きのギミックはあったけども。

 

 

 

 破壊した部位が、再生されるんだよ。部位と言うか、片腕を切り落としたり、頭をパーン!したり、胴を前後にぶった切ったりしたんだけどな。元に戻っちゃうんだよ。

 

 無条件に、時間と共にって訳じゃない。唐突に、どこからか沸いてきたアバドンを取り込んで回復するのだ。

 あのアバドン、恐らくラケルてんてーが改造したアラガミなんだろう。元々予備のアバドンとして確保していたのか、それとも回復アイテムを作ろうとしたのかは分からないが、とりあえず鬱陶しい事この上なかった。

 

 

 …アバドンが同じ空間に10体以上蠢いているとか、こんな状況じゃなければプレイヤー大歓喜だったろうになぁ。

 叩き斬った部位にアバドンが自ら突撃する。阻止できればいいのだが、何体も同時に、四方八方から突っ込んでいくから処理が間に合わない。そして一匹でも損害を与えた個所に辿り着いてしまえば、そこから融合してあっという間に元通り。

 完全に元通りになるんじゃなくて、形がちょっと変わってたけどね。

 

 最初から継ぎ接ぎなのが目に見えていた神機兵零號機だが、最終的にはもっと継ぎ接ぎ感が増していた。腕があったところに頭がくっつくし、逆に頭だった場所からは足が生えるし、腹にあった砲門みたいな部位はケツの穴にしか見えなくなったし。

 部位を叩き壊し続ける内に段々と部位が狂っていき、腕が7本脚は9本鼻の穴は1つ目玉は沢山あって3つを除いて閉じていて『前シッポ』が背中から生えて後ろシッポは舌にしか見えずと、訳の分からない集まりになっていった。

 SAN値が削れそうだったよ…どっち向いてるのか分からなくなってたし。

 

 一番ヤバかったのはアレだな、胴を真っ二つにして上半身下半身を生き別れにしてやったら、そこからプラナリアみたいに両方が再生しようとしたの。

 いくらこのスペースが広めでも、神機兵零號機を2体同時に暴れさせられる程ではない。速攻で下半身を消し炭にしたが、その間に上半身は再生されてしまった。

 

 というか、多分神機兵零號機自身も、体の変化に困惑していたと思う。足と手が無意味に同時に動いたり、体を支えようとして虚空を蹴り上げたりと、明かに挙動がバグっていた。

 狙って俺達を攻撃するのは難しかったようだが、あの巨体で訳の分からない動きで暴れ回られるのは鬱陶しかった。施設への損害も構わず暴れ回り、軌道を読めない弾幕を妙なタイミングで撃ちまくる。

 …格ゲーで素人が暴れても大した脅威ではないが、使うキャラがあまりにハイスペックすぎるとやっぱり危ないんだな。ハイスペックというか大質量だけど。

 

 

 こうも姿が変わり果てるまで、延々と壊し続けていると言う事でお分かりだろうが…戦況は優勢、ただし破壊しきれないという膠着状態に陥っていた。

 しかし、アバドンも徐々に数が少なくなってきて、吸収される前の対処も容易になった。

 更に言えば、体を構成しているアバドンを全て同時に撃破してしまえば、そこから再生できなくなるようだった。それに気付いたのは、もうそのまま撃破した方が早い終盤だったけど。

 

 

 

 そうやって戦う間、ラケルてんてーは何やら延々と語っていた。誰一人、耳を貸してなかったが。

 そもそも声が届かない。神機兵零號機の稼働音が五月蠅くて、掻き消されてしまっている。

 大方、なんか『人間は愚かだと思いませんか?』的な内容で、囁き戦法するつもりだったんだろうが…間抜けな話だ。

 

 

 そう、間抜けな話。だからこそ違和感があった。

 ジュリウス拉致を強行した件もそうだが、何もかもが中途半端すぎて、狡猾という言葉を体現しながらも外見だけ蛍のような儚さ(クジョウ博士談)を持っていたラケルてんてーにしては、段取りが悪すぎる。

 

 こうやって神機兵零號機を圧倒されながらも、やっているのが囁きだけ? 何だったら、さっきみたいに最初から上下に分断して、2体に分けておけばよかったのだ。そうすれば、多少は手古摺っただろうに。

 

 

 程なくして、神機兵零號機は完全に破壊され(既に別の何かと成り果てていたが)、ラケルてんてーを守る壁は一つとして無くなった。

 ジュリウスを人質にでもすればまだ手はあったかもしれないが、半身不随の状態ではそれも難しい。…神機兵を何処かに潜ませていると言う事も、ない。

 

 

「ラ……ラケル博士、これは一体……一体、どういう事なのですか!? あなたは、助けを求めていたのでは!?」

 

 

 何があったのか認めたくない、先程とは別の意味で運命を感じているような表情(ベートーベンのアレがよく似合う)で、クジョウ博士が叫ぶ。

 しかし、ラケルてんてーはそれに全く反応しない。クジョウ博士の叫びは、羽虫が羽ばたいた程度の影響すら与えられなかったようだ。

 

 

「どうもこうもありませんよ、クジョウ博士。フライアを暴走させていたのも、さっきの神機兵達を嗾けてきたのも、ラケル博士が元凶だった…それだけです」

 

「そ、そんな…そんな筈が…」

 

「いいから下がって! まだ何か潜んでる可能性もあるんすよ!」

 

「ロミオ君、君まで…君にとって、ラケル博士は母親も同じ…」

 

「…それはそれ、これはこれ!」

 

 

 

 うむ、ロミオが色々割り切れるようになって、嬉しいような寂しいような。

 断言するロミオを見るリヴィの目が非常に複雑だった。

 

 さて…ロミオ、リヴィ。クジョウ博士を連れて、先に脱出しててくれ。

 

 

「……了解です。ほら、博士行きますよ」

 

「嘘だ……これは、悪い夢だ…」

 

「…私が担いでいく。ロミオ、先導を頼む」

 

 

 抵抗しようとするクジョウ博士を、手早く担ぎ上げるリヴィ。…男らしいなぁ。

 さて、やるか。…仮にも想い人と、かつての恩師の死に様をわざわざ見せ付ける事は無い。

 

 

 最後の伏せ札を警戒しながらも、無造作にラケルてんてーに近付いていく。

 

 

「…やるのか?」

 

 

 ええ。リンドウさんとソーマも、先に戻っててください。ジュリウスは俺が持って帰ります。…俺じゃなきゃ、黒蛛病に感染するしな。

 

 

「…初めての事でもねぇよ。構わずさっさと済ませろ」

 

 

 はいな。…目の前で、自分を殺す会話がされていても、ラケルてんてーは平然としている。ジュリウスを守ろうとする気配すらない。

 …慣れたと思ったんだけどな、人を殺すの。

 

 ラケルてんてーに近付こうとすると、不意に口を開いた。

 

 

 

 

「……疑問には思いませんでしたか? 私が、何故このような事をしたのか」

 

 

 無視。

 

 

「悪手、裏目、あまりにも短絡的な暴挙。自分でも分かっています。私の今の状況は、自滅によるものでしかない。そうなると分かり切っていたのです」

 

 

      。

 

 

「ですが、こうせずには居られませんでした」

 

 

 

 神機を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

「       」

 

 

 

 足と、腕が止まった。

 …今、こいつは何と言った?

 

 

 

『恐ろしいのです』

 

 

 

 …そう聞こえた、と、思うのだが?

 

 いや、いつもの戯言だ。心も本意も全く籠っていない、ただ自分に都合よく事態を運ばせる為の誘導だ。

 こいつは恐怖も喜びも感じない、ただアラガミの意思に囁かれるままに動く人形だ。

 

 

 

 その筈なのに。

 

 どうして、こんなに真に迫って聞こえるのか。

 例え本心だったとしても、ここで殺す事には変わりないが。

 

 

「恐ろしいのです。何が、かは分かりません。ただ、私に常に囁いていた声が、騒めき続けているのです。私を導き続けた声が、狂ったように叫び続けているのです。姿も無く正体も分からない何かに追い立てられ、狂乱し続けています。恐ろしいモノがやってくるのだと、何でもいいからどうにかしろと、喚き立てる事しかしないのです。私はその声に従い、無茶だと分かっていながら行動しました。そうせざるを得なかったのです。他に何もないのであれば、どんなに最悪の手段だと理解していても、行わずにはいられなかった。…恐怖していたのは、私に囁く声だけではなく、私自身もだったのでしょう。思えば、初めて感じた感情だったかもしれません…」

 

 

 …………。

 そうか。なら、解き放ってやる。

 

 じゃあな。

 

 

 

 

 

 

 コロリと、抵抗もなく首は落ちた。

 

 

 

 

 

 倒れ伏していたジュリウスを抱え上げ、ソーマとリンドウさんに護衛されて帰還。ラケルてんてーが居なくなり、残っていた神機兵は停止…はしてなかった。

 搭載されていたプログラムに従って侵入者…つまり俺達…に襲い掛かってくる。放置しておいて野良アラガミ化されても困るので、これは積極的にぶっ壊しておいた。

 

 ジュリウスは朦朧としながらも少しは意識が残っていたようで、自分がラケルてんてーに誘拐された事、黒蛛病を強制的に感染させられた事などは把握していた。

 ラケルてんてーがどうなったか聞かされて、「…そうか…」で済ませる程度には、彼女を敵と認識していたようだ。

 

 そのジュリウスは、現在集中治療中。黒蛛病ではなく、投薬され続けた影響がかなり厄介らしく、暫くはリハビリに励む事になりそうだ。

 そっちは大丈夫だとは思うけどな。

 問題は黒蛛病の方だ。何だかんだで、ジュリウスは特異点候補のまま。これはラケルてんてーとは関係の無い、生まれつきの素質だ。このまま黒蛛病が進めば、厄介な事になるかもしれない。

 

 

 

 …ともかく、方々に被害を撒き散らしたラケルてんてーは、既に亡い。死んだ後用に時限式の何かを仕掛けている可能性はあるが、とりあえずは一段落…だろうか…。

 モヤモヤとした想いを誰もが抱えながら、フライア鎮圧作戦は終了した。

 

 



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380話

神怒月

 

 

 新しい月に突入した。例によってフェンリルもアイドル達も色々忙しくなっている。

 そうそう、ライブツアーに出ていたタカネ達が、もうすぐ戻ってくる。俺が居なくてもしっかりライブをこなしており、その評価は鰻登り。黒蛛病の治療ができる事もあり、既に国際的なVIP扱いと言っても過言ではない。

 それに遅れを取ってはいられないと、アイドル候補達もレッスンに熱が入っている。

 小規模なライブや活動も繰り返し、ちょっとずつファン達を増やしていた。

 

 …その裏で、俺は手を出しちゃったアイドル達をヒィヒィ言わせて遊んでいるんだけども。

 

 

 尤も、アイドル達がこうまで注目されているのは、フェンリルによる情報操作の一環でもあった。

 ラケルてんてーがやってきた、アレやコレやがあっちこっちから暴露されまくっているのだ。情報を漏らしたのは、元フライアの搭乗員数名。

 彼らが何を考えて情報をリークしたのかは分からない。ラケルてんてーの仕込なのか、それとも自分が片棒を担いできた事を抱えきれなかったのか。

 彼ら自身は、上から命じられた作業をこなしただけで、別に違法な事はやってなかったんだけどなぁ。

 

 何にせよ、暴露された情報に対して、フェンリルは積極的に干渉した。既に情報は拡散しているし、元よりラケルてんてーがやってきた事は規模が大きすぎ、いつまでも隠し通せる訳ではない。

 だったら逆に、アレやコレやまでラケルてんてーに押し付けて、世紀の大悪党になってもらおう、という訳だ。

 どっちみちダメージが避けられないなら、出来る限りの負債を故人に押し付けてしまおう、という訳だな。妹の名誉を切り刻まれる事にレアは辛そうな顔をしていたが、ラケルてんてーの所業はその程度じゃ誤差と言えるくらいの事だしな。

 同時にアイドル達の事をアピールして、矛先を反らし評価を回復させる。

 

 その行いについてのコメントは控えるが、しかし改めて振り返ると、分からない事が幾つかあった。

 

 

 そもそも、ラケルてんてーに囁き続けていた声と言うのは、一体何だったんだろうか?

 ゲームシナリオでは、ラケルてんてー自身が「荒ぶる神の意思」なんて言ってたから、それを鵜呑みにしてしまったが…アラガミにも意思があるのは分かるが、それは一体一体に意識があるって事だ。アラガミという種族全体に共通した意識がある訳じゃない。

 前回、終末捕食を引き起こせとラケルてんてーに囁き続けた「荒ぶる神の意思」に反し、力を合わせたアラガミ達が「終末捕食とかマジ迷惑」と反発した。これだけでも、ラケルてんてー曰くの『荒ぶる神の意思』が、アラガミにとって絶対的、或いは普遍的な物でないのが分かる。

 

 ソレが何かに怯えていたと言うのも分からない。俺を惑わす為の戯言という可能性は今でも捨てられないが、あの声は本心から恐怖していたようにも思える。

 そう……例えるなら……そうだ、絶対的に強い保護者だと思っていた親が、慌てふためいて狂乱しているのを見たような。

 「この声に従っていれば大丈夫」と思っていたのに、その声が真っ先に錯乱してしまったと考えると、割とそのまんまな気がするな。

 恐怖で混乱し、ヒステリーを起こした声に従い、時期も準備も何もなく行動してしまった、と…。

 

 

 じゃあ、その声が怯えてるのは何でだって話になるが、それこそ分からない。

 俺にも、恐らくはラケルてんてーも知らないだろう。知っていれば、真っ先にそっちへの対処を考える。

 …或いは、その声の主自身も分からなかったのかもしれない。自分を怯えさせるモノが何なのか、何処にいるのか。

 それでも恐怖だけは感じるのだとしたら、誰にとっても迷惑な話だ。それで自滅してるんだから。

 

 

 

 

 

 何にせよ、ラケルてんてーは今や大悪党。或いは、妄想の声に囁かれるままに大規模な犯罪を犯したサイコパス。彼女が手掛けた作品…神機兵からフライア、マグノリア・コンパスに至るまで、その全ては凍結されようとしている。

 マグノリア・コンパスは孤児院としての側面もあるので、即凍結とまではいかないが、調査のメスが入っている。…違法な実験や、過酷過ぎる訓練を施した証拠は、現在進行形で発見され続けているようだ。

 

 ブラッド隊も、一時凍結。隊長のジュリウスからして、動ける状態じゃないからな。

 一端極東支部預かりとなり、それぞれ別のチームに編入される。勿論、個人個人で会いに行くのは問題ない。

 

 甘いとみるか、厳しいと見るかは人それぞれだった。

 ラケルてんてーの肝入りで結成されたチームとは言え、最終的にはラケルてんてーと敵対したし、ジュリウス達自身は犯罪行為の類は行っていない。

 そもそも、感応種に対応できる数少ない戦力なのだから、無暗に処罰するべきではなかったという声もあった。

 それが同情の声になり、ラケルてんてーが作った胡散臭いチームというレッテルを免れたという面もある。

 

 

 

 …色々事情はややこしいが、細かい事を言わなきゃ特に問題が無い状態って事だね。

 残っている問題で一番厄介なのは、ジュリウスの黒蛛病治療だが……何と言うか、放っておいても何とかなるような気がしている。

 やはりジュリウスの黒蛛病は特別らしく、俺でも完治させる事は叶わなかった。

 

 でも、ジュリウスの彼女さんが、ね。「私が治してあげる!」って超張り切ってんの。

 今まで以上に真剣に血の力習得の為のレッスンに励み、あっという間に覚醒してしまった。しかも、発動したのは望み通りに治療系の能力。

 …フミカも同様に、その時自分が必要としている力を、断固とした決意で引き出してみせたが……覚醒する力の性質は、やはり素質よりも本人の意思に影響されるのだろうか。

 

 ともあれ、ジュリウスもその献身的な努力に勇気づけられ、リハビリに励んでいる。

 復帰して、再度ブラッド隊を結成したいそうだ。

 

 

 

 

 …が、それはそれとして、ジュリウスが小声で「童貞のまま死ねるか…!」と呟いたのを、俺だけが知っている。

 

 

 …黒蛛病に感染しちゃったもんね。接触したら、相手に感染させちゃうもんね。

 ジュリウスの黒蛛病の治療法が発見されなきゃ、童貞と処女のままだもんね。浮気か破局なんて結末は、流石に御遠慮願いたい。うん、応援しとこう。俺もちゃんと、治し方を探すから。

 

 

 

 

 

神怒月

 

 

 

 極東支部では、平和な日々が続いている。世界基準的に言えば、控え目に言って煉獄、アビス、ゲヘナもいいトコロだ。 

 最近、アラガミの変化が多彩でなぁ…。それに対抗するように、ゴッドイーター達の装備や戦術もガンガン進歩していく。最近じゃ、俺もうかうかしていられなくなってきた。

 ゴッドイーター達主催の勉強会やら技術交換の場も増えてきて、何とも賑やかな事である。

 

 その技術交換の場に、若干コミュ障のケがあるリヴィを放り込んで、あたふたしているのを見るのが最近の愉しみである。

 ちなみに、フォローするフリをして何かと話題を振るロミオは、遊んでいるのではなくリヴィが早く溶け込めるようにフォローしているのだ。…こっそり唇の端が吊り上がっているのが見えたが。

 

 

 ともあれ、とりあえずラケルてんてーの置き土産ならぬ、最後っ屁は確認されていない。

 泣きに泣いたレアも、今は何とか落ち着いている。俺が殺したのではなく、アラガミの意思(仮)から解き放った、と考える事で折り合いをつけた。

 

 逆に、世間は相変わらずの大騒ぎだ。ラケルてんてーは、色々有名人だったらしいからなぁ。

 それだけバッシングも大きい。というか、隠れた敵が想像以上に多かった。叩けば埃が出るなんてレベルじゃない。いや埃自体は少ないんだけど、それはラケルてんてーが証拠を『抹消』しまくったからだろう。逆に、残った証拠はどれもが致命傷レベルだった。

 そのドサクサに紛れて、フェンリルが色々情報操作を行っている。

 

 …自分達の不祥事をラケルてんてーに被せている訳だが、その情報操作の一環のおかげで、レアの存在を世間から覆い隠してくれているのだから、あまり批判的な事は言えない。

 

 

 

 ちなみにその『埃』についてだが、フライアで辛うじて残っていた、ラケルてんてーの端末をハッキングして見つかったものだ。

 榊博士がちょっとだけ見せてくれたんだが、よくもまぁあれだけ可能性を探り当てられること。ゲームシナリオであったような、ブラッド隊員が死亡したケース、逆にジュリウスが黒蛛病の感染しなかったケースなど、多岐に渡って計画が練られていた。

 流石に、自分が死んだ場合の計画の進め方、なんてルートは無かったが……それもおかしいような気がする。自分も含めて、ラケルてんてーにとって全ては道具だった筈。

 

 それだけに、それら全てをかなぐり捨て、下策に走った理由が分からない。

 これら全てがブラフで、真の計画はラケルてんてーの頭の中だけにあったのか。或いは、本当にこの計画を進めていたけども、アラガミの意思(仮)の狂乱につられて、段取りを全て投げ捨ててしまったのか。

 以前であれば、間違いなく前者だと言い切っただろう。しかし、最期の独白を聞いて以来、後者の可能性をどうしても捨てられない。

 

 

 

 …まぁ、どちにしろ警戒を解く事はありえないんだけども。

 

 

 

 なんかこう………チリチリするんだよな。ラケルてんてーの陰謀であろうと無かろうと、この感覚は忘れられない。

 トップクラスにヤバい気配だ。それこそ、デスワープに直結するレベルの。

 

 こんだけヤバい感覚、どれだけぶりか。MH世界のフロンティアでさえ、これ程危険な気配は感じなかった。

 ……これが、ラケルてんてーとアラガミの意思が怯えた理由なんだろうか? だったら、もっと前に感じられると思うんだけどな…。

 このチリチリ感、ここ数日で急に感じるようになった。何かが近づいてくるんだろうか…。

 

 

 

 ちなみに、このチリチリ感を感じながらのセックスは自分でも分かるくらいに激しくてディープだった。一人も腹下死させなかったのが奇跡と言えるくらいに。

 オカルト版真言立川流があっても、本気でヤりすぎちゃったからな…。

 

 

 

 

神怒月 

 

 

 落ち着かない。平静を装ってはいるけど、腹の底で何かが煮えたぎっている感じがする。

 …アカムを相手にするのが決まった時だって、こうまでじゃなかったぞ。ドンだけヤバいんだ、今度の相手は。

 

 とは言え、おかしな話だが、助かったと言えば助かったか? 不安を共有する仲間ができた。

 

 

 それが、よりにもよってタカネと言うのは予想外だったが。

 だってタカネだもんなぁ。生まれながらの捕食者、命を星ごと飲み干すもの、ノヴァ。

 人間なんぞ極一部の例外を除いて羽虫も同じ。そう評価するだけの力と頭脳と体を持ちながら、俺を追う為だけにそれを捨てた彼女。そして、残された人間程度の力しか持ってないにも関わらず、その考えと態度を変える事のない生物。

 

 そのタカネが、帰国するなり手を握って来たのだ。

 ……正直言って、これまた予想外だった。

 

 ライブツアーの途中で分かれた時のタカネは、決して上機嫌とは言えなかった。

 いつもならつかず離れずの距離で、それでも寄り添うように一緒に行動してくるのに、拗ねた猫のようにツンとソッポを向いていた。

 それに、アイドルとしての仕事にも、一定以上の責任感を持っていた筈だ。タカネ自身がアイドル活動に何かを見出したのか、自分を拾った社長に対する恩返しと割り切っているのかは分からないが。

 

 それが、ツアーから帰ってくるなり空港から失踪し、一足先に極東に戻ってきて、俺の顔を見るなり手を取ってくる始末。

 何事だ? 一体何があった?

 

 

「………暖かい…。人の温もりが落ち着くと言うのは、私も変わらない心理のようですね」

 

 

 冷静に自分の心理を分析しとらんと、何があったか教えてくれよ…。

 手を恋人繋ぎにするのも、素肌で抱き合うのもオールオッケーだけど、タカネがそこまで取り乱すって何があったんだ。

 ライブ対決で完勝できなかったのが気に入らないって訳でもあるまい。

 

 

「…ええ。あのユノと言う方は、興味深く、好ましい人間です。共に舞い、歌えたことは喜ばしくさえあります。それとは別に………不可思議なのです。私は、怒りを感じています」

 

 

 怒り? タカネを放置し続けた俺に対してなら、無理もないと思うが…。

 

 

「それではありません。いえ、それが切っ掛けではあるのですが…あなた様が極東に戻られた頃から、私の中に不自然な感情がある事に気付きました。私のものではないのに、いつの間にか私の中に入り込んできている感情があるのです」

 

 

 その感情が…怒り? 単に虫の居所が悪いとか、何かの好意が腹に据えかねたとかではなく、明かに異質な。

 …ヤバいな。その怒りの正体は掴めないが、タカネ…ノヴァに影響を与える程強い感情って事だ。タカネの精神力は桁外れに強い。種族的な特徴なのか、タカネ個人の資質なのかは分からないが、血の力の出力を見れば一目瞭然だ。人間とは違った精神構造をしている事もあるかもしれないが、どちらにせよ彼女を精神的に揺さぶるのは至難の業だ。

 そのタカネに気付かれる事なく影響を与え続けたモノ…。

 

 想像もつかん。これこそが、ラケルてんてーの置き土産か?

 いやしかし、いくらラケルてんてーでも…。

 

 

 タカネ、もう少し詳しく聞かせてくれ。…部屋に来い。ここで話すのは、ちょいとよろしくない。

 

 

「はい…」

 

 

 普段の飄々とした気品は何処へやら。ラーメン禁止を言い渡されたかのように、タカネは沈み込んでいる。

 …何かに影響されているのかもしれないが、感情の揺れ幅も大きい…。本気で何か起こっているようだ。

 

 

 

 互いの暖をとるように身を寄せ合いながら、タカネはポツポツと話し出した。

 

 

 確かに、俺がライブツアーから離れて極東に一人で戻った時、タカネは苛立ちを感じていた。自分に全く構ってくれず、その癖ペット(アンチョビ達だ)に構ってばかりの伴侶に。

 だがそれはそれ、これはこれ。モチベーションが少々下がりはしたものの、ライブには全く関係の無い事だ。タカネは、いっそ機械的な程にあっさりと気持ちを切り替えた。人間ではそう都合よく感情をコントロールできないが、ノヴァにとっては大した事ではない。代わりに怒りが時間で劣化すると言う事もないが。

 

 …事実、あっさりとタカネは、俺に対する怒りをしまいこんだ。だが、ささくれ立った感情は消えなかった。

 首を傾げ、もう一度気分を切り替えようとしても、その感覚は消えなかった。

 一体何に苛立っているのか、言葉にして説明しようとした。出来なかった。自分の状態を見つめ直し、脳から爪先に至るまでの機能セルフチェック。異常無し。理想的なまでの健康体。ただしちょっと塩分摂り過ぎ。

 時間になってしまい、仕方ないのでそのままライブに出た。

 

 血の力が暴走しそうになった。暴走と言うのも、少し違うか?いつも通り、タカネの血の力は彼女の意思に従って効果を発揮した。ただ、それに加えて別の効果が相乗していた。

 

 お察しの通り、怒りを伝える力だ。幸いな事に、咄嗟にユノやアンチョビがフォローに回り……具体的に何をしたのか、自分達では気付いてないだろうけど……怒りを伝える血の力は、『興奮を伝える血の力』として緩和されて観客達に届けられた。

 その結果が、あのアイドル揃っての大合唱である。それ、一歩間違えれば、大暴動になってたかもしれんやんけ…。

 

 

「…あの子達には、恩が出来てしまいましたね」

 

 

 強がるように笑うタカネだが、恩というか借りを感じているのは確かなようだ。

 そうして何とかライブを乗り切って、不明な状態をそのままにしていた事を反省しつつ、改めて自分の状態を見返し、放たれた血の力を思い返して、ようやく気付いた。

 

 

 自分の中に、自分の物ではない怒りが宿っている事に。

 

 

 気持ちの悪い感覚です、と吐き捨てるタカネ。

 ……精神汚染…か? そんな事が出来そうな奴、アラガミに居たかな…。どっちかと言うと、鬼の領分だろう。

 いや、ゴッドイーター同志での感応現象なんて例もあるし、無いとは言い切れないな…。

 

 …もう一つ心当たりがあったわ。ラケルてんてーに囁いていた、アラガミの意思(仮)はどうだ? あれも精神に干渉している一例だと思うが…それでタカネがどうにかされるかな。

 ………何者かに干渉されているとして、その経路は分かるか?

 

 

「いいえ。少なくとも、現在進行形で影響を受けているようですが、血の力、並びにあなた様が使う『霊力』が関わっている痕跡は見当たりません。もっと、原始的な影響のような気がします」

 

 

 原始的…?

 

 

「人は、強く悲しんだり怒ったりしている人を見ると、自分もそのような気持ちになってくる、と聞いた事があります。私はそれを経験した事はありませんが、それをもっと強力にしたら、このようになる…気がします」

 

 

 うーん…タカネは人間に対して、共感性とか殆ど持ってないからな…。

 ん? それじゃ、タカネの証言が正しいとしたら、タカネに影響を与えているのは、やはりアラガミの類なんだろうか?

 

 分からない…。

 

 

 

 

 分からないが、これ以上考えても手掛かりすら掴めそうにない。だからと言って放置する事もできない。

 …よし、ライブツアーで絡めなかった分、タカネを連れ回してみるとしましょうか。

 

 要するに、気晴らしのデート。

 

 



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381話

接客業にしろ何にしろ、「お客の目線になれ」と言うのは、客がどうやって不正をするか考えて防止しろって意味なんだな…。
うん、信用したらアカン。
と言うか、いっそ「客を見たら泥棒と思え」って社訓に入れてしまえと思う。

それはそれとして難産です(現在進行形で)。


神怒月

 

 

 どこに行こうか、割と悩んだ。何せ、俺とタカネである。 

 走って海を渡る事だって出来る俺達だから、行こうと思えば何処へでも行ける。行きたい場所の近くに電脳空間に繋がるPCがあれば、移動時間も短縮できる。

 

 そもそも人に興味を持たないタカネだから、歴史的な建造物などの観光所にだって興味が無い。

 旅行はライブツアーに行ってきたばかりだから、新鮮味がない。

 いっそ各地のラーメン屋巡りでもしようかと思ったが、まともにラーメン屋を営業できている店など数える程度。それならば、ペパロニ嬢ちゃんの店にでも行った方が余程満足できるだろう。

 

 考えあぐねて、何処か行きたい所はないかとリクエストを聞いてみた結果。

 

 

 

 

 

 現在、(元)試される大地の猛吹雪の中で、絶賛ビバーク中であります。

 何でそんな事にって?

 

 タカネのリクエストが、『人間もアラガミも居ない所』だったんだよ。

 人間はともかく、アラガミが居ない所ってなぁ…。今の世界じゃ、宇宙空間にでも行かなきゃならん。

 或いは深海とか、太平洋のど真ん中を漂流するとかね。

 

 

 試される大地も、随分と様変わりしたと言うかなんというか…。もう雪と吹雪しかないんですが。そこまで食い荒らされたんだな…。

 それだけアラガミが居たと言う事なんだろうが、今は食べる物がほぼ無くなったのか、数える程度のアラガミしか残っていなかった。小物の割には結構強力なヤツが。

 …それだけしか居ないと、逆に禁足地のようにとんでもない『何か』が居るんじゃないかと思えてくるが…俺とタカネの感覚には、何も引っ掛からなかった。

 

 どっちかと言うと、脅威だったのはアラガミよりも自然の猛威だ。本当にここは日本なのかと疑うくらいのブリザードが吹き荒れている。

 アラガミによって地形が食い尽された結果、遮る物が無い強風が思う存分吹き荒れている。ウカムルバスが居た凍土でさえ、ここまで吹雪にはならなかったぞ。

 

 そんな中、俺とタカネはテントを張って、寄り添って暖を取っている。小さなコンロで沸かしたコーンスープとコーヒーを飲みながら、大して話もせず、ずっと寄り添っている。

 

 …不思議なものだ。泣き叫ぶように吠える吹雪の中、防音処置もされてないテントの中なのに、静寂すら感じる。

 俺とタカネ以外には何の気配もなく、人工物は持ち込んだ物のみ。

 

 寒さを感じるくらいには温度が低いが、俺もタカネもそれを振り払おうとは思わなかった。ホットドリンクを飲むなり、血の力を使うなり、体を調節して体温を上げるなり、やりようは幾らでもあるのに。

 理由は分かり切っている。それくらい温度が低い方が、互いの体温を強く感じられるから。

 

 

 月も見えないブリザードが、全く別の世界の事のように感じる。静かで、安らかな、テント一つ分の無限の空間。

 

 

 

「……静か、ですわね…」

 

 

 …あぁ。ちょっとは、気が晴れたかな。

 

 

「ええ、おかげ様で。…思えば、あなた様とこうして過ごすのは如何ほどぶりか…」

 

 

 …月での暮らしの事を言ってるのか? 月から俺が離れて、たった数か月程度しか経ってないのにな。 

 でも、考えてみればタカネはそういった暮らししか経験した事が無かったんだよな。

 

 

「そうですね…。あそこは、私とあなた様以外には誰も居ませんでしたから。この星に降り立ってからの目まぐるしい日々も嫌いではありませんが、やはり何事もない静かな場所が好きですね」

 

 

 華やかなのも好きだけど、ワビサビ効いてる方がいいのかね。

 

 

「そう考えると、人の身の不便さも、そう悪いモノではありませんね。以前の体であれば、吹雪の中であろうと、潜んでいるモノに簡単に気付けてしまいます。そうすると、食べかけのらぁめんをそのまま放置しているような心持になりまして…落ち着かないのです。ですが、この体であれば…『見えないから存在しない』と、考える事ができます。ここに居るのは、私とあなた様だけだと、想像できるのです」

 

 

 見えないから『居ない』と信じられる、か…。おかしな話だね。人間は普通、逆なんだけど。 

 …なぁ、タカネは月に帰りたいのか?

 

 

「いいえ。あなた様の事を差し引いても、私はこの星の暮らしが気に入っています。らぁめんの無い生活など、もはや考えられません。ただ、時折懐かしくなるだけです。あなた様と最も長く過ごした、安寧の場所ですので」

 

 

 実家の安心感を時々感じたくなる訳ね。ま、分からなくもないな。

 ……タカネ? 

 

 タカネは不意に立ち上がると、俺の正面に向き直った。そのまま服のボタンに手をかけ、躊躇いなく上着を脱ぎ落した。

 

 

「あなた様…はしたないと思わないでくださいませ。随分と遅くなってしまいましたが、ここであなた様のお情けをいただきとうございます」

 

 

 小さなテントの中、女神のような素肌が浮かび上がる。月光を連想させる白い肌を堂々と晒し、ダイヤモンドバストを体現した胸を突き出した。

 いっそ神々しささえ感じる姿だが、僅かに恥じらう気配もある。

 

 服を、下着をゆるゆると手に掛け、くびれたウェスト、見た目よりも豊かなヒップ、そして髪の毛と同じ銀の恥毛まで。

 

 

 今まで色々な女を抱いてきたが、文句なしにトップクラスの美女である。

 だが、俺が感じているのは、欲望よりも愛おしさだった。

 勿論、今までの女達にだって愛情は持っているし、同じような感覚を持った事はある。だけど、それらとは何処か違う気がした。

 

 

 黙ってタカネを抱き寄せると、その感覚は一層顕著になった。抵抗もなく身をゆだね、恥じらうのではなく安心したような吐息を漏らすタカネ。

 …ああ、そうか。

 

 

 これは、保護欲だ。小さな子供を安心させようと、頭を撫でたり、抱きしめたりするのと同じ事だ。

 或いはその逆に、母を安心させようと抱き着いて慰める子供と同じだ。

 

 欲望よりも先に、『同族』を宥めようとしているのだ。

 

 

 こうして抱き合うと、互いの体温と共に、タカネの心の底にある震えが伝わってくる。絶対の捕食者である筈のノヴァ、タカネが、初めて感じたその恐怖は如何ほどか。

 初めて炎に触って火傷した子供のように、タカネは心の底の怒りに恐怖している。自分でないモノが、さも自分のように居座っているのだ。無理も無かろう。

 

 

 …この『怒り』は、何なのだろうか。抱き合っていても、今一つ伝わってこない。

 タカネが見せたくないのか、それとも単に繋がりが浅くてそこまで感じ取れないのか。………なんだか、気になる感情だが…今はそれを探るのが目的ではない。

 

 抱き寄せられ、俺の肩に顔を埋めていたタカネの顎を摘まみ、顔を前に動かす。見つめ合う形となって、自然と互いの唇を合わせた。

 初めてなのは確かなのに、スムーズに舌が絡み合う。右。左。奥。前。唇同士を擦りつけ合い、もっと深く、深くと求めてくる。

 

 …覚えのある動きだな。

 

 

「アリサ、と申しましたか…。彼女が私の前で、あなた様と唇を重ねたのを見ていましたので。真似てみましたが…いかがでしょうか」

 

 

 ああ、器用なもんだな。あいつのテクとそっくりだ。

 気持ちいいけど…見せるべきものは、そうじゃない。

 

 

「? はて、ものの本によると、まずは接吻からとの事でしたが…何か至らぬ点でもあったでしょうか」

 

 

 いや、初めてなんだから当たり前の事さ。こういうのは他人のやり方を真似るもんじゃない。

 技術を取り込むのはいいけど、自分のやり方を見つけるもんさ。んで、相手のやり方に合わせて、変えたり変わらせたりするもんなの。

 

 ま、簡単に言えば…タカネのやりたい事と、俺のやりたい事を一致させる為の手順だね。

 

 

「…それは……ええ、素敵な事ですね」

 

 

 小さく笑い、タカネはもう一度俺に口付けた。今度はアリサのテクを参考にしたのではなく、自分のやりたい事、好む行為を探す為のものだ。

 

 タカネの舌は、存外長い。人間としての機能をフル活用できるのは、彼女の舌も同じ事。自在にうねりくねり、蛇が獲物に絡みつくように、或いは植物が猛烈な勢いで木々に絡みつくように、俺の口内を蹂躙する。

 この舌の長さは、俺の願望から読み取ったものだろうか? 短い舌でも楽しみ方はあるが、より多くの行為が出来るのは確かだからな。

 

 長く、深く、単体でみれば異形とも思える程に舌を伸ばし、俺の喉の奥へと入り込もうとするタカネ。

 躊躇わずにそれを受け入れる俺。何も知らずに受け入れれば喉を塞がれ、呼吸困難に陥るだろうが、どっちもそんなヘマはしない。オカルト版真言立川流は、受けの技術だってあるのだよ。

 

 イラマチオを受けるのと同じ感覚だ、多分。喉の奥を目指して蠢くタカネの舌を、口と喉と舌で愛撫する。

 いくら生物として驚異的なポテンシャルを持つタカネ…ノヴァでも、知らない事には対応のしようが無い。初見でも予測で対処できる事はあるが、スペックだけで対処できる程、俺もオカルト版真言立川流も甘くはない。

 タカネの好きに動かせながら、舌を扱き、涎を啜り、キスだけで絶頂できる程にタカネの体を翻弄していく。

 

 夢中になって…とまではいかない。快楽に翻弄される体、舌とは裏腹に、タカネは余裕尺尺だった。

 甘イキする程度の快感を噛み締めながら、蚊に刺された痒みを無視する程度の負担でしかない。

 

 

「…なるほど、これは……ノヴァの体では味わえぬ快楽ですね。生物の体とは、面白いものです」

 

 

 多分、ノヴァでも出来なくはないと思うんだが、デカすぎてリアクションが分かりにくいからな。後はまぁ、俺の好みの問題か。何だかんだで、人間の体の方が好みだからね。…シッポとか角とか羽もいいけど。

 

 

「ふふ、作れなくはありませんわ。ですが、今はこの体のままで…んっ」

 

 

 キスした直後の向かい合った状態のままお尻に触れる。ピクリと動くその体。目を閉じ、唇を噛み締めるその様は、キスで感じていた時とは少し違っていた。

 俺の肌との間で圧し潰されている豊かな乳房からも、少し動悸が早くなったのが伝わってくる。柔らかさに熱がこもったのが分かった。

 …そうか、こっちがタカネの体の弱点か。

 俺の願望を読み取って体を作ったとしたら、俺ってば、胸よりも尻派だった? …アホらし。俺は女体派だ。上の口と下の口と後ろの口と花弁、どの穴がいいかと言われれば女の子ならなんでもオッケーと答えるのだ。……醜女が相手の場合は、好感度次第だ。

 単純に、パイズリよりアナル責めしたい気分だったってだけだろう。あれ、穴を触った訳じゃないから、ケツズリの方かな? …でも今は、どっちかと言うとおヘソな気分。

 

 思いっきり反り返らせたナニの先端を、タカネの腹に当てる。スベスベとした、しかししっかりとした中身を感じさせる肉体。

 …筋肉フェチの気持ちが分かるな。美しく、手弱女とすら表したくなる皮の中に、こうまで見事な肉が詰まるか。そう設計された体で、作り上げるまでの鍛錬を感じられない事が残念かな?

 だけど、この柔らかさとしなやかさに比べれば些細な事だ。

 

 先端がタカネの腹を愛撫し、先走りによりその痕跡を残す度に、俺自身にも言いしれない安堵が浮かび上がる。

 それと同じ安堵をタカネに齎し、それを掻き乱しているという実感も。

 

 むぎゅむぎゅと尻を握って捏ね回し、ビクンと震えるタカネの反応を堪能する。

 だが、流石は俺と共にあった存在と言うべきか、天然の捕食者と称するべきか。いいようにされる事を、タカネは良しとしなかった。

 

 臀部を愛撫されながら、タカネは俺の昂ぶりに手を伸ばす。

 

 

「…知識でしか存じませんが、こうすれば、殿方を悦ばせる事ができると聞いています。事前に実物を拝見し、予習できなかったのは不覚ですが…ご堪能くださいまし」

 

 

 拙くも、優雅な手つきで俺のモノを握り込む。繊細な力加減と、若干低めの体温が絡みつく。

 技術らしい技術は無く、ただ上下に手を動かして扱くだけ。それだけでも充分気持ちよかった。

 経験が無く、予習もできなかったというのは本当らしい。何というか、教科書通りに刺激しているだけだ。男性の性感の場所を理解して、そこに触れるだけ。

 

 

「…もの足りませんか? では、あなた様がどのようにしたいか、されたいのか…お互いのしたい事を一致させる為に、教えてくださいまし」

 

 

 淫らな行為をしているとは思えないくらいに、涼やかな声で囁かれる。意味もなく、声を上げるのを堪えてしまう。

 周囲には誰も居ない、居たとしても吹雪の為に声など聴かれる筈もないのに。

 

 静かな空間に、シコシコにちゅにちゅと音が響いている。聞き慣れた音なのに、もっと淫らな音と声を何度も聞いているのに、妙に気恥ずかしかった。

 

 

 タカネに、俺の肉棒の性感の場所を教えていく。それに合わせて手コキの動きや指の位置を調整し、最適化させていくタカネ。

 彼女の動きが変わるのに合わせるように、俺も尻への愛撫を徐々に変えていく。揉み、捏ねる手付きを、よりタカネの反応を引き出せる動き。弱点を把握し、文字通り手中にする。

 タカネの尻の弱点は……ふむ、アナルの素質もあるが、尻肉を解されるのが好みのようだ。大き目の尻の真ん中の芯を鷲掴みにしてやると、声を上げて仰け反った。これだと、初手からケツドラムしてやっても悦んだかもしれない。

 

 ビクビクと体を震わせながらも、彼女は肉棒を扱く手を止めない。乱れこそあったが、それはむしろスパイスにしかならない。

 肩に顔を埋めてみると、明かにフェロモンが立ち上っている。タカネ自身の体も、発情してきていた。

 

 

「…なるほど…。このような愛撫がお好みなのですね。知っていた知識とは、似ているようで違う…。このような触れ方は如何ですか…?」

 

 

 熱が籠った声で俺に囁きながら、タカネは新しい愛撫を施してきた。

 これは……まるで、オカルト版真言立川流…? 手に宿した血の力を俺のモノに浸透させて、快楽神経を直接愛撫してくる。更に感覚を敏感にし、より強い快楽を得られるようにしている。

 

 

「あなた様が使う術を、拙くも真似てみました…。やはり、あなた様のようには参りませんね」

 

 

 いやいや、充分気持ちいいさ。この手の力を明確に応用できる相手は珍しいしな。

 おお、滾ってくる…。

 

 

「ふふふ…私の手で、意中の殿方を悦ばせる…。不思議と昂揚するものですね。人がこの行為に夢中になるのも、分かる気がします。ああ、なんと逞しい…。竿の部分だけでなく、先端も、玉袋も、ずっしりと重くなって…。私を愛でたくて、このようになったのですね」

 

 

 ああ、その通り。タカネに撫でられて、綺麗な肌で擦り寄られて、こんなに興奮してるんだ。今日は誰も抱いてないしな。

 

 

「今日一日で、こんなに溜まってしまうとは…。あなた様の性欲は、アラガミの食欲以上ですね。少しは我慢を覚えないと…本来の私のように、世界を飲み干してしまいますよ」

 

 

 我慢を覚えろとでもいうように、タカネは触れそうで触れない愛撫に切り替える。先端の穴に爪先で、或いは指の腹で、フェザータッチの愛撫。優しく、優しく施される愛撫は、刺激を与えるのではなく明らかに焦らす為の愛撫だった。

 溜まらず肉棒をビクンビクンさせると、不意にカリ首が引っ掛けられる。これまた触れるか触れないかの愛撫だったが、敏感な部分に鋭い刺激が走る。

 

 翻弄されている。肉体スペックこそ最上級だが、全く経験が無く、知識も浅い小娘に。

 

 情けないという恥ずかしさとMっ毛が混ざり合い、もっともっと翻弄されたくなる。

 タカネが相手なら、いっそそれでもいいかな、と思えてくる。

 

 それを察して、タカネはより大胆に手を動かし始めた。いや、手だけではない。裸で抱き合っている状態のまま、全身を上下にゆるゆると動かす。

 柔らかいバストが俺の胸板に押し付けられ、先端の突き出た乳首が俺の乳首に当たって弾かれる。

 流れるように体位を何度も変えながら、全身で絡み合い、口で吸い付き、太腿で挟み…しかし器用な事に、肉棒に触れるのは指先だけ。

 

 タカネの体の全身を、強制的に堪能させられながら、いきり立った股間は小さな刺激しか与えられない。

 しかし、絶え間なく注がれる快楽は萎える事を許さず、注がれた快感が薄まる事もなく、決壊する程の強さでもない。肉棒という器に、一滴ずつ快楽が満たされていく。

 

 意図して焦らしているのか、俺のやり方を真似取った結果なのか。イキそうになれば根本を掴んで止め、抵抗しようとすれば全身で覆いかぶさって俺の自由を奪う。

 

 

「いかがですか…? と、言われるまでもありませんね…。あなた様の逞しい肉棒が、私に食らいつきたいとイキりたっております…。ですが、私とてこれまで散々に焦らされたのです。これくらいの事は、甘んじて受けていただきませんと」

 

 

 や、やっぱ自分を放っておいて、人間達とばかり戯れていたのは気に入らなかったか。

 

 

「ええ。肌と肌の触れ合いが、これ程に甘美なものだと知らされた以上、猶更そう感じます。さぁ、もっと感じて、もっと焦れてくださいまし。代わりに、あなた様の為なら、どのような事でもしてさしあげましょう」

 

 

 ん、今何でもするって言ったよね。だったら、射精…。

 

 

「それはまだまだでございます。もっと身悶えるさまを、見せてくださいませ」

 

 

 何でもするって言ったのにぃ!

 苛立ち交じりに、絡みついて来るタカネの唇を奪い、乱暴に胸や尻を鷲掴みにする。

 それだけでタカネは嬌声をあげ、熱い吐息を漏らすが、囁かれる声はあくまで冷静。体は肉欲に狂っているのに、相変わらず精神だけは余裕綽々なのだ。

 

 それがまた一方的に嬲られているという実感を引き起こし、掌で転がされている事を自覚させる。

 

 

 どれくらい時間が経っただろうか? 俺の肉棒は我慢汁でドロドロ。射精だけはさせられてないが、小便を漏らしたと言われても反論できない有様だ。

 タカネの手も、粘着質の液体で汚れ切っている。それでも、白く美しい手の印象は消えてない。

 汚れているのは、タカネの秘部も同じ。乱暴に弄られ、吸い付かれ、指と舌に蹂躙されたそこは、女神のような体とは裏腹に生々しい匂いと、浅ましい液体で満たされている。

 

 相変わらず、タカネは俺のモノにはゆるゆるとした刺激しか与えておらず、射精にまで至っていない。対して、タカネの体は何度か小さな絶頂を迎えていた。

 

 

 

「さて…このまま夜明けまで、というのも中々に趣深く思いますが、やはりあなた様に押し倒されて満たされる、という体験をしとうございます。愉しませていただいた事ですし、そろそろイかせて差し上げます…。その後は、存分に私を蹂躙し、鬱憤を晴らしてくださいませ」

 

 

 は、初めてから逆転蹂躙を希望とは、何処からそんな性癖を持ってきたんだ…。

 

 

「あの子達が、嬉々として自慢げに『尤も気持ちいいやり方』として語っておりましたが。いつもあなた様と一緒に居た、アリサとレアという子達です」

 

 

 熱が籠っているのに冷静な声で囁くと、タカネは最初と同じ体位…正面から抱き合う状態に戻る。

 そして、焦らされに焦らされ、限界を超えていきり立っている俺のモノに手を当てた。最初と同じ…いや、それよりも刺激が少ない、ただ添えるだけの行為。

 だと言うのに、俺の性感と呼吸を学習したタカネの手は、添えただけなのに決定的な快楽を送り込んできた。

 

 添えた手と対になるように、もう一方の手を亀頭の前に置く。

 

 

 

 

 っ、出るっ……!

 

 

「どうぞっ…!」

 

 

 冷静な声に、肉欲だけでない熱が籠っている。俺を射精させることで、タカネ自身も昂揚しているのだ。

 その顔を見ながら、下半身の熱を全て解き放つ。

 添えられている手が、あっという間に真っ白に染まり、続けて放たれた2射、3射は勢いの余りに飛び散っていく。手から飛び出し、真っ白な腹に濁った白を叩きつけ、胸の谷間に染み込んで、飛びに飛んで口元まで。

 タカネの美貌を汚し、解放された快楽に酔う。

 

 長いようで短いようで、気力の半分以上を吐き出したような射精が終わった。

 

 俺を抱きしめたままのタカネに、ちょっとだけ寄りかかる。

 微笑みながら頬を赤く染めているタカネ。…やはり、精神的にも俺と同時に達したらしい。流石俺の為に作った体だけあって、相性がどこまでもピッタリなようだ。

 

 至近距離で見つめ合った後、タカネは見せ付けるように舌を伸ばす。俺にキスをするのではなく、口元に飛び散った精液を拭い取る為に、

 舌先で拭い取った白濁が気に入ったのか、今度は俺の精を受け止めた手を掲げる。鈴口の正面で、射精をまともに浴びた手は余すところなく汚濁に塗れ、粘着質の糸を垂らしている。

 

 タカネは躊躇いも無く舌を這わせ、精の塊をこそぎ取り、浅ましい音を立てて指をしゃぶり、残滓一つ残さず取り込もうとする。腹と胸元に飛び込んだ汚濁を愛しげに掬い取り、これも指に舌を這わせてじっくりと味わった。

 元の白くしなやかな姿を取り戻した指を、まだいきり立っている肉棒に寄り添わせて、僅かに精の匂いが残る口元で小さく囁いた。

 

 

「…ご堪能いただけましたか、あなた様…?」

 

 

 

 それはもう。

 ただし、まだまだ満足はしてないから……タカネの望み通り、今度は俺が押し倒す!

 

 

「ああっ、ご無体な…!」

 

 

 精神的・肉体的絶頂を得て、昂っているタカネの体を、強引に押し倒す。

 形ばかりの抵抗をするタカネは、それこそ外見に相応しい力しか発揮しなかった。率直に言ってしまえば、彼女がこの程度の力でどれだけ抵抗しようと、男の腕力で簡単に抑え込める。

 何より、強引に組伏される事そのものに、タカネの体は愉悦していた。

 

 このまま捻じ込んで、欲望の赴くままに白濁を注ぎ込むだけで、タカネは容易く絶頂を迎えるだろう。本人も、それを望んでいる。

 だが、それでは不十分だ。

 これはタカネとのセックスであると同時に、彼女に楔を打ち込む為の行為でもある。

 

 楔と言うと大げさに聞こえるだろうが、やろうと思えば幾らでも好き勝手に行動できてしまうタカネを、夫として躾けるのだ。体だけでなく、精神まで、俺の命令に従う事に快楽を感じるように染めてしまうのだ。

 そうする事で、タカネの暴走の危険は減るし、肉体と精神の隷属願望が一致し、より深い悦びを得る事が出来るだろう。

 

 

 別に、タカネを泥沼に引き摺り込もうとか、命令してみたいという訳ではないぞ。結果的には同じだが。 

 

 最初はタカネのリクエスト通り、強引にコトを進める。既に準備が出来上がっているタカネの体を強引に開かせ、股座に肉棒を突き付ける。

 対するタカネは、怯える演技も見事なもの。泰然自若とした表情を投げ捨て、襲い掛かられる乙女というシチュエーションを満喫していた。

 

 

 タカネ。

 

 

「はい…どうぞ、私の奥まで…」

 

 

 最後の一言だけ素に戻り、意思を示す。

 肉棒をゆっくりと、しかし確実に押し進めた。

 

 激しくしなかったのは、そうでもしないと耐えられそうになかったからだ。余程念入りに作り込んだのだろう。今まで数えるのも面倒なくらいの処女を食い散らしてきたが、その中でもタカネの膣内は間違いなく超一級品だった。

 凄まじい締め付けと圧力に、肉棒が圧し負けて中折れするかと思ったくらいだ。

 だが単にきついだけでなく、同時に絡みついて来る肉ヒダ。先程までのタカネの愛撫を、数百倍繊細で複雑にしたような、いっそ冒涜的とさえ言える肉穴。

 

 犯している筈なのに、逆に誘い込まれ犯されているような感覚。普通の男であれば、処女貫通の前に確実に果ててしまうだろう。

 歯を食いしばって、射精感を堪える。これだけの体を前にして、三擦り半など認められない。

 じわじわと腰を勧め、抵抗に突き当たる。

 

 これだけ強い抵抗を押し退けているのなら、タカネの痛みも相当なものの筈。しかし、タカネは苦痛に構わず内部に侵入した俺の肉棒を感じ取るのに集中しているようだ。

 俺もじっくり堪能したいところだが、時間をかければそれだけ射精…暴発の危険が高くなる。出すのは一番奥と決めていた。

 負けじと、俺も一際強い抵抗を突き破った。

 

 処女を貫いた先にあったのは、更なる悦楽と搾精の楽園。俺の弱点にピッタリ合わせて設計された、凶悪極まりない雌穴。

 あられもない嬌声をあげて仰け反るタカネに、一突き、二突き。

 それだけで、タカネの体がどう作られたのか理解できた。

 

 タカネの弱点は、俺の弱点だった。奥の奥まで一度押し込んでしまえば、互いの弱点が密着し、俺もタカネも強制的に高められてしまう。弱点と弱点を触れ合わせる事で、耐える事すらできない快楽を作り出す。いや、耐えれば耐える程快楽は大きくなっていくのだ。

 更に、現在進行形でタカネの膣は変質している。奥まで捻じ込まれる事だけを想定していた膣は、ピストン、グラインドなどの動きに合わせ、形と性感帯の位置が徐々に変わっていく。

 

 

 が、甘い。やはり経験不足故か。弱点をぶつけ合う事だけが、快楽を得る手法ではないのだ!

 弱点に対して弱点を当ててどうする。弱点にこそ強い力を叩きつけるのが戦の常道と言う物だ。

 

 

「ひっ、あっ、あっ、ああぁっ……! あ、あなた様…?」

 

 

 快楽に酔うタカネの体をひっくり返し、バックの態勢。丸くて大きなヒップと、その真ん中な窄みが丸見えだ。そんな所まで神々しく美しいのだから、タカネの設計も徹底している。

 繋がったまま立ち上がらせ、足を真っ直ぐにさせる。両手は広げて地面についたままなので、Y字のポーズで尻を高く掲げる事になった。

 

 

 このまま体を支えているんだ。腰を振るから、それに合わせてマンコを締め付けろ。分かりやすいように、尻も叩いてやるよ。

 一方的に命令を伝え、有無を言わせず律動を再開する。ペチペチと、大きな尻を手で叩いて音を立てた。

 

 勝手極まりない上、屈辱的な命令を受けても、タカネは従う。屈辱を感じていない訳でもないのに、健気に締め付ける膣。

 尻を叩く強さは一定ではない。時には赤く腫れあがりつつある尻を労わるように撫で、強い締め付けを行った時にはご褒美に大きな音を叩き、気が向いたら適当な理由でオシオキとして強く叩く。

 

 そんな状態でも、タカネの体は律動に対応しようとしている。一突きする度に性感帯が変わる。

 それは、一秒一秒違った快感が発生していると言う事だ。何度も同じ刺激を受ければタカネは順応してしまうだろうが、それすら許されない。高すぎる順応性と学習能力が、タカネを逆に追い詰めている。

 

 体が覚えてきたのか、それとももう精神が変わり始めたのか。

 タカネの反応が、明かに違う。

 

 尻を叩かれた時、催促するように突かれた時、そして新たな命令を受けた時。自らそれらに耽溺し始める。

 犯される事以外に酔っている。屈辱的な命令に従う事に、もう悦びを見出したのか。…タカネが意識してそう務めたのか、それともノヴァ自体にそういう性質があったのか。

 或いは、かなり本気で使っているオカルト版真言立川流が、タカネの意識を都合のいいように変えてきたのか。

 

 何れにせよ、精を受けるという目的も忘れ、今のタカネはただただ肉体的にも精神的にも快楽に酔い耽る。

 そこにノヴァという超ド級アラガミの面影は何一つ無く、ただただ男の手で翻弄される女の姿があるだけだった。

 

 

 いつしか、体を支えていた手も脱力し、地面にへたり込んで、背後からのピストン運動を受ける事しかできなくなっていたタカネ。

 白痴とさえ言える表情で犯され続け、天上の歌を作り出す喉を、喘ぎ声の為だけに使う。

 

 無尽蔵ともいえるタカネの体力を削り取るように、欲望・野生・理性・技術をフル活用して責め立てた。

 いつまでもこうして、タカネの肉を堪能していたかった。やろうと思えば、かつてない回数と量の射精が出来る確信があった。

 

 しかし、これ以上はタカネが保たない。快楽と興奮だけに溺れ、肝心の瞬間を……初めて、俺の精を最奥で受け止める瞬間を記憶できなくなってしまう。

 完全に理性が吹っ飛んでいるタカネを、一時だけでも引っ張り戻そうと尻を叩き…ますます興奮するだけだったので、尻穴を指で抉る。

 流石に驚いて振り返るタカネだが、この分だとちょっと弄るだけで、またしても受け入れてしまうだろう。

 そうなる前に、強く宣言。

 

 

 一番奥に注ぎ込んでやる! 孕めッ!

 

 

「は、はいっ、はいっ! ああっ、嬉しゅうござ、あ、あ、あ、あぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 灼熱の塊が、タカネの中に、俺の根本に生じる。洪水のようなソレは、肉棒を一回り大きくして、肉壺を更に侵食しながら、火山から飛び出すマグマのように吹き上がる。

 それがついに先端に達し、俺はタカネの中で快楽の象徴を思いっきりブチまけた。

 

 吐き出す傍から、タカネの子宮はそれを片っ端から飲み干していく。尿道に残った精をバキュームしようと、絶頂した後まで扱き上げる膣。

 散々小突き回されて、俺に都合のいいように変えられた膣が、その総仕上げとばかりに蠕動する。

 

 暫くそのまま硬直し、二人同時に脱力した。荒い息を吐きながら、タカネに覆いかぶさる俺。

 タカネはと言うと、荒い息と言うよりも、か細い息になっている。それだけ、初めての性行為で追い詰められたのだろう。

 

 手を回して顔を横に向かせ、軽いキスをする。

 流石のタカネも、息も絶え絶えな状態でディープキスはまずいだろう…と思っていたが、そうでもなかった。すぐに離れた唇を追って、タカネの方からキスをしてくる。

 ヌルヌルと舌が絡み合い、俺の肉棒もタカネの膣も、次の快楽を期待して蠢き始める。

 

 

「……あなた様…情けをいただき、ありがとうございます…。もしも満足されてないのであれば、お好きなように私をお使いくださいませ」

 

 

 穏やかにそう言うタカネの目には、新しい命令を受ける事への期待が浮かび上がっていた。

 

 



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382話

 

 

神怒月

 

 

 タカネに『躾け』を施し、お互いしっかり楽しんだあの日から、少しばかり日が経った。今のところ、どこにも危険そうな兆候は表れていない。

 それどころか、ジュリウスの黒蛛病が若干ながらも回復したという朗報があった。

 

 ジュリウスの彼女が治したのであれば、愛の軌跡とでも言えたんだろうが…残念ながら、理由は今のところ不明である。

 それこそ、何か異変が起こっている証拠なのかもしれないが…。

 

 

 そもそも黒蛛病は、新たな特異点候補を探し出そうとする地球の意思の仕業と言われている…正式に認められている説ではないが、少なくともシナリオではそうなっている。

 感染した後、地球の意思とやらにどう干渉を受けるのかは定かではないが…これってどうなんだろうなぁ。

 

 黒蛛病が、理由もなく軽減されるとは思えん。特にジュリウスの奴は。

 ジュリウス以上の素質を持った特異点候補が見つかったか? と思ったが、少なくともユノは違うようだ。このループでは、黒蛛病になんぞ全く感染していない。

 

 となると………?

 

 

 

「ふむ……正直、私にも見当がつかないな」

 

 

 極東きってのマッドチート、榊博士でさえも…ですか。

 

 

「人を何でもお見通しの黒幕や、説明しかしないデウスエクスマキナのように思ってないかい? とは言え、幾つか仮説は立てられるよ。どれも矛盾を含んでいて、そして検証が不可能だけどね」

 

 

 やっぱこの人のオツムはチートやな。

 

 

「ところで、君の力でも、ジュリウス君の黒蛛病は治せないのだったね。………ひょっとしたら、治療法を見つけたかもしれないよ。まぁ、絶対やらないだろうけど」

 

 

 マジですか。その治療法の効果が確かなら、シナリオとか色々前提がひっくり返るんですが!?

 …でも、できないじゃなくて、やらない…ですか。それだけリスクが高いって事ですかね。しかも、ジュリウス自身じゃなくて周囲への。

 

 

「そうだね。理屈はそう大したものじゃないよ。地球の意思が黒蛛病を作り出したのは、終末捕食を行う為の特異点を探し、作り出す為。逆に言えば、終末捕食が起こってしまえば、赤い雨も黒蛛病も何れ消えていくだろう」

 

 

 ……いや、人間に一人の病気を治す為に、星を滅ぼすのはちょっと………って、ああ、成程。

 疑似的に終末捕食を発生させた状態にすりゃいい訳ですな。ゲームシナリオのエンディングでも、ジュリウスが螺旋の樹の中に入って、終末捕食を圧し留める事で……えーっと、なんだっけ…。

 

 

「終末捕食が発生しながらも、地球の文明は滅んでない。かつ、次の終末捕食を発生させる為の特異点も必要ない、という状況だったんだね。要するに、地球の意思を騙してしまった訳さ」

 

 

 なにその詐欺師みたいな言い方…。まぁ、概要は分かりますけど。でも、実際どうやるんですか?

 ゲームシナリオと同じ手段を使おうと思ったら、結局終末捕食を発生させなきゃならん上、誰かがそこに留まらなきゃならんのですが。

 

 

「そこら辺はあまり考えてないなぁ。思い付きを口に出しただけだもの。ただ、ジュリウス君の治療の方向性としては大いに有効だと思うよ」

 

 

 疑似的にせよ終末捕食を起こすなんて、おっそろしい事ジュリウスが承諾する筈ないよ…。それやるくらいなら自分で死ぬよ、多分。(童貞を捨てたいだけの一生だった、とか思いながら)

 つっても、アイツ自分が特異点候補だって事知ってんのかね?

 

 

「ラケル博士が何をどこまで説明したかによるなぁ。終末捕食関係の資料は機密事項が多いし、それ以上にヨタ話も多い。何より多いのは、不明点だけど」

 

 

 そんなもんをよく利用しようとしたもんですな、ラケルてんてーも支部長も。

 

 

「ヨハンは利用しようとしたんじゃなくて、不可避の災害だから対策しようとしただけだよ。ともあれ、ジュリウス君の病状が良くなったのはいい事だ。とりあえず、今はそれだけ考えておこうじゃないか」

 

 

 ……そうかな。

 

 

「そうだよ。……まぁ、君が言うシナリオのように、二度と終末捕食が起こらないように食い止める事ができたとして、将来どうなるのか分からない。火山の口を塞いだようなものさ。圧し留めた終末捕食が、別の形で噴き出す可能性は否定できないからね」

 

 

 ふーむ…確かに、終末捕食自体は、過去に何度も繰り返された生命のリサイクルシステムみたいなものらしいからな…。ある意味では、浄化システムをぶっ壊してしまったようなものか。

 どんな影響が出るのか分からんな。だからと言って、大人しくリサイクルされる訳にもいかんから、結局やる事は変わらないんだけど。

 

 

 

 

 

 さて、色々と妙な理屈を捏ね回しているが、それもいい加減飽きた。

 と言うより、俺にはやるべき事があった。女遊びしてる暇があったら、ちょっとでもいいから将来に備えろ、という話である。……いや女遊びは辞めないけども。

 どんな形であれ、直近にとてつもなく危険な何かが起こると予感しているのだ。備えないのは無能か怠惰である。

 

 

 では、一体どのような事から備えていくべきか。

 とりあえず、戦闘に必要になりそうな物は片っ端から備え、 ふくろ の中に放り込んだ。

 回復錠は勿論のこと、保存のききそうな食料、ホールドトラップやパワーアップ系アイテム、スキルインストール用のスキル因子各種。

 

 神機は既に、強化できるところまでは強化している。他の世界の素材を使って更なる強化も考えているのだが、残念ながらその時間が無い。

 バレットエディットでは何種類もの弾を作り上げたが、状況にマッチしてくれるかは博打である。

 

 他にも色々と……あまり考えたい事ではないが、死んでしまった場合の準備も密かに整えた。

 次回ループは討鬼伝世界に持ち越せるアイテムだけでなく、後に残された女達が路頭に迷わないよう、そして欲求不満を解消できるよう、色々教え込んだり。…遺書を書く時は、おかしな気分だったなぁ…。

 もしもこの事を知られたら、「遺書書いてる暇があったら、生き残る為に少しでもできる事をやれ」ってアリサに蹴っ飛ばされただろう。

 

 

 という訳で、最後の準備にかかります。

 

 

 何をするかって? そりゃアレですよ、ヤリ貯めですよ。

 

 

 

 別に、心残りを無くそうとか、討鬼伝世界に行ったら暫くヤれそうにないからとか、まだまだ喰えそうなアイドルが居るから手を出そうとか、そーいう事を考えているのではない。

 オカルト版真言立川流の本来の使い方をしているだけだ。

 

 互いの快楽とエネルギーを循環させ、増幅させ、生命エネルギーとして取り込む。それがオカルト版真言立川流の本質である。

 これによって、個人では得られないくらいの強いエネルギーを体に宿すことができる。一種のドーピングである。

 俺くらいに熟練すれば(と言っても、比較対象が居ないので、術としての練度がイマイチ分からないが)、延々とエネルギーを蓄え続ける事だってできる。外付け電池を作るようなもんだ。

 耐え切れないダメージを回復させたい時、オラクルを急速に回復させたい時、或いは一時的にスペックを水増ししたい時、この外付け電池を消費してそれらを叶える事ができる。

 

 最近じゃ、極東のアラガミを相手しても、ウォーミングアップにもならなくなってきたからなー。

 スキルアップの方法が、これくらいしかないんだ。MH世界のフロンティア並の相手でも出てきてくれれば、そっちと戦ってカンを取り戻せるんだが。

 

 

 という訳で、俺が酒池肉林やってるのは、今後のトラブルに備える為であって、私利私欲ではないのです。

 

 オタノシミが始まるまでのウォーミングアップとして、レアとミカのWフェラしてたところにレヴィが入って来たのも、不可抗力なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな理屈が通ると思うかァッ!」

 

「ですよねー。でも本気で言ってるんだからタチが悪い」

 

「私はイマイチ実感してないけど、パワーアップするのは事実らしいよ」

 

 

 うんうんと頷くアリサとミカの横で、いつになく声を荒げているのはレヴィである。褐色の顔を一目見て分かるくらいに赤く染め、神機まで持ち出してくるくらいに怒っている。

 まぁ、無茶苦茶な理屈言ってる自覚はあるし、無理もないんだが。

 

 

「いいか、お前達だけが…その、恋人の振る舞いをする事には何も言わん! レア博士と二股をかけているのも、本人が納得しているのだから何も言わない! が、他の子達はどういう事だ!」

 

「他の子って言うと……シエルとかナナとか?」

 

「そっちまでか!? 私が言ってるのは……その、私と一緒に血の力の訓練をしている彼女達だ! スキャンダルにでもなったら、どれだけ大騒ぎになると思ってる! 君もだ! 自分の扱いに、文句の一つもないのか!」

 

「アタシは別に。承知の上でこうなったんだしー、そもそも一人じゃ体保たないしー。…リンに先を越されてたのは、ちょっとショックだったけど」

 

 

 アイドル、と言わなかったのは、誰かに聞きつけられる危険を考慮してだろうか?

 というか、シエルとナナについては気づいてなかったのか。

 

 

「そもそも、アリサとレア博士については納得しておいて、何で私達はダメなの?」

 

「限度の問題だ…。何なんだ、候補生の半分以上と肉体関係があるって…。何がどうなったらそうなるんだ…」

 

「男女のはざまには、人々の哲学では思いもよらない事があるものです」

 

「…………」

 

 

 悪びれもしない俺とアリサに、とうとうレヴィは頭を抱えてしまった。

 実際、どうしろと言うのだ? 別れ話云々になれば、それこそスキャンダルどころか刃傷沙汰が起きてもおかしくないぞ。俺は刺されてもまず死なないけど、他の面々がなぁ…。

 

 

「じゃあ、いっその事皆の気が済むまで刺されますか? 私とママは監禁しますけど」

 

「それ、アタシも乗った! あ、でも刺すよりアレを刺された方が…」

 

「駄目だ…完全に色ボケている…」

 

 

 レヴィは膝から崩れ落ちた。何やらブツブツ言っている。元ブラッド隊の状況に、相当お嘆きらしい。

 まー、ジュリウスでさえ「童貞のまま死ねるか」なんて言って、卒業の為に頑張ってる状態だしな。元ブラッド隊でマトモなのは、ギルくらいである。そのギルも、ハルさんことムーブメント師匠に付き合わされて、段々染まってきているとか。…まぁ、本当に付き合わされてるだけなのか、本気で何かに染まりつつあるのかは微妙なところだけど。

 ロミオに至っては……もう何も言うまい。何がとは言わないが、熟練の領域に近付きつつあるらしい、とだけ。

 

 

「…い、いかん…このままではいかん! 近い内に、不祥事どころじゃないナニカが発覚するのが目に見えている! 今からでも、貴様らの生活態度を矯正するぞ!」

 

「嬌声だなんて…ナニをする気なんですか?」

 

「そっちじゃない!」

 

「矯正って言われても…何する気? 言っとくけど、下手な事するとあっちこっちから総スカン喰らうよ。陰湿な事に参加するつもりはないけど、女の集団を敵に回すと、面倒くさいってレベルじゃない」

 

「面倒だから、報復が恐ろしいから、無駄になりそうだから、やるべき事をやらない…というのは通らない。言い訳どころか、戯言ですらない。やらなければならないのなら、死力を尽くすのが義務というものだ」

 

 

 おお、カタブツ……と言うより、これはだらしない弟や妹を叱りつけるお姉ちゃんパワーだろうか?

 何か、変なモノ目覚めさせてしまった気がするな。

 

 で、具体的にはどうするつもりだ?

 

 

「秘密だ。先に教えたら、絶対に裏を掻こうとするか、出し抜こうとするのが目に見えている。その戯けた生活態度、絶対に改めさせるからな!」

 

 

 …それだけ言い捨てて、レヴィは部屋の外へ出て行った。

 うーむ、本気で怒らせてしまったか?

 

 

「怒ってるだけとも違う気がするけど……どうする? 何をする気なのかは分からないけど、絶対本気だよ、アレ」

 

「これまでの言動からして、フェンリルやアイドルの方々に直接的な被害が出るような事は行わないと思いますが…そもそも、何処で気付かれたんでしょうか」

 

 

 いつ何処で気付かれてもおかしくないけどな。暇さえあれば、レッスン中だって一目を盗んでエロエロしてたし。

 まーレヴィが怒るのも無理はないわな。今までやってきた事の一端でも漏れれば、ラケルてんてーの悪事発覚以来の大醜聞になりかねんし。

 

 とは言え、改める気は全くないけど。

 

 

「ホント、それですね」

 

「今更改められても、アタシ達も困るって。『スッキリ』しないと、ちゃんと眠れない体にされちゃったしねぇ」

 

 

 レヴィが部屋から去ったのをいい事に、早速股間へ手を伸ばしてくる二人。サワサワと愛撫されて、すぐに元気になってきた。

 俺だって、中途半端なところで止められて、性欲を持て余してるんだよ。…いつもの事か。

 

 

 そんじゃ、何か面倒な事を起こされるのもなんだし、レヴィもコッチに引き摺り込んでしまうとしましょーか。

 具体的な悪企みは……。

 

 

「ふんふん…ああ、そういうやり方…」

 

「大勢で一人を貶める事になりますね。どう見ても陰湿なイジメですが……どうしよう、仲間を増やす為だと思うと愉しくなってきました。MH世界で、ミーシャさんて人がハマッてたのが分かる気がします」

 

 

 悪役令嬢をホーフツとさせる笑みの二人。という事は、俺は黒幕だな。

 うむ……実にゲスい感想だが、イジメが無くならない理由がよく分かる。多人数で一人を狙う。足を引っ張る。貶める。それを企む。 ……楽しいと思ってしまう。

 所詮は…という程、普段の外面は取り繕えていないか。

 

 結局、俺は下種である。

 

 

 

 それはそれとして、今後に備えてのパワーアップの為、乱交を始めた。

 

 



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383話

書き溜め無し、難産が予想される為、次の投稿が大幅に遅れるかもしれません。
いっそ、暫く筆を置いて世界樹のゲフゲフン、もとい頭を整理するか、エロゲ脳の方に集中してみようかな、と考えています。


神怒月

 

 

 レヴィはどうやら、正攻法を選んだようだった。こんな事に正攻法もクソもあるかと言われればそれまでだが、お偉いさんへの告げ口とか、醜聞をばら撒くとか、そう言った事はしないようだ。

 恐らく、俺も含めた関係者への、今後のダメージを慮っての事だろう。やるべき事をしなければ…なんて言っておきながら、お人好しな事だ。

 

 ではどうしたかと言うと、『関係者』への直談判だ。俺と肉体関係になっている者、或いは喰われそうになっている者を調査して特定し、『このままだとこのような危険がある、周囲を巻き込んで破滅する』と説得しようとしているようだ。

 邪魔をする、という意味では結構な効果があった。これからオタノシミだ、という所にやってきて、ああだこうだとデメリットを色々語り掛けてくるのだから、気分が削がれる。

 普通であれば、説教くさいお邪魔虫として嫌われてしまいかねない。

 

 

 加えて、リヴィ自身が饒舌なタチではない。色々語られても、何を言いたいのか伝わらなかったり、承知の上のデメリットを延々と繰り返したり。率直に言えば、空回りしている。

 これでロミオ辺りに協力を頼めば、潤滑油ができて多少は効果が期待できたかもしれないが…事がシモの話だけに、男性に協力を頼むのも憚られたらしい。

 

 

 で、その空回りしているレヴィが嫌われているのかと言うと………そうでもなかった。

 むしろ、彼女はいい『カモ』でしかなかった。

 

 何のって?

 

 

 

 猥談とノロケと自慢の。

 

 

 

 リヴィがお邪魔虫になってくるなら、その邪魔を邪魔してしまえ、というだけの話。事前に『関係者』に通達しておいた為、(リヴィにとっては災難な事に)話は非常にスムーズに進んだ。

 リスクを訴える者も居たが、その辺は承知の上での方針だ。

 ちなみに、リスクに対するリターンはと言うと、免疫の無いリヴィに思う存分自分の経験を語れる事。俺の周囲に居る女達は、大なり小なり経験持ってるからなぁ。完全に初心者相手にあれこれ語るのは楽しいんだろう。

 最近じゃ、アブノーマルな性癖に目覚め、それを満たし合う事もやってるからな…。どんどん深みに嵌っていく。

 

 

 ちなみに当のリヴィはと言うと、フラフラな状態で壁に寄りかかっていたり、食堂の隅っこで項垂れてムツミちゃんに心配されている所を目撃されている。

 思っていた以上の爛れように精神的ダメージを喰らったんだろう…と思っていたら。

 

 別の方向にダメージが入ってしまったらしい。いや、幼い女の子から語られる、エゲつない性行為にダメージを受けた事も非常に大きいと思うが。具体的に言うと、アリスのドS女王様っぷりとか。ギグボール付けて四つん這いにさせて、その上に乗ってムチでピシピシとかどっから覚えてきたんだ…。そのドS女王様も、俺の前では可愛い愛奴だけども。

 

 

 …具体的な内容は置いといて、リヴィはアレだ、自分の灰色の人生に嫌気がさしてしまったようだ。

 『こんな子供でさえ彼氏作ってるのに、私ときたら』…って事だ。彼氏と表現するべきか、微妙なところだが。

 

 ま、黄昏たくなる気持ちも分かる。小耳に挟んだだけでも、かなり悲惨な人生だもの。

 幼い頃はラケルてんてーのお気に入りだったけど、その立場をジュリウスに取られて孤立。心を開ける友人はロミオだけ。

 ラケルてんてーに色々体を弄られた挙句、ロミオとは分かれる事になり、そこから先は任務漬け。しかも特異な体の為、使い潰されていたようだ。……何せ、『介錯』任務だもんな…。通常任務よりも危険だし、後味も悪いし、いつか自分を殺すかもしれない相手だと思うと、他のゴッドイーターから距離を置かれるのも無理はない。

 今でこそ、信頼できる隊長(今は一時的にフライア所属になってるが)に引き取られ、部隊内でもそれなりに溶け込めている(本人談)が、それまでは相当にキツい環境にあったらしい。

 しかも、その信頼できる隊長の元でも、唯一の友人であるロミオに連絡する事はできない。

 ようやく再会してみれば、塔のロミオはリア充街道まっしぐら。ゴッドイーターとしての実力もつき、周囲に評価され、友人に囲まれて、お似合いの彼女まで作っている。…色んな意味でお似合いなのだが、それはまだリヴィは知らない。

 

 ロミオだけではない。血の力の訓練でよく会う少女達は、キラッキラのふわっふわで、ついでにおっぱい大きい子も沢山居て、リヴィの中の辛うじて残っている女としての劣等感が、ガンガン刺激される。

 しかも半分以上経験済み。あまつさえ、リヴィとしては理解できない、常識とはかけ離れた『女性としての幸せ』を語る。語りまくる。リヴィがもう勘弁してくれとダイレクトに口にしてもマシンガントーク一択。

 そりゃ色々と精神力とか常識が削れ、鋼の精神も柔らかくなるってものである。

 

 …仕組んでおいてなんだけど、ちょっと悪辣過ぎたか…? それとも、単にリヴィのウィークポイントに直撃してしまっただけか?

 やっぱり、ロミオが彼女作ってたという事が、リヴィの精神に地味にダメージを与えていたんだろうか。落ち込み方からして、ありそうな話だ。

 

 

 

 ちゅーか、まず最初に説得に向かった相手が最悪だったと思う。

 サキュバス系代表者を、どうしてピンポイントで狙うのか。確かに、見た目だけで言えば話を聞いてくれそうではあるけども。

 具体的には、ミナミ、リカ、アリス、フミカ。他にも色々居たけど、エロ語りで言えばヤバイの筆頭はこの連中である。

 むしろ、リヴィのそういう脆さ、弱点を看破してわざとダメージを与えるように語った可能性すらある。勿論、その後、リヴィが俺の手に落ちてくるのを期待しているんだろう。我ながら厄介な連中を解放してしまったと思う。

 

 

 自分の灰色の青春に涙しているリヴィ。…ワンカップ酒が似合いそうだ。

 そして、そんなリヴィに追い打ちをかけに行くナナ。何時の間にそんな容赦のない子になったんだ。…間違いなく俺のせいだけど。

 

 と言っても、ナナがリヴィに言ったのは、惚気ではない。『極東に居る今が、最大のチャンスだよ』だった。

 これを救いと見るか、悪魔の囁きと見るかは微妙な所だと思う。

 

 実際、リヴィが青春するチャンスは今しか無い。ここでの任務が終われば、また元の……特殊任務部隊に戻るだろう。そうなれば、今までと同じように各地を転戦し、ゴッドイーターとの接触を制限され、青春どころか友人を作る事さえ難しい。

 であれば、期間が短くても、この極東に居られる間に思い出を作るしかない。『私達も手伝うから』と言うナナが、こっそり舌なめずりしていた。こいつもいい塩梅に色狂いになったものだ。

 

 

 

 という訳で、極東を案内する事になりました。今の極東って、下手な観光地よりも見所が多いからね。リヴィも、緑に包まれた極東を初めて見た時は唖然としていたし。

 連れて行く場所の候補としては、リンの実家の花屋、銭湯、カラオケ、アイドルブームに影響された素人集団の無許可ライブなど比較的マトモな所から、アラガミの『散髪』を行う一般人、GKNG本部、極東住民のアグレッシブってレベルじゃない行動のアレコレなど、若干イカれている見どころまで色々だ。

 

 大丈夫かな、なんて思っていたが、リヴィは色々逞しかった。誰かと連れ合って街を歩くという経験も無かったらしく、それだけでも新鮮な体験らしい。ナナの積極的なスキンシップに戸惑っていたが、悪い気分ではないようだった。

 …ただ、ロミオを連れてきたのは失敗だったか? しかも彼女さん付き。

 何かとロミオがリヴィの世話を焼いている。別に下心あっての事じゃない。元々、こいつはこういう世話焼き気質だ。

 彼女さんの方も、ロミオに妬いている気配はない。ロミオの性格も分かっているし、自分こそが不動のパートナーだと自負しているようだ。…若さの割に腹括ってるな…。こりゃ、既に外堀埋めにかかってるぞ…。

 

 

 で、あちこち歩き回ってみた訳ですが……何と言うか、俺って意外と顔が知られていたらしい。と言うより、俺を知ってる人があちこちの関係者だったと言うべきか。

 仮にも、極東の一大グループであるGKNGの開祖様だ。そしてGKNGは、極東の全域に関係者が居る。GKNGの構成員は元より、彼らから農作物の恩恵を受けている人とかね。

 更に、アイドル候補生達の関係者も何気に多い。彼女達にもそれぞれ生家があって、そこから話が拡散していったらしい。…スキャンダルの元が拡散してない事を祈る。

 

 

 

 

神怒月

 

 

 リヴィの思い出作り大作戦パート2。と言っても、今日は街を歩くのではなくて、サバイバルミッションだ。流石に毎日毎日遊んでばかり、なんて事はできないからな。

 任務の性質上、誰かと組んで戦う事も無かっただろう…。

 と思っていたが、流石にそれは経験があったようだ。

 

 尤も、彼女が好意的に受け入れられた事は、殆ど無かったようだが。まぁ、介錯任務があって、そこに他のゴッドイーターが居るって事は、介錯の相手は大抵そいつらの顔見知り、或いは関係者だったゴッドイーターだ。それしかないとは言え、処刑人を諸手を上げて歓迎できる人は居ない。

 

 一緒に任務に出た(と言っても、俺は正式なゴッドイーターではないので、非公認でこっそり出撃しただけだが)のだが、流石の腕前。極東でもここまでやれるヤツはそうそう居ないぞ。

 流石に、モンスター型・鬼型アラガミには手古摺ったようだが、一度行動と性質を把握してしまえば、後は早かった。

 

 

 ……一番手古摺ったのが、ミッションフィールドに入って来た一般人の保護だと言うのは如何なものか。自称アラガミの研究者であるこの一般人、アラガミを少しでも近くで観察したい一心で狩場に侵入してきたのだ。……動機としては、まだ軽い方だな。

 保護された後、榊博士が引っ張っていったようだが……洗脳するつもりかな?

 

 

  

 4連戦の後、テントの中でリヴィはコーヒーを啜っていた。…ナナ、おでんパンが美味いのは認めるが、流石にコーヒーには合わないと思うぞ。

 

 同行しているメンバーは、それぞれカードゲームで一喜一憂したり、何やらデータを纏めたり、神機を弄っていたりと好きなように動いている。もうちょっとリヴィに構ってやれと思わなくもないが、当のリヴィが上の空と言うか、何やら物思いに耽っているので、邪魔をしないように気を使った結果のようだ。

 俺は俺で、シエルにこっそりセクハラして(悦ばれるからハラスメントではないけど)遊びながら、何とはなしに空を見上げていた。

 

 別に大した理由があった訳じゃない。月を見て、「俺ってあそこに居たんだなー」「今更だけど、シオのポジションを奪った事に各方面からお叱りをうけないだろうか」なんて事を考えていた。

 

 

 月がとっても綺麗だね………………? 気のせいかな、なんかつきに違和感があるような。元々、今日は月が赤く見える気候だから、それが違和感っちゃ違和感かもしれないが。

 そもそも、月自体の色が変わっちゃってるからな。ノヴァの体によって月が緑化し、地球からも大分緑に見えるようになっていた。実際、初めて目にした時は驚いたもんだっけ…。

 

 うーむ…………考えても分からんな。仮に本当に月で何かが起こってるなら、こんなトコから肉眼で視認できる訳もない。

 月にあるモノと言ったらノヴァの体…タカネの本体だが。

 

 

 

 

 あれ、タカネが『誰か別人の怒りを感じる』って言ってた原因、コレじゃね? 月に残した体に、何か異変が起こってるって事じゃね? 

 でも、そうだとしても一体何が起こっているのか…。

 月には俺とタカネ以外、誰も居なかった。当時の俺はタカネの存在すら認識できてなかったくらいだ。

 誰かがロケットで月まで行った? ノヴァの何処かに植え込まれていたアラガミの卵的な物が孵って、ノヴァの体を乗っ取ろうとした?

 

 …どっちの推論も厳しいな。このご時世に月まで行けるロケット…レアとアリサが所属していた集団が作っていたようだが、あれはまだ未完成だ。仮に完成して飛ばせたとしても、確実にフェンリルに気付かれるだろう。

 後者は…どんなアラガミなのか分からないが、相手はノヴァだぞ? どんなに長く見積もっても、産まれて数か月程度のアラガミが、そう簡単に乗っ取れるようなもんじゃない。仮に、そういう専用の力を持った感応種だとしても、だ。

 

 

 

 …なんか気になるな。レアに通信送って、一度調べてもらおうか。

 

 

 ん? ミッションの続き? はいはい、今行きますよっと。

 

 

 

 

 この後、マラソンしまくるトコヨノキミモドキを延々と追い回した。

 

 

 

 

 

 で、サバイバルミッションは無事終了。トコヨノキミモドキが逃げ惑うからちょいと時間はかかったが、それだけだ。マラソンを止める手段か、遠距離攻撃が出来ればそう面倒な相手ではない。本家とはパワーもスピードも大分落ちてたし。

  帰る途中、気になって何度も月を見上げていたら、リヴィが首を傾げて問いかけてきた。いや、なーんか月に違和感があってさ。

 

 

「月に違和感と言われてもな…。私には、少し赤く見えるだけで、いつもの月に見えるが」

 

 

 だよなぁ。月が赤く見えるのは地震の前触れっていうが、それは照明された事じゃないし、単純に気候の問題の筈…。

 

 

「…思えば、こうして月を見上げるのもどれだけぶりか…。ああ、今夜はこんなにも、月が綺麗だな…」

 

 

 …死んでもいいわと返すべきか、これがものを殺すと言う事だとでも言うべきか。どっちも知らんか。

 というか、リヴィ…下心とか計算抜きで言うけど、お前もう極東支部に来たら?

 

 

「何を突然…。どういうつもりだ」

 

 

 別に大した考えがあって言ってる訳じゃないんだが。別に、介錯任務にこだわりがあるんじゃないだろ。

 誰かがやらなきゃならない任務ではあるが、リヴィはそれをやりやすい体質持ってるってだけで、それしかやっちゃいけない訳じゃないだろう。

 転属願いとか出せば、普通に移ってこれるんじゃないか?

 実際、ラケルてんてーの企ての事を話した時は、割とあっさり受理されたし。

 

 

「それは…そうだが。フェルドマン隊長も、すぐにではないが認めてくれると思う」

 

 

 変にウダウダ考えたり拘ったりせずに、こっち来ればいいじゃないのよ。お前が介錯任務で、色々と精神的に貯めこんでるのは一目瞭然だぞ。

 多分、リヴィが所属してる部隊の連中だって気付いている。結構気に病まれてるんじゃないか? まぁ、リヴィが部隊の中で悪い意味で孤立してりゃ話は別だが。

 

 

「い、いや、それはない…と思う。確かに直接的な接触は少ないが、嫌われてはいない筈…」

 

 

 むしろ信仰の領域で信頼されたりしてな。…冗談はともかく、こっちに本移籍するのが難しくても、一時の休暇ならいいんじゃねーの?

 日頃から心身ともにキツい仕事してんだから、リフレッシュしないと本気で潰れるぞ。

 こう言っちゃなんだが、お前みたいなタイプは特に。最後の最後まで精神力一つで弱音を捻じ伏せてやり遂げかねないが、一つ折れれば…。

 

 

「自覚はしている。私は決して強くはない。ただ、目の前にある道を進む事を辞められないだけだ。……というか、今更お前に隠せる気がしないので素直に言うが、ロミオが伴侶を作っていた事で折れかけた。当時はあまり自覚が無かったが」

 

 

 あー、やっぱりそっち系の慕情だったか…。

 まぁ、ロミオにも会いやすくなる…というのは傷口に塩を塗り込むよーなもんかな。

 

 

「ふっ、気にする程でもないさ。……だが、やはり駄目だな。私はあの部隊を離れる事を望んでいない」

 

 

 なんと。…いいのか?

 

 

「ああ。フェルドマン隊長にも、色々と世話を焼いてもらった。忠誠心なんてものじゃないが、恩を返すまではあそこで続けるよ。今、極東に居るのは例外のようなものだ。……ただ、休暇でこちらに来ると言うのはいいアイデアかもしれないな」

 

 

 ゴッドイーター的に見れば、休暇が極東ってどんだけワーカーホリックなんだって話だけどな。

 というかアレだ、誘っておいてなんだけど、極東に休暇に行くんじゃなくて、友人に会いに行くとかその辺の話にしとけよ。ガチで自殺願望だと思われるから。

 

 

「…ここ数日のアラガミ達を見て居れば、それも納得だな…。下手な介錯よりも厳しかったぞ、精神的にも…。…………まぁ、なんだ、貴様のような色情狂はともかくとして、ロミオやナナ達に会えるのは嬉しいよ。…絶対に更生させるがな!」

 

 

 …それって、一生付き纏うぞって愛の告白でおk?

 

 

 

 

 いや流石にそれはデスワープすっから。首を足蹴にして鎌の刃に押し付けようとするのはヤメロって。

 

 

 

 

神怒月

 

 

 月に異変あり。知っての通り、この世界の月はノヴァの体が表面を覆った事により、緑色を帯びている。地上からでも分かるくらいだし、天体望遠鏡でも使えばはっきりと木々が観測できるくらいだ。

 だが、それがいつの頃からか変わっていた。一部が赤く染まり始めたのだ。

 流石に、空の月を肉眼で見て分かる程ではないようだが……月を見上げた時の違和感は、これによる物だったのだろうか?

 

 調べたレアによると、俺が気付く前に一部の学者がこれを発見しており、原因を探ろうとしていたらしい。

 ……さっさと発表しろよ、原因調査より前に。 …え? 発表したけどスルーされたらしい?

 

 …それはそれでおかしいな。少なくとも、あそこにあるのがノヴァの体だと知ってる面々にとっては、スルー出来るような問題じゃなかろうに。

 

 

 不可解な点は色々あるが、赤く染まる現象の原因は単純だ。ノヴァの体の木々が、紅葉しているのだ。

 その原因は?と言われると首を傾げざるを得ない。

 そもそも、普通に木に見えても、あれらはノヴァの体の一部に等しい。真っ当な植物ではないのだ。

 月という、地球とはまるで違った環境で平然と育ち、雨も降らないのに水分がなくなる事もない、よく出来た模型と言ってもいいくらいだった。

 

 それが赤く染まる…。何故? 何の為に? どういう理屈で?

 少なくとも、月で1年以上暮らしていたが、紅葉した事もなかったし、枯れる木を見た事すらなかった。

 

 …以前と違う事は、何だ? 考えるまでもない。ノヴァの体に、意思が宿っていない。人の形をした入れ物に入り込み、ノヴァの体を捨てて地球にやってきている。

 うーん……それで色が変わるものか? 意思が宿ってない=死んでいる、或いは生体活動を行っていないと言う事であれば、徐々に衰えて朽ちていくのも納得はできる。

 

 しかし、それで紅葉…? もっと隠された原因がある気がする。

 タカネがあの夜に言っていた、「何かの怒りを感じる」という言葉。もしも月の体の異変と関わり合いがあるなら……多分、この現象とも無関係ではない。

 

 

 タカネに月の表面を撮影した画像を見せて、心当たりがあるかと聞いてみたが、首を横に振った。ノヴァの体とそこから育った植物木々達に、このような機能は無いそうだ。

 という事は、やはりノヴァの体が変質したか、或いはもっと別の理由で赤くなったのか…。

 また、例の怒りについても聞いてみたが、流石に写真だけでは推測もできないそうだ。月を見上げても、何も分からない。

 

 

 

 …と、ここまで考察しておいてなんだけど、一番厄介なのは、遠すぎて調べる事すらロクにできないって事だよ。

 流石に月は遠すぎる。俺でも生身で大気圏脱出は無理だ。突入は何とかなったけど。と言うか、下手に脱出しても、正しいルートに乗れなかったらそのまま宇宙の迷子だよな。

 サンプルを取る事すら難しいとは…。

 

 

 何にせよ、次に何かが起こるとすれば、それは月から始まるのだろう。

 距離が離れているのは、幸いなのか不幸なのか。あそこで何かが起きたとして、その影響が地球にやってくるまでに、どれだけ時間があるか。その間に、正体を見抜いて対策を打てればいいんだけどな…。

 

 

 

 

 

 

 話は変わるが、リヴィに元の隊へ復帰しろと要請が来た。

 極東所属はあくまで一時的なもので、ラケルてんてーの陰謀を食い止める為のものだったからな。ラケルてんてーが死んだ(陰謀が潰えたとは言ってない)以上、いつまでも極東に居られる理由はない。

 

 ロミオはひどく残念がっていたし、ナナに至っては何とかして引き留めようとダダを捏ねていたが、リヴィ自身に宥められていた。

 俺も、改めて極東に来ないかと持ち掛けてみたのだが、リヴィの意思は固かった。

 

 介錯任務を好んで行っている筈もないが、それを圧して隊に戻り、やらなければならない事があるのだそうだ。後は……多分、部隊の人達への義理立て、かな。

 

 何にせよ、リヴィは近い内に極東から去る。それでもここの暮らしは、色々と影響を与えたらしい。

 休暇を貰って、また遊びに来ると言っていた。…最初に会った時は、必殺仕事人みたいだったリヴィにそこまで言わせたんだから上出来だろう。

 

 

 出発までの数日は、思い出作りと土産選びに使うつもりらしい。

 極東土産か…。土産話だったら山ほど出来たけどな。イヤな感じの奴が。リヴィがゲンナリするレベルの奴が。極東市民、何で平然と何人も何度も狩場に入ってくるんだよ…。

 病気のお母さんの為にお花を摘みたかったとか、リアルでやられても怒りしか沸かぬ。しかもむくつけきオッサンだったし。尚、仕事にありつけない人でもあった。雇ってもらえないのは、そーゆートコだと思うぞ、そーゆートコ。

 

 

 ともあれ、最近のリヴィは、俺と一緒にいる事が多い。色恋沙汰の問題ではなく、単純にそっちの方が行動しやすいからだろう。

 リヴィの元の隊の事も多少は知っているし、ゴッドイーターとしての実力も格上(自分で言うのもなんだけど)。何よりも、俺の生活態度や女性関係を改善させるなら、俺の近くに居た方がやりやすい。

 …もう説得に行って色ボケノロケに返り討ち、というパターンはコリゴリのようだ。

 

 まぁ、リヴィの目を盗んで遊んでる訳ですが。こーゆーのが上手くなったなぁ、俺も…。リヴィの目の前でシエルに痴漢プレイしても気付かれないんだから。

 それよりも、なんかリヴィの目付きが変わってきているのが気にかかる。

 最初…行動を改めさせる宣言の直後はかなり本気で怒っていた上、絶対に改善させるという気迫が感じられたのだが、今では怒っているだけでなく、明かな好奇心や葛藤があった。

 

 ……ノロケを喰らって興味が沸いたんだろうか? なまじ話を聞いてしまっただけに、否が応でも想像してしまうようになったんだろうか。

 

 

 ふーむ…そういう相手を口説き落としたり、心のスキマに入りこんでネンゴロになるのが俺の鉄板だが…むぅ、出発までに間に合うかな…。

 

 

 

 

 

 

神怒月

 

 リヴィが極東から去っていった。寂しいが、お互い得る物があったのが幸いか。

 ロミオとも旧交を温められたし、ナナを初めとした新しい友人もできた。自分の灰色の人生に気付いてかなり落ち込んでいたが、それも吹っ切れたようだ。

 ロミオへの淡い想いも、思い出にできたようだ。

 

 

 

 

 去り際に、俺の頬にキスしてくれる程度にはね。

 

 

 

 「色々世話になったな。大した事はできないが、これは礼だ」って。

 …確かに、頬にキスくらいなら、今の俺にとっては大した事ではないが、それでも嬉しいものは嬉しい。何より、リヴィにしてみればアラガミの大群に一人で挑む以上の度胸を振り絞った行為だろう。

 それが嬉しくない筈がない、大した事でない筈がない。

 

 …残念ながら、それを告げる前に、照れ隠しをするようにリヴィは走り去ってしまったが。

 うーん、こりゃ本番に持ち込めるまで、あと一歩だったかな。

 というか、女関係や生活態度を改めさせるという話はどうなったんだろう。自分からその一部になりに来ているのですが。

 

 まぁ、こちらとしては拒む理由もありませんし? 「次に会った時を楽しみにしていろ」という去り際の言葉も、今度こそ改善させるという意味にも、続きをヤらせてくれるという意味にも聞こえますし?

 

 どっちにしろ、楽しみが増えたと思って

 

 

 

 

 ん? タカネ? どうした、いつになく慌てて。

 

 

 

 テレビか空を見ろ?

 

 

 

 

 

 

 

     え



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384話

 

 

 

凶星月

 

 

 ですわーぷ………なんつぅか……もう言葉も無いわ…。

 ていうか何だよアレ。ラヴィエンテ以上に理不尽なモノ見る日が来るとは、思ってもみなかったんだけど。

 いや、理不尽というか強引と言うか、アレがデウス・エクス・マキナってヤツか。魔を断つ剣じゃなくて、舞台装置的な意味の。

 どんだけ準備して事前調査してたって、無理だってあんなの。それこそ国家規模…じゃまるで足りないから、地球規模で防衛戦をやってようやくってレベルだ。地球防衛軍連れてこい。ストーム1をグロス単位で連れてこい。

 

 

 いつも通りに状況を整理したいところだが、正直言ってアレを言語化するのは非常に難しい。

 別に外なる神みたいなのが襲い掛かって来た訳じゃない。ある意味、それに近いのかもしれんが…。

 

 

 うん、出来る限り簡潔に表現してみよう。

 

 

 

 

 

 

 空を覆うサイズのミラバルカン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空を覆うサイズのミラバルカン。

 

 

 

 

 繰り返す。

 

 

 空を覆うサイズの。

 

 

 

 グランミラオスでも、ダラ・アマデュラでも、ナバルデウスでも、ラヴィエンテでもなく、ミラバルカン。

 

 

 

 うん、マジで空を覆うサイズなんだ。

 月から出現して、巨大化しながら地球に接近し、太陽がもう一つ増えたんじゃないかと思う程の熱気をばらまいた。これだけで各地の気温が5度くらいあがったっぽい。大混乱だったから、正確な情報が取れた訳じゃないが。

 大気圏の空気がぶっ飛ぶんじゃないかと思うくらいの咆哮で、アラガミの食い残しの建物や大地は崩壊し、海は荒れて津波が押し寄せ、更に全国各地の火山まで大噴火。

 ヤツが飛び去った後には、竜巻と台風と大地震のオンパレード。巨体が動くって、それだけで脅威なんだよなぁ…。

 そこへ狙ったように…いや実際に狙ったんだろうけど、クトゥグアかと思うくらいの火炎弾までブチ込みやがる。あまりの熱量に耐え切れず、燃焼する前に消滅するレベルだった。

 

 そんな未曽有の大災害に、組織立って抵抗しようとしたフェンリルはマジで称えられるべきだと思う。殆どが…いや、事実上全てが無駄な抵抗に終わってしまったとしても、だ。

 一般人、技術者、有力者、何でもいいからとにかく大きな都市から分散して避難させた。食料等の手配が間に合ったかは想像したくないが……仮に間に合っていたとしても同じだったな。アレの前には、一切合切が消し飛んで終わりだ。

 事実、逃げ込んでいた避難所が、火炎…と表現していいのかすら分からない灼熱のブレスで次々に消し飛んで行った。地形を変える程の攻撃の前に、どれだけ地下深くに潜っていたとしても逃げられる筈がなかった。

 

 

 そして、ミラバルカン最大の攻撃であるメテオ…ゲームでは隕石ではなく火山弾という話だったが、これがまたガチでメテオになりやがった。しかもFF7方式のメテオだよ。問答無用にも程があるだろ。

 

 

 

 

 

 それが本家火山弾と同じレベルで降り注ぐんだぞ。ああ、世界の終わりとかアポカリプスとか黙示録ってこーいう事なんだな、って思ったよ。

 あの大質量が地球に降り注ぐ…接近しただけでも引力狂いまくって阿鼻叫喚だっつの。万有引力っつーけど、目に見える形で実感するハメになるとは思わなかったわ。

 あんなモンをどうにかできる奴は、某一撃男くらいだっつの。マジ殴り連発でようやくどうにか…でも直接殴らなきゃいけないから、カバーしきれんかな。

 

 

 フェンリルも突貫で迎撃兵器を用意しようとしたが、流石に無理だった。

 月を穿つような超兵器でも、まだ足りないレベルの隕石の嵐だもの。一つだって準備できない。

 一番有効なやり方が、某和名・最終戦争なアレだ。

 

 君の寝息を聴いているだけで起きていられたよ、目を閉じたくないんだ、か………ああ、閉じたくなんてなかったよ。

 増して、閉じる事さえできなくなったお前達なんて、見たくもない……ああ駄目だ、それでもずっと見ていたい。もう二度と目を開けないとしても。

 

 

 そうまでした作戦でも、壊せたメテオは3つだけ。一つぶっ壊せただけで偉業、二つで奇跡どころか宇宙神話レベルだった。

 3つ目は何と表現すればよかったのか。

 掻き集めた三つの宇宙船で…実は月に居た俺を迎えに来る為の船だったらしい…飛び立ち、一つは隕石への着陸失敗、一つは隕石破壊に成功したものの諸共に消滅、最期の一つは隕石破壊後に別の隕石に飛び立ち、カミカゼかまして諸共に爆破。

 ……だが、集まってくる隕石は三つ程度じゃ済まなかった。幾つかは互いの引力に惹かれ合って、ぶつかったようだけど……結局、地球に落ちてくるのには変わりなかった。

 

 …正直、俺も何処まで正気を保てたか怪しい。降り注ぐ破滅から女達を守る事もできず、隕石に挑んだ中に居ただろう知人達に言葉を送る事もできず。

 たった2日で破滅した世界の中で、あのミラバルカンに向けて叫び続けていただけだった。無論、叫んだところで何も変わりはしなかった。

 

 

 

 

 …誰も彼もが跡形もなく消し飛び、クレーターと荒れ狂う天だけが残る地獄そのものの風景の中、クサレイヅチが立っていたような気がしたが……正直、記憶に残ってない。

 

 

 

 

 

 

 

 そりゃ、あのGE世界で俺を殺そうと思ったら、自分で言うのもなんだけど一筋縄じゃいかないのは分かるよ。アラガミは新たな進化を遂げつつも、俺の相手になる程の力を得るにはまだ遠く。一切合切を飲み込む終末捕食は、その鍵であるジュリウスに一切その気が無く、特異点に至る為の黒蛛病も非常に軽い。

 本来の特異点であるシオに至っては、ソーマの旦那として生活していて、話にすら関わってこなかった。…嫁じゃなくて旦那なのはアレだ、シオは生活力がすっごく低いから…。家事はまだソーマの方が上手いらしい。あのソーマが、まともな家事ができるというのが驚きだがな。

 タカネなんぞ何を言わんや。星の意思や理なんぞ何するものぞとばかりに、人の生活を謳歌していた。メスとして躾けた結果、割と色ボケになってしまったのは公然の秘密だ。

 

 率直に言って、イヅチカナタが正面に出てきたら、問答無用でナマス切りに出来るだけの実力も身に付けていた。千歳を人質にされていたとしても、そこだけ避けて充分に殺れるくらいに。

 ちゅーか、ラヴィエンテが暴れてさえいなければ、MH世界の終りの時に充分仕留められてたな。言い訳にも慰めにもならんが。

 

 

 ちょいと話が逸れたが、世界と言うか何者かの悪意を感じて仕方ないって話だ。

 クサレイヅチを確実に仕留められるだけの力を持ったと思ったら、今度はあっちこっちから理不尽不条理な邪魔が入る。人生ってそういう物だと言われればそれまでだし、或いはイヅチが意識してそういう行動を取っている可能性もあるが…。

 何にせよ、デスワープの切っ掛けが無茶苦茶すぎないかい?

 

 

 ……いや、分かってる。確かに問答無用で出てきた、舞台をぶっ壊す為のデウスエクスマキナにしか見えないが、アレの動く理由は分かってる。

 

 

 

 

 怒りだ。

 

 

 アレはただ、怒りの塊だ。誰の物だったのか、誰と誰を取り込んだ結果なのか、それは分からない。

 

 

 ただ集まった怒りが同調し、凝縮され、膨れ上がって。

 

 

 

 その果て………ではないな。アレはまだ『途中』だ。

 一目見て理解した。アレは俺と同じ物だ。このままだと、いずれ俺もアレの一部と成り果てるだろう。

 さて、何といえばいいものか…。

 

 

 

 

 うん、まずはMH世界のミラについてだ。

 出会った事があるのは、ミラボレアス、ミラルーツ、そして今回のミラバルカン。元は人間であったアレらが、本当にミラ系ドラゴンなのかは分からない。MH世界の何処かに、最初からモンスターとして生まれ育ったミラ系ドラゴンが居て、結果的にその姿に似ただけかもしれないが、その疑問は置いておく。

 おそらく、俺が出会ったミラボレアス・ミラバルカン・ミラルーツは、全て同じように人間から派生している。

 

 ミラボレアスは、ミキ達の父親が、何らかの触媒によって死んだ後も動かされ、憎悪や失意と言った感情で埋め尽くされてモンスターとなった。

 もし、あの場で仕留められず、ミラボレアスとして長く生き延びていれば、僅かに残っていた人間としての記憶と理性と感情を失い、憎悪も消えていき……怒りだけが残る。

 そうなったら、ミラボレアスの体は黒から赤に染まり、ミラバルカンの誕生だ。

 そして、そのミラバルカンは、どういう経緯かは分からないが、あの巨大なミラバルカンに取り込まれる。

 

 更に時間が経って……いや、多分その怒りは消える事はないだろうから、奪われるんだろうな……何らかの理由で、ミラバルカンから怒りが消えた時。

 『漂白』されてしまった時、体は赤から白に変わる。

 絶大な力を持ちながら、怒りという余計な感情を捨て去り、ただ目的を果たす為だけに動き続けるミラルーツに変わる。

 

 

 

 要するにミラボレアスが原石、ミラバルカンはその原石を少し磨いて一つにまとめた物。そしてミラルーツは、それらを濾過して余計なモノを削ぎ落した純粋な結晶だ。

 …いや、ひょっとしたら濾過されて残った不純物の結晶こそが、ミラバルカンなのかもしれない。

 

 

 ……ミラルーツと夢で邂逅した時にもオボロゲに理解していたが…やっぱり、俺と同様にループに巻き込まれ、クサレイヅチを追いかけていた奴らが居るんだろう。

 それらの成れの果てが、ミラボレアス、ミラバルカン、ミラルーツ。

 

 …多分、あの巨大ミラバルカンと、俺が会ったミラルーツが戦えば、後者が勝つと思う。「どうやって?」と言われると言葉に詰まるが、少なくとも風格が違う。

 ミラルーツは泰然としている王者、或いは神、さもなきゃ自然現象そのもの、という印象。ミラバルカンは……感情のままに荒れ狂う獣だ。

 プレイヤースキルが非常に高い貧弱装備キャラと、装備スペックでゴリ押ししてレバガチャ暴れするしかないキャラとで、どっちが怖いかって話である。

 

 

 

 恐らく、あのミラバルカンは、普段から標的…イヅチカナタか、それに類する物を追って、言葉にできない場所を彷徨っているんだろう。

 それがどうやってこの世界に介入してきたのかは分からないが、空になったノヴァの肉体という媒介を見つけ、体を得た。

 

 

 

 

 

 

 …そして、標的であるイヅチカナタが居るであろう地球を薙ぎ払ったと。

 

 

 何と言うかさぁ…確かにクサレイヅチは、今でも俺の傍に居ると思うよ。腹立たしいなんてレベルじゃないが。

 でも、物理的にいるとは限らないじゃん。俺の気配センサーにも全然引っ掛からないんだし、多分どこか別次元と言うか、世界と世界の狭間的な所にいると思うんだよ。

 わざわざ世界の中に入って肉体作って暴れるより、よく分からん情報生命体っぽい状態のままの方が遭遇しやすいと思うのですが。

 

 物理的に薙ぎ払うにしても、せめてクサレイヅチが姿を現してからにしろよ…。そしてクサレイヅチだけ狙えよ。俺だけを巻き込むなら、まぁ色々思う所はあるが、許容範囲と考えておくから。

 あれだけの力があれば、クサレイヅチなんて虫けらみたいにプチッと潰せるだろ。何をハチの巣一つ壊す為に、島を丸ごとコンガリ焼くような真似してやがる。

 

 

 しかも、結局仕留め損なってるし。

 

 

 

 うん、そうなんだクサレイヅチまだ生きてるんだ。あいつも大概しぶといな。千歳諸共焼き殺されるところだったから、今回はナイスと言えなくもないが。

 俺がコンガリ焼かれてデスワープしそうになったのに慌てたのか、それとも炎に炙り出されたのかは定かではないが、周辺一帯…下手すると星そのものが灼熱地獄になった辺りで、あのクソイヅチは姿を現した。予想通り、俺の近くに潜んでいたらしい。

 

 …周囲に何もいなくなってたからな……逆に自由に動けるってのは皮肉だったわ。死んだのを確認した訳じゃないが、あの地獄の中で生き延びてるとも思えん。呼吸するだけで、下手なハンターでも致死級のダメージを追うくらいの熱気だった。この俺でさえ、アラガミ化してなければとっくにデスワープだったろう。

 

 それはともかく、クサレイヅチを見て、俺も半ばヤケになって斬りかかった。ミラバルカンに殺られてたまるか、千歳を奪い返して、クサレイヅチを殺すのは俺だ…ってね。

 既に俺も、意識と記憶が飛ぶほどボロボロになってたから、ロクに動けていなかった。執念に突き動かされてイヅチに斬りかかり、攻撃してきた触手を1本飛ばした事は覚えている。あいつも相当ダメージ負ってたみたいで、触手の動きが引きつりまくっていた上に、火傷だらけだった。

 お互いそんな状態だったから、まぁ泥仕合? 泥なんか速攻で乾燥して蒸発するくらいの炎の中だったけどね。

 

 それでも何とか千歳が収納されている場所を見切って、懐に滑り込んで、「この一撃で確実に殺れる!」って所まで追い込んだんだわ。

 

 

 

 

 

 

 で、そこでふと気が付いた。

 

 

 

 この状況で千歳を救出できたとして、生きてられるのか?

 

 

 

 答えは考えるまでもなくNO。例えミラバルカンがあの瞬間に去ったとしても、焼き尽くされた地球は戻らず、降り注ぐメテオも消えはしない。

 そう気付いて、動きが止まった瞬間、イヅチ諸共に竜巻に吸い上げられ、空から降ってくる炎でデスワープしてしまった。直前に、クサレイヅチの姿が青い燐光と共に消えたから、奴は逃げ去ったようだった。

 

 

 

 

 うーむ…。あのミラバルカンが何だったとか、関係者諸共丸ごと吹き飛ばされた怒りとか色々あるけど、デスワープして何もかもがリセットされてしまった以上、それは後回しでもいいだろう…良くも悪くも。

 

 とりあえず考えなければならないのは、千歳を救出した後の事だ。今回のように、人がとても生きていける状況ではなかったとしたら、助け出しても意味がない。

 クサレイヅチを殺るのに、条件が一つ追加された訳だ。

 

 

 

 

 

 

 …というか、クサレイヅチって俺に付き纏ってたり、因果を奪ってたりするんだよな。千歳はその中に居る訳で…。

 

 

 

 

 

 

 ………まさかとは思うが、俺の所業をほぼ全部見ていた、なんて事は……。

 

 

 

 

 …いや、無いよな。意識が無さそうだったもんな。万一知っていて、助けた後にガチで殺されるとしても、千歳救出とクサレイヅチ抹殺は変わらない。うん、そういう事にしよう。

 

 助けた後に生きて居られる環境かどうか…は、正直その時になってみないと何とも言えない。仮にウタカタの里付近での戦いになったのだとすれば、心配は無用だろう。あそこの異界は、比較的緩いし浅い。

 ミラバルカンは……流石に出てこないよな? 出てくるとしても、ゲーム基準サイズでお願いします。今回のGE世界では、ノヴァの体という極上の媒介があったとは言え、それであそこまで巨大化するんだから……うん、そこらの鬼が媒介になったとしても、とんでもないサイズになりそうではある。

 

 ま、対策、考えるだけ考えてみるか…。サイズがサイズだから、手の打ちようが考えつかないかもしれないけど。

 実際、奴のおかげで身内が何人も死んだのは確かだろうからな……お礼参りはいつかする。絶対。

 

 

 




はい、そういう訳でGE世界編終了です。
思い返すだけで、反省点が山ほど出てくる話になってしまいました。

キャラの設定を間違えるのは序の口、回収しきれなかった伏線、一度だけ抱いて全く出番が無かったキャラ、展開が思いつかずに意味のない会話や雑談での時間稼ぎ、そしてグダグダどころか崩壊しまくったストーリー、特にライブツアー近辺。
お付き合いくださった皆様に、申し訳なくなりました。

シナリオプロットって大事ですね…。
二次創作と一次創作の難易度の違いがよく分かります。二次創作は、基本となるストーリーに沿って話を勧めればいいのですが、一次創作はその基本のストーリーを自分から作らないといけないんですよね。
どうやら時守には、後者のスキルが致命的に欠けているようです。

今度の討鬼伝世界で、一応の完結にするつもりでもあるので、もうちょっと計画を練り直します。
一応、以前に討鬼伝世界の初めだけをちょっとだけ執筆したので、1回分くらいの書き溜めはありますが…投稿が暫く止まるかもしれません。
具体的には、一か月ほどゲームとアニメ見放題にかまけつつ、イベントの順序とネタの順番を整理してみようと思う次第です。
エターにだけはしないつもりですので、どうぞ気長にお付き合いをお願いいたします。





尚、最近アニメ見放題で見たのは、異世界食堂、異世界居酒屋、らきすた、日常、ドラゴンボール等。
……拝み屋横丁、確かドラマであったよな…どっかで見られないかな…。


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討鬼伝世界8~最終章~
385話


どうも、時守です。
一か月間のお休みを(無断で)頂いていましたが、帰ってまいりました。
色々と愚痴りたい事もあったし、嬉しい事もありましたが、先月投稿したエロゲ脳の方が感想0だった事くらいしか覚えてません。ちなみにそっちもチョロチョロ書き続けています。

投稿を中断してから暫く世界樹の迷宮クロスに集中し、グラビティデイズ2をクリアし、ちょっとスッキリしてからプロットを書き始めました。
ザックリとした流れしか書いてませんが、あると無いとではこんなに違うのかと驚きました。
単にデスワープして全部リセットされたから、状況が変わって書きやすくなっただけかもしれませんが。

書き溜めもある程度溜まったので、また当分は4日間隔投稿を続けられそうです。
冗長極まりなくなってしまった物語ですが今度の討鬼伝世界で一区切りとなる予定です。
よろしければ、またお付き合いくださいませ。

尚、以前より感想欄にてキャラ一覧を作ってほしいと要望をいただいておりましたが、後書きに記載していくつもりです。
ひょっとしたら、各世界各ループ毎にキャラ紹介を作るかもしれませんが…かなり遠い話になりそうです。


 さて、色々と思う所はあるものの、とりあえず歩かにゃ仕方ない。何せ、周囲に見えるのは辺り一面の………銀…と言うには少々禍々しい雰囲気があるが、銀世界。雪が降り積もりまくっている。

 ガルムが炎属性なのに喜んで庭駆けまわり、ナルガクルガが「白い風景に黒だと目立つなぁ」なんて考えそうな雪景色なのだ。

 

 つっても、やっぱ鬼がウロウロしとるのぅ…。あ、あれってマホロバの里近くで見たダイバタチじゃね?

 やっぱり異界だなぁ…。瘴気が体に入ってくる感覚が鬱陶しい。

 しかしこの異界、えらく瘴気が濃いな…。いつも通りに毒無効の装備をつけているにも関わらず、少なからぬ量の瘴気が体内に入ってくる。あまり長時間居ると、俺でも危険かもしれない。

 

 

 ま、とにもかくにもタコにもゲソにも、ここで突っ立ってても仕方ない。食える物も少なそうだしな。

 これだけ雪が降ってるって事は、北の方かね…。シラヌイの里でも、こんな感じで雪が降り積もってたもんだが。でも、ウタカタでもマホロバでも、雪の異界はあったしな。

 …ま、抜ければ分かるか。

 

 とりあえずここが北の地近辺だと仮定して、南へ進む事にしよう。

 歩く間にできる事を考えると………この近辺の鬼や自然の観察、地図の作成…は異界の中だからアテにならんか。今回のウタカタの里での行動か。

 一番重要なのは最後の奴だな。

 

 そこに辿り着くまでどのような困難を超えて行かなければいけないかは別として……前回の時は何がどうなったっけ?

 マホロバの里でのイザコザの後、クサレイヅチを追うホロウと、英雄と呼ばれる紅月と、霊山で知り合ったグウェンを連れてウタカタ入り。あと清磨なんてのも居たけど、戦いにはあまり関係なかった。

 人間関係と言うか男女関係についての回想は後回しにするが、概ね……不健全ではあっても、友好的な関係を築けていたと思う。

 

 九葉のオッサンも、何だかんだで協力してくれたが……あれは多分、横浜で共同戦線を張った実績による信用から来ている。今回もそれがあるかは分からない。

 虚海は…まぁ、消極的味方、と考えておこう。ホロウを連れて行けばある程度は耳を貸してくれそうだ。そのホロウが何処にいるのか分からないが、クサレイヅチを追っているなら遠からず会う事はできると思う。…あ、でもレーダーが故障してるっぽいんだよな。

 

 

 ああ、紅月は途中で離脱したんだったか。確か、西歌のお頭が鬼に呪われ、意識不明となったんだ。どんな鬼なのかは覚えてない、或いは聞いてないが…これも出来れば防ぎたい。

 

 最後にはクサレイヅチが直接出張ってきて、皆の魂を奪い取っていったんだっけ。空に開いた穴にホロウと虚海が幽体離脱で飛び込んで、その魂を奪い返してきた。

 …そうそう、その時になんか凄い怪しい人と会ったな。確か………死期? …流石にこれは名前じゃないだろ。シキ? とにかく悪人顔のオッサンで、何故かイヅチカナタの力を跳ね除けていた。…あれ、本人は跳ね除けたんじゃなくて、「吸われても大して変わらない」みたいなことを言ってたような。

 

 そんで、結局全員無事で戻ってきて、総力戦。しかしクサレイヅチも狂竜病のような状態になってパワーアップしており、とにかく手古摺った。

 それでも追い詰めて行って……最後の一撃ってところで、千歳を人質にされてカウンターを喰らった。

 

 

 

 

 ………今思い出しても、胃腸が捩じ切れそうなくらいに苛立ってくる。今まで救い出せていない、自分の不甲斐なさも含めて…。

 

 

 

 

 …ストップ、ここで怒り狂っても仕方ない。ぶつけるのはあのクソッタレに、だ。

 

 さて、肝心の今回どう動くかだが…大筋では変わらないと思う。何だかんだで、ウタカタに到着してからはゲームシナリオに沿って進んではいた。

 だが、前回ループもそうだったし、GE世界、MH世界でもそうだが…新手の鬼や、別世界の敵と似た鬼が出てくると思っていた方がいいだろう。相当な激戦が予想されるが…問題なのは、俺一人でカバーしきれる範囲じゃないって事だ。

 異界のあちこちにもっと強力な鬼達が出現しはじめれば、主力部隊は…ギリギリなんとかなるかもしれないが、斥候班等の被害、死者は大きく跳ね上がるだろう。

 

 前回同様、鬼疾風等を教えて戦力、逃走力を強化する必要があるが…それでどれだけ効果があるか…。

 もう一つ対策を打てるとしたら、新たに出現した鬼達の情報提供だろう。「アレによく似た生物を知っている。行動も同じようなものかもしれない」という程度で、実際に使える情報かは確認する必要があるな。

 

 

 …考えてみれば、モノノフ達は鬼の生態についてどれくらい知っているんだろうか? 異界に長く潜れない為、長期間に渡って観察する事は難しい。

 仲の悪い鬼同志を鉢合わせさせたり、或いは捕食者を被捕食者の前に引っ張ってきたり、傷ついた時に休もうとする場所、好む食べ物など、足跡から読み取れる情報や特徴…。痕跡から得られるデータと、それを活用した戦術にはキリがない。

 鬼の研究をしている学者はそれなりに居るようだが、お世辞にも詳しい生態が分かっているとは言い辛い。

 異界に生息している植物類だって、持ち帰って素材にする事はあるが、その場で活用する方法は見た事が無い。その気になれば、その辺の石ころだって飛び道具に出来るのに。

 

 

 ふむ…ちょいと情報纏めて、秋水のところにでも持ち込んでみるかな。

 よし、そうと決まれば、まず目についた鬼達の情報を記録しておくか。走り書き程度で、あまり意味はないかもしれないが、これだけ深い異界だ。逆に普段人間の目に入らない行動を見つけられるかもしれない。

 勿論、異界から抜けるのが最優先事項なので、足は止めないが。

 

 

 

 

 

凶星月

 

 

 適当に歩き続ける事数日。体に溜まった瘴気はタマフリ・道具で無効化しているが、この状況が続くといつか尽きてしまうだろう。

 まだ雪景色が変わらない。強いて目立つ変化を上げるなら、途中で墓場らしき場所を横切ってきたくらいか。

 飯はGE世界で備蓄しておいて、チビチビ食ってるからまだ余裕はあるし、今更この程度で寒いとは欠片も思わん(生物としてどうかと思うが)から、どうって事は無いが……これだけ雪景色が続くのも珍しい。

 異界の中は無茶苦茶とは言え、それでも一定距離を進めば風景に変化はみられる。しかし、この近辺は同じ景色こそないものの、雪が無くなる気配が全くない。

 …やはり、北の地か、それに準ずる非常に寒い土地…と考えるのが妥当か。

 …………試される大地じゃねーよな? あそこから中つ国とかどうやって行けばいいんだ。いや海の上走るくらいできるけど、津軽海峡で波乗りジョニーできるけど。

 

 

 

 そんな事を考えつつ、もう面倒くせーから適当に鬼疾風で駆けだしてしまおうか…なんて考えていた頃。

 

 

 

 

「……………」

「………」

 

 

 

 

 …人の声だ。

 二人いる。何か話してるな…。ふむ、ようやく人里近くに行き当たったか?

 

 いやいや、油断は禁物だ。話しているらしい二人の間には、殺気らしきものは漂ってはいない。しかし、例えば盗賊の仲間二人組だったとしたらどうよ。

 迂闊に話しかければ…………うん、俺の予想を上回るほどの実力がなければ、その辺に死体が転がって餓鬼辺りのエサになる事になるな。

 例え悪党だったとしても、好き好んで殺生をしたい訳じゃない。余計な刺激を与えないよう、まずは気配を殺して偵察するとしますか。

 幸い、俺は風下に居るようだ。遮蔽物の多い場所だし、隠れようと思えば幾らでも隠れられる。

 

 さて、どんな二人組かな…。微かに聞こえる声の高さから、女の子っぽいんだけど(願望)

 

 

 

 …見えてきた。

 大きめの切り株に、一人は寝転がって、一人は腰かけている。結構雪が降り積もってるし、直据わりとか冷たいと思うんですがそれは?

 

 

 

 

 

 

 ……………目の錯覚かな。

 

 なんか、肌色成分多めのような気がするんですが。いや嬉しいんだけど。

 でもこの雪景色でその恰好って……いや、ハンターやゴッドイーターを見ておいて何を言うと言われればそれまでなんですが。

 

 しかし、やっぱり武装はしているようだ。寝転がっている方の手にあるのは刀……いや、あれは剣……レイピア? なんか世界観が合わん気がするが…まぁ、グウェンも霊山に居たし、オオマガトキ時点で外国との取引も多少はあったようだし、外国の武器があってもおかしくはないか。銃だって元は外国産だし。

 ちなみに豆知識。江戸時代当時、外国人の居留地だった出島って、大人が歩くと一蹴するのに10分かからんねんで。当時の平均身長が今より大分低いとは言え、ありゃアパートから一歩も出るなって言われてるようなもんだべ。せめて公園がほしい…。

 

 腰かけている方のは……ああ、これは割と見覚えがあるな。斬馬刀ってやつだろう。…俺にはMH世界の大剣と言った方が近く思えるが。

 

 さて、それではどんな話をしているのかな…。

 

 

 

 

 

 

「あー…彼氏欲しいなぁ…」

 

「なんです、明日奈さん。唐突極まり…なくないですね。前にも同じことを言ってましたよ」

 

「だって、いくらモノノフとは言え、私達って年頃の女の子じゃない。特に神夜なんて、とんでもない凶器を持ってる子」

 

「斬冠刀の事ですよね?」

 

「秘密。とにかく、こう…毎日毎日鬼との闘いばっかりで、潤いが無いって言うか…。霊山とかからも完全に孤立しちゃってるし、こうも先が見えない状態が続くとね…。私も、このままずーっと戦うだけ戦って死んじゃうのかなー、って気がしてきて」

 

「分からなくもないです…。私とて、花も咲かさず散りたくはありません。ですけども…」

 

「分かってるわよ。里の人達は、大体二回りくらい年上だし、数少ない同年代は許嫁とかが居て、割り込むに割り込めないし」

 

「あら? 明日奈さん、許嫁って居ませんでした?」

 

「親が決めた許嫁なら居たらしいけど、オオマガトキでどこの誰だかも分からなくなっちゃったわ」

 

「それなら、2年くらい前に誰かといい雰囲気になってませんでした? ……いえ、忘れてください」

 

「忘れられないわよ。せっかくいい感じの男の子と知り合えたのに、あんな風に袖にされるなんて…」

 

「いえ…あれは仕方ないですよ…。袖にされたって言うより、逃げられたって感じでしたし。私でもあれは逃げます」

 

「だらしない…。いや、今思うとちょっと強引に迫っちゃったかな、とは思うけど」

 

「強引に迫ると言うより、盛大に飢えていましたが…。獲物を狙う肉食獣その物でしたしょ。どん引きいたしました」

 

「そこまで言う!? ていうか、神夜こそどうなのよ!?」

 

「私は…その、そもそも出会いが…。そりゃ、元は私も明日奈さんも所謂名家の出身ですけど、オオマガトキで私達以外は全滅しましたし、普通に扱ってくれればいいのですけどねぇ…。腫物みたいに扱われるのは心外です。…あの方程ではないとは……いえ、何でもありません。とにかく、この狭い里の中で痴情の縺れなんてあったら、酷い事になりますし」

 

「そうよねー…。妾も仕方ないかなって諦めかけてるけど、一回でいいから彼氏と充実した青春送りたいわ…」

 

「言わないでください。悲しくなる事極まりないです…」

 

「あー…彼氏ほしー…」

 

 

 

 

 

 ………なんか、警戒する必要なかったなぁ。

 とりあえず彼女達の名前は「明日奈」と「神夜」。外見は普通に超美人。…さっきも言ったが、気候の割には露出が多いけど。

 モノノフのようだから、盗賊の類でもあるまい。しかもどこぞの里に所属しているようだ。

 

 そして女の子である。…いや変な意味じゃなくて……なんだ、その、モノノフとして斬った張ったしてるけど、青春したい普通の女の子だわ。

 

 

 はぁ…とりあえず、ナンパ…じゃなかった、声かけて人里まで連れてってもらうとしますか。

 …いや本当に、お近づきに…とか下心は無いよ。すぐにでもウタカタに行かなきゃならんのだ。俺が到着しなければ、討鬼伝ストーリーは始まらないっぽいとは言え、それだって確証がある訳じゃない。遠からず別れるのであれば、あまり関係を深めるべきではない。

 一夜のアバンチュールとか忍ぶ恋とかに憧れが無い訳じゃないが、オカルト版真言立川流は中毒性が強いからな…。人生狂わせかねん。

 

 

 ともあれ、話しかけようと気殺を辞めて、一歩踏み出そうとしたところで…動きが止まった。

 二人が武器に手をかけたのだ。抜いてこそいないし、一見するとさっきまでと変わってないように見えるが……俺に気付いたか。

 うん、いい女だ。美しく、強く、そして抜け目ない。…やっぱ一夜のアバンチュール、できないかなぁ…。

 

 

 それはともかく、失礼(し・トゥ・れい)ィィィィィ~~~。

 

 

「…どちら様ですか?」

 

 

 見ての通り怪しい者だ。異界を彷徨ってる内に、自分が本当にナマモノなのか分からなくなってきたくらいだ。

 という冗談はともかく、モノノフだ。ちょいと前までキカヌキの里ってとこに居、霊山から指令を受け取ったウタカタまで行こうとしていたんだが、異界に呑まれて彷徨ってる内にここに辿り着いたんだ。

 あんたらもモノノフだろう? 申し訳ないが、保護を求めたい。

 信用できなければこの通り、武器は預ける。別に縛っても構わん。(興奮しないよ!)

 

 

「…………」

 

「……」

 

 

 二人は少し視線で会話していたようだが、得物から手を離した。

 

 

「生憎、縛ろうにも縄なんてないわ。ま、鬼でも盗賊の類でもなさそうだし、里に連れていくならいいけど」

 

「ですね。ですが、正直な話、ご愁傷様としか…」

 

 

 ご愁傷様って……何で?

 

 

「何でって………ああ、外の人だもんね。シノノメの里の状況なんか分からないか…。うん、里に案内しながら話すわ。気を落とさないでね。……ああ、私は明日奈。よろしく」

 

 

 む、これはし・トゥ・れいぃぃぃぃ~~~。って、この世界で2=トゥなんて言っても伝わらんか。俺の名は…って、あ、ミフチ。

 

 

「気に入ってるんですか、それ…。まぁいいです。モノノフなら戦えますよね?」

 

 

 そこらのミフチなんぞ瞬殺できる程度には。じゃ、話はアレを片付けてからってことで。

 

 

 

 

 

 

 …むぅ、脆い。手甲も付けてないのに、パンチ一発で部位破壊かよ…。

 しかしこの嬢ちゃん達、珍しい戦い方をするな。鬼を囲むのはよくある陣形だが、どういう訳だか鬼祓いを必要としていない。興味深い…。

 今回ループも、中々収穫がありそうだ。

 

 

 

 

 

 さて、ミフチを撃破後、微妙に警戒されつつシノノメの里とやらに案内される。その間に色々と説明を受けたが……こりゃ厄介な事になったなぁ。

 大量かつ広範囲に渡る積雪を見て、何となく予想はしていたが……ここは北の地。オオマガトキの時に、見捨てられた地の一角である。

 凛音や歴が居る筈のシラヌイの里からは、もっと西に位置している。もうちょっと詳しく述べると、霊山を中心とし、北にこのシノノメの里、北東にシラヌイの里、東にウタカタ、西にマホロバ…と言った塩梅だ。

 

 ここからウタカタの里に向かわねばならない。遠いだけなら、何とでもなったんだが…まさか、完全無欠に異界に覆われているとは…。

 霊山から孤立している、と言っていたのは誇張でもハッタリでもなかった。文字通り、里を囲む全方位が完全に異界で覆われているのだ。

 

 地図を見せてもらったが、いくら俺でも瘴気に耐えきって、異界を突っ切れる距離じゃなさそうだ。それよりなにより、深い異界の中は迷路だからな…真っ直ぐ進めるなんて、間違っても考えてはいけない。 

 異界で一番厄介な所なんだよな…道を信用できないのって。

 

 ここからウタカタの里に行こうと思ったら、遭難・デスワープ覚悟で異界を突っ切る大博打か、どうにかして異界を浄化するという前代未聞の大技をやってのけないといけない訳だ。…詰んでね? いやデスワープという最終手段も、あるにはありますが。

 

 ついでに言えば、詰みかけているのは俺だけではない。このシノノメの里も詰みかけている。 

 必死で戦って、人の生存圏を守ろうとしているモノノフ達を前にしてこんな事を言うのもなんだが…正直に言わせてもらえば、オオマガトキで見捨てられ、孤立してから数年。里がまともな形で残っているのは奇跡である。

 周囲を異界と鬼達に囲まれているという状況に加え、食料やら何やらを自給自足できるという時点でどれ程の幸運か。

 その自給自足の量も、決して多くは無い。…それで賄えてしまえる程に、里の人数が減っているのは不運であるが、幸運と呼んでいいものか。

 

 だがそれも長くは続かない。里の守りの要である、神垣の巫女…雪華が結界を張る為の媒介となる、結界石。それが徐々に侵蝕されているのだとか。

 過去には8つ程あった結界石も、オオマガトキで破壊され、その後の鬼達によって破壊され、異界の正気で徐々に穢れ、どんどん力が落ちてきているのだと言う。

 今ではまともに機能している結界石は、里の一つと、里から少し離れ場所にある一つのみ。

 

 ……真綿で首を絞められ続けて、窒息死寸前状態である。この状況で、よく纏まっていられるものだ…心底驚嘆する。

 

 

「他人事みたいに言ってるけど、貴方もこれからその一人になるんですからね」

 

 

 へーい。

 …ま、そんな状態で、シノノメの里から去ろうにも去れず。行ける場所もないので、厄介になる事になりました。勿論、ウタカタに向かう事を諦めた訳じゃないが。

 正直、あまり居心地がいいとは言えないんだけどな。不便とかそういう事じゃなくて……その、余所者に対する警戒心がある。

 表立って何かしてくる訳じゃないし、ごく一部からだから、気にしても仕方ないけども。

 

 そういう訳なんで、俺も今日から里の一員扱いです。……マホロバの里で言えば、外様の扱いに近いとは思うけどね。

 




討鬼伝世界登場人物表

討鬼伝モノノフからの登場人物
・まだ未登場。サービスは終わっていますが、HPに画像くらいは残ってます。


他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
     武器は細剣(レイピア)。
     戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。

・神夜…無限のフロンティアより。
    武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。



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386話

討鬼伝モノノフは、既にサービス終了しています。
HPに行けば、何人かのキャラの画像くらいは残っていますので、良ければ見てみてください。

…なーんで終わっちゃったのかなぁ。
大したストーリーは無かったけど、システム的にはかなり面白かったと思うんですが。
そりゃ強化はクッソ面倒くさかったけどそれはネトゲの常ですし、放置プレイが推奨される昨今の風潮の真逆を行ってた感じはしましたが。

お手軽アクションという意味では、かなり楽しかったのになぁ…。
討鬼伝2極を出すなら、シノノメの里も出してほしいと思う今日この頃です。


 

凶星月 里で聞いたら六日だった日

 

 さて、警戒はされているものの、シノノメの里の一員として暮らす事になった俺。異界を彷徨い歩いてきたのだから今日明日くらい休めと言われ、一軒家を貸し与えられた。

 よくもまぁ、この状況で一軒家が空いてたな…とは思ったが、どうも故人が使っていた家のようだった。モノノフとして殉職したのか、或いは病にでもかかったのか…。

 放置されていたらしく、あちこち直さなければならないだろう。ま、得体の知れない流れ者に対する扱いとしては上等な方だ。マホロバの里みたいに、結界の外で暮らしている訳でもないんだから。

 

 それにしても、色々と風変わりな里だ。長く外から断絶していた為、独自のコミュニティが発展したんだろうが…。

 

 

 

 まさか、里のお頭がミタマだとは…。

 

 別に悪い事だと思っている訳じゃない。ミタマだって元は人間、意思疎通ができて相応の器量があれば、お頭を務める事に何ら問題はない。

 ……姿が見えない、モノノフでない一般人にとってどう見えるかは知らないが。

 

 と言うか、よくよく考えれば俺ってマトモなミタマを見たのって初めてじゃないだろうか? のっぺら連中については、当時は分からなかったが『宿った』と言うよりは『自分の一部を認識できた』と言った方が正しい。何せ、元々俺を構成しているのはのっぺらミタマなんだから。

 今まで延々と鬼を狩り続けていたが、腹の中から解放されたミタマなんか見た事ない。強いて言うなら、富獄の兄貴が追いかけているダイマエンを倒した時、解放された魂達が天に還った時くらいか。

 むぅ…神木の主も見えない感じられない俺だから、最悪ミタマが見えない可能性すら考えていたんだが。

 …と言う事は、この里のお頭が特別な何かを持ったミタマなのか、単純にガチャ運が悪すぎて全く出会わなかったか、だな…。

 

 

 ともあれ、その里のお頭のミタマだが、牡丹という女の子。本人曰く、200年前に鬼との闘いで命を落とした神垣の巫女なのだそうだ。

 赤い和服に茶色が入った髪の毛のショートカット。よく笑う子で、性格は気さくで大らか、前向き。うん、リーダー向きだな。

 

 本来は別の人がお頭を務めていたのだが、少し前の鬼との闘いで行方不明となってしまい、他に努められる人が居なかった為に臨時で里長に就任したそうな。

 ちなみに、意外と武闘派らしい。ミタマである為に直接的な戦闘力は持たないか、作戦立案能力がかなり高いとか。

 前線に出る事にも躊躇いが無く、彼女を宿せるモノノフが居れば、宿って異界を探索しているのは間違いない…とは明日奈の言だ。ちなみに現在は、彼女を宿せるモノノフが居ない為、危険すぎて異界には行けない。里の中心にある祭祀堂で祀られている。

 

 神垣の巫女が、ミタマねぇ…そりゃ英霊として頼られているミタマ達だって、元は人間だ。神垣の巫女やモノノフがミタマとなって後世に力を貸すなんて事があってもおかしくはない。

 特に強い力を持っていた神垣の巫女なら、ミタマとして現世に留まる事もできそうだ。本人は自分の意思で留まったのではなく、鬼に喰われて腹の中で長い時を過ごし、そしてここの前里長に助けられたのだと言っていた。その時には、幸か不幸かミタマとして安定してしまった訳だな。

 

 

 モノノフ達にとってミタマは、信頼すべき隣人であり、頼れる相棒であるが、良くも悪くも彼らは過去の偉人である。過去の人間に、今を生きている人間の方針を決定されてはたまらない。

 具体的に言えば、戦国時代の考えのまま、現代社会の会社運営何ぞ任せられるかって話だ。

 

 まぁ、状況がガッチリ嵌ったって事かな…。

 昔の人間って事は、今……この状況よりももっと貧しかったり、不便だったりする状況で生きてた可能性が高い。その時の、所謂『おばあちゃんのちえぶくろ』が大きな貢献をしたんじゃなかろうか。

 その知恵袋には多分、籠城戦の心得とか、援軍が期待できない状況でのゲリラ戦とか、そーいうエグい知識が多分に含まれてんだろうけど。

 

 そうでもないと、ミタマが里長なんて状況はまずあり得ない。

 幽霊が里長など…なんて理由以前に、そもそもミタマをハッキリと認識して会話できる人間など、モノノフの中でも一握りなのだ。

 意思疎通すら難しい里長なんぞ、論外である。

 

 

 しかし、神垣の巫女が鬼に喰われた、か…。相当酷い、追い詰められた戦いだったんだろう。神垣の巫女は里の守りの要だ。あらゆる手段で危険から遠ざけられる。…それこそ、監禁に近い扱いとなっても。 

 

 

 

 

 次に紹介されたのは、里の重鎮である寒雷さん。

 ガッシリとした壮年大男で、古傷が幾つか見えた。オールバックの黒髪黒目、ベテランの風格が漂っており、実際に里でも頼りにされている重鎮らしい。

 相当な実力者だった事が見てとれたが、数年前に膝に鬼の投石を受けてしまい、再起不能になったのだそうだ。

 それを切っ掛けに引退し、今では里の物流を一手に引き受ける万事屋の大旦那様、と言う訳だ。

 

 

「そんな大したもんじゃねえよ。少ない物資を、ちょっとでもうまく遣り繰りしようとしてるだけさ」

 

 

 いや普通に超重要な仕事じゃないの。閉鎖された里で物流を握り、物資食料を差配して大した不満も出させないなんてどんな神業ですか。

 皆が状況を理解して、一人一人が努力している事を知っているだけさ…なんて言ってたが、多分この人じゃなければ酷い事になってるよなぁ…。商売人としての才覚に加え、現役モノノフ達の先達としての立場も持っているこの人らからこそなんだろう。

 

 

 

 次に紹介されたのは、現代の神垣の巫女の雪華。青みがかった白い髪と、物静かな雰囲気。同じく青白の巫女服も相まって、なんともミステリアスな美少女に見える。

 真面目な顔をしていると、凛として冷たい印象さえ与える顔付だが、お頭…牡丹にからかわれたり、甘い善哉を持ってホッコリしている姿がよく目撃される…らしい。

 神垣の巫女にしては割と自由に出歩いているが、これは牡丹の方針だ。元は彼女も神垣の巫女だった為か、屋敷に押し込められて生きる退屈さや鬱屈をよく分かっているのだろう。

 とは言え、流石に初対面の俺相手にいきなり打ち解ける訳もなく、ただ流れのモノノフに対して里の掟を破らないよう、そして戦力として期待しているとだけ伝えられた。ま、一介の流れ者が里の重要人物3人にいきなり面会できたんだから、破格の扱いではあるね。

 

 

 

 

 他にも色々と、里の掟や面通しした人物、施設があったんだが…今日のところはここまでにしておこう。宛がわれた一軒家を補修して、掃除して、それから飯だ。

 幸い、異界から帰る途中に摘んできた野草があるから、煮込んで鍋にでもするとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

凶星月 七日

 

 

 分かっちゃいたけど、変わった里だな、本当に。

 何といえばいいか……他の里ではモノノフってのは、基本的に専門職だ。兼業しているヤツなんてまず居ない。

 鬼と戦う為にアレコレ準備し、鍛錬し、そして戦いが終わった後には少しだけ体を休め、次の戦に備える。それがモノノフの基本的なルーチンだ。お偉いさんになると書類仕事なんかが待っているが、それも結局はモノノフとしての仕事である。

 

 だが、この里のモノノフは兼業がデフォルトだった。一番多いのは、土を弄る農家(っぽい)の仕事。大工、薬師、鍛冶屋、酒屋(作る方)などの生産系が多い。その他には、貸本屋、散髪屋など生活系。

 小さく物資の少ない里を何とか回す為に出来上がったやり方なんだろう。モノノフを専業としているのは、相当な腕前を持ってる人か、上位幹部クラスの人間のみだ。

 

 詳しい仕組みはよく分からないが、これによって得た利益の殆どは個人の物になるのではなく、里全体の物とされるらしい。

 分かりやすい例で言えば、里の何処で得た作物であっても、万事屋…寒雷さんの所へ持っていき、それが里に分配される。

 ……よく知らないが、共産主義ってヤツか? その内、怠け者のせいで内部崩壊したりしないだろうな…。

 

 

 

 さて、俺もそういう職業を見つけなきゃならん訳だが…さて、何すっかね。

 力仕事はできるが、農業の人手は足りている。針仕事なんかの細かい作業も得意ではない。

 多少の土いじりの心得はあるけど、MH世界のものだからなぁ。主な作業はアイルー達に任せてたし。

 この里でGE世界みたいに緑の革命やってみるのも面白そうだけど、それが切っ掛けで滅ぶような気がしてならない。

 

 

 

 やろうと思えば専業も許されるだけの腕前はあるつもりだけど、それを証明する手段が無い。

 そこらの鬼を適当に狩っても、強いだけじゃ納得しないだろうしな。余所者だから特に。

 

 当然、俺はモノノフの下っ端兵士扱いになる訳だ。

 とは言え、流石に一人で戦えなんて無茶なことは言わない。この里でも、基本は4人体勢である。…人数の問題で、あぶれない限りは。

 …い、今俺が一人なのは、まだ正式な部隊編成に組み込まれてないからだ! ボッチじゃないし、怪しいからって避けられてる訳でもないからな! …誰に言ってるんだろ。

 

 

 真面目な話、数少ないモノノフをどう運用していくかは、この里の生き死にに直結するからな。真剣に検討し、明日には答えを出すそうだ。任務はそれからだね。

 

 

 

 

 

 そして今日はと言うと、寒雷の旦那に、里を案内してもらいました。

 このオッサン、やはり元はかなり手練のモノノフらしく、鬼との戦いに理解もあるようだ。見回り中のモノノフ達に、何度か敬礼されているのを見かけた。

 

 さて、里の中だが、気になる物が幾つかあった。

 まず一つ目。超界石だ。里の奥の方に祀られている石なんだが……これはどういう物なんだ? 結界石とは違う。異界の中にちょくちょく見られる、瘴気を退ける石とも違う。

 何でも、昔から里に伝わっている石で、『世界を超える力がある』と伝えられているのだとか。…と言っても、具体的に何か明確な力があるのではない。ただ、そうであると伝えられ、里人にとっては……まぁ、ある種の御神木とか、神社代わりみたいな物になってるらしい。

 一見すると、花に囲まれた御影石で、後は精々天狐の遊び場になってるようにしか見えないんだけどなぁ。

 大体、本当に世界を超える力があるなら、GE世界で俺がやったように、MH世界の植物とか呼び寄せて、食料難を救ってみせろっつーの。

 

 

 ……ただ、一応祈っておいた時、得体の知れない気配と言うか力と言うか怨嗟を感じたような気がしないでもない。よく聞こえなかったが、『課金は悪い文明』とか言ってたような…。

 …忘れよう。ま、時には神頼みしたい時だってあるだろう。手を合わせた程度じゃ、損にはならんしな。………あ、また何か聞こえたような…『課金して爆死した程度で損とは片腹痛い?』……………よく分からんが、この声の主は相当にアカン人っぽい。忘れよう。

 

 

 

 二つ目に気になる場所は、鍛冶屋だ。

 そこのおねーさん…練がまた姉御肌の美人さんなんだ。肌が褐色なのもポイント。色素とかじゃなくて、鍛冶の火の影響でそうなったらしいけど。

 一見寒そうな、露出の多いサービス過剰に見える恰好だが…成程ね、鍛冶場を見せてもらったが、ありゃクッソ熱いわ。むしろ、火傷を防ぐ為に服を着ろと言いたくなるレベル。

 …単純に、女性の鍛冶師が珍しいってのもあるけどね。

 

 ん? 女鍛冶屋とか珍しくないか? 我々の業界ではそうかもしれんし、小柄で綺麗な女の子に無骨なハンマーとか萌え要素でしかないが、モノノフの業界だとなぁ。

 鍛冶の神が嫉妬するので、女性は鍛冶場に入ってはならない…ってのが罷り通る業界だもの。神仏に力を借りるモノノフだし、割と真面目な話なんだわ。

 

 ……どうにも、紹介された時の会話も気になるしね。

 寒雷さんに連れられ、里の案内をしてもらっている時だった。鍛冶場はモノノフとしての武器を鍛えるだけでなく、包丁やら農機具やらも作る所だ。日常生活でもお世話になるので、当然案内される。

 が、営業時間であるにも関わらず、店の前からの呼びかけには誰も答えなかった。

 

 

「練! おい練! ……おかしいな。厠に行ってるにしても、いつも声は返してくるのに」

 

 

 火事場の火はついたままのようだし、工具はそこに放り出されたまま…。ついさっきまでここに居たようですな。

 …奥の扉が開かれてますが、中で倒れてるって事は?

 

 

「無いと思うが……まさか…入るぞ練! 聞こえていたら返事をしろ!」

 

 

 焦った様子で屋敷の奥に入る寒雷さん。放っておく訳にもいかず、俺も続いた。

 …あ、左奥の部屋に気配がある。

 

 

「練! ………っ!」

 

 

 寒雷さんが息を呑んだ。よもや殺人事件? 密室でもなんでもないけど、脱出不能の里の中でまさかの殺人、疑心暗鬼による全滅ルートか!? と割とマジで考えたのだが、そこに居たのはお茶を飲んでいた練ねーさんだった。

 ちょっと気だるそうだったんだが……二日酔か?

 

 

「……ああ…聞こえてるよ…」

 

「………すまん」

 

「いや…こっちこそ…」

 

 

 手に持って居た紙袋を捨て、頭を振って意識をはっきりさせようとしているようだ。

 それを見た寒雷さんが、妙にきまり悪そうだった。…何だろ? 勝手に家に入り込んだにしても、仕事場にも居ない、返事もしない練ねーさんを心配したからだろうに。

 

 と言うか、あの紙袋はそもそも何ぞ。サーッ!と擬音付きで、粉薬をアイスティーに 入れるのに使いそうな紙だったんだが。要は薬を包んでたっぽいって事ね。

 何か持病でも患ってんのかな…。

 

 気にはなったが、立ち上がって鍛冶場に戻った練ねーさんに俺を紹介する流れとなったので、それ以上の詮索はできなかった。

 …よく分からんけど、何かあるよなぁ…。

 

 

 

 後は、祭祀堂の主が、風華っていう嬢ちゃんだった事くらいかな。

 これに関しては、純粋に幼すぎて驚いた。何でも、修行途中で祭祀堂を継ぐ羽目になってしまったらしい。…先代や師が居なかったのか…とは聞くまい。楽しい話題でもないだろうからな。

 能力的には、その…幼い割には頑張っている、としか言いようがない。実際、歳の割には優秀だ。

 …ただ、正直な事を言うと、祭祀堂やるより甘味処の方が適正があるとしか思えないんだよね…。

 

 ま、考えても仕方ない。甘味処やるにしても、この里の状況をどうにかしないと、そんな余裕はないの一言で終わりだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、一通り巡って。

 なんつーか、本当に変わった里だなぁ。異界に囲まれて、何年も孤立してりゃ無理ねぇが。

 

 

「なんだ、そんなに珍しいのか、この里は?」

 

 

 寒雷さん…まぁ、かなりね。つっても、俺もちょっと前まで居た里と、霊山くらいしか知らないから。

 その前は外様で、異界の中を彷徨って…気が付けば里に保護されてたんだしね。

 

 

「ほぉ、お前さんも中々に山あり谷ありの人生を送ってるようだな。ってか、お前さん外様だったのか…」

 

 

 あれ、外様って意味分かるの?

 

 

「そりゃ分かるさ。外様……つまりは鬼の存在を知らない社会で生きてたお前達にとっては、俺達の存在は寝耳に水かもしれないが、俺達にとっちゃ逆に、ずっとお前さん達から隠れて鬼と戦ってたんだぞ。…妙な意味で言ってんじゃねーからな」

 

 

 へいへい。そっかー、外様って、モノノフからしてみれば、一般人の事を指すんだな。マホロバの里で妙なイメージがついてたかな…。

 と言うか、モノノフの常識からしても、そうそうないでしょ。里長がミタマだなんて。

 

 

「まぁな。とは言え、牡丹が認められるまで、結構色々あったんだぜ。最終的には、『御霊は元は生きていた人間。体を失いはしたが、人間である事に変わりはない』で決着したが」

 

 

 それ、幽霊は元は生きていた人間だから、怖くないって言ってるのと同じ理屈じゃないか。その成否賛否はともかくとして。

 

 

「珍しいと言えば、お前さんも充分珍しいぞ。かなり腕の立つモノノフのようだが、牡丹の事は相当気合入れなきゃ見えねぇんだからな」

 

 

 うっせい。俺はフィジカル極振りなんだよ。モノノフでゴッドイーターでも、根っこがハンターなんだよ。ハンターが物理しか扱えないのかって言われると、言葉に詰まるが。

 はー、しかし、こんだけ強くなったのに、モノノフとしちゃまだまだ半人前とはなぁ。

 

 

「仕方ないと言えば仕方ないけどな。誰だって訓練次第で見る聞く触れるはできるが、体質的に苦手か得意かまでは変えられん」

 

 

 まーね。

 

 

「さて、とにもかくにもだ。昨日も言っていた通り、お前さんも戦力として扱わせてもらう。最近、鬼達の活動が激しくてな。少しでも手が必要なんだ」

 

 

 鬼の動きが? …ま、それは後で聞くとして、俺と組むのは…。

 

 

「人数的に、今は2人炙れているから、その二人と組んでもらう。本来なら、4人で祓円陣を組むんだが、人数の問題ばかりはな…。だが、仲間の二人はいい腕だぞ。若い女だが、腕前は里でも上位に入る」

 

 

 若い女二人…炙れてる…って、ひょっとして明日奈と神夜?

 

 

「ああ。…そう言えば、あの二人がお前を連れてきたんだったな。一度は共に戦ったんだったか。何か問題はあるか?」

 

 

 俺には無いな。あの二人の腕なら、充分信用できる。(貞操の危機についてはノーコメントだけど)

 ちなみに、あの二人は俺と組むのを良しとしたのか?

 

 

「特に反論は出なかったぞ。あの二人だけだと、祓円陣の効果が充分に出せず、前線に出そうにも出せずに持て余していたからな。本人達も自覚はあったし、戦えるようになるなら万々歳だそうだ」

 

 

 意外と戦狂いだな。強制的に無駄飯喰らいの立場を押し付けられてたら、そりゃ何でもいいから働きたくなるのは無理ないか。

 …ところで、祓円陣っつーのは、何のことだ?

 

 

「うん? お前はモノノフだろう? 知らな……ああ、そう言えばあの戦い方は、この里が閉じ込められてから、必死で開発したんだったか…。一言で言えば、4人で戦う陣形なんだが、これを使うと鬼祓の必要が無くなるんだ」

 

 

 ほう…。ミフチと戦った時から気になってたが…ミタマ壊の断祓みたいなもんかと思ってた。

 

 

「ミタマ壊? …ミタマの使い方の事か? ミタマの使い方は、攻・防・癒・魂・隠の5つだろう? 他の里では違うのか」

 

 

 攻・防・迅・癒・魂・隠・空・賭・献・壊・繰と、俺が知ってるだけでもこれだけあるな。

 里によって固有の使い方なんかもあるから、探せばもっと増えるんじゃないかな。

 

 それはともかく、祓円陣の具体的なやり方は? 3人でも出来るのか?

 

 

「出来なくはないが、やはり効力は各段に落ちる。祓円陣の基本は、4人で鬼を囲むところから始まる。一人一人が結界としての役割を持ち、鬼の逃走を防ぎ、その行動を阻むんだ。勿論、幾らモノノフと言えど、体を張っただけで鬼の巨体を受け止められる筈がない。都合よく、鬼が単独で行動しているとも限らん。だから、祓円陣の最も重要な点は、事前の仕込だな」

 

 

 標的を孤立させ、鬼の行動を阻害する為の防壁結界を仕込み、隙を晒したところで一気呵成に責め立てる。鬼祓の必要が無いから、攻撃の手を止める必要もない…。

 陣形っつーより、実際は罠に近い訳ね。

 

 

「ほう、飲み込みがいいな。お前が言う通り、この祓円陣の神髄は速攻にある。俺の知る限りでは、大体の鬼は茶が冷める程度の時間で沈むな。逆に言えば、それだけの時間をかけても仕留められなかった場合、他の鬼の乱入の可能性が一気に増える。仕込んだ結界もそう長く保つものではないし、時間がかかるようなら討伐失敗と判断してすぐに離れるのが、この里のやり方だ」

 

 

 勝つも負けるも一発勝負って訳ね。この里の周囲の瘴気は、かなり濃いみたいだし…そうなるのも自然な話か。

 で、肝心の鬼祓が不要だってとこの原理は?

 

 

「ああ、そりゃ簡単だ。最初に結界を仕込むだろ? その結界に、鬼祓と同じ力を宿してるんだ」

 

 

 常時鬼祓が発動状態、しかも4人がかり…か。そりゃ効果も高いわな。しかし、そんな事をどうやって。

 

 

「そうだな………ちょっと待ってろ」

 

 

 俺に少し待つように言うと、寒雷さんは近くの地面の雪を乱雑に掻き分けた。雪の下から現れた地面は、いかにも凍土の土と言った印象だ。それでも草木は生えて成長するんだなぁ、と思っていると、出てきた石ころを持って差し出してきた。

 …何これ?

 

 …ちょっと黄色っぽくて、妙な力を感じる…?

 

 

「はは、初めて見たか? そいつこそが、この里をここまで存続させてきた秘訣ってヤツだ。みんなは宝玉と呼んでいる」

 

 

 宝玉? 確かに磨けば光りそうだけど、石ころにしか見えないぞ。

 

 

「そいつは小さな石だが、もうちょっとデカい石もそこら中に転がってるぞ。大きければ、宿る力もそれだけ大きい。そして、驚くべきはその汎用性だ。あらゆる用途に、簡単に使う事ができる。暖を取るにも使えるし、戦いに使えば結界に、人のそばに置いておけば活力を癒す力にもなる」

 

 

 ……何でそんなモンが、そこらに簡単に転がってんの?

 

 

「分からん。里が瘴気に囲まれて、暫くしてから発見されたんだ。ひょっとしたら、周囲全てが瘴気という特殊な状況で生まれる、珍しい鉱石なのかもしれん。…正体は全く分からんが、とりあえず使えるから使っているというだけだ。怪しいからって使わなかったら、とっくにこの里は干上がってただろうしな!」

 

「寒雷さん、何を物騒な事を言ってるんですか…」

 

「おお、明日奈と神夜、来たか。何、こいつに里の事を教えていただけだ」

 

「ああ、宝玉の事ですか。私達はずっと前からあって当然だと思っていましたが、考えてみると不思議極まりないです」

 

 

 おーう、元気そうだな。これからよろしく頼むわ。

 つーか、今までずっと二人だったのか? 配置換えとか無し?

 

 

「い、いきなり答えにくい事を…。配置換えについては、来月あたりの練武戦で決まるんじゃない? 昇格試験も兼ねてるんだし」

 

「練武戦については、また今度教えてやるよ。ともあれ、コイツはお前さん達の部隊に配属される事になりそうだ」

 

「真ですか!? ようやく戦働きができるのですね! 歓喜極まりないです! 今後、末永くお願いいたします!」

 

「結婚するんじゃないんだから…」

 

 

 …この子、物騒な喜び方するなぁ。実戦の経験がないのでもないし、死の危険を軽く見ている訳でもない。一種の戦闘狂の気配がする。

 一緒に戦うのはいいんだけど、具体的にどこを見回りするとかは決まってるのか?

 

 

「ああ、そこは受付所で毎日指示を出されるから、それに従ってくれ。言ってはなんだが、お前達はまだ実績が全くないからな」

 

「下回り…もとい、見回りから初めろって事よ。私も神夜も戦うつもりではあったんだけど、部隊員が揃わなかったんで、全然動けてないのよ。精々、この前みたいに湧いて出たミフチを倒す程度で」

 

「2人でそれをやってたんだから、実力は認めてるんだけどな…」

 

 

 その実力のある二人に、部外者の俺が加わる訳だしな。どっちにしろ1から初めろって事には変わりないか。

 ま、焦らず行くとしましょうか。俺もそれなり以上には腕に自信はあるし、上手く足並み揃えてれば、結構いいトコまで行けると思うからさ。

 




討鬼伝世界登場人物表

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
    ミタマなので、見える人と見えない人がいる。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
   結構なナイスバディだが、「またサラシがきつくなった」という言葉からしてまだまだ成長しているらしい。

・風華…祭祀堂の巫女。
   修行途中に祭祀堂の主となってしまった為、修行不足。
   どちらと言うと、マスコット兼甘味作成係と思われているようだ。
   天狐と友達。


他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
     武器は細剣(レイピア)。
     戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。

・神夜…無限のフロンティアより。
    武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。
    戦狂いの気質がある。


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387話

大して忙しくもない日だったのに、いい加減独り立ちしてほしいスタッフが「全然分からない」なんて言うおかげで2時間残業…。
アナログな事ですが、やっぱりその場で自分からメモを取らない人はアテにならん…。
その日はお茶で済ませて酒飲まないつもりだったのに、苛立ちに任せてつい1リットル開けてしまいました。

更にその翌日は、聞いてなかったチェックの為に残業発生。
しかもチェックの最中に機械が故障して余計な手間を取られる。

後日、他人に厳しく自分に甘いクソ上司からネチネチと電話。
あれやれこれやれと押し付けてくる店長から「期限を区切ってやれ」とか誰のせいであっぷあっぷになってると。

世界が俺に「飲まずにやっていられるか!」と叫ばせようとしている気がする。


凶星月 八日

 

 

 副業をどうするかについてはまだ決めていないが、とりあえず任務に行ってきた。

 里の外を3人で見回りした後、少しだけ異界の中を探索する。完全に初陣モノノフ向けの内容だったが、まぁ仕方ない。戦うよりも、チーム内の親交を深める為の任務だと言ってもいい。

 勿論、そんな悠長なことを言っていられる程、里は安泰ではないので、物資集めも兼ねていたが。

 

 大物と戦えない神夜は不満そうだったが、それでも餓鬼やらササガニやらを蹴散らす姿は楽しそうだった。よっぽど鬱憤が溜まっていたらしい。

 …あれ、放置しといていいの?

 

 

「あれでも引き際は弁えている…筈だから。あんまり大多数で囲まれるような事でもなければ、大丈夫でしょ。それくらいの力はあるし…。にしても、落ち着いてますね?」

 

 

 そう言う明日奈こそ。あの子みたいに戦場でハシャぐかと思ってたが…。

 

 

「この辺はまだ、今までも見回りに入ってた場所ですから。…ところで、さっきから色々拾ってますけど…何ですか? 宝玉?」

 

 

 宝玉もちょっと拾えたけど、それ以外にもな。里の物資が足りないなら、集めてくるか、或いは新しく物資にできるモノを探すしかないでしょ。

 この辺に生息してる植物は、異界の影響もあって色々変異してるなぁ…。俺も知らない素材が多そうだ。

 でも、ウタカタやマホロバ近辺の素材に通じる物もある。上手く利用できればいいんだが。

 

 

「へぇ…。やっぱり里の外から来た人は、色々な事を知ってますね。私達、里から出た事が無いんで驚きです」

 

 

 その分、この辺の事をよく知ってるからいいじゃない。かなり珍しいよ、ここの技術。

 外に持っていけたら、決行な騒ぎになるんじゃないかな。

 

 

「外…かぁ…。外って言ってもなぁ…。どうにかできると思います?」

 

 

 …うん、言いたい事はよく分かる。360度全方位、完全に異界に囲まれている状態だものな。

 しかもえらく深い異界で、迂闊に入ればあっという間に行動限界が訪れる。ついでに言えば、かなりの上空まで異界の影響が及んでいるので、空を飛べたとしても多分抜けられない。

 

 つっても、どうにかせん事には…。俺の都合もあるし、里だって何れ限界が来て干上がってしまう。

 

 

「それはそうですけど……異界をどうにかできる方法なんてあるんですか?」

 

 

 実践した事はないけど、その為の研究をしてるヤツを知っていて、そいつが作った道具を持ってはいる。

 その為の使い方は知らないから、専ら戦いに使ってばかりだしな…。

 

 そう話はしたのだけど、明日奈の反応は「とても信じられない」だった。まーそうだよな。俺自身、本当に異界を浄化した経験はない。実際にやってみないと、とても信じられないだろう。

 

 そもそも、どうしてここの異界はこんなに濃いんだろうな。オオマガトキが起こった現場が近いって事もあるんだろうけど、それを差し引いてもここの異界の濃さは尋常じゃない。

 

 

「…それは私も気になってました。以前は、異界ももっと遠かったんです。オオマガトキで里が孤立した頃も、四方八方囲まれてはいましたけど、こんなに里に近くは無かったし、異界の毒も深くはなかった」

 

 

 ふぅむ…異界は徐々に侵蝕してくる。その速度については状況次第なんで何とも言えないが……濃さの理由が分からんな。俺でも耐えきれない異界の毒なんて、そうそう出来上がるもんじゃないんだけどなぁ…。

 …………一度、情報収集してみるかねぇ。そうだな、里に図書館…は無かったか。何かこう、年表とか年鑑みたいなものってないかな?

 

 

「それなら、貸本屋の白浜屋に行けばあると思いますよ。貸出料がいくら掛かるかは覚えてませんけど、とりあえずハク持ってます?」

 

 

 あるよ。前に居た所で稼いだヤツが。……あんまり使わず延々と狩りしてたんで、ちょっとしたお大尽状態になっているのは秘密である。

 

 

 

 

 

 その後、ちょっと異界を探索して、退屈だとブーたれる神夜の為に適当な大物を釣り出してきた。神夜はご満悦だった。俺は揺れる巨乳と裾からチラチラ見える部分のおかげでご満悦である。

 

 

 

凶星月 九日

 

 

 貸本屋の白浜屋とやらに行ってきた。話に聞いていた通りモノノフが兼業で経営しているようだ。

 ただ、そのモノノフは………うん、その…言っちゃ悪いんだけど貧弱君だ。実際、お荷物扱いされる事も多い落ちこぼれらしい。

 むしろ、貸本屋としての評価の方が高いと来た。痛みやすい本を整備して管理し、「こんな本が読みたい」と言われれば需要を満たした本を紹介してくれる。…偶に、「違うそういう意味じゃない」って本を出してくる事もあるらしいが。

 本人は、モノノフとして強くなりたいと思っており、実際に努力もしているらしいのだが……「頼むから貸本屋で大人しくしとけ」と言われる有様だ。

 

 新しくやって来た外様のモノノフと聞いても、あまり警戒したりせず、爽やかに自己紹介してくれるいい子だったよ。

 貸してもらった本は、この里の記録が記された本。歴史本なんて大したものじゃなく、誰かが書いた日記と思しき物だったり、古い資料だったり、帳簿のようなものだったり。

 

 借りた本を夜なべして読んでいるのだが……。

 

 

 

 ふぅん……オオマガトキ前の記録しかないが、この辺には幾つかの結界の要があったようだ。境界石なのか結界石なのか、そのどちらなのか今一つ分からないが、多分イメージ的には結界石だろう。ウタカタの里でも、橘花が結界を起点にしてた奴だ。

 …確かあの石、数があればそれだけ強力な結界を張れるが、術者にかかる負担は跳ね上がっていった筈なんだが…。ここの神垣の巫女、酷使されてたんだろうか? 今度牡丹に聞いてみようかな。

 

 ともあれ、どういう訳だかその石は、効果を失ってしまっているらしい。それがあれば、異界もあそこまで迫ってこなかっただろうに。オオマガトキで破壊されたんだろうか。

 異界侵蝕を阻んでいた石が無くなったのは分かったが、結局あの異界の濃さの理由が分からない。

 

 異界の瘴気とは、突き詰めれば鬼達が体から発している毒素だ。その量が多ければ、異界の瘴気は濃くなる。…が、同じ場所に溜まるよりも広がっていく事が多い。

 例えて言うなら、布団とかを箱に押し込むようなものだ。余程強い力をかけなければ、溢れて外に出てしまうだけ。これが異界の侵蝕が進む原理だ。

 

 その為、異界の濃さと広がる速度は密接なかかわりがある。ある程度の濃さになるまではその場に溜まり続け、一定を超えれば入れ物から溢れた水のように周囲に広がっていく。

 

 分かるだろうか? 異界が広がる速さと、異界の瘴気の濃さは、基本的に反比例するのだ。一定量しか吹き出ない瘴気を、広がる事を留めさせてギュッと内側に留めるか、薄く延ばして範囲だけを広げるか。

 

 

 …ここの異界の濃さと、明日奈から聞いた侵蝕の速さからして、どうにもバランスが取れていない。

 ………それだけ大量の瘴気を生み出す『ナニカ』があるのか…? 単純に考えれば、それだけ強力な鬼だが…。

 

 

 

「おう、まだ起きてるな? 入るぞ」

 

 

 ん? 寒雷さんか。どったの?

 

 

「何、寝る前にちょいと里の見回りをな。夜更かしは感心せんなぁ。火を灯す為の油は貴重なんだぞ。外の里では、油くらい幾らでも使えたってのか? ん?」

 

 

 あー…悪い、もうこんな時間だったか。前居たとこじゃ、夜の明かりも珍しくは無かったんでな。流石に無駄遣いしたら怒られるけど。

 

 

「はは、冗談だ。貴重な資源なのは確かだが、自分に割り当てられた分でやってるんなら好きにすりゃいいさ。里での初陣を終えたってんで、ちょいと様子を見に来たんだが……平然としてるな。艶本でも読んでたのか?」

 

 

 本だけじゃ性欲を持て余すから。基本的に実物の女にしか興味ないし。尚、エロゲや同人誌は別腹。

 初陣については……まぁ、神夜が退屈そうだったから適当なの釣っただけだし、むしろ平穏すぎるくらいだったなぁ。

 

 

「おう、正にそれが気になってきたのよ。手練れのモノノフだとは思っちゃいたが、想像以上だ。神夜の話に聞いた限りでは、だけどな」

 

 

 正直、下級ミフチ相手にして強い弱い言われてもなぁ…。

 

 

「お前な…。いや、里の外が今どうなっているのかは知らんが、ミフチだって相当な大物なんだぞ。少なくとも、普通のモノノフなら4人揃わない限り絶対に戦うなって言われるくらいに」

 

 

 ……そうだっけか。確かに、言われてみれば昔は散々手古摺った。一対一で必死こいて倒したっけ。前居た所じゃ、ミフチを一人で倒せて当たり前みたいな空気だったから忘れてたぜ。

 で、それがどうかしたん? そこそこ使えそうな戦力が入って来たんだし、大した問題はないと思うが?

 

 

「問題って程の問題じゃないが、今後の意思確認はしておかんとな。お前さん、これからモノノフとしてどう動くつもりだ?」

 

 

 どう……と言われても。

 

 

「すまん、聞き方が悪かったか。そうだな……今後、異界を積極的に探索するのか、それとも里の防衛力、或いは労働力としての活動に力を入れるか…」

 

 

 その選択肢なら、探索一択。異界の中を探索し、他所へ通じる抜け道や、異界そのものを浄化する方法を探す。

 私はウタカタに行く事を諦めない。

 

 と言うか、行かなきゃ色々な事がオジャンになる。もう一回オオマガトキが起きて、問答無用でデスワープなんて事になりかねない。

 

 

「異界の浄化、か…簡単に口にするが…いや、いい。確かに、そうでもするか、お前が言う通り別の里への抜け道でも探さないと、遠からず里まで侵蝕が及ぶのは分かっている」

 

 

 誰もが知ってはいるが、対策が見つからない為に目を反らしてきた事実だな。

 で、それがどうかしたのか?

 

 

「神夜が、お前が居ればもっと異界の奥に行ける、強い敵と戦えるって喜んでたんでな。決して悪い子じゃないんだが、血筋の為か戦狂いの気質がある。本人も下手な十鬼長よりも腕が立つもんで、下手なモノノフとも組ませられん。今までは、2人しかいない事を理由にしたり、明日奈が宥めていたんだが…」

 

 

 俺という新戦力が来たもんで、それらの理由が効かなくなったと。

 

 

「そういう事だ。ま、俺だってあの二人を戦わせてやりたいとは思っていたんだ。実力はあるのに、燻らせてたからな。問題はお前の意思で、積極的に戦いたくない、里の守りに専念したい…となったらどうするかと思ってたんだが」

 

 

 神夜に強引に連れ回されるのを心配してくれたって事ですか。礼を言っておきましょ。

 …ちなみに、明日奈の意思はどうなんです?

 

 

「神夜程じゃないが、あいつも戦いたいと思ってるのは確かだ。そうでなければ、宥め役とは言え神夜とは組ませられんよ。まぁ、あの二人は幼馴染だと言う事もあるけどな」

 

 

 ふぅん…。あの二人の実力なら、そうそう酷い事にはならんでしょ。現状、異界の濃さのおかげで活動限界時間が非常に低い。

 あまりに戦ってばかりだと、それこそ瘴気でお陀仏しちまう。嫌でも引き去らざるを得ないでしょう。

 

 …そうだ、丁度良かった。この辺に地理とか歴史について、ちょっと聞きたい事があるんですが。

 

 

「ん? 構わんが、異界の中は流動が続いているから、どれくらい当てになるかは分からんぞ」

 

 構いません。とにかく情報が欲しいんで。

 まずは、以前ここ近辺を守っていた結界の起点ですが…。

 




討鬼伝世界登場人物表

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
    ミタマなので、見える人と見えない人がいる。
   主人公への評価…新しくやってきた里人。仲良くできるといいな!

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
   主人公への評価…思っていたより使える。外のモノノフも侮れない。」    

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー。
   主人公への評価…顔合わせの時以来、特に話してない。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
   結構なナイスバディだが、「またサラシがきつくなった」という言葉からしてまだまだ成長しているらしい。
   主人公への評価…外のモノノフ。珍しい武器とか持ってないかねぇ?

・風華…祭祀堂の巫女。
   修行途中に祭祀堂の主となってしまった為、修行不足。
   どちらと言うと、マスコット兼甘味作成係と思われているようだ。
   天狐と友達。
   主人公への評価…なんだかちょっと怖い気がする。


他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
     武器は細剣(レイピア)。
     戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。
   主人公への評価…年上と言う事で、とりあえず敬語。

・神夜…無限のフロンティアより。
    武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。
    戦狂いの気質がある。
   主人公への評価…おかげで鬼と戦えるようになりました。感謝極まりないです!

オリキャラ(並びに、ネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
   主人公への評価…仲良くしたいと思っています。外の世界には、簡単に強くなれる方法ってないかな?


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388話

最近寒くなってきました…ついこの前まで夏だったような気がするのに、早いもんです。
それはそれとして、次の休日は暖かく晴れてほしいなぁ。
酒作りの歴史の企画展とかあるらしいので、ツーリングも兼ねてひとっ走りしたいです。


凶星月 十日

 

 

 デスワープして、最初に一晩過ごす相手がむくつけきオッサンとは…。考えたら何だか悲しくなった。いや、頼んで調べものに付き合ってもらっておいて、この言い草はどうかと思うが。

 冗談はともかくとして、結界石についてだ。この石、オオマガトキで壊れたのかと思っていたら、割と最近まで残っていたっぽい。それも、効果を発揮しながら。

 その結界石も、徐々に力を失い、瘴気に侵食され、何れは砕け…そして異界が迫って来たと。

 現在残っているのは、里を守っているたった一つの結界石のみ。里の中心にある石なので、これが力を失う時は、恐らく周囲にモノノフが誰も残っていない状況だろう。…抵抗する事すらできなくなって。

 

 

 しかし、それだけ多くの結界石があったのに、そう簡単に力が失われるものだろうか? 神垣の巫女の負担は増えるかもしれんが、それだけの結界なら鬼が侵入するのも一苦労、瘴気に至っては問答無用で浄化されてしまいそうなのに。

 

 とりあえず、当分異界の探索を主に行っていくが、その目的は瘴気の異常な濃さの原因調査、及び力を失った結界石の探索としよう。

 

 

 

 

 

 さて、今日も明日奈と神夜に合流し、任務を受けに行く。神夜がキラッキラの楽しそうな笑みを浮かべているが、これって惨殺への期待の笑みだよな…。

 相変わらずの二人の服装を見て、寒くないの?「身刀燃焼すれば冬もまた暑しです」「慣れですよ、慣れ」なんて話をしながら歩いていたところ、任務の受付所から出てきたにーちゃんと目があった。

 

 

「げ、泥高丸…」

 

 

 でいこうがん? …誰?

 

 泥高丸と呼ばれたその男は、ガッシリとした体格のイケメンだった。自信に満ちた爽やかな笑み。…何となく、日本人よりもアメリカ人っぽい雰囲気があるな。こう、HAHAHAHAとか笑いそうな。

 体付もマッチョの一言。使う得物は……槍か。

 

 …で、結局誰。

 

 

「里のモノノフの筆頭…千鬼長です。練武戦で連続優勝を続ける、里一番の使い手で、名家の出身でもあります。ですがそれ以上に、『鬼纏』の開発者として大きな影響力を持っています」

 

 

 神夜に耳打ちされるとか、なんか幸せ。

 要するに、名家イケメンエリートさんって事ね。そりゃ嫌な顔にもなるわ。キャーキャー言う奴も多そうだけど。

 ……ていうか、練武戦とか鬼纏って言われてもよく分からないんだけど?

 

 そんな事を考えていると、泥高丸とやらがこちらに視線を向けた。

 

 

「よう。相変わらずの見回りか。大変そうだな」

 

「嫌味ったらしい事言ってるんじゃないわよ。今日から異界の探索に行くの。そっちこそ、精々鬼に食べられないようにね」

 

「俺達はそれほど間抜けじゃないんでな。…ふん? そっちのが、里に迷い込んできたモノノフか。お前らが連れ帰ったんだって?」

 

 

 はいな。暫く厄介になりますよっと。

 

 

「暫くなんて弱気な事を言わず、長く世話になってみせるんだな。あまり弱気だと、それこそ運気も逃げていくぞ」

 

 

 俺の運気は、大抵肝心なところで逃げ出すから。逃げ出すどころか、不運をお友達にして帰って来たりもするけどな! ラヴィエンテとか巨大ミラバルカンとかよぉ!

 

 

「よく分からんが、同じ里になった縁だ。死なないように祈ってやるさ。何かあったら助けを呼ぶんだな、凡人らしく!」

 

 

 凡人とは何ぞや(哲学)。いや元々俺って、スペック的には凡人だったけども。

 何かに勝ち誇ったような顔ですたすた歩いていく泥高丸一行。ほー、同じ任務に当たってる連中も、そこそこやれる連中みたいだな。ここのエース、主力ってのは伊達じゃなさそうだ。

 

 その仲間の一人が、去ろうとする泥高丸に耳打ちしているのが見えた。…ヤローの内緒話に興味はないね。

 

 

 

「ああ、待てそこの。一つ聞きたい事がある」

 

 

 …まぁ、興味はないけど、質問に答えるくらいならな。何ぞ?

 

 

「まずお前、異界を通って来たんだったな。どの辺りから来た?」

 

 

 里から見れば北の方だな。この二人に会うまで、異界から出たら只管南下していた。

 距離は…歩いて2、3日ってとこか。

 それまでは異界の中。異界は延々と続く雪景色で、退屈だったらありゃしなかったよ。

 

 

「…墓場を見なかったか」

 

 

 墓場? いやいきなり墓場と言われても………あぁいや、そういやあったな。異界の中でそこだけ妙に石が集まってると思ったら。

 

 

「その墓場、何処にある! 刻まれていた銘は!?」

 

 

 覚えてないよそんなの! 汚れと摩耗だらけて、殆ど読めなかったし!

 何処にあるって、流動を続ける異界の中で案内しろっつー方が無理だろが!

 

 

「む………そうか、そうだな…。すまん、取り乱した。そうか…。まだ近くにあるんだな…。いい事を教わった。礼を言うぞ」

 

 

 ペコリと頭を下げて、泥高丸は今度こそ歩き去っていった。

 …何だったんだ?

 

 横を向いてみれば、さっきまで舌を出して「ベーッ!」とかしそうだった明日奈が、妙に神妙な顔付になっていた。

 何なんだ、本当に? 

 

 …なぁ神夜、明日奈。本当に何事だ? 明日奈はえらく嫌っていたようだが、そんなに悪い奴だったか?

 確かに、妙に気取った言動とか、見下したような物言いだったが、そんなにクソッタレなヤツでもなかったと思うが…。

 何だかんだで素直に頭は下げたし、言い方はともかくとして『仲よくしよう』『何かあったら助けてやるよ』って言ってたんだし。

 

 

「あー…いや、そういうんじゃなくて…単純に馬が合わないと言うか…」

 

「ええ、悪い方ではないのです、悪い方では。ただ、明日奈さんの勘気に触れると言いますか…私も、少なからず思う所はありますので」

 

 

 ふーん…。まぁ、厭味ったらしい面を長く見せつけられればそうも思うか。

 あいつも結構な実力者のようだが、この二人だって負けてない。だと言うのに、片や里の最強モノノフにしてエース級、片やまともに戦わせてすらもらえない

 そりゃ鬱憤も溜まるだろう。

 

 

「まー、悪い奴じゃないのは分かってますよ。うん、本当に。家族思いの…拗らせてるけどいい奴だって事は、少なくとも知ってますし」

 

「里の若手にも、あの人に反発する輩は一定数居ます。取り巻きはそれ以上に居ますけど。見合うだけの力を持っているのが救いなのやら、また苛立たしいやら…」

 

 

 ふぅん…。

 墓場がどうの、と言ってたな。察するに、親類の墓か…。

 あそこへの道ってどうなってたっけ。俺の体でも瘴気を防ぎきれなかったし、普通のモノノフじゃちとキツいか。ま、どっちにしろこの辺で結界石を探し回るつもりなんだ。ついでに墓場へ続く瘴気が薄い道を見つけたら、教えてやるか。

 

 

 

 

 さて、ちょっとしたイベントもあったが、とりあえず任務である。今回は単なる見回りではなく、異界をちょっと奥まで進む。

 探索をメインとしたかった俺だが、鬼斬!鬼斬!鬼斬!な神夜と、なんだかんだで戦いたかった明日奈。大物を見るなり突っ込む羽目になったよ。

 まぁ、大物っつってもヒノマガトリだったけどな。下級だったし、実際その程度の力しかなかった。

 

 

「…前からちょくちょく言ってましたけど、その『下級』って何ですか? 不思議極まりないです」

 

 

 何って……こう、任務の難易度であるんじゃないの? 下級、上級、場合によっては極級って。

 敵の強さによって、漠然とだけど分けられてるっつーか…。

 

 

「あー……心当たりはありますけど、この里では極一部の任務にしか割り当てられませんね。主に資源を得る為の任務です」

 

 

 ふむ…何処まで自分が進めるかの判断も、自分で作らなきゃならん訳ね。それが当然っちゃ当然だけども。

 じゃあ今度はこっちから聞くけど、鬼纏って何ぞ?

 

 

「はい? …………ああ、そう言えば…泥高丸が作り出した戦術なのですから、外の里で知れている筈もありませんね」

 

「もう何度か見てますよ。鬼達と戦っている間に、私達の動きが早くなったのに気付きませんでしたか? そう言えば、最初に一緒にミフチと戦った時にも使いましたね。あはは、あっという間に終わっちゃったけど」

 

 

 

 気づいたけど、誤差の範囲だと思ってた。大体、それっぽい物使う時にはいつもトドメの段階に入ってたし。

 

 

 

「……速度だけで言えば、倍は出ている筈なのですけども…。驚嘆極まりないです。いえ、実際平然と私達の動きに合わせていましたし、てっきり外にも同じような術があるのだと思っていましたが…」

 

 

 原理はともかく、効果で言えば似たような物は山ほどあるぞ。タマフリだって似たようなものだろ。

 他にも鬼人化、バースト状態、アラガミ化。自分を一時的に強化する術なんぞ、古今東西珍しくもないわ。

 まぁ、見た所…自分に負担を極力かけないでやれるのは、珍しいっちゃ珍しいかな。

 

 リンクバースト、捕食に近いか? 敵から漏れ出るエネルギーを喰らって、自分の力に変える。

 敵に近ければ近い程、攻撃を当てれば当てる程、その充填率は高い。

 …こうして考えると、ゲームシステムとして考えれば珍しくもないな。実現できた事には感嘆以外の何物もないが。

 

 

「凡その機構は分かっているようなので、簡潔に説明させていただきます。鬼纏は、鬼から零れ出た瘴気をモノノフの強化に使う術です。本来であれば瘴気は人間には毒にしかなりませんが、使い方次第で毒と薬は紙一重。全ての瘴気を利用する事はできませんが、ある程度濃くて大きな塊で、鬼から完全に離れている。他にも細かい条件はありますが、それを体に取り込む事で術が発動します」

 

 

 ふむふむ。モノノフとしては、逆転の発想としか言いようがないな。瘴気は人にとって毒でしかない。それを攻撃に利用するならまだしも、自分への強化にする…。

 よく実践しようとしたもんだ。実験するには、自分から毒の盃を呷るような真似をせにゃならんだろうに。

 

 

「実際、最初は死ぬような目にあったそうですよ。何度も繰り返したおかげで、瘴気への耐性が出来たって言ってました」

 

 

 何回繰り返したんだよ…。俺も素で耐性が出来てるけどさぁ。何がそこまで駆り立てたんだか。

 

 

「話が逸れましたが、手順としては瘴気の浄化・取り込み・強化の3つです。ここで一番厄介なのは取り込みですね」

 

 

 取り込みが? 浄化は鬼祓いで出来るから分かるけど、強化じゃないのか? 術の本番だろ?

 

 

「いいえ。強化はそれこそ、タマフリの応用のようなものです。難易度は高いですが、モノノフなら誰でも触れた事があるような技法ですよ。対して、取り込みは自分から行うとなると…」

 

「初見で鬼纏をあっさり体得した神夜の基準は当てにならないと思うけどね」

 

「ちょっ、明日奈さん、心外極まりないです!」

 

 

 ふーむ…さっきの例で行くと、「中和剤を入れたから、毒盃を呑んでも大丈夫!」って理屈だもんな。精神的にも受け入れ辛いか。

 それに、浄化された瘴気は単なる物質。不純物になってしまう。肺に埃が入り込むって大事だと思いますけどね。

 

 

「コホン、話がそれましたが、とにかくそういう事です。ちなみに、泥高丸が里一番の使い手である理由は、この鬼纏を鬼が居ない所…それこそ、練武戦の舞台でも発動させられる事ですね。詳しい仕組みは分かりませんが、取り込んだ瘴気をそのまま保存しておけるらしいのです」

 

 

 ほう。ゲージを予め貯めておいて、いざと言う時にドカン、か。他の人達はゲージが溜まった時点で発動する、と。

 何か知られてない秘訣でも持ってるのかね? 自分で開発したスキルである以上、公開するしないは本人の意思次第だが…。

 

 

「…ねぇ、鬼纏を知らない…確か祓円陣も知らないって言ってたし……ひょっとして、鬼千切・廻も知らない?」

 

 

 廻…? 極じゃなくて?

 

 

「こっちとしては、その極っていうのこそ何なのかと聞きたいんだけど」

 

 

 うーむ…技術や戦術が想像以上に隔絶しとるな。もっと早くに色々確認するべきだったか。

 そう考えていると、明日奈が頭を抱えていた。…どした?

 

 

「いや…神夜が突っ走って、鬼千切・廻を使わないのはいつもの事だけど、私も一回くらいやってみたかったと思ってて…。そっかー、知らなかったからやらなかったのかぁ…」

 

 

 …何ぞ?

 

 

 詳しく聞いてみれば、大体は鬼千切・極と同じようなものだった。ただし、祓円陣を前提とした術。

 違いとしては、発動のタイミングと条件だろうか。敵がタマハミ状態になった瞬間の隙を狙い、貯めこんでおいた力を全員で一気に放出して攻撃する。この時、放出した霊力を全員で共有・共鳴させて威力を跳ね上げる。

 鬼千切・極との大きな違いは、霊力を貯め込む為に時間がかかるので、基本的に一度の戦いで一度しか使えない事。また、前述したようにタマハミ状態になった瞬間にしか使えない。代わりにまず外さないくらいの必中の一撃である。 

 ふーむ、力が蓄積されてれば何時でも使えて、近くに仲間が居ないと最大効率は出せなくて、外す事はあっても何度も放てる鬼千切・極み。一度しか使えないが、ほぼ確実に最大効率で直撃させる事ができる鬼千切・廻。うまく組み合わせれば、面白い事になりそうだ。

 

 とは言え、それはまだ先の話。まずは鬼千切・廻を実際にやってみないとな。

 

 ちなみにこの技、複数人のモノノフで力を合わせて放つ為、団結の証みたいに扱われる事も多い。心が繋がるRPG…もとい必殺技か。

 それをやった事が無いのは、ある意味ボッチ扱いされてしまうそうな…。

 

 

 

 ま、とりあえず今日は一旦帰るとしましょうか。そろそろ活動限界も近いだろ。神夜も一戦だけとは言え、デカブツを狩ってそれなりに満足できたんじゃないか?

 

 

「うーん、個人的にはまだまだ斬り足りないのですが…活動限界では仕方ありませんねぇ」

 

 

 普段のおっとりとした表情はそのままに、妙に色気のある仕草で首を傾げる神夜。戦狂いなのは事実のようだ。明らかに、戦いの熱に酔っている。

 明日奈に目をやれば、黙って目を瞑ったまま首を横に振られた。いつもの事らしい……いや、いつもに増して、なのか。そこそこ強い相手との闘いは久しぶりらしいし。

 

 ちなみに、明日奈も多少は戦い足りないと思っているようだ。さっきから、獲物を探して目があちこち動いている。警戒しているのではないのは、剣…レイピアの柄にかけた手に力が籠っているので分かる。

 俺も一戦と言わず、この辺の鬼が泣いて逃げ出すまでデビルメイクライしても構わないのだが、制限時間は重要だ。

 何せ、帰るのが遅れると晩御飯にありつけなくなってしまう。

 資源も限られた里の中、一食の配給を疎かにすれば即刻死に繋がるのである。

 

 

 

 

 まぁ、結局帰り道にまた鬼……ツチカヅキと遭遇したんだけども。

 流石に活動限界時間が間近だったんで、戦闘狂の神夜も焦っていたが……そこはそれ、俺の鬼千切(ノーマル)・鬼千切廻・鬼葬の3連コンボの前に10秒と経たずに沈んでしまった。

 初めて鬼千切・廻を使用して脱ボッチ扱いの明日奈も、鬼葬について色々聞いてきたが、帰ってからと言う事で誤魔化した。

 

 まぁ、鬼千切・廻を初め、祓円陣やら鬼纏やら、色々な技術を教えてもらってるんだし、こっちから教えるのも吝かではない。

 ただ、鬼の手関連の技術に関しては、触媒となる道具がないとどうにもならないんだよなぁ…。俺は体に取り込んだから何も無くても使えるけど。

 

 しかし、実際教えられっぱなし、世話になりっぱなしと言うのも今一つ座りが悪い。ここは別の技術でも教えるべきかねぇ…。

 そういう訳で、部屋にまで押しかけてきて、wktkした目で俺を見つめる神夜と、頭を抱えつつも気になっているらしき明日奈を見るのだった。

 

 




討鬼伝世界登場人物表

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
    ミタマなので、見える人と見えない人がいる。
   主人公からの評価…見えにくい。里長としての立場もよく分からん。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
   主人公からの評価…色々世話になっているし、今後も手を煩わせる気がする。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー。
   主人公からの評価…美人さん。神垣の巫女なだけあって、色々貯めこんでいそう。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
   結構なナイスバディだが、「またサラシがきつくなった」という言葉からしてまだまだ成長しているらしい。
   主人公からの評価…健康的な色気が眩しい。けど、その色気に何だか影があるような。

・風華…祭祀堂の巫女。
   修行途中に祭祀堂の主となってしまった為、修行不足。
   どちらと言うと、マスコット兼甘味作成係と思われているようだ。
   天狐と友達。
   主人公からの評価…あまり関わってないが、甘味には興味ある。


他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
     武器は細剣(レイピア)。
     戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。
   主人公からの評価…色んな意味で可愛い子。

・神夜…無限のフロンティアより。
    武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。
    戦狂いの気質がある。
   主人公からの評価…戦狂いと言っても、気質的には可愛い方。恰好はエロ可愛い。


オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
   主人公からの評価…貸本屋の少年。根が素直な子だから、つい目にかけてしまいそう。

・泥高丸…でいこうがん。
     里で一番腕が立つと評判のモノノフ。
     明日奈とソリが合わないようだ。
     新戦術『鬼纏』を開発した人物らしい。
   主人公からの評価…エリート意識と微妙に親切な言動が相まって、背伸びしている少年に見える。


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389話

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!

天魔な鎮守府が! 天魔な鎮守府がぁぁぁぁ!!!!!

……つ、作り直しか…ギリギリセーフ…。
事情が事情だから仕方ないですよね…。

うぅ、心臓止まるかと思いました…。
毎回思いますが、やっぱりこういうのは保存しておきたい…。
でもNNDDじゃダウンロードできなくなってるんだよなぁ…。
と言うか、規約的にはツールを用いてのニコ動アクセスは禁止の筈だし。

ううむ、しかしやはりコメントごとローカルに保存しておきたいし、できれば順に再生するツールもほしい…。


凶星月 十一日

 

 

 予想以上に…いや、予想外にと言うべきだろうか? 俺達が『使える』という評価を受けているらしい。

 まだ2回程度しか異界の探索に向かってないが、それでもミフチ、ヒノマガトリ、ツチカヅキと立て続けに撃破し、大した傷も負っていない。

 本来4人編成の筈の部隊なのに、3人での探索でその戦果。元々実力はあったと言われている明日奈・神夜はともかく、俺の場合は侮られている所もあったんだろうけどな。外様のモノノフがどの程度のものやら、って。まーそれは別に構わん。見返してやるのは、そう難しくない。

 もう暫く慣らし運転と言うか、どれくらい使えるか様子を見る筈だったが、その辺をすっ飛ばしてもうちょっと前線に出してみてもいいんじゃないか、という意見が出ているらしい。

 

 こちらとしても異存はない。神夜は言わずもがな戦狂いだし、明日奈もそれ程ではないにしても、先日の夜に教えた戦い方を試したがっている。

 具体的には、この里には無いミタマスタイルとか、MH世界の技とかね。流石に一晩で完全に習得するのは無理だったが。

 

 ちなみに、二人に教えたこれらの技術だが…里の他の連中に教えるのはどうかと聞いたら、難色を示された。

 理由は大きく分けて二つ。

 まず、そう簡単に覚えられるような代物ではない事。『使う』だけならまだしも、『使いこなす』のは非常に難しい。かつて、3つの世界の戦い方をミックスしようとして物凄く混乱した覚えがある俺としても、この意見は否定できない。

 モノノフ達の戦い方は、体系づけられ、頭から足先まで一貫した理屈が通った代物だ。それは最強でも無敵でもないが、矛盾が少なくハイレベルで纏められた物なのは間違いない。下手に異物を入れても、混乱を来すだけである。

 

 

 二つ目の理由は………これは今一つ実感しにくい事なのだが、『鬼纏があれば、それ以外の技など不用!』みたいな風潮があるからだ。

 …正直、え、何その理屈…って思ったのだが…若いモノノフを中心に、そのような雰囲気が漂っているらしい。無論と言うべきか、やはりと言うべきか…その中心となっているのは、鬼纏の開発者であり、里の若手モノノフの中心でもある泥高丸。

 何も文字通り、他の技なんか一切必要ない…と言う訳ではなく、小手先の余技を覚えるくらいなら、鬼纏の練度を上げろ、という話らしい。

 

 実際、鬼纏を見てみたが、そう言っても許されるくらいには劇的な効果を持った戦術なのは否定しない。動く速度が2倍になると考えれば単純に考えても、隙は半分になり、火力は2倍になる。戦闘力が4倍になる、くらいの考えでもいいんじゃないだろうか。

 その鬼纏中心の気風を前にして、大した実績もない俺が「こんな強い技あるぜー、教えてやるから皆覚えようぜー」みたいな事を言っても、鼻で笑われるのがオチ…だそうだ。

 

 むぅ、確かに無理強いして覚えさせるような物じゃないな。曲がりなりにもハンターの技だ。一朝一夕で覚えられるものじゃない。

 仮に大きな戦力になるとしても、貴重な時間を削って覚えさせられるかと言うとな…。ここのモノノフ達は基本的に兼業なのだ。その兼ねた仕事が、里の生産力に直結していると言ってもいい。戦力は増したが、食料生産量が減って飢えてしまった、じゃ話にならん。

 もし教える事が出来るとしたら、もっと懐に余裕ができて、そして俺の戦績が認められてからになるだろう。

 

 

 尤も、これは里全体で言ったら、の話だ。神夜と明日奈は特にそういった風潮も関係なく、貪欲に俺が教えた技術を吸収していった。…強くなりたいとか戦いたいとかではなく、物珍しさが動機の半分を占めていたようだが、それは別にいい。

 実際、教えた技や戦い方も、まだまだ『試す』ばかりで本来の戦い方に混ぜる様子はない。新しいオモチャを得た子供のようだ…学校にもっていかないだけ自重してるね。

 

 

 

 さて、周囲の評価はともかくとして、俺自身の意思だが…率直に言えば、もっと異界の深い場所に調査に行きたい。深い…と言うか、濃い場所、と言った方がいいだろうか?

 異界の深い場所へは、他のモノノフ達が先に踏み込んでいるが、何も見つかっていない。専ら、沸いて来る鬼達を倒すだけだ。

 彼らが見落としている物を見つけられる可能性もあるが、あまり可能性は高くはないと見ている。

 

 何かあるとしたら…そして探すとしたら、今まで誰も踏み込めてない領域だろう。即ち、異界の瘴気が異様に濃い領域。瘴気の発生源も、そこにあると睨んでいる。

 …尤も、これくらいの事はこの里のモノノフ達だって考えている。濃すぎる瘴気の為に実行できず、行ける場所を虱潰しに探すしかないのだ。

 

 

 と言う訳で、異界の危険そうな領域に突撃しようと思うんだが、どうだろう。

 

 

 

「「いやいや流石にそれはちょっと」」

 

 

 揃って首と手を横に振る明日奈と神夜。 

 なんだよー、ノリが悪いなぁ。特に神夜、瘴気が濃いトコだと強い鬼と戦えるぞ?

 

 

「それは心惹かれますが、戦う前に動けなくなってお陀仏してしまうのが目に見えてますので…」

 

「そうですって。いくら神夜でも、鬼と戦う為に自殺はしませんって。命は賭けますけど」

 

「だってそれはモノノフですので」

 

 

 せやな。モノノフもハンターもゴッドイーターも命懸け前提やからな。

 じゃなくて、まぁ聞きなさいって。

 まず、ここに耳飾りがあります。この辺では手に入らない素材で作った、特注品です。これを付けてください。

 

 

「…贈り物ですか? 嬉しいですけど、そんな手で懐柔されたり…」

 

「明日奈さん、頬が緩んでますよ。と言うか二人同時に渡すんですから、そういう色気のある話じゃないですよ。…付けましたが、これでどうなるんです?」

 

 

 異界の瘴気を無効化できます。つっても、濃い所の奴は完全には無理だけど。

 それでも歩き回れって帰るだけの時間は作れるから、これで戦いも探索も問題ない。

 尚、材料も無ければ作り方も知らないので、あるのはこの二つの現物だけだ。分解なんぞした日には全てパー。

 その名も素敵、抗毒珠SP・改。…あっちに居た時にコツコツ作ってた…と言いところだが、暴れ回ってたらいつの間にやら素材が集まっていた。瘴気対策はどうやったって必要になるのが分かってたから、特に何も考えず作ってたんだよね。

 

 ………って、何よその目?

 

 

「何って言われましても……あまり嘘の類を吐かれる方とは思っていませんが、流石に胡散臭いこと極まりないです」

 

 

 …そうか、それもそうだな。耳飾り…ピアス一つで毒を無効化するなんて、普通はそうそう信じられんよなぁ。

 それを言ったらタマフリで傷が癒えたり、宿したミタマの力で気絶しなくなったりするのも似たようなものだが、これはモノノフにとっては当然の力だ。

 ついでに言えば、ミタマの力ではステータス異常的な意味での『毒』は解除できるけど、タイムリミット的な意味での『瘴気』はどうやったって無効化できないからなぁ。信じられないのも無理はない。

 

 んー、だったらとりあえず、今日の探索はそれを付けて行って、効果を見てみるってのはどうだ? 耳飾りだけなら、そう邪魔にはならないだろ。…アクセサリつけたまま格闘するとか、現実で考えると正気の沙汰じゃないけどな!

 

 

「まぁ、そういう事なら…。本当に効果があるなら、とんでもない事になりますけど…」

 

「? すぐにもっと強い鬼と戦えると言う事ですよね?」

 

 

 あらバトルジャンキー(今更感)。 

 まー効力は今日の探索で実感してもらうとして、今日の探索に希望はあるかな? 神夜は戦えるならどこでもいいだろうけど。

 

 斬冠刀は今宵も血に飢えています! なんて笑顔で返事をする神夜。血に飢えているのは君だ。

 

 

「んー……でしたら、一つ希望が。先日みたいに、色々な資源を確保できる場所がいいです。何だかんだ言っても里って追い詰められてますし、今まで使い道のなかったものが使える物だって分かれば…」

 

 

 成程。備蓄を作るのは重要だな。となると、どうするか…。

 まず一番重要なのは食料。二番目に武器防具の為の鉱石貴金属類。三番目に薬品…?

 

 

「いえ、鍛冶に使う鉱石や貴金属は、いくら練さんでもすぐには扱えないと思います。腕の良い方ですが、それだけに慎重極まりないです」

 

 

 確かに。なら二番目に薬の材料、三番目に武具の材料で行きますか。

 明日奈、いい場所あるか?

 

 

「ちょっと待って、受付所にあった依頼は…………あ、これなんか良さそう」

 

 

 ほほう。…? 何だコレ、砂? が報酬?

 へぇ……これがここで武器を強化する為の素材なのか。他にも鬼の部位もあるようだけど…何と言うか、使う所が限定されてるな。

 角とか爪とか牙とか尻尾ばかり。いや鬼を素材にするのって大体がソコなんだけど、同じ爪でも色々あるからな、特にMH世界のは。

 

 

「外の里ではそうなのかもしれませんが、この里にはその技術が伝わってないんですよ。今ある技術だって、書物なんかから必死で再現したものなんです。先代の本職の方が、オオマガトキで亡くなってしまって…。それ以来、あまり備蓄がある訳でもないので迂闊に実験もできないんです」

 

 

 そりゃそうか。鍛冶屋が使う炭や石炭の量は尋常じゃないからな。下手に使えば里が干上がる、か…。

 本気で追い詰められてるなぁ、この里…。……今は俺も他人事じゃないか。

 

 ま、何とかしてやりますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして本日の探索の結果。

 

 

 

 なに、この物騒な里。いや異界化した影響かもしれないが、武器に転用できる物が山ほどあった。それはもう、石ころからその辺の草木まで。

 衝撃を与えると破裂するキノコ、異様に硬くて鋭い形の虫、火をつけたら燃料にするには厳しいくらいの爆発を起こす石、着弾したら発光する草、触れると瘴気をバラまく野草…。

 

 ……んん~~~? なんかこう、スッゴイ覚えがある資源達なんですけど? 初見でも使い方の見当がつくくらいには。

 「多分コレ使えるな」と言って、試しに幾つか使ったり混ぜ合わせたりしてみたんだが、7割くらいは思った通りに上手く行った。明日奈の尊敬の視線が心地よい。神夜がどうやって戦いに転用しようか考えている目がちと怖い。

 

 二人からの視線はともかくとして、これ、なんかMH世界の虫や植物に似てるんですが? 流石にそのままじゃなくて、いくつも相違点があるけども。

 例えば、上記で書いた異様に硬くて鋭い形の虫。形状からして、思いっきり投げつければそれこそボウガンの貫通弾みたいな効果が出そうだった。

 普通に投げたら、そのまま飛んで逃げた。仕留めてから投げつけたら、やっぱり貫通弾。

 

 着弾したら発光する草は、MH世界の光玉と同じような手順を踏めば、何故か光玉ではなく音響玉みたいになった。

 衝撃を与えると破裂するキノコは、そのまま火薬みたいに扱えた。

 

 

 ……微妙にズラしてる、ズレてはいるが……確かにMH世界と同じ進化の系譜を感じる。

 どういう事だ? 今まで異界の中を何度も歩き回って来たが、これ程あからさまに別世界に似た事は無かった。

 

 いや、そうでもないか。異界の中だと考えなければ、山ほど例はあった。MH世界に現れる怨霊のようなモンスター、霊力の残滓。GE世界で現れた、MH世界と討鬼伝世界を模したようなアラガミ達。

 討鬼伝世界でも、その影響が出たと思えばおかしくはない。原因はサッパリ分からないから、おかしいと言えばやっぱりおかしいが。

 

 とりあえず、明日奈には「前いた所では似たような物を沢山見たから」で誤魔化しておいた。嘘は言ってない。

 

 

 まぁ、実入りが大きいのはいい事だ。

 神夜は結構強い鬼と戦えてご満悦。

 明日奈は戦いもそうだが、沢山の備蓄が手に入った事で満足。

 俺としては、二人が対毒装備の効果を認めてくれた事で一歩前進。

 

 まーとりあえず好調と言っていいだろう。

 手に入れた資源の殆どは寒雷の旦那がやってる万事屋に持ち込み。ただ、それだけ渡されても「使えもしない物を山ほど持ち込んで、何をしろってんだ」と言われるんで、使い道を実演しておいた。

 マニュアルも書き出すだけ書き出しておいたが、すぐに受け入れられる事はないだろう。俺が虚偽を流していると疑われる…かはともかく、迂闊に試して毒があった、なんて事になりかねない。瘴気をばら蒔く野草を使った調合だってあったしね。

 だがこれを広める事、研究する事には非常に前向きだ。ここら辺は期待している。

 

 

 それに対して、俺が絶対に他言しないようにと頼んだのは、対毒装備こと抗毒珠SP・改だ。

 こればっかりは、取り上げられたら溜まらない。別に俺達以外のモノノフが異界の濃い領域を探索したって構わないのだが、何処かで死なれてしまってはそのまま装備が行方不明になってしまう。

 そんなの明日奈と神夜も同じだが、基本的に俺と一緒に動くから、こっちはまだいい。

 要は俺の都合だ。

 

 ま、もしも異界を晴らす手段や、異界が濃くなる現象を見つけたら、それと一緒に報告せざるを得ないだろうけどな。

 どうやってそんなトコに踏み込んでいったんだと言われたら、薄情せざるを得ない。

 ………強引に取り上げられそうになったら、力で反抗する事も視野に入れておくべきか? 里で孤立するってレベルじゃないムラハチ状態になりそうだが。

 

 

 

 




討鬼伝世界登場人物表

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
    ミタマなので、見える人と見えない人がいる。
    好きな物はおはぎ。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    好きな物は焼き鮭。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー。
    好きな物は甘味。特に風華の甘味は種類を問わず大好物。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
   結構なナイスバディだが、「またサラシがきつくなった」という言葉からしてまだまだ成長しているらしい。
    好きな物は米。朝の三杯は元気とおっぱいの源。

・風華…祭祀堂の巫女。
   修行途中に祭祀堂の主となってしまった為、修行不足。
   どちらと言うと、マスコット兼甘味作成係と思われているようだ。
   天狐と友達。
   好きな物はお手製甘味を食べて蕩けている風華の顔。
   世が世なら「5杯はいける」と評したであろう彼女は、非常に小食である。


他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
     武器は細剣(レイピア)。
     戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。
     好きな物は蕎麦と肉。初めて肉付け蕎麦を食べた時は、真理を垣間見た。

・神夜…無限のフロンティアより。
    武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。
    戦狂いの気質がある。
    好きな物は牛乳…かと思いきや、真顔で『返り血』と答えた事がある。


オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
        好きな物は卵焼き。孵らない卵ってゆーな。

・泥高丸…でいこうがん。
     里で一番腕が立つと評判のモノノフ。
     明日奈とソリが合わないようだ。
     新戦術『鬼纏』を開発した人物らしい。
     好きな物は味噌汁。だけど一番好きな味噌汁は、もう口にできない。


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390話

ボヘミアン・ラプソディを見に行きたい。
Queenにあまり詳しい訳じゃないけど、やっぱWe Will Rock Youのあのズンズンチャには心を震わす何かがあるよなぁ…。
メロディよりも原始的な音楽と言うか。

…え、まだ公開されてない? そうですかそうですか…。

それはそれとして、Night Talker閉鎖かぁ…。
なんか一つの時代が終わったって感じがする。幻想砕きの剣はあそこで投稿してたから猶更です。
随分前から更新も投稿も無くなっちゃってたし、仕方ないか…。
ログの方は保存したけど、あと何があったっけ…。
拙作・幻想砕きの剣に幻想発展録、GS in Persona、リビダルヨコシマ、魔装生徒! ユキま!、GSの方も光と影のカプリス、がんばれ、横島君!!、他呼んでたけどエタっちゃった短編諸々…。
保存しとこ。


凶星月 十二日

 

 

 

 本日の探索はお休みとなった。神夜がブーたれるかと思ったが、むしろ明日奈の方が不満気だった。

 よい戦いにはよく休む事も肝要、とは神夜の言。今日も色々集めに行こうと思っていた、と言うのは明日奈の言だ。

 

 まー実際のトコ、ちゃんと休む必要はあったけどな。俺も体力的にはまだ余裕だけど、余裕と万全は別物だ。

 

 

 

 

 そもそもからして、副業を決めてない俺は、この里から見れば半ニートと変わらんからな!

 

 ニートはあかん、ニートは。この前のGE世界でレアとアリサの策謀のおかげで一時期そんな事になってたが、収入が無いってマジヤバイ。なんかこう……色々とプライドが削れる。

 支出無しで暮らしていけるならまだしも、使う分だけでも稼がなければ。……この里の経済状態と言うか社会形態で、稼ぐという表現が正しいのかは知らんが。共産主義っぽいものな。

 

 新たな資材の使い方を示した事で注目を集めてはいるが、それが認められるまで時間がかかるし、何より里の連中からしてみれば「外の里で持ってた知識だろ? あいつが何かした訳じゃない」と思われても仕方ない。

 

 

 

 さて、この里で俺に何が出来るかな。まだ周囲の目が痛くない内に、ちと歩き回ってみるか。

 

 

 まずは貸本屋の白浜屋。この前借りた本、返すよ。参考になった。

 

 

「あ、どうも。こちらこそ、丁寧に扱っていただいたようで」

 

 

 専門的な技術はともかく、紙の本ならまだ扱いやすいくらいだよ。場所によっちゃ粘度板だの毛皮だの骨だのに書き込んでたからな。

 ところで疲れてるみたいだけど、何やってたんだい?

 

 

「ちょっと鍛錬を…。と言っても、師範代とかにも「お前は大人しく貸本屋に専念しろ」って言われて、殆ど教えてくれなくなってるから自己流ですけど…」

 

 

 ふーん。…酷い事言われているようだが、恨み辛みの念は見られない。お人好しと言うのもあるが、その師範代とやらに相当『世話』になったんだろう。…どうしようもなさすぎて匙を投げられ、それを自覚しているのか。

 具体的に何やってんだ? これまで修めた習練は?

 

 

「モノノフの一般的な訓練です。こう、武器の扱いと、ミタマの使い方と…後は体の鍛え方。ははは…情けない事に、全然うまく動けなくて」

 

 

 …その自嘲はあまり好きではないな。

 今は自己流で訓練してるみたいだけど、それまではちゃんとした師匠の元で延々とやってたんだろ。今この時だって、理に適った鍛え方ではないようだけど、訓練しようとしている。

 成果は出なかったかもしれんが、見放されても努力を続けるのは大したもんさ。

 

 

「…ありがとうございます。でも、戦えないと…意味がありません。僕は僕が満足する為に戦いたいんじゃない。この里が生きる一助になりたいんです」

 

 

 そっか。…だったら、せめて体の鍛え方は自己流は止めとけ。鍛え方だけでも教えてくれって、師匠さんに頼んでみなよ。…最悪、俺も一家言持ってるから、助言くらいはできる。

 

 

「いや、別に自己流じゃないですよ! 正しい鍛え方をしないとちゃんと体が作られないのは、散々見てきましたから。これを教本にしているんです! 他にも色々な本があって、我が家の家宝なんですよ!」

 

 

 うん? ………マニュアル本だ、コレ。…うん、まぁ…素人が自分一人でやれる訓練の教本っつったら、これに勝る物はないと思うけどさ…。

 無理に高度な訓練はせず、地道でしっかり効果が出る(出てないけど)訓練ではある。

 

 でしょう!? 分かってくれますか、とはしゃぐ店主に、物申すべきか物凄く悩んだ。

 

 

 

 それは筋トレよりもダイエットに重点を置いた教本だ、と。

 

 

 

 

 

 暫し悩んだが、黙って貸本屋を去った。継続こそ力なり、だ。ダイエットの為の筋トレだろうと、筋肥大させる為の筋トレだろうと、ただ走るだけだろうと重要なのは続ける事だ。質と内容は、進捗に合わせて変えていけばいい。

 マニュアル本を褒めたのが随分嬉しかったらしく、一緒に貸本屋をしないかと誘われたり、鍛えるのにアドバイスをすると言ったのを真に受けて(嘘ではないが)道場でも作ったらどうか、と言われたな。

 貸本屋も道場も、なぁ。

 

 貸本屋で何ができるかって言われると分からんし、道場は…流れのモノノフが実力も示さずそんな事しても、来るのは冷やかしと「ナマイキだ」ってカチコミくらいだろ。軽く返り討ちにできると思うが、余計な波風立てるべきではない。

 

 

 とりあえず次行くか。

 ぶらぶら歩いて、やってきたのは祭祀堂。相変わらずオドオドした雰囲気の風華が、バサバサと大麻(ヤバい植物ではない)を振り回して儀式を行っている。

 どうやら里長ミタマの牡丹と会話しているようだが、詳しい事は聞こえない。

 

 …と、突然風華が振り返って俺を見てきた。

 ど、どした? 何か邪魔しちゃったか?

 

 

「ぃ……いえ…そうじゃない、ですけど…」

 

 

 …あからさまに何か言いたそうだなぁ…。子供相手でもオカルト版真言立川流で接近できない事もない…………いやちょっと待て、いきなりヤるって言ってるんじゃない、相手を観察して心理状態を把握したり、会話の流れで打ち解けたりする方だ! その先までは考えてない!

 ……ふぅ、何だか物凄い勢いで「いきなり少女相手にヤる気か」なんて声が聞こえた気がするが、きっと気のせいだ。

 

 ……なんかさっきよりも怯えられている気がしないでもないが、とりあえず刺激しないでおこう。真言立川流じゃなくて、野生の獣を刺激しないよう緊張感を保ったままジリジリ下がるスタンスで。

 で、真面目にどしたの(ジリジリ)

 

 

「ぼ、牡丹様………が……その、うるさいって……」

 

 

 牡丹様…里長が?

 別に俺は騒いでは

 

 

 

 

 

       あ

 

 

 ちょっと失礼…。

 

 

 鬼杭千切…が自爆には最適なんだけど、あれはちと騒ぎになり過ぎる。轟音一つで建物の一つ二つ壊れかねん。最悪は雪崩。

 となると…………やはりコレか。

 

 

 さぁ、思い出せ想い出せ……思い出したくもないのに記憶してしまったアレコレを。

 

 

 

 

 エドワードさんの翻った赤フンを。

 キースさんの使い古したフンドシで感じる目の痛みを。

 タイゾーさんが火山でスクワットしまくって飛び散った男汁を。

 ギネルさんが野糞してる時に風下で直撃してしまった臭いを。

 コーヅィのアルコールと胃液と加齢臭が混じった服の臭いを。

 カイヅが自家発電している時にバッタリ遭遇してしまった時のやるせなさを。

 泥酔したヨシミ達が海辺で集団で踊っていた前シッポダンスを。

 極東商店でバッタリ会ったソーマが履いていたブーメランパンツ(もっこり付き)を。

 とある事情で知ってしまった、シックザール支部長が履いているオサレなブリーフを。

 榊博士が冗談めかして一度だけ口にした、R-18G確定な性癖と、デンジャラス極まりない笑みを。

 富極の兄貴のキレッキレのポージングを。

 伊吹のちょっと頬を染めた「見てくれ、俺の大身槍…」という一発芸を。

 速鳥のクッソ下手糞な天狐語で出来上がってしまった、「(美少女が言えばあざと可愛い媚び媚びセリフだけど、男が言えば今までの人生が全て無駄だった気がしてくるので自主規制)」を。

 いつぞやの討鬼伝世界終盤で聞いた、大和のお頭の「待ってくれよー初穂姉!」というオッサンヴォイスショタセリフを。

 

 そして何より、狂竜病に感染して理性を失ったA-Beeさんと、酔っぱらって誘い受けしようとしてくるJUN=NYANに同時に襲われる恐怖を思い出せ…! 全て同時に思い出せ…! 12の分割思考全てで上記の記憶を展開するのだ…ついでにコラもやってしまえ。

 

 微に入り細に入り想いだし、我が身を満たせ……この精神攻撃、ブラクラを喰らえのっぺらミタマども……!

 これ以上騒ぐようなら、太陽虫イベントとか「サラマンダーよりはやーい」とか「ツモ! 天和!」とか猫がリセットボタン押すとか冒険の書が消えた音楽とかトラウマシーンを連続で再生するからな…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オェップ

 

 

 こ、これで静かになったかな…?

 

 

「……阿鼻叫喚、って言ってます」

 

 

 

 お、おうそうか…すまなんだな。ちと離れるわ…。

 

 

 

 

 

 

 ふぅ…。何とか回復した。なんか体中に嫌な虫が這いずるような嫌悪感が残っているが、のっぺらミタマ共に掣肘を加えたと思えば安い物だ。

 しかし、こりゃ祭祀堂の近くで仕事はできんな。牡丹の安眠妨害を妨げるような事はよろしくない。死者のミタマが眠るって、ガチで永眠っぽい言い方だけど。

 

 むぅ…祭祀堂の近く、祭祀堂の近くで仕事か。何かあるかな…。

 助手というか神主…俺は戦闘系ばっかりで、ソッチ系の術は全然使えない。却下だ。

 そういえば風華って、お汁粉とか作るの上手いんだよな。

 

 ふむ…和食…で勝てる気はしないな。洋食関係か。

 多少ならレシピも覚えてるし、他2つの世界のメニューもある。アイルー達みたいにスキルの効果は発揮できないが、食えるものだけなら作れなくもない。

 材料が足りなくても、 ふくろ の中に貯めこんでる物資の中に調味料とかはあるし、そこそこ作れはするだろう。

 問題は、作れたとしてそれが受け入れられるかどうかだな

 珍味扱いにはなるだろうが、好き嫌いや舌の慣れってのは大きい。一発屋で終わるか、そこそこの需要はできるか……。

 

 ……前者だな。いくら珍しいからって、俺の料理の腕に常連客がつくと思う程己惚れてはいない。

 でもまぁ、洋食屋ってのはいいアイデアかもしれん。候補としてとっておこう。

 

 

 

 よし次。今度は田畑だな。里のモノノフで一番兼業が多いだけあって、決行賑わっている。

 が、逆を言うと充分に人手は足りていた。元より、そう大した規模を農園としている訳ではないのだ。この人数の少ない里を、何とかかんとか養っていける程度の規模。

 その世話をするのは決して楽な事ではないが、あまり人数が多くてもいけない。複数人の多数の思惑で弄り回される土地よりも、精通した一人の老人の土地の方が収穫は大きい。船頭多くして船山に上る、と言う奴だ。

 

 …むぅ、ここで役に立とうと思ったら、それこそGE世界みたいにMH世界から植物を持ち込まなきゃならんな。前も思ったが、それが切っ掛けで大騒動になりそうな気がしてならない。

 最後の手段だな、保留。

 

 

 

 次。……道場? そういや白浜屋のにーちゃんが、道場を作ったらどうか、みたいな事言ってたけど。

 ちょっと大きめの塀に囲まれ、中から気合の入った声が響いて来る。うーん、若人のいい声だ。未熟だが意気軒高。

 

 外からよく見てみると、入り口の近くに何やら大きめの看板が掛けられている。…むぅ、読みにくい。討鬼伝世界の文字は古風和風で崩しまで入るからな…。久々だとちょっと戸惑う。

 えーと?

 

 練武戦成績?

 

 

 練武戦…? そういや、寒雷の旦那や明日奈達からもちょくちょく聞いてたが、何事だ?

 文字通りなら、試合の類なんだろうけども。

 

 ? 後ろから…この気配。なんだ男か。

 

 

「なんだ、もう鬼との闘いで限界が見えてきたか? 鍛えるにしろ引退するにしろ、早い方がいいぞ」

 

 

 泥高丸か…。

 別にそーゆー話じゃねーよ。副業どうするかって考えてるだけさ。

 

 

「ふん、凡人共は大変だな。戦いは俺のような超人に任せて、里で引っ込んでいればいいものを。貸本屋の方が、分を弁えているだけまだ救いがある」

 

 

 小言はともかくとして、この練武戦ってな何ぞ? 何だかんだで聞き忘れてたんだが。

 察するに武力比べだろうけど、こんなのやってる余裕があるのか、この里。

 

 

「…まぁ、正直言って余裕がある訳じゃない。だが、気晴らしは必要だろう。里の住民も多い訳ではないが、モノノフはその半数にも満たない。俺達の力を再認識する事で安心するのだと思えば、そう無駄な催しという訳でもない」

 

 

 あー…成程ね。裏なのか表立ってるのか知らんが、博打もあるなこれは。

 こんだけ閉塞した環境にある里だものな。それがオオマガトキからずっと…。よく潰れなかったと心底思う。

 

 で、具体的な内容は? あとここって、単に手合わせとか鍛錬とかしてるだけ?

 

 

「知りたければ勝手に入って勝手に調べるんだな。…とは言え、里に来て間もないお前には厳しい話か? ここは見ての通りの道場で、それぞれ勝手に鍛錬しているだけだ。新米を鍛える師範も居るんだが、最近はあまり仕事が無いらしいな」

 

 

 だったら白浜屋を鍛えてやれよ…。

 

 

「あんな落ちこぼれは、弱い方がかえって生き残るだろうさ。戦いは俺達、強者の生業だ。で、練武戦と言うのはな、お前が言う通りに腕比べさ。細かい規則は省くが、モノノフ同志の一対一の決闘だ。武器の種類は問わず、年齢も性別も問わず。ただ強い者だけが上に行く」

 

 

 要するにトーナメント制か。成績優秀だったら何かあるのか?

 

 

「それに相応しい地位に就く事が許される。簡単に言えば、千鬼長、百鬼長、十鬼長、精鋭扱い…といった区分だな。腕っぷしばかり強くて人の上に立つ事ができない奴も居るから、成績優秀なら無条件に出世するという訳じゃないが」

 

 

 ふむ…。そういや、あんたはこの練武戦の連続優勝者だったか。と言う事は、千鬼長ってやつか。

 

 

「そういう事だ。ま、細かい事は面倒なんで、副長に任せてるのも確かだがな。俺はこの手で鬼を倒すのが本領よ。それこそが俺に出来る最高の事だ。…お前は練武戦に参加するのか?」

 

 

 興味はあるが、そもそもいつあるんだよ?

 

 

「む…それを言ってなかったか。お前が来る前日に終わったから次の開催は来月だな。模擬戦ならこの道場でいつもやっているし、小規模な練武なら頻繁に行われている。興味があるなら参加してみる事だ。鬼纏を覚えてからな」

 

 

 何で? 別に必須資格って訳でもなかろうに。

 

 

「参加には確かに必要ないが、戦おうと思えば必須なんだよ。それだけの効果があって、里のモノノフはほぼ全員がこの術を習得している。…鬼の居ない場所で使おうと思ったら、予め力を貯めこんでおいて放出するしかないから、一度しか使えないのが難点ではあるが」

 

 

 ふむ…連戦の中でどこで使うか、使わずに負ける嵌めになるか、その辺の判断力も重要な訳だな。

 抱え堕ちほど無駄な物はないと言うが、迂闊に使えば次の敵が使った時に対抗手段がなくなる、と。

 どこの対戦ゲームだよ。

 

 まぁいいさ。ここに顔出すのは、気が向いた時にしておくよ。今はやる事があるし。

 

 

「そう言えば、副業を探してるんだったな。里の外の知識を活かして、学者にでもなったらどうだ? 斬り合いからは引退してな」

 

 

 小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、泥高丸は道場に入っていった。どよめきが聞こえて、暫く後にはまた元通りの声が聞こえ始める。

 参加するのではなく、鍛錬の観戦に回ったようだ。

 

 ……なんつーか、下手なツンデレだなぁ…。色々言ってはいたが、疑問とかにはちゃんと答えてくれたし、弱いだの超人だの云々も「俺は大丈夫だから、戦いは俺に任せとけ」と言ってるようなもんだし。

 明日奈が言ってた通り、超人思想というか選民思想っぽいのが目につくが、悪い奴ではないのだろう。

 

 もうちょっと年月が流れるなり、外の里と触れるようになったら、過去を思い返して頭を抱えて悶絶しているかもしれない。見物である。

 

 

 とは言え、確かに強い事は強いが、ちょいと思い上がりが過ぎるのもあるな。俺もある種の同類ではあるが。

 ……ま、その内な。

 

 

 さて、副業だが…ここで出来そうな事ってあるかね?

 やる事自体、鍛錬・試合・稽古…。影ながら博打の胴元になるという手もあるが、流石に部外者じゃマズいだろ。

 師匠役も、白浜屋の時と同じ理由で却下。

 

 となると……医師? ミタマの力でそこそこ程度の怪我なら治せる。応急処置ならそこらの医者より詳しい自信はあるが、どうも専門の人もいるっぽい。つまり特に必要とされていない。

 

 うーん……。

 

 あ。鍛錬ばっかりって事は、その後の事は何もしてないんじゃないか? 運動の跡はリラックス。モノノフたるもの、瞑想的な意味でのリラクゼーションも当然のように心得ているが、他者の手によるものはまた別だろう。

 つまりはアレだ、マッサージだ。体のメンテナンスは大事だ。

 

 

 

 

 

 汗だくの野郎を揉むのか…。

 

 

 

 こうして考えてみると、マッサージする人達って大変だよな。知りもしない人間の体をグイグイ触らなきゃならんのだから。

 いやむしろ、年頃の女性を揉む方が大変なのか? 煩悩が湧く、煩悩が。特に俺の場合、オカルト版真言立川流を使えば狼藉し放題なのだ。

 ベテランの医師みたいに、裸を見ても職業的な意識オンリーで対処できるくらいにならないと、俺には無理だ。……手術中の裸に限って言えば、血がドバドバ出て内臓くぱぁな体に欲情しろって方が難しいと思うが。

 

 真っ当な職業ではあるが、やれるかどうか…。

 

 

 む、待てよ? 訓練場で必要な物と言えば、マッサージ以上にアレがあったじゃないか。

 風呂だ、風呂。訓練の後は汗を流してサッパリ。

 暖かい風呂が理想だが、この際凍えるような冷たい水風呂でも構わん。考えてみれば、この里には禊場が無い。

 

 このクッソ寒い北の地で、冷水に身を浸す禊なんぞやってられるか、逆に心臓麻痺起こすわ、という意見もよく分かるが、モノノフの技と禊は切っても切れない関係だ。

 うむ…これは割といい候補なんじゃないか?

 細かい設計はこれから考えなければいけないが、風呂の湯を沸かすのだってそれぞれの家でやらず、一か所で纏めてやってしまった方が節約にもなりそうだ。

 収益やら支出やらの相談は、寒雷の旦那にしてみるとして…。とりあえず、土地を見繕ってみるかな。水路を引けて、適当な大きさがあって、後は何だ?

 

 

 いやいや待て待て、まだ決めた訳じゃないし、実現可能と決まったのでもない。もうちょっとフラついてみよう。

 

 

 

 

 

 次にやってきたのは鍛冶屋。モノノフにとっては自分の相棒とも言える武具を預ける重要な相手だが、俺はあんまり訪れてなかったな。

 俺のメインウェポンは神機に各世界の武器を取り付けた物だ。下手に人に触れさせる訳にはいかない。

 純正の討鬼伝世界の武器もあるけど、それこそ見せられない。この里ではとても作れないような代物の武器が幾つもある。仮にも、討鬼伝世界終盤の敵…触鬼の素材を使った武器だもんな。カルチャーショックになりかねない。

 

 まぁ、あまり寄らなかった理由はそれだけではないが。

 ここを切り盛りしているのは、練の姉御。…つっても、俺より年下だと思うけど。

 里を案内してもらった時の日記にも書いたが、褐色肌の切符のいい女だ。髪型は、無造作に頭の上で結い上げられた、荒っぽいポニーテール。

 鍛冶に使う重い金槌を自在に、何度も振り下ろす事からも分かるように、その腕力と体力は相当なもの。それに相応しい、女性にしてはガッシリした体格を持っている。

 

 その腕前は………言っては悪いが、良く評価して中の中…と言った所か。比べる相手が、MH世界の本職連中や、科学技術の粋を尽くすリッカ達や、清麻・タタラの爺様だとどうしてもな…。

 元より、本職に弟子入りしてしっかりと覚えたのでもないのだろう。そもそも、日本の鍛冶場は基本的に女人禁制だった筈。触りを教えてもらえただけでも珍しい。

 明日奈や神夜も言っていたが、少ない資材を何とかやりくりし、必死で記録から再現した結果なのだろう。

 

 ちなみに、女を捨てているのかと思えば、そうでもなさそうだ。特注品である耳飾りを大事にしていて、これを褒められると気分が良くなる。

 …尤も、何やら妙な陰りと言うか忌避感を感じるので、そう単純な話でもなさそうだが…。

 

 

 と言う訳で、ちょいと御免なすって。やってる?

 

 

「ん? ああ、アンタか。先日はろくな持て成しもできずにすまなかったね。ちょいと待ってくれ、すぐ完成するから」

 

 

 槌を振り下ろすのではなく、刃を研ぐ音が響く。どうやら、モノノフの武器の研ぎ直しをやっているらしい。

 暫し刃の研ぎを続け、仕上げを行い、全体を真剣な目で眺めまわす。

 

 フゥ、と小さく息を吐き出して鞘にしまった。満足いく出来だったのか、それとも全力を尽くしたが到底満足はいかなかったのか。

 と言うか、あれ神夜の斬冠刀じゃね? 戦いが休みだから、メンテに出してたのか。

 

 

 

「待たせたね。もう里には慣れたかい?」

 

 

 おかげ様でね。と言っても、色々他とは違う風習が多くて、戸惑う事も多い。今は副業を探してうろうろしてるところさ。

 …ここでは、手伝いとかの需要はないのか?

 

 

「あー…悪いけど無いね。良くも悪くも、アタシ一人で回る規模でしかない」

 

 

 一人じゃ手が出せない、やってみたい事とか無いの?

 

 

「うーん…触った事の無い武器を弄ってみたいとは思うけど、今のアタシの力量じゃね…。っと、ああそうだ。あんた、新しい鉱石の使い方を教えてくれたんだって?」

 

 

 ん? ああ、もう聞いてるのか。寒雷の旦那しか知らないと思ってたけど。

 

 

「流石に旦那も、一人で全部を調べられる筈もないからね。専門家に分析は投げてるのさ。医者には薬、アタシには鉱石と金属ってね。そっちの分析もしないといけないから、武器弄りも無理だね」

 

 

 …それこそ助手が要るんじゃないの? 分析って、そうそう一人でできるものじゃないだろうに。 

 

 

「そうかもしれないけど…その、あれだ、その場合、どっちにしろあんたには資材を集めてくれって頼むからさ。ここでの助手にはならないよ」

 

 

 理由になっているようないないような……まぁ、確かにそれが俺に出来る一番の手伝いだろうけども。

 

 あ、もう一つ疑問があったな。最初に会った時の様子を見るに、彼女は何やら薬を常用しているようだ。あの時の寒雷の旦那の様子と合わせて見るに、服用しそこねたら動けなくなるような、割と洒落にならん病気を抑え込むようなのを。

 それを防ぐためにも、助手とは言わなくても小間使いや同居人の一人くらい居た方がいいんじゃないかと思うが………。

 

 

 …でもコレ、下手に口にしない方がよさそうだ。こんな事は、練の姉御も寒雷の旦那も、とっくに承知の上だろう。それでも一人で切り盛りして暮らしているのだ。何か理由があるのは明白だ。

 あの時の寒雷の旦那の態度も、それに対する練の反応もそれを如実に現している。声をかけても応えがなく、心配して踏み込んだ寒雷の旦那が謝罪し、仕事の時間なのになぜか奥座敷で茶を…薬を飲んでいた練の姉御が「気にするな」という遣り取り。寒雷の旦那が負い目を持っている、と判断するには充分すぎた。

 

 今この時、俺がここで副業をするという提案を頑なに拒むのも、それに連なる理由があるんだろう。

 冷徹な視点で考えれば、里のモノノフの装備を預かるたった一人の鍛冶師が、いつ倒れて動けなくなるか分からない状況で放置される…と言うのは有り得ない。例え負い目があったとしても、強制的に何らかの対処をする筈。

 それをしないと言う事は……いや、『できない』のか。練の姉御自身に、何か事情、そうしなければならない何か。

 

 …これもまた、里の中の微妙な均衡を作り上げている一端か。下手に踏み込めば全てが壊れる。

 しかし放置していてもやはり壊れる。俺が初めて会った時だって、薬を服用するのはギリギリだったんだろう。何か一つ狂っていれば、里の唯一の鍛冶師が倒れていてもおかしくはなかった。

 

 どっちにしろ壊れるのなら、踏み込んで壊してしまえ…とは言えないな。ドン詰まりになった状況ならともかく、俺はまだこの里で絶望してはいない。

 異界を抜け、或いは晴らし、外の世界に行く事を諦めてはいないからだ。それが無理だと断じられるまで、一か八かの博打は行うべきではない。

 

 

 少しばかり話をして、ここでの副業は無しと結論を出して切り上げた。

 

 

 

 

 最後に訪れたのは万事屋。寒雷の旦那が切り盛りする店だ。と言っても、実際は物資配給所に近いようだが。 

 ここで働いているのは、何というか里の重鎮…なんだろうか? 寒雷さんは間違いなく重鎮だが。

 

 さっきも書いたが、ここは物資配給所。何処に何をどれだけ配るのか決める所でもあるのだ。

 今は上手く物資が流れているからいいが、何かあったら真っ先に不満を向けられる場所でもあるのだ。そんな所に、俺みたいな余所者が居たら? 火を見るよりも明らかだ。

 

 

「…いや、そこまでは言わないが…否定もできんか。それに、ここで働こうとするなら、里の事を隅々まで知っている必要があるからな。何を幾らで売る、幾らで仕入れる、何が必要と言うのも、里の事を熟知した店員達が情報網を駆使して集めてくれている。店の遣り繰り自体は俺がやっているし、受付に立つにも人は足りているし…」

 

 

 要は需要が無い訳ですな。

 それに、今の俺にはここに入れるだけの信用もない、と。

 

 

「…有体に言えばそういう事だ。すまんな」

 

 

 別に謝る事でもないさね。雇用者が人を選ぶのも、実績を元にそれを判断するのも当然の事だ。

 とは言え、そうなると益々もって副業をどうしたものか…。

 

 やはり風呂屋か飯屋かなぁ。

 

 

「風呂屋か…。面白い発想ではあるな。確かに今までの里には無かった施設だ。しかし難しいぞ。それだけの施設を作るのに、どれだけの労力と資材が必要だと思う?」

 

 

 確かに。男女の利用時間を分けて、湯船を一つに絞るとしても、覗かれない壁に、湯を温める施設、汚れを濾過する機能、そして周辺…体を洗う所の掃除。

 公衆衛生法なんて無いご時世だから、ある程度手間は省けるだろうが…その分、衛生的な危険は隣り合わせか。

 

 

「こーしゅーなんたらはよく分からんが、清潔にして正しい扱いをしないといかんのは、飯屋も同じだな。食中毒は怖い…」

 

 

 そりゃそうだが…。むう、一芸無いと仕事を任せられんと言う事か。

 

 

「正確には、一人での仕事はしっかりとした土台が無いと任せられん、だな。とは言え、確かに現状だと各所の人手は足りてるんだよなぁ…。うむ…風呂場は俺としても是非作ってほしい所だが」

 

 

 そういや、明日奈と神夜の副業は?

 

 

「明日奈は飯屋の給仕、神夜は壊れた家具…主に寝具の手直しだな。神夜は最近まで忙しかったが、暖かくなってきたからな…一段落したところだろう」

 

 

 充分寒いけどね、南の人間の感覚で言えば。

 しかし明日奈が給仕…ウェイトレスねぇ。いや、和風メイドあたりかな? 一度見に行ってみようか。

 

 神夜の寝具直しも興味はあるが、地味そうだな。仕事ってそーゆーもんだけど。

 

 

「まぁ、取り敢えずは何でもいいから誰かの仕事を手伝って、恩と顔を売っておけばいいんじゃないか。そうすれば、その功績を理由にして、風呂屋作りの為の資材だって集められる」

 

 

 つーか、流通を管理してるのは寒雷の旦那なんだから、そこから出して……くれる訳ないよなぁ。借金するようなもんだし。

 むしろ理由をかこつけて資材を投資してくれるって言ってるようなもんだから、むしろ好意的な方か。

 

 一日色々考えて歩き回ったが、下っ端扱いでもすぐにできそうな物は無い、か…。

 仕方ない。暫くは穀潰しを見る目を我慢しますか。或いは、ゲームで言うミッションとは違う、サブクエストを積極的に進めるかだな。

 

 そしてモノノフとしてデカい功績を上げて、専業でいいと認められるようになればいいんだ。

 

 

 

 




討鬼伝世界登場人物表

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
    ミタマなので、見える人と見えない人がいる。
    主人公に対する評価…なんか五月蠅いのが沢山いる。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    主人公に対する評価…各方面への影響がでかい。ある意味劇薬。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー。
    主人公への評価…初対面以来あまり話してない。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
   結構なナイスバディだが、「またサラシがきつくなった」という言葉からしてまだまだ成長しているらしい。
    主人公への評価…武器の手入れくらい頼みに来なよ。

・風華…祭祀堂の巫女。
   修行途中に祭祀堂の主となってしまった為、修行不足。
   どちらと言うと、マスコット兼甘味作成係と思われているようだ。
   天狐と友達。
   主人公への評価…なんだかよく分からないモノが沢山いる。


他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
     武器は細剣(レイピア)。
     戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。
     主人公への評価…色々な事を知っている人。先達。

・神夜…無限のフロンティアより。
    武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。
    戦狂いの気質がある。
    主人公への評価…自分の戦好きにも気軽に付き合ってくれる貴重な人。


オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
        主人公への評価…話が分かる人。親身に助言をくれた。

・泥高丸…でいこうがん。
     里で一番腕が立つと評判のモノノフ。
     明日奈とソリが合わないようだ。
     新戦術『鬼纏』を開発した人物らしい。
     主人公への評価…そこそこやる凡人。


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391話

最近、展示会巡りに嵌まっています。
片道一時間半くらいかけてバイクで走り、見物して次にいきたい展示会を決めて帰る。
問題は天候が不安定だと見送らざるを得ない事でしょうか。
バイク使うようになって一番強く実感したのは、現実にファストトラベルは無いって事なんだよなぁ…。
電車と違って乗ってりゃ目的地に着く訳じゃないし、寒かろうが暗かろうが道に迷おうが、自力で帰らないといけない。
当たり前ですが、改めて身に染みました。


凶星月 十三日

 

 一日休んで体調もバッチリ。

 今日も今日とて異界巡りである。いつもと違うのは、異界の濃い場所を積極的に歩き回る事。毒無効化の装備の事を認めてもらったからね。

 

 カモフラージュに適当な依頼を受けておいて、最低限の鬼だけ討伐したら未踏の異界に入り込む。

 流石に、入り込んですぐに大物の鬼に出会うような事は無かったが、それでも二人にとっては新鮮だったらしい。あまりいい意味ではないが。

 

 

「…何と言うか、歩きづらい事極まりないですね。瘴気が濃いのは当然ですが」

 

 

 そりゃ、今まで動き回ってた場所は、他のモノノフ達が何度も歩いた場所だからな。道だって自然と踏み固められるさ。そこしか通れる場所が無い以上は。

 

 

「そりゃそうか。ここは完全に獣道…いえ、鬼の道だから鬼道? な訳ですね。ひょっとしたら、鬼すら通らない道かも…って、キャッ!?」

 

 

 おっと、段差に注意。

 歩き方がなっとらんなー。戦いは強いが、何だかんだで経験不足か。

 

 

「む…そういう貴方は…………何で服も殆ど汚れてないの?」

 

 

 こんなもん序の口だってーの。俺の知ってるG級ハンター…もといタツジン級モノノフなんて、鬱蒼とした森の中を全力疾走しても、服に木の葉の跡一つつけないくらいだからな。

 それは極端な例だとしても、こういう場所を効率よく進む方法はあるんだよ。あまりに邪魔な物は排除するのが吉。迷わないよう目印にもなるし、次にここを通る時にはそれを退ける必要もなくなる。

 上半身はこんな風に、腕を使って泳ぐように藪を分け、足元は…状況にもよるんだけど、段差を警戒して摺り足になる時と、普通に歩く時を分けていこう。これに関しては、どちらかと言うとどの道を進むかが重要になってくる。

 勿論、一番いいのはよく知っていて、安定した道を歩く事だけどね。二番目は、無理にモノを壊したり、逆に壊さない事に拘らない事。

 

 

「へぇ…。何だか生き生きしてますね。急に饒舌になったし」

 

 

 まぁ、何だかんだで根っこと言うか始まりがハンター…狩人だったからね。

 と言うか足場の確保は戦闘の基本だし。そう考えるとゲームでの見えない壁も、分からなくはないんだよな。もしも何かあった時、足を取られるような場所には絶対近付かない…と思えば。

 

 とりあえず、進む道は俺が決めていいか? 異界の中を歩き回った経験もそれなりにあるし、流動にさえ警戒してれば迷子にはならないだろう。

 

 

「構いません。私達も土地勘のない場所ですから、どちらに進んでもあまり変わりはありませんし」

 

「私は……うん、やっぱり資材集めを中心にしたいけど…」

 

「でもこれだけ濃い異界の中ですよ。もしも持ち帰って瘴気が残っていたら、大事極まりないです」

 

「そっか…。じゃあ仕方ないよね。うん、お任せします」

 

 

 はいよー。さて、戦いやすそうな道、敵に襲われにくい道、周囲を確認しやすい道…。選んで進めば、鬼との接敵も避ける事が出来る。

 むしろ、こっちから奇襲をかける事もあった。…と言うか、祓円陣を使った戦い方は、基本が奇襲なんだけども。

 

 普段この辺りでは出現しない鬼が多くいる。クエヤマ辺りならまだいいんだが…。

 

 

「…あれは、よもやタケイクサですか? 初めて見る事極まりないです」

 

「あっちのは……ダイマエンが飛んでる…。こんなに里に近いのに…!?」

 

 

 あ、これツチカヅキが潜って移動した跡だな。

 …話によると、里の近辺はミフチとカゼキリくらいしか出ないって話だったが…。

 以前から居たけど、異界の濃い場所でしか活動しないのか、それともこっそり忍び寄っていたのか。

 

 どっちだと思う?

 

 

「………前者…だと思います。最近来たばかりにしては、あちこちに足跡なんかが残ってますから」

 

 

 だろうね。こいつらが居るから異界が濃い……いや違うな、あの程度の連中でここまで濃くなる筈がない。

 何にせよ、あいつらがこのままずっと異界から出てこないってーのは、楽観が過ぎるな。

 報告すべきか…。

 

 

「報告するのは賛成ですけど、いいんですか? この耳飾りの効力も一緒に報告しないと、出鱈目だって思われますよ」

 

 

 黙っておいてくれとは頼んだけど、いつまでも隠し通せる物でもないから仕方ない。

 とは言え、もうちょっと情報が欲しいな。

 

 

「あ、何処かに移動するみたいですよ、あの鬼達。…尾行してみますか?」

 

 

 …そうだな。俺達に気付いてる様子はない。周囲に俺達を見張っている気配も無い。

 巨体の鬼達が二重尾行なんてやりにくい手段を使ってくる可能性は低いが、警戒は必要。だが警戒していれば離脱は簡単。

 

 行くか。

 

 

 

 

 暫し、草むらに潜みながら鬼達を追う。決して無理には追わないつもりだったが、幸いにして道は安定していた。

 つまり、この道をあの鬼達が…或いは他の鬼達も、何度も歩いている事を意味する。獣道ならぬ鬼道が出来上がっている。

 

 …道は、歪ながらも円を描くような軌道。これは………巡回しているのか?

 

 

「巡回? 見張りって事ですか?」

 

 

 多分。となると、あいつら以外にも幾つか鬼の集団が居るだろうな。規模は分からないが…下手に襲い掛かってたら、合流したそいつらと挟み撃ちになってたかも。

 

 

「鬼が…集団で組織立って行動するなんて…」

 

 

 明日奈よ、珍しくもないぞ。小さい鬼もデカい鬼も、呼び出したり従えたり利用したり産んだり…数え上げたらキリがない。

 組織立っての行動じゃなくても、人を捕らえてその姿を真似して、助けに来たモノノフを騙し討ちするとか、景色の何処かに潜んで近付いてきたモノノフに奇襲をかけるとか。

 

 あいつら意外と頭いいよ。本能でやってるんじゃなくて、明確な理性を持ってるみたいだしね。

 

 

 ま、だからこそ点け込む隙もよく分かるんだけどさ。こっちには鬼の目だけじゃなく、敵味方の位置を見分ける鷹の目なんて技もあるから余計にね。

 しかし奇妙と言うか因果と言うか…。

 影に潜み目を惑わし翻弄し擦り抜けるのは、それこそ鬼の本領だろうに。それをモノノフの方がやってるんだからなぁ…。

 幾らうまく進んでるように見えても、油断は禁物か。あっちが俺のような隠密行動を予測して罠を仕掛けてないとも限らない。一つ裏を掻かれれば、敵陣のど真ん中で孤立する事になるのを忘れてはならない。

 

 

 …まぁ、普通に見つかる事なく、罠も無く重要地点に到着できたんですけどね。どうやら鬼は鬼でも、惑わしたりせず真正面から勝負するのが大好きな、東計画的な鬼達らしい。

 それはいいんだが………そろそろ戻った方がいいんじゃないか、と考え始めた頃に到着したソコにあるもの。これは……何だろな?

 

 

「石碑…なんでしょうか? 石像と言うにも微妙過ぎ…不明瞭極まりないです」

 

「うーん…普通、彫刻にしろ石碑にしろ、何を意図して作ったのか分かるようにしますよね? 人の像なら人の像、獣の像なら獣の像…」

 

 

 いやぁ、世の中には訳の分からないガラクタを組み合わせて芸術と称する人達も居るからな。これがそうとも限らんが…。

 でも実際、人造物なのは間違いない。台座は鬼達の爪牙で削れたり歪んだりしてるけど、明かに自然にできるような滑らかさ、大きさ、安定感じゃない。

 彫刻部分も台座と繋がってるし…触ってみたが、えらく滑らかになっている。……ちょっと滑らかすぎんか、これ。どれだけ丁寧に磨きまくったらこうなるの? 職人芸ってそういうもの? 大体にして、異界に呑まれてから少なくとも数年放置されてるだろうに、どうして風化もしてないの?

 

 しかして問題なのはその形。これは……なんと言えばいいのか。逆様になって眠る赤子? うん、俺にはそう見える。

 だけども、二人にはそんな知識は無い。いや赤ちゃん作るのにどーのこーのという知識はあるだろうけど、討鬼伝世界の文明は進んでても幕末くらいだからな…。胎の中で赤子がどんな姿をしているとか、知らないだろう。

 

 それ以前に…。

 

 

「あの……だ、大丈夫ですか?」

 

 

 ああ、平気平気。汚泥に手を突っ込んだようなもんだから。肥溜めじゃないだけまだマシだね。

 そんなズザーッと距離取らないでよ。いやモノノフ的には取るのも当たり前だけども。

 

 何せこのよく分からない形の石像、尋常じゃない瘴気を貯めこんでいるのだ。それこそ、触っただけでも俺の腕が瘴気塗れにされるくらいに。

 鬼祓いで瘴気を浄化する事はできたが、どう考えても真っ当な代物ではない。

 

 

「…やはり鬼の仕業…でしょうか?」

 

「でも、鬼がこんな石像を作る? どんな形を目指そうとしたのか知らないけど、あいつらの手足でこんなに滑らかにできるのかしら」

 

「道具を使う鬼も居ますし、そう不思議と言う訳でも…」

 

「……じゃあ、どうする? 壊す? この辺の瘴気が濃い原因かもしれませんし」

 

 

 それは同感だが…壊すのはちょっと待ってくれ。何か引っかかるものがある。

 どっちにしろ、ここで壊せば近くの鬼達に気付かれるだろう。毒の無効化があっても、そろそろ行動限界が近いんじゃないか?

 

 

「む…確かに。さっきの見回りの鬼達に足止めされるとなると、帰還が間に合いそうにありません」

 

「では今回はこれで撤収ですね。あまり戦えなかったのは残念ですが、胸が高鳴る事極まりなかったです」

 

 

 その胸が高鳴ったらどれだけ跳ね回るんですかねぇ。という言葉は発さず、進んできた道を逆戻りする。

 危うく、別の巡回の鬼達に見つかりそうになりながらも無事撤退。…ふーむ、随分と大所帯で守ってるっぽいな、あの石像。

 鬼達にとって重要な物なのは確実だが、奴らが作ったとも思えないのも確か。

 

 …寒雷の旦那に相談してみるか。毒無効装備の事を信じてもらう為にも証言が必要だし、一緒に来てくれる?

 

 

「いいですよ。一人で『異界の奥に行ってきました』って言っても、とても信じられないでしょうしね」

 

「武勇伝を自らひけらかすのは少々はしたないですが、仕方ありませんね。私もあの石像が何なのか気になる事極まりないですし」

 

 

 …そう言えば、石碑の台座に何やら小さく刻まれている文字があった。詳しく見る前に撤退してしまったが……失敗したな。なんか気になって仕方ない。

 

 

 

 

 

 そういう訳で、万事屋にやってきた。仕事が一段落して休憩中だったのか、茶を啜っている寒雷の旦那の元へ押しかけ、頼み込んで個室で話を聞いてもらう。

 仮にも里の重鎮相手にそうそうやれる事ではないが、少人数故のフットワークの軽さはこの里の強みだな。

 一応、「この前みたいに新しく使えそうな物を持ってきた。あまり余人に聞かれたくない」という建前も用意していたが。

 

 

 

「…で、今度は何を見つけてきた? 聞いてるぞ、今日受けたお役目にしては、帰ってくるのがえらく遅かったってな」

 

 

 …この噂の出回る速さは怖いねぇ。逢引でもしているところが見つかったら、あっという間に噂の種になっちゃうよ。

 それはともかく、これこれこういう訳で。

 

 

 

 ……明日奈と神夜の証言も添えて話を伝えた所。

 

 

「……………」

 

 

 寒雷の旦那は、黙って指を舐め、それを眉に塗り付けた。

 

 

 

「「ちょっ!?」」

 

「はははは、すまんすまん! とは言え、俄かに信じがたい話だな。まだ調査で来てない異界の中に何かあるだろうとは思ってたが、謎の石像に、何より瘴気を防ぐ道具ねぇ…」

 

 

 まぁ、モノノフとしてはやっぱりそこが一番信じられんわな。今までありとあらゆる手段を使っても、異界の瘴気だけは無効化できなかった。

 むしろ無効化できてりゃ、ここまで追い詰められてないだろうさ。多少なりとも、異界自体を浄化する手段の研究にも繋がってるかもしれん。

 

 

「嘘じゃないですよ。証拠としてほら、色々持ってきてるじゃないですか」

 

「明日奈さん、相変わらず色んな物を集める癖がありますね」

 

「いや珍しい物を見ると、ついつい」

 

 

 コレクターかな? 或いはゲーマー的にレアアイテム新アイテムは見過ごせないタチ?

 まぁ何にせよ、証拠は充分だと思いますが? 何なら、装備を寒雷の旦那に預けるのも……正直最後の手段だが、やってもいい。

 ただしその場合、実験するなら絶対に他言しない者を使う事。寒雷の旦那自身が付けて異界に行くなら、こっちで護衛をやる。

 そして信じるにせよ信じないにせよ、持ち主は俺で、譲渡は有り得ない。

 

 

「そこまで念を押さなくても信じるさ。持ってきた素材は、今まで見てきた物とはまるで違うからな。…しかし、その瘴気無効とはどういった代物なのやら…」

 

 

 さぁね。俺も道中で手に入れただけなんで、製法とかは全く知らないんだよ。ただ、これを使っていたおかげで、俺は里に来る前に異界を抜けてこられたんだ。

 

 

「里の状況を考えれば、新米モノノフよりも熟練のモノノフにその装備を使わせろ…と言いたいところだが……お前さん、少なくとも下手な熟練モノノフよりは強いようだし、そういう場所の探索にも慣れているらしい。前線のモノノフを退かせるのも、得策ではないしな」 

 

 

 ご理解いただけたようでどうも。

 で、件の石像だけど、何か心当たりはないか?

 

 

「……あるには…あるんだが…。その石像、赤子を逆さにしたような…退治のような形だったんだな?」

 

「…明日奈さん、そう見えました?」

 

「えぇ………いや確かに言われてみればそうなのかもしれないけど、あれが胎児なの…?」

 

「確か、妊婦の腹の中でどういう状態なのかを解説してた医学書があったから、今度見せてやる。…心当たりはあるんだが、それの筈がない…。明日、お役目に出る前に一度寄ってくれ。見せておきたい資料がある」

 

 

 胎児の資料か? と言う冗談はともかく、了解した。

 俺達は暫く、あの石像近辺を調べていく…と言う事でいいかな?

 

 

「異論無しです」

 

「こっちも」

 

「よし、なら俺はお前達に特命のお役目があるとしておこう。他のモノノフ達に、怠けていると思われるのも癪だろう」

 

 

 よろしく頼む。よし、そんじゃ今日は解散!

 

 

 

 

 

凶星月 十四日

 

 

 寒雷の旦那の所に行くため、ちょっと早めに集合。

 …神夜、なんか眠そうだな?

 

 

「昨晩、目が冴えて眠れなかったもので…。ここ数日間で、随分色々あったものだと思いまして」

 

 

 ま、確かになぁ。そっちにしてみれば、年単位で滞っていた調査の状況が突然変わり始めたようなものだしな。

 

 

「いえ、それもあるのですが、今日はどんな鬼とどんな戦いが出来るかな、と。昨日のように鬼の目を掻い潜って敵陣深くまで入り込むのもよいですが、やはり猛者が多いのであれば正面から戦ってみたい事極まりないです」

 

「すみません、戦狂いで面倒くさい子で本当にすみません…」

 

 

 …こうやって明日奈が宥めたり謝ったりしてきたんだろうなぁ。生暖かい目を向けると、猶更がっくりされた。

 さて、万事屋が開店する前だったが、寒雷の旦那は表で待っていてくれた。…足元の雪が散らされている。運動してたようだな。

 

 

「おう、いい朝だな。冷たい空気で頭がすっきりするぜ」

 

 

 おはようさん。なんだ、ラジオ体操でもしてたのか?

 

 

「羅塩体操ってのは分からんが、まぁ元はモノノフだしな。多少は体を動かさないと落ち着かんのだ。膝が使えなくなったと言っても、復帰が絶望的って訳じゃない。いざと言う時の為、多少は動けるようにしておかないとな!」

 

 

 リハビリしてるのか。質実剛健な人だなぁ…。

 ところで、本題については?

 

 

「おう、それな。まぁ入れ入れ」

 

 

 寒雷の旦那に連れられて、万事屋の奥へ通される。ご丁寧に人払いまでされていた。

 …と言うか、これ茶室って奴か。討鬼伝世界でも見るのは初めてだな。成程、話には聞いてたが、これじゃ刀とかは持ち込めないだろう。俺はアサシンブレードがあるけど……使ったことないな。まぁ人を好き好んで殺す理由もないけど。

 

 狭い部屋のようでいて、4人が座り込んでも意外と余裕がある。それだけ無駄のない作りをしてるって事か。

 こーゆーの、日本人は得意だねぇ。

 

 寒雷の旦那は、懐から一つの冊子を取り出した。表紙には「禁則事項」と書いてある。…はわわと言いそうな女の子の絵は無かった。

 

 

「あの…寒雷さん、それってひょっとしなくても、私達が見ちゃいけないやつじゃ…」

 

「そうなんだが、俺が許可を出すから問題ない。ここに記載されているのは、この土地近辺の情報だ。まだ異界に呑まれる前の事が記されている」

 

「…? それって、機密…なんですか?」

 

「当時はな。今でも機密にするべきものはあるが、そこは見せないから安心しろ。まずは…ここを見てくれ」

 

 

 胎児の絵じゃないな。

 

 

「…それは別途用意しておいたから、とにかく見ろ。これだ」

 

 

 

 示されたページには、地図が載っていた。

 非常に大雑把な…幕末の頃ならこんなものかな?…地図で、そこには幾つかの絵が描かれている。

 

 

「中心にあるのは…シノノメ? ここがこの里ですか」

 

「山があって、川があって、こっちが東で…………このあちこちの絵は何ですか? 土偶、勾玉、亀…他にも色々」

 

「絵が小さくて分かりづらいが、それは亀は亀でも玄武だ。これは里を守っていた結界石の配置図だ」

 

「結界石……結果石!?」

 

 

 神垣の巫女が、里を守る結界の起点として使うアレか。…結構数があるな…相当負荷がかかったんじゃないか?

 

 

「…ああ。その為、シノノメの里の神垣の巫女は代々短命だった。神垣の巫女自体、お役目を終えて引退するまで無事なのが珍しいが…その中でも輪をかけて、な。だが、こうでもしなければ里はとっくに鬼に滅ぼされていたろう」

 

「…雪華さん……」

 

「い、今は結界石は里の一つしかないので、そこまで負担は……でもそれは追い詰められて、他の結界石が機能停止しているからで…」

 

「話を続ける。昨日、お前達が探索した場所はこの土偶の結界石がある辺りだ」

 

 

 …? まさか、あの胎児のような石像が、その土偶の結界石だとでも?

 

 

「そこまでは断言できん。鬼が土偶を削って胎児にするような真似をするとも思えんしな。だが、その石像を見つけた場所の特徴や位置を聞くと、どうやっても結界石があった場所としか思えんのだ」

 

「そもそも、どうして結界石は効力を失ったのかしら…。まだ里が異界に包囲される前には、向こう百年以上は効果が続くって言われてたのに」

 

「オオマガトキで、大きな負担がかかり過ぎたのでは?」

 

「……砕かれたんだ」

 

「「は!?」」

 

 

 砕かれた? 結界石が? そりゃ確かに、物にもよるけど人の手で砕けないようなものではないが…。

 やったのはどんな鬼だ?

 

 

「分からん。オオマガトキの戦いで、シノノメの里は異界に阻まれて霊山と連絡が取れなくなり、孤立した。その頃は、確かに孤立してはいたが里も異界の無い領域も、もっと広かったんだ。それだけの規模の結界に守られていたからな。だが、ある時…この東の結界石に罅が入っていた」

 

 

 罅…。砕かれていたのではなく、罅?

 

 

「そうだ。大騒ぎになったぞ。動揺を与えないよう、一部のモノノフにしか知らされていなかったが…風化で自然と割れたのか、それとも鬼が侵入してきたのか。……考えたくはないが、人の手によるものだったのか。不明だったが、とにかく警備の人数を増やした。…だが、数日後には完全に砕け散って効力を失っているのが発見された。そして異界が徐々に侵蝕を初め、安全な領域は狭まった」

 

「そんな事が…。では、他の結界石も同様に?」

 

「ああ。だが、一つ…いや、二つ違う点がある。それは、結界石は砕かれずに効力を失っていた事と、異界が猛烈な勢いで溢れかえった事だ」

 

 

 砕かれてない…と言う事は、瘴気か何かで汚染されて力を失ったと?

 

 

「恐らく。効力を失っているのが確認されてから、数刻と経たずに異界が迫って来たから、調査すらできなかったんだ。だがどの道、結界石の効力だけを突然失わせるなど、風化の類でもなければ、人の手によるものでもない。明らかに鬼の仕業だとして、警戒を続けたが、一つ、また一つと効力を失っていった」

 

 

 それで、里外の結界石が全て無力化され、現状がある…か。

 

 

「俺は以前から、疑問に思っていたんだ。何故、里の周りの異界侵蝕がこれ程に早かったのか。そして早さと濃さが両立しているのか。…仮説に仮説を重ねているが、これが答えなのかもしれん」

 

「まさか……砕けた筈の結界石を、鬼が利用している…?」

 

「そう。俺は、結界石を利用して、神垣の巫女同様に結界を張ってる鬼が居るんじゃないかと思ってるんだ。人間から言えば、瘴気を阻み鬼を退けるのが結界だが、鬼の側からすれば自分達の活動しやすい領域を作るのが結界…つまり異界だ。全ての結界石が砕けたのを確認した訳じゃねぇ。そもそも、鬼が結界石に阻まれるならともかく、それを利用するだなんて聞いた事も無い。だが、尋常ではない瘴気に満たされた石像…これが、瘴気を生み出す元となっているのだとしたら…」

 

 

 …でも、結界石って土偶なんだろ? 胎児だったぞ。

 

 

「そこなんだよなぁ、分からねぇのは。位置と場所の特徴からして、結界石があった場所なのは間違いない。砕けずに残っていたとしても、何だってそんな形になってるんだか。…とにかく、それに『何か』があるのは明白だ」

 

「それが瘴気を生み出す元だとすると…壊しちゃった方がいいですよね?」

 

「そうなるな。少なくとも、異界の侵蝕速度を落とす事はできるだろう」

 

 

 ちょい待ち。結界石だぞ。鬼に利用されていて、奪還不可能だったら壊すのに異論はないが、こっちに取り返す事ができるとしたらどうだ?

 結界を張っている鬼を斬り捨てるか…或いは、汚されたされた結界石を浄化するか…。

 

 

「浄化なんてできるのか? 異界の真ん中で、瘴気を一切排除した空間を作るようなものだぞ。いや、結界石自体が瘴気を生み出すように変えられているのだとしたら…」

 

 

 そこら辺は、やってみてのお楽しみ…かな。俺も実際にやった事がある訳じゃないが、知人が異界を浄化する為の研究をしててね。偶然出来上がった完成品を一つ持ってる。

 もしも…あいつの言う通り、異界を生み出す元を見つけ出し、そいつの効果を発揮させる事ができれば、或いは…。

 

 

「…試してみるのは止めんが、敵陣の真ん中に居ると言う事を忘れないようにしろよ」

 

「……あの、それって…」

 

「ん? どうした神夜」

 

 

 

 躊躇いがちに、神夜は口を噤んだ。言うべきか迷っているらしいが、懸念があるなら言ってほしい。会議の場で意見や問を飲み込むのは、むしろ悪徳だ。

 

 

「………その、もしもそれが上手くいったら、結界石が増える事になるんですよね? 里の守りは堅固になるかもしれませんが、それでは雪華さんの負担が…」 

 

 

 む………た、確かにそれは…そうだが…。

 

 

「言いたい事は分かるし、雪華に犠牲になれとも言いたくないが…神垣の巫女ってのは、そういうもんだ。何より、現状じゃどう考えても詰んでるんだ。異界は今も徐々に広がっている。数年もせず、この里も異界に呑まれてしまいかねん…。そうなったら雪華だけじゃない、里が丸ごと全滅する。異界の中を彷徨って、鬼から隠れながら瘴気に倒れるか。誰かの負担を増やしてでも、鬼と戦える状況を死守するか。……選択肢はない。そういう事だ」

 

「………」

 

「…………神夜、仕方ないとは言いたくないけど、どうにかしようと思うなら、それこそ他に方法はないわ。戦って、鬼を駆逐して、その先で霊山ともう一度連絡が取れれば…」

 

「…はい、分かっています。詮無い事を申しました」

 

 

 いや、大事な事だったと思うよ。

 

 …霊山と連絡がとれたら、か…。戦力出してくれるかな。多少なりとも霊山の内用を知ってる俺だが、正直素直に助けてくれるとは思えない。理由はどうあれ、一度は見捨てた里だ。自分達が恨まれているという自覚だってあるだろう。

 でも、実際他に頼るアテは無いしなぁ。シラヌイの里の凛音だったら、博打に勝てば話くらいは聞いてくれそうだが。

 

 ……幾つか、連中の手を引っ張ってこれるだけの建前や利益を準備しておくか。都合よくあれば、の話だけど…。

 ああ、鬼纏もいい材料になるかもしれんな。あれは何だかんだで強力な術だし。

 

 

 

 まーなんだ、先の事はおいといても、とりあえず結界石が一つ増えた程度じゃ、そこまで神垣の巫女の負担にもならなかった筈だぞ。

 もし本当に異界を浄化する事ができたなら、それは負担以上に大きな光明になる。前向きに考えていこうよ。

 

 

「そうですね…。よし、私、斬って斬って斬り捨てます!」

 

「まだ里の中だから刃物を抜くな!」

 

 

 うん、取り敢えず踏ん切りがついたようで何よりだ。

 

 

 




討鬼伝世界登場人物表

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
    ミタマなので、見える人と見えない人がいる。
    風呂は熱いのが好きだったが、今は水垢離すらできない。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    風呂は熱湯に湯当たり寸前まで入って、フラフラしながら夜酒を飲むのが好き。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー。
    お風呂は温めが好き。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
   結構なナイスバディだが、「またサラシがきつくなった」という言葉からしてまだまだ成長しているらしい。
   お風呂の温度は何度もいいけど、かなり丁寧に洗う。鍛冶仕事の汚れはしつこい。

・風華…祭祀堂の巫女。
   修行途中に祭祀堂の主となってしまった為、修行不足。
   どちらと言うと、マスコット兼甘味作成係と思われているようだ。
   天狐と友達。
   お風呂は烏の行水。そういう所でも天狐と気が合う。


他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
     武器は細剣(レイピア)。
     戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。
     お風呂は温めが好き。長時間浸かって、妄想する癖がある。

・神夜…無限のフロンティアより。
    武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。
    戦狂いの気質がある。
    お風呂は熱めが好き。外に出た時の冷たい空気が堪らない。


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392話

頭の中からっぽにしたい…。
仕事が次から次に押し付けられるのと、気に入らない店長その他への反発で、元から多くない頭のリソースが更に削られている…。
転勤してから暫くして、「来年にはこの会社に居ない気がするなぁ」なんて思ってたけど、本当にそうなりそう。

辞めるにしても、せめてボーナス出るまでは…。
PCが最近本格的に調子悪いし、買い替えたい。
できればVRも欲しい。


凶星月 十五日

 

 

 あの後、出来る限りの資料を見せてもらってから調査を始めた。

 まず最初に行った事は、周辺の地理の把握。あの石像が本当に結界石なのかは断言できないが、とりあえず場所については調べれば調べる程大当たりとしか思えなくなった。

 

 次に行う事は、鬼達の排除…ではない。何せ異界のド真ん中、鬼達にとっても重要らしい石だ。下手に狩れば気付かれ、次に来た時にはより厳しい警備が待っている事だろう。

 なので、まずは標的の鬼を探さなければならない。つまり、穢れた結界石を利用して異界を深めている鬼だ。

 この探索がまた面倒くさい。本当にそんな鬼が居るのかすら分かってないのだ。

 居るのであれば、恐らく結界石に極めて近い場所か、或いは頻繁に接触してきている筈…という思惑から、周囲に生息している鬼達を調べてみたが………うーん、普通の雑魚鬼ばっかりだな。雑魚っていっても、そこそこの大物は居るが。

 

 

 

 その鬼の探索については大した成果がなかったが、代わりに結界石(仮)について謎が増えた。

 見せてもらった資料には、結界石の石像には銘が刻まれているらしい。何処の誰が何年に作ったナニナニです、って奴ね。

 前回は撤退寸前の時に気が付いて、後ろ髪を惹かれながらも放置していたんだが…多分ソレだろうな、と思って覗き込んだんだ。

 

 確かに、そこには銘らしき物が刻まれてはいた。ただし。

 

 

「…何ですか、これ? 文字…ですよね?」

 

「異国の文字を何度か見た事があるけど、なんだか雰囲気が違うような…」

 

「異国と言っても様々では? まぁ、何処の国の文字であっても、私達には全く読めませんが……」

 

 

 あ、俺読めるよ。

 

 

「「え」」

 

 これでも語学は結構得意なんだ。優秀な先生が、ご褒美つきで教えてくれたからね。

 レアやらアリサやら、結構教えるのが上手かったもんだ。おかげでライブツアーについていっても、あまり言葉には困らなかった。

 

 尤も、この文字はアリサでもレアでも榊博士でも読めないだろうけどな…。

 

 

「なんて書いてあるんですか?」

 

 

 『名前はまだない』だってさ。ワガハイハネコデアル、とでもルビを振ろうかね。

 そんなもの名前にすんなよ…。と言うか千円札の人かよ。時代が違うぞ、時代が。まーこの世界の時系列と言うか時空間は、異界のおかげで訳が分からない事になってるから、未来の英雄のミタマが居てもおかしくないけどさ。運命に出会った夜に、未来の主人公がサーヴァントとして呼び出されたのと同じ理屈だ。多分。

 

 

「…まぁ、産まれてすらいないから、名前が無いのは道理と言えば道理ですが」

 

「胎児だもんねぇ。私にはそうは見えないけど」

 

 

 そう言われればそうかもな。

 だが、問題はコイツの名前ではない。この文字そのものだ。

 確かに『名前はまだない』と書いてある。

 

 

 

 

 MH世界の文字で。

 

 

 

 確かに最近、それぞれの世界で別の世界の片鱗や面影を見かける事は多々あった。だが、それは専らアラガミやモンスター、鬼と言った尋常ではないにしろ生物達だ。あいつらは変化するのは分かる、生きてるんだもの。みつを。…じゃなかった、生命活動を行って生きているのだから、大なり小なり変化があるのは当たり前だ。

 でもこいつは違うだろう。異界に呑まれ、鬼達に切り刻まれたとは言え、こいつは無機物。他者の力なく変わる筈のないモノ。

 元は確かに、この世界に存在した結界石の石碑だった筈…多分ね。

 

 それが何故こんな形に変わっている? 何故MH世界の文字が刻まれている? MH世界でも、確かに討鬼伝世界と何かしらの繋がりを示す情報はあった。だが、これは明らかに後付けで変わったものだ。

 謎は深まるばかりである。

 

 

 

 

 

 

 が、それはそれとしてこの結界石の石像を、どうやって浄化するかって話だ。

 色々探し回ってみたが、結界を張っているらしき鬼は見当たらず。その痕跡すらも無い。

 鬼の目にも鷹の目にも引っ掛からないとなれば……少なくとも、結界石を汚染した以降はやってきてないと思うべきか。

 

 とりあえず、今回は大人しく引き下がった。鬼達に気付かれそうな気配がしたからね。

 斬って斬って斬り捨てる、と決意を新たにしたばかりだった神夜は不満そうだったが仕方ないだろう。

 

 あまり鬱憤を貯めさせ続けるのもよろしくない。つい先日まで、持て余されて燻り気味だったんだし、それなりに暴れさせてやってもいいだろう。何かいい機会があればいいんだが…。

 ま、差し当っては酒と飯で宥めるとしましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ここは里の中で唯一の………なんだろ、居酒屋…でいいのかな? メインは酒ではあるようだし。

 小ぢんまりした店だが、里の皆の憩いの場なのは間違いない。

 

 

「あ、こっちです、こっちー」

 

「お先にいただいてます~」

 

 

 俺に声をかけてきたのは、既にほろ酔い加減の神夜と、湯豆腐をつつく明日奈。こっちも頬が赤くて色っぽいねぇ。まだまだ小娘の色気だけど。

 にしても、なんだぁ、明日奈が働いてる店だって言うから、侍女姿でも見られるかと思ったのに。

 

 

「今日はそーいうのは無し無しでーす。従業員割引って事で少しは安くなりますから、今日は飲みましょ飲みましょ♪ さ、まずは駆け付け一杯!」

 

 

 一杯と言わず、ググッと三杯!

 

 ずずいっと突き出される徳利を受け取り、一気に飲み干す。む、美味いなこの焼酎。

 北の地の寒さによるアレコレが美味さの秘訣と見た。

 

 

「それもありますけど、作ってる人の腕がいいんですよぉ。それに、これって私が随分前に買い取ってお店で保存してる、秘蔵の一品なんですから」

 

「私も買おうとしたんですけど、明日奈さんに先を越されてしまいました…。うぅ、従業員だからって、売りに出される瞬間を狙って滑り込むなんてひどいです」

 

 

 あー、店内の情報を知るが故の特権か。やり過ぎると反感を買うけども。

 と言うか、従業員割引とか福利厚生やってるのか…。時代を先取りしてる…のかな?

 そもそも、共産主義(っぽい)的にそういうのってどういう扱いになるんだろうな。

 

 まぁいいか、俺も飯飯。

 まずは枝豆と豆腐、酒は熱燗にして……うん、塩鮭で。…あれ、ここって海からも断絶してるよね? …異界から流れてきた奴か。うん、矛盾はない。

 

 注文に応える店員さんにちょっとだけ頭を下げて、二人に向き直る。

 既に酔いが入っている二人は、陽気にキャッキャキャッキャ騒いでいる。こうしていると、普通の女の子だねぇ。特S級美少女だけど。

 …そう考えると、周りにちょっかい出されないのは不思議だな?

 周囲を見回しても、一人で呑む者、数人のグループで話し込んでいる者、色々いるが…うん、全体的にアットホームな店だね。

 しかしこっちに全然注意を向けないな。俺の事はどうでもいいが、美人さん二人で呑んでるなら多少は目が行きそうなものなのに。

 

 …ま、この里はほぼ全員が顔見知り状態だから、あまり妙な真似をする気になれないだけかもしれないが。

 実際、この子達は実力があるにも関わらず、ちょっと持て余されてたみたいだものな…。何か俺の知らない事情があるのかもしれない。

 

 

 

 …お、塩鮭来た。食おう食おう。

 

 

「あ、皮くれません? 代わりに鳥皮あげますから」

 

 

 やだよ、一番美味いところじゃん。鳥皮も負けてはいないけど。…ほら、ちょっとだけだぞ。

 っくはぁ……酒と合うねぇ。白いご飯も一緒に食べて、日本人でよかったとつくづく思う。

 

 んー、秘蔵の酒を飲ませてもらったみたいだし、俺も何か出すかねぇ。

 

 

「外のお酒ですか? 興味深いこと極まりないです!」

 

 

 外っつーか、異国の酒? 何があったっけな…。GE世界で手に入れたのは、リンドウさん大好き缶ビールに、ライブツアー中にカエデさんと一緒に買いまくったウォッカ、ウィスキー、ブランデー、泡盛、その他諸々。MH世界で手に入れたのは、達人ビールを筆頭に、黄金芋酒、ホピ酒、ブレスワイン、ウェストライブ領名産の酒『火の国の宝剣』に…。

 

 

「ちょっとちょっと、ここ持ち込み禁止ですよ? 仮にも店子が居るんだから、その辺は守ってくださいよ」

 

 

 あ、そうなの? そんじゃその内、宅呑みでもすっかね。

 まーその辺の話は後にして…柄じゃあないし、ちょいと遅くなったが、この出会いを祝してって事で。

 盃を掲げると、意図を察してくれた二人も酒瓶を手に取る。

 

 

 

 明日奈と神夜の勇気と、我が剣、そしてシノノメの里の未来に。

 

 

「「 「乾杯!」」」(long may the sunshine!)

 

 

 ワッハッハッハッハッハー。

 

 

「………? 今何か、聞き慣れぬ言葉が聞こえたような?」

 

 

 気のせいだろ。酒の席で乾杯して言う事なんて、一つに決まってるしね。

 

 

「私の酒が飲めないのか…ですか?」

 

 

 そりゃ乾杯して散々呑んだ後やがな。まー取り敢えず飲もう飲もう。

 いやはや全く、異界を彷徨ってた時はどうなる事かと思ってたが、美人さんとも縁に恵まれ、こうして飯も食えるし酒も飲める。生きてこそ浮かぶ瀬もあれ、ってヤツだね。

 

 

「美人だなんて、照れる事極まりないです。ささ、空いてますよ。もう一献どうぞ」

 

「こっちも、あなたが来てくれたおかげで随分状況が変わりましたからねぇ。神夜みたいに戦狂いなつもりはありませんけど、ちゃんとモノノフとして戦えるようになったのは嬉しいです」

 

「まだ確定ではありませんけど、閉塞した状況から脱出する手掛かりも見つかりましたしね」

 

 

 お互いにとって良い出会いだったって事か。素直に嬉しいね。

 コンゴトモヨロシク。

 

 

「はいよろしくお願いします。…あーあー、これで彼氏ができればなぁ…」

 

「またそれですか、明日奈さん。彼氏が欲しいとは前々から言っていますが、居たら具体的に何をするつもりなんです?」

 

「それは勿論、青春するのよ! やっぱり基本は、一緒に遊びに行くのよね。その時には前日に約束して、待ち合わせしたり…」

 

「この里で遊びに行けるようなところ、ありましたっけ? 待ち合わせするくらいなら、家に直接迎えに行った方が早いです」

 

「……一緒に服を買いに行って、『似合う?』とか聞いてみたり…」

 

「里で売ってる衣装は、似たり寄ったりじゃないですか。鎧の方が種類が多いくらいです」

 

「……た、食べ歩きとか…」

 

「調理した食べ物を売ってるところなんて、この店か、風華さんのお汁粉くらいです。風華さんはハクをとってませんけど」

 

「……い、一緒にお役目に行って、『危ない明日奈!』って庇ってもらったり…」

 

「明日奈さんを庇えるくらい強いモノノフなんて限られてます。そもそも戦の場で、庇われるの前提で動いてどうするんですか」

 

 

 神夜のツッコミがキレッキレやでぇ…。悉く妄想を潰されて、明日奈はちょっと涙目になってプルプル震えている。

 …神夜、ひょっとしてこういう恋話は嫌いだったりする?

 

 

「いえ、好きですよ。でも実際には相手も居ませんし、里の状況が状況ですから、逢引も出来ませんし。…妄想しても、我に返った時に虚しくなるだけです。今の明日奈さんみたいに」

 

「ううう…。灰色の青春なんか嫌い…。………そうだ! 外の里ではどうなんですか? 何かこう、シノノメの里でもできる恋人っぽい事とか!」

 

 

 無いではないけど、結局は相手が居てこそだからなぁ。

 

 

「明日奈さんが一瞬で撃沈された…。あ、ではでは、あなたはそう言うのには詳しいんですか? ひょっとして、元いた場所に恋人がいるとか…」

 

「ちょっ、神夜!」

 

「大丈夫ですよ。そういう人が居ればこそ、帰るんだって励みになります」

 

 

 それなり以上に経験はあるし、居た事は居たけど、また会えるかどうかは分からないなぁ。別にこの里の状況がどうのじゃなくて、ちょっと事情があって。死んだ訳じゃないんだけどね。

 

 

「あ…ごめんなさい…」

 

 

 いや、会える目算自体は充分あるから、気にしなくていいよ。思い出しても、気力の元にこそなれ、落ち込む理由にはならないからな。

 

 

「そうですか…。でしたら遠慮なく。その恋人と言うのは、どんな方なんですか?」

 

 

 そうだなぁ…。誰について話すかなぁ。

 

 

「誰についてって……あぁ、付き合ったり別れたり、が何度もあったんですね」

 

 

 ん…まぁ、そんな所だ。転戦(と言うかデスワープ)するとなると、どうやったって出会い別れは避けられんからな。

 前に付き合ってた子は…正直、普通の関係じゃなかったな。上手くやってはいたけども。

 何せ母と娘だったし。

 

 

 

「母……」

 

「子……!? ご、ご家族を相手にお付き合いしていたと言う事ですか? お父上はどうされたのです!」

 

 

 別に血が繋がってる親子じゃないよ。姓も違うし、娘…アリサがレアをおかーさんと呼び始めたら、それが定着しちゃっただけだ。

 この場合、父は俺になるのかな。

 

 アリサの両親は随分前に亡くなっててな。親代わりになってた奴も、そりゃもう酷い奴だった。そっちは報いを受けさせたからいいとして、ある時アリサは仕事で大きな失敗をして、ひどく落ち込んだ。下手すると自殺しそうなくらいに。その時に慰めたのが、俺と付き合ってたレアだったんだよ。

 その時、俺もアリサを立ち直らせようとしてアレコレやってたら…まぁ自然と、な。

 最初は恋敵みたいな意識もあったようだけど、レアが母性本能全開で接していたら、アリサもアリサで懐いてしまって。

 下手に拒絶すると、折角立ち直って来たアリサがまた崩れ落ちそうだったし、レアからも怒られそうだったし…。

 (別に嘘はついてないよな…)

 

 

「それは…また、何というか…二股をかける理由にはなって…ないのでしょうか?」

 

「う、うーん…事例が特殊すぎて何とも…。名家のモノノフ基準で考えれば妾は珍しくないけど、親子…でも本当に親子なのとは違うし…」

 

 

 まぁ何にせよ、もう一度会えるとしても当分先だ。シノノメの里と外が連絡がついたとしてもね。

 

 

「…でも大丈夫なんですか、それ…。あなたがここに居ると言う事は…」

 

 

 …大丈夫だよ。少なくとも仲違いするって事はない。

 お互い支え合って(カラダを慰めあって)仲睦まじくやってるさ。

 

 

 

 

 …GE世界の最期を思い返すと、あの世で…って事になるだろうけどな。もう一度ループしてGE世界に行った時、また同じように月から帰ってくる時から始まるのか、それともGE無印初期から再度スタートになるのか分からないが…。どっちにしろ、仲違いはしないな。前者であれば仲良くやってたのも前回通りだろうし、後者ならそもそも知り合ってすらいないのだから。

 

 

 

 

「はー、俄かには信じられないお話ですね」

 

「見栄を張って法螺を吹いてると言われた方が納得できるくらいにはね」

 

「真実だとしても、流石に心地よい話とは言えませんし」

 

 

 うん、そう思われても仕方ない。

 でも実際はもっと法螺みたいな話が山ほどあるからなぁ…。何だかんだでどれだけの女を喰って、その全てが無かった事にされてきたか。この前のMH世界とGE世界で、合計3桁までは行ってると思う。猟団丸ごととか、アイドル候補入れ食い状態だったもの。

 

 まー酒の肴に話すのもいいか。酔っぱらいの法螺だと思って、軽く流してくれよ。

 

 

 ん? 付き合ってた子達との、一番の思い出? ………乙女には刺激が強すぎるんで、内緒だ。

 キャーキャー騒ぎ出した乙女二人を酔い潰れさせるのに、結構な苦労をした。

 

 

 

 




討鬼伝世界登場人物表

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
    ミタマなので、見える人と見えない人がいる。
    主人公へ聞きたい事……手練なのに、どうして自分があまり見えないんだろう。
   
・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    主人公へ聞きたい事……異界の瘴気を無効化する道具とか、どこから手に入れてきたんだ。
    
・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー。
    主人公へ聞きたい事…他所の神垣の巫女はどんな人なんでしょうか?
    
・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
   結構なナイスバディだが、「またサラシがきつくなった」という言葉からしてまだまだ成長しているらしい。
   主人公へ聞きたい事…腕のいい鍛冶師を知らないかい? 外の世界に出られたら、会ってみたいねぇ。

・風華…祭祀堂の巫女。
   修行途中に祭祀堂の主となってしまった為、修行不足。
   どちらと言うと、マスコット兼甘味作成係と思われているようだ。
   天狐と友達。
   主人公へ聞きたい事…………あ、あまり興味がないので…特に何も。

他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
     武器は細剣(レイピア)。
     戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。
     主人公へ聞きたい事……恋愛経験豊富?

・神夜…無限のフロンティアより。
    武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。
    戦狂いの気質がある。
    主人公へ聞きたい事……実は法螺吹きだったり?

オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
       主人公へ聞きたい事…里の外ではどんな本が流行っていますか?
        
・泥高丸…でいこうがん。
     里で一番腕が立つと評判のモノノフ。
     明日奈とソリが合わないようだ。
     新戦術『鬼纏』を開発した人物らしい。
     主人公へ聞きたい事…凡人に興味はない。


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393話

凶星月 十六日

 

 

 結構な時間まで飲み明かし、昼まで爆睡。起き出した時に一人で居る事に違和感を感じたが、これは別に誰かに手を出したからではなく、GE世界じゃ同衾が当たり前、朝フェラも当然、早起きしたら隣の女体にイタズラしながら気だるい空気を楽しむのが当たり前だったから。うむ、我ながら爛れた生活しとったな。

 勿論、そういう朝の方がずっと好みではあるんだけど、冷えた空気の嫌いではない。正午を過ぎてから起き出した為、雪で冷えながらも太陽でいい塩梅に温まった空気が頭をスッキリさせてくれる。

 

 今日のお役目は休みなので、前から気になっていた所に行ってみる事にした。

 大した効果は無い筈なのに、どういう訳だか里の人達に非常にありがたがられている場所……そう、超界石だ。

 何でも世界を飛び越える力を持っていると言う話だが、具体的にどんな代物なのやら。世界を飛び越えているのは俺も同じだけど、俺自身にはそんな力はない…筈だしなぁ。

 

 とりあえずやって来たはいいものの、目立つものと言えば石の周囲の花畑、後は昼寝している天狐しか居ない。ありゃ、祭祀堂の風華のところに居付いてる天狐だな。

 …そういや、最近は天狐と話してないなー。今は昼寝中みたいだから遠慮するけど、今度話しかけてみよう。

 

 

 さ、て、と……確かに何の力も感じられない石ではあるんだけど、妙な存在感はあるんだよな。

 そもそも、この北の地、しかも里の中にあるとはいえ雪が降り積もるこの土地で、常春かと思うくらいに花が咲き乱れるものか。

 妙に存在感がある石だし、ひょっとしたら本気で何かあるかもしれない。

 

 

 …と思って調べはしたんだけど、フツーの石だものなぁ。瘴気に穢れている訳でもないし、内側に霊力の類が貯めこまれている訳でもない。

 皆にありがたがられている物だから、試しに割ったり削ったりする訳にもいかない。ペタペタ触って終わりである。

 

 

 結論。特に何もない………と、思う。実際何も見つからなかったんだが、その反面、俺の本能が『それは沼だ! 絶対に触れるな!』と声高に叫んでいる気がする。

 何というか……本当に、終わりのない沼に沈み込んでいくような、そして精も根も注ぎ込んで何もかも捧げても、ある日ふと何もかもが無に還ってしまうような…。

 

 …調べるのは止めよう。これは希望の無いパンドラの箱だ。人が触れてはならないものだ。

 これは里の人にとって、心の拠り所なのだ。それに劇的な効果など必要ない。

 

 『ガチャが心の拠り所な里って、崩壊確定じゃないですか。しかもサービス終了してるから何も残ってない』なんて声は聞こえていない。

 

 

 

 

 

 さて、超界石の調査を急きょ取り止めとした訳だが、何をしたものか。一緒に遊んでくれそうな明日奈と神夜は、何やらやっておきたい事があるとの事でどこかへ行ってしまった。狭いこの里だから、探そうと思えばすぐに探せるが、そこまで二人にべったりってのもね。

 貸本屋で何か面白い物でもないか…と思ったが、運の悪い事に白浜屋も休み。

 真昼間から居酒屋で酒を飲むのも楽しいけど、悪い噂になりそうでもある。外様で大した戦果も挙げてないから、肩身も狭い。

 

 フラフラとニートか徘徊老人よろしく里を歩いていると、何やら盛り上がっている声が聞こえた。

 ここは…道場か。この前は泥高丸に会ったけど、実際に中には入らなかったっけな。今日は泥高丸も居ないようだし、入ってみるかな。

 

 

 中を覗いてみると、まぁ珍しくも無い道場だな。変わっている事と言えば、なんか妙に庭が広い事くらいか? その庭も、数人のモノノフが型の練習やってたり、組み手やってたりであまり余裕は感じない。

 靴を脱ぎ、一礼して中へ。入り口に居た、休憩中のモノノフのにーちゃんが出迎えてくれた。

 

 

「ん? ああ、新入りさんか。ようこそ道場へ。ここじゃ、基本的な訓練と……ああ、そういや新入りだからここの戦い方にも詳しくないんだよな。祓円陣の教導とか、鬼纏の指導をしてる。練武戦の受付とかもやってるぜ」

 

 

 ふむ、ゲーム的に言えばチュートリアルかな。主に武器の説明的な意味で。

 壁際を見れば、幾つかの武具…の模造品がかけられている。太刀、槍、弓、双刀。……あれ、ここで教えてるのってこれだけなのか?

 

 

「残念ながらな。昔はこれ以外の武器も教えてたそうなんだが、使い方を知ってる奴がもう残ってなくってな…。あ、ひょっとして…」

 

 

 ああ、一通りの使い方なら教えられる。まーそれにしたって、重心を調整した模造品とかを作ってからになるだろうけども。

 

 

「そりゃそうだろうが、興味深いな。戦い方の幅が広がるのはいい事だ。白浜の奴にも、合った武器が見つかるかもしれないし」

 

 

 白浜? 貸本屋の?

 

 

「ああ。ほれ、あっちだ」

 

 

 指さされてみてみると、道場の隅っこで、教官らしき人物に怒鳴られながら、黙々と………訂正、ヒイヒイ言いながら筋トレに励む白浜の姿があった。

 …うーん、改めて見ても貧弱だ。あの程度で泣きそうになるなんて。…でも、逃げたがってる割には逃げようとしないな。

 

 

「知ってるかもしれないが、あいつはモノノフとしては落ちこぼれでな。当然ながら、命懸けの戦いの場でそんな奴と組みたがる奴は居ない。だから引っ込んで大人しく貸本屋をやっていろ、と口を揃てて言うんだが…………まぁ、何だ、本気であいつを馬鹿にしてる奴は少ないよ。泣き言を喚きまくるが、根性だけはあるからな」

 

 

 ふぅん…。

 

 

「でもやっぱり組みたくはないな。足を引っ張られるのが目に見えてる」

 

 

 きっぱり言うね。ま、ガチで命懸けの戦場に居る以上、『頑張ってるから』とか精神論を理由にして一定以上の評価を与える訳にはいかんわな。

 確かに才能や素質は著しく低そうだから、通常の訓練じゃな…。徹底的に地金を鍛えて、その上で素質が無くても開花できるような鍛え方、戦い方を考えないと。

 

 …………根本的に不器用なんだな。直感的にやれる戦い方が必要か…。どっちにしろ、体をもっと鍛えないと話にならんよ、あれは。

 体を鍛えるだけなら、MH世界のハンター方式で出来ない事もないが。

 

 

「言っちゃ悪いが、芽吹く可能性が低い眼だ。あまり気に掛けない方がいい…。それより、里には無い武具の使い方とか、教えてくれないか? まずは俺に。そうすりゃ、珍しい戦い方が出来るモノノフって事で、俺の評価もあがりやすくなるってもんよ。練武戦でも目立てるしな」

 

 

 そう言いながらも、白浜を見る目は若干気の毒そうだった。手助けはしないが、成果が出るよう祈ってやるって程度だな。

 と言うか、珍しい武器云々なら、明日奈が使ってる細剣とか、神夜が使う大剣はどうなんだ?

 

 

「あー……それは……だな。…………勝手に言うのも不義理だが、黙ってるのも悪いか。…武器の使い方を教えてくれる対価に、って事でどうだ?」

 

 

 どうだって言われても、あまり意味が無いと思うが……まぁいいか。話せる範囲で頼む。具体的には、調べようと思えばすぐ出てくる範囲で。

 

 

「あいよ。ま、今時珍しくも無い話でな。あの二人、元は名家の出身なんだよ。詳しい事は俺も知らないが、霊山にもその名が轟いてた家らしい。だけど、オオマガトキであの二人だけが生き残っちまった。あいつら自身が何かやった訳じゃないんだが、モノノフにとって…特に名家にとって、『家』とか『姓』ってのは特別重要なものだからな」

 

 

 はーん。まぁ分からんでもない。名家と呼ばれる家は、財力にせよ何らかの成果にせよ義務にせよ、相応の『何か』によってそう呼ばれるようになったのだから。

 尤も、その『何か』が何だったのか、仮に義務があるのならそれを受け継ぎ続けているのかはまた別の話だけども。

 

 

「そんで、俺達にとってもその家ってのは特別なもんでさ……率直に言えば、距離を測りかねてるんだよ。重要な家だと聞いてはいるけど、具体的にどんなものかは分からない。本人達も教えられてない。気安い態度をとっても本人は気にしないだろうし…何だかんだで将来有望な美少女だから、是非とも仲良くしたいんだが、どうにも二の足を踏んじまってな」

 

 

 半分以上は空気と言うか、近付いたらいかんって雰囲気が出来上がって、それに流されてる訳ね。無視して突っ走れれば、両手に華を実現できる好機かもしれんのに。

 ま、おかげで俺に好機が回って来たんだから、感謝しておくべきかね。

 

 

 

「はははははは、もしそうなったら褒めた後に呪ってやる。俺も彼女ほしい…。二人同時とか許されぬぇ…」

 

 

 ぬぇぇ…。てか妾とか珍しくなかろ、モノノフには。まぁ名家のお嬢さんを二人とか、普通に羨ましいだろうけども。

 …あの二人が素直に受け入れるかは別問題だしね。

 

 

 とりあえず、武器の使い方はこれから纏めるとして……俺も練武戦ってのに参加できるかい? 

 

 

 

 

 

 

 …来月かよ。

 

 

 

 

凶星月 十七日

 

 

 今日も今日とて異界の調査。あんまり何度も結界石の所に行ってると、流石に鬼達にも気付かれる。今日は神夜の鬱憤晴らしも兼ねて、適当な所で暴れる事にした。

 神夜だけじゃなく、明日奈も一度思いっきり戦ってみたかったようだし、渡りに船だったようだ。

 

 俺? 雑魚相手じゃなぁ…。無双ゲー並みに沸いて来るならまだしも。フォーリナーの巨大生物並だと流石にキツい。数の暴力程侮れない物はない。例え、戦力として数えられない者の集まりだったとしても。

 

 

 

 ちゅー訳で、これらが俺達の本日の成果となります。首実験をどーぞ、寒雷の旦那。

 文字通り鬼の首を取って来たぜ。

 

 

 

「ミフチが6体、カゼキリが8体、ミズチが4、ツチカヅキが5、ヒノマガトリが15、ダイマエンが1…。ヒノマガトリが多いのは何でだ?」

 

「この人が、空から攻撃してくるのが鬱陶しいって言って、よく分からない技で片っ端から引き寄せて叩き落したもので…」

 

 

 制空権は最優先で取り戻すべきだろ。…この時代に制空権なんて言っても分からないだろーから、手の届かない所から一方的に移動したり攻撃したりしてくる連中と理解してくれ。

 

 

「地上からそれを取り戻せるのがおかしいんですけどね!?」

 

 

 あ、カゼキリの内3体はアマキリでした。あと2体くらい、初見の鬼が飛んでたけど握り潰したんで詳細は不明です。落下したのも遠い異界だったし。

 

 

「……何をどうすりゃそんな事できるんだ…。お、このダイマエン凄いな。他のに比べて、見事なほどに真っ二つだぞ」

 

 

 岩石降らそうとして真上に来やがったので、思いっきり飛んで『届けっ! 雲耀の速さまでッ!』させてもらいました。俺に断てない物? 山のようにあるよ。代表は性欲な。

 まぁ見様見真似だったけど。……いつぞやの夢で、島津のジッ様に叩き斬られたんだよなぁ…。あれを超える剣撃には、未だに巡り合えてない。無論、ギルドナイトやレジェンドラスタやモンスターを含めてだ。

 

 

「いえいえ、見事な示現の太刀でした! 同じ流派の端くれとして、感服したこと極まりないです! 色々とその、粗削りだったことは否めませんけども」

 

 

 え、神夜って示現流なの?

 

 

「元祖がそうであったらしいのですが、何分家の資料も無くなっているので…。里が異界に閉ざされる前、そのように聞いた事があるだけです。示現の剣理も、伝え聞いた程度にしか」

 

 

 ま、しゃーないわな。素直に褒められた事を喜んでおこう。

 とりあえず、これで暫くのお役目は果たせたかな。

 

 

「戦果としては充分だな。特命を受けていると言う事で、他のお役目を免除する腹だったが…ここまでやれば、贔屓目とみられる事もないだろう。逆に、どんな詐欺を働いたと疑われるかもしれんが」

 

「大戦果ですもんねー…。半分以上一人で倒してましたし。祓円陣も使わずに、殆どの鬼を一刀両断。どんな腕してるんですか…」

 

 

 行くとこ行けば、俺以上の狩人は珍しくないよ。世の中広いからなぁ。

 詐欺云々は…いう奴が出始めてから対処するわ。久しぶりにブートキャンプするのも悪くない。戦力増加にもなって一石二鳥。

 

 

 

 ところで話は変わるけど、例の結界石の事だが…。

 

 

 

「待て、その話に関しては奥で話そう。ああ、それと言っておくが……戦果を示そうとしたのは分かるが、鬼の生首を持ち込むのはやめてくれ」

 

 

 …インパクトを狙ってみたんだが…アカンかったか。

 

 

 

 

 

 奥座敷に通されて、茶を出されて。

 

 

「で、何か進展があったのか?」

 

 

 いーや、何にも。色々調べてみたんだが、結界を張ってる鬼が居る気配もないし、定期的にやってくる鬼が居る訳でもない。

 ちっと考え方を変えてみた方がよさそうだな。

 

 

「ふむ…俺の勘も鈍ったか…?」

 

 

 いや、いい線行ってると思う。異界侵蝕の原因が、あの石像にありそうなのは確かだよ。

 でもどっかで何か勘違いをしていそうなんだが…。

 

 

「あの…昨日ふと思いついたんだけど、結界石ってどうやって結界を張ってるんでしたっけ? 神垣の巫女の力で結界を張ると言うのは知ってますけど、何て言うか…雪華がずっと術を使い続けてるのか、それとも一度結界を張ったら自動でそれが継続されるのか…」

 

「俺も詳しい事は知らされてないが、後者に近いらしいぞ。一度術を使うと結界石への力の通路が形成され、暫くは自動で結界が発動する。だが定期的に術を重ね掛けしないと、徐々に消えていってしまうらしい」

 

 

 日々のメンテナンスが大事なのは、結界も同じか。…ある程度自動、ね。術の掛け直しがどれくらいの感覚で必要なのかは分からないが、これと同じ理屈だとすると当分接触してこない可能性もある訳かぁ…。

 こりゃ、いっその事石像ごとぶっ壊して誘い出した方がいいかもしれんな。

 

 

「おい、結界石だぞ…と言いたい所だが、現状だと害にしかなってないからな…。本気で壊してしまったとしても、やむを得ないと考えるべきか…」

 

「異界化を助長するくらいならば…ですか。残念極まりないです。…何かこう、ありませんか? 里の外に伝わっている丁度いい術とか…。以前、異界を浄化する研究をしているご友人がいると仰っていたではありませんか」

 

 

 …それに賭けるっきゃねーかな…。分かった、次の調査の時に試してみよう。

 

 

 

 

 今日のお役目も終わり、割り当てられた家に帰って来たのだが、どうしたものか…。

 異界の浄化。言葉にするだけなら簡単だが、未だに信じられない。何だかんだで色々信じられない物を見てきた俺だが、どうにもピンとくるイメージが無い。

 結局、作り手の博士だって異界浄化は成功してなかったんだしな。小規模な範囲でさえも。

 

 いやいや、こうやって疑う事こそが、成功率を低めている事に他ならない。異界浄化に限らず、鬼の手を使うのに必要なのは想像力と確信だ。出来て当然と思う事だ。餓鬼の群れを鬼千切でドカンと吹っ飛ばすようにだ。

 でも実際、楽観的なだけでは成功する筈もない。成功する理屈を筋道立てて、自分を納得させて、更に微に入り細に入り想像するくらいでないと…。

 

 うーむ……なんかこう…目先を変えないと、いいイメージが浮かびそうにないなぁ…。

 

 

 

 

 




討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
    ミタマなので、見える人と見えない人がいる。
    主人公に似合いそうな職業…猟師とかどうかな?
   
・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    主人公に似合いそうな職業…似合う似合わないはともかく、異界探索に専念させたい。
    
・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー。
    主人公に似合いそうな職業…甘味屋さんなどいかがでしょう。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
   結構なナイスバディだが、「またサラシがきつくなった」という言葉からしてまだまだ成長しているらしい。
   主人公に似合いそうな職業…知らなかった鉱物の使い方とか教えてくれたし、学者さんかねぇ?

・風華…祭祀堂の巫女。
   修行途中に祭祀堂の主となってしまった為、修行不足。
   どちらと言うと、マスコット兼甘味作成係と思われているようだ。
   天狐と友達。
   主人公に似合いそうな職業…甘味は私が作るので、逆に辛い物や酸っぱい物を作ってください。

他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
     武器は細剣(レイピア)。
     戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。
     主人公に似合いそうな職業…外の世界の事を沢山知ってるみたいだし、語り手や作家をやってみては?

・神夜…無限のフロンティアより。
    武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。
    戦狂いの気質がある。
    主人公に似合いそうな職業…私と一緒に、寝具を取り扱いませんか? そして空いた時間に稽古を…。

オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
       主人公に似合いそうな職業…万事屋はどうですか? 寒雷さんの店みたいなのじゃなくて、頼まれたら何でもするっていう。
  
・泥高丸…でいこうがん。
     里で一番腕が立つと評判のモノノフ。
     明日奈とソリが合わないようだ。
     新戦術『鬼纏』を開発した人物らしい。
     主人公に似合いそうな職業…農民。


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394話

明日の朝から帰省予定ですが、ネットは普通に使える…筈。
問題山盛りのスタッフのおかげで徹夜後に帰省になるかと思いましたが、退職してしまいました。
結局、自分じゃ何も仕事してないも同然なのに、人件費6万円くらい持っていきやがったなぁ…。


それはそれとして、ボヘミアンラプソディ、見てきました。
やっぱフレディの背中はカッコイイなぁ。Tシャツ一枚のシンプルさ。
初めて見た時は「ホモっぽいおっさん」と思ったものですが。

曲は迫力の一言でした。映画館なのに、思わず拍手しそうになりました。
扱う題材が題材だから仕方ないけど、ホモネタっつかゲイの話はちょっとアレだったけど…。

なにより驚いたのは、ロックなんかには縁の無さそうな推定80歳以上のお婆ちゃん(しかも車椅子)が見てた事なんですけどね。

アサシンクリードオデッセイでも何気なく選んだ選択肢で、ホモォな一夜を過ごす羽目になったし、半裸の色狂いっぽいにーちゃんも居るし、何だかホモネタに縁がある今日のこの頃。



凶星月 十八日

 

 

 

 ダイッコンッラン、大混乱ですッ! 寒雷の旦那がふんどし!と叫びながら、大根片手に全裸で飛び出してくるくらいの大混乱。どうやら風呂の最中だったらしい。ふんどしは自分が着ける奴を忘れて叫んだのだとか。モロ出しじゃん。

 寒雷の旦那だけじゃなく、里全体が超絶錯乱状態になっていた。ただし女の子達はしっかり服を着て飛び出してきた。残念。

 

 まぁ、無理もないよな…。やった俺だって、未だに信じられないんだから。本当に異界を浄化できるなんて…。

 

 

 流石に全ての異界を浄化できた訳じゃないが、それでもかなり広範囲の異界が無くなった。

 シノノメの里の生存圏が広がったのだ。これを繰り返していけば、異界を切り開いて霊山までの道を作るなり、いつかは全ての異界を浄化しきる事もできるかもしれない。

 

 逆に気になる事が増えたのも確かだが……まぁ、それはいい。

 

 

 フンドシだけ身に付けた寒雷の旦那に引っ張られ、祭祀堂に連れてこられた。旦那は蹴っ飛ばされて服を着せられてたが、それはまぁいい。

 祭祀堂の奥にはミタマの気配…相変わらず非常に見えにくいのだが、里長の牡丹が居るのだろう。

 

 周囲には、一人、また一人とモノノフが集まってきている。どうやら、異界が消えた原因について話をすると言う事が広まったらしい。

 話すのはいいけど、素直に信用されるのかねぇ…。

 何せ、外様の俺と、持て余されていた明日奈と神夜だ。目撃者は……あぁ、天狐が居たっけ。

 確か風華がこの子と話せるんだったな。証言してくれっかなぁ…。

 

 

 ともあれ、ざわめきは消えないものの何とか皆が落ち着き、雪華と寒雷の旦那が厳しい目で見守る中、俺達は語り始めた。

 俺の私物である、毒を無効化する道具について言及した時点で、かなりのざわめきが起きた。信じられない、って感じのね。寒雷の旦那が事実だと保証してくれたが、それでも半信半疑なようだ。明日奈も神夜も最初はそうだったんだから、無理もない。

 没収するべきでは、なんて声も聞こえたが、今は放置しておこう。

 と言うか、寒雷の旦那、本当に秘密にしててくれたんだなぁ。里長の牡丹の姿は見えないが、驚愕してくる気配は伝わってくる。

 

 

 

 話は進んで、異界の中の事を順に話す。周囲の人達にも聞こえるように。

 鬼の見張りを避けて進み、本来ならこの地を守っていたであろう結界石っぽい石像を見つけた事。

 何故かそれが本来の形とは、似ても似つかない形になっていた事。

 穢れの塊とすら言える、触れただけで汚染されそうな瘴気に満たされていた事。

 寒雷の旦那に資料を見せてもらったが、どうしてもそれが結界石としか思えなかった事。

 結界石を利用して、異界を広げている鬼が居るのではないかと探っていた事。

 しかしその鬼は見つからず、鬼に利用されて害となるくらいなら、止むを得ず結界石を破壊する決断を下した事。

 

 結界石を破壊するという言葉に、雪華が大きく目を見開いたが、最後まで聞いてくれ。結局、壊すどころか浄化できたんだから。

 

 

 

「ああ、そこまでは俺も把握してる。だが、昨日の話では成功する望みは薄いという話だったと思うが?」

 

 

 実際、当初考えていたやり方だと失敗した。

 そうだな、まずはこれを見てくれ。今日まで明日奈にも神夜にも見せてなかったが…俺の奥の手にして、結界石と異界浄化の鍵となった術。『鬼の手』だ。

 

 青白く、大きな腕を具現化して見せると、一際大きなざわめきが広がった。

 

 

「言いがかりをつけるつもりはないが、随分な名前だな」

 

 

 モノノフは近眼四ツ目の守り人、鬼を狩る鬼だぞ。鬼の目だって使ってる。手を使ったっておかしくはないさ。

 一応言っておくが、これは他所の里でもありふれてる物じゃない。異界の浄化をしようって知人が居て、そいつが作り上げた…試作品が近いのかな。俺も、本来とは違う装着の仕方をしてるし。

 そいつにしても、実際に異界を浄化できた訳じゃない。理屈の上では上手く行くと言ってたが、成功例は無かった。今回の事を話してやったら、喜び……はしないか。「私は天才だから当然だ」くらいは言いそうだな。

 

 

「その知人とやらには興味が尽きないが…結局、それでは成功しなかったと?」

 

 

 そうだな。異界ではなく、結界石(仮)を浄化するつもりで使ったんだが、それも上手くはできなかった。

 大部分の瘴気は浄化できたが、次から次に瘴気が湧き上がってきてな…。

 

 

「そうですね。ですから、『ああ、やはりこの石碑が異界を生み出す元になっているのだ』と確信しました。三人がかりでの鬼祓なども試してみたのですが、どうしても浄化しきれず…」

 

「これはもう、壊すしかないっていう所で……この子が出てきたんです」

 

 

 ひょい、と明日奈が差し出したのは、超界石のところでよく見かける黄色い天狐。キュイ?と首を傾げる動きは、速鳥を一撃で悩殺できそうだった。ちなみに、シノノメの里でもかなりの攻撃力を持っているようだった。何人か鼻血出してるのが居る。

 

 

「あっ、華天…」

 

 

 華天て。エビの天ぷらかよ…この世代に天ぷらなんてあったっけ? まぁいいか。

 ネーミングセンスはさておいて、本格的にぶっ壊そうとした時に、こいつが駆けつけてきた。えらく興奮して抗議してくるんで何かと思ったら、華天曰く『石の中に友達がいる』って言うんだ。

 

 

「ん? お前、天狐と会話できるのか? 風華が話せるのは知ってたが」

 

 

 こっちから話しかけるのはあまり得意じゃないが、大体の意味合いは分かるよ。

 そんなに驚く事か? 俺が知ってるだけでも、3人…いや虚海は元千歳だから2人か? 話せる奴がいるぞ。

 

 まあ、それは置いといて…誰か生き埋めにでもされてるのかと思ったら、そこにいるのはミタマらしかった。納得ではあるな。ミタマだったら無機物の中に居てもおかしくはない。

 俺、全然感じ取れなかったよ…モノノフなのに。

 

 

「同じくです。神夜やこの人と違って、探知能力には自信があったんですけど、全然…。でもあんまりにも騒ぐし、この子の言う事もひょっとしたら…と思って」

 

 

 サラッとディスられた気がするけど、実際見るのも聞くのも苦手だからしゃーない。

 で、もう一回瘴気を出来る所まで払ってみたんだが、そこまでやってようやく明日奈が石像の中のミタマを感知できた。

 

 更に調べてようやく分かったんだが…やはり、結界石を使って異界を広げる術がかけられていたのは間違いない。鬼の仕業だろうな。

 そしてどうやらそのミタマ、鬼に捕らえられて石像に押し込められ、異界を増やす術の燃料源として利用されていたらしいんだ。

 

 

「ミタマを? 鬼が? そんな事が出来るのか……いや、出来ない理由が無いのか。鬼に捕らえられているミタマは珍しくない。大抵が腹の中に居るんだが、それだって鬼の活動の燃料とされている訳だしな」

 

 

 そういう事。実際、かなりキツかったらしいぞ。敵に利用されているという屈辱に加えて、徐々に力を搾り取られて吸い殺されるような気分だったとさ。

 ついでに言うと、結界石に満ちる瘴気があまりに濃すぎて、それが檻の役割を果たしていたらしい。

 

 

「それが消えたから出てくる事が出来たって事か…。最初に浄化した時に、出てこれなかったのは?」

 

 

 あまりにもあっさり瘴気が消えたんで意表を突かれたのと、中にミタマが居るって考えてなかったからな。逃げ道が上手く出来上がってなかったらしい。

 予め声をかけて、ミタマを引っ張り出すような感じで…ってやれば一発だった。

 

 燃料源であるミタマが居なくなった為、結界石にかけられていた術は機能停止。

 何をどうやったのかよく分からんが、抜け出したミタマが術に細工をして、逆の効果を持たせたらしい。更に、そこに思いっきり力を注ぎ込んで、鬼の手の効果も利用した結果、爆発的な効果が産まれて結界石周辺の異界が一気に浄化された。

 

 

「逆の効果……成程、瘴気を放出する力を、吸収するか、集める形に変えたのか…。術の返し方としては珍しくない部類だが、それ程の効果を叩き出すとなると…。そのミタマの名は?」

 

「本願寺顕如、だそうです。本物…と考えるにはちょっと大物過ぎる気がしますが。何でも別の場所で鬼に捕らえられ、連れてこられて石像に押し込められたとか…。包囲するのは第六天魔王だけで充分だってぼやいていました。あと、ようがしがどうの、ぺどのぬがどうのと…あと、人名だと思いますけど『ようこ』って名前が聞き取れました。分かります?」

 

 

 ようがしは洋菓子だと思うけど、ペドって言われても…。ようこはもっと分からん。

 

 

「いや、ミタマが意味もなく名を偽るとは思えん。分霊の類であれば、本物かどうかを疑っても意味が無いしな。………ん? ………おう、そうだな。そのミタマは今どこに居る? と牡丹が言ってるぞ」

 

 

 石像に留まってる。俺達には既にミタマが……俺のはちょっとミタマと認めたくないけど……憑いてるから一緒には来れないし、また異界が迫ってこないように見張り、備えも必要だろう…だってさ。

 実際、異界浄化の効果を発揮させ続けるには、燃料源が必要らしいから、渡りに船と言えなくもないな。

 ただ、鬼に間近に迫られれば抵抗できる力は無いに等しい。その為の警護はやってくれ、という話だった。

 

 ついでに言うと、結界を張る力も引き受けてくれるんで、神垣の巫女の負担も少なくなるだろう…だってさ。

 チラリと雪華を見たが、まだ信じられないと言った驚愕の感情しか浮かんでいなかった。

 

 

「うむ…人に憑いてないミタマにとって、鬼は天敵だからな…。無理もない。承知した。モノノフのお役目として組み込もう。いずれにせよ、異界が浄化されたからと言って、全ての鬼が居なくなった訳ではない。巡回の強化は必要だ。ところで、結界石の形が変わっていた謎は解けたのか?」

 

「そこはさっぱりです。本願寺顕如が石像に閉じ込められた時は、記録に残っている土偶の形をしていたそうです。ですがそれ以来、ずっと閉じ込められて外の状況も掴めなかった為、何があったのか全く…」

 

「そうか…。色々と訳の分からん事だらけだが、何にせよこれは大きな一歩である事には変わりない。俺達シノノメの里だけではない、鬼の脅威に晒されている人間にとって、大きな一歩だ! 是が非でも、これを広めねばならん! 今後の動向については後日通達する。疑問もあろうが、今日くらいは大騒ぎしても構うまい! よし、蔵を開けての大判振る舞いだ! お前ら、今日は飲み明かせ!」

 

 

「「「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 考える事山ほどあろうが、まずやる事が宴会かよ。いやまぁ、妙に突っ込まれたり、絡まれたりするのを防ぐにはいい方法だと思うけど。

 閉塞して、磨り潰されそうになっていた里にようやく見えた希望の火。ここで士気を向上を図らない手はないか。

 

 まぁ、取り敢えず…今日はバカ騒ぎしますかね。

 

 

 




討鬼伝世界登場人物表

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
    ミタマなので、見える人と見えない人がいる。
   最近の趣味…大声で歌う事。聞こえる人が少ないので、歌い放題。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
   最近の趣味…囲碁や将棋。牡丹に一勝もできずに、ちょっと落ち込んでいる。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー。
   最近の趣味…雪だるまを作る事。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
   結構なナイスバディだが、「またサラシがきつくなった」という言葉からしてまだまだ成長しているらしい。
   最近の趣味…茶道に興味がある。

・風華…祭祀堂の巫女。
   修行途中に祭祀堂の主となってしまった為、修行不足。
   どちらと言うと、マスコット兼甘味作成係と思われているようだ。
   天狐と友達。名前は華天。
   最近の趣味…甘味を食べている時の雪華の観察。


他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
     武器は細剣(レイピア)。
     戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。
     最近の趣味…彼氏が出来たら、と妄想する事。

・神夜…無限のフロンティアより。
    武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。
    戦狂いの気質がある。
    最近の趣味…試作した寝具でお昼寝。

オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
    最近の趣味…もし自分が最強だったら、と妄想して小説を書く事。虚しくなってすぐやめるけど、ついついまた書いてしまう。

・泥高丸…でいこうがん。
     里で一番腕が立つと評判のモノノフ。
     明日奈とソリが合わないようだ。
     新戦術『鬼纏』を開発した人物らしい。
     最近の趣味…鬼纏の改良。


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395話

凶星月十九日

 

 

 昨日は結構な騒ぎになったなぁ。何だかんだでヒーロー扱いされて、チヤホヤされるのは気分がいいものだ。

 まぁ、猜疑の視線を向けられなかった訳じゃないけども。里一番の使い手と言われている泥高丸みたいに相応の実績があったならともかく、突然やってきた外様が、突然異界を浄化しました…と言われても実感はわかないだろう。

 それでも好意的に受け入れられたのは、「何でもいいから希望が見えた」と言う、例え嘘やデマカセであっても構わないという心理の結果だろう。

 

 仮に嘘八百だったら、遠からず化けの皮が剥がれるってのもあるだろうな。異界の浄化が出来ると宣言した以上、今後も同様の役割を期待されるのは当然だ。

 そこでダメでした、なんて事になったら評価は反動で地の底まで落ちるだろう。

 …実際、もう一度同じ事が出来るかは、検証しなけりゃ何も言えんけどな。次の結界石が壊されてなくて、かつ同様に強力なミタマが宿っている事が最低条件だろう。ま、これは探してみない事にはどうにもなるまい。

 

 

 里の希望の星って事で、結構な注目を集めた俺達三人だが、やはり面白くないと感じる人はいる。主に、泥高丸……自身ではなく、その取り巻きの方だ。

 別に表立って何かやってきた訳じゃないが、『やり方さえ分かれば、自分達でもやれる』みたいな対抗意識を持ってる感じがする。

 実際、出来ない訳じゃないと思う。異界を祓ったのは俺自身ではなく、鬼が仕掛けた術を利用したミタマだ。捕らえられているミタマを開放する事さえできれば、多分彼らでも異界を祓う事はできていただろう。

 …そこに行くまでの瘴気無効化装備と、一時的にでも結界石の瘴気を祓う方法が無いんだけどね。

 

 ちなみに、泥高丸自身の反応はと言うと……何だか知らんが、取り巻きも連れずに朝一番に飛び出していったらしい。

 大丈夫かと思ったが、行き先は見当がついているらしく、取り巻き達が慌てて追いかけて行った。まぁ…大丈夫か。あまり異界の奥に突っ込んでいくような事でもなければ、そうそう強い相手には会わないだろう。

 

 …うーん、泥高丸の場合、注目を集めるとかチヤホヤされる以前に、明確な目的があるっぽいな。それを果たせそうだから、俺に絡んでる暇なんかない、と…。

 別に問題はないな。

 

 

 ああ、そうそう快挙を成し遂げたので褒めてくれ。いや異界浄化の事じゃない。

 

 

 

 昨晩の宴会で、アヤマチがなかったんだよ! 酒に酔って肉体関係作ったりしなかったんだ!

 …いや、俺の力じゃないんだけどね。

 一応、英雄扱いって事でどこに行っても里人の視線があったからはっちゃけられなかったし、そもそも限られた資源しかないこの里で、俺が本格的に酔っぱらえるくらいの酒量は致命的だ。

 大体からして、里の女性の9割以上はすでにお相手がいるのだ。家の関係で親に決められた話がほとんどのようだったが、幸か不幸か大体の人達は仲良くやっている。既婚者なのか婚約なのかは人それぞれだが…明日奈が出会いが欲しいって言ってたのがよくわかったよ。下手な相手と恋愛関係になったら不倫か破談まっしぐらだ。NTRの趣味はない。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、寒雷の旦那から聞いた、今後の話になるが…俺、明日奈、神夜の三人は、これまで同様に濃い異界の中を調査する事になる。当然と言えば当然だ。現状、濃い異界に潜れるのも、見つけた結界石を浄化する事が出来るのも俺達だけだ。前者は装備を貸せば何とかなるが、後者は鬼の手が無いと出来ないからな。

 対瘴気装備を譲れ、って話もちらほら出てはいるんだが、寒雷の旦那がそれを抑え込んでいる。元々、譲るのも貸し出すのも無しと契約しているし、「異界浄化の功績に対して報酬も出せていないのに、逆に私物を没収するとは何事だ」って公言している。つくづく、旦那には世話になってるなぁ。

 

 俺達以外のモノノフは、暫くは里周辺の警備と調査にあたるらしい。

 異界を浄化できたと言っても、全ての瘴気が消え去った訳ではない。元々瘴気が溜まりやすくて特に濃かった場所、浄化の術式が及びにくかった場所、そして……鬼達が集まり、再び瘴気を撒き散らす場所。

 放っておけば、また徐々に異界が広がりかねない。

 それを防いでくれる、結界石に宿ったミタマの警護だって必要だ。

 

 ついでに言うと、異界が祓われたからって、そこに植生していた植物はそのままだ。瘴気を貯めこんでは吐き出す植物、何故か火薬の代わりになるような植物、異常に頑丈な虫など、今までの常識が通用しない物が多い。

 この辺は、浄化前に明日奈が色々拾って万事屋に見せていたものだから、ある程度は利用法等が分かっているのだが…。

 

 

 まぁとにかく、今の里周辺は、色々と調査が必要だって事だ。異界を奪われた鬼達が、自棄になって里を襲わないとも限らないしな。

 

 

 

 

 

 では、期待の声を背に受けながら、いつもの三人で異界調査……の前に。

 寒雷の旦那に、他の結界石の資料を見せてもらった。どれくらいアテになる資料かは微妙な所だが、異界のどのあたりを探せばいいかの基準くらいにはなるだろう。

 

 

「この土偶の結界石が、今回浄化された所…。次に近いのは、剣か玄武の結界石ですね」

 

「うーん……順番からいくと、玄武の結界石かしら?」

 

「確かにそっちの方が近いが、剣の結界石近辺には水源がある。出来れば確保しておきたいな」

 

「ですが、そちらを優先すると、分断された異界が残って飛び地になりますよ?」

 

 

 飛び地…敵領域が孤立するという考え方もできるが、両方から攻め込まれる恐れがあるな。後顧の憂いは断っておくのが常道だが…。

 

 

「鬼の強さはどうなのですか? 弱点から攻めて、戦力を削るのが良い策かと」

 

「…神夜からそんな発言が出るなんて…でも、強い方に行きたいって目が語ってるわよ」

 

「……失敬極まりないです…」

 

「明日は吹雪か鬼の襲撃に備えておくとして、鬼の強さは正直似たり寄ったりだ。ただ、これはあくまで今までの…瘴気の薄い部分を探索した結果に過ぎない。土偶の結界石があった付近にも、この辺りには居ない強力な鬼が出現していたんだろう?」

 

 

 

 どっちに行っても、大物が出る可能性はあるか…。

 ………例えばだが、また異界を浄化する事が出来たとして、そこにいる鬼達はどうすると思う? 今、この里が直面している問題でもあるが。

 

 

「そりゃあ…手近な異界に逃げ込むか、襲撃してくるか………あぁそうか、下手に鬼達の居場所を削ると、後が厄介な事になるかもしれないのか。どんどん鬼が異界の中に集まって、より強い瘴気を放つ、強い鬼が産まれるかもしれん」

 

「ですが、そんなに先の事を心配しても仕方ないのでは? こう言っては何ですが、二つ目の結界石の浄化すらできるかどうか分からないのですし」

 

「それもそうなんだけど、仮に…仮にだけど、途中まで上手く行って、最後に手詰まりになるのが一番危険よ。何より危険なのは、強い敵がもっと強い力をつける事。もし、さっきの懸念が現実になるくらいに異界を削れていたとしたら、その時には多分、シノノメの里は満身創痍よ」

 

 

 む…確かに。人の領域をいくらか取り戻せると言っても、それで資源や収穫が即確保できる訳じゃない。広くなった領域を巡回し警護するには、それだけの労力も必要になる。

 結界石が幾つあるのかは知らないが、それを全部浄化するのにどれだけの時間と戦力が必要になるか…。

 

 

「では、どのようにするべきだと?」

 

「…ふわっとした言い方しかできないけど…敵を強化しすぎない、つまりあまり集めないようにする必要がある……。とはいっても、鬼が私達の思う通りに動く筈がないし…」

 

「ふむ、明日奈の言いたい事は分かった。先を見据えた大戦略は、確かに重要なものだ。特に、手詰まりのこの状況ではな。だが、今何よりも重要な事は、異界の浄化は奇跡でも何でもない、しっかりと再現できる事だと示す事だ。故に、今は確実性を取る」

 

「と言うと?」

 

「異界を端っこから削っていく。今回は玄武の結界石だ。水源は喉から手が出る程ほしいが、逆に言えば鬼達に見透かされているかもしれん。俺なら、ここで伏兵を仕込む」

 

 

 …そこは同感だな。ただ、伏兵は仕込むんじゃなくて、水辺を好む鬼達が自然と生息しているんだと思うが。

 水源を確保したとしても、毒の類が無いかを調べてから使わなきゃならんな。

 

 

「……ふむ、どっちにしろすぐに手に入る訳じゃないか…。幸い、里の人間だけを養っていく分なら、現在の水量で足りている。無理に確保する必要はない。…よし、決まりだな。次はこの玄武の結界石を調査してくれ」

 

 

 

 そういう事になった。

 

 場所は地図を見せてもらったので大体分かるが、問題はその結界石がどういう形で残っているかである。

 かつて稼働していた結界石の中には、罅が入って割れていた物もあったそうだが、玄武の結界石は違う。逆に、剣の結界石は欠損が認められていたらしい。そこらへんも、玄武の結界石を優先した理由だな。

 

 さて、一体どうなる事やら。土偶の結界石は、何故か胎児になっていた。玄武の結界石は?

 どんな鬼達が出てくるだろうか。植物もMH世界の物に似ていたんだし、異常進化した鬼が出ても驚かない。尤も、どれだけ進化したとしても、もっと頑丈にならなきゃ話にもならんが。

 

 

 

 

 ん? 神夜、どした? 

 何、話し合いばかりで退屈だったから暴れたい? ……やれやれ、適当にその辺の鬼の所に連れてってやるかね。

 

 

 

 

凶星月二十日

 

 

 もう月が2/3も過ぎたかぁ、早いもんだな。ちなみに言っとくと、モノノフ達の月日は西暦じゃないからな。一か月が三十一日以上続いても別におかしくはない、そもそも異界の狂いまくる時間にも対処しているのでモノノフ独自の基準になっている、イイネ?

 それはともかく、玄武の結界石を目指して調査中。

 

 まーそれぞれ満足そうで何よりよ。神夜は今までよりもちょっと強い敵と戦えて満足。明日奈も戦力的に貢献できているという実感に加え、色々手に入る珍しいアイテムにご満悦。

 俺? 俺は二人が戦ってる時に、チラチラ見えるアレやコレやで悦んでおります。見えるだけってのもオツだよね!

 

 真面目な話、未踏の地の地図を埋めるのは男のロマンだ。ここにアレがあってそっちに何があって、空白の地図を埋める快感は滅多に味わえない。それこそ、MH世界でだってやった事の無い事だ。何だかんだで、あそこの殆どは踏破された土地だからな。

 何と言うかこう、処女の膜を奪ってやったよーな興奮を感じる。別に地図を使って性的絶頂に至るマッパーになったつもりはないが。

 

 

 まぁ、それはいいんだが……なんだ、知らない鬼の痕跡がある。

 いや、知らない鬼自体は珍しくないんだ。討鬼伝世界の鬼は、MH世界・GE世界に比べて変異が激しい。

 MH世界のモンスターは、同じ種族でも個体差の強弱が激しい。だが、基本的な構造というか造形はほぼ同じだった。

 GE世界のアラガミは、とにかく進化早かった為、一体一体の総合戦力は変わらなくても、姿形が全く違う事が多かった。

 

 そして討鬼伝世界は……どっちかと言うとMH世界寄りか? 異常化と言うか…そうだな、同じ種族だと一見して分かるのに、全く違う個体だとすぐに分かる。例えば手が異常に大きかったり、トゲトゲしていたり、色が違ったり。

 うーん………イメージ的には……そうだな、あまり気分がいい例えじゃないが、放射能とか環境汚染に適応してしまった感じか? 明らかに異常、明かに異形。なのにそれが個体として成立してしまっている。

 今まで戦ってきた……例えばゴウエンマ辺りだって、一体一体が確かに違った姿をしていたのだ。誤差と断じて描写してなかったが。

 そういう意味では、鬼達は所謂『亜種』が非常に多い種族と言えるだろう。

 

 しかし、この鬼は違う。もっと安定した形を保った種族だ。

 

 

 

 

 MH世界のモンスターと同じ気配がする。痕跡からそれが分かる。

 

 

 

 

 ぬぅ……もうソッチ系に進化した鬼が出てきたのか。思ったより早かったな。さて、どんなのが出てくる事やら…。

 一応、足跡とか何か吐き出された液体とか、集めて持っていくか。

 

 

 

 

 さて、二つ目の結界石の在処だが、異界のかなり深い場所にあるようだった。そこに行くまでの地形はかなり入り組んでいる。野を超え川を越え谷を越え鬼の巣を超えて。

 それ程に入り組んでいる地形なので、俺達も鬼も隠れる場所が多くある。あまりホイホイ先に進んでいく事はできない。

 何処か、安全にショートカット出来る場所を見つける必要があるな。

 

 

「以前の結界石のように、鬼の配置で場所を特定する事はできないんですか?」

 

 

 明らかに警護したり巡回してる鬼が居るならともかく、そこらの野良だけじゃなぁ…。

 そもそも、資料で貰った場所に本当に結界石があるのかも分からんのだよな。

 

 

「異界の流動で動いてるかもしれないって事ですか。でも、結界石が異界を生み出すのに利用されているなら、やっぱりこの濃い異界の何処かにはあるんでしょうね」

 

「…確かにそうですね。それにしても、一体どのような鬼なのでしょう…。結界石を穢し、ミタマを利用する鬼。知性だけで考えても、他の鬼とは一線を画していること極まりないです」

 

 

 そういやそうだな。結界石を利用した鬼も、見つからないままだし…。

 そもそもからして、里を守っていた結界石はどうやって穢されていったのやら。最初の一つには罅が入ってたそうだが…鬼の仕業、かな…。

 

 

「結界石は、そうそう風化するような代物ではありません。かと言って、人間の仕業とは考えたくありません」

 

 

 裏切者や敗北主義者は何処にでも湧くけど、確かに人の仕業ではなさそうだ。

 ひょっとしたら、鬼に唆された誰かがやらかしたのかもしれんけど。と言うより、その可能性が一番高いかな…。人の心に忍び込んだり、闇から手招きするのは鬼達の得意技だ。

 

 

「「………………」」

 

 

 ? どうかしたか?

 

 

「いえ、何でもありません。このまま結界石を一つ一つ戻していけば、いつかはその鬼にも会うのでしょうか」

 

「多分ね。むしろ、浄化した結界石をまた汚そうとしてくるんじゃない?」

 

 ありそうだなぁ…。

 

「…望むところです。斬冠刀で、膾切りにしてあげます」

 

 

 お、おう…なんか張り切ってるな。さっきの沈黙といい、まだ何か知らない事情があるっぽい。

 

 

 

 

凶星月二十一日

 

 

 今日も異界を探索中。

 結界石の発見には至らないが、鬼同志が揉めているのを何度か見かけた。恐らくは縄張り争いだろう。

 カゼキリが二匹か…。

 

 

「鬼と鬼が戦ってるところ、初めて見ました…」

 

「私も…。でも、どうして争ってるんだろ? 鬼が複数居ても、狙われるのはいつもモノノフだけなのに」

 

 

 モノノフが共通の敵って事もあるんだろうけど、多分鬼達にとっても厄介な状態になってるんだろうな。

 例えばその辺の犬が二匹いるとして、目が合ったら問答無用で争うと思うか?

 

 

「…争わないのですか?」

 

 

 …まぁ、確かに大抵の場合は飛び掛かるが…。

 見知った犬同士だったら、あまりに接近されない限りは争ったりしないよ。野良犬同士だって、相手の強さとか自分の体力とかを見て争うかどうか決めるくらいは考える。野生で生きてりゃ、体力消耗や怪我は死に直結するからな。

 

 その理屈で行くと、普段鬼と鬼が争わないのは、お互いが見知った相手だからじゃないかな。近付き過ぎない、自分の領域に入ってこない相手だから、自分からちょっかいを出す必要が無い。

 

 

「…うーん……鬼達が意外と頭いいって言うのは分かりましたけど、そこまで考えるのかなぁ…」

 

「では、あそこの争いは?」

 

 

 逆なんだろ。知らない相手だから警戒してる。近付き過ぎたから撃退する。

 …この前、明日奈が考えてた事が現実味を帯びてきたな…。

 

 

「私が? ……あっ、居場所を失った鬼達が、まだ残っている異界の中に押し寄せる…!」

 

「成程、つまりあそこにいる鬼の片方は、逃げ込んできて縄張りを確保しようとしている鬼なのですね」

 

 

 或いは両方が、かな。互いの傷からして、連戦してるっぽい。

 周囲をよく見てみると、鬼の死骸が幾つか転がっている。

 

 …多分これ、異界の中は暫く地獄みたいな状況になるぞ。

 

 

「鬼だけに?」

 

 

 地獄の極卒じゃねーだろあいつら。押し寄せた鬼達が自分の居場所を確保しようとして、あっちこっちで縄張り争いだ。

 下手に突っ込むと、鬼達の大乱闘に巻き込まれるぞ。

 

 

「…………大乱闘…」

 

 

 やめんか戦狂い。

 どうしたものかな…。弱い奴が淘汰されて強い奴、厄介な奴が残っていくのは確かだが、逆を言えば弱い奴は放っておいても減っていくんだよな。敵が勝手に減ってくれるなら万々歳だ。特にシノノメの里は寡兵だから、猶更。

 だが強い敵が残る…。強いと言っても、どこまで強くなるかは分からんな。

 

 

「とりあえず、どうします?」

 

 

 …寒雷の旦那に報告しよう。今日の調査は、何処で何が戦ったのかを調べて切り上げる。

 

 

 

 

 

 

 適当な所で調査を切り上げ、鬼達の戦いには介入せずに帰ったが…なんともまぁ、予想通りにあっちこっちで大暴れしている事よ。

 死屍累々もいいトコロだ。言っちゃなんだが、オオマガトキで倒れて行ったモノノフ達もこんな感じだったんじゃないかな。

 

 里に帰還し、微妙に注目を集めつつ寒雷の旦那の所に相談に行った。

 

 

 

 …ら、何故か祭祀堂に連れてこられてしまった。

 

 

「いや何故も何も、今後の里の方針を決める重要な情報ですよ。里長が居る所で話すのは当然じゃないですか」

 

 

 そう言われればそうかも。牡丹が見えにくいんで、すっかり忘れてた。

 

 

「『誰の影が薄いって!?』って怒ってるぞ。それはそれとして、報告を聞こうか」

 

 

 薄いどころか物理的に見えねぇんだよなぁ…。こんな事言うと、もっと怒り出しそうだけど。

 そんじゃ、異界の様子だけど…。

 

 

 

 

 

 

「ふむ…縄張り争いか。言われてみれば当然の結果かもしれんが、鬼と鬼の戦いは珍しいな。それで、今後どうしていくかだが…」

 

 

 寒雷の旦那は、腕を組んで考え込んだ。が、すぐに祭祀堂……牡丹に目を向けた。見えにくいが、何かを語っているらしい。

 ふむふむと頷く寒雷の旦那は、『そりゃそうだ』と言いたげに頭に手をやった。

 

 

「暫くは様子見だ。無理して鬼達の縄張り争いに参加する必要はない」

 

「その心は? 追われた鬼達が、里に押し寄せるかもしれないのですよ?」

 

「確かにその危険もあるが、異界の奥に居る鬼…つまり強い鬼が、より強い鬼に追われて出てくるんじゃない。浅い部分に居た弱い鬼が、縄張りを確保する為により強い鬼へ挑むんだ。死に物狂いでな」

 

 

 …矛先が、里ではなく異界に向かう? そして殆どの鬼は返り討ちに合う。

 

 

「そういう事だ。鬼にとっても、結界が張られた里の近くか、異界の中かで言えば後者の方が住みやすい。こっちからしてみれば、鬼同志がぶつかりあって減ってくれるんだから、全く問題は無い。完全に隔絶した強さを持つ鬼が相手ならともかく、比較的近い強さの鬼だ。襲われた側も無傷ではいられんだろうし、ここは縄張り争いで疲弊したところを突くのが得策だ。尤も、今後も同じ事が繰り返されるかは話が別だ。鬼達だって学習するだろうから、むしろ罠を張ってくるかもしれんしな」

 

 

 …成程ね。楽観的ではあるが、充分にアタリの目はありそうだ。

 で、これを考えたのって…。

 

 

「おう、見ての通り…って見えにくいんだが、牡丹だぞ。初めて会った時も言ったろう。こいつの作戦立案能力には、結構なものがあるってな」

 

 

 確かに…。情報を得てから一刻も経たずに、これだけの案を組み立てるとは。

 正直、見縊ってたわ…。申し訳ない。

 

 

「見直したかってふんぞり返ってますよ…。まぁ、伊達に私達の里長と認めらてないって事です。里が孤立して以来、何度か鬼が里に接近した事もありましたけど、真っ先に気付いて指示を出すの、いつも牡丹様ですし。接近を予感して、逆に待ち伏せするのもよくありました」

 

「神垣の巫女なのに、武闘派極まりないです…。生きていた頃は、ゴウエンマを斬り捨てた事すらあるそうですよ。『弧月』と呼ばれる結界術を使いこなしていたとか。失伝しているのが悔やまれます」

 

「感覚で使ってたらしいから、やり方を教えられないんだよね…」

 

「手合わせできないのも悔やまれます」

 

「手合わせで終わらないでしょうが。……平然と受けようとする牡丹様も牡丹様ですけど…」

 

 

 パネェ。なんでモノノフじゃないんだ…。いや神垣の巫女が戦えない理由もないけどさ。単独で強力な結界を張れるんだし。

 ともあれ、暫くは様子見、もしも引っ掻き回してやれそうなら、それを狙う。結界石の探索は後回し…でいいのかな。流石に縄張り争いの真っただ中を探索するのは、危険が過ぎる。

 

 

「そうだな。どの道、瘴気が無くなった周辺の警護も必要だったが…そこで見つけた鬼も、異界の方に追い立ててしまえ。無論、無理をする必要はないが」

 

「となると、私達の行動の基本は…軽い巡回をしながら異界へ向かい、偵察して戻る。途中で鬼を発見したら交戦、里の側に逃げない限りは深追い無用…ですか」

 

 

 

 ふむ…。となると、ちと退屈な日々が始まるな。

 …そういや、兼業どうしようかねぇ…。専業モノノフするには充分な成果は上げたと思うけど、成果が出ない日々が続く可能性を考えるとなぁ…。

 

 

 




討鬼伝世界登場人物表

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
    ミタマなので、見える人と見えない人がいる。
   他の里に行ったらやってみたい事…祭祀堂巡り。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
   他の里に行ったらやってみたい事…商売、商売!

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー。
   他の里に行ったらやってみたい事…他の里の神垣の巫女と話してみたい。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
   結構なナイスバディだが、「またサラシがきつくなった」という言葉からしてまだまだ成長しているらしい。
   他の里に行ったらやってみたい事…安全な鉱山があれば、材料集めから自分でやってみたい。

・風華…祭祀堂の巫女。
   修行途中に祭祀堂の主となってしまった為、修行不足。
   どちらと言うと、マスコット兼甘味作成係と思われているようだ。
   天狐と友達。名前は華天。
   他の里に行ったらやってみたい事…雪華姉さまと逢引。

他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
     武器は細剣(レイピア)。
     戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。
   他の里に行ったらやってみたい事…昔の知人に会いに行きたい。

・神夜…無限のフロンティアより。
    武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。
    戦狂いの気質がある。
   他の里に行ったらやってみたい事…道場破り。

オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
   他の里に行ったらやってみたい事…新しい本を仕入れたい。

・泥高丸…でいこうがん。
     里で一番腕が立つと評判のモノノフ。
     明日奈とソリが合わないようだ。
     新戦術『鬼纏』を開発した人物らしい。
   他の里に行ったらやってみたい事…腕試し。


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396話

ああ…休暇が…休暇が終わってしまう…。
実家に帰ってから何処にも行かず、ただただアサシンクリード三昧でした。
家族旅行とか毎回行ってましたが、こういうのもいいね。
気分的にスッキリはしたと思います。

残念だったのは、執筆があまりできなかった事。
モバイルのキーボードは打ちにくい…。
ブルートゥース用のキーボードを持って帰りましたが、色々試しても繋がらず。

多分、このSSが投稿される頃には家に帰っていると思いますが、ずーっと起動してなかったPCを正常状態に戻そうと躍起になっていると思います。


凶星月二十二日

 

 

 色々考えたが、やっぱり風呂屋をやってみる事にした。理由? 雪見酒したいからだよ。決して覘きなんて考えてない。この小さな里で噂でも立ったら、ムラハチどころじゃないからな。

 まー実際のところ、色々と使える資源が見つかって増えてきたもんで、大量の湯を沸かすのも難しくは無くなってきたからね。

 

 後はなー、源泉でも見つかればなぁ…。

 

 

「昔はあったそうですよ。まぁ、そこも異界に呑まれちゃったそうですけど」

 

 

 あるんかい。しかし、異界の中って事は里からちょっと離れた場所だな…。水路でも掘って来ればどうにかできるか? どっちにしろ、すぐには無理だな。

 とりあえず、一度だけとは言え異界浄化の実績もできたし、そこそこ強いモノノフって評価は得られただろう。定職にはつけなくても、里の外の知識を切り売りして暫く誤魔化すか。

 道場のにーちゃんにも、里に伝わってない技を教える約束をしているし。

 

 

 そう言えば、神夜と明日奈も教えたのって何だったっけ…。

 

 

「曲がりなりにも習得できたのは鬼人化と、派輪具亜覇ですね。どちらも使いどころが難しいです」

 

 

 パリングアッパーな。GE世界のバスターブレードのアレだ。これが意外と神夜に評判がいい。考えてみれば、カウンター技はモノノフの技には少ないからな。タマフリを使わず、技術だけで敵の攻撃を捌いて、逆に切り倒す快感に目覚めたようだ。

 鬼人化は……明日奈はともかく、神夜には即刻禁止令が出された。テンションが上がり過ぎるからだ。ガンガン斬るのはいいんだけど、引き際がね…。

 

 

 

 

 ところで、風呂屋開店を叶える為、索敵も兼ねて元異界周辺をフラフラ歩き回っていたのだが、予想外の男にあった。泥高丸である。

 

 里の中心であるモノノフという立場から、一躍ヒーローの座を俺達に奪われる形となった訳だが…以前もそうだが、彼は意外と冷静だった。

 相変わらず嫌味ったらしい、自分の力を鼻に掛けたような口調。明日奈があからさまに嫌そうな顔をしていたが、それは置いといて。

 

 

 周囲にモノノフも鬼も居ない平原でバッタリ出会い、口を開くなり出てきたのは

 

 

「借りができたな」

 

 

 なんて訳の分からない一言。確かに、異界を浄化して希望を見出した事は否定しないが、なんか別の事を言われている気がする。しかし当の本人は、説明もせずに里に戻っていってしまった。もうちょっとコミュニケーション能力を身に着けようぜ。

 そもそも、泥高丸は何処に行っていたんだろうか? 異界が浄化された日から、お役目を終えるなり毎日のように里の外に向かうのが目撃されている。特に隠そうともしてないので、悪事の類ではなさそうだが。

 

 まぁいいか…。本当に、俺に対して含むモノはないようだし。

 

 

 

 

「…ねぇ、泥高丸の事よりも、ちょっと気になる事があるんだけど…」

 

「どうしました、明日奈さん?」

 

「あれ、人家じゃない?」

 

 

 何? こんな所に? ここはつい先日まで、異界のド真ん中だったんだぞ。

 

 

「そりゃそうですけど、実際に見えるんだし…。異界に沈んでも、鬼に壊されたりしなければ、家自体は残ってたりしてもおかしくないんじゃ」

 

 

 …そうだな。言われてみれば確かに。明日奈の指さす方向には、確かに家のような物が見える。

 残っている物なんて、精々遺体とガラクタくらいだろうが…持ち帰って埋葬くらいはしてやるか。

 

 

 

 

 と思っていたんだが……生活痕がある…?

 

 鬼の罠を警戒しながら近付いたその家。やはりかなり風化しており、鬼が壊したと思しき痕跡も多数あるが、まだ辛うじて家としての役割は果たせそうだ。

 中に入ってみれば、荒れ果てた部屋に一枚の茣蓙。寝床として使っていたらしい。その傍に小さな囲炉裏。

 そして、明かについ最近まで使われていらしき、粗末な茶碗と箸。

 

 

 …どういう事だ? 誰かがここを使った? 異界の中の、こんな家を?

 

 

「異界が晴れてから…ではありませんね。明らかに、一週間以上ここで生活してます。いえ、それより何より、この茶碗と箸は…」

 

「…間違いない事極まりないです。前お頭のお椀です」

 

 

 前お頭? と言うと、牡丹がお頭になる前の、人間のお頭か。数年前に、鬼との闘いで行方不明になったと聞いたが。

 

 

「ええ。ですが、裏を返すと死を確認した者は誰一人居ません。正直な話、私もあの方が死んだとは思えないのです」

 

「それなら、どうして全く姿を見せないんだって事になるけど…。でも、殺されても生き返ってきそうなくらいしぶとい人って言うのは私も同感。…ここに、前お頭が…?」

 

 

 生きてたとして、それまで持ち歩いていたらしき茶碗を置いて行った理由も分からんな。

 …と言うか、他の人である可能性……は無いよなぁ。里はみんな顔見知りだし…。

 

 

「…いえ、ここ数年で殉職した方も多いです。その中の誰かが生きていて…という可能性はあります。だとしたら、喜ばしいこと極まりないですが」

 

「まぁ、ね…。………………あ、そう言えば……一人居るかも。里の人じゃなくて、異界の中を生き延びてるかもしれない人間」

 

「? …どなたですか? 心当たりはとんと無く…」

 

「ほら、あの人よあの人」

 

 

 あの人言われても、里に入って一か月もしない俺にはさっぱりなんですが。

 

 

「それはそうだろうけど、私も名前を知らなくて。私達がモノノフとして認められる直前くらいに、あなたと同じように里の外からやってきた人が居たんですよ。何でも、東の異界を抜けて少し行ったところに、人に忘れ去られた小さな隠れ里があって、そこで巫女をやっていたのだとか」

 

 

 隠れ里か…。あるの?

 

 

「いえ、無いです。少なくとも記録には残っていません。と言うより、東って異界はともかくとして、山を幾つか超えたらホオズキの里があった筈ですし」

 

 

 ああ、歴や凛音達が居るあの里ね。

 

 

「…彼女さんですか?」

 

 

 ちょっと違うけど、気にするな。しかし、山が幾つかあるなら、そこに里があってもおかしくないのでは? 隠れ里なんだから、記録になくてもおかしくは無いし。

 

 

「そうなんですけど、あまりに言う事が荒唐無稽だったもので…。物凄い武芸者だったのは確かですけど、正直それでも…」

 

「……ああ、あの方ですか! 私も覚えています! あれから私も腕をあげましたが、あの方には勝てる気がしません。幼い頃の憧れのひいき目、と言われると…今一自信が持てませんが」

 

 

 弱かった頃の自分から見たら憧れでも、今ではどうだか分からないって事ね。

 しかし荒唐無稽って…。

 

 

「その里では、鬼と人が共存…とまではいかなくても棲み分けられているとか、軽い喧嘩で物凄いタマフリの応酬がおきるとか、極楽や地獄に繋がる道があるとか…他には何があったかしら」

 

「神仏がその辺を歩き回っている、そこにいるモノノフは殆どが空を飛べる、『坂亜』なる蹴鞠のような競技が流行っており、その会場では地は避け天は割れ、まるでこの世の終わりのような光景が繰り広げられるも死者は無し、観客も巻き込まれはするものの結果的には無傷…」

 

「作り話と割り切れば、面白い法螺だったけどねぇ。結局、暫く里に滞在してたけど、皆が止めるのも聞かずに『故郷に戻る』と言って異界へ入って行き、それ以来音沙汰無しです。覚えている人も少ないと思いますが…」

 

 

 ………………あの、その巫女って脇丸出しの紅白の服を着て、黒くて長い髪で、神夜並の巨乳だった?

 そして呑気で異常に勘が良かったり…。

 

 

「私のお乳の事はともかく、そんな方でしたね。お知り合いですか?」

 

 

 いや、一方的に名前を知って……いや、先代の方だとすると名前も分からんな。

 あるのか? マジであるのか、あの里が。忘れ去られた幻想が云々っつーなら、このご時世ならむしろ広がっていてもおかしくないよな。

 うわすっげぇ行ってみたい。食われる危険があっても行ってみたい。エッチが無理でも行ってみたい。そして空を飛びたい。

 

 

「よく分かりませんが、あの方は無事に生きている可能性があると言う事ですね。喜ばしい事極まりないです! 今度見える事があれば、是非ともお手合わせ願いたいです!」

 

 

 止めとけ、と言いたいけど俺も興味あるな。先代なのか空を飛ぶ人なのかは分からんが。

 本当にあの里の住人なら、瘴気を無効化する何かを持ってても不思議じゃない。

 

 

「あなたも持ってるんですけど。……話が逸れましたけど、少なくともここに誰かが居たのは確かですね。前お頭か、あの巫女の人か…。候補は決して多くありません」

 

 

 だが手掛かりはそれ以上に少ない。鷹の目で周囲を見ても、人の痕跡は見当たらない。

 …まるで、突然消え去ったように痕跡が消えている…。神隠しにでもあったのか、それとも鬼が招いたか。

 

 

 …ふむん?

 

 ま、とりあえず里に報告だな。

 

 

 

凶星月二十三日

 

 

 前お頭生存の可能性は、とりあえず喜びの声を持って迎えられた。

 何だかんだで心配されていたらしい。口をそろえて『死んだとはとても思えなかった』と言うあたり、信頼されているのかいないのか。殺そうと思ったら、あと五回オオマガトキを起こさなきゃまず無理、という評価は如何なものか。

 …何? 起こし『ても』無理? …どんなお頭だよ、っとに…。

 

 まぁ、信頼されているのはいい事だ、と思っておこう。もっと違う何かの気配も感じるが。

 何をやらかしても可笑しくない、とは彼らが口を揃えて言うセリフだ。

 どんな人なのか気になるが、皆言う事が違うねぇ。豪快、繊細、山師、借金塗れ、神算鬼謀、抜けてる、大物、子悪党、不死身、死んでも生き返って来た、ある意味救世主、世界を破滅に導く男、欲望の塊、その他諸々。こりゃ実物と会わなきゃとても把握できんわ。

 …何だろうな。本当に、それら全てが事実のような気がしてる。これが当たりなら、そいつに会えれば、腹の底から、クサレイヅチへの恨みも(その時だけ)忘れて大笑いできそうな気がするよ。

 

 写真…が無いのは時代柄仕方ないとして、肖像画が無いのは喜ばしい事と思っておこう。面に合わせてこそさ。

 

 

 

 さて、今日は異界の調査と言うか様子見の後、道場まで赴いた。俺だけではなく、神夜と明日奈も一緒だ。

 ここ暫く偵察任務を主とするので、鬼と戦う機会は少ない。おかげで神夜のフラストレーションが溜まる溜まる。暴走する前にストレス発散させようと思い、俺が手合わせを願い出た。

 

 誘われた神夜は…何と言うか、牛みたいなおっぱいしてるのに、ワンコのようだった。散歩に喜ぶ子犬よろしく、跳ね回るようなスキップで里に戻って来た。

 戻って来た時には既に日が沈んでおり、この時間に道場に残っているモノノフは居ないだろう。あまり気軽に夜更かしできるような里でもない。

 

 …誘っておいてなんだけど、明日奈もやるのか? 乱取り形式にするつもりだから、1対1対1になる。勿論、協力するのもありだけど。

 

 

「私一人、除け者にする気ですか? 私も前から、一度は手合わせしてみたいと思っていましたし、何より神夜を止める役が居ないと大変な事になりますよ」

 

 

 …まぁ、戦狂いと手合わせしたら、大体そうなるよな。

 ちなみに、勝率は自分じゃどれくらいだと思ってる? 俺は負ける気がちぃともせんけど。

 

 

「…泥高丸みたいな言い方でちょっと頭に来ましたけど…少なくとも、今まで一緒に戦ってきた中で、一度も全力を出してないのは分かります。神夜と一緒に戦ったとして、良くて五分…」

 

 

 五分、か。

 随分高く見積もったなぁ。自分達を高く見たのか、俺を低く見たのかは微妙な所だが。

 

 

「開発者は気に入らない事ですけど、鬼纏はそれくらいの力を持ってますから。何より、これからするのは模擬戦です。勝利条件を満たせば勝ち…全力を出させなければいいだけです」

 

 

 確かに。…確かにそうなんだが、悪いんだけどそれでも負ける気がしない。その程度には、隔絶した差がある。

 過酷な環境で生き抜いてきた事、鬼纏の効果、そして天賦の才は称賛に値するが、それでも彼女達はまだまだ経験不足の小娘でしかない。イツクサの英雄やら三羽烏やら、あの辺のモノノフの足元にも及ばないのだ。このまま成長していけば、桜花くらいには強くなれると思うけども。

 

 

 さて、道場に到着すると、予想通りに誰も残っていなかった。火を灯すかな…。

 

 

「いいえ、このまま手合わせ願います。油も貴重ですし、私には充分見えていますので」

 

 

 俺も見えるけど。明日奈は?

 

 

「神夜ほど夜目は効きませんけど、戦うのに問題はありません。いつでも日の当たる場所で戦える訳でもありませんから」

 

 

 真剣だねぇ…。或いは、暗いからこその秘策でもあるのか?

 前線には出されなかったとは言え、長年二人で組んでいたらしいし、コンビネーション攻撃くらいありそうだ。

 さて、期待させてもらおうか!

 

 

 

 

 

 

凶星月二十四日

 

 

 

 朝。うーん、人間とやり合うのは久しぶりだったから、中々楽しめた。

 模擬戦自体は俺の勝ちだったが、圧勝とまでは言えない。かなり粘られた。

 

 ガッツ、素質、勝負度胸、そして一回の策の為に10回負ける覚悟…うん、やっぱりこの子達は強くなる。

 コンビネーションもいい線を行っていた。斬冠刀を自由自在に振り回してプレッシャーをかけてくる神夜、その隙をカバーして鋭い刺突を放ってくる明日奈。単純ながらもいい戦術だ。

 攻撃に傾倒し過ぎているのは、今までの相手がそこまでタフではなかった事と、速攻こそ最大効率という祓円陣の特色によるものだろう。

 

 最初こそ二人の動きを見る為に守勢に回っていたが、下手をすると追い詰められそうだったし、模擬戦なんだからこっちも動けと抗議を受けて反撃開始。

 攻撃の起点となっている斬冠刀を弾き飛ばそうとしたのだが、それを予測していたかのようなパリングアッパー。斬撃は避けたものの、動きが乱れた一瞬を逃さず明日奈の4連突き、更に体勢を立て直した神夜が翻身斬による移動からの真空斬…。

 一時とは言え、完全に押し込まれるとは思わなかった。

 

 対する俺は、二人がトドメを刺しに来る瞬間を待って、その瞬間を虎穴……居合抜きで打ち返した。同時に攻撃してくるなら、その一瞬だけ対処ができればいい。敵の攻撃に合わせて、回避と攻撃を同時にやるのがこれの真骨頂だな。

 

 そこで模擬戦の決着はついたんだが……神夜が居る時点で、たった一回戦った程度で終わる筈もなかった。元々神夜のストレス発散の為に持ち掛けた勝負なので、付き合うのは構わなかったんだが…まさか、明日奈も巻き込んで朝まで続ける事になるとは予想外だった。

 明日奈、巻き込んでしまってすまん…。

 

 と思っていたら、明日奈はそれも織り込み済みで、それを作戦に利用していた。苦労人に見えて、何気に強かだな…。

 ちょくちょく休憩を挟んだり、武器や組み合わせを変えながら模擬戦を続け、夜明け前。最も闇が濃くなる時間。それが明日奈が待っていたタイミングだった。

 

 流石に眠いし疲れ切ったから、これで最後…と言う明日奈の言葉に不承不承頷き、またしても俺対2人の形になる。それ自体は何度もやったし、彼女達の攻撃パターンも読めていた。

 豪快な剣術で迫る神夜と、それをフォローする明日奈。二人の動きは、幾つか指摘した問題をすぐに解決し、またその為の試行錯誤を繰り返した為、一晩の間に結構なレベルアップを遂げていた。

 しかし、その動きや変化は俺も知っているし、彼女達の癖も把握できているので、相対的にはトントンと言えるだろう。

 

 事実、戦いの大きな流れはこれまで通りだった。違ったのは、牽制を何度か打ち合った後。

 神夜の斬撃を受け流した直後の硬直を狙って、明日奈は仕掛けてきた。最初の立ち合いでも見た、4連刺突。そのパワーアップ版なのか、強い光を纏った刺突。

 

 

 

 と見せかけた、5連続刺突。

 

 

 直前で気付いて避けられたが、流石に肝が冷えた。

 4連続の突き自体は、そう大した事ではない。いや技術的には高いんだけど、比較対象が悪いと言うか、練度がまだまだ低いと言うか。

 そこに光が加わっていたので、何かしらのタマフリを使った、強化した奥の手だと思ったんだ。

 

 が、その光こそが囮だった。強い光に紛れ込ませるようにして放たれた、5発目の突き。

 夜明け直前まで使わなかったのは、一番闇が濃くなる時間を待っていたから。そうすれば、輝きに大きく気を取られ、密かに繰り出された最後の刺突に気付きにくくなる。

 正直、気付けたのは半ば運によるものだった。

 

 

 

 体を捻って何とか避けた俺を、今度は横薙ぎの剛撃が襲う。神夜の追撃だ。が、これがまた曲芸染みた攻撃で…完成すれば凄い事になるぞ、あれ。

 

 まず懐に隠し持っていた(あの服でどうやって隠し持てたのか、直に調べてみたい)らしい戦輪……チャクラムのような物を投げ、俺を斬りつけると同時に跳躍、空中の戦輪を足場にして三角飛び。俺の死角に回り込み、勢いを殺さず斬りつけ、また跳躍。今度は頭上を飛び越えながら首筋を狙って斬撃。着地と同時に足払いを放ってすぐ跳躍、斬撃…。

 自分で投げた物に一飛びで追いつき、しかもそれを足場に飛び上がるとか、どんなタツジンだ…。うむ、あのムチムチになるまで鍛え上げられたフトモモあってこその技だな。

 完成したら、多分……そうだなぁ、鬼の体を駆け上がりながら、エリアル溜め切り連発するくらいの事ができるようになるぞ。

 

 

 神夜の曲芸攻撃を2度避けたところで、明日奈が追撃。先程までの手数を重視した連撃とは違い、威力を向上させた突進突き。

 流石にコレは避けきれないと判断し、刀と鞘を盾として使って防いだが、よく圧し折れなかったものだ。あと少し追撃されていたら、少なくとも一方は使い物にならなくなっていただろう。

 

 

 

 

 

 そんな死地から、軽く脱出できるブシドージャスト回避が神すぎる。

 

 

 『殺った!』と思った次の瞬間、手の中から飛び出すウナギのよーにカッ飛んでいく俺を、二人は目を丸くして見ていたものだ。

 うん、流石に卑怯だったかな、とは思う。エリアルスタイルのジャンプとの二大回避術だもんな…。ただ、今回の場合ジャンプを使うと神夜の追撃が待っているので、そっちは悪手だったが。

 

 ちなみに『勝った!』ではなく『殺った!』は誤字ではない。神夜もそうだが、明日奈も結構なバトルジャンキーの気質があるようだ。ムキになり過ぎていたとも言う。

 俺の場合は『狩った』か、相手によっては『犯った』になる場合もあるかな。

 

 

 ともあれ、それが二人の最後の切り札だったらしく、避けられた後の反撃で揃って沈んだ。

 

 

「さ、避けられた…。最後の切り札まで使って、一勝も出来ず…。自信無くすわ…」

 

「心躍る時間でしたが、完全に格下でしたね、私達…。一層精進せねば…」

 

 

 いや真面目に強かったと思うよ。戦歴的には新米モノノフ同然なのに、よくもここまで練り上げたもんだわ。

 まぁ、それでもベテランを手古摺らせるくらいの力量…としか言えないけど…。

 

 

「止めを刺されているのでしょうか…。無念極まりないです」

 

「実際、自分が新米程度の戦いしかしてないって忘れてたわ…。大型の鬼を何度か相手にしたけど、楽な戦いばっかりだった…。本当の強さって言うのは、やっぱり死線を潜らないと得られない!」

 

 

 死線から遠ざかるのが真の強さなんだゾ(護身完成)

 …やり過ぎたか? 一回くらい負けてやるべき…いやでもこいつら気付くか。ただでさえ、孤立した里で井の中の蛙状態なんだ。下手に自信つけさせるとロクな事になりそうにない。

 里のエースである泥高丸でさえ、ウタカタの里で言えば下位終盤に通じるかどうかって程度なのだ。里から脱出…或いは霊山との連絡が復活した後、自信満々で鬼と戦いに行って返り討ちにされました…なんて事になるよりマシだろう。

 

 

 まーとりあえずアレだ、いいからさっさと帰って風呂入って寝て、飯を食え。自信が粉砕された時の気持ちは俺も何度も味わってるから、分かる。そんな状態で対策とか考えようとしても、土壺に嵌るだけだ。

 

 

「…そうですね。流石に疲れましたし眠いですしお腹も空きました」

 

「言っとくけど、それもう一回もう一回って繰り返した神夜が原因だからね。それを織り込み済みだった私も何だけど」

 

 

 いいから帰って寝ろ!

 ……とりあえず帰って行ったが、どうすっかな…。思ったよりも深く凹んでしまったようだ。神夜のストレス解消のつもりだったのに、とんだ大失敗。

 うーむ……久々にブートキャンプでもやるか?

 

 

 

 

 

 

 俺も帰って一眠りしようとしていたんだが、朝の散歩をしていたらしい寒雷の旦那にバッタリ会った。

 

 

「おう、元気そう……ではあるが、眠そうだな」

 

 

 徹夜で稽古してたからな、3人で。

 

 

「そうか……。なぁ、お前は将棋とか碁とかできるか?」

 

 

 あ? いや、将棋は駒の動きくらいしか知らないし、碁は勝利条件も分からん。花札くらいならできる。

 

 

「ふむ、ちょいと相手をしてほしかったんだがな…。教本もあるし、初めてみないか?」

 

 

 それくらいしか娯楽が無いって事かね。と言うか若いモノノフ達でも誘えばよかろうに。

 

 

「若い連中は、殆どが『そんな事をしている暇があったら鍛えるか飯を食う』ばかりなんだよ。どうにも若者はせっかちと言うか血気盛んでいけねぇ」

 

 

 …爺さんみたいな事言うなぁ。

 素人相手でいいなら相手してもいいよ。一眠りしてからだけど。

 

 

「そうかそうか! いやぁ、牡丹と何度やっても勝てなくてなぁ! ここらでちょいと自信をつけておきたかったんだよ!」

 

 

 牡丹が? そんなに強いのか…年季が違うって事かね。

 と言うか寒雷の旦那、達人に勝てないからって完全な素人相手に無双して自信をつけるって…。

 

 

「言うな。心が折れそうなくらいに負けが込んでるんだ。これ以上負けたら、何をさせられるか分かったもんじゃない。ちょっとでも心を強く持たんと」

 

 

 だったら猶更、素人相手にしてどうすんだよ…。下手に挑まずに逃げろよ…。まぁいいけどさ。

 一眠りしてから行くよ。いつもの万事屋でいいな?

 

 

 

 

 

 そういう訳で、ハンター式熟睡法で寝る事1時間ほど。逆に寝すぎて頭が痛いレベルだが、外の冷えた空気が頭をスッキリさせてくれる。

 万事屋に行く間に、明日奈と神夜の家を通ったんだが、中で寝ているようだった。…別に入っても覗いてもいない。気配で分かるだけだ。

 落ち込んでいるかは心配だが、それは起きてからでしか確認できない。

 

 

 ちょっと心配しながら万事屋に行くと、奥座敷へ通されて、ちょっと高級な感じのお茶を出された。…従業員には、異界浄化の為の作戦会議か何かだと思われているらしい。

 まぁ、そういう話も全くしないではないけど。

 

 

「おう、よく来たな。とりあえず今日は囲碁だ。教本もあるぞ」

 

 

 小さな癖に妙にスペースを感じる奥座敷で、どっかり座り込んで向き合った。台座に血糊でも見えないかと思ったが、流石に何もない。……ホンインボー某、ミタマになってないかな。

 簡単なルールだけ教わって、とりあえず石を打ってみたが……白黒のを交互に打ち合うって、どっちかと言うとオセロに見えてくるな。おかしなところに石を打って、挟まれた石をひっくり返そうとしたら「何やってんだ」って呆れられた。

 

 …で、本気で囲碁将棋する為に呼び出したのか?

 

 

「半分は…。もう一つは、あの二人の様子を聞いてみたかった。こればっかりは、本人が居る所では聞けないだろ」

 

 

 そうだな。何だかんだであの二人と行動するようになってから、寒雷の旦那と一対一で話すのは初めてだったか。

 …で、隠した目的として、二人と一緒にいる俺の値踏みかい?

 

 

「それもあるな。実力は申し分なし、異界の浄化という前代未聞の大技をやってのけた、英雄と呼ぶにふさわしいモノノフだが…栄達が人を変える事はよくある」

 

 

 心配せんでも、ちょいと持て囃されただけで思い上がったりはしないよ。俺より強い人にも何人も心当たりがあるし、ここの異界だけを浄化できても意味が無い。

 はっきり言えば、この程度はまだ序の口、反撃の開始地点にようやく立てただけだ。ここで浮かれるようじゃ、あのクサレイヅチにせよ、極大ミラバルカンにせよ…。

 

 

「…? どこかの鬼か?」

 

 

 …ああ、俺が追いかけてる鬼だよ。片一方は、その鬼を追いかけてる鬼…かな。あまり深く聞くな。

 それはともかく、あの二人の様子だっけ?

 

 

「…その様子だと、少なくともお前さん自身は大丈夫そうだな」

 

 

 ん、信じてくれると嬉しい。いつもいつも、何故か信用なくってなー。いや逆に全面的に信頼してくれると言うか、ある意味信仰の領域に片足突っ込んでる奴も居たんだが、何故だろう…。

 やはり女癖が悪すぎるのだろうか…。

 

 

「…悪いのか、お前…」

 

 

 英雄扱いされなくても、ホイホイ手籠めにしてしまうくらいには。明日奈と神夜には、法螺っぽいって笑われたけどな。

 正直言うと、あの二人もそーいう対象として見ています、はい。

 

 

「…………神夜は俺の親戚でな。一応言っておくが」

 

 

 手を出したら殺す、って言われても止まらないよ俺。無理強いはしないけど。

 

 

「いや、合意の上なら、俺が言うのは……腹を括って手を出せ、って事だ。明日奈もそうだが、特に神夜の方は」

 

 

 お? 意外な反応…。

 

 

「真剣な話だ。…あの二人が名家の出身だって事は聞いてるか? 鬼と戦うのが役目であるモノノフの中で名家とよばれるだけあって、あそこの家には相応の役割があった。その中でも、あいつらは……何と言うか、飛び切りの素質を持ってる」

 

 

 …神夜の戦狂いみたいなものか? 戦狂いって言っても、あの程度なら可愛いもんだけどな。

 現段階では、戦いで昂ると言うよりは、剣を奮うのが何より楽しいって程度でしかない。鬼を切り裂けば天真爛漫な笑顔を見せるが、返り血を浴びる事を嫌っているし、攻撃を受ければ苦痛に顔が歪む。倒れた鬼を前にして勝鬨を上げるが、終わってしまったと嘆く事はない。口にする事も憚られるような、表現しがたい激情も無い。人間を相手に、真剣を使う事も……躊躇いはないが、模擬戦でもなければやろうとしない。

 はっきり言えば、ちょっと血気盛んな年頃のお嬢ちゃんである。

 

 

「…お前の基準を知りたいような、知りたくないような…。神夜の家の役割はな、戦巫女だ。前線で戦うモノノフを援護し、その士気を掻き立てるのがその本質。その為、当主は常に女だった」

 

 

 戦巫女…。初めて聞いたな、そんな役割。まぁゲーム的に考えれば、どんな役かは予想ができるけど。

 バフ、或いはデバフを広域に振り撒き、多少の回復能力を持ち、そして刀や長刀を持って近接戦に対処する…………あれ? 

 

 近接戦の対処はともかく、神夜って回復や援護って出来たっけ? 使うタマフリは『攻』だし…。

 

 

「いや、その想像で合っている。違うのは、その『士気の上げ方』だけだ。…少し前の時代の話だが、巫女と言うのは遊女も兼ねていた…と言うのは知っているか?」

 

 

 あー…聞いた事あるな。歩き巫女って奴だっけ? 女忍者、くの一として訓練された巫女が居たって。くの一とくれば、色仕掛けだよな。

 

 

「それは偏見だと思うが、この件については大体そういう認識で間違いない。……神夜の家は常に最前線で戦ってきた。特に、女当主がな。その武辺と成果、名の威光によって士気を上げた。自ら一番槍として突っ込み、強大な鬼を打倒して……己より強い者は居るかと声を張り上げる」

 

 

 ほぉ。あの戦闘の才はその結晶……で、あの男の視線を引き付けるような恰好…巫女……士気高揚って…。

 

 

「そういう事だ。同じ戦場に立ち、女当主と同等かそれ以上の戦果を挙げたモノノフは、一晩その体を好きにできる。男何ぞ単純なもんだからな。あいつの母親も美人だった…目先の色に狂って突撃して、実力以上の戦果を挙げたモノノフが何人も居たもんだ。死んだモノノフは、それ以上に多かったが」

 

 

 …ひょっとして神夜の父親って誰だか分からない? それか寝取られ趣味…?

 

 

「阿呆。あいつの親父は、母親に岡惚れして、他の誰にも触らせないと毎回毎回全力で暴れてた強者だったよ。…オオマガトキで、二人とも死んでしまった。まぁ…いい夫婦だったよ。戦った後は、あの二人に近付くなと言うのが暗黙の了解だったけど」

 

 

 戦の昂ぶりを互いで晴らすんですね分かります。

 そっかー…。そんな役割かぁ…。そりゃ本人にも隠すし、前線に持っていけない訳だわ…。

 

 

「閉じ込められたこの里で、神夜の体や恋人の座を巡って諍いが起きれば、間違いなく止められん。お前に話しておくべきかも、かなり迷ったんだが…神夜が戦場に出るようになった以上、注意はしておかなければいかん」

 

 

 本人も気付いてない、色欲が戦いを切っ掛けに暴走するかも…か。

 ……もしそうなったら、俺は間違いなく抱くぞ。

 

 

「お前なら、まぁ構わん。…勘違いしないように言っておくが、里での揉め事が最小限に抑えられるからでしかない。…お前は、いつかこの里から去るんだろう」

 

 

 …まぁな。異界の浄化が出来ると判明したから、霊山、ウタカタへ向かえる目も本格的に出てきた。

 霊山との親交が復活したら、俺は本来の目的を果たしに行く。…あぁ、霊山が素直に助けを寄越すとは思ってないから、交渉の手段を幾つか考え中だぞ。

 

 

「そこまで考えてくれるのは有難いが、本来俺達の仕事だから気にしなくていい。最悪、その時に連れていってしまえば…」

 

 

 ……神夜を放逐する話をしてるみたいで気分が悪いが…まぁ、確かにそれなら人間関係クラッシュは避けられるか…。

 そう言えば、明日奈の家の役割は?

 

 

「裏切者、或いは不心得者の捕縛と始末だ」

 

 

 …これはまた、穏やかじゃないな。

 

 

「実際、穏やかな話なんぞしてないからな。表立って動く事は少なかったが、とにかくやり方が苛烈で、それ以上に執拗だったもんだ。モノノフと言えど、所詮は人間。驕り高ぶって外道に堕ちる事もある。元々、歴史の陰に隠れて鬼と戦い、外様を守る集団だ。縁も所縁も無い、むしろかつては自分達を迫害した連中を何故守らなければならないのか、って叫ぶモノノフも少なからずいた」

 

 

 それは分かるな。マホロバの里でも、モノノフにひどい扱いをされたらしい外様は何人も居た。

 やっぱり、オオマガトキが起こる前からもそういうのは居たのか。

 

 

「一時は、集団で暴れ回ったくらいに。鬼の事なんぞ知りもしない一般人を拉致して、慰み者にする事すらあったらしい。…そういう連中を追い回し、捕らえて始末するのが明日奈の家の役割だった。全国各地を追い回すのは当たり前、捕らえられたら楽に死ぬ事は出来ない。暗殺も拷問も朝飯前って言われてた程よ」

 

 

 …鬼平みたいな話だ。おお、怖。

 恐れられることで抑止力にもなろうとしてたのかな。それを明日奈は?

 

 

「知らないし、知らされてもいない。その為の教育も…捜査の心得くらいは教え込まれてるかもしれんが、少なくとも拷問や暗殺については全く知らない筈だ。教育が始まる前に、オオマガトキが起こった」

 

 

 拷問だの暗殺だのを教え込むなら、幼少時からやらせて刷り込んで、忌避感を無くさせる方が効率的だと思うが…やり方次第か。

 で、明日奈がそっち方面に才能があるって?

 

 

「拷問はどうだか知らんが、猟犬としての才覚は随一だ。自覚があるのかは知らんが、敵の急所や痕跡を見つけて追い詰めるのが異常に上手いんだ。戦いでも、それ以外でも」

 

 

 模擬戦でもそんな所はあったなぁ。神夜の隙を庇うように動いてたけど、ここぞと言う時には必ず勝負を仕掛けてきた。

 うん、言われてしっくり来たわ。あの子は綺麗で可愛いけど、根っこは狩りをする肉食獣だ。…はは、本人に向けて言ったら、「か弱い乙女に対して何を」って怒られそうだな。

 

 

「ははは、違いない。あれで結構夢見がちだからな。…上手く付き合っているようで安心したぜ。さっきも言ったが、腹を括ってるなら、手を出しても俺は何も言わない。…この里は、あの二人には少々居心地が悪いだろう。持て余してるのは否定できない。もし本当に里の外に出ていけるのなら、連れて行ってやってくれ」

 

 

 …本人次第だよ。多少居心地が悪くたって、ここはあの子達の故郷だ。

 俺についてくるにせよ、外の世界を見てみたいだけにせよ……そう簡単に離れられるとは思えんよ。

 

 

 




討鬼伝世界登場人物表

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
    ミタマなので、見える人と見えない人がいる。
    霊山に対して…里に来た頃には既に交流が途絶えていたので何とも。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
   霊山に対して…見捨てられたって意識は薄いが、あまり信用すべきじゃない。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー。
   霊山に対して…修行中に滞在していた。里に比べて賑やかだったけど、疲れる事も多かった。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
   結構なナイスバディだが、「またサラシがきつくなった」という言葉からしてまだまだ成長しているらしい。
   霊山に対して…特に何も。でも扱う武器には興味がある。

・風華…祭祀堂の巫女。
   修行途中に祭祀堂の主となってしまった為、修行不足。
   どちらと言うと、マスコット兼甘味作成係と思われているようだ。
   天狐と友達。名前は華天。
   霊山に対して…もう少し修行が続いていたら、訪れる予定だった。知らない場所。

他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
     武器は細剣(レイピア)。
     戦いばかりの生活に嫌気がさし、潤いがほしいと思っている。
     霊山に対して…昔の知人が居る筈。生き延びていてほしいと切実に思う。

・神夜…無限のフロンティアより。
    武器は斬冠刀(特注の太刀、と言うより大剣)。
    戦狂いの気質がある。
    霊山に対して…きっと煌びやか極まりなくて、白塗り化粧のお公家様とかが蹴鞠をしているんでしょう。

オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
   他の里に行ったらやってみたい事…新しい本を仕入れたい。
   霊山に対して…名前は知っているけど、モノノフの総本山と言われても想像がつかない。

・泥高丸…でいこうがん。
     里で一番腕が立つと評判のモノノフ。
     明日奈とソリが合わないようだ。
     新戦術『鬼纏』を開発した人物らしい。
     霊山に対して…無理もない戦況だったらしいが、里を見捨てた事には変わりない。行きたいとは思わない。


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397話

実家に帰った時にお宝発掘。
古いエロゲですが、CronusのBrightiaが箱ごと出てきました。
多分、分かる人には分かるゲームだと思います。
あの頃、このエロゲにどんだけお世話になったか…。
リメイク版もなー、嫌いじゃないんだけど色の塗り方が神が勝ってると言うか、♡の破壊力が違うと言うか。
明日奈や神夜の濡れ場に腕力入りますなぁ! 

と言いつつ、濡れ場に突入するシーンが実家に帰って執筆しにくかった状況なんで、そこだけ飛ばしているという状況で…。
どうにも筆が乗らずに手古摺っています。ネタはあるので、後は書くだけなのですが。
早い所煩悩を高めねば…。

鼻風邪ひいたので、しょうが湯呑んで寝ます。


凶星月二十五日

 

 

 神夜大歓喜。

 偵察に終わっていた異界での戦闘が、ようやく解禁となった。

 恋する乙女がデートに出掛けようとするかのように、斬冠刀を振り回したり、刃の切れ味を確かめたり、衣服が乱れてないか気にしたり…。……最後のはアレだな、死して尚桜色のノリだな。敵対する鬼達に対し、倒れた時に見苦しい姿では相手に失礼とか。

 

 まー元気そうで何よりだわ。一緒にいる明日奈は、ちょっとウンザリした顔をしているが。

 やっぱり、先日の模擬戦で散々に打ち負かされたのが堪えているんだろうか…。

 

 

「…そんな無言で心配した顔しなくても、未熟を突き付けられたくらいで圧し折れたりしませんよ。ちょっと自信無くしたのは事実ですけども」

 

 

 …バレてたか。真面目に心配なのは確かだぞ。妙に気負ってたりするんじゃないかって。

 神夜も、なんか浮かれて地についてないし。

 

 

「あれは素です。本当に、あれさえなければ完璧な子なのに、どうしてあんなに戦狂いなんだろ…」

 

 

 …寒雷の旦那から聞いた話は黙っておこう。血筋と気質と美貌の結晶だからこそ、ああまで極端なんだろう。

 明日奈は…普段の行動だと、イマイチ話と印象が結びつかないが。

 

 

「ともかく、未熟で経験不足なのは元々自覚してましたし、明確な目標がすぐ傍にあって、それが味方だって事でむしろ安心したくらいです。こんな事を言うのもなんですけど、快進撃の連続で、本当に戦いってこんなものなのかって錯覚しそうでしたし」

 

 

 快進撃? …言われてみれば、確かにそうか。鬼との闘いは向かう所敵無し、誰もついて来れない敵陣深くに平然と斬り込んで生還、しかも前代未聞の大手柄を引っ提げて戻ってくる。

 とは言え、これからはそうも言っていられなくなるだろう。鬼が強くなるのもあるが、いつもの経験からすると、もっと面倒な事になってそうだしな。

 

 

「? …ちょっと神夜、なんだかこの人意味深な事言ってるわよ。敵が強くなるっぽい」

 

「感激極まりないです! もっと強くなって、先日の意趣返しをさせていただきます!」

 

 

 

 それ本人の前で言うかよ。何気に根に持ってやがる…。

 

 それはともかく、異界での戦いが激しくなるのは間違いない。

 ここらの鬼は、先日までの異界の鬼よりも強力だ。縄張りを確保しようとした奴らが押しかけて、それをほぼ返り討ちにして内紛は一段落したようだが、それらの傷が癒えた訳じゃない。

 そんな絶妙な時期を見極めた牡丹の戦略眼は本当に大したものだが、逆を言えば手負いの獣があちこちに居る状態だ。争いの残滓と傷の痛みで気が立っている鬼達が、理性的に行動する筈もない。

 

 

 

 気を引き締めて行こうか。

 

 

 

 

 先日の異界と違い、先導は明日奈に任せてみる。

 今の彼女の考えとしては、無理に奥に進むより、この近辺の敵の強さや性質を知る事を優先すべき…らしい。俺も特に異論はない。

 神夜も、積極的に鬼と戦えるので特に問題はなかった。

 

 見かける鬼達はそう珍しい連中でもなく、牡丹の予想通りに縄張り争いによって傷を負っている者が多かった。戦い始めた最初からタマハミ状態だった奴も居る。

 そういう奴は確かに弱ってはいたんだが、鬼千切・廻が使えなかったのが面倒だったな。通常状態からタマハミ状態に変化する一瞬の隙に最大攻撃を叩き込む技なので、最初からタマハミだとどうも使いにくい。

 まぁ、代わりに鬼千切・極で真っ二つにしたからいいんだけど。

 

 ちなみに鬼千切・極を使ったのは、俺ではなく明日奈である。なんかこう、スッゴイ突きを繰り出していた。

 ぶっつけ本番で使ったのか?と聞いてみたところ、

 

 

「流石にそれはないですよ。教わった時から、どういう場面でどう使えば有効か考えてましたし、先日の負け以来、まず手札を増やそうと思って色々とやってみってたんです」

 

 

 …負けん気が強くて結構だ。あんまり気負い過ぎないようにな。

 ま、そこまではいいさ。この子達が上達するならそれに越した事は無いし、鬼達の強化だって予測の範囲内。

 変異もそうだな。鬼達の姿が、MH世界のモンスターに似ていたり、斬った感触が「あれ、こいつアラガミじゃね?」って思うような奴もいたけど、似ているだけでそのものではない。

 龍殺しの実ならぬ、鬼殺しの実なんてものも見つかったが、これはいい道具でしかないので問題ない。

 

 一際高い丘に行って、周囲の景色を見回す事ができたんだが……まー異界の景色って実にカオスよなぁ。

 ある意味MH世界よりイカれてるわ。空を飛んでる鬼、鬼と鬼との戦いで怒る地響き、地割れ、ちょっと遠くには竜巻と城が並び立ち…。

 

 …いや、やっぱMH世界の方がイカれてるな。こっちは外見は無茶苦茶だけど、近くまで寄ればその原因は分かるし。MH世界だと、原因は分かってもどうしようもないからな。具体的には、一見平和に見える景色の中に潜む古龍とか古龍とか古龍とか何故な古龍に分類されてない飛竜とか。

 

 

 うん、話が逸れた。とにかく、ちょっと高い所から見下ろしてみたんだが、一つ問題が発生。

 寒雷の旦那から見せてもらった資料には、少し離れた所に結界石の像があった筈なのだが、これが全く見当たらない。ぶっ壊されたのか、それともどこかに流動していったのか。

 今回の異界の探索は、思っていたより時間が取られるかもしれない。

 

 

 

 

凶星月二十六日

 

 

 異界探索の前に腹ごしらえし、ついでに白浜屋に寄って暇潰しの本でも…と思っていたら、何だか里が賑わっているのに気が付いた。

 お汁粉を作ってくれた風華に何事なのか問いかけてみると、不思議そうに首を傾げ、すぐに納得された。

 

 

「そ、そう言えば…外の方でした…。今日から、練武戦の受付があるんです…」

 

 

 練武戦?

 あー、何だっけ、ちょくちょく話を聞いてはいたが…モノノフ同志の試合だったよな?

 

 

「はい……総当たり戦で…装備は自由、です」

 

 

 自由? 同じ模造刀を使うとか、防具も同じとか、そういうのも無し?

 

 

「ええ、そうです」

 

「あ、雪華姉さま…」

 

「こうして直接話すのは久しぶりですね。壮健そうで何よりです」

 

 

 こりゃどうも、神垣の巫女さん。

 …名前でよかったっけ?

 

 

「ええ、様も付けない方が嬉しいですね」

 

「姉さま、それは…」

 

 

 

 じゃ遠慮なく。公の場でも、本人から許可貰ったって言うぜ。

 

 そう言うと、雪華は面食らったように押し黙り、クスクスと笑い出した。

 

 

「ええ、勿論。ああ、そんな風に話してもらえるのは久しぶりです」

 

 

 ま、仕方なかろ。神垣の巫女の扱いとしちゃ破格だべ。ウタカタの里がまだ近いが、マホロバの里はなぁ…。ちっこい神垣の巫女候補が、抜け道見つけたら全力で抜け出そうとするんだぞ。

 まま、座りなせい座りなせい。

 

 風華、もう一杯お汁粉お願い。俺の奢りって事で。

 

 

「…雪華姉さまから、ハクなんてとりません」

 

 

 ちょっと膨れ面になりながら、風華はお汁粉を取りに戻った。

 

 で、練武戦が何だっけ?

 

 

「? …ああ、そういう話でしたね。練武戦とは、里のモノノフの評価を決める催しでもあります。武器、防具、ミタマも何でもありです。ただ勝った者が上を行く…」

 

 

 装備が全てとは思わんけど、不公平だって声は出なかったのか?

 

 

「それを踏み越えてこその評価、だそうです。相応の力を持ったモノノフであれば、自力で装備も整えられる。また、格上の相手に突然ぶつかる事も珍しくはない。事前に作った装備と準備で勝ち上がるなら真っ当に強く、それらを踏み越える力があるなら運と逆境を乗り越える底力がある…と言うのが、前お頭の言い分です」

 

 

 ほーう、中々分かっていらっしゃる。

 しかし、評価ってのは? 給料に差でも出るのか。この里の場合、給料っつーより配給かもしれんが。

 

 

「そんな所ですね。評価と言うか…モノノフであるならご存知でしょうが、階級には一般兵、精鋭級、十鬼長 、百鬼長、千鬼長とありまして……熱…でも甘い…風華、腕を上げましたね。…そのどれに値するのか、練武戦の結果で決まるのです。無論、練武戦のみで決める訳ではありませんが」

 

 

 まーそうだな。戦う事しか頭にない脳筋が統率者についたら、惨劇の未来しか見えねぇよ。

 ん? と言うかそれじゃある程度以上は統率者の役割になる訳か?

 

 

「ええ、百鬼長以上でしたら。本来なら、十鬼長の時点で隊を統率する者となるそうですが、何分この里は小さいですから」

 

 

 まぁ、全部合わせて百人いるかどうかって人数だしな。

 ふーん、そんな制度になってるんだ。

 と言う事は、つまり俺が次の練武戦とやらで優勝したら、一気に千鬼長になると?

 

 

「…それはないでしょう。出世の道が開けはしますが、流石に事務能力が分からないのにそういう方面に抜擢されるとは…。しかし、評価は大きく高まると思います・…………風華は、もう暫く戻ってきませんね。でしたら、伝えておきたい事がございます」

 

 

 うん?

 

 

「…異界の浄化、それ以上に結界石に宿るミタマによる神垣の巫女の負担の軽減…。私は…それに、何よりも感謝したい。この立場にある者として、許されざる言葉だと思いますが……本当に、ありがとうございます。おかげで、私は生き延びる事ができそうです」

 

 

 …あー……アレか、結界石が多く成れば、それだけ負担が大きくなる…。

 ミタマが結界石に留まったおかげで、負担も軽減されてるんだっけ。正直、予想外だった。

 どの道、じわじわと異界は侵食してきていたし、結果が同じなら…と思って雪華に負担をかけるのを承知で浄化したんだが…。

 

 

「そう言われると複雑なものがありますが…ここは、結果良ければ全て良しと言う事で。……ふふ、少しは気が晴れました。代々神垣の巫女は短命ですが、『助かった』と思ってしまった事に、少し引け目を感じていたのです。『どうして自分が』と密かに嘆いた事も、少なからずあります」

 

 

 身近な人間やモノノフには、猶更言えないな、それは…。

 とは言え、神垣の巫女の内心なんて、大体そんなものだけど。

 

 

「………そうなのですか?」

 

 

 俺の知る限りはね。重要な使命だって言っても、それだけで死の恐怖を克服できるもんじゃない。

 何度か神垣の巫女の内心を聞く機会があったんだけど、死にたくないとかもっと外に出たいとか、自分で自分の運命を切り開きたいとか、窮屈だから抜け道が欲しいとか……あまりに思いつめ過ぎて、気晴らしになればと教え込んだ『あまり良くない遊び』に病み付きになってしまった事もあったな。

 

 …流石に例が極端すぎるけど…。

 

 何だか呆然としている雪華。…神垣の巫女としては、異端の考えだと思っていたんだろうか?

 

 

「だって、牡丹様も、氷華姉さまも…」

 

 

 氷華とやらは知らんけど、牡丹はあれ、明かに神垣の巫女としては異端だからな? 戦場に実際に出て、ゴウエンマを叩き斬る神垣の巫女ってなんじゃい、ホンマに。

 と言うか、牡丹が鬼に喰われたって事は、その後の里は……あまり想像したくはないな。

 

 まー何にせよ、そういう愚痴くらい吐いても俺は責めはしないよ。むしろ、雪華は「貴方に何が分かるんですか!」って怒ってもいいくらいだ。

 ばったり二人で会った時くらい、話には付き合うから、あんまり貯めこみすぎるなよ。

 

 

 

 

 …で、話は戻るが、練武戦が何だっけ?

 

 

「…あ、はい…。ええと、どこまで話しましたっけ…」

 

 

 

 

 

 暫く話していたら、集合場所にやってこない俺を探して明日奈がやってきた。そういや、お役目に行くんだったっけ…。遅刻と欠勤はよろしくないな。スマヌ。

 

 

 

 

凶星月二十七日目

 

 

 今日は異界探索は休みなので、練武戦の参加申し込みに行く。

 ……結構な騒ぎになってるなぁ。里のモノノフが一気に押しかけたみたいだ。近くに貼りだされている参加者一覧の中には、泥高丸、明日奈、神夜の名前もある。他にもちょくちょく顔を合わせるモノノフ達…道場で里には無い武器の使い方を教えてくれと頼まれた、あのモノノフも居る。…あ、白浜君の名前もあるな。

 

 登録作業は、用紙に名前と階級を記入し、参加料を払うのみ。

 装備の登録は必要ない。試合直前のその場で変更してもいいくらいらしい。

 

 試合の組み合わせも当日発表。これは買収を防ぐと言う目的もあるようだ。

 

 

 

 ふと視線を感じて振り返ると、受付場の曲がり角の近くに、見知った顔が居た。素早く隠れたつもりのようだが、影が見えている。

 ……何してんの、白浜君。

 

 

「あ、あはは…ばれましたか…」

 

 

 隠れ方が素人そのものだったぞ。

 白浜君も練武戦に参加するんだっけか。登録した帰りかな?

 

 

「いえ、僕は昨日済ませましたので。…実はその、偵察に。誰が参加するのかって…」

 

 

 偵察するようなもんかぁ? 堂々と貼り出されてるじゃないか。家で素振りでもしてた方が、余程有意義だろうに。

 

 

「それは僕も考えたんですけど、教官が『できる事はやったから、後は本番に備えて体を休めておけ』って。実際、筋肉痛のまま試合に臨んでもいい結果が得られるとは思えませんし…でも居ても立っても居られなくなって、つい来ちゃいました」

 

 

 ふーん…。

 ところで疑問なんだが、何で皆揃って練武戦に参加しようとするんだ? モノノフとしての評価が、これで大きく上下されるとは聞いたが、何か褒章でも出るの?

 

 

「は? …いえ、改めて冷静に言われても困るんですが……褒章と言うか景品とかは無いですね。強いて言うなら、神垣の巫女様に直接お褒めの言葉をいただけるくらいでしょうか」

 

 

 それは、モノノフとしては名誉と言えば名誉だな。名誉だけとも言うけど。

 それが欲しくて、皆騒いでんのか?

 

 

「あー……僕は…少なくとも、僕は違います。そりゃ名誉だって欲しくない訳じゃありませんけど、僕は……ただ強くなりたくて。勝ちたくて。だから出ています」

 

 

 …言っちゃ悪いが、勝てると思ってる? 助言した俺が言うのもなんだけど、筋力の鍛錬は半年くらい続けないと効果が出ないぞ。

 

 

「勝ちの目が限りなく低い事なんて、自分で嫌と言う程分かっています。でも、負けるから戦わない、なんて選択はできません。無謀だろうと無意味と言われようと、これだけは曲げる事はできません。……挑み続ける事も出来なくなったら…負けるからすら逃げ出してしまったら……僕は僕で居られなくなってしまう」

 

 

 

 ……おい? おい、白浜君?

 しっかりしろって。何か裏事情とかがあるのは分かったから、自分の世界に沈み込むなって。

 

 

「え? あ、あぁはい、すみません。僕の事はともかく、モノノフってほら、基本的に血気盛んですから。『我こそ一番』って言いたいから、参加するんじゃないですかね。勝ち目が低くても、もしかしたら…訓練を積んできた自分なら、って思って」

 

 

 そういうものかな。お祭り気分で参加してるようなものなのかねぇ。

 或いは、単に他の皆が参加してるから自分もってノリなのか。考えてみれば、俺も思いっきりそのタイプだ。ぶっちゃけ、俺が里から評価されたって、どうこうなる訳じゃないし。

 

 ありがとう、参考になったよ。

 

 

「あはは、これくらいでいいならいつでも。代わりと言ってはなんですけど、練武戦で当たったら手加減してくださいね。じゃないと勝ち目が無さそうです」

 

 

 手加減しても勝ち目ゼロに近いのは、黙っておいてあげるべきだろうか。

 

 思っていた程厳粛な戦いって訳じゃなさそうだ。詳しい事を聞いてみると、弁当や酒を持ち寄り、影では博打も行われるらしい。里の人達への元気付けって感じも強いようだ。

 それでも、負けてもいいと思って戦う気にはならないけども。

 

 

 

 

 追記

 

 折角の休みだから、いつもの二人と飲みに行こうと思ったら、明日奈は仕事、神夜は練武戦に向けての鍛錬中だった。

 寂しい。

 

 神夜の鍛錬に付き合おうかと思ったんだけど、俺と戦う事になった時の秘策を準備しているらしく、また今度と言われてしまった。

 

 ……暇だな。

 




討鬼伝世界登場人物表兼コメント

Q.異界浄化をやってのけた事に対する考えは?

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。
    A…永く生きてたけど、初めてみた…いや死んでるんだけど。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    A…最悪、里が全滅したとしてもこいつだけは生き延びさせて、異界浄化方法を伝えなければいけない。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    A…里の希望。色々複雑な思いはあるけど、今後も期待している。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
    A…バカみたいに笑って喜んで大泣きした。未来に希望がでてきた!

・風華…祭祀堂の巫女。
    A…ぜひともやり方を教えてください!

他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
    A…これって現実? 未だに信じられない。

・神夜…無限のフロンティアより。
    A…流石極まりないです! あなたこそ真のモノノフ!

オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
    A…唖然。

・泥高丸…でいこうがん。
    A…恩が出来てしまった。危険な任務なので、自分が代わりに行くべきだと思う。


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398話

今回は、ちょっと短め。


凶星月二十八日目

 

 

 もうすぐ練武戦だと盛り上がっている里だが、モノノフのお勤めにお休みは無い。

 いや他の時だとあるんだけどね。追儺の日とか、正月元旦とか、お盆とか。そんな時でも、鬼の襲撃があれば出撃できるようにしておかないといけないんだから気が抜けない。祭りに浮かれて里が滅びました、なんて結論になるよりはマシだけども。

 

 それを言ったら、今の異界の状態を練武戦の為に放置するのも馬鹿な話だ。奴らはまだ、縄張り争いの傷から回復しきってない。

 とは言え、自分達だけお祭りに参加できないのも癪なので、狩ったら荒れそうな奴に目を付けて、そいつらだけ始末していく。

 

 

「…地図に何やら書き込んでいたと思ったら……鬼の縄張りの分布図だったんですか?」

 

 

 他にも色々ね。どこでどんな鉱石が取れたとか、どんな実がなっていたかとか…。

 

 

「私にも見せてください。……うわ、何これ…。何処の鬼がどんな傷を受けているとか、どの鬼と仲が悪いとか…。どうやって調べたんですか、こんなの」

 

 

 大体は目視の確認だな。視力には自信があるから、丘の上に上った時に片っ端から大型鬼を見つけて確認した。

 鬼の体に残っている傷跡から、どの種類の鬼を相手に戦ったのかは大体推察できる。後は近場の鬼の分布をみて、近くに居る鬼居ない鬼、そいつらの情報を組み合わせて行けば、大体の状況は予測できる。

 あくまで予測だし、鬼は獣に比べて個体差が激しいから、確実とは言えないが。

 

 鬼の目と鷹の目、そしてハンターとしての経験があるから、こんな事も出来るようになったのだ。

 

 と言う訳で、まずはあそこのクエヤマと、あっちのダイバタチを狩るぞ。

 

 

「? 今日はそれだけなのですか? 体力を温存しても、もう2~3体はいけると思うのですが」

 

 

 狩るのは難しくないだろうけど、そこまで一気にやると鬼達が警戒して、逆に縄張り争いを始めなくなりそうだ。

 モノノフの仕業だって事を気付かれない程度に、内乱を誘発するのが一番いい。

 数日おいて、また縄張り争いでグチャグチャになった勢力図を更に引っ掻き回す。

 

 これを繰り返していれば、いずれは強い鬼が向こうの方から出てくるだろうよ。

 それでも頑として動こうとしない鬼が居るとすれば、そいつは何かを守っている可能性が高い。つまり、そこの結界石か、それに近い物があるって事だ。

 

 …本当は、ハンターとしてはご法度なんだけどな、こういうやり方。生態系を進んで乱しているようなものだから、いつどんなシッペ返しが起こるか分かったものじゃない。

 だけど、この里の状況じゃそうも言っていられない。滅びるのも自然の理と割り切る事はできないから、何が何でもまずは生き延びる。

 

 

「成程…。でしたら、此度の戦は、私達に任せていただけませんか? 練武戦の為の稽古の仕上げをしたいのです」

 

 

 …明日奈は?

 

 

「大丈夫です。いつも貴方に頼りっぱなしじゃないんですよ。元々、二人で鬼と戦ってたんですから。…弱い相手ばかりだったけど

 

 

 別段、頼られた覚えもないんだけどな…。二人がそうしたいって言うなら、止めはしない。

 頑張っておいで。

 

 

 

 

 

 

 

 …結果? 狩られた鬼にしてみれば、暗殺されたようなもんだろうなー、とだけ言っておく。

 

 

 

凶星月二十九日目

 

 

 お祭り前夜って感じだなー。皆、思い思いに準備している。

 中には、練武戦をよく観戦できる場所に陣取る為、このクッソ寒い里なのに夜通し張り込んでいる人もいるようだ。

 …パチンコ屋に最初に入る為に、店の前で待ってる人の心理なのかね…。

 

 練武戦って言っても、単体で行われる祭りではないらしい。

 流れとしては、初日…三十日に里長(今は牡丹で見える人と見えない人がいるから、代理に寒雷の旦那)の挨拶から始まり、そこから先は…練武戦と言うより文化祭? 日頃から個人個人が研究していたり、趣味で行っている何かの披露。秘蔵の漬物を売り出したり、新作の甘味の発表とか…ちょっと文学的な所では、俳句やら能やらの披露とか。

 ちなみに、この時点で飯も酒も解禁されているので、練武戦に参加表明しながら、飲み過ぎで二日酔いになって辞退する者が一人二人は居るらしい。

 夕方になると、翌日に行われる練武戦の対戦組み合わせ表が発表される。

 

 で、二日目には朝から晩まで練武戦。モノノフ達の総当たり戦だ。

 言うまでもなく、ここが一番盛り上がる。

 前回の練武戦の成績や、普段のモノノフとしての活動を加味して、各自の持ち点を決め、勝敗と独自の計算式によってそれが上下する。一定以下になってしまった者は、その場で敗退というシステム。

 大体、最終戦が終わる頃には皆して酔っぱらってしまっており、野晒しで寝る事も珍しくないらしい。だから下手すると凍死するって。

 

 そして三日目。練武戦の成績発表だ。

 この日はそれ以外目立ったイベントは無く、祭りの片付けに使われる。

 …と言う名目だが、二日酔いで動けない連中を看病する事の方が多いそうな。

 

 

 

 何にせよ、俺も何か手伝った方がいいんだろうけど、勝手が分からん。ついでに言うと、初日の文化祭で何を披露するかも考えなきゃいかんし。

 どうしたものかと考えながら、いつになく賑わっている里を歩いていると、声を掛けられた。

 

 

 …鍛冶屋。って事は、練の姉御か。

 道具の手入れをしている彼女の横には、いつぞやと同じように薬包とお茶が並んでいた。

 

 どしたの? 仕事中じゃないの?

 

 

「ああ、今日はもう店仕舞いだよ。いきなり声をかけて悪かったね」

 

 

 それはいいけど…。考えてみれば、練の姉御の世話になった事ってないな。

 

 

「そうだよ。何で一回も来ないのか、気になっててね。別に用もないのに来いって言ってる訳じゃないし、自前の道具で充分なら何も言わないけどさ…。大体、練武戦で使う武器はどうするんだい」

 

 

 あー…別に、姉御を信用してないとかじゃないんだ。単純に、道具の手入れは出来る限り自分でやりたいってだけで。

 (使ってる武器、MH世界の武器とか神機とかだからな…。討鬼伝世界の武器もあるけど、この里のとは性能が違い過ぎるから見せられん…。しかし明日奈達には見せてるし、今更…かなぁ)

 

 

「そりゃいい心がけだね。でも、偶には本職に見せた方がいいよ。…ま、あたしが本職を名乗るのは、ちょっと憚られるけど…」

 

 

 …よく分からないが、何だか闇が深そうだ。

 神夜と明日奈の家の話といい、何気に闇が多い気がする。シノノメの里の状況で何年もやってれば、そりゃ闇だって増えるだろうが。

 

 

「お前さんが来てから、里は色々と急激に変わってる。全ての切っ掛けがあんただとは言わないけど、殆どの事に大きく関わってるのには変わりない。あたしも、今まで知らなかった鉱石や、その使い方を知る事ができた。礼も含めて、一度話をしてみたかったのさ」

 

 

 そりゃどうも。俺でよければ話くらいいくらでも。

 じゃあついでと言っては何ですけど、明日の発表会での出し物、相談に乗ってくれません?

 

 

「発表会? …ああ、あれか。あれの参加は基本的に任意だから、思いつかないなら別に何もしなくてもいい筈だけど」

 

 

 それはそれで退屈そうなんだなぁ。今から準備しても間に合うようなもので、好印象を与えるようなもの、何か無いですかね。

 

 

「我儘な…。やっぱり、この里には無い物を見せればいいんじゃないかい? あんたはこの里では唯一、他の里の事を知ってる人間だ。多分、他の皆もそれを期待しているだろうし」

 

 

 この里にない物、かぁ…。鬼の手はこの前見せてしまった。武器防具の類は、色々問い詰められそうだから却下。

 世界観的に見て、あまりに懸け離れたモノも後々不味い事になりそうだ。

 となると、文字通り他の里にあって、この里には無い………あ。

 

 

「お、何か思いついたかい?」

 

 

 ああ、お陰で何とかなりそうだ。ただ、アレだけじゃ芸が無いな…。何か曲芸的なやり方でも考えてみるか。

 悪いんだけど、今日はもう行くよ。ちょっと練習しておきたい。

 

 

「こっちとしても大した話題があって引き留めた訳じゃないし、構わないよ。何をするつもりなのか知らないが、気張っていきな。練武戦もね」

 

 

 

 

 




討鬼伝世界登場人物表兼コメント

Q.もしも鬼との戦いが終わったらどうしたい?

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。
    A…ミタマとして残ってる理由もないけど……成仏ってどうやればいいんだっけ?

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    A…そろそろ嫁さん探すかなぁ…。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    A…わかりません…。神垣の巫女でない自分など、想像すらできません。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
    A…人と人との争いに使う武器を作るのも気分が悪いし、包丁とかに集中しようかね。

・風華…祭祀堂の巫女。
    A…雪華姉さまが無気力になる気がするので、ずっとお世話します!

他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
    A…青春したい。彼氏欲しい。

・神夜…無限のフロンティアより。
    A…鬼が居なくても、もっともっと強くなります!

オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
    A…まず身内の墓参りと、シノノメの里に限らずとにかく復興です!

・泥高丸…でいこうがん。
    A…諸国漫遊でもしてみるかな…親父の故郷を目指してみてもいいかもしれん。


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399話

GE3を買うべきか…。
ネタは増えそうだけど、一応GE編は終了扱いにしてるし、なんか色々変わってそうだし。
他にもペルソナQ2は、まだ世界樹の迷宮xをコンプしてないから延期で。
ていうかお姫さん強すぎる…。こりゃパーティ構成と育成を一からやり直さんとあかんな…。


凶星月三十日

 

 

 早朝から既に賑わっている里。うーん、小規模とは言え活気があるのはいいものだ。

 あっちこっちからいい匂いも漂ってくる。…中には『え、これ食べ物? …ヤバくね?』って匂いもあるが。

 

 とりあえず、開会式に参加する為、村の広場に向かう。踏み台が一つ置いてあり、皆がその前に集まってきていた。

 その集まっている人達に、一人のモノノフが何やら配っている。

 

 俺にもくれ。…ありがとう。

 これは……へぇ、本当に文化祭みたいだな。出し物一覧と地図だ。

 

 売り物屋は簡単な出店が作られていて、時間を決めて交代する。

 踊りや何かの発表会であれば、道場を舞台代わりとして順番に発表。…意外と真面目そうな物が多いな。退屈そう、とも言えるが。合間合間に休憩時間が作られており、飛び入りで参加する場合はそこを狙わなくてはいけない。

 

 

「あら、あなたも何か出し物をされるのですか?」

 

 

 ん? ああ、雪華か。出し物って言っても、一発芸みたいなもんだよ。

 …にしても、出し物一覧を見ても、どんな物なのか今一つ分からないな。何かお勧めとか定番ってある?

 

 

「そうですね…定番と言いますか、やはり初日の主役は発表会でしょう。大抵の人は、欲しい物を確保した後、ご飯、お酒、お摘みを買いに走り、発表会を見物しながらそれを食べる、と言うのが大体の流れです」

 

 

 …道場で飯食っていいんかい。まぁ、このクッソ寒い里で、外で宴会するのもきついけどさ…。

 

 

「発表会に興味のない人は、外で集まって…去年は確か腕相撲大会でしたか。その前は釣り、その前は…何か意味もなく穴を掘って埋めてを繰り返していた気がします」

 

 

 何故そんな収容所みたいな事を…。要するに、適当に集まって騒いでる訳ね。

 

 

「そういう事です。個人的に勧めたいのは、やはり風華の甘味です! …が、それ以外にも日枝さんが作る秘伝の梅干しや、神夜さんの舞、白浜さんが育てた鉢植えの花など、悩ましいところです」

 

 

 日枝さん誰ですねん。いや、里の誰かだとは分かるんだけど。

 つーか、出し物一覧を見ると、剣舞とか型の披露の類が無いなぁ。モノノフみたいに武を偏重する人種なんだから、絶対あると思ってたが。

 

 

「翌日に練武戦がありますし、手の内を見せるのを嫌っているのでは?」

 

 

 …そりゃそうか。考えてみれば当たり前だった。神夜の舞は結構ギリギリだと思うが…いや恰好の事じゃなくて、舞ってほら、武に通じるし。

 と言うか恰好もギリギリだった。どんな舞踊なのか知らないが、あの恰好で激しく動いたら男モノノフが全員前屈みになっちゃうじゃないか。

 

 絶対にその辺も狙ってやってる恰好だよなぁ…神夜にどこまで自覚があるのか微妙だが。家の役割の事を考えると、敵には色仕掛けで集中力を削り、味方には際どい恰好で欲望を煽り自分を求めさせる…って考えで作られてるのは間違いないだろう。

 …舞の披露は、その助長かな? 前日に印象付けておいて、視線を誘導しやすくするとか…。まぁ、その辺は考えずに楽しめばいいか。

 

 そういや、雪華はどうするんだ? 一緒に回らないか?

 

 

「ふふ、楽しそうですけど、遠慮しておきます。私は風華の所に行きますから。甘味が尽きるまで動く事はありません」

 

 

 …太る云々はこの際何も言わんけど、歯ぁ磨けよ…。と言うか、朝から昼まで甘味尽くしとは…この女、中々にジャンキーである。

 

 周囲が一際騒めいたので見回すと、広場の踏み台に寒雷の旦那が立っていた。ああ、開会式か。

 しかし、こうやって見てると寒雷の旦那が里長にしか見えんなぁ…。隣に風華が居ると言う事は、牡丹を祭祀堂から連れてきているんだろうが、モノノフにも薄っすらとしか見えてないし。

 

 

 寒雷の旦那の挨拶は、まぁ…短い方だな。クッソ長い校長先生のお話と違い、ダレる前に終わった。三秒スピーチとまでは言わなかったが。

 多分、「さっさと始めろ」って視線が集まってたんだろう。実際、宣言終了と同時に周囲の人が一斉に動き始めたからな。それはもう、ダッシュで。

 

 

「皆目的があるんですよ。さっさと買っておかないと、色々売り切れちゃいますし、時間が過ぎるともう買えなくなりますから」

 

 

 …なんかジトっとした目の明日奈が、いつの間にか隣に居て教えてくれた。

 何で怒ってるのかよく分からんが、明日奈はいいのか?

 

 

「さっき走って行った人達は、お酒か食べ物目当てですから。居酒屋の従業員特典って事で、私は確保してるから大丈夫です」

 

 

 マジか、俺も何か買いに行かないと。酒もないのに空きっ腹なのは御免被る。

 

 

「はい、どうぞ」

 

 

 ……え?

 

 

「お祭りの事を全然知らないから、多分そうなるだろうなーと思って作って来たんです。尤も、雪華さんと一緒に行こうとしてた人には無用だったかもしれませんけど」

 

 

 いやいやいやいや、手作り弁当に勝る飯は無い! ありがとう明日奈様!

 てか、一緒に回ってくれる?

 

 

「ま、案内は必要だろうなーと思ってましたから。ちなみに、神夜は居ませんよ。舞の準備で動けませんから」

 

 

 ? 準備って…神夜の出番は正午からだろ? 今から?

 

 

「今からと言うか、今更です。昨日まで練武戦の為の修練に集中していたおかげで、例年ならとっくに済ませている準備をすっかり忘れちゃったとか」

 

 

 何やってんだか…。手伝わなくていいのか? 楽しみにしてる人(と言うか男)も多いだろうし、間に合わなかったら赤っ恥だろうに。

 

 

「いいんです。充分間に合うそうですから。そもそも、家の秘伝とか色々と詰まっているらしいから、下手に人手があっても足手纏いですよ」

 

 

 そんなもんかね…。ま、俺より付き合いの長い明日奈がそう言うなら、そうなんだろう。

 そんじゃ、取り敢えずは一緒に回って行こうか。そんで、神夜への差し入れも買っておこう。

 

 

「そうですね。じゃあ、まず外せないのは…」

 

 

 

 …お? 何気なく手を繋がれて引っ張られた。うーん、なんか新鮮。腕を組んで歩くとか、「当ててんのよ」されたり、こっそりセクハラ…腕を回して尻を鷲掴みにしたりしながら歩く事はあっても、手をつなぐだけなのは少なかった。

 KENZENなデートをしている気分だ。

 

 ん? いやデートでしょ、普通に考えて。そりゃ自意識過剰と言われるかもしれないが、異性としてそれなり以上に好意を持たれているのは間違いない。

 年に一度のお祭りで、案内の為とは言え一緒に回ろうと誘って来て、雪華と一緒に回ろうとしていたのをジト目で見て、更に差し入れまでしてくれる。

 これで何もないと言うのなら、かなりの魔性の女である。

 

 …まぁ、ガチで惚れられてるんじゃなくて、青春っぽい事したいし、手頃な相手って所だろうけども。

 初めて会った時も、彼氏が欲しいとか青春したいとか言ってたからね。だからって誰でもいい性格じゃないし、嫌なら自分から関わってくる子じゃない。

 総合すると、イイカンジの男の人…ってところかな。

 

 

 

 

 

 明日奈の内心はともかくとして、案内には確かにハズレが無かった。毎年やっているから、色々慣れてるんだろうな。……あの謎の悪臭料理も含めて。

 

 

「いや、あれは料理じゃなくて…薬です。味は匂いでお察しですけど、効果がものすごく高くて、翌日には実力以上に動けるようになるって評判なんですが。練武戦では、結果や評価が一段上がるって言われるくらいに」

 

 

 …ドーピングかな? さもなきゃ、どう考えても罰ゲームの類だ。 

 まぁ、ハンターも猫飯使ってドーピングしてっから、あまり他人の事は言えないが。

 

 

「血管から食すると、更に強い効果が出せると言われているんですが……やったらお陀仏確定ですので、誰もやらないんですよね」

 

 

 何と言うドーピングコンソメスープ。と言うか血管から食するってこの時代でアリなんか…。いや未来でも普通にナシだけど。真っ当な薬品や栄養補給の点滴ならワンチャン。

 ちゅーか、使う人居るの?

 

 

「……むしろ、負けてから使う事の方が多いです」

 

 

 やっぱり罰ゲームじゃないか。

 そういや、練武戦って得点制だったよな。明日奈の持ち点っていくら?

 

 

「あんまり多くないですね。どの試合かにもよりますけど、2回負けたらもう終わりです。最近はモノノフとして戦えるようになってきましたけど、前回とかの成績が振るわなかったし…」

 

 

 普通の戦いなら、一回負けたら即終わりだから、そんなに珍しくはないな。

 普段の戦果が得点に影響するなら、もうちょっと色つけてもよかろうに。

 

 

「まぁ、前代未聞でしたし……と言うか、正直今思うと、普段の戦いはともかくとして、異界への侵入と浄化はあなたにおんぶ抱っこでしたから、これはこれで妥当かなーって思います。そういうあなたの持ち点は?」

 

 

 さぁ? 計算も面倒だし、確認してないな。

 そこらへんは司会役が宣言するだろ。そもそも負ける気もない。呼ばれたら戦うだけさね。

 

 

「脳筋…」

 

 

 否定はせん。ところで、発表って飛び入りでも出来るんだよな。受付とか必要か?

 

 

 

 

 

 

 さて、明日奈に案内されて里をぐるっと見て回り、俺達の手には出店で勝った食べ物や酒が握られている。

 別に俺達が食べる訳じゃない。明日奈の手作り弁当があるからね。

 これは神夜への差し入れだ。今から行けば、神夜の舞の少し前に会う事が出来るだろう。

 

 

「そう言えば、何か出し物するんですよね? 飛び入りで参加するなら、神夜の前に丁度いい時間がありますけど」

 

 

 うーん…まぁ、場を盛り上げておくと思えば…。神夜の舞の後に、つまらん人形劇見せても盛り下がるだけだし。

 悪いけど、差し入れ持って行ってくれるか? 演目を早めに終わらせて、顔見に行くから。

 

 

「仕方ないですねぇ…。準備が終わってれば、控室から出て見物にも来れるでしょうし、いいですよ。その代り、何をするつもりなのか教えてくれません?」

 

 

 …まぁ、いいか。この里には無いタマフリを使った一発芸だよ。

 

 

 

 

 

 

 さて、そういう訳でやってきました道場。

 人が沢山集まってんなぁ。庭に茣蓙を敷いて座る人、塀の上で酒を飲む人、厠の手前で悶える長蛇の列、その他諸々…。

 

 うーん、普段の道場とは全然雰囲気が違うなぁ。武を扱う場所なだけあって、普段は礼儀に厳しい所なのだ。入る前に、足を止めて一礼は最低限。土足なんてしたら、総攻撃を喰らう。食い物を持ち込むのも持っての他。

 

 そんな場所の中央で、今は何故か漫談が行われています。

 あまり関わった事のないモノノフ二人…いや、一人は里にない武器の使い方を教えてくれって言ってたモノノフだった…と、一般人らしき少女。

 3人が道場の外に居る人にも聞こえるくらいの声量で、ド突き漫才を繰り広げている。無論、殴る役は少女一人である。

 

 …おお、いいパンチしてるな。鍛えれば結構イケるんじゃないか?

 あと、淫夢語録がチラホラ聞こえるのは偶然なんだろうか…。

 

 

 ド突き漫才に後ろ髪を惹かれつつ、進行役に参加したいと伝え、明日奈は神夜に会いに行く。

 タイミングが良かったらしく、俺の出番は漫才後の休憩時間。

 俺の演目が終わったら、明日奈が働いている居酒屋の店主による新メニューのお披露目があって、その後に神夜の舞の時間だ。

 

 他に気になる物と言えば…………泥高丸による、改良版鬼纏の発表と………ん、何だコレ?

 毎月恒例、ちゃらっちゃっちゃらっちゃちゃらちゃちゃ~。

 

 

 …いや、マジでこう書いてあるのよ。品目名がちゃらっちry)ちゃ~、なんだ。……毎月恒例ってあるし、これだけで内容が皆に伝わるって事か?

 まぁ、狭い里だし、本当に毎月同じ事をやってるんだったら、皆には伝わるんだろうけど……。異界を超えてくる客人なんて、まず考えてなかっただろうし。

 

 

 

 …おぉ、一際強い打撃音。モノノフ二人が、高橋〇美子的なポーズで塀の外まで吹っ飛んでいく。…普通に殴られたんじゃなくて、タイミングを合わせてジャンプしたな、あれは。

 拍手が巻き起こり、少女が退場していく。…あ、なんかちょっと怒ってる。割と真面目に殴ったのかもしれない。

 

 道場の脇に出ていた演目名が、そそくさと出てきた黒子に取り換えられる。『漫才』から『休憩』。

 

 

「では、ここらで少しばかり休憩時間です。厠は毎年、大変混雑するのでご自宅で済ませるのがお勧めです…と言いたいところなのですが!」

 

 

 黒子がまた演目名を取り換える。『休憩』の上に、即興で書いたらしき『操』が貼り付けられた。…一応言っておくが『あやつる』であって貞操的な意味での『みさお』ではない。

 

 

「はい飛び入り演目の発生です! 厠は暫くお待ちください! 行ってもいいけど、なんと演者は異界浄化を成し遂げた張本人! 一体どんな代物を見せてくれるのか!?」

 

 

 ハードル上げるな! 自分から参加しといてなんだけど、不安なんだよこういうの。よく考えたら、面白いかコレ?

 くそ、一杯ひっかけてくればよかった。

 

 まぁいいや、もう考えても無駄だし。

 

 

 

 えー、どもども、外の里からやってまいりましたワタクシです。

 大した見世物じゃありませんが、ちょっと珍しいタマフリの使い方をお見せします。

 

 これは西の方の里で使われているミタマの使い方なんですが、その名は題目の通り『操』。

 簡単に言えば、式神っぽい物を使うやり方です。

 

 具体的には……ホイ、攻種召喚。

 

 このような浮いてる式神を作り出し、追随させて敵を攻撃させたりするものです。

 さぁさ、そっちにやるから触ってみなせい。

 

 

 攻種召喚だけでなく、衛種召喚も使って、観客達の手元に飛ばす。本来なら半自動で動き、こうやって思った所に飛ばすような事はできないが、それは戦闘中であるのなら、だ。平時で落ち着いている状態なら、この程度の動きをさせるのは難しくない。

 手元に式神がやってきた観客の皆さまは、触ったり引っ張ったり匂いを嗅いでみたり、それぞれ思い思いに見物してから横の人に渡している。……式神達から、逃げたそうな感覚が伝わってくるが…特に感情は無い筈なので、錯覚だよな?

 

 …あ、神夜と明日奈も来たのか。こら神夜、齧ろうとするんじゃありません。

 式神を引っ張り戻し、自分の周りに待機させる。…やっぱり、怖い敵から逃げてきた子犬のように思えてくるな。

 

 では、改めまして…式神達の舞い踊り、拙いながらもお付き合いください。

 

 

 

 式神達を操作して、空中でクルクル。単に動かすだけではなく、時に属性を変化させ、その形態でのアクション…光ったり急加速したり水を出したり、陣を張ったり…を組み合わせる。

 目が集まっている所に、更に五輪権限。一際大きな式神を召喚し、その周囲を攻種衛種をグルグル回す。

 

 で、その影に隠れてちょっとだけ鬼祓を使って…。

 最後に五輪権現を天属性にして、光の柱を作り出す。それに向かって攻種衛種を突撃させて、効果終了。まるで光の柱に包まれ、天に昇って行った…ように見えるといいなぁ。

 

 

『…はい、これにて終了です。拙い演目でしたが、お付き合いいただきありがとうございます』

 

 

 おぉーっ、と拍手が巻き起こる。良かった、程度はともかく好評ではあったらしい。

 ……これ、もう余計な事しない方がいいかな…。でももうやっちゃったし。

 

 

 

 司会の人が感謝の口上を述べてくれているその時に。

 

 

 

  ドカン!

 

 

 

「な…なんだぁ!? 爆発した! 爆発したぞ!? まさかの爆発落ちを持ってきた! 夢落ちと並んで最低です! と言うか、無事なんでしょうね!?」

 

 

 …大混乱してしまったようだ。

 

 

「…あの、出て行った方がいいのでは? このまま死亡認定されても困るでしょうし」

 

 

 そりゃそうだが、ちょっと気まずすぎるっつーか…神夜、代わりに行ってくれない?

 

 …一体何があったのかと言うと、ちょっとだけ鬼祓を使った事で、ニギタマフリの形代召喚を使ったのだ。

 鬼を浄化する事で発動し、身代わりとなる繰鬼を呼び出す奴だ。

 ちょっとでも攻撃されると、ドカンと爆発して鬼にダメージを与える術。

 これと入れ替わって、マジシャンみたく突然の爆発で消えたように見せかけたんだが………上手く行きすぎちゃったかな…。

 

 どうしたもんかと悩んでいたら、見物していた泥高丸が俺の無事を保証してくれたので、何とか場が治まった。繰鬼と入れ替わった所を見られてたか。こりゃ失敗。ま、助かったからよしとしよう。

 

 

 

 何とか落ち着き、次の演目は居酒屋新メニューのご披露だったが…なんか気まずかったので、入り損ねた。

 ふん、明日奈の手作り弁当があるからいいもんね。

 

 それより、神夜の顔を見ておこう。

 はい、ちょっくら忍び込んで…。

 

 

 おっす、神夜。明日奈も居るのか。

 

 

「あ、来てくださったんですね! それはそれとして、さっきはびっくりしました」

 

 

 あははは、爆発オチはいかんかったかと反省してます。

 おうおう、おめかししてるねぇ。団子食べる姿も絵になるわぁ。

 

 

「お褒め頂き光栄です♪」

 

「衣装を汚さないようにしなさいよ? 何とか準備が間に合ったのに、別の衣装で…なんて事になったら救えないわ」

 

 

 神夜の衣装は、意外にも露出度は低かった。…普段が高すぎて、アレを超えるようなら通報案件だけども。

 色とりどりの鮮やかな着物で、間違いなく一級品の代物だと一目で理解できる。派手なだけでなく、落ち着きと清楚さを兼ね備え…何で矛盾しねーんだろうなぁ。同じ日本人だからそう感じるだけなのかもしれないが。ワビサビに加えてイキもあって、混合できるもんなんだねぇ。

 

 それを纏う神夜本人も負けてはいない。いつもは頭上で結っている長髪を下し、簪等も付けている。

 顔もよく見れば化粧をしており、唇がいつも以上に色鮮やか。

 

 うーん、女だねぇ。化けたってのも失礼な言い方かもしれないが。

 

 

「いえいえ、褒め言葉は素直に嬉しいです。戦装束と舞踊の装束で、印象が違うのは当然ですし。…月に一度くらいしか着ませんしね」

 

 

 そうかぁ。見た目は綺麗だし、これで舞い踊れば眼福だろうけど、流石に日常でする恰好でもないわな。

 折角の珍しい姿なんだし、堪能させてもらうよ。舞台は…飯食いながら見ると思うけど。

 

 

「明日奈さんの手作りお弁当ですね。私も食べたかったです…。でも、食べられないかもしれませんよ」

 

 

 ん、どういう事だ?

 

 

「大抵の方は、ご飯よりも私を見てますから。お酒は飲みますけど」

 

 

 …これはまた、大胆な発言。団子より花に惹きつけようってか。いいね、そういう子は大好きだ。

 楽しみにしてるよ。

 

 

「…そろそろ時間ね。神夜、私も見てるから、頑張ってね」

 

「はい♪」

 

 

 

 

 

 

 

 そして数分後、神夜の言っていた事が事実だったと、よーく理解させられた。

 見事なもんだなぁ。多分、神夜の家にに伝わっている舞なんだろうけど、実に優美。着物の色彩まで計算に入れた、美事な魅せ方だ。エロ的な意味じゃなくて、純粋に美しい。ふつくしい。

 飯食うのも忘れて見入ってたよ。

 

 

「今まで戦働きができなかったから、あの舞台があの子の一番の晴れ舞台でしたからね。気合も入るってものです」

 

 

 …そういう明日奈も見入ってたのに、なんだか不機嫌だな?

 手作り弁当よりも、神夜を見るのに集中しちゃったからか?

 

 

「そこは別に…。全く無いとは言いませんけど、そうなるだろうなとは思ってましたし、ご飯はゆっくり味わって食べるものですから、見惚れながら食べられても…。それより、気付いてました?」

 

 

 ん?

 

 

「今までなら、向きを変えて場所を変えて、なるべく沢山の方向を向くようにしてたんですけど…今日のあの子、ずっとあなたを正面にして舞ってたんですよ。一番綺麗に見える場所です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの服に着替えてきた神夜に感想を伝えて……陳腐な言い方しかできないのが残念だ……3人並んで、次の出し物を見る。中々バラエティに富んでいる事。

 明日奈も許してくれたので、作ってきてくれた弁当は3人で食べた。

 美味い美味い。

 いい嫁さんになるね、これは。

 

 3人で食べた為にちょっと量が少なくなってしまったが、ご飯は一緒に食べた方が美味しいからね。

 

 

「はい、明日奈さんの煮物は絶品です!」

 

「神夜だって、生姜焼きが上手じゃない。時々作ってもらってるんです」

 

 

 仲がいいなぁ、相変わらず…。

 

 その後も出し物は続き、気になっていた泥高丸の鬼纏改良版とやら。

 こいつはちょいと問題だった。改良版とやらの性能は確かに凄い。パワーとスピードはこれまで通りだが、長時間の発動を可能とした。

 だが、現状ではそれを行えるのは泥高丸一人。俺でも多分無理だろう。

 改良版と言うよりは、試作版に近いのではないだろうか? 改良版は広める為に作ったのではなく、ただ自分の戦力を底上げする事だけを考えて試行錯誤された代物のようだ。

 それでも大幅な戦力アップに繋がるのは確かなので、会場を沸かせるに足る発表ではあったが。

 

 

 

 

 

 そして、最後、気になっていた、演目『毎月恒例、ちゃらっちゃっちゃらっちゃちゃらちゃちゃ~』がやってきた。

 道場の中にも沢山いた観客が、何故か外に移動してくる。観客全員で、道場を見る形になった。

 

 準備が整ったのを確認したのか、司会の人が出てきて宣言した。

 

 

「はい、今月もやってまいりました! 締めを務めるいつもの二人です! 馬鹿ですねぇ本当に! では、皆さま手拍子の準備はよろしいですか!? よろしいですね!? では開幕!」

 

「「ちゃらっちゃっちゃらっちゃちゃらちゃちゃ~」」

 

 

 奥から二人が、妙なテーマソング?を歌いながら飛び出してくる。

 それに合わせて、会場の皆が手を叩き始めた。

 

 ってオイオイオイオイオイオイオイオイ、この懐かしいテーマソングは……!

 

 会場に立つのは……………全身タイツっぽいけど、忍び装束だな。青で染め上げている。とても忍ぼうとはしていないようだが、とりあえずパッと見て個人が分からないようにはなっている。顔も完全に覆われているし、体型も分からない。

 このテーマソング、この二人組、これは間違いなく…。

 

 

 二人は道場の真ん中で、ちゃっちゃちゃっちゃと口遊みながら、何やら小道具を手にして。

 

 

 

「 花 」

 

「 はなみず 」

 

 

 …やっぱり、〇ちゃんの仮装大賞の色コンビだよコレ!

 何故この世界になんて言わない、ただただ不思議な懐かしさが溢れ出す。

 気が付けば俺も、皆と一緒になって手拍子をしていた。

 

 

 

 

 ……てか、あれって片方は多分、雪華なんだけど…。意外な一面だった。

 

 




討鬼伝世界登場人物表兼コメント

Q.発表会の見所は?

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。
    A…皆の活気付いた笑顔。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    A…商売と宣伝の好機!

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    A…甘味食べ放題!…と、仮装の出し物です。誰なんでしょうねー(棒

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
    A…麗亜さんが作ったぬか漬け。

・風華…祭祀堂の巫女。
    A…華天がはしゃいでいつも行方不明になるので、それどころではない。

他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
    A…今回は彼氏ではないとは言え、男連れ!

・神夜…無限のフロンティアより。
    A…我が家に伝わる舞をご堪能ください。

オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
    A…練武戦に向けて、ちょっとでも出来る事を…。

・泥高丸…でいこうがん。
    A…無論、我が鬼纏の発表だ。


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400話

濡れ場執筆中…なのですが、久しぶりで難しい事もあり、書けるところまで書いて、その後の話を執筆しています。
…なんて事をしていたら、濡れ場が合計3つも…。乱交も含めれば4つか。
うーむ、手を抜く事はしたくないし…どうすっかな…。


魔禍月壱日目

 

 

 

 昨日の発表会の最後はいいもの見たなぁ…なんと懐かしい。

 …ん? 毎月恒例って事は、月末になればまた見られるのか。……それまでこの里に留まりたくなってきた。

 

 それはともかく、今日は練武戦当日だ。昨日以上に朝から盛り上がっている。

 道場の入り口には試合の組み合わせとそれぞれの持ち点が貼り出され、そこへ里人達が集まって口々に騒いでいる。

 

 試合は基本的に持ち点の低い者から行われ、勝敗による特典の加減は後になればなる程大きくなる訳だが……一番最初の試合は……白浜君と、あまり話した事のない新米モノノフか。

 周囲の声を聴いてみたが、白浜君が第一試合に組まれるのはいつもの事らしい。練武戦でも全く勝てず、モノノフとしての活動もパッとしない以上、仕方ないと言えば仕方ない。

 白浜君が蔑ろにされている訳ではないのが救いだが、彼が勝つとは誰も思っていないらしい。彼と当たる事になったモノノフも、得したって顔していた。

 

 

 明日奈、神夜の試合は…序盤の後の方か。得点は神夜の方が多い…積極的に鬼を討伐していたかどうかの違いかな。明日奈は資材集めを重視する事も多いし。

 自分の出番を確認して道場に入ると、静かに殺気立った空気が伝わって来た。見回せば、完全装備で身を固めたモノノフ達がそこかしこで座禅を組んだり、イメトレっぽい事をしている。

 何と言うか、空気が重苦しいと言うか…堅いと言うか。鎧武者が何人もいるから、文字通り合戦前みたいに思えてきた。

 

 

「あ、おはようございます」

 

 

 お、神夜。おはよう。…明日奈は一緒じゃないのか?

 

 

「あはは、いつも一緒な訳ではないですよ。明日奈さんはあっちで準備運動してます。…仮にも戦う事になるかもしれない相手ですからね。あんまり距離が近いのもどうかと」

 

 

 別に問題ないと思うけどな、あくまで試合だし…まぁ気まずくなるかも、と言うのも理解できるが。

 と言うか、俺とも戦う可能性はあるが、それはいいのか。

 それにしても……神夜も明日奈も、普段の恰好のままなんだな。皆、鎧武者状態になってるのに。

 

 

「私はこれが一番戦いやすいですから。明日奈さんも同じです。こう言ってはなんですけど、まだちゃんとした鎧も作れていませんし…でしたら動きやすい方がいいじゃないですか」

 

 

 まぁな。異界探索中にそこそこの数の鬼を倒しているが、2人分の防具を作るには素材不足だ。

 『普段通りに動ける』と言う利点を捨ててまで、中途半端な防具を身に付ける必要はない。

 

 そう言えば、前に練習していた俺対策は完成したのか?

 

 

「ふふふ、秘密です。試合で当たれば、お披露目しますよ。…その前に、負けなければ…ですけど」

 

 

 戦狂いにしちゃ弱気な事を言う。

 

 

「明日奈さんとの闘いもありますが、その後に泥高丸さんとも当たるんですよねぇ。勿論負けるつもりで戦う事はありませんが、明日奈さんとは互角、泥高丸さんとは頭一つ分くらいは実力が離れてますから…。特に明日奈さん、泥高丸さんを見返してやるんだって張り切ってましたよ」

 

 

 ああ、それで明日奈が妙に気負ってる感じがするのか。

 それに、多くて2回負けたら終わり、負けた時の減点次第では1回で終わり…って言ってたな。

 武運を祈るよ。明日奈にもだけど。

 

 

「そちらこそ……あら、太鼓の音。どうやら始まるようですね」

 

 

 え、もう? 開会式とかは……ああ、俺らがこっちに引っ込んでる間に、観客の前でやっちゃった訳ね。

 開会宣言は泥高丸か。千鬼長だし、そんなにおかしな事でもない。

 

 挨拶を終えて控室に戻って来た泥高丸は、少しばかり普段と違う姿をしていた。左腕だけを赤い甲冑で覆って、同じく朱色の槍を持っている。…十字槍か。

 …あれが泥高丸の本来の戦闘スタイルなのだろうか? 以前に任務の前にすれ違った時は、普通の鎧姿だったけど。

 

 

 …ま、いいか。数時間もしない内に、奴が戦う姿を見る機会はあるだろう。その時に考察すればいいや。

 そう考えて、試合場に目を向ける。庭に拵えられた試合場では、白浜君と新人モノノフが対面して、互いに頭を下げていた。

 ちなみにこの試合場、別に外に出てしまってもペナルティは無い。モノノフの戦いは山野に分け入っての鬼との闘いだ。平地で戦える事など滅多に無い。なので、庭の中なら、池だろうが築山だろうが、どこに入り込んでも問題はない。本人同士が同意の上なら、外に出たら負け…と言うのもありだが。

 

 

 

 ………で、その白浜君、3合と保たずに負けてしまった。白浜君の持ち点は最低限しかないので、もう完全に敗北が決まってしまった訳だ。

 がっくりと肩を落として退場する白浜君に、声はかけられない。同情するような視線を送る者も居たが…毎月の事なんだろうなぁ。

 皮肉にしか聞こえないだろうけど、頑張った方だと思うよ。

 腕前は…率直に言って、白浜君も新米モノノフも大して違いはなかった。使っている武器防具の差がモロに出たって感じだった。

 

 具体的には、初太刀は互いの斬撃で弾かれ、二撃目は新人モノノフの胴薙ぎを白浜君が何とか弾く。そして、体勢を崩した新人モノノフに対して、白浜君が袈裟斬りで反撃…すると同時に、新人モノノフが体勢を崩した状態から反撃。

 ほぼ同時に攻撃が当たったが、切り裂かれたのは白浜君一人だった。そりゃそーだ、白浜君は防御力が殆ど無い胴着で、相手は仮にも鬼との闘いを想定した鎧を着てたんだから。

 たられば、もしも…を語っても仕方ないが、白浜君もちゃんとした防具を着けていれば、もう少し試合は続いていただろう。お互い、鎧を切り裂けるような技量はないんだし。

 白浜君が防具を用意できなかったのは、それが出来るだけの素材を用意できなかったから…つまりはモノノフとしての活動が出来てなかったので、そういう意味では完全に実力による負けではあるな。

 

 白浜君は道場の隅っこに移動し、落ち込みながらも練武戦の観戦をするつもりのようだ。

 

 

 

 試合場には次の選手が昇り、また戦い始めている。ふむ…。やはり新米だらけだが、見るべきところがある奴も居るな。

 中には初っ端から鬼纏を使って戦う奴も居る。鬼纏同志の高速戦闘は、見ていて結構面白かった。

 

 

 暫くあまり知らないモノノフの戦いが続いていたが、ようやく明日奈の出番がやってきた。不敵な笑みを浮かべて試合場に上る。

 相手のモノノフは中堅どころのおっさんだ。一瞬だけ、『女子供が』って侮りも見えたが、それはすぐに消え去った。

 明日奈の何かを感じ取ったのか、それともその考え自体が大きな隙、慢心だと引き締め直したのか。何にせよ、本気で相手しようとするのはいい事だ。後で自分への言い訳もできないから。

 

 細剣を手にした明日奈は、切っ先を相手に向けて銅像のようにピタリと動きを止めた。

 傍目には呼吸をしているのかすら疑わしくなる姿だが、彼女が何十分もその状態を維持し続ける事が出来るのを、俺は身を以て知っている。

 ブレも隙もないその体勢を向けられるのは、相手にしてみればいつ発射するか分からない、セーフティの外れた銃を突きつけられているようなものだろう。火縄が回転しない火縄盆とか、肝練りじゃなくて普通に死刑だろ。…避けるか弾くか許されているのは、救いではないと思う。

 

 普段、鬼を相手に戦う時にはもっと激しく動き回り、どちらかと言うと野生の豹のような印象を受ける明日奈だが、人間相手だと全く逆の戦い方をするんだよなぁ。

 …にしても、先日の夜通し稽古の時よりも腕を上げたな。

 

 

「そうですね。明日奈さんも、ああまで一方的に叩きのめされてひどく悔しかったようです。密かに鍛錬していたようですよ」

 

 

 

 相手も冷や汗垂らしてる…こりゃ決着は見えたな。明日奈のプレッシャーに耐え切れず、牽制を放とうとした相手のモノノフだが。

 

 

 

「そこまでッ!」

 

 

 次の瞬間には、細剣が首元に突き付けられていた。

 この停止からトップスピードへの極端な変化は、対人戦における明日奈の最大の武器である。流石に、前兆全く無し…所謂、無拍子とは程遠いが。

 細剣という性質上、彼女の武器は斬撃よりも刺突に向いている。ただでさえ視認し辛い細剣の突きが、ほぼ前触れ無しで飛んでくるのである。

 逆に、彼女は自分がかけるプレッシャーによって、相手がどのタイミングで仕掛けてくるか、じっと観察している。中途半端な攻撃を放ってきたら、それを避けつつ、敵の刃の陰に刺突を隠して最短距離をトップスピードで突き破るのだ。

 はっきり言えば、彼女のプレッシャーに気圧されされてしまった次点で、相手の負けは7割方決まったも同じである。

 

 尚、この辺の解説は口には出してない。周囲にはこれから明日奈と戦うかもしれないモノノフが沢山いるんだしね。

 

 

 はー、相変わらず見事なもんだ。

 

 

 

「…それを平然と叩き潰した貴方が言っても、皮肉にしかならない…と、明日奈さんが視線で語っておられますが?」

 

 

 だって、逆を言えば動じなければいいだけだもの。何時間もの根気の比べ合いに付き合うんだと最初から思っておけば、そうそう焦る事はないぞ。

 そういう意味じゃ、基本的に格下、或いは同格にしか通じない戦法ではあるな。

 勿論、それが無くても不動から最高速度へ移りながらの突きは脅威だが………悪いけど、最高速度に達する前に3回は横薙ぎ出来るんだよなぁ。

 

 

「…3回程度ではないでしょう…。あの時の稽古で、私と明日奈さんの同時攻撃を避けたと思ったら、手足に胴に首に頭に、17回も掌底を受けて…つまりは、やろうと思えば34回攻撃が出来ると言う事でしょう。何の幻術かと思いましたが」

 

 

 知り合いの暗殺者から教わった、無駄を極限まで省いたキルストリーク…連続攻撃の応用だゾ。尤も、一人を相手に17回も触れてる次点で無駄だらけだけどな。

 本当なら、一人に対して急所に一撃するだけで済ませて、次の相手に向かう。

 鬼が相手だと、一度急所を刺した程度じゃ死なないから、イマイチ使いづらいんだよなぁ…。

 

 

 なんて事をブツクサ言ってるうちに、明日奈が次々に相手のモノノフを撃破している。

 本当に、腕を上げたものだ。俺との模擬戦以上に、日々の戦いこそが彼女の糧になっているのだろう。

 元々、実力はあるのに相応の場に出してもらえなかった訳だからなぁ…。そりゃ、天賦の才が許すところまでは、破竹の勢いで駆けあがるだろう。許すところまでは、ね。

 

 

 …てーかおい、神夜。剣気を抑えろ。

 

 

「…はしたないとは思いますが、ご容赦くださいませ。明日奈さんのあれ程に磨き上げられた武を見て、昂揚しております」

 

 

 なら猶更抑えろよ。お前と明日奈がやり合うのは、次の次だ。それまで余計な消耗してんじゃない。

 つぅか客席で剣気殺気を放つな。明日奈はともかく、相手の方がお前の剣気に反応してるじゃないか。ほれみろ、反応した瞬間に明日奈が一突きしちゃったよ。

 

 

「よいではありませんか。それだけ私の出番が早くなるのですし。それに、気当たりを受けているのは明日奈さんも同じ事。同じ条件なのですし、目の前の敵から注意を反らした方が負けただけです」

 

 

 戦いの事になると、ブレーキ壊れるなぁこの子。欲望に素直だな。

 酷い戦いにならなきゃいいんだが。基本的に斬り合いを好む子だけど、いざとなったら取っ組み合いでもなんでもやる。刀を放り出して、キャットファイトに突入したら…それはそれで眼福かもしれない。

 

 

「あら、出番のようですね。それでは行ってまいります」

 

 

 進行役に名を呼ばれた神夜は、相変わらずでっかい斬冠刀を担ぎ、気楽な足取りで試合場へ向かう。

 だが、朗らかな表情とは裏腹に、全身から剣気を撒き散らしまくっていた。観客達が、モノノフを含めて顔を青褪めて道を開ける程だ。『これさえなければ…』って声も聞こえた。

 

 

「さて…では、始めましょうか、明日奈さん。あの方と当たるまで、切り札は隠しておくつもりでしたが…全て使い切る必要がありそうです」

 

「こっちもよ……と言いたい所なんだけど、一ついいかしら」

 

「…何です?」

 

 

 さぁ試合開始、といった場面で待ったをかけられ、神夜は興醒め極まりない、とでも言いたげな顔をした。

 明日奈は構わず、審判に対して話しかける。

 

 

「今回の戦いは、試合場の中だけにしたいんだけど」

 

「…それは…こちらとしては問題ないが、神夜はどうなんだ?」

 

「全く問題ありません! つまらない事かと思って申し訳ないです!」

 

 

 …何のつもりだろうか? 神夜としては間近で斬り合える事が嬉しいようだが、意味もなく明日奈がこういう提案をするとは思えない。

 逃げ道を断った? 或いは、明日奈の切り札への布石か、逆に神夜の猛攻を凌ぐための布石か。

 

 それとも…?

 

 

 試合場のみでの戦いに同意して、二人は向き合って構える。

 空気がヒリついてる…先日の稽古の時とは、真剣味も一味違うな。

 

 ジリジリと、少しずつ間合いを微調整しあう二人。明日奈はカウンターを狙っているようで、逆に隙あらば貫いてやろうという気概に溢れている。神夜は、明日奈とは真逆の飛び掛かる直前の獣を思わせる、上段の構え。何があろうと叩き斬る、と言わんばかり。

 

 

 …本気で向き合っている二人を見て、明日奈が戦場を試合場のみに限定した理由が、何となくわかった。

 気圧されして下がってしまわないよう、逃げ道を断ったのもある。

 お互いに逃げ道を作らず、鉄火場で正面から向き合う為なのもある。

 

 しかし本当の理由は、勝負を一撃で決め、自分達がやり過ぎるのを止める為。

 互いの手の内をよく知っている二人だ。攻撃力の高さも、それを避ける方法も、身を以て知っている。

 

 一撃受ければ、まず間違いなく場外まで飛ばされる。傷を負い、しかし致命傷ではないままで。

 そこから始まる追撃、反撃、傷を無視しての応酬。どうやったって無事じゃ済むまい。それを承知で突き進みかねないのが、この二人の怖いところ。

 

 だからこそ、明日奈は場外負けのルールを設定した。

 そうすれば、致命的な縺れ合いに雪崩れ込む前に、勝負がつくように。

 

 

 最初に動いたのは神夜。僅かに上体を逸らして勢いを付け、地を割らんばかりの唐竹割り。

 対する明日奈は僅かに身をよじらせて半身になってこれを避け、斬冠刀の峰に足を乗せて封じようとする。

 神夜は凄まじい膂力で斬冠刀の勢いを殺し、手首を捻ってこれを避ける。同時に逆袈裟に切り上げるが、一歩踏みこんだ明日奈が神夜の指に狙いをつけた突き。咄嗟に片手を放してこれを避けるものの、逆袈裟の威力は半減。体を屈めた明日奈に避けられた。

 低い体勢となっている明日奈の顔面に向けて、神夜の蹴りが放たれる。牽制の威力では治まらないソレを、明日奈は体で抱え込むようにして受け止めた。神夜の足を片手で掴み、逆の腕で片手突き。大きく体を逸らして避ける神夜。

 体勢を崩した瞬間を狙い、肩口からのタックルで神夜を吹き飛ばす。体一つ分の距離が空いて………その距離は、お互いに最も得意な攻撃の間合いだった。互いにタマフリを使う、ほんの一瞬の間。

 

 この試合で初めて、激しい金属音が響き渡る。

 全身の加速と質量とバフを乗せた、明日奈の突撃と。

 着地の為に少しだけ動作に後れを取り、それでも動じる事なく放たれた神夜の横薙ぎ。

 

 二人の攻撃の激突は、辛うじて明日奈が優勢だった。

 攻撃力だけで言えば巨大な質量を持つ斬冠刀に軍配が上がっただろうが、その火力を発揮するようになる前に明日奈の突撃がぶち当たった。

 互いに弾かれ、足を踏ん張るも勢いを殺しきれずに後退。

 

 明日奈は地面に手を突いて、辛うじて試合場に残った。

 そして、神夜は斬冠刀を地面に突き立てるも、掴まるには力が足りなかったのか、手を放して試合場の外へ………。

 

 

 

 飛ばされて、空中でジャンプして試合場に戻って来た。

 

 

 

 呆気に取られる観客に構わず、神夜は地面に突き立てた斬冠刀を逆手に引き抜き、掬いあげるように明日奈に叩きつけた。大質量に吹き飛ばされ、放物線を描いて落下する。

 ドサッ、と音がして、

 

 

 

「そこまで! 勝者、神夜!」

 

 

 …決着。司会の人も、予想外の事があって状況が理解できず、反射的に言葉を出したようだった。

 だがファインプレー。試合場の中だけの戦い、という事を忘れた神夜が、追撃をかけようとしていたからだ。宣言を聞いて、我に返ったようだ。

 

 なんともまぁ…空中ジャンプか。モノノフ的には、足場があれば出来る奴はそう珍しくはないけど、あの場面で出すとはなぁ…。

 

 

「いったぁ……ああ、負けちゃったか…。忘れてたわ、あの曲芸があったの…。まぁ、どっちにしろあの状態だと避けられなかっただろうけど…」

 

 

 神夜の空中ジャンプのカラクリ。それは単に足場を用意していたからだ。斬冠刀に仕込まれた、戦輪。俺との闘いの時でも使って見せた、投げた戦輪を足場としての跳躍。

 明日奈の突撃とぶつかり合った横薙ぎで、それを放っていたのだ。吹き飛ばされてから、その戦輪のある所に吹き飛ばされるかどうかは、運…だったのか、それとも吹き飛ばされる時に上手く調整したのか、或いはそのあたりに来ると予め予想して放っていたのか。

 

 ほれ、しっかりしろ。怪我はないな?

 

 

「あっちこっち痛いですけど、これくらいなら…」

 

 背中とお尻を擦りながら立ち上がる。痛みはあるようだが、戦闘続行は充分に可能…か。

 そうだとしても、落下際をあの勢いの神夜に追撃されて、それを凌げるかは微妙…いや、正直言って厳しいだろう。

 完全な負けではない…と言うのは、明日奈にとって救いだったろうか? …そんな筈はない。平静を装っているが、手が強張っているのは悔しさを見せまいとして堪えているのだろう。

 

 

「じゃ、私は交代ね。次は勝つわよ、神夜」

 

「いつでも来いです! まだ統計では負け越しているので、次も勝ちます! 勝ち越しても勝ちます!」

 

 

 …明日奈、勝ち越してたんだな。

 

 

「ええ、あの子って血が上りやすい上に気分屋ですから、割と隙を突きやすいんです。その分、波に乗った時の攻撃力はとんでもない事になりますけど」

 

 

 まーそれも分かるけどね。

 ところで、明日奈の出番はこれで終わりなのか?

 

 

「いえ、持ち点はまだ少しだけ残ってますから、もう一回負けるまでは戦えます。…まぁ、今は…神夜の出番ですけどね」

 

 

 暗に、自分を見るなと言っているのだろうか…。

 泣き顔を見る趣味は無いが、放置しておく気も無い。隣に座り込み、ほんのり体温を感じる距離で試合場に目を向けた。

 

 …ほんの僅かに、明日奈が身を寄せてきたのを知らないフリをした。

 

 

 それはそれとして試合場では、神夜が大暴れしている。

 いや本当に大暴れだ。チラチラ見えそうで見えない大事な部分に男モノノフ共のテンションが上がりまくっている。

 だが、当の神夜はそれ以上にハイテンション、それこそトランス状態かゾーンにでも首突っ込んでるんじゃないかと思うくらいだ。明日奈に勝利した事で、気分がノリにノッているんだろう。

 

 対峙する対戦相手達も決して弱いモノノフではない。総合力で言えば、神夜の数段上を行きそうなベテランも、準エース級と言って差し支えないモノノフも居た。

 だがスーパーハイテンション状態が持続している神夜は、容赦なく斬冠刀で吹っ飛ばす。防御を切り裂き、攻撃を逆に斬り潰し、タマフリは知らぬとばかりに蹴り倒し、鬼纏相手は流石に無傷とはいかないものの、戦輪も絡めた位置取りで追い詰めて一閃。

 …完全に凶戦士と化しておるのぅ。

 

 

「あぁ…」

 

 

 隣の明日奈が、駄目だコリャとばかりに顔を覆っている。

 …意外と元気そうだ。

 

 

「? 負けて悔しかったのは確かですけど、練武戦って毎月一回はやってるんですよ。一々悔しがって後に引いてたら、きりがありません。練武戦で戦った事も、一度や二度じゃありませんし」

 

 

 あ、そう? …で、どしたの。

 

 

「多分、次の次辺りから調子を崩してきます。楽勝すぎて、興味が無くなってくる頃です…」

 

 

 ……気分屋だなぁ、本当に。

 いや、本人の性格としては、真面目でちょっと引っ込み思案で、とってもいい子なんだけど。

 戦狂いの性質だけは、まるで後から付け加えられたように噛み合わない。逆に噛み合った時に、とんでもない戦力を叩き出しもするけども。

 

 明日奈が言うように、神夜は徐々に精彩を失っていった。

 圧倒的な質量と馬力で大暴れを続けているように見えて、腕の振りが、位置取りが、機の見極めが、段々と大雑把になっていく。

 それに気付いているのは、付き合いの長い明日奈と俺、寒雷の旦那、他には特に経験を積んでいるモノノフと…泥高丸くらいか。

 

 戦力としての評価は高いんだけど、モノノフとして今一つ安定して運用できないのは、こういう所からなんだろうなぁ…。 

 さて、どう躾けたもんか…。俺が傍に居る時なら、適当に相手してやればいいだけだが。今は近くに居ても……。

 

 

(…もうちょっと勝ち進めば、この人ともう一回戦えるんだけどなぁ…忘れてるんだろうなぁ…)

 

 

 激励すべきか? いやでも興醒めするのも本人の実力の内だしなぁ…。

 うん、黙っておこう。敗北の方が経験になる。俺に対するヒサツワザも作ってきてたみたいだが、それを披露するまでもなく負ける…。厳しいようだが、自業自得だ。

 

 明日奈の予想通り、神夜は数戦した後に敗北した。

 相手はエース級の一人、泥高丸の取り巻きの中心人物とも言える一人。ちなみに女性。

 戦い方は至極真っ当で、使っていた武器はヌヌ刀。あの武器の使い方は、ヌヌ刀と言うよりはマインゴーシュに近いか。或いはいっそ、無刀取りと言ってもいいだろうか。白羽取りとかの事じゃなくて、小太刀で手首を狙う奴。

 

 精彩を欠く神夜の剣戟は、彼女の狙いから逃げきれなかった。タイミングよく鬼纏を発動させ、不意をついたのも大きいだろう。

 とは言え、よくやれたものだ。鬼纏で行動速度が2倍になるとは言え、神夜が斬冠刀を振り下ろし始めてから鬼纏発動、下しきる前に懐に飛び込んで、手首と腹に切っ先を押し当てる…。

 タイミングをしっかり計算し、機を逃さず準備を整え、剣閃の軌道を把握して…何より、当たらない、予測が外れないと確信して、斬り降ろしの軌道に入って行ける勝負度胸。

 絶好調の神夜なら、反射的にタイミングをずらしたり、軌道を変えたりできただろうに…。

 

 ま、はっきり言えば実力負けだな。

 ……勝った方の女モノノフに、「こいつにだけは負けてなるものか」的な執念が感じられたが、気のせい……じゃないな。目線が揺れる乳に行っとる。

 72がとは言わないが、ご愁傷様だ。小さければ小さいなりの楽しみ方もあるんだけども、慰めにもなりゃしないだろうな…。

 

 

 試合場から降りた神夜は、誤魔化し笑いをしながら俺達の傍にやってきた。

 

 

「あ、あははは…負けてしまいました」

 

「しまいました、じゃないの。全く、毎回毎回あなたときたら…興味を無くして負けるのは、もう何度目? 大体ねぇ…」

 

 

 俺を挟んで説教すんなよ…。明日奈の反対側に腰を下ろした神夜は、さしてショックを受けている様子はない。

 しかし妙なもんだな。戦狂の気質からして、いくら楽な戦いだったとしても、手を抜くとは考えにくいんだけど。

 

 

「…まぁ、そうなんですけどね。これ、本人も制御できないみたいですから」

 

「私はちゃんと、真剣に戦って、本当に楽しんでいたのですけども」

 

 

 ふむ…無意識下での心の動きは、そうそう制御できるもんじゃないからなぁ…。とは言え、勝ちが続いて慢心した所に見事に逆襲喰らった訳だからな。情けないっちゃ情けない…。

 

 

「うぅ、二人が虐めます…それも無理はありませんけど…。寸止めではなく、本当の斬った張ったなら、こんな事は無かったんすけど」

 

「要するに斬り合いに緊張感が足りないって事? 確かに、鬼と戦っている時には、どれだけ倒しても慢心はしてないわね。…次の獲物、次の獲物って血に飢えてるけども」

 

「言い訳にもならないと言う事は、よーく分かっているのですが………。……? あら? あの…」

 

 

 うん?

 

 

「もうすぐ出番の筈ですけど、武器はどうなされるのですか?」

 

 

 …俺?

 武器ってそれは………………あ。

 

 手ブラで来てるよ。

 いや、持ってはいるんだ、持っては。ふくろ はいつも持ち歩いてるし、この中には3つ(+α)の世界で手に入れた色んな代物が詰め込まれている。

 今やほぼメインウェポン兼切り札となった神機は勿論、MH世界のトンデモ武器(見かけ含む)もあるし、討鬼伝世界の素材のみで作り上げた、世界観的におかしくない武器も各種ある。レベルがインフレしてる武器だけど。

 

 でも手元に出してない。

 どーすっかな…白打でもやれない事はないと思うが、相手によるし、流石に舐めていると思われる。今後の人間関係に多大な影響を与えそうなので、それは避けたい。

 今この場で取り出す……美少女二人に挟まれている事も相まって、俺にも視線が集まってる。この状況で、人目に触れずに武器を取り出すのは流石に無理。ていうか試合見ろよお前ら。

 厠で取り出す? ……長蛇の列だ。何人か股間を抑えて身悶えしてる人がいる。あまり関わりたくない。

 道場の外へ……いやダメだ、このタイミングで外に出ればやっぱり目立つ。

 

 

 

 …周囲を見回すと…お、いいもの見つけた。

 

 

「そこまで! 次の挑戦者、前へ! 次は…」

 

 

 俺の名前が呼ばれ、檀上に上がるよう声をかけられる。周囲から視線が集まった。…色んな意味で注目されてたようだな。異界浄化をやった本人と言うのは、既に広まっている。

 どれだけ戦えるのか、期待半分疑い半分って所かな。

 

 さて。

 

 

「頑張ってくだ……あれ、何処へ?」

 

 

 ん、ちょっと待って。はいはい、ちょっと通してくださいなっと。

 

 観客達の間を通り、道場の隅っこへ。そこでは、白浜君が相変わらず三角座りで落ち込んだまま、それでも試合を見続けていた。

 白浜君、ちょっとこれ貸してちょーだい。

 

 

「へ? 僕の刀…ですか? いいですけど、それって一番下級の、訓練兵用の無名の量産品ですよ…。堅いだけで、竹刀と殆ど変わりありません」

 

 

 硬さと重さで言えば、竹刀よりは木刀じゃねーの?

 ま、いいから貸してよ。得物忘れてきちゃってさ。

 

 

 …はい、お待たせしました。

 壇上に上がったが、呆れたような視線が痛い。

 

 

「…モノノフが武器を忘れるとは、いったい何をやっておるのだ」

 

 

 練武戦自体が初めてだからなぁ。どういう形式なのか、今一理解してなかったんだよ。

 別に舐めてるつもりはない。

 

 

「…舐めているなら舐めているで、鼻を明かしてやろう。負けて後悔するのは貴様だ」

 

 

 …あ、やっぱりちょっと怒ってるな。

 ま、とりあえず…。

 

 

「無駄口はそこまでだ。両者、開始線に立って……初めッ!」

 

 

 終わり。

 

 

「っ…!」

 

 

 喉元に、刀の柄頭を突き付ける。やった事は単純だ。開始の合図と同時に、距離を詰めて腕を上げただけ。

 試合は相手が構える前に終わった。

 

 舐められた怒りがどうのより、連戦で集中力が切れてるぞ。

 強い弱いも大事だが、まず自分の状態を把握できるようになるこった。

 

 

「ぐ……ぬ…侮ったのは俺の方だったか…不覚…」

 

 

 奥歯を食いしばって、礼をするモノノフに応えて頭を下げる。

 盛り上がりも何もなく、一瞬で終わってしまった試合だったが、それでも観客達が…特に有力なモノノフが俺を見る目が変わったのが分かった。

 俺が相手にしたのは、里でも有名な準エース級。それが反応する事さえ許されず、一撃で負けてしまったのだ。実際に戦っている所を見た事が無かったモノノフ達も、そりゃ見る目が変わるだろう。今まで半信半疑だった俺の力の一端(異界の浄化と戦闘力は別物だしね)を目の当たりにして、認識を改めたようだ。

 

 そのまま俺の試合は続く。

 踏み込みの速度を警戒したのか、次のモノノフ(槍使い)はバックステップで距離を取り、近寄らせまいと牽制してきた。

 槍が引き戻されるのに合わせて踏み込み、石突を使った反撃は鞘で受け流し、バランスを崩したところに足を引っかけて転ばせる。鞘を突き付けて動きを封じて終了。

 

 太刀使いは初撃で決めようとしたのか、居合を使った。タイミングを見計らう必要もなく、正面から近付く。振り抜かれた刀を回避ランサーじみたサイドステップで避け、振り抜いた刃を叩き落す。一見すると、自分から辺りに行った俺が刃を擦り抜けたように見えただろう。

 

 珍しい事に、弓使いも居た。流れ弾の危険もあるし、練武戦ではあまり使われないと聞いたんだが…。

 タマフリと連携して飛ばされてくる矢を全て叩き落し、距離を取ろうとする弓使いに鬼疾風で一気に接近。弦を斬って終了。

 

 ヌヌ剣使いは、温存を考えずに最初から鬼纏を使ってきた。怒涛の連続攻撃を回避・防御し、飛び上がってからの回天…に入ろうとしたところで、空中にある足を鷲掴みにし、片手で一本背負い。地面に叩きつけたモノノフに、また鞘を突き付けて終了。

 

 続いてもう一人太刀使い。彼は前の試合で既に鬼纏を使ってしまっている為、手数やスピードよりも正確に隙を狙う事に重点を置いてきた。

 「剣は両手で握った方が強いんだぜ」とばかりに、唐竹割りで一閃。…そういや、初めて刀を抜いたな。竹刀や木刀に近いってだけあって、打撃武器と思った方がよさそうだ。

 

 

 ふむ、そろそろエース級のがちらほら出てくるかな?

 

 

 槍使いは、俺の牽制の攻撃に合わせて鷹襲突で飛び上がって奇襲してきたので、逆にそれ以上に高く飛び上がってからの踵落とし。

 

 太刀使いは防御を度外視して猛攻を仕掛けてきた。切り裂くよりも、とにかく数を当てる事を重視していた。何かと思えば、残心を使っていたようだ。当てるだけ当てて、本命は残心解放だったか。

 スタミナが尽きる直前に反撃し、態勢を崩させてやると残心は消滅した。スタミナ切れで、ろくに回避もできない状態になってしまったので、一撃入れて終了。

 

 また槍使い。こいつの烈塵突は一味違った。相当に使い込んだんだろう。

 が、幾ら早い連続突きでも、実体は一つ。一発のタイミングと軌道を見定めて、それを受け流しながら、無駄を極限まで省いたアサシン式カウンター。喉元に柄を突き付ける。

 

 次のヌヌ刀使いは、武器よりもタマフリがメインだったようだ。範囲攻撃とばかりに、火矢のようなタマフリが降り注ぐが、ブシドージャスト回避で飛び出して奇襲。危く、勢い余って真っ二つにするところだった。

 

 泥高丸と行動をよく一緒にしていた弓使いは、タマフリによる足止めからの鬼千切を狙ってきた。鞘を使ってピッチャー返しした。

 

 

 …正面から切り結べるレベルの相手が出始めた。まぁ全力にはほど遠いけど。

 

 極限の集中の為か、能面じみた表情で戦う老モノノフは戦匠だった。あの手この手で俺の行動を誘導し、罠に嵌めようとする。俺の動きを読み違えた瞬間を見計らい、抑え込んで勝利。

 

 試合場の上での戦いを望んだ若者は、武士と言うより相撲取りのようだった。事実、腰に差した刀を抜かず、回避なんぞさせんと言わんばかりの猛突進。鬼でも大きなダメージを受けそうな突撃だったが、大型モンスターの体当たりを受けてもよろめく程度で済むハンターに通じる程ではなかった。

 

 全身黒ずくめの、モノノフっつーよりニンジャみたいな奴は一味違う。逃げに徹するつもりかと思えば築山に誘い込み、障害物だらけの場所を利用して地の利を取ろうとした。最終的には互いに木に駆け上り、枝を足場に空中戦を繰り広げる事になってしまった。

 後から知ったが、彼は偵察部隊の頭領だったらしい。成程、地形を利用しての逃げ隠れ、戦闘はお手の物と言う訳だ。暗器も使ってきたし。

 だが、こちとら藪の中でも埃一つ被らずにいられるレジェンドラスタに散々教えを請い、バースト状態であれば二段ジャンプ、三段ジャンプもなんのそのなゴッドイーターでもある身。空中戦では俺に一日の長があった。…実際、空中ステップ見せた時には目が真ん丸になってた。

 

 なんかメッチャ笑いながら斬りかかってくるオッサンも居た。ありゃ戦闘狂ってレベルじゃねぇな。もっとイカレた何かだ。まぁ正面から殴り倒したけど、上手いこと気絶させられなかったらいつまで続いたか分からない。

 

 …ここまで色々描写したけど、実際に戦ったのはもっと多い。と言うか、得点不足で脱落してないモノノフとは、ほぼ全員戦ったんじゃないだろうか?

 印象に残った奴だけしか書いてないからね。

 

 周囲の観客達も、試合場に上ってくるモノノフも、随分と態度が変わったものだ。

 モノノフは、最初は好奇心、次は反感、今は挑戦。

 観客から向けられるのは、驚き、喝采、歓喜を経て……今は、畏怖と尊敬が半々、かな…。

 

 モノノフ達が本気出して向かってくるようになったのはいいんだけどなぁ…無双しすぎたか?

 里の人達にとっては、モノノフ達は程度の差はあれ力の象徴だ。里を守ってくれる、金眼四目の護り人、鬼を狩る鬼。

 それを、外から来たモノノフがこうも蹂躙すりゃあなぁ…。

 外の世界の戦力はどうなってんだとか、今まで自分を守ってくれてた人達の力に疑問を抱いたりとか色々あるだろ。

 

 そのトドメになったのが………里のエース、泥高丸との闘いだった。

 テンション高くなった明日奈と神夜との闘いを終えて(ここらの描写は後日に回したいと思う。いつになるか分からんが)、いよいよまだ戦ってない相手が数人しかいない、って状態になった時だった。

 

 

 

「次! 千鬼長、泥高丸!」

 

 

 奴さんの名前が呼ばれて、観客もモノノフもどよめいた。

 何ぞ? と思ったが、考えてみりゃ泥高丸は里のモノノフの中でも尤も腕が立ち、鬼纏の専門家でもある最大戦力扱いだったんだよな。

 率直に言って、負ける気がしないけど………だって、比較対象がレジェンドラスタだぜ…?

 人間のまま勝とうと思ったら、某龍珠世界からでも呼んでこなけりゃ……いやアレ以上にヤバい人達ならちょくちょく居そうだけどさ。具体的には黄金の獣とかアマッカスとか一撃男とか…そういう連中にもワンチャンありそうなのがあの人達だし。…いや、流石に無いかなぁ…地力が違い過ぎるし…。

 

 ま、まぁとにかくだ!

 相変わらず片腕だけの甲冑で、槍を持った泥高丸は大した気負いもなく俺の前に立った。

 自信に満ちたその表情は、負ける事など全く考えてないように見える。…それは俺も同じか。

 

 

「やる、とは聞いていたが…正直に言おう、思った以上だ。外のモノノフも、案外侮れんな」

 

 

 俺としては全く逆の感想を答えるけどね。田舎扱いしてる訳じゃないが、僻地のモノノフがよくここまで練り上げたもんだ。

 昔の強い人が言ってたっけな、田舎の道場には怖くて行けないって。

 

 

「田舎扱いしてるじゃないか。…オオマガトキで孤立する前から、田舎だったのは確からしいが。が、快進撃もここまでだ。俺には勝てん」

 

 

 軽く槍を振って、俺に切っ先を向ける。

 

 

「お前が鬼纏を、会得してない以上はな」

 

 

 随分と鬼纏に拘ってる事。技一つ持ってるだけで勝てるなら苦労はせんよ。

 ま、いいか。俺が勝てないって言いたいなら…実証してみせな。

 

 

「応!」

 

「初め!」

 

 

 空気とタイミングを呼んで開始宣言をする審判。

 互いにまずは牽制から入る。初っ端から鬼纏を使ってくるかと思ったが、単に出し惜しんでいるのか、それとも俺の腕に興味でもあるのか。

 

 二合三合と刃を合わせ、互いの技量を確認していく。

 …成程、里一番のモノノフと呼ばれるだけの事はある。

 

 技術だけなら、途中で戦った壮年のヌヌ刀使いの方が上。

 戦巧みと言うなら、老齢のモノノフが上。

 周囲にあるモノを利用するのであれば、偵察班の頭領が上。

 

 だが、一つ一つではそれらに及ばずとも、これらを高水準で持ち、そして若さ故の体力と持久力も兼ね備えた、モノノフとして最も脂ののった時期。

 これに加えて、やはり素質も抜きんでているのだろう。かなりの動体視力と反射神経で、攻防を読み違えても咄嗟の判断でそれをカバーする。それを成し遂げるだけの地力がある。

 

 何よりも、里でエースを張って、最前線で戦い続けた実力は伊達ではないと言う事か。

 理由もなく強く、理由のある強さも持った、長ずれば非常に面倒くさい事になる奴だ。

 

 

 今こうやって刃を交えている間にも、こいつの攻撃は徐々に激しさと正確さを増している。様子見を辞めて、ギアを上げて行っている。つまりまだまだ余裕がある訳だ。

 正直、それに付き合わずに問答無用で決めてしまうという事も考えた。

 むしろ戦術的にはそうするべきだ。強い相手が全力を出すのを待つ必要はない。舐めプされているなら、そこを突いてNDKするのが当然だ。

 

 

 …それをしない辺り、俺も結構楽しんでいるらしい。

 GE世界を含めて(MH世界を含むとは言ってない)、俺を相手にここまで渡り合える人間は殆ど居なかった。リンドウさんとかソーマとかならやり合えただろうけど、人間相手に戦う人達じゃないからな、ゴッドイーターは。

 実力があって、対人間用の武術も修めている討鬼伝世界のモノノフとの闘いは、かなり楽しい。

 ゲームでPvPが人気な訳だ。同類との闘いが、結局一番白熱する。

 

 

 フェイントを織り交ぜ、誘導した先に罠を張り、直撃コースを技量で捌く。

 一見すると激しい攻防に見えるだろうが、俺と泥高丸にとっては知恵比べに近い。…苦手な分野だ。

 

 今もほら、槍を薙ぎ払った隙に接近しようとすれば、ほんの一瞬だけ泥高丸の動きが止まり、隙を見せる。

 が、この隙は罠。払った槍を逆手に持ち替え、石突を直突きで放ってくる。

 さっき一瞬だけ止まったのは、この突きを確実に命中させる為に、一歩分踏み込ませるのが目的だった。

 既に完全に間合いの中に捕らえられ、どうやったって逃げられない…普通なら。

 

 望み通りに踏み込んでやったものの、脚力を全開にしてバックステップ。力技で慣性を殺して距離を取り、突きの引きに合わせて再度踏み込む。

 舌打ちする泥高丸は、お返しとばかりに放った突きを体を逸らして避け、そこから横に振るわれる刃は引き戻した槍を盾にして防いだ。

 

 こうしている間にも、動きを幾つも想定し、静動を積み重ねている。…静がどこにあると言われれば、俺達の中にあるとしか言えない。

 まだまだ、もっと早く動く事が出来る。更に素早く思考する事ができるのだから。尤も、思考領域を無駄に空けている訳ではない。相手を観察するのに使っているだけだ。

 …例えていうなら、芝居劇の殺陣の睨み合いを、超短時間でやっているようなものかな。

 

 

 それにしても、大した動体視力と反射神経だ。ここまでやれる奴は、体を強化されているゴッドイーターでも中々居ない。

 それだけ日常的に、鬼纏を使ってその速度に慣れているのだろう。

 

 しかし。まだ甘い。

 

 

 

 止まる事のない打ち合いの中、泥高丸の右後ろ脚に強い力が込められたのを察知する。

 その動きは何度も見た。烈塵突の前兆だ。

 モーションを盗まれた事を察知したようだが、泥高丸は構わずに槍を繰り出した。繰り出される連射は、単なるラッシュではない。一撃一撃をどう避けられたか、どう受けられたか見極め、確実に次の行動に反映させている。

 尤も、それはこちらも同じ事。繰り出される連射は脅威的だが、俺を追い詰める程ではない。

 むしろ。

 

 

 最後の一突きを避けると同時に踏み込んだ。泥高丸は槍を引き戻し、十字槍の突き出た部分で俺の頭を刈ろうとした。

 

 

 が、突き終わりの動きが止まる瞬間に、槍の胴を掴んで止める。同時に刀を抜き払い、槍を掴んでいる指を狙い打った。

 

 

「ぐっ!」

 

 

 鎧の上から致命傷を与えるには、ちと弱かったか…いや殺そうとしてる訳じゃないんだが。

 

 

「くっ……驚いたよ。想像以上だ…。いや、気に入らないが認めよう。地力で言えば、俺以上かもしれん。凡人という考えは、改めなければならんな」

 

 

 恐るべき突きの速さに対し、引き戻しに一瞬の停滞がある。お前さんの癖は、大体把握したよ。

 

 

「ほざけ! 調子に乗りおって…ここからが本番だ!」

 

 

 割と本気で頭に来たらしい泥高丸。体に流れている霊力が、一気に加速する。鬼纏か…。

 確かに、本番はここからだな!

 

 真正面から振るわれた胴薙ぎを弾いて防げば、次の瞬間には喉元を狙った突きが飛ぶ。鞘で叩き落して一手反撃…しようとしたが、脳天から振り下ろされる槍を体裁きで回避。逆に振り上げようとする槍を足場に回し蹴りで反撃。

 蹴りは肩の鎧で弾かれ、逆に体当たり。受け流して着地。同時にもう一度横薙ぎが飛んでくるので、バックステップで回避。しかしこれは狙い通りだったらしく、絶好の間合いとばかりに烈塵突が超高速で飛んできた。

 ただでさえ早い烈塵突が、鬼纏で2倍になると流石にキツい。横に転がって避け、それでも追尾してきたのでブシドー回避で間合いを開ける。着地と同時に走り、反撃の鬼人斬り…は泥高丸の突きとカチあって弾かれた。

 間髪入れず、足払いが飛んでくるので小ジャンプで回避、体重を乗せた兜割りに繋いで牽制、追撃を防ぐ。

 

 

「はっ、本当に感心するぜ! ここまで喰らい付くだけでも大したもんだ!」

 

 

 まだまだ余裕よ!

 

 攻撃が更に激しさを増した。突きからの薙ぎ、薙ぎからの切り上げ、石突、突進、叩き落し、振り回し…。

 呼吸を全く考えていないかのような、猛烈な攻め。嵐のように、と言ってもいいだろう。ラッシュという意味では、桜花や紅月などと言った、エース級のモノノフ以上。

 

 だがそれは、俺から見れば焦りの結果でもあった。

 確かに、俺は守勢に回っている。回らざるを得ない。圧倒的な連続攻撃を前に、手も足も出ない。傷を覚悟で反撃するならともかく、強い傷を負った時点で負けの判定をされるこの試合では、追い詰められて反撃の糸口を掴めてないように見えるだろう。

 

 ……ふむ、もうちょっとだな。

 

 しかし、実際に追い詰められているのは泥高丸である。

 俺を嬲って楽しんでいるような表情の裏に、「何故倒せない」「何故勝てない」「何故守りを抜けない」という疑問が渦巻いている。

 

 絶対の自信を持っている奥義、鬼纏を使っておきながら。もし、俺が泥高丸同様に鬼纏を発動させていれば、こうまで動揺はしなかっただろうに。

 

 そして、鬼纏の制限時間は着実に近づいている。

 …倒せない事に焦っている…と言うより、まるで鬼纏が絶対の技じゃなくなる事に怯えているように見えるが……はて、気のせいだろうか。

 

 何にせよ、いよいよ後少しで鬼纏が切れる…と言う頃合いになって、泥高丸はこれまでと違った行動に出た。

 何度目かの刃の応酬の最中、俺の袈裟斬りに合わせて跳躍する。単なるジャンプではない、槍を使った棒高跳び…鷹襲突だ。

 

 

 が、生憎とそれはカモでしかない。

 

 

 刀を構え直し、くたばれとでも言いたげに突き下ろされた槍を受け流す。そして降りてくる泥高丸に向けて、思い切り振り抜いた。

 

 

 

 鏡花の構え、参式。

 

 

 吹き飛ばされ、地面に転がる泥高丸を見ながら、太刀を下して静かに口にした。

 

 

「ぐ、がっ…! ば、馬鹿なっ…! 俺の、俺の鬼纏が…最強の奥義が…!」

 

 

 

 馬鹿はお前だ。折角の強力な術を無駄にしやがって…研究が足りてないぞ。

 鬼纏を過信しすぎなのも問題だが、それ以前の事が山ほどあるわい。

 

 驚愕に目を見開いている泥高丸は、槍を支えにしてよろよろと立ち上がる。さっきの鏡花の構えによるカウンターで、どう見ても一本だが…周囲の声が全く無い。勝ち負け以前に、里最強のモノノフがこうまであしらわれた事が受け入れられないのか。

 

 

 分かりやすい所から言うけどな、最後の鷹襲突、あれは本当にダメダメのダメ。

 今まで使ってない技を突然繰り出して奇襲をしたつもりなんだろうが、鬼纏は体の動きを早くする技だろ。空中での落下速度が変わる訳じゃない。勢いよく飛び上がれば、その分落下までの時間は長くなる。だから、わざわざ鏡花の構えなんて取る時間ができたんだ。飛び上がりながら下に向かって突いたところで、大した威力は出ないしな。

 合わない技で奇襲を仕掛けるくらいなら、そのまま打ち合ってた方がまだよかった。

 

 

 次に、攻撃が直接攻撃ばかりだったのがいただけない。

 鬼みたいにデカい奴ばかりを相手にしているとそうなるのは理解できるが、槍には絡めとるとか引っ掛けるって使い方もあるんだぞ。対人戦で槍衾はほぼ意味ないけど…。

 人間相手は、地力と鬼纏の圧倒的な速度で叩きのめしてきたんだろうが、武の基本は相手の体勢を崩してからの攻撃だろ。それも直接攻撃の連打でやればいいと思ってたのかもしれんが、鬼纏の動きの速さが活かされるのは、むしろ相手の動きを崩した直後だ。使い手の硬直が非常に少ないから、隙だらけのところに一方的に攻撃できる。

 勿論、直接攻撃と搦め手の使い分けこそが重要な訳だが。

 

 

 でもって、自分の速度に完全について行けてない。行動自体は早いんだけど、回避した後、次の行動に移るまで若干時間が空いてるモノノフが多いな。泥高丸はそうでもなかったけど。

 もっと使って速度に慣れて、そして鬼纏が切れた瞬間の意識もしっかり切り替えないと、突然動きが失速して、いつか痛い目を見るぞ。

 

 

 最後に、俺を倒せないからって、どんどん焦り始めただろう。

 後になればなる程、攻撃の手数ばかりに気が行って、まともな打ち込みが少なくなってきていた。おかげで呼吸は読みやすいし、動きが荒くなって癖を見れば何処を狙っているのかすぐ分かった。意固地になって殴り掛かってくる子供みたいだったぞ。

 本当に鬼纏が最強の技で、自分は勝つんだと思っているなら、制限時間が迫ろうと奥義が破られようと、呼吸を乱さずかかってこんかい。

 鬼纏は確かに珍しい技だが、外の世界じゃ似たような技は幾つか伝わってる。対応策が練られてないと思うのは、世間知らずもいいところだ。

 

 里の連中を見ていてよく分かったが、あんたらにとって、鬼纏に抵抗できるのは鬼纏しかないんだろう。

 が、制限時間あり、術を自由に解く事も発動する事もできない、時間が経てば経つ程焦りが出るんじゃ、わざわざ対抗して術を使う程のもんじゃない。

 ちょっと戦い慣れた奴なら、一旦守勢に回って時間切れを待って、息切れした所にここぞとばかりに逆襲するよ。誰の言葉だったかな…「守りに徹すれば、そうそう負ける事はない」。

 自分の強さを跳ね上げる術と思っているから気付かないんだろうが、この術は良くも悪くも、彼我の戦闘力の差を広げる術だと思った方がいい。瞬間火力を跳ね上げて、勝てる相手に一瞬で勝つ。勝てない相手には補助にしかならないのが、この術の本質だ。

 泥高丸、お前が鬼纏を使って里のモノノフに負けた事が無いのは、地力が一番高いからだよ。

 

 

 大体、お前は新しい鬼纏で、制限時間を大幅に伸ばす事に成功したんだろうが。

 焦れて鷹襲突を使ったのは、今までの鬼纏と同じ制限時間だったぞ。今までの鬼纏との違いが、まだ体に染みついてないんだな。研究も練習も不足しとる。

 

 …あと、これはこの里のモノノフ、ほぼ全員に言える事だが…集中の持続時間が非常に短い。

 鬼との闘いが、湯が冷める程度の時間しか続かない為だろうが…試合が始まってから、大体同じ時間で気が抜けてくる。その分、短時間での集中力は結構なものがあるけども、連戦には向かないな。そのせいで、さっきまでの試合でも数戦戦って負け…って人が多かった。

 

 

 

 …すぐに目立つ部分と言えば、こんなもんかな。余所者が好き勝手言って悪いが、総括すると…鬼纏を妄信しすぎ。それを覚えてるだけで勝ち負けが決まるようなもんじゃない。

 

 

「ぐっ…だ、黙れ……俺は…俺は負けん…! ………親父……兄さん……」

 

 

 立ち上がった泥高丸は、最後の力を振り絞ろうとしていた。

 隙だらけのフラフラな体で、残った力を全て槍に凝縮している……鬼千切か。

 

 

 だがタマフリ・不動金縛。

 

 

 その根性は認める。…手向けに、派手にやってやる。寝てろ。

 鬼千切・極。

 

 

 立ち上った霊力の剣で吹き飛ばされ、泥高丸は今度こそ意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 …その後は、まぁ…静かな阿鼻叫喚、とでもいうのかね。要するに、俺に向けられる視線は殆どが畏怖に塗り替えられてしまった。

 里の最強のモノノフが簡単に倒され、練武戦の王者も入れ替わった。

 絶対だった筈の鬼纏という力の象徴が打ち破られ、その欠点も余所者に指摘された。

 

 どれくらいの影響があるのか今一予測できないが、里のヒエラルキーや不文律に大きな変化がある事は間違いないと思う。

 

 そんな微妙な空気の中、練武戦の優勝者って事で、雪華から今後もその力を里に役立ててください的な事を言われて解散。

 さて、明日からどうなるかねぇ。

 せめて、神夜と明日奈だけでも今まで通りでいてほしい…散々好き勝手やっといて、なんだけども。

 

 

 




討鬼伝世界登場人物表兼コメント

Q.練武戦の感想は?

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。
    A…外来の人が優勝かぁ。みんなも頑張ってたけど、世界は広いね。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    A…里人の動揺を抑えないと…。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    A…猛烈な戦いでした! これなら里もきっと安泰ですね。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
    A…武器が無いなら貸してやるよ…。練習用の竹光で優勝されるのは複雑だった。

・風華…祭祀堂の巫女。
    A…華天をようやく見つけて確保。息も絶え絶えだった。

他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
    A…超強い、物知り、性格も(割と)悪くない、異界の浄化…え、これって実在の人? 私の妄想じゃないわよね?

・神夜…無限のフロンティアより。
    A…また負けました…。優勝したあの方を見ていると、何だか体が熱くなります。

オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)
・白浜屋の店主…落ちこぼれのモノノフ。
    A…強くなりたい…あの人に賭けるしかない!

・泥高丸…でいこうがん。
    A…まだ意識が戻ってない。


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401話

GE3、プレイ中。
だがオデッセイもまだプレイ中。

それはそれとして……灰域ってまんま異界だな。
灰嵐に至っちゃオオマガトキっぽいし。

うーん、クロスさせる取っ掛かりは見えたけど、まだ真相が明らかになってないし、暫く討鬼伝モノノフの話が進むし、まだ考えなくてもいいか。
いっそ夢という形で、本編終了後のワンシーンとして…?


魔禍月弐日目

 

 

 さて、よくも悪くも練武戦が終わり、今日は片付けの日だ。

 周囲からの視線がどうなるか、今から憂鬱だった。

 

 

 

「弟子にしてください!」

 

 

 

 ………これは予想外だったよ。朝が来て、扉をあけた第一声がコレだ。

 いや、家の外に誰かいるなぁとは思ってたんだけど……まさか朝っぱらから土下座する白浜君を見る事になるとは。

 

 あ、ごめん、これ返すの忘れてた。

 

 

「あ、どうも…。いえそうじゃなくて! その、朝から申し訳ないとは思うんですけど、弟子に…」

 

 

 待て待て、何でそうなった。

 普通に教官に訓練つけてもらえばいいじゃない。

 

 

「教官からは、もう出来る限りの事はしていると言われています。素質の無さが絶望的だと、何度言われた事か」

 

 

 素質は教える人間じゃ変わらんぞ。俺は遠からず、里から出て去るつもりの人間だ。

 途中で教わる人間が変わっても、ロクな事にならない。

 ついでに言えば、俺が強いからって、人を育てるのに向いてる訳でもない。

 

 

「それでも、僕はもう貴方に賭けるしかないんです。今まで何をやっても、強くなれませんでした。努力が足りてなかったと言われれば反論の余地はありません。だけど、今までと同じ事をやっていたら、僕はきっと変われない。僕は…僕は、強くなりたいんです!」

 

 

 …何だかなぁ。

 弟子云々はともかくとして、ちょっとした方針とか助言くらいならする。それでいいか?

 

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 

 …とりあえず、どういう方向で鍛えるか考えてみるから、今日は普段通りにしてくれ。どっちにしろ、片付けの日だしな。

 そう伝えると、白浜君は走り去っていった。

 

 …ひょっとして、白浜君の刀を使ってそのまま優勝まで行ったのか、妙な琴線に触れたんだろうか…。別に、無念を晴らすとかじゃなくて、丁度いいところに使っても文句を言われそうにない武器があっただけなんだけど。

 まぁ、白浜君の事は後で考えよう。面倒事は増えたが、悪い方向に変わらなかった…味方してくれそうな人が居た事を幸運と思おう。

 

 

 さてと、昨日は大暴れできたとしても、今日は別の話。毎月の練武戦に慣れている里の人達と違って、俺は何処に何を片付ければいいのか、どれを捨てればいいのかも分からない。

 ぶっちゃけ、指示貰わないと何もできません。

 

 さて、いつもの二人を探してみますか。俺に何か指示を出すのも、気心を知れてる二人の方がやりやすいだろう。

 …態度が変わるなら、それはそれで早い所ハッキリさせておきたいし。

 

 

 

 そう思って、二人を探し、風華と華天に話を聞けた。…この一人と一匹も、あまり態度が変わらないな。懸念だったかなぁ? まぁ、風華は元々あまり俺に興味を持ってなかったし…。

 とりあえず、明日奈と神夜は道場に居るらしい。

 朝っぱらから稽古でもしてたのか…と思ったが。

 

 

「あの…明日奈さんが、怒って…走って行って……神夜さんが、追いかけていったんですけど…」

 

 

 …明日奈が、怒って? …何でまた…。

 

 

「さぁ…。凄い顔で…走ってるのを見ただけなので…」

 

 

 そうなのか…。

 うん、わかったありがとう。とりあえず行ってみるわ。

 

 華天、また一緒に異界の探索行くか?

 

 

「キュッ」

 

 

 あ、そ…。そんじゃ失礼。

 さて、道場か…今日は特に何もないと聞いてるけども。怒るような事、怒られるような人が誰か居たんだろうか?

 と言うか、明日奈が怒るって割と珍しいな。まだ一月程度の付き合いだけど、叱ったり、個人的に嫌っているらしい泥高丸に顔を歪める事はあっても、目に見えて怒ったのは見た事が無い。

 

 さて、一体何があるのやら…。

 

 

 

 

 道場をそっと覗いてみると、何やら剣呑な雰囲気。怒っていると言われていた明日奈は…怒鳴り散らしたりはしないものの、あからさまに不機嫌な雰囲気をばら蒔いて、寒雷の旦那と睨み合っている。一緒に居る神夜はと言うと…意外な事に、それを止めようとはしていない。どちらかと言うと、明日奈の不機嫌さに同調しているようにすら見える。

 …これ入って行かなきゃいかんのかな…。やっぱり俺関係なんだろうか…?

 

 色々と不安な事もあるが…。おーい、どうした?

 

 

「あ! 丁度いいところに…聞いてください、こんなの絶対おかしいですよ!」

 

「そうですそうです。幾ら何でも理不尽です」

 

「だから、それは理由があっての事だと説明しようとしているだろうが…」

 

 

 ややウンザリした表情の寒雷の旦那と、憤る二人。

 この様子からして、やっぱり俺関係?

 

 

「見てください、これ!」

 

 

 んー?

 千鬼長、泥高丸。同じく千鬼長、木棟。百鬼長、亮士………なんだこれ?

 

 

「昨日の練武戦の結果です。聞いてませんでしたか、練武戦の成績で、階級が変わるって」

 

 

 …ああ、そういやそんな事言ってたな。階級を意識した事は少ないから、イマイチ分からんが…。

 で、これが何かおかしな事でもあるのか? そもそも俺の階級は…と言うか、これって里人の階級だろ? 俺、関係あるの?

 

 

「あるぞ。外への道が確保されたら、里から出るつもりだと言うのは知っているが、それまでは里のモノノフとして働くのには違いない。仮初でも階級と言うか地位を位置付けておかないと、命令系統が乱れるだろう」

 

 

 それもそうか。元から命令系統なんぞ知った事かとばかりに動いてたけども。

 さて、俺の階級はナンボかな?

 

 

「ここです! ここ!」

 

 

 明日奈が指さす先には、確かに俺の名前がある。階級は……十鬼長か。階級は上から、千鬼長、百鬼長、十鬼長、精鋭級となっているから、幹部の中では一番下だね。

 …これが何か問題でも?

 

 

「問題でも何も、昨日の練武戦でどれだけ勝ったと思ってるんですか。見た事もありませんよ、あんな得点…」

 

 

 まー延々と戦い続けて全部勝ったし…。泥高丸にも勝ったし。

 で、結局それが?

 

 

「昨日の試合結果から言えば、どう考えても千鬼長が当たり前なんですよ。むしろ、それでも不足かと思えるくらいです」

 

 

 ふーん、それで怒ってるのか。褒章が低すぎるって感じで。

 

 

「他人事みたいに言ってどうするんですか。受け取るべき結果…優勝商品を、不正に奪われたようなものですよ! それともあれですか、『地位なんてどうでもいいや、俺は雲のように生きるのよ』とか言っちゃう人ですか?」

 

 

 そーゆー人種なのは確かだが、別にそこまで言わんなぁ。

 何だかんだで、何かしようと思ったら地位はあるに越した事はないし、それ以上に身元保証書みたいなもんだからな。

 十鬼長なら、丁度いいくらいじゃないか? モノノフの階級ってよく分からんけど…。

 

 

「むぅ……やっぱり他人事みたいに…」

 

 

 そうは言っても、望まない地位や見合わない地位につけられるよりよっぽどいいぞ。

 出世ってのは上に行く事じゃなくて、その人の能力を全開で奮える役割に落ち着く事を言うんだよ。

 

 とは言え、行った事に対して対価が少なすぎるって言うなら、その理由は気になるところだが……実際どうなの、寒雷の旦那?

 

 

「…まぁ、確かに意図的に十鬼長に留めたのは否定できん。明日奈達の言う通り、戦績と得点で言えば最低でも千鬼長が当たり前だ」

 

 

 ほう?

 

 

「能力と言う意味でも、まぁ問題はない。お前さんの実務能力がどうなのかは分からんが、専門の補佐役をつける事もできる。実際、泥高丸もそういうやり方をしているしな。……お前を十鬼長以上の地位につけられなかった理由は……言い方は悪いが、余所者だからだ」

 

「寒雷さん!!」

 

「ちょっと…さっきも言ってたけど、それは納得できないわよ…」

 

「言葉が悪いが、と言っただろうが! ちゃんとした理由があって、それを集約するとこうなるんだ! さっきからそれを説明しようとしているのに、喚いて聞かなかったのはお前らだろうが」

 

 

 いつになく寒雷の旦那が声を荒げておる…。

 よっぽど苛立ってたんだろうなぁ…。

 

 ほれ、明日奈も神夜も落ち着け落ち着け。…で、細かい理由は? こいつらが大人しい間に説明してくれ。

 しかし、明日奈がここまで荒れるのは意外だな。何だかんだで、目上の人間や規則、上意には素直に従う優等生タイプだと思っていたが。

 

 

「あぁ…。以前から公言しているが、お前は外への道が開けたら、里から出ていくつもりだろう。異界の浄化を目にする前なら、夢物語、或いは空想と断じる事もできたが、今は違う。いずれ出ていく人間を、高い地位に就けることができると思うか?」

 

 

 まー無理だわな。辞めます辞めます言ってる奴を、誰が正社員として採用するかって話だ。

 

 

「そういう事だ。地位が高い者の言動は、他の人間と比べて良くも悪くも影響力が高い。お前を千鬼長に就ければ、外へ行きたいという気風も高まるかもしれん。それが異界浄化の戦いに良い影響を与える可能性もあるが、逆もある。…この里は、非常に繊細な力関係の上に成り立っている。博打を討つには、危険が過ぎる。……それに、お前の為でもあるんだ。いずれ本当に里の外に出ていくとして、あまりに大きな地位についていては、足枷にしかならんだろう」

 

「むぅぅぅ………ブツブツ」

 

 

 仕事を多く抱えた人間やお偉いさんが抜ける時は、引継ぎが大変だからな…。十鬼長と言うのは、その辺の事も考えた結果なんだろう。現場の責任者くらいのレベルかな。

 元々報酬とかにも大して期待はしてなかったから、それが多少少なくなってもあまり気にならないし、理由も求めてない。考えだけ確認できればよかった。

 

 俺は納得したが、明日奈はまだ何やら顔を顰めている。

 理屈の良し悪しはともかく、与える影響を考えれば矛を修めざるを得ないと理解してると思うが…何故にここまで食い下がるのか。

 

 理由を求めて神夜を見れば、何故か視線を逸らされた。…何故?

 理由が分からないなら肩をすくめるとか、止められないと思うなら首を横に振るとか、そういうなら分かるけど、何故に視線を逸らす?

 

 ふむ……ここ最近使ってなかったが……フラウ直伝、久々の内面観察術!

 

 

 ………明日奈は本当に気に入らないから怒っているのが8割。残りの2割は何やら打算が見える。

 神夜も似たような状態だが、打算の割合はもう少し低いかな。しかし、根っこでは明日奈の打算に同調しているように思える。

 明日奈には何かしら目的があって、神夜も消極的ながらそれに賛同しているんだろう。

 その目的が何なのかは、イマイチ見えない。…エロ目的以外で使ったのは久しぶりだから、ちょっと腕が鈍ったかな…。

 

 

 何にせよ、もう決まった事なんだろ? 里長の牡丹とも話し合った結果だろうし、寒雷の旦那の一存じゃ変えられまい。

 もう発表はしたのか?

 

 

「いや、これからだ。だってのに、この二人は何処から聞きつけてきたんだか…」

 

 

 それは置いといても、多少の不安は残るな。

 理由はどうあれ信賞必罰が正しく機能してない例を作ると、士気にも影響が出るんじゃないか?

 

 

「そこは既に考えてある。俺としても、報酬を減らすだけってのは気が引けたんでな。今日からお前は…いや、お前達3人は、異界浄化を専門に扱う遊撃部隊となってもらう。無論、隊長はお前だ。そして、その援護の為という名目で、各種物資を要求されたら、優先的にそちらに流す事ができる」

 

 

 成程。

 高すぎる地位の代わりに、別の立場を与えようって事か。

 異界浄化の専門ともなれば、里の防衛と同じくらいに重要な任務。一朝一夕で成果が出ないのも仕方ないが、上手く行った時の見返りを考えれば、資材による援護をする価値は充分にある…。

 ついでに言えば、いつか里を去られた時にも、そこまで大きな影響はない。里から出ていくって事は、異界がある程度浄化されて外との繋がりが出来ているって事だから。

 

 

「そういう事だ。ついでに言えば、これでお前達が使っている瘴気無効の装備を押収して、里で運用するべきではないのかって声も抑え込める。こればっかは、遠からず問題が再発してただろうからな。口実が出来て助かったぜ」

 

 

 あー…まぁ、そりゃなぁ。

 まともに考えれば、最大戦力に使わせるか、何人かのモノノフで代わる代わる運用すべきだものな。俺以外だと、現状じゃ異界の浄化は出来そうにないが。

 

 

「大体はこういう事だ。意図的に地位を抑えたのには理由があるし、その代償として別の形で報いる準備もある。当の本人もそれで納得している。まだ喚き立てるつもりなら、相応の理由を提示してもらうが?」

 

「ぐぬぅぅぅぅぅぅ……」

 

「明日奈さん明日奈さん、落ち着いてください。流石にこれ以上は無理です。何より本人が承諾してしまっているのですから」

 

 

 事後承諾だけどなー。

 しかし、俺の為……なのかは知らんけど、そこまで怒ってくれるのはちょっと嬉しかった。

 ありがとうな。

 

 

「う……い、いえ、そうお礼を言われると、ちょっと居心地が悪いって言うか……。はい、ごめんなさい…」

 

「…同じくです…ちょっと暴走し過ぎました…」

 

 

 礼を言われて、むしろ怯んだような表情で矛を収める明日奈と神夜。

 どういう目論見があったのか分からないが、この分ならそうヤバい事ではなさそうだ。

 

 しかし寒雷の旦那、異界浄化専門のお役目と言う事は…今後もこの3人だけで行動すると思った方がいいか?

 

 

「そうだな。お前さんの瘴気無効装備がまだあるなら話は別だが…」

 

 

 無い。(全く無いとは言ってない)

 

 

「なら仕方ない。死地に3人だけで送り出すのは気が引けるが、出来る限りの支援は約束する」

 

 

 あいよ。…とりあえず二人とも、何か欲しいものあるか?

 …と、その辺の事は後にして、まずは練武戦の片付けだよな。勝手が分からないから、指示をくれぃ。

 

 

 

 

魔禍月 参日目

 

 

 練武戦片付けも終わり、俺達の異界浄化専門という役職も大きな反発なく受け入れられて、普段通りの日常が戻って来た。

 日常って言っても、モノノフ達は鬼を相手に斬った張ったし、俺達3人は異界の中に踏み込んでいく日々だが。

 

 3日ほど全く様子を見ていなかった異界だが、やはり荒れに荒れていたようだ。よくぞ、あそこから逃げた鬼が里に向かってこなかったもんである。

 実際、過去には何度か鬼が攻めてきて、練武戦がポシャった事もあったらしい。その場合、勝ち抜き戦から鬼の討伐数を競う大会になったそうだが。

 

 

 さて、そーいう訳でまた探索に戻る訳だが…二人とも、何か意見とか気付いた事とかあるか?

 

 

「うーん、私は特に…」

 

「…………あの、探索の問題ではないのですけど……明日奈さん、何か眠そうですね?」

 

「え? あ、あぁ…昨日も一昨日も、ちょっと寝苦しかったんで…。別に問題はないわ」

 

 

 …出発前に昼寝でもしていくか? 行く場所が場所だから、不調のまま突っ込むくらいなら休んだ方がいいぞ。

 

 

「大丈夫です、冷たい水で顔を洗えばはっきり目が覚めますから。それより、これからもよろしくお願いしますね、隊長さん♪」

 

 

 隊長!? …って、ああそういやそうだったっけ。

 んじゃ、異界浄化部隊、早速始動と行きますかね!

 

 里の人達が遠巻きに送ってくる、期待しているような恐れているような視線を浴びながら出発。

 

 

 

「それにしても、さっきの白濱さんはどうしたんでしょうか? いきなり『お供します!』って言ってきて驚いたわ。対瘴気装備があったとしても、実力的に連れてはいけないけどさ…」

 

 

 あー、ちょっとあいつを鍛える事になったんだよ。

 弟子にとったなんて大仰なつもりはないけど、努力し続けてるのに報われないってのもスッキリしないし。相当な無茶でも耐えて見せるって言うから。

 

 

「それって実質弟子にとったんじゃないですか? 白浜さんが強くなる……こう言ってはなんですけど、想像しにくい事極まりないです」

 

「ちょっと神夜、それは流石にひどい…いや分かるけども。どう鍛えるつもりなんですか?」

 

 

 あいつの理想とは違うかもしれんが、基本は狩人として鍛えるつもりだよ。才能が無い奴に 、才能が必要な戦い方を学んでも仕方ない。窮地を徹底的に遠ざけて勝つべくして勝つか、土台から徹底的に叩き上げて簡単な技術を絶対の業にまで昇華させて勝つかの二択だ。

 狩人としての訓練の付け方なら、俺も一通り知ってるし、弟子(みたいなもの)を鍛えた事もある。……元気にしてっかなぁ、あのメゼポルタの音響兵器…。正宗もまぁ、弟子っちゃ弟子か? あいつはブータを名乗れるようになっただろうか。

 

 

「…狩人って、鬼と戦えるんでしょうか…?」

 

 

 そりゃまぁ、狩人(ハンター)だし。

 話は変わるが、あいつどうしてるんだ、泥高丸。昨日の片付けでは、ついぞ姿を見なかったが。

 

 

「寝込んでるって聞きましたけど」

 

「神夜、寝込んでるんじゃなくて目を覚ましてないの。…どれだけ強力に吹っ飛ばしたんですか。練武戦の最後の一撃、あれ人間に使っていい物じゃないと思うんですけど…」

 

 

 ちゃんと加減はしてるゾ。そこまで強い威力は出してない筈なんだが……精神的な衝撃の方が大きいのかな。

 しかし、負けたのがそこまで衝撃的だったか…? 確かに天狗になってる節はあったが…。

 

 

「あー………いえ、それはその…ねぇ、明日奈さん?」

 

「う、うん…でもどうしようもないし…それはともかく、早く行きましょう! 泥高丸については、こっちから何かするにしても、起きてからでないとどうにもなりません」

 

 

 ま、確かに。何か隠してる感は気になるが、とりあえず探索と行きますかね。

 

 

 

 

 

 

 さて、異界の中をウロチョロしてみた訳だが…これ以上引っ掻き回すのは難しそうだな。

 少し間を開けてしまった為か、縄張りの力関係が安定している感じがする。だからこそ、縄張りと縄張りの隙間、鬼達が出張ってくるか否かの境界線を縫って進みやすいんだけど。

 

 明日奈も神夜も段々慣れてきたようで、気配を消しながらの進軍・警戒に淀みが無い。スムーズに奥まで進めそうだ。

 …空を飛んでいる鬼が少ないのが気にかかる。……いや、居ないんじゃなくて……なんだろう、空に妙な威圧感があると言うか、下手に飛ぶと危険な気配がすると言うか…感覚にすぎないから、確証はないけども。

 

 ある程度進み、鬼が居ない場所を確認して一休み。と言っても、瘴気の侵蝕が止む訳ではないし、タマフリその他の使用量が回復する訳でもない。単に体を少し休ませるのと、位置の確認だ。

 

 

 

「さて…前に高い所から見たから、大体の今の場所は分かるけど…やっぱり、結界石の彫刻は見つからないわね」

 

「ですね。彫刻の形が変わって、小さくなっているだけじゃないかと期待していたんですが…」

 

「ここから先に進むとなると……大きな池……と言うか、これは泥沼かぁ…」

 

 

 泥沼ねぇ…結構厄介なんだよな。足元が見えづらいし、動きにくいし、虫や魚や寄生虫が居る可能性もある。

 多分、沼の地形に特化した鬼も居るね。

 確か、上から見た時には、あからさまに怪しい小島が見えたよな。

 

 と言うか、沼自体が結構強い瘴気溜まりになっているようだった。瘴気無効装備があっても、強行軍するのは危険なくらいだ。

 

 現場で見た所、そんなに深い沼じゃない…突発的に空いてる穴とかはともかくとして、見える範囲では深くても胸元くらいか。相当な重量をかけなければ沈んでいく事はないだろう。

 しかし、どうやったって動きは鈍る。いや、鈍るどころか、機動力はほぼ死ぬと考えた方がいい。

 

 

「…そうなると、私の持ち味は8割方消えますね」

 

「汚泥に塗れるのも合戦の内とは言え、流石に地の利が不利すぎます…。何かこう、得意の狩人の知恵で淀みなく動ける歩法とか、瘴気無効装備と同じような、自由に動ける装備とかないですか?」

 

 

 歩法はともかく、装備はあるよ。

 

 

「…言っておいてなんですが、あるんですか。驚嘆極まりないです」

 

 

 あるけど一つだけだ。対瘴気装備の代わりに着ける事になるんで、どっちにしろここに来るまでに死ぬな。ここで付け替えたとしても、この瘴気だとするとまず沼を渡り切る前に死ぬ。

 

 

「むぅぅぅ……」

 

「あの、物凄く早い走り方で、沈む前に沼を突っ切るとか…」

 

 

 忍者の水面歩行じゃあるまいし、大して距離を稼げんよ。大体、できたとしても俺一人じゃないか。

 うーん…………筏でも作った方が確実かなぁ…。まぁいいや。今日は一度下がろう。

 活動限界時間も、大分近くなってきたし。

 

 

「そうですね。……………?」

 

「明日奈さん、どうされました?」

 

「…ううん、多分気のせい。誰か居たような気がしただけ」

 

 

 それ、大抵は本当に誰かが居るのがお約束じゃないか。

 とは言え、こんな所に生きた人間がいる訳もなし、まず間違いなく鬼だよな。…俺の感覚には引っ掛からないが…。

 

 やっぱり早い所撤退するぞ。鬼に見られていたのだとしたら、侵入がバレたって事だ。囲まれる前にさっさと逃げるに限る。

 

 

 

 

 

 …結果的には、特に何事もなく撤退で来た。鬼が居たとして、本当に見ていただけなのか、それとも…。

 

 

 




討鬼伝世界登場人物表兼コメント

Q.お酒の強さは?

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。
    A…生きてた時はそこそこだったけど、ミタマになってからは全然酔えない。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    A…実はあまり強くない。酒より茶が好き。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    A…お酒を飲もうとすると、皆が顔を蒼白にして止めるのですが…。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
    A…昔は興味があったけど、事情があって全然飲まないし飲めない。

・風華…祭祀堂の巫女。
    A…自覚はないが、ザルを通り越して枠。

他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
    A…飲むよりも飲ませる方が好き。

・神夜…無限のフロンティアより。
    A…牛乳を呑めば酔いません!

・白浜君…既にお察しの通り、史上最強の弟子の白濱兼一君です。
    A…いやまだ未成年ですから。

オリキャラ(と言うよりネタバレ防止の為、バレバレだとしても引用元を黙秘するキャラ)

・泥高丸…でいこうがん。
    A…慣れた酒なら、樽で呑んでも潰れない。


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402話

今回、オリキャラ(でもないんだけど)の過去語りが非常に多くなっています。
改めて見直すと、読みにくいな…。
会話文の途中でも、もうちょっと改行するべきだったかも…。


アサシンクリード、とりあえずクリア。
追加要素とトロコンの時間である。
こっちはゆっくりやっていきます。


GE3は……フィムが後ろをついて来るのが可愛くて、つい走らずに歩いて移動してしまうおとさん諸君、手を上げなさい。
保護欲からなら無罪。
バックベアード様も許したね。
歩く時に頭がフラフラするのがまた可愛いのぅ。

ただし視点操作で下から覗き込もうとしたなら死刑。
ち、ちゃうんや、ニーアオートマータの癖でつい。

2まではもっぱらバスターにブラストでしたが、今はハンマーがメインになっています。
銃形態は模索中ですが、ショットガンかな…。

あのキャラはソーマかなぁと思ってたけど、まだ分からないな。
年齢的にかなり差が…と言う事は孫とか?
もしそうなら、シオと再会できたか…或いは割り切って別の人と?
アラガミ細胞が何かやらかして、不老的な状態になったか。
はたまた、リヴィの時のように見かけが似ているだけの赤の他人なのか。
うーん、知らないからこそ妄想が膨らむ。
今のうちにネタを考えてストックしておこう。
そして色々明らかになってから、無理矢理コジツケしていくのです。


魔禍月 肆日目

 

 

 今日はお休み。

 と言っても、文字通り何もしない訳にはいかない。あの沼を安全に超える方法を考えなければならない。迂回が一番手っ取り早い方法なのだが、中の小島に結界石がある可能性を考えると、避けて通る訳にはいかなかった。

 いつもの三人+寒雷の旦那で相談してみようと思ったのだが、神夜は何やら寝付けなかったのか熟睡中、神夜は副業である寝具の修理で忙しいらしい。

 

 …そう言えば、俺の副業ってどうしようか。

 

 

「モノノフの専業でいいぞ。戦果に加えて、里一番のモノノフだった泥高丸にも勝ったんだ。文句は言えんよ。…風呂屋は作ってほしかったが」

 

 

 それはそれで居心地悪いな…。明日奈と神夜は専業じゃいかんのか。

 

 

「あれは半分、自分の意思でやってる事だからな。しかし、沼か…。厄介だな。橋でもかけられればいいんだが」

 

 

 ちゃんとした橋は流石に無理だな。作ってる間に鬼に襲撃されるのがオチだ。

 できるとしても、その辺の木を切って並べるくらいかな…。

 

 

「丸太を繋げて橋を作るって? 岸の近辺ならいいだろうが、奥の方になるとどうやって運ぶんだ。浮かべただけで不安定な丸太の上に、丸太を持って乗るのか」

 

 

 できなくはないが、ちと厳しい。でも、やっぱ足場を作っていくのが一番よかろうなぁ…。でかい岩でも放り込んでみるか?

 

 

「沼の底が抜けそうだな。…いかん、今一ついい考えが浮かばない…。一度、牡丹に伺いを立ててみるか…」

 

 

 おばあちゃんの知恵袋に期待しますかね。

 じゃあ、俺は一日やる事が無いし……散歩でもするか。

 

 ごちそうさん、美味い茶だったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 寒雷の旦那の店を出て当てもなくフラフラしていたものの、どうにも居心地が悪い。

 里人…特にモノノフ達から送られる、複雑な感情の籠った視線が…。別に悪感情を持たれている訳じゃない。ただ何というか、こう…どう触れていいのか分からない感じのが。

 

 里に居てもやる事がなかったので、得物を持って外に出る。

 浄化された原っぱをフラフラと当てもなく歩き回った。…なんか徘徊老人みたいだな、俺…。やっぱり、副業とか探してみるかなぁ…或いは、女遊びと狩り以外の趣味とか。

 

 なんて事を考えていると、ふと人の痕跡を見つけた。

 それ自体は珍しくない。異界が無くなったとは言え、里の警備隊が周辺を巡回し、里に近付く鬼や隠れている鬼を積極的に倒している。

 

 しかし、見つけた足跡は一人だけのものだった。

 この里のモノノフは、祓円陣の効果を発揮する為にも、基本的に四人、少なくとも三人での行動を常とする。それが一人となると、何か異常事態が考えられるが……足を引きずったり、血を流したりした様子はない。

 多少、力の無い足取りで歩いたようだが、しっかりと背筋を正していたようだ。

 

 

 …大丈夫そうではあるけど、何か気になるな…。行ってみるか。足跡を辿って歩き出す。

 

 そして、辿り着いた先は………墓場と、何故か墓石に向かって土下座している、泥高丸が居た。バッチリ目があった。

 

 

 

 …き、気まずい…。見なかった事にして、立ち去るべきだろうか? と思っていたら、泥高丸の方から声をかけてきた。土下座を視られた事は、気にしてはいないようだ。

 

 

「…よう、ちょっといいか」

 

 

 お、おう…。昏睡してたって聞いたが、起きたんだな。俺がやっといてなんだけど、無事でよかった。

 

 

「……俺の鬼纏が、不完全だと言ったな」

 

 

 鬼纏そのものよりも、使い方が悪いって言ったつもりだが…。

 

 

「同じ事だ。恥を忍んで聞きたい。鬼纏を完成させるには、何が足りない? 他の里で、同じような技が幾つかあると言っていたが、それはどんなものだ? それに」

 

 

 待て待て待て待て、矢継ぎ早に聞くな! 答えられるところまでは答えるから落ち着け!

 何なんだ、その鬼纏への異様な情熱は。使い方を改変したいなら、まずその執着をどうにかしろよ…。

 

 

「…それはできない…。鬼纏は、俺達の…いや、兄さんの夢なんだ…」

 

 

 …何のこっちゃい…。

 わかった、その辺の事を話せ。それが質問に答える条件だ。

 

 

「構わない。どうせ、里の皆も殆ど知っている。………この墓石を見てくれ。お前が異界を浄化するまで、ずっと瘴気の底に沈んでいた墓石だ」

 

 

 この小さな墓石? これが?

 …ああ、確か里に来る時に見かけた墓場だったな。

 てっきり、無縁仏の墓場だと思ってたが。

 

 えぇと……舞……高丸? に、荒…………?

 

 

「まぁ、墓碑名も風化して全く読めなくなってるからな。…こいつが、親父と兄さんの墓なんだ。異界に沈んでから、何年も墓参りにすら来れていなかった」

 

 

 そうか…。オオマガトキで?

 

 

「ああ。……そうだな、ちょいと身の上話に付き合ってくれ。実は、俺達一家は、元はこの国の人間じゃないんだ」

 

 

 この国じゃない? …別の藩って事か? 或いは琉球辺り?

 

 

「もっともっと遠い所さ。どこから話すか…。俺が思い出せる一番古い記憶は、何処を旅しているとも知れない船での暮らしだ。今思うと、どこかの商船の類だと思うんだが…。親父は元々、海を越えた先の国の更に向こう、ずっと西の方の砂漠の国で、衛兵隊長をやっていたらしい。実際、船の上の荒くれ共と殴り合っても、一度だって負けた事は無かった。自慢の親父だったよ…。何でその国から出てきたのかは、結局教えてもらえなかった」

 

 

 お偉いさんが国を飛び出すって、どう考えてもいい想像には繋がらないが…口には出すまい。

 

 

「過酷な船旅だったが、あまり辛いと思った事は無かった。親父と、兄さんと、その頃はまだ母さんも居た。…母さんの腹の中には、妹もな。何歳くらいの時だったか、ちょっと覚えてないが……母さんは船の上で死んでしまった。出産に耐えられなかったんだよ。…妹も、な。二人の墓は大海原さ。…それ以来かな。親父が俺達を、過保護なくらいに大事にするようになったのは。けど、俺も兄さんもそれを鬱陶しがったり反発したり…今思うと、冒険に憧れてたんだな。船員達から聞かされた英雄譚や昔語り、妖怪共との闘いや大嵐を超えていく海の男…。………だけど、やっぱり憧れは憧れだな。突如としてそれが現実になった時、誰もそれに抗う事なんかできなかった」

 

 

 現実になった…?

 

 

「武器を持って襲ってくる人間なら、何度も撃退した事がある。船の荒くれや、親父…俺と兄さんも、二人で足をひっかけたりしてやっつけた事もあったっけ…。でもあの時は…船が襲われたのさ、本当に…怪物に。赤く光る眼、禍々しい爪と牙と角、炎を吐く口…。御伽噺に出てくる悪魔みたいだった。…今思うと、何かの鬼だったんだろうけどな。相手が鬼じゃ、いくら海の男でも、親父でもどうしようもない」

 

 

 まぁ…普通に鬼を殴り倒せる奴なんぞ、そうそう居ないからな。

 モノノフが戦えるのは、ミタマや神仏英霊の力を借りて、これまで培ってきた効果的な武技と戦術を駆使してるおかげだし。

 手足を叩き落して、再構成されてる部分を殴らないと効果が無いとか、普通は思わないよなぁ…。

 

 

「ま、確かに。俺も最初にそれを聞いた時は、なんて理不尽なって思ったもんだ。それはともかく、話の続きだが…酷いもんだった。俺達兄弟を庇って、大火傷をした親父の姿や、死に物狂いであの鬼を引きはがして逃げようとする船員達の姿を、今でもはっきり覚えてるよ。何をどうやったのかは分からないが、何とかその時は逃げ切れた。だが船は自力で航行できないくらいに壊れていたし、無傷の人間なんか居やしない。俺と兄さんで何とか船を動かそうとしてたけど、出来る事なんか何もなかった。もう、このまま死ぬしかないのかな…って兄さんとこっそり泣いたっけ。留めとばかりに、また鬼が襲ってきた時には、食われて終わりだって絶望したよ…」

 

 

 どんだけ運が悪いんだ…いや、鬼の出現率を考えると、あっちこっちで起きててもおかしくはないが。執念深い鬼なら、逃した獲物はまず間違いなく追いかけてくるし。

 

 

「だが、そんな時に俺達は助けられたんだ。この、シノノメの里のモノノフに。当時はまだ孤立してなかったし、向こうの山を一つ越えれば海が見えたんだぜ。漁とかもやってて、その時に俺達の船が襲われてるのを見つけたらしい。…そして、見ず知らずの俺達の為に、必死になって、躊躇いも無く船を出して助けに来てくれたんだ。しかも、その時の鬼も撃退してさ。死にかけてた親父や船の皆も、おかしな魔法で…タマフリで治してくれた。英雄を通り越して、天の助けだと思ったね。おまけに、行き場が無いと知ったら、船が直るまでの間留まっていけときた」

 

 

 お人好しが過ぎるなぁ、そのモノノフは…。

人を襲う鬼を撃退するのも、その人を守るのもモノノフの役目ではあるが、 何かしら多少の計算はあったんだろう。異国の珍しい物を取引できるかもしれない、とか。

 

 

「さぁな、その辺の事は分からんよ。当時の俺達には猶更。親父は傷こそ治っていたが、船旅が出来る程じゃなかった。船の皆は…生き残った殆どは、船が直ってからまた航海に出た。俺達一家は、まぁ見ての通りさ。この里に残った。親父が旅に耐えられなくなったってのもあるが、恩を返したかったし、何より俺達を助けてくれたモノノフに憧れた。………まぁ、それを差し引いても、里での暮らしは楽しかったけどな。産まれてこの方、船旅ばっかりで、同年代と遊ぶなんて考えもしなかったし」

 

 

 船の中じゃ、餓鬼だろうと遊ばせてる余裕はないからな。

 随分と環境が一変したもんだ。

 

 

「実を言うと、今でも揺れない地面の上にいると思うと、時々落ち着かなくなるんだ…。飛んだり跳ねたりするのも、揺れる船の上の方が得意だったし。それでも、体を使った事なら、同年代で負けた事はない。いつも、兄さんが一番、俺が二番。駆けっこだって相撲だって、俺達兄弟に敵う奴はいなかった。体格がそもそも違ったし、船旅で鍛えられた体は伊達じゃない。……何をやっても一番二番だったけど、あの時の恐怖が忘れられなかった。自分達は、鬼が相手になると食われるしかない弱者だと、嫌と言う程分からせられていた。だから、俺と兄さんはモノノフになろうとしたんだ。今度は親父を庇って、無傷で笑ってられるようにな」

 

 

 …親父さんと兄を、大事にしてる…いや、してたんだな。

 

 

「過去形にするな。今でも大事さ。墓の中だろうと、来世だろうとそれは変わらない。…話が長くなったが、鬼纏は兄さんが開発した技なんだ。親父の昔話を元にして、兄さんが術を考えた。…と言っても、当時はまだまだ、モノノフとしての訓練も受け始めたばかりの餓鬼だったからな。こんな技はどうだ、って夢物語に語ってただけだった。この技を完成させて、最強のモノノフになるんだって、兄さんは本気で言ってた。実際、本当に勉強して研究してたっけな。…それから暫くして、オオマガトキが起こった。丁度、兄さんの初陣だったんだよ…」

 

 

 それは…また、何というか…。

 

 

「帰って来たのは、兄さんが鎧として使っていた肩当と、練武戦の時に俺が着けていた腕鎧だけだ。更にその後、里は鬼達に攻め込まれた。……何人も死んだよ。兄さんが死んで気落ちしていた、親父もな…。俺が生き延びたのは、運が良かっただけだ。後は……まぁ、想像はつくだろう? 生き残った俺は、死んだ兄さんの夢を叶えようとした。鬼纏という新たな術を開発し、それを使って最強のモノノフになる。研究と実験を繰り返し、時には自分から鬼達の瘴気や毒を受けいれた。おかげで、多少だが瘴気に対する耐性までできちまった。出来上がった術を里に広め、俺と兄さんの名を広めた。……本当は、里一番のモノノフなんて小さな事は言わず、日ノ本一、世界一のモノノフになろうとしていたんだけどな。……ずっと里でしか暮らしていなかったからか、そこで満足してしまっていたようだ」

 

 

 …あっさりと語っているように見えるが、内面に強い感情が見える。過去の事と割り切っている訳ではなさそうだ。

 むしろ、時間が経ったから猶更、執着と家族愛が混ざり合って粘着質な感じの熱意が感じられる。

 

 …聞くだけ無駄とは思うが、鬼纏から離れる気はないのか? 捨てろと言ってる訳じゃない。不必要な執着は破滅を招く。

 

 

「無い。例えお前に完膚なきまでに敗北しようと、俺は俺の夢の為に戦う。例え、鬼纏を封じて他の業を修めたとしても、それは全て鬼纏の糧とする為。鬼纏が最強の業でないと言うのなら、俺がこの手で最強にするまでの事」

 

 

 泥高丸は、槍を脇に置いて、突然座り込んだ。

 

 

「凡人だの、さっさと引退しろだの、無礼な口を散々たたいた事は伏して詫びる。小さな里の中で、舞い上がっていた事も身に染みた。今更こんな事を頼むのは恥の上塗りだと分かっているが、それを推して頼む! 教えてくれ、俺の鬼纏には何が足りない!? あの時言っていた、里の外に伝わっている似たような術とはどんなものだ!? どう違い、どう運用されている!? 使いこなすのには何が必要なんだ!? あんたはそれを使えるのか!? それに」

 

 

 落ち着けぃ!

 

 

「ごふぁっ!」

 

 

 …あ、つい力入れ過ぎた……思いっきり咳き込んでる。むぅ、ちょっとシャレにならないパンチだったんだが、この頑丈さは流石だな…。

 

 しかし、話を聞いてみればこの熱意も、あの自信も納得と言えば納得だ。

 こいつにとって鬼纏は、自分が開発・発展させてきた思い入れのある術と言うだけではない。泥高丸とっては、恐らく失った家族との絆の象徴なんだろう。そして『一家が心を合わせれば、なんだって出来る!』みたいな話を本気で信じているんだ。

 …セリフ的には物語の主人公側が言う、ちょっと古臭い感じの感動的な言葉なんだが……それで本当に何だって出来るかと言えば、話は別なんだよなぁ。実際、鬼纏を使って、特に本気も出してない俺に負けたし。

 

 とは言え、拗らせてるとは言え……ああ、そういや明日奈がいつだったか、『拗らせてるだけで悪い奴ではない』って言ってたっけな……自分の術にこれ程拘りを持っているヤツはそうそう居ない。

 あまりよろしくない形だとは思うが、自分の武器に命を賭けられる奴は、良くも悪くも図抜けた使い手になりやすい。その前に死ぬ奴はもっと多いけど。

 

 この分だと、放っておいても自力で無茶な研究を勧めそうだな。多少の無理無茶無謀なら目を瞑るが、あまりに滅茶苦茶な事をして死なれても気分が悪い。

 わかった、俺の知ってる限りでいいなら、出来る範囲で協力しよう。

 

 

「本当か! 恩に着る、っほ、げほっ…」

 

 

 無茶すんな。

 とは言え、白浜君も鍛えるって約束しちまったから、そっちが優先だ。

 …成果の出ない焦りから、闇落ちしたり暴走されても困る。お前が切れると面倒臭そうだ。

 

 

「…ん? 闇落ち、ってのは…よく分からんがあれか、鬼の唆されて狂気に走って、周囲の人間を斬るような?」

 

 

 まぁ、大体そんな感じだね。

 聞いてる限り、ずーっと負け知らずだったようだし、久々の負けで心が居れて自棄になる奴らも結構見てきたからな。

 おまけに、言っちゃなんだが里の人達の俺を見る目がな…。

 

 

「…………は、はっははははっ、HAHAHAHAHAHA!」

 

 

 おめ、何だよいきなり。南蛮人っぽい笑い方になって。実際には南っつーか、アメリカンな笑い方だから日本の地図的には東だが。

 

 

「HAHAHAHA! ……悪い悪い。思ってもみない事を言われたから、つい…。俺があの里に害を成す? 里の皆が、あんたを排斥する? 無い無い、無いよ。親父や兄さんと一緒に助けられて以来、シノノメの里にどれだけ世話になってると思ってるんだ。今でこそ里一番のモノノフなんて扱いを受けてるけど、まだまだ恩は返せちゃいない。里の皆だってそうさ。船を壊されて行く当てもない俺達を、あんなにも暖かく迎えてくれた。船を直すのを手伝ってくれて、快く送り出してくれた。ま、閉塞された環境が続いてたんで、色々と余裕がなくなってるのも確かだけどな…。どう接すればいいか戸惑ってるだけで、邪見に扱う事はない。体験談だ、保証するよ」

 

 

 

 …そうかね。そうだといいな。

 

 ところで話は変わるが、お前さん異国人って事は、泥高丸ってのは偽名か? それとも当て字?

 

 

「当て字だ。と言っても、本名は日ノ本人には発音しにくいらしい。丁度いい字もなかったんで、航海途中によった国の、発音が近い言葉を日ノ本語に訳して…まぁ、要するにこじ付けだな」

 

 

 アナグラムみたいなもんか。

 …お前と、あと親父さんと兄さんの名前は? この墓石、全然読めねぇ。

 

 

「…俺の本名は、マット・コーガン。あの国の言葉では、マッドと言うのは『泥』って意味だった。マットとマッド、比較的言葉が近かったから、泥。高丸はそのまま、字を籠めた。親父の名はアレキサンドリア・コーガン。墓碑には荒三高丸。兄さんはマイケル・コーガン。墓碑には舞蹴高丸と刻まれてるよ」

 

 

 …名前の由来はともかく、討鬼伝世界でカタカナ使う奴は珍しいなぁ…。

 いや鬼の名前がカタカナだから珍しくないか。

 

 




討鬼伝世界登場人物表兼コメント

Q.得意な料理は?

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。
    A…ガキの塩焼き。食べた後にお腹から声が聞こえるけど、飢饉の時の重要贖罪だった。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    A…鍋だ。…何鍋かって? ………とにかく鍋だ。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    A…自分で料理を作った事はありませんが、お茶を淹れるのは得意です。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
    A…子供の頃は刺身とか作れたんだけど、海魚が居ないからなぁ…。

・風華…祭祀堂の巫女。
    A…もちろん甘味です。

他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
    A…居酒屋で仕事している間に、簡単な物なら一通り作れるようになりました。

・神夜…無限のフロンティアより。
    A…生姜焼きが好評です。

・白浜君…史上最強の弟子より。。
    A…味噌汁…かな。母さんが作ってくれた味は、まだ再現できないけど。

・泥高丸…ジャングルの王者ターちゃんより、マット・コーガン改めでいこうがん。
     原作登場時では己惚れの強い自称超人な人だったが、
     今作では鬼の恐怖が身に染みていた為、思い上がりはしなかった。
     代わりに失った家族への愛情を拗らせ、それが鬼纏への拘りに繋がる事になった。
     執筆中、アニメ見放題でターちゃんの一気見してたので突っ込んでみた。
    A…大量の肉を焼くのが異様に上手いと、嫁に言われた。


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403話

 

魔禍月 伍日目

 

 昨日はマット・コーガンこと泥高丸に、根掘り葉掘り聞かれて散々だった。

 例として見せたのは、ハンターの鬼人化。鬼纏ほど極端な効果は無いが、自分の意思で入切が可能、体力が残っていれば幾らでも続行できる、鬼人化とはまた違った鬼人強化状態という強化に繋げる事もできる。

 だが、使い勝手の良さよりも泥高丸が驚いていたのは、鬼の瘴気を使わず、基本は自分の体だけでそれを成すと言う事だ。

 

 見せておいてなんだけど、相当なショックだったろうなぁ…。自分が必死こいて、猛毒を飲み干す思いで開発した術が、そんな事をしなくても同じ事が出来るってんだから。

 それでもめげずに、「いや、それなら鬼の瘴気を使わないと出来ない事を組み込むまでだ」なんて言い出した。宣言した通り、鬼纏から離れるつもりは一切ないらしい。だからこそ、俺も手を貸す気になったんだけど。

 

 里への帰り道で見つけた鬼を相手に、鬼人化を使った戦い方を見せたところ、そこから自力で鬼纏の課題を見つけ出したようだ。

 自分で疑問を持ち、それを解決する方法を探せると言うのは大きな事だ。流石は鬼纏の研究者と言うべきか。

 まぁ、こっちからあれこれ伝える手間が省けるのだからいい事だ。

 

 頼まれた通り、白浜君を鍛えなきゃいかんしな。

 そういう訳で白浜屋によると、なんだか恐縮されてしまった。

 

 

「師匠、わざわざ店に足を運ばなくても、こちらからお伺いしますのに」

 

 

 そうは言っても、手紙や伝令走らせたところで時間の無駄だし。まぁ、流石に予め予定が分かってたり決めてたりするなら、そっちから来るようにさせるけども。

 それはともかく、鍛錬の話だ。どういう方向で育てるのか決めたんで、伝えに来た。

 

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 

 とりあえずは…武器はこれを使え。こっちは練習用な。

 

 

「これは…手甲、ですか? …………あの、こっちの手甲、見るからにとんでもない業物のような…」

 

 

 この里では知られてないが、外では結構使い手が多いんだぞ。俺も何度も使った事がある。

 一番簡素な武器の通称『粉砕手甲』と、それを限界まで強化した『真・爆影』だ。前者はともかく、後者はペーペーに使わせるもんじゃないが、実力が足りないなら道具で補うのも一つの手だ。頼りきりにならなければ、だけど。

 

 率直に言わせてもらうが、君は根本的に不器用だ。器具を扱う才能が、根っこから欠けていると言ってもいい。

 今までの鍛錬や試合でも、武器の持ち方を変えようとして取り落したり、妙な所を掴んでしまった事があるんじゃないか? と言うか、練武戦の時もそうなりかけたし。

 同じような理由で繊細な技術、高等な技術を使うには向かない。

 

 

「うぐ…。じゃ、じゃあ手甲って言うのは高い技術が要らない武器って事ですか?」

 

 

 まさか。確かに、手甲は腕に括り付けて使う物だから、取り落す心配は少ない。使うだけなら、ただ体を動かして殴りつければいいだけなんだから、そういう意味では使うだけなら楽だな。

 だが使いこなす、鬼に対して有効な打撃を与えるとなると、他の武器よりも一つ二つ高い技量が要求される。

 当たり前だろ? 鋭い刃も、長い間合いも無い。補強しているとは言え、言ってみりゃ石を握って鬼に殴り掛かるようなもんだぞ。正しく体を動かして力を伝えてやらないと、文字通り手打ちにしかならない。

 それ以上に、手が届く距離まで鬼に接近する必要があるんだ。攻めるも守るも機を見極めなきゃならんし、そういう意味じゃ非常に難しい武器だ。

 

 

「では、何故この武器を? 僕には才能が無いって言ったばかりじゃ…」

 

 

 消去法ってのもあるが、万が一の時は防御が効くってのが大きいな。刀は繊細だから、下手に受ければ刃が欠ける。槍も、人間の攻撃ならともかく鬼のを受け止めると圧し折れる。

 その点、こいつは基本的に分厚い金属の塊だからな。鬼にブン殴られたって、そうそう壊れやしない。…使い手はともかく。

 

 それに、今からお前さんが真っ当に戦えるくらいのモノノフになろうと思ったら、どうやったって体の作り直しは避けられん。だったらついでに、これの扱い方も仕込んでしまえばいい。

 極めるのこそ難しいが、自分の体にだけ気を使ってりゃいい分、他の武器よりも習得は容易なんだ。

 

 

「そういうものですか…。わかりました。教えを請う以上、疑問は持っても疑ったり反発したりするのは筋が通りませんね。僕はまずどうすればいいですか!?」

 

 

 さっきも言ったが、まずは体の作り直しだ。道場の師範に、どんな事をさせるかは伝えている。

 俺が居ない間は……教えると言っておいて早速で悪いが、今日はお役目だ……師範に教えを請うといい。

 

 とりあえず、今日伝えておく事は以上だ。戻ってきたら成果を確かめに行くから、それまでは師範に鍛えてもらって、後は普通に生活してろ。

 

 

「はい、わかりました! これからもよろしくお願いします!」 

 

 

 白浜君は頭を下げて走って行った。

 言うまでも無いが、師範に渡したのはMH世界のハンター育成マニュアルである。マニュアルと言っても、俺が書き記した奴だけど。ハンター特有の肉体操作術については書いてない。下手に広まると危険だからな。……主に俺が。ギルドナイトが世界を超えてすっ飛んでくる気がする。

 肉体操作術については、機を見て白浜君に直伝するとしよう。

 

 

 ………ちなみに、肉体操作術が無い分、本来のハンターの訓練と比べれば楽ではあるが……目を通した師範が、「え、マジでこれやるの? 白浜殺す気? と言うか良心の呵責で我輩が死にそう」みたいな顔をしていたが、些細な事である。

 

 

 

 

 さて、肝心のお役目である異界調査であるが、沼を渡るいい方法は思い浮かばなかった。

 3人で知恵を持ち寄ったりもしたのだが、夢みたいな方法ばかりである。

 

 気は進まないが、沼は一旦避けて探索を進める事にする。正確に言うと、沼の周辺を調べて、一見では発見できない道がある事に賭けた。

 まぁ、あの小島に本当に何かあるかは分からんしな…。固執するのも微妙な話だ。

 

 

 それはそれとして…明日奈、まだ眠いのか? 昨日は半日近く寝てたって聞いたけど。

 

 

「ここまで眠そうなのも珍しい…。体調管理は普段は万全ですし、そもそも明日奈さんは多少徹夜しても平気じゃないですか」

 

「平気だからって、眠くないとは言ってないわ…。逆に寝過ぎたかしら…。どうも何か夢をみた覚えがあるんだけど…」

 

 

 ……夢、夢か。

 夢自体はともかく、あまり歓迎できる状態じゃないな。

 

 

「? 夢を見る事がですか? 単に眠そうなのが?」

 

 

 それも問題ではあるが………本人を前にして不安を煽るような発言をするが、千日夢って知ってるか? あとミズチメは?

 

 二人は顔を合わせて、前者については首を横に振った。

 戦った事があるなら知ってると思うが、あいつらは呪いを使う。凍らせたり眠らせたり、色々ね。

 中でも特に強い力を持ったミズチメは、夢を介して呪いをかける事ができるんだ。これが千日夢。強力だぞ…別の里では、神垣の巫女が張った結界を超えて、何人もが眠らされた事がある。

 

 呪いの内容は、名前の通り眠ったまま目が覚めなくなり、徐々に衰弱して死んでいく。

 呪いをかけられた者は、夢の中で過去に戻されると言われている。…と言うより、『あの頃に戻りたい』『過ぎ去ってしまった事を変えてしまいたい』と思ってる人が千日夢に付け込まれる、って言った方が正しいか。夢は願望を移す鏡みたいな役目もあるからな。

 

 

「後悔を持っている人間が狙われる、と言う事ですね。しかし、誰だって後悔や回帰願望は持っていると思いますが。私だって、とと様やかか様が生きていた頃に戻れたらと思います」

 

「そうね。何でもかんでも鬼の呪いのせいにしてると、何もされてないのにそう思いこんじゃって、自分で自分に呪いをかけるって事もあるし。……でも、夢を操るってのはありそうな話ね…」

 

 

 まーそうだな。そこであっさり言えるなら、大丈夫そうだな。

 地形的にも、あの辺にミズチメが居るとは考え辛い。とは言え、おかしな力を持った鬼は、何処に出現してもおかしくない。

 昨日今日は寝起きの時間が狂ったって事で納得するけど、体調にしろ何にしろ、異変を感じたらちゃんと言ってくれよ。

 

 

 

 

 なんていい感じに纏めたはいいものの、肝心の探索では何も発見できず。いや、発見できなかった事こそが最大の収穫なのかな?

 あの沼から離れると、鬼達の分布が急に薄くなった。…全体の鬼の配置や縄張りを確認してようやく確信を持てたが、あの沼の中の孤島に何かある。

 ていうか結界石がある。沼全体を囲むように、一部の鬼が巡回してたからな。

 

 さぁって、どうしたものか…。巡回の鬼、つまりは重要物の警備を任されるくらいの鬼達と、真向斬ってやり合うか?

 多分、仲間を呼ぶだろう。下手をすると、縄張り云々を無視して周辺の鬼を呼び寄せ………?

 

 

 

 ああ、そうか。呼び出しよりも縄張りを重視させればいいんだ。自分が離れている隙に、他の鬼に縄張りを取られるかもしれないと思わせる。要は、引っ掻き回して疑心暗鬼状態にするって事だな。

 となると……極力、俺達の姿を見せず、他の鬼がちょっかいを出してきたような痕跡を演出する、か。中々面倒な話だ。

 鬼と鬼が近くに居れば、適当に隠れて小突いて、喧嘩の切っ掛けでも作ってやればいいんだが。

 それをやるとしても、沼を渡る方法を見つけた後だよなぁ…。浅瀬でもあったら、話は早かったのに。

 

 

 

 




討鬼伝世界登場人物表兼コメント

Q.生活の中で、これだけは譲れないという拘りは?

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。
    A…祭祀堂の風通し。空気が淀むとよくないからね。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    A…一番風呂かな。まぁ独り暮らしなんだが。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    A…一日に一度……いえ二度は、風華の甘味を…。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
    A…そりゃやっぱり仕事さ。

・風華…祭祀堂の巫女。
    A…華天の毛並みを整える事でしょうか…。

他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
    A…髪の毛の手入れかな。

・神夜…無限のフロンティアより。
    A…お風呂上りに牛乳です。

・白浜君…既にお察しの通り、史上最強の弟子の白濱兼一君です。
    A…本に折れ目をつけない事です。貸した本につけられると…。

・泥高丸…ジャングルの王者ターちゃんより、マット・コーガン改めでいこうがん。
    A…起床直後の水垢離。これをやらないと頭がすっきりしないんだ。


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404話

GE3、とりあえずクリア。
…ストーリーもアレだけど、短すぎるやろ…。
ミッション数も少ない。
ダウンロード時から、妙に容量が少ないとは思ってたけど。

武器の設計図を手に入れて、次のミッションの敵に有効なのを作ろうとしても、素材になるアラガミがまだ出てきてないから作れないとかザラだったし。
いや、楽しめはしてますよ、楽しめは。

無料アップデートで高難易度任務も来ると思う(思いたい)し、今後何が出るかねぇ…。

さて、今年の年末年始、連続投稿できるかな…。




え? クリスマス? 仕事がクッソ忙しくてすっかり忘れてたよ。
忘れてなくてもシングルヘルだけどね。
何日がクリスマスだったかすら忘れてたよ。
妹の誕生日だった筈だけど、なんか26日がクリスマスだと勘違いさえしていたよ。


魔禍月 陸日目

 

 

 忘れてた…。討鬼伝世界の伝統を忘れてた。

 ウタカタで何度叫んだ事か。いや、何だかんだで防いではいたか。富獄の兄貴を落とし穴に嵌めたり、色々やったもんなぁ…。

 

 何があったかって?

 

 

 

 明日奈が一人で異界に突撃してったんだよ! 一人で行くなよ一人で!

 

 この世界の連中は本当に、妙な所で突撃精神発揮しやがって!

 何かあったら相談しろって、ちゃんと言っといただろーが! いや仕方ないと言うか、今回は突撃とはちょっと違ったけど!

 

 ゲンコツ喰らって額を赤くしている明日奈が、正座して小さくなっている。ちなみにゲンコツしたのは、俺ではなく神夜だ。ゲンコツっつーか、斬冠刀の柄頭で思いっきりブン殴ってたが…。

 どこからともなく、女の子が笑う声が響いては消え、響いては消えている。…と言うと怪談みたいだが、単に見えにくいミタマが居るだけだ。それに笑い声も、クスクスではなく、中高生の子供が爆笑してるみたいな笑い方だし。

 

 

「まぁまぁ…そう怒らずに。何とか無事に済みましたし、自分の意思ではなく鬼の術にかけられていたのですし。夢の内容も殆ど覚えていなかったので、相談しろというのも難しいでしょう。寝不足だって2日間の事でしたし」

 

「あうぅ……お手数おかけしました…」

 

 

 …まぁ、確かに術中にあったんだし、それに気付かなかった俺達も俺達か。

 悪かった。昔、戦友が同じような状況で散々突っ走ってたもんで、思い出し怒りが…。

 

 

 

 

 さて、何があったのか順を追って書いて行こう。

 事の起こりは昨日の夜。異界探索から帰ってきて、大っぴらに戦えずに欲求不満気味だった神夜と手合わせ。

 眠くて仕方ない明日奈は、先に家に帰った。

 

 で、手合わせも終わって、晩飯の用意をしてたんだけど……突然神夜が駆け込んできたのだ。

 

 

「明日奈さんを見ていませんか!?」

 

 

 …は? 明日奈だったら、家で寝てる筈だろ?

 

 

「居ないから探してるんです! さっき家を覗いたらもぬけの殻で、しかも扉も開けっ放しで!」

 

 

 …異常事態と判断し、とりあえず明日奈の家に駆け付けた。

 鷹の目を通して見るまでもなく、おかしな事は幾つもある。神夜が言っていた通り、扉は開きっぱなし。部屋の真ん中にある布団は、少し前まで明日奈がそこで眠っていたんだろう。畳まれる事もなく、中に居た明日奈が抜け出したままの状態。

 異界探索の時に来ていた服は、律儀に畳まれて部屋の隅に置いてあった。明日洗濯するつもりだったんだろう。…寝巻は無い。靴も無い。着替えずにそのまま外に出て行ったのか。

 普段は入り口近くに置いてある筈の、愛用の細剣は無し……少なくとも素手でどこかに行った訳じゃないか。

 

 鷹の目で見える足跡を追えば、少しばかり乱れた足取りで、里の外に向かって行ったのが分かった。む……一度足を止めた? ……ここで誰かと話したのか…。

 

 

「む? おお、お主達、何をしている?」

 

「あ、師範…。あっ、明日奈さんを見ませんでしたか!?

 

「あやつなら、先程あちらへ歩いて行ったぞ。寝巻姿で何をやってるのかと思ったが…」

 

 

 何か言ってなかったか?

 

 

「いや、特に何も。…今思うと、表情が少々おかしかったような気はするな。寝惚け眼と言うか…夢遊病にでもかかったか?」

 

 

 おかしいと思えよ…。

 

 

「…儂も疲れていてな…。お主に任された、白浜を鍛える為の鍛錬…見ているだけで正気が削れるわい…」

 

 

 そういや、鍛えるの任せてたっけ。様子を見に行こうと思ってたけど、忘れてた…。

 いや今はいい、明日奈はあっちに行ったんだな? 他におかしかった事は?

 

 

「空耳かもしれんが……去り際に、木綿季がどうのと言っておったような…」

 

 

 勇気?

 

 

「ゆうき……ゆうき……きっと木綿季です。明日奈さんの親友で、オオマガトキよりも少し前に流行り病で亡くなった方です。物凄く刀の扱いが上手で、もし生きていれば、きっと私や明日奈さんよりも頭一つ強くなっていた事でしょう」

 

 

 そんな人が…。

 …で、その木綿季さんがどしたんじゃろ。

 

 

「さぁ…。昼に言っていた千日夢と、何か関係があるのでしょうか…」

 

 

 夢を見てるって事か? でも千日夢ならそのまま目覚めない筈…。

 いや、他に似たような力を持っている鬼が居るかもしれん。とにかく今は追うのが先決だ。

 

 すまん師範、ちょっと里を周って、様子のおかしい人が居ないか確認を頼めないか? 最悪、鬼が里にちょっかいを出している可能性がある。

 

 

「うむ、そういう事なら承った。明日奈を追うのだな? 増援は?」

 

 

 必要云々以前に、多分瘴気の濃い所に入って行く。瘴気無効化がなければ、何人来ても結果は同じだ。

 それより里の防衛を頼む。

 

 

 神夜、瘴気無効装備は着けてるな? このまま追うぞ!

 

 

 

 

 

 と言う訳で急いで明日奈を追いかける。

 予想通り、明日奈の足跡は異界に続いていた。しかも行き先は例の沼。

 …不自然な事に、明日奈は見事に鬼を避けて進んでいったようだ。超が付くほど作為的。

 

 まぁ、後になって考えると、それも当然だったなーと思う。

 明日奈に追いつく為、立ちはだかる鬼を強行突破したが…結果的には、避けて進んだ方が早かったと思う。まぁ退路の確保という意味では無駄ではなかったけどさ…。無駄になったのは結果論でしかないし。

 

 フラフラと、沼に向かって夢遊病患者そのものの足取りで進んでいた明日奈。既に膝まで泥に漬かっていた。どう見ても入水自殺寸前です本当にありがとうございました。

 ようやく追いついて声をかけたら、

 

 

「あれ? 二人とも、どうしてここに?」

 

 

 だ。思わず拳を握った俺は悪くない。少なくとも、迷わず峰打ちでド突いた神夜に比べれば。

 それで明日奈も正気に戻ったんだから、結果オーライではある。

 

 寝間着姿、ついでに言えば寝ぐせもついている姿を見られて恥ずかしそうな明日奈はともかくとして…沼には明らかに何かが居た。

 昼に来た時には何も感じなかったんだがな…。GE世界の文明暮らしで鈍ったか?

 

 

 まーいいや。とりあえず明日奈、下がって周囲の警戒しとけ。細剣を持ってるとは言え、鎧も無しに鬼と戦うのは危険すぎる。

 

 

「……いいえ、私もやります」

 

 

 …ん?

 

 

「色々思い出して、状況が理解できてきたわ…。よりにもよって木綿季の声を利用するなんて……絶対に許さないッ!」

 

 

 おおう、顔が阿修羅モードに入っておられる。木綿季とやらとどんな関係だったのか知らないが、よっぽど頭に来たらしい。

 いいから引っ込んでろと言いたいが、この分だと乱入してでも鬼を斬りに行きそうだな。好きにさせといた方がマシか。

 

 さて……沼の中を泳ぎ回る鬼は、折角の食事を邪魔されて掃討にお冠らしく、サメのように背びれを見せながら、激しく動き回っている。

 どうすっかな…。あの瘴気沼に入るのは得策じゃない。かなり騒ぎ立てたから、他の鬼達が追いかけてくるのも時間の問題。

 弓…で狙う事はできるが、沼の中に入るとやっぱり威力が落ちるよな。

 

 …仕方ない。二人とも、これの事は黙っておいてくれよ。

 

 

「これ?」

 

 

 こ↑れ↓。神機っつーんだけど、ちょっと物騒な道具なんであんまり人に見せたくない。

 簡単に言えば銃みたいなもんだ。ていうか実際銃形態。

 

 

「はぁ、銃なら昔見た事がありますが…これであの鬼を撃つんですか? でも沼に阻まれるんじゃ」

 

 

 こいつの弾は実弾じゃないから大丈夫。と言うかオラクルって何なのか、実は未だに理解できない。

 

 

「相変わらず、不思議な物を色々持ってますね…。いっそ死人を生き返らせる薬でも出してくれません?」

 

 

 死にかけなら無いでもないが、完全な死者は心当たりは無いな。

 ま、とにかく……行くぞ。

 

 ロックオン、狙い撃つぜ!

 

 

 

 と言う訳で、スナイプスナイプスナイプ。

 狙撃弾がバカスカ降り注ぐ。泳ぎ回って逃げようとしていた鬼だが、逃げ足が遅いわ。砂漠のド真ん中で、ドスガレオス相手に的当てした時の方が、よっぽど面倒臭かった。

 

 執拗に背ビレを撃ち抜かれ、怒った鬼が飛び出してくる。

 こりゃあ……手足の生えた、デカいナマズかな?

 

 

 

『痛い……痛いよ、明日奈…やめてよ…』

 

 

 

 …おい、何か聞こえたか?

 

 

「木綿季……木綿季はそんな事は言わないわ。あの子なら、鬼に生かされるくらいなら、鬼を道連れにして自決するもの。敵の利になるくらいなら、あの子は笑って自分の首を掻き斬るわ」

 

 

 成程、これが木綿季さんとやらの声か。

 年若くして亡くなったと聞いたが、なんか随分と覚悟ガン決まりした修羅勢みたいだな。

 

 

「ええ。先日、ここに来た時、沼の上に木綿季が居たような気がしました。流石に見間違いだと思ってましたけど、あの時から眠ると木綿季の声が聞こえるようになったんです。こっちにおいで、助けて、会いたいよ、って…」

 

「朝、起きたら忘れちゃってたんですね…」

 

「う…仕方ないじゃない、夢の内容なんて覚えてる方が珍しいわ。今日…昨晩? も、夢の中で木綿季に呼びかけられて、追いかけようと寝惚け眼で歩いて…気が付いたらここに」

 

 

 成程、鬼の術に誘き寄せられたって事か。

 鬼の中には、人を捕らえて化ける為に利用したり、術に使ったりする奴も居る。

 明日奈の記憶から読み取った声を使ってるのか、それともミタマでも捕らえて使ってるのかは知らないが…とりあえず、叩き斬るか。

 

 

「穴だらけにしてあげるわ!」

 

「明日奈さんが普段より怖いですが、木綿季さんは私にとっても友人でしたので…覚悟!」

 

 

 デカナマズ相手に、討伐戦が始まった。

 …何と言うか、心臓に悪い戦いだなぁ。主に明日奈が。防具も付けてないから、攻撃受けると一発お陀仏になりかねない。

 だと言うのに、怒りに燃えた明日奈は、テンションが上がった神夜のような勢いで敵に突っ込んでいく。神夜も負けじと突っ込んでいく。銃撃による牽制に徹して、デカナマズの行動を封じる俺。ついでに、近付いて乱入して来ようとする鬼達の脳天を撃ち抜くのも忘れない。

 

 …まぁ、偶にはこんな役回りもいいか。別に損なポジションって訳じゃないし、身内を利用された怒りは本人が晴らすのが一番だ。

 途中でデカナマズが巨大ウーパールーパーみたいになったのには驚いたけど、文字通り陸に上がった魚。明日奈と神夜によって、見事にナマス切りにされてしまった。

 

 …明日奈が激昂しまくって、ラージャンみたいに覚醒するんじゃないかと思ったよ。

 攻撃される度、デカナマズ兼巨大ウーパールーパーが木綿季の声をで語り掛けて、それを聞いた明日奈がまた逆上する。随分大事な友人だったらしい。

 

 怒りに任せての戦いはあまりよろしくないが、理性の枷を取っ払った明日奈は強かった。完全にバーサーカー状態。

 幸い、防具無し状態だから攻撃を避けるだけの知能は残っていたが、もしもちゃんとした装備を整えて戦っていたら、タマフリ・治癒に任せたゴリ押しで、ダメージに構わず最高効率で殺しにかかっていただろう。

 

 

「私の親友を利用してくれた礼よ…。木綿季の忘れ形見、あなた程度に使うのは勿体ないけど…屠ってあげる! まざーず・ろざりお!」

 

 

 …正直言って、あれには見惚れた。

 俺達との稽古や、練武戦でも見せた事のない、脅威の11連撃。技名の発音がちょっとアレだったけど、まぁ外国語とか浸透してないし、無理もないよね。

 

 神夜、戦狂の血が騒ぐのも分からんではないが、今は止めなさい。

 

 明日奈の奥義によって、巨大ウーパールーパーはその体を真っ二つにされてしまった。

 怒りがまだ治まらぬとばかりに、細剣を握ってその残骸を睨みつける明日奈。…しかし、一拍置いて深呼吸すると、頭が冷えたようだった。

 

 

「ふぅ……ざまぁみろ、とでも言っておくべきかしら」

 

 

 言う前に鬼祓いしろ、鬼祓い。祓円陣で普段やらないから忘れてるのかもしれんが、普通は鬼を倒した後に遺体を祓って素材入手だからな?

 

 

「…そうでした」

 

『明日奈……明日奈…こっちに来なよ…』

 

「! まだ動く!?」

 

 

 いや、違うっぽいぞ。この鬼は確かにお陀仏してる。

 …と言うか、今の声は…沼の中の小島の方からか。あそこに、声真似してる鬼がまだ居るのか?

 

 

『僕……鬼じゃな…よ…。なんだった……日奈の昔の恥ずかしい話を……』

 

「………鬼…よね…?」

 

『違うってば…』

 

 

 あらゆる意味で信じられない、でもひょっとしたら本当に…?という表情の明日奈。

 隣の神夜に目を向けるが判断がつかないと目線で返された。

 

 しかし、来いと言ったってどうやって沼を渡れと。瘴気凄いから突っ切れないぞ、この沼。

 

 

『明日奈が進も…としていた所に、…瀬が…るよ…。鬼が作っ……』

 

 

 明日奈が進もうとしていた道? そういや、追いついた時に膝まで浸かってたが…。

 

 

「あ、本当です。沼の中に道が…。この道で小島まで誘いこんで、退路を断ってから襲うつもりだったんでしょうか」

 

 

 …ついでにいえば、もしもこの声が本当に木綿季さんとやらの声なら、目の前で親友を殺して絶望させようとでも思ったのかもしれんな。

 どちらにせよ、この機を逃す事はできない。次に来た時に、この道が残っているとは限らない。

 

 

「…そうですね。あまり時間は無いですけど、木綿季の声を放っておいて帰るなんて、できません」

 

「一応聞いておきますけど、実は罠で、道を壊された場合はどうやって脱出します?」

 

 

 切り札があるからダイジョーブ。

 …アラガミ化した状態で大ジャンプ・鬼疾風・アクセラレートでも使えば、沼の上を走り切るくらいの事はできるだろ。

 

 さ、行ってみようか。

 

 

 

 

 

 他に鬼が襲撃してくる可能性も考えて、警戒しながら沼を渡る。

 何事もなく渡り切り…明日奈が、濡れた寝巻が気持ち悪いとか言ってたが、仕方ない…声に導かれて小島の中を進むと。

 

 

「……ありました。結界石の石像です」

 

「…木綿季……本当に、ここに居るの…?」

 

『居るよー…隣の異界みた…に、早い所浄……よ』

 

 

 先日の異界浄化の時に見たのと同じ、瘴気に満ちた結界石。その中には、確かにミタマの存在を感知できる。

 中のミタマ…木綿季(仮)もさっさと浄化してほしいようだが、俺はそれどころではなかった。

 

 

 ここの結界石の石像は、玄武の石像だった筈なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 シオ。

 

 

 

 GE世界の、シオの姿をしていた。

 それもただのシオではない………いやシオにただも有料もないんだけど、とにかく普通のシオではない。

 

 ええと、何度目のループ…いや何回前のループだったか………とにかくアレだ、俺が個人農場(?)を経営してた時にシオだ。

 …有体に言っちゃうと、俺を逆レされて肉体関係を持っちゃったシオだ。

 服装も他のループの時に来ていた物とは違うし、肉体的にも………まぁその、俺とヤッてる内に、色々女性らしくなったからね。

 

 GE世界は何か知らんけどGE2の時間になっちゃってるが、あの時に会ったシオはもうちょっと成長してたしな…。

 

 

 どうしてあの時のシオがこの像に?

 色々と、各世界が交じり合い始めているような気配は何度も感じたが、これはまた毛色が違う。明らかに俺個人との繋がりだ。

 他のループのシオではなく、俺と関係を持ったシオだもんなぁ…。

 

 ひょっとして、最初の結界石が胎児になっていたのも同じ理屈か?

 理由や切っ掛けはともかくとして、あの胎児が俺の関係者だとしたら………心当たりは山ほど……ありそうだけど、逆に無かったわ。だっていっつもオカルト版真言立川流で100%避妊してたもの。酒とかで意識飛んでる時も。

 勿論、孕ませる目的で抱いた事もあるが、それは少数。MH世界で、妊娠を希望したシキや、猟団ストライカーの数名、セラブレス…そしてフラウ。

 

 もしもあの胎児が俺の関係者だとすれば、それは恐らくフラウの胎の中の子供。…いや、ひょっとしたらセラブレスの子か?

 デスワープ時で妊娠確定してるのが、あの二人だけだったし…。

 

 ………思い返すだけでも腸が煮えくり返るが、あの時、フラウの胎に宿った赤子は、クサレイヅチに奪われた。俺と関係を持ったシオも、同様に食われた。千歳だってそうだ。

 

 

 …………ビークール、ビークール…。

 

 

 仮にクサレイヅチに奪われた彼女達(1名性別不明だが)が石像の姿となっているなら、やはりフラウの子供なのか。

 …クサレイヅチが、近くにいる…のはいつもの事として、でもやっぱりどうして?

 

 

 

「…あの、何を考え込んでいるのかよく分かりませんが、まずは異界の浄化を…」

 

「木綿季も早く出せって騒いでますから」

 

 

 へ? ……あ、あぁ、そうだな。

 

 諸々の疑問は(いつものように)脇に退け、鬼の手を具現化させる。

 中のミタマが飛び出してくる道を作るよう想像して…浄化!

 

 

『やっほーい!』

 

 

 …長らく捕らえられていたとは思えない程陽気で元気な声で、ミタマが飛び出してきた。

 おお、これがミタマか…改めてみると面妖な…。

 と言うか、随分はっきりと見えるミタマだな。…と思ってたら見え辛くなった。不安定だな。

 

 

『やっ、明日奈! 神夜も元気だった!? あと解放してくれてありがとね!』

 

「木綿季…本当にあの木綿季なの…?」

 

『目の前に居るのに、まだ信じられない? やっぱり明日奈の恥ずかしい話、する?』

 

 

 是非。

 

 

「やめて。大体、どうして木綿季のミタマがここに…」

 

『何でって言われても…。流行り病で死んで、気が付いたら鬼に捕まってて、ここに押し込められたんだよ。時々、この石からひっぺがされて魚の鬼に利用されたりもしたっけ。いやー、利用されるのは頭に来るけど、もう死んでるから自殺もできないし、動く事もできなかったから退屈で退屈で…。あ、里はどうなってるの?』

 

「相変わらず極まりないですこの人…」

 

 

 昔っからマイペースだったのね…。

 つーか、さっきの巨大ウーパールーパーは、心を読むとかじゃなくて、死者のミタマを利用するタイプの鬼だったようだ。

 多分、明日奈以外にも被害者が居るんだろう。

 適当なミタマを見つけて捕まえたら、その知人を声真似で釣って捕食し、利用できなくなる程擦り切れたら、次のミタマを捕らえる。…捕らえられたミタマが誰かにもよるけど、泥高丸とかヤバそうだったな。兄や親父さんの声を使われると、あっさり引っ掛かりそうだ。

 

 

 まぁいいや。細かい事は後だ、後。未だにここは敵地、異界のド真ん中なのだ。まずは異界を浄化しないと。

 

 

『異界を浄化…本当にできるんだね。どうやって?』

 

「信じられない事に、出来るのよ…。……あ、でも…」

 

「…先の異界の時は、ミタマの本願寺顕如様が、結界石にかけられた術を逆転させてくださったのですよね。…木綿季さん、かけられてる術って分かります?」

 

『ボク、難しい事わかんない。モノノフの修行も、本格的に始まる前に死んじゃったし。…でも、なんとなくこれかなーってのはあるよ』

 

 

 とりあえずやってみようか。

 最悪でも、今より悪くはならないだろう。

 

 …今度、本願寺顕如=サンに会いに行って、術の逆転のやり方を教えてもらっておかんとな…。

 

 

「あ、そう言えば…本願寺顕如様は結界石に留まって、結界維持と異界浄化を助けてくれましたけど、木綿季は…」

 

「結界石が増えると、雪華様の負担が…」

 

 

 それはそうだが、この子にまだここに留まれと言うのもどうかと。

 

 

『異界が本当に浄化されるんだったら、別にいいよ。里の様子は見に行きたいから、時々自由時間とかは欲しいけどね。何より、ボクがここに留まれば、今まで利用してくれた鬼達への意趣返しになりそうだし」

 

 

 …自由よりも敵を阻む事を選ぶか。やっぱ修羅系だわ。

 ま、それもこれも、まずは浄化してからだ。んじゃ、行くぞー。

 

 

 

 

 

 

 

 成功……かな?

 



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405話

新しいネタとヌキネタが欲しくて、対魔忍RPGに手を伸ばしてみようと思いましたが、なんかエラーが出てプレイできず。
しばし調べて、32ビットPCでやっていたのが原因と判明。
以前、既にサービス終了したブラウザゲーム(R18)経由でウィルスに感染したっぽいから、メインPCでやるのは気が進まないなぁ…。
そのメインPCも、起動時に散々エラーが出るし、異音はするしでそろそろ寿命っぽい。
もう5~6年だものなぁ…。

まぁ普通にプレイ中ですが。
濡れ場は1キャラにつき1個かな?
信頼度上がる度に1シーンは流石に期待しすぎだったか。


おっと忘れるところだった、1/4くらいまで連続更新予定です


魔禍月 漆日目

 

 

 里に到着する頃には、もう日が昇り始めていた。

 

 2つめの異界浄化の後、神夜と明日奈を結界石に元に残して、俺は一度里に戻った。

 真っ当に考えれば、神夜だけを残して明日奈を連れ帰るべきだったんだが、明日奈も木綿季…呼び捨てでいいと言われた…も何やら話がしたいと主張したからだ。

 神夜を残したのは、率直に言えば二人のボディガードだ。何せ、今の明日奈は防具無しだ。普段だって軽装だけど、在ると無いとでは雲泥の差だしね。

 異界が祓われたとは言え、鬼が全て消え去った訳じゃないし、直接戦闘能力を持たないミタマの木綿季の警護だって必要だ。

 

 戻った里では、最初の時程ではないが、結構な騒ぎになっていたようだ。

 明日奈が鬼に連れ去られたと、師範を通して通達が出ていたから猶更である。…先に俺一人帰って来た事に、えらく心配されたが…大丈夫だって、無事無事。ただちょっと女の会話をしたいからってんで、俺だけ先に帰って来たの。勿論、理由はそれだけじゃないけども。

 

 出迎えてくれた雪華や寒雷の旦那、いざと言う時の戦いに備えていた泥高丸、鍛錬の疲れで殆ど動けないのに様子を見に来た白浜君に事の次第を報告する。

 異界浄化については、大まかな所は前回と同じなので省いた。結界石の中のミタマが、木綿季だと言う事には驚かれたが、それだけだ。寒雷の旦那達とは、接点が薄い子だったらしい。むしろ、白浜君の驚きの方が大きかった。そういや君も同年代だね。

 木綿季を利用していた巨大ウーパールーパーについては。

 

 

「ふむ…そりゃウシヲキナだな」

 

 

 牛翁? 魚にしか見えなかったが。

 

 

「俺に言うな。あと、多分牛じゃなくて潮だ。昔、里の外で転戦していた時に見た事がある。お前が言う通り、捕らえたミタマの声を利用してモノノフを誘い出し、餌場に連れ込んで捕食する鬼だ」

 

 

 ふぅん…。俺も結構色々見てきたけど、初めて見聞きしたな。

 

 

「珍しい鬼と言う事もあるが、基本的に巣穴から出てこない鬼らしいからな。非常にしつこい鬼で、標的と定めたら延々と追ってくる。俺が奴を見かけたのも、標的を追いかけていく時だったようだ。奴がいる場所では、モノノフが何人も不審死する。死んだ筈のモノノフの声が聞こえると言い出し、数日後には傷一つない死骸が見つかる。…鬼招き、と呼ばれていた」

 

「…死者を利用するか。気に入らん鬼だな…。俺も、もし兄さん達の声でも利用されたら…」

 

 

 まぁ、死者という意味ではミタマも同じだけど、俺達は利用してるんじゃなくて力を借りてるんだしな…。

 既に討った鬼の事はともかくとして、異界浄化自体は何とかなった。………っぽい。

 

 

「ちょっと待て、ぽいって何だぽいって」

 

 

 いや、よくよく考えてみたら、結界石の術を反転させる方法が分からなくってさぁ。一つ目の結界石を浄化したのと見た時の行為を、見よう見まねで再現したんだわ。

 実際、上手く行ったは行ったんだけど………なんかこう、手応えに妙な違和感が。

 

 

「何か懸念があると言う事ですか?」

 

 

 あるという事です。あると言う事なんですが、具体的には何も…。何せ自分の手で異界を浄化するのも初めてだったんで、比較対象が全くない。『こういうものだ』と言われると、反論もできない。

 ただ、なんかこう………あるべき所から、何かを『ずらした』ような気がして仕方ない。

 

 

「流石にそれだけでは何とも言えんな。当事者であるお前の感想や感覚を無視する訳ではないが、具体的な原因がさっぱり分からんのであれば、対処の仕様もない。現状、最優先するべきは異界の浄化。ひいては、他の里との連絡、協力体制の確立だ」

 

 

 ん…まぁ、そうだな。やっちまったものは仕方ないし。

 とは言え、後でちゃんとしたやり方を本願寺顕如=サンに聞きに行こう。

 

 

「あの、ところで結界石の維持はどのように? 木綿季さんのミタマは…」

 

 

 前と同じように、石に留まってくれるとさ。ただ、長年石に閉じ込められ続けて、退屈だったと騒いでいた。

 ずっと石に留まるんじゃなくて、自由時間が欲しいって言ってたぞ。

 

 

「自由時間って……ま、まぁ、短時間であれば、結界の維持もそこまで負担にはなりませんが…」

 

「…ミタマになっても相変わらずなんですね、木綿季さん…」

 

 

 呆れた様子の雪華と白浜君だった。

 

 

 

 

 

 さて、報告はこれくらいにしておいて。寒雷の旦那、二つ目の結果石に護衛を回す事はできそうか?

 

 

「ああ、そこは問題ない。そうだな、今動けるモノノフは…」

 

 

 何人か立候補者が出た。どうやら木綿季のかつての知人のようだ。

 …白浜君、流石に君は寝てなさい。まだ疲労が抜けてないんだから。話がしたいなら、その内里に遊びに来る時間を作るからその時にしな。

 

 とりあえず、今報告する事はこれくらいだ。質問はまた今度受け付けるから、今日は解散解散。

 俺も、結界石の護衛を案内して、明日奈と神夜を迎えに行かなきゃならんし…。流石に眠たくなってきた。

 

 

 

 

 後の事は、特に書く事も無かったので省略する。

 

 

 …ああ、いや一つだけ。迎えに行った時、様子がなんか変だった気がする。

 明日奈はテンパっていたようだし、神夜は何だか膨れっ面だった。そして木綿季は…声しか聞こえないが、明かに面白がっていた。何かあったんだろうか?

 

 

 

 

魔禍月 溌日目

 

 

 白浜君の様子を見に行く。まだ訓練を初めて1週間と経ってないが、ハンター式訓練法はヒジョーに厳しい訓練だ。根を上げていてもおかしくない。多分、この時間なら道場の隅っこで訓練中だろう。

 道場に近付くと、中から雑巾を散り散りに引き裂くような悲鳴が聞こえた。

 

 …ふむ、この感じだとまだまだ大丈夫だな。悲鳴を上げる余力があるんだから。

 

 中を覗いてみると、数人のモノノフが練武を行っているようだった。だが、明かに集中できてない。

 理由は明白で、白浜君の悲鳴と、何故か一緒に訓練している師範の必死の様が気になっているからだ。

 

 具体的な内容は記載できない。ハンター式肉体操作術と同じで、一応機密事項だし、そもそもどうマイルドに表現しても検閲削除不可避の有様なんだから。

 

 …あれ、何で師範まで同じメニューやってんの?

 なぁなぁ、そこのにーちゃん。

 

 

「ん? お、おぉ、あんたか。異界の浄化、お疲れさん」

 

 

 どうもご丁寧に。…で、何で師範も白浜君と同じ事やってんの?

 

 

「いや……白浜に特別訓練をさせてるらしいんだけど、その内容が過酷すぎて、白浜だけにやらせるのが心苦しくなったらしい。『貴様だけに地獄は見せぬ! 共に煉獄を巡ろうぞ!』って言い出して、それであの状態」

 

 

 …確かに過酷な訓練だけど、そこまで厳しいかなぁ…。描写するのも憚られる程ではあるが。

 

 

「…そういや、あれってお前が提案した訓練方法なんだって? 案外鬼畜だな。異界浄化と練武戦での優勝以来、お前に教えを請いに行こうかって話を何度か聞いてたんだが、あれを見て皆尻込みしてんだぞ」

 

 

 むぅ…まぁ、端的に言えば人間が人間のまま、それ以上になる為の訓練だからな。そりゃ厳しくもなるか。感覚が麻痺しとった。

 しかし実際、これくらいやって鍛え上げないと、白浜君が一端の実力者になるのは無理だろう。

 

 

「無理って言うかそれ以前の問題です! 確かに指示に従うとは言いましたが、これは幾ら何でもやり過ぎじゃないですか!?」

 

「白浜ぁ! 無駄口叩く力があるなら、体に力籠めぃ! ぬっ、ぬぉぉぉっ、吾輩も腕が! 腕がぁ! だがまだまだぁ!」

 

「はいいぃぃぃ!!! ああああ死ぬ死ぬ死ぬこれちょっと力抜けたら死にますってこれちょっとくきぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 

 

 必死だのー、無駄口叩くなと言う方も言われた方も。

 しかしまだ大丈夫。必死こいて訓練しながらも俺に気付くだけの注意力が残ってたし、喚くだけの力が残ってるし。

 

 死ぬ死ぬ言ってる間は大丈夫。

 死ぬ気でやってみろ。死なないから。 

 

 

「いや流石に我輩もこれはちょっと冗談抜きで死ぬって刃が首に堕ちたら普通に死ぬぅぅ地獄廻りは比喩であって!」

 

 

 大丈夫大丈夫、まだいけるまだいける。

 

 

「『まだ行ける』は『もう駄目だ』ってモノノフの標語にもあるじゃないっすかぁ!?」

 

 

 『もう駄目だ』と思ってからが本番だ、ともあるな。

 諦めたら人生終了ですよ。

 

 

「うぉぉぉぉ我輩は猛烈に後悔しているぅぅぅぅ!!!」

 

「ちょっ、師範! 一緒に特訓してくれて感動してたのにぃ!」

 

「感動されようと死ぬのは嫌じゃぁ!」

 

 

 んー………負荷あーっぷ。

 

 

「…………!!!!!」

 

「…………!!!!!」

 

 

 

 うむ、叫ぶ余裕もなくなったな。これで良し。

 横で声をかけたモノノフがドン引きしてるが、仕方ないじゃないか。ドスファンゴに追いかけさせたりしようにも、この辺には獣が少ないんだ。他の方法で負荷をかけようと思ったら、そりゃこうなるよ。

 

 

「…実は俺も訓練法とか聞きに行こうかと思ってたんだけど、やめとくわ…」

 

 

 そっか? …まぁいいけど、この線香が燃え尽きたらトドメもとい助けてやってくれ。

 そんじゃ、俺はもう行くから頑張ってねー。

 

 

「いやいや、あんな拷問な訓練させるなら、せめて最後まで監督してやれよ!」

 

 

 御尤もだが、それでもいいって条件で白浜君を鍛える約束したからね。

 

 

 

 

 

 

 道場から出ると、背後から「じぇろにもぉぉぉぉ」という叫びが聞こえた。だが何の意味も無い。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、白浜君と師範はもう暫く生と死の境をフラフラしてもらうとして、これからの事だ。

 牡丹の戦略眼によると、一つ目の異界を浄化した時同様、消えた異界に居た鬼達が、他所の異界に押しかける可能性が高いそうだ。

 鬼同志の縄張り争いによる疲弊を期待する…つもりだったのだが、今回はあまり効果が無いかもしれない。

 牡丹曰く、『そろそろ指揮官級の鬼が出てくる筈だから』だそうだ。

 

 異界が二つ浄化されてから動き出すとか、対応が遅いなぁ…と思ったけど、指揮官級ともなれば相当に強く、そして深い異界に住んでいる筈。浅めの異界が消えたとしても、思いっきり他人事だったんだろう。自分に被害が来ないと動かない上司…か。鬼の世界も世知辛い。

 ともかく、指揮官級が出てきて縄張り争いを強引に収める可能性がある。普通に考えるなら、縄張りを新たに用意するとか、元々住んでいた奴に割りを食わせてでも住まわせてやるか、になるんだが……人間社会と違って、『弱い奴はタヒね』的な対応をしても、何らおかしくないんだよなぁ…。

 

 何にせよ、異界浄化班は暫く様子見と斥候に専念する事になる。その間に、指揮官級の鬼を見つけられればいいんだけどな。

 

 

 

 とりあえず、今日の俺は一つ目の結界石の所に行く事にした。本願寺顕如=サンに、術の利用の仕方を確認しておかなければいけない。今回は上手く行ったが、我流でやって何か致命的な事をしでかしていた可能性だってあるのだ。…と言うか、しでかしてしまった気がして仕方ないし。

 天気もよくて比較的暖かい日なので、散歩がてら行ってみよう。

 

 

「ん? なんだ、お前か」

 

 

 なんだ、泥高丸か。どうした、こんな所で。

 

 

「何って、日課の墓参りだが。墓のある辺りの異界が浄化されてから、毎日欠かさず参っているぞ。そういうお前はどうなんだ。いつもの二人も、珍しく居ないじゃないか」

 

 

 あの二人は、よくわかんないけど秘密の相談があるとか言って、神夜の家で話し込んでるぞ。その後は木綿季の所に行くそうだ。

 死に別れた友人との再会が、余程嬉しかったんだな。

 

 

「それはそうだろうよ。俺だって、兄さんや親父と…母さんや妹に会えたなら、人目も憚らずに号泣する自信がある」

 

 

 …ま、分からんでもないな。俺も死に別れたと思ってた人と会った時は……。(相手にその記憶はなかったけど)

 とりあえず、俺は結界石の所まで行くんだが…道は同じか。偶には男二人で連れだって歩いてみるか?

 

 

「構わんぞ。色気がない事夥しいが」

 

 

 それぞれ得物を片手に雪原を歩く。

 里に近い辺りは、警備隊が念入りに鬼を狩った為、小型の鬼の痕跡すらない。自分の功績を過剰に誇りたい訳じゃないが、ここが異界に沈んでいたとは、とても思えない程だった。

 

 

「お前がシノノメに来てから、一月程度か…。よくもまぁ、それだけでこうまで事態が動いたものだ」

 

 

 正直、自分でも出来すぎだと思う事はあるな。事態が好転しているなら文句はないが。

 と言うより、今までが停滞しすぎだったのもあるんだろう。鬼との戦いが始まって、どれだけ時間が経ったか。

 伝承に聞くムスヒノキミがモノノフを結成した時から数えても、百年以上の時が経過した。だが、鬼の正体は一考に判明せず、むしろモノノフは歴史の陰に隠れて衰退する事すらあった。挙句、何が切っ掛けで発生したのかも分からない、オオマガトキなんて大災厄で人の世は滅ぶ寸前だ。

 …別に今までが怠けていたと言う訳じゃないが、もっと早くに異界浄化なり、鬼を発生させない方法なりについて研究するべきだったんだろうなぁ…。

 

 

「…難しい事を考えてるな。俺にはその辺の事はよく分からんが…里の外のモノノフは、みんなそうなのか? 俺も世間知らずなのは実感したが、もっと外の世界に触れるべきか……今は触れようにも接触が断たれているけども」

 

 

 いや、大体は目の前の鬼を斬るか、逃げ切るかで手一杯だな。そう考えると、異界浄化を試みていた博士とか、その必要性を早くから理解していた西歌って優秀と言うかなんというか…。

 

 

「異界浄化の術、か…。術の研究は鬼纏ばかりだったから、正直よく分からん。しかし…応用は効くか? 瘴気を取り込んで力にするのが鬼纏。そして瘴気自体は、異界に満ちている…鬼から零れ落ちた瘴気の塊に拘らず、空気中を漂っている瘴気を集めて取り込めば…」

 

 

 よく分からんけど、それって静電気を集めて雷にしようとしてるようなものだと思うぞ。出来そうな奴も居るけども。

 さて、もうすぐ墓場……なん…だけど…?

 

 

「どうした? …また来たよ、兄さん、親父…」

 

 

 墓に向かって手を合わせている泥高丸はともかくとして。

 ねぇ、何、あの……何?

 向かいに見える山に、なんか黒い穴が見えるんですが。

 

 

 

 

 故人と会話している(流石に比喩表現)泥高丸は放置して、暫く黒い穴を観察する。どう見ても、尋常・真っ当な現象ではないな。

 黒い穴と言えば、クサレイヅチの巣を連想するが……なんかこう、違うな。クサレイヅチの巣は空に空いた穴だけど、あれは……多分、地表に開いてる穴だ。

 それに、よくよく見てみれば印象も大分違う。クサレイヅチの巣は、色々な物を飲み込む大渦巻のようだった。それに対して、あの穴は……トンネル? 入るも出るも好きにできるっつーか。あくまで、遠目からの印象なんて、実際にはどうなのか分からないけど。

 …実際、仮にあそこにクサレイヅチが居るとしたら、俺の本能が察して速攻で突撃してるような気がするし…。

 

 

「……ふぅ。すまん、待たせたな」

 

 

 親父さん達とのお話は終わりか? それはいいから、ちょっとあれ見てみろ。

 

 

「あれ? ……………ありゃあ……なんだ?」

 

 

 俺が聞きたい。この辺で同じ事が起きた事はないのか?

 

 

「無いな。毎日ここに来ているが、昨日はあんな物は無かったぞ。警備隊からの報告も無い…。………いやその、今日は墓参りに気が行ってたけど、終わった後ならちゃんと周囲も見るからな?」

 

 

 どっちでもいーけど、ちゃんと周囲の警戒はしとけよ。まだどこに鬼が出るか分からないんだから。

 さて、どうしたもんか…。

 

 

「どうもこうも、俺達より詳しくて、よく見てる専門家が居るじゃないか。ほら、この先の結界石に。元々、会いに行くつもりだったんだろ」

 

 

 結界石? …あ。本願時顕如=サン…。

 言われてみりゃ、それもそうだな。距離的にもここから近いし、ミタマだから結界石から動けないだろーし、ずっと見ててもおかしくない。

 

 どっちにしろ、結界石の使い方について教わらなきゃいかんのだし。よし、行くか。

 

 

 

 

 

 ド突かれた。

 ミタマにド突かれた。警策で叩かれるならまだしも、『仏罰!』と叫んで実体化した拳で殴られるとは思わなんだ。へっ、坊主にしちゃいい拳もってんじゃねぇか…。

 

 …いえ、ナマ言いましたゴメンナサイ。だからその背後に見える、千手観音像(どう見てもH×Hな感じの)をしまってください。

 …ミタマって実体化なんてできたのか…。

 結界石の警護を行っていた、数人のモノノフ達もドン引きしておる。

 

 

「いや出来る訳ないだろ。初めて見たぞこんなの…」

 

『いえ、結界石の中に居るからこそできた事です。普通は不可能ですね』

 

 

 と言うか、前よりもはっきり見えるし聞こえるんですが。

 

 

『それも、結界石の中だからこそ。この石の性質を使い、ミタマの力を強化する事ができるのです。無論、結界石の中に留まっている時のみですが』

 

「流石は高僧と言うべきか…。そんな事が出来るなんて、聞いた事も無い。…まぁ、元々狭い世界しか知らないし、その話によるとミタマとなってからしか使えない術みたいだから、知らなくて当然ではあるが…」

 

『ええ、私もここに押し込められ、脱出の手段を探る内に知りました。試したのは今回が初めてですが。…それよりも』

 

 

 あの、お説教が続くのはこの際仕方ないとして、せめてその理由を先に説明するか、あの山の黒い穴について何か所見をいただけないでしょーか…。

 

 

『ええいいでしょう、正にその事についての説法なのですからね…!』

 

 

 

 千手観音がパワーアップして再臨した。

 

 

 

 

 

 

 …結論から言うと、あの黒い穴はおもっくそ俺のせいだった。

 穴が目に見える形で出現したのは、半日ほど前。異変を発見した警護隊が一人、伝令に走ったのだが…どうやら入違ってしまったらしい。

 

 本願寺顕如=サン曰く、兆候はもう少し前からあったらしい。具体的には、二つ目の異界が浄化された時から。

 …手応えからして、なんかやらかしたんじゃないかって気はしてたんだけど…大当たりだったか。自己流でやった結果、結界石の効果が妙な形で地脈やら何やらに作用してしまい、その結果あの穴が出来上がったのだそうだ。

 遠く離れてる筈なのに、よく検知できたなぁ…。

 

 え、俺以外に出来る人が居ないから? そりゃ御尤も。

 

 で、結局あの穴は一体何なんですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …うわぁ。

 

 

 「うっへぁ……」

 

 

 話を聞いて、泥高丸諸共に変な声を出してしまった。

 本願寺顕如=サンでも間近で見て調べた訳ではないので確証は持てないが、曰く『第二のオオマガトキになったかもしれない物』だそうだ。

 そもそも、術と言うのは厄介で繊細なものだ。それは鬼の物であっても違いはない。下手に弄ると、術者にさえも分からない現象が発生しかねない。その術の規模や力の大きさが大規模であるなら、猶更だ。

 

 言ってみれば、俺が結界石の術を見様見真似で弄ったのは……そうだなぁ。

 も〇じゅの制御装置を、『ボタンを押すだけだから簡単だよね、世ゆーよゆー』とホザいて、一度見ただけで説明すら受けてない操作を記憶頼りにやりやがったようなもんだろうか。

 そりゃ仏様も顔が300個くらい一気に消えるわ。百式観音で顕現して、生前の格闘技術をフル活用して殴りに来るわ。怒りの後光で立川に初日の出が何度齎される事か。

 

 術が乱された影響は、地脈に干渉して妙な結果…つまりあの黒い穴…を生んだが、幸いな事に小規模ですんだ。

 もしもそのまま術の影響が止まっていなかったら、ブラックホールよろしくシノノメの里も、下手をすると霊山、ウタカタ、マホロバさえも巻き込んで、何もかもが消え去っていたかもしれないのだ。

 

 

『私の慈悲深さがよく身に染みたところで…何か言う事はありませんか?』

 

 

 私が愚かでございました。伏してお詫びいたしますので、次の結界石の浄化の際にはお手伝いをお願いするか、安全な術の逆転方法のご教授をお願いいたします。

 

 

『…まぁ、よしとしましょう。とは言え、知っての通り私はここから動けません。非常に不安ですが、術の教授といきましょう』

 

 

 ありがたきシアワセ。…明日奈に任せちゃダメかなぁ…。ダメだよなぁ。勿論明日奈にも覚えてもらうつもりだが、次のループの事とかも考えると、俺も知っておかないと。何せ異界の浄化だ。万難を排して身に付けるべき技術だもの。

 土下座する俺を横目に、他のモノノフ達に何やら報告を命じていた泥高丸が戻ってきて、首を傾げた。

 

 

「ふむ…話は聞かせてもらったが、なんだな。その理屈で行くと…あの黒い穴の向こうは、元々鬼達が居た場所…と言う事になるのか?」

 

 

 …そう言われてみればそうだな。鬼達は昔からちょくちょくこの世界に現れてはいたけど、オオマガトキで『門』が開いてこちらの世界に溢れ出した。

 と言う事は、もっと大きく成ればオオマガトキ第二段になるであろう、あの穴の向こうは…。

 

 

『可能性はありますが、正直なんとも…。流石に前例が無さすぎて、推測しか成り立ちません』

 

「だが、もしもそうだとしたら…さっきも言っていた話だが、鬼達の正体や生態をより詳しく調べる機会にもなる訳か」

 

 

 おいおいおいおい、泥高丸、本気か? 下手すると、あっち側に行ったら戻ってこれないかもしれないんだぞ!?

 そもそも、今のこの里の状況で調べに行く余裕があるのかよ。

 

 

「それはそうだが…いや、それ以前にあれを閉じる事はできるのか? できるなら素直にやればいいんだが、出来ないのなら使い道を考えた方が…」

 

『……一時的に封じる事なら、不可能ではありません。ですが、流石に暫く術を構築するのに時間がかかります。その間、あの穴から鬼が出てくるのか…』

 

 

 あの穴の向こうが鬼達の世界って事は、瘴気に満ちてる世界だよな…。こっちに流れ出てきて、異界が再びって事は…。

 

 

『あり得ますが、今のところ大した量の瘴気は流れ出ていません。結界によって、放っておいても浄化される程度です。向こう側は鬼の世界でも、鬼が少ない場所なのかもしれませんね。さて、推測の話はこれくらいにして…結界石の術の利用について教授しましょう。ここ暫く色々と研究して、明かになった事もあります。成果を語るにはいい機会ですね』

 

 

 あ、これ長くなる奴や。と言うか成果を語るなら、警護してるモノノフ達にでも語ればよかろーに…。

 はぁ…帰ったら寒雷の旦那や牡丹、ひょっとしたら雪華にも超絶説教喰らうだろうし、こりゃ今日はもう何もできないな…。

 

 

 

 

 

 




討鬼伝世界登場人物表兼コメント

Q.最近見た夢で、印象に残っているのは?

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。
    A…生きてた頃の夢かな。…空腹を感じないだけ、ミタマ状態の方が楽だわ。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    A…金で満たされた蔵の中で、乾いた笑いをあげてた夢だ。…代わりに飯がないって夢だったが。

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    A…霊山に居た頃の知人が、集団で謎の踊りを踊っている夢が…。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
    A…夢なんか殆ど見ないからなぁ…。覚えてもいないし。

・風華…祭祀堂の巫女。
    A…華天になって、異界の中を走り回る夢を見ました。

他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
    A…まぁ…木綿季が呼んでる夢よね。

・神夜…無限のフロンティアより。
    A…夢の中で、熟睡している夢を見たのですが。

・白浜君…既にお察しの通り、史上最強の弟子の白濱兼一君です。
    A…筋肉痛で眠れません…。

・泥高丸…ジャングルの王者ターちゃんより、マット・コーガン改めでいこうがん。
    A…夢の中でも、鬼纏の研究を続けているが何か。


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406話

魔禍月 仇日目

 

 

 昨日は散々だったなぁ…。やらかした事を思えば無理もないと分かってるけども。明け方まで説教されるとは…。

 それでも実質的な罰が無かったのは、許されたからではなく、俺を戦線から外す事ができないからにすぎない。結界石の術を利用して異界浄化させるには、今のところ鬼の手が必要不可欠だからだ。…本願寺顕如=サンも、『そうでなければあなた以外にやらせます』と言い切った。当たり前だけど信用が無い。ついでに言うと、明日奈に覚えさせるのも難しくなってしまった。

 

 ついでに言うと、他の里や霊山に伝える事が出来たとして、あっちで再現できるのか…。

 本願寺顕如=サンの研究・講義によると、異界の浄化はこの土地の特殊な条件を満たしていたからこそ出来たらしい。

 

 その条件とは…宝玉だ。里に来たばかりの時、寒雷の旦那に教えてもらった宝玉。…まぁ、実際にはその辺に転がってる石ころでしかないんだが。

 里の生活を支える要であり、様々な事に使える万能エネルギー源。今まで日記には書いてなかったけど、俺も日常的に色々使っていた。専ら、酒を温めるとか、寝床を温める湯たんぽに。

 これが術に反応・共鳴し、その効果範囲と強さを跳ね上げていたらしい。一つ一つの効果は微細でも異界中に転がっていた宝玉が連鎖的に反応した結果、ダイソンより強烈な吸引効果を生み出して結界石に瘴気が収束。そしてそれを、鬼の手と本願寺顕如=サンの力で纏めて握り潰した訳だ。

 

 そして、一番重要なのは結界石の質…と言うか、中身? だ。

 本願寺顕如=サンや木綿季が宿っている結界石は、一見すると普通の結界石だ。……普通は結界石を彫刻にはしないと思うし、俺の知り合いや(多分)子供の形に変形もしないが、それは置いといて。

 

 結界石の中身は、なんと宝玉と同じ素材になっているらしい。結界石に宿っている本願寺顕如=サンが、直接中身を見て確認したので間違いない。

 本来の結界石と宝玉が混在した石像。これを利用した事により、凄まじい浄化効果が産まれた…と言うのが、本願寺顕如=サンの見解である。

 

 

 逆を言えば、結界石と宝玉を混在させた触媒、そして広範囲にばらまかれた宝玉が無ければ出来ない大技。

 そもそも宝玉が出来上がる条件が、今一つ分からない。霊山とかでも見た事ないし、資料にも無かった。この里特有の物だと思うんだが…。

 珍しい物ではあるが、貴重な物ではない。この里近辺であれば、普通にその辺に転がってるんだもの。自然に出来上がった物である事は間違いない。多分、道端の石ころが何らかの条件を満たした時に変化するんだろうけども…。

 

 

 

 

 …まぁ、そういう細かい考察は研究職に任せよう。異界の浄化が先に実現されたと聞いたら、マホロバの里の博士がすっ飛んでくるかもしれん。そっちで考えてもらおうか。

 幸い、次の異界にも宝玉は転がっている。里近辺を浄化するだけなら、現状では大した問題はない。

 …しかし、里近辺でしか宝玉が取れないとすると、離れれば離れる程異界の浄化は難しくなるって事で…。うーむ、通行路を確保できるくらいに浄化ができればいいんだけど。

 

 

 

 ま、そこらへんは考えても仕方ないか。

 例の黒い穴に関しては、暫く監視と言う事になった。幸い、向こうから漏れ出てくる瘴気の量や鬼は極めて少ない。早めの対処が必要であるが、緊急ではない。

 

 

 …と言う訳で、今日も探索なんだが………明日奈、なんでまた眠そうなんだ? まさかまた、妙な夢でも見たのか? おにの術の効果が、まだ続いているのか?

 

 

「あ、いえそういう訳では…文字通り、ちょっと寝てないだけですんで…」

 

「ええ、徹夜で書物を読み耽っていただけですので、心配ありません。家主の私にも構わずに」

 

 

 ? よく分からんが、昨日は木綿季に会いに行った後、神夜の家で本を読んでたって事か?

 徹夜する程熱中するとは、そんなに面白い本だったのか。

 

 

「え、えぇまぁその…。未知の世界を垣間見たと言いますか…。ちょっとどころじゃなく我を忘れたと言いますか…」

 

「申し訳ない事極まりないのですが、興味があっても見せる事はできかねます。何分、門外不出の家伝ですので…。明日奈さんにこれでもかと言う程頼み込まれて、序盤を一晩だけ見せましたけど、不本意な事には変わりありません」

 

「わ、分かってるって…。無理を聞いてもらって感謝してるわ。当分ご飯奢るし、他にも色々するから…」

 

 

 それで神夜はちょっと立腹してるのか。しかし、門外不出のねぇ…。興味はあるが、無理にとは言えないな。

 …でも、苛立たしそうだったのは、木綿季と明日奈の3人で話した後もだったな…不機嫌になる事が続いているのか? 何か気晴らしでもしてやった方がいいかもしれない。

 それにしても、神夜のこういう怒り方は珍しいかもしれない。怒るにしても、静かに笑顔で怒るタイプだと思ってたが。

 

 

 さて、探索の時間だ。気持ちを切り替えようか。

 これから、俺達は三つ目の異界に突入する。牡丹の見解によると、ここからは強力な鬼が一気に増えて、前回のような縄張り争いでの疲弊もあまり期待できない。

 むしろ、奴らは手薬煉ひいて俺達を待ち受けていると思った方がいい。

 

 

「と言う事は…これまで以上に慎重に進むと?」

 

 

 いや、むしろ積極的に狩りに行く。敵に見つからない事よりも、戦力を削る事を優先するつもりだ。

 

 

「私としては、歓喜極まりない事ですが…よいのですか? 今までとは方針が真逆になっているように思えますが」

 

 

 いつかはこうなると分かっていたし、構いはせん。そもそも、潜入だの同士討ちだのの搦め手は、正攻法があるからこそ有効なんだ。あっちも警戒を強める頃だ。方針転換は、鬼の意表を突く為でもある。

 …というのが、牡丹の言葉。俺としても否は無い。彼女の戦術眼は信頼できる。

 

 不謹慎な事を言うが、強力な鬼が出てくるなら個人的には歓迎だしな。こう言っちゃなんだが、ここのところ全力を出せる機会が無くて、段々鈍っていく感じがしてなぁ…。

 

 

「…私達は、多少余裕があっても死力を尽くして戦ってたつもりなんですが……随分余裕ですね」

 

 

 悪いけどな。あんまり見せたくない奥の手も幾つかあるし、本気で戦ってはいるけど、死力を尽くしているとは言い難い。侮辱に聞こえるかもしれんけど、単純に地力に差があり過ぎる。

 

 

「いえ、実力の差は身に染みてますから。…まだ上があるとは思ってました」

 

「いつか追いついて魅せますので、その時には思う存分斬り合いましょう♪」

 

 

 …期待はしておく。さ、行こうか。

 今日は待ち構えているであろう鬼達を、思いっきり殴りつけにいくぞ。

 

 首よこせ、ってなぁ!

 

 

 

 

 

 と言う訳で、積極的に鬼達を誘き寄せるようにして暴れてきました。3つ目の異界ともなると、牡丹の言うとおりに鬼の強さも警戒心も段違いだったようだ。

 異界に入るなり、『見つけたぞコノヤロウ!』とでも言うように寄ってくる事寄ってくる事。

 数が多いばかりの雑魚ではない。そこそこの強さを持った鬼達が、どんどん襲い掛かって来た。

 

 明日奈も神夜も、そいつらに決して負けてはいなかった。この一か月程で急激に練度を上げ、実力以上の鬼と何度も戦って乗り切って来たのは伊達ではない。

 だが、残念な事に…二人は劣勢と言わざるを得ない。非常に不利な戦いを強いられていた。

 

 理由は簡単、敵がどんどん押し寄せてくるから、シノノメの里特有の戦術・祓円陣を使えないのだ。

 祓円陣は、本来4人がかりで敵を囲み、結界を仕込んで鬼祓いの手間を省き、超短期戦でカタをつける戦い方。その為、2体同時に相手にするような場面では、極端にその効果が落ちる。3体相手なら? 4体相手なら言わずもがな。

 4体同時に相手とか普通に悪夢のような状況だが、それ以上に二人は不慣れな戦い方を強いられた。

 分断された事により、効果の落ちた祓円陣の効果を補うべく、破壊した部位に鬼祓いをかけ、長時間の連続戦闘に耐え、逆に複数の鬼に囲まれる。

 

 …他の里ならなぁ。一人前のモノノフになれるかどうかの登龍門だよな。複数の大型鬼にどう対峙するか、ってのは。

 大抵の場合、移動して敵を引き剥がす、同じ区域に居るにしても近寄らせないようにしてヘイト管理して戦う、そもそも相手にしない等、何通りかの対策はできていると思う。大型鬼複数じゃなくても、大型+小型ってパターンも多いしね。

 

 しかし、二人はそう言った状況をまるで想定していなかったらしい。経験不足がモロに露呈したなぁ…。

 必死で戦って敵を斬り払ってはいるものの、雑魚に邪魔され、大型鬼の波状攻撃に悩まされ…。うーん、懐かしい。俺もあんな頃があったっけ…。

 今となっては当然のように対処できるようになってしまったが。と言うか、対処できるようになってなければ、フロンティアでは即死確定である。クック先生8連発ならゲームであったけどさぁ、倍の16連発って何よ…。中には強化個体とかも混じってたしさ…結果的にソロでクリアしちまったけど。

 

 

 

 え、見物してたのかって? 助けながら見物してたよ。これ以上はアカンってくらいの鬼は片っ端から狙撃して叩き落し、接近を阻止した。接近させる頃には、消耗した二人でも何とか倒せるくらいに削ってた。

 ここからこういう戦いが多くなる。ここに限らず、外の世界との交流が復活すれば、祓円陣だけで戦っていける訳じゃない。

 あんまり好きな言い方じゃないが、これも試練という奴だ。

 

 言い方、表現はともかくとして、高難易度任務ってのはこういう状況の繰り返しで出来てるからな。早い内に慣れておいた方がいい。尚、人生も同じような状況の繰り返しである。

 …………本当にね。

 

 

 

 

 とりあえず、今日は戦うだけ戦って、二人を抱えて戻って来た。

 ………神夜の表情が、なんかエロいくらいに上気していたのが気になった。

 

 

 

 

 

魔禍月 十日目

 

 

 神夜と明日奈から相談を受けた。昨日の戦いで、思う事があったらしい。と言うより、そう感じて当たり前になるくらいまで放置してた結果だけども。

 今まで自分達が使ってきた戦闘スタイルが通じなくなったら、自分達がどれだけ脆くなるのか身に染みて理解したようだ。

 まー無理もないよな。俺だって、今でこそ3つの世界の大抵の相手には自分のスタイルでやれるけど、一旦崩れればランポスにだって手古摺るだろう。何だかんだ言って生物としてのスペックは、ハンターよりもモンスターの方が高いのだ。…………見てて疑問に思えてくる事も多いが。

 

 何にせよ、今までとは違う状況でも戦えるようになりたいのだそうだ。

 

 

 …と、言われてもなぁ…。正直、二人の戦い方と言うか技術自体は文句の付けようがないレベルなのだ。そりゃ研鑽なんてものは上を見れば果てが無いし、G級ハンターには遠いのは否定できんが、欠点らしい欠点は無い。

 後は自分達でどれだけ研ぎ澄ませていくか、そういうレベルなのだ。その研ぎ澄ます機会が少なかったんだな。つい一月前まで前線からは引き離されていた上に、戦えるようになってからも速攻で敵を潰してきたから、長時間の戦闘は不慣れなのだ。

 

 つー訳で、後は延々戦って自分で磨き上げろとしか言いようがない。

 

 

「そう言わずに、何かありません? 戦いに携わる以上、自分達の欠点を放置しておく事は文字通り命取りですので」

 

「普段でしたら自分達で稽古を…と言う所ですが、勝手が違い過ぎること極まりないです」

 

 

 むぅ…。

 確かに、自覚している欠点を放置するのは愚者のやる事か。

 

 ……うん、単純に考えようか。今の二人に足りてないのは、単純に場数だ。それも、今までとは違う環境での戦い。

 なら戦って来ればいいだけの話。鬼達が一斉に寄ってくる異界の中じゃなくて、鬼の数もまばらになった浄化された一帯で、一人一人で戦ってみればいい。

 

 

「相手が少し弱くなりますが……仕方ないですね。最初から一番難しいものに挑むのは、得策ではありませんし」

 

「…神夜も、そういう判断ちゃんとできるのに、いざ戦いとなったらなぁ…」

 

 

 うん、物足りないとか言い出しそう。

 後は、もっと単純に人手を増やすかだけど…あの瘴気に通じる程の装備が無いしなぁ。

 

 

「…この3人が、一番いい部隊だと思いますよ」

 

 

 思惑はともかく、そうかもしれん。でもいつまでもこの3人で固まってるとは限らんよ。…俺は、まだウタカタに行く事を諦めてないしな。

 

 

「それは以前にも聞きましたけど…ウタカタにどうしても行かなきゃいけない理由があるんですか? いいじゃないですか、この里に居ても。本当に霊山とか他の里との交流を復活させたら、英雄扱いですよ。今だって似たような扱いですけど」

 

 

 似たような扱いかぁ…? いやまぁ英雄なんてチヤホヤされるか、敬意を持たれながらも遠巻きにされるかのどっちかだろうけど。

 それはともかく、言わなかったっけ? いやあれは寒雷の旦那にだったかな? それともそもそも言わなかったっけ…。まぁいいや。

 ウタカタで近い内に、でかい戦がありそうなんだ。…ああ、鬼との、だぞ。

 そんで、俺が追いかけてる鬼がその近くに現れそうなんだ。今のところ、あの鬼に落とし前つける事が最終目的なんでね。

 

 

「鬼を追う…ですか。何か因縁があるんですね。…目が座ってて怖いです…」

 

 

 座る程度なら軽いもんだ。実物を前にしたら理性が焼却されて、文字通り鬼を狩る鬼(アラガミだけど)と化して大暴れするぞ。

 まぁ、下手に理性を失って、千歳ごとぶった切っちゃったら不味いから、必死で耐えると思うけど。

 

 そういや、寒雷の旦那から、お前ら二人を連れて行ったらどうだって言われてたなぁ。

 

 

「「……ふぇっ!?」」

 

 

 いや大した意味はないと思うんだよ。俺が抜けると、また二人だけの隊に戻って、戦力的に中途半端になって浮くだろうしさ。

 それだったら、他の里との交流員として一緒に行った方がいいんじゃないか? って程度の話で。

 

 

「理由はともかく、持て余されていた事については自覚がありますから、繕わなくてもいいですよ。寒雷さんにも悪気はない…むしろ好意からの提案でしょうし」

 

「里から離れる、ですかぁ…。考えた事もありませんでしたね。他の里とは幼い頃から連絡がつかず、異界に閉ざされる前もこの里こそが世界の全てでした」

 

 

 子供にとっては、自分が遊べる区域=世界だろうね。

 で、どうする? 別に今すぐ決めろって事じゃないし、決めたところで異界を抜けなきゃ絵に描いた餅のままだが……一緒に来るか?

 

 

「それは…」

 

「………」

 

 

 決められないと言うより、実感が沸かないって顔だな。

 幼い頃からシノノメの里しか知らず、インターネットみたいな情報網も無いんじゃ、外の世界と言われても想像もつかないだろう。

 …実際は、何処も鬼との戦いで追い詰められており、シノノメの里と大差ないのだが。例外は霊山くらいだが、あそこもなぁ…。

 

 ふむ……珍しい物が沢山あるし、敵も味方も強い奴が多いぞ。

 

 

「む…」

 

「行きます!」

 

「ちょっ、神夜!? もうちょっと考えなさい!」

 

 

 おおう、目が金ならぬ闘になっとる。

 しかし見事に釣れたのぅ。流石にこの一回で決めさせるつもりはないが、神夜は前向き、明日奈は興味はあるけど消極的か。

 でも神夜が里を離れるとなると、残された明日奈はどうなるのか…。別の隊に組み込まれる? 二人だと多すぎるけど、一人なら逆に扱いやすいかもしれない。

 …だといいけどな。家名の関係で、距離を測り損ねてる奴らが多いから…一人きりになるという展開は避けたいなぁ…。

 

 

 とりあえず、冷静になってから一度考えてみてくれ。異界はまだまだ広いんだし、本当に他の場所に行けるとしても、暫く先だろうからな。

 今日のところはその辺の鬼を相手に、一対一での戦闘訓練だな。

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘訓練自体は問題なし。最初は戸惑っていた一対一、祓円陣無しでの戦いも、2度3度と繰り返すうちにやり方が分かって来たのか、カゼキリやツチカヅキを余裕で沈めるようになってきた。

 とは言え、この辺に居る鬼は住処である異界を剥ぎ取られたために随分弱体化しているし、そのままのやり方が次の異界の鬼に通じるとは限らないが…経験は糧になる。少なくとも、以前よりは上手くやれるだろう。

 

 

 帰り際、解散する時に明日奈が「絶対引き留めます」って呟いたんだけど………ひょっとしなくても俺の事だよな。

 えらい硬く決心しているようだが……。

 




討鬼伝世界登場人物表兼コメント

Q.今、一番欲しい物は?

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。
    A…ご飯が食べられる体。

・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    A…里を養えるくらいの資源

・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    A…他の神垣の巫女との交流。

・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
    A…鍛冶の達人からの指導。

・風華…祭祀堂の巫女。
    A…いつでも雪華姉さまの笑顔がほしいと願っています。

他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
    A…意中の人の心を確実に射止める方法。

・神夜…無限のフロンティアより。
    A…思いっきり戦える機会。

・白浜君…史上最強の弟子より。
    A…皆を守れる強さです。

・泥高丸…ジャングルの王者ターちゃんより。
    A…家族の墓を作り直したいから、立派な墓石が欲しいかな。


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407話

新年あけましておめでとうございます。
今後もよろしくお願いいたします。

具体的には来年の半ばくらいまで。
流石にそれだけあれば完結すると思いたい。

1月4日まで連続投稿する予定ですが、その間は前書き・感想返し・後書きのキャラへの質問は書けそうにありません。
新年早々職場で厄介事+お説教確定しているので、気力が…。

リアル大事にとは言いますが、むしろ大事にしたくない…逃避していたい…。

っと、新年早々暗い話題になってしまいました。
お詫びとして……次回は濡れ場です。


魔禍月 十壱日目

 

 

 白浜君が順調に悲鳴を上げ続けるここ数日。一緒にやり始めた師範も脱落せず、根性を見せ付ける形になっている。

 尤も、モノノフ達にしてみれば白浜君に根性があるのは周知の事実だったので、単純に公開処刑にしか見えてないいっぽいが。

 時々、幾ら何でもやり過ぎだと俺に突っかかってくる奴も居る。うん、全く持ってその通り。しかし本人が望んだ事だし、少なくとも俺は同じ事をやってヒィヒィ言いながら乗り越えてきた。同じように乗り越えた奴も何人も居る。やってやれない事はない。死ぬ気でやってみろ。死なないから。

 

 

「いやあれは死ぬだろ」

 

 

 ………大丈夫だって。辛うじて。指先一本で崖にぶら下がってる程度には。

 

 

 

 さて、それは置いといて。異界の探索は、戦闘多めになったが順調に進んでいる。

 前2回のように、敵に気付かれずに一気に奥まで進む事はできない。なので、襲い来る敵を倒してジリジリと前に進んでいるのだが……ここの異界、なんだか知らないが敵のリポップ…というか復活が遅い。

 他の異界だと、一度鬼を退治しても翌日に来たらもう他の鬼が居座っている、なんて事がよくあった。ていうかそれがデフォルトだった。だから同じ場所の同じ鬼を相手にした任務を、一日に何度も受けられるんだが。

 

 しかし、ここの連中は違うらしい。一度倒してしまえば、少なくとも2日間は復活しないようだ。

 最初に調査したのが2日前で、その時に倒した鬼達の縄張りに、まだ他の鬼が居座っていない。

 

 …鬼の数が少ない…のかな? 縄張りに充分な広さがあるなら、鬼達は積極的に縄張りを広げようとはしない。一匹一匹が思い思いの広さの縄張りを主張しても、それが被らないって事だ。

 必然的に、近くの縄張りが失われても、そこを手に入れようと躍起になる必要は無くなる。

 

 その分、強力な鬼達が揃っているようではあるが…。

 いや、逆かな? 鬼達が復活しにくい、或いは数を増やし辛い環境において、それでも尚生き延びた強靭な個体のみが異界に残っているんだろう。

 

 まぁ、何にせよ、一度倒せば暫く安全を確保できると言うのは大きい。その暫くが、どれくらい安定した期間なのかは別として。

 異界を歩いていると集団・連続・乱入で襲ってくる鬼達も、二人が対処に慣れてきたおかげで手早く片付けられるようになった。

 

 …気になるのは、牡丹が危惧していた指揮官級の鬼が姿を見せない事。今でも姿を消して俺達を見ているのか? …それにしては、明確な視線は感じないが…。

 指揮官級がこの異界に居る、と言うのは俺も賛同するところだ。最初に大挙して襲われたのもあるし、ここの鬼達の縄張り分布からも分かる。先程は『一匹一匹が充分な広さの縄張りを持っているから、縄張り争いが発生しない』と考えたが、それは理由の一部。「ここに住め」或いは「ここを守れ」と命じられた結果の配置だろう。鬼達が好き勝手に陣取ったにしては、配置が明らかに人為的すぎる。…人為つーか鬼為だけど。

 

 しかし、鬼の指揮官って……何が居たっけ?

 まず真っ先に思い浮かぶのはゴウエンマ。指揮官と言う訳じゃないが、小型鬼を呼び出すくらいなら、大抵の鬼は出来る。ミフチなんかは、呼ぶんじゃなくて産むんだけど。

 前ループの時に、横浜でやりあった白い巨鬼………後で知ったけど、シンラゴウ、だったか。あれも鬼を率いて暴れていたけど、どっちかと言うとあれは指揮官じゃなくて隊長格…全体の統括ではなく、現場のチームを纏めるレベルに見えた。あと、ぶっちゃけ指揮官出来る程頭はよくないと思うし。

 他に何が居たっけな…状況や土地で変わりもするだろうが、鬼達はそれなり以上の力を持ってないと、指揮官だと認めないだろうし…。

 

 …一回、寒雷の旦那に聞いてみるか。過去の戦いで指揮官っぽい鬼が居たか確認しよう。

 

 

 

 

 

 

 それはそれとして、異界の探索と言うか戦いを終えた後、泥高丸に手合わせを願われた。

 「疲れているところにすまんな」と、軽くだが頭を下げる礼儀正しさ。初めて会った時の目上目線はどこに行った。いや別にいいんだけど。

 

 そして、大して疲れてないから、手合わせするのも別にいいんだけど……あの、そっちの女性は?

 

 

「私か? 私は泥高丸の妻、麗亜だ。旦那が世話になっている。神夜、明日奈、元気そうだな」

 

 

 はー…へ? お、お前結婚してたの!?

 

 

「あ? あぁ、そりゃしてるが。お前みたいに各地を転戦している訳でもないし、年齢的に考えれば当然だろう。これがまた、気の強い嫁でなぁ」

 

「何か文句でも?」

 

「いや別に」

 

「ああ、そうそう練武戦で泥高丸の鼻を折ってくれた事には感謝している。私が何度言っても聞かなくてな」

 

「逆らえた試しもないけどな…」

 

「何か文句でも?」

 

「いや別に」

 

 

 お、おう…そりゃまぁ、泥高丸はモノノフの適齢期を既に過ぎてるけどさ…。

 尻に敷かれているよーだ。まぁ、泥高丸には丁度いい嫁さんなんじゃないかな。

 

 で、手合わせだっけ。どうした、鬼纏の新しい使い方でも開発したか。

 

 

「それもあるが、基本から練り直している最中だ。幾つか試してみたい事もあるんで、ちょいと付き合ってもらいたい。…なんなら、そっちの二人もどうだ?」

 

「私もよいのでしたら、是非とも」

 

「私は……うーん、麗亜さん、ちょっと別件で相談に乗ってくれます?」

 

「ああ、構わない。して、何用だ?」

 

「ここではちょっと…」

 

「…いいだろう。泥高丸、すまんが先に戻る。程々で切り上げろよ」

 

 

 そう言って、明日奈と麗亜さんはどこかへ行ってしまった。…うーむ、女傑だな。

 

 

「モノノフでないのが勿体ないくらいの剣の腕もあるぞ。さて……俺達も道場に行こうか」

 

 

 

魔禍月 十弐日目

 

 

 なんか、里の様子がおかしい。いや別に問題のあるおかしさじゃない。殺気立っている訳じゃないし、日常業務にも差しさわりは無い。任務も順調だし、資材も潤ってきてる。

 別に何かの知らせがあった訳でもないのに、なんかこう……里人達が浮足立っている。

 なんだろな……こう、俺も覚えがある浮足の立ち方と言うか…見ていると爆破したくなるような、まだるっこしいさっさと行けと怒鳴りつけたくなると言うか、お前が言うなという声が聞こえると言うか。

 

 ついでに言うと、何やら個人に分配される資源…宝玉を初めとした食料その他諸々、特に燃料系統の配給量が、最近妙に多い。

 …異界の浄化で、収穫できる量が増えたのか? いやでも流石に数日もせずに収穫源を確保できる筈がないし。

 

 様子がおかしいと言えば、明日奈もそうだ。前から何だか距離が近かったが、最近はそれに輪をかけて近い。

 と言うか、明かにモーションをかけられている。異界探索に行く時、手作り弁当持ってきてくれるし、隣を歩きたがるし、触れ合いも多い。昨日なんて、俺の家で晩飯作ってくれた。流石に神夜も一緒だったけど。

 気がある、脈がある、言い方は色々あるが…。

 

 

 

 正直、猟犬が狙いを定めて走り出したという表現が似合う…いや本当に失礼だとは思うけど、普通にそれが似合うんだ。

 普段はともかく、時々妙に鋭い眼光が見えるし。

 

 

 俺としては、別段問題は何もないのだが…。肉食系女子の相手も慣れてるし。

 でも俺は遠からず、シノノメの里を去る(予定の)人間だ。先日の一緒に来ないかという提案をした時の反応を見ると、明日奈はこの里から離れる事に抵抗があるようだし、置いていくの前提で手を出すのも憚られる。

 明日奈が腹括って、一緒に来てくれるならなぁ…。

 

 

 対して、神夜も最近、ちょっと距離感がおかしい。

 グイグイ迫ってくる明日奈とは反対に、遠慮気味と言うか、一歩引いて俺と明日奈が並んでいる所を、物言いたげに見ている事が多い。

 妙に物怖じしてるようだが…明日奈のモーションを邪魔しないようにしてるんだろうか? 或いは疎外感でも感じているのか。

 気づいた時には、遠慮せず来いと声を掛けてはいるんだが…。

 

 

 

 

 話は変わるが、今日の異界探索時に雪が降った。

 いや年中雪に埋もれている異界もあるから珍しくはないんだけど、異界の中の天気が変わるってのは珍しい。土地にもよるが曇りなら年中曇り、吹雪なら吹雪、晴れなら晴れと決まってるからね。

 

 で、異界の外に出てみたら、里にも雪が降っていた。……今って冬だったっけ? デスワープと異界のおかげで、季節感が狂いまくっててよく分からん。

 一緒に居た明日奈と神夜が妙に深刻そうだったが、理由を聞いてそれも理解した。

 

 ただでさえ寒いシノノメの里。毎年雪は降っているのだが、数年前に非常に強い吹雪に襲われた事があった。その時も、珍しく異界の中と外の天気が雪になっていた。

 雪は積もりに積もり、積雪で家が壊れかけ、吹雪でロクに動けず視界も効かないないところに鬼が襲撃してきて、戦死者凍死者まで出た。

 その時は、研究中だった鬼纏を完成させて超ハイテンションになった泥高丸が、まるでニチアサヒーローのように登場して大活躍し、何とか凌いだそうだが……成程、深刻になる訳だ。

 

 ライフラインが滞り、外敵に対する戦力も低下、下手をすると雨風を防ぐ住居すら破損する。しかもその原因は天候…抗いようがない。 

 …ふぅむ…天候を見る限り、今の雪は一過性、短時間のものだと思うが…楽観は禁物か。

 

 

「ですね。今のところは、以前にあった凶事と同じ前兆があった、というだけですし。警戒するには充分な理由ですけど」

 

「よりにもよって、と言うべきか、それともこの日だからこそと言うべきか…」

 

 

 ? 神夜、何の話だ?

 

 

「いえ、こちらの事です。まぁ…近い内に分かると思いますので。とりあえず、明日は資源集めに徹しましょう。酷い吹雪が来るとなれば、暖を取る為の燃料はいくらあっても足りません。戦いたいのは山々ですが、寒いのは嫌です」

 

 

 …神夜がここまで言うとは、本気で寒いんだな。凍死者まで出たって話だもんなぁ…。

 そういや、結界石の警護はどうするんだろうか。結界石に宿るミタマ達…本願寺顕如=サンと木綿季は、結界を張る事こそできるが、鬼との直接戦闘力は無い。

 もしも吹雪で警護が出せないなんて事になったら、侵入してきた鬼に襲われ食われ、結界石も汚されて元の木阿弥…なんて事になるかもしれない。

 …これは相談が必要だな。

 

 

 

 

 

魔禍月 十参日目

 

 

 今日の天気は快晴。これから吹雪が来るかもしれない、とはとても信じられないくらいだ。実際、来ないかもしれないけど。

 里の人達は…うん、備えをしてはいるようだ。…浮足立ってるのは相変わらずだけど。

 

 吹雪になったら結界石の警護をどうするか…と言う話だが、寒雷の旦那も頭を抱えていた。すっかり忘れていたんですね、無理もない。

 しかし、これも取り敢えずは解決。

 もしも吹雪になりそうであれば、結界石から里の祭祀堂に一時的に移ってもらう事にする。牡丹も一人じゃ暇だから、話し相手が出来て嬉しいだろう。そして肝心の結界は、神垣の巫女である雪華が一人で維持する事となった。

 尚、本人からの提案である。

 

 本当にいいのか、と問いはしたものの、

 

 

「むしろ、それが本来の神垣の巫女です。負担が強くなるのは確かですが、負担を肩代わりしていただいた分をお返しすると思えば…。吹雪の季節さえ去れば、また結界を張るのに協力していただけるのですし」

 

 

 と言い切られた。ま、確かに一時の苦労を厭うて、以降の助力を失うのは愚策だな。

 で、そのついでに聞かれたのだが……次の結界石に宿っているミタマは誰なのだろうか?

 

 

 …いや、誰って言われてもなぁ…。鬼が適当に連れてきたミタマを使ってる可能性が高い。本願寺顕如=サンはよく分からんが、木綿季が宿ってたのも、この里で亡くなった後、魂が鬼に捕まったからだろうし。

 

 

「つまり、この近辺の死者のミタマが捕らえられている可能性が高いと?」

 

「高いかどうかは微妙だが……まぁ、確かに遠方の縁も所縁も無いミタマが居ると言われるよりは納得できるな」

 

「そしてこの近辺のミタマが宿っているとすれば………そう、ミタマになれる程の力を持った人は、そうそう多くはない筈です」

 

 

 …まぁ、確かに。木綿季は子供の時に亡くなって、閉じ込められている間にとは言えミタマになってたんだから、凄い素質を持ってたんだろうなぁ。

 何だ、誰か心当たりでもあるのか?

 

 

「はい……氷華姉さまです」

 

「……氷華…か」

 

 

 誰? 姉? 氷華姉さま、雪華、風華で3姉妹だったの?

 

 

「はい。正確に言うと、風華は従妹なのですけど。氷華姉さまは先代の神垣の巫女で……オオマガトキの戦で、亡くなられました。亡くなったと言っても、亡骸も見つかっていません」

 

 

 …そうか。ご愁傷様です。

 

 

「いえ…。ひょっとしたら、氷華姉さまが結界石に宿っているのかも…。もしそうだとしたら、生身ではありませんが、もう一度会えるかも…と思って」

 

「流石に希望的観測ってやつだが、確かに可能性はあるかもな」

 

 

 その場合、何年も結界石の術の中でゆっくりと衰弱させられていたって事になるが…言わぬが華か。再会できたとすれば、それは素直に嬉しかろう。

 ま、次の結界石を見つけない事には、絵に描いた餅だけどな。次の奴が違ったとしても、その次、その次…とあるだろうし。

 

 と言うか、ここの結界石って幾つあったっけ…。

 

 

「あとでまた地図を見せてやる。割れたり砕かれたりしている石もあるし、そもそも形からして変わっているからあまり信用はできんが。それにしても、思えば雪華は氷華そっくりに育ったもんだ。髪型を変えれば、見分けが付かんかもしれんな。…性格は似ても似つかないが」

 

「そう…ですか? 私は氷華姉さまが無くなるまで、数年間霊山で修行していたので、自覚がありません。今度、髪型も変えてみましょうか……術に影響が出ない範囲で。あ、でも氷華姉さまも同じ髪形をしていたと聞いたことが」

 

 

 そんなによく似てるのか…。性格は似てないって?

 

 

「ああ、氷華は…当時の鬼との闘いの為もあるだろうが、こう、気難しい所がある奴だった。他人に厳しく自分にも厳しい奴でなぁ…」

 

 

 女王様タイプ…いや、鬼の風紀委員長タイプかね? 雪華も、それっぽい態度を取ってれば怜悧な印象がよく似合うんだけどなぁ。

 多分、この姿で女王様みたいに冷たい視線を送られたら、目覚める奴が何人か居るぞ。

 

 ……今度調査してみるか? 同年代のモノノフも、何人か居るだろうし。

 

 まあ、とにかく次の結界石を早めに探すとしましょうか。

 



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408話

三が日も明けないのにこれか…。
今年も独身で、妄想一筋で終わりそうだなぁ…。


 

 

魔禍月 十肆日目

 

 

 枕が破れてしまったので、神夜に補修を頼んだ。自分でできないこともないけど、折角だし神夜の腕前も見てみたかった。

 器用なもんだわ。むしろ、直す前よりいい具合に仕上げてくれた。

 外に干してある布団も、全て神夜のお手製らしい。最近では、新しい試みも考えているとかいないとか。

 …ミタマ用の寝具? え、何それ。

 

 

「だって、ミタマだって寝転んで休みたい時くらいあると思うんです。ゆっくり休める場所があるなら、それに越した事はないじゃないですか」

 

 

 まぁ、祭祀堂だけあっても、何にもない家屋を与えられてそこで寝ろって言われるようなものかもしれないが…。

 

 ……? 

 何となく部屋を見まわしたら、妙なものを見つけた。いやこれ自体は別におかしくもなんともないんだけど…竹刀だ。

 斬冠刀とは違う、普通のサイズの竹刀。その隣には、斬冠刀を模したらしき竹刀。

 どちらも小ぶりで、お子様用のサイズだと思う。両方ともしっかり手入れされているが、随分古いし、長く振るわれていないようだ。

 

 

「ああ、その竹刀ですか? 斬冠刀の竹刀は練習用に作ってもらった特別性ですけど、もう一つの竹刀は預かり物…というか、友達の忘れ物なんです。もう忘れていった事も忘れてるかもしれませんけど」

 

 

 どういう…ああ、里人の物じゃないのか。

 

 

「はい、昔一緒に剣を習っていた、直葉ちゃんっていう子の物です。オオマガトキが起こる一年くらい前に、一家で里に滞在してたんですよ。詳しい事は知りませんけど、お家のお役目の事で、明日奈さんの家に用事があったとか」

 

 

 明日奈の家…。警察みたいな役割を持ってたな。犯罪者でも追ってたんだろうか。しかしそれなら、子供を連れてくるとも思えない。

 

 

「お兄さんも居て、明日奈さんといい感じになっていましたね」

 

 

 へぇ…付き合ってたのか?

 

 

「…気になりますか?」

 

 

 割と野次馬根性で。つっても、初めて会った時にも出会いがほしいとかボヤいてたくらいだし、結局は…。

 

 

「お察しの通り、直葉ちゃんもお兄さんも、霊山に帰っていっちゃいました。元々短期滞在の予定だったそうですし、仕方ありませんね。……帰ると聞いた明日奈さんが、ちょっと暴走しましたけど…」

 

 

 暴走って…何やったんだよあの子。別れたくないって泣きついたとか? ご両親に直談判したとか?

 神夜が戦場で暴走するのは割といつもの事だけど、明日奈が…というのは珍しい。

 

 

「私に言わせると、明日奈さんこそ暴走癖があるんですが…おかげで直葉ちゃんのお兄さん、帰るときには怯えてましたし。いい感じに仲良くなれていたというのに、あれで一気に距離が開いちゃったんですよねぇ…未だに後悔しているようです」

 

 

 本当に何したし。

 …でもそれ、俺に矛先が向く可能性が非常に高いんだよなぁ…。何だかんだで距離が縮んできてる。

 何かの切欠で暴走したら……暴走したら………何か問題あるか? どういう方向に暴走するかはわからんけど、今更刺された程度じゃ死なないし、監禁されたらぶち破るし、薬の類もほぼ効かない。逆レ? 俺を相手に? いやされるのも嫌いじゃないが。

 

 

「えーと…なんです、悪い人じゃありませんから、何かあっても出来るだけ今まで通りに接してあげてください。気を強くもってくださいね! 多分、時期や日程的に考えてももうすぐですから」

 

 

 何がもうすぐだと言うのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 で、その帰り道。

 超ガチガチに緊張してる明日奈に声を掛けられました。

 

 

 

 

 

 

「ふ、冬籠り空いてますかっ!?」

 

 

 

 

※冬籠り

 

① 冬の間、動物が巣の中に入りじっとしていること。冬眠と異なるが、睡眠状態に近い。

 

 

 ………うん? え、明日奈って熊だった? アオアシラ? 紅兜?

 

 

② 冬の間、寒さを避けて家にこもっていること。 [季] 冬。 《 薪をわる妹一人- /正岡子規 》

 

 

 …ああ、こっちか。

 …これが空いてるって、どういう事?

 

 

 

 

魔禍月 十伍日目

 

 

 

 ふぅ………スッキリした日の朝日は綺麗に見えるな。

 部屋の中は物凄い事になっているが、匂いだけはない。久々の消臭玉大活躍だ。明日奈が力尽きて眠っているのは言うまでもない。

 

 いやー堪能した堪能した。防音結界がなかったら、雪崩でも起きてたんじゃないかってくらい鳴きよって…ケケケ、愛い奴よのぉ。ちゅーか、術の類はあまり得意でない俺だけど、こればっかり上手くなってるな。静まり返った葬式会場でスピーカー付きのズンズンチャ!ズンズンチャ!しても全く耳目を集めないレベル。

 さぁて、約一か月半ぶりの玩具…もとい愛奴…ペット…………素直に恋人という表現を出さないあたり、俺って本当に救いがないと思うが、まぁあの子をどう染め上げていこうかな。

 

 おっと、計画を考える前に、何がどうなったのかを書いておかなければなるまい。

 そうさな、まずは昨日の明日奈からのお誘いについて話しておこう。

 

 

 

 「冬籠りは空いてますか」と、微妙によくわからないお誘いだったが、これ、簡単に言えば「クリスマスを一緒に過ごしませんか」的な話だった。

 シノノメの里の冬は非常に長く、そして早い。先日も言っていたが、あまりに酷い積雪であれば春先まで全く行動できなくなってしまう。下手に外に出れば、里の中で遭難の危険がある程だ。

 なので、できる限りの蓄えを備え、『お相手』が居る者は一つの屋根の下で寄り添い合って温めながら冬を越す。

 ついでに言えば、雪が解ける頃には女の方の腹の中に新しい命が宿っている事が多い。

 これが明日奈の言う冬籠りだった。

 

 エロゲみたいな話ではあるが、かつては冗談抜きで越冬に失敗した死人が出まくっていたらしい。

 とはいえ、それも昔の話。住宅環境が改善され、風雨を冷気を防ぐ方法が広まり、何がどう影響したのか気候はずいぶんと穏やかになった。最近では、先日話していたような異変でもない限りそこまで厳しい冬ではなく、冬籠りも形式だけ残っている風習となったらしい。

 つまりは、恋人や夫婦とイチャイチャして過ごす一日に。

 

 …ここ最近、里がソワソワしてると思ってたけど、原因コレかぁ。思い返してみれば、お役目時の鎧から日常の私服まで、微妙に着飾った奴らが多かった。

 これはアレだ、クリスマスのお誘いを期待したり、逆にお誘いをかけるべきかの葛藤の現れだ。あるいは、バレンタインに下駄箱とか机の中とか何度も確認しちゃうような。

 尤も、この里の男女は9割以上はお相手がいるので、半ば出来レースというか結末が見え切ったラブでコメディチックなお話でもあるのだが。

 

 

 しかし、里にそのような風習があるなんぞ、俺が知っているハズもない。冬籠りと言われても、家の中で閉じこもるくらいのイメージしかない。

 冬籠りの『お相手』なんて、それこそ発想すら思い浮かばなかった。そりゃそうだろ、冬籠りって言っても、要は家の中で暖かくしてるだけなんだから。

 

 

 戸惑っていると、明日奈が一歩踏み込んできて、もう一度「空いてますか!?」と聞いた。

 

 でもやっぱり理解ができず、首を傾げている間に、なんか明日奈がキレていた。

 まぁ、無理もないけども。これ、女の側から誘うって事は、求婚、或いは『私を好きにしていいからズッコンバッコンして子供作って家族になろうよ』的な意味だもの。

 これをスルーされたり、首をかしげて『何言ってんだお前は』的な反応をされれば、理性なんぞ即崩壊するレベルで女のプライドに洒落にならないダメージが入る。

 

 

 …うん、首を傾げちゃったんだよ俺。知らなかったという免罪符があるにしても。

 

 

 

 気が付けばさ、迫る明日奈に追い詰められて……家と家との間の角に追い詰められて。

 あれが蝉ドンという奴か…。うんまぁ、凄い迫力だったよ。行為よりも、明日奈の『何が何でもモノにする』って表情が。

 想像がつかない人は、AAとかでググッた方が早いんじゃないかな。いい表情してたよ。

 うーむ、成程。神夜がなんか意味深な事言ってたけど、これか。前に仲良くなったお兄さんとやらも、これを喰らったんだろうな。

 成程、慣れてない人なら恐怖を感じるだろうし、女性に対する幻想を見事にぶっ壊してくれそうな勢いだ。

 

 俺を袋小路に追い詰め、四肢を壁が抉れる程の力で壁ドン×4して、「冬籠り空いてますよね? 開いてるって言え!」とばかりに迫ってくる明日奈に、冷静にモノ申す。

 

 

「空いてる以外の返答は聞いてません!」

 

 

 標的の目の前で、大っぴらに急所を曝け出すとは何事か。淑女としてもモノノフとしても減点にござる。

 

 

 

 と言う訳で、一本抜き手とぅりゃー!

 

 

 

「はぅ!?」

 

 

 どこを突いたかは、言うまでもない。ただし、ダメージを与える、人体を壊す、武の本来の抜き手ではない。

 オカルト版真言立川流の知識を豪勢に使用し、痛みは与えず、だが敢えて快楽も与えず、しかし自分の体に異物があるという感覚を疑似的に与えるという、無駄に器用なテクニックである。

 

 いつの間にか雪が降り始めている(この程度の雪なら、あまり珍しくない)里の片隅で、ミニスカートの中に手を捻じ込まれて壁からへたり堕ちる明日奈を抱き留める。

 スカートの中の手を蠢かせながら、明日奈をちゃんと立っている状態に持っていく。と言っても、いきなり文字通り手を出されるとは思っていなかったのか、動揺して自力で真っ直ぐ立つことはできないようだ。

 俺の腕に縋りついて何とか立っている状態で、一見すると抱き着いているようにも見えるだろう。…俺の背後の、割れた壁さえなければ。後で謝って直しておかんとな…。

 

 それはともかく、明日奈を立ち直らせないよう、本人を除き誰も触れた事の無い秘部を、指先だけで愛撫する。

 卑猥な行為を行いながら、口先だけは尤もらしく。

 

 

 あのな明日奈、俺はこの里の風習の事はよく知らない。そうやって誘ってくる事で大体の見当はついたが、突然冬籠りが空いてるかって言われても理解できん。冬眠するのかって聞かれたのかと思ったぞ。

 

 

「あ……ぁ、ぅ……さ、触られて…る…」

 

 

 まだ下着(と言うか褌)越しだぞ~。そういう覚悟決めて来たんだろうに。

 とりあえず、お誘いは了承した。冬籠りって何日から? …でもいいか。とりあえず部屋行こうか。どんな行事なのか、詳しい事も聞きたいし。

 …ナンパして即ラブホに向かう最低男のような行動だが、この場合は問題ない。明日奈の方から迫ってきたんだしね~。

 

 

 コクコクと…いや、ガクガクと頭を上下に振る明日奈。混乱から立ち直る前に、一気にトドメを刺してしまうべきだな。

 ほら、明日奈。俺の家に行くから、しっかり立って歩いて。

 

 

「だ、だったらその、手を、指を」

 

 

 だぁめ。このまま行くの。

 相変わらず俺の腕に全力で抱き着いている(そしてその腕でセクハラされている)明日奈。両腕で俺の腕を抱きしめているので、中々のサイズのおっぱいが強く圧しつけられている。神夜のを見てると麻痺しそうになるけど、この子も結構大きい。着痩せするタイプだ。

 そしてフトモモで俺の手を挟んで、動きを止めようとしているようだが…言うまでもなく逆効果である。ワキワキ動かす度に、さっきまでの威勢は何処へやら。ビクビクと小動物が怯えるように縮こまってしまう。

 

 拒みはしていないが、あまり強い刺激はまだ時期尚早。そう判断して、愛撫の質を切り替えた。

 直接触れる事はせず、下着越しの、更にフェザータッチで秘部を撫で回す。

 顔がどんどん赤くなる明日奈を見ないフリして、強引に歩き出した。俺に抱き着いている明日奈も、当然引っ張られるようにして歩き出す。明日奈が歩く度に、俺の手を挟んでいるスベスベの足が擦りつけられる。

 

 ああ、いい感触だ。触っただけでよく分かる。明日奈の体は気持ちいいな。

 それに何より、敏感だ。ほら、優しく、羽毛のように撫でているだけなのに、もう濡れてきた。背筋に電流が走って、まともに立つ事もできないか? なら、もっと俺に抱き着いてくれればいい。尤も、そうなるともっと弄り回されるだけだけどな。

 恥ずかしがる事はない。それはちゃんとした、女の体の反応だ。子供だって産める、大人の女と言う事の証明なんだ。

 

 

 耳元で囁いてやるだけで、明日奈の目がトロンとなっていく。

 それでも、家屋の外で男に抱き着き、しかも秘部を弄られているという異常な恥ずかしさが、そう簡単に消えてなくなる筈がない。それでも離れようとしないのは、それだけ腹を括っているからか、それとも思いつきもしない程に混乱している為か。

 

 恍惚と羞恥と理性で頭が回ってない明日奈だったが、進む道を見てふと我に返った。

 

 

「あ、あのっ、この先、誰か…! それに家までの道…」

 

 

 うん、ついでだからちょっと散歩して行こうと思って。

 明日奈もやってみたいって前に言ってたろ、彼氏と腕を組んで散歩とか。前に誰かいる? 見せ付けてやればいいじゃないか。狭い里だからなぁ、あっという間にくっついたって広まるぞ。

 

 

「き、気付かれたら別の事広まっちゃう…!」

 

 

 ダイジョーブダイジョーブ、明日奈が我慢してれば気付かれないから。明日奈がこんな所で触られて悦ぶ、倒錯趣味だなんて広めるつもりはないよ。

 いきなり強く刺激したりせず、柔らかい愛撫でじっくりじっくり高めて行って、ちゃんと我慢できるギリギリの境界線まで追い詰めてあげるから。

 ただし、ちゃんといい子にしてればね。

 今みたいに、足を踏ん張って無駄な抵抗しようとすると………ほら。

 

 

「っ! そ、そこっ、汚っ」

 

 

 触られたくないなら、いい子にして進んでおいで。抵抗すると…お尻に指、入っちゃうぞ。ほら、おいで。

 ツンツンと指先で、布越しに不浄の窄まりを突き回してやると、明日奈は観念したように足を踏み出した。

 

 進む道は、家への最短ルートではない。鷹の目を使って、里の道の何処に誰が居るか把握し、人が少ない…ただし、普段は誰が居てもおかしくない道を連れ回す。

 うーん、何という好都合。日も堕ちてきた時間だからか、表通りに居るのは一人二人程度。これなら、少し離れて歩いていれば気付かれる事はないだろう。

 尤も、明日奈にそんな事が分かる筈もない。異常な行為に晒されて判断力は激減しているし、どの道に誰が何人いるのかなんて、全く分からない。

 表通りに進もうとしているのを察した時は、流石に血相を変えて抵抗しようとした。脅すように尻穴に触れてやると、観念して歩き出したが。

 

 

「っ~~~~~~!!!」

 

 

 顔を俺の腕に圧しつけ、声にならない声を必死で噛み殺しながら、明日奈と俺は道を歩く。予め見ていた通り、表通りには数える程しか人は居らず、夕闇の暗がりもあってお互いの顔も見えづらい程。燃料を節約する為か、各家から漏れる灯りも非常に少なかった。

 それでも、個人特定が出来ない訳ではない。一般人ならともかく、この里の殆どはモノノフでもあるのだ。鬼との闘いの為、夜目も効くように鍛えられている。

 何より、人目も憚らずに腕を組んで歩いている。セクハラ行為が無くても、そりゃ目立つ。事実、連れだって歩く俺達を見つけて目を凝らし、軽く口笛を吹くモノノフだって居た。

 それを認識できているのか居ないのか…微妙なところだ。

 

 何せ、宣言通りに、我慢できるギリギリの所にちょっとずつ追い詰めていってたんだから。

 足を止めれば尻穴を、歩いている時には内股と秘部を。早く通り過ぎようと早足になったら、それを止めるように軽く陰核…クリトリスを弄り回す。弄ると言っても、これまた直接的な物ではない。そこまでやったら、明日奈が堪え切れずに大声を出すか、崩れ落ちてしまうのが目に見えている。

 

 今もまた、通りすがりのモノノフが冷やかす口笛が聞こえたのか、早足になろうとする。させないとばかりに、探り当てた陰核に爪先を当て、抉るように弾いてやる。それだけでビクリと体を震わせ、小走りになろうとしていた足腰が砕けて崩れ落ちそうになる。

 片腕でそれを支えて、何でもないかのように歩いて行く。

 

 

 見られてたなぁ。ああ、大丈夫、気付かれてない…筈だよ。珍しいくらいにひっついてるな、と思われてるくらいだろう。

 明日には、明日奈と俺がそんな事してたって触れ回ってるかもしれないね。ひょっとしたら…気付かれてて、人目も憚らずに卑猥な事をする変態として広まってるかもしれないけど。

 

 …こらこら、男ってのは美女に泣きそうな顔をされると、もっと虐めたくなるんだよ。特に、自分の手で泣かせてる時には。

 

 

 とは言え、流石にいつまでも外を歩き回る気はない。本格的に明日奈が限界に近付いてきたし、体が冷える。何より、久方ぶりの女の体温で、俺自身がもう溜まらんですたい。

 明日奈の昂る体温を感じながら歩き、こっそり背後を振り返ってみれば、薄っすら積もった雪の中に、雫の後が見える。それくらいにビショビショになっていた。

 しかし、明日奈も結構アレな素質を持っているようだなぁ。そうでなければ、キスもしてない相手にここまで弄られて、逃げようとする素振りさえ無いなど考えられまい。

 

 

 時折愛でるように、励ますように頭を撫で、恨めし気な視線にゾクゾクしながらも家に到着。

 帰るまでに数人途中ですれ違ったが、バレてはいない。……ただ、俺達の姿を見て咄嗟に隠れた神夜の姿もあったので、そこは気になる。セクハラしてるのに気付いているか、或いはこれから何を始めるのか気付いているのか…。

 何にせよ、家に入って扉を閉めた途端、明日奈はへたり込んでしまった。真っ赤な顔で俺を見上げて、涙目になって口を尖らせる。

 

 

「……け、けだもの…」

 

 

 そのケダモノに自分から迫った挙句、今から逆に食われるんだぞぉ。

 涙目になりながらも、随分気持ちよさそうだったじゃないか。何度気をやったのか言ってみな。

 

 

「た、達しそうになったら、毎回指を止めてたのに、そんな事言うなんて…」

 

 

 ふふ、生殺しはまだキツかったかな? そんなに酷い物じゃなくて、もどかしくて気持ちいいのが続くくらいにしたつもりだけど。

 それにしても、よく我慢したな。いきなり指を突き入れた時点で、頬を張られる覚悟はしてたんだが。

 

 

「だって、その前の人達には、これくらいの事してたんでしょ。…負けたくないから」

 

 

 前の人…レアとアリサの事、ちょっと話してたっけ。…他の男が相手なら、絶対に話さないレベルの事まで。

 ああ…そりゃあの話に対抗しようとしたら、ちょっとやそっとの事じゃ逃げないくらいに腹を括ってくるか。だからと言って、本当に一切逃げの姿勢を示さなかったのは驚きだけど。

 前カノに負けたくないが為に、ナニをされても受け入れようとする…か。

 

 心意気と言うか覚悟は見上げたものだけど、生憎ながら戦力の差は明らかだ。特にアリサなんぞ、今までの殆どのGE世界で関係を持ってるからなぁ。何処をどう仕込めばどう反応するのか隅々まで知ってるので、ついつい…。

 いやいや、今は他の女の事は関係ない。後がどうなるとか考えるべきでもない。据え膳食わぬ俺は俺じゃない。今は明日奈の事だけ考える。

 …他の女と比較して、嫉妬と闘志を燃え上がらせるなら、もっと徹底して調整しないといけないし。

 

 安堵の反動もあって腰が砕けて…いや、全身が性感になっている明日奈は、呼吸をするだけでも体にビリビリと電流が走り、立ち上がる事もできない状態になっている。

 軽く片手で抱え上げて、敷きっぱなしだった布団の上に下す。敷布団に染みができたが気にしない。どうせこれからもっとグチャグチャになるのだ。

 

 

 が、これだけは事前に宣言しておかないといかん。

 座り込んで動けない明日奈の体を強引に起こし、正面から向き合う。

 

 

 明日奈。これからお前を俺のモノにする。

 

 

「…は、はい…」

 

 

 顔を真っ赤にして俯きそうになる明日奈に萌えるが、顔をまっすぐ向けさせた。

 

 前にも少し話したけど、俺には里の外にも恋人がいる。当分会う事はできない相手だが、明日奈を俺の物にしても別れる気はない。

 ウタカタの里に行こうとしてるのも、鬼を追いかけてるのもあるがそれが主な理由だ。

 

 

「っ…!」

 

 

 だから、明日奈を丸ごと奪っていく。掻っ攫う。拒否もさせない、それじゃ嫌だと言っても無理矢理強奪する。

 逃げる事なんて絶対できない。俺から離れる事は許さない。お前は永遠に。

 

 

 

 俺の物だ。

 

 

 

 

 トン、と指先を喉元に軽く突きつける。送り込むイメージは、犬に首輪をつけるシーン。

 

 

「……ぁ……」

 

 

 答えは無かったが、送り込んだイメージは想像以上にピッタリ嵌ったようだ。

 明日奈の性質は、犬だ。淫猥なメス犬って意味じゃない…それはこれから仕込む。群れの主に喜んで従い、縄張りを守り、逃げるモノを追う猟犬だ。

 本人の性質もあるが、血筋の影響も強いんだろう。寒雷の旦那に聞いた話では、それこそ猟犬、警察犬のように犯罪者を追い回していた血筋らしいし。

 あの蝉ドンも、逃げるものを追いかけようとした結果だろう。

 

 だから、俺が主だと刷り込んでしまえばいい。俺が格上のリーダーで、頼れる主、飯をくれて遊んでくれる飼い主だと。

 一匹だけで寂しがっていた子犬が、ようやく抱きしめてくれる飼い主を見つけたら。

 

 

 明日奈の中にあった、独占できないという不満や、他の女と別れる気が無い事に対する苛立ちが、真夏の氷のように溶けていくのが分かった。犬は集団で生活する動物だ。明日奈は自分で思っている程、独占欲が強い訳ではない。ひどく寂しがり屋なだけである。

 

 精神、或いは魂に形の無い首輪をつけられた明日奈は、夢の中で更に寝惚けているような朦朧とした…恍惚とした表情で、俺を見つめている。

 顔を寄せると、抵抗もなく目を閉じて、そっと唇を突き出した。

 

 最初は軽く触れ合わせる。次はもう少し強く、長く。顔を離すと、薄く目を開けた明日奈が追いかけるように迫ってくる。犬に顔を舐められるような気分で…勿論、もっと心地よかったが…明日奈からの接吻を受け入れる。

 力の入ってない体を引き寄せると、全身で抱き着いてくる。背中をゆったりと撫で回し、緊張を解しながら唇に舌を這わせる。

 明日奈も恥ずかしがりながら、躊躇いなく舌を伸ばしてきた。唇の間で軟体が絡み、唾液の音が響く。ヌルヌルとした唾液の感触は、明日奈がそれだけ感極まっている事を教えてくれた。

 

 首筋に口を付け、香りを堪能しながら押し倒す。残った衣服を剥ぎ取られる事にも、抵抗はない。

 紅く染まる肌に手を這わせ、徐々に明日奈の昂ぶりに方向性を与えていく。

 

 改めて見ると、鬼と斬った張ったしているとは思えないくらいに細い体。豊満と言うよりスレンダー、スマートな機能美を連想させる体。

 か細くすら見える体は、しかし女性としての弾力を充分に備えていた。丁度手に収まるくらいの乳房も、女の機能が充分に整っている事を教えてくれる。

 片手でゆっくりと揉みこみながら、もう片方の乳房に口をつける。薄っすら見える血管に吸い付いた。

 

 

「んっ…それ、ちょっと…痛い…」

 

 

 代わりに印が出来た。

 

 

「印? ………あ…」

 

 

 心臓の上に刻まれた唇の後。キスマーク。マーキングされた明日奈は、痛みを忘れてゾクゾクと背中を震わせる。

 あぁ、やっぱりこうやって印と言うか首輪みたいなの付けられるのが好きなんだな。…服で隠れるギリギリの所に付けたけど、もっとよく見える場所にやった方が良かったか。まぁそれは次回として。

 

 明日奈の体を舐め回しながら、徐々に下に向かっていく。

 乳首を指先でコリコリ虐めながら、下乳、あばら、ヘソ、鼠径部…そして期待でドロドロになっている、未踏の聖地。

 

 舌による愛撫を一度止め、指も乳首から話して両足を軽く抑える。

 一番大事な場所を抑え込まれ、隠す事すら許されず、無遠慮な男の目に蹂躙される。そんな状況にも関わらず、自分の秘裂がヒクヒクと物欲しげに蠢いているのを自覚しているだろうか?

 フーッと言いを吹きかけると、それだけでもう溜まらないとばかりに全身を緊張させる。

 

 可愛いよ、と小さく呟き、優しく口付けた。ピクピクと動き、小さく声を漏らす明日奈。

 ゆっくりと舌を這わせると、「あっ、あっ」と小さく呻く。表面に唾液を刷り込むように舐め続け、明日奈の体液を舐めとり、味を堪能する。決して美味と言う訳ではないのに、美少女の体液だと思うと急に甘露に感じるものだ。特に、それを俺の手で分泌させているのなら。

 

 言うまでも無い事だが、このまま文字通りの舌先三寸で、明日奈を忘我の領域までもっていくのは朝飯前だ。ワンコ系処女を狂わせるくらい、今まで散々やってきた。

 しかし、今回はそこまで激しい快楽は与えない。出し惜しんでいるのではなく、これが明日奈には最適と判断したからだ。

 主に従う事を悦びとするワンコ系でも、怯えは感じる。激しすぎる快楽の中に放り込むのは、水に浸かった事もない犬をシャワーに連れ込むようなものだ。

 

 まずは快楽に慣れさせる事。恥ずかしい姿を晒す事に、嫌悪感を無くさせる事。

 その為、今は処女でも 余裕を持って受け止められるような快楽を送り続けている。抵抗できない程ではない、少しだけ怖いけどもまだ自分を保っていられる。

 体から引き出される反応も、何もかもが無茶苦茶になるようなものではない。近い感覚を上げるなら、弱めのマッサージを受けているようなものか。

 

 事実、上目で明日奈の表情を伺ってみると、自分の股間に顔を埋めて卑猥な音を立てている俺を見て、奇妙な笑みを浮かべて恍惚としていた。飼い主に構ってもらっている犬のようでもあり、自分に甘える幼子を見る母親のようでもあり。

 何となく、上から目線で楽しまれているようで、ちょっとだけ女王様に奉仕している気分になった。…別に嫌いじゃないが、あまり図に乗られても面白くない。

 焦らすように愛撫を弱めると、もぞもぞと腰を動かす。もっとして、と無言の催促。

 今度はお望み通りに一段強めに吸い付くと、悲鳴のような嬌声を上げて股を閉じようとした。だがそれはフトモモで俺の顔を挟むだけ。心地よい柔らかさと雌の香りに包まれて、俺の股間に更なる力が入る。

 

 

 今更、自分の服が鬱陶しくなってきた。全身で明日奈を感じたい。手早く服を脱ぎ捨てるが、火照った体は寒さなど全く感じない。

 むしろ肌からも明日奈の香りと温かさと、何よりも強い欲望を感じられて、頭も体もナニもカッカしていた。

 

 裸になってから明日奈を抱きしめ、布団の上に倒れ込む。布団よりもずっと柔らかく、温かく、清らかな体に、俺の肉棒が擦りつけられる。

 

 

「っ……ま、待って…」

 

 

 うん? 怖気づいた? まだ前戯を終えるつもりはないが、布団に寝転がった事で、本番が始まると思われただろうか。

 しかし、明日奈の表情には恐怖は無い。恥ずかしさや躊躇いはあるが、むしろ行為には積極的な様子だった。

 

 

「私からも……その、してもいい? これ…」

 

 

 恐る恐る、そっと触れるのは言うまでもなく俺の剛直。欲望によってビキビキと膨れ上がり、なんかもう妙なオーラすら放っているような………いや、一か月ぶりだし、俺のナニだし、これがデフォかな。

 白魚のような指でそっと触れられて、ゾクゾクと甘い悪寒が走る。焦らしているつもりはないのだろうけども、たどたどしい手付きはフェザータッチのようにもどかしい感触を与えてくれる。

 

 …ああ、いいよ。好きなようになってみな。やり方、分かるのか?

 

 

「一応…。神夜の家の資料を見せてもらって、勉強したの」

 

 

 ああ…。あの家の性質上、そういう技法は伝わってるわな。戦場で一番活躍したモノノフと、一夜を共にする…。そうなると、いくら美人だったとしてもマグロじゃ大した褒美にならないだろう。男を一晩で虜にする、或いは満足させる技術が練り上げられている筈だ。

 家の価値を下げない為にも、門外不出だろうな…。ああ、そう言えば神夜の家に一晩泊って、何やら見せてもらったって言ってたっけ。

 つまり、これからやろうとしているのは、神夜の家に伝わっていた専門技術でもある訳で…。

 

 

 いいね、楽しみになって来た。どうしたい?

 

 

「えっと…まず、横になって。それから……」

 

 

 言い淀んだ明日奈を他所に、言われたように仰向けに寝そべる。期待で漲るナニが天井を向いた。

 それを見てゴクリと喉を鳴らし、覚悟を決めた明日奈が俺の上に圧し掛かってくる。ただし、明日奈と俺の向きは逆。シックスナインの体勢に、自らもっていった。

 俺の視界が、明日奈の下半身で埋め尽くされた。目の前に美麗な尻と足、割れ目とアンダーヘアが突き出される。

 

 自分から秘部を男の前に差し出すという恥ずかしさを誤魔化すように、明日奈は俺の欲棒に集中した。

 体勢と角度の為、明日奈の顔面に向かっていきり立つ欲棒。もしもこのまま射精すれば、明日奈の顔面にネバネバする白く濃い白濁が着弾するだろう。

 そんな体勢だと自覚があるのか無いのか、明日奈は宝石に触れるような力加減で、男の象徴に触れ始めた。

 

 

「こ、これが……おちんちん…」

 

 

 恥ずかしい言葉を口にして、自分のやっている事の卑猥さを再認識したらしい。明日奈の体の体温が上がるのが、素肌で感じられる。

 肉棒から立ち上る、欲望のオーラに充てられたのか、明日奈は積極的に奉仕を始める。

 

 

「えっと、確かまずは……指でさきっちょと、もう一方の手で…」

 

 

 鈴口を優しく撫でる指。

 それとは逆に玉袋を纏めて掴む掌。

 特に敏感な部分に走る優しい刺激と、緊張を解そうとする…と言うよりは、睾丸の働きを高めようとするマッサージ。

 

 自分の愛撫がどんな効果を齎しているのか、痛くしてはいないかと不安げに見つめる明日奈の視線。

 もっともっとと、ピクピク肉棒を動かして主張すると、その動きの意味を正しく受け取ったらしい。少し力を強め、亀頭を撫で回していた指先が根本に絡みつく。

 ゆっくりと上下する手に合わせるように、俺も明日奈の下半身を愛撫してやる。指が一往復する度に、秘部を一撫で。明日奈の動きを阻害しない程度に、下半身が甘く痺れて動けなくなるように、快楽のトロ火であぶり続ける。

 明日奈が手の動きを速めれば、同じように俺も動きを速める。喘いで動きを止めるなら、同じように止める。新しい動きをすれば、同じく新しい愛撫を返す。

 奉仕すれば、その分自分に快楽として返ってくると教え込む。

 

 

 弄ばれながらも、明日奈は聡明な子だった。俺がどのような動きを好んでいるのか察知し、何を狙っているのかも理解している。

 積極的な行為は、更なる愛撫を強請る事だと理解した。それでも止めようとしないのは、俺を気持ちよくしたいのか、それとも自分の欲望を認めているからか。両方だね。

 

 ゆっくりとした愛撫を続けられ、先走りが滲み出ているのが分かる。それを見た明日奈は、指先で液体を拭い取り、指とナニに塗り付けて潤滑剤にしようとした。

 

 

「あ、あれ? 塗り付けられる程量が…」

 

 

 そりゃまだ序盤だもの。我慢汁ってくらいだし、もうちょっと気持ちよくしないと中々出てこないよ。

 

 

 

「それじゃ…えーと、こう…ね」

 

 

 身を乗り出し、ナニの上で口を開く。まさかもうフェラ? と思ったが、残念。ぬるりとした液体の感触はするが、口や舌が触れてはこなかった。

 どうやら唾液を垂らしたらしい。是非とも見てみたいシーンだが、流石にクンニしながらだと見える筈もない。

 我慢汁とは比べ物にならない量を垂らしただけあり、絡み付く潤滑油のおかげで明日奈の手の動きがスムーズになる。当然、俺に注がれる刺激も段違いだ。

 

 腕を動かすのではなく指の圧力で肉棒を扱き、ニチャニチャと卑猥な音を立てる。リズムよく上下する手に思わず呻き声を上げてしまう。

 

 

「あっ……これ、いいんだ…。もっと、ひぅ!?」

 

 

 何やらもっとやってみようとしたようだが、忘れてないか? 明日奈が気持ちよくしてくれるなら、俺も明日奈も気持ちよーくしてあげる事。

 クリトリスに舌を這わせ、しかし激しすぎないようにゆっくりとヌルヌルと刺激する。足の指先が閉じては開かれ、新しい刺激に悶えている事がよく分かった。

 それでも卑猥な音を立てながら手コキを辞めないのだから、明日奈も大したスキモノのようである。

 

 さて、ここからどうしてくれようか。

 久しぶりだから…と言い訳をするのも恰好悪いが、溜まりまくってるおかげで色々と堪え切れそうにない。このまま唾液ローション手コキを続けられると、本当に出してしまいそうだ。

 このままイカされるのを待つのもいいが、それではちょいと味気ない。約一か月ぶりの女の体。一発目を吐き出すなら、やはり胎内がいい。

 

 しかし、そう思っている事を察しているかのように、明日奈の手コキは益々激しくなる。

 半ば悦楽から逃れるように行っているのだろうが、イかされそうなのを察知して、猟犬の本能で仕留めに来ているような気もする。

 好きにさせてやりたいとも思うけども…………。

 

 

 

 

 うん、やっぱワンコには誰がリーダーか教え込まないといけませんな。

 今すぐ発射して明日奈の顔面をドロドロにしてやりたいと叫ぶ愚息を抑え込み、舌先を秘部に捻じ込んでいく。

 ついに手コキも止まり、明日奈は必死に口を抑えて声を押し殺している。お構いなしに嬲ってやれば、侵入した舌を拒むようにキュウキュウと締まりが強くなった。

 

 一際大きく呻き声を上げ、絶頂を迎える…寸前に舌先を止める。

 突如なくなった刺激に戸惑い、明日奈は困惑したような、助かったような、或いは期待を外されたような顔になった。両手をついて荒い息を吐き、朦朧とした目で俺を振り返る。

 下手に触れれば、それだけで絶頂しそうなくらいに昂った体を入れ替え、組み伏せる。

 明日奈の唾液と我慢汁が交じり合い、最高硬度まで漲ったイチモツの照準を合わせると、明日奈はこちらの状態を察したようだった。

 

 

 

 

 

 遂に、少女から女になる。

 

 一生に一度のその瞬間を心と体に刻もうとする明日奈の唇を塞ぐ。舌を絡めてくる明日奈を抱きしめ、ゆっくりと腰を勧めた。

 初めての、しかし慣れ親しんだ熱さと抱擁感。処女特有の抵抗と緊張を蹂躙しながら、明日奈のナカを突き進む。

 

 テクニックも緩急も何もない、ただ只管にキツく堅い締め付け。しかし熱い。

 絡めていた舌を引っ込めて歯を食いしばり、未踏の地を蹂躙される感覚に耐える。だが、生憎とその備えは無用のもの。何度も処女を破って来た俺としては、痛みを最小限に抑えるのも、逆に快感と誤認させるのも朝飯前だ。

 今回は痛みを消す事無く、しかし最小限に留める事にした。処女の証を突き破る瞬間の痛みは消さないが、それ以外はまだ異物感があるだけだろう。

 …快楽を注いで善がり狂わせるのは、最奥まで到達してからだ。

 

 

「っ……はっ……し、幸せぇ…」

 

 

 僅かとは言え、痛みを感じている筈の明日奈は、満ち足りた表情で呟いた。

 ギュッと抱き着いて来る明日奈に、愛おしさが膨れ上がる。同時に、この女を徹底的に染め上げて、自分の物にしてしまいたい独占欲も。 

 欲望が膨れ上がるのと同調するように、腰元から熱い感覚が込み上げる。久方ぶりの女体に、条件反射的に射精したくなっている自分が情けない。でも気持ちいいからよし。

 

 可愛い子だ、愛しているよと囁けば、嬉しそうに腕に籠る力を強くしてくる。胸元に押し付けられる乳房の感触と、漂う体臭が心地よい。

 顎を持ち上げ、顔を上向きにさせてキスをすれば、目を閉じて大人しく応じてくる。…少なくとも、痛みらしい痛みは治まっているようだ。

 

 突然大きなグラインドはしない。ピクピクと明日奈のナカで肉棒を痙攣させ、ナカで動く感触に慣れさせていく。

 明日奈の体は、想像以上に敏感だった。破瓜を迎えたばかりだと言うのに、中で蠢く肉棒の動きに合わせ、キュッキュッと締め付ける。オカルト版真言立川流を使うまでもなく、弱点が何処なのか自分から教えてくるような締め付け。自覚はないだろう。自分の体が、自ら犯されに来ている事は。

 肉棒を楔として深く打ち込んだまま、全身を撫で回す。

 

 …こうして抱く前から思っていたが…明日奈は下半身エロだな。乳より尻が、尻より足が魅力的。足は性器とはよく言ったものだ。性感体も、それに準じるように配置されている。

 尻を撫で回し、指先で内腿をなぞってやれば、堪え切れない喘ぎ声を漏らし、膣の締め付けで催促される。

 加減をしていたのを察しているのか、思いっきり突いてほしいとばかりに、膣の奥が卑猥な熱を伝えてくる。

 

 俺ももうそろそろ、本格的に吐き出したくなってきた。

 欲望を開放する事を決め、明日奈の顔を覗き込む。

 

 動くよ、明日奈。

 

 

「…はい。私を…貫いてください…」

 

 

 まるで信者が神に信仰を誓うように、万感の思いを込めて囁かれる声。

 それに応えて、ゆっくりと体重をかける。奥の奥まで一気に貫く事はできない。ピストン運動の幅を徐々に広げ、内側を解し、少しずつ奥に進んでいく。

 

 少し動く度に、明日奈の喉から声が漏れる。言葉にならない小さな喘ぎだが、彼女が性感を感じている事は明白だった。

 熱とぬるぬるした感触を増す膣を前後しながら、少しでも助けとなるように、体の外側を愛撫する。

 

 乳房を弄んでいた時、ふと目についた俺の体を抱きしめる腕と、その付け根。

 

 

 …さっき、明日奈が下半身エロだと考えた事は訂正する。上半身にもエロはある。おっぱいだけじゃなくて、うなじとか、鎖骨とか、頤とか………脇とか。

 目についてしまった以上、衝動に抗う事は出来なかった。腕を掴んで頭の上に持っていき、抑えつける。急に力強く動かされた明日奈が目を見開くが、本気で驚いたのはその後だ。

 

 大きく開いた、真っ白い脇に舌を這わす。汗の香りとフェロモン、僅かに残る剃り跡が興奮を掻き立てる。

 

 

「やっ、そん、そんなところ! あぅっ!?」

 

 

 予想外の行為により羞恥に歪む明日奈の顔。逃げようと体を捻るが無駄な事。腕は完全に抑え込まれている上に、一番大事な部分を征服されて、初めての異物感と性感で力を入れる事もできない。

 明日奈の無駄な抵抗を蹂躙するのを楽しみながら、ゆっくりと性感を探して舐め上げる。

 弱い部分を見つけると、そこを舌先で弄り回すと同時に、腰を小刻みに突き込んで堪え切れない快楽を覚えさせる。

 

 

「あっ、だめっ、そこだめっ、くる、きちゃうの! がまんできない…!」

 

 

 我慢なんかしなくていいよ。

 脇で気をやっちゃうなんて恥ずかしい事だけど、当たり前の事なんだよ。女の体は、どこもかしこも男を悦ばせるように、悦ばせてもらえるようにできてるんだよ。

 ほら、脇と乳首と女陰の3点責め。

 

 

「はっ……! く、ああぁぁぁぁ!!!」

 

 

 羞恥の感情を振り切れないまま、明日奈は言い訳もできないくらいに、高く深く絶頂に至った。

 当然だ。いくら恥ずかしい思いを感じていても、全く経験のない感覚の波、胎の異物感の為に力を籠める事もできやしない。もうされるがままである。

 

 全身をピンと張りつめさせ、一瞬の硬直の後にガクリと崩れ落ちる。

 羞恥と快楽と脱力感がないまぜになり、呆然として虚空を見る明日奈。

 

 が、まだまだ攻め手を緩める筈もない。

 さらにしつこく脇に吸い付き、徐々に律動と胸を探る手の動きを大きくする。

 

 

「っ、ま、またぁ…」

 

 

 嫌がるような、呆れているような声だが、明かに甘い響きが混じっている。

 激しすぎる動きは行わず、明日奈がしっかりと感覚を受け止められるように性感を引き出す事に徹底する。

 その為か、羞恥はあっても恐怖は無く、本来ならまだ辛いであろう絶頂直後の更なる行為も受け止められた。

 

 明日奈の膣も本格的に解れて、最奥まで突き進んだ感触がある。これ以上奥を求めようとするなら、もっと時間をかけて体を作り替えなければいけない。…明日奈も多分、そっちの方が楽しいし。

 

 把握した全身の弱点を撫で回し、奥まで突っ込んだ肉棒をグラインドさせ、キツくヌルヌルした締め付けを堪能する。

 ただでさえキツい締め付けは、俺のモノが発射寸前にまで膨れ上がる事で、更なる悦楽を送り込んできた。

 初めて咥え込んだオスの限界が近い事を察知したのか、明日奈はラストスパートとばかりに締め付け、更なる喘ぎ声を上げる。

 

 このままだと、明日奈が一番高く上り詰める前に、俺が暴発してしまいかねない。そう判断して、体位を変える。

 足を絡めて動かし、股を大きく広げた格好を強制。胸だけではなく秘部にも手を伸ばす。

 体位が変わった事でピストンの角度が変わり、今までと違う場所を抉られ悲鳴を上げる明日奈。心地よい、オスに許しを求める声を楽しみながら、最後の律動を開始する。

 既に股座に籠る熱は、火傷をしそうなくらいに昂ぶり灼熱となっていた。

 

 

 容赦なく貫かれ、初めての筈なのに犯されて快楽に酔い、心に繋がれた首輪で従属する少女。

 避妊の事くらい先に教えておけばよかったか? と過ったが、飼い主は俺だ。俺の欲望の赴くままに可愛がるべきだ。

 

 キャインキャインと可愛い泣き声を上げる女の体に、一か月ぶりの欲望の塊を叩きつける。

 

 

「っ、あ、あつぃ………!」

 

 

 同時に絶頂を迎え、最奥にオスの欲望を叩きつけられた明日奈は、歯を食いしばるようにして意識を必死に保っている。

 股座から、熱の塊が抜けていく。先端部分は明日奈の体と溶け合っているかのように、心地よい熱さが留まっている。

 明日奈の膣がビクビクと震えて、尿道に残る精液を絞り出そうとしてきた。

 

 

 まだ男を気持ちよくさせようとしている体とは裏腹に、流石に二連続絶頂で限界だったようだ。

 今度こそ全身から力が抜けて、俺の体にもたれかかってきた。

 

 

「しゅ、しゅごかったぁ…お腹があっつぃ…」

 

 

 呂律の回ってない口で感想を言いながら、少しでも俺の肉薄しようと擦り寄ってくる。

 昂り切った体に、美少女の体温が寄り添ってついついまた元気になりそうに。

 

 ははは、満足してくれて光栄だけど、男女の色の道はまだまだ奥が深いぞ。これで力尽きてちゃ大変だ。

 

 

「……もっと凄いのがあるって事?」

 

 

 そりゃもう。

 明日奈の口元がヒクついている。想像してしまったらしい。ちょっと体温が上がっている。…興奮してるな。

 

 

「手加減されたんだと思うと複雑だけど…優しくしてくれたんだと思っておくわ。…あぅ」

 

 

 ピクリと体を震わせる。俺は何もしてないが…ああ、注ぎ込んだ精液がちょっと垂れてきたのか。思いっきり注ぎ込んだもんなぁ…。最後の奴なんて、白濁通り越して個体になりかけてるんじゃないかと思うくらい濃かった。これが蓋をして、精子が流れ出てこないんじゃないかと思うくらいに。

 後始末もしてあげようかと思ったけど、やめておいた。…どーせまたヤる事になりそうだったからだ。

 

 

「…あの……私の体って、どうなのかな」

 

 

 うん? どうって言われても、綺麗だし可愛いし敏感だしいやらしいし、文句なしだけど。

 

 

「いやらしいは余計よ。…でも、要するにそういう事か。……亜里沙さんと比べてどうだったとか…そうでなくても、他の人の…ほら、こういう事って分からないし」

 

 

 女抱いてる途中に、他の女の事思い浮かべる趣味は無いよ。妙な対抗意識持っちゃってるみたいだな。あと当て字…。

 …正直、比較対象としては極端すぎるな。経験値が違い過ぎる。

 気質はある意味似通ってる所はあるが、だからこそ積み重ねの差が浮き彫りになる。

 

 それ以外、他の人と比べて? そうだなぁ……。体毛は薄め、性感は背中から脇近辺が多い。

 出るトコ出てると言うよりも、引っ込めるところを徹底して引き締めた、無駄を極限まで切り落とした美しさ…の、素質だな、まだ。

 

 

「素質って何ですか、素質って…」

 

 

 女の子に向かって失礼な事言うけど、極めてるとはまだ言えんよ。…それこそ、比較対象がレジェンドラスタ級だから、無茶言うなって話だけど。

 少なくとも言える事は、明日奈の体にいやらしい所はあっても、おかしな所なんてないよ。

 

 うん、体に分からせた方が早いかな? アリサに対抗したいなら、経験を積むに越した事は無いしね。

 

 

「いやらしい所は余計よ! …でもいいわ。望むところよ。さっきは折角予習してきた技術を、全然発揮できなかったからね。今度は私が気持ちよくしてあげるわ」

 

 

 

 落ち着いてきた体を動かし、明日奈は俺のいきり立ったモノに手を伸ばす。見つめ合いながら指を絡めて扱き上げ、好戦的な笑みを零す。既に行為への恐怖は無いようだ。

 俺としても望むところだ。久々だからって、つい調子に乗って明日奈の準備してきたテクを堪能せずに欲望発散に走ってしまった。

 一発ヌいてスッキリしたのだし、今度は明日奈のテクを存分に味わうのも楽しみだ。いぢめるのはその後でいい。

 

 覆いかぶさってくる明日奈の唇を求めながら、ゆっくりと……そう、オカルト版真言立川流の体感時間操作を使うくらいにゆっくりと夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういう訳で、明日奈は見事に大人の階段を登りました。真っ当な性癖からは半歩くらい踏み外しているような気がするけど、何も問題はないな。

 その明日奈は、朝日を浴びても全く微動だにせずに睡眠中。気絶してるんじゃないから、そこは勘違いしないように。

 

 とりあえず、昨晩の名残がこびりついている上、布団も色々な液体で汚れまくっている。…赤く染まった部分だけ、記念に切り取っておこうか?

 とにかく、眠っている明日奈の体を綺麗にして、予備の服と布団で安静にさせて……そうだ、今日も異界調査に向かう予定だったから、神夜には臨時の休みだって事を伝えておかないと。

 

 意識がない明日奈の体を拭いていく間に、ついつい睡姦に及びそうになったけど、それはおいといて。少なくとも昼頃までは目を覚ましそうにない。

 ちょっとだけ一人にしてしまうことになるが、神夜のところに行って来よう。こういう時メールや電話のありがたさを実感するな。

 安らかに寝息を立てる明日奈に、いい塩梅に加減ができたなと自画自賛しながら外に出る。

 

 朝の爽やかな空気とスッキリした股間を感じながら、頭に浮かぶのはこれから明日奈をどう染めていくか………ではない。

 いやそれもあるんだけど、里から出ていく時、明日奈が一緒に来るかという問題だ。俺無しではいられない中毒にしてしまえばそれで終わりではあるが、恐らく行く先は激戦区。ウタカタ自体が最前線な上に、クサレイヅチとやり合う事になる決戦舞台。流石に、シモの世話をさせる為だけに連れて行こう、とは言えない。

 戦力的に考えても、まだまだ半人前なのだ。連れていくなら、鍛え上げなければならない。

 

 となると…やはりオカルト版真言立川流によるドーピングが必要か。気持ちよくなればなる程効果が上がる傾向がある術だから、しっかりとヒィヒィ楽しませてやらなければ。

 

 

 

 

 

 結局エロい考えに行きつく俺の頭はともかくとして、集合場所にやってきた神夜は非常に眠そうだった。異界探索を休みと聞いた時、戦えないとブーたれるよりも先に、ゆっくり寝られるという言葉が出てきたくらい。

 ……なんだ、昨日寝てなかったのか?

 

 

「寝てないと言いますか、目が冴えたり頭の中に変な考えが浮かんだりして、眠るに眠れなかったと言いますか…。布団の中でじっとしていようにも、どうにも体が落ち着いてくれず…」

 

 

 体が落ち着かない…。神夜のボディでいうと、なんかエロいな。…いや流石に口には出してない。

 まぁ、そういう事なら渡りに船か。本来なら、明日が休みだったけど、一日予定をずらすから。

 

 

「承知いたしました。…ふぁ…」

 

 

 …朝早くから悪かったな。仮眠でもいいから、寝てな。

 力なく頷いて、神夜は家の中に戻った。

 

 

 

 ………暫く、神夜は不調になるかもしれんな。単に眠いだけの不調を装っていたつもりのようだが…見え見えだ。

 神夜が眠れなかった理由は簡単だ。明日奈と俺が同じ部屋で夜を過ごしている事を想像して、それに囚われてしまったからだ。

 どういう意味かは…まぁ、言うまでもないな。色恋に対する興味が暴走したのか、幼馴染が一人だけ大人の階段を登る事に歯ぎしりしたのか、或いは俺に対する好意を持ちながらも明日奈に奪われたと感じたか…。

 とりあえず確かなのは、神夜が昨晩、何度も自慰を行った事である。残り香でわかる。

 

 …ふむ…あの天真爛漫で我儘ボディの神夜が、俺と明日奈の夜を想像して自慰…好きな人(どちらとは言わないが)を掻っ攫われたような感覚だとしたら、鬱勃起ならぬ鬱濡れからの自慰か…。

 ……すげぇ、背徳感が半端ない。神夜を寝取られ性癖に目覚めさせてしまったか?

 

 冗談はともかくとして、暫く注視しておいた方がよさそうだ。男を挟んで人間関係がクラッシュしたら溜まらない。いや当の俺が言う事じゃないけども。

 

 

 色々と不安が残るものの、とりあえず俺も一眠りしよう。家に戻って、まだ眠っている明日奈の隣に滑り込んだ。

 

 

 

 昼頃に起きたら、好奇心全開の明日奈がナニを弄り回していたのでオシオキした。

 

 

 

 

 

 



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409話

 

魔禍月 十律日目

 

 

 ゼッコーチョーである! 約一か月半ぶりに女遊びを堪能し、色々スッキリした我が剣の冴えを見るがよい!

 …と言いたいところだが、相手が雑魚ばっかなんで大して変わらないなー。むしろ、明日奈の方が絶好調だ。流石に丸一日腰が立たなかったのは言うまでもないだろーが、そこから復帰してからはもう暴れまくる暴れまくる。

 男が出来て浮かれている…と言うと悪い言い方になるから、心身ともに充実している…のに加えて、オカルト版真言立川流の恩恵をしっかり受けたからな。体調は万全、霊力は全開以上に漲っている。

 目に見えてレベルアップしていた。

 

 対して、神夜はというと……一見すると異常はない。相変わらずの戦狂いだし、戦い方も気分屋ながら一級品。普段の行動も、そうおかしな所はない。

 ……だからと言って、油断や楽観は禁物だ。今の俺達の関係が神夜に何かしらのストレスを与えているのだとしたら、鬱屈は目に見えないところでゆっくりと溜まっていくものだ。

 神夜をヤンデレに目覚めさせるような事は避けたい。いやそれはそれでアリだと思うしむしろ興奮するんだけど、やっぱり神夜はほんわか笑顔の可愛い子でいてくれた方が嬉しいもの。

 

 …その為にも、いざというときに備えて明日奈をしっかり染め上げておかねば。

 

 

 ま、それはおいといて。異界探索についてだ。

 今日も異界を進み、鬼を斬り、地形を調べ…と動き回っていたのだが、またしても妙な物が見つかった。

 …というか、探索すると毎回毎回何か見つけてる気がするな。実際、探しているんだから見つかってもおかしくはないんだが…順調すぎる気もする。

 

 ともあれ、今回見つかったのは人の生活跡。本人を知らないから断言はできないが、これは恐らく前お頭の生活跡だ。

 しかも、以前同様に立ち去ってからあまり時間が経っていない。

 

 

「具体的に、何日くらいでしょうか? それと根拠は…」

 

 

 生活跡があった家の中に、僅かに足跡が残ってる。歩幅や体重移動の癖、武装とそれを置いていた場所…非常に特徴的だ。

 …トレイサーの真似事程度しかできないが、まず間違いない。

 

 

「とれいさぁの事はよく分からないけど、ここにお頭が…。前に見つけた痕跡の時も、同じような感じ…だったかしら」

 

 

 まぁ、大体はね。そして慌ててここを離れて………唐突に消える。

 

 

「あの時の事を思い返してみると、愛用の茶碗と箸を放り出して突然飛び出した…という事でしたね。そして、今回も同じように飛び出し、消えた…。何かから逃げているというよりは………うーん、なんでしょう…あのお頭の事ですからねぇ…」

 

「…………金目の物を追いかけていて、逃げられたと思ったら発見して飛びついた?」

 

「それです!」

 

 

 金目のもの限定なんかい。ハクですらないとは。

 

 

「金目のものじゃなければ儲け話ですね。前お頭は、ハクを金銭として扱うのは好いていませんでしたから。モノノフではない人々とも商いをやっていたそうですよ」

 

 モノノフにしちゃ社交的というか開放的だな。

 しかしそうなると、その金目の物とやらは一体何なのか。追いかけるようにして足跡が続いていき、そして消えた…って事は、移動したって事か。

 

 

「うーん…異界の中ですし…コガネムジナ?」

 

「確かに、モノノフ的に金目になりそうな物って言ったら、あの鬼よね…一度も見たことないけど。でも、あの前お頭がその程度で飛びつくかしら」

 

「ですよねー。モノノフ内でのハクにはなりそうですけど、金銭にはなりそうにありませんし。前お頭の好みとは、少し違うように思います」

 

 

 ふーむ……要するに、前お頭は所謂『お宝』が好きな訳かね。それも、わかりやすい金銀財宝、或いはもっと大きく設ける好機につながる奴が。

 

 

「ええ、大体その認識で大丈夫です」

 

「その前お頭が、何年も里に戻らないくらいのお宝かぁ…ちょっと想像つかないなぁ」

 

「何かと暴走するお方でしたが、里長としての職務は投げ出しはしない方でしたものね。脇道に逸れる事は多々ありましたが、里長という地位自体が大きな商談をするのに必要な身分証になると、最低限の事だけはこなしていました」

 

 

 それが戻ってこない……戻らない……。

 戻れない? 鬼に捕らえられている? それにしたって、痕跡をロクに残していかないのはおかしい。ここの生活跡だって、他所から来た形跡が全く見られない。単に形跡が消えてるからそう見えるのかもしれないが、突然現れて突然消えたようだった。

 これだけ自由に動けるなら、万一に備えて手掛かりを残すくらいはできるだろうに。特に、最近は異界の浄化なんて現象が2回も続いた訳だし。

 

 あるいは……それすら知れる立場にない?

 

 でもそれって具体的にどんな状況よ。

 

 

 暫く周囲を探索するも、新たな手掛かりは得られず。仕方ないので今日は退散。

 里に戻った後、明日奈は木綿季が宿る結界石のところに出かけて行った。…ありゃ、惚気る気だな。

 逃げ場のない木綿季には悪いが、付き合ってやってくれ。オメーが明日奈を嗾けたの、しっかり聞き出してるからな。自業自得じゃ。…周囲の護衛モノノフさん達には申し訳ない事をした。というか、これで俺と明日奈がひっついたって噂が駆け巡る事になるだろう。冷やかされる覚悟はしておく。

 

 

 

 

 

 寒雷の旦那に軽い報告をあげ、これで一日は終了かと思ったら、予想外のところから情報が舞い込んできた。

 飯の準備をしようか…と思っているところに明日奈がやってきた。「晩御飯、作ってあげます!」と息巻いていたが、要するに彼女っぽい事というか通い妻っぽい事したいんだろう。

 明日奈の飯は結構美味いから、全く問題はない。嬉しいくらいだ。

 

 トントントンとリズムよく包丁の音が響く中…裸割烹着は季節的に寒いので無し…、木綿季からおかしな話を聞いた、と明日奈が切り出したのだ。

 何でも、結界石に閉じ込められていた間、時々外の様子も見れたのだが、何度か異界の中に塔が立っている事があった、と。

 

 

 …君ね、そういう話はちゃんと向かい合って、神夜とか寒雷の旦那も一緒にしよーぜ…。まぁ、話は聞くけど。

 

 

 とはいえ、明日奈も木綿季もそれ程大した情報を持っていた訳じゃない。多分、明日奈の惚気にウンザリした木綿季が、何でもいいから話を逸らす為のネタにしたかっただけだろう。

 流動の激しい異界の中なら、場違いな建物がドドンと聳え立つ事も、それがいつの間にやら姿を消している事も珍しくはないが、それにしても出現・消滅が早すぎる。目を離していた一刻程度の間に、影も形も無くなってしまったのだそうな。

 また、恐らくであるが、装飾や破損度合いなどから見て同じ塔である可能性が高い。

 

 異界の中の塔、か…。しかも複数回…。苦し紛れとはいえ、木綿季が嘘を吐くとも思えないし、何があるのかな。

 

 

 

 その後? 勿論『本題』に入りましたよ。明日奈さんのご期待通り、朝までハッスルしてました。

 

 

 

 

 

 

 

魔禍月 十漆日目

 

 

 なぁにぃコレぇ…。こんなデカいもの、どうして見落としてたんだ…。いや、確かに高い所から、あると思ってなければまず見つけられないような痕跡だったけども。

 

 えーとな、まず今日は木綿季に会いに行ったんだ。明日奈が聞いた、謎の塔について詳しい話を聞く為だ。詳しい話と言っても、どっちのどの辺に立っていた、くらいしか情報は無かったが。

 冷やかすような木綿季の声が鬱陶しかったが、それはまぁいい。専ら明日奈をからかって、惚気られて返り討ちになっていたようだし。

 

 話を聞いたとは言え、大きすぎる建物等は遠近感を狂わせるから、あまりアテにはできない。教えてもらった方向にあったのは確かなので、近場の小高い丘に登り、眼下を見回した。

 ……何というか……今更だけど、鷹の目ってどこまで出来るようになるんだろうな。遮蔽物越しに人や物を探知するのは勿論、過去視、幻視、死ぬ寸前の相手との精神世界(?)での会話、その他諸々…。

 

 今回発動したのは、過去視に近いか? それとも幻視との合わせ技?

 何と言うか………うん、一言で言えば、塔の痕跡を見つけたと思ったら、塔が見えました。雪原の中にね、明かにおかしな痕跡が幾つかあってさ…例えば積雪の不自然な偏りとか、木々が押し退けられたような跡とか。

 それを全部同時に目に入れたら、こう、ぐにゃぁ~って感じで視点が歪んで…後から思うと、塔の痕跡後等の情報から、どんな塔が立っていたのか逆算し、それをイメージとして見ていたんだと思うけど…。大丈夫かなぁ、これ…。ギアスみたいに鷹の目が暴走して、見る必要の無い物や見たくない物まで全部見ちゃうようになるとか無いよね?

 

 未来の不安は置いといて、確かにそこに塔があったのは分かる。それが唐突に現れ、唐突に消えたのも。

 

 

「…まぁ、貴方がそう言うなら信じるし、確かにちょっとおかしな跡も見えるけど…」

 

「まぁ、木綿季さんが嘘を吐いたとも思えませんし」

 

 

 ありがとう。もっと、ここの痕跡がこうで…って説明できるといいんだけどな。

 それはそれとして、俺の考えが正しければ……塔がこうあって、恐らく入り口があっちにあるから………あの辺りを調べに行くぞ。

 

 

「調べるのはいいですけど、何かお目当てでも?」

 

 

 多分、焚火の跡なり何なり、人が居た形跡があると思う。つまりは……その、前お頭の痕跡が。

 逆に、一つ目の異界を浄化した後に見つけた痕跡があっただろ?

 

 

「ああ、お箸とお茶碗を見つけたあの時の」

 

 

 そう、それ。その近くには、塔の痕跡があると思う。

 

 

「…前お頭が、塔の中に居るって事? うーん……消えては現れる、幻の塔…。かなり大きくて立派な塔みたいだし…前お頭の好みと言えば好みかも…」

 

「天守閣には、さぞや立派なお宝が…と言う事ですね。仮になかったとしても、欲に目が眩んだ前お頭なら『きっと何かある!』と突撃する事極まりないです」

 

 

 欲に目が眩むって、大丈夫なのか前お頭。いや行方不明になってんだから、大丈夫じゃないんだろうけど。

 ともかく、これは仮定に仮定を重ねた話だが、塔はどうやら短い時間、或いは決まった時期にしか出現していないようだ。だとしたら、前お頭が塔の中に居るとして、塔が消えたらどうなると思う?

 

 明日奈と神夜は顔を見合わせた。

 

 

「塔だけ消えて、2階から落下する…と言うのもありそうですが」

 

「確かにありそうだけど…もう一つの可能性は、塔と一緒にどこかに移動する…?」

 

 

 俺は後者だと考えてる。そして、移動している間…つまり塔が出現していない間、中に居る前お頭は消えている事を認識できていない……。

 言い方が分かりづらいか。塔が出現している間しか意識がないから、前お頭にとっては塔に入って数週間も経っていないという認識なのかもしれない。

 

 

「成程…。確かに、それなら前お頭が里に戻ってこないのも納得極まりないです。前お頭にとっては、まだ里の運営に問題が出る程の時間が経っていないのですから」

 

「理屈は考えても仕方ないわね。まず間違いなく鬼の仕業でしょうし、人知を超えた現象だって珍しくないわ。とりあえず、何とかして前お頭を確保………………し、したほうがいい? いいと思う?」

 

「わ、私に振られましても」

 

 

 俺なんてもっと分からないぞ。聞いてる話だと、問題が多い人のようだが、有能ではあるようだし、見殺しにする理由もないんじゃないか。

 

 

「それはそうなんですけど、あの人が戻ってきて里がどうなるのか、一抹の不安が…。どうせ放っておいても死にそうにないし、もうちょっと事態が落ち着いてからの方がいいんじゃないかと…」

 

「…反論し辛いこと極まりないです。で、ですが実際のところ、塔の中に居ると言うのも憶測の域を出ませんし、当たっていたとしても肝心の塔がいつどこに出現するか分かりません。最悪、向こう十年くらい出現しないという可能性もありますし、好機があればすぐにでも助け出した方がいいのではないでしょうか」

 

「むぅ…。確かに…。ま、まぁ、とにもかくにも塔を見つけなくちゃ何もできないわよね」

 

 

 そうだな。いつ塔が現れるのかも分からないし、入っている間に消える可能性を考えると、軽率に突入する事もできん。ちょっと入って出てきたら、外では5年くらい経っていた…って事も有り得る。

 とりあえず、今まで塔が出現したと思われる場所だけ調査しておくか。

 

 

 

 

魔禍月 十溌日目

 

 

 牡丹と寒雷の旦那に塔の事を相談してみたが、特に心当たりはないそうだ。うーむ、お婆ちゃんの知恵袋もとい、長く生きてる(死んでるけど)牡丹ですら心当たり無しとは…。

 塔、だもんなぁ。サイズからして鬼も動き回れるくらいにデカくはあったが、好んで住み着くとも思えん。大型鬼があの塔の中に居たとして、恐らく一階につき住み付けるのは2~3体程度。その巨体が上り下りできる階段があるとするなら、もっとスペースは少なくなる。

 鬼用に作られた塔でないなら、やはり人間の作だろうなぁ…。

 MH世界の古塔程デカくはなかったし、渦巻いてる力も強くない…と思う。流石にそこまで強い力があるなら、モノノフ達がとっくに気付いてる。

 

 …一番分かりやすいのは、人工の塔を利用した鬼の術、というパターンだ。結界石だって利用したのだ。塔の頂上にエサを用意して、モノノフを誘い込むくらいの事はやってのけるだろう。

 

 とりあえず、塔については保留だ保留。実物も見つからないし、新しい情報も無い。

 暫くは、異界を探索し続けるしかなさそうだ。

 

 

 話は変わるが、神夜から相談を受けた。これまで、何度か里の外…異国と言う事で誤魔化して…の文化について、神夜と明日奈に何度か語っていた事がある。

 その中で、特に神夜の興味を引いたものがあった。

 

 それは…ベッドである。

 

 戦狂いなので戦いの技術はまた別格として、神夜は里の寝具の手入れを一手に引き受けている。また、作成もしている。

 床に布団を敷いて寝そべるのではなく、柔らかいクッションの上に布団を敷き、就寝専用のスペースとするという(神夜にとっては)全く新しい発想に興味が湧いたらしい。

 

 

「と言う訳で、詳しいお話をですね。特にその『くっしょん』について」

 

 

 そう言われてもなぁ…。俺も詳しい訳じゃないし、多分クッション作ろうと思ったらバネっつーかスプリングが要るよな。いや、上手くやればエアクッションで行けるか?

 一応金属ではあるから、練さんに頼めば…。

 

 

「うーん…やはり素材が問題ですか。鬼の素材を使うのも、流石に躊躇われますし…」

 

 

 文字通り夢枕に立たれそうだな。下手すると呪いの媒介になりそう。

 もっと簡略化して考えるか。

 

 

「と言うと?」

 

 

 ベッドには硬いベッドもある。具体的には、金属の骨組みに、布団を乗せるような奴。

 神夜が想像してるような、乗ったら跳ねられるベッドじゃないけど、とりあえずここから始めよう。

 

 理屈は単純。とにかく頑丈な、寝そべる事ができる大きさの台を用意する。

 

 

「ふむふむ、そこが眠る為の専用の場所と言う事ですね。それでそれで?」

 

 

 その上に、布団を何重にも被せる。肉厚で柔らかめの布団がいいな。スプリング程じゃないけど、重ね合わせれば柔らかさは迫れると思う。

 

 

「単純ですが盲点でした。素材の調整は、腕の見せ所ですね。聞いたお話だと、こう…べっどの上に、天蓋があるような物もあるそうですが」

 

 

 そこら辺はもう趣味の領域だしなぁ。極端な話、四隅に柱を立てて、それっぽい布を被せれば天蓋と言い張れるだろうし。

 

 

「布……蚊帳の方がよさそうですね。ふむ…機能的には、無くても問題はないと?」

 

 

 そうだね。元々、寝る為の空間として周囲との区切りを作るとか、隙間風や天井から落ちてくる埃、虫を避ける為の物だったらしいから。

 …そう考えると、寒い里なら意味はあるかな。

 

 

「天蓋は後に回しましょう。台座も用意するのはそう難しくありませんし…。素材に余裕さえあれば、意外と簡単にできそうです!」

 

 

 その素材が問題だな。余裕が出てきたとは言え、まだまだ先行き不安だから、贅沢品にしかならんだろうなぁ…。

 

 

「個人的に作るだけだから、大丈夫です。勿論、満足いく物が出来上がったら、来月の練武戦と発表会で提案してみますけども」

 

 

 おう、手伝うよ。敷布団も嫌いじゃないが、久しぶりにベッドも使いたい。

 

 

「使い心地、試してみてくださいね。私も試しますけど、他の人の意見は大事です。ええ、お手伝いしてくれているのですから、いの一番に」

 

 

 お、おう? 明日奈はまた後って事ね。異界探索ついでに、使えそうな物集めていくかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日あったのはこれくらい…ああそうそう、白浜君が新しいステージに進みました。別にあの世行になったとかじゃなくて、修行の成果が出てきて現状の分だと充分な効果が期待できなくなったから、もうちょっと強い負荷をかける。

 「やっと慣れてきたのにぃ…」ってサメザメ泣いてたが、慣れてきたからこそ次のステップに行くのだよ。

 

 にしても、流石ハンター式訓練法。初めて2週間程度しか経っていないのに、もう白浜君の体付は変わってきた。

 本来、筋トレは最低でも半年くらいはかけないと効果が出ないと言われているが、腕は太くなってきたし、あばら骨が見えていた腹は薄っすらと割れてきて、回復力も高くなってきた。

 同じ修練を必死こいてこなしていた師範も、既に終わった筈の成長期がまた訪れたような心持になっているそうだ。

 

 その師範から聞いたのだが、近い内に寒波…と言うより吹雪が訪れそう、との事。

 そう言えばそんな話もあったね。異界の中が吹雪いて、外も雪が降っていた時は、後に物凄い雪に見舞われたと。

 冬籠りも元はそれに備えての話だったっけ。明日奈で遊ぶのに夢中で忘れてた。

 

 で、もうすぐその吹雪が来るって?

 

 

「多分、な。最近、里近辺の風がおかしい。貴様も兆候くらいは感じていたんじゃないか?」

 

「ぼ、僕は外に出る時は体温が上がり切ってるか、力を使い果たして氷よりも冷たい悪寒を感じてばかりなので、今一つ…」

 

 

 まぁ、余計な事考えてる暇があったら鍛えろとばかりに、余裕を削っていったからな。覚えてなくても無理はない。

 俺としては、確かに冷気が増してると思ってたが、基準を知らんからな…。

 いつ頃になりそうだ?

 

 

「断言はできんが…来月の練武戦が延期か中止になるかもしれん、とは思っている」

 

「ええ…鍛錬の成果を試せるかと思ったのに」

 

「お前は鍛えるだけ鍛えて、人より先に鬼と戦えるようになれ。練武戦はそれからだ」

 

 

 ふぅむ…ベッドは早めに作っておきたいな。

 

 

 

 



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410話

 

魔禍月 十仇日目

 

 

 寒波到来の予感と言う事で、里人達は各々動き回っている。

 特に急いでいるのは、ミタマの寝床となる新たな祭祀堂だ。大雪大嵐となっても、大抵の鬼達はお構いなしに活動できる。もしも結界石の護衛が居ない間に鬼達が迫ってきたら、直接戦闘能力の無いミタマでは抵抗できない。その為、臨時の避難場所として新たな祭祀堂を作っている訳だ

 俺も依頼されて、幾つか素材を取りに行った。どっちかと言うと、神夜が作ろうとしているベッド素材のついでだったけども。

 尚、本日は明日奈はお休みだ。兼業の、居酒屋の給仕をやっている。…異界浄化班としてモノノフ専業にしてもいいのだが、人手不足で泣いて頼まれたらしい。

 

 ふぅむ……異界の中も段々と吹雪いてきてる。吹雪が去るまで、探索は控えた方がいいかもしれない。

 

 

「むぅ…吹雪では仕方ないですね。残念極まりないです…」

 

 

 山の天気は怖いからな。異界のであれば猶更。楽観してフラフラしてると、それこそ遭難してしまうのがオチだ。

 俺達ハンターだって、雪山を甘く見て凍死する奴が毎年何人か出るんだから。

 一応、遭難した人を見つけ出す為の訓練とかも詰んでるけど、やりたくないのには変わらないな。実践した事がないから、どれだけアテになるのかもわからん。

 

 最悪、遭難しても一晩だけ、俺だけだったら生き残れる目はある。アラガミ化という最後の手段があるからな。あまりエネルギーを使わず、じっとしていれば長時間の変身もそこまで苦にはならない。

 アラガミ化状態の火力でキャンプファイアーでもすれば、暖は取れるだろう。多分。後がどうなるか分からないが。

 

 

 

 それにしても、今度の異界はまた一段と広くて瘴気が濃いな。木々が生い茂る密林地帯なんだが、これがまぁ昼間から薄暗いのなんの。吹雪いてきているから猶更だ。

 気のせいか、あまりよろしくない気配が漂っている気がする。何というか……ハロウィン的な森を、もっと禍々しくしたような。

 

 

「モノノフ的な視覚で言えば、単に見た目が悪い森なのですが…確かに、如何にも何か『出そう』な雰囲気ですね。出るとしても、幽霊ではなく鬼ですが」

 

 

 幽霊だったとしても、ミタマだろうしね。

 実際、鬼達も組織立って警戒している気配があるし、警戒するに越した事はないんだが……しかし、何だかこの異界はオニビが多いな。

 

 

「ええ。木々の間から、光が飛び回っているのがよく見えます。オニビでなければ幻想的な風景だったでしょうに。…この近辺では、小鬼は珍しいです。居ても大抵ノヅチくらいなので」

 

 

 この木々のみっしり具合じゃ、ノヅチも大型鬼も動きにくかろうなぁ…。そういう意味じゃ、足場に捕らわれず、小さな隙間を移動できるオニビが多いのも納得だ。それにしたって、ちと多すぎる気がするが…。

 オニビと言えば、確かミタマを飲み込んで変色する奴が居たっけな。いやオニビ以外も同じだっけ?

 

 

「ああ、不浄と名の付く小鬼ですね。私は見た事はありませんが」

 

 

 ミタマを呑んでる小鬼なんぞ、大型鬼の方が捕食するだろうしなぁ…。

 …お、素材見つけた。これで予定していた分は全部だっけ?

 

 

「はい、これでべっどが作れます! 感謝感激極まりないです。 今日の夜には出来上がると思いますので、是非とも試して感想を聞かせてくださいね」

 

 

 ………うん? ちょい待ち、試すのはこの際構わんけど、これってベッド一つ分の材料…だよね?

 

 

「そうですけど? 勿論、加工が上手く行かなかったときの為、幾らか予備は見繕っていますが」

 

 

 確か、まずは自分用のベッドを作るって言ってなかったっけ?

 

 

「ええ。他の方に勧めるにしても、使い心地を試して、不備が無いかを確かめないと。まずは自分で試しますが、お話でしかべっどを知らない私では気付かない欠点があるかもしれません」

 

 

 それは分かるけども。

 …あのさ、神夜。職人としての視点で言ってるから気付かないのかもしれないけど、ベッドって要するに床だぞ。閨だぞ。

 自分で使う為にまず作って、使い心地を試してもらう為にそこに男を招くって…。

 

 

 

「………………………………そ、それはー…そのー…」

 

 

 

 指と指を顔の前で突き合わせて赤面する、視線を左右に彷徨わせる……あれ?

 リアクションがちょっと予想と違う。もっとこう、意表を突かれて「ひゃわわわわ!?」みたいに慌てるかと思ったんだが。

 これは、予想外の事を言われた反応ではなく……考えていて目を反らしたり、口にしてなかった事を、改めて指摘された反応だ。

 

 

 きょぬーの前で指をツンツンと突き合わせ、スネたような、しかし真っ赤な顔で俺を上目遣いに見て、口を尖らせている。いけずです、とでも言いだしそうだな。

 何にせよ、どういう心境によるものかはさておき……神夜も『その気』が少なからずある、と言う事か。ベッド自体、俺を招く為の口実だった…と言うのは己惚れすぎだろうか?

 特に注意して思い返さなくても、俺とスキンシップを図ろうとする明日奈にご機嫌斜めになったり、物欲しげな視線を向けられた事は何度もある。スキンシップの代わりとでも言うように、模擬戦を挑まれた事も。

 

 更に言うなら、俺が明日奈を初めて抱いた日なんぞ、そのシーンを想像して自慰まで行っていたようだった。…そういや、セクハラしながら明日奈を連れ回すところを目撃されていたっけ。

 うむ…据え膳どころの話じゃないな。まな板の上で、生け作りの鯉がヘイ!カモン!とばかりに手招きしているよーだ。何で今まで手を出さなかったんだろうね、俺。

 なんなら今からでも抱いてしまいたくなる程いじらしい姿だったが、グッと堪える。

 

 まずは、ベッドを作ってからだな。素材集め以外に手伝う事あるか? ちょっとでも早く作らねば。

 

 

「いえ、土台等は簡単ですし、布団も在庫を使えばいいですし……問題があるとすれば、飾りつけと……その、明日奈さんの事が…」

 

 

 明日奈? …ああ、そりゃそうか。神夜は、友人とその恋人の中に割って入ろうとしてるんだものな。ある意味、俺を寝取ろうとしているともいえる。

 そこで明日奈との関係を気にして二の足を踏む辺り、覚悟が決まり切ってないなぁ…。

 

 大丈夫。明日奈はちゃんと説得する。明日奈が傷つくような事にはならないし、捨てるような事はしないから。

 

 

「…真ですか? 私は…私は、あなたに懸想しても、明日奈さんは泣きませんか?」

 

 

 泣かない泣かない。

 

 

 

 だってもう、他の女もOKだって躾けてるからネ!

 性質がワンコなだけあって、群れを作るのにあまり躊躇いは無かった。ただし、自分を充分に愛してくれるなら…だが。

 明日奈は自分が独占欲が強いタイプだと思い込んでいたので、そこは最優先で突き崩しておいた。他の女の話をする度にスネられると流石に面倒だったし、今回も色々とお突き合いが増えるのは予想できたし。

 明日奈の独占欲は、自分の伴侶を他の誰かに触らせたくない…と言う物ではなく、『愛されていたい』という欲求によるものだ。伴侶の目が他人に向けば、自分に向けられる愛情が少なくなったと感じて飢えてしまう。ならば単純に、俺が誰に目を向けて誰を抱いていようと、自分は充分に愛されている…と思わせれば、途端に鷹揚になる。

 

 とは言え、神夜もそう言われてもすぐには信じられないよなぁ…。

 よし、明日奈にちょっと仕掛けるか。他の女に手を出してもいい、と思わせてるけど、それが自分の親友だと言うのは…いや多分気付いてるか。以前からの神夜の兆候を見逃してるとは思えない。

 と言うより、神夜が本気で動き出す前に抜け駆けしたって意識もあるんだろう。堂々と正面からアタックした明日奈と、理由はどうあれ消極的だった神夜の行動の結果だから恥じ入る所はないだろうが、それでも後ろめたさはあると見た。

 その辺を上手く突いてやれば、明日奈から神夜に『抱かれてみない?』とか言わせるのも簡単だ。

 

 うん、いい機会だから今夜はソッチ方面で責めるか。本気でヒィヒィ善がらせて、自分一人じゃ体が保たないって意識の仕上げをするとしよう。

 何、心配するな。ベッドが出来上がるまでの間に、明日奈から許可が出るから。

 

 

「……? ……? ちょっと言ってる意味がよく分かりませんけど、安心…していいのかなぁ…」

 

 

 首を傾げながらも、いそいそと予備の素材を集める神夜だった。

 

 

 

 ああ、そうそう。忘れてたけど、ベッドは大きめ…2~3人が載っても余裕があるように作っておくように。上でナニかするのにも間取りが必要だし、そうでなくても寝返りで落っこちる奴がよく居るからな。

 

 

 

魔禍月 弐拾日目

 

 

 明日奈の説得は無事完了した。代わりに夕方くらいまで起きてこれなかったけど、それはまぁいい。

 本人も若干スネながらも、看病されるのを嬉しく思っていたようだし。…気だるげな雰囲気で動けない明日奈に、ついついセクハラしそうになったけども、それは置いといて。

 

 明日奈は動けない、神夜はベッドの作成で手が離せない。白浜君は今日は何もせずにお休み…と言うか燃え尽きてるから鍛錬させずにただ只管眠らせる。

 泥高丸は何やら家族サービス中。寒雷の旦那は何やら仕事が忙しいようだ。

 

 本格的にやる事・できる事が無い。どうやって暇をつぶそうかと思っていたら、雪華に捕まった。

 何かと思えば、墓地に行きたいとか。

 

 …墓地って、アレか、泥高丸の家族の墓がある、あの墓地か?

 

 

「ええ、そこです。最初は泥高丸さんに護衛を頼もうかと思ったのですが、今日はお墓参りには行かないそうで」

 

 

 ああ、嫁さんと何かするって言ってたな。行くのはいいけど、何か用事かね?

 

 

「…氷華姉さまのお墓参りです。何処かで生きてるんじゃないかと、思ってはいるんですけどね」

 

 

 ああ…。前お頭は、生きてるっぽい形跡があったもんな。ひょっとしたらと思っても無理はないか。

 と言うか、前お頭の墓は?

 

 

「里の皆が全員一致で死ぬはずがないと断言したので、まだ作られてないんですよねぇ…。それもどうかと思っていましたが、実際に生きてそうですし…」

 

 

 ある意味酷い話である。

 ……仮に…本当に仮にだが、前お頭が戻ってこないのは、先日仮説を立てたように、謎の塔の中で過ごし、消えている時間帯を認識できていなかったから…だとして……その塔の中に氷華が居る可能性は?

 …ゼロではないが、考え辛い。少なくとも、前お頭の痕跡近辺には、もう一人誰か居たような痕跡は無かった。

 或いは……塔の最上階に、お宝扱いで監禁されているとか? 考えるだけならいくらでも出来るか。

 

 

 

 護衛として墓に向かう途中、氷華姉さまとやらの思い出話を色々聞かされた。

 思い出話と言っても、あまり多い物ではない。本当に幼い頃は一緒に過ごしていたが、神垣の巫女として二人が見出され、氷華は修行の為に霊山に行き、雪華が霊山に行くのと擦れ違いで里に戻り、そしてそのままオオマガトキの戦いで行方知れずになった。

 慕っていたのは確かだが、文による遣り取りなどもなかった。

 

 

「ええ…ですので、里に戻れると聞いた時は、また氷華姉さまに会えると喜んだものです。…その直後に、行方知れずの報せが届きましたが」

 

 

 そりゃ辛かったろうに…。生き別れの姉の事もそうだが、そんな激戦区に行かなきゃいけないって事も。

 

 

「………ふふ、そう言えば以前にも、自分の役割を嘆いていたと零してしまいましたね。そうです。姉さまに会えると思い、嬉しかったのは事実です。ですが、それ以上に私は怖かった。恐ろしかった。鬼達との闘いの場に赴かねばならない事に、心底嘆きました。…神垣の巫女としての立場を捨て去り、逃げ出せないかと思った事も、一度や二度ではありません。里が異界に囲まれて逃げる事も出来なくなったと知って、ようやく覚悟が決まった程です。…散々泣きましたが」

 

 

 泣いて弱音を零せるのは、神垣の巫女としちゃいい素質だと思うよ。揃いも揃って、恨み辛みを飲み込んでいく奴ばっかりだからな。

 特に、ここの神垣の巫女は早逝が多かったらしいし…。

 仕方ないとは言え、使い潰していると言われても反論はできない。…そういう感情、鬼に利用されやすいんだがな…。

 

 

 

「…利用された事は、何度かあります。神垣の巫女に限りませんが」

 

 

 …やっぱり?

 

 

「私が里に来てからも、一度だけありました。…酷い事になりましたよ。危く里が崩壊するところでした…。今思うと、あれも話に聞く指揮官級の鬼の仕業だったのかもしれません」

 

 

 同じ事をされる可能性は、あると思うか?

 指揮官級がやったのだとしたら、その効果の程は悟られている筈だ。人間に対して、これ程有効な戦術は無い。

 それを仕掛けてこない理由は…。

 

 

「分かりません。結界を貫いて術をかけるのは難しい筈ですが、前例は幾つもあります。…先日の明日奈さんも、術で誘い出されたと聞いています」

 

 

 ふむ…。人間を全滅させないように手加減している…と言うのが分かりやすい結論か。人間は奴らにとっては餌に近いだろう。

 尤も、俺が鬼なら自分を狩りかねないようなエサはさっさと全滅させるけども。

 

 …お、到着。

 墓石はどれだ? 俺もついでに祈っておくか。

 

 

「ありがとうございます。真ん中にある、大きなお墓です。…氷華姉さまだけでなく、歴代の神垣の巫女や、行方知れずとなった里人の共同墓地なんです」

 

 

 ふーん。ナンマンダブナンマンダブアーメン迷わず成仏…成仏しないならしないで、できればミタマとして力を貸してほしいです。

 かなり適当に念仏を唱えるだけの俺を放置して、雪華は持ってきた布巾で墓石を磨き始めた。共同墓地だけでなく、他の墓石もだ。

 と言っても、数年間異界の中に沈んでいた石だけあって、そう簡単には綺麗にできない。アッと今に布巾も汚れだらけになる。

 

 

「…姉さまは…」

 

 

 うん?

 

 

「いえ、過去の神垣の巫女の皆さまは、恐ろしくなかったのでしょうか…。里に迫る鬼達、結界の負担によって徐々に壊れていく体、圧し掛かる重圧と責任…。今でも、私は逃げ出したくて堪らないのです。もしも周囲が異界に閉ざされていなかったら、きっとこの数年の間で、私は何もかも捨てて逃げ出していました」

 

 

 …死ぬのが怖くない奴は狂人か、生きる事に疲れ切って今の自分を終わらせたいと思ってる奴だけだ。

 責任が怖くないのは、それが大したことじゃないと思ってる奴だ。

 逃げられるものなら逃げたかったのが殆どだろうな。それでも留まっていたのは、今と同じように逃げ場が無かっただけか、逃げた後が恐ろしかったからか。…本気で命を磨り潰してでも里に尽くそうと思える奴はそう居ないよ。

 

 

「逃げ場が無かった…今のように、里が異界に囲まれていなくても?」

 

 

 逃げてどうする。何処に行く? 里を捨てて落ち延びる事が出来たとして、その後の生活は? 庇ってくれる伝手でもあるか?

 まず無いな。神垣の巫女を過保護なまでに隔離するのは、そういう逃げ場を作らせない為の意図もある。

 それでも逃げたいと思う巫女は沢山いただろうけど…幼い頃から刷り込まれれば、逃げたり反抗したりする発想すら無くなるからな。

 

 こんな事言われても気が滅入るだけだろうが……ま、それだけではなかったのも確かだろうな。

 泥高丸も言ってたが、恨み辛みだけしか残ってなかったのなら、こんなお人好しだらけの里は出来上がらないよ。抱えきれなくなっての暴発、恨み辛みを残した遺言や傷跡…もっと里に陰を残す。

 

 案外、皆も雪華と同じような事を考えてたのかもしれないぞ。

 雪華だって、何だかんだ言って結界を張る事に疑問や嫌悪は持ってないだろう。多少なりとも体に負担がかかるのに。

 

 

「それは……そうですが。だって、里が壊滅したら私も死ぬしかありませんし、里の皆さんが…死んだりするなんて、考えたくもありませんし。でもそれは当然の事で、なのに私はそれよりも自分を優先しようと」

 

 

 皆そんなもんだよ、本当にさ。痛いのや損をするの、怖い思いをしたい奴なんて殆ど居ない。でももっと嫌な事があるから、それをさせないように必死こいて瀬戸際で、やせ我慢しながら放り出したいのを踏ん張ってるだけなんだ。

 ま、だからって何が救いになる訳でもないけどな。死ぬのが嫌なのも寿命が縮むのも変わらないし、むしろ自分が特に辛いんじゃないから環境のせいにする理由も消える。

 

 何だ、余計な事しか言ってないが…雪華の悩みは皆通って来た道で、雪華一人が卑しい考えを持ってる訳じゃないと思うぞ。そういう考えを嫌悪するのは勝手だが、劣等感を感じる事はない。

 もしも歴代の巫女…或いは他の里の巫女に会えたら、愚痴でも零してみればいいじゃないかな。意気投合できるかもしれないぞ。

 

 

「………劣等感、ですか…。…そうかもしれませんね。突拍子もない発想ですが、先代の方々と語り合うのは楽しそうです。いいお話を聞かせてくれそうですね。ふふっ、考え方に幅ができたと思っておきます。さ、今日は帰りましょう。吹雪きも近そうなのですから、色々と準備しないと」

 

 

 軽やかに笑う雪華。根本的に救いになった訳ではないが、多少の気休めにはなったらしい。

 

 

 

 

 

 さて、それはそれとして、重要な事があったのを書き忘れてはいけない。また謎が増えたのだが…うん、これは割とどうでもいい謎のような気がしなくもないな。

 

 雪華と一緒に、超界石の近くを通りかかった時の事だ。ちょくちょく目にはしていた石で超界石。里人にとっては、何やら里の象徴のような物らしいので、ちょくちょく参拝に来る人や、汚れを磨いている人等が見かけられていた。

 俺はと言うと、下手に近付くとなんかヤバそうな底なし沼に引きずりこまれそーな気がしたんで、なるべく近付かないようにしていたのだが…雪華がついでにお参りをしていくと言うので、渋々ながら近付いた。

 

 雪華のお参りも、特に何事も無かったんだが……終わって立ち上がろうとした時、足元を天狐が横切った。…あれは風華のところの華天じゃないな、野良天狐か。

 石にじゃれついていた天狐。雪華の足を避けた天狐は、石のコントロールを誤ったのか、大きく石を…宝玉をすっ飛ばした。

 

 その宝玉が超界石に向かって。

 

 

 

 

 なんか光を発しながら吸い込まれて。

 

 

 

 

 超界石の下に、何かがあった。

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 思わず沈黙する俺と雪華。

 

 

 

「……あの、今…」

 

 

 言うな。なんか深入りしたら逃げられない気がする。

 

 

「いやでもしかし、超界石にこのような現象が起きるなど…いえ、確かに世界を超える力を持っていると言われていましたが」

 

 

 だから言うなって。よく分からんけど、とんでもない事になりそうな気がしてならん。

 

 

「でしたら猶更確認せねばなりません。超界石は、里にとって心のよりどころです。異常が起きているのであれば調べる必要がありますし、そうでなくても宝玉を近付けただけでこのような事が起きるのであれば、いつ誰が気付いてもおかしくありません。むしろ今まで起こらなかった事が不思議なくらいです。最低限、今出てきた物が何なのか、確認しないと」

 

 

 うぐぅ…ここぞとばかりに勢いよく正論を吐きやがる。いや言ってる事は間違いではないし、そこに出てきたのが何なのかは俺も気になる。

 気になるんだが、こいつは俺を果てしなくヤバい道へ引き摺り込もうとする罠だと、俺のカンが叫んでいるんだ。

 いいとか悪いとか以前に、俺はコレから絶対に逃げられないと。むしろ自分から進んで入り込んでいくと。

 

 

 俺の葛藤・戦々恐々とした内心を他所に、雪華はその辺で拾った木の枝を使い、出てきたモノをツンツンと突いている。そんな、ア〇レちゃんがピンクの渦巻きをつっつくような事せんでも…。

 

 

「…動きません。生き物ではないようですね…。これは……何やら透明な包みに入っているようです。…繋ぎ目がありませんね。どうやって入れたんでしょう? 中に入っているのは……………これは……衣服…でしょうか?」

 

 

 何ですと? 関わってはいけないと本能が叫ぶのに、ついつい耳がピクピク動く。

 透明で繋目の無い包み…多分ビニールだよな。つまり、そういう時代の…或いはGE世界の服?

 ど、どんな服ですか?

 

 

「見た目は…とりあえず黒と白ですね。構造からして、日ノ本の物ではなく、恐らく伴天連の物だと思いますが…畳まれているので、これ以上の事はちょっと…」

 

 

 

 開けてみたい開けてみたい開けてみたいいや開けなくても一目見れば多分分かるけど関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ関わっちゃダメだ。

 

 

 

 

 

 

 ミニスカメイド服でした。しかもサイズからして明日奈にピッタリだと思われます。

 

 

 

 ああ……あぁ、これはアカン。逃げられん。

 ついつい、手元にあった宝玉の半分くらいを突っ込んでしまった。

 出てきた物は、ガラクタ多数にチャイナ服、ボンテージ、学生服、ブルマ、スク水、チアコス、各種洋風ランジェリー、その他諸々…明かに本職用の衣装もあれば、明かにプレイ用なド〇キ辺りで売ってそうなテッカテカな衣装もある。

 どう考えても狙って出してるラインナップ。或いは俺が引き寄せたのか。

 

 

「あの…出てきた物の意味はともかくとして、大丈夫なのですか? 明らかに、今使った宝玉の量は配給される物の殆どだと思うのですけど…」

 

 

 宝玉は里の暮らしに欠かせない、各種エネルギー源だからな…。吹雪で寒くなるであろうこれからは特に、暖を取る為の道具として超重要だ。

 無ければ、冗談抜きで凍死する可能性が高くなる。

 

 …最悪、明日奈の家に転がり込めば…。

 

 

「それは世に言う、集りというものでは?」

 

 

 ヒモとも言う。特に俺、モノノフ専業で仕事らしい仕事してないから、特に。

 うん、明日奈の家に入り込むかはともかくとして…多分熱烈歓迎してくれると思うが…流石にこれ以上宝玉を突っ込むのは辞めておこう。これ、冗談抜きで底なし沼だ。

 里の人達にも、黙っておいた方がよさそうだな。

 

 

「うーん…宝玉を幾つかと引き換えに、よく分からない服やら何かの欠片やら…。まぁ、知ったとしても使う人は居ないと思いますが。こう言ってはなんですが、出てきた物よりも宝玉の方が価値は高いですよ」

 

 

 まぁ…知らない人にとっては、本当に訳の分からない品でしかないか。

 あ、でもこれは多分女性モノノフには喜ばれると思うぞ。神夜みたいなのには特に。

 

 

「? 出てきたものの一つですよね。それは?」

 

 

 ブラジャー。女性用のサラシや胸当てみたいな物って言ったら分かるかな。

 あんまり派手に動かない雪華には分かりにくいかもしれないけど、まーなんだ、神夜みたいな豊満なのを持ったまま暴れるって、結構きついんだぞ。神経が集まってる急所が二つ、余分についてるようなものだから。

 それをしっかり抑え込んで、運動性と見た目とエロさとモノによっては防御力と見た目とエロさを上げてくれる優れものだ。

 

 

「はぁ…」

 

 

 む、分かってないな。見た目とエロさは重要だから2回言ったぞ。

 ただ、しっかり合った物を使わないと逆に痛くなるから、そこは悩みどころだな。大きい物を特注しようとすると金がかかるし、うっかりそんな悩みを漏らしても72の人から「イヤミか貴様ッ!」て鬼より鬼らしいオーガのように怒鳴られるだけだ。

 

 ともあれ、これ以上は使ってみないと分かるまい。

 えーと、雪華のサイズは目算で………これくらいかな。うん、丁度良くサイズがあって助かった。

 これをつけて生活してみろ。少なくとも肩こりは大分違ってくるぞ。

 

 

「使えと言われても、使い方も付け方も見当もつかないのですが」

 

 

 む、そりゃそうか。俺…が教えると流石にちとまずいか。そーだな、明日奈を通じて雪華に…神夜にも教えよう。

 そこから上手い事、女性モノノフに広まってくれるといいんだが。ああでもまずは物の作り方が大事か。宝玉使って呼び出してたんじゃ、本気で幾ら必要になるか分からない。

 下着作るのって、誰が担当してたっけなぁ…。

 

 熱く語る俺に雪華が戸惑ってるうちに、各種コスチュームはこっそり回収して私物化しました。

 



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411話

連続投稿は4日までの予定でしたが、思ったより筆が進んだので。
次の投稿は9日の予定です。


 

魔禍月 弐拾壱日目

 

 

 神夜からベッドが出来たと、こっそり伝えられた。ちなみに明日奈の目の前だが、特に問題はない。

 二股を了承する話は既に通っているからな。「競争相手はたっっっっくさんいるみたいだから、今更神夜一人増えても変わりありません」ってイヤミも言われたけどね。

 説得は簡単だったよ。むしろ、やりすぎないようにするのが大変だった。

 

 

 だって明日奈にミニスカメイド+アダルト下着だぜ? そりゃ大張り切りするよ。

 メイド服に戸惑っていた明日奈だったが、珍しい服で着飾って悪い気はしないようだった。服のバリエーションも少ないからね、この里。

 ご主人様なんて呼び方は流石に躊躇ったけど、一度初めてしまえばノリノリで、いつも以上に嬉々として命令に従ってくれた。

 

 尚、ブラジャー・パンティも含め、俺が直々に着けさせました。だって付け方を知らないんだもの、仕方ないじゃない。目の前でストリップどころか生着替えに理性が吹っ飛びそうになったのは確かだが、後の睦言をより良い物にする為なら我慢もできます。

 うん、やっぱり女の肌を彩る下着は、洋風に限るなぁ。襦袢とかのエロさも捨てがたいが、こう肌と下着とのコントラストに、綺麗な模様の組み合わせがね。

 明日奈も基本的にサラシを使っていたので、こういう彩は非常に嬉しい。

 こう、他人に見せない所にエロい下着をつけてて、それを自分だけが拝めるんだって思うとグッとくる。ミニスカメイドなので、チラチラ見えるフトモモとパンティに目が引き寄せられる感覚、男だったら分かってくれると思う。

 

 ちなみに、実用品的な意味でも非常に喜ばれました。やっぱり胸を保護する、動きを阻害しないのは非常に有難いそうだ。もうコレ無しではいられなくなりそう、とは明日奈の談。…俺のナニ以外にそんな事言われるのはなんだかイヤだったので、別の意味でも同じ事を言わせてみました。着飾ると俺がハッスルするので、夜の営みに欠かせないという意味でもヤミツキです。

 これは是非とも里に広めるべき、と息巻いています。

 まぁ、手軽な戦力アップにはなるだろうから、広めるに越した事はないよな。問題は需要に対して供給が追い付くかと、特注が必要な人と逆にブラが不要な人の間で軋轢が起きないかだ。

 下着類の作成担当である日枝さんは、割と慎ましやかな方らしいので、あまりデカイ物を作らせると衝撃を受けてしまうかもしれんな…。

 

 

 

 

 さて、昨晩の明日奈とのコスプレックスの事はともかくとして。

 

 異界探索任務は、今日で一旦区切りとなる予定だ。本格的に吹雪が観測されたので、それに備えなければならない。

 幸い、備蓄や積雪に対する備えはこれまでの動きで大体準備できているので、後は里周辺の鬼を徹底して掃討しておくのと、結界石に宿っているミタマ…本願寺顕如=サンと木綿季の避難だ。避難先の祭祀堂も既に完成しており、後は迎えに行くだけ。…その前に、雪華が結界を引き継ぐ必要があるけどね。多分、明日移る事になるだろう。

 ちなみに、木綿季は明日奈が迎えに行く予定である。

 

 …この、寒さや積雪に備えて家の中に籠りきりになる冬籠り。明日奈が俺を誘う口実…と言うか好機として使ったイベントな訳だが………はっきり言えば、非常に不安である。

 それも当然だろう。冬籠り中は、この里は強制的に動きを完全に止められてしまうのだ。

 幾ら周辺を念入りに『消毒』するのだとしても、その更に周辺は鬼達の住処の異界。モノノフが動けない間に、吹雪を掻い潜って鬼が接近してきたら…。万一、雪華の結界が破られてしまったら。

 

 有り得ないとは言い切れない。事実、結界を貫いて鬼は明日奈に術をかけて誘き出した。術をかけられたのが異界の中で、発動したのが結界の中であったとしても同じ事。いつどこで、誰が鬼に目をつけられているか分からない。

 …それに…なーんか嫌な感じするんだよな。こんな時に限って何かが起こるという定番。こんな時だからこそ、鬼達は責め時だと心得ているという考え。

 

 何より…あの吹雪。違和感がある。気候的に考えれば発生してもおかしくない吹雪ではあるんだけど、なんかこう…人為的な感じがすると言うか…いや人じゃないけど、アレだ、クシャルダオラとかが起こす吹雪と同じ匂いがする。具体的にどこがどうとは言えないが、それよりももっと粘着質な印象を受ける。

 とは言え、根拠らしい根拠はないんだよなぁ…。天候を操る鬼…例が無い訳じゃないが、そこまで強力な鬼が居るなら、里はもっと追い詰められてると思うのだが。

 

 暫し悩んだものの、寒雷の旦那や牡丹に相談。一応、泥高丸にも。

 

 

「…懸念は分かるが…しかし何が出来る? 今からその元凶となる鬼を探し出すか?」

 

「仮に見つけて倒せたとしても、恐らく吹雪自体は消えんだろうな。鬼の術で、吹雪が長引く可能性があるから、是が非でも倒しておきたいところではあるが…」

 

「………ふむ。牡丹曰く、鬼でもそこまで強い術を使えば、ひどく消耗する。里の結界を破られさえしなければ鬼に襲われる心配はないから、ここは守りの一手を固めて、敵の消耗を狙いたい…だそうだ」

 

 

 …里の結界を破られさえしなければ…か。やっぱそこだな…。

 雪華が結界を引き継ぐ時、里は一瞬無防備になるよな? その瞬間を狙って術をかけられる、と言う事は?

 

 

「雪華が結界を張って、その後に結界石に宿る二人を非難させるから、無防備になる瞬間は無いな。雪華にも、鬼の標的にされるから、暫く前から里の外に出歩かないようにとは言ってあるし、万一おかしな事があったら、すぐに知らせるように言ってある」

 

 

 吹雪の間は?

 

 

「結界を張る為の社で、祈祷を続ける事になっている。勿論、護衛も付くぞ。…同性だけだが」

 

 

 おいおい、そこで何で女だけにするんだよ。充分な実力があるなら構わないけど、性別を基準にして選ぶ理由は無いだろう。それこそ、何なら俺でも泥高丸でも…。

 

 

「いや、ある」

 

 

 …泥高丸?

 

 

「あるんだよ…。……言いたかないが、この里にはな。……恥…の話ではある。誰が悪いって言えば、そりゃ鬼だろうよ。…それでも負い目があるんだ。…悪い、これについてはあまり突っ込まないでくれ。とにかく、こういう状況で、男を護衛として入れる事に、この里の女性は大きな抵抗があると言う事だ」

 

 

 …? なんか知らんが、面倒くさくて暗そうな話だな。

 ついでに言えば、軽く話をする程度で、それの関係者も大体特定できてしまうっぽい。とりあえず、今突っ込む話ではないか…。

 

 よく分からんが、雪華の護衛に男を入れると里の人間関係に深刻な影響が考えられるって事は理解した。そういう事なら納得しよう。充分な技量があると言うなら、何も問題はない。

 

 

 

 

 フラグってゆーな。言われなくても俺も思ってるから…。

 

 

 

 

 

 

 

 話し合いは発展らしい発展も見せずに終わった。まぁ、議題と言うか問題が曖昧過ぎたからな。もうちょっと状況を特定してから来い、と言われても仕方ない。

 素人目にも分かるくらいに吹雪き始めた空を見上げて、内心で愚痴を零す。やっぱりこの吹雪は気に入らない。

 

 神夜の家に向かいながら、こんな夜でなければもっとハッピーな気分になれるのに、と吐き捨てる。里の外れにさしかかったので目を凝らすと、数人のモノノフが平原を駆けている。…その中に明日奈が居るのが見えた。そうか、木綿季を迎えに行くのか。

 恋人(の一人)が重要任務に向かうのに、俺は新しい女と関係を持とうとしているのに、ちょっとばかり後ろめたさが無いではない。まぁ、その本人が了承してるんだけども。

 

 一応言い訳しておくと、無理矢理説得した訳じゃない。いや本当に。

 そりゃ二股三股かけられるのにいい顔する筈もないが、自分だけオトコ作って幸せになる事に抵抗もあったようなのだ。元々、里でも持て余されていた二人組だったからなぁ…。

 

 

 気を取り直して道を歩く。既に結界は張り直されて、里の人達の雪対策も終わり、それぞれの家からは小さな灯りが漏れている。暖を取る為に、灯を絶やさずにいるのだろう。うーん、ノスタルジック。

 そんな事言ってる暇もないくらいに、物凄い吹雪がくるんだけども。

 

 神夜の家が見えてくると、その手前に人影が見える。他ならぬ神夜だ。相変わらず寒そうな恰好で、扉の前でソワソワと落ち着かない様子で行ったり来たりしている。

 何をしているのか、なんて言うまでもない。俺を待っているのだ。

 三つ指ついて迎えるのではないが、家の外まで迎えに来る。…と言うよりは、吹雪で来るのを辞めるんじゃないかと思って不安で仕方なかったのかな?

 

 とりあえず、最初にやることは決まった。風呂入れ、風呂。湯ほぼ酒マラっつーくらいだし、温まった体の方が具合がいいし、神夜だって心地よいだろ。

 神夜、お待たせ。遅くなって悪かった。

 

 

「い、いえいえ、私が勝手に家の外で待っていただけですので! それよりもその、本日はよろしくお願いする事極まりないです!」

 

 

 はいはい、あんまり大きな声出さないの。屋根から雪が落ちてくるから。

 とりあえず家に入ろうよ。ベッドの出来栄えも確認したいし、そのままじゃ風邪を引いちまう。

 そしてお風呂入って温まりなさい。…俺も、後で使わせてもらいたい。

 

 

「は、はい…」

 

 

 ベッド…これからイタす所と聞いて、顔が赤くなる。その為の場所をわざわざ作って、男を誘い込むって、よくよく考えると凄いよな。

 神夜の家に入ると、部屋の奥にベッドが置いてある。結構な大きさで、間取り的に生活の邪魔になるんじゃないかと不安になる程だ。うーむ、想定より3割くらいデカい。

 

 木製の台の上に畳が敷かれており、その上に敷布団が何重にも積み上げられている。

 寝台の周りには黒く塗られた柱が立ち、上部には棒が取り付けられている。その上に、透けて見えるくらいの薄布がかけられ、ベッド全体を覆っていた。

 柱や土台は上品な黒で染め上げられており、白い薄布や布団とのコントラストが非常に印象的。

 

 

「如何でしょうか? 職人として、忌憚のない意見をいただきたいのですけど…」

 

 

 まず職人としてか…。一通り見せてもらうから、その間に温まってきてちょーだい。

 さてさて、神夜の渾身の作品、見せてもらうとしましょうか。

 

 

 

 

 うん、改良が必要な点はあるけど、よくできてると思う。

 造形にも拘ってるのがよく分かるし、一見しただけでも柔らかくて暖かい寝床だと言うのが直感できる。

 内側からは、布に遮られて外の光景がほぼ見えない…余計な情報や冷たい風を遮る、本当に眠る為専門の場所になってるね。

 

 雅で実用的。何というか、かぐや姫が使ってそうなベッドだな。いや神夜じゃなくて、なよ竹のかぐや姫って事ね。

 

 

「そんな風に評価してくれるなんて、喜ばしい事極まりないです。ですが、改良が必要な点とは?」

 

 お、お風呂上り神夜。ホカホカして暖かそうだなぁ…。と言うか襦袢が肌に張り付いてエロい。

 

 これは言ってなかった俺の失敗だけど……家の中で、ベッドが浮いてる。いきなり作ったんだから当たり前だけど、調和がとれてない。

 形や置き場を家の方に合わせないと、むしろ生活の邪魔になってしまう。これは、間取りと言うか部屋の中の物を動かせばいいとして…。

 

 次に、これ絶対に洗濯とか掃除が大変だろ…。これは本来のベッドでも同じだけど。

 

 

「ああ…それは自覚していました。天蓋の布を取るのもかけるのも大変です。それ以上に、何枚もお布団を重ねて使っていますので、取り出すのも設置するのにも手間がかかり過ぎます。天蓋の布に関しては、巻取り用の細工をつける事を考えています。滑車を上手く使えば、そう難しくはない筈です。お布団の数は……新しい、もっと柔らかいお布団を開発するしかないですねぇ」

 

 

 スプリングが無いからなぁ…。タタラさんとかなら、作ってくれそうではあるんだが。

 バネが無いなら、エアクッションか、いっそウォータークッション…いや流石に冷たすぎる。

 単純に、羽毛を詰め込みまくった大きな布団が一番かもなぁ。

 

 うん、その辺については、また頭を絞るとして。

 とりあえず、一風呂浴びさせてもらっていい? 俺もちょっと冷えてきた。

 

 

「はい、どうぞどうぞ。ご飯も食べられますか?」

 

 

 有難い。その後は………実際に使って、試してみようか。

 

 

「…………はぅ」

 

 

 真っ赤になってしまった。料理中に、間違えて指を切らないようにな~。

 

 

 

 

 



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412話

GE3は一通りクリア。
最後の灰域種連続はキツかった…捕食の追尾性能が狂っとる…。
アヌビスだけは大人しめだったのね。気づかなかったわ…。

さて、ここからどうしようか。
トロコン目指すのはいいとして、追加アップデートはまだ遠いっぽい。
と言うか、ストーリーミッションも追加されるって、それ単に発売に間に合わ(ry

アサシンクリードオデッセイの追加要素やエピソードもまだ先っぽい。
ワンピースワールドシーカーの体験版でもでないかな。
見た感じ、スパイダーマンとアサシンクリードを合わせたような操作っぽいけど…割と期待。
ジャンプフォースは戦うだけのキャラゲーの匂いがするので様子見。
この機会に、エースコンバットにでも手を出してみるか…。


 

 

 

 

 

 

 飯も終わって、夜も更けて。

 蚊帳に区切られたスペースの中、埋まりそうな柔らかさの布団の上で、『天蓋付きベッドなんて久しぶりだなぁ』なんて思いつつ。

 正面で顔を赤らめる神夜を眺めていた。

 

 ベッドと積まれた敷布団の角度のおかげで、横たわっていると言うよりは、斜め45度くらいの角度で背中を預けている感じだ。

 ちなみに既に裸なので、ベッドの傍に立つ神夜には色々と直視されてしまっている。

 

 男の情欲を含んだ視線に晒されて赤くなる神夜。露出という意味では普段の方がずっと多いのに、妙に艶やかに感じるものだ。

 ほら、神夜。客人の側がこんな事言うのもおかしなものだが、そんな所で立ってると風邪ひくぞ。こっちにおいで。

 

 

「は、はい…。初めての事で上手くできる自信はありませんが、精一杯おもてなしさせていただきます…。我が家に伝わる床の業、ご堪能くださいませ」

 

 

 その言葉も床の業、作法として伝わっているんだろうか。

 身を捩らせながら襦袢を肌蹴て、裸体を晒す神夜。両腕で肝心の部分を隠すポーズをとりながら、ゆっくりと…震える手で…ベッドに上って来た。

 

 こうして見ると、つくづく男好きのする体だ。一見しただけでスベスベな感触が想像できる、ハリのある肌、太腿、薄っすらと割れた腹。見るべき所は沢山ある…と言うよりは全てが見どころだが、やはり圧巻なのは、人によっては奇乳とすら感じるかもしれないおっぱいだろう。

 そこに視線が吸い寄せられているのに、気付いているのかいないのか。普段はギリギリまで露出しているのに、肝心な部分が見えない部位。

 

 俺の上に覆いかぶさるように昇って来た神夜は、布団に手をかけて少し俺の上まで登った。丁度、神夜の巨乳が目の前に突き付けられ、視界が白い肌と、可愛いピンクのポッチだけに占領された。

 

 

「まずは接吻からが作法とは存じますが、何分この寒さですので…まずは体で温めさせていただきます。息が詰まってしまわないよう、お気をつけくださいませ」

 

 

 目の前の肌が迫ってくる。視界が白く覆われる。そして顔中が、なんとも柔らかく暖かい母性に包まれる。

 おお…初手、パフパフとは…。

 しかしこれ、神夜の言う通り、下手すると本当に息が出来なくなるぞ。普通の乳ならともかく、神夜レベルの超巨乳だもの。軽く顔を動かしてみても、ふにょんふにょんと素晴らしい感触が返ってくるばかり。後は精々、俺の鼻息が胸の谷間に当たって跳ね返る熱さくらい。尤も、その熱さの中には神夜の体臭が混じっていたり、両耳まで包む乳房から心臓の鼓動や血が流れる感覚が伝わったり、モゾモゾするだけで敏感に「ぁん」なんて聞こえてくる訳ですが。

 

 まぁ、俺は女体の乳から酸素を摂取するとゆー、謎スキルを持っているので全く問題はありませんが。と言うか、最近じゃ乳に限らず、女体の何処からでも酸素栄養その他諸々を摂取できているような気がする。

 

 

「と、殿方とはそのような事ができるのですか!? 驚嘆極まりないで、ぁっ、ぁっ」

 

 

 呼吸をするだけで喘ぐ神夜、可愛い。だがこれは普通の男じゃできないから、基準にしないように。

 

 

「つまり、殿方として一際高みにいらっしゃるのですね…」

 

 

 そう…なるのかな? まぁそれでいいや。普通じゃできない事が出来てしまっているのは事実だし。

 

 神夜はそんな事を言いつつも、俺の顔を挟んだ乳房をグニグニと動かしている。マッサージをされているような、或いは乳で顔を洗われているようなそんな気分だ。なんか赤ちゃんになった気分。

 顔を覆われていて見えないが、足に何かが擦りつけられる感触もある。ぶっちゃけ秘部だ。俺の顔をパフパフしつつ、自分の準備も進めているのだろうか。

 

 一頻りパフパフを終え、体を下げる神夜。顔が間近、真正面で向き合う。

 そっと目を閉じ、顔を近付けてくるので、こちらからも応えてやる。最初は軽くキス…のつもりだったけど、唇をペロリと舐められる感触。

 まさか、最初(多分ファーストキスでもある)からディープなのをお望みか? と思うと、一度離れる。薄目を開けて俺の反応を伺って、もう一度目を閉じた。

 キスの催促に応え、今度はこちらから。片腕を神夜の後頭部に回し、頭を撫でながら逃げられないようにすると、既に強い粘性を帯びた舌が絡みついてきた。

 

 積極的だし技法も色々知っているようだが、流石に練度が低い。それでも、練習してきたのはよく分かる。

 …いつからこういう事の練習してたんだ?

 

 

「…ずっと前からです。我が家に残った、数少ない技法でもありますので…。ですけど、ここ最近は非常に身が入っていました。……初めてあなたが戦うのを見た日から…試合で完膚なきまでに負けてから…練武戦で誰よりも強いお姿を見せていただいてから…体が熱くて、仕方ないんです。知らない誰かにこういう事をするのではなく、あなたとの行為を想像して練習して…。……明日奈さんに、先を越されちゃいましたけど」

 

 

 ま、そこは自分の想いに賭けて突っ走った明日奈の特権だったな…。正直、免疫のない相手にアレやってたら、怯えられるだけだろうけど…。

 

 俺が戦うのを見た日から体が熱い、か。神夜の家の本能みたいなもんだろうな。一番槍、同じ戦場で一番の戦果を挙げた者に、褒章として一夜の権利を提供する。

 本人は知らないようだったが、自然と、強い相手に反応しやすくなっていったんだろう。勿論、強ければそれだけでいいって話じゃないだろうけども。

 

 

「あ、あはは…まぁ、明日奈さんはともかくとして。折角色々練習してきたんです。じっくり堪能してくださいね。…明日奈さんの時みたいに、途中で横槍入れたりせずに」

 

 

 …知ってんの?

 

 

「惚気られました…。私の気持ちも知ってる筈なのに、ちょっと恨めしかったです。ですから…明日奈さんではまだ考えもしてないような事、してさしあげますね」

 

 

 もう一度深く舌を捻じ込まれ、口の中で拙い愛撫が披露される。互いの舌を絡めるよりも、分泌された唾液を少しでも多く絡めとろうとするような動き。事実、俺の口の中に溜まった唾液を自ら啜るなんて高等技術まで使ってきた。…流石に上手くできずに零れたけど。それが何の為だったのかは、すぐに理解できた。

 神夜は俺の頭に両腕を回して抱き着き、全身で俺に絡みついてきた。正面からではなく、体の左側にずれる。たわわな胸の合間に腕を挟み込み、ムチムチとした感触の足を絡み付かせる。

 

 

「失礼します……ちゅっ」

 

 

 ピクンと思わず体が揺れる。耳に当たる柔らかい感触。

 続いて、ねっとりとした軟体が卑猥な音と共に這い回る。

 

 

「んっ…あむ……ぇろぉ……」

 

 

 まさか初心者がミミナメとは。

 いきなり舌を捻じ込むような事はせず、耳たぶ、耳の後ろ(ちゃんと洗ってるよ!)を咥えたりキスしたり。さっきのキスは、この為に唾液を増やして、粘っこくしていたんだろう。

 チュッチュッと可愛らしい音がしたかと思えば、ジュルリと卑猥な舌が這う音。耳の上半分を唇で咥え込まれた時は、暖かさと卑猥な音が口の中で反響する。

 

 それだけ頭を動かせば、当然体だって動く。腕を包む乳房が焦らすようにゆっくりと擦り上げ、足で絡みついた下半身は、陰毛特有のゾリゾリした感触を伝えてくる。

 何ともまぁ、神夜の家には随分マニアックな行為が伝わっていたようだ。だからこそ、モノノフの命懸けの戦いへの褒章になったのか。

 

 …それを、今からじっくり堪能し、その全てを俺のモノにしてしまうのだと思うと、途方もない独占欲と優越感が湧き上がってくる。

 

 

 暫く耳に唾液を刷り込んでいた神夜は、やがて俺の頭に巻きつけていた腕を放して下半身へ向ける。そこには、いきりたった俺の肉棒が自己主張していた。

 僅かに怯えるように手を止めた後、ゆっくりと触れる。

 耳舐めを続けながら、神夜が横目で肉棒に釘付けになっているのが強く感じられた。

 

 全体の形を確かめようとするように、指先で亀頭に触れ、竿を掌で撫で、玉袋を指で揉みこむ。

 決して充分な刺激とは言えず、撫でるようなその行為は、快楽を引き出す為ではなく獰猛な獣を宥めようとするようでもあり、逆に焦らして欲望を煽ろうとしているようでもある。

 何にしても言える事は、俺はその両方の効果に捕らわれてしまっている事だ。この先の神夜の行為を見てみたいが為に、今すぐ神夜を押し倒して貫いてしまえと叫ぶ欲望が抑えつけられる。…仮にそうしたとしても神夜は受け入れるだろうし、俺の欲望も果たされる。だけど大人しくされるがままになっている。

 

 多分、そうやって男を飼い慣らす技術も、或いは気に入らない男に当たった時、軽い行為で済ませられるような技術も伝えられてきたんだろう。当の本人は、全く区別がつかずに使っているようだが。

 

 

 

 上から下まで掌で弄繰り回し、我慢汁を拭い取ってしげしげと眺め、それをローションとして塗り付けてまた弄る。

 何度か繰り返した後、充分に俺が昂ったと感じたのか、或いは神夜本人が我慢できなくなっただけか、耳を舐め回すのを一端止めて、神夜は俺の正面に回った。

 そして首元を初め、胸板、腹筋と幾つも唇を降らせながら、ゆっくりと体ごと下に降りていく。

 やがて、俺の足の間に体を捻じ込み、ベッドの下の床に正座で座った。幸い、蚊帳は少し大きめに作ってあるので、冷風で凍える事はない…と言うより、この行為を想定したサイズだな、どう見ても。

 

 布団の山に埋もれて体が斜めになっているから、寝そべったままで神夜の体がよく見える。

 大きな乳房に隠れそうな、綺麗な足とその付け根。それらに向かいそうな視線を丸ごと掻っ攫ったのは、上目遣いで見上げる神夜の顔と、控え目に開かれた口と舌先だった。

 

 

「そ、それでは……神夜の口戯を、ご堪能ください…」

 

 

 昂ぶりきった威圧的な肉棒に、ゆっくりと神夜が口を寄せる。

 醜悪にさえ見えそうなモノを、神聖な物に奉仕するように恭しく口付けた。

 

 先端、竿、裏筋、根本、玉、何度も唇をつけて離し、想いを伝えようと頬擦りまでする。既に先端には粘液が滲んでいると言うのに、躊躇いさえない。

 舌を伸ばし、根本につける。ゆっくりと下から上に舐め上げて、ほぅ、と溜息。

 

 

「…なんだか、体が熱くなる味です…」

 

 

 嫌な味か?

 

 

「美味しいとはとても言えませんけど、不思議ともう一度…と思ってしまいます」

 

 

 不味い、もう一杯…青汁みたいだな。白い汁と透明な汁だけど。

 スンスンと小さく鼻を鳴らし、匂いを嗅いでいる。これまた不愉快な匂い、少なくとも不慣れな筈なのに、神夜は逆に小さく微笑みを浮かべる。

 

 

「では、もう一度…」

 

 

 二度目の舐め上げは、一度目よりも多くの唾液を帯びていた。三度目は真っ直ぐ舐め上げるのではなく、左右に蛇行しながら。更に続いて、指で玉袋を揉んでマッサージまでし始める。

 裏筋とカリ首を重点的に嘗め回し、弱点を探しているようだ。

 甘い刺激を受ける度に、俺のモノがピクピク動く。神夜の舌から離れては戻る。

 

 

「むぅ、大人しくしてくれません……ちゃんとできるか、ちょっと自信がないけど…」

 

 

 指で根本を固定し、皮を下に引っ張った状態で、神夜は肉棒に覆いかぶさるように体勢を変える。

 上を向いている肉棒が、暖かく湿った空間に入り込んだのが分かる。

 歯を立てられないか少しばかり心配だったが、当たるのは唇と舌、口内の感触だけ。

 

 

「んっ…おっきくて…上手く咥えられない……」

 

 

 そう言いながらも、神夜は口の中で舌を動かす。さっきまでの優しい口技とは違い、巣穴に入り込んだ獲物を仕留めようとするような、激しい舌の動き。皮を引かれた事で敏感になった部分を、舌先が這い回る。

 処女のテクニックだとは、とても信じられないような快感に包まれている。

 尤も、やはり不慣れな行為ではあるようだが。舌の動きの激しさに反し、咥えたままのピストン運動は全く行っていない。本人が言うように、咥えるだけで精一杯のようだ。

 

 それにしても…随分上手いもんだ。

 

 

「んっ…一杯、練習しましたから…」

 

 

 キュウリでも使った?

 

 

「いえ、我が家に伝わっていた、秘伝の道具で…。男の人の、その…これを模した物があって……大きさは、一番の物でももっと控え目でしたけど」

 

 

 張り型か。練習する所も見てみたかったな。それを使って、一人遊びとかしたのかい?

 

 

「れ、練習だけです……。幼い頃、お母様に訓練の仕方を教わって、それからは秘伝書を元にした独学でしたし…。…正直に申し上げますと、何度か催してきて……自分で…はぅ、恥ずかしいこと極まりないです…」

 

 

 ああ、伝統芸能として、親から子に伝えられてるのか…。教えるのが父親の方でなくて良かった…。

 随分真面目に研究してたんだな。尤も、、楽しんでもいたようだけど。

 

 

「正直、惰性と言いますか、お母様の形見と思って、忘れない程度にやっていたのですが……あなたとこういう事をすると想像し始めてから、色々と捗りまして…」

 

 

 俺の為に猛勉強(意味深)してくれたのね。男冥利に尽きるわぁ。

 これ以上、恥ずかしい事は話せませんとばかりに、神夜は口戯に集中する。俺のモノに覆いかぶさっている状態なので、神夜のつむじが眼下に見えた。

 

 激しい舌の動きと、優しい体温を堪能し、込み上げてくる射精感を抑え込む。

 神夜の頭を撫でてやると、ジュルジュルと卑猥な音が激しくなる。まるで、お手伝いで親に褒められた子供が、もっと張り切って手伝い始めるようだった。

 

 

 暫く続けていた神夜だが、口が疲れたのか、このままではイカせられないと判断したのか。

 肉棒から離れて荒い息を吐いた。口元に陰毛が一本残っているのを取ってやると、不服そうな、拗ねたような顔で俺を見つめる。

 

 どうした?

 

 

「いえ、ちゃんと…その、出させられなかったなと…」

 

 

 慣れてるからね、色々と。神夜の業をじっくり堪能したかったから、そう簡単には射精しないよ。

 

 

「むぅぅ……。でしたら、明日奈さんでは考えもしないような事、してさしあげます! ちょっとご協力…」

 

 

 はいはい、どうすればいい?

 ベッドに上がった神夜は、俺の隣に横たわる。

 

 

「私の上に、跨ってください。…いえ、体の上ではなく、顔の上です。方向はあちらに向けて…」

 

 

 顔面騎乗位で、後ろを向けって事のようだが…いやあの、本当にいいのか? その体勢だと、俺の尻の下に神夜の顔が…。

 躊躇う俺を他所に、神夜は若干顔を強張らせながらも誘導する。自分から俺の体の下に潜り込み、両手はいきり立つ肉棒の亀頭近辺を撫で回す。

 

 

「下のお布団が柔らかいので、体重をかけても大丈夫ですよ…。それでは、ご奉仕……いたします」

 

 

 ご奉仕って、この体勢から繰り出される技と言えば…。

 

 

「あー………ネチョォ……」

 

 

 おふっ!

 尻穴に粘っこく、柔らかい感触…! 初体験でアナル舐めとか、どんだけチャレンジャーなんだ。

 流石に嫌悪感一つなく…とはいかないらしく、先程までの舌の動きに比べると消極的だ。しかし辞めようという気配はまるでない。

 

 た、確かにこれは今の明日奈じゃ考えもしない事…。

 それも神夜のようなあどけない(カラダは卑猥極まりないが)少女が、自分から男に媚びる娼婦のような行為に没頭する…そのギャップに眩暈がしそうなくらいの興奮を感じる。

 

 

「んっ…チュ……レロ……まだ、ですよ…。我が家に伝わる技は、もっと沢山あります…。例えば、こう…」

 

 

 先端を撫で回していた手を止め、天上を向いていた肉棒を引き倒す。

 尻穴をレロレロと舐められる感触に浸りながら、今度は何をする気なのか見ていると……ふんわりスベスベの、見事な双丘で俺のモノを挟み込んできた。

 

 

「お尻、舐めながら…神夜のお乳で挟んじゃいます……んっ、チュッ」

 

 

 アナル舐め+パイズリ…! つくづく初心者のやる事ではない。

 しかも練習を重ねてきた成果なのか、一つ一つの動きが妙に滑らかだ。

 

 奇乳一歩手前の爆乳で剛直を丸ごと包み込み、自分の乳房ごと捏ね回す。

 どこまでも暖かく滑らかな、しかし圧倒的な質量によって捕らえられ。

 同時に不浄の穴に湿った息を吹きかけられ、舌先で擽られ、唾液をまぶすように舐め回され。

 

 気が付けば我慢する事も忘れ、喉の奥から喘がされる女の子のような声が漏れ出ていた。

 美味である筈がない。嫌悪感もあるだろう。なのに、神夜は丁寧に丁寧に、拙い舌先で浮上の穴を愛撫する。

 

 

「明日奈さんは……ニュル…こんな事、してくれないでしょう…? ん~~っ、れろぉ……」

 

 

 し、してくれないって言うか考えもしないんじゃないかな、あへ…。

 その内仕込んでやろうとは思ってたが、この爆乳挟みは物理的に、おぅ、入ってきた…!

 

 俺が喘ぐ声を聴いて、神夜は調子づいたように更に舌を動かした。

 眼下には隠すもの一つない体が晒されており、興奮を表すように乳首が尖り、秘部の疼きを抑えようと足を擦り合わせている。

 

 白いその体に、覆いかぶさるように上体を曲げる。

 尻は神夜の顔につけたまま、69のような体勢になった。

 

 神夜、股を広げて。

 

 喘ぎ声を何とか堪えて、快感に奮える声で囁くと、躊躇いもなく閉じていた足を大きく広げた。むわっと雌の匂いが立ち上る。

 濃いめの陰毛は整えられ、白い肌に綺麗にまとまったアクセントとなっている。ここを弄ってほしいと言わんばかり。

 こちらからも秘部を舐め回してお返ししてやりたいが、流石にそこまで体は曲がらない。届くのは精々、指一本。

 

 しかし指一本あれば、神夜を啼き善がらせるには十分過ぎた。

 尻を舐め回す動きに合わせ、伸ばした指先で秘部を弄る。最初は表面。女陰の形を一つ一つ確認してなぞり、神夜の反応を見る。同時に分泌されている粘液を指に擦りつけた。

 大陰唇、小陰唇、陰核、それぞれに軽く触れる度に、神夜の舌と手の動きが乱れ、ビクンと体に力が入る。

 自分から奉仕するのに躊躇いは無いが、快楽を引き出されるのはまだ怖いらしい。

 

 未知の刺激に慣れさせようと、神夜の秘部とその周囲を指先で突き回す。これは怖くないものだと教えこむ。…尤も、後で思いっきりヒィヒィ言わせるつもりなので、狼が兎に向かって『食べないよ』と言ってるのと同じなんだが。

 

 もう少し続けてみたいが、そろそろ神夜の舌が疲れてくる頃だ。練習はしていたそうだが、そうそう慣れるモノじゃない。

 ちょっとだけ秘部に指先を食いこませる。それに反応して…拒絶したのか、羞恥から逃れようとしたのかは分からないが…舌が一層深くまで捻じ込まれ、乳を無茶苦茶にすり合わせる。

 感じている快感を伝えるように、肉棒を神夜の乳包みの中で跳ねさせると、射精が近い事を察したようだ。

 

 神夜、そのまま続けて。このまま出したい!

 

 

「ジュる ジュぱ レロレロレロ …はいっ、神夜のお乳に、殿方の猛りをお恵みください! 思いっきり、お乳に吐き出してください! はむっ、んっ、んん~~!」

 

 

 必死に舌を使って腸壁を掻き回し、両手ではなく両腕で自分の乳を抑え込む神夜。

 腰を振りたくなるのを必死に抑え、乳の圧力に対抗して肉棒を跳ねさせて摩擦を得る。

 湧き上がる射精感に合わせて神夜のナカの浅い部分を引っ掻き回す。

 

 

 神夜、出すぞ…!

 

 

「~~~!!!」

 

 

 返事はない。ただ舌を限界まで突き入れ、出された白濁を一滴も逃すまいと全力で乳房を固める。同時に、指先で嬲られていた秘部による、軽い絶頂。

 

 吐き出した熱は、秘部とは違う感じ方だった。膣に吐き出せば、狭いとは言え最初から存在する通り道を進んで、女体の奥に注がれていく。

 乳挟み中出しだと、飛び出した熱の行き場が無く、柔らかいその空間に留まって、母性と欲望の熱が入り混じって戻ってくる。

 

 余韻を堪能し、神夜が疲れ切ったように頭を落とす。舌が引き抜かれる感触も堪能した後、神夜の頭から腰をどかし、寄り添って寝そべった。

 荒い呼吸を繰り返す神夜の頬に手を添え、軽くキスをする。ディープキスだと、呼吸を落ち着ける邪魔になる。

 

 

「あっ…あの、私の口、今、汚いです…」

 

 

 神夜の体に、汚い所なんか無いの。俺だってちゃんと綺麗にしてるしね、中まで。 

 3度口付けて、とっても良かったと伝えると、神夜はまた顔を赤くしてしまった。自分がやった事が、今更恥ずかしくなってきたらしい。

 

 が、もっと恥ずかしい事になるのはこれからだ。一生忘れられないくらいに喘いでもらう。

 まだ呼吸が落ち着かない神夜を抱き寄せ、俺の上に乗せる。裸の男の上で、後ろから抱きしめられている事に戸惑ったようだが、今度は逆に落ち着いてきたらしい。どうやら、人肌に包まれる感覚がお気に召したようだ。

 

 

「…あの……我が家の業、いかがでしたでしょうか…」

 

 

 堪能させていただきました。神夜があんなに大胆な事をするなんて、思ってもみなかったぞ。

 

 

「大胆…だったのでしょうか? ちょっと頑張って、まだ習得できたとは思えない技術にも挑戦してみたのですが…。幼い頃から、このような事を教本として育っていたので、一般的な基準が分からず…」

 

 

 成程、嫌悪感も少ない訳だ。

 まぁ何だ、男を虜にする術としては見事な完成度だった。俺も同じように、床の業を身に着けてるけど、先が楽しみだなぁ。

 

 

「あなたも床の業を…? …………きょ、興味深い事、極まりない……です…」

 

 

 おや、体力も回復しない内に、続行のお誘いかな? 望むところだ。

 背後を取られたこの体勢だと、神夜は何もできずに嬲られるままだけど、いいのかな?

 

 

「あっ、いいのかって、も、もう始めてるではありませんかぁ……あっ、私のお乳…」

 

 

 背後から神夜の胸を鷲掴みにして、少し持ち上げてぐにぐにと揉みしだく。

 改めて手にしてみると、物凄い質量である。何せ、神夜本人の顔の前まで持ち上げられるくらいなのだ。

 その柔らかさは例えようもない。どこまでもどこまでも指が沈み込んでいく。

 

 

「あっ、あっ、あっ、そこ、あ、だめですっ、お乳の芯が疼いちゃいますっ」

 

 

 乱暴に揉んでいる訳ではないが、遠慮なくモミクチャにしているのに、神夜は痛みを感じていないようだ。

 男を虜にするのに特化しただけではなく、自らが快楽を得る為に敏感になっているのだろう。何という淫乳。本気で掴んでも、神夜は悦ぶだけではなかろうか。無論、それはそれでいいのだけれど。

 

 先端にはまだ全く触れていないが、それでも神夜は堪らないとばかりに体をクネクネ動かし、頭を後ろに倒して喘ぎ声を上げる。倒した頭は俺の肩に当たっている。…すぐそこに耳が見えるなぁ。でも、こっちを責めるのはちょっと時期尚早……お?

 

 ヌチャッとした感触。まさか母乳!? と思ったが、さっき乳包みのナカで思いっきり出した俺の精液だった。

 自分の精液なんぞ、好き好んで触りたいものではないが、女の体に付着しているのであれば話は別だ。丁度、ローションが欲しいと思っていた所だ。

 

 

「あうっ、猛りが、猛りが神夜のお乳にっ! ぬるぬるして、なんだか変な感触ですぅ…」

 

 

 乳房の間と、そこから垂れてヘソまで滑り落ちた精液を拭い取り、神夜の胸全体に塗り広げる。大量に吐き出したが、神夜の乳はそれ以上に大きいので、流石に全体には行きわたらない。

 やはり唾液が必要か。しかし、ただ垂らすだけではつまらない。いやそれはそれでエロいと思うんだけど、どーせだったら吸ったり舐めたりしながらヌルヌルを塗していきたい。

 でも、体勢が後ろから抱きかかえてる状態だから……………あれ、よく考えればイケるやん。神夜クラスの乳限定だけども。

 あ、そーだ。それなら…。

 

 

 神夜の乳を持ち上げる。残った精液は、片方の乳首に集めて塗り付けた。

 ヌルヌルとした柔らかい刺激、しかし敏感な場所への集中攻撃。神夜は顎を仰け反らせて、悲鳴のようにも聞こえる喘ぎ声を続けている。

 

 はい、一旦そこまで。ほら、神夜。顔を前に向けて。

 

 

「へっ……は……はふ…はひぃ?」

 

 

 霞掛かっている目に、ペチペチ頬を張って正気に戻してやる。

 そして神夜の目の前に鎮座するのは、自分の乳。それも、卑猥な液体でテカるピンク色の突起。

 

 それ、咥えて。

 

 

「……えっ!?」

 

 

 咥えて。舐めて。吸って。しゃぶって。自分で、自分の乳首をね?

 精液付の大サービスだよ?

 

 

「そ、それは…そのような行為が……」

 

 

 ほら、一緒にやってあげるから。俺はこっち。いやぁ、ちょっと顔を伸ばすだけで、肩越しに乳首を舐められるって凄いね。おっぱいの大きさが、実に強調されている。

 神夜の肩越しに顔を突き出し、大きく口を開いて舌を突き出す。先端の突起に舌先でヌルヌルと唾液を擦りつけると、抗議するように身を捩らせる。が、無視して舌での攻めを続ける。

 思うがままに舌を動かし、弾き、押し、舐め、擽り。

 

 同時に、神夜の口元にもう一方の乳房を突き付けて催促した。

 自分で自分の乳首を責めると言う行為に躊躇って口を開こうとしない神夜。…後押ししてやるか。

 

 神夜~。ちゃんと舐めないと…こうしちゃうぞ。

 

 

 チュッ カリッ

 

「ひゃん!?」

 

 

 先端を口に含み、前歯を軽く立てる。そのまま顎を左右に動かし、乳首を歯で磨り潰すように圧迫する。

 噛み千切られる、と思ったかどうかは定かではないが、これでも痛みを感じていない。唾液がローションになって、肌を傷つけるような事にはなってない。

 歯で責めながら、更に舌で唾液を送り込む。

 

 ほら、神夜もやってみるんだ。とっても気持ちいいぞ。やり方が分からないなら、俺の動きを真似てみるといい。

 

 初めての夜に、思ってもみなかった卑猥な行為…顔騎で尻穴舐めなんてやっておいて今更だが…を強要されて涙目になりながら、それでも気持ちいい事への興味も隠し切れない。

 俺の視線を気にして恥じらう、普段からは想像し辛い表情。それが俺をいきり立たせている事に、気付いているのかいないのか。

 

 歯で責め立てるのを一端辞めて、手本とばかりに舌を伸ばす。横目で見ると、神夜も小さく開いた口から舌を伸ばしていた。

 よしよし、いい子だな。ご褒美に、おっぱいをねちっこくいぢめてあげよう。

 

 神夜にも出来る、簡単な舌の動きを見せ付ける。それを拙く真似て…口淫の技術からして、慣れてないよりも恥ずかしいんだろう…自分の乳首を舐め回す神夜。

 両乳を抱えている手をグニグニ動かし、乳房の付け根からゆっくりマッサージする。こうして揉みこむと分かるが、まだ乳房の芯に硬さが残っている。……こいつ、これだけの爆乳なのに、まだ成長途中なのか。

 それが育ち切ってから、妊娠させて母乳が出るようになったら、どんな事になるだろう。

 

 その時を想像しながら、乳房への攻めを続ける。精液のローションはまだ乾いておらず、ぬるぬるとした卑猥な滑らかさが残っている。

 乳房から送り込まれる快感に酔い、我を忘れ始めたのか、神夜の舌の動きはどんどん積極的になって来た。乳首に塗り込まれている精液を舐めとるように、自分から吸い付き、舐めしゃぶる。

 

 特にエロい動きや、自分を気持ちよくできた時にはご褒美も忘れない。乳房を責める手を、搾乳する為の動きに変えて絞ってやる。

 流石に母乳は出ないものの、根本から先端に快感の圧力が凝縮され、それを取り込もうとするように自分からバキュームする。

 一際強く、限界まで吸い上げると、神夜はビクンビクンと痙攣して、またぐったりと倒れ込んだ。

 どうやら絶頂してしまったらしい。

 

 うーん、今のは俺のじゃなくて、自分のバキュームで絶頂したなぁ。

 まるで自慰をしたようだった。

 

 

「こ……こんな自慰、ないですよぅ……。ぅぅ、はしたない事極まりない…です…」

 

 

 息が荒いが、さっきよりはマシか。このまま可愛がり続けてやりたいが、神夜が完全にダウンしてしまっては元も子もない。

 神夜の体も我慢ができなくなっているようだし…頃合いかな。

 

 神夜、このまま足を広げて。

 静かだが有無を言わせない口調で命じられ、神夜はその時が来た事を察した。

 

 

「………はい。私を女に……いえ、あなたの女にしてください」

 

 

 背後から抱きしめられて、異性の体温に包まれながら、神夜は懇願する。足を大きく開くと、それだけでねちゃりと卑猥な音がした。それ程に、体は異性…いや、俺を欲しがっているらしい。

 腰を動かし、欲棒の場所を調整する。未踏の秘所に狙いをつけた。

 何度となく処女膜を破って来たが、いつもこの瞬間は何とも言えない昂ぶりと……ワビサビを感じる。

 

 女にとって、一生に一度しかない瞬間を我が物にできる優越感と独占欲。

 敢えてゆっくりと行い、痛みを感じさせながらもテクニック一つで快楽を引き出すか。

 それとも、オカルト版真言立川流という反則技で破瓜の痛みすら快楽に変え、堪える事すらできない性感の海に叩き込んで、たった一夜で魂まで染め上げて善がらせるか。

 

 これ程に贅沢で、選び難い選択は無い。どちらを選んでも行きつく先は同じだが、だからこそ悩ましい。

 

 挿入直前まで悩み、俺が出した答えは…。

 

 

 

 後者だった。

 いつも無邪気な笑顔の神夜が、身も世も無くアヘり狂う表情が見たい。

 同じ床の業を修めた先輩として、行きつく先を見せてやりたい。

 この無駄にエロい体は、俺のモノを咥え込んでスッキリさせる為にあるのだと思い知らせたい。

 強いて理由を挙げればそんな所だ。

 

 秘部に添えられたモノに、霊力を注ぎ込んでいく。

 おかしなタイミングで霊力を昂らせている事に気付いたが、もう遅い。

 

 

「…え? あ、あの、何でこんなに霊力を昂ら~~~~~~~ッッッッッッ!!!!」

 

 

 マジカルちんぽ状態と化したイチモツが、ズブッと神夜のナカに侵入する。

 一気に奥まで入れたのではない。まだ膜を破った訳でもない。亀頭のみを減り込ませた。

 それだけでも、神夜は潮を吹くくらいの絶頂に達した。膣の奥から、勢いよく液体が噴き出してきたのだ。外に出る事は無く、亀頭に止められたが。

 

 快楽の源泉は、繋がった秘部だけではない。今の神夜は、俺の体に背中を預けて抱きしめらている状態だ。

 つまり、背中にせよ腕にせよ頭にせよ、俺の体に…俺の霊力に触れている状態と言える。そして、オカルト版真言立川流は、互いの霊力を交換しあう事でその効果と快感を増幅する。後は分かるな?

 

 文字通り全身性器状態となった神夜は、望んだとおりに…いや、それ以上の乱れっぷりを見せてくれた。

 失敗だったのは、あまりに快感が強すぎて、言葉らしい言葉が使えないと言う事だ。喘ぎ声も、人の声を通り越して獣に近い。

 体がバタバタ暴れているのは、逃げようとしているのではなく、無茶苦茶に神経を掻き乱されて反射で勝手に動いているだけ。

 

 意識は強制的に繋ぎとめているので、気絶して逃げる事もできない。ただ、自分がどれ程の痴態を晒しているのか、見せつけられるしかない。

 …うむ、音は聞こえているようだし、声も認識はしているな。よし、ならば。

 

 

 ほら、神夜。本番はこれからだぞ。これからイヤらしい音を立てて、神夜の女陰を入ったり出たりして、気持ちよくなるんだ。

 そう、こんな音を立てて、な。

 

 

 れろ…

 

 

「~~~~!!!!!」

 

 

 暴れられないように頭を抱え込んで固定し、その耳に舌を差し込む。汗と垢の味が伝わってくる。

 最初にされた耳舐めのお返しという訳ではないが、ねっとりと舌を這わせ、出来る限り深く、グチャグチャした粘着質の音が耳に響くように舐めしゃぶる。

 

 腰の動きに合わせて舌を出し入れし、これが神夜の秘裂が立てている音なのだと錯覚させる。 

 勿論、舌にだって霊力は纏わりついている。神夜を気持ちよくさせたいという欲望と思いやりが、乱れに乱れさせて全てを自分の物にしたいという性欲が、唾液を伝って耳の奥の更に先…脳にまで直接作用する。

 

 ピストン運動を繰り返しながら、絶頂続きで痙攣する膣を無理矢理開拓していく。

 程なくして、物欲しげ…どころか、半狂乱になってオスを欲しがる、自分を破ってほしがっている膜に到達した。

 

 言葉をかける事はせず、耳に差し込む舌を更に奥まで進ませる。胎内で響いた、プツンという音に、神夜が気付けていただろうか?

 分かるのはただ、音はともかく言葉も理解できなくなってしまう程、欲望と愛情の交換作業に没頭している事だけだ。

 顔が凄い事になっている。そうそう、こういう顔をさせたかったんだよ。一見すると何処のタイマニンだって状態だけど、やってるのが合意の上で、そして俺がやってるからセーフ。愛ある行為は心地よい物であるに越した事はない。

 

 よし、こうなったらリミットギリギリまでヤる事ヤってみようか。

 神夜を抱きしめている腕を両胸に伸ばし、親指と薬指で先端を摘まむ。

 そして人差し指には……細い糸状にした霊力を集める。…うむ、動きも上々。

 

 さぁ、神夜。皆大好き、乳首姦の時間だよ。その犯罪的おっぱいの中に入って、とっても気持ちよくしてあげるからね。やろうと思えば、掌を触手の口みたいな状態にして、外と内側を同時に責める事もできるけど、今回は初心者向け…初心者向け? まぁ第一段階って事で。

 …後日、母乳を出す時に性感を感じてしまうかもしれないけども、まぁ先の話だし。そうなったらなったで、赤子に乳をあげるのにちょっと困るけど、プレイの幅は広がるって事で収支黒字だ。

 

 なんか神夜が怯えている気がしないでもないが、カラダは期待してるようだから……乳首責めと、肉棒のピストン運動と、ミミナメ。三点責め…乳首は両方だから四点責め、骨の髄まで気持ちよくなるがよいわ!

 俺もそろそろ限界だからね! と言う訳で、乳首挿入と同時に、一発目、出します!

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま、どれだけ神夜を嬲り続けたろうか? ほんのわずかな時間だったような気もするし、ほぼ一晩ぶっ通しだったような気もする。

 室内を照らす為の明かり…宝玉は、まだ殆ど力を失っていないが、何せ体感時間操作を使った上での行為なので、あまりアテにはならない。

 

 神夜はと言うと、もう怯えも拒絶も理性もなく、ただ只管に注ぎ込まれる快楽を受け止める雌…いや、はっきり言ってしまえば『穴』と化していた。

 何度絶頂を迎えても、体力が尽きたのをオカルト版真言立川流で強制回復されても、耳元でどんなに卑猥な誘惑を囁かれても、その全てを受け入れて、ただただ貪り呑み込んでいく。まるでブラックホールのほうだ。…ブラックホールをオナホ化したら、こんな感じになるかもしれない。

 

 とは言え、やはり限界はいつか訪れるもの。この場合、俺達ではなくベッドの限界だったが。

 どれだけ頑丈に作ったのか、骨組みは問題なかった。限界が来たのは、ベッドの上の布団達だ。元より、角度を作る為に積み重ねられただけの布団。上で強烈な運動をしていれば、ずれていくのも当たり前だ。

 

 それに気付かず、俺も神夜も体勢を変え行為を変え、ポンポン飛び跳ねまくっていたら…そりゃ雪崩を打って落っこちるのも無理はない。

 幸い、落下しても下に滑り込んだ布団のおかげで怪我はなく、それどころか位置エネルギーを存分に活用した一突きが支給を抉ってしまって、神夜がエラい事になったが……。

 

 まぁ、それは置いておこう。

 流石にそんな状態で、交わり続ける気にもなれない。むしろ、一休みして正気に戻った神夜に本気で怯えられてもおかしくないくらいの事をした。

 ……『凄かったですぅ』の一言で終わったけどな。怯えられるくらいの精神状態に戻っていないのか、オカルト版真言立川流で魂まで染め上げた結果なのか……いや、これ、多分素……それも違うな。

 肌を合わせたから、猶更分かる。

 

 そう、この子は…。

 

 

「とっても、暖かかったです…火傷どころか、太陽に呑み込まれたのかと思っちゃいました」

 

 

 …神夜を呑み込んだのは、俺だよ。だからずっと一緒だ。

 

 

「はい♪」

 

 

 抱きしめられて、褒めてもらいたかったのか。

 愛されていると言う実感が欲しかったんだろう。激しすぎる行為も、神夜にとっては愛情表現、よくやったと褒める方法に他ならない。

 だから、正気を失うような快楽も、思わず眉を顰めるような奉仕も、躊躇わずに行える。頑張っているから、褒めてほしい、愛してほしい。それが神夜の根本だった。 

 

 



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413話

エースコンバット7……買っちゃうか…!
尚、書き溜めの量が割とヤバイ。


 

 コトが一区切りして、神夜の体を休めている。時間的にはまだまだ余裕があるが、体力的にはね…。神夜の積極的さに悦んで、ちょっとハメを外し過ぎた。

 改めて布団をベッドの上に敷き直して、柔らかすぎるベッドに身を委ね、他愛も無い冗談を交わしている時間は嫌いじゃない。ピロートークだって楽しみ方の一つ。

 

 なんだけど、お互いの体温と柔らかさで色々その気になってきちゃって、さぁもう一回…。

 

 

 

 

 

 ドンドンドンドンドン!

 

 

 …何だぁ? 外はもう結構な吹雪だぞ。

 いい所で水を差され、神夜の顔にも珍しく明確な不満と怒りが浮かんでいる。

 

 

「…あの叩き方は、慌てた明日奈さんですね。何でしょう、まさか今更『やっぱり許せない』なんて」

 

 

 ありえない…とは言わないが、ちょっと違う気がするな。

 神夜はフラつく体に喝を入れ、扉に向かった。おいおい、足腰に来てるんだから無理するなって。対応は俺がするよ。

 と言うか、服着て扉開けろって…。

 

 ……あからさまに情事の痕跡を残し、薄布一枚を纏った姿で扉を開けようとする神夜。ひょっとしなくても、明日奈がさっきの想定のような事を言い出した時の為の備え…と言うか、挑発のつもりだろうか?

 公認した浮気の現場に殴り込んだら、親友が精液垂らしてお出迎えとか、どんな昼ドラだよ。

 

 

「はーい、今開け「ごめん、緊急事態! 雪華来てない!?」……は?」

 

 

 雪華…? 普通に来てないけど…。祭祀堂で結界張ってる筈じゃ?

 

 

「居なくなってるのよ! 侵入者…はよく分からないけど、護衛は全員気絶してたし、かといって誰かが戦った様子もないし! 辛うじて、雪華が外に出て行った痕跡が残ってて!」

 

 

 …おいおいおい、そりゃマジでヤバイぞ。

 この吹雪の中で出歩いて、鍛えてもいない雪華が無事でいられるか。そもそも、理由はどうあれ結界を張る神垣の巫女が姿を消したのなら…里を守る結界は?

 他に誰か知らせたか?

 

 

「こっちに来る途中、万事屋で寒雷さんにだけは知らせた。すぐにあなたに知らせに走れって」

 

 

 了解、と言う事は里の警備やら何やらは、あっちで手配するって事だな。俺は雪華の追跡か。明日奈、来れるか?

 神夜、風呂沸かしておいてくれ。

 

 

「私は大丈夫。逸れないように、命綱をつけていきましょう」

 

「わ、私も探しに」

 

 

 …腰、抜けたままだろ。

 

 

「あぅ」

 

 

 何か起こりそうだな、とは思っていたが……体感時間操作、使っておいて正解だった。入れる寸前にこうなってたら、目も当てられん…。

 しかし、どうやって探したものか。この吹雪だし、流石に痕跡が残っているか怪しい。

 

 …もどかしいが、まずは現場検証か。気絶していた護衛達を叩き起こせれば、話くらいは聞けるかもしれない。

 よし、そうと決まれば急ぐぞ明日奈! 神夜、また後でな!

 

 

 その辺にあった縄を借りて、明日奈の腕に結ぶ。外に出てみると、思った以上に吹雪いていた。

 …これ、里の中だからまだいいものの、平野に出たら方向感覚すら見失うぞ…。

 頭の中で地図を思い浮かべ、民家の壁伝いに移動する。

 

 幸い祭祀堂までは大した距離は無くあっさりと到達できたが、かなり寒い。

 倒れている女護衛達は、一か所に纏められていた。…明日奈?

 

 

「あ、えーと…その、慌ててたから…。纏めればいいってものじゃないけど」

 

 

 慌ててたなら仕方ない。しかし、そうされても起きなかったって事か…。

 体を軽く確かめる(エロい事はしていない)が、外傷は無し。首を一撃されたとかではない。衣服や装備に乱れも無い。

 戦闘の後が無いと言うのは明日奈が言っていた通り。

 装備からしてもかなりの手練のようだし、全員に気付かれずに気絶させる…正直、俺でもちと厳しい。

 

 揃って顔色が悪くなってる。急激なストレス…例えば恐怖…による気絶? 単なる鬼や強者に対する恐怖なら、彼女達も散々経験してきた筈…。

 単なるストレスじゃないな。

 

 雪華が座っていたのは…あそこか。護摩壇の前。茣蓙に僅かな乱れがある。ここから立ち上がって…部屋の中なら、まだ痕跡が残ってるな。鷹の目!

 …立ち上がった雪華は…ちょっとフラつきながら、真っ直ぐ外へ向かった。

 …真っ直ぐ? 誰にも止められずに? つまり、雪華が立ち上がった時には護衛達はもう気絶していたか、とにかく動けない状態にあった…。明かに異常な状態だけど、雪華はそれに構わなかった。

 恐らく、その時点で正気ではない。

 

 

「どうです? 何か分かりました?」

 

 

 あぁ、色々と。さて、肝心の向かった先は…せめて方角くらいは特定したい。そう思って外に目を向けると…。

 

 なんじゃこりゃ。

 

 明日奈、ちょっと鬼の目で外見てみろ。

 

 

「は? 鬼の目………ああ、あれね。普段の戦いで滅多に使わないから忘れて…………なにこれ」

 

 

 明日奈が絶句したのも無理はない。痕跡は消えるどころか、くっきりはっきり残っていた。

 強い霊力が、道のように吹雪の中に続いている。

 

 これは…雪華の霊力…か? なんか色々混じってるような気がするが…。

 

 

「言ってる暇はないでしょ。今はとにかく追いかけないと。多分、これって吹雪から身を護る為に張り巡らせた結界の跡…。まだ無事でいられる可能性は高くなったわ」

 

 

 …力技で防寒結界作ってるみたいだから、長持ちはしそうにないな…。生存率はトントンかな。猶更急がんと。

 明日奈と二人で飛び出し、痕跡を追いかける。間の悪い事に、吹雪は更に激しさを増した。…吹雪から感じる、嫌な感覚も増している気がした。

 

 

 

 痕跡自体は簡単に辿れても、追いかけるのは一筋縄ではいかなかった。周囲が見えなくなる程の吹雪、恐らくは既に里の外まで出ているだろう。かなり居場所を見失ってしまっているが、異界へ入るのにそう距離は無いと思われる。

 益々異常だな…。雪華がこんなにスムーズに、雪の中を歩いて行けるとは思えん。何かが干渉している可能性が非常に高い。

 まず間違いなく鬼だろうが……不思議と気配がしなかった。まるで、鬼も吹雪を嫌って隠れてしまっているようだ。…それとも、吹雪の為に気配が覆い隠されているだけなのか…。

 

 

 明日奈、無事か!?

 

 

「何とか! でもこれ、本当に危険…早く雪華を連れ戻しましょう」

 

 

 と言っても、何処まで行ったのやら…。と言うか、これ以上進めば戻る事すら難しくなる。

 今は霊気の痕跡を辿って雪華を追いかけているし、見つけたら痕跡を逆に辿れば里の近くまでは戻れる。しかし、これ以上時間をかければその痕跡も消えてしまいかねない。

 

 …それでも進まざるを得ないんだけどな。神垣の巫女に万一の事があったら、いくら異界を浄化したところでどうにもならん。鬼どもが大挙して襲ってきて、拠点を壊滅させられて終わりだ。

 しかし、このままだと…。

 

 最悪の想像…この場でデスワープして、明日奈とも神夜とも二度と会えないという想像がよぎった時、明日奈が大きく声を上げた。

 雪華発見か!? と思ったが。

 

 

「あれ、何か光ってます…しかも複数」

 

 

 明日奈の姿も見えづらいので、周囲を見回す。…少し先…吹雪が無ければ、それこそ一気に駆け抜けられそうな場所に、オレンジ色の光が明滅している。

 恐らく、地面から1メートルちょっと…雪のデコボコで正確な高さが計れない…の辺りを、3つ…いや、分かりにくいが少なくとも4つ以上の光がフラフラと彷徨っている。

 

 

「…オニビ…かしら」

 

 

 動きはそれっぽいが、あいつはあんな色してたっけか…。何匹も集まってるところは見た事が無いし、何よりあの光は…。

 

 

「うん、言いたい事は分かるわ。鬼火の明かりは、見ていて不安を煽るような色だけど、あの色はどっちかと言うと…見ていて安心するような………そう、ミタマみたいな色よ」

 

 

 …そう、か。確かに言われてみればそんな気も…。まともに視認できたミタマなんぞ、のっぺら共程度しか知らんから、イマイチ何とも言えんが。

 まぁいいか。警戒しとけ明日奈。見ていて安心しようとすまいと、ありゃ敵だ。

 

 こんな所に、本当にミタマがふらふら飛んでる筈がない。しかも雪華が居なくなった異常事態で、その痕跡を辿って来た先でだぞ。

 

 

 

「……やっぱり? ひょっとしたらミタマが雪華を守ってくれてる……とか、無いか。それなら漂わずに、雪華の体に宿って力を奮った方がいいし」

 

 

 ああ、無いな。勘違いだったら腹でも斬って詫びるさ。

 

 …ていうか、赤く見えてるからな、鷹の目的に考えて。そういう訳で、早速斬りかかる。

 

 

 思った通り、敵だったようだ。珍しい色のオニビだが、それだけだ。オニビ・朧とも違う、変わった色。その真ん中でフラフラと歩いていた、雪華も発見。

 …このオニビ達の仕業だったんだろうか?貯めこんでいた霊力は普通のオニビより強かったが、それだけだった。

 

 

 

 

 一匹だけならな!

 

 

 

 最初は良かったんだよ。漂っていたらオニビ(仮)達を苦も無く斬り伏せ、俺は周囲の警戒、明日奈は倒れ込んだ雪華を何とか叩き起こそうとした。

 雪華は酩酊したような表情だったが、目を開けて……そこからが大変だった。

 

 

 明日奈、周り見ろ!

 

 

「え? …………!」

 

 

 全方位、八方だけでなく上方までもを覆い尽くす、オレンジ色の明滅の群れ。不規則に漂い、一見すると暖かさを連想させていた光は不気味に吹雪を照らし出す。

 

 …蛍の群れにでも囲まれた気分だな。

 あれって実は交尾しようぜって呼びかけなんだけど。

 

 

「私には、肉と魂を食べさせろって言ってるように見えるけどね…!」

 

 

 この時、ようやく俺達は、間抜けにも鬼の巣穴に誘い込まれた事を理解した。

 が、大人しく食われてやる訳にもいかない。明日奈に雪華の護衛を任せ、後の事は後で考えると決めて、取り出した銃形態の神機(アサルト)で片っ端からオニビ(仮)を叩き落し始めた。

 

 

 

 

 幸い、オニビ(仮)の動きは単純だった。俺よりも明日奈と雪華に狙いを定めて突っ込んでくるだけ。片っ端から弾幕をばら蒔けば、大体叩き落される。

 耐久力は非常に低く、弾丸の余波だけでも弾け飛ぶくらいだった。

 正直、こいつら実は鬼そのものじゃなくて、幻とか、別の鬼が放った遠距離攻撃の類なんじゃないかと思ったくらいだ。

 

 

 ふぅ…なんか唐突に別ゲー、具体的にはガンゲーに突っ込まれたような気分だったが、まぁ何とか無事か。

 明日奈、雪華は?

 

 

「両方、怪我はないわ。…すっごい寒いけど…。ほら、雪華、しっかりして。何があったのかは、帰ってから聞くわよ」

 

 

 ? どうかしたのか?

 

 

「…………」

 

「さっきから雪華の反応が…。鬼の術にかけられていたみたいだし、頭がまだ動いてないのかも」

 

 

 …様態を見たいところだが、この場で四の五の言ってられんか。よし、雪華を回収できたのは確かだし、とにかく撤退するぞ。

 幸い、さっきの騒ぎを経ても、帰り道の痕跡は何とか残ってる。

 

 

「了解。私が雪華を背負うから、先導と警戒をお願い」

 

 

 任された。周囲の吹雪から感じる、嫌な気配は相変わらず治まってない。もう一騒動あると思った方がいいか?

 むしろ何もない方が困るか。この吹雪を起こしている鬼が居るとして、そいつを放っておけば一体いつまで吹雪が続くか分かったものじゃない。

 

 

 とりあえず二人を先導する。雪華は自分の足で歩くのも困難な状態らしく、明日奈に背負われている。意識はあるようだが、何を言っても上の空だ。

 

 …む、さっきのオニビ(仮)がまだ残っているようだ。直接こっちに来るのではなく、遠くをふよふよ漂っているだけだが、明滅がいくらか残っている。

 考えてみれば、あいつらが吹雪を起こしたとは考えられないだろうか? 一体一体の力はあまり強くないが、あれだけの量が居たんだし…いや、もしそうなら数を減らした事で、吹雪も幾らか治まる筈。まるで影響が見られないし、やっぱり違うか…。

 

 

 

 …って、あ…。

 

 

「…やられた…」

 

 

 呆然とする明日奈の声に、俺も顔を歪める。

 単純だが効果的な手を打たれた。奴らは何も俺達を狙う必要なんか無かったんだ。帰り道を分からなくすれば、それだけで俺達の致死率は跳ね上がる。

 具体的には、俺達が辿って来た雪華の霊力の痕跡を、掻き消してしまった。恐らく、俺達がオニビ(仮)の群れを相手にしている間に、こっちの小細工をされたんだろう。

 

 

「成程、やたら脆かったのは、衝撃を受けたら爆発する鬼だったって事か…」

 

 

 世界大戦にも突入してないのに、何だってカミカゼ精神を鬼が発揮してんだか…。

 しかしどうすっかな、これは。里の近くまで戻ってるのは確かだが、ここから下手に動くと危険だぞ。

 

 

「神夜の家まで戻りたいわ…。あの子、下手すると吹雪に構わず飛び出してくるわよ。あの恰好で」

 

 

 明日奈の今の恰好も、とても吹雪の中に突っ込む恰好じゃないんだぞ。

 かまくら…っつーか雪洞を作ってビバークするか? しかし、この吹雪だと上手く出来るかどうか…それに、ハンターの身体能力と知識を使っても、それなりに時間がかかりそうだ。

 

 ……アラガミ化…里の一部がエラい事になるのを覚悟すれば、炎でどうにか…。

 

 

 

「……お待ち、を。私が、案内、しま す」

 

「雪華…。じゃなかった、雪華様? 目が覚めたんですね」

 

「はい   もう 歩け、ます。こちらへ…」

 

 

 …相変わらず、微妙に目の焦点が合っていない。

 おい雪華、本当に大丈夫か? 無茶でも無理でもしなけりゃ無事に帰れない状態とは言え、当てずっぽうや素人判断で行動すればいいってものでもないんだぞ?

 

 

 

「大丈夫

  です。  さぁ、 こちら へ」

 

 

 …あからさまにおかしい…。

 

 

「…どう思います?」

 

 

 まっとうな状態とは思えんが…しかし、神垣の巫女には普通じゃない視界があるのも事実。千里眼の術なんてのも使えるし、それを使っているからあんな風になって……いると、思えなくもない?

 

 

「う~~~…。放っておくのは論外として、確かにこのままじゃ帰れないし…」

 

 

 賭けるしかない、か…。明日奈、雪華から目を離すなよ。

 見失う可能性も厄介だが、鬼が何かの仕掛けを施してる可能性だってある。

 

 

「分かってる。少しでもおかしいと思ったら…いやもう喋り方の時点でおかしいけど、すぐに気絶させるわ」

 

 

 明日奈に頷き、先導する雪華を鬼の目、鷹の目で見る。

 肉体が雪華本人なのは確実だ。催眠術でもかけれたのなら、一度意識を断ち切れば元に戻るだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな懸念とは裏腹に、雪華は確かに里へ導いてくれた。オニビ(仮)の明かりとは違う、確かな家屋の明かりが見えた時は、本当にホッとした。

 

 

 

 

 後になって思うと、それこそが雪華(仮)の狙いだった訳だけども。

 灯りが見えて、神夜の家が見えて、明日奈も雪華も俺も欠ける事無く戻ってこれたのだと、つい気を緩めて。

 

 

 次の一瞬には、灯りも明日奈も消えていた。周囲にあるのは、猛烈な吹雪と、何故か山道。そして雪華。

 

 

 

「もうしわ けありません  おおぐちを たたき ながら そうなんしてし まったようです」

 

 

 …突っ込むべきだろうか、お決まりの一言を言うべきだろうか。それとも嘘を吐くなと今すぐ殴り倒すべきか。

 とにもかくにも、明日奈は無事だろうか? 吹雪のおかげで、気配を探る事すらままらない。

 そもそもここが何処か分からない時点で、操られていると思しき雪華を気絶させたところで、何の意味も無い。敵が一人減るかもしれないが、気を失ったままこの吹雪の中に居ては、どうやったってお陀仏だ。ホットドリンクも、ハンターでない雪華の体にどれくらい効くか…。

 

 現在地か、或いは安全な場所か…どちらか一つだけでも…。

 

 

「どうくつ をみつ けまし た  ひなんし ましょ う」

 

 

 洞窟ぅ? 随分都合よく見つかるもんだな。

 ていうか、この流れで信用されるとでも思ってるんだろうか。洞窟なんて言っても、大方鬼の罠だろう。洞窟に見せかけ、実は鬼の口で奥に進んだらそのまま消化…なんて事だって考えられる。

 しかし、それならそれで好都合。雪華を操る鬼がそこに居るのであれば、叩き斬っておくに越した事はない。

 

 

 

「こ ちら です」

 

 

 …と思ったのだが。

 うん、これはちょっと鬼の罠とは考え辛い。だって、案内されたのは天然の結界石でできた洞窟だったんだから。以前のループで、虚海が触鬼の触媒を隠していたような、天然の洞窟。珍しさで言えば、鍾乳洞みたいなものだ。

 俺の僅かな術さえ増幅して、鬼の瘴気を祓う結界を展開している。…偽物じゃないな。

 

 結界石は鬼の瘴気を浄化し、その侵入を防ぐ。例えば鬼が人の体の中に潜り込んで隠れたとしても、それを掻い潜る事はできない。

 雪華は平然と洞窟に…結界石のど真ん中に足を踏み入れていた。

 と言う事は、やはり雪華本人で、少なくとも鬼が宿っているのではない。

 

 

「かぜを しのぐ けっかいで す。さむさまではふせげ ません ので ひを おこしてくだ さい」

 

 

 …結界の腕も確かなもの。術式も神垣の巫女特有の感触がする。

 益々もって分からない。一体、雪華はどういう状態にあるんだ?

 正気でないのは間違いないが、その原因が掴めない。ここで暴れ出されても困るので、とりあえずは従うが…。

 

 

 適当な道具と、その辺から拾ってきた木切れで火を起こす。湿気ているモノもあったが、まぁそこはやり方だ。

 洞窟の入り口と、奥を注意しつつ腰を下ろすと、雪華も座り込んだ。

 

 

 

 

 俺のすぐ隣に。

 

 

 …あの、ここは普通、火を囲んで対面に座るものでは?

 

 

「さむさを しのぐ ためです が なにか」

 

 

 アッハイ。まぁ、確かにくっついてた方が暖かくはある。

 …地面についていた俺の手の上に、そっと雪華の手が乗せられる。…こう、あまずっぱい雰囲気と言うか、寄り添うような、もどかしい雰囲気を演出する為にされる奴だ。

 

 だが率直に言わせてもらうと、そんな雰囲気は微塵も感じなかったりする。

 雪華の様子が明らかにおかしいのもあるが、そもそも雪華とそーいう雰囲気になるような実績って、何にも無いもの。ラブコメ漫画で、前振りも無しに現れたヒロインが他のヒロインを抜き去って一話でゴール一歩手前になっても、『は?』としか思わんだろ。エロ漫画ならともかく。

 

 

 と言うか、何よりもだ。

 

 

 今の雪華に、そんなラブコメっぽい言動は無理だ。確かに元から美人でクールビューティに見えるのに、蓋を開ければ甘味ジャンキーの割とフレンドリーな子だったが、今は表情が全く違う。

 このプレッシャーは憶えがある。

 

 

 

 これは狙いを定めた猟犬、狼の目だ。或いは蝉ドンしてきた時の明日奈と同じ表情だ。

 

 



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414話

仕事から帰ったら、エスコン7プレイ予定。
今まで全く手を付けてないジャンルなので楽しみです。

ゴッドイーターも強襲ミッションを延々繰り返すだけで飽きてきたところ。
大変なのは分かるけど、アップデートはよ。


しかし、転生とらぶるがこっちに来られたかぁ…。
溜めてから気が向いた時に読みに行ってましたが。
…あの話数をこっちに移すという作業だけでも、苦行の域に達している気がします。
10分で一話と言いつつ、向こうも更新しながら2,000話…パネェ…。
今後はほぼ毎日、お気に入り更新リストのトップに君臨し続けるだろうなぁ。







北斗が如くイチゴ味、やってくれねぇかなぁ…。


 これは狙いを定めた猟犬、狼の目だ。或いは蝉ドンしてきた時の明日奈と同じ表情だ。

 

 

 

 

 

 別にそれがどうこうって訳じゃないし、明日奈の時は平然と反撃してからお持ち帰りしたが…流石に今回はそうも言ってられん。明日奈は自分の意思だが、雪華は違う。

 ふむ…………内面観察術、発動!

 

 

 ………うむ、雪華(仮)の狙いは分かった。俺の体だ。

 食料的な意味でも、憑依的な意味でもなく、性的な意味で。

 

 

 と言うより、何かややこしい事になってるぞ、コレ。

 一言で言えば雪華は取り憑かれている。ただし、鬼の術にかかったのではない。恐らくこれは、純粋な人の残留思念と言うか、幽霊と言うか…。まぁ、それが雪華に取り憑くまでに、鬼の介入があった可能性は大いにあるけども。

 面倒くさいのは、ただ取り憑かれているだけではなく、雪華が半ばそれを受け入れている点だ。何でそんな事になってるのかはよく分からんが、取り憑いている残留思念に対してひどく同調し、そして気を許す…心を開いているようにも見える。

 

 それこそ唆された、取り憑いた霊に甘言を吹き込まれたと言われればそれまでだが…。

 

 

 

 

 …ん? いや待てよ、そうだとすると…例え唆されたのだとしても、雪華は自分の意思でこうしている、つまりはそういう欲求を持っていたって事か? その対象が俺? 雪華的にもオッケーである事には変わりない?

 …いやいや、欲望に流されるな、俺。心配しているであろう明日奈や神夜の事を考えてみろ。優先すべきは戻る事、最低でも無事を伝える事。

 下手すると、あの二人は吹雪にも構わず俺達を探して飛び出しかねない。

 

 

「しずか ですね」

 

 

 ん? あ、あぁ…静かと言えば静かだな…。吹雪の音が凄い事になってるけど。…いや、さっきに比べると若干弱くなったか…?

 雪華は、チラチラと横目で俺の様子を伺いながら、ジリジリと距離を詰めようとしている。俺からのアクションを期待しているようでもあった。

 

 しかし、それを無視して色気の無い話を振る。

 雪華、一対何があったんだ? 祭祀堂に護衛と一緒に居た筈なのに、吹雪の中を平然と突っ切って…。護衛達は外傷もなく倒れてたけど、あいつらもかなりの使い手だった。全く気付かれずに、しかも殺さず無力化できるような奴が居たのか?

 …さて、どう対応する? 誤魔化すか、無視して自分の望み通りの展開を作ろうとするか…。

 

 突然振られた話題に鼻白んだようだったが、それでも雪華は答えた。雪華に取り憑いている奴も、疑問に思うのも無理はない、と思ったのかもしれない。

 

 

「それが わたしに も よくわからない のです。たしかに さいしどうで きとうして いました。ですが きがつけば みなが たおれふし わたしはそとへむかいました」

 

 

 倒れている護衛を見て、疑問も心配も沸かなかったのか。 

 完全に惑わされてるな…。或いは、それこそが望みだったのか。

 

 

「どういうことですか?」

 

 

 自分で考えてみな。今すぐに。

 どうして外に飛び出したのか。護衛の事を気遣わなかったのか。どうしてここに居るのか。何のために来たのか。

 

 …惑わされているにせよ、取り憑いている奴に同調して暴走したにせよ、今の雪華は思考停止状態で、取り憑いている奴の考えをそのまま受け入れている。だから疑問を持たない。

 なら、疑問を持たせ、考えさせて、取り憑いている奴との差異を作ってやるといい。それだけでも、雪華は正気に戻り始めるだろう。現に、言葉の応酬をするだけでも様子が変わってきている。少しだが、口調が滑らかになってきた。

 

 しかし、裏を返せば大した力や強制力無しに、ここまで操ってるって事か…。神夜の家の手前からここまで瞬間移動させた手際を考えると、かなりの力を持ってそうなんだがな…。どうにもチグハグだ。

 

 

 話を続ける内に、雪華の表情が変わる。変化が大きくなってきた。

 後悔。酩酊。不安。渇望。怒り。涙。

 

 二人分の表情が次々に現れる。雪華と、取り憑いてる奴の表情だ。さて、次に口を開くのは…?

 

 

「お前も…」

 

 

 お前、か。…取り憑いてる奴らしいな。

 

 

「お前も、私を拒絶するのか…!」

 

「氷華姉さま、いけません…」

 

 

 氷華? 確か、先代の神垣の巫女で、雪華の姉だったか。

 それが取り憑いている? …本物だろうか。

 

 確かに、雪華は『ひょっとしたら、ミタマとして残った姉に会えるかも』みたいな期待を持ってたから、本当に現れたらつい気を許してしまうかもしれない。判断能力が落ちた状態であれば、猶更。

 

 

「お前も」「お前も」「私を「私達を「私達は「皆、いけませ「何故「私達だけが叶わな「私達にも権利はある「寂し「せめて一度「私にそ&‘*&「?~})*$

 

 

 おうおう、湧き出る湧き出る集まってくる。半ば以上予想してていたが、やっぱりオニビ(仮)か。

 結界石の洞窟に鬼は入ってこれない筈なのに、外から入り込むし雪華の中から湧き出て来るし、どうなってんだか。

 

 まぁ見当はつくけど…。この前のウシヲキナのように、誰かの言葉を操っているのではない。このオニビ(仮)達は、明かに自分で自分の言葉を吐き出している。

 つー事は…こいつら、鬼じゃなくて人間の霊だ。

 

 憑依が解けたのか、ガックリと倒れ込んだ雪華を抱え上げる。さて、どうしたもんかな。相変わらず、外は吹雪。少しは収まったかと思ってたのに、さっきまで以上に激しくなってきた。

 このまま飛び出すのは自殺行為。この狭い洞窟の中で、雪華を抱えながら、突っ込んでくるオニビ(仮)達の対処をせにゃならんのか。

 …ま、フロンティアのG級依頼に比べりゃ楽なもんだが、こいつらを始末したとして、その後にどうするのか見えないのが痛いな…。

 

 

「う……み、みんな、いけません…氷華姉さま…」

 

 

 雪華、起きたか。状況説明、できるか? こいつら敵認定してもいいよな。

 

 

「いえ、いいえ! いけません! そのような事をすれば、彼女達は益々怨嗟を募らせるばかりです!」

 

 

 そうは言っても、こんだけ暴れ狂ってちゃな。お前を連れ出して里を危機に陥れた時点で、もう後には引けんだろ。

 大体、このままだと俺はともかく雪華が死ぬぞ。

 

 

「大丈夫です、彼女達を鎮め、全てを丸く収める方法はあります。……その、ご協力いただきたいのですけど…」

 

 

 まぁ協力するくらい構わんが。後でちゃんと説明しろよ、色々と。

 で、俺は何をどう協力すればいい?

 

 

「まず…私の言うとおりにしてくださいますと、恐らく彼女達はもう一度私に取り憑こうと近寄ってきます。それを妨害せずにいてほしいのです」

 

 

 わざと取り憑かせるのか。大丈夫なんだろうな? さっきまでも同じ状態だったようだが、また乗っ取られたり同調して暴走するんじゃないか?

 

 

「大丈夫の筈です。そこで暴走するのは、彼女達にとっても目的の為にならないので。むしろ説得するのに好都合です」

 

 

 筈、で好都合、か…。まぁ気合や根性で耐えようとするんじゃなく、勝算があっての事なら賭けてみますか。

 それで、次は?

 

 

 

 

 

 

「その………私を、抱きしめてください」

 

 

 

 

 

 

 …接吻も付けた方がいいかな?

 

 

 

 

「(真っ赤)…………はい。時間をかけて」

 

 

 何だかよく分からん要求だが、さっきまでと違って雪華は正気のようだし、これはオニビ(仮)達を鎮める為の行為であって、心配しているであろう明日奈や神夜を放置しての浮気ではない。…よね?

 少なくとも、雪華が要求を口にして、周囲のオニビ(仮)達には動揺が走っているようにも感じられた。何というか…興味津々で見ている、と言うのが一番近い表現だろうか。

 やっぱりこいつら、元は人間だろ…。少なくとも鬼が騙してる訳じゃなさそうだ。

 

 

 武器を収め、雪華の正面に立つ。雪華がゴクリと喉を鳴らしたのが聞こえた。…オニビ(仮)の視線も強くなる。

 両肩を掴んでゆっくり抱き寄せ、腕の中に誘い込む。抵抗は全く感じなかった。

 

 厚手の衣に遮られ、吹雪に長時間晒されたのに、雪華の体は暖かかった。何だか爽やかな香りがする。その中に仄かに紛れる生々しい匂い。

 衣に香を焚き籠めているらしい。結界を張る為の儀式の一環だろうか。

 

 抱きしめられた雪華は、頬を俺の胸板に付け、ゆっくりと、しかし躊躇いなく俺の体に腕を回して抱き返す。

 腕の中から上目遣いで見上げる雪華と、至近距離で見つめ合う。

 改めて見ると、整った容姿だ。まつ毛長い。切れ長の目。これで感情豊かなのだから、バランスが取れているのかいないのか。

 

 気が付けば、片手で雪華の頬を撫でていた。スベスベとした、箱入りのお嬢様である事が容易に察せられる手触り。男が触れた事など、無いのではないだろうか。

 

 

 視界の端で、オニビ(仮)が狂乱して突っ込んでくるのが見える。雪華が予測していた通りだ。

 反射的に迎撃しそうになったが、気合で…と言うか、雪華に集中して意図的に無視する事で抑え込む。

 

 本当にそのままでいいのかギリギリまで迷ったが、雪華に従って正解だったようだ。オニビ(仮)は雪華の中に入り込んだ。しかし、雪華自信に苦しんだ様子はない。

 その一体を皮切りに、我も我もと言わんばかりに、オニビ(仮)は雪華の体目掛けて飛び掛かってくる。抱き合っている俺の事など、見向きもしない。

 

 結局、最後の一匹が入り込むまで雪華の頬を愛で、侵入される雪華も何ら抵抗や拒絶を示す事は無かった。

 

 

 …これでいいのかな? と思っていると頬を撫でていた手の上に、雪華の手が重ねられる。

 拒絶や満足を現す意思表示ではない。雪華の目は、まだ真っ直ぐ俺を見つめていて……ゆっくり閉じられた。

 OK、何が何だか分からないけど、続行ね。頬で重なる手はそのままに、俺も目を閉じて徐々に顔を近付ける。

 

 軽く唇が触れ合う感触。

 離れる事はせず、逆に舌を使うような事もせず、角度も変えず。お互いの顔の温度が感じられる距離で、ドラマのキスシーンみたいに、唇の感触だけを味わった。

 

 

 …多分、一分に満たないくらい。

 

 雪華の顔から離れ、一言。

 

 

 

 呼吸は止めずに、鼻で息をしなさい。

 

 

「っ………はぃ」

 

 

 顔が赤くなっているのは、酸欠の為なのか恥ずかしさの為なのか。

 とりあえず、もう大丈夫…なのか?

 

 

「とりあえずは……ですが、その…抱きしめたまま…は流石にお話ししにくいので、密着している必要があります」

 

 

 まぁ、それくらいなら別に…。とにかく状況と理由を話してほしい。

 あのオニビ(仮)は何だ? 姉の氷華の名前を呼んでたが。

 

 

「ええ、どこから話したものか……とりあえず、明日奈さん達に式神で連絡を送ります。まだ吹雪は止みませんが、今なら皆が協力してくれるので、確実に届ける事ができそうです」

 

 

 皆、って…もう何が何だか分からんな。

 

 

 

 

 消えかけていた焚火をもう一度燃やし、そこに腰かけて話を聞く。理由はこれから説明してもらうが、密着している程いい…らしいので、胡坐をかいた俺の足の上に、雪華が腰かける形になった。寄りかかってくる背中を支え、腕を回して背後から抱きしめる。

 …真面目な話をする体勢じゃないが、こうでもしてないとまたオニビ(仮)達が暴れ出すのだそうな。

 

 で、結局どういう事なん?

 

 

「どこから話したものでしょうか…。まず、あなたがオニビ(仮)と呼んでいた方々は、鬼ではありません。歴代の神垣の巫女の……霊と言うか残留思念と言うか、そういうものです。見知った方も何人か居ました…氷華姉さまも」

 

 

 えらく数が多かったが?

 

 

「シノノメの里の巫女は、他の里に輪をかけて短命と言われていますし…恐らく、他所の里の神垣の巫女もいるのでしょう。あれだけの数が集まり、またシノノメの里にやってきた経緯はよく分かりませんが…恐らく、そこは鬼に唆されたのではないでしょうか。彼女達は吹雪を起こし、里を閉じ込めました」

 

 

 この吹雪、そいつらの仕業か!? 道理で何やら嫌な気配を感じると…。

 と言うか、神垣の巫女ってそんな事まで出来るのか。

 

 

 

「吹雪はともかく、雨乞いの術なら…。それを集団で使い、この寒さに合わせた結果、吹雪になったのではないでしょうか。彼女達は鬼ではないので結界に弾かれず、神垣の巫女である為に結界を擦り抜ける方法も熟知していたのです」

 

 

 ふむ…確かに、神垣の巫女の結界について、当の神垣の巫女以上に詳しい奴はそうそう居ないか。続けて?

 

 

「祭祀堂で結界を張る為の祈祷を続けていたのですが、その時に彼女達が語り掛けてきました。語る、と言っても言葉でではなく…何と言いますか、強い思念を当てられて…同じ想いを持っていた私はそれに同調してしまい、護衛の皆さんは気絶しました」

 

 

 護衛の外傷が無かったのはその為か。耳元でとんでもない爆音を慣らされて気絶したようなものだな…。後遺症が無ければいいが。

 

 

「大丈夫…の筈です。皆さん、未練とかはありますけど、モノノフを恨んでいる訳ではありませんので。…全く無いとも言えませんが。擁護するようですが、皆には里に危害を加えるという考えは無かったのです。何せ霊、残留思念ですから、自分の行動が何を引き起こすのかという事を考えられないのです。考えられるとしたら、自分達の未練を如何にして晴らすのか、それだけでしょう。…彼女達に取り憑かれた私は、祭祀堂から出て…後はご存知の通りです」

 

 

 生者だったら、即刻首を刎ねるくらいの重罪だもんな…。残留思念にまともな思考を期待する方が間違いか。

 オニビ(仮)に襲われていた雪華を俺達が見つけ、神夜の家まで連れ帰ろうとしたと…。と言うか、襲われてたのでなければ、あれは一体何だったんだ?

 

 

「私の体に入り込もうとしていたのです。取り憑くと言う意味では襲われていたとも言えますが…。私の体に入り込んで生き返ろうとか、そういう事を考えていたのではありません。体を一時貸してほしい、という事でした。言われた時には、皆さまに完全に同調してしまっていたので、何も考えずに了承する事しかできませんでした」

 

 

 ふむ…。で、結局何をしようとしているんだ?

 何故、俺だけを連れてこんな場所に転位した?

 そもそもからして、雪華が同調した想いって一体何だ?

 生き返ろうとしているのではないって事は、早逝を悔やんでいるって事ではないようだが…。

 

 

「えーと………………その………」

 

 

 うん?

 

 

「…………せ、せめて一度でもいいので………殿方と、素敵な一夜を過ごしたいと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 は?

 

 

「ご存知かもしれませんが神垣の巫女に本来自由はありません。

今のシノノメの里は色々と追い詰められ、人も多くないので私は大手を振って歩けますが、氷華姉さまが神垣の巫女をやっていたオオマガトキの頃は、その前までは結界を張り里を守る為だけに生かされ、自分ひとりで出歩く事すら許されませんでした。

数々の特権を持ってはいますが、それを振るう機会は無いに等しい。

 

また、異性との接触は最小限に留められ、殿方と何年も話した事がない神垣の巫女も居たそうです。

これらは神垣の巫女の扱いとしては、珍しい事ではありません。

 

私も霊山でそういう噂を聞いた程度なのですが、意中の殿方ができたが為に心を乱され、結界を張れなくなった巫女が居ました。

それを防ぐ為、神垣の巫女は殿方に懸想しないよう言い含められます。

また、そのような事にならないよう、やはり殿方との接触も制限されるのです。

シノノメの里の巫女は特に早逝が多く、殿方と話した事は数える程しかなかった、という巫女も居ました。

 

ですが、人は禁じられ、手が届かないものにこそ憧れを抱くもの。

生前、誰かが話すのを聞く事しかできなかった恋。

仲睦まじい夫婦の睦み事、それによって得られる充足感と、話によれば『すごく気持ちがいい』行為。

輪廻の輪に戻る前に、自分も体験してみたいと言うのは、当然の結論でしょう。

 

ええ、私とてそういう憧れや、自分が置かれている状況への不満は持っていました。

以前、神垣の巫女として身命を使い尽さなければならない事に恐怖を持っていると話した事がありましたが、もう一つの恐怖が正にこれです。

心惹かれる殿方に出会う事もなく、出会ったとしても立場とお役目に囚われて想いを告げる事さえできずに終わるのかと。

私だって、できるのであれば神垣の巫女の立場も力も放り出して、いつか素敵な旦那様と家庭を持って、子を産み、心穏やかに過ごしていきたいと願っているのです。

 

そして、それは私だけでなく、残留思念となって残った神垣の巫女の皆さまも同じでした。

愛する人に抱きしめられてみたい、もっと殿方と触れ合ってみたかった…そう言った思いに同調したのです。

彼女達は私の体を借りて、殿方と触れ合うつもりだったのです。

私としても、相手にもよりますが嫌ではありませんでしたし、数人が私の中に宿りました。

 

そこへあなたが助けに来てくださったのです。

皆さま、お怒りでしたけども狂喜乱舞していましたよ。

殿方が自分を助ける為、命を賭けて駆け付ける。

夢にまで見た状況ですとも。

一緒に来てくださった明日奈さんを無視するようで心苦しいですが、皆さん殿方しか目に入っていなかったので、今は置いておきます。

 

助けに来てくださったあなたと、あわよくば…と考えていたようですが、神夜さんの家に連れて行かれそうになり、それはご破算となります。

他の方が居るのに、殿方との触れ合いなど出来る筈もありませんから…。

慌てて転位の術を使い、あなたと私だけがこの洞窟に連れてこられたのです」

 

 

 

 待て待て待て長い長い。

 どこを縦読みすればいいんだ。恥ずかしいと言うか気まずい事を一気に言い切って誤魔化そうとしてるのはよく分かるから、ちょっと待て。

 

 …つまり、こうやってくっついてる理由は…。

 

 

「…その、これも殿方との触れ合いですので…。先程の抱擁と…接吻もあり、私の中に宿っている皆は、一先ず落ち着いています」

 

 

 じゃあ逆に、さっき正体を指摘したら暴れ出したのは。

 

 

「…正体を看破され、自棄になりかけたのです。氷華姉さまが『お前も私を拒絶するのか』と言っていましたが、あれは先程述べたように、殿方との触れ合いを禁じられていた為です。…生前、気になっている方も居たようなのですが、掟に阻まれて何もできなかったようで…」

 

 

 拒絶がどうのって問題か…? と言うか率直に言って筋違いだな…。

 雪華に言っても仕方ないし、そんな事を考えられる理性も残ってないっぽいが。

 

 …で、ここからどうする? 最低でも吹雪をどうにかしないといけないんだが…。

 

 

「私の中の皆さんは、今は落ち着いているとは言え満足しているとは言えません。もしも私があなたから離れれば、また暴れ出すでしょう。……と言うより…ある条件を付けて大人しくしてもらっているんです」

 

 

 怨霊を鎮める為に条件を付ける、か。

 …つまり、この流れでいくと…。

 

 

 

「………その…………先程の接吻の、更に続きと申しますか…私の中に宿ってそれを体験すると…」

 

 

 

 …マジ?

 ………いやするのはいいんだけどさ…。一応聞いておくと、断った場合は?

 

 

「吹雪を徹底して続け、私達を返さないつもりのようです。勿論、そうなると里も…」

 

 

 セックスしないと出られない部屋かよ。

 

 

「…あの、やはり…お嫌でしょうか…」

 

 

 色々と納得できないのは確かだな。

 雪華はいいんだよ。掟は俺にとって大して意味はないし、個人的にもかなり好きな女なのは間違いない。一夜のお相手してくれるなら、喜んで飛びつくさ。

 明日奈と神夜は、ちょっと怒るかもしれないが、そっちはどうにかする。

 

 ただ、宿ってる連中がな…。仕方ないとは言え、これだけ大騒ぎ起こして、里を危険にさらしておいて、自分が男から愛されたいだけって。

 

 

「…仰りたい事は分かります。責は同調してしまった私にもありますし、このような事を言える立場ではありませんが…。………神垣の巫女の皆を、癒してあげてほしいのです。現在の行為は養護できなくても、生前の彼女達は誰かに愛される事なく、身命をその使命に捧げ、使い果たした神垣の巫女です。死して尚、無念と渇愛にに苛まれ続け、狂う程に人の温もりに飢えているのです。彼女達は……いつか私がそうなってもおかしくない姿なのです」

 

 

 …分かったよ。どうせヤる事は変わりない。

 分からんでもないしな…。俺自身の記憶ではないのかもしれないけど、『童貞のまま死にたくない』って叫んだ事もある。ループが始まる前の記憶もそうだし、MH世界で初めて死ぬ時だって、似たような事を考えていた…ような気がする。

 

 

「…と言いますか…その、先程申し上げたような条件で大人しくしてもらっているので、否を突き付けるとそれこそ暴れ出すかも…」

 

 

 告白を断られたら無理心中を迫るメンヘラじゃあるまいし。

 まぁいいか…。ところで、明日奈達に送った式神っぽいのの反応は?

 

 

「大丈夫です、ちゃんと届きました。明日奈さんも神夜さんも、神夜さんの家で待機しています。騒がせてしまった他の皆にも、無事の知らせは届いています。…流石に全てを説明してはいませんが…」

 

 

 結構微妙な問題だしな…。ある意味、これまでの神垣の巫女が総出で反乱してきたようなものだし。

 ともかく、事情は分かったし受け入れもした。

 

 ここで聞くのもおかしな話だが……雪華、いいんだな?

 

 

「…はい。私も、その、興味があると言いますか、渡りに船と言いますか、千載一遇、盲亀の浮木、優曇華の花…」

 

 

 ああうん、隠す気もない程乗り気なのはよく分かったから落ち着け。

 本当に、自分で言うのも何だし、すっごい今更だけど、何で俺がそんなに琴線に触れるのやら…。勿論好都合極まりないのだけど。

 

 とりあえず雪華、こっち向いて。俺の膝の上に腰かけるといい。

 

 

「はい…よろしくお願いいたします」

 

 

 任せとけ。後になってどうなるかは…その時になってから考えるとして、忘れられない一夜にしよう。

 …ま、初体験がこんな洞窟で、しかも吹雪のど真ん中なんてのも何だから、一段落したら神夜の家に撤退するんだけども。

 

 

 

 

 





童貞処女のまま死んでも未練を残さない者から、彼女達に石を投げなさい。


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415話

最後の一言に対して一気に感想が来ててフイタw

エースコンバット、メッチャ手古摺ってます。
初めてやるって事を差し引いても、イージーモードでこれだけ手古摺るとは…。
Long Dayで地面にキスしまくっております。間抜けな死に方ですね!
対地特殊兵装が使い辛かったのでマシンガン装備でしたが、照準が合わせられない、低空飛行すると地面にドン、何発か当てても壊れないとメッチャ苦労しました。
結局、補給に戻れると気づいてミサイルメイン。

コツとかネットで検索してみましたが、今一つピンと来ず。
…やはり最初はスタンダード操作にするべきだったか…。


 

 改めて火の近くに腰を下ろし、緊張で身を固くしている雪華を抱きしめる。いきなり強く抱きしめるのではなく、向かい合って手を回し、背中を擦っているだけだ。まず安心させてやらないと、話にならない。

 背中に加え、長い髪も漉いてやる。…手触りのいい髪の毛だ。シルクを触っているようだ。

 普段髪の毛に隠れている耳元や首の後ろ側にも指を這わす。

 

 

「ん…」

 

 

 性感ではなく、単純に慣れない刺激を受けて、くすぐったそうに身を捩る雪華。

 悪い気はしないのだろう。表情の中に、期待と昂揚が強くみられる。不安は僅か。

 指先で顎を押して上向かせる。

 

 顔をじっと見つめると、意を察して素直に目を閉じ、唇を少しだけ突き出した。

 素直な態度に満足しながら、ゆっくり口付ける。今度は触れるだけでなく、互いの口内の空気を交換しあうように。

 ちゅる、と小さく音が響く。唾液を啜る音だ。

 

 唾液と空気の交換を通じて、雪華の体内に俺の霊力を侵入させ、体内の様子を探る。

 …何と言うか、エライ事になっていた。いや、体がおかしくなっているのではない。何というか……呉越同舟? 或いは、これがレギオンって奴かと本気で思った。

 正確な数は分からないが、百人に届くくらいの神垣の巫女達が、雪華の体の中に渦巻いている。…渦は巻いてないか。雪華との契約通り、ちゃんと大人しくしていた。

 これが雪華の中で暴れ出したら、或いは外に飛び出して大暴れしたらと思うと冷や汗が出る。

 

 しかし、そんな感情を持っていると悟られてはならない。彼女達が求めているのは、生前の未練を解消できるような『素敵な一夜』だ。竿役もとい、殿方が手弱女を恐れているようでは、素敵な夜になんてなるものか。

 幸い、こんな考えを持ってる事も、彼女達を探っている事も気付かれてはいない。…今から始まるR-18ショーに気を取られて、自分が見られている事なんてどーでもいいんだろう。

 

 まぁ、既に舞台の幕は上がったのだし、彼女達の行動を今更どうこう言う気はない。

 

 

 

 

 

 雪華相手にオカルト版真言立川流を使えば、彼女達にも干渉できるからね。お望み通り、一生分ヒィヒィ善がり狂わせてくれる。高みの見物が出来ると思ったら大間違いだ。…むしろ喜びそうだけど。

 

 

 

 先程以上に長く接吻を続け、雪華も体液を啜ったり送り込んだりするのに慣れてきた頃。

 背中を撫で回していた腕を、前に回して腹の辺りを一撫で。それだけで、着込んだ和服がするすると解ける。

 

 

「…こ、この服、脱ぐにも着るにも色々手順があるのですけど…」

 

 

 一つ一つ脱がしていくのも好きだけど、状況が状況だからね。

 雪華の裸も是非見たいが、流石に吹雪の洞穴の中でそれをやると体温が危険だ。そういう訳で、半脱ぎでいきます。

 ほれ、ここをこうしてこうして…。

 

 着物の前を肌蹴て、胸元を開く。裾をずらして大きなスリットを作り、片足のラインが丸見えに。下手に動くと、そこから更に裾がずれて、一番大事な所が見えそうで見えない。

 

 

 

「こ、これは全裸よりも何だか恥ずかしいような!」

 

 

 その恥ずかしさが癖になるよ。今からするのはそういう事だしな。格好としても序の口だ。

 ほら、雪華も見てただろ、超界石から色々出てきたの。あれを使うと、もっとはしたない恰好になるぞ。

 今のところ、明日奈にしか使えてないが…まぁそれは明日以降として。

 

 さ、続けようか。

 

 

「…あ、あの」

 

 

 ん? 別に怖い事はしないぞ?

 

 

「いえ、そうではなく……私だけ肌を晒すのは恥ずかしいので………えっと…」

 

 

 視線をチラチラ向ける先が何処なのか、言うまでもない。雪華の中の人達も、なんか一気にテンションが上がったのが感じられた。神垣の巫女はムッツリばかりか。抑圧された結果かな…。

 見せるのは問題ないが、甘いのぅ。男の体でエロい所って、そこだけじゃないぞ。…別に、俺が男を見てもエロいと感じる事は無いが、どういう所が好まれるかってのは経験則である程度分かる。

 

 と言う訳で、まずは腹筋から。

 雪華の要望に従い、ナニを見せる…と思わせて服を脱いでいく。もったいぶってゆっくりと、上着から一つ一つ。

 男のストリップなんて誰が得をするんだと言いたいが、少なくとも雪華+観客には超お得だったらしい。視線が集中するのがよく分かった。

 たくしあげた服から除く腹筋(ハンターボディ)に視線が集まり、上げていくにつれてヘソ、脇、胸板、喉元、二の腕と、あちこちに視線が投じられているのが分かる。

 歴代神垣の巫女達も、色々な性癖を持っていたらしい。それを自覚せずに世を去ったのは、救いと思うべきか哀れと思うべきか。

 

 まぁいいんだけど…男が女の体が好きなように、女も男の体が好きなんだなぁ…。どこがエロいと感じるか、と言うかさ…。

 下の服も脱いだ時、ケツに物凄い視線を感じたよ。掘るとかじゃなくて、尻のラインと言うか…まぁ、俺だって女に対して同じ視線を向けてんだから、文句なんか言える筈無いけど。むしろ、それだけ興味津々になってくれるのが誇らしいような恥ずかしいような可愛いような。

 

 そして、素っ裸になって雪華と向き合うと…男の欲望に視線が集中し、絶句されたのが分かった。ほーら、これが殿方の象徴だぞー。これが見たかったんだるォ!? ほら見ろよ見ろよ。

 大量に感じる視線の反応は様々だ。ガン見しているもの、真っ赤になりつつまじまじと見るもの、ちらちら見ながらも興味を隠しきれてないもの。一番多かったのは、「あれが噂の!」と色めき立つ目だな。ちなみに雪華は真っ赤になりながらガン見していました。

 釣りでエサを動かすように、クイクイと動かしてみると、それだけでどよめきが聞こえる始末。どんだけ興味津々なんだ。いや分からんでもないが。

 

 自分が半裸だという事も忘れて肉棒を、いやそれに限らず初めて見たオスの体に見入る雪華を引き寄せる。

 今度は抱きしめるのではなく、少し離れた所で止めて、手を取って肉棒に触れさせた。

 

 

「ひっ!? あ、熱い……熱いのが私の手から伝わってきて…体の内側から、火傷しそうです…」

 

 

 お前の体で興奮してこうなったんだよ。こんなに綺麗な体をしてるのに、いやらしい事をしてみたいだなんて…いけない子だな。

 罰として、その手で果てさせる事を命じます。

 

 

「罰…私が悪いんでしょうか…でも罰なら仕方ありませんよね…色々やらかしましたし…」

 

 

 …うん? 軽口に対する反応が、思ったより強い。興味の向くままに行動する口実が欲しかったのか……いや、何か違うな。

 この反応は……。

 

 

 勝手が分からないなりに、肉棒を両手で包み、上下に動かす雪華を見る。その表情は明らかに昂揚していた。

 男の欲望に触れた興奮…はある。でもこれじゃない。

 オスに奉仕する行為の背徳感…もある。けど違う。

 

 雪華にクリーンヒットした言葉は…。

 

 

 罰、か。

 元々、人には見せないが自虐的な所がある子だからな。となると、雪華に効果的なのは。

 

 

 こっそり手を伸ばし、呼吸も荒く肉棒を扱き上げる雪華の内腿に触れる。体を固くしたが、手の動きも止めず、抵抗もしない。

 雪華の不安…期待…をスルーして、指先を這わせていく。女陰に向かうのではなく、腿の手触りを楽しんで、足の外側へ。

 がっかりしたような、ホッとしたような…そんな表情の雪華は。

 

 

 ペチン!

 

 

「ひぅ!?」

 

 

 尻を叩かれる感触で悲鳴を上げた。痛みを感じる程ではない。力を入れず、ただ大きな音が響くように張っただけだ。それだけだが、経験も知識も殆ど無い雪華を驚かせるには充分すぎた。

 まさか、「素敵な夜」にスパンキングされるなんて思いもしなかっただろう。

 

 上手にできてないから、お・し・お・き。

 もうちょっと力を入れて扱くんだ。

 

 

「で、でも、そんなに力を入れたら……その、抜けちゃったりしませんか?」

 

 

 …一瞬何を言われているのか分からなかった。どうやら、肉棒がスポンと抜けたりしないか不安らしい。どれだけ知識無いんだ。

 有り得もしない心配だと一笑してやりたいが、雪華が不安がっているのは事実だし、それは解消してやらないと。エロい手段で。

 

 それじゃあ、力を入れても大丈夫なように、潤滑油を使おうか。

 

 

「潤滑油…そのような物が持ち合わせが…」

 

 

 大丈夫、いつでも誰でも持ってる。

 

 

「んっ!?」

 

 

 唇を奪い、舌を侵入させる。混乱したものの、健気に応えてくる舌を誘導。軽く歯で挟んで引っ張り出し、外気に舌を晒す。そこで互いの舌だけ絡め合う。

 自分がどれだけ卑猥な事をしているのか、雪華は分かっているのだろうか? 分かっていたとしても恐らく辞めはしないだろう。これは『罰』なのだから。

 

 舌と舌が絡み合い、卑猥な音を立てる。後から後から沸いて来る唾液が、舌を伝い、零れ、或いは口元から溢れ出してポタポタと垂れていく。…その真下にあるのが、雪華の手に包まれた俺の肉棒だ。

 突然手に降りかかった生暖かい液体に驚いたようだが、すぐに意図を察して…或いは、接吻に夢中で気にする暇もなかったのか…手淫を続ける。

 ヌチャヌチャと粘着質の音が響き、先走りの汁も混じり、段々雪華も慣れてきて、よりスムーズに刺激が送られてくるようになってきた。

 

 

 パァン!

 

 

「ひぅ!」

 

 

 いやらしいからお仕置き。

 

 

「そん、そんな…あなたがやれと」

 

 

 パァン!

 

 可愛いからご褒美。

 

 

「し、尻を叩く事が褒美な筈が」

 

 

 パァン!

 

 嘘をついたからお仕置き。

 

 

 パァン!

 

 パァン!

 

 

   ヌチュニチュ

 

 パァン!

 

 パァン!

 

   グチュグチュ

 

 

 パァン!

 パァン!

 パァン!

 パァン!

 

 

 理由は何でもいい。お仕置きかご褒美かなんて気紛れでしかない。

 立位で向かい合ったまま、両手で肉棒に奉仕させたまま、雪華の尻に回した手を叩きつけ続ける。

 

 尻を叩かれる度に、手の動きが激しくなり、そして甘い声が漏れている自覚はあるのだろうか?

 接吻の余韻で口元を涎塗れにしながら、雪華は喘ぐ。

 多くの巫女に見られている事も忘れ、その巫女達も「期待と違う」という不満を忘れ、淫靡な光景と刺激を一心不乱に見守っている。

 

 ちなみに、雪華の中の神垣の巫女達も、スパンキングされている感覚は感じている。雪華の体を通じてではなく、彼女達のミタマの尻(?)を叩かれる感覚を。

 張り手にも霊力籠めてるからな。中に浸透していって、そこにいる巫女達に衝撃を伝えるなんて造作もない。

 百人近いケツドラム、か。実体があればさぞかしいい音と声の大合唱だったろうに。

 

 

 何度も尻を張り、雪華の尻が紅く染まる。

 興奮度合いを示すように、激しく手が上下して肉棒を扱き立てる。そろそろ射精感が込み上げてきた。

 尻を叩くのを辞めて、指先を伸ばして秘部に触れる。そこはお漏らしでもしたのかと思う程、大量の愛液で濡れそぼっていた。軽く書き回して愛液を拭い取り、それを雪華の目の前に突き付ける。

 

 お尻を叩かれて興奮したのか? いけない子だな…。

 

 

「はぁ、はぁ……ど、どうして…どうしてこのような事を…」

 

 

 どうもこうも、男欲しさにえらい騒ぎを引き起こしてくれやがったおバカさんへの罰に決まっていますが?

 

 

「うっ…」

 

 

 それを言われると何も言えない、と言った表情の雪華。自分が盛大にやらかして、その上でこのような事をしているという負い目を持っている。

 ならそこに付け込むのが礼儀(?)というもの。

 

 ほら、もう一回叩くぞ。

 宣言して、有無を言わさずペチンと尻を張る。ただし今度は張るだけではなく、何度かに一度はそのまま鷲掴みにし、ねちっこく尻肉を捏ね回してやる。

 ジンジンと甘い痺れが残る尻を、爪痕が残る程強く揉まれて、雪華は悲し気な声を漏らす。だがその声は、明かに自己陶酔が混じった声だった。

 自分の失敗で迷惑をかけたのだから、このような事をされても仕方ない。決して自分が望んでいる訳ではないけども、拒む事は許されない。

 

 …そういう風に、理由をつけている。尻を叩かれて、お仕置きされて、虐められて興奮している。

 罰という単語に強く反応していた事から気が付いたが、やはりこの子はドM…いや、そういう自分をまだ受け入れられていないから、素質があるだけか。

 

 

 適当に尻肉で遊びながら、雪華の耳元で囁いてやる。

 

 

 全く、自分が罰を受けているんだって分かってるのか?

 何でこんなに濡らしてるんだ。いやらしい子だ…。

 そんないやらしい子は、放っておいたらどんどん淫らになってしまうからなぁ。

 

 

「…そんな事は………私は…」

 

 

 だからしっかり可愛がってあげないと。いやらしい子は大好きだから、むしろ俺としては非常に好ましい。

 こういうのが好きなんだろう? ん?

 尻を叩かれ、淫乱な子だと罵られて、いやらしい罰を受けたいんだろう?

 躊躇う事はない。そうだとしても俺は雪華が大好きだし、罰を与えるのも変わりない。

 

 

「あ……ぁ……ぁ…」

 

 

 言葉で辱める間にも、指先で秘部を撫で回すのを辞める事はない。捻じ込むのではなく、表面の敏感な部分を爪先だけでゆっくり愛撫し、焦らして昂らせる。

 薄い陰毛を引っ張ったり、割れ目に指を添えて中に入れると見せかけたり。

 その全てに、雪華は抵抗しなかった。忙しなく体を悶えさせ、引き摺りだされた性癖と良識の間で揺れている。

 

 

 尻叩きばかりでは芸が無い。もっと辱め、狂わせ、内心に溜まったドロドロとしたもの(欲望から鬱憤まで)を全て吐き出させ、その上で愛してやらねばならない。

 その為に次の段階へ進む。

 

 

 雪華。正直に答えろ。

 自慰はどれくらいする?

 

 

「じ……じっ!?」

 

 

 自慰だ。経験はあるんだろう? こうして触ってるだけでも分かる。

 …意外と頻繁にやってるみたいだな。

 好きなのは………へぇ? 意外や意外…。

 

 

「~~~! …そ、そこまでお見通しながら、私が口にしなくても…」

 

 

 パァン!

 

 お仕置きだから。それに、雪華の口から、雪華の恥ずかしい秘密を聞かせてほしいんだよ。

 ほら、言ってみろ。週に自慰は何度くらいする? する時は何処を触る? どんな想像をして?

 雪華だけじゃない。中に居る巫女も、一人一人口にするんだ。雪華、その時だけ体を貸してやれ。ちんぽの感触も感じ取れる千載一遇の機会だぞ?

 

 

「……は、ぃ……。じ、自慰は……週に、2日…」

 

 

 はい嘘。パァン! 叩かれたいからって見栄を張るんじゃありません。

 

 

「ひゃうっ!しゅ、週に4日ですぅ!」

 

 

 4『回』じゃなくて4『日』ね。そのこころは?

 

 

「…始めると止まらなくなってしまって…不安で眠れない夜とか、疲れ果てるまでずっと続けるんです…。朝も、頭がすっきりしない時や、大きな戦いが予想される時に…」

 

 

 ほぉう…。成程、神垣の巫女だもんな。日々、自分や里が危険に晒されていると思うと、不安に思うのも、それを誤魔化そうとするのも無理はない。

 この綺麗な澄まし顔が、朝も夜もなく自慰に耽っていると思うと実に愉悦だが。

 して、内容の方は?

 

 

「ゆ、指………を……少しだけ、その、入れて…。第二関節くらいまで…。ゆっくり前後させて……その、気をやる、という感覚は今一つ分からず…」

 

 

 ほうほう、まだ生娘なのに、随分頑張って開発したんだな。それとも趣味の結果かな?

 その光景を想像すると、また股間に力が入って来た。

 

 

『…代わります。私がしていた時は…』

 

 

 お、体の中の巫女か。手コキのやり方も少し変わったな。

 雪華は、恥ずかしすぎて引っ込んでしまったか? それとも狼狽しまくって、簡単に乗っ取られてしまったか。

 まぁどっちでもいい。雪華のカラダなのは違いないし、ここから先に進む時には雪華を無理矢理にでも引っ張り出すから。

 

 その後、巫女達のそれぞれの告白が続いた。

 自慰一つとっても、やり方や好みはそれぞれだな、と実感できるひと時だった。

 恥ずかしく思って表面を弄るだけに留める者、胸を弄る者、内股を撫で回して自らを焦らす者。

 聞きかじった少ない知識を元に想像してオカズにする者、気になっていた殿方の肌を想像して妄想する者、密かに仕入れた春画を見ながら耽る者。

 

 特に拗らせていた者に至っては、神垣の巫女の術である千里眼を使いながら、張り型を使って膜まで破ったと言う。

 …千里眼の術って、一人前の神垣の巫女でも、結構な負担になる筈なんだが…しかも自慰をしながらって。レベル高いな…。

 

 

『あの術は、鬼や抵抗がある者に対して使うから疲弊するのです。人間相手…合意の上や、そもそも気付かれていなければ、消耗はそう酷いものではありません』

 

 

 …合意の上だったのか? それとも気付かれないよう覗いていたのか。どっちにしろ業が深い話だ。

 …ふむ、しかし、そういう事なら。

 

 

 一通り自慰告白も終わり、そろそろ本格的に我慢の限界が近い。

 雪華は…自然に表に出てきていた。他の巫女達の告白を聞いて、自分は左程酷くないと開き直ってしまったようだ。赤信号、皆で渡れば集団自殺と言うが、この場合は…自慰酷薄、皆で猥談、恥ずかしくない? 充分恥ずかしいけどね。だからいいんだけどね。

 

 

「…皆さん、自分の手で達してほしかったと、残念がってます…。誰がやっても私の手ですけど」

 

 

 充分気持ちいいし、長い時間奉仕してくれたけど、まだまだ拙いからね。我慢しようと思えば、幾らでも出来る。

 とは言え、俺もそろそろ射精したいで…雪華、そこに…俺の服の上に座って。

 

 

「…こう、ですか?」

 

 

 潤んだ目で素直に従い、女の子座り。散々叩かれた尻がまだヒリヒリしているのか、落ち着かなげにモゾモゾしている。

 直立する俺と並び立つと、丁度顔の前に剛直がある。

 何をさせられるのか、予想はついているのだろう。或いは、神垣の巫女達が囁いて教えたのか。

 

 頭を掴むと、何も言わなくても目を閉じて自分から口を開いた。そこから覗く口内は、粘着質の多量の唾液と、熱の籠った呼気が充満している。舌を突き出して見せたのは、どの巫女の入れ知恵だったのか。

 とにかく、やる事は一つだ。

 固定した頭に、乱暴に肉棒を突き入れる。伸ばされていた舌に裏筋を擦りつけるように挿入し、咽る一歩手前まで抉り込む。前後運動だけでなく、口内を先端で撫で回し、雪華の頭をオナホールのように都合よく強引に動かした。

 

 

「んっ、んぶっ、フゥ フゥ んむっ?! んんん~~! っ、こ、これもっ、んふっ、むっ、これ、も…罰っ…!」

 

 

 そうだ。罰だ。オシオキだ。

 毎日のように自慰に耽り、男欲しさを拗らせてこんなとんでもない事件を引き起こした罰だ。

 ほら、罰を受けているところを皆に見てもらえ。そしてどんな風に見えているのか、自分でも見てみるんだ。

 

 

「…? …! あっ、ああっ、わた、私っ、こんな、こんな……あぁ…あっ、んぶっ!?」

 

 

 反省してるなら、口を止めるんじゃありません。

 と言っても、流石に見てしまうか。見てしまうと言うか、強制的に見えていると言うか。

 巫女の皆を煽って、千里眼の術を使ってもらいました。ただし見るのは自分自身。

 

 つまり、今の雪華は、半裸で跪いてイマラチオされている姿をライブ中継で見せられています。それも色々な角度から、同時に。

 初めて咥え込んだ男根の味を堪能しようと、裏筋に擦れる度にピクピク震える舌も、鼻息を荒くしている顔も、揺さぶられる頭につられて揺れる美乳も、乱暴にされて益々濡れてしまっている女陰も、物欲しげにヒクつく不浄の穴も、上気して赤く染まっている背中も、乱れる髪も、蹂躙される口の中も。

 全て同時に、強制的に見せつけられる。複数の神垣の巫女で使った千里眼の術が混線し、複数の光景が脳裏に流し込まれている。

 

 乱暴にオシオキされ、自分が犯される姿を見せ付けられ、口の中を性感帯に変えられ、急速に雪華は昂っていく。

 トドメに足で女陰を弄ってやると、それだけで雪華は絶頂に達した。

 同時に口内で白濁を思いっきり吐き出し、同時に霊力も注ぎ込む。

 

 体の絶頂、精神の絶頂、魂…ミタマの絶頂。

 宿っている神垣の巫女ごと、強制的に絶頂させる。…この強制的に絶頂って、あんまり好きじゃないんだけどね。突っ込んだだけで即アヘるマジカルちんぽじゃ、技巧を尽くす意味が無いから。

 しかし流石に数が多すぎるのでこの手段を取った。

 

 雪華の頭と言うか耳には、集団での絶頂声が響き渡っているのではないだろうか。

 とは言え、それに構う事もできないだろう。それなりに気を使ったとは言え、初めてされたイマラチオで、注がれた白濁を平然と飲み干せる筈がない。

 ゲホゲホと咳き込み、口元を抑えている。…鼻から逆流しちゃったかな。

 

 

 背中を擦ってやりはするが、そこで止めはしない。何故ならこれは罰だから。

 口元から零れた精液を拭い取り、指に絡める。ぬるついた指で、乳首を摘まむ。

 

 

 

「まっ…ケホケホ や、休ませ」

 

 

 問答無用。クリっとな。

 

 

「ひっ!」

 

 

 先端だけを摘まんで、指を滑らせる。精液がローションになって、強い摩擦にはならない。だが元より、人の体の中でも敏感な部分だ。触れられ摘ままれネジられて、平然としていられる筈もない。

 悲鳴を上げる雪華を他所に、キュッキュッキュッキュッと敏感な部分をピンポイントで刺激してやる。

 

 

 

「あっ、あっ、駄目、駄目ですっ、ケホッ そこっ、体っ、おかしくなるぅぅ」

 

 

 強くはないが、滑らかで間断の無い摩擦に翻弄され、雪華は身を仰け反らせて身悶えする。

 どんなに体を動かしても、摘ままれた乳首が外れる事はない。悲鳴を上げても悶えても、お構いなしに刺激が続く。

 

 だが、雪華への罰は更に続く。刺激に必死で耐えようと、無意識に握ったり開いたりする手を取って、自らの秘部…淫核に突き付けた。

 雪華、自分でも触ってみるんだ。俺の指の動きに合わせて、一番敏感な部分を同じように弄ってみろ。

 

 

「そっ、そんなっ、そんな事したらっ」

 

 

 手を緩めたらもっと酷い罰を受けてもらおう。我慢できずに達してしまっても罰だけどな。

 罰の一言でビクリと体を揺らし、躊躇いながらも指を動かす雪華。既に秘部はお漏らし同然に濡れてる為、潤滑油には事欠かない。歯を食いしばり、羞恥と性感に耐えながら、拙い手付きで自慰をする。

 

 左右の乳首と淫核のみに注がれる、終りない刺激。

 敏感な粘膜を執拗に攻め立てる行為は、男で言えば亀頭を集中して責められるのに近いだろうか。

 容赦なく攻めを継続され、それに促されて自分で弄る。しかしイク事は許されない。

 

 いや、既に何度も絶頂に達してはいる。大きなものではなく、甘イキに近いものだ。大きな快楽の波を何とか堪えて、堪え切れなかった分だけ小さな絶頂を迎えている。

 尤も、それについてどうこう言うつもりはない。言うまでもなく、雪華を弄ぶ為だ。

 いっそ思い切り、我慢できない快楽でイかせてくれれば楽なのに、と彼女の目は語っている。我慢できるギリギリのところで、崖っぷちで爪先立ちしている状態だ。

 それでも堪えようとしていられるのは『罰』の一言が雪華を縛り付けているからだ。

 弄ばれていると知りながら、健気に快楽を堪える雪華の姿に劣情が湧き上がる。

 

 捻り回していた乳首を、今度はカリカリと爪先で引っ掻いてやる。

 突然変わった刺激に、歯を食いしばって耐える雪華。しかしその体は貪欲に刺激と絶頂を求めている。淫核を抑え、捏ね回していた指を、胸にされたのと同様に爪で軽く弾いた途端、プシュっと液体が飛び出る音がした。

 

 

 おおぅ、まだ処女なのに、潮噴いたよこの巫女。

 

 

「っ…は………ぁ……ぁ、ぅ…」

 

 

 これで精根尽き果てたのか、雪華はぐったりとして後ろに倒れ込んだ。摘まんでいた乳首も放してやる…が、彼女の両手は、鈍い動きだがまだ秘部を弄り回している。体は絶頂を迎えたが、我慢しようと必死になっていた分、快楽解放のカタルシスが弱かったのか。

 

 倒れた雪華を抱き起し、膝の上に乗せてやる。顔を覗き込んでみれば、朦朧としている中に、「今度は一体何をさせられるのか」という不安が見えた。ちょっとやり過ぎたか…。体は悦んでいても、精神はまだ不安らしいそれを受け入れられていない

 少し笑って、頭を撫でる。乱れた髪を梳いて、優しく語り掛ける。

 

 意地悪をして悪かったな。雪華があんまり可愛いから、ついやり過ぎてしまった。

 

 

「…………」

 

 

 呼吸がまだ整っておらず、返事は無かったが、表情が不安から拗ねたようなものに変わる。これだけ好き勝手されて、その一言で許せと言われても、そりゃ治まらないだろう。

 が、強制的にそれは忘れてもらおう。

 どうやって? そりゃー、今度こそ思いっきり気持ちよくなってもらってよ。

 

 自己主張している男の象徴を、対面座位の形で向き合っている雪華に向ける。何をされるのか察した雪華は、まだゆっくりと動いて陰核を弄っていた指を止めた。

 僅かな躊躇いの後、指を卑裂に添えて、左右に引っ張る。

 くぱぁ、とピンク色の割れ目が晒された。本来なら、この体位ではそれを目にする事はできないが、神垣の巫女達が気を利かせたらしく、俺にも千里眼による光景が映し出されている。

 その瞬間を待ち侘びて、ヒクヒクと物欲しげに蠢く未踏の細道。神垣の巫女達に見守られ、自身もその光景を見せ付けられながら、オスとメスが接触する。

 

 

 これだけ濡れていてもまだ抵抗が残る細道だが、入り口付近は柔らかく、そして他の部分よりも一際敏感だった。繰り返してきた自慰による影響か。

 一気に突き込むのでもなく、逆に遅すぎる事もなく。雪華の呼吸に合わせ、肉棒を細道へと埋めていく。

 最初は息を呑んだ雪華も、やがてゆっくり、細い息を吐き始め、両腕を首に回して抱き着いてきた。

 

 二人の呼吸と鼓動を合わせ、互いを最も強く感じられるリズムで動く。奥へ。奥へ。引いて。奥へ。奥へ。引いて。奥へ奥へ…。

 体全体で交合している。指先の動きとか、腰の粘りとか、そういうのではなくて…二人で一つになっている実感。

 暖かく、生々しく、愛しくて、ちょっと酸っぱくて、何故かとても甘く感じて。

 何より、理屈も理由も関係なく、満ち足りているのにもっと深く、もっと深く欲しくなる。

 

 体全体でセックスに耽る。心まで蕩け合って交合に夢中になる。悦ばせて、愛して、その反応に自分が嬉しくなって。

 当たり前と言えば当たり前、基本中の基本の事。

 

 いつの間にか甘い声が洞窟中に響き渡っていた。よくよく聞いてみれば、それは一人の声ではなかった。雪華を通して繋がった神垣の巫女達が、生前得られなかった性感にあえいでいる。

 おそらく、宿っている雪華の体に、相互に影響を与えているのだろう。雪華の体を介して性感を得て、何十人もの神垣の巫女からのフィードバックが雪華の感覚に影響を与える。

 

 …いや、それだけではなさそうだ。響き渡る声の中には、幾つか喘ぎ声ではない、ちゃんとした言葉になっているものも混じっている。

 

 

『初めてなのに、こんなにいやらしい声を出すなんて…ふしだらな子』

 

『思いっきり突き刺さってる…どう見ても痛いのに、どうして幸せそうなの』

 

『神垣の巫女と言われながら、こんなに淫蕩な本性を持っていただなんて…巫女の恥よ』

 

『嫉妬にしか聞こえませんが。早く交代してほしい』

 

『もうちょっと足を広げて』

 

 

 …自分がやっている事を棚に上げて、盛大にヤジっているようだ。

 これは雪華にもはっきり聞こえているようだが、反応を見るに羞恥プレイにしかなっていないっぽい。これはアレだね、ライブでのエロ動画配信で、卑猥なコメントされてるようなもんだね。普通なら荒らしかハラスメントにしかならないけど、やってる方も見てる方もそれ目的で来ているから、むしろそういうコメントが嬉しいと言う。

 しかし、『早く交代してほしい』と言う事は、快楽の感覚がまだ全員に行き渡ってはいないと言う事か。

 

 …よし、もうちょっとオカルト版真言立川流の出力上げよう。雪華が正気を無くす程悶え狂う事になるけど、これも愛情表現+罰+男女の仲の極致って事で。

 

 

「あっ、あっ、ぁっ、あのっ、なに、かっ、あんっ、あぅ、きけんなこと、あぁっ、ま、また気をやって……きけんな、こと、かんがえてっ」

 

 

 考えてない考えてない。

 とってもイイコトだから。それはもう、雪華の背筋が戦慄と欲望でぞわぞわ粟立つくらい。

 

 さぁ、そういう訳なんで……雪華の中の全員を巻き込んで、トドメと行こうか。

 何か反論しようとする雪華の唇を接吻で塞ぎ、思いっきり深く舌を絡めながら、最後の律動を開始する。叫び声さえ封じられ、快楽をどんどん注ぎ込まれて圧縮される雪華。

 我慢なんて出来る筈もなく、一突きどころかナカで動く度に引き付けをおこしたかのような勢いで痙攣する。

 性感の塊と化した胸や尻を好き勝手に撫で回し、乱暴な律動で追い詰める。

 

 洞窟に響き渡る声の数とトーンが増して、巫女達も絶頂続き、イキッ放し状態である事を教えてくれた。

 

 そして最後の最後、高まりきった欲望を全力で爆発させる。互いの全身でオーガズムを感じながら、一度の発射で雪華の腹が若干膨らむくらいに注ぎ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして数分後、崩れ落ち、気を失った雪華に服を着せ、俺も服を着こんでいた。布団代わりに服を地面に敷いていた為、流石に冷たい。

 外は相変わらずの吹雪で、雪華は気絶したまま。

 

 …さて、どうしたものか。自分で気絶させておいてなんだけど、雪華が起きてくれないと、里に戻れない。

 気を失ったままこの吹雪の中に連れ出す? アホか。

 そもそも、ここが里近辺のどのあたりなのか知っているのは、雪華…と、その中の巫女だけなのだ。

 寒さはホットドリンクでどうにかなるとして…そういや、前に間違えて雪原でクーラードリンク呑んだなぁ…、道が分からないのが厳しすぎる。

 

 明日奈達に連絡はしたから、飛び出してきて二次遭難…なんて事にはならないと思うけど。

 

 

 

 

 そんな事を思っていたら、雪華の目がパチッと開いた。…しかし、普段とちょっと雰囲気が違う。目付も違うし、焦点が微妙にあって無い。

 これは…。

 

 

 …最初に雪華に取り憑いてた女……たしか、姉の氷華…だったか?

 

 

「…分かるものなのだな。交わった男女とは、そういうものなのか」

 

 

 少しばかりぶっきらぼうな口調で、彼女は口を開く。感じた通り、彼女は氷華だったらしい。

 まぁ、抱いた女であれば、ある程度は分かるよ。流石に名前も聞いてない巫女を当てろ、と言うのは難しいが。

 

 それで…どうするつもりだ? 目的が雪華の言っていた通りなら、充分満足…したかはともかく、一応の目的は達成できていると思うが? まだ何かする気か?

 

 

「私がこうしているのは、単にすぐには成仏できないからだ。…愚行で迷惑をかけてしまった。詫びのしようもない」

 

 

 気にするな、とまでは言えんが…差し当たり、この状況をどうにかできんかな。吹雪が止むまでここで待機は、流石に辛い。

 積もる話をするにしても、流石に家屋の中に行きたい。

 

 

「分かっている。私が雪華の体を動かしているのも、その案内の為だ。吹雪で道が見えなくなっているが、ここは里からそう遠くない。千里眼も使えるから、迷う事はない。…案内しよう」

 

 

 そう言いながら、雪華 IN 氷華は俺に向かって手を伸ばした。…えっと、この手は?

 

 

「………察しが悪いぞ。…自分では立てないのだ。手を貸せ」

 

 

 …ああ、腰が抜けてるのね。これはすまなんだ。

 手を貸して立ち上がらせると、そのまま俺の腕に抱き着いて来る。

 

 …そこまで動けない?

 

 

「…………動けない。動けないったら動けない」

 

 

 雪華や寒雷の旦那に聞いていたのとは違う、ふてくされたような表情で答える氷華。

 …足腰ガクガクしてるのは事実だけど、こりゃ単にイチャつきたいだけだな…。自分にも他人にも厳しいタイプだと聞いていたが、彼氏とかできたら一気に浮かれて舞い上がるタイプだったようだ。

 

 まぁ、別にどうこういう気はない。今は里に戻るのが先決だ。

 腕に抱き着いて寄り添う氷華を伴い、俺達は吹雪の中を歩きだした。

 

 



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416話

エースコンバット、イージーモードかつノーマルモードで何とかクリア。
初回特典の5か6から始めた方が楽とアドバイスをいただきました。

今後はエキスパートモードでの飛び方の練習です。
取り敢えず、戦訓を…。

・バルカンは×ボタンで撃つ。チュートリアルで説明されなかった気がする。
・空での体感速度を当てにするな。
・無駄に加速を押し続けるな。減速し過ぎなければ落下はしない。
・乱戦時は一体の敵に集中せず、前方に居る手早く狙える奴を撃て。
・ターゲットが居るなら、優先的かつ集中的に貼り付いて狙え。一度見失えば、再発見と接近には想像以上の時間がかかる。
・無暗に逆さになるべからず。位置や方向を見失ったらオートパイロット機能で水平に戻れ。
・時間制限があるミッションは暗記ミッションである。
・空の敵を殴ればいいだけではない。空と地上の味方を助け、時に任せろ。
・加速よりも減速の方が重要な場面は意外と多い。
・スピードを出せばいいと言うものではない。ドッグファイトは陣取り合戦だ。低速と高速の切り替えにより、どう敵の背後を取るかが肝。
・急降下と減速はセットで行え。
・A-10で空中戦をするな。ミッション18のSOL相手に地獄を見た。追いつけない!


…上手い人の動画を見て勉強します。
とりあえず、いいちコンバットですかね…どんだこすさんもやってくれるかな?


 いやはや、全く長い一日だったこと。普段の三倍くらい濃いイベントだった。

 まぁ、現在進行形で続いているのですが。

 

 

「………」

 

「………」

 

「………お風呂、いただきました。人心地つきました…ありがとうございます」

 

「…どうも」

 

「…それはいいんだけど、そろそろ説明してほしいわ」

 

 

 外が相変わらずの吹雪なので今一時刻が分からんが、草木も眠る丑三つ時…には至ってない。平時であれば、布団に入ってそろそろ眠気が襲ってくる…って辺りだろうか?

 3人が微妙な空気で向き合っている。風呂に入っていたのは雪華で、不自然に平静な声を出すのは明日奈と神夜だ。

 

 …修羅場…かな。まぁ普通はそうだわな。

 一人は前から俺とお突き愛してる肉食系ワンコ美少女スレンダー。

 一人は今晩からお突き愛する関係になった、牛乳系可愛い美少女ムチムチ甘えん坊。

 一人はその更に後に関係を持ったばかりの、クールビューティ系ギャップ美少女天然思考。

 

 そして彼女達に堂々と手を出した色欲外道だけが、平然とした面で茶を啜っている。

 普通に考えれば、俺を3人がかりで袋叩きにした後、キャットファイトないし刃物持ち出した殺し合いに発展してもおかしくないだろう。或いは、俺に愛想を尽かせてどうでもよくなるか。

 幸い、後者は今のところ発生してない……いや、MH世界でJUN=NYANに呆れられた事はあったっけ。あれからアタック染みた行動も無くなったから、友人としてはともかくそういう意味では愛想尽かされてたんだろうなぁ…。

 

 

 …そんな現実逃避はともかくとして。はて、どっから説明したものか…。

 

 

「雪華様から直接聞きたいのですが……色々疑問はありますが、家まで連れ帰られたと思ったら転位して、しかもその後式神だけで連絡を寄越したのは何故です?」

 

「…その時、直接知らせに行く事ができない状況でしたので…。転位に関しては…言い訳の仕様もありませんが、操られたようなものです。事実、私一人の力では転位などという離れ業は、相当な準備が無いとできませんから」

 

「言われてみれば、それは納得だわ。長距離の転位を気軽にやれるなら、とっくに異界を超えて助けを求めてるわね。…とは言え、全部話してもらうわよ」

 

「分かっています。そうですね、纏めて言いますと…」

 

 

 

・鬼の策謀で唆されたと思われる、歴代神垣の巫女の無念が吹雪を起こした。それに紛れて結界に侵入、雪華の体に取り憑いた。

・力を増幅されたが、取り憑かれて自分の意思を見失ってしまった雪華は、導かれるままに外出。ここで明日奈が気付いて、俺に知らせに来た。

・助けに来た俺を見て、歴代神垣の巫女…明日奈と遭遇したオニビ(仮)は、標的を俺に定めた。

・その目的とは、『殿方と素敵な一夜を過ごす事』。………この辺の説明で、二人から変な声が漏れ、雪華自身も微妙な顔をしていたが、それは置いといて。

・連れて帰られそうになったので、急遽俺を連れて雪山に転位。

・雪華の振りをして俺を誘惑しようとするも看破され、暴走。雪華は正気に戻る。

・荒ぶるオニビ(仮)達に対し、雪華は自分に宿れと申し出る。望み通りに体験させてやるから、大人しくしろ…と言う事だ。

・紆余曲折あったが、俺は了承。

・オニビ(仮)達は満足し、その力を雪華に残して昇天していった。

 

 

「……と、大体こんな所なのですが」

 

 

 改めて言葉にすると、なんか色々酷いな。

 

 

「………えー……あー…………信じがたい話だけど、嘘を言っているとも断じれないし、色々説明できる部分も出来ちゃうし…」

 

「…ちなみに、この吹雪はいつまで続くので? そのお話が本当であれば、吹雪を起こした歴代神垣の巫女の方々は既に…」

 

 

 いや、全員昇天した訳じゃないらしいんだわ。数が多すぎて、流石にまとめて満足…と言う訳にはいかなかった。

 でも、今はこの吹雪には関わってない。天候を操作するような術だからな…。一度発動して、そこにそういう環境が整ってしまったら、後は自然に治まるのを待つしかないらしい。

 

 

「そんな無責任極まりないです…。でも術ってそういうものですし」

 

「じゃあ、鬼に責められる危険は?」

 

「吹雪の元となった雨乞いの術は、ただの雨乞いではありません。破魔の力を籠めた、鬼を打ち払う雨なのです。歴代の方々も、心残りや無念は多くありましたが、鬼に加担してでもモノノフに危害を加える…と言う方は居ませんでしたから」

 

「敵味方関係なしの、結界の雨ならぬ、結界の吹雪って事か…。不幸中の幸い、なのかなぁ…。暫く止まないわよ、これ」

 

 

 だな…。吹雪から感じる嫌な感覚は消えたけど、自然の吹雪こそが最大の脅威だもんなぁ…。

 まぁ、四の五の言っても仕方ない。

 雪華の無事と居場所は、もう式神で知らせてあるし、吹雪に対する備えもしっかりやってきた。雪華も明日奈も俺も無事に戻ってこれたんだから、これ以上を求めるのはそれこそ無茶な話だろう。

 

 と言う訳で、神夜。暫く世話になるぞ。

 

 

「はぁ、まぁ貴方は元々そのつも…ゲフンゲフン」

 

「それにしても……何て言うか、神垣の巫女って言っても…意外とその、あれね」

 

「無理に言葉を濁さなくてもいいですよ、明日奈さん。俗っぽい、とかしょうもない、でしょうか?」

 

「あ、あははは…」

 

「…そうでしょうか? 私には、分かる気がします」

 

 

 神夜…どういう意味だ?

 

 

「私も、明日奈さんが貴方に秋波を送っているのを見ている事しかできませんでしたから…。しかも、私も同じように思っているのを知ってる筈なのに、篭絡する為の方法を教えてほしいなんて、正面切って言ってきましたし」

 

「何よ、私が悪いの? …そりゃ、いきなり牽制するような真似をしたのは、ちょっと悪かったかなと思うけど」

 

「いいえ。明日奈さんはただ、自分の感情に正直に行動しただけです。女の側から迫るのははしたない、なんて常識よりも、行動する事が重要だと考えたからでしょう。私は躊躇って二の足を踏み、明日奈さんの後塵を拝した。負けないように追いかければよかっただけなのに、横恋慕になるから、非常識だからという意識を乗り越えられませんでした。それは、私の弱さに違いありませんが………少しは、分かる気がするんです。周りの事を気にしたり、掟を超えられずに躊躇っている間に、気になる方が他の方に言い寄られている。自分では絶対に手が届かないものが、他の誰かに奪われるのを見ているしかない、その心境…」

 

 

 ネトラレを見せ付けられてると言うか、役割的にそうなるのが必然のようなもんだなぁ…。気が狂いそうになっても無理はない。

 

 俺に言わせれば、むしろ当然なんだけどな。

 精神的に変化が激しく安定しない時期に、命を賭けて全うするお役目やら、異性との接触を過剰に禁じる掟やら、中途半端に耳に入る知識やら、それで真っ当な大人に育つ訳がない。

 おまけに、良くも悪くも里人にとって、モノノフにとっても神垣の巫女は特別な存在だ。対等と言える相手が居ないに等しい。

 どんなに良く見積もっても、どこぞの世紀末聖帝様いちご味風味にしかならない。メロン味待ってます。

 

 

「いちご味云々についてはよく分かりませんが、そのあたりの事は霊山で神垣の巫女の間でも不満になっていましたね。大っぴらにではなく、夜中に何人かで集まって、不平や聞いた噂を話し合う程度でしたが。私も当時、それで接吻という行為を知って、興奮で眠れない夜を過ごしたものです」

 

 

 既にいちご味だったか…。この子も極端だけど、橘花って何でああなったんだろうな………尻穴狂いにしたのは俺か。

 

 ともあれ、話を戻すが…歴代神垣の巫女の一部は、まだ雪華の中に残ってる。別に害を与えようとしているんじゃなくて、いきなり力だけ託されても、雪華が制御しきれないだろうから、暫く手伝いに回ってくれるらしい。

 で、この吹雪が終わるまでは人間も鬼もまず行動できない。

 

 となれば、やる事は一つだな。

 

 

「………ご、ご飯ですか? お風呂ですか?」

 

 

 あなた達です。

 

 

「…私……」

 

「………達…?」

 

 

 神夜、秘伝の本に書いてなかったかね? 男と女は、一対一とは限らないんだよ。

 それにまぁ何だ、雪華の中の神垣の巫女達に、気持ちよく(他意しかない)昇天していってもらう為にも、未練を必要以上に昇華させてあげる必要があると思わんかね?

 

 

「え、つまり」

 

「確かに上級者向けの業に、そのような記述があったような」

 

「み、見られたり、見ながら…その、先程のような事をすると…?」

 

 

 うむ。勿論、神垣の巫女の皆さまにも、徹底的に楽しんでいただかなければな!

 

 ん、明日奈、どうした? 神夜の事も認めたのに、今更やっぱり嫌だとは…。

 

 

「ちが、そ、ちょっとゆ………………」

 

 

 …? 突然、明日奈の目から光が消える。ふらっと倒れそうになったのを、隣に居た雪華が慌てて支えようとすると。

 

 

「はいはいはーい! そういう事なら、僕も参加しまーす! 昇天するつもりはないけどね。僕だってそういう経験ない内に死んだし、里の結界維持に一役買ってるから、参加する権利は充分にあるよね!」

 

 

 すぐに目に光が戻り、別人のような口調で自己主張を始めた。

 これからセックスに参加します、なんて言ってるとは思えないような、明るくサッパリした表情。

 

 いや明日奈、いきなり何を………って、木綿季か。そう言えば居たんだよな。

 

 

「ずーっと明日奈と一緒に居たよ。雪華様が居ないのが発見したのは、明日奈が僕を結界石から連れて来た直後だったからね。そのまま祭祀堂に移動する暇もなく捜索さ。明日奈に宿ってるって言っても、力を貸せるミタマとしてじゃないから、文字通り一緒に居ただけだったんだ。力になれなくて悪かったね」

 

 

 明日奈は既にミタマを持ってるからなぁ…。二人同時に宿す事はできんか。

 俺は構わんが…と言うか、明日奈が参加すれば、中に居る木綿季も影響される訳だしな。

 

 

「そーいうんじゃなくて、明日奈の体を借りて、自分でやってみたいの。見てるだけなのは、この数年でもう飽き飽きだよ。出来れば自分の体でやってみたかったけど、それは流石に無理だし」

 

「…ちなみにそれ、明日奈さんは…」

 

「了承させたから大丈夫。昔の恥ずかしい話、色々知ってるからねー。それに、明日奈がこの人とくっついてから、散々惚気話を聞かされてたんだし…。それくらいの役得はあってもいいじゃない」

 

 

 無茶言うとるのぅ…。と言うか、現在進行形で明日奈を無理矢理乗っ取ってないか?

 まぁ、木綿季が悪意を持って何かするとは思わないから見逃すけども…。

 

 

「…見逃されるのも不服だけど、何とも言えないこの口惜しさ…」

 

 

 あ、明日奈に戻った。

 

 

「…私は不服です。元が横恋慕した身と言われると、苦しい物がありますが……その、今日くらいは…二人だけでいられると…」

 

「…非常に言い辛いのですが、私の中の歴代巫女様達が、今か今かと始まりを待っているのです…。ここで断られると、再度怨霊と化して吹雪を起こしかねません…」

 

「え、もう無念は解消されたのでは!?」

 

「無念は消えても、欲求は尽きなかったのではないかと…。人の欲望には切りがありませんし、一度でいいと思っていたとしても、二度目の機会があれば狙ってみるのが人情ではないかと」

 

 

 『一度でいい』と、『一度だけで充分』はまた別物って事ですな。無駄に人間らしい話である。

 まーそれは置いといて。

 

 どっちにしろ吹雪が止むまで時間がかかる。

 この家にある暖を取る為の宝玉は、神夜一人分と予備が少ししかない。どうしたって、くっつき合って節約していくしかない訳だ。

 

 

 話は変わるが、俺が身に着けてる房中術の一つに、体感時間操作ってのがあってな。細かい事は省くが、交合、或いはそれに類する事をしている場合、極端に時間の流れが違って感じる、と言う物なんだ。

 

 

 

「あの、それ本当に房中術ですか? 少しでも戦いに応用できれば、鬼纏を鼻で笑えるようなとんでもない術になるような気が…」

 

 

 その辺は気にするな。俺も実際のところ、どうやってやってるのか今一つ理解しとらんのだ。

 ちなみに神夜の時にも使ってたぞ。そうでなければ、さぁこれから…って時に明日奈が駆け込んできてただろう。

 

 

「…そう言えば、随分長く続けていたのに、まだこんな時間なのかと疑問に思いましたが」

 

「別に狙った訳じゃないんだけど…そもそも予定外の事件があったからだし。ええと、それで? そのとんでもない術が?」

 

 

 うん、手っ取り早く言うけど、気持ちいい事や卑猥な事をすればする程、時間間隔が延長されるんだよね。

 つまり……。

 

 

「……まさか…交わる程に、男女の儀式に没頭できる時間…もとい! この吹雪で閉じ込められている時間が延長され、しかし周囲には何の影響もないと!?」

 

 

 その通ーり。

 そういう訳で、吹雪が治まるまでの間、思いっきりまぐわいまくります。

 歴代神垣の巫女様達を、満足通り越して食傷気味なくらいに幸せを味わわせた方が、雪華に残される力も強くなりそうだしな!

 

 と言う訳で、神夜、早速こっちおいで。

 

 

「えっ!? わ、私、まだ了承した訳では」

 

 

 そういうのいいから。

 軽く引っ張ってやると、簡単に倒れ込んでくる。腰が抜ける程悦ばされてからまだ半日も経ってないんだから、足腰に力が入る訳ないわな。

 抵抗を捻じ伏せて股座をまさぐってやると、そこはすでに熱を帯び、独特の粘り気を持つ粘液が分泌されていた。

 これは…愛液だけじゃない。中出しされた後、そのままにしていたのか。

 

 

「あぅ…だって、後始末のやり方何て、分かりませんし……折角頂いたお情けですから…」

 

 

 かわいいなぁ、もう。じゃあ、そのお情けを皆に見てもらおうか。

 観客は二人だけじゃないぞ。姿形は見えないけど、木綿季も歴代巫女達も特等席でかぶりつきだ。

 

 

「あっ、あっ、だめっ、触ったら、おかしくなっちゃいますっ」

 

 

 抵抗するフリをしながらも、要所要所で自ら股を開き、ノリノリで協力してくれる神夜。

 不満があるのも確かなのだろうが、最初の一人に自分を選んだ事で気をよくしたのだろうか。それとも、積極的に参加して痴態を見せ付ける事で、優位を得るつもりか。

 

 目の前で始まった他者による濡れ場に、二人+大勢の視線が集中する。

 掴みは上々。吹雪きのおかげで、他人の目も声漏れも気にする事はない。さぁ、盛大に楽しもうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、そういう事で3日後…3日後? ずーっと体感時間操作を使い続けていたので、今一つ現実時間の流れが分からない。

 とりあえず吹雪が止んで、ようやく太陽の光が差し込んできた頃、饗宴…いや、性に狂った宴は終わりを告げた。

 

 現在の状況を一言で言い表すなら、死屍累々の一言だ。神夜の家全体に性臭が染みつき、えらい事になっている。消臭玉を10連発しても、誤魔化す程度しかできないと言えばその凄まじさが分かるだろう。ババコンガのフンより匂いが強いって…。

 そしてその真ん中で、死んだように布団に横たわる3人娘+木綿季。

 ベッドの上はもう完全にグチャグチャで、とてもじゃないけど寝かせられたものではない。下の方に埋まっていた、辛うじて無事と言える布団を引っ張り出して、そこに寝かせているのだ。

 寝ころぶ3人は、力尽き、しかし幸せそうな(率直に言えば、だらしなく蕩けた)顔で眠っている。

 

 と、並んだ3人の中の白…雪華がモゾモゾと動き始めた。

 ぼんやりとした顔で体を起こし、大きく欠伸と伸びをする。

 

 おはよう、気分はどうだ? 宿ってた巫女達は、まだ残ってるかな。

 

 

「おはようございます…。先代様達は、皆揃って成仏されたようです。氷華姉さまも逝ってしまわれたようで、そこは残念ですけども。……………」

 

 

 今更、寝顔を見られた程度で騒ぎはしない。寝顔もそうだが、もっと恥ずかしい所を見たり見られたり自分から見せ付けたりと、時間と体力の限りにありとあらゆる行為を行っている。…暫くしたら、麻痺してた羞恥心が戻ってくると思うけど、それはそれで恥ずかしがらせるのに都合が良いので問題ない。

 目を覚ました雪華は、挨拶もそこそこに自分の体を見回している。手首、胸元、乳首、尻…。

 一通り触れて、雪華は残念そうな溜息を吐いた。

 

 

「…やはり、夢なのですね。せっかく、あのような事をしていただけましたのに」

 

 

 俺個人としては別にいいんだけど、流石に跡が残ると他の連中に説明が面倒だからな。夢の中で我慢しな。

 それに、現実じゃ地下室に閉じ込められて拘束具をつけられた挙句、鞭で叩かれて蝋を垂らされなんて、そうそう出来ないよ。鞭に至っては、力加減を間違えると死にかねないし。

 

 

「それは分かっていますが、やはり勿体ないと言いますか…乳首や淫核に、輪をつけられると言うのも中々…あなたの物になったという実感が強く感じられましたし、動物のように飼育されているという感覚も中々」

 

 

 はいはい、それはまた夢の中でな。いいじゃないか、現実に反映されなくても。夢の中でなら、輪をつける為の穴を空ける感触も、何度でも味わえるぞ。

 …会話からも分かるように、雪華はSM嗜好…オシオキ好きを、この数日で思いっきり拗らせてしまっていた。いや、開発したのは俺なんだけども。

 最後の夢の中でのプレイなんて、ボンテージ+ギグボール+三角木馬+両腕は拘束されて天井に吊るされてる状態で、ムチを使って尻をスパァンスパァンしてたからな。どうせ夢の中なんだし、スライムか触手でもやってみるべきだったか。…いやでもオカルト版真言立川流の霊力操作で現実でも出来るし、それはリアルのオタノシミにとっておこう。

 

 

 隣で眠ったままの明日奈と神夜だって、負けてはいない。雪華ほどマゾ性を開花させてはいないが、競い合うように淫靡な行為に没頭し、アピールの為ならどんな卑猥で惨めな行為でも悦んでやるようになっていった。

 と言うより、快楽に負けて余計な事を考える暇が無くなったんだろうなぁ。

 明日奈と神夜のレズプレイなんて、それが如実に表れていた。

 

 

 …ん、この際だし、どんなプレイをしたのかだけでも記録しておくか。最近やってなかったエロ語り的なやり方で、詳細は書かない方向で。

 

 

 

 えーと、まず始まりは神夜を引っ張り込んでからか。

 処女を失ってガチイキし、少し休んだ程度で足腰が回復する筈がない。引き寄せた神夜の形ばかりの抵抗を捻じ伏せて、美肉に思いっきりかぶりついた。

 複数人プレイという状況に戸惑っている二人…木綿季も含めて3人、巫女も会わせると不明…も齧り付きでガン見していた。

 親友の前で思いっきり股を開かされ、「勿体ない」などと言って後始末していなかったブローバックを掻き回され、羞恥で涙目になる神夜に思いっきりブチ込んで善がり狂わせ、もっと恥ずかしい目に合わせてやる。

 

 神夜が一段落して、肉棒を引き抜いたら、それに向かって飛びついてきたのが明日奈だ。

 もし彼女が来なければ、神夜を使って抜かずの3連発くらいを叩きつけていただろう。

 神夜を助けるつもりだったのか、それとも自分が溜まらなくなったのかは…まず間違いなく後者だろうが…ともかくとして、肉を目の前にした猟犬と化した明日奈は、的確に俺の肉棒を狙ってきた。

 親友の愛液と俺の精液でドロドロの肉棒を、他の女の余韻なんて残さないとばかりに舐め清める。

 嫉妬混じりの行為だったが、それは程なくして本能一色に染め上げられたものに変わる。

 明日奈を初めて抱いてから、一週間程度しか経っていないが、それだけあれば充分だ。俺の肉棒に触れただけで、心も体も『その気』になってしまうくらいに仕込んでいる。

 

 欲求のままにオスを貪り始めた明日奈とは逆に、出遅れた雪華には『罰』として自慰を命じる。

 勿論、俺と明日奈の行為を見つめながら、そして俺の目によく見えるように、だ。

 躊躇いながらも逆らう様子を見せず、自分から体を弄り始める雪華。それを明日奈に教えて、横目で見させる。神聖な神垣の巫女が、自分達の行為をオカズにして自慰をしている。

 その状況に興奮したのか、明日奈は背徳感に目を回しながらも奉仕を続けた。

 

 肉棒がすっかり綺麗になって…別の唾液でベトベトだったけど…から、明日奈は俺の上に圧し掛かって来た。騎乗位での交合をご希望らしい。

 自分には他の二人以上に経験があるから、ちょっと見せ付けて優位に立ってやろう…なんて考えもあったのかもしれない。騎乗位なだけにマウントを取るってか。言うまでもなく、そんな経験なんて誤差の一言だが。

 俺の上に乗って交わった明日奈は、いつもとは違う感覚に身悶えした。普段はゆっくりじっくりオカルト版真言立川流に馴染ませて行ってるから、問答無用で暴虐的な快楽はまだ味わわせてなかったんだよね。ちょっと本腰入れて明日奈を気持ちよくしてやると、あっという間にグロッキー状態になってしまった。どんな強者も、ペースを乱されればこんなもの。

 

 

 明日奈がグッタリして呼吸を整えている間に、今度は雪華……と見せかけて、再度明日奈。正確に言うと木綿季ね。

 勝手知ったる他人の体とばかりに、木綿季は荒い息を軽く整えただけで起き上がった。肉体的な疲労自体は少ないので、すぐに動けてもおかしくはないか。

 

 「なんか、体中が敏感になってて力が入らないし、変な感じがする」とは木綿季の言だ。絶頂の余韻だけ感じているんだろう。

 力の抜ける足腰で、「さぁ僕とも!」とばかりに迫ってくる。何というか珍しいタイプだな。討鬼伝世界の人間にしては、貞操観念が緩いと言うか、その場のノリで純潔を捨てようとしていると言うか。GE世界のナナやリカが近いと言えば近いかな。

 お望み通りに受け入れたり挿入したりしたが、イッたばかりの明日奈の体を勝手に使っている訳だし、そう激しい事をする訳にはいかない。木綿季自身も初めてである事を考えれば猶更だ。

 無茶苦茶になってしまわないよう、スローペース、優しい愛撫と腰使いで責め立てて再度絶頂させた。

 

 …その後、ちょっと態度が変わったなぁ。甘えてくる…と言うより、あれは初めて彼氏に浮かれる女の子の顔だ。意外とベッタリしてくる性格だったらしい。

 

 

 動けない木綿季と軽いピロートークなんかしていると、自慰では我慢しきれなくなった雪華が乱入してきた。…あれは、中に残ってる巫女達に嗾けられたな。

 拙い接吻を受け止めて、正常位で結合。オシオキや自慰の命令とは打って変わって、優しく愛でるように抱く。

 自慰を続けていた彼女の秘部は、すぐにでも俺を迎え入れられる程に解れていた。…自慰による刺激だけでなく、初めての男が目の前で他の女を抱くのを見せ付けられる…という状況も彼女好みだったらしい。どんだけ自虐的というかマゾ性癖持ってるんだか。

 勿論、彼女の中に残っている巫女達にまで、性感を届けるのも忘れない。

 程なくイキッ放しの状態になったので、人生で二度目の中出しを体験させてやって一段落。許しを請うまでヒィヒィ善がり狂わせるのは本懐だが、まだまだ夜は始まったばかり。ここで体力を削るのは得策ではない。

 

 

 雪華はダウンしたが、今度は氷華…ではないな、他の巫女が雪華の体を動かし始めた。興味津々で肉棒に手を触れ、今にもしゃぶりつこうとした時、神夜の乱入。

 理性と倫理が崩れ去り、欲望が残った神夜と巫女の間で火花が散った。…が、おちんぽビンタを受けて止まった。喧嘩するくらいなら、どっちが気持ちよくできるか張りあってみんかい。

 

 そう言うと、心得たとばかりに神夜が唇で奉仕を始めた。家伝の業がある分、初体験直後同志の張りあいなら負ける事はないと踏んだのだろう。

 しかし、対する巫女も中々の物。生前にこっそり調べたと思われる行為を繰り出してきた。

 細かい部分まで配慮が行き届いているが、練度が足りない神夜。聞きかじりの知識しかないが、それが逆に大胆さを生んでいる巫女。

 中々面白いコンビだった。

 

 そうやって張りあっている間に、明日奈も復活。木綿季は明日奈の中で順番待ち状態だそうな。

 

 ともあれ、愛と欲望と女の意地とマゾヒスティックな性癖と、その他諸々がごった煮となり、神夜の家は完全にサバトの会場と化した。

 そこから先は、もう絡み合い睦み合い愛し合いで、ただ只管に淫靡な行為に耽った。

 

 並んだ3人を四つん這いにさせてバックからなんて当たり前。

 犬の真似でオネダリだって、恥ずかしがってるけど嫌とは一言も言わなかった。

 レズプレイの教材として、拘束した雪華をフェザータッチで焦らしまくり、全身が性感体になるくらいまで敏感にさせたり。

 感覚共有能力を使って、神夜にフェラされる感覚を味わわせたり…本来なら存在しない男性器から送られてくる快感に、悲鳴を上げて身悶えしていた。

 双頭ディルドーをつけた明日奈に神夜を犯させ、その状態で雪華を抱きながら感覚共有したり。泣きながら神夜に謝り、しかし快感に逆らえずカクカク腰を振る明日奈は可愛かった。

 逆に、俺がされるがままになった事もある。3人がかりで、足を使ってあちこち弄り回されるのも楽しいものだ。アングル的に非常にオイシイ。

 風呂に入る時は大変だった。ちゃんと流しておかないと、湯船がエラい事になるからなぁ…。ローションプレイもしてみたから猶更。

 

 

 そうやって、ちょっとでもこの時間を堪能し、そして長引かせようとしていた俺達4人+沢山だが、流石に限界と言うものはある。

 セックスの疲れはセックスで癒せる…オカルト版真言立川流を使えば、それこそ延々とヤッてられるが、栄養の補給まで出来る訳じゃない。体内に蓄えられているエネルギーを効率的に使わせる事で、一時的な活力を与える事はできるが、どうやったって腹は減るのだ。

 ぶっ通しでセックスするのもいいけど、飯も食ってちゃんと眠って、他愛無い遣り取りも楽しみましょうと、オカルト版真言立川流指南書の序盤にも書いてある。

 まぁ、飯食ってる間にも、その準備をしている間にもエロい事できる訳だが。

 

 

 飯の時間で言えば、3人の明確な違いがよーくわかった。

 ここは神夜の家だから、彼女の飯が食えるかなーと思っていたんだが、逆に「家主権限で、明日奈さんにお料理お願いします」なんて言い出した。雪華に頼まなかった理由は…まぁ、お察しだ。

 当の神夜は、胡坐をかいた俺の膝の上に寝そべっている。腿に頭をつけて、ゴロゴロと甘えるワンコのようだ。勿論裸(或いはエロコスチューム)なのでいい目の保養になる。背筋からうなじのラインもグッと来るし、逆側に目を向ければむっちりヒップが『いつでも触っていいですよ』とばかりに揺れている。実際、手持無沙汰な時に撫で回していた。

 

 料理当番を振られた明日奈はと言うと、「仕方ないわねぇ」なんて言いつつ、裸エプロンでいそいそと料理に向かう。俺の視線を感じ取って、何もしなくてもゾクゾクしちゃっているのがよく分かった。

 料理当番自体、楽しんでやっている節がある。背後で神夜が俺を独占して甘えていても、鼻歌を歌う余裕さえあった。

 

 …初めて抱いた頃から、何かと世話を焼きたがる所が見えたが……まぁこういう事なんだろうな。

 明日奈が理想とする立ち位置は『お嫁さん』。旦那さんの世話をする事も含め、一緒に過ごす時間が何より好きなんだろう。

 対して、神夜が好む立ち位置は『ペット』或いは『父親に甘える子供』だ。父親や飼い主とセックスするペットがいるかという発現は置いといて、とにかくただただベタベタしたい。

 つまりは、団欒する父親母親子供が揃っている訳だ。そりゃ、料理当番だって嬉々として引き受ける。

 

 

 …雪華? ペット通り越して、性奴として俺の足舐めてたよ。…うん、やっぱ神夜は子供(超ファザコンJK。制服を着るとイメクラにしか見えない)で、雪華がペットって事で。

 

 

 

 飯を食った後、そのまま再開するのもなんだから…って事で、ちょっと興味深い話になった。

 神夜が、一家に秘伝として伝わっている、床の技術書を見せてくれたのだ。

 

 

「…神夜、いいの? 私も最初だけ前に見せてもらったけど、相当に渋ったじゃない…」

 

「構いません。私達の仲じゃないですか。これから、形はどうあれ一家になっていくんです」

 

「一家と言うか姉妹と言いますか…はい? …竿姉妹? 姉妹にはなりますが、竿とは何でしょう」

 

 

 歴代神垣の巫女、分かっちゃいたけど割と俗な知識もってんなぁ…。 

 

 

「そもそも、私にも教えてくれるお母様は既に亡くなっていますし、このままだと理解すらできずに失伝してしまうのが目に見えているんです。読み解き、そして実践して理解するのに力を貸してほしくてですね」

 

「そういう事ならいくらでも」

 

「私も同じくです。自分で耳年増という程自虐するつもりはありませんが、霊山で仕入れた知識も惜しまず提供いたしましょう」

 

「お願いします。…とは言え、一番当てにしているのはこの方ですけども」

 

「まぁ、明かに体系だった業として身に着けてるものね…」

 

「では、まずはこの辺りの記述なのですけど」

 

 

 ああ、そこは別に捻った意味はないぞ。文字通りに、ここをこうして、こう、圧しつけてな。

 

 

「じょ、女性の方から!?」

 

「自分から床に招き入れたあなたが言う、神夜?」

 

「それを言い出したら、明日奈さんも。物凄い勢いで迫ったと聞いていますが」

 

 

 俺に抱かれる為に、現在進行形で大騒動を起こしているお前らがゆーことじゃねーな。

 

 

「では、こちらは? 呼吸について書かれていますが、これは何の為でしょう」

 

 

 呼吸は重要だぞ。受け入れるにしても弾けるにしても貯めこむにしても、絶対に必要なものだ。

 これは……喘ぎながらも充分な呼気を取り込む為の呼吸だな。激しすぎて呼吸ができない、という状況を防ぐ為のものだろう。

 

 ふむ…オカルト版真言立川流と違って、完全に女性視点から書かれた技術書だな。中々参考になる。

 

 

「……あの、これ、やってみても…」

 

 

 勿論良し。何処に興味を持つかで、性癖の違いがよく分かるね。

 尚、この会話の間も体感時間操作を維持する為、乳尻ふとももその他諸々にセクハラしまくっています。嫌がられてないからハラスメントにはならないけども。

 

 

 吹雪が晴れるまで、大体こんな感じだった。

 まぁ、多少の揉め事もあったけどね。危うく木綿季が昇天しそうになってしまったり、歴代神垣の巫女達が、見ているだけでなく自分でもやってみたいと言い出して、雪華の体を借りて…それだけならまだしも、人数が人数だからなぁ。それをやると、雪華の体にばっかり集中しちゃう事になる。

 それも含めて、万事問題なしと言えるだろう。そーゆ―事にしておこう。

 

 誰がどれだけ、ナニをしたのか数える気にもならなくなり、俺自身も流石に疲弊してきた頃、外の吹雪が止みかけている事に気が付いた。

 名残惜しいが、一区切りの時間だ。

 もう一回、もう一回だけと懇願する彼女達を失神させ、更に夢の中でスゴい事してやると約束して、強制的に休憩を取らせた。

 吹雪が止んだら、雪華の護衛の人達がすぐにでも安否を確認しに来るだろうから、理性ぶっ飛び・情事の痕跡満載・残り体力0の状態を見せる訳にもいかなかった。

 軽い隠蔽工作と、消臭玉乱舞して俺自身も眠りについた。

 

 

 …そうそう、歴代巫女達は、結局は全員が成仏した。色んな意味で満ち足りた笑顔で、礼を言いながら薄れていったよ。

 正直、成仏したって言っても色欲地獄に行きそうな気がするが、そこは置いておこう。

 彼女達の力は雪華の中に残され、神垣の巫女としての霊力は大幅に強くなった。色々とトラブルはあったが、結果的には収支黒字だと思う。

 

 

 

 

 一眠りして起きた後、護衛の人達との一悶着とか、事の説明とかで結構ゴタゴタしたんだが、それはまた今度書くとしよう。

 

 



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417話

絶賛悪循環中。
店長とソリが合わず、何をやっても叱責されるばかり。
会いたくないし顔も見たくないので、なるべく接する時間を減らす。
すると後から「相談しろ」と叱られる。
やっぱり会いたくなくなって、もっと相談しなくなる。
仕事が上手くいってないと、私生活も暗くなって執筆も滞る。いくえ不明。


…キングダムハーツでもやって、気分転換するかな。
エスコンはエキスパートモードでイージーをクリアできたので、今後は一日につき1ミッションずつ進めていこうと思います。
最後のミッションの狭い所の飛行が、どうしてもノーコンティニューできないけど。
赤いランプの道を目印に、できるだけ低速で軌道を合わせ、上向きに…。

……エスコンの外伝は難しいな…世界観と言うか戦闘ステージが違い過ぎる。
キングダムハーツの外伝……は危険な気がする。名前を出さなきゃなんとか行けるか?



魔禍月 弐拾録日目

 

 

 さて、一休みして、雪掻きと周辺の鬼討伐と被害状況とその他諸々の確認も終わったので、先日何がどうなったか書いて行こうと思う。

 予想通り…いや、予想よりも早く、雪華の護衛達は神夜の家に押しかけて来た。と言うか押し入って来た。それはもう、犯罪者を捕縛しようとする警察…いや、機動隊とかSWATの如く。

 

 その時には既に、雪華は普段通りの姿に戻っていた。しっかりと情事の跡も洗い流し、巫女服を着こんで凛とした雰囲気……正直、雰囲気だけと言われても反論できんが……で対応した。

 護衛達が来る前に、「上手く誤魔化せたら、ご褒美に虐めてくださいね」なんて言いながら股間を弄ってきた辺り、完全に雌奴隷が定着したようだ。

 

 乱入してきた護衛達のおかげで神夜と明日奈も目を覚まし、とにもかくにも状況を確認したいと、寒雷の旦那の所へ連行された。

 まぁ…手を出したの、一目瞭然だものなぁ…。雪華の言動は普段と変わりないけど、雰囲気が明らかに変わっている。一皮剥けたと言うか、艶やかさが増したと言うか。

 …さっきから、扱いが準犯罪者だなぁ…。そう言われても仕方ない事をやってたし、雪華に手も口もちんこも出したが、そこは合意の上なんだが。

 やはり何か、事情があるんだろう。雪華に女性の護衛しか付けなかったのと同じ理由か。

 

 

 

 ともあれ、寒雷の旦那と牡丹の前に連行され、事の次第を説明した。

 R-18部分は適当に誤魔化したが、普通にバレバレである。牡丹の面白がるような顔が印象的だった。…こういう時だけ、ハッキリ見えるようになりおって。

 

 説明した内容は、大体は神夜の家で雪華がしたのと同じ説明だ。

 それを聞いた寒雷の旦那は頭を抱えてしまった。

 

 

「生前の未練、ねぇ…まぁ、分からなくも無いわ」

 

 

 話を聞いた牡丹は、意外と冷静だった。彼女もかつては神垣の巫女で、尚且つ里長という異例の立ち位置に居る訳だが…。

 同意なんてしてしまってもいいのか。

 

 

「許される事じゃないけど、頭ごなしに否定できるようなものでもないわ。産まれた以上は一度くらい…と思うのも分かるし」

 

 

 まぁ、ねぇ…。なまじ知識を持っちゃっただけに…か。いっそ何も知らなければ、その苦しみを知らずにいられたろうに。

 それが救いになるとは思わないけど。

 

 と言うか、何というか…本当に牡丹が冷静だなぁ。

 

 

「ん? だってね………あれ、言ってなかったっけ? いうような事でもないし…。私、子供産んだ事だってあるんだよ」

 

「「「えええええ!?!?!?!?!?」」」

 

 

 デジマ!? もといマジで!? 本当に!? 一夜どころか出産まで経験済み!?

 年齢的には……お、おかしくはない…か? 牡丹の生きてた時代が何時頃なのかよく分からんが。

 

 

「まぁ、その直後に死んじゃったんだけど…」

 

「おいおい、そりゃ俺も初耳だぞ」

 

「話すような事でもないし。…あの子が生きて、私達の血筋が続いていたとしても、里のこの状況で言うのも良くないじゃない。その子達を特別扱いするみたいで。そもそも、本当に血が繋がってるのかも分からないし」

 

「その…旦那様とは、どのような経緯で?」

 

「あ、別に結婚はしてないよ」

 

「…はい?」

 

「私が生きてた頃は、神垣の巫女も前線で戦わなきゃいけないくらいに追い詰められた…っていうのは知ってると思うけど。一緒に初陣を乗り越えた子と、ついつい…」

 

 

 ああ、戦いの後に滾るのはよく分かるな。どの世界でもそれは同じだ。

 それで衝動に従って経験してしまったと。

 

 

「そういう事。問題になりそうだから、暫く隠して付き合ってたんだけど、その子には異動の命令が来てね。名残惜しかったけど、それっきりだよ。そしてそのもう少し後に、妊娠してたのが分かったって訳」

 

「はぇ~……人に歴史あり、ですねぇ。と言うか、その状況でよく出産できましたね…」

 

「堕ろせっていう声も少しは上がったけど、そんな技術も薬も無いし。幸い私の次の神垣の巫女も育ってたし、最終的には皆認めてくれたんだ。…結局、あの子を産んで少しして…私も戦わなきゃいけなくなって、鈍った体に鞭打ったんだけど……結果はね」

 

 

 普段から明るく快活な牡丹だが、この時ばかりは後悔を滲ませる。戦って死んだ事を後悔しているのか、その後の子供の事を案じているのか。

 

 

「…名前もつけてあげられなかったんだ…。光輪疾風漆黒、までは考えたんだけど」

 

 

 ……こいつ、くたばってよかったのかもしれない。時代にそぐわないトンデモキラキラネームをつけられたかもしれない子供を想うと、涙が溢れそうになる。

 

 

「まぁとにかく! 話が逸れたけど、皆の無念は解消されて成仏して、その置き土産として雪華の力が強くなったって事ね。…確かに、これは凄いね。力の強さだけなら、霊山君並みじゃない?」

 

「流石にそれはないと思いますが……正直な話、私も力の大小が今一つ掴めず難儀しています。普通に結界を張るだけでも、今までよりも数段強力な物が出来上がり、そして自分の体にかかる負担は全くありません」

 

 

 現状の結界の強さで充分なら、命を削って結界を張る必要が無くなった訳か。それはめでたい事だな。

 と言うか、霊山君ってどれくらいの力があるんだろうか。組織の象徴、トップとしての役割なのか、それとも巫女を含めたモノノフ達の長として相応の力があるのか。

 …同じように力の継承を行えるなら、後世の巫女の負担も小さくなっていきそうだが…流石にそれは難しいか。

 

 

 

「そうですね。今回は、巫女様方の怨念と、それを解消する方法があったからこその結果です。例えば私から明日奈さんに霊力を譲渡しても、出来るのは一時的かつ効率の悪い強化のみになります」

 

「そうすると………木綿季や本願寺顕如様を、結界石の彫像に留めておく理由はあります? 別に邪魔と言っているのではなくて、別の事に力を貸してもらえれば…」

 

「木綿季はともかく、本願寺顕如様はあの結界石に留まってほしいな。こいつがやらかして作り出した、異界に通じると思われる穴の調査・監視も必要だ」

 

 

 フヒヒ、サーセンw

 まぁ、あそこは調査しないとなぁ…。あと、ちょくちょく現れるらしい謎の塔も。

 

 

「おう、その塔ならまた目撃報告があったぞ。吹雪が止む頃、里に近い場所に出現していたらしい。また消えたようだが」

 

「調査と言えば……さっきの話にあった、天然の結界石の洞窟も気になるね。里に近い場所にあるらしいけど、そんな物があったなんて聞いた事もないよ」

 

「…前お頭が、何かやらかした時の為の脱出路として作っていたとか?」

 

「有り得る…。でもそうなると、どこまで続いてるんだろう」

 

 

 反響からすると、奥はえらく深くて複雑だぞ。一町(約110メートル)や二町じゃ済まないかもしれん。

 入口付近しか見てないから、確かな事は言えないが…。

 

 

「…城や前お頭も気になりますが、これは最重要調査事項ですね。結界石の洞窟だからいいものの、もし鬼が通れるような洞窟が里の近くにあったとしたら…」

 

 

 忍び込まれる、か。結界石だって、いつまでも効力を保っている訳じゃない。場合によっては潰さなきゃいかんかもな。

 

 

「明日奈の懸念も分かるんだけど、私はむしろ逆の事を考えてるよ」

 

「逆?」

 

「…もし、その洞窟が本当に深く長い…異界を超えて行けるんじゃないかと思ってね。出口は掘らなきゃいけないかもしれないけど」

 

 

 …! 確かに…。

 でも、山一つ分超えられたとして…出た先が異界かどうかは分からないなぁ。

 

 

「地理的に考えれば、山一つ越えれば近くに別の里があるんだけど……そこが残されてるかは分からないね。異界に沈んでるかもしれないし、鬼に滅ぼされたかもしれない。まだ残って抵抗しているかもしれない」

 

 

 ふむ…毎度毎度のこととはいえ、重要な調査対象が次々に増えるものだ。しかも結論は出ない奴が。

 全く手が足りない…いい加減にしてくれないもんかねぇ。

 

 

「…うん?」

 

 

 ん?

 

 

「…言っておくが、この件に関してはお前達の手を借りるつもりはないぞ」

 

 

 …あん? どういう意味だい、寒雷の旦那。

 

 

「単純な話だ。お前達の立場は何だ? 練武戦での成績で仮初に着けた役職とは言え、異界浄化を専門とする部隊だぞ。他の事は俺達でやるから、お前らはそっちに集中しろって事だ」

 

「ま、単純に考えても、今の里の最大戦力を投入する必要なんかないからね。塔に関しては有害無害も分からない上に、何処に出現するか予測もできない。洞窟は天然の結界石でできてるみたいだから、鬼が簡単に入ってこれるような場所じゃない。鬼の世界に通じているかもしれない穴は…現状じゃ何も現れないしねぇ。そもそも調べるなら、もっと余裕と言うか備蓄を持って、専門家を連れて行って調べるものだよ。そういうの、出来る?」

 

 

 自慢じゃないが、予測とか妄想は出来ても検証なんぞ出来ん!

 

 

「難しい事は苦手極まりないです」

 

「…この二人と同列に扱われるのは少々心外ですけど、流石に専門的な事は…」

 

 

 …しかし、確かにそう言われればその通り。絶対に俺が関わらないといけないなんて理由はない。

 成果が出るかも分からない、危険があるかすら定かでない調査に関わるより、現状で最も大きな問題である異界を片付けろ…と言うのは理に叶った話だ。

 

 

 しかし、そうなると誰が担当するんだ?

 

 

「…泥高丸が第一候補だ。しかし、奴も奴で里の守りの要だしな…」

 

「今の私なら、ちょっとやそっとでは鬼に破れない結界を張れますが」

 

「雪華、その認識は危ないよ。神垣の巫女の先達として言うけど、結界っていうのは強力なだけじゃなく、精密でないといけないよ。結界の強度にだけ目を取られていると、強力だけど小さな穴が沢山開いた結界が出来る。鬼って言うのは、そういう隙間から入り込むのが大得意なんだから」

 

 

 むぅ、と不満げに呻く雪華。しかし浮かれている自覚はあったらしい。…色んな意味で浮かれている自覚がね。

 

 泥高丸は、基本的に里近辺の警護とすると……他に候補は…。

 

 

「あ、兼一君はどうかな。鍛えてるんでしょ」

 

 

 白浜君? …正直に言えば、無茶言うな…としか言えんな。即席で効果が出るように鍛えてるとは言え、まだ一か月も経ってないんだぞ。

 …いやしかし、確かに実戦の空気を感じさせておくべき段階には差し掛かってるが…。

 

 

「好都合じゃない。洞窟の調査に参加させようよ。主力として使うんじゃなくて、あくまで経験を積ませる為に。場所は結界石の洞窟だよ。下手な場所よりずっと安全だし、鬼からの奇襲の予兆があれば分かりやすい。いい経験になるんじゃないかな」

 

「…牡丹様、実戦経験と言うか、肝試しみたいな感じで考えてません?」

 

「ん、まぁ否定はしない。でもあの子はいざとなったら肝が据わるけど、それまでは泣き喚いて悲鳴を上げながら頑張る子だからねー。早い内に慣れさせておいた方がいいと思うよ」

 

 

 理由になっているようないないような。まぁ、確かに一気に奥まで踏み込むような真似をしなければ、危険はそうそう無いだろう。

 体を鍛えるのと並行して、野営の技術とかも仕込んでるからな。洞窟の中で迷っても、一週間くらいは生き延びられる。

 

 

「それ、何気に凄いと思うんですけど…。と言うかいつの間にそんな技術を伝えてたんです?」

 

 

 ハンター式の訓練方法だから、肉体鍛錬のやり方の中に知識伝授も含まれてんだよ。鍛えてる間に自然と覚えるって言うか。

 …あ、そういやもう一つ問題があったな。白浜君、まだミタマを宿してないんだよな…。

 

 

「あ、それなら大丈夫。私が宿るから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 は?

 

「「「「「『はぁっ!?』」」」」」

 

 

 今まで黙っていた木綿季も含めて、思わず声が出た。

 

 

「え、ちょ、ちょっと牡丹様!? 里長!? 何でいきなりそんな話に!?」

 

「だって、見ていて危なっかしいって言うかさー。大体、私だってミタマだよ? モノノフに宿れば戦えるんだよ? それがこうして祭祀堂に引っ込んでるって、どうなのかな」

 

 

 ミタマである以前に、あんた里を纏める長だろうが。本当に白浜君に宿って、万一それで鬼に殺されでもしたらそのまま腹の中だ。そうなったら、誰が里を纏めるんだよ。

 

 

「寒雷。今後、霊山や他の里と接触できる可能性は高くなるんだから、ミタマが里長やるよりも、生きてる人間の方が話が早いでしょ」

 

「それは……そうかもしれんが…何もそこまで相手に合わせる必要も…」

 

「駄目駄目。こっちは長く孤立して、外の状況なんて全然分かってないんだから。少しでも話がうまく進むよう、手を尽くしておかないと」

 

 

 むぅ……まぁ、それは…そうだが…。俺だって、最初はミタマが里長と聞いて戸惑ったからな。

 それで偏見を持ったつもりもないが、組織のお偉いさんが相手だと一悶着ありそうだな。

 

 

「牡丹も、里長って意味じゃ組織のお偉いさんなんだが……と言うか、俺にこれ以上権力を集中させるのはまずいんじゃないか。今でさえ、里の流通や物資を一手に引き受けている状態だぞ」

 

「そもそも、白浜さん自身はどうなんでしょう? ミタマを宿していないのは知っていますが、牡丹さんで了承するんでしょうか?」

 

「立場を無視して考えれば、特に問題はないと思うけど…」

 

「と言うより、あの子が危なっかしいから私がちゃんと見ていようって事だよ。こう言っちゃなんだけど、あの子の才能の無さ筋金入りだよ。徹底を通り越して生まれ変わらせる勢いで鍛えて、ようやく…ってところだもの。あなたはこれから兼一君を鍛える時間だって減るだろうし、だったらお目付け役が必要なんじゃない」

 

 

 それを言われると、反論できんな…。鍛え方こそ教えてはいるが、思った以上に中途半端と言うか放置状態になっているのは申し訳なく感じている。

 

 うーん……分かった。

 俺は条件付きで賛成。

 

 

「おいおい…本気か?」

 

 

 …一応。俺達より戦略的に頭が回る牡丹がこうまで言ってるんだから、少なくとも目に見えた破綻の予兆は無いんだろう。

 実際、白浜君を鍛えるにしても、経験を積ませる必要はあるし、それ以上に補助と言うかお目付け役が必要だと思ってたし。

 条件…立場の問題さえどうにかなれば、むしろいい噛み合い度合いだと思うぞ。

 牡丹は戦いの経験もかなり豊富のようだから、助言役には丁度いい。

 

 

 で、肝心の条件だけど…次の里長を見つける事だ。

 寒雷の旦那以外にな。実際、寒雷の旦那にこれ以上権力…よりも、役割を集中させるのはちと不味い。権力云々よりも、手に余るだろう。

 

 

「そうだそうだ。いくら俺でも、限度って物がある」

 

「…普段から余裕そうな顔しておいて、よく言うわ…」

 

「うるせぇ。里の連中から不満が出ないように物資を差配して、いざと言う時の貯蓄まで作ってんだぞ。簡単な訳がないだろうが」

 

 

 そらそうだな。

 次のお頭じゃなければ、何だったら前お頭でもいい。確定した情報じゃないが、例の消える塔の中に居るんじゃないかって話はしただろう。

 とにかく代わりの纏め役を作れって事だ。

 

 

「あの、それって凄く難しい事では…。今の里で、誰が牡丹様の代わりを務められると?」

 

「雪華…は無理よね。慕われてるとかはともかく、神垣の巫女だもの」

 

「ミタマが里長になったのだから、巫女がなっても不思議はないと思いますが…」

 

「いえ無理です。私が里の方針を決定するとか普通に無理です。備蓄の量とか、それを何にどれくらい使うとか、そんな事全然分からないんですよ!?」

 

 

 雪華は単純に不向き、と…。俺も無理だな。一応組織の長やってた事もあるけど、上手く回ってたのは俺の力じゃない。方針だけを決めるにしても、立ち去る予定の俺に任せるのは論外だ。

 …いっそ、白浜君に…。

 

 

「それ駄目じゃん。足りない物があるどころか、足りてる物があると何故思えるってくらいじゃない。そもそも、私が宿ってるのに里長やってたら、結局意味ないわ」

 

 

 だよなー。んじゃ木綿季…。

 

 

「里を滅ぼす気ですか?」

 

「寝てます。『ぼく難しいこと分かんない』って言って、さっきから寝息が頭の中で響いてます」

 

 

 明日奈は木綿季につられたのか、ちょっと眠そうだった。

 まぁ、流石に木綿季はねーよな我ながら。

 

 

「うーん……私は…正直、納得できません。里長は牡丹様で、わざわざ白浜さんに宿って戦う必要はないと思います」

 

「私も同感だけど、そもそも私達に決議権はないし…」

 

 

 明日奈と神夜は、立場的には一般モノノフで、この話には偶然居合わせただけからな…。俺も本来はそうなんだけど。

 

 

「話が逸れたな。牡丹が戦うのを認めるかは、俺と二人でしっかり話し合う。お前達はこれまで通り、異界浄化に専念してくれ。塔の探索は偵察部隊、洞窟の調査は…こっちで隊員を選別する。異論がある者は? ……特に無いな。それじゃあ、この場は一旦解散だ」

 

 

 へーい。

 

 

 

 何だかんだで(セックスしかしてなかったけど)疲労も蓄積しているし、一度落ち着いた方がいいね。

 今回の騒動…神垣の巫女の怨念の事も、どこまで公開するか悩みどころだ。その辺の舵取りをする牡丹と寒雷の旦那がこれまでと言うのだから、素直に従った方がいいだろう。

 

 

 ゾロゾロと外に出て、それぞれにどうするのか問いかける。

 

 

「私は家の掃除です。主に寝具の」

 

 

 うん、このままじゃ使えないくらいに各種液体が染みついたからね。

 

 

「私も家の様子見ね。積雪で何か壊れてるかもしれない。と言うより、まず雪掻きをしないと」

 

 

 それは俺もだな。と言うより、里全体がえらいことになってるもんなぁ…。雪だるま作って遊んでる場合じゃないよ。

 あと木綿季はどうすんの?

 

 

「とりあえず結界石に戻そうかと。雪華の負担が軽くなったとは言え、結界を張る協力者がいるに越した事はないし」

 

「私は結界の調整があります。牡丹様も言っていましたが、力に慢心せず、しっかりとした結界を張らないと。…それまでは、木綿季さんにも助太刀をお願いする事になると思います」

 

 

 ああ、頑張ってくれ。…さっきの状況を上手く誤魔化した『ご褒美』は、まだ今度な。

 

 

「……はい♪」

 

 

 一人だけずるい、とわーわー騒ぎ始める明日奈と神夜。そんなに虐められたいのかとからかおうとして……慌てて俺は引き返した。

 数メートル程度の距離を全力疾走(鬼疾風付き)し、全力で扉を開け放つ。

 

 

 寒雷の旦那ァ! 牡丹!

 

 

 

「うおっ!? な、なんだいきなり! 扉…と言うか家を壊す気か!」

 

「あ」

 

 

 

 ぼとぼとぼとぼとぼと

 

 

 

 …衝撃で屋根から雪が落ちて、思いっきり埋まってしまったが、それはどうでもいい。

 旦那と牡丹が、密かにネンゴロな関係になっていてさぁこれから、というシーンだったら面白かったけど、それは無かった。…牡丹、体が無いしねぇ。

 

 なぁ旦那、塔の調査にせよ洞窟の探索にせよ、絶対に絶対に絶対に絶対に! 徹底的に! 破ったらムラハチにするのも辞さないくらいの勢いで!

 隊の規則とか作るなら、一番最初に刻み込んでほしい!

 

 

「何だよ、そんなに重要な事なのか」

 

 

 重要だ。これで馬鹿な事をやらかしたモノノフを、俺は何人も知ってる。中には不可抗力的なのもあったけど、これ一つ念頭に置いて行動してくれれば、どれだけ話が楽だったか。

 

 

 たった一言だけで済む。

 

 

 絶対に、一人で先走るような真似をしないように!

 

 

「…そりゃ確かに重要な事だが……そこまで念を押す事か? 他の里はモノノフ一人で戦う事もあるだろうが、この里では最低3人、4人での戦いが当たり前だぞ。祓円陣を前提に行動してるからな」

 

 

 念を押す事だ。

 半人前扱いされ続ける事に反発したり、身内の仇だってんで自分の手で倒す事に拘ったり、鬼の術にかかってまんまと誘い出されたり、異界奥の活動限界時間が足りない部分に行かなきゃいけないからって自己犠牲前提で突っ込んだり、とにかくモノノフが特攻精神を発揮した例はきりがない。

 意気込みと覚悟は大したもんだが、俺に言わせりゃ大抵の場合は愚の骨頂だ。

 鬼一匹をモノノフ一人の命と引き換えに倒したとして、差し引きが取れるとでも? そんな訳ないじゃないか。

 単純に数で考えても、人間よりも鬼の方がずっと多いんだ。一人のモノノフで100匹の鬼を倒しても、まだ足りない。

 「生きて帰ってくるのが最大の勝利」と言うが、戦略的な意味でも同じ事が言える。

 自己犠牲を前提に戦っていいのは、それによって得られる対価が自分の命以上に価値があり、それが自分以外には出来ないと証明できる時だけだ。

 

 

「そこまで熱く語る理由の方が分からないけど、分かったよ。白浜君だけじゃなくて、他の皆が無茶をしないかも気にしておく」

 

 

 頼むよ、本当に。もう一人で突っ走った誰かさんを連れ戻すとか、面倒な事は無しにしたいんだ。

 

 

 …ん、牡丹、どうした?

 

 

「ちょっとこっち来て。…あのさ、白浜君を鍛えるついでに、色々教えてあげてくれない? その…沢山の巫女達を満足させた術を」

 

 

 ……お前、それ……野郎にそんなもの教え込めと言われても。そもそも、これって体質的な問題で、普通の人には出来ないらしいんだが。

 

 

「別に全部教え込めって事じゃないよ。簡単な事でいいからさ。あの子も里では珍しく、『お相手』が居ないから」

 

 

 そうなのか? 今後、誰かと出会った時の為に…って事か。その程度なら………ロミオの二の舞にならない程度に(←ここ重要)教えるのも吝かではないが。

 しかし、随分気に掛けるなぁ。

 ひょっとして、血が繋がってるかもしれないって…。

 

 

「いやいや違うよ! 孫かもしれない相手と交わろうなんて思わないって……ぁ」

 

 

 ………うん? 交わる…?

 孫かもしれない相手? ……いや、それは否定の根拠だから、孫…血筋の者ではないというのは確定。

 ……さっきの要求は、普通の房中術じゃなく、『沢山の巫女達を満足させた術』を教えろって事だったよな。

 

 お前…まさか……?

 

 

「…無理強いするつもりはないけど、まぁ、機会があればもう一回くらいは…白浜君は、個人的に好感度高いし。上手く相手が見つかって、その相手が了承してくれたら……」

 

 

 

 

 ……この里、肉食系が多いなぁ本当に。

 多少の事は教えてもいいから、もう好きにしてくれ…色事に関して、他人を非難できるような人間ではない以上、俺からはもう何も言えない…。

 

 



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418話

 

 

 

魔禍月 弐拾漆日目

 

 

 色々あったが、とりあえず異界探索を再開する。異界の中も相当派手に吹雪いたようだ。日光が遮られ、元々気温が低い事もあって、雪が溶けるにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 必然的に、調べた地形でも全く違った形になってしまっている。…そこかしこで、鬼達が縄張り争いを繰り広げる気配も感じられる。

 あの吹雪が鬼達にとっても不快な物であるのは事実だったらしい。

 

 

 

「それで、何処をどう探します? 色んな事が変わってるみたいですけど」

 

 

 そうだな。地形も違うし、植物も色々変化しているようだ。一週間にも満たない吹雪だったのに、それに適応して姿を変えたのか…異界ってのは分からんな。

 とは言え、既に探した場所には結界石の彫像は無いと思うが…。

 

 

「どうかな…。異界の流動という現象もあるじゃない。近辺の植生が急に変わったのも、適応したからではなく、流動が起きて文字通り別の場所になったからでは?」

 

 

 …確かに。流動にしては早すぎるとも思うが、そもそもどういう基準で流動が起きてるかもわからない。

 ん、待てよ? 結界石の彫像がある場所自体が移動したら…。

 

 

「それは無いと思います。今までの彫像は、異界を生み出す素になっていたじゃないですか。ですから、この近辺の異界の何処かにあるのは間違いないと思います」

 

 

 ふむ、それも一理ある。

 

 ん~…悩みどころだが、ここは最初に戻ったと思って、一から調べ直そう。この辺で採取されていた資材も、最近では有効活用され始めていたし、それが無くなるのは里にとって痛手だろう。

 調査のし直しと考えると面倒だが、鬼達の分布や縄張りを知らずに踏み入って、奇襲を受けても面白くない。

 

 

「了解。ま、確実堅実が一番大事よね」

 

「少々物足りませんが、已むを得ません。…後で稽古に付き合ってくださいますか?」

 

 

 いいよ。ただし、倒されたらそのまま合法強姦されるのを覚悟しておくこと。

 

 

「強姦て。…先日の連日連夜で、そういう遊びも確かにしましたけど」

 

「明日奈さんの『くっ、殺しなさい!』はなんだか妙に似合っていました」

 

「うっさい。…とにかくまずは歩き回って調査ね。細かい事はその後に考えましょ」

 

 

 せやな。

 

 そう言う訳で、地形がガラリと変わった異界を歩く。巫女達の怨念の力なのか、とても数日の変わりようとは思えないくらいだ。

 見かけた木の枝からぶら下がる氷柱など、堕ちたら鬼にも刺さるんじゃないかと思うくらいの大きさ。よくあれで枝が折れないものだ……ああ、枝も凍り付いてるから硬くなってるのかな。

 

 その辺に転がる氷や雪の塊を拾って眺めてみれば、微量ながら霊力らしき物の残滓が宿っているのが分かる。

 こいつらも、持って帰れば資材にできないだろうか? 溶けない氷とか、討鬼伝世界の素材では普通にあったし。…MH世界でも似たような物はあったな。

 溶けない氷の扱い方……パッと思いつくだけでも、冷却装置に多大な貢献が出来そうだ。

 

 とりあえず採取するだけして、実際に使えるかは専門家に任せるとするか。

 

 

 

 一方、鬼達はやはり熾烈な縄張り争いを繰り広げていたようだ。何がキツいって、負けた時のペナルティがきつい。

 先程も述べたが、この辺りの雪やら氷やらその他諸々には、巫女達の霊力の残滓が宿っている。彼女達の行動原理は、まぁその、アレだったものの、その力が鬼にとって有益である筈がない。

 縄張り争いで敗北した鬼は、当然ながら手酷く傷つき、その体力も落ちている。その状態で、巫女達の力が残された雪原を彷徨えばどうなるか?

 …充分に体力、免疫力がある状態ならともかく、弱った状態では…HPを1ずつ削っていく毒の沼を、延々と彷徨うに等しい。

 

 つまり縄張り争いに負ける=拷問付きであの世行、という構図が出来上がってしまっている。当然、鬼達は必死になって自分の縄張りを確保しようとする。負けてしまったら、ただでさえ傷ついた体を引きずり、ダメージを受けながら雪原を彷徨い、その状態で他の鬼の縄張りを奪おうと挑みかからなければならない。負ければ負ける程不利になる。大富豪みたいなルールになっている。

 流石にこれには鬼に同情する。いや、野生の獣の縄張り争いだって、ある意味似たようなものだけども。

 

 とりあえず、初日の探索は滞りなく終了した。

 傷ついて彷徨っていた鬼を積極的に狩っておいた。彷徨い続けて、里に来られちゃ敵わんからな。今の雪華の結界をそうそう破れるとは思えないが、制御が完全でない以上、何処かから忍び込まれる可能性もある。

 

 

 

 里に戻って、さぁこれからどうする、という話だが…明日奈は居酒屋の仕事があるから、と別行動。

 稽古(+合法強姦)をしたがっていた神夜は、雨が降りそうなのに気が付いて家に戻った。ベッドに使った布団を干しっぱなしにしていたらしい。…なお、何をどうやったのか、一見して分からない程度には綺麗にしていた模様。

 雪華はと言うと、やはり力の制御が完全ではなくらしく、牡丹の研修の元に何やら術を捏ね回している。

 

 …雪華に会いに行こうとした時、風華に物凄く恨みがましい目で見られたんだが……やっぱりバレてるよなぁ…。

 あの子、そっち系の知識あるんだろうか?

 

 

 

 …ふむ、女遊びは今日は出来そうにないね。

 ぶっ通しでヤリっパなしだったから、丁度いいと言えば丁度いいかな。食傷気味なんて訳じゃないが、メリハリは大事だ。…あの子達も、貪らせるだけじゃなくて、飢えを覚えさせないとね。

 たった一日で飢えって言える程のレベルじゃないけど。

 

 さて、それはそれとしてどうしたものか。

 家に帰ってもする事が無い。鍛錬……は日常的にしてはいるけども、現状だと腕を鈍らせない程度でしかない。勿論、日々の積み重ねで、ちょっとでも上を目指せるようにはしているけど。

 

 …考えてみれば、俺の楽しみってセックスばっかりだった気がするな。

 狩りは生き甲斐とは言え、仕事と言えば仕事だし。今更ながら、もうちょっと趣味の幅を広げた方がいい気がしてきた。

 あの格言が思い出されるね。

 

 

 セックスは1日1時間。 外で遊ぼう元気良く。僕らの仕事はもちろん狩り。狩りが上手く行けばセックスも楽しい。僕らは未来の子沢山。

 

 

 

 ………何か違う気がする。

 と言うか1日1時間のセックスとか、今の俺には短すぎ……あ、体感時間操作があったからそうでもなかったわ。

 

 

 

 …ま、ええわ。とりあえず今日は、牡丹に頼まれた事をやっておくとしよう。

 白浜君に、あれこれ吹き込んでおくのだ。

 鍛え方を教えて、半分放置状態だった負い目もある。仕上がり具合を確認しておくのもいいだろう。

 

 と言う訳で、白浜屋にやってきました。

 

 

 

「…いらっしゃいませぇ~」

 

 

 白浜君は、貸本屋の店頭で机に頬を尽きてエクトプラズムを吐いていた。

 …おい白浜君よ、生きてるか?

 

 

「…修行で力尽きてるだけなんで、大丈夫です…」

 

 

 なら問題ないな。正直な話、途中で音を上げて逃げ出すかと思ってたが……見縊っていたようだ。

 体の披露具合と変わり方から言っても、着実に成果は上がっているし、手抜きは一切せずに鍛えこんでる…。

 

 

「…一度始めたら逃げられないように、あれこれ仕掛けてるのはそっちじゃないですか…。一度、楽なやり方を見つけて試そうとしたら、えらい目に合いました…」

 

 

 ああ、そういやそんなのも仕込んでたな。まぁ、それも含めて逃げてないんだから大したものだ。

 そろそろ手甲の扱いに進んでもいい頃だな。

 …と言うより、恐らく近い内に実戦に出てもらう事になる。今のうちに仕上げておけ。

 

 

「はー………は!? 実戦!? 僕が!?」

 

 

 そうだ。嬉しいか?

 

 

「う、嬉しいと言うか怖いと言うか………僕の感想はともかく、どうして突然? あなたに鍛えてもらうようになってから、確かに強くなっている実感はありますが、一人前のモノノフには遠いです。認定試験も受けていませんし、何より僕にはミタマが…」

 

 

 んな事ぁ分かってる。だが、半人前だからって敵が容赦してくれる訳じゃない。一人前になっても、自分より100倍強い敵とどこでブチ当たるか分からん。そういう意味じゃ、いつ実戦投入されても同じだ。

 それに、実戦の空気を感じておく事は、鍛錬としても非常に重要で効果的だ。次の練武戦で、結果を出してみたいだろう? 他のモノノフは、ほぼ全員が実戦を経験している。幾ら鍛えたって、その空気を知っているのと知らないのとでは雲泥の差が出るぞ。

 

 

「う……うーん…」

 

 

 ミタマについては問題ない。その時になるまで明かせないが、目途は立ってる。ちっと口うるさい奴かもしれんが、その分経験は豊富だ。助言役としても力になってくれるだろう。

 まだ不安に思う事はあるか?

 

 

 …白浜君は黙り込んでしまった。

 不安に思う事? あるに決まっているだろう。例えそれらを一つ一つ潰していっても、初めて命のやり取りをする場に参加するのだ。形の無い不安に取り憑かれて当たり前だ。

 戦う為に鍛えてきたが、根がビビりな白浜君。ここで嫌だと言わないだけ、成長しているんだろう。

 

 

 

 

 時に白浜君。君は仮にも俺の弟子と言う事になる訳だが、そうなると俺の強さの秘訣を一つ伝授しておこうと思う。

 

 

「秘訣? ああ、やっぱり何か特別な事を?」

 

 

 してるけど、これはまた別の意味での強さと言うか、これの為ならどんな敵にだって勝ってやろうって気になるな。

 自慢じゃないが、女性との経験はそれなりに豊富でな。真っ当な付き合いをした経験は殆どないが。

 

 

「…明日奈さんと神夜さんですよね。彼女も許嫁もいない僕への自慢ですか?」

 

 

 黙って聞け。

 俺はとある房中術を修めている。体質の問題で一定以上を習得できるのは俺くらいだが、それ以外の技術も色々ある。

 具体的には、女性との距離の詰め方、口説き方、修羅場った時の切り抜け方。

 

 

 交合で女をこれでもかと言う程悦ばせる手法。

 

 

 

「……………」

 

 

 目付きが変わった。うむ、食い付いてきたな。

 

 これらの技術も、段階的に伝えて行こうと思う。

 女はいいぞー。ちょっと面倒くさい所もあるが、一緒に居ると人生に潤いが出る。

 柔らかくて暖かくて甘酸っぱくて、最初は固く拒絶されるけど、ゆっくり時間をかけて解して、奥の奥まで進んでいけばとろとろに包んで甘やかしてくれる。

 

 

「……僕は…僕は、強くなります! 鬼でも実戦でも掛かってこーい!」

 

 

 うむ、一本釣り終了。

 

 しかし、この術があっても里の中でお相手を見つけるのは難しいな。明日奈も言ってたが、大体は相手が決まってるし。

 霊山とかに接触できるようになったら、この子も連れて行くべきか? 本人の意思次第だが…。

 あ、でもそうなると、牡丹も連れて行く事になってしまうのか。最低でも、次のお頭が決まらなければ無理だな。

 

 誰か里内で相手が居ない人…………風華?

 

 

「いや僕に稚児趣味はありませんから。何いきなりとんでもない事言い出してるんです」

 

 

 いや、覚えたんならすぐに試してみたくなるだろうという親心ならぬ師匠心だよ。

 下手な相手に試すと不倫になりかねんし。

 

 

「それはそうですが、『他に居ないから』なんて理由で女性に言い寄るつもりはありません。勿論、不義な事をするつもりもありません」

 

 

 そーなると里ではいよいよもって難しくなるんじゃが…。

 

 

「それはそれ、これはこれです」

 

 

 そーだね。彼女が居なくても、いざという時を妄想してエロテクだけは身に着けたいってのは俺も覚えがあるし。

 ま、とにかく…先払いと言うのもおかしいが、幸い今日は暇なんだ。序の口だけでも教えてやるよ。…白浜君、何となくだけど度々人の地雷を踏み抜きそうな気がするし…。

 

 

 その後、夕方まで語り合った。

 

 

 

魔禍月 弐拾溌日目

 

 

 熱心にメモを読み返していた白浜君が寝不足なのはともかくとして、朝一で寒雷の旦那に呼び出されたようだ。

 やはり、白浜君の実戦投入(今回に限っては肝試しに近いが)を言い渡されるのだろう。

 師匠と呼ばれる程しっかりとした指導をした訳じゃないが、鍛えるのに協力した一人として、ちょいと感慨深いものがある。これで一皮むけてくれればいいんだが。

 

 一方で、謎の塔の痕跡探しは偵察班が頑張っているらしい。と言っても、彼らが入れるのは異界を祓った場所と、浅い場所まで。塔が異界の奥に出現するのだとすると、痕跡集めは難しいだろう。里の近くに出現した事もあるから、全く不可能という訳ではないが。

 ちなみにこれに張り切っているのは、前の練武戦で俺と手合わせした……いや殆どのモノノフとは手合わせしてるから、日記に書いてた偵察班の頭領だ。

 何でも、前里長とは親しかったらしく、生きている…のは疑っていなかったそうだが、久々に会えるかもしれないと張り切っていた。

 

 …練武戦を思い返すと、あの人も結構濃いキャラクターしてたなぁ…。

 

 

 で、肝心の俺達だが、相変わらず雪原を彷徨っている。

 色々調べてみたが、やはりと言うべきか、異界の一部には流動が起こり、全く違った地形になっていた。だが変わってない部分も存在する。

 恐らく、この変わってない部分が地形の核とでもいう部分。流動が起きにくい地形で、ここにぶつかるように流動してきた地形が集まってくるんだろう。

 

 その見分け方は、そこに生息している鬼を見れば分かりやすい。動かない土地に居る鬼達は、何というか……落ち着いている? 逆に流動してきた土地の鬼達は、小型鬼なら地震でもあったかのように怯え、不安を感じた犬のようにしきりに動き回る。大型鬼であれば、目についた鬼同士で縄張り云々を放り出してでも頻繁に争いを繰り返す。

 余計な消耗を避けるのが鉄則の野生の中で、この差は分かりやすい。勿論、動かない場所の鬼だって、争いを吹っ掛けられたりする事はあるんだけども。

 

 

「…なるほど。では、その動かない土地の中に、例の結界石の石像があると」

 

 

 多分な。一通り近辺を巡って、流動が起きたと思われる場所・起きてないと思われる場所を洗い出した。その上で、今まで探索してない部分に限定すると……丘と谷、か…。

 

 

「昔聞いた話だと、その谷は霊山に通じる唯一の道だったそうですが」

 

「丘は……何か聞いた事ある? 山の恵みが豊富だった、くらいしか聞いた事ないわ」

 

 

 その2択で行けば、谷かなぁ。丘の山の恵みって言っても、異界だぜ? 山菜類だって、何がどう変化してるか分かったものじゃない。

 霊山に限らず、他の里との連絡・復興は急務だ。相手も一杯一杯の状況だろうが、外に自分達以外の生き残りが居るってのは分かるだけでも価値がある。

 

 

「…ですね。里を抜けられる方を優先していると思うと、少し複雑だけど。…ま、もう離れられないからね」

 

「私は戦えって、その後にべったり出来るのであれば、どちらでもよいです」

 

 

 いい子達だ。連れていけない雪華の事が気がかりだが、その分しっかり可愛がってやる。

 が、それはそれとして、まずは調査だ。

 

 

 

 

 

 

 

 やってきた谷は、思っていたよりも狭く深かった。と言うか、日本にこんな地形あったのか。

 あちこちに、刀剣弓矢の残骸が転がっている。…戦の痕跡? モノノフが使うような武器じゃないな。鬼ではなく、人間同士のぶつかり合いだろうか。

 地形を考察してみれば、ここは絶好の殺し間だろう。通ろうとする者は密集せざるを得ず、あちこちに狙撃手が隠れる場所がある。

 

 

「…よろしくない地形極まりないですね。殺し間なのは見ての通りですが、ここで鬼に襲われると思うと…狭い、盾に出来る遮蔽物もない、そして挟撃が非常に大きな効果を発揮する。巨体を誇る鬼であれば猶更です」

 

「相変わらず、戦いの事になると頭を使うんだから…。……もし挟撃されたら、どうする?」

 

「隙を見て谷の壁面を駆けあがって脱出、ですかね。余程上手くやらなければ、狙い打ちされて叩き落されますが」

 

 

 火力を集中しても一方を突破できないなら、俺もそうなるな。閃光玉の類で、敵を攪乱できれば上手くやれる可能性も上がるだろう。

 …それより、一つ気になっている事がある。

 

 前から何度か話に出ている、指揮官級の鬼が出てこないのが気に入らん。 

 

 

「ああ…そう言えば、先日の巫女様達も、その鬼に唆されたのかもしれないと」

 

「確証はないって言ってたけどね。…でも、何で今ここでその話が?」

 

「明日奈さん、簡単な理屈ですよ。先日の騒動の切っ掛けになったのが指揮官級の鬼なら、その混乱の隙をついて来ない筈がない。鬼にとっても有害な吹雪は計算外だったかもしれませんが、その後の行動が全くない筈がない。更に言うなら、このようなモノノフにとって非常に危険な場所を利用しない手はありません。増して、ここは…鬼がそこまで把握しているかは分かりませんが、霊山に通じる直通の道。濃い異界によって普通のモノノフが入ってこれる場所ではありませんが、我々という例外は居ます。異界浄化という現象も、偶発的な物ではないと鬼は理解しているでしょう。…色々言いましたが、私が鬼としてモノノフを狩る立場にあるなら、この場所には必ず罠、或いは番人を置きます」

 

「…戦馬鹿に解説される、この屈辱っ…!」

 

「ちょっ、明日奈さん酷くありません!?」

 

 

 酷くない、普通。

 

 

「あなたまで!?」

 

 

 ま、神夜は地頭は悪くないんだし、興味のある事なら深く考えられるって事でしょ。

 実際何を考えているのか…。単なる杞憂であればいいんだが。

 

 とにかく、このままこの谷に入るのはちょっとどころじゃなく危険だ。まずは周囲の索敵、隠れている鬼を見つけ出す。

 谷に入って挟撃されるんじゃなく、谷から迫ってくる鬼を撃退すると考えれば、この谷は殺し間から城壁に化ける。さて、一仕事するとしますかね。

 

 

 

 

 暫し谷の周囲の鬼を狩ったが、やはり遠距離攻撃を得意とする鬼と、挟撃に備えていたと思われる大型鬼を数匹発見した。

 よそうどおりで大変結構ではある。これだけ守っていると言う事は、外に通じる道なのは確かなんだろう。もしかしたら、結界石の石像もここにあるのかもしれない。

 

 なんだが……なーんか気に入らんな。確かに鬼達は配置されていたが、指揮官級は相変わらず影も形もない。鬼達だって、『ただそこに居ただけ』のような…。

 人、モノノフを食える好機とあれば、鬼達は確かに寄ってくるだろうけど、配置しておくだけで挟撃だの殺し間での集中砲火だの、そんな連携が取れるか? 指揮官級がここに居て、それらに連携をさせるなら分かるが…。

 

 

 …気持ち悪いな。そこそこ掃討に時間がかかったし、今日は里に戻るか。

 

 

 



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419話

あんまりキャラを増やすと滅茶苦茶になるのはMH世界GE世界で体験済みですが、それでも出したい時はどうしたものか…。
Y豚ちゃんとか出したくなってきた…。

現状、明日奈、神夜、雪華。
これで霊山編やってマホロバの里編やって完結の予定ですが、何人になるかなぁ…。
ゲストとして出すのがあの子で、原作から出すのがあの子とあの子とあの子と……うん、普通に人数多いわ。
……チョイ役と言うか、本格描写が無い空気参戦的なキャラとして出すのってありかなぁ…。


 

 

魔禍月 弐拾玖日目

 

 

 里が割と大人しく、来月頭の練武戦は無いのかな? と思っていたら、すっかり忘れていた。一か月=30日前後と言うのは西暦の話であって、モノノフが使ってる暦には関係ないんだった。

 前月は31日くらいだったけど、今の月はもうちょっと続く。

 

 まぁ、この状況で練武戦やろうとしても難しいのは確かだが。

 

 

 話は変わるが、よく風華に恨めし気な目で見つめられる。本人としては睨んでいるつもりかもしれないが、迫力が足りない。

 やはり、雪華を喰った事が気に入らないらしい。惚気話にでもつき合わされたか? 流石にR-18部分をお子様に赤裸々に話てはいないだろうけど。

 

 雪華に会いに行こうとすると、阻止しようとしてくる。…と言っても、『雪華姉さまは忙しいから』とか、『用事があるなら私が伝えます』とか、何とか会わせまいとするだけだ。

 そしてその騒ぎを聞きつけた雪華がやってきて、その努力は無駄に終わる。

 風華を放置して…と言う訳ではないが、やっぱり雪華は主に俺と話をする事が多い。…で、風華は敬愛する姉さまを取られたと、また俺を睨みつける訳だ。

 

 そんな顔するなよ。虐めたくなるじゃないか。

 なんちゅーか、小動物を弄りたくなるような加虐心が湧いてくるんだ。

 

 

 

 そんな風華の前で、密会の約束なんかしちゃってるんだけどね。

 明確に口にした訳じゃなくて、目で『お待ちしています』って伝えられた。

 急激に増した力のコントロールの習練を行う為、雪華は夕方から夜にかけて、自室で瞑想を行う事を牡丹に命じられた。集中を乱す原因になりかねない為、部屋には誰も入れない。

 …つまり、そこでナニをやっていても、誰にもバレない訳で。

 

 瞑想と称して自慰に耽ろうと、こっそり忍び込んだ俺とパコパコしていようと、誰にも分からないのである。

 

 牡丹も、修行と言うよりは一緒に居られる時間を作ってやろうとして命じたようだった。

 オッケーオッケー、場所は分かってるから、早速今日にでも夜這い…時間的に夕這い?…しに行くとしましょう。

 

 

 

 

 

 さて、前日と同様に異界の谷の探索に来た。昨日ある程度鬼達を掃討しているので、大した敵は居ない。

 …うーん、やっぱりおかしい。何匹かの鬼を配置するだけ配置して、後は放置。後から様子を見に来た感じもしない。

 …単に、鬼達が狩りをしやすい場所として住み着いただけだったのか? その可能性もあるにはあるが…。

 

 悩んでいる俺を見て、神夜が袖を引っ張る。

 

 

「気になる事があるようですが、まずは周辺の探索から行いませんか? 今重要視すべきなのは、鬼達の意図が何処にあるかではなく、異界を浄化する事ですし」

 

 

 …そうか。そうだな。相手の思考形態も分からないのに、悩んでもドツボに嵌るだけか。

 考え無しは論外だが、下手な考え休むに似たりともいう。

 とりあえず先に進んでみるか。

 

 

 殺し間となっている谷を、警戒しながら進む事暫し。大型鬼と何度か遭遇したが、思っていた程の危険はなかった。

 ただ、この地形にヒノマガトリはいかんな。空を滑空しながら、火を吐かれるとな…。正面から飛び道具で攻撃してくるだけなら、駆け寄って斬ればいいだけなんだが。

 鬼の手で引きずりおろしてやったけど、普通のモノノフだと攻撃が届かん。

 

 

 谷は思ったよりも長かったが、それ以上に面倒だったのは崩落した場所だ。鬼が崩したのか、自然とそうなったのかは知らないが、何か所かで道が塞がれていた。

 回り道しようにも分かれ道さえ無い為、土砂崩れを退かすなり乗り越えるなりしなければならない。

 しかも、そういう場所に限ってミフチとかが巣を作ってるんだよなぁ…。

 

 何だかんだで、鬼は多く居たな。

 進むのに手間がかかるが、これが意図して配置されたものだとすると、やはりこの先に何かあるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫く進むと、珍しい鬼に出くわした。黄金狢…コガネムジナだ。………考えてみると、あまり珍しくない気もする。

 キンキラキンで、行動したり部位破壊したりする度に宝石っぽいのをばら蒔く、成金趣味な鬼。

 明日奈が目の色変えてたな。やっぱり光物とか好きなんだろうか。

 いつかプレゼントする時、参考にするとしよう。

 

 

 神夜? 神夜は黄金狢よりも、追いかけて行った先で待ち構えていた千山王に興味津々だったよ。

 なんでこいつがこんな所に居るんだろうか。神夜も明日奈も、見た事も聞いた事もない鬼だった。俺も、マホロバの里で資料を読んだだけだったが…最後の逆立ち回転、なんだありゃ? カポエラでもしてくるのかと思ったじゃないか。いや、追い詰められると逆立ちする鬼なら、タケイクサって前例もあるけどさ。

 

 こいつがボスと言うか、谷の番人…なのかなぁ。それにしては中途半端な扱いだ。

 神夜一人で、半分くらい片付けちまったからな。最近はメキメキと腕を上げ、オカルト版真言立川流の恩恵もあって保有霊力量も急激に上昇しているとは言え、一方的な戦いだった。

 

 一応、センザンオウを倒してから、周辺をくまなく探してみた。こいつが番人だとしたら、結界石の石像はこの辺にある可能性が高い……と思ったのだが、残念ハズレ。特に何もなかった。

 鷹の目、鬼の目まで使って調べたから、隠し通路とかがあるって事も無さそうだった。

 

 その辺で活動時間が限界に近付いたので、一旦終了。

 多分、もうちょっとで谷を抜けられると思うんだけどなぁ…。

 

 

 

 

 里に帰って身を清めた後は、早速瞑想という名目で一人切りになっている雪華の所に忍んでいきました。

 

 

 

 

 

魔禍月 参拾日目

 

 

 本日の探索はお休み。

 神夜も明日奈も、昼頃までは個人的な用事で別行動だ。

 

 さて、俺は何をするかな。昼以降なら3人で居られると言う事だけど、盛ってばかりと言うのも芸がない。

 偶には真っ当に、デートのお誘いでもしようかな…と考えていると、その前に里人の一人に、緊急かつ誰にも気付かれずに来てほしいと呼び出しを受けた。

 何かやらかしたか? 明日奈と神夜を囲ってる上、神垣の巫女様に手を出すとかいい度胸だって話か? と思ったが、そういう傾倒の呼び出しではなかった。

 

 

 俺を呼び出したのは、里で唯一の医者であるオッサンだ。美人女医ではないんだ、スマヌ。

 

 肝心の話だが……先日の吹雪の為に、ある備蓄が壊滅的な打撃を受けてしまったのだ。それを急いで入手してほしい、と言う。

 ……別に依頼を受けるのは構わんけど……何でそれを秘密にするんだ? そもそも、どういった備蓄なんだ。

 

 

「一言で言えば、薬の材料だ。元より、あまり多くは貯えていなかったんだが…先日の酷い寒さで、使い物にならなくなってしまった。里の近辺に植生していて、普段であればモノノフの皆が任務ついでに採ってきてくれるんだが、雪が積もりすぎて全く見つからないようでね。…元々、寒さに強いとは言い辛い植物だ。考えたくはないが、全滅してしまったのかもしれん」

 

 

 雪国にどうしてそんな植物が生えてるんだよ。元から生えていた植物なら、そうそう全滅するとは思えんな。

 …あまり多く貯えが無かったのは、どうしてだ?

 

 

「用途が限られているからさ。…とある事情から、この里には一人だけ、この薬を常時必要としている人が居る。決して備蓄を切らさないように注意していたが、あまり大量に抱え込んでも腐らせるだけだったんだ」

 

 

 ああ、賞味期限が短くて、使用料も一定しかないと。そりゃ仕方ないわな。

 …秘密にする理由は? 自分の失態を隠す為…じゃないな。

 

 

「無論だ。そんな事をしている暇があったら、他のモノノフに頭を下げに行くさ。少しでも多く、これを採ってきてほしいとな。……とは言え、基本的には似たようなものだ。この薬が足りなくなっていると分かれば、里の男達に動揺が走る。この里近辺に生えていないと知れば、まだ浄化されてない異界にまで探しに行きかねん」

 

 

 薬が足りなくなると知っただけで?

 …里にこの薬の使用者は一人だけ。つまりそいつが危ないと分かっただけで、そうまで動揺すると?

 

 

「…事情があるのさ。悪いが、私からはこれ以上は言えない。患者の情報を漏らす訳にはいかないからね」

 

 

 

 ……色々誤魔化されているようだが、まぁ、いいだろ。依頼は依頼だ。

 異界探索のついでに探してみるさ。

 

 

 

 

 

 

 …医師の元を後にして、改めて集めてほしいと言われた材料に目を通す。

 恐らくは鎮静剤の類…。それもかなり強力な。…こんな物を、常時必要としているのか? 使用量を誤れば、副作用でえらいことになるぞ。

 痛み止めの類……いや、俺がこの里に来てから、そこまで酷い怪我人は出ていない筈。

 

 そもそも一体誰が薬を必要としているのやら。

 うーむ…明日奈や神夜に聞いてみるか? しかし他言無用と言われているしな。寒雷の旦那…もあかんよな。

 

 とりあえず、採取してから考えるか。今調査している谷の近辺にも、確かこいつらもあった筈だ。あそこは地形的に雪の影響を受けにくい場所だったし、それで生き残ったのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 話は変わるが、風華が何やら必死になって甘味を作っているのを見かけた。

 鬼気迫る顔付で味見をしてはウンウン唸っている。…新作の考案かな?

 何もそこまで思い詰めなくても…。

 

 …って、ああそうか。新しい甘味を作って、雪華の目を惹こうってつもりか。

 何と言いますか、健気よのぅ…。その雪華と昨晩、人に隠れてズッコンバッコンやっていた俺が言うのもなんだけど、もうちょっと風華を構ってやれと言うべきか。

 …今の雪華にそれを言うと、風華を床にまで連れ込んで来そうだな。

 

 

 

 

 

 とりあえず、一人で採取に向かう。……寒雷の旦那に、「絶対に一人で行動させないように!」と言いつつ、まず俺が単独行動しとるな…。

 

 

 里近辺を探索したところ、目当ての植物を4つを見つける事できた。

 雪の下に埋まっているので普通のモノノフなら気付けないだろうが、鷹の目なら一発よ。

 

 …とは言え、これが使えるかどうかはまた別の話。一本は見るからに枯れているし、2本は雪に潰されてぺったんこ。辛うじて元気そうなのは1本だけだ。

 医者に持って行ったところ、予想通り材料として使えるのは1本だけだった。やっぱり、谷間で採取に行かなきゃならんか?

 

 

 と思ったが、使用量自体は少ないので、数日分はその1本だけで何とかなるらしい。タカが数日程度なので、どっちにしろ採取はしなければならないが。

 で、医師のおっちゃんは手早く薬を調合してしまった。…そんなお手軽でいいのか、と不安になるくらいだ。

 

 

 

 それはいいとして………何で俺に持っていかせるの?

 

 

 自分で行けばいいじゃないのよ。いや別にお遣いイベントが気に入らないって訳じゃなくて、純粋な疑問として。

 病人が居るなら、医者本人が持って行った方がいいって。その方が安心するだろうに。

 

 

「…その通りだ。だが、私は行けない。里の男では、今はいかんのだ…」

 

 

 ? ? ?

 

 俺も男だけど、昔からの里の住人じゃなければいいと? と言うか女の子に持って行ってもらえば?

 

 

「…同性でも異性でも、見知った相手に見られたくはない姿だろう。君ならいい、と言う訳ではないが……まだいいかもしれない、というだけさ」

 

 

 比較論と言うか消去法? 何がなんだかよく分からんが…まぁ、行くか。

 で、届け先は?

 

 

 

 

 

 

 はい?

 

 

 

 

 

 薬を懐に入れて、里を歩く。

 大分雪も解けてきており、日差しの暖かさもあって心地よい気温だ。

 その中を、頭の中であれこれ想像しながら歩く。

 

 薬を届ける先と言うのは、鍛冶屋…つまりは練の姉御の店だった。独り暮らしだし、別の人宛てと言う事はない。

 つまり、練の姉御がこの特性鎮静剤っぽい薬を常時飲んでいる人?

 

 思い返せば心当たりはある。初めて里に訪れて紹介された時も、何やら薬を飲んでいた覚えがある。

 あの時は…訪れた寒雷の旦那が、返事がない事を心配に思って入り込んだんだっけ。そして薬を飲むところを目撃して、お互いに何やら気まずくなっていた。

 

 他にも、練の姉御は男と距離を置こうとしている節があった。まだモノノフに専念できずに仕事を探していた頃、手伝えること(と言うかバイト)は無いかと聞いたが、やたらと拒絶されたし。

 そもそもからして、練の姉御は女性な訳で、基本的に鍛冶屋は女人禁制だった筈。例外はあると聞いていたが…。

 

 

 

 ふむ…薬を常時服用しなければならない事情持ち。

 だと言うのに頑なに独り暮らし、仕事の助手も居ない。

 男性を遠ざけ、里の皆は何やら遠慮したような…悪い言い方をすると、腫物に触るような程度をする事がある。

 

 

 …改めて考えてみると、相当な厄ネタのような気がする。

 

 

「あ」

 

 

 ん? おう、明日奈か。もう用事は済んだのか?

 

 

「ええ、私はもう終わったわ。給仕の仕事は午前中だけって約束だったしね。神夜は、まだまだ終わってそうにないけど」

 

 

 ふーん。何やってるんだ、あの子?

 

 

「ベッドの作り直しをするつもりみたい。あー、まぁその、ほら、色々と酷使したから。布団を退けて全体を検査してみたら、色々と壊れかけている所が見つかったんだって」

 

 

 ああ…まぁ、あれだけ派手にやればなぁ。長時間酷使しまくったし、今思うとその場で壊れてなかったのが凄いわ。

 今度はもっと大きくて、頑丈で、柔らかいのを作らないと。

 

 

「言うだけなら簡単よね…。頭がこんがらがる前に、様子見に行きましょう。…ところで、どこに行こうとしてたの?」

 

 

 練の姉御の所。いや鍛冶仕事じゃないんだ。ちょっと用事を頼まれてね。

 

 

 …明日奈に相談……いや、秘密秘密。無理に首を突っ込んでもロクな事にならん。

 と思っていたのだが、明日奈は結構鋭かった。

 

 

「…練さんの所に、男の人が仕事以外で…? …………ひょっとして、薬を届けに行く?」

 

 

 …バレたか。

 つっても、どういう事情があるのか、今一つよく分からないんだが。練の姉御に何か事情がある事、異性を近付ける事が望ましくない事までは分かってるんだが…そこで何で俺を使いに出すのか、背後関係がどうなってるのか、漠然と想像するしかできん。

 あまり愉快でない想像なら幾つか出来るけど、正直この里の気風と合わないと思うんだけどなぁ…。

 

 

「……………」

 

 

 明日奈は俺のボヤキを聞いて考え込んだ。

 この子も、理由については知ってるんだろう。話すべきなのか、そうでないのか迷っている。

 

 暫し考え込んだ明日奈は、小さく一つ問いかけた。

 

 

 

 曰く、人肌は心の傷を癒す事はできるのか?

 

 

 ……何でそこで人肌に限定するかね。正直な話、やり方と心の傷の内容次第としか言えない。

 人肌の温もりは精神安定に多大な効果を発揮する事が多いが、無条件ではない。

 

 返答を聞いて、益々明日奈は考え込む。

 …が、結局俺と一緒に姉御の所まで行く事を選んだ。…異性を近付けない方がいいと言うのは、明日奈も知っている筈。何か考えがあるんだろうか。

 素直に話す気は無いようなので、仕方なく連れだって鍛冶屋の前へ。

 

 

 中を覗き込むと、姉御の姿は無かった。それどころか、普段であれば日中は常に燃えている炉は燃え尽きており、人が居た気配が全くない。

 …少なくとも、朝から一度も人が立ち入っていないのは明らかだった。

 鍛冶場の扉も閉められた状態だったし、家の周りの雪も手付かず。

 鍛冶場から生活空間に続くと思われる扉は、内側から閂がかかっているようだ。

 外出している訳でもない。気配を探ってみれば、家の中に一人分だけ、ぽつんと人の気配が感じられる。これは……寝そべっているのか? 或いは倒れている?

 

 要は、吹雪が止んだ頃から全く活動していた痕跡が無い訳だ。

 …おい明日奈、こりゃ一体…?

 

 

「…声をかけて、返事が無ければ突入しましょう。事情は分かってるけど、思っていたより症状が悪いのかも」

 

 

 症状、ね。薬を欲するくらいだから、何かしらの病気なり発作なりがあるのは予想してたが。

 明日奈は大きな声で練の姉御を呼び、ドンドンと乱暴に扉を叩く。何度か繰り返し、返答が全くない事を確認すると、躊躇いなく扉に刃を突き入れた。

 見事に分断された扉を蹴り破り、律儀に靴だけ放り出して駆け込んでいく。

 …どういう訳だか、扉は内側から外す事もできないように細工をされていた。閉じこもってるのか、閉じ込められているのか。

 

 迷いなく寝室…と思われる、練の姉御の気配がある場所へ。俺も追いかけていく。

 

 

 

 そこで目にした光景は…………その、色々と予想外だったのは間違いない。あまり良くない意味で。

 刺激的な光景ではあったが、眼福とはとても思えない。

 

 

 

 練の姉御が、ハイライトが消えたレイプ目で、汗だくになりながら延々と自慰に耽っていたなんて。ちなみに突っ込まれていたのは、普段鍛冶仕事に使われている槌の柄。

 

 

 

 切符のいい褐色高身長巨乳美女の濡れ場なのに、そんな事言ってられなかった。

 しかも練の姉御は、俺の姿を見た途端に表情を変えた。飢えた狼、いやタマハミ状態にまで追い込まれた鬼のような勢いで俺に飛び掛かろうとする。

 明日奈が隙をついて抑えつけて「薬お願い!」 お、おう。

 

 懐から取り出した薬剤を、無理矢理流し込む。水、水は………あった。

 放置されていた湯呑に、僅かに残っていた水を注ぎ込む。

 明日奈が顎と喉を上手く圧迫し、強引に呑み込ませた。そしてそのまま、流れるように頸動脈を絞めて落とす。

 

 元より戦闘能力が無いし、正気を失っている姉御はあっさりと気を失った。

 



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420話

 

 

 一息ついて、明日奈は姉御を布団に寝かせようとして眉をしかめた。布団は自慰その他による体液で、ベトベトだったからだ。一体どれだけ続けていたんだろうか。

 情事の跡が残る布団に寝た事は何度かあるが、少なくとも病人(?)を寝かせるのに適している訳ではない。

 家の中を物色させてもらい、新しく布団を敷いた。その途中、寝巻の予備も発見したので、汗と体液を拭いて明日奈に着替えさせてもらう。

 

 

 

 とりあえず、一段落か。持ってきた薬は、もう半分くらい呑ませてしまったが、過剰摂取にならなかっただろうか?

 いやそれよりも……おい明日奈、こりゃ一体どうなってんだ。明かに正気じゃなかったぞ。しかも明らかに、俺を性的に襲おうとしていたし。あの眼力は、初めて迫って来た時の明日奈以上だった。

 一体、姉御に何が?

 

 

「……発作よ。練さんは、薬で抑えておかないと、こうなって理性が吹き飛んでしまうのよ」

 

 

 それは、もう見たから分かった。吹雪の為に薬の補充が出来ずに、発作が起きてしまったんだろう。

 …男を近付かせたがらないのは、これが理由か?

 

 

「…それもあるけど、こうなった原因が…」

 

 

 言い辛そうにしている明日奈。やはり、相当にヤバい裏事情があるらしい。

 それを勝手に言う訳にはいかないのも分かるが…。

 聞かされたところで、何か力になれるかは分からない。放っておいてくれと言われそうな気もする。

 

 

「…いいよ、明日奈…。迷惑かけちまったから、あたしが話すよ…」

 

 

 あ、練の姉御…。意識ははっきりしてるのか?

 半分寝ているような顔付で、目だけ開いて俺を見る。布団で横たわり、顔は天井を向いたまま。

 

 

「ああ、薬のおかげでね。無様なところを見せちまった…」

 

「練さん、無理しなくても」

 

「いいよ。どうせ皆知ってる事だ。隠したところで、どうなるものでもない…。……あんた、女人禁制の鍛冶場をあたしが扱ってる事に、疑問を持ったことはないかい?」

 

 

 何度か思った。ただ、他に出来る人も居ないようだし、腕もしっかりしてるようだし…。

 

 

「…あたしもね、最初はモノノフだったのさ。鍛冶に興味はあったけど、女人禁制を理由に学ぶ事も出来なかった。…学んでいる暇があったら、鬼と戦わなくちゃいけなかったし、あたしもそれ程拘っちゃいなかった。それが変わったのは、オオマガトキが起きた時だ」

 

 

 オオマガトキ…戦ってたのか。里の防衛?

 

 

「ああ。戦うと言っても、当時は最年少のモノノフだったし、素質は…言っちゃなんだけど、白浜の奴とどっこいどっこいだったから、大した事はできなかった。それでも戦いに参加してた」

 

 

 オオマガトキでの戦いで生き残ってりゃ、充分古強者に分類されると思うけどな…。それで?

 

 

「…最初はまだ良かった。鬼達は大群で強かったけど、こっちにも猛者は沢山居たし、あの頃はまだ霊山や他の里とも連携が取れてた。どうすれば勝てるのか、鬼達を一掃できるのか、先の見えない戦いだったけど、皆の士気は高かったんだ。…最初だけは。迫ってくる鬼達に気を取られている内に、いつの間にか異界が溢れ出した。他の里との連携が断たれ、霊山からの援護も無くなった。…見捨てられたんだと言う奴も居れば、異界に阻まれて援護を送ろうにも遅れないんだと言う奴も。異界はあたし達の想像よりずっと深く、命を賭けて突破しようとしたモノノフは、一人だって帰ってこなかった。…異界の中で瘴気にやられて力尽きたのか、それとも抜けられたけど霊山や他の里が助けてくれなかったのか…考えたくもないが、一人だけ逃げ出したのか。……それすら分からないのも、疑心暗鬼に拍車をかけた。それに加えて…もう知ってると思うが、里を守っていた結界石の破損だ。…これで纏まっていられる訳がない」

 

 

 ……おかしな話じゃなかった。

 むしろ当然…いや、改めて思い返せば、この里の状況が異常なのだと言える。

 

 孤立し、常に敵に狙われ、未来が見えず、限られた備蓄を何とか遣り繰りして運営されている里。だと言うのに脱走者すら出ていない。むしろ基本的に和気藹々としている。寒雷の旦那が上手く差配していると言うのもあるが、人はそんなに強い生き物ではない。…いや例外は居るけど。例えばフロンティアとかに一杯。

 

 

「戦力にならないあたしへの風当たりも、段々強くなっていった。仕方ないね、非常時だったし実際に弱かったから。…皆の余裕がどんどん削れていって、ささくれ立った空気が漂い始めて、それが煮詰められて…。皆、体も心も限界だった。鬱憤が溜まって、今にも噴き出しそうになって…………そんな時、私は鬼の攻撃を避け損ねて重傷を受けた」

 

 

 そこまで口にして、練の姉御は体を起こした。

 震えている体を抑えつけ、隣に置かれていた湯呑を手に取る。冷めていた茶を一気に呑み込み、落ち着こうとするように大きく息を吐いた。

 

 

 

「あの時…あたしは皆の手で、里に連れ戻された。だけど、その後あった事は………治療じゃなかった。多分」

 

 

 …多分?

 

 

「……まわされたんだよ」

 

 

 ……まわ…?

 

 …回す。回転? 吐くまで回転させられて、三半規管を……いやそーいう話じゃない。

 相撲のマワシの筈もない。

 まわす…まわすって…。

 

 

 

 

 

 …………輪姦…?

 

 

 この里のお人好し連中が? 追い詰められてたからって…?

 

 

 

「……信じられないかい? あたしもそうさ。今でもね…。単なる悪夢だったと言われた方が、まだ納得もいく。事実、目が覚めたあたしは、治療をされて部屋で横たわっていた。…周りには、同じような怪我人が何人も居たけど、『そういう事』をした形跡はなかった」

 

 

 …それなら、単なる夢なんじゃ…。

 

 

「同じ記憶があるんだよ、そいつらにも。重傷で動けないあたしを連れ込んで、最低限の治療だけして、寄って集って圧し掛かったって記憶がね。

 勿論、あいつらにそんな趣味嗜好は無い。あたしを女扱いしてる奴なんて数える程だったし、怪我人を甚振る事も、女に狼藉を働くのも言語道断って奴らだった。起きた途端に腹を斬ろうとしてた奴も居たな。

 それを止めようとして騒いでいる内に、訳も分からない内に、疲労と痛みであたしは気絶して…また輪姦される夢を見た。今度はもっと人数が多かったっけな。

 あたしは眠る度にその夢を見た。あたし以外の連中も、何度も何度も同じ夢を見た。里の女達にもその話はどこからか伝わっていて、庇ってくれたけど…夢からは逃げられなかった。

 …追い詰められて参っちまってた事もあって、段々現実と夢の区別がつかなくなってきた。体の傷が癒え始めた頃には、里の男の殆どが夢を見てた。

 そんな状況で、ゆっくり休める筈がない。皆どんどんおかしくなっていった。夢なのか現実なのか分からないままに、押し寄せる鬼と戦って、あたしを襲って、また戦って。

 あたしはあたしで、いつの間にかそういう状況に慣れちまってた。もうモノノフとして戦う事はできないって、分かってたからかもしれない。夢でも現実でも、輪姦されてる間はその事実から逃げる事ができた。

 いつの間にか、あたしは前線で戦ってるモノノフ達の……慰安婦、っていうのかね。そんな役割になってたよ。そう明言された訳じゃない。

 でも、そういう…夢か現かはともかくとして、そういう事をする事で鬱憤が晴れるモノノフだって居た。…最初は罪悪感で死にそうな顔をしてたけど、良くも悪くも慣れていったんだろう。

 求められた事だって何度もあった。その内の何度が現実だったのかは分からない。

 

 …そんな生活が、どれくらい続いたかね。異界が侵蝕しきって、この里の行動が完全に制限された頃になって、夢は段々見なくなっていった。

 あたしが重傷を負った頃、鬼が何かしらの術を仕掛けたんだろうって言われてたんだけど…そんな事は関係ない。夢だろうと現実だろうと、やっちまった事は記憶に残る。そういう意味じゃ、全部現実同然さ。

 そんな状態で、元の関係に戻れると思うか?

 

 

 …あたしは輪姦される生活が続いたおかげで、体がすっかり染まっちまった。薬で抑えつけておかなきゃ、あんたを襲おうとした時のようなあの様さ。

 里の連中は連中で、あたしに負い目が出来た。

 …だからだよ、あたしが鍛冶屋をやってられるのは。モノノフとして戦う事ができなくなったあたしは、別の役割を求めた。

 死んじまった先代の鍛冶師も、あの夢を見てたからね。せめてもの罪滅ぼしだと、女人禁制の原則を曲げて、あたしに鍛冶を仕込んでくれた。途中で亡くなって、中途半端にしか習得できなかったけどね。

 

 …ま、大体こんなところさ。今となっては気楽なものだよ。負い目があるからか、里の連中はあたしに色々と融通を利かせてくれるから」

 

 

 

 …成程なぁ。里人の態度が、どこか練の姉御に余所余所しいところがある気がしてたが、そういう事だったか。

 思えば、明日奈や神夜が人の精神に働きかける鬼に対して、激しい怒りをみせた事も何度かあった。同じ女として許せんわな。

 男達に対しても、下手に突き回すと里が崩壊するような大事になりかねない。和気藹々とやってるようで、その底にはそれなりの闇があった訳だ。それを封じ込めようとして、それぞれが意識的に和を保つようにしていたんだろう。

 皮肉なもんだ。鬼が里を崩壊させようとして仕掛けた術のおかげで、上辺だけでも里がまとまってるんだから。

 

 練の姉御に対しては……正直、俺からは何も言えん…。

 今まで似たような事を何度もやってたけど、強姦の被害者に対してどう声をかけろと言うのか。しかも本人は、鬱屈と後遺症を持ちながらも既に立ち直っているのだ。

 同情も配慮も侮辱にしかならない。

 

 

「とは言え、いつも薬を飲んでなきゃいけないってのは、結構面倒なものがあるけどね…。鍛冶に夢中になってる内に、飲み忘れそうになる事もあるし、先日みたいに急な吹雪で薬が切れちまう事もある。…どうしようもないけどね」

 

「………」

 

 

 明日奈、そんな目で俺を見るな。どないせいと言うのだ。

 

 とはいえ、違和感はあるっちゃあるんだよな…。鬼が術をかけていたのはほぼ確定。それで追い詰められて、練の姉御も含めて皆がおかしくなっていったのも分かる。

 それで…夢か現実か分からないまま輪姦され続けたとして、そんな体質になるだろうか? 心に傷が出来るのなら分かる。だが、それで薬を飲まされる前のように、オスに飢えるようになるだろうか?

 適応した、或いはモノノフとして復帰できない現実や、辛い環境から逃避する為に自ら壊れたのかもしれない。

 

 …でもそれは違う気がする。上手く言えないが……この人は、意外と強かな女だ。実直なだけじゃない。

 悲惨な記憶や過去の関係を武器にして、自分の立場を確立するくらいには。

 

 

 うーん……あんまり何でもかんでも見通したようなつもりで考えるのも良くないが…。

 ちょっと言動を思い返してみるか。

 

 

『迷惑かけちまったから、あたしが話すよ』

 

『あたしも最初はモノノフだった』

 

『大した事はできなかった』

 

『まとまっていられる筈がない』

 

『弱かったから』

 

『限界だった。鬱憤が溜まって』

 

『重傷を受けた』

 

『まわされた』

 

『夢と現実の区別がつかなくなって』

 

『もう戦う事はできない』

 

『夢からは逃げられなかった』

 

『状況に慣れて』

 

『モノノフ達の…慰安婦、っていうのかね。そんな役割に』

 

『鬼が何かしらの術を』

 

『戦う事ができなくなったあたしは、別の役割を求めた』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ん? 役割…?

 

 何でここで、役割なんて言葉が出てくる? それ自体はおかしくない。

 里がこの状況じゃ、誰だって何らかの貢献を求められる。罪人だろうと被害者だろうと、そこに変わりはない。いくら負い目があっても、何もできない、しようとしない奴に食わせて行ける程余裕はない。

 だから練が自分に出来る事を求めるのは分かるし、里の連中が多少の融通を利かせてそれを受け入れるのも分かるが……このタイミングで、自分から役割って言葉を使うのは、何だかおかしくないか?

 

 普通に考えれば傷心もいいところだ。男性恐怖症、人間不信になってもおかしくない。ヒステリックに叫び声をあげ、罵声を振り撒いて被害者として慰謝料とか請求しても、誰も責めはしないだろう。

 

 だけど、練の姉御は『役割』を求めた。暴行の対価ではなく、謝罪でもなく、『役割』を。

 考えてみれば、男を遠ざけようとする節こそあれ、里人に対して憎悪や嫌悪を持っている様子は全く見られなかった。俺に対してもそうだ。

 数年間の間に、忌避感が薄れた? それにしては、話す様子が淡々とし過ぎていたように思える。

 

 …信じがたいが…彼女にとって、輪姦された(かもしれない)事は、既に『忌まわしい過去』ではない。今の自分を形作る一要素でしかない。

 壊れてしまったから割り切っているのか、元々そういう気質なのかは分からないが。

 

 

 してみると………それを元に考えると……。『別の役割』が鍛冶屋。『元の役割』は? モノノフ? それとも…。

 

 

『モノノフ達の…慰安婦、っていうのかね。そんな役割に』

 

 

 …慰安婦でも、一つの役割には違いない。名誉不名誉はこの際関係ない。

 練の姉御にとっては、これらは自分の居場所を確保する為の行為に過ぎないのか。

 

 叩き伏せられ、女性として最悪の屈辱を味わわされた事さえ、『仕事』でしかないのか。

 …いや、おかしな事ではない。その精神性はともかくとして、考えてみればAV女優なんかと同じようなものだ。お水関係の女性だって、ある意味では同じと言えるだろう。

 行為と引き換えに、金銭ではなく立場と安定を得る。他者の目線や評価がどうあれ、自分の立ち位置にプライドや誇りを持っている人はいる。同情すべきでも蔑むべきでもない。

 

 

「…なんだい?」

 

 

 いや、俺がどうこう言うべき事じゃないって事が理解できただけだ。あんた、ある意味恐ろしい人だな。

 

 

「何をどう考えてそうなったのかは知らないが、納得したならそれでいいさ」

 

「…………」

 

 

 明日奈、不満そうな顔をするな。気持ちと考えは分からんでもないが、これはお前が考えてるような問題じゃない。

 

 気遣われるより、犯されるより、傷つけられるより、ひょっとしなくても殺されるより。

 練の姉御にとって我慢ならないのは、自らが無価値…『何もできない者』に成り下がる事。それこそが、何よりも許せない事だったんだろう。

 戦った結果の負傷であっても、世話をされるだけの極潰しになるくらいなら、嬲り者にされてでも皆の鬱憤を晴らして、里に貢献できる方を選ぶ。……狂ってるな。

 

 

「何か妙な目で見られている気がするな…。…まぁ、こんな事言っても、やっぱり発作はどうにかしたいんだけどね。真面目な話、一々薬を飲むのも面倒だし、仕事に支障が出てる。調合の為の労力も、楽なもんじゃないだろうし」

 

 

 今の立ち位置が変わってしまっても?

 

 

「変わらないだろうね。発作が無くなったとしても、私が許すと言っていても、あいつらの負い目は消えない。お人好しだから、猶更ね」

 

 

 …間接的に、俺の類推を肯定するような返答が来た。

 彼女は自分がどう見られているのか理解し、それを意識的に利用して振る舞っている。うーん、女は見た目じゃ分からんなぁ。

 

 こりゃ下手な事しない方がお互いの為だな。練の姉御が策謀で害をなしてくるとは思わないが、迂闊に踏み込めば里人の意識がこちらに向きかねない。

 

 

 とりあえず…暫く安静にしとけよ。薬の材料、まだ足りてないから採ってくる事になってんだ。

 

 

「ああ、頼んだよ。…そうそう、それと前にも言った気がするけど、偶には武器の手入れに来な。応急処置的な事ばっかりやってると、いざって時にどうにもならなくなるよ」

 

 

 あいよ。

 ほれ明日奈、帰るぞ。言いたい事は色々あるようだが、後で聞いてやる。

 

 

「…分かりました。病人の傍で騒ぐのもよくありませんし…」

 

 

 明らかに納得していない顔の明日奈だが、同時に仕方ないとも思っているようだ。

 そう何でもかんでも解決できるものじゃないと言うのは、頭では分かっているんだろう。

 

 …明日奈が考えてるような理由じゃないんだよなぁ…どう納得させたものか。

 

 

 

 っと、ああそうだ。確証はないけど、発作ならどうにかできるかもしれないぞ。

 ただ、交合でつけられた傷は交合で治すんで、交わる必要があるけども。

 

 

「へえ、じゃあ気が向いたら頼もうかな。悪いけど今は、そういう気分じゃないんだ。薬のおかげで、性欲が抑えられててね」

 

 

 体を要求するのにも等しい、しかも非常に怪しい提案だったが、練の姉御はあっさりと受け流した。

 怒りすらしないのは、そういう事に本当に抵抗が無い為。或いは真に受けていないのか。

 

 どっちにしろ、明日奈に軽く蹴っ飛ばされながら、俺達は鍛冶屋を後にした。

 …おい明日奈よ、人肌で心を癒せるかって最初に効いてきたのは君でしょうが。

 

 

 

 

 

 

 

 出掛ける気分でもなくなってしまったので家に戻る。

 いそいそと飯やら風呂やらの準備をしてくれる明日奈を横目に、しみじみとこの里に来てからの事を思い返す。

 

 …小さいながらも一致団結している、暖かい(物理的には寒い)里だと思っていたけど、意外と闇が深いよなぁ、この里…。

 上辺で仲良くしているよりも、同じ脛に傷を持つ集団の方がまとまりがいいのは皮肉な物だ。

 

 しかし、練の姉御は納得ずくで今の立場に居るのだとしても、明日奈や神夜が気にしている。男としてどうにかしてやりたいと思う。

 …「また大きくなった」らしい、練の姉御のオパーイで遊んでみたいとは思ってない。半分くらいしか。大きさで言えば神夜のが上なんだけど、褐色おっぱいだもんなぁ…。いや勿論、神夜の真っ白なマシュマロ巨乳や、スレンダーなのに出るとこ出ている明日奈の乳や、どんな扱われ方をしても悦んでしまう雪華の乳も好きなんだけど。何でもいいんだろうって? おっぱいに大小好みはあっても貴賤はないよ。

 

 

 それはそれとして、探せばまだまだ闇が埋もれていそうな気がしてならない。人が集団生活を送ってるんだから、よくも悪くもそういう物は増えていくだろうけど。

 深く考えると色々怖い事になりそうだし、去っていく予定の余所者があまり首を突っ込むべきでもないだろう。今更だけど。

 

 

「はい、お待ちどうさま。ご飯が出来たわよ」

 

 

 お、ありがとう。今日も美味そうだな。

 …? 明日奈、どうかしたか? やっぱり練の姉御の事か。

 

 

「…うん」

 

 

 本当に、どう言ったものかなぁ。

 俺の推測は、練の姉御に肯定されたようなものだったが、それじゃ明日奈は納得しないだろう。

 肉欲の味を覚えたからと言って、そういう考え方を受け入れられるようになった訳じゃない。もしも自分がそんな立場だったら…と思うだけで、どうにもできない程拒絶を見せるだろう。

 惚れた相手以外に抱かれる等、苦痛でしかないだろう。……その割にはレズプレイオッケーになってるけど。

 

 

「発作だけでもどうにかできるかも…っていうのは、本当なの?」

 

 

 正直、試してみないと分からないけどな…。

 詳細は省くけど、練の姉御のあの症状は後遺症と言うより……自分からそうなった節があるから。別におかしな事じゃない。似たような例なら幾つかある。

 蜘蛛が苦手な人って結構居るだろ。実際の蜘蛛は、頭の中で思い描く蜘蛛程気色悪くないのに、苦手だ嫌いだと思っているから、どんどんその印象が強くなっていく。

 それと同じで、『自分はこういう者だ』『こんな事があったのだから、こういう風になっている筈だ』と、自分で自分に暗示をかけ続けてるようなものだ。

 

 かなり厄介な症状ではあるが、究極的には自己認識によるものだからな。

 確実ではないし完璧には程遠いだろうけど、それさえ壊してしまえば……まぁ、体もある程度適応しているだろうから、そこから元に戻るのにちょっと時間がかかると思うけど。

 それも含めて、練の姉御本人の意思次第だ。

 幾ら治療行為だからって、抱かれるのをあっさり受け入れられると思うか?

 

 

「……思わないわ。あんな事があったんだから、猶更」

 

 

 ……明日奈にはこう言っているが、多分必要であればあっさりと受け入れる。これは単に、納得しやすいだろうからこう言っているだけだ。

 

 

「それに、自己暗示でああまでなるって言うのも、正直ちょっと信じられないし」

 

 

 普通は無いな。本人の気質と、環境と、認めたくない現実からの逃避、鬼の術による異常な精神状態…色々と噛み合ってああなったんだと思う。

 人間の精神なんて、根っこは柔軟でも上面は脆いもんだ。

 

 

「普通、逆じゃない? 表面をどんなに取り繕っても、心の底の弱さは覆えないっていう」

 

 

 どっちも同じ事だよ。解釈一つでどうとでも言える。

 

 とりとめもない話をしながら、明日奈の表情は陰って見えた。それだけ練の姉御の事が気になっているんだろう。姉御は姉御で、そういう皆の心配を知っておきながら開き直っているのだからタチが悪い。

 正直な話、俺から練の姉御に働きかける気はなかった。

 そりゃ体は美味そうだし、明日奈達がこんな表情をするのも気分が悪いし、ああいう女を都合よく染め上げて自分専用にすると言うのも心惹かれるものはあるが、

 向こうから「発作をどうにかしてくれ」と言われない限り、練の姉御に手を出す気はない。

 

 外見はともかく、性格的に好みじゃないって事なのかねぇ。俺に好みなんてものがあるのかが疑問だけど。

 

 

 

 

 

 その夜は、明日奈の気分が乗らなかった……練の姉御がされた事を連想してしまうんだろう……事もあり、交合ではなく夜通し語明かす事にした。

 事後ではないが、ピロートークみたいなものだ。同じ布団の中で、ピッタリ寄り添って話し込んだのは事実だしな。

 俺の上に明日奈が寝ころんで、柔らかくてスベスベして、ナニがギンギン滾ってたけど、そこは適当に抑え込んだ。欲に溺れるばかりが房中術ではないのだよ。…むしろ欲との付き合い方こそが房中術の本懐なので、こっちの方が本来の使い方とも言える。

 

 俺が大きくしているのに気付いた明日奈は、申し訳なさそうな顔をして、手や口だけでもする?と言ってくれたが、そこまで行ったら絶対止まらなくなる。大人しく会話を楽しむだけにした。

 結果的にはそれで大正解だったようだ。自分に合わせて抑えてくれたと思ったのか、今までとは少し違った好意を感じる。体だけの関係じゃない、思いやってくれているという信頼感と言うか。

 

 

 

 布団の中で話していたのは、里の外…主に外国の事だ。外国と言っても、この時代の異国がどうなってるのかよく分からない。討鬼伝は時代や背景的に幕末付近だと思ってたけど、実際は超がつく程未来の話だった…なんて説も聞いた事があったような無かったような。

 ともあれ、俺の知っている外国と言えば、MH世界の各地方、GE世界の極東とライブツアーで訪れた一部地域くらいだ。崑崙山のド真ん中に放り出された事もあったけど、あそこは岩ばかりで何もなかったしなぁ…。

 しかし、それでも明日奈の興味を強く引くには充分過ぎた。

 知らない言葉、知らない土地、知らない人々、知らない風習、知らない素材…。物心ついてから、この里から出た事のない明日奈にとってはどんな物語よりも煌めいて感じられただろう。…この世界に同じ物があるか、あったとしても残っているかは非常に疑問だが。

 

 明日奈に頼まれ、幾つかの外国語を教え始める。と言っても、文脈とか教えるのは非常に面倒くさいので、単語程度だが。

 木綿季の忘れ形見(成仏してないけど)である、いつぞや見せた連続斬撃の名前の意味も教えてやる。…知らずに使っていたらしい。木綿季からも名前の由来は聞いていなかったのだそうな。

 …ちゅーか、木綿季は何処からマザーズ・ロザリオなんて名前を引っ張って来たんだろうか。南蛮人とどっかで会ってたのかなぁ…。いや母親のロザリオってくらいだし、実はお母さんがキリシタンだったとか? 今度会った時に聞いてみようか。

 

 

 暫く話していたが、二人揃っていつの間にか寝落ちしてしまった。まぁ、偶にはこんな日もいいだろう。

 あと、発音がかなり怪しいけど、明日奈が幾つか英単語を覚えました。……今後はエロい言葉も教えていく予定です。

 

 

 



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421話

接客業をしていると、段々子供が嫌いになってくるなぁ…。
騒ぐし走るし注意しても聞かないし我儘だし。
自分にもあんな頃があったんだろうけど、あんなに走り回ってたら親に叱られてたと思うんだが。

3連休はマジできつかった…。

そして子供以上にムカつくのが、何度も勝手にリジェクトするPS4。
静電気のせいらしいけど、縦置きにしても周囲を掃除しても中々直らない。
静電気除去用の道具を買うか、いっそ買い替えるか…。
でもPS4を新調するくらいなら、PC買い替えたい。
歯医者にも行きたいし、シャツがボロボロになってきてるから買い替えなきゃならんし、携帯電話の修理もしたいし、最近は休みの日が曇りで寒い日ばかりでバイクに乗ってない。

うーむ、不満が貯めこまれてるからか、閉塞感を感じるなぁ。


魔禍月月 参拾壱日目

 

 

 一晩語りあかしてぐっすり眠り、明日奈はすっかり元気になった。納得した訳じゃないだろうけど、本人の意思に委ねるって事で妥協案としたらしい。

 「昨晩は我慢させちゃったから、出掛ける前に…ね?」って、朝っぱらからヌキヌキしてくれました。舐め方が上手くなったなぁ。

 

 とりあえず、練の姉御がどうするにせよ、発作を抑える為の薬は必要だ。材料は峡谷近辺で見かけたので、今日はそれと取りに行く。

 神夜との待ち合わせ場所に行こうとしたら、その前に鉢合わせした。風華と一緒に、甘味を食べている。

 …俺を見た時の表情の変化が対照的だな。風華は相変わらず、恨めしそうな顔になる。

 

 別に気にしている訳じゃないが……いや、仲を改善するに越したことはないと思っちゃいるが、性格や立場的に合う合わないはどうしたって生じる。そんなに俺が嫌なら、あまり近付こうとは思わないんだが……流石にちょっとうんざりするな。

 敬愛する姉が、俺のよーなチャラ男に誑かされてるとあれば、こんな関係になるのも無理はないと思うが。

 

 

「おはようございまーす。昨晩はお楽しみでしたね!」

 

「どちらかと言うと、今朝だったわ。話すだけでも楽しいけども」

 

「…どうも」

 

 

 一度は言われてみたい台詞、ありがとう。何でそんな言葉知ってるのかは知らないが。

 ところで何食ってんの?

 

 

「新しい甘味です。何といいましたか………は、覇笛?」

 

「ぱへ、と言うそうです。伝え聞いた話を元に再現しただけですから、何とも言えませんけど」

 

 

 覇笛…ぱへ…パフェ? よくそんな物、再現できたな。

 

 

「…知っているんですか?」

 

 

 実際の物を喰った事はないなぁ。似たような物なら何度か…。

 

 

「むぅぅ……」

 

「何でそんな不満そうなのよ。風華、私も食べていい? この人の分も」

 

「………わかりました。材料が足りないので、少なくなりますけど」

 

 

 明日奈も甘いものには目が無いようだ。残念そうではあったが、食べられるので良しとする。

 ……持ってこられたパフェっぽい物を見る。

 

 ………風華…。俺の分、なんか少なくないか…? いや別にいいんだけどさ。甘いものより、酒のつまみになる塩辛い物が好きだし。

 

 

 

 

 和風パフェ(仮)はそこそこ美味かった。雪華に食べさせる為の物なんだろうなーと思っていたが、まだ当の本人には秘密にしているらしい。

 …予め新作を作りたいと相談した方が、一緒に居られる時間は増えると思うんだが…。そこら辺は俺がどうこう言う事でもないか。

 サプライズされるのも悪くはないだろうし。

 

 俺に言われても気に入らないだけだと思うけど、食わせるなら早めにしとけよー。

 拗れると話がややこしくなるぞ。雪華、基本的に甘味ジャンキー……もとい、甘味中毒なのは、お前の方がよく知ってるだろ。

 何で自分に食べさせてくれないのかって、拗ねて泣きわめくぞ。

 

 

「ぱへに限らず、甘味を出せばすぐに掌を返すので大丈夫です。言われるまでもありません」

 

 

 よく分かっておられる。流石、雪華のお守として色々食わせてきただけの事はある。

 さて、予想外に美味い物食えたし、気力は充分。出発しますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パフェがよっぽど気に入ったのか、明日奈も神夜もハイテンション状態だ。まるで間宮のアイスを食ったレディ(笑)のようだ。

 つっても、今は採取を優先したいところなので、あんまりハイテンションになってもらっても困るんだが。

 

 峡谷近辺を探し回ってみたが、薬の素材は充分確保できた。やはり、この近辺は吹雪の影響をあまり受けていないようだ。

 

 

「ねえねえ、これ見た事ないんだけど! 何かに使える?」

 

 

 …代わりに、珍しい物が見つかったけど。

 落ち着けよ明日奈…。使える云々はともかくとして、量が足りないって。

 

 さてこいつは…………………あの、世界観が違うんですが? いやある意味近いっちゃ近いが。

 一見すると普通の植物なんだが、こうして手にしていると色々な意味でヤバさが伝わってくる。うん、こりゃ食ったらおかしくもなるわ。何考えてあの二人は、こんな物を食べようと思ったんだ。漫画の話だが。

 うーん、どうしよ。

 折角見つけたものだと、明日奈は何かに使いたいようだが、使いどころがな…。いやある意味毒として使えはするか。

 

 今日は採取をメインとした為、峡谷の奥には進まずに終了。

 今夜は神夜の番なので、早速遊ぼう…と思ったが、何やら準備があるので夜まで待ってほしいとの事。何をするつもりか分からんが、楽しみにしておこう。

 

 

 

 夜までは…そうだな、白浜君と軽い猥談でもしようかな。強くなる為にエロで焚きつけたとは言え、あまり長くは保つまい。具体的な技術の一つも教えてやらねば。

 …あんまりディープと言うかエロい事はまだ教えるつもりはないけどね。だって、それを神夜明日奈を相手にやってます、と言ってるようなものだし。

 まずはお近づきになる方法や口説き方。…口説き方についてはあまり詳しく教えるつもりはない。だって白浜君、下手に喋らせると地雷を踏むタイプだからネ! しかも態々地中深くに埋まっている地雷と言うか不発弾を引っ張り出して、その上でタップダンス…できる程器用じゃないから、震脚の練習とかしちゃうタイプだ。

 人間関係の一番の基本は誠意だし、そこについては良くも悪くも白浜君は俺以上だ。そういう意味では下手なテクニックを教えるより、好意や意思を伝えるタイミングを見極める事だけを教えておけばいいだろう。

 

 

 土産に酒持って来たんだが…。

 

 

 

 あれ、泥高丸? 何で白浜君の所に?

 

 

「何故って、そりゃ本を借りに来たからだ」

 

「お得意様ですよ。うちの本の半分近くは読みつくしてますから」

 

 

 …読書家だったのか。意外や意外。

 

 

「鬼纏の研究の為に、何かいい案が無いかと本を読み漁っていた時期があったからな。そうするうちに、読書の楽しさにも目覚めた訳だ。麗亜との話の種にもなるしな」

 

 

 …白浜君、こういう所は見習いなさい。女を楽しませる為に新しい話題の種を仕入れる事、これはいい男の必須条件だ。

 俺? …新しい業の考案とかはしてるけどね。いや冗談冗談、俺もそれなりに情報収集とかはしてるよ。日頃から面白そうな事を探して挑戦してれば、それなりに話題の種は集まるし、それらを組み合わせれば話の持って行き方にも幅は出来るしね。

 男女の楽しみ方は、卑猥な事だけじゃないんだよ。その他もきっちりこなしてこそ、行きつくところまで行った時のカタルシス…開放感がだな。

 

 

「なんの話かよく分からんが、日中から離す事ではないのは気のせいか?」

 

「いえ、おっしゃる通りです。…僕はいい機会だから、しっかり聞かせてもらいますけど」

 

 

 はっはっは、助平心が顔に出てるぞ、白浜君。

 

 

「ふむ…助兵衛云々はともかくとして、お前らが特に喧嘩もせずに仲良くやっているのには、俺も多少は興味があるな。別に浮気だ妾だの話をする気はないんだが、麗亜であれば他に女が居るとしったら確実に斬りかかってくるぞ」

 

 

 あの人の腕前でか。白浜君くらいなら即死だな。

 

 

「相変わらず雑魚っちぃが、多少は改善されてきてるようだな。…ところで、下半身が妙に重点的に鍛えられているように見えるんだが、何か考えでもあるのか? 足腰は武の基本で基礎だが、それにしたって偏りが半端じゃないように見える」

 

 

 男女の神秘的に考えて、腰が特に重要だからって程度だなぁ。そこだけ重視してても意味ないけど。

 ……うん、偶には野郎だけで馬鹿話もいいか。

 白浜君には前からちょっとだけ教えるって話をしたけど、泥高丸もついでに聞いてけ。夫婦円満の秘訣ってヤツだ。

 

 

「待ってまし……ゲフンゲフン」

 

「……何となく何の話かは分かった。まぁ、この際だし聞かせてもらおうか。麗亜が不機嫌だと、色々恐ろしくてな…。ご機嫌取の方法が多いに越した事はない」

 

 

 相変わらず尻に敷かれてるな。夫婦仲がいいとも言うが。

 そうだなぁ…白浜君だけなら初歩の初歩、お近づきになる所だけのつもりだったけど、ちょいと踏み込んだ例を出してみるか。

 

 泥高丸、晩飯は精が付く物にしとけよ。

 

 

 

 

 

 

 

 小一時間ほど話し込んだ。

 帰りを見送ってくれる時、白浜君はちょっと前かがみになっていて、泥高丸は、何やら妄想しては頭を振っていた。頑張れ二人とも。

 

 

 

 

 

 

 

 程よい時間になったので、神夜の家に向かう。

 神夜にせよ明日奈にせよ、彼女達に家に行くか、俺の家に来るかはその日次第だ。雪華はと言うと、あまり動くと目立ってしまうので、専ら彼女の家に行く事が多い。

 

 今日は神夜の家に招かれた訳だが、何やら趣向を凝らしてくれるらしく今から非常に楽しみである。

 雪はほぼ溶けたとは言え、まだまだ夜風は寒い。今日は神夜を湯たんぽ&枕代わりにしようと決意しつつ、夜道を急ぐ。

 

 

 …ちょい待ち。今何か感じたような。

 

 具体的にどうとは言葉に出来ないが、こうニュータイプばりにピキキーン!と我がセブンセンシズに訴えかけるものが。

 特に確信もなく素早く振り返り、「貴様ッ! 見ているなッ!」なんて言ってみる。

 

 

 ……道端で丸くなっていた天狐が、チラリと目を寄越してそのまま二度寝に入った。

 

 

 …せめて、人類の革新なのか聖闘士なのか吸血鬼なのか統一しろよ、くらいの突っ込みは欲しかった。天狐にそれを言うのが無茶な話か。

 ん? …………式神? ふよふよと飛んできた、折り紙で作った凧みたいな式神がやってきて。

 

 

『ごめんなさい覗いてました』

 

 

 ……お前雪華かよ…何やってんだ…。

 

 

『いえその、もうすぐ楽しい時間なんだろうなと思うと、気になって気になって…千里眼が容易く発動できるようになったものですから、その、制御の訓練も兼ねて』

 

 

 そういや歴代神垣の巫女の中にも、千里眼の術でデバガメやってたのが居たっけな。余計な所を学びよって…。

 まぁいい。覗きをするのは、この際構わん。ただし神夜に『見られてるぞ』って教えるし、後でどんな自慰をしたのかちゃんと告白する事ね。

 

 

『…はい』

 

 

 命令を受けただけで、ゾクゾクしている表情が目に浮かぶ。こいつも見事に変態性に開花したなぁ…。

 

 …しかし、今の感覚は雪華だったんだろうか? 周囲を見回すが、天狐以外は人っ子一人居ない。

 雪華以外に候補は居ないんだが……周囲にそれらしい気配もない。我が霊感も特に騒ぎ立ててはいない。

 

 うーん……確実にフラグだと思うんだが、分からない物は分からない。疑い始めたらキリがないし、疑心暗鬼でこの後の楽しい時間をすり減らすのもバカバカしい。

 下手な事は考えず、目の前に来たモノを叩き潰すつもりで行くとしよう。結局のところ俺に出来るのはそれだけで、それが最大効率なのだ。

 ただし慢心駄目絶対。中破進撃も、油断からの頭タイマニンも論外である。

 

 

 

 

 

 さて、雪華に覗かれながら神夜の家にやってきたのだが………何と言うか、神聖な衣装を汚すのっていいよね。

 なんの話って、神夜が練武戦の前夜祭で舞に使ったあの衣装だよ。やはり男を魅了する為に作られている。更には夜のコスチュームとして使う事すら視野に入れられているようだった。むしろ服でシコシコしてきた。すっごい肌触りがいい。半端ねぇな、神夜の家。日本人は食とエロの追及に昔っから血道を挙げとるからのー。

 思わず肌から生地から染め上げまくってしまったわい。

 

 

 

 

 

 

 

魔禍月 参拾弐日目

 

 

 泥高丸から礼を言われた。何についてって? …まぁ、麗亜さんが期限良さそうにしているからお察しね。

 驚いた事に、泥高丸はオカルト版真言立川流の本来の使い方…互いの霊力を増幅させる行為の一端を会得したらしい。それを鬼纏に使用する事で、更なる術の飛躍を考えているそうな。…そこでエロい事に意識が行かずに、鬼纏の事を考える辺り、つくづく筋金入りだ。

 また続きを教えてほしいと言われたが、それは白浜君の強化進捗次第としておいた。…これで、泥高丸も白浜君を鍛えるのに積極的になってくれるだろう。

 

 それはそれとして、今日こそはあの峡谷を抜けてしまいたい。調査だ採取だと、何だかんだで酷く長引いてしまったからな。

 出発の準備を整えていると、武装した白浜君にあった。牡丹も憑いているし、他にもそこそこ腕のいいモノノフが数人。

 

 おう、白浜君。出陣か。

 

 

「あ、師匠。昨日は為になる話をありがとうございました」

 

 

 為になるのかな…。

 と言うか、結局牡丹の力を借りて戦う事にしたのか。モノノフに憑いてる状態だと、上手く言葉が聞こえないな。

 

 

「ええ…現状、手を貸してくれるミタマも他には居ませんし。牡丹様が知恵を貸してくれるなら、これ以上ない程助かります」

 

「まぁ、最近強くなってきたとは言え、白浜に里長の牡丹様が憑くってのは、俺達からするとちょっと複雑だけど…」

 

 

 新兵の為に、全軍の総大将がわざわざやって来たようなものだしな。

 ちょいと微妙な気分になると思うが、白浜君を助けてやってくれ。

 

 

「分かってるさ。俺達だって、こいつが…その、成果が出なかったとしても、長年努力し続けてるのは見てたからな」

 

「最近では、あんたが提案したとんでもない修行法を必死でこなしてるのもな…」

 

「そうそう、あれを見て文句はつけられねぇって…」

 

 

 口々に周囲のモノノフが余計な事を口にしよる。まぁ、白浜君との関係は悪くないようだし、事を荒立てる必要はないか。

 まぁ、何だ。何と戦う事になるのかは分からんが、そうそう足を引っ張らない程度には鍛えたつもりだ。先達として、上手く使ってやってくれ。

 

 

「分かってらぁ。…こいつに何かあったら、牡丹様まで消えちまいかねないしな」

 

「…あ、ちょっと待ってください。牡丹様が話があるそうです」

 

 

 うん?

 

 

 

 

 白浜君に引っ張られ、近くの物陰へ。…聞かれるとまずい話か?

 

 

「えっと……?  …………はい。はい。 …牡丹様は、以前から目撃されていた、塔についてだそうです」

 

 

 消えては現れる、あの塔か。前から俺も気になってたが、何か心当たりでも?

 

 

「超界石に、何か関係があるかもしれないと言っています」

 

 

 

 …超界石? あの石に? 世界を超える力があると言われている石。

 …そして、宝玉を放り込んだら何故かコスチュームが出てくる謎の石。あの現象については、雪華に難く口留めしている。寒雷の旦那や、牡丹にも秘密にさせているくらいだ。

 かく言う俺も、下手に近付くと新しいコスチューム目当てにガチャってしまいそうなので、極力近付かないようにしていた。

 

 

「えーっと………はい…分かりました。そもそも、足がある訳でもあるまいし、城が自分で動く筈も無い。と言う事は、移動させているのは『他の何か』です。城があった痕跡を見る限り、こう……引き摺って動かしたとか、そういうものでもありません。突然消えて、突然現れたとしか言いようがない」

 

 

 ふむ…つまり牡丹としては、超界石が城を別の世界に転移させてるんじゃないかと思ってるのか。

 

 

「或いは……ええと、牡丹様、もうちょっと簡潔に………はい。成程。あの城は影のような物かもしれないそうです。本体が何処か別の場所にあり、何らかの切っ掛けでそれが僕達が居るこの世界に映し出された、と」

 

 

 有り得る話だが、ちょいと話が飛躍し過ぎてるな。

 仮にこれが当たりだとすると、超界石を調べなきゃならんのか…。ガチャ沼に嵌りそうだと戦慄するべきか、それとも公認の経費扱いでガチャを回せそうだと思うべきか。

 …いずれにせよ、超界石に何かありそうだと言うのは同感だな…。考えてみれば、あからさまにフラグだったのぅ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、それはそれとして峡谷を探索。

 狭い道を抜ける事自体は出来た。ただ、そこから先も異界が続いており、他所の里との接触はできそうにない。

 それに、活動限界時間を考えても、これ以上の深入りは危険だ。まずはこの近辺の異界を晴らさなければならない。

 

 この峡谷に、結界石の彫像があると思っていたんだが…どうにも、当てが外れたようだ。或いは単に、隠されていて見つけられていないだけなのか。

 はてさて、これからどこを探したものか。峡谷近辺をより細かく探すか、ここには無いと割り切ってまだ見ぬ場所を探すか。

 

 とりあえず、今日だけは峡谷近辺の探索に専念したが……成果らしい成果は得られなかった。

 …それ自体が成果、とも言える…か? 土砂崩れやら配置された鬼やら、どれもこれも俺達の足止めを狙うようなものばかりだった。これが自然に生じた結果とは、正直ちっと思えない。

 となると、俺達をここに釘付けにして、その間に…多分、指揮官級の鬼は…何かしらの工作を仕掛けるつもりだったんだ。

 

 

 …ま、後になって、事が起こった後に思い返して、ようやくそう思い当たったんだけども。

 と言う訳で、思いっきりやらかしました。

 ただいま絶賛軟禁中です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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422話

キングダムハーツでアサシンクリード中。
いや広い広い。流石にアサクリには及ばないけど、お手軽かつ広大さがいい感じにチャンポンされてるね。

それはそれとして、某所からディスコードなる物に誘われました。
知らなかったので何ぞや? と思いつつインストールしてみましたが、要するに身内間での2chみたいなものでしょうか?
発現の機会は至極少ないと思いますが、色々参考になりそうなので参加させていただきたいと存じます。

が、一度はインストール・起動・ログインまで出来たのに、何故か電源を切って翌日以降は起動できず。
ブラウザから入れるようですが、なんかこれも挙動がおかしい。
お誘いいただいたのに申し訳ありませんが、暫く参加できそうにありません…申し訳ない。


ソリの合わない店長が休暇に入り、暫く顔を合わせないでいい日になりそう…と思っていたら、早々に連絡する羽目に。
どうにも反感が募る人だけど、休暇中でも連絡受けて対応する責任感とか、強引ながらも対クレーム能力とかは認めざるを得ない…。
一番惨めなのはそれに縋らなきゃならない自分で、折角の休暇に仕事の話を持って行ったのは本気で申し訳ないと思いました。


魔禍月 参拾参日

 

 

 

 はてさて、どこから記したものか。

 結論から言えば、指揮官級の鬼が唐突に登場しやがった。その鬼の名はアデダキニ。先のオオマガトキでとんでもない大暴れをして、この里では千人殺しなんて呼ばれている鬼だ。その割には、他所で名前を聞いた事はないんだが…。

 人間の女の顔に、巨大なサソリのような体。鬼の中でも強い方に分類されるであろう腕力、リーチ、タフネス。

 強い鬼だったのは間違いないだろう。

 

 

 バラバラに引き裂いてやったけどな。……引き裂いてしまった、の方が正しいか? ふと正気に戻ると、えらい惨状になっていた。

 その時のやらかしのお陰で、今の俺は危険人物として(すっごい今更だけど)牢の中に入れられています。牢と言っても、適当な小屋に閂とかをかけられているだけだが。その気になれば、誰だって力で穴を空けて抜け出せてしまうような小屋だ。

 立場的には、里に侵入した鬼を見破って撃退した功労者なんだが………まぁ、それでも無理はないか。

 

 

 

 …話が逸れた。この鬼について厄介だったのは、人の心理を利用するのに長けていたところだ。

 人間と鬼との価値観の違い故か、謀略等に関してはあまり得意ではないようだったが、人の姿に化けるような力と、どういう理屈なのか人の心を覗き込むような能力を持っているようだった。

 

 この鬼は、峡谷に戦力を配置して俺達の注意を惹き、その入れ替わりに里にやってきた。大胆な事に里人の姿に化け、正面から堂々と乗り込んだようだ。

 おそらく、次々に姿を変えて、特定できなくしていたんだろう。その証拠として、里人達の幾つかの発言がある。

 曰く、死んだ筈のお爺ちゃんが妙に素早く歩いているのが見えた。

 曰く、さっき任務で出かけていったモノノフが、何故か里を歩いていた。

 曰く、幼子が一足飛びに垣根を飛び越えていたのを見た。

 

 皆、何かおかしいと思って追いかけたりもしたが、見失ってしまって「目の錯覚か?」で済ませてしまったらしい。他にも似たような事が起きていると知っていれば、もっと考えただろうけども。

 俺達も、戻って来た時には特に何か起こっているとは思わなかった。

 

 寒雷の旦那に峡谷の調査度合いを報告し、その日は雪華に夜這いをかける予定だったので神夜と明日奈は解散。

 俺は雪華が悦びそうな物を土産にしようと、縄とか首輪とかムチとか準備するつもりだった。

 甘味も用意しようかと思ったんだが、そっちは風華がアピールしようと頑張っている。邪魔をするのもよろしくないだろう。…そもそも、風華が俺に売るのを嫌がるような気もするし。

 

 そんな事を考えつつ、夜這いの時間になるまで昼寝しようと家に向かった。

 

 

 …のだが、その時に奇妙な物を見た。輝くような笑顔の風華が、何やら器を持って走っている。ああ、新しい甘味が完成したんだな。さて、それで雪華にどれだけアピールできるか。…色ボケしたとはいえ、雪華は別に風華を蔑ろにしている訳じゃないんだけどなぁ。

 ………そして前方を歩いている雪華に声をかけて…俺はそこで違和感を持った。

 

 何でこの時間に雪華が、一人で外を出歩いてんの? 巫女としても職務中だし、護衛だって一人も居ない。先日の色欲巫女大暴走の件で、警備体制の見直しをしようって話が出たばっかりだ。

 

 

 

 と言うか、後ろ姿で分かりにくかったけど………あの姿は、雪華じゃなくて氷華じゃないか?

 俺が何かする前に、風華は雪華に…氷華?に甘味を差し出して(椅子も無い所で食えというのもどうかと思うが)、何か興奮したように捲し立てていたら。

 

 

 甘味が地面に叩きつけられた。

 

 

 

 うん、確信。こいつ雪華でも氷華でもないわ。氷華は自他に厳しい女だったらしいが、ならば猶更食い物を粗末にするような真似をする筈がない。仮にも一度は抱いた女だし、こんな事をする性格じゃないのはよーくわかっている。…結構甘えたがりだったしね。

 力作甘味を無残に捨てられた風華は、完全にフリーズしていた。フリーズって言うか絶望か。人間、本気で絶望すると表情すら変わらなくなるんだな。

 そのまま放っておくと、完全に精神崩壊しそうな気がしたし、何よりこの偽物を放置して見失ってしまっては堪らない。

 

 

 おい、そこの。

 

 

 強めの語句で呼びかけて、今度は何だと冷たい視線で振り返った偽物に。

 

 

 

 食え。

 

 

 

 

 先日の採取で見つけた、マジヤヴァイ植物を突っ込みました。

 そして鬼が正体を現した。

 

 

 …何も省略とかはしてないよ。文字通りだよ。食わせた植物の効果で、鬼が錯乱して暴れ始めただけだから。

 おかしな泣き声を出してたなぁ。ウニョラー! トッピロッキー!! キロキロー!! ムオワイデリュシニュムニャアー!!!って。

 

 ……もう少し、里の外に誘導してからにするべきだったと思う。甘味を捨てるという行為にムカッと来て、ついつい衝動的に…。

 

 

 いやぁ、大騒ぎ大騒ぎ。無理もないけどなー。結界で守られている筈の里の中に鬼が入って来て、そいつは千人殺しのアデダキニと来たもんだ。

 オオマガトキで戦ってこいつの脅威を知ってるモノノフ達が、半狂乱になった。

 

 俺? 俺はまぁ、別の意味で半狂乱と言うか……偽物だって分かっていながら、迂闊な真似をしちゃったからな。

 放置しておくのは論外だったにしても、風華が間近に居るこの状況で、鬼の正体を暴いて、狂乱させちまった訳で。

 

 もしこのまま風華に万が一の事があったら。或いは鬼の攪乱もとい錯乱で、里に被害が出たら。どんな責任追及を受けるやら。

 そんな保身に基づいた考えで、必死こいて暴れるアデダキニの腕やら尻尾やらを叩き落し、里の外に追いやろうとしていました。……外に連れ出してから、青唐辛子(アラハビカ産)を食わせるべきだったよなぁ…。

 

 フリーズしていた風華を、駆けつけてきた師範代に任せてアデダキニを里の外へ誘導する。

 さっさと斬ってしまえばいい、と思うかもしれないが、それは危険だ。死んだ鬼の体は、瘴気と化して分解される。鬼祓を行う事で瘴気となるのを防ぐ事はできるが、それでも少量はばら撒かれるのだ。里のド真ん中、しかもイマイチ正体が不明な超界石の傍で、瘴気をばら蒔くのは避けたい。何が起こるか分からない。

 だから、わざわざ里の外に押し出そうとしていたのだ。

 

 それはアデダキニも察していたのか、俺を攻撃しようとするよりも、家屋とか資材とかに狙いを定める事が多かった。中に人が居る事もあったし、どうしてもそっちを防ぐのに行動を割かざるを得ない。

 面倒なと怒るべきか、頭の回る鬼だと褒めるべきか、あるいはこの程度の策で手間取ってしまう俺の腑抜け具合を蔑むべきか…。

 

 

 途中で合流してきた、泥高丸、明日奈、神夜を初めとした手練のモノノフの協力もあり、いい感じに結界の外側近くまで押し返す事が出来た。

 こっちにも負傷者は数人出たが、アデダキニは包囲され、そう簡単に逃げられる状態ではなくなった。こいつの変身能力を考えると、範囲攻撃で雪を巻き上げて視界を奪い、小さな姿に化けて逃げ出す…なんて事も出来そうなので、油断はできない。それ以前に、千人殺しを相手に油断なんぞ出来るかってモノノフが殆どだったが。

 

 

 

 

 

 そして、そこから事態は俺の予想外の方向に動いた。

 

 

 

 アデダキニは、俺が予想したように小さくなって逃げ出すのではなく、大きくなって…或いは攻撃しにくい姿になって、逆に俺達を叩き潰してやろうと思ったらしい。

 包囲網の真ん中で、見る見る姿を変えていった。

 

 出来の悪いSF映画の変身シーンのように、腕が変わり尻尾が触手になり女の顔が単眼の鬼の顔に。二本の角、顎の下に伸びた角だがトゲだかよく分からん突起、上半身に比べて妙に小さい足。

 

 

 

 

 く     れ

               い

 

    さ   

 

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                    ち

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付けば、イヅチの姿をしたアデダキニは膾に刻まれ磨り潰され叩き潰され、鬼っていうかもう塵の山みたいになっていた。

 そこにはクレーターと、えらく深い亀裂が入っていた。後から聞いた話だが、突如現れた鬼がとんでもない衝撃を伴った攻撃で、返信した奴を粉微塵にしてしまったらしい。

 

 

 

 

 

 ていうか俺だ。アラガミモードの。

 

 

 

 うーむ、なんか全身痛むなぁと思ってたが、久方ぶりに鬼杭千切を繰り出していたか。更にその後、溜め切りだかチャージクラッシュだか何だかよく分からない追撃も行ったらしい。トドメに狩技・オラクル・タマフリを総動員したフルファイア。

 アデダキニの死骸を尚切り刻み、磨り潰し、滅却させて…人間の姿に戻った辺りで、ようやく我に返った。

 

 

 

 …何人に、どんな姿を見られたのかは分からない。周囲には土煙と言うか雪煙が立ち上っていて、閃光と振動にやられたモノノフ達もひっくり返っていた。

 だが、少なくとも俺が変身して飛び掛かっていく瞬間は……あー、どうだろ。アクセラレートとか使ってれば、3倍の速さで動く事は出来るし、ひょっとしたら見られても認識されてないかも?

 いやいや、それは希望的観測というものだ。

 

 現に、俺は牢に入れられてるじゃないか。実際には小屋だけど。里に被害を出した為、と言われちゃいるが、実際はな…。

 …俺は鬼の回し者と思われてるんだろうか。実際そう思われても仕方ない姿だったし、恐れられるくらいの力を衝動的に奮ってしまったが…。

 

 

 

 

「おい、今の怒気は一体なんだ? ただでさえ微妙な立場になってるんだから、妙な事を考えるなよ」

 

「……ちびるかと思った…ていうか、怒っただけで小屋が壊れかけるって何ですか…」

 

 

 あん? …おお、泥高丸と白浜君。

 悪い悪い、ついあのクサレ……………………………………

 

 

「怒気を漏らすな。変身するな。全く、何なんだその姿は。…おい白浜、起きろ。話を聞かなきゃならないって、神夜や明日奈を差し置いてまで来たのはお前だろうが。泡を吹くのはいいが、漏らすなよ」

 

「…………(パクパク)」

 

「やれやれ、意識を保って漏らさないだけでも、大した度胸だ。随分鍛えこんだらしいな」

 

 

 最初に叩き込むのは、恐怖で縛られた体を、もっと強い恐怖で無理矢理動かす事だぞ。

 …っと、人間状態に戻って。

 

 えーと、何がどうなってんだっけ? アレの姿を目にしてから、頭から色々すっ飛んでな。消し飛ばした時に色々やらかした事は分かるんだけど、その後速攻で小屋に放り込まれたし、状況が分からんのよ。

 聞いてみると心底呆れたと言わんばかりの表情を向けられた。

 

 

「呑気な奴だな、お前は…。咄嗟にお前の姿を隠した俺の機転に感謝しろよ。…実のところ、俺だってお前の正体に戸惑ってるんだ。これまでの実績を鑑みれば鬼の回し者ではないとは思うが、ならば何だと言われると言葉に詰まる」

 

「師匠…。師匠は、鬼なんですか…?」

 

 

 無理に立ち上がるな白浜君よ。

 鬼か、と言われてもな…実のところ、俺にもよう分からんのだ。

 

 そんな顔をするな、誤魔化してる訳じゃない。産まれが色々複雑でな。

 最初は人間だと思ってた。鍛えまくって「え、人間?」と言われるような人種になって、その後合意の上で体を改造されて(陰謀で暗殺されたけど)、モノノフの戦い方を学んで、いつの間にやら変身できるようになっていて、実は生れからして母親の腹から産まれたのではない事を知って、更に物質を取り込んで鬼を作り出す触媒を体に取り込んでしまって、何か知らんけど同じように取り込めるようになったから、鬼の手を具現化する為に重要な素材を取り込んで。

 

 

「それはひょっとして冗句で言ってるのか?」

 

「ちょっと何言ってるか分からないですね」

 

 

 至って真面目だ。まぁ理解されるとは全く思っていないし、俺も全く理解してないが。

 真面目な話をすると鬼ではないよ。世の中には呪いで人から鬼の姿に変えられた奴も居るが、そいつも結局は人間だった。…色々とやさぐれて、人間じゃなくなってもいいなんて事を言い出してたけども。

 あの姿は……とある地域で、アラガミと呼ばれている種族の姿だ。

 

 

「荒神? …師匠は自分が荒ぶる神、荒魂だと言いたいんですか?」

 

 

 まさか。奉られるような存在じゃねーよ。

 確かにあの土地のあの種族は、そう言われてもおかしくない事をやってたがね。(何せ、世界を丸ごと食い尽くした訳だし)

 そいつらだって、珍しい性質を持っているだけの生物でしかなかった。

 

 

「……まぁ、敵でないなら俺は何も言わん。だが他の連中がどう見るかは知らんぞ。特にあの二人は」

 

「…あの姿になる事、知っているんですか?」

 

 

 いや、里では誰にも言ってない。

 …今、生きている人で知ってる人は誰も居ない。

 

 

「……そう、ですか…。しかし、それは話しておくべきです。経緯や理由はどうあれ、あの変身を目にすれば、きっと大きな衝撃を受けます。黙っているより、信頼の証として自ら打ち明けるべきです」

 

 

 妙なところでグイグイ来るね、白浜君。まぁ、言ってる事は分かるけどな…もう手遅れだって事を除けば。見られたからなぁ。

 

 

「そもそも、何でお前はあんなに激怒してたんだ? アデダキニは確かに強力だったが、あのまま戦っていれば充分倒せただろう。俺とお前だけでも、ほぼ勝ちは確定していたくらいだ。わざわざあの姿を晒す理由がない」

 

 

 ……アデダキニは、人の心を読んで、その中にある誰か、或いは何かに姿を変える能力があるらしい。ここまでは分かるな?

 

 

「ああ。思えば、かつてのオオマガトキでの戦いの中、結界石が汚され砕かれていったのも、奴の仕業だったんだろう。人の姿に化けて潜り込み、内側から工作する。………ひょっとしたら、練の…」

 

 

 練の姉御に起きた事は知ってるよ。有り得る話だ。

 どんな手段か知らんが、結界を擦り抜けて入ってこれたなら、術なんて仕掛け放題だろうさ。

 そっちについては…色々思う所があるが、徹底的に消し飛ばしたから報復はできたと思っておこう。

 

 …話が逸れたが、アデダキニが変身しようとした鬼は、ドグサレ……もとい、イヅチカナタって鬼で、俺はそいつを追いかけてる。

 率直に言って、顔見ただけで俺の怒りが有頂天になるくらい憎い。

 奴本体が相手なら、そのまま消し飛ばす訳にはいかん理由があるんだが……偽物だったら止める理由も無いし、つい衝動のままに…。

 

 

「意外って訳でもないですけど、師匠って結構衝動的ですよね…一体何をされたんです…」

 

 

 据え膳があれば、即手を出すくらいにはな。

 何をされたって……ループの事は黙っておくとして……大事な人との記憶を奪われたり、そいつ本人を喰いやがったり、あとなんか脈絡もなくとんでもない災厄(具体的にはラヴィエンテ)を連れてきやがったり。 

 あんまり思い出させるな。また怒りのあまりに変身して暴れ出したくなる。

 

 

「白浜、首を突っ込むのはその辺にしておけ。大人しくしているように見えて、こいつ相当苛立ってるぞ。この分だと、下手に突くと話に聞いた『そこに居るだけで草木が死を選ぶような殺気』に目覚めかねん」

 

 

 …殺意の波動は勘弁してほしいなぁ。純粋な狩りが出来なくなってしまいそうだ。

 で、結局何の用だったんだ? あの姿が何なのか、聞きに来ただけか?

 

 

「大体そんなところだ。お前自身はそれなりに信用されているし、あの姿を曝したとは言え、明確に目撃できた者は少ない。とんでもない速度と余波だったからな。一応、あの鬼が真の力を発揮して暴れ出そうとしていたから、先手を打って止めた…と言う事にしてある。やり過ぎてしまった罰として隔離って事になったが」

 

「泥高丸さんが証言してくれたんです。確かに、傍目にも巨大化して、強くなっていそうな雰囲気でしたし」

 

 

 成程。礼を言っておくべきだな。ありがとう。

 

 

「ま、この前の男女の秘儀を教わった借りを返したって事にしといてくれ。あの姿を明確に見たのは、俺と、俺の直属の部下数人程度だ。お前の女二人に関しては、一瞬見えた程度だろう」

 

「牡丹様も僕も、一瞬だけなら見えました。変身の瞬間を、偶然目にしていたので…後は、寒雷さんにも報告しています」

 

 

 まぁ、牡丹に見られたなら、寒雷の旦那にも伝わるわな。里の纏め役二人だし、伝えない方が問題になる。

 で、どうする? 追放でもするのか。

 

 

「馬鹿を言え。俺達はお前を、それなり以上に信用も信頼もしていると言ったろう。大体お前を追放して、何の意味があるんだ。現状、異界を浄化できるのはまだお前だけなんだぞ。お前が居なくなったら、ようやく見えた希望が無くなっちまう。異物を排除できるかもしれんが、里の近辺から離れる事はできんだろう。素直に異界に入って行き、戻ってこない…なんて玉じゃないだろうが。どの道近くに居させるしかないなら、里の一員として扱って、援護も協力もする方が余程いい」

 

「一応、追放するべきでは?って意見も出たんですよ。まぁ、全く考慮されませんでしたし、言った寒雷さんも立場上言わざるを得なかったって感じでしたが」

 

「まぁ、あの人は里のご意見番みたいなものだからな…。無条件に信頼するのは危険、くらいには思ってなければならんだろうよ。尤も、さっきのお前を追放しても意味がない理由は、その寒雷さんから解説されたものだけどな」

 

 

 と言うか、その会議って誰が参加してたんだ?

 

 

「寒雷さん、目撃者の俺と部下一人、牡丹様とついでに白浜、雪華様」

 

「ついで…いえ確かに、本来なら出席できるような立場ではないんですが」

 

「結論から言えば、基本的にはこれまで通りだ。ただ何人かから疑いの目が向けられるのは覚悟しておけ。それと…これはそもそも通達していなかった事らしいが、霊山や他の里に接触を取れた場合のお前の立場が問題になった」

 

 

 ? どういう事だ?

 

 

「元々な、寒雷さんはお前を遣いの一人にしようと思っていたらしいんだ。外の状況の事は俺達よりも詳しいし、腕も確かだ。強さは武に生きるモノノフにとって、時に何よりも明確な身の証になる。里に住んで一か月以上経つし、明日奈や神夜の婚約者とでも言っておけば充分に里人と言えるからな。ついでに言えば、お前を里に引き留める一助になれば…とも考えていたんだろう」

 

 

 …俺が使者扱いって事か。そりゃ笑えない冗談だね。何やらかすか分かったもんじゃない。下手すると行った先の里と全面戦争なんて事になりかねないぞ。

 

 

「そこまで言いますか…。代わりに、僕が使者となる事になりました」

 

 

 白浜君が? …言っちゃなんだけど、俺以上に不適格じゃないか?

 誠実ではあるけど、人の神経を逆撫でするところがあるし、難しい事は苦手だし、機転を利かせるのも特異とは言い難い…。

 

 

「…分かってますよ。あと、まだ弱いですしね。どっちかと言うと、牡丹様が主です」

 

 

 牡丹が? 里長が使者として出向くってどうなの。重要人物を向かわせる事で、誠意を示すのは分かるけど。

 それに、前に相談していた時には、新しい里長候補が居ない限り……いや、あくまで意見の一つでしかなかったけども。

 

 

「…前里長が見つかったんです」

 

 

 

 

 

 

 何?

 

 

「例の、消える塔の所でな。その城自体、予想外な所で見かけたんだが。とは言え、まだ前里長が戻って来た訳ではない。異常が起きている事は伝えられたから、戻ってくるとは思う………が、あの人だと逆に奥に行きそうで怖いな」

 

 

 言ってる意味がよく分からんのだだ。

 

 詳しく聞いてみると、塔が発見されたのは結界石の洞窟の中。白浜君達が探索している、あの洞窟だ。

 奥へと進んでみると、何故か壁に道を阻まれた。イメージ的には、埋まっている遺跡を発見したような状態だろうか? こいつは一体何だ、何でこんな所に建築物が埋まっていると騒いでいると、壁の窓からひょっっこり人が顔を覗かせた。

 正にそれが前お頭だった訳だ。

 

 誰だと問う前里長に里の者だと返したが、信じられなかった。そりゃそうだ、前里長が行方不明になって既に5年以上経っている事を、前里長は自覚してない。

 唯一、姿形が変わらなかった牡丹の証言で信じてくれた。その塔の中に居ると浦島太郎状態になるから戻ってこい…と伝えた所で、また塔が幻のように消えたのだそうだ。

 

 またややこしい話になってるなぁ…。というか、地底にまで塔が出現するって凄いな。完全に物理法則を無視しとる。まぁ、それは鬼……に限らず、三つの世界で全く珍しい事じゃないけども。具体的にはアタリハンテイ力学とか。

 しかし、信じるかどうかはともかくとして、里、或いは自分に異変が起こっているのは伝えられた訳だ。それなら、流石に戻ってくるんじゃないか? 仮にも里長な訳だし。

 

 

「普通ならそうなんだが……あの人だからなぁ。好機は逃がせんと、欲に目が眩んだまま突っ走る可能性が否めない。或いは、保身のために大きな成果を上げないといかん、なんて言い出すかも…」

 

「何年も里を留守にして、実際に牡丹様が上手く治めてた訳ですからね。今更戻っても、前と同じ地位に居られないと思うのは当然でしょう。…頼りになる人なんですけどねぇ」

 

 

 頼りになるって言うか、評判を聞くと頼り『には』なる人って感じだな。

 そもそも、どうやって帰ってこれるのかって問題もある。予測されている通り、城が出現している間しか行動できないなら、奥を目指すにしろ一度引き返すにしろ、すぐに実行する事はできないだろう。

 

 

「そうだな。いずれにせよ、今はそれぞれに割り当てられた作業を進めるしかない。白浜と牡丹様は洞窟の調査、お前は異界の浄化、俺は里の警護と…お前が開けたオオマガトキ未遂の穴の調査」

 

 

 その節は誠に済みませんでした。

 しかし、異界の浄化か…結界石の石像、まだ見つかってないんだよな。

 霊山に通じる道に繋がってるって峡谷は超えたが、そこには配置された鬼しか居なかった。恐らく、アデダキニが俺達の注意を里から離す為に、さも『ここに何かあるぞ』と言わんばかりに囮として置いたんだろう。

 

 外に通じる道は何とか開拓できたが、異界の浄化が出来てないんじゃ片手落ちだ。瘴気無効装備を持っている人間だけが通れても、意味はない。

 とは言え、本当にどうしたものか…。それらしい場所は、殆ど探したと思うんだがなぁ。せめて目印か、手がかりでもあれば…。

 

 

「結界石の像、か…。オオマガトキ前に、結界石が置かれていた場所の地図があった筈だが」

 

 

 それならもう見た。その場所には無かったよ。

 

 

「凄く今更な事なんですけど、そもそも異界浄化に使われる結界石の像は、以前からあった像と本当に同じ物なんでしょうか? 明らかに形が違う訳ですし」

 

 

 それは………うん?

 

 

 白浜君、今のもう一回。

 

 

「はい? ええと………異界浄化に使われる結界石の像は、オオマガトキ前から結界の起点として利用された像と、同じなのかと…形が違うと言うのは、今までも不思議に思っていたんでしょうけど」

 

 

 そう、形が違う。鬼の仕業じゃない。人の手によるものでもない。

 そして変わった後の形は、フラウの胎児、俺と関係を持ったシオ。…彼女達の共通点は………そうだ、クサレイヅチに喰われたと思われる点。

 MH世界でデスワープする寸前、フラウの腹から吸い出された胎児の因果がクサレイヅチに捕らわれるのを見た。

 シオは…確証はないが、これまたデスワープする時、クサレイヅチが直接狙っていた。あの時は、何故か俺ではなくシオを狙ったように思える。

 

 となると…次に来るのは、やはり千歳か。人質にされてるからな…………イライラシテキタ

 仮にこの推測が当たっているとすると、クサレイヅチが何らかの理由で石像を彫刻した……んじゃないよな。

 

 ひょっとして、クサレイヅチから零れ落ちた因果か何かが影響を与えたのか?

 だとすると…。

 

 

「お、何か思いついたのか?」

 

 

 ああ。…つっても、因果を探すなんてどうすればいいやら。クサレイヅチの痕跡を辿るか? …出来るんだったら、デスワープ直後に即追いかけてる。

 

 

「色々気になる事はありますが、そろそろ時間です」

 

「む、もうそんなに経ったか。…俺達はこれでお暇する。謹慎は、明日の朝には解けるだろう。…それまで、しっかり納得させておけよ」

 

 

 は? 納得って?

 

 

 答えを返す事なく、泥高丸と白浜君は小屋を出ようと扉を開けた。

 

 

 明日奈と神夜と雪華が立っていた。男二人は、無言で道を譲った。

 帰り際に、白浜君がぽつりと呟くのが耳に届いた。

 

 

「…雪華様まで来られるのはちょっと予想外でしたね。……え、牡丹様が里長として許可を出しておいた?」

 

 

 …気が利いているって言うのかなぁ。ちゃんと話をしなけりゃならんのは確かだけども。

 



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423話

魔禍月 参拾肆日

 

 

 3人と夜通し語り合いました。いや、夜通しって程じゃないな。途中からオタノシミに移ったし。

 半ば以上予想で来ていた事だが、そうシリアスなお話にはならなかった。本当は鬼なんじゃないのか、という疑惑こそ持っていたが、そうだったとしても俺達の関係に変わりはないと断言された。

 ……特に雪華が断言して熱く語っていた。

 

 信頼信用よりも、好きな人が実は敵の回し者で、貶められた自分が徹底的に辱められて完堕ちするって妄想をね。

 

 これに触発されて、明日奈も神夜も似たような妄想を始めた。これってそんなに刺さるシチュエーションなのかねぇ。確かに、ハーレクイン的なお耽美漫画のネタっぽくはあるけど。

 いや俺も好きだよ? やる方としては。でもこの子達、辱められる方で妄想してるしなぁ…。

 

 

 ……いぢめられるのが大好きなように開発しまくってる俺が言えた事じゃないか。

 だったら、これからも欲望の赴くままに蹂躙して、理性もモラルも尊厳も引っぺがし、俺の為なら何でもするヒロイン(?)にしてやろうではないか。

 

 ん? いや、希望があれば逆もいいよ。

 具体的には、悪の組織の工作員である俺が掴まって、尋問官の3人にあの手この手で誘惑された挙句、悪堕ちならぬ正義…性技落ちして、3人にベタ惚れしてしまうって感じの。

 

 …でも、アラガミモードのまま交合するのはちょっと待ちなさい。力が強すぎるし、そもそもモノが更に大きくなってるから、ちゃんと下準備しないと冗談抜きで裂けます。

 

 

 

 

 

 他に話した事と言えば…あの変身が何だったのかと言う事と、後は事の推移だな。

 風華の新作甘味を偽物が叩き落したと聞き、雪華は鬼子母神のような表情になっていたものだ。

 その後、鬼が正体を明かすに至るまでについてだが。

 

 

「…何を食べさせたんですか?」

 

 

 この前、明日奈が探索中に見つけた青い実。俺も初めて見たけど、青唐辛子っていって、魔境と呼ばれる一部の地域にしか生息してないんだわ。同じ名前の奴なら、あちこちにあるんだが。

 味は……なんつぅか、冒涜的な辛さとしか言いようがない。

 これを喰った人間は、ウニョラー!でトッピロッキー!!なキロキロー!!をムオワイデリュシニュムニャアー!!!して野生化する。

 

 

「何を言っているのかよく分かりませんが、万が一本物の私だった場合、私がそのう、うにょーら?になって、里の結界が消え失せていたのでは…」

 

 

 それはそうだが、風華の甘味を放り出すようなお前が本物の筈ないだろ。本物だったとしたら、絶対洗脳か何かされとるわ。

 そーなったら、どっちにしろ気付けに青唐辛子を突っ込んでたが。

 

 

「…何気なく見つけて採取したけど、そんなに危険な植物だったんだ…」

 

 

 死の調味料と最臭兵器を組み合わせた並みの破壊力だからね。

 未知の素材を探すって事は、こういう事だよ。迂闊に手ェ出すと、えらい事になる。…けど、上手くやれば成果は大きい。

 

 …そう言えばすっかり忘れていたが、風華はどうした? 鬼が暴れ始めた時には、微動だにしていなかったんだが。

 

 

「元気にしていますよ。元気ですけど………何故か鬼の事をすっかり忘れているようで」

 

「恐らく、雪華様に持って行った甘味を拒絶された衝撃に耐えられず、忘れる事で心を守ったんでしょうね。新作甘味の作り方まで忘れてしまったようです」

 

 

 そこまで衝撃的だったか…。風華には、偽物だったなんで分からなかっただろうし、無理もないか。

 …雪華、そんな世界に絶望したような顔をするな。本当に辛いのは風華本人なんだから。

 無理に思い出させるような事も禁止。心の傷を抉るような事をしちゃいけません。

 

 

「……はい…。自然と思い出すのを待ちます」

 

 

 よろしい。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、謹慎が解けて、探索に出発…する前に、寒雷の旦那に呼び出された。色々聞きたい事があるって言われたし、そうするのもよく分かるけど、これで説明3回目だぞ。面倒くさいわ。

 …とは言え、里の元締めともいえる人に説明しないというのも無理なので、物凄く面倒くさい顔をしながら説明はしたが。

 

 

「…成程。かつては人が、呪いで鬼に変えられた事もある…と話には聞いていたが…」

 

 

 んー、まぁその認識でいいでしょ。間違ってはいない。ゴッドイーターとしての力だって、定期的に薬を呑まなきゃそれこそ本当に鬼(神だが)になるからね。

 ともあれ、ここで指揮官級の鬼を討てたってのは大きいな。

 

 

「その代わり、里のすぐ近くに大穴が開いたけどな。確かに、対価としては軽い物か。…奴が、オオマガトキが起きた時の諸々の現象を引き起こした鬼…。ようやく仇を討つことができた、か…」

 

 

 寒雷の旦那は、何やら遠い目をして追憶に耽った。アデダキニにに殺された仲間も多く居るのだろう。

 間接的な被害者も含めれば、一体どれだけの被害が出たのか。

 

 …しかし、アデダキニってのは随分多彩な能力を持ってるものだ。心の中を覗き込む、化ける、結界を誤魔化して入り込む、人の夢に干渉する、更に並みのモノノフじゃ相手にもならないくらいの戦闘力…。

 

 

「ん? …ああ…そう考えると、随分色々やってるものだ。だが、奴一匹の能力と言う訳じゃないだろう。指揮官なだけあって、他の鬼に手伝わせていたんじゃないのか」

 

 

 …だとすると、里で討った一匹だけが異常に強力な個体ではない。つまり、他のアデダキニにも同じような事が出来る可能性は高いな。

 

 

「いや、それはどうだろう。アデダキニ自体、数が多い訳じゃないが、複数体居たとして、一体だけが指揮官として活動していたなら、その根拠がある筈だ。ゴウエンマだって同じだろう。奴らも鬼を指揮する立場にあると考えられているが、全てのゴウエンマがその地位にある訳じゃない」

 

 

 …確かに。

 

 

「ま、あくまで推測だ。鬼が考える事なんぞ分からんしな…。ところで、異界浄化の調子はどうだ」

 

 

 何かありそうだ…と思っていたところが、大外れだった。それもアデダキニの策だったようだが…。

 ただ、別の探し方を思いついた。正直言って確証は無いし、手掛かり探して今まで踏破してきたところをもう一回歩かないといけないけど。

 

 

「ほう。ちなみに、その探し方と言うのは?

 

 

 …細かい理由や由来は省くが、結界石の石像の形が変わっているのに関係がある。俺が追いかけてる鬼…もうぶっちゃけて言うが、アデダキニが変身しようとした鬼だ…の仕業というか影響で、形が変わったんだと思うんだよ。

 って事は、そいつの痕跡を探して辿れば、その内石像に辿り着く…と思う。

 

 

「成程。…雲を掴むような話ではあるが、それは今更か。全権は任せてある。思った通りにやってくれ」

 

 

 はいよ。

 …正確に言うと、クサレイヅチの痕跡を探すんじゃない。クサレイヅチから零れ落ちた、千歳の因果や気配を探すんだ。

 抽象的な話なのには変わりないが、俺は確実に見つけられると確信している。

 絆…と言うと、なんか照れ臭いものがあるが…それだけ強い因果で結ばれてると信じているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、色々あったがとりあえず探索開始。今までとはやり方を変えて探す、と言うのは二人に伝えてある。

 まずは里の近くから、もう一度探索を始めるんだけど…。

 

 

 いや、あのね、無駄にアラガミ化するのは疲れるんで、正直勘弁してほしいんだけど。

 

 

「ええ~。いいじゃないですか、見たい事極まりないです~。あの強そうな鬼を一瞬で消し飛ばした、勇猛極まる姿を見せてくださいよ~」

 

「…ごめんなさい、私も正直興味ある。どんな姿であろうと、私達の関係には変わりはないって言ったけど、単純に気になる」

 

 

 まぁ、俺だって特撮映画のヒーローが実際に目の前に居れば、じっくり観察したくなるけどさ…。

 とりあえず、人に見られそうな場所では却下。泥高丸に言われていた通り、ちょくちょく疑い…と言うか疑問の目で見られているんだ。今後の事を考えても、知られるのはあまりいい事じゃない。

 せめて誰も居ない場所でな。

 

 

「誰も居ない所で鬼っぽい生き物と対峙しているって、モノノフ的に考えれば助太刀案件ですよね。むしろ不審に思われるのでは?」

 

 

 …見られなければいいんだ、見られなければ。

 ともかく、アラガミ化は一種の切り札なんだ。何度も連続して使うのは負担が強いし、今日の探索が終わってからにしてくれ。

 

 

「…終わったら、すぐにでも家に帰ってべったりしたいなぁ…外来語で言うとイチャイチャ」

 

 

 どないせいと言うのだ…。と言うかイチャイチャは外来語だろうか? 今更ながら、教え方が間違っていたような気がしてきた。

 

 

 

 さて、探索についてだが…うーん、今までとあんまり変わらないな?

 統率を取っていた鬼が居なくなったんだから、縄張り争いと同様に強力な鬼達が殴り合ってるんじゃないかと思ってたんだが。

 

 …縄張りと、指揮官の地位は別物って事かな? 縄張りは家みたいなものだから、無いと困るって言うか生きて行けない。でも指揮官なんてやっても、大した実入りは無いだろう。人間社会と違って、給与も役職手当も無いからなぁ…。

 あのアデダキニも、指揮しているというより、必要な時に協力を要請できる、という程度のものだったのかもしれない。

 大体、鬼って基本的に自分の事以外は気にしないからな。わざわざ他の鬼と協力して何かをするなんて、必要に駆られない限りまず無い。

 

 今後、変化があるかもしれないが…とりあえず、今日のところは普段と大差無し。

 残念ながら、千歳の因果の気配も感じ取れなかった。

 

 

 

 

 そして家に帰ったら、イチャつきながらアラガミモードの姿を矯めつ眇めつ見分されました。何というか、解剖されてる気分だったぜ…。カエルとかをバラすんじゃなくて、服を全部剥かれて、好き放題に突き回される感じの。と言うか、アラガミ状態で腹筋やうなじが何かグッとくるとか言われても。

 変身した時に身に付けていた物で、形や能力が変わるのも白状したんだが、真っ先に神夜の家に伝わっている淫具を持ち出してきた。お望み通り、色々使って遊んであげた。

 …今日は雪華は不参加だったけど、後から知ったら血涙を流して悔しがるだろう。

 

 

 

 

 …おや?

 

 

 

 

 

 

 

魔禍月 参拾伍日

 

 

 手掛かり、と言うか千歳の因果の気配、発見。我ながらこんな事で見つかっていいのかと思う。

 見ていた明日奈・神夜も「うわー…」みたいな顔をしてたし。

 逆に、俺としてはある意味では深く納得してしまった。

 

 

 どうやって探したかって?

 

 

 まず、里の外に行く。

 誰にも見られてない(明日奈と神夜を除く)のを確認し、パンツを脱ぐ。畳む。アラガミ化する。勃起させたちんこが引っ張られる方に進む。

 

 

 ね? 簡単でしょ?

 

 

 

 

 

 

 何を言っているのか分からないって?

 ちんこが分かってるからいいんだよ。

 

 

 

 

 …ちょっと真面目に解説しようか。

 

 そも、因果とは原因と結果。糸の両端のようなもの。右端があれば左端もある。つまりは単体では成立しない物だ。過去に行動を共にしていた、或いは直接面識はないけど何らかの影響を与えたったというだけでも、因果は結ばれる。

 そして、俺と千歳は因果で繋がっている…他の色々な物ともつながっているが、そこは今は置いといて、少なくとも俺と千歳の間に結びつきがあるのは確かだ。

 では、何処と何処が繋がっているか? 繋がっているなら、それを最も強く感じられるのは何処だ? それはどんな方法で?

 

 

 …ここまで来たら、もうなんか予想できたかもしれないが……昨晩、裸でアラガミ状態になり、ちんこを勃たせた時、何かこう……引っ張られるような感覚を感じたのだ。いや、引っ張られるというのは違うな。惹きつけられる、か。

 勿論、目の前の二人や、その時瞑想という名目で妄想して自分を慰めていたであろう雪華にも惹かれている。3人が居る方向に、ちんこが行きたがっているのがよく分かった。

 しかし、それと同時に、全く明後日の方向に行きたがっているのも分かったのだ。

 

 …普段なら上を向いている肉棒が、棒占いみたいに妙な角度を維持したまま大きくなったからねぇ。何かおかしいのは明白だった。

 尚、そのままズッコンバッコンしたかったが、アラガミモードだとまだちょっとキツい。おっぱいやお口でヌキヌキしてもらいました。

 

 

 そして今、その棒占いみたいになったアラガミ型ちんこの導きに従い、俺達は進んでいる訳だ。

 レーダー付ちんこか…。昔、何かの小説でちんこに目が出来たって話を読んだ事があったなぁ…。いや目そのものじゃなくて、視界ができたんだっけ? ……流石にその領域まで行ってないな。もし視界がついたら、その状態で女のナカをじっくり見物してみたいものだ。

 

 明日奈・神夜の二人はスッゴイ微妙な表情をしていたが、その先に本当に結界石の石像があるのなら是非も無し、って感じだ。実際、今は他に手掛かりらしい手掛かりが無い。

 誰かに見つかったら、青姦未遂って事にしようと思いつつ、ちんこの導きに従い進む事数時間。

 時々見つける鬼はアラガミモードのまま蹴散らした。ちんこ立てた状態のアラガミモードなら、中心脚だって使えそうだが、何が悲しくて女以外を相手にちんこを使わなければならぬのだ。うれしくないおっぱいを相手に、勃起させてると思われるのも癪だしね。

 

 

 

「……なんか…同じところ行ったり来たりしてない?」

 

「してますね。おちんちんさん? 本当にこっちでいいんですか?」

 

 

 こら神夜、ナデナデするんじゃありません。ちんこが千歳の因果じゃなく、君達に向かっちゃうでしょうが。

 とは言え、実際同じところをぐるぐる回ってるんだよな…。この辺りに結界石の石像が、或いは千歳の因果があるんだろうか。

 

 

「石像はともかく、因果ってどうやったら分かるんです? 目に見えるんですか?」

 

 

 俺の知る限りでは、青い光に見えるな。ただ、それはあのクサレイヅチが吸い上げようとしている時だから、平時じゃ確かに見えそうにないな…。

 千歳っぽい物を探すしかないかぁ…。

 

 

「それこそ私達には、どう探せばいいのか分からないんだけど…。周囲にそれらしい石像が無いのは何度も調査してるし、千歳さんっぽいものって一体…」

 

 

 千歳の特徴…。まずお人好しだな。自称『正義のモノノフ』。

 それから、俺と同じで鬼に呪いをかけられて、体が半分鬼になってる。

 おかげで何も知らない一般人から化け物扱いされて石を投げられる事も多かった。幸い、落ち着ける所を見つけて暫くそこで療養してた。

 自分を受け入れてくれた里に物凄く感謝していて…まぁ、生来の気質もあるだろうけど…困っている人を見たら無条件で手を貸すし、そういう事もあって里人から物凄く好かれていたな。アイドル……って言っても分からないから、里に訪れて程なくして、中心人物みたいになっていた。

 

 

 尚、これは全て冗談でも誇張でもなく事実である。

 

 

 

「「………聖人?」」

 

 

 アイドルだ。プロデュースしたのは俺だけど。

 

 

「あい…ぷろ…? 明日奈さん、分かります?」

 

「外来語はまだちょっとしか知らないわ。聞いた事もないわね。…うーん……やっぱりどうやって探せばいいか…。もうちょっと、敏感にできません? ここ」

 

 

 こら明日奈、サワサワするんじゃありません。催してくるじゃないか。

 あと人を不感症みたいに言うな。

 

 と言うか、そんなに敏感になると逆に堪えられなくなって、お楽しみが短くな「「今のままで結構です!」」分かってくれて何よりだ。まぁ自分の感度や射精くらいコントロールできるけど。

 さて、小芝居はともかくとして、この近辺を周ってるって事は、この近くにあるのは間違いないと思う。

 地図を見ると、俺達の軌跡は………こうだな。

 

 

 

「……円形ですね。何週かしましたけど、ここから離れはしませんでした」

 

 

 だな。単純に考えれば、このド真ん中辺りにありそうだが…平野だな。隠すところもないくらいに舞っ平らだ。ひんぬーキャラの胸板くらいに平だ。

 …丘なり岩なりあれば、その中に埋まってるんじゃないかと思えたが…。

 

 

「…掘りますか?」

 

「どこを?」

 

「それはもう、私の一番気持ちいいところを♪」

 

「なら私が抉ってあげるわ。その気持ちいいところの隣にある穴をね」

 

「二本刺しだなんて……あれは素敵でした」

 

 

 はいはい、下ネタは女子会の時に話しなさい。

 冗談はともかく、確かに埋めるってのはいい隠し方だ。 

 何か目印でもない限り、何の脈絡もなく地面を掘り返す事はない。埋め戻した痕跡さえ隠せるなら、最上の隠し方だろう。

 

 ちょいと時間はかかるが……掘り返してみるか。

 とりあえず、今日のところは里に戻ろう。掘り返すにしても、道具がないと時間がかかりすぎる。

 

 

「荒神の姿で、爆発を起こして吹き飛ばすのではいけませんか?」

 

 

 いかんだろ。威力が高すぎて、結界石の石像まで壊れかねない。

 ほら、物足りないとか退屈だとか言ってないで帰るぞ。今日は神夜の望み通り、前も後ろも穿り返してやる。明日奈、今日は神夜がメインディッシュだから、一緒に味わおうか。

 

 

「「………♪」」

 

 

 その夜はいつになく激しかった。と言うよりいつもより激しかった。

 何でだろうと思ったら、「目の前で恋人のちんちんが、他の女を欲しがってるのを見て面白い筈がない」だった。…うん、ぐうの音も出ねえ。たっぷり埋め合わせをさせていただきました。

 

 埋めるどころか、実際には掘ったり抉ったりしてる訳ですけどね。

 その結果、おちんちんの呼称は『さん』から『様』に格上げされました。

 

 

 



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424話

 

魔禍月 参拾陸日

 

 

 何やら里がざわついていると思ったら、次の練武戦に向けての準備が始まったらしい。追い詰められていた状況の割には結構頻繁にやってるな。

 今度の練武戦は、大きく期待されているそうな。何でと言われたら、お前のせいだと言われた。

 

 里最強の使い手だった泥高丸が、流れのモノノフに負けて。

 他のモノノフも大体は手も足も出せずに打ち負かされて。

 更に里のモノノフの欠点を懇切丁寧に解説されて。

 

 それで黙っていられる筈もない。

 俺が勝った当初は多少の反発はあったものの、強者には敬意を払うのがモノノフの習性だ。圧倒的な高みからのアドバイスを拒絶する事はできず、各々必死で鍛えていた。そう言えば、白浜君の訓練を見てドン引きしていたモノノフ達も、何だかんだで止めようとはしなかったし、むしろ訓練を見て何か参考にできないかと思っていたようだった。

 とにもかくにも、モノノフ達はリベンジに燃えているのだ。

 泥高丸だって、鬼纏だけでなく、基礎技術も一から練り直していたのを知っている。…まぁ、30日程度でどれ程の効果が出るかは…本人次第か。

 

 そして、何気なく注目を集めているのが白浜君である。

 万年ドベ、落ちこぼれのモノノフ、武に生きるより貸本屋の主人が天職な男と言われていた彼だが、俺が教えたハンター式訓練法によって地獄と言うのも生易しい責め苦を耐え抜いたのを、皆が目にしている。

 いや、責め苦と言うのもおかしいか。何せ、何だかんだ言っても白浜君は自分で成し遂げたのだ。一度鍛錬を初めてしまえば、逃げる事ができないよう色々な『仕込』をしておいた。逆を言えば、鍛錬を始めるまでは幾らでも逃げられた。逃げた所で、誰も責めはしなかっただろう。待ってるのは地獄と知りながら、白浜君は自分から地獄の鍛錬に挑み続けたのだ。

 みっともなくギャアギャアと喚き散らしながら、必死どころか死力を振り絞って鍛錬を続ける姿を、皆が見て来た。

 

 落ちこぼれのモノノフのレッテルは、未だ剥がれていない。侮りがある。だが同時に、今までの白浜君とは違う、あれだけの訓練を乗り越えたのだという評価もある。

 更には、何故か里長の牡丹がミタマとして力を貸している。

 白浜君が、どのような結果を残すのか。あれだけ頑張っていたのだから、成果が出るといいと願う者。他人事のように気楽に応援する者。迂闊に戦場に出すと危険なので、敗退してもいいから安全な後方に居てほしいと願う者。万年ドベにだけは負けないと気炎を上げる者。

 それぞれの思惑を持って、それは密かに関心を寄せられていた。

 

 

 

 

 

 そんな事は梅雨知らず、白浜君は「必殺技がほしい」なんて戯言を言い出したのだが。

 

 

 丁度、買って来たどら焼きで一服していた俺としては、舐めとんのかと言いたくなったが。

 必殺技と言うと………鬼を必ず殺す技、と言う事かね?

 

 

「はい、そうです。人間相手ではなく、鬼が相手です。ここ大事」

 

 

 ふむ…練武戦の為ではない、と。

 そんな物があったら、人間はここまで鬼に追い詰められてないんだよなぁ。

 

 

「ですよねー」

 

 

 ですよねー、じゃねえよ。早く強くなりたいのは分からんでもないが、いきなりどうした。

 

 

「いや、真面目に必要になりそうで…。牡丹様に言われたんですけど、そういう……何と言うか、格上に勝利する為の技を一つは持っておけ、と言われまして」

 

 

 それで必殺技か。まぁ、牡丹の言う事も分からんではないが。

 ちなみにその牡丹は?

 

 

「分かるんですか。でも、そういう技は無いんですよね? あと、牡丹様は今日は祭祀堂で里長としての仕事をしています」

 

 

 ああ、無いな。必殺技って概念からして間違えてる。

 必殺技ってのは、使ったら相手が必ず死ぬ技って事だぞ。実際に殺すかどうかはさておいて、そんなもん、技じゃなくて魔法だ魔法。タマフリだってそこまで都合のいいもんじゃない。

 

 牡丹が言いたかったのは、相手の防御をブチ抜いて致命打を与える攻撃って事だ。

 

 

「…? どう違うんです?」

 

 

 まず大前提として、鬼の生命力は桁外れだ。血管を一つ二つ斬っただけでくたばる人間とは違う。首を跳ねても平然と動く奴さえ居る。心臓っぽい所をブチ抜いてもな。

 そんな奴を相手に、必ず殺す技だなんて無茶振りが過ぎると思わんかね?

 

 相手が生物として格上だとするなら、本来ならまず勝ち目はないんだ。頑丈さ、膂力、速度。単純に性能を比べればどうにもできない。だからこそ格上だ。

 そんな奴を相手に戦おうと思ったら、何が必要だと思う?

 

 

「……人数?」

 

 

 間違っちゃいないな。数の暴力程有効なものはない。しかし、有象無象が幾ら束になったところで、使い物にならない程度の力しかないのであれば軽く蹴散らされる。

 俺の結論は、これだ。相手を仕留める為の方法。

 

 

「どう違う、としか言えないんですが」

 

 

 性能の差を覆す方法。全てが敵に劣っているのなら、一点だけを高めて一瞬だけ上回り、その一瞬を致命の物とする。

 実際できるかどうかはこの際どうでもいい。そういう切り札を持ってるってだけで大分違う。実際、勝ち目が全くないか、髪の毛一本分でも光明があるのかの違いは大きい。

 

 …話が逸れたが、技は力の中にあり、だ。基礎の基礎、身体能力を徹底的に磨き上げ、そしてそれを十全以上に扱う術を究極的なまでに磨き上げ、そしてようやく必殺技……の足元に到着する。

 

 

「そこまでやって足元ですか!?」

 

 

 足元だ。つーか、威力を求めてる時点で必殺技の範疇に入らん。

 さっきも言ったが、使ったら相手が死ぬなんてのは技じゃない。魔法どころか呪術でも奇跡でもない、もっと悍ましいものだ。具体的に言うとアカバン。

 

 俺達が鬼に対して使う必殺技は、火力が重要なんじゃない。流れを作れるかどうかだ。

 そうだな…。

 

 

 非常に極端な例を挙げよう。お前、見た事あったっけ? この…鬼の手。確か、最初の異界を浄化した時に、説明の為に皆に見せたと思うんだけど。

 

 

「遠目で見ただけですが…。これが師匠の必殺技ですか? でもこれ、体質だか道具だかの問題で、師匠にしか扱えないんじゃありませんでしたっけ?」

 

 

 そうだな。専門の道具を作る奴に接触できないからね。

 こいつ以上の破壊力を持つ切り札もある。が、必殺技はどれだと言われれば、俺はこいつを推す。

 

 

「…威力以上に重要な事がある? でも仕留められる技と言うなら、破壊力こそ前提では…」

 

 

 さっきも言ったが、相手は鬼だ。簡単に殺せると思うな。

 相手がその一撃で死なない以上、必殺技に求められるのは敵の動きを阻害し、自分に有利な流れを作る『切っ掛け』だ。

 

 …言ってる意味が分からない? 鬼葬って技なんだが…この鬼の手を思いっきり使えばな、鬼の部位を完全に破壊できるんだよ。再生する事が無いようにな。

 

 

「へ? 再生…しない? と言う事は、腕を攻撃すれば?」

 

 

 敵は片腕になる。足を攻撃すれば?

 

 

「片足になる…………両足で立てなくなる! 鬼の形にもよるけど、動きが腕が無くなった時以上に制限される!」

 

 

 そういう事。普通に潰して祓っただけじゃ、奴らは霊力っぽい物で補うからな。

 これは極端な例だが、普通のモノノフで言えば…そうだな、相手の動きを止めて、こっちの好きに行動できる時間を増やすような技、或いは連携か。

 

 白浜君、今君は手甲を使った戦い方を学んでいる訳だが、この攻撃方法を思いつく限り挙げてみろ。

 

 

「はい。まずは通常の打撃。打撃を与える瞬間に力を集中する好連携と呼ばれる技術で、効果的な打撃を与えやすくなります。次に赤熱打撃。特殊な打ち方で衝撃を打ち込み、敵に与える痛みを増幅させます。一番の特徴は百裂拳。通常の打撃と同じく、炸裂の瞬間に力を籠める事で威力の増加が見込めますが、速さが段違いの為難しいです。文字通りの連続打撃と、最後の一撃の破壊力は圧巻です。……僕はまだまだですけど」

 

 

 熟練者に比べれば話にならんが、現段階では上出来だぞ。他は?

 

 

「えっと…顎砕き。跳躍して、鬼の上部を攻撃します。それから…そう、鬼千切! 懇親の力で殴りつける、単純ながらモノノフの奥義とも言える必殺技です」

 

 

 うん、大体そんなところだな。では、その中で白浜君が一番得意なのは?

 

 

「………百裂……いえ、通常の打撃でしょうか。百裂拳は、好連携が難しくて…」

 

 

 ふむ…なら、それに合わせたミタマの使い方は?

 

 

「そこまではまだ……。任務中に、色々試してはいるんですけど。ただ、防で攻撃を防ぐとか、魂で遠距離攻撃を考えてます。痛いの嫌です」

 

 

 …ハンター式訓練を潜り抜けておいて、何を今更…。まぁ、誰だって無意味に痛いのは嫌だけども。

 防なら敵の攻撃を押し退けてゴリ押し、タマフリを使い切っても防御力を底上げする事で継戦能力が上がる。魂だと、遠距離攻撃と近距離の手甲て今一つ合わないが…。ふむ、ソルパン…か。でもあれ、確か実際には間違いだったんだよな…。

 

 

 なら、通常打撃、ミタマの使い方が防として、その効果を最も効率的に運用するには…そうだな、あくまで一例だけど。

 赤熱打撃で相手の防御を弱めるのが第一弾。味方の数が多ければ、効果は更に跳ね上がる。

 続いて好連携による打撃で部位破壊を狙い、体勢を崩したら追撃。

 立ち上がりそうになったら、今度は鬼千切で強烈な打撃を与えてスッ転ばす。

 

 これが王道だな。

 

 

「なんか…使える技を並べただけって感じなんですけど」

 

 

 間違ってはいない。一発の攻撃力に限度がある以上、連続攻撃が必要になるのは当然の事だ。そして連続攻撃を長く続けるには、敵が動けない状態を作り上げる事が重要。

 敵が動けない状態と言えば、倒れている時だ。或いは痺れている状態とかね。

 これらを淀みなく正確に行うのが、まず大前提。

 

 真の狙いは、連続した部位破壊だ。敵の部位を破壊すれば破壊する程、こちらが優位に立てるのは言うまでもない。特にこの里の戦い方だと、鬼祓いが必要ないからな。

 理想を言うのなら、相手を倒れさせる時に部位破壊一つめ。倒れた所を連続で殴りつけて二つ目。立ち上がろうとするところへの鬼千切で三つ目。仲間が居て、鬼千切の準備をしていれば、同じ流れで四つ目五つ目の部位破壊が出来るだろう。それだけ好きに殴れる時間があったのなら、更に鬼千切の準備が整えられるかもしれん。

 

 

「な…なるほど、鬼千切も好連携も、あくまで機転。鬼が抵抗できない状況を作り出し、それを継続し、そして一気に戦力を削る…。……………あの、これって言うは易しじゃ…」

 

 

 当たり前だ。必殺技なんてものが、簡単なものである筈ないだろう。

 見せておいて何だが、鬼葬みたいな技に頼るな。流れを作れ、流れを。相手が格上な時点で、真っ当なやり方じゃ勝てやしないんだ。だったら相手の力を制限して削るか、もっと強い戦力を連れてくるしかないだろう。

 

 身体を強化できるような呼吸法なら確かにあるが、お前にゃまだ早い。その手の技は、大抵諸刃の剣だ。危険の少ない鬼纏を使った方が、余程マシだよ。

 その手の業も、時期が来たと判断したら教えてやるから、今はまず基礎を磨き上げなさい。さっき言った流れも含めてな。

 

 

 

 

 

 さて、白浜君の事は置いといて、今日も探索だ。ちんこをダウジングロッド代わりに使う、見ていて珍妙な探索だ。

 寒雷の旦那の万事屋から工事道具を借りてきて、ちんこが一番反応する地点を掘り返し始める。尚、この時はガッチガチに硬くなっているというのに、ちんこが真っ直ぐ地面を指すという珍妙な現象が発生した。

 なんか治まらなかったので、一発ヌいてから作業に入る。異界の中で本番する訳にもいかず、手だけでヌいてもらったが…一人がちんちん握って、一人は見張り。どっちがどっちをやるかと、明日奈と神夜の間で激しいじゃんけん合戦が繰り広げられた。

 

 その後は、よいせこらせどっこらしょ、と地道に穴を掘り始めた。通りすがりの餓鬼が「なんだこいつら」とばかりに一目見て、そそくさと逃げて行ったのは忘れない。

 

 

 

 

 

 掘り進める事数時間。…暇だ。いや体は常に動かしているし、体力的には程よい疲れではあるし、横で掘ったり休憩したりしている美人さん二人のおかげで軽い会話もあって、別に辛いって訳じゃないんだが…。

 ただ意味もなく穴を掘ってるようで、自分が何をしているんだろうって気分になってくる。穴掘り穴埋めが拷問に使われる理由が分かった気がする。

 

 神夜も、最初は童心に帰って楽しんだり、水を流して小さな水路を作ってみたりしていたが、すぐに飽きた。

 明日奈はすぐに、もっと簡単かつ効率的に掘る方法が無いかと…ぶっちゃけて言えば、怠けられないかと考え始めた。

 

 時々襲ってくる鬼すら、暇潰しや気分転換扱いだったからなぁ…。

 

 

 

 不満も不平も多々あるが、実際これ以上は手掛かりも方法も無い。えっさほいさと掘るしかなかった。

 

 活動時間が残り少なくなった頃、もう一回ちんこを立たせて千歳の因果を探ってみたのだが、やっぱりちんこが指し示すのは真下。

 やっぱりまだまだ掘るしかなかった。

 

 

 

 



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425話

キングダムハーツのアクアに、ちょっとムラッと来ました。
外伝考案中。
…………やべぇよ、やべぇよ…。名前出さなきゃいけるかな…。

と言うか練の姉御の濡れ場でクッソ苦戦してます。


ワールドシーカー発売まで、あと2週間。
その間にー、書き溜めしてー、キングダムハーツのトロフィーなるべく取ってー、アサシンクリードのアップデート分をクリアしてー、ちょっと気になってたあのイベント行ってー。
…時間が足りねぇ!


魔禍月 参拾漆日

 

 

 

 

 

 

魔禍月 参拾溌日

 

 

 

 

魔禍月 参拾玖日

 

 

 疲れた。この3日間で、一気にイベントが進んだような気がする。

 整理してみれば、それらはある程度関連付いていて、ちょっとした切っ掛けで雪崩を打って発生したのだと分かるが、幾ら何でも状況の変化が速すぎだ。

 

 順番に書いていこう。

 

 まず一つ目。結界石の像が見つかった。見つけたのはえっちらおっちら地面を掘り返していた俺ではなく、地下の洞窟を探索していた白浜君達だ。予想通り、像は千歳の姿をしていたんだが…。

 そこで俺に衆道疑惑が掛かったりもしたな。とりあえず異界を浄化する事はできた。

 

 

 二つ目。前お頭がとうとう帰って来た。彼を初めて見た時の衝撃を理解できるだろうか?

 里の人達の評価から、何となーく似てる人だなーとは思ってたんだが…初対面の時、ついついフルネームで名前を呼び捨てにしてしまった俺を誰が責められるだろう。

 尤も、その時の反応は「誰だそれは? 耳をかっぽじって聞け! 儂の名は…!」だったが。名乗る前に、里人の歓迎に言葉を潰されてしまった。

 

 尚、帰って来た前お頭は、里の皆から色んな意味で歓迎されていた。主な歓迎のされかたは、「ハク(つまり金)返してくれ」と、寒雷の旦那の「ばっかもーん!」だ・

 いやはや、あれだけの評価も、死んでる筈がないという異様な信頼も納得と言うものよ。

 

 

 話を戻して、三つ目。異界の浄化をした事により、とうとう霊山に繋がる道が開拓された。

 これにより……まぁ、かつてオオマガトキの際に見捨てられたとか、或いは異界に連携を阻まれてどうしようもなかったとか、その辺の事はともかくとして、他所と繋がる事ができるようになった訳だ。

 これがまた喧々囂々、どういう態度を取るべきだ、まずは調査をすべきだ、誰が行くべきだ、とにかく協力できる相手が出来たのは目出度いと大騒ぎだ。

 

 

 そして四つ目。雪華が風華を手籠めにしてしまった。………色々開発してやったし、遠からずヤるだろうなーとは思ってたが…。

 正直、これは責められん。先日のアデダキニ騒動の際、雪華(偽)に懇親の甘味を叩き落され、記憶を削除する程に衝撃を受けた風華。何も覚えてない状態になっているが、平静でいられる筈も無かった。

 いつ突き放されるか、置いていかれるか、怯えて錯乱しそうになった時に……雪華がパクッと頂いちゃった訳だ。

 ド変態マゾの雪華にしては珍しく、嗜虐心が刺激されたのか、俺への捧げ物として捕縛したのか、メンタルケアの一環と割り切ったのか、或いは俺が里から去った後の性欲処理用玩具のつもりなのか…。

 いずれにせよ言えるのは、これから風華は飴玉の如く、全身をしゃぶり尽くされるであろう事だけだ。…一番やりそうなのは、俺じゃなくて雪華だと言っておく。

 

 

 更に続いて五つ目。練の姉御に、発作の治療を依頼された。やる事はセックスだが。

 

 

 細々としたイベントはまだまだあったが、大体いこんな所だったかな? 順番に書いて行こうか。

 えー、事の始まりは、またしても丸一日かけて穴を掘り返し、全く成果が上がらずに帰ってきたところ、超興奮した白浜君が駆け寄って来た事だ。

 あちこちに怪我を負っているのに元気だな。あの分だと、初めて大型鬼と戦って手柄でもあげたか? 探索していたのは結界石の洞窟の中だから、鬼にとっては絶対的に不利な条件の筈。更に白浜君達は祓円陣の効果を活かす為に4人で動いていた筈だし、余程強力な鬼でない限り、まず勝てて当然だ。…とは言え、やっぱり初手柄は嬉しいだろうなー…なんて思ってたんだが。

 

 それどころじゃなかった。いや確かに、結界石の洞窟の中、大型鬼を倒してはいたんだが、白浜君が興奮しているのはそれが理由ではない。

 前述した通り、結界石の像が見つかったのだ。成程、これは自他共に認めるお手柄だ。何せ異界の浄化に直結する成果だもの。

 

 穴掘りで(主に精神的に)疲れた体に喝を入れて、白浜君に案内してもらう。

 連れていかれた結界石の洞窟…雪華から処女を捧げられた場所を、ちょっと感慨深く眺めた後、その奥へ。

 洞窟は大きな一本の道と、そこから別れる小道が幾つもあった。よくこんな面倒くさそうな洞窟を、数日程度で調べられたものだ。

 

 白浜君曰く、「分かれ道は多いんですけど、すぐに行き止まりなんですよ。小道の先には、小さな袋小路があるだけです」だそうな。

 …それ、結界石の洞窟でなければ、鬼があちこちに屯しているのがお約束だよな。或いは、帰る時になったら何処からともなく敵が湧いてきて、奥へ奥へと押し込められるか。

 

 それはともかく、洞窟を暫く進んで…そう、距離的には丁度、俺達が千歳の像を探して穴掘りしてた辺りだ。

 そこに千歳の像はあった。像を見た途端、千歳の事とクサレイヅチの事を思い出し、色々とヒートアップしそうになったが…何とか堪えた。

 

 そんな俺を放置して、千歳像を興味深げに眺めている明日奈と神夜。

 

 

「この方が千歳さんですか。…意外と幼いですね」

 

「本当に体が半分鬼になってる…のは聞いてたからいいけど、この格好は何かしら。転びかけてると言うか、裾を翻して今にも走り出そうとしているというか」

 

「おっぱいは完全勝利です!」

 

「うわ、腰細っ! ちゃんと食べてるの? 睫毛長い! むぅ、半分鬼でも美人だって分かるくらいには強敵ね」

 

「……あの、師匠。あれ放っておいていいんですか? 流石に壊すとは思いませんけど、触りまくってますよ。何事なんですか?」

 

 

 …まだ見ぬ恋敵(?)に、興味津々だなぁ…。

 好きにさせてやれ、壊さなければ。

 

 しかし、何だってこの像だけ、こんな地下にあるんだろうな。 

 

 

「むしろ自然な事では? 結界を張る為の起点の像が、野晒しになっている方が余程不自然ですし。この洞窟から素材を掘り出したのだとしたら、わざわざ運ぶよりもここに安置した方が効率がいいと思います」

 

 

 …言われてみれば、それもそうか。まぁ、実際はどうだかわからんけど…。

 

 改めて像とその周辺を見回してみる。

 見れば見る程千歳にそっくりだ。凛々しい表情をしているようだが…何だか焦っているようにも見える。どういう状況のポーズなんだろうか。

 何にせよ、この石像も、他の石像同様に瘴気に満ちてしまっている。石像が千歳の形に変化する前からこうだったんだろうが……気に入らんな。まるで、千歳本人が瘴気に呑まれてしまったようだ。

 

 周囲を見回して気が付いたが、洞窟の天井に幾つか穴が開いている。見た所、かなり遠くまで続く穴で、その中は瘴気で満ちていた。結界石の洞窟の中ならば、瘴気は自然と中和されていく筈だが…それが起きてないという事は、中和されない程に濃い瘴気なのか。或いは長い時間をかけてこびり付いた残滓なのか。

 いずれにせよ、穢された千歳の像から発生した瘴気は、その大部分が結界石に中和されつつも、残った分が天井の洞窟に入り込み、そして地上へと漏れ出していったのだろう。

 

 であるならば、異界の浄化はここから可能だ。今度は予想外の事態で、オオマガトキモドキを発生させる事はない……筈。ちゃんと本願寺顕如=サンに、安全なやり方を習ったからね。「不安で仕方ない。御仏よ、導きを」って全然信用されてないけども…。

 さて、とにもかくにも、さっさと浄化してしまおう。単なる像とは言え千歳なんだし、綺麗な状態にしてやりたい。

 

 

 

 ……ん? あの、明日奈さん? 神夜さん? どうしてそんな目で俺を見てるんですか?

 

 

「………あの。この方、女性…ですよね?」

 

「そして、恋人だったのよね?」

 

 

 そりゃ女性だよ。見れば分かるだろ。おっぱいあるし。……………あ"。

 

 

「でも……その、ついてるんだけど? 下に…」

 

 

 …何でそんな所を見てるんだ?

 

 

「いやその、あちこち触っている内に、流れでつい…。最初は単なる勘違いかと思ったけど、裾の中を見たら…その、一部だけ膨らんでるし、と言うか大きくなってるし」

 

「………も、もしや……衆道…!?」

 

「え゛」

 

 

 違うよ! 普通に女が好きだよ! 幾ら見た目が女の子っぽかったとしても、野郎とヤる気はねぇよ!

 白浜君も勘違いしてんじゃない!

 

 

「いやでも、現に…。まさかここだけ実際の千歳さんと違う理由もないですよね」

 

「穢れた汚ちんちんは、おちんちん様に非ず…。事と次第によっては、本気で覚悟してもらうから」

 

 

 だから話聞けって言ってんだろ! 白浜君も居るのに、そーいう言葉使うんじゃありません!

 確かに、千歳には当時の俺よりちょっと大きいちんちん付いてたけど!

 

 

 

「「…………」」

 

「………」

 

 

 無言で武器を構えるな。白浜君も退くな!

 千歳はちゃんと女の子だっつーの!

 

 鬼の呪いを受けたからそうなってるだけだ! 体が半分鬼になってるだろうが。産まれた時は確かに女の子だったけど、呪いのお陰でイチモツが生えちまったんだ。

 生えただけで、元からあった胸や穴が無くなった訳じゃない。フタナリ、って言っても分からんか。半陰陽って言えば分かるか?

 

 

「半陰陽………言葉は知っていますけど、実在してたんですね…。……明日奈さん、これってどうでしょ」

 

「……う゛~~~~~ん………『良し』とは言えず、衆道でもないのであれば安易に『悪し』とも言えず…。と言うか、半陰陽って女性みたいな男性……でも元は女性で、しかも呪いを受けた結果だし…」

 

「………あの、気まずいんで僕、帰ってもいいですか? なんか牡丹様がとんでもない事言い出しそうですし」

 

 

 おう、巻き込んで済まなんだな。

 とりあえず、さっさと浄化してしまおうか。夜になって寝床に連れ込めば、何時ものように強引にでも納得させてしまえる。むしろ、疑ってごめんなさいと土下座ックスにまで持ち込める。

 

 二人がアウトとセーフの間で懊悩しているのを後目に、こんな精神状態で術使って大丈夫かなぁと思いつつ、異界浄化の術式を実行するのであった。

 

 

 

 

 

 とりあえず異界浄化は上手く行った、と思う。何で断言できないかって、結界石の洞窟の中だったからね。外がどうなってるのか、直接見ないと分からなかった。

 結果から言えば、特に問題なく浄化できていた。オオマガトキモドキらしい黒い穴も無し。

 何処まで異界が消えたのか確認したかったが、何せもう夜だ。人によっては、既にぐっすり眠っている時間帯である。

 俺自身、昼間の穴掘り、異界の浄化、明日奈と神夜をどうにか説得しようとして、流石に疲れた。異界の様子を見に行くのは翌日にする。

 

 

 とりあえず、その日は雪華の所に3人でお邪魔した。千歳を相手していたのは衆道に入るのか議論する為だ。

 …まぁ、議論なんぞする間もなく、疑った罰としてのお仕置きックスが始まった訳だが。

 

 

 

 

 

 そして翌日、ちょっとハードにお仕置きした為、明日奈も神夜も動けなくなってしまった。仕方なく雪華に世話を任せ、一人で異界探索に出た。

 やはり異界は浄化できている。霊山へと通じる道を覆っていた異界は、鬼の残党や崩落の跡こそ残っているものの、瘴気はほぼ消え失せている。これなら、モノノフだけでなく一般人でも通れない事はないだろう。

 

 …期間にして2か月ちょっと、か。ようやく外に通じる道が出来たんだなぁ…。

 二か月でこうまで感慨深く感じるんだから、何年も閉じ込められてきた里の人達はどれくらい喜ぶだろう。…一致団結していた里が、別の場所に行きたい人達と、この土地に留まって守りたい人達で割れたりしなければいいんだが。

 

 まぁいいか。先の事を考えすぎても仕方ない。今はとにかく、この閉塞していた状況を打破できた事を喜ぼう。

 里の皆に、この事を知らせてやらないと。

 

 

 

 

 …てな事を考えつつ、また宴会とかするかなー、と期待しながら戻ってみると、里の様子がおかしい。

 悪い意味ではないんだが、何やら里人が総出で里の入り口付近に集まっているようだった。危険な気配はない。モノノフも何人か居るが、武器は持っていないようだ。

 …お、明日奈、神夜、雪華も居る。動けるようになったか。

 

 さて、一体何事なのかと、声を掛けようとしたところで『彼』が目に入った。

 その人が前里長だと、一発で分かったね。何でこんな所に居るのかは、全く分からなかったけど。

 

 豪快な笑い声。

 得物と思われる、使い込んだ長銃。

 青く染められ、腕まくりされた装束。鎧は着ずに、動きやすさを重視しているそれは忍び装束に近い。あちこちにポケットが付けられている。

 装束は実用一辺倒なのに、何故か靴は便所サンダル。雪国のここで、よくあんなもの履いていられるな。吹雪の中で間違ってクーラードリンク呑んだ俺が言うのもなんだけども。

 

 そして何とも特徴的な、繋がったM字眉毛!

 

 

「ん…? 何だ、見慣れない奴がいるな。ああ、お前が噂の新入りか! 儂が居ない間、里を守ってくれてありがとうよ! 異界を浄化できるんだってな。いい儲け話になりそうだ。期待してるぜ!」

 

 

 そしてこの言いよう。

 

 

 りょ、両津勘吉………!

 

 

「あん? 誰だそりゃ。耳の穴かっぽじってよぉく聞け! 儂の名は「ばっかもーーーーーんん!!!!」おぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 

 突如響き渡る物凄い怒声。何がスゴイって、声が物質化して見えるくらいに凄い。

 具体的には、咄嗟に防御の姿勢をとった前里長に、『ば』が直撃してガードを崩し、『っ』が足を救って体勢を崩し、『か』は曲がった部分を引っ掛けるようにして関節技、体を固定。続く『も』は逆転するような軌道で振り上げられ、先端部分で正確に顎をカチ上げる。完全に無防備になった体に『ーーー』が三節棍のように乱打、最後に3本同時に腹に直撃して体を浮かす。空中に浮いた前里長に、『んん』が左右から迫り、×の字に飛び蹴り(っぽい攻撃)で吹っ飛ばす。落下していく前お頭に、『!!!!』が迫り…前里長がそれを銃撃で叩き落そうと(よく意識があったもんだ)発砲。……その後の事は、よく覚えてない。ただただ大爆発が起きた(ような気がした)だけだ。どうやら最後の『!!!!』は爆弾っぽいナニカだったらしい。

 

 ……無論、全て幻覚というか錯覚だ。猛烈な気迫の籠った声だったが、それだけでこのよーな現象が起こる筈もない。

 それにしては、落下した前里長は焼け焦げているが。

 

 何事かと声の主の方を向いてみれば、えらく険しい顔をした寒雷の旦那。…ばっかもーんって、あんたそんなキャラだったっけ?

 と言うか、さっきの声…波動砲ならぬ罵倒砲とでも名付けてみるか。意外と鬼にも通じるかもしれん。

 

 

「な、何だよ……って寒雷か! 変わらねえなお前は」

 

「お前もな。良くも悪くも悪くも悪くも悪くも悪くも全く変わってない…。里長が! 何を考えて! 何年も何年も里を開けてやがるんだ!」

 

「待て待て待てそれは不可抗力だ! 儂にとっちゃ年どころか一週間程度しか経ってないんだぞ!? 時間の流れが違うだなんて、誰が想像できるんだよ。浦島太郎だって、竜宮城に行ってる間に10年以上時間が経ってたなんて思わないだろうが!」

 

 

 まぁ、そりゃそうだよな。流石にそれに気付いてたら、もっと早く戻ってきてる筈だ。

 あー、寒雷の旦那、積もる話とお説教はあるだろうけど、ちょいと状況を説明してほしいんだが。

 

 どうしていきなり帰って来たん? と言うか、両津勘吉でないのなら貴方はだーれ?

 

 

「お、おう。んんっ…改めて耳の穴かっぽじって、とくと見よ! …? 何かおかしい気もするが、どうでもいいか。儂の名は、鬼すら黙るシノノメの里の頭領、両津ため吉だ!」

 

 

 両津……ため…吉?

 

 え、誰それ。いや目の前の人だけど。

 本当にあの人じゃないの? 名前以外そっくりだよ? 声まであの人だよ。しかし架空の人物が実在するとは…でもそれを言ったら討鬼伝世界もMH世界もGE世界も架空の世界の筈だし。

 ひょっとしてモデルになった人だろうか。或いは、よく似た血縁、ご先祖様とか。

 

 目の前でふんぞり返っている前里長改め両津ため吉さん。しつこいようだが、見れば見る程両津勘吉にしか見えない。

 周囲の里の人達から、「そんな事いいから、まずハク返してくれ」と迫られている。誰一人心配していなかったよーだな。

 と言うか、疾走する前の借金って事はもう数年以上前だろうに、よく覚えていられるものだ。

 

 

「ええい、やかましい! もうすぐ大きな仕事があるんだ。それが終わったら纏めて返してやるから、ちょっと待ってろ!」

 

「ちょっとも何も、何年待ったと思ってんだ!」

 

「儂にとっちゃ一週間程度でしかなかったって言ってるだろ! その間に金策なんぞ出来たと思うか!?」

 

 

 仲がよろしい事で…。にしても、やっぱりあの塔の中に居ると、時間の流れが違ったんだな。よく帰ってこれたもんだ。

 と言うか、何処から帰って来たんだろうか。

 

 

「…いやそれが…」

 

 

 うん? ああ、確か結界石の石像…特に本願寺顕如=サンの石像の警護をしてる…。

 

 

「本田です。前里長、実はあのオオマガトキモドキの穴から帰って来たんですよ」

 

 

 ……え? あの、でっかくて黒い、本願寺顕如=サンが監視してくれてる穴?

 

 

「ええ、あなたが開けてしまったあの穴です。調査をしようとしていたら、あそこから歩いて出てきました。理由なんて聞かないでくださいよ。あの人のやる事成す事、考えてたらきりがないんですから」

 

 

 確かにそのようだが…。なんだ、あの塔は実はあの穴の先にあったってのか? 益々訳が分からない。

 と言うか、あの穴って調査進んでたの?

 

 

「ええ、あそこを通り抜けても大丈夫か、戻ってこれるかとか、そういう安全確認しか出来てませんけど。それにしても……おかしいなぁ。前里長の事だから、引き上げてきた以上は絶対に何か成果を持ち帰ってると思うんだけど」

 

 

 牡丹から、外で数年間経過してるって聞いて、慌てて戻って来たんじゃないのか?

 ……それだけ時間が経ってれば、戻っても里長なんて地位に就ける筈も無いし。

 

 

「だからこそ、成果を挙げなきゃ絶対に帰れないって思う人だよ。何年も時間を無駄にした上に、地位も剥奪されて、お宝の一つも無いんじゃ大損だって。それが自分から戻ってきてるとなると、相当な『何か』があったんだと思う」

 

 

 あー、保身を考えるからこそ突っ走る人なのね、納得。やっぱり『両さん』だわ。

 ふむ…まぁ、そこは後々追及してもらうとして。

 

 異界浄化の話、いつ報告するべきなのか、空気を読みつつも黙っている俺だった。

 

 

 

 

 




ちょっとだけ帰って来た、討鬼伝世界登場人物表

討鬼伝モノノフからの登場人物
・牡丹……里長をやっているミタマの女の子。元は神垣の巫女らしい。
    実は出産経験あり。血のつながった子孫が、シノノメの里に居るらしい。
   
・寒雷…元モノノフ、現在は万事屋の店主。体格のいい、豪快なオッサン。
    怒ると怒声が実体化するくらいの迫力が出る。
    
・雪華…シノノメの里に所属する神垣の巫女。
    一見するとクールな雰囲気だが、心優しく割とフレンドリー…なのは確かだが、完全に色ボケして色狂いになってしまった。
    死の恐怖に怯えていた頃に比べれば、今は天国のよう…とは本人の談。しかしどう考えても色欲地獄である。
    
・練…勝気で姉御肌、褐色美女の鍛冶師。
   カラッとした気持ちのいい性格に見えるが、中身は何気に人外級。
   色々と吹っ切れすぎている。

・風華…祭祀堂の巫女。
    雪華姉さまが大好き。かっさらっていった男を、かなり本気で恨んでいる。。



他作品からの登場人物
・明日奈…ソードアートオンラインより。
     念願の彼氏が出来た結果、見事に色ボケてしまった。
     里に引き留めようと思っていたが、もしどこかに行くのなら既についていく気満々。

・神夜…無限のフロンティアより。
    戦狂いは相変わらずだが、意外と制御できるようになりつつある。
    最近、起きる・ご飯・戦う・情事・寝る、という生活パターンを確立した。

・白浜…史上最強の弟子より、白浜兼一。 
    落ちこぼれのモノノフ。ヤバい人に弟子入りした事で、徐々に力量を上げつつある。
    
        
・泥高丸…ジャングルの王者ターちゃんより、マット・コーガン。
     でいこうがん。
     兄の忘れ形見である鬼纏を強化・広める事に全てを注ぐ男。
     実は異国人。

・両津ため吉…ご存知、例のあの人……かと思いきや、別人? 名前が違うだけ? モデルなのかご先祖様なのか、謎は尽きない。
       行方不明だった、前里長。なお、既にサービス終了してしまった討鬼伝モノノフにおいて、お頭陰謀説がよく囁かれていた。うむ、全く違和感はない。


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426話

 

 

 

 結局、その時は異界浄化が成功していた話はしなかった。報告したのはその夜だ。

 お仕置きックスの後だし、今夜はゆったりイチャラブネッチョリ系な夜を過ごそうと思っていたんだが、寒雷の旦那に呼び出されてしまった。しかも、どういう訳か俺だけ。人目に付かないようにして、明日奈も神夜も連れてくるな、と明確に指示された。

 里の重鎮としての呼び出しじゃ、逆らう訳にもいかない。

 

 夜のお楽しみが出来なくなった事を残念に思いながら、言いつけられた通りに気配を消して万事屋へ。

 前里長が帰ってきた祝いでもしているのか、今日はいつになく里の雰囲気が明るい。夜になっても明るい家も幾つかあった。一応、誰か出歩いていないか注意していたが…居酒屋で何人か呑んでいたようだが、誰にも会わずに来る事が出来た。

 

 

「よう、待ってたぜ」

 

 

 そこに居たのは前里長と、寒雷の旦那。そして何故か白浜君。…いや、白浜君は牡丹が憑いてるから単なるオマケかな? 

 得物の銃を横に置き、胡坐をかいて座っている前里長からは、何とも表現し辛いオーラが漂っていた。カリスマ、ではない。親しみ…にしてはちと黒い。邪悪と言えば邪悪、不機嫌そうではあるが、少しばかり楽しそうでもある。一言で言えば……イタズラを思いついた悪ガキのようだ。

 

 …なぁ、寒雷の旦那。一体何事だ? 明らかに、危険な話が飛び出してくるって雰囲気なんだが。

 

 

「まぁ、その通りだ。だが避けて通れない道にあった障害をぶち壊す事にかけて、こいつの右に出る奴は居ないんでな。色々とややこしい話になるが、まぁ聞いてくれ」

 

「ふん、言ってくれるじゃねぇか。まぁいい。さて、昼にも少し話をしたが、前里長改め、現里長として復帰する事になった両津ため吉だ。よろしくな」

 

 

 よろしく。…俺は近い内に里から去るし、里長と呼ぶのも何だから…両さん、でいいかい?

 聞きながら白浜君に目を移すと、目線で肯定された。現里長の地位に復帰すると言うのは、嘘でも何でもないようだ。…色々問題があったと思うが、牡丹が上手くやったんだろう。白浜君と一緒に戦いに行く為に。

 

 

「おう、いいぜ。何だかその呼び名はしっくり来るな。それは置いといて、お前さん、霊山と、なんだっけか、何処かの里に向かうんだって? それについて話がある。

 異界の浄化についてもいい儲け話…もとい、面白い話になってくれそうだが、それは今は後回しだ。まずは霊山との交流を復活させなきゃならんのだが、これにはいくつも問題がある」

 

 

 オオマガトキの際、霊山に見捨てられたって意識?

 

 

「それ以前の問題だ。いくら霊山がモノノフの総本山だと言っても、無償で助けを差し伸べる訳じゃない。あっちにだって財布の限界とか思惑とか面子ってものがある。あっちにしてみれば、とっくに滅んだと思っていた里がまだ存続していて、助けを求めてくるなんて想像もしちゃいなかっただろう。そんな状況で、快くあれこれ支援されると思うか?」

 

 

 …確かに、それは無いな。鬼の策略だと思われるか、本物だと分かったとしても自分達に翻意を持っているのではないかと疑われるか。

 実際、こことは違う北の地では、霊山と決別して独立不帰を謳う里もあった。

 

 

「独立、か。儂らもそうしたい所だが、それには何もかもが足りてない。この里が何年も保っている事自体、儂ですら信じられんからな。

 だが、霊山どもの思惑や里人の感情はどうあれ、今は霊山から支援を引っ張り出さねば何もできん」

 

 

 …話は分かった。だが、それを俺に伝えてどうする?

 俺は里の人間じゃないし、さっきも言ったがこの里を去るぞ。そもそも、寒雷の旦那は最初こそ俺を使者にしようと考えてたようだが、諸般の事情で却下したと聞いたが。

 

 

「聞いてたか…。その通りだ。そして、使者はこいつらに任せる事にしている」

 

「が、頑張ります! と言っても、本命は牡丹様なんですけど…」

 

 ポン、と白浜君の肩を叩く寒雷の旦那。

 白浜君だけでは、とてもじゃないが任せる事はできない。実力も実績も、何もかもが足りていない。だが、牡丹が居れば話は別だ。

 …白浜君に、腹芸が出来るかという問題はあるが。

 

 

 それを口にすると、両さんはニヤリと笑った。…腹を減らした人食い虎を連想させる笑いだった。

 

 

「ああ、確かにこいつにゃその手の駆け引きは無理だ。毒気が無さすぎる。正攻法でどうにか出来る場面での力圧しならともかくな。だから、お前を呼んだんだよ。出来るだろう?」

 

 

 …汚れ仕事…いや、背後からの情報収集? だが、牡丹がその情報を利用できるとしても、霊山を動かせるとっかかりなんぞ、そうそう…

 

 

「…あるんだよ。胸糞悪い話で、白浜にゃあ聞かせない方がいいかと思っていたんだが…。こいつを見てみろ。白浜、お前もだ」

 

 

 背後に置かれていた巻物を、一つ差し出される。随分と古い…が、保存状態は良好。

 白浜君と二人…牡丹を含めれば3人で覗き込むと、そこにはえらく汚い文字が並んでいた。しかも、書かれているのは日本語だけではない。明らかに全く別の体系だった文字が並んでいた。…? 何か、一部に見覚えがあるような。

 

 

「えっと……実験記録…?」

 

「そうだ。専門用語や異国の文字が多くて、儂も今一理解できん。…が、その実験を起こっていたのは、霊山らしい。霊山そのものが後ろに居たのか、一部の人間なのかは知らんが、少なくともそれなり以上の地位をもった者の印が押してある」

 

 

 本当だ。結構豪華な印…。偽造の類じゃなさそうだな。

 これを何処で?

 

 

「…儂が居た塔の中だ。上までは調べられなかったが、鍵付きの扉を幾つか壊して、その中を漁ったら出て来たものだ」

 

「あの前…もとい、里長。確か、昼間には別の物を成果だと言っていませんでしたか?」

 

「ああ、言った。だがそれだけしかないとは言ってない。…扱い用によっては、とんでもない爆弾になりかねなかったんで、教える人間はごく少数にする事にしたんだ」

 

 

 ふむん? この人がそこまでするか…。内容は…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 う わ あ

 

 

 

 

 

 霊山、腐っとるわ…。どこからどこまでが関わってたのか知らないが、マジ腐っとるわ…。

 

 

「師匠、どういう意味ですか? 牡丹様も黙りこくってますし。…字が汚すぎて、僕は読めません…」

 

 

 わざとそうしてるんだろうな。暗号類だって仕込まれてるだろうけど、第三者に見られた時、解読される危険を少しでも減らそうとしたんだろう。

 で、肝心の内容だが。

 

 

 

 

 

 人体実験の記録だ。

 

 

 

 

 

「    え    あの 霊山、が?  でも、モノノフの…世を守るモノノフの総本山で」

 

 

 霊山そのものが関わってるのかは、俺にも分からん。だが人が集まって組織が出来れば、後ろ暗い部分は必ず出来る。

 それにしたって、随分と派手にやったようだが…。

 

 記録を読み進めてみれば、文字通り悪の組織みたいな所業が出る出る。

 体の改造、洗脳、記憶の操作を初め、薬漬けにしたり、鬼と融合させようとしたり、クローン…この概念がこの時代にあるか不明だが…のように複製人間を作ろうとしたり。

 挙句、それらを戦力として運用し、最終的にはモルモットとして使い捨てた記録さえあった。

 

 

「ほぉ、そこまでやってやがったか…。儂も一通り目を通したが、そんな事まで書かれてたか?」

 

 

 ああ、書かれてるよ。ただし、異国の言葉でね。読めないのも無理はない。まぁ、俺にも落書きにしか見えない文字が多いから、ある程度推測で補ってる所はあるが。

 実験記録だから、対象者の記録は書かれてないが…これ、下手すると人攫いとかもやってたんじゃね? 時期的にオオマガトキが起こる前だから…モノノフじゃなくて、鬼の事も知らない一般人、外様である可能性が高い。

 

 

「かもしれんが、そこはあくまで想像だ。確証も証拠も無いから、霊山との『話し合い』には使えん」

 

 

 ほう、『話し合い』ね。『脅迫』ではなく?

 

 

「さぁな。少なくとも、白浜は『話し合い』をするだろうよ。こんな薄汚い記録を盾に、脅迫などせん。支援を請おうとしている相手を脅したところで、何の利もない。…が、お前は違うだろう」

 

 

 それを白浜君の前で言っちゃうかね。ほら、衝撃を受けて呆然としているよ。

 まぁ、正道か非道かはともかくとして、支援を引っ張り出すにはいい武器になる。どの道、これを公開したところで霊山が大騒ぎになって、そこから騒動が各里に伝播して状況が不利になるだけ。

 精々有利に使ってやるとしよう。具体的には、正面から白浜君が交渉で頑張っている間に、後ろからド突き倒す。

 白浜君は…納得できないだろうけど、説得はこっちでしよう。

 

 

「任せたぞ、『師匠』よ。正直、儂もこんな胸糞悪い話を持ち出したくはなかったが、背に腹は代えられん。手段を問わず、支援を引っ張り出せ」

 

 

 そして万一失敗したとしても、俺は里から離れた身なんで、シノノメの里への追及は……薄くなるか?

 

 

「さぁな。だが次善の策は重要だ。そっちとしても、里から離れてしまえば無関係の人間を装える。悪くはないだろう」

 

「…腹黒い会話はその辺にしておけ。しかし、何だってこんな記録があの塔に残っていたんだろうな?」

 

 

 さてね。どこぞの塔で実験をしていたら、異界に引き摺り込まれて施設だけが残ったのか。

 或いは、残ると厄介な事になりそうな資料を、異界に沈めて封印したのか。後者だとしたら、異界をある程度操れる事になるが…。そこまでやるなら、燃やした方が良かったと思うけどな。

 

 

「ああ、大した事じゃないがな。儂が通って帰って来たあの黒い穴、お前さんが異界浄化の時に何かしくじって開けたんだって? それが影響して、塔が現れるようになったんじゃないか?」

 

 

 いや、それは関係ないんじゃないか? 異界浄化に成功したのってつい最近で、あの穴が開いたのだってそうだぞ。

 両さんが塔を見つけて入ったの、何年前だよ。

 

 

「それはそうだが、異界の中では時間の流れさえ無茶苦茶だからな。帰ってきたら10年近く経っていたとか、予想外どころじゃないぞ。そんな場所にある塔なんだ。多少、時間が前後してもおかしくはないか…と思ったんだが」

 

 

 ………まぁ、言いたい事は分かるけど。

 

 

 

 

 ん? そういや、異界浄化が成功してたってのは、もう話してたっけ? 霊山に通じる道が開拓された訳だけど。

 

 

「お前から直接は聞いてないが、見回りのモノノフから報告はあったぞ。ようやくここまで来たか、って感じだな」

 

 

 感慨深く頷く寒雷の旦那。脳裏には、今までの苦労があれこれと浮かんでいるんだろう。

 

 まー、本当にあの道が霊山に通じてるのかは、進んで確かめてみないと分からんな。地理的に考えれば確かに最短経路だと思うが、途中にまた異界が発生してないとも限らない。

 そうなったら、同じように異界の浄化が出来るかどうか…。ここで異界の浄化が可能だったのは、結界石の石像が汚染され、異界の発生源となっていたからだ。本来の機能を取り戻させる事で、強力な浄化を実行する事ができた。…あと、その辺にちらばってる宝玉とかも重要だったようだ。

 だが、異界の全てにそれらがある訳ではない。

 

 

「先の事を考えすぎても仕方ない。今の儂らは、霊山、或いは他の里との協力体制を築くことが急務だ。異界浄化の実績は、その大きな武器になる。可能だと言う事が分かっただけでも大手柄なんだ」

 

 

 …そうだな。異界浄化に関しても、別の方法を編み出してくれそうな奴に心当たりがある。霊山に着いたら、あいつと連絡を取ってみるか。偏屈な変人だから、素直に動くとは思えんが。

 ところで、外に通じる道が開けた事は、里の皆にはもう伝えるのか?

 

 

「ああ。こればかりは、黙っておくと後々厄介な事になりそうだ。何人か外に行きたがるのを覚悟の上で、公開するしかあるまい」

 

「実際、何人かは霊山に行ってもらわなきゃならんしな。異界浄化を為した張本人のお前に、交渉役として牡丹と白浜、護衛として数人。泥高丸は、里の守りの要だから行かせる訳にはいかん。ある程度腕が立って、余計な騒動を起こさない奴…か」

 

「最後の一つが無ければ、お前を交渉役にしてたかもな。何をやらかすか分からんが、この手の取引には滅法強いんだわ」

 

 

 でしょーね。犯罪スレスレと言うかグレーゾーン寄りのブラックと言うか、そういう所を任せたら実に生き生きしそうだもの。

 悪党だけに、悪党の心理を知り尽くしてるんだろう。

 

 

「誰が悪党だ。さて、誰を護衛役として行かせるか…」

 

 

 

 明日奈と神夜は確定な。いや、護衛って言うより俺が連れて行く。

 後、使えそうな連中と言えば…。

 

 

 

 話し合いながら、その夜は更けていく。

 人員の選別を進めながらも、俺は脳内で頭を抱えていた。

 

 

 

 

 雪華、どうしよう…。流石に神垣の巫女を連れて行くのはヤバいよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここまでで1日目…日付で言うと参拾漆日。この日だけでも結構な話の進展度合いだったが、更に話は進む。

 



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427話

初めてバリウム呑みました。
不味いとかいう以前に、酒が飲めないのが何より辛い。使用後のトイレが白いって初めて見たわ。
そして午後から健康診断開始だったので、飯が食えなくて始終苛々…人間、腹が減ると頭が回らないなぁ。

晩飯を鍋で考えてましたが、酒のない鍋なんて気の抜けたウィルキンソンみたいなもんじゃないか…。
そこそこ食べた筈なのに、食った気がしない…と言うか、呑まなきゃ満腹中枢が満たされないんだろうか…。


キングダムハーツはトロコン完了、今はアサシンクリードの遺産ストーリーをプレイ中です。
ワールドシーカーまであと一週間…直前にある2連休、ずれてくれればいいのになぁ…。
と言うか、ワールドシーカーを始めたら付きっ切りになるのが目に見えてるので、その前に遊びに行っておきたい。
具体的には、冬場は閉館していたバンジージャンプに行ってみたい。
ただ、この辺はいつも風が強いのでちょっと不安…。


 霊山に向かう人員の選別も終え、各種通達と準備に取り掛かる。

 と同時に、里人達に外への道が開けた事を知らせる。ただ、道が開けただけで、そこに居る鬼達の討伐までは終わっていない。腕の立つモノノフ達が徒党を組んで進むならともかく、一般人じゃ鬼に喰われて終わりである。

 それ以前に、霊山とはまだ接触できてないので、いきなり霊山に行くことが出来たとしても、何もできはしない。

 

 予想通り、かつてのオオマガトキを経験した者達の間で、あの時霊山から見捨てられたのではないか、もう一度関わっても同じように使い捨てにされるのではないかと議論が巻き起こっている。

 …どうするんだろう、これ。助けた必要な状況だと分かってはいると思うが、感情の問題はそう簡単に治まってはくれない。

 何とかして抑え込むか、霊山の方から譲歩させる形を取らなければ…。うん、それが俺の密命な訳だね。

 

 

 俺も里を出る準備を進めている。と言っても、俺の場合は大した荷物は無い。

 大体の物は ふくろ に詰めておけばいいし、元々体一つでこの里にやって来た身だ。

 里に居る間も、大して私物は増えなかった。…強いて言うなら、超界石から出て来た各種コスプレ衣装と、今後何かと使えそうな宝玉くらいか。

 

 

 

 …最大の問題は、雪華なんだよな…。

 状況が状況だったから手を出して(そうでなくても喰っちゃってたと思うけど)、その後も好き放題に調教開発しまくって、俺を気持ちよくさせる為なら何でもする、都合のいい女に仕立て上げてしまった。

 散々ヤりたい放題に弄んでおいて、「他所に行くからサヨナラ」は流石にちょっと…。今の雪華なら、『長期間の放置プレイ』で納得しなくもない気がするが、実際いつになったら戻ってこれるか分からない。

 今度こそクサレイヅチを叩き斬るつもりだが、「つもり」が実現するとは限らないのは世の常だ。

 しかし、やっぱり連れて行く事はできない。万一そんな事をしたら、里の結界が消失し、完全な無防備状態になってしまう。鬼達が押しかけてきたら、あっという間に里が全滅だ。

 

 新しい神垣の巫女を、霊山から送ってもらうとか?

 案としては悪くないと思うが、神垣の巫女だって数が足りている訳じゃない。修行中の者も含めれば多少は増えるだろけど、基本的に巫女は里に一人ずつ。どういう理由で霊山から送ってもらう?

 

 連れて行く事が出来ないなら、せめて出発前日は雪華一人に集中して、一晩で一年分は愛し合ったと思えるくらいに……あれ、でもそれをやると、体がもっと色欲に染まってしまって、もっと疼いて貪欲になってしまうかも…。

 

 

 

 あーでもないこーでもないと考えていたが、実際のところ本人はどう思っているんだろうか? 捨てないで、と縋りつかれるのを覚悟で聞きに行ってみた。

 

 

 

「ええ、それはもう名残惜しいと言いますか、寂しいのですが…。これもモノノフと神垣の巫女の務めですので」

 

 

 

 …あれ、意外と冷静。普通について来るつもりだったりするのかな、と思ってたんだけど。

 

 

「出来るのならば、万難を排してついて行きます。ですが、これから向かう先には、あの…イヅチカナタ、でしたか。あなたが狙う鬼が居るのでしょう。共に戦えるならまだしも、私では足手纏いにしかなれません。…それに、戦に向かうモノノフを送り出し、帰る場所を守るのは神垣の巫女の本懐です」

 

 

 そっかぁ…。意外だな。今までの神垣の巫女も、気になっている誰かが他所に行ってしまうのを、無念と共に何度も見送ってるだろうに。

 

 

「それはそれ、これはこれです。成仏していった先達の中にも、そういう無念を体験した方は沢山居られました。ですが、私はあなたとの間に確かな(そして卑猥な)絆があり、きっといつか迎えに来てくれると信じています。全ての鬼を打ち払い、私だけでなく、沢山の人達を自由にしてくれると。その為に待つ事は、苦ではありません。文でのやり取りをするのも、風情があってよいものです。ですから……」

 

 

 

 ですから?

 

 

 

「手が空いた時、千里眼を使って様子を見てもいいですよね? ね? 一時とは言え離れてしまうのですから、それくらいは許してくださいますよね? 先達が残してくれた力が馴染んできた為か、遠い所でも対象者が抵抗したりしなければ、簡単に千里眼が使えるようになってきたんです。だから、見ててもいいですよね? 私の知らない場所で、知らない鬼と戦って、知らない里で暮らして、知らない女の人を私みたいに滅茶苦茶にして、染め上げて、『もう許してください』って言わせてもまだ抜いたり挿したりするところを、見ててもいいですよね? 今度会った時、それを見てどんな風に興奮したって、ちゃんと報告しますから!」

 

 

 ………これも、一種の変態性かなぁ…。いや覗くのが大好きとか、目の前で別の女を抱いてるのを見るのが好きとか、もう経験済みだけど。

 まー、何か問題があるかと言われると、全く無い。戦ってる所も、女にアレコレしている所も、クソしている所も…ちょいと躊躇われるが、霊山との交渉を有利に進める為の後ろ暗いアレコレも、今更雪華に見られて問題があるようなところはない。

 好きな時に覗けばいいさ。

 

 …とりあえず、落着した…って事でいいだろうか? 色々と納得いかないというか、都合が良過ぎると言うか…それは今更か。

 放置プレイも笑顔で了承するようだし…。

 うーん、しかしやっぱり悪い気がする。せめてなー、もう一人女が居れば、俺が居ない間も無聊を慰める方法はあるんだが。

 

 

「……その女性と言うのは、誰でもいいのですか?」

 

 

 まぁ…いい、かな。一度とは言え、俺と雪華の情事に一度は混じる必要があるから、それなり以上に信用できて、それ以上に…雪華の変態性を受け入れられる子じゃないといけないけど。

 

 

「情事以外で変態と罵られるのも、何だか悪くありませんね…。それでしたら、今夜私の部屋においでください。いつもの瞑想の場所ではなく、私の部屋です。時刻は……そうですね、いつもより少し早く、夕餉の時間くらいで。いつもと違って、正面から入ってきてください。お世話係の人達には、話を通しておきます」

 

 

 元々、今日は雪華の所に行くつもりだったからいいけど。

 でも、いいのか? 今日は二人きりって思ってたんだけど、誰か呼び込むつもりか。

 

 

「二人きりは魅力的ですけど、今回はこちらに付き合ってください。二人きりは……そうですね、再会した暁には、たっぷりと虐めてくださいな」

 

 

 そこで甘えさせて、と言わないあたりつくづくこの子は筋金入りだと思う。

 とりあえず、雪華との会話は一旦ここまでで切り上げた。色々と準備があるからな。俺自身の準備はすぐに済んでも、霊山との交渉の為のあれこれや、自分達がシノノメの里の者であるという証拠、異界を浄化した経緯等、纏めておかなければならない事は山ほどある。

 そっち系の仕事はあまり手伝えないので、半ば使い走りとして里の中を走り回る事になった。

 出発前の、皆への挨拶も兼ねていたから、不本意ではなかった。

 

 俺が里から出ると聞き、色々な反応があった。

 短い間だったがありがとう。

 次の練武戦まで逗留していけば?

 鍛えに鍛えて、今度会った時にはもう一度手合わせ願う。

 美人の彼女を二人も連れて出立とか爆死しろ。

 他の異界も浄化してから出発してほしい。

 鬼との闘いで助けてもらった恩はいつか返す。

 霊山に行ったら、情報や商売の種を流してほしい。

 君が来てから色々急激に変わったもんだ。

 

 

 …大体、こんな感じだったかな。悪い反応は特に無かった。

 引き留める声が少ししかなかったのはちと寂しいが、元々余所者の上、出られるようになったら出ていくって明言してたもんな。こんなものだろう。

 

 さて、そんな事をやってたら、あっという間に晩飯時。雪華に指定された時間だ。飯はどうしようか迷ったが、軽く摘まんで空腹を感じない程度に。

 失礼でない程度に身嗜みを整えて雪華の家を訪ねると、素直に通してくれた。本来、神垣の巫女に会うには、顔馴染みであってもボディチェックやら目的の確認やら、色々と手続きが必要なんだが…雪華、どうやって黙らせたんだろう。

 

 とにもかくにも、言われた通りに雪華の部屋に入る。

 いつもだったら、この辺で風華が邪魔をしに来るよなー、なんて思っていると。

 

 

 

 

 この期に及んで尚も恨めし気に、上目遣い(片目隠れ)の涙目で睨みつけてくる風華と出会いました。

 

 

 

 

 ただしそのツルペタなロリボディを、真っ赤なシースルーのセクシーランジェリーで身を包んでいるものとする。

 …そら涙目にもなるわな…。

 

 

 唖然としつつもついついオッキしてしまう俺を見て笑いながら、雪華が風華の背後から顔を出す。よくよく見れば、体を隠せないよう、風華の手を捕縛しているようだった。

 もう、経緯も意図も何となく察しが付くが…雪華、やっぱりお前が手籠めにしたのか。

 

 

「手籠めではなく、慰めていたのですよ。何分、風華は最近情緒不安定でしたから。先日の、鬼が化けていた私の偽物に何かされたようですが…」

 

「……………ね、姉さま…」

 

「大丈夫ですよ、風華。私はここに居ます。どこにも行きません。酷い事だってしません」

 

 

 その恰好をさせる事自体、割と酷い事だと思うんですがそれは。しかも、嫌って……少なくとも苦手としている男性の前で、その姿を思いっきり曝させている。

 

 

「一緒だから大丈夫です」

 

「…………うぅ…」

 

 

 おい風華泣きそうなんですけど。…いかん、小動物っぽい上に、雪華とは別の意味で虐めたくなる人種だ。

 ちなみに雪華の恰好は、黒のエナメルボンテージ。女王様にもマゾ奴隷にも見える恰好だ。…雪華は間違いなくマゾ奴隷だが、風華を相手にした事で女王様にも目覚めつつあるっぽい。本当に、神垣の巫女は拗らせた変態ばっかだな。

 

 しかし、その辺の変態性を差し引いても、この状況で風華を放り出す訳にはいきそうにない。

 雪華とのアブノーマルな関係を知られてしまった上に、風華が情緒不安定なのは事実だからだ。しかも、雪華に色々と依存してしまっていると見える。

 このような目に合わされておきながら、風華はまだ雪華に縋っている。彼女が居るからこそ、風華は気絶して逃れる事もできない。

 

 

 何でまたこんな事になった。

 

 

「いえ、私が貴方と遊んでばかりで、構ってくれなくて寂しいという風華を慰めている内に、自然に。現状、私が知る中で尤も『親密な』関係ですから」

 

 

 …ご主人様と奴隷、か。それを自分と風華に当て嵌めてしまった訳だ。

 そしてこの場にこの子を連れ出してきたという事は……この子を、『信頼できる人』として?

 

 

「ええ、そうです。…最初から、旅立つ貴方への餞別と考えてもいましたけども。私は風華を、間違いなく信用し、信頼し、かわいい子だと思っています。これ以上の人選はありませんよ」

 

「姉さま…」

 

 

 こんな状況でも、自分を恥ずかしい恰好で男の前に放り出す女でも、その一言だけで風華は感動に目を潤ませる。

 …これ、生来の気質だけじゃないな。躾けられまくった雪華が、俺の手口をラーニングしてしまったか? …将来、えらい事になるような気がする。

 

 

「今日はこの子に、ご主人様の味を教えてあげてほしいんです。…それはそれとして、ご主人様が居ない間、無聊を慰める方法とは? この子で条件を満たせるでしょうか?」

 

「……………」

 

 

 本人は色々蟠りがあるっぽいけど、充分だ。巫女として修行してただけあって、霊力も通常より高いしな。……まぁ、MH世界のハンター連中と比べると、流石に出力に劣るが、そりゃ相手が悪い。

 …俺個人としても、久方ぶりのロリっ子で愚息が乗り気になっておるでな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 てな具合で、風華は雪華の虜に色んな意味でなり、そんでロリなのにアダルトな階段を上ってしまった。

 そして、風華と雪華を使ったオカルト版真言立川流…あー、MH世界で暫く離れる子達に使った、2人でレズってると俺の分身と言うか影法師と言うか、孕ませる為の…………疑似ちんこ? が出てくる奴。

 初めて使ったあの時と違って、色々改良したり練習したりしてるから、装飾具とか使わなくても効果を発揮できます。

 

 

 

 

 …つまり、風華が二人きりで雪華とまぐわっても、出て来た俺が乱入してしまう訳だな。そうなると、風華視点で見ると……まず最愛のお姉さまこと雪華が、目の前で俺のチンコでヒィヒィ喘ぎます。そして自分自身も巻き込まれて犯されます。そんでもって、気が付けば自分もお姉さまも孕んでいる訳です。

 ネトラレと強制妊娠がほぼ確定している訳ですネ!

 

 

 が、心配ご無用。

 

 

 

 

 だって二人はこの夜、直接孕ませて行きますから。俺の分身が、バイブ代わりになるのはいい。だが孕ますのは俺自身だ。

 ……孕ませるだけ孕ませてどっか行くって、普通に最低だな。今後の里の為の霊山行でもあるし、単身赴任と思えばまだ…。

 

 ま、何はともあれ…雪華に秘部を弄られながら、俺のちんこに怯えている風華を落ち着かせるとしますか。怯える女を無理矢理ってシチュも中々だけど、トラウマを作る訳にはいかんからな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夜が明ける頃には、風華の「姉さま」呼びには別のニュアンスが混じるようになっていた。逆に、風華を見る雪華の目は、可愛いペット兼オモチャ…バター犬を見るような目になっていた。可愛がってるのは確かだし、本人もそれで悦んでるから別にいいよね。

 俺に対しては……うん、気持ち良過ぎて怖かった? そりゃ悪かった、術を仕込む為に必要だったんでね。今後、雪華とああいう事をする時には、同じような気持ちよさに襲われるから、覚悟しておくように。

 

 

 

 

 



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428話

さて、明日はワールドシーカー発売日。
どんなものか…。
発売前、体験版さえ無しにあれこれ批評をする声はなるべく当てにしない事にしていますが、やはり不安は募るもの。
神ゲーとは言わない、トロコンしようと思えるくらいのゲームでありますように。

と言うか、GE3はまだ高難易度ミッションが出てないんかい…。



またしても暗い愚痴になりますが、やっぱ店長とソリが合わん…。
人間関係が一番の離職原因って話に心底頷きたくなります。
明日も帰り際のお説教がほぼ確定。
ワールドシーカー発売日なんだから帰らせろ、と言うのは流石に理由としては酷すぎるけど。


それはそれとして、アンケート機能を使ってみたくなりました。
上手くできてるかな?



 ここまでが参拾溌日目。

 そんでここから参拾玖日、つまり今日の事。

 

 新しい関係を構築し、朗らかに(強弁)微笑む雪華と風華を後に、里を周る。今日明日でこの里から出るんだなーと思うと、急に名残惜しく思えてくる。

 よくよく考えれば、やりかけて途中で辞めてしまった事とか、考えついたはいいけど実行に移してない事とか、どんどん思い出されてくる。

 

 具体的には風呂屋を作るって考えとかね。色々考えたけど、最終的には風呂じゃなくてサウナとか岩盤浴を作れないかと考えてたんだよ。

 異界の中には、マグマとか流れてる場所もあるからな…。その辺の岩盤を上手く取ってきて加工すれば行けるんじゃないかと思ったんだ。結局、マグマのある異界は見つからなかったし、そうでなくともどうやって温めるかを思いつけず、お蔵入りになったんだけど。

 サウナにしたって、中の蒸気や熱気を逃がさない部屋の作り方が分からなかった。アイデアを出すだけ出して、なーんにも出来なかったよ。

 

 他には…そうだ、この里にない武器の使い方を教えてくれって言ってたモノノフも居たっけ。基本的な使い方は教えたけど、技と言えるものはまだ教えてないんだよな。ゲーム的に言えば特殊技とか溜め攻撃とか、その辺の奴を。

 でも、そこは今後、霊山との交流が復活すれば、徐々に情報も入ってくるだろう。中途半端にしか教えられなくてすまないと思うが、白浜君みたいに一緒に行く訳にもいかないし。

 

 

 そうそう、超界石の調査は、結局しなかった。それどころではなくなった、とも言う。

 元々、超界石調査の目的は、両さんが居た例の塔のに関係しているのではないかという疑惑からだ。その疑惑自体はまだ続いているが、両さんが既に帰って来たからな。

 塔自体の存在も謎のままだが、現状で慌てて調査するべき事でもない。

 

 

 …両さん、オオマガトキモドキの穴を通って帰って来たけど…開いてて良かった……のか? アレが無かったとしても、自力で帰ってきそうな人だが。

 結局、あの穴を開いたままにするのか…。やらかしておいて何だけど、本当に大丈夫だろうか。あそこから、鬼や瘴気が溢れ出したりするんじゃなかろうか。

 本願寺顕如=サンが監視・調査を手伝ってくれているが、どうなる事か。

 

 

 本願寺顕如=サンとも、あまり話はできなかった。ていうか思い切り説教されてブン殴られてから、会っていない。

 最後に会った時には、尼さんの屁がどうの、とブツブツ言っていたが……尼さんの屁? …妙な趣味でも拗らせているんだろうか? しかし怖くて聞けない。

 

 そういや、木綿季にもまだ会いに行ってない。

 あの夜以来、時々明日奈に憑いて里に遊びに来たり、夜の乱交に混じったりしているが、あの子はどうするんだろう。

 役目で言えば、結界石の彫像(シオ)に留まり、結界の維持を補助する筈だ。しかし、今の雪華には…言っちゃなんだが、補助はあまり必要ない。結界の隙間を消しきる事は出来ていないが、霊力が増大している為、結界を張っても体に負担はかからないのだ。

 あの子の性格を考えると、里の外を見てみたいとか言って、明日奈に憑いてくるくらいの事はしてもおかしくない。

 

 里の天狐ともあまり仲良くなってないが、これはまぁ趣味みたいなもんだからいいとして。

 

 えーと、他にもまだまだあるなぁ。これってアレだな、カラオケの終了時間が迫ると、歌いたい歌を思い出すような感じ。

 ともあれ、今からでも出来る事はある。まずは木綿季に会いに行こう。

 

 

 

「ちょいといいかい」

 

 

 うん? おや、練の姉御じゃないの。外を出歩いてるとは珍しい。

 

 

「そうかい? 私だって、鍛冶場に籠りっきりって訳じゃないさ。休みにしている日もあるし、 日が落ちてからは日用品の買い出しに行く事もある。まぁ、確かに昼の休憩で外に出るのは珍しいかもね」

 

 

 ふーん。で、俺に何か用事? ああ、旅立ちの挨拶だったら、こっちから出向こうと思ってたんだけど。

 

 

「ああ…ちょいと頼みたい事があってね。ここじゃなんだ、店までいいかい?」

 

 

 はいよ。

 2,3日すれば練の姉御ともお別れかぁ。仕方ない事だけど、出会いはともかく別れは慣れないなぁ。

 

 

「永遠にお別れって訳でもないんだ。少なくとも、何れ雪華には会いに来るだろ。その時にまた会えるんじゃないかい」

 

 

 そうだね。…あれ、雪華との関係、ばれてる?

 

 

「隠してるつもりでもなかったろうに。安心しなよ、色々と普通じゃないというか、神垣の巫女にするような扱いじゃないって事までは…うん、まぁ多分、一部しか気づいてないから」

 

 

 ……その一部がこれ以上増えない事を祈るよ。あと、風華との新しい関係についても。

 と言うか、雪華との関係を知ってるなら、よくそれで俺と二人きりになろうなんて思えるな。

 

 

「別にいいんじゃないかい。合意も無く抑えつけて犯した訳じゃないようだし、本人も納得しているようだし。…深い関係になった女をあっさり捨てて、里を去る事についてはちょいと頭にくるものがあるが、誰かが行かなきゃいけない仕事だしね」

 

 

 別に捨てるつもりはないが、そう見えるよなぁ。身勝手極まりないのは変わりないし。

 …とは言え、行かなきゃ暫くした後、オオマガトキ第二段…俺がやらかしたモドキも含めれば第三段?で何もかも滅ぶし。

 

 話しながら鍛冶場に入ると、炉の火が消えていた。…今日は休みの日だっけ?

 

 

「いや、そこに看板だしてるだろ。午後は臨時休業だ。あんたに話があったからね。何日か前から出してたんだが………まぁ、あんたは武器の手入れに来ないから知らなかったか」

 

 

 いや何度か手入れを頼んだでしょ。

 

 

「あれは本来の得物じゃない。作ってから殆ど使ってなかった物だ。大方、この里の武具と同じ程度の物を適当に見繕って使っていたんだろう。…何処に持ってたのかは知らないけど。手入れに出したのも、私を信用しているという……見せかけだ」

 

 

 …御明察。頭に来るだろうけど。

 

 

「いや別に。技術が不十分なのは自覚してるし、見繕った武器であの出来だ。本命の武器がどんな代物なのか興味はあるが、私の手に負える物じゃないのは分かっている。…今日の話は、それにも絡んでくるんだが…まず上がってくれ」

 

 

 奥の間に通され、ちゃぶ台を挟んで向かい合う。…以前入ったのとは別の部屋だな。練の姉御がハイライト無しでオナッてた姿を思い出したが、振り払う。

 お茶を淹れられ、啜って一息。

 

 

「さて、話と言うのは他でもない。あたしの発作を治してほしい」

 

 

 ほう。構わないが、どんな心境の変化だ。前にその話をした時は乗り気じゃなかったと思うが。

 

 

「別に嫌だった訳じゃない。方法からして怪しい話だったから、信じられなかっただけだ。犯された後遺症の発作を、交わる事で回復できるって言われて信じられるか」

 

 

 …それを言われると、反論のしようが無いな。

 で、今は信じていると?

 

 

「正直、半信半疑だ。だが、お前はもう里の外に出ていくんだろう。そうなったら試す事さえできなくなる。どの道、交わる事に忌避感も羞恥心も無い。だったら試すだけ試せばいいだろう」

 

 

 …相変わらず、精神的に突き抜けてるなぁ。この際だからはっきり聞くが、練の姉御にとってその発作は里の中で優位に立つ為の武器でもあった筈。

 発作がある限り、かつての傷が癒えていない練の姉御を、里の男達は無碍にできない。それどころか、罪悪感から何かと融通を利かせようとする。

 発作を治す手段が無かったとは言え、そういう部分も意識していたろう。

 治してしまっていいのか?

 

 

「ああ。治せるもんなら、治してしまいたい。何度も薬を呑まなきゃならんし……不味いんだ、あれ。融通云々も……意図して利用してきたのは認める。だが、これからはそうもいかない。鍛冶仕事だって、外との交流が復活すれば、私より腕のいい鍛冶師が来る事もあるだろう。そうなれば私の『役割』は終わりだ」

 

 

 そんなに極端なもんかね。ここの里の人達なら、見知らぬ名工よりも知ってる日曜大工を選びそうだけど。

 

 

「モノノフの装備にそんな事を言うようなら、そいつは遠からず死ぬよ。鉄火場で命を預ける道具なんだ。多少は信用信頼で相手を選ぶのも分かるけど、装備は出来る限りいい物を揃えるのが当たり前だ。それをあたしの存在が、足を引っ張って選べなくするようじゃ鍛冶師なんぞ廃業したほうがいい」

 

 

 まぁ、そうだな。使い捨ての道具だって必要だけど…。つまり、自分の役割を全うするのに邪魔になったから、発作を治したいと。

 

 

「それに加えて、報酬も兼ねる」

 

 

 報酬?

 

 

「あたしの体にどれだけ価値があるかは分からないが、その分好きに使っていい。それくらいしか、対価に出来る物が無い。大体の事は、あの夢の中でされてるからね。首を絞めながら犯すとか、豚の鳴きまねをさせるとか、何なら殴って憂さ晴らしに使っても構わない。代わりに、旅先で得た鍛冶技術や、素材なんかを寄越してほしい」

 

 

 夢とは言え、そこまでやってたのか…。誰かの無意識の願望なのか、鬼が意図的に悪夢として仕込んだのか…。

 要するに、このままだと鍛冶師としての立場も役割も無くなってしまうから、ヤらせる代わりに情報をくれって事か。

 前の時は食指が今一つ動かなかったが、一度だけの関係、体だけの関係として割り切るなら、練の姉御の体はヨダレが出そうな程美味しそうだ。どっちにしろ治療の為に抱くんだし、そのついでに好きにしていいと言われれば……うん、まだまだ初心者の3人娘には使えない、アレとかコレとかソレとか使ってハッチャけてもいいよね? あぁ、新しいトラウマができないように加減はするが。

 

 しかし、モノノフとして戦うのは役割だから、かつて輪姦されたのは役割の為、発作が起きても役割の為、体を差し出すのも役割の為…。ワーカーホリックってレベルじゃないな。

 何が切っ掛けだったのか、生来のものなのかは分からないが、イカれてる。…色に狂ってる俺が言えた事でもないか。

 

 ともあれ、その取引には乗った。

 

 

「ありがとう。それじゃ、どうする? 今ここでするかい?」

 

 

 そうしたいところだが、まだ顔見せに行かなきゃならない人も残ってるし、その間に寝床の準備でもしといてくれ。

 今から始めても、中途半端な時間になっちまいそうだし。

 

 

「はいよ。禊もやっておく。午前中だけとは言え、鍛冶仕事で汗を掻いたからね」

 

 

 あ、それは無しで。

 

 

「…まぁ、そういうのが好きだった奴も居たさ。執拗に脇とか舐めて来たっけな」

 

 

 

 

 

 さて、練の姉御の事は、雪華に言っておくべきかなぁ? 同じ男に抱かれた者同士、何となく勘付くような気がする。

 浮気を気にするような雪華じゃないが、一応報告だけはしておくか。

 

 

 その後、里でまだ挨拶をしていなかった人達と一通り歓談。餞別として、自家製の漬物をくれる人も居た。…これ、確か練武戦前日の…文化祭?で、超絶人気の奴なんですが。ジッサイウマイ。

 夕方と言うにはまだ早いが、空の色が変わり始める頃、練の姉御の部屋に戻って来た。

 

 遅くなった。待たせたかな?

 

 

「フー フー ああ、気にしなくていいよ。 フー 言われた通り、風呂には入ってない。ま、入っても同じだったみたいだけど」

 

 

 …? 息が荒い。運動していたのでもないのに、体が汗ばんでいる。

 これは………興奮? いや、発作?

 

 

「薬飲んでないんで、フー、軽い発作がね。前に見られたみたいに意識が飛ぶ程じゃ、フー、ない」

 

 

 何でまた…。もう薬の在庫が無くなったのか?

 

 

「治療を頼むんだから、薬が効いている状態だとまずいんじゃ、フー、ないかと思って。それに性欲と性感を麻痺させる薬だから、フー、報酬にも支障が出る」

 

 

 律儀やなぁ…。確かに、薬で麻痺してると余計な手間がかかりそうではあるけど。

 奥にある床の間に案内され、練の姉御自らが整えた布団が目に入った。

 悪く言えば大雑把、よく言えば豪快そうな姉御の性格に反し、プロの仕事かと思う程に綺麗に整えられた布団。その前に立って、練の姉御は振り返る。

 

 

「それじゃ、初めておくれ。…私からも何かした方がいいかい?」

 

 

 普通に交わるようにしてくれればいいよ。後はこっちで治療する。

 

 

「普通に交わった事……は、考えてみれば無かった気がする。ん? いやそうでもなかったっけ? …まぁいいか。やる事は同じだ」

 

 

 そーね。俺の腕の中で善がれ、で済むものね。

 布団の前に立つ姉御を抱き寄せ、腕の中に抱え込む。全く躊躇わずに腕を絡ませ返してきた。

 

 練の姉御の身長は、俺よりも頭一つ分程大きい。女性としては珍しいくらいの体格だ。

 その為、頭を抱え込まれると、丁度乳房に顔が埋まる事になる。野暮ったい上着を脱がせると、中に押し込められていた匂いがムワッと広がった。

 

 据えた汗の匂いだが、不快感は感じない。元々、体臭が薄い体質なのか。

 

 

「嫌だったかい?」

 

 

 まさか。頼んだのは俺だぜ。

 にしても、ちょっと意外かな。サラシしか付けてないんだ。女の間で流行ってる下着とか、作ってくれって頼まれてたろうに。

 

 

「鍛冶仕事の為に、そんな洒落た物をつけてもね。どうせ、汗であっという間に駄目になっちまう」

 

 

 胸の揺れを抑えるだけなら、サラシで充分って事か。

 

 何重にも巻かれている包帯に、指をかける。白い包帯と、褐色の肌のコントラストが目に焼き付いた。

 谷間に指を差し込んで包帯を下に引っ張ってやると、強い一瞬の抵抗の後、弾け飛ぶように双丘が顔を出した。

 

 これは…サイズだけで言えば、神夜に匹敵するんじゃないか?

 

 

「また大きくなったな…。やっぱり抑えつけられている反動かな…」

 

 

 むしろ、常時薬を呑まなきゃならないくらいのアドレナリンやら女性ホルモンやらが、妙な形で影響してるんじゃないだろうか。或いは、幼い頃に性経験を積んでしまった事により、ホルモンバランスが云々。

 全体の体格で見れば、バランスはいいくらいなんだけどなぁ…。

 

 何にせよ、乳房の深い谷間に顔を捻じ込み、舌を這わせる。

 サラシで閉じ込められていた据えた匂いと、汗が渇いた後特有のしょっぱさを存分に満喫する。

 

 

「そんなに胸の谷間が好きかい? それじゃ、こうしてあげるよ…!」

 

 

 頭を抱え込まれた体勢はそのままに、練の姉御に押し倒される。布団の上に横たわったかと思うと、容赦なく体重をかけて来た。

 乳圧が体重で増加され、2メートル近い体の重さを顔に集中される。頭の下には枕、左右には褐色巨乳、前には谷間の一番奥。

 窒息死させるつもりかと思うくらいの乳圧を、思うさま堪能する。確かに、一般人からすれば天国であると同時に命の危機でもあるが、乳から酸素を得る事が出来る俺にとっては単なる極楽よ。

 

 

「随分好きだねぇ。これをやられた奴らは、最初はともかく最後の方は息苦しくなって悶え始めるんだけど。…ふふっ、随分興奮してるじゃないか。服の上からでも分かるくらいだよ」

 

 

 そういう練の姉御も、体温だけで分かるくらいの乗り気ですな。発作の為だけじゃないようだ。

 相変わらず乳房で視界を塞ぎ、動きを止めながら、練の姉御はお互いの体をまさぐり始める。

 

 服を脱いでいくのが、動きから分かった。同時に、俺の服を開けて、素肌同志を接触させ始める。

 場数を踏んでいる為か、動きに乱れも迷いも無い。

 

 女の体は、その気になれば何処ででも男を悦ばせられる…と言うが、練の姉御は既にその領域に達していた。服を放り出しながらも各所を接触させ、体温を伝え、挟み込んで刺激する。

 自分だけでなく、男の性感体をよく知っており、それらを絡め合わせて互いを昂らせる。

 

 思ってたより上手だなぁ。

 

 

「あの頃は、これがあたしの役割だったからね…。上手くやろうとして、色々試したり、話を聞いてみたりしたのさ」

 

 

 せっかちなのか、体の昂ぶりを抑えきれないのか、それとも単に作業として割り切っているからなのか、練の姉御は早速本番…俺のナニを下の口で咥え込もうとしたが、俺はそれを制止した。

 

 

「…? なんだい、今更嫌とは言うまいに」

 

 

 忘れてないか? 治療が先だ。

 個人的にも、主導権を握っていたいし、そっちの方がやりやすい。

 

 

「そうかい。ならあんたに任せるよ。…あんまり焦らさないでおくれよ。これでも、ちょっと期待してるんだ」

 

 

 生憎と、そのお願いは聞けないなぁ。ゆっくり時間をかけてやるからな。

 練の姉御の体に押し倒されたまま抱きしめ、背中を撫で回す。フェザータッチや柔らかい刺激に慣れてないのか、もどかしそうに体をくねらせ、肌を擦りつけてくる。

 立ち上るフェロモンと汗の匂いで、股間の愚息がいきり立つ。練の姉御の入り口にピッタリ狙いをつけながら、触れるのは先端とその周辺のみ。

 

 体の内部に触れるのは、口の中のみ。舌を絡ませ合い、唾液を啜りながらも愛撫は続く。

 決して決定的な刺激は与えず、徐々に昂らせていく。堪え切れなくなった練の姉御が体を擦りつけ、俺の体を使った自慰を始めても、決して一定以上にいかせる事はない。

 

 それをどれだけ続けたか。体感時間操作を全開で使っている為、実際の時間としてはほんの僅か………いや、多分30分くらいは経ってるな。

 体感時間で言えば……ざっと半日くらい?

 

 その間に、練の姉御の様子は明らかに変化していた。

 行為を始める前から続いていた、発作による不自然な性的興奮は鳴りを潜め、乱れていた呼吸も深く静かなものに落ち着いている。

 

 いや、落ち着いていると言うのは見間違い、表面上のみだ。深呼吸を何度も繰り返しているような練の姉御は、その実今では心身ともに非常に昂っている。

 

 

「…なんだか、おかしな気分だね」

 

 

 こんなに時間をかけて交わる事が?

 

 

「あたしを抱いた男は、大体自分のやりたいようにやって、短時間で終わらせてたからね」

 

 

 …早いの?

 

 

「そういうのも居たけど、自分の事だけ考えて、堪えたり、あたしの様子を伺う必要もなかったからだろ。…おかしな気分っていうのは、それだけじゃないよ。いつもの発作以上に獣欲が膨れ上がってるのに、あたしが平静でいられるのが、さ。頭の中が真っ白になりそうな程なのに、普段通りのあたしで居られる」

 

 

 それが治療法だからな。

 ポリネシアンセックスの応用だ。

 

 

「ぽり…し?」

 

 

 日ノ本の外、もっと南にある国に伝わってる房中術さ。本来なら、5日間かけて交合する。

 初日から4日目までは接吻や愛撫のみで準備を整え、5日目で本番。この時も、結構な時間をかけて行為を行う。

 

 当然ながら、4日間ずっと『そういう事』をしながら過ごすんじゃない。日中は飯も食うし仕事もする。昂った体を持ったまま、普通に過ごす事もできるんだ。

 

 

「合点がいった。あたしの治療ってのは、要するにそれか。発作を起こさなくするんじゃなくて、発作が起きてもそのまま行動できるようにする事。その為に…」

 

 

 その通り。今にも暴走しそうな体を適度に抑えつけて、発散させるんじゃなくて体と精神を慣れさせる。

 …あれだな、要するにスーパーサイヤ人状態に体を慣れさせるのと同じ理屈だ。多分。

 

 そもそも発作を起きないようにする事も考えたけど、有効な手段が思い浮かばなかったし、性欲を感じないのもそれはそれで異常な話だ。

 

 

「確かに、いつもよりずっと体が熱いのに、我を忘れる程じゃない…。この状態を刻み込めれば、発作も大したことはないって受け流せるようになりそうだ」

 

 

 刻み込むというか、認識を改められれば…かな。発作の切っ掛けはともかく、そこから我を忘れる程の衝動に襲われるのは、言っちゃなんだけど半分以上は思い込みによる影響だったから。

 

 

「思い込みね…。何となく気付いてはいたけど、あたしは自分で自分を苦しめてたって事か…」

 

 

 …里の中での立場を作る為に、半ば確信して放置してたろ…。

 ま、その辺の後ろ暗い話題はここまでにして。時間をかけて、ゆっくり楽しもうか。その方が、治療の効果も高いだろうしな。

 

 

「…そうだねぇ。こんな気分は初めてだし、これなら焦らされるのも悪くない。じっくり楽しませてもらおうか。…交わってる間に、相手の顔をじっくり見るのも初めてだしね」

 

 

 やれやれ、経験が偏ってんなぁ。こんな顔でよければ、好きなだけ見るがよろしい。

 

 

「ああ。その顔を気持ちよく歪めてやりたくなってきた。昂ぶりを保つのは、お互い様なんだろう? 達しないように気をつけな」

 

 

 

 

 

 それから、練の姉御は緩々と奉仕を始めた。行為自体も文字通り非常にゆっくりしているし、手コキだって触れるか触れないかギリギリの力加減。はっきり言えば、『触れられてない』とさえ思える行為。

 しかし、『そうされている』と思うと確かに体は昂ってくる。

 

 焦らされるのは俺も一緒だ、とでも言いたげに、体中に手を這わされる。

 実際、俺も昂ぶりを持て余しそうになっていた。何だかんだで、こういうゆったりしたセックスには慣れていない。激しく貪り合うのがいつものやり方だ。治療も何もかも放り出し、突っ込んでぶちまけてしまいたい衝動に駆られる。

 それを見て取った練の姉御は、唇の端を釣り上げて更に行為を続ける。治療が台無しになっても構わない、と言わんばかりだ。

 

 

 

 

 体感時間にして、更に4時間くらいが過ぎた頃だろうか? お互いに、時間を忘れて昂らせ合う。絶頂だけはしてはならないと、妙な意地だけが残っていた。

 既に言葉を発する事すら忘れ、互いが与え続ける快感の海で微睡み、揺蕩っているような感覚。

 

 

 練の姉御は、俺が射精をすまいと堪えている事を察すると、更に行為を激しくさせ始めた。

 指で肉棒を弄り回すのは当たり前、乳首を舐め、首筋に唇を堕とし、耳に舌を差し込み、アナルに小指を突き入れようとする。

 

 逆に、俺は練の姉御がつい達してしまわないよう、リミットギリギリまで快感を注ぎ込み続ける。

 尻を揉みしだき、乳房を捻り上げ、淫核をフェザータッチで撫で回し、耳元で睦言を囁いて、内股に獣欲の先端を擦りつけて粘液を刷り込む。x

 

 意外と言うかなんというか、一番大きな反応を引き出したのは睦言だった。

 虚言を弄したつもりはない。練の姉御に対して持っている、好意的な印象を素直に…いや、ちょっとムードを意識して囁いただけだ。

 しかし、それは練の姉御の調子を著しく狂わせるものだったらしい。

 

 『立場』『役割』に拘り、練の姉御はそれに従う事に全く躊躇いを持たない。もしも人身御供の役割でも請け負ってしまえば、鬼に喰われに行くのにも、自刃するのにも、崖から飛ぶのにも、全く躊躇わずに実行するだろう。

 だが、今はそのどちらも纏っていない。今ここに居るのは、治療と同時に男に抱かれている、一人の女でしかなかった。

 そこへ、甘い睦言を囁かれて、自分でも思った以上に真に受けてしまったらしい。泰然とした態度が崩れ、赤面し、声を必死に我慢する。

 さっきまでとは全く逆の、経験豊富なのに初心な女がそこに居た。

 

 幸いなのか不幸なのか、それが発覚したのは本番の直前だった。

 体が充分以上に昂ぶりきり、練の姉御も発情しながらも冷静という状態に慣れてきた。

 さぁこれから、と言う時に突然だったので、その豹変には本当に驚いてしまった。

 

 

 まぁ、すっごい燃えたけどね! 予想外の所からとは言え、何をしても平静を保っていた女を、自分のテク一つで身悶えさせるのはいつだって至高の愉悦だ。

 そのまま挿入してやれば、入念に準備を整えられていた事もあり、全く抵抗なくスムーズに呑み込んだ。いや、それどころか奥へ奥へと、貪欲に求められているのがよく分かる。

 

 そこからピストン運動に入ったが、これまた反応は劇的だ。ひどくゆっくりとした動きしかしていないのに、彼女はオーガズムの底に叩き込まれたかのように、半泣きで善がり声を上げ続けるのだ。

 それも、他人に対して常に被り続けている外向けの表情ではなく、心の底から悦び恥ずかしがっている表情で。言葉にならない、原始的な、いっそ動物の鳴き声とすら表せる声で、練の姉御は知らない絶頂にすすり泣く。

 それを見て、俺が暴走しなかったのは奇跡と言っていいだろう。辛うじて、練の姉御の治療の為、という意識が残っていた…んだと思う、多分。

 

 ただ、それ以外の事は…全て忘れて交わっていた。行為は単純なピストン運動、正常位。交わる以外の愛撫は無し。

 技巧どころか、お互いに言葉すら忘れて交わりあった。響くのは荒い呼吸と喘ぎ声のみ。

 何度射精しても、練の姉御がオーガズムに達しても、お構いなしに腰を振り、抉り、締め付け、注ぎ、絞り取る。

 自身の性欲に溺れているだけなのに、俺達の交わりはいっそ見事な程に噛み合っていた。

 

 

 ようやく落ち着いたのは、夜も更けた頃。練の姉御の腹は、臨月のように膨れ上がっており、溢れ出した精液と愛液は水たまりのよう。

 練の姉御は何度も気絶を繰り返して、今では朦朧とした目で天井を見上げるばかり。辛うじて呼吸はしているようだ。

 部屋には濃厚すぎる性臭が立ち込めており、呼吸をするだけで媚薬を注ぎ込まれるようだ。今からでも続きをしたい気分になったが、これ以上やったら流石に冗談抜きで死んでしまう気がする。

 

 扉を開けて、換気を始めた。

 ……真夜中に素っ裸で、月を見上げるのもいいもんだなぁ。丸くなった練の姉御の腹を撫でながら、夜風に暫く身を晒していた。

 

 

 

 

 その後、起きてきた練の姉御だが……『お前との交わりに比べれば、発作も過去の経験も大した事ないな…』なんて言われてしまった。

 …治療は成功、と言う事にしておこう。

 

 

 

 



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429話

はい、それではそろそろアンケート終了です。
…と言いたい所ですが、期間制限なしか。
削除するしかないんだろうか。
できれば記録だけでも残しておきたいんだけど…。
あと、アンケート結果って皆さんから見えるんだろうか?

ついでに言うと、メインPCでアンケートが表示されないんだけど何で?

尚、3/17 13時時点の結果は下記の通りです。
アサギ(ストーリー的に考えればこいつが楽だった):74票
ユキカゼ(褐色ひんぬーのエロさを教えられました):180票
紅(RPGXでよくフレンドのお世話になってます。全体中攻撃最高):18票
骸佐 or 権佐(偶には野郎に焦点当ててもいいじゃない):18票
gdgdになるだろ(仰る通りなんですが、書きたいんだから仕方ない):81票

ていうか、Y豚ちゃんつえぇ…。
初日で他の選択肢の2倍票を獲得していました。
ふーむ、勢いでアンケしてみたものの、どうしたものか。
ここでアサギが来れば話は早かったんですが、一捻り必要になりました。
さて、一休さんよろしくシンキングタイムである。




ワールドシーカーしてるんですが、正直微妙…。
面白くない訳じゃないんですが、テンポが悪い…。
なんか知らないけどbgmが殆ど流れないし(バグ?)、敵が妙に敏感だし、近接はともかく遠距離攻撃は思った程リーチ無いし。
まだ初期だからかなぁ…。
ゴムゴムのロケットは取ったから、移動距離を延ばす奴を習得すれば多少は変わるか…?


あと、最近PCの調子が悪くてRPGXがやりにくいのが悩み。
クローム重すぎるんだよぉ!


魔禍月肆拾日目

 

 

 何だかんだ色々あったが、旅立つ日がやってきた。感慨深いものがある。

 結局、雪華を連れて行けなかったのが残念だな。練の姉御は…まぁ、気が向いた時に会ったら楽しむ程度の関係になったから、そこは割り切れるとして。

 

 『せめて次の練武戦まで待ったら?』という里人の声を背に、俺達は霊山へと旅立つ。

 具体的に言うと、俺、明日奈、神夜、交渉役とその被保護者(?)の白浜君と牡丹。そして、里から選抜された4人の護衛達だ。

 

 ではイカレてないメンバーを紹介するぜ!

 

 シノノメの里で鳴らした彼ら護衛部隊は、素行も実力も特に問題なしと判断されて護衛を撒かせられ、謹んで承り、鎧を着こんで堂々と胸を張っている。しかし、ただの護衛で終わるような俺たちじゃあない。 筋が通らなくても里の皆の為なら、死なない程度にでなんでもやってのける命知らず。

 不可能を可能にし霊山から上手く援護を引き出す、彼ら、護衛部隊こと通称『ん』組!

 

 牡丹+白浜君の護衛統括役にして天才軍師(シノノメの里中ではね)、土井! 採点と点呼の達人! 彼のような苦労人でなくては、あの問題児共の引率は務まらない。なお、神経性胃炎の持病持ち。

 

 彼女は里一番の淑女として有名な伝子さん! 本名? 彼女は伝子さんですよ? 自慢の美貌に、オトコはみんな一殺さ。吐き気的な意味かと思ってたんだが、全体的なバランスを見ると美人に思えてくるから不思議だ。

 

 よおお待ちどう。彼こそ里一番のデカ頭、冷めたチンゲン斎。単なる間抜けかと思いきや、本気になると意外と底力を発揮する。若い頃の肖像画を見せてもらったんだが…え、これ美化何パーセント? どこのストライダー飛竜? これが本当だったら、周囲も本人も世を儚んでガチ泣きしても許されるレベルよ? 嫁に頭が上がらない? だから何。

 

 山本先生。変装の天才だ。お婆ちゃんでも生唾モノの美人くノ一でも化けて見せらぁ。でも何故先生と呼ばれているのか、これがワカラナイ。

 

 彼らは今後登場するのかイマイチ分からない、頼りにはなる(と思う)。

 神出鬼没(これは割とガチ。何処にいるのか描写されない的な意味で)の護衛部隊『ん』組。助けが欲しい時には、適当に「実はこうしていたんだ!」的な活躍をこじつけます。

 

 

 

 

 

 

 いや流石に冗談だけどね。ちなみにチームメンバーについてはガチだ。

 こんな奴ら、シノノメの里のモノノフに居たかなぁ?と疑問には思うが、彼らは偵察部隊だからね。気配を消して、姿を見せずに、戦う前に撤収するのが彼らの鉄則だ。

 名と顔を知られてないという事は、それだけ徹底して陰に潜んでいるという事でもある。…と思う。

 いや真面目に手練の気配はするんだが。

 

 

 

 …こんな面子で大丈夫か?

 

 

「…大丈夫…だと、牡丹様は言っています。僕からは何とも」

 

 

 答えを避けやがったな。別にいいんだけどさ…。

 白浜君にも、そこそこ程度の…襲われてもすぐには死なない程度のしぶとさはついて来たし、一応俺も居るから、護衛に求められるのは戦力以上に索敵能力だし。

 そういう意味で、泥高丸は霊山行から外されてしまった。俺という最大戦力が無くなる訳だし、これ以上里の守備力を低下させるわけにはいかない。泥高丸自身も納得してはいたが、残念そうだった。

 色々書いたが、、霊山に『ふざけてんのか』って言われそうなのは確かだな。

 

 

 実は霊山から支援を引き出そうとしているのではなく、喧嘩売りに行ってるんじゃないか?と本当に思った。

 実際、白浜君の真っ当な交渉とは別に、霊山の弱みを握って交渉を上手く進めようと考えているんだが。

 

 

 ともあれ、旅立ちは里人総出で見送ってもらえた。今後の里の行方を左右する使者として赴くんだから、そう大げさとは言えないだろう。

 何故かお土産として吉備団子を渡されたが、桃太郎かよ。相手が鬼だって事を考えると、割とゲン担ぎにはいい気がする。

 

 

 

 あと、雪華には『里の未来を切り開いた英雄への感謝と祝福』という名目で、キスを貰った。去り際の触れ合い…と考えるとロマンチックかつ寂しげな雰囲気があるが、『大勢に見られているのもよいものですね』という囁きのおかげで台無しだ。最後の最後まで、雪華はド変態のドMだった。風華に対してはSにもなるが。

 …こっそり乳を揉んだ俺が言う事じゃないが、今度会った時は思いっきり可愛がってあげようと思う。

 

 

 泥高丸と麗亜さんは、いつかは霊山に腕試しに行くつもりのようだ。その時までに、もっともっと腕を磨き、鬼纏も改良すると息巻いている。今のうちに、自分達の事を宣伝しておいてほしいと頼まれた。

 …それはいいんだが、何で麗亜さんまで腕試しに参加するつもり満々なんですかねぇ…下手なモノノフよりも腕は立つけど、あんた一応主婦でしょうが。

 

 練の姉御は、普段通りの態度でサバサバと手を振ってくれた。

 風華は……まぁ、その、大っぴらに喜んではいなかった、とだけ。餞別に饅頭を貰った。

 

 両さんに至っては、『でっかい儲け話持って来いよ!』と大笑いする始末だ。里の未来を左右する話でさえ、この人にかかればこんなもんか。

 

 

 

 シノノメの里との別れについて書き始めると、キリがないのでこの辺にする。

 まぁ、何だかんだでいい里だったよ。意外と闇が転がってる里だったけど。

 それも変わっていくだろう。

 

 異界に囲まれ孤立していた里は、外に繋がる道を得た。渦を巻き、深い所に徐々に降り積もっていた淀みも流れていく事だろう。

 代わりによろしくない物が入り込んでくるかもしれないが、きっと良い物だって入ってくる。

 だったら……多分、これまで通りだろう。徐々に変化しながら、いい方向と悪い方向に変わりながら、トータルでみれば黒字で、ゆっくり変わっていくだろう。

 だからきっと、あの里は大丈夫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな感傷を抱えて、進み続ける事3日ほど。谷を抜けるまでは楽なもんだ。結界石の像を探す為、何度もくまなく歩き回った場所だ。鬼達の隠れそうな場所は大体把握してるし、道筋だって頭に叩き込まれてる。

 更に言うなら、護衛役の『ん』組がいい仕事するんだわ。かつて、この辺りは彼らの修練場でもあったらしく、俺も気付いていなかったアレやコレやを利用し、鬼達を戦う前に駆除していく。何年も前に作られた罠が、異界の中で残ってるって普通に凄いな。そして罠がえぐい。

 こりゃ、思ってた以上の上物だな。モノノフとの兼業じゃなくて、ガチ忍者だわ、こいつら。

 

 …時々立ち止まって、思い出話に花を咲かすのが玉に瑕かな。感慨深いのは分からんでもないし、かつての記憶と現状の齟齬の確認を兼ねているので、あまり文句も言えないが。

 

 

「あそこではね、毎年綺麗な桜が咲いて、里の皆でお花見に来たのよ。私もよく夜通し呑んで、友人と語り明かしたわ」と神夜に語っている山本先生(見掛けは20になったばかりの美女)。あなたが言ってるの、オオマガトキの前だろうから少なくとも5年前ですよね? くノ一に年齢は無いんですかね。

 それはそれとして、花見は是非やりたい。女の肌の花見じゃなくて、桜を見ながらのんびり飯食って酒飲んで騒ぎたい。異界を浄化したら是非やりましょう。

 

 

 それらの解説に耳を傾けながら、一人で漫才している明日奈。…いや正確に言うと、明日奈と木綿季なんだけどね。

 うん、ついてきたんだ、木綿季が。こっちとしては全く問題はないが、「驚かせようと思って」なんて理由でこっそり忍び込むのはどうかと思う。

 どこに忍び込んだかと言うと、明日奈の鞄の中だ。

 旅立ち前夜、またしても明日奈の体を勝手に乗っ取って、自分の依り代となる結界石の彫像(新しく作ってもらった小さいの)を鞄の奥に押し込めていたのだ。

 里から離れた翌日、唐突に木綿季の声が響いた時には本気でビックリした。

 結界を貼るお役目に関しては、本願寺顕如=サンや雪華が引き受けてくれたそうだから、問題はないんだろうけども…。

 

 

 

 

 

 そんなカンジで、後々同じ道を通るであろう里の皆の為、大型鬼を駆逐したり、適当な休憩場所を作りながら進む事4日。

 初めて外の世界に触れた神夜・明日奈・白浜君の興奮も何とか落ち着き、逆に微妙にホームシックになった。

 明日奈と神夜は…まぁ、夜に(限った事ではないが)こっそりイロイロした事で落ち着いたが、白浜君はそうはいかない。ていうかいって堪るか。

 

 最初は、白浜君も自分に課せられた大役を意識してガチゴチに緊張したり、知らない景色を目にする興奮でハイテンションになったりしてたんだけど…それも最初の3日程度だった。

 ホームシックなんて概念は知らなくても、生まれ育った里から離れた事を不安に思ったり、戸惑ったりしている自覚はあるようだ。だがそれも、自立するには避けて通れない道だ。頑張れ青少年。

 

 

 

 

 で、あれこれ微妙に寄り道しながら、整備された道を進んでいくと、大量の馬の足音が響いてきて。

 

 

 

 

 

 あらやだ、お久しぶりね相馬さん、それに百鬼隊の皆さま。

 

 

 

 

魔禍月肆拾肆日目

 

 

 

 3日ほど日記が開いたが、相馬さん達と会うまで道中に大したトラブルもなかったし、別に無理して書く事ないだろ。

 

 ともあれ、まー取り敢えず懐かしい顔を見れたわ。結構世話になった人だし、野郎でも覚えてるよ。

 初対面時に抱き着かれた事も含めて。

 

 百鬼隊の皆さんも…こっちは流石に全員は覚えてないが、相馬さんの左隣り3人目に居る人が御腐人だったのは覚えています。

 相馬さん達にしてみれば、怪しい事この上ない一行だっただろう。

 

 年若く未熟なモノノフ(白浜君)が一人。

 何故かそれを護衛しているらしき、ベテランのモノノフ4人。尚、土井さんは胃を抑えているし、伝子さんは相変わらず伝子さんだし、チンゲン斎はひっくり返っているし、山本先生は3頭身くらいのお婆ちゃんの姿だ。

 更に、通報すべきかギリギリのレベルで露出する年頃の女性モノノフ(神夜)と、一人二役でセルフボケツッコミしている挙動不審のモノノフ(明日奈)。

 そしてその二人に寄り添われている俺。

 

 

 ……何だこの集団。

 しかも、その集団の一人は相馬さんの事を知っていると来た。

 

 返す返すも、よくファーストコンタクトが穏便に済んだものである。

 

 

 

 顔を見るなり、懐かしさのあまりにポロッと名前を零してしまったのを、相馬さんも明日奈の聞き逃さなかった。

 

 

「ほう、俺の事を知っているのか」

 

「お知り合いですか?」

 

 

 知ってるっちゃ知ってるが、一方的にな。

 この人達は霊山所属のモノノフだ。百鬼隊と、その隊長の相馬さん。一言で言っちまうと、各地を転戦している精鋭モノノフだな。

 

 

「へぇ…」

 

 

 こら神夜、初対面の相手に剣気なんて向けるんじゃありません。

 

 

「構わん。新米の跳ね返りが、手合わせを求めてくるのも、一方的に顔を知られているのもいつもの事だ。そういうお前達はどこのモノノフだ? この辺りにモノノフの里があるとは聞いていないが」

 

「私達は、シノノメの里の者よ」

 

「シノノメの里………聞き覚えがある。もっと北にあった里で、確か、オオマガトキの戦で異界に囲まれ、滅んだ里と聞くが」

 

「滅んでないわよ。確かに、異界に囲まれて外との連絡が全くできなくなったけどね。そう思われるのも仕方ないわ」

 

「そうか、それは済まなかった。経緯はよく分からんが、まずは生き延びてくれた事を喜ばせてもらおう」

 

 

 …初対面でも伝子さん相手に平然としていられる相馬さん、パネェ。

 しかし相馬さんはともかく、他の百鬼隊の人達はとても信じられない、という表情が見え隠れしていた。そりゃそうだよな。何年も連絡が取れず、完全に閉じ込められていた里が今更出てきても、疑う以前に戸惑うだろう。

 

 

「改めて名乗ろう。俺は百鬼隊の参番隊隊長、イツクサの英雄、相馬だ。…と言っても、シノノメの里との交流が断絶する頃には、俺はまだ名を上げていなかったし、知らないか」

 

「相馬…相馬、か。確か大和の部下に、そんな名前の金砕棒使いが居たな」

 

「む? 大和殿を知っているのか」

 

「霊山に居た頃の同期だ。奴は今どうしている?」

 

 

 大和のお頭なら、ウタカタの里でお頭やってる筈だが。チンゲン斎、お前あの人と知り合いだったのか?

 

 

「八方斎だ! 儂の人脈を舐めるでないぞ。…と言っても、何せオオマガトキ前の事だからな。どこまで残っているかは分からん」

 

 

 むぅ、意外な特技。この使者団に選ばれるんだから、何かあるとは思っていたが。

 

 

「話を戻すが、俺達はこの近辺の異界の調査に来た。信じがたい事だが、数日前に北の異界が突如消失した、という報告を受けた為だ。鬼の仕業か、それとも仏の助力か…。お前達、何か事情を知っていると見たが?」

 

 

 …白浜君よ、どうする?

 

 

「…………うえぇ!? ここで僕ですか!?」

 

「使者は君と牡丹様だ。何を何処まで話すかは、君達に決定権がある。一度考えてみなさい。その後の事は、私達で対応するから」

 

 

 土井さんに諭され、悩み始める白浜君。牡丹にも意見を聞いているようだが、そう簡単には決められないか。

 一方、相馬さんはと言うと背中を自分の馬に預け、面白そうに白浜君を見物していた。何を言い出すのか、楽しみで仕方ないって面だな。相変わらず度量がやたらデカい人だ。

 

 

 白浜君は暫し悩んでいたが、牡丹の後押しもあったのか、若干自信無さげだが告げる。

 

 

「ここは全面協力を申し出るべきです。異界の浄化は、モノノフにとって悲願とも言える事。この現象は絶対に広く知らしめるべきです」

 

「ほう、大きく出たな。そして異界の浄化は、お前達に関連していると」

 

「はっ!? …き、協力するんだから問題ない…ですよね?」

 

 

 

 まぁ、この場ではな。相馬さんはつまらない策謀を練る人種じゃないし、誠意には誠意で返してくるから、協力を求めようと思ったら正しい態度ではある。

 手段だけ毟り取られて捨てられるとか、口で『俺達がやった事』と言っても目の前でやってみせないと信じられそうにないとか、色々問題はあるけどね。

 

 

「どうしろって言うんですか…!」

 

 

 どーしようもないね。そのどうしようもない事をどうにかするのが、外交ってものだよ。

 さて、お待たせしました。色々とお互い、確認しなければならない事が山ほどあるでしょう。

 

 何処か、適当な所で腰を落ち着けて話が出来ませんかね?

 

 

「ふむ、シノノメの里に行くのは無理か?」

 

「ここまでくるのに、歩きで3日かかりました」

 

「ふむ、確かにちと遠いな。戻るくらいなら、霊山に向かった方が早いが…。……」

 

「相馬様、失礼します」

 

「む?」

 

 

 百鬼隊の一人が、何やら耳打ちする。あの人は副官的な立ち位置に居た人だ。

 ふむふむと頷いた相馬さんは、いいだろうと小さく呟き、俺達に話しかけた。

 

 

「悪いが、このまま真っ直ぐ霊山に連れて行く事はできん。最近では、鬼が人に化けて潜り込もうとした、という話も聞くのでな。野宿になるが、そこで話を聞かせてもらおう」

 

 

 

 …まぁ、妥当な所かな。

 何せ、こっちは身分証になる物すら持ってない。里長からの委任状みたいなものはあるけど、そもそも両さん自体、ちゃんとした里長ではないらしい。オオマガトキやら何やらのドサクサに紛れ、『良くも悪くも一番頼りになる人』として、いつの間にやら里長として扱われていたのだそうな。…まぁ、霊山があの人を認めるとも思えんしな…。

 

 異界の浄化を俺達がやったって話も、普通に考えればホラ吹いてると思われるのがオチだ。腰を据えて話を聞く体勢になってくれただけ、ありがたいと思うべきだろう。

 

 

 

 …さて、白浜君が決めた「全面的に協力」という方針に異論はないが、何処まで札を切っていいものか。

 相馬さん自身は間違いなく信用・信頼に値する人だが、同時に放り出せない立場と責任を持っている人でもある。

 更に言うなら、イツクサの英雄というネームバリューを持っているから、影響力もそこそこある筈。…が、実際の権限としては、精鋭部隊の隊長と言う程度……政治や外交に嘴を突っ込める立場ではない。

 

 ………微妙だな。こっちの手札は…異界の浄化方法と実績、宝玉という珍しい物資とその活用方法、鬼纏という新戦術、霊山主導で行っていたと思われる人体実験の記録……は証拠が無いから今は使えない。

 霊山がシノノメの里を見捨てたのではない、というポーズを取ってくるなら…いや、それこそここで相馬さんがどうこう出来る話ではない。

 

 結局、相馬さんの人の好さと、白浜君の誠意がいい方向に作用してくれるのを期待するしかない訳か。…不安だ。

 

 



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430話

魔禍月肆拾伍日目

 

 

 そして夜が明けた。何が『そして』なのかは聞かないでほしい。

 まぁ、そこそこ実りのある一夜だった。別に子宝云々じゃなくて、情報とか交流的にね。

 相変わらず、無暗に懐の広い人だ。

 

 相馬さんと副官、立ち位置的に参謀な人を踏まえ、一晩色々と情報交換した。異界浄化という現象に対する霊山の反応、そこから来た俺達に対して取るであろう対応。

 愉快な話だけではなかったが、少なくとも白浜君達は相馬さんを信用してもいい、と結論したようだ。

 お人好しの白浜君だけじゃなく、汚れ役を担うであろう4人の護衛役達も。

 個人的には、俺達の味方をしてくれる。霊山への口利きも、自分だけでは大した事は出来ないからと、最も有力であろう伝手を紹介してくれる事になった。

 

 

 …尤も、その伝手と言うのは…『北の地を見捨てた鬼』だったけどね。

 

 

「…知っているのか」

 

 

 まぁ、有名人だし多少は。中つ国出身の一般人な俺だけど、それでも色々と噂は耳にしたよ。

 

 

「中つ国!? しかも外様の!? 本当か!?」

 

 

 ちょっ、何だよそこに食いつくのか!?

 

 

「む……いや、すまん…。一人でも生き残りが居ないかと、何年も走り回っていたんだ。…そうか…生き残っていてくれたのか…」

 

 

 …そういや、前のループで初めて会った時、それが原因で抱き着かれたんだっけ。

 オオマガトキで滅んでしまった国の生き残りを、何年もかけて探し続けてたんだよなぁ…。

 

 それはともかく。

 

 

「…北の地を見捨てた、と言うのは聞き捨てならないわね」

 

「伝子さん、言いたい事は分かるが」

 

「…やるであろうな、奴なら。馬鹿者が…。悪名を背負い込んで、独り闇路を歩くのは相変わらずか」

 

「八方斎殿、知っているのか?」

 

「ウタカタの大和とは同期だと言ったであろう。大和と九葉も同期だ。顔見知りでもおかしくあるまい」

 

 

 そういや、いつぞやそんな話をしていたような気がしなくもないが。

 ちゅーか、このデカ頭の人脈、マジで侮れん。百鬼隊の隊員の一人に、かつての知人が居るのに気付き、真っ先に接触したくらいだ。おかげで随分打ち解けるのが早くなった。…接触された当人は、「あの紅顔の美少年だった貴方が、こんな姿に」とマジ泣きしていたが。…え、こいつ昔は美形だったの?

 

 

「ともあれ、九葉を伝手として使うのなら、相応の対価を示さねばならん。奴は必要であれば、陰謀も裏切りも粛清も躊躇う事はない。だが必要でないと…それ以上の価値を示しているのであれば、その間だけは信用できる」

 

「…あの、八方斎さん、それって信用していいんですか? 僕としては、不要になったら即背後から斬られるとしか聞こえないんですけど」

 

「事実、その通りだ。だがそういう輩とも突き合って行かなければならないのが、使者というものだ。今回に限っては儂らがやるがな」

 

 

 …俺もちょいと個人的に知ってるが、あの人は信用してもいい外道だよ。

 斬り捨て血を浴び悪を成すのは、自分を含まない公共の利益の為だ。斬り捨てられる方は堪ったもんじゃないが、斬り捨てた分だけその血に報いる事を忘れない。

 必要だから、それをやる。誰もやらないから、やらせない為に自分がやる。

 

 …偽悪、とは違う…と思う。あれを何て言えばいいのか今でも分からないがね。

 

 

「………」

 

「…山田伝蔵、今は」

 

「で・ん・こ・さんよ!」

 

「で、伝子さん…………あー、その今は呑み込めと言うかなんというか」

 

「落ち着け落ち着け。どの道、俺達の言葉だけでは納得できまい。頼るにせよ見限るにせよ、一度直接会ってみる事だ。噂話は当てにならんぞ」

 

 

 あの人の場合は、色んな意味で外見も当てにならないけどね。ツンデレの極みみたいな人だからなぁ…。

 ともあれ、相手が鬼と呼ばれていようと、それなり以上の地位にあるのは確かだ。何もない状態でいきなり霊山に直談判するより、余程効果があるだろう。

 

 白浜君、怯える必要はないぞ。悪党面だが、会っていきなり暗殺を仕掛けられるような事はないから。

 

 

「それが基準なのが既におかしくありません!?」

 

「ははは、そう怯える事はないさ。俺も口添えするとしよう。………ところで、あっちのあれはいい加減どうにかならんか?」

 

「…………神夜が迷惑かけて申し訳ありません…」

 

 

 話にあまり口を挟まず、小さくなっている明日奈が可愛い。

 相馬さんの指さす先では、金属音が何度も響き渡っている。裂帛の気合と、間延びした気合が響き渡り、「もう一本!」なんて声までする。更にそれを囃し立てる声。

 

 何をやってるかって? ウチの戦狂いが、百鬼隊の隊員と手合わせしてんだよ。

 里を出た時から、どんな強い相手と巡り合えるかとwktkしてたからな。使者としてやってきている事もあり、何とか猫を被ってはいたんだが…隊の一人に、自分と同じ戦狂いの人間を見つけて、ついつい衝動的にやっちゃったらしい。…別に神夜からいきなり斬りかかった訳じゃなくて、お互いの腕試しって事で合意の上ではあるけど。

 百鬼隊の人達も基本的に武人気質と言うか、まず強いか弱いかを念頭に置くような連中だから…。

 

 ちなみに、現在神夜と手合わせしているのは、百鬼隊でも新しい隊員らしい。腕は…素質はあるが、精鋭部隊の中では下から数えた方が早い程度。

 それでも神夜と互角に渡り合える程度には腕が立つ。

 里を出て早々に巡り合えた強敵に、神夜さん大歓喜である。

 

 ちなみに、周囲で見物している百鬼隊達の半分くらいは、ぶるんぶるん揺れる部分とか、見えそうで見えない際どい部分に目が釘付けだったりもする。その乳は俺のだぞ。羨ましいかケケケ。

 それはともかく、神夜は興が載ったらいつまでも続けるからな。そろそろ止めなきゃならんか。

 

 おーい、その辺にしとけ。

 

 

「うるさい、口を突っ込むな!」

 

「あと一回! あと一回だけですから!」

 

 

 …相馬さん、タンコブくらいはいいよな?

 

 

「許す。稽古の間とは言え、避けられん方が悪い」

 

 

 では遠慮なく。その辺に落ちている石を拾って、無造作に上に向かって放り投げる。

 大したスピードも無く、緩い放物線を描いて飛ぶ石は、丁度鍔迫り合いの体勢になった二人の頭に落下した。

 

 

「「あいたぁ!?」」

 

「ほう、見事に動きを読み切ったものだ」

 

 

 あっちのにーちゃんはともかく、神夜の動きはよく知ってるからな。

 はいはいそこまで。神夜、こっちおいで。

 

 

「うう~…負け越しました…」

 

「いや、最後の鍔迫り合いに持ち込まれた時点で、押し返す方法が…いてて…久しぶりに楽しくて新鮮な戦いだったのに」

 

 

 稽古中だったとはいえ、あんなものも避けられないのに戦狂なんぞ気取ってるんじゃない。神夜、お前もだ。

 

 

「お前もその辺にしておけ。遠路はるばる訪れた古い同胞に、失礼な口を利いた罰だ。礫くらいは受け入れろ」

 

 

 ブツブツ不満を言いながらも、大人しく従う新入り百鬼隊。流石に隊長に逆らう程おバカさんではないようだ。

 止められた神夜は、不完全燃焼で不貞腐れたような顔になりながらも、素直に俺の傍にやってきた。そして斬冠刀を傍に奥と、胡坐をかいていた俺の膝の上にうつ伏せに横たわる。

 ふにょんとしたおっぱいの感触も慣れ親しんだもの。床で絡んでいる時以外で俺に甘える際は、神夜の定位置はここだった。

 

 

「……ちょっと、神夜?」

 

「う~……」

 

 

 …負けた悔しさが半分、いいトコロで止められた恨み辛みが半分って所か。

 申し訳ない、基本的に戦う事ばかり考えてる、見たままの甘えん坊なんだ。

 

 

「ははは、慕われてるじゃないか! 切り札を使わずうちの隊員と打ち合えるとは、いい腕をしている。熟練の忍びに、才能は…うん、まぁ、頑張れとしか言いようがないが、将来化ける予感がする新米。そしてお前…。シノノメの里は粒揃いのようだ」

 

「切り札を使ってない…!?」

 

「ん、気付いてなかったか。彼らが言っていた、鬼纏とやらを使っていなかっただろう」

 

 

 正確に言うと、使えなかったんだけどな。あれは鬼の瘴気を利用する技だから、人間相手じゃ発動できんのだ。事前に貯めこんでおく方法もあるにはあるが…。

 だから神夜と手合わせしていた少年、あまり気にする事はないぞ。

 

 明日奈、お前も手合わせしてみたいか?

 

 

「今はそれどころじゃないわ。興味はあるから、落ち着いたら…ね。ところで、朝ご飯出来ましたよ。百鬼隊の皆さんもどうぞ」

 

 

 …よくこの状況で、トン汁なんぞ作れたものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日奈お手製の朝飯食って、さぁこれからどうする、って話になった。

 俺達としては、このまま霊山に向かいたい。元より、それが目的だ。

 相馬さん達は、このままシノノメの里に接触を取りに進むか、或いは俺達を連れて引き返すか、だ。

 

 今回の相馬さんの任務は、異界が消え去った現象の調査。その発生源である俺達を連れ帰れば、任務達成と言う事にならないだろうか。

 

 

「それが事実だと実証できれば、そうなるな。法螺を吹いているとは思わんが、上を納得させるだけの証拠は必要だ」

 

 

 証拠って言われたってなぁ…。あそこの異界を浄化できたのも、条件が揃っていたからだ。

 結界石の石像という、異界を生み出す元になっていた存在を浄化し、その機能を逆転させた。そしてそこら中に転がっていた宝玉がその効果を拡散させた。

 この2つが揃っていなければ、再現する事すらできはしない。

 

 

「再現できないようなら、異界浄化という実績は信用されないだろう。信用されたところで、資料として相手にされるかどうか………。………いや、そうでなくても、長年異界に囲まれて生き延びてきた里だ。戦力として評価するだけでも、連れ帰る価値はあるか…」

 

 

 相馬さんが何やら考え込んでいる。もっと竹を割ったような性格だったと思うけど…やっぱり立場ってのがあるんだろうか。

 単純に、かつて手を携えていた里の人間と再会した為、保護した……って建前で…それだと異界消失調査の任が果たせてないか。

 

 ここまで悩んでくれている以上、相馬さん自身は俺達をこのまま霊山に連れて行きたいんだろう。

 しかし、それを任務よりも優先してもいいのかと言うと…。

 

 

 

 このジレンマに終止符を打ったのは、またしても意外な実力を持つ男・ザー斎だった。

 

 

「八方斎だ! いやそれよりも、相馬殿の上役は九葉なのだな。であれば、話は簡単だ。儂から緊急の連絡がある。放っておくと、オオマガトキのような大災害に繋がりかねん。異界浄化の調査は必要だが、異界が増えた訳ではないのだ。状況を整理してから調べればいい」

 

「…緊急の連絡、か。成程、それならば仕方あるまい。では、隊の半分は霊山に戻る。隊員番号が偶数の者は、このまま進んで異界消失の調査を進めろ」

 

 

 

 …本当に有能だな、このデカ頭…。

 

 

「今のは儂の案ではない。土井が考案した事だ。奴は板挟みにあっている。ならば、適当な理由で後押ししてやれば素直に受け入れるだろう。それが自分の望んだ方向への者であれば、猶更な」

 

 

 へえ。影が薄ゲフンゲフンあまり目立った発言をしない人だと思ってたけど、意外と…。

 ちなみに、本当に緊急の連絡ってあるのか?

 

 

「…お前がシノノメの里で開けた、例の穴だ」

 

 

 オウフw

 

 

 

 

 

 

 

 さて、百鬼隊の馬に乗せてもらい、霊山へと急行。思えば、ここに来るのもどれだけぶりか。いや、前ループ時に訪れはしたんだけども。

 相変わらずデカい山だな。こんなデカい山、日本にあったっけ…と今更な疑問を覚える。

 

 明日奈、神夜、白浜君は初めてやってきた霊山に目を輝かせ、完全にお上りさん状態だ。

 まぁ、シノノメの里とは比べ物にならないくらい……うん、その、都会だものな。シノノメの里、言っちゃ悪いけど完全にド田舎だもの…。外と交流が途絶えてたせいだろうけど。

 

 

「いや、それは元からだった」

 

 

 …土井さん、いい薬屋紹介しようか? 何でもう胃を痛めてるのか分からんけど、霊山でも評判の医者や薬師が…。

 

 

「うん、頼む。それはともかく、霊山まで来たんだな…。ここからが正念場だ」

 

 

 確かに、交渉役と、その護衛役としてはそうだよな。俺も出来る限り力にはなるけど。

 …実際、このまま交渉に入ったとして、霊山が手を貸してくれると思う?

 

 

「厳しいな。それをどうにかする為に、私達が色々と探り出さなければならないんだが…」

 

 

 九葉のオッサンと会うまでに、と言うのは難しいな。お偉いさん相手だから、すぐに会う事はできないだろうが…。

 …伝子さん、チンゲン斎、山本先生、皆は………あれ?

 

 

「…私が胃を抑える理由が分かっただろう? 八方斎は『知人の伝手を辿る。九葉との面会までには戻ろう』と言って人ごみに消えた。山本先生は、一瞬目を離したら居なくなってた…多分誰かに変装してる。伝子さんは………なんか、その、知らない男に声をかけられて、ほいほいついて行ってしまった。白浜君と牡丹様が大人しい事だけが、私の救いだよ…」

 

 

 …逆ナン? それとも警備隊? 或いはそっち系の店…カマバーでもあるんだろうか。

 まぁ、いい大人……………かどうかはともかく、能力的には優秀な人達だし、問題は起こさないでしょ。むしろ、交渉の為の手掛かりを探しに行ったと思えば…。

 

 

「私達の本来の役割は護衛なんだ。ついでに言うと、私は戦闘能力にはあまり自信が無い…。頼むから、君までふらりと消えないでくれよ」

 

 

 ははは、大丈夫大丈夫。何処を狙えばいいかは大体見当がついてるから、皆が戻ってきてから向かうさ。

 俺も霊山見物したいしね。

 

 …今のうちに色々考えておかなければいけない事もある。

 差し当たり、九葉のオッサンは俺を覚えているだろうか? 今までのループでは、全てがリセットされてい………なかったな。何故かGE世界の始まりが変更されてたっけ。あれの理由は未だに分からん。

 ともあれ、今まで通りであれば、九葉のオッサンは俺の事なんぞ全く知らないだろう。前ループで合っていても、全てリセット。

 

 だが、俺は九葉のおっさんと初めて会った時、オオマガトキが起こる前の横浜(だと思う)に居た。異界から始まるこの世界では今一時間軸の信用がおけないが、『九葉のオッサンと会ったのは、スタートするよりも前の時間』である可能性がある。

 データをセーブさえしていれば、リセットボタンが押されたところでそれまでやった事が消えてなくなる訳じゃない。……『おきのどくですが』のテロップが流れなければな!

 

 



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431話

 

 

魔禍月肆拾陸日目

 

 

 予想通り、九葉のオッサンにすぐに会う事はできなかった。

 暫く時間がかかるのは分かってたが、いつになるのか分からないのは予想外だった。面会の準備が出来るまで、宿に留まる事になった。宿と言っても、百鬼隊の宿舎だけど。

 

 何だか知らんが、重要な会議で全く時間が作れないらしい。

 

 

「…重要な会議って、異界が消失した事についてじゃないんですか?」

 

 

 かもな。だったら、会議場に直接乗り込んで俺達のやった事だって宣言した方がいいかなぁ。でも、こっちでもやれるか分からないしなー。

 それ以前に、会議にカチコミかけるような真似する奴は牢獄行か。

 

 ところで白浜君、初めて来た霊山の感想はどうだ? 良くも悪くも、シノノメの里とは全く違うだろ。色々戸惑ってるんじゃないか?

 

 

「ええ、それはもう。とにかく人が多くて、眩暈がしそうですよ。色々な物がありますけど、シノノメの里ではあって当然だと思っていた物が無くて…例えば宝玉とか」

 

 

 あそこの宝玉は、その辺を歩けば転がってたからなぁ…。あんな汎用性が高くて効率のいい物が石ころ扱いって、冷静に考えるととんでもないぞ。

 初めて見た時は唖然としたもんだ。実際、霊山との取引に使えるくらいの貴重品だ。

 

 

「…そんな物がごろごろしてたんですか…。言われてみれば、昔は見かけませんでしたが」

 

 

 異界に囲まれた状況になってから見つかり始めたって言うし、そういう状況で作り上げられる特殊な鉱石なのかもしれないな。しかしその理屈で行くと、これから宝玉が出来上がらなくなるかもしれん。

 …真面目な話はこの辺にして、何か興味を惹かれるものでもあったかな?

 

 

「ええもう色々と。と言うか、里の外って、貸本はあまりしないんですね。皆、買い取っていくばかりのようです」

 

 

 最初に目についたのがそれか。仕事柄と言ってしまえばそれまでだけど。

 珍しい本を探すなら、普通の書店よりも中古の本を取り扱ってる所がいいぞ。

 

 

「正直、どの本も珍しいというか初見なので、判断がつきませんね。偶に牡丹様が『あ、これ懐かしい』って言う奴があるから、それは買ってますけど。他に興味があるのは、やっぱりモノノフの訓練ですけど、勝手に入っていいものかどうか」

 

 

 勝手じゃなくて、許可を取れば入れるよ。

 異国の人も訓練してるくらいだし、問題ないって。

 

 …っと、そういやグウェンもここに居るんだよな。時期的にどうなのかは、見てみないと分からないが。

 あの剣から呼び出される鬼に難儀してるんだっけ…。見つけたらさっさと狩っちゃってもいいよな? 恩を売る云々ではなく、一時は肌を重ねる程親密だったんだ。それが危険な目にあっているのを放置するのもな…。

 …一応、九葉に一言告げておいた方がいいか? よくよく思い出すと、あの鬼を狩った事を教えた時、手駒がどうのと言っていたが…。

 

 

「ところで、神夜さんや明日奈さんはどうしたんです? 別行動なんて珍しいじゃないですか」

 

 

 二人も情報収集中。四六時中一緒じゃ、つまらないものな。面白そうな物を見つけたら、持ち寄るようにしてるんだ。今のところ、化粧品とかしか持ってきてないけど…。

 迷子になってなければいいんだけどねー。基本的に気のいいモノノフが多いんだけど、やっぱ特権階級的な意識を持って拗らせてる奴も居るから。あんだけ美人なんだし、絡まれても不思議はないかな。

 

 

「…大丈夫なんですか、それ。最初だけでも、一緒に行った方が良かったんじゃ。……ところで、さっきから何を書いてるんです?」

 

 

 手紙。霊山に着いたら、いの一番に出そうと思ってたんだが、内容が纏めきれん…。下手な事書くと、一瞥だけして読まずに捨てかねないような奴だしな…。

 

 

「そう言えば、師匠は他の里にも知人が居るんでしたっけ。…恋人ですか? …あ、今の無しです。あの二人や雪華様が居るのに」

 

 

 少なくとも、奴とはそういう関係ではないな。実験者と協力者…かな?

 専ら博士って呼ばれてるんだが、考えてみれば本名は聞いた事が無いな。…住所だけ書いておけば届くかな。

 

 内容は…まず、前ループで「もしも次があるようなら、私にこれを渡せ」と言われた手紙。…博士が博士自身に充てた手紙かぁ。正直言って、不安しかない。傲岸不遜なマッドサイエンティスト同志が出会ったら、意気投合して化学反応を起こすか、拒絶反応で何もかもぶっ壊されるかの2択だろ。

 俺からは……うーん、何を書けばいいかな。ループの事を書いて、信じてもらえるか?

 そうだ、あっちにホロウが居るかどうかも確認してほしい。初めて出会ったのは、遺跡の中だっけか。あの後ウタカタまでついてきたけど、あいつはどうなってるのか。リセットの効果が及ぶんだろうか?

 

 博士が研究している鬼の手で、異界浄化が出来たという事は報告しなければなるまい。…結局、あの時は異界浄化は成らなかったんだよな。

 手掛かりになるかは知らんが、シノノメの里で得た情報・状況と、宝玉を幾つか同梱しよう。

 

 

 …うん、こんなもんかな。後は無事に届く事を祈るだけ、と。

 白浜君、俺は少し出てくるから、君は鍛錬を続けておくように。

 

 

「……こうして鍛錬しながらでも話せるようになってきた辺り、僕も随分変わりましたねぇ」

 

 

 武術家とかなら、ここから更に追い込んでいくんだろうけど、ハンター式の鍛え方だからな。体を鈍らせない為の訓練はしても、人間を超えようとするような訓練はしない。

 今までの訓練は、体を作る訓練。ここからは、技の精度を一つ一つ高め、動き方を学んでいく事になる。言わば、体の動かし方を叩き込む訓練だ。

 

 

「それは……今までよりも楽になる、と言う事だったりは…しませんよね」

 

 

 しないなぁ。確かにこれ以上の負荷はかからないが、やる事がはっきりしている単調な訓練と違い、どんな状況でどんな動きが必要なのかあの手この手で叩き込むから。

 訓練してない時だって、『こういう状況ならどう動くべきか』って延々と考え続けるハメになるぞ。

 ま、今日のところは、今までと同じ訓練だけだ。

 牡丹、サボらないように見張っておいてくれ。

 

 

 それじゃ、俺はちょっと出かけてくる。

 

 

 

 

 

 護衛を戻って来た伝子さんに任せ、俺は夜の霊山に出る。

 シノノメの里と違い、霊山は夜でも灯りが多い。明日奈が「明るすぎて眠りにくい」なんてボヤいていたな。

 

 電気代もとい、灯りの燃料代の無駄とも言えるが、それだけ賑わっているという事だし、灯りはそれだけで人の心の拠り所になる。一概に無駄とも言い切れない。

 それだけの暮らしを保つ為に、昼夜を問わず仕事している人も居るって事だしね。

 

 

 それはともかく…強い光は影を作る。それはこの霊山であっても例外ではない。物理的な影もあるし、社会の闇的な影もある。

 その二つにこれから潜り込みに行きます。

 

 路地裏に入って人目が無い事を確認したら、ニンジャ走りで壁を駆けのぼって適当な屋根の上へ。…よし、屋根の上までは灯りは届きにくい。イイ感じに闇に溶け込める。

 霊山…モノノフの本拠地を見れば、山と言うよりも塔、或いは城のようだ。事実、山の一部をくり抜いて改装しているらしいが。

 

 以前、何度か入った事があるが…構造的に幾つかおかしな場所があった。当時は特に気にしてなかったし、増築に増築を重ねた結果だろうと思っていたが、後ろ暗い部分があるならまずそこだろう。

 ……本当に重要と言うかヤバい資料なら、秘密の部屋に押し込めて、入り口を埋めるくらいの事はやってるだろう。そもそも残しておかないという可能性もあるが。

 

 

 さーて、どれから手をつけるかね?

 人目を避けて霊山に忍び寄り、採光用の窓から入り込む。警備は居るが、ザル…とまでは言わないものの、やっぱり油断してるな。

 モノノフは今の世を支える最後の砦だが、それに喧嘩を売る馬鹿がいないと思っているんだろうか? 実際、下手に喧嘩を売ると世が滅ぶが。

 …まぁ、忍び込む奴なんか早々居ないのは確かだから、気が緩むのも無理はない。そんな事言ってたら警備はやれないが、どっちにしろ俺が相手じゃ意味ないべ。

 

 勘の良さそうな奴には近づかず、「しむらー、うしろー」と言いたくなるような動きで中まで入り込んでいく事暫し。

 

 むぅ、目星をつけていた所の2つはハズレ。1つは入り口が完全に埋められていた。壁を斬って入り口を作る。切り取った部分を元に戻して…これで良し。寄りかかりでもしなければ気付かれないだろう。

 埋められていた部屋は埃臭く、鬱陶しい空気が漂っていた。入っているのはよく分からないガラクタ、ひどく古い擦り切れた覚書…。

 

 ハズレだな。覚書が読めれば、まだ何かの手掛かりになったかもしれんが。

 

 

 切り取った扉(壁)は糊をつけておき、次の場所へ。霊山の中でも特に厳しく立ち入り禁止区域に指定されている場所だ。

 パッと見た所、何の変哲もない、ハクやら資材やらの記録が残されている倉庫。だがその一角には、厳重に埋め立てられた地下通路があった。俺でも鷹の目を使わなかったら見逃していただろう。

 …しかし、随分と隠し通路や隠し部屋が多いものだ。どんな掘方したんだか。

 

 人通りが比較的多い場所なので、床に穴を空けると流石にバレる。…構造を予測し、比較的近い部屋は……………トイレかよ…。

 トイレの下部分からじゃないだけマシか。雪隠隠れを好き好んでやりたいとは思わん。

 

 

 …丁度、誰か使った後っぽい。クサイ。いや排泄物出す場所だから無理はないんだけど。とりあえず、また壁を斬って通過。

 予想通り地下通路に出たが……こりゃ、トイレの匂いの方がマシだったか?

 死臭…腐臭…。物理的な匂いじゃなくて、もっとこう……精神的に『嫌な気配』がこびりついている気がする。

 

 これは…当たりかな?

 

 

 

 

 灯りを灯しながら先に進んでみると、その先にあったのは世界観に似つかわしくないものだった。いや、ある意味似合っているんだろうか?

 

 

 魔法陣。

 

 

 六芒星か…。籠目の文様だけなら珍しくないが、その周囲に描かれているのは明らかに異国の文字。

 中心には、何かが設置されていた痕跡。…これは………恐らく円柱状の入れ物。……ホムンクルスでも作ってたのか?

 更に大量の血痕、何かを引き摺った跡、散らばった紙片…。

 

 殺人事件かな? みすてりーさすぺんす? と言うか、内輪揉めでもあったんだろうか。

 見られるとヤバい物があったから、慌てて始末した? それにしては、魔法陣の中にあったと思われる入れ物はしっかり持って行ってるな。結構な重さだと予測されるが。

 

 

 散らばった紙片を集めてみる。殆どは血で読めなくなっているが、残っている部分だけでも厄い厄い。

 両さんが言っていた、霊山の闇の所業にも説得力が出るってものだ。

 

 まだ読める資料を出来る限り掻き集めていると、他とは明らかに違う資料を発見した。

 地図だが、何やら走り書きがあった。日本語じゃない…こりゃ確かスペイン辺りの言語だっけ。古めかしい書体だが、大体の意味は分かる…。

 

 …移送? ここにあった物を運んだのか。

 霊山に来るまでの道で、近くを通ったと思うが…確か異界のド真ん中だな。当時はまだ異界に呑まれてなかったんだろうか? …いや、恐らくオオマガトキ前の事だな。それなら持っていくのもそう難しくはない。

 

 

 

 

 色々気になるが…今日はここまでか。これ以上ここに居ても、得る物はありそうにない。

 

 

 

 

 

魔禍月肆拾漆日目

 

 

 状況を報告しあいたいが、あまりヤバい話を白浜君達の前でするのも躊躇われる。

 少なくとも、これ以上霊山に対して不信感を持ってもらっては困る。

 

 折角霊山まで来たのに、修行漬けってのも不憫なので、白浜君には正式に一日、完全オフ日を言い渡しました。

 俺は土井さんと色々と話をしようと思っていたんだけど、今度は土井さんが何処かに行ってしまった。今日は土井さんがお休みなのか、それとも彼は彼で何かしに行ったのか。

 今日は山本先生が白浜君に(こっそり)貼り付いて護衛している。…マジで外見だけじゃ気付けない…すごい変装…。

 

 

 それはそれとして、今日の俺は明日奈と神夜の案内役。折角霊山に来たんだし、面白い所で逢引したい、と言い出したからだ。

 と言っても、そこまで詳しい訳じゃないんだよなー。確かに一時住んでたし、昨晩はヤバい所に入り込んだけど。

 

 …道場…は神夜が超絶喜びそうだけど、色気がないな。

 鍛冶屋…は明日奈が喜ぶけど、やっぱり色気が無い。

 万事屋行って、何か珍しいものでも探すか? シノノメの里に送ってやれば、外の流行とか分かって役に立つんじゃないかな。送ろうにも、まだ交流が復活してないけど。

 

 

 飯屋、風呂屋、本屋、化粧とかするところ、服屋…。

 ああ、道端で大道芸みたいな事やってる人も居たっけ。紙芝居なんかもやってた。笛を奏で、歌を歌ったり…意外と娯楽も多いもんだ。

 

 二人にも結構楽しんでもらえたから、結果的には良かったかな。

 

 

 

 

「………明日奈?」

 

「え? ………………桐人君…?」

 

 

 …なんか、予想外のイベントが発生したけどね。

 

 それは、その辺の屋台で買い食いし、腹もそこそこ満ちたし、さぁこれからどうする…と言う時だった。

 二人とも、何やら希望があるようなので聞いてみようとしたところ、突如声を掛けられた。

 

 信じられない、とでも言いたげなその声に振り替えると、そこには少年が立っていた。…何と言うか…マックロクロスケな少年だな。

 見た所、そこそこ程度には腕が立つ。恐らく、新米として実戦に出て間もないモノノフ…か。

 

 

「明日奈、無事だったのか…よ、よかった…」

 

「そ、そういう桐人君こそ…」

 

 

 …あれ、何やら気まずい空気が。え、なに? 何なのこれ?

 神夜、知ってる人?

 

 

「多分あの人、という程度ですけど…。直接顔を合わせたのは、数える程ですので」

 

 

 そうか…。……にしては、何だ? こう、甘酸っぱいというかそういう雰囲気が全くないんですけど。 

 別にそういうのを期待してるんじゃないよ。寝取られ趣味は無い。ただ、昔の知人が無事なんだったら、もうちょっとこう、普通に喜ぶもんじゃね?

 

 

「あー……えぇ、まぁ、大体の理由は察しがつきますが…とりあえず今は、余計な口を挟まずに見守りましょう」

 

 

 …それが普通なんだろうけど…なんか面白くないな。あんまり狭量な事は言いたくないが。

 

 二人は気まずい雰囲気のまま、ポツポツと途切れそうな会話を続けている。

 少し様子を見ていたが、非常にまだるっこしい。ヤキモチがどうのと言う以前に、なんか苛々してきた。

 

 思わず爪先をトントンしていると、ようやく少年…桐人君とやらは俺達に気付いたようだった。

 

 

「あ…そっちの二人も、シノノメの里の?」

 

「あ、うん。覚えてるかな。神夜と………い、今付き合ってるの」

 

「…神夜と付き合ってる!?」

 

「違うわよ」

 

 

 どうも、ご紹介に預かりました明日奈の彼氏です。

 

 

「か、彼…!? ど、どうも、桐人です…。明日奈とは、子供の頃に何度か遊んだ仲で……………ええと…」

 

 

 何か物言いたげな視線。寝取られた…と思ってる訳じゃないようだが。

 

 

「あー…その、シノノメの里で何があったんですか? 交流が途絶えてから何年も経つので、てっきり…」

 

 

 色々あって、異界を抜けてきた…ようなものだな。里の連中も、元気にしてるよ。と言っても、俺はつい先日シノノメの里に訪れたばかりなんで、君が居た頃の友人知人が誰なのかは把握してないけど。

 

 

「……そう、か…。みんな、無事だったのか…」

 

 

 それを聞くと、俯いて鼻を鳴らす。…彼がどういう立ち位置に居たのか、どう思っていたのかは分からないが、ここは口を挟むべきじゃないか。

 

 悪いけど、現状ではそれ以上の情報は流せない。現状、シノノメの里は色々と複雑な立場になりそうなんでね。俺達が霊山までやって来たのも、交流を復活させる為の使者って意味合いが強い。

 政治の話になるし、あんまり情報を漏らしたくはないんだ。

 

 

「………ああ…」

 

 

 …感極まってるな。明日奈、悪いけど今日の話はここまでだ。

 これ以上何か情報が欲しいなら、悪いけど頭をすっきりさせてから来てくれ。

 

 見た所、お役目帰りだろう? ちゃんと飯食って風呂入って寝て、それから考えな。

 …明日奈行くぞ。

 

 

「え、あ、うん…」

 

 

 明日奈の手を引いて歩きだす。一度だけ桐人を振り返ったが、泣き笑いで手を振られていた。…なんか、本気で恋人を寝取って、それを見せ付けてるような気分になってきたな…。

 神夜を伴い、明日奈を引っ張って暫し歩く。桐人君が見えなくなった辺りで、神夜が囁いてきた。

 

 

「なんだか、いつになく強引でしたね。…ひょっとして、妬いちゃってます? 明日奈さんを、桐人さんに取られると思っちゃいました?」

 

 

 …全く無いとは言わないよ。正直、面白くなかったのは確かだ。

 自分は散々好き勝手やっといて何を言ってる、と言われると返す言葉もないけどさ。

 

 

 …実際のところ、積もる話とかあったんじゃないか? 明日奈だけじゃなくて、神夜も顔見知りなんだろ? 俺はどうこう言うつもりもないけども。

 

 

「意図はどうあれ、あの場はあれで良かったと思いますよ。ね、明日奈さん?」

 

「………あの……続き…」

 

 

 …? 続き?

 何の事かと首を傾げると、明日奈は握られていた手を強く握り返し、顔を赤くして俯いた。

 

 

「…でぇと…逢引の、続きを…」

 

 

 お、おお…そうだったな。二人とも、何処か行きたい場所があるんだっけ。俺が知ってる所とは限らないけど。

 どこに行きたいんだっけ?

 

 

 

 

 

 

 え? 連れ込み宿…?

 

 ここ数日、集団行動で思いっきり出来なかったから、体が疼いてる? 今日の逢引も、本命はそれ…?

 

 

 

 全力で楽しませなくちゃ(使命感)

 

 

 と言うか、元カレ…なのかどうかは知らんけど、昔の知人と再会したのに、お構いなしにセックス優先か。楽しませてくれるメスに育ったなぁ。

 その後、元カレ(?)の事を引き合いに出しながら、神夜と二人がかりで散々に虐め倒しました。

 

 

 

 

 

 

 

 実際のトコ、引き立て役としては元カレ(?)君はあまり役に立たなかった。

 何せ最後にあったのは、第二次成長期に入る前。早熟だった明日奈は桐人君に迫った事はあったそうだが、それ以上何かがあった訳じゃなかったそうな。

 

 …いや、何かあったのは桐人君の方なんだけど。

 とにかく、付き合ってたとかじゃなくて、お互いちょっと気になってたところに、肉食獣としてのサガに目覚めた明日奈が暴走して、それを桐人君が受け止められなかったと言いますか…。

 

 要するに、俺もいつぞや喰らった蝉ドンされて、女性恐怖症になって逃げるように里から去ってしまったらしい。そしてオオマガトキで交流断絶。

 再会したと思ったら、トラウマの元凶が彼氏作ってた。

 

 多分、桐人君の女性恐怖症は完全には治っていない。明日奈に限らず、女性に対して微妙に距離を置いてる感じだったし。

 ……何と言うか…流石に不憫が過ぎる。明日奈を犯すのに、引き合いに出した事について罪悪感を感じるくらいだ。あんまり効果なかったし。…つまり、元から完全に未練ナシか。もうちょっと進展してたり、手紙だけでも交流が続いてりゃ話は別だったろうに。

 形はどうあれこっちでの伝手になる事は変わりないから、何とか利用できないかとも思ってたが…やるならせめて、女性恐怖症どうにかしてやらんとな…。でも俺がやったら、ロミオの時みたいに拗らせそうだしなー。結局仲直りしてたけどさ。

 そう重いものじゃなさそうだが、その分長引いてるって事は…うん、やっぱり肉食獣に狙われた恐怖はそうそう消えないって事か。

 

 まぁその肉食獣は、腰の辺りに充実した雰囲気を漂わせながら、俺に背負われてるんですけどね。

 隣を歩く神夜が、時々明日奈の尻を引っぱたくのは何故だろう。…明日奈に突っ込んだままのバイブで遊んでるのかなぁ?

 

 

 

 

 

 さて、つい予想外のお誘いに飛びついて時間を使いまくってしまったが、明日にはあの悪党面のおっさんに会う事ができるそうだ。

 俺の事を覚えているだろうか? 覚えていたとして、いなかったとして、協力体制を築けるだろうか。

 あのおっさんは、身内に対しては色々と(見えないように)便宜を図るからな…。是非とも味方になってほしい。

 

 

 

 

 そんな事を考えながら一眠りしたら、どこからか『ホロウよりも真ヒロインに記憶を持っていてほしい』という声が沢山聞こえた。

 …真ヒロインて誰?

 

 

 

 

 

 

 



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432話

ワールドシーカー、トロコン完了。
…悪くはないんだけど……期待しすぎた、が正直な感想。
一週間保たなかったなぁ…。
後半はお遣いから戻ったキャラに話しかけて、お遣いに行かせてすぐ終了だったし。

隻狼は難しすぎると評判なので、ヘタレて一旦様子見します。
7月4日に進撃の巨人の追加分…それまで何してようか。
北斗が如くをトロコンしてやろうと思ってるんですが、これまた借金返済とか時間がかかる上に単調な作業が…。
ストーリーをやり直して、現在勲章の為にあれこれやってます。

進撃の巨人追加分に備えてそっちのトロコンを優先するか、或いはDMC5を買うか、それとも4月発売のEDFアイアンレインか…悩ましい。


魔禍月肆拾溌日目

 

 

 さて、どっからどう話したもんか。やっぱあのおっさん、一筋縄じゃいかんわぁ…。

 身内に対してはツンデレの極みみたいな性格してっけど、それ以外にはツンを更に尖らせたような奴だった。

 

 うん、尖らせられたんだ。

 

 率直に言うが、九葉のオッサンは俺の事など覚えていなかった…と言うより、知りもしなかった。

 横浜での戦いの事も聞くだけ聞いてみたが、相当な被害が出たらしい。…俺の時だって結構な被害は出たようだったが、それ以上だ。

 この時間軸では、俺はあの時あの場所に存在しなかったんだろう。当然、九葉のおっさんが俺を知っている筈も無いし、便宜を図る義理もない。

 

 そんなもんだから、その後の交渉もメッチャ難航した。土井さんが纏めてくれなけりゃ、下手すると霊山君(一番偉い人)の所にカチコミかけてたかもしれないレベルだ。

 何せ相手は『北の地を見捨てた鬼』。その意図や翻意、何よりその名と負債を引き受けて尚揺らがない、心を殺した鬼。

 …そんな奴が、一度は見捨てた里を、弁護する筈もなかった。

 

 

 無論、それなりの対価や交渉材料は用意した。宝玉という利便性の高い素材、異界浄化のノウハウ、鬼纏という限定的ながら戦況をひっくり返す可能性を持つ術。

 牡丹の策も何重にも重ね、白浜君の善意や誠意でそれを後押しもした。

 だがそれでも、いいように使われて、それでようやく交渉のとっかかりしか掴めなかった。

 

 

 …つくづく思うが、霊山がやってたらしい人体実験の情報、使わなくてよかったわ。このタイミングで札を切ったら、何が起こるか分からない。

 

 

 

 ツンデレは懐に入らないとマジウザイという事実を、里一つの命運がかかっているという状況で再認識した訳だが……どっちかと言うと、交渉事を俺達が舐めていた、と言った方が正しかったかな。

 その状況からなんだから、譲歩された方…なんだろうか?

 

 

 九葉のおっさんからの指令はシンプルだ。信用してほしければ、実際に異界を浄化してみせろ、と言うもの。仮に俺達が言っている事が事実だったとしても、再現できなければ意味が無い。ま、霊山に来るまでに考えた懸念を見事に突かれた訳だね。それを放置してたんだから、舐めてるって言われても仕方ないわ。

 ただ、その浄化して見せろって言った異界が……先日霊山に忍び込んで見つけた地図に記されていた、あの異界なんだよな。

 これは偶然か? 霊山に最も近い異界だから、そこを優先させたと言われればそれまでだ。

 だが、あの腹黒が指示したのであれば、十重二十重の意味を持たせていても不思議ではない。

 

 そこに首を突っ込んでくたばってしまえ、か。

 そこにある何かを探り出してみせろ、か。

 或いは適当にやっていろ、使えそうなら使ってやる…か。

 

 そもそもかなり濃い異界なので、普通のモノノフなら動けて10分程度。あそこで何かさせるなら、間違いなく速攻任務に分類されるだろう。

 そこで何かやってこい…。鬼に襲われる事がなくても、充分な危険がある。

 これは、話に出した瘴気無効化の装具の効果を試してもいるんだろう。

 

 

 

 …今のところ、九葉のおっさん以外からの接触はない。ヨタ話だと全く相手にされていないのか、それとも何らかの理由で情報を規制しているのか。

 どっちもありそうだから判断に困る。しかし前者だとした場合、シノノメの里は全く相手にされてないって事か。過去に見捨てた事すら、負い目として感じてないのかもしれない。

 

 うーむ、今更ではあるが、もっと大々的に、全滅したと思われていた里からの使者だと宣伝するべきだったろうか?

 そうすれば嫌でも相手をせざるを得ない…。

 

 宣伝…と言えば、確か新聞社があったよな。そこに持ち込んで、上手いことネタにしてもらえないもんだろうか。

 

 

 

 

 

 ともあれ、やれと言われたからにはやらねばなるまい。お遣いイベント的に考えて。

 実績が欲しかったのは確かだし、何よりずっと狩りをしてないと息が詰まる。何だかんだで、俺の生きる道はこっちである。…コトが終わった後のオタノシミは激しくなるしね。

 

 

 

 けんもほろろに交渉を袖にされた鬱憤晴らしも兼ねて、いつもの3人で指定された異界へ。

 他の面々は、それぞれ独自に行動している。人脈を再び繋ごうとしていたり、市場調査に向かったり、モノノフの鍛錬に興味を持ったり。…もう一つ、瘴気無効装備があればな…白浜君を連れて行ってやれたんだが。

 

 

「それはいいんですけど…実際、ここで何をしますか? 鬼を狩るのはいいですけど、異界の浄化は…」

 

「結界石の石像、ここにあるのかしら…」

 

 

 どうだろうなぁ。結界石自体はあってもおかしくないけど。…そもそも、何でこんな霊山の近くに異界が生じてるんだか。

 他の里みたいに、鬼の生息領域に隣接してる場所ならともかく、ここって霊山のすぐ近くだぜ? 結界の強力さと大規模さなら、どの里にも負けてない筈なんだけど。

 

 

「地図を見ても、おかしいと言えばおかしいですよね。異界がそこかしこに発生しているようですけど、何処にも繋がってないというか…まるで、そこからじわじわと滲みだしてきたみたいです」

 

 

 不自然…これに九葉のおっさんが気付かん筈がない。

 やはり、ここに何かあるんだろう。それが何なのか、九葉のおっさんが把握しているかまでは分からない。俺達を使って様子を見ているのか、それとも「ここにある物を探し出してみせろ」とでも言いたいのか。

 

 とりあえず、今日のところは地形と鬼の把握に努めよう。見た所、ざっと回るだけでも半日かかるくらいの広さはある。

 そして、この異界はその濃さ故に、殆どモノノフの手が入っていない。

 

 

 …楽しくなってきたなぁ! 真っ白な地図に探索結果を書き込んでいくのって、どうしてこんなに楽しいんだろうな! 何も知らない女の体にあれこれ仕込むのに似てるな!

 さぁ行くぞ二人とも、今夜はハンバーグだ!

 

 

「ハンバーグってなんですか?」

 

 

 後で作って食わせてやる。豆腐ハンバーグになるけどな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 異界捜索は、大した事はなく終わった。と言うより、まだそこまで踏み込んでないってだけなんだが。

 ただ、それでも分かった事がある。この異界の濃さは異常だ。

 シノノメの里を囲んでいたような異界程じゃないが、普通の異界じゃない。大抵のモノノフは、あっという間に行動不能に陥るだろう。

 

 …益々妙だな。霊山のお膝元に、こんな異界がちょくちょく沸く…。しかも、調べた資料を見た所、広がりもせず縮まりもせず。まるでそこに留まるように、異界はあり続ける。

 ここでくらしているモノノフ達は、これに慣れてしまっていて疑問も持たないようだが…ぬぅ、俺もそうやって慣れて色々見逃してるから、あまりでかいことは言えんな。

 

 お遣いイベントだとしても、興味が湧いてきた。

 少なくともあの異界には、九葉のおっさんが…把握しているにせよいないにせよ、注目しておくべきだと思っている『何か』がありそうだ。

 いいね、楽しくなってきた。探り出してやろうじゃない。

 

 

 

 

 

魔禍月肆拾玖日目

 

 

 神夜が騒ぐもんだから、道場にやってきた。

 昨日の異界探索が切っ掛けっぽいな。鬼だけじゃなく、里の外の達人達とも戦ってみたいと言い出して、止まらなくなってしまった。

 ちょっとだけご飯を食べると、逆に腹が減って仕方なくなるのと同じ心理だろう。

 

 明日奈は買い出し当番なので、今日は一緒ではない。

 

 …とは言え、霊山のモノノフって本当にピンキリなんだよなぁ。将来を嘱望される、ガチエリート級も居れば、うだつの上がらない里に居た頃の白浜君と同レベルかそれ以下(AAで言えば福本モブ)も居る。それこどろか、第一線で活躍している現役モノノフが居る事もある。

 時期的に考えると、マホロバの里で合った時継と雷蔵も居てもおかしくないな。あいつらは、間違いなく霊山でもトップクラスのモノノフだろう。

 …確か雷蔵は、禁軍所属だったっけか。

 上手くかち合えば、イイ感じに人脈を作れるかもしれない。

 

 

 

 それはそれとして、折角道場に行くんだから、白浜君も連れて行かない手はない。

 シノノメの里では落ちこぼれ、そして練武戦で結果を出す前に里の外に連れ出してしまったので、彼には対人経験が殆ど無い。

 鬼との闘いも多少ある程度だが、この霊山ではそもそも実戦経験が全くないモノノフだって沢山いる。

 …ぶっちゃけ、白浜君が霊山でどれくらい通じるのか、俺にも読めません。

 そもそも彼は、現在非常に重要かつ繊細な時期に居る。自信の無かった自分を克服し始め、努力が実るのを感じ、しかし全く知らない環境に飛び込んだ。

 たった一度の勝利、或いは敗北がその後の全てを決める事だってある。ロックンロールで全てが決まる事もある。ただし、悪い方向に決まってしまったらトライアゲイン。

 

 

 …マジな話、ここで白浜君に一戦やってもらいたい。理想なのは、そこそこ強い奴と戦って勝利、その後にレベルが違う奴ともやりあって敗北、かな。

 自分も勝てるんだ、成長してるんだという実感の後、まだまだ先が長いと鼻っ柱を適度に折っておきたい。

 

 

 さぁて、どんな人が居るかな…?

 

 道場にやってきてみたが……今日はハズレ、だな。いやハズレっていうのも失礼かもしれんが、少なくとも白浜君の腕試しには使えそうにない。ついでに、神夜の欲求不満解消にも。

 だって、看板に『モノノフ修行体験会・お子様から女人向け』なんて書かれてますからネ☆

 

 …いやなーにやってんのよ…。

 

 

「一応、開催理由に理屈は通っていますね。幼い頃から修行に触れさせて、モノノフになりやすくしよう、っていうつもりのようです」

 

 

 要するに青田狩りか。…神夜、シノノメの里だとどうだった?

 

 

「大体、大なり小なり修行はしていました。ただでさえ人手が足りていませんでしたし、鬼にいつ攻め込まれてもおかしくないから、全員最低限戦えるように…って」

 

 

 うーん…環境が違い過ぎるってのは、確かにあるな。

 とは言え、女子供でも強い奴は間違いなく強いし。白浜君と戦わせてみようか…。

 

 

「やめといた方がいいと思います。白浜さんは、女性には絶対手を上げないって決めているようですし。慣れてからならいいですけど、初戦でそれだと間違いなく負けます」

 

 

 そうだな。

 んじゃ、残念ながら今日は白浜君の稽古は無しだ。代わりに、あの子達に混じってくるといい。

 

 

「はい? …あの、師匠。文字通りの意味で子供だけに見えるんですけど…お子様向けなのに僕が混じって大丈夫でしょうか? と言うより割と恥ずかしい…」

 

 

 いいから行っといで。普段の修行とは全く違うやり方だから、見てるだけでも多少は参考になる。

 心配しなくても、変質者扱いされないよう、ちゃんと話は通しておくわい。

 

 

 さて、それはそれとして…折角来たんだし、やれる事はやっておくか。何処かに丁度いい人は……む、おっぱい大きい可愛い子発見。

 すみませーん。

 

 

「はい? …私ですか?」

 

 

 声をかけたのは、明日奈達よりも一回り年下の、竹刀を持った子だ。…スタイルの良さに惹かれてしまったのは否定しない。

 見知らぬ人間にいきなり声をかけられたからか、ちょっと警戒しているようだ。竹刀をいつでも手に取れるようにしている…が、こりゃ一般人レベルだな。モノノフ体験をしにきたんだろうか?

 

 それは置いといて、人を探してるんですけど、手を貸していただけないでしょうか?

 この道場に…今日は居ないみたいだけど時々現れる、金髪の女性なんですが。

 

 

「は゛っ゛“!?”」

 

 

 お、おぅ!? なんかいきなり凄い声が出たんだけど。

 

 

「き、金髪……ですか?」

 

 

 え、ええ。前からここに居たと思うんだけど…。

 

 

「……も、もう少し特徴を…」

 

 

 何にショックを受けているのか、妙に奮える声で問いかけてくる。…さっきまでとは別の意味で、警戒されているような気がする。むしろ今すぐ逃げたがっているようだ。

 

 特徴…そうだなぁ、髪は伸ばしてるね。刀とは違う西洋式の剣を持っていて、碧「…直葉ちゃん?」……え?

 

 

 背後から声をかけられて振り返ると、そこには神夜が呆然として立っていた。背負った斬冠刀を抜いてはいない…よかった、欲求不満で暴れ出しはしなかったか。

 …で、なに? また知り合い?

 

 

「…………斬冠刀…? と言う事は、ひょっとして神夜さん!? え、え、え、どうしてここに? 幽霊じゃないですよね!? 無事だったんですか!」

 

「神夜ちゃんこそ、元気そうな事極まりないです! 里が異界に囲まれて連絡が取れなくなっていましたが、ちゃんと無事でしたよ。今は通路が開けたんで、霊山にやってきているんです!」

 

 

 感極まったように抱き合い、喜ぶ二人。何だか蚊帳の外だが、ここで嘴を突っ込むのも躊躇われる。

 …とりあえず、この二人は落ち着くまで放っておくか。神夜の知人なら、逃げられる事もないだろう。反応からして、グウェンを知っている可能性は高い。…別に彼女から聞き出すのに拘る理由もないけども。

 

 

 白浜君が生意気なガキ共に下手糞な関節技をかけられ、痛みよりもどう対処すればいいか分からず悲鳴をあげているのを横目に、感動の再会(らしい)を眺める事30分くらい。なんか途中からガールズトークに華が咲いていたが、何も言うまい。

 今日はもう何もできそうにないなーと空を見上げていたら、ようやく神夜が俺の存在を思い出してくれた。

 

 

「すみません、盛り上がってしまいました…。直葉ちゃん、この方が先程触れた、お付き合いさせていただいている方です」

 

「ど、どうも、直葉です。先程はどうも…」

 

 

 ああいえ、お構いなく。お二人はどういう関係で?

 

 

「姉妹弟子です。シノノメの里に居た頃、一緒に剣術をやっていたんですよ」

 

「習ったのは、基礎の基礎だけですけど…」

 

「直葉ちゃんと会えると分かっていたら、預かっていた竹刀を持ってきたのに…残念な事極まりないです」

 

「あの竹刀、まだ持っていてくれたんですか!?」

 

 

 ああ、そういや神夜の部屋に、預かり物の竹刀が一本あったっけ。あれの持ち主か。

 うーん、まさか適当に声をかけた子が、そんな関係性だったとは…。

 

 

「ちなみに、先日会った桐人さんの妹さんでもあるんですよ」

 

 

 ああ、あの兄ちゃんの。モノノフになったお兄さんに憧れて、修行体験会に参加しに来たのかな。

 

 

「それは…ちょっと違うと言うか、微妙に合っているというか……ええと、それでいいです、はい」

 

 

 ? 反応がよく分からない。照れているのではなく、何やら気付かれると都合の悪い事を隠そうとしているような…まぁいいか。

 しかし、そういう関係だと、明日奈とも知り合い?

 

 

「…ええ、知ってはいますけど……ひょっとして、一緒に来てます?」

 

「来てます。そして先日、桐人さんとも会ってます」

 

「………お兄ちゃん、それで何だか怯えてたのかぁ…」

 

「……明日奈さんがすいません」

 

 

 …本当に申し訳ない。

 どうやら桐人君、女性恐怖症の元凶であった明日奈にあった事で、恐怖症が酷くなってしまったらしい。

 情けないと思わなくもないが、幼心に負った傷はそうそう消えるものではない。むしろここは、明日奈の蝉ドンを喰らってその程度で済んだ桐人君を褒めるべき…と思っておこう。

 

 どうやら明日奈ともそこそこ親交があったようだが、兄の恐怖症の元凶でもあると言う事で、複雑な感情を持っているようだ。無理もない。

 

 

「あ、ひょっとして直葉ちゃんもモノノフになるんですか? 一緒に討伐したい事、極まりないです!」

 

「いえ…私は、そこまでは考えてなくって…家事もしないといけませんし」

 

「そうですか…。残念ですけど、人の自由です。でも、いざと言う時に備えておいた方がいいですよ」

 

 

 

 …ふむ、家事…ね。そりゃ家事くらい誰だってやるだろうけど、あの年齢の子が…? スタイルはともかく、実年齢は多分JCくらい。モノノフの年齢基準でも、まだ親元に居るべき時期だ。

 この子と桐人君の両親は、恐らくもう…。オオマガトキによるものなのか他の理由かまでは分からないが。

 推測と言ってしまえばそれまでだが、慣れてる人間なら一目見ただけで家族構成とか職業とか当てられる。そう外れた予測ではないだろう。……肝心な時に役に立たない事に、定評のある予測だけどね。

 

 

 …それはそれとして、グウェンの事は聞けそうにないなぁ。まーここに居る事自体は確実だし、ちょいと調べればすぐに見つかるだろう。

 あの子は自覚していないと思うが、目立つ容姿をしているし、度々訓練を抜け出すという悪癖もある。それはあの…なんだっけ、宝剣ナンタラから呼び出される白炎との闘いに他人を巻き込まないようにしているんだが、そんな事は他人には分からない。

 武器を抱えて、急ぎ足で路地裏に、或いは人混みを駆け抜けて森の奥とかに入って行く姿…かなり印象に残るだろう。

 

 

 

 神夜、積もる話もあるだろうし、俺は先に戻るわ。悪いけど、後で白浜君を回収してきてほしい。

 

 

「あ、はい。…白浜さん、見事に遊ばれてますねぇ」

 

「あ、あはははは…あの子達は特にやんちゃな子達ですから…」

 

 

 つまりクソガキじゃねーか…。

 とりあえず、俺はもう行くよ。晩飯用意しとくか?

 

 

「はい、お願いします。直葉ちゃん、お料理の腕は上がりましたか? 竹刀を振るのもいいですけど、腕を奮うのもいいものですねぇ」

 

「むしろ神夜さんこそ、料理する暇があったら木刀を振ろうとしてたじゃないですか。これでも結構自信ありますよ。今度、作りっこしましょう」

 

 

 …ここに居たら腹が減るだけだな。では、撤退。

 白浜君、そんな目で見ても、軽い威圧で押し返せとしか言えないぞ。それで泣かれたって、初対面の大人に関節技かけるようなガキどもにゃ、いい躾けだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で、一人の時間…と思ったら九葉のおっさんにばったり会った。…いや、ばったりじゃないな。多分、偶然を装って俺を待ち構えていたんだ。

 偶然を装う…誰に対して? 俺に? 或いは……政争している誰かに?

 

 

「全くの出鱈目、と言う訳でもないようだな。あの異界に長時間潜っても活動に支障を来さない…、それだけでも大きな価値がある。数が少なすぎるがな」

 

 

 そりゃしゃーない。作り方も素材も不明なんだ。と言うか、尾行でもさせてたのか? それらしい気配はなかったが。

 

 

「尾行などする必要もない。モノノフがいつ異界に向かい戻って来たのか、記録されているのを知らんのか? 持ち帰った鬼の部位を見ても、別の異界で誤魔化したのではない事は分かる」

 

 

 ふぅん。…で、何ぞ用事でもあるのか? 世間話に花を咲かすような性格でもないだろう。

 

 

「無論だ。一つ忠告をしておこう。あの異界で何を見ても騒ぎ立てぬ事だ。貴様が如何に腕利きのモノノフでも、霊山そのものと事を構える気はあるまい。百害どころか、千害あって一利なしよ。増して、貴様らはシノノメの里の代表としてここに居る。交渉に際して、人質を取られているようなものよ」

 

 

 ほう? 公表すれば霊山が躍起になって潰しにかかるような『何か』が、あの異界にあると。しかも知ってしまった俺達のみではなく、シノノメの里を干殺しにする事さえ躊躇わないと。

 それどころか、霊山が各里やモノノフから信頼を失い、人間全体が空中分解してしまいかねないような秘密なのかもしれない。

 

 その証言だけでも、充分すぎる程危険だと思うが…。そもそもあの異界を調べるよう命じたのは九葉のおっさん自身だ。

 何を考えている? 

 

 

「ふっ、隠し立てして蓋をしたところで、消えてなくなる訳ではない。ならば、単にある物は使うというだけの事だ」

 

 

 使う? …公開されたら大騒動になる代物なんじゃないのか?

 それを、わざわざ見つけさせるように仕向け、口留めして、しかし使えるのなら使う…使ったら色々とバレると思うが。

 中途半端と言うか、ちぐはぐと言うか。中途半端である事だけは、この悪党面のおっさんに限ってないだろう。色々覚悟がガン極まりしてる人だから。

 

 …信用、すべきか? 必要であれば何でもやるからな、この人。大して信用を勝ち得ている訳でもない今、捨て駒にされている可能性もある。

 

 

「ああ、もう一つ忠告をしておこう。霊山とシノノメの里との交流を望むのであれば、他の人間からの働きかけはやめておく事だ。見当くらいはついているだろうが、霊山の闇は貴様が思っているよりも深い。シノノメの里を、政争の場にはしたくあるまい」

 

 

 …それはあんただけに頼んでいたとしても、同じ事になると思うがな。

 増して、本意はどうあれ北の地を見捨てた鬼、なんて言われてるあんただ。…里の連中の反応がどうなるか、正直分からん。

 

 

「鬼の手を借りぬというのであれば、自力で歩んでみせるがいい。だがそうだな…いいだろう、信用できんと言うのなら、取引としておいてやろう。先日の話では、明確に決めてはいなかったからな。貴様は異界の浄化が出鱈目ではない事を証明する。そしてその方法を提供すれば対価として、シノノメの里に可能な限りの便宜を図ろう」

 

 

 …異界の中にあるかもしれない、危険そうな物を見つけた場合は?

 

 

「物にもよるが、私が処理を引き受けよう。少なくともシノノメの里に関わりがあるとは悟らせぬ」

 

 

 了解した。

 …話は変わるが、シノノメの里から来たという事については疑っていないのか?

 

 

「ふん、今更何を言う。八方斎が最後に居たのはシノノメの里だ。異界が消失して通路が出来たという話も、相馬が確認を取って来たわ。貴様が本当にやったのかはともかく、少なくとも異界が突如消えるという現象が起きたのは事実。シノノメの里には、それに関係するものがあるのだろう。その一端だけでも手に入れば、値千金よ」

 

 

 そういや同期とか言ってたな…。むぅ、侮れんなあのデカ頭…。

 

 

 

 

 

 



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433話

以前も外伝を書いてくださいました夜種王様改め無狼様から、またしても外伝をいただきました。
いつもの後書きの短編ではなく、狩りゲー世界転生輪 異伝に同時投稿させていただいています。
是非ともご覧くださいませ。



魔禍月伍拾日目

 

 

 山本先生(お婆ちゃんバージョン)が、土井の胃を痛めるような情報を拾ってきた。……あの胃痛は、ウチケシの実でも回復しそうにないなぁ…。精神的なもんだろうし、常態化してるし…。

 どこから記したものか………そう、今俺達が調べ、浄化しようとしている異界についてだ。

 

 霊山に非常に近い場所にあるこの異界だが、数年前に突如発生したそうだ。原因は今でも不明。巷では、大物の鬼が密かに潜り込み、モノノフの精鋭部隊に討伐されたが、その冥途の土産とばかりに瘴気をばら蒔いていったのだ…と言われているが、信憑性は低い。

 まぁ、ここまでであれば…霊山の結界に侵入されるという大問題はあるが、土井の胃は痛まないだろう。

 

 山本先生は、その噂の裏にある事実を、裏付けと一緒に持ってきたのだ。

 

 

 

 この異界、突如発生したのだが……その付近には、ある施設があったのだと言う。公的に記録されたものではない。当時を知る人々の間で、『あそこには何かがある』という噂が、まことしやかに囁かれていた。

 そしてその近辺の記録を調査したところ、物資の流通量におかしな部分を発見した。この近辺を通った一部の交易商等の取引記録に、虚偽の痕跡が認められたのだ。

 要するに、この場所に密かに何かを運び込んだ可能性があるって事だ。

 

 更にキナ臭い事に、ここに異界が発生した直後、霊山の中で大きな逮捕劇があったと来ている。

 何やら不心得者と言うか、不正をやっていた幹部が何人か捕縛され、失脚したようなのだが…この連中も既に死んでいる。獄中での自殺だの、裁きを受けての死刑だの、理由は様々だが…。

 ……ここまでやらかした連中が、そう簡単にくたばるとは思えんなぁ。

 トカゲのしっぽ斬りか、それとも影武者か、そもそも敵対していた者に罪を擦り付けたのか。

 何にせよ、首謀者やそれに近い連中は生きていると思っておくべきだろう。

 

 

 この二つを結び合わせると…。

 

 

「…自分達に禁軍が迫っていると知った首謀者達が、証拠隠滅としてその施設ごと異界に沈めた…」

 

 

 …土井、無理に口にしなくていいよ。胃痛するならこれ呑んでおけ。

 

 

「す、すまん…。しかし、痛がっている場合じゃないな、これは…。せめてもの救いは、九葉殿が味方らしいという事だけか…」

 

「半助、それは確かなの?」

 

「まず間違いなく…。…あの、伝子さん、あんまりこっちによらないで…」

 

「どういう意味よ!?」

 

 

 女慣れしてないから、照れてるんでしょー。独身なのを察してあげなさいよ、いい女なら。

 

 

「あら、そういえばそうね。すまなかったわね、半助」

 

「……礼を言うべきなのか、胃を抑えるべきなのか…」

 

 

 ともあれ、九葉のおっさんが味方なのはわかったが…どういう意味合いで? ああ、最終的に味方に出来るのは俺も同感だ。だが、今の俺達にそこまでの繋がりはないだろう。

 

 

「…あまり愉快な結論ではないが、彼の狙いは大体読めた。異界調査に関してのみは、だけどね。と言うより、その部分は敢えて私達に悟らせようとしている風に見える。詰まる所、鍵は……恐らく君だ」

 

 

 俺?

 

 

「そうだ。本来なら部外者…知り合って1年にも満たないのに、我々の信頼を…うん、良くも悪くも勝ち得て、そして去っていく。行き先は激戦区として名高いウタカタの里。恐らく、この一点に関しては異界浄化が成功しようがしまいが、どうでもいいんだろう」

 

「回りくどいわね。……うん? …ああ、そう…つまり?」

 

「山本先生? 何か分かったの?」

 

「伝子さん、つまりはね…」

 

 

 おーい、俺にも教えてくれぃ。 

 …ふむふむ。

 

 九葉のおっさんの狙いは、異界の中から『何か』を持ち出す事…か。

 その『何か』は異界の中にあるだけなら問題ないが、人に知られると色々な意味で危険が迫る。

 異界が消えるという現象が確認された今、どうにかしてそれを再現し、霊山の近くにある異界…つまり俺達が調べている所を消し去ろうとするのは目に見えている。ひいては、そこに隠された『何か』も知られる事になる。

 ならば、先手を打って確保してしまおう…と言う事か。

 

 

「そうだね。加えて言うなら…いや、これはあくまで推測なんだけど、『それ』は九葉殿にとって、都合が悪いだけのものではないんだろう。何かしら関係があり、手元に置いておけるなら置いておきたい…」

 

 

 うーん、分からないな…。

 しかし、そういう事なら探しようもある。それなりの規模の物資が運び込まれているのであれば、それを格納できるだけの場所が必要だ。異界を歩き回って、大体の地形は把握できた。候補となる場所は、あまり多くない。

 2,3日あれば調査しきれそうだ。

 

 …白浜君に、正念場が近いって言っておくべきかな…。

 

 

 

 

 

 

魔禍月伍拾壱日目

 

 

 

 異界探索を行ったが、目星をつけた場所の一つ目はハズレだった。

 とは言え、物資を運んだらしき轍の後は発見できた。次の探索で、隠されている物を発見できるだろう。

 

 それはそれとして、どうせ異界を探索するんだからと、お役目を幾つか請け負った。

 お役目と言っても、里で言う……なんだ、受付を通して受理される、モノノフの正式な任務ではない。一般人から頼まれる、『○○を幾つ調達してくれ』『○○を10体倒してきてくれ』とか、そういうサブミッションだな。

 公的な受付の他に、そういう民間からの依頼が集まっている集会所もあるのだ。

 

 今回受けた依頼は、物資の収集。そう珍しい物じゃない。…が、これを持ってきてくれってのは珍しいな。

 

 青銅の剣。

 

 さして珍しい物でもない…モノノフであれば、武器として扱う事すらない素材だ。剣として見れば脆すぎる事もあり、世界的に見ても武器として扱われる事は珍しいと思う。

 ついでに言えば、武器防具の素材として、その辺の万事屋とかで売っているものでもある。だったらそっちで買えよ、って話だが、この依頼には一つ条件が付けられていた。

 

 曰く、手渡された絵になるべく似ている青銅の剣が欲しい、と。

 

 そこに書かれていたのは、僅かな曲線を帯びた片手剣。…見栄えはともかく、バランス悪いな。これ、実際の持って振り回したら、確実に重心狂うぞ。

 何に使うのかという疑問はあるが、依頼は依頼だ。

 それっぽい物を幾つか見つけて、軽く磨いて削ったりして加工。

 

 これでどうよ、と集会所の受付担当に見せてみたんだが。

 

 

「確かに似てると思うけど、これでいいのかは私には分からないなぁ。依頼人に確認するしかないから、持って行っておくれ」

 

 

 だそうな。…まぁ、確かに満足するかどうかは、本人に確認させなきゃ分からんわなぁ。

 本来、依頼人の情報を教えるような事はないんだが、今回は特殊な依頼だし、予め許可を取っていたとの事で、依頼人の所まで出向く事になった。

 日が沈む頃、道場で待ち合わせ。

 

 

 …道場か。この前は何だかんだで、グウェンを探す事もできなかったっけ。

 金髪で探せば、すぐに見つかると思ってたんだけどな。あの…なんだっけ、直葉ちゃん? はどうしてあんなに慌てていたんだろうか。俺とグウェンが知り合いだったとしても、意外ではあるかもしれないが、不都合はないと思うんだけどなぁ…。

 

 

 

 なんて事を考えながら、道場を覗いてみる。気配を探るが居るのは一人だけのようだ。日中は色んな人が来てるけど、もう晩飯時だし閉館寸前なのだろうか。

 …この人が依頼人なのかな…。すいませーん。

 

 

 

「えっ!? あっ、はい何でしょう!?」

 

 

 滅茶苦茶キョドられた。…俺、何かやったっけ。

 …ん? この声は…。

 

 

 …神夜の友人の、直葉さん?

 

 

「え? ……あっ、この前の人…」

 

 

 こんな所で何やってんの? 周囲はもう暗いし、年若い女の子がこんな人気のない所に居るのは、あんまり感心できないぞ。

 

 

「お仕事ですから。私、ここの道場の管理人なんですよ」

 

 

 管理人? …師範、って意味じゃないよな。

 掃除とか修理とか、そういうのの手配をしてるって事か。

 

 

「はい、後は開館と閉館も。両親が、ここの道場の関係者だったので…今はそれを受け継いでいるんです」

 

 

 へえ…。

 自分達で生活費を稼いでるのか。凄い子だ。

 

 ああ、ところで人を探してるんだけど。

 

 

「…き、金髪…の人、ですか?」

 

 

 それもあるけど、今は別。集会所の依頼で青銅の剣を持ってきたんだけど、欲しい形状が独特なんで、これでいいか確認しないといけないんだ。

 この時間にここに来るらしいんだけど、何か知らない?

 

 

「…あ、それ、私です」

 

 

 …? 君が? それが事実なら、別にいいんだけど…。何に使うのかも、詮索はしない。

 とりあえず、これが依頼の物。気に入るか分からなかったから、予備を幾つか持ってきた。

 

 

 背負ってきた青銅の剣を渡すと、えらく真剣な顔で眺め始めた。…依頼人、と言うのは本当らしいなぁ。

 しかし、彼女は本当にここで何をしていたんだろう? いや、依頼人として俺を待っていたというのは分かるんだが。

 

 よくよく見てみれば、えらく変わった格好をしている。俺としては珍しくないんだけど、討鬼伝世界ではちょっとお目にかかれない。

 緑と白を基調とした、明かに西洋風の服。可愛いっちゃ可愛いが、典型的な日本人顔の彼女には、ちと違和感が付きまとう。

 

 

 

 ……ちゅーか、さっき懐にしまったのは……金髪のカツラ?

 

 ……………んー?

 カツラを使って何をしようとしていたのか…周囲に人も居ないし、宴会芸的なサムシング? しかしそういう空気でもない。全力で隠そうとしてたし。いや隠し芸なら隠すのは当然なんだけど。

 

 つーか、最初に会った時の会話を思い出すに……俺はグウェンじゃなくて、カツラを被っていた彼女を探していたと思われた?

 

 

 

 …ふむ。

 考え込んでいると、青銅の剣をためつすがめつしていた彼女が一段落して息を吐いた。

 

 

「………はい、大丈夫です。想像以上…ありがとうございます。あ、対価は受付の人に預けていますんで、そっちから…」

 

 

 はいはい。…ところで話は変わるんだけど、この前話してた金髪の人、知ってる?

 

 

「!?」

 

 

 グウェンって名前なんだけど。

 

 

 

「え? し、知り合いなんですか?」

 

 

 

 いや、一方的に知ってるだけだ。ただ、あの子が持ってる剣について、ちょいと力になれるかもしれないというか、あの…なんだっけ、竜剣……ね、ネイリング? だっけ。

 あれの関係で……本人じゃなくて、死んじまった爺さんとの繋がりで。(嘘だけど)

 

 

「えぇ…ひょっとして、探していた金髪の人って?」

 

 

 グウェンです。…ここでカツラについて突っ込むべきか、グウェン以外に金髪の人に心上りがあるのかと思ったが、ちょっと聞きに徹してみた。

 グウェンの事になった途端、直葉ちゃんが物凄い勢いで喋りだしたからだ。

 

 どうやらこの子、グウェンに憧れているらしい。

 何で? と思ったが、まぁ分からなくもない。異国人と言う事で、色々フィルターがかかっているんだろう。

 見た目で言えば、気品を持った女貴族、或いは騎士だもんな。実際戦い方はそんな感じだし、血筋的にも貴族の筈だが。

 強さで言っても、同年代の人間より頭一つ抜けているだろう。モノノフとしての訓練を受け始めたのは最近だが、それ以外のバイタリティが桁違いだ。何せ、ビャクエンに追いかけられながら、ヨーロッパ辺りから日本まで遥々旅してきたくらいだ。人生経験だって、色々積んでいる。少なくとも、言葉すらロクに通じない土地で、旅費と生活費を稼げるくらいには逞しい。

 

 そのような事を口にして適当に同意してみると、我が意を得たりとばかりに更に語りだす。

 数か月程前、直葉ちゃんはグウェンに助けられた事があるらしい。

 ちょっとした用事の帰り道、森の中を通り抜けようとしたところ、巨大な鬼に襲われた。モノノフでもない、武器も持ってない直葉ちゃんに対抗する術などなく、どうしてこんなところに鬼がと疑問を持つ余裕もなく、ただ死んでしまうのだと動けなくなった。

 鬼の足に踏みつぶされる正にその時、茂みから駆け出してきたグウェンが直葉ちゃんを掻っ攫い、必死に連れて逃げたのだ。

 

 何が何だか分からなかったが、グウェンに怒鳴られて必死に走った。グウェンの言葉は聞いた事も無い言葉だったが、逃げろと言ってくれているのは分かった。

 直葉ちゃんは震える足で逃げようとして、しかし鬼の方が圧倒的に移動速度が速い。追いつかれて殺されそうになる度に、グウェンが体を張って守ってくれたのだ。

 

 何とかかんとか逃げ続け、鬼の姿が見えなくなった時には、グウェンは疲労困憊、傷だらけとなっていた。

 そんな恩人を放ってはおけぬと、直葉ちゃんはグウェンを診療所に運び込んだ。異人と言う事で少々嫌がられたそうだが、そこは直葉ちゃんが自腹を切って料金を多めに渡す事で解決。

 暫く療養している間、カタコトながら色々と会話を重ね、グウェンが日本に至るまでの旅路の話を聞いたりして……気付けば憧れの人となっていたのだそうな。

 

 

 成程、この子にとってグウェンは、命懸けで大ピンチから助けてくれた、白馬の王子様みたいに見えたんだろう。実際、それに近いのは間違いない。

 ところで、その鬼って火を噴いて空を飛ぶ、西洋竜……は分からないか…えーと、ぶっといトカゲみたいな奴だった?

 

 

「そうです。『どらごん』で分かりますよ。グウェンさんに教えてもらいました。強い鬼…外国では悪魔って言うんでしたっけ? 他にも、文字とかもちょっと教わってるんです。はぁ~、凄いなぁ、憧れちゃうなぁ…。とっても強くて物知りで、見ず知らずだった私を庇って戦ってくれたあの勇気…。きっと滅鬼隊ってあんな感じなんだろうなぁ…」

 

 

 め、メッキ隊? なんだか化けの皮とか塗装が剥がれそうな名前だな…どっかの精鋭部隊の事か?

 

 …しかし、やっぱりビャクエンか。

 目の前の少女のピンチを放っておけなかったのもあるだろうけど、自分が呼び出してしまった鬼との争いに巻き込んでしまったって負い目もあるんだろう。

 ビャクエンがグウェンの傍に度々現れる事を、この子は知っているんだろうか? 言っちゃ悪いが、疫病神扱いされても文句は言えない。実際、旅の途中でそれが原因で船が沈んだ事もあったらしいし。

 

 うーん…わざわざ口にする事はないか。それが原因で憧れや友情に罅が入ったらと思うと、余計な事は出来ない。

 しかし、前ループの時はこの子の話は全く聞いた事が無いな…。口にする機会がなかっただけか、それともバタフライ効果ってヤツか。同じ事件が起こる前に、前ループでグウェンと会って連れて行ったのか…。

 まぁ、そこは考えても仕方ないか。

 

 

 ところで、依頼の剣とそのカツラに関係はあるのか? 金髪のよーだが。

 

 

「え゛」

 

 

 グウェンについて語るのに夢中で、いつの間にか傍らに置いていた剣とカツラ。

 …流石にこれを見て見ぬフリは…。いやしてもいいんだけどさ、話すのに夢中で気付かなかったとでもしとけばいいんだし。

 

 でもついつい言いたくなっちゃうよ。

 指摘されて、ようやくカツラと…日本ではあまり見かけない恰好をしている事を思い出したらしく、あわわわわとリアルに口走りながらパニックに陥っている。

 

 

 

 ふむ、しかし説明されなくても何となく予想はつくんだな、これが。

 心配するな直葉ちゃん、君のコスプレはそう珍しい事じゃないから。

 

 

「こ、こすぷれって何ですか!? これはその、ちょっと珍しいのは確かですけど普通の服で」

 

 

 いやこの辺の服屋に、そんな服売ってなかったし。むしろ、グウェンが着ていそうな服だもの。

 なおコスプレと言うのは、異国の言葉…グウェンの国の言葉とも違うがコスチュームプレイの略で、特定職業や人物の恰好をして、色々と楽しむ行為を指す。

 分かりやすく言えば、そこらの子供が木刀とか模造刀を持って『モノノフだぞー、強いんだぞー』とごっこ遊びしているようなもんだ。

 

 

「そ、それと同じと言われるのも複雑なんですけど! あ、でも確かに反論できないし」

 

 

 …まぁ、要するにそういう事だ。

 多分、この服はグウェンのお下がり。旅の途中で得た物が、背丈が合わなくなったか何かで不要になったんだろう。捨てようとしていると直葉ちゃんが興味を示したので、こんなので良ければとプレゼント。

 そして憧れの騎士様のお下がりを来て、異国情緒なんかも堪能していた直葉ちゃんは、それだけでは我慢できなくなってきた。

 『強い異国の騎士様』に憧れて、髪の色を変える為にカツラを被り、異国の言葉を覚え、誰も居ない夜の道場で騎士様っぽい動きや言葉を楽しんで満足していたが、今度はもっとそれっぽい剣が欲しくなった。次は盾も依頼するつもりだったかな?

 

 

 

「ななななんんんあななんなんでそこまででででおにいちゃんにもしられてててなかったのにににおに、おにですか!? こころをよむおにですか!?」

 

 

 読心能力持った鬼なら何匹か知ってるな。ついでに、心を読めるって言うのも完全には否定できない。だって、内面観察術とか殆どサトリの領域だもの。俺のはまだ充分習熟したとは言えないが、この子の性格や言動、状況を組み合わせれば大体の予測はできる。

 

 

「普通はできませんよぉ! 誰かにばれないように、必死で隠れてあれこれ準備してたのに、こんな事でばれるなんて…ちなみに名前は『りーふぁ』って言いますぅ…」

 

 

 名前までつけるか。いやそう悲観せんでも…。俺だって別に言いふらそうとは思ってないし。

 そういう遊びにも興味があると言うか、理解はあるよ。

 

 

 そう言っても口先の慰めにしか聞こえないのか、さめざめと泣きながら座り込んでしまう。

 これって俺が悪いのか? …やっぱりカツラの事は口に出すべきではなかっただろうか…。しかしそれを言っても今更だし…。

 

 

 …そうか。こんな時にピッタリの言葉があったね。

 この世界では通じない言葉だけど。

 

 

 

 

 

 

 赤信号  みんなで渡れば  集団自殺。

 

 

 

 この言葉、茶化しているようにしか見えないが…こう考える事もできるのではないか。

 みんなで渡『れば』集団自殺。つまりこの時、赤信号を渡っている人達の目的は移動であって、自殺ではない。信号無視という行為により、意図せずそれが自殺と化してしまう。

 だが、もしも自殺が目的であったらどうだろうか?

 自殺なんぞするものではないという倫理は一旦置いといて……みんなで自殺をする利点。

 一人ではないという歪んだ安心感、複数人で行う事により逃亡する雰囲気を抑え込む、その他諸々…。

 

 つまり…何が言いたいのか自分でもよく分からなくなってきたが、つまりこういう事だ。

 

 

 

 赤信号 みんなで渡『ろう』 集団自殺。

 

 

 なお、この『集団自殺』には『恥を掻こう』というルビを振るものとする。

 まぁ、恥と思うのは俺じゃなさそうだが。

 

 

 では直葉ちゃん、いい事を教えてあげよう。

 先程言った、コスチュームプレイだが……君だけが行っているのではない。

 

 

 神夜も明日奈もやってるぞ。それも、もっと過激な衣装で。

 

 

「…………え?」

 

 

 観客は俺と、シノノメの里に残った友人(愛奴)。身内での遊びみたいなものだけど、これが結構本人達にも受けがいい。

 具体的な衣装は、そうだなぁ………絵にすると分かりにくいけど……最近だと、こんなのとか?

 

 

「…あっ、これ可愛いっぽい…」

 

 

 通称マギュル装備(女性用)だ。作ってもらった時、女装癖にでも目覚めたのかって言われたっけなぁ。

 他にもゴスロリ装備やら本物の騎士っぽい装備やら、色々あるでよ。

 そして過激なのの一例は……キリンでいいか。

 

 

「はぇ~……これを、神夜さん達が…」

 

 

 この格好で甘えてくれたりすると、そりゃーもう可愛くてなー。

 衣装が本格的だと、(くっ殺プレイにも)演技にも力が入る入る。

 

 ちなみに神夜のお気に入りはセーラー服、明日奈はメイド服だ。率直に言えば犯罪くさいと言うか、夜の商売にしか見えないぞ。特に神夜が。

 

 

「???」

 

 

 …言われても分からんか。まぁ、何だ、明日奈達は他人に見られる事は考えてないから、一緒に…とは言えないけど、そう珍しい事じゃないのは分かってくれたかな。

 確かに大っぴらにできるような趣味でもないけど、恥じ入る事もない。

 

 

「は、はぁ…。…他の人もやってるってだけで、恥ずかしいのは変わらないんですけど…」

 

 

 そらそーだ、結局自分の羞恥心の問題だもの。どんなに仲間や同類が居たって、割り切れなけりゃ恥ずかしいままさ。

 

 

「じゃあ、どうして神夜さん達が私と同じ事をしてるってばらしたんです?」

 

 

 

 ………その場の勢いで。

 

 …すっごい軽蔑した顔されたけど、気のせいかなぁ。精々呆れた顔程度だよなぁ。

 ハァ、と大きく息を吐いて、直葉ちゃんは立ち上がった。

 

 

「なんかもう色々と面倒くさくなってきました…今日は帰って寝ます」

 

 

 おう、そうしろ。心配せんでも言いふらすような真似はしないから。

 色々騒がせた詫び…と言うのもなんだが、また何か必要になったら手を貸すよ。見た目のいい装備なら、幾つか揃えてるからな。

 

 

「…覚えておきます。私も色々手間をかけさせちゃいましたし、グウェンさんに会いたがっている人が居るって言うのは伝えておきます。…実際に会うかどうかは、グウェンさん次第ですからね」

 

 

 あのこなら、特に警戒もなくあっさりと会うような気がするが…まぁいいか。

 …あ、ちゃんと着替えて帰れよー。目立つぞ。 

 

 

 

 

 

 

 

 ふむ、直葉ちゃんの意外な側面を見たな。と言っても、直接会話した時間なんて2時間にも満たない相手なんだけど。

 まーどうのこうのと言うつもりもない。恥ずかしい趣味云々を言うなら、俺の女漁りだって充分に恥ずべき行為だし。やめるつもりはないけども。

 

 夜の一人歩きは危険だし、送って行こうかと申し出たが遠慮された。

 

 



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434話

 

魔禍月伍拾弐日目

 

 

 

 どえりゃあもんを見つけちまっただぎゃ。

 いやこれ本当にどうしよう。九葉のおっさんとの取引の事もあり、何となく背後関係は想像できてしまったが…。

 

 うん、引き渡すのは…ヤバいな。んじゃシノノメの里への便宜はどうするって話だが、下手な事すると便宜どころか…。

 

 

 

 …よし、まずは情報を整理しよう。

 異界にあからさまに何かあるぞと示唆されて、場所の検討をつけて調べ始めたのだが、2つめの予測が見事にヒット。隠されていた地下施設を発見した。

 その施設の入り口は、正直言って雑に封じられていた。土砂で埋め立てられた洞窟の中、地下に通じる階段の上に大きめの岩が置いてある、それだけだ。カモフラージュさえされてないので、周囲の色とまるで違う。素人でも一発で「あ、何かおかしい」と思うような偽装工作。

 …偽装する気が大してなかったのか、それとも埋め立てるだけ埋め立てて、何らかの理由で作業が出来なくなったのか。

 いや、そこはこの際どうでもいい。

 

 あからさまに怪しい階段を下ると、そこから続いていたのは木張りの廊下。壁面は土が丸見えだが、崩落しないように補強もされているようだった。

 ここ数年以上、人が通った様子はない。…が、床や壁に非常に重いナニカを引き摺った跡が残っている。相当急いでいたんだろうな。随分と乱暴に引っ張り回したようだ。

 

 

「…何なんでしょう、ここ? なんだかちぐはぐですし、嫌な気配を感じるんですけど…鬼は居ないみたいですし」

 

「そうね。一見した以上に手間がかかってるわよ、この施設。地下を掘り返して、補強して、床を用意して…しかもかなり広い…。でも、何に使う施設だったのか分からない」

 

「色々物資が運び込まれていたそうですし、倉庫でしょうか?」

 

「じゃあ、その運び込まれた物資はどこに消えたの? 倉庫にしても…例えば横領した資材を保管する倉庫にしても、交通の便が悪すぎるわ」

 

 

 んー………お、扉発見。通路はまだ奥へ続いているが、こっちも気になるな。重い物を運んだ痕跡は…奥に向かってる。

 …鍵がかかってる。が、こんなもん無意味である。

 

 ていっ。

 

 

「…そこは錠前を開ける所では?」

 

 

 めんどい。蝶番を斬った方が早い。まぁ、中にとんでもない厄ネタが居た場合、扉を閉めてなかった事にできなくなるのが欠点だが。

 さて、御開帳…。

 

 

「「げほっ、げほっ!」」

 

 

 毒!? …あ、単なる埃か。びっくりした…。

 中を覗いてみれば、乱雑に積み上げられた…いや、積み上げられたのが崩れ落ちたのか…本と巻物と書類っぽい物の束。

 大したものは無さそうだ。

 

 

「保存状態はともかく、凄い量の本…。白浜君が喜びそうね」

 

 

 …読めれば、な。ほれ、異国の文字だ。

 

 

「…本当ですね。読めますか? …うぅ、帰ったら水浴びしないと…埃だらけで痒くなってしまいます…」

 

 

 俺も読めない字だな…。見た事も無い。

 流し見してみたが、何かの専門書…か? 図解らしきものが幾つか乗っている。何についての図解なのかは分からないけども。

 

 

 

「ここに居ても、読める本一つ見つかりそうにないですね。奥に進みま………?」

 

 

 ん、どうした神夜?

 

 

「いえ、足元の床に何か模様が……あったような気がしたんですけど、気のせいでした。進みましょう」

 

 

 

 

 適当な書を一冊失敬して、先へ進む。同じような部屋が幾つか見られ、そこにはやはり見た事も無い文字で書かれた本が積み上げられていた。

 …妙だな。あるのは本ばかりで、運び込まれていたと思われる物資の痕跡が殆ど無い。食料とかなら消費したんだと分かるけど、金属やら何やらは一体どこへ消えたのか。

 

 そんな疑問を持ちながら進んでいくと、変化が一つ現れた。

 扉や壁に、怪しげな落書きが施されるようになったのだ。…これは…モノノフが使う経文唱で浮き出る文字に、何となく似てるな。

 

 

「梵字…のようですが、これもちょっと違う…。明らかに何らかのまじないだと思います。…あっ、あそこの扉に、引き摺った跡の一つが続いてますよ」

 

 

 神夜の言う通り、一際落書きが多い扉に、引き摺った跡が続いている。

 さて、明かにここに何かあるようだが…予想に反して、鍵はかかっていなかった。それどころか半開き状態だった。

 単純に考えれば、ここに何かを運び込んだ者が、扉を閉める事もせずに大慌てで去って行った…?

 

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか…。出来れば鬼であってほしいですねぇ」

 

「どっちが相手でも、斬り伏せる事に変わりはないわ。二人とも、準備はいい?」

 

「いつでも」

 

 

 同じく。

 

 

「それじゃあ……そーっと…」

 

 

 勇ましい事を言いつつも、扉の隙間から中を覗き込む俺達。

 そして俺は二人に即座に目を塞がれました。

 

 

「「見ちゃ駄目(です)!!」」

 

 

 いやそんな事言ってる場合か! …幸い敵は居ないようだけど!

 見るなと言うのも分かるけど、調査は必要でしょうが!

 

 一頻ギャースカ騒いだものの、本当に敵は居なかったらしい。…こういう時は、天井にひっついている大蜘蛛とかがお約束だと思うんだが。

 

 それはともかく、咄嗟に目を塞がれるのも分からんでもない。そこに居たのは…素っ裸で隠すもの一つない、3人の美女美少女だったのだから。

 

 

 

 

 

 ただし、魔法陣の中央に設置された、円柱状のケースの中で、培養液っぽい液体に浮かんで眠っているものとする。

 

 

 

 

 …真面目に、そういう目で見る気にならんなぁ…。おっぱいもまんこを丸出しだけど、状態が状態だから催さないわ。

 とりあえず一端部屋の外に出て、どういう事なのか考える。

 

 

「…人間、ですよね。生きてるんでしょうか?」

 

「人間だとして、いつからここに居るのかしら…。異界の中に居るんだから瘴気は吸い込んでる…いえ、あの柱が密閉されているなら……と言うか、どう考えても溺れ死ぬわね」

 

 

 ホムンクルスとかは、ああいう容器の中で育てられる印象があるが…これは創作の話だな。

 しかし、仮に死んでいるとしても、これって明らかに訳アリだろ。九葉のおっさんが見つけさせたかったのって、これなのかな。

 

 

「見つけさせて、どうするつもりかしら。…隠したのは、九葉さん…?」

 

「それは違うと思います。隠していたものを、わざわざ見つけさせる必要なんてあります?」

 

「一時は必要なくなったけどまた必要になったとか、隠した場所に異界が発生して取りに来れなくなったとか、色々考えられるわ」

 

 

 九葉のおっさんは、見つけた物は引き取るって言ってたな。引き取ってどうするとまでは聞いてないが…あのおっさん、必要であれば何でもやるから、下手な事はできんぞ。受け取って即始末………可能性は否定できない。

 とにかく、状況を把握する為にも、もっと情報が必要だ。

 下心とか無いから、部屋に入って調べるぞ。

 

 

「「本当かなぁ…」」

 

 

 信用ないね。仕方ないけど。

 もう一度部屋に入り、まず全体を見回す。

 

 大きな魔法陣と、その中央には3つの円柱状の容器……いや、4つめがある。だが4つめの容器は倒れ、容器は粉々になっていた。容器の欠片に降り積もった埃を見ると、もう何年も前からこのままのようだ。

 …死骸の類は見当たらない。この4つ目の容器だけ、人が入っていなかったとは考え辛い。割れた事で意識を取り戻し、どこかに出て行ったのかもしれない。扉が半開きだったのは、その時開けられたもの…と考える事もできるな。

 

 地面に書かれている魔法陣には、何の意味があるのかよく分からない。西洋風の文字、日本の文字、見た事もない記号。…気のせいでなければ、僅かに何らかの力を感じ取る事ができる。

 単純に考えれば、筒の中の彼女達を生存させておく為の仕掛けか。…或いは、目を覚まさせない為の封印か。どっちもありそうな話だ。

 

 他にはこの部屋には何も無さそうだ。魔法陣は部屋いっぱいに描かれているし、下手な物を置いておく事は出来なかったのか。これ程の規模の魔法陣、書き上げるのにそれなりに手間と時間がかかるだろう。…この円柱と中の女性達は、外部から運び込まれたもの…と言う事は、彼女達を『保管』する為に予め用意された部屋か。

 

 

 さて、いよいよ肝心の女性3人だが…目を向けた途端、ジトッとした目で見られたが、これまで部屋をちゃんと観察していた為か、何も言われなかった。と言うか、君らも気付いた事があったらちゃんと言ってよね。

 

 

「気付いた事……3人とも、明かな手練です。体付が、一般人のものとは明らかに異なります。戦う為に作り上げられた肉体です」

 

「でもそれにしては、傷跡一つないわよね。掌にも、胼胝(タコ)の一つも見当たらない。鬼と戦い続けていれば、薄くても傷跡の一つ二つはある筈なのに」

 

 

 傷一つつかず、武器も使わない…ってのは考え辛いな。…意図的に削り落としたり、傷跡を消し去る事もできない訳じゃないが…。

 顔付を見てみると、妙な印象を持った。3人揃って全くの無表情だから、猶更分かりやすい。年齢・髪型・髪の色・体格で全くの別人に見えるが、顔付が非常に似通っている。姉妹だろうか? それにしたって似すぎている気がする。

 と言うより…そもそも整い過ぎだ。顔だけではなく、体全体が。染みも黒子も見当たらないと来た。

 美人が多いのは個人的に嬉しい事だが、生気が無さすぎる事もあり、よくできたマネキンが並んでいるように見える。

 

 よく見ると、ゆっくりと呼吸していて、生きている事は確信できた。…が、正直それ以上の事はよく分からない。

 素っ裸と言うのは、逆に手掛かりが少なくなるなぁ。せめて服の一つもあれば、そこから生活様式を想像する事もできるのに。

 

 

 

 …仕方ない。この部屋の調査はここまでだ。もう少し奥に進むぞ。

 

 

「えっ!? この人はどうするの!? まさか放っておくなんて」

 

 

 救出手段は考えるさ。ただ、現状では助けようにも方法が無い。

 理屈は分からないが、あの筒の中に居る間は瘴気も無効化されているし、食べ物とかも必要ないようだ。救出が遅れても、致命的な事にはならない筈だ。

 

 

「明日奈さん、気持ちは分かりますけど、ここの瘴気の濃さを考えると、あの筒から出しても外に出るまで保つとは思えません。無理に助けようとすれば、最悪の事態を招きます。…それに、重い物を…この筒と同じものを運んだと思われる痕跡は、まだ奥に続いているんですよ」

 

「! ……そう…だったわね。まだ他にも、同じような人達がいるかもしれない。まずは全体の把握が先よ」

 

 

 そういう事だ。焦るな。

 連れ帰ったら連れ帰ったで、この人達を匿う方法も必要だ。どう見ても超絶危険厄介ごとだもの。

 

 

 明日奈を落ち着け、まずは先に進んでみる。

 引き摺った跡を追いかけて行けば、似たような光景が待っていた。大きな部屋と扉、描かれた魔法陣と、その中央に4つずつ設置された容器。

 ただし、グロ画像にも遭遇。容器の中に居る人全てが無事だったのではない。

 

 濁った培養液の中で、水死体のような状態で浮いている者。割れた容器のすぐ傍で、朽ちた人骨と成り果てた者。力を感じない魔法陣に接地されていた容器の中では、4つの容器に入っている者全員が死骸となっていた。鬼と人が入り混じっているような容姿の者も居る。

 まともな形で残っていた…生死は問わず…人達の姿形は様々だったが、同じ場所に接地されている者同士は、最初の部屋同様に極めて似通った顔をしていた。

 ちなみに9割以上が女性。残った1割は……まぁ、何だショタからオッサンからフタナリまで色々だ。

 

 ここまで来れば、俺だけでなく明日奈も神夜も、ここがどういう場所なのか理解できた。

 

 

 

 人体実験、人体錬成、或いはそれに近い何かの保管場所。

 

 

「…ですね」

 

 

 反吐が出るとでも言いたそうな表情で、神夜が言葉短く同意する。

 

 

「でも、一体誰が…」

 

 

 具体的には分からん。分からんが、霊山が関わっている事は間違いない。

 両さん…前村長が、密かに仕入れた情報だ。霊山で、胸糞悪くなる行為が行われているってな。こいつをネタにして、霊山を脅してでも援助を引き出せって話だったんだが。

 

 

「いやそれはちょっとどうかと…でもあの人なら言いそう…」

 

 

 ま、本人も喜んでやれって言ってる訳じゃないよ、多分。やれとは言われたが、あまり楽しそうではなかったね。

 シノノメの里も大分追い詰められてるし、背に腹は代えられんってな。

 

 

「でも霊山が…仮にも私達モノノフの総本山なのに…でも確かにシノノメの里を見捨てたって言われて…」

 

 

 この際、誰がどうして行ったかは後回しだ。生き残っている人数を把握して、引っ張り出す手段を見つけ出すぞ。

 ついでに言えば、九葉のオッサンがわざわざ掘り返そうとするくらいだ。単なる人体実験じゃないのかもしれん。

 

 

 

 そういう訳で色々見て回ったが、思っていた以上に生き残っている人の数が多い。いや悪い事じゃないんだけど。それでも20人に満たない程度だ。

 うーむ、こりゃ一遍に引き出すのは無理かな…。仮に助け出したとして、この人達の生活をどうするって話だし。

 

 

「…そうね。嫌な想像になるけど、本当に人体実験とかの被害者なら……普通の生活が送れるか怪しいし。物語でよくあるのは、急に暴れ出すとか、忘失しているとか、そもそも理性が残ってないとか…」

 

「明日奈さん、結構そういう話を呼んでましたね。白浜屋の常連でしたし。とりあえず、一人か二人を連れ出してみて、その人を観察してここに居る人達をどうするか決める…ですかね」

 

 

 そうだな。連れ出した事を隠すにしても、一人二人が限度だろう。九葉のオッサンが、全面的に味方してくれると仮定してもな。

 さて、そうなると逆に候補を絞らなきゃならんな。一人だけなら、俺が担いで持って帰れる。

 …一応言っとくが、背負えば色々堪能できるなんてちょっとしか思ってないぞ。

 

 

「正直に言った事に免じて、許してあげます。でも弾むように走ったりしたら、まとめて斬っちゃいますから♪」

 

 

 斬れるもんなら斬ってみんさい。ま、それはともかくとして…これで大体のところは回った。

 まだもうちょっと奥があって、鍵がかかってるからそこは後でブチ破るとして。

 

 容器の中で生きている人を、引っ張りだすだけなら特に問題はないようだ。

 魔法陣の効果は、主に『停滞』。容器に備わっているカラクリと培養液があって初めて効果があるようだが、要するに容器の中に入れた生命体を、その時の状態のままにさせるものだ。死んでいる者を強引に生き永らえさせるものでもなければ、そこでしか生きられない生物を保管するものでもない。

 つまり、容器の中で生きている以上、引っ張り出しても同様に生き続けるのだ。……多分。………目に見えない、内臓の傷とかあったら分からんが。

 そもそもここの結論自体、お陀仏している人達の周辺の状況を観察して類推したものでしかないし。

 

 さて、どの人を連れ出したものか。このまま放置しておくと死んでしまいそうな人を最優先とすべきだが、生き残っている人達の状況はほぼ同等だ。…と言うより、経年劣化でどうにかなってしまうような保存状態なら、これまでの間に朽ちて死んでしまっていたという事だろう。

 現状、一番重要そう…なのは、連れ出しに失敗したときのリスクがでかいか?

 

 救出の方法としては、出入口に近いところまで何とか容器を引っ張っていき、そこで中の人を取り出して異界の外までダッシュ…となるが。

 

 

 

 

 ふむ…。

 

 



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435話

魔禍月伍拾参日目

 

 

 とりあえず一人連れて帰って来た。霊山で人目につかずに移動するのはちと面倒だったが、やってやれない事はない。と言うか見られるとヤバかったな。婦女誘拐と思われたかもしれん。

 連れて帰って来たのは、小柄な褐色ちっぱいの少女。髪はロングで、腰元まで伸びている。特に意味があった訳ではないが、強いて言うなら単純に運びやすそうだったから。

 他の人達と比べて、身長もおっぱいも一回り小さかったからね。…ちなみに、ちっぱいと言うのは周囲と比較して、である。

 予測される肉体年齢と体格で考えれば、そこそこある方だ。他の女性のバストサイズが、いっそ不自然な程に大きい人が多いだけである。

 いやマジにデカいもん…。神夜級、GE世界のカノンやレア並のもゴロゴロ居たぞ。

 

 幸い、容器を壊して引っ張り出した途端にドロドロになって崩れ落ちる…なんてホラーも発生せず、その場で診断した限りでは単純に眠っているだけのようだった。

 

 

 適当な偽名で宿を取り、そこに連れ帰って来た人を寝かせておいた。

 

 白浜君も含めて全員を招集する間、適当にふんだくって来た資料に目を通す。

 殆どは読めないものだったが、部分的に分かる所もある。今読んでいるのは、名簿…と言うより目録、カタログか? あそこで見た人達の容姿に合致する特徴が幾つか書かれている。

 

 幾つかパターンはあるが、画一化されてるな。こりゃーアレだわ、『私が死んでも代わりはいるもの』状態だわ。

 思い出してみれば、一か所に纏められている人達は、どこか容姿が似通っていた。恐らく、予備としてストックされていた人達なんだろう。

 

 ようやるわ、本当に…。

 

 

 

 

 目録には個体名……じゃないな。恐らくコードネーム…が記載されている。

 ……なんか聞き覚えがあると言うか、アカンやろコレって印象を持つ名前なんだけど……どっかで聞いたような、そうでもないような…。

 

 

 

 首を捻っている間に、白浜君達が全員集合。決して口外無用と念を押してから、異界に隠されていた施設で見た物を伝える。

 反応はそれぞれだ。

 

 霊山に人体実験の疑いがあると、シノノメの里を出る前に聞かされていた白浜君は、それでも『まさか』という意識を捨てきれなかったんだろう。モノノフの総本山で行われていた行為に、ショックを隠せていない。

 牡丹は…顔を顰めているが、どうこう言うつもりはないようだ。

 

 

「…霊山の人体実験、か…。八方斎、心当たりはあるか?」

 

「噂程度であれば、な。正直、当時は与太話としか思っていなかった。どう考えても、それにかかる資金が調達できんからな。……資料を持ってきたのだったな。見せてみろ」

 

 

 いいけど、多分読めないぞ。ほれ。

 

 

「……………筆跡からして、少なくとも5人以上。この資料は殴り書き。こっちは時間をかけて清書したようだ。これは…横にある何かを見ながら書いたな。こちらは…」

 

「筆跡鑑定か。相変わらず妙な特技を持っている…」

 

「霊山に居た頃は、これでも顔が広くてな。色々と付き合っている間に、自然と覚えてきたのだ………む?」

 

 

 変なところで活躍するデカ頭は、一枚の資料を見て動きを止めた。

 横から覗き込んでみる(頭が邪魔だ)と、特に変哲も見られないページ。視線を辿ってみると、その一角にある奇妙な文字に注がれていた。俺も見た事の無い文字だが…。

 

 

「………滅鬼隊…」

 

 

 ? 何だ? 最近、それっぽい言葉を聞いたような気が…。

 

 

「滅鬼隊? それは何かしら、八方斎」

 

「伝…子さん、知らんのか? 霊山で囁かれる…噂と言うよりは、昔話だ。霊山君直属の秘密部隊。一人一人が天下無双とさえ湛えられる凄腕であり、類まれなる美男美女であり、またタマフリとも違う奇妙な術を扱ったという。奴らは昔から、不心得者のモノノフを密かに誅し、世を乱す強大な鬼を人知れず屠り、しかし名も顔も知られず残す事すらなく、ただただ霊山君の意思を顕すのだと言う。…考えてみれば、確かに霊山以外で話を聞いた事は無かったな」

 

 

 子供に言い聞かせる時の昔話みたいなもんか。

 いい子にしてないと、鬼がやってきて食べられてしまうよ、みたいな。

 

 

「まぁそうだな。正体不明、出所不明、真偽を問われれば殆どの人間が偽と返すだろう。それでも語り続けられる最強のモノノフ集団。それが滅鬼隊。そして、その象徴と言われているのが……まぁ、これまた信憑性は下の下だが…この紋章と言う訳だ」

 

 

 指さされたのは、先程からデカ頭で睨みつけていた文字…もとい紋章。

 鬼を模したようにも見えるが…それはモノノフのシンボルマークも同じか。金眼四ツ目の守り人がモノノフのマークなら、この紋章は…もうちょっとおどろおどろしく見える。単なる文字にも見えるが。

 

 つっても、そんな集団だとするなら、それこそシンボルマークなんて流出しないよなぁ。むしろ、存在を隠す為に象徴らしい象徴なんて作らないだろう。

 

 

「いや、そうでもないぞ」

 

 

 土井さん?

 

 

「影に徹し、姿を隠しあう存在だからこそ、その意思を束ねる象徴は必要になる。自分達はこれの元に、一つの集団であるという認識を持たせる為にね。…もっとも、それがこの象徴とは思えないけど…」

 

「えぇと…? あの、牡丹様は納得されてるんですけど、僕はさっきから置いてけぼりなんですが。牡丹様が『囮』って言ってるけど、どういう事です?」

 

「文字通りだよ。その滅鬼隊と言うのが実在したとして、真の象徴はこれとは別のものだ。これはあくまで、耳目を集める時に使う為の囮。この陰にこそ、本当の象徴がある」

 

 

 ふむ…弾圧された宗教が、あの手この手で祈りの対象を隠すようなものか。

 で、その滅鬼隊の紋章が…囮のものだったとしても、ここに書かれているという事は?

 

 

「君達が見つけた施設、並びに人体実験と何らかの関わりがある、か…。霊山の人体実験に協力する為、一般人を捕縛してくる? 滅鬼隊の実力がその話の通りなら、そんな勿体ない使い方はしないだろう。なら逆に」

 

「人体実験の成果こそが、滅鬼隊である…と言う事ね?」

 

「そうなってしまうな…。人倫も慈悲も無い実験で強化されて洗脳されて変わり果て、己が身を顧みる事なく鬼の討伐、或いはそれに近い命令だけを遂行する。そして、もしも欠員が出てもすぐに予備が出る…。成程、強い訳だ。使い捨て上等、嫌でも死兵にされるんだから。予算もどれだけあるのやら…霊山も大々的にかかわっている可能性が高くなってきたな」

 

 

 土井さん、そこまでそこまで。白浜君が世の中に絶望しかけとる。

 まだ確証がある訳じゃないんだ。

 

 まー確かに真っ当な目的の研究じゃないのは確かだな。あの施設にしても、見られると厄介な物を慌てて放り込んだって感じだった。

 死なせないように保存するとしたら、もっと丁寧にやってるだろうさ。

 

 

 差し当たり…連れ帰って来た人、どうする? 天才苦労人軍師殿。

 

 

「それ、一度だって自分で名乗った事はないんだが…。ともあれ、まずは目を覚まさなければ何もできない。それまでは、この部屋は確保して暫く交代で顔を出そう。そこら辺の偽装も上手くやるさ」

 

「なら、私の領分ね。変装して色々工作しておくわ。この人に変装して外出していれば、目を覚まさないのを匿っているのも分からないでしょう」

 

 

 山本先生の変装術は天下一品やでぇ…。隣りの部屋に移ったと思ったら、1分もせずに褐色ちっぱいツインテール少女そっくりになって出てきた。だから、体格…いやまぁいいけどさ…。

 しかし、この子が出歩いてても大丈夫かな。「あいつは異界に沈んでいる筈だ!」って事にならない?

 

 

「それならそれで、向こうからの行動を逆手に取るさ。山本先生なら、変装で大抵の人は欺けるしね」

 

 

 別の姿に変わってしまえばどうとでも…か。

 了解、その方針でいきますか。後は、この子が目を覚ますのを待つとしよう。

 

 

 

 

 

 とりあえず、伝子さんを見張り番として、それぞれ自由行動の時間だ。

 俺は…仮にも師匠として、白浜君のケアをしておこうと思う。霊山に関わってから、モノノフの闇って奴を急に見せ付けられたからな。精神的に揺らいでいてもおかしくない。

 ちょいと本格的に訓練させて、余計な事を考える余裕をなくしてやろうと思う。…ただし悲鳴が響くけども。

 

 

 俺と一緒に居られないなら、と神夜は一人で出かけて行った。竹刀を持ってたから、多分道場に腕試しに行くんだろう。…道場破りにならない事を祈る。

 一方、明日奈は…と言うか、木綿季はこれまた一人で…明日奈も一緒だから二人で?飛び出していった。 こっそり霊山までついてきたけど、全然出番も無かったし、自由に動けなかったからなぁ…。ようやく遊びに行けると喜んでいた。

 一人で観光して楽しいか?とも思うが、一見すると一人でも、明日奈と木綿季で二人だからな。そこそこ楽しめるんだろう。

 

 

「…師匠」

 

 

 喋る暇があるとは余裕だな。

 

 

「ちょっせめて聞いてへっぶ!?」

 

 

 話を聞くくらいは構わんけど、それでも最低限の集中くらいは維持しとけ。で、何ぞ? あまり集中が切れるようなら、今度は爆弾が飛ぶけど。

 

 

「殺す気……いやその程度じゃ死なない気がしてきた自分が憎い…」

 

 

 準ハンターだからね。仕方ないね。

 

 

「いやそれはともかく…霊山は何を考えているんでしょうか。人体実験、鬼の力を取り込もうとする悍ましい行為…。万一露呈したら、霊山の権威だって失墜するし、モノノフ全体がひどい事に…」

 

 

 さぁな。が、何か重要な考えがあったとして…例えば病気の一人娘の命を長らえさせる為、或いはそうしないと人全体が滅ぶような裏事情があったとして、お前はそれで納得できるのか?

 

 

「……………それは」

 

 

 事情なんざ関係ないんだよ、誰にとっても。

 必要であると思ったから、可能であると思ったから、それに見合う結果を得られると思ったから、自分ならそれが許されると思ったから、やる。実際にどうなのか、なんてどうでもいい。そいつがそう思い込んだ時点でそうなるんだ。そいつの中ではな。

 

 …いや、もっと単純な話か。

 人体実験をやらかした奴らに限らず、人間の考え方なんざ単純なもんだ。

 『罰される事ではない』と思うからやった。それだけさ。

 それが見つからないという意味なのか、必要で間違ってない事だと思ってやったのか、その辺は本人次第だろうけども。

 

 

「それに類するだけの…嫌な意味での価値が、あの子に隠されていると?」

 

 

 そうだろうな。本当にあの子が滅鬼隊の一員で、推測通りの存在であれば、人によっちゃ何が何でも手に入れようとするだろう。

 何だ、随分とあの子を気に掛けるな。惚れたか?

 

 

「いえ別に。ちっぱ……ゲフンゲフン、まだ起きて言葉を交わす事すらしてないんです。外見だけ見て好きとか嫌いとか言っても、失礼じゃないですか」

 

 

 お前も大概、色恋沙汰に夢見てるなぁ。それが悪いとは思わないけど、もーちょっと突っ込んだ男女のあれこれを吹き込んでおくべきか…。

 まぁいいさ。大変なのはこれからだ。お前は牡丹のついでみたいな形で使者として遣わされた。

 だがそれだけに、見たくもない聞きたくも無い人の本音や打算に触れる事だろう。

 もう嫌だ、こんな事ならシノノメの里で落ちこぼれとして過ごしていたかった…と思う事もあるかもしれない。

 

 

 そんな時の為の心得を、一つ教えておこう。

 

 

「…どうぞ」

 

 

 全力で警戒しながら、耳を傾ける白浜君。うむ、学習していて何よりだ。それっぽい雰囲気を出して注意を惹きながら殴り飛ばすの、4回目だからな。

 あまり警戒されてもつまらないので、簡潔に。

 

 これは我が人生の象徴とも言える、実体験の結晶である。

 

 

 すなわち。

 

 

 

 

 

 

 悲嘆に溺れるくらいなら、色に溺れろ!

 

 

 

 

 

 なんだよその目は。マジな話だぞ。

 まぁ、お相手どころか気になる相手も居ない、下手すると初恋すらまだの童て…お子様にこんな事言っても理解できるとは思わんが。

 

 

「あなたいつか殺します。と言うか、真面目に話してるんですけど!?」

 

 

 だから真面目な話だっつーの。

 極端な対応である事は確かだが、確かな真理でもあるぞ。

 色欲と同じように、人間にそういうドス黒い部分があるのはどうやったって否定できん。自分にもそういう部分があるのを自覚して、どうしようもなく自己嫌悪に陥る事もあるし、人間に絶望する奴だっている。

 人間を醜悪だと思う時は必ず来る。

 

 成程、その時は確かに、人の醜さをよく思い知っているんだろうさ。

 ならば、同じだけ人の素晴らしい点を挙げてみろ。

 

 思いつかなかったら、その時こそ色に溺れてしまえ。異性の体は、間違いなく人にとって素晴らしいものだ。使い方を間違えなければ、だけどな。

 商売だろうと打算によるものだろうと、間違いなく心を癒してくれるよ。

 否定しようのない醜さや辛さを躍起になって蓋をしようとするくらいなら、いっそ飲み干し呑まれて同化してしまえばいい。

 一時だろうと慰めは得られるし、まぁ人間の数を増やすのは大事だろ。こんだけ追い詰められてれば猶更。

 

 

「……受け入れがたいお話ですけど……体験談、ですか」

 

 

 …ああ、そうだな。何だかんだで俺が最初に色に溺れたのも、死の恐怖で使い物にならなくなってた俺を、先輩が娼館に連れて行ってくれたからだっけ…。

 あの時は随分お世話になったもんだなぁ…。

 それからも、何だかんだで(デスワープする度に)女に手を出して…。

 もうここまで来たら言い訳にも建前にもなっとらんけど、何だかんだで『そうでもしなけりゃやってられん』ってのも確かにあったと思うよ。

 色々と、箍とか螺子とか外れたまま暴走してきた自覚はあるし。

 

 

 それでも無駄じゃなかった。むしろ個人的には超幸せだ。

 可愛い子とお付き合いしてるし、強くなって強い鬼を狩れるし、色々と気持ちいいし。

 何かと応用の効く技術だから、これでお悩み解決にも役立ってるんだぞ。あんまり感心できない行為からでも、芽吹くものはあるんだよ。

 

 …あの子だって、その一人かもしれないしね。

 

 

「…………やっぱり、納得できません。あの子に何か思う所があるんじゃなくて、そういう堕落した道を選んで、それを正当化するような事が。結果的に芽吹いた命や技術を否定する必要はないと思いますけど、それに自分から進んで身を浸すような事はできません」

 

 

 そらそうだろうよ、普段通りなら。

 …心が折れてりゃ、誰だって普段やらないような事でもやっちまうんだ。自分は絶対やらないって決意するのも抗うのも好きにしろ。ただ、もし本当にそうなっちまっても、あんまり思い詰める必要はねぇよってだけの話さね。

 

 

 …ま、後になって報いは返ってくるんだけどな。

 

 

「具体的にはどのように?」

 

 

 大型の鬼とやりあってる最中、浮気してた事を漏らして矢で射抜かれた。

 別にどうこうしてるつもりはなかったけど、付き合ってる相手が居たのに懸想されてた相手に押し倒された。…まぁ、こっちは丸く収まったけど。

 

 他にもまぁ、色々。頬を張られるなんざ軽いもんだ。泣かれるのが一番堪える。

 

 

「そう思うんなら、複数の人を相手にするのやめましょうよ…。モノノフだって妾とかは居ますけど、婚姻も結んでない内から複数の人と付き合うってありえません」

 

 

 そんな正論が通じる時期は当の昔に逸したわ。

 ほれ、今日の訓練はここまでだ。ちったぁ頭の中も晴れただろ。

 元々、大して利口な頭してないんだ。休むに似た考えを堂々巡りするくらいなら、徹底的に体を動かせ。

 馬鹿には馬鹿の、色狂いには色狂いの悟り方がある。

 悩むのはいい事だが、適当なところにしておくように。

 

 つか、まずは牡丹に相談しろよ。立場で言えば牡丹が上だけど、モノノフで言えばお前の相方なんだから。

 

 

「はい! ……ふぅ…とりあえず、ご飯食べてから相談します」

 

 

 

 それがいい。腹が減ってると、まともな考え何て思い浮かばない。

 

 

 

 

 

 

 …さて、久しぶりに師匠らしい事できたかな。いい事についてか、悪い事についてかは別として。

 これからどうするか……明日奈…と木綿季はまだフラフラしてそうだし、神夜が居る道場に行ってみるか。

 グウェンと会えるかもしれないし、それ以上に神夜が何かやらかしてないか心配だ。

 ああ、この前会ったコスプレ趣味の直葉ちゃんというパターンもあるな。

 

 もうそろそろ、道場も閉館の時間だが…。

 

 

「…あれ? 確か、あんたは…明日奈の恋人の」

 

 

 そういう君はジョナサン・ジョースター。

 

 

「いや桐人だよ。誰だよそれ」

 

 

 そっかー、こっちのパターンで来たか。いや別にいいんだけどさ。

 ……こいつ、妹さんのコスプレ趣味は知ってるんだろうか? 流石に勝手に教えるのは気が引ける。

 

 任務帰りに、妹さんを迎えに来たのか?

 

 

「いや、今日は休暇だったんで、ちょっと体を動かしに来てただけなんだ。そっちこそ、今日は一人なのか?」

 

 

 まぁね。神夜が道場巡りするって言ってたから、ここに来てるんじゃないかと思ったんだけど…見なかった?

 

 

「いや、見かけてないな。道場って言っても、霊山には幾つかあるし、そっちに行ったんじゃないか? ここは本格的な鍛錬をする道場じゃなくて、どっちかと言うと公開された広場みたいなものだから」

 

 

 そう言えば、女子供向けの体験修行なんて銘打ってたな。対人戦を希望している神夜には向かないか。

 

 

「あぁ…………その…明日奈は、今日は居ないのか?」

 

 

 明日奈だったら、別用であちこち歩き回ってると思うけど。

 …何だ、元カノ(にまで行きつかなかったらしいが)に未練でもあるのか? と思ったが、周囲を見回す様は警戒する小動物のようだ。 

 明らかに怯えている。

 

 

「………なぁ、ほぼ初対面の相手に、こんな事を聞くのは何だし、明日奈にも失礼だと思うけど」

 

 

 うん?

 

 

「大丈夫なのか?」

 

 

 …すまん、何の事を言いたいのか、イマイチ理解できん。

 

 

「あー………諸々について、としか言いようが…。付き合ってるのは、明日奈だけじゃないんだろ? 刺される、とまでは言わないにしても、問題山積みじゃないのか。俺は……そのおかげで、実を言うと今でも女性が苦手で」

 

 

 確かに、初対面の相手にぶちまける悩みじゃないな。

 とは言え、何を心配してるのかは把握できたが。

 明日奈に猛烈な勢いで迫られた事があったんだっけ。壁際に追い詰められて、肉食獣どころか獲物を追い詰めたゴウエンマみたいな笑顔を向けられて。

 

 ビクリと肩を震わせる桐人君。

 実際にはそこまでの勢いじゃなかったんだろうが、いい雰囲気になっていた相手が突然凶悪になった上に、幼いころのトラウマとして刻み込まれた結果、それくらい恐ろしい思い出として認識してしまったんだろう。

 

 

「ああ……全部が全部明日奈のせいとは考えてないけど、あの時の事を思い出そうとしたり、連想したりすると体が震えて、力が抜ける…。おかげで正規モノノフに昇格するまで時間がかかっちまった」

 

 

 ひょっとして、女モノノフに一緒に居ると…。

 

 

「…妹の直葉が相手でさえ、動けなくなる事があるんだ…」

 

 

 おおぅ…。よくまともな生活送ってこれたな…。明日奈の罪は割と重い。

 本当によく生きてたもんだ。ミズチメとか相手に出来るか?

 

 

「いや、流石にあそこまで行くと全く別物と言うか……思い出の中の明日奈の方が怖いし」

 

 

 それ程か。蝉ドン、喰らった?

 

 

「せみどん………あー、うん、何を言ってるのか大体わかった。確かに蝉だ。そんな可愛らしいもんじゃなかったけど…喰らった……食われると本気で思った…」

 

 

 …同情するよ。

 

 

 とは言え、なぁ…。同情はする。同情はするが、俺の価値観や立場から行くと……言っちゃ悪いが、情けないと言わざるを得ないんだよ…。

 

 

「あん?」

 

 

 怒るな…とは言えないけど、まぁ聞けよ。これはあくまで俺の価値観だが。

 

 あのな、確かに明日奈にはそういう所がある。飢えているというか、肉食獣と言うか、貪り尽くそうとすると言うか…。

 とにかく、これでもかと言う程迫ってくる。

 俺とそういう関係になった時も、蝉ドンされたしなぁ。

 

 

「…だったら分かるだろ、あの恐ろしさが! そりゃ、子供の頃の事だし、多少は誇張入ってるかもしれないけどな! おまけに、相手は明日奈一人じゃないんだろ!? 嫉妬がどうの、一時近い感じになってた相手がどうの、そんな事よりも不安が募って仕方ないんだけど!?」

 

 

 

 ああうん、言いたい事は分かる。あと、多分誇張は入ってない。あの子は生来の猟犬だから。

 分かるけどな…。

 

 

 なぁ桐人君よ。こんな言葉知ってるかい?

 『人生における無上の幸福は、われわれが愛されているという確信である』。

 

 

「いや、聞いた事ないな。いい言葉だとは思うけど」

 

 

 どっかのお偉いさん…作家の言葉だったかな。

 これが全人類に当てはまるのかはともかくとして…明日奈には間違いなくこれが当てはまる。

 

 明日奈は飢えて、惚れた相手を求める衝動が強い。何でかってーと、単純だ。飢えているのは、満たされてないからなんだよ。

 愛されているのか不安なんだ。多少は…まぁ、なんだ、性欲過剰と言うか、男に対して求めるものが多いのは生来の気質だと思うけど……あの子は実感したいんだよ。

 愛されている。求められている。心まで一つに繋がれる。そういう実感が欲しいから、傍へ傍へと寄ろうとする。

 加減を見失って、欲求ばかりになっちまうのはいただけないが……不安を解消してやるのが、男の甲斐性ってもんだろ。

 

 

「………げ、限度ってものが」

 

 

 

 そこは否定せんが、単純に経験値の差だろうなぁ…。激しく求められるって言っても、俺基準で言えばまだ余裕はあるぞ。

 だからな、お前が怯えてるのも、恐怖症になっちまったのも分かるし、同情する。明日奈は明らかに性急すぎたんだろう。

 でも、明日奈の彼氏な俺としては……受け止めきれなかったのが…自分が好かれていると、信じさせて安心させてやれなかったのが、情けない。

 

 満たしてやれば可愛いもんさ。下卑た感情もあるけど、撫でてほしいと擦り寄ってくる大型犬みたいにね。

 愛されているという実感があるから、多少の不満は我慢できる。引っ掛かる事があっても…具体的には、他の女が居ても自分は充分に愛されているから、気にする必要も無い。

 それだけ貪ってるからなぁ。色々と。

 

 怯えて逃げようとすれば、逆にあの子はもっと不安になって、相手を気遣う余裕がなくなる。そしたら、相手はもっと怯えて逃げてしまい、愛されてないと思って更に求めての悪循環だ。…そこで受け止められなかったのが、明日奈と桐人君の亀裂になったんだな。

 逆に喰らって、貪ってしまえばいいんだよ。貪られるのも悪くはないし。

 

 愛してるんだ。愛されているという実感を伝えるだけの、ただそれだけの話さね。難しいけど、何よりも伝えたい事なんだ。苦にもならない。

 そうすれば、飢えた獅子は懐で微睡む猫に変わる。

 

 俺で満たされてくれるんだ。男名利に尽きるってもんよ。男の本懐ってもんだ。

 

 

 

 

 

 ちょっとどころではなく一方的な理屈を語ってしまったが、桐人君は何やら凄まじい衝撃を受けたようだった。

 やだ…本気でダメージ受けてるっぽい………? にしては、なんか反応がおかしいような? あっ、崩れ落ちて四つん這いになった。orz状態だ。誰も見てないからいいものの…。

 

 

「……しゃ…」

 

 

 しゃ?

 

 

「舎弟に……してやってください…」

 

 

 舎弟て。

 

 

 ここからあんまり真に受けるな、と言うのも何だしな…。

 

 桐人君が情けないと感じたのも事実だが、やっぱり酌量の余地はありすぎるくらいだし。それでも舎弟扱いはちょっと。

 さてどうしたもんかと頭を悩ませていると、背後からドンとぶつかってくる何か。

 覚えのある感触……だが、いつもと何かちょっと違うな?

 

 

「はーい、そこまで。何だか面白い事を話してるみたいだけど、明日奈がそろそろ限界っぽいから、また今度にしてね!」

 

「あ、明日奈!? 聞いてたのか………って、ん? 明日奈がって…え?」

 

 

 うん? と首を傾げる桐人君。無理もない。飛びついてきたのは、今正に話題にしていた明日奈本人だったのだから。

 …でもちょっと違うな。木綿季か。

 

 

「そういう事。あ、今は明日奈じゃなくて木綿季って事だから。久しぶりだね、桐人。シノノメの里を出て以来だっけ?」

 

「え? 木綿季? って、あの木綿季? 刀と言うか刃物の扱いが異様に上手くて、下手な大人よりも強かったあの木綿季? 明日奈の親友だった……でも、病で死んだんじゃ…そもそも明日奈なのに木綿季って」

 

 

 木綿季、その説明じゃ意味分からんだろ…。

 理解しがたいだろうけど、文字通りだよ。色々あって、木綿季は死んだけど成仏してなくて、今はミタマとして一緒に居る。明日奈が許せば体を自由に動かす事も出来るから、今日は霊山観光に行ってた筈だ。

 

 

「ますます意味がわからない」

 

「あははは、文字通りなんだから、そういうものだと受け止めるしかないよ? 深く考えても、頭が痛くなるだけだろうしね。ま、それはともかく、悪いけどこの人連れて行くよ。僕はこのままもうちょっと聞いててもよかったんだけど、これ以上聞かせると明日奈の頭がどうにかなっちゃいそうだからさ。舎弟云々はまた今度にしてよ。じゃあね、桐人」

 

 

 そう言うと、木綿季は俺の腕を取って引っ張り始めた。体格差もあって、俺の腕に明日奈が抱き着いて歩いているようにしか見えない。

 明日奈じゃなくて木綿季なんだけど…理解してない桐人君には同じ事だろう。

 

 あー、悪いな、なんか今一俺にもよく分からんが、そういう事で。あんまり深く考えない方がいいぞ。

 無理に恐怖症を治そうとして、心に負担がかかるのはよくある事だ。

 

 引っ張られて素直に歩き出すと、腕を開放して並んで歩き始める。…密着しそうなくらいの近距離だけど。

 何となく、望まれているような気がしたので腕を腰に回す。木綿季は嬉しそうに笑顔を見せて、体を預けてきた。…人肌とか愛情とか、スキンシップに飢えてるのは、この子も同じなんだよなぁ。数年間、鬼に閉じ込められて人と接する事が全く無かったんだから。よく発狂しなかったもんだ。

 そう考えていると、ついつい丁度いい位置にあった木綿季の尻を鷲掴みにしてしまう。ビクリと体を震わせるが、抵抗はしない。それどころか、もっとしてほしいと言わんばかりに、雌の匂いを立ち上らせながら俺を見上げてくる。

 明日奈もとい木綿季は桐人の事を振り返りもしない、気にする様子もない。

 

 

 …ついついやっちゃったけど、これってアレか? 桐人君から見ると、子供の頃から気になっていた(好きだったとは言わない)女の子が、目の前で他の男のモノになったって言うのを見せ付けられてる事にならないだろうか?

 そういや、桐人君と初めて会った時にも、似たような感想を持ったな。

 

 桐人君を一顧だにせず、木綿季は俺に抱き寄せられながら、ずんずん進んでいく。なんか変な態勢だ。普通、こうやって抱き寄せてる側が連れ歩くもんじゃね?

 尻を触られ揉まれてピクピク反応しながらも、木綿季は俺を引っ張って角を曲がった。

 

 

「どうも~、お疲れ様な事極まりないです」

 

 

 角を曲がると、上機嫌な神夜が出迎えた。何だかいつにもましてニコニコしている。

 強敵と楽しんできた…訳じゃなさそうだな。剣気の残滓もない。と言う事は…。

 

 ひょっとして、桐人君との話、聞いてた?

 

 

「ええ。私だけでなく、明日奈さんもです。私はもう少し聞いていたかったんですけどね」

 

「僕達はともかく、明日奈が限界でさぁ。いいもの見たよ」

 

 

 そりゃ、木綿季がここに居るんだから、聞いてただろうけど……。

 途端に、木綿季にギュッと抱き着かれる。

 …違う、これは木綿季じゃなくて明日奈だ。

 

 明日奈は何も言わず、俺の胸元に頭を押し付けてグリグリしてくる。…頬が見えた。何かの病気かと思うくらい真っ赤だ。

 呼びかけてみても、何も答えない。ただ、絶対離れないという強い意志…乙女心?が感じられる。

 

 

「木綿季さん、今日はこっちに来てください。二人きりにさせてあげましょう」

 

『いいけど、僕だって楽しみにしてたんだよ。…まぁいっか。神夜も体を貸してくれる? 前から斬冠刀をどうやって降ってるのか、興味あったんだ。褥でも、そのでっかいのを触られてどう感じるかとか」

 

「仕方ないですねぇ…。でしたら、私のも明日奈さんに教えた奥義、まざーずろざりおを教えてください」

 

『一生をかけた技なんだけど…ま、基本の基本くらいならいいよ。じゃ、明日奈。邪魔者は今は消えるから、存分に甘えてきなよ。その甘えんぼ、お願いね」

 

 

 アッハイ。

 …? ? ? 若干置いてけぼりである。だからと言って、明日奈を拒む理由もないんだが、こんなリアクションを取られても、状況と心境が分からんから反応に困る。

 神夜と木綿季はさっさと行ってしまったので、無言で抱き着かれたままの俺と明日奈だけが残された。

 

 どうしたもんかと、とりあえず明日奈を抱き返して頭を撫でてみる。…掴まる力が強くなった。

 あくまで顔は見せずに俯いたまま、明日奈は俺を引っ張って歩き出す。抵抗せずに、行きたい方向に行かせてみる。

 

 この方向は…。

 

 

 

 この前行った連れ込み宿だな。

 

 

 …そっか、さっきの桐人君との話を聞いてたんだ。桐人君を貶すような事を言ってしまったが、裏を返せば明日奈の行動を肯定したとも言える。

 かつての行動で傷ついたのは、桐人君だけではなかった。加害者被害者で言えば間違いなく加害者であろう明日奈も、傷つき恐怖を持ったのだ。

 自分は重荷となっているのではないか。近付けば怯えて離れてしまうのではないか。これまでの関係が、壊れてしまうのではないか。

 …それがあるのに、俺に迫った時の方法が蝉ドンってのはどうかと思うが……過去の恐れを乗り切るために勇気を振り絞り過ぎたと思っておこう。

 

 ともかく、明日奈は密かに抱えていた恐怖や迷いを否定され、むしろそれを受け止める事が本望だと宣言された訳だ。

 『人生における無上の幸福は、われわれが愛されているという確信である』。

 これを本当に実感したんだろう。感極まって、言葉が出てこず、一つになりたくて仕方がないんだ。

 

 

 オーケーオーケー、桐人君のフォローとか色々考える必要はあったけど、今この時からは明日奈の事だけ考えよう。

 あれだけ大口叩いておいて、受け止めきれませんでしたじゃ恰好がつかない。

 明日奈の猛る感情を、マルッと受け止めようじゃないか。

 

 

 

 

 

 その日の明日奈は凄かった。各種パラメータ(体力・性欲・感度・淫乱さ・勢い・テクニック・変態性・その他諸々)に1.5倍くらいのブーストがかかった感じだ。

 普段であれば躊躇いが残るような事も積極的にやったし、それでいて恥じらいは残っている。

 言われれば何でもするし、言われる前からあの手この手で俺を悦ばせようとする。

 何より、少しでも深く繋がろうとする執念のようなものが感じられた。

 

 体力が付きかけても、意識が続く限りもっともっとと求めてくる。ある意味ではゾンビのようにすら思えたものだ。HPその他は0なのに、ただ只管迫ってくるんだもの。或いはククルを守ろうとするガラフ。

 尤も、ガラフと違いエクスデス(俺)を倒す事はできなかった訳ですが。

 ブースト1.5倍くらいじゃ、まだまだ俺には勝てませんのぅw

 

 

 連れ込み宿の部屋に着くなり、服を脱ぐ暇も惜しいとばかりに抱き合って、呼吸も忘れるようなディープキス。

 前戯も必要ない程濡れていたので、明日奈の希望に答えてそのまま着衣プレイで一発…いや、抜かずの3発か。この時点で、明日奈の絶頂回数は深いものだけで6回以上。

 普段ならこの辺でグロッキーかそれに近い状態になり、一緒に楽しんでいる神夜や木綿季に交代するんだが、今日は違った。

 

 交わりながらも服を剥ぎ取り、素肌と素肌を擦り合わせる。

 霊力を循環させて互いの体力を回復させ、快感を増幅する事で気力を充実させる。

 感情を読み取り、伝えているという実感が、愛し愛されているという感覚を与えてくれる。

 体感時間操作も使っているので、夜明けまでの時間を気にする必要も無い。

 制限時間無し、残弾無限、体力無限のエンドレスコース。

 

 

 結果、明日奈の腹が妊婦みたいになるまで延々と注ぎ込み続けた。勿論、注いだのは赤ちゃんの為の部屋だけではない。

 呼気に精液の匂いが混じっているのが明らかに分かるくらいには飲ませたし、尻からはブローバックが止まらず、後始末が大変だった。

 穴だけじゃなく、肌は滑りがついてない場所はないくらいにぶっかけて汚しつくしたし、栗色の髪の毛も斑模様に見える程。

 明日奈の体で、指と唇と性器が触れてない場所は一つだって残ってない。

 

 尽きた体力を回復させ、精神力をジリジリと削り取る…いや、熱く甘く蕩けさせるような時間を過ごし、回数で言えば一般人の1年分以上の交わりを経て。とうとう明日奈は力尽きた。

 実に幸せそうな顔で朽ち果てている…いや死んでないけど。

 いつもだったら、微妙に不完全燃焼と言うか、申し訳なさそうな感情が僅かに漂ってたんだが…。

 多分あれだな、俺はまだまだ余裕があって、自分にも余力が残っているのに、先に終わってしまって俺を受け止めきれないのが後ろめたかったんだろう。

 今も、俺の全力を受けきったとは言えないが、それでも自分の全てを注ぎ込んで、指一本動けないくらいに完全燃焼した。何より、全力でぶつかっても壊れたり怯えられたしないという確信が得られた。

 愛されているという実感、愛しても大丈夫なのだと実感できたのは何より大きい。

 

 

 うーん、破れ鍋に綴蓋って言うのかねぇ。色情狂と肉食系。幸か不幸か、ガッチリ組み合ってしまったようだ。

 まぁ、別にいいよね!

 うん、色々カタが付いたら孕ませるの決定。今度こそ、クサレイヅチに手を出させない。

 

 

 

 

 

 



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436話

 

魔禍月伍拾肆日目

 

 

「お疲れ様です兄貴!」

 

 

 …そんな言葉で、俺と明日奈は出迎えられました。

 目の前には、直角に腰を曲げて頭を下げている桐人君。その横には、頭痛を堪えているような、ある意味納得しているような白浜君。

 …ナニコレ?

 

 いや確かに、昨日「舎弟にしてやってください」なんて言ってたけども。

 隣に居る明日奈も、気まずくなるどころか大混乱だよ。

 

 あー、桐人君や、いきなりどういう事だね?

 

 

「桐人とでも、丁稚とでも好きにお呼びください! …それはともかく、昨日のお話、大変感じ入りました! 弟子にしてほしいとは言いません、ただ傍で学ぶことを許してください!」

 

 

 ………何なの、いや本当に何なのこれ。

 キャラが変わってるってレベルじゃないよ。と言うか、隣の明日奈の事は眼中に無しかい。

 

 

「え? …あ、明日奈…」

 

「えーと…うん、その……えーと…」

 

 

 マジで気付いてなかったのか。明日奈が別の意味で気まずそうだ。

 白浜君に、視線で助けを求めている。

 

 

 『え、これ僕から説明するんですか!?』みたいな空気を感じるが、一番正しく現状を理解できてるのは、多分君だ。

 すっごい嫌そうな顔をしてるけど、視線で師匠命令とするといつか下剋上してやるとブツブツ言いながら口を開いた。

 

 

「桐人君、ちょっと落ち着いて。えーと、なんか昨日師匠と話した事で、物凄く感銘を受けた、らしいです。それで蒙を開いてくれた師匠に、挨拶と礼をしにきたんだとか」

 

「昨日話してた事って……私達を受け止めるのが本懐、っていう?」

 

「…明日奈、聞いてたのか…。あぁ、そうだ。思えば明日奈にも悪い事をしたと思ってる。正直、思い出すと未だに膝が震えるんだけど、それは俺が情けないのが原因だ。それが原因で、明日奈まで傷つけていたって自覚すらなかったんだ。だけど兄貴のおかげで目が覚めた。女性恐怖症なんて関係ない。そうやって怯えてるのは、俺が弱いままだったから。男として成長してなかったからだ。女のモノノフと組むと動けなくなるとか、それで正規モノノフになるのに苦労したとか、そんなもの責任転嫁だった」

 

「あ、え、いやその、そこは自分で言うのも何だけど本気で怒っていいと…私も色々どうかしてたし」

 

「それでもだ。それを言い訳にするのは、俺自身が許せない。弱っちくても、俺だって男なんだ。意地がある。意地があると思い出せた。…それに、誰の責任だろうと、現状に問題がある事には変わりないし…」

 

 

 まぁ、君の強さに自分の命と生活と妹さんの人生までかかってるものな…。経緯はどうあれ、女性恐怖症は直さなけりゃ話にならんか。

 

 

「うう…ごめんね、本当にごめん…。私のせいじゃないって言うかもしれないけど、かなり罪悪感」

 

 

 明日奈がさめざめ泣いている。…女を泣かせる男なんて、と思うが、今回ばかりは目を瞑るべきだ。元凶が明日奈なのは事実なんだし。

 

 

「モノノフ生活だけじゃなくて、桐人の青春もかかってるんだし、早めに治すに越したことはないと思う。今だと意中の人と話す事もできないって言ってたし」

 

「ちょっ、兼一!」

 

 

 何気に二人が呼び捨てにしあう程意気投合しているようだが、いや白浜君よ、いきなりその話題を出すかい?

 女性恐怖症なら、そんな相手…………あれ? この慌て方は、ひょっとして居る?

 いや別に居てもいいんだけど、明日奈は……あら、完全に気にしてないな。むしろ気が楽になったとでも言わんばかり。

 完全に桐人君に未練…が無いのは分かってたが、男として興味を失っているようだ。むしろ、自分が心に傷を負わせた相手が、割と健全な人間関係を築こうとしている事に安堵しているようだった。

 

 …地雷じゃなかったか。セーフセーフ。

 となると、俺もちと気になるなぁ。女性恐怖症を持ちながら惹かれた相手、か。

 野次馬根性が無い事もないが、治療の一環になるかもしれん。ちょっと話してみ?

 

 

「い、いや流石に今からそれはちょっと…」

 

 

 …兄貴分として命令してみようかな? 流石に悪趣味が過ぎるか?

 

 

「あ、挨拶も終わったし、モノノフのお役目があるんで今日はこれで失礼します! そんじゃ明日奈、白浜君もまたな!」

 

 

 走り去る桐人君を、生暖かい目で見守った。

 で、白浜君?

 

 

「聞いた話だと、髪を短めにしたおしとやかな女性だそうです。それ以上の事は聞けてませんね」

 

 

 ふぅむ…。桐人君が惹かれた相手…単純に考えれば、女性恐怖症の切っ掛けとなった明日奈の真逆を行く女性とか?

 例えば活発・好戦的 ⇔ おしとやか・引っ込み思案

 髪が茶髪で長い⇔黒髪で短め。

 スタイルは……明日奈は結構出るトコ出て引っ込むトコ引っ込んでるけど、当時は二次性徴が始まるかどうかってくらいだから…その逆とすると、結構デカい? うーん、ここは想像でしかないな。

 

 ま、所詮は想像か。関わっていくうちに、誰が相手なのか分かる事もあるだろう。

 

 

 

 

 

 

 さて、拠点としている宿に戻ってきた訳だが…明日奈は熟睡中。一晩中盛っていた疲れが噴き出したようだ。まぁ、満足そうに眠ったし、俺もすぐ傍に居る訳だから良しとしよう。

 昨日は木綿季として観光に出掛けていた神夜も戻ってきており、こちらも熟睡中。土井によると、朝方にようやく戻って来たらしい。むぅ、朝帰りとは不埒な。…俺達もそうだった。

 

 で、今日は俺達は非番、お休み。…と言う名の警護である。

 誰のって、そりゃ相変わらず眠り続けている、異界の中から連れ出してきた褐色ちっぱい少女のだ。

 大っぴらにすると、彼女の関係者…実験体扱いしていた奴が気付いて何か仕掛けてくるかもしれないので、ローテーションで宿に留まり、警護を続けているのだ。

 

 しかし、この子本当に大丈夫かな…。容器から連れ出してきたのは、失敗だったかもしれん。

 何せこの子、目覚める気配が全くない寝たきり状態なのだ。

 …飲まず食わずで寝たきりって、どれくらい生きてられるんだっけ…。健常者でも3日保てばいい方だったと思うが。

 流動食みたいなものを作って、顎やら喉やらを圧迫して無理矢理食わせている(そして排泄もさせている)が、このままだと冗談抜きで衰弱死する未来しか見えない。

 俺達だって、いつまで面倒を見られるか。引っ張り出してきて、思い通りにいかないから放り出す…なんて事はできないが、実際目覚めないものは目覚めないんだしなぁ…。

 

 

 どうにかできないかと、警護担当者は持ってきた資料を漁る事が多い。

 未だに目覚めていない事から分かるように、成果が上がっているとは言い辛いが…それでも多少、分かった事はある。

 

 

 連れ出してきた少女の名前は雪風。個人としての戦闘力に重きを置いて改造された(或いは錬成された)少女だ。

 個体名ではなくシリーズ名なのかもしれないが、とりあえず他に呼び名が無い。もし起きてから本人が嫌がれば、その時に改名すればいいだろう。

 何やら発電能力を持っており、それを専用の道具に流す事で強烈な攻撃が出来るらしい。

 

 

 …そんな道具見かけたっけか…? あの施設の中は大雑把に見ただけだが、武器の類があれば確実に持ってくると思うんだが。あそこで見つかったのは、意識不明の女性以外では資料ばっかだったし。

 あの施設は、見られたらまずい物の保管庫のようだし、武器だけなら大して問題はないから放り込まれなかったのかもしれない。

 うん、でも次に行った時にもう一度探してみよう。

 

 

 

 で、分かった事がもう一つ。彼女達(男も居たけど)は生体兵器の類として作成・使役されていた訳だが、その統率役となる個体(或いはシリーズ)が居るらしい。

 その名は『浅黄』。高い戦闘能力、滅鬼隊の隊員を統率する指揮力、更には男好きのする外見と、全ての技術を注ぎ込んだハイエンド個体だそうな。

 資料から読み取れる特徴を見る限り、それっぽいのが何人か施設に居たなぁ。どれが浅黄なのか、或いは全てが浅黄なのかは分からないが。

 

 

 …もし、この雪風とやらと友好的な関係を築けたら、次はこの浅黄を連れ出してみるか。

 統率役ってくらいだし、他の滅鬼隊への絶対命令権とか組み込まれていても不思議ではない。もしそういう機能があるのであれば、彼女一人を説得できれば後が楽に進みそうだ。

 それに、ハイエンド個体の戦闘力がどれくらいなのかも気になるしな。

 

 

 

 

 

 …と、ここまでの事が判明している訳だが、更なる事実を探し、そして雪風を目覚めさせる為、、明日奈と神夜の寝息が響く横でオレは資料を漁っていた。

 資料は途切れ途切れだが、幾つか気になる記述も含まれている。

 失敗作がどうの、能力が高くても使い物にならないだの、胸糞悪い言葉だが……そこまで読み込んで、ふと気になった。

 

 カタログスペックにある程の高性能でありながら、何度も失敗したり、傷を負ったりしている…という記載がある。

 確かに、スペック表がハッタリでないのなら、鬼は勿論人間相手でもそうそう不覚は取らない筈だ。なのに、失敗、手傷を負って戻って来た、その他諸々…。

 

 ……高い能力を活かしきれていないのか、それとも過信や慢心によるものか。

 どちらか判断が付きかねたが、一番気になるのは、眠っている雪風の体だ。

 おかしな意味ではない。何気にエロスを感じる少女だが、今問題にしているのは彼女の体に傷跡があったかどうか。

 

 …ここに連れてくるまでの記憶を思い出す限り、傷跡らしい傷跡は無かった。新旧問わずだ。

 あの培養槽みたいな容器が、傷跡一つ残さない治癒能力を持っている…というのは考え辛い。

 

 何度も傷を負っている筈なのに、その跡無し。

 と言う事は…『この』雪風は、『新品』なんだろう。まだ一度も任務に出た事もない、下手をすると起動…目を覚ました事があるかさえ怪しい。

 

 ついでに言えば、スペックの割に失敗が多い理由も分かった。過去の経験が無いからだ。

 使い捨てにされ、酷い傷を受ければそのまま破棄。失敗した理由も考える事も出来ず、次の者に伝える事もできない。そして、次の者は…前任者が失敗したと聞かされるかもしれないが…何を警戒すべきかも分からず、頼りに出来るのは無暗に高められたスペックのみ。

 そりゃ暴走も慢心も失敗もするだろう。

 ……そこまでハイスペックの生態兵器を、平然と破棄できるって言うのがよく分からんが…俺の想像が間違っているのか、維持を考えなければ割と格安で『製造』できる類だったのか、それとも使役者が阿呆だっただけなのか。

 

 ともあれ、『雪風』『浅黄』という名は個体名ではなくシリーズ名で間違いなさそうだ。

 

 

 

 …個体名があるかもしれないが……彼女達が使い捨ての道具扱いされているのだとしたら、態々名前を付けるとも思えない。

 どこの胸糞ブタ野郎だ、こんな杜撰な扱いしてやがったのは…。

 

 思わず苛立ちが籠った声が漏れる…その時。

 

 

 

 

 

「…………う……ん…?」

 

 

 

 …へ?

 雪風がモゾ、と体を動かした。驚いて顔を覗き込むと、茫洋とした目が開かれる。焦点が合っておらず、口を半開きにしたまま力なく視線を彷徨わせる姿は、少女と言うより痴呆老人のようだった。

 いや、赤ん坊か? 目は見えているけど、そこに映るのが何なのか、全く理解できていない。そんな表情だった。

 

 

 目が合った。

 

 

「………だれ…?」

 

 

 誰って…答えようとした瞬間、目を見開くような事が起きた。

 赤ん坊のようだった、良くも悪くも無垢そのものだった表情が急激に変わっていく。表情だけでなく四肢に力と活気が漲り、瞳に意思が宿る。

 

 名を名乗る前に、彼女は飛び起きた。

 腰元と枕元、そして周囲を確認して驚愕に目を見開く。

 

 

「こ、ここは!? 私の雷銃は!?」

 

 

 騒ぐな! 二人熟睡してるんだから。

 ここは霊山の宿の一室。雷銃ってのは知らん。何だそれ。

 

 

「何って……私の……私の? …?」

 

 

 ぱちくり。瞬きの後、彼女は頭に手をやって首を捻った。

 またも視線が揺らぎ、不安らしき感情が滲みだしてくる。

 

 …実のところ、雷銃とやらには心当たりがある。名前の通り武器のようだし、資料に書かれていた雪風シリーズ用に特別に作られた道具なんだろう。ただ、やっぱりそれがどこにあるのかは知らないが。

 

 

「えーっと……私の? いやそもそも私…私って…? ………ねえ、私って誰?」

 

 

 それを俺に聞くんかい。

 誰って言われても、こっちが聞きたいくらいなんだが。とある破棄された施設の中で、眠っていたのを見つけて連れ帰って来ただけじゃい。

 

 

「そうなの? …じゃあ、私の名前知ってたりしない? 何にも思い出せないんだけど」

 

 

 …記憶喪失?

 

「じゃないの。思い出せないって事は」

 

 

 そんな他人事みたいに。

 

 

「そう言われても実感ないし。思い出せないのは確かだけど、何か忘れてるとか、こう…不安とかは何も感じないのよね」

 

 

 呑気な子だなぁ…。

 実際のところ、「思い出せない」じゃなくて最初から何も持っていなかったんだろう。『起動』したのも今回が初めてなんだろうし。

 体を改造される前の記憶がどうなのかは分からないが。

 

 

「でも名前くらい無いと不便よね…それだけでも思い出せないかしら」

 

 

 それっぽい物なら心当たりはあるぞ。納得がいったら、それを名前にすればいいんじゃないか。

 えーっと、資料資料…。

 

 

「…それは?」

 

 

 お前と一緒に見つけた何かの記録。えーっと、人名らしきものは…。

 浅黄、紫、紅、沙耶根尾、桜、タコさんスレイヤー、雪風、凛子、骸佐、「あ、それ何かしっくり来た!」…骸佐?

 

 

「違うわよ! 雪風よ、雪風! ていうかそれ、男の名前でしょ! それ以前にたこさんすれいやーって何」

 

 

 世の中にはカミーユが男の名で何が悪い、という名言があってだな。あとタコさんスレイヤーと言えば漁師かタコ焼き屋じゃないか。

 

 

「髪結いは別に名前じゃないと思うけど。まぁいいわ。とにかく私の名前は雪風よ。それでよろしくね!」

 

 

 お、おう…ノリでここまでやっちゃったけど、いいのかな。シリーズ名っぽいのに…いやそもそも、この子は自分が何なのか全く把握できてないんだぞ。思わず隠蔽して何も知りません、って顔しちゃったが…。

 どうしよう?

 

 

「…で、結局ここって何処? 私ってどうなってた訳?」

 

 

 …話してみた感じ、割と頭が弱いというかチョロい子っぽいから、誤魔化すのも露呈した後にフォローするのもそう難しく無さそうだけど…。

 とりあえず、他の皆に相談するとしようか…。

 

 

 

 

 

 

 

 



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437話

PCを起動させるのに、3回強制電源オフして5分立ち上げを待たなきゃならんのだが。
いい加減PCが古くなってるって事を考えても、いい加減にしてくれWindows 10。
元開発者の端くれとして大変な作業だってのは分かるんだけど、一体何やってんだよ…。
更新される度にDefenderをオフにしないと、ブラウザが動かなくなるんだよ…。



雪風ちゃん大人気w
感想が久々にどんどん来て、色々励みになりました。
この中の何人が、アンケートで雪風に投票したのかなぁ…。

ところで、色々考えてましたが結局EDFアイアンレイン買いました。
そして3日でクリア。
これからハード以上に挑戦してきます。

今回は、なんかこう…アッサリ風味と言うか、お手軽と言うか、違うと言うか。
いや楽しめたんですけどね。
演出重視のEDFって感じで、新鮮な感覚でした。
反面、「こういうキツさを求めてるんじゃないんだが…」とも思ってしまう。

何より、EDF!が一回しかなかったのがッ…!
歌を! 歌を歌え! ガンパレードマーチよろしく歌うのだッ!
あーおい地球を守るためーッ!
燃えたぎーる闘志のタフガイだーッ!

…公式で歌の募集とかしねぇかなぁ。
ブリキ大王なノリの奴を送り付けてやりたい。


 さて、正式に雪風と名乗る事になった滅鬼隊の少女。

 お気楽かつ頭が緩い…ゲフンゲフン、実体験からくる経験が全く無い為、物事を深刻に考える事ができない彼女。話した限りでは、初対面の相手にも割と気安く、警戒心と言えるものは全く見受けられなかった。

 だからこうして全員に招集をかけ、話し合いに参加させても大丈夫だろう…と思っていたんだが。

 

 

「……………」

 

 

 さっきまでの威勢のよさは何処へやら。俺の背中に隠れて、怯えるように縮こまっている。

 明日奈と神夜から『何をやらかした』って顔で見られてるけど、本気で俺には心当たりがないぞ。

 

 

「やぁ、目を覚ましたんですね。よかった…。あ、僕は白浜です。よろしく」

 

「………よ、よろしく」

 

「(知らない人を警戒する猫みたいだ)」

 

 

 背中からちょっとだけ顔を出し、一言呟くとまた隠れてしまった。

 単純に、知らない相手が急に増えたから怯えてるのだろうか?

 

 

「(…伝子さんに怯えているという可能性は)」

 

「ちょっと半助、何か言った?」

 

「いえ何も」

 

 

 ……ありそうだなぁ。迫力あるもの、色んな意味で。

 しかしそれだけでも無さそうだ。俺を除いて、最初に雪風と接触したのは神夜。中身は戦狂いで非常に物騒な女だが、一見すると超爆乳のおっとり少女。怯える要素など………まぁ、ひんぬーにコンプレックスを持っている等の特殊な事情が無ければ、まず無いだろう。

 次にやってきたのは、優しそうなお婆ちゃん姿の山本先生。これまた、怯えるような要素は全く無かったと思う。実際、彼女も初対面の相手を警戒させまいと姿を作ってやってきたようだったし。

 

 続いてやってきた伝子さんとチンゲン斎は……まぁ、何だ、何も言うまい。伝子さんの問答無用の迫力と、チンゲン斎のデカ頭+悪人面は、気の弱い子なら怯えられるのも分からんでもない。

 

 人が多くなってきて、ようやく目を覚ました明日奈は…本能でその獣性を察したとか? しかし、それも昨晩しっかり満足させた事で鎮まっていると思うけど。

 で、最後にやってきたのが、土井さんと白浜君。この二人は本当に怯えられる理由が分からない。

 

 

 

「…目を覚ましたのはおめでたい事だけど、何か問題でもあったのかしらru? そもそも、どうやって目を覚まさせたの」

 

 

 それがさっぱり。皆がやってたように、この子が寝ている横で資料を読んでただけだ。単純に、時間の経過で目が覚めたんじゃないのか?

 

 

「かもしれないけど、前兆は全く無かったのが気にかかる。勿論、目覚め全てに前兆があるとは限らないけど、何かの切っ掛けがあったと考えた方が辻褄は合う」

 

 

 そう言われてもな…。実際心当たりはないし。

 

 

「あの、目が覚めた切っ掛けが気になるのは分かりますけど、今からどうするかの方が大事なのでは? 僕個人としては、目が覚めたんだからいいじゃないか、としか考えられませんけど」

 

「白浜、確かに貴様の言う通りだ。個人であれば儂もそう考える。だが、忘れておらぬか? この娘と同じ状態の者が、まだ残っておるのだぞ」

 

「あ…」

 

「目覚めに何かの切っ掛けが必要なのであれば、それは把握しておかねばならぬ。さもなくば、連れ出したところで時間をかけて衰弱死という結果になりかねん。そして、こやつらの境遇を鑑みるに、不意に目覚めぬよう安全装置が仕掛けられている可能性は極めて高い。事実、こやつらは保存されていた施設の中で、少なくとも数年以上は目を覚ます事なく眠り続けていたではないか」

 

 

 …反論の余地が無いな。ただ一点、どれだけ予測しても検証のしようが無いって事を除けばな。

 雪風は既に目を覚ました。普通の睡眠から目を覚ますのにも切っ掛けが必要とは流石に考え辛い。そして、当の本人は起きる切っ掛けどころか、眠りにつく前の事はなーんにも覚えてないと来た。

 忘失だよ、忘失。

 

 

「…忘失…?」

 

「それはまた大変ねぇ…。大丈夫? 私達でよければ力になるから、しっかりね」

 

「…う、うん…」

 

 

 3頭身くらいのやさしいお婆ちゃんバージョンの山本先生が、雪風の肩をポンポン叩いて元気付ける。完全に、孫をあやす祖母の絵面だ。

 

 

「(…おい、忘失と言うよりは…ひょっとして最初から?)」

 

 

 勘がいいね、土井さん。多分その通りだ。

 

 

「(それだけでなく、恐らく本来であれば刷り込まれているような知識も、まるで手付かずだったんだろうな。今見ている状態だと、捨て石扱いだとしても任務には仕えないだろう)」

 

 

 ああ、成程。本来なら、自分の名前や立場、考え方や戦い方をインストールした状態で起動させるのか。

 それも、恐らくは起動直前に行われる作業。それをされずに保管され、そして目を覚ました為に、自分の名前も知らず、与えられる役割も知らず、専用の道具の事も知らず、と言う状態になった訳か。

 今不安げなのも、これだけの人に囲まれて、どうすればいいのか全く分からない為だろう。

 自分の核、拠り所となるモノが全くない為、俺達にとってはよくある状況でも、雪風にとっては初めての経験。

 

 …しかしそうなると、俺に対して妙に気安い理由が分からないのだが。

 

 

「(そこは何となく予想がついたというか……君の方が余程敏感だと思うんだけどね。まぁ、この場合あまり嬉しい理由ではないと思うが…下手に拒絶すると、精神的に不安定になる恐れがある。受け入れてあげなさい)」

 

 

 ? 俺が敏感って…そりゃ不感症じゃないけども。

 それにこんな怯えるちびっこを突き放すような人間にはなれません。それは鬼だろ。…半分鬼みたいなものだけど。

 

 土井は小さく溜息を吐き、またしても胃を擦るようなしぐさをしながら自分の考えを口にする。

 

 

「すまない、色々考えたんだが、この際彼女には分かっている事全てを告げる方がいいと思う。酷い衝撃を受ける事になると思うけど、いつまでも隠していられない」

 

「土井、私は賛成できないわ。この子にそんな重荷を背負わせようと言うの?」

 

「……お婆ちゃん…」

 

 

 はやくも山本先生がお婆ちゃん認定されいてる件。これ、若い方の姿を見せたらどうなるのかな。

 

 

「私は半助に賛成よ。…とは言え、早すぎると思うけどね。この子は今、何も分からない状態なのよ。知りたがれば話していいと思うけど、そこに境遇だのなんだのを詰め込む意味はあるの?」

 

「僕は……伝子さんと同じく、本人が知りたがった時に、でいいと思います。ですが、せめて落ち着くまでは待つべきです。…と言うか、そもそもまず外に出してあげるべきでは? 記憶がないのでは、外がどうなっているのかも分からないでしょう」

 

「そのような事を言っている場合ではあるまい。この娘の事を知ったら、九葉が確実に行動に出るぞ。どのような目的があっての事かは知らんが、悠長にしている暇はあるまい。一刻も早く自分の立場を理解させねば、必ず大きな隙となる」

 

「私は……………うぅん……知らせるべき…かな。ひょっとしたら、記憶が戻る切っ掛けになるかもしれないもの。…木綿季も同じ意見よ」

 

「難問極まりないですね…。そもそも雪風さん、ご本人の意思は?」

 

「……………」

 

 

 ん、なになに? …色々話しているようだけど、何を問題としているのか分からない? 本人の筈なのに蚊帳の外?

 …確かに。ちょいと盛り上がり過ぎたな。

 

 …ところで、牡丹の考えはどうなんだ?

 

 

「……………はい、……はい。牡丹様は、分かっている事は全て伝え、衝撃を受けるようなら僕達全員で支えるべきだと考えています。雪風さんの後にも、同様の人達が控えているし、彼女達に関する資料も飛ばし飛ばしとは言え揃っています。どの道、遠くない内に気付いてしまうだろう…。そして、この件は僕達が思っている以上に規模が広い、本当に彼女を無事でいさせたいなら、酷であっても本当にやるべき事をやらせるべきだ、と」

 

 

 そうか。

 確かに、楽観視していた節は否めない。九葉のおっさんが何を考えているのか分からないだけでなく、彼女達の実験資料と思われる物があったのは、あの施設だけではないのだ。

 両さんが異界の塔から拾ってきた、俺達が霊山の人体実験を知る切っ掛けとなった資料…。何故あんなものが、そんな所にあったのか。意図して破棄したものだとすると……ひょっとしたら、あの施設に入りきらなかった雪風の同胞達が、異界の何処かに破棄されて眠り続けているのかもしれない。

 …一通り、意見は述べたな?

 

 

「貴様がまだだろう」

 

 

 確かにそうなんだが、この子の様子を見ていると、俺が白と言えば黒いものも白にしそうでな…。

 悪いが黙秘と言う事にしておいてくれ。

 

 ともあれ白浜君の言う通り、まずこの子には外の状況を見せるべきだと思う。今後どうするにせよ、まず状況や常識を知らなきゃ話にならん。

 

 

「そこは同感だ。土井、このまま出歩かせても問題はないか?」

 

「無いだろうな。彼女が特別な秘密を抱えた身だったとしても、数年間あの施設に居たんだ。当時に接触していた者と会わなければ、出所が露見する危険は少ない。むしろ、下手に変装をした方が注目をひいてしまうだろう」

 

 

 …この人、何気に雪風を餌にして、霊山の闇を引っ張り出そうとしてないか? もし問題が起きたり、その当時接触していた者が現れれば………まぁ、言葉にはするまい。

 んじゃ、とりあえず必要なのは…身嗜みだな。寝たきりだったからなぁ。体を拭くのくらいは女性陣でやってたけど、とりあえず風呂入ってサッパリするといいだろう。

 

 …別にクサイとか言ってるんじゃないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、そのようにして今後の方針が決定された訳ですが…現在私は、宿に設置された風呂場の前で、三角座りしながら黄色い声を聞いています。

 

 

「ねえ、居る?」

 

 

 居るよー。

 

 …一応言っておくが、何か反省させられている訳でも、女性風呂を覗こうとしている訳でもない。

 ただ雪風が、俺から離れると急に情緒不安定になってしまうというだけだ。風呂に入る為に離れるだけでもだ。

 

 今は山本先生(お婆ちゃんバージョン)が一緒に居るのと、こうやって浴場外で待機しているのを頻繁に確かめる事で、何とか平静を保っている。

 なお、一緒に神夜と明日奈も入浴している。これは雪風のお世話と言うよりも、俺が欲望に負けて覗いたりしないかを警戒しているようだ。…自分達が俺に見られるのは全然問題ないけど、雪風は駄目って事ね。

 

 確かに、妙に俺に懐いているというか依存している雪風だし、覗くどころか迫ったら即ハメまで持っていけると思う。

 他の女に手を出すな、って事ではないだろう。二人だけでは体が保たないのは文字通り身を以て知っているし、今までも雪華風華練の姉御と立て続けに関係を持っても、ちょっとヤキモチ妬くくらいで怒りもしなかったんだから。…そう仕込んだとは言え、都合のいい話よのぅ。

 多分、ちゃんと口説いて合意の上でならいいけど、依存されてなんでも受け入れるような状態に付け込むのは許しません、って事だろう。許される事とそうでない事の境界線が、かなり曖昧だなぁ。

 

 

 

 

 が、誤解を招くのを承知で言うが……今覗きたいのは、雪風の裸よりも、明日奈と神夜がキャッキャウフフネチョネチョしている場面でもなくて、山本先生の姿なんだよなぁ…。

 お婆ちゃんバージョンでも美女バージョンでもいいけど、あの体型変化をどうやってるのか、変装している状態なのかそうでないのかすら分からんけど、エロじゃなくて好奇心的な意味で見てみたい。

 下手に知ってしまうと、ディ○ニーのキャラクターを使用した二次創作みたいに密かに消されてしまうような、知ってはならない暗黒面を覗き込みつつあるような、そんな予感がして動くに動けないんだけども。

 

 

 

 

 暫し懊悩している間に、桃源郷&暗黒面を覗き込むチャンスは終わってしまった。

 体を洗い、恰好を整えた雪風達が出てきたのだ。なお、入浴時間は15分程。その間に待機しているか確認された回数は、少なくとも2桁後半である。

 

 

 着替えた雪風は何というか随分様変わりと言うか…イメチェンかな? いや目を覚まして半日も経たずにイメチェンも何もないんだけど。

 ふむ、伸ばしたままの髪も良かったが、ツインテールか。似合う似合う、可愛いじゃないの。

 

 

「ん、これ? 特に考えてた訳じゃないんだけど、何となく自然と…落ち着くと言うか…。お婆ちゃんが色々試している内に、これに落ち着いたの」

 

「綺麗な髪なんだから、ちゃんと見てもらえるようにしないとね」

 

「うん、お婆ちゃんありがとうね」

 

 

 んー……そういや、資料にあったカタログスペックで、雪風型の髪型についても言及があったような…。

 これもデザインされた機能・外見の一部なんだろうか? そうだったとして、何をどう意図して設計されたのやら。…つか、あの施設に居たのは美男美女ばかりだったし、巨乳とちっぱいの両極端なのだったし、製作者の好みや欲望が透けて見えるわぁ…。

 

 

「それで、これから外に行くのよね。何処行くの? …一緒、だよね?」

 

 

 一緒だよ。俺から離れると、雪風は途端に挙動不審になるからな。

 

 

「へ、平気よそのくらい! あんたが居なくたって! …でも一緒に来なさい」

 

 

 ヘタレるなぁ。まぁ仕方ないけど。それだけ、自分の土台ってものを持っていないんだ。

 で、何処に行くか、か……。

 俺個人としては、書庫に行きたいんだけど…。

 

 

「しょこ?」

 

「本が沢山あるところ、くらいに考えればいいですね。騒いじゃ駄目ですよ」

 

「ええ~……」

 

 

 あからさまに気乗りしない、という表情おの雪風だが、別のところに行きたいとは言いださない。

 

 

「本は嫌いなの?」

 

「ん~……知ってはいるけど、読んだ事ないから分からないわ」

 

「だったら、そんな顔しなくてもいいでしょうに」

 

「そういう気分になったの。…前の私は、本とか嫌いだったのかもね。むしろ、外で体動かしてる方が楽しそうよ」

 

 

 確かに、見るからに活発そうな印象だもんな。そんなら、用事を済ませたら道場にも行ってみようか。

 子供向けの催しとかもやってるから、楽しめるんじゃないかな。

 

 

「誰が子供よ!」

 

 

 君だ。……生い立ちを考えれば、0歳児とさえ言える子供なんだよ。

 



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438話

 

 

 さて、そういう訳で雪風を連れて、俺・明日奈・神夜・こっそり木綿季の5人体制で霊山に乗り出した。

 最初は静かにしてなければいけない書庫に向かうと言う事で、ちょっとブーたれていた雪風だが。

 

 

 

「……………(グッタリ)…」

 

 

 

 書庫に到着する頃には、すっかりとグロッキー状態になっていた。

 デフォルメされて、力なく横たわるその姿。起きているのか寝ているのか分からない目、機能しているのか疑わしい鼻、どこにいったのか分からない口、移動するには横に転がっていく無気力さ、

 たれ雪風と命名しよう。

 

 何でこんな事になっているかと言うと……一言で言えば、人混みに酔った。

 元々、知らない人が数人いるだけでも怯えて俺の後ろに隠れてしまう程の人見知りだ。大路地を進むだけでも、そりゃ大変な気力が必要だったろう。

 実際、パニックを起こしかけた事も一度や二度ではない。手を握ったら、何とか落ち着いたけど。

 

 明日奈と神夜にも励まされ護衛され、何とか書庫まで辿り着いた訳だ。

 書庫の静けさが、今の雪風には逆に心地よいようだ。

 

 

「……あの、寝る所探してきましょうか?」

 

「………………いい……ここでだれてる…」

 

「…有無を言わさず連れて行った方がよさそうね。しかし、ここまで消耗するとは…雪風が知っている街の風景とは、全く違ったって事かしら。特に人の数が」

 

 

 かもな。遊園地にやってきて、いきなりお化け屋敷に放り込まれた子供と、都会に初めてやってきたお上りさんを掛け合わせたような騒ぎっぷりだったからなぁ。

 もうちょっと静かな道を通れば、知らない町の風景を楽しむ事くらいはできたかもしれないが。

 

 帰りはそっちの通路を使ってみるか。

 

 

 

「ところで、突然書庫にやってきて、何か用でもあったのですか? 私も、本を読むのは嫌いではありませんけど」

 

「ここ、貸本屋も兼ねてるのね。…雪風の寝物語用に、昔話の本でも借りて行こうかしら」

 

 

 お、それはいいな。今の雪風は完全に子供同然だから、情操教育にも使えそうだ。

 で、俺自身の用事だけど……ちょっと本を探しててな。前にここに訪れた時には、必ず読んでたもんだ。

 

 

「愛読書ですか。興味深い事極まりないです。どのような本です? 司書さんに探してもらいますか?」

 

 

 いや、多分あれって普通の本じゃないから…多分、探すまでも無く自然と見つかると思う。そうでなければ、どうやっても見つからないか…。

 すまん、ちょっと雪風の面倒を見ててくれ。これだけ疲れてれば、逆に混乱して騒ぎ立てる気力もないだろ。

 

 

 

 

 

 …さて、そうやって一人になり、人目のつかない一角にやってきた訳ですが。

 何を探しているのかは言うまでもないだろう。恒例の、オカルト版真言立川流指南書だ。

 我が人生のバイブルにして、色々な意味で人生を狂わせた一冊。

 巻数不明で著者不明、何の為に書かれたのかも分からず、それどころか書かれている内容は普通の人では実践できない技術のみ。偽書扱いされ、書庫にも保管されている事すら把握されていなかったという、一般的に全く意味のない代物だ。厨二病患者がチラシの裏に書きなぐり、ついつい投稿してしまい、後になって身悶える糞小説に近い代物だ。……何故だろう、心が痛い。

 

 その偽書同然のバイブルは、どういう訳だか俺がループを重ねて霊山の書庫に来る度に、新しいものが発見されている。運命的な物を感じなくもない。絶対にロクでもない運命だけど。

 前回見つかったのは、裏真言立川流指南書・其之参だったか。表と裏があるとか聞いてないんだが、それはともかくとして。

 もしも運命的なモノが本当にあるのなら、こうして一人になってフラフラしているだけでも、自然と手元に転がり込んでくる筈。

 

 さぁ、どうだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………あったよ、本当に。

 

 うっはぁ…これ、絶対誰か仕組んでるって。でも誰が? クサレイヅチ……じゃないよな。もしそうだったら……これに関してだけは感謝するべきだろうか。千歳達を奪ったのはクサレイヅチだが、彼女達と結ばれる切っ掛けになったのがこの本でもあるんだよな…。

 …まぁ、後で考えればいいか。本当にクサレイヅチが仕組んだものだって確証も無いし。

 

 ともあれ、俺の手元にあるのは数枚のメモ用紙。…うん、ちゃんとした本じゃないんだ、メモ用紙なんだ。走り書きなんだ。

 これまでの指南書は、偽書扱いであってもちゃんとした本として保管されていた。束ねられ、表紙背表紙も付けられ、中身も清書されいた、題名も書かれていた本だった。

 しかし、今回のこれは違う。殴り書き、走り書き、訂正の後が幾つも記載されていて、表紙もとってつけたようなペラペラの紙一枚。本とさえ言えない有様だ。

 

 これを見つけたのは、書庫の棚の一角。ズラッと並んだ本が、一部だけ無くなっていた。誰かが借りて行ってるんだろうと、何となく目を惹かれて…そこの本の後ろに、何か紙があるのに気が付いた。もしもここの本が借りられていなかったら、並んだ本に隠れたままで、全く気付く事はできなかっただろう。

 異様な寒気を感じつつ、手前にある本を退かして、その紙を手に取ってみると… 陳腐極まりない表紙にこう書かれていた。

 

 

 オカルト版真言立川流指南書未完

 

 

 

 と。

 

 

 

 

 

 はて。 未完? みかん? 蜜柑?

 

 

 ○刊とか、表とか裏とか亜流とかじゃなくて、ミカン?

 いや、確かに本として完成しているとはとても言えないけども。そういう意味では未完と言うのも頷けるけども。

 …しかしなんだな、未完と言うとどうしても思い浮かぶな……男坂り、だったか? オレはようやくのぼりつめはじめたばかりだからな、このはてしなくふかい男盛りをよ……というフレーズが。 …? 微妙に違う気がする。

 

 まぁいいや。とりあえず内容を見てみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    う   わ   ぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 う     わ     あ    ァァァんまりだァァアァ~~~~~~~~!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ、スッとしたぜ……司書さんに鈍器かと思うほど分厚い辞書で思いっきりブン殴られたけど。

 声を聞きつけてやってきた明日奈は、『なんだいつもの奇行か』って感じでそのまま戻って行ったけど。

 

 

 うん、まぁ…未完なのも分かったよ。

 畜生、理論や理屈がなまじ理解できるだけに、続きが気になりすぎるんですが!? すっげぇ気になるところで中断しやがって…。

 最高に盛り上がったアニメ30分が、野球中継やら何やらで延々と先延ばしにされ、半年くらい後にまで放映されないと知ったような怒りが…! そりゃエシディシさんだって泣きわめきますよ!

 

 

 …まぁ、そこで切られてる理由も分かるんだけどね。

 ちょっと詳しく中身の説明をすると、この指南書は今までの指南書とは明らかに違うものだった。

 これまでの指南書は、体系立って理論と実戦に裏打ちされた、明確な思想と技術を、第三者(俺しか居ないけど)に理解させる為の指南書だった。当然、限りなく分かりやすく、極力矛盾を孕まないよう、添削され、何度も繰り返し推敲されているものだった。

 それに対して、今回の指南書はまるで……そう、超高等な理論を、学会のお偉いさん方に予行演習も資料準備も無しに論文発表しようとしているかのような……要するに、自分でも理論の細部を詰め切れておらず、どう表現すればいいのかも分かっていない。執筆中にも、ああでもないこうでもないと理屈を捏ね回し、考え直してはまた混乱し…を繰り返す。

 要するに、これは誰かに向けての指南書ではなく、研究資料に近いんだ。

 

 何か一つの業…技術を作り上げるまでの、思考や実験結果を片っ端から書き記している。読んでいて非常にもどかしいが、きっと執筆者のもどかしさはそれ以上だったろう。

 頭の中には明確に、それをやれるだけの技術と筋道が見えているのに、そこに至るまでの軌跡を言葉にしきれない。

 

 ついでに言うと、俺の中にも執筆者が作り上げようとしていた技術の輪郭は見えている。だが、それを実行するには幾つか問題があって…多分、執筆者も同じ問題か、もう少し進んだ先の問題にブチ当たったんだろう。

 だから、この指南書はそこで途切れているのだ。そこから先は、執筆者自身にとっても分かっていない事だから。

 この問題を突破するのを諦めたのか、他の指南書に解決した先の事が記されているのか、或いは問題解決の前に死んでしまったのか。

 それとも……邪法として、研究するのを辞めてしまったのだろうか?

 どれもありえそうなのが、困った話だ。

 

 

 そう、邪法。邪法なのだ。

 

 

 この指南書で書き上げられようとしていた技術は、大きく分けて二つ。

 今まで散々淫蕩の限りを尽くし、幾多の女の人生を狂わせてきた俺でさえ、使用するのが躊躇われるような技術が作り上げられようとしている。

 …いや、この指南書が過去に書かれたものだとするなら、既に誰かが完成させているのかもしれない。

 逆に、昨今書き上げられたものだとしたら? …俺以外に、この技術を使える奴が居る。或いは、それと同じくらいリアルに妄想して、理論立てて考えられる奴が居るって事か…。

 

 

 ともあれ、話を戻すが…この指南書が『未完』と題されているのは、それが理由だ。

 最後まで、結論まで記されていないのだ。こりゃ確かに未完だわ。未完としか言いようがないわ。

 

 偶々、草案だけが流れ出て俺の目に留まって、実際にはこの後の指南書が作られているというのならともかく……いや、多分ソレは無い。この指南書の草案が、現時点での最新刊だ。

 だとすると…この邪法を使うか否かも含め、ここからは完全に独力で技術を進化させていかなければならない、と言う事か。

 むぅ、ついに俺もパイオニアの領域にまで至ってしまったか。いや先駆者を名乗るには、まだまだレベルが低すぎるんだけどね。だって相手は人間の女オンリーだし。多少は血が混じってても、我々の業界では一般人の領域を出ない。男の娘なんて序の口、同性も動植物も無機物も平均的な上級者の領域。更には宇宙を冒涜するようなレベルのエロまで辿り着けば、ようやく本当の先駆者の領域だ。

 

 

 うーむ……………難問だ。先人が悩みまくっただけあって、この邪法を技術として確立しようとすると…難しい。難しくはある。

 だけど、出来そうな気もする。いやしかし仮に出来たとしても、幾ら何でもこれはちょっと…。

 

 

 

「おーい、いつまでここに居るのよ」

 

 

 …ん? あぁ。雪風か。なんだ、もう回復したのか。

 

 

「いつまでもへたれてられないわよ。……初めて見た外が、ちょっと怖かったのは否定しないけど…。で、いつまでここに居るのよ。いい加減暇なんだけど」

 

 

 さっきまでタレ雪風やってたのによくもまぁ…。

 背後の明日奈も苦笑してるぞ。

 

 ま、いいか。このままここに居ても、延々と悩んでしまいそうだし。

 

 

「? 何かあったの?」

 

 

 ん、まーね。明日奈や神夜にはともかく、お子様にはまだ早い悩みだよ。

 …おいおい、そんな不満そうな顔するなって。

 いいから行こうぜ。俺もちょいと体を動かしたくなってきた。

 

 

 

 

 …こうして、俺達は一旦書庫を後にした。

 二つの技術が書かれていた指南書(未完)を手にしたまま。

 

 

 

 『烙印』と……こっちはまだマシな技だった…。

 

 

 

 そして、『第六天』についての悩みをそのままにして。

 

 

 

 

 

 

 さて、そういう訳で予定通り、道場にやってきた。直葉ちゃんと会ったあの道場だ。

 今日もここでは子供向けの催しが行われていて、意外と賑わっている。

 

 …そして雪風はと言うと、身長が半分もない子供達に混じって、紙芝居に目をキラキラさせながら真剣に見入っていた。

 

 

「…あれ、放っておいていいんでしょうか? 周りのお母さん方から、何事だって目で見られてますけど」

 

 

 まーいいんじゃねーの。楽しんでるみたいだし。

 子供達には、「おおきいお姉さん」なんて呼ばれて気分よさそうだし。

 

 この後、肌が褐色な事で色々言われて、同レベルで口喧嘩に発展する未来まで見えるぞ。

 

 

「精神年齢が同じくらいなんですねぇ…。ところで明日奈さん、誰か探してるんですか?」

 

「うん、直葉ちゃんが居るかなって。ここの管理人なんでしょ。……その、改めて桐人君の件で、土下座しといた方がいいかなって…」

 

「そこは別にいいんですけど…逆に何があったか知りません?」

 

 

 あ、直葉ちゃん。お元気そうね。

 肩に竹刀を担いで、唐突に出てきた。おう、休憩中か?

 

 

「ええ、自主的に。…実を言うと、日中は割と暇なんですよ。気が向いた時に竹刀を振るったりしてるんですけど」

 

「直葉ちゃん……この度は…いやかなり前だけど、本当に申し訳ないと…」

 

「お兄ちゃんの女性恐怖症の原因になった事は聞いてますけど、私はあんまり気にしてないんで…。逆に、先日からお兄ちゃんが妙に張り切ってたんですけど、何か知りません}

 

 

 張り切る?

 

 

「ええ。相手が女の人だと、色々と怖がって二の足を踏んでたんですけど、『今日こそは幸と話をする!』って妙に張り切ってて…。ちなみに今のところ、話す以前に会えず終いです。仕事が忙しいらしくて」

 

「幸? …って誰? ああ、そういえば白浜君が言ってた、桐人君が気になってる人って」

 

「その幸さんです。モノノフの槍使いだって聞いてます。何度か一緒に戦った事はあるらしいんで、名前くらいは覚えてもらってる……と、思います」

 

「断言しないんだ」

 

「私も直接会った事はないんで…。上手く行くといいですね。お兄ちゃんにようやく春が来たって感じです」

 

「その節は誠に」

 

 

 それはいいから。

 ちなみに、気になってたりはしないのか? こう、私のお兄ちゃんがどこの馬の骨とも知れない輩に、って。

 こういう場合、兄に懸想していた妹が一騒動起こすのが定番なんだが。

 

 

「血の繋がったお兄ちゃん相手に、そんな事言いませんよ。それに、お兄ちゃんが女性に関して散々へたれているのを見てきましたからね。勇気を出そうとしているんだし、素直に祝福します。…と言うか、血の繋がった兄妹がどうのと言う以前に、自分に怯えている人を恋愛対象として見るのはちょっと以上に難しいです」

 

 

 血が繋がってない可能性がワンチャン…って、これは口に出さない方がいいな。ご両親が他界して、もう確かめる方法もないだろうし、唯一の家族が実は他人でした、なんて家庭板案件を掘り出す理由も無い。

 

 

「…で、話を戻しますけど、お兄ちゃんに何があったか知りませんか? 一応家でも聞いてみたんですけど、尊敬する人が出来ただの兄貴がどうのと、よく分からないんですが」

 

「兄貴っていうのは、この人の事だと思うけど…」

 

「要するに、先日の語りに感銘を受けて、根性出してみようと思った事極まりないです」

 

「あれだけ臆病だったお兄ちゃんがあんな風になるなんて…一体何を語ったんです?」

 

 

 男の意地と言うか甲斐性と言うか、そう言った事をかなり偏った理屈で少々…。

 間違った事を語ったつもりはないけど、あそこまで様変わりするとは流石に予想外だった。『舎弟してやってください』なんて事まで言い出したし。

 

 

「お兄ちゃんってば……でも、いい変化ではあると思うし…舎弟云々は流石にどうかと思うけど、よろしくしてあげてください」

 

 

 お、おう…。ところで話は変わるけど、グウェンはまだ来てないのかな。

 

 

「グウェンさん、何かモノノフの強化合宿か何かで、暫く帰ってこれそうにないらしいです。師範の人に聞いてみたけど、いつ帰るのかも分からないんですよ」

 

「強化合宿? …そんな事やってるんだ」

 

 

 いや、俺も聞いた事ないな。そういうのがあっても、別段おかしくはないけど。

 と言うか、グウェンが強化合宿って大丈夫かな。人間関係とか実力云々よりも、合宿中に白炎がいきなり大暴れするんじゃあるまいか。

 

 ふむ、グウェンとはなるべく早く接触しておきたかったが…そういう事情なら仕方ないか。

 どのみち、今は雪風やあの施設の事で手いっぱいだ。あまり欲張って、何もかも同時進行させるのはいいやり方とは言えないだろう。

 

 

「ところで…その、お三方にちょっとお願いと言うか、お話があるんですけど…」

 

「? いいですよ。水臭い事は言わずに、どんと来いです♪」

 

「うん、私も…お詫びって言うのもおかしいけど、出来る事なら」

 

 

 神夜の場合、ドンというかブルンと言うか。相変わらず乳揺れが眼福よのぅ。

 で、どしたん?

 

 

「この人から聞いたんですけど……二人とも、『こすぷれ』をしていると」

 

「『こすぷれ』? …って、何です?」

 

「神夜、あれよあれ、その…色んな服を着て、ごっこ遊びをするというか」

 

 

 …何を言われているのか察しが神夜が、冷たい視線を送って来た。妹分に卑猥な話をしてるんじゃない、って抗議だろうか。

 しかしそーいう状況での話じゃないんだよ。

 

 

「…しては、いるけど…それが? あんまり人に話すような話題じゃないと思うけど」

 

「じ、実は私も嗜んでいるんです。それでその、良かったらお話を…」

 

「ちょっ!? な、なにを話せと!?」

 

「え? どういう服を着ているとか、どんな状況で」

 

 

 

 はい待った待った待った。神夜、明日奈、この子が言ってるのはそーいう話じゃない。

 いやある意味合ってるんだけど、この子は服を着てナニをしているとか、そんな話してるんじゃないんだ。

 ただ着飾って遊ぶ楽しさについて語りたいだけなんだよ。

 

 

 …まぁ、俺達の場合、コスプレする=そのままお楽しみって状況が非常に多いけどさ。

 ほら、初めて衣装を渡して着替えてもらった時、普段着ない服だからなんだか昂揚してただろ。ああいうのを楽しむ遊びの事だ。

 

 

「どっちにしろ、大っぴらにする遊びじゃないわ…」

 

 

 だからこそ、初めて同志を見つけて話をしたいって言ってるんだ。

 トチ狂ってとんでもない猥談しようとしてる訳じゃないんだから、付き合ってやってくれ…。

 

 

「ええと……その、何かまずい事でも…」

 

「……いえ…私達が勝手に誤解しただけですので、大丈夫です。それで話とは?」

 

「大した事じゃないんですけど、どんな服装をしているのか気になりますし、一度見せていただけないかな…と。出来れば一緒に『こすぷれ』してみたいんですけど…」

 

 

 一応言っておくけど、普段のアレに混ぜてくれって事じゃないからな。

 この子は単純に、着飾るたのしさを体験したいだけだ。

 

 …で、俺にも話があるんだっけ? 俺はどっちかと言うと、着飾った二人と遊ぶ方だから、あんまり凝った衣装は着ないぞ。

 

 

「でも、本物は持ってますよね?」

 

 

 本物…?

 

 

「はい。『こすぷれ』用の作り物じゃなくて、本当に使える物を」

 

 

 そりゃ…まぁ、持ってはいるが。ナルガとかキリンとか、どう見てもプレイ用だけど本物の鎧…鎧? とかあるけど。あれ、話してたっけ?

 

 

「? モノノフなんですし、幾つか鎧を持っているのは当然なんじゃ…お兄ちゃんも、いつも使ってる本命の武器のほかに、任務に合わせて使い分けられるように幾つか武器防具を持ってますし」

 

 

 ああ、そういう意味か。

 うん、確かに持ってるよ。モノノフ用の道具って訳じゃないけど、ちょっと普通じゃお目にかかれない珍しいのとか、着てそのまま任務に行けって言ったら本気で別れ話されそうな奴とか。

 

 

「…別れるなんて全く考えてませんけど、あの服を作った人は何を考えてるんだとは思いましたねぇ」

 

 

 着てくれる側からすると、素直に嬉しいんだけどな…。まぁ、着てほしいと言うだけでも勇気とかなりの変態性が必要なのは否定しない。

 

 

「いやそこまで極端な服の事じゃないんですけど……参考に見せていただけないかな、と。無理にとは言いませんけど。その、変なのじゃなくて、恰好いいものとかも色々あるんですよね?」

 

 

 俺はいいけど…神夜、明日奈、どうだ?

 

 

「物によります…。あれを着たんだと思われるだけでも、恥ずかしくなる物もありましたし…」

 

「私は…恥ずかしいとは思うけど、まぁ、お詫びの意味合いもあるし」

 

 

 まぁ…だったらいいか。

 そうだなぁ、まず手始めに……こんなのどうだ? この界隈(というか世界)じゃお目にかかれない、開拓地って呼ばれてる場所で作ったヌヌ剣なんだけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 単なるコスプレ、着せ替えの為とは思えない程真剣に見入っていた直葉ちゃん。

 明日奈と神夜は、別の意味で真剣だったけどな。モノノフからしてみりゃ、とんでもない業物だもの。興味も沸くし、振るってみたくもなるだろう。

 

 正直な話、深い意味があって見せた訳じゃないんだ。

 俺もなんだかんだで装備品コレクターな所はあるから、作った物をそれなりに分かる連中に見せびらかしてみたかったし、今後も行動を共にする明日奈や神夜にいつまでも別世界装備を見せないままって縛りも面倒だったし。

 別に見せてもいいよな、って感じでホイホイ渡しちゃったんだ。

 

 

 

 

 後から思うと、すっげぇ軽率だったけど。

 3人がどうこう言いだしたって事じゃない。出所を聞かれたりもしたが、そこはどうでもいい。

 

 問題なのは、取り出した武器に対して、一瞬であるが凄まじい視線を向けられた事である。誰から…なのかは分からない。

 最初は何事も無かったんだ。周囲のおばさま方も、若いモノノフ同志の交流だと思っているのか、特に注目も集めなかった。むしろ子供とマジ追いかけっこする雪風の方が目を惹いていた。

 

 最初のヌヌ剣の時は何も無し、盾を取り出した時も何も無し。

 だが、調子に乗って神機を取り出した時に凄まじい視線を感じたのだ。

 今にして思うと、何でよりにもよってそれを取り出したって話だが。俺以外が触ると呪い(と説明した)で死ぬよーな代物だぞ。見世物にするにしたって、もっと別のモノがあっただろうに。剣・銃・盾・捕食者形態の4段変形する浪漫に溢れた道具なのは確かだが。

 

 ともあれ、神機を取り出した瞬間に、とんでもない圧力の視線を感じた訳だ。

 敵意や悪意を感じた訳じゃない。ただ凄まじい執念と言うか、砂漠で出会ったオアシスを決して見失うまいとするかのような、隅から隅まで目に焼き付けようとしているような、そんな視線。

 

 

 プレッシャーだけで俺に冷や汗を掻かせるようなその視線の主は、残念ながら見つからなかった。視線の圧力もすぐに感じられなくなり、何事も無かったかのような平静が戻った。

 明日奈も神夜もそのプレッシャーは感じていないらしく、神機が駄目なら他の物を触らせてほしいと、直葉ちゃんと一緒になって騒いでいる。

 俺も感覚を研ぎ澄ませてみるが、気配はおろか残滓すら無し。

 

 一体誰だったのか…。

 人か、或いは鬼の類か。

 いずれにせよ、この一件は長引きそうだ。…やっぱり別世界のモノを見せびらかすのは自重しよう…。

 

 

 

 とりあえず、遊び疲れて船をこいでいる雪風を背負って帰った。

 

 



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439話

EDF アイアンレイン、ハードは何とかクリアできたので、ハーデスト以降に挑戦中。
うーむ……適切な装備を選べば大体は何とかなるんだけど、ラスボスがキツすぎる。
最初にノーマルで勝った時はスナイパーライフルで緑エナジーを破壊して、後は途切れない弱い射撃武器で常に上向きで20分。
ハードはどうにもクリアできる気がしなかったので攻略サイトを見て、安全地帯の存在を知ってそこから狙撃でチクチク…。
…安全地帯使ってるから当たり前かもしれませんが、作業感が強すぎる…。
EDF4は窮地からの窮地で必死こいて走り回り、隙をついて一撃を繰り返して落とした感じ。会話の盛り上がり的には神だった。
EDF5は盛り上がりは4には一歩劣ったものの、動き回ってボスの四肢を削いで行動制限して…と躍動感があった。
今回のこれはちょっと…うーむ、HP限界まで上げて正面から突っ込めば…いやハーデストでも普通に死にそう。

と言うか、旗艦バーベナが普通の武器では傷つかないって、ラスボス戦でそれを砦にして戦ってヒントだったんだろうか。
最初の試行錯誤中に試してみたんだけど、雑魚的が群がってきてこのやり方は無理と諦めたなぁ…。


魔禍月伍拾伍日目

 

 

 昨晩は、伝子さんと寝ずの番だったのでお楽しみは無し。

 雪風が一人で寝るのを嫌がって、かなり本気でぐずってなぁ…。心細いのもあるだろうけど、一種のトラウマが刻みつけられているのかもしれない。

 ずーっと眠り続けていたからな。一度眠ったら、もう目を覚まさないんじゃないか…そんな不安を抱えているんだろうか。

 手を繋いで、慣れない子守歌なんぞ歌ってようやく寝付いてくれたが、その隣でオタノシミは流石に憚られる。起きて目撃されると、話が凄い勢いでややこしくなりそうだし…。

 

 

 それに、別に気になる事もあったからな。雪風の事が無くても、どの道徹夜で起きているのは確実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 それはそれとして、昨日の謎の視線だが、思っていた以上に早く進展があった。

 

 

 

 

 と言うか、張本人が真正面から訪ねて来た。面識は全くない人だ。俺だけじゃなく、ザー斎を含めた全員が無い。

 無機質な、どこか人間離れした印象を与えるその男は………人間離れに関しては、俺が言えた義理ではないが………、前置きも早々に、俺に神機を見せてほしいと頼み込んできたのだ。

 

 その男の名は、茅場。隠す事すらせず、陰陽寮に所属していると言い切った変人である。

 …ちなみに、その変人が俺達を訪ねて来た時の第一声がコレだ。

 

 

「失礼する。私は陰陽寮の茅場。君が昨日、道場で持っていた武器を見せてほしい。無論、対価は用意してきた」

 

 

 …別にこう、無意味な前置きとか時世の挨拶をしろとは言わないけども…もうちょっとさぁ…。

 単刀直入すぎて、逆に話が呑み込めない。

 

 

「あの、師匠…陰陽寮って何ですか?」

 

 

 率直に言えば、霊山から追放されたモノノフや研究者の集まりだ。

 追放された理由は、主に非道だったり危険すぎたりする実験、研究…の為だと聞いている。

 

 

「非道な実験って…やっぱり霊山は…」

 

「信じられなかったのかね。君の傍にも、その証拠となるものはあるだろう」

 

 

 そう言って、チラリと雪風を見る。

 本能的にこの男の異質さを感じ取ったのか、雪風は既に俺の背後で縮こまっている。

 

 

「で、でも霊山から追放されている筈の、陰陽寮? がどうしてここに」

 

「追放されている事自体、表向きの話だ。霊山も、陰陽寮に所属する人間全てを把握している訳ではない。そもそも追放処分となったのは、陰陽寮が結成された当初の者のみ。現に私は、霊山の研究者として所属している。組織として友好的ではないのは確かだが、同様に霊山を活動拠点としている者は何人か居る」

 

 

 わぁ~お、アカンやんどう考えても。いや俺だって、虚海と結託(篭絡)したり、秋水が陰陽寮の間諜だって知りながら放置したりと、ズブズブ具体じゃ偉そうな事言えないけどさ。

 …で、武器って、これかい? ヌヌ剣。

 

 

「それにも確かに興味があるが、最も強く気を惹かれたのは、最後に取り出したものだ。恐らくは変形機構が仕組まれており、我々の技術とは全く違った技術で作られている」

 

 

 ………………ちょいと腰を据えて話そうか。

 土井さん、奥の部屋使わせてほしい。…それと、悪いがこの件については明日奈にも神夜にも聞かれたくない。話が凄い勢いでややこしくなるから。

 …雪風、お前もだ。

 

 

「…シノノメの里にとって必要な部分だけは、隠さず話してくれ。それが条件だ」

 

 

 分かった。…と言っても、多分殆ど無いと思うけどな。

 

 

「対価として、それなりの話を持ってきた。これについては、結果に関わらず全て告げる事を約束しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 さて、奥の部屋に入り、茶(ほぼ白湯だが)を入れて向かい合う。

 ………少し観察してみたが、正面からの殴り合いなら昼寝したままでも勝てる。が、そんな愚策を取るタイプではないな。策士、搦め手使い、…厄介なタイプだ。

 何より危険なのは、こいつの冷徹な態度の裏に見える狂的な熱。マッドサイエンティスト独特の気配がする。内面観察術を試しただけで、軽い眩暈まで覚えたぞ…。

 自分の望みの為なら、何もかもかなぐり捨てて、或いは巻き込んで突っ走るタイプと見た。

 

 下手にはぐらかすと、妙な事を考えそうだし…うん。

 

 

 

 茅場、だったか。率直に言えば、神機を見せる事自体は構わない。

 ただし、直接触れる事は禁じる。不満に思うかもしれないが、神機は呪いの品みたいなものだ。下手に生物が触れると、それだけで大怪我をしかねない。

 

 

「神機…と言うのか。儀式に使われる代物とも思えないが、やはり名付けた文化の形態から違うようだな。直接触れなければいいのであれば、道具を使って触れる事は?」

 

 

 構わない。とにかく生身で触れない事を徹底してくれ。

 

 …確認するが、昨日道場で見ていたのはあんただな? 何をしていた? 雪風の監視でもしていたのか。

 

 

「正確に言えば、見ていたのは私の式神だ。そして私は滅鬼隊に興味を持っていない。研究資料に目を通した事はあるが、携わっていたのは全く別の研究者だ。君達を見かけたのは、単なる偶然だ」

 

 

 偶然ねぇ…。随分都合のいい偶然があったものだな。

 

 

「偶然で納得できなければ、運命とでも言えばいいのかね。私にとっては、そう表現しても差し支え無い程の幸運ではあったが」

 

 

 …俺の知ってる陰陽寮の連中は、真っ当な方法じゃ叶わない望みを実現しようとしている奴らばっかりだ。

 過去に遡りたい、歴史を変えたい、とかな。

 お前の望みは何だ?

 

 

「私の望みは一つだけだ。異世界に行きたいのだ」

 

 

 …異世界? この世界ではない何処かへ?

 

 

「その通り。未知と探求に溢れ、この世界とは違う法則の元に成り立ち、そこで暮らす見知らぬ民族、見知らぬ生物、そして文明。私が想像しているものと違う事も多くあるだろう。異世界に向かった先で、これでは何も変わっていないと思う事もあるかもしれない。だがそれでも行きたいのだ。幼い頃から私を突き動かしてきた、ただ一つの願いだ」

 

 

 …で、霊山でその研究をしてるって事か。異世界ってんなら、いっそ異界にでも行ってみたらどうだ。

 鬼達がやってくる元を見つけられれば、その先に異界どころか異世界が広がっているかもしれないぞ。

 

 

「それはもう試した」

 

 

 …マジか。

 

 

「鬼達が溢れ出してくる穴を見つける事まではできたが、どうも一方通行のようで、その先へ進む事は現状では不可能だ」

 

 

 …って、おいおいおいおい! 何をいきなりとんでもない発見してんだよ!?

 鬼が出てくる穴を見つけたって、つまりそれを塞いでしまえば…!

 

 

「穴は複数見つかっている。恐らく、異界のあちこちに同じような穴があるのだろう。その全てを塞ぐ事が出来るならまだしも、一つ二つ塞いだ程度では全く意味が無いだろう。そもそも、塞ぐ以前に干渉する手段すら見つかっていない」

 

 

 …それにしたって大発見だと思うけどな…。

 で、話が逸れたが、あんたはその異世界に行く方法を霊山で研究している訳か。言っちゃなんだが、よく予算が出るな。

 

 

「いいや、私の研究は新たな世界の創造だ」

 

 

 ……? ? ?

 いやあんた異世界に行きたいって…ああ、仕事とやりたい事が一致する事なんてそうそう無いわな。

 

 

「そうでもない。これは私の願いの一環でもある」

 

 

 本気で訳が分からない。

 表情でそう主張すると、茅場は幼稚園児に論文の内容を解説しようとするような表情で、一つ一つ語り始めた。

 

 

 異世界に行きたいと、幼い頃から願い、或いは空想を続けてきた。

 しかし、そんな方法は全く見つからない。

 世界が異界に沈み、別の意味で異世界みたいになってしまったが、茅場の望みはそういう事ではない。

 悩んで悩んで探して研究して、知識と術を求めて陰陽寮にまで入り込み、それでも全く成果が上がらず(まぁそりゃそうだよな)、それでも諦めきれなかった時、霊山から指令を受けた。

 

 

 曰く、『新世界の創造の研究をしろ』。

 

 

 …この時点で、ツッコミどころが満載だなぁ…。霊山は新世界の神にでもなる気か?

 

 

「単に逃げ場を模索していただけだろう。世界の滅びが避けられないのであれば、新たな世界に行けばいい。私にその研究を命じたのは…言っては何だが、私の研究も色物扱いされていたからな。似たような荒唐無稽な話なのだから、私にやらせておけばいいとでも思ったのだろう。だが、私にとってはある意味天啓であった」

 

 

 異世界に行く術がないなら、異世界を作り出してそこに乗り込もうってか?

 筋が通っているのかいないのか…。どう考えても、後者の方が難易度が高いと思うが。

 

 

「そうでもなかったぞ。異界という、私が望んだ形ではないとは言え、現世の法則とは違う法則に基づく空間もあった。見本としては丁度いいし、どこにあるのかも分からない世界を探るより、創造さえ上手く行けば手元で観測・管理が出来る世界の方が、形にしやすかったからな」

 

 

 …まぁ、その辺は実際に研究してる人の感覚だと思うけど。

 で、結局俺の神機に目をつけたのは…。

 

 

「一目見ただけで分かった。あの道具は、異世界で作られたものだ。未知の素材、見知らぬ技術、想像さえできなかった発想、そしてその完成度。断言しよう、この世界の何処を探しても、あのような道具は存在しない!」

 

 

 何処か無機質だった目に、炎が宿る。確実に地獄の業火だけど。

 

 

「君の事も、一晩かけて調べ上げた。凶星月の初めの頃、シノノメの里に突如現れたモノノフ。里一番と謳われていたモノノフを一蹴し、異界を消し去り、一瞬とは言え得体の知れない鬼に変じ、神垣の巫女を初めとした…まぁ、女性関係については私が口を挟む事ではない。君は霊山で任を受け、ウタカタの里へ向かう途中に異界に入り込み、気が付けばシノノメの里付近に居たそうだな。だが、それは有り得ない。君が霊山に所属していた記録はない。オオマガトキが起きて以来、ウタカタに所属するよう命じられたモノノフも居ない。…いや、ここは関係ないな。君が何者であろうと、私にとってはどうでもいい事だ。問うべきなのはただ一つ、異世界についてのみ」

 

 

 …たった一晩で、どれだけ調べ上げてやがるんだこの野郎…。シノノメの里まで、馬を使っても往復に数日かかるんだぞ。

 神垣の巫女が使う、千里眼みたいな術でも使えるのかもしれない。

 

 方法はともかく、こりゃ誤魔化すのは諦めた方がよさそうだ。

 異世界なんて夢見事を本気で信じて探求している上、あらゆる手段で証拠を集め、逃げ道を塞いでくる。榊博士以上に厄介だ。

 何より、この狂気すら感じる執念、執着。確信を持たれてしまった以上、何を言おうと聞き入れはしないだろう。

 

 だが、逆にこれで得た技術や知識を、他の何かに使うとは考え辛い。この男の頭にあるのは、本人も言っている通り『異世界へ行く』という渇望だけ。

 それに協力してさえいれば、この男は妙な事はやらかさない。と思う。思いたい。研究とか実験結果的なアレコレはともかく、敵対したり謀殺したりとか、そういうのは無いだろう。

 何せ、俺は唯一の異世界の手掛かりだ。俺自身が何も分かってないとしても、研究材料として価値はあるだろう。

 

 

 結論。全面協力。

 もし本当に異世界への道が見つかったのなら、鬼をどうにかするとか、GE世界やMH世界へ行く事も可能になるかもしれないのだ。

 

 

「さて…問答はもういいかね。そろそろ、神機とやらを見せてほしい。素手で触るなという話も忘れてはいない」

 

 

 …そうだな。

 裏もないようだし、とりあえずはいいか。…対価として持ってきた情報は後回しでいい。

 ただし、見せる時間は1日に3時間まで。放置しておくと、何週間でも調べ続けそうだからな。

 異世界に関する質問は、その間に受け付ける。それでいいか?

 

 

「構わない。私とて、延々と眺めているだけで満足はできん。神機から得られた情報を纏め、考察せねばならん…!」

 

 

 そう言いながらも、茅場の目付は完全にクスリを前にした薬物中毒者状態だった。

 なんか不安だが、これ以上あれこれ言っても仕方ない。若干の不安を覚えながらも、神機を机の上に置く。

 

 それを目にした茅場は、あっという間に『直接触れない』という約束も忘れて、奇声をあげて齧り付く…かと思いきや、逆に物凄く冷静だった。目付以外は。

 矯めつ眇めつ、微に入り細に入り観察し、何処からともなく取り出した手帳と筆でスケッチしていく。

 

 

 

「この絡繰りは、戦いの為の道具か。細かい傷が幾つかある。まるで神機自体が大破したような痕跡も見られるが、修理されている。見た所、かなり頑丈に作られているようだが、その道具にこれ程の傷を与える存在が居るのか。異世界も平和という訳ではないようだ。何かしらの脅威があり、それに対抗する為に作られた技術。…ただの刀にしては、余計な部分が多い。可変機能はなんのために付けられた? 近接攻撃、遠距離攻撃、防御…それだけではない。何か他に本命の機能があるな。脅威に対抗する為の、何か特別な機能…それこそがこの神機の肝だ。だが、その反面この組み合わない素材はどういう事だ? 金属を主とした胴体部分と、原始的な何かしらの生物の牙や爪を使用した刀身。頑丈さや切れ味を求めるなら、金属を加工した方が余程簡単で、信頼性も増すだろうに。大きさが合うかどうかも分からない動物の部位を、乱獲してきて使用したとでも? そもそもこの爪の大きさは何だ。このような生物が居るのか。鬼と言われた方が余程………いや待て、モノノフも武器防具を作成するのに鬼の部位を使用するな。つまりそれと同じ理由か。脅威となる存在の一部を使用する事で、その力に肖る事が出来る、或いはそれに近い事が出来る。ふむ、異界の脅威は一筋縄ではいかんようだな。む? この部分は…締め付ける事で部品を固定しているのか。しかし外す為の機構もある。手入れの為……だけではないな。そうか、刀身を外して別の刀身をつける事を想定しているのか。それもかなり頻繁に。…刀身と一言で言っても、重心の位置も違うだろうに、何故わざわざそんな事を? 相手によって、重心が狂うのも覚悟で部品を切り替えねば、渡り合えないのだろうか。刀身が使い捨て…は無いな。丁度いい大きさの部位を揃えるだけでも一苦労の筈。しかし…この刀身、このような使い方を想定されていなかったのではないか? 長さや見える部分の柄部分からして、この神機に合一させて使うのではなく、手にもって振るうのだと思うが……むぅ、噛み合わん…。まるで二つの異なる道具を、無理矢理一つに合わせたかのようだ。しかしそれにしては完成度が…」

 

 

 ……うん、こりゃ充分狂乱しとるわ。騒いだり喚いたりしないだけで、中身が完全に熱狂してやがる。

 ついでに言えば、この人意外と即物的と言うか、目先のモノに釣られる人種だったようだ。

 確かに神機は、目の前にじつざいする異世界の産物だが、優先順位で言えば俺から情報を聞くべきだと思うんだけどね。どうやったら異世界に行けるのか、とか。まぁ聞かれても、未だに理屈が分かっていないんですが。

 と言うか、さっきから神機をジロジロ観察しただけで、MH世界・GE世界の状況や文化が凄い勢いで推測されて行ってるんですが。

 5分も経たずに、この武器を扱うには何かしらの人体改造が必要な事まで突き止めてしまった。

 

 

 予想していた質問攻めも無かったし、神機を持ってどっか逃げるとかいう事も無さそうなので、とりあえず部屋の外に出た。

 

 

「あ…終わりましたか?」

 

「揉め事には…ならなかったみたいね」

 

 

 ああ、神夜も明日奈も待たせたな。と言っても、茅場はまだ中で調べ物中だが。

 暫く入らないでやってくれ。

 とりあえず、協力関係ま築けたと思う。今後も頻繁に訪ねてくると思うが、いきなり切りかかるような事はしないように。

 

 

「師匠は僕達を何だと思ってる訳ですか。そりゃあ…陰陽寮とか、人体実験とか、そういう事は気になってますけど」

 

「それで、対価として持ってきたという情報は?」

 

 

 そっちはまだ聞けてない。

 

 

「む? どういう事だ」

 

 

 いや、あいつ、俺が持ってる珍しい道具を見せてほしいってやってきたんだけど、実際に見せたら夢中になっちまって。

 話が出来るような状態じゃねーんだわ。

 気になるようだったら、こっそり部屋の中を覗いてみろよ。邪魔だけはしないようにな。

 

 

「そーっと…」

 

 

 既に雪風が、こっそり覗き込んでいた。茅場に怯えていたと思うんだが。

 …黙って扉を閉めた。…そそくさと俺の隣に座り込んで、カタカタ震え始めた。そんなに怖かったか。いや確かにあの目付はヤバいけど。

 

 



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440話

平成最後の日ッ!
棚卸や月末作業でそれどころではないッ!
そしてスティーブ峰蔵さんのクアドラプルタマネギ完結おめでとうございますッ!



サブPCまでアンチマルウェアソフトの被害(断言)にあい始めて、機嫌が悪い今日この頃です。
除外に追加しても効果なし、レジストリから永久停止させようと思ったけどなぜか表示されない。
やっぱりアップデート機能を完全に停止させることから考えるべきか。

メインPCでもIE11がほぼ動かなくなり、PCに負荷がかかって執筆どころじゃなくなったり…。
これもうサイバーテロ組織認定してもいいんじゃないかな…。
仕方ないので、クロームに乗り換えました。

EDFは続けてますが、ハーデストの序盤を超えた辺りから本気で苦労するようになってきました。
HPと武器の問題もありますが、迂闊に突っ込むと囲まれて即死かぁ…。
ソロクリアに拘れる程腕は無いし、そろそろオンラインに行きますか。
でもその前に出来る限り強化はしておきたい。


 きっちり3時間後、茅場は部屋から出てきた。もう昼飯時だよ。

 

 

「失礼、お待たせした」

 

「何か見せてもらっていたそうですが、もういいのですか?」

 

「ああ、今日のところは…だが。無手で触れる事を禁じられているので、こちらに持ってくる事はできなかった。机の上に置いたままだ」

 

 

 はいよ。

 …ふむ、特に触れられた様子も無いか。よくぞ見るだけで我慢できたものだ。それだけでも、かなりの情報を読み取ったという事だろうが。

 

 

「…では、対価の話をしたい。私はさっさと帰って資料を纏めてしまいたいので、簡潔に話をさせてもらおう」

 

「随分と急な話ね。まぁいいわ。さっさと吐きなさい」

 

 

 伝子さんに凄まれても平然としている茅場、マジマイペース…。

 

 だが、茅場が齎した情報は、確かに有用だった。

 一つ目、滅鬼隊の保管設備が沈んでいる異界について。霊山近くに突如発生したあの異界は、茅場が研究していた『世界想像』の副産物である技術によって生み出されたものらしい。

 実際に発生させたのは茅場自身ではないそうだが、何がどうなっているのかの検討はつくとの事。

 異界の中心部には異界発生の為の仕掛けのようなものがあり、それを破壊すれば異界の広がりは止める事が出来る。

 また、俺が異界浄化の術の概要を伝えたところ、恐らくシノノメでやったのと同じように浄化できると証言した。

 結界石の石像の代わりに、異界を生み出している『何か』を使用するのだ。

 

 

 二つ目の情報。

 九葉のおっさんの思惑について。と言っても茅場も九葉のおっさんに近しい訳ではなく、半ば推測になるのだが。それでも、俺達が頭を悩ませるよりも説得力はあった。

 あの悪党面の狙いは二つある。といっても、一つの狙いで複数の布石をうつのが当たり前なおっさんだから、本当に二つと言い切っていいのかは微妙なところだが。

 ともあれ、一つ目の狙いは、滅鬼隊の復活。滅鬼隊の背後に蠢く、後ろ暗いアレやコレやは把握しているのだろうが、それでも復活させて戦力として扱おうとしているらしい。

 まぁ、確かに後ろ暗かろうが何だろうが、使える物は使わなきゃならん程人間は追い詰められている。誰だか知らんが保身の為に証拠抹消するくらいなら、自分に寄越せとでも言いたいんだろうか。

 或いは、滅鬼隊の背後関係を明らかにし、霊山に潜む不穏分子の炙り出しにでも使うつもりか。…やりかねんなぁ。

 

 そしてもう一つの狙い。茅場はこっちが本命だと考えているようだ。そして、俺も聞かされたその内容に賛同した。

 あのツンデレと覚悟ガンギマリのおっさんが考えそうな事だ。

 

 その目的とは、滅鬼隊の一員として潜り込ませていた部下の奪還。

 かつて滅鬼隊が活動していた頃…つまりオオマガトキより前だ…あのおっさんは何らかの理由で部下を送り込んだ。無論、人体実験に使われる事を承知の上でだ。

 何が目的だったのかは、俺にも茅場にも分からない。滅鬼隊の背後に居る何者かの正体を探り出す為か、或いはそのノウハウを盗もうとしたのか、政争の為だったのか。真正面から送り込んだのか、一般人を装ってわざと誘拐されたのかも分からない。

 

 何にせよ、その目的が達成される前に、滅鬼隊は活動停止を強いられ、全ては異界に沈んだ。

 …だが、九葉のおっさんは覚えている。ああ、覚えているだろうさ、あのおっさんが忘れる筈がない。直属の部下に限らず、流した血には必ず報いるおっさんだ。

 例え目的を達成できず、ただ犠牲としてしまった苦い記憶であっても…いや、だからこそ忘れる筈がない。

 僅かな余暇を絞り出し、その時間で送り込んだ部下の情報と痕跡を集め、異界を消し去るという夢物語が実現した時の為に備え続けた。もしもその時が来たら、自分の部下を奪還できるようにと。

 

 どんな惨状になっていようと関係ない。信頼できる部下を取返し、使えるならそのまま戦力として使う、使えないなら……まぁ、身内扱いかな。扱われたとして、あのおっさんが非情な判断を下す時に雑念が混じるとは思わんが。

 しかし、あのおっさんの部下が、あの中に居るかもしれないのか…。

 ………まぁ、なんだ、誰なのかでは特定できないが、助ける理由がまた一つ増えたと思っておこう。

 

 

 

  

 

 三つ目の情報。これが最大の収穫だった。

 眠りについてる滅鬼隊を起こす方法。

 

 雪風の時は、何がなんだか分からない内に唐突に目覚めて、そのまま勢いで話が進んでしまっていたが…予想通り、保存されている滅鬼隊には、勝手に目を覚まさないようプロテクトがかけられているらしい。

 最終的にどのように調整されたのかは茅場も知らなかったが、雪風が中々目を覚まさなかった事を考えると、これも信憑性が高い。

 そして、肝心の目覚めさせる方法なのだが………何と言うか、これの研究してた奴、相当拗らせてるな…。

 俺も結構な色狂いだが、これは悪趣味の領域を通り越してるぞ。いや悪趣味なの大好きですけどね、胸糞でなければ。

 

 目覚めさせる方法は二つ。

 まず真っ当な方法は、一定以上の霊力を籠めた声で、各々に定められたキーワードを囁く事。

 ただし、それにはかなりの霊力が必要…らしいんだけど、雪風の時はどうだったっけ?

 

 日記を読み返してみたが、苛立ちの籠った声が漏れた時だったようだ。…確かに無意識に霊力籠めてたかもしれないが…そこまで強いものだったか?

 長年放置された事でプロテクトが緩んだのか、それとも基準自体が違うのか…。

 

 疑問はさておき、この方法には一つ問題がある。

 キーワードが分からないのだ。持ってきた資料の中にも、シリーズのスペックは記載されているが、キーワードらしきものは見当たらない。

 雪風の時は…日記を見返す限り、漏れた声の中にもそれらしい言葉は無いよな。雪風の特徴や性格を連想させるような単語は使ってなかった筈。

 

 と言う事は……一見しても連想できないような言葉がキーワードとして使われている可能性が高い。

 もしそうだとすると、この方法で滅鬼隊を目覚めさせるのは絶望的だ。

 まだ施設の中に、目覚めのキーワードが書かれた資料が残っているだろうか?

 

 

 

 では、二つ目の方法は? と言うと……これがまたロクでもない仕組みになっていた。

 ある意味古来の伝統に則っていると言えなくもない…のか?

 

 

 まぁ、アレだ。

 

 Q.眠りについているお姫様を起こす定番の方法は? 

 

 

 

 

 A.接吻では足りません。交合しなさい。

 

 

 

 …そういう訳です。ちなみに男が相手の場合も同じらしい。ホモォ

 セックスだけでなく、寝ているところにエロい事して精液を吹きかけるのであれば、何でもいいらしい。

 これを知られた時、雪風と茅場を除く全員から疑いの目で見られたが、流石にやってねぇよ。

 

 …戦闘用に改造した滅鬼隊に、どういう扱いをしとるんじゃい…。オナホ扱いしてる暇があったら、ちょっとでも性能上げる方法を見つけろよ…。

 心底どうでもよさそうだった茅場曰く、「滅鬼隊は、色を使った潜入任務や暗殺と言った、所謂くノ一のような任務にも従事していたと聞く。起動と同時に性能試験でもしていたのではないか」だそうだ。仮にそうだったとしても、どう考えても後付けだよね。見た目のいい女ばっかりだし、絶対途中から(或いは最初から)欲望を満たす事しか考えなくなってるって。

 

 

 更にタチの悪い情報が続く。

 滅鬼隊として目覚めた者は、最初に見た人間に対して強い依存心や恋心を抱くように調整されているらしい。

 茅場もこの辺は資料で流し見ただけで、実際に成功していたのかは定かではないと言っていたが……確かに、心当たりあるよなぁ。

 雪風は目覚めた直後、記憶が全くないという状態で、俺に妙に懐いていたし。

 

 そういう風に…目覚めさせた相手に好意を持つよう刷り込まれているのは、裏切りや逃亡防止の為だろう。

 どんな危険な任務を割り振られても、他に行くところもなく、惚れた相手からの命令もあり、死よりも失望される事を恐れた彼女達は、文字通り全身全霊で任務に当たっていたんだろう。……どれだけ全身全霊でも、刷り込まれただけの知識では空回りしかしそうにないが。

 

 これを聞いた雪風の表情は…ちょっと筆舌に尽くしがたいな。

 何だかんだで、自分がどういう産まれなのか教えていなかったし。俺に対する好意も、刷り込みによる仕組まれたものだと言われたに等しい。

 

 

 

 

 

 と言うか、これも明らかに作成者の趣味だよなぁ。どこのエロ漫画だっつの。

 考えてもみればいい。

 声による目覚めであれば、まだいい。

 

 が、これがセックス等による目覚めだった場合は?

 …何も知らない、記憶すら全く持ってない女性が、昏睡状態で襲われ、射精された瞬間に目覚め。そして強姦睡姦の被害者である女性は、加害者に対して即一目惚れ、あなたの為なら何でもします。即堕ち二コマか。

 エロマンガっぽく表現すると、こんな感じか?

 

 いつ果てるとも知れない眠りに沈みこむ美女。ある日、よからぬ企みを持った男が忍び込んでくる。

 目を覚ます事なく、抵抗もできずに毒牙にかかった美女だが、最悪のタイミングで目を覚ます。見知らぬ男に体を弄ばれた上に、膣内射精される瞬間を自覚してしまうのだ。

 だが、その男はなんと美女の運命の人だった。自分の名前すら持たない美女は躊躇う事なく、強姦魔である筈だった運命の男に全てを捧げ、自ら望んで愛奴となったのだ。

 

 ………なんだこの頭悪いエロ小説。…どこからともなく、室内なのにブーメランが放り投げられてきたけど、まぁそれは置いておいて。

 

 

 そして自分が捨て駒だと自覚しているのかは知らないが、命懸けの任務に送り出され…ひょっとしたら、ここでターゲットに色仕掛けをするよう命じられる事もあったかもしれない…死んでしまえばそれまで、次の者が起動される。

 もし生きて帰ってきたら……褒美と称して、交合したかもしれないな。愛情らしい情なんかなく、疲弊して帰って来た駒を使って性欲を処理する程度の気持ちで。

 

 

 

 …想像しておいてなんだが、胸糞悪いってレベルじゃないな。扱いの悪さは、大体間違っていないと思うが。

 

 …どうする、コレ。目覚めのキーワードが分からない以上、こっちで目覚めさせるしかない訳だが、流石にこれはちょっと…。

 いや強姦染みた事も、同意を得ない睡姦もやった事あるけど。MH世界のセラブレス相手に。

 でも流石にこれは…倫理的に受け付けないというか…いやヤッてしまえば、或いは経緯はともかく惚れられれば、それなりに相手をするようになると思うけど…。

 

 土井さん、あんた目覚めさせてみる気ない?

 美人揃いだし惚れ込んでくれそうだし、人によっては世話焼いてくれそうだぞ。男やもめにはありがたいと思うが。

 

 

「心惹かれないと言えば嘘になるが、遠慮しておくよ。酷い負い目を一生背負う事になってしまいそうだ。…手掛かりも無く言葉を探したり資料を探したりするより、まだ生き残っている滅鬼隊を探し出して聞き込みした方がいいかもしれないな。」

 

「何? 滅鬼隊がまだ残っているというのか? 土井、それは確かか」

 

「誰がそうだと目星がついている訳ではないが、恐らくは。これらの研究を行っていた者は、相当に…何と言うか、拗らせているな」

 

 

 ああ、性癖だけじゃなくて性根もな。俺が言えた義理じゃないが。

 

 

「君は自分で言う程、外道ではないと思うが…。ともかく、彼女達に対して、何らかの歪んだ執着を持っていたのは間違いないだろう。行いが白日の下に晒されそうになったか何かで、無理矢理隠蔽したようだが…逆に聞くが、一人残さず異界に沈めたと思うかい?」

 

「これ程念入りに従属を強いる研究者だもの。根は小心者と見たわ。護衛も兼ねて一人二人くらいなら、隠し通せると踏んで手元に置いておく事も考えられるわね」

 

 

 成程。まだ生き残っているかは分からないが、当時封印されずに活動し続けている者が居るかもしれないって事か…。

 そういや、最初に滅鬼隊の人を見つけた部屋では、容器が一つ倒れて誰かが外に向かったような痕跡が残っていたな。あの施設が異界に沈む前に逃げ出したのだとしたら、市井の人間として紛れている事も考えられる。

 

 

「そうだね。それに、資料に書かれている人数と、君達が発見した施設に保存されている人数が、明かに合わない。『処理』されてしまった可能性もあるが…茅場殿が言うように、異界をある程度自由に発生させられるとしたら、他の場所にも保管されている人間が居るのかもしれない」

 

 

 

 

 

 滅鬼隊の今後については後回しにするとして(興味が無かった茅場が、淡々と話を進めたのだ)、4つめ。これがとんでもない爆弾だった。

 霊山は、シノノメの里に対する支援を計画している。それはいい。元々、手段を問わず霊山から援助を引き出す為に、俺達は…いや俺は一応部外者なんだけど…やってきている。

 

 だったらいいじゃないかと思ったのだが、その裏にある意図がクセモノだ。見返りや思惑も無しに援助してくれるとは最初から思ってないが、その思惑が致命的。

 霊山の狙いは、シノノメの里そのものではなく、そこにある超界石らしい。

 

 

「…あの、茅場さん。どうして超界石が狙われるんですか? あの石は、確かに世界を超える力があるなんて伝承が残ってますけど、普通の石ですよ。里の皆の心の拠り所ではありましたが」

 

「それは私の知る所ではないな。ただ、100年以上前の事だが、シノノメの里にある超界石が特別な力を発揮したと記録されているそうだ。どのような力なのかは聞いていないが、大方狙いはそれだろう」

 

 

 …誰がそれを欲しているのか、情報はあるか?

 

 

「陰陽寮の幹部が一人か二人。誰なのかまでは特定していない。それと…実際に主導しているのは、識という軍師のようだ」

 

 

 識? ………前に一度会ったな。

 九葉のおっさんに負けず劣らず悪人顔で、何かでかい目的があるような口ぶりだったが…。ぶっちゃけよく覚えていない。

 会ったのはクサレイヅチが襲来している真っ最中だったし、野郎の事なんかどうでもいいからね。

 どんな奴なのか…同じ軍師で悪党面だし、九葉のおっさんと同類のツンデレか? それともラスボス系か? 意表をついて、凌辱用の汚ッサンみたいな小物って線も考えられる。

 

 

 その軍師についてはともかくとして…超界石を、ねぇ。……みんな、どう思う?

 

 

「…私も里の軍師扱いされているが、損得だけで言えば……有りだな。超常の力を秘めていると言われていても、今では単なる石にすぎない。それを差し出すだけで大きな援助を受けられるなら、断る理由はない」

 

「僕と牡丹様は反対です。確かに特別な力はありませんが、あの石は里人の拠り所、象徴とも言えます。今後、霊山に限らず外の世界と関わるのであれば、里人の意思を一つにする為に必要です」

 

「牡丹様と白浜の意見は少々感傷が過ぎる部分があるが、儂も反対だ。本当に何らかの力を持っているのであれば、それを霊山に渡すとどうなる? …あのような人体実験を行っていた霊山だぞ?」

 

「まともな人間の元で研究してくれれば…と言うのは、希望的観測が過ぎるわね。ところで、霊山には軍師が何人か居た筈だけど、識はその中ではどういう位置づけなのかしら」

 

「結構な大物らしいわ。その上、背後に何らかの影がある…軍師以外にも何らかの権限を持っているようね。率直に言えばきな臭いわ」

 

「…私、そのシノノメの里っていうのの事知らないし…」

 

「私達の故郷なのよ、雪風。でも、超界石をねぇ…。あれが無くなると思うと…特に不便はないんだけど、こう、すっきりしないものがあるわ」

 

「そもそもからして、本当にそんな力を秘めているのか、不思議極まりないです。皆さん、御伽噺や昔話でも、聞いた事はありますか?」

 

 

 

 神夜の問いかけに、一斉に首を横に振る皆。

 …の中で、俺一人だけは冷や汗垂らしています。秘密にしてたからね、あの石でガチャと言うか召喚染みた事が出来るのを。

 更に言うなら里を出る前、両さんが『超界石と儂が居た塔には何か関係があるんじゃないか』みたいな事も言っていた。こっちについては、根拠らしい根拠は聞いてないが…。

 どうすっかな。言っちゃおうかな。おかしな力を秘めているのは確かだし…それを知らずに渡してしまうよりは、何かあると思って話し合ってくれた方が…。

 黙ってたのを責められるだろうか? 責められるのは仕方ないが…いや、むしろ『そんな物から出てきた得体の知れない衣装を着せていたのか』って言われるか?

 

 いや、責められるとしてもこの状況で黙ってるって選択肢はないんだが。

 

 

 あ~、皆さん、実はですな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黙ってた理由を問い詰められたけど、何とかなった。

 一応、神垣の巫女でる雪華には知られていたし、貴重な生活資源である宝玉を突っ込んで出てくるのが衣類なんじゃ、どうやったって割に合わない。報告すべきではあったが、その時点では重視する程のものではなかった、とされた。…まぁ、この時代にガチャ沼なんて概念は無いしな…。

 むしろ、その場の勢いで支給されてた宝玉の半分を突っ込んだ事に呆れられました。

 丁半博打に興じて、財布を半分にした挙句にガラクタ貰って来たようなもんだからね。仕方ないね。

 

 

「…黙っていた理由はともかくとして、何か力を持っている事は確かね。となると、それを渡すかどうかだけど」

 

「そのような得体の知れない力を持った石を、里に置いておくのは如何なものか」

 

「だけど実際、今まで何もなかったんですし」

 

「明日は今日の繰り返しではないのだぞ、白浜。拒否すれば支援を渋られ、或いは密かに奪う事も考えられる」

 

「……これは、正解のない問題ね。どちらの考え方にも一理はあるわ。となると、結論は一つね」

 

「どういう事ですか、山本先生?」

 

「私達の権限を越えるって事よ。冷静になりなさい。私達は里の代表として霊山に来ているけど、里長ではないのよ。急な話であれば私達で…白浜君で判断する必要はあるけど、これは違う。まずは里長に報せを走らせましょう」

 

 

 …確かに。どっちを選んでも問題はある上、事が事だからな。

 しかしあの里長…両さんを頼りにするのかぁ…。物凄く頼りになるような、破滅を呼び込むような…。

 

 

 

 

 とりあえず、今回の話し合いはそこまでで終了となった。

 ちなみに、一応話につきあってくれた茅場はあんまり興味無さそうに、部屋の隅の机で何やら記録帖に書き綴っていた。話しかけたり問いかけたりすれば返答してくれるが、異世界に思いを馳せているの一目瞭然だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 話し合いで暇を持て余し、わーわー騒ぎ始めた雪風を連れて道場へ。彼女自身の出生に関係した話だったが、あまり興味はわかなかったらしい。細かいことは気にしない、大らかな(オブラートに包んだ表現)性格である。

 が、それはそれとして、道場でモノノフ修行の体験会に参加した事もあり、彼女は予想外な事を言い出した。

 

 

「私も鬼と戦ってみたい!」

 

 

 …あのな、雪風。何をどう勘違いしたのか知らんけど、鬼を相手にするってのは命懸けでな?

 道場の訓練だって、訓練っつーか半ばごっこ遊びみたいなもんでな?

 

 

「そんな事分かってるわ。…ちょっと言い方が悪かったわね。この前来てた、あの茅場ってのから滅鬼隊の事を聞いたのよ。私もその一員だったのかもしれない、って事でしょ」

 

 

 余計な事を…と言いたい所だが、会議の時に聞いてたしなぁ。理解してなかったっぽいけど。

 それで?

 

 

「滅鬼隊のモノノフって、タマフリとも違う不思議な力を持ってるって言うじゃない。何かこう、私にもそういうのがあるんじゃないかと思うのよ」

 

 

 まぁ確かに、あるかもしれんけど……そういや、最初に起きた時、何か道具を探すような事言ってたな。…雷銃、とか言ってたっけ。

 

 

「…そんな名前だったっけ? あれから、どうにも思い出せなくて…。でも、モノノフ体験会でも何だか銃は手に馴染んだわ」

 

 

 雷銃、雷銃ねぇ…。

 雷獣にでもかけたのかな? つまり鵺。…その辺の異界で寝てるのが沢山居るな。はっきり言えば雑魚枠だ。

 

 そうでない、雷の銃と言えば…真っ先に思い浮かぶのはレールガンか。或いは命中したら電撃を撒き散らすような弾丸?

 

 

「ほら、私の記憶の手掛かりになるかもしれないし、不思議な力は使ってみたいし。鬼と戦えば、そういう記憶も自然と蘇るんじゃないかなーって思ったの」

 

 

 …一理は、ある…か? しかし、記憶を取り戻したいのか?

 

 

「まぁ、思い出せるならその方がいいかなってくらいには。昔の事とか、自分がどういう産まれだとか、あんまり気にならないけどね」

 

 

 思い出せたとしても、あんまりいい記憶じゃなさそうだけど…。まぁいいか。

 要するに鬼との闘い云々が主目的なんじゃなくて、それに付随する事が目的な訳だ。特に、特別な力があるなら使ってみたいって。

 

 だとしても、いきなり鬼の前に放り出す訳にはいかんしなぁ。

 

 

「そうなっても、何とかなる気がしてるんだけど」

 

 

 根拠のない楽観はやめい。滅鬼隊の主な死亡原因は、多分その楽観と慢心だぞ。

 戦わせるにしても、それなりに準備は必要だし、訓練だってせにゃならん。

 

 …そうだな、どれくらいの事が出来るのか、一度白浜君と一緒に修行させてみるか。他の滅鬼隊がどれくらいの強さを持っているのか、基準くらいにはなるだろう。

 



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第441話+外伝26

令和突入、ですね。
何が変わるって言われると、言葉に詰まりますけども。
前話前書きで、始まってすらいない令和を終わらせようとしたテロリストな時守です。

GWの連続投稿は、今年は無理よ…。
10話分の書き溜めなんてないよ…。
でも何もしないというのも詰まらないので、令和記念も兼ねて久々に外伝。



魔禍月伍拾陸日目

 

 

 朝っぱらから茅場が押しかけて来た。勿論、目当ては神機である。

 俺からも色々話を聞き始めたが、やはり目の前にある実物を調べるのを優先したいようだ。

 

 異世界云々の事はあまり知られたくないので、明日奈達は部屋の外に出てもらっている。丁度いいから、色々用事を済ませてくる…と出掛けて行ったようだ。

 

 

 

 さて、話は変わるが…茅場が神機をジロジロ観察しまくっている間、俺は俺で別の事を考えていた。

 これからどう動くか……という真面目な話ではなく、欲望に直結した思考である。つまりいつもの事だ。

 

 いや、誰かを抱きたいとかそーいう話じゃなくて、技術的な問題と言うか…ぶっちゃけ、オカルト版真言立川流についてだ。

 先日図書館で見つけた、まだ完成してないオカルト版真言立川流の奥義。

 

 『烙印』と『第六天』。

 

 

 正直言って、『こんな事本当に出来るのか?』という技だ。いや、技と言うかもう術とか呪いだよコレ。既にオカルト版真言立川流は、呪いの領域に達しているけど。

 それを扱う俺としても、正直言ってこの技は胡散臭いというか、「いくら何でもそりゃないよ」と感じる。

 

 感じるんだが……。

 

 

 

 

 

 何でだろう、出来る気がしちゃってるんだよね。

 ある程度の技量があれば、自然と新しい技術を生み出したり、或いは摸倣したりできるのは珍しくない話だが…。

 それで、出来るとしても…これ使っちゃっていいものだろうか…。特に第六天。

 

 烙印については、まぁいいんだ。相手の合意を得てやればいい。むしろ、今からシノノメの里に駆け戻って、雪華に使ってしまおうかと思うくらいだ。多分、雪華も拒否しないどころか、嬉々として受け入れるだろう。

 …しかし、迂闊に使う事はできない。体に大きな影響を齎す技だし、神垣の巫女の力と影響し合って、結界が張れなくなってしまった…なんて事になったら目も当てられない。

 せめて、誰かに試してからにするべきか…。どっちにしろ、受けた人間の人生を高確率で滅茶苦茶にしてしまいそうだ。既に堕ちきっている、明日奈や神夜に使うべきだろうか…。

 

 

 第六天に至っては…いやこれ使っちゃアカン奴でしょ…。どう考えても、寝取り専用技だ。

 女の子を虜にするのは楽しいし嬉しいし気持ちいいけど、彼氏や旦那の居る女の子にどうこうしようとは思わないよ。倫理的にアカンでしょ。

 でも、出来ちゃう気がするんだよな…。封印すべきと分かってはいるんだ。

 でも試してみたくもある…寝取り趣味があるんじゃなくて、本当に可能なのか、好奇心が疼く。

 

 

 ……誰か、やっちゃってもいい相手とか居ないかなぁ…。居ないよなぁ…。

 

 

 

 

 そんな葛藤を抱えながら、約束の3時間が過ぎる。茅場は名残惜しそうに帰って行った。だがもしかしなくても、明日も朝一で来るだろう。

 さて、それはそれとして。

 

 

「師匠、ちょっとお話があります」

 

 

 ん、どうした白浜君。誰か好きな人でもできたか。

 

 

「…じ、実はちょっと気になる人ができたんですが、それはまた今度と言う事で。今後の動きについて、皆で話し合ったんです」

 

 

 ほう、俺が茅場の相手をしている間に、何か進展や決定があったか?

 

 

「はい。まず、やはり超界石については、里のお頭の決定に従う事となりました。さっき文を出してきたので、近日中に答えがくると思います。…宝玉を入れたら何か出てくる、というのも報告しておきました」

 

 

 ふむふむ。他には?

 

 

「例の施設と、滅鬼隊についてですが…これは九葉さんに全面報告する事になりました。茅場さんの話を鵜呑みにする訳ではありませんが、話の筋は通ります。九葉さんに、僕達を害する腹積もりはないと結論しました。茅場さんが言っていた通り、よからぬ目的でシノノメの里に手を伸ばそうとしている輩が居るなら、九葉さんを味方につけ、便宜を図ってもらうのが両策です」

 

 

 異界浄化を実現させれば、便宜を図るって約束だったからな。口約束だし、必要であれば破りもするだろうけど。

 じゃあ、雪風はどうする? もしも滅鬼隊の力を欲していて、戦力として取り込もうとしてきたら?

 

 

「雪風さん本人にも確認しましたが、拒否します。…が、この可能性は非常に低いと、土井さんと八方斎さんは口を揃えて言っています。例え彼女が滅鬼隊として相応の力を持っていたとしても、一人だけです。何より、戦力としての信頼性が非常に低い。危険を冒してでも手元に置こうとするとは思えないそうです」

 

 

 ふむ、道理だな。

 確かに今の雪風は、身体能力は高そうだが、実戦経験も無ければ専用に作られた道具もない、新米兵士以下だ。戦力として取り込むなら、そこら辺の中堅モノノフを取り込んだ方が余程マシだろう。

 他の滅鬼隊達は…まだ目覚めさせる事もできてないんだよなぁ。

 まずは、彼女達の統率役を起こしておきたいんだが、それも誰なのやら…。『浅黄』と呼ばれている個体のようだが、それがどの人物なのかが分からない。

 

 

「ああ、それでしたら牡丹様が、見分ける方法を考えてくださいました。それで正解なのかは、試してみないと分かりませんけど。指揮官級の、特に強い個体なのであれば、傷を受けたりしてもそうそう見捨てられるとは思えません。ですので、恐らく傷跡等が残っている人が、指揮官の『浅黄』なのではないかと」

 

 

 ほぉ…その手があったか。次に行った時、もう一度彼女達を見直してみるかね。

 奥には異界発生の原因があるようだが…。

 

 

「それを見つけたとしても、すぐには異界を消さず、滅鬼隊の人達をどうするのか…が決まってないんです。もし、迂闊に異界を消し去ったら、滅鬼隊の事を知っている人達がどんな行動に出るか…」

 

 

 異界の消失=施設が遠からず見つかる=知られたらヤバイ事がばれてしまう、か。

 

 ふむ…壱、口封じ。眠ったままの滅鬼隊を始末する為、暗殺者を放つ。

 弐、引き込む。素知らぬ顔で近付いてきて、自分達が主だと刷り込んで手駒にする。

 参、消毒。手段を問わず殺して闇に葬りだけではなく、それを知った俺達、引いてはシノノメの里まで謀殺する。

 

 

「どれも御免被ります。うーん…結局のところ、起きてもらわないとどうにもなりそうにないですね。雪風さんみたいに寝たきりになられても、僕達も世話しきれませんし」

 

 

 世話する為の人手だけじゃなくて、寝床の問題もあるしなぁ…。

 全員連れ出してきたとしたら、どんなに隠しても確実に露見する。暗殺者が放たれたとしたら、それだけの人数を警備するのはまず不可能だ。九葉のおっさんの力を借りたり、百鬼隊の人員を借りてもな。

 

 

「…机上の空論でしかありませんが…全員が同時に目を覚まし、異界を消失させると同時に、霊山から退避する…と言うのが、現状で思い浮かぶ唯一の方法です」

 

 

 退避ったって、どこに行くんだよ。シノノメの里だと補給や支援を盾に取られると従わざるを得ないだろうし、そもそも現状でも生活が破綻してないのが不思議なくらいだろ。

 超界石を手に入れようって奴まで出てきてるんだし、これ以上火薬を詰め込むのはおススメしないぞ。

 お頭…両さんの度量を込みで考えてもだ。

 

 

「…ウタカタの里です」

 

 

 ………は?

 

 

 

「……ウタカタの里です。師匠、確か行くんですよね?」

 

 

 お、おう、そりゃ行くが……っておい、俺に任せる気か!?

 

 

「言い方は悪いですけど、案としては出ています。ウタカタの里は最前線だそうですし、霊山も中々干渉できないと聞きました。滅鬼隊が力を発揮できるようになれば、ウタカタにとっても助かるでしょう。霊山から独立したという、北の方の里も比較的近い。…いざとなったら、そこに助けを求めれば…」

 

 

 北の独立した里……ああ、シラヌイの里か。どうだろうなぁ、霊山を嫌ってるけど、助けてくれるだろうか…。あそこのお頭、一筋縄ではいかないし。凛音、だったか…一度博打で勝った事があったな。

 …まぁ、それなりに考えての結論なのは理解したよ。

 全員が目を覚まさなきゃ意味ない仮定だけど。

 

 …しかし、分かった。いざと言う時、ウタカタの里に連れて行く事は考えておこう。

 あそこもシノノメの里に負けず劣らずお人好し揃いだし、戦力だって足りてないんだ。

 否応なしに命懸けの戦いに参加させる事になっちまうが、まぁ人生なんてそんなものだな。特に今の世界では、鬼が相手にしろ人間が相手にしろ、抗わなきゃ死ぬんだ。

 

 

「はい…。すみません、元は僕達の里の問題なのに」

 

 

 まぁ、乗り掛かった舟だし、滅鬼隊についてはシノノメの里っつーよりは霊山、或いはモノノフ全体の問題だろ。

 そもそも目を覚ました滅鬼隊が、俺についてくるのを希望するのかも分からない。

 

 

 ………初めてみた異性に好意を抱くように調整されてるんだっけ…。俺に好意を持って、そのままついて来るって事になるのかなぁ。

 彼女達を抱けば目覚めさせる事は可能らしいし、できなくはない…のか? 野郎を抱くのはゴメンだから、男連中だけはキーワードを探す事になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、『初めて見た異性』に好意を持つそうだが、伝子さんは男女どっちとして判定されるんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 はてさて、いつもの夢はいいんだが、今回はまた極め付きと言うかなんというか。一体何をしろと言うんだろうね?


 いつものように眠った筈なのに、気が付けば海岸線に佇んでいた。
 いい加減、夢で変な所に飛ばされるのにも慣れたし、どうこう言うつもりはないんだが…せめて前兆とか、或いは法則性とか感じられないものだろうか。

 とりあえず、ここは討鬼伝世界でも、GE世界でもない。雰囲気は、強いて言うならMH世界が近いか?
 大自然、としか言い表せない、広大な海。しかも物凄く綺麗で、魚も多い。
 周囲を見回せば、これまた大自然。ジャングル…と言う程ではないが、丘、森、川、そこら中に溢れる生き物の気配。

 うん、ここは滅びかけているGE世界・討鬼伝世界とは全く違う。生命に満ち溢れた場所である。


 それはいい事だが、実際何をしたものか。毎回思うが、放り出すなら放り出すで何処に行けばいいかくらい指針をくれ。
 まぁ、指針があったところで、それに素直に従うかは別問題だが。

 とにもかくにも、地形が把握できなければ話にならぬ。近場に丁度いい高さの山がある事だし、そこに上ってみようか。





 あっさりと到着。
 距離もそう長くなかったが………何と言うか……採取クエストみたいな島だな。

 いや、最初はいつ大型モンスターとか、毒を持つ虫とか、隠れている捕食者に遭遇しないか、或いはその痕跡が無いかと用心しながら歩いてたんだよ。
 でも予想に反して、居るのは牛とか豚とか、毒を持ってそうなのも精々が蜘蛛くらいか。特に襲ってくる事もないし、大型生物の痕跡も全くない。

 半面、やたらと採取ポイントは多かった。川を覗き込めば魚、その辺の石ころを蹴っ飛ばせば鉱石、そこらの木の実や草花は薬草…。
 危険らしい危険は全く見当たらず、あるのは豊富な素材ばかり。まぁ、MH世界の素材に比べると……うん、まぁ、普通のものが多いね。

 拍子抜けしながら、山の山頂に生えていた一番高い木に登り、ふくろから取り出した望遠鏡を覗き込む。





 ………うん。



 ……ほうほう。


 …なるへそ。






 ……益々もって、ここで何をせよと言うのだ。

 望遠鏡で見渡した事で、幾つか判明した事がある。

 まずはここ、絶海の孤島である。ワー、スイヘイセンガキレイダナー。海の果てまで、冗談抜きで何も見えない。しかも360度。

 更に、この島に大型モンスターは恐らく居ない。
 どこを探しても、痕跡もなければ、本体も見えない。…この島はかなり自然が豊か…と言うか物凄い勢いで木々が育ちまくっている。こんな所で大型モンスターが暮らしていれば、嫌でも木々を倒した痕跡が目に入るだろう。居ても中型が精々だ。…それにしたって、やっぱり痕跡は見つからなかったが。

 それどころか、この島はどうにも無人島くさい。
 モンスター同様に、人の気配が全くない。人工物すら見当たらなかった。
 この地形なら、恐らく川の近くに集落をつくるな…なんて考えたが、それも無し。
 この山から見えない角度の場所に街を作っている…と言う可能性も無いではないが、あまり期待しない方がいい。あの辺の地形は、周囲の状況から見て人が住むのに適した場所とは言い辛い。


 全く、こんな所で何をしろと言うのか。サバイバルに適した島だとは思うけどね。
 せめて話し相手の一人くらいは欲しいものだ。性処理は、まぁ、テキトーに自分で済ませればいいし。退屈なのは、釣りでもしてれば時間が過ぎるだろう。
 よもや、と思ってその辺の動物に話しかけてみるも、相手にもされずにさっさと逃げられた。…せめて襲ってきたら、遠慮なく食料にしたのになぁ。



 とボヤきつつも、実を言うとここがどういう場所なのか、大体見当はついてるんだけどね。
 
 そう、あれは山に登る途中、採掘ポイントを見つけた時の事じゃった…。
 周りには敵(特にイノシシ)も居ないし、差し当り急ぐ道でもないし、手元のふくろにはピッケルも入ってる。だったら採掘するよな、ハンター的に考えて。

 大した考えもなく、どんな鉱石が取れるかなーと何気なく何度かツルハシを振るったのじゃが。



 採掘ポイントが砕け散りました。



 真四角に砕け散りました。




 真顔になったよ、あの時は。採掘ポイントが、消えちまったんだぜ? 取り尽くしたからもうない、じゃなくて物理的に消えたのよ。
 そりゃハンターなら誰でもショックを受けるわ。貴重なポイントが、そして自然が自分の手によってぶっ壊されたのだ。

 正直錯乱しそうになる程驚いたが、何とか正気に戻れたのは、壊した部分が自分の手元にあったからだ。そして、真四角に砕けた地面。
 この現象に見覚えがあった俺は、近くの木に向かってツルハシを振るってみた。

 3回も殴ると、その部分だけ真四角に消えた。そしてそこから上の部分は、空中に浮いたまま。





 マインクラフトだ、これ。




 …俺、あんまり詳しくないんだけど。と言うか、某動画サイトで作った物の紹介を見て、『廃人多すぎ…』なんて感想を持ってたくらいだ。
 ……ま、詳しくなくても困るゲームじゃねーよな、多分。ストーリーとか無かった筈だし、単純に生き残って好きなようにモノを作る、くらいだろ。
 ネザーとかいう地獄みたいな場所に突っ込むならまだしも、地上じゃそうそう危険はないと思う。
 サバイバルに関しては、ハンターに向かって何を言うってなもんだしな。

 …ああ、確か暗い所だと魔物が出るんだっけ。スケルトンと……巧とか呼ばれてるサボテンダーもどき。……何か名前が違う気がするが、まぁいいや。
 そっちもそうそう後れを取る事はないと思う。スケルトンは、ハンマーでブン殴ってから鬼祓いでもすればいいだろ。


 とは言え、流石に拠点は欲しいな。その辺に適当に穴掘って、中に松明立てて、敵が入ってこないように塞げば………いや駄目だ、確かそれでダメージ受けて死ぬって何かで言ってた気がする。それに、そんな所で松明焚いて酸欠になったら目も当てられん。
 大体、どうせやる事もないんだ。最初は飾り気も何もない豆腐みたいな家でもいいけど、暇潰しも兼ねて色々凝ってみるとしようかね。

 さて、この夢から覚めた時、何か収穫があればいいんだがなぁ…。








 さて、それから暫くが経過した。と言っても、日数を数えていた訳でもないし、一日が24時間という訳でもないようだし、どれくらいかはよく分からない。
 ただ言える事があるとすれば、この島は一通り歩き回って、資材になりそうな物もそれなりに集め、豆腐ハウスが完成したという事だ。
 ちなみに、やはりと言うべきかこの島は無人島だった。

 …豆腐ハウス以外の場所?







 設計図作っても大きさとか角度とかわっかんねんだよ畜生がぁぁぁぁぁ!!!!!
 どんだけ注意して作っても、ブロック一つ分二つ分と歪んでいくんだよぉぉぉぉ!!!!!!
 これでどれだけの資材が無駄になったか…いや壊して回収してはいるんだけど、気分的にね…。


 クラフターって凄いわ。頭の中でイメージして、それを図面に書き写して、数字に直して…ってやってるんだろ。俺そー言うの超苦手。そういうアプリとかあってもまず無理。

 そういう訳で、もう面倒臭くなってきたし、作ったところで俺以外に使う人も見る人も居ないし、精々ベッドとかキッチン作る事だけ考えてようかなぁ…と思っていた頃。
 日課の物資収集ついでの散歩で海岸線を歩いていると。








         土座衛門を発見しました。




 発狂するかと思うくらいに驚いたわ。しかも、生きてる人間だぜ?
 こりゃ何かMODとか入ったか? …MODと言えば、そーいえばマインクラフトって野生のメイドさんとか居たような気が…。ひょっとしてこの人がそれ? どう対応すればいいんだろう。
 雇用契約……別に結ぶ必要はないなぁ。大抵の事は自分でやってるし、それが無くなるとむしろ暇だし。

 なんて考えてる暇があったら、救助活動救助活動。人工呼吸から…いや、胸骨圧迫が優先だった。
 …む、中々のおっぱい…いやいや邪念は後だ。
 それ、1,2,3,4,5…




 ふぅ、水は吐いたし、とりあえず呼吸は戻ったな。ここに置いておく訳にもいかん。起きるまでは家で面倒を見るとしようか。
 ……しかしこの土座衛門、どっかで見た事があるような…。








 暫くした後、彼女は目を覚ました。黒髪美人さんである。…制服着てるから、学生さんかな?
 目が悪いらしく、状況がイマイチ把握できてなかったようだ。
 それでも助けられたという認識はあったのか、冷静に対応してくれて助かった。…話が全く通じないようなら、放り出す事も考えてたからな。

 さて、何だって土座衛門になってたのかと言う話だが…彼女は大きな船で、海を進んでいたのだが、方角を見失い、燃料が尽き、動く事すら出来なくなってしまった。更には嵐にあって転覆してしまったのだそうな。
 そりゃまた大変だったなー。
 とりあえず飯を食うといい。空腹じゃ何もできやせん。


「はい、ありがとうございます…。…ところで、ここは一体?」


 無人島、としか言いようがないなぁ。俺は色々あってここでサバイバルしてる者だ。
 何とか君を帰してあげられればよかったんだが。


「いえ……私に、帰る場所は…」


 …そうか。悪いことを聞いたようだ。まぁ、体が治るまでゆっくりしてな。一人分の飯くらいは確保できるよ。
 元々やる事もないし、負担にもなりゃしない。

 彼女はあれこれ理由を挙げようとしたが、自分でも現状では何もできないと分かっているらしく、大人しく介護を受け入れてくれた。
 あと、もしも眼鏡を見つけたら持ってきてほしいと言われた。…眼鏡かぁ。とりあえず、魚を釣るついでに海岸探してみっかな…。


 さて、メガネはともかくとして…良くも悪くもやるべき事が出来てしまったようだ。
 俺はこのまま夢が覚めてしまっても構わないと思っていたが、その場合残された彼女はどうなるだろうか。見知らぬ誰かが救助に来るか。夢が覚めたら全てが無かった事になるか。
 最悪、この島で一人で生きていかなければならない。メガネが見つからなければ、ロクに物も見えない状態で。

 幾らこの島がハンター基準で危険ほぼ無しの島でも、流石にそんな状態で生きていけるとは思えない。



 残さねば。


 遺さねばならぬ。


 俺が遺さねばならぬ。


 彼女の為に環境を整え。食料を確保できるだけの設備を作り。寂しくないよう、ペットなんかも用意して。何なら、子供を作るのにも協力しちゃったりして。
 たった一人の国、独りぼっちの女王様として生きる事になるのだとしても。無念の内に死んでしまわないよう、彼女の居場所を作り上げなければならない。


 いいね。独りよがりと言われようと、目標が出来た。退屈だった日々に張りあいが出来そうだ。











 それで設計が上手くできるようになる訳じゃなかったけどな!



 結局眼鏡も見つからず、「じゃあまずは眼鏡を作れるようになればいいんだな」って短絡的に考えたが…話がそううまく進む筈もなかった。
 資材はあるが、それをどうすればそんな施設が出来るのか、道具を作れるのか。全く理解できていないし、何とか形にしてみても、やっぱりどこかでズレが出る。
 万策尽きるか、その前に資材が尽きてしまうんじゃないかと本気で心配になったものだ。


 が、天は我を見捨てなかった。…どう考えても、悪女の深情けの類だよな、この天って…。自分で地獄に突き落としておきながら、そこから拾い上げて恩人面するとか。いや、救い上げられた側が勝手に崇めているだけと言われればそれまでだけど。
 とにかく、意外な所から助っ人が入った。…意外と言っても、俺以外には一人しかいないが。

 元土座衛門の彼女は、そう言う数字に非常に強かったのだ。視力が低すぎる彼女だが、目の前の文字が読めない訳ではない。
 本人曰く、このような設計図は専門外らしいが、それでも俺がやるよりは高い精度の設計図を書く事が出来た。


「あの子が居れば、全部任せられるのに」と言っていたが、友人の事だろうか。


 まぁ、とにかく彼女のおかげで、各種製作が捗り始めたのは確かだ。
 おまけに資材の管理まで引き受けてくれた。設計図通りに作っていれば、何がどれだけ消費されていて、実際はどれだけ在庫があるのか、またその差異が生じた場合、何処に誤りがあったのか、簡単に見つけられる。…その部分の習性も、以前よりは楽になった。

 いやはや、世話になりっぱなしである。彼女の為に作っているのだが、彼女に助けられるようでは本末転倒…いやそうでもないか? 自分の生活の為に作っているのだから、彼女は自分の為に頑張っているよーなものでは? いやいや、それは助けてくれる彼女への侮辱でしょ。
 まぁ、何でもいいか。

 ともあれ、そうして過ごしていくうちに、段々と施設は形になっていき、同時に彼女も色々と話してくれるようになってきた。
 ここに来る前は、戦争に参加していた事。沢山の仲間が居た事。本来なら自分は前線で戦う役割ではなかったが、ある理由により海に出ていたところ、敵に遭遇してしまった事。以前に話したように、燃料が無くなって動けなくなっていたのは事実だが、転覆したのは嵐ではなく敵の攻撃を受けたからである事。



 …うーむ、外の世界は戦争なんかやってたのか。ここに居ると、戦争どころか人の顔すら見ないからなぁ。
 これはアレか? 今から旅立って、その戦争をどうにかしろっつー流れか?


「いやいやまさか。たった一人で戦争して勝てる筈がないじゃないですか。あなたは普通の人間なんですし」


 普通とは何ぞや。まー俺だってそんな面倒な事に関わり合いたくはない。このままマイクラ的スローライフしていたい。


「ええ、私も同感です。それに、多分外の世界は…もう何もありませんから。むしろ、ここで栄えた方がずっといい」


 何もないって、人類絶滅した訳じゃあるまいに。無くなっても精々国ってシステムくらいだろ。人は生きてる…よな?
 まぁそれはそれとして、はいこれ。
 ようやく完成したよ、眼鏡。


「ああ、本当にありがとうございます。…よし、度数もあってる…スッキリ見える視界って素敵ですね。これで、ようやく本格的に動く事ができます。………貴方には、本当にお世話になりました。二心なく、心の底から感謝しています」


 …あれ。この眼鏡かけてる人って…。


「そしてその上で……図々しい事この上ないと分かっていますが……お願いがあります。私達に、力を貸してほしいのです。…私の仲間達に、安らげる居場所を作っていただきたいのです。私にできる事なら何でもします。どうか、どうか、お願いします!」





「私達……艦娘が帰る場所を、この島に作らせてください! お願いします、提督!」




 大淀だーこの人ー! ていうかこの艦ー!
 ちょっ、MOD! 一体どんなMOD入れたのマイクラー!






外伝
マインクラフト+艦これ編

ちなみに『彼女は大きな船で、海を進んでいた』と言うのは大きな船に乗って海を進んでいたのではなく、彼女=大きな船=戦艦で海を進んでいたという意味なんやで。


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442話

サボり癖のあるバカバイトと、自分が楽しながら売り上げをとる事しか考えてないクソ店長のおかげで、3日×3時間の残業が決定しました。
あんなクソから身を守ろうと思ったら、自分が偉くなるしかないんだな…。
反面教師にさせてもらおう。

遊びに行く気力もなくなった、令和早々に最悪のGWだったぜ…。


EDF続行中。
現在、HPがマックスになって、ハーデストの後半に差し掛かりました。
うーむ、武器が揃うと楽だな。
適したやり方になると、かなり楽に処理できるんだよなぁ。
デコイとセントリーガンで敵を引きつけ、横から纏めて始末するのが定番になってきた。



あと、艦これ外伝の続きを1話だけ考えていますが、あんまり艦これできないなぁ…。
あんまり重い設定を突っ込むのもなんだし。
こう、☆凛さん的にネタとイチャイチャを混ぜたのを書き上げたいのだけど…。


 色々と話がややこしくなってきているが、とりあえず九葉のおっさんに報告に来た。

 「異界の消失はどうした?」と皮肉を言われたが、施設で見つけた資料を渡して、茅場が接触してきた事を知ると眉をひそめて舌打ちをする。

 

 

「奴め、余計な事を…。まぁいい。知られたところで痛くも痒くもないわ」

 

 

 だったら最初から、部下の救出依頼と言っておけよ。

 まぁ、事が事だから、最初から説明する事ができなかったのは分かるし、俺達が口先だけでないのか試験が必要だったんだろうけどさ。

 

 で、連れ出してほしい部下ってのはどんなのだ? 男だったら、それだけで候補が搾れるんだが。

 

 

「女だ。茶色がかった短い髪で、目付きも態度も猫を思わせると言われていた。お喋りがすぎるともな」

 

 

 …猫みたいな見た目、ねぇ…。

 

 

「尤も、それもどれ程名残が残っているか分からんがな。滅鬼隊は外見も精神も、徹底して改造されていたらしい」

 

 

 そんな所に部下を送り込むんか…。送り込む方も送り込む方だが、行く方も行く方だな。どんだけ覚悟ガンギマリしてんだよ。

 

 

「行方不明になった姉が、滅鬼隊に居るという噂を聞いたようでな…。感情で先走りかねなかった。それくらいなら、まだ手綱を握ったままの方がよかったというだけだ」

 

 

 さて、どうしたものか。

 それらしい者を連れ出してきても、外れだったらどうするか。そのまま眠りっぱなしにさせる事もできまい。

 

 

「滅鬼隊の戦力については、最初から当てにしておらん。欲しいというなら、貴様が引き取るがいい」

 

 

 そりゃどうも。しかし、いいのかい? 失敗が多かったようだが、それは多分ちゃんとした教育を受けてなかった為だ。しっかり仕込めば、それこそ昔語りにあるような精強な部隊が組み上がりそうだが。

 

 

「構わん。使えそうなら使うつもりだったが、それ以上に手間と余波が大きすぎる。貴様が面倒を見ると言うなら、多少は援助してやろう。本当に使い物になるまで育て上げられれば、確かにいい戦力になりそうだからな」

 

 

 こっちに面倒な事は投げておいて、上手く行ったら「金貸してやっただろ」とばかりに恩に着せるつもりかい。

 ま、いいさ。あんたなら、そう悪い事にはなりそうにない。少なくとも捨て駒にすらならないって事はなかろうよ。

 

 ところで、識って軍師を知ってるか?

 

 

「…あ奴か。知っているが、どうした」

 

 

 シノノメの里にある、超界石ってのを手に入れようと動いているらしいんだが、何か知らんか?

 

 

「…あ奴はただの軍師ではない。私にも探り切れない背後がある。その奴が、シノノメの里を…? よかろう。調べておくとしよう。貴様らは、引き続き滅鬼隊を調べよ。分かっていると思うが、迂闊に異界を消すな。過剰反応しそうなのが何人か居る。…シノノメの里への援助は手配しておこう。識を調べるついでにな。それと、滅鬼隊の人間を連れ出したなら、こちらにも連絡を入れろ。匿う場所くらいは用意する」

 

 

 あいよ。

 ふむ、とりあえず当初の目的と言うか、義理は達成できたかな。

 今更こんな事を言うのもなんだけど、俺はシノノメの里の住人じゃない。立場で言えば、付き合いと案内で霊山まで来ただけだ。

 両さんに頼まれたのも、シノノメの里の為に霊山から援助を引き出す事、だし。

 

 ま、義理を果たしたから、後は勝手にやってちょーだい、とは言えないけどね。

 代表としてきている白浜君は弟子だし、ここで放り出したらシノノメの里に対する援助だって打ち切られかねないし、雪風とその仲間を放り出す訳にもいかん。

 何もかもを解決する気はないが、もうちょっと区切りのいい所まで付き合うとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 さて。今後どうするかと言えば、滅鬼隊の指揮官、頭領を起こす事が優先される訳だが…それはそれとして、最近欲求不満である。

 別に明日奈や神夜に不満がある訳じゃない。そっちは楽しい日々を過ごさせてもらっている。

 まぁ、雪風が添い寝をせがむ事があるんで、以前に比べると頻度が……別に落ちてないな。眠っている雪風の横でコッソリ致していたり、日中に人目のつかない場所にひっぱり込まれてアレコレやってるから。

 

 んじゃ何事だって、そりゃ狩りだよ狩り。俺、ハンターでゴッドイーターでモノノフでアラガミでのっぺらミタマの集合体で以下略よ。

 霊山付近の鬼じゃ、はっきりいって雑魚極まりなくて手応えが無いのだ。

 この辺りに出るのは、精々ゴウエンマくらいだからなぁ…。それだって大物と言えなくもないが、下位の鬼程度の力しかないから話にならん。

 せめて目新しい鬼か、もうちょっと頑丈な奴が居ればなぁ…。昨日も、ついつい手甲の一撃で、クナトサエの甲羅を叩き割ってしまった。いかんいかん、狩りに私情を持ち込むのはよろしくない。

 

 

 

 

 なんて事を考えてたら、見事にその新しい鬼が出てきてしまった。

 いや、新しいというか……GE世界でも見た、進化したっぽい鬼? MH世界のモンスターに似ている鬼だ。

 見知らぬ獲物についついテンションが上がって、その場で狩ってしまったが……暫く様子見した方がよかったかなぁ? 新種の鬼が出てきてるって口で言っても、まず信用されないだろう。何だかんだで、霊山は他の里に比べて鬼による被害が少ないから、他人事みたいに考えている雰囲気がある。

 

 とりあえず、見つけた鬼は……多分、クナトサエ…だと思う。うん、でかい甲羅背負った陸亀みたいな奴だったし、ベースになったのは奴だろう。

 では、MH世界の何に似てたかと言うと……ガララアジャラだ。

 実戦経験を積ませる為に連れて行った白浜君が、大騒ぎだったなぁ。

 

 

「あいええええぇぇぇ!? 玄武!? 玄武なんで? 守護獣が鬼!?」

 

 

 って感じで。

 

 うん、実際玄武っぽかった。クナトサエに、鱗やら何やら追加した感じのボディ、そして異常に長い尻尾。尻尾は甲羅の上の砲塔を守るようにとぐろを巻いていた。…甲羅の上に、一本クソを乗せてるように見えなくもない。

 まぁ、それに見合った頑強さと戦闘力ではあったよ。

 クナトサエって、背中の砲塔からなんかよく分からん砲撃をバカスカ撃ってくるだろ? あれって瘴気の塊みたいなもので、基本的には地面に落下したら霧散していたんだ。

 それが、ガララアジャラの鱗みたいなものが飛んでくるようになってさ…。地面に突き刺さって瘴気は消えないし、クナトサエが吠えると共鳴してドカンドカン爆発しながら瘴気を振りまくしで大変楽し……もとい、大変だった。

 白浜君も青い顔してたな。

 元が頑丈なクナトサエだし、その甲羅の守りを更に固めた。ついでに、短かった尻尾がクッソ長くなって、背後からの攻撃に対する反撃も、広範囲攻撃も可能になった。

 うーん、中々クソッタレな組み合わせだ。ゲームで出たら、馴染み度上げのクナトサエ道場が開催されそうだな。

 

 

 ちなみに、必死こいて戦う白浜君を、後ろから適当に応援してました。格上と戦わせたかったからね、丁度よかったね。

 結局途中で俺が我慢できなくなって、乱入しちゃったけども。

 狩ったら狩ったで、白浜君は「守護獣が…神様殺しちゃったよ…」って落ち込んでたけど、これは単なる鬼である。マジモンの玄武だったらこんなものじゃないだろうし、本当に玄武がこの程度の力しかないなら、俺が守護獣になった方がマシだわ。

 

 

 ふむ、しかし玄武、玄武ね。と言う事は次は青竜か朱雀か白虎か、或いは黄竜や麒麟や白澤なんてのも出てくるかもしれん。…いや、デカいサルの方が先かなぁ? 斉天大聖とか……もしそうなったら、確実にラージャンだろう。

 …いや、ここは日本だしなぁ。中国よりも日本の怪物が出てくるかも………いや、よく考えてみりゃ既に鬼だらけだったな。

 と言う事は、逆に閻魔大王とか出てくるか…本当に閻魔様なら、暴れている鬼達をどうにかしてほしいもんだ。

 …最強の暗黒鬼神とセットになってる閻魔様だと、アテにできそうにないなぁ。

 

 

 

 …益体も無い思考はこれくらいにしようか。

 さて、白浜君、今日の本題だ。

 

 

「かみさま…かみさまを…え、あ、はい? 本題って、実戦だったんじゃないんですか?」

 

 

 それもあるが、ちと聞き捨てならない事を聞いたんでな。正面切って確認しておこうと思ったんだ。

 だから、他には誰も連れてきてない。

 

 

「神夜さんも明日奈さんも居ないとは思ってましたけど…雪風さんがよく離れてくれましたね?」

 

 

 山本先生がお婆ちゃん役して宥めてくれた。

 その後は明日奈と神夜に連れられて、友人の所に遊びに行ったよ。知ってたっけ、直葉ちゃんの事。

 

 

「あー…確か、道場の管理人の子でしたっけ? 顔を合わせた程度ですけど。あとは……そうだ、桐人の妹でしたっけ」

 

 

 そういや、お前ら会ってたっけな。桐人がいきなり、兄貴なんて呼んできた時だっけか。

 

 

「ええ、何だか気が合いまして。実を言うと、桐人とは何度か一緒に任務に出たんですよ」

 

 

 ほぉ? …どうだった?

 

 

「強い…ですね。少なくとも、悔しいけど僕よりは。師匠や泥高丸さんには程遠いですし、明日奈さん達が相手だと……女性恐怖症を何とかすれば、何とか渡り合う事はできる、くらいかな?」

 

 

 おお、意外とやるんだな、あいつ。装備はほぼ新米のものだが、腕はそこそこか。

 まー比べる相手が悪いやな。泥高丸は仮にも里のモノノフの頂点だったし、俺は色々と規格外と言うか法則外というかキチガイだし、神夜と明日奈は最近どんどん腕を上げてるからなぁ。

 

 

 話を戻すが、神夜と明日奈はその子の所へ、泊りがけで遊びに行ったよ。桐人君も任務で泊りがけらしいんで、様子を見てやってほしいと頼まれたんだと。

 では、話を戻すぞ。

 白浜君、これは師匠としての確認だ。誤魔化さず、しっかりと答えるように。

 

 

「………はい!」

 

 

 君、この前「ちょっと気になる子ができた」って言ってたよね。どんな子?

 もう面識はあるのか? 名前は? どんな切っ掛けで知り合った?

 

 

「…真面目な顔して、そんな確認ですか!? かなり本気で心構えしたのに!」

 

 

 馬鹿野郎、真面目で重要で、今後に大きく影響する大事な話だぞ。

 それとアレだ、助言や手助けは欲しくないのか? 前にも泥高丸とも話した、男女の秘儀とか試してみたくないか?

 

 

「………………………………………い、いや…でも……」

 

 

 おお、揺れとる揺れとる。

 ちょっと詳しく問題を解説すると、お相手次第で白浜君の今後を色々考えなきゃいかんだろ。お前が霊山に来てるのは、シノノメの里の代表…の依り代としてだ。下手な事はできないし、一段落したら里に戻らなきゃいかんだろう。

 また霊山にやってくるとしても、すぐには無理だ。

 その間に、他の誰かが…とは言わないまでも、お前を覚えててくれると思うのか?

 

 

「それは……。…………」

 

 

 何を想像しているのか、眉間に皺が寄っている。寝取られたシーンでも考えてしまったのか。だが、実際には寝取られも何も、そんな関係まで辿り着いてはいない。

 ついでに言えば、霊山に居られる期間はそう長くない。既に九葉のおっさんを通じて援助を引き出せた事もあるし、それ以上に早い所滅鬼隊をどうにかして霊山から距離をおかないと、黒幕がこっちに牙を向けないとも限らないのだ。

 最悪、白浜君が意中の人を射止めたとしても、俺達が居ない間に捕縛されて人質に…なんて事も考えられる。

 

 

 あんまりよくない想像を吹き込むのは躊躇われるが、そういう立場に居るんだぞ、お前は。霊山の闇は否定できない。少なくとも、雪風を見てりゃ分かるだろう。

 面白がってるのは否定しないが、とりあえずお相手がどんな人なのかだけでも言ってみろ。

 まかり間違って神垣の巫女候補だった日には、物凄い勢いで話がややこしくなるぞ?

 

 

 

「はぅぅぅ!?」

 

 

 …? …おい、まさか…。

 

 

「し、師匠、やっぱり知って……え? あれ? ひょっとして、当てずっぽうでした…?」

 

 

 ひょっとしなくても当てずっぽうと言うか、思い浮かぶ中で面倒くさそうな展開を口にしただけなんだが……そっかー、神垣の巫女候補かぁ…。

 うわぁメンドクセ…。

 

 

「面倒くさいって…何でです? そりゃ確かに高嶺の花ではありますけど。師匠だって、雪華さんと……その、そういう関係になったのでは…」

 

 

 

 …雪華は色々特殊な例だったが…霊山の巫女候補達だと、もっと面倒くさそうだなぁ。

 と言うか、よく知り合えたな。神垣の巫女候補達は、基本的に男との接触を徹底して断たれてるんだぞ。男との関係や思慕を拗らせて、里を危機に追い込んだ例が幾つもある。

 

 

「き、危機…ですか? あの子が? あ、でも雪華様の時は、生前の未練を晴らそうとした巫女様達が暴走したんだし、有り得なくも…」

 

 

 そういう気質だから隔離されてるのか、隔離されたからそこまで拗らせるのかは知らんが…下手すると、俺と雪華みたいな事が霊山で起こりかねんぞ。

 流石にあそこまではいかないと思うが…。

 

 

 と言う訳で、お相手の情報はよ。はよ。

 

 

 

 

 

 

 詳しく話を聞いてみたが、まだマシな方だった。

 白浜君と懇意になった(という程でもないが)神垣の巫女は、候補の候補のそのまた予備程度の扱いでしかないらしい。

 名家の血を引いている訳でもなく、突出した才能を見出されたわけでもなく、正式に巫女として霊山で訓練している訳でもない。

 幼い頃、両親にモノノフ修行体験会に参加させられたところ、どっちかと言うと結界とかに適性があるのが分かって、「じゃあついでだから、習うだけ習っておけば?」みたいなノリで巫女修行する事になったのだとか。

 …意外といい加減な扱いだな。神垣の巫女の扱いは、本来もっと厳重と言うか、腫物扱いと言ってもいいくらいなんだが。

 

 最初に出会ったのは本屋。貸本屋が本業な事もあり、白浜君はそこらの本屋を見て回っていたのだが、その一つで彼女と出会ったらしい。…らしい、と言うのは本人も今一つ覚えていないからだ。

 巫女(仮)の方は、客数が少ない本屋を営業している事もあり、やってきた珍しい客と言う事で何となく顔を覚えていたそうな。

 

 次に出会ったのは翌日。今度は本屋ではなく花屋。…花屋って言っても、世間一般で考えられるような花屋とはちょっと違うんだけどね。

 モノノフにとって、花は重要な道具だ。薬を作るもそうだし、それ以上に花には宗教的な意味合いもある。つまり、神仏に対して祈りを捧げる時の捧げものでもある訳だ。

 

 しかし、そんな事には関係なく花が好きな白浜君は、何か買って帰ろうか…と思い、普通のモノノフなら見向きもしない、地味かつ特に意味のない鉢植えを買おうとしたんだが…丁度その時、同じ物に注目していたのが巫女(仮)の彼女だった訳だ。

 見知らぬ異性と話すのが特異とは、天地がひっくり返っても言えない二人だが、趣味があった事もあり、随分と話が弾んだらしい。

 そして別れ際、清水の舞台から…と言うか単騎でトコヨノオウに戦いを挑むくらいの度胸を振り絞って、「また会えませんか?」と聞いた訳だ。

 

 結果は大成功。あっちもそのまま別れたくはないと思っていたんだろう。

 また同じ花屋で会う約束をし、迷惑にならないかと迷いつつも翌日にまた会い、修行中のモノノフだと知られれば手作り弁当なんか差し入れてくれる事になって。

 

 

 …白浜君、君、意外と手が早いね。

 

 

「師匠にだけは言われたくないんですけど!? あと、実は色々と牡丹様が助言をくれたんです」

 

 

 

 うまく発破をかけてくれたか。上出来だ、牡丹様。

 …白浜君に宿っているから目には見えないが、笑顔でサムズアップしている牡丹が目に浮かんだ。

 

 しかしそうなると…向こうにも白浜君に気があるっぽいなぁ。後は本人の身元調査くらいはやっとくべきか…。

 

 

「身元調査って……いや、そりゃ言いたい事は分かりますけど、出来すぎなくらいの出会いでしたし、あの子はともかくこっちは状況が状況ですし」

 

 

 意外と冷静で何よりだ。

 …もう少し詳しい人となりを知らないと何とも言えないが、鍵になるのは別れ際かな。

 シノノメの里に戻る時、何かこう……情熱的な口説き文句と共に「待っていてほしい」みたいな事を言って、後は文通でもしてれば、少なくとも忘れられる事はないだろう。

 白浜君から聞いた話だと、奥手な性格をしてはいるが、一度見定めた相手の為なら突っ走るタイプと見た。会って間もない白浜君の為に、差し入れなんか持ってきているのがいい証拠だ。

 一歩間違うと、ヤンデレに変わってしまう気質もありそうだが……まぁ、そこは白浜君なら大丈夫だろう。誠実かつ全力で向かい合っていれば、例え会えなくても繋がりは途切れたりはするまい。

 

 

 

 ふーむ、しかしどうするかな。白浜君はシノノメの里に戻るのか、霊山に留まって里の為に何か活動するのか、或いは俺と共にウタカタに来るのか。

 ま、本人の選択次第だね。

 

 



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443話

同人脱出ゲームをやっていて思った。
M男が集団痴女から逃げるとか、敵に接触したらこっちがダメージ受けて理性とか精力とか削られる、ってパターンばっかりだなぁ…。

プレイヤーをS男にした脱出ゲームにしたらどうなるか?
敵は基本M女。
敵から逃げ回る…のはS男的にシチュエーションに合いそうにないので、こっちから追いかけて捕まえる?
自分から寄ってくるのは、誘い受けタイプのM女。
接触したらエロシーンに発展し、ダメージは受けないけど時間が経過してしまいます。
タイムリミットまでに脱出すればクリア。
そうでなければ、延々とM女達を調教するバッドエンド(?)が待っています。

…どうせやるなら、SSの中でやるか…。


堕陽月壱日目

 

 

 ようやく新しい暦に突入。なんか普段の倍以上の日数だったような、そうでもないような。

 …ところで、何で俺は日記をつけておきながら、日付を書いてなかったんだろうか? まぁいいや。深く考えると知らなくていい事を知ってしまいそうだ。

 

 それはともかく、今日も茅場の突撃朝一番を受けた後、滅鬼隊が居る施設に向かう。

 雪風を見ていたが、体調不良が発生するでもなく、精神的に不安定…なのは否定できないが暴れ出すような事もなく、九葉のおっさんからの支援も確約できた為、もう一人目覚めさせようって事になったのだ。

 

 勿論、狙いは指揮官である『浅黄』。記憶がどれくらい残っているのかは分からないが、最悪でも雪風に仲間が出来たと感じさせる事はできるだろう。

 ……その雪風は、今朝方帰ってきてから、何故か山本先生の背後に隠れてあうあう唸ってるんだけど。

 

 …神夜、明日奈、遊びに行った先で何かあったのか? まさか直葉ちゃんに妙な事してないよな?

 

 

「してないわよ…。まぁ、その、ちょっと刺激の強い話をしたのは確かだけど。…がーるずとーく、って言うんでしたっけ」

 

「ですね。直葉ちゃんもそういう事に興味があったみたいで、お酒も入っていたのでつい色々と…最初は『こすぷれ』の話だったんですが、そこから芋づる式に…」

 

 

 ……普段ヤッてる事を話しちゃった訳ね。0歳児に春画見せて英才教育するような真似してんじゃねーよ…。

 と言うか、雪風と直葉ちゃんまで飲んだんかい。

 

 ともあれ、こりゃ顔を合わせずにクールダウンさせた方がよさそうだ。

 若いお姉さん姿の山本先生、すみませんけど雪風をお願いします。

 

 

 

 

 諸々押し付けて、再度滅鬼隊の保存施設にやってきた。念のため入り口の辺りを調べてみたが、俺達以外の誰かが出入りした様子はない。

 …ここに滅鬼隊を保存した黒幕は、俺達が出入りしているのに気付いてないんだろうか? 異界に沈めたから、誰も手が出せないと高を括っているんだろうか。或いは、俺達を泳がせているだけか。

 

 考えても仕方ないので、中まで進んできたが…さて、どれが『浅黄』だ?

 一通り見て回ったけど、似たような姿の女性が四人居る。どの人も、スペック表に書かれていた『浅黄』の特徴に当てはまる…と言うか、これ年齢が違う同一人物っていう設定でもあるんじゃないのか?

 

 

 

「茅場さんの話だと、以前に活動していた時の古傷なんかが見られる人が、可能性が高い…んだっけ」

 

 

 そういう話だな。…しかし、見た所一目で分かるような傷がある人はいないな。この容器に入ってる液体、傷を癒す効果なんかもあるのかも。

 剣胼胝なんかあれば分かるかもしれないが……駄目だ、角度的に確認が難しい。

 

 これ以上観察しようと思ったら、容器の液体を取り除いてしまいたいな…屈折のおかげで、どうしても詳細がぼやけてしまう。しかしそれをやると、多分容器の中に戻す事はできない。つまり、すぐに連れて脱出しなければならない訳で…。

 

 

「…あの、そんなに悩まなくても、あなたなら一目で見分ける方法があると思うのですが」

 

「? 神夜、いい考えでもあるの?」

 

「ええ。…多分できるだろうと思うんですけど」

 

 

 俺なら出来る…? しかも一目で?

 具体的な方法は?

 

 

「いやらしい目で見るだけです」

 

 

 …それだけで、何が分かると言うのだね。と言うか、救出の為とは言え、女性の裸体を無断で矯めつ眇めつするのはよくないって言ったのは君達なんじゃが。

 いやらしい目で見ろって言われてもな…状況が状況だし、前と同じであんまり催さないんだよな…。

 それで? いやらしい目で見ると、何が分かる訳?

 

 

「滅鬼隊の方々は、起こすのに…その、交わる必要があるんでしょう。でしたら、目を覚ました事がある方は…経験がある訳で…」

 

 

 あー……そうか、処女じゃないのか!

 

 

「はっきり言われると、また複雑な気分ですねぇ…」

 

「それは確かに大きな特徴と言えば特徴かもしれないけど、それこそどうやって見分ける気よ? その…した事があるかなんて、外から分かる訳ないじゃない。…証だって、運動とかで破れちゃう事も」

 

 

 いや、処女かどうかくらい見れば分かる。何人も破って来た経験のおかげで、場合によっては目で見なくても気配だけで確実よ。

 

 

「………今更だけど、何人の女の子としてきたんだろ、この歩く公衆猥褻物…」

 

 

 お前はその猥褻物の恋人だぞー。

 …それはともかく、神夜の画期的な考えのお陰で、すぐに発見できそうだな。と言うより、記憶を思い返せばこの場でいける。

 

 んー……うん、『浅黄』の中で、処女じゃなかったのは一人だけだ。

 ついでに言うと、他の滅鬼隊の中にも処女じゃない人は居たな。

 

 

「…提案しておいてなんですけど、本当に見分けられるとは…。変質者極まりないです…」

 

 

 分かるものは分かるんだから仕方ないにゃー。

 …最近、鷹の目と鬼の目が進化してきて、注意深く覗き込めば他にも色々と分かるようになってきてるんだ…。具体的には経験人数(同性含む)とか、絶頂した数(自慰含む)とか。…下手に覗き込むと、地獄の蓋を開ける事になりそうだけどな!

 

 さて、とにもかくにも誰が『浅黄』なのかは確定できた。これが当たっているかは、目を覚まして話を聞いてみなけりゃ分からないが。

 

 

「じゃあ、今日はその人を担いで撤退する?」

 

 

 いや、もうちょっと奥まで調べる。茅場が言ってた、異界を生み出す事になっている元凶も特定しておきたい。

 …それに、滅鬼隊員達を目覚めさせる合言葉の一覧とか、どこかにあると思うんだ。

 

 

「それは…どうでしょう? もしあったとしても、燃やしていると思われる…と、先日の会議の時に結論されていませんでした?」

 

「うーん……私も最初はそう思ったんだけど…。…偏見みたいな言い方になるけど、こんな仕組みを作った人達が………つまり、頭の悪い春画みたいな妄想を実現させて研究…なのか遊んでるのかよく分からないけど、まぁとにかく程度の低い人達よ? 証拠隠滅だって杜撰だろうし、異界に沈めるなら態々燃やす必要もない…とか思いそうじゃない?」

 

「…相手の無能に期待するようですが…確かにありそうですねぇ。加えて言うなら、『ほとぼりが冷めた頃に回収して、また使えるように』なんて考えで合言葉の記録も残しているかもしれません」

 

 

 流石にその場合、この施設じゃなくて手元に置いておくと思うけどな…。でも確かに、明日奈が言うようにこんな頭悪い事してる連中だもんな…。

 ……まぁ、合言葉表は見つかったら幸運、くらいに思っておこう。

 どっちにしろ、『浅黄』を目覚めさせる合言葉は探り当てなきゃならんのだ。

 交合は最後の手段。

 

 

「その最後の手段に出るまで、どれくらい時間がかかりますか?」

 

 

 ……………ふ、二日くらい…かな…。

 いや欲望云々じゃないよ? そっちは二人を相手に充分満たされてるよ?

 真面目な話、雪風が目を覚ましている事も『黒幕』にいつ露見するか分からないし、ここから先は極力素早く動く必要が…。

 

 

「はいはい、今更それくらいじゃ怒りませんから。言い募ると余計怪しく感じますよ。…怒りを向けるべきなのは、あなたじゃなくて黒幕の方です」

 

「じゃ、この話はここまでにして、もうちょっと奥まで進みましょう。異界での活動限界までまだ余裕はあるけど、気を緩めないようにね。白浜君も、とんでもない鬼と戦ったそうだし」

 

「そう言えば、詳しく聞いていませんでしたね。どんな鬼だったんですか? 興味深いこと極まりないです」

 

 

 その話は後でね。寝物語にでも話してやるよ。

 さて、先に進むぞ。

 

 …と言っても、施設自体は一通り見て回ったよなぁ…。

 

 

「瘴気の源らしいものは、見かけませんでしたが…実は施設の外にあるとか?」

 

「隠し通路とかあるんじゃない? 瘴気が一番濃いのは、間違いなく施設の中だし」

 

 

 どっちもありそうだな…。瘴気が濃いのは、流れ込んで蓄積された瘴気が淀み溜まっているから…かもしれない。

 でも、施設の周りはここを見つける為に一通り確認してる。隠し通路を探す方向で行ってみよう。

 

 

「わかったわ。それじゃ、単純に考えれば…特に瘴気が濃い辺りが怪しいかな。と言っても、どこも大して変わらないけど…」

 

 

 手掛かりはあるぞ。瘴気の動きって、空気や風の動きと連動してるから、そこを辿れば。

 

 

「風って言われても、ここは地下で室内ですよ。全くの無風とまでは言いませんが…。間取りを考えて、不自然な空白がある部分を探した方がいいのでは?」

 

 

 間取り…間取りか。確かに、それで検討をつけて、鷹の目で入り口を探した方がよさそうだ。

 よし、それで行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で探してみたんだが…ちょいと予想外だったなぁ。

 地下にある施設に、更に地下室作ってるとは思わなかった。と言うより、その地下室の上に他の部屋を増築していったようだ。 

 施設の本命はその地下室で、それ以外の部分はついでだった訳ね。

 滅鬼隊の保管や研究も、この副産物だったんだろう。

 

 

 そして、施設の更に下にあった空洞は……見覚えがあった。

 

 

「これは……何なんでしょう? 雰囲気が一変しましたが…」

 

「それ以前に、どう見ても尋常な代物じゃないわね。壁から天井まで金属で覆われてる…素材にはそこそこ詳しい自信があるけど、こんなの見た事無いわ」

 

 

 …俺は、ある。これは箱舟だ。

 

 

「箱舟? …船、ですか? こんな山の中に?」

 

「これが船って…どれだけ大きいのよ」

 

 

 俺が見た事がある奴は、全長の半分だけでも塔みたいな大きさだったよ。マホロバの里…霊山の西にある里の近くに、思いっきり突き刺さってた。

 全体が未知の金属で構成されていて、絡繰りで動いていた。

 

 船って言っても、水の上に浮かべる船じゃない。もっと違う……なんて言えばいいのかな…時間や世界を渡る為の物、らしい。

 …茅場が飛びつきそうな話だな。

 

 

「時間や世界? よく分かりませんけど…結局、それがどうしてここに? これも同じ物なんでしょうか?」

 

 

 さぁ…間取りは似通ってるけど、そもそもあの船もどういう構造になってるのかよく分からなかったからなぁ…。

 大きな広間があって、その中に一体か二体、強力な鬼が居て…。

 

 

「…その強力な鬼って…あれかしら」

 

「あれでしょうね」

 

 

 大きな広間、その真ん中に一匹の鬼が眠っている。獣のような、トカゲのような。 

 

 

 そして背中に銃身を背負っているような。

 

 

 

 

 

 っていうか、あれMH世界のガスラバズラっぽいぞ。

 そして背中の銃身は、GE世界のラーヴァナのようだ。

 

 だが、感じる気配は鬼のもの。しかし普通の鬼でもない。外観や他の世界の生物っぽい特徴を差し引いても、普通の鬼とは一線を画す気配がする。

 

 …と言うか、こいつ俺と同類じゃね? 別に色情狂とか、のっぺらミタマ集合体とか、死んでも繰り返しているとか、そーいう事じゃない。

 こいつから、虚海が使っていた触媒の感覚がある。俺もそれを取り込んでしまってるから分かるが…間違いない。こいつ、蝕鬼だ。

 

 …大きな広間、しかも世界を超える舟の中。どう見ても生活スペースではない。むしろ何か重要な物があるぞと言わんばかりの空間。

 そのド真ん中に陣取って眠る触鬼、しかもメカメカしい部位を持っている。

 

 

 

 

 こいつ…まさか、ここにあった物を全部取り込みやがったのか? ここに保管されていたであろうエネルギー源、それを利用する為の機構、安全装置、その他諸々…ここにあった物を貪り尽くして眠っていたのか?

 そして今、何もなくなった空間の中に、新しい『何か』が入って来た訳で。

 

 

「眠ったままでいてくれればいいのに…。久しぶりに本気の戦いになりそうね」

 

「背筋が冷えます…。ですが、斬冠刀は煮えたぎっています」

 

 

 ゆっくりと体を擡げた鬼を見て、二人は得物を抜き払う。俺はもう抜刀済み。

 鬼から感じる圧力は、討鬼伝世界に来て以来…いや、フロンティアに居た頃に感じて以来のプレッシャーだ。俺でさえそれくらい感じているのだから、明日奈も神夜も本気で死の危険を感じているんだろう。それでも武者震いしているのは、モノノフのサガだろうか。

 長い時間、ここでずっと眠っていたようだ。動きは鈍いだろうが、内部の誤作動は期待しない方がいい。それだけの時間があれば、体を最適化していると思われる。

 

 ガスラバズラにラーヴァナ…毒、デッドリーヴェノムが主軸か? だが、ここにあった物を喰い尽したのであれば、単なる毒では留まるまい。

 超エネルギーによる砲撃は当然。吐き出した毒に向かって高熱を打ち込み、気化させて毒霧くらいはやるだろう。毒と薬は紙一重だし、自分に対して使った毒でドーピングしたり、回復薬の真似事みたいな事もするかもしれない。

 

 だが、真に注意すべきは背中からの砲撃や毒ではなく、蝕鬼としての能力だ。

 触れた物を何でも取り込んで、自分の一部、或いは自分と同じ存在に変えてしまう能力。流石に触れたら即座に、と言う訳ではないが、万一吸収されてしまったら即死である。

 

 逆に弱点と言えるのは…属性は当てにしない方がいい。元が何で、何に似ているのであれ、ここの材料を取り込んだ以上、元の性質とは全く違うモノに成り果てているだろう。

 背中の銃身は非常に大きくバランスが悪そうだが、それを支える為の足は異様に発達している。ちょっとやそっとでは、グラつかせる事さえ難しそうだ。

 となると……一番攻撃が通りやすそうなのは、銃身内部。つまり、こっちに銃口を向けた時に早打ちカウンターを叩き込む、か。それにしたって、超エネルギーの攻撃に耐えうる銃身である以上、致命打には遠そうだが…。

 

 

 これ以上考えても、いい突破口は見つかりそうにない。さぁて、一丁やりますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いやはや、久しぶりに激戦でしたな。ついついアラガミ化した上に、鬼杭千切まで使っちゃったよ。

 全く何を取り込みやがったのやら。毒と超高熱は予想してたけど、雷、冷気、岩(と言うか金属の塊)に、各種状態異常…睡眠やら気絶やら平衡感覚がメッチャ狂うやら力が抜けてしまう毒やら、とにかく真っ当な状態で居られた時間は数える程だ。

 ステータス異常のオンパレードだよ。

 そこへきて、単純な火力もバカみたいに高い。

 

 戦いの最中、3人揃って麻痺毒・睡眠毒・物理的拘束で足を止められ、トンデモ火力の砲撃を受けた時はマジでヤバかった。拘束魔法からのスターライトブレイカーって、多分あんな感じだ。

 どうやって切り抜けたか? そりゃ、俺は物理的拘束で足だけ動かなかった訳だからね。後ろには動けない二人が居たんで、逃げるに逃げられなかったから…アバン流刀殺法・海破斬で叩き斬りました。

 あそこでなー、斬るんじゃなくて反射させられればほぼ勝ち確定だったのになー。

 

 その後も、レールガンみたいな超スピード狙撃とか、両腕を振るって起こした竜巻で攻撃とか、なんかよく分からない触手とか鞭とか、後は何があったっけな…。空気大砲、ドーピングからの超筋力、回復、地面に潜る(と言うより、あれは影を伝っていたような気が)、異様に硬くなる、etc etc…。

 一体幾つ手札があったんだろうか。多分、まだ見せてない奥の手とか、使えるには使えるけどあんまり意味なさげな機能とかもあったんだろう。

 特に、最後に繰り出そうとした攻撃はヤバかった。予備動作の時点で止めてなかったら、神夜か明日奈のどっちかが重傷を負っていただろう。あれは……ドーピングからの……原理的には、居合だったんだろうか? 力を貯め込み、爪を敢えて障害物(こいつが作り出した、硬い岩みたいなもの)に引っ掛けて、デコピンの要領で、こう…。

 繰り出される直前、久々にアクセラレータ使って3倍速で突っ込んだぞ。

 

 

 …事前情報に気付かなかったら、一人死んでたなぁ…。

 

 

 

 うん、あったんだ、事前情報。こいつに連なってるって気付かなかったけどさ。

 戦っている内に、疑問に思ったんだ。あまりにも多くの手札、次々と変わる攻撃属性と方法。幾ら何でも多すぎないか? ゲームで言えば、たった一人の敵がホイミから『混沌より溢れよ怒りの日』まで、好き放題にぶっ放してくるようなもんだ。…いやエイヴィヒカイトは流石に言い過ぎとしても。

 こいつが元々持っていた能力ではない筈。スネ夫もといアルバトリオンでさえ、使える属性は4つ程度。

 と言う事は、これらの能力は触鬼としての力により、ここにあった『何か』を取り込んだ結果得られたもの。

 

 では、その『何か』とは?

 

 

 

 

 

 

 答え。

 

 

 

 

 滅鬼隊。

 

 

 

 

 

 或いは……そうであってくれと願う……滅鬼隊に異様な力を与える為の、製造装置。

 …こいつが使ってくる能力な、多少の差異はあるが、滅鬼隊の資料に書かれていた能力と似通ってるのに気が付いたんだ。理由はともかく、相手の手札がある程度予測できたから、先読みして攻勢に出た。

 結果は見事に大当たり。全部ではないが、初めて使う攻撃方法・防御方法を先読みし、いい塩梅にカウンターを何発か叩き込めた。うまい事部位崩壊してくれたから、そこからガンガン攻めて打ち取ったって訳。

 

 

 

 

 

 で、後からこいつが滅鬼隊の術っぽいのを仕えた理由を考えてみたんだが…。

 

 幾ら人体改造するからって、タマフリという超常の力を持つモノノフをして『奇妙な力』と言わしめた術を習得できるだろうか? バカ言え、その程度で妙な力を得られるなら、ハンターは全員バビル2世か超人ロック並みのエスパーになっとるわ。…ハンターの生態自体が妙な力そのもの? ……それは人間が元々持っていたポテンシャルです。凄いね人体。

 

 ともあれ、この施設…元は滅鬼隊を『製造』するのではなく、ある程度出来上がった滅鬼隊員に常ならざる力を付与する場所だったと見た。上の保管所は、その作業が終わるまでの待機場所って訳だ。

 そんで、この地下のスペースは、力を付与する為の手術場所、ないしその為の触媒を作り出す場所。

 舟の中心部であるこの場所には、強力なエネルギーと、それを転用する為の多種多少な装置が配置されていたんだろう。そして、それを更に転用していた訳だ。

 

 それを取り込んで……或いは、手術前で放置されていた滅鬼隊員を……、こいつは異常な力を幾つも得た。

 

 

 のかなぁ?

 うーん、今までのパターンだと、そういう色んな機能をゴテゴテ付け足したような連中は、力を使いこなせずに振り回されていたと思うんだが。

 今回のこいつは、まだまだ工夫の余地はあるだろうが、振り回される事無くしっかりと使い分けていたように思う。

 それこそ、アルバトリオンみたいな…いやいや、あいつも自分じゃ制御しきれてないんじゃないかって説もあったなぁ。まさか、アルバトリオンも触鬼みたいな生れなんじゃ…MH世界でも異端な印象が…。

 

 違う、逆だろ。元々持っていた力だから、自然と動かす事ができたって考えた方が……じゃあ、あの鬼とかアルバトリオンの産まれってなんぞ?

 …いや、今考えるべきはそこじゃないか。

 

 とにもかくにも、毒を通り越してありとあらゆる物を振りまいたあの鬼は、その体を崩壊させて中にあったモノを晒している。

 見覚えのある、人の頭よりも少し大きなくらいの石。それを取り巻いている、なんかよく分からない…容器。気のせいか、滅鬼隊の人達を保存している容器に似てるな。そこには幾つものスイッチらしきものと、注意書きらしい知らない文字が書き込まれている。

 

 要するに、触鬼が取り込んでいたと思われる、舟のエネルギー源となる物が転がり出てきた訳だ。

 他には何も出てこなかった。取り込んでいたのはコレだけだったのか、それともエネルギー量がデカすぎてこれだけ消化しきれなかったのか。

 

 とにもかくにも、こいつが…こいつを取り込んでいた鬼が、この場所の異界を作り上げる原因となっている事は間違いない。

 つまり、これに術をかけてしまえば、その性質を逆手にとって異界を浄化できる訳だが…。

 

 

「………あの、これ、本当にやるの? 見てるだけで、こう…なんか色々と冷や汗が浮かぶんだけど」

 

「そうですそうです。こんな物騒な爆弾見た事ないです」

 

 

 …うん、俺も心底同意する。上手い事活用できればなー、地方単位で異界を浄化できそうな気がするんだけど…。

 

 

「『できる気がする』で異界を浄化して、オオマガトキ一歩手前の現象を引き起こしちゃったのは誰だったかしら?」

 

 

 ワタクシです。あの後の本願寺顕如=サンの鉄拳は痛いってレベルじゃなかったよ…。

 あの時と同じ事をやっちまったら、冗談抜きでオオマガトキよりひどい事になりそうだ。

 仮に上手く行ったとしても、どんな副作用が出るかなぁ…。水清ければ魚棲まずって言うし、日ノ本全土が『消毒』されちゃうんじゃなかろうか。

 

 

 

 

 うん、これの始末は後回しにしよう。まずは異界浄化と、その前準備として滅鬼隊の避難だ。

 異界浄化自体は、これを使わなくても出来る。この場所に上手く術をかけてやれば、後は放っておいても異界は消えるだろう。

 

 

 

「…ですが、これをここに放置する気ですか? それこそ、私としては不安で眠れなくなる事極まりないのですが…」

 

 

 いや、そこは考えがある。この ふくろ に入れていれば、安全な筈だ。

 

 

「? 確かに、色々出てくるし、明かに取り出し口よりも大きな物を出し入れしてるから、普通の袋じゃないとは思ってましたけど…」

 

 

 詳細は省くが、ここに入れた物は俺が取り出そうと思わない限り誰にも触れられないし、奪われる事もなくなるんだ。

 …データ化して記録・保存されるからね。……下手をすると、コピーできちゃうのが難点だけど…。

 

 

「便利な物がありますねぇ…。と言うか、いい加減本当に何者なのか、追及するべきでしょうか…。空気を読んで黙ってましたけど、謎が多すぎます」

 

 

 あーうん、色々黙ってるのは本当に悪いと思ってる。理解を超える所が多くても、話をすべきだとも思ってる。

 ただ、本当になんて説明すればいいのか、分からな……いや、言い訳か。

 

 

「はいはいそこまで。都合のいい女になってるって自覚はあるけど、それどころじゃないんでしょ。色々打算とか、誤魔化し込みなのはお互い様よ。いいじゃない、あなたは不義理を働いてるのかもしれないけど、それ以上に報いてくれてるわ。少なくとも、私はそう感じてる。シノノメの里の為に援助を引き出す事だって、本当はわざわざ付き合う義理なんてなかったんだもの。それがこうまでしてくれてるのは、私達の為…っていうのは己惚れ?」

 

 

 ……まぁ、大きな理由ではあるね、少なくとも。

 すまんな、本当に。話せるところまでは話すからさ。と言っても、俺自身どこまで把握できてるのやら…。

 

 

「とりあえず、この話はここまでにして引き上げましょう。この爆弾も、安全な場所に確保できるならそれ以上を考えるべきではありません。異界浄化の手段を手に入れた事で、よしとしましょう」

 

 

 

 …そうだね。んじゃ、とりあえず戻って、『浅黄』を確保して戻るとしよう。他の皆を連れ出すのは、九葉のおっさんに隠蔽先の準備を整えてもらってからだ。

 



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444話

そういえば最近、人物紹介やってないなぁ。
また登場人物がワチャワチャ沸いてきた事だし、そろそろ再会しないと。
…その内ね。


堕陽月弐日目

 

 

 さて、そういう訳で『浅黄』を確保して、宿に戻って来た訳ですが………雪風が興味津々です。

 眠ったまま目を覚まさない『浅黄』を、食い入るように見つめている。…時々自分の体を触って落ち込むような仕草もしてるけど、君は充分エロいから負けてはいないのよ?

 

 

「ふむ、彼女が滅鬼隊の頭領…と思われる人物か。それで、目を覚まさせる合言葉は?」

 

 

 そーれが皆目見当もつかないんだよ、土居さん。施設に残ってた資料を幾つか見繕ってきたけど、どれも外れ。どれもこれも、他の滅鬼隊の性能表ばっかりさ。

 全く、どれだけ居るのやら。

 

 

「…一応聞いておくけど、彼女を抱きたいから知らないふりをしているとか」

 

 

 疑われる心当たりは山ほどあるけど、流石に無いわ。最後の手段としてヤるつもりではあるし、時間に余裕はないけどな。

 …ただ、言っちゃなんだが、そうなってくれた方が後々やりやすくはなるな。

 大なり小なり好意的になってくれれば、他の滅鬼隊の統率もとりやすくなりそうだし。

 

 

「交わるやり方で一度起こしてしまえば、他の人達にも同じ方法をとれる…踏ん切りがつく、か。しかし私はやはり勧めないな。人の感情は、素手で触れるには複雑で繊細過ぎる。好意的になる程度ならいいが、嫉妬で刺されでもしたら…」

 

 

 射られた事ならあるし、今更その程度じゃ死なないから大丈夫。中に誰も居ませんよ、されても平然と復活できるからな! …男の体で、誰か居たらえらい話だけど。

 

 

「言ってる事がよく分からないが、まぁ君がそれでいいと言うなら止めないよ。…ところで、気付いているかい? 最近、何者かが我々の事を嗅ぎまわっているようだ」

 

 

 …ほう? 霊山の外じゃ何も感じなかった。追跡されているような気配もないが…。

 

 

「直接我々を尾けているのではなく、噂や目撃情報等を集めているようだ。それでは気配など感じる事もできないさ。元は、八方斎が持ってきた話なんだが…霊山に来てからあっという間に人脈を築き上げたな…」

 

 

 味方が優秀なのはいい事ですな。

 ふむ、しかし一体誰が…。単純に考えるなら、俺達の動向に気付いた、滅鬼隊人体実験の関係者だろうか。

 それにしては、人伝にとは言えあっさり気付かれてる。もうちょっと慎重にやりそう………いや訂正、あんだけ頭の悪いシステム作った連中だ。間抜けか阿呆か下種かに決まってら。

 

 

 

 

 

 『浅黄』の寝顔を見るのに飽きた雪風が、暇だから遊びに行きたいと騒ぐ。一応、君にとっても重要な事だと分かってる筈なんだけどね。

 まー実際、ここでああだこうだと議論していても仕方ない。雪風を連れて、いつもの道場に向かう。あそこには雪風の(精神年齢が同程度の)友達が居る。放っておいても遊んでくれるので、こっちは楽だ。

 一方、明日奈と神夜は別の用事が出来たと出掛けて行った。何でも、昔世話になった人が霊山に帰ってきているという噂を聞きつけたらしい。心配しているだろうし、ひょっとしたら浅黄達に関して力になってくれるかもしれないと言っていた。

 ナンパされるなよー、と言っておいたが…。

 

 

 …真面目な話、あの二人ならいくらでも声かけられると思ってたんだけどなぁ…。特に神夜が。逆に、声をかけられる事は殆ど無いらしい。

 どうして、と首を傾げていると、伝子さんから「冷静にあの子の恰好を思い浮かべてみなさい。私だって声をかけるのを躊躇うわ」と至極尤もな一言をいただいた。

 そうね、どう見積もってもヤバいもんね、露出度が。アカン趣味持ってるようにしか見られない。

 …つまり、痴女と見なされて、誰も関わり合いになろうとしなかった訳か…。

 ………本人には黙っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 道場に向かう途中、白浜君と桐人君が蕎麦食ってる所に遭遇した。

 

 

「あ、師匠。雪風さんと遊びに行くんですか?」

 

「お疲れ様です兄貴!」

 

 

 …桐人君てば、本気で舎弟状態になってる…。

 遊びにと言うか、いつもの道場にな。…そう言えば、今日は直葉ちゃんも居るのかね。

 

 

「日中だと、基本的にあいつは道場に居ますよ。今日は後で待ち合わせもしてますし」

 

「待ち合わせ? 買い物にでも行くの?」

 

「いや、親戚のおじさんが霊山に帰ってくるからさ。顔を見せに行くんだ。何か土産とかもらえるかもしれないしな」

 

 

 明日奈も似たような事言ってたな。ひょっとして同じ人が目当てだろうか。

 ところで、君達は遊びに行ってたのか?

 

 

「霊山案内なら、この前してもらいました。今日は稽古ですよ。負け越してるけど…」

 

「手甲があるとはいえ、武器の有無は大きいよな。俺としては、それでも勝ちを取られる事があるし、意外な戦い方を見せてくれるから、ついつい力が入っちまう」

 

 

 意外か…? 基礎とちょっとした応用しか教えてないんだけどな。単純に、手甲での戦いを見慣れてないだけじゃないの。

 ま、実力が伯仲している友人が居るのはいい事だ。切磋琢磨にも身が入る。

 

 

「あ…ところで兄貴。ちょっと伝えておきたい事があるんですけど」

 

 

 ん?

 

 

「兄貴の事を調べ回ってる人が居るみたいなんですよ。昨日の事なんですが、何処で知ったのか俺の所にやってきて、何処に行けば会えるのかって聞いてきたんです」

 

「…それ、素直に答えたの?」

 

「いや……相手が女で、つい頭がこんがらがって…。ただ、こっそり調べないといけない、みたいな事言ってて、名前も名乗れないと言ってました。流石にそれじゃ何も話せない、って言ったんだけど……考えてみれば、これって兄貴の事を知ってるって言ったようなものだな」

 

 

 向こうから接触してきたって事は、俺と桐人君が知人である事までは最初から知ってるんだろ。問題ない問題ない。

 

 …そいつは、俺に会いたいと言ってたんだな? 俺の事を聞きたい、ではなく。

 これ、大事な部分。正確に答えてくれ。

 

 

「あ、はい。見た所モノノフでもありませんし、荒事の心得も無い、普通の女の子でした」

 

 

 正面から会いに来ようとしてるのか…。密偵じゃなさそうだな。土井さんが言ってた、俺達の事を調べている奴か? と言うか、幾ら何でも手際がお粗末すぎるなぁ…。

 そいつら、これからどこに行くとか言ってた?

 

 

「いえ、何も……言ってたかもしれないけど、頭がこんがらがっちゃって」

 

「…女性恐怖症、思っていた以上に厄介だね」

 

「すまん…」

 

 

 別に責めてないよ。こればかりは仕方ない。

 ふむ……よし、道場に行ってみるか。と言うか最初からそのつもりだが。

 

 

「あ、ようやく行くの? ズルズル」

 

 

 雪風、蕎麦代はお前のお小遣いで払うように。

 

 桐人君が俺との関係者だと知ってるなら、今度はその家内に目をつけてもおかしくない。

 そして、直葉ちゃんは道場の管理者だ。

 

 

「直葉に? …危険はない…と思うけど、ちょっと強引じゃないですか?」

 

 

 うん、かなり無理矢理な理論だね。でも瓦版屋の類はとんでもない事しでかしたり、どんな細い伝手でも辿ってくる事はある。

 ま、道場に行ってみて何もないならそれで良し、危険が及びそうなら…相応の対処をしないとな。

 

 

「…兼一」

 

「勿論、僕も行くよ。友人の妹の危機とあれば、力を尽くすさ。無駄になったのなら、笑い話で済む」

 

 

 …心配する事はないとは思うけどね。来るなら構わない。雪風の遊び相手が増えたと思っておこう。

 

 

 

 

 

 

 結論。

 

 無駄……かと思ったらそうでもなかった。かなりシャレにならん事態になった。色んな人にとって、予想外のアクシデントが重なったっぽい。

 

 

 まず、道場にやってきた時、直葉ちゃんはすぐに見つかった。門の前で話し込んでいたからだ。

 そして、その相手も問題なかった。桐人君に確認してみたが、確かに先日会いに来た女性。成程、確かにこの子には武力らしい武力は無い。そして組織だったバックアップだって無い。

 

 と言うか、知り合いだ。いつもの、関係が無くなってしまった一方的な知り合いだが…。

 彼女の名は美麻。青を基調とした服に、背中に流した長い髪。妙に口達者で、リズムよく喋る。

 以前のループで霊山に居た頃に知り合った、記者………じゃなかったな。新聞社の社長令嬢って事になるが、そんな印象は全くない。

 

 ……妹が美柚だったか。よく一緒に行動していた筈だが、ここには居ないのか?

 

 

 ともあれ、彼女が俺の事を探っている張本人だとしたら、直葉ちゃんに危険らしい危険は無いな。

 

 

「…杞憂だった、って事ですか? 知り合いですか?」

 

 

 知り合いと言うか、一方的に知ってる程度…いや名前と顔を知る切っ掛けがあっただけ、かな。

 実際、よく覚えてないんだよなぁ。ループの最初の頃だったし…。

 何かを知りたくて俺に会いに来て、知った事がショックで……んで、何故か一緒にウタカタの里へ。その後はあまり絡む事もなかったから。

 

 少なくとも、彼女の背後に何か組織があるとか、直接的な暴行を加える事も辞さないとか、そーいう話は無い。

 完全に一般人の女の子だよ。

 

 

「なんだぁ…。いや何事もないのが一番なんだけど、で、何でその子が師匠に会いに来たんでしょ?」

 

 

 …何でだっけ。前の時の事も、もう覚えてないな。

 まぁ、話してみれば分かるだろ。特に何か悪さを考えている訳でもないだろうし、仮に考えていたとしても大それた事はできそうにないし。

 匿名で調査しに来たのも……あれだ、たしかあの子の親が、霊山新聞社の社長か何かだった筈。そっちに知られたくなかったんだろう。

 

 

「霊山新聞社…? ああ、あのモノノフの活躍を報道する、って言ってる新聞社か。実際は、霊山の息がかかってて都合のいい事ばっかり書いてるんだろう、って言われてるけど」

 

「…ちなみに、他の新聞社は?」

 

「俺もあんまり詳しくないけど…どこも似たような事言われてるな。後は、明かに嘘八百を書き連ねて新聞と言うより講談扱いされてる新聞社に、飯や祭りの情報ばかり書いてる新聞社、ご近所で猫が産まれたとか長寿で有名だった爺さんがぎっくり腰になったとかの小さな話ばかりの新聞社…」

 

 

 マスコミへの評価なんて、大体そんなもんだよなぁ…。

 でかい新聞社は大体霊山が何らかの取引を持ちかけてて、相手にする程でもない新聞社ばかりが残ってるんだろう。

 

 さて…おーい、直葉ちゃんよーい。

 

 

「え? あ、丁度いい所に。お兄ちゃんに白浜さんも…」

 

「おや? そちらが噂の凄腕モノノフさんですかい? おやおや、そちらのお方も先日はどうも」

 

 

 噂になってるのかは知らないが、モノノフなのは確かだね。

 桐人君は、何も答えず軽く頭を下げた。…ちょっと怯えている。

 

 

「先日はよんどころない事情があって名乗れませんでしたが、霊山新聞社の記者、美麻と申しやす。お見知りおきを」

 

 

 はい、こちらこそよろしく。記者のお手伝いさん。…と言っても、新聞社には無断で来てるみたいだけど。

 

 

「……あ、あはは、何の事でしょう?」

 

「…直葉、何もされなかったか?」

 

「? 何もって……どういう事、お兄ちゃん?」

 

「いや、何事も無かったならいいんだ。悪い、忘れてくれ」

 

 

 ま、背後事情を聞くつもりもないけど。

 んで、結局何の用事? 取材するなら、こっちの白浜君をやってほしいな。期待の新米モノノフって事で。

 ただ、こいつも色々事情があって、故郷の里ではそれなりの立場に居る(と言うかさせられた)から、何でもかんでも答える訳にはいかないが。

 

 

「ちょっ、師匠!? 誰が期待の…あ、いやでも新聞に載るかもしれないのかぁ…へへへ」

 

「照れ笑いしてるとこ悪いけど、身の丈に合わない報道をされると後が危険だぞ。…いや、兼一が弱いって言ってるんじゃなくて」

 

 

 散々期待させといて、いざ蓋を開けてみれば三級品なんて事になったら大炎上だからな。ちなみに煽った報道者は特に責任を取りません。

 

 

「会って早々に酷い扱いをされている気がするっす! いや、最近の新聞社の姿勢はどうかと確かに思うけど! ま、まぁ、なんです、そっちの期待の新人さんはまた後で話をさせてもらうとして、ちょっと聞きたい事が………あれ? 美柚? 美柚ー?」

 

 

 周囲を見回して、連れの名前を呼び美麻。

 美柚…確か美麻の妹で、外見はあんまり似てなかったな。服は美麻の逆を行く赤を基調として、髪の毛は栗色でショート、どちらかと言うと寡黙。そして時々、サラッと毒を吐く。

 気配を消したり、山道を歩くのが妙に特異な女だった。

 …今にして思うと、あの子は本当に一般人だったんだろうか? いや、確かに荒事の心得は無いようだし、逃げ足ばっかり早かったけども。

 

 それはともかく、美柚は声をかけられても出てこない。…こいつら、基本的にセットで行動してたと思うんだが…。

 

 

「あれれ、どうしたんすかね…。会いに行きたいって言いだしたのはあの子なのに。すいやせんね、ちょいと人見知りする子でして」

 

「さっきまでは、美麻さんの後ろに居たんだけど。何時の間に居なくなったんだろ」

 

 

 別にいいけど、何の為に会うのかとか、聞いてないのか?

 

 

「それが今回に限って妙に口が堅くて。いつもなら何でも相談、とまでは言わないまでも大抵の事には素直に答えてくれるんですけどねぇ。あっしも興味はあったんで、詳しい話を聞く前によし行こう!ってな塩梅でしたし」

 

「意外と当てずっぽうと言うか、後先考えてませんね」

 

「いやお恥ずかしい。うーん、それにしても出てこないっすね。遠くに行く筈はないんすけど…。仕方ないか。先に、あっしの取材に応じていただけませんかね?」

 

「あ、でしたらもうお昼休憩ですし、中庭で話しませんか? 道場にも誰も居なくなっちゃったし…。お弁当くらいは出せますよ」

 

 

 まぁ、構わない…かな、牡丹? チラッと白浜君を見るが、むしろどうするんだと見つめ返された。…牡丹、何か言ってやれよ…。

 数秒後、ようやく牡丹から物言いが入ったらしく、小さく頷かれた。

 …すぐそこに知恵者が居るんだから、もっと相談しような…。

 

 

「それじゃ、まずは「ちょいと失礼」「………」……はい?」

 

「物陰から中を覗き込んでいたんで、捕らえたんだが……知り合いだったか?」

 

「あ、美柚! ちょっ、何で猫みたいにぶら下げられてるんすか!?」

 

「………にゃー」

 

 

 

 道場の入口から声を掛けられた。目をやると、見慣れた顔が2人と、見覚えのある顔が2人。

 要するに全員知ってる人だが。

 見慣れた顔は、明日奈と神夜。

 見覚えのある顔は、美柚。大柄な男に、片手で襟を掴まれている。そして普通に余裕そうだ。

 

 ところで、美柚を見た雪風が、突然大きく目を見開いたんだが、何事だろうか?

 

 

 で、その美袖を捕まえてる男だが………いかつい髭のオッサン。背中に背負った手甲。富獄の兄貴によく似た、紫の布を肩からかけ、右上半身は豪快に肌蹴ている。そして、明かにカタギじゃないと一発で分かる強面顔。…実際にはカタギもカタギなんだけど。

 

 

 

 

 

 雷蔵じゃねーか。 

 何でこんな所に居るんだ。そして明日奈と神夜と一緒に居るんだ。知り合いだったのか?

 

 

「「雷蔵おじさん!?」」

 

 

 そして桐人君と直葉ちゃんも知り合いか。どんな人間関係っ……!?

 

 

 雪か、いや直葉ッ!

 

 

「え」ギィン!

 

 

「小僧共、全員道場にすぐ駆け込め! すぐにだ!」

 

「「「「は、はいっ!」」」」

 

「え、ちょっ、あああ!?」

 

「………!!!!」

 

「な、なんすかぁ!?」

 

 

 元は……あっち、神機、狙撃返しッ! ……チッ、遮蔽物の背後に逃げ込んだか…。

 

 

「おい、警戒を怠るな! 何が起きてるか分からんのだぞ!」

 

 

 分かってる。とはいえ、今のは多分誤射だけどな…。

 

 雷蔵と二人で周囲を警戒する。ここに居るのは俺達だけだが、次の狙撃が飛んでこないとも限らない。

 …そう、狙撃なのだ。

 

 遠方から突如聞こえた、独特の銃の発射音。それに反応できたのは、俺と雷蔵だけだった。

 とは言え、事態を把握する前に、雷蔵の怒声に従って全員が道場の屋内に駆け込んだのはいい動きだった。

 反応できなかった直葉ちゃんは、桐人君と白浜君が。美麻は猛スピードで駆けだした美柚が。雪風は自分で走り、神夜と明日奈は彼女達の周囲を固めながら走った。

 道場の扉をブチ破るように屋内に駆け込み、それぞれ物陰に転がり込む。

 

 

 そのまま暫く周囲の気配を探る。殺気は無し、人の気配も無し、鬼の類の気配も無し。

 

 

「……逃げたか…?」

 

 

 そのようだな。とりあえずは安心…か?

 

 

「姪っ子が狙われて原因も分からないってのに、安心も糞もあるかよ。誰だか知らんが、禁軍の目の前で人を狙うなんぞ、舐めた真似をしやがって…」

 

 

 ギリギリと青筋立てる雷蔵。……と言うか、姪っ子…?

 

 

「おう。…とりあえず大丈夫そうだが、暫く出てくるな。おい、誰だか知らんが、腕の立つモノノフと見た。俺はひとっ走り禁軍を呼んでくる。悪いが、それまであいつらを頼む」

 

 

 はいよ。俺にとっても、彼女と弟子と顔見知りやら友人やらだ。放っておけん。

 

 

「あん? …ああ、お前が明日奈達の言っていた……いやその話はあとだ。すぐ戻る」

 

 

 そう言って、雷蔵は全力疾走で走り去っていった。

 …普通なら、狙撃された一般人を放置して警察官がその場を離れるなんて考えられない…いや、パニクってたり、命惜しさにって事は考えられる…が、通信手段が無いからな、この世界。

 誰がターゲットになっているのかも分からないのに、町中をゾロゾロ引き連れて歩くより、一時道場に籠城して、その間に禁軍の応援を呼んでくるってのも間違いではないか。狙撃を弾けるモノノフが居るからこその判断とも言える。

 

 

 …さて、狙撃手らしい気配も、同時に襲ってくる襲撃者の気配も何もないが…。

 

 

「…そっちは大丈夫ですか?」

 

 

 ああ、何も居ないな。あと神夜、タマフリで防御してるからって、頭を出すな。狙撃をまだ狙ってるとしたら、撃ち抜かれるぞ。

 直葉ちゃんの様子はどうだ?

 

 

「混乱してますね。当然と言えば当然の反応です。モノノフでもなんでもない、普通の子がいきなり命を狙われるなんて…」

 

 

 モノノフでも、いきなり人間に命を狙割れりゃ混乱するだろうしな。

 こういう場合、狙撃に失敗したとしても第二段として、逃げ込むと予測される先に何か仕込むのが常道だが…。

 

 

「そっちは今、明日奈さんが道場の中を調べています。でも、何もないみたいなんですよね」

 

 

 本当に何もないなら、それに越した事はないが…。ふぅむ、どうにも妙だな。

 狙撃仕掛けるにしたって、何でまたこんなタイミングで狙うのか。直葉ちゃんは戦闘能力なんて無いに等しい一般人だ。わざわざこんなタイミングで仕掛けなくても、謀殺する手段は山ほどあるだろうに。

 それを、わざわざ俺達が居るタイミングで仕掛ける? あまつさえ、雷蔵が居合わせたというのに。まともな狙撃手、或いは暗殺者なら、足が付かないように一時延期するだろう。

 思えば、さっき狙撃を弾いた時も、何だか手応えがおかしかった。これはあくまで感覚の話なんだけども。

 

 

 ところで、さっき一緒に居たのって、禁軍の雷蔵だよな?

 西歌、時継と一緒に西の三羽烏なんて呼ばれてる、凄腕のモノノフ。

 

 

「雷蔵さんをご存知なんですか? 里がまだ孤立していなかった頃、明日奈さんのお家に何度かご挨拶に来た方なんです。禁軍志望と言う事で、何か明日奈さんのご両親に色々教わってたらしいですよ。その時、私達も何度か稽古をつけていただきました。ちなみに、桐人さんと直葉ちゃんの叔父上でもあります」

 

 

 ほーう、意外な所で意外な人と繋がるな。

 しかし、この時期ならマホロバの里に時継と一緒に…いや、そうでもないか? 時系列が滅茶苦茶になっててよく分からん。まぁ、居るものは居るんだし、どうこう言っても仕方ない。

 少なくとも、この場に禁軍の一員が居るのはいい事だ。直葉ちゃんの警護とか、色々捗るだろうしな。

 

 

「戻ったぞ! 無事か!?」

 

 

 早いよ雷蔵。後ろに禁軍の平隊員らしき数人を引き連れ、雷蔵は戻って来た。

 昼休憩中のところを引っ張り出された為か、口元に食べかすがついてる隊員も居るが、流石にそれを責めるのは酷だろう。…寝ているのを叩き起こされたのか、顔面に拳の後が残ってる人も居るしね。

 

 あいよ、こっちは何も無し。逃げ込んだ先に罠もなく、同時に襲ってきた不埒者も居ない。どうにもおかしな感じがするね。

 

 

「その辺の事は、これから調べる事だ。悪いが、一時道場は閉鎖させてもらう。悪評が立たないように配慮はするが、安全が優先だ」

 

 

 それは俺じゃなくて直葉ちゃんか、兄の桐人に言ってくれ。まぁ、流石に否は無いと思うけどな。

 

 

 

 



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第445話+外伝26-2

投稿ミスったぁぁぁぁ!
いきなり濡れ場直撃じゃなかっただけマシと思うべきなのか、異様に重くなったPCに蹴りを入れるべきなのか…。
とりあえずお詫びもかねて、先日の外伝の続きを後書きに。
もうちょっとこう、艦これ艦これしたかったんだけど、どうしてもネタを思いつきませんでした。
下手に突っ込むと、暗部と言うかブラックな部分が出てきそうで…。

明日から帰省の予定ですが、帰ってもあんまりする事ないなぁ…。
もう自室もないしなぁ…。
延々とゲームやってるのも虚しいものがある。
まぁ、親族の顔見るだけでも帰る価値はあると思いますが。

ま、実家の縁側で日向ぼっこしてきます。





 …その後、前後の状況を把握する為、一人一人取り調べが行われた。と言っても、あまり高圧的なものではない。

 雷蔵は自分の強面顔を自覚しているらしく、取り調べの時は一歩引いた所から見守っていた。

 

 被害者が落ち着くまで待たないのか?と思ったが、霊山ではそのあたりの事はあまり考慮されないらしい。何れは変えていくつもりだが…と雷蔵はボヤいていた。

 …狙撃手が逃げられる時間を少しでも与えないように…という考えも、分からないではない。

 被害者が落ち着くのを待っている間に、第二の暗殺が仕掛けられてちゃ本末転倒だ。

 

 

 …それはいいんだが、直葉ちゃんが落ち着くまで、俺と桐人が一緒に居る必要があるってどういう事よ。

 その直葉ちゃんは、隣の部屋で色々質問されているんだが。

 

 

「どうって…直葉を庇って銃弾を弾いてくれたのは、兄貴じゃないですか。俺一人で居るより安全だし、直葉も心強いって事です。兄貴にはすみませんけど…」

 

 

 いや別に一緒に居るのはいいよ。カワイイ女の子を庇うのも当たり前だよ。勝手に兄貴呼ばわりされてるとは言え、身内は身内だ。身内が狙われてるんだから、力を尽くすさ。

 ただ、こういう場合は身内のみの方がいいんじゃないかと思っただけで。

 …いや俺も身内と言えば身内なのかもしれんけど、それは桐人君認定であって直葉ちゃんの認識では別物だろ。

 

 

「……こんな時に情けないですけど、恐怖症が」

 

 

 お、おう…さっきは躊躇わず、直葉ちゃんを抱えて走れたのにな。

 

 

 

 ところで、その直葉ちゃんが俺を見る目が妙に熱っぽいんだけど、これってどういう事でしょ。具体的に言うと、グウェンに助けられた時の事を語っていた時の目付にそっくりだ。

 

 

「……妹をよろしくお願いします、義兄貴!」

 

 

 おい待てちょっと発音おかしかったぞ今。大体、俺は近い内に霊山からウタカタの里に行くつもりだ。責任取れないぞ(手を出さないとは言ってない)

 

 

「そうなっても俺は反対しないって事で。兄貴だったら、直葉を絶対幸せにしてくれます。…先の事は置いといて、どうして直葉が…一体誰が…」

 

 

 んー………何処から撃って来たかは見当が付いたから、そこは禁軍に調べてもらってる。半信半疑みたいだったけどね。

 実行犯と指示した奴が誰なのかは、正直俺にも想像もできん。動機が分かれば、少しは予測もできるんだが。

 

 

「…何処から撃ったのかって、どうやって分かるんです?」

 

 

 物理の問題。弾の軌道、銃声が聞こえてから着弾までの時間、あと殺気。弾を弾いてから場所を予測して目を凝らしたら、ちょっとだけど人影も見えたからな。

 

 

「殺気は物理じゃないと思います。ちょっとでも手掛かりがあるといいんですが…」

 

 

 ちなみに聞いておくけど、桐人君自身には狙われる心当たりはないのか? よくある展開だと、知ってはいけない事、見てはいけない事に知らずに触れてしまっていたとか、家に伝わっているガラクタが実はとんでもない宝石だったとか。

 

 

「いや…心当たりはないですね。と言うか、それなら狙われるのは俺の方じゃないですか?」

 

 

 だよなぁ…。土井さんが居れば、もうちょっと色々可能性は考えられただろうけど。

 …一応、筋道つく説明も思いついてはいるんだわ。ただ、すっごい間抜けな話で、とてもじゃないけど「これはないだろう」ってレベルの。……でも筋道立っちゃうんだよなぁ…。

 

 

 

 あ、直葉ちゃん戻って来た。大丈夫? 何か疲れたりしてない? お茶いる?

 

 

「ありがとうございます。お茶はいただきます。…ふぅ…。あ、雷蔵さんが呼んでましたよ。少し時間をかけて話を聞きたいって」

 

 

 ん、俺の取り調べの番ね。はいはい失礼しますよっと。

 

 

 

 

 …あの、雷蔵さんよ。

 

 

「何だ」

 

 

 取り調べは、少年少女達の心境を慮って、優しそうな婦警さんもとい禁軍のお姉さんがやってたと思うんですけど、何で俺だけアンタと二人きりなんすかね。

 

 

「慮られる程、ひ弱な精神ではないだろう。お前には色々と…そう、色々と聞いておきたい事もあるんでな。じっくり腰を据えて話そうか。……明日奈も神夜も、俺の恩師の娘でな……」

 

 

 

 あっ(察し)

 そうかぁ…。いつかはやらなきゃいけないと思ってたが、ここで来るかぁ…。

 

 

 

 

 おじさん、娘さん達を僕にください!

 

 

 

 

 

 懇親の鬼千切が返ってきた。

 

 

 

 

 

「…真面目な話、二人がそれでいいと言っているなら、俺は何も言わん。実父を気取れる程世話を焼いた訳でもない。直葉は……………状況が状況だから、今は何も言わん。いずれ冷めるだろうしな。だが、貴様が三人を泣かせるような事があれば、禁軍のを総動員して殺しに行くぞ」

 

 

 肝に銘じると言いたい所だが、今まで死別してきた数が多すぎるんでな。(死んだのは俺の方だけど)

 死力を尽くすとしか言えねぇよ。…或いは、俺と一緒に死んでくれ、かな。

 

 

「ほぉぉ…俺を前にして、ふざけた事を抜かす」

 

 

 ふざけてないよ。共に生きると誓うなら、共に死ねと命じてくれ。

 意味も無く道連れにするつもりはないが、一緒に死んでくれって言われれば頷くし、死地でも連れて行ってくれと言われれば寄り添うだけだ。仲違いするようなら、手段を択ばず取り持つさ。

 出来る事はやるし、出来ない事でもどうにかするが、それ以上の事は誓えないよ。鬼に笑われるわ。

 

 

「………言いたい事は山ほどあるし、とても許容できんが、本人達の惚気に免じて何も言わんでおいてやる。…二人の親御さん達の墓に土下座してこい」

 

 

 …シノノメの里に居る間にやっておけばよかったな。僕にください、じゃなくて貰っていきます、になるけど。

 つーか、惚気たのかあの二人。

 

 

「…久々に会った姪っ子みたいな餓鬼二人が、一丁前に女の顔して惚れた男の、ああいう所がいいこういう所が好きだって語るんだよ…。これからそいつに会う羽目になると思ってたら、いきなり狙撃事件と来たもんだ。どんな一日だよ」

 

 

 厄年と厄日と天中殺が同時にやってきたような日ですな。

 さて、私事はここらで区切って、狙撃について話すとしましょうか。

 

 まず前提として聞きたいんだけど、俺らの…シノノメの里から来た集団の事、どれだけ把握してる?

 

 

「シノノメ…つぅと、オオマガトキ以来連絡が取れなくなっていた、北の里の事か? 何でそんなもんが出てくる? …生憎、今日霊山に帰って来たばかりでな。お前らの事も、ここで何が起こってるのかも把握してない」

 

 

 あらま。…いや、無理もないか。あんた、相棒の時継とかと一緒にあっちこっち転戦してたみたいだしな。

 ああ、三羽烏の事なら知ってるぜ。確か紅一点が、マホロバの里の長やってるんだよな。

 

 

「ふ、ん。いや、俺の事やお前らの事はいい。まずは直葉の安全が優先だ。…お前が見当をつけた狙撃地点だが、大当たりだ。それらしい痕跡が見つかった。結構な距離があったが…凄腕だな」

 

 

 真っ直ぐ直葉ちゃんの頭に直撃する軌道だったからな…。暗殺って点で言えば、大したもんだ。

 

 

「それを一瞬で狙撃返ししたお前も充分無茶だが、こいつはどうやら以前から霊山内で活動していた暗殺者らしい。正体不明、分かっているのは対象を一撃で仕留めて、痕跡一つ残さず消える。共通しているのはそれだけだ」

 

 

 …それらが同一人物である確証は?

 

 

「これだけの技術を持った人間がそうそう居ないだろう、って楽観だけだな。実際、技術だけで言えば大したものだ。防がれたのは初めてじゃないか? 協力者も居ないらしく、下準備から実行まで全て一人でこなしている。だってのに、足が全くついてない」

 

 

 …成程、そりゃ確かにそうそう居ないわ。後でそいつの資料って見せてもらえる?

 

 

「……生憎と極秘扱いでな。俺からは見せられん。ああ、資料があるのは禁軍第四資料庫の〇べの8番だ」

 

 

 あらそうなの。…つーか、雷蔵ってこんなに融通効いたっけ? 頑固親父みたいな奴だった気がするが。

 単に姪っ子可愛さに、色々と理性がぶっ千切られているだけかな。

 

 

「まぁ、この場で言える事は言っておく。お前は貴重な協力者になりそうだからな。この狙撃手、通称『死隠』。名乗られたんじゃなくて、禁軍の連中が勝手に呼んでいるだけだ。隠れて忍び寄ってくる死の化身、ってな。狙われるのはお偉いさんが殆どだ。そいつらが死んで得をするような奴らも調べられてるが、確証は得られない」

 

 

 『死隠』ねぇ…。

 ……なぁ、確証がある訳じゃないんだが、一つ気になる事があるんだ。

 

 …こいつ、本当に直葉を狙ってたんだろうか?

 

 

「あ? 本当も何も、実際に狙われただろうが」

 

 

 単純に考えても、直葉じゃなくても良かったって可能性はある。誰かに対する警告なら、本人を狙うよりも身内を狙った方が効果が高い。

 或いは…単純に、手違いとか。

 

 

「…そう考える根拠は何だ」

 

 

 銃弾を斬り払った時の手応え。あんたも修羅場を潜ってれば、覚えがあると思うが……殺意が鈍かったんだよ。

 鬼が相手にせよ人間が相手にせよ、分かるだろう? 「こいつを殺す」って意図が籠められた攻撃が。狙撃手や暗殺者だと、逆にそういうのをすっかり消し去って無造作に首を掻き斬る奴も居るが、あれはそういうのじゃないな。

 上手な狙撃手に狙われた時の悪寒は洒落にならん。発射されてようやく感知できた冷たくて硬いモノが、瞬きよりも早く抉り込まれる。

 実際の弾丸の速さよりも、何倍も速く、致命傷を避けられない瞬間を見切って迫ってくる。

 

 それが無かった。何というか………思っていたのと違う形で弾が発射されて、大慌てしているような…。

 

 

「…確かに、死隠に直葉が狙われていると思うよりは、そっちの方が納得はいく事はある。殺気云々も、俺にも全く覚えがない訳ではない。だが、それは証拠にはならん。それに、死隠程の実力者が、どうしてそんな失態をするというのだ」

 

 

 それを言われるとな…。予想外な事があった、それ程衝撃的な事があった? …狙撃手だったら、自分が動揺してると分かった時点で、落ち着くまで撤退しそうなものだが。

 

 

「どの道、直葉が狙われているという前提は覆せん。狙いが別の人間だったとしても、この道場内に居る誰かであるのは間違いない。暫く警護に付くぞ」

 

 

 この際それは仕方ないけど、俺達にも色々事情と言うか、立場があるんだが。

 さっき言ったシノノメの里の事とか、九葉のおっさんとの約定とか。あと……まぁ、何だ、下手に首突っ込むと、死隠なんぞ屁でもないくらいの霊山の闇に対面しそうだが。

 

 

「それを聞いて引き下がるような奴なら、禁軍には要らねぇ。つぅか、お前それだけ後ろ暗い事に首を突っ込んでるって事じゃねぇか。この場で引っ立てるぞ」

 

 

 後ろ暗いのは俺じゃなくて霊山だっつの。…規模からして、確実に当時の禁軍も一枚噛んでるしな。

 その辺の事は、俺じゃなくて白浜君…いや牡丹の補佐があっても、妙な伝え方になりそうだな……宿に居る俺らの連れに聞くといい。

 狙撃を受けたって、連絡してるか?

 

 

「連れが居たって事自体初耳だ。連絡に走らせよう。…九葉の関係者でもあるんだったな。ついでにそっちにも連絡してやる。……そろそろ他の連中の取り調べも終わった頃か。話はここまでだ。戻るぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 




外伝 26-2


 提督云々はさておいて…協力を頼まれた訳だが…答えは是。イエス。うん。
 だが一身上の都合により、俺はいつ消えて居なくなるか分からない身。…夢から覚めたらそれまでだからねガチで。
 体質の問題で、唐突にテレポートしてしまう、という事で説明しておいた。どこぞの罪な歯車の加速君みたいだね。
 流石に信じられないようだったが、無茶を頼み込んでいるという自覚があるようだし、『そういう事にしておけ』という条件だとでも思ったのか。
 とりあえず、可能な限り協力し合う、という事で話はまとまった。




 彼女達、艦娘が外の世界でどのように扱われているのかは、よく分からない。
 ただ、帰る場所を作りたいと言うからには、あまり良い状況ではないのだろう。と言うか、大淀って確か任務娘だったよな? つまり秘書みたいなもんじゃね? それがどうして前線に出てるんだ。
 と言うか、艦娘が帰る所って、普通は鎮守府だろ。
 …人間側のスタンスがどうであれ、あまり明るい想像はできないな。

 まぁ、何にせよ、彼女の願いを叶える事は、元々の方針だ。構いはしない。
 と言うか大淀の手助けが無いとロクな物作れないから、是非もないんだけどネ!

 とりあえず、大淀と相談して今後の方針を決める。
 まずは食料、ライフラインの確立。その後は…外敵がどうなるのかが問題だよな。艦これだけあって深海戦艦っぽいらしいが、こいつら陸上でも戦えるんだろうか? まぁ、海に浮かんだまま長距離射撃で建物壊されてもたまらんけど…。

 大淀でちょっと試してみたが、陸上かつ一対一での勝負なら、まず負ける事はない。艦娘としての装備を使っても、だ。
 …艦娘って、やっぱり本質が戦艦なんだなぁ。任務娘であって前線に出る事が少ない為かもしれないが、人間としての体を動かすのに慣れてないようだ。パワーはあるけど、体系立った動きが出来てない。
 その分、戦艦としての頑丈さも持ち合わせているので、ダメージを通すのも一苦労だが。その割にはちょっとした事で怪我をしたりもするので、気の持ちようがダイレクトに反映される体質なんだろうか?
 彼女の戦力を敵の基準とすると、複数で来られると厳しいな…。


 あと、何人くらいの艦娘を受け入れられるようにするか、だ。
 あんまり大きな島じゃないからなぁ…。最悪、埋め立て工事による拡張と言うのも出来なくはないが、単純に不安だ。ちょっと砲撃受けたら、作った地面が崩落しそうだし。
 この辺の不安は、大淀にも同意を得られた。
 と言うか、大淀から見てもマイクラ的能力は異常な物に見えるらしく、常識やら物理法則やら何やらが全く通じない。擬人化した艦がそれを言うのかと思ったが、まぁ全く関係のない世界の能力だしな…。
 やろうと思えば幾らでも手抜き工事が出来るが、もしも強い攻撃を受けた時にどうなるか、全く分からない。

 ちなみに、大淀からは俺=妖精さん説が提供された。不思議な力で解体したり作ったりを簡単に出来るからだ。エラー猫説よりはマシかな。
 と言うか妖精さん居るのか。一度も見た事ないが。
 
 ともあれ、ここを発展させるにしてもどうしたもんかと二人で頭をひねっていたのだが。






 私にいい考えがある!(例のヴォイス)



 徹夜明けのテンションで、要らん天啓を受け取ってしまった。
 やっぱり体力的に本調子ではないらしい大淀も、目の下にクマ作ってかなりアカンテンションに足を踏み込んでいたのも悪かった。



 そして何より、空中庭園というロマンがぶっ刺さってしまったのが悪かった。艦娘の大淀にも、空中艇への改造という夢がぶっ刺さってしまった。



 あれよあれよという間に二人で突っ走り、技術的問題は俺の明後日の方向の発想を提示し、大淀がそれを見事に数値化してくれたもんだから…。



「…できちゃいましたね。基礎部分だけとは言え。明石も居ないのに」


 できちゃったねぇ。
 上に行くには、梯子を上っていくしかないけど。…マイクラがなー、クリエイティブ仕様なら普通に空飛んでいけるのになー。

 見上げる先にあるのは、遙か上空にポツンと見える小さな点と、そこまで続く厚さブロック一個分の柱、梯子。


「せめて梯子じゃなくて、エレベーターみたいなのにしないといけませんね。上に行くまで何段も昇らないといけませんし、地上で作った資材を上に持っていくのも一苦労です」


 そうね、昇ってる間にスカートの中見えちゃうしね。


「直下から見上げでもしないと、そうそう見えないと思いますけど…。と言うか8割以上作り上げたところで、柱の根本が壊れた時には、我に返って血の気が引きましたよ。不思議な力で空中に固定されているとは言え、崩落するんじゃないかと…」


 気持ちはよく分かる。と言うか、対象は大淀じゃないけど、それも狙いっちゃ狙いなんだよなぁ。
 こう、敵が襲ってきて、この柱を砲撃するだろ? これに支えられている筈の庭園が落っこちる筈だろ? でも平然と飛んでいてポカーンと。


「そもそも、この積み重ねたブロック一本であんな規模の庭園を支えられる筈もないんですけど…。とりあえず、あそこは今後も拡張を続けていきましょう。ついつい作ってしまいましたが、まず環境を整えるとしたら地上からです」


 何で作っちゃったんだろうね、本当に。資材も無限じゃないのに。まぁ、今はともかく、将来的には必要なもんだけど。
 でもこれ作る過程で、色々設備は出来上がったからいいんじゃない?


「ええ…。今日、ようやく準備が整いました。これで、ようやく建造が出来ます!」


 …するのか、建造…。
 大型艦建造で資材全部…FXで有り金全部溶かす人の顔……物欲センサー…「ぬ」と「ね」の区別がつかなそうな顔 …。
 いかん、暗黒面が…。


「落ち着いてください、計画的に続けていればそうそう困窮する事はありません。…幸か不幸か、敵が襲ってくるまでは戦闘行為もありませんし」


 後は大食らいが来るまでに、諸々の補給方法が充実する事を祈るのみ、か。
 …ところで、艦娘って普通の飯食えるの? なんだっけ……ぼ、ポークビッツ? とか食べるのでは?


「ボーキサイトの事ですか? 食べはしませんよ、食べは…。と言うか、私は今まで提督が作ってくれた焼き魚とか食べてたじゃないですか」


 そういやそうだったっけ。
 ま、ここから何か作っていくとしても、建造された艦娘の希望を聞いてからでいいか。ハコだけ作って放置しても、家が傷むだけだしな。

 さて、妖精さんも居ないのに建造って出来るのかなぁ。
 と言うか、大淀曰く『艦娘の帰る場所にしたい』って事だが、建造された艦娘って帰って来た事になるのか? いや、確かにウチが鎮守府になるなら、今後出掛けたらここに帰ってくるんだけどさ。
 はてさてどうなる事やら…。







 と、初建造でwktkしていたのも今は昔。
 既に無人島は面影もなく、未来型艦娘都市のっぺらタウンである。…尚、名称については満場一致で否定を喰らったのだが、何をトチ狂ったか安価を取ってしまい、その結果はお察しである。安価は絶対故致し方なし。

 建設に建設を重ね、天空庭園も拡張。更なる上空に増設し、雲の上まで生身で行けると評判である。風で飛ばされるとメッチャヤバイが。最初に作ったスペースは、主に農園となっている。こちらも諸々の装置を設置し、人の手入れは最小限で済むようになっている。…趣味で『全部自分でやりたい』って意見もあったので、そういう区画もあるが。
 艦娘から出た要望は、真剣な物から冗談で言った物まで片っ端から実現してきた。おかげでスイッチ一つで島が動く(味っ子OP感)。防衛の為の城壁が現れたり、遊園地に変化したり、超都会シティになったかと思えばペンギン村みたいなド田舎になったりと、戦いたいと欲求不満な艦娘達の為の演習場(ガチだったりリアルスプラトゥーンだったり)になったりと、えらい事になってしまった。
 …大淀と明石が設計図を書いたり、よく分からん発明で色々な問題点を解決してくれたとは言え、よくこんなもん作れたなぁ…。



 建造された艦娘は、基本的に友好的だった。基本的にはね。
 『相手が『提督』だからでもあるし、『あなただから』でもあるんです』、とは大淀の言だ。
 よう分からん。いやまぁ、艦娘にとって『提督』と呼ぶ存在は特別大事なものであると共に、俺の何かしらの要素が艦娘の琴線に触れたという事は分かったが。

 マジ話、彼女達に出来る限り力を貸す事は全く問題ない。俺が遠からず夢から覚めて消えるだろう、と言う事を除けば。
 何があったのか知らんが、疲弊している子が非常に多い。そんな子達が休む場所を作れるのなら、俺の人生がピッケルと腰を振るだけで終わってしまっても構わない。

 ブラック鎮守府か、敗戦か、人に愛想を尽かしたか。
 俺が人間だと知った途端、威嚇する子もいた。呼び名・クソ提督に関してはデフォルトだと思うけど。
 …ちなみにその子達は、一週間もせずに「人……間…?」って顔してたけど何でだろう。ハンターは艦娘に比べると人だと思うんだけどなぁ。水の上走れないから。いや俺はできるけど。
 え、そこだけじゃない?
 量子化? …ああ、そういや2Bとかがブシドー回避の時にやってるって言ってたな。
 2B? アンドロイドだけど、それがどした?

 変身? 出来るんだから仕方ないじゃないか。
 根っこは人間だぞ多分。ゴッドイーターだって人間には変わりないし。ネット上のアカウントの集合体って説もあるけど、のっぺら共に関しちゃ考えたくないから無視してる。
  
 おかしな力? タマフリの事か?
 いやお前らだって物理法則無視した力を振るってるじゃないか。
 元が戦艦なんだから体じゅ…ゲフンゲフン、もとい矢がミニ戦闘機に変わるとか、式神っぽいのを使役するとか、そもそもそのサイズの砲撃であの威力はおかしかろ。

 戦艦(艦娘)の体当たりを喰らっても平然としている?
 ミラボレアスの這いずりに比べりゃ、蚊に刺されたようなもんだっつの。吹っ飛びはしたけど衝撃は受け流しできたし。
 あのくらいなら、レジェンドラスタの皆さんなら逆にカウンターでぶっ飛ばせるぞ。

 ボーキサイトや弾丸を喰える?
 それ食ってるのは俺じゃなくて神機だよ。神機も俺の一部だから、俺が食ってるとも言えるけど。






 夜が異常に強い? 艦娘より体力があるセックスモンスター? 残弾無限やぞ。
 艦娘に孕ませるくらい、普通に出来るで。霊体と言うか魂とかに直接干渉できるから、艦娘が相手だろうと関係ないぜ。




 ちょっと島内で順序決定による戦争が始まりかけたけど、問題はない。火花は、大体ちんこで解決したからネ! はいはい、皆相手でも余裕だから、順番順番。
 と言うか、孕ませてもまだ病院とかの設備と人手が整ってないって。
 …『人類再興』とか『提督を始祖に』とか聞こえたけど、島の外の事なんか知らんから関係ないネ!


 ちなみに、最近の生活は下記のようなスケジュールである。

 7時起床。 起こしに来た艦娘のモーニングコール(その日によって違う)を楽しんだ後、シャワーを浴びて身嗜みを整える。
 7時30分、朝食。飯時はエロい事はしない。鳳翔さんが作ってくれた焼き魚やホウレン草のお浸し、お米総立ちの白米をありがたくいただく。
       尚、懐にある謎のリモコンのスイッチを何度か押すものとする。

 8時、鳳翔さんの首元に残る縄の跡を新しくする事を決意しつつ、青葉発の新聞を眺めて情報収集。
    利根のノーパン健康法特集や、高雄が選ぶお尻を突き出した時に映えるガーター10選の記事が気になった。

 8時15分、二度寝。

 9時、筆頭秘書の大淀に起こされて事務室へ。書類仕事にかかる。
    と言っても、俺の役目は専ら印鑑押しと、「こんなのを作ってほしい」という要望のみだ。
    他の作業は、、大体大淀と日替わり秘書官、そして秘書官補佐と言う名のお手伝いさん3~4人でこなしてしまう。
    ちなみに、この秘書官補佐は朝食時にスイッチを押した、明石作成の「鎮守府内の誰かがメスイキする機械」で当たりを引いた艦娘である。ちなみにこの機械の対象には俺も含まれる。
    事務作業が苦手な子も居るが、そういう子はムラッと来た時に机の下でジュポジュポする役目を振っているので問題ない。
    これで、事務作業は1時間くらいで終わるのだ。

 10時、ここからが俺の本業。艦娘からの要望があった施設を順次作成していく。
    大体、2日前に要望書を確認してどれを作るか決め、1日前に設計図と必要な資源を算出して準備、そして当日に一気に作り上げる。
    これまたマイクラ能力に加え、手伝ってくれる艦娘のパワーによって一気に出来上がる。

 12時、昼飯。食堂でワイワイ騒ぎながら食べる。
    建築が終わる時間帯はまちまちなので、一緒に食べる艦娘は日によって違う。
    酒飲みチームに掴まって真昼間から宴会に突入する事もあるし、ホテルでオムライスだったり、演習(と言うかサバイバルゲーム状態)に勝つ為にかつ丼だったり。

 13時、昼寝。レディ(大小)が添い寝して健全に終わる事もあるし、寝惚け眼で抱き枕をグッチョグッチョにしてしまう場合もある。
    偶に拉致られて、誰かの艦娘の自室で淫臭に包まれながら目を覚ます事もある。

 14時、大抵このくらいの時間帯に、島が変化する。
    轟音を立てながら、建物が引っ込んだり出てきたり、公園にジェットコースターが出現したり。
    池が割れてソーラーパネルの群れが現れたり、原ぱ…もとい発電所が引っ込んで田んぼになったりする様は、一見の価値があると思う。
    ただ、その性質上、轟音が響きまくるので昼寝してたら叩き起こされてしまう。改善の余地ありだ。


 14時10分、変化した島の中で遊び惚ける。名目上は視察である。
    アトラクションを楽しむもよし、海やプールに突っ込むもよし、田畑でKENZENに汗を流すも良し。
    仕事中の艦娘の邪魔させしなければ、何処で何をやっていても構わない。
    …その仕事中の艦娘から、制服姿で誘われる事もあるけどね! 婦警とかエレベーターガールとかウェイトレスとか。
    視察に来ている提督に、そのような色仕掛けをするなんて……おいは恥ずかしか! 誘惑に乗った事は別に恥ずかしくないもん。


 18時、程々に遊んだ(意味深)後は晩飯。
    やはり鳳翔さんの飯は絶品である。
    試しに渡してみたMH世界の食料も、見事に使いこなしている。本人はまだ不満があるらしく、人に出せる物ではないと主張している。
    が、味見した艦娘から広まってしまい、拝み倒されてメニューに載せる事になった。
    …お艦も駆逐艦には甘いのぅ。

    週二回くらいのペースで宴会が開かれているが、こりゃ間宮さんと鳳翔さんだけじゃ負担がかかりすぎるなぁ。
    かと言って、下手に人員募集とかするとメシマズ勢が突っ込んでくるから悩みどころである。


 20時、自由時間。一日の半分以上が自由と言ってしまえばそれまでだけど、気軽に一人になれる時間は貴重だ。
    あれこれ思索や空想に耽ったり、今後の予定を考えたり、新しいテクやプレイを身に付けるべく瞑想したり、本当に何もせず何も考えず虚空を眺めて時間を無駄に使ってみたり。
    この時ばかりは、艦娘も積極的に絡んでくる事はない。
    それぞれ自分の時間を満喫していたり、酔い潰れていたり、まだ呑んでいたり、夜の時間の為にお肌磨きやら下着の選別やらに余念がない。
    夜中まで仕事がある子達も居るが、それこそ邪魔しちゃいけないね。

 22時、夜遊びの始まり。
    夜の担当は大体ローテーションだ。乱入は一日10人まで。
    夜遊び中の体感時間は、幾らでも弄れるからね。希望であれば一対一も可能。
    後は夜が開けるまで遊び倒すか、エッチは程々にしてピロートークや酒に走るかが定番だ。



 なお、これは特に何もない日のスケジュールだ。
 イベントがある日は、仕事とか全部ストップして、朝から晩までそれにかかりっきりになる事も珍しくない。
 最近あったイベントは……あれだな、喧嘩山車。火薬の使用有りにしたから、メッチャ派手な祭りになった。最終的には、最後まで残った山車の両方に火がついて爆発オチになったのが難点だけど。
 
 他は、島全体を使った脱出ゲームとか。脱出するのは俺で、追いかけるのは艦娘。脱出には鍵が必要で、その鍵は艦娘の誰かが服の中の何処かに持ってるから、捕まえて手探りで探す。
 捕まった場合、鬼をイかせなければ逃げてはいけないルールとなった。逆に俺がイかされたらゲームオーバー。
 追いかけてくるだけじゃなくて、あの手この手で誘惑して誘い込もうとしてきてなぁ…。理性が削れるのなんのって。
 それで最後までヤれなかったもんだから、その夜は欲求不満を爆発させて、鎮守府の艦娘全員が倒れるまで…。


 大体こんなところかなぁ。
 ……とっても楽しい、楽しいんだけどね…。最近ちょっと不安である。
 ここまで好き勝手やっといて、いつ消えるか分からないのもそうだけど、このままずーっとここに居たら、本格的にダメ人間になってしまう気がする。
 今だってとても立派な人間とは言えないけど、ここには形はどうあれ提督至上主義の艦娘ばっかり。つまり俺が何をしても『凄い!』『流石提督!』『御立派(意味深)です!』と、ハム太郎張りに全肯定ばかりなのだ。気を抜くと溺れてしまいそうだ。いや、中には叱ってくれる艦娘も居るんだけども。
 
 周りにイエスマンしか居ない状況に身を置き続けていると、思い上がってしまった挙句に異なる意見を許容できなくなりそうというか…。
 世の中は全て自分の思い通りになるんだと、阿呆な勘違いをしているボンボンみたいになってしまいそうだ。
 …大丈夫だよな?
 まだ大丈夫だよな? 要望を受けて作った物に、「これちがーう」って言われてもちゃんと耳を傾けてるし、まだ大丈夫の筈…。



 さて、それはそれとして次は何を作ろうか。…赤ちゃん? それは機を見て順番にだな…。
 ま、何だ。想定外な方向にはいったけど、最初の目標の、大淀が生きていけるような環境を残す、って目標は達成できたかな。
 こんな事言ったら、『我々は提督が居なければ生きていけません。だからこそ、提督との絆の証をはよ。はよ』とか言われそうだけど。



 しかし、艦娘も随分増えたなぁ。それだけ建造したって意味じゃなくて、種類と言うかなんと言うか。
 ゲームでも衣装違いの限定ガチャとかやってるんだろうけど、幾ら何でも衣装違い過ぎないか? あと、聞いた事もない海外艦とかも居る。俺が覚えてるのは、やる夫スレと薄い本近辺で騒がれる艦までだ。
 あの子達は一体どんな艦娘なんだろう…。

 具体的には一航戦コンビにケモミミが生えたり、胸筋もとい大鳳が巨乳になって着物になったり、愛宕と高雄が白制服になってたり、首輪をつけた銀髪メイドさんが居たり…。
 なんか一部で揉めてたようだが、この状況で争っても仕方ないって事で落ち着いたようだ。






 そんなこんなで目が覚めた。今回の夢は、妙に長かったなぁ。
 予想通り、その辺のモノを意識して壊そうとしてみると、マイクラ的な感じに壊せて、ストックも出来る。設置したものが空中に固定されてるのは…うーん、見られると面倒な事になるかなぁ。特に茅場辺りに。



 艦娘達? 俺が突然消えて狂乱しかけたみたいだけど、数日後にまた夢でのっぺらランドに行く事ができたんで、何とか落ち着いたよ。
 永遠に会えなくなった訳じゃないし、寂しい思いはさせるけど、解決策がある訳でもなし…。
 とりあえず、こことの移動手段を模索するという事に落ち着いた。



 …その次に行った時は、何故か現実世界での俺の行動がある程度把握されてた。盗聴器の類……ではなくて、憑いてこられた?

 


 それはそれとして、次は人工衛星の作成と決まった。
 深海棲艦? ……島の外れで、よくサブカルチャーや飯やR-18を堪能しに来ます。
 仲いいね君たち。戦争してたんじゃ…何?

 戦争はしてたけど、昔の事? 直近の戦争の相手は別?




 フォーリナーとプライマーとアグレッサー?
 よくわからんけど、そいつらが同時に来たの?
 …BETAとかじゃないだけマシ…なのかな?



外伝:艦これ編


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446話

 道場の広間に戻ると、俺以外の面々は勢揃いしていた。直葉ちゃんは…大分落ち着いてきたようだな。命の危機があったのに1時間も経たずに落ち着くとは、意外と肝が据わっている。

 …それとも、実感がないだけだろうか? 彼女にしてみれば、突然俺が近寄って腕を振るったら、金属質の音がしたってだけなのかもしれない。

 

 

「入れてくれ! 美麻、美柚、無事なのか!? 二人とも、声だけでも聴かせてくれ!」

 

 

 …なぁ、入り口で誰か騒いでるけど。

 

 

「あれは…うちらのお父さんです。霊山新聞社社長の文美と申しやす」

 

 

 …なんだろう、物凄く苦労人の気配がする。中間管理職的な。

 娘に何かあったと聞いて、飛んできたんだろうか。

 

 

「僕も何だかそんな気が…。いやそれより、声をかけないんですか? 外に出るなと言われていますが、そこまで禁止されている訳じゃないでしょう」

 

「うっ……そうなんすけど…父さんに黙ってここまで来てるんで、何というか合わせる顔が」

 

「…? 別に悪事を働いた訳ではないですよね?(霊山新聞社の記者だと騙りました)

 家族は仲良くするに越したことはありません。(新聞の内容について、絶賛反目中)

 喧嘩別れして家出した訳でもないでしょうに。(前ループでは、ウタカタの里まで家出する程思い詰めています)

 娘に危険が及んだと知るや否や駆け付けたお父さんに、一言声をかけるくらいしてあげないんですか?(純粋な疑問と正論)」

 

 

 …あ、美麻が崩れ落ちた。美柚も頭を抑えている。

 …色々と地雷を踏み抜いたなぁ。知ってる筈もないから、責める事もできんのだが。

 実際、この状況で声をかけない、会わせないって選択肢はない。

 相手は霊山新聞社の社長だぞ。何書かれるか分かったもんじゃねえ。本人にその気が無くても、霊山から何か言われたら従わざるを得ないんだから。

 

 なぁ、雷蔵? どうすんの?

 

 

「…構わん。ただし、この件に関して可能な限りの情報収集を協力するのが条件だ」

 

「…あの、雷蔵叔父さん、それって人質とったのと同じなんじゃ」

 

「桐人、こういうのは人質とは言わん。司法取引と言うんだ」

 

「えぇ……」

 

 

 堂々と言い切る雷蔵に、マジかよって顔をしている桐人と直葉ちゃん。

 逆に、明日奈は「当然ですよね」って顔だった。…これも血筋か? 獲物を追い詰める為なら手段を問わない、猟犬の素質が垣間見えた。

 

 

「そういう事やってるから、禁軍は嫌われたり不正塗れだって言われたりするんですよ雷蔵叔父さん…」

 

「……姪からの指摘にぐうの音も出ねぇ」

 

 

 本当にな…。状況を考えれば、妙手だと思うけども。

 

 

 

 

 つぅても、あの文美なるおじさんの伝手を辿らなくても、一応追いかける方法はあるんだよなぁ…。

 倫理的かつ生理的にあまりよろしくない方法だけど。

 上手く行ったとしても、1/2の確率でホモセックスに付き合う可能性が生じるから。まぁ、無いと思うけどな…。狙撃した奴、何となくだけど女っぽかったし。

 

 

 

 とりあえず文美さんを中に入れて、気まずそうな美麻と美柚と一緒に部屋に放り込む。おっさんの泣き声が響いていた。

 …狙撃を受けたのは娘さん達じゃないんだが…随分と溺愛してんなぁ。

 

 

「で、雷蔵叔父さん、これから俺達はどうすれば? 流石にずっと道場に籠り切りなのはきついんだけど。生活もあるし、モノノフとしてのお役目もある」

 

「分かっているが、今日一日は我慢しろ。明日までには護衛を手配する。お前達もそれでいいか?」

 

 

 構わんけど、俺に護衛をつけるくらいなら、直葉ちゃんか……いや、雪風にでもつけてくれ。

 こいつも事情がある身の上なんで、この隙に乗じてよからぬ事を企む輩が出ないとも限らない。

 

 

「ん? 私? 大丈夫よ、これでも結構強いのよ。……多分」

 

「雪風さん、流石にその楽観は酷すぎです」

 

 

 自分で言っておいて、やっぱり?と首を傾げる雪風。

 本当にこの子、頭が残念だなぁ…。経験の無さと、調整された性格が嫌な塩梅に噛み合った結果なんだろうけど。

 

 

 

 

 さて、そういう訳で、一晩道場で過ごす事になった訳だが……直葉ちゃんは大丈夫そうだな。

 お泊り会みたいに、雪風と騒いでいる。明日奈と神夜は外を警戒しながらも、二人の相手をしていた。

 

 美麻と美柚は、まだ別室で文美さんとお話し中。一度部屋から出てきたのだが、この機会に親子の溝について徹底して話し合ってこいと、部屋にもう一度放り込んだ。

 

 白浜君と桐人君は、練武場(屋内)で手合わせしたり、新技を試し合ったり、若い武芸者らしい健康的な時間を過ごしているようだ。…色恋沙汰の話もしてるっぽいけど。

 

 そして俺はと言うと、一人縁側に腰かけてボーッとしていた。……ボッチじゃないよ、白浜君と桐人君に稽古に誘われたけど、ちょっと考えたい事があったから一人になっただけだよ。後から参加するって言ってあるし。

 

 

 

 何を考えてるかっつーと、今日一日であった事の考察だ。色々と思い返している。

 目を覚まさない滅鬼隊の指揮官。

 唐突に会いに来た、美麻と美柚。

 直葉ちゃんと桐人君の血縁、雷蔵。

 その目の前で突然の狙撃。

 

 …狙撃さえなければ、意外な人間関係を知った一日で終わっただろうに。

 

 

 さて、その狙撃についてだ。

 雷蔵には証拠にならないと言われ、俺もその通りだと思うが、やはり俺としてはあの狙撃は誤射であると確信している。

 殺気の鈍さもそうだが、やはりどう考えても直葉ちゃんが狙われる理由はない。

 

 では、一体誰が狙われたのか?

 まず第一に考えられるのは、雪風だ。彼女は記憶を失う、或いは最初から持ってないとは言え、滅鬼隊の一員だ。霊山が行っていた違法行為の証拠、そして証人でもある。関係者が見つけたら自分の元に確保するか、それが無理なら始末しようとしてもおかしくない。殆どの滅鬼隊は使い捨て同然の扱いだったようだし、始末するのにも左程躊躇はしないだろう。

 

 第二に考えられるは、白浜君。彼はシノノメの里の代表として霊山を訪れている。実際は牡丹のオマケみたいなもんだが。シノノメの里に、知られたらまずい何かがあるのか、それとも交流断絶が望みなのか。…しかし、白浜君は狙撃に対して全く無反応だったな。気を抜いていても、自分に対する害意や殺気なら感知できる程度には仕込んでるんだが…。まぁ狙撃の殺気は分かりにくいしなぁ。

 

 そして第三に考えらえるのは俺。九葉のおっさんと通じて、色々と企んでいる事は色んな所にバレているだろう。九葉のおっさんは良くも悪くも政敵が多そうだし、そこからちょっかいを出してきたとしてもおかしくない。…が、これもやっぱり考えにくい。そりゃ100%とは言い切れないが、遠方からでもじっと見つめられてれば気付く自信はある。それらしい気配は全く無かった。

 

 他には…禁軍の雷蔵に対する何らかの警告、なんて事も考えたが、どう考えても逆効果だ。

 

 

 気になるのは狙撃手の正体だけではない。こっちの方にも、ちょっと引っ掛かる行動をしていた奴が混じっている。

 狙撃を弾き、雷蔵の怒声に従って道場に避難する時の事だ。

 雪風は自分で走っていた。かなりのスピードだったが、これは体を改造された為だろう。

 直葉ちゃんは状況を把握できずに、白浜君と桐人君に抱えられて道場に入った。状況が理解できないんじゃ、こんなもんだ。

 神夜と明日奈は周囲を警戒し、左右を守りながら道場に入った。

 

 そして、美柚はすぐに動いて美麻を抱えながら道場に駆け込んだ。

 

 

 そう、美麻を一人で抱えてだ。モノノフ、そして準ハンターとして鍛えている白浜君と桐人君でさえ、直葉ちゃんを2人がかりで担ぎあげてようやく走れたんだ。

 なのに、彼女は女性の細腕で姉を軽々と担ぎ上げ、雪風に迫るような速度で走った。

 反応速度、膂力、速度…どれも一般人とは思えない。火事場の馬鹿力ってだけじゃ説明がつかない。

 一緒に居た美麻、話していた直葉ちゃんも気付かない内に姿を消したり、本気で探した訳ではないとは言え移動の痕跡が俺にも見つけられなかったり…。

 ちょいと聞いてみたが、雷蔵が見つけた時は驚く程見事な隠形を行っており、それで単なる通りすがりではないと判断して捕らえたそうだ。

 

 

 

 …考えてみれば、直葉ちゃんが狙撃されたのは、雷蔵が現れた瞬間…言い換えれば、雷蔵に捕らえられていた美柚が姿を見せた瞬間でもある訳だ。これは偶然か?

 美柚が姿を隠したのは、狙撃手の気配を感じたから。そして、自分がそいつに見つかる事が望ましくなかったから……と言うのは、流石に考えすぎだろうか?

 コジツケが過ぎる自覚はあるが、どうも引っ掛かるんだよな…。

 今度、内面観察術を試してみようかな。あんまり多用するのはよろしくないんだが…。

 

 

「うう、また負け越した…大分見切れるようになってきたけど、二刀流だと捌き斬れない…」

 

「へへ、まだまだだな。兄貴、風呂沸いたけど入る?」

 

 

 …入るけど、何で道場に風呂があんの?

 と言うか、二人が先に入って来いよ。汗だくだぞ。

 

 

「鍛錬のしすぎで汗まみれになったり、怪我をする奴も多いから、風呂とか休める場所とかも作ってあるんだよ。ま、大したもんじゃないけどさ」

 

「そういえば、ご飯どうする?」

 

「流石に台所は無いな…。何か買ってくるか」

 

 

 意外と設備整えてるなぁ。

 それなら俺が行ってくるわ。俺なら護衛もいらないし。…いや、妙な事をしないように監視はされるか。

 この辺に持ち帰りできる飯屋とかある?

 

 

「4つ曲がり角を超えた先に、評判の弁当屋があるよ。飯時には少し早いけど、早い所行かないと売り切れちまう」

 

 

 はいよ、ひとっ走り行ってくる。戻ってきたら、美麻達の話も一端中断させて、飯にしようか。

 

 

 

 飯を買いに行く事を伝えると、予想通り護衛役の一人が付いて来る事になった。

 ま、荷物持ちにもなるし、流石にこの状況で面倒事に首を突っ込む気はない(向こうから面倒事がやってこないとは言ってない)し、問題はない。

 

 えーと、俺、明日奈、神夜、雪風、白浜君、直葉ちゃん、桐人君、美麻、美柚、文尾さん、護衛数人…。

 10個以上かぁ…。売り切れ以前に、作るのにも時間がかかりそうだな。最悪、足りなくなったらこんがり肉でも出すか。

 …こんがり肉もなぁ、美味いし腹も血いいしエネルギー抜群なんだが、流石にそれだけで済ますのはなぁ。具体的に言うと、折角日本に居るんだから米が食いたい。あと日本酒。

 

 

 

 

 流石に、往復500メートル程度の距離でトラブルも何もなく、あっさり戻ってこれた。

 弁当屋さんは…うん、ちょっと大変そうだったけど。用意していた商品が、ピーク時間前に半分くらい消えたからな。これから作り直しのようだ。別に悪い事なんか何もしてないけど、ちょっと申し訳ない気分になった。アイドルタイムに集団で押しかけてしまった感じ。

 

 戻ってくると、突撃してくる犬みたいに雪風が飛びついてきた。

 

 

「ちょっとどこ行ってたのよ!? いつの間にか居なくなって、何かあったのかと思ったじゃない!」

 

 

 いや弁当買ってくるって言ったよ。オメーが直葉ちゃんとの話に夢中になって気付いてなかっただけだよ。

 そんなの知らないとばかりにキャンキャン吠え立てられるが、鬱陶しいと思わないのは揺れる尻尾が幻視されるくらいに喜んでいるからだろうか。

 

 ほれ、それよりも飯買ってきたぞ。皆呼んできて、広間で飯にしよう。

 尻尾を振りながらも不機嫌そうな雪風を宥めるべく、手を繋いで中に向かう。…腕に抱き着かれた。

 なんだ、随分大胆な事するな。体温が気持ちいい。

 

 

「別に…。明日奈が『試してみたら』って言ってたから、実際やってみただけよ」

 

 

 明日奈が? …なんか普段と違うな。あいつが軽率にその手の行動を進めるとは思えんが…。惚気で口が滑ったか?

 おーい、皆、飯買ってきたぞー。

 

 

 待ってましたとばかりにダッシュで駆けよってくるのは白浜君と桐人君。鍛錬で疲れてるからね、仕方ないね。

 …鍛錬と言えば、神夜が二人の戦いにちょっかい出さなかったな…。強弱で言えば神夜に軍配が上がるとはいえ、興味を持たない程実力差は離れてない筈だが。

 

 

 

 んじゃ、飯はソッチで勝手に食ってくれ。俺は外を警戒しながら、屋根の上で月見飯とでも洒落込むわ。

 

 

「? 何ですか師匠、一緒に食べればいいじゃないですか」

 

「同感。兄貴と一緒の方が、直葉も安心するでしょうし」

 

 

 

 ……あのな、白浜君、桐人君。一つ真理を教えよう。

 

 

「? どうぞ」

 

「拝聴します!」

 

 

 上司、ないし目上の人間と同席で美味い飯酒食えると思うな。

 酒を美味しく飲ませてくれる上司と巡り合うのは、砂漠で砂金の粒を探すより難しいと思え。

 

 

「…い、いや流石に考えすぎだと思いますけど…。師匠自身、身分と言うか上限関係には緩い人ですし」

 

「だよな。少なくとも俺は、飯に同席させてくれるだけども光栄だけど…」

 

 

 ……さよけ。

 間に受ける訳じゃないがあんまり誇示するのもな…。

 それじゃ、遠慮なく同席させてもらいますか。

 

 

 ともあれ、腹が減ってた欠食児童共に弁当を渡して、自分も箱を開く。

 ほう、これは中々。桐人君の言う通り、評判になるのも無理はない。具材はそう高価な物ではないが、腕がいいんだろう。単なる弁当が、開いた瞬間に宝石箱にすら見えた。

 こーいうのって日本人の得意技だよなぁ。狭いスペースに詰め込んで、しかもそれを調和させるって。

 いやはや、この出汁巻き卵なんて職人技だよ。

 

 

「お、やっぱり兄貴、わかります?」

 

 

 わからいでか。いいとこ紹介してくれたなぁ。

 

 

「この煮付けも、家で再現しようとしてるんですけど、中々…。やっぱり本職は違いますね」

 

「確かに美味しいです。うーん、でもやっぱり私は明日奈さんの芋の煮転がしの方が」

 

「品と言うか味の方向性が違い過ぎるし、それで比較するのはちょっとどうかと思うわ。うーん……隠し味、なんだろ…」

 

「あ、僕これ分かります。多分、蜜を使ってます。これは……蓮華の花、かなぁ…」

 

「…蓮華の花? そんなんで変わるのか? と言うか、よく分かるな兼一」

 

「花を育てるのは好きだし、子供の頃は蜜を吸うのも好きだったからさ。でも、花びら一つじゃこうはならない…。ただ量を使っているのでもなさそうだし…」

 

「人参要らないわ!」

 

 

 好き嫌いすんな、雪風。おっぱい大きくならないぞ。

 こら飯時に蹴りはやめんか。

 

 …改めて見ると、こいつら結構家庭的だな。明日奈も神夜も独り暮らしが長かったし、直葉ちゃんは家事を一手に引き受けてるっぽいし、白浜君も自炊していた。

 男飯とかじゃなくて、揃いも揃って結構凝り性なようだ。

 雪風にも、多少は仕込んでおいてやらんとな…下手すると猫まんまを主食にしかねない。

 

 

 

 

 それにしても……なんか神夜が上機嫌だな。いや悪い事じゃないんだけど。

 ありゃイタズラを思いついた悪ガキの笑顔だぞ。普段の神夜であれば、間違っても悪い子だなんて言えない。………あれ、そうでもないか? 常日頃から穏やかでニコニコしてる子だけど、中身は戦狂いもいいところだし、強い奴を見るとチャンスを見つけて喧嘩をふっかけるし。

 …うん、エッチ大好きな可愛い子だから、悪い子じゃないな! 戦狂いであっても、殺戮を楽しむ人間じゃないし。

 

 はて、一体何を思いついたのやら。妙に浮かれているし、何かやらかすとしたら近日中だ。…軟禁状態だからこそ思いついた事なら、今日明日かもな。

 



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447話

ガッツリ濡れ場回です。
普段の3倍近い文字数になってしまった。

かなり強引な展開になってますが、お察しの通り巻きに入り始めています。
同時に色々展開しすぎて、話が進まないんですよぉ!

この後、霊山編だけで同じく濡れ場回を少なくとも1回予定しています。
今まで手を付けた事のなかったシチュなので、かなり手古摺ると予想。
そこに至るまでにも既に手古摺ってますけどね。


それにしても、タイマニン界近辺できらら先輩が大ヒットしておるようですなぁ。
おっぱいでっかい、タッパもでっかい、強気だけとチョロい。ヤキモチ妬いてる言動が可愛い。
ウチにも来てほしかった…。
ピックアップガチャで先に石を溶かしたのが致命的だったな…。
属性限定ガチャが来るなら、そっちに使うべきだった。
うーむ、日ごろ「何となく戦力強化できないかな」で使っちゃアカンのだな。
必殺技もネタも石も、使いどころが重要だと知った今日この頃です。

……課金の誘惑を退ける力を与えたまえ…。


堕陽月参日目

 

 

 草木も眠り、護衛も微睡む丑三つ時。人が動く気配で目が覚めた。

 今日は道場の広間で、皆で雑魚寝。布団が足りないので、掛布団に包まったり、二人とで一つの布団を使ったりしている。

 

 夜遅くまで話し込んでいた美麻美柚文美の3人も、今日はここまでとしたのか、ぐーすか眠っている。…文美さんと二人の微妙な距離が、完全に和解したのではない事を示しているようだ。

 …てっきり、美麻と美柚で同じ布団を使うのだと思っていたが、何故か美柚と雪風、美麻と直葉ちゃんで眠っていた。いや別に文句はないんだけどさ。

 

 

 周囲を見回してみれば、姿が見えない者が数人。明日奈と、神夜と……直葉ちゃんも居ない?

 気配を探ってみると、3人は同じ場所に居るようだ。揉め事とか、暗殺者がやってきたって訳じゃなさそうだな。トイレ…でもないな。

 3人が居るのは多分、負傷者を運び込む為の医務室だ。

 

 よからぬ事を考えているとは思わないが、様子見しに行くか…? と考えていたら、気配が一つ離れて、こちらに向かって移動を始めた。これは…明日奈の気配だな。

 

 

「…あ、やっぱり起きてた。静かに静かに…」

 

 

 別に意味も無く騒ぎ立てるつもりはないが。こんな夜更けにどうした?

 直葉ちゃんも一緒に居るみたいだが。

 

 

「百聞は一見に如かず、よ。来てみれば分かるわ。むしろ、あなたなら来なくても分かりそうだけど」

 

 

 そりゃ、こんな夜更けに明日奈から誘われるとなれば、いつものお楽しみくらいしか思いつかないけど。

 まぁいいか。とにかく行けばいいんだろ。

 

 

 誰も起こさないように、こっそりと抜き足差し足…。ふと気になって、雪風と美柚を見たが、本当に眠っているようだ。狸寝入りではない。

 妙に上機嫌な明日奈に手を引かれ、医務室へ向かう。

 

 …この上機嫌さは、神夜と同じだなぁ。何を企んでるんだか。

 

 

「企むって程じゃないわ。そろそろ、私達だけじゃ受け止めきれなくなってきたし、援軍を探そうかなと思ってた所に、鴨が葱…もとい、渡りに船だったからこれ幸いと乗っただけだし」

 

 

 何のことを言ってるのか大体予想はつくが、何でそうなったのかが分からんなぁ。

 この先に誰が居るのか分かるし、何の為にそこに行くのかも予想がつくが、あの子が鴨になる程俺を好いてたか…?

 

 

「んー、色々積み重ねはあるけど、多分それって貴方が想像してるようなのじゃないと思う。人間関係の積み重ねじゃなくて、気になってつい見ちゃうのと、顔が赤くなるのと、狙撃から守られたのがこう、結びついて」

 

 

 …気になってつい見ちゃってた理由は?

 

 

「……前に泊りがけで遊びに行った時、普段やってる事を色々話してたから…かな?」

 

 

 1(PI-)歳を相手に何を猥談かましとるか!?

 

 

「今からその1(PI-)歳に何をするのかしら? むしろしたくないの?」

 

 

 します。1(PI-)歳とかまだマシな方でした。ペド野郎と呼ばれても反論しません。

 …マジでな。GE世界で色々と…。

 シオの事じゃない。あれは最初は逆レ喰らったようなものだし、普通の人間ではないからギリギリセーフとする。リカもまぁ、事情が事情だ。血の力に当てられて暴走しちゃったから、俺の中ではセーフ。

 ………直前のループで、ありすを始めとしたロリっ子アイドル達と、な。あの子が篭絡して連れ込んできたロリっ子達まで食っちまったもんで…。

 

 

 要するに直葉ちゃんは、猥談を思い出してつい胸が高鳴ったりするのと、狙撃から守られた吊り橋効果で、俺の事が好きだと思いこんじゃった訳か。

 チョロいというかなんというか…。

 

 元々、そういうのが好きな子でもあるんだろう。初めて会った時も、グウェンに守られた事を物凄く語られたのを覚えている。

 体を張って自分を助けてくれる強い人。それが彼女の憧れか。

 

 …にしても、狙撃を受けて半日程度だぞ。よくそこまで突っ走ったな。

 

 

「離してみて分かったんだけど、あの子は結構…私が言うのもなんだけど、肉食系よ。思い込んだら一直線、好きな人の為なら何でもする、その人がやる事なら大抵の事は好意的に考える、好き嫌いに時間なんて関係ない」

 

 

 まぁ、あんだけ男好きのする体てるんだし、肉食系なのは分からんでもない。

 …そういや、桐人君って直葉ちゃん相手ですら体が竦む事がある、って言ってたな…。トラウマの原因になった明日奈と共通する獣性を感じ取って怯えていたのかもしれない。

 一つ聞くけど、直葉ちゃんを誘ったのは?

 

 

「誘ってないわ。自分から頼み込んできたの。色々話してた時に、その、嬉しいんだけど、色んな意味で体が保たないって言ったから、援軍要りませんかって。どこから持ってきたのか、音を消す為の結界の準備までして」

 

 

 ………自分から食われに来る肉食系、か。結界は多分、コスプレする時の為に自前でそろえていたんだろう。

 つーか、ヤる気満々の俺が言うのも何だけど、直葉ちゃんは俺達の事情を知ってるのか? 少なくとも俺は、近日中にウタカタの里に向かうんだぞ? やる事やって、そのまま放り出されるんだぞ?

 

 

「うん、まぁ、そこは…私達も気になったから、ちゃんと言ったんだけど…『だったら、猶更今すぐ突撃しないといけませんよね!?』……だって」

 

 

 ………まぁ…確かに…幸運の女神は前髪しかないと言うし、俺と何かしら関係を持とうと思ったら、今しか機会はないんだけども…。ウタカタに向かった後、どうなるにせよ霊山に戻ってくるかは分からないのだから。

 それでいいのか、直葉ちゃん…。徹底的に前に進む事しか考えてねぇな。むしろ、もの考えて生活してるのか心配になるくらいだ。

 

 

 

 人を起こす事が無いよう、ゆっくり歩いていたが、とうとう医務室に到着した。

 

 明日奈と神夜が上機嫌な事だけが妙に引っ掛かるが、この先に直葉ちゃんが抱かれる為に待っていると思うと、色んな事が頭からすっ飛んでいく。

 今までそういう目で直葉ちゃんを見た事は…まぁ、あんまり無かったが…うん、余裕でイケるイケる。桐人君にも、「妹をよろしくお願いします」って言われてるし。あんだけ成熟したカラダなら、幾らでも美味しくいただけます。

 

 

 では、参ります。

 

 

 

「「いらっしゃ~い」」

 

 

 

 そこで出迎えてくれたのは、当然神夜と直葉ちゃん。

 ただし、実に過激なランジェリーに身を包んでいる。

 

 ほぉう、これはこれは…。舌なめずりしながら、二人の体をじっくり鑑賞する。

 まずは直葉ちゃん。こうしてみると、本当に年齢不相応なスタイルをしている。同年代ではこんな肉付きの良さを醸し出す少女はまず居ないだろう。

 むっちりしたフトモモ、括れたウェスト、突き出した問答無用のおっぱい。

 普段の恰好が野暮ったいものが多いからか、こうして脱いだ時のインパクトが凄い。そしてそれを飾り立てる、赤を基調としたランジェリー。下着としての役割を放棄し、体を卑猥に彩る為に特化したデザイン。

 …これ、確か神夜に着せようと思って渡した奴の一つだよな。神夜は赤より黒が好みらしいから、未使用のランジェリー。

 

 だが何よりも素晴らしいのは、直葉ちゃんの表情だ。

 この世界、下着と言えば褌とサラシくらいで、ランジェリーなんて言葉すらない。シノノメの里だと、練の姉御が作ってるけどね。

 当然、直葉ちゃんにとっても未知の存在だ。よく分からない、なんだか複雑な模様が入った布切れ、くらいにしか思わないだろう。

 大事な部分を隠してこそいるが、直葉ちゃんにしてみれば裸よりも恥ずかしい恰好だろう。

 彼女の感覚で言えば、初めて異性に体を見せるのに、よく分からないオモチャや落書きで体を飾り付けているようなものだ。

 神夜と明日奈に唆されて身に付けたのだろうが、滑稽に見えてないか、本当にこれで俺が滾るのか、そもそも恥ずかしくて仕方ない。

 それでも俺の為に羞恥に耐えながら笑顔を浮かべ、しかしやっぱり恥ずかしくて体をモジモジさせている。

 

 君ぃ、その恰好で胸を隠そうとしても、強調にしかなりませんよ?

 

 

 

 勿論、神夜だって負けてはいない。俺の好みを体に叩き込まれている上、元々極上だった体は雌の本能に目覚めて、磨きに磨かれている。

 黒のセクシーランジェリー…直葉ちゃんのより数段過激で卑猥な衣装に身を包み、しかもそれをどう魅せれば一番いやらしく映るのか、知っていてやっている。

 こちらは満面の笑みで、羞恥心を殆ど感じさせないが、それがまた神夜の可愛さを引き立てている。と言うより、全身から構ってオーラと大好きビームを放ちまくっている。

 卑猥さが滲み出る姿なのに、それ以上に可愛さが強調されている。その奥にある雌の本能を引き出してやる事を考えると、今から先走りが止まらない。

 

 肉付きのいい二人が並ぶと、4つの柔らかくて丸い塊が強調され、実際以上に密度と圧力を感じる。

 何と言うか、ステーキとハンバーグが同時に目の前にあるような気分。

 

 

 

 背後でカタンと音がする。扉の鍵が閉められたのだ。

 そして僅かな衣擦れの音の後、背後から明日奈に抱き着かれる。首を回して見てみれば、明日奈も下着姿になっていた。

 背後から感じる、柔らかさと既に硬くなっている感触。二人程の大きさは無いが、美しさと感度で言えば明らかに二人の上を行く事を、身を以て知っている。

 何か言う暇もなく口付けられ、自分達がどれ程この時間を待っていたのか、舌の動きと唾液の粘度で伝えてくる。

 

 一頻舌を絡ませ合うと、明日奈は俺の前に回った。横目で少しだけ、直葉ちゃんの様子を確認する。…顔を真っ赤にしてガン見していた。

 改めて明日奈に目をやると、青いセクシーランジェリーに身を包んでいる。流石に普段からこれを着けている訳じゃないので、皆が寝静まった後に着替え、普通の服で隠して俺を呼びにきたんだろう。

 

 明日奈には二人のような肉感はないが、それは彼女の魅力を損なう事ではない。スレンダーながらも出るとこ出ている彼女は、貪り付きたくなるような肉ではなく、一種の芸術品のような風格を備えている。

 研磨され、整えられた宝石を連想させる体。属性で言うなら、明日奈がビューティ、神夜がキュート、直葉ちゃんはセクシーかな。

 そんなビューティ明日奈だが、その内に潜む獣性、貪欲さは言うまでもない。野生の獣のような美しさ、と言うと明日奈は腹を立てそうだが、実際似たような印象はある。

 その野生の獣をペットになるまで屈服させ、美しさを汚しつくすのが何よりの楽しみだ。

 

 

 

「ほら、直葉ちゃん、こっち来て。今日の主役はあなたなんだから」

 

「へ、はへっ!?」

 

「そうですそうです。私達はお手伝いに回りますから、ね?」

 

「か、神夜さん達は」

 

「私達は直葉ちゃんが大人になるのを齧り付きで見学させていただきますから。二人で絡み合ってますんで、お構いなく」

 

「二人でって……女同士!?」

 

「抵抗がなくなるまで、この人に仕込まれちゃったのよねぇ…。そのうち直葉ちゃんも、同じようにされちゃうわよ」

 

 

 ズズイっと真ん中に放り込まれ、俺の前に突き出される直葉ちゃん。

 …このタイミングで二人が譲るのはちと引っ掛かるものがあるが、それよりも今は目の前に居る極上の青い果実を貪りたい。

 

 しかし。

 

 

 女同士についてはともかくとして、直葉ちゃん。

 二つ聞いておく事がある。

 

 

「ひゃい!?」

 

 

 これは神夜と明日奈からも聞いたはずだけど、俺は遠からずウタカタの里に向かう。こう言ってはなんだけど、たった一夜の思い出にしかなれない。弄ばれて捨てられた、と言われても反論はできないぞ。それでもやめる気はないんだな?

 

 

「な、ないです! 心を決めてきました!」

 

 

…そうか。わかった、俺もはっきり言おう。

 正直な話、俺は君を女性という目で見てなかった。知人の妹、顔見知りの依頼者、それくらいだ。

 でも今は違う。男として君を抱きたい。

 

 直葉が好きだ。直葉は、俺の事をどう思ってる? 言葉にして聞かせてくれ。

 

 

「………好き……です。憧れです。会って数日も経ってないし、話した事も数える程度ですけど、こうして向かい合っているだけでどきどきします。体の奥が気持ちよく疼いて、もっと傍に近づきたくなるんです」

 

 

 …どきどきするのは格好のせいじゃないかな…。しかしそれで昂るとなると、この子も結構な素質をもっていそうだ。

 

 

「思い込みってだけじゃないです。誰にも言えない趣味について理解してくれた事や、お兄ちゃんが女性恐怖症から立ち直る切っ掛けをくれた事、グウェンさんと同じように私を守ってくれた事。理由は、結構あるんですよ。でも、本当の理由は…」

 

 

 直葉は一度言葉を切って、俺に一歩近づいた。上気した頬、他者の目があるにも関わらず興奮しているのが一目で分かる体。

 

 

「本当の理由は、『ああ、この人なんだ』って感じちゃったからです。きっと、理由も切欠も全部後付けです。あなたが欲しい、あなたの女になりたい。ただそれだけなんですよ」

 

 

 …1(PI-)歳が語る理屈ではない。いや理屈ですらない。

 だが、自分の欲求に迷わず従うその笑みは、いっそ美しくすらあった。

 

 …参ったな、思った以上に考えなしだけど、思ってたよりは大人だった。

 わかったよ、直葉。直葉は俺のものだ。俺のものにする。

 

 ただし、最初に言ったような、一夜限りの関係じゃない。

 

 

「それは…霊山に戻ってきたら、また会いに来てくれると?」

 

 

 もちろん来るけど、ちょっと意味が違う。やろうと思えば、ウタカタに行った後だろうと、俺が異界のド真ん中に潜っていようと、死別しても会えるだろう。(デスワープしたらどうなるかわからんけど)

 ただし、対価はその後の人生全て。

 もしも何かの理由で直葉が俺から離れようとしても、俺の意思一つで呼び戻されて、命令一つで股を開く羽目になる。

 好き勝手に体を書き換えられて、冗談抜きで今後は一生、魂まで俺の飴玉同然だ。

 

 

「飴玉……そ、それは隅々まで舐めたり啜ったり、蕩けて消えてしまう程に味わってくれると…?」

 

 

 食いつくのそこかよ。いや、その通りなんだけど。

 本当に食べられたいんだな、この肉食系ムチムチ妹。

 ま、いいか。今後どうなるにせよ、本人も乗り気な訳だし……オカルト版真言立川流・未完成の秘儀、『烙印』の犠牲者第一号となってもらおう。

 

 問答は終わりとばかりに、直葉ちゃんを抱き寄せる。驚いたようだが、すぐに力を抜いて体を委ねてくれた。

 背中やうなじに指を這わせながら、耳元でもう一度『大好き』と囁いてやると、嬉しそうに抱き着いて来る。年齢に見合わない大きさの双丘が押し付けられ、歪むのが感じられた。

 今すぐこの柔らかい肉の塊を、好き放題に揉みしだいてやりたい。それをやっても許してくれるだろうが、それだけではつまらない。

 『烙印』の前準備の為にも、この子には自分から深みへ嵌りこんでもらう。

 

 

 顔をこちらに向けさせると、直葉は黙って目を閉じた。少しだけ唇を突き出して、奪ってほしいと態度で示す。

 望み通りに軽いキス。だが、それだけでは直葉は満足できないようだ。両腕を俺の首に回し、もっと引き寄せようとする。

 思っていた以上の積極的さだが、これ以上顔を近付けあうと前歯がぶつかる。

 だから近付くのではなく舌を伸ばして送り込んだ。

 

 舌を絡め合うキスは予想外だったのか、危うく口が閉じられかけたが、顎を掴んでそれを止めた。戸惑う直葉ちゃんを追い詰めるような事はせず、唇の内側にねっとりと舌を這わせる。

 敏感な場所を舐められる感覚に戸惑い、体をピクピクさせていた直葉は、躊躇いながらも自分も舌を出してきた。

 唇と唇の間で、舌が触れ合う。ぬるぬるとした生暖かい感触。唾液を啜る音。

 

 初めての接吻だっただろうに、直葉はすぐに夢中になった。表面で舐めあい、絡め合うだけではない。自分から舌を伸ばして、俺の口の中に送り込んでくる。

 神夜と明日奈に見られている事も忘れ、本能のままに素肌を俺に擦りつけながら、無意識に腰を揺らしている。

 

 

 積極性は充分と判断し、接吻を辞めて一歩後ろに下がる。

 追いかけてこようとした直葉だが、俺が服に手をかけたのを見て動きを止めた。わざと時間をかけて服を脱ぐと、強烈な視線が突き刺さる。

 

 

「…何だか、脱ぎ方が大人っぽいです…」

 

 

 そういう脱ぎ方を、これから直葉も覚えるんだぞ。どこをどう魅せたら雄が悦ぶのか、みっちり仕込んでやろう。

 ほら、下も脱ぐとしよう。これから直葉を大人にしてくれる、一生可愛がってくれる男の象徴だ。よ~く見ておけよ。

 

 言うまでも無く、直葉の視線は俺のイチモツに釘付けだ。先走り汁が滲む剛直は、目の前のメスを求めて猛っている。

 何人もの女を食い散らして淫悦の園に引き摺り込んできた棒から溢れるフェロモンとオーラは、それだけで経験のない直葉に生唾を呑ませる程だった。

 

 呼吸が荒くなっている直葉を、再度抱き寄せる。しかし今度は正面からではなく、一転させて背後から抱きしめた。

 互いに伝わる素肌の感触。しかしそれよりも、直葉は内股に当たる剛直が気になって仕方ないようだ。先端部分で内股を、時に秘部近くを擦り上げて自己主張するそれは、直葉にとってはいつ自分を貫くか分からない凶器であり、同時に新しい世界を見せてくれる魔法の棒。

 

 だが、これの出番はまだもう少し先。

 背後から腕を回して、本格的に直葉の体を愛撫し始めた。

 

 

「んっ……やっ、あっ、あ、そこ、いい…」

 

 

 体中を弄られ、直葉は体をゾクゾクさせながら身悶える。

 ランジェリーの上から胸を柔らかく歪め、敏感な部分の周辺を刺激する。恍惚とした表情で、初めて異性に触れられた感触を楽しむ直葉。

 やっている事は、まだマッサージの領域。緊張を解す為の行為で、性感を与える為のものではない。

 

 その為か、直葉は徐々にじれったくなってきたようだ。期待していた気持ちよさとは違う、と感じたのもあるだろう。

 物欲しげに体をくねらせ、後ろ目で「もっと先を」と訴えかける。剛直の先端が秘部に触れた時など、自分からランジェリーや鼠径部を擦りつけてきた程だ。

 

 頃合いと見て、もう少し行為を進める。やろうと思えば、今すぐにでも直葉の処女膜を破って絶頂させるなり、指先一つで何もかも忘れて絶叫するような痴態を晒させる事もできる。

 だがあえてじっくりと、少量の性感から注ぎ始める。直葉が慣れたり、或いは飽きたり失望しないように、我を忘れてしまわないように、直葉の中の欲望に火を注ぎ、鎮め、酩酊させる。

 

 強すぎず弱すぎず、自分が何をされているのか明確に認識させ、自分の体はこんなに気持ちよくなれるのだ、こんなに浅ましくて卑猥な部分があるのだ、そしてそれがオスを悦ばせるのだと、心にも体にも刻み込む。

 そして、それに浸る事がどれだけ気持ちいい事なのか、丁寧に教え込んでいく。 

 

 その教えを全く抵抗なく受け入れていく直葉は、気付いているだろうか? 自分の芯になる部分から溢れる、熱と卑猥な液体に。唇の端から涎が溢れ、乳首はピンと自己主張し、紅潮した肌にはじんわりと汗が滲み、そしてまだ幼い卑裂はいつ犯されてもいいように液体を吐き出し続ける。

 平時の直葉ちゃんであれば、こんなのは自分じゃない、とでも言い張っただろうか?

 

 

 時折、胸を一際強く揉んだり、尻に手を滑らせたりすると、一際大きく声が出る。何度か繰り返している内に、とうとう直葉は我慢できなくなったようだ。

 両手を自分の秘部に当てようとする。この状況で、物足りないとばかりに自慰をしようとしているのだ。

 だが、そうはさせじと愛撫を止めて、両腕を捕まえる。

 

 直葉が何か言うより先に、捕まえた片腕を誘導する。向かわせたのは、直葉の秘部直前で自己主張を繰り返していた俺の肉棒。初めて手にするその熱さに、直葉は体の疼きも忘れて夢中になった。

 何をしろ、と指示するまでもない。明日奈達から聞いていたのか、拙い手付きながらも剛直を愛撫し始める。当然の事ながら、俺に充分な快感が送られているとは言えなかった。何せ実物を直視したのは先程の一度だけ、体勢は背後に向かって手を伸ばしている状態。これでしっかりとした愛撫をしようと思ったら、慣れに加えて肉棒の構造を全て把握しておかなければならないだろう。

 それでも、オスの象徴に触れながら愛撫されているという状況は、直葉の冒険心を満たすのには充分だった。

 

 自分はこんなにいやらしい事をしている、こんな気持ちいい事をしているのだと酔い痴れる。『オトナ』になっていく興奮を、存分に味わっている。

 俺自身も、何も知らない女の反応を自在に引き出し、操って染め上げていく愉悦を感じていた。

 

 だが、まだまだこんなのは序の口なのだ。

 体も心も、魂まで貪り尽くす為。まずは『恥ずかしい』と『気持ちいい』を直結させてやろう。

 

 胸や尻、足を撫でていた指先を、ヘソを通して下に向かわせる。下腹部に近付く感触に、直葉の体は『今度こそ』と期待していた。これまで何度か下半身の愛撫はしたが、肝心の部分だけは放置して、疼きを貯めこませていた。

 だからこそ、そこに触れられたと認識する前に、直葉の体は絶頂する。

 

 

「……っ! い、いま、のって…」

 

 

 絶頂、だよ。神夜達から聞かされてるだろう? オトナになれるって証拠だよ。

 

 

「…あれが……頭の中、真っ白になって、体、電流が走ったみたいになって…すご…」

 

 

 この程度で凄いなんて言ってたら、体が保たないぞ。

 ほぉら、中に指が入って行くぞ。

 

 

「あっ、あっ、あっ、な、なか、きてる、きてるっ、またぜっちょうしちゃう、からだ、かってにっ」

 

 

 初めてなのに柔らかいなぁ。もう気をやりそうになるなんて、本当に淫乱な体をしてる。

 

 

「い、いじわる、やぁ…! きもちい、で、もっ、いんらんじゃ、ない、もん…!」

 

 

 こんなに楽しんで体も反応してるのに、淫乱じゃないなんてよく言えるな。

 ほら、聞いてみろよ。これが直葉のナカの音だ。

 

 わざと乱暴に、音を立てる為に直葉の膣内を掻き回す。下半身をビクビクと痙攣させながら、直葉は快楽と羞恥に塗れた叫びをあげた。

 散々焦らされ発情させられた直葉の体は、初めて異物を受け入れたというのに悦びの声だけを叫び続ける。

 今までの揉まれ、吸われ、愛撫されて味わった外部からの快楽ではなく、体の内側から溢れ出る性の悦びで、直葉の体が燃え上がる。

 

 快楽に犯されながら、それでも僅かに残っていた羞恥に火が付いたのか、いやいやと頭を振っていた。

 ああ、その反応が欲しかった。そして、これからもっと見せてもらおう。

 さぁ、直葉、聞くんだ。これがお前の体の音だ。

 

 

 れろぉ

 

 

 

 粘着質な音が響く。直葉の秘部の音ではない。確かにそちらも音を立てているが、直葉の脳を犯す音は、もっと直接的な音。

 耳の穴に出入りする、俺の舌の音。

 

 

「ひっ!? い、いやっ、舐めちゃ、あうっ!?」

 

 

 予想外の部分を責められた為か、それとも卑猥な音で羞恥が煽られた為か。逃れようとする直葉の頭を掴み、更に奥へ舌を這わせる。

 同時に、舌が奥に押し込まれる度、卑猥な音が耳から注がれる度に、膣内の指を蠢かせ、浅い部分から奥の部分まで片っ端から刺激する。

 

 ん~、直葉の耳の奥は美味しいな。濃いが味がするよ。

 

 

「い、いやぁ、あぁぁん! あっ、そこっ、だめっ、っだめっ!」

 

 

 耳が? それとも、女陰が?

 

 

「どっちも! あっ、あっ、奥、溶けてる、頭も、体も、気持ちよすぎて溶けてるよぉ! は、恥ずかしい、のにぃっ!」

 

 

 それでいいんだよ。恥ずかしい事は、気持ちいい事なんだから。

 ほら、もっといやらしい音を聞かせてあげるから、直葉もいい声で鳴くんだよ。

 もっと、卑らしくて恥ずかしい事をされて、気持ちよくなって、卑猥な声をあげるんだ。何もかも曝け出して、私はこんなに淫乱なんですって叫ぶんだ。そうすればもっともっと気持ちよくなれるよ。

 上手にできたら…今度は『これ』で犯して、本当のオトナにしてやろう。

 

 指で膣内を掻き回しながら、肉棒の先端で淫核を圧し潰す。

 耳元で卑猥な言葉と音を囁き続け、恥ずかしい=気持ちいいの麻薬のような等式を刷り込んでいく。

 

 

 羞恥と快楽と背徳感と、本人でも言葉にできない雪崩のような感覚に煽られて、直葉は上り詰めていく。

 最初の愛撫、我を忘れないような手加減など何処にもない。ただただ指と音に翻弄されて、絶頂したのにもお構いなしに弄り回され、人生で初めての領域に押し上げられる。

 

 トランス状態と呼んでも差し支えない程に高ぶった直葉は、大きな叫びを挙げて一際強く緊張し、そして脱力した。

 

 

「っ、は、  はっ、  は  ぁ     ふぁ  あぁ…」

 

 

 そこまでやってようやく舌と指を引き抜くと、朦朧とした意識で荒い息を吐いていた。

 流石に、ここまでやると俺が支えていたとしても立っていられない。

 

 準備されていた布団に寝転がせてやると、力のない目で俺を見た。

 

 

「はっ、 ふ、 は  ふ   ぅ…」

 

 

 羞恥の感情は消えていない。それ以上に、全身を包む快楽の余韻で、直葉は体を動かせない筈だった。

 にも関わらず、彼女は俺に向けて懇願する。

 

 力のない体に鞭打って足を動かして。

 俺に向けて股を開く。

 初めて異性に触れられ、雌の悦びを注ぎ込まれたその場所は、精根尽き果てたかのような直葉とは裏腹にまだまだ満足していないようだ。

 まだ身に付けていたランジェリーは既に変色する程濡れており、秘部にピッタリ貼り付いている。…男を欲してヒクついているのが、見ただけで分かった。

 

 体力と気力を全て削り取るような絶頂に晒されて、彼女は尚もオスを欲している。

 力尽きた自分を蹂躙し、何もかもを貪り尽くしてくれるオスを。全てを捧げても尚足りぬとばかりに食らいつくオスを。

 

 この幼い年齢で、よくもここまで卑猥な体に育ったものだ。

 それを好き放題に弄べる幸運に感謝しながら、俺はイチモツを突き付ける。

 これからそれが覆いかぶさり、自分の中に入り込んでくるのだと強調する。

 

 直葉は、恐怖と緊張と期待と欲望に塗れた視線で俺を見て。

 

 

 

「…………っ…きて、ください…」

 

 

 自ら股を広げるだけでなく、割れ目を左右に引っ張って広げ。自分から子宮を差し出した。

 

 

 

 真っ直ぐ突き抜ける道が見える。俺の剛直を迎え入れる為だけの道。

 その果てにあるのは、直葉の子宮。いや、それだけではない。俺がそこに入り込めば、消える事のない『烙印』を焼き付けて。直葉の全てを喰らい尽し、俺のモノにする事になる。

 本当にいいのか、と叫ぶ自分の良心を抑えつけ、背徳感として燃料にする。

 

 

 では、いくぞ。

 オカルト版真言立川流禁じ手、『烙印』!

 

 

「っ…~~~~~~!!!!!!!」

 

 

 

 用意された道を、それに耐えられる以上の強さで一直線に撃ち抜いた。

 ヌルヌルと絡み付く肉穴の誘惑を引き千切り、純潔の証を突き破られる感触も残さず、ただただ子宮…いや、直葉の『芯』を目掛けてまっしぐら。

 この術で重要なのは、無抵抗にした道を征服し、相手の中心となる部分を完全に捕らえて突き穿つ事。

 物理的には子宮までしか侵入してなくても、その衝撃や霊力は正中線を正確に辿って脳天まで突き抜ける。

 

 同時に霊力を流し込み、蹂躙した道を自分専用に書き換える。染み込んでいく霊力が、無条件に初めての性交の快楽を引き出し、直葉の体に悲鳴をあげさせた。

 後ろから、「うわ…処女にする事じゃないです、外道極まりないです…」「絶対一生忘れられなくなるわね、あれ…」なんて声が聞こえるが、褒め言葉だ。多分。

 

 

 そして、肉棒が最奥まで到達した瞬間、同時に下腹に指を当てる。トン、と指先で突く程度の衝撃。触れただけに等しい筈のその行為は、実際は精密に狙いすまされた一矢だった。

 突きあがる肉棒の真逆から体を抑える事で、標的を固定し、衝撃を逃がす事を禁じる。今の直葉は、縛り付けられて狙い撃ちにされる的に等しい。

 

 直葉の中で、興奮と快楽が天井知らずに高まっていくのが分かる。人語をとっくに忘却し、全身は迸る性感を受け止める為の器に成り果て、ただ只管欲望に突き動かされて悦楽を貪っている。

 そして、その中心で…子宮の真上に突き立てられた指と、そこを突き上げる肉棒の中心から、直葉の全てが流れ込んでくる。

 

 

 いや、流れ込んでくる、ではない。吸い取っているのだ。

 普段のオカルト版真言立川流で行うような、増幅した霊力の受け渡しではない。もっと根本的な部分を一方的に略奪しているのだ。それに伴う強烈な快感は、言葉にしようもないだろう。万が一にも抵抗させない、反抗させないように、心を打ち砕くような悍ましい快楽を与え続ける。

 

 そして、その悍ましい邪法の効果は目に見えて現れた。

 指で押さえている部分、丁度子宮の上。そこにじわじわと色が滲みだす。ハートマークを悪意的に歪めて子宮や卵巣に似せたような、その形。モノノフのシンボルマークをデフォルメした形にも見えるのは、開発者の悪意だろうか?

 胎内から卑猥な輝きを以て自己主張する、言わずと知れたその紋章。

 

 

 淫紋。

 

 

 これがオカルト版真言立川流禁じ手・『烙印』の効果である。これの為に与えられる、今正に直葉を壊そうとしているような悦楽など、副作用に過ぎない。

 尤も、俺が禁じ手、邪法呼ばわりするような術の効果が、ただ淫紋を付けるだけのものである筈もなし。確かにお嫁に行けなくなるような模様が出来てしまうが、隠す方法は幾らでもある。と言うか、術を発動させていない状態であれば、例え鬼の目を使ったとしても目に見える事はない。

 

 では、この淫紋の効果とは何か。俺の意思一つで、好きな時に発情させられる? いやいや、その程度なら態々使うまでもない。現に、神夜や明日奈は淫紋など付けてなくても、俺が求めれば幾らでも体を開く。軽く触ってやるだけで、いやそういう目を向けるだけで興奮と欲望が治まらなくなって、抱かれる為なら何でもやるくらいに仕立て上げた。

 

 主な効果は二つ。

 一つ目、相手の魂とも言えるモノを俺の中に取り込んでしまう事。つまり魂喰。この時点でヤヴァイ空気がヒシヒシと伝わってくるし、実際エイヴィヒカイトみたいに死者の魂を燃料に使うなんて事もできなくはないと思う。ただし、やったらミタマを喰う鬼と同類判定を喰らうだろう。俺としても、奪った魂を自分の中に留めておくなんて、自分から毒を飲み込むような真似はしたくない。

 ではこれに何のメリットがあったのかと言うと……遠距離セックスが出来るようになる。いや、遠距離になっても直接抱き合ってセックスできるようになる、と言うのが正しいだろうか?

 ある意味、召喚魔法。…いや、アンデッド化?

 

 

 …箇条書きにしていこう。

 ①俺は直葉の魂っぽいものを奪って取り込んだ。

 ②つまり、今の直葉の体は抜け殻である。

 ③だがそれでは困るので、俺の中の直葉の魂と抜け殻になった体を繋いで、直葉が自分の体を遠隔操作する。尚、これに距離は関係ない。

 ④つまり、直葉は霊山で普通に生活していても、意識や魂は俺の手元にある。体さえ与えれば、いつでも好きな時に具現化させてセックスできる。

 

 

 

 …これってあれだよね、生命や魂を別の依り代に保管して、体を幾ら傷つけられても平気な不死身の敵キャラ的な。マジ邪法である。

 多分、俺が死んだらそのまま道連れかなぁ…。

 

 

 そして二つ目の効果。

 魂が俺の手中にある事に加え、今の直葉の肉体も俺の手の内にある。その『芯』とも呼べる部分を鷲掴みにし、あまつさえ内部から霊力を染み込ませる事で完全に掌握してしまった。

 この『芯』には、直葉の全てが繋がっている。魂、脳、神経、血管、心臓、その他諸々。そこを手中にして、好きなように染め上げる事が出来ると言う事は?

 

 

「あ  ぁ あぁ………あ…れ…? あ、頭が、何だか、すっきりして…あ、で、でもっ、気持ちいいのにっ、さっきまでよりも気持ちいいのにっ!」

 

 

 体を肉欲に焦がしながらも、我を忘れる事のない冷静な頭で、快楽悦楽淫熱をハッキリと把握する。初心者にもこういう事をさせる事ができるのだ。

 更に。

 

 直葉、乳を噴いてみたくない?

 

 

「ち ち…?」

 

 

 母乳だよ。ま、答えは聞いてないけどな。もう『作り替えちゃった』し。

 

 

「え? え? え?」

 

 

 心配しなくても、冷静になった頭がまた狂いそうになるくらい気持ちよくなるよ。

 おっぱいの根本掴んでー。こう、キュッキュッと左右に絞ってー。ちょっとずつ圧力かけると?

 

 

「っ、なにか、何か出てる、何か滲み出てる! おっぱい熱くて、乳首おかしくなりそう!」

 

 

 はい、3,2,1. びゅ~っ

 

 

「あっあぁぁぁぁ!!!」

 

 

 ビチャビチャと。

 直葉は母乳を噴き出した。それこそ、溜まりに溜まった牛の乳でも絞ったように。周囲に白い液体が振り撒かれる。

 

 こんなのは朝飯前、序の口もいいトコロだ。

 作り替えたのは乳房だけではない。初めて雄を受け入れた膣内は、既に感度を何倍にも引き上げている。既にボルチオに触れられただけで即イキ可能な程に。

 精神が壊れないように補強し、口・鼻・喉の感度を限界まで高めて喋るだけ・呼吸するだけでも膣内を掻き回されるような性感を感じさせ、卑猥な音を余さず聞き取る耳は自分の卑猥さを正確に教えてくる。

 身じろぎ一つするだけで、空気との摩擦で全身から性感が生じる。

 

 

 そう、これは全て、たった今『烙印』の効力により作り替えられたもの。

 直葉の体は、全てがセックスに溺れる為の、オスに媚びて誘って、そして淫獄の底に落ちていく為の器官と成り果てた。

 幾ら俺でも、真っ当な手段でここまで出来る筈がない。肉体を俺に適したものに作り替えるには、相応の時間と手間が必要だ。その手間と時間がまた楽しいんだが、それは置いといて。

 

 直葉の中心から、俺は「こうなってしまえ」というイメージを乗せた霊力を染み込ませている。

 直葉の体や魂は、それが自分の内から生じたもの、異常ではないものだと錯覚して、それに従って体を変化させる。『物理的に』変化させるのだ。

 流石に限界や限度はあるが、さっきやったように母乳を作らせたり、精神状態に介入したり、神経の鋭敏さを弄ったりは朝飯前。やろうと思えば、これによって傷ついた臓器の修復とか、脂肪がつきやすい場所を変えるとか、髪の色を変えるなんて事もできる…らしい。と言うか、実際やってみて分かったけど、多分できる。

 

 

 

 

 それって、すっげぇつまんねぇ。

 

 いや、直葉とヤるのは興奮してるし、こんな無垢(だけど肉食系)な子を滅茶苦茶にする愉悦を味わわずにはいられないけども。

 

 

 だってそうだろう? 上等な素材や料理に、片っ端から過剰にソースをブチ込んで、味を塗り潰してしまうようなものだ。どんな素材を、どうやって加工したのかなんて関係なくなる。

 或いは、調教ゲームで各種ステータスを一気にマックスにするようなものか。徐々に陥落していく様が見ていて愉しいのに。尚、即落ち2コマはエロさよりもギャップとギャグを楽しむものと言うのが俺の見解です。

 

 これを使えば、相手がどんな姿でどんな性格をしていようと関係ない。

 巨乳を貧乳に変えるのもその逆も、体重100キロくらいある女の脂肪を燃やしつくしてスレンダーにするのも、真面目で恥ずかしがり屋の委員長タイプをビッチ同然にするのも、あっという間なんだ。

 相手が誰だろうと、自分の好みにあっという間に変えてしまう。

 それって、相手を単なる穴としか思ってないじゃないか。体を作り替えるのだって、改造コードを使ってるのと大差ない。

 禁じ手にされた本当の理由は、多分これだ。

 

 

 

 

 まぁ、それはそれとして有効活用はするけどね。離れていてもセックスできるようになるのは魅力的だし、ここまでやったんだから後の事も含めて責任はとらなきゃいかんでしょ。

 他の男じゃどうやっても満足できない体に変わっちゃったし、精神状態に介入して俺の事を忘れたとしても、拭いきれるとは思えない。コトが終わったら、普通の体に戻すつもりだけど、確実に後遺症は出るよな…。

 始める前に宣言した通り、一生しゃぶり尽くしてやらなければ。

 この術で何処までやれるかも知っておく必要はあるし、この際だからもうちょっとヤらせてもらおう。

 当の直葉も、「もっとぉ、もっと突いてぇ」って満喫してるからね!

 

 

 さて、まずは『烙印』を定着させる為、思いっきり濃い精液と霊力を叩き込むとしますか。

 フィニッシュは、正常位、バック、今からでも腰を自分で振らせる……いや、ここは種付けプレスだ!

 とっくに支配権を奪っている体をわざわざ組み伏せ、暴力的に身勝手に腰を振る。乱暴なその行為も、とうの昔に直葉にとっては快楽を引き出してくれる愛情表現に成り果てていた。

 むくむくと内部で先端が膨らむのを感じる。それを感じた直葉は、経験が無いなりに最果てが近い事を感じ取ったようだった。

 

 自分から足を俺の腰に絡め、甘い悲鳴をあげながら悦楽を享受する。

 その最果てが訪れれば、二度と戻れない大渦の中に突き落とされると知りながら、自らそれに飛び込もうとする。

 理性も人格も残っている筈…そういう風に弄っているのに、そうなったら自分がどうなるか分かっている筈なのに、直葉はより深く突き落とされる事を望んだ。

 

 成程、やっぱり明日奈の同類だ、この子。

 良い。

 その欲望を、飲み干してやる。

 

 人間一人の全てを、比喩でも誇張でもなく手中に収めた愉悦に浸りながら、最後の一瞬を迎える。

 直葉の神経の一本一本、いや細胞の一つ一つにまで性感を注ぎ込んで、射精と共に爆発させる。

 

 

 気絶、或いは腹下死して逃げる事もできないその感覚は、直葉にとってどう感じられただろうか。

 分かるのは、俺の中に納まった直葉の魂が、終わりのないエクスタシーに痙攣している事だけだ。

 

 

 

 びゅるびゅると注ぎ込まれる精を受ける度、直葉の体が変わっていくのが分かる。

 この女の全ては、俺の意のままになる。

 それはとてもつまらない事で、やってはいけない事で、しかし射精で落ち着こうとしている心の中に仄暗い悦びを灯す実感だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 息も絶え絶えながら、まだ意識を保っている…意識を失う事ができない直葉を見下ろしながら、俺は股間がまだいきり立っている事を確認する。元気なのは見る必要すらなかったが、思っていた以上に余力はあるようだ。

 さて、どうしたものか。

 

 このまま直葉を弄ぶ事もできる。意識を保たせたまま淫獄を連れ回すなり、今度は適度に優しい快楽で身も心もドロドロに蕩けさせてしまう事もできる。

 が、放置していた明日奈と神夜も「筒封じの術っ! よしっ、成功です!」「よっし神夜よくやったわ! 第二幕は私達が主役よ!」

 

 

 …はい?

 

 

 振り返ってみれば、さっきまでの妖艶な姿は何処へやら。二人揃ってイタズラが成功した悪ガキのような笑みを浮かべてガッツポーズしている。色気もへったくれもねえ。いや充分エロいけど。

 ていうか、二人ともちょっと怒ってない? 直葉に集中して放置してたから?

 

 

「いやいや、そっちは充分眼福だったし、二人でそこそこ遊んでたんで、あんまり怒ってはいないわね。そこについては」

 

「ええ、怒ってるのは別のところです。何も知らない女の子を滅茶苦茶にするのが好きなのは知っていましたが、一体何をやらかしましたか? 私達の時だって、ここまでえらい事にはなりませんでしたよ。そして、何度も体を重ねて色々覚えこまされたのに、直葉ちゃんの善がりっぷりはそれ以上です。私達に使ってない何か、試しましたね?」

 

 

 お、おう…。何をやったかって、ついこの前発見した新技をな…。

 

 

「むぅ…試すのはいいですけど、そういうのはまず私達に使うべきです。こう言ってはなんですけど、新しい楽しみを唐突に出てきた泥棒猫に盗まれた気分極まりないです」

 

 

 いやその泥棒猫、公認だったじゃん。

 だから早速使ったんだけど。…二人に使わなかったのは、悪かったような、理由があるような…。

 

 …これ、言ったら流石にガチで怒られるよな…。友人を邪教の儀式の生贄にしちまったようなもんだし…。今更になってアカン気がしてきた。あらゆる意味で手遅れだが。

 

 

「二番煎じになっちゃうのは気に入らないけど、私達にもちゃんと使ってよね、それ」

 

 

 その申し出は非常に興味深い。が、使って分かったんだけど、これ本気で問題だぞ。

 人間の体を、好き放題に変えてしまえるような術だ。 

 

 

「確かに、体の内側全体を絡めとるような霊力の流れは見えましたが…それはいつもの事では? あなたの房中術の基本だと思っていましたが」

 

「…具体的には、どんな風に?」

 

 

 そりゃ、この直葉を例にすると……このおっぱいを神夜以上にしたり、髪の毛を金色にしてこの子曰くの『リーファ』になり切らせたり、心を操って俺に対する感情を操作したり…。

 完全に操り人形に出来てしまうんだ。他にも色々問題はある。

 一番危険なのは…。

 

 

 

 

 と説明しようとしたところ、神夜がスススッと擦り寄って来た。ほぼ同時に逆側から明日奈も寄ってきて、耳に口を寄せる。

 

 

「稚児な私に興味はありませんか?」

 

 

 ありますねぇ。

 

 

「じゃあ私は、犬とか猫の耳や尻尾を生やしてみる? それとも、本物のおちんぽを生やして神夜を襲わせてみる?」

 

 

 その時は神夜を二本攻めにするのと、明日奈と俺とでも繋がってトコロテンを希望します。

 うん、本人がいいって言ってるんだし、問題なんて些細な事だったね!

 邪法? だから何。

 使うとつまらない? そりゃ使い方の問題だ。何もかも塗り潰してしまうと面白くなくなりそうだが、部分部分で限定して使って行けばいいのだ。

 

 まぁ、流石に本当に実行する前にちゃんと説明はして、了承を得るけど。

 

 

 

 それはそれとして………この、筒縛りだか筒封じだかの術って何ぞ? 何でいきなり俺にかけたの?

 

 

「私の家に伝わっている、房中術の奥義の一つです。そういう技を受け継いでいるのは、あなただけではないんですよ」

 

 

 それは、日頃から散々楽しませてもらってるから知ってるけども。

 …見た所、射精を封じる術…か? 

 

 

「流石です。私がその術を解除しないかぎり、精を吐き出す事はできません。さて、何故このような術を不意打ちでかけたか、と言う事ですが…率直に言えばお仕置きです」

 

「浮気って言うか、他の女の人と関係を持つのも許してるけど、何も思ってない訳じゃないんだからね。まぁ、私達を蔑ろにしてる訳じゃないし? むしろ、霊山に来てからは相手が私達だけしか居なくて、体力保たないくらいだし? 他の女と交わる時だって、私達を連れ込んで一緒に悦ばせてくれるから、その時にはもうどうでもよくなっちゃうから」

 

 

 …これは許されているんだろーか? 本人を相手にして惚気てどうする。

 それで、結局どういう?

 

 

「直葉ちゃんがあなたを好きになったと聞いて、鴨が葱を背負ってやってきたと思いました! 初めての時は直葉ちゃんに集中するでしょうから、そっちを押し出しておけば私達は自由! 抱かれて怒りが消える事もありません! そして、まぐわいが一段落した瞬間なら流石のあなたも無防備! この術をかける好機を伺っていたのです!」

 

「普段はいつも善がらされてばかりで、それはそれでいいんだけど、偶には主導権をとってみたい! でも体力無限だから『もう無理、もう出ないよぅ』とは言わせられそうにない。だったら逆に『出させてくだ~い』ってお願いさせたいんです! ちなみに最初に企んだのは神夜で、相談された私は即座に乗っかりました」

 

 

 …ナチュラルに妹分を生贄にした外道共がここに居る。

 その外道共にしても、俺が直葉にやった事は想定以上だったようだけど。

 

 

「と言う訳で…今度は私達がご奉仕…もとい、お仕置きしちゃいます。直葉ちゃんに酷い事した罰も兼ねて」

 

「最初に酷い扱いをしたのは私達? そこは合意の上だからいいのよ。お仕置き云々も、建前みたいなものだし。それじゃ…今夜は射精寸前のもどかしさを、存分に味わわせてあげる」

 

 

 爛々とした、普段とは違う淫蕩な光。嗜虐的な笑みを浮かべ、舌なめずりしてにじり寄る二人は、サキュバスのようだ。

 一晩中、俺の体を弄り倒して普段の憂さを晴らすつもりなんだろう。

 

 さて、どうしたものか。

 この筒封じの術とやら、確かに完全に不意を突かれて綺麗にかけられてしまったが、力技でも外せない事はない。

 が、こんな機会でもなければ、焦らしに焦らされるM性感などそうそう受ける事はない。大抵、俺は責めに回るし、奉仕してくる女の方が我慢できなくなって強請ってくるし。

 形はどうあれ、二人がヤる気になっているんだし、その手際を楽しませてもらうのもいいだろう。

 情けない表情と声で、射精を懇願するのも久しぶりだしね。

 

 

 何より、そこまでヤられれば、今後二人に遠慮なく『烙印』を使ってやれそうだ。お仕置きからの所有物宣言、悪くないと思う。

 

 

「ん………ぁ……わたし…ぁ……」

 

「あ、直葉ちゃん、起きましたね。…あれだけ善がり狂っていたのに、もう起きるなんて…」

 

「そういう風に弄った、って事でしょ。いいんじゃない? 体力がついたって事で。ほら、直葉ちゃん、こっちに来て」

 

「来て、って……え、えぇ!? ……あ、そっか、私、抱いてもらって………」

 

 

 直葉が目を覚ました。普通なら朝まで気絶コース、下手しなくても翌日動けなくなるような行為だったが、そこはオカルト版真言立川流。どんなに激しくても体に負担をかけないフォローや、体力を回復させる術はお手の物だ。それに耐えうるよう、体を作り替えていたのだから猶更。

 とは言え、流石に慣れない行為の直後だけあって、目を覚ました時はボーッとしていた。状況が把握できなかったようだ。

 

 しかし、それも俺の体に絡みつく明日奈と神夜を見るまで。

 

 

「直葉ちゃん、一緒にこの人に『お返し』しましょう。今なら、私の家に伝わるご奉仕とお仕置きの仕方を教えちゃいます。お口で男の人を悦ばせる方法、知りたくないですか?」

 

「神夜さん、是非お願いします! 明日奈さんも!」

 

「欲望に素直ねぇ…。単に、交わる以外の方法を覚えなきゃ、本当に死んじゃうって思ってるだけかしら。まっ、いいか。それじゃ、3人がかりで、射精できないおちんぽを舐め回して、擦り上げて、包みまくってあげますから…」

 

 

 

 覚悟してね、と歪んだ笑みを浮かべて、明日奈は笑った。

 

 

 

 



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448話

先日、間違えて投稿してしまったものになります。
その節はご迷惑をおかけしました。

きらら先輩が起こしにならなかったので、今更ながら書けば出るのジンクスに縋りたいと思います。
かなり先の話になりますが、濡れ場でこの鬱憤を晴らそうと画策中。



ちゅーか、PSVRってこんなに安くなってるのか…。
いや値段は前からこんなもんだっけ?
でも密林で買ってこの程度…テンバイヤーならもう1万2万…。
うーむ、しかし買うかなぁ。
これってソフト出てないし、妹の旦那さんが持ってるから機会があればプレイさせてもらえばいいし。
そんならPCでVR買って、AVなりスチームなり…。


堕陽月肆日目

 

 

 偶には受けに徹するのもいいなぁ。猛りを思いっきり吐き出すばかりだったが、射精寸前で敏感になったちんぽを優しく刺激され続けるのは、久しぶりの感覚だった。

 普段であればとっくにイかされている状態なのに、神夜のかけた術で出す事ができない。

 限界以上に膨れ上がったちんぽを、神夜と直葉のダブルパイズリで延々とシコシコされたり、明日奈の舌で鈴口をグリグリ抉り回されたり、ちんぽの皮を下に引っ張った状態でカリ首を爪でカリッカリッとされたり。

 他にも素股、髪コキ、脇、尻ズリ、足コキ、その他諸々…。

 

 まだ知識の浅い直葉に行為を教えようとするように、あの手この手でちんぽを弄り回された。

 彼女達の誰かが疼きを我慢できなくなればレズプレイで慰め合い、いつものように犯してくださいと言い出さないよう防止していた。

 

 空気を読んで無抵抗のまま流されていたら、ついつい俺も女みたいな喘ぎ声を出すようになり始めて、最後には…まぁ、俺ってMっ気も結構強かったんだなーと思い出すような言葉で色々と。

 最終的には、もっといい声で泣けとばかりに3人…木綿季も含めれば4人がかりで下半身を抑え込み、好き勝手に思いついたテクを片っ端から試された。おかげで俺の下半身はキスマークだらけだったりする。

 

 今夜は逆転は無し。最後の最後で思いっきり出した時には、もう朝が近かったからね。…いつもなら、体感時間操作で時間なんてどうとでもなるんだけど…受けに回って翻弄された結果、体感時間操作の術が途切れてしまっていたんだろう。俺もまだまだ未熟者だ。

 ちなみに、射精をぶっかけられた3人は、それだけで成大に達していた。直葉ちゃんなんて、またしても気絶しそうになった程だ。

 

 完全に主導権を握られ、屈服させられた形になってしまったが…別に悔しくはない。

 むしろ、調教の一環としては悪くないと思っているくらいだ。

 オシオキして俺を散々翻弄したとご満悦の3人だが、同時に自分でも気づいているだろう。体の中に、満たされない疼きが渦巻いている事に。

 犯す事、焦らして嬲る事の楽しみを知った。肉食系な3人だし、それは彼女達のプライドを大きく擽った事だろう。

 だが、やはり彼女達は食われる側。貪られる側でいたいのだ。

 犯すのではなく、犯されなければ、体の欲望は解消されない。

 

 Sの役割を経験したからこそ、自分がMだとより強く自覚する。

 現に、明日奈も神夜も平静を装ってるけど、普段よりも距離がちょっと近いし、事あるごとにチラチラと視線を寄越すからね。どこに、なんて言うまでもない。欲求不満、不完全燃焼なのが簡単に見て取れる。

 

 

 

 

 それはそれとして、初心者にやるよーな事じゃない超絶プレイを叩き込まれた直葉だが……何というか、普段の直葉ちゃんしている。

 色ボケた様子もないし、浮かれて舞い上がっているような節も無い。

 桐人君に対する態度も普段通りだ。

 服装も普段着…ではないな。あれって、リーファ姿用じゃないけどコスプレ衣装じゃないか? 道場に洗濯場なんてないから、予め用意していた服を着なきゃならないのは分かるが。

 …ちゅーか、学生服にしか見えないぞ。スカート履いてる。

 

 

 そんな姿で、若干上機嫌なくらいに朝から道場の清掃をやっている。これは単に、道場管理者としての日課だそうな。

 

 …一晩盛り上がって忘れそうになってたが、今って狙撃を警戒してる状態だったねぇ。

 

 

 

「そのようだな。私に連絡を寄越せば、すぐにどうとでもなったものを」

 

 

 …代わりに異世界の話聞かせろって五月蠅くなるのが目に見えてたし、まぁ他にも色々と思惑が。

 と言うか、何でここに居るの茅場。

 

 

「朝一番に、神機の観察に来たに決まっている。昨日は帰ってから夜まで、延々と考察を纏めていたから、事件が起こっているのに気付かなかったぞ。おかげで宿まで無駄足を踏んでしまった」

 

 

 その後、どうやってここを突き止めたんですかねぇ…。いや、こいつの立場と能力なら、あっちこっちに情報網があってもおかしくないけど。

 と言うか、よく道場に入れたな。禁軍が止めたんじゃないか?

 

 

「上からの正式な許可を取って来た。止められるようなら、それこそ彼らに問題が降りかかる。尤も、得心はしていなかったようだがね。私は研究者であって、禁軍の協力者でも何でもないだろう、と」

 

 

 雷蔵が渋い顔しそうだなぁ…。まぁ、いいけど。

 で、結局用事は神機について? 見せるのは構わんけど、目につかない場所で頼むぜ。

 

 

「無論だ。…が、その前に片付けておかねばならない事がある」

 

 

 うん?

 

 

「今後もこのような事があっては、私の研究にも支障を来す。こちらで手を回し、君達に手を出そうとする連中を牽制する。…君は確か、近日中にウタカタに向かう予定だったな。私もそちらに移るか。…いや、まずは狙撃犯の対処が先か」

 

 

 …こいつも来るのか…。大丈夫かな…いや今のところ特に被害は受けてないんだけど。

 と言うか、狙撃犯の事、何か分かるのか?

 

 

「具体的に誰が指示したのかは知らん。だが、死隠を差し向けた時点で見当はついた。奴は滅鬼隊だ」

 

 

 ……………は?

 

 

「死隠は滅鬼隊の生き残りだ。大方、当時の関係者の一人が、全員を封印するのは勿体ないとでも思って、一人を手元に置いたのだろう。物証は無いが、活動し始めたのは丁度滅鬼隊が封印された頃。使用される銃弾は、活動を始めた頃はモノノフに出回っている銃の弾ではなかった。滅鬼隊の資料を流し読みした時に、酷似した特注の弾丸の記録があったな。尤も、いつの頃からか、普通のモノノフが使用している狙撃弾を使うようになったようだが。特注の弾丸が尽きたのか、一般的な弾で充分と判断したのかは知らん」

 

 

 死隠が、滅鬼隊…?

 確かに、普通のモノノフとは一線を画する技量を持っているようだったが、滅鬼隊って…言っちゃなんだが、頭が残念なのが多かったようだぞ。それが、下調べやら準備やらを一人でやれるようになるもんか?

 

 

「経験を積んだのだろう。滅鬼隊の失敗が多かったのは、失敗や経験から学ぶ機会が無かった為だ。何度か狙撃を繰り返すうちに、かつては無かった周到さを身に付けても不思議ではない」

 

 

 ふむ…。なら、直葉ちゃんが狙われた理由は? ああ、これについては俺は誤射だと考えている。

 それなら本当は誰を狙ったのか、誰がそれを狙わせたのか。

 

 

「…誤射、か…。それが確かであれば、狙ったのはやはり目を覚ました滅鬼隊だろう。誤射をした理由は……………いや、待て…そういう事…か?」

 

 

 茅場が何か考えているが、あまり真剣ではなさそうだ。単に興味が薄いのだろう。心当たりがあるなら聞きたいが、直接聞き出した方が早いわな。

 

 

「直接、か。心当たりがあるのかね」

 

 

 いや、無い。無いけど、反則技がある。上手く発動すれば、多分明日にはカタが付くだろうよ。少なくとも、狙撃手は無力化して、指示した奴も特定できる。

 最初は気乗りしない手段だと思ってたが、相手が滅鬼隊の生き残りで、そういう境遇であるなら…うん、容赦する必要は感じない。

 率直に言って、俺が奪った方が幸せにできる自信がある。

 

 

「自信があっても、現実にそうなるかは別物だがね。そもそも幸せにするとは…いや、私がどうこう言う必要もないか。ならば、私は私で動くとしよう。ウタカタに向かう為に、済ませておかねばならない事が幾つかある」

 

 

 …今更だけど、こいつって陰陽寮だったよな。秋水とかどういう反応すっかな…。

 知ってて連れ込んで、目を付けられないだろうか。…いいか。俺が怪しいのは今更だ。陰陽寮との繋がりが一つ増えた程度で、大した変わりはない。

 

 俺がそう考え込んでいる間に、茅場はいつものように神機みっちり観察コースを勝手に始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、時間にして大体9時頃。

 護衛の手配を終えて、雷蔵がやってきた。部外者の茅場が居る事に目を細め、昨晩の護衛担当者達に目を向けたが、既に話は通っていたらしく何も言わなかった。

 

 

「不自由を続けさせてすまんが、ここに居る者達…1名除くが…に護衛をつけさせてもらう。女には女の護衛を手配しておいた。腕は確かだ」

 

「…女には、って事は…雷蔵おじさん、俺の護衛は」

 

「男だ。…お前の体質は知ってる。いい加減にどうにかしろとは思うがな…」

 

「や、そこは今正に鋭意努力中で…」

 

「…まぁいい。剣の腕だけでも、お前の数段上を行く。いい機会だから、手合わせを望むのもいいだろう。…護衛の邪魔にならない程度に、だがな」

 

 

 確かに、禁軍の中でも精鋭と呼ばれてもおかしくない程度には腕が立つ人達のようだ。

 …雷蔵って、そこそこ程度にしか出世できてなかったと思うが…かなり無理を通したんじゃないだろうか。いかつい癖に、身内に対しては過保護なタイプだったらしい。

 

 

「あ、あの~禁軍の方。我々にも護衛がつくとの事ですが、それは何時頃までになるでしょう? 別に見られて困るような事をしている訳ではありませんけど、職業柄、他者に見せてはならない情報も扱うもので」

 

「…そういう言い方をすると、むしろ勘繰りたくなるぞ、文美殿。とは言え言いたい事も分かるが……襲撃者及び首謀者が捕らえられれば、すぐにでも撤収させる。しかし、そうでない場合…」

 

 

 今まで死隠に狙われた連中は? どのくらい護衛を続けていた?

 

 

「護衛はしていない。狙われた連中は、全員即死だ。前例がない為、何とも言えん」

 

「うーん…困りましたねぇ。しかし、協力も約束しましたし、その為に娘や私に矛先が向かないとも…」

 

「お父さん、僕達は別にいい」

 

「その別にいいって、護衛がいらないって言ってるんじゃないでやんすよね? あっしも、護衛されるのは問題ないでやんす。……雷蔵の旦那、これを機に禁軍についての取材を…」

 

「取材がしたいなら、正式に書類を回せ」

 

 

 

 ん~~……まぁ、そう深く考えなくてもいいと思うぞ。

 色々働きづくめだろうし、娘達と話す時間も必要だろう。禁軍から出歩かないように命じられたとでも言って、休暇を取ればいいんじゃないか?

 

 

「いやそういう訳にも…せめて、仕事が出来ないにしてもいつまでと目途が立たないと。これでも社長ですんで、従業員の生活背負ってるんですよ。社員への指示出しも必要だし、やりかけの作業もあるし、ああ、そうだ昨日は飛び出してきた後の事は何も伝えていなかった!」

 

「そっちは俺が連絡を向かわせたから、心配するな。報せに行った奴から聞いたが、お前さんの作業は従業員が引き継いでいたそうだぞ」

 

「社長がお縄になってしまうと思われてしまう!」

 

「いや、それはないでやんしょ…。お父さん、そういう事ができる人じゃないのは従業員皆分かってますから」

 

「…よく言えば…信頼されてる…。悪く言えば…小心者と思われてる…」

 

 

 娘にまでこう言われるか。いや、会社のトップとしてはいい信頼をされてると思うけど。従業員も何も言わずにフォローに入っているようだし、社長の心労とか板挟みな立場とか、色々分かってるんだろうなぁ。

 そこまで慕う上司が居るって、羨ましいこっちゃで。

 

 ま、そう心配する事もないと思うぞ。

 多分だけど、数日中に解決する。

 

 

「随分と強気じゃねぇか。相手は数年間、一度も失敗せず、足跡すら殆ど残さなかった死隠だぞ。何か決定的な情報でも見つけたか」

 

 

 いーや、ただの勘。…強いて言うなら、一度も失敗した事が無い奴は、失敗した時の立ち直りのやり方を知らないんじゃないか、って事かね。

 案外、『自信喪失しました。狙撃手引退して自首すます』なんて言いながら、出頭してくるかもしれないぞ。

 

 

「はっ、つまらねぇ冗談だ。もしそうなったとしても、事件解決とはいかんがな。本当に死隠なのか、何故狙撃したのかの取り調べもあるし、背後関係を探らなきゃならん。もしそれに全面協力したとしても、お偉いさんが何人も死んでるんだ。獄中生活か、或いは死罪は免れんだろう」

 

 

 …そうか。そりゃそうだな。誰かがやらせたにしても、責は死隠にも及ぶ…か。

 その辺、酌量の余地があるかは…本人から聞き出してみるかね。

 

 

「はぁ……冗談はともかくとして、一度会社に戻っていいですかね? 引き籠るにしても、引継ぎは必要ですので」

 

「おう、それくらいなら構わん。ついでに禁軍に全面協力するよう、しっかりと通達してくれ」

 

「はいはい。…はぁ、娘可愛さの余りとはいえ、とんでもない約束しちゃったなぁ…」

 

 

 それで娘二人と話し合う切っ掛けができたんだし、悪い取引じゃなかったと思いなよ。

 それに、上手くいけば霊山の謎の凄腕暗殺者の逮捕劇を間近で見られる訳だしさ。

 

 

「む、確かに…。しかし、その場合恐らく霊山から何らかの規制をかけられる…いやしかし…………と言うか、全然気にしてなかったのですが、あなた達は一体どちら様で? どうにも普通のモノノフと違うように見受けられるのですが」

 

 

 あー…まぁ、いいか。

 あっちのあの子が、シノノメの里の代表です。で、俺達はその護衛……こらこら白浜君、桐人君と遊ぶのはまたにしなさい。負け越したのが悔しいのは分かるけど。

 

 

「シノノメの…? あの、異界が消えた先にあるという、滅んだ筈の……んっ、失礼。生き延びていた事を、まずは嬉しく思います」

 

 

 一瞬目付きが変わったな。ま、実際特ダネだろうし、記者のサガかな。手に入ったとして、書けるかどうかは…このオッサンの場合、霊山の対応次第だろうけど。

 娘さん達、どうやったのか俺達の事を嗅ぎつけて取材に来たんだと。他にも色々と思惑はあるようだったが、大した行動力じゃないの。いい記者になるんじゃね?

 

 

「……ええ、聞いています。正直驚きました。私に反発して、色々やっているのは知っていましたが、まさか…。その先でこんな大事になるのだったら、許すべきではなかった…」

 

 

 それは結果論だし、抑えつけてたらまた反発されてたんじゃね。とかく人間関係の問題は厄介だよなぁ…。俺の身内間では、割と単純化させてるからいいものの…。

 …そう言うと、また頭を抱えてブツブツ言い始めてしまった。色々引き摺ると言うか、葛藤する人だな。 

 

  

 さて、積もる話も色々あるだろうけど、護衛も来たし、一旦解散って事でいいかね?

 俺達も、連れが心配してるだろうから、早い所戻りたい。

 

 …承諾を得たので、そのまま解散……となったが、一つ用事を思い出した。

 雷蔵、ちょっと待ってくれ。

 

 あんた、霊山に戻る前はマホロバの里に居なかったか? 確かあそこ、三羽烏の一人が里長やってたろ。

 

 

「ああ、西歌と時継と、久しぶりに3人揃ったぜ。それがどうした?」

 

 

 あの里の外れに、博士って呼ばれてる尊大な態度の変人が居ると思うんだが、そいつはどうしてる?

 手紙を送ったんだが、届いてるか分からないかな。

 

 

「博士、博士……ああ、話に聞いてはいるな。実際に会った事はないから、何をしているのかなんぞ知らん。手紙は…もっと知らんが、何度か霊山からの配達人が来ていたな。約定の時間に来てなかったとか、霊山との路で誰か襲われたとかいう話は聞いてないから、届いてはいるんじゃないか」

 

 

 そうか…。と言う事は、興味を持たずに捨てたか、後で目を通そうと思って放り出して、そのまま研究詰めでぶっ倒れて忘れたか、だな。

 

 

「…よく分からんが、そいつ大丈夫なのか?」

 

 

 刺しても死なない程度には頑丈だし、一応医者の真似事もやってるらしいから、誰か発見するだろ。

 うーむ…もう一通送るべきか? 普通に送るんじゃなくて、嫌でも目を惹くように何か仕掛けておくべきだったな。時限式で発火でもさせれば、流石に嫌でも注意を惹けるか…。

 

 

「おい禁軍の前で何を放火の計画してやがる。そもそも仮にそれを実行したとして、中に入っている文も燃えるし作動した瞬間に居合わせるかも分からんし、何の意味もないだろうが」

 

 

 それもそうだな。この世界じゃ、そこまで凝った装置も作れない。指紋認証とかも無理だ。

 無難にもう一丁送る、くらいにしておくか…。

 

 いや、それなりの立場を持つ人から渡されれば、流石に読むか。

 なぁ雷蔵、マホロバの里のお頭に頼んでくれないか? 送られてきた文を、博士に読ませるようにって。

 

 

「何だってそんな事をせにゃならん。俺の管轄外だし、そもそも見られてもいいのか? …あいつの事だから、『どれどれ』とか言いながら何の遠慮も意図もなく開封するぞ」

 

 

 …………そんなのが里長…。いや確かにやりかねない、抜けてると言うか変なところで常識外れな節はあったけども。

 ま、仕方ないか…。読んでないならそれまでの話だ。博士が自分に宛てた手紙に何が書いてあるのかも分からんし。

 

 

 

 

 さて、そういう訳で、解散と相成った。

 直葉ちゃんと桐人君は、一度家に帰るらしい。他に誰も居ない家だが、家事をしなくてはいけない。

 文美さんと美麻、美柚は家で膝突き合わせて話し合いの続き。まだ家族中が修復された訳ではないようだ。

 雷蔵は禁軍を率いて、狙撃犯達の調査に向かった。

 

 

 

 

 そうそう、これを書き忘れる訳にはいかない。

 直葉ちゃんと桐人君との別れ際、手を振って歩き始めた後。桐人君や護衛の一歩後ろを歩いていた直葉ちゃんが、不意に振り返った。

 俺以外の面々は、帰り支度を始める為に別の方向に顔を向けている。それを確認した直葉ちゃんは…いや、もし誰かに見られていても平然と同じ事を行ったと思うが…薄く笑って口元に人差し指を付け、『静かに』の仕草をすると共に。

 

 

 

 ゆっくりとスカートを持ち上げた。

 たった一晩でムチムチ具合を増したフトモモ。

 その付け根を覆うのは、昨晩とは色違い…紫色のセクシーランジェリー。布面積が極端に小さく…陰毛が僅かにはみ出るくらい…下品とさえ言える、秘部に食い込んでいるその下着は、既に湿り気で変色を始めていた。

 

 更にスカートを上げていくと、その下着のすぐ上には日光の下でも妖しく輝くハート型の淫紋が自己主張する。

 普段は目に見えない淫紋が、こうして輝く状況は二つ。主である俺が、何らかの力を送ってその効果を発動させるか。

 

 或いは、直葉自身が淫紋を発動させる程に発情しているかだ。

 

 

 

『いつでも呼び出して、好きに使ってください、ご主人様』

 

 

 声に出さずに口を動かすその表情は、さっきまでの普段の直葉ちゃんの顔は何処へやら。恋する乙女(淫らな生贄)の表情で、狂おしく(チンポ)を求める()がそこに居た。

 それに対する俺の言葉。

 淫紋を通して、脳裏に直接声とイメージを送る。

 

 

 

 今度は『リーファ』の姿で犯してやるよ。

 

 

 

 ゾクゾクと、無言で背筋を振るわせて、股間の染みを大きくする直葉。

 が、その表情は捲り上げていたスカートの手を離すと同時に、あっさりと霧散する。

 

 

「どうしたんだ? 兄貴に何か用でもあるのか?」

 

「ううん、改めてお礼を言ってただけだよ、お兄ちゃん。じゃ、帰ろっか。護衛さん達の分も、ご飯作らないと」

 

「いや私は別に……素直にありがたいが」

 

「ご馳走になります」

 

 

 

 ……ありゃオカルト版真言立川流の効果もあるが、本人の素質だな。掘り出し物だわ…。

 思わずフル勃起してしまったナニを、誰にも気付かせないよう血流を操作して鎮めた。それでも明日奈と神夜が視線を向けてきたのは、興奮の残り香を嗅ぎつけたからだろうか…。

 

 




間違えて投稿した時にも書いていましたが、最後の直葉が淫紋を見せるシーンにはモデルがあります。
ピクシブのイラストで、それを元にしたSSも投稿されています。
めっさエロいのでお勧めですが、悪堕ち・洗脳モノなので注意。

桐ヶ谷直葉・悪堕ちで出てくると思います。


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449話

前話の続きからです。
最近1日に詰め込む量が多くて、キリのいいところで区切りにくい…。
それだけ濃い一日が流れているって事にしていますが、読みにくさが心配です。


それはそれとして、進撃の巨人2ファイナルバトルまであと1か月。
久々にプレイして、ついでだからトロコンしようと頑張ってます。
あとは図鑑がなぁ…。
インフェルノモード必須っぽいな。

とりあえず+99武器作ったし、リヴァイのスキル自由の翼がアホみたいに強いし、まぁ何とかなるやろ。
しかし、ストーリーモードの追加はキャラエピソードのみかぁ。
あのラストからオリ主が無事戻ってきて…とはいかないだろうから、故人扱い…いや、下手すると居なかった人扱いかなぁ。

うーん、進撃はこのSS完結後に外伝扱いで出すつもりだったんだけど…先行して…いやでもネタバレが…。


 

 そして、俺達は宿に戻り、土井達と合流。

 護衛の為とは言え、霊山直属の禁軍を迎え入れる事に顔を顰めたが、ごねるような事は無かった。代表者である白浜君が受け入れているし、狙撃手から身を守ろうと思うと、現状の手札では厳しいのが現実。

 目的を達成するのが最優先、使える物は敵のものでも使うのが彼等忍者のやり方だ。

 

 とは言え、全てを真正直に明かす訳ではない。奥の部屋で眠っている『浅黄』については、適当な言い訳をでっちあげて誤魔化した。

 里から連れて来た仲間だが、鬼に呪いをかけられたのか昏睡状態になってしまった…という事にしている。

 無条件に信じられている訳ではないが、この人数を相手に単身で事を荒立てるのは得策ではないと思ったのか、とりあえず藪を突く事は止めたようだった。…この分だと、近い内に雷蔵に連絡を取って、探りを入れてきそうだが…まぁ、構わない。この際、2、3日保てばいい。

 

 雪風が若いお姉さん姿の山本先生に、お泊り会であったアレコレを得意げにまくしたてている。ほんとお婆ちゃん大好きねこの子。俺とどっちが好き?って聞いたら、どう答えるかはともかからかい甲斐のあるリアクションが期待できそうだ。

 まぁ、各方面からお仕置きされそうだからやらないけど。

 

 それはそれとして、今後の事だ。発泡スチロール斎が各所の伝手を辿って手紙を送りまくり、土井さんは土井さんで何やら腹黒い遣り取りを九葉のオッサンと行っている模様。

 ちょっと見ない間に、何やら随分話が進んでない?

 

 

「それだけ強烈な出来事があったじゃない。あなた達が直接狙われた訳ではないとは言え、霊山の中で狙撃よ狙撃。よく無事だったわね」

 

 

 ま、そこは慣れというか経験と言うかね。昔、コツを教えてくれた奴がいてさ。

 銃と爆弾と破落戸が蔓延る街で、日本刀一本で敵を全員ぶっ飛ばす爽快なサムライウェスタンだったなぁ…。

 

 

「うぇすたんって何よ…。ま、いいわ。切っ掛けはともかく九葉殿も亜にやら仕掛けているみたいよ。どうも、こういう事になるのを前もって予測していた節があるわね」

 

 

 狙撃されるのを? …いや、直葉ちゃんが狙われたのは手違いだろうから…俺達、ないし滅鬼隊の生き残りが狙われるのが、か。

 全く何処まで見通してるのやら…。いや、そこまで見通してる訳じゃないな。あいつは、『そうなっても動じないように』想定して動いでいるだけだ。

 本当に見通してるなら、こんな事が起こる前に始末をつけているだろう。

 

 まぁ、そっちは土井さんに任せるよ。九葉のオッサンからは、まぁそこそこ信頼を得たと思ってる。利用価値とも言うけどな。

 妙な事になるかもしれんが、最悪の事にはなるまいて。

 

 

 

 

 

 

 さて、それはそれとして…相手が何者かは知らんが、銃撃、暗殺という直接的な手段に出た。

 率直に言うが、暗殺ってのは基本的に防げないと思った方がいい。何せ相手は入念に下準備して、こっちの不意を突く形で、いつ来るかも分からない襲撃をかけてくるんだからな。

 

 

「仮にも忍びの私達に、それを言うのもね…。策謀と闇夜の刃の恐ろしさは身に染みてるわよ。それで?」

 

 

 うむ…こっちから仕掛けるつもりではあるんだが、どっちにしろこの『浅黄』を眠ったままには出来ん。

 今回の襲撃の首謀者が誰なのかはともかく、そいつを撃退したところで次の奴が確実に出てくるだろう。滅鬼隊の元関係者、情報を知って欲を掻いた奴、妙な正義感に駆られた厨二もとい思春期真っ盛りの馬鹿者兼若者。

 このまま座して待つのは、敵の軍勢が整うのを待つに等しい。

 土井さんと九葉のオッサンがどういう手を討とうとしているにせよ、少なくとも彼女達を目覚めさせる必要がある。

 

 

「…眠ったままの1人の警護か、何をやらかすか分からないけど戦う事ができる数十人の警護。前者の方がいいと思うけどね?」

 

 

 ここに留まるなら、その選択肢も有だった。が、何度も言うが俺はいつまでもここに居られない。

 少なくともウタカタの里に向かう。そうなれば、あの『浅黄』はどうする? マホロバの里に連れて行けば、里が政争の場に巻き込まれるぞ。

 その点、ウタカタの里なら、霊山もそうそう手は出せない。あそこは最前線の激戦区だからな。

 

 だから、滅鬼隊はこっちで引き受ける。勿論、本人達が『嫌だ、他の道を行く』って言ったら了承するけども。

 

 

 

「……だから、さっさとあの子や他のめんこい子達を叩き起こすと? 具体的に言うと、寝てるあの子達を襲って?」

 

 

 …はい、その通りです。

 

 いや決して欲望に負けてあの女とヤりたいなーと思ってる訳じゃありません、本当に。そっち方面が節操無しで脳みそがちんちんについてるのは否定のしようもありませんが、真面目な話彼女達を起こす合言葉の手掛かりが全くない。

 このままにして、進展すると思う事自体が楽観だと言えるくらいだ。

 そして、このまま問題を先送りにする事は、彼女達が抵抗する事すら許されずに暗殺される可能性、並びにこのまま眠り続けて衰弱死する危険に直結する。

 

 真面目にさっさと話を進めるべきだと思うのです。野郎に関しては……もう最悪、誰かに手伝ってもらってぶっかけするのも覚悟の上です。

 

 

「本気なのは伝わったわ…。確かに、これ以上の進展もなさそうだし、超界石について文を送ったお頭が何かやらかす前に、一段落させたいわね」

 

 

 了承を得られたようで何よりだ。つきましては、禁軍の護衛を何処か引き離してもらえんかね。

 寝ている女を真昼間から襲う事になるんだし、流石にお縄不可避。事情が事情で酌量の余地はある…と思いたいんだけど、そもそもその事情がアレすぎて信じてもらえる気が全くしない。

 と言うか、もしこれを証拠も無しに信じるような事があれば、禁軍の未来はお先真っ暗である。

 

 

「…ま、仕方ないわね。ちゃんとあの子達には伝えなさいよ。…雪風も遠ざけてあげる」

 

 

 伝子さんは頼りになるなぁ…。

 神夜と明日奈に伝えたところ、意外な事にあまり興味無さそうだった。普段であれば、こっそり混ざるくらいの事は企むのに。

 

 

「いや私達もそこまで節操無しって訳じゃ…」

 

「…自分達でやらかしておいてなんですが、直葉ちゃんを引っ張り込んだ身で言っても説得力はないと思います。ですけど、今回のこれは…何と言いますか、その、お互いの愛情を示す為ではなく、ただ目を覚まさせる為にする事なのですよね?」

 

 

 …まぁ、そうなる…な。

 掛け値なしに美人な相手だと思うし、涎が垂れそうな体型してるけど、眠り続けてるからどんな性格なのかも分からない。声だって知らない。

 起きれば放っておいても自分に好意を抱き、即落ちするだろう。それが人為的に仕向けられた感情だとも知らず。

 

 …何と言うか……俺もあんまり乗り気じゃないなー。

 『浅黄』を貶めるつもりはないんだけど、現状じゃ俺にとって、患者かオナホくらいの位置にしかならない。

 実際、関係らしい関係なんて全く無いんだから。水商売の女性が相手だったとしても、相手の反応を楽しんだり、気持ちよく仕事をしてくれるよう相手に合わせるくらいの配慮はする。

 でも、『浅黄』が相手だと、それすら必要なくなるんだ。

 

 相手の事も知らない、意識もない、反応も期待できないんじゃ、どうしても性欲処理用の穴くらいにしか思えない。

 まぁ、それでも必要だからヤるんだけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤッたんだけども。

 

 

 

 …まぁ、何だ。

 思ってたよりは…楽しめた、のかな?

 

 神夜の言う通り、目覚めの手段として抱く事を意識してたし、相手に対して特に思い入れも無かったから、正直言って味気なかった。

 が、それ以上に…良くも悪くも強い感情を持ったのは、『浅黄』……浅黄の反応だ。

 

 

 

 うん、目覚めはしたし、設定されいた通りに、俺に対して好意を持ったようだよ。

 

 

 

 

 諦観と隣り合わせのな。

 

 

 

 …理由なんか聞かなくても分かる。この浅黄は、過去にも目を覚まして活動していた事のある『浅黄』なんだ。

 自分達に何が刷り込まれているのか、文字通り身を以て知っている。活動している間に、自分達がどういう目を向けられているのか、自然と理解したんだろう。

 …元々、頭のいい女ではないと思うがね。

 

 

『…そう、やっぱり私達は封じられたのね』(←ちんこで喘ぎながらの呟きでした)

 

 

 という言葉からも、それは伺える。正直な話、人の上に立つべき人材じゃないと思う。指揮官役にしてもミスマッチもいいとこだ。

 この浅黄は、自分達がどういう扱いを受けているのか知っていた。そしてトカゲの尻尾切りとして封印されそうなのも察していた。

 だが、刷り込まれた主に対する好意がそれを否定する。

 もしかしたら、ひょっとしたら…そんな藁よりか細い希望に縋って、そして隊も目を覚ましていなかった人員も、諸共封印された。

 

 そして、自分を目覚めさせた人間が…俺が自分に何をしたかも知っていて、それに抱いた感情が何なのかも理解していて、それに抗えない。

 もしももう一度、騙し討ちを受けて隊を封印されるような事があっても、それでも刷り込まれた好意を否定できない。

 

 

 …これも、経験や失敗の積み重ねが無かった為か。薄っぺらいんだな。感情を押し込めたり、刷り込まれた意識を否定できるだけの気迫が無い。

 雪風よりは経験を積んでるようだが、我慢が効かない子供のようだ。

 或いは、何を思っていても、親から言いつけられた事なら従ってしまう子供。

 

 …もうちっと酸いも甘いも噛分けてれば、刷り込まれた好意に従うように見せながら、人道を外れた主の首を掻き斬るくらいの傑物にはなれたかもしれんな。

 総評すると……ダメ男に嵌るタイプ? 或いは、可哀そうな自分に酔っているか。……性質的には近いと思うが、境遇を考えるとそんなレベルじゃないな。

 

 

 

 

 とりあえず、あの女は俺に好意を持った。『以前』の相手の事を覚えていて、今回の相手である俺がどういう手段で好意を持たせて、それが予定された感情である事を理解して。

 おそらくそれに流されるだろう。

 ………いっその事、徹底的に刻み付けてやるべきだったか? 主は俺で、他の誰にも触れさせないのだ、とでも。

 目を覚まさせる為、義務的な感覚でヤッてしまったのは失敗だった。…負い目が出来たな。

 

 

 

 

 とにもかくにも、『浅黄』は目を覚まして活動を始めた訳だ。正直俺としても少々距離を測りかねているが、そんな事を言ってられる状況ではない。

 経緯はどうあれ、滅鬼隊の指揮官が目を覚ましたのだ。そしてその指揮官が従っている俺は、頭領とも言える立場になるんだろう。

 彼女達を…少数だが彼らも…食わせて、安全な場所を作り上げなければならない。…もしも俺から離れたがるのなら、まぁそれはそれで。

 

 目を覚まして軽く後始末し、身だしなみを整えた後、浅黄は俺に向かって問いかけた。

 

 

「それで、あなたは私をどうするつもり?」

 

 

 どう…と言うかな、そもそもお前は状況を何処まで把握している? 封印される前の記憶は?

 

 

「…上司に騙されて、隊ごと封印された事なら分かってるわ。自分の馬鹿さ加減もね…。いい様に酷使されて、最後には…多分異界に沈められたんでしょう。…他の皆まで巻き込んでしまったわ」

 

 

 どうしようもない、とでも言いたそうな浅黄の顔には、自己嫌悪と諦観が滲んでいる。

 …あんたは、滅鬼隊の指揮官なんだよな。

 お前が命じれば、他の皆は従うのか?

 

 

「さぁ、どうかしらね。何せ私は、仕組まれた私情に感けて隊を壊滅させた指揮官だもの。愛想を尽かされても不思議はないわ。…ただ、皆には『浅黄』に従うよう調整が施されているらしいけど」

 

 

 やっぱりあったか、そういう調整…。雪風がお前に興味を持ってたのも、その為かな。

 

 

「雪風…あの子…と言っても、私が知っている子とは限らないか。恐らくはそうでしょうね。『雪風』とは何度か会ったけど、私的な付き合いは全く無かった。ただ、刷り込まれた本能に引っ掛かっただけよ」

 

 

 …そうか。まぁ、過去の事はどうでもいい。

 雪風自身、過去を持っていないしな。

 ともあれ、色々と蟠りはあるだろうが、俺から言う事は…協力してほしい。

 今、滅鬼隊絡みで色々と狙われているようだ。誰が相手なのかもよく分からないが、このままだと封印された滅鬼隊ごと始末しようとする連中が出てくるだろう。

 そいつはちっと気に入らん。

 滅鬼隊を全員叩き起こして、避難する。手を貸せ。

 

 

 

 言われた浅黄は、眉を寄せていた。目力が強くなり、俺が何を考えているのか見透かそうとしているようだ。

 

 

「…何故、あなたはそんな事を? 私達に何を求めるの」

 

 

 お前ら自身は別に求めてない。

 ただ、とある人との取引で、滅鬼隊の中に居る筈の人間を一人探している。対価はシノノメの里への援助。…と言っても、シノノメの里自体知らないか。

 

 

「いえ、何度か任務で出向いた事があるわ。何年前なのか知らないけども。…私達自身に求める物はない、と言うの?」

 

 

 無い。戦力として扱えばそれなりに成果を上げそうではあるが、それ以上にランニングコストがな…。

 以前の滅鬼隊がどういう扱いを受けてたのか知らないが、良くも悪くもそれに関わる技術は失われている。滅鬼隊の『手入れ』の方法がまるで分からんのだ。

 そんな奴らを無理に戦わせても、捨て石にしかならん。

 

 

「……………そう」

 

 

 少し長い沈黙と、自嘲の表情。侮蔑されたと思われただろうか。

 それとも唯一の拠り所とも言えば腕っぷしを一蹴され、何もかも諦めてしまうのか。

 

 …滅鬼隊の境遇に、思う所がない訳じゃない。協力してくれるなら、霊山から離れる手助けくらいは出来る。その後、俺から離れたいというのなら止めはしない。

 もう一度言う。

 手を貸せ。

 

 

 浅黄は黙って俺を睨みつける。嘘か真か、そしてその後の算段を立てようとしているのだろう。

 だが、その表情は徐々に崩れていく。

 嫌悪、好意、屈辱、好意、怒り、好意………。

 

 …そうか、そういう事か。思っていた以上に根が深いな…。

 頭の中で、色々算盤を弾いていたのだろう。それが出来るというだけでも、滅鬼隊指揮官としてある程度の経験を積んできた事が分かる。

 だが、それら全ては『相手に好意を抱いている』という一言だけで押し流される。

 どれだけ頭で否と叫んでいても、仕組まれた感情だと理解していても、主の言葉に逆らう気力が萎えていく。

 

 …つくづく、滅鬼隊の扱いが悪いというか下手と言うか…。

 多分これ、現役で活動していた頃も同じだったんだろう。どれだけ頭で算段を立てても、前の主が下手な策を考え出して、それに逆らえずに滅茶苦茶になってしまう。

 過去の経験無し、反省できるだけの余地も無し、上司はクソじゃ、どんだけスペック高くても失敗するのが当たり前だ。しかもクソな上司は、失敗したのが自分のせいだなんて考えもしていなかったんだろう。…最悪、失敗させて笑っていた可能性すらある。

 

 

 

「…いいわ。今更指揮官面できるとは思ってないけど、それでもけじめはつけないと」

 

 

 封印された滅鬼隊の皆を開放する、と言うのがそっちの基本方針でいいかな?

 …ついでに言っておくと、その過程で過去の滅鬼隊研究の関係者は粛清の嵐が吹きあられると思うが。

 

 

「そっちは全力で、無条件に手を貸すわ。幸い刷り込みの相手が変わったから、思いっきり殴りつけられる…! 特に奴と奴と奴と奴だけは…いややっぱりあ奴も…」

 

 

 おお、結構いい殺気だすな、この女。何だかんだでいい様に扱われていた怨嗟を貯めこんでいたようだ。

 主が俺に変わったのをいい事に、過去の主を全力でシバき倒すつもりと見た。いいぞ徹底的にやれ。何人くらい残ってるのか知らんけど、まぁ九葉のおっさんが炙り出してくれるだろう。

 

 じゃあ、話が纏まったんで、状況を話すぞ。かなりややこしいから、質問は後でするように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …と、このような塩梅で、浅黄は味方についた。

 本名を聞いてみたが、このまま浅黄と呼んでほしいとの事だった。過去の名前を知られたくないのか、それともそれすら無くしてしまったか。

 

 ともあれ、滅鬼隊の印象として脳筋なイメージがあったけど、少なくともこの浅黄はそうではなかったようだ。

 初めて会った伝子さんにも動じず、昔からの知人であったかのように振る舞う。おかげで禁軍の護衛役にも、妙な疑いを持たれずに済んだ。

 

 浅黄が持っている記憶と言うか、かつての滅鬼隊関係者の情報は……出るわ出るわ、バッポー斎がデカい頭を抱えて座り込むくらいの代物だったようだ。あの頭で頭痛…痛みが激しそうですね。

 バッポー斎の知人にも、グレーゾーン以上の人間が何人か居たっぽい。…これ、殺っていいのかな…。最低でも失脚は確実だろうけど。

 

 

 

 

 さて、話は変わると言うか戻って、狙撃についての話である。

 狙撃手は滅鬼隊である、と言うのが茅場の考えだったが……心当たりは?

 

 

「狙撃手なら、滅鬼隊に居たわよ。でも、その距離で当てられるのは……いや外れたみたいだけど……多分、あやめじゃないかしら」

 

 

 あやめ? どんな奴だ。

 

 

「『風読み』と言う能力を持った隊員よ。読んで字のごとく、周囲の風の流れを察知して、それに合わせて発射する事で狙撃の精度を高めているわ。…記憶にある限りだと、これと定めた相手に付き従って、その為ならどんな事でもする子だったわ。…ただ、滅鬼隊が封印される直前、任務で失敗して……だから、多分新しい『あやめ』が作られたんじゃないかしら。確か……新しい『あやめ』を作り出すのに、素体が足りないとか言っていたのを聞いたような…」

 

 

 風読み…か。使いようによっちゃ色々できそうだな。弾道だけじゃなくて、気配察知にも便利だろう。

 いや、それより厄介なのは、主に付き従うって方か。そいつがどんな状況なのか、それをどう考えているのか次第だが…さて、上手くいってくれるといいんだが。 

 

 

 

 

 



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450話

チェックミスでアホそのものの感想書いてしまった…。
酔った勢いで感想かくもんじゃないなぁ…。
それ以前に、こういう流し読み&早とちりが仕事のミスに反映されてんだよなぁ…。


 

 

堕陽月伍日目

 

 

 さ・て・と。

 

 

 えー、現在、丁度日付が変わった頃でございます。一仕事終わりました。

 

 

 

 

 

 …何を言ってるのか全く分からんと思うが、要するに狙撃事件は解決です。明日には実行犯…つまり死隠が、諸々の証拠付で自首してくる事でしょう。

 ふぅ、面倒事が解決した後の酒は美味いぜ…。そして女を抱きたくなる。いつもの事だが。

 

 と言うか、神夜も明日奈も「今日のオタノシミは、ちょっと遅くなる」って言っておいたし、今か今かと待ってるだろう。

 更に言うなら、『烙印』を付けた直葉も、自慰しながら呼び出されるのを待っている。…これは妄想ではない。『烙印』を通して直葉の状態が伝わってくる。今、彼女は初体験の時の事を思い出して成大にオナッています。

 期待に応えてやらねばにゃー。

 

 

 

 …それはそれとして、何がどうなったのかと言う話だ。

 昨晩、浅黄が目を覚まして協力を確約した後、俺は寝室に引き籠った。とある術を行う為だ。

 

 

 

 オカルト版真言立川流・禁術その弐。

 未完成奥義『第六天』。

 

 

 

 今更ながら、こんな事できる訳ねーだろ、な術を本当に使ってみようとした訳だ。どう考えても寝取り専用な奥義を。

 断じていうが、俺に寝取り趣味は無い。何も感じない訳じゃないが、想い合っている男女に割り込んで人間関係をぶち壊すような真似は後味が悪い。それを他人事のように眺めて嘲笑える程、俺は振り切っていない。

 

 が、何事にも例外というのはあるものだ。ぶち壊しても心が痛まない、女を寝取られて悔しがり嘆く男を見て「ザマァ」とでも笑ってやれるシチュエーションがある。

 つまりは………クズ男と、それに貢ぐ女である。

 ま、本当にこれに当て嵌まるかどうかは、試してみないと分からなかったんだけどね。

 

 

 それにしても、第六天…妙な感覚だったなぁ。自分だけど自分じゃないというか、他人だけど自分と言うか、複数の視点で同時に物事を見つめているような…。

 説明するには、この『第六天』がどういった術なのかから説明した方がいいだろう。

 

 

 

 第六天。

 

 日本人なら、一度は聞いた事があるだろう。具体的な事は知らなくても、某くぎゅヴォイスな超有名戦国大名がその名で呼ばれているのはあまりにも有名だ。

 では、その第六天とは一体どのようなものなのか。

 この天には、魔王の住処があるとされる。魔王には複数の名があり、天魔、波旬、天子魔、第六天魔王など。

 

 そして魔王が座す場所こそが『他化自在天』。

 ここから術の由来が来ていると思われる。

 

 細かい事は省くが、仏教のとある資料には『此の天は他の所化を奪いて自ら娯楽す、故に他化自在と言う。』とある。

 つまり、この天に産まれた者は、他の欲望を自在に受けて楽しむことができる。

 また、他の所化(教えや導き)を自分のものとして快楽を成すと言われる。

 

 

 

 これを当てはめると。

 

 

 

 

 

 

 他人に成り代わって誰かを抱くも、見ず知らずの人間が愛し合う感覚を自分の事のように感じるも、それらの記憶を奪い取るも、自由自在なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 術が発動して、最初に感じたのは他人と交じり合うような違和感だった。

 

 

 

 

---------------------------------------------------------

 

 

 ふと、誰かに見られているような気がして、足を止めた。

 さりげなく周囲を見回すが、誰も居ない廊下しか目に入らない。尤も、誰かに見咎められたとしても慌てる必要はない。この場所への…霊山の重要人物の住居が集まっている区域だが、ここへの入場許可は正規の手続きを経て持っている。…今すぐ捨ててしまいたいけども。

 

 暗殺に失敗してから、私は禁軍を完全に撒いたと確信できるまで潜伏した。少なくとも、誰かに尾行されている事はない筈だ。

 自分で言うのも何だが、目立つ外見でもない。黒目黒髪、眼鏡をかけた、モノノフでもないただの女。場所が場所なので、少し上等の服を着ているが、ただそれだけだ。…暗殺者が目立ってもいい事はないので、意識的にそういう外見を作っている。

 

 

 小さく溜息を吐いて、もう一度歩き出した。いっそ、本当に誰かが見咎めてくれればいいのに。

 この先に居る者を思い返すと、一層気分が憂鬱になった。

 

 それと同時に胸が高鳴るのが、どうしようもなく忌々しい。

 自分の思考が塗り潰されて、都合よく変えられていく感覚。

 

 頭を振って、あの男の事を頭から追い出した。少しだけだが、体も落ち着いてくれたように感じる。

 

 

 

----- お前の名は? -----

 

 

「…大丈夫。私は私だ。私になったんだ」

 

 

 

 私はもう、『あやめ』じゃない。例え頭を塗り潰されている無駄な抵抗だとしても、私は私の名前を捨てない。

 私は詩乃。誰にも呼ばれない名前、自分で自分につけた名前だけど、それが私の拠り所。

 滅鬼隊の生き残りで、かつては『あやめ』と名付けられ、今では屑みたいな男にいいように扱われている。霊山では『死隠』と呼ばれる暗殺者。……そんな女だ。

 いつの頃からか、『あやめ』でいる事に嫌悪を感じ初め、私は私で自分の名をつけた。それが、私に出来るたった一つの証明だった。

 

 

 この道を歩くと、いつもあの時の事を思い出す。私が、今から会いに行かなければならない男に連れられ、霊山にやってきた時の事だ。

 当時の私は、目を覚ましたばかりで何も知らない子供だった。…比喩抜きで、年齢的に。

 本来『あやめ』は20歳前後の滅鬼隊員なのだが、私が『あやめ』に変えられた時には素体不足だったらしく、幼い子供を無理矢理『あやめ』に改造したらしい。

 その行為自体も大概外道なものだけど、そこまで強硬した理由もひどいものだ。それは一部の研究者達の、変質的な趣向を満たす為だったのだから。

 

 

 その男は滅鬼隊が封印されるのを察知し、改造した『あやめ』…つまり私だ…を手元に置こうとした。

 他の研究者が保身の為に走り回るどさくさに紛れ、私を密かに盗み出し、犯して起こした。それが自分自身の欲望の為でしかない事は、今の私の状況が証明しているだろう。

 危険な任務に差し向けられ、報酬らしい報酬も無く、都合のいい時にだけ呼び出されて私欲を満たすのに使われる。任務に対する手助けも全く期待できない。

 

 

 ------ なぜそいつに従う? ------

 

 

 そんな事になるとも思わず、当時の私は刷り込まれた好意に疑問一つ持たずに、この道をあの男に連れられて歩いた。自分が何故連れてこられたのか、他の滅鬼隊がどうしているのか、考えもしなかった。

 知識としては知っていたが、見る者聞く物何もかもが初めてで、無暗に楽しかったのを覚えている。

 …その後、奴の私室でいいように弄ばれ、それを私は愛情故だと思って抵抗一つしなかった。

 初めて暗殺の指示をされた時も、『信用されているのだ』と思って素直に従った。…どれだけ盲目だったのか。

 

 

 暗殺は上手く行った。何せ当時の私は2桁にも届かない年齢だったのだ。そんな子供が狙撃手だなんて、一体誰が想像するだろう。

 子供の姿を活かして人目のつかない所に忍び込み、身の丈以上の長さを持った銃を苦労しながら設置し、標的を射抜いたら全力で逃げる。当時、長距離の狙撃が出来る銃の存在は想像すらされていなかったので、居場所を突き止められるまでに逃げる時間は充分にあった。

 初仕事ながら、充分に上手くやれたと言えただろう。後になって知ったが、滅鬼隊の実績を考えれば猶更だ。

 だけど、報告に戻って投げられたのは、おざなりな称賛の言葉だけ。その後、褒美と称して手ひどく犯された。

 

 暫くは、自分の存在を知られないように外に出る事を禁じられ、あの男の家で暮らした。

 何度目かの暗殺に成功した後は、家から出されて自力で生活しろと命じられた。以来、暗殺を任せられる時と、奴の欲望を処理する時に呼び出され、いいように使われている。

 

 

 

 自分の扱いや感情に疑問を覚えたのは、いつからだっただろうか。

 あの男の全てを肯定的に捉える自分。ぞんざいに扱われているのに、怒り一つ覚えない自分。

 いったい自分はどういうものなのか。滅鬼隊とは、霊山君直属の極秘部隊ではなかったのか。自分以外の滅鬼隊は、一体どうなったのか。自分が暗殺した人間は、一体何故殺されたのか。

 

 …いつからか、暗殺の合間を縫って、自分達の事を調べ始めた。

 あの男の部屋にある資料を密かに持ち出し、手掛かりを探し続ける。

 

 

 ----- その資料はどこにある  -----

 

 

 資料は奴の部屋に乱雑に保管されていた。他の誰にも見られないと、高を括っているんだろう。

 

 

 そして、真実に辿り着くまでそう時間はかからなかった。丁度、私が『死隠』の名で呼ばれ始めた頃だった。

 違法な実験によって作り出された滅鬼隊。顔も見た事のない同僚達は、保身の為に異界に沈められた。

 あの男は道具として扱う為に私を連れ出した。私に対する認識は精々、思ったよりも使える消耗品か、肉壺程度なんだろう。

 

 最初は、まさかと思って否定した。一縷の望みに縋った。

 だけど、弾薬の補充にすら協力せず、私を弄んだ後の薄笑いを見て、嫌と言う程理解した。私に対して、愛着すらももっていないと。

 都合が悪く成れば、躊躇わずに私を捨てる。それどころか口封じの為に始末すら行うだろう。

 

 

 

 それでもこうやって従うしかないのは、こうしないと気が狂ってしまいそうだからだ。あの男に触れないと、私は不安で眠る事すらできなくなる。

 部屋で見つけた資料にあったが、滅鬼隊に施された安全装置なんだろう。

 自分達の扱いに気付いたり、反発したりする隊員を逃がさない為、逆らわないようにする為の枷でしかない。

 …最初は、例えそうであっても自分の感情には間違いないのではないか、と悩んだりもした。

 

 だけど違う。断じて違う。

 これは『私』を塗り潰すものでしかない。奴にとっても、自分の保身の為のものでしかない。

 

 こんなものが自分に取り憑いているなんて、今すぐにでも首を掻き斬ってしまいたい衝動に駆られる。

 だけど、まだだ。まだやらなければいけない事がある。

 

 封印された滅鬼隊を解放して、奴らに報いを受けさせる。今の私は、それだけ考えていればいい。

 屈辱も憎悪も、全てはその糧だ。

 

 

 

 ----- 何故、直葉を狙った -----

 

 

 あの道場の子を狙った訳じゃない。元々、故意に失敗するつもりの任務だった。

 …危うく無関係な一般人を撃ち抜くところだった。弾を弾いたあの男に感謝するべきか。

 

 あの男の命令は、目を覚ました滅鬼隊の隊員を始末しろ、というものだった。

 命じられた時は『私』が塗り潰されていたので反抗一つしなかったが、それから逃れられれば多少は抗う事はできる。

 

 我に返った時は、命じたあの男にも、平然と受け入れた自分自身にも、腸が煮えくり返った。

 私が自滅覚悟で奴を始末しないのは、封じられている滅鬼隊を解放しなければならないからだ。私が狂い死んでしまえば、皆はずっと異界に封じられたままだ。

 直接会った事は一度もない同僚だが、それでも滅鬼隊の同胞だ。

 

 だというのに、解放された同胞を本当に撃つと思っていたんだろうか。

 

 

 

 …本当は、適当な場所に撃ち込んで、暗殺にしくじった事にしようと思っていたんだけど…。動揺して、つい引き金を…。

 あの『雪風』を見た時は、ひとりでも解放されてくれたのだと、胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。例え自分の手で助けられなかったのでも構わない。

 あの子を見た時、奇妙な感覚を感じた。あの子は、同じ滅鬼隊の一員なのだと、すぐに分かった。…多分、これも私に刷り込まれた『何か』によるものなんだろう。

 頭の中を弄られているのは言葉に言い表せない程不快だが、便利と言えば便利なものだ。

 

 暫く、狙撃銃についている拡大鏡越しに雪風を見ていた。

 

 

 

 

 そして、滅鬼隊をもう一人見つけた。

 

 

 『雪風』については、居ると聞いていたので動揺はしなかった。目を覚ましたのはつい最近らしいので、滅鬼隊の事を何も知らなかったとしても不思議はない。

 だが不意に見つけたあの子…どう見ても、私と同じくらいの年月を生きていた。

 動揺のあまり体が硬直し、気が付けば狙いもつけずに引き金が引かれていた。

 

 …誤射で死にそうになってしまったあの子にはすまないと思うけど、それ以上に彼女の事が気にかかる。

 もう一人のあの子は、本当に滅鬼隊なのか。滅鬼隊ならば、誰なのか。

 何故解放されているのか。私と同じように、誰かに連れ出されていいように使われたりしていないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …おかしいな。この道を通る時、確かによく昔の事を思い出すけど、今日は輪をかけてそれが強い。それに、思考が妙に乱れているような気がする。

 さっきの視線の錯覚といい、暗殺に失敗した事で気分が落ち込んでいるんだろうか?

 

 …落ち込みもする。これから向かう先で、私は罰と称してまた嬲られるのだろう。

 性行為を受ける事自体は、もう慣れた。どうでもいい事だ。滅鬼隊の女である以上、色仕掛けが任務になる事もある。上手くやれる気はしないが。

 本当に嫌なのは、その行為を喜んでしまう自分だ。どんなに嫌だと思っていても、私に植え付けられた安全装置がそれを受け入れてしまう。

 

 

 …何も考えるな。

 感じるな。無になれ。

 全てを諦めたように振る舞って、ただ時間が早くすぎるのを待てばいい。 

 

 

 

 

 

 …到着した。

 表札には『新川』と書かれている。ここに住んでいるのは、男が一人だけだ。つまり、そいつが私を呼び出し、いいように使っている張本人。

 他に出入りする者が居ないのは、私がここで暮らした時期から変わっていない。

 

 …その筈だ。

 

 

 

 ほんの少しだけ、違和感を感じた。どこがどう、とは言えない。

 ただ、普段は居ない誰かが居るような…そんな気がした。

 

 中に入って観察してみるが、それらしい形跡はない。草鞋は一つしかないし、誰かが侵入している様子も発見できない。家の中にある気配は一つだけだ。

 だけど油断はできない。

 もしもこれが気のせいではなく、奴が誰かを呼び込んでいたのだとしたら……とうとう私を切り捨てようと、始末する準備を整えているのかもしれないのだから。

 

 

 

 奴の私室の扉を開ける。…何も感じまいとしていたのに、少しだけ動揺した。

 

 

 ……こいつ、誰…? 本当にあの男?

 

 

 そこに居るのは、見慣れた…見たくもない…いつもの憎い男。

 だけど、普段と様子が違う。

 私が来た事にも構わず、本棚を漁っている。いつものこいつなら、私を見るなり欲望に満ちた視線を投げてくるのに。

 いや、そもそも本棚を漁るなんて事、一度だって見た事はない。だからこそ、私がここから資料を持ち出しても気付かれずに済んだ。

 

 …普段と様子が違う。翻意に気付かれた?

 背中に伝う汗を、努めて無視する。

 

 資料を元にに戻して振り返ると、違和感が増した。何処がどうとは言えないけど、何かが違う。

 容姿はいつも通り。外面を適当に整え、霊山の幹部のみが扱う事を許された衣服。腐臭を連想させる目付き。鍛錬など全く行っていないのが分かる、だらしない貧弱な体。…あの首に手を添えて、思い切り力を入れてしまえば、それだけで終わるだろう。何度それを実行しようと思った事か。

 

 だけど、今はそれに加えて、得体の知れない『何か』を感じる。首を圧し折るどころか、触れられる気さえしない。

 まるで、こいつの背後に何かが取り憑いているような。

 鬼に魅入られたのかと思ったけど、鬼の目では何も発見できない。…私の気のせいなんだろうか?

 

 

「…ああ、来たか」

 

 

 妙に穏やかな声。こいつの事だから、暗殺に失敗した事に逆上し、最初から気が済むまで怒鳴りつけてくるだろうと思っていたのだけど。

 それどころか、妙に静かに私を見ている。…いえ、観察している? 初めて会った人間を見定めるような、心の底を覗き込もうとするような視線。

 …初対面のような態度もそうだけど、こいつにこんな目が出来る筈がない。

 あれは、自分の世界に没頭して、上手く行かなければ癇癪を起す子供のまま、年を喰ってきた人間だ。

 

 

 

 じゃあ、この目の前に居るのは一体何?

 

 

 …いつもの胸糞悪い展開になりそうになくて良かったと思うべきか、想定外の事が発生して厄介なと思うべきか。

 上手く行けば、滅鬼隊を解放できるかもしれない手段が見つかったというのに。

 

 あの、私の銃弾を弾いたモノノフ…『雪風』を連れているあのモノノフ集団。奴らの協力を得られれば、滅鬼隊の解放は叶う。

 少なくとも、異界に封じられている『雪風』を引っ張り出して、目を覚まさせたのは確かだ。あの異界に潜る方法を知るだけでも、大きな前進になる。

 

 そこへ来て、目の前の男の異様な雰囲気。

 …屈辱的な立場に耐え続けてきて、ようやく運が向いてきた、と思いたい。

 もしそうであれば、この異変も私の追い風として働く筈。……眠っている滅鬼隊の皆。どうか力を貸してほしい。…別にミタマになれという意味ではない。

 

 

 



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451話

退魔忍RPG、ジューンブライド狂想曲とりあえずクリア。
キャラ全部交換してスキルレベル最高、覚醒に必要な石も交換済み。
うーむ、パーティ編成でこうまで違うとは。
最高レベルまで上げた魔性アタック役2人、回復担当1人、バフ担当1人、SP回復薬、サポートスキルは魔性攻撃力大アップ×2で、上手く嵌れば貢献度1位も珍しくありませんでした。

相手が単体なら有利な色で染め、各役割を最低一人は入れるがコツ…なのかな?
しかしまさか今回のイベントの為に、以前手に入れていたヘタレもとい嵐騎を最大レベルまで上げる事になるとは思わなんだ。


それはそれとして最近の困りごと。
濡れ場が書けない…。
幾つかアイデアが出たので、展開だけ先に書いていたのですが、どうにも先へ先へと書いてしまい、エロの感覚を忘れてしまっているようです。
うーむ、どうしたものか…。


--------------------------------------------

 

 

 

 

 …むぅ、気付かれたか。

 『第六天』の術は成功したが、成功しただけだな、これは。使いこなしているとはとても言えない。

 まぁ、今はそれで充分な訳だが。

 

 現在、俺は『第六天』の術で新川某の体を乗っ取っている。ついさっきまでは、この…死隠こと、詩乃の考えを覗き見ていた。

 彼女が道中で感じた視線や、思考が乱れていると感じたのはこのためだ。

 

 第六天こと他化自在。他人に成り代わるのも、取り憑いて自分の事であるかのように感じるのも、干渉するのもお手の物と言う訳だ。

 ともあれ、俺は詩乃の思考から手掛かりを得て、指示した者への憑依に切り替えた。…こんなもん、エロに使ってる場合かとも思う。直接面識がなくてもこんな事ができるんだから、どっからでも情報抜き取り放題である。

 

 とは言え、全く問題が無い訳ではない。憑依対象の体を自由に操ろうと思ったら対象の意識を奪わなければいけない。相手が違和感に気付く前に、上手いこと転ばせて頭を強打させるとか、何らかの仕掛けをしなければいけない。

 また、憑依した相手の考えや記憶をある程度読み取れるようだが、欲しい情報を得るには憑依対象に上手く思い出してもらわなければいけない。

 

 そして何より問題なのが、動作に違和感が生じてしまう事。

 今、詩乃が気付いたように、ただ立っているだけでも雰囲気、表情、細かい仕草と言った点に普段と違うものが出てしまう。つまり、下手な変装をしているのと同じだ。ちょっと付き合いの長い人が見たら、すぐに何か変だと勘付かれてしまうだろう。

 もっとうまく使いこなせば…情報を引き出して、それを有効活用できれば改善できそうだが…まぁ、今はいいか。

 

 

 差し当たり、ここにある資料にはざっと目を通した。

 何と言うか………この新川某、単なる悪党だな。容赦は必要ない。

 滅鬼隊で人体実験を行っていた時分から、随分と鬱屈したものを貯めこんでいたようだ。それをぶつける先が、自分のいいように操れる女…詩乃だったんだろう。ぞんざいな扱いも、その一環だったのかもしれない。

 何があってここまで捻くれたのかは知らないが、雪風を亡き者としようとした時点でこいつは敵だ。

 

 

 さて…残念ながら、ここにある資料から得た情報だけで、新川某を失脚させる事はできない。

 何せ物証がない。ここで得た情報を禁軍に流しても、その裏付けがなければデマとして扱われかねない。かと言って、情報源を明かす事もできない。怪しげな術を用いて人を乗っ取り、家屋から本を盗んで来ました? …こっちが逮捕されるわ。或いは精神病棟。

 

 ならどうするか。一つ目、ここで得た情報を元に調査を行い、証拠と言えるだけのものを揃えてから禁軍に明かす。

 だがこれは時間がかかりすぎるし、そもそも数年以上前のモノも多い。詩乃は証拠隠滅も行っているようだし、難しいだろう。

 

 ならば二つ目。

 

 

 

 目の前に居る詩乃を奪い取り、こっち側に引き摺り込む。これが本命。

 思考を覗いた時、何故彼女が新川某に従っているのかは理解した。滅鬼隊に施された安全装置に逆らい切れなかったからだ。

 だが、それさえどうにかしてしまえば、彼女はむしろ嬉々として新川某を破滅させるだろう。

 方法は、それこそ単純。ここにある資料と、何でもいいから証拠となる物を持って、禁軍に自首してしまえばいい。

 

 そうすれば、流石に禁軍も無視できない。

 彼女自身は…博打にはなるが、九葉のおっさんと茅場に頼んで根回ししてもらうつもりだ。

 そうすれば、無罪放免は難しくても、解放してやれる目はある。

 

 

 更に、こちとら彼女が求めてやまない、滅鬼隊救出の方法を持っている。そしてそれに向けて着々と準備を整えているのだ。

 こっちの言葉を信用させさえすれば、確実に取引に乗ってくる。

 

 

 …その信用が難しいんだけどな。何せ、お偉いさんを何人か暗殺している詩乃に、根回しするとは言え自首させる事になるんだから。

 

 とりあえず、これが新川某の罠ではないという事から信じさせないと。

 そうだな、もう気付かれてるんだし……他に誰の目も無いし、いいか。

 

 

 

 ほい、変化っと。やぁ、『死隠』。初めまして、になるなかん。

 

 

 

「……! 私の弾を弾いたモノノフ…」

 

 

 覚えていてくれてありがとう。話が早くなる。

 ああ、一応言っておくけど、新川某は別に死んではいないぞ。今は体を乗っ取っているだけだ。

 

 

「どうでもいい。…姿形まで変わっているようだけど」

 

 

 こう…霊力を通して、具現化してだな。分かりにくければ、着ぐるみか肉襦袢のようなものだと思ってくれ。

 第六天、他化自在はどの姿にでもなる事ができる。だったら自分の姿だって、出来て当たり前だ。

 

 

 さて、それはそれとして。

 

 

「…私に何の用? 報復にでも来たの?」

 

 

 結果的にはそうなるかな。まぁ、ここに書いてある事を流し読みして、事情は大体理解できた。

 茅場も言ってたが、本当に滅鬼隊の生き残りとはな…。

 しかも、随分と雇い主に含むモノがあると見える。ま、無理もない扱いだったようだが。

 

 正直言って、あんたに害を成す理由は無くなった。

 最初から雪風を撃つつもりはなかったようだし、直葉はやっぱり誤射だったし。だとしても、ケジメは必要になるか。

 

 

「詫びでも入れろと? …確かに、最悪の事態になりかけたわ」

 

 

 一般人を巻き込む事に罪悪感を覚える程度には、真っ当な倫理観を保っているのか。

 

 詫びはいい。それよりも、俺達に協力してもらおうか。

 別に暗殺しろとは言わないよ。

 対価は、他の滅鬼隊の救助でどうだ?

 

 

「…話が上手すぎるわね。すぐには信じられないわ。…けど、話は聞きましょう」

 

 

 よし、乗って来た。彼女の目的からすれば、どうやったって聞き逃す事はできないだろう。

 元々、俺達に協力を要請する事は考えていたようだから、渡りに船、或いは千載一遇の好機と思ったのかもしれない。

 随分あっさり乗ってくるのは気になるが…これまで汚れ仕事を繰り返していたのだから、もうちょっと懐疑的になってもおかしくないのに。

 …多少経験を積んでも、やっぱり脳筋の滅鬼隊って事なんだろうか…。

 

 

 死隠に伝えた、大雑把な計画は次の通り。

 滅鬼隊を一人一人異界から引っ張り出して起こしていっても、敵に狙われる隙が大きくなるだけだ。

 なので、滅鬼隊が封印されている異界を完全に消滅させ、残されている隊員達を全員引っ張り出す。 

 異界消失のどさくさに紛れ、眠っている隊員を可能な限り叩き起こし、一路ウタカタの里へ。

 

 

 

 

 …物凄く大雑把に説明したが、死隠は頭を抑えた。

 

 

「…それ、本当に上手く行くと思っているの」

 

 

 上手く行かせる。説明では省いたが、諸々の援助と段取りは確約してある。

 その一助として、お前の力…と言うか、証言が必要だ。

 

 

「証言? …私がやってきた暗殺について、情報を吐けと言う事?」

 

 

 少し違う。情報を齎すのは、俺達じゃない。禁軍だ。

 

 

「……何が言いたい」

 

 

 自首しろって事だよ。

 ああ待て、それだけじゃ話にならないのは分かってる。お前だって、滅鬼隊の連中以外にも、自分の命だって惜しいだろう。

 司法取引って奴さ。

 お前が滅鬼隊の生き残りなら、さっき言った援助の中にそれも入っている。

 

 必要な情報なら、山ほど持ってる筈だしな。

 つまり…この新川某を破滅させらる証拠と、こいつに連なる連中の情報。

 

 

 

「…成程、それなら確かに山ほど持っているわ。減刑を期待できる程度には、重要な情報もあるでしょう。尤も、結構な地位にいるお偉いさんも撃ったから、焼け石に水でしょうけどね」

 

 

 その結構な地位に居るお偉いさんが、援助をしてくれる人だ。

 茅場の奴も、異世界のアレコレを餌にすれば伝手でも何でも使ってくれるだろう。

 ぶっちゃけ、多分情報が無くても密かに逃がすくらいは難しくない。

 

 

「そう。でも残念ながら、問題があるわ。…私にね。滅鬼隊の真相を知っているなら、私達につけられた安全装置の事も知っているでしょう。…私は、あの男の声と手がなければ、遠からず狂って死んでしまう。…私は滅鬼隊の皆を助けたいと思っているけど、自分の命を犠牲にするつもりはないわ」

 

 

 ああ、知ってるよ。

 死ぬつもりがないのも僥倖だ。解放したはいいが、そのまま野垂れ死にや壊滅なんてのも有り得るから、先の事まで考えているのも好感触。

 

 

「…別に。禄でもない人生だったから、死ぬならその前に楽しみたいだけよ」

 

 

 そうかい。まぁ、腹の底で何考えてるんだか知らないが、いいさ。

 ともあれ、そっちをどうにかする事も出来る。

 

 要するに、寝取ってしまえばいいんだ。寝取り趣味は無いけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 殺気を出しても意味ないぞ。暗器はあるようだけど、直撃した程度じゃ俺は殺せない。

 そもそも、本体じゃないしな。死ぬのは俺じゃなくて新川某だろ。それはそれでいいかもしれんけど、安全装置はどうするんだ。

 

 

 …舌打ちして殺気を治めた。そこで刺しに来るなら、もうちょっと怖がってやれたんだけどな。

 

 

 

 からかってるんじゃなくて、文字通りの話だ。

 滅鬼隊の安全装置は、強制的な思慕を植え付けるもの。目覚めた当初の何も知らない、真っ新の赤子に等しい人間にそれを植え付ける。

 本来、そう長く続くものじゃない筈だ。

 暗示の類だって、強力にかけて長持ちさせようとすると、何度も繰り返して刷り込む必要がある。

 

 ただ、人間の脳は学習する。良くも悪くも。刻まれた強烈な経験は、事あるごとに思い返される。

 思慕、恋慕による恍惚も例外ではない。

 

 最初の頃は、その感情に疑問なんて抱かないだろう。何度も何度も思い返し、その感情だけが焼き付けられる。

 そしてそれが感じ取れなくなると…例えば相手の声が聞けない、触れられない状況…喪失感を感じ始める。

 自分を満たしていたものが急に消えるんだ。例え植え付けられた感情であったとしても、突然無くなれば戸惑うのも無理はない。

 

 そして、その感覚に戸惑って、自分で勝手に説明を付けて……『私はこの人が好きなんだ』と思い込む。

 

 

 

 

 言葉を切って様子を見る。

 死隠は、黙って俺の言葉を聞いていた。鵜呑みにするつもりはないようだが、安全装置の実態についてそこまで詳しく考えた事はなかったのだろう。

 多分、今後自分の安全装置を取り外す為の手掛かりとして聞いているんだ。

 …話を続ける。

 

 

 

 安全装置の効果が消える頃になると、相手の声を聴くだけで恍惚となる反射が作り上げられている。好きなんだという思い込みも手伝って、自分で自分に暗示をかけ始める。

 そいつから離れると不安になる。声を聞かないと落ち着かない。触れないと頭がおかしくなりそうになる。

 『そういう状態』だと思い込んで、それが体にまで反映される。それが安全装置の正体だ。

 

 まぁ、早い話が麻薬のフラッシュバック…と言っても分からんか。

 

 

「…私のこの症状が、自分の思い込み…だとでも…!?」

 

 

 それだけじゃないだろうし、何処から何処まで仕組まれたものなのかは分からんがね。

 この新川某も、元は滅鬼隊の研究に携わっていたらしいし、細かい原理まで把握しててもおかしくない。

 それが上手く嵌るように、最初はお前を手元に置いてあれこれ小細工してたんじゃないか?

 

 

 

「…………!」

 

 

 心当たりはあるんだろう。彼女の思考を呼んだ時に、最初はこの家から出ないように命じられた、とあった。恐らくそのあたりが、安全装置をより強固にする土台固めの期間。

 それについて何を思うのかは知らない。どんな理屈であっても、死隠の枷となり、自由を阻害していた事には変わりない。ただただ屈辱以外の何物でもあるまい。…そんな陳腐な言葉で収められる程度のものでもない。

 

 さて、話を戻すが。正直な話、それを完全に封じる方法は、俺には思いつかない。

 だけど、その矛先を変える事ならできる。

 

 

「矛先を変える、ね…。つまり、他の者に対して同じ状態になれって? あなたに対して?」

 

 

 はっきり言えば、そうなるな。

 枷をはめられた奴隷同然なのは変わらない。だがそれ以外は変わる。

 

 滅鬼隊を助け出すと言うなら、その目的に大きく近づく事ができる。

 同じ滅鬼隊の同胞も居る。…雪風は記憶が無いし、浅黄は負い目を背負ってるから、簡単に仲良くできるかは知らんが。

 暗殺の命令も、こなす必要は無くなる。やるなら俺の手でやるからな。

 生活の全てを保証するとは言えないが…それを希望するなら、待遇は応相談としよう。

 

 

「冗談じゃないわ。自分の食い扶持は自分で稼ぐ。……とは言え、それ以外は魅力的ね。正直な話、あいつの下でなければ何処でもいいと思えるくらいには、糞くらえな扱いを受けてるもの」

 

 

 後は、そうだなぁ……。

 

 新川某の吠え面、見たいんだったら協力するぞ。何もかも失って豚箱に放り込まれたこいつの前に、牢屋越しに鼻で笑ってやるってのはどうだ。

 

 

 

「……っ……ふ、ふふふふ…いい…。いいわ、それ。是非とも叶えたいわね。今まで脳天を撃ち抜く程度しか考えてなかったけど、あいつが絶望した顔で牢屋に蹲ってる所を想像したら、頬が緩むわ」

 

 

 ……思った以上にツボだったか。

 内面を覗き見た時から何となく感じていたが、この子…かなりの粘着質だ。ドライな考えで動いているように見えて、屈辱はどれだけ時間をかけても絶対に倍にして叩き返す奴だ。

 狙撃手らしいっちゃらしいかな…。

 

 

「ふふふふふ…いいわね、思っていた以上の追い風みたい。今まで自分がやってきた努力が、何もかも吹っ飛ばされてしまいそう。これで煽られて転覆するなら、それも一興と思えるくらいには。分かったわ。あなたの言う通り、明日の朝には出来る限りの証拠を持って自首しましょう。ただし、本当に私の安全装置をどうにか出来るのならね」

 

 

 そこは心配するな。今これから上書きしてやる。

 …とは言え、寝取るって言う通り、方法がそっち系なんだが。

 

 

「別に構わないわよ、それくらい。今まで散々好き勝手された体だもの。今更こだわる理由も無いわ。中身が違うとしても、そいつの手に触れられるのは嫌だけどね」

 

 

 ああ、そこはご心配なく。

 変身状態かーらーのー。

 

 

 

 憑依解除、そして具現化!

 

 

 

 ゴトッ、と男が倒れる音が響く。言うまでも無く、新川某だ。白目剥いている。少なくとも、明日の昼までは目を覚まさないだろう。

 そしてその男の上で立っている俺。…の分身。

 目を丸くしている死隠。

 

 

「……霊力の具現化? …まるで鬼みたい…」

 

 

 さっきの変身を、中身抜きでやっただけだぞ。

 

 …本当になー、オカルト版真言立川流、どこまで行くんだろうなー。エネルギーの増幅から始まって、暗示、分身、夢への介入、人体の作り替え、まだ試してないけど召喚魔法と来て、今度は見ず知らずの人間に成り代わった上に、その場で実体化して遠距離セックス。

 これを戦闘技術に応用してれば、レジェンドラスタ級の戦闘力を身につけられただろうに。いやまぁ、戦闘能力とエロスとを天秤にかければ、間違いなく後者だけど。…形はどうあれ、色んな人に手を貸してもらえるようになったのは、間違いなくオカルト版真言立川流から始まった体の関係が大きいんだから。

 

 

 

 さて、それはそれとして。

 本体…肉体が無いのが悔やまれるが、こういう訳だ。動く事もできるし、触れる事もできる。感触だって伝わる。使っている間、本体が無防備になるのが欠点だが、そこは工夫次第だな。

 

 今から、お前と交わって、新川某から奪い取る。

 植え付けられた思慕も、思い出も、何もかもどうでもいいものに変えてしまって、俺の事しか目に入らない女にする。

 覚悟はいいな? 

 

 

「…死隠は、霊山で勝手に呼ばれ始めた渾名よ。詩乃と呼びなさい。…私だけの名前を呼ぶ、初めての人にしてあげる」

 

 

 小さく笑う死隠こと詩乃の耳元に口を寄せ、小さく名を呼ぶ。

 不本意であっても経験がある故か、何処か余裕そうだったのに、ただ名前を呼ばれるだけでキスされた生娘のように赤くなった。

 




じか~いよ~こく~。












濡れ場はありません。


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452話

前回から、同じ日の日記が続いています。


と言うかそんなに濡れ場無しに反応するのかw


 …ん? 濡れ場の描写? すまねぇ、また今度なんだ。

 言い訳になっちまうけど、詩乃がね…。洗脳が解けた後、また業の深い事言い出してさ…。それをやっても許される程度には、酷い扱いをされていたようだけど。 

 

 

 

 

 

 いや俺も日記に記録しときたいんだけど、今晩ばかりは体感時間操作を使っても時間が無くてさ…。

 この後、明日奈と神夜も呼んで、直葉の召喚が上手く行くかもテストして、更に明日に向けて色々やっとかなきゃならんもんで…。

 あまつさえ、直葉召喚が上手く行った事で、同じやり方でやれば木綿季にも体を作れるんじゃないか?って話まで沸いてきた。

 

 

 結論から言うと、当然のようにNTRは成功した。本人が寝取られたがっているという特殊な状況だったが、幼い頃から刷り込まれてきた暗示を壊す程の恍惚を刻み込むのは………なんだ、その、そんなに難しくはなかったわ。

 いやだってよぉ、詩乃の体を味わって分かったけど、あいつ殆ど開発されてないでやんの。オーガズムすら未経験だったようだ。テクは…まぁ、奉仕の技術が多少あった程度。

 大方、新川某は洗脳による効果だけを頼りにしていたか、詩乃の反応なんてどうでもいいから自分の性欲を処理できればよかったかのどっちかだろう。それだけでも逆らえなくなる程、詩乃にかかっていた暗示は恍惚感を齎していた訳だが…。

 こちとら、精神どころか魂にまで干渉するオカルト版真言立川流の使い手だ。女を蕩けさせ、ありとあらゆる部位を快楽を得る為の器官に変貌させ、心の底から自ら望んで隷属させる邪法である。下手糞な洗脳による恍惚なんぞ、種の割れた手品よりも陳腐なものに変えられる。

 

 布団が新川某の寝床用しかなかったので、そこを使おうと思ったんだが…旦那のベッドで新妻を犯す気分を味わえるかと思ったけど、夫婦仲は冷え切るどころか破綻してるんだよな…、奴の匂いに包まれるのも御免被ると主張する詩乃。

 気持ちは分からないではないので、寝かさず立位メインで行為を行った。奴の匂いがどうのこうのと、気にする余裕はふっとんだ。

 こんなの知らない、知らない、落ちちゃう、染まっちゃうと叫びながら、必死で締め付けてくる詩乃は可愛かった…。

 

 一通りの行為が終わる頃には、力の抜けた体で、熱っぽい視線を送るチョロインがそこに居た。

 宣言した通り、洗脳が齎す恍惚は、より深い悦楽と恍惚によって上書きされ、その対象は俺に摩り替った。

 隣で呑気に気絶している新川某には、全く興味を向けてない。…最初は、憎い相手だろうとこれ以上痴態を見られるのは嫌だって、声を抑えようとしてたんだけどね。最後の方は、「見るなら見れば? 虫に見られて気にする必要がある?」みたいな扱いだった。

 

 その後、俺の言葉に従って翌朝に自首。それまでに証拠を集め、どのように釈放するか等の打ち合わせを行って、第六天の術を解いて戻って来た。

 新川某は2~3日起きないように一服盛って放置。今でもあの部屋で転がっているだろう。

 

 

 さて、行動するのは明日の朝一。それまでに英気を養い、更にエネルギーを蓄えておかないとな。久々に、オカルト版真言立川流の本来の使い方…エネルギー増幅をやるとしますか。

 神夜ー、明日奈ー、こっちおいでー。直葉も召喚! …おお、マジで出来た。さぁ、朝まで楽しもうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして朝ッ!

 直葉の召喚を解除し、例によって消臭玉大活躍と体を清めた後、完全武装して宿のメンバー(禁軍からの護衛を除く。二度寝してもらいました)を招集。

 状況が一気に動く事を伝えた。

 

 先日の狙撃犯…滅鬼隊の生き残りが、今朝禁軍に自首する事。

 それによって多数の不祥事の証拠が持ち込まれ、霊山が混乱に陥る事。

 その隙を狙って、残った滅鬼隊を救助し、そのまま一気にウタカタへ避難する事。

 

 当然の事ながら、全て素直に信じられた訳ではない。自分でも無茶苦茶な超展開を話している自覚はある。

 そもそも、何だっていきなり死隠とまで呼ばれる暗殺者が自首なんぞするのか。

 

 それ以外の事は、前から想定していた事態の中にあったので、土井さんが冷静に纏めてくれたが。

 と言うか、浅黄の目を覚まさせた時点で、遠からずこういう展開になるのは決まっていた。

 

 

 ともあれ、この無茶苦茶な展開を皆が信じてくれたのは。

 

 

 

「……自首する前に会いに来た。…迷惑だったかしら?」

 

 

 ははは、まさか。昨晩の打ち合わせで、一度宿に来るように伝えたのは俺だろう?

 …当の死隠が、宿に訪れたからだ。

 と言うか、随分恰好変わったな? 髪の色まで変わってるし、眼鏡ないし。それに、明かに特注品の銃…。

 

 

「あの家に行く時に目立つと厄介な事になるから、そういう恰好もしていた。狙撃をする時は、いつもこの格好だったから。目立つ格好をしておいて、いざと言う時にそれを無くせば簡単に人は見失う」

 

「変装の術か…。忍者の手口だな」

 

「滅鬼隊が活動していた頃、よく使っていたやり方でもあるわ。………本当に、『あやめ』…。目を覚ましていた生き残りが居たのね」

 

「…あなたが、滅鬼隊の指揮官?」

 

「…そうよ。洗脳されているのを自覚しながら、それに従って皆を異界に沈めた裏切者よ」

 

「ふーん。その辺はどうでもいいわ。私にとっては、初めて会った滅鬼隊の同胞でしかない」

 

 

 

 …なんかややこしい話になりかけたが、詩乃は興味なさそうに鼻を鳴らすと俺に向き直った。

 

 

「こっちの準備は整った。奴らを破滅させるだけの情報と証拠も揃えたわ。…これから、禁軍に自首しに行く。本当に助けてよね。……助けてくれなくても、ずっと待ってるけど」

 

「あー!」

 

 

 言葉を返す前に、首に腕を回されて深い接吻。

 それを見て雪風が叫んでいる。…おこちゃまには刺激が強かったかな? 寝静まった後、もっと凄い事を毎晩してるんだけどね。

 

 一頻舌を絡めると、詩乃は離れて歩き出す。

 心配せんでも、最悪攫ってウタカタまで避難するから安心しとけよー。

 

 

「そう願う。じゃ、もう行くから」

 

 

 すたすたと気負いもなく歩き出す詩乃は、なんだか楽し気に見えた。悪巧みを実行している子供のような。

 

 

「…あの、師匠。あの人って、直葉さんを狙った狙撃犯なんですよね? 何がどうなってこうなってるんですか?」

 

 

 考えるな。頭がおかしくなるから。色んな意味で。

 

 

「あっはい」

 

 

 

 白浜君だけでなく、色んな人が「もう考えるのやーめた」状態になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニンジャの割り切りは凄い。

 最初は呆けていたものの、数分もせずに立ち直った。切っ掛けがどうあれ、状況は動く。ならば対処せねばならない。

 

 土井さんがあっという間に役割を割り振る。

 

 

「まず九葉殿に状況を知らせる必要がある。これは八方斎、お前が頼む。自首させたとは言え、そのままにしておくつもりはないんだろう。その辺の取引まで、最良だと思う判断でやってくれ。

 滅鬼隊の救助には、異界消失・施設から運び出し・隠蔽の最低三段階の手順が必要だ。

 異界消失については、君以外に出来る者はいない。共に行く護衛として、明日奈・神夜と……白浜君、君も頼む。

 滅鬼隊員を運び出しする為に、運搬具が必要だ。山本先生、これの調達をお願いします。

 伝子さんは、これらの監督。

 隠蔽先は既に九葉殿と話がついているので、そこに向かってくれ。地図はこれ。これは浅黄君・雪風君が担当。何者かが潜んでいないか調査を忘れないように。

 私はこの騒動が終わった後の根回しをする」

 

「半助、里への連絡はどうする?」

 

「間に合いません。この後、恐らく霊山から暗部を暴かれた幹部が何人も逃げ出そうとするでしょう。それを取り締まる為の警戒網も敷かれます…遅くて昼、でしょうか。文を出したとしても、恐らくそこで止められる」

 

「霊山からの支援については?」

 

「異界の消失、滅鬼隊の保護という時点で契約は果たされます。逆に言えば、この半日で里への支援がどれ程のものになるか決まるでしょう。より大きな支援を受ける為、九葉殿に恩を売っておきます」

 

「ぼ、僕も異界突入役ですか!? でも瘴気無効化の装備が」

 

 

 一気に最奥まで駆け込んで、術を使って浄化する。異界を生み出していた大本は潰しているし、仮に復活していたとしても活動限界時間まではかからない。

 戦力として連れて行くというよりは、何か起きた時の連絡役と、滅鬼隊を運び出す為の運搬役だ。

 

 

「…それはそれで期待されてないようで…いえ、言ってる場合じゃありませんでした。分かりました、僕は連絡役です。桐人達は巻き込みますか? 何かの力に」

 

「いや、呼びに行く時間すら惜しい。加えて言えば、この騒動に巻き込まれれば、後の霊山でも権力争いに巻き込まれかねない。この一件は、私達だけで、迅速に遂行する」

 

 

 …確かに。権力争い云々よりも、時間が惜しいのが主な理由か。

 ま、桐人君の事だから、この状況で迷惑になるから呼ばないってのは普通に怒るだろうな。

 

 

「各員、他に質問は? …無いな。では、各自行動に移ってくれ!」

 

 

 

 

 …雪風はともかく、浅黄は地図読めるよな? 仮にも指揮官やってたんだし、流石にそこまでポンコツじゃないよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから先の事は、半ば以上伝聞でしか聞いてない。俺は異界浄化の為に、滅鬼隊保管施設の最奥に潜って術を使っていた。

 道を塞ぐ鬼達は速攻で排除していたので、護衛は必要なくなった。ボスの復活も無かったので、極めてスムーズに話は進む。

 なので、俺が異界を浄化している間に、明日奈達3人は滅鬼隊員を一人でも多く運び出すのに専念していた。

 

 意識の無い隊員達を異界の中に晒すのは躊躇われたが、これが最適解なのだから仕方ない。

 程なくして異界浄化を完了させ、入り口の方に駆け付けると、大八車が幾つも用意され、神夜と山本先生が滅鬼隊員をそこに乗せている。…上に茣蓙を被せてるから、死体の山を処理しているように見えた。

 

 白浜君と明日奈は?

 

 

「白浜さんは、荷車を引いて隠蔽先に向かっています。明日奈さんは、まだ残っている滅鬼隊員の運搬です」

 

 

 分かった。なら俺は…。

 

 

「運搬をお願いね。私達じゃ、どうしても力が足りなくて」

 

 

 了解。鬼疾風…はいかんな。山道だし、絶対何人か振り落としてしまう。

 ええい、卵を抱えたハンターのように走るしかないか。

 

 

 

 運搬途中、ダッシュで戻る白浜君と擦れ違った。…鬼疾風、教えておくべきだったな…。

 一言声をかけて確認したが、雪風も浅黄もちゃんと所定の場所に居たそうだ。うん、最大の懸念事項が消えて一安心。

 そのまま隠蔽先に荷車を届け、トンボ返り。荷車はまだあったので、わざわざ持って帰らなくていい。鬼疾風で一足飛びだ。

 また白浜君と擦れ違う。クキィィィィ、と奇声を上げながらも爆走する力強い姿は、大分ハンターとして仕上がって来たなーと感心するくらいだった。

 

 往復する事三度。白浜君のみならず、積み込み作業を行っている3人にも疲れが見えてきた頃、全員の運搬が終わった。

 思っていたよりも猶予はあったかな。

 運搬の痕跡を消した頃、ようやく異界が消えた事に気付いたモノノフ達がやってくるのが見えた。無論、姿など現さずにソソクサと立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、九葉のおっさんが用意してくれたという隠れ家。どうやら九葉のおっさんの配下使っているセーフハウスの類らしく、それなりの設備は整っていた。

 とは言え、連れ出した滅鬼隊員を全員寝かせられるような環境なんぞある筈もない。

 床で寝転がって雑魚寝状態だ。…服、準備できなかったんだよなぁ。布団も足りてないし。

 美女+数名の美男子が素っ裸で何人も地面に転がってるとか、奇観を通り越して壮観ですらある。…とりあえず、ちんこの大きさは勝った。大きくなったらどうなのか分からんけど。

 

 とりあえず、何でもいいから布を被せておく事にする。土井さんが根回しして準備してくれる事を願う。

 

 

 並んで眠っている滅鬼隊員を、浅黄が沈痛な目で見つめている。…自分のせいで封印されたと、気に病んでいるんだろう。

 逆に、雪風は……まぁ、心配そうでもあるし、不謹慎ながらも興味津々でもあるし……自分の胸元を撫でおろして、半眼になっていた。まぁ、このサイズがあれだけ並べばね…。…君は充分あるよ。滅鬼隊の女のサイズが異常なだけだよ。どっちも大好物だし。

 

 それはそれとして、浅黄は滅鬼隊員を見回して首を傾げていた。

 

 

「浅黄さん、どうかされたんですか?」

 

「ええ……足りないのよ」

 

「…足りない? あの施設に居た人は、全員連れ出したと思いますけど。…生き残っている方は、ですが」

 

「あそこに封じられた筈の隊員は、一通り把握しているけど…一人居ないわ。私の妹の『桜』。あの子は特に厳重に封じられたから、装置の故障で死んでいるという事は…ないと思うのだけど。それに、滅鬼隊自体、もう少し人数が居た筈なの。私も全員を把握できていた訳じゃないけど」

 

「…妹さんの事も気になりますが、そもそも滅鬼隊ってどれだけいるんですか?」

 

「使い捨て同然だったうえに、古くなって起こされなくなった子も居たから…。私にも、反乱を企てないようにと必要以上の情報は与えられなかったわ」

 

「聞けば聞く程扱いが酷い…」

 

「…その、妹さんがいない件だけど、あれじゃない? 一番最初に見つけた時、扉が開いていて、一つだけ装置が倒れてたじゃない。死骸も無かったし、そこから誰か出て行ったんじゃないかな、と思ってたんだけど」

 

 

 

 

 …向こうは向こうで何やら真面目な話をしておりますが、俺はと言うと…。

 

 

 

 

 

 山本先生からガチ説教を受けています。2頭身お婆ちゃん姿なのに、迫力がトンでもなくてKOEEEEEE!!!!

 

 説教の内容は、極めて当然と言うか、反論どころか言い訳の余地すらない。

 簡潔に言えば、何かやらかすならせめて前以て相談しろ、 と言う事。

 狙撃犯の懐柔は、必要であったから良い。危険があるかもしれないのでやはり一言欲しかったが、到底信じられないような手段だった事もあり、ここは成功したからお咎めなしとする。

 

 だとしても、それを切っ掛けに大きく事態が動くのであれば、当日の朝ではなく前日に相談する事も、決行を一日遅らせる事もできる状況だった筈だ。

 事実、一日だけでも準備期間を作ることができれば、こうまで急を要する展開にはならなかった。

 

 …大八車をあっと今に調達してくれた山本先生だが、時間が無かったので違法な行為も駆使して調達してきたそうな。

 変装の達人なので足が付く事はないと思うが、余計な危険だったのは確かだし、正攻法に越した事はない。何より、霊山大混乱になる時期なので、小さな事でも勘繰られる可能性は高い。大八車を幾つも必要とする状況なんて、そうそうないし。

 

 

 朗らかな顔で鬼のような迫力を醸し出す先生に、黙って言われるままに頭を下げる俺でした。

 …女性関係にまで話が及んでるけど、そっちこそ言い訳すらできないんだよなぁ…。

 

 

 

 

 

 山本先生の説教は、伝子さんがやってくるまで続いた。

 …あれ?

 

 

 

「「「「「伝子さんじゃない!?」」」」」

 

「女装してない時は伝蔵さんと呼べ」

 

「女装だったの!?」(←雪風)

 

 

 そうね、どっちかと言うと仮装よね。…口には出さないけど。

 

 

「あら、伝蔵さん。そちらは大丈夫だったの?」

 

「ああ。異界消失の調査にモノノフ達がやってきたが、あれは正規部隊だな。少なくとも、証拠隠滅の為に送られてきた何処かの手先ではない」

 

 

 いやいやいや、そんな事よりどうしたのよその恰好。何でいきなり男姿になってるの。

 

 

「何でも何も、山本先生と同じ変身の術だが? 日頃から伝子さんの姿でいて、緊急時にそれを拭い去れば、誰かに目撃されても足がつきにくい」

 

「伝蔵さん、口紅を落とし忘れていますよ」

 

 

 充分つくと思うし、普通は逆だと思うんですが…。

 いやまぁいいか。土井さんやカンコンソー斎、九葉のおっさんの状態は?

 

 

「概ね問題なしだ。九葉殿は予め、この事態を想定していたらしい。死隠が関わった時からな。まぁ、自首してくるのは予想外だったようだが。既に司法取引の準備も進んでいるそうだ。八方斎が上手くやったな。半助は、もうすぐ荷物や物資を纏めてこちらに来る」

 

 

 …あのおっさん、本当に敵に回すとヤバい奴だな…。何処まで準備周到なんだ。

 八方斎は八方斎で、詩乃の弁護の為に伝手を辿ってくれているようだ。…シノノメの里を出た時にはどうなる事かと思ったが、とんだドリームチームだったようだ。

 

 

「…あの、師匠。滅鬼隊の皆さんを助けられたのは喜ばしいですけど、これからどうするんですか? まさか、ここにずっと籠っている訳にもいきませんし。以前に牡丹様とも話しましたが、滅鬼隊員は…」

 

 

 ウタカタの里近辺に連れて行く、って話か? そこは構わない。

 ただ、本人達が了承すれば、の話だけどな。

 

 

「それも気になるんですけど、僕達はこれからどうするのか、が一番気になってるんです。…おんぶだっこで自分では何もしていなかったとは言え、僕はシノノメの里の代表として、里に援助をしてもらうためにやってきました。九葉さんとの契約で、それは果たせたと言いますが…」

 

「ふむ、一口には言い表せない状況だね。それは腰を据えて、一つ一つ整理した方がいい」

 

 

 おお、土井さん、無事だったか。

 ところで物資は?

 

 

「こっちだ。…心配しなくても、滅鬼隊員の服は持ってきている。九葉殿との連携も、即席にしては上出来だ。霊山はかなりの騒ぎになっているぞ。尤も、今は異界が消失した事についての騒ぎだから、本格的な混乱はこれからだろうがね」

 

 

 ふむ。これから滅鬼隊の保管施設が発見される。

 関わり合いがあった奴らは自分達の行為が露呈しないかと肝を冷やすが、そこに居た筈の隊員は一人も残っておらず、もぬけの殻。

 証拠となる資料を始末しようと、あの手この手で刺客を送り込むだろう。

 或いは、まだ誰か残っているかもしれないと、滅鬼隊員を確保しようとするか。

 

 が、本命はその背後。

 禁軍に自首してきた死隠の自供によって発覚する幾つもの不祥事、犯罪、その他諸々。滅鬼隊保管施設に目が向いている連中にしてみれば、それこそ背後から刺されたようなものだろう。

 

 

「…霊山のどれだけの人間が関わっているかね…。あまり想像したくはないな。ところで、これから彼女達を起こさなければならない訳だが……大丈夫かね?」

 

 

 …まぁ、俺の役割よね。少なくとも、清い色恋しようとしている白浜君には任せられんわ。

 目を覚ました滅鬼隊員が妙な事をしようとしたらと思うと、言っちゃ悪いが土井さんじゃちょっと力量が足りない。

 

 

「…中には、自分達がどういう扱いを受けていたか覚えている人も居るかもしれない。自分を洗脳した相手が目の前に居れば、武器に手がかかってもおかしくはない…。それに、私はウタカタの里までついていけないしね」

 

 

 流れ作業になっちまうが、2~3時間もすれば全員叩き起こせるよ。正直、楽しめそうにないな。

 

 

「この人数をたったそれだけの時間で…。………その、なんだ、回復とか休憩とか」

 

 

 残弾無限故問題なし。…野郎を相手にぶかっけせにゃならん事だけが気がかりだけど…。

 

 

 

 

 

 さて、そう言う訳で色気もヘッタクレもないが、コトを始めた。

 ずらっと並んだ、布を被せられているだけの美女達を相手に、ひたすら腰を振る。あまり滾るシチュエーションではないが、ちんちん勃起させるのは自在にできる。後は必要な刺激を受けられるかどうか、それだけだ。

 

 一人目、金髪の女。確か資料には『紅』という名で記載されていた。

 股を開かせ、意識のないまま挿入して、処女膜を破る。相手の意識がないのをいい事に、射精する為だけのピストン。我慢する事もせず発射。

 

 

「……う……ここ…私……?」

 

 

 目を覚ました。俺を発見した途端、視線に熱い好意が籠る。

 だが、悪いが相手をしている暇はない。服を着て、部屋の外に出ていろ。お仲間がそこに居る。

 

 犯した事を謝りもせず、すぐに次の女に向かったが、『紅』は不満も言わずに素直に従った。…あの子も、目を覚ましたのは初めてらしい。処女だったし。雪風と同じで、行動基準が俺しかない状態なんだろう。

 

 

 次、『紫』。

 …浅黄もそうだけど、色の名前が多いんだろうか。資料には人並外れた怪力を持つ、とあったな。

 成程、確かに強烈な締め付けだ。こいつは処女じゃなかったから、目を覚ました事のある個体。

 しかし、やはり洗脳の効果で抗う事すら考えられないのか、命令に従って部屋の外へ向かった。

 次の女に向かう俺と、ずらりと並べられている滅鬼隊員に物言いたげな視線を送っていた。

 

 …まぁ、真面目に訳が分からん状況だろうなぁ。封印される前でも、こんな意味不明な扱いは受けていまい。

 

 

 次、『不知火』。

 溢れ出る人妻臭。他の滅鬼隊員よりも、一回り年上のようだ。

 それもその筈、資料には『雪風』の母親だと書かれていた。だが処女。

 なので、恐らくはそのように調整・設定されているだけなのだろう。

 扱いも酷いもんだが、妙な所に力を入れている。

 

 次、『時子』。

 秘書役らしいけど…誰の?

 

 次、『雪風』………って、お前何やってんだ。

 何? 自分だって子供じゃない? いやそーいう状況じゃないからこれ。

 後でちゃんと正面から話するから、外に出てなさい。

 

 次、『静流』。

 また金髪。髪の色で今更どうこう言わないけど、外国人が居ない時代の日本でこの容姿は目立つのでは?

 …美男美女って時点で目立つのは変わりないか。

 

 次、『舞花』。

 スタイルがいいのが続いていたが、一際立派な爆乳が来た。

 性格はオラオラタイプらしいが、可愛い物好きに設定されている。…だから何でそんな無駄な設定付けるんだよ。

 

 次、『アスカ』。

 何故かこの子だけ片仮名。『浅黄』が完成する前は、指揮官役として使われる事が多かったらしい。

 

 次、『鹿之助』……って男かよ。女と見紛う容姿だけど、フルチンだから間違わない。

 …こいつをネタにしてヌいてかけるのか?

 

 …次、『災禍』。

 この人も秘書役らしい。中出しせずにぶっかけし、残った分を『鹿之助』にかけた。

 二人とも起きたからセーフ。

 『鹿之助』が『災禍』を見てしまったが、ひょっとしなくても滅鬼隊同志で刷り込みが発生してしまっただろうか?

 

 次、『浅木』。

 若い『浅黄』らしい。具体的にはJKくらいの年齢。絶対、実用性度外視で改造したろ、これ…。

 

 次…。

 

 

 



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453話

またしても同じ日の日記が続いています。


 

 

 野郎を含めて、全員起こし終わった。なんつーか、搾精されてる気分だったな。エロい意味じゃなくて、こう機械的に子種を採取されるよーな感じで。

 それでも匂いは漂ってたから、とりあえず消臭玉で消して部屋の外に出る。

 

 

「まさか、本当にこのような方法で起こすとは…。やるとしても、数日以上かかると思っていたのだがな」

 

 

 何故か九葉のおっさんが居た。

 その他にも、目を覚ました滅鬼隊が一斉に注目してきた。流石にこれだけの人数が一気に集中すると圧力を感じる。

 

 幸いと言うべきか、問題に発展するような事は無かったようだ。自分達が封じられる原因となった浅黄をよく思ってない者も居ると思っていた。

 そうでなくても、植え付けられた物であっても好意を持つ男が、すぐ隣室で女を文字通りとっかえひっかえしているのだ。乱入されなかったのは、思っていた以上に洗脳の効果が高いからだろうか。

 

 

 ともあれ、九葉のおっさん、こんな所に居ていいのか? 霊山では今頃、大捕り物劇の時間だと思ってたが。

 

 

「逃げ場所があれば、そうだったかもしれんな。だが、脛に傷を持つ者が霊山から逃げ出したとして、何処に行く。人が暮らせる里は限られている。何より、関わっていた連中は今ではそれなりの立場に居るのだ。泡を喰って逃げ出すくらいなら、捻じ伏せ有効利用するだろうよ。そもそも、私がここに居るのも策の内だ」

 

「…嫌な有能さですね」

 

「出世する人間とはそういうものだ。白浜、貴様もシノノメの里の代表であろう。その程度の腹芸はできなければ話にならん」

 

「いいですよ、僕は本来、半人前のモノノフなんで。この一件が片付いたら、普通のモノノフに戻ります」

 

 

 …戻れるといいね?

 それはそれとして、霊山ってそんなに混乱してないのか?

 

 

「いや、混乱は始まっている。だが、まだ水面下の闘争だな。死隠についても、余計な情報を漏らすまいとあちこちから手が伸びていた。禁軍にも圧力がかかっている。恐らく、数日中に処刑されるだろうな」

 

「ちょっと、助けるんじゃなかったの」

 

「伝蔵さん、口調が伝子さんに戻ってます。あとお白い粉」

 

「処刑された方がよかろう。貴様らが匿ったところで、追及の手が伸びてくるだけだ。例え、ウタカタの里に向かってもな」

 

 

 だから死んだ事にして、こっそり逃がそうって訳ね。少なくとも、表立った追及はそこで終わる。

 エイヨー斎が居ないのもその為か。

 

 

「ふっ、妄想が得意らしいな。好きに考えろ。どの道、既に手は打ってある」

 

 

 言われなくても。

 ところで、お前のお目当ての滅鬼隊員は、結局見つからなかったのか。

 

 

「…いいや、見つかった。だが、使い物にならんだろう。今となっては、逃げ隠れが多少上手いだけの一般人に等しい。私の事も覚えていないだろうな。姉を探すという動機も…」

 

 

 …代わりの『姉』が出来たから、それで忘れてしまったのかね。

 それにしては、俺達に会いに来たりと、色々動き回っていたようだが。

 

 

「気付いていたか…」

 

 

 一般人とは思えない身体能力とか、妙に上手い隠密とか、色々引っ掛かる点はあったけどな。

 

 初めてあの施設で滅鬼隊を見つけた時、誰かが出て行ったような痕跡があった。

 浅黄がさっき言っていた、妹が居ないという発言。

 それに何より、詩乃…死隠が、自分と同じくらい起きて活動している滅鬼隊の生き残りを見つけた、と言っててな。

 

 

 

 

 あの、美柚って子だろう?

 『浅黄』の本来の妹なのかは知らないが、あんたが調査の為に送り込んだ間諜。滅鬼隊としての名は『桜』。

 幼い体で改造されて、封印された。

 あんたの使命を果たそうって使命感なのか、姉を助けなければいけないという衝動なのか、それとも単純に幸運か…。

 一人だけ封印が解けて、施設から逃げ出した。

 その後は、文美さんに拾われて美麻と姉妹になる。あの二人、似てないなーとは思ってたんだ。

 

 

「…妄想の逞しいやつだ。それだけ妄想できるなら、少しは堅実な事を考えろと言うに」

 

 

 ま、確かに単なる想像だね。あの二人に、血が繋がってますかって聞くのもなんだし。

 

 

「ふん、確かめた所で今更意味は無いわ。だが、確かに貴様らは約定を果たした。異界消失を実現させ、私の裏の目的だった部下すら発見した。 借りは返さねばならぬな。シノノメの里への援助、ウタカタの里への移動、そして目を覚ました滅鬼隊への援助。間違いなく果たそう」

 

 

 

 頼むぜ。…っと、そうそう、もう一つ聞いておく。

 グウェンって名前の西洋人を知らないか?

 直葉ちゃん…ああ、グウェンの友人から聞いた話じゃ、何処ぞに強化合宿に行ってるそうだが。

 

 あー、何だっけ、宝剣……なんか小難しい名前の西洋剣を持っていて、そいつが西洋竜に似た鬼を呼ぶんだが。

 

 

「ふむ、知ってはいるが?」

 

 

 惚けるなよ。世話して手駒にしようと思ってるだろ。それならこっちに寄越せ。あの竜も、今となっては大して手古摺る相手じゃない。

 無論、無償でとは言わん。

 

 そうだな…虚海が持ってる触鬼の触媒の隠し場所でどうだ?

 そういや、滅鬼隊が保管されてた施設の地下で、触鬼っぽいのが居たな。叩き斬ったけど。あいつもこの研究の関係者かね。

 あのポンコツの目的は過去への帰還だし、人体実験やら何やらに関わる理由は薄いと思うが…。

 

 

 

「ふん、とんだ食わせ物だな、貴様。まぁいい。想定内だ。確かに虚海は滅鬼隊研究に関係している。奴の目的については初めて知ったが、合点がいった。滅鬼隊の素体となったのは、ただの人間以外にも居たという事だ」

 

 

 …? 鬼との混血、とか? あいつも似たような状態になってるし。

 

 

「いいや。私も伝聞で聞いただけで裏を取った話ではないが、滅鬼隊の始まりは一人の記憶を失ったモノノフだったと聞いている。200年以上前にどこぞの遺跡で発見されたそのモノノフは、我々とは違う技術を持ち、異なる言語を操り、そして人とも鬼とも違う異形の体を持っていたと言う。発見された当時は、その場で討伐されかけたらしいがな。大方、捕らえられたのだろうが…そ奴は、この世界とは全く違う世界で…産む…いや、製造された、人造の人間だったらしい。そ奴は鬼と同様、人のミタマを喰らって力に変える能力を持っていたそうだ」

 

 

 …どっかで聞いた話だな。しかもこの世界で。いや俺の事じゃなくて。

 でも、あいつは異形の体なんて持ってないよな…。目や髪の色はともかく。

 

 

「そのモノノフは、特別な鬼を探して仕留める事を使命としていたそうだが、この辺りの事はよく知らん。霊山が奴に何を教わったかも、な。奴に協力するつもりだったのか、異界の技術に魅せられたのか…大方後者だろうが、霊山は密かにそのモノノフを研究した。それが滅鬼隊の始まりだそうだ。虚海は、異界の技術…正確には、異界から移動する技術に強い興味を持っていたようだ」

 

 

 異界を移動できるなら、時間だって移動できるだろう、か…。

 そんなもんかねぇ…。

 

 

「尤も、その技術は研究されていないと知るや、あっさりと見限ったようだが…。霊山が密かに捜索を行った結果、そのモノノフと同じと思われる者は何人か見つかった。その殆どが忘失していたらしい。己が何処から来たのか、何者なのかも知らず、戦う術すら忘れ、異形の体を隠して生活していた。それを拉致して研究を続けた結果、いつしか滅鬼隊製造の為に人攫いや人を使った実験、改造が許容され初め、その挙句に徒に人を弄び、欲望を満たす事だけが目的の集団と成り果てたのだ」

 

 

 それで作ってるのが国営ちんぽケースじゃなぁ…。人倫以外の色々な事が酷すぎるぜ…。

 で、話を戻すけどグウェンは?

 

 ああ、虚海が持ってる触媒は、ウタカタから来たの雪原、結界石の洞窟に隠されてるぞ。自分でも持ち歩いてるだろうが、多くて2~3個ってとこだろう。

 何なら、ウタカタに行った後にこっそり盗んでくるけど。代わりに子供の玩具でも埋めておくか。

 

 

「止せ。下手に動くと勘付かれて逃げられる。何より、貴様らはこれから虚海のみならず、陰陽寮にも目を付けられる事だろう。軽挙は慎む事だ」

 

 

 …そうか、そりゃそうだな…。ウタカタにも陰陽寮関係者が居るし。

 茅場に頼んで、なんか根回しでもしてもらおうかな。

 

 

「グウェンはモノノフとしての強化合宿に向かったのは事実だ。今のままでは、あの鬼に翻弄されて捨て駒にすらできん。使えたとしても、いつ起爆するか分からん時限爆弾程度。どのみちそろそろ終わるころだ。機を見てウタカタに向かわせよう」

 

 

 

 

 …他にも、色々と打ち合わせした。凄い勢いで話が進んでいくが、積み重ねたモノが一気に堰を切って溢れ出したような感じだな。

 この半日程度でも、俺が居なかった場所で色々なドラマと言うか面倒事と言うか丁々発止の遣り取りがあったんだろう。人を動かすって、こういうことなんだよなぁ…。

 

 

 

 

 さて、とにもかくにもデカい山場を一つ越えた訳だ。

 そうなると、どうしたって今のままではいられない。大きく変わる状況に、適応する必要がある。

 

 ほんの少しだけの猶予の間に、滅鬼隊達の今後の身の振り方を考えさせ、詩乃と密かに合流し、行き先であるウタカタでの生活もある程度準備して…。

 

 

 

 そして何より、白浜君達と別れるかどうかの決断をしなければならない。

 

 白浜君は俺の弟子みたいなものだが、それ以前にシノノメの里の代表で、シノノメの里所属のモノノフで、そして一人の人間だ。

 モノノフとして形になる程度には鍛えたし、俺の元から飛び出して自力で歩んでいきたいというなら、それでもいい。まだまだ鍛え足りないが、そういう時期は実力に関わらずやってくる。正式な師匠と言う訳でもなし、遠からず離れると言う事はお互いに了承して、今までやってきた。…あの子の事だから、忘れてると思うけど。

 

 

 ついでに言えば、イイ感じになった女の子と一緒に居る為に霊山に残ると言うなら、それも有りだ。俺の弟子らしく欲望に忠実で、実にイイ。

 

 

 このまま里に戻る選択肢もありだ。決して不義理な事ではない。

 むしろ、シノノメの里はこれからが大変な時期だ。ようやく霊山との繋がりを確立して支援を受けられるようになったものの、その霊山が今から大混乱に陥ると言うか叩き落される予定だし、それを差し引いてもシノノメの里は大変な立場にある。

 やっといて何だけど、異界を幾つも浄化させて…少なくとも今まで行き来を阻んでいた異界を一つ浄化させた張本人が居た場所。

 何年も孤立しながら、独自の技術と宝玉という資源を用いて生き延びた場所。

 超界石という謎の石が設置してある場所。

 

 当初、シノノメの里が政争の場になるのは避けたいと思っていたが、ここまで来ると否応なしにその舞台となってしまうだろう。

 それを防ぐ為、或いはそうなってしまった時の為、故郷に一人のモノノフとして帰る事を誰が責められる。

 …まぁ、そうなってしまったとしても、あの里長が居る限りやられっ放しって事はまず無いと思うけども。

 

 土井さん達は、多分里に戻るだろう。あの人たちは、その辺割り切っている人達だ。

 優先すべきものを既に定め、その為に迷いながらもブレずに動く。

 仮に俺と一緒にウタカタに向かうとしたら、その方がシノノメの里の益になると思う時だけだ。

 

 俺としても、シノノメの里への義理は果たしたと思っている。

 俺のお陰で霊山まで来れた…なんて恩を着せる気はないが、それを言っても許されるだけの貢献はしたと思っているし、何だかんだで援助だって引き出せた。

 

 ……まぁ、何だ、明日奈と神夜を引き抜く対価、そして雪華達を喰っといて放置している対価として考えれば、安いもんかな…。

 

 

 

 

 

 

 一通りの打ち合わせを終え、九葉のおっさんは職場に戻っていった。禁軍に居る詩乃は、明日の昼までにこちらに向かわせるそうだ。

 俺が九葉のおっさんと話している間に、滅鬼隊は白浜君達に色々と話を聞いて、今後の身の振り方を決めていたらしい。

 

 全員、俺と一緒にウタカタの里に来る事を希望している。

 

 

 ……いや…別にいいというか、ほぼそのつもりで準備してたけどさ…。一人の例外もなく?

 

 

「例外も無く、よ。無条件にではないし、それぞれ考えはあると思うけど。率直に言えば、拒否したところで行く当てもないのよ」

 

 

 俺のボヤキに浅黄が答える。まぁ、確かにその通りだわな。

 封印される前は使い捨ての道具扱いされ、まともな伝手を作れていたかも怪しい。それが作られていたとして、残されているかはもっと怪しい。

 

 で、条件って何だ? あんまり無茶振りが過ぎるようなら、同行を拒否していると見做すが。

 

 

「あなたに対する条件ではないわ。条件は一つだけ。私が指揮官の地位を降りる事よ。…封印前の事を覚えている子は殆ど居なかったけど、単純に信用できないって事でしょう。…それだけの事をしたのだから」

 

 

 まぁ、なぁ…。植え付けられたものと知りながら、私情で希望的観測に縋り、皆を封印させる事態にまで追い込んだ…。

 頭に据えるには、不安しかないわ。

 

 

「元々、自分でも適任とは思っていなかったし、私的には問題ないわ。ただ、代表者は私になったから」

 

 

 …? どういう事だ?

 

 

「目覚めたばかりの子達は、右も左も分からない状態の子が多い。以前に目を覚ました事のある隊員も、任務で聞かされた以外の事は殆ど知らないわ。要は世間知らず、経験不足なの。人と接するのに気後れしている子も居る」

 

 

 ああ、目覚めたばかりの雪風状態って事ね。俺以外の人には怯えるし、人込みを見て目を白黒させてたし。

 成程、指揮官としては信用できなくても、外部の人間との経験を考えると、一番適任だったのがお前だったって訳か。

 

 

「そういう事ね。私からあの子達に命令する事はなくなったけど、皆の意思を纏めてあなたに伝えるのが私の役目」

 

 

 …ん?

 

 ちょっと待った。そうなると、滅鬼隊はどうなるんだ? 別にモノノフとして戦えとは言わないが、働きもせず飯が食えると思ってもらっても困る。

 援助はするが、食い扶持は自分で稼いでもらわなきゃならんぞ。少なくとも、その為の努力はしてもらわんと。

 

 

「当然よ。皆だって……まぁ、多少は怠け癖のある子も居るけど、ずっと養われていられるだなんて思ってないわ。滅鬼隊としての活動は続ける。これまでのように霊山の暗部に使われるのではなく、独立した傭兵部隊としてかつどうするわ」

 

 

 傭兵ねぇ…。まぁ、確かに常人よりも優れた基礎能力を持ってる奴らみたいだから、悪くはないと思うが。単純に戦うなら、多分雪風でさえそこらのモノノフより強いし。

 しかし、それこそ大丈夫なのか?

 傭兵に求められるのは、腕っぷし以上に世渡りの上手さだろ。世間の事を知らないどころか、まともに人と交渉した事すら無い連中が殆どだろうに、どうにかして行けるのか?

 それに、団体で傭兵になるならそれこそ指揮官役が必要になると思うが。

 

 聞かれた浅黄は、妙に綺麗な笑顔で…それこそ脳裏に嫌な予感がビンビンするような…顔で、俺の両肩に手を添えた。

 

 

「これからよろしく頼むわね、『お頭』」

 

 

 ちくと待てい。

 おいが頭か!? 聞いておらん!(お豊様感)

 

 

「そう? 必然だし、自然な流れだと思うけど。私達を起こす為に、お嫁にいけない体にしたでしょ。…別に責めてる訳じゃないわ。でも忘れてない? 滅鬼隊の女は、自分を起こした異性…つまりあなたに好意を抱いているのよ。右も左も分からない状態で誰に従うかと言われれば、そりゃ植え付けられた感情であっても好きな人に縋るわよ。男性隊員は…行く当てもないし、様子見のつもりかしら。そもそも、あなたは私達を連れて、ウタカタの里まで赴くつもりなんでしょう。なら、立場的にも集団の長と言えるわ」

 

 

 うぐ……た、確かに…。

 知能・滅鬼隊の代表格みたいな浅黄の癖に、しっかり理屈通してきやがって…。

 

 

「…否定できる立場じゃないけど、お馬鹿さんの代名詞に滅鬼隊を使うのは辞めてくれないかしら…。言い訳に思えるかもしれないけど、かつて失敗が多かったのは、半分以上は運用そのものが劣悪だったからよ」

 

 

 うん、それは分かる。連携もさせない、過去の経験も共有しない、使い捨て前提の運用じゃ、育つものも育たないわな。

 と言うか、明かに途中から人を弄ぶ事自体が目的になってたからな…。

 

 しかし、過去の記憶を持っている子も居るんだろ? それこそ、また人に使われるのは御免被るんじゃないのか。

 

 

「構わないそうよ。滅鬼隊を使っていた連中と違って、私達をしっかりと運用してくれそうだからね。正直な話、以前ほど酷い雇い主でなければ、大体の事は我慢できると思うわ。それに、自分達では今後の生計を立てられるだけの見通しが無いのは自覚しているし

 

 

 そりゃまぁ、戦力として換算する以上、補給や手入れを怠るつもりはないけども。

 …ああ、それすらやってなかったのが、前の運用元と…。うん、改めて思うけど失敗だらけなのも無理ないわ。

 

 

 はぁ…。ま、仕方ないか。封印から引っ張り出したのも俺達だし、個人的にも戦力は欲しい。戦ってくれるというなら御の字だ。

 …これからは、しっかり失敗も共有して、経験を積んでいけば、強力なモノノフになるだろう。

 

 

 差し当って、問題は…痴情の縺れを防止せんとな…。雪風も後で相手するって言っちゃったし。まぁ、眠気に耐えられずにもう寝てるけど…。

 



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454話

はい、そういう訳で退魔人改め滅鬼隊が目を覚ましました。
人数と内訳については深く考えていません。
適当に脳内補完でお願いします。

主に登場させるキャラクターは、時守の退魔忍RPGで主力級のキャラからですかねぇ…。
どうしても登場させるというか濡れ場書きたくて、無理に持ってくるキャラも居ると思いますが。


具体的にはきらら先輩とか。お招きできなかった悔やみ、ラブネチャグチョの濡れ場にぶつけて晴らしてくれる…かなーり先になりますが。

にしても、とうとう紅がふうま君に接触しましたねぇ。
乙女になっちゃってまぁ。
さて、紅はお招きできてないけど、書きたいんでそのうち…。


堕陽月伍日目

 

 

 昨晩は、滅鬼隊も白浜君達も含め、全員が隠れ場所で雑魚寝した。

 退屈だの何だの文句は出たが、浅黄が命じれば素直に従う。…指揮官の地位を降りるよう要請された筈だが、文句も出ない。恐らく、指揮官の個体に逆らわないよう調整されているんだろう。

 

 意外な事に、彼女達のリーダーシップを取っているのは雪風だ。人見知りするタチだったが、同じ滅鬼隊だから警戒心が沸かないのだろうか。

 積極的に彼女達に…彼等にも…話しかけ、現在の霊山で見たアレやコレやを語っている。語り方は、完全に子供の自慢話だが…。

 

 と言うか、雪風は完全にマスコット扱いされているようだ。

 ……どっかで見た構図だなぁと思ったら、まんまウタカタ住民が和穂を見守る目だよコレ。「お姉さんなんだからね!」と言いつつ、おしゃまなお嬢ちゃんとして扱われている。

 まぁ、殆どの滅鬼隊員は記憶がないから、雪風の方がまだ人生経験を積んでる筈なんだけどな…。単純に雰囲気の問題か。

 

 

 

 

 一方俺はと言うと、白浜君と今後どうするのか話し合っていた。

 予想通り、土井さん達はシノノメの里に戻って尽力するつもり。問題は白浜君だ。

 

 正直な話、シノノメの里に戻るだろうと思っている。

 白浜君に宿っているミタマ、牡丹は何だかんだ言って里の重鎮だ。前お頭こと両さんが戻ってきても、それは変わらない。

 今は外交の為に霊山にやってきているが、里を出ていく事は考え辛かった。

 

 かといって、牡丹だけ霊山に戻っては、白浜君のミタマが居なくなってしまう。

 幾ら何でも、まだタマフリ無しで戦える程、彼は強くない。だったらそれこそ、手元に置いて鍛えるべき…か?

 いやいや、結局は本人の意思だ。

 

 

 

 話をした時は、こうも唐突に選ぶ時が来るとは思っていなかったようだ。分かれるにしても、シノノメの里に報告に戻って、諸々の手続きが一段落してからだろう…と思い込んでいた。

 しかし人生なんてそんなもんである。一寸先は闇、これに勝る真理は無い。

 

 白浜君は懊悩している。牡丹にも相談しているようだが、決定的な理由は見つからないようだ。

 シノノメの里に戻るか。霊山に残るか。ウタカタの里へ行くか。

 どれを選んでも、多分結果は同じだ。あの時こうしていたら、と後悔して、その選択肢で得た物を大事にして、一寸先の闇を手探りで進むだけ。

 

 答えが出るまでしっかり付き合ってやりたいところだが、どの道昼には詩乃と合流するし、出発の準備もして、遅くても明日の朝には出発する事になるだろう。その時までに答えを出すよう伝えて、俺は離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼。ハッポ斎が詩乃を連れてやってきた。

 詩乃はいつもの黒髪+眼鏡ではなく、何故か青髪になっている。…ああ、これが暗殺の時の恰好か。

 

 おう詩乃、無事だったか? 看守とか取り調べ役に乱暴されたりしてないか?

 

 

「いい加減、八方斎と呼ばんか…。どいつもこいつも人の名で遊びよってからに…」

 

「大した事はなかったわ。ちょっかいを出そうとしていた気配はあったけど、その前に横槍が入ったもの」

 

 

 ふむ、何事もなかったようで何より………なんか機嫌よくない? ……微妙に笑顔に黒いものが混じっていますよ?

 

 

「…悪くはないわ。自由を満喫できそうだし、面白いものも見れたもの。……滅鬼隊の皆は?」

 

 

 中でわちゃわちゃ食っちゃべってるよ。悪いけど、まだ外に出てもらう訳にはいかん。差し当たり、飯食って体の動きを確認してもらってる。

 好きに行動してもらうにしても、せめて霊山から離れてからにしたい。

 

 

 ところで、面白いものって?

 

 

「………あいつが禁軍にしょっぴかれるところ」

 

 

 …あー…。術で乗っ取った時に気絶させて、そのままにしてたっけ。

 で、禁軍に行ったらそいつの情報を真っ先に喋って確保に向かわせたと。

 

 

「無様に喚き散らしていたわよ。自分が誰なのか分かっているのか、切腹させるぞ貴様ら、って。証拠もとっくに抑えられて、持っていた権力も剥ぎ取られている自覚もなし。お仲間…自分と同じように連行される連中の顔ぶれを見て、真っ赤だった顔が段々青くなっていってね。滑稽極まりなかったわ」

 

「それを眺めていたからと、儂まで巻き込んで影で見物していたのだ、この小娘は…」

 

 

 ニヤリと笑う詩乃は、黒いって言うかむしろサディスティックだった。

 …これ、長年の鬱憤が溜まっていたからだと思ってたけど、元々の素質もかなりあるな…。

 まま、ええわ。他人に対してはともかく、俺に対しては虐められて悦ぶように躾けるつもりだし。

 

 で、詩乃。例の計画、本気でやるつもりか?

 

 

「勿論。これまでの屈辱を10倍返しにしないと気が済まない」

 

 

 無駄に危ない橋を渡る事になるし、正直趣味じゃないし、何より時間が勿体ないんだが……まぁ、それが協力の条件だったしな…。

 こっちの荷造りとかの準備も、山本先生とかに任せてればいい。

 無理に俺がここに居る必要もないか。…一応、俺が居なくなった途端に好き勝手しないよう、滅鬼隊に声をかけておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて…行くか。

 

 

 

 

 

 

 夕闇に紛れて霊山に戻る。朝っぱらから派手な逮捕劇があった為か、霊山全体がザワついているようだ。

 詩乃も仮にも元暗殺者、隠密行動はお手の物だ。

 それ以前に霊山のお偉いさんたちはかなり混乱しているらしく、入り込むのはそう難しくない。

 

 さて、詩乃の用事に付き合う前に、ちょっと行っておくところがある。

 

 

「? 別にいいけど…。本命さえ果たしてくれれば」

 

 

 大した事じゃねーよ。霊山から出る事になったから、知人に挨拶に行くだけだ。

 お前が間違えて撃ち抜きそうになった子もその一人だ。

 

 

「う…。……開幕土下座でいいかしら…」

 

 

 今は時間が無いから、その辺の事は黙っておけ。…完全に色ボケにしちまったから多分、おかげで俺と結ばれる事ができた…なんて言われて複雑な気分になるぞ。

 狙撃手の死隠が自首した事で、狙われる危険も無くなってるしな。

 

 

 道場までやってくると、そこはまだ禁軍によって閉鎖されたままだった。

 狙撃犯は自首したが、まだ現場検証が終わってないのか、脱走して再襲撃されるのを警戒しているのか。

 

 

「さぁ、それはどうかしら。私は自害した事になってるし。『もう使われるのは御免』って遺書まで残したわよ」

 

 

 芸が細かいな…九葉のおっさんの指示か?

 まぁいいけど。さて、直葉ちゃんと桐人君は…。お、居た居た。

 おーい、お二人さん。

 

 

「あれ、兄貴? えっと…入って貰ってもいいですよね? この人も、狙撃を受けた時に一緒に居た関係者ですし」

 

「いらっしゃい!」

 

 

 入れていいかと確認を取る桐人君を他所に、飼い主が来たワンコみたいに擦り寄ってくる直葉ちゃん。

 俺の顔を見るなり淫紋が光り、他の男に気付かれない角度で雌の顔を見せて媚びてくる。すぐにでも押し倒して、そのいやらしい体を衆目に晒してやりたい衝動に駆られたが、我慢我慢。今は他にやる事がある。

 視線で制すると、残念そうな顔をしたが素直に普段の態度に戻った。

 

 

 突然すまんな。ちょいと急ぎの用事ができたんだ。

 

 

「用事…? 任務の手伝いとかですか? 俺でよければ、出来る限り力になりますけど。………あ、あと、そっちの女性は…?」

 

「意外と、私に会いに来てくれたり?」

 

 

 直葉ちゃん、ある意味正解…かな。色気のある話じゃないけどね。

 唐突だが、俺達は霊山を離れる事になった。

 

 

 

「「…………は?」」

 

 

 二人は俺と、何故か詩乃を交互に見た。

 

 

 

「「駆け落ちですか!?」」

 

 

 違う。いやある意味間違ってないけど、どっちかと言うと集団夜逃げが正しい。

 

 

「いやいやいやいやいきなりどういう事ですかこのままじゃ直葉と結婚してもらって本当の義兄弟になろうという俺の完璧な計画がそれに俺達って事は兼一もですかなんでですか借金ですか刃傷沙汰ですか人妻にでも手を出しましたかそれとも横領」

 

「お兄ちゃん、全然気づいてないんですよねぇ…気付かれてもいいかな、って思ってたんですけど。駆け落ちだったら、私もついて行きます」

 

 

 だから違うって。

 うーむ、完全にパニックになっとる。桐人君だけが。直葉ちゃんはむしろ落ち着いてるなぁ。

 

 

「…何処に行っても、心は一緒ですから」

 

 

 …ちょっとジーンと来そうになったけど、これの意味って淫紋刻んで魂ごと虜にしてるから、何処に行っても呼び出してセックス可能って意味だよね。

 チラッと淫紋見せてるから間違いない。何より表情がクッソエロかった。これ、明日奈以上の肉食系っつーか肉欲系だよ。

 心配せんでも、ウタカタに行っても好き放題に弄んでやるでぇ…。

 

 

 ともかくな、ちょっと危険な揉め事に首を突っ込んでたんだが、それが目出度く解決したんだ。

 

 

「解決したならいいじゃないっすかぁ! 最近、ようやく女性恐怖症も治って来た感じがするのに!」

 

 

 それ俺が居なくても関係なくね?

 

 

「相談できる人が兄貴以外に居ないんすよぉ! 他のモノノフに相談したことあるけど、腑抜けを見る目で鼻で笑われるか、からかわれるばっかだったんすよぉ!

 

 

 …人間関係に恵まれねーな、この子…。恵まれてたら明日奈に喰われかけとらんか。

 

 ともかく、俺一人ならどうとでもなるし、白浜君やシノノメの里から来てる人達も、大抵の事は対処できる。

 ただ、集団で面倒みないといかん奴らが出てきてな…。 

 真面目な話、桐人君だって今の生活を捨ててついてくるって訳にもいかんだろ。

 

 

「私は別に構いませんけど」

 

「直葉!? …あ、いや、別に反対してる訳じゃなくて…その、道場とかどうするんだよ」

 

「そこは人に任せればいいし。今だって、管理人って言っても大した事してる訳じゃないもの。お父さんやお母さん所縁の場所ではあるけど、思い出は私達の中にあるし。…お兄ちゃんは、一緒に行きたくないの?」

 

「いや俺だって行きたいけどさ…。色々とほら、責任とかな? モノノフとしても見直されてきて、そろそろ上位に行ける見込みが…」

 

 

 ほう、それは目出度い。

 が、行く先は女性比率9割9分以上の超女社会が、大丈夫なのか?

 

 

 

「…………(汗)」

 

 

 

 固まってしまった。流石に無理ないよなぁ…。明日奈も居るし、直葉以上のセックスアピール増し増しのセクシー集団だもの。

 女性恐怖症にはキッツいもんがあるだろう。

 

 真面目な話、将来はともかく、今は連れて行く訳にはいかんのよ。

 さっきも言ったが、面倒を見ないといけない奴らが集団で出てきた。具体的には40人以上。

 

 

「よん…小隊並みじゃないですか!? そんなに一気に孕ませるなら、直葉にも手を出して」

 

 

 黙りぃや。

 …ちょっと手加減ミスったけど問題ない。

 

 とにかく、今からそいつらの面倒を見なくちゃならん。図体ばかりでかくて、見た目は桐人君より年上でも、中身は童よりも年下だ。ついでに、あの体じゃ食い意地も張ってそうだな。雪風みたいに。

 正直な話、余分な人間を食わせていける程、先行きがいい訳じゃないんだ。

 あまつさえ、行き先は激戦区と名高いウタカタだ。

 

 …まぁ、上手いことやれば、逆に一旗揚げて、身内を呼び込む事もできそうだけどね。

 

 

「…俺達は、足手纏いですか」

 

 

 そこまでは言わない。。戦力にはなる。その程度には力がある。どうしてほしいか伝えれば、自分で考えてその為に動けるくらいには頭もいい。

 でも、鬼一匹を斬り殺すのと、人間一人に一週間飯を食わせるの、どっちが労力が必要だと思う?

 ウタカタの里だって、食料生産量には限界がある。今は戦力を増やすより、消費量を減らす事が重要だってだけだ。

 箱…人が暮らす家すら、用意されているのか怪しいくらいだぞ。

 

 …ま、何だ、今は連れていけないって言っても、それがずっと続く訳じゃないんだ。

 手紙だって送るし、人を受け入れられるようになったら、受け入れる事だってできる。…その時までに、彼女作って一緒にやってきてくれると嬉しいね。…その頃には、超激戦区になってるだろうけど。

 

 

「むぅ…」

 

 

 納得はしてないようだが、反論もできない桐人君。反面、直葉ちゃんは残念そうではあるけど、食い下がってはこなかった。

 この辺は立ち位置の差だろうなぁ。

 桐人君は自分も戦いたい、デカい事やるなら参加したい。

 直葉ちゃんは、俺が言うなら素直に従います、寂しくても(呼び出して可愛がってくれるなら)我慢できます。

 

 慕ってくれるのは素直に嬉しいが、反面申し訳なさ、後ろめたさもある。俺なんぞの為にそこまで…と、どうしても思ってしまう。やれやれ、こんなんじゃ桐人君に偉そうに説教できないな。

 

 

「ところで、さっきから蚊帳の外にしちゃってましたけど、こっちの人は? ひょっとして、さっき言ってた面倒を見ないといけない人の一人?」

 

「………どうも。詩乃、と言います」

 

 

 直葉ちゃんの疑問に、ペコリと頭を下げて応じる詩乃。鉄面皮で対応しているが、そこはかとなく後ろめたそうだ。

 まぁ、手違いで頭ブチ抜きかけたんだしな…。黙っておくように言っているが、本人を前にするといたたまれなくなってきたのか。

 

 色々事情がある子なんだ。不愛想なのは勘弁してやってほしい。

 そして、本当なら二人に対して真っ先にやらなきゃいけない事もあるんだけど、これまた時間の都合で後回しにさせている。やった事自体はともかくとして、そうさせているのは俺だから、後になって責めるならその辺は俺に言ってほしい。

 

 

「そう言われても、抽象的すぎて何が何だか…。まぁ、皆さんが大変な時期なのはよく分かったし、どうこう言うつもりもないけど…」

 

「よろしく…でいいのかな。あまり近付き過ぎない程度に…」

 

 

 うん、後回しにしたのは俺だって事だけ覚えといてくれれば、後は…当人同士の問題だから。

 

 …現状、出来るのはこの辺りまでか。ただでさえ時間が押しているのだし。

 まーなんだ、とにかく俺と、世話しなきゃならん連中は明日には霊山を出る。

 白浜君がどうするかは分からんが…まぁ、どうするにせよ、一度は顔を出すと思う。その時に話をしてやってくれ。

 

 

 一方的に話しただけで悪いが、時間が無いからもう行くよ。向こうで落ち着いたら手紙を出すから。こんな別れ方で納得できないなら、死別するよりはマシと思っとけ。

 次に会う時までに、腕上げておけよ。気になってる子に粉かけるのはいいけど、それに感けて怠けてるようなら張り倒すから。

 

 

「…兄貴、それ自分で言っててどう思います?」

 

 

 心に! 棚を! 作れ! と思う。

 冗談はともかく、まぁ期待してるよ。霊山で会うか、ウタカタで会うか、はたまた何処かの戦場で会うか…。それまで元気にやりな。

 じゃーな!

 

 

「あ、ちょっ!」

 

「まぁまぁお兄ちゃん、急いでるって言ってるんだし」

 

「いやそうだけど、お前だって一言くらい」

 

「私は大丈夫からいいの」

 

 

 後ろで二人がワイワイ騒いでいるのが聞こえる。色々な意味で後ろ髪を引かれるが、本当に時間が迫っている。

 これからやる事は、お世辞にも大っぴらに出来る作業ではない。ついでに言うと趣味でもない。

 でも、契約は契約だ。

 詩乃も、居心地悪かったのもあるだろうが、『まだか?』と何度か視線を送ってきていたしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、今夜の大一番がやってきた。

 舞台は罪人の居留地。率直に言ってしまえば牢屋だな。

 

 江戸時代の牢屋っつーと、何人もの罪人が一つの部屋に閉じ込められて、そこで牢名主が居て…って想像があるんだが、霊山の牢は少し違った。

 基本的に一つの牢屋に対して一人が収容され、その牢にはいくつもの術がかけられている。タマフリを使えないとか、霊力を抑え込むとか、そういう術だ。

 これはモノノフ用の牢屋であって、一般人用の牢屋は、上記のようなイメージで運営されているらしい。

 

 まぁ、牢屋を使用される事自体、そうそう無いが。

 一晩拘留されるくらいならともかく、長期間牢に入れられるような大罪を犯す人間は少ない。居たとしても、大抵は短時間で裁きが下されて居なくなる。…釈放か、現世から居なくなるのかは状況によって異なるが。

 

 

 ともかく、俺と詩乃はその牢屋の一角にやってきた。

 無論、不法侵入である。見つかったら確実に禁軍にしょっぴかれる…いやそのままその場で牢屋に放り込まれるかもな。

 

 尤も、俺も詩乃もそうそう気配を悟られる程間抜けではない。あっさりと入り込む事に成功した。

 地図は無かったが、詩乃が構造を知っていた。もしも捕縛されてしまった時の為、脱出路を調べておいたそうだ。結局脱出路は使われる事は無かったが、今は逆にこんな事の為に使われている。

 

 目的の場所は、詩乃に先導してもらって見つけた。牢の一角にそいつは居る。

 おあつらえ向きに、周囲には見張りも居ないし、他に牢に入れられている人間も居ない。これは協力して脱走されるのを防ぐ為だろう。

 

 詩乃、見回りの時間は?

 

 

「大丈夫。さっき終わったばかりだから、当分来ないわ。音を漏らさない結界の準備もできてる」

 

 

 やれやれ、可愛げないくらいに如才なく準備してくれる事。ここまで来たら、覚悟を決めますか。

 廊下の端から、目的の牢の中を観察する。

 

 薄汚れた牢の中に、一人の男が座り込んでいた。

 豪奢だったと思われる服は、草臥れ擦り切れた粗末な服に変わっており、何よりも表情がヤバい。

 脱力してへたりこんだ全身、口元から垂れる涎、何もかもを遠くに放り投げたような目。陶然のごとく、焦点は合っていない。

 …現実逃避中かな? それなり以上の立場や資産を持っていたのが、一日も経たずに不正の証拠を抑えられてこのありさまでは、現実を受け止めきれないのもありそうな事だ。

 

 

「…結界は張ったわ。行きましょう」

 

 

 はいはい。

 よう、新川某。気分はどうだい?

 

 我ながら悪趣味だと思う言葉だったが、囚われの身である新川某は全く反応しなかった。これ、意識とか奪われてないよな?と思った所、突然目がぎょろりと動いて焦点が合う。

 その先は、当然俺の後ろから歩いてきた詩乃。

 

 

「あ…あ…あやめぇぇぇぇ!!!!! なにをしているぅ! なぜたすけにこなかったぁぁぁぁ!」

 

「うるさい。無様なものね。ようやっと分相応の位置に落ち着いたとも言うけど」

 

 

 ギャアギャアと声を張り上げているが、声は結界に遮られて外には漏れない。

 

 絶対零度、それこそ汚物よりも汚らしいものを見る目を向ける詩乃。

 だが新川某は自分に向けられている視線に全く頓着せず、鉄格子に張り付き、両腕を隙間から伸ばしていた。当然届く筈もないのだが、それも理解できないのかただただ腕を伸ばして触れようとするだけ。…牢屋の中に閉じ込められたゾンビみたいだな。

 実際、表情も相まって、ゾンビか獣にしか見えなかった。

 

 

「ぅおまぇは、ぉおぉまえだぁけぇはぁぁぁぁ!!!!!」

 

「手放さない、とでも? 冗談じゃないわ、あんたの手元に戻るくらいなら、喉でも突いて死ぬわよ」

 

 

 えらく執着されてるねぇ。その割には、随分と杜撰な扱いをしていたようだが。

 

 

「そういう奴よ、こいつは。最初こそ丁重に扱っても、飽きてしまえばそれまで。便利な道具にしか思わなくなる。確か、こいつを経由して暗殺命令を出してきた奴が、何か言ってたわね…。心の病を患っているとか」

 

 

 精神疾患? まぁ、確かにどう見ても正常な状態じゃないけども。これ、落ちぶれたショックじゃなくて元からなのか。

 …これ、見せつけたら憤死するんじゃねーかな…。

 と言うか、見せられるものを理解できるだけの理性が残ってるんだろうか。

 

 

「残ってるわ、多分。ほら、こうして触れるだけで」

 

 

 詩乃が俺に擦り寄って、もたれ掛る。

 その途端、新川某は全く気にかけてなかった俺に、激しい敵意を籠めて睨みつけて来た。尤も、獣の殺気に比べれば子供騙しもいいところだし、そもそも檻の中に居るので何もできないが。

 

 

「おまえ、おまえかああああ!! あやめになにをしたぁ! おれのものにぃ!」

 

 

 あやめ、どころか『おれのものに』、ねぇ。せめて自分で名前の一つでもつけてやってれば、違った結末もあったかもしれんな。

 

 

「どうでもいいわ。でも、ああやっていつまでも私が自分の物だと思い込まれるのも鬱陶しい。だから…」

 

 

 体を擦りつける詩乃から、じんわりと雌の香りが漂ってくる。片手が懐に入り込み、まだ力が入ってなかった男の象徴を包み込む。

 むくむくと頭を擡げるソレの感触に、詩乃の体温が上がっていくのが分かる。

 

 

「だから、私が誰のものになったのか見せ付けて、しっかり思い知らせないとね。こいつの手には、もう何も残ってないんだって」

 



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455話

結婚した妹が妊娠しました!
来年1月ごろには、名実ともにおじさんになります。
それまで帰省できないのが残念。

あと、そりが合わなかった店長が転勤していきました。
新しく来た店長はまだ店の事がよくわかってないんで、色々負担が増えてますが、何とかやってます。

さて、もうすぐ進撃2finalの発売日。
それまでにギャラリー100%にしたいところです。
多分、やりこみ要素がすっごい手間なんだろうなぁ…。
9月にはMHWアイスが出るし、時期は分からないけど仁王2も出る。
並行して進めて、カンを取り戻しておきたいところです。


「だから、私が誰のものになったのか見せ付けて、しっかり思い知らせないとね。こいつの手には、もう何も残ってないんだって」

 

 

 一度だけ冷笑を浮かべると、すぐにその表情を消し去った。

 と言うより、言葉とは裏腹に、檻の中の新川某には全く興味を持ってないようだ。

 

 待ちきれないとでも言いたげに服を開き、取り出した俺のイチモツを逆手に握ってゆっくりと手を動かす。

 唇を求めてきたので、抱き寄せて応じた。露わになった腹部に手を這わせると、それだけで敏感に反応する。

 その間にも手を止めず、もう溢れてきた我慢汁を指に絡めて塗り広げる。

 

 

「あや、あや、め……やめろ、やめろぉ!」

 

 

 外野の悲痛な声に耳も貸さず、詩乃の体を弄り続ける。最初に抱いた時と比べると、明かに反応が大きい。

 まだ前戯もろくに済ませてないのに、強い快楽を得ているのは明白だ。

 それだけ期待していたのがよく分かる。

 

 俺の首筋に唇を付け、接吻の跡を残しながら、詩乃は徐々に下へ向かう。

 体を屈めながら、積極的に奉仕しようとしている。乳首に吸い付き、腹筋をなぞるように唾液の跡を残し、胸や股間を俺に擦りつけて、マーキングしようとしているようだ。…いや、逆か。俺の匂いを、自分の体に少しでも刷り込もうとしている。

 股を開いて座り込むと、自ら弄りながらヌルヌルとした光を帯びるイチモツに顔を擦りつける。

 

 こっちからは接吻くらいしかしてないのに、もうそんなに濡らしてるのか。俺のちんこの匂いがそんなに好きなのか?

 

 

「好き…。ずっと、嗅ぐのも目にするのも嫌だったのに、たった一度抱かれただけで、何もかも覆ったわ。もう、これ無しじゃ生きていけない。顔を寄せただけで、頭の奥まで痺れるような匂いで一杯になるの…」

 

 

 ちゃんと洗ってるんだけどな。愛液の匂いでも染みついてるんだろーか?

 それとも、詩乃が感じている錯覚か、フェロモンの類か。女を狂わせるオーラみたいなのが出てるって言われたこともあるな。実際出せるし。

 ま、何にせよ、詩乃がコレに首ったけになっているのは間違いない。当てつけの為に、多少演技が入っているかもしれないが。

 

 うっとりとした表情で、我慢汁の残滓で顔が汚れるのも構わず頬擦りする。その感触と香りをネタにして、今も自慰を続けていた。

 楽しんでいるようだが、俺がここに居るのに自分でさせるというのも味気ない。

 靴を脱ぎ、足の指先を差し出すと、承知したと言わんばかりに指を退けた。

 

 足で弄られるのも好きとは、たった一度抱いただけでとんだ変態になったもんだな。

 前の時は、必要だからと言ってもまぐわいは嫌がっていたのに。

 

 

「だって…気持ちいいと思った事なんか、っぁぁ、全然っ、無かった、もの…! なのに、あなたにあんな事っ、されてっ! 大きくてっ、苦しくてっ、酷い事なの、にっ、気持ち、よくてっ、夢中でっ!」

 

 

 ああそうだな。最初は詩乃も一度だけで終わらせようと思ってたみたいなのに、もう一回、もう一回ってねだって、最後は媚びて自分から足の指まで舐めてたくらいだしな。

 全く…淫蕩な性質なのは元々みたいだが、それを加味してもよくここまで欲求不満を募らせたもんだ。

 

 …しゃぶっていいぞ。

 

 

「~~~~!!」

 

 

 スンスンと鼻を鳴らし、グリグリと弄られる秘部の感触に悶えていた詩乃は、許可を出すと我慢できないとばかりにむしゃぶりついた。

 胸を太腿に擦りつけ、見栄もへったくれもない強烈な口淫。故意に大きく音を立て、口を窄めてまだ拙い技術を駆使して奉仕する。

 

 

「あ、あや……め……俺には……そんなこと…は…いちども…」

 

 

 最初は完全にされるがままだったよな、詩乃。楽しみ方を知らない、気持ちよさも知らない、仕込まれてる技術も稚拙でどうしたものかと思ったが…。

 

 

「んっ、じゅぶ、ズズ、だからっ、全部っ、染めてくれたんでしょっ、んん! あなたを気持ちよくする動き方もっ、私が良くなる為の感じ方もっ、全部、あなたに、もらったのよっ」

 

 

 あっさり塗り潰されちゃってまぁ、チョロいと言うか交合大好きで気持ちよくなる事しか考えてないというか。

 ま、いいか。都合のいい女に自分からなるってんなら、止める理由はない。

 

 

「いいわ、いつでもっ、使ってっ、あなたになら、あなたが抱いてくれるなら、都合のいい女でも、単なる穴でもいいのっ」

 

 

 自分を貶める言葉を自ら吐きながら、詩乃の奉仕は続く。いや、奉仕ではなく欲望に溺れて、俺を貪ろうとしているのか。

 彼女の言葉は当てつけの為のもの。自分をいいように使い潰そうとしていた男をより深く傷つける為の演技。

 だが、全くの嘘と言う訳でもないようだ。

 

 抱かれた事で情を感じたのか、今まで知らなかったオーガズムを教え込んだためか、或いはどうしようもない状況から拾い上げた事での吊り橋効果の類か。

 何にせよ、言葉にした事で詩乃の口淫に更なる熱が入り、それを感じる俺も急速に昂ってくる。

 肉棒が口の中で膨らんだ事を感じた詩乃は、最後の一線を決壊させようと、思い切り音を立て、息の続く限り強烈なバキュームを繰り出した。

 

 昂ぶりを引き留めていた綱を強引に引きちぎられたように、熱い感触が昇ってくる。引き留めていたそれを、逆に後押ししてぶちまけた。

 

 

 詩野の中に吐き出された白濁は、肺の中の空気を殆ど使い切っていた彼女が受け止めるには多すぎた。

 口の中に貯め切る事もできずに、限界を迎えて顔を離す。それでも射精は止まらずに、詩野の頭から腹から足まで、全身に降りかかった。

 

 

「っ………す、 っごい…量も、濃さも、信じられないっ…」

 

 

 恍惚として、ぶっかけられただけで小さな絶頂に身を浸す。

 受け止めきれないのも当然だ。量も濃さも定評のある俺だが、今回は見せつけるのが主目的なので、普段の倍近い量を放出した。勿論、濃さだってキンタマの中で凝縮していたので、粘液と言うよりは半ば個体染みた代物になっている。

 口の中で飴を舐めるように転がし、全身に浴びた白濁を塗り広げる詩乃。

 

 勿論、それだけ射精しても、剛直は勢いが衰える事等ない。

 そもそも残弾無限な上に連発OKなので、幾ら射精しても関係なかったりする。むしろ、一気に出す量を増やした方が気持ちいいし気分もいい。普段やってないのは、全開で射精しまくってると、お相手の方が気絶してしまうからである。

 

 そんな訳で、まだまだ滾っている肉棒を見て、期待に股間を疼かせる…いや、子宮を降ろす詩乃。

 絶頂したとはいえ、まだまだ軽いものでしかない。体は疼きっぱなしなのが見て取れる。

 力が上手く入らないのを堪えて詩乃は立ち上がり、正面から抱き着いてきた。俺が吐き出した白濁の感触も残っているが、女の肌の前ではローション代わりにしかならない。

 

 

 顔を間近に近づけてきて、おもむろに口を開く。その中は、俺が吐き出した白濁と、千切れた陰毛が入っている。

 口を閉じてモゴモゴと動かし、3度嚥下。もう一度口を開いた時には、陰毛も綺麗に呑み込まれていた。

 直前まで自分の精液があった場所だが、気にせず口付けて舌を絡める。軽く足を突き出してやると、それを両足で挟み、股を擦りつけて自慰に耽り始めた。

 

 もうこれ、完全に出来上がってるな。新川某に意趣返しって事も忘れていそうだ。

 横目でチラッと見てみると、膝をついて呆然としているのが目に入った。あとオッキしているようだが、欝勃起かな? どっちにしろ、サイズはお察しだ。

 

 

 ようやく自分が見捨てられた、絶対に自分から離れない筈だった女を寝取られたと理解した絶望の視線を感じる。

 寝取りも、奪われた男にそれを見せ付けるのも趣味じゃないと思っていたが、ちょっとばかり優越感とか愉悦とかを感じなくもない。

 

 

 それに対して何か思う間もなく、余所見をしないでとばかりに詩乃が抱き着く力を強くする。応じて膝を小刻みに揺すってやると、堪らないとばかりに声を漏らして喘ぐ。

 

 嬲るように股間を足で刺激し、乳首や淫核を軽く引っ掻いて、もう一度絶頂寸前まで押し上げる。

 あと一息で達するのに、そこで手と足を止められた事に避難がましい視線を送られたが、尻を鷲掴みにして狙いをつけると、途端に待ちきれないと表情を崩した。

 

 

 詩乃、どう犯されたい?

 

 

「思いっきり、激しくして。一番奥まで、貫いて! 初めておちんぽ様で奥を抉られた感触が、忘れられないの! 短小おちんぽの事なんか一発で忘れさせちゃう、この女を善がらせて支配する為のおちんぽ様で、一番大事な所を無茶苦茶に突き刺されたいの!」

 

 

 結界を超えて声が漏れそうな叫びに合わせ、要望通り一気に奥まで潜り込む。

 芝居も演出も一切ない、雌の悦びに満ちた声が結界内で響き渡る。容赦なく腰を振って、要望通り一番奥を乱暴に抜き差ししてやると、それだけで何度も上り詰める。

 ピストンと痙攣で詩乃の体が震え、スレンダーながらも形のいい乳房がブルブルと振り回された。それを正面から鷲掴みにし、芯までほぐす様に揉んでやる。

 

 犯され続けて体から力が抜け、傾く体を支えてやる。立っていられない程感じて脱力しているのに、秘部だけは俺から精液を搾り取ろうと際限なく蠢き続けている。

 表情は悦楽でだらしなく溶け切り、意識があるのかも怪しい…と言いたい所だが、目の光だけは餌に群がろうとする獣のように貪欲に輝いていた。

 

 無言の要求通りに力強く蹂躙していくと、その勢いに押されて詩乃の体がじりじりと牢に近付いていく。

 最後には鉄格子に背中を付け、肉棒に貫かれて宙吊り状態。殆どの体重が、体を貫く肉棒…それを受け止める子宮にかかる状態だ。

 相当な負荷がかかるだろうに、両足は俺の腰に回して少しでも密着しようとしている。

 

 突き込むだけでなく、一番奥を舐めるようなグラインドで引っ掻き回してやると、粘着質の唾液に塗れた舌を突き出してアヘアヘと喘ぐ。

 体の芯をこねくり回され、とうとう足も力が入らなくなったようだ。カニバサミ状態だった足がブランと垂れて、完全に宙吊り。

 良くも悪くも猛烈だった締め付けは、膣の筋肉が疲労してきたのか、徐々に緩くなってきている。だが締まりが無くなったのではなく、自由に動きやすくなったと思えるくらいだ。

 

 とは言え、詩乃自身の体力に余裕がある訳ではない。あまりに長く悦ばせ続けていれば、体より先に精神が参ってしまうだろう。

 たった一発で終わってしまうと、俺の方が欲求不満になってしまう。ここらで一区切りつけようか。

 

 

 中出し…いや、続きを考えるとここはぶっかけだな。

 一際強く体を鉄格子に押し付け、射精の為のピストンを始める。その勢いを受けて、鉄格子がギシギシと音を立てた。

 ふと見れば、鉄格子の音や詩乃の喘ぎ声に怯えるように、新川某は後退りして震えていた。

 

 逆上して、牢の中から詩乃の背中を刺してくるくらいの事は警戒してたんだけどなぁ。ま、何もしないのならそれはそれで構わない。詩乃もこいつの事なんかどうでもよくなってるみたいだし。

 

 貼り付け串刺し状態の詩乃に容赦も遠慮も無く追撃を咥え、微かに残った意識でその蹂躙に縋りつく詩乃にトドメを刺す。

 最奥の弱点を貫くと同時に思いっきり引き抜き、崩れ落ちていく詩乃の体に精液をぶちまけた。

 

 

 顔面は勿論のこと、ぐしゃぐしゃになった服、開けた肌、敏感になりすぎている性感帯に。さっきの口淫で汚した体を更に塗り潰す。

 粘着質の白濁が降りかかる感触で、詩乃は更に絶頂を迎える。直接犯されている時の絶頂に比べれば微々たるものだが、昂り切った体には逆に丁度いいくらいだろう。痺れるような甘さに、惚けて浸っている。

 

 

 だが、まだ行為は終わっていない。

 白濁もそのままで惚けている詩乃の耳元に、小さく囁く。

 

 

 詩乃、処女を奪うぞ。

 

 

「え…でも、私は…」

 

 

 もうあの男に怪我されている、とでも言いかけたんだろうか。

 さっきまでのどうでもいいと言わんばかりの態度は何処へやら。目の中に憎悪の炎が盛り始める。それを受けた新川某は、ヒィと掠れた悲鳴を上げた。…だが、そのイチモツはいきり立ったままだ。小さいけど。

 

 確かに、その処女は奪えないなぁ。でもな、知ってるか? 女の体には、幾つも処女があるんだぞ。

 例えば子宮の処女。こいつの粗チンじゃ届かなかったのを、俺が奪ってやっただろ? 他には耳の処女とかね。脳みそまで掻き回されるような音を聞いて興奮してたな。

 そんで、今から奪うのは…ここ。

 

 

 ツンツンと穴をつついてやると、考えもしなかったのか、目を丸くした。そう言えば、始めて抱いた時にも、ここは触ってなかったな。丸くて形のいい尻にむしゃぶりつきはしたが、穴にはノータッチだった。

 怯えさせないよう、優しく表面だけをスリスリと擦る。むず痒いような未知の感覚に戸惑いながら、詩乃は少し迷って口を開いた。

 

 

「話に聞いた事はあったけど…そ、それは……気持ちいいもの、なの…?」

 

 

 俺も、詩乃もね。人によっては、こっちの方が病み付きになる女も居るんだよ。

 汚されているという背徳感も、排泄の為の穴を気持ちよくなる為につかっているという興奮も、何より女陰とは違った性感も、何もかもを捧げる奉仕の悦びも、忘れようとしたって忘れられないくらいに教え込んでやるよ。

 

 

 

 それを聞いて、無言で体を震わせる詩乃。想像しただけで喜悦に沈んでいるのは、言うまでもない事だった。

 が、それを始める前に…詩乃、ここに来た目的を忘れてちゃ本末転倒だ。こいつに何か渡すつもりとか言ってなかったっけ?

 

 

「? ……ああ…さっき準備してきた奴ね。正直、どうでもいいけど…ま、ついでよね」

 

 

 本当に忘れていたらしい。意趣返しのつもりだった筈が、完全に目的が逸れている。

 

 詩乃は持ってきていた鞄に手を突っ込み、目的のモノを取り出すと、ぞんざいにそれを新川某に向かって放り出した。

 

 

「はい、あんたはそれでも使って慰めてれば。あんたにはその程度のものがお似合いよ」

 

 

 軽い音を立てて、新川某の前に転がったのは…………って、張り型かよ。そういうのはせめてオナホじゃね?

 しかも、明かに新川某のナニより一回り大きい張り型だし。

 

 

「おなほっていうのはよく知らないけど、こんな奴は掘られて喘いでるのがお似合いでしょ。子供だった私を改造して『あやめ』にした挙句、拉致監禁していいように使っていた犯罪者よ。こんな奴を好き勝手させていたら、また同じことをするに決まってる。いいように使われる側に回ればいいんだわ。尤も、面会にくる人だっていないでしょうし、自分で自分を掘って慰めてればいいんだわ」

 

 

 恨み骨髄だな…。こんな奴はどうでもいいみたいな言動してるけど、憂さを晴らす機会は逃さないようだ。

 要件は済んだとばかりに新川某から視線を外し、まだまだ元気な俺のモノに熱い視線を注ぐ詩乃。

 

 

「それより…奪われなかった私の処女、しっかり貰ってね」

 

 

 淫蕩な笑みを浮かべながら、自らの手で尻を左右に引っ張り、不浄の穴を広げる。全くの未開発だった尻穴だが、全身が発情している詩乃の体は、しっかりと準備を整えていたようだった。

 女陰よりも物欲しげにヒクつく穴に、霊力を纏わせた肉棒を近付ける。普通に犯せば、大きさに耐え切れずに何処か千切れてしまう。更には、下準備も済ませていない為、感染の危険等もあるだろう。

 オカルト版真言立川流のありがたさを実感する一時だ。

 

 先端部分を菊門に当てると、中から腸液が滲みだし、自分から吸い付いて来る。

 呼吸は明らかに荒くなっていて、未知の行為への恐怖と興奮と背徳感、そして欲望が渦巻いているのが手に取るように分かった。

 ゆっくり挿入していくと、それらの感情がそれに比例して膨れ上がっていく。

 

 

「っ…! あ、圧迫…されっ…!」

 

 

 本能的に腰が引けそうになっているが、健気にそれを堪えようとしている。自分から尻を後ろに突き出し、歯を食いしばって異物感を堪える……いや、堪能しようとしている。

 俯いている為に顔は見えないが、読み取れる感情の割合が徐々に変化していっている。

 恐怖が薄れ、興奮に塗り潰されていく。背徳感がじわじわと欲望に変わっていく。 

 

 耳元で、『詩乃の尻はいやらしいな』と囁いてやると、抵抗するようにギュッと締め付ける。尤も、その程度で蹂躙を阻止できる筈もない。締め付ける穴を強引に抉じ開けて進むだけ。

 だが、その抉じ開けられる感触が気に入ったらしい。時折、軽く引いてやると、内側をひっかかれる排泄感に身悶えした。

 ふぅむ、思ってた以上に尻の素質在りか。一目見た時、この女は絶対尻だと確信を持ったんだよなぁ。

 

 

 ある程度まで腰を進め、一時停止。腸内を引っ掻き回され、押し通された詩乃は、地面を向いて荒い息を吐き続けている。

 まだ押し進める事はできるが、ここから先はちょっと時間がかかりそうだ。

 

 なので、体位を変える事にした。

 後背立位だった体に腕を回し、無理矢理立たせる。体位を調整したため、尻穴も伸びて真っ直ぐに入れやすくなる。

 圧迫が和らぎ、詩乃が一息吐いた瞬間に…残ったイチモツを、一気に突き立てる。

 

 

「~~~!!」

 

 

 喜悦とも驚愕ともとれる声が響いた。

 さっきまでの、圧力を無理矢理抉じ開けられる感触ではない。肉と肉の間をズルリと貫いていくような、異物が違和感なく体内に侵入してくるような感覚。

 子宮という到達点が無い為に、どこまでもどこまでも入り込む肉棒。それを保護している霊力は、詩乃の性感を引き摺りだすと共に、肉棒だけでは届かない部分にまで這いずって、肉体に淫靡な刺激を送り込んでいく。

 

 抜き差ししやすくなったのをいい事に、詩乃の足を掴んで抱え上げ、大きく股を開かせて突き上げる。詩乃の上半身は俺の体に凭れ掛かり、尻を抉られては身悶えする。逃げようとしているのか、足りないとばかりに貪ろうとしているのかは微妙だが、どちらにせよ足腰を固定されているので自由は無い。

 ついでに言えば、大股開きで尻を犯されている結合部と、体中を染め上げる白濁と、恍惚として犯される表情が新川某からよーく見える位置取りになっているのは、単なる偶然である。や、だって元々そういう場所で結合してたし、偶然じゃなければ自然な成り行きと言うかね?

 まぁ、俺も詩乃も、そっちには殆ど意識を裂いてないんだけど。鏡でもあったら、詩乃に自分の痴態を見せ付けてやれるのにな。

 

 

 

 未知の世界を堪能している詩乃には悪いが、あまり時間は残っていなかった。持ってきた消音の結界は、あまり長く保ちそうにない。質が悪かったのか、それだけ声量が大きかったのか、或いはここの牢屋に取りつけられている術封じの影響か。それとも、体感時間操作に巻き込まれたんだろうか?

 何れにせよ、そろそろ一区切りつけなければならない。まぁ、目的達成は出来たからいいだろう。

 寝取ったのを見せ付けるとか、俺の趣味ではなかったが、まぁそこそこは楽しめたし、詩乃もスカッとした…と思う。

 

 ま、潮時かな。

 

 

 じゃあ、最後に尻穴でのオーガズムを教え込んで、終了としますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 詩乃の尻穴に思い切り白濁を注ぎ込み、詩乃自身もまだ知らなかった恍惚へ思い切り叩き込んだ後。

 気が付けば、牢の中の新川某は、脱力を通り越して完全に精神崩壊したようだった。俺を睨みつける事も、詩乃に手を伸ばす事もなく、いつの間にか仰向けに倒れて、涙やら鼻水やらで汚れ切った顔で、ただ小さく呼吸だけを繰り返している。

 

 違法行為の証拠を抑えられ、地位を剥奪され、唯一逃げられる事はないと思っていた手駒すら寝取られて、牢の中で誰にも知られず精神崩壊。下手すると幼児返りとか起こしてるかもしれないな。

 うーん、奪った女の痴態を、男に見せつける優越感…か。分からないでもなかったけど、やっぱり寝取りは趣味じゃねーわ…。

 まぁ、今回に関しては、男の方が最悪過ぎたんで、全く罪悪感を感じる事はなかったけども。

 

 

 地面に下した詩乃は、まだフラフラしているものの、体力的にも余裕があり、自分で歩けるようだった。

 くるりと反転するや、俺に抱き着いて深く口付けてくる。

 一頻り舌を絡め合って離れると、またも俺のモノに指を這わせた。まだまだ続行がご希望のようだ。

 跪き、直前まで自分の不浄の穴に突き込まれていた肉棒を、うっとりとした表情で舐め清める。

 

 別に続けるのはいいけど、こいつはどうするんだ?

 

 

「…ん? ……あぁ、もうどうでもいいわよ。絶望する顔を見れば少しはすっきりするかと思ったけど、何の感慨も湧かなかったわ。それより…まだ出来るわよね?」

 

 

 前にお前を抱いた時、2,3回程度で音を上げたか?

 俺の体力はともかく、場所は変えなきゃな。そろそろ結界の防音が限界に来てる。

 

 

「仕方ないか…。連れ込み宿に行きましょう。滅鬼隊の隠れ場所に戻ると、ゆっくり楽しめそうにないし」

 

 

 そうだな。しかし、あっさりしてるねぇ…。

 ………と言うか…まさかとは思うけど、こいつに思い知らせたいってのは建前で、俺ともう一回ヤりたかったから口実としてでっちあげた…なんて事はないよな?」

 

 

「何の事かしら。とにかく行きましょう。この先、二人きりになれる機会は本当に少なくなりそうだしね」

 

 

 そういう詩乃に腕を引かれ、牢の前を去る。結局、詩乃は牢の中の亡骸(精神的)に最後まで興味を示さなかった。

 

 

 



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456話

 

堕陽月陸日目

 

 

 昨晩は詩乃と一晩楽しんで、明け方に戻って来た。じっくり時間をかけて詩乃を弄んだが、体感時間操作のおかげで睡眠時間には困らない。俺一人なら、ハンター式熟睡法だけでもいけるけど。

 

 さて、今日も今日とて大騒ぎ。これから滅鬼隊を率いて、ウタカタの里に急行しなければならない。準備自体は整ったが、この40名オーバーを引き連れて、一人の脱落者も出ないように…とすると結構大変な話である。

 結果、土井さんの提案で電車ゴッコとなりました。いや電車ゴッコと言うのは俺の表現だけども。

 要するに、命綱を全員に付けて、ゆっくり歩いて行こうって事やね。

 

 …完全に遠足のノリですな。まぁ、ウタカタまで結構あるし、無理に走っても大して時間は縮まらないから、いい手だと思うけども。

 

 

 

 それはともかく、出発前にシノノメの里の皆と少し話をした。

 土井さん達は、予想通りに里に戻るそうだ。

 ま、当然だな。目的であった、霊山からの支援は引き出せた。里が妙な政争の舞台にされてしまうかもしれない。であれば、里に戻って備えるか、或いは霊山に留まって政争を陰から助けるか…の二択だろう。少なくとも、俺についてウタカタまでやってくる理由はない。

 

 そして白浜君と牡丹はと言うと。

 

 

「僕は、一度シノノメの里に戻ります」

 

 

 そうか…。まだまだ鍛え足りなかった…ん? 一度?

 

 

「はい。少なくとも、使者として事の次第を報告しなければいけませんし、牡丹様を連れて行くとしたら猶更無断ではできません。それに、こちらで知った技をシノノメの里に広めれば、より強いモノノフが増えるでしょう」

 

 

 ふむ、確かに。

 で、一度はってどういう事だ。その後は? それからウタカタに来るつもりか?

 

 

「最終的にはそれを考えてるんですが…師匠もウタカタで何かしないといけないんでしょう。それに加えて、霊山からの追手やら何やらを対処するというのは、ちょっと厳しくありませんか?」

 

 

 まぁ…確かに。正直、ウタカタに到着してから色々準備とか、段取りを考えてたんだが、滅鬼隊を連れて行く事になった時点で全て御破算だからな。

 こいつらを纏めて、食わせていくだけでもかなり手間がかかる。嫌だと言ってる訳じゃないけども。

 

 

「だから、まずはシノノメの里に戻って報告。その後は、今度は自力で霊山まで戻ってきます。まだあの道は、鬼が居なくなって安全が確保された訳じゃありません。鬼と戦って、自分の限界を見極めながら踏破します。里のモノノフにも、霊山に興味ある人は多いでしょうし、招集すれば戦力は揃う筈です」

 

 

 ふむ…確かに、来る時は土井さん達におんぶ抱っこ状態だったからな。自分一人に拘るようであれば、却下するところだが…。

 それで? 無事霊山についたとしたら、その後は?

 

 

「ここで滅鬼隊の件が落ち着くまで、調査をします。直葉さんの狙撃の件は…何が何だか分からない内に首謀者が掴まって、脱獄してるみたいですけど…」

 

 

 調査…って、お前ひとりで? そんな知識も伝手もないだろうに。

 

 

「いえ、桐人に相談したら、狙撃の時に立ち会った雷蔵さんを紹介してくれました。最下級ですが、禁軍の一員として扱ってくれます」

 

 

 禁軍の一員って……おいおい、それ大丈夫なのかよ。

 雷蔵自身は信頼してるが、仮にも治安維持組織と言うか、監査役みたいなもんだろうに。そんな融通が利くものなんだろうか…。

 そもそも、雷蔵自身もそういう素人さんを現場に入れていいと思うような人間じゃないだろうに。

 

 

「その辺の裏事情はよく知りませんが、引き受けてくれましたよ。霊山のお偉いさんが大混乱状態で、今はとにかく人手がほしい、だそうです。僕は、狙撃の時の一件で少し話をした程度ですが、『腹芸ができる人間じゃない』という理由で信用されたようです。…『腕はともかく、禁軍としての素質は悪くない』とも言ってましたが」

 

 

 それだけで素人さんを引っ張り込んでどうするんだ…。それだけ、誰の息もかかってない禁軍隊員が少ないんだろうか。

 まぁ、雷蔵だし、妙な事は考えてないだろう。精々が、白浜君の頑固さと正義感を見込んで、将来自分の部下になるよう青田買いくらい。

 

 しかし、どうしてまた白浜君がそこまでする? 滅鬼隊の裏事情が、そんなに許せなかったのか。

 

 

 

「はい…。僕は、強くなりたいとずっと思っていました。それが何の為かと言えば、誰もが見て見ぬふりをする強くて悪い奴をやっつけられる人間になる為です。滅鬼隊を作り出した人達は、間違いなくそれに該当します」

 

 

 だとしても、それを君がやる必要はない。当事者はとっくに老衰しているかもしれないし、九葉のおっさん達だって、関係者を炙り出す為に動いている。

 何より、調査して拘束する権限を持つのは禁軍で、裁きを下すのは裁判の類で、報復する権利を持つとすれば滅鬼隊自身だ。白浜君自身には、何の権限も筋合いもない。

 君が危険を犯しても、微々たる力にしかならないぞ。

 

 

「それでも、です。僕は納得できません。僕が納得できない事を、誰がやろうと見過ごせません。本気と言う事は、きっとそういう事です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠足の引率中、別れ際の白浜君の言葉を思い出して、つい口が緩みそうになる。

 練武戦で万年一回戦負けの貧弱君が、随分な事を言えるようになったものだ。

 

 

「どうかしたの?」

 

 

 いや、何でもないよ雪風。それより、他の皆は?

 

 

「さっき手綱を離して何処かに行こうとしてたのが居たけど、神夜が武器を構えて満面の笑みをしたら戻って来たわ。…意外と怖いわよね」

 

 

 根っこが物騒な奴だからな。

 それより、雪風も注意してくれよ。ほとんどの連中は、外に出るのも初めてで見る物聞く物珍しくて仕方ないだろうからさ。

 

 

「それは私も同じなんだけど。霊山の外に出ると、こんなに景色が違うのね」

 

 

 何だかんだ言っても、霊山は人が住む為に手を加えられた場所だからな。こんな森やら山やらは、霊山に限らず里にはあんまり無いんだよな。

 物見遊山はいいけど、あまり気を抜き過ぎるなよ。危険な動物だって結構いるんだから。猪やら熊やら蛇やら…。獣避けも使ってるから、そうそう襲ってこないとは思うけど、一応ね。

 先に起きてたお姉さんなんだから、皆の面倒はちゃんと見るように。

 

 

 はーい、とお気楽な返事をして列に戻っていく雪風。

 正直な話、思っていたよりもマシな進行状況だ。流石は改造されているだけの事はある…と言うのもおかしな表現だが、一人一人の身体能力は明らかに一般人より格上。モノノフ以上だ。

 常人では少々辛いペースで進んでも、一人も弱音を吐かずに平然と歩いている。代わりに、ガヤガヤと騒がしいが…40人以上いると思えば、静かな方だろう。

 

 振り返ってこっそり様子を伺ってみれば、彼女達の様子は様々だ。

 周囲を見回して、小動物や花を見つけて騒ぐ者。

 俺の視線に気づいて、赤くなったり手を振ってくる者。

 腹が減ったと、食べられる物を探す者。

 ボーッとしたまま歩いている者。

 どこかに行こうとして、威嚇顔(笑顔)の神夜に連れ戻される者。

 気難しい表情で、何か考え込んでいる者。

 

 

 …どれが正しい反応ってのはないけど、今後の事を考えているのであれば、一番最後のがいい反応かなぁ。何を考えてるのかなんて、分からないけどね。中身は経験不足の子供そのものなんだし。今後の方針を考えているように見えて、昼飯の事とか空に浮かんでる雲の事とか考えてるのかもしれん。

 ただ、背後を警戒する者が居ない辺り、つくづく経験不足だなぁと思う。現役滅鬼隊として活動していた者も居る筈なんだけど。

 

 隠れて霊山から出発し、九葉のおっさんが手を回してくれているとは言え、いつ追手がかかるか分かったものではないのだ。

 滅鬼隊は霊山の暗部。公表されれば、霊山の威光は地に落ちる。例え過去に行った所業であってもだ。

 そうなれば、モノノフの結束は脆くも砕け散るだろう。…例えが畏れ多いが、モノノフにとっての天皇陛下みたいなもんだ。例え不満だらけであっても、各地のモノノフ達は霊山を中心として集結している。

 

 良い悪いではない。そうなってしまえば、人間は滅亡待ったなし。疑心暗鬼、霊山に従う事を拒否しての暴動、果ては、孤立した里同志での戦争まで考えられる。

 滅鬼隊の現状を詳細に知る者ならともかく、大抵の人間は存在させておく事さえ危険と考え、抹消を図るだろう。

 

 

 そんな訳で、刺客が送られてこないか、殿を務める明日奈も警戒して進んでいる訳だが…今のところ、敵襲の兆候はない。

 考えてみれば、40名オーバーの集団だものなぁ。刺客が送られたとして、こいつらを始末しつくすのにどれだけ人数が必要やら。仕掛けるとしたら、直接的な暗殺ではなく土砂崩れとかの大掛かりなトラップの類。

 或いは、激戦区のウタカタに送りつけ、纏めて滅んでくれれば…ってところか。

 どっちにしろ警戒は解かないけども。

 

 

 

 さて、このペースで進むとすれば、ウタカタに辿り着くまであと4日ってところか。

 警戒すべきは刺客だけではない。

 獣との遭遇、異界から逸れた鬼の襲撃、食料不足、夜の寒さ…。そして一番厄介なのは、それらの不満を持ち始めるであろう滅鬼隊自身。

 ウタカタに着くまでの辛抱だ、と言い聞かせたところで、子供にどれだけ効果があるやら。

 そもそもウタカタの里だって、無事到着したとして、彼女達を受け入れられる余裕があるのか。

 『お頭』として考えるべき問題は未だに山積みだった。

 

 

------------------------------------------------------------ 

 

 

 

堕陽月 某日    ウタカタの里にて

 

 

 ここはウタカタ、最前線中の最前線。地獄の激戦区。多くの土地が異界に沈み、溢れ出した鬼が跋扈し、その鬼を斬る鬼が座す。

 じりじりと鬼達に追い込まれる中で、鬼を斬る鬼、モノノフ達は戦い続ける。

 ある者は更なる強さを求め、ある者は仇を探し、ある者は後悔から、ある者は身内の為に。

 

 背後にある里を守る為、我らこそ最後の砦と息巻いて、我が物顔でのし歩く鬼達を斬り捨てる。

 今日もまた、空を舞うヒノマガトリを苛立たしく見つめる女が一人。

 既に一仕事終えたのか、体には微かな手傷と、そして争いによる気の昂ぶりが生じている。

 

 女は里への帰り道の一角で、崖に臨んだ。

 

 

 

「飛び降り自殺するには、ちょいと高さが足りないな、桜花」

 

「息吹か。そういうお前の軽口も、随分と気が利かなくなってきたようだ。疲れているのではないか?」

 

「冗談。まだまだ余裕さ。とは言え、先行きが見えないのはちょっとな…。ただただ斬ってりゃいいって問題でもなくなってきてる」

 

「…だとしても、我々にできる事は鬼を斬るだけだ。一匹たりとも、里には通さない」

 

 

 張り詰めた糸のような表情で、桜花は言い切る。

 溜息を吐きながらも、息吹はそれに同意する事しかできなかった。所詮、自分達に出来るのは戦働きくらいなのだ。それが重要なのは確かだが、その状況を打開するには、自分達だけでは足りないのも確かだった。

 

 桜花は空を見ると、さっきから空を飛んでいたヒノマガトリに狙いを定めた。…跳躍の射程に入った。こちらには気づいてない。不意打ちで鬼千切を急所に決めれば、一撃で倒せる。

 気負いもなく足に力を籠める。見送る息吹は、完全に傍観の構えだが、問題はない。

 

 飛び上がって、気合い一閃。

 首を文字通り千切られたヒノマガトリは、着地した桜花に一拍遅れ、轟音と共に地に叩きつけられた。

 

 感慨もなく浄化を始めると、「お見事」と口笛を吹いて息吹が崖から降りて来た。

 

 

「…息吹、霊山に打診していた救援要請はどうなった」

 

「ああ…あれか。あれな…」

 

 

 桜花の問いかけに、息吹は口を濁す。

 不思議に思った。桜花の知る息吹は、普段は飄々としてとらえどころがない、そして女好きの三枚目だ。しかしモノノフとしての腕は確かで、比較的(ここ重要)書類仕事も出来るし、やってくれる。…何処かの筋肉武術馬鹿と違って。

 確かに漏れや記述間違いはあるが、それらが自分の、ひいては里の皆の命に直結すると理解している為、疎かにするような男ではない。

 少なくとも、今後を左右する援軍に関しては、しっかりと目を光らせている筈だった。

 

 

「返答は、今朝方返って来たんだわ。ただ、どういう訳だか返信の主は、連絡を取った霊山の高官じゃなくて、九葉軍師だった」

 

「九葉軍師……『北の地を見捨てた鬼』か!」

 

 

 桜花の表情が、苦々しく歪む。桜花や息吹自身とは、直接の因縁がある訳ではない。その名はあまりに有名だった。

 かつてオオマガトキでの戦いで、守り切れないと判断した北の地からモノノフ達を呼び戻し、戦力が無くなった北の地を見捨てた男。

 間違いなく有能ではあるのだろう。その恐ろしい決断を下す、冷徹な心と判断力。そして良心の呵責を全く見せない残忍さ。事実、北の地を見捨てた事を追及された時にも、必要な判断であった事を淡々と言い切ったと言う。それに対して霊山がどのように対処したかは…彼がまだ、軍師という立場にある事が示しているだろう。

 

 何故その男から返信が送られてくるのかは分からないが、どう考えても良い予感はしない。

 北の地を見捨てた鬼が、ウタカタの里一つを見捨てるのに躊躇いを持つ筈がない。

 大方、援軍を出そうとしていた高官を邪魔して、援助はできないとでも返答してきたのだろう。

 

 

「いや、桜花、違うんだ。そうじゃない。援軍は確かに送られてくるらしい」

 

「何? そういう事は先に言え。何人だ? 4人か? 8人か?」

 

 

 4の倍数なのは、単にモノノフ達が4人単位で行動するからである。

 たった1班2班が増えただけでも、戦況は大きく変わってくる。例え新米ばかりだったとしても、雑魚鬼を蹴散らす手が増えれば、主力級のモノノフは大型鬼に集中できる。

 無論、捨て駒にする気はないので、最初はどれくらいのものか様子を見ながら…になるが。

 

 

「いや…その………1…」

 

「1…? らしくないな。さっさと言え。まさか、訓練を終えたばかりの新米が一人、と言う事か?」

 

 

 無いと思いたいが、それが有り得るのが今の霊山だ。前線の状況を理解すらせず、ただ保身のみで動いている。少なくとも、霊山から離れた地に居るモノノフからはそう見えた。

 もしもウタカタが滅びれば、突破されれば、鬼達の勢いはどうなるのか、想像すらできていないのではないか。

 

 そんな怒りを抱く桜花だが。

 

 

 

「………一個小隊…」

 

「えっ」

 

「約40人が送られてくる。重要な事だから3回言うぞ。一個小隊、約40人。一個小隊、約40人だ。手紙にも3回書いて念押しされていたから間違いない」

 

「なにそれこわい」

 

 

 蜘蛛を見た時よりも恐怖で強張った桜花だった。

 

---------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

堕陽月漆日目

 

 電車ゴッコに不満が出た。子供扱いされている、との事。実際扱いとしてはそんなもんだ。

 何でもかんでも意見を真に受ける訳じゃないが、霊山からはそれなりに離れたし、やり方を変えるのもありと言えばありだ。このままでは、神夜と明日奈の負担も大きい。

 なので、電車ゴッコからグループ訳して、4人単位で行動させた。

 もしもこれで逸れたりする人が出たら、連帯責任でまた電車ゴッコに戻すと言い聞かせ、班行動に変更した。

 

 夕方には電車ゴッコに戻った。

 

 

 

堕陽月溌日目

 

 いい肉が手に入ったが、量が少ない。

 こいつらの食欲も予想以上。持ってきた食料も、このままでは足りない。

 進行ペースを落として、狩りを行う事にした。

 

 嬉しい誤算は、滅鬼隊もそれなり以上に狩りが出来た事。気配を消すのは苦手なようだが、非常に高い身体能力で獲物を捕らえたり、高い所にある実を跳躍して確保したり。中には、奇妙な力を駆使して狩りを行う者も居た。…滅鬼隊に植え付けられた力を、既に発現させているのか。

 捕らえた獲物を殺すのには躊躇いがあったようだが、飯の前には些末事だったらしい。

 

 

 

堕陽月玖日目

 

 問題発生。トラブルで半日ほど足止めを食った。

 と言っても、何かに襲われた訳ではない。そういう意味では、肩透かしと言える程に平穏な道中だった。

 

 問題が起きたのは、やはりと言うか滅鬼隊の内部からだ。

 誰かと誰かが喧嘩したとかではない。多少の小競り合いや、馬が合う合わないはあったものの、彼女達は本能的な仲間意識のようなものが働いているらしく、口喧嘩くらいはしても本格的な激突は無い。

 更に言うなら、激突しそうになる雰囲気になると、明日奈がかなーり物騒な笑顔で宥めたり、神夜が天真爛漫な笑顔で斬冠刀に手をかけたり、必死こいて浅黄が言う事を聞かせて宥めている。

 

 ならば、何が問題だったのかと言うと…これは俺のミスだな…。滅鬼隊に植え付けられた暗示の事を、すっかり忘れていた。

 

 問題が起きた滅鬼隊員の名は、『まり』。

 金髪で小柄、(滅鬼隊では珍しくもないが)体に見合わないダイナマイトなおっぱいを持ったメガネの子だ。

 気弱で生真面目そうな雰囲気に違わず、委員長…いや、委員長役を押し付けられた挙句、手を抜けないからと頑張るタイプだ。

 

 滅鬼隊の中では没個性…と言うと失礼だが、目立ちにくい子ではある。が、俺はよく覚えていた。

 …施設に保管されていた時、この子だけ何故か眼鏡をかけたまま保管されていたからな。裸のままなのに、眼鏡だけ。

 ちなみに、この子について書かれた資料には『眼鏡は顔の一部です』と書かれていた。……時代を先取りしたCMみたいな事言いやがって…。その後は、眼鏡をかけた可愛い子の魅力について延々と記述されていた。眼鏡っ子だから、眼鏡ごと封印されたんだろうか…。

 

 

 ともあれ、今回のコレも、手を抜けない、弱音を吐けないと頑張りすぎて、思い詰めてしまった為なのだろう。

 

 

 今日も今日とて電車ゴッコ状態で進んでいると、明日奈から制止の声が上がった。何事かと見てみれば、一人の女の子…まりが荒い息を吐いている姿。

 駆け寄ってみれば、顔が青くなり、冷や汗が流れ、そして目があちこちに動いて留まらない。熱中症の類かと思ったが、今日はそこまで暑くないし、水分もしっかり補給していたようだった。

 

 とにかく寝かせようとしたところ、今度は詩乃から待ったがかかる。寝かせて安静にさせるよりも、とにかく俺から話しかけるように、と。

 意味が分からず、やっぱり寝かせようとしたが、浅黄から耳元で『暗示の為に、あなたの声を必要としている』と言われ、ようやく理解した。

 

 詩乃は何度も同じ状態を経験したのだろう。

 滅鬼隊に仕込まれた、離反謀反脱走を防ぐための安全装置。主となった者の声を長く聞かない、或いは触れ合う事をしていなければ、徐々に精神が不安定になり、恐ろしい寂寥や恐怖、陰鬱に襲われる。

 その期間はまちまちのようだが…この子が真っ先にそれに襲われたのは、目を覚ましてから俺と絡む事が少なかったからか、それとも本人の気質と暗示が上手く絡んでしまった為か。

 

 何にせよ、今一緒に居る滅鬼隊達には、大きな爆弾があった事を突き付けられた。

 彼女達がどれ程自覚しているかは分からないが、これは今後、彼女達にも…彼等にも…起こり得る現象なのだ。

 

 それを防ぐ為には、どうすればいい? 俺が一人一人を気にかけて、全員の心情や気分を把握して、それぞれ充分なスキンシップを取って精神を安定させろと?

 …それどんな聖人よ。

 釣った魚にはしっかりエサやって、その味を忘れられなくする主義だけど、これだけの人数が相手なのはな…。

 

 と言うか、多分これ、嫉妬とかストレスとか、その手の物で発動期間が大幅に変化するぞ。

 率直に言えば、某恋愛シミュレーションの爆弾システムそのものだ。どんなフラグ管理能力があれば、爆発させずに乗り切れるんだよ。

 

 

 …これから行くウタカタの里で、修羅場を発生させずにいられるだろうが…。

 暗雲が立ち込めてきた思いだった。

 

 

 

 

 

 尚、当のまりはと言うと、頭を撫でられたり耳元で褒め言葉を囁かれたりして、恐慌に陥った事を差し引いても役得だった、と後に語っていたそうな。

 

 

 

 



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457話

健康診断で肝臓の数値がひっかかり、再検査を受けている時守です。
…酒弱くなったしなぁ…。
いい加減、真面目に控えなければならんのか…。

進撃の巨人2ファイナルプレイ中。
まぁ、相変わらずの面白さではありましたが……残念な点も同じままですね。
これは仕方ないですけど、キャラクターエピソードモードで前主人公(つまり自キャラ)に全く触れられないし、死亡キャラ生存もできない。
そして壁外奪還モードでは、同じような戦闘の繰り返し。
ファイナルじゃない頃のトロコン仮定を書いたブログに、「薄めたカルピスを延々と飲んでるような感じ」とありましたが、正にそれです。
もうちょっとキャラが揃って来れば、替ってくるのかなぁ…。

そしてトロフィーが無いのは予想外。
ま、文句ばかり言っても仕方ありませんし、ゆっくりプレイしていきます。
次に注目するゲームは、モンハンアイスボーン、あと仁王2かな…。


堕陽月拾日目

 

 

 昨日のまりの一件でどうなる事かと思ったが、今のところ反乱だの不満だの、そういう物騒な兆候はない。

 まぁ、暗示を仕込んだのは俺じゃないし、解除の当てもないのにそんな事しても、待っているのは遠からず襲ってくる発作だけだ。そうなったら、発作を治める方法すらなくなっているのだ。

 …滅鬼隊はかなり短絡的な思考回路が多いから、そんな事関係なしに後先考えず…という可能性を否定できないのが辛い所だ。オツムの出来的な意味で。

 それも、人生経験が全く無いのが一因だから、今後は徐々に改善されていく…と思いたい。俺がこいつらの教育係になるんだろうか…。

 

 …四の五の言っても仕方ないか。滅鬼隊には戦力にもなってもらうつもりなんだし、そこで教育を怠れば油断してお陀仏するのがオチだ。そんな事をしたら、それこそ彼女達を捨て駒扱いしていた連中と変わらなくなってしまう。

 腹ぁ括って、思い上がらないように鼻っ柱を圧し折り続けるとしよう。

 

 

 

 さて、なんやかやあったが、夕方にはウタカタの里まであと一歩、と言う所まで到着した。

 最後の休憩を取っている時に、明日奈と神夜が寄って来た。

 

 

「…ねえ、さっきから視線を感じるんだけど。多分敵意はないと思う」

 

 

 分かってる。多分、ウタカタの斥候部隊だろ。あっちにも話は通ってる筈だから、問題はない。

 

 

「それにしては、ずっと見られているようですよ?」

 

 

 まぁ…無理もないだろ。事前通達があったとは言え、40人以上の集団だもの。万一、盗賊の集団だったらえらい事になる。

 この辺は、激戦区ではあるけどウタカタのお陰で異界や鬼の侵蝕が抑えられてるし、里の外でも暮らしていけない訳じゃないからな。

 盗賊の類は、大体ここのモノノフ達が捕まえて『始末』してる筈だけど。

 

 

「なるほどー。でしたら、あちらから出向いていただけるかもしれませんね。盗賊鴨しれない集団を、里に近付ける訳にはいかないって事で」

 

「そうね、近付かれる前に確認しに来るでしょう。こっちの子達が騒がないように、注意してみてましょうか。悪い子達じゃないけど、あらぬ疑いをかけられれば面白くないでしょうし、それを理解できても抑えられるかは不安が残るわ」

 

「…今更聞く事ではないんですけど、そもそも皆をどうやって生活させるんです? 建物だって足りるか分かりませんし、食料も…」

 

 

 

 食料や当座の資金に関しては、九葉のおっさんが援助してくれてる。

 ただ、居場所がな…。滅鬼隊の心境を考えると、見ず知らずの人間と同居してくれ、とも言い難い。

 

 

「最初の雪風ちゃんみたいに人見知りする可能性は高いですし、常識も殆ど知らないんじゃ揉め事の原因になりかねません」

 

「あとは、慣れない状況におかれて、発作の引き金になったりね」

 

 

 ああ。

 だから、場所は土地を貰えれば、そこにでっかい建物を作って、まずはそこで共同生活。徐々に施設を増設していくつもりだ。

 大丈夫、ちょっと普通じゃない手段だけど、半日もあれば建物は作れる。マイクラ的豆腐ハウスだけどな。

 

 

「豆腐……ハウス? ハウス、は確か家って意味だったから…豆腐の家? お菓子の家の亜種?」

 

「夢が広がりますねぇ。乙女としては、食べ過ぎが怖いですけど」

 

 

 お菓子の家を食ったら、家が無くなっちまうわい。どこの美食屋じゃ。

 

 

「と言うか、たった半日で建てられる家って、どう考えても手抜き工事…。正直怖いんだけど」

 

 

 ま、そこは見てのお楽しみだ。

 それより、ウタカタの人が来たようだぞ。

 

 道の先から、集団で歩いて来る人影。あれは……桜花、富獄の兄貴、それ以外は準主力級のモノノフの中でも、特に腕が立つ面々。…俺達が盗賊である事も想定し、一戦交える事も考えて来たか。

 互いが視認できる距離まで近付き、止まる。思い思いに寛いでいた滅鬼隊員もそちらに注目していた。

 

 

 

 

「我々はウタカタの里所属のモノノフ警備隊である! そこの集団、何者か! 所属と姓名を名乗られよ!」

 

 

 我々は霊山から遣わされた援軍である!

 九葉軍師より通達があった筈! 確認されたし!

 姓名及び命令書は、人数が多い故こちらに纏めてある!

 

 束になっている命令書を掲げ、桜花達に近付く。

 一瞬、滅鬼隊にも桜花達にも緊張が走るが、暴発はなかった。桜花が応じるように歩み出て、丁度中央で向かい合う。

 

 …これが命令書だ。

 

 

「うむ。……………………失礼した。どうやら本当に、霊山からの援軍のようだな」

 

 

 警戒を解き、桜花は警備隊に何やらジェスチャーで指示をした。問題なしと伝わったのか、張り詰めた空気が消えていく。

 …富獄の兄貴が、ちょっとつまらなそうな顔をしてるのは見なかった事にしよう。

 

 

「すまない。確かに援軍を送るという伝達は確認していたが、まさか本当に40人以上も送られてくるとは思っていなかった。…ああ、私は桜花。里のモノノフだ」

 

 

 これはどうも。

 ああうん、それは勘繰っても仕方ないよな…。霊山が自分のところからモノノフを出す事自体が珍しいのに。

 

 とは言え、実のところ全員が戦えるって訳でもないんだ。皆、色々と訳有りで、素質はあるんだが実戦経験が無い者が殆どでな…。

 

 

「ま、そんな事だろうと思っていた。しかし参ったな、一応迎え入れる為の準備はしていたんだが、家屋が…」

 

 

 そこらへんは、土地を貰えればこっちでどうにかするから大丈夫。

 事前に調べたんだが、結界の外れ辺りに広い場所があった筈。

 

 

「あるにはあるが…あそこは結界の効力も及びにくく、時には鬼が侵入する事すらあるんだぞ」

 

 

 侵入してきた鬼は、結界の影響で弱体化している。相手にもよるが、実戦経験を積ませるには丁度いい。

 それに、よろしくないとは言っても、これだけの人数を受け入れる場所は無いんだろう?

 

 

「う、うむ…。10人程度ならまだしも…。半信半疑ながら、何とか受け入れ先を作ろうとしていたんだが、まるで間に合ってない」

 

 

 通達が出て数日しか経ってないからね。無理もないね。

 まぁ、こっちも色々訳在りな上、霊山が大混乱しててな…。

 

 

「ふむ、その話は興味深いが…いつまでもここで立ち尽くしている訳にもいかん。ともかく、まずはお頭に面通しするのがここの流儀だ。案内しよう。ついてきてくれ。………問題ない、撤収するぞ!」

 

 

 

 桜花の声に応え、警備隊と富獄の兄貴が動き出す。…富獄の兄貴、こっちを品定めしてたっぽいな。稽古相手でも欲しかったんだろうか?

 にしても、流石に統率が取れているな。桜花の声かけに戸惑う事もなく、淀みなく動いている。周囲の警戒、進行する様も見事なもんだ。

 

 …それに対して、こっちはまんま小学校の遠足だ。まともな教育できてないんだから仕方ないが…モノノフとして戦わせる前に、集団行動ってものを叩き込まなきゃならんな。

 

 

 

 

 

 

 

 ワイワイ騒ぐ滅鬼隊を宥めながら、里に入る。

 当然と言えば当然だが、物凄く注目された。突然やってきた9割以上が女性の集団。しかもほぼ全員が美女美少女。男も居るが、これまた揃って美形。…俺? ノーコメント。

 

 里の広場で、里長…大和のお頭に挨拶となった。隣には神垣の巫女の橘花も立っている。

 …色々考えるところはあるが、まずは「ああ、ようやくここまで戻って来た」と感じるなぁ。いや本当に長かった…。 

 異界に囲まれたシノノメの里からの踏破から始まり、次は霊山で九葉のおっさんと取引したら、滅鬼隊なんて代物が出てきててんやわんや…。

 

 だが、ここからが本番だ。敵の強い弱いで言えば、大抵の鬼はもう相手にならない。いつぞやのループで出てきたような下半身のみのデカブツみたいな規格外でも出てこなければ、片手間に片付けられるだろう。

 しかし俺の標的はクサレイヅチ。奴に捕らわれている千歳と、奪われた因果の奪取。今度こそ確実に仕留める。…その下準備を行わなければならない。

 さて、滅鬼隊の面倒を見ながら、どうすりゃ上手くやれるかな…。

 

 

 

 

 

 

「よく来てくれた。俺が里長の大和だ。歓迎しよう。九葉から、多少は話を聞いている。……聞いてはいたが、こうして改めて見ると壮観だな…」

 

 

 半ば呆れ顔の大和のお頭。大和のお頭がどこまで聞いてるかは分からないが、妙な事を企む人ではないので大丈夫だろう。

 相変わらずの、腕を組んでの仁王立ちで俺達の顔を一人一人確認している。

 

 

「…来てもらって早々に不甲斐ない話だが、流石にこの人数を受け入れられるだけの家がなくてな。桜花からの話だと、結界の外れの土地を使えれば、あとは自力でどうにか出来ると言ったそうだが?」

 

 

 ええ、当てはあります。まぁ、最初は文字通り雨風を凌ぐだけの場所で、そこから拡張していくつもりですが。

 鬼の侵入も、稽古相手と考えればそれほど悪くないかと。

 こっちに鬼の侵入を防ぐ手段はあるんで、侵入経路も限定できる。後は罠でもしかけておけば、トラップタワーの出来上がり。

 里から流れる川もあるから、生活用水も確保できるしな。

 

 

「鬼を甘く見るな。とらっぷたわぁとやらはよく分からんが、奴らは意外と頭を使う。…とは言え、他に代案もないか」

 

 

 そういう事。何、気にする事はない。別の里では、外様が結界に入るだけの容量が無いんで、結界外で暮らしてるところもあるんだ。それに比べりゃ温い温い。

 

 

「永続的には流石に厳しいが、数日程度なら軒を貸してもいい、という家もある。全員を収容するには流石に足らないが、必要であれば言え。食料や金銭についても、九葉からある程度は貰っているので、その分は手配しよう。何がどれだけ必要になるのかは、お前の判断に任せる。無駄遣いしない事だな」

 

 

 そんな子供に小遣いやってるような言い方せんでも。

 いや、子供の小遣いなら大した問題にはならないが、企業で余計な金使ったらそれこそ問題になるか。

 

 

「さて、モノノフとしての働きについて話をしよう。さっきも言ったが、事情は聞いている。戦えない者も多い事は予想済みだ。今すぐに戦いに赴ける者は何人いる?」

 

 

 俺、明日奈、神夜は実戦経験ありで、今からでも動ける。

 他の連中は…こっちに来る間に一人一人出来る事を確認してきたが、班分けもしてないからまだ無理だな。得物を準備する所から始めなきゃならない。

 物自体は俺の私物を貸与すればいいから、後は何を使うかの選別だな。

 

 

「そこまでか…。境遇と、目を覚ましてからの時間を考えれば無理もないか。では、早速一仕事してもらおうか」

 

 

 

 カァーーーーン

     カァーーーーーーーーン

 

 

 …はいはい、早速襲撃ね。

 ヤバい気配は感じない。大型無し、餓鬼辺りが結界の近くまで入り込んできただけか。

 

 

「この鐘の鳴らし方は、そのようだな。…だが、数が少し多いな。2……いや、3つの部隊で対処する。一つはウタカタの常駐部隊。桜花、お前が指揮を取れ」

 

「承知。すぐに出撃します!」

 

 

 刀を手に、桜花は駆けていく。いつでも出撃できるよう、小道具の類も持ち歩いているんだろう。準主力級のモノノフの屯所へ駈け込んでいった。

 

 

「残りの2部隊は、そちらから出せ。どれ程のものか見せてみろ。…富獄、お前も行ってこい」

 

「しゃあねぇな…。雑魚に興味はねえが、新入りの出来は見といてやるよ」

 

 

 …初陣としては丁度いい、か。雪風! と……よし、骸佐!

 

 

「へひゃっ!?」

 

「俺か」

 

 

 ほれ、銃。と刀。使い方は分かるな?

 

 

「え、あ、分かるけど、これってつまり?」

 

「実戦か…。人に使われるのはいい気分じゃないが、戦えるなら行って来よう」

 

 

 こっちに来るまでに確認したが、モノノフとしての訓練、基本的な技能は問題ない。戦って来い。まぁ、大した相手じゃないとは思うけど。

 明日奈、一緒に行ってやってくれ。

 

 

「了解。無茶して突っ走らないように見ておくわ」

 

 

 神夜は、ここに残ってる連中の面倒を頼む。

 

 

「はーい。私も戦いたかったです…弱くて楽しくなさそうですけど…」

 

 

 …そーゆーところがあるから、雪風のお守につけられないんだよ。

 

 俺は…よし、浅黄!

 

 

「「私?」」

 

 

 …指揮官だった方の浅黄。若い浅黄で浅木とかややこしくて仕方ないよ…。

 指揮官を降りても、戦闘能力はそのままだろう? ちょいと確認しておきたい事もあるから、一緒に来てくれ。

 

 

「…分かったわ。双刀、ある?」

 

 

 ほれ。これも数打だけどな。

 大和のお頭、こっちには見極め役は不要かい?

 

 

「構わん。どの道、物見櫓から状況は確認するからな。では、行ってこい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁ、山場もクソもなく終わったんですけどね。餓鬼数匹程度だもの。チュートリアル戦闘だもの。

 …平和でいい事なんだけど、ここまで来るとせめて一捻りほしいよなぁ…。折角強くてニューゲーム状態なんだからさぁ…いやそんな事言ってたら、毎回毎回訳の分からない事態に発展して、最終的に脈絡もなく降ってくるラヴィエンテや巨大ミラバルカンでデスワープするんだけど。

 

 

「それで、確認したい事って?」

 

 

 ん? あぁ…。これからどうするつもりなのか、と思ってな。

 このまま滅鬼隊の一員として活動するならそれは別にいいんだが、周囲から疎んだ目で見られてないか? 或いは、負い目を抱えているから他の連中とまともに話せないとか。

 

 

「幸い、そういう視線は無いわ。…多分だけど、指揮官役だった私に無暗に反発しないよう、好意的な印象を刷り込まれているんでしょうね。封印の切っ掛けになった事に関しては、私を指揮官の地位から下した事で決着…となっているみたい」

 

 

 うーん、どこまで人の意識を弄ってるんだか…。赤子同然だから出来た事なんだろうな。

 

 

「…こちらからも、幾つか聞きたいのだけど。もしも、他に滅鬼隊を見つけたらどうする?」

 

 

 他に? 今いる面子以外でか。…まぁ、状況にもよるな。詩乃みたいにひどい扱いを受けて、逃げ出したいと思っているなら…相手にもよるけど手を貸す。

 美柚みたいに、何もかも忘れて平穏に暮らせているなら、そのままでもいいだろ。

 

 

「そういう意味ではなく、例えば…他に封印されている子が居て、それがまた40人くらい居たら」

 

 

 …居るの?

 

 

「多分、だけど。私と一緒に封じられていたのは、当時『完成』していて、活動するか、その直前だった子達ばかり。型遅れになって使われなくなったり、或いは研究途中で未完成の子も居た筈なの。私が把握しているだけでも、この3倍以上の人が居たわ。『予備』も含めてね」

 

 

 つくづく派手にやってんなぁ…。ばれなかったのが不思議で仕方ないんだけど。

 まぁ、受け入れるだけ受け入れるよ。どれだけとか、限度は…正直、その時次第だ。幸い、滅鬼隊は封印される時は、保存効果のある液体に入れられるみたいだしな。受け入れる準備が整うまで、そこで寝かしておくと言うのも…気分のいい手段じゃないがありと言えばありだろう。

 

 何にせよ、その時までにまずは今いる面子を自立させなきゃならん。

 人が増えれば人間関係は煩雑になっていくし、一人一人に声をかけて発作を防ぐのも一苦労だ。

 助けるだけ助けて、その後抱えきれずに諸共に自滅…って事態は防がないとな。

 

 

「そう…。分かったわ。色々と考え続けていたけど、私はあなたに全面協力する事にする」

 

 

 全面…?

 

 

「…起こされた時から、ずっと考えていたのよ。また、いいように利用されて捨てられるんじゃないかって。あなたは私達を起こし、面倒を見ているけれど、必要とはしていない。違う?」

 

 

 そうだな。戦力として仕立て上げる事を考えてはいるけど、それは滅鬼隊の皆が自分の立場を確立する為だ。

 お前達の為…って恩着せがましく宣うつもりはないが、確かに俺個人の目的の為には不要だな。どっちかと言うと、一度犬猫拾ったんだから、中途半端に捨てる訳にはいかないって責任感に近い。

 目を覚まさせる為なんて理由で、一度は手を出したんだしなぁ。ヤリ捨ては心が痛む…。

 

 

「犬猫に対する責任感で結構。それで私達は充分助けられている。皆を連れてここまで逃げてこられたし、将来の事まで考えてる。…と言うより、単なる責任感でここまでやれるなら、そっちの方が凄いわ。私達を使い捨ての道具にせず、衣食住を確保しようと奔走し、かと言って限度を顧みず抱え込み続けるのでもない。簡潔に言えば、頭領として理想の存在なのよ」

 

 

 ……理想、ねぇ…。求めている要求水準が低すぎるだけのような気が…。

 

 

「私の知る中では、だから。…前の運営元が酷すぎたからね…。ともかく、植え付けられた感情に関係なく、私はあなたを『主』として動くわ。…実を言うと、起こされてからずっとあなた達を観察してたのよ。もしも以前の連中と同じように、滅鬼隊を使い潰す気でいたら、後がどうなろうと寝首を掻いてやる、ってね」

 

 

 はっ、できるモノならば、辞めてくれるがいいわ!

 

 

「できそうにないし、する必要もなさそうだったけどね。…あの時は、植え付けられた感情に縋りついて、皆を破滅させた。同じ事だけは、絶対に繰り返さないと誓っていた」

 

 

 怖い怖い。ま、寝首を掻かれる程に耄碌したなら、その時は仕掛けてくれればいいさ。老害になるより、綺麗さっぱり終わってしまいたい。

 

 

「もうしないわ。…もしする必要がありそうなら、手段を問わずに方向修正する。腹心面できる程、有能ではないけど…改めて、これからよろしくね。『お頭』」

 

 

 ウタカタのお頭は、大和のお頭なんだけどなぁ…。里に二人お頭が出来るようになっちまうぞ、これ。

 妙な事にならない内に、立ち位置表明しとした方がいいな。

 

 

「そういう考えができるから、私より集団を統治するのが向いてるのよ。…ああ、そうそう。それと…」

 

 

 ん?

 

 

「全面協力する、と言ったでしょう。『発散』したくなったら、いつでも呼んでちょうだい。明日奈さんや神夜さんにするのが躊躇われる事でも受け止めてあげる。私を道具と思って遊べばいいわ」

 

 

 …ま、その内な。その時は、協力がどうの立場がどうのなんてどうでもよくなるくらいに、蕩けさせるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、襲撃の結果ですが。

 

 俺と浅黄、当然無傷。相手が雑魚だった事を差し引いても、浅黄は充分に強かった。

 流石は経験を下手ハイエンド個体、といった処か。

 指揮官するより、敵の目の前に放り出して大暴れさせた方が有効な戦力になりそうだ。

 危なげなく餓鬼達を一蹴する強さに、物見櫓から見ていたお頭もホッコリ。

 真面目な話、餓鬼の群れって下手な大型鬼より面倒くさいからね。油断もせず気負いもせず、扱くアッサリと殲滅したので、戦力評価としては良しとされたと思う。

 

 

 次、桜花が率いた準主力級部隊。

 軽症者は出たものの、こちらも問題なく敵を殲滅。準主力級と分類されているとは言え、地獄の激戦区・最前線のウタカタで戦い続けている猛者達は伊達ではない。シノノメの里のエース級と張りあう事だってできるだろう。…泥高丸が相手だと、ちと厳しいか。

 桜花に頼りきりになる事を良しとせず、前衛・後衛・索敵その他を淀みなく行う姿は、統率の取れた軍隊を彷彿とさせる。…ていうか、モノノフって実際鬼を相手にした軍隊だものな。

 とにもかくにも、頼りがいのある味方が多いのは良い事だ。

 彼らの事を学ばせれば、滅鬼隊の失敗の原因である慢心やら経験不足も、大幅に改善される事だろう。

 

 

 最後に、明日奈・雪風・骸佐・富獄の兄貴の部隊だが。

 

 

「…すまねぇ、刀を壊しちまった」

 

 

 帰ってくるなり、見事にグチャグチャになった刀を差しだされました。

 それを黙ってみている大和のお頭と、一緒に行った筈の富獄の兄貴。何故か明日奈は居なかった。…いや帰ってきてないんじゃなくて、なんか桜花に連れられて外に行ったんだが。

 

 

「骸佐ってば下手糞ねー。私なんて傷一つ付けずに武器を持って帰ったわよ。餓鬼だって何体も撃ち抜いたんだから」

 

 

 ほら、と差し出された雪風の手には、確かに新品同様の銃がある。何発か撃っているようだが、確かに丁寧に扱っていたようだ。

 が。チョップ。

 

 

「あいたっ!?」

 

 

 雪風、ちょっと黙ってろ。

 武器が壊れた事自体はどうでもいい。重要なのはどうして壊れたかと、無事に帰ってこれたか、だ。

 受け取った打ち刀を掲げ、よく見分する。

 

 

 

 ふむ。

 

 

 無茶な扱いをした形跡はない。刃筋も立ててるし、力ではなく技で斬ってる。身に付けた技法からして力圧しの傾向があるが、それも無理を通すものではなく術理の範囲内。まぁ、そうでなければこの状況で戦わせないけど。

 この折れ方は、無理に斬りつけたからじゃない。敵の攻撃を受けて咄嗟に盾にしたのでもない。

 つーか、刀身より先に柄が壊れとる…。握り壊したのか。しかし、この切り口は素手のものじゃないな。指の形…ではあるが、金属と見た。

 つまるところは、これが骸佐、お前の『タマフリ』か。

 

 

「…ああ、そうだ。詳細が把握できてなかったんで、まだ使うつもりはなかったんだが、実戦でつい、な…」

 

「ほぉ…。突然腕が変化したように見えたが、そういう事か。面白れぇもの持ってんじゃねーか」

 

「そう大仰な代物じゃない。所詮は体を固くするだけのものだ。防御力が高くなるのは結構なんだが、その分動きが阻害されてな…」

 

「はん、そんなもんお前が未熟だからだ。鎧を着こんだままの闘法なんざ、幾らでもある」

 

「…よければ、その闘法とやらを…」

 

 

 …ま、本心であっても、俺の反応を見ようとしたのでも、どっちもでいい。

 富獄の兄貴も強さを求める傾向が強いし、武辺者の骸佐と一緒にすれば何かしらの感銘を受けるかと思ったが、正解だったな。

 槍使いの権佐を選ぼうかとも思ったんだけど、あいつは良くも悪くも骸佐程素直じゃないからなぁ…。性格で言えば、息吹の方が合いそうかな。

 

 ふむ。

 

 ともあれ、そういう理由なら怒る必要はない。

 思わず無用なタマフリしちまったってのは問題だが、この理由なら同じ事は繰り返さないだろう。

 それより得物の耐久度が問題だな。今のままじゃ、骸佐の力を十全に発揮できない。握っただけで壊れる武器なんぞ論外だ。…今回は、使い手が規格外だったって事で酌量の余地はあるが。

 

 …心当たりは幾つかあるが…大和のお頭、確かウタカタの里には、霊山でもかなり有名だった鍛冶師が居たな?

 

 

「たたらの事だな。腕は保証しよう」

 

 

 骸佐に限らず、彼等の武器は順次依頼したい。

 今回は幸い無傷で済んだが、戦いの最中に得物が無くなるようじゃ、とても前線には出せない。

 

 何はともあれ、よく無事で戻った。…想定外とは言え、実用に耐えられない武器を渡したのは済まなかった。この通りだ。

 

 

「いや…構わない。戦いの最中、武器が無くなるなんてそう珍しい事でもないだろう。状況が急だったし、これ以上責任追及しても益はない。この辺りで収めよう」

 

 

 ああ。ありがとう。

 …雪風。

 

 

「何よ」

 

 

 あら、ちょっとご機嫌斜め。失敗した骸佐を横に、自分は褒めてもらえると思ってたのかね? そういう意味での競争意識はよろしくないが…。

 まぁいい。後で話がある。部屋…つっても、まだ住処用意できてないな。

 とにかく、後で少し付き合え。

 

 

 一連の話を眺めていた大和のお頭は小さく息を吐いて頷いた。

 

 

「ただ武器を無くした事を叱責するなら論外だったが、状況を見る目はあるようだな。いいだろう、彼女達はお前の直属とする」

 

「お頭、いいのか? 里の中で大きな派閥が出来るのでは…」

 

「構わん。人が集まれば自然と出来上がるものだ。特にこいつらは、良くも悪くも仲間意識が強いようだ。散らせたように見えても、密かに集まるだけだ」

 

 

 それは同感だけど、こいつらに『密かに』なんて出来ないと思うけどな。

 ま、いいや。

 神夜、こっちは特に問題なかったか?

 

 

「自分達も戦いたい、と言い出したのが何人か居ましたが、武器の用意もできてませんでしたからねぇ。無手でやるかと聞いたら大人しくなりました」

 

 

 そうか。…今回は無理だったが、それぞれ道具と役割は割り振る。

 それまでは、こっちでの生活基盤を安定させるのに尽力してくれ。

 

 さて、大和のお頭。色々と話し合っておかなきゃならない事は多いが、まずは寝床の確保に向かいたい。例の場所を使わせてもらおう。

 

 

「うむ。後で様子を見に行くからな」

 

 

 

 

 

 



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458話

 

 

「で、とりあえずついて来たけど………ここ?」

 

「道と森しかないわね」

 

 

 雪風と詩乃が、宛がわれた土地を見て呟いた。

 

 ゾロゾロと連れだって里の中を移動し、軽い挨拶もして到着。相変わらず、俺には神木の霊は見えないままだ。単純にそういう才が全くないのか、それともそもそも存在しないのか…。

 ウタカタの里は、大体の滅鬼隊員のお気に召したようだった。実際、いい里だものな。

 自然が豊かで水も豊富、食料は自給されている、里人はお人好し揃いで田舎によくある排他感も無い。実際に見ていなければ、「そんな都合のいい場所ある訳ないだろ」と思っちゃうような里だ。

 

 中身がお子様同然の滅鬼隊の情操教育には丁度いい。

 

 

 ともあれ、今いるのはモノノフ達が任務に向かう時に通る道と、その広場。

 ぶっちゃけ、何もない場所だ。

 

 

「家を作る当てはあると言っていましたが…いい加減、何を考えてるか教えてくださいよ」

 

「そうよそうよ。ここまで来て無理でした、は流石に勘弁してほしいわ。個室が無いのはまぁ、我慢するけど」

 

 

 それは俺が我慢できない。夜遊びするのに支障が出る。

 何を考えてるかってなぁ……言っても理解できんよ。俺だって、細かい原理を説明しろって言われても無理だし。クラフターの事を説明しようとしても、何をどう言えばいいのか分からない。

 

 まーなんだ、滅鬼隊の『特別なタマフリ』みたいなものを利用するんだと思ってくれ。

 

 

「…土遁でも使って、土木工事でもする気? 確か、昨日発作を起こしたまりが使えた筈だけど。でも、穴を掘っただけじゃ住居はできないわよ」

 

 

 取り敢えず間取りは………ここからあそこまであれば、全員が寝るには充分かな。高さは…2階は後で考えればいいや。身長が大きい子も居るから、ちょっと天井は高めにして。

 資材は……床、壁、天井………………計算するのメンドクセ。その辺の土、使えるだけ使えばいいや。

 

 まり、それに権佐! 土遁使えたよな? 悪いけど、その辺の……ああいや、あっちの川から水を引くような感じで、土を掘り起こしてくれ。で、ここの所にはちょっと深めの穴。

 

 

 

 二人と、どうせ暇だからと手伝ってくれる子達に助けられ、材料は確保できた。穴掘って積み上げられた土を、俺がポンポン叩くだけで消えていき、次の瞬間には綺麗な真四角になって出現するのに目を丸くしていた。

 更にそれを置いただけで、押そうが引こうが蹴っ飛ばそうが全く動かなくなるのに驚かれた。殴ると壊れるから、乱暴に扱っちゃダメよ~。

 

 

「…こんな特技持ってたの…。これを使ってれば、シノノメから霊山への道中も色々快適だったんじゃない?」

 

 

 いやー、あの時は諸事情あって出来なかったというか、まだ身に付けてなかったというか。

 ちゃんとした技術じゃなくて、夢から覚めたら何故か出来るようになってるんだよなぁ…。

 

 

「全く意味が分かりませんが、とりあえず便利だし不思議なので考えるのは止めました。で、つまりこれを使って家を作るって事なんですね。……空中にも固定ができるって、どうなってるんでしょこれ。天井を作るのには便利そうですけど」

 

 

 そういう事。水路がこう来て―、間取りがこうだからー、こっちが台所で、こっちが厠。風呂は別途作らないとな。

 これは土遁組と水遁組で協力して作ってもらおうか。沸かすのには火遁が必要かな…。

 

 

「皆って料理できるのかしら…。とりあえず、暫くは私が担当するわ」

 

「では、私は皆さんがゆっくり眠れるように、寝具の作成を。即席なので、下に敷く布くらいしか準備できませんが」

 

「ねえ、この家って今後の間取りとか考えてる?」

 

 

 今はあまり考えてない。ただ寝られるところ、としか。

 個人個人の部屋…は広さ的に難しいし、家の真ん中付近に日光が入らなくなるから、少し離れた場所に他の家を作って一部移ってもらい、その間に改築…かな。

 俺が言うのもなんだけど、男女が同じ場所で雑魚寝してるのってあまり良くないだろうし。

 

 

「「「どの口が」」」

 

 

 この口だよ。棚上げしてんだようるせーな。

 というか俺だから言うんだよ。このままじゃ、教育によろしくない遊びができん。

 

 …まぁ、それはともかくとして、とりあえず俺と土遁組はこのまま豆腐ハウス作っていくから、他の面々は明日奈について飯の準備と……神夜と詩乃は、残った連中を連れて一緒に必要な雑貨の買い出しを頼む。里への顔見世にもなるし、社会見学も兼ねてくれ。

 

 

「了解! 今からこれだけの人数のご飯を作るなら…煮物ね。雪風、教えてあげるから手伝ってちょうだい」

 

「わかったー! 今度お婆ちゃんに会ったら作ってあげるわ!」

 

「またきっつい役割ですねぇ…。この子達、ちゃんと言う事は聞いてくれるんですけど、衝動のままに走り出すんですよね…」

 

「見た目が大きくても、中身が子供なんだから仕方ない。…浅黄、元指揮官として何か一言助言を…」

 

「昔からこうだったわ。それで何度作戦が滅茶苦茶になった事か…」

 

 

 …おい浅黄、俺に全面協力するとか、お頭扱いし始めたのはお前だが…まさか問題児達の扱いを俺に押し付けて、自分は気楽な一戦力に戻ろう、なんてつもりじゃなかっただろーな…。

 

 

「……私の謀り事も、偶には上手くいくものね」

 

 

 

 後日のお仕置きが決定した。体を使っていいって言ってたし、じっくり気晴らしさせてもらう。

 

 

 

 

 そんなこんなで、取り敢えず寝床は確保できた。即席ながら複数あってトイレは水洗(和式)、炊事場も簡易のモノを作り、木材をマイクラ的に加工して作った荷物置き場も人数分ある。

 床は木張りで統一し、 扉は木製の引き戸。窓にも戸を付け、換気が必要ない時には虫の侵入を防ぐ事が出来る。

 

 即席で作ったにしては、上出来かな。

 

 

「上出来って言うか、凄すぎだと思いますけど…」

 

「何にせよ、暮らしが快適なのはありがたい事ですな」

 

 

 土遁コンビのコメントは対照的だ。性格が出ている。

 材料の調達、お疲れさん。

 

 

「生まれつき…生まれつき? 使える術で土を積み上げるだけでしたから、大した苦労はありませんな。しかし、お頭も妙な術を持っているようで。この手のタマフリとは違う術は、滅鬼隊の専売特許だと思っていましたが」

 

 

 妙な力を持ってる奴なんて、ちょいと探せば案外転がってるもんさ。

 さて、改築と増設は明日から考えるとして、他の連中はどうしてる?

 

 

「飯の匂いが漂ってきますんで、明日奈嬢の方は大丈夫そうです。雪風の嬢ちゃんが居ても、惨事にはならんかったようで」

 

「雪風さんも無茶はしませんよ…多分」

 

「買い出しに行った面子は、まだ帰っていていませんが…まぁ、大丈夫でしょう。神夜嬢が引率しているのに、逆らう阿呆はそうそう居ません」

 

 

 すっかり手綱握ってるなぁ…。ウタカタまでの道程で怒られたのが、そんなにキツかったのか、滅鬼隊。

 いや、怒られた事もない子供が初めて刀持って脅されたと思えば、無理もない…のかな? 初めてでなくても刀で脅されるのは、怖いってレベルじゃないか。

 

 

 そんじゃ、飯と帰りを待つ間は休憩してよっか。

 

 

「…お頭もですか?」

 

 

 お頭って俺だよな…。別に文句はないけど、大和のお頭と被るのはよくないな。

 

 

「そんなら……若、とか?」

 

 

 それだと、俺が大和のお頭の子供って事になりゃせんか?

 

 

「じゃあ……御館様?」

 

 

 ゆぅきむるぁ!って叫びたくなった。まぁいいか。

 俺は休憩がてら、何処に何を増設するのか考えてみるよ。

 

 男女比が偏りまくってるからなぁ…。男女で分かれて寝床を作るとして、大きさだけで考えても掘っ立て小屋と武家屋敷くらいに扱いに差が出てしまう…。

 必要な空間と人数が違うって事で納得してくれるとしても、目に見える扱いの差を作るのは望ましくない。対立の原因になりかねないし、何より俺が情婦を作る為に贅沢させてるんだと言われると反論できん…。

 それに、ただでさえ人数比の関係で、男性組は肩身が狭くなってるんだ。女性組の圧力に呑まれてしまわないよう、適度に距離をおいておきたい。

 例え男性組が女性組以上の戦果を挙げても、私生活の力関係は全く別の話だしなぁ…。

 

 

「休憩できてませんよぅ。ええっと……な、何か緊張を解せる事……」

 

「男を休ませるなら、膝枕がお勧めだぞ、まり嬢ちゃん」

 

 

 是非。あ゛あ゛~、気弱な真面目眼鏡っ子のむちむちフトモモに癒されるんじゃあ~。

 …にしても権佐、お前って封印前に活動してたんだっけ? こっちにくるまでに話した時は、前の事は全く覚えてないって言ってたが。

 

 

「ええ、今でも全く思い出せません。ですが、何となく『こうだろう』という意識と言うか印象があってですね…。まぁ、『権佐』になる前の名残なんじゃないでしょうか」

 

 

 サラッと闇の深い話が出てくるが…そうだな、そういや今呼んでる名前も、本名じゃなくて型番名みたいなものなんだよな。

 詩乃も自分で自分に名前つけてたし、やっぱりそういうのは大事だよな…。今からでも名前、つけるべきか…。

 浅黄が言ってた事が事実なら、今後別の保管場所に居る滅鬼隊を起こす事になるかもしれない。同じ型番の人間が二人いては、話がややこしくなりそうだ。

 

 

「気にしなくてもいいんじゃないですか? 少なくとも、今の俺にとって名前は『権佐』です。今から別の名を名乗れと言われても困りますよ」

 

「わ、私も…です。それに、一人一人に全く別の名前をつけるのって、大変じゃないでしょうか。つけるのもそうですけど、覚える方も大変です」

 

 

 ……それも否定できんな…。

 それに、今までの名を突然奪われて、別の名を名乗らせるのは洗脳と大差ないか。

 ま、その時になったら考えればいい。「タヒねレプリカ!」なんて事にでもならない限り、問題は無い。

 今はまりの膝枕でゆっくりしよう。

 

 

「あっ、ちょっ、うつ伏せにならないでっ、頬擦りしないでっ、お、お尻揉むの駄目ぇ!」

 

「はっはっは、犯罪っぽい絵面ですなぁ~」

 

 

 男に膝枕させるってこういう事よ~。触られてるのに膝を崩そうとしないのは何故だね?

 嫌がって無さそうだったら、どんどん過激になっていくのだ。

 

 

「~~~!

 

 

 抗議するように、頭を上から抑えつけられた。が、その行為はむちむちフトモモに顔を押し付けるだけですな。ああフローラル…。

 

 

 

 ……………次に作るのは風呂だな、決定。

 いや別に臭いとかじゃないんだけど、霊山からウタカタまで急行してきたから、やっぱ身綺麗とはいかないわ。汗拭く程度しかできなかったもんな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飯の準備が着々と進み、神夜達が里から戻って来た頃。

 俺と土遁組は、次の作業を行っていた。さっき決めた通り、風呂……は流石に沸かすのに手間がかかるし、大がかりになってしまいそうなので、小さなシャワー室を作る。

 座って寛げる程ではないが、体を洗うには充分なスペースと脱衣所、不法侵入や覗きができないようにつっかえ棒を用意し、窓は無し。換気の為、天上に小さく穴を空けた程度。

 

 問題はシャワーについて。地面から頭の上まで水をどうやって持ってくるか。そして加熱はどうするか。

 だったんだが、意外と何とかなってしまった。半分はマイクラ的加工のおかげだが、半分は滅鬼隊員の協力によるものだ。

 

 頭の上まで水を持っていくのに関しては、手動式だがポンプを作る事が出来た。イメージとしては、アレだ、こう…一斗缶とかから液体を移す時に使うような、アレだ。

 これの大きなものを使って、シャワー部屋の上に設置したタンクに水を満たす。そこから配管を伸ばして、部屋の中へ。後は必要な時に、手元のスイッチなり取っ手なりを弄れば、水が出てくるって寸法だ。…ちょっと勢いが強かったけど…。

 材料? マイクラ的加工と、ふくろ の中を漁って出てきたモンスターの素材を使ったんだよ。鬼の素材でも出来そうだったけど、あれは動きがイマイチよく分からん。使うなら、たたらさんに性質について教えを請うた方がいいだろう。

 

 

 

 加熱については、案外簡単だった。頭の上まで水を運ぶ事が出来たなら、そこで溜めて加熱すればいいだけだ。火加減を誤ると、熱湯を頭から被る事になるけども。

 「俺の炎は、鬼を焼くのに使うものなんだぞ…」とブツブツ言いながら協力してくれたのは、炎を操るタマフリを持つ舞華。

 大柄でぶっきらぼう、ヤンキーっぽい口調で、その実可愛い物が大好きらしい彼女は、何故か木の枝を口に咥えながら、あっという間にタンクの水を温めてくれた。湯加減火加減まで完璧だ。

 

 

「そうだろ? 俺の炎は普通の炎とは一味違うぜ。俺にとっては、体の一部みたいなもんだしな」

 

 

 よし、じゃあ舞華は風呂係に決定って事で。

 

 

「…はぁ!? ざっけんな! 何で俺がそんな事を!?」

 

 

 そう怒るなよ、一番風呂使っていいし、他の日常生活での作業はある程度軽減するから。

 いつまでも風呂ばっかり焚いてろって事でもない。他の担当を探すなり、人力に頼らなくても温度を維持する方法とか考えるから。

 

 

「む……他の面倒くせぇ事をしなくていいのはでかいな…。一番風呂は俺も気分がいいし…。…………まぁ、頭からの命令じゃ仕方ねえな…」

 

 

 よし。風呂焚き要員確保。これなら、シャワーだけじゃなくて浴槽も出来そうだ。

 他にも、ちょっと考えれば日常に応用が効きそうなタマフリ持ちが沢山居る。人材頼りではあるが、思っていたより快適な暮らしを送れそうだ。

 

 

「よっしゃ、じゃあ早速一浴びして」

 

「ただいま戻りましたー!」

 

 

 

 おーう、おかえりー。

 舞華がシャワー室に入って行こうとした時、神夜の声と、大勢の足音がした。買い出し組のお帰りである。

 

 

「どうやったのか知らんが、本当に家が出来ているな…。この素材は何だ? 単なる土ではなさそうだが。家を一つ作るのに使った材料はどれくらいだ?」

 

 

 あら、大和のお頭いらっしゃい。…ああ、舞華、そのまま入って構わない。まりと権佐も、後は好きにしてくれ。

 

 壁の素材は土だよ。あんまり頑丈じゃないから、叩いたりしないでくれ。崩落はしないが穴は開く。

 

 

「ふむ…確かにあまり頑丈ではないようだ。しかし、それでも小型鬼の道を阻むくらいはできそうだな。半日もかからずこれだけの規模の家を作った辺り、時間も必要なさそうだし…」

 

 

 侵入を阻む仕切りみたいなのを作るのは構わないけど、その分モノノフの行動も制限されるぞ。

 やるならやるで、場所を精査しないと。

 特にこの辺りに乱立させてしまうと、モノノフの出撃時に不便極まりない。むしろ鬼の方が出口で待ち構えるかもな。

 

 

「分かっている。鬼が大群で押し寄せてきた時の対策は、昔から頭を痛めていたのでな。手札が増えるだけでもありがたい」

 

 

 ところで、そっちに行ってたウチの連中、何かやらかしたりしませんでした?

 

 

「騒がしかったが、問題がある程ではなかったぞ。神夜と言ったか、あの引率役からお前に迷惑がかかる、と言われるとすぐに大人しくなった。慕われているな」

 

 

 …慕う、でいいんですかねぇ。どんな経緯だろうと、その場で感じた感情と衝動は本物、と言い切る事もできますが。

 

 

「構わんだろう。人が不相応な地位について、人の上に立って振る舞えば、1日2日程度でも強い反感を持たれるものだ。少なくとも、お前は彼女達の頭領として認められているのは間違いない。尤も、俺に言わせればまだまだ足りないものだらけの若造だがな」

 

 

 そりゃ、元は一介のハンター…いやモノノフでしかないからね。…それが人材育成やらギルド運営やらプロデューサー紛いの竿師やら、色々やったもんだ。

 ところで、明日からのモノノフとしての任務はどうなってます? 働かざる者食うべからずが基本だし、任務に当たらせるのはいいんだが、その前に一人一人適正や練度を見極めていきたいんだけど…。

 

 

「それ自体は構わん。任務も今のところ、そう急を要するものはない。しかし、お前はそうやって全員を自分で見極める気か?」

 

 

 ? そりゃ、そうしないと把握できないし。特に今のところ、個人の練度を現す段位みたいなものも無い。

 班分けするにしても、得意な武器、苦手な状況、考え方の傾向とか、色々把握しなきゃならんでしょう。適当に組ませて仲違いしている間に全滅しました、じゃ話にならん。

 

 

「一番最初の大変な時期だから、というのは分かるが、無理に自分でやろうとするな、馬鹿者。お前以外にも、相応の実力者が居るだろう」

 

 

 ってーと…神夜、明日奈、詩乃、浅黄…かな。

 しかし、浅黄をその手の役職に据えると、妙な事を考える奴が出かねない。中身が子供だから、『気に入らない』の一言で行動したとしても意外ではない。それ防ぐ、或いは黙らせるのを考えるくらいなら、一人分人手を削ってでも…。

 

 

「まだ視野が狭い。これから滅鬼隊は、誰と共に戦う事になる? 滅鬼隊だけで戦わせるというのなら止めはせんが、その場合奴らが知る世界は身内だけの狭い物になるだろう。今後、お前が隊を纏め続けるにせよ、独立していくにせよ、まず学ぶべきは何だ?」

 

 

 ! …他者との関わり方、その中で自分達はどのような立ち位置に居るのか。

 つまり……そっちのモノノフ達と戦わせて、力量を計ればいい…と?

 

 

「その通り。こちらとしても、若造共に喝を入れたいと思っていたところだ。主力級部隊との力量が隔絶している為、鍛錬は行っていても追いつける気がしないと、諦めが見えてきていてな…。後輩が追い上げてきていると思えば、素振りにも身が入ろう」

 

 

 成程なぁ…。じゃあ、実際にどうやって戦わせるか、だけど…。

 

 

「くじ引きで代表者を決める。5,6人程度でいいだろう」

 

 

 …マジすか。

 

 

「と言うのは建前だ。一組くらいは本当にくじでも構わないが、基本的にはほぼ同格程度の組み合わせとする。訓練兵、新兵、熟練兵、準主力、主力級…。どっちが勝っても構わんから、そこまで深く考える必要はない。違いの力量を確認し、そちらの人員が鬼との闘いに出られるかを確認するのが目的だ」

 

 

 で、その戦いを見て、俺も滅鬼隊員の傾向を把握しろ、と。

 催し物としてはそこそこ面白そうだし、一人一人対峙して観察するよりは楽そうだな。

 

 

「今後も定期的に行い、その度に人員は変える。充分と判断したものから、戦場に出せばいいだろう」

 

 

 …要するに、シノノメの里でやってた練武戦みたいなもんだな。

 さて、どうするか…。

 正直、提案はありがたい。俺一人で全員見るよりも楽だし、滅鬼隊員は自分達のグループ以外との交流が極端に少ない。慣らすなら、少しでも早い方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 それはそれとして、負けるのは嫌だな。

 

 

 

 

 

 あと、そろそろ神夜が戦いたいって暴れ出す頃合いだし。

 

 

 

 

 

 うし、一丁やるか。

 

 

 

 が、やっぱり生活基盤の安定が最優先なんだよなぁ…。舞華みたいに日常に使えるタマフリ持ちも居た事だし、他にも……いや、逆か。便利な物ほど戦いに応用できるって言うし、それ用に作り込まれたタマフリなら、使いどころを見極めれば何か出来るだろ。

 



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459話

雪風の濡れ場が書けねぇ…なんか調子が出ない…。



 

 

 

堕陽月拾壱日目

 

 

 さて、すったもんだありましたが、草木も眠る丑三つ時である。

 良い子の滅鬼隊の皆さんは熟睡中だ。さっき明日奈が一人一人確かめて、神夜が作った布団をかけ直していた。オカンである。

 

 明日奈が作った飯を食いまくって、腹がくちくなって皆寝ちゃったんだよなぁ。

 …これ、滅鬼隊にとって明日奈の飯がお袋の味って事にならんか? 神夜がお袋で明日奈がオカン? まぁそれは別に問題ねぇわ。俺が親父って事で、『娘はやらん!』も出来るしな。…でもその娘を食っちゃってるんだよな…。………あれは治療、あれは治療。

 

 ともあれ、特別扱いで悪いが、俺の部屋だけは急遽個室として作らせてもらった。

 マジな話、外に出せない資料を色々と扱わないといかんのだ。滅鬼隊自体、機密事項の塊みたいな物なんだ。それぞれの能力や性格を纏めた資料だけでも、世に流れるのは好ましくない。ちょっとした情報でも、罠に使われる可能性は0ではないのだ。

 

 

 お察しの通り、実態はオタノシミ部屋だが。

 機密情報の格納場所が必要なのは事実だが、俺の場合は ふくろ という反則技があるからなー。

 

 それよりも、明日奈と神夜の欲求不満が爆発する方が怖い。…遠い場所に居る、雪華達も早い所どうにかせにゃならんな。

 焦らしプレイと言う事で納得させてるけど、魂まで寄り添いたい…実態は飴玉になるのようなものだが…という要求を、影に日向に、雪華に至ってはこっそり式神を飛ばしてでも行ってくる。つまり、直葉同様、『烙印』を使って身も心も虜にしてほしいという要請だ。

 ヤるのは望むところ…将来的にはやや不安が残らないでもないが、まぁそれはいい。

 

 

 今は、先に雪風と話をせにゃならん。言ったもんな、滅鬼隊の目を覚ます時に、『そういう状況じゃないけど、後で話す』って。

 

 マジな話、雪風がそういう行為を理解しているかと言うと……恐らく是、だろう。

 滅鬼隊員は、ある程度の知識を起動前にインストールされる。滅鬼隊の扱いを考えれば、性処理に関する知識や技術は、真っ先に刷り込まれるだろう。

 逆に、体は大人なのに全く無知という状況も好まれそうではあるが。と言うか俺も好きだ。 

 

 そういう事をするつもりで、雰囲気もクソもない状況だけど犯される滅鬼隊に混じっていた。

 行動原理は子供そのものだけど、ちゃんと応じてやらないとな。

 

 

 

 と言う訳で、雪風を真夜中に呼び出したんだが……。

 

 

「…何よ? こんなところに呼び出して」

 

 

 普段とちょっと雰囲気が違うな? 戸惑っているというか、期待しているような、警戒しているような。

 まぁ、正しい反応だよな。好いた相手とは言え、男にこんな人気のない場所に呼び出されてんだから。

 

 俺もちょっと態度に困る。

 

 あー…その、このところ色々ありすぎて、ちゃんと話をしてなかったな、と思って。

 特にほれ、滅鬼隊は俺との触れ合いが少なくなると本気で危険だからな。

 

 

「みたいね。まり、だったっけ? 詩乃から聞いてはいたけど、あんな風になるなんてね。…分からなくもないけど」

 

 

 最初に起きた時は、俺にべったりだったもんなぁ…。

 思えばあれから、えらく話がややこしくなったものだ。

 

 …それはいいんだけど、雪風。お前、ここに来る事を誰かに言ったか?

 

 

「? 言う訳ないでしょ。 ………こっちだって、色々展開を考えてたんだから」

 

 

 そうか。…と言う事は……お前は完全に出刃亀って事か、不知火?

 

 

「あら、ばれてたかしら」

 

「!?」

 

 

 驚く雪風を他所に、意外と素直に姿を現した。

 蜃気楼から実体が出てくるような、奇妙な光景だった。森の一角が歪み、僅かな水滴を散らしながら姿を現す。

 

 相変わらず人妻臭溢れるこの女は、雪風の母親…という設定の滅鬼隊員だ。

 実際に母親な訳ではないだろう。だって、起こした時に突っ込んだけど、処女だったし。あれは膜を再生したとかじゃなくて、本当に未使用の感触だった。……手付かず人妻か…。もっとじっくり味わいたかった……いやいや、今は雪風優先だ。

 

 で、どうしたよ、わざわざタマフリまで使って尾けてきて。

 

 

「どうもこうも、私の子が、突然お頭に呼び出されたんだもの。気になって身に来るのが母親ってものじゃない?」

 

「何が母親よ。私達にあるのは、そういう『設定』だけじゃない」

 

 

 雪風、喧嘩腰になるんじゃない。例え単なる設定だとしても、そこから生じる感情や親愛は否定できるものじゃない。…お前が俺に対して感じてるのと同じ事だ。

 

 

「ばっ!? ばっ、ばか言ってんじゃないわよ! あんたの事なんか、どうでも…よくはないけど、好きないもん!」

 

 

 そうか? じゃあ好きになってもらいたいな。

 ……って、仮にも『母親』の前で口説くのもなんだなぁ。結局、本当に何しに来たん?

 

 

「単純に心配でしたから。お頭の事は信用しているつもりですけど、それも植え付けられた感情と言われればそれまで。雪風に何をする気なのか、気になったのです。……ついでに、私のタマフリの効果を試そうとしたのもありますが」

 

 

 まぁ…責める理由はないな。

 動機と状況はどうあれ、自分の感情や状況と向き合おうとする為の行動なんだし。

 

 とは言え、盗み聞きされながら話す趣味はないぞ。からかう以外では。

 

 

「仕方ありませんね…。この子を泣かせるような事はしないでくださいな。……ついでに聞いておきますけど、どうして私に気付けたんですか?自画自賛になりますが、上手に隠れていたつもりですけど」

 

 

 どうしてって言われてもなぁ。

 何となく、としか言いようがない。違和感を感じて、そこを重点的に気配を探ってみたら居た、としか。

 

 理由が無い、襤褸を出さなきゃ見つけられない、なんて思うなよ。

 見つかる時には理屈なんて関係ない。勘の一言で、完璧な隠形を見破られるなんて珍しくもないんだ。

 

 

「……自分が経験の少ない未熟者だって自覚はあったけど、思っていた以上のようね…。それじゃ失礼するわ」

 

「…何だったのかしら」

 

 

 さぁ。単純に気になったんじゃないのか?

 と言うか、仲は悪いのか? 妙に突っかかってたように見えたけど。

 

 

「……私のお母さんは、山本お婆ちゃんだもん」

 

 

 お母さんとお婆ちゃんは別物だろ。…そういや、不知火は雪風の母親とは書かれていたが、雪風の資料には不知火の娘とは書かれていなかったような…。

 

 

「いや、そこはそういう意識というか認識はあるわ。ただ、それもやっぱり植え付けられたものだと思うと…どう接していいか分からないし。いきなりお母さんよって言われても」

 

 

 まぁ…分からなくもないか。責められん。

 

 

「…私と違って、おっぱい大きいし」

 

 

 そこかよ。雪風はちっちゃい方がエロ可愛いんだけどなぁ。

 絶対に仲良くしなきゃならん訳でもないし、不和が起こらない距離を作ってくれると嬉しい。…仲良くしたいと思ってるなら、俺も手を貸すよ。

 

 ところで話は変わるんだが、初陣はどうだった?

 

 

「…………」

 

 

 話題を変えた途端、雪風の口元がへの字に曲がる。昼間の事がお冠らしい。

 やれやれ、難しい年ごろになりおって。

 

 そう怒らないでくれよ。雪風が何か失敗したって訳じゃない。むしろ、上手くやってくれたのはよく分かってる。

 ただ、あの場では褒めるよりも先にやる事があったからさ。

 

 

「……………」

 

 

 だったら何で褒めてくれなかったのか、と視線で問われる。

 

 …骸佐が、武器を壊して戻ってきたろ。あれ、半ば故意にやってたぞ。無茶な使い方をしてないのは確かだが、あれは軽い破損の後、更に手を加えて壊した状態だった。

 最初からそのつもりだったのか、壊してしまった事で思いついたのかは知らないが、俺の対応を見ようとしたんだろうな。

 

 仮にも身を預ける相手の俺が、武器が壊れたら何も考えずに叱責だけする奴なのか、多少は状況を鑑みるのか、或いは自分の思惑を見抜くのか。

 要はお頭として相応しいか試した、ってところだろうな。

 大和のお頭も見てた事だし…あれは完全に見抜いて見物していたな…今後の信用を得る為にも、最優先で対応する必要があったんだ。

 

 

「…そんなの関係ないもん。その後すぐに褒めてくれたっていいじゃない。言い訳って男らしくない」

 

 

 そうだな、悪かった。…にしても、何処でそんな言い方覚えてきたんだか…。

 

 後は、まぁ、これも言い訳と言われればそれまでだけど、同じ褒めるなら詳しい状況を聞いて褒めたいから。

 実際どうだったんだ? 相手は餓鬼だけか? 鬼火や野槌は?

 何匹くらい居て、どうやって倒したんだ?

 

 

「…居たのは餓鬼ばっかり。あいつら弱いって聞いてたし、大丈夫だから突っ込もうと思ったら、富獄さんに止められたの。折角銃を持ってるのに、わざわざ近付いてどうするんだって。面倒くさいなって思ったけど、あいつらを纏めて吹っ飛ばすやり方があるって言うから、話を聞いてあげたわ。こう…霊力を籠めた玉を餓鬼達の中心に放り投げて、着地する前に射抜くの。初めてだったけど、ちゃんと命中したわ。そしたら爆発が起きて、餓鬼を4匹も纏めてやっつけちゃった。あの人、意外と頭がいいのね。

 後は残った餓鬼を一匹ずつ撃ち抜いて行ったわ。ちまちまして面倒だったけど、頭に直撃すると気分がいいものね。戦ってる間に、あっちこっちから集まって来たみたいんだんけど…うん、銃の欠点よね。音が大きすぎるのって。

 近寄って来た鬼達は、骸佐がやっつけてたわ。危うく撃ち抜いちゃうところだった。私一人でも充分なのに、わざわざ出てこなくてもいいじゃない。『お頭に戦って来いと言われた』って言ってたけど、絶対自分が暴れたかっただけよね。私も似たようなものだけど。それで預かった武器を壊しちゃってどうするのよ。しかもわざとって…。

 それにしても、初陣だし、今回の襲撃は偵察みたいなものって話だったけど、それにしたってもう少し手応えがある鬼は居ないのかしら。こんな事言ってると調子に乗るなってお婆ちゃんに怒られそうだけど、実際鬼ってどれくらい強いのかよく分からないわね。ま、何が来たって負けるとは思わないけどね。やっぱり私って結構強いみたい。滅鬼隊の中でも、いい線行くんじゃないかしら」

 

 

 ちょっと聞いてみたら、最初は渋々応じていたのが喋る喋る。

 よっぽど自慢したかったらしい。拗ねていたのも、骸佐の話や今後の話ばかりして、雪風自身に何も言ってなかったのが一番の原因だったのかもしれない。

 慢心、己惚れとしてとても看過できない発言もちょくちょく入るが、今は口を挟むべきではないだろう。

 

 …別に、機嫌を直した雪風がまた不貞腐れるんじゃないかとか、顔色を窺っているのではない。

 初陣なんぞ、思い出すのも嫌になるほど情けなく取り乱すか、内面でテンパりながら表面だけは繕うか、何もかも忘れて突き進んで偶然上手く行ったかのどれかだ。稀に例外はあるが。

 そのどれであったにせよ、人に語る時には話を盛るものだ。良い方に盛って恰好つけるやつもいれば、情けない方に振って笑い話にする奴も居る。

 雪風のこれは、『はじめてのおつかい』で自分がどれだけ頑張ったか親に語る子供そのものだ。今はまだ微笑ましく見守って、自信をつけさせてやった方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 増長が続くようなら、直々に鼻っ柱を叩き折るけども。そりゃもう、いつぞやのコウタやアリサにやったような心折設計ブートキャンプで。

 

 

 

 

 それからも続く雪風の長広舌を、ちょくちょく相槌を打ちながら微笑ましく見守る。

 不機嫌そうな顔は何処へやら、鼻高々に自分の戦果を歌い上げる。実際、富獄の兄貴と骸佐が前衛を務めていたとは言え、初陣としては大手柄と言っていい。

 骸佐の意図を見抜けなかった事、富獄の兄貴が周囲に目を光らせていた事を差し引いても、討伐数はかなりのものだ。

 

 だから、俺もご機嫌取りではなく素直に思える。

 

 

 凄いな。本当に頑張ったんだな…。

 

 

「余裕よ、余裕! ま、そう思うんなら、ご褒美の一つくらい出してくれてもいいと思うんだけどな~?」

 

 

 山本先生仕込か、わざわざ身を捻って小柄な体で上目遣いに俺を覗き込む雪風。頬に差す紅は、夕日よりも赤かった。

 …滅鬼隊を起こした時に袖にした事に加え、ここで首を横に振るようでは俺ではない。

 

 ご褒美は、大人の女がする遊びを教えてやるよ。

 

 耳元でそう囁いただけで、雪風は恍惚の表情に変わる。…これは、洗脳による恍惚だろうな。ま、詩乃と同じで、完全に塗り潰してやるけどな。

 



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460話

健康診断で肝臓が引っ掛かりました。
再検査しろとのお達しで受けてきましたが、4,000円飛んでいったよ…。
会社からの指示なのに清算させてくれないし…。

とりあえず、眠気覚ましも兼ねてアニメ見ながらエアロバイクを1日20分ちょっと漕ぐ日々です。


 

 

 

 

 少しだけ歩くと、小さな岩場に出る。ここは木々の影もなく、近くの川のおかげで涼しい風が吹抜ける場所だ。

 地面が岩なだけに寝転がるには少々不便だが、月明りだけで女の肌が白く見える、絶好の青姦スポットだ。

 尤も、相手が雪風なので、肌は白くは見えないが。

 

 褐色の肌と肌色の境目に指を添わせると、それだけでビクンと体が震える。日焼けの境界線は、普段から晒している部位と、服に隠された部分の差だ。つまり、普段他人に触れられない場所。それだけ敏感な場所である。

 

 

「んっ……くすぐったいよ…」

 

 

 ピクピクと小さく反応する雪風。頬は赤らみ、目は潤んでいる。くすぐったいだけではない、未知の感覚を持て余しているのは明白だ。

 そのまま溺れさせてやるのは容易いが、雪風にとって初めての行為。夢中で貪るだけ貪って、何も覚えてない…と言うのはちょっと寂しすぎるだろう。

 雪風自身、行為に対する好奇心はあるようで、拙いながらも俺の体に触れてくる。股間を直接、と言うのはお子様なのに乙女な雪風には刺激が強すぎるようで、顔とか背中とかを「こうかな?」って手付きで撫でていた。愛撫と言うより、ワンコの背中を撫でるような動きになっているが、仕方ない。

 

 それにしても……新しい日焼け跡、出来てるんだな。

 

 

「ん……起きてから、貰った服で生活してたもんね。それにしても、前の私ってどういう恰好してたんだろ…」

 

 

 まぁ…気になるよな。元々の日焼け跡から察するに、体にぴったり貼り付くような衣装で、肩が丸だしなのはまぁいいとして……股の辺り、相当なハイレグだぞ。妙な所で時代を先取りしている。

 今回起きたのが初めてだから、それも含めて人為的に設定されたって可能性は高いが…。

 しかし、もしそういう衣装を本当に作ってるなら、見てみたいな。

 

 

「………すけべ。そういうの好きなの?」

 

 

 雪風のなら、何でも好きだね。雪風が恥ずかしがるなら特に。いやらしい恰好と表情をさせて、可愛がってやりたくなる。

 いいだろ? そういう恰好をさせられてたのも、封印されて何年も眠らされ続けたのも、記憶が全く無かったのも……全部全部、俺に捧げられる為だったんだ。運命って奴さ。

 

 

「運命ねぇ…運命じゃ仕方ないわよね。じゃあ、貴方が私を奪っちゃうのも運命なのね」

 

 

 勿論、それこそ正に運命だ。だからこうやって、擦られて。

 

 

「んっ…お尻、へんな感じ…」

 

 

 揉まれて。

 

 

「あん…」

 

 

 ニギニギされて。

 

 

「はぁっ…! い、今何か、びりってきたぁ…っ!」

 

 

 鷲掴みでぐにぐに揉みしだかれて。

 

 

「っ、っ、な、何か、変なのが、っ、お尻からっ!」

 

 

 気持ちよくなっちゃうのも運命なんだよねー。

 おっと、ジタバタしても無駄だぞー。お、腕が上がった。そのまま片手で固定して。

 

 

 

 あーん

 

 

 

「ひぃ!? ちょっ、どこ舐めてっ、くすぐったきもちわる、ぬっ、ぬるぬるって!」

 

 

 どこ舐めてるって、見ての通り脇。んー、ちょっとしょっぱい。青春の味って感じ。

 大丈夫大丈夫、脇は性器だから。受け入れてしまえば気持ちよくなれるよ。尤も女の子の体は、その気になればどの部位でも男を悦ばせられるからね。全身性器とも言えるけど。

 

 

「訳が、わからなっ……あ、あぅぅぅ…」

 

 

 おお、思った以上に効果があった。イイ感じに頭が湯立っている。

 予想もしなかった行為で、無意識な警戒心や不安が一つ叩き壊されたようだ。脇が性器…と言うより、雪風個人の性感体っぽい。

 一舐めする毎に雪風の体から力が抜け、羞恥心からの抵抗が弱くなる。

 

 同時に、尻を責め続けていた指をじわじわ侵略させて、雪風の秘部に近付ける。下着は蜜で貼り付いているが、初めての受け入れにはまだ解し足りない。引き続き責め続ける。

 舌を這わせる範囲を広げ、今度は胸元へ。

 服を開けさせ、露わになった白い肌。日焼けしてないその肌は、手足の活発な印象とは裏腹に、秘められた秘宝のように淑やかだった。

 

 意外と、と言っては失礼だろうが、女性らしい膨らみが露わになり、小さく揺れる。

 恥ずかしそうにしているが、胸を隠そうとはしない。それでも不安な表情をしているのは、やはりコンプレックスがあるからだろうか。ぶっちゃけ、周りの女のバストサイズはおかしいからなぁ…。

 

 尤も、コンプレックスを持っている部分を敢えてねちっこく責めて悦ばせるのが非常に楽しいので、むしろ恰好の獲物なんですが。

 見せつけるように口を寄せ、舌先を微妙に上下させながら、雪風の胸元へ近づいていく。

 フェザータッチもいいところだが、その愛撫の弱さが雪風を更に敏感にする。感じないよう我慢するのではなく、自分から感じようとし、気持ちよくなりたい、させてほしいと願う雪風の体は、進んでその要望に応えようとしていた。

 体本体の反応と刷り込みによる洗脳効果が混ざり合い、雪風の正気を奪っていく。そしてそれを拒もうとはしない。例え洗脳による結果であろうと、俺の手で気持ちよくなれれば雪風的には問題ないようだ。

 

 小ぶりな乳房は、感度抜群だった。控え目な脂肪の塊を両手で覆い、全体を捏ね回してやると、面白いように雪風の体が反応する。

 指を這わせれば背筋を仰け反らせ、乳首を弾けば痙攣し、唾液をローション代わりにして愛撫すればあられもない声で喘ぎ鳴く、

 

 胸のサイズを気にしていたのを知っていて、敢えてその小ささを強調するような愛撫。苦も無く手ですっぽりと覆い隠せる、その部分。

 逆に言えば、俺の手で全体を覆う事が出来ると言う事でもある。本人にとってはあまり嬉しくない表現かもしれないが、巨乳相手ではまず無理な事。そして、全体が覆えるのなら。

 

 霊力を籠め、オカルト版真言立川流で全体を気持ちよくできる、と言う事でもあるのだ。

 乳房という部位に対する愛撫ではなく、胸全体への霊力による愛撫。

 

 

「え…あ、ちょっ、なにっ、なにかくるっ、いきなりっ、湧き上がるっ~~~~~!!!」

 

 

 突然変わった愛撫の質に、少しずつ慣れてきていた雪風が悲鳴を上げる。突然の転調に対処できる程、雪風は快楽に対する耐性が無い。

 霊力が胸元に潜り込み、毛穴から浸透し、乳腺を逆流する。文字通り胸の中を掻き回され、快楽神経だけを引っこ抜かれて直に愛撫されているような感覚。

 受けた女はほぼ全て「胸がもげるかと思うくらい気持ちよかった」と称したそれは、少なくとも雪風にとって抗うべき感覚ではなかったようだ。

 自分の体がどうなっているのかなど二の次で、ただただ注ぎ込まれる悦楽に狂う。

 

 悶え狂い、体をくねらせるその姿は処女とは思えない程の色香が溢れている。

 無意識の動きなのだろうが、間違いなく男を誘う痴女の動き。感覚から逃れよう、耐えようとして動くのではなく、よりいやらしく体を見せ付け、柔らかい部分を押し付け、男を誘う動きだった。

 

 

 ほんの一瞬、その姿に幻が重なる。蜜でオスを引き寄せて、近寄って来たところを丸呑みする食虫植物。

 色んな意味で失礼な幻視だけど、多分本質的には間違ってない。雪風はそういう風に改造され、刷り込まれているんだろう。戦闘能力だけでなく、男を骨抜きにする…と言うより、虐めさせて夢中にさせる? 一種の生態ハニートラップ。

 

 

 しかし、それで恐れるようでは俺ではない。ハニートラップは上手く利用すれば、相当いい思いをさせてもらってトンズラだってできるのだ。

 別に逃げる気はないけど、そこまで作り込まれた雪風の体…実に美味そうである。

 胸の愛撫に夢中になる雪風の股に足を割り入れスリスリと擦りつけてやると、驚くべきはその感触。感度でも濡れ具合でもなく、感触…骨と肉の動きを通して伝わってくる、肉壺の複雑さだ。

 厚みがあり、柔軟で、なのに伸縮率が高く、何よりも熱い。

 突っ込む前から分かる。人工のもの、なんて関係ない。こんなの絶対気持ちいい。超がつく程絶品の名器だ。男を搾り取る為だけに作られた、卑猥な穴だ。

 秘部の奥から催淫液が湧きだしてくるような、下手な男なら一度体験しただけでヤミツキになる、底無しの落とし穴。

 

 例え雪風を拘束して虐めるだけであっても、この肉壺を知ってしまえば衰弱死からは逃れられない…そう思わせるくらいの肉壺の予感。

 どう見てもMっ子ちゃんなのに、搾り取るS役も兼ねるとは…中々凝った設定だ。

 

 これは何がどうあっても喰って喰われてしなければ。すぐにでも突っ込んでしまいたくなるのを、何とか堪える。衝動に任せて闇蜘蛛に挿入すれば、そのままずるずると捕食されるのが目に見えている。そして何より、肉棒でしか味わわないなどあまりにも勿体ない。目で、舌で耳で指で鼻で、五感を駆使してしゃぶりつくさねば。

 足を擦りつけられる感触に夢中になりつつあった雪風を、一旦止めて横たわらせる。背中の下には服を敷いたが、あまり快適ではないようだ。

 

 しかし、それもすぐに忘れ去る。雪風の股を大きく広げさせ、その前に俺が陣取ったからだ。

 まだ誰も触れた事のない秘部は………うん?

 

 雪風、ここを弄った事ってある?

 

 

「ふぇ……? ない、よぉ…」

 

 

 …自慰の経験すらない…だと…。いや考えてみれば無理もないか。目を覚ましてから、朝昼晩大抵こいつの傍には誰かが居たものな。自慰という知識は持っていても行うだけの時間と空間が無かっただろうし、自分がそういう事をするという意識も殆ど無かったんだろう。

 本人すら含め、未踏の処女雪……漲って来た。

 

 処女特有の敏感さと、改造されて快楽機関として特化しているその部分は、視線を受けるだけでも物理的に触れられているかのようにヒクヒクと反応している。

 目の前に持ってこられると、いやらしい香りが目に染みる程に臭い立っているのが分かった。体液に媚薬効果でもつけているのかと思うくらいだ。

 過剰に熱されたその部分を冷やすように、フーッと息を吹きかけると、ピクッと尻に緊張が走った。

 

 感度が良くて大変結構。しかし、これは少し敏感すぎるな。加減してやらなければ、感じるどころの話ではなくなってしまいそうだ。何をされても気持ちよくはなるだろうけど、それが雪風にとって心地よく感じられるものかは話が別だ。

 大方、どんな扱いを受けてもヒィヒィ善がり狂うように、気兼ねなく嬲り者に出来るように作り替えたんだろう。結果、雪風にとっては性行為は快楽攻めによる拷問同然になってしまった筈だ。俺もそれはよくやるけど、相手の限界を弁えてやってるんだ。壊れても構わない、むしろ壊れて無様な姿を曝せと言わんばかりの改造に少しばかり苛立ちが募るが、それを踏まえて心地よくしてあげればいいだけの事。

 

 口内で舌に唾液を纏わせ、反射的に逃げようとしている雪風の両足を抑えつけながら、一番大事な部分に…濃厚なフェロモンの塊に口を付ける。

 愛撫と言うよりはキスに近い行為だったが、その時点で本気で驚いた。

 

 甘い。甘いのだ。

 

 女の味は甘露だけど、そういう比喩ではない。文字通り甘い。…一瞬だけ、糖尿の疑いを抱いてしまったのを許してほしい。

 本来、人体から生じる液体の味が美味い訳がない。塩分不足の時に舐める汗を甘く感じたりもするが、それはあくまで錯覚、人体に足りない成分が入っているから、それを必要としているに過ぎない。

 だが雪風の味はどうだ。よくよく味わってみれば、秘部から生じる愛液だけではない。周辺の肌に舌を這わせ、キスや脇を舐めた時の味を思い出せば、確かな甘さが潜んでいた。

 女の神秘を象徴する部分から溢れてくる、男を…いや、ひょっとしたら女も虜にするかもしれないアムリタ、或いは神酒。

 カニバリズムでも誘おうとしているんだろうか。軽く腿の肉に噛みついてみれば、恐れるでもなくビクビクと体を震わせて体液を溢れさせる。更に噛み付いた肉からも、甘い味が伝わって来た。

 

 

 気が付けば、雪風は俺の味見の挙動に合わせ、悲鳴のような善がり声をあげている。もう反射だけで体が動いていたようだが、それでも卑猥なダンスのような動きをしているのだから筋金入りだ。

 これだけの刷り込みや改造を行える技術があるのなら、もっとマシな使い方が出来ただろうに。

 使い方を間違ったばかりに、生き残っている者は片っ端から失脚し投獄され、残された女達は全て俺の手元にあるのだから因果な物だ。詩野の時と同様、クソ野郎からこの子達を奪い救うのだと思って、楽しませていただくとしよう。

 

 舌の力を調節し、秘部を抉るのではなく解す動きに変える。一つ一つのヒダを丁寧に舐め上げ、自分の内部がどういう形をしているのか自覚させるように。

 まだ誰も知らなかった場所を、全て俺の舌で染め上げていく。

 

 先程までの乱暴なクンニと違い、全体を徐々に徐々に染めていく動きに、雪風の声も変わっていた。

 矯正と紙一重だった悲鳴は、安心しきってマッサージを受けているような声に変わっている。それでも自分を抑えられないらしい。

 

 ……このまま、最後まで蕩けさせるのも、いい初体験の思い出になるだろうけど…今のうちに、恥ずかしさで気持ちよくなる感覚を教え込んでおいた方がいいかな。今後の展開的に。

 クンニを辞めて、色香が立ち上る全身を眺めながら、雪風に一言もの申す。

 秘部を今度は指先で弄りながら、耳元に口を寄せる。

 

 

 雪風、もうちょっと声を抑えないと、不知火が声を聞きつけて戻ってくるかもしれないぞ?

 

 

「そっ、そんなこと、いうならっ、ゆびっ、とめ、てぇ!」

 

 

 へぇ? 止めてほしいのか? もっと気持ちよくなりたくない? それだけ恥ずかしくなるけどね。

 

 

「っ……!」

 

 

 無意識の動きだろうが、指を緩めると、抗議するように膣肉がうねる。真っ赤だった顔が、葛藤するように微妙に色が変わる。興奮の赤と、羞恥の紅。

 僅かに指を引くと、させないとでもいうように股を閉じて動きを阻む。

 

 

「……やめちゃ、だめ…」

 

 

 蚊の鳴くような小さな声だったが、全く迷いなく決断した。

 話が早いね。欲望に素直な子は好きだよ。

 ああ、声を我慢するのか? 構わないよ。我慢できなくなるまで堪えて堪えて、最後に思いっきり声を上げてしまえ。

 その時が、雪風が女になる時だ。

 

 

 その時を夢見るような、或いは僅かな恐怖を感じているような表情の雪風を、更に悦楽の園に突き落としていく。

 撫でる。舐める。吸い付く。揉む。擽る。叩く。

 肉体的な行為だけではない。

 音を立てる。啜る。解説する。貶める。褒める。説明させる。

 

 とにかく片っ端から技術を尽して雪風の体を弄り倒す。雪風は刺激を味わいながらも、声を出すのだけは堪えていた。不知火に聞かれそうなのが、そんなに気になるらしい。

 それとも、俺が「限界まで我慢しろ」と言ったから、それに従おうとしているのか。

 

 何にせよ、雪風の体は想像以上に敏感で、卑猥な刺激なら何でも来いの素質があるようだった。

 特に反応したのが、尻をペチペチ叩きながら、小馬鹿にするように辱める行為。体に施された改造の性質からして、Mっ気が強く調整されているだろうと思っていたが、案の定だった。

 うつ伏せにして、尻穴を舌で穿りながら、指で秘部を弄り回し、『初めてなのにこんな事をされて感じてるのか、雌犬ちゃん?』なんて言ってみたら、とうとう我慢できずに喘ぎ声が響き出す始末。

 

 言っておいてなんだけど、雪風に犬ってなんかしっくりこないな…。割とワンコ系の可愛さがあるのに。

 雌猫…だとなんか泥棒猫みたいだし。

 うーん……雌犬…雌奴隷…生オナホ…カキタレ………その他諸々、オカルト版真言立川流のテキストにも書かれていた表現を幾つか。

 雪風は恥ずかしい部分に絶えず愛撫を受けながら、初体験だと言うのに自分を貶める表現を幾つも聞く事になった。

 

 

 しっかり悦んだ上に、『雌豚』と言う表現に一番強く反応したから、問題ないのか…?

 ……そう言えば、雪風が目を覚ました時も、豚がどうのと呟いた記憶が…ひょっとして、これが雪風を目覚めさせる為のキーワードだったのか? 設定した奴、どんだけ拗らせてんだよ。

 まぁ、今はいいか。自覚した雪風が気に入らないと言うなら塗り潰すし、これはこれでと思うならそれも良し。

 

 何にせよ、とうとう声が我慢できなくなり、ついでに股間から噴き出すモノも我慢できなくなった雪風を、大人にする時間です。

 

 

 

 

 少しだけ場所を変え、四つん這いにさせる。地面に敷いた服の上に乗せて、自分から尻を掲げさせようとした。

 しかしこちらが誘導するまでもなく、何を求められているのか察したようだ。地面に手を突き、腰を突き上げ、更に両足を大きく開く。

 白い素肌と不浄の穴、褐色の足と肌色の背中。そして角度の問題で目に見えはしないものの、欲望のフェロモンを再現なく撒き散らし続ける女陰。

 流した髪の毛が揺れる度に見えるか細い首筋が、異様に嗜虐心を刺激する。

 

 まだ女の悦びも雌の愉悦も知らない身だと言うのに、待ちきれないとばかりに卑猥に腰を動かして俺を誘う。

 腰をくねらせ、直前で待機している肉棒に入り口を擦りつけ、滑稽と紙一重の腰振りダンス。

 

 言葉を発する事すら忘れ、浅ましい欲望に身を委ね、雪風は腰を動かして秘部をモノに押し付けてくる。自分から、奪ってほしいと態度で示す。

 じりじりと腰を進めれば、獣そのものの悦びの声が上がっていった。

 

 

「おっ…ほ、おぉぉぉ……♪」

 

 

 多分、雪風の目は半分裏返っているだろう。舌を突き出し、涎を垂らし、涙で顔を汚しながら犯される快感に酔う。

 尻を叩く度に体を硬直させて絶頂し、アヘ顔を晒して膣を締め付ける。

 誰も教えてもいないのに、よくこんなに見事にアヘアヘできるもんだ。もっと悦ばせてやろうと、尻穴に指を捻じ込みながら突き上げる。

 

 やはり、雪風の体液は媚薬のような効果を持っているのか、感覚がいつもと違う。肉棒の表面からジリジリと何かが染み込んでくる感覚。

 抉って愛液を浴びれば浴びるだけ、異様な熱と射精衝動が込み上げてくる。

 

 歯を食いしばって堪えようとしたが、雪風の主(色んな意味で)として、そんな余裕のない姿は見せられない。いやバックで犯してるから見えてないけど、これだけ改造されてればエロしている間は目で見えなくても周囲の状況を把握するくらい出来てもおかしくない。

 自分的にも我慢すれば我慢する程気持ちよくなるのは変わりないので、快楽の為と割り切って暴発しそうな熱を抑え込む。

 

 雪風は我慢も忘れ、完全にイキッ放しの状態だ。アヘっているともラリっているとも言える。

 地面に顔を押し付けているので、顔が見えない。

 

 ふと、雪風の悶えに連動して揺れるツインテールが目に入った。…そう言えば、まだコレは使った事が無かったな。

 髪は女の命だし、負担がかからないような持ち方で…。

 

 よっと。

 

 

「ふぁ!? ひ、っぐ、はひっ、はふぇ、あ、いぃひぃぃ!?」

 

 

 ツインテールを両手で引っ張り、強引に顔を上向きにさせる。顎を地面に押し付ける事で多少なりとも堪えていた声が、上を向いた事で全く抑える事ができなくなった。涎か涙か、顔からポタポタと液体が落ちるのが見える。

 無様なアヘ顔を露わにされ、体位が変わった事で抉られる部分が変化して、雪風は呼吸を忘れて喘ぎ続ける。必死に取り込んだ酸素は、ただ気持ちよくなる為だけに使われてしまい、呼吸の足しにもならなかった。

 

 …負担にならないように気遣っていたが、雪風は逆に、ちょっと乱暴に髪を引っ張られるくらいの方が燃えるようだ。粗雑に扱われる事を好む浅ましさがよく分かる。

 髪を引かれながら犯されるのが相当気に入ったのか、雪風の喘ぎ声は一際高くなっていた。

 丁度いい、俺もそろそろ射精欲を抑えきれなくなってきたところだ。

 

 髪をちょっと強く引いて雪風の体を引っ張り起こし、背後から抱きしめる。

 抱擁に見えて、その実欲望のままに雪風の体を貪り尽くす。声を響かせるように口に指を突っ込んで開かせ、舌を摘まみあげ、腹の上から子宮を抑え込んで突き上げる衝撃の逃げ場を無くして。

 

 誰の目も無い(雪華辺りが千里眼で覗いてるけど)場所に向けて雪風の裸体全てを晒しながら、俺自身もケダモノのような声を上げながら射精した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪風を大人にしたが、夜はまだ終わらない。足に力が入らない雪風をお姫様抱っこで運んでくると、何も言わずに部屋で待ち構えていた明日奈と神夜が出迎えてくれた。ニヤニヤと下世話な笑みを浮かべている。

 この後の事を察した雪風は逃げようとしたが、まだまだ足腰が元に戻ってないのだから無理である。

 ま、俺の女になった以上、こういう事は通過儀礼だ。慣れればもっと気持ちよくなれるし、諦めて受け入れなさい。

 

 

「そうそう。大丈夫、何をされたかなんて、後でたっぷり語れるから」

 

「何よりも先に、暫くお預けだった私達もしっかり満足させてもらわないと。雪風ちゃんも一緒にしましょうね。大丈夫です、女同志のやり方も、しっかり仕込まれてますから、ちゃんと気持ちよくなれます」

 

 

 一人よりも二人がイイ、と言うのはキリスト教の言葉だったかな? 愛があれば乱交も良しと、異国の神も認めているな。

 では、新入りさんの歓迎会の始まりだ。

 

 

「い、いやぁぁぁぁ?! いつかはそうなると思ってたけど、やっぱり恥ずかしいし、せめて今日くらいは二人っきりでぇぇ!」

 

 

 そんな叫びも届く事はない。俺の執務室という建前で作ったこのヤリ部屋は、女の矯正を漏らさない為に徹底して防音加工しているのだ。

 しっかり用意されていた大き目の布団(神夜が超頑張って速攻で作った)に雪風を放り出すと、エサに群がる野犬のような勢いで二人が絡みつく。抵抗を押し退けて、破れないように服を引ん剥くのに戸惑いもない。

 

 俺ではなく雪風に襲い掛かるのは、そうした方が俺た昂ると分かっているからだ。

 何も知らない、ついさっき大人の階段を一歩昇った雪風を、自分よりも下だと教え込む為でもあるだろう。

 

 何にせよ、雪風がレズ痴女2人に襲われる様をしっかり堪能し、その最初の昂ぶりをどこにぶちまけるか。雪風を抑えつけ、こちらに尻を向けてフリフリしている神夜か。雪風の体にむしゃぶりつき、女特有の繊細で精密な攻めで甘い声を引き出す明日奈か。俺の目の前で女に嬌声をあげさせられる雪風か。

 最終的には全員白濁に沈めるが、欲求不満でメスの悦びを知っている体か、初々しい体か…それが問題だ。

 

 

 

 

 

 ところで、自称母親がこっそり窓から覗き見ているんだが、襲われる娘を助けなくていいのかな?

 

 

 

 



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461話

この度、OSをWindows 10から7に戻す事を決意しました。
考えてみればこのクソOSによく付き合ったもんだわ。
PC本体に問題があるのも確かでしょうが、クソ思い、勝手に設定が変更される、妙な部分ばかり修正して重さの原因は放置、3日に一度は更新プログラムが構成できないで起動に30分以上かける、トラブルシューティングも上手くいかない、潰しても潰しても自動アップデートが立ち上がる、止めようとネットで見たやり方をやっても一部変更できなかったり、いつの間にか元に戻っていたり。

「こんなもの出してて恥ずかしくないの?」と吐き捨ててやりたい気持ちで一杯です。
やっぱり無料で流行ってるからってホイホイアップデートするものじゃありませんな。

となると前準備としてデータのバックアップが必要になってくるわけですが、これがどういう訳か上手くいかない。
ノートンwithbバックアップが途中で終了したっぽい?
でも別のバックアップが稼働中って出るしなぁ…。
もう単純に外付けHDDにデータ移すだけでいいか。


 

 

 朝。

 まずは執務室ことヤリ部屋の掃除から始まる。具体的には、いつもの消臭玉無双。本当にお世話になっております。

 ……オカルト版真言立川流で、後始末の必要が無くなる技とか無いかな…。いや無ければ作れって話なんだけど、片付けの手間も含めてのセックスと言えなくも無いし、残滓を感じて愉しむって考え方もあるから、一概に後始末不要としてしまうのも如何なものか。

 

 昨晩は、結局雪風は快楽に溺れ、レズ痴女に触られて善がったり、二人に痴態を見られる快感に目覚めたり、奉仕の仕方を教わったり……まぁ要するに、複数人プレイに抵抗が無くなったようだ。

 そのあたりで、『烙印』の効果を使って直葉を召喚。神夜と直葉の巨乳に対して、雪風は激しくねちっこく弄り回していたものだ。

 

 流石に途中で力尽きて眠り、まだ目を覚ましてないが…正気に戻ったらどういう反応をするかな。全面的に受け入れているか、それとも欲望を煽ってやらなければ我を忘れる事ができない、色々恥ずかしがってる状態か。

 

 そうそう、結局デバガメしていた自称母親は、最後まで乱入してこなかった。雪風が割と本気で抵抗していた時も、段々感じ初めて呂律が回らなくなってきた時も、貫かれながら3人がかりで愛撫され、死ぬ死ぬ叫んでいた時も、ずーっと見ていただけだ。…自慰でもしてたのかな? 音がすれば分かるんだけど、タマフリを上手く使ったのか、気配以外は確認できなかった。

 折角乱入しやすいように位置調整して、雪風がレズ痴女二人に凌辱されて泣き叫んでる顔とか、じゅぼじゅぼ音を立てて出し入れしている結合部とか、プライドも何もかも欲望に流されて下品に腰を振る姿とか、よく見えるようにしたのに。

 

 うーむ、どういうつもりだろ…。

 最初に普通にした時(それでも青姦だったけど)は、特に問題なかったよな。その時は覗いてなかったし、敵意も見せずに帰って行ったし。

 雪風を無理矢理複数人プレイしたのは…アウト? セーフ? 造反フラグ立った? 自分でやっといてなんだけど、もし不知火が本気で刺しにきたら、一回くらいは秘密で受け入れるべきだろうか…。

 

 

 

 不知火が居たと思われる場所を調べて首を捻っていると、執務室の扉が開いて雪風が中から出てきた。非常に薄着状態の為、大きく伸びをすると小ぶりながらも形のいい胸がプルンと揺れるのが分かる。

 おう、おはよう、雪風。…さぁ、どんな反応をするかな?

 

 

「ん、おはよっ」

 

 

 意外とカラッとした反応。別に狂乱するのを期待してた訳じゃ…いやちょっとしてたけど。

 満面の笑みやなぁ…。まるで日曜日朝の小学生の笑顔だ。ニチアサを見せねば(使命感)

 

 雪風は小走りに俺に近寄ってくると、何やら顔を近付け、そのまま抱き着いてきた。スリスリと体を擦りつけるが、発情している訳ではないようだ。キスでも強請っているのかと思ったけど。

 …どした?

 

 

「ん…明日奈や神夜の匂いがついてる」

 

 

 昨日、雪風が眠った後も頑張ってたからなぁ。数日お預けだっただけであそこまで欲求不満になるんだから、本当に俺好みになったものだ。

 勿論、雪風だって好みだぞ。これからもっと好みにするだけで。

 

 

「んー…あの二人なら、別にいいんだけど…私の匂いが消えちゃってるから、上書き」

 

 

 …あーもう、犬みたいに可愛いなぁこの子は。

 可愛がってやってる時は、雌豚かって思うくらい鳴いてたのに。

 

 

「…何故かしら、普通に屈辱的な罵倒の筈なのに、ちょっとどきどきしてる自分が居るの。昨日も豚の鳴き声を上げたら、異様に興奮したし」

 

 

 ああ、反応が思いっきり変わったからな…。それで調子に乗った明日奈が責める責める…。

 ま、やりたくなったら付き合うよ。ああいうのも嫌いじゃないしね。尻を足蹴にするのは…まぁ、合意の上での遊びの範疇なら。 

 

 

「…いいのかな…。これって多分、例の洗脳の影響…だよね? 私がそういう、何というか…豚…じゃないわよね」

 

 

 多分な。まぁ、人間誰しも変態的な素質を持ってるし、切っ掛け次第で目覚めるもんだ。

 雪風自身が我慢できない程嫌だって思うならともかく、そうでないなら楽しい事が増えたとでも思っておけばいいさ。仮に本当に自分がそういう素質だったら………まぁ、証明する方法なんてないし、洗脳のせいにしとけ。

 うん、結論は変わらない。

 

 

「そんなもんかしら。ところで、今日はどうするの? 特に何もないんだったら、私と一緒に…」

 

 

 あー、悪いが当分自由にできる時間は無いと思う。ウタカタの里への面通しに練武戦の準備に手回しに、滅鬼隊員の性格やタマフリを把握しての班分けに、建物の改築に…。

 

 

「…分かったわよ。まぁ、仕方ないわね…。お頭だもんね」

 

 

 本当にすまん。体だけの関係なんて事になららないように、色々やってみるからさ。

 …雪風は、このまま戦闘部隊として組み込まれると思う。先輩達の言葉をよく聞いて、慎重に戦うんだぞ。

 大怪我なんてしたら、大人の遊びも完治するまで厳禁だからな。

 

 

「安全第一で戦うと誓うわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、本日からお頭として、改めて色々する訳ですが。

 

 

「「「何なりとお申し付けください」」」

 

「時子です。御屋形様の秘書となります」

 

「同じく秘書の災禍です」

 

「執事の! 天音と申します!」

 

 

 ……何も言わなくても俺の傍に侍っているこの方々は何事だ。

 いや分かるんだよ? 一応全員名前は把握してるし、資料にあった内容は頭に入ってるから。

 

 並んでいるのは、本人も言っているように資料には秘書と書かれていた時子、災禍、天音。いや天音は秘書じゃなくて執事だった。…執事って女でもなれるものなの? 確かに、家の中の事を取り仕切る役目なんだから、男に限定する必要はないが。

 ともかく、刷り込まれた役目に従って、お頭の俺の手伝いに来たらしい。 

 

 

 と言うか、微妙に空気がバチバチ言ってるのは気のせいか。特に時子と天音の間で。

 うーん…手伝ってくれるのは有難いし、人手はいくらあっても足りないくらい。断るという選択肢は無いんだが…。

 

 この子達が、どれくらいやれるかが問題だ。資料にあった性能で見れば問題無さそうだが……失敗しまくりだった滅鬼隊の過去を思うと、ちょいと不安が…。

 この3人は処女だったから、以前に目を覚まして活動した事は無かった筈。経験不足、他人との関わりを殆ど持った事のない彼女達が、どこまでやれるやら。

 ……しかし、子供がお手伝いを申し出ているのに「いらないから遊んでろ、或いは宿題してろ」と言うのは気が引ける。ふむ。

 

 

 じゃあ、遠慮なく手伝ってもらうよ。

 とは言え、皆がどういう事が特異で、どんなやり方をするのか、全く把握できてない。

 一人一人、別々の作業を割り振るけど、まずはそれをこなしてみてくれ。また、補佐としてそれぞれ監督をつける。

 

 まずは、それぞれ人を呼んでくれ。

 すぐに来いって事じゃない。飯を食った後に集まるよう伝えてくれればいい。

 時子は明日奈。今は朝餉を作ってる最中の筈だ。

 災禍は神夜。大方、ウタカタの里のモノノフ達の朝稽古にでも飛び込んでるだろう。接触する時は、不和にならないよう注意を払え。

 天音は詩乃。確証はないが、多分周辺の地形を把握して回ってる。高い所とか、隠れるのに適した場所を探そうとしているだろう。

 

 これは速さを競うのでも、手柄の取り合いでもない。それをするくらいなら、今の自分が何を知っていて何を知らないのか、逐一確かめながら遂行するように。

 

 

「「「はっ!」」」

 

 

 それぞれ畏まって、ビシッと礼をして出ていく。やれやれ、気負ってる…と言うより、あれは初めてのお遣いでいい恰好見せたい子供だな。

 一応言っといたけど、やっぱり3人とも意識しまくってるな。この際、喧嘩さえしなけりゃ構いやしない。

 

 さって、どういう役割を振るとしようか。と言うより、まずどの作業からこなすべきか…。

 大前提として必要なのは衣食住。だがそれを効率的に確保しようと思うと、管理が…………管理、管理か…。

 あまり好きな言い方じゃないけど、求められてるのはそういう事だしな…。……ここは一つ、モノノフじゃなくて企業を運営するようなつもりで考えてみようか。

 

 彼女達を……いや、社員やアルバイトを『運用』する上で、まず必要となるのは何だ? 

 理念? 資金? 規律?

 違う。どれも必要だが…。

 

 

 

 

 

 そうだ、名簿だ。まずそこから始めなければ。名前を書き記して管理の為の番号を振るだけなら、そう難しくは無いしな。

 一個小隊の名前や性格や特徴、覚えようと思えば覚えられない程じゃないが、流石に漏れもなくパッと思い浮かべたり、あまつさえその中の誰と誰を相手に何をしたか、なんてのを全て覚えておくなんてやってられるか。

 色々記録をつける為にも、名簿と管理番号が必要だ。番号の順は…自意識過剰な事を言うが、俺が付けると火種の元になりかねないな。50音順…この世界じゃ、いろは順だから俺が覚えにくい。資料に並んでいた順でつければいいか。

 

 この作業は…いや、あの3人じゃなくて、俺が直接やるか。一度は全員と話をしたいと思っていたし、滅鬼隊の発作予防にも繋がる。

 となると、監督役は呼ばせた3人に任せて、アレと……アレと、アレだな。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、明日奈と一部のお手伝いさんが作った朝飯を平らげた後、呼び出した3人も含めて執務室へ。

 …執事秘書組が、『できた? できた? もっと遊んで?』みたいな顔をしているが、とりあえず礼を言って褒めておけばいいだろうか。

 

 ではお仕事を割り振ります。

 時子は食料の調達を頼む。今日だけじゃなくて、今後どういった物を仕入れるか、それに必要な金子が日々どれくらいかを計算して、計画を作ってみてくれ。監督兼助手として、明日奈を付ける。

 

 

「かしこまりました。直ちにとりかかります。…よろしくお願いします、明日奈さん」

 

「明日奈でいいわ。私も時子でいい? それじゃ、まずは…」

 

 

 待った。これは他の2人にも言える事だが、まずは自分で判断、考えさせるようにしてくれ。

 洒落にならない事をしようとした時は止めてもいいが、成功するにせよ失敗するにせよ、暫くは個々の傾向把握を優先したい。

 もどかしいとは思うが、まぁ子育ての練習だとでも思ってくれ。何でもかんでも指示してちゃ、子供の為にならない。

 

 

「「「「「「子育て…」」」」」」

 

 

 あんまりな言いように気落ちする者3人、未来を想像してちょっと悦に入るのが3人。

 助けを求められたら助力は許可。ただし、助力をいつ請うかも本人の判断だ。

 

 

 続いて災禍。生活に関する改善案を出してほしい。周辺を歩き回って自分で探すもよし、人に聞いて意見を纏めるも良し。

 これは滅鬼隊に限らない。確かに優先は滅鬼隊だけど、ここで暮らしていけるのもウタカタの里のおかげだ。里が無くなったり、インフレ…ええと、里の色んな物の流れが乱れるような事があれば、俺達にも強い影響が出る。

 恩を売っておけば、今後の待遇も期待できるしな。

 これは神夜が監督だ。

 

 

「はっ。神夜殿、存分に」

 

「ええ、よろしくする事極まりないです。沢山お話しましょうね」

 

 

 

 そして天音。戦闘部隊を作るから、運用計画…はまだ人員も定まってないから無理か。

 ウタカタのモノノフ達に話を聞いて、どんな戦力が求められているかを纏めてほしい。最初は戦いのない滅鬼隊員が世話になるだろうし、多少足を引っ張たとしても、必要とされている要因であれば邪見にはされないだろう。

 それと、モノノフとして任を全うした場合の報酬の相場も頼む。

 詩乃と一緒に頼む。

 

 

「執事として承りました! 詩乃様、ご教授をお願いいたします」

 

「…苦手なんだけど、こういうの…。まぁ、やれと言うならやるわ。ところで、貴方はどうするの」

 

 

 まず名簿を作る。その過程で、一人一人に軽く話をするつもりだよ。放置し過ぎると、先日のまりみたいに発作が起きるしな。

 さて、それぞれ役割の期限は…そこで終わりにする訳じゃないが、夕飯の前に全員集まって報告会といこう。それまでは、独自の判断で行動するように。

 他に質問、確認事項の類は?

 

 

 …無いな? では、解散。

 

 

 

 …行ったか。さて、どうなる事やら。

 正直な話、仕事の成否はそれほど問題視していない。出来れば儲けものくらいだ。

 本命は、本人達にも言ったように行動の傾向を把握する事。そして、ウタカタの人達と関わり合いを持たせる事だ。大した考えがある訳でもないが、経験と人脈ほど重要なものはない。

 組織の補佐なんて事をするなら猶更。

 

 

 

 それじゃ、俺は俺の仕事に向かいますかね。

 携帯電話も拡声器の類もないから、一人ずつ呼び出しって事が出来ないな。これも何か仕組みを作らないと。一番人が揃うのが飯の時間帯だし、その時に通達して…今日の連絡事項はここを確認しろ、みたいなのを作った方がいいか。

 つまり立て札か。

 後は、個人充ての手紙入れ……いや、どうせ作るなら私物入れか。霊山からこっちに来るまでは野山を走るだけだったけど、これから人里で暮らすんだ。持っておきたい物、隠しておきたい物、貰った物の置き場も必要だろう。…この辺は、災禍の改善案を聞いてからだな。

 

 

 

 とりあえず執務室から出て適当に歩く。今は出会った奴を片っ端から確認していくしかない。

 さて、最初に出会うのは誰かな…?

 

 

 

「あ、お頭」

 

「ん? おお…おはよう、ございます」

 

「おはようございます。良い天気ですなぁ。槍を振るうにも昼寝をするにもいい塩梅だ」

 

 

 最初に合ったのは、鹿之助、骸佐、権佐の男三人組。

 

 野郎だけで、こんなとこで何してんの? ああ、無理に敬語使わなくていいから。バイト敬語程度でいいよ。

 

 

「ばいと? いや…周りが女の人だらけだと、何というか居た堪れないというか」

 

「まぁ、確かに居心地はよくなかったな。それに、着替えの場に立ち会う訳にもいかん」

 

 

 あー、それは確かに…。やっぱり、早急に男性用区画を設けなきゃならんか。

 あんまり待遇や家屋に差をつけると不満の元になるから、最初は同じような個室作って一人一人に割り振るか…。

 

 

「そういう訳で、気楽な男三人で話し込んでいた訳です。女っ気があるのはいいもんですが、それも程度によりますなぁ」

 

 

 慣れると普通に暮らしていけるよ。立場的にも心情的にも優位に立って、そのうえで日常では女に勝てないって悟りを開かなきゃいけないのが条件だけど。

 ま、それはともかく、丁度良かった。これから一人一人と話をしていかなきゃいかんのだ。

 悪いが、少し話に付き合ってくれ。

 

 

「俺は構わないですけど…何もする事がないし、何したらいいかも分からないし」

 

 

 それをどうにかする為に、こうして話に来てるんだ。

 俺もまだ、誰に何が出来るのか、何がしたいのか全く把握できてない。資料には能力や傾向は書かれてたけど、何処まで当てになるか全く分からんしな。

 戦いたいって奴にはそっち系の仕事を割り振るつもりだし、そういうのが苦手だって言うなら、また別の事を頼むつもりなんだ。

 

 と言う訳で鹿之助。

 まず君はどんな事が出来る? どんな事をしたい? 封印される前の記憶はあるか? タマフリに限らず、洗濯が好きとか、口笛を吹くのが得意とか、そんな話でもいいよ。

 

 

「え、お、俺っ!? お、俺は……えーと、名前は鹿之助、です。前の記憶はありません。タマフリは…小さな電気が出せます。本当に、小さな奴しか出せなくて…戦いに使うのは難しいと思います。個人的にも、正直戦いは怖いんで、できるだけやりたくない……んだけど、それはやっぱり格好悪いと思うし、自分でも一旗挙げたいとは思います…………で、でもやっぱり怖いし、さっきも骸佐さんと権佐さんに見てもらったんだけど、動きがいいとは言えないそうです」

 

 

 ふむ、そこは鍛錬と場数でどうとでもなるが…戦いを拒みはしないが消極的、と。

 タマフリが電気……こう、雷みたいな攻撃力があるものじゃないんだな? 全力を出し切れてないとかじゃなくて。

 だとすると、何らかの意図を持って、その強さに調整したんじゃないかと思うんだが……そのタマフリで攻撃以外に出来る事は、心当たりがあるか?

 

 

「一応、このタマフリを使って周囲の地形や敵の反応を探る事ができる、らしいです」

 

 

 ……うん? それって、気配を探るとかじゃなくて、明確に分かるって事?その辺に転がってる石ころとか、眠っている鵺とかもどこにいるか分かるって事? 有効範囲は? 精度は? それを元にして地図は書けるか?

 …いやそれよりも、石ころとか分かるって事は、ひょっとして特定の素材の反応を探るって事も?

 

 

「いやいきなり言われても!? 俺も、目を覚ましてからちょっとしか試してないから! 範囲は…今のところ、目が届く範囲なら大体分かります。生き物や鬼が居れば、多分例外なく分かると思います。返ってくる反応が、岩とかとは全然違うんで。地図が書けるくらい詳細に把握しようとすると、集中しないといけないから、動けなくなりそうです。特定の物を探すのは……物による、としか言いようがないです。現物があれば、似たような反応を探す事はできると思いますけど。…殆ど意味、ないんですけどね」

 

 

  いやそれ重要だから。最重要項目だから。

「「いやそれ重要だから。最重要項目だから」」

 

 

 俺と骸佐権佐が声を合わせて断言する。

 本気で自嘲しているらしい鹿之助に、何でそんな能力持ってるのに落ち込むのかと本気で分からない俺達3人。

 レーダーの有無だけで、ゲームの難易度は一変するんだぞ。 あまつさえ、レアアイテム発見の確立が上がるようなスキルさえ備えている。それが現実なら猶更だ。…………消えたナヅチ…煙玉もペイントボールも無し…時間切れ…。見つからないレア素材…大量に必要になる混沌茸…。王国の心の宝箱…。暗い魂シリーズの奇襲待ち伏せミミック先生…。うっ、頭が…。

 

 

「…どうした、お頭?」

 

 

 いやちょっといやな思い出が…ハンターなら誰しも通る思い出が…ハンター以外にも色々と…。

 鹿之助、断言する。お前は冗談抜きで、ウタカタの…特に斥候部隊や救助部隊の救世主になり得る。強い武器を作ろうとするモノノフにとっては、救世主どころか過労死待った無しなくらいに引っ張りだこにされる。どこの諸葛孔明エルメロイだってくらいに。

 

 

「聞いただけでも、使いどころが山のように思い浮かぶぞ。戦闘から日常生活まできりがない。悪用しようと思えば幾らでも出来るのが難点だが」

 

「鹿之助の坊やも、戦闘力と破壊力を混同している口かね。わざとそういう性格にされたのか」

 

 

 権佐、多分それ当たりだ。意図はともかく、戦ったり訓練したりしたり、誰かと比較されて貶された経験も無いのにこうまで自己評価が低いんだ。

 『戦闘向きではない』くらいは刷り込まれてるかもしれないが、そこにマイナス思考……えーと、元々の性格だった弱気な性格が相まって、過小評価しまくりになってるんじゃないかな。

 

 とは言え、確かに今のままじゃ出せないな…。認識のずれの事もあるが、このまま怯えて動けないようじゃ、生き残る事もできない。

 最初は腕利きで護衛してもらって、徐々に慣らすべきか…。いや、いっそ俺が直接鍛えるか?

 

 

「うあああああ!? い、今なんかすごい悪寒走った! 物凄い寒気した! あと『性癖が歪むぞ』って金髪の人が忠告してくる白昼夢が!?」

 

 

 …ロミオの野郎、次元を超えて介入してくるとはやるようになったのう…。他にも囁きそうなのがチラホラいるが、まぁいいか。

 いきなりトンデモ案件に遭遇したが、それにばっかり感けてられないのが辛い所だ。

 鹿之助の事は後から考えるとして、次に行こう。

 

 次は骸佐、いいか?

 

 

「…構わんが、お頭なんだから一々了解を取る必要はないぞ。不都合があれば、こちらから進言する」

 

 

 そういう物か。今まではこのやり方でやってきたからな…。今後は気をつけよう。

 じゃあ骸佐、まず聞かせてもらいたいのは…そうだな、この間の戦闘の詳細から聞こうか。得物を壊した背景は大体分かってるが、初陣で思う所もあったろう。

 自慢話になっても構わんから、言ってみろ言ってみろ。

 

 

「…そうだな…。まず最初に思ったのは……」

 

 

 自慢と言うよりは、自分の中の感情を改めて整理するような口調で語る骸佐。

 権佐はもちろん、鹿之助もふむふむと聞き入っている。戦うのは怖いと言っていても、やはり気になるらしい。

 

 それはそれとして、骸佐の戦闘スタイルに適した武器、考えておかないとな…。いやそれは鹿之助もか。

 

 

 

 

 

 同様に、権佐からも話を聞いた。たった3人だけど、思ったより時間かかったなぁ。

 権佐は骸佐のサポート役として設定されている為か、一歩引いたような物言いが多い。が、微妙に戦狂いの匂いがした。自分から死地に突っ込む事はなさそうだが、いざと言う時に死兵になる事を躊躇わない気がする。これは生来の素質なのか、それとも調整された結果なのか…。

 

 



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462話

同じ日の日記が続いています。
1日にイベントを詰め込みすぎかな…。
でも引っ越ししたり、イベントを立ち上げたばかりの忙しさってこんな感じだよなぁ…。


SSでもそうですが、私生活で思考が超絶迷走しております。
具体的にはPCの問題がPSVRの購入を経て部屋の模様替えにになるくらい。
おかげで目が冴えて寝れなくなっちまった。

・Windows7対応終了なの!?
・じゃあこの際だしPC買い替えるか。どうせならVR出来る奴で。
・でも高いし不安。あれ待てよ、グラフィックボード結構いい奴だし、修理できたら行けるんじゃね?
・バックアップとって、初期化して再インストール試してみよう。
 それで駄目なら修理に出す。
・Windows10から逃げられないなら、SSDに換装しよう。調べた限りでは自力でできそう。(素人考え)
・グラフィックボードもやり方調べればできるだろ(素人考え)
・メモリ増設はやった事あるし、必要になったらやればいいな。
・問題はちゃんと初期化できるかだな…。
・そういやPSVRが手の届く値段になってたな。PCとどっちがいいだろう。
・一応PSVRはPCでも使えるらしい。じゃあこっちで。
・でも有線だから、今の部屋模様じゃ使えないな。
・じゃあ模様替え考えてみよう。

…いかん、早く眠らなければ引っ越しや転職まで発展しかねない。


 

 次に話をしたのは、通りかかった沙耶根尾。…名前がどう考えてもおかしいが、まぁ別にいい。本人も沙耶で通しているようだし。

 この子はちょいと、精神面に問題ありかな…。サディスティックな一面が垣間見られる。いや、それ以上に『鬼を片っ端から殺したい』と遊びに行くような感覚で宣っている。「きっと楽しいんだろうなぁ~」とお目目キラキラ状態だった。

 ふーむ……やらせるなら、雑魚を一気に掃討させるような任務かな? で、大物はあまり相手にさせない。

 敵の数を減らすのを専門にする、言わば露払い役。しかし、そうだとしても制止役が必要だな。血に酔うタイプだとしたら、下手しなくても深入りしたり、止めようとした味方に刃を向けかねない。

 

 

 更に続いて、今度は紫。ポニーテールの怪力美女。

 この子はちょいと…捻くれてるとは違うな。叩き起こした時に処女ではなかった事から、昔起きていた事があるのだと思っていたが、大当たりだった。

 完全にではないが、以前の事を覚えているようだ。その為、俺に向ける視線も自然と厳しくなる。

 男性不信…と言うよりは、お頭不信か。自分達の扱いが、当時どういうものだったのか理解しているのかは定かではないが……滅鬼隊員にしては珍しく、個人的に浅黄を頂点として物事を考えているようだ。下手をすると、俺を排して浅黄を頂点に…と考えている節すらある。

 尤も、その浅黄の方が拒否するだろうけども。

 何れにせよ、今は行動を起こすつもりはないようだ。ま、今何かやっても、四方八方が敵だらけになる上、今後の為の貯えすらないんだ。それで反乱染みた事を衝動的に起こすようなら、俺も容赦はしない。個人的な感情にまで口を出す気はないが、周囲を巻き込んで破滅するタイプの奴なら、俺も甘い顔をするつもりはない。

 

 …しかし、あいつ『自分を犯した男は全て殺してきた』なんて言ってるけど……それって前の主に歯向かう事もできた、って事なのかねぇ。それともそういう設定、思い込んでるだけなのか。

 

 

 

 

 

 一人一人にかけた時間はそう長いものではなかったが、人数が人数だし、まだ話をしてない子を探すのも手間になり始めるので、あっという間に昼を超える。

 滅鬼隊の面々は、大した役割を振られてない事もあり、各々が好き勝手に過ごしていた…と言うよりは暇を潰している。何人かで集まって鍛錬している者も居れば、日向で二度寝と洒落込んだり、散策に出掛けて迷子になりかけたり、ごく少数だが里の見物に向かった者も居る。

 が、飯の時間になると続々と集まって来た。一匹狼を気取ろうとする者も居たが、やはり胃袋には勝てないらしい。

 

 

 で、その集まって来た中には、秘書執事の3人も居る訳で。

 

 

 

 

 

 

 3人揃って、飯にも手を付けずに項垂れていた。顔がやわらか戦車みたいになっている。

 

 

 

 …何となく予想はつくが、どうしたよ?

 

 

「…まぁ、迷走した、の一言で察してあげてください。私のところは文字通りの意味で」

 

「同じく。備蓄すればいい、火を通せばいいってものでもないのよね」

 

「…正直、まず現場に放り込んでみるべきだったと後悔しているわ」

 

 

 

 以上、監督役3人のコメントでした。そっかー、やっぱり経験無かったかー。

 

 3人とも頑張った…頑張ろうとしたらしいんだよ。でもどう頑張ればいいか分からなかっただけで。

 …やっぱり、あれか。最初の最初なんだし、まず自分でやってみようとしたか。

 

 

「災禍はその通りです。生活の改善点と言われても、そもそも普通の生活すら知らない状態でしたし…。不便や便利の基準すらなく、途方に暮れていました。とりあえず足で情報を稼ごうとして、現在位置を見失って、ようやく戻ってこれたんです」

 

「天音も似たようなものね。戦いってものを、漠然としか理解できてなかったから。班の内訳なんて全く分かってなかったし。ちゃんと、モノノフ達から話は聞いていたのよ。でもそれで何が必要になるのか、どうすればそれを埋められるのかが想像できなかった」

 

「それに比べると、時子は素直ではあったわね。暫く迷ってから、どう計画を立てればいいのか分からずに頭を抱えてたんだけど……そもそも正確な人数や予算も算出されてない状態で、計画を立てろって言われてもね」

 

 

 ……必要最低限の情報を、半ば故意に渡さなかったんだが……いかん、かなり罪悪感がマッハだ。パワハラになるよな…。

 不明点があれば質問しろって言ったし、教育係もつけたけど、やっぱ子供にやる試験じゃなかった…。

 

 

「そうでもないわ。必要な事は調べる、聞く、これは当たり前の事よ。少なくとも、私が死隠と呼ばれるようになる前、そうやって計画を立てて実行したわ。…最初は運が良かったのも否定できないけど」

 

 

 いやそれを子供に…お前の初仕事も子供の頃で、世間の事なんか何も分かってなかったんだっけ…。詩乃ならそれを言う資格はある…か?

 

 

「そこは個人の性質の問題ですし、資格云々の問題じゃないと思うけど。どっちにしろ、どうするのこれ? まだ私達は手を出さない方がいい?」

 

「初めてのお遣いに行こうとしたら、玄関開けた途端に大失敗したようなものですし、かなり心に来てますよ、これ」

 

「…まぁ、確かにここで心が折れても、得がある訳じゃないし…試験だったとしても、教育こそが本命の目的だし…。そう考えると、むしろ都合がいいんじゃない?」

 

「困り果てている状態なら、意地を張らずに…いえ、意地すら張れずに素直に助言を受け取るって事?」

 

「性質悪い…ですが、だからこそ有効ではあります。なまじ自分のやり方に自信を持てば、他者からの指導を拒む事は珍しくありません。問題は、私達が所謂『正しい指導』をできるかどうか、という話ですが…」

 

「正直、一人二人程度なら、食事の計画もできるけど…この人数だとねぇ。今は沢山できる煮物とかで対処してるけど、そうでない物を…と言われると…。絶対に想定外の事は起こるし」 

 

 

 だけど、やらない訳にもいかない。

 例えば明日奈が何らかの理由で飯が作れなくなったら、どうなる? 俺や神夜だって多少はできるけど、この人数を支えるのは無理だ。

 明日奈一人でやろうとしたって、どっちにしろ出来る訳がない。

 出来る奴を育てなきゃならん。

 

 あいつらは、その候補の最優先対象だ。そういう風に設定されたからだろうと、本来の性格なのだろうと、手伝いが必要なのだと考えて自分から申し出てきた。

 簡単に言えば、やる気を買った訳だよ。実際、空回りするくらいに勢いよく仕事をこなそうとしたんだしな。

 

 こんな事言っておいてなんだけど、多分本来であれば、問題なく遂行できてたと思うんだよ。

 それが出来るだけの知識や知能は、刷り込みされてる。滅鬼隊に携わった連中は、少なくとも技術力だけはあったようだし。

 ただ、それも過去の知識でしかないからなぁ…。

 

 

「滅鬼隊は、オオマガトキが起こる前に封印されましたから…どんなに短く見積もっても、8年前の知識ですか。それも、世界が一変してしまう前の知識…」

 

「そりゃ確かに上手く行く筈ないわ。下手に知ってると、先入観や前のやり方に縛られて、新しいやり方に合わせられないのよね」

 

 

 そういう事。だからまぁ、午前中の失敗は、そこらへんを自覚する為の準備期間だな。

 

 

 

 とは言え、やり方自体はほぼ手探りでやっていかなきゃいかんのだよな…。

 だから、小人数相手とは言えそれなりに心得がある作業を監督してもらったんだけど。大人数相手の運営をどうやるのか、あいつらを見ながらある程度は考えただろ?

 

 

「…まぁ、ね。神夜の言葉を繰り返すけど、それが『正しい指導』かどうかは別の話よ」

 

「それでもやらなきゃいけない、か…。うーん、やっぱりそういう専門の人がいるに越したことはないけど…流石にそんな都合よくはいかないか」

 

「現時点で出来るのは、互いに助け合う事と、出来そうな人に教えを請う事ですね。…そういう意味では、教えを請える相手が居ます。言うまでも無く、ウタカタの人達です」

 

 

 だな。俺もお頭としての心得を教えてもらおうと思ってたし。どっちにしろ、今から山ほど世話になるんだ。それを恥だの借りだの言うような事じゃない。

 とは言え、今日一日はまだ様子を見る。

 俺もまだ全員と話はできてないし、夜まで自分達の判断で行動しろって言ったんだ。途中で切り上げさせてちゃ、本人の為にもならないし、気分もよくないだろ。

 飯の後からの奮闘に期待、だな。3人とも、もう少し積極的に口出ししてもいい。

 

 ま、何だ。俺らが不安そうにしてちゃ、あいつらだって益々不安になるだろう。仮にも人の上に立ってる状態なんだ。自信持った面して行こうや。

 幸い、暫くは九葉のおっさんの援助で凌いでいける。それが尽きるまでに、里で生きていけるだけの体制を作り出すぞ。

 

 

 …視界の端で、3人が飯を食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………こんな感じで良かったでしょうか? ほぼ流れに任せて喋りましたけど。と言うか、正直途中から何が言いたかったのか分からない事極まりないです」

 

「想像以上に凹んでいたから、何とか元気付けようとしたはいいけど…」

 

 

 いんじゃね? 途中から3人とも、目くばせし合いながら聞き耳立ててたし。

 経験が少ないのも善し悪しだな。疑問も持たずに素直に信じ込んでくれたぜ。 

 

 俺はむしろ造反とは言わないまでも、反感を持たれないかが心配だった。失敗を見越して任を当てるなんて、嫌がらせ以外の何物でもない。

 『育てる為にわざと厳しくしていた』なんてのが通用するのは、お互いに充分な信頼関係があるか、関係がその場限りで終わっても全く問題が無い時くらいだよ。

 

 

「信頼、あるんじゃないですか? 少なくとも、あの子達はあなたを信じ切っています…。ああ、だからこそ失敗するだろうと思っていたのが…」

 

「…心象、よくなったかしら?」

 

「嘘も言ってない、気合も入ったようだしね。…実際、困り果ててるのは確かなのが…」

 

「そこはもう、行き当たりばったりでもどうにかしていくしかないでしょ。ま、開き直れば面白い状況だしね。大体、先行きが見えないって言ったってシノノメの里から出られなかった時よりはいいし、未来の事が分からないのなんて当たり前よ」

 

 

 明日奈は図太ゲフンゲフン肝っ玉母ちゃんだな…。胃袋掴んでるし。

 さて、俺も飯食い終わったし、そろそろ仕事に戻りますか。はー、暫く狩りには出られそうにないなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、またしてもご飯の時間。夕刻である。

 この時間まで色々と話をしてきたのだが、量が多すぎるのでそれらを全て記すのは割愛する。

 

 とりあえず、彼女達のこれからの運営について、目途は立った…とだけ言っておこう。表面上の触れ合いしかしてないので、上手く行くと確信は無いが。

 そうだなぁ…印象深かった事を、幾つか書いておくか。

 

 

 まず、浅黄と話した時の事だ。こいつは以前の記憶も持ってるから、ちょっと不知火の態度について相談をしてみたんだけど。

 

 

「……反乱を誘発させるのはどうかと思うんだけど」

 

 

 言葉の返しようもございません。この辺の、欲望を制御できない点に関しては、俺は浅黄よりも頭領適正は無いと思う。

 

 

「…それにしても、不知火、不知火ね……。私もあまり関与した事はないんだけど…確か、昔は幻影の滅鬼隊と呼ばれていたわね。自身が幻術系の術の使い手だという事もあるけど、他にも理由があって……何だったかしら、あの時聞いた噂…。確か、紫が協力して任務に当たった事があって…」

 

 

 紫かぁ…。…いや、まずは話を聞こう。あいつの事だから主観全開になりそうではあるが、浅黄を相手に話したという事は少なくとも嘘はついていないだろう。勘違いしている可能性は成大にあるが。

 それで、何と言っていた?

 

 

「任務中とそうでない時とで、まるで別人のようだった…だそうよ。雰囲気もそうなんだけど……これは紫も、自分で言っておきながら半信半疑だった事。曰く、任務中の事を聞いても、全く知らないような素振りをされた。任務中に受けた傷が、次の任務の時には跡形もなくなっていた。文字通りに、別人だとしか思えないくらいに態度が変わっていたとか…」

 

 

 んー……別の『不知火』に交代した、という可能性もあるけど…。

 

 

「その場合、前の『不知火』は恐らく…。……そういう規則なのか、それとも理由の無い拘りなのかは知らないけど、基本的に私達は型番一つにつき1名しか起こされていなかったから。でも、仮にも私はその辺を統括する立場にあったんだけど、不知火を交換したって話は全く聞いてないのよね。……ああ、そうだ、私も一つ、心当たりがあったわ。任務を伝える時に少しだけ話をしたんだけど、その話題に入ると同時に、別人としか思えなくなるくらいに雰囲気が変わったの。『幻影の滅鬼隊』と言うのは、そのあたりが由来だったようね。幻のように、自分の実態を掴ませない…」

 

 

 具体的にどのように?

 

 

「あの時は確か、遊郭への潜入任務だったわね。命じた途端、雰囲気が一変したわ。傾国の魔娼、と言いたくなるくらい。淫蕩な事なら何でもござれ、自分が良くなる為なら仲間を貶めるのも娘を生贄にするのも躊躇いなし……と、流石に口にした訳じゃないけど、そういう雰囲気だったわ。…立場や命令を無視して、その場で斬るべきだと本気で思ったものよ」

 

 

 単なる変装と言うか、潜入の為のキャラ付けじゃないかもしれない…と。

 多重人格の類……実例があるからなぁ、誤射姫様という実例が。

 いや流石に考えすぎ………とも言えん。一度、内面観察術を使ってみるか。俺だけならともかく、雪風の人間関係にも関わる話だ。念を入れておいた方がいい。

 

 

 

 

 

 次に印象に残った事は、鬼の襲撃があった事。まぁ、これも小規模なものだ。雑魚しかいなかった。

 一匹だけミフチが里の近くまで近付いてきたが、威嚇すると大人しく去って行った。

 

 …これは、あれか? 序盤の、初穂と一緒に任務に行った帰りにミフチに尾行された、あの任務か? いやもうちょっと大規模だったよな。じゃないと、新入りをソロでミフチにあてる理由にはならないし。

 

 まぁ、ともかくアレだ、夕方になった頃、襲撃を知らせる鐘の音が響き渡った訳だ。

 戸惑う滅鬼隊を他所に、俺は高所に上って鷹の目で敵を探した。

 結界に近付いているのは、雑魚数匹とミフチ一体。

 

 …正直、『こんなのが来ただけで大騒ぎするな』と言いたくなったけど……いやいや、この考えはいかんな。慢心しとる。

 俺だって死ぬときは死ぬんだし、ミラボレアスに潰されるのも、餓鬼に喉元杭千切られるのも代わりはしない。

 そもそも、ここには戦闘経験がない人達が沢山居るんだ。結界に鬼が近づくと言うのは、充分に大事だった。

 

 ともあれ、ここで座して待っていては…逆に俺一人で片づけてしまっても、後々の為にならない。

 俺達が住んでいる場所は、結界の隅っこ。今後も襲撃があったら、真っ先に矢面に立たされる場所だ。

 そういう時、自分達の力で居場所を防衛できるよう、経験を詰ませておかねばならない。『放っておけばお頭や誰かが何とかしてくれる』なんて、論外だ。

 

 

 

 

 

 とは言え、多少なりとも戦闘力を持っているとは言え、統率も取れてない、基本も分かってない連中を実戦に放り出すなんて論外なので。

 

 

 

 

 

 数うちゃ当たる方式の集中砲火でどうにかしました。もう文字通りの。

 とにかく遠距離攻撃持ってる奴らは、合図と共にそれ使わせて、討鬼伝世界の銃・弓矢からMH世界のボウガン類まで、とにかく狙いもクソもなく打ちまくらせた。武器が足りない者には投石もさせた。

 

 やった事は、基本的には単純。土遁使いを総動員し、敵の侵入を阻む壁を作る。あえて一か所だけ穴を開け、そこから出てくる鬼達を、纏めて銃殺刑。たったこれだけだ。…これすらも、土遁使いと俺のマイクラ能力が無ければ不可能だったんだけども。

 いやぁ、餓鬼もそうだけどミフチがマガツヒ状態にすらならずに穴だらけになっていく様は壮観だった…。あの、逆さになって回転しながら暴れる奴が出たら、問答無用で吹き飛ばそうとスタンバイしてたんだけどなぁ。

 

 襲撃がもうちょっと後、ある程度の班組が出来た後なら、もう少し直接対決に付き合って、経験を詰ませてもよかったんだが。

 結局、餓鬼や鬼火、蜘蛛なのになぜかササガニと呼ばれている小型鬼が何匹かと、ミフチが2匹しか来なかった。

 

 

 

 

 そしてそれらを数の暴力で鬼を叩き伏せた後始末の光景を、何時の間にやらやってきた和穂が呆然と見ていた。

 

 

 それに気付いた隊員達が危うくもう一度武器を構えそうになったが、一喝して宥める。

 …さて、ウタカタの里のモノノフとお見受けするが…一体、何故ここに?(見当はついてるけど)

 

 

「…え? あ、あぁ、あなたが新しくやってきた人達の頭領ね。えーっと、答える前に名乗るけど、私は和穂。ウタカタの里のお姉ちゃんよ」

 

 

 具体的には、桜花殿や大和殿よりもお姉ちゃん? 大和殿がお姉ちゃんやってる姿なんて、考えたくも無いけど。

 

 

「それは私も考えたくないわ…。ま、まぁ、色々紆余曲折とか背景とかあるけど、私は大和のお姉ちゃんでもあるわ」

 

「……どういう事でしょ?」

 

「さぁ…。でも、里のお頭を呼び捨てにして誰も咎めないって事は、単なる自称じゃないのかも…」

 

 

 背後で明日奈と神夜がヒソヒソ話しているが、その辺は後日ね。

 これはどうもご丁寧に。俺がこいつらの纏め役です。…呼び方は、若だの殿だのお頭だのお館様だの、統一されないけど…。

 

 して、繰り返しますが、何故ここに。

 

 

「何でも何も、襲ってきた連中は、私を追いかけてきた鬼達だったみたいだもの。それが、ウタカタの里にやってきた新しい人達でも、襲い掛かって害を成す? お姉ちゃんがそんな事を許せるはずないじゃない」

 

 

 俺達は、昨日里にやってきたばかりの異邦人ですが?

 

 

「関係ないわよ。里に住んでるなら、10秒前からだって私の弟分妹分よ。…モノノフってそういうものよ。私はモノノフ以前の問題だけどさ」

 

 

 …そうか。なら、機会があれば猫撫で声の媚びっ媚びな言葉でおねえちゃぁんと呼んであげよう。

 

 

「…あんたは例外。お姉ちゃんじゃなくって、初穂と呼びなさい」

 

 

 じゃあ、大和のお頭が「まってよーはつほねえー」とか言い出したら?

 

 

「……い、いまの大和でも許……許………許…っ!?」

 

「…ちょっとお頭、その辺にしておきなさい。助力に駆け付けてくれた相手で遊ぶなんて言語道断よ」

 

 

 それもそうだな。すまん、初穂、浅黄。

 …いつぞや録音したデータ、まだ残ってんだよなぁ…。再生用の機器、 ふくろ の中に残ってたかな…。

 

 

「うう…妙な物想像したおかげで、夢に出そうよ…。と、とにかく、無事だったようで良かったわ。モノノフのやり方としては、正直どうかと思ったけど」

 

 

 まぁ、タマフリどころか浄化も何もないやり方だったもんな。

 …っと、忘れてた。後始末後始末。手が空いてる奴、経文唱で鬼の死体を消しておいてくれ。

 面倒? 馬鹿言ってんじゃねえ。実戦に出たいと思う奴、さっさとやってしまえ。浄化は鬼と戦う上で必須項目だ。一人でやったらどれくらい時間がかかるのか、今のうちに体験しておくように。

 

 



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463話

PC、何とかなりました。
新しいのを買うかの瀬戸際でした…。
マイクロソフトHPからの手動アップデートです。
どうも、一定時間無操作だとスリープ状態になる設定でしたが、それがシャットダウン中にも適応され、アップデートが終わる前に止まってしまっていたっぽい。
…こんな設定、した覚えないんだけどなぁ…。

しかもそのアップデートが終わったら終わったで、今度はブルートゥースが使えなくなる始末。
こっちは現在も原因対策究明中です。

PCは直ったし、だったらVRはスチーム入れてやればいいや。
PCの方がソフトも多いみたいだし、エスコンは最初からやり直しになるけどどの道リハビリしなくちゃいけないから問題なし。

SSDへの換装も上手く行った。
ああそうだ、PC用コントローラー買わないと。
PS4と同じ感覚で出来る奴がいいんだけど、難しいかなぁ


 …さて、見苦しいところを見せてすまない。大和のお頭にも、こっちは無事だと伝えておいてほしい。増援の気配も無い。

 組織立った襲撃ではなく、腹が減った鬼が先走って近付いてきただけのようだったと。

 

 

「ああ、うん…。おかげでこっちも無事だったわ。…ところで、本当にここで暮らして大丈夫なの? 今更駄目だって言われても、悪いけど私には大した事はできないけど…」

 

 

 ああ、お構いなく。住めば都って言うし、結界の内側に居られるだけありがたいよ。確かに安全面に問題はあるが、そっちはどうにかする目途は立ってる。

 …代わりと言っちゃなんだが、今後は共同で任務に行く事もあるだろう。その時に気にかけてやってくれるとありがたい。

 

 …いやもう本当にね。悪い子達じゃないんだけど、いろいろ経験不足でさ…。

 図体と乳がやたらでかい癖に、小生意気な子供そのものの言動が多いと思うけど、お姉ちゃんとして寛大な心で接してやってほしい。

 

 

「妹弟が沢山出来たのはいいんだけど、仮にも集団の頭領が、自分の下の人間をそこまで言う…?」

 

 

 暫く接していれば、言いたい事は嫌でも分かると思うぞ…。

 差し当たり、明日からは哨戒任務に一組参加させたいと思う。付き合ってやってくれるとありがたい。…必要だと思えば、遠慮なく叱り飛ばして構わないから。

 

 

 

 

 

 

 …他に印象に残った事は…今日のところは無いかな?

 一通り話をして、作っておいた方がよさそうだった家具を幾つか即席で据え付けて……そうそう、秘書執事チームが報告会前に何やら話し込んでいたっけ。

 

 では、夕飯の準備も終わり、本日最後の業務。執務室に秘書執事チームと監督役3人が集まり、報告会が始まった。

 さて…誰から報告する? ああ、監督役の報告は別途聞くから。

 

 

「………」

 

「………」

 

「では、打ち合わせ通りに私、天音から」

 

 

 ほう、打ち合わせね。さっき話し込んでいた時の事だろうか。口を挟まず、先を促す。

 

 

「ウタカタが欲している戦力並びに役割ですが、まず桜花殿に話を伺いました。ですが何が足りないかと言えば『全てが足りない』としか言いようがないそうです。大型鬼を単独で相手取る事が可能な主力級モノノフは、桜花殿、富獄殿、息吹殿、速鳥殿、那木殿の5名。それに、昼の戦闘でいらした初穂殿は、何かの切っ掛けがあればこの領域に手が届くだろう、との事。詩乃殿の言によれば、この里の規模でそれだけの手練が揃っているのは、通常であれば戦力過多だそうです。ですが鬼達も手強く、安全性を高める為に、主力級でも2人以上で大型鬼と当たります。主力級モノノフは何らかの任を兼業している者も居ます。日常的に鬼の襲撃があるこの里では、とても人手が足りているとは思えません。

 また、準主力級、並びに哨戒・偵察を主とするモノノフは、数こそそれなりに居るようですが、決して優秀とは言えません。雑魚が相手なら対処もできますが、大型鬼ともなれば容易く蹴散らされるでしょう。これを自覚している為、基本的に大型鬼との戦闘は行わず、戦ったとしても足止めと逃げ隠れに徹しています。何より、このモノノフ達は損耗が非常に激しい。再起不能になった者や亡くなった者が何人も居ます。将来有望な若手も、不測の事態に襲われて将来の芽を摘まれています。その結果、人手が更に足りなくなり、戦力の質が落ち、疲労心労を背負ったまま、命の危機を負って巡回を続ける悪循環に陥っています。

 故に、ウタカタが今最も必要としているのは、主力以上に後詰めと、それを保護する為の救助部隊であると結論いたしました」

 

 

 ふむ。その部隊を作り上げる事で得られる得を、大まかに述べよ。

 

 

「はっ。まず、強力な鬼との戦闘を避ける事ができます。隊員の中には、つまらないと不平不満を零す者も多いかと思いますが、我々が経験不足である事は身を以て知りました。その自覚すらなく戦場に出て、ウタカタのモノノフ達と必ずや衝突するでしょう。不満を抱かれようとも、まずは我々がどの程度の事が出来、何が出来ないのか、そして弱点を自ら知るべきだと考えます。

 第二に、我々の数を活かす事ができます。質の程がどうなのかは分かりませんが、少なくとも我々はウタカタのモノノフよりも圧倒的多数になっています。四人編成で巡回を行っても、披露が抜けない程頻繁に出撃する必要はありません。ウタカタの古参モノノフを中心とし、その補佐に入るように加われば、過剰な出撃による負荷を抑えつつ、多くの事を学ぶ事ができます。

 最後に…これは上手く行けば、ですが…里の中での地位を揺るぎないものにする事ができるでしょう。いざという時の為の救助部隊。この有無は、モノノフの生還率を大きく跳ね上げる筈です。もしもそれが必要な状況に陥り、その役目を全うしたならば、助けられた者達にとって我々場『命の恩人』とも言えるでしょう。命の恩ほど重い物はありません。その恩が滅鬼隊に向くか、その時助けた個人に向くかは分かりませんが、少なくとも邪見にされる事はなくなるでしょう。…我々の失敗で、多くの者が死んだという事態でもなければ。…私からの報告は以上となります」

 

 

 うむ。

 

 唇を僅かに笑みの形にして重々しく頷く。明らかにホッとした様子で一礼した。

 プレゼンが上手く行って一安心、って感じだな。

 

 

 

 

 対する俺としては、戦々恐々してっけど。

 

 言ってる事に間違いはないよ? 俺から見ても、大きな穴は無い。

 今までのループで俺はいつも主戦力側に居たけど、それは俺がどんなに強くなっても一個人でしかなかったからだ。もしも俺が5~6人くらい居たら……居たら………まぁ、そのくらいならウタカタの里は滅びないよな?……とにかく、俺くらいの力を持ってる奴がもう少し居たら、間違いなく斥候部隊や巡回部隊に派遣して、死傷者の軽減に努めていただろう。

 じゃあ何にそんなに戦慄してるかって……。

 

 

 ちょっと考えれば分かるやろ、これマジでこの子が考えたの?

 

 目線をこっそり詩乃に送るが、冷や汗混じり表情が返って来た。そっかー、多少のヒントと誘導はしたけど、そっから先はほぼこの子が考えたのかぁ…。

 これが、何していいか分からなくて、昼飯時に3人揃ってダウンしてた子か? 一体、どんな地頭持ってりゃ、こんだけ考えを飛躍させられるんだ…。

 

 え、これマジ? マジで自力で考えたの? 同じ疑問を繰り返すけど、本気で自力で結論出した?

 昼にかけた発破が、実は反応弾とか反物質兵器級のドーピング効果があったとしか思えないんだけど。

 

 やっべぇな…いや頭のいい子なのは悪い事じゃないんだけど、俺、この子が裏で策謀でも巡らせたら、止められる気がしねぇぞ。

 と言うか、このまま成長していったらもう何を提案されても高度過ぎて理解できず、「うん」「任せる」「いいんじゃないか」とか、分かってるフリして相槌してる未来が見える。

 

 

 

 

 …いやいや、例えそうだとしても、憶するものではない。ウチの子が頑張って頭使って考えてくれてるんだ。

 未来で分からないなら分からないと、素直に言えばいいんだ。意地を張るべきところを間違えるな。

 少なくとも、今は未来の事を考えて危機感を募らせるより、頑張ってくれた我が子を褒めるべきところだ。

 

 

 今すぐにでも、頭でも撫でてやりたいところだが…今はまだ、それをやってはならない。確かに天音は、俺の予想を遥かに超える働きを見せてくれた。

 だが、今日の本当の課題を達成したのかは、まだ分からない。…いや、正直報告会の前に3人揃って話し込んでいたところを見ると、最低限の課題はクリアしてくれてると思うんだけど。

 

 

 

「では、次は私が」

 

 

 ん、今度は時子か。仕事の内容は、今後の食料品使用・仕入れの計画だったな。

 聞かせてくれ。

 内心、この子も物凄い考えた結論出してきそうで、ちょいとビビッてる。

 

 

「はい。結論から申し上げますと、里からの買い付けは最小限にすべきと考えます。霊山の、何でしたか……九葉軍師、でしたか? からの支援を差し引いても、です」

 

 

 ほう、その心は。

 

 

「他の里の事を知らないので、はっきりとは言い切れない部分もあるのですが…この里は、食料的には非常に豊かな里のようです。大きな田畑、潤沢な水、獣も居れば果実もある。ですが、決して余裕がある訳ではありません。里の蔵を見てきましたが…どう考えても、我々を養える程の備蓄があるとは思えない大きさです。それも当然でしょう。里の食料がいくら潤沢だったとしても、必要以上に収穫すれば、消費しきれず腐らせていくだけです。仮にこの里が、我々を養えるだけの農作物や肉類を生産可能だったとしても、それは今ではありません。適した季節まで待ち、苗を植え、育つのを待ち、収穫し、口に入れられるよう加工せねばなりません。…これに関しては、時期が悪かったとしか言いようがないでしょう。今、里に残っているのは、従来の里の住人を1年間飢えさせないだけの備蓄と、いざという時に備えた少量の貯えのみなのです。

 それを金子や立場に任せて買い漁れば、間違いなく反発を買います。何事もなかったとしても…これは明日奈さんに試算していただいた結果で、詳細を把握できているのではありませんが…恐らく里の食料は不足します。

 万が一を警戒し過ぎているのではありません。高確率で怒り得る、算術から導き出された結論です。故に、我々が取れる選択肢は三つ。

 今、余裕がある内に金子を叩いて正当にウタカタの里から食料を奪い、後に主導権を握るか…これは、ウタカタの里の乗っ取りとも言えます。

 徹底して計画的に食料を使い、将来に備えて備蓄を作るか……節約したところで、どれだけ保つか分かりませんが。

 もしくは、我々が自力で食料を生産し、供給する事でシノノメの里と同じ立場に着くか…私はこれを推します。長期的にみれば、確実に我々だけでなく、人間の益になりましょう。

 仮に一つ目の手段を取ったとしても、手に入る物はたかだか最前線の里た一つ。いつ壊滅してもおかしくありません。内側に大きな不満を呑んでいるのであれば、猶更です。

 逆に…天音の提案とも被りますが、ウタカタを助力するような立ち位置に居れば、矢面に立つ事を避け、食料生産によって地力を蓄えて失う訳にはいかない集団という立ち位置を確立できます」

 

 

 ふむ。

 一つ目は論外。鬼とやり合う以前に、確実に内紛で内部分裂した挙句に全滅する。そのまま霊山まで攻め込まれるのが関の山だ。

 

 二つ目、悪くない。これはシノノメの里だけで考えているから、遠からず袋小路に辿り着いてしまうのだ。徹底して消費と生産と流通を管理すれば、人間はあと50年くらいは粘れるだろう。

 …精神的なものを無視すれば、だがな。自棄酒も偶の贅沢も出来んような人生じゃ、生きていたって仕方あるまいよ。

 

 三つ目は、どうやって俺達が生産するかという問題があるが……。

 

 

 いや、そこは後回しにしよう。

 ウタカタの食糧事情に気を使うべきだという意見はよく分かった。

 

 が、時子の任務は今後の食料利用の計画立案だった筈。それについてはどうなっているか?

 …ああ、責めるつもりはない。さっきの報告は、本来の任務を放り出してでも、最優先で報告すべき内容だった。

 ただ、そこについて報告があるなら聞きたい。同じような作業をこっちでもう一度行って、二度手間になるような事は避けたいからな。

 

 

「はい、先程報告した点に気付き、そちらを優先して調査を進めた為、多くの修正が必要になりますが…こちらになります。こちらについても、3日以内に修正を加えて報告いたします。明日明後日までは、そう大きな修正は必要ない筈です」

 

 

 ふむふむ。向こう10日程度の献立表か。仕入れが必要になる物も、大体纏めてある。これが予算内に収まるかまでは、まだ未計算と。

 うん、確かに受け取った。明日奈の好物や得意料理が沢山書き込まれてるが、料理はそう難しくないし、比較的安価なものばかり。

 賞味期限に少々不安はあるが、そこはウタカタの人達を信じてもいいだろう。古くなりそうな物は、悪くなる前に自前で食ってる筈だからな。

 

 時子も想像以上の結論を出してくれて嬉しい(震え声)

 

 

 

 んじゃ、最後に災禍か。

 

 正直、非常に曖昧な作業を振るったから、無茶振りになってしまったんじゃないかと思ってるんだが。 

 

 

「いえ、若様の為であれば、このような些末事………と言いたいところですが、正直言って戸惑っています。この二人とは逆に、あからさまに問題が湧き出ていましたから…・。生活における改善点を挙げろと命じられはしましたが、何もかもとしか言いようがありません」

 

 

 せやな。生活基盤がまるで整ってない状態だもの。普通の人達だったら、10日も経たずに一向一揆が起こるわ。

 子供同然の滅鬼隊が、よく我慢してくれてると本気で思う。

 

 

「それは若様の人徳…だけでもないのでしょうね。では、その子供同然だからこその問題を第一に挙げます。生活の改善と言われても左程重要な事とは思えませんでしたが、まさかこのような状況だとは…若様の慧眼に恐れ入ります」

 

 

 世辞はいい。いや見え見えの媚びとか大好きだけど、今は置いといて。

 災禍が見つけた、最大の問題は?

 

 

「はい、それは『やる事が無い』という現在の状態です。生活において、諸々の不便な事は多くあります。ですが、それ以上に隊員達が口にするのは 『退屈』でした。]

 

 

 退屈って…いや確かに、仕事をまだ割り振れてはいないけど。

 

 

「仕事だけの問題ではありません。私も最初は、暇を持て余しているのなら若様の為に鍛錬でもしろ、と思ったのですが、その鍛錬も含め、『何をすればいいのか分からない』為に退屈している者が多く居ました。

 生活の為に必要な何かを確保しようとしても、その為に何を行えばいいのか分かっていないのです。鳥を捕らえる為に、聞きかじりの知識を元に生け簀を作ろうとしているようなものです。ただでさえ労力がかかる上、自分がやっている事が無駄になるのではないか、逆効果になるのではないかという意識が萎縮を呼び、無気力になっていきます。

 一例としては、初日に若様が風呂を沸かすよう命じた舞華です。基本的に面倒くさがりな性格のようですが、その性格とは裏腹に、湯を沸かす時間を今か今かと待っていました。時間になると、水を得た魚のように作業に取り掛かります。…自分の役目こそが、今の滅鬼隊の心の拠り所になっているのでしょう。

 この際何でもいいので、皆に「やるべき事」「やってもいい事」を与えねば、遠からず良からぬ結果を呼び込むと予測されます」

 

 

 ふむ…。それ程だったか。こっちに来るまでは、何だかんだ言っても知らない物を目にしながら、指揮されて歩いていたからな…。退屈を感じる暇は無かっただろう。

 

 無視とまでは言わないが、仕事場で一切仕事を与えてないようなものだものなぁ。楽に給料が手に入るなんて思ってられるのは最初だけで、段々居場所がなくなって、暇を持て余して辞めていく…。いかん、これパワハラだ。

 こりゃ確かにすぐさま何か割り振らなきゃならんわ。

 

 しかし、秘書執事チームの3人を見れば分かるように、滅鬼隊はとにかく経験不足、世間知らず。まずは自分達の世話…飯作りや清掃について教えていくとして…。

 天音からも聞いた、ウタカタとの部隊設営……これはあっちにも話を通さなきゃいけないから、すぐには無理。

 

 

 

 あ、待てよ? よくよく考えれば、暇を潰せればいい訳だな。

 

 

「…恐らくは、ですが。どうせ何かさせるのなら、利になる事をさせるべきではないでしょうか」

 

 

 それは否定しないが、これは仕事と言うよりはメンタルケア…えーと、精神を安定させる為とも言える。

 何より、生きる為に仕事を行うのであって、仕事をする為に生きているんじゃないんだ。寝てる時間と仕事してる時間以外を充実させ楽しむ為に、あれこれ努力をする。少なくとも、俺は滅鬼隊にそういう風に生きてほしい。

 滅私奉公とか論外。否定はしないが、まず自分の為に生きる。愉しむ為に生きる。

 

 だから、まずは暇を潰す方法を伝える。単純に、遊戯の類でいいだろう。

 仲間内での交流を深め、意識を作るのにも相互理解にも使えそうだ。勿論、順次仕事は割り振っていくけども。

 

 とりあえず、退屈の問題はこれで目途が立った。他に気付いた事は?

 

 

「…そうですね。本当に、何もかもが必要ですが…危急と判断したものは…何よりもまず、自衛力の確立が急務です。今日も鬼の襲撃がありましたが、我々が到着した初日にもあった事から分かるように、鬼の襲撃はこの里では決して珍しい事ではありません。幸い、今日は若様が指揮を取られ、どこからともなく取り出した銃の集中砲火で何事も無く対処できましたが、いつもそうとは限りません。ウタカタの里から駆けつけてくれた…和穂殿、でしたか? が、対処が終わってから到着したように、ウタカタからも援軍を出せるとは限らず、また出せたとしても間に合わない可能性が非常に高いと考えられます。

 人間という獲物が結界の端に住み着いた以上、鬼達の襲撃はより頻繁になると予想されます。手に負えない事態に発展する前に、最低でも常駐する見張り番を割り振り、指揮系統の統一、侵入された際の対処法、必要な武装、ウタカタのモノノフへの伝令役を決めるべきです」

 

 

 成程。その計画を設立する為には、やはり一人一人の性格や戦力の把握が必要だな。

 とは言え、それを完了できるまで座して待っている訳にもいかん。まずは一律雑兵…数に任せて槍衾・遠距離射撃で潰すやり方を考えるか…。

 あ、いや待てよ、確か打ってつけのタマフリ持ってる奴が………うん、俺の明日の予定は決まったな。

 

 

 災禍、他にも色々…本当に色々と、改善しなければならない事はあると思うが、俺でなければ出来そうにない事で、急務の物はあるか? 可能であれば、神夜に限らず監督役と協力して、そちらで進めてほしい。報告は重要な部分と、俺の手や判断が必要になった時だけでいい。

 

 

「かしこまりました。………大任…!」

 

 

 仕事をほぼフリーハンド状態で任せられたのが嬉しかったのか、災禍はこっそりガッツポーズしていた。見え見えだっつの。

 そして時子と天音は、それを羨まし気な目で見ている。君達にも他に仕事あるからね?

 

 

 さて、とりあえずの報告は異常だな? …字が違った。以上だな。実際異常でもあるが。なんだこの0歳児達。

 

 

 率直に言って、脱帽したよ。想定を遥かに上回った結果を出してくれた。昼に頭抱えてた奴らが出せる結論じゃないぞ…。

 若干、末恐ろしく感じない事もないが…教育は必要だけど、これなら色々な事を任せられるようになりそうだ。

 3人とも、秘書・執事としても、それ以外の形でも、これから俺達を支えてほしい。

 

 

「「「はっ!」」」

 

 

 褒め言葉一つで、感極まったように一斉に返答する。…いや、褒め言葉一つと馬鹿にはできんか。初めてのお遣いを済ませて、褒められた子供だ。難易度はルナティック通り越してマストダイレベルだったけど。成功体験は自分に自信をつけてくれる。言葉一つで人生が変わる事だってあるのだ。

 

 さて、今日のところはここまでにしておこう。頭を捻って疲れただろう。

 飯食って風呂入って、今日はもう休め。明日からの計画とか色々考えたいかもしれないが、根を詰めすぎてもいい結果は出てこない。

 まずは疲れを取るんだ。

 

 

 

 そうそう、監督役3人については、明日以降の打ち合わせもあるんで残ってほしい。以上だ。

 

 

 

 

 

 名残惜し気に秘書執事チームが退室し、監督役達と俺は溜息を吐く。

 

 …なぁ、これどこまで自分で考えだしたの?

 

 

「時子は、半分以上は自分で考えてたわ。午後から色々意見を求められるようになったけど、想像以上に呑み込みがよかった。正直、計算とかに関しては私より上ね。何が幾らで、それがどれだけ必要になって、何を使う時に何と一緒に使って…って物凄く早く計算してた」

 

「天音は、私を初めとして色々な話を聞いて、それをまず記録したわ。意見を求められたのは、それらの解析をする時。苦手分野だったんで、戦々恐々してたんだけど…正直、予想外の内容で口を挟む事になったわ。あの子、分析の是非はともかくとして、『ウタカタを自分達の勢力下に置くにはどうすればいいか』を考えていたの。乗っ取り計画と言ってもいいわ。求められているのはそれではないって頭を叩いたら、軌道修正したけども」

 

「災禍さんも、ほぼ自力で考えてましたねぇ。勿論、分からない点や参考にしたいと思った点は、私に聞いてきましたよ。ですが、何よりも評価したい点は、自分から他の二人に声をかけた事かと」

 

 

 他の二人に声…って、何をやったんだ?

 

 

「多分、お昼の会話に触発されたんでしょうね。自分一人で、って意地を張ってる場合じゃないと思った為か、私に意見を求めるようになって…その時の会話の流れで、『好敵手ほど自分を高めてくれる相手はいない』って言ったんですよ」

 

「そこに至るまでの話の流れが気になるんだけど」

 

「私に困っている事がないか聞いて、強い相手と手合わせする場が欲しい、と言ったらその流れで。そうしたら、自分の好敵手って…つまり時子さんと天音さんでしょう? 途中経過と様子見も兼ねて話を聞きに行って、『報告前に全員で話をしよう』って事になったんです」

 

 

 ああ、報告会前に話し込んでたのはそれか。

 打ち合わせがどうのとか言ってたし、互いの結果を持ち寄って、補足が必要な事がないかとか、疑問が残ってないかとか、色々意見交換してたのか。

 

 

「はい。その発案者が災禍さんなんです。多分他の二人も似たような事が考えていたんでしょうね。すぐに承諾しました。ですが、それを提案する前に与えられた作業に集中して、災禍さんだけはその提案を優先したと」

 

 

 ふーむ…優劣をつけるつもりじゃなかったが、一歩抜きんでた感はあるかな。

 まぁ、暫く様子見は必要だけど、秘書・執事役は充分に任せられるって結論でいい?

 

 

「そうね。さっきの報告を聞いても分かるけど、地頭の良さは相当なものよ。事務処理とかに関しては、経験不足を差し引いても、同じ滅鬼隊の私よりも優秀でしょう。また暴走したり、評価を気にし過ぎるような事がなければ、即戦力扱いでも問題ないと思うわ」

 

「時子については、即戦力扱いはちょっと待ってほしいかも…。不足や不満があるんじゃなくて、料理って正しい知識が一番重要だから。種類もまだ一つ二つしか教えられてないし、仮にも料理を扱う店で働いていた身としては、もうちょっと伊呂波を仕込んでからじゃないと任せるのは不安だわ」

 

「災禍さんは…普通の仕事と言うか、毎日こなす習慣的な仕事なら一度教えれば問題ないと思います。今回の事で『他者に相談する』という行為の重要性も理解できたでしょうし、要所要所で確認すればいいのでは。計画を立案してもらって、それを実行前に精査する…という形なら、即戦力扱いでしょう」

 

 

 要は概ね問題なしと。

 贅沢な話だなぁ。やる気もあって能力もある人材が、何もしなくても3人も転がり込んできてたとか。

 他の連中も、それぞれ適正は違うだろうけど使い道はありそうだし、頭領として命じればサボりの心配もほぼ無い。指示と教育が必須とは言え、信用できる人員がこれだけ入ってくるとか…幸運なんて言葉じゃ済ませられないぞ。

 

 

 ともあれ、暫くは興と同じ体制で続けるか。……いや、このままじゃこっちの手が足りない。

 すまないが…うん、神夜。明日は監督じゃなくて、俺の手伝いをやってくれ。詩乃は災禍と天音を監督。明日奈は時子に献立を教えるのに集中してほしい。

 

 

「構いませんけど……書類仕事では、力になれない事極まりないですよ?」

 

 

 大丈夫、頼むのは別の作業だから。その後は交代でその役割を請け負ってもらう。

 その他、何か報告する事は? 

 

 

 

 …とりあえずは無し、か。

 

 じゃあ、後は風呂入って寝るだけだな。つっても風呂は皆使ってるだろうから、その前に労いの時間が待っているが。

 労い、の一言に3人の芽がキュピーンと輝いた。…明日奈の中に居る木綿季の目も輝いたようだ。

 

 ん? 情事の前には風呂に入るのが礼儀? よっぽど汚れてなければ、それはそれで有なのよ。

 

 



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464話

VRが思ったよりも遊び道が少ない件。
スチームVRを使おうとしましたが、なんか繋がらなくてVirtual Desktop購入。
繋がる事は繋がりましたが、今度は処理速度が足りないのか遅延の嵐。
グラボの交換が必要なようです。

とりあえず360度youtubeを楽しもうかな。
あとAVは見放題よりも質だと実感しました。



 

堕陽月拾弐日目

 

 

 朝一番、欠食児童共が寝惚け眼を抱えながらも、朝食に集まっている。

 飯を逃がしたくないのもあるけど、今は殆どの連中が同じ場所で雑魚寝してるからなぁ。周囲が起きて動き始めると、騒がしくて寝ていられないのもあるだろう。

 ま、早起きはいい習慣だ。

 皆今にも食べ始めようとしているが、その前に。

 

 

 ちゅうもーーーーーっく!

 

 

 大声を出して注意を惹く。…飯の邪魔をするなと言わんばかりに、殺気すら籠った視線も感じる。さっさと終わらせるから、ちゃんと聞いておくれ。

 

 

 今後の生活を送る上で、幾つか伝えておく事がある!

 一つ目、まずは連絡手段について!

 

 何らかの通達がある場合、一人一人を探し出し、或いは呼び出して伝えるのは効率的ではない! その為家の玄関前にそれぞれの名前と番号を振った箱を用意した!

 また、全体への通達事項がある場合、同じ場所に用意した看板にて通達を行う! 朝起きた後、並びに就寝前に伝達が来ていないか、各自確認を行うべし!

 尚、これは個人個人の要件を伝える為、滅鬼隊員同志でのやり取りに使う事も許可される。ただし差出人を偽ったり、陰湿な行為を行った場合、厳重な罰を与えるので心せよ。

 

 

 二つ目! 次に、今後のモノノフのお役目、並びに日常における各々の役割についてである!

 つい先程、ウタカタのモノノフ達から要請があった。

 現在、彼等には全く人手が足りていない。ついては、我々にその不足分を埋めてほしいとの事だ。

 本日より、モノノフとして鬼と戦うお役目を受ける事になる!

 

 だが、すぐに誰にでもと言う訳にはいかん。まずは既に実戦経験を詰んだ者で対処し、その間に班を編成する。戦力を鑑みてこちらで指定するので、好きな相手と組めるとは思わないように。尚、ウタカタからの要請ではなく、個人で任を受ける場合はこの限りではない。

 また、もしもモノノフとしての任務を請け負いたいと思う者がいる場合、まずは試験を受けてもらう。それによって充分と判断された場合のみ、任を受ける事を許す。

 

 日常生活における役割については、一つ目で述べた伝達箱に各々の役割を記し、入れておいた。不明点、不都合があればいつでも構わん、各自確認しに来い!

 

 

 三つ目! 役目を終え、残った時間についてである!

 とある隊員から、日中に時間を持て余していると具申があった。場所や状況さえ弁えれば、鍛錬でも手合わせでも昼寝でも、里の観光でもして構わん。

 が、それもいつまでも続くものではないだろう。

 時間つぶしの一例として、幾つか遊具を用意した。使い方遊び方を書いた説明書も付けている。面白いと感じるかどうかは分からんが、これは全員の共有財産だ。粗末に扱わないように。

 

 

 通達は以上である! 後は各々、伝令箱を確認されたし!

 飯食って良し!

 

 

 

 着席、飯。…うーん、鎮まってたのがざわつき始めたな。あのまま気まずい雰囲気になられても困るが。

 

 

「ねえねえ、その伝令箱って、玄関のところにあった割と大きめの箱?」

 

 

 ん? そうだけど、どうした雪風。

 

 

「沙耶根尾が片っ端から開けて、中身を見てたけど」

 

 

 ……鍵が必要だな。一人一人に持たせるか。中に置いておいた手紙、取ってないだろうな…。

 

 

「紙切れしか無くてつまんなーい、とか言いながら、危うくそのまま壊すところだったわ。神夜にこっぴどく怒られてやめたけど…」

 

 

 ナイスだ神夜。寝具に限らず、家具関係はそのまま任せようかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 さて、飯を終えた後、滅鬼隊員達はわらわらと伝令箱に群がっていた。自分宛ての手紙をその場で開ける者、何処かに持っていこうとする者、他人の物を覗き込もうとする者。

 色々居たが、放置したりその場で破り捨てたりはしないようだった。俺の目があったからと言うのもあるようだが、基本的にサボるとか任を拒否するとかの考えがないように思える。

 これは調整の結果なのか、それとも経験の足りなさ故か。まぁ、構わない。真面目一辺倒の人間になるべきとは思わないが、力の抜き所や考え方の違いは、これから徐々に現れてくるだろう。俺に出来るのは、それまで彼女達の生活を支える事。

 

 

 さて、任を受けた彼女達…彼等もだ…の行動は様々だ。

 それぞれ仕事を割り振りはしたが、それは今すぐ始める物とは限らない。準備が必要な任もあれば、別の者の準備が整わなければ始められない物もある。

 仲良くなったらしい数名のグループで相談しあっている者も居る。

 

 さて、俺も飯を食い終えたら、すぐに動くとしますか。一服と行きたいところだが、最優先事項があるのだから仕方ない。

 

 

 

 

 

 まず最初に向かったのは、結界の端も端、鬼の侵入すら珍しくない場所だった。結界の内側と言うよりは、結界の気配が辛うじて届く場所…と表現した方が正しいだろうか。小さく弱い鬼なら、その気配を嫌ってあまり近付こうとしないが、無視して入ってくる事もできる。…要するに蚊取り線香を焚いてるような場所だな。

 指定した時間まで、まだ少し余裕がある。少しばかり歩き回って、地図を作り上げていく。川、森、土、木、辛うじて残っている街路、風の通り道、その他諸々。

 

 …実のところ、この近辺は前のループで詳しく調査した事がある。しかしそれは今の時期ではなかったし、何より調べる際の目的が違った。改めて、利用できそうな物を片っ端から見繕っていく。

 ………思ったより、利用できる物は多そうだ。あの時、もう少し詳しく調査していれば…いや、変わりないか。目的が違い過ぎるし、何よりも利用できそうだと判断したのは、マイクラ能力必須な物が多い。あの時に調べていても、利用できなかっただろう。

 

 指定した時間の少し前に、指定した位置に戻ると、呼び出した滅鬼隊が待っていた。

 若干緊張しているように見えるが…まぁ、初仕事として呼び出したんだから、無理もない。

 

 そこに居るのは不知火を初めとして、幻影・幻惑のタマフリを得意とする隊員達だ。中には静流の植物操作のようなタマフリ持ちも居るが、多くは幻惑系。

 

 

「若、お待ちしていました」

 

 

 不知火が頭を下げた。…先日の夜の事は、一切表に出さないな…。本当に何を考えているのやら。

 まぁ、何でもいいか。本気でバカな事をやらかそうとしているならともかく、子供(未亡人っぽいが)の考えに一々口を挟んでいてはキリがない。それが躾けというものではあるが。

 

 

「若様、伝達書には私達に任務があると書かれていましたが、一体何を? ここで鬼と戦うのでしょうか?」

 

 

 いいや静流、そういうのとはちょっと違うんだ。鬼に関係しているのは確かだけどな。

 ま、色々疑問はあると思うが、説明するからまずは聞いてくれ。

 

 まず、任の内容は結界の作成と維持だ。

 ああ、結界と言っても、神垣の巫女が張ってるような奴じゃない。侵入者を惑わせ、追い返し、逃げ場を断って死地以外に進ませない、そういう土着の罠の群れだ。

 何でそんな物がここに必要かって言うと、ここが一番襲われる危険性が高く、また戦闘になった時に最も被害が少なくなる…と思われる場所だからだ。

 

 この道は、モノノフが任を受けて里を出る道だ。そして帰ってくる道でもある。鬼達にしてみれば、一番注目すべき場所だな。そこから誰か出てくれば、自分達を狩る外敵が暴れ出す。反撃しようと思えば、外敵の巣に通じる道から侵入する必要だってあるだろう。事実、昨日のミフチの襲来は、この道を通って帰って来た和穂を尾行してきた奴である可能性が高い。

 …率直に言えば、出入りする道に何の隠蔽もしてないってのは、危機管理的にどうかと思うが…それは置いといて。

 この道を通って侵入されれば、ウタカタの里中心部に到着するまでに、どうやったって俺達の住処を通る。そしてその危険は朝昼晩いつでも有り得る。

 つまるところ、ここからの侵入を防がない限り、いつ鬼の脅威が襲ってくるか分からない訳だ。

 

 さて、そういう訳で、鬼をここから追い返す、或いは侵入経路を塞ぐ罠をここに作る。

 ただし、ウタカタのモノノフ達の通行を邪魔する訳にもいかん。鬼が相手の時のみ作動するような罠だな。

 

 

「…無茶を言ってくれるわね。確かに鬼、人を惑わす術は使えるけど、それだっていつまでも保つ訳じゃないのに」

 

「ああ、成程。だから『任』な訳ですね。作って終わりじゃなくて、日々手入れして保たせろと…」

 

「その点、静流のタマフリは私よりも向いているわね。幻覚作用のある花でも大量に植えておけば…」

 

「鬼に作用するくらい強力な植物なんて、そうそう無いんだけど…」

 

 

 それだと通行モノノフにも被害が及ぶから、植えるにしても色々工夫しなけりゃならんのだけどね。

 まぁ、静流の言う通りだ。モノノフとして鬼と戦い、報酬を得る任も別途にあるが、今は環境を整える事が先決。朝飯の時に話していた、試験を突破している訳でもないしな。

 ああ、試験突破して鬼との闘いに出るようになれば、こっちの手入れはある程度免除しよう。この場にいる面々だけじゃなくて、最終的には全員にできるようになってもらいたいしな。

 

 さて、そういう訳でここに結界モドキを作る必要性は理解できたな?

 ここら辺を歩き回って、既に草案は書き上げた。これに対する意見、並びに可能不可能の検証が本日の作業だ。

 遠慮はいらない、俺に間違いがあったら正してくれ。疑問があればいくらでも出せ。より良い案があれば、報酬も出そう。具体的にはお菓子。

 

 さぁ、始めるぞ!

 

 

 

 

 

 

 お菓子に釣られたのか、積極的にああでもないこうでもないと意見を言い合う彼女達を見ながら、思う。

 

 

 

 ……前に調べた時は、大攻勢を凌ぐために爆薬仕掛けまくったんだよなぁ…あれでこの辺一帯が更地になったっけ…。今やったら流石にヤベーしなぁ…寝床も滅鬼隊も吹っ飛ぶしなぁ…。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、即席で出来上がったのは大型鬼の動きを阻害するように乱立させた塀と、人間の重さでは作動しない落とし穴。塀にはそこそこ頑丈な扉が幾つかついていて、人であれば開けるのは容易いが、大型鬼では潜る事ができず、小型鬼だとノブを掴む事ができない。そこそこ効果的な物が出来たと自負している。

 落とし穴はMH世界の物を参考にしました。設置3秒で大穴を開けるような物じゃなくて、その頑丈さと、人が載っても作動しない仕組みだけだ。……タマフリとか、鬼の素材で何となく再現できただけなんで、理屈は聞かないでくれると助かる。

 

 幻覚については、鬼にどれくらい効力があるのかから検証する必要があるので、とりあえずこれは保留。

 鬼除けの仕掛けを作った事を報告に行かせ、ついでに鬼に効く薬草等があるか聞いて来るように静流に命じておいた。薬に詳しいモノノフとして那木の事を教えておいたし、これで伝手を作ってくれるといいな。

 

 

 

 

 既に昼を過ぎており、結構な時間を食ったが…まぁ、成果としては悪くなかったか。

 次に根回ししておくのは、戦闘部隊の選抜についてだ。

 近い内にウタカタとの親善試合も予定されている。勝ちにこだわっている訳じゃないが…いや負けたくはないけどさ…少なくとも同じくらいの土俵に立てる程度にはなっておきたい。

 昨日話して実感したが、やはり鬼との闘いの為に調整された為か、何だかんだで血気盛んな者が非常に多い。

 

 死地を好む者、退屈を嫌う者、殺りくに悦る者、義務と割り切る者、武を振るう事に興じる者、他者が戦っているのに自分だけ安穏としていられないと言う者…。

 鬼との闘いに恐怖を感じていない訳ではないだろうが(感じてない奴も沢山いるが)、とにかく彼女達の戦いへの忌避感は薄い。また、実際に奮った事など無いであろうに、己の力にそれなり以上の自信を持つ者が非常に多かった。

 悪い事だとは言わない。胆力はともかくとして、相応の力が宿っているのは確かだ。失敗した経験も成功した経験もないから、生来の気質…いや、そう調整された気質が強く出る。その結果、「やった事がないから自信がない」より、「やった事がないけど、きっと大丈夫」と思っているだけだ。

 ポジティブ思考もネガティブ志向も、この場合大差ないな。

 

 まぁともかく、戦闘に出る部隊に選抜される条件として、一つの課題を作る。それが。

 

 

 

「………それを、私にやれ…と言う事ね」

 

 

 浅黄との闘いだ。無論、人間相手と鬼の相手は勝手が大きく違う。

 だが、滅鬼隊の中で一番経験豊富なのは、間違いなく浅黄である。先日初陣をこなした雪風と骸佐なんて、鼻で笑うくらい…には戦いの経験もあるだろう。

 その浅黄から見て、「こいつらは任務に出していい」と思えるようなら合格だ。勿論、一人で任務に出すって事じゃなくて、ウタカタのモノノフ達の世話になりながら、だけど。

 

 

「問題はそこじゃないわね。確かに、それなりに判定はできると思うわ。百戦百勝とは言わないまでも、今のあの子達ならそうそう負ける気はしない。私も体が鈍ってるし、いい運動になりそうだけど…私の立場を忘れた? 滅鬼隊を封印する一助になった裏切者みたいなものよ」

 

 

 当時の事を覚えてる奴は殆ど居ないし、それを聞いた時も『そうなの?』くらいの反応しかなかっただろーが。指揮官の座を降りるよう要請したのも、反感や憎悪じゃなくて『それだったら、続けさせてると自分達が危なくない?』くらいしか考えてなかったっぽい。

 確かに多少は複雑な感情を持っているかもしれないが、今回任せるのは戦闘能力の検定に過ぎない。異界に出てからの警戒や動きに関しては、実際に現場で学んだ方が早いしな。勿論、その前に研修はするけど。

 

 

「私に、それだけの判断を任せても問題ないと? …あまりいい手段とは思えないけど…全面協力すると言ったのは私だし、そうしろと言うなら従いましょう」

 

 

 なら、今のうちに準備をしておいてくれ。必要な物はあるか? この前渡した双刀は…預けたままだったな。

 得物はあれでいいか?

 

 

「全力戦闘ともなると、多分刀身が耐えられないわね。でも模擬戦だし、そこまでする必要も無いでしょう。もしも必要に駆られるのなら、その時点で戦闘力は合格判定してもいいわ。ところで、どういう形式でやるつもり?」

 

 

 あまりに希望者が多い場合だと、まず一次試験として希望者同志で模擬戦。勝った奴が浅黄と手合わせ、だな。

 タマフリも在りだが、寸止め前提……いや、竹刀みたいなものがあれば、実際に打ち合っても構わんか? 怪我に関しては、これから実戦に出ようって奴がギャアギャア言うような事じゃないし。

 しかし、太刀と双刀、薙刀は竹光でいいとして、槍は布や綿を巻き付けて緩衝材にする。手甲や金砕棒も似たような感じでいいだろう。問題は鎖鎌、弓、銃の類だな…。滅鬼隊には独特の武器を使う事を想定している者も居るし、そのあたりの対応をどうするか…。

 

 

「その辺は後回しでいいでしょう。それとも、もう試験を受けたいという希望者が居るの?」

 

 

 いや、今のところは誰も来てない。でも時間の問題だな。

 そういや、さっき紫が自分の得物を作りたいとか言ってたっけな。里に向かって行ったから、多分鍛冶師のたたらさんに頼むんだろう。

 

 

「紫の武器と言えば、特大の戦斧ね。あれを縦横無尽に振り回していたものよ。模擬戦するとしたら……武器、どうしようかしら」

 

 

 戦斧……なら、刃を包むか。ぶん殴られるだけでも充分驚異的な威力が出るだろうけども。

 ともあれ、試験をするならいきなり試合を始めるんじゃなく、互いに準備を整えてから、という形式にする。じゃないと不意打ちから薬まで何でもありになっちまう。

 そうだな…もし申し込みがあれば、今日の夕方には始める事にしたいが、どうだ? 特別な理由が無いなら、皆の前で戦う事になるが。

 

 

「構わないわよ。私も、少し体を動かしておこうかしら」

 

 

 よし、任せる。

 さて、何人くらいが来るかね。戦えるのならすぐにでも、と威勢のいい事を言ってたのも何人か居るが…朝の様子を見る限りだと、どうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浅黄と別れ、寝床となっている家まで戻って来た。

 中を覗き込んでみると、何組かに分かれて3~5人くらいの集団が固まっている。何やらワイワイと楽し気に騒いでいる集団も居れば、難しい顔で思案している者も居る。

 

 玄関横を見てみれば、空っぽになった箱。乱暴に扱われた形跡はない。

 

 

「ああ~~~また負けたぁぁぁぁ!!!」

 

「ちょっと無茶しないでよ、ちゃんと全部集めるのも以外と手間なんだから」

 

「災禍さんや神夜さんに怒られますよ。『若の折角の温情を粗末に扱うとは』って」

 

「怒られる程度で済めばいいけどね。と言うか、あんた顔に出過ぎるわ」

 

 

 …こういう理由でバラ撒かれたりしてるようだが。

 彼女達が何をやっているかと言えば、遊びとしか言いようがない。ふくろ に収納しておいたトランプ、ウノ、将棋、麻雀(牌じゃなくてカードだけど)その他諸々。

 昨日、災禍が話していた暇を持て余している時に使う遊び道具だ。

 

 さっき叫んだグループがやっていたのはウノのようだ。その横のグループはババ抜き中で、難しい顔している集団は麻雀。ルールブックと睨めっこしている。…ちなみにこの麻雀カードとルールブック、MH世界で猟団員達から貰ったものだ。当然MH世界の言葉で書いてあるので、一々翻訳するのが面倒だった…。

 ふむ、暇潰しは充分成功しているようだ。

 こればかりやっていても飽きるだろうが、『遊び』という行為を覚えるには丁度いいだろう。

 

 …何人か見たらないのが居るな。その半数は、割り振っておいた作業をしているんだろうけど、残りは…。

 

 

 外から、わーっと歓声が聞こえた。子供の声…に混じって、大人の声も混じってるな。

 滅鬼隊に子供は…居るには居るけど、こんなに多くはなかったと思うが。

 遊んでいる者達を見ると、特に気にかけた様子も無い。勝負に熱中しているから、という訳でもないようだが。

 

 

 

 

 …気になったので声の元に行ってみると、日照りの下で汗を流している隊員と、里の子供達が居た。

 皆揃って、ボールを投げて取って追いかけてと大騒ぎだ。地面に書かれたラインからすると、どうやらドッジボールの模様。

 遊んでいるのは雪風、鹿之助、なんと権佐まで参加している。どうやらさっきの声は、権佐がアウトになった歓声のようだ。してやったりと雪風と鹿之助がハイタッチしてる。…はっはっはと笑っている権佐だが、しっかりリベンジするつもりのようだ。

 

 少し離れた所では、これまた数人がボウリングに興じている。…あ、骸佐はこっちか。

 ボウリングと言っても、整備されたコースなど無いので、野山のデコボコを乗り越えてビンを倒すという、かなり難易度の高い競技に変化していた。直接投擲禁止、あくまで地面を転がしてビンを倒すのだ。

 …何でストライクとれんの? 俺でもきついよ? 俺の場合は、超高速回転で障害物を根こそぎ削り取るとか、某聖人ボウリングみたいにダンテモーセ復活、障害物を踏み台にしてダンクシュートする降臨、ハンターとゴッドイーターとモノノフの力を結集して叩きつけるマルハゲ丼(パッパラ隊仕様。周辺一帯がマルハゲとなる)くらいしかできないけど。

 

 まぁ、楽しんでくれているようで何よりだ。里の子供達と交流ができれば、その親達も無下にはできまい。

 やはりカードとボールは最高の遊具だ。遊び方がいくらでもある。…破裂させなければね。

 

 

 さて、あいつらが遊んでる間に、俺は俺の仕事をするとしますかね。

 従業員が気持ちよく働ける環境を整えるのが、お頭である俺の仕事だ。最初が踏ん張りどころだぜ。

 従業員が遊んでるのに、トップだけ仕事っておかしくね?とも思うが、現状じゃこれは俺しかできない事だし、あいつらは従業員じゃなくて子供とか孫とかそんな感じの奴だから。これは投資(元手ゼロ)だから。

 

 さぁ、早い所家を作っちまいますか。全員分は流石にきついから、4人部屋くらいでいいよな。

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で、日が堕ちてくる頃には、ちょっと大きめの小屋がズラッと並んでおりました。大きいのに小屋ってどれくらいの大きさだよと言われれば、4人の大人が窮屈な思いをせず寝られる程度の大きさだ。ただし、中にはトイレを含めて何もないが。いや、箪笥を4つずつ取り付けたっけ。

 

 

「…あの、若様? 朝にはこんなのなかったですよね?」

 

 

 そりゃ、突貫工事で半日で作ったからね。それより鹿之助、こんなのとかゆーな。これからお前らが寝泊まりする家だぞ。

 

 

「やっぱりですか!? 小屋って半日で立つものなんですか!? 手抜き工事じゃないですよね!?」

 

 

 世間一般的に見れば、手抜き工事もいいところだが…鹿之助が知ってる大工と言うのは、壊した土木を真四角にして空中に固定させられるかね?

 

 

「それを言われると…。と言うか若様一人で建てたんですか、これ…」

 

 

 いや、作業してるのに気付いた何人かは手伝ってくれたよ。

 確かに、そんなに難しい建物じゃなかったけどさ。…あの夢の中で作ってた施設は、これとは比べ物にならない程大規模で複雑だったからなぁ…。余裕があれば、ああいうのも再現してみようかな。便利で楽しい物であれば、多少奇異でも受け入れられるだろう。

 

 ともあれ、あっちの大きな家で雑魚寝するのは終わり。希望するなら止めはしないが、私物は据え付けられた箪笥で管理するように。

 本当は一人一人個別に部屋を用意できればよかったんだが、流石に間に合わなかった。何よりも土地が足りないし。二階建とか三階建ては、まだちょっと不安があるからね。

 

 ああ、男組の部屋は左端の小屋な。今のところ3人しか居ないから、ちょっと広めに使えるぞ。

 

 

「3人って…俺と骸佐と権佐さん……若様はどうするんです?」

 

 

 仮にも上司と、同じ部屋で寝泊まりしたいか? 少なくとも俺は嫌だ。気が休まらん。 

 …言うまでもないが、理由はそれだけではない。エロい事がしにくくなるから、ヤリ部屋もとい執務室の隣に寝室を追加した。どっちにしろヤリ部屋になるのが目に見えているが。

 

 それぞれ布団は自分で部屋に運び込むよう、看板に書き込んで……そうだな、後は各担当からの報告を確認して、本日のお仕事は終了。

 

 

 …ふーむ、あまり隊員達の生活に踏み入るべきではないかもしれないが、日記と言うか日報みたいなものを出させるべきだろうか?

 一日中遊んでました、なんてのがずーっと続いているようだと、注意せざるを得ないしなぁ。しかしそれだけじゃ反発もあるだろうから、要望とかも書いていいことにして…いや、このご時世だと紙も意外と貴重品なんだよなぁ…。

 



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465話

堕陽月拾惨日目

 

 

 4人部屋は、概ね好評だった。大広間で雑魚寝状態に比べて、静かに眠れるのがいいらしい。

 まぁ…五月蠅かったもんな。誰とは言わないが、イビキや歯ぎしり、寝言がでかいのが何人か居てさ…寝相が悪いのも居たし。夜中にトイレに行く時は、大抵誰か踏んづけるし。

 一部の隊員は、大広間で寝るのがいいと零しているのも聞こえた。…寝言が五月蠅いのと同じ部屋の子だったかな…。あとは夜にトイレが近い方が便利とか、寝るならとにかく広い場所で寝たいとか、個人個人の趣向だな。

 

 ちなみにそのトイレは、相変わらず大広間にしかない。幾つか増設しておかないとな。

 

 

 

 さて、それは置いといて、早速浅黄の出番がやってきた。つまり戦闘部隊への志願者だ。

 一番槍は渡さんとばかりに、小競り合いをしながら執務室に押しかけて来たのは、紫と権佐。流石に直接手を出そうとはしなかったが、どったんばったんと中々に大騒ぎをしながらやってきた。

 最初にやるのは試験であって、実戦での一番槍じゃないんだけどなぁ。

 

 と言うか、二人とも武器は? 権佐は確か…槍で、紫は大きな戦斧だって聞いたが。

 

 

「私の武器は、昨日里の鍛冶師に頼んだらすぐに貰えました。流石にその場で作ったのではなくて、霊山に居た頃に誰かへの当てつけに作った代物だとか言っていましたが」

 

 

 そんなドラゴン殺しを作った鍛冶師じゃあるまいし。

 

 

「俺のは数打ちの槍で結構。武器の強化も含め、一歩ずつ強くなっていきますよ。幸い、ここは鉄火場には事欠かないようですからね」

 

 

 それは幸いと言うべきじゃねーけどな。とりあえず、ほれ。お望み通り、数打の槍だ。

 試験開始は正午、飯が終わってからだ。

 一口に数内と言っても…いや、だからこそ結構な差があるからな。今のうちに手に馴染ませておけよ。

 

 

「わかっております。……ふむ………数打と言いますが、良い槍ですな」

 

 

 渡した槍は、ゲームで言えば文字通り初期装備の槍…だったと思う。しかし、その作り主はたたらさんである。必要最低限の性能だけしか付与してなくても、やはり他の鍛冶師とは格が違う。…ついでに言えば、この槍の構造自体も考え抜かれた物なんだろう。各種素材で強化していけば、最終的には下手な上位武器より強くなるからなぁ。それだけ発展性と言うか拡張性が高く、そうしてもバランスがとれるだけの配慮がされているのだ。

 槍を受け取った権佐は、玩具を手にした子供…と言うには少々物騒な笑みを浮かべた。

 

 

「ところで、試験をすると言っても、一体何をするんです? 一人で異界に出て、鬼を討伐してこいとか?」

 

「まさか筆記試験とか? 頭を使うのは得意じゃないんですがね」

 

 

 それいきなり実戦に放り出してるじゃねーか。そして筆記試験は別途行う。常識のテストとかもしないと…。

 まぁ、別の里ではモノノフ認定の試験として、随伴者付で異界の浅い部分に出して、素材を集めて目標地点に…って事もやってるんだが、今回は違う。

 

 前指揮官、浅黄との一対一の勝負だ。

 

 

「何っ!?」

 

「ほぉ…」

 

 

 楽し気な権佐と、激昂する紫。

 

 

「浅黄様に試験官をやらせるとは、どういう料簡だ!?」

 

 

 逆に聞くが、何か問題でも? 浅黄はあくまで前指揮官であって、今は俺の指揮下に入る事を本人も承諾している。命を下したところで、責められる筋合いはない。お前が浅黄を神聖化するのは勝手だが、それに俺が付き合う理由は無い。

 役割としても適役だ。戦いの経験という意味では、滅鬼隊の中でも最も多いだろう…そもそも実戦経験を覚えている者が数える程しか居ないが。故に隊員達の長所と欠点をよく理解し、それらが実戦に耐えうるものか、耐えうるなら何を補佐するべきか、耐えられないなら何が悪いのか判断できる。

 

 

「ぐっ…………あ、浅黄様に対して害意を以て挑む者が現れたら」

 

 

 その時は、浅黄自身が受けて立つだろうな。過去の過ちから来る害意なら、猶更逃げる訳にはいかん。衆目の場で仕掛ける事になるから、可能性は低いと思うけどな。

 そもそも、多少腕が立つ程度の滅鬼隊員で、浅黄をどうこうできるとでも? 一緒に討伐に行って分かったが、はっきり言って新米共とは格が違うぞ。

 

 後は…そうだな、浅黄の名誉挽回には丁度いいと思うがね。

 何のかんの言って、滅鬼隊は脳筋もとい戦う事に重点を置いている者が多い。そういう奴らにとって、強さとは最高の栄誉、身分証となり得る。

 相応の実力を示せば、浅黄への敬意も生まれてくるだろう。

 

 

「確かにそいつはありますな。隔意を持っているつもりないし実感もありませんが、一度自分達を破滅に追い込んだ指揮官、という認識は確かにある。そこそこ重要な役割で、指揮には関わらず、そして強さを如何なく示す事ができる。成程、確かにこいつは適役だ」

 

「うぐぅ……」

 

 

 ありがと、権佐。ついでに言えば、そもそも浅黄自身も了承してるんだ。異を唱えるなら、それこそ浅黄の意思に反する事になる。

 どうしてもと言うなら、浅黄を説得して自分が代わりに試験官になるんだな。その場合、充分な実力があるか俺からも確かめさせてもらうが。

 

 話はここまで。文句を垂れている暇があれば、準備運動でもしとけ。封じられ続けて鈍った戦いを見せたいか?

 

 

 

 

 

 

 さて、諸々の事を片付けながらも、昼。飯を食いながらも、普段以上に皆ざわついている。既に権佐、紫が試験に挑む事は知らされていた。と言うか俺命で時子が全体に通達した。

 近寄って声援を送る者も居れば、予想を言い合う者、賭けを行う者(賭けるのは飯のおかず一品)、自分達が挑むならと考え込む者。

 最初の試験と言う事もあり、各種の任は中断していいので、できるだけ目にしておくよう通達する。

 

 

 

 …のはいいんだが。普段見ない人がいるのは何故だろう。いや別にいいんだけどさ。

 なぁ、大和のお頭と…。

 

 

「ああ、息吹ってんだ。ウタカタ一の伊達男! よろしくな!」

 

 

 ああ、よろしく。しかし、本当によろしくしていいのかね? 目に殺気が籠っているように感じるが。

 

 

「…おいおい、物騒だな。何で俺が人間に刃を向けるんだよ」

 

 

 あと、嫉妬も籠っているように感じるが。

 伊吹はピタリと動きを止めた。そして、油を指されてないロボットのような動きで、俺の両肩を掴む。

 

 

「……………あの、なぁ」

 

 

 おう。

 

 

「羨ましいんだよ、この野郎! なんだこの美人揃いの集団! 霊山から一個小隊の援軍が送られてくるって聞いて、訳在りだとは思ってたけどよ! しかも、皆揃ってお前に好意を持ってるとか! ああ、見ればわかるよ、見ただけで分かるよ! なんでこんなかわいい子達から、一斉に好かれてんだこの野郎!」

 

 

 おう、血涙拭けよ。

 …まぁ、大なり小なり好かれてるのは確かだよなぁ。刷り込みの物であっても。

 …刷り込みではなくなった雪風と、この状態を受け入れている明日奈と神夜の存在だけでも、嫉妬マスクが誕生するくらいの反応をされそうだが。

 

 

「息吹、その辺にしておけ。言いたい事は分からんでもないが、初対面の相手にする事か」

 

「うっうっ、分かってるよ…分かってるけどさぁ、大和のお頭……分かるだろ、俺の言いたい事…」

 

「生憎俺は妻一筋なんでな」

 

 

 で、寸劇はともかくとして、結局どしたのよ、いきなりやってきて。

 この前話した練武戦は、まだ準備も整ってないだろ。

 

 

「似たような催しがあると聞いて、様子を見に来ただけだ。…そうでなくても、この数日で突然こんな物が出来上がったと聞けば、気にもなる。何処の一夜城だ」

 

 

 あーまぁ、確かに。家かと思ったら、実は鬼が入り込んでいて巣を作った…なんて話だったら洒落にならんし。

 

 

「で、俺はその護衛な。別嬪さんが居ると聞いて、会いに来たのも事実なんだけど」

 

 

 ほほう、で、その別嬪さん達に会った感想は? もう粉かけたのかね?

 

 

「いや…あんな事を言っておいてなんだけど、流石にここまで揃ってるとは思わなくてな…。目移りしてるよ。と言うか、女所帯で肩身が狭くないか?」

 

 

 いや別に。…でも俺はともかく、骸佐達は大丈夫かな…。

 で、二人とも見ていくのか? 伊吹…呼び捨てでいいよな? 伊吹は槍使いみたいだし、権佐の戦い方を見て助言の一つもしてくれるとありがたいんだけど。

 

 

「ああ、構わんぜ。代わりにお嬢さん達との逢瀬…と言いたい所だが、口を出すだけで見返りを求めるのも強欲か。これからモノノフとしての任につくなら、お近づきになる機会くらい幾らでもあるだろうし」

 

 

 主力部隊に行ける奴はそうそう居ないと思うけどな…。とりあえず現状、大型鬼と一対一でもやりあえるのは、俺、神夜、明日奈、詩乃か。

 役割上、斥候部隊の救助とかに人数を割くつもりだし。

 

 そう言えば、その辺の打ち合わせもまだだったな。大和のお頭、後で話をする時間、いいかい?

 

 

「うむ」

 

 

 あと人参食え。娘さんに告げ口するぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、飯も終わって、試験の時間だ。既に当事者の3人は、無言で集中力を高めているようだ。

 まず最初に手合わせするのは紫。権佐は一番槍に拘っていたが、丁半博打で負けたんだから仕方ない。

 

 円形に集まった見物人の中、大きな戦斧…いやマジででかい…を持った紫と、双刀を持つ浅黄が対峙する。

 それを見物する皆は、地面なり木の枝の上なり適当な所に陣取って、始まるのを今か今かと待っていた。ちなみに、俺の隣は神夜明日奈、背中に詩乃、あぐらをかいた足の上に雪風、さらに災禍がお茶汲みまでやってくれている。もう一回息吹が吠えたが気にしない。

 

 浅黄と紫の間に天音が立ち、司会を務める。

 

 

「それでは、試験を始める。先も説明した通り、これはあくまでモノノフの任を受ける力量があるかどうかの試験だ。勝てばよいというものでもないし、場合によっては浅黄に勝ったとしても、内容次第では失格となる。道具の使用も制限は無し、タマフリも使って構わない。周辺に気を遣う必要はない。見物人は、自分の身は自分で守るように。長引くようであれば、途中で中断する事もある。場外負けは無い。その辺りの森に入り込んで攪乱するのも有りだ。以上、質問はあるか? …無いな。では、互いに構えて」

 

 

 口上を聞いていたのかは定かではないが、浅黄と紫は目線を合わせて睨み合っている。

 …正直、紫は浅黄と手合わせするなんて畏れ多い、なんて言い出すんじゃないかと思っていたが…逆に貴重な機会だと割り切ったのかな?

 まぁ、何でもいいか。

 

 

 

「始め!」

 

 

 天音が開始の宣言をし、飛びのくと同時にドスンと鈍い音、そして立ち上る土煙。

 紫の先制攻撃だ。小細工無用とばかりに、全力で戦斧を振り下ろした。刃こそ包んでいるとは言え、その破壊力は見ての通り。威力だけで考えれば、間違いなく大型鬼に通用するだろう。粉砕された土塊が飛び散り、ちょっと悲鳴が上がった。

 対する浅黄はと言うと、サイドステップで事も無げに避け、土埃すら被ってない。反撃する余裕は充分にあった筈だが、これは試験。紫の実力を見る事が目的だからか、積極的な手出しは控えるつもりのようだ。

 

 それを理解しているのかいないのか、紫は一気呵成に責め続ける。小癪な小手先や様子見など不用とばかりに、続けざまに斧を左右に振り回し、猛烈な圧力をかけ続ける。

 強烈な破壊力と長柄の武器が合わさり、まるで台風のような勢いだ。

 

 近くでいつものように仁王立ちして見物していた大和のお頭が、小さく呻く。

 

 

「むぅ…粗削りもいいところだが、信じられん膂力だな。破壊力だけなら、強力な鬼にも通用するぞ」

 

「ですね。いやぁ、あの力で抱きしめられたらと思うと……色んな意味で震えるな。普通の使い手なら、あんなやり方は成り立たないが…力で全て反動を抑えこんでるのか」

 

 

 …まぁ、まず間違いなく前進骨折だわな。

 それはともかく、普通であれば息吹が言うように、このような戦い方は不可能に近い。どうやったって、バランスが取れないからだ。

 強い破壊力があると言う事は、それ相応の反作用が生じる。それを逆に利用するにしても、人間の腕力であんな物を軽々と振り回すなど、とてもではないが出来はしない。ハンターですら、大剣を使おうとなれば動きが鈍くなり、手数が落ちる。それに加えて、紫が使う斧は重心が先頭にあるのだ。それだけ扱いは難しくなってくる。

 それを小枝のように…いや長さから言えば竹箒のように…振り回しているのだから、息吹と大和のお頭の驚きもよく分かる。俺だって、大剣使って双剣よろしく乱舞してたら目を疑う。…アラガミ化すればできるけど。下手すると一発一発が真溜め切りくらいの乱舞ができるけど。

 

 一方で、紫はそれを軽々と避け、合間合間に反撃を織り込んでいた。横薙ぎの連撃を下がって避け、切り上げを空かすのに合わせて踏み込んで首と胴を狙う双刀。それを斧の柄を盾代わりにして防ぎ、反撃に石突を払って牽制、その勢いのまま一転して遠心力を乗せた斬り払い。

 …確かに、強い。以前の活動では失敗が多かったと聞いて、侮っていたのは俺だったかもしれない。使いどころさえ誤らなければ、彼女は思っていた以上の戦力になるだろう。一番の使いどころとしては、倒れてもがく大型鬼への追撃か。それにしたって、周囲を巻き込まないように場所取りする必要はあるが。

 

 

 土煙が立ち込める中、ヒラヒラと紫の攻撃を避けていた浅黄が動きを変える。一瞬だけ俺に目配せして許可を取った後、反撃に移った。攻めの力は充分に見た、と言う事だ。単純ながらも強力な爆発力。充分に合格ラインを超えていると言えるだろう。

 さて、そうなると今度は受けの力を見るのだが…。

 

 浅黄は受け手に回っていた時とは違い、紫の間合いの更に内側に入り込んで攪乱する。長柄の武器だからこそ、内側に入られると対応しにくい。これはどの武器でも同じだろう。

 が、紫は受け手に回ろうとしなかった。空気読め…とは言えないか。受けに回らないというやり方こそが、紫の受けの戦い方のようだ。

 圧倒的な破壊力で、常に相手を寄せ付けない。もしも今のように近づかれたら。

 

 

「失礼っ!」

 

「っ!?」

 

 

 長柄を自在に操る膂力を籠めた拳が飛んでくる。一瞬驚いた浅黄だが、慌てず体を捻って避けた。しかし、その間に紫は距離を取り、自分の間合いを維持している。

 …これが近づかれた時の対処法と言う訳だ。身体能力、特に単純な膂力は、尤も有効かつ分かりやすい武器だ。密着されようが武器を取り上げられようが、最後まで持っていられる武器。

 あれだけの力があっても、白打では鬼には通じないだろうが…逆に、反動で自分を逃がす事ならできるだろう。

 よく考えられている。脳筋極まりないけども。

 

 ふむ…浅黄、紫。見る必要があるものは見た。力も、欠点もだ。

 次で終わりにしろ。

 

 

 

「…分かったわ」

 

「……浅黄様、失礼いたします」

 

 

 戦斧を構えて、浅黄を見つめる紫。…それに対する浅黄は……ふむ、あの構えは疾駆…とはちょっと違うな。そういえば、戦闘スタイルをミックスしようとあれこれやってた時期に、似たような構えをためした覚えが………ああ、成程。浅黄も紫の欠点に気付いて(或いは最初から予想していて)、それを突く形で終わらせるつもりのようだ。

 

 ほんの一瞬、西部劇のように風が吹き抜けて(土埃で目が痛いと言ってるのが何人か)、矢のように飛び出す紫。大上段から叩き落される戦斧に、浅黄は躊躇いなく突っ込んだ。

 斬られた!?と思ったのがどれだけ居たか。

 

 

 一瞬後には、地面に叩きつけられる寸前の斧を止められ、喉元に刃を突き付けられた紫が居た。

 

 

「そこまで!」

 

 

 半ば忘れかけて見入っていたであろう天音が、試験の終了を宣言した。

 一瞬の沈黙の後、歓声が上がる。…賭けに負けたと罵声もあがった。

 

 

 

「順当な結果、でしたかねぇ」

 

「終わってから言うのも格好悪いけど、まぁそうね。場数が違うわ。雪風、悪いけど一品貰うわよ」

 

「神夜にも明日奈にもあげなきゃいけない……このままだと、夕飯がご飯と味噌汁と漬物だけに…。ぐ、ぐぬぬぬ…ま、まだ権佐の戦いがあるわ!」

 

「どうして大穴に賭けたがるんでしょうねぇ、この子は…」

 

「だって勝ったら私の好きなおかず作ってくれるって言ったじゃない!」

 

 

 明日奈と神夜、雪風の会話である。カモられとるなぁ…。そして飯は最初から明日奈が作ってるんだから、雪風から一品貰ってもあんまり意味なかったりする。

 

 この3人を含む、俺の周りの連中は何があったのかしっかり見えていたようだ。息吹やお頭も含めてね。

 驚いているのは、詩乃と雪風だけかな。原理的には、そう難しくない技だったし。

 

 理屈は単純。踏み込みながら、タマフリの空蝉を使って攻撃を無効化しながら懐に入り込み、関節を掴んで腕を動かなくさせる。同時に刃を突き付ける。これだけだ。

 それまでタマフリを使ってなかったのは、浅黄は必要なかったからで、紫は…使い慣れてないのか、或いは忘れてたかだろう。ルールでも禁止されてなかったんだし、突然使った事には何の問題も無いな。

 

 

 

「さて、判定は?」

 

 

 ん? ああ、戦闘力自体は合格。ただ、最後の浅黄の動きに対応できなかったように、周りが見えなくなる傾向があるから、そこらへんは要訓練だ。

 戦闘には出てもらうが…良くて準主力級だな。尤も、そこが一番求められている場所でもあるんだが。

 

 

「…構わない。実力を正当に評価してもらえるなら、地力で成り上がろう」

 

 

 主力級とされなかったのが不満のようだが、それでも納得しているようだ。

 …多分、前に活動していた時にはその評価すらされてなかったんだろうなぁ。

 

 

 さて、天音。

 

 

「はっ。続けて、権佐の試験に取り掛かる。浅黄、休息は無いが、構わないな?」

 

「ええ。続けて頂戴。錆び落としも続けたいしね」

 

「ほう、俺が錆び落とし扱いか。聞き捨てならんなぁ」

 

 

 飄々としている普段の権佐とは違い、槍を手にした権佐の目付きは凶悪だった。

 だが怒りではない。殺意でもない。それらを飲み込んだ闘争心だ。…骸佐も似たような部分があったが、権佐は輪をかけて戦狂いの類らしい。それこそ、明確な実力差があるのに、神夜が僅かに笑みを浮かべる程に。

 

 

 要するに、勝つとか負けるとか生き残るとか食われるとかをマルっと後回しにできる、ヒャッハー勢の一人な訳ね。…こいつ、充分な力を持ってても実戦投入していいのかなぁ…。…いや、物は考えようだ。死地こそ喜ぶタイプなら、花の慶次みたいに負け戦や殿に置けばすんごい底力を発揮するんだと思おう。死兵になられても困るけど、そこは回りでカバーすればいい。

 まぁ、何にせよ……紫とは一風違った戦いになりそうだ。

 権佐はさっきの戦いでも、浅黄の太刀筋を見てるしな。…あれを見てると言っていいのかはよく分からんが。

 

 

 

 槍を携えた権佐が、紫に変わって進み出る。…地面がひでぇデコボコだな…。

 権佐、不要だろうけど一応聞いておく。足場はこのままでいいのか。

 

 

「ええ、構いません。平地で戦うより、荒れ地での戦いの方が多いでしょう」

 

 

 まぁそうね。浅黄もいいな?

 

 

「構わないわよ。そのままでも」

 

「……そうかい」

 

 

 槍を構え直す権佐。挑発、と受け取った者はどれだけ居たか。浅黄の言葉の真意も、分かった奴は居るだろうか? …そこまで考察できるだけの下地がありゃいいんだけどなぁ、本当に。

 少なくとも、天音は気づいていないようだ。まっすぐに権佐を見ている。意識は改善されたが、まだまだ経験不足よの。

 

 

「では、始めっ!」

 

 

 さっきと同じように飛びのく天音。土埃を警戒しているのか、顔を庇っていたが…無駄になった。

 今度は先程とは逆に、浅黄が先手を取る。

 どこから持ってきたのか、手裏剣を投擲。これは軽々と権佐の槍で払われた。その隙に間合いを詰めようとしていた浅黄に連突き。そこそこの速さを持った突きだったが、息吹が顔を顰めるだけだ。

 

 

「…もっと出来る奴だと思ったんだが…」

 

 

 ああ、実際できるよ。今はちょっとした仕掛けの為にああなってるだけだ。

 タマフリ使ってるんだけど、普通じゃないんだよ。それを知ってりゃ、息吹も気付きそうなもんだが。

 

 

「…ふ、ん…? もう少し期待して見てみるか」

 

 

 同じ槍使いを見る為か、息吹はちょっと目が座っている。…或いは、死地を楽しむ権佐の性格が気に入らないのだろうか?

 

 それはともかく、浅黄は責めながらも権佐の動きを制限しようとしない。攻撃と防御を完全に分けて、権佐が何かしようとしたら邪魔せずやらせてみるやり方だ。これが本気なら、突きの前に斬りつけ、薙ぎ払われる前に殺気で怯ませ、呼吸を整える前に背後に回って首を掻き斬るだろう。

 それが出来るだけの実力差がある。今の権佐とは。

 

 

 数合の打ち合いを経て、権佐が仕掛ける。封殺された状態から脱する為の、一発大勝負…と見えるだろう。実際、それは間違っていない。

 

 

「ふっ、ぬんっ、おおぉぉぉ!!!」

 

 

 左、右、一瞬のディレイを加えての烈塵突。突然早くなった突きに、大抵のモノノフなら対応できないだろう。

 だが、浅黄は大抵のモノノフではない。タマフリ『韋駄天』を遣い、移動速度を強化。バックステップで初撃を避けたかと思うと、堂々と烈塵突の中に飛び込んだ。

 

 驚異的な動体視力で全ての突きを見切り、12発目の突きに合わせて飛ぶ。空を切り、引き戻される槍に足を乗せてもう一歩加速。文字通り瞬きする間に、浅黄は権佐の背後に飛び回った。

 

 

 

 そして、躊躇う事なくその首を跳ねる。止めようとした大和のお頭と息吹を、抑えて止めた。

 

 

 

 ポーンと飛んだ首が、骸佐の前に転がる。

 

 

 

 

 

 

 

 と同時に、地面から無数の突きが着地寸前の浅黄を狙って迫った。

 

 

 戸惑いもせず、浅黄はその槍の先端に爪先を乗せ、刃に貫かれない角度で再度飛び上がった。

 

 

「やはり、この程度では通じないか…避けられない時を狙ったつもりだが」

 

「それは「ごごごご権佐さぁぁぁぁぁ!?!?! 無事え、首っ、無事ぃぃぃ!?」……」

 

「落ち着け馬鹿! 土遁とタマフリを使った分身だよ! この前、お互いタマフリの詳細を知っただろ!」

 

 

 …ものっそい勢いで慌てる鹿之助を、骸佐が手荒に宥めている。まぁ無理も無いよな。いきなり殺人シーンだもんな。

 唖然としているのは、大和のお頭と息吹も同じだ。 

 

 何がどうなってるかっつーと、話は簡単。骸佐も言ってたが、これも滅鬼隊特有のタマフリである。

 権佐は土遁使い。通常のタマフリと土を操る能力を組み合わせ、操る事ができる。

 

 さっきの紫と浅黄の戦いの時から、権佐は既に土で作った変わり身と入れ替わっていたのだ。始まる前のやりとりはその事だ。

 ついでに言えば、地面がグッチャグッチャになってるこの状況は、地面に潜れる権佐としては有利な条件である。そういう意味でも、このままでいいかと聞いたんだが……うん、こりゃ格が違うね。

 

 

「はははっ、いやぁ参った参った、さっきの戦いを見るのを棒に振って仕掛けてみたが、こうも綺麗に避けられるとはなぁ!」

 

「地面を移動する時の振動で分かったわよ。紫の攻撃の衝撃に紛れて動いていたようだけど、その後に狙いをつける為に動くようじゃ意味が無いわね」

 

「手厳しい…いや、俺が温いのか。幸い次がある戦いだし、教訓にさせてもらいますよ」

 

 

 そう言って、今度は正面から戦い始める。

 …奇襲をかけるよりも、こっちの方が楽しそうだな。

 

 

「おい、今のは何だ? 土竜(モグラじゃなくて鬼のドリュウな)のように地面に潜っていたように見えたが」

 

 

 見た通りですな。大和のお頭は聞いてると思うが、うちの連中はちょっと普通じゃないタマフリが使える。

 そいつを使って地面に潜り、代わりの土人形を動かしてたって訳だ。

 

 そんな事が出来る筈がない、って先入観を無くせば、二人なら気付いたと思うぞ。動きは悪くなかったけど明らかに不自然だったし、地面にも微かに不自然な隆起が出来てた。鬼と戦ってれば、何度か見た事はあるだろ? 地面を泳ぐような奴ら。

 

 

「言われてみればそうだが…いやはや、話には聞いていたが、面白いものだ。…これを全員が出来ると言うのか?」

 

 

 人による、としか言いようがないなぁ。さっきの紫なんかは、こういう事はできないけどあの膂力だし。

 …正直言って、逆に部隊編成を考え辛いな。一人一人の能力や適正が違い過ぎるから、不和や足の引っ張りあいが起きかねない。

 

 それはともかく、権佐は浅黄に猛攻撃を仕掛けている。さっきまでの動きの不自然さ…人形だったんだから当たり前だが…はなりを潜め、鋭い突きと豪快な薙ぎ払いが繰り出されている。この槍捌きには息吹もにっこり。

 特筆すべきは、権佐が土遁を使うタイミングだろう。最初の奇襲こそ見事に対処されたものの、それは大した痛手にならなかったらしい。土を操る力があると言う事は、足場を操る力があるに等しい。

 

 足元にノーモーションで落とし穴を作り、避けきれないと判断した反撃は地面に潜って避け、そして真下から槍だけ伸ばして攻撃する。ようやく飛び出してきたと思ったらそれは人形で、仕留めようと動いた浅黄の背後を取る。

 性格に見合わない、老練とすらいえる戦い方だ。粘り腰、とも言う。反撃に転じた浅黄が攻め切れないくらいだ。

 権佐独特のタマフリを、フルに使った戦い方と言えるだろう。…それは紫の怪力も同じなんだけど、随分印象が違うなぁ…。

 

 

 

 ただ、権佐が地面に潜る度、穴がボコボコ開いてんだよなぁ…。

 

 

「…ここって、里のモノノフさん達が出撃する時に通る道でしたよね?」

 

「…しっかり埋めておくように」

 

 

 了解っす、大和のお頭…。今後は試験やる場所も考えないとなぁ…。

 遠い目をしている間にも、試験は佳境に向かっているようだった。浅黄が徐々に、権佐の間合いを犯しつつある。槍の軌道を見切られ、土遁は何処から出るか先読みされ、槍の間合いを保てなってきた。

 それに対処できず、徐々に追い詰められているように見えるが……そんな素直に負ける筈がない。死地を楽しむ人種だし、少なくとも最後に何か仕掛けるつもりなのは間違いない。

 

 …少なくとも、試験は充分に合格だ。ここで止めるか?

 決断しようとした瞬間。

 

 

 

  カーン カーン

    カーン

 

 

 鐘の音が響き渡る。里の方からだ。

 音に反応して、仕掛けようとしていた両者が止まる。

 

 

「やれやれ、いい所で襲撃か。若、どうします?」

 

 

 どうもこうもない。撃退準備にかかれ。

 権佐と紫、まだ戦えるな? 試験は合格だ。班編成その他については後に通達するから、まずは撃退戦に加われ。

 

 不完全燃焼だろうし、権佐、先陣を切っていいぞ。

 

 

「よし来た、流石話が分かる!」

 

「それなら、俺も一緒に行かせてもらおうか。なぁに、ウタカタ一の伊達男、足は引っ張らないぜ。少なくとも、道案内は必要だろ」

 

 

 同じ槍使いとして血が騒いだのか、息吹も権佐と共に行ってくれるらしい。大和のお頭に一応お伺いを立てると、無言で頷かれた。

 ま、大体の敵なら大丈夫だろう。まだこの時期だと、出ても精々カゼキリ、ヒノマガトリくらいの筈。…妙な進化とかしてなければ。

 

 さて、何だかやる気になってる連中も多いようだし、とっとと撃退するとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回も割とアッサリ勝利。ウタカタの里から援軍がやってくる前にカタがついた。

 最初は小型鬼の群れ。長柄の武器3人組での戦いだったから、文字通り蹴散らしてしまった。

 土竜が群れを成して出てきた時にはちょっと焦ったらしいが、権佐がタマフリを使って地中戦を繰り広げたらしい。…まぁ、見えないしな。詳細は分からんわな。

 

 一匹だけカゼキリが出張って来たんだが、高速で接近しての奇襲は息吹が対処した。狙われたのは紫だったが、息吹が庇うまで全く気付いてなかったようだ。やっぱり、ちっと問題があるな…。

 流石にカゼキリには少々手古摺っていたが、その間に他の隊員達による援護の準備が出来た。戦いながら徐々に引いて誘導し、殺し間に入た瞬間に集中砲火で仕留めた。やはり遠距離攻撃と集中攻撃は偉大である。

 

 

 コトが終わって、大和のお頭と息吹は、援軍として駆けつけてきた桜花達と共に戻っていった。

 

 

「中々いいものを見せてもらった。これ程の使い手が里で戦ってくれるなら、これほど頼もしい事は無い。話をしていた練武戦も、大いに盛り上がりそうだ。今後も厳しい戦いが続くだろうが、よろしく頼むぞ」

 

 

 だそうな。諸々課題はあるが、とりあえず実力は認めてもらえたらしい。

 『独特のタマフリ』について聞いて来る息吹も止めてくれたし、大和のお頭は相変わらず出来たお人やでぇ。

 

 それはそれとして、問題が無い訳でもない。紫が鬼の奇襲に気付かなかった事からも分かるように、やはり周囲への警戒が疎かになりがちである事。

 そして、今日の戦いに触発されたのか、試験の受験希望者がゾロゾロ出てきている事だ。

 

 浅黄自身は、まだまだ自分の動きに納得いっていないらしく、連戦は望むところ…と言っているが、立ち合い人をどうするか。

 俺だって自分の作業がある訳だし、全てを見ていられる訳でもない。明日奈達にも仕事を振っているので、そっちを中断してもらう訳にもいかない。代わりが出来る人材を育ててはいるが、まだまだ目が離せない状態だ。

 

 うーむ……せめて、書類仕事する時間をどうにかできればなぁ…。

 まぁこの書類だって、誰かからやれって言われた訳じゃなくて、今後の運営に必要だと思うから俺が纏めてるものだ。ぶっちゃけ、自分で仕事作って自分で忙しくなってるようなもんです。放り投げたって、誰かから叱責される訳じゃない。…でもやっとかないと、後でてんやわんやになりそうなんだよなぁ…。

 

 他に削れる時間と言えば、精々睡眠時間くらい。やろうと思えば、ハンター式熟睡法で5分くらい眠って、その後バリバリ働けるんだが………いや無理だな、夜は夜で女遊びして

 

 

 

 

 

 ん?

 

 

 

 

 あ、そうか、この手があったか。

 

 

 

 

 

 



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466話

アサシンクリードオデッセイ、トロコン完了。
長かった…待っている時間が特に長かった。
DLCばかりやっていて、最初のマップに戻って来た時に思いましたが…やっぱりアサクリワールドは広いなぁ。
VR対応してくれないかしら。

次はエスコン…と行きたい所だけどトロコンにはどれだけ時間がかかるか分かったものじゃないので、アイスボーンに備えてハンター稼業を営もうかと思っています。



それはそれとして、今年のお盆は久々に連続投稿予定です。
10日から18日まで、普段よりもちょっと短めですが、毎日17時に投稿します。
これで書き溜めが尽きると考えるべきか、それだけ連続投稿しても話が進んでいないと反省するべきか…。


堕陽月拾肆日目

 

 

 今日も今日とて朝から仕事。いつも俺の近くに居る面々は別の作業があるので、浅黄を呼んで手伝わせている。

 執務室に作った机に齧り付いて、慣れない書類仕事を続けている。

 

 実戦に出るかの試験は、申し込み順かつ予約制となった。1日に多くて3人、鬼の襲撃等によるトラブルで試験不可能となった場合、また日を改めて試験を行う。毎日行われるのではなく、隔日とする。

 また、試験官は基本的に浅黄だが、別の任がある場合は明日奈達の誰かが代わりを務める事になる。

 合格したとしてもすぐに実戦投入されるのではなく、どの部隊に配属されるか決定し、それに必要な教育を受けてから、ウタカタの里のモノノフ達と共に行動する事になる。

 

 

 まず最初に試験を受ける事になるのは、紅。金髪ツインテールでキリッとしているが、俺と話す時になると…なんだ、その、微妙にポンコツ属性が入ると言うか、慌てて平常心が保てなくなってしまうと言うか。

 実際、試験申し込みに来た時も、顔が少し赤かったし、目線があちこち飛んで定まらなかった。

 とりあえず可愛い。

 

 

 次に凛子。えらく自信満々だ。確か、資料でも戦闘に特化させているとあったが……心配なのはそこじゃないんだよなぁ。

 

 

 最後に沙耶根尾。

 面倒くさいことは嫌いだけど、鬼を殺せるから。…この子が一番不安である。

 精神が非常に不安定…と言うよりは、気儘で気分屋、更に殺戮を楽しむ傾向があるらしい。

 

 

 まぁ、どうこう言うのは明日の試験を見てからでもいいだろう。

 試験には俺も立ち会うので、明日の分の仕事も終わらせておきたい。…昨日までは、かなーり時間的にハードな仕事量だったのだが。

 

 

 

「失礼します。若様、言付かっていた資料を…………?」

 

 

 ああ、ありがとう天音。どうした、いきなり部屋の中を見回して。

 

 

「いえ…今、何か違和感のような物を感じたのですが…」

 

 

 ふむ? それより、資料を。

 

 

「は、こちらです。…ところで、浅黄はどちらに? 若様の手伝いと言う事で、呼ばれていた筈ですが…………我々を差し置いて…」

 

 

 あーうん、ちょっと特殊な任務を頼んでいる。…待て落ち着け、お前より浅黄が信頼できるって事じゃない。

 任務の性質上、気軽に頼む訳にもいかんのだ。頼めば引き受けてくれるんだろうけど、俺にも拘りと言うか美学みたいなものが……。

 

 

「…いえ、若様の采配を疑う理由などございません。ですが、もし(……ジュルルルルル…)…?」

 

 

 …どうした?

 

 

「今、何か妙な音が……刺客か!? 若様には指一本触れさせん!」

 

 

 落ち着け天音、少なくともそーいうのじゃないから。大体、どこが刺客を送るんだよ。鬼はそういう細かいのは苦手だし、ウタカタの里なら自分の首を絞めるようなものだし。

 

 

「霊山なり、滅鬼隊の元関係者なり、そもそも利害に関係なく裏切る者は裏切りま「ンッ、ングッ、ジュルジュポジュポジョレロォ」…………あの、若様」

 

 

 ………うん。横から見てみれば、分かるよ。

 まさか、と言いたげな天音に鉄面皮で返事をし、椅子を少し引く。と、逃がさないとでもいうように生暖かく卑猥な感触が股間を追いかけてくる。

 

 流石に気付かれると気まずいから、『待て』をしたのになぁ。おい、命令も守れない程低能な雌豚だったのか?

 

 

「いやぁ、おひんひんなめるのほぉ……あさぎは、おちんぽらいすきなめすふたれふぅ…」

 

 

 机の下、俺の股間に必死でしゃぶりつくのは、目隠しの上からでも理性や尊厳を丸投げしていると分かる滅鬼隊元指揮官、浅黄。ちなみに服は着ているので分かりづらいが、亀甲縛りで手が使えない状態。…着衣状態なのは俺の趣味もあるけど、風邪をひかないようにという囁かすぎる心配りです。

 書類仕事する俺のイチモツに縋りつき、ただ精を浴びる為に媚び続ける姿は、とてもではないが人に見せられるようなものではない。

 しかし当の浅黄は天音に発見された事にも気付いてないのか、ジュポジュポとひょっとこ顔でフェラを続けている。実を言うと、もう2度ほど浅黄の口の中に、1度は膣に思いっきり注ぎ込んでいた。うむ、性欲処理の為にも調整されているだけあって、中々具合が良い。

 

 

「なっ、ななななっ、あ、浅黄貴様ッ、何をやっている! 若様にしゃぶりつくなど、破廉恥な! そ、そこはっ、若様のとても大事なところだぞ! ましてや子種をせがもうなどと、何と身の程を知らぬ真似を!」

 

「んぁ~……きもひいいれふは…?」

 

 

 あっという間に赤面して慌てる天音の声もなんのその。

 今の浅黄は、完全に主に奉仕する雌になりきっていた。…いや、マジで俺何もしてないんだけどなぁ。そりゃ確かに、こういう事をさせようと思ったのは俺だよ。『明日奈達にはできない事でも受け止めてあげる』なんて言ってたし、じゃあ遠慮なくって事で要請したよ。

 でも目隠しも縄も浅黄の提案だし、オカルト版真言立川流とか使わなくても、机の下に入れてちんこを目の前に突き出したら、あっという間にこの有様だ。流石にこれは予想外。

 内面観察術を軽く使って見てみたが、演技は無い。どうやら状況が思いっきり趣味嗜好に直撃してしまったらしい。それが元々の性癖なのか、設定されたものなのかは微妙なところだが…。

 

 

「………天音」

 

「時子…貴様というものがありながら、何をやっている! それでも若様の秘書か!? まさか、若様に求められたのを拒否したのではないだろうな!?」

 

 

 隣の部屋から出てきたのは、なんかちょっと焼き魚定食に乗ってるサンマを連想させるよーな目をした時子。時々足を擦り合わせるような動作をしているのを見ると、なんのかんの言って浅黄の痴態に反応はしているようだ。

 ちなみに時子にバレた時も、似たような状況で浅黄が暴走しました。もうこの子には我慢とか辛抱とか待ては期待しないよ。

 まぁ落ち着け、時子にだってこんな事は頼んでない。いや頼めばゲンコツ付きで引き受けてくれる気はするけど、頭領という立場を笠に着るような真似は好かんのだ。

 

 

「いやそういう問題ではなく…若様の行動に異論がある訳でもなく………そ、そもそも何故このような事を…。職務中ではないですか! どう考えても邪魔でしょう」

 

「落ち着きなさい、天音。言いたい事はよぉ~~~~く分かります。分かりますが、これには理由があるのです。まず窓の外を見てみなさい」

 

「外に何があるというのだ」

 

 

 苛立ちと疑問と好奇心に襲われながらも、しっかり外に目を向ける天音は素直ないい子だと思います。

 ただ外と言われただけじゃ分かりにくいだろうから…そうだな、その辺の草木を見てみろ。朝露が落下するのが見えるか?

 

 

「は、見えま…………???」

 

 

 違和感に気付いた天音が、目を見開く。そりゃそうだろう、特に集中してもいないのに『見えたッ! 水の一滴ッ!』状態になったんだもの。

 もっと言えば、見えたのは水の一滴だけではない。木々の枝がそよぐ様、近くに居た滅鬼隊が暇潰しに投げた石、それを避けて飛び上がった隊員がゆっくりと降りてくる姿。

 

 

 時間が…外の時間が、ゆっくりと流れている。

 と思わせて、実は逆。この部屋に居る者の体感時間が、非常に早く流れているのだ。

 

 

 はい、賢明な(その割にはこんな駄文を読むのに時間を使っていただける)皆さまにはもうお分かりかと思います。

 そう、オカルト版真言立川流秘術、体感時間操作です。

 

 この術は、俺と卑猥な行為を行っている者に効果がある。具体例をあげれば、俺と明日奈が結合しながら体感時間操作を使ったとして、その横で見ている神夜にはどう見えるか? 超高速でズッコンバッコンイクッフゥ…しているように見えるのか? 否。直接触れていない神夜も、同じ体感時間を過ごし、普通の速度でネチャグチョしているように見える。

 ついでに言えば、GE世界でフミカに情事を見られた時もそうだった。俺とアリサはフミカの事を認識してない状態だったにも関わらず、偶然俺達の情事を覗き見たフミカは同じ体感時間を過ごしていた。

 

 つまり、俺の認識が及ぶ一定範囲内、或いは情事を行っている姿を見ているのであれば、複数人を同時に、接触する事なく体感時間操作に巻き込むことができるのだよ!

 

 

 

 …この場合、浅黄の羞恥プレイの為に観客として参加させてる、って設定だけどね。

 

 

 ともかく、卑猥な行為は浅黄に任せ、俺は適度に快楽に浸りながら各種処理を行う。一度は我慢ができなくなって直に浅黄を犯したが、その時間を差し引いても大幅に作業時間が確保できた訳だ。

 欠点としては、生活リズムが狂いそうな事かな…。あと、一般常識的にどうかと。

 実際、時子の正気が大分削れてるもんな…。今の俺達の状態では、非常に有難い効果だと分かるから、猶更否定もできない。

 

 天音はと言うと、激昂しながらも気になってチラチラ。嫉妬の視線も混じっている。…こりゃムッツリスケベだな。

 

 

「有用なのは分かりますが……その、もう少し、何とかならなかったのかと…」

 

「…こればかりは、若様の采配であってもちょっと…」

 

 

 んー…いや俺としても幾つか方法は考えてたんだよ。例えば、こうやって机の下に潜ませるんじゃなくて、張り型でも突っ込んだまま、飾りとしてその辺に吊るしておこうかな、って。

 でもそれだと隠しようがないし、誰かが入ってきたら要らん影響を与えそうでなぁ…。

 

 

「それに比べれば…うーん…いや比較の問題では…」

 

「時間が足りてないのも事実………いえ、我々の力不足こそが問題だ! 若様が些事にまで手を取られているから、このような事をしてまで時間を確保しなければならないのだ! 我々が執事として! 執事として! あと秘書として充分な補助ができていれば、このような事をする必要は!」

 

 

 なくなるかもしれんが、多分趣味でするだろうなぁ…。黙っておくけど。

 浅黄自身も満更ではない…どころかノリノリだというのがまた救いにならない。

 

 何ともやるせない二人と、その視線を受けながらも書類にカリカリ書き込んでいる俺、そして何も知りませんとばかりにちんこにしゃぶり付き続ける浅黄。何とも気まずい時間だった。

 …おい浅黄、テメェ冷や汗垂れてるぞ。実は面倒事から逃げようと雌豚になり切ってないか?

 

 

 

 

 

 

 

 ともあれ、何と言われようと作業時間の確保は大事だ。1日は24時間しかないのである。物理的に人も人材も時間も足りていないのである。

 それが書類仕事の作業時間が1割程度で済みます、なんて言われれば誰だって飛びつきたくなるだろう。疑うという選択肢が無ければ。

 そして術者である俺に疑うという選択肢はなく、俺を心底信頼…なのか心酔なのかよう分からんが、とにかく俺第一主義的な考えを持っている秘書執事組も同じである。

 

 災禍も最初に説明された時、かなり筆舌に尽くしがたい表情をしていたが、それは置いといて。

 

 

 

 ありがたい事に、これでかなり自由に動ける時間が出来た。さて、どうするか。

 作りたかった施設を作るのもいいが、あまり仕事ばかりでも面白くない。滅鬼隊員達に生活を楽しんでほしいと思っている俺が、仕事ばかりじゃ範が示せない。

 いや模範となる為に遊ぶってのもなんかおかしいが、とにかくそーいう事だ。

 

 しかし、遊ぶと言っても何をするやら。真昼間から夜の遊びするのもいいんだけど、皆それぞれ仕事中だし…。

 隊員達は思い思いのグループで遊ぶようになったし、混ざるべきか?

 

 

 

 …いや、もっと優先する事があったな。半ば仕事になっちまうが、別に問題はなかろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で、ウタカタの里にやってきました。いや今まで居た滅鬼隊の居住区もウタカタの里なんだけど、里の結界の中心、本来の人里、ついでに言えばゲームのステージ的な。

 いやぁ、何だかんだで懐かしいね~。大体一年ぶりくらいかな? MH世界、GE世界、討鬼伝世界…具体的な日数はもうサッパリだが、少なくとも最後にここで過ごしてから、半年以上は経っている。…体感で。

 

 見覚えのある…初対面の人達。歩いているだけで注目される。好奇、警戒、物珍しさ、その他諸々。ウタカタの人達はお人好し揃いではあるが、その分こういった感情を隠す事をあまりしない。良くも悪くもストレートだ。

 それすら懐かしく感じるよ。

 特に、今は余所者の集団が移り住んできたばっかりだからな。見慣れない人間が居れば、そりゃ注目される。しかも、揃いも揃って美男美女なんだから。

 

 

 さて、やってきたのはいいが、どうするか。単に懐かしむのもいいけど、この際だからまだ会ってない人と伝手を作っておきたい。

 大和のお頭に挨拶しとくのは当然として、鍛冶師のたたらさんは真っ先に繋がりを作っておかなければいけない。ミタマ関係のあれこれを行ってくれる祭祀堂の樒さんも、同じくらい重要だ。

 これから肩を並べて戦う事になる…当面は、俺自身じゃなくて隊員達が、だろうけど…モノノフとも顔を合わせておくに越した事はない。

 更に言うなら、橘花と親しくしておく事も必要。個人的な感情を抜きにしても、これから橘花は秋水からの精神的揺さぶりを受ける事になる。心の拠り所、せめて愚痴を吐き出せる相手が必要だ。

 おっと、秋水自身とも接触しておかなければ。陰陽寮所属と言うのも問題だが、あいつ、九葉のおっさんと確執があるからな…。その九葉のおっさんに遣わされた部隊だ。どういう反応をするのか、予測がつかん。

 何よりも、里人に受け入れてもらう為の地固め、挨拶周りなんかも……。

 

 

 

 …って、待て待て待て結局これって全部じゃねーか。そりゃ確かに重要極まりない事ばっかりだけど、一気にできるもんじゃない。

 出来る分だけやって行こう。最悪、一通りの相手に顔を見せるだけでもいい。「ウチの連中をよろしくお願いします」とでも言っておくか。

 

 

 

 

 とりあえず、大和のお頭に顔を見せてこようと思って受付所に来たんだが。

 

 

「すみません、父は今、秋水さんと一緒に所用で出かけていまして…」

 

「いつもなら、そこで腕組みして仁王立ちしてるのにね。あの眼鏡は自分の席から動かないし」

 

 

 …初めまして木綿さん。大和のお頭の娘さんですか。

 雪風と仲良くしてくれてるようで、お世話になってます。

 

 

「いえ、こちらこそ。人手不足で、里のモノノフの皆が段々疲れていくところを見ていましたから…味方が増えて心強いです」

 

 

 うん、でも実際は戦いの経験は殆ど無い連中ばっかりだからね。暫くは、あまり厳しいお勤めは勘弁してほしい。

 もしあいつらが、もっと強い相手と戦わせろとか言い出したら、俺に言い付けるって言ってやってくれ。

 

 

「今正に、雪風さんが相手が弱くてつまらないと愚痴を零していましたが」

 

「ちょっ、木綿! いきなり告げ口なんてそれでも友達!?

 

「お勤めの受付ですから、報告する事は報告しないと」

 

「愚痴! 単なる愚痴だから! 別に戦わせろなんて迫ってないから!」

 

 

 分かった分かった。別にその程度で怒りはしないから。

 敵が弱いのは、状況が比較的悪くないって事だぞ。異界の奥に入れば入る程、強力な瘴気を放つ鬼が出るんだから。

 

 と言うか、二人は友達だったのか。

 

 

「うん、里に来て最初の襲撃があったでしょ。あれが終わって帰って来た時にね」

 

「同年代の女の人は、里では珍しかったんで…話しかけてみたら、意気投合したんです」

 

 

 ふぅん、意外と言えば意外な組み合わせ。色々と心配とか心労とか苦労とかかけるだろうけど、よろしくしてやってほしい。

 さて、大和のお頭も秋水も留守なんじゃ仕方ない。他の方々に顔見せしてきますかね。 

 

 

 

 

 

 

 …むぅ、一通り回ったが…何だかなぁ、避けられてるのかなぁ?

 

 たたらさんとは会えたが、仕事中で忙しいようだったし、俺もその後会っておきたい人が何人も居たから、数分話しただけでお暇させてもらった。

 モノノフの主力部隊は任務で不在。鬼の討伐、必要になりそうな薬草・素材の採取。速鳥に至っては、長期任務でここ暫く里に戻ってすらいなかった。

 樒さんは昼寝中。隣の茶屋の主人曰く、『何だか妙なミタマを持っている人が近くに居るらしくて、それに刺激された他のミタマが五月蠅くて眠れない』だそうな。…ひょっとしなくても俺のせいですねゴメンナサイ。しかし、里に来ただけで他の人達のミタマが騒ぎ出すとか、そんな事は今までなかったように思うんだが。

 橘花に至っては、会う事すらできなかった。神垣の巫女だもんなぁ。そりゃ本来はそうなるよなぁ。しかも、今の俺は武力集団を率いている、外様の身。橘花を攫って自分達の為に結界を張らせようとする…なんて疑いだってあるかもしれない。

 斥候部隊や準主力級部隊には会う事が出来たが、全員ではない。交代制で休みになってるからね。ウチの連中をくれぐれもよろしく…とは言っておいたけど、援軍として送り込まれた俺達の方が世話になるってのもおかしな話だ…。

 神木の主は相変わらず見えないし、虚海と繋がりがありそうな動物も見当たらない。

 

 

 なんちゅーか、綺麗に空振りした一日だった。折角自由時間ができたのに…。

 これなら、隊員の為の施設増設をやっていた方がマシだったな。

 ま、こういう日もあるか。懐かしい気分に浸れただけよかったと思っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 そのまま一日が終わるかと思ったのだが、一つ問題が発覚した。

 夕食の後、災禍に報告・相談があると言われて執務室に向かったのだが…その時、浅黄が期待した目で目隠しと縄を準備していたが、それは置いておこう。

 

 曰く、何人かの隊員に、情緒不安定な傾向が認められたと言う。

 例えば、沙耶根尾。元々安定しているとは言えない子だったが、感情の起伏が妙に激しかったり、不安そうな顔で動かなくなったりと、挙動不審らしい。

 例えば、まり。ウタカタに来る時の逃避行でも、発作を起こした子だな。あの時は、俺が声をかける事によって落ち着いたが…。

 例えば、不知火。何を考えているのかよく分からないと思っていたが、輪をかけておかしい。…と言うより、その時その時で言う事が全然違っていたり、昨日会った事を覚えていなかったり。…ボケでも入ってるんだろうか?

 

 

 明日奈達を呼び出し、それについて聞いてみた所、丁度彼女達もそれについて相談しようと思っていたのだと言う。

 

 

「まぁ、原因はあからさまなんだけど」

 

「どういう事ですか、詩乃さん?」

 

「私も一時期、ああいう状態だったからね…忌々しい…」

 

 

 忌々しいって……ああ、滅鬼隊の安全装置!

 

 

「そういう事よ。尤も、それだけじゃないでしょうけど……ちょっと浅黄を呼んでくるわ」

 

 

 …詩乃に呼ばれてやってきた浅黄。だから縄も目隠しもいらないって。

 

 

「いえ、それは後で使いましょう。私達がお仕事中だったのに、ずーっとおしゃぶりさせてたなんて……羨ましい…」

 

「神夜、そういう事は言わぬが華よ。一応仕事の為だったんだし。…私達が休みの時は、替ってもらうけど」

 

 

 色ボケた会話はともかくとして。

 

 

「…ああ、そういう事。そうね、私達は主からの声をかけてもらわないと、段々不安になってくるように調整されているから…」

 

 

 それは分かるが、一応全員に声かけて回るようにしてたんだが…。

 それじゃ足りなかったのか? それに、まりはもう2度目の発作だ。他の皆に比べて、発作が起きる頻度が高いのは何でだ。

 

 

「その辺は個体差と言うか…調整が上手く行く場合行かなかった場合の違いもあるし、本来の気質も関係しているんでしょう。例えば今の鹿之助は臆病とすら言える性格だけど、以前の別の『鹿之助』は慎重ではあって卑屈ではなかったわ。自分のタマフリにも自信を持っていたし」

 

 

 あー、成程…。それで一人一人、発作が起きる頻度が違ってくるのか…。

 頻繁に声をかければいいのか?

 

 

「それだけでは足りないでしょうね。…多分、より深い繋がりを感じさせないと、また短期間で発作が起きるわよ」

 

「つまり、あの子を抱いてぐっちゃんぐっちゃんのどろっどろにして、惚れ直させればいい訳ね。なんだ、もう解決したも同然じゃない」

 

 

 …まぁ、そうなんだけどさ。明日奈、いきなり交合の話じゃなくて、スキンシップ…手をつなぐとか口付けとか、そういう段階を踏んでだな…。

 

 

「それこそ時間が足りるの? 発作を起こす危険性があるのは、あの子だけじゃない。沙耶根尾…も危険だけど、もっと深刻なのは恐らく不知火よ。恐らく、生来の性格や倫理観と、植え付けられた人格が相当に合わなかったんでしょう。前にも一度、それらしいのを見た事があるわ。失敗作として『処理』されたのをね…」

 

 

 その場その場で性格がころころ変わる、その時の事を覚えてない…。

 多重人格、精神分裂症の類か。

 多大な精神的負荷を感じた時、それから逃げる為に『これは他人に起きている事だ』と思い込んだりして、結果別人のように振る舞い始める…だったかな。

 

 

「…正にそんな感じよ。代々の『不知火』がそうだった訳ではないけど、特に『不知火』にはそういった症状が多いと聞いたわ。…この話は、アスカの方が詳しいかもしれないわね。私の前の指揮官だったようだし」

 

 

 それが本当だとすると、確かに放っておけないな…。いつ精神崩壊するか分からない。最低でも、これ以上の負荷をかけないようにしないと。

 

 

「つまり、交合ね」

 

 

 …あのな、詩乃。精神的な拠り所にもなってやらなきゃならんのだから、ただ抱いただけじゃ…。いや確かに抱いて安心させて依存させるんだけど。

 

 

「では、沙耶根尾さんは? 確か、試験を受けるとも聞いていますが」

 

「安全装置もそうだけど、この子の場合欲求不満が怖いわね。殺戮を楽しむように調整されているから…。でも、あの子が不安定だったのは………そう、確か……戦った後こそが、最も不安定よ。強い力を振るえば振るう程、安全装置の発動が早くなる。血に酔って暴走したり反逆しない為の処置だったわ」

 

 

 妙な所で用心深い設定してやがる…。

 と言うか、そんな設定になってるんなら、迂闊に戦いに出せないな。暴れるだけ暴れて安全装置が発動した途端、大型鬼の奇襲なんか受けたら…。

 

 

「それを防ぐには、前もって安定させるしかないわ。戦った後、勝手な事をさせないように手綱を握る必要もある」

 

「戦いの前に応援の逢瀬、いい子にしていたら終わった後にも逢瀬をするとご褒美で釣る事極まりないです!」

 

 

 …てかさ神夜、散々働かせて報酬が逢瀬だけって、それってヒモとかジゴロとか言わないか…?

 

 

「この場合は言わないんじゃない? 封印されていた私達を目覚めさせて、生活基盤を作って、今後の居場所も作り始めて…ここまで世話になっておきながら、これ以上要請するのは強欲を通り越して恥知らずよ。と言うか、嫉妬が切っ掛けになって安全装置が発動する事もあったし…」

 

 

 40人以上の嫉妬ゲージ処理とか、初代恋愛遊戯よりも厳しくありませんかねぇ…。

 

 

「そうでもないわ。抱けば大分軽減されるんだし。一人一人を相手にしていると、その間に発作が起こるでしょうから、ある程度まとめて相手にするか、発作が起こりそうだと判断したら自分で訪れるように促すかね」

 

 

 どうやってもソッチ系に結び付くのか…。

 

 

「…最初はともかく、最後の方は完全にそれ目的で運営されてたから…。何でもいいから自分から抱いてほしいと言い出させると言うか…」

 

「優越感を満たしたかった訳ですね。酷い話です」

 

 

 傍から見れば、俺も同類なんだろうなぁ…。滅鬼隊の事だけじゃなくて、他の女関係で。

 なんかもう色々と、馬鹿らしさを通り越して低能さとか下劣さとかを感じて来たけど、実害が出ている以上対処しない訳にもいかない。

 とにかく、最悪の場合全員を抱く事も考えておかなきゃならんか。

 

 

「嫌なの?」

 

 

 ……………。

 

 

「勃たせて語らず…。愚問でしたね」

 

 

 うん。むしろ、合法的に交わる理由が出来て万々歳だったりする。

 今の皆で足りないって訳じゃないんだけど、まぁ綺麗所が目の前に居れば手を伸ばしたくなるのが俺なもんで…。

 

 あと、実を言うと戦力強化にもなったりする。と言うより、俺の房中術の本来の使い方はそっち……の筈だ。

 

 

「私と明日奈さんを軽くあしらえる実力があって、切り札をまだ隠していて、更に強く…ですか。見習うべきこと極まりないですけど、あなたが追っている鬼と言うのは、それ程に強力なのですか?」

 

「追っている鬼? それは初耳ね…。と言うより、私達滅鬼隊は、あなたについて来るままにここに来ただけで、前後の事情もよく知らないわね」

 

 

 

 んー…まぁ、正面切って向き合えれば、仕留めるだけならそう難しくないと思う。

 あいつの能力で厄介なのは、戦う前に無力化される点だから。前にやり合った時も…最後の最後で人質を盾にされなければ、真っ二つにできた。やられた時点で言い訳にもならんがな…。

 ただ、奴にも妙な異変がおこってるっぽんだよなぁ…。シノノメの里の石像もそうだし、考えてみれば3つの世界のモンスター達が妙な進化をしてるのも、奴が因果を零したからじゃないか?

 いや、でも各地で見つかる遺跡の類までは…因果を零したとしても、建物がいきなり出てくるとは…。

 

 

「その辺の事に興味はあるけど、今は置いておきましょう。突然、『調子が悪くなったら抱かれに来い』なんて言っても、流石に受け入れられないでしょう。何より、ウタカタの里に聞かれたら面倒な事になるわ。ここの人達はお人好し揃いだから余計に」

 

「そうね。頭領が立場を笠に着て、部下を手籠めにしていると思われる。隊員達は保護と言う事で受け入れられるかもしれないけど、肝心の貴方が村八分になりかねないわ」

 

 

 …そうだな。あまりおおっぴらに出来る事じゃないか。

 いやでも黙っている事も出来んな。戦闘中に発作が起きたらと思うと…。

 

 

「事情がある集団なのは一目瞭然だし、特殊なタマフリの代償と言う事にしておけば? あながち嘘でもないし、強力な戦力と人手を得る対価とすれば…」

 

「一度安心させておけば、戦っても流石にすぐに発作はでないから、長期任務に行かせなければ大丈夫でしょう。発作が起こりそうな子が居たら、あなたの所に向かうよう密かに誘導しておくわ」

 

「ま、それしかないでしょうね。何れ秘密が漏れるとしても、それまでに半数以上を誑し込んでおけば、多少の問題は数の力で封殺できるんじゃない?」

 

 

 

 集団での問題だからな…そういう手法も必要か。

 了解。これについては、大和のお頭にも話を通しておく。

 

 

「災禍さん、これについては時子さんと天音さんと共有して、兆候がある人を見つけたらすぐに報告してください」

 

「かしこまりました。若様には負担をかける事になりますが…」

 

 

 さて…そうと決まれば、まずは不知火の対処だな。この場で手を出すかどうかはさておいて、詳細を確認しなければ。

 一応『母娘』なんだから、雪風も呼んでおくべきかなぁ…。

 

 

 

 



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467話

堕陽月拾伍日目

 

 

 結論から言うと、不知火の状態は思っていたより数段危険だった。彼女に加えられた改造の事を思うと、むしろよく今まで崩壊していなかったと心底思ったくらいだ。

 少し話しただけで、おかしな言動が出る出る。支離滅裂で不安定。落ち着いているように見えても、視線や表情がまるで安定しない。焦点も合ってなかった。

 これに気付かなかった自分を、本気でブン殴りたくなるくらいだ。内面観察術でもなんでも使って、中身まで把握しておくべきだった。

 

 

 …『不知火』は他の滅鬼隊同様、改造されて待機状態にされ、そのまま封印されたものだと思っていた。男と交わるのが起動方法なのに、処女だったからな。

 だけど、そうじゃなかった。彼女は今まで何度も起動し、そして『初期化』された不知火だったのだ。

 滅鬼隊を起こす方法は、男だけじゃない。特定のキーワードを、霊力を伴った声で聴かせる事で目を覚ます。現に、雪風がこの方法で目を覚ましたからな。キーワードが何だったのかは未だに分からないが。

 ついでに言えば、鹿之助とかは精液ぶっかけで目を覚ましたから、文字通り交わる必要がある訳ではないんだろう。何なら、尻を使うという手もある。

 

 どうしてわかったかと言えば、浅黄が会った事がある『不知火』と同じ傷跡があったから。それも含めて改造されたのかとも考えたが…滅鬼隊を作っていた連中の趣味嗜好からして、玩具に意味も無く傷をつけるとは考えにくい。

 では、その時の事を覚えていなかったのは、嘘や芝居だったのか?

 …そっちの方が、余程良かった。

 

 

 この『不知火』は、任務が終わる度に初期化され、次の任務に都合のいい人格を植え付けられていたのだ。

 調整を施されて目を覚ましたなら、まだ良かった。しかし今回は、初期化され、そのまま目を覚ました。…初期化されずに残った記憶の断片や、植え付けられた人格の名残が幾つも幾つも重なり、自分という人格が分からなくなっていった。

 

 殊更に最悪だったのは、彼女が人妻、雪風の母として設定されていた事だろう。

 人妻…つまり既婚者。恋愛結婚した相手が居る。思慕を寄せる、心の拠り所となる愛する相手が居る。…………だが、それは設定でしかなかった。

 架空の旦那に対して愛を誓い、運営主にいい様に弄ばれ、任務先で出会った異性に惹かれ…そして捨てられ拒絶される。

 

 とにかく心の拠り所を奪い、或いは汚し、それに縋る姿を滑稽だと眺めていたんだろう。

 下手をすると、『娘』の雪風に会ったのすら、今回の起動が初めてなのかもしれない。

 

 

 

 で、どうしたかって? そりゃいつもの手段で解決したよ。

 主に触れられると精神的に安定する、という滅鬼隊の特徴もあったし……要するにこの場合、依存対象を作ればよかった。依存と言うと悪い言い方に聞こえるから、心の拠り所かな。

 架空の旦那から寝取って、愛上を実在の人物…俺に向けるよう仕組む。精神状態にも干渉し、強すぎる悦楽で一度何もかもを粉々にし、そこから再構築する。…イメージ的には、PCの再起動みたいなものかなぁ。ブルースクリーン画面にならなくてよかった。

 

 何はともあれ、一晩過ぎた今となっては挙動不審もすっかり治まり、娘兼棒姉妹となった雪風に母として(歪んだ)愛情を注ぎ、その上で俺を至上とする超スキモノ熟女となってしまった。

 …別にいいんだけどね。安定させるのに一番手っ取り早い手段だったから、半ば洗脳じみたやり方になるのは分かってたし。

 

 不知火は柔らかかったなぁ。ここまで肉感的な体もそうそう無い。神夜が近いと言えば近いんだけど、熟女特有の柔らかさと言うか深みがね。代わりに、神夜には若さ故のハリがあるんだけど。

 …ちなみにその不知火は、今は雪風と一緒に明日奈の物で朝ご飯の支度中。すっかり挙動も安定し、いいお母さん状態である。雪風との仲が改善されたのも、彼女が落ち着いた理由の一つだろう。

 

 ちなみに、その時の反応や会話は下記のような感じである。詳細を書きたいのは山々なんだが、時間にも限りがあるので勘弁してほしい。

 

 

 

 

 

 まず、夜中に不知火を呼び出し、こっそり内面観察術を使いながら、『夜伽をしろ』と命じてみた。

 普通なら、この時点で激怒してもおかしくないだろう。何せ娘…ユキカゼと良い仲になっていると言うのに、恥知らずにもその母親を呼びつけ手籠めにしようとしているのだから。

 

 確かに、その時には一瞬だが怒りの感情が見えた。が、次の瞬間にはその感情は諸々の『何か』に食いちぎられて消えていく。外見には一切変化は見られず、内面観察術を使ったからこそ見えた事だ。

 怒りが食い尽された後、極彩色のような感情の動き、そして最後には淫靡な感情で埋め尽くされた不知火がそこに居た。

 言うまでもないが、真っ当な心の動きではない。まるで何人もの人間が不知火の体に取り憑き、主導権を争っているようだった。………そう考えると、前に雪華が歴代神垣の巫女に取りつかれた状態のようだったな。

 

 こらアカンと思った俺は、様子を見る為だった夜伽という要求を、治療の為に使った訳だ。ヤる事は全く変わってないんだけど。

 中身がグチャグチャになっている不知火は、表面上だけは積極的で、あらゆる部位を駆使して俺に奉仕しようとした。…あんまり上手くなかったけどね。やはり刷り込みされているだけの技術では、スムーズな動きは難しいようだ。

 その時の不知火の本心は……恐らくだけど、亡き夫(そもそも存在してないようだが)に操を立てながらも、その感情の行く先を作る事ができず、目の前にある人肌に縋ってしまいたい…ってところだろうか? どこまで設定されているのか知らないが、つくづく悪趣味な事だ。

 まぁ、その悪趣味なのを、更に悪趣味な寝取りで埋め尽くしたのが俺なんだけど。

 

 

 やり方としては、直葉にやった『烙印』と同じ。ガタガタのグチャグチャになっている精神を徹底的に服従させ、魂ごと取り込んで、強化し、整理整頓させる。

 その為に必要なのは、「この人になら何をされてもいいし、少しでも喜んでもらえるなら何でもする」というレベルで好意を持たせる事。当然ながら、不知火が『夫』の事を想い続けている限り、それは出来ない。例え空想の中にしか存在しない夫だったとしても、だ。

 具体的には、空想の中の『夫』と事あるごとに比較させまくりました。

 

 

 

「そんな、乳房を根本から鷲掴みにするなんてぇ…もっと優しくよ、若様?」

 

 

 ほぉら、『旦那』はこんな事してくれたかな? 胸を触られただけで痙攣しちゃって、俺の手はそんなに気持ちいいか?

 

 

「あっ、あっ、こ、こんな事っ、あの人は、知らないっあ、そこ駄目ぇ…」

 

 

 殆ど処女の敏感さだな。旦那は愛してくれなかったのか? こんな立派なものぶら下げてるのに、触りも吸いもしないなんて男じゃないね。

 (存在もしない夫だから、当たり前だけど)

 うーん、やはり人妻を堕とす時にはねちっこい責めが似合う。疼いて立ち上がっている乳首は放置し、根本から牛の乳を搾るようにキュッキュッと扱き上げる。

 

 

「い、いけない、いけないわ、私には夫と娘が…」

 

「しかも、娘は若様と、あっ、命令だなんて、そんな無体なぁ、ぁぁぁ、ぁああっ!」

 

「そこはっ、そこだけはっ! 最初に拒まなかったのが悪い…? わ、私には若様の命を拒む事はあひぃ!?」

 

「ああっ、女陰が、女陰が、疼くっ…! こんな筈ではっ…! い、いけない、それだけはいけないわ! その指を進めては………えっ?」

 

「い、いえ、残念なんか…期待んかしていないわ…。そっ、それより、やはりこれ以上はいけません…雪風の恋人とこんな事をするなど」

 

「は? 賭け…? 私が耐え切れば、もう夜伽も要求せず、雪風にもっと構う…。……言質は取ったわよ。どの道、命じられた以上、私に拒む権限はありません」

 

「では、時間…窓から見えるあの月が、木にかかるまでに若様が射精すれば私の勝ち、私が音を上げて抱いてほしいと懇願すれば若様の勝ちね」

 

「っ…! そ、そんな所から触るなんてっ…え? ま、まだまだ序の口? それよりも奉仕? …は、はい…」

 

「………………大きい………熱い……逞しい……」

 

「夫とどちらが…………き、記憶にないので、比較する事は難しいわね…」

 

「っ…! あっ、それっ、優しい…あ、ふっ、んん……ど、どうしたの? 突然触り方を変えるなんて…」

 

「………私を、奪う? あの人から? 心も体も、愛し抜いて染めあげる…?」

 

「それだけは…それだけは、させないわ…。体を好き勝手に嬲られたとしても、私の心はあの人のもの。例え私の記憶の中にしか居ない人だったとしてもおほおぉぉぉぉぉ!? ゆ、指っ、指ぃ! さ、触ってるだけなのにっ! いく、いくうぅぅ!」

 

「ぁ………は……さ、触られた、だけで………? い、いいえ、まだよ、まだ…確かに気をやってしまったけど、私は音を上げてなんか、いひっぃ!?」

 

「お、おおお、お、はっ、ま、また、またっ、撫でられてっ、それだけで、体ぁ、勝手にぃ!」

 

「も、もう…む…っ…ま、まだ、まだよ、いくら達しても、私はっ……ち、違うっ、もっと気持ちよくって事じゃないのぉぉぉぁひぃぃぃぃぃ!?」

 

「た、達してるのに、達してるのにぃ、まだ気持ちよくされちゃうぅぅ! 終わらないのぉぉお!」

 

「あっ、あたまっ、なでるの、やめてぇぇ! 脳みそ掻き回されてぇぇ! 何も分からなくなるぅぅう!」

 

「そ、そまる、そまるのっ、うわがきされてぬりつぶされるのっ! あのひとのかんしょく、きえるぅぅぅ!」

 

 

 

 

 

「     え    ゆき か ぜ?」

 

「み、見ないで、こんなところ見ないでっ…!? な、何で掴むの!?」

 

「大丈夫よ。こうなるだろうなって思ってたし、明日奈達から事情は聞いたから。これは治療、これは治療。だよね?」

 

「そうよ。だから雪風、思いっきりお乳掴むのは止めなさい。こう、巨乳を気持ちよくする時には、さっきも教えたように…」

 

「ん、こう…だっけ…『お母さん』、気持ちいい?」

 

「だ、だめっ、やめて、ゆるしてっ、雪風はなして! また、またあの人の感覚が、消えるっ…!」

 

「あの人って言われても、私はお父さんの事なんか全然覚えてないし。大体それって、洗脳されて植え付けられた記憶なんでしょ。だから頭の中が訳の分からない事になってるんだし」

 

「うっ」

 

「同じ洗脳されるなら、こいつにされた方がよっぽどいいわ。実在するし、何だかんだで大事にしてくれるし、もげちゃうかと思うくらい気持ちいいし。ほら、上書きでも何でもされちゃいなよ。ついでに、さっき神夜から教わった、女の体での遊び方の実験台になって」

 

「そうそう、そうやって優しく指を這わせるんです♪ 殿方の体と、女性ならではの指使いの連携が卑猥な事極まりないです♪」

 

「それにしても、いい塩梅に出来上がってるわね。やろうと思えば、一気に染め上げられるのに。…理性と欲望の間で葛藤させて、自分から落下させるのがそんなに好き?」

 

「嬲るのに一番美味しい状況は、堕ちる寸前の最後の抵抗だって言ってたわよ。つまり、今正にこの状況か…。で、どうするの?」

 

「しょ、勝負、勝負がっ! もう決着は!」

 

「ついてないわよ。だって、さっき言ってた勝ち負けの基準は、月があの木にかかるまで、でしょ? まだかかってないわよ」

 

「うそ…だって、どう考えても…」

 

「この人、卑猥な事をしている間は参加者の体感時間を操作できるんです。私達にとっては既に四刻近く感じられていても、実際には一刻も経過してないんですよ」

 

「と言うか、さっきの条件だと勝負がつかないわよね。時間までに射精しない、かつ不知火さんも音を上げなかったら?」

 

 

 続けてもう一勝負。延々と気持ちよくなってもらいます。

 

 

「    」

 

「…条件設定の辞典で、ほぼ勝利の目がないわね。我がお母さんながら、何というかこう…」

 

「ま、いいんじゃない? これも、厄介な洗脳から解き放つ為の親孝行って事で…雪風、手伝ってあげるから、お母さんで遊んであげなさい」

 

「存在しないお父さんの事なんか忘れさせて、ただ気持ちよくなる事しか考えられなくなるところ…見せてください♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、よくもまぁこんな後から付け加えたような設定で、次から次へと問題が出てくるなぁ…。

 

 

「実際にそういう扱いを受けていたんだから、仕方ないじゃない。人間、玩具に対してはどこまでも残酷になれるものよ。多分、一人一人に妙な設定を付け加えられてるでしょうね」

 

 

 事実、そういう扱いをされていた詩乃が言うと説得力があるな。

 しかし、それを差し引いても…詩乃もそうだが、浅黄や不知火は俺に抱かれるのに抵抗が無いな。生い立ちを考えると、どれだけ気持ちよくなれても屈辱に感じそうなものだが。

 浅黄に至っては、自分が何をさせられるか聞いた時点で、嫌がるどころか道具まで持ち出してきたくらいだし。

 

 

「それを了承したの? …聞くまでもなかったわね。顔色一つ変えずに受け入れたからよ」

 

 

 ? どういう事?

 

 

「浅黄から聞いた話だけど、滅鬼隊はおかしな性癖を植え付けられている事が多いそうよ。その為に、任務中に誰かと恋仲になっても、それを晒すと拒絶されたり距離を置かれる事も多かったとか。…それを受け入れた上で愛されるのは初めてなんじゃない? 今まではいい様に弄ばれていただけだったんだし」

 

 

 あー……性癖と心の両方を肯定されたから、か…。

 気味悪がるでもなく嘲笑うでもなく、俺にとっては互いを昂らせる為の一要素に過ぎなかったもんな。植え付けられたものだとか、異常な行為だとか、余計な事考える暇があったら乱れる姿を見せてみろ、くらいにしか考えてなかった。

 

 



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468話

 

 さて、今日の予定は…まず試験を受ける者が3人。それから、前に合格した2人の研修と実戦投入。後は施設増設に…ああ、先日任せた鬼の侵入防止の結界、一応出来上がったから見に来てくれって不知火に言われたっけ。

 

 試験は午後からなので、とりあえず権佐と紫の研修だ。おっと、雪風と骸佐にも受けさせておかないと。

 と言っても、戦闘能力自体は証明されているので、そっちは問題ない。ウタカタ到着後、試験直後の襲撃でも、二人は問題なく戦えていた。

 

 ならば何を研修するのか。少々不満気な顔をしていた紫だったが、研修内容を聞いて頬をひきつらせた。

 骸佐が持っていた武器を取り落した。

 雪風が180度反転して逃げ出した。

 権佐が凄い嫌そうな顔をした。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなに事務作業をしたくないのか。

 

 

 

 おーまーえーらーなー! 特に雪風! 逃げようとした罰、逆さになっとれ。

 

 

「ちょっ、やっ、きゃあぁぁぁぁ!?」

 

「…若、なんですかいその妙な手みたいなのは」

 

 

 鬼の手。上手く行けば、その内広められるかもしれない。

 それはともかく、モノノフの戦いってのは鬼を斬って終わりじゃねーんだぞ。特に、これからお前らが主に活動するのは、斥候部隊、戦って動けなくなったモノノフの救助部隊だぞ。

 どの辺りにどんな鬼が何匹居たのか、何処で誰が戦って行方不明になったのか、そういう事を把握して、纏めて報告連絡相談しねーと務まらないんだよ!

 

 それだって適当に紙に書いて纏めればいいってもんじゃない、ウタカタの里にはそれを纏めやすくする為の報告書だってある! どこに何を書き込まなきゃならんのかくらい把握しろ!

 任務を受けて出撃する前にだって、書かなきゃいけない書類はあるんだぞ。ある程度は受付場の木綿ちゃんが纏めてくれるけど、どういう目的で何処に向かうのか、どんな鬼の出現が想定されるのか、その鬼に対する有効な武器防具は何か。一緒に行く仲間たちは何が出来てどういう動きをするのか。そういう事を読み取って、備えておかないとあの世に一直線だ。

 

 自分達なら何とかなる? 馬鹿言え、己惚れんな。仮に自分達はどうにかできたとしても、一緒に行くモノノフ達はどうだ? 炎上攻撃を仕掛けてくる鬼が居たとして、それに対する対策は? 自分が避けられたとしても、喰らったモノノフを見捨てて戦うのか?

 ああ、何も手の打ちようがないなら、それも仕方ないだろう。自力で対処できない事はないしな。だが、そういう時に炎に耐性が強い防具を持っていれば? ミタマが『癒』なら?

 庇う事だって出来るし、受けた異常を打ち消す事だって出来る。

 

 これから共に戦っていくのは、ウタカタの里のモノノフ達だ。彼等を見捨てるような事があれば、俺達の信用信頼は地に堕ち、里での居場所は無くなるだろう。当然、飯やら服やらだって手に入れにくくなる。

 そういう事態を防ぐ為に備えられてるのが、こういう事務処理なんだよ!

 せめて書類の読み方くらい理解しろ! モノノフが単なる武辺者だなんて思ってんじゃねーぞ!

 

 

「ええー…そんな事言われても、面倒臭いおおぉぉおっぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 

 雪風、ジェットコースター(手動)の刑に処す。

 予想はしてたが、ここらが研修の最難関だな…。他にも油断とか周囲の状況を気にしないとか諸々の心配はあるが、そこは気付くまでウタカタのモノノフ達が補ってくれる事を期待したい。

 気付かないようなら……俺が直々に不意を打たれる恐怖というものを味わわせてくれる。理解するまで。

 特に、何となく女の滅鬼隊は餓鬼(ゴブリンっぽい)とか土竜(触手っぽい)に弱そうな気がするからな。絵面的に。デカい人型の鬼(オーガっぽい)も、ちとヤバい気がする。

 

 文句言うな、木綿ちゃんだって大変なんだぞ! これから40人近い人員を新規モノノフとして登録して、何をやったかも管理していかなきゃならんのだから。

 これで木綿ちゃん、大和のお頭の娘さんが負担で倒れちゃったりしたら、本気でどうなる事か…。

 

 はい、そういう訳で今日の午前中は書類仕事です!

 

 

 

 

 

 

 

 …………ん? あれ、外…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しとしとしと。しとしとしと。しとしとしとしとしとぴっちゃん。

 

 なんか懐かしいフレーズだ。しこしこどっぴゅんなら毎晩やってるんだけど。

 外を見れば、激しくはないが無視できる程弱くもない雨が降り続いている。

 

 うーむ、ちと問題だなぁ。

 いや、雨はいいんだ、雨自体は。台風とかだと里の存亡がかかった一大事になりかねないが、今日の雨は常識的な範囲内。

 貴重な水を確保できる。体が冷えるのは困り者だが、気配は消しやすくなるし、炎を使う鬼は雨を苦手とする事も多い。

 

 じゃあ何が問題かってーと。

 

 執務室の窓の外を見て、向かい側にある隊員寝泊まり用の家の中に目を向けると………すし詰め状態になった隊員達が、実に退屈そうにダラダラしている。

 中にはオモチャを使ってゲームやってる子達も居るが、流石に全員に行きわたる数は用意してない。

 そもそもカードゲームしようにも、周囲の目がありまくりで、手札をいつバラされるか分かったものではない状況。

 

 暇を持て余し過ぎて、室内でボールを投げ始めたのを明日奈が一喝して止めもした。

 

 

 

 …まぁ、要するにこういう事だ。雨のおかげで行ける場所が無く、隊員達は寝床で暇を持て余していた。

 お役目中なら雨くらいでどうこう言ってられないが、そうでもない時に意味も無く濡れに行くのもアホらしい。

 

 

 …せめて傘か、合羽の類でも作っておくべきだったなぁ。そうすれば、せめて散歩なり、鬼を惑わす結界の視察くらいには行けただろうに。

 雨でも体を動かせるような施設、作っとくべきか…。体育館って事にすれば…うん。特筆するような機能も必要な石、寝床と同じくらいの広さで建物を作っておけばいい。鍛錬でも玉遊びでも、好きにさせておけばいいだろう。

 怪我しない程度に…ああ、掃除係、メンテナンス係は必要かな。

 

 何でもかんでも与えてばかりじゃ教育に悪いとは言え、状況が状況。何も知らない子供達と、何も無い生活環境だ。まずは伸び伸びと生活できる環境を整え、感性を育んでもらいたい。そのけっか、俺に歯向かうなり反発して飛び出すなりしても……まぁ、いいだろう。

 

 

 

「…若、外を見て黄昏ているんでしたら、手伝っていただきたいんですが…」

 

「何をぬかす権佐。若様の手を煩わせるつもりか!? そもそもこれは、若様が我々に学べと用意してくださった…」

 

「天音、興奮しないでくれ。書類が飛び散る」

 

「む…すまん、骸佐。しかし…」

 

「………」(小人さんと戯れる紫)

 

「シビシビシビシビシビ」(正座して作業していたら、足が痺れて痙攣している雪風)

 

「…あまり騒ぐと、この二人の同列と見なされるぞ」

 

「…………次の書類…」

 

 

 テンションが上がりやすい天音を、骸佐が諫めてくれた。意外とリーダー向きな子だと思う。

 ちなみに、本来彼らを統括すべき役割を与えている天音だが、彼女自身もこういった書類の読み方は知らず、情報を纏めるやり方も知らなかった。最初から与えられてなかったのか、或いは与えられているけど当時のやり方と全く違ったのか。恐らく後者だろう。

 ともあれ、戦闘部隊の統括役である天音が、その部隊のやり方をあまり知らないと言うのはよろしくない。丁度いい機会だから一緒に勉強しろ、と連れて来たのだ。

 俺が直接教えると言う事で恐縮していた天音だったが、今後の仕事に差し支えが出るのだから、縮こまっている場合ではない。

 

 

「ちなみに若、若自身のお仕事は?」

 

 

 もう済ませた。今日は元々、予定していた作業量はそう多くなかったからな。

 

 

「…また浅黄に手伝わせたのですか?」

 

 

 いや、今日は神夜。あと天音、それに関してはあんまり口外しないように。あまり大っぴらに出来る手法じゃないからな。…骸佐達も詮索するなよ。

 

 

「よく分からんが、何も言わん。そんな事をしている暇があったら、この書類と睨めっこする時間を1秒でも減らす。一応聞いておくが、この研修が終われば、出撃できるんだな?」

 

 

 ああ。そろそろあっちも、いい加減手伝ってくれと本気で思ってきてる頃だ。これ以上引き延ばすと、協力する気がないんじゃないかと思われかねん。

 正直な話、人員に不安がありまくりだが…それは誰でも同じだろうし。

 出撃頻度は、そうだなぁ…。あちらさんの人員数と斥候の頻度がこれくらいで…必要とされるのがこうで………うん、最終的には、3日に一度くらいが義務になりそうだ。それ以上の活動をしたいのであれば自由…とまでは言わない。限度を作るが、その範囲内なら自主的に任を受けてもいい。

 

 

「いや、聞きたかったのはそれではなくて、今日中に出撃できるのかって事なんだが」

 

 

 ああ、そっちか。まぁ問題ないよ。ただ、出来ればウタカタのモノノフ達と一緒に出撃してもらいたいな。あっちの出発に間に合わないようであれば、この場に居る4人での出撃になる。

 その場合、ここで必死で読み解いた情報は半分くらいが無駄になってしまうけどな。

 この書類、今日出撃予定のモノノフ達の情報だから。

 

 

「そう言われると、どうにかして間に合わせたくなりますな。書類仕事は面倒とは言え、やった分の見返りは欲しい所です」

 

 

 そう思うなら、猶更とっとと済ませる事だ。もうあまり時間は無いぞ。頑張れば間に合う範疇だけど。

 ほれ紫、虚空に手を伸ばしてないで、さっさと処理を進めろ。このままだと最初からやり直しになる上、出撃だってできないぞ。

 雪風も痺れたフリして寝ようとするんじゃない。

 

 

 …結局、紫は『浅黄に言い付けるぞ』で一念発起。雪風は『暫く遊んでやらない』で物凄い嫌そうな顔しながらも、何とか研修をクリアしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸いな事に、雨は意外と早く止んだ。丁度、骸佐達がウタカタの受付所に到着した時だ。雨の中を走って来たのに、とブツブツ不満も出たが、まー仕方ない。天気は天の采配だ。予測はできても確実性はない。

 何とかウタカタモノノフ達の出発に間に合い、それぞれの班に入れてもらえる事になった。

 

 特に歓迎されたのは、紫と権佐。実力的には他の二人に負けていないが、どうやら先日の試験の事を、大和のお頭か息吹が触れ回ったらしい。

 後は、特殊なタマフリの性質の問題かな。怪力の紫は、戦闘不能になった人を軽々担いで走れるし、権佐は土の中に隠れて移動し、索敵する事ができる。

 

 それに対して、骸佐と雪風は正面からの戦闘タイプだものな。いざと言う時、大型の鬼に見つかった時には非常に心強いが、斥候部隊や救助部隊は敵と戦わないのが基本だ。どうしたって、前者2人の方に比重が傾く。

 

 

 

 

 さて。

 

 

 

 4人をそれぞれの隊に任せ、俺は執務室に戻る…フリをして、こっそり隠れた。

 

 

 

「…隠れるのは構いませんが、何故僕の所に?」

 

 

 単純に、隠れやすい場所だったから。秋水、でよかったよな? すまんが自己紹介は今度で。

 

 

「構いません。茅場さんから、一通りの事は聞いていますので。…あの男とも繋がりがあるようですが」

 

 

 そこらへんはまぁ、隊を助けた時のゴタゴタと言うかね。

 …お、あいつら出発した。それじゃ、後を尾けるからもう行くわ。またな。

 

 

「生憎ですが、会いたいとは思いませんね」

 

 

 辛辣ぅ。

 

 

 



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469話

 

 さて、秋水とも一応面識を作ったし、あいつらを追いかけますかね。

 …しかし、秋水の隔意は今までのループとは桁が違ったな…。明確に九葉のオッサンに近い人間として振る舞ってるからか? 何せ金銭物資その他の形で援助まで受けてるしな。

 見捨てられた北の地に居た秋水にしてみれば、自分達は見捨てておいて…と感じているのかもしれない。

 

 

 

 そう言えば、北の地出身なんだよな…。シノノメの里とは別の場所みたいだが、繋がりはあったんだろうか?

 明日奈と神夜と話をさせてみようか。茅場から話を聞いていると言う事は、滅んだと思われていた里が、異界消失後に接触を図って来た事も知っているだろう。…もしかして、秋水が居た里も残っているんじゃないか…って期待が出たんだろうか。

 だったとしても、そこで行動を止めるような奴じゃないか。もし本当に里が無事で残っていたとしても、たった一人でも失われていれば、それを取り戻そうとするだろう。本人も、もう止まれない所に来ているんだと思う。

 

 

 

 

 が、それはそれとして追跡。雪風達4人は、それぞれ別の部隊に配属され、軽い説明を受けて出発した。

 幸いと言うべきか、全く別の方向に向かうのではなく、ある程度バラけながらも同じ方角へ。これは里から出る道が限定されていると言う事もあるが、索敵範囲を広め、何かあった時に救助に入れるようにしている為だ。

 

 正直な話、鬼との闘いになった場合については、あまり心配していない。少なくともここの4人は、ミフチ程度なら一対一でも戦えるくらいの力はある。

 が、問題なのはその性格と経験の少なさ。下手な自信があるだけに、「鬼が出ても蹴散らしてしまえばいい」「こそこそ隠れて進む必要などない」等と言い出し、ウタカタのモノノフ達を巻き込んで危険に晒す可能性がある。

 その辺の事は先程の研修で、口を酸っぱくして…慣れない事務処理で脳がグロッキー状態になっているところに、洗脳染みた勢いで禁じておいたので大丈夫だと思いたいが…。

 

 

 

 適当な高所から、4つの班の状況を見下ろす。馬鹿と煙は高い所が好きと言うが、実際高い所に陣取るメリットは無視できない。

 現にこうして、隊の状態を確認できる。持ってきてよかった双眼鏡。

 …ヒノマガトリが寄って来たけど、睨みつけたら逃げてった。

 

 さて、肝心の隊の様子は……今のところは大事無し。進行方向にも、強力な鬼は居ない。

 と言っても、モノノフ斥候部隊レベルの実力だと、鵺とか鳴沢とかの小型鬼でも脅威だからな。特に陰摩羅鬼の群れとかが相手だと、集中砲火で殲滅される可能性だってあるから油断はできない。

 

 一見すると、順調に進んでいるように見える。しかし…予想通りと言うべきか、退屈しているっぽいな。好き好んで鬼と戦う理由もない筈だが、さっきまでの研修で結構な鬱憤が溜まっている筈だ。発散したくなるのも無理はなかろう。

 …ここで暴発するようなら、研修不十分として当分出撃を禁じるけども。

 

 

 おっ、骸佐がいる隊にカゼキリが近づいている。あの走り方は、縄張りを犯された時のものじゃないな。一定の場所に留まっているタイプではなく、徘徊して獲物を見つけた時の動きだ。

 斥候部隊としては最優先で捕捉するべき対象であり、同時に最も危険な相手でもある。

 縄張りを作って留まっている奴らは、良くも悪くも近付かなければあまり動かない。それに対して、こういう奴は見つからずにやり過ごせば何処かに消えるが、同時に何処に現れるか分からないし、一度見つかれば延々と追ってくる事もある。

 戦闘能力が低い彼らにしてみれば、誇張無しで命取りだ。

 

 さて、あいつらはどうするか。普段の斥候部隊であれば、襲撃を知らせる合図…狼煙なり鏑矢なりを放って、一目散に逃走、或いは隠れる。

 逃げきれないと判断したら、他の隊が救助に来てくれるまで、何とか耐えるしかない。

 

 …まだ、狙われている事に彼らは気付いていないようだ。どうする? 様子を見るか?

 カゼキリの攻撃は、決して軽いものじゃない。文字通り風のように遠距離から接近してきて、鋭い爪や牙で一撃必殺…なんて事もやってのける。

 このまま黙って見ていれば、あの中の一人は欠けてしまう事も………おや?

 

 骸佐班の一人が慌てている。気付いた…のか?

 いや、でもカゼキリは行動を起こしてない。気配を隠しながら、狩りをする獣そのものの挙動でじりじりと距離を詰めている。

 この距離で気付くのは、普通じゃちょっと厳しいと思うが……。

 

 

 手を出すべきか悩んでいたが、事態はそれより早く進展した。

 骸佐は半信半疑だったようだが、残りの3人は迷わず遁走体制に入った。本当に気付いたみたいだな…。

 慌てていた当人はともかく、残りの2人がすぐに信じたようだし、これまでも同じように気付いた実績はあるんだろう。異様に勘がいい…と言うか、危険を理屈抜きで感知するタイプか? 偶にいるよな、そういう奴。

 そう数は多くないだろうけど、やはり最前線で生き残っているモノノフ達。いい駒が揃っているようだ。

 

 

 しかし、残念ながらその判断は間違いだ。カゼキリの移動速度は半端ではない。

 もう少し距離があればともかく、今の状態では隠れる事さえできはしない。咄嗟に狼煙を上げるところまでは見事だったが…。

 隠れる事を止め、飛び出したカゼキリが襲い掛かる。狙うのは狼煙を上げたモノノフ。それを放置すると面倒な事になると知っているのか、それとも単に動きに反応しただけか。

 

 あわや一名の命を食いちぎられる…と思った瞬間、タマフリを発動させて体を強化した骸佐が妨害に入った。

 体を張ってカゼキリの爪を受け止め、反撃に顔面に刀を一発叩き込む。

 質量差はどうにもならずに吹っ飛ばされたが、咄嗟の対応としては満点以上だろう。

 

 

 さて、逃げられぬとみて骸佐は正面から戦い始めた。襲われていたモノノフ達は、逃げるべきだと少し騒いだが、カゼキリと互角に渡り合う骸佐の姿に勇気づけられたのか、遠巻きながらもタマフリや遠距離武器で援護を始めた。

 それと同時に、周囲の鬼達の動きも騒がしくなる。戦いの音に気付いたか、それとも狼煙を見て好奇心が疼いたのか。

 天敵同志が戦っているとみて距離を取り始める鬼も居れば、漁夫の利や食い残しを狙ってコソコソと近付く鬼も居る。

 

 それに紛れ、他の3隊も集まり始めていた。そちらのウタカタモノノフ達の手腕は分からないが、権佐・雪風・紫の3人がかかりであれば、カゼキリにはそう手古摺る事はないだろう。

 問題は、近付いてきている2体の別の大型鬼。

 一体は同じカゼキリ……いや、よく見れば色が違うし、帯電している。アマキリ? この時期に?

 

 そしてもう一体は……………うん? 何だあれ? 今まで見た事も無いぞ。この世界だけじゃない。三つの世界の、どのモンスターにも似ていない。

 何と言うか………不定形物質と固体の間を行き来しているような……何だろ、クトゥルフ系のゴチャゴチャしたモンスターを、もっとスケールダウンさせたような。

 

 …よく分からんが、とりあえず狩るか。

 アマキリの方は問題ない。距離もまだあるし、こいつらの動きは飽きる程見てきた。俺の知らない切り札がある可能性を加味しても、骸佐達に接近する前に仕留めてしまえる。

 

 問題は、あのよく分からん奴か…。正直、このまま観察していてもこれ以上の情報は手に入りそうにない。仕掛けるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 骸佐達は合流し、滅鬼隊4人の編成でカゼキリと戦い始めた。

 その間、ウタカタのモノノフ達は周辺で群れている雑魚鬼達の排除。こっちは問題なし。手傷は負ったようだが、タマフリでも充分対処できる範囲だ。

 滅鬼隊員の力のデモンストレーションとしてもいい塩梅だろう。普段であれば、逃げ隠れして欠員が出るのも覚悟する相手を、多少手古摺ったとは言え討伐する事ができた。

 主力部隊として扱うには時期尚早だが、いざと言う時の保険としての価値は認めさせることが出来ただろう。

 

 勿論、問題だってあるけどな。狼煙が上がり、急いで救援に向かう時、近付いているアマキリとか…あのよく分からん奴に気付かなかった事とか。俺に気付かなかったのは………うーん、微妙。気配を消してた訳でもないけど、かなり距離があったもの。

 

 

 次に俺の方だけど、アマキリは問題なし。カゼキリと骸佐達の戦いに乱入しようとした瞬間、横合いから奇襲でスパッと。そのままラッシュで片を付けた。

 もう一体のよく分からん奴は………なんだろうなアレ、雑魚だったと言えば雑魚だったんだが。

 

 結論から言えば、正体不明の鬼はノヅチだった。うん、ノヅチ。率直に言えば小型の雑魚鬼。それこそ、餓鬼に次ぐ雑魚と言ってもいいだろう。

 だが奴らの役割は、土地を汚して異界として作り替える…異界を拡大させる一因でもあり、決して放置していい鬼ではない。

 しかし、あいつにあんな能力は無かった筈だ。

 

 姿が見えなくなる程の膨大な瘴気を纏い、取り込んだ物を振り回しながら歩き回る、なんて能力は。

 

 

 近付いてみて分かった。不定形に見えていたのは、集められた瘴気が風等に揺られて蠢いていたから。固体が見えたのは、その瘴気の中に入っていた岩やら鬼の部位やらが不規則に出たり入ったりしていたからだ。

 本当に鬼なのかも疑わしく思えたが、鬼の目でじっと見てみれば、瘴気の中央付近に小型鬼の影が一つあるのが分かった。罠…とか疑似餌の類じゃないかと思い、足元から突然鬼が襲ってきたりしないか警戒しながら、神機で狙撃。

 瘴気の渦もなんのその、見事にスナイプできた。

 

 するとあっという間に瘴気が撒き散り(下手なモノノフが浴びると危険な濃度だったが)、中からガラクタとノヅチが一体現れた…と言う訳だ。

 訳が分からない。疑問は晴れなかったが、丁度骸佐達の帰り道だったのが運の尽き。鬼祓もせずに、そのまま姿を隠して帰ってきてしまった。

 

 

 

 

 

 戻り、骸佐達が報告を終えて解散した後、こっそり大和のお頭に相談してみた。

 

 

 

「心配でこっそりついて行ったとは、心配性な頭領だな」

 

 

 仕方ないでしょ。あらゆる意味で経験が足りてない連中なんだ。心配にもなる。

 

 

「ふっ…それにしても、ナナキキが出たか。珍しいと言うか懐かしいと言うか」

 

 

 ナナキキ…? 鬼とは結構やりあってるつもりだけど、聞いた事ないな。図鑑にも載ってなかったと思うし…。

 

 

「だろうな。ナナキキ…名無き鬼、と呼ばれているが、俗称のようなものだ。一個の鬼ではなく、現象と言った方が正確だろう。聞いた話では、モノノフが組織され始めた頃や、オオマガトキでの大戦で何度か目撃されたそうだ」

 

 

 現象…?

 

 

「うむ。一口に鬼、と言っても色々いるだろう。当然、まだ発見されていない鬼や、突然変異で現れる鬼も居る。この現象を見たモノノフの多くは、正体が何であったとしても、そういう未知の鬼なのではないかと考えるのだ」

 

 

 確かに俺も考えたな。

 しかし、実際には単なるノヅチだった。あれだけの瘴気を纏ったノヅチが、単なる…なのかは疑問が残るけど。

 

 

「そこは俺にも分からん。だが、このナナキキの中心となっていた鬼…時には鬼以外の場合もあるが…の中には、今までの鬼と似ても似つかない鬼や生物が入っていた、という報告もあった。瘴気を受けて突然変異したのか、或いは根本的に違う『何か』なのか…」

 

 

 …どうにもスッキリしない話ですな。

 

 

「あくまで俺の私見だが、こいつは鬼とは違う気がするな。昔から、幽霊の正体見たり、とは言うが、中には本物もあったのかもしれん。鬼よりもずっと古くから、稀に生まれ落ちてきた奇形児…その場限りの、命を繋いでいく事もできない『何か』…」

 

 

 成程ねぇ。その手の奴は、名前を与えると形を持つってのが定番だが…。

 

 

「何種類かの鬼は、これに名前を付けられた結果かもしれんな。流石にここまで来ると妄想の類だが、ナナキキはそれ故か不吉の前兆として語られる事が多い」

 

 

 考えてみれば、道理と言えば道理かな。古来からの伝承全てが鬼の仕業と言う訳でもなし、世界にはまだまだ俺達の知らない何かが人知れず蠢ているのかもしれないって事か…。

 そして、普段とは違う現象が発生していると言う事は、異常があると言う事。

 

 …これから、何が起こると思う?

 

 

「さて、な。何が来ようと、我々はウタカタと人間を守って鬼を斬る。…希代の新戦力も来た事だしな。当てにさせてもらうぞ」

 

 

 

 

 

 

 



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470話

 

 里から隊の屯所(?)に戻ってくると、結構盛り上がっていた。

 お役目に向かった4人にも注目が集まっていたが、それ以上に盛り上がっているのは浅黄が行っている試験である。

 

 今戦っているのは、紅。少々自虐的なところがある双刀使い。

 戦闘、特に攻撃に特化しているタイプで、滅鬼隊の中でも特に高い身体能力と、それをフル活用した回天や烈風(縦回転する技)が持ち味だ。特に回天は『旋風陣』と名付けられ、それこそ下手な鎧ならズタズタに切り刻んでしまう程の切れ味を誇る。

 

 双刀自体も高機動戦闘、立体的な戦闘に使用される事が多い為、凄いスピードでの勝負が繰り広げられている。

 が、どちらが優勢なのかは誰の目にも明らかだった。

 

 紅が双刀を連続して振るう。縦、横、同時に左右から、飛び上がっての奇襲…。

 それら全てを体裁きだけで避けきって、浅黄は無造作に反撃する。その殆どが紅の刀で受け止められ、1割くらいは体ごと動いて避ける。

 

 

「旋風…陣っ!」

 

 

 追い詰められてきた紅が、大博打と言わんばかりに回天を放つ。が、浅黄は動じず構わず、真正面から接近する。

 紅にとっては信じられない事だっただろう。連続して振るわれる刃が、かすりもしない。全ての剣閃を見切り、それらが通過した僅かな隙に歩を進め、次の一閃を回避し、また一歩、回避、回避、一歩…。

 

 結局、旋風陣は一発も当たる事なく、間合いを突き放す事すらできず、逆に技の終わりに刃を喉元に突き付けられる結果になった。

 

 

「……参りました」

 

 

 武器を手放し、両手を挙げる紅。若干以上に傷つき、自信を無くしたように見えるのは気のせいではないだろう。尤も、それくらいの方がいいのかもしれない。幾ら戦闘特化型とは言え、実際に鬼と戦った事など一度もないのだから、大それた自信を持たれる方が困る。

 対する浅黄は、何やら妙に不満顔だった。浅黄の動きも大分自然になってきて、そう悪くは無かったと思うが…?

 

 

「大分錆びも落とせてきたわ。体がまともに動くようになってきた…。それはそれとして紅。あなた、全力を出していないでしょう」

 

「!? い、いいや、手を抜くような事などしていない!

 

「誤魔化せるとでも? 私は他の『紅』の事だって知っているし、実際に使っている所を見た事もあるわ。あなたの『切り札』をね」

 

「………ッ!」

 

 

 ジロリと睨む浅黄と、名前とは正反対に顔を青くする紅。

 

 

「別に、あれを使わなかった事を責めているのではないわ。これは試験、模擬戦だもの。技や力を使う使わないは、受け手の自由よ。あなたがその力を好んでないのも知っている。…気にする必要はない、と言っても納得できないでしょうね。でも、いざと言う時に備えて使いこなせるようにしておきなさい。後悔するのも、後悔すら出来なくなるのも自分よ」

 

 

 ふん? 何か切り札があるのか。えーっと、紅の資料には何が書かれてたっけ。

 あー…なんだ……確か、『鬼の力を使える』と書いてあったっけ。具体的な情報は無かった。

 

 

 ………それ、滅鬼隊全員同じなんですけど? 彼女達が使う特異なタマフリは、鬼の力を人に後付けしたものだ。率直に言って、何を今更………いや、今更じゃないのか。改造された自分の体や精神を疎んでいるのかもしれない。

 むしろ、そっちの方が当然かもしれないな。実感が無くても、自分の知らない間に体を好き勝手されてりゃ、嫌な印象の一つも持つだろう。

 

 そもそも、好悪の感情に理屈なんか関係ないからなぁ。しかし、気に入らなくても使える力があるなら使ってほしいものだ。最低限、暴発する事のない程度には掌握してもらわないと。

 

 

 肩を落として引き下がる紅。…失格判定だったか? 戦力は充分だが、メンタルに問題あり、かな。

 次に試験を受けるのは、凛子と沙耶根尾だったか。凛子はタマフリ『空』を利用した戦い方・技が上手くて、沙耶根尾は背中から生える触手が武器。…触手に非常に興味はあるが…。

 

 

「あふぅ………スゥ…スゥ……」

 

 

 沙耶根尾はお昼寝モードに入っています。こりゃ、この子の今日の試験は無理そうだな。

 凛子の試験にも興味はあるが、作成を依頼していた結界を見に行かねばならない。雨とお役目の様子見で結構な時間を使ったからな。さっさとノルマをこなさねば。

 

 

 

 さて、結界作成を依頼した場所にやってくると不知火と、何故か三郎なる暗号名を特別に付けられている、環。…いや、本当に何で三郎なんだろうね? 本人も不思議がっていた。滅鬼隊を作った連中は未来と言うよりパラレルワールドに生きている気がしてならない。

 環は鬼を…特にミフチを操る力を持っている。…が、実際に試した事は無く、操れたとしてもどれくらい自由に出来るのかは不明だ。

 その力を使って、接近する鬼を追い返したり、同士討ちさせたりできないかと考えて、結界作成班に組み込んだんだ。 

 

 …ところで、二人だけかな?

 

 

「ええ。説明も実践も、私達だけで充分ですから」

 

「ほ、ほかの皆は……試験を見に行きました…」

 

 

 そっか、お疲れ様。見たかったんじゃないか、試験?

 

 

「興味はあったけど…戦うのは、するのも見るのも好きじゃないし。…蜘蛛、くるかもしれなかったから。ササガニなら操れた。里に入れる事はできないから、帰らせたけど」

 

 

 そっか、能力試したかったのね。

 困った事に成功してもそこまで有効活用できないもんなぁ。仮にミフチを操る事に成功して、こっち側の戦力として扱ったとしても、その後どうするか…。

 馬みたいに小屋に繋いでても大人しくしてる筈ないし、いつも環をつけてる訳にもいかんし、そもそも何を食うのか…。

 

 

「? 戦った後、自害を命じればいい」

 

 

 …環ちゃん、何気にドライね。まぁモノノフの鬼に対する考え方なんて、そんなもんだよな。

 ハンターだって、一時手名付けたモンスターを手に掛けずに野生に還すくらいの情けはあるのに。まぁハンターは自分達も含めて調和の一部って認識があるし、それに対してモノノフにとっての鬼は世界を破壊する侵略者だ。無理もない。

 

 

 

 さて、本題だ。結界の成果は?

 

 

「概ね……良好…まだ規模は小さいけど…」

 

「当初は鬼を惑わし、誘い込み、処理する罠の結界を考えていたんだけど、確実に仕留めきる方法が見つからなかったの。まぁ、そんな罠があれば、とっくにモノノフが使ってるわね」

 

 

 む、確かに。滅鬼隊のタマフリを応用すれば…と思ってたけど、それだとその隊員がずっと張り付いてなければいけないしな。

 それでそれで?

 

 

「何より重要なのは、近付いてきた鬼を処理する事ではなく、鬼を近付けない事。何せここは、私達の居場所に最も近い異界ですもの。例え鬼を殺す罠が出来たとしても、罠で怒った鬼に大騒ぎされては鬱陶しくてたまらないわ」

 

「里の樒さんが言ってた……安眠は、大事…」

 

 

 お、おう…。一理あるな。樒さんの安眠妨害の一因としては耳が痛い。

 

 

「だから、まず見つからないようにする…。里への入り口を隠す…」

 

「具体的には、まず大型の鬼が侵入できないように、壁や塹壕を作る。偵察に来た小型の鬼だけなら、罠で処理するなり、環ちゃんが居れば操って『何もなかった』と思わせるなり、幾らでも手の打ちようはあるわ」

 

 

 成程なぁ…。まずは地上の鬼から対処、か。空を行く鬼については、何か手立てはあるか?

 

 

「不甲斐ない話だけど、そこはまだ何とも…。鬼だっていつまでも飛び続けられる訳じゃないから、敢えて止まり木のようなものを用意して誘導する、という案はあるんだけど」

 

「もし仕留められなかったら…鬼が休む場所を与えるだけになっちゃう…」

 

 

 そうか。まぁ、いきなり何もかもに対処できる筈はないわな。ともかく、まずは地上の小型鬼への対処を優先してくれ。

 

 

「小型? 大型じゃなくていいの?」

 

 

 いいの。こっちから狙いを定めて特定の相手を狩りに行くならともかく、襲撃で一番厄介なのは小物の数だ。浸透強襲戦術って奴だな。

 偵察にしたって、大型鬼なら見つけやすいし、一度に入ってこれる数も限られてるから、集中砲火で始末しやすい。

 それに紛れて、結界の中に小型鬼が潜伏される方が面倒だ。

 

 

「不知火さん、小型が相手なら…」

 

「ええ、幾つか通じそうな罠もあるわね。若様が先日呟いていた……とらっぷたわぁ、でしたか?」

 

 

 あー…アレを作るのかぁ…。そうか、まず幻影で追い返して、それを潜り抜けてきた奴は罠で纏めて始末…。

 多少哀れに思わないでもないが、生活の安全には変えられん。

 了解した。すぐにとは言えないが、何か考えてみよう。ピタゴラスイッチ的な、処刑アルゴリズム器械体操を。…なんか色々混じったな。

 

 

「では、私達はまず、この作りの結界を増設していきます。そうね、確かモノノフが使う秘術の中に、物理的にも精神的にも惑わせる術があった筈…。原理的には、石兵八陣と同じ物…。それを参考にして作って行けば、タマフリの効果が無くなっても…」

 

「不知火さん、どんなもの?」

 

「そうね…まず、よく目立つ目印と、方向感覚を失わせるような曲がりくねった道を作って…」

 

 

 二人で座り込んで、その辺にあった木の枝をペン代わりにして地面に図を書いている。

 なるべく早く完成させたい結界だが、現状で対処できない問題でもない。あまり無理はし過ぎないように。

 

 

 

 

 

 

 

 余談だが、お役目を任せるかの試験について。紅は合格、凛子と沙耶根尾は失格だった。凛子に関しては『自信を持つのはいいし、それだけの力はあるけど、己惚れになっている』と浅黄からコメント。沙耶根尾は………寝過ごした事に加え、『まだ殺し足りないよぉ…』という寝言がな…。当人としても、後から雪風達に書類仕事の面倒くささを語られて、『やっぱりや~めた』なんて言ってたよ。任を受ける代わりに、里の結界に近付く鬼達を始末する、遊撃隊みたいなポジションになるつもりのようだ。

 

 

 



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471話

 

堕陽月拾陸日目

 

 

 昨晩は、夜中に襲撃があって叩き起こされた。中途半端な時間に目を覚ましたからか、目を擦っている隊員も何人か居る。

 かく言う俺も、オタノシミの最中だったのを中断させられてオコである。敵は小型鬼数匹程度だったんで、ストレス解消に暴れる事もできなかった。…中断に関しては、放置プレイと言う事にしておいた。

 

 それはともかく、今日の予定を考えていたところ、凛子がやってきた。

 おう、どうした? 今日は試験をもう一回受ける為、自分を見つめ直すとか言ってなかったか?

 

 

「ああ。それは勿論なんだが…若、来客だ」

 

「客…? 連絡は受けていないけど」

 

「ああ、連絡無しで来たと言っていた。しかし、無下にする事もできない相手だ」

 

 

 秘書役としてついていた時子が、少々不快な顔をする。アポイトメントなんて単語は無いが、それでも先触れを出すという礼儀はある。

 尤も、俺自身も何も伝えず大和のお頭に会いに行ったりしているので、アポなしを責める事はできないが。

 

 ああ、例の決め台詞がよみがえる。

 アポはないけど…アッポゥならあるぜ。具体的には朝飯のデザート。

 

 

 誰だ? 報せも無しに訪ねてきそうな、無下にできない相手…心当たりは幾つかあるが。

 

 

「例えば?」

 

 

 んー、まず陰陽寮の茅場。滅鬼隊の…具体的に言うと詩乃の事でちょいと世話になった。俺にくっついてウタカタまで来るつもりらしいから、近日中に来訪があるかもしれない。…と言うより、今まで来てない事にびっくりだ。

 

 次に九葉のおっさん。滅鬼隊を援助している、出資者だな。一応言っておくが、封印前の滅鬼隊には関わってない筈だぞ。この人の場合、前もって報せを出さないのも分かる。それが許されるだけの地位と恩があるし、何らかの策の為に密かにって可能性もある。

 

 後は、博士…つっても分からんか。傍若無人で不遜な奴だけど、こいつは俺が呼びつけたようなもんだな。…手紙、ちゃんと届いているだろうか。

 

 他にはそうだなぁ…グウェン…なら、多分九葉のおっさんからの紹介状とか持ってくるだろう。無下にできないって事は、借りか地位のどっちかがある人だな。

 それで、今自分に会いにきそうな人……白浜君…は距離的にまだ無理か。関わりは強いけど地位は無いし。同じ理由で、シノノメの里の人達も無し。

 霊山新聞社の親子? いやでもここに来るか? …娘2人は来そうだけど、曲がりなりにも父親と和解してるから、今回どうなるか微妙。

 ウタカタのモノノフ……一番可能性はありそうだけど、誰が来たかと言われると検討がつかないな。息吹辺りなら、美人に会いたいって理由で来てもおかしくないけど。

 

 んー、現状ですぐ思いつくのはこれくらいかなぁ。

 

 

「…若、意外と顔が広いな」

 

 

 顔なんて人間社会で生きてりゃ、それなりに広くなるもんだぞ。重要なのは、そこからどうやって関係を深めていくかだ。

 単なる仕事相手で終わる事もあるし、お互い親切にしあってれば仕事が無くなっても交流が続いたり、いざって時に助けてもらえる事もある。

 問答無用で連絡が取れなくなる時もあるけどな。こんな世の中だし。

 

 戯言は置いといて、結局誰よ?

 

 

「む…あまり待たせる訳にもいかないか。では率直に言ってしまうが、ウタカタの里の神垣の巫女様だ」

 

 

 

 

 

 

 

 え、アナルマニア?

 

 

「? えあなるまにあ、とは何だ?」

 

 

 あ、いや、何でもないの。驚いて、つい関係ない言葉が口から洩れただけだから。…横文字知らない子達でよかった…。

 

 つい余計な事言っちゃったけど、橘花? 橘花が何でここに? いや、確かに他の里に比べて緩いから、ある程度自由に歩き回れるけど。 

 …ともかく、神垣の巫女様が来てるなら、会わない訳にもいかないな。

 分かった、ともかく通してくれ。

 時子、お茶と茶菓子の準備を頼む。

 

 

 

 

 少しして執務室に入って来たのは、確かに橘花だった。誰かの変装でもなければ、鬼が化けているのでもない。

 しかし、護衛の姿も無かった。

 どうなってんだ?

 

 いや別に来るのは構わないんだ。でも、いくら他の里に比べて神垣の巫女の扱いが緩いとは言え、一人で出歩けるような身でもなかった筈。もう少し時期が過ぎれば、里内の結束も固まって、一人で行動できる…と言うか、堂々と俺の元に逢引に来るようになったんだけど。

 この時期だと、一人歩きは桜花が許さないだろう。護衛が居なくても、自分だけでも陰から見守ろうと、ストーカー紛いの事さえしかねない。

 増して、仮にも外部勢力である滅鬼隊の元にやってくるなど論外の筈。自分達から言い出して、里の結界外れに住んでいる俺達だ。神垣の巫女を手に入れて、自分達を結界の中心に…なんて思惑を疑わても無理はない。

 少なくとも、手放しで信用される程の実績は、まだ積み上げてない。

 …これは、直接聞いた方が速そうだな。橘花も腹芸は苦手な人種だし、直接的な話が有効と見た。

 

 

 さて、遠路遥々…と言う程でもないけど、御足労頂きありがとうございます。

 滅鬼隊の頭領です。お初お目に…ではないですね。一応、里にやって来た時に顔を合わせましたっけ。

 

 

「ええ。あの時は驚きました。一度に何十人もやってこられるなんて、初めての事ですから」

 

 

 小さく笑う橘花からは、気負いらしい気負いは感じられない。少なくとも、あの時驚いたのは確かなようだ。

 して、何ぞ御用でもありましたかね?

 別に鉄火場でもなければ、来訪は歓迎しますが。一人になりたい時に来ても構いませんが………まぁ、文字通り一人になれるかは怪しいもんですな。人口密度で言えば、里より高いし。

 

 

「…その事についても、真に申し訳なく思っています」

 

 

 はい?

 

 

「里の結界維持は、神垣の巫女たる私の役目。戦う事も働く事もしない代わりに、皆様の安住の地を維持するからこそ、モノノフの皆さまは私を守ってくださいます。ですが、貴方達が暮らすのは結界の効力が及びにくい外れ。事実、何度か鬼の襲撃を受けたと聞いています。かくなる上は、結界の増強を…」

 

 

 待った待った待った。

 結界の増強って、それやったら術者に結構な負担がかかる奴じゃないか。下手をしなくても寿命が縮むような。

 

 

「はい…ですが」

 

 

 ですがも何もなーい。確か巫女様…ええい面倒臭い、橘花はモノノフ主力の桜花の妹でしょ。絶対、「橘花にそのような事はさせない! 結界の増強など不用、私が里に近付く鬼を全て斬る!」みたいな感じで、無理に無理を重ねて大暴れするぞ。

 

 

「うっ…………すごく…想像できます…」

 

 

 だろうね。実際、似たようなのがゲームストーリー本編でも前ループでもあったよなぁ。それで気まずい雰囲気になったりもしたし。

 要するに、何? 俺達が安全な場所に居られない事に、罪悪感でも持った?

 

 

「…有体に言えば、その通りです。繰り返しますが、里の結界を維持するのは私の責務です。命惜しさに、やってきてくれた応援の方々を危険に晒すなど…」

 

 

 …手が震えるのは、後で突っ込むとして。

 あのー橘花…様? 色々と段階をすっ飛ばしてる事にお気づきですか? と言うか、モノノフはどうしてこんなに極端から極端に走るのだろうか…。

 

 

「橘花、でいいです。近しい方々は、そう呼びますから。…段階、とはどういう意味でしょうか?」

 

 

 神垣の巫女の地位は鬱陶しい事もあるかもしれませんが、里にとっては最重要な役職者。その人にいきなり負担をかけるような選択肢を取る筈がないでしょうが。

 下っ端なら負担をかけてもいいって事じゃないけど、現実に神垣の巫女は替えがきかない。霊山にも、一人前と言えるだけの力を持った巫女は殆ど居なかった。

 そんな状態で、橘花が無理し過ぎて倒れたどーすんの。やるにしても、その前に手を尽くすに決まってるでしょうが。

 例えば、里に近い場所の森を伐採して居場所を作るとか、援助や労働力と引き換えに、居候させてもらうとか、2階建て3階建ての建物を作って、そこに住むとか。

 

 何だったら、自分達で鬼を避ける為の結界を貼る事も考えられる。ついでに言うと、今その為の試行錯誤の真っ最中だ。

 聞いてないかな? 結界の出入り口付近に、鬼の接近を阻む為、色々仕掛けを作ってるの。

 

 

「それは……いえ、聞いた事はありません」

 

 

 そうか。ま、大々的に言えるような規模のものでもないし、現場での戦いについて神垣の巫女に伝える必要もないもんな。

 

 そもそも、ここに住んでるのだって俺の判断だ。この場所を選んだのは、住処を作れる丁度いい場所が無かった事もあるが、隊員達の戦闘訓練に丁度いいから。

 さっきも言ったように、何処か適当な場所を開拓して住処にする事もできる。もしも、それを望む隊員が居るなら…生活が落ち着いてからになるけど、それをやってもいい。

 

 要するに、俺達の現状に橘花が責任を感じる必要は無いし、何かやるにしてもいきなり自分だけに負担を集中させるのは下策中の下策って事だ。

 

 

「あ、あうぅぅ…」

 

 

 なんか強い口調で論破するみたいな形になっちゃったけど、とにかく背負いこみ過ぎです。まず先に、周りの人に相談しなさい。

 ま、仮に実行しようとしたとしても、桜花のみならず大和のお頭とか、色んな人から止められて、同じような事を言われると思うけどな。俺達の扱いについては、もうちょっと表現を選ぶだろうが。

 

 色々言ったけど、気にかけてくれてるのっては伝わったんで…うん、その心配りには素直に感謝します。

 

 

 …あらら、かなり凹んじゃってるよ。無理もないか…。気負って来たのに、空回りでしたなんて言われると、そりゃ凹むわ。

 このまま帰すと、面倒事の種になりそうだな。何か、橘花の気を引けるような話題……そう、この頃の橘花は、今まで通りなら…………よし。

 

 

 うん、橘花が思ってるように危険かもしれないけど、意外と楽しいもんだよ。

 うちの連中は色々と訳有りなんだけど、それを抱えて居場所を作っていくのは…何と言うか、胸が高鳴る。

 自分の道を、自分で切り開いてるって実感があるんだ。

 

 

「…自分の道を、ですか」

 

 

 おっ、反応あり。この頃の橘花は常に閉塞感を感じていて、自分の力で歩いて行けるモノノフに憧れを持ってるからな。自分の道を自分で決めている、と言われれば反応するだろうと思ったが、ドンピシャだ。

 

 これはこれで、結構大変だけどね。やらなきゃいけない事や、どうしようもなくてもどうにかしないといけない事は山ほどあるし、今は何とかなってるけど将来的な懸念事項は次々出てくる。

 人間、どこでどういう風に生きてても、やりたい事だけやれるような生き方は出来ないからねぇ。

 

 

「自分で道を決めていても、ですか? …例えば、モノノフであっても?」

 

 

 むしろ、だからこそ面倒事は一層増える。命の危険、生活崩壊の危機なんて当たり前だ。それも、一人だけじゃなく何人も巻き添えにして。

 モノノフのお役目の事だけ考えても、そりゃ危険極まりないだろ。

 この里は…今まで割と上手くやってたみたいだけど、いつ死人が出てもおかしくない。動揺させない為に橘花には教えられてないかもしれないが、大怪我してる人も、再起不能になった人も居るだろう。

 そういう事やぞ。モノノフだから、強くて自分の道を歩いて行けるって事じゃない。限られた選択肢の中から、まだ良さそうな物を選んでいくしかない。

 このご時世だ。どの道を選んでも、命の危機からは逃げられない。ただ理不尽に襲われて、必死の抵抗が上手く行って生き残ったか、力と運が及ばず『何も無くなる』か。未来からじりじりと迫ってくる恐怖や圧迫に対して、泣き喚きながらも抗っていけるのか。

 ただそれだけさね。

 

 

「…まるで、私の胸中を見透かしたかのように話されるのですね。…そうです。私は、ずっと自分がモノノフであれば、と思っていました。神垣の巫女と言う縛られ守られるだけの立場ではなく、強いモノノフであれば、自分の行きたい所に行けるのだと。…そうですね。そんな筈がありませんでした。もし本当にそうなのであれば、モノノフが死ぬ事など無かったでしょうに」

 

 

 神垣の巫女が抱える不安は、大体似たようなもんだからな。

 シノノメの里の雪華も、その先代達も、自分だけが守られているとか、結界の負担で徐々に寿命が縮んでいく気がするとか、どうして自分だけがとか、全く外の世界に触れられないとか、出会いが無いとか、このままじゃ一生異性とお話する機会さえないとか、一度でいいから逢瀬を体験してみたいとか、意中の人にせめて告白したいとか、そういう不安を抱えていたもんだ。

 

 

「………あの、後半の不安が偏りすぎではないでしょうか?」

 

 

 嘘偽りなく本当なんだよなぁ…。それで化けて出てくるくらい本当なんだよなぁ…。

 まぁ、俺が言っても信じにくいだろうし、雪華に手紙でも出してみたらどうだ? 俺もそろそろ、現状報告くらいはしておくべきだし…。(雪華の場合、こっそり俺を覗き見てる事も多いんだが。実は今も)

 それくらいなら、桜花達も心配はしないだろ。俺の文と一緒に出せば、ちゃんと読んでくれるのは保証する。…届くまでに何もなければ、だけどな。

 

 

「文ですか…。神垣の巫女同士の文通。考えた事もありませんでした。雪華…雪華……と言うと、確か霊山で修行していたころ、名前を聞いた事があるような無いような…。でも、実現したら面白い事ですね。不安を共有して励まし合ったり解決策を考えてみたり、ちょっとあった楽しい事とかを書いたり」

 

 

 それを許してくれるくらい、里が開放的なのが条件だけどね。他の里の事を知った神垣の巫女が、不満を貯めて爆発…なんて可能性もあるし。

 ま、雪華は少なくとも大丈夫だ。後は…そうだな、マホロバの里には、確か『かぐや』という修行中の巫女候補が居た筈だ。正式な巫女じゃないから、まだそこまで規制は厳しくないだろうし、試しに送ってみればいいんじゃないかな。

 

 

「いいですね。巫女同士であれば、上手くやれば文が無くても遠距離からの通話もできるかもしれません。他愛のないお喋り、緊急事態での援軍の要請、色々考えられます。……ああ、そうですか。これが、自分の道を自分で切り開く、と言う事なのですね。実現させるのは大変そうですけど……なるほど、これは胸が高鳴ります」

 

 

 ははっ、元気が出たようで何よりだ。

 文を送る時は、俺も同時に出したい。その時には声をかけてほしい。

 

 

「はい! …本日は、ありがとうございました。お話にきただけだったのに、とても元気をもらった気分です。…何だか話しやすいんですよ。また来てもいいですか?」

 

 

 いつでもどうぞ。護衛は…まぁ、好きにすればいい。ただ、ちゃんと話を通してからで頼む。ただ遊びに来るだけなのに、不要な緊張が走りかねん。

 ところで一つ聞きたいんだけど、結界増強の話って誰から出たんだ?

 

 

「誰、と言われても…私が考えたんです。…空回りでしたけど…」

 

 

 …俺達の置かれた状況について、誰かから聞かされた?

 

 

「はい。秋水さんから」

 

 

 …やれやれ。揺さぶり工作は続行か。

 ま、秋水には立ち位置を翻すような必要性はないからな…。獅子身中の虫的な立場から、変わりはないんだろう。

 ウチの隊員達が秋水のやっている事に気付いても、ちょっかいを出さないように釘を刺しておかないとな。…いやしかし、下手な事を言うとそれこそ妙な勘繰りと思い込みから暴走しかねない。

 うーん……里の人達について疑問や要望がある場合、まず俺を通せって言っておくか。細々とした報告が必要になるけど、個人的な事ならともかく、規則についての問題なら、しかるべき手順を踏んでの要請じゃないと不正を要求している事になりかねないし。

 

 

 

 

 

 …ところで、涙ぐみながら俺の発言をメモって滅鬼隊で共有しようとしている時子はどうするべきだろうか。と言うかそこまで大騒ぎする事……なんだろうなぁ、この子達にとっては…。

 



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472話

 

 さて、今日も今日とて色々と作業中。ここ最近、狩りに出てないのが悩みである。

 個人的に暴れたいってだけじゃなくて、やっぱりウタカタのモノノフと信頼関係を育むなら、同じ戦場に出る事は必須だろう。

 代わりに滅鬼隊の子達が戦場に立ってくれるが、それでは俺は後方での作業員にすぎない。大事なのは事実だが、やはり同じ死地を駆け抜けた仲間と言うのは格別だ。

 と言うか、いくら信頼している組織の統括役だったとしても、一見さんをそうそう信用できる筈もあるまい。少なくとも、どっかで相応の力があると示しておかないと。

 

 

 だがとりあえずは、ウチの子達の生活環境が先である。

 えー、水洗トイレは最優先で作った。

 風呂も舞華頼りだけど、初日に作ったな。

 今は4人共同だけど、部屋を増設していっている。

 

 希望者には、神夜考案のベッドも提供していた。…「こんなに簡単に作れるなら、里に居た時に実物を見せてくれても…」と文句を言われたが、流石にそれはどうしようもない。いつどんな夢を見て、何が出来るようになるのか、そもそも理屈も分かってないんだから。

 明日奈の希望で台所の機能も増設したし、暇潰し用の遊具も作った。

 その材料を調達する過程で、伐採により訓練場も出来上がった。雨が降った時用に、体育館も作ったな。トレーニング器具…鉄製じゃなくて木製だけど…もあるぞ。

 

 本を読みたい、という子も居るから図書館を建てようかと思ったけど、肝心の本が無い。今は里から何冊か借りる事で誤魔化している。

 その他、珍しい物としては、鹿之助専用の訓練場も作った。日記には書いてなかったけど、彼のレーダー能力を鍛える為の特訓を続けていたのだよ。そろそろデビューさせてもいい頃かな。

 

 さて、次は何を作ろうか……と思っていたら、ちょっと珍しい意見が。『物を作る場所を作ってほしい』との事だ。

 話を聞いてみれば、俺が設備を作っているのを見ている内に、物作りに興味が沸いたのだそうだ。これを言い出したのは守波理恵。………漢字だけど、どう考えても横文字の名前よね? 沙耶根尾もそんな感じだけど。

 簡単な作業台を作ってみたところ、何故か守波理恵を含む数人が駆け寄ってきて拍手をしてくれた。何となくハートが集まった気がした。

 

 ともあれ、作業台は本当に簡素なもので、ぶっちゃけ木の板を組み合わせて台にしただけだ。

 だが守波理恵にはそれで充分だったらしく、そこから何かの設計図を描いたり、それを作るのに必要な道具を考案したりと実に楽しそうだ。

 放置しておくと、遠からず所謂マザーマシンさえ生み出しそうだ。設計図を描く彼女に、夢の中であった口搾艦…もとい工作艦の面影を重ね合わせてしまった。

 

 …マッドになるなとは言っても無駄だろうから、分別のついたマッドになってほしいと切に願う。

 

 

 

 さて、それはともかく鹿之助についてだ。

 あらためて記しておくと、一言で言えば生体レーダー持ちの滅鬼隊員。その外見は率直にショタ。下手をすると少女と見紛う時すらある。どう見ても、そっち向けの趣味全開で外見を弄り回されたと思われる。

 なお、非処女なのかは不明。起こす時もぶっかけで起きたからな。

 

 性格はとにかく自信が無く、実際戦闘力は滅鬼隊員の中でも最下位に近いだろう。だが逃げ隠れ避けるの動きはかなりのもので、有体に言えば逃げ足が速い。ただし泣き喚きながら逃げるクセがあるので、もし鬼を相手にしたらかえって注意を惹きながら逃げる事になるだろう。

 しかして、彼の真価は戦闘能力ではなく、その察知能力にある。臆病な性格もいい方向に働いているのか、とにかく気を抜かずに周辺の気配を探り続ける。

 索敵が上手いだけでなく、その能力を応用して資材の場所まで感知できる…つまり、ゲーム的に言えばレアアイテムを拾う確率が高くなる。しかもその対象を任意で指定できるとなれば、ロード孔明並みに過労死待ったなしである。

 

 実際、訓練として「これと同じ素材を、近くの森から10個集めてこい」とかやっていたら、あっという間にこなせるようになってしまった。

 地面に埋まっている鉱石の類から、一見すると見分けがつかない野草まで、実物があればそれと似たような形の物を簡単に見つけ出す事ができる。実物が無くても、形や性質がある程度分かれば、「これじゃないかな?」と場所の予測がつけられるようになった。

 どこから広まったのか、素材に限らず私物を無くした隊員から、物探しを頼まれる事も多いそうな。

 

 交友関係は……専ら男連中と固まってる事が多いな。

 それ以外では、里に何度か遊びに行く事もあり、子供達と仲がいいらしい。年下の子供にナメられているようだが、あのくらいのガキ共なんてそんなもんだ。生意気盛りだからな。

 

 隊員達の中では……これは俺のせいでもあるだろうが、少々やっかみを受けているようだ。陰湿な事はされていないようだが、俺が贔屓にしているように見えるらしい。

 否定しきれないよ、こればっかりは。鹿之助自身は遠慮しようとしたんだけどな。

 

 鹿之助に素材探知能力があると知った俺は、専用の訓練場まで作り、生存確立を上げる為に防具まで用意した。俺の使っている防具は、MH世界・討鬼伝世界問わずサイズが合わないんで、新しく新調したくらいだ。

 ちなみに用意したのは、限界まで強化した抜忍の装束シリーズ。防御力のみならず全属性に耐性を持ち、更に非常に軽量で動きやすい最上級の一品である。素人モノノフに渡すもんじゃねーな、我ながら。代わりの武器は初期の無強化弓なので、武器と防具の格差がえらい事になっている。………鹿之助、やっぱり今からでも『えびぞり』使わない? ちゃんと武器として使える上に、いざと言う時に食えるんだぞ。しかも何故か腐らない。海老の匂いはするけど。…嫌ですかそうですか。

 

 …他には、趣味で用意していた(そして今までのループ中に、3界のそれぞれの技術で鍛えまくった)ひょっとこ面・おかめ面等もあったのだが、流石にそれを被って戦場に出るのは嫌すぎると断固拒否された。

 猫耳飾りはギリギリで了承してもらえたんだが、こいつに付けると里のおねーさん達が妙な性癖に目覚めそうな気がしたので辞めておいた。そっち系に目覚められると、俺が口説きにくくなりそうだし。

 

 

 ともかく、専用装備・専用訓練所・頭領自ら訓練(いつかのループのコウタ・ロミオとかが見れば『優しすぎて本当に教官なのか疑わしい』と言いそうな内容だが)をつけると、小心者の鹿之助にとってはとんでもない重圧だったようだ。

 最初に遠慮しようとしたのも、今思うと遠慮と言うより逃げようとしてたんじゃなかろうか。だが逃がさぬ。

 頭領にここまでしてもらったんだから結果を出さなきゃならない、と必死にやってたようだが、無事形になったようで何よりである。

 

 

 そろそろ、実戦に出てもらおうとしよう。

 

 

「えええええ!? ちょっ、もう!? 訓練初めて、まだ…ええと…」

 

 

 具体的な日数はともかく、自分の成長や能力を確かめてみたくないか? 自分がやってる事の成果が分からないんじゃ、やる気も失せてくるだろう。

 心配するな、浅黄の試験は免除する。鹿之助に求めてるのは戦闘力じゃないからな。いざ敵に接近された時、自分の身を護る事はしなきゃならんけど、逃げ隠れに徹すればそうそう死ぬ事もないだろう。

 最初の任は、紹介も兼ねて俺もついて行く。

 

 

「いやいやそこじゃなくて…と言うか、また贔屓されてるって言われる…」

 

 

 …それもそうだな…。しかし実際、隊の中でも珍しい技能を持っていて、特別な価値を持ってる訳だからな。現状で言えば唯一の。

 特別な人間を特別扱いする事は、おかしな事じゃないだろう。

 

 実際に任について、その成果を示せばやっかみも少しは治まると思うぞ。今でも物探しでいいように使われてるんだろう? 無碍に扱われている訳じゃないようだが、その能力でこれだけの事が出来るんだぞ、ってのを示せれば、見る目も変わってくるし、自信もつくと思うぞ。

 

 

「そう…なのかな…。いやでも…うーん……危険…は若が直接守ってくれる訳だし…確かに自分がどれだけ効果を上げられるのかは気になる…。そうでなくても、モノノフである以上はいつかは戦わないといけないんだし…」

 

 

 …ふむ、大分その気になって来たな。だがここで無理に押し切るのは、長期的に見れば悪手。強制されたり流されたりしたのではなく、自ら決断した…という実感が自信と根拠に繋がっていく。上手く誘導すれば不信感も出ない。

 ここは敢えて、一歩…いや、半歩…引く…! 逃げる機会を追わせる事こそが…釣りッ…!

 ……もし辞退されても、追わない、追わない、何も言わない………見えないように尻でも抓っておこう…。

 

 気が済むまで考えてくれ。聞きたい事や問題があれば、その時に聞けばいい。今回の任を見送ったとしても、今後の扱いは変わらない。別に、強くなってから戦いに出たいと言うのも間違いじゃないしね(震え声)

 

 

 

「あ、待って若! 行くよ、今回で行く! 自分で分かってるんだ、訓練だけ続けてたって自信なんかつく筈無いし、実戦に出なきゃ本当に強くなんてなれない! それを待ってたら、いつまでも俺はここで足踏みしてるだけだ!」

 

 

 ……もう一回だけ聞くぞ。いいんだな?(顔がニヤけないように、剥ぎ取りナイフで尻をチクチク)

 

 

「ああ、俺だって男だ! やってやる!」

 

 

 フィッシュ!

 

 

「ふぃっしゅ?」

 

 

 あ、悪い、何でもない。よく決断したって歓声を上げてしまった。

 ともかく、話は決まりだな。明日の斥候任務に同行する。話はこっちで通しておくから、考えられる限りの準備をしてみてくれ。

 これも訓練の一環だ。実戦経験者の権佐達に話を聞いてもいいが、役割の違いだけは考慮に入れておくように。

 

 

 

 …ふぅ。上手く行ったか。うーむ、鹿之助も横文字が分からなくて助かった。

 橘花の時と言い、余計な事をつい口走るようになってるな。気を引き締めないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで話は変わるが、アスカに滅茶苦茶怒られた。隣りに居た天音がキレそうになるくらいに怒られた。が、反論の余地が全くない。

 いや真面目に反省するべき事だったわ…。

 

 俺がそれに気付くのを待とうとしていたらしいんだが、痺れを切らしてしまったらしい。

 その内容とは、手隙の滅鬼隊員に仕事を振れ、と言う事。現状だと、一部の人間にしか役割らしい役割が無いし、それを差し引いても彼女達にやらせられる事はあるだろう、と。

 今の彼女達には、情操教育の為と称して遊んだりする事を推奨しているが、それならば猶更仕事を振らなければならない。遊んでばかりで学校にも行かない子供が将来どうなるか、想像に難くないだろう。

 

 具体的には、自分達の世話を自分でさせる事。自ら生活を向上させる事を考え、その手段を模索する事。それそのものが、彼女達の仕事と言う事にすればいい。

 例えば今だって、建物や設備を作るのは全て俺が行っている。マイクラ能力を活用すれば、普通にやるよりも遥かに簡単に作成できるのは確かだが、逆に言えばそれがなければこれ以上の増設は不可能になる。

 だったら、今から試行錯誤して、自分達で作らせればいいではないか。自分の生活に使うものなのだ。自分で確保して自分で手入れするのは当たり前だ。

 

 この叱責がアスカから出たのは、かつて部隊を率いていた経験故だろう。

 全て自分でやろうとする指揮官は下の下。それなら最初から、人を雇ったりしない方が人件費がかからないだけマシである、と。

 

 最初に里にやってきた時も、舞華に風呂沸かしを任せたしな。

 俺が直接やるのが一番効率がいい手段ではあるが、最も効率のいい方法しかとってはならないという理由はない。むしろ、そのやり方に拘った挙句、全体の効率を堕とすようでは本末転倒。

 何より、子供達には成功して褒められる経験も必要だが、失敗や挫折も同じくらい必要なのだ。

 

 

 

 



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473話

 

 

堕陽月拾漆日目

 

 

 さて、色々あったが鹿之助のデビュー戦である。戦わないのが基本なんだけど。

 俺の仕事は、俺しかできない物は昨日のうちに済ませ、残りは災禍達を初めとした数人に任せてある。アスカは実働部隊の管理役に回ってもらった。

 尚、本来なら本日、俺の机の下でジュポジュポする役だった詩乃は予定変更してお休みとしている。不満そうだったので、後で埋め合わせをしなければなるまい。

 

 

 そういう訳で、鹿之助を連れて、モノノフの受付所にやってきた訳だが。

 おお、紅も居たか。

 

 

「若? 何故ここに…それに、確か……鹿之助、だったか」

 

「えっと……紅…でよかったっけ?」

 

 

 …二人とも、相手の顔と名前を辛うじて一致させた。無理もないよな。普段関わらないと、同じクラスの中に居ても顔と名前が分からなくなるってよくあるよな。

 いくらウチの連中が基本的に仲良しだからって、その中で関わる関わらないはどうしたって出来るし。

 

 俺は鹿之助の付き添いだよ。諸事情あって、こいつには絶対に生還してもらわなきゃならんのでな。

 

 

「それで付き添い…と言うより、現場まで護衛に出ると言う事か? 若自身が? それこそ、誰かに任せれば済むだろうに。私達でなくても、実戦経験豊富な神夜さん達とか」

 

 

 神夜はなぁ…。強敵に会うと、そのまま突撃しちゃうからなぁ…。護衛には向かないのよ。

 明日奈はまだ飯作りから離れられないし。

 

 ま、一番大きな理由は、俺も久々に体を動かしたくなったんだよ。ここの所、書類仕事ばかりで体が鈍るのなんのって…。

 

 

「まぁ、若がそれでいいと考えているなら、私は構わないが…。ウタカタの皆はどうなんだ?」

 

 

 紅が振り返ると、そこそこ年を食ったモノノフが答える。確かこの人、結構なベテランだった筈…本人は才能が無く主力にはなれなかったと自虐するが、何に襲われても物凄い逃げ足で生き延びてくると言われていた人だ。ちなみに既婚者。

 

 

「儂は構わぬ。そちらの頭領と共に行くとしても、何か変わる訳ではない」

 

「じっさまがそう言うなら、こっちも」

 

「じっさま言うな。私も構わない。構わないが…」

 

 

 一人のモノノフ…女性モノノフで、割とキツ目の性格だった…が鹿之助に目を向ける。

 若干険の在る視線を向けられ、鹿之助が怯んだ。それを見て、益々鹿之助を見る目付が悪くなる。

 

 

「こう言ってはなんだけど、使い物になるの? 何人かあなたの所のモノノフと同じ班になったけど、それに比べるとはっきり言って弱そうなんだけど」

 

「な、何だとぅ!?」

 

 

 思わず反論する鹿之助だが、声がちょっと裏返っている。やはり自分が弱いと思われ、黙ってはいられないか。この子も男の子よの。

 まぁ、今までの連中と比べて、腕っぷしは無いのは否定できない。

 

 が、こいつの真価はそこじゃない。俺としては、ウタカタの里にとっても最重要人物の一人になると考えている。

 

 

「わ、若……俺の事をそんなに……」

 

 

 おう、自信持っていけ。今日の任が終わる頃には、お前に向けられる視線も正反対に…。

 

 

「そんなに持ち上げられると、なんだか胃が痛くなってくるんだけど」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 ああ、視線が痛い。やっぱり芯が無いのはいかんな。はやいところ、自信を付けさせないと。

 まぁ、いいから早く行こう行こう。ここで問答してても意味はない。強さとは語る物ではない、示す物だよ。

 

 

「妙に深い事を言う…。よかろう。どの道、そちらの隊員を受け入れると言う事は、大和のお頭からの命令にもあったしな」

 

「むぅ…。納得はできませんが…じっさまがそう言うなら」

 

 

 そういう訳なんで、よろしくお願いします。

 紅とは別行動になるけど、そっちも気をつけて。特に、背後や地面からの奇襲にね。

 

 

「分かった。鬼達に、人の正しき道というものを教えてやる!」

 

「鬼なんだから人の道なんて知っても、意味ないんじゃないかな…」

 

「…鬼達に、人の底力と言うものを教えてやる!」

 

 

 律儀に言い直す紅に、生暖かい視線が向けられた。

 と言うか、正しい人の道って、俺が居るのにそれを掲げられてもな…。いや、滅鬼隊を作った連中に比べればまだマシか。

 

 

 

 

 さて、そう言う訳で、出発。受付所を出て、里から唯一出入りできる道…つまり、滅鬼隊の住居を通って、里の外へ。

 …別に問題と言う程問題じゃないが、これって二度手間だなぁ。滅鬼隊員からすれば、すぐ外に出られる場所に陣取っているのに、任を受けるのにわざわざ里に向かって、そのまま同じ道をとんぼ返りする必要がある。

 無断で出撃する訳にもいかないし、受付所をこっちに作れないだろうか。木綿ちゃんを連れてくるのは大和のお頭が許してくれそうにないから、誰か事務役を一人置いたり…。

 

 

 里から出ていく時、更に増設された見慣れない建物について聞かれたり、鬼を惑わす結界について色々聞かれたりしたが、それは置いといて。

 それじゃ、ここから別行動だな。紅、気をつけて。

 繰り返すけど、地中や背後、上からの奇襲には気をつけろよ。

 

 

「分かっている。戦闘は最低限にして、斥候で済ませるさ。幸い、今は行方不明者も出ていないからな」

 

 

 それじゃ皆さん、うちの子をよろしくお願いします。

 おう、と元気よく答えて、紅達は出発した。

 

 

 さて俺達も…と思ったところで、足元からツンツンと突かれる感触。

 …どうした? 行かないのか?

 

 

(行きますがね。ひょっとしなくても若様、俺達が最初に任に出た時も、後ろからこっそり尾行してました?)

 

 

 ようやく気付いたか。距離が離れてるとは言え、あんまり本気で隠れてなかったから、気付くかと思ったんだが…。

 いつまでも気付かないようなら、本格的に訓練が必要かと思ってたぞ。

 

 

(そりゃ…必要でしょうなぁ。当時は全く気付けなかった、つまり警戒が足りてなかったって事ですから。もし若様でなく鬼だったらと思うと、いつ壊滅してもおかしくなかった。気を入れていかなきゃいけませんな)

 

 

 任が終わった後に、実は付けていたんだ…って晒すぞ。途中で気付いていたならそれも良し、気付いてないなら自分達に足りない部分を自覚させる。

 さて、そろそろいいだろう。紅達の護衛は任せる。限界まで手を出すなよ。あと、自分でも土中の鬼と遭遇しないように気をつけるように。

 

 

(了解です。それでは権佐、護衛は性に合いませんが、行ってきます)

 

 

 地中から気配が遠ざかっていく。

 さて、俺達も行きますか。

 

 

「ああ…しかし、どうしたんだ。突然地面を見ながら何やら呟いて」

 

 

 何、神仏英霊に、うちの子達が無事でありますようにと願掛けしただけだよ。物理的に護衛をする願掛けだけど。

 

 

 

 

 

 

 さて…今回の任だけど、俺は暫く様子見に徹させてもらいたい。

 ウタカタの皆さんには悪いんだが、俺がついてきたのは、この子がどれくらい役割を果たせるかを見極める為だ。

 勿論、危ないと思ったらすぐに戦列に加わる。

 

 

「はぁ? 何よそれ。頭領だからって、それが許されるとでも? 大体、見なさいよこいつ。緊張して硬直しまくってるわ」

 

 

 確かに、キツ目の女モノノフが言うように、鹿之助はとても動ける状態ではない。これで鬼に襲われた日には、体が竦んで何もできない内に喰われて終わりだろう。

 が、こいつの真価は、まず鬼との闘いを避ける為のものなんだよなぁ。

 

 

 ほれ、鹿之助。

 

 

「ひゃい!?」

 

 

 ほれ、とりあえず例の奴をやってみろ。上手く行かなくても、まだこの辺なら俺も気配だけで何処に何が居るか分かる。

 実地に試してみようぜ。

 

 

「……………………よ、よしっ、やってやる! すーっ、はーっ、すーっ、はーっ……」

 

 

 深呼吸して平常心を保とうとする鹿之助。別にいいけど、深呼吸は最初に吐いてから吸うのがいいんだぞ。古くなった空気を吐き出して、新鮮な空気を吸えるからね。

 もっと極めれば、ニンジャスレイヤーめいた呼吸法も出来そうだけど、それは置いといて。

 

 鹿之助の全身から、燐光が漏れ始める。

 おおっと声を漏らした同伴のモノノフ二人(一人は影が薄い)の口を塞いで、黙ってみているよう囁いた。

 

 

「…一番近くに居るのが、あっちとこっち、その一区域向こうに餓鬼。あっちの区域には、鬼火とササガニが集まってる。何かに集ってる…のかな? ああ、地形からして水辺があるんだ。うーん…ササガニが多いって事は、ひょっとしてミフチも居る…? でも反応はないなぁ…」

 

 

 ふむ…地面の下は分かるか? ドリュウが何匹か潜んでる。

 

 

「…うん、あそこに2匹、あっちに……なんだか物凄く数が多くて、絡み合ってるんだけど…」

 

 

 蛇の交尾みたいになってんのか? 何でそんな触手地獄みたいな…。もしかして紅に反応して、異種姦しようとしているんじゃあるまいな。もしそうなら今から消し飛ばすけど。触手遊びは俺も出来るから、他者にやらせる理由がない。

 

 

「紅達なら、正反対の道を進んで、今から山に入るところみたいだけど」

 

 

 …そうか。

 じゃあ、次。二人とも、今何か欲しい資材ってある? 鉄鉱石とか、そういうの。

 

 

 

「…私は、勇ましい埴輪とか」

 

 

 …何故それを。あ、悪いけど鬼から採れる物は除外で。

 

 

「? じゃあ、僕は純魄。ほら、ハクの結晶だよ。ないなら古銭でもいいけど」

 

 

 影が薄いモノノフ君、何気にハクにがめついようだ。換金アイテムやんけ。

 ちょっと待て、確か実物がここに……純魄は無いから、古銭な。

 

 ほら、鹿之助。やれるか?

 

 

「…よし、出来そう。この埴輪によく似たものが………あっちの高い木の根元、鬼が集ってる池の水辺、雅の領域入り口近く……うん? ちょっと感触が違うような…。古銭はこの辺りには無さそうだなぁ。同じ感触の反応が全然帰って…あ、いや待った、あの高い木の下、埴輪と同じ場所にあるっぽい。でもこれ、埋まってるのかな…」

 

 

 その後も暫し燐光を撒き散らしていたが、捜索終了したのか大きく息を吐いた。それと同時に燐光も消える。

 目を丸くしていた二人の口を解放したが、唖然としたままだ。

 

 

「…若、俺何か失敗した?」

 

 

 鬼の捜索については、特に失敗は無かったと思う。と言うより、それを今から確認しに行くんだよな。

 物資の捜索は、俺でも気配を探れないから確認しに行くしかない。

 とりあえず、二人の目的の物がある、あっちの木の根元に行ってみようか。幸い、そこまでに鬼の気配は無かったしね。

 

 

「…鬼と、探している物の探知が出来るって事か…!?」

 

「へへっ、そういう事。実物が必要だから見た事もない物は探せないし、やったのは初めてなんで、実はちょっと自信ないけど…」

 

「いやいやいや、さっきまで悪かったわね! 最重要人物になるって理由がよく分かったわ! これからは仲良くして頂戴!? 任務に出る事があればいつでも呼んで頂戴、全力で駆けつけるわ!」

 

「いや俺の方こそ仲良くしてくれ! そんで地面に埋まった財宝を引き当てて一獲千金目指すんだ! そして金の力でミタマも装備も強化して無双する! 男だったら分かるだろ、この浪漫が!?」

 

 

 全力の掌クルー。

 とりあえずもう行くぞー。騒ぐのは後にしろよ。ひょっとしたら、大外れだったって可能性も無いではないんだから。

 

 

「大丈夫、その時はもう一度掌を返すだけよ!」

 

「…本人の俺が居る前でそれを言う…」

 

 

 鹿之助、気にするだけ無駄だぞ。こういうのは世の常だ。

 欲望満載なのは否定しないが、ウタカタのモノノフは人情もあるから全否定するようなものでもない。

 上手く餌を操れば、主導権を握るのも難しくないしな。

 

 そんじゃ、ちゃんと探知できたか、確認の時間と参りますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、実際には。

 

 

「見つからなかった……失敗だったのか…」

 

「かーっ、期待させといてさぁ! でもまだ残りの奴があるし! 全部外れたと決まった訳じゃないし!」

 

「つっかえね! 鬼を前もって見つけられるのは凄い助かったけどさぁ! 最初に居るって言ってた鬼が居なかったりもしたけどさぁ! お陰ですげぇ回避が楽だったけど!!」

 

 

 お前ら貶してるのか慰めてるのかどっちなんだ。いや両方なんだろうけど。

 それはそれとして、埴輪と古銭見つかったぞ。土の中じゃなくて、木の内側に取り込まれてた。

 

 

「生意気な口を利いて申し訳ありませんでした鹿之助さま足をお舐め致しますのであと10個くらい探すの手伝ってくださいませ」

 

「やればできる子だと思ってたぜ鹿之助大明神様さぁこれから金銀財宝発掘しまくって里を発展させていこう取り分は俺が3割でいいです失礼な事いってごめんなさい五体投地します」

 

 

 こいつら双子か。

 

 

「「え、双子だけど」」

 

 

 …さよけ。鹿之助、大丈夫か?

 

 

「いや大丈夫かって言われても、そんなに酷い暴言…を吐かれた内に入るのかなこれ…。最初だけ貶されたけど、後は慰められてるよな…。そんな態度とらなくても…あ、ちょっ、本当に舐めようとするなよ! 俺そんな性癖ないよ!」

 

 

 まぁ何だ、こうやって上げて意図的に落として、弱みを握ってからまた上がるのが基本だぞ。

 しかし男の方、見事に金銭欲がダダ漏れだなぁ。金が欲しけりゃ地道に商売するのが一番だぞ。

 

 

「それだと失敗する可能性もあるじゃないか。大体、俺が欲しいのは金じゃなくてハクなんだ。俺は真剣に考えてるんだぞ。何せ、ハクの力でウタカタを守ろうとしている男だからな!」

 

「ハクの力で…?」

 

「まーた始まった。鹿之助君、相手にしないでいいよ。要は楽して儲けたいって言ってるだけだから」

 

「それだけじゃないけど、否定はしない」

 

 

 ほう? 面白そうだ。道すがら、ちょっと語ってみろよ。

 

 

「聞きたいか? 聞きたいんだな? よし、鹿之助とその頭領の頼みだし、特別に教えてあげよう! モノノフの戦力を上げるのに、一番簡単な物って何だと思う?」

 

「そりゃ…特訓とか実戦とか? でも簡単かって言われると…」

 

「簡単じゃないし、何よりそれで実力が伸びるかは本人次第。いや、本人が真剣にやってたとしても、素質が無かったり、やってる内に大怪我、悪ければ死ぬ事だって珍しくないじゃないか。何より、そんなに大変な思いをしても、強くなれるのは訓練をした本人だけだ」

 

 

 ふむ? 確かに。続けて?

 

 

「だけど、誰がやっても一定の効果を上げられる方法がある。それは装備だ。頑丈な鎧、鋭い刃、相手に適した属性…そりゃ最終的には本人の技量に大きく左右されるだろうけど、安全性は大きく増すし、鬼を倒すのは各段に楽になる筈だ。素材だって必要だけど、ハクの負担が無くなるだけでもかなり違う。

 そして何より、力の結晶であるハクには、金銭にない使い道がある。何だか分かるか?」

 

「いつもあんたが言ってる事でしょ。ミタマの強化よ」

 

「そう、その通り! モノノフが戦う上で欠かす事ができないミタマ。祭祀堂でハクを注ぎ込んでもらう事で、強化できるのは言うまでもない。こればっかりは、金銭じゃできない事だ。今は装備に使うハクや、ミタマの強化に使うハクはモノノフ一人一人が自分で調達してるけど、これを全部肩代わりできたら、どうなると思う!?」

 

 

 成程。ミタマは最初から最盛期かそれ以上の力を持ち、新人モノノフにも最初から一定以上の装備を用意する。

 自力でコツコツ強さを積み上げていく時期をすっ飛ばすから、自分の力を見誤る奴が増えそうだが、それを差し引いても全体の生存率は上がるな。食い扶持も増えるが、働き手が減る事に比べれば収支黒字。

 全体が増えれば頭角を現す奴も増えてくるだろうし、もし実現すれば鬼に対して有効な戦力が各段に増える。

 

 

「お、おう? そう、そうなんだよ。そういう事を言いたいんだよ、俺は」

 

「嘘吐きなさい。毎回毎回ハクが無い、装備を揃えるのが面倒、モノノフ一人一人が自分で装備を整えるのはおかしいだろって、愚痴言ってるだけじゃない。要は自分がやるのが面倒だから、誰かに強くしてほしいだけなのよ」

 

「余計な事言うな!」

 

 

 まぁ、それでも一理あるのは確かかな。曲がりなりにも組織だった武装集団なんだし、ある程度までは道具を組織が融通するべきではある。

 最初に支給される武器も、充分な出来栄えなんだけどね。

 

 それより、そのやり方が有用なのは認めるが、ハク特有の問題は分かってるか?

 

 

「特有の問題? ……金では発生しない問題、って事か?」

 

 

 ああ。いや、金でも発生はするだろうけどな。

 ミタマの強化にハクを使う場合、ミタマは途端に貯金箱に化ける。しかも、割っても入れた物を取り出せない感じの。

 ハクは今や金銭の代わりを担っている。言って分かるかは知らんけど、経済ってのは一か所に金が溜まり続けると淀むんだそうだ。

 小難しい理屈を考えなくても、ハクをミタマに食わせるって事は、そのハクは何処へ行く?

 

 

「何処って…そりゃ、ミタマの中に」

 

「お馬鹿、そういう事じゃないでしょ。でもある程度は、祭祀場の樒さんにも渡すわよね」

 

「若が言ってるのは、渡さなかった分はどうなる、って事じゃないの? どうなるかって……あっ! ハクが無くなる!?」

 

 

 そう、その通り。少なくとも、その後の取引には使えなくなる。それ以外の使い道なら、手元からハクが無くなっても、他の人の手に渡り、ハクの総量は減る事はない。

 巡り巡って、自分の元に戻ってくる。…ちゃんと働いて、社会の仕組みも健全に回ってれば、だけどね。

 だけどミタマを強化する場合は違う。一度注ぎ込んだらもう出てこない。鎮魂で力を最初期に戻しても、ハクが戻ってくる訳じゃない。

 ついでに言えば、ミタマを強化する為のハクの必要量は、聞いただけで心に傷ができそうなくらいだ。効果が実感できるくらいに強化するなら猶更ね。

 多少の額ならともく、一人一人にそれを行っていくとなると、里の財政が保つ筈がない。万一保ったところで、その後の生活を回していけるだけのハクなぞ残る筈もない。

 

 

「ハクを稼いでくるのはどうですか!? ハクって力の結晶だから、異界とか、山野の色んな所にちょくちょく落ちてるじゃないですか。そこで鹿之助君ですよ」

 

「いや、どう考えてもハクの量が釣り合わないな。それだけの量のハクを稼ぎ出せるなら、最初からやってるよ」

 

 

 金を箪笥する、とかプールする、って言うんだけどな、こういうの。どっかの悪徳商人とかが、自分の所に徹底して金を貯めこんで、他の人達に行きわたる金が無くなるんだよ。

 …すまん、なんかミタマを悪徳商人扱いしてるみたいだ。

 

 

「あー…確かにちょっと怒ってる感じはしますけど、言ってる事は理解できたんで…。あとここまで真剣に考えてくれて、ありがとうございます。正直、そんなに深い考えがあった訳じゃないんで、なんか申し訳なくなってきた…」

 

 

 いや、こっちも暇潰しに聞かせてもらったようなもんだしな。

 鹿之助、この二人との繋がりは大事にしとけ。お前の能力をいい感じに活かせそうだし、着眼点が面白い。

 ただ、欲に釣られて暴走しないように、主導権はきっちり握っておくようにな。

 

 

 

 その後も鹿之助が探知した物資と鬼は大当たり。最初は頼り無さそうと言われていた鹿之助の評価が天元突破した任務だった。

 俺としては、戦える相手も居なくてほぼ空振りの任務だったけどな…。まぁ雅の領域に入ってもいないのに、大型鬼が出る筈もなかったんだが。

 

 

 

 

 

 

 話は変わるが、里に戻ってから早々に紫を口説き落として抱いた。

 …唐突すぎる、と思ったかもしれないが、逆だ。むしろ遅すぎるくらいだった。

 

 先日の試験合格以来、紫は鈍った勘を取り戻す為と称して、連日ウタカタのモノノフ達と共に任務に当たっていた。それは別に構わなかったし、人手不足のウタカタとしても非常に助かっていたようなので、俺も何も言ってない。

 が、一つ重要な事を忘れている。滅鬼隊の隊員は、主の声を聞いたり手に触れたり、そういったスキンシップが無いと、急速に精神的に不安定になっていくのだ。強い力を振るい、活発に活動すればする程、その傾向は強くなる。

 それは紫も例外ではなかった。

 

 一見すると、紫は平常だったように見えた。取り乱す事もないし、鬼に襲われた時も混乱や過剰な戦意を爆発させるような事もなく、ウタカタの人達とも仲良くやっている方だ。

 が、やはり表面化してないだけで、かなり不安定化が進んでいたのだ。

 『鈍った勘を取り戻そうとする』。これがその象徴だった。

 

 確かに、最盛期に比べて動きは鈍っているんだろう。浅黄もここ数日の試験によってどんどん動きがスムーズになってきているし、同じように戦力が落ちているのもよく分かる。

 それを見て、じぶんも早く元に戻らないと…と戦いを希望するのも、まぁ分からんではない。

 

 が、それ自体が落とし穴。

 復帰の為に戦えば戦う程精神的に不安定になり、小さな空回りが発生し続け、それをどうにか取り戻そうと更にムキになって戦い続ける。

 結果、精神が更に不安定になり、それは刷り込みや暗示によるものではなく、元通りに動けない為の焦りだと思い込む。

 しかも、意地を張ってるのか、俺に頼るのが嫌だったのか、戦いだけ行ってその後のフォロー…俺との触れ合いも全く無かったのが最悪だ。

 今後は、任に限らず活動した後のモノノフは、その後報告も兼ねて俺と少しばかり話し合わなきゃならないな。そうしていれば、紫の症状にももっと早く気付けたし、それ以前に防止策になる。

 

 自分の症状を認めず、浅黄の命さえ拒否しかけた紫だったが、そこは口八丁で口説き落とした。

 チョロロ~ン…と効果音が聞こえそうなくらい簡単に口説き落とせたが……まぁ、本人の気質もあるだろうけど、それ以上に刷り込みが仕事しやがったって事なんだろう。

 後は、密かなコンプレックスと言うかトラウマと言うか、そう言うのを浄化できたのも大きい。

 

 …昔…つまり封印される前、紫はかつて、一般人と一度だけ恋仲になった事があったらしい。

 浅黄曰く、そういう例は幾つかあったが、上手く行った例は聞いた事が無い。精神的に不安定になった滅鬼隊が、耐え切れずに狂い死にしたり、きっと帰ってくると恋人に誓って運営主の元に戻って来たものの、更に強い洗脳で忘れさせられたり寝取られてしまったりとか。

 紫の場合は……言ってはなんだが、そりゃそうなるよな、という話だった。

 

 紫の滅鬼隊員としての能力は異常な程の怪力。極大の戦斧をブンブン振り回すあの怪力は、ハンターの中にもそうそう居ない。

 そんな怪力で、人を…一般人を思い切り抱きしめたら、どうなるか? 控え目に言って、全身骨折。

 

 

 …これは紫だけの事じゃない。ゴッドイーターやハンターと一般人の間でも、似たような問題は時々あった。俺自身もそうだな。

 俺達の力は、少々強すぎる。それなり以上に頑丈な相手じゃないと、思い切り抱きしめる事すらできやしない。

 

 

 そういった惨劇を起こしてしまった事もあり、紫は色事に対して忌避感を持っていた。「自分を抱いた奴は全て殺してきた」なんて言ってたが、これはその自虐みたいなものだ。

 だが、だからこそ心の底で望んでいる。思い切り抱き着いて力を入れても、小揺るぎもしない強い伴侶。

 自分以上の力で抱きしめ返してくれる主人。

 

 

 それを示す為の行動は、強姦そのものだったけどな。

 薬とか拘束具とか一切使わず、正面から力で押し倒し、抵抗しようとする紫の服を引き裂き、偶に飛んでくる拳を耐えきって、強引に挿入。突っ込まれてもジタバタ暴れるが、これまた力で抑え込む。

 その後はいつも通り、腰が抜けて力が入らなくなるくらいに感じさせ、一番奥にぶちまけた。

 

 罵声が段々喘ぎ声になっていくのが、こういう無理矢理イタす事の醍醐味だな。

 一発ヤッてしまえば、紫は途端に大人しくなった。むしろ甲斐甲斐しく奉仕し始めたくらいだ。

 最も頼りにしている『怪力』を小細工なしで捻じ伏せられ、男女としても格の違いを文字通り叩き込まれ、全力の抱擁も平然と受けきる。植え付けられた異常な力を鼻で笑い飛ばし、自分をか弱い乙女に変えてしまうオス。

 自覚があったのかは分からないが、紫が求める伴侶…いや、ご主人様の理想像を体現してやれば、あとはもう欲望一直線だ。

 

 ご主人様に求められるという、雌の至上の名誉を受けて、紫はあらゆる意味で俺に忠誠を誓った。

 改めて抱いた好意と、洗脳による恍惚が交じり合って、それをぶち壊して染め上げる快楽に沈む。

 限界まで体力を酷使して、幸福の時間を享受して、紫は気を失った。

 

 

 

 ふむ…。紫の事はこれでいいだろう。ご主人様とのセックスに抵抗なんかある筈ないから、精神的に不安定になってきたら自分から抱いてほしいと懇願しに来るだろう。

 問題は、そうなる前の紫が自分の状態を認めず、俺との行為を忌避していた点。浅黄からの命令で、ようやく俺に抱かれる気になったようだけど、それでも抵抗感全開だったからなぁ。

 精神的に不安定になっとして、素直に俺の所に来る子ばかりじゃないって事か…。

 

 

 差し当たり、今日が初任務だった紅の様子を見てみるか。

 権佐からも報告は受けているが、当人として任務がどうだったかの報告も聞きたいしな。

 



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474話

 

 

堕陽月拾溌日目

 

 

 紅は恥ずかしがり屋で甘えんぼさんだった。うん、普段はキリッとしてクールな感じだけど、甘えだすとすっごい可愛くなった。

 …いや、まだ抱いてないよ? 紅が恥ずかしがって、そこまで踏み込めなかったからね。

 

 昨日の任務の話を聞かせてもらっていたんだが……まぁ、概ね問題は無し。驚いた事に、権佐の警護にも薄々勘付いていたらしい。

 確証はなく、何処にいるかも分からなかったが、誰かが背後をついてきているような気がしたそうな。

 それに気付いただけでも上出来だ。少なくとも雪風とかだったら、背後の事なんぞ気にせずGO GO GO AHEADした挙句に奇襲を受けるのが目に見えている。

 

 そう言って褒めると、目を反らして頬を掻きながら、「そ、それほどでも…」と照れていた。

 まぁ、全く問題が無い訳じゃないんだけどな。

 任務の内容はともかく、この子はどうやら自虐的と言うか、余計な事をしょい込むと言うか、自分に対する要求が高いようだ。

 鬼の群れと遭遇した時は、「戦闘は避ける筈だったのに、避けきれなかった」「鬼の反撃を許してしまい、一緒に行動していたモノノフが傷ついた」とか、そんな事いちいち気にする上に、自分の責任にしてたらキリがないぞ、って事まで気に病んでいる。

 要は、自分は余力を残しているのに、戦った仲間が負傷するのを防げなかった…と言うのを負い目に感じているらしい。

 

 

 そんなもん、戦いの場に出た時点でどこまで行っても本人の責任だろうに。

 確かに陣形を組んで戦う以上、アタッカーやら壁役やらの責任を果たさなければならないが、危険のない戦いや無傷での戦いなどまずあり得ない。

 死んだり重傷を負ったりすれば気に病むのは分かるし、余力を残しているのを負い目に感じるのも分かるけどなぁ。その余力だって要は『切り札』だろう。紅が持っている、あまり使いたくない力。

 相応のデメリットがあるようなので使いどころを見極めるのは当然だし、そもそも毎回毎回全力を出せる筈もない。8割の力で勝負しろ、とは至言だよな。

 

 

 …色々言葉を尽くしてみたが、それで納得できるくらいなら、最初から気にしてなかったね。

 仕方ないので、最終的には肉体言語でどうにかした。…拳でもナニを使ったのでもなく、こう、頭を撫でて甘えさせるような感じで。

 それがまた、紅的にはツボだったらしい。無意識にだろうけど、「お父様…」なんて呟いてたからなぁ。キリッとしているように見えて自虐的だから、自分が寄りかかれる相手が欲しかったのかな。

 

 

 

 

 

 

 さて、紅の事についてももうちょっと語りたかった…特に我に返って、慌てて逃げようとするのを引き留めた時について…が、いい加減軌道修正しなければなるまい。

 最近、滅鬼隊とばかり絡んでいて、ウタカタの里の連中との関わりを殆ど持てていない。

 これが小説だったら、「これ討鬼伝の設定でやる必要ある?」と言われる事請け合いだ。

 実際、必要あるかと言われると……まぁ、あるよな。人類が異界に追い詰められ、鬼と戦ってるんだから。俺は滅鬼隊の中でしか動き回ってなくても、任務に参加している隊員達は現在進行形で鬼と戦ってるんだし。

 

 

 まー戯言はともかくとして、だ。

 

 滅鬼隊の生活を支えるのは重要だし、あまり無責任な真似はできないが、俺の標的はクサレイヅチである事は変わっていない。

 奴を引っ張り出すまでの道筋として、ウタカタの里での動乱を乗り越える必要がある。最低限、鬼達が画策しているオオマガトキ第二段を防がなければならない。

 

 そこに至るまでの出来事を放置する事もできない。

 試練という言い方は好きではないが、幾多の問題と危機を乗り越える事で絆が深まるのは間違いない。しかし、ただ乗り越えるだけでは足りないのが困り者。

 最初の方のループで、とにかくイベントを形だけこなして、充分な結束が無かった為に偉い事になった…って事もあったからな。

 

 それに、恐らくクサレイヅチと戦うのに、強い結びつき…因果は必要不可欠だ。

 奴は因果を奪う能力を持っているが、それだって無条件に片っ端からではない。結界で対抗する方法もあるし、それ以上に強い結びつきを引きはがすには時間がかかる。

 多くの絆で雁字搦めにする事で、クサレイヅチに無力化されるまでの時間を稼ぐ事ができる。

 

 

 

 

 ともあれ、そんじゃあ現在のウタカタの状況はと言うと……ぜーんぜんストーリーが進んでないんだよねぇ。

 

 最初に初穂と一緒に任務に出て、その帰りについてきたミフチを倒した辺りかな。

 那木と富獄の兄貴とは……うーん、カゼキリを撃退はしたから、その辺もクリアはしてるか。

 

 やっぱり、俺がウタカタの里の中に居ないと、話が進まないんだろうか? 理屈はともかく、毎回毎回俺がウタカタにやってきてから物事が進んでいたし。

 滅鬼隊の事ばかりやってないで、里に行かなきゃならんかね。

 

 

 

 

 

 

 

 そういう訳で、とりあえず里までやってきました。

 隊の仕事は、試験的に隊員達に任せている。何もかも自分でやろうとせずに頼りなさい、と言い出したアスカが纏め役だ。

 ま、仕組みとしては大体形になったし、必要最低限の設備は整えたし、後は自分達でもある程度回していけるだろう。

 

 …いけるよな? 後先考えずに資材を突っ込みまくって、カラッケツとかにならないよな?

 一応、その辺は執事秘書集団に監督するよう頼んでいるが…なんか不安だ。

 

 

 

 

 さて、これからどこに行くかだが……やはり、一番の不安要素に対処しておくべきだろう。

 それは…那木のトラウマだ。

 

 個人的な感情が多く入っているのは認める。滅鬼隊に手を出し放題な状況でも、那木をまた抱いて、心の底から虜にしてしまいたい、とも思う。

 しかしそれを差し引いても、那木の医者としての腕を振るえないのは大きな問題だ。

 回復役の重要さは、嫌と言う程身に染みている。任務で重傷を負って、それでも生きて帰った隊員達が、医者の手が足りずに死亡…なんて事は御免被る。そんな事になったら、益々もって那木のトラウマも悪化してしまうだろう。

 

 なら何が出来る、と言われると…現状で那木自身にしてやれる事は何もない。

 タマフリを使って手術せずに治療、という方法を伝える事と。

 

 

「…あの、若? ここって病院ですよね? 何で俺を連れて来たんですか?」

 

 

 鹿之助を紹介するくらいかな。何でってそりゃ、ここがお前さんの能力を一番活用できる場所だからに決まってる。

 重要な物資を挙げて行けばきりがないが、これ程分かりやすい物もないだろう。

 

 不測の事態で誰かが大怪我をした時、治療の為の薬の有無は生死を分ける。

 怪我だけじゃない、軽い風邪、体調不良だって鬼との闘いの中では死活問題だ。

 鹿之助だって他人事じゃないだろう。極力護衛はつけるつもりだが、その怪我をするのはお前かもしれない。いざと言う時の為、薬の材料を探しておくに越したことはないと思うが?

 

 

「そりゃ理屈は分かりますし、別に文句はありませんけど…」

 

 

 ちなみにここに居るモノノフには、綺麗な年上のおねーさんも居るぞ。(多分、鹿之助がどうこうする前に俺が口説き落とすけど )

 

 

「…………い、いやいやいや、そういう事じゃなくて! …あ、いやもういいです…。冷静になってきたら、自分でも何が問題なのか分からなくなってきた…」

 

 

 要するに何となく不安な訳ね。人見知りを直す訓練だとでも思いなさい。

 …さて、ごめんくださーい。

 

 

 

 …残念ながら、那木は任務で居なかった。綺麗なお姉さんが居なくて残念だったな…って言おうとしたんだけど、他の女性の医者(多分、助手とかその辺の立ち位置だけど)が居たので辞めておいた。

 実際、鹿之助はその中の一人に見惚れていたからね。うん、真面目な看護婦さんって感じのいい人だよ。

 タスキをして髪を纏め上げて、うなじを晒したまま額の汗を拭っている所にちょっとドキッとしました。

 

 

 

 …しかし、この時期に那木の任務か…。何かあったっけ?

 いや那木の回復薬という役割を考えると、ストーリーイベント以外にも連れ回しっぱなしになってもおかしくないか。

 と言うかゲームではほぼ皆勤賞状態でした。ブラックな労働環境で謝罪いたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰りに里の様子をちょっと見てきたんだが、予想外に色々と変わっていた。

 滅鬼隊が里に馴染んで、様々な交流を持っているからだ。

 多少の問題行動もあるようだが、美男美女と言う事で多めに見られている。…いやマジで。人間、最終的には「顔」だからなぁ。イケメンって意味もあるけど、面子と言うか人望と言うか、そんな感じの。

 顔の造作が整っている事に加え、ウチの子達は良くも悪くも中身が真っ新の子供のようなもの。大人になっても、子供特有の無邪気さを備えているように見えるんだろう。

 

 …今まで自分の執務の事ばっかり日記に書いてたけど、どうせ書くならこういう内容の方がいいかなぁ。

 いや、それよりも今は里の人達の事を書くべきだろうか? ウチの子達が可愛いからそっちを書きたい(濡れ場含む)のは山々だが、目的を見失ってはいけない。

 

 

 

 

 …というわけで、早速一つ里で起きた出来事を書いておきたいと思う。

 

 

 

 

 桜花と橘花が盛大にケンカしたそうです。

 

 

 

 

 え、ナニソレしらない。なにそれ怖い。

 

 

 

 気まずくなるようなイベントならゲームストーリーや過去のループにもあったけど、本気で喧嘩したらしい。

 本当に、何がどうしてそうなった。噂によれば、あの妹命である桜花が橘花に反撃するくらいの大喧嘩だったとか。

 具体的には桜花の顔に引っかき傷が出来るくらい。

 

 …キャットファイト? キャットファイトしたのか? そして桜花が手傷を負ったのか。姉妹で裸(或いはコスプレ)のプロレスなら見たいけど、キャットファイトはいかんな。

 秋水が何か仕掛けたのかと思ったが、こういうあからさまな問題になるのはあいつの手口じゃない。

 

 よくよく話を聞いてみれば、二人のキャットファイトが勃発したのは、橘花が俺達の元を訪ねて来た後…その帰り、らしい。

 …ひょっとしなくても、俺との話で余計な事言っちゃった?

 そうでなくても、護衛もつけずに一人で来てた時点で、桜花が大慌てしそうだったし。

 

 一度、調べた方がよさそうだな。

 

 

 

 とは思ったものの、橘花はこういう時に限って面会謝絶…と言うより、人に会う事を拒否しているらしい。それだけショックだったと言う事か。

 神垣の巫女の部屋に籠り、祈祷という名目で閉じこもっている。やろうと思えば簡単に入り込めるが…流石にいきなりその方法は危険だな。

 以前のようにそれなりの信用信頼を得ているならともかく、今の橘花とは少しばかり話をした事がある程度の関係だ。それを過信して無茶はできない。

 

 となると、桜花から話を聞くべきか。モノノフ屯所に訪ねていくが、桜花は任務中で留守だった。

 橘花と喧嘩をした日から、鬼気迫る迫力で任務を続けて受けているらしい。屯所のにーちゃんが言っていた。

 …いやそれアカンやろ。明らかに八つ当たりか、そうでなくても何かしら精神的に不安定な状態で戦っとるやろ。

 

 誰か止めろよ、一言言えよ…と思ったが、大和のお頭も既に止めたし言ったらしい。

 しかし鬼の行動が激しくなっているので任務を受けさせない訳にもいかないとか。…ウチを頼れよ…。折角援軍に来てるんだから。

 

 まぁいいか。とにもかくにも、滅鬼隊の居住区で待てば、帰って来た桜花と話をする事はできるだろう。

 

 

 

 

 

 

 桜花を待っている間、隊の日常生活や、鬼を惑わし拒絶する為の結界を見物する。

 自分から動く事を覚えた隊員が増えてきた為か、俺も知らない仕掛けや施設がどんどん増えているようだ。子供達が成長していく姿を見るのは、実に楽しい。

 …機動力も火力も備えたガキンチョ集団と考えると、いつ何が起こるか分かったものじゃないので、同時にすっごくハラハラするけど。

 いつか来る反抗期の為に、色々備えておいた方がいいだろうか。少なくとも、隊員間で揉め事が起きた時、直接的でない決着方法が必要だ。

 

 

 結界の手入れにやってきた不知火に誘惑され、どうしよっかな~と焦らしていると、タイミング悪く桜花達が帰ってきてしまった。

 不知火は今夜じっくり可愛がってやる(或いは雪風と二人で虐めてやる)と約束し、尻を撫でて作業に戻らせた。…ちなみに不知火と言えば乳に目が行きがちだが、性感体は雪風と同じで尻と背中が特に敏感である。

 いやそれは置いといて。

 

 

 よう、桜花。一緒に息吹も任務だったか。

 

 

「…首領殿か。どうした、このようなところで」

 

 

 何、ちょいと聞きたい事があってね。悪いが少し時間をくれないか。

 …里で起きた異変に、俺が少し関わってるかもしれんのだ。

 

 

「おいおい、構わないけど俺はいいのかい? ウタカタ一の伊達男が素通りして帰っちまったとなりゃ、お嬢さん方が泣くぜ」

 

 

 ウチの子達は、諸事情あって大体俺に惚れてるから大丈夫だ。

 ……いや息吹も桜花もそんな顔するな。確かにどう考えても自意識過剰な己惚れ野郎の言い草だけど、本当に事情ありなんだよ。

 

 

「だとしたらもっと羨ましいんだが…まぁ、構わんよ。桜花、報告は俺がやっておくから、お前さんは首領殿と話をしてこい」

 

「しかし」

 

「いいから話くらい聞いてもらえって。…何か関係あるかもしれないって言うんだし」

 

 

 伊吹はそう説得するが、何故か桜花は物凄く嫌そうだった。…俺、そこまで嫌われるような事したか? 確かに女性から見れば眉を顰めるような人間関係を築いているが、これはそれ以上に何か理由がある気がする。

 と言うか、むしろ敵意すら感じる。

 

 何でもいいから、とりあえずウチで治療くらいしていけって。

 雑魚鬼達の相手だったようだが……見てて酷いもんだぞ、今の桜花は。

 

 

「…………」

 

 

 自覚はあったのだろう。

 大きな傷がある訳ではない。…いや、橘花に引っ掛かれたものと思われるミミズ腫れが顔にちょっとあるけど、餓鬼に噛み付かれたり、オンモラキの電撃を喰らったりと、そういった形跡はない。代わりに礫にでもあたったのか、幾つか赤く腫れている部分がある。

 だが、見る人が見れば桜花の異常は明らかだ。

 

 気が落ち着いてない。無暗に攻撃的に高ぶっている。衣服に乱れがある…と言うと如何わしい意味に聞こえるかもしれないが、極めて真面目な着眼点だ。モノノフの服は、戦いの邪魔にならないよう調整されており、本人もそれを乱さない…つまり無駄な負担がかからないような戦い方をする。強敵相手ならともかく、雑魚鬼の群れ相手では、桜花程の実力者なら着崩れが起こる筈がない。

 戦い方からして荒れてるな…。相当重症だ、これ。

 

 

 とりあえず、タマフリと常備している薬草(回復薬ではない)を傷に塗り…塗ろうとしたら、拒絶されて薬草だけ奪われた。

 ……引き留めたとは言え、治療を受ける側のする事じゃねーな…。本当にこいつらしくない。

 

 適当な木陰に腰を下ろして手招きすると、渋々と言った感じで隣に立った。

 

 

「…何の話をしたいんだ。姉妹の事情に嘴を突っ込むのは感心せんぞ」

 

 

 軽い諍い程度なら何も言う気はなかったが、結界維持に影響が出かねない程なら話は別だ。聞いたぞ、橘花が引き籠ってるってな。

 一体何があった?

 桜花、あんたは橘花の姉で、神垣の巫女になった妹を守る為、負担をかけさせない為にモノノフになったと聞いている。

 それが、何をどうしたら大喧嘩なんて事に?

 

 

「…………前の…」

 

 

 前の? …前の、何だ? 以前に何かあったって事か?

 

 

「お前のせいだぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 うぉぉぉ!? こ、拳はやめろコラ! 外交問題に発展するやないけ!

 

 

「やかましい橘花を誑かした色魔など拳どころか刃の錆びにして当然だ! 貴様、橘花に一体何を吹き込んだ!? あの橘花がああも反発した上に貴様に恋文を認めるだと…そんな事がある筈がない! ある筈がないー! ミトメタクナーイ!!!!」

 

 

 なんかキャラ崩壊するレベルで激昂し、無茶苦茶に拳だ足だを飛ばしてくる桜花。心なしか、目ン玉もぐるぐる状態になっているようだ。

 大人しく殴られてやる理由も無いので適当にあしらって距離を取ると、その場で仰向けになってジタバタジタバタし始めた。完全に駄々っ子そのものだ。…おい、モノノフ主力級隊長…それでええんか…。

 

 と言うか、橘花が恋文? 俺に?

 …前ループならともかく、今回は1時間くらい面と向かって話をした程度だぞ。それで惚れる程、橘花もチョロインじゃないだろ。

 と言うか、今までの経験から考えるに、もしそこまで橘花が吹っ切れて突っ走る状態になっているのであれば、恋文なんて事はせずに直接迫ってきそうだし…文の内容だって、恋じゃなくてプレイ内容リクエスト…。

 

 

 …って、ああ、恋文ってアレか。俺宛じゃなくて、シノノメの里の雪華宛か。それを見た桜花が、何故か俺への恋文だと思い込んだと。

 でもそれだけじゃ、橘花が引き籠る程拗れるとは思えない。

 

 泣き喚く桜花を何とか宥め、もう少し詳しく聞きこんでみる。

 ふむふむほうほう…。

 

 

 

 成程。やはりと言うべきか、切っ掛けは俺と橘花の話っぽい。

 事の始まりは、橘花が結界の強化を提案した事だった。俺との話から帰ってきてすぐの事だったようだ。それと同時に、護衛も付けず、行き先も告げずに出歩いていたのが発覚し、あわや大捜索が始まる直前だった。

 自分の行動の為にそこまで大騒動になってしまったのは素直に悪いと思って、橘花も色んな人に謝り倒したそうな。内心で何を思っているかはともかく、里の重役である神垣の巫女に頭を下げられて、そうそう「許しません!」なんて言える人は居ない。

 桜花はその「許さん!」を言える数少ない人間だが、橘花を溺愛しているからそこまで責める事はできなかった。

 それでも多少はお説教をして、いつも通り出歩くなら護衛を付けるように言って、その場は解散。

 

 

 …しかし、その時の橘花の表情は、物凄く不満と言うか、言いたい事を飲み干したのが一目で分かる顔だった。叱責するべきだったのは確かだが、少し言い過ぎたかと思った桜花は、その夜に橘花の部屋を訪ねた。

 そこでまず気になったのは、橘花の机の上。橘花が妙に楽し気に、机に向かって筆を執っていた。

 基本的に、里の中で手紙が用いられる事はない。何だかんだで狭い里だからね。例外は形として残すべき指令や書類の類くらい。わざわざ手紙を書くとすれば、ウタカタの住人以外に対して書面を送るくらいだ。そして、橘花は里の外に知人など居ない。桜花が入ってきたら、すぐに筆を置いて文を隠したのも気にかかる。一体誰に…?

 

 それも気になったが、少し強張った顔の橘花と、腰を据えて話し合おうとして………そこから喧嘩に発展した。

 

 

 …いやもう、売り言葉に買い言葉…だったっぽい。桜花も、勝手に出歩いた事に対する怒りが燻っていて、橘花は………単なる予測になるけど、俺との会話で感銘を受けて、その時に出来た地雷を桜花が思いっきり踏み抜いてしまったっぽい。

 段々言葉がヒートアップしていき、隠した文が恋文の類だと思い込み、橘花が否定しても誤魔化しだとしか思わず…。

 深夜のテンションも合間って、ドッタンバッタン大騒ぎになってしまったと。橘花の自室だったから、すぐ止められる場所に護衛が居なかったのも悪かった。

 

 

 

「どうして…どうしてこんな事に…。まさか、橘花が私に手を挙げるなんて……今までずっといい子で、私は何が何でもあの子を守ろうと心に誓っていたと言うのに…!」

 

 

 四つん這いで地面をバンバン叩きながら、マジ泣きしている桜花。うーん、キャラ崩壊…。

 それはともかく、こいつの言動からすると……大方、「お前は黙って守られていればいい」みたいな事を言ったんじゃないか?

 

 

「うぅ……うん? あぁ、言ったぞ。橘花は私が命に代えても守る。だから無茶な事や危険な事はするなと…。そうしたら、物凄い勢いで怒りだした。君達に会いに行くのは危険な事ではないとか、守られるだけなんて嫌だ、自分の道を切り開きたいとか、姉様だって戦えば怪我もするし負ける事もあるモノノフなのだから、それこそ命に変えてもなんて言ってほしくないとか…」

 

 

 

 うーむ…見事にピンポイントで撃ち抜いておる。

 モノノフなら無条件に自分で道を切り開いていける…という幻想から醒めて。

 苦難の道と知りながらも、自分達で生活をよくして行こうとしている滅鬼隊員達に触れて。

 新しい友人になるかもしれない相手への手紙を、何故か俺への恋文だと思い込まれて。

 

 

 ……それまでの橘花であれば、素直に頷き、モヤモヤしたものは胸の奥に沈めて、『良い妹』であろうとしただろう。神垣の巫女の運命を呪いながらも、その素振りを見せず、桜花は負けない、戦いに行っても必ず帰ってくると疑いもせず、不満は自分が我儘なんだと言い聞かせて。

 

 

 

 

 で、それを放置しておくと、色々吹っ切れた時に反動でヤンチャになっちゃう訳ですな。特に尻に関して根性が入ってしまう。

 うーん、しかしこれどうしたもんかな。

 今までのループであれば、色事以外にも色々と遊び方を教えていたりしたもんだ。木登りとかね。

 

 でもこれは気晴らしで終わる話じゃないし、終わらせるべきでもない。

 切っ掛けはどうあれ、橘花、桜花の意識改変に繋がる出来事だ。さて、どうするか…どうするべきか…。

 

 

 

 なんて考えていたら、途中から声に漏れていたらしく。

 

 

 

「やっぱりお前のせいかあぁぁぁぁぁぁ!!!! 妙な事を吹き込みよって!」

 

 

 やっべ。

 

 いやでも別に妙な事じゃないだろう。俺達はこういう風に立場と生活を作っているし、いくら桜花の決意が硬かろうと負ける事はある。負けたら鬼に喰われるのだって珍しくない。

 それを橘花がどう受け止めて、何を考えて、桜花に反発するかまでは流石に面倒見切れんよ。

 

 

「やかましい! 私は負けん! 死なずに橘花を守る! 命に変えても!」

 

 

 言ってる事が支離滅裂である。

 

 

「そして橘花が貴様に懸想しているなどみとめーーん!!!」

 

 

 まだそれを引っ張るか。違う…と言いきれないのが困ったもんだが、恋文は普通に誤解なんだよなぁ…。

 と言うかこれ以上話でも無駄だね、これ。完全に錯乱しとるわ。

 

 

「みと、み………・・・・・・ぃ…・・と・。・・・。。。。。」

 

 

 取り敢えず張り倒して無力化させようかな? と考えていたら、急に桜花の顔付がおかしくなった。

 刀に手をかけ、今にも抜刀しようとしていたのが、直立する事もできなくなって倒れ込む。

 何とか意識を保とうとしていたようだが、その甲斐なく瞼が堕ちた。

 

 

 

 …これは…六穂の仕業か。どうしたもんかと悩んでたが、助かったよ。

 

 

「別に……。若に何かあったら、私も困るし…それだけ…」

 

 

 妙に気だるそうな口調で、風上にある木の陰から、滅鬼隊員が一人現れる。

 彼女はの名は六穂。あらゆる毒を体内で作り出す事が出来る毒人間。

 その能力を活用し、鬼を惑わす為の結界作りの一助になってもらっている。鬼にすら通じる幻覚薬等を作るのに、かなり苦労しているようだが…。

 

 

 今回のコレは、睡眠薬の散布かな?

 

 

「ううん。鎮静剤…のつもりだったけど、思ったより効果が高かった」

 

 

 …薬品の過剰摂取は死に至る事もあるので気をつけましょう。と言うか、位置的に考えれば俺も巻き込まれてんだけどね。

 とりあえず、桜花を担ぎ上げる。流石にこのまま放置は出来ないから、隊員の寝床で少し寝かせておこう。

 

 

「若まで寝たら、誰か呼んで連れて帰るつもりだった………恋文がどうとか、何か青春的な話をしてたみたいだからちょっと苛々した」

 

 

 …そういう話じゃなかったんだけどなぁ。

 

 

「はっ、どうだか…。恋人作って嬉しそうにしてる連中なんて、まとめて死ねばいいのに」

 

 

 そんなリア充爆発しろみたいな事言われても。えらくやさぐれてるな。ウチの子にしては珍しいと言うかなんというか…。

 

 

「…何他人事みたいな顔してるのさ。死ねばいいのに、の筆頭の癖に」

 

 

 文字通りの意味で殺そうと思ってるんじゃない事は分かるけど、天音とかの前で下手な事を言うなよ。キレて本気で殺しに来るからな、あいつ。

 にしても、そこまで言う程の事か。いや確かに俺も昔は同じような事を思ってたけど。

 

 

「同じなもんか。若みたいな人に、私の気分なんて分からないよ。一生まともな恋愛も、彼氏も、子供だって出来ない私の気持ちなんて。…普段若がやってる事を私にしたら、皆死んじゃうんだよ」

 

 

 あん? …ああ、そう言えば六穂の毒って基本的に体液だったか。体中が毒を生み出す器官として改造されている。

 勿論、そんな女と交われば、普通は死ぬ。六穂が体液を調整してくれれば大丈夫だろうけど、文字通りの体内…子宮までは流石にコントロールできない。当然、子供を作れる望みは無いに等しい。完全に、致死性のハニートラップ専用として調整された子だった。

 

 

「別に、子供が欲しいと思ってる訳じゃないけどさぁ…。やっぱりこう、見てると羨ましくなってくるんだよ。こっちは人に触るだけでも一苦労だったり怯えられたりするのに、毎日毎日べったりねっちょり楽しそうにして…。一服盛ってやりたくなるよ本当に」

 

 

 うん? 子供はいいのか?

 

 

「…女として欠陥品だって突きつけられてる気分なんだよ。相手も居ないのに、子供を作る事なんて想定してないよ」

 

 

 まぁ、そうかもな。結婚している人だって、直に子供を作る事を考えるとは限らないし。

 …詰まる所、六穂が現状で一番問題に思っているのは、子供云々じゃなくてその前段階が出来ないって事か。作り方の事じゃなくて、彼氏作って甘えたり一緒に遊んだりの青春をしたいと。

 

 

「……まぁ、そうかな。…なんだよ、若が相手してくれるの? 毒で死んじゃうよ。気持ちだけの慰めなんて要らない」

 

 

 気持ちだけか、慰めかは一緒に来てから判断するがいい。立場と時間の問題で、中々一緒に遊びに言ったりできないのは申し訳ないけど、気兼ねなくべったりねっちょり出来るのは証明する。

 体液が毒? 生憎俺には効かないね。戦闘中ならダメージくらいは受けるかもしれないけど、睦言の最中なら全て無効化できる。媚毒くらいかな、効果があるの。それも気持ちよくなる効果だけだ。

 と言う訳で、六穂の腕を引っ掴み、執務室…正確にはその隣にあるヤリ部屋まで連れ込んだ。

 

 口先では抵抗していた六穂だったけど、やっぱり俺に逆らうつもりはないらしい。

 ハニトラ用の子だけあって、そういう行為に抵抗が少なくなっているのもあるだろう。

 

 

「仕方ないなぁ…。まぁ、若なら嫌っていう程でもないし…。でも、どうなっても知らないからね」

 

「んっ………ほら、接吻だけでもう痺れ……あれ、効いてない? ふーん、言うだけの事はあるんだ」

 

「あっ……………うん……いいよ。でも、こんな毒なんて序の口だから。倒れる前に辞めなよ」

 

「妙に落ち着いてる? 別に経験なんてないけど…前の記憶? 無いよ。処女だったのは若が起こしたんだから知って……んっ…」

 

「そんな所舐めて楽しい? んっ……ぼくは…ちょっと擽ったいかな」

 

「僕の汗の味? ……若、そういう趣味? でも、汗も毒だから、やり過ぎると本気で死ぬよ」

 

「……そこも、毒だよ。今は一応、媚毒に変えてるけど、どっちにしろ強力すぎて有害には違いないから」

 

「そろそろ効いてきたんじゃない? 無理せずに、さっさと辞めちゃいなよ。同情なんかで抱かれても、何も感じないよ………あ、あぅっ」

 

「この媚毒も、結構……強力、なんだよ…。作ったら、ちょっとぼくの体にも影響するくらい…。若が衣擦れだけで我慢できなくなって、悲鳴を挙げるのが楽しみだよ」

 

「……あれ? ひょっとして…本当に、効いてない? ぼくの体液、あれだけ舐めたのに? 今も媚毒と痺れ毒、出し続けてるのに?」

 

「ちょっ、愛液はまだ大丈夫だったけど、お尻に舌は! ぼ、ぼくの体内は本気で蟲毒状態だから! 洒落になってない! 若、死ぬよ!?」

 

「わ、わかった、わかったから…。無理してぼくを抱こうとしてるんじゃない事は、よく分かったから…あ、ああっ、お、お尻、駄目だ…」

 

「あ、あうぅ……なんか恥ずかしくなってきた……愛でられてるって思うと、体が火照る…………あ、これぼくの媚毒が自分にも効いてるのか」

 

「だ、だってこれ使うの初めてなんだから! 気付かなくても仕方ないじゃないか! あっ、ま、また汗を舐めて…本気で体中を舐め回す気だ、この人…」

 

 

 

 

「……え? …あの、ちょっと、なに、それ…。……霊力っぽい、触手? ……鬼の手…いや鬼だってこんなうねうねした手じゃないでしょ」

 

「体を舐められるぼくの反応が興奮する? ……いや…そりゃ、こういう事されるとは思ってなくて……普通の人だと、舐めたら死ぬし、そういう目的でしか触らせないと思ってたから」

 

「………だから……一斉に、体中を舐め回す? 鬼の手改め、鬼の舌? ………その触手…と言うか舌…で? ぼくの体を? 媚毒で敏感になってるのに?」

 

「唇も、耳穴も、おっぱいの谷間も、脇も、へそも、指の間も、毒塗れの体内も?」

 

「……………………ふ、ふひっ、ふへへへへ……………ど、どうしよ……怖いけど…すっごく、興奮する…! 舐められるの、好き、みたい…」

 

「うん、若の好きにして。ぼくの体は、全部若のものだよ。ぼくの体も、心も、毒ごと食べてくれる人…! もう、ぼくの事離しちゃ駄目だよ…。そうなったら、絶対一服盛って監禁しちゃうからね…」

 

「あっ…あっ、あっ! あぁぁ~~、あひぃぃぃぃ~~~………♪」

 

 

 押し倒され、触手に絡みつかれ、松葉崩しで繋がる六穂の足が、ゆっくり天井に向いて、ピンと緊張。そのまま足の指をピクピクさせて、性感に溺れていく。

 何故か部屋に飾られていた椿が、ポトリと花を落とした。

 

 

 



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475話

 

 

 

 

 小一時間後。軽く半日分はアヘり続けた六穂をヤリ部屋の布団に寝かせ、桜花は執務室の椅子に座った状態で眠らせている。

 放置しておく訳にもいかないので、書類にあれこれ目を通していると、桜花が身じろぎして目を覚ました。

 

 

「……ぅ…」

 

 

 おう、起きたか。

 

 

「……ここは…そして私は…………あ…あぁ!? す、すまない、本当に申し訳ない! 気が動転していたんだ!」

 

 

 ああ、分かってる分かってる、問題にもするつもりはないから安心しろ。

 あの辺は、鬼を惑わす為の幻覚作用がある植物も育ってるから、それに当てられたんだろう。こっちとしても管理をしくじっている訳だし、文句も言えないよ。

 

 …植物を管理している静流には悪いが、『そういう事にしておけ』という意図を言外に匂わせる。

 理解しているのかいないのか、まだ申し訳なさそうだったが、桜花はとりあえず矛を収めた。その矛は自分向きだったけども。

 

 

 しかし、幻覚に当てられたとは言え、ああまで取り乱すんだ。自分でも思う所と言うか、鬱憤が溜まっていたんじゃないか?

 

 

「いや、そんな事は……。橘花を守るのに鬱憤など、溜まる筈もない」

 

 

 使命感と鬱憤は別物だろ。そうやって押し殺してるから、橘花もそれを感じ取って自分も抑え込んで、その結果今回みたいに連鎖爆発だ。

 俺が嘴を突っ込むような事じゃないかもしれないが、もう少し本音で話をする機会を作った方がいいんじゃないか?

 

 

「そうかもしれない…。しかし、橘花に会うのも拒絶されていて………うぅ、思い出したら気が沈んできた…」

 

 

 情緒不安定になっとる…。妹と喧嘩したのが、思った以上にダメージになっているようだ。

 まぁ、この時点の桜花にとっては、橘花を守る事が文字通り全てに近いからな。今の桜花は、モチベーションの源を丸ごと断たれたようなものだ。橘花が、桜花に守られる事を拒絶したんだから。

 

 …俺でよければ、とりなしと言うか間を取りなすけど。

 

 

「…君だって面会を断られるのは違いないだろう。…はっ、まさかもう橘花を毒牙に!?」

 

 

 違うっつーの。…くそ、六穂に鎮静作用のある毒でも作ってもらっておけばよかった。いや、さっきそれで眠ったんだし、これ以上の接種は危険か。

 ともかく、橘花は今、文を書いてるんだろ。それは別の神垣の巫女への手紙で、俺を通じて送る事になってる。

 少なくとも、その時に一回接触するから、その時に様子だけでも見ておくよ。

 

 

「そうか…。ぜひとも頼む…。しかし、繰り返すが橘花にこれ以上余計な事をするなよ。間を取り持ってもらってこんな事を言うのはなんだがな」

 

 

 まぁ、今回の喧嘩の切っ掛けは俺とも言えるから、頭ごなしに否定は出来んな。必要なぶつかり合いだとは思うけども。

 しかし、俺も随分な言われようだなぁ…。

 

 

「……ぅへ、ぅえへへへ………若ぁ、もっとぉ………もう一回しようよぉ…」

 

 

 …隣のヤリ部屋から、寝言が聞こえた。

 桜花が半眼になって俺を睨み付ける。

 

 

「…そういう所だぞ」

 

 

 せやな。

 帰り際、桜花はチラッとヤリ部屋に目をやっていた。角度からして、六穂がオーガズムを迎えた格好のままで眠っているのが見えただろう。前から後ろからとにかく愛でまくったんで、まだ目を覚ましていない。

 そう言えば、桜花も結構な尻狂いだったからな…。夜はオカズにされそうだ。

 

 

 

 

 さて、橘花に会いに行くべきか? …いや、もう少し時間を置いた方がいいだろう。

 橘花だって、桜花と仲違いして平然としている訳でもない。頭を冷やす時間は必要だ。雪華への手紙を書く時間もね。

 明日か明後日辺りに面会(或いは忍び込む)を求めるとして…討鬼伝のストーリーはどうなってるのかな。

 これは、話が進んだとみていいんだろうか?

 

 

 いや待てよ、そもそもストーリーと考える事自体が間違いなのか。

 鬼があれこれ仕掛けてきて、それを乗り越える事で絆が深まる…と言うのが、俺が言う討鬼伝ストーリー。

 しかし、今回のループは色んな意味で状況が違ってしまっている。具体的には滅鬼隊。これだけの人員が増援として配置され、また鬼の侵入を防ぐ場所に陣取っているのだ。鬼だって、やり口を変えてくるだろう。

 

 何かしらの策を仕掛けられるのは確定だ。それをどうにかして乗り越えなければならないが、それはあくまで鬼との闘いの一環でしかない。内容や仕掛けが変わる事はあるだろう。

 本当に重要なのは……そう、オオマガトキだ。 

 オオマガトキを起こす為の、異形の塔。あれだけは変わる事はないだろう。鬼達が何のためにオオマガトキを起こそうとしているのかは定かじゃないが、やつらの最終目的である事に疑いはない。

 

 

 ふぅむ…つまるところ、あの塔が完成するまでに見つけ出し、ぶち壊すのは決定事項。

 それまでは、とにかく滅鬼隊やウタカタの人達と交流を深め、鬼が仕掛けてくるあれやこれやを乗り越える。うん、要するにストーリーってこういう事だな。

 余計な事を考えすぎていたようだ。

 

 

 じゃあ、あの塔の場所はどうだ? あれも、毎回微妙に場所が違うんだよなぁ…。異界が流動しているからだろうけど。

 そもそも、現段階でどれだけ出来上がっているのか。

 塔を守る結界を張る鬼だって、配置されているか怪しい。

 

 …あまり早い内にぶち壊してもいかんな。別の場所で、次の塔が作られかねない。

 鬼達がそれなりに労力を注ぎ込み、塔を守る為に集まった所を見計らって、潰す。……なんか性格悪い奴みたいなやり口だな。敵の嫌がる事をやろうとしているんだから、当たり前っちゃ当たり前だが。

 

 

 うん、まずは塔の捜索から始めるか。

 方針を決めた時、執務室の扉が叩かれた。

 

 

 

「若、居ますか?」

 

 

 ん? ああ、鹿之助か。診療所の手伝いは終わったのか。

 

 

「ええ、また手伝いに行きますけど…。それはそれとして、大和のお頭が呼んでましたよ。何か、重要な話があるって」

 

 

 お頭が? 重要な話っつーと…ああ、里と隊の交流として考えていた、親善試合の事かな。

 

 

「厳しい顔してましたから、違うんじゃないかなぁ…。とりあえず、伝えましたからね。俺はちょっと用事があるんで、失礼します」

 

 

 あいよ、お疲れ様。

 じゃあ何かやらかしたっけか? …桜花と橘花の仲違いの原因になった事か?

 桜花が戻った直後だし、その辺報告されたのかね。

 

 まぁ、里のお頭がお呼びとあれば、拒否はできない。

 行ってみるとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 大和のお頭に会いに行くと、いつもの集会所ではなく、お頭の私室に通された。

 人に聞かれたくない話をするらしい。

 

 

「急にすまんな。…ああ、楽にしてくれ。別に何かの叱責の為に呼んだのではない。確かめたい事があったのだ」

 

 

 確かめたい事…うちの子達の事で、何か?

 調子に乗って、ウタカタのモノノフ達を蔑ろにしているとか。

 

 

「いや、そういう話は聞いてない。むしろ助力のおかげで、危ない場面を何度も切り抜けたと聞いている。ありがたい事だ。…聞きたい事と言うのは、お前がシノノメの里でやった事だ」

 

 

 シノノメの…? …女関係?

 里では色々やってきたけど、問題になりそうなのはそれくらいだよな…。

 

 

「そこについては何も言わん。…異界浄化について、だ」

 

 

 

 …あー、確かにそれは重要な確認事項だな。俺も細かいとこまで話してなかったし。

 

 

「正直な話、最初に聞いた時には信じられなかった。交流の途絶えたシノノメの里からやってきたのも、少人数で異界を突破したのだと思っていたしな。だが九葉からの手紙もあったし、俺の情報網でも同じ報告があった。更には、霊山近辺にあった小さない異界も一つ消失させている」

 

 

 滅鬼隊が保管されてた、あの異界ね。

 で、要するにこの辺でも出来るかって事?

 

 

「この近辺に限らず、だな。異界の消滅は、モノノフの悲願。人の世を取り戻すのに、最も重要で、解決策が全く見つかっていない問題だった。それを実現した者が現れたとなると…どれ程大騒ぎになる事か。霊山も今は混乱しているが、遠からずお前を取り込もうと手を伸ばしてくるだろう。…それで、どうなんだ。ウタカタの異界は、浄化できるか?」

 

 

 原理的に言えば、出来る…と思う。

 だが、あの術を発動させるには幾つか条件を満たす必要がある。

 何より、迂闊に異界を浄化すると、厄介な問題も発生するんだ。

 

 まず、住処を奪われた鬼達の行動。大慌てして暴れる事もあるし、住処を求めて近場の異界に移り住もうとする。

 流動し続けていた異界が固定される事で生じる、地理的の変化。シノノメの里じゃ気付かなかったが、巡り合わせが悪いと土砂崩れなんかが生じかねない。

 

 

「ふむ…確かに問題だが、鬼達の進行を大幅に遅れさせる事ができるのであれば、些細な問題だな」

 

 

 そうだね。

 肝心の異界浄化の術を発動させる条件だけど…まず、瘴気を生み出す元となっている物を見つけなければならない。

 

 

「瘴気を生み出す元…鬼の体、と言う事か」

 

 

 いや、それに限った事じゃない。確かに瘴気は、基本的に鬼の体から生み出されるものだけど、それ以上に大量の瘴気を放出している物があるんだ。

 シノノメの里だと、鬼の術がかけられて汚された結界石の彫像。

 霊山近くの異界でも、似たような物があった。

 

 

「ふむ…長年の戦いの間に、瘴気を吐き出す穴を見かけた、という話を何度か聞いた事があったが、そのようなものか。しかし、ここらでは見た事が無いな」

 

 

 異界の中で戦っていると言っても、基本的に人間が動きやすい場所や道しか使わないからな。そう言ったところから外れた所にあると、まず発見できない。

 瘴気を生み出しているだけあって、迂闊に侵入できない程濃い瘴気に満たされてる事が多いしな。

 そういう所は強力な鬼の巣窟になってる事も多いし、あまり気軽に探索できる所じゃない。

 

 

「…だが、お前達はそれを成した。瘴気溜まりに踏み込んで探索し、異界を生み出す元となる物を見つけ出し、それを駆除する…単なる幸運や根気で成し遂げられる作業ではない。…恐らくは…信じがたい事だが、瘴気を無効化するような『何か』がある…違うか?」

 

 

 …御明察。遠からず気付くだろうとは思ってたけど、話を初めて即座にとは思わなかった。

 完全に無効化できる訳じゃないが、それでも普通の異界でなれ活動限界が大幅に伸びる。

 やり方は簡単。とある装飾品を付けるだけだ。

 

 

「貴重な物のようだな。増やす事はできないか?」

 

 

 現状じゃどうやっても無理だな。材料も無ければ、作り方も分からん。

 多分、たたらさんに見せても分からんだろう。あれは装具と言うより錬金術に近い…と思う。

 

 言うまでもないが、譲与も買い取りにも応じられない。存在が知れ渡れば、それだけで厄介事の元になるぞ。

 

 

「ふむ、ならば貸与なら応じると? 主力部隊の中だけなら、確実に情報統制できる。一人、持たせておきたい奴が居てな」

 

 

 …貸与なら、まぁ…考えない事もない。しかし、さっきも言ったが結構な揉め事の種になるぞ。

 強力なモノノフは特に、単騎特攻の精神が無駄に強く根付いているからな。

 

 

「…否定できんな。桜花や富獄辺りが特に」

 

 

 正にその二人である。

 

 

「…一人だけ、と言うのはどうだ。手練の忍び…いや、潜入任務が得意なモノノフなのだが、その性質上異界に長く潜る事が多い。鬼との戦闘も、活動限界時間に追われて隠れていられなくなった、という状況が多いのだ」

 

 

 忍び…って事は、天狐好きのアイツか。あいつも充分特攻野郎なんだけどなぁ…。

 しかし、速鳥に毒無効装備を渡すと言うのは…確かに有りだな。あいつの主な任務は異界の偵察、探索だ。オオマガトキの為の塔を探すのに、これ程の適任は居ない。

 

 

 …って、ちょっと待て、話がずれてないか? 異界浄化の話をしていた筈だが。

 

 

「む、そう言えばそうだった。しかし、色々と問題はあるだろうが、どの道浄化しないという選択肢はない。条件さえ整えば、すぐにでも浄化を行ってほしい。我々は、それ程に追い詰められている」

 

 

 まぁ、確かにじり貧だものな。シノノメの里もそうだったけど、結局のところ異界をどうにかしないと根本的な解決にはならない。

 

 

「その条件を満たす為、探索を主任務とするモノノフに瘴気を無効化する道具を使わせたいと思っている。筋は通っていると思うが?」

 

 

 確かに。……そうだな、今まで使っていた明日奈達も、今は子供達の面倒を見るのに手いっぱいで、異界に潜る暇がないからな。お蔵入りにさせておくより、使ってもらった方がいいだろう。

 一つとは言わない、3つある全てを貸与しよう。

 

 

「おお」

 

 

 ただし、条件付きで。

 

 

「当然だな。言ってみろ」

 

 

 レンタル料…もとい貸与の対価はまた別で詰めるとして、徹底した管理をしてほしい。

 誰に何時使用させたのか、どのような場所に向かったのか、そいつがいつ戻って来たのか、受け取ったのは誰なのか。

 鍵付きの場所に保管し、出し入れする時には必ず第三者の確認を求める。

 また、必ず一つは予備として保管しておく事。

 

 

「盗難防止、と言う事か?」

 

 

 それがあってもおかしくない代物ではあるけどな。むしろ怖いのは、使っている奴が何処に向かったか分からなくなる事だ。

 何せ、普段は瘴気が濃すぎて踏み入れない場所まで入って行けるようになるんだ。例えば雅の領域に向かったとして、鬼に襲われて普段踏み込まない場所まで逃げてしまったって事もあるだろう。

 そうなったら、痕跡を探すだけでも一苦労だ。

 瘴気無効の装備全てを使った状態で、そんな事になってみろ。

 

 

「助けに行く事も儘ならんな。一つは緊急要請、ないし行方不明になった場合の探索の為に使用するのか」

 

 

 そういう事。……それと、これは第三者確認にも繋がる事だが…装備して出撃する場合、必ず二人以上で行う事。

 これは単騎特攻を防ぐ為だ。

 例えば長年追いかけている鬼を見つけたり、自分の失敗を挽回しようとして一人で出撃するような場合には、絶対に渡すな。

 無理に持って行こうとしてもできないように、そうだな、鍵は大和のお頭自身が持っていてほしい。

 

 

「…随分と具体的な状況を挙げるな?」

 

 

 昔似たような状況で単騎で出た奴が何人もいたんだよ思い出させんな恥ずかしい。

 と言うか、うちの子達も要注意なんだよな…。一人で突っ込んだり、何も考えず暴れるだけ暴れてドヤ顔したり、敵を甘く見て捕縛されたりしかねない。

 

 

「…中々苦労しているようだな。似たような事をやりそうな奴も、何人か心当たりがある。了解した。鍵は俺が管理しよう。日頃から受付所に居るし、適役だな」

 

 

 うむ。んじゃ、装具は基本的には異界探索担当に使わせるとして、対価のお話に入りますか。

 

 

「お手柔らかにな」

 

 

 余裕だ、このお頭。

 

 

 

 

 

 

 

 追記

 

 大和のお頭、すっげぇ交渉上手だった。

 安く買いたたかれた訳じゃないけど、代わりに手札をズルズルと引きずり出されてしまったよ…。その分、対価は上乗せしてもらえたけどさ…。

 やっぱ俺じゃ、まだまだ頭領として未熟なんだなぁ。

 

 

 



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476話

 

 

 

堕陽月拾玖日目

 

 

 えー、今日の事を書く前に、昨日の夜の会話を書いておく。

 

 新しく俺に抱かれて、ヤサぐれた雰囲気が吹っ飛んだ毒の使い手・六穂。人目も憚らずに、好機と見ればメッチャ密着してきます。人によっては鬱陶しく感じる事すらあるだろう。俺はいいけどね。

 公共の場では控えるのは、焦らしプレイとして納得させた。

 ま、それはいつもの事として、だ。

 

 俺は平気だと言っても、六穂が毒人間である事には変わりない。体液一つとっても、下手に触れるとそれだけで危険な劇薬だ。

 そんな危険人物を、皆は…既に俺に抱かれ、複数人プレイも当然で毎晩毎晩、場合によっては日中仕事中からぬっちょんぐっちょんしている女達は受け入れられるだろうか?

 

 

「そんなの無理に決まってるよ。ぼくだって、交わってる間に毒で皆が死んだら気分悪いってもんじゃないし…。別に混ざりたいとは思わないよ。ぼくには若だけいればいいんだから」

 

 

 そう言ってくれるのは嬉しいけど、それはそれとして俺の目の前で女に襲われたり、襲ったりする六穂も見たいんだよね。

 その辺どうなのかな、皆。と言っても、今日の夜伽担当しか居ないけど。昨晩及び昼間に楽しんだ子達は、今日はぐっすりお休みの日である。

 今ここに居るのは、詩乃、神夜、雪風だ。

 

 

「毒って言われても…。例の装具を付けてれば、問題ないんじゃない?」

 

 

 いや詩乃、あれ貸出する事になったんだよ。暫く、瘴気が濃い場所に潜る時間を取れそうにないから。

 

 

「むぅ、戦えないのは残念です…ですが、実際多忙極まりないので仕方ありません。…では六穂さん、聞かなければいけない事があります。正直に答えてください」

 

「…何さ。別に受け入れられなくてもいい、って言ってるだろ」

 

 

 不貞腐れ、面倒くさくて仕方ないといった態度の六穂。

 それだけ、自分の体はどうしようもないものだと諦めているのだろう。

 

 しかし、神夜はその態度を一切顧みず、極めて真剣な表情で問うた。

 

 

「媚毒も扱う事が出来ると聞きましたが、それはつまり私達の体を超敏感にして、もっと気持ちよくなる事も可能と言う事ですか?」

 

「んも~、神夜さんたら何言ってるのさぁ。ただでさえ若に気絶もできないくらい気持ちよくしてもらってるのに、まだ足りないのぉ? 出来るけどぉ、多分若があれこれやってくれる方がずっと気持ちいよぉ?」

 

 

 不貞腐れた言動は、即座に色ボケた。

 口元に手を添え、ニヤけた笑いで語る六穂。

 

 

「充分すぎる程満足させてもらってますけどぉ、まだ先があるんだから精進しないといけない事極まりないですよぉ? 抱いてくれればくれる程気持ちよくなりますからぁ、ここで満足してたらこの人を満足させられなくなっちゃうんですよぉ」

 

 

 げへへへへ、と笑う声に、えへへへへ、と同じくらい色ボケした声で返す。

 そして向かい合って笑う二人の間に、猫口状態の雪風が首を突っ込む。

 

 

「じゃあ逆にー、私達の体力を増幅できる毒とかない? 体力付けば、それだけ楽しめるわよ」

 

「あるにはあるけどぉ、あれは疲れを麻痺させる物だからぁ、効果が切れたり素の体力が限界に達したら、すぐ動けなくなっちゃうよぉ? そだねぇ、どっちかと言うと……母乳が出るようになる毒、欲しくない?」

 

「「欲しい!」」

 

 

 …無事受け入れられたようである。

 えへへへげへへへにへへへと妙な共鳴をしている3人。

 

 それを一歩引いて、何やら考え込んでいる詩乃。どうやら六穂を拒絶している訳ではないようだが…どうした?

 

 

「え? あ、あぁ…ちょっと気になった事が…。ねえ、六穂。楽し気なところに嫌な事を思い出させるけど、あなた、確か毒の為に子供が…」

 

 

 ピタリと笑い声が止まり、また陰鬱な表情になる。躁鬱が激しいな…。

 ひょっとして、これも発作の一部だろうか? …いや、昼間に抱いたばかりだから、これは多分素だな。それはそれで厄介な。

 

 

「そうだよ。それがどうしたのさ。同情なんかしてるなら、君も同じようにしちゃうよ」

 

「睦言の最中なら、害になるような毒は全部この人が無効化するわよ。自分だけにじゃなくて、周りの人間にも」

 

 

 いきなり俺かよ。…まぁ、出来るけどさ。

 で、それがどうした?

 

 

「『烙印』を使えば作り替えられるんじゃない?」

 

「烙印?」

 

「この人が使ってる術の一つで、対象の魂を取り込んで、体を好き勝手に変えられるって外法よ。他にも、離れていても召喚して睦言の相手をさせたり、魂を通して直接刺激を送ったりできる。…ちなみに、この術を掛けられる時は拷問染みた気持ちよさを味わう事になるわ」

 

 

 既に詩乃も神夜も施術済みである。雪風は…施術したら、乳を大きくするべきかで議論が紛糾している為、まだやってない。

 

 

「…拷問染みた気持ちよさ………じゃなくて、若、これ本当!?」

 

 

 ああ、本当だ。よくよく考えれば簡単な問題だったな…。

 あ、いや待て、一つ課題があった。いくら俺の術でも、体を変えただけじゃ安定しない。徐々に元に戻ろうとする力が働く。一時的に体を変えただけじゃ、着床したとしても…。

 

 

「つまりお腹が大きくなってからも、何度も抱いて術を重ね掛けする必要がある、って事よね。妊婦に負担をかけないまぐわい方くらい、あなたなら知ってるでしょう? 大体、現在進行形で霊山の直葉を遠距離調教しているじゃない」

 

 

 …そうでした。お腹が大きくなってもヤれるし、直接手を触れずオーガズムさせたり体を作り替えていく事だって出来た。

 

 むぅ、よくよく考えてみれば、ボテ腹の相手を抱いた事は無かったな。中に注ぎ込みまくって疑似ボテ腹ならあったけど。

 うん、確かに。よくよく考えれば問題なかったな。

 後は時期だけだ。今は鬼を惑わす結界の作成や、安心して子供を産んだり育てたりできる状況が整ってないけど、肉体的な問題はほぼ解決だ。

 

 それを聞いた六穂は、呆然としていた。

 かと思えば、思いっきり俺と詩乃に飛び掛かってくる。

 

 

 

「いやっほぉぉぉお!!!! やった! 若ってば最高! 一生愛してる! ぼくは欠陥品なんかじゃない! 少なくとも若の女でいる間は! ぼくが若の元に来たのは運命だったんだ! ざまぁみろ、ぼくを改造したいかれ共! お前らなんか思惑に関係なく、ぼくは幸せになるもんね! ありがとう詩乃さん! ありがとう満点の星々よ! ぼくは今最高に興奮しているぅぅぅぅ!」

 

 

 …やれやれ、話し合いをしたのが、防音結界常備のヤリ部屋で助かった。

 この後、興奮した六穂の痴態に当てられた上、漏れ出した媚毒を受けてしっちゃかめっちゃかな乱交に突入したからな。

 六穂の声が最高にいやらしく響き渡っていた。

 

 その後、体感時間操作の中で六穂は限界まで頑張って媚び、気絶・絶頂で起きる・気絶・絶頂で起きる・絶頂・絶頂・気絶できない・絶頂・以下ループの経緯を経て、精根尽き果てて眠りについた。

 グチャグチャドロドロになった顔は、相変わらずうへへへへとだらしない、幸せそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日記には書いてなかったが、モノノフとして戦う事を希望する隊員は結構多い。

 自分の力を試してみたい者、隊員として役に立ちたい者、戦ったり殺したりするのが好きな者、ただ鬼が嫌いな者と動機は色々。しかし、彼女達全員が浅黄の試験を受けられている訳ではない。

 それぞれに割り振られた役目を疎かにする事は許されず、それらをこなし、更に自分が任務でや試験で抜けた時の穴埋めの目途が立っている者のみが試験を受けている。

 

 浅黄の実力は圧倒的で(と言っても、精々明日奈と互角程度だが)、殆どの隊員は歯が立たなかった。

 最初からある程度戦えていた、紫や権佐が特別だったんだろう。紅も合格扱いだったが、それも合否をかなり迷ったらしい。

 

 命に係わる試験なので、採点が厳しいに越した事はない。

 が、現状の基準では、殆どの隊員が不合格になってしまうのが困り者。

 戦闘力だけは矢鱈高い奴が多く、浅黄が振るい落としているのは自分の能力を充分把握できてない者と、油断が過ぎる者が殆ど。紅と同じ日に試験を受けて失格とされた、凛子もその類だ。

 

 だから、かなぁ。

 自分が失格になったのが納得できない、って顔の子がチラホラいる。

 ウタカタ、引いては人類は鬼と異界に追い詰められている。戦力を出し惜しみしていられる状況ではない。ならば自分達も戦うべきだ。

 戦う力だけなら、下手なモノノフよりも強い。彼らが前線で戦っているのに、どうして自分達はそこに向かう事を許されないのか。

 ……強いだけで任務を受けられると思ってる辺りが、失格になる原因なんだけど…。

 

 合格して任務を受ける子にだけ、その辺の教育をするってのが間違いだったか。

 試験を受ける前にこそ、これを教え込んでいかなければならない。幸い、数少ない合格者は、実戦に出た事もありそれをしっかり理解できているから、彼女達を教官役として回せばいいだろう。無論、適正の問題はあるが。

 

 

 ともかく、早い内に手を打っておかないと、面倒な事になりかねない。

 反乱とは言わないまでも、どうして自分達は失格なのかと押しかけてきたり、浅黄に無用な苛立ちが向かうかもしれない。

 試験で浅黄に勝てた奴はまだ一人も出ておらず、実力を証明し続けている…と言う事で今のところ不満は吹き出てないが…。

 

 ウタカタのモノノフへの支援も間に合っているとは言えないし、合格基準を緩和……は望ましくないから、研修を事前に受ける事を義務付けますか。

 

 

 

 

 さて話は変わるが、昨日の大和のお頭との話し合いで、囮作戦を計画している事が知らされた。

 ああ、あったあった。ストーリーだとクエヤマが掛ったっけな。あいつはどうにも、鬼達の中でも残念な子扱いだったみたいだが。

 

 尤も、まだ確定した話ではなくて、有効な戦略開発の一環でしかない。

 囮作戦自体は、長いモノノフと鬼の戦いの歴史で、何度も活用されている作戦だ。その有用さは語るまでもない。

 では今回、一体何を改めて開発しようとしているのか。

 

 それは神垣の巫女の戦略的活用である。…これは、今までのループではなかった試し…いや、鬼達の指揮官を探る為、鬼を呼び込み、そいつを元にして千里眼の術を使ってたな。それの発展形だ。

 定期的に使用する事で、鬼の戦略的な目的・集まっている数などを看破したり、

 

 

 通常、神垣の巫女の力は里の結界を張る事にのみ使用される。他の事を行えばそれだけ負担がかかり、里の防衛力が下がるのだから、当たり前と言えば当たり前の話だ。巫女本人の寿命も縮みかねない。

 しかし、ストーリーでも行ったように千里眼の術、シノノメの里で歴代神垣の巫女が行ったような転移の術等、便利な術は非常に多い。

 多少の負担がかかっても、鬼達の勢いを効率的に削ぐ事ができるのであれば、そちらを取るべきなのではないか?

 

 …と、当の神垣の巫女が言い出したらしい。更なる喧嘩の元になると考え、桜花には知らされてないが。

 …これも、橘花が自分で自分の道を切り開こうと…ひいてはモノノフ達の助けになろうと考え始めた結果なんだろう。

 

 大和のお頭としては、非常に判断に困る事だ。

 橘花の自発的な意思を無下にするのは心苦しい。

 しかし神垣の巫女に負担をかけすぎたり、結界を張る役目が疎かになっては本末転倒。

 

 そして何よりも、鬼達の情報を通して、今まで踏み込んでいない異界の情報が手に入るかもしれない。

 もしもそれで異界浄化に繋がるのであれば、千里眼を数回使うだけで、後の負担を物凄く軽減する事が出来る。里に一番近い異界を浄化すれば、そこから鬼が襲ってくる頻度は大幅に減るのだから。結界の強度をある程度落としても問題ないくらいになれば、間違いないく橘花の負担は劇的に軽くなる。

 

 

 …色々御託を並べたが、要するに橘花が自発的に何かしたいと考え始め、そのメリットが異界浄化への手掛かり、鬼の新たな情報、上手く行けば神垣の巫女の負担軽減。デメリットが橘花の負担が一時的に増える…と、こういう事だ。

 

 個人的には、やらない理由はない。橘花自らが言い出した事だし、あまり頻繁に行わなければ負担も誤差の範囲だ。

 そもそも最悪の場合、橘花の純潔を対価としてオカルト版真言立川流でパワーアップさせるという手もあるし。…口にするだけで桜花がプッツンしそうなので、これについては何も言ってない。

 

 いずれにせよ、これに関しては俺はこれ以上口出しを控えた方がよさそうだ。

 いくら里の一員として扱われているとは言え、新参者、やってきたばかりの余所者である事には変わりない。神垣の巫女の扱いや、里の方針について嘴を突っ込める程の信用を得ているとは、とても言えない。

 ただでさえ橘花を唆したようなものなのだから、これ以上引っ掻き回すのは不審感を煽りかねない。

 

 

 巫女の力を使うかどうかはともかく、囮作戦は近い内に実行されるだろう。その為の人員を選別しておかないとな。

 

 

 

 

 

 

 と思っていたのだが、ちと問題が発生した。

 うちの子達も徐々に任務に参加し始めている訳だが、当然そうなると大なり小なり戦闘が発生する。一緒に行動しているウタカタのモノノフによる助力もあり、特に問題なく対応できている。戦う必要が無いから避けて通る、という選択に強い不満を示す者も居るようだが、今問題としているのはそこではない。

 

 滅鬼隊員達は、一定期間主となる者の声を聞いたり、触れたりするなどのスキンシップが無いと、精神的に不安定になってしまう。

 強いストレスを受けたり、タマフリを何度も使ったりすれば、その期間は急激に短くなる。どう考えても安全装置を通り越して欠陥として作動しているな…。

 

 先日、巡回に出た紅が、トラブルに会って帰還が長引いた。本来であれば数時間、長くても半日で終わる巡回だったのが、鬼との遭遇、逸れたモノノフの捜索、更に発見した時にモノノフを食おうとしていた鬼との戦闘、異界の中で道に迷いかけると、アクシデントにアクシデントが重なり、丸一日戻ってくることができなかったのだ。

 幸い、異界と言ってもそう濃い場所ではなかったので活動限界時間も長く、大事に至る前に帰還できた。

 捜索の為の班が、丁度出発する瞬間に戻ってきていたな。無事で何よりと暖かく迎えられてはいたが、それはそれとして人員を集める手間は無駄になった。まぁ良い事だが。

 

 あと、無事に帰って来た紅はと言うと、「自分がついていながらこんな事に」「本来の力を使っていれば、こんな危険は…」と思い詰めていた。そこまで気にせんでもよかろうに…。

 とは言え、もし万が一の事があった時(万が一どころか、実際には頻繁にある話だが)、自分は手を抜いていたとあれば、そりゃ悔いも生じるだろう。

 更に言うなら、戦闘等によって精神的負荷がかかり、情緒不安定になった為かいつもよりも自虐的になっていた。

 

 紅の個人的な問題…自分の力とやらを忌み嫌っているのは後々対処するとして、直近のもっと大きな問題に目を向けるとしよう。

 

 

 

 すなわち、隊員達の安定性だ。これを後回しにしていた俺も大した大馬鹿者である。俺に近い場所、普段から平穏に暮らせている環境に居る間はともかく、戦場での心理的負荷を考慮に入れていなかった。

 不安定な兵士兵器なんぞ、不発弾と変わらない。

 つまり、ウタカタモノノフの増援として扱いながらも、その実いつ爆発するか分からない爆弾を持たせて任務に向かわせていたと言う事だね。詰め腹切っても許されんわ。

 

 男組は、割と安定してんだけどな…。それも日頃からちょくちょく話をしているからだろうか?

 

 ともかく、このままでは隊員達を任務に就かせる事はできない。

 どうにかせねば…。

 

 

「若様、解決の方法はそう難しくないと思われますが」

 

 

 む、災禍。どういう事だ?

 

 

「任務に出る前に、若様のお情けを恵んでやればいいだけです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぱーどん?

 

 

「ぱぁどん、とは? 時間がかかるから断る、という意味でしょうか?」

 

 

 いや何言ってるのか理解できなかった、って意味だが。

 と言うか本気で何言ってるの。

 

 

「非常に簡単な理屈ですが…。私も含め、隊員達の精神安定に何よりも必要なのは、若様との触れ合いです。言葉、体による接触こそが私達を安定させます。それは若様もご存知の筈」

 

 

 そりゃ、ね。ウタカタに向かってくる途中、狂乱寸前にまでなっていた まり が俺の言葉一つであっという間に落ち着いたからなぁ…。

 あれで隊員達の不安定さと俺の言葉の効果を実感したものだ。

 他にも、内面がグッチャグッチャ状態だった不知火も、思っていたよりスムーズに落ち着けられたし。

 

 

「より強く濃密な接触であればある程、私達は安定するようです。ならば、任務に出る前に可能な限り安定性を高めてから出撃させればいい。…不知火や雪風、詩乃さんの言によれば、若様と睦みあった後、胎の中に精が残っているのを感じるだけでも、強い安心感を得る事ができるそうです。任務に向かう隊員に情けを仕込んでやれば、長時間の安定が期待できます。幸い、若様には例の、体感時間操作という術があります。これを使えば、手間はおかけする事になりますが時間の消費は少なくて済むでしょう」

 

 

 お、おう…。いや女の子抱くのは趣味を通り越して生き甲斐だし、手間がかかるとかそういう事は考えないけど。

 要するに、女の隊員は任務に行く前に俺に抱かれる事を義務付けるのか。

 オカルト版真言立川流は強化効力もあるから、戦力増強にも繋がる。

 

 外聞さえどうにかすれば、問題らしい問題は全く無い。

 

 

「外聞も問題ありません。若様に抱いていただけるとあらば、皆喜んで体を差し出すでしょう。それはあくまで本人の意思によるものであり、明文化された義務とはしません」

 

 

 暗黙の了解、という奴か。腐敗の温床になりそうだな…。

 と言うか、まるでアイドルをプロデュースする為に枕営業させてるみたいじゃないか。……GE世界で限りなく似たような事やってたな。

 

 

「強制も明文化も必要ありません。ただ、任に出るモノノフに『望むのであれば、若様に愛でていただける』と囁くだけでいい。他者に知れ渡ればそれも出来なくなると理解させておけば、秘密の漏洩もありません」

 

 

 いやそれは漏洩するよ。どれだけ狂信的に秘密を守ったとしても、何処かから漏れるし、誰かが察する。同じ事を何度も続けるのであれば、猶更。

 しかし、現状じゃ確かにそれ以上の方法は無いな…。

 滅鬼隊の安全装置を取り除くとしても、一人一人抱いていかなきゃならないし。

 

 うーん…。

 

 

 

 分かった。災禍の案を採用しよう。ただし、本当に俺との行為を希望する場合のみだ。

 

 

「その場合、不安定な状態のまま任務に向かわせる事になりますが?」

 

 

 む…抱かないと安定させられないって訳じゃないんだ。要するに俺の残滓を感じる状態であればいい。

 直接一対一で言葉を交わして、それを繰り返し思い出させるとか、霊力を体に流し込んでおくとか、やりようは色々ある。

 

 

「…そうですね。ですが、それはあくまで若様に抱かれる事を拒否した場合の対応である事をお忘れなく。効率で言えば、やはり若様の情けを恵むのが最高です」

 

 

 あぁ……? なんか俺が怒られてるみたいな言い方になってないか?

 まぁいいけどさ…。と言うか、災禍。

 

 

「はっ」

 

 

 災禍は誰も拒もうとしないと考えているようだが、そーいうお前はどうなんだ?

 

 

「…無論、若様が求めるのであれば、どのような事でもさせていただきます」

 

 

 一瞬の沈黙の間に、災禍の目は俺の股間を凝視していた。

 うん、これ確実に本気だわ。自分も何でもするつもりだし、誰一人拒まないと本気で考えてるわ。

 

 元々、書類仕事中に机の下で詩野に奉仕させてる時とかも、鉄面皮を装いながら耳を澄ましていたからな。ムッツリさんであった。……いや、なんか違うな。こう、奉仕したい衝動を抑えていると言うか…。

 災禍は秘書だし、求められてもいないのにでしゃばる訳にはいかない、とでも思っていたんだろうか?

 

 まぁ、何にせよ。

 ここまできて「やっぱり無し」は、俺にも災禍にも酷だろう。

 目で「若様を甘やかしたい」と全力で主張している事だし、存分に堪能させていただきますかね。

 



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477話

 

 さて、災禍のおかげで色々スッキリした後は、問題解決の為の作業時間だ。

 本日任務に向かう予定なのは、土遁使いの まり と、拳銃使いの藍那。

 

 まりは、今までにも何度か日記に書いていたな。生真面目でちょっとおっちょこちょい、金髪巨乳眼鏡の委員長タイプ。口うるさい委員長じゃなくて、引っ込み思案だけど頑張っているタイプの。

 実力的には、滅鬼隊の中ではあまり高いとは言えない。動きは悪くないんだが、自信の無さが足を引っ張ってしまっている。戦闘力で言えば、未だに浅黄の試験を突破できてない凛子達の方がずっと強い。

 そんな彼女が任務についているのは、持ち前の生真面目さ故に油断しない事を評価されたのと、正に土遁使いが必要とされたからだ。

 異界の中で妙な洞窟が発見されたらしく、その調査に向かってもらう。

 

 銃使いの藍那の事は、書くのは初めてだな。雪風同様、二丁銃使い。

 普段は眼帯をして片目を隠しており、隠されている方の目は金色になっている。所謂オッドアイ。

 この目には特殊な力が………いや、あんま特殊じゃないな、この程度なら。とにかくアレだ、暗闇だろうと何だろうとよく見通す目だ。見え過ぎて、日中に使うと頭が痛くなってくるそうな。他にも色々と資料には書かれていたんだが、本人も今一把握できてないらしい。ガバガバやな。

 

 ともかく、任務の場所と性質の問題で、この二人が抜擢された訳だ。

 普段の俺との関係は………まぁ、隊員の中じゃそう特筆するような間柄じゃないな。

 強いて言うなら、里に来たばかりの時、建物や土地を確保するのにまりに協力してもらったくらいか。

 それ以外では、日常生活でちょくちょく話す程度。

 そんな関係でも、しっかり俺に好意を持っているんだから、刷り込みだけはやたら念入りに行われているもんだ。

 

 さて、任務に向かう前に二人を呼び出し、軽く話をしてみると。

 

 

「わ、若が俺とやりたいって言うなら…俺は、その、別に…じゃなかった、これは任務の為、任務の為だからな!? 何だ、その、普段から俺達の為に色々やってくれてるし、労いと言うかなんというか」

 

「私も、嫌だなんてことは…むしろ嬉しい……です…はぅ…。里に来る前に、錯乱しそうになった私に声をかけてくれた時から…ずっと…」

 

 

 …普通に乗り気だ。

 あざとい程に恥ずかしそうにしながらも、拒む素振りを全く見せない。 

 

 

「任務に出る前に、若に抱かれる……任務の希望者が増えますね」

 

 

 と言うか、お前らそれでええんか…俺が言えた義理じゃないし、似たような状況で何人も喰ってきたけど、それでええんか…。

 そもそも、俺にとヤりたいなんて理由で無暗矢鱈と出撃されても困るんだが…。

 

 

「それでいいのかって言われても。…若、ひょっとして気付いてないのか? 俺達に限らず女の隊員なら、若に求められたらよっぽどの理由がないと拒まないぞ。あんまりあからさまに言うのも何だけど、俺達にとって若に迫られるって、そういう事だし…」

 

 

 意外と鈍いよな、と笑う藍那。俺が鈍いんじゃなくて、環境が異常なんだよ………今で異常な環境で女喰いまくってたのは俺か。

 

 色々思う所はあるが、ここでどうのこうの言っても仕方ない。任務に向かう隊員を強化できて、それを本人も拒んでない。デメリットらしいデメリットも無い。

 そして何より、極上のメス2匹を目の前にして、俺の下半身が我慢できない。さっき災禍にヌいてもらったばかり? それだけで俺が満足できる訳ないだろ。と言うか、当の災禍は幸せそうな顔で途中で失神してしまったわ。

 

 机の下でビキビキきている愚息の暴走を抑えつつ、二人の状況を確認する。

 

 

 

「あ…私は、実はまだちょっと、準備が……か、体は綺麗にしてますよ!? 任務に向かうのに、最後の道具の準備が終わってないって事です!」

 

「お、俺は全部終わってるぜ! 今からでもいける! ……任務だけじゃなくて、若が今したいっていうなら、今からでも、いいんだからな!?」

 

 

 ほほう。二人一緒にと思ったけど、ちゃんと意識がある状態での初めてだし…一人一人がいいかな。

 藍那、こっちにおいで。まり はまず準備を終えてから来なさい。時間は気にしなくていい。まりが戻るまで、まず間違いなく藍那は意識保ってられないから。

 

 

「…言ったな? じゃあ、意識保ってたら一つ言う事を聞いてもらうからな! まり、なるべく早く……………も、戻れよ!」

 

「それって戻って来た瞬間に、藍那さんと若のまぐわいを目撃する事になるんですけど…」

 

 

 それはそれで、恥ずかしがる藍那が見られるからいいのよ?

 さて、そういう訳で……ほら、いいから準備しておいで。道具でも禊でも何でもいいから。この後の事を意識し過ぎて、おざなりになっちゃ駄目だぞ。

 

 

 …まりは顔を赤らめ、ちらちら振り返りながらも、準備の為に部屋から出て行った。

 残されたのは俺と、どうすればいいのか分からない様子で立っている藍那。暫くその戸惑う様子を見ていたいが、流石にこのままじゃ体感時間操作も出来ない。

 藍那、こっち(ヤリ部屋)においで。

 

 

「お、おう。…初めて…じゃなかったっけ。でも意識がある間にするのは初めてなんだから…優しくしろよ。最初から気絶前提とか、酷い事するなよ…」

 

 

 大丈夫、気持ちよすぎて気絶するだけだから。

 

 

「そう言われても安心できねえよ。…と言うか、なんだこの部屋…布団一枚敷かれてるだけなのに、物凄いこう、言葉にできない淫靡な空気が…。布団も綺麗にしてあるのに、なんだか妖気みたいなものを感じるような…」

 

「…え? 毎晩、ここで明日奈さん達を? ………ち、違うし! 興味持ってないし! ただ、今から自分がそうされるのかと思うとなんか妙な気分になっただけだし!」

 

「こっちにこい? ……お、おう。布団の上に座るって、何だか妙な感じだな」

 

「んっ…………接吻は、本当に初めてだな…。これ、やばいな。唇が触れ合っただけなのに、頭が揺れるくらい幸せな気分になる。もう一回…」

 

「んんっ!! …何だよ…接吻だけで気をやったら、おかしいのかよ。…滅鬼隊の女は、皆それくらい敏感? 他の女の話なんかするな」

 

「っ………し、舌を絡めるって、凄いな…頭の中、ぐちゃぐちゃになっちまった。…平衡感覚が無くなった感じだ」

 

「横たわると、俺の胸の大きさがよく分かる? ま、まぁ…ちょっとは自信あるけど。他にもっとでかい奴もいるだろ」

 

「内股はあんまり触るなよぉ…擽ったい、何だか変な感じがするんだ。…だからやめろって、あ、あっ、おかしな声でるだろっ」

 

「もっと声を聴きたい? そう言われても……心配ない? 自然に出る?」

 

「ひっ! ど、どこ舐めてんだ若! 手も動かして、体中撫でてるんじゃない! あ、っ、っ、かっ、体、おかしい、おかしくなってる!」

 

「あたまっ、ふわふわしてっ、なにが、なんだか…からだのなかまで、なでまわされてる…」

 

「…いれるぅ…? なにを…? きもちよくなるもの? だったら、いいよ…」

 

「……! お、お、おぉ、ぉぉぉぉぉ……! お、おれの、なかにっ、わかのが、きてる! おれのからだ、よろこんでる! わかのちんぽすげえ!」

 

「わっ、わけわかんねえ、けどっ、なんかっ、あつくて、すげえっ! ずんずんついて、くるっ!」

 

「っ…! …あ、れ…? どう…し、たんだ、よ…きゅうに…とまって…」

 

「…おれが…きをやった? さっきの、あたまのなかがばくはつするみたいなかんじのことか…?」

 

「ああ…たしかに、体がすげえ敏感になってる感じがする……あっ、ちょっ、中でぴくぴくさせるなよぉ」

 

「休憩? 敏感すぎるから? …いや…それは……その…。まりが戻ってくるまで意識保ってなくていいのか? 確かに、あのまま続けられたら……俺は…」

 

「…………なっ、なんだよっ、別にいいだろ! そうだよ、自分で…その、締めてるんだよ! 腰に力入らないから、これしかできねえんだよ」

 

「若はまだ、その、出してないんだし、辛いだろ。…俺の事はいいからさ、もっと思ったように…」

 

「っ! っ、そ、そう、もっと、突いてほしいんだよ! 気をやっても、体がむずむずするのが治まらないんだ!」

 

「若のちんぽで突かれたくて、体が欲しがってるんだよ! なぁ若、頼むから、もっとやってくれ! 俺の事なんか気を使わなくていいから、もっとぉ!」

 

「あっ、はっ、すげえ、すげえすげえ! くるしいっ、けどっ、あたまおかしくなるけどっ、きもちいい! みたされる!」

 

「もうこんなのしっちまったら、もどれねえよぉ! わかにだかれるの、いい! わかのちんぽすげえ! おれ、もうこのちんぽとけっこんするぅ!」

 

「だされてるっ、なかだしされてるっ…! なのにっ、わかのちんぽとまらねえ! つきころされちまうぅ! ~~~~~!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ふぅ。藍那の体、存分に堪能いたしました。

 気絶寸前まで追い込んで一度手を止め、お掃除フェラを仕込んで、もう一度ちんぽに対するプロポーズ(と言うか隷属の誓い)をさせた上で、今度はきっちり気絶するまでイキ狂わせましたとさ。

 パイズリも仕込もうと思ったけど、次回に見送る。理性がぶっ飛んでる状況でヤらせるよりも、ちんぽの味を知った上で、羞恥心と欲望の狭間を揺れながら奉仕させたいからね。

 今は、軽い後始末をした上で、ヤリ部屋の布団で眠っている。

 …絶対、淫夢を見てるなぁ。

 

 来客用の、ちょっと大きめの椅子に腰かけてダラダラしていると。

 

 

 

「い、今戻りました………?」

 

 

 恐る恐る、扉を開けて現れたのは当然まり。

 おう、おかえり。準備はもういいんだな?

 

 

「は、はい………その、藍那さんは…?」

 

 

 ああ、藍那を探してたのか。下手をすると藍那のアヘ顔Wピース直撃も有り得たし。

 藍那なら、あっち。

 

 指さした先で、眠っている藍那を見て複雑そうな顔になる。嫉妬か、或いは自分がこれからされる事を想像したのか…。

 ま、いいや。

 まり、こっちにおいで。

 

 

「は、はいっ」

 

 

 ぎこちない歩き方で寄ってきて、座っている俺の目の前に立つ。どうすればいいのか迷っているようだったので、少しそのままじっとしているよう伝えた。

 まりの顔からつま先まで、じっくり視線を這わせる。

 うむ……いい体をしているな。生真面目で弱気な性格なのに、むっちむちもいいトコロだ。

 

 しかし、今注目するべきはそこではない。

 

 まり、禊…だけじゃないな。着替えてきたのか。

 汗を拭いて綺麗にして、新品の服に、髪型を整えて、眼鏡まで変えて。。

 

 

「ははははいっ! わ、若様に失礼があったら、いけないと…思って…」

 

 

 うん、嬉しいよ。健気な心配りがぐっと来るね。

 …まり、触ってもいいか?

 

 

「……若様の、お望みのままに…」

 

 

 恥じらいながらも、抵抗しようとしない姿勢が素晴らしい。

 正面にある、まりの足に手を伸ばす。支給されている浴衣の上から、緊張で僅かに硬くなっている太腿に触れると、想像以上に良い感触が返ってくる。

 吸い付くような手触り。一見すると少しだけ太めに見える足は、鍛えられた筋肉と柔らかい脂肪が程よく交じり合っていた。

 手をニギニギと動かせば、乳房を揉んでいるようなハリと吸い付きが感じられた。

 

 恥ずかしさからか、目を閉じようとするまりに声をかけて、自分が何をされているのかしっかりと確かめるよう命じる。

 赤く染まる頬を、もっと紅潮させてやろう。涙目にすらしてやりたい。

 

 嗜虐心を煽られながら、浴衣の裾を摘まむ。ゆっくりと開いていく。…が、ふと違和感を感じた。

 これは…。

 

 

 思惑通りに羞恥で涙目になっているまりの表情を見ながら、オンナの最も重要な部分を曝け出す。

 討鬼伝世界に下着というものはない(明日奈達が使っているのは、シノノメの里の超界石から出てきた奴だ)ので、服を捲れば女陰が見える。

 そこは、既にじんわりと湿り気を帯びていた。

 

 …まり。もう濡れてるじゃないか。この感じは…俺が触れる前から、か。準備している間に、色々『想像』したみたいだな?

 

 

「…は、ぃ…。藍那さんが今何をされているのか、想像していたら……体が、勝手に…」

 

「一度考えると…止められなくて…。どんどん、妄想が溢れてきて……」

 

「え? …い、いえ…その、自慰……はしていません…。禊をして、頭を冷やそうとしました。…はい、結局駄目で…濡れたまま、部屋に来ました…。誰かに気付かれそうで…心の臓が、はち切れそうでした」

 

「…はい……い、いえ、そんな事は! 興奮していたんじゃないです! え? 今は、見られているだけでどんどん濡れている? 見られるのが好き? ……だってそれは、若様ですから…」

 

「~~~! ……は、はい…。ご奉仕、します……足の間に座って……失礼………………う、うわっ…これが…若様の…」

 

「熱い…火傷しそう…。何だか、見ているだけでおかしくなりそう……はい…手で、します…こうですか?」

 

「凄い……? …何だか、匂いに違和感が……藍那さんの匂い? …そうですよね、ついさっきまで睦んでいたんですし…。…………も、もっとご奉仕します!」

 

「あ、藍那さんがまだしていない事を……ぱいずり? 私にぴったり? …やります! どうすればいいんですか!?」

 

「……お乳とお乳で…若様の若様を、挟む? …………こ、こう…ですか? …う、うわっ…これ、すごい…。若様の熱いのを、体で抱えてるみたい…」

 

「唾液? で、でも若様の体に、私の唾をかけるなんて………? 藍那さんの匂いを塗り潰せる? ……やります」

 

「目の前に、先っぽが突きつけられてる…。いやらしい匂い…。ここから…胸を動かす? こう、ですか? ……こう? こう……」

 

「きゃっ!? こうするんだって……んっ、お、おっぱい、揉んじゃ駄目ですっ! い、嫌なんじゃなくって、今は私が若様を…動きがぎこちなさすぎたから? だ、だって恥ずかしくて…」

 

「恥ずかしさは気持ちよさで塗り潰す? おっぱいを自分で揉んで気持ちよくなりながら、若様に『ぱいずり』する? で、でもこれって結局若様が私のおっぱい揉んでるんですけど……………い、嫌じゃない、です」

 

「若様の手と一緒に、自分でも触って……うう、体の奥が痺れるような、変な感じです…」

 

「あっ、若様のおちんちん、何だかびくびく痙攣して……きゃっ!? あ、あぅぅ……何か出た…顔にかかった…眼鏡もべとべと…」

 

「射精? これが…若様のお情け……あっ…こ、零れちゃう、勿体ない!」

 

「後始末はいい? 座れって……若様の膝の上に、ですか? 顔のお情けはそのままで? …あの、お情けの匂いが顔に充満してて、頭がおかしくなりそう…いえ、大丈夫です。若様がお望みなら…いくらでも、おかしく、なります」

 

「はい…どうぞ。まりを、抱いて…ください…」

 

「んっ…あ、あぁっ…入って…くるぅ……若様、わかさまっ…!」

 

「あっ、お乳、吸われるなんてぇ…そのまま、突き上げられてっ…! おなかっ、つきやぶられ、ちゃうっ!」

 

「声が大きすぎると、藍那さんが起きちゃう…? ……いい、です…見られても、いいですっ…! さっきは藍那さんが抜け駆けして、若様のおちんぽに匂い残してたからっ! 今度は私が上書きするところ、見せるんです! …はいっ、まりは本当は、恥ずかしいところを見られるのが好きでしたっ!」

 

「…あ、え…? 災禍さん、いつから……そこ、に…~~~~!!!!!!!」

 

「~~~……は…っ、はぁ、は、ぁ……わ、若様…私、どうでした? …え、災禍さん? 若様はまだ満足してない? 不甲斐ないから手伝うって…~!?!?!?!?!?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …生真面目むちむち委員長眼鏡っ子は見られたがり。実にイイと思います。

 自分が提案した事だから、とこっそり忍んで様子をみていた災禍も、いい仕事してくれたわ。色んな意味で。

 

 

 気をやって気絶したまりを藍那の隣に寝かせ、起きるまで待つ。出発の時間までまだ少し余裕があるが、寝過ごされても困る。

 なので、待っている間は災禍とヤッって体感時間操作を発動、二人はぐっすりと眠ってパッチリ目を覚ました。

 災禍は災禍で、たっぷり俺を甘やかす事ができてご満悦である。

 

 

 

「よし、行くか、まり! 若、吉報を期待してろよな!」

 

「行きましょう、藍那さん! 若様の為ならえんやこーらです!」

 

 

 気力体力霊力共に充実しまくっている。実際、ヤッてる時に霊力を循環させて、ドーピング効果も仕掛けたからな。

 色んな意味でいい思いをした上に、エネルギーが有り余っているおかげで、二人のテンションは最高潮だった。

 …戦ってもそうそう負ける事はないと思うが、ちとやりすぎたかもしれんな。

 

 戦力的にブーストがかかったが、その分弱点にも補正をかけてしまったかもしれん。

 滅鬼隊の経験不足からくる弱点。…生来の問題じゃないと信じたい…。調子に乗りやすい、油断や慢心が過ぎる、準備や安全確認を怠った無暗な前進。

 自分の弱さを認識していれば、嫌でも慎重になる筈だが……湧き上がる全能感は、それを容易く錯覚させ塗り潰してしまう。

 生真面目で弱気な節がある まり でさえ、自分の力量に疑問を持たず任務に向かった事から、その危険性は伺えるだろう。

 

 出撃前の隊員を抱くのを続けるなら、この辺をどうにかせんといかんな…。

 

 

 

 とは言え、災禍。

 

 

「はっ」

 

 

 良い献策だった。戦力の底上げ、隊員の安定、俺の欲望を満たすと一石三鳥。素晴らしい。

 これからもこの調子で頼むよ。

 

 …あんまり大っぴらにはできないが、何か欲しい物はあるか? 褒賞…って言い方も何だけど。

 

 

「いえ、その言葉だけで充分すぎる程です。私の事は結構ですので、若様はご自愛ください」

 

 

 んー…。それじゃ、自愛するんで、思いっきり甘やかしてくれ。

 それはもう、駄目男製造機の如く。

 

 

「かしこまりました!」

 

 

 …礼はこれでいいかな?

 災禍って、クールビューティな見た目・普段の言動と違って、主を甘やかしたくて仕方ないみたいだから。これで俺がショタならもっと絵になったんだろうに。

 ちなみに時子は逆に教育ママと言うか尻を叩くお姉ちゃんタイプ。只管飴を与えたがる災禍とは真逆だが、主を溺愛するタイプなのは変わりない。

 …天音はと言うと、主を全肯定すると言うか、忠犬を通り越して狂気にすら首を突っ込んでいる。

 

 この後、ひたすらお世話された。セックスも含む。

 

 

 

 



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478話

MHW アイスボーン直前ッ!
超待ち遠しいッ!

が、それはそれとしてベータ版の超上級者向けをクリアできなかったのは心残り。
時間が足りない…。

攻撃型の装備、食事スキル発動、粉塵によるパーティバフ、痺れナイフ、毒ナイフ、落石、ここまでやったのに足引き摺らせるのが限界だったよ…。
狩猟笛の使い方が分かってれば、自分からバフ役に回ったんだけどなぁ。


堕陽月弐拾目

 

 

 

 大和のお頭から報せが来た。囮作戦、決行決定。ゲームストーリー通り、神垣の巫女としての力も使ってだ。

 桜花が相当ゴネたらしい。まだ仲直りもできてないもんなぁ…。桜花の反感を買うのを承知で、大和のお頭は作戦を決定したそうだ。

 

 主力部隊中心人物の反感を買いながら、何故強行するのか? 橘花の意思を組んだ、のではない。大和のお頭は、何かしら確信を持っているようだった。

 ここで何らかの手を打っておかないと、ウタカタは追い詰められて破滅する、と。

 

 その根拠までは聞かされていないが、近い内に大きく情勢が動くのは俺も同感だ。

 ただでさえ、まだ解消されてない火種…物語的に言えば伏線が、いくつ放置されているのか分からないのだ。

 異常な変化を遂げる鬼達、滅多に現れない奇妙な鬼ナナキキ、姿を現してない虚海と陰陽寮、先日の藍那とまり達が調査に向かった洞窟など…。異界の浄化が上手く行けば一発逆転も狙えそうだが、それには条件が少々厳しすぎる。

 地道ながらも敵の戦力を削る、指揮官役を狙うのは戦略的にも大事な事だ。

 

 

「…それで、我々にも参加要請ですか。ウタカタ近辺も含め、警備に穴が開かぬよう手配する必要がありますね」

 

 

 そういう事だ、天音。

 …参加者の選別は任せるが、抑え役として明日奈と神夜を入れておいてくれ。

 隊員達の性格を考えると、囮作戦は不向きと言わざるを得ない。寡兵での戦いに慣れている二人を中心として動くように。

 

 

「明日奈殿と神夜殿を? …懸念がございます。お二人が出撃した場合、ここに居る隊員達の抑えはどうされますか?」

 

 

 一から拾まで全部やってやる時期も過ぎたろう。2、3日程度なら、多少の問題が生じても乗り切れる。

 何か諍いでも起きるようであれば、俺が対処するさ。

 

 何より、いい加減あの二人も欲求不満だろうしな。特に神夜は戦狂いだし。

 閨での欲求は充分以上に満足させてるつもりだけど、そればっかりじゃな。人はパンのみに生きるに非ず、性のみが悦びに非ず。

 

 

「…性云々はさておいて……その、戦狂いの神夜殿を抑え役に入れてよいので?」

 

 

 いいよ。その辺は明日奈が調整してくれる。戦狂いと言っても、引き際が分からん訳じゃないしな。

 さて、この囮作戦の目的だが、鬼の指揮官ないし、重要な秘密を探り出す事にある。その為に、橘花…神垣の巫女の千里眼の術を使う事になっている。それに必要なのは、鬼の体の一部。

 できるだけ強力な鬼で、討伐してから時間が経っていないものがいい。

 

 

「…鬼に指揮官となる個体が居るのは分かります。…その指揮官が、どれ程頭を使っているのかが難点ですね。万が一、こちらの行動が読まれていたら…」

 

 

 いい勘してるな、天音。俺もそれを考えてる。奴らは案外頭がよく、そして人間を観察している。

 ちょっと前の別の地方じゃ、鬼が人間に化けてモノノフを誘い込むなんて事もあったくらいだ。この辺じゃ、そういう話はあまりなかったようだが…指揮官が他所から渡って来た個体だとすると、これからは鬼達の行動も変化してくるかもしれん。

 そうなれば、戦闘員の指揮は益々重要になってくるだろう。苦労をかけるが、しっかり頼むぞ、天音。

 

 

「任せください! 執事として! 勤めを果たしてごらんに入れます!」

 

 

 ああ。だが全力でやるのと、一人でやろうとするのは違うからな。そこだけは履き違えるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 囮作戦に関するあれこれを天音に任せ、少しばかり散策する。

 あれやこれやと忙しい日々で、この所施設の増設もやっていなかった。さて、何か必要な物とか見つかるかねぇ。

 

 相変わらず隊員達は、それぞれ思い思いに時間を過ごしている。数人集まって遊戯に興じている者、自室に引っ込んで昼寝している者、ウタカタの里に遊びに行く者、稽古している者。

 …大分、生活環境は整ったよな。衣食住は取り敢えず満たされているし、娯楽もそれなりにある。

 結界の端に近いから襲撃の危険はあるが、それも何とかしようとはしている。対鬼用の罠も、それなりに形になってきた。睦みあった後の六穂が超張り切って、強力な鬼除けの毒を作り出したんだよな…。ご褒美は下の口にたっぷりご馳走しました。

 

 

 となると、次に必要になってくるのは………生産性、か。

 今は食料も武器加工もミタマの為のあれこれも、里に頼っているからな。別に袂を分かつ事を考えてる訳じゃないが、何かあった時の為に独立できるだけの足掛かりは作っておきたい。

 しかし、武器加工は流石に…。俺もそこまで専門的な事はできないし、簡単に身に着けられるもんじゃないだろう。いつもの妙な夢で、そっち系の技術を覚えられるとも限らない。

 

 と言う事は、やはり食料の自給からだ。

 畑を作って、日々の手入れを行って…………GE世界でやったように、MH世界の植物を育てるべきか。アイルー農園、隊員でやっちゃうか? 静流みたいに植物を操れる隊員も居るから、色々と管理もやりやすそうだ。

 そうすると…………ん? 

 

 

 あ、足りない施設がまだあったわ。蔵だ蔵。倉庫。食糧庫。収穫した物を補完しておける場所。

 食べ物だけじゃない。物を置く場所だって必要だ。俺には ふくろ という謎の格納場所があるが、他の皆まで使える訳じゃない。

 今はまだ私物も少ない状態だから、それぞれの部屋に置いておけばよかったが、装備類が増えて行けば入りきらなくなるに決まってる。特に鎧の類は、折りたたんで小さくするって事ができないからな。

 

 よし、決まり。次に作るのは倉庫、それから農園だ。

 

 

 

 …必要だとは思うけど、面白味がないなぁ。そりゃそうか、必要に応じて、で考えたんだもの。面白いも何もない。

 ふむ、逆に自分が…隊員達ではなく、俺が何を欲しがっているかで考えてみよう。

 

 俺が欲しいもの……欲しいもの、か。

 クサレイヅチの手掛かり…いやそーいうシリアスなのは置いといて。

 

 俺が欲しいもの、ねぇ。色欲は満たされている。食欲も問題ない。住居も特に不便は感じていない。…ああ、神夜にまたベッド作ってもらおうかな。敷布団しか使ってないし。

 後は……ああ、そうだな。やっぱり気楽な身の上に戻りたいとも思う。隊員達の前ではこんな事は言えないが、やっぱり書類仕事は面倒くさいし、異界に潜って鬼を狩る方が性に合っている。でも流石にこれはどうしようもない。秘書執事チームがもっと育てば色々丸投げする事もできそうだけど。

 

 それに………。あ、あったわ、欲しいもの。夜の遊びをもっと楽しくする、コスプレ衣装が欲しいです! 現状じゃ、コスプレするにしてもくノ一くらいしか出来ないんだ。それも、エロくノ一じゃなくて黒づくめ衣装でしかないし。

 張り型とかの道具は ふくろ に入ってるんだけどねー。衣装は一人一人のサイズに合わせないといけないから、持ってきてないのよ。

 下着の数も足りてない…そういや、詩乃が欲しいってぼやいてたな。一度、明日奈が使っているのを貸してもらって、動きやすさに驚いたとか。

 うん、戦力アップにも繋がり、エロさも倍増する、いい案だ。

 …でも誰が作るって話だよ。里で作れるのって言ったら、タタラさんだろうけど……サンプル、渡さなきゃいかんよな。現存する物は、全部使用済みの奴だし。洗濯したとしても、彼女の下着を貸し出すと言うのは躊躇われる…。

 

 …シノノメの里から、練に頼んで送ってもらおう。それをタタラさんに見せて量産してもらう。

 でも、そうするとデザインがな…。タタラさんにその手の洒落っ気を期待するのも酷だ。…まぁいいか。取り敢えず、最初は普及から目指していこう。

 橘花がシノノメの里に文を出す時に、俺も送るか。

 

 

 

 うん、いいアイデアも出たし、散策終了。

 

 

 

 

 お、任務に行っていたモノノフ達の帰還だ。

 あれは…藍那とまり、それに富獄の兄貴と………速鳥?

 

 ふむ…うちの子達は少々疲れているようだが、特に大きな怪我はないようだ。不安定になっている気配もない。洞窟探索は、上手く行った…か、危険を感じて早めに切り上げたかのどっちかだろう。

 保護者役をやってくれたと思われる、富獄の兄貴と速鳥は……ちょっと疲れているようだ。兄貴はいつも以上に仏頂面してるし。

 

 おーい、おかえりー。

 

 

「あ、若様! ただいま戻りました」

 

「おう、帰ったぜ、若。色々土産話が…って、うおっ!?」

 

「わ、わわわ若様こんな所で!」

 

「ちょっ、待てって、俺達今汚れて汗臭いから!」

 

 

 よーしよしよし、よく無事に帰って来たな。真面目に心配してたんだぞ。

 異界の上に洞窟なんぞ、何が潜んでるか分からないからな。

 

 …お二人とも、苦労をかけたと思われます。本当にありがとう。

 

 

「本当にな…餓鬼のお守なんぞ、やるもんじゃねえよ」

 

「…拙者は役目を果たしたまで。……少々疲れたが」

 

 

 速鳥がこんな愚痴を零すとは。…やっぱり、最初はイケイケドンドン状態だったようだ。

 俺の拘束から(ちょっと名残惜しそうに)逃れた二人は、そそくさと禊場に向かって行った。ふむ、報告は…後でいいか。

 

 

「申し遅れた。速鳥と申す。貴殿らの話は聞いている。…お頭から、霊山での事も含めて」

 

 

 ふむ、うちの子達の裏事情も知ってる訳だ。

 俺もあんたの事は、ちょっとだけ聞いてるよ。異界探索に長けたモノノフだって。うちの連中は、正面からの殴り合いなら火力で押し切れるけど、そういう探索系が苦手な奴が多いから、力になってくれるとありがたい。

 

 

「……………」

 

「……なんか言え」

 

 

 嫌そうな顔してんな…。覆面越しだから分かりにくいけど。そんなにあの子達はあかんかったか。

 

 

「いや、単に拙者が単独行動を得意としているだけだ。思う所はないではないが、新兵にそれを期待するのは酷。…向き不向きもある」

 

 

 …アカンって言われてるよーなもんだな…。

 真面目にどうにかせねば。

 

 

「…ところで、そちらの娘は何か?」

 

 

 ん? …速鳥に指さされて振り返ってみると、赤毛の隊員が一人立ち尽くしている。しかも、速鳥にすっごいキラキラした視線を向けて。

 おお、世良じゃないか。どうしたよ、こんな所で突っ立って。

 

 

「忍者…」

 

「……」

 

 

 は?

 

 

「忍者、忍者だ! 本物だ! 初めて見た! なぁなぁ、手裏剣とか持ってるか!? 苦無は!? 鍵縄は!? 握手していいか!?」

 

 

 …NINJAを目にした外人のような反応だ。

 この子は世良。世良須照須。……多分、英名のセラステスの当て字だと思う。

 鬼と融合させられているのか、蛇のように体を変化させる事が出来る…らしいのだが、本人に自覚は無い。出来そうな気はするのだけど、どうやればいいのか分からないのだそうな。

 強いて言うなら、舌が妙に長いのが蛇っぽい。この子を抱く事になったら、口淫特化にしようと思っています。

 

 この子、忍者好きだったのか。

 

 

「…拙者は忍びではござらん。モノノフでござる」

 

「いやいやその恰好でそれは通じないって! あ、そうか、忍者なのは秘密にしないといけないよな! 悪い悪い!」

 

「…………」

 

 

 すっげぇ渋面。

 世良の話を聞かない言動も問題だが、速鳥にとって忍び扱いは地雷だからな…。決別し、袂を分かった過去だもの。

 

 

「こいつは確かにモノノフだが………しかし……」

 

 

 まぁ、そうだよなぁ、富獄の兄貴。

 速鳥、モノノフなのはともかくとして、忍者じゃないって言うならその恰好どうにかした方がいいと思うぞ…。

 

 

「む…」

 

 

 多少の自覚はあったのか、口籠る速鳥。自分の任務と技術に一番合っている衣装なんだろうが、全身で忍者を主張している。

 いや本当の忍者がここまであからさまな恰好をして日中から活動するとは考えにくいけど、一言で忍者と言われて想像する姿と寸分違わないんだから。

 

 あー、世良、事情はどうあれ忍者じゃないと言ってるんだから、そういう事にしといてやれ。

 後で手裏剣とか忍び装束とかあげるから。あっち行ってな。まだ仕事中なんだよ、この二人は。

 

 

「本当か!? …え? 若も持ってるのか?」

 

 

 手裏剣も苦無も持ってるぞ。やろうと思えば使えるし。ちなみに手裏剣は「投げる」じゃなくて「打つ」と言います。

 ああ、俺は忍者じゃないからな。体得している技術から言うと、どっちかと言うとアサシン…暗殺者寄りだ。

 

 

「…………」

 

 

 警戒すんなよ…と言っても無理か。あんたらと争うつもりはないよ。

 ウタカタのおかげで、俺達は生活できてるようなもんだ。恩を仇で返す趣味は無い。

 

 そうさな、お近づきの印って訳じゃないが…いい物やるよ。これを使ってれば、そうそう忍者と思われる事はないんじゃないかな。

 ほれ、天狐とお揃いのになるよう形作られた……着ぐるみ。……GE世界産なんだよなぁ、これ。ふと気が付くと ふくろ に入っていた。

 GE世界で着ぐるみっつったらアイツだもんな…。結局会わなかったんだよなぁ…。着ぐるみなんて作った覚えもないし。しかもGE世界には存在しない筈の天狐の形だったし。謎が深まる。………でもキグルミだったら何の不思議もない気が……いやいやいや…。

 

 

「……こ、これは…!」

 

「お、おう…お前が…これ着るのかよ…くくくっ…」

 

 

 口元を抑えて笑いを堪える富獄の兄貴。しかし当の速鳥は、目を凄まじく鋭くして俺が出した着ぐるみを睨みつけている。

 …ように見えて、天狐とお揃いという事に衝撃を受けているだけだな。

 

 ちなみに、天狐と会話する事もできるぞ。

 

 

「この神器にそのような効力が!?」

 

 

 あ、違う違う。悪いけど着ぐるみ自体にそんな効果はない。

 ただ、俺が天狐と意思疎通する言葉…と言うか鳴き声を知ってるだけだ。

 そうそう信じられないだろうから、今度会話してる所見せようか。

 

 

「…過分なる心遣いに感謝いたす。この恩は任務で返そう」

 

 

 お構いなく。これからもうちの子達が面倒をかけるだろうし…。

 それはともかく、洞窟の探索はどうだったんだ? 大和のお頭より先に聞くのもなんだけど…話せるところまででいい。どっちかと言うと、うちの子達の失敗や成功を聞きたい。

 

 

「…血気に逸る。これに尽きる」

 

「だな。お前にいい所を見せるんだ、と息巻いていたぞ。おかげで道中で見かけた鬼を、意味も無く何度か襲撃した」

 

「場所が里に近い場所故、脅威を排除しておくのは悪手ではないが、さりとて積極的に仕掛ける必要があったかと問われれば首を横に振る」

 

「突出する初陣首だ。早死にするぞ。何度か戦って落ち着いたようだが、俺らが鬼を放置するのを見て意外そうな顔をしていたな」

 

 

 うーむ、懸念が的中してしまったか。

 理由はどうあれ、敵を放置する事に抵抗があるのは分からないではないが。

 

 

「洞窟については……」

 

「おい速鳥、いいのか」

 

「どの道、彼女達が報告するであろう。分かっている事もそう多くない」

 

「…ふん、俺にはどうでもいい事か。結界を見つけた」

 

 

 …何? 鬼が張った結界? …オオマガトキの塔を守る結界か。もうそんな時期なのか? 何も鬼から仕掛けられていないのに。

 

 

「いや、恐らく人間が張った結界だ。かなり弱体化していて、破ろうと思えば破れなくはない。だが疑問が幾つかある」

 

 

 人間が張った…? それなら、普通は感知できる筈。

 …いや、最近発見された洞窟の奥にあって、しかも異界な訳だし…見つからなくても不思議はないか。

 

 

「うむ、異界の流動に乗って流れて来たのであろう。しかし、最もおかしな点は、この結界に隠蔽性があり、同時に内向きの結界である事だ」

 

 

 …何かを隠し、そして封じ込めていると?

 

 

「うむ…。異界の流動は時代を超える事すらある故、何処の誰がいつ、何の為に配置した物なのかは分からぬ。少なくとも、オオマガトキ前の地図を見るに、該当する洞窟は勿論地形すらなかった。何処かから流れて来たのは確かであろう。何らかの鬼を封じておるなら…恐らく相当に強力な鬼であろうが、まだよい。だが、異界の中に隠蔽された人造物となると…」

 

 

 …うちの連中の事を連想するよなぁ。

 しかし、気になりはするけど、暫くそっちを調べる余裕はないと思う。

 

 

「だろうな。暫くは囮作戦に専念するだろうよ。ったく、面倒事がどんどん押し寄せて来やがるな」

 

 

 正直疫病神扱いされても仕方ないかなって。どこに行っても何か起こるからネ!

 まー仮にうちの連中と同類が居たとしても、すぐには解放できんだろ。人が暮らす箱も、それを支える生産も追いついてないんだ。

 準備が出来てから解放しないと、ウタカタの里も巻き込んで飢えて果てるなんて事になりかねん。

 

 まぁ、何だ、とりあえず今日はお疲れ様。

 うちの連中が世話になったし、今度礼に一杯奢るよ。

 

 

「おう、いい摘みも期待してるぜ」

 

「拙者は不要。役目を果たしたまで」

 

 

 ん、天狐との会話術は要らんのか?

 

 

「……きゅ、きゅー…」

 

 

 その鳴き声だと、天狐的には「別にいいや」だな。

 

 

 

 

 

 



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479話

 

 

堕陽月弐拾壱日目

 

 

 天音が暫く俺の傍を離れる。本人は断腸の思いのようだが、実際俺の傍にくっついてると、囮作戦の準備が進められないからね。

 これも俺から与えられた重要な役割なので、誰かに押し付ける事も出来ない。

 「暫くこちらの作業に専念いたします」と告げてきた天音の目は、売られていく子牛のような目であった。

 戻ってきたら労ってやるべきか…。しかしあいつの事だから、下手な事しても恐縮しそうだなぁ。

 

 あいつが喜びそうな事……妙にライバル視している時子より優秀だと褒める? …喜びそうではあるが、最初に失敗させて意識改革させたのが無駄になりそうだ。

 …好きな飯でも準備してやるか。もし要望があれば、それを可能な限り叶える方向で。

 

 

 

 作戦準備にとりかかるのは、天音だけではない。選別された参加者に加え、明日奈と神夜もだ。

 と言っても、明日奈・神夜は「鈍った勘を取り戻しておく」と、延々試合をしてるだけだがな。真面目に武器を振るうのも久しぶりだろう。ここのところ、子供達の面倒を見て稽古の時間も削られてたからな。

 

 二人の試合を見守る隊員も、結構居る。

 特に、腕っぷしは強いのに浅黄の試験に落ちている、凜子・凜花、他数人。かなりショックを受けているようだな。

 

 格が違うからねー。

 あの子達も強い事は強いんだけど、あの二人は軽くそれを凌ぐ。何より経験値が違い過ぎる。

 『力量は充分な筈なのに、どうして不合格にされるんだ?』と考えていた彼女達も、暫くは納得すると思う。合格不合格なんて、所詮は最低基準の話でしかないのだと。

 神夜が笑顔で「鬼と戦えると言うなら、これくらいは出来るようになりましょうねー」なんて斬冠刀を振り回しながら言ってたもんだ。

 実際、他所ならともかくウタカタの鬼は強力なのが多いからな。主力級を基準にすると、あいつらまだまだ足りてないんだよなぁ…。

 かと言って、哨戒役だとその強さを持て余す。

 帯に短し、ゾーキンに流し。

 

 

 

 話は変わるが、ストーリーイベントは殆ど進んでないのに、追儺の日である。簡単に言えば節分な。

 ゲームで言えば、和穂の「鬼は討ち」の話だ。神隠しにあって時代を超えた和穂が、言葉の違いによってジェネレーションギャップを突き付けられる、後の伏線となる話だな。

 前のループでは、同じように「鬼は討ち」が基本だと思っている千歳との絆のおかげで、「元の世界になんて戻ってる場合じゃねえ!」状態だったんだけど。

 あれは千歳が尊すぎるから出来た事だ。完全に里のアイドル状態だったもんなー、あいつ…。…そのアイドルをあのクサレイヅチは、事もあろうに取り込んだ上に人質に……………クールダウン、クールダウン…。

 

 ともかく、色々な意味で後の伏線となるお話だ。

 神隠しから戻って来た和穂は、それまで追儺の日を経験してなかったのか? 戻ってきて一年未満って話だったっけ? という疑問はあるが、それは置いといて。

 今回、俺は和穂と全然絡めてないから、今回も同じような話になるんだろうな…と思っていたのだが。

 

 

 

「え、鬼は討ち、ですよね?」

 

「モノノフだから、討ち、だろう? 鬼やモノノフの事を知らない一般人なら『鬼は外』だが」

 

「過去の記憶はないけど、鬼は討ち、が基本だと思いますが…」

 

「私は前に起きていた時の記憶もあるけど…討ち、でしょう」

 

「浅黄様と同じく、討ち、です。ああ、どこから広まったのか、一般の人達が『鬼は内』と唱えていたのを見た事がありますけど」 

 

「そうよね! 鬼は討ち、が普通よね!」

 

「「「ええ……」」」

 

 

 ……和穂の同類がめっちゃ居ました。

 同意を得られて嬉しそうな和穂を、一緒に任務に出向いていた桜花、息吹、那木が見つめている。任務帰りの雑談中に話が出て、それをうちの駐屯地を通りかかった時に誰かが聞きつけて口出ししたらしい。

 

 そういやそうだよなー、うちの子達に刷り込まれてる知識って、かなり前の物だから…。

 和穂が飛び越えた時間は、ショタだったお頭が眼帯おじさんになるくらいの月日。少なく見積もって3~40年くらい。

 隊員達は、それよりも前に封印されていた。当然、当時のモノノフにとって主流であった知識しかない訳だ。

 

 …これって、和穂的にはどうなんだろうなぁ。

 郷愁を煽られ、帰郷(ここが故郷だけど)の念を募らせるって話だった筈だが…仲間が沢山居て、寂しくなくなったか?

 でも実際には何の救いにもなってないよな。何せこの子達も、何年も前の知識でしか言ってない。時間が過ぎた、世代が代わったって事には何の代わりも無いし、むしろ超高齢の老人にしか同意を得られてないよーなもんだ。

 それにしたって自分と同じ人がいる、というのはある種の救いを得た気分にはなるか。

 桜花達は、うちの子達の事情をあまり深くは知らないからな。未だに古い習慣が変わってない、とんでもない田舎者にでも見えたかもしれない。

 

 ま、だからと言って和穂の心境が変わったとは限らない。元の時代に戻りたい、両親に会いたい、大和がおっさんなんて嫌だという思いも消えはしないだろう。

 それをミズチメに付け込まれる可能性は充分にある。今のうちに、ミズチメの拠点となる地下水脈近辺の調査も進めておきたいな。いや、それより先に例の洞窟か…。

 

 

 

 

 

 なんて考えていたら、カーンカーンと鐘の音が響き渡る。里からではなく、俺達の駐屯地からだ。

 結界の端に近い分、鬼が近づかないかの見張りは必須。それが警鐘を鳴らす、しかも乱打すると言う事は。

 

 

「伝令、伝令ー! 鬼の群れが接近中! いつもの小規模な襲撃ではない、蜘蛛、鳥、虎、他に見た事もない鬼、小型の鬼の群れが接近中!」

 

 

 チッ、こんな時にか。囮作戦の準備の為に、戦闘を専門にしてる子達は里に居るんだよ。まさか狙ったのか?

 いや、それ以前に囮作戦に対する先制攻撃みたいなタイミングみたいになってるな。

 人間が鬼を観察するように、鬼が人間を観察していてもおかしくはないが…。

 でもそれだと主力級の桜花達がここに居る時に襲い掛かってくる理由は無い。

 

 いや、そんな事考えてる時じゃなかったな。

 全員武器を取れ!

 里に近付けさせず、結界を張る巫女にも負担をかけさせず、奴らを叩き返すぞ!

 俺も援護に加わる! 多分戦闘中にでかい音と衝撃が来ると思うが、気を取られるな!

 

 

 怯える気配もなく、応と一斉に声が返る。

 

 

「当然我々も戦うぞ。橘花に負担をかけさせるような事はせん。例え気まずい空気になっていようと、それだけは許さん」

 

「お嬢さん達が戦うのに、ウタカタ一の伊達男が黙ってられる筈もないよな」

 

「及ばずながら、私もお手伝いいたします」

 

「当然やるわよ! 私はみんなのお姉ちゃんなんだからね!」

 

 

 無論、嫌だと言っても当てにさせてもらうよ。

 里から援軍が出る前に片付けよう。囮作戦の準備に専念してもらいたいしな。

 

 

 

「ああ。編成はどうする?」

 

 

 すまんが、まだこいつらを大型相手に乱戦させる気はない。

 うちの子達は足止めと雑魚潰しに徹して、大型は桜花達で集中して一匹一匹狩っていく。

 

 

「うむ…大軍を相手に数で挑んだところで、圧力に負けるのが落ちだからな。妥当な判断か。君はどうする」

 

 

 俺は全体の指揮を執りながら、前から試してみたかった事をやってみる。

 上手く行けば、戦いが相当楽になるぞ。期待しててくれ。

 

 

「期待せずに待っていよう。よし、出るぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 鬼の大群が、結界に迫ってくるのが見える。いつもの小規模な襲撃と違う数。

 そして、大型鬼に付き従う小鬼達。明らかに統率が取れている。

 

 それに対し、うちの子達は半分が姿を現して待ち構え、半分は奇襲の為に伏せている。

 奇襲の為のカモフラージュは、予め準備していた簡易式の隠れ蓑。これで意外と、鬼相手でも効果がある。

 桜花達主力級は、うちの子達より少し後方。敵の足止めに成功したら、その隙間を縫って大型鬼を狙っていく布陣だ。

 

 そして俺はと言うと、近くの丘の上に陣取っている。全体を見渡せる高所であればどこでも良かったのだが、ここだとちょっと高さが足りないかな…。

 まぁ、多少は調整でどうにかなるか。

 

 手元には簡易式の矢と、銃形態の神機。

 ……そして大砲。

 

 うん、大砲だ。大砲なんだ、すまない。

 一基だけだが、取扱がとにかく簡単で頑丈なのが特徴だ。爆薬を仕込む・弾を込める・点火だけで使えるからな。

 伏線も無く、どっからこんな物取り出したかって? …夢の中から持ってきました。いやマジで。

 マイクラ能力を得た時のあの夢で、実験も兼ねて色々作ってたんだ。その幾つかが、 ふくろ の中にしまってあったんだ。…この ふくろ 、まさか夢の中の物まで持ってこれるとは…いや、思い返してみると他にも色々持ってきてたな。大神っぽい夢から、花びらとか。

 

 ま、それは置いといて、とにかく大砲なんだ。モノノフ的には、あまり馴染みのない武器である。

 何故って、鬼にはあんまり効果が無いから。それ以前に使いにくいから。

 

 鬼に対して、単なる物理攻撃は効果が薄い。神仏英霊の力を借りて、霊力をや祝福を籠めた武器でなければ、水を刀で斬りつけるような効果しか得られない。

 それに、モノノフは基本的に影の組織だった。人知れず鬼と戦い、人の歴史を守る秘密の集団。

 そんな集団が、大々的に痕跡が残る上、設置から運用まで多大な人手・出費を必要とする武器なぞ使える筈もない。

 そもそも、鬼はいつ何処に現れるか分からないので、小回りの利かない武器は照準を合わせる事すら難しいのだ。

 

 が、今はそれらの条件が全てクリアされている。

 オオマガトキで人の世は滅びかけ、モノノフは影から出てきて表立った集団として戦っている。

 鬼は里に向かって押し寄せてくるので、そっちに照準を向ければよい。

 

 そして、鬼に物理攻撃は効果が薄い、という点だが……薄いだけで、効果はあるのだ。ただの鉄の塊を猛スピードでぶつけるだけでも、鬼に対してダメージは通る。

 更に言えば、祝詞を唱えながらブッ放せば、更なる効果向上が期待できる。

 刀や槍、銃だって神仏英霊の力を籠めて鬼に攻撃する事ができるのだ。大砲だけできない理由はない。

 

 

 

 まぁ、何はともあれ、だ。

 

 

 向かってくる鬼の群れのド真ん中に向けてシューッ!

 

 

 

   ドォォォン!

 

 

 

 超! エキサイティンッ!

 

 おお、イイ感じにヒノマガトリに当たったな。周囲の雑魚鬼も、一緒に吹っ飛んでいた。

 流石にこれだけで倒せるほどの威力は無かったが、翼は折れ、倒れてもがいている。

 

 うちの子達は突然の轟音に驚いたようだが、すぐに目の前の敵に向き直った。事前の通達がちゃんと頭に入ってるね。それとも単に、細かい事はいいから目の前の敵を殴り倒せの精神か。

 取り敢えず、もう一発撃っておこう。

 

 …お、ヒノマガトリがもう一匹。

 既に空へ飛び上がっている。こうなると、流石に大砲じゃ狙えないな…。

 

 こういう時の為の神機である。狙撃! …よし、落下した。丁度、他の大型の上に堕ちたし…纏めて大砲でドーン!

 …む、ちょっと外れたか。余波だけでも効果はあったし、良しとしよう。

 

 おっ、右翼に敵が集まって来たな。ここは無理に押し返さずに…。

 手元の弓を構え、鏑矢を放つ。

 甲高い音を立てて飛ぶ矢に合わせ、右翼の子達が後退する。

 

 ここぞとばかりに押し寄せる鬼の群れに対し、大砲ドーン。

 集まったからこそ、範囲攻撃は効果が大きい。

 ふっとんだ小鬼達に、ここぞとばかりにトドメを刺して、すぐに大型に向き直る。

 

 …が、主力部隊が大型鬼に一気に攻撃をかけており、既に倒れる寸前だった。

 

 

 うちの子達による鬼の足止め、浸透してくる小型鬼潰し。

 その隙を縫って前線に切り込む主力部隊。

 後方から、鬼の後詰めを狙い打つ俺。

 

 思った以上に上手く回る。

 主力部隊が、いい仕事してくれてるね。厄介な奴、倒れて隙が出来た奴、すぐに倒せそうな奴を優先して倒し、効率的に鬼の戦力を削っている。

 

 これなら、里から応援が来る前にサクサク終わらせる事ができそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実際、できたんだけどね。

 

 

 

 

 

 俺は険しい顔をした大和のお頭と対面しております。

 …俺が一体何をした!?

 

 

「危険物の不法所持だ。大砲と火薬。何処から持ち込んだ」

 

 

 …あ”。

 

 

「何度も轟音が響いたので、さては鬼の仕業かと動ける者を総動員して援軍に向かわせたのだが……まさか鬼ではなくお前達の仕業とは…」

 

 

 大砲の音がそこまで響いてたのか…。そりゃ何事かと思うわな。

 そんで大挙して援軍に駆け付けたら、バカスカ大砲打ちまくってる俺が居たと。

 

 

「当然の事ながら、火薬は戦略物資だ。銃使いにとって必須であり、扱いを間違えれば甚大な被害を産む事は言うまでもない。その為、どの里でも厳重に管理されている。個人で所有が許されるものではない」

 

 

 …そういやそうだった…。前にも辺り一帯爆裂させて、ガチで怒られた上に没収されたの忘れてた…。

 

 

「大砲も見逃せん。たった一基とは言え、その破壊力は無視できん。むしろ、何故そんな物を持っている。長距離を持ち歩けるような物ではない。ウタカタの里に到着してから作ったものだな? 何のために、どうやって作った。お前達に悪意があるとは思いたくない。だが、隠れて所持していた以上、そこに何らかの意図があると考えざるを得ん。つまり…矛先を、ウタカタの里に向けるつもりだった疑いを」

 

 

 それはない! …無いけど、言葉だけで信じていい内容じゃないわな…。

 …参ったな、大失策だった…。

 

 

「…俺個人の考えで言えば、今回の件は非常に興味深い。お前の疑いさえ晴れれば、里公認で運営してもいいくらいだ。桜花達から、後方からの支援砲撃がどれ程有効だったか、報告が上がっている。敵の行動を阻害し、それなり以上の傷を与え、連携を乱す。これを使わない手はない」

 

 

 問題は、俺の疑い…か。

 はぁ、大した考えがあった訳じゃないんだけどな…。

 

 

「猶更問題だ」

 

 

 御尤も。

 じゃあ一つ一つ説明していくけど、まず火薬について。

 そもそも、あの大砲に火薬は使ってない。使ったのはコレだ。

 

 

「…この草と茸は?」

 

 

 火薬草とニトロダケ。読んで字のごとく、こいつを磨り潰して混ぜて火にかけると、火薬同様に爆発する。

 だから、火薬じゃなくて『火薬のような物』だな。

 

 

「その言い分が通るとでも?」

 

 

 いや、これは単なる説明。

 次に大砲についてだが、これは実は前から持っていた。

 俺も色々と特殊なタマフリを使えるんでね。この ふくろ に、生物以外なら何でも入れられるんだ。

 滅鬼隊とは別の切っ掛けで体得したんだが……大砲はそれによって出した。

 

 ここに来る前から持ってたんだよ、あの大砲。ずっと忘れてたけど…。

 

 

「何でも入れられる、か…。試しにこれを入れてみろ」

 

 

 刀? はいよ。ほら入った。

 もっとでかい物でもいいぞ。この箪笥とか。…ほれ。

 

 

「…異様な光景だな…。しかも重さも無くなっているのか…」

 

 

 正直な話、中に何が入ってるのか、自分でももう把握しきれてないんだよ…。

 とりあえず戻して、と…。

 

 さて、大和のお頭。正直な話、俺は疑いを晴らせるだけの根拠を提示できない。

 だが、代わりの取引を持ち掛ける事はできる。

 

 

「取引とは互いに信頼があってこそだ」

 

 

 他に取引先が無いのなら、嫌でも取引せざるを得ないだろう?

 この火薬草とニトロダケ、増やしてみたくないか?

 

 こいつは普通の植物とはちょっと違って、とにかく育つのが早い。上手くやれば、鬼を相手に爆破祭りが出来るぞ。

 

 

「その危険物を量産して、貯めこんだ所に大砲を打ち込む気か?」

 

 

 冗談にしちゃ性質が悪いね。大体、ウタカタの里に損害を与えたら、首が閉まるのはこっちも同じじゃないか。

 それくらい大和のお頭は百も承知だと思うが。

 

 

「知ってはいても、それで納得できるかは話は別だ。特にお前は、隠し玉が多いようだしな。何をしでかすか分からんし、何が出てきてもおかしくない」

 

 

 …実際、大砲と爆薬を出した訳だし、反論できんな。隠し玉だって、そう多い訳じゃないんだが…。

 つーか大和のお頭、難癖をつけるのが下手だな。九葉のおっさんなら、もっとねちっこく揚げ足を取ってくるぞ。

 

 

「ふっ、奴のようにはいかんな。お前がやった事が見過ごせなかった事も事実だ。火薬の管理はそれ程に重要だ。お前が訳あり部隊の頭領という立場でなければ、見逃す訳にはいかなかった」

 

 

 …俺が隊を率いてるから見逃す?

 

 

「事情が事情だ。自衛の手段は必要だろう。俺が今のお前を完全には信用してないように、お前達が会った事の無かった俺達を無条件に信用できるとも思わん。霊山から逃げのびてきたお前達が、ウタカタが良からぬ事を考えるかも、と思うのも当然の事だ」

 

 

 …器がデカイと言うか、アカンやろコレって言われるくらいに寛容と言うか…。

 そこで歩み寄れるってのは本気で凄いと思いますけどね。

 組織の長としてそれでええんか…。

 

 と思いはしても口にしない。だって都合のいい展開だからな。

 

 

「何より、俺も火薬は欲しい。お前が証明したその防衛力は、多少の危険を呑み込んででも手を伸ばす価値があると見た」

 

 

 大砲は一基だけしかないけどね…。

 

 

「乱の領域に、壊れた大砲ならいくらでも転がっている。使える部品を継ぎ接ぎしていけば、たたらなら何とか使い物にできるだろう。…とは言え、流石にお咎め無しという訳にはいかん。暫く監視させてもらうぞ」

 

 

 仕方ありませんな。流石にやらかしちまった自覚はあるし…。

 

 

 

 

 

 

 そういう訳で、うちの駐屯地に、那木が常駐する事になりました。

 …いや別に文句はないんだけどさ、いいの那木さん? 医者の仕事は?

 

 

「那木、で結構ですよ。幸い、今のところ怪我人らしい怪我人は里には居りません。医者が必要とされるのは、むしろ鬼に襲われる可能性が高い貴方達では。……医師として、出来る事は少ないのですけど…」

 

 

 一理はあるけど。

 

 

「私が監視として選ばれたのは、女所帯に入るのを男性の方々が嫌がったのと、あとは知識の問題でございます。自分で言うのも何ですが、ウタカタで一二を争えるくらいに博学だと自負しています。何かおかしな物、気になる物があれば報告するよう命じられているのです」

 

 

 ああ…説明魔だもんな、那木って…。説明の為に知識を貯めこんでるって訳じゃないんだろうけど、確かに知識は多い。

 でも、一番心配しているのはそこではない。妙な物も色々あるけど、見られて特に問題と言う事は………いや、俺が問題になるのを忘れてるだけって可能性はあるかな…。

 

 まぁ、それはともかく。

 口には出さないけど………俺が心配しているのは、那木が目にする人間関係だ。……と言うか色ボケさせてしまった子達の惚気とかだ。

 …那木って、モノノフ的には結婚適齢期逃しちゃってるんだよなぁ…。しかも許嫁は居たものの、出会う事すらなく死に別れ、それ以来男性とは全く縁がない状態。

 日頃からニコニコしているけど、「いける!」と思ったら積極的にアプローチしてくる程度には、諦めていない。と言うか憧れがある。

 

 そんな那木が、俺を中心に形成されているハーレムの中に入ってくる。その一員になれば開き直る事もできるだろーけど、真昼間からそこかしこで下ネタ惚気を垂れ流す色ボケ集団と一緒に生活する。

 ………やさぐれなければいいんだけど。最悪、襲ってでも…いやいや、那木もMっ子ちゃんの素質は大いにあるけど、無理矢理はいかん。マジで襲うのは、プレイの範疇に含まれない。

大体、那木が欲しているのは男との肉体関係ではなく、寄り添える夫婦や恋人のような関係なんだから、まず心の繋がりありきだ。最初に口説き落とさなければならぬ。

 …色ボケに囲まれて、心が荒んできた時が狙い目だな。荒む最大の原因に口説かれても嬉しくないかもしれないが。

 

 

 



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480話

アイスボーン超楽しい
しかし難易度は下がった…かな?
クラッチクロー、使い方を理解できれば超強力だった。

大剣使いですが、下手に溜め切りフルコンボ狙うより、武器出し攻撃・強化打ち・真溜め切りの方がいいかな? 
全開まで貯められなくても、ホイホイ打てるのがいい感じ。

でもマスターランクの装備を持ってしてもナナテスカイベントが酷すぎる。
夫婦間で戦闘力離れすぎでないかい?
二頭相手がきつすぎて、肥やしも通じないときた。
半ばヤケクソで肥やし玉投げたら、それがトドメになってテオが死にました。
割とスカッとしたw


あ、しかし狩りに行ってばかりで書き溜めが…。
あと増税前を理由にしてルンバ買いました。思ったよりデカイ。


堕陽月弐拾弐日目

 

 

 襲撃があった時、援軍に駆け付けられなかった事を悔いて、朝っぱらから天音が切腹しようとするのを止める。

 切腹したって意味ないし、別の要件を言いつけていたのは俺なんだから、そんな気にする理由もなかろうに…。

 

 ともあれ、囮作戦の準備に戻らせた。

 昨晩からやってきた那木には、即興で作った専用の部屋を宛がっている。那木の知っている家屋とは、明かに異質な(そもそも作り方からしてマイクラ方式)家に好奇心を刺激されたようだが、調べたところで何が分かるものでもない。と言うか俺も分からない。

 

 那木は何かと注目を浴びているようだ。

 警戒していると言う訳ではなく、この駐屯地にうちの子達以外の誰かが滞在しているのが気になっているんだろう。縄張りの中に、誰かが入り込んでいるのを察知した犬のようだ。吠え掛からないだけ上出来だろう。

 やっぱあれかな、朝飯に一品足してくれたのが効いてるのかな。

 明日奈や時子と献立の話で盛り上がっていた。

 

 その後やっている事は、簡単な治療。

 昨日の戦いで、流石に多少は怪我人が出たからな。擦り傷や打撲くらいのもんだが、処置しておくに越した事はない。

 …那木も、このくらいの事なら今でも出来たんだっけ。トラウマになっているのは、重症への手術のみ。

 

 …この問題、どうしようかなぁ。前は手術が無理ならタマフリで対処させてたけど、精神的な問題を乗り越えさせたい。

 別に俺が必ずしもどうにかしなければいけない問題ではないが、那木の医者としての能力は貴重だ。

 誰かを那木の弟子とか助手につけてみようかな。うちの子達にも出来るようになってほしい。

 トラウマ克服の一助になれば、大きく恩も売れるだろうし、信頼を得る事だって出来るだろう。

 

 

 

 

 さて、それは置いといて。

 執務室でいつものように事務作業。机の下のじゅぽじゅぽ当番は詩乃です。

 

 作業も切りのいい所まで終わり、ムラムラしてきた事もあってそろそろ一発…と思っていたら、予想外のイベントが発生した。

 すっかり発情して準備万端の詩野を机の上に乗せ、さぁこれからヒィヒィ啼かせるぞ…と意気込んだ時、扉がノックされた。詩野の目が、殺気なんて生易しいものじゃない冷たい炎に埋め尽くされる。

 が、火急の案件かもしれないので無視もできない。机の下に戻らせ、足で秘部をグリグリして慰めながら、入室の声をかけた。

 

 入って来たのは、凜子と凜花。

 戦闘を専門にして調整された二人だ。相応の戦闘力を持っており、自分の力を活かしたいと思い試験を受けているが、浅黄に落とされている。

 性格は、良くも悪くも生真面目。基本的には物分かりのいい、人当たりのいい子達なのだが、何というか根っこが頑固者っぽいんだよなぁ…。

 それはもう、今机の下の状態を見たら、「頭領がそんな事をしていいと思ってるのか!」とガチギレして、人の上に立つ者としての心得を延々と説教してきそうなくらい。……この場合は、二人の反応が正しいかな。

 

 で、どうした。

 

 

 

「忙しい所に失礼する。若、一つお願いがある」

 

 

 ドン、と机に手を突いて、真剣な顔で俺を見る…いや、睨み付ける凜子。

 隣に居る凜花は、威圧的な態度はとろうとしていないが、凜子に同調するように俺を見ている。…詩乃の事は気付かれてないな。よし、もう少し足でいちめてやろう。

 

 で、突然何事ぞ。聞くかどうかはともかくとして、言うだけ言ってみ。

 

 

「では率直に。我々と手合わせを願う」

 

 

 手合わせ? 試合しろと? 俺が?

 何のために?

 

 

「若が把握しているかは知らないが、私達は浅黄の試験に何度も不合格となっている。自分で言うのもなんだが、戦闘力には自信があり、浅黄に勝つ事はできなくても、充分以上に渡り合えたと自負している。少なくとも、任務を受けても問題ないと判断されるくらいの力量は示した筈だ。事実、昨日の鬼との闘いで、私と凛花は大型鬼とも渡り合える事が確認できた」

 

「それにも関わらず、何度も不合格。そのくせ、戦う力の無い鹿之助君や、精神的に不安定な面が多いまりちゃんなんかは試験も受けずに任務についている。疑惑を持つのも当然でしょう? 何故私達は不合格とされているのか、何の為の試験なのか。そもそも公平な判断が下されているのか」

 

 

 ふむ、そりゃそうだな。試験を受けずに任に就かせた子達は、根拠はあったとは言え特別扱いした事には変わりない。理由の説明もしていなかったし。守秘義務があった訳でもないんだから、情報はむしろ共有すべきだったな…。これは俺の失敗だ。

 しかし、それならどうして俺と手合わせなんて話になる。

 合否の判定を下しているのは、俺じゃなくて浅黄だぞ。疑問を持つならそっちに行くのが筋だと思うが?

 

 

「確かに筋かもしれないけど、本当に理由もなく依怙贔屓していたとしたら、問い詰めても認める筈がないじゃない。不正を問いただすなら、本人じゃなくてその上に動いてもらわないと」

 

 

 …意外と頭使ってる。それだけ考えられるなら、自分が不合格にされる理由にも行きついてほしいものだが…。

 いやそれはいい。

 不正の調査が、どうして手合わせになる。

 

 

「話が逸れていたな。頼みたいのは、不正の調査ではないのだ。結局のところ、我々が浅黄に勝利できれば問題は解決する。どうやっても不合格にできない程の力量を見せ付ければいい」

 

 

 …浅黄ってハイエンド個体に加えて、封印前の経験もあるから、その差を乗り越えて勝つって相当な難易度なんだが…。

 まぁ、より上を目指そうとしている、と言う解釈にしとくか。実際浅黄に勝てれば、主力級への推薦も吝かではない。

 

 …あ、詩乃が口元抑えて痙攣してる。

 

 

「その為に、より強い者との手合わせを望む。明日奈さんや神夜さんにお願いしようかと思っていたんだが…」

 

「二人とも、例の作戦に掛かり切りになっちゃうし、そもそも二人が言うには、若の強さは桁違い。明日奈さんと神夜さんが束になっても簡単にあしらわれてしまった、と聞いているわ。………でも、若には悪いんだけど、これはちょっと信じられないの」

 

「…そうだな。この際だから率直に言ってしまおう。若、あなたが本当に強いのかを知りたい。人の上に立つ者に求められるのは腕っぷしではないとは言え、我々にとって最も信用できる物差しなのは変わりない。それに、どんなに強くても必要な場でそれを振るわないのなら意味はない。強い強いと言うが、昨日の戦いでも、若は鬼と刃を交える事はしていなかった。頭領としての手腕は認めているが……刃を持った時、本当にあなたは強いのか」

 

「弱いなら弱い、強いなら強いで、別に構わないのよ。ただ、力量は正しく把握しておかないと、いざと言う時に『実は…』なんて事になりかねないから」

 

 

 …ほう。ほぉほぉ。

 

 ……ほっほぉ……。

 

 

 …天音が居なくてよかったなぁ。あいつが聞いたら即マジギレして殺しにかかるぞ、あいつ。

 かく言う俺も、ちょぉぅ~~~っとビキッと来たなぁ…。

 俺だってハンターでゴッドイーターでモノノフであるのには変わりない。体一つが俺の資本、始まりにして最後の武器。謙遜する事はあっても、自分の力量に拘りを持っている。

 

 ヒヨッコに侮られ、黙っている理由はない。

 器が小さい? ノー、これは教育だ。自分の力量や世界の広さも分かってないガキンチョに、誰に喧嘩を売ったのか分からせるだけだ。

 

 身の程を知れ、とは言わない。

 だが身の程は知っておけ。でないと大火傷じゃ済まないぞ。

 

 

 …机の下で、詩乃が落ち着けとでも言うようにイチモツに軽く歯を立てたが、全く効かないなぁ。むしろ怒りでナニが更に膨れ上がっています。

 

 

 いいだろう。今この瞬間から…と言いたいところだが、二人とも得物を持ってきてないし、この際だからもう少し派手にやろうか。

 戦ってみたい奴、浅黄の試験に不合格になってる奴、とにかく暇や体力を持て余してる奴、まとめて連れてこい。

 武器の使用も戦い方も一切制限無し、無礼講で行こうか。

 

 

 

 

 ああ、マホロバの里で、里の戦力を纏めて叩き伏せた時の事を思い出すなぁ。

 あの時の有象無象に比べれば、数は少ない。しかし平均的な戦力で言えば上。

 そして俺は当時より、フロンティアでの生活を経て大幅にレベルアップしている。戦力差で言えば、あの時以上に差があるだろう。

 

 

 

 だが容赦せん。纏めて死なない程度にぶっ飛ばす。

 

 

 力んだらついドっピュンして詩乃の口に出してしまった。いかんいかん。

 

 

 

 

 

 

 

 二人は模擬戦に備えて皆に声をかけに行き、俺は机の下から出てきた詩乃に戦闘前の滾りをぶつけて、ちょっと冷静になった。

 

 

「…で、どうするつもり? 少しは…頭が冷えたかしら」

 

 

 ん、ちょっとはね。でもやる事は変わらないよ。

 力量を疑われて腹が立ったのはこの際水に流すけど、自分の力量が世間一般でどれくらいなのかを理解してないのは問題だ。上の意味でも下の意味でもね。

 

 

「貴方を世間一般の基準にするべきではないと思うけど、まぁそこはいいわ。…私も興味はあるし。戦いに愉悦を見出す人種ではないつもりだけど、弾を叩き落されたのはちょっと気になってたのよね」

 

 

 ああ、雪風や麻央に驚いて誤射した時の事か。あれは叩き落してよかったじゃないか。あのままだと、無関係の直葉に直撃してたし。

 そもそも誤射だから、狙いすました一撃じゃなかったろうし。

 

 

「それはそれ、これはこれ。私にだって自分の力量に対する自負はあるわ。…無礼講なんでしょう? いい機会だし、狙い打たせてもらうわ」

 

 

 やれやれ、詩乃まで参加するのか。まぁいいさ。

 後で神夜と明日奈のご機嫌取しないとな…。布団の中じゃなくて、得物を使っての立ち合いで。囮作戦で戦ってこれたとしても、俺との闘いを逃したとあっては大いにブーたれるのは目に見えている。

 

 

「で、繰り返し聞くけど、どうするつもり? 一人一人と試合をするの?」

 

 

 そういうのは大和のお頭と計画している練武戦でやる。

 悪いが、詩乃を含めても真向勝負じゃ勝負にすらならん。格の違いを理解させなきゃならんから、文字通り纏めて捻り潰させてもらう。そっちの方が、時間も手間も省けるからな。

 

 

「…そう。なら私はその慢心に一矢報いてあげるわ」

 

 

 期待している。具体的な勝負方法としては…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意外と人が集まった。中には隊員だけじゃなく、非番だったらしいウタカタのモノノフまで居る。幸か不幸か、主力級は居ないな。全員、囮作戦の準備か、普段の任務についているんだろう。

 あからさまに面倒くさそうな表情をしている子も居るが、とりあえずサボるつもりはないようだ。それだけ暇だったのか、俺の命令に反発するという発想すら無いのか。

 

 とにもかくにも、声をかけてきた凜子と凜花を中心に、わいわい賑わっているようだ。

 

 

 さて、と。

 

 

 マイクテス、マイクテス(マイクなんか無いけど)。

 本日はお忙しい中を多数お集まりくださいまして…え、何? 前置きはいい? 似合ってない? 無理をしているのがすぐ分かる? せっかちな奴だな、仮にも頭領に向かって。

 

 んじゃ、前置きはすっ飛ばして、説明に入る。

 まだ状況を把握できてない子も居るみたいだから簡潔に説明する。

 

 そこの2人が、『戦っているところを見た事ないけど、若はどれくらい強いんだ?』とか言い出した。確かにこのところ運動不足だったんで、丁度いいから模擬戦をしようって事になった。

 悪いが、外せない用事や任務がある者以外、隊員は全員参加とする。

 優秀な成績を残した者には……んー、具体的な事は考えてないけど、何か褒賞でも出そうか。

 

 そうだな…例えば一対一での試合、装備の融通、任務に参加する試験の免除…だけじゃちょっと弱いな。任務に出た場合の書類仕事を暫く免除、でどうだろう。全部とはいかないし、恒久ではないが。

 …おお、予想以上に好評のようだ。

 よし、それじゃこれでいこうか。別の願いがある場合は、各自申告するように。

 

 

「二人っきりで、存分に時間を過ごしたい、とかでも?」

 

 

 いいよ。雪風が満足するまで、徹底して付き合おう。と言うか、お前囮作戦の準備はどうした。

 …もう済ませてやる事が無い? だったら周りを手伝えよ…。

 

 それでは、気になる勝負方法だが、生憎と一対一の戦いではない。モノノフとして重要なのは、平坦な場所での対人戦よりも、異界という乱れた場所での鬼との闘いである。

 その為、俺を仮想敵…ウタカタの里へ攻め込もうとする鬼だと仮定して、これを迎え撃ってもらう。

 俺はこの駐屯地の少し離れた場所から、真っ直ぐ、ゆっくりウタカタの里に向かう。これを止められれば皆の勝ち、到達すれば俺の勝ちだ。おっとそうそう、既定の進路から俺をはみ出させるとか、一定以上の移動速度を出させても皆の勝ち。

 

 …とは言え、里の間近で殴り合ってると、里人達が不安になるな。もうちょっと離れた場所を終点としよう。

 倒れた者はどうするかな…。回収も良し、治療して再出撃も良し、心が折れた者を洗脳して囮にするもよし、いっそ脱落条件は無しとしようか。

 んー、いきなりの事だから、決まりが精査しきれとらんな…。

 

 

「…あの、若。それは…本気で言ってるのか?」

 

 

 本気だ。

 攻撃方法に禁止は無し。一斉にかかってきても構わないが、同士討ちで動けなくなるのが目に見えてるから上限4人か5人くらいを勧める。

 狙撃も良し、罠も良し、タマフリ良し、大和のお頭に怒られそうだが火薬も構わん。後片付けだけは自分でやるなら、何をやっても構わない。

 俺を鬼だと思って潰しに来い。 

 

 舐めすぎだって? これが俺のお前達に対する評価だ。そう思うなら勝ってみろ。

 では、俺の進行通路の資料を配布する。思ったより人が増えて数が足りないから、3人で1枚を共有してくれ。

 

 開始は一刻後。全力を尽くすように。

 

 

 

 

 

 

 

 …俺も準備している時に、「何をやっても構わないんだよね?」と開始時刻を無視して奇襲してきた沙耶根尾に、麻酔玉を叩き込んだ。

 こういう発想が出来る子は大事にしないとね。ただ、奇襲だと言うのにわざわざ姿を現して声をかけた事と、一人で来たので収支赤字である。

 

 



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481話

 

 

 

 

 

 

 さて、開始時刻だ。

 とりあえず沙耶根尾はケツ引っぱたいて叩き起こし、向こうのチームに合流させた。まだ眠そうだ。…流石にリオレウスでも2発で眠る麻酔玉だし、人間相手に使うのってやばいかな…。

 まぁいいや、死んでないし。

 

 抜け駆けした沙耶根尾に対してヘイトが集まっているよーだが、寝惚け眼で聞いてないな。

 開始の合図である鏑矢を放ち、予定通りの進路を歩き始める。

 

 さて、奴らはどう出るかな?

 

 

 

 

 …なーんて言いつつ、もう予想はついてるんだけどね。

 早速当たっちゃったよ。

 悪い方に。

 

 

 開始地点からすぐ、それこそ目視さえできる場所に、彼女は居た。

 刀を持ち、何憚る事なく、単騎で堂々と立つその姿。長いポニーテール、切れ長の目、巨乳。

 

 言うまでも無い。この騒ぎの発端である(俺? 心の棚に上げています)凜子である。

 …元々、俺が強いのか知りたいって言ってたしさぁ…小細工なしでかかってくるかな、とは思ってただけど。

 

 一人…のようだな。伏兵の気配もない。周辺に小細工した痕跡もない。

 

 

「ああ。若の腕前を知るには、これが一番いいだろう?」

 

 

 折角ここまで話が大きくなったんだから、何か工夫しろよ…。せめて凜花と一緒に来るとかさ…。

 

 

「どっちが先に戦うか、かなり揉めたぞ。元々、若への手合わせは私が発案した事だからと押し切った」

 

 

 だからどうせなら一緒に来いよ。そうでなければ、隠し玉として潜んでおくとか。本当に真正面から挑んでどーすんだよ、俺を鬼と思えって言ったじゃないか。

 …ああくそ、もういいや。

 この子達がこういう、単純かつ自分の思った通りにしか動こうとしない子だって事は分かってた。まだ子供なんだから。

 それを加味して理解させられなかったのは、頭領として落ち度だと思っておこう。

 

 …だからこそ、猶更叩き伏せる。

 そーいうトコがあかんのやぞ、と骨身に染み込むくらいに、心折に捻じ伏せる。

 

 ちなみに、この会話中も歩みは止めてない。

 

「それに…正直な事を言うと、少々頭に来たんでな」

 

 

 ん?

 

 

「いくら相手が若と言えど、雑魚扱いされて黙っていられる程、私は大人しくないぞ…!」

 

 

 刀に手をかけ、構える凜子。

 ふん、一丁前に矜持が傷ついたか。

 上等、かかってこいや。

 

 

「いくぞっ!」

 

 

 刀を抜かずに走りだす。この子の戦い方は確か、タマフリを絡めた独自の剣術だった筈。

 抜き打ちか? いや、それにしては意識している間合いが遠い。それに、このミタマスタイルは…。

 

 

 凜子の考えに見当がついた時、既に彼女は行動に移っていた。…尤も、その先の行動は悪い意味で予想外だったが。

 まだ間合いに踏み込んでないと言うのに刀を抜き放ち、目の前に円を描くように振る。軌跡に淡い光が残った。

 

 

「逸刀流奥義!」

 

 

 誰が流派名付けたんだ、という疑問はさておいて、凛子はその光の輪に飛び込んだ。

 一瞬で姿が掻き消え、一拍置いて俺の真ん前に現れた。

 

 

「はぁぁぁぁぁ…胡蝶ら」目の前でわざわざ溜め作ってんじゃねーよ。「ごふっ!?」

 

 

 伝説の16文キックが直撃。顔じゃなくて鳩尾を狙ったのは、女の顔がどうこうではなく(無いとは言わないが)呼吸を乱すのにそっちの方が効果的だからだ。

 凛子は吹っ飛ばされて、ごろごろ転がった上に木にぶつかってようやく止まった。

 ゲホゲホと咳き込み、立ち上がる事ができないようだ。割と強めに蹴ったからなぁ。

 

 凛子がやろうとした事は、ゲーム的に言えば所謂「空太刀」と呼ばれる戦い方だろう。

 縮地による緊急回避と、縮地に絡むスキルによる攻撃の強化。スタミナの回復で、会心率を上げて延々と攻撃するってやつだ。

 ゲームシステム的な表現はともかくとして、この戦い方、実際に出来ない訳じゃない。と言うより、割と実用性は高い。敵の攻撃を避け、隙だらけになった瞬間にバフ付きの攻撃を叩き込める訳だからな。

 

 が。

 

 

 真顔で聞くが、何だってわざわざ相手の間合内で動きを止める。

 縮地で間合いと拍子を狂わすのは、まぁ分かる。一瞬で敵の懐に潜り込む、不可解な移動方法で敵の不意を付く。普通は真正面じゃなくて死角から狙うけど、縮地は方向までは変えられないし、正面だからこそ意外性があると言うのも、一理はある。

 が、それなら相手が対処できるような間を空けるでない。

 

 何だよ、縮地→溜め→攻撃って。普通、溜め→縮地→攻撃だろ。

 安全地帯で攻撃の準備をして、敵の攻撃を回避しつつ接近、至近距離から最大威力を叩き込む。普通はこうだって…。

 理想を言えば、相手が防御できないくらいに武器を振った瞬間に縮地を使って、移動直後に刃が減り込むようにするのが最上かな。

 溜めを敵の間合内で行うなら、せめて攻撃を誘導して空振りさせる為の囮くらいは用意しろ。

 

 …ふむ、まだ立ち上がれないか。思ったより強く減り込んだしな…。

 そのままそこで休んでろ。お前達の脱落基準は無いから、動けるようになったら追いかけてきな。その時はせめて背中から襲い掛かるなり、誰かと協力するなり、もうちょっと頭使ってくれる事を祈るよ。

 

 

 

 無理に動こうとしては力尽きる凛子をそのままに、俺はまっすぐ進む。尚、解説の途中も足は止めていなかった。

 さて、次はどう出るかな?

 凛子がいの一番に待ち構えていたと言う事は、二番手として凛花も控えているだろう。戦いにもならなかった様子を見て、多少は意識を切り替えてくれるといいが。

 

 

 

 それから進む事少し。具体的には、まだ倒れている凛子が目視できるくらいだ。

 空気に妙な匂いが入り込んだ。煙の匂いだ。

 風上には何もない。毒の類を散らしている訳じゃないし、何かが燃えている気配もない。

 

 ただ不自然に、煙の匂いだけが流れて来た。…そして、この匂いに混じる人肌…女の匂い。

 …そうか、姿を隠して奇襲するくらいの事は考えてくれた訳か。

 

 背後からの風切音。迷うことなく手を伸ばすと、金属質の手応えが返って来た。掴み取って手の中を見れば、そこには手甲がある。モノノフの武器である、一般的な手甲。

 俺の手から逃れようとガチャガチャやっているので、望み道理に地面に放り、飛び上がろうとしたところを思い切り踏みつけた。

 …ちょっと地面に亀裂が入っちゃったけど、手甲は地面に減り込んで動けなくなった。

 それを放置して、また前に進む。

 

 暫くガタガタ動いていたが、諦めたのか静かになる。そして、手甲の隙間から煙が立ち上った。

 

 

「いやはや…凛子が一発であしらわれたから、想像以上だとは思ったけど…どうやって気付いたの? 煙は出来る限り薄くしていたつもりだけど」

 

 

 予想通りに凛花が現れた。彼女の特殊なタマフリは、体の一部を煙に変える事が出来る。…鬼にも見られない能力だが、滅鬼隊を作った連中はどうやってこんな能力を付け足したんだろうか。…こういう事が出来る鬼が、どこかに居るのかもしれない。

 煙だけなら、見落としたかもしれないな。薄い煙に混じって、肌の匂いがした。

 

 

「肌の…?」

 

 

 女の肌の匂いだ。煙になっても、その辺に漂っている匂いまで消える訳じゃないんだろうな。煙と一緒になって漂ってきたって訳だ。

 

 

 

「…つまり、若が私の肌の匂いを………………………うん……いい、かも…」

 

 

 うぉーい。

 

 

「はっ!? い、今のは無しで…。と、とにかく一手手合わせ願うわ!」

 

 

 妙な性癖に目覚めているのは珍しくないとして、仕込は最初の奇襲だけか。

 もうちょっと工夫してくれんものかね。何だってこう、正面から堂々と挑もうとするかなぁ…。滅鬼隊って、一般人にもモノノフにも隠れて活動させられていた、隠密部隊の筈なのに。

 

 

「私達は忍びじゃなくてモノノフなんだし、隠密が性に合わないのは仕方ないんじゃないの。勝てなくても正面から…なんていうつもりはないけど、これは模擬戦。凛子だけ若と一対一で戦ったなんて、ずるいでしょう? 負けられないの、あの子には」

 

 

 そこを張りあってどうするんだよ。負けないってんなら、あいつがやらなかった他の人達との共闘でもやってみせろよ。

 

 

「そこは大丈夫。事の発端になった人間の特権として、最初に一人で挑んで、その後合流するって事で話がついてるから」

 

 

 …っとに…。強くなる為に、負けを承知で挑む気か。

 だったら猶更、勝ち筋を探して来いっての。ただ負けただけで経験を積めると思ってるなら大間違いだ。

 

 俺の愚痴は置いといて、凛花は既に構えをとっている。

 と言っても、片腕の手甲は俺の背後に転がって…いや埋まっているので、武器を備えているのは片手だけ。

 煙になった状態では、あまり力は強くないんだろうか。生身で思いっきり引っ張れば、引っこ抜ける程度にしか埋まってない筈なんだけど。

 

 

 凛花は格闘戦を仕掛けてきた。初手は手甲による打撃ではなく、モーションの大きな飛び蹴り。

 女性とは言え全体重+手甲の重さを乗せたそれは、普通の人間ならまず受け止められないだろう。でも俺は片手で余裕です。

 足を掴み取ろうとしたが、それは予想の範疇だったのか、トンボを切って逃げられる。

 俺の背後に着地して、正拳、ローキック、裏拳と連続して仕掛けてくる。

 正拳は振り返りながら掌で受け止め、ローキックは足裏で受け止め、裏拳はパリィしてカウンター。腹に一発入ったが、致命ではないな。ブラボ式内臓攻撃はまだ習得してない。

 

 反撃を受けた事で、一旦飛び退く凛花。追撃は余裕だったが……ルール上、それはできないんだよなぁ。

 

 

「…若、ひょっとして一定以上の速度を出したら負けって…」

 

 

 うん、追撃でも、高所からの飛び降りでも、移動は移動だからね。ゆっくり移動する事しかできないから、高速で逃げ回られるとどうしてもなぁ。

 ま、それでも負ける気がしないから、こんな勝負にしたんだけど。

 

 

「言ってくれるわね、本当に…! 危なくなったら、私達は逃げればいいって?」

 

 

 奥歯を食い縛り、怒りを堪える凛花。こりゃ素直に距離を取ろうとする気はないな。

 ちなみに、この間も後ろ向きで里に向かって進んでいます。足を止める気一切ナシです。

 

 俺が足を止める気がないのに気付いたのか、凛花は逆に俺の進行方向に戻った。意地でも正面からぶつかり合うつもりらしい。

 手甲攻撃を奥の手とし、素手での攻撃を仕掛けては弾かれる。

 俺が進んだ分だけ後退し、それでも挑んでくる。……何か仕掛けるつもりだな。しかし、恐らく成功しても殆ど意味は無い。…凛花の能力と戦術は、ひどく噛み合っていない。浅黄も、さっさと指摘してやればよかったのに。

 

 凛子もそうだったが、とにかくこの二人は弱くはない。弱くは無いが、自分のスペック通りの戦い方しか知らないんだな。…滅鬼隊を設計した連中、本当に机上の空論ばっかりと言うか…

 それでも下手なモノノフより強いんだからタチが悪い。とにかくこの子達の現状での強みは、ハイエンド個体一歩手前まで強化されている身体能力な訳だ。

 

 まぁ、何にせよ。

 

 

「喰らいなさいっ!」

 

 

 これ以上退けないと判断した凛花が勝負に出た。手甲がついてない腕を裏拳で振るう。俺がガードしようと腕を挙げた瞬間に、拳を煙化させてスルー。フェイントに引っ掛かった俺の腹に、本命の手甲攻撃。

 膝で受け止めようとしたが、これもフェイント。こっちの腕も煙にして、手甲が明後日の方向に飛んでいく。

 

 次の瞬間、俺の死角から手甲が頭目掛けてすっ飛んできた。前からの攻撃と見せかけて、不意を突いて後頭部を狙った訳だ。

 

 ただし、二つともあっさりと掴み取ったけどな。

 そう、二つ。一つは今正に放り投げた手甲。もう一つは、さっき俺の後ろに回った時、足先だけで密かに手甲を地面から引き抜いていたのだ。

 そして最初のフェイント…裏拳と同時に煙化させた腕を伸ばし、手甲を掴んで同時攻撃と。

 

 

「ぐっ…全て読まれていたと言うの…」

 

 

 別に読んでないな。背後からの風切音で、二つ投げられたのが分かっただけだ。

 それで? まだ仕込はあるか? お前の武器はもう二つとも俺の手の中。ま、自分から武器を手放すような攻撃は、まともに考えれば悪手中の悪手。最後の博打か悪足掻きが普通だけどな…。せめて手甲に爆薬でも仕込んでれば面白かったんだが。

 徒手空拳でやるかい? 

 

 

 と言うか、こんなのに当たったところで大した意味はないぞ。いくら手甲が重いっつっても、この程度の速度じゃたん瘤くらいしか出来ないよ。

 

 自覚があるのか無いのか知らんが、その煙化能力は打撃には向いてない。

 当たり前だよなぁ? 本来なら全身を通して増幅し、伝える力の流れが、煙になった体で上手く伝わる筈もない。その状態で繰り出されるのは、手首だけで相手を殴るのと大差ない攻撃ばかり。手甲を使ってるのは、武術が得意だからと言うのもあるが、分離した体の貧弱さを補う為。それなら、投げつけるよりは振り下ろした方がまだ良かったかもね。

 

 何にせよ、人間相手ならまだしも、鬼が相手じゃこれは攻撃に使えない。火力が足りん。

 これを有効活用しようと思ったら、人間相手であれば手甲なんぞ使わず急所に一撃するか、腕から先だけで使える締め技関節技でも覚えろ。富獄の兄貴なら、その手の技も知ってるだろ。

 鬼が相手なら、こっそり近付いて小細工とか、誘い出しかな。誘い出しは本気で重要だぞ。同じ場所に大型鬼が2頭いるだけで、物凄い勢いで話がややこしくなる。それを引き剥がせると言うのは、下手な攻撃力よりよっぽど重要な…。

 

 

 って、逃がすかボケ。

 

 

 

 べらべら喋ってる間に、近くの茂み(つまり規定ルート外)に逃げ込もうとした凛花の後頭部に、手甲を思いっきり投げつけた。

 

 

 

 たん瘤作って茂みから下半身だけ出して倒れている凛花は放置。規定ルート外だからね、介護しようとしたら負けちゃうからね、仕方ないね。…鬼の手で引っ張ればいい? 許可取ってようと、単身で突撃してくるアホの子は知らんわ。

 つーか、滅鬼隊にまでも討鬼伝の悪しき伝統・単騎特攻の癖が染み込みつつあるな…………いや、染み込む以前に元々だわ。頭滅鬼隊だわ。…この表現だと、モノノフも頭滅鬼隊になるのかな。討鬼伝世界の住人全てが頭滅鬼隊…………この考えはやめよう。

 

 

 

 

 

 さて、とにもかくにも2人片付いた。また復活してくるけど。

 単騎特攻したのは発起人の特権みたいな事を言ってたから、ここから先は徒党を組んで、褒賞目指して工夫してきてくれるだろう。

 

 さぁ、あの子達はどう出るか。

 滅鬼隊じゃないモノノフ達は、どう知恵を貸してくれるか。

 実に楽しみだ。

 



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482話

改めてみると、ソードマスターの足捌き体捌きがバケモノすぎる。
実装されたらブシドースタイルを鼻で笑うレベル。
最低限の動きだけで野獣の攻撃を全て避けるって何ですか。
ウチのSSの色ボケは勿論、レジェンドラスタのキースさん以上の腕前…という脳内設定。


 

 

 

堕陽月弐拾参日目

 

 

 

 いやはや、昨日は実に楽しかった。色んな意味で楽しかった。

 子供達があれこれ工夫して、力を合わせて挑んでくるっていいなぁ。微笑ましすぎて、こっそりアラガミ化しちゃったよ。…最後だけね。

 

 結局のところ、勝負は俺の勝利で終わった。

 どんどん激しくなってくる襲撃や罠、抵抗を乗り越えて目標地点へ。張り倒した凛子凛花も合流し、何度も挑んできた。

 最後なんて、スクラム組んだ皆と正面切っての押し合いだ。アラガミ化したのはこの時ね。

 

 何と言うか…マホロバの里で暴れた時のような、無双気分じゃないな。もっとこう、重厚感溢れる戦いだったと言うか…。

 なんだろ、すっごくよく分かる、身近な例がある気がするんだけど。

 

 

 

 

 あ、そうか。

 

 

 

 

 気分はフロンティアG級ラオシャンロン。ただし相手は上位ハンター。

 

 

 

 

 

 ……狂走ラオシャンロンしたら、どんな事になってたかなぁ。…それじゃあっさり終わってつまらんな。

 いやぁ、群がってくるハンターもといモノノフ達を移動ついでに沈め、障害物をぶっ壊して進む姿は、自分で言うのも何だけどラオシャンロンそっくりだ。地響きを鳴らせばもっと良かったけど、流石にそれは近所迷惑。

 

 まぁ、あの子達がやった事も、近所迷惑だったろうけどね。敗北のペナルティとして、今はその片付け中だ。元々、自分がやった事は自分で片付けるって最初に言っておいたし。

 一番近所迷惑かつ、印象に残ったのはアレだな。

 

 

 進行ルートに壁を作って、ぶっ壊したら土石流が……いや、一つ一つ語って行こうか。

 まずは、凛子凛花を退けた後の事。

 最初は数で攻めれば何とかできると思ったのか、単純に4人組で襲ってきた。殆どが滅鬼隊員で、ウタカタのモノノフは数える程度。

 連携も何もあったものではなく、ただ単純に襲い掛かってくるだけ…だったのも束の間。それぞれ分担を決めて動くようになってきた。

 戦術にウタカタの面影があったから、多分最初に様子見していたウタカタのモノノフ達が提案したんだろう。

 

 アタッカーのみだったり、囮役を入れたり、一撃離脱に専念したりと、練度は低いが色々試しているのが見て取れた。

 が、それで負けてやるほど俺も甘くない。適当にあしらったり、わざと攻撃を受けても微動だにしなかったりと、効きませんアピールを繰り返した。

 

 すると今度は罠を使い始めた。落とし穴を初めとし、糸を切ったら飛んでくる矢とか棘付きの泥玉とか、毒煙、目晦ましからの集団投擲、その他諸々。

 この辺のやり方は、モノノフっぽくないから…多分、うちの子達の一部の発案だろう。イタズラ好きな子が結構いるからね。

 

 道の半分を超えた辺りから、なりふり構わなくなってきた。

 幻術を使って進行方向を規定進路外に誘導しようとしたり、壁を作って道一面を塞いだり、段差を設けてそこから飛び降りさせ、落下速度で一定以上の速度になる事を狙ったり。

 でっかい穴を掘って、飛び越えなければ進めないって状況を作ったりもしてたな。鬼の手使ってゆっくり空中移動しました。

 

 そして、一番印象に残った策。さっき少し書いたけど、大きめの壁を作り、道を塞いだ。昇るのがちょっと手間なくらい大きな壁だ。

 壁自体は二度目だったから、またか…と思ったんだが、水音がして気が付いた。それは壁ではなく……いや壁ではあるんだけど、貯水池だ。壁の向こうに、大量の水が渦巻いている。

 土は土遁、水は水遁のタマフリで用意したんだろう。この短時間でよくもまぁ…。

 ぶっ壊したら洪水に見舞われるのは確実。流石にどうしたものかと悩んだのだが、俺がどうこうする前に壁が自壊した…いや、多分遠隔操作の土遁で何かやったんだろうな。

 真正面から鉄砲水を喰らう事になりました。

 地面に神機突き立てて踏ん張ったけど、あれはヤバかったなー。押し流されてたら、ルート外に出る上に速度違反で敗北確定だった。

 

 

 

 

 …実を言うと一番ヤバかったのは、進路の外から誘惑された時だったんだけどな…。

 「ねえ、ここでしようよ」ってくぱぁされた時は、思わず足がそっちに向かってしまった。誘惑してきたのは雪風だったが、あいつ最近随分色っぽくなってきたからな…。これがゲームであれば、通常版雪風とは別に堕淫の雪風なんて特別キャラが作られているだろう。調教の成果が出ていて何よりだ。

 その瞬間に、今まで姿すら現してなかった詩乃からの狙撃。…俺の事をよく分かってるなぁ、こいつら…。

 

 

 

 そして、最後の最後は完全な正攻法…正攻法? とにかく力技で挑んできた。

 目標地点の一歩手前、つまり最終防衛ライン。皆が勢揃いして待っていた。囲んでボーで叩く戦法かと思いきや、全員でがっちりとスクラム組んで、真正面から俺を押し返そうとしてきた。

 小細工無し、数十人分の純粋な圧力。いくら俺でも、通常の状態じゃ対抗しきれない。

 思えば、正面から組み合ってしまったのも悪かった。一度組み合ってしまった以上、それを下手に崩すのは危険極まる。一人二人程度なら安全に投げる事もできるが、数十人が一度に転倒した日にはどうなる事か。

 かと言って素直に負けてやる気もなかったので、服の下だけこっそりアラガミ化し、その力で強引に押し切った。…圧力で怪我人が出なかったのは幸いだった…。

 

 悪手だったのは俺だけではない。挑んできた皆もだ。

 俺を正面から押し返したところで、ゴールするのが遅れるだけ。横から押して、規定ルート外に押し出していれば、あの距離ならまず間違いなく対応が間に合わなかった。

 

 敢闘賞、かな。いや本当に、想像以上に楽しめた。

 うちの子達もウタカタのモノノフ達と共闘したおかげで、新しい戦い方や自分の問題点に気付いたし、連帯感も深まった。言う事無しだね。

 後から事の仔細を知った大和のお頭には、「そういう事をするなら俺達にも話を通せ。と言うか参加させろ」なんて言われたけども。流石に主力級まで参加されちゃ、こうまであしらえないよ。

 あと、囮作戦でクッソ忙しい時期に、こんな大事で引っ掻き回すなって至極当然の事を言われました。

 …参加してない滅鬼隊員だけの催しのつもりだったんだがなぁ…。  

 

 

 とりあえず、色々やらかした穴やら薬物の痕やら壁やらを、全員で撤去させています。ウタカタの人達も、手が空いている人は手伝ってくれている。

 「今度やる時は教えてくれ、酒持って見物に行くから」だそうだ。次にやるとしたら、ウタカタと合同で練武戦になると思います。

 

 ちなみに、終了直後に凛子と凜花が土下座しに来ました。生意気言って申し訳ございませんでした、だって。

 なんか全裸土下座しているシーンが脳裏に浮かんだが、キャラが違うよーな気もする。と言うかちゃんと服着たまま土下座だった。

 俺は別に気にしてないんだけどねぇ。若い子がちょっとヤンチャした程度だし。

 

 

「気にしてないのなら、即断即決でこんな大騒ぎまで発展させてないと思うのですがそれは」

 

 

 瞬間的に頭に血が上ったのは否定しない。まーアレだ、近所の子供に干し柿取られて怒るよーなもんだ。マジ頭来たけど餓鬼ってそういうもんだし、大した被害じゃないから割り切るのも早いよ。

 何より、いい運動になったしね。いやぁ、やっぱちゃんと暴れて鬱憤を解消しとかなきゃな。

 でも結局のところ対人戦だったのが不満だな。やっぱ狩人は化け物級を相手にしなくちゃ。

 

 

「……囮作戦に参加する人達は除いたとしても、滅鬼隊のほぼ全戦力を叩きつけてもいい運動程度…」

 

「狩人って…狩人って一体…? モノノフよりも滅鬼隊よりも狩人が強いの…?」

 

 

 凛子凛花がちょっと壊れかけてるけど、それを乗り越えて強くなってもらいたい。

 …で、今回の戦いで、何か気付いた事はあったかね? 途中からお祭り気分になってたけど、元はと言えばお前達が俺の強さを知りたいだの、もっと強くなりたいだの言い出した事が発端だ。

 何も得られませんでした、だと流石に起こる。具体的には性癖が歪むような訓練で脳みそを叩き直す。

 

 

「いや、気付いた事は幾つもあった。まず私達は、自分で思っていた程強くない。個々の能力はあっても、それらを上手く扱えてない。それ以前に、私達はウタカタに必要とされている戦力ではない。正面から鬼と戦えはしても、主力級についていける程ではなく、ウタカタのモノノフと連携するには強さが離れている。彼等の戦い方から多くを学ぶ事ができたが、それでも足並みを揃えて戦うとなると……正直な話、やっていける自信が無い」

 

「そもそも必要とされているのが、戦闘力じゃなくて隠密、偵察、救護と、戦わない力って事よね。適正が無くても理解しているならともかく、理解も技術もないんじゃ不合格にせざるを得ないわ」

 

 

 ふむ。君達以外が合格している理由は?

 

 

「悪い言い方になるけど、ウタカタのモノノフ達と同程度の実力しかない為ね。周囲と協力する、自分の力量を知っている、班員として役割を果たす事に徹底する。私達は、なまじ力に自信があるだけに、突き進む、戦うばかり。戦いを回避するという選択肢を考えもしなかった。後は……その時に求められている能力に一致したから、かしら」

 

 

 及第点、かな。全部が全部正しい訳じゃないけど、そこに気付いてれば上々か。

 切っ掛けさえあれば、ちゃんと理解して改善できる。やっぱりうちの子達は単純だけど頭のいい子だ。

 

 気付いたからって、次の試験で一発合格になるかは別の話だ。

 精神面での改革は一朝一夕で出来る事じゃない。戦闘以外の技術を身に付けるのも、付け焼刃ではろくな事にならない。

 それらを踏まえた上で、主力級と肩を並べて戦うくらいに強くなる事を目指すか、槍働き以外の適性を得るかはそれぞれに任せる。

 

 どっちを選んでも大変だが、強くなる、出来る事を増やすってそういう事だ。

 何だかんだで地力はあるんだ。今後の働きを期待している。

 

 

「「はい!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 いい感じに締めた後、大和のお頭に「この時期に無断でやる事か」としこたま怒られました。

 散々説教され、頭領としての振る舞いや、自分の行動が周囲に及ぼす影響力について延々と叩き込まれましたが、正直その通りに振る舞える気がしません。

 

 

 

 

 

 

 さて、俺達が大騒ぎしていたその一方で、囮作戦の準備は着々と進んでいた。桜花と橘花の間がまだ拗れているようだ。

 …流石に無いとは思うが、「この作戦が失敗すれば、橘花は千里眼を使わないよな…」なんて事を考えたり…?

 そう危惧したが、流石は大和のお頭と言うべきか。「今の桜花に囮は任せられん」と考え、別の役割をさせていた。

 

 囮役として抜擢されたのは、息吹だった。生きて戦場から戻る事にかけて、定評があるからだそうな。

 …消去法で抜擢されたような気がしなくもない。初穂は半人前をようやく卒業したばかり、富獄の兄貴はその場でドンパチ始めそうだし、速鳥は自分一人で事を済ませようとする傾向があるし、那木は貴重な医者枠。

 うちの子達は経験不足すぎて、囮役が務まるか怪しいもんだ。

 …うん、消去法じゃなくて、問題が無い、欠点が特に無いって事で抜擢されたんだと思っておこう。息吹だって、そんじょそこらのモノノフじゃ及びもつかない腕前なのは事実だし。

 

 作戦結構は明日の昼。早ければ夕方には敵を釣り上げ、日が堕ちるまでにカタを付けられる。

 今回、囮作戦が鬼達に読まれているかは分からない。昨日の大騒ぎとか、鬼の注目を集めそうな事もやっちゃったし。

 

 だがどうなるにせよ、ハードな一日になる事は間違いない。囮が戻ってくるのを待つ間の精神的重圧だって馬鹿にならない。

 つまり、うちの子達がそれだけ不安定になる可能性が高いと言う事だ。

 

 

 

 

「つまり、今から交合して皆を安定させるのね」

 

 

 身も蓋もないですな、明日奈さん。女握りとはオヤジくさい。ちなみに一部の海外では、幸運のお守り扱いされているとか。

 

 今更、拒まれるかもとか、相手の意思を尊重してとか建前を言うつもりはない。

 流れ作業になってしまいそうなのは申し訳ないが、精神安定・パワーアップ・躾けを同時に行えるんだから、合理的な話でもある。特に躾けは重要。慢心したり敵を甘く見て突っ走らないよう、臆病なくらいに躾ける必要があるからな。

 

 さて、誰から呼ぼうかな~。ああ、乱入したければいつでもいいよ? 明日奈と神夜だって、囮作戦参加者なんだしね。

 

 

「…んー…それは最初からそのつもりだけど。ちょっと天音について相談が」

 

 

 天音? 戦闘部隊の統括役を任せてるし、天音も抱く必要があるが…。

 

 

「交わる云々は置いといて…いや、別に天音に落ち度がある訳じゃないのよ。でも、少なからず不満を持つ子も居るみたいなの。上から目線……は、ちょっと違うかな…。あの子ってほら、『若様第一主義!』じゃない? 若様の為なんだから、黙って従え!みたいなところが」

 

 

 確かにあるな…。俺に対しては懇切丁寧で絶対服従なんだけど、逆に言うと俺以外に対しては…。

 任務に従事するようになった子達に上司として接しているけど、心配りが足りないって感じだったのか?

 

 

「加えて言うなら、私や明日奈さん、詩乃さんに対して遠慮のようなものを感じます。最初にお世話したからなんでしょうけど、何というか、恩師を部下として扱うって難しいじゃないですか」

 

 

 ああ、そこはよく分かる。誰だって、年上の部下とか、元上司を部下として扱うって難しいよな………絶対殺すと思う程にしごいてくれやがったクソ教官とかならともかく。

 ふむ、それで? 一体何を企んでる?

 

 

「企むって失礼な…。ただ単に、これから一大作戦なのにそういうしこりを残しておくのは危険じゃない。一時のものでしかなくても、気晴らしをさせておくべきじゃないかと思うの」

 

 

 ほほう…続けて。

 

 

「具体的には、男装の麗人っぽいのを襲って輪姦するのって、倒錯的で興奮するなーって。肌と肌を合わせれば垣根は超えやすいし、皆の気が済むんじゃないかなーっと」

 

 

 …明日奈、日中からそんな事考えてたのね。

 よし採用。なんか天音に似合いそうだ。神夜、詩乃と一緒に……いや、今回躾けする子達と一緒に襲い掛かってくれ。俺は抵抗するなって命じて見物を決め込むから。

 しかしそうなると、天音は最後に回さざるをえないな。

 それまでは、作戦準備と最後の確認に徹してもらうか。

 

 うん、とりあえず……紅から呼ぼう。あの子は精神的な安定性に、特に難がある子だから。たっぷり甘やかして愛でてやらねば。

 

 

 

 

 

 案の定、紅は自虐モードに入っていた。うーん、前に任務後に話してから大した接触無かったからなぁ…。

 自分の全力の事を教えて、囮として立候補すべきだったんじゃないか、なんて考えに捕らわれていた。仮に教えていたとしても、そこでここまで悩む奴を囮なんぞに使えねーって…。

 

 

 

 

 この後は体感時間操作を使ったとしても、丸一日交合に費やすので、今日の日記はこれで終了。

 

 

 

 

 

 



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483話

最近何かと間が悪いと言うか巡り合わせが悪いと言うか。
とりあえず、ゲームのクライマックスは休日にやるもんですな。
MHWのラスト、まさか2連戦とは…。
初見の古龍相手なら40分程度で終わるからと出勤の1時間くらい前に初めて、初戦は思ったより早く終わったけど、ラスボス戦の途中で撤退する羽目になりました。
うう、あれならまず間違いなく勝ってたのに…。
攻略サイトを極力見ずに進めてた弊害が…。

…って、あれ? ああ、まだ続きあるのね。


堕陽月弐拾肆日目

 

 

 

 ……やってくれた喃。

 

 

 やってくれやがった喃。

 

 

 

 

 

 やらかしちまった喃。

 

 

 

 

 だが俺は悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異界の領域を一つ、まとめて焦土にしてしまいました。マジヤッベえ…。

 俺の仕業だとバレてないからまだいいものの…。

 

 

 うん、ちょっと頭を冷やそう。

 まず、今回の件に関係の無い事を書いて、心を落ち着けます。

 

 

 

 橘花から手紙をもらいました。いや俺充てじゃなくて、シノノメの里の雪華充てね。

 俺に手紙を渡した時の橘花を見るに、結構な愚痴を詰め込んだっぽい。初対面の相手にネガティブな内容満載の手紙を送るのはどうかと思うが、その辺は単純に経験不足、やった事の無い試みだから書いていい内容とそうでない事の区別がつかなかったんだろう。その結果、聞いてほしい事、同意してほしい事を詰め込んでしまったと。

 …ま、雪華は相変わらず千里眼で俺をよく見ているようなので、その辺の事も理解してくれてるようだが。

 

 ちなみに渡されたのは、囮作戦に向かうモノノフ達を見送る帰り。こっそりと渡されました。

 複雑な顔しとったなぁ…。桜花との喧嘩が、まだ糸を引いているようだ。

 

 

 しかし、文を任されたとは言え、すぐにそれを送る事はできない。この里からシノノメまで文を送ろうと思うと、滅鬼隊の件で大混乱している霊山を経由して北上しなければならないのだ。

 誰を送るかという問題もある。ウタカタ⇔霊山の交流はあっても、ウタカタ⇔シノノメも、霊山⇔シノノメも確立されてはいないんだよなぁ。

 橘花が俺を覗き見しているなら、文を広げて近くでサカってりゃ千里眼で……いややっぱアカンわ。文より情事に目が向くに決まっている。

 

 うーん……いっそ、俺が直接届けに行くか? 俺が居ない状態で暮らしを回す事も覚えさせなきゃいかんし、久々にシノノメの皆にも会いたい。

 雪華や練の姉御、風華達も抱きたいし、泥高丸の鬼纏がどう進化してるかも気になる。寒雷の旦那は霊山との関係構築で大忙しだろうし、両さんに至っては何か面白い儲け話を画策している気がしてならない。

 霊山に一緒に来てくれた、忍者の皆さんは元気だろうか。伝子さんはいい加減にすね毛を剃ってください。あと山本先生に女装を教わりましょう。

 何より、仮にも弟子とした兼一君がどうしているか気になる。自力でシノノメからの道を踏破するとか、滅鬼隊関係の事に霊山で首を突っ込むとか色々言ってたけど……どっかで鬼に負けて野垂れ死にしてねーよな…。

 

 

 

 

 

 

 …ふう、少しは落ち着いたぜ。

 では本題。異界の領域を焦土にしちゃった件について。

 

 要するに、囮作戦が読まれていたって事なんだろう。具体的に何をしようとしていたか、鬼が理解していたかは怪しいが…何か大きな行動を起こそうとしているようだから、先手を打って、或いは交差法的なタイミングで攻め込んできたのか。

 …いかんな。相手の知能知性を低く見積もるのは危険だ。経緯はどうあれ、囮作戦でどういう行動に出るかについては、鬼達は推察していたとみるべきか。

 

 その辺の事はともかくとして、とにかく囮作戦の為に多くのモノノフが出撃した。囮役を担うのは息吹一人だったけど、その露払い、誘い込む場所の準備、上手く釣れた時の為に、準主力級以上はあらかた出払った。例外は、警備といざと言う時の医者要員である那木くらいのもんだ。

 俺もうちの子達が心配ではあったけど、作戦自体はそう無理のある物じゃなかったし、きっと無事成功させて戻ってくるだろうと思っていた。

 

 

 

 

 

 作戦前の交合だっていいカンジだったからね! 天音のレズ輪姦計画も含めて。 ふくろ に入ってた梁型全部使わせたわ…。

 勿論俺も参加したぞ。色々遠慮や鬱憤を壊すと言う目的が追加されたとは言え、精神的に安定させるのが一番重要だったからな。

 身内に輪姦されて精神が安定する筈がない? 大丈夫、その辺も含めて俺の命令に従う事で、至福を感じる子だから。

 その後、ご褒美としてしっかり抱いたし、囮作戦に臨む天音はスーパーハイテンション状態だった。

 

 …統括役がそれってヤバくね? という疑問は置いといて、とにかく天音を含む参加者達が出発していった訳だ。

 そうなると、今の俺に出来る事は何もなくなってしまう。勝利を祈って水垢離という考えも浮かんだが、生憎水を被った程度で冷えるような体でも季節でもない。

 何かトラブルがあった時の為の後詰めや、医者の準備もウタカタで済まされている。

 

 仕方ないので普段通りの仕事に戻り、時子をサポート役としてあれやこれやの書類仕事を進めること数時間。

 今、あの子達は何をしているか……とぼんやり考えながら、時子が作った昼飯を食っている時だった。

 

 

 ふと違和感を感じた。いやな予感。狩りの中、何度も感じた慣れ親しんだ感覚。

 

 

 『何かが来る』。

 

 

 昼飯を放り出し、突然の事に目を白黒させ、「い、今から伽ですか!?」と混乱する時子を小脇に抱えて、屋外へ飛び出した。

 目に入ったのは、今正に執務室に向かってすっ飛んでくる大きな岩と。

 内側から大穴が開けられた、隊員達の住居。

 

 とりあえず迫ってくる岩は弾き飛ばして、状況を理解して臨戦態勢になった時子を放す。

 住居からは阿鼻叫喚の叫び声が響いている。無理もない。

 

 

 神機を片手に現場に突っ込もうとしたが、事の元凶は長居する気はないようだった。一際大きな衝突音が響いたかと思うと、地面に盛り上がった線が走っていく。何があったのか考えるまでもない。何度も見慣れたアレは、大型の鬼やモンスターが地面を潜って移動していく時の痕跡だ。

 俺達に気付かれずに接近し、多大な損害を与え、迎撃の為の戦力が出てきたと思いきや躊躇いなく退く。 どうやら今回の襲撃者は、えらくクレバーかつスマートなようだ。

 

 いっそ感心すらしかけたが、そんな事を言ってる場合じゃない。

 

 

「襲撃ですか!? 被害は…」

 

 

 家が破損、皆はこれから確かめる、俺は無事。この時間帯だと、家の中で飯食ってた奴も多い筈だ。

 ウタカタの医者達に応援を要請しろ! 俺はあの中に居る連中の救護に行ってくる!

 

 

「いえ、救助は私が向かいます。若様が里へお知らせください!」

 

 

 む? …確かに、移動速度で言えば俺の方が早いか。わかった、こっちは任せる。

 無事な奴が居たら、救助の手伝いだけじゃなくて、さっきの鬼が戻ってこないか見張りを立たせておけ。

 

 んじゃ、こっちは頼むぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で、ウタカタの医療班を急遽引っ張ってきました。

 引っ張って来たはいいんだが………那木だったのは失敗だったかなぁ。トラウマ克服できてないから、治療らしい治療が出来なかったんだ。だったら何で医療班に組み込まれていたって話だが…大和のお頭も、トラウマ克服を期待していたんだろうか。

 治療ができなくても診察はできる。怪我人達の状態を見せ、危険度・緊急度別に分類してもらった。後から駆けつけてきた他の医療班に、治療自体はお任せした。本人は忸怩たるものがあったようだが…慰める事もできんしな…。

 まぁ、手術が出来ないから代わりにタマフリを使った治療を教えたら、えらいびっくりしてたけど。前のループでもそうだったっけ。タマフリは戦いのときに使うものって認識で、日常では基本的に使わないのがモノノフの考え方だ。…うちの子達は、土木建築から風呂沸かしまで、便利に使いまくってるけど。

 

 

 

 とにもかくにも、うちの子達には怪我人多数。軽症の者も居れば、重症者も居る。幸いにして命に別状こそなかったものの、暫く安静にしておかなければならないのが何人か。

 囮作戦に対するカウンターとして奇襲をかけてきたとか、色々気になる事はあるが…。

 

 

 

 

 俺のミスだ…なんて愚か者。気が付いてみれば、今でなくてもこうなる事は自明の理。

 結界の端に近く、いつ鬼が襲撃してくるか分からない場所。自分達でも防御を固めたつもりだったが、地下に対する防備を忘れていたとは! 地面に潜って移動、奇襲はモンスターの中ではオーソドックスな攻撃方法。それを忘れるとはどうかしている。

 

 鬼達との闘いの経験を積ませる為に、あえて結界近くに陣取る。

 纏まって住める場所がなかったから、半ば口実としてそんな事を言っていたが…口実でもそんな事言うなら、これくらいの事は予見しろってんだ…。

 

 

 

 自己嫌悪と情けなさで一杯になった頭で何とか救助活動を終え、被害状況を確認する。

 軽症者14名、重傷者7名。重傷者のうち4名は、襲ってきた鬼に直接攻撃された者。残り3名は流れ弾に当たったり、鬼が襲ってきた衝撃で屋根から転げ落ちたりした子達だ。

 幸いにして死人は出なかったが、それも普通の人よりも頑丈に調整された滅鬼隊だからの話。咄嗟に危機に反応し、致命傷を何とか避けられた。強化された内臓や骨のおかげで、急所に当たっても深い傷にならなかった。

 

 負傷者…元凶の姿を見た者達の証言を纏めると、どうやら鬼は地中深くに姿を隠して近付いてきて、滅鬼隊住居の真下から奇襲をかましたらしい。

 一番広い床の間に集まってみなであれこれやっていたら、地面が不自然に震えだし、なんだなんだ地震か、念のために家の外に出てようか、部屋で寝てる奴らにも声をかけようと、それぞれ動き出した。

 そして、突如床をブチ破って巨体が出現。思わず動きが止まったところに、岩の投擲、体当たり、咆哮、よく分からないブレスっぽい何かで大暴れ。

 現場に居た子達を吹っ飛ばし手動けなくしたら、家屋倒壊を狙ったのか、柱を狙って壊していく始末。

 

 そして、俺が飛び出した時には家屋の反対側に穴をブチ開け、地面に急速潜行して離脱。

 ……特徴を聞くに、ツチカヅキだと思うが……微妙に一致せんな? あいつ、ブレスなんぞ吐いたっけ…。地面に潜って移動するにしても、あんな風に痕跡が線状に残るような事はなく、穴を掘って進むんじゃなくて地面を泳ぐ感じだったと思うが…。

 また妙な進化変化した鬼っぽいな…。ツチカヅキにガララアジャラでもくっついたか?

 

 

 

 

 疑問は尽きないが、それは後回しだ。負傷者は勿論、動ける子達を避難させる。家が大きくぶっ壊れているんだから、直すまで他所に…里にお世話にならなければ。尤も、家を直したとしても、同じように襲われる危険がある場所に戻ってくるかは怪しいが…。

 

 ちなみにかなり派手に壊された家ですが、倒壊する事はありませんでした。不思議パゥワーで空中に固定されたままです。土台となっている柱や壁を8割方穴だらけにされたのに、小揺るぎもしていません。これには鬼も困惑。

 うぅむ……家を直すなら、同じ轍を踏まないように地下に対する防衛力も必要と考えていたが……いっそ空中要塞やってしまうか? いつぞやの夢でも作ったし…。

 

 とりあえず、家が直り、負傷者が動けるようになるまでは、皆をウタカタの里で引き受けてもらえる事になった。

 今回の襲撃、もし俺達が襲われていなかったら、里の近くまで入り込まれたかもしれない。そう考えると、滅鬼隊は囮の役を引き受けた事になる。ならそれを支援するのもウタカタの役目…という大和のお頭の論法だ。

 まぁ、それが無くてもお人好し揃いのウタカタだ。永住させるなら考えもしようが、一時的な支援とあれば拒む者も居なかった。

 

 

 

 

 

 さて。怪我人は診療所、それ以外の者は各々世話になる家に向かって。

 囮作戦が終わってみなが戻ってきた時の為、伝言として立て札を残し。

 家の建て直し、補強は明日以降に行うとして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

報 復 の 時 間 だ。(きるぜむおーる)

だ い さ ん げ き た い む (ちのおーしゃーん)

は じ ま る よ(れっつびぎんさきりんぐたーいむ)

 

 

 

 

 

 

 

 うちの子達を傷付けた上に、俺が自ずから作った家を半壊させといて、まさか無事逃げられると思ってはおるまいな!?

 地面に深く潜って逃げた? だから何?

 どうやって追いかけるか? 鬼の目鷹の目を使えば小さな痕跡でも追っていけるわ! その先に居たのが首謀者じゃなくても、鬼ならヌッコロして構わんしな!

 鬼が逆に囮作戦やって、俺を釣り出そうとしているのかもしれない? いいいじゃないか、向かった先には八つ当たり相手が一杯居るぞ!

 

 下手人見つけたら嬲り殺しだ! 下手人じゃなくても道中に居たら塵だ! これより我は塵魔と化す。片角のマ王バリの怒りを見るがよいわぁ!

 

 

 

 

 

 

 

 …正直、覚えてるのはこの辺までなんだけどね。ふと我に返った時にはメッチャスッキリした…新品のパンツすら履かずに億ションの屋上で我様笑いしながら初日の出を見ているよーな気分だったから、相当暴れたんだろう。

 それこそ、異界が一つ丸ごと荒野になってしまうくらいに。

 

 うちの子達の今後の生活が、とりあえずでも確保されるまでは…と思って怒りを抑え込んでたけど、その反動もあったんだろう。

 誰にも見つからずに異界に出て、痕跡を辿って古の領域まで追跡。その辺で感情を抑えるのも辞めてアラガミ化。そこから先は暴れに暴れた…らしい。

 

 薄っすらと、ちょっとだけ残っている記憶によると、襲撃犯らしきツチカヅキ…の亜種、か?…を端っこからちょっとずつ切り刻んで神機に食わせ、襲い掛かって来たのか待ち伏せていたのか分からないが大挙してきた鬼を緑色の爆発で吹き飛ばし、首謀者と思われる鬼の四肢を切り落として芋虫状態のまま引きずり回し…。

 気が付けば、動く者は一つとして居なくなり、砂まで無くなった…蒸発したっぽい…古の領域で、俺は一人で突っ立っていた。目の前には、最後に残った鬼が消滅していっている。…痕跡から見て、鬼葬を使って再生できないよう全身を念入りに潰していったようだ。

 

 完全に更地となり、マイクラ的に言えば整地神が通った後みたいな状況。丁度、太陽が昇るところが見えたので方角は分かったが、あれがなければどっちに行けばいいかすら分からなかったろう。

 ぶっ飛ばすだけぶっ飛ばしてスッキリしたはいいが、流石にこりゃヤバいと気付いて、こそこそ里に戻ってきた。

 

 

 勝手に異界に殴り込みをかけていた事実がバレないように、いかにも壊れた家を修理してましたよ…という感じで朝まで過ごしていました。

 

 

 

 はー、しかしこりゃ囮作戦に行った皆が帰ってきたら阿鼻叫喚だなぁ。明日奈の城と化していた台所も、もう粉々…。帰ってきたら発狂するんじゃないか?

 作戦が成功するにせよ失敗するにせよ、無事に戻ってきたら家が無くなっていた…なんてのはかなりのショックだろう。今のうちに、体裁だけでも整えておきたい。

 …これから騒がしくなるだろうしな…。勢いに任せて異界の消滅。これ絶対俺が疑われるよなぁ…。他の人達ならともかく、大和のお頭には俺が異界浄化の術を持ってるって知られてる。想定外の方法で…力技で異界を消滅させる。無茶な話だ。同じ事をもう一回やれと言われても、出来る気がしない。

 

 

 …細かいことは後回しでいいや。今はこの家の補強を続けよう。

 

 

 

 やや現実逃避気味に家の修理をしていると、午前8時くらいかな?

 日が昇り、「そろそろ出勤時間だ…」って憂鬱になる時間帯。俺は出勤しなかったけど、大和のお頭と、護衛の那木がやってきた。

 

 ああ、おはようさん。

 

 

「おはようございます……ご無事で何よりです。肝心の時に立ち会う事ができず、申し訳ございません」

 

 

 いやいや、那木が謝る筋じゃないでしょ? 鬼はいつ襲ってくるか分からないから、居合わせるかどうかは完全に運次第で、那木がここを離れていたのは囮作戦準備の為だし。

 そもそも怪我をしたうちの子達を診察してくれたじゃないの。

 

 

「うむ、そうだな。何でも自分のせいだと思うときりがないぞ。…ところでお前、一つ聞きたいのだが」

 

 

 ? 何よ、大和のお頭。ここの再建なら、当面俺一人でやれるよ。

 

 

「そうではない。昨晩はどこに行っていた?」

 

 

 …ど、どこって…(汗)ここでずっと片付けと、鬼が戻ってこないか見張りしてましたが。

 

 

「そうか。他の皆は里の家で預かったが、お前一人がどこに行ったのか分からなかったのでな。また妙な事でもやっているんじゃないかと思った」

 

 

 はははははははは

 

 

 いやその、確かに連絡もなしにここで作業しっぱなしなのは悪かったと思いますが。

 

 

「…お前が居ない事に気付いて、ここの様子を見に行かせたのだがな」

 

 

 野糞してて入違ったんじゃないすかね。難産だったし。

 

 

「かもしれんな。ここの片付け具合を見る限り、徹夜で作業していたのは本当のようだが」

 

 

 でしょー?

 

 …うん、徹夜で片づけしてたね、鬼と異界をね。

 散らかった家の欠片や瓦礫は、とりあえず ふくろ に放り込んでいます。偽装工作として掃除しといてよかった…。

 それでも疑いの目を向ける辺り、大和のお頭も、俺というナマモノを分かっていらっしゃる。

 

 

「ふむ…お前はこれからどうするつもりだ? これからも、ここに住まう気か」

 

 

 …俺個人はそれでいい。でも、他の子達をどうするか…。

 今回の襲撃を許してしまったのは、俺の失敗だ。鬼を甘く見て、防備を固めているから抜かれる事はないと思い込んで、地中からの攻撃の可能性を見落とした。

 実戦経験を積ませるのに丁度いいと嘯いておいてこの様だ。

 同じ轍を踏まないよう策は練る。だが、鬼達の行動は未知数だ。これまでの統計によって予測する事はできても、未知の能力で出し抜かれる時は必ず来る。

 その危険に、あの子達を付き合わせるのか?

 

 

「恐らく、お前が何といおうと、彼女達はお前と行動を共にするぞ。経緯はどうあれ、彼女達の主は間違いなくお前だ。お前一人を危険な場所に留まらせるくらいなら、意味が無いとしても寄り添おうとするだろう」

 

 

 厄介な事に、それが彼女達にとって精神的に一番安定する結論なんだよな…。本人が希望する場合のみ、この場所に住むって結論は、従来通り全員ここに居るって結論するのに等しい。

 逆に、全員離れて里で暮らせと言うのは…。

 

 

「…むしろ、お前も里で暮らすという選択肢は無いのか。建築技術もこれだけあるのだから、里の近くの土地を切り開いて住居を作る事くらいできるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大和のお頭、あんた俺を里に入れて、平穏な暮らしが維持できると思う? 適度な距離って必要よ?

 火薬、大砲、特殊なタマフリ、晒してないけど手札はまだ山ほどあるぞ。

 

 

 

「…那木」

 

「ええと、その……短い期間ですが、ここの方々と暮らしを共にしたのですが………わ、悪い方々ではないのですよ。ですけど、その、悪気無く常識外れな行動をする事が多く…。このお方はその筆頭で…。火薬や毒など、危険物の類は見つけられませんでした」

 

「悪気が無いのか怪しいものだな。見つかったら没収されそうな物を率先して隠している辺りが特に」

 

 

 悪気が無いから厄介なんじゃないか! 自分で言う程に!

 

 と言う訳で、良くも悪くも俺は里から少し離れた場所に居た方がいい。いつ何をやらかすか分からん。そもそも組織に向いてないんだよ俺…。なんだかんだ規律や指針があっても、結局自分の衝動を優先するから。

 (あと、24時間ズコバコする性活に慣れ切ってて、普通の暮らしに馴染めそうにない。下手するとウタカタ内の風紀が酷い事になる)

 

 

「ふむ…結局のところ、今まで通りと言う事か、こちらとしても助かる部分はあるが…。   危険物と距離を置けるのは重要だ」

 

「あ、あの…お頭、もう少し何といいますか柔らかく……良い方なのは間違いありませんので」

 

「お前にかかれば、大抵の人間は善人になってしまうだろう。こやつが言う通り、適度な距離は重要だ。…しかし状況が状況だ。支援は行うし、こちらで預かっている隊員達には、一時的にウタカタの指揮下に入ってもらう」

 

 

 俺の直属じゃなくて、そっちに部下として出向しているって状態ね。出稼ぎみたいなもんか。まぁ、援助するにしてもそれなりの対価・返礼は必要だわな。

 あの子達にとっても、いい経験になるだろう。身内ばかりの場所で暮らしてちゃ、社交性も育たない。

 了解、俺は暫くこっちの建て直しに専念させてもらうよ。

 

 

「人手を出そうか?」

 

 

 気持ちは有難いが、仮にも作戦中なんだから、後回しにするべきだろう。

 偶然なのかもしれないが、鬼達は囮作戦の直前と最中に奇襲をかけてきた。二度ある事は三度ある、だ。

 ここで人を集めて土木作業やってたら、またここぞとばかりに襲ってくる気がする。

 

 

「むぅ…。確かにその流れは否定できんな。やるなら罠でも仕掛けながら作業するべきか。すぐにそれを出来るだけの資材は用意できん。……やれやれ、問題ばかりが増えていくものだ。以前に計画した練武戦すら、全く見通しが立ってないと言うのに」

 

 

 問題ってのは一つ一つ片付ける事しかできないのに、どんどん友達を呼び込んで子供を産んで分裂増殖するからなぁ。しかも最悪のタイミングで、複数同時に噴き出すのが当たり前。

 そして解決する為の策を用意したら、そこからも新しい問題が産まれ出る。あーやだやだ。脳みそ空っぽにして(腰振って)生きていきたいわ。

 何だって俺がこんなしち面倒くさい事ばかりの立場やってんだろうか…。

 

 

 

 その後、大和のお頭と那木は、暫く打ち合わせをして戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれれー? 消し飛んだ異界の事について、何もお話が無かったぞ?

 

 

 ひょっとして…これ、俺セーフ? 許された? 幸せになってもいいの?

 

 

 

 

 

 んなわきゃーない。俺知ってるよ、やらかしは絶対に隠蔽できない。どれだけ隠して、忘れ去ろうとしたとしても、重石の下からミミズのように這い出してくる。 

 やらかしじゃなくても、やった事についての言及は必ずある。褒めるにせよ叱責されるにせよ、リアクションがないのはおかしい。

 

 これは一体…? 何となく周囲を見回し、山を見た時、答えはあっさりと出た。

 そうか、まだ異界消失の事を誰も知らないんだ。消し飛ばした異界は、あの山の向こうの山の向こうの更に向こうにある。特に地名ないので、裏裏裏山と呼ぼう。茸共同組合とかありそうだな。

 

 あの辺の異界は、俺は平然と抜けていけるけど、瘴気無効装備でもなければ現状では近付く事さえできない場所にある。安全な、比較的瘴気の薄いルートを見つけ出さなければ、調査に入る事すらできないのだ。

 そんな所にある異界が突然消えたって、そりゃ感知できる筈もない。

 

 

 

 

 

 

 つまり、俺許された。セーフ! 幸福は義務です!

 

 暫くは進軍できるルートだって確立されないだろうし、判明するのは当分先! それだけ時間があれば、もう一回こっそり出発して、証拠になる物を隠滅するのは難しくない。状況証拠だって、時間が経てば経つ程揃えづらくなる。つまり、俺がやったと言う事は発覚しない。異界に呑まれていた場所が、何故か荒野になって瘴気も無くなっていたという謎現象だけが残る。

 やらかしは隠蔽できない? ミミズのように這い出して来る? 敢えて言おう、知りませんな!と!

 

 よし、そうと決まれば今夜にでももう一回でかけて……いや、連日は流石にまずいか。暫く猶予はある筈だし、ほとぼりが醒めた辺りで行こう。どっちにしろ、今のあそこには瓦礫すら残ってない。行ったところで、俺がやったという証拠に繋がる物があるか怪しいものだ。急いで対処する必要はない(慢心)

 いやぁ、先延ばしにしただけとは言え、取り敢えずの問題に目途が立つと一気に気が楽になったわー。大和のお頭もこんだけ短時間で連続でやらかしたら流石に容赦してくれそうにないし。あの人にまた叱られるのが、一番精神的に堪える…子供みたいな言い分だけど、実際叱責はキツい。

 

 さて、そうと決まれば、はやいところこの状況をどうにかしてしまいますか。どう立て直すにせよ、片付けだけでも終わらせておかないと。

 

 



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484話

アイマスの文香が積極的に迫ってきて、セクハラまでしてくれる夢を見た。
ちょっと幸せだった。
…もっと濡れ場書きたかったな。


 

 

堕陽月弐拾伍日目

 

 

 大雑把な片付けはできたけど、流石に一日で改築するのには間に合わない。

 徹夜で作業してもよかったけど、流石にそれは心配をかけそうなので、昨晩は里で世話になる事にした。

 

 

 

 

 何故か橘花の家に泊まる事になった。つまりは桜花の家でもあるのだが、絶対反対・或いは橘花に手を出さないよう不寝番を務めそうな桜花は囮作戦の真っ最中だ。

 と言うか何考えてんだよ大和のお頭。里の超重要人物の家に、『適度な距離が重要だ』と評した人間を泊めてどうするんだ。

 

 何? 他の家は、うちの子達が世話になってて、もうこれ以上受け入れるのは難しい? 空き家もない?

 何より、橘花本人が言い出した? 蒙を開いてくれた礼? 蒙ってほどのものか。まぁ確かに、橘花本人からすれば、先日の話のおかげで閉塞感が薄まったように思えるのかもしれないが。

 いやだからってなぁ…。

 

 まぁ、それでいいと言うのなら世話になる。どうせ数日程度の事だ。

 …今日は隊員達とネチョネチョできないから性欲を持て余しそうだが、流石に橘花を襲う気はない。ただでさえ、今はウチの子達に手(と言うかちんこ)が回り切ってないんだし、それ以前に、これ以上信頼を損なうような事は絶対に避けねばならない。

 橘花だって、俺の事は異性の友人ポジションと思っているようで、そういう意識は無いみたいだしね。

 

 昨晩も、他所の里の話をせがまれたけど、あまり夜遅くまで話す訳ではない。「お疲れでしょうから」と程々のところで引き上げていった。

 尚、頼まれた手紙については、流石にこの状況なのですぐには出せない事を伝えておいた。

 

 

 

 

 さて、昨晩はゆっくり寝られた事だし、今日も張り切って建て直し作業……の前に、うちの子達のケアを忘れてはならない。

 住処が襲撃され、ようやく馴染んで暮らせるようになった部屋から出て、ほぼ見ず知らずの他人が住む家に転がり込む。大なり小なり、精神的負荷がかかっているのは確実だ。

 そして滅鬼隊は精神的重圧に滅法弱い。不安定になるからね。

 大和のお頭は、俺を「適度な距離を置いておく必要がある危険物」と言っていたが、うちの子達も似たようなもんなんだよなぁ…。俺と一緒に居ても、ケアが足りなくなれば情緒不安定になって何やらかすか分からなくなるから。

 

 流石に初日で問題を起こすような事はなかったようだ。

 一般的な暮らし・常識とかけ離れた部分はあっても、自分達が助力を受け、世話になっている立場だと言う事くらいは理解できたらしい。借りて来た猫のように大人しくしていると聞いた。単に人見知りしているだけかもしれぬ。

 ともあれ、一通りの隊員達の様子を見て回り、預かってくれる里の方々に頭を下げて回った。

 また、この時暫くはウタカタの里の指揮下に入るよう伝える。家の建て直し手伝いを申し出てくれた子もいたのだが、それは囮作戦が一段落してから。それまでは、この際だから色々計画を練ってこう。

 ……今度襲撃してきたら、要塞と化した我が家のギミックが火を噴くぜ。

 

 

 

 追記 里の人達に色々頼み事をされた。うちの子達から、駐屯所に作った色々な施設の話を聞いて、自分達も欲しくなったらしい。

 考えてみれば、水洗トイレ一つ取っても、ここの人達には未知の技術だもんな。興味が湧くのも無理はないか。

 流石に今からだと厳しいんで、こっちの生活が落ち着いてからと返答した。

 

 

 

 

 

 

 さて、今頃は囮作戦もいいカンジに進行している事だろう。持って帰ってくるのはハズレ扱いのクエヤマの生首かもしれないが、そこらへんはどうでもいい。

 むしろ今までのパターンから言えば、異常進化した鬼が確実に乱入してくる。心配ではあるけど、神夜や明日奈が思う存分戦ってくる事を祈る。じゃないと、後で「不完全燃焼極まりないです!」って俺が稽古に付き合わされるから。

 

 そっちは作戦参加者達に任せておけばいいとして…さて、こっちには何か起きるかな?

 二度ある事は三度ある。もう一回鬼が奇襲を仕掛けてきてもおかしくない。と言うか来い。先日の大暴れでは記憶が中途半端にしか残ってないから、俺が不完全燃焼なんだ。

 家の立て直しを建前にして、壊れた家に留まっているのも、半ばそれが理由だったりする。

 まぁ、俺の作業室は壊れてないし、どっか移動するにしても補完してある書類を持って行かなきゃならんしな。

 

 

 後は、久々に一人になる為かねぇ。朝から晩まで隣に…それこそ指を動かしただけで喘ぎ声がするような距離に常に人がいたからな。

 偶にはエロも狩りも抜きに、誰も居な空間で、なーんにもしない時間だって必要だろう。怒りが燻ってるから、無理矢理落ち着けている最中とも言う。

 

 

 

 

 まぁ、5分もしない内にムラムラしてきちゃったけども。いかんなー、今更ながら色事に溺れ切っている。溺れるのはいいんだけど、コントロールできないのはいかんな。元々の房中術は、楽しみながらも節度を保って楽しもう、という術だというのに。

 

 

 

 

 いつもであれば、ここで鬼が襲ってくるなり、妙な事でも考えつきそうなものだが、特に何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方、逢魔が時。

 ウタカタの里からモノノフが一人やってきた。えーと、確かアレだ、鹿之助と最初に一緒の任務に行ってた、男の方。ハクの力でウタカタを守るって言ってた子だな。

 

 

「ども、お久しぶりっす。えらい事になったそうですけど…元気そうですね?」

 

 

 ま、この程度で打ちひしがれてちゃ、最前線でモノノフなんざやっていけねーよ。

 どうした? 鹿之助ならここには居ないぞ。

 

 

「知ってます。鹿之助、里に来るんだったら俺が引き取ろうとしてたんだけどな…。大和のお頭が引き取るって言われちゃ、反論もできねーよ」

 

 

 大和のお頭も、鹿之助の重要性に気付いてるからな。当人として、お偉いさんの世話になるなんて怖すぎる、とか思ってそうだけど。

 で、結局どうした? 君一人で俺にわざわざ会いに来るとも思えんが…。

 

 

「ああ、お頭に手紙を届けてくれって頼まれたんだよ。霊山からって書いてあったぜ。…ああ、表面に書いてあっただけで、俺はわざと見ようとしたんじゃないから」

 

 

 別に疑ってないけど、無理に主張するとそれこそ怪しく見えるぞ。

 霊山からねぇ…九葉のおっさんかな?

 

 …って、ひの、ふの、みの………多いな?

 

 

 差出人は雷蔵、桐人君、直葉…兼一君? 霊山新聞社の一家からも。 九葉のおっさんからの文は無い…。おお、茅場から。……冷静に思い返してみると、あいつ何で来てないんだ? 神機観察の為、遅くても数日中には追いかけてくるみたいな事を言ってたが。

 そして雪華、風華、練の姉御、寒雷の旦那、泥高丸からも。雪華の文は、2通が紙袋に入れられていた。一通は俺と明日奈、神夜宛て。もう一通は……あれ? 俺、まだあっちの手紙送ってないよな? 橘花充てだぞ?

 

 

「霊山から、配達人が届けに来てくれたんだってさ。何か機密事項の遣り取りのついでっぽいけど。持ってきた人は明日まで里で休んで、返信の文を持ち帰るんだ。返事するなら、早い内に書いとけば?」

 

 

 ふむ、そうだな。

 忙しい時だったろうに、わざわざありがとう。

 

 

「まぁ、あれっすわ、俺が考えてる事を真面目に聞いてくれたのはちょっと嬉しかったし、その礼って事で。恩売っとけば、鹿之助も色々協力してくれるかもしれないしな!」

 

 

 ちゃっかりしとるわ。

 モノノフより商人に向いてるんじゃね? 考え方的にもそっち系だし。

 

 俺が文を読み始めると、彼はそのまま帰って行った。

 

 

 

 

 文の内容は、滅鬼隊の事件についての報告が主と、日常についてだった。……直葉だけは、烙印の効力を使って毎晩呼び出し、ねっちょんぐっちょんしながら話をしているので、次のプレイ内容のリクエストだったけど。

 霊山も大分落ち着いてきたらしい。結構な大捕り物があったそうで、シノノメの里から戻って来た白浜君もそれに参加したそうだ。もうシノノメの里と霊山を自力で行き来できるようになったのか。……ああ、一人だけじゃないんだな。自分と同じくらいの力量を持つモノノフ4人で踏破したらしい。うんうん、順調に成長しているようで何よりだ。

 

 雪華達から手紙が届いたのは、どうやら白浜君が気を回した為らしい。シノノメの里とウタカタ間に交流は無いが、霊山とウタカタの間にはある。戻るついでに手紙を書くなら、送ってもらうようお願いするけどどうですか…と。

 で、それに便乗して霊山の皆も送ってくれた。

 

 

 うん、とにもかくにも皆元気そうで何よりだ。俺達の事は、霊山でも噂になっているらしい。

 滅鬼隊がどうの、という事ではなく、ウタカタの里に腕のいい傭兵だか援軍だかが訪れている、という意味で。九葉のおっさんと大和のお頭が上手く情報統制してくれているらしく、大捕り物の切っ掛けとなった滅鬼隊と結びつけて考える者は見当たらないそうだ。

 これで特殊なタマフリを使う、と言う噂まで流れればともかく、霊山の人達にとって滅鬼隊と言うのは完全に御伽噺扱いだからな。それが実際に現れたとは考えないんだろう。

 俺だって、「桃太郎は実在した! 今は岡山県で黍団子売ってるよ!」って言われたら、何かのイベントだと考えるし。

 

 

 ちなみに、霊山であった珍事が一件、シノノメの里であった………なんだ、その、霊山の闇が垣間見える事件が一件書かれていた。

 

 まず前者だが、自称滅鬼隊の作成者が現れたらしい。しかも霊山のお偉いさんの一人。

 そして、本来の主は自分だから、ウタカタの里に居る滅鬼隊を自分の元に戻すよう要請した。

 

 

 

 

 

 ばぁ~~~~っかじゃねぇの?

 

 

 

 

 結果は言うまでもなく、牢獄行。

 マジで隊員関係者だとしたら、違法な人体実験してましたって言ってるのと同じ事。

 もし単なる語りだとしたら、まぁ詐欺師の部類だわな。

 どっちにしろ拘束されて、事情聴取を受ける事になる。実際、今は牢屋の中だ。

 

 仮に本当の主とやらだったとしても、ウチの子達は起こした相手に懸想するよう調整されてるからね。今更名乗り出たところで、誰一人従う筈もない。

 …それを理解していて名乗り出たとするなら、相当な間抜けだわな…。

 

 浅黄や紫に聞いてみたところ、頭を抑えながら「やりそうな奴は何人かいた」との事だ。…そんな奴の元で働かされてたって、そりゃ脳味噌も漂白されますわ…。悲惨すぎて考えるのを放棄してしまってもおかしくない。

 …そういや、浅黄は自分を使っていた連中をブン殴るとか言ってたけど、どうする? 殴りに行くなら、ついでに色々と頼まれてほしいんだけど。

 …………そうか、わざわざ霊山に向かって殴る程の価値もないと。確かに度を越した無能みたいだものな。

 その為に里から離れて、俺のちんちんに触る事ができない日々を送るのは御免被ると。……からかい気味に言ってみたが、否定されなかった。むしろサワサワされてお誘いを受けたけど、今はオアズケ。文の返事を書かなきゃならんしな。

 

 

 

 され、霊山の騒動は落ち着いてきているようだからいいとして…シノノメの里で起きている事件、これが本気で意味が分からない。

 

 何と言いますかね………滅鬼隊の騒動でかなり記憶から薄れていたが、シノノメの里が、霊山の政争に巻き込まれるかもしれない、って話があったじゃないか。

 超界石の謎のガチャ機能の事もあり、それを霊山が引き渡すよう要請するかも…とか、そんな感じの問題だった。

 どうするべきかは結局、里長の両さんに任せる事になった。

 

 で、両さんがどうするつもりだったのかは知らないが…交渉役としてやってきたのは俺も知っている人物だったようだ。

 

 

 識。

 

 

 九葉のおっさんに匹敵する悪人面で、いつぞやのループではクサレイヅチの能力を受けながらも平然と行動していた謎の人物。…色々と考察してみようと思った事はあるんだが、手掛かりが無さすぎて妄想すらできなかった。

 思い返してみれば謎な人物だよなぁ…。霊山に居る間も全く関わり合いが無かったから、すっかり忘れてたぜ。…うん、クサレイヅチに因果を奪われて、思い出せなくなってたんだ。そういう事にしとこう。

 

 まぁともかく、その識がやってきて、両さんはこいつは難物だと警戒した。難物じゃなくても明らかに悪党だって思うよね、あの顔は。

 九葉のおっさんみたいに、悪党だけど人の為に動く奴も居るから、一概には言えないが……とにもかくにも、やってきた識は、援助物資の引き渡しよりも先に超界石の機能確認を行った。

 これだけで、霊山がシノノメの里を下に見ていると言うか、無事を喜ぶような考え方をしてないのが見て取れる。……政争真っ最中で、そういう事を考える余裕が無かったからかもしれないが。

 

 両さんと軽い牽制・腹の探り合いを繰り返しながら、ガチャ機能と、これまで出てきた品物の確認を行ったところ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 識がガチャにド嵌りしました。それはもう、奇声をあげながら鬼気迫る表情で里の宝玉を買い漁り、それを片っ端から超界石に突っ込む。

 買い取れる宝玉が無くなれば、自ら異界にまで採取に赴き、ボロボロになってもお構いなし。食事も最低限、風呂は体を温めるだけ、誰の言葉も聞きはしない。

 

 

 …そんなにストレスが溜まっていたんだろうか? 完全にガチャ依存症ってレベルじゃないぞ…?

 悪党面と言われるのがそんなに嫌だったんだろうか?

 雪華からの手紙によると、「くらね、くらねぇ」と延々呟きながらガチャを回し続けているらしい。

 

 くらね? クラネ…蔵音? 食ら寝?

 

 …分からん。そんな言葉あったか? うーん……人名…いや異国語…? 或いは雪華の聞き間違い?

 訳が分からないとしか言いようがない。

 ただ一つ言えるのは、ここからじゃ調査もできないって事だけだ。

 

 交渉役として訪れた識がそんな状態であるのをいいことに、両さんは連れだって来た役人達をあれこれ買収しているそうだし、シノノメの里にとっては少なくとも悪い方向には向かってない…と思う。

 興味深い事ではあるが、これ以上調べられない以上はどうにもできない。

 

 手紙の返信文も書かなきゃならんし、今日の作業は切り上げて、里に戻るとしよう。

 

 

 

 おっとそうそう、これだけは書いておこう。

 すぐに来ると言いつつ音沙汰無く、このままフェードアウトして忘れ去ってしまいそうだった茅場の事だ。

 あの異世界大好き人間が一体何故、すぐに追いかけてこなかったのか。…普通に考えれば、転勤するのに準備期間一か月足らずって普通に無茶なスケジュールだが、それは置いといて。

 

 あの茅場が足を止めるような、興味深い事があったらしい。それに掛かり切りになって、すぐにこちらに移れなかった。

 もうじき事が終わり、こっちの里に移ってくるらしいが…その時に会わせたい者がいるとの事。…一体誰なのやら…。

 

 

 



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485話

今回は、ちょっと短め。


 

 

 

堕陽月弐拾禄日目

 

 

 橘花に手紙を渡したところ、物凄く驚かれた。そりゃそーだね、まだ手紙送ってすらいないのに、返事が届いたらそりゃおかしいって思うわ。

 しかも届いた文の内容を読み進めたところ、ウタカタの里の事をさも見てきたように書かれていたらしい。

 更に、橘花が最近行った事や、不満に思っている事、文に書いた事の一部が先回りするように書かれている。

 

 幾ら何でもこれはおかしい、と思って俺に相談に来た。

 許可を得て手紙も読ませてもらった。

 

 

「…と言う訳なのですが…共感を得られるのは嬉しい事ですが、流石にこれは…その、こう言ってはなんですが、薄気味悪いと言うか…」

 

 

 あー、まぁこれはねぇ。

 雪華の奴も、誰かと文通なんて初めてなんだおるし、舞い上がってんだな、これ。

 悪気があって先読みしてるんじゃないんだ。一種のサプライズ……あー、驚かせようとくらいは思ったかもしれんな。

 

 おい、見てるか雪華? 怖がらせてんぞお前。

 

 

「? 天井に語り掛けて、どういう事なのですか?」

 

 

 あー………なんだ、その…あの子の神垣の巫女としての力は、ちょっと特別でな。

 ちょっと前の事件のお陰で、阿保みたいに強力になってるんだ。それこそ、幾ら巫女としての力を使っても、寿命なんぞ削れやしない。

 鬼が近づいただけで消し飛ぶような結界張って、まだ平然と昼寝してられるくらいに。

 

 

「……あの、ちょっと何を言っているのか理解できないのですが」

 

 

 詳細聞いたら、もっと理解できなくなる。そーいうもんだと割り切っとけ。

 ともあれ、結界張って余裕なんだから、他の術だって当然余裕だ。囮作戦でこれから橘花が使う千里眼の術なんぞ、鼻歌混じりもいいとこよ。

 

 で、俺はあの子と……まぁ、その、浅からぬ縁があってね。よく俺の事を除き見してるんだよ。

 

 

「覗き見って……まさか、シノノメの里から、と言う事ですか? まさか…とても人間技ではありません! 手元に素材があってさえ、千里眼の術は大きな負担がかかると言うのに」

 

 

 それが出来ちゃうんだよ、今のあの子は…。まぁ、多分受ける側に抵抗があるかどうかってのも関係あるんじゃないか?

 確か千里眼の術って、縁や物に宿っている記憶を辿ってその先を見るってものだろ?

 縁が強ければそれだけ手繰りやすいだろうし、友好的な縁ならすいすい辿れるのかもしれんな。

 

 

「それだけ、シノノメの里の巫女と強い結びつきがあるのですね」

 

 

 ソウネ。トッテモツヨイネ。イロンナイミデヨソウガイダッタケド。

 

 

「それにしても…いつ見られているか分からない、と言うのは…その、不愉快とは思わないのですか? こうして話している間にも、見られているのかもしれないのですよね?」

 

 

 天井を見回しても、当然その先に目玉が浮かんでいるなんて事は無い。

 橘花は不愉快とまでは言わなくても、落ち着かないようだった。

 

 俺は別に構わんけどなぁ。他人ならともかく、雪華だし。色々と、普通は見ない事やらない事その他諸々やった仲だもの。

 雪隠で力んでるところを見られた程度じゃ、正直恥ずかしさも感じないわ。

 

 むしろ、常にじゃなくてもこっちを見てるんだったら、遠方に素早く連絡する方法があって便利だぞ。伝わったのか確認できないのが難点だが。

 

 

「何て言うか……凄いですね」

 

 

 あいつが見られるのは基本的に俺とその周囲だけだから、日頃の生活を橘花が覗き見られるって事は無い筈だよ。

 手紙に書いてあった事も、よくよく見れば俺と関わりがあった事だけだしね。

 根はいい子だから、橘花の反応を見て反省してるんじゃないかな。…今も覗いていれば、だけど。

 

 

 どうする? 何か要望があるなら、俺から強く言い聞かせるけど。

 自分を見るな、と言うのは当然の要求。そんな覗き魔と文通なんかしたくないと思うのも自由…紹介しておいてなんだけども。

 

 

「いえ…確かに一方的に覗き見られるのは嫌悪感がありますが、それを差し引いても俄然興味が沸いてきました。中々に強烈なお方だとお見受けします。私もそれ程の強さがあれば…!」

 

 

 自分で道を切り開いたって言うのかね、あいつのは…。棚ぼた式だったしなぁ。

 とりあえず、文通は続行って事ね。

 それなら、早い内に返事を書いてしまう事だ。手紙を送ってくれる人は、今日の夕方頃にはウタカタを立つらしいからな。

 

 

「ええ!? もう時間がありません………お願いです! 一緒に内容を考えてください!」

 

 

 間に合わなかったら、前もって書いた手紙だけでもいいだろ。反則技使って先読みしてきたのは雪華の方なんだし。

 その後、二人でせっせとお便り書いた。

 

 

 

 

 

 郵便配達(?)の人に手紙を渡し、今日は終了。

 立て直しもロクに進める事はできなかったが、連日作業しっぱなしなのも厳しいから、休みの日だと思えばいいだろう。

 

 

 

 

 

 

堕陽月弐拾漆日目

 

 

 昨日から、橘花の様子がおかしい。原因は分かり切ってるけどね。

 よく西の道を見て、ソワソワソワソワしている。逆に東を見て心配そうにしている事もある。

 

 西に関しては霊山に続く道なんで、お手紙まだかな?状態なんだろう。そんなにすぐにお返事来ないよ…と言いたいところだが、千里眼で先読みして送って来た実績を考えると、橘花が筆を執るのと同時にあっちでも文を書き始めていてもおかしくない。

 まぁ、あの子が俺の言いつけを破って、橘花を覗くとも考え辛いけど…。

 

 東を見ているのは、囮作戦の皆を心配しているんだろう。順調に進んでいれば、そろそろ戻ってきてもいい筈だ。

 最後に連絡があったのは、露払いと布陣を終え、これから作戦に取り掛かる…という情報。そこまでで重症人は出ていないが、タマフリを乱発してリタイアした人は何人かいたようだ。ちなみにその人達が里に戻ってきて告げた情報です。

 単に無意味に乱発して力尽きたのか、それとも露払いに全力を尽くした結果なのかは俺も知らない。

 

 

 しかし、失敗とも成功とも連絡が無いな…。まさか、連絡を飛ばす暇もない程危険な状況だとでも? 或いは、囮作戦が裏目に出て、布陣ごと包囲されて連絡を出せない? 連絡役が部隊から離れて少数になったところを狙った?

 ……いかんな、危険な可能性はいくらでも考えつくが、確かめる事も…。

 

 いや、いっそこっちから確かめに行くか?

 幸か不幸か、今は隊員達もそれぞれ預けられた家で、借りて来たぬこのように大人しくしているからな。ねとぬの区別がつかないくらいに緊張しているとも言う。

 いや本当に畏まっててね…。バカやらかすよりはいいんだけども。

 隊員達の様子見もそこそこに、こっそり現場に様子見に…。住居の立て直しも適当なところまで勧めて…。

 

 

「…おい、何か妙な事を考えてないか?」

 

 

 ははははは大和のお頭いきなりなんですかね? あたしゃ昼飯の事しか考えてませんよ。

 後はまぁ、皆が心配だなって程度で。

 

 

「ふむ。確かに、連絡が少しばかり遅いな。だが、様子見を出すにはまだ早い。どっしり構えておく事だ」

 

 

 どっしり構える事と、危険が予測されても放置する事は違うと思うんだけどなぁ…。

 

 

「確かに違う。しかし、作戦に参加した人員を考えてみろ。強力な鬼に襲われたとしても、救援要請を出すくらいの余力と判断力はある」

 

 

 …あるかな? 特にうちの子達に。

 でも確かにそうだよなぁ。クサレイヅチ並みの規格外広範囲能力でもない限り、助けを呼ぶ事も出来ず一瞬で、と言うのは考え辛い。

 そこまで強力な鬼も…………あ、前に出て来たな。下半身のみで封印されてた鬼とか。でも、もっと異界の奥の方だったし、鬼達もあの下半身をコントロールできてた訳じゃないし…。

 

 ぐぬぬ、考えれば考える程心配事が出てくるぞ…。

 

 

「戦っているのだから、それは当然だ。対策を打つ事も必要だが、無駄な動きは消耗を増やすだけでもある。お前は目の前の鬼が恐ろしいからと言って、無暗に走り回るか? 違うだろう。必要とあれば足を止め、敵の行動に合わせて歩き走り、優位を取れるよう攻撃する。今はまだ走るべき時期では…………む?」

 

 

 うん? …あ、狼煙…。青って事は…。

 

 

「作戦成功、帰還する…の合図だな。上手くいってくれたようだ」

 

 

 そっかぁ……。欠員が出てない事を祈るのみ、だな。

 大和のお頭は流石の貫禄と言うか…。

 

 

「こういう事に定まった正解など無い。部下の為に全力を尽くし、気に掛けるのも確かなやり方の一つだ。ただ、押し引きの呼吸と言うものはあるな」

 

 

 へいへい、見習わせていただきますよっと。

 それはそれとして、はやいところ家を建て直さないと。作戦に参加してた連中まで里の家に預かってもらうのは、流石にちょっと無理があるだろうし。

 

 

 …………しかし…なんか妙に嫌な予感がしてきたぞ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予感的中! 過去がッ! 過去が岩の下から土竜(モグラじゃなくて鬼のドリュウ)のよーに湧き出してきたッ! まだ一週間も経ってないけど!

 

 っていうか土竜が湧き出てくるだけならまだしも、その胴体の中に火薬が満載されてるってどういう事!?

 もうこれ土竜どころかイビルワームだよ。和名・夢の国なんてファンシーな名前なのに、狂気と危険に満ちた暗黒神話の生物だよ。

 ちっちゃなミミズ同然だった筈なのに、どうしてこんなに大きくなるまで放っておいたんだ! …放っておいたのは俺ですねすいません。でもいくらなんでもこれは無いと思うんですよ。

 

 

 

 

・囮作戦、無事完了。

 

・うちの子達が、家がぶっ壊れているのを見て激怒する。

 

・作戦の報告を受ける。

 

・異界消失が発覚

 

・ツチカヅキを足として乗り回す謎の鬼の目撃情報

 

・千里眼を使った橘花が寝込む

 

・里の結界消失、ノーガード状態  ←イマココ

 

 

 

 

 …どうしてこうなった! どうしてこうなった!

 

 って踊ってる場合じゃねえ、近付く鬼を片っ端から殲滅せねば。

 

 



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486話

 

 

堕陽月弐拾溌日目

 

 

 囮作戦に参加していた子達も含め、滅鬼隊・ウタカタのモノノフを総動員する。

 神垣の巫女による結界が無くなった以上、別の防衛方法が必要だ。俺達の住居の近くにのみ設置していた鬼を惑わす罠を、ウタカタを囲むように設置していく。

 言うまでも無く大仕事だ。六穂なんかは、毒の作りすぎでグロッキー状態になってしまった。

 

 そもそも罠自体、まだ大規模運用が出来る程の完成度には至ってない。それでも無いよりはいいという判断で設置を進めている。

 当然ながら、和気藹々と作業できている訳じゃない。

 うちの子達は、壊された家を見て少なからずショックを受けていた。家の中にあった私物が壊れてしまった、という子も居る。……雪風が「あたしの宝物がー!」って叫んでたな。その宝物の内容は、ビー玉、蝉や蛇の抜け殻、メンコ、その他諸々……夏休みの子供みたいだ。

 

 特に険悪な空気を撒き散らしているのは、言うまでも無く桜花である。

 元々、囮作戦はともかく、千里眼を使う事には反対していたからな。いざ使ってみて、橘花が倒れたと知らされると…そりゃもう凄い取り乱しようだった。

 「それみた事か! だから私は反対したんだ!」と口には出さないが、不満を抱え込んでいるのは明白だ。その不満の矛先は、囮作戦の決定を下した大和のお頭に向いているのか、提案した橘花自身か、或いはその切っ掛けになった俺か……負担を強いる事を是として止めなかった、里自体か。多分、自分でも分かっていないだろう。ただやり場のない、行き場のない苛立ちと無力感に苛まれている。

 

 

 

 

 さて、近付く鬼を切り払いながら、罠を設置し続けている訳ですが…その間に、昨日の顛末を記すとしよう。

 時間的には昼過ぎ頃。想定していたよりも時間はかかったが、囮作戦は無事終了の報せが飛び込んできた。

 これに、一同湧きたったのは言うまでもない。

 ウタカタとしてもウチとしても、少なくない戦力を注ぎ込んでの大作戦だったからな。それに加えて故意が偶然か、手薄になった滅鬼隊住居にカウンターまで喰らったのだ。これで敗走してくるようでは目も当てられない。

 

 結果としては、囮作戦は上手く行ったと言えるだろう。

 今回のループでは策を逆手に取られて待ち伏せを受ける事もなく、一体ずつ釣れる鬼を的確に狩る事が出来た。時々、誘導にしくじって2~3匹同時に釣ってしまう事もあったが、そこは動員した人数を活かして分断し、各個撃破。

 鬼達に対して、このような計略が非常に有効な事を実証できたし、戦術的にも戦略的にも勝利。重症人も居ないしね。

 

 

 だが、大和のお頭に言わせると、最も重要なのはここからだ。鬼に対して痛手を与える事が出来たのは喜ばしいが、この囮作戦の真の狙いは敵の情報を得る事にある。

 橘花が千里眼を使う起点となる鬼の部位。そこから読み取れる情報次第なのだ。こればかりは、実際にやってみないとどうにもできない。博打の領分だ。

 

 

 その部位の到着を待つ為、俺達は橘花の元に集まり、皆の帰還を待った。…橘花は手紙について、あれも書けばよかった、これも書きたかったと懊悩していたが…まぁ、好きにさせてやろう。心配していた桜花達も無事に戻ると分かり、浮かれていたんだろう。

 

 出撃部隊が戻って来たのは夕刻。多少の傷と、顔色に疲労の影はあるが、皆誇らしげに胸を張って帰って来た。

 胸を張れるような戦果を挙げられたんだろう。運動会で優勝した子供達を見るような心持になった。

 

 

 …その誇らしさも、自分達の寝床がかなり壊れている事に気付いた途端に吹っ飛んだけどね…。

 すまない、間抜けな頭領で本当にすまない…。

 

 

 

 

 うちの子達の事は、一旦置いておく。皆を存分に労ってやりたかった…エロい意味じゃない、とにかく褒めて休ませてやりたかった…のになぁ。

 皆が持ち帰って来た鬼の部位は多岐に渡った。それだけ討伐した対象が多かったと言う事だな。

 クエヤマの角やらミフチの鎌やらヒノマガトリのトサカやら、ミズチメっぽい尻尾、キンキラの手鉤…コガネムジナかな?…とか、大きな棍棒(多分、ヤトノヌシの武装)とか…。

 

 さて、ここで問題となったのは、橘花がどの鬼の部位に千里眼の術を使うか、と言う事だ。

 千里眼の術も、そう気軽に使えるほど負担の軽い術ではない。雪華のような例外を除けば。

 術を使いましたが、有効な情報は得られず疲れただけでした…では、皆も命を張った甲斐が無い。とは言え、さっきも書いたように、どれから何が得られるかは全く未知数で。

 

 

 さてどうしたもんかと悩んでいたところ、速鳥がもう一つ報告があると言い出した。

 囮作戦が上手く行っても帰還が遅れたのは、この報告について調べていた為だ。

 

 曰く、囮作戦のさ中、遠い場所で轟音が立て続けに響いたのだそうだ。さらにその方角から、尋常ではない光が何度も天を刺した。

 一体何事なのか。囮作戦を継続すべきか、切り上げて戻るべきか、かなり揉めたが…最終的な結論は、速鳥が戦線を離れ、単騎で調査に向かう事となる。

 

 だから単騎特攻はヤメロと……まぁ速鳥にだって言い分はあるだろうけども。一切戦わず、気配を消して調査のみと言う事であれば、確かに速鳥一人の方が動きやすかろう。

 囮作戦の真っ最中で、あまり戦力を減らす訳にもいかなかっただろうし、かと言って近場で異変が起こっているなら作戦の妨げとなる可能性もある。放っておくわけにもいかない。

 

 

 しかし、そんな光だの轟音だの、気付いたか? と大和のお頭に聞いてみると、

 

 

「俺も全く覚えが無いな。しかし、その現象が発生したのは、囮作戦を行った異界の、更に奥の地区だ純粋に音や光が届かなかった可能性もあるし、領域の区切りでそれらが掻き消されてしまった可能性もある」

 

 

 との事。

 ああなる程、異界の領域端から隣接した異界を見ようとしても、全く見えないどころかその領域の景色が続いているように見えるもんな。異界の空間が歪んでるって言っても、大概にしてほしいもんだわ。

 

 話を戻して、速鳥として、調査にそう時間はかからないだろうと思っていた。奥地から音が聞こえたと言っても、同じ異界領域の中だ。辿り着くまで大した手間は必要ない。

 

 

 と思っていたら、何と異界は領域を超え、その更に向こうの領域から聞こえていた。

 隣の領域…つまり…古の領域から。

 

 

 

 

 …この辺で、俺、表情筋を意図的に殺し始めた。

 

 

 

 近付けば近付く程、速鳥の本能が危険を知らせる。光が天に立つ毎に、破砕音が響き渡る毎に叩きつけられる憤怒の波動。それは速鳥をして、その場で犬死する事を覚悟する程だったそうだ。

 

 退くか、進むか。

 

 二択を迫られた速鳥は、進む事を選んだ。もしもその波動の持ち主が、里に近付いてきたら……どうにもならない。例えウタカタの全戦力、新たに加わった援軍(つまり俺達)の力を叩きつけても里の崩壊は免れないと判断した。

 ならばこそ、速鳥は死地へ踏み込む。例え自分が死ぬのであろうと、その情報だけでも得て、持ち帰って伝えさせる為に。

 

 その判断の是非、考え方はともかくとして、結果的には速鳥は最良の選択をし、最高の結果を得たと言えるだろう。

 心臓が止まった上で自壊しそうな怒気と殺気の中、速鳥は見た。

 

 

 

 古の領域の中、荒れ狂う荒魂を。

 人とほぼ同じ程度の体躯しか持たないと言うのに、一瞬で鬼を斬り伏せ、緑の閃光で吹き飛ばし、銃のような腕から光弾を乱射する。

 腕が口のように変化し、巨大な鬼すら頭から喰らい尽す。

 邪魔する者は鬼だろうが建造物だろうが地形だろうが躊躇いなく捻り潰し、足蹴にしたツチカヅキを馬代わりに使い、用済みになれば極めて惨たらしく殺す。

 逃げようとした鬼を、同族の悲鳴で引き留めて、纏めて捕らえた後は目の前で一匹ずつ嬲り殺し。

 凄まじく鋭い感覚の持ち主らしく、術を使って隠れている鬼まで看破し、一刀の元に引きずり出し、或いは遠距離で逃げようとする鬼は長距離射撃で四肢を一つずつ吹き飛ばす。

 そして最後の最後には、天へ向けて撃ち放った光が巨大化して落下してくると同時に、鬼本体の全身から溢れ出る緑色の光が世界を満たして………

 

 

 そこで速鳥の意識は途絶えた。

 目を覚ました時には、目の前に広がるのは瘴気すら無く、鬼さえも立ち入らない正しく死した大地。気を失っていた速鳥が活動限界を迎えなかったのは、瘴気が吹き飛んでいたから。鬼の胃袋に納まらなかったのは、その鬼が逃げ出していたからだろう。

 瘴気は残っていなかったが、そこかしこに緑色の燐光が舞っており、それに触れると下手な毒よりも早く体が蝕まれてしまう。速鳥は近付くだけで嘔吐感すら覚えたようだ。

 

 屍山血河すら消え失せ、悪夢だったのかと疑うも、別の意味で悪夢のような光景を目の前にして速鳥は思う。悪鬼羅刹とはかくあるものか。

 そう述べる速鳥は、明かに体が震えていた。

 

 大和のお頭曰く、

 

 

「…これまでで最も危険な鬼だな。何よりもその残虐性と知恵が。明かに、一匹でも鬼を多く殺し、苦しめる為の計略に基づいて動いている。あまつさえ、立ち去った後に強力な毒?を残す。更に、何処から来て何処に向かったのかも分からん。里の近くに潜んでいるとすると………これは恐ろしいな」

 

 

 せやな(震え声)

 し、しかし鬼を狩る鬼とはねぇ。まるでモノノフみたいだなー。

 

 

「あれは…狩り等ではござらん…。ただただ苦しめ無に還す、処刑…いや、獄門装置。特大の伽藍の洞に、悪意と害意のみを詰め込んだ、鬼ですら恐れる魔物にござる…」

 

 

 えらい言われよう…もとい、言いようだな…。

 

 

「…貴殿も一度目にすれば理解するであろう。あれは……敵としてであろうと、関わってはならぬものだ」

 

「…速鳥、その鬼や異界消失について、誰か知っているか?」

 

「秘匿しております。幸い、合流した時には作戦も終わり、戻らない拙者を探しに来ようとしていた時でござった」

 

「心苦しいと思うが、その情報は今は伏せておけ。ただ特別危険な鬼が近くに居る、という情報だけは共有しよう。そして速鳥、お前は暫く休め。自覚はしていると思うが、今のお前は平常心で戦えん」

 

「御意。では、拙者はこれにて」

 

 

 速鳥は踵を返して立ち去った。平静を装っているが、消耗しているのは明らかだ。……天狐でも嗾けて、元気付けてやるべきか…。

 

 

「…どう思う?」

 

 

 え? あ、あぁ、えーっと、鬼について?

 

 

「それもあるが、異界消失についてもだ。速鳥が見た鬼が近くに居るとして、何故瘴気を消し飛ばすような事をする? 鬼にとっては、清浄な空気よりも瘴気に満ちた空気の方が住みやすい筈だ」

 

 

 …いきなり妙な事気にするな。そういう鬼も居るんじゃないか? 

 例えば………そ、そう、異界を喰った、とかな。

 

 話を聞いてみれば、とてつもなく強い力を持った鬼らしいじゃないか。その力の源が、異界を一つ丸ごと吸収する事だったりすれば、辻褄は合わないか?

 

 

「ふむ…それは、異界を浄化できる術者としての観点の意見か」

 

 

 そう深く考えてる訳じゃないが。方法はどうあれ、俺は異界を消滅させる事ができた。他に出来る奴が居るかも、と考えた事もある。

 それが鬼だと言うのは、ちっと予想外だったが…。

 

 ただ、異様に強い力を持ってる奴ってのは、大概何かしらの下地があるもんだ。

 人間だってそうだろう? 強くてしぶとい体を持ってる奴は、何でも食えて何でも栄養に変えられて、そして腹いっぱい食える奴だ。

 鬼だって変わらない。でっかくて頑強な餌を食って、戦って、それでようやく体が強くなる。

 異界を一つ消し飛ばすような力を持っている奴が、普段何を喰ってるかって考えると…。

 

 

「これまで、その鬼が確認されなかった事についてはどう考える?」

 

 

 これも大した根拠があっての考えではないけど…単純に未確認の鬼、と言う事ではないかな。

 異界、瘴気を喰ってそこまで強くなる鬼だぞ。栄養豊富な食い物も、強力な外敵も居る環境に生息していたと思うべきだろう。つまり、人間が立ち入れないような濃い瘴気が満ちた場所…異界の奥の奥、或いは『向こう側』だ。

 何でそいつが、こんな所に迷い出てきたのかは…正直分からん。

 

 

「向こう側…鬼達が本来生息していた場所、か。確かに、それは『ある』と言われているが、その場所を確認した者は居ないからな。どこまで行っても、想像と妄想の域を出ない。…今は、これ以上考えても仕方ないか。詳細な情報は口外するなよ」

 

 

 分かってる。うちの子達、悪い子じゃないんだけど頭が軽いから、何かの拍子に漏らしそうだもんね…。

 …一番頭が軽いのはお前だって声が……これは、自責の念? …違うか、のっぺらミタマ達が無い口揃えて叫んでいるだけだ。

 

 

「ともあれ、今日の話はここまでだ。これから、橘花に千里眼の術を使ってもらう。悪いが退去してくれ。余人が居ると、その縁に阻害されて術がかかりにくい事もあるらしいのでな」

 

 

 あの術にそんな設定が。…まぁ、別にいいけどさ(さっさと逃げたいし)。

 と言うか、どの鬼の部位に術を使うのか決めたのか?

 

 

「ああ。大きな棍棒にする。武器を使うだけの知能があり、巨大な棍棒を振り回す腕力。戦闘力で考えれば、確実に上位に食い込む鬼だろう。指揮官と言わずとも、それに近い地位にある可能性は高い」

 

 

 そうか。いい情報を得られる事を祈っているよ。

 

 

 …ヤトノヌシは、確かオオマガトキを守る結界を張っている鬼の片割れだった筈。正確に言うなら、その結界を張る為の塔を守る鬼。…この時点で討たれているって事は別個体なんだろうけど、塔に関わっている可能性は充分にある。

 諸々のイベントをすっ飛ばしているのは気になるが、情報が得られるのなら、悪い展開にはならないだろう。

 

 そう考えて、俺は早足にならないよう気を付けながら、大和のお頭の前から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 セェェェーーーーーッッッフ!!!!!

 

 

 

 大丈夫、気付かれてない!

 流石の大和のお頭も、人間が異界を消し飛ばすような鬼になると言うのは想像の埒外だったか。

 もしもバレていたら、どうなっていた事か。最悪、冗談抜きで化け物認定され、討伐対象にされていたかもしれない。いくら大和のお頭が剛毅とは言え、全力出せば里を数瞬で灰に出来るような危険物を受け入れてくれるとは思わない。

 殺そうとしてきたら全力で反撃、追放されればその辺を放浪して自棄になって何をやらかすか分からない、下手をすると迫害した連中を恨んで敵対…うん、我ながらどうしようもないね。

 うちの子達は…どうだろうなぁ。今まで色々交流して、刷り込みやエロ以外での信頼関係も築きあげてきているという自負はあるが…事が事だもの。

 

 

 はー、過去がイビルワームのように地面の下から這い出てきた時はどうなる事かと思ったが、何とか助かったな。

 ここはもう、証拠隠滅とか余計な事は考えず、大人しくしらばっくれておけばいいだろう。下手な動きは怪しまれるだけだ。

 幸い、証拠となるようなものは何も残ってないような状況だ。何もしなくても、俺に繋がるような手掛かりは残っているまい。(慢心)

 

 寝床の家屋も応急処置はできたし、今日はもう寝てしまおうと家路についた。

 

 

 

 

 

 大きく伸びをして欠伸した時、背後から扉が閉まる音。

 振り返ってみると、受付所…今まで俺達が居た場所だな…から速鳥が出てくるのが見えた。あれ、おかしいな。しばらく前に出てきていた筈だが…雪隠で唸ってたのかな?

 

 俺が見ているのに気付くと、速鳥は軽く目礼し、そのまま立ち去ってしまった。なんだったんだろ…。

 

 

 

 

 

 

 

----------------------------------------------

 

 

追記

 

 

 思えばこの時、速鳥を問い詰めていれば、こんな事にはならなかった…いや、根本的な問題はもっと前だけど。

 別に、速鳥が悪かったって事じゃないんだよ。あいつはただ報告しただけだ。その報告の一部を忘れていて、俺が去った後に戻って来た。…タイミングが悪かったな。

 仮にその場に居合わせたとしても、何が出来たって訳じゃないと思うけども…。

 

 

 

 

----------------------------------------------

 

 

 

 そして、俺が家に向かって歩き、今頃大騒ぎしていそうなうちの子達をどう宥めるか考えていたら。

 

 

 

 結界が消えました。

 

 

 

 

 最初は首を傾げた。停電でもあったのかな?なんて間抜けな事を考えたくらいだ。

 数分待っても再起動せず、これは本格的にヤバいんじゃないかと思い始める。

 

 結界が消えた事に鬼達が気付けば、ここぞとばかりに押し寄せてくるだろう。

 うちの子達は常在戦場とは言えないし、何より直した家に居るのは囮作戦に行っていて、受け入れ先がまだ決まっていない子達ばっかりだ。つまり疲弊している。

 家の中で爆睡していて、結界が消えた事に気付いてないかもしれない。

 だが、鬼達はそこまで探知能力が優れている訳ではない。あっちも異界消失の余波でかなり混乱しているだろうし、今すぐ押し寄せてくる可能性は低い。

 

 

 橘花は一体どうしたんだ? 結界を張る事ができない程、千里眼の術で疲弊したのか?

 いや、確かに負担はかかるらしいが、結界を張れなくなる程ではなかった筈。精神的な余裕もあるし、色々負担をかけるイベントも回避されてきたので、まだ余裕はあった筈だ。

 しかし、実際に結界は消え、復旧する様子も無い。

 橘花に何かあった? しかしそれを確認したとして、俺に何が出来る?

 

 

 逡巡している間にも、俺の足は方向を変え、橘花の居る場所に向いていた。

 どちらを選んでも正解か分からないなら、少しでも早く済む方に向かう。そのまま鬼疾風で、里の中まで爆走した。

 

 

 

 結論から言えば、橘花は気絶していた。半狂乱になった桜花が揺さぶっているが、富獄の兄貴に羽交い絞めにされ、那木の診察の邪魔にならないように退かされた。

 

 

「お頭! これは一体どういう事だ!? 橘花に強い負担がかからないのではなかったのか!」

 

「俺にも分からん。橘花には確かに充分な余力があった。しかし千里眼の術を発動した途端、金切り声を挙げて気を失ってしまった」

 

「分からんで済むか! くっ…那木! 橘花の様態は!?」

 

「…気を失っているだけ、のようでございます。ですが、術をおかしな形で中断してしまった為か、心の臓が早鐘の如く…。このままでは…」

 

「対処法は!?」

 

「この症状のみであれば、特効薬の作り方を知っています。ですがすぐに目覚めるものでもなく、何よりも材料が足りませぬ…」

 

 

 …ひょっとしてキツネ草? だったら、ちょっと古い奴が手元にあるけど。

 

 

「いえ、確かにあれも特効薬となり得ますが、これとはまた別の症状でございます。必要な素材は、薬剤庫に二つ…三つ…せめてあと4つ必要です」

 

 

 見本が一つでもあれば、うちの鹿之助に探させる。すまん桜花、大和のお頭の家に居る筈だから、叩き起こして来てくれ。

 桜花は扉を蹴り破って出て行った。とにかく動かしてた方が気も紛れるだろう。

 

 俺は里の防衛に回る。鬼達に、結界が消えた事を気付かれるのも時間の問題だ。結界に頼らず鬼を惑わす方法も研究してたから、そいつを使って里の防備を固めよう。

 

 

「うむ、頼む。この際だから大砲や火薬を使っても構わん。他に隠し玉があっても、今回は不問としよう」

 

 

 あいよ。……ん?

 

 

 確認するべき事は確認した。橘花意識不明、命の危険はあるが対処は可能、外敵による昏睡ではなさそう。となれば、後は目覚めるまで待つしかない。

 踵を返し、疲れ切ってるであろううちの子達にムチ打つ覚悟を決めた時、橘花の手元からコロリと何かが零れ落ちた。

 

 

 

 それを目にした瞬間、内心で総毛だった。

 …欠片…と言うか、牙。すごく見覚えのある牙。自分から見る事はあんまりないけど、どういう物なのかはよく知っている。

 

 

 

 や、大和のお頭…速鳥…それは…。

 

 

「…貴殿も気付かれたか。この欠片が放つ、ただならぬ圧力に…。正にその通り。この欠片は、拙者が報告した例の鬼の部位と思われる」

 

「お前が帰った後、速鳥が戻ってきてな。例の場所で、一つだけ見つけたそうだ。手掛かりになるかと思って持って帰って来たそうだが…確かに、言われてみればただならぬ力を感じる」

 

 

 

 

 

 

 …俺の神機の牙だよ…。

 

 

 え、ちょっと待て、まさかコレに千里眼かけたのか!?

 

 

「いや、考えはしたが、意味が無いと思って止めた。この鬼はどう考えても、鬼達の中でも異質な鬼だ。まともな情報が得られるとは思えん。予定通りに棍棒に使ったよ。だが、何故か様子がおかしくなった橘花が、これに向かって手を伸ばし、そして気を失った」

 

「これに手を…? …失礼します。…………駄目です、分かりません。恐るべき力を感じはしますが、私も見た事がありません。どのような鬼なのか、検討も…いえ、それよりも橘花様がこれに手を伸ばしたのは、何故…」

 

 

 千里眼の術を使った途端、だったな。これに何か感じ入る物があったんだろうか?

 ……心当たり、あるなぁ。山ほどあるなぁ。

 大和のお頭もさっき言ってたが、千里眼の術は近場に強い縁を持つ者がいると、それに阻害されるだか引っ張られるだかがあるらしい。別ループとは言え、橘花とは散々体を貪り合った仲だ。縁があるという意味では、とっても強いものだと思う。

 

 つまり…俺の欠片が千里眼の術を邪魔してしまった?

 そして、橘花が見たのは…どっちだ? 前のループで色々エロエロねっちょんねっちょん、尻穴穿りまくってヒィヒィ涎塗れで悦んでいた時分の姿か? それとも怒りのあまりに異界をまとめて滅尽滅相する鬼の姿か?

 過去視にしても、近い時間から順にみていきそうだけど…………うぅむ、前者なら橘花が今回ループも色欲に目覚めるかもしれん。後者であれば、俺の存在がトラウマになりそうだ…いや、これが俺だと言うのは気付かれてないのか。

 

 

 

 そ、そいつについて調べるのは後にしよう。今は防衛が最優先だ。

 多分、前線に張り付きっぱなしになると思うから、用事があるなら状況が落ち着いてからにしてくれ。

 こっちの里で預かってもらってる、囮作戦に参加してなかった子達にも、動けるようになり次第参加するように伝言を頼む。

 じゃーね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そして、予想通り寝惚けていたうちの子達を叩き起こし、今に至る。

 全員爆睡していたのではなかったのは、せめてもの救いか。念のためと言う事で、里で預かられていた子の一人が見張り役を買って出ていた。その子が四苦八苦しながら、眠っている子達を起こそうとしていたんだが…相当疲れてたんだろうなぁ、みーんな爆睡爆睡爆睡。

 …いや、今にして思うと、疲れていたからって一人も起きないっておかしくないか? まさか……?

 

 いや後回し後回し。取り敢えず今は罠を張り、こそこそと近付いてきた偵察と思われる鬼達を斬り伏せる。

 結界が消えた事を、それこそ人間が張った罠だと思わせるのだ。一匹も戻ってこなければ、『何かある』と思う筈…。

 まぁ細かい事はいいや、とにかく目の前の鬼を斬れ!

 

 

 ヒャッハー皆殺しだぜぇ! なんかテンション上がって来た!(自暴自棄)



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487話

 

 

 

 

堕陽月弐拾玖日目

 

 

 夜が明けた。後ろでは体力が尽きたうちの子達がひっくり返って眠っている。

  眼前には、死屍累々と横たわる鬼達の遺体。まだ余力を残したモノノフ達が片っ端から鬼祓を行っているが、量が多すぎて間に合ってない。鬼の遺体から立ち上る瘴気が多すぎて、浅い異界のようになってしまっている。

 全く、たった一晩でよくこれだけ押し寄せてきたものだ。鬼達の側にも、里に進行する準備があったとしか思えない。

 

 囮作戦が読まれていた……いや、そのリベンジに押し寄せてこようとしていた…?

 もしそうだとすると、これで終わりとは思えんな。近日中に、第二段、第三段の鬼の群れが押し寄せてくるだろう。

 

 その時はまた何とか撃退するとして、問題は橘花だ。

 術の負担が大きすぎた為なのか、衝撃的な光景を覗き見てしまったのか、ともかく気絶してしまった橘花。心臓に危険な傾向があると言う事で、那木や鹿之助といった薬草の知識がある者、探索を専門とする者達は迎撃戦に参加せず、夜通し特効薬の材料を探し続けていた。

 幸い、材料は一夜で揃い、今は薬を作っている最中である。

 

 しかし、その薬は心臓の異常をどうにかする為のものであって、橘花の目を覚まさせる為の物ではない。

 彼女がいつ目覚めるか。里の結界を張り直す事はできるか。今後の里の命運は、それにかかっている。

 …改めて感じるが、神垣の巫女一人に里の命運が圧し掛かっているのだな。…逃げ出したくなるのも無理はない重圧だ。

 

 うちの子達を、里の安全な場所に放り込んで寝かせ、俺自身は襲撃に備えて待機する。

 

 

 さて、簡易的な物であるが、何とか里の周囲に罠を張り巡らせる事ができた。鳴子も兼ねている為、少なくとも里近くまで接近されても全く気付けない、と言う事はないと思う。各所の鳴子には術が仕込んであって、それが鳴った時は受付所に集められた、対になった鳴子が音を出す。これによって、何処から鬼が近寄ってきているのか感知できる訳だ。…罠に一切ひっからず、全て擦り抜けられれば別だけども。

 今回の罠は、家を壊された失敗も踏まえ、地中や空似も仕掛けを施してある。もしも前回同様に地中から侵入しようとすれば、あちこちに埋め込まれた埋め火が爆発し、空を飛んでこようとすればあっちこっちに張られた小型結界が邪魔をする。

 他にも色々やったんだけど、これ以上言うと大和のお頭に呼び出されそうなので黙秘する。

 

 …もし、直したばかりの家を狙ってきたら? 本気出して作ったトラップタワー(地中に向かって伸びているので、タワーではなくダンジョンと呼ぶべきか?)が火を噴くぜ。今度は地面ごとひっくり返されたりしないよう、地中と近辺まで特性の超合金で固めたからな! 俺のアラガミ細胞をミックスさせてみました。普通なら、アラガミ細胞を使った技術なんて不安定極まりないものだけど、これに関しては俺の支配下にあるから大丈夫。 …あれ、それってもしも俺が死んだら、制御が無くなって暴走して、討鬼伝世界が鬼とアラガミに食い荒らされる事に…? …………ま、デスワープでリセットされるでしょ。最悪、クサレイヅチがその手の因果を喰い尽すだろうし…………いかん、アレに餌をやる事になると考えただけで、苛立ちが天元突破する。

 

 

 

 …あ、早速鳴子の合図。と同時に、鏑矢の音がした。鳴子が鳴った区域からだ。

 この音だと…ふむ、問題なしか。発見済み、小型敵のみ、交戦中。増援の必要なし、と。

 

 音を聞いて、俺と同じように待機していた主力級モノノフ達も腰を下ろす。

 ここに居るのは大和のお頭と、橘花の看病から戻ってきた那木、速鳥、富獄の兄貴、俺。息吹と初穂は救援要請があった区域に向かって、まだ戻っていない。桜花は橘花の枕元で、手を握りしめながらずっと橘花の顔を見つめている。心配で心配で仕方ない、って事か…。気持ちは分からんでもないが、ちゃんと休んでほしい。昨晩だって、結局鬱憤を晴らすように、一晩中暴れ回っていたのだから。

 

 

 

「して、那木。橘花の様態はどうなのだ」

 

「はい、既に心の臓は安定しています。眠りも浅く、いつ目を覚ましてもおかしくないと言えましょう」

 

「…楽観は禁物でござるが、橘花殿が目を覚ますのは遠くない…と思ってよいのでござるな?」

 

「はい、速鳥様。あくまで前例でございますが、術の反動で倒れた神垣の巫女は、長くても3日程で目を覚ましています」

 

「3日…それくらいなら、また鬼共に襲われても、撃退すんのはそうきつくねぇな」

 

 

 …その3日と言うのは、それ以上持ち堪えられる里が無く、鬼に里を滅ぼされて二度と目覚めなくなったという意味なのでは? …と思ったが、余計な事は言わないでおこう。

 ところで、眠りが浅いと言うのは? そんなに浅いなら、枕元で騒いだら起きないかな。

 

 

「病人の枕元で騒ぐのは、医者として許容しかねますわね…。眠りの深さは様々な反応で測定できます。微かな手足、眼球の動きや、呼吸の仕方、その他諸々の…」

 

 

 いかん、那木の説明癖が出てしまった。大和のお頭達から、余計なことしやがって、という目が飛んでくる。

 と言うか要するにレム睡眠ね。…ノンレムだっけ? レムって言うと異世界に携帯電話持ち込む話しか思い浮かばないな。生憎、キャラくらいしか覚えてないけども。

 

 

「…なのですが、実は一つ不自然な事があります」

 

「む?」

 

「眠りと言うのは、通常は初めは浅く、時間が経つにつれて深く、徐々に浅く、また深く…と言うように繰り返されるのですが、この浅い眠りが異様に長く続いています。例えて言うなら、うたた寝はしても、熟睡はできていない状態でしょうか」

 

「…通常の眠りではなく、術の反動で倒れたから…でござるか?」

 

「わかりません。そこまでは、過去の文献にも記されていなかったので…」

 

「眠くも無いのに、無理して眠ってるような状態なのかもな。鬼の攻撃で眠らされた事があるが、あんな感じか」

 

 

 ……それ、大当たりかもしれん。

 

 

「何?」

 

 

 昨晩、迎撃戦に出る前にうちの子達を起こしに行ったんだが…見張りをしていた子が皆を起こそうとしていたのに、全く効かずに眠りこけていたんだ。

 囮作戦で疲れていた為かと思っていたし、俺の声には反応して起きてきたけど、ちょっとばかり不自然さを感じた。

 

 

「疲労困憊であれば、そのような事もあろう。……しかし、昨日彼らが帰ってきた時は、まだ余力があるように見えたな。その後、安心したら疲れが噴き出たのかもしれんが…」

 

「しかして、いくら鬼と言えど、そのように大多数に眠りの術をかける事が出来るのか? しかも帰って来た当時は、まだ結界が……いや、予め術をかけておき、時間差で発動するようにしていたのか? だが結界を超えて……」

 

「待てよ速鳥、もっと単純じゃねえか。作戦中に術をかけられる。結界の中に戻れば自然と消える筈だった術が、結界の端に留まり、そして術が解ける前に結界が消える。おかげで発動しちまった、って訳だ」

 

 

 だろうね。

 もしこれが正解だとしたら、術の名は恐らく百日夢。戻りたい過去がある人がかかりやすい術で、懐かしい夢の中に閉じ込められ、約100日をかけて徐々に衰弱していく、という術だ。

 

 ……うちの子達、戻りたい過去もクソもないからねぇ。(何せ、殆ど子が過去の事なんか覚えてないし))それで術の効き目が弱かったのかもしれない。

 

 

「戻りたい…」

 

「過去…」

 

 

 そういう傾向があるってだけで、あったら必ずかかる、無かったらかからないって訳じゃないのよ?

 もしあったら必ずかかるような術なら、最優先で根絶やしにしなきゃならん鬼でしょ。後悔ややり直したい過去なんて、誰しも大なり小なり持ってるんだから。

 

 

「ふむ…それが正解だったとして、目覚めさせる方法は?」

 

 

 術者の鬼…大抵はミズチメだな…を討つか……やり方は俺にもよく分からんが、夢の中に入り込んで叩き起こすって話を聞いた事があるな。

 あとは…これはあくまで推測、確証のある話じゃないが、術のかかり始め、眠りも浅い段階であれば、外からの声も届いているのかもしれん。

 声をかける事で、そのやり直したい過去や、心の蟠りを解消し、文字通り心を今に引っ張り戻せれば…。

 

 

「…言うは易いが、実行するには凄まじく難しい話だぞ。心からの声援とて、本当に心に届くとは限らん。橘花が見ている夢の内容を推測し、そこから何故それが気にかかっているのかを理解し、そしてそれを解きほぐす…。御仏の所業よ」

 

 

 そうだな。だから、やるなら鬼を斬った方が早い。問題は、そのミズチメが何処にいるのかって事だが……水脈近くに根を張る事が多いが、そういう場所は大抵瘴気も濃いからな。行くなら預けている瘴気無効装備の使用をお勧めする。

 つっても、まだ本当に術をかけられていると決まった訳じゃないけどね。

 このまま橘花が目覚めなかったり、里の中で目を覚まさない人が増え始めるようなら、調べる価値はあると思う。

 

 

「心に留めておこう。結界が無い今、百日夢だけでなく、鬼が何かしらの搦め手を使ってくる可能性は高い。里の内外で異変を感じたら、すぐに報告するよう里人達にも通達する。…ふむ、他にはどんな手法が考えられるか…。秋水に過去の資料を探らせるか」

 

 

 おっ、鳴子が鳴った。…鏑矢は…ふむ、救援に行った方がいいな。うちの子達も担当してる場所だし、一っ走り行ってくるよ。

 

 

 

 

 

 

 襲撃してきた鬼は、逆立ちする事で有名なタケイクサだった。どうせなら、そのまま踊ってくれればいいのにな。

 

 …時期的に考えて…これ、本来なら息吹のイベント…かな?

 確か、哨戒班が襲われて、そこに恋人が所属している女に助けを求められるんだっけ。そして間に合わず、罵られ、更に自分に百日夢が効かなかった事で後悔の念にすら疑問を抱き、自棄になると。

 

 ………普通に間に合っちゃったんですけど。いや間に合わない方が良かったなんて言わないけどね。

 ウタカタの里の哨戒班だけでは凌ぎきれなかっただろうが、一緒に組んでいたうちの子達の奮闘もあり、怪我人は出ても死人は無し。ついでにタケイクサの角と腕2本を叩き折るという戦果まで挙げていた。

 哨戒班が指揮・作戦立案、正面の戦闘はうちの子達で、上手い事役割分担が出来ていたらしい。先日の模擬戦で培った経験が活きたな。甘酒を奢ってやろう。丁度9人か。

 

 

 で、タケイクサは撤退させる事なくその場で始末。別の区域から駆けつけてきた息吹に、お陰で人死にが出なかったと感謝された。

 感謝するにはまだ早いけどな…状況が解決できた訳じゃないし。まぁ感謝は素直に受け取るけど。

 

 しかし、ちっと気になるな。

 伊吹のイベントどうなんの? これって、以前のループでもあったイベントを形状だけなぞって進め、信頼が足らなくて結局破滅するパターン?

 戦力的には、アラガミ化して化け物扱い(特に今は異界を焦土にしたのを見られてるし)されるのを覚悟で暴れれば、トコヨノオウからトコヨノオオキミまでダース単位で斬殺可能だが、オオマガトキがなぁ…。

 

 …いや、問題なのはそこじゃない。タケイクサは鬼の中でも結構な大物だった筈。それが一匹だけで、何の脈絡もなく里までやってくるとは思わん。

 単に功を焦っただけだったり、討鬼伝電灯の単騎特攻癖が鬼にもあったってだけならいいんだが…実はもう別の搦め手、使ってきてるのかもなぁ。

 

 

 

 

 

 



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488話

 

 

 

堕陽月参拾日目

 

 

 自宅再建設中なう。

 

 結局、うちの子達は俺と同様に今まで通りの場所で過ごす事を決めた。何人かは里に残ると思ってたんだけどな…。

 隊員達との共同生活しか知らなかった時とは違い、それ以外の暮らしも知ったのだ。安全だし、そっちを選んだとしても無理はないし、拒む理由も無い。

 

 

「…若、あんたも結構無駄な事を考えてるよな」

 

 

 俺の考えなんぞ、無駄と妄想ばっかりだぞ。骸佐、そっちの作業は終わったのか?

 

 

「ああ。…土木作業も結構厄介なものだな。若が半日足らずで家を作り上げるのを見て、正直甘く見ていた。やっていて楽しいとも思うんだが…」

 

 

 まぁ、俺のはね…クラフターだからね。

 骸佐達みたいに、複雑な工程は挟まない。お手軽だけど、その分独特の楽しみは味わいにくい。

 …手拭いを首にかけ、ヘルメット代わりの鉄兜を被って鶴嘴(グレートピッケル)を持っている骸佐。完全にガテン系の兄ちゃんだ。

 

 

「話を戻すが、俺達が安全な里に引っ込む理由は無い。無駄な危険を犯そうとは思わないが、結界が無くなったこの状況で、里に籠ったところで結果は知れているだろう。お世辞にも、戦うのに適した場所ではないしな。それなら、地の利を心得たこの場所の方が余程いい」

 

 

 結界は、橘花が起きればまた張られるぞ。那木の診察が正しく、術をかけられていなければ、今日中に目覚めると思うが…」

 

 

「だとしても、だ。…まぁ、正直な話、独立を考えもしたんだが」

 

 

 なんと。

 自立ではなく独立?

 やっぱり、ここ以外で暮らしたかったのか? 

 単純に、俺という頭領に不満があるのか? 確かに、器量で言えば大和のお頭の足元にも及ばない死、散々やらかして説教されまくってるが。

 …参考までに、理由を聞かせてほしいんだが…。

 

 

「…………そういう所だ」

 

 

 どこだ!?

 

 

「そこで疑問に思わないのがまた…。いや、若が頭領である事に異論はないんだ。ウタカタの大和殿に比べれば…と若は言うが、決して見劣りするものじゃないと思ってる。武力、人を惹きつける力、頭脳、三拍子揃った頭領だ。と言うより、若に頭領失格の烙印を押すような奴は、うちには居ないだろ…。異性関係については物申したくもなるが、それも半分以上は滅鬼隊としての性質故だしな…」

 

 

 ほんとぉ?(猜疑)

 

 

「本当だ。そんな恩知らずが居るようなら、俺がぶん殴りに行く。相手が女だろうと関係ない。改めて言うが、若は俺達に何をしたのか忘れてないか? 過去の記憶はないから、目を覚ましてからの基準しかないが……劣悪な環境と雇い主に謀殺された俺達を解放して、縁も所縁もないのにその全員の面倒を見て霊山から逃したうえ、逃亡先のここの里で衣食住を瞬く間に揃えた上に、糧を得る為の仕事や立場まで取り付けた。住む場所は多少危険な場所ではあるが、それもあの手この手で改善していくし、何より俺達を使い捨ての道具扱いしない。むしろ過保護なくらいにあれこれ準備をする。恩があり、現状の環境も良く、将来性もある。……これで若に三行半を叩きつけるって、どんな阿呆だよ」

 

 

 今正に、君から三行半を考えているって言われてるんですけども。

 と言うか、だったら何が不満なのさ。

 

 

「…若自身が不満なんじゃなくて、この環境がきついんだよ…。里での暮らしを知ったら猶更」

 

 

 ? …施設的には、むしろ里より整ってると思うんだけど。風呂に水洗付の厠に暖かく清潔な布団。部屋が一人一つないのは申し訳ないと思うが、それも建設中だし…と言うか、里人だって自室を持ってるのは極一部だよな。

 食べ物……は里の生産に頼ってるけど、腹八分目まで食えるくらいには余裕があるし、明日奈を初めとした調理班も着々と献立を増やし、腕も上げてるし…。

 隊員同志での手合わせが嫌? 鹿之助なんかは苦手にしてるみたいだけど、骸佐や権佐は嬉々として参加してるよな。時々神夜が乱入して死屍累々になるけど、それもいつか勝つって気炎を上げてるくらいだし…。

 

 

「…女所帯を極めたような生活環境で、男連中の肩身が狭い。別に何かされたり差別されてる訳じゃないが、単純に居辛い。…若はそういうのを感じた事は無いのか?」

 

 

 いやー? 全く感じないな…。

 昔ならそういう感覚もあったかもしれないが、周りが女だらけなのが当たり前の生活送ってたからなぁ…。しかも好き放題やっても全く怒られない、逆に歓迎されるような生活を。

 もう完全に後宮の主状態だからなぁ…。

 

 

「…もし俺が同じ立場でも、居辛さを強く感じると思うが……若、あんたすげぇよ…。…で、その後宮の中に、他の男が居て心地よいと思うか? うちの連中に特別な感情を持ってる訳じゃないが、どいつもこいつも若、若、若、若ばっかりだ。それしか基準を知らないから仕方ないが、これでいいのかって思いもするだろ」

 

 

 あー…まぁ、言ってる事は分かる。居心地の悪さは今更実感できないから置いといて、独立云々はともかく別の基準や外の風を吹き込まなきゃならんってのは確かだな。

 このままじゃ、俺を中心とした閉鎖的な集落にしかならない。幸い、今はウタカタとそれなりに交流があるから、多少なりとも外の価値観に触れられているけど…。

 

 とにかく、女所帯と距離を置きたいって事か。

 

 

「ああ。男用の空間を作ってくれてるが、それでも肩身の狭さは相当なもんだ。…とは言え、それを理由に今までの恩も忘れて離れようとする気はない。距離を取ったとしても、分隊としての立場でいるつもりだ。…若が許可してくれるなら」

 

 

 許可は構わんけど、流石に今この状況だと無理だぞ。結界が消えたおかげで、ウタカタが本気で危険だ。戦力は一人でも多く欲しい。そもそも、独立するにしても分隊として離れるにしても、準備も無しにやって成功する筈がない。と言うか、まさか一人で独立する訳じゃあるまいな?

 

 

「流石にそれは無い。…同じ部屋で暮らしている男連中には、話だけはしてみたが…権佐はともかく、鹿之助は冗談の類だと思ってるだろうな。独立したとして、行く当てがある訳でもなし、やりたい事がある訳でもなし、生活の当ても無し。これで飛び出す程、阿保にはなりたくない」

 

 

 そうか。…まぁ色々複雑な心境だが、子供はいつか巣立つもの。

 行き先まで全部面倒見るなんて事は言わないが、いつか真剣に考えて、出ていく決断を下したなら遠慮なく言ってくれ。そしていつか嫁でも連れて帰ってきてくれると嬉しいよ。

 

 

「酔っぱらった勢いで若が手を出すか、そうでなくても女連中にとんでもない事吹き込まれそうだから、それは嫌だ。…さて、仕事の続きに戻るか。若、次の…なんだったか、こんくりぶろっく? 頼む」

 

 

 おっふ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、那木の診察通りであれば、そろそろ橘花が目を覚ましてもおかしくない。

 しかし相変わらず眠ったままで、ついでに言えば付き添ったままだった桜花も眠気に負けてバタンQ。付き添いで体調崩してどうすんださっさと寝ろ!

 

 那木の診察によると、やはり通常の眠りではない事は確からしい。で、俺の発言から、百日夢の可能性を改めて検討する訳だが。

 

 

「さて、秋水に百日夢の資料について纏めてもらった。まずはみな聞いてほしい」

 

「あー、お頭、聞くのはいいんだけど、桜花は?」

 

「今の桜花に下手な事を聞かせると、暴走してそのまま特攻しかねん。今はこのまま寝かせておけ。一寝入りすれば、多少は気分も良くなるだろう」

 

 

 桜花の扱いェ…。しかし残念ながら当然の結論かつ、非常に的を得ています。毎回毎回単騎特攻するのやめーや。つい先日同じ事やっといてなんだけど…。

 今ここに居るのは、桜花を除いた主力級モノノフの面々。うちの子達から何人か…例えば浅黄であればこの面子にも混じれるだけの力はある…出そうかと思ったが、滅鬼隊は一律で里の周辺警護に当たる事になった。

 

 

「では、百日夢の特徴について解説します。と言っても、目新しい情報は無いようです。彼が話した以上の事は、記録に残っていませんでした」

 

 

 俺が最初に疑惑を出した時の事ね。

 しかし、それじゃ話を聞いてもあんまり意味ないって事か?

 

 

「話は最後まで聞く事をおすすめします。過去の記録と現在の状況を比べたところ、被害が非常に少ない事が判明しました。百日夢は、感染する病気のようなものです。一人が鬼の術中に堕ちれば、一人、また一人と昏睡から目覚めない者が増えていく。この期間は極めて短く、一夜明ければ二人三人増える事も珍しくありません」

 

 

 感染期間か…。それは今まで注目してなかったな。しかし、今思うとそれだけの異常者が生じているのに、誰も疑問に思わなかったんだろうか………前のループでも、同じ事を考えた覚えがあるな。真面目に考察しなかったけど。

 

 

「術の効果は、最初にかかった者程強く、後に感染した者程弱くなる傾向があるようです。…ああ、心理状態や疲労による抵抗力の増減もあるようですので、これはあくまでそういう傾向、と言う事で。ですが、今現在、橘花さん以外に百日夢に感染したと思われる人はいません。すぐ隣で付き添っていた桜花さんもです」

 

「今、正に眠ってるじゃねえか」

 

「普通の眠りのようですよ。百日夢は、非常に静かな眠りである事も特徴です。寝返りも打たず、鼾もかかず、本当に死んでいるのではないかと思う程静かなのです。翻って、桜花さんは…………まぁ、女性の寝姿について口にするのは品がいいとは言えませんので」

 

 

 …疲れてるから、って事にしてやれ。

 かつて同衾していた身としては、何とも言い辛い。いや鼾はともかく、寝相は悪いんだよあいつ…。夢の中でも切った張ったしてるらしくて。日常でも気を張り詰めさせてて、リラックスしてなかった。

 

 

「ともかく、まずは被害者が橘花さん一人である事が一点」

 

「こいつの身内連中はどうなんだ。最初に術にかかったのかも、とか言ってなかったか?」

 

「不確定、としか言いようがありませんね。百日夢は目を覚まさなくなる病…呪いです。ですが目を覚まし、再発の兆候すらないのであれば、それが病であったと証明するのは不可能に等しい。そしてそれは過去の事例でも同じ事です。何人も感染者が出る中、本人が気づいていないだけで実は術を掛けられていた…と言う事も充分すぎる程考えられます」

 

「ちっ、面倒くせぇな…」

 

 

 そら搦め手だもの。面倒くさくて当たり前よ。

 話が逸れたが、それによって得られる推測は?

 

 

「鬼が橘花さんを…神垣の巫女を狙い撃ちにしている、そして術をかけた相手を何らかの手段で監視している可能性があります」

 

「成程! つまり…」

 

「息吹、那木の口を塞げ。長くなる」

 

「はいごめんよっと」

 

 

 抵抗する那木と抑え込む息吹。なんか犯罪臭い。…俺がやるとついセクハラしちゃいそうだから、ここは流しておくとしましょう。

 

 

「つまり、術をかけた相手の中に重要人物がいる事に気付き、その相手を確実に殺す為に対象を限定していると?」

 

「あくまで推測です。鬼の考える事など、人間には分かりませんからね。確実に仕留める為、不特定多数に呪いをかけ、その中に真の標的を隠す、或いは治療や看病の為の人手を削るという方法もあります」

 

「ふむ…。橘花に術をかけた鬼が、監視をしているとなると……いや、それ以前に鬼が人に術をかけるのは、その身を喰らう為だ。それを考えれば、百日夢で死した者の近くに居る可能性は非常に高いか。術をかけたはいいが、遥か遠くで死なれては喰らう事もできまい」

 

 

 ああ、それは確かに。

 となると、その射程距離が問題になってくるな。術だけじゃなくて、死んだ者の魂…御霊を吸い寄せる方法があるんだろう。

 これも、そう距離がある訳じゃないだろう。死者のミタマを吸い寄せるとは言え、転移が出来る訳じゃあるまい。無防備な状態のまま引き寄せていれば、手元に来るまでに他所の鬼に集られて横取りされるのが目に見えている。

 

 

「確か、術を使ったと思われるミズチメは、地下水脈に根を張る事が多いんだったな。この近辺の水脈……候補はそう多くない」

 

 

 あのミズチメ、毎回居る場所が変わってるんだよな…。無理もないか、異界の中の水脈だもの。なんぼでも位置が変わるよ。

 それじゃどうする?

 

 

「幸い、百日夢と呼ばれるだけあって、衰弱死まではまだ余裕がある。鬼達の襲撃も、今は何とか追い払えている。この襲撃頻度で考えれば、奴らが再度大攻勢を計画しているとしても、一気に兵力を補充できる訳ではない。ここは標的の居場所を調べ、確実に仕留めるのが上策だ」

 

「桜花殿の参戦は如何に?」

 

「…不安はあるが、参加させる。橘花を昏睡させた相手だ。己の手で打ち取らねば、桜花の気がすむまい」

 

 

 …気絶の切っ掛けは、その鬼じゃないようだけどね。

 そんじゃ、まずは調査と言う事で。

 

 

「うむ。拙者、一足先に調べに行ってくる」

 

「あ、おい速鳥! …もう行きやがった。俊敏なのはいいが、毎度毎度一人で調べに行くのはどうしたもんかね…」

 

 

 そっちの方が動きやすいって速鳥の言葉も、理解できるっちゃ理解できるんだけどね。瘴気無効の装備を預けられてるのも、今は速鳥一人だし…。

 さて、俺も諸々の仕事にかかりますかね。

 …あ、その前に橘花の見舞いに行っておこう。

 

 

 

 

 

 

 橘花の見舞いに来ると、桜花がもう戻ってきていた。あんた寝てたんじゃないんかい。

 

 

「ああ、3時間も眠ってしまった…」

 

 

 もっと寝ろ。…厳しい事を言うが、桜花がここでずっと橘花の手を握っていたとして、問題の解決には全く貢献できてないぞ。

 

 

「分かっている! 分かっているが…どうしろと言うんだ…。橘花が、このまま目覚めなかったらと思うと………私は…! こんな事にさせない為に、剣を振るってきたのに!!」

 

 

 橘花に術を掛けた鬼の居場所の検討がついた。さっさと眠って、体調を万全にしろ。

 

 

「…何だと?」

 

 

 まだ確定じゃないが、居そうな場所までは搾り込めた。叩き斬って橘花が目を覚ますとは限らないが、状況の悪化は阻止できるだろう。

 分かったらさっさと寝ろ。風呂で身を清めて、暖かい布団でばっちり眠ってすっきり起きて、がっつり飯食え。一人で食うんじゃなくて、仲のいい友人や仲間と一緒であればなお良い。肉体的にも精神的にも、体を万全の状態に戻せ。

 大和のお頭は桜花を討伐隊に加えるつもりのようだが、今のお前じゃ話にならん。

 

 

「…………承知した。腑抜けている暇などない、と言いたいのだな。……橘花、すまない…少し離れる…。絶対に、起こしてみせるからな」

 

 

 立ち上がった桜花は、少しよろめいた。…こりゃ飯も食って無さそうだな。

 そこまでショックをうけるもんか…。俺も、アリサが昏睡状態に陥った時には………どうだったっけな。起こす方法がるとタカを括って、ここまでじゃなかった気がする。結局目覚めさせる事ができない事もあったっけな…。

 

 ふらふらしながら風呂に向かう桜花を見て、ふと嫌な予感を覚えた。…これ、いつもの抜け駆け単騎特攻の流れじゃね?

 標的の正確な場所も分かってないのに、今から特攻する程お馬鹿さんだとは思いたくないが………釘刺しとくか。

 

 桜花、もう一つ言い忘れた事がある。

 

 

「…?」

 

 

 無いとは思うが…標的の居場所が判明したとしても、単騎特攻なんて馬鹿な真似はするんじゃないぞ。

 万が一、そんな事をした場合には…。

 

 

「場合には?」

 

 

 成功不成功を問わず、橘花がキズモノになると思え。

 寝ていて意識が無いままでも、お嫁に行けない状態にする事は出来るんだぞ。

 

 

 

「貴様ァッ!!!!!!」

 

 

 

 残念、そこに居る俺はただの残像だ。お前が先走らなけりゃいいだけの話だ。

 ま、この状況で突貫するような阿呆は居ないと思いたいけどな。

 

 じゃーな、妙な事を考える暇があったら、さっさと休むよーに。

 

 

 

 

 

 …この後、桜花は橘花の隣で添い寝したらしい。俺が妙な事をしないように見張るつもりだったんだろーけど、百日夢に感染しなくてよかったなぁ…。

 



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489話

 

 

 

堕陽月参拾壱日目

 

 

 

 ミズチメ探索中なう。今までのループの経験もあり、異界が流動してても多分ここだろう…と思っていた場所は、全て外れだった。

 しかしその一か所に、それらしい痕跡があったそうだ。発見したのは息吹。瘴気に沈んだ水脈の中の一つに、大きな空洞があり、そこでこれまた大きな蛇が蠢いていた形跡があったそうな。

 十中八九そこに居たんだろうね。

 

 と言う事は、ミズチメが移動したって事か? 鬼だって生物なんだから移動する事はあるだろうが、一体何の為に…いや、今はどこに行ったのかが重要か。

 伊吹、蛇のような痕跡は、水脈の中に続いていたのか? だとしたら、水の流れを潜って移動したって事だ。痕跡は追い辛いが、行き先の候補は限定できる。

 

 

「いや、見た限りでは外に向かって這い出していったみたいだった。洞窟の外に出て、そこから先は痕跡が消えていて追えなかった。…こういう追跡とかはあまり得意じゃないから、速鳥が見たら何か分かるかもしれないが…」

 

「承知。案内を頼む。…お頭。この件に関して、例の古の領域が関わっているやも…」

 

 

 おっふ。…えーとこれ、どう口を挟もう。一応、極秘事項扱いだったような…いや、特別な鬼が近くに居るって事だけ共有してたよな。

 

 

「間接的な関わりはあるかもしれんが、恐らく古の領域に向かったと言う事はない。例の鬼が暴れた惨状を鑑みると、好き好んで鬼が近づくとも思えん。そもそも、ミズチメが好む水脈すら消し飛んでいるようだしな」

 

「…お頭、速鳥。古の領域に何かあったのか?」

 

「…この件に関しては、後日知らせる。今はミズチメ捜索に専念しろ」

 

 

 …そうだな。ようやっと落ち着いていた桜花が、また苛々し始めてる。また妙な事を考えない内に、何とか話を勧めよう。

 速鳥はミズチメの痕跡を追ってもらうとして、俺はまた別の水脈を探してみる。

 生物が縄張りを移す時ってのは、何かしらの理由がある。天敵が現れて逃げるか、飯が食えなくなったか、或いはより良い環境が見つかったか、だ。

 

 天敵にしては、周囲の鬼が騒いだり大移動している様子は無い。飯は他の鬼や、人間の魂だからこれも違う。となると、より良い環境…か。

 既に見つけているのか…いや、巣の中からあまり出てこないミズチメがどうやってそれを見つけた? …………ふむ。

 

 

 

 ………ふむ(汗)

 

 

 うん、一つ二つ考えが浮かんだ。お頭、俺はもう行っていいかい? うちの子達の様子も気になる。

 

 

「構わんが、お前はいつも彼女達の事を気にかけているな。過保護なくらいに」

 

 

 それくらい心配なんだよ、あいつら…。多少は育ってきてるけど、脳みそが子供同然だもの。

 そんじゃ、何か進展があったら伝えるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 集会所を出て、うちの駐屯地に向かう。

 皆が集まって家を修理したり、何やら思い思いに作っているが、今はそっちじゃない。

 

 前からちょくちょく日記にも書いていたが、色んな施設を作り上げている。体育館だの銭湯だの、色々とね。マイクラ的な作り方をしているんだが。

 その中には、プールなんてのもあってな?

 いやプールに限らず、各施設にはトイレやシャワーだってある。飲み水を出す為のポンプだってある。

 

 この辺一体には目には見えないが、パイプの類が張り巡らされている訳だ。………つまりこれって、水脈みたいなもんだろ?

 この水の出場所は、地下深くに作った無限水源。もしもこれにミズチメが目を付けたら? でかい規模の水脈じゃないが、その分人間の居る場所に近い。餌が確保しやすいって事だ。特に今は、結界も消えてるしな。

 

 

 

 もしこの推測が当たっていたとしたら、俺がこの辺の地形を加工した事でミズチメを呼び寄せてしまった訳で。

 ……これが環境破壊が及ぼす影響と言うものか…。

 

 

 

 

 下手したら、里のすぐ傍に鬼が居るかもしれない。それこそ、やろうと思えば今すぐ乱入できるような場所に。

 これはちょっと洒落にならん。里近辺は罠で防備を固め続けていると言っても、万全とは程遠い。まだ作業できてない場所だってあるんだ。そういう場所を見つけて忍び込まれると、襲撃されるまで発見するのは難しい。

 

 

 ……これは、もう一案を試してみるべきか。

 こっちから探すのが難しいなら、あっちを誘き寄せるまで。住み心地が良さそうな水脈を作って、そこに誘導する。………住み心地がいい水脈って、どんな水脈だろう…。

 

 待て待て思考を止めるな。観察から生物の生態を探り出すのもハンターの技能の一つだろ。専ら戦闘に使ってばっかりだったけど、ちょっと応用すればいいだけの事だ。

 

 

 

 過去に戦ったミズチメの居場所からして、まずあの巨体が自在に動けるだけの空洞が大前提だ。しかしこれは天然物である必要はない。巣として目を付けた場所を、ミズチメが改造していった可能性が高い。

 では水脈近くを好む理由は? …奴らは水に浸りはしていない。基本的に地上で活動している。泳ぐ事はあるかもしれないが……見た目、蛇と人間の合成だしな。両方とも肺呼吸だ。鬼だって呼吸はしてる。

 と言う事は……飲料水として水脈を好むか…………そうか、湿度だ。水脈近くの土は、水を多く含んでいる。湿った空気や空間を好むと見た。水、氷を武器とする奴にとって、好ましい環境なんだろう。

 事実、あいつの近くに居るとどうにもジメッとした空気を感じていた。てっきり、ミズチメ自体がその発生源だと思っていたが…。そういや、砂漠みたいな場所で遭遇した事もあったっけ。あの時は湿気も感じず、普段より弱く感じたのを覚えている。

 

 次に、餌……については問題ないか。この近辺に居るとしたら、既に大勢の人間を射程範囲に収めている事になる。狩場としては上々。

 …そうだ、天敵が近付けない、或いは気付けない場所にする必要もある。水脈近くに根を張るのは、そういう理由もあるんだろう。いざと言う時に水脈を泳いで逃げる為。地下であればモノノフにも見つかり辛い。

 

 人間で言えば、食、住の条件が揃った。衣…は鬼が必要とするんだろうか? ゴウエンマとか、装飾品やパンツを履いてるのは居るが、ミズチメは特に何も付けてないな。

 他に必要とするのは?

 人の暮らしで言えば、交通の便、近隣とのトラブルの無い付き合い、家賃、仕事、娯楽…。

 

 

 娯楽?

 

 

 そう、娯楽だ。鬼だってただ食う事しか考えてない訳じゃない。好奇心もある、個体によっては趣味のような物もある。餓鬼を観察していれば分かるが、群れて何やら騒いだり、異界に落ちていたガラクタを摘まんで首を傾げていたりする。

 猫だって、殺しもしないのに蝉を叩き落してジャレたりする。全て同じ趣味を持つ訳じゃないが、種族的に好む行為の傾向はあるな…。

 ミズチメだと何だ? 

 術をかけた人間が衰弱死していくのを見る? 意味も無く泳ぐ? 放っておくと爆発する抜け殻のコレクション?

 

 …駄目だ、流石にちょっと分からん。

 ちょっと考え方を変えて、とにかくミズチメの興味を引く物を考えよう。

 単純に、見た事が無く、危険が無さそうな物…でいいだろう。音を立てる、動く、光る、美味そうな匂いを出す…そんな所か。ミタマを囮にするって手も考えたんだが、普通のモノノフ達は承知する筈がない。モノノフにとってミタマは相棒だし、それ以前に幽体離脱みたいに体から離す方法なんぞ無い。

 ……俺ののっぺらミタマ共なら、分離も出来そうだし囮にしたところで心も痛まないだろうけど、あんなウザいのに鬼が興味を引かれるとは思えん…。むしろ距離を取るか、問答無用でドカンとやってさっさと帰るだろう。

 

 んー、何かあったかな…。子供の玩具みたいな物でいいかな。誰も居ない水脈の洞窟の真ん中で、ダンシングフラワーでも放置しておくか。…シュール。ついでに大樽爆弾Gも設置しておこう。

 さて、準備に取り掛かるか。

 水脈は無限水源を複数設置して、地下空洞は整地すればいい。俺なら準備に半日も要らない。後は上手く引っ掛かってくれるかどうかだ。

 

 

 

 

 おっと、事前に大和のお頭に話を通しておかんとな。また勝手に作戦行動して、後からドヤされるのは勘弁だ。

 

 

 

 

 

 大和のお頭に提案したところ、逆に一つの提案をされた。

 囮作戦が始まる直前に発見された、謎の洞窟。藍那と まり が捜索した、あの洞窟だ。何だかんだで完全に忘れ去っていたが、この洞窟を使ってはどうか、と言う。

 と言うか、むしろこの洞窟の先にミズチメが居るんじゃないか? という見解さえある。結構広くて深くてジメっとしてたらしいのよね。

 

 大がかりな工事を行う前に、ついでにここを調べて来いって事だろう。ここにミズチメが居たら、工事の必要なくなるんだしね。

 と言う訳でイテキマース。

 

 最近暴れてなかったからね! 例え敵が居なかったとしても、未知の場所に挑むのは楽しいからね!

 …異界消失? あれは暴れてる間の記憶が殆ど残ってないから。

 うちの子達と里のモノノフ達を相手にラオシャンロンプレイ? 楽しくはあったけど、制限有り過ぎでストレス解消にはならなかった。

 

 後ろから「おい待て一人で行くな単騎特攻するなといつも言っているのはお前だろうが!」と言う声が聞こえたけども、脳味噌は認識していません。

 

 

 

 

 

 さて、早速やってきた訳ですが。…うーむ、人の気配も無ければ鬼の気配も無いな。

 洞窟の道は、人間2~3人がようやく通れる程度でしかない。少なくとも、大型の鬼がここに入る事は……いや、別の入り口が無いとも限らんか。

 瘴気の濃さは、かなり薄い。この程度なら、毒・瘴気無効装備無しでも余裕で数日滞在できるくらいだ。

 

 ジメッとしとるなぁ…。確かにミズチメが好みそうな環境だ。

 耳をすませば、土を伝わってくる水の音と金属音が響いて来る。やはり水脈も近くにあり、と。

 反響音からして、地下深くに大きな空洞も

 

 

 

 

 ん? 金属音?

 

 

 

 

 ……もう一回耳を澄ます。

 …間違いない。金属の音がする。絶え間なく、一定周期で伝わってくる摩擦の音。…錆びなのか別の理由なのか、かなり草臥れてるようだな。数が多い…結構大規模だ。少なくとも、埋まった金属が水脈に流されて音を立てているだけ、という線は無い。

 だが人の気配はしない。誰かが何かの設備をここに作って、放棄された、或いは何らかの理由で使用できなくなった…?

 

 

 

 

 

 ………すげぇ嫌な予感してきた。前にもあったぞこのパターン。

 

 

 

 しかしここまで来て引き返すのもつまらんな。…完全に、自分は負けないと慢心している頭滅鬼隊な行動だな…。だが行く。………頭領として色々な意味でアカンと思っているんだが、今までの経験上ここで引き返すのも悪手なんだよ…。絶対何か厄ネタが埋まってるから、せめて確認だけでもしておかないと。

 

 

 洞窟を進むと、水音が大きくなってきた。人一人がようやく進める程度だった洞窟は奥に進むにつれて広くなり、鍾乳洞のようになっていく。

 それっぽくなってきたな…。ん、壁に何か刻んである。

 

 …どうやら、前の藍那達はこの辺までは到着したらしい。……金属音には気づいてない…みたいだな。

 …気付いてなかったのか、それともその時に音はしていなかったのか…。少なくとも まり は慎重派だし、警戒しながら進んでいた筈。単に聞こえなかっただけという可能性もあるが、気付かなかったと決めつけるのもなんか違和感があるな。

 

 

 ふーむ………とにかくもう少し進んでみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 大空洞に出た。地形的に考えると不自然極まりないが、ここも異界のように歪んでいるっぽい。

 地面や壁を調べてみると、大和のお頭の推測は大当たり。ミズチメの痕跡を発見した。

 

 …よかった、俺が作った地下配管に引き寄せられて里に近付いたんじゃなかったんだね。色々考えていた事が無駄になったけど、俺の責任の有無の方が優先だ。……異界消失に怯えて出てきたのなら、やっぱり俺に責任の一端はあるけども。

 とは言え、こいつが橘花に術をかけているミズチメだという証拠も無いが……まぁ、違ったとしても斬るだけの話だな。あ、でも今すぐには流石にまずい。桜花を呼んでやらないと。

 

 

 

 

 …と思ったんだが、それ以前に何故かミズチメは発見できなかった。流石に発見も出来てない鬼を斬る事はできない。武力ってのは、ご親切に目の前に出てきた相手にしか効果無いからなぁ…。

 洞窟は、大空洞から少しだけ奥に伸びているが、そこで突き当たり。どうもミズチメは、この突き当たりの部分によく居座っているらしい。地面に明らかな鱗の痕が残っていた。

 しかし、何故この突き当たりに? ミズチメの性質からして、壁際よりも広間の真ん中のような場所を好む筈。…地面の痕跡は、一か所に留まるのではなく、のたうったように揺れている。動きからして、壁に向かってグネグネと姿勢を変えていたようだ。

 

 …この壁に何かあるのか? でも不自然な所は無い。空洞も無い。鬼の目で見ても鷹の目で見ても、美少女を覆い隠す服や下着の類だと自己暗示をかけてエロい目で見ても、やっぱりおかしなところは無い。

 気が付けば、僅かに響いていた金属の音も消えている。耳に入ってくるのは水脈の音のみ。

 

 ミズチメの痕跡は、ここで不自然に途絶えている。水脈を通ってどこかに移動したのでもなし、ただここで忽然と…。

 

 

 ……増々嫌な予感がしてきたなぁ…。しかし放置しとく訳にもいかんし、報告するしかないか。

 やれやれ、冒険して暴れるつもりだったけど、ショボい結果だ。ま、こういう事もあるさね。

 

 

 

 

 

 

 

 当然の事ながら、帰ったら大和のお頭にメッチャ絞られた。覚悟の上さぁ! ……って考えてたら更に絞られた。割と後悔した。

 

 

 

 反省したとは言ってない。

 

 

 

 



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490話

きらら先輩引けなかったよ…。
エロとキャラを抜きにしても、SP毎ターン回復はマジ欲しかった。
課金はしてないけど、石全部使っちゃった。
まぁそんなもんよね。
ポンコツ入った紅ちゃんを大事にしましょ。

…書けば出るかな?
しかしチケットも無いし、何より展開的に遥か先。
むむむ…仕方ない、その時になったらお迎えできなかった無念を籠めてねっちょり濡れ場にしよう。

ところで、きらら先輩のチャームポイントって何処だろう。
チョロいところか、体格の大きさか、おっぱいか、露出度か、腰から尻のラインか…。
まぁ全部好きですが、濡れ場は何処を強調するか今から迷う。


 

 

堕陽月参拾弐日目

 

 

 

 とにもかくにも、ミズチメの居場所はとりあえず割れた。姿が見えなかった理由が分からんが、とりあえずあそこを根城にしているのは確かだ。

 報告すると、桜花がまずいきり立った。………が、突撃するのは留まったようだ。妹に手を出すぞって脅しが効いてるね。

 

 あそこがミズチメの巣なのは確かだが、それはそれとして姿が見えないのも事実。あの洞窟は要監視場所として、人員を配置する事になった。もしミズチメを発見したら、即通報。決して自分達だけで戦わないように。

 洞窟で聞こえた金属音については、様子見するとしか言われてない。帰り道にも耳を澄ましていたが、やっぱりそれらしい物は聞こえなかったからね。幻聴や勘違いだったのでは、と言われると証拠の出しようがない。

 

 

 そうやって色々動いている中、俺は大和のお頭の命で強制的に休日を取らされた。延々と働き過ぎだ、と。

 言われてみれば、純粋に休んだのっていつ以来だったろうか。何だかんだで、休みとしている日にも何か活動したり作ったり、色々やってたからなぁ…。

 屯所を襲撃されてからは、ほぼ休まずあれやってこれやっての繰り返しだった。

 

 精神的にも肉体的にもまだまだ余裕はあるが、上が休まないと下も休めないと言われては反論の余地も無い。今日は一日、のんびりするとしましょうか。

 幸い、うちの子達の生活状況も一段落できてきて、毎日会いに行く程不安定な子は居なくなった。

 となれば、後は秘書執事チームで大抵の業務は事足りる。

 

 

 この数日、エロい遊びも出来てなかったし、誰か寝所に引っ張り込んで遊び倒そうかな…と思っていたら。

 

 

 

 

「若様、休日の所に申し訳ございません。来客です」

 

 

 …さぁ遊ぼうって瞬間に横槍が入ると、本当にテンション落ちるよなぁ…。

 と言うか、天音が苛立っている。表面上平静を装っているようだが、これは激オコ状態だ。この状態の天音が、血管ブチブチィしながらも取り次ぐ? 先触れもない来客を?

 

 苛立っているのは天音だけではなかった。今日の業務の打ち合わせをしていたらしき時子と災禍、更に偶然居合わせたらしき詩乃やうちの子達まで苛々苛々。

 客人は執務室で待たせており、妙な事をしないか監視もついているようだが…しかも武装付で。これは暴れ出されたらヤバイと思っているのか、それとも何か頭に来る事があって、あわよくば…と思っているのか。

 

 なぁ神夜、何か知ってる?

 

 

「いえ、私も明日奈さんも先程ここに来たばかりでしたので…逢引に誘おうかと思って」

 

「詩乃まで顔に出る程苛立ってるって相当よ。それに、天音は天音で激昂しながらも留まってるし…単なる無礼者なら、とっくに実力行使に出てる筈よね。つまり、手を出したらいけない相手?」

 

「…あの子達に、そういうのが理解できてるでしょうか? 流石に大和のお頭とか、協力関係にある里の人達を相手に武力を振るう危険さは理解しているでしょうけど、唐突に訪れた霊山のお偉いさんとかだと、権威なんて知るかとばかりに蹴り飛ばしそうですが」

 

 

 やるな、天音なら。

 …と言う事は、あの子達が理解できる中で手を出したらいけない、遠方から来た奴………。

 

 

 

 あ。

 

 

 

「そもそも、来客者のお名前は?」

 

「代表者は名乗りもしません。ただ『博士』と呼ばれていました。尊大な態度で、ただ若様を呼べと。見過ごせぬ態度でしたが、若様から呼ばれたと主張しており、またその手紙も持っていました。確かに若様の文字です。」

 

 

 やっぱり博士かよ!? ようやく来たか。

 あいつは誰に対してもあんな感じだし、ある意味俺の恩人でもあるから、態度については堪えてやってくれ。

 手を出さなかったのは大正解だ。ヘソを曲げられると後が面倒になる。

 

 

「また、同行者が複数居り、それぞれ茅場・真鶴・グウェンと名乗っています。茅場に関しては霊山で世話になった件があり、グウェンについては九葉殿の紹介状を持っていた為、無碍にする訳にもいきません」

 

「残った真鶴さんは?」

 

「博士の助手、と主張していたので…」

 

 

 助手? …どういう話になったのやら…。博士がこっちに来るのは分かるが、真鶴は分からんな。

 ま、いいか。

 

 気にいらないのは分かるが、確かに全員俺の客人だ。また、彼女達には…特に博士に関しては極秘の話がある。

 悪いが、護衛も含めて人払いを頼む。

 

 

「し、しかし若様…」

 

 

 危険は無い。(解剖しようとしてきた事はあったけど)

 不満かもしれんが、それだけ重要な客人なんだ。あの性格も知ってて呼んだ。堪えてくれ。

 

 

「………かしこまりました」

 

 

 不満そうだがそれ以上言いつのる事は無く、俺の言葉に従ってそれぞれ散っていく。

 去り際、権佐が小さく呟いた。何かあったと判断したら突入する、と。……構わんが…随分とキレッキレやのう。博士の奴、一体何を言ったのやら。ナチュラルボーン上から目線だもんなぁ…。

 

 とにもかくにも、茅場達が待たされている場所に向かう。

 応接室なんて物は無いので、最初に皆が雑魚寝していた広間だ。

 入ってみると、言われた通りの4人がそれぞれの恰好で座っていた。その手前には、それぞれにお茶とお菓子の皿。ビキビキしていても、きっちり客人としての持て成しは行っていたようだ。

 

 お菓子には手を付けず、静かに茶を啜っていたらしい茅場。

 

 

「|異世界久しいね異世界すぐにこ異世界ちらに来る異世界つもりだったが《異世界異世界異世界異世界異世界異世界異世界異世界》|異世界異世界異世界異世界異世界異世界《異世界予想外に時間がかか異世界ってしまった》|異世界異世界異世界異世界異世界異世界《異世界その分異世界興味深い異世界事もあった異世界のだがね》」

 

 

 異世界欠乏症は分かったから。ほれ神機でも見分しとれ。

 

 

「あなたが九葉殿が言っていた頭領か。私はグウェンドリン・ウィルトシャー。これから世話になる。私に出来る事があれば力の限り尽すので、よろしく頼む」

 

 

 お茶もお菓子もしっかり腹の中に収めた、凛とした表情のグウェン。ただし口元にあんこがついている。

 ああ、話は聞いてる。剣と竜の事もな。そちらの準備が良ければ、今からでも対処は可能だ。

 もしも召喚が暴発しそうになれば、すぐに知らせてくれ。

 

 

「…真鶴です。不本意ながら、こちらの博士の助手としてここに居ます」

 

 

 お茶にもお菓子にも手を付けておらず、言葉少なに眼鏡をチョンと位置調整する真鶴。…あれ、前ループだと眼鏡かけてなかったよな。確か視力が低くて、神無がケツを射抜かれかけたとボヤいていたのを覚えている。

 

 

 最後に。

 

 

「やっと来たか。呼びつけておいて待たせるとは、いい身分だな。天才の私の時間は、黄金よりも貴重だ。それを浪費させるとは、万死に値するぞ」

 

 

 相変わらずの尊大な態度で、真鶴のお菓子にまで手を伸ばしてムシャムシャしている博士。

 時間が戻ってるんだから当たり前だが、本当に変わらんな、こいつは…。

 

 

 …ふむ。もう一人、居ないのか。

 

 

「手紙に書いてあった、ホロウとかいう女か。遺跡の探索ついでに探してみたが、それらしい女は居なかった。その時点で、手紙の内容についてもかなり疑わしく思ったが…」

 

 

 悪いが、俺はそっちの手紙の内容を把握してない。『前』にあんたにそれを渡せと言われただけなんでな。

 疑わしいと思っていたなら、よくわざわざウタカタまで来たものだ。正直、『用事があるならお前から来い』くらいの返答を想定してた。

 

 ふん、と鼻息を荒くして、博士はまたお菓子を頬張った。

 

 

「史上最高の天才である私でさえまだ実現していない、異界の浄化を行った者が居る、と聞いた。それに加え、手紙に記された鬼の手の設計図…理論、構造、使い方から今頭を捻っている問題とその解決法まで見透かしたように記されている。しかもその随所に私と同じ癖、発想が散見された。断言していい。あの設計図を描ける者は、私以外に居ない。尤も、大人しくそれに従う気も無いがな」

 

 

 …偏屈さも相変わらずのようで何よりだ。史上最高の天才としては、例え自分であろうと先を行かれるのを許容できない、前例に大人しく従う理由も無いってか。

 それで、博士としてはどうするつもりなんだ。あんたの研究に協力するのは構わない。異界浄化のやり方をしっかり解き明かすか、或いは新しい鬼の手を確保できないかと思ってあんたに手紙を送った。

 でも俺にだって都合や立場がある。うちの子達を放り出して、この場を離れる訳にはいかんぞ。

 

 

 

「お前の都合など知らん。だがマホロバの里に居座り続ける必要もない。研究をするなら、こちらでも構わん」

 

 

 ……居座る理由が無い、ねぇ…。……あそこで何かを探していた、と聞いてるんだがな。

 

 

「お前の知っている『私』の事など知らん」

 

 

 それを言われちゃおしまいだよ…。まぁいいか。

 とにもかくにも、歓迎しよう。…一応言っておくけど、うちの子達に妙なちょっかいを出さないようにな?

 

 

「話は聞いているが、興味を引く程の技術ではない。あちらから仕掛けてこない限り、時間を無駄にするような理由は無い」

 

 

 …その口調と態度の時点で、うちの子達がビキビキきてるんだよなぁ…。ちょっと距離をおかせた方がいいかもしれない。

 

 ところで、神機をガンギマリした目で観察している茅場はいつもの事として、グウェンと真鶴が意味不明な会話に首を傾げているんだが。

 

 

「凡俗が私の頭脳について来られる筈がないんだろう。説明したければお前が勝手に説明しておけ」

 

 

 まぁいいけどな…。

 ともあれ、長旅で疲れただろう。うちに泊まっていけ…と言えればよかったんだが、見ての通り鬼の襲撃を受けて立て直し中なんだ。

 逗留先の当てはあるのか?

 

 

 

「私は野宿でも構わないぞ。慣れてるからな」

 

 

 ああうんグウェンの来歴を考えるとそうよね。大陸一つ、自力で踏破して日本まできたものね。

 でもそれはそれとして、雨風凌げる場所でゆっくり休まないと体力は回復しないから。

 

 

「私も粗末な扱いには慣れている。悪意のある扱いでなければ、大抵の所で暮らしていける」

 

 

 …オオマガトキ直後、モノノフに奴隷扱いされてたんだっけ。でもそんなのと同列に扱われるとか普通に嫌なんで、何が何でもちゃんとした暮らしをしてもらいます。

 

 

「三食昼寝付で甘いものをよこせ」

 

 

 客人なんだからちったぁ遠慮しろよ。…いやお前にそんな技術ないわな、うん。茅場は放っておいても自力でどうにかしそうだからいいとして…。

 うん、今から作業すれば、寝床くらいは作れるな。飯とかに関しても、客人扱いなんだから出していいでしょ。服は…ちゃんと荷物として持ってきているようだし、増やしたいなら自分のお小遣いで。

 休めと言われていたが、こればっかりは俺が出ないと間に合いそうにないし。

 

 よし、突貫になるけど工事しますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 マイクラ式建設法を見た博士が、また解剖しようと襲ってきた。張り倒して、周囲には「こういう芸風だから」と誤魔化したが、やっぱこいつは隔離すべきだなぁ…。下手すると、『若に狼藉を働く危険人物の排除』とか言って、暴走する奴が出かねない。

 

 

 

 

 あと、結局休まず働いていた事について、大和のお頭からガチ説教喰らった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、何はともあれ、戦力が増えるのは大歓迎だ。飯の供給が間に合わない程、と言うなら話は別だが、幸いそっちはまだまだ余裕がある。

 真鶴の弓の腕は確か(視力に不安があるが、眼鏡してるし)だし、グウェンはモノノフとしては半人前程度だが生き延びる力と言う意味では物凄い。茅場は……まぁ、政治や技術方面かな。お楽しみに余計な邪魔が入らないよう、霊山からの余計なアレコレをシャットアウトしてくれるだろう。

 博士は…銃を使って戦えたけど、肉体労働は嫌いっぽいな。俺もできれば、研究に専念してほしい。

 

 とりあえず3人をモノノフとして登録しておくか。…うちの隊員扱いでいいかなぁ。

 捻じ込むなら今のうちだな。橘花が目を覚まさず、鬼の襲撃に備えてあれこれ忙しい今のうちなら、書類のチェックとかも甘くなるだろう。

 

 

 

 



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491話

 

 

 

堕陽月参拾参日目

 

 

 改めて休暇を取れと言われた。…まぁ、昨日は遊べなかったしね。

 問題のミズチメも、まだ発見されていない。新しく来た4人も、まずは生活環境に慣れるところから……訂正、グウェンは既に馴染んでいるし、博士は自分が慣れるのではなく環境が自分に適応するのだと言わんばかり、茅場は例によって異世界研究ばっかり。…まともなのが真鶴くらいだぞ。

 

 その真鶴は、朝一番に話しかけてきた。…前に会った時には、積極的に他者と関わるタイプではないと思ったが…。

 

 

「………昨晩はよく眠れた。感謝する。…どうやって家を作ったのか、未だに理解できないが」

 

 

 いや、こっちこそあんなタコ部屋で悪いな。里の誰かの家に泊めてもらえればよかったんだが、今も一杯一杯状態でなぁ。

 …と言うか、真鶴…呼び捨てでいいか? は、どうしてここに? マホロバの里から博士と一緒に来たと聞いてるが、俺の知る限りでは博士に助手は居なかった。里でも、医者という立場ではあったけど、怪しげな研究に没頭する魔女みたいな扱いだった筈。

 何の為にここに来て、どこまで事情を知ってるんだ? 昨日の会話で全く理解できてなかったから、博士と俺の事情については聞いてないと思うんだが。

 

 

「…その通り。貴方と博士の関係は、全く知らない。私が助手扱いされているのも、単なる成り行き…霊山でその方が動きやすかった為だ。そもそも、私はモノノフ等ではない…一緒にされたくもない。私はマホロバの里の外様、サムライだ。…ああ、外様やサムライは分かるか? オオマガトキ前の身分の事ではなく」

 

 

 知ってる。巫女が張る結界の中で暮らせない、里以外の場所からやってきた外様。

 オオマガトキを切っ掛けにモノノフの一部が…恥知らず共が大手を振って動き回るようになり、鬼と戦う力を持たない一般人を、保護と言う名目で奴隷扱いしていた。そこから逃げのび、同じ事が起こらないよう力を求めて集まったのがサムライ。

 

 …で、よかったかな? そのモノノフ達がその後どうなっているとか、それをやらかした連中がどういう経緯を経てそんな事をしでかしたとか、その辺の事は知らないんだけど。

 

 

「凡そその認識で構わない。奴らがそうするに至った経緯は知らないが、知ったところで何が変わる訳でもない。…モノノフは、信用できん。意味も無く衝突しようとも思わないが」

 

 

 それだけ恨み辛みが残ってるって事か。それについてどうこう言える立場にはないが…それなら、よくこの里までやって来たな。

 見た所お仲間のサムライも居ないようだし、本当に何の用事があったんだ? それだけモノノフに不信感を持っているなら、猶更女性を一人旅なんぞさせないと思うが…。

 

 

「私とてそれなりの心得はある。襲われても対処する事は出来る…不意を突かれたり、相手が複数だったり、段違いの実力者でなければ」

 

 

 そこを冷静に判断できているのはいい事だな。人間の強さなんぞ、万全の状態でなければあっという間に発揮できなくなる脆い代物だもの。

 身を護り、危険から遠ざかる為の技術で、積極的に攻撃する事ほど馬鹿な事もない。

 

 

「話が逸れたが、私がここにやってきたのは、異界浄化の話を聞いたからだ。知っての通り、我々外様は結界の中で暮らす事ができない。それについての軋轢はともかく、入れないなら入れないで対策を考えねばならん。独自に結界を張る技術を得る、何らかの手段で我々の価値をモノノフ達に認めさせる、鬼が異界から出て襲ってくる頻度を減らす…。もしもこの異界消失の技術を得られれば、我々の価値は大きく高まるだろう。モノノフ達であろうと、決して無視できない程に」

 

 

 ふむ、成程?

 確かに、自分で言うのもなんだけど、異界浄化にはそれだけの価値があるな。人間にとって何より重要だと言ってもいい。

 いくら鬼を斬っても、異界が存在する限り人の生息域はじりじりと削られていくだけ。異界の侵蝕が進めば、その分だけ人間は後ずさって来た。

 環境の改善、発言力の獲得、鬼に対する大きな打撃、ついでにそれを得る事でモノノフに対する意趣返しにもなる、か。

 

 

「意趣返しまでは考えてなかったが、そういう事だ。誰を派遣するかで一悶着あった。私はこれでもサムライの副長の身。重要な技術を学ぼうとしているのだから重役が出向くべき、という意見と、腕が立つとは言え女を出すのは危険という意見。……弟が戯けた事を口にしたので、半殺しにしたが」

 

 

 ……神無…。この女傑の前で迂闊な事言ったんだな…。

 

 

「だが、結局『その技術を学べたとして、理解できるのか?』という話になってな…。私もあまり学のある方ではないが」

 

 

 ああ…元は寺子屋にも通えなかった人達が多いらしいな。それで今は武力を高めようと鍛錬ばっかりなんだから、お勉強する時間もないのね…。

 

 

「うむ…未だに字を読めない者も居るからな。書類仕事は半分以上私がやっていたから、今もしっかりと部隊が回っているのか不安で仕方がない…」

 

 

 あー…サムライ達ってどういう纏まり方してたっけ…。刀也と中心に集まって、結構ヤバい鍛え方をしてたよな。モノノフに対する憎悪を煽るような。急激に成長させるのに、モチベーションを維持する必要があったんだろうが…。

 マホロバの里とは緊張のある関係だったしな。物資なんかのやり取りも、全くやっていなかった訳じゃないが。

 

 

「…話がそれたが…私がここに居るのは、そういう事だ。異界を浄化した者の噂を聞き、真偽を確かめ、真であればその方法を得る為に皆から離れた。博士と同行していたのは、彼女も同じ目的で霊山に向かおうとしていたからだ」

 

 

 博士がねぇ…。道中和気藹々とする奴でもないだろう。大上段に構えて、いいように使われていたんじゃないか?

 

 

「ああ…。最初は単に向かう先が同じなだけで、特に会話もしないし足並みも揃えていなかった。…霊山で揉め事に巻き込まれて、それを助けられたのが運の尽きだ。恩に着せられ、丸め込まれていいように…。結果的には、異界浄化の張本人と繋がりがあるという言は事実だったが…。……改めて問うが、あなたがその張本人か」

 

 

 まぁ、そうなるな。実演しようにも、必要な物や条件が揃い切ってないから、法螺だと言われると反論できないが。

 詳しい話が聞きたいなら、明日奈と神夜…ああ、まだ会ってなかったかな。とにかくうちの……幹部? それともオカン? に聞くといい。あの二人は、何度か異界浄化の現場に立ち会っている。

 

 肝心の浄化のやり方は……まぁ、博士が解き明かすのを期待してくれ。

 

 

「…今はそれ以上の事は期待できない、か。仕方ない…期待して待たせてもらおう。頼むから、期待を裏切ってくれるな」

 

 

 裏切ったら半殺しだ、ってか?

 冗談はともかくとして、わざわざマホロバの里から訪ねてきたんだし、あまりがっかりさせるような事はしないよ。

 

 それはそれとして、これからどう暮らすつもりだ? 俺らにも多少の貯えはあるが、養う人数が人数なんで、あまり援助はできないぞ。

 

 

「流れの傭兵として、ウタカタで戦って糧を得る。モノノフとはあまり絡みたくないが、そうも言っていられん…。博士の分まで稼がなければ…」

 

 

 ウタカタの連中はお人好し揃いだし、探せば里に居候させてくれる人くらい居ると思うぞ。流石に仕事もせずに、と言うのは論外だが。

 マホロバでは結界の外で暮らしてたんだし、折角だから結界内の暮らしを体験してみれば? …ああ、結界が復活してからの話になるが。

 

 

「考えてはおくが、博士の行動を監視するには近くに居た方がいいだろう?」

 

 

 

 ………博士の抑止力をやってくれるなら、給料出すよ。いや本当に。

 俺は博士がああいう奴だと知ってるし、相応の頭も持ってるからああいう態度を許してるけど、うちの子達は腹に据えかねる事が多いみたいだ。

 せめて相応の実績を示すまで、無用な軋轢を生まないように見張ってくれると本当に助かる。

 

 

「……任務に出ていない時なら、まぁいいが…」

 

 

 頼みます本当に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういう風に話が纏まった後、明日奈が問いかけてきた。

 博士の態度に対しては、あんまりいい気分はしてないが、うちの子達みたいに殺気立つ程ではない。

 

 

「で、実際のところ、どういう関係なの? 前に言ってた、昔の連れ合いかと思ってたんだけど、そういう雰囲気じゃないし。茅場さんが『或いは私以上かもしれん』みたいな事を言ってたし、凄く頭のいい人なんだろう、とは思うんだけど」

 

 

 まぁそうだな。あいつとの関係、ねぇ…。色々ややこしいんだよなぁ。

 まず直接会ったのは昨日が初めてだ。ただ、あいつの……………凄く近しい人物(と言うか前ループ本人)に協力していた時期があって、そいつから無視できない内容の手紙を受けた…ってところかな。

 初対面だけど、能力があるのは保証する。

 

 

「…私達みたいな、これは?」

 

 

 抜き差しするジェスチャーがオヤジくさいのぅ…。

 しかしそういう関係は無い。と言うか初対面だって言ったじゃん。

 

 

「そうなんだけど、あなただったら直接会った事が無くても、遠くに居る人の夢に侵入してあれこれできそうだしね」

 

 

 …似たような事やった事あるし、逆に召喚までしてます。毎晩呼び出して犯しまくってる直葉ときたら、すんごい発育が良くなってるんだよなぁ。霊山でも『そういう目』で見られる事が多くなったって言ってたし。もっとも、全く相手にしていないようだが。

 でも博士とはありません。そんな事やってる暇があったら、カラクリを弄り倒す奴だからな。

 

 

「カラクリと言えば、確かあなたが使ってる鬼の手って、元はそのカラクリなんだっけ。私達にも使えるようになるのかな…私もやってみたいんだけど」

 

 

 多分できるんじゃねーの? 今すぐに、かどうかは知らないけども。

 俺が知ってる鬼の手を出すカラクリは、外すと爆発する危険物だったけどな。あいつの性格からして、前に他人(自分だけど)に作られた物の設計図通りに作るなんぞ死んでもやらんだろうし…改良はされるだろうな。ただ、着脱可能になるかはまた別の話だが。

 

 

「ああ…そこを改良するくらいなら、威力を上げるとかそういう方向に向かいそうだもんね。それはそれとして…」

 

 

 ん?

 

 

「今からちょっと付き合ってよ。囮作戦に行った時から、ごたごた続きでご無沙汰だったじゃない? …ね?」

 

 

 

 

 この後、無茶苦茶セックスした。

 

 

 

 

 あと嗅ぎつけてきた皆に乱入された。(まだ抱いた事の無かった子達も数人含む)

 

 

 

 

 抜け駆けした明日奈は、お仕置きとして総受けだった。ご褒美にしかならなかったけど。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで真鶴が大和のお頭に話を通しに行き、茅場が色んな事を放置して神機調査に耽溺していると、今度はグウェンがやってきた。

 要件は勿論、宝剣で呼び出される鬼の討伐だ。……乱交の直後だったんで首を傾げられたけど、気付いてない…と思う。その辺、この子は割と鈍かったからね。

 

 さて、改めて確認するが、グウェンが持つ武器、宝剣ネイリング。どういう仕組みか、西洋竜に似た鬼を召喚する事ができる。

 ただし、召喚したとしても制御する事は叶わず、むしろ召喚した者に積極的に襲い掛かる。

 しかもいつ発動するか分からず、発動をキャンセルする事もできない。

 呼び出された鬼はある程度の時間を置くと自動で送還される。これに召喚者の意思は関係ないらしい。

 これは前ループの体験談でしかないのだが、呼び出される奴を一頭倒せば、その後のおかわりは確認できなかった。

 

 ついでに言えば、捨てたり紛失したりしても、気が付けばグウェンの手元に戻ってきているらしい。色々な意味で呪われていますな。

 

 …改めて考えても、何の為に作られたのかさっぱり分からない意味不明装置である。元々、グウェンの実家だか親戚だかの家の宝物庫に放り込まれていたと聞いたが、どういう経緯でそこに流れ着いたのやら。

 これ単体で運用するものではないのか、それとも処刑確定した重罪人を戦わせる悪趣味な見世物にでも使うのか。

 

 ともあれ、対処できるならさっさと対処するべきだ。特に結界が復活していない今、住民達は鬼の襲撃・被害に対して普段以上に過敏になっている。ここで鬼を呼び出して暴れさせるなんて事があったら、お人好し揃いのウタカタでも、グウェンに対して疫病神のような印象を持ちかねない。

 

 

「…本当に、あの鬼を倒せるのか…?」

 

 

 不安がるグウェンだが、率直に言って余裕です。俺一人でもお釣りがくる。

 それに加えて、今回は数の力にも頼ります。手が空いている滅鬼隊員を呼び集め、出てくると同時に集中砲火。何もさせずに一気に潰す。

 

 前ループで戦った経験からするとあの鬼は単体だとそう強くない。送還による時間制限にさえ気を付ければ、腕のいいモノノフが2~3人揃っていればまず負けは無い。

 更に事前に地の利を得て、連携の打ち合わせ等を行っていれば、初手で生命力の8割くらいを持っていけると思う。

 …あの鬼が、妙な進化をしていなければ、だけどね。ちょくちょく意味不明な鬼が出てるからなぁ。

 

 そんな事を話してグウェンの不安を打ち消そうとするが、やはり幼い頃から襲われ続けたトラウマがあるのか、表情は晴れない。

 そこへやってきたのは、相変わらず仏頂面の博士だった。

 

 

「む…? グウェンか。ネイリングを手にして何をやっている」

 

 

 準備が整ったんで、鬼を呼び出して潰そうって話をしてたんだ。…あれ、博士ってグウェンの事情を知ってたっけ?

 

 

「ああ、ウタカタに来るまでの道中で話した。元々、その為に彼女を探していたのだし」

 

 

 …うん? グウェンが博士を探してた?

 

 

「こいつの祖父…ネイリングの前持ち主は、私の知人だ。以前、暴走していたネイリングを封印した」

 

 

 マジで!? …あ、でも確かに博士なら出来そうだな。と言うか、今回もそうすれば…。

 駄目だな、封印って言っても偶然で解かれてしまうような代物だし、完全破壊できるのならそっちの方がいいか。

 

 

「ビャクエンを呼び出すなら丁度いい。お前の鬼の手の性能を見せてみろ。今お前に出来る最大限の活用をな」

 

 

 今の俺に出来る最大限、ねぇ…。鬼の手の活用方法は色々あるけど、戦闘についての最高の応用方法…。ふむ、ちと準備が必要だな。

 と言うか、自前の鬼の手はどうした。博士の事だから、カラクリ石だって確保してからこっちに来てるだろうし、渡された手紙にあった資料を元により性能の高い鬼の手を、もう完成させているんじゃないか?

 

 

「阿呆が。完成させるだけなら、今すぐにでも出来る。手紙に書かれていた資料も必要ない。だが目の前に実際の使い手が居るんだぞ。これを有効活用しない手はないだろう」

 

 

 確かに、実際に使用した結果や感想ほど重要な資料は無いな。尤も、俺の場合は体内にカラクリ石を取り込んでいるから、博士が作った鬼の手とはまた違った物なんだろうけども。

 

 

「体内に、か…。考えてはいたが、効率が悪すぎて捨てた選択だ。とは言え興味深くはある。取り込んでいるところを見せてみろ」

 

 

 ほれ、左手。ここで取り込んだんだ。鬼の手を実体化させるのも、右手から出すのに比べると、こっちの方が安定する。

 

 差し出された手を掴み、開かせてジロジロと観察する博士。つくづく遠慮がない奴だ。

 改めて考えてみると、自分でも軽率な真似をしたなぁと思う。結果的には大正解だったけども。

 

 取り込んだ当初から、異物感は感じた事が無い。蝕鬼としての能力で、完全に同化していると言う事なんだろう。しかし同時に、確かにカラクリ石がそこに『ある』ことは感じる。カラクリ石は大きければ大きい程その効力を増し、逆に砕け散れば出力は激減する。と言う事は、体内で凝縮されているか、或いは痕跡が分からないくらいに小さく分断されているのに、その能力を失っていないか…。

 

 

 なんて事を考えていたら、俺の手を万力のような力で握ったまま、博士はメスを取り出した。

 音もなく博士の首筋に苦無が突きつけられた。

 

 

「若様から手を離しなさい」

 

「博士、人に刃物を向けるのはよくないぞ! 何かされたのでもないんだろう!」

 

「………ちっ」

 

 

 舌打ちしながらも、素直にメスをしまう博士。しかり諦めていないのは明白だった。隙あらば解剖する気なのが嫌と言う程よく分かる。

 慌てるグウェンの言葉を聞き入れた…訳はないか。

 やれやれ、博士にも困ったもんだ。

 

 

「困ったもんだ、ではありません! 若様も何故お怒りにならないのです!」

 

 

 こういう奴だって分かり切ってるからな。それを承知で呼んだ。俺を傷つけられそうになって怒ってくれるのは嬉しいし、肝心の俺が何も言わないのは悪いと思っているが、博士が相手だとキリがないぞ本気で。

 …ううむ、相当にお冠だな、これは。無理もないけど…。

 このままだと拗れてやっかいな事になりそうだ。とりあえず、時子を誤魔化そう。

 

 

 時子、博士の事はともかくとして、グウェンに取り憑いている鬼を祓わなきゃならん。準備はどうだ?

 

 

「…滞りなく進んでします。場所の選定、ウタカタへの連絡、集中砲火と、それを耐えた時の為の備え、連携の打ち合わせ。何も問題はございません」

 

 

 そうか、ありがとう。

 でも一つ追加で必要な準備がある。

 

 

「は、なんなりと」

 

 

 博士からの要請で……名前出しただけでそんな嫌そうな顔するなよ……俺の鬼の手を全力で振るったらどうなるか見せる事になった。

 ただ使うだけならどうとでもできるんだが、「全力」だからな。事前の準備…霊力の補給が必要だ。

 

 

「はっ…………は? あの、若様、その霊力の補給と言うのはひょっとしてその」

 

 

 と言う訳で相手してくれぃ。グウェン、博士、悪いけど準備の為にもう行くわ。

 あとグウェン、教育に悪いから覗いちゃ駄目だぞ。

 

 

「あ、あの、若様っ、まだ日も高く、その、せめて湯浴みを」

 

 

 いつ鬼が出るか分からないんで、準備は今すぐしまーす。

 ほら、無駄な抵抗をしないでこっち来てこっち来て。

 

 

「閨にも入らずに!? ちょっ、待って、本当にお待ちください若様一体何をあっ、ちょっ、あぁぁ、あぁ~~~………」

 

 

 待たなーい。うるさい口は唇で黙らせるに限ります。うーん、時子のふとももはすべすべだなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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492話

 

 

 

 

 さて、俺の準備は万全だ。やろうと思えば、大勢で囲む必要すらなく、あの鬼…博士が言う所のビャクエンを、出現した瞬間にダルマになるまで切り刻む事だって出来るぜ。

 最初にドカンとやったら、後は皆に任せるつもりだけどな。動けなくなった敵にトドメを刺すだけとは言え、それをやっているだけでもモノノフとしての自覚は出てくるからね。

 時子、そっちの準備は?

 

 

「はぁ……はぁ……こ、腰が抜けて…足に力が…でも…準備は、いつでも…。いえ、私の準備など、構わず好きなように……時子の体は、若様のおもちゃですぅ…」

 

 

 恍惚とした表情で、木に寄りかかって何とか立っている。口元に引っ掛かった後れ毛がエロい。

 でもそーいう話してるんじゃないんだよなぁ。

 

 

「…一々女を抱かないと、全力を出せないのかお前は」

 

 

 全力はいつでも出せるけど、万全かどうかは話が別でしょ。出来る準備は全てやって、予想よりも更に悪い事態に出来る限り備えて、最善に辿り着こうとすると同時に最悪を回避しようとするのが全力って事だもの。

 これも鬼の手の使い方の一つには間違いない。多分博士をして予想外のやり方だと思うけど、房中術その他で高めた力を、鬼の手に蓄積させる事もできるんだ。更に房中術の一環として、鬼の手を色々な形に変えて自在に操る事ができる。梁型から触手、スライムまで幅広い。

 冗談抜きで、破壊力は段違いに上がるぞ。具現化する鬼の手から、なんかこう生々しい臭いがするようになるけど。

 

 

「有効な使い方であるなら些細な問題だな。外から持ってきた力を保管するのも、元より想定していた使い方の一つだ。だが一々まぐわらなければ力を高められないというのも面倒だ。改良の余地があるか…」

 

 

 いや、俺の場合はこれが一番効果が高くて、つきあってくれる相手も居るからやってるだけで、普通は地脈から力が溢れる場所を見つけてそれを取り込めるくらいだと思うぞ。

 そもそも、多分このやり方は鬼の手の核となるカラクリ石を体内に取り込んでいるからこそできるやり方だ。ただ交わるだけじゃ意味が無い。

 

 

「ふん。まぁいい。それよりも重要なのは性能だ。貴様が私の傑作を使いこなしているか、見せてみろ」

 

 

 はいはい。…ほら時子、事後の余韻に浸らせてやりたいのは山々だけど、今は準備だ。

 …こらそっちの準備じゃない。自慰をするなくぱぁするな。そーいうのは終わった後に、皆にお披露目しながらだ。

 

 

 あと災禍、グウェンの目隠しご苦労。

 

 

 

 

 

 

 

 夜。グウェンを中心にして、うちの子達が諸々の武器を構えている。別にグウェンに刃を向けているのではない。向けるのは、これから呼び出されるビャクエンだ。

 最初は不安に思っていたグウェンも、これだけの数が自分の味方をしてくれると知り、これならば!と意気込んでいる。

 …桁外れのデカブツが相手だと、数の力ってあんまり効力が無いんだけどな…。有象無象じゃ、大質量が動くだけで吹っ飛ばされてしまうから。

 

 こっちの準備は問題なし。色惚けていた時子も何とか通常モードに戻り、後はグウェンの準備が整うのを待つばかりだ。

 

 

「…大人数でやる必要、あったんですか? 全力を出すんでしょう。あなた一人で充分でしょうに」

 

 

 だからって、戦える機会を独り占めにしたら拗ねるでしょ、神夜は。

 あと、こういうのは皆でやると大きな利点がある。これはとある名将と呼ばれた人物が行っていた育成方法なんだが、勝ちがほぼ確定した試合…戦いには、所謂二軍三軍として分類される、戦わせるにはまだ早いか?と思う人材も積極的に登板させたそうだ。

 

 

「興味深いですね。何故そのような事を? 勝ち戦に奢った兵ほど脆いものはありません。油断していると、たった一撃の反撃から一気に首魁まで持っていかれるのが戦と言うものですよ」

 

 

 前線に出て戦わせたり、重要な役目を与えてそれを全うさせる事で、『自分達はこの組織の一員だ』『自分達がやった事は確かに勝利の手助けとなったのだ』という実感を持たせたんだ。

 

 

「随分と手ぬるいお話ですねぇ。仮にも皆モノノフなのです。鬼と戦って死ぬ危険は、誰しも理解していると思いますが。それを軽んじて軽率な行動をするのでは、見捨てられて死んでも文句は言えません。たった一人の軽率な行動で鬼を呼び込み、滅んだ村里が幾つあった事か」

 

 

 真面目に戦わなきゃ死ぬと頭で分かっていても、俺が命令したとしても、他人事ではないのだと自分自身が感じなければ意味は無い。

 ことにこの子達は、なまじ実力がある分負けたら死ぬという事について現実味を持ってない節がある。普通の人達なら、こんな世界で生活する中で、鬼の脅威と危険を嫌と言う程叩き込まれるんだろうけどな…。

 

 それと、『あの子の為に皆で力を尽くした』という感覚を持たせ、グウェンを受け入れやすくするのも狙いだな。

 その為には快勝させてやらんとな。逆に重症人が出たら、「あいつのせいで」なんて思いになりかねない。

 

 

「なるほど、得心いたしました。どの道、彼女の境遇を聞いては放っておけません。聞けば、現れては消える鬼に追われて天蓋孤独の身に、そして異国の大陸を踏破してようやく日ノ本へ…。何という苦労をされてきたのでしょう…。……ちなみに、異国語で会話を試みた明日奈さんがへこんでいましたが、何かご存知ですか?」

 

 

 異国語と一口に言っても、種類が山ほどあるからな。言語が全然違ったか、或いは発音が駄目駄目だったんだろう。単語くらいは教えてきたけど、外国語での会話はそりゃ難しいからなぁ…。

 

 …さて、駄弁ってる間にグウェンの覚悟も決まったようだし、一丁行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 円陣を組んだ滅鬼隊の中心で、グウェンが何やら剣に語り掛けている。別に召喚に必要と言う事ではなく、単なる感傷の類なんだろう。小声だけど聞こえている…が、流石に言語は分からんな。GE世界でレアから教わった言葉の中にはない言語だ。

 一頻り語り終えると、グウェンは空に向かって剣を掲げる。光が立ち上って……その中に黒い穴が産まれた。

 そこから瘴気と共に、前ループでも見た鬼が這い出して来る。

 

 自分を取り囲んでいるモノノフ達を苛立たし気に一瞥するが、その視線はすぐにグウェンに固定される。やはり、召喚主が標的となるよう調整されているのか。それとも何度も襲って喰い損ねているから、顔を覚えているだけか。

 全身が穴から這い出ると、口元に炎を宿しながら大きく叫んだ。

 

 耳をつんざく咆哮で、皆の体が竦む……討鬼伝にはバインドボイスの設定は無かった筈だけどな。

 派手な登場で印象付け、さぁここから大暴れするぞっ……てところに悪いんだが。

 

 

 

 鬼葬!

 

 

    で、乱舞!

 

 

 刃状にした鬼の手を振り抜いて、初撃で尻尾を切り落とし!

 続いて両後ろ足を殴り飛ばして膝を折り!

 倒れた体を支えようとした両腕に巻き付いて関節技! 圧し折るッ!

 切り離した鬼の手の部位を丸めて頭に向かって投擲、角を折ると同時に光玉で目潰し!

 パニックを起こして逃げようと羽ばたいた瞬間、棍棒型に変えた手で背中を強打!

 同時にアッパーカットで衝撃を逃がさないようカチアゲ、牙を圧壊!

 倒れた所に、翼に鬼の手を巻き付けて、締め付けながら……その内側を刃に変えるッ! 切り刻まれる翼! …なんかアニソンの歌詞みたいだな。

 構わず追撃、翼を根本から力ずくで引き千切り!

 分断しておいた尻尾と、霊力で再生されてきた尻尾、更に羽を一纏めにして…握り潰すッ!

 

 

 初撃で厄介な部分を全て破壊し、鬼特有の再生すら許さず、あとは狩るだけの状態まで追い込む、正に必殺技。名付けて………名付けて………………ええと、とにかく鬼の手の乱舞だ。

 よし、全員総攻撃! 打ち合わせ通りに動けよ!

 …達磨になったビャクエンをうちの子達が袋叩きにし始める。…なんか悪い事した気分になってくるが、鬼なんだから致し方なし。グウェンも唖然とするどころか、因縁の相手に思いっきりお返しできるとあって、嬉々としてネイリングを振りかざしている。

 後は任せておいても大丈夫そうだな。

 

 

 さて、思いっきりやれと言うから、やってみたぞ。やろうと思えば首を握り潰して一撃必殺もできそうだったけど、今回は出来る事をなるべく見せると言う事で、最大出力よりも手札手数を詰め込んでみた。

 

 

「私の傑作を使っているのだ。これくらいは当然だ。…と言いたい所だが、思っていた以上に使いこなしているのは確かだな。褒めてやろう。滅多に無い事だぞ」

 

 

 そーね、感謝の言葉を述べるのすら稀だからね。嫌われるぞ本気で。

 と言うか、俺の場合博士が作った鬼の手を使ってるんじゃないんだけどな。取り込んだカラクリ石を使って、博士が考えているような運用をしているだけだ。それにしたって、使い方自体博士の考えだった訳だから、博士が作ったものと言えなくもない…か?

 

 とはいえ、これで博士が満足するとは思っていない。ここまでやっても鬼の手の機能は一部しか使ってない。戦闘に大きな効力を発揮するが、鬼の手の本来の目的は…。

 

 

「忘れていないようだな。そうだ、鬼を討伐する為の機能は副次的な物にすぎん。異界の浄化が鬼の手の本領だ」

 

 

 実演しようにも、条件が整ってないんだよなぁ。異界浄化の術は、異界を生み出す元…つまり瘴気を吐き出す穴や、何らかの機関の働きを逆転させる事で成すものだ。

 当然、それを見つけ出さなきゃ浄化できない。

 仮に多少出来たとしても、その瘴気の元を潰さないと、結局また異界に沈んでいくからな…。

 

 

「そんな事は分かっている。ウタカタ近辺の異界は、他の地に比べて濃いものが多い。恐らく、瘴気の元になるものが複数あるのだろう。最悪、その元になる物同士が影響を与え合っている可能性もある。纏めて短期間のうちに浄化せねば、また新たな瘴気の元が別の場所に産まれかねん」

 

 

 また厄介な…。しかし、それでも一つ一つつ潰していく事に意味はあるか。浄化した異界が元通りに広まるまで時間はあるし、瘴気の元が新しく生まれるとしたら、まだ浄化してない場所だろう。

 浄化すれば浄化する程、瘴気の元が現れる場所は減っていく。……つまり、最終的には瘴気の元が密集して、物凄い濃さの異界が産まれる可能性があるけども…。

 

 

「まとめて浄化すればいいだけの話だ。そこまで鬼の手の真価を発揮できれば、異界も鬼もどうとでもなる。…見るべきものは見た。私は研究に戻る」

 

 

 おう。甘い物以外にもちゃんと飯食って寝ろよ。

 …さて、俺も今日はそろそろ休むかな。ビャクエンの方もカタがついたみたいだ。首元深くにネイリングを振り抜いて、返り血を浴びながらもグウェンは空に向かって剣を掲げる。英雄譚のワンシーンのようだ。実際には、抵抗できないように痛めつけてからの袋叩きと言う、リンチもいいところな訳だが……グウェンの因縁を鑑みれば、それくらいは許されるだろう。

 

 

 

 



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493話

現在、以前から要望があった登場人物紹介を作成中です。
1話からやっていくといつ出来上がるか分からないので、とりあえず討鬼伝最終話から作っていきます。
ある程度出来上がったら、まとめとして別途投稿する事になると思います。

しかしここでちょっと悩みが。
例えば明日奈や神夜ですが、登場したのはシノノメの里。
そこからなんやかやあって霊山を経由し、ウタカタまでやってきている訳ですが、どう紹介したものか。
会った時の事だけ書いておくべきか、備忘録も兼ねてその後どういう関係になったのかも書いておくべきか…。


 

堕陽月参拾肆日目

 

 

 ミズチメ発見の報せが来た。橘花に術を掛けていると思われる奴だ。

 発見された場所は、例の洞窟の一番奥。恐らくそこに居るだろう、という予想は当たった訳だが……一つ気になるのは、見張っていたモノノフも気付かない内に出現していた事。…逆に見張りが奇襲を喰らわなかったのは幸運だな。

 水脈から飛び出してきた訳でもなく、術で転移してきた訳でもなく、いつの間にかそこに居たらしい。

 

 …気になるなぁ。俺が調べた時も、どうやってあの洞窟から移動したのか分からなかったし…。まだ何か秘密がありそうな感じ。

 

 

 とは言え、どっちにしろこのミズチメは速攻で叩き斬らなきゃならん。

 橘花を起こして結界を張らないと、頻発する鬼の攻撃に徐々に押し込まれてしまう。

 

 

 何よりも、桜花が今にも殴り込みをかけそうだ。一人で行ったら橘花を嫁に行けない体にする宣言のおかげで歯止めが掛かっているものの、出撃許可を今か今かと待っている。

 そして、そんな桜花と一緒にミズチメ討伐に向かうのは、富獄の兄貴、権佐、俺。

 人選の理由は…富獄の兄貴は、単純に強いし、里の防衛戦よりも標的を倒しに行く方が実力を発揮できるから。

 

 そして俺が行くのは、桜花からの強い要請である。…言うまでもないだろうけど、自分が居ない間に橘花にちょっかいを出すのではないかと疑っているようだ。

 そこまで疑うか…と言いたい所だが、疑っているから単騎特攻してないんだよなぁ。

 

 そして権佐は俺の護衛役。…鬼に対してではなく、桜花がガチギレした場合に備えているのは言うまでもない。

 つくづく人間とは、状況を選ばず同族を相手に争う種族であるな。

 誰が来るのかでちょっと揉めたが、洞窟の中で戦うと言う事で土中を進む事ができる土遁使いである事と、標的(桜花含む)を目の前にしても先走らない冷静さ(ただし戦が始まるとヒャッハーする)を買われて権佐と言う事になった。

 

 

 

 

 で。

 洞窟までやってきて、見張り番だったモノノフ達を撤退させて。

 

 

「おお、居る居る。でっかいミズチメですな」

 

「確かに、そこらのミズチメより一回りでけぇな…。それだけ強力って事か? へっ、面白ぇ」

 

「…………」

 

 

 桜花、殺気を抑えろ。気付かれたら逃げられる可能性があがる。奇襲の好機を待つんだ。このまま一眠りしてくれると最高なんだが。

 …にしても…妙だな。

 

 

「何がだ」

 

 

 あのミズチメ、満腹っぽいぞ。見ろよ、あの「飯も食ったし一眠りするかぁ」って緩んだ顔。

 体がでかけりゃ、それだけ喰わなきゃならん餌だって多くなる筈なんだが…。

 橘花…はまだ衰弱死するまで余裕があるし…。桜花、最近里で百日夢にかかったり、行方不明者が出たりって事はあったか?

 

 

「いや、それらしい報せは全くない。…鬼同志で共食いでもしたのではないか?」

 

「それにしちゃ、奴の体に傷跡がねえな。図体のでかさからして、抵抗する力のない小鬼だけを喰って満腹になった訳じゃねえだろう。ミタマか、それに近いものを喰っているのは間違いない」

 

「……確かに疑問は残るが、それは今考える事ではないだろう。目の前に橘花に呪いをかけた鬼が居て、我々はモノノフだ。奴を斬ればそれでいい。倒しさえすれば、奴に喰われた魂も解放されるだろう」

 

「乱暴な意見だが、確かに。奴に喰われて消化されてしまった魂は…もうどうにもなりませんな。仇を討ってやるのがせめてもの手向けでしょう。……若、丁度御誂え向きに、奴さんが眠るようです」

 

 

 みたいだな。

 さて、眠ったところで爆弾目覚まし…はここだとまずいな。あんまり頑丈な洞窟じゃないし。

 …鬼千切打てる奴、誰か居る?

 

 

「俺は行けるぜ」

 

「私もだ」

 

「同じく」

 

 

 俺も。鬼の手も準備できてる。

 じゃあ、一気に潰すんじゃなくて、順番に使って何もさせずに一気に倒しますか。

 順番は…。

 

 

「俺、お前の鬼千切、権佐、お前の鬼の手、桜花の順がいいだろうな。潰すのは右足、左足、殻、どっちでもいいから腕、止めに桜花が首を狙え」

 

「…富獄、感謝する」

 

「気に入らねえ奴を直接潰したいってのは、わからねえでもないからな。やり返すんなら派手にやれ」

 

「異存はありませんな。順当なやり方でしょう」

 

 

 ニィ、と好戦的な笑みを浮かべながらも、闘気や気配はまるで漏れない。この辺は流石の富獄の兄貴、と言った塩梅だ。正直、武術という分野では俺の数段先を行っていると思う。

 …気に入らない奴を、と言うとダイマエンの事か。…そっちも単騎特攻しないように、何らかの策を講じておく必要があるな。

 権佐も権佐で、好戦的な笑みを向けるのが富獄の兄貴なのはどうしたもんか…。強い相手との闘いに飢えてるなぁ。

 

 まぁ、そんな先の事は置いといて…。

 

 

 

 

 みっずちーめさん! あっそびーましょっ! お前使い捨てオモチャな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 …リンチにもならなかった。桜花が一撃見舞うまでミズチメの生命力が保ったのが、奇跡とさえ思えるくらいに。

 

 

 

 

 

 

 図体はでかかったが、普通のミズチメを少々割り増しした程度の印象しか残ってない。何もさせなかったからでもあるんだろうけど、そろそろいつもの妙な進化を遂げた鬼が出てくる頃だろうと思っていた。肩透かしもいいところだ。

 桜花も「まだまだ切り刻み足りぬ」とばかりの憤慨した表情を隠そうともしない。

 

 まー単騎特攻しようとしたのを無理矢理押しとどめて、我慢に我慢を重ねさせた挙句に、このあっけない結末だもの。カタルシスも何もないのは同意する。

 が、謝りはしない。単騎特攻しようとする方が阿保なんだから。そんなんじゃうちの子達を差し置いて、頭滅鬼隊の称号が冠されてしまうぞ。

 

 さて、ミズチメ討伐については話はここまでだ。桜花としては、一刻も早く里に戻り、橘花が目を覚ましたかどうかを確認したかったようだが、その前にもう一つ問題が発見された。

 予想通りミズチメは何人もの人間の魂を取り込んでいたらしく、倒すと同時にそれが解放された。ゲーム的に言えば、富獄の兄貴のエピソードで、ダイマエンから解放された魂が昇って行くような、あんな感じだ。

 それを眺めて権佐なんかは「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。迷わず成仏しろよ」なんて拝んでいたのだが、すぐに異変は明らかになった。

 

 飛び回る魂達は、天に向かって昇っていくような事は無く、何故か一斉に洞窟の奥の壁に向かっていったのだ。

 物理法則なんて関係ありませんとばかりに、抵抗もなく壁に吸い込まれていく魂達。これは一体どうした事か。

 

 

「…あの壁に何かあるのか? 解放された魂を更に吸い寄せてくうような鬼が、向こうに居るとか」

 

 

 いや、ここに来た時にミズチメの痕跡があの辺にあったから調べてたんだけど、何もない壁だった。

 しかし、今のを見るとそれもちょっと自信がなくなってくるな…。

 

 

「…まだ鬼が居るとしたら、さっきのミズチメと絡んで呪いをかけるような鬼なのかもしれん。橘花は気になるが、まずはこちらを調べた方がいいだろう」

 

 

 そうだな。幸い周辺の安全は確保できているし、活動限界までまだ余裕はある。調べていくだけの価値はあるか。

 

 

 

 

 …なんて事を考えていたら、鬼より厄介な物を発見してしまった。いや俺が厄介なんて言っちゃいけないんだけどさ! うちの子達は厄介だけどみんな可愛い(色んな意味で)子ばっかりなんだけどさ!

 不満と言うか叫びたい事はただ一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ増えるのかよ!?

 

 

 

 

 …失礼した、日記でも取り乱してしまったようだ。

 問題の壁を調べ始めて約30秒。すぐに違和感を感じた。叩いた時の音が違う。触った時の感触が違う。壁から何か突き出てる。あと瘴気が壁から滲み出てくる。そもそもからして、なんか掘り返して埋めた感がある。

 …なぁ権佐、土遁使いとして見た所、この壁は。

 

 

「どうもこうも、確実に何か埋まってますな。それはもう素人目にも」

 

「だなぁ。ここまであからさまだと、お前の目が節穴で見落としたって事はまず無くなるな」

 

 

 言い方はともかく、壁を叩いただけでぼろぼろ崩れ落ちるくらいだもんな。

 明らかに、俺が調べた時とは土の質が違う。

 

 

「どうこう言っていても仕方ないだろう。中身を見てみない事には何も分かるまい。さっさと掘り返すぞ」

 

 

 はいよ、桜花。…刀の鞘を鈍器に使い、ガンガン壁を叩く桜花。それだけで壁が…と言うか積まれていた土が崩れ落ちてくる。

 程なくして、土の下から隠れていたものが掘り出された。

 

 扉だ。壁から突き出ていた物は、どうやら扉の取っ手だったらしい。とは言え、無事な物ではない。かなり派手に壊されている。さっきのミズチメが壊したのか。

 扉の向こうには、明かに物理法則を無視して………なんかこう、建物があった。

 

 と言うか、見覚えのある建物だ。具体的には、シノノメの里で何度か目にした。

 

 

 

 これは…塔だ。

 

 

「塔? …確かに、大きな建造物ではあるようだが…何故塔だと?」

 

「若、知ってるんで?」

 

 

 ああ。…そうか、ミズチメが発見できなかった理由はこれか。

 しかも、さっき解放されたミタマがこの中に入って行ったとなると…。

 

 

「一人で納得してねぇで、さっさと説明しろ。さもなきゃすぐに進むかだ」

 

 

 いや進むのはまずい。少なくとも報告の為、一人はここに残す必要がある。一度入ったら、暫く出られない可能性があるんだ。

 

 …この塔は…いやこれは塔じゃないのかもしれないけど、とにかくこの建造物は…由来は不明だが、現れては消える謎の塔だ。

 シノノメの里で見た時は、主に異界の奥に出現し、人知れず消える。何かする訳じゃなかったが、消える時には中に入った人間ごと消える…多分、鬼も同じように消える。そして次に出現するまでの間、そいつらの時間は止まるんだ。

 …単純に、時間を超えて移動していると考えた方が分かりやすいかな。

 現にこの建物に入って行った人は、10年近い時を経てようやく帰還してきた。その人が言うには、塔に入って一週間程度しか経っていないと思っていたんだそうな。

 

 

「とんだ竜宮城だな…鬼の罠……にしては、この塔は人間用の大きさだな。ここから見える限りでは、置かれている物も人間が使う道具に見える…。だが、こうして漏れ出てくる瘴気の量は尋常ではない。これがずっとここにあったとするなら、近い内に異界に侵食……ああ、そうか。ずっとあったのではなく、『時々あった』のか…おかしな言い方だ」

 

「それで、こいつはどれくらいの間、どれくらいの頻度で出現しているんだ?」

 

 

 わからん。俺が見た時は、数瞬で消える事もあったし、暫くそのままだった事もある。

 

 

「じゃあ、中に何があるか分からないんですかね。若の言い方だと、その塔に入って出てきた人がいるんでしょう?

 

 

 ああ、それは………あー…あぁ………うん、そこにあったのと同じ施設だとすると…率直に言って厄ネタだな…。

 つーか、さっきの魂がここで、ここがアレ関連の施設だとすると…。

 

 

「……って、よくよく考えたら悠長にしてる場合じゃねえだろうが! さっきの魂が入って行ったって事は、中に人がいるって事だぞ!?」

 

「…確かに! くっ、こうなれば、私だけでも進んで消える前に戻れば」

 

 

 単騎特攻やめい橘花に手ぇ出すぞ!

 行くなら俺が行く。

 

 

「いやいやいや若こそ待ってくださいよ。若が消えたら俺達はどうするんですか、これだけ世話になった恩すら全く返せてないのに。そういう危険な事に行くなら、俺が行きますよ。護衛なんですから」

 

「……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛面倒くせぇ! 考えてる暇があったら俺は行くぜ! ついてくるなら来い!」

 

 

 今度はあんたが特攻かい! 確かに次に現れるのがいつになるか分からないから、中の人を助ける為なら正解だけど!

 でも多分意味ないんだよなぁ…。

 

 ああくそ、こうなっちまったのなら仕方ない。権佐、俺達も行くぞ。ただし桜花、お前は残れ。

 万一この中に入ったまま消えてしまったら、報告する必要がある。橘花を守るんだろ、戻って橘花が目を覚ましたかも確認しろ。

 

 行くぞ!

 

 

「おい待て私は」

 

「お先!」

 

 

 桜花が何か言っているが、聞いている暇はない。

 富獄の兄貴の足跡を追い、塔の中に入ると尋常ではない瘴気が出迎えた。…この瘴気の濃さ…ひょっとして、瘴気を生み出す元凶がこの塔の中にあるのか?

 …どっちにしろ、後からもう一度調べる必要があるか。異界浄化に必要な物があるのかもしれないんだから。

 

 しかしそれはそれとして、この瘴気濃度は常人にはきつい。俺もあまり長居したいとは思わないし、富獄の兄貴や権佐だって長くは保たないだろう。

 余計な事は考えず、魂の元を探して、パパっと戻るぞ。

 

 権佐、戦闘が発生したら速攻で終わらせるぞ。

 

 

「承った、若」

 

 

 さて、どうなるか…。

 

 

 

 

 

 

 富獄の兄貴は真っ直ぐ進んでいったようだ。扉が開きっぱなしになっているから簡単に分かる。

 階段を二つ昇り、扉を5つ。最後の二つは大きな扉だった

 大きな一つ目の扉を抜けるとそこは大広間で、鬼の残骸らしきものが転がっている。

 

 富獄の兄貴がやった…んじゃないな、多分。この傷跡はミズチメの術によるものだ。それに、富獄の兄貴が突入して、俺達が後を追ってここに来るまで5分も経ってない。流石にそれだけの時間で瞬殺するのは難しい。

 恐らく縄張り争いで敗れたんだろう。

 その隣には、瘴気を吐き出す黒い穴。…やっぱりここに瘴気の元があったのか。

 

 考察は置いといて、その先の大きな二つ目の扉を開いたところで、富獄の兄貴は呆然としていた。

 まぁそうだろうな。俺だって最初は目を疑……いや、明日奈と神夜に目を塞がれてそれどころじゃなかったっけ。

 

 

 

 

 大広間の扉の先にあったのは、もう一つの大広間。

 

 

 ただしそこには広々とした空間など無く、いくつもの円筒が立ち並んでいる。その中には、何人もの男女が意識のないまま浮いていた。

 すごく見覚えのある光景だ。あの時と違い、服を着ているようだが。

 

 

「…若、これは…」

 

 

 呆然としている富獄の兄貴を揺すって我に返らせながら、嫌悪感を滲ませる声で権佐は問いかける。記憶や意識が無くても、自分達がこれに封印されていた事を覚えているんだろうか。

 お察しの通り、滅鬼隊だな。…俺の知らない子達ばかり…いや、よく似ている子は何人かいるな。

 

 シノノメの里でも、塔の中にあったのは滅鬼隊に関する資料だったらしい。もう少し奥に行けば、ここと同様に封印されていた子達が居たのかもしれない。

 ともかく。

 

 

 富獄の兄貴、一旦ここから離れよう。自覚は無いが塔が消えて、もう2~3日経過しているかもしれない。

 今ここで、この子達にしてやれる事は何も無い。

 心配しなくてもこの円筒の中なら、これだけの瘴気の中でも影響は受けない。むしろ無理に連れ出す方が危険だ。

 魂が体に戻ったって事は、この子達はまだ生きている。塔が消えている間は時間も流れないから、制限時間の心配も少ない。

 

 

「…そうか。無駄足になっちまったか。すまねえな、巻き込んだ」

 

 

 いや、いい収穫はあったよ。まぁ余計な物見つけちゃったって考えも無いではないけど、放っておく訳にもいかん。

 これについては今後対策を取るとしよう。

 …さ、早い所戻ろうぜ。

 

 

 

 来た道を早足に駆け戻る。

 …こうして見ると、普通の建築物でないのは丸わかりだった。木や石で作り上げられた日本家屋・城の類とは違い、素材がいまいちよく分からないが、金属製の廊下。

 これは…マホロバの里で見た、あの舟と同じ素材じゃないか? 博士やホロウに初めて会った、あの場所だ。

 …あれがここにもあって、滅鬼隊が保管されていて、瘴気に満ちていて………やれやれ、詰め込みすぎだぜ全く…。

 



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494話

あれ、このペースで行くと、年内に500話…?


 

堕陽月参拾伍日目

 

 

 

 

 

 

堕陽月参拾禄日目

 

 例の塔(仮)から戻ってきたはいいが、丸々一日分くらい経過していた。うーん、まるでそんな感じはしなかったぞ。両さんが8年間を体感一週間としてしまうのも無理はない。

 扉から出てみると桜花の姿はそこには無く、代わりに鹿之助と災禍、名前も知らない里のモノノフが二人。

 

 俺の姿を見るなり、「若様よくぞご無事でぇぇぇ!」と半泣きになりながら災禍が抱き着いてきた。たった一日程度だったが、随分と心配をかけてしまったようだ。

 普段のクールビューティを放り投げて泣きじゃくる災禍を宥め、「心配かけさせんなよ、もー!」とこちらも目尻に涙を貯めている鹿之助に謝りながら、状況を確認する。

 

 

 俺達が塔に駆け込み、程なくして…と言うよりそれを待っていたかのように、塔は姿を消した。残ったのは塔の痕跡と、土壁のみ。

 桜花は暫く再出現を待ったものの、活動限界時間が迫った事により撤退。一部始終を大和のお頭に報告した。

 

 大和のお頭は、その内容の俺に関する部分を滅鬼隊の皆に報告。…それはもう、阿鼻叫喚の有様だったらしい。

 精神的に安定してきたと思っていたが、それは俺という支柱があってこそでしかなかったようだ。むぅ、自分の立場と精神的な問題を甘く見積もったか…。

 

 幸いにして、時子が皆を纏め、落ち着かせてくれたものの、報告を聞いた当初は一触即発の状況だったらしい。

 半ば八つ当たりと言うか言いがかりに近いが、ウタカタの巫女を目覚めさせる為の任務に向かい、その後に発見された謎の施設が危険だと言われていたのに、富獄の兄貴が突貫、それを追って俺と権佐も突入。

 挙句に自分だけ帰ってくるとはどういう事だ、と。

 

 …錯乱しそうだったのは分かるが、酷い言い分だなぁ。鬼との闘いなんて基本命懸けなんだし、無事帰って来た事を褒めはしても、誰かが死んだのは生き残った奴のせいだ、なんてお話にもなりやしない。

 そもそも、俺に任務について来るよう要請したのは桜花で、先走った富獄の兄貴はウタカタのモノノフと、

 まぁ、富獄の兄貴は大和のお頭から説教され、俺は自重しろ、そういう時は護衛だけ行かせるのが当然だろうが、とあっちこっちから叩かれまくったが。

 

 桜花に対し、かなりの悪感情が向いてしまっていたようだ。彼女の対応に問題が無かったとは言えないが…。

 簡潔に言えば、「お前らの頭領? そんな事より妹だ! 何故目覚めない!?」って感じっだったらしい。この頃の桜花は、橘花を何よりも優先するからなぁ。

 協力体制にあるとはいえ、外様の頭領よりも橘花に目が行くのは無理もない。ついでに言えば、重要度で言えば順当なのも確かだ。橘花が目覚めて結界が張られれば、俺達を救助する為の戦力だって作りやすくなる。

 

 

 

 

 …桜花に対する悪感情とかは、後々どうにかしていくとして……うん、目覚めてないんだよ、橘花。

 実は百日夢じゃなかった? 或いは、倒したミズチメは全く関係なかった? と言う線も考えたのだが、変化は確かにあったようだ。

 那木曰く、眠りは確実に浅くなっているし、いつ目覚めてもおかしくない。

 樒さん曰く、橘花に絡みついていた呪いの力は確かに抜けている。

 では、何故目覚めないのか。

 

 里には不穏な空気が漂い始めている。顔には出そうとしていないが、結界の消失も、目覚めない巫女の事も、隠し通せるような話ではない。

 どうにか目覚めさせる方法を探る者、自分にそういう事はできないと割り切って里の警護に集中する者。様々居るが、共通して不安を抱えている。

 ああでもないこうでもないこれでも無理だったと、大和のお頭達は現状を打破する手を探っている。

 

 そんな中、俺は橘花の様子を見に訪れた。橘花の隣には、目にクマを作った桜花が座っている。

 

 

 

 

 

 無力感に打ちひしがれ、俺達が無事戻って来た事にも気付いてなかった桜花に、冷たい声がかけられる。

 

 

「夢から戻りたくない、夢に浸っていたい、と言う事でしょうね」

 

「秋水……どういう事だ」

 

 

 桜花橘花の様子を見に来ていた俺に、秋水は軽く目礼して入って来た。

 橘花の枕元に居る桜花に、秋水はドン、と何やら資料を差し出した。

 これは?

 

 

「百日夢患者についての記録です。曰く、夢の中は心地よく、痛みも悩みも将来への不安も忘れ、過ぎ去った過去やもう会えなくなった知人と日々を楽しむ、桃源郷の如き日々を送るそうです。戻りたくないと思ったとしても、そう不思議はないのでは? …だからと言って、夢想の中で全てから目を逸らして死んでいくなど、僕としては反吐が出る思いですがね」

 

「…橘花………」

 

 

 自分は力になれなかったのか、心の支えにさえなれていなかったのか。悔恨が滲む。

 …で、秋水。お前がわざわざここに来たって事は、何か考えでもあるのか?

 

 

「ええ。結界の消失は、僕にとっても他人事ではありませんからね。橘花さんに潰れてもらっては困るのですよ」

 

 

 その割には、妙な揺さぶりをかけようとしていたようだが。

 

 

「さて、何の話やら。一応言っておきますと、何にでも加減は必要です。極端から極端に走られても困るのですよ。…本題ですが、橘花さんは夢に自らの意思で浸っていると考えられます。過去を都合よく捻じ曲げて理想の人生を送っているのか、思い出をただ只管繰り返しているのか、それは分かりませんが…」

 

 

 理想の人生ねぇ…。ちょっと前の橘花なら、桜花と入れ替わってモノノフとしての人生を歩む、みたいな事も考えてたかもしれんな。

 …そもそも、橘花にそこまで大事な過去ってあるのかな。楽な人生を送ってるって意味じゃないぞ。

 橘花は幼い頃から神垣の巫女としての修行ばかり、里に来てからも大事にされてはいるが、自由らしい自由は殆ど無いみたいだし。

 

 

「さて、そこは本人の感じ方次第ですから。余人にとってはどうでもいい事であっても、橘花さんにとっては後々何度も振り返るような出来事だった可能性もあります。ですが、人が本当に望んでいる事や願いなど、当人であっても中々理解できないもの。そこをうまく付けば、或いは…」

 

 

 あー、大和のお頭とも似たような相談したな。蟠りを解きほぐしてやれば…って。そもそも声が聞こえてる事が前提だけど。

 差し当って、蟠りになっていそうなのは…。

 

 

「やはり桜花さんとの確執でしょうね。…桜花さん、そのような事を囁いた事は?」

 

「…当然ある。それだけはない。謝罪、過去の思い出、未来の展望……色々な事を囁いた。頼むから目を覚ましてくれと懇願しても、一行に目を覚まさないんだ…」

 

「成程。反応すらしないと言う事は、橘花さんにとって、それは重要ではない事なのですね」

 

 

 おい桜花待て落ち着け、桜花の事がどうでもいいって言ってるんじゃなくて、心のしこりになってる事は他にあるって事だ!

 つまり仲違いしても、桜花の事が嫌いになったって訳じゃないんだから、首を吊ろうとするな。

 

 しかし、桜花との仲違いを無かった事にしたい…という願望が一番ありそうだったんだがな。…考え方を変えれば、仲違い…激突衝突も思い出の一部と言える。自分が歩んできた道と、姉との絆を否定したくはなかったんだろう。…そう思っとけ。

 

 

「う、うむ…情けない姿を見せてすまない…。うぅ、あまり弱音を吐くものではないが、何か最近色々と空回りしたり、物事が悪い方向に噛み合っている気がしてな…」

 

 

 まぁ…確かに最近の事を振り返ると、そんな感じがするね。若干、アンチと言うか運命に嫌われてるんじゃないかと思うような空回りっぷりだ。

 …不運の呪いでもかけられてるんじゃないの?

 

 

「そんな呪いを使う鬼が居たら、最優先で討伐しなければなりませんね。さて、では橘花さんの昏睡について、心当たりは? 僕はここに来る前、色々な人に話を聞いてきましたが…どれも違うようです。殆どの人が、神垣の巫女の過酷さについてや、桜花さんとの確執が原因と考えているようです」

 

 

 うーむ……そもそも声自体聞こえてるのかな。

 

 

「恐らく聞こえてはいる。最初の頃は、私の声に反応して寝言を返す事もあったんだ。…何か食べ物の夢を見ているようで、もっと欲しいとかそんな内容だったが…」

 

 

 うーん…橘花の好物って何だっけ。何か食べ物に関する思い出とかあるか?

 

 

「思いつく限り試したが、どれも外れだ。最初は反応していたのが、徐々に声が返らなくなってきた」

 

「つまり、それだけ煩わしいと思った訳ですね。はい、自殺しないように抑えてください」

 

 

 …こうなるのが予測できるんだったら、もう少し歯に衣着せてやれ。煩わしいと言うか、見ている夢と合わない内容だったんだろう。

 いくら心優しい言葉や、痛快な物語であっても、さぁ昼寝しようって時に延々と耳元で話しかけられれば雑音にしかならない。

 

 結局、橘花が見ている夢を予測して、それに沿った言葉で誘導してやらなきゃならんのだよな…。

 そもそも、反応していた時はどんな言葉に反応してたんだ?

 

 

「色々だ。さっきも言ったが、過去の思い出から明日の天気まで、色々な事を語り掛けた。…ただ、話の途中に寝言を返す事が多かった気がする。覚えている限りだと…」

 

 

 桜花の記憶を聞いてみるが、確かに脈絡が無い。

 一体どんな夢を見ているのやら。

 前ループの橘花なら、エロい事を囁いてやればちんぽ欲しさに飛び起きそうなものだが…流石に桜花が居る前でそれをやるのも危険だな。

 そもそも、桜花の単騎特攻を戒める為の虚言だったとはいえ、本来は里の巫女に手を出す発言だけでも大問題になってもおかしくないのだ。

 

 

「ふむ…。確か、橘花さんはシノノメの里の神垣の巫女と文通を始めたと聞きました。シノノメの里の巫女は、歴代でも破格の力を持っているそうです」

 

 

 あー、うん、色々あって後付けされた力だけども。

 (あとその力を覗きに使ってるんだけど…と言うか、今この瞬間も俺達を見ているかもしれないんだよなぁ…)

 

 

「その巫女に遣いを出して、彼女の夢を覗き見てもらうのはどうでしょう。千里眼の術を応用すれば、夢の中に入り込む事もできるかもしれません」

 

「どうやって術を使ってもらう? 橘花をシノノメの里まで連れて行くのか」

 

 

 いや、今のあいつは色々特別性になってるから、シノノメの里に居ながらウタカタの里に術をかける事も出来ると思う。

 …ただ…俺が言うのもなんだけど、ちょっと教育に良くない子なんだよ…。あの子を精神世界に入り込ませると、それこそ汚染されたりしないかな…。

 

 

「…神垣の巫女に対してえらい言いようですね」

 

 

 橘花にも素質は充分すぎる程あるし、橘花がああなるのは容易に予想できる。       ピクッ

 

 

「素質って何だ!? 橘花がどうなると言うんだ!? いや、どうなるにしろ、このまま目覚めないよりは…!」

 

 

 いや…何と言うか…罵るつもりじゃないんだが、人の中には切っても切れない宿業と言うか、禁忌であるからこその欲望みたいなのがあってだね。

 雪華…ああ、シノノメの里の巫女な…を橘花の中に入り込ませるのは、橘花を濁流の中に放り込むようなもので……濁流に無限に沸く毒の壺を埋め込むような…。      ピクピクッ

 待て、橘花を汚濁扱いしてるんじゃない!    ピクピクピク

 

 むぅ、桜花の怒りも尤もだよな…橘花をそんな扱いにしていれば。

 しかし実際、橘花の素質を考えるとなぁ…。それを説明する術はない。何せ別ループで開花させてきた、橘花の秘めた性癖なのだ。証拠なんかありゃしない。

 

 

 うーん…どっちにしろ、どうにかして橘花を目覚めさせなければ、今後の見通しなんぞ立つ訳もないか。

 わかった、雪華に連絡してやってもらうよう要請しよう。…と言っても、もう見てるかもしれないが…。

 

 

「本当にそんな事が出来るのですか? 遠距離からの夢渡りという難易度も問題ですが、巫女の力を使う事は、その里の安全性に直結します。あなたが要請して巫女がそれに応えたとして、里が許さないのでは?」

 

 

 大丈夫だ。シノノメの里には世話にもなったが、その分貸しも多く作ってある。

 巫女の力も、むしろ霊力が多すぎて持て余してるくらいだから、里を危険に晒す訳でもないよ。

 さて、そうと決まれば一筆書かなきゃならんな…、

 

 

「おう、邪魔するぜ」

 

「…富獄さん? 何か御用で?」

 

「お前でも桜花でもない。…そう、てめぇだよ。お頭が、洞窟でみたものについて話があるってよ」

 

 

 

 ああ、はいはい。

 じゃあ、橘花の事は雪華に頼んでおくよ。…色々話はしたけど、結局全くと言っていい程進展がなかったな…。

 

 

 

 

 

 

 大和のお頭に呼び出された先では既に人払いがされ、問題の施設を直接目にした権佐と、浅黄が待っていた。

 何故か浅黄はどんよりとした雲を背負っている。

 …おい、どうした?

 

 

「それがね、俺らがあの場所でみた連中の事を伝えたら、絶叫して崩れ落ちちまって」

 

 

 …なんだそりゃ。そもそも大和のお頭、なんで浅黄を呼んでるんだ?

 

 

「何でも何も、隊の前指揮官だったんだろう。詳しいと思って呼んだ。この件をどうするべきか、彼女からの意見も聞きたいしな」

 

 

 まー確かに。隊が活動していた頃の事を一番詳しく知ってるのはこいつだものな。

 で? 浅黄、一体何を落ち込んでる。

 

 

「……いなかった…。今の今まで気づいてなかったけど、私が活動していたのと同じ時期に目覚めていた子達の殆どが……今いる子達の中に居なかったのよ…」

 

 

 言われてみれば、9割以上が処…もとい、初めて目覚めた子ばかりだったな。

 浅黄の話じゃ、最後は……なんだ、運営主達に騙されて、活動してる子達も揃って封印されたって話だったが。

 ……つまり?

 

 

「全然気づいてなかったけど、多分私達の一代前の滅鬼隊とか…。そうよ、確か以前に噂で聞いた話だと、私達を作り上げたから古い滅鬼隊は不要として封印されたって聞いたわ」

 

「…よく分からんが、胸糞悪い話たってのは分かった」

 

 

 それくらいの認識でいいと思うよ、富獄の兄貴。

 と言う事は、やっぱりあの子達も滅鬼隊で、今の子達と違って実戦経験を積んでいるって事か?

 

 

「そうよ。…そして何よりの違いは、余計な機能を付け足してないの」

 

「余計な機能…?」

 

「…起こした異性に好意を持つとか、変な性癖を植え付けられているとか、体がいやらしいとか、特定の相手に暫く会えないと精神的に不安定になるとか、そういう機能よ」

 

「何でそんな機能を付け足した………いや、そうか。以前にお前達を操っていた者達にとっては、縄で繋がれていない猛犬に見えたのか」

 

 

 まー頭の出来を別にすれば、実力はある連中だからな。

 つーか、安全弁を付けるにしても、精神的なものだけで充分だろう。何を考えて、調子に乗って国営オナホなんぞ作り始めたのやら。

 

 

 なまじ強力な力を持つだけに、いつ反旗を翻されるか気が気じゃなかったのかもしれん。だったら最初から待遇改善しとけよって話だが。

 で、戦闘力はどうだか知らんが、安全弁を付ける事に成功したお前らを増やすと同時に、何らかの方法であの子達を封じ込め、異界に沈めた…か。

 

 

「あの封じられてた場所、素材からして普通じゃなかったが…それに心当たりは?」

 

「………その場所を見てないから何とも言えないけど……前隊員の拠点となっていた重要な場所を、纏めて放棄したという話なら聞いた事があるわ。機密となっていたから、私も詳しい事は…」

 

 

 どっちにしろ、もう一回あそこに行かなきゃならんのは変わりないんだ。その時に、浅黄と……そうだな、博士も連れて行くか。

 

 

「異界浄化に必要な、瘴気の元が見つかったのだったな。また中に入っている間に、塔とやら消える危険もあるが…」

 

 

 浄化には大して時間はかからないから、出現直後に突入して、ささっとやっちまえば、長くても2日以内には戻ってこれるだろ。

 事前に言っておけば、うちの子達も暴走は……しない…と思う…。

 

 

「明日奈さんや神夜さんの統率力に期待ね…。あの二人に逆らうと美味しいご飯が食べられなくなるから、そうそう酷い事にはならないと思うけど。……新しく発見した子達はどうするの?」

 

 

 心苦しいが、暫くこのままだ。霊山で浅黄達を見つけた時もそうだったが、あの筒に入れられている間は、瘴気の中でも安全は保たれる。飯食う必要も無いようだしな。

 今の俺達に、彼女達を受け入れるだけの度量は無い。

 里の結界は消え、家も直りきってなくて、うちの子達の生活も落ち着いてない。この状況であれだけの人数を連れてきても、確実に面倒を見切れなくなっちまう。

 

 

「うむ…見捨てる訳ではないが、里の備蓄もそう余裕がある訳ではないからな。九葉からの支援を考慮に入れても、これ以上は飯が行きわたらなくなる危険がある」

 

「連れてくるにしても、一人一人…ですな。前に活動していたと言う事は、話に聞いていたろくでもない扱いを受けていたって事でしょう。モノノフや上司に対し、強い不信感を持っているとしても不思議はない。不和の種になるか、見極めなけりゃなりません」

 

 

 ああ、それもあるか…。下手をすると、今いる子達と揉めそうだな。

 

 

「それ以上に、今度こそ私が責められそうよ…。お前のせいで封印されたって…」

 

 

 今度の子達は記憶持ってる可能性が高いからなぁ…。

 まぁ何にせよ、あの子達は受け入れの準備が整ってから、一人一人救助って事で。もしも俺達の保護を受けるのを嫌がり、独り立ちしたいと望むなら………当人の性格次第だが、支援してもいいと思ってる。それも嫌がると言うなら、それまでの話だが。

 

 

「その辺りの考えは後回しにしておけ。…まずは里の守りを固め、橘花を目覚めさせる事に集中するぞ」

 

 



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495話

登場人物一覧が、何とか形になってきました。
近日中に投稿できそうです。
その場合、このSSとは分けて新規で投稿するつもりですので、よろしければお気に入りユーザーに登録をお願いします(ダイマ)

ああ、それにしてもMHWIBのやり込み、P5R、執筆。バイクで走って観光と、時間が足りぬ…!


 

 

堕陽月参拾漆日目

 

 

 

 橘花が起きた。極めてあっさりと起きた。

 雪華に頼んで夢に潜ってもらうとか、桜花だけでなく沢山の人に励ましの声をかけてもらうとか、期待が重圧となるなら逆にそっとしておいた方がいいんじゃないかとか、眠気覚ましの為に元気ドリンコをドーピングコンソメスープよろしく血管注入とか、那木と六穂の合作・『ちょっとヤバげなオクスリ』の出番とか、のっぺらミタマを大量に送り込んで夢を荒らすとか、最終手段・いつものR-18とか色々考えていたのに、朝一番に実にあっさり起き出してきたそうな。

 いつものように様子を見に来た桜花と、身の回りの世話をする侍女さんが部屋に入ると姿が無くなっており(尚、誰も気付いてなかったが、この時点で既に里の結界は復活していた)、危うく誘拐事件かと騒動になりかけた。その第一容疑者が俺だったのはどういう了見じゃコラ。…とても理にかなっていると思います。だが今回ばかりは冤罪だ。

 

 当の橘花は優雅に朝風呂を堪能し、腹が減ったと摘まみ食いを堪能していたのを見つかって、説教よりも先に抱き着かれて大変だったとか。ほっぺに食べかす付だった。数日間寝たきりで食うや食わず状態だったから仕方ないけど、自業自得です。

 

 

 

 で、普通に考えれば、何が切っ掛けで起きたのか、どんな夢を見ていたのか、千里眼の術で何が見えたのか…と言う話題になるが、何故かそれよりも俺を呼んで欲しいという話になった。

 

 

 

 なんで? いや本当になんで?

 

 

「私が知るか。散々世話になっておいてこういう事を言うのは恩知らずだが、橘花からのお願いでなければわざわざお前を橘花に会せようとするものか」

 

 

 とは、朝一番にヤリ部屋…もとい寝室に訪れてきた桜花の弁。普通に失礼よね、確かに。まだ日が昇ったばかりの時間にやってきて、この言い分だもの。

 …前は橘花からの頼みにせよ、もう少し常識とか礼儀とか弁えていたと思うんだけども。

 

 

「……いや…その、自分でもよくないとは思っている。言い訳にもならんが、気まずい雰囲気だった橘花の態度に過敏に反応してしまって…。その上、こう、そっと寄り添われて耳元で『お姉ちゃん、お願い』なんて言われたものだから、つい…」

 

 

 わかる。許す。

 

 …あれ、でも橘花ってそんな性格してたっけか。確かに一度スイッチが入るとはっちゃけて欲望に素直になる上、割とちゃっかりした性格になったけど……それらしいイベント、まだ起きてないよな? 橘花に手を出してもいないし。…なのにスイッチ入っちゃってない?

 それに、橘花が俺に話がある…か。話だけならおかしな事は無いけど、要件も伝えず俺を呼び出し、里の今後に関わるような重大な議題を後回しにさせて強行する? どうも妙だよな…。今までの橘花(スイッチオン後)とも、微妙に性格が異なっているような気がする。

 

 

「何にせよ、橘花の呼び出しに応えてくれた事に感謝する。…人払いをして二人で重要な話をする、と言うのが非常に複雑な心境だが! …橘花に手を出す云々は、本当に私を暴走させない為の釘刺しだったんだよな?」

 

 

 本気だと答えれば斬りかかってきそうな桜花。

 

 

 

 だが本気である。でなければ脅迫にならん。

 

 

 

「………!!! こ、これまでの実績がなければこの場で叩き斬るものを…」

 

 

 うっさい毎度毎度暴走しそうなお前が悪い。…起きたんだから、こっちから手を出す気はないよ。

 

 

 

 うーむ、桜花の態度が悪いのは切羽詰まって余裕が無い時に、容赦ない釘をブチ込んだのが原因だとして…やっぱりちょっとよろしくないなぁ。

 いや俺に対する態度云々はいいんだけど、桜花の行動原理に悪い意味で変化が無い。守りたい者は橘花だけ、ただそれだけを考えているから周囲に目を向けない。里の仲間達との信頼や絆も、深いものが産まれていない。

 以前から懸念していた通り、ゲームストーリーの上面だけなぞって、人間関係に変化が無い。橘花の尻を喰っちまおうとして、ゴウエンマとの闘いの最中に那木に射られた時と同じ感じがする。…いや実際の所、あの時の死因は充分な信頼を得られなかった事ではなくて、積み上げてきた信頼を裏切った事なんだけども。

 

 俺が直接関わらなくても、人は変わると思っていた。だけどそれは何もしなくても変わってくれると言う事じゃない。増して、望んだ形への変化を迎えるにはどれ程の幸運が必要か。

 望む形の変化を迎えたければ、自ら関わり、望む形を目指して働きかけ続けるしかなかった。…それでも、望む変化を迎えてくれるとは限らないが。

 

 ただ一つ確実なのは、放置する事で良い方向に変わる事象など、この世のどこにもありはしない。関わらない事で迎える変化は、いつだって悪い方向への変化でしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だからって、橘花のこの変化は最悪過ぎませんかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなされました? ……ふふ…」

 

 

 人払いをして、目の前に座って俺を待つ橘花。その表情は、明かに今までの橘花とは違った。今回ループだけではない。今までのループでもここまで突っ走った橘花は見た事が無い。

 …え、これ、俺のせい? 俺が何かやったの? 俺が関わらない事で、最悪すぎる変化を迎えちゃったの? さっさと夜這いしてた方がよかった?

 

 橘花は一人だけで神垣の巫女の屋敷に籠り、俺が来るのを待っていた。人払いをして侍女も遠ざけ、同席したがる桜花を拒み、大和のお頭の声にさえ応じずに。

 一目見る前から、第六感がビンビンと警鐘を鳴らすのが分かった。ここまでヤバいのはいつぶりか。フロンティアで狂竜病歴戦王特異個体遷悠古龍種なんて盛りに盛りまくったバケモノに襲われた時以来か。

 屋敷を覆う程に漂っている……淫の気配。…ちなみにさっきの『盛りに盛ったバケモノ』は、『もる』ではなく『さかる』的な意味です。どう見ても異種族な上にサイズ的に無理だっつーのに、物凄く発情して迫ってくるから怖い怖い…。

 

 流石に言い過ぎ? 言い過ぎたくもなる。

 

 

「そんなに見つめられると……体が熱くなってしまいそうです。何分、私………はしたない女と思わないでくださいね…何でも気持ちよくなってしまうようでして」

 

 

 

 …橘花の背後に、ヤバげな影が見える。鬼の取り憑かれているとかス〇ンドとかじゃなくて…それならどれ程マシだったか…かの存在に通じる雰囲気を、片鱗でしかないが纏っている。

 湾曲した2本の大きな角、金の法衣、額に見える紫の文様。顔が見えないのは、まだ橘花がそこまで行きついていない為だろうか。それでもそこから垣間見えるのは、何もかもを受け入れるように見えて、全てを己の悦に変える魔性菩薩の笑み。

 

 思わずアンインストール!と叫んで脳天にゲンコツを見舞ってしまった俺は悪くないと思う。ブン殴っても気持ちよくするだけの結果になってしまったが。

 

 

「あいたたた……は、激しいですね…。雪華さんから話に聞いたし見もしましたけど、いきなりこれは予想外です…」

 

 

 …何があった…? 色々抑圧されていたのは知ってたが、百日夢にかかっただけでこうも変わるとは…。

 いや、それよりも雪華と話した? 手紙…じゃないな。夢の中で? もう術を使ったのか、あいつ。

 

 

「ええ、雪華さんは夢渡りで私に会いに来てくれました。そこで意気投合しまして…。ええもう教材には事欠かなかったもので、大いに盛り上がってしまいました。その間、皆さまに心配をかけさせてしまったようですが…」

 

 

 それも愉悦、とでも言いそうな顔だったが、自分が変わった事を自覚しているのかどうか。

 とにもかくにも、何があったのか聞き出そう。大和のお頭の言葉さえ退け、俺を呼んだ理由は何なのか。

 

 

「…言葉にしなければ、伝わってくれませんか? それとも…言わせたいのでしょうか」

 

 

 そうしてほしければ、言葉にしな。はしたない言葉で気持ちよくなる為じゃなく、願望と意思を伝える為に。

 

 

「では……私、はしたないとは思いながらも、もう我慢できないのです…。殿方を知らないどころか、自ら慰める事すらした事がなかったのに、あなたに貫かれたくていじめられたくて、体が疼いて仕方ないのです。あなたの逸物に縋りついて、お口でも胸でも女陰でも、あなたが好んで弄ぶ不浄の穴でも、全てを使ってご奉仕させていただきたいのです。気持ちよくなって、気持ちよくさせてあげたいのです。どうかこの淫らな巫女に、存分に仕置きしてくださいませ」

 

 

 するすると巫女服の留め紐を解けば、乱れた服の下から発情した雌のフェロモンが溢れ出す。

 俺でも覚えが無いくらいに濃厚なそれは、女体と言うよりも特大サイズのステーキの塊を連想させる。喰われたくて仕方がない雌。しかも誰にでもではなく、俺だけに。

 これを放っておくようでは俺ではない。

 …何より、放置すればこの肉の塊は腐り落ちる。それこそ、本当に魔性菩薩に向かって突き進みかねない。何がどうなってこうなったのかまだ分からないが、今のうちに橘花に頸木を撃ち込まなければ…。

 

 どこに打ち込むかって? そりゃ当然、ケツ穴と女陰とその他諸々の穴よ。心の穴も含めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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496話

またしても健康診断でヤバい数字が出たので、酒量を抑えています。
ビール500mlを毎日3本くらい飲んでたのを、基本は伊賀の強炭酸1L、公休日とその前日のみ350mlを最大3本まで。
炭酸メーカー買おうか悩み中。
強炭酸1本が100円ちょっと。
炭酸メーカーは物によるけど1万~2万、一日1本飲むとして約半年…。
違いが分かる程の舌ではないとは言え、水道水に炭酸入れて美味しいのかどうかが問題…。
でも麦茶も水道水から作ってるし、今更かなぁ。

このままアル中脱却できるといいなぁ。
でも偶の連休くらい、制限なしに呑みまくりたい…。



ところで人物紹介投稿しました。


 如何に魔性菩薩の素質を得たとは言え、所詮は素質。まだ女として華開いてもいない橘花は、俺に弄ばれるだけだった。尤も、今までのループと違い、限度と言うか限界らしい限界が無くなっていたのは危険な事だが。…もっともっととオネダリに答え続ければ、冗談抜きで突き殺してしまいかねない。それも今の橘花にとっては、悦びだろうけども。

 橘花を抱きながらまず行ったのは、情報収集ではない。橘花を口説き落とす事だ。

 結果的には、これは大正解だった…どころか、数ある選択肢の中から唯一の生存ルートだったとさえ言えるだろう。

 

 橘花自身は、既に俺に対して懸想していた……と自分では思っているようだが、それは錯覚。『過去』の一部を感じ取り、その印象に引っ張られていたにすぎない。テレビ越しにアイドルの番組を見て、それで相手を知った気になっていたようなものだ。…アイドルじゃなくてAV男優かな。

 放置しておけば、印象と実物のズレから、確実にややこしい事になっていただろう。

 

 幸いにして、橘花の精神が妙な方向に突き抜けていても、異性と関わった経験がゼロに等しいチョロオボコなのには変わりなかった。

 今までのループでの経験から、橘花がどのような言葉を好むのかはよく知っている。今回ループではそれなりに信頼・好感度を得ていたし、改めて口説き落とすのは朝飯前だ。抱きながらだったから、互いの体温も伝わって、その気にさせやすかったしね。

 

 欲望の対象を、俺に限定して、俺が望む形に変える事が出来たのは、本当に僥倖だった。

 …橘花が他の誰かとくっつくなんて、俺が我慢できないしな。橘花だけじゃないけども。

 

 

 口説き落とされて夢心地気分になっていた橘花を、更に続けて抱いていく。一つ穴を犯す度に、一つ絶頂に追いやる度に、夢の中であった事を吐き出させる。

 …と言っても、夢であった事自体は、3回くらいで全部吐き出しきっちゃったけど。

  

 率直に言うが、大体予想通りだ。千里眼の術は、強い因果を辿る術。

 術を使った時、近くにあった俺の体の一部にまで術が及び、それに引っ張られてしまった。

 そこから見たのは…橘花がこんな風になってる時点で予想はつくだろうけど、R-18の嵐である。今までのループの殆どで橘花を抱いてきたが、それを片っ端から追体験してしまったのだ。

 

 そりゃおかしくもなるわな…。

 

 むしろ、精神崩壊しなかったのが不思議で仕方ない。その代償として、魔性菩薩の素質を持ってしまったのは軽いか重いのか。

 なお、百日夢の標的になっていたのは確かである。夢の中でそれらしい心当たりがあるそうだ。

 

 

 …つまりこの子、桜花との喧嘩を無かった事にしたいとか、或いは昔の楽しかった子供時代に戻りたいとかじゃなくて、俺に散々調教され善がり狂っている姿を見て、自分もそうなりたい、もっと追体験したいという思いから、目を覚まさなかった訳だ。

 桜花からの呼びかけも、色事に夢中になっていて聞く耳を持たなかった。「優しく蕩けさせていただいて、さぁこれから女にしていただく…と言う時に姉様の声が聞こえても、正直萎えると言うか、水を差された気分にしか…」とは橘花の言。…一理あるとは思うが、それで目覚めないままになっていたらと思うと血の気が引く。あと、末期の橘花だと迷わず桜花を巻き込もうとする。

 

 逆に、俺の声は一部だけ聞こえていたらしい。それで追体験を断ち切り、現実に戻ってくる決意をしたとか。

 

 

「ええ、はっきりと覚えています。私の『あなる』をどうするとか、『橘花を抱く』と言った声を」

 

 

 ……そんな事言ったっけ? いや確かに、桜花が妙な事をやらかしたら、結果を問わず橘花をキズモノにするとは言ったけど。

 

 

 

 

 

追記:読み返したら、これか!と思う部分は確かにあった。でも勘違いだぞ橘花…。

   イカ、それらしき桜花との会話を抜粋。

 

 

『橘花にも素質は充分すぎる程あるし、橘花があ(あなる)のは容易に予想できる』←()内が『あなる』

『雪華…ああ、シノノメの里の巫女な…を橘花の中に入り込ませるのは、(橘花を濁)流の中に放り込むようなもので』 ←()内が橘花を抱く

『待て、(橘花を汚濁)扱いしてるんじゃない!』←()内が橘花を抱く

 

 

 …空耳が過ぎるぞ、橘花…。

 

 

 

 更に加えて、同類と出会う事によって、橘花はより深く夢の世界に入り込む事になった。

 そう、夢渡りでやってきた雪華である。

 夢の中で繰り広げられる、いっそグロテスクとさえ言える橘花への調教の数々。それを心底羨ましいと言ってのける雪華。

 二人は夢の中で(自分が出演しているAVを鑑賞しながら)語り合った。自分はどんな事をしてもらった、あんな事をしてみたい、あれは気持ちよさそう、あれは流石にまだちょっと怖い…。………お前ら、神垣の巫女の扱いに対する不満とか、将来に対する不安とか、そーいう話は……アッハイ、そんな事より猥談ですね。

 

 …シモの話で繋がった二人は、実際には会った事もないのに、既にマブダチである。

 だがただ一つ橘花が許容できなかった事が、自分自身はまだ未経験、マブダチは既に開通済みと言う事だ。期間にして一月にも満たない期間しか抱かれていないが、開発されまくっている雪華。対して自分は、夢の中では猛烈な追体験を行う事ができたが、実際には手を触れる事すらしてもらっていない。

 それがあまりに悔しくて、「今度は初体験の事を語り合いましょう」と約束して目を覚ましたのだそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 これはひどい。

 

 

 

 

 …いや、一旦そっちからは視線を外そう。

 お気づきかと思うが、橘花は俺のループの事を知ってしまった。速鳥が持ち帰った鬼の部位、その主が俺だと言う事も、今までのループで何度も橘花を抱いている事も。

 強烈すぎる追体験は、それを単なる妄想や夢の産物だとは思わせなかった。「これは実際にあった出来事である」と確信させ、追体験毎に変化する乱交参加者や、色々な事から僅かに読み取れる情報は、それが徐々に変化しながら繰り返されている事を想像させた。

 

 …そこはいいんだ。別にループの事が気付かれたって、究極的には困る事じゃない。

 話がややこしくなるから黙っているだけだ。

 橘花なら、ちゃんと相手してやってれば秘密を漏らすような事もないだろうし、全く問題はない。

 

 

 

 問題は、橘花が語る追体験…俺が体験が元になった筈の記憶の中で、全く覚えがない記憶が幾つも出てきたと言う事だ。

 いや、覚えがないというのも少し違うか。日記を何度見返しても、そんなエピソードは無い筈なのに、橘花はそれを見て来たように…実際、追体験した…語る。

 

 

例えば、里が崩壊し、逃げのびた先で悲しみから逃れようとするように、何もかもを投げ出して交わり続け、鬼に囲まれて死んでいった日々を。

 

 例えば、心が折れて戦う事を投げ出し、一般人として過ごしながらも、こっそり橘花に夜這いをかけ強姦から一夜で陥落させ、密かに貢がせ続けた日々を。

 

 例えば、多数の女性と関係を持つ事にまだ躊躇いを持っていた俺が橘花のみと結ばれて、オカルト版真言立川流の加減をしくじって、過去最高の絶頂で息の根を止めてしまった日の事を。

 

 

 どれも、戯言として一笑に伏す事だってできた。今まで死ぬ死ぬヒィヒィ言わせても本当に死なせた事はないし、そもそも最初に橘花に手を出した時には既に那木とも結ばれていた。里が崩壊するような事態なんて、あったら絶対日記に書かれてるし、忘れる筈がない。

 大方、百日夢と神機の欠片の因果が絡まり合って、恐ろしくリアルな夢でも見たんだろう。

 

 …言われる度に湧き上がる、「そう言えばそんな事あったな」という感覚さえなければ、そう断じていただろう。

 

 

 

 そうだ、橘花が言う出来事は、きっと確かにあった事なのだ。じゃあ、どうして俺はそれを覚えていないのか?

 単純だ。

 

 イヅチカナタに、それら全ての因果を奪われ、忘れ去ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ま、予想していた事だけども。

 

 

 そもそもからして、最初の頃のループでは、イヅチカナタの存在すら覚えていなかったのだ。当時からループの終わりには何らかの形で姿を現していただろうに、千歳と一緒だったあの時までそれを思い出す事は無かった。

 記憶を奪われ続けている事は、自覚が無くても予想できた事だった。

 

 ついでに言えば、日記に残っている俺の記録は極端に上手く行っている場合が多い。

 3つの世界は全て命懸けの戦いばかりだと言うのに、俺に関わった後に命を落とした人は、数える程しか居ない。毎回俺が始末してた汚ッサンとか。

 これは俺が上手く働きかけられるようになった結果もあろうだろうけど、仮に失敗したらその時の因果を奪われてしまっていたのではないだろうか。上手く行った時の事しか記憶に残ってないだけなんだな。

 

 死人が出るような、人間関係にせよ咄嗟の行動にせよ、何かが上手く回ってないようなループであれば、そう長く生きる事はできず(今でも1年まで到達できた事はない)、その因果の全てを奪われる。

 過去の日記の長さからして、クサレイヅチが一気に吸い取る因果の量は……腹の減り具合にもよるだろうが、恐らく3か月以下。それより早く死んでしまったり、或いは相応量の因果が結ばれていなかったループは、綺麗サッパリ忘れ去ってしまっていたと言う訳だ。

 

 そして橘花の語った追体験は、俺の体に残されていた僅かな因果まで辿った結果だろう。

 

 

 

 

 …奴に食い物にされていると言うのは心底業腹だが、そうしてみると悪い事ばかりではないのかもしれない。少なくとも、生きる気力を削ぎ落すような重い後悔を背負わずにいられたのだから。まーだからってブッコロすのには変わりない。

 

 

 

 

 さて、その手の話が終わり、橘花も取り敢えずは雌の悦楽を堪能しきって満足し、後始末まで終えて。

 で、橘花。結局ヤりたかったから俺を呼び出したのか?

 

 

「ええ勿論です。今の私に、あなたと共に淫悦に耽る程重要な事はありません。全てはその道具、糧。私も姉さまも里も鬼も霊山も、全てはあなたと身も心も蕩けて交じり合う為に…」

 

 

 …どうしよ、こいつ…。

 

 

「と言うのは流石に冗談です。卑猥な事を楽しむには、日々を健全に生きてお役目を全うする事が肝要と教わりましたから。なんでしたか、三千世界の女を贄とし、あなたと乱交させてみたい? あなたに体を捧げさせたい? それとも見せつけたい?」

 

 

 それ健全に生きてねえよ。冗談はともかくとして、結局何がどうなったんだ。

 俺の因果はともかくとして、千里眼で何が見えた。

 それとも、もっと別の話か?

 

 

「いえ、あなたのお話です。…過去の因果を追体験する事により、色々な事が分かりました。速鳥様が見た非常に危険な鬼とやらがあなたである事も、そのあなたが追っているイヅチカナタという鬼の事も、これから起こる襲撃や、鬼達が企てている二度目のオオマガトキの事も。…過去の追体験でしかなかった以上、あなたが知っている事以上の情報はありませんが…代わりに、協力する事はできます。お頭に報告するよりも先に、その相談をしたかったのです」

 

 

 ふむふむ。例えば?

 

 

「千里眼であの部位を見た事により、イヅチカナタという鬼の存在を知ったと伝えるのです。どのような鬼かは…捏造する必要もありませんね。あなたが追っている鬼であり、今はこのウタカタの里の近辺に潜んでいる。因果を奪い取る能力を持ち、一度使われると戦う事すらできない凶悪な鬼。そうですね……この鬼が主導し、二度目のオオマガトキを企んでいる、と言うのはどうでしょう? 全くの嘘という訳ではありませんし、どの道この鬼の能力は、どうやら神垣の巫女の結界すら素通りする様子。あなたの事がなくても、放置していれば確実に里に破滅を呼び込みます」

 

 

 なるほど。俺が個人的に鬼を追う訳じゃなく、ウタカタの里からの支援が受けられる訳だ。

 確かにそれは大きな違いになりそうだ。クサレイヅチの存在を信じさせる事ができれば、俺の行動範囲は大きく広がるだろう。

 その未知の鬼に対して、最もよく知っているのは間違いなく俺……いや、虚海ならもう少し知っている可能性もあるか? 奴を追う為と言えば、色々な行為が是認されそうだ。

 …一応言っておくけど、自己正当化や悪行を誤魔化す為に使うつもりはないぞ? 色々やらかしてはアレな意味での信用信頼を積み重ねている俺だが、これに関してばかりは虚偽も誇張もする気はない。イヅチを追い詰めるにせよオオマガトキを防ぐにせよ、その策を実行しようと思ったら……俺の考えが正しければ……人と人との繋がり以上に重要なものはないのだから。

 

 

 とにもかくにも、俺は橘花の提案に乗った。拒否したら拒否したで、何をやらかすか分からないしな。まぁそもそも拒否する必要を感じないのだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました。ご心配をかけたにも関わらず、起き抜けに引き籠って申し訳ございません」

 

「ぎ、ぎっがぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「ああ、姉さまったら童のように泣き喚いてしまって…。ほら、ちーんです、ちーん」

 

 

 感極まって抱き着く桜花を宥める橘花。…昏睡に陥る前と違い暖かく受け止めてくれる事もあって、桜花の感情は暴走状態に陥っているようだ。幼児帰りでも迎えたかのように泣きまくっている。

 出迎えた皆も、それぞれ心配したんだぞ、起きてよかったと思い思いに声をかけている。

 それだけ心配させていたのだと自覚して申し訳なくなっている橘花だったが、騙されてはいけない。

 

 

「それにしても、目を覚ますなりこいつを呼んでくれとはね。何かあったのかい? ウタカタ一の伊達男すらお呼びでないとは、尋常な事じゃなさそうだが」

 

「いやですわ、息吹様。何かあったもなにも、半刻も経っていないではありませんの」

 

 

 …こんな顔をしながら、巫女服の下ではたんまり注ぎ込まれた上に塗りつけられた精液の感触を存分に楽しんでいるのだ。

 

 

「? いや、ここで何かあったのかって事じゃなくて、俺達を締め出して、こいつ一人を呼びに行かせるようなものが見えたのか、って事なんだが」

 

「あ、あら? ほほほ…」

 

 

 誤魔化し笑いを浮かべる橘花。常識的に考えれば、そっちを聞かれていると思うよな。頭が色ボケたままである。

 それでも一つ大きく咳払いをして、橘花は大和のお頭を中心とする皆に向き直った。桜花も何とか立ち直り、話を聞く体勢に入っている。

 

 

「大和のお頭。この度の千里眼で見えた事、改めて報告いたします:

 

「うむ。…ああ、だが一つその前に禁じておく事がある」

 

「は、なんでしょう?」

 

 

 大和のお頭は、じろりと俺に目を付けた。腕を組み、普段以上の威圧感を放ちながら断言する。

 

 

「今回の話、こちらから求めるまではお前は口を挟むな」

 

「お頭…? それはどういう事でしょう? この方は、何も責を受けるような事は…………今回に限っては、していないと思うのですが」

 

「そうだな。それどころか、百日夢の症状を言い当て、呪っていた鬼も見つけ出し、更には押し寄せた鬼達の撃退の為に大暴れした集団の長だ。これで『お前は口を挟むな』は、筋が通らねぇだろ」

 

 

 那木と富獄の兄貴が援護してくれるが、俺としては背筋に冷や汗が流れていた。とうとう本気で怪しまれたか?

 

 

「分かっている。何かと問題がある奴だが、今更間者の類だとは思ってない。だが、目を覚ました橘花が、何もかもを差し置いてまで呼び出したのも事実。少なくともこの件に関して、事情を聴かねばならん。何故呼び出したのか、何を話す為だったのか、何故それを秘匿しようとしたのか。橘花、この件に関して黙秘は許さん。そして、お前もだ。…お前は口が上手い訳でもないのに、話を脱線させるのが妙に上手いからな」

 

 

 好きで脱線させとるんとちゃうわい。

 

 

「…俺は口を挟むな、と言ったが?」

 

 

 

 へーい。まぁいいけどな…。

 (打ち合わせしてなかったら、かなり話が面倒になったかもしれんな…。打ち合わせしてても、橘花に嘘がつけるかすっごい不安だけど…)

 

 

「承知しました。お話します。……と言うより、元より話してもいいか許可を得る為に来てもらったのです。この方の過去に、深く関係するお話ですので」

 

「ほう…。

 

 

 さて、橘花の大根役者っぷりで誤魔化せるかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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497話

人物紹介は投稿規約に引っ掛かってしまった為、異伝に移動させました。
ご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした。


あと、P5の短編を何となく書いて投稿しました。
あまりに雑すぎて怒られないか、ちょっと不安です。
執筆時間3時間。
狩りゲーの展開がちょっと詰まってたんで、いい気分転換になりました。

これも外伝扱いにしようかと思い、そっちのルートも考えていたのですが、どうにも異物感と言うか余計な物を付け足している感が否めず、路線変更して短編の形に仕上がりました。


 

 

 ごめんなさいナマ言いました。

 大根役者だなんてとんでもない。千両役者もいいところだ。

 女は皆女優だって言うけど、あれが基準だったら俺でもちょっと女性不信になってしまいそうなレベル。

 

 別に、橘花が急に饒舌になった訳じゃない。むしろ、今まで通りの世間知らずで純粋、蝶よ華よと育てられたように見えて神垣の巫女の重圧に折れかけていた、しかし自ら歩む道を見つけた事で強さを身に付けつつある少女……長ったらしいから一言で表すと、昏睡に陥る前の橘花そのものだった。

 だからこそ、大和のお頭達は疑わない。橘花の中身が、全てを俺の為の贄とさえ考える魔性菩薩モドキになっているなど夢にも思わない。

 橘花がたどたどしく説明する内容も、俺の許可を得ないと話せない…と思うに充分だった。

 

 

 

「まず、ご存知の通り私は千里眼を使いました。ですがすぐ傍に強力な縁の塊があり、それに術が引き寄せられてしまったのです」

 

「…拙者が持ち帰ってしまった、あの鬼の部位…でござるな…」

 

「…そう、とも言えます。違うとも言えます」

 

「む?」

 

 

「問題だったのは、その鬼ではないのです。まず…速鳥様が見た鬼は、元は人間だったようなのです」

 

「なんだと!? どういう事だ!?」

 

「千里眼で見えたものは、途切れ途切れの上にひどく前後し、更に複数人の視点が入り混じっていたようなので、私が強引に繋ぎ合わせた部分も多いのですが…恐らくは、まだオオマガトキが起きていなかった頃の事と思われます。

 とある村が、一匹の鬼に襲われました。モノノフどころか戦う術を持つ、所謂武士すら居らず、あっという間に滅ぼされてしまいます。

 …この鬼には、恐ろしい能力があるようなのです。それは時空を超え、因果を奪う能力…らしいです。いえ、私がそう結論付けたのではなく、この方が。因果を奪うと言われても、正直私にもわかりかねますし…。

 

 ともあれ、襲われた村が幾つもあるのですが、その中の数人が生き残りました。ですが彼らは因果を全て奪われており……その、忘失したような状態だったようなのです。

 何もかもを忘れ去り、それでも新しい人生を歩む方々でしたが…またしても同じ鬼に襲われ、全てを奪い去られます。

 

 それが何度も続くうちに、人である事すら奪い去られ、それでも生き続けた方が何らかの呪いの類を受け…変質していく。僅かに残されているのは、その鬼が奪い切れなかった憎悪のみ。

 今でもその方は、己を鬼へと貶める原因となった鬼を探して異界を彷徨っているのです」

 

 

「…胡散臭いとか辛気臭いとか、御伽噺じゃねえんだぞ、って感想は置いといて…その話をするのに、何だってこいつの許可を取るってんだ。こいつがその鬼だって訳じゃあるまい」

 

 

 

 (…勘のいい兄貴は嫌いだよ…嘘です嫌いじゃないけどヒヤヒヤものです)

 

 

「変質した鬼の元となったと思われる人は…この方の、親しい方だったと思われます」

 

「思われる? …本人は何といっているのだ」

 

「分からない、と。何分、この方も因果を奪われた被害者ですので」

 

「…む?」

 

「イヅチカナタ、と…誰が呼んだかも分かりませんが、そう名付けられたその鬼は、幾つもの時代を回遊し、多くの人々とミタマを喰らいます。…その一人がこの方です。何の因果か因縁か、全てを奪い去られる事を免れて、仇を討つ為に追っているのです」

 

「待ちなさい、橘花。それっておかしくない?」

 

「何がでしょう、初穂様?」

 

「その、危険な鬼が最初は人間で、こいつと友人とかだったとして…それって何年前の事なの? 何度もそのイヅなんとかに襲われて、鬼になるほど変わってしまったなら…どれくらいの時間が…」

 

 

 (…初穂の顔色が悪い。まだ半信半疑ながら、もしも本当だったら…と思っているんだろう。つまり…俺も初穂と同様に、時を超えた迷い子なんじゃないか、と)

 

 

「これもまた、当時の記憶が殆ど無いそうなので、よく分からないのですが…どうも時空を回遊する時の何かに巻き込まれたのだと思われます。この方が未来…つまり今に飛んできたのか、その鬼になった方が過去へやってきたのかは分かりませんが。いえ、或いはその両方かもしれません。どう見ても、何といいますか……今の日ノ本とは明らかに違う文化も見えましたので。それも、一度や二度ではありません」

 

「…つまり、こやつもイヅチカナタに因果を幾度も奪われ、それでも追い続けていると?」

 

「はい。奪われるから追うのか、追いかけるから追いつく度に奪われているのかは判然としませんが、その鬼を追ってこの里までやってきたのです」

 

「…つまり、この里近辺にその鬼が居ると? …口出しを許す。見解はどうか」

 

 

 ……あ、俺ね。はいはい。

 大筋は間違ってない。…少なくとも、俺が把握できている範囲では。あのクサレイヅチの生態なんぞ、調べようにも調べられんし…。

 古文書とかにも少しばかり記述が残ってるだけだしな。歴史の変わり目と称されるような場所についての書物に、ちらほら残っている。俺以外にもそいつを追って戦っている、翠瞳の乙女なんてのも一緒に書かれていた…ような気がする。

 

 奴がこの近くに居るのは、多分間違いない。俺も奴とやり合ってる間に、この辺に狙いをつけたらしいって言うのを………なんだっけか、誰かに教わったんだったか? 鬼がべらべら喋る筈もないし…すまん、多分この辺の因果を奪われて記憶が曖昧になってるんだ。(スットボケ)

 ただ、速鳥が見たあいつが近所に居るなら、十中八九間違いない。(マガオ)

 

 

「…かの鬼との関係を黙っていた理由は? 知っていたなら、その危険性は拙者以上に熟知していたであろう」

 

 

 言ったところで何も変わらんし、何より俺もよく分かってないから。

 因果を奪われて忘れ去ったんだか、元々関係なかったけどクサレイヅチを追いかける内に顔見知りになっただけなのか、何がどうなってああなったのかよー分からんのだ。(実際、何故変身制御できるようになったのか今でも不明)

 

 あと危険性については……まぁ、なんだ、色々と余波はあるけど、こっちからちょっかい出さない限り、人間相手に暴れる事はない…基本。

 

 

「最後の一言が非常に不安なのだが……しかもその余波が大きすぎる。…異界を一つ丸ごと消滅させるような余波を、余波とは呼ばぬ」

 

「異界を…? 速鳥、それはどういう意味だ」

 

「待て、桜花。それについては後から俺が話す。話が脱線しているぞ。お前も暫く黙れ」

 

 

 黙れと言ったり喋れと言ったり面倒な人だねもう…。はいはい分かりましたって。

 

 

「問題のその鬼が、近くに居る…。近い内に里が襲われかねない。こいつはそれを追って来た。俺達に話すよりも先にこいつを呼んだのは、それを確かめる為だったのだな」

 

「はい。そして、内容が内容なだけに、無断で吹聴するような事でもありません。話すにしても、事前の許可が必要だと考えました」

 

「…橘花は、何というか本当に変わったな…。今までであれば、自分で判断する事すらできなかったのに…」

 

「姉さま、誰だって人は変わるし、成長だってするものです。必要に迫られれば、どんな優柔不断な人だって、勢いに任せただけだったとしても選択します。夕餉を魚にするか野菜にするかだって選択です。私は自分が選んでいた事に気付いて、慣れてきただけですよ」

 

 

 ………(これ、本性隠してるんだよなぁ…。しかも隠れて発情しているという状況に興奮する。無限ループか)

 桜花は妹の変わりように思う所があったのか、改めて物思いに耽る。自分も何か変わらないといけない、とか考えているんだろうか。

 まぁ、冷静になったようで何よりだ。

 

 

「ふむ……他に見えたものはあるか?」

 

「ええっと……この方とイヅチカナタの印象が強くて、霞がちだったのですが……やはり鬼には頭領…と言うより、指揮官が居るようです。そしてその指揮官が目論んでいるのは…………ええっと…何か塔が見えたのですけど…」

 

「塔? ……おい、この前ミズチメをぶちのめした時、お前が見つけた建造物、確か『塔』って呼んでたよな」

 

「その『塔』とは、どのような? …金属質で、中に人が閉じ込められている? では恐らく別物です。私が術で見た塔は、人が技術で作った整えられた物ではなく、鬼が集めてきた瓦礫や石を奇妙な力によって固定し、乱雑に積み上げていった異形の塔です」

 

「その塔とやで何を企んでいるかは?」

 

「分かりませんが…ただ、イヅチカナタがその近くに居るようなのです。これは、どういう事だと思われますか? 例えば、イヅチカナタが他の鬼達を…指揮官級の鬼さえ従わせる黒幕だとか…」

 

「…意見を許す」

 

 

 はいはい。

 クサレイヅチは、俺が知る限り他の鬼と絡む事はあんまりないな。何せ時間と空間を回遊する鬼だ。鬼達も多少はその手の能力を持ってるのが居るようだが、あいつのは次元が違う。

 しかし……前にも同じような事があったな。大量の鬼が集まって、何かをしようとしていた時にその場に現れた。いや、鬼だけじゃない。大量の人間が集まって争う場所なんかが、あいつにとっては最高の餌場なんだろう。良くも悪くも因果で溢れかえるだろうからな。

 

 

「ケッ、鬼も俺らもそいつの餌になる為に生きてんじゃねえよ。だがしかし、確かに鬼からも村八分にされそうな鬼だな」

 

 

 …橘花、見えた塔はどれくらい完成していた?

 

 

「異形の塔なので、正直なんとも…。ですがまだあまり大きくはありませんでした。大型鬼の半分にも満ちません」

 

 

 そうか、んじゃ奴らの企み成就まではまだ時間があるとして…。その時点でクサレイヅチが待機してるとなると、相当でかい企てだな。人間側もそれを潰す為に必死に攻め込むから、更に因果が増えるだろう。

 悪い想像をしていけば、その内正解に当たりそうだな。検証ができないから意味ないけど…。

 

 

「悪い想像か…。異界の拡充?」

 

「鬼の拠点作りとか」

 

「単純に、里に大挙して攻め込んでくる?」

 

「それだと塔を作る必要もないし、里の近くで待機するんじゃないか? …鬼の強化?」

 

「わざわざ塔を作る…なんかこう、お祭りとか儀式的な?」

 

「鬼にその手の文化があるのか疑わしいが…でも獣が集まって何かの集会を開く、みたいなのは結構聞くな。蛇の交尾とか」

 

「鬼の乱交とかやめろよ気色悪い。それよりも、なんかこう…鬼の大物を呼び出すとかじゃねえか?」

 

 

 …呼び出すって、どこから?

 

 

「どこって、そりゃあ…………」

 

 

 

 富獄の兄貴の口が止まり、顔色が変わる。言葉の先を察した皆も、一人一人気付いて行ったらしく、顔が歪んだ。

 

 鬼の大物を呼び出す。これが正解であるなら…今考えられる尤も最悪な展開。塔の力によってか、儀式によってか、『向こう側』への道を開いて、自分達の大将を人の世に呼び出す事。

 『向こう側』への扉が開く…つまり、過去の大災害の再来。

 

 

 二度目のオオマガトキ。

 

 

 これが正解でなかったとしても、例えば鬼達は『向こう側』への通路を開いて、帰ろうとしているのかもしれない。

 ひょっとしたら、オオマガトキなんか欠片も関係なく、ただ何となく岩を積み上げていくだけなのかもしれない。

 

 だが一度想像してしまった以上、その可能性を無視するのは危険すぎた。的外れであったとしても、もしかしたらという疑念は消えない。

 万が一、億が一、実現してしまったら…人は滅ぶ。今度こそ、どうやっても、例え最後の一人まで死兵となって抗い続けたとしても、溢れかえる瘴気と鬼の軍勢の前に、住める場所を完全に失ってしまうだろう。そして瘴気の中を彷徨って、いつしか息絶える。

 

 

 

「…真偽は分からん。分からんが、これは見逃せん…!」

 

「大和のお頭、これは…」

 

「うむ。だがまずは捜索から始めるしかあるまい。鬼が何かを企んでいるなら、何であろうと見逃す事はできん。ただ内容と標的が分かりやすくなっただけだ。動じる事はない」

 

 

 流石に落ち着いていらっしゃる。まぁ、色々言っても結局はそこに落ち着くよね。

 これからの対応は順次決めるとして、俺は暫くうちの子達の生活環境を整える方に集中してもいいだろうか? 勿論、必要とあらばすぐに参戦する。

 橘花が起きたおかげで結界も復活して、警備で働き詰めだった子達を労いたいし、家だってまだ完全に直った訳じゃない。(それでも普通の住居より快適な部分はあるし、プールだの体育館だのもある)

 新しく発見された子達を迎え入れる準備もしなけりゃならん。

 

 

「構わんが…全員受け入れる気か?」

 

 

 段階を踏んで、最終的には…ああ、勿論本人の希望が最優先だが。

 全員まとめて一度に、じゃない。流石に最初は試験的に、一人二人起こして様子を見るつもりだよ。

 

 

「……まぁ、いいだろう。希望があれば、ウタカタの里でも受け入れよう。…お互いに、人数の限度を見誤らないようにな。だが、お前が最も優先すべき役割は…分かっているな?」

 

 

 はいよ。そっちの準備も出来たら始めよう。その時は声をかけてくれ。

 

 この後は、細々とした打ち合わせ、確認事項が続き、一度解散となった。

 目覚めたばかりの橘花は、体力が落ちていたり、何か気付かない不調があるかもしれない(その割には起きてすぐ摘まみ食いしたり、俺とズコバコしていたが)と言う事で医者にかかる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………冗談じゃねーぞ…何よあの変貌っぷり。今までの橘花の中でも格別どころの話じゃない。

 どこからどこまで狙って話を運んだのか分からないが、クサレイヅチの存在を信じさせ、俺とクサレイヅチ、そしてアラガミ化した俺の関係をでっちあげて納得させ、あまつさえ過去のループで得た情報(つまりゲームストーリーの塔、オオマガトキ第二段の目論見)まで話に混ぜ込んだ。

 そして一切疑いを持たれていない。俺から見ても、不自然なところは……まぁ、最初に色ボケて勘違いした返答をしたところ以外は無かった。

 

 …万一、橘花が離反するなり、ガチで全てを悦楽の糧にしようとして内側から引っ掻き回し始めたら、冗談抜きで防げる気がしない…。ここの連中はお人好しで、滅鬼隊にもその手の謀りに強い奴が居ないから猶更…。

 これはしっかり手綱を握っておかないと。

 

 医者に行く去り際に、チラリと流し目で秋波を送られたが、誰にも気付かせていなかった。

 いやすげぇよ本当に…。自分自身を演じるとは言え…いや、だからこそ猶更難しいのか…アカデミー賞も狙えそうな演技だった。

 一体、どこであんな演技なんぞ覚えて来たのやら、元の橘花は…前ループの中でも、演技どころか鯱張った喋り方すら苦手な子だった筈なのになぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 追記

 

 

 夜這いをかけた時に聞いてみたところ、忘れ去ったループ内で俺がコスプレックスやイメージプレイの為に演技を仕込んでいたようだった。…怪物作っちまってるやん、俺…。

 

 



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498話

 

堕陽月参拾溌日目

 

 

 さて、オオマガトキを引き起こす塔の捜索はウタカタの皆に任せるとして…尚、いつもの単騎特攻をしないよう大和のお頭に厳重に釘を刺してもらった…、生活環境の立て直し、増築に専念する。

 優先順位としては異界浄化が先なのだが、それを見分するウタカタの人と、博士の準備が整ってない。

 

 …博士に関しては、割と真面目に早くしてほしいんだけどな。

 今のところ仕事らしい仕事もせず、滅鬼隊頭領である俺に対して無礼な態度を取る、俺以外に対しても横柄な事ばかり言う、挙句の果てには大々的に許可を出したと通達しているとは言え、物資を勝手に持ち出して怪しげなガラクタを弄り回して甘味をくれ甘味をくれと言う始末。…うん、示しがつきませんね! 持ち出す物資がまず役に立たないガラクタばかりと言うのが唯一の救いだ。

 あんまり口うるさい事は言いたくないが、単なる怠け者を意味も無く優遇していると思われるのも問題がある。早い所実績を作ってほしい。

 助手扱いになったグウェンと真鶴が常識的な対応をしているから助かっているが、このまま放置するのも目に余る。

 

 

 とは言え、博士も完全に傍若無人にやってる訳じゃないんだけどな。今までの経験からか、パトロンの重要性はよく知っているらしく研究費や材料を都合する俺の言葉はある程度聞き入れてくれる。…解剖するな、実験台にするなという要望以外は。あと俺を実験台にするのが無理なら、他の隊員で試そうとするから、これについては要望を引き下げた。別にうちの子達を犠牲にするのは…って事じゃなくて、この中では俺が一番博士を(悪い意味でも)信用・信頼しているから、余計な拗れが少ないだろうと思っただけだ。

 …エジソンとかフライト兄弟とかを援助している人って、こんな気分だったのかなぁ。役にも立たないガラクタを弄り回す、社会不適格者の浪費癖持ちにしか見えないもんなぁ…。

  

 博士に今やっている研究の内容を聞いてみたところ、大きく分けて三つ。

 一つ目、異界浄化について。これは俺が近日中に実際にやるので、詳細な資料を記録する為の前準備と言った方が正しい。

 二つ目、鬼の手について。前ループでは取り外しが出来ず(正確に言うと、無理に取り外すと大爆発を起こす)、量産できない構造だったが、その時の資料を活用して更なる機能の追加・コストの削減を目論んでいる。これも遠からず完成しそうだそうな。

 そして三つ目、廃材のリサイクルについて。異界で拾い集めてきたガラクタを、分析して(←分かる)浄化して(←分かる)自動的に(←分かる)合成する(←コレガワカラナイ)………まぁ、所謂錬金釜だな。埴輪と剣を合成して華を作るとか、よくよく考えてみると色んな意味でとんでもない事やってるんだが、更に深く考えると魚と草を合成して火薬を作ってる俺達も同類だった。…いや、同類…か? MH世界の調合はまだ、途中の加工経過をすっ飛ばしてるだけと思えば納得できる(効力はともかくとして)部分もあるが、こっちのは根っこから性質が変わってないか? …錬金調合も似たようなもんか。うん、この考え止め止め。

 まぁ、今のところあんまり成功率は高くないらしいけど。…調合の書でも組み込んでみるか? ……あれ、そう言えば最近持ち歩いてなかったけど、 ふくろ にも入ってなかったな。どこやったっけ…………ああ、そうだ。マイクラ能力を得た夢で、艦娘達に預けたんだっけ。失敗が多い開発が簡単に成功できるようになったと大好評だった。ちなみに調合所の何冊目まで持っているかで、出来上がる装備や建造される艦娘の種類もある程度指定できるようだった。そのシステムくれ、他のゲームでも。

 

 

 博士の研究は、周囲からの反感を抑えながらもじっくり進めてもらうとして。

 新しく作り直す住居をどうするかねぇ。

 

 この際だからと、隊員達にアンケートを取ってみた。実現可能かどうかは二の次、仕事の為の要望でも個人的な要望でも構わない…という条件で意見を募ってみたところ、以前に比べて色々な意見が出てきた。生活するうちに、やっぱり皆して成長してきてるんだな。

 具体的な意見の内容は、下記の通り。

 

・個室が欲しい。

・厠を増やしてほしい。どう考えても人数に対して足りていない。

・面倒な作業を省略したい。

・最近釣りに嵌っているので、釣り堀や専用の道具一式がほしい

・酒造りに興味があるが、方法を知らない。調べ方も分からない。

・遊戯道具を増やしてほしい。

・道場の鍛錬だと、想定できる状況が限られる。あちこちに障害物や段差がある鍛錬場が欲しい。

・男を増やしてくれ。前にも言ったが肩身が狭い。

・里の友達と遊びたい。里で遊ぶならいいんだけど、何故かこっちに遊びに来るのを躊躇う事が多い。何とかならないか。

・いつも同じ武器を使っているが、連携の為にも他の武器の事を知るべきだ。練習用の、刃がついてない武器がほしい。

・連携を言うなら、里の連中の事もよく知るべきでは? 交流の場を設けてほしい。

・べんきょーしたくねぇ。書類仕事も嫌だ。鬼燃やしたい。喧嘩でもいい。

・もっと夜伽に呼んで、あ、い、今からなんてあぁぁぁ~~~

・…役得だったじゃない。まぁ私達ももっと呼んでほしいのは確かだけど、現状だと任務についている子、不安定な子が優先的に呼ばれます。逆に任を受けず、安定している子はまだ呼ばれた事のない子も居る。不平等感は解消しておくに限り…あっ、ちょっ、私まで…はい、ご奉仕いたします…。

・秘書執事さん達も大分仕事ができるようになったので、人を纏める立場から一戦力に戻りたい。

・木綿季が自分だけの体が欲しいってよくぼやいてるんだけど、どうにかならない?

 

 

 

 ふーむ、色々出たのぅ。厠は最優先で増やすとして、個室は前々から言われていた。やはり情緒が育ってくると、4人部屋でも人の視線が気になる事も多いようだ。

 趣味に関しては、たたらさんを初めとした里の協力を仰ぐしかないだろう。幾ら俺でも、趣味のHow To本までは持ち歩いてない。マイクラ的能力で何か作れるかもしれないが…。

 

 男性の数を増やしてほしい、と言うのは骸佐の要望だな。新しく発見された滅鬼隊には男性も居たが、連れてくるのは少し待ってほしい。それでも焼け石に水だし、封印されているのも女性の方が圧倒的に多かったけど。

 ただ、里との交流の場を増やせば自然と男性も増えるだろう。息吹みたいに、美人さん目当てに寄ってくる連中だっているだろう。今は美女美少女の巣窟のど真ん中に入り込むのに気後れしているだけだろうから、人数を調整できる場所を準備すればいい。

 

 …そう言えば何だかんだで全然話を進めていなかったが、ウタカタとの練武戦を計画してたっけな。そろそろ本格的に準備してみるとするか。

 上手くすれば、武器の使い方についての交流にもなるだろう。…うちの連中は頭に血が上りやすいし、シノノメの里みたいに本物の武器で斬り合わせる訳にもいかん。練武戦で使う道具も兼ねて、模造品を作りますか。或いはネタ武器……ネタ武器って安全かな? 鬼に通用するくらいの威力はあるし。

 これに関しては俺がマイクラ能力でどうにかするより、匠の手を…爆発する方ではない…借りた方がいいだろう。

 

 事務処理が面倒だって話は……うーん、どうしようかな。秘書執事チームにせよ、任務に出ている子達にせよ、それなりに出来るようになってきた。

 記録や書類から得られる情報の重要性も徐々に浸透してきているし、効率が悪い所は変えても別に構わない。

 問題は、それによってまだ任務に参加した事のない子達や、情報の重要性が理解できてない子達の意識改革が遅れる事。

 書類仕事してれば理解できるってもんでもないが……。

 

 …そうだな、充分と認められた子達に関してのみ、簡略化した方式の書類を使えばいいか。これには戦闘能力の高い低いは関係なく、筆記試験の類により合否を判断するものとする。

 この試験の問題は、滅鬼隊の物に限らず、過去の記録をいくらか準備し、「この記録から類推される危険と、その対策について述べよ」みたいな感じでいけばいい。場合によっては、一緒に試験を受けている者と相談するのも許可する。

 書類の形式はまた今度でいいか。今は生活環境の改善が優先だ。

 

 

 問題は…神夜と明日奈だよな…。

 神夜については、要望を聞いても別に構わない。今まで、主に生活面で皆の面倒を見てもらっていたが、大分自立してきた。

 隊員内でも多少のイザコザはあるものの、保護者が出張る必要がある場面は少ない。そうした状況であれば、うちの子達は自分から相談に向かう。神夜なり明日奈なり詩乃なり、秘書執事チームなり…。一番多いのは、何だかんだで神夜のようだが。

 相談と言う形であれば、神夜が纏め役から降りても問題はない。一緒に生活している、慕っている相手に助力を請うのは何もおかしな事ではないしな。

 

 うん、結果的には変わらないんだから、別に問題ないだろう。纏め役から、相談役になるだけだ。

 

 

 明日奈の要望は……これ、どうすっかなぁ…。

 木綿季の体、か…。幾ら俺でも人体練成はできねーよ。

 でもどうにかしてやりたい所ではある。明日奈と一緒にシノノメの里からついてきて、時々体を使って遊ばせてもらっているとは言え、木綿季にとっては退屈極まりないだろう。元が活発で、猫のように気紛れに歩き回る子だ。

 せめて、自由に歩き回れるようにしてやりたいんだが…。

 これは俺一人じゃ、どう考えても無理だな。茅場とか博士とかに相談してみよう。ちゃんと相談に乗ってくれるかすら怪しいから、何か対価を用意しておかんとな。

 

 

 

 次に…夜伽の数? 夜は呼んだ皆を限界まで善がらせた後、まったりピロートークしてるから、これ以上人数増やすのも困りものなんだよな。

 だから、日中にスキンシップを取りに行きます。隙あらば茂みに連れ込み、飯時に机の下で足を延ばしてイタズラし、厠に行けば飲ませたり眺めたり。何をしてても何処に居ても、解釈次第でエロは可能だ。

 残弾無限で時間もほぼ無限。後は積極的に機会を作りに行くかどうかだけだ。尤も、義務としてヤる気はないけどね。

 

 

 

 

 さて、今考えるのはこれくらいでいいだろう。後は一日、建設建設建設だ。

 さぁ、まずは図面を引くぞぅ! 鬼に襲われてまた壊されないように、地面まで頑丈に! 敵の侵入を検知するレーダーと罠を備え! なんかこうカモフラージュ機能も付けて! 変形合体まで行けるか!? 秘密基地を本当に作るみたいで夢が広がるなぁフゥハハハハハ~~!!

 

 

 

 

 

 そういや俺、図面引けなかったんだ。大淀たすけちくり~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ 色ボケ建築中 ~

 

 

 

 

 気が付けば朝だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、そういう訳で新築のお披露目です! 俺が一晩でやってしまいました! ……しまいました!

 ぱちぱちと疎らな拍手の音が響く。

 

 新築の家の前に勢揃いした隊員達。「またやったよこの人」って顔をしているようにも見えるし、「俺達はあんなに苦労して家を直そうとしているのに、たった一晩でここまでやっちまうのか」って顔にも見える。まぁ明らかにチート技の領域だしな…。

 

 

「あの、若様…」

 

 

 ん、どうした天音? 何か追加の要望でもあったか?

 

 

「いえ、そうではなく…不平不満と言う訳ではないのですが、何といいますか……代わった形式の家ですね。最初に若様が作ってくださった家もそうでしたが」

 

 

 ああ、まぁね。日乃本じゃまだ普及してない形だし。

 今回の家は、所謂アパート形式です。狭い土地で、個人個人の空間を出来る限り広く取るつもりで作りました。

 3館に分かれた3階建て。3つの館を渡り廊下で繋いでいて、真ん中の館入り口は、大きめのエントランスとなっています。また、破壊された家にあった個人宛ての手紙入れもこちらに移設します。…今日の夜には異動させるので、それまでに各自自分の手紙入れを確認、中身を回収しておくように。

 また、今後は全体に向けた通達も、ここの掲示板に張り出します。個人的に皆に知らせたい事がある場合、皆も張り出しして使ってくれて構わない。ただしいつまでも張り続けるんじゃなく、基本的に3日以内に自分で回収するように。

 

 さて、肝心の設備の話だが、それぞれ一人に一つ分の部屋を宛がった。勿論、今までみたいに何人かで一緒に住むのも構わない。その場合は、破壊されたままの家を直して使う事になるが…こっちの作業は君らに任せる。

 各部屋には、要望があった厠・簡易式の風呂を設置、当然水道もある。最上階でも摘みを捻れば簡単に水とお湯が出るぞ。台所もあるので、やろうと思えばそれぞれ独立した暮らしを送る事ができます。食材確保とかで、外出はせにゃならんけども。

 窓は南向きで日中は安定した明るさ。夜になっても何らかの作業を行いたい場合、壁に据え付けられた装置を使う事により、明るく安全な光が部屋を照らします。…火事の危険があるので、蝋燭を使った夜更かしは禁止とします。

 内装は個人の趣味に任せるつもりなんで、とりあえず箪笥を一つ置いている。

 

 壁は防音機能を重視していて、多少騒いだ程度では隣に振動も届きません。冬は暖かく夏は涼しい素材……と言いたい所なんだが、流石にそれは難しかった。

 しかし近日中に部屋の温度調整機能を実装するつもりです。

 それまでは、各部屋に接地した簡易扇風機で耐えてくれぃ。

 

 

「……なぁ、若。さらっととんでもない機能を付け加えてるのはいいんだけどよ…」

 

 

 ん、どうした骸佐。…言われてみれば、時代的にオーバーテクノロジーもいいとこだったな。まぁ何も問題はないが。

 ちなみに紹介してない機能はまだまだあるぞ。

 

 

「その、えんとらんす? とやらに設置されている、これ見よがしに『押せ!』と言わんばかりの『押すな』と書かれた赤丸は何だ」

 

 

 さて、皆に鍵を配ろう。実際にここで暮らすかどうか、どう使うかは皆に任せるが、とりあえず見てみてくれ。折角作ったんだし、一瞥もされなかったらそれはそれで寂しい。

 

 

「おい待て何を放置して話を進めてる何なんだこの赤丸押させたいのか押させたくないのかどっちなんだ押すなと言うならせめて隠せ!」

 

 

 えー、だって押させたくない装置を隠してて、万一見つかると、絶対押すじゃん。「押すな」って書いてても絶対押すでしょ。だったら最初から目につくところに置いておいて、押さないように相互監視させた方がいいかなって。

 

 

「理屈になってるようでなってねえ! 監視ったっていつも誰かが居る訳じゃねえんだぞ! 皆が寝静まった後に、こっそり押しに来る奴が居るに決まってる! と言うか俺が押しに来るわこんなもん!」

 

 

 骸佐は好奇心が強いタイプ、と…。

 

 骸佐が指さす先には異様な存在感を放つ、壁に据え付けられたレトロな形の赤いスイッチ。押す時には「ポチっとな」が礼儀である。髑髏の絵でも描いておこうかと思ったけど、流石に辞めた。…書いていると、ついつい髑髏ではなく黄色地に黒い扇×3個のマークに変えてしまいそうだったから。

 まぁ落ち着け。この手の物を押したくて堪らなくなるのは、押すなと言われるだけではなく、何が起こるか分からないからだ。何が起こるかさえ分かってしまえば、そう気になるようなものでもない。

 

 

「だったらこんな注意書き付けんでも…。いやそれでも押そうとするやつは出るぞ絶対…。で、何が起こるってんだよ?」

 

 

 変形します。

 

 

「変形」

 

 

 合体もします。

 

 

「合体」

 

 

 もうちょっと具体的に言うと、対鬼用撃滅戦略兵器・スタンダップホーム号が起動します。

 

 

「すたんだっぷほぉむごう」

 

 

 動力源は、この地に流れる霊脈を汲み取るエコ仕様、自然にも優しく金もかからない!

 更に具体的に言うと、まず家の外郭全体が超特殊合金に覆われます。同時に、仕込まれた全186の砲門を展開し、砲撃の雨で押し寄せる敵を殲滅!

 博士がいつの間にか作業に混ざって据え付けていた結界石を用いた防壁により防御も完璧、それどころか幾つも防壁を展開して遅滞戦術も可能! 前回の失敗を踏まえて、地下は勿論空に向けた展開を可能とし、更に内部に対する警戒も忘れない! スタンダップホーム号が起動した30秒後に、あちこちにブービートラップやら落とし穴やら釣り天井やらが起動し、内部に入り込んだ小鬼を駆逐する! 当然人間かどうかの判別なんぞつかんので、起動までに脱出するか、各自自力で回避して外に出てくるように。

 館の側面には対大物鬼用に3本の撃龍槍(流石にレプリカ)を備え付け、スイッチ一つで鬼の体に風穴が開くような攻撃もできる!

 

 それでもいよいよ接近されてしまったら、スタンダップホーム号の真価を発揮する時!

 尚、ホームとは異国後で『家』を意味し、スタンダップとは『立ち上がる』という意味!

 

 つまり!

 

 この家の正体は! 人型巨大傀儡なのであるッ!

 三つの館を一つにし、その圧倒的な質量で突き! 蹴り! 斬る! ねじり潰す! そしてフライングボディプレス!

 最大の必殺技は、三つの撃龍槍を最大回転させながらのコークスクリュー、すなわちハートブレイクショット! 心臓を止めるなんて中途半端な事は言わねえ、文字通り抉り抜いてやるぜ!

 なお、そんな大暴れをした日にゃー、館の中にある物は纏めてグッチャグチャだ。

 

 そしてその浪漫の塊の起動スイッチこそが、この赤丸なのであるッ!

 

 

 

 

 

 という脳内設定です。

 

 

「設定なんだな? 本当に単なる妄想なんだな!? 今まで散々、功績と同時に問題事起こしてる頭領だが信じていいんだなこれ!?」

 

 

 いや、それを目指して色々仕込んだのは本当。でもなー、俺がこういう手の込んだ物作ろうとすると、絶対にどっかで捻じれて上手く動かなくなるんだよなぁ。

 実際、こんな所に起動装置を設置する予定なんか無かったし。

 なーんでこんな所にこんなもの出来上がってんだろ。

 

 構造上、動力源は一元にして管理してるから、スタンダップホーム号関係が上手く稼働してなければ、安全装置が働いて室内の設備は全部停止する筈なんだが。

 うーん、予備動力はまだ稼働してないな。動かして暫く様子見して、各種調整を施してから接続しようとしてたんだし。

 

 こりゃ、暫くはスタンダップホーム号関係の機能は落として、改めて構造を把握した方がよさそうだな。

 

 

「是非そうしてくれ…そしてそのまま封印してしまってくれ。どれだけ快適でも、この話を聞かされたら安心して住める気にならねえよ…」

 

 

 結局こっちに住むんかい。…別に、あっちの家を直して使っても構わんのよ?

 

 

「まだ時間がかかるし、一人部屋は俺も嬉しい。特に、自室に居る間なら厠の順番待ちをしなくていいのが最高だ」

 

 

 随分苦労をかけていたようだ。駄目な頭領ですまぬ。あと野糞するなら場所決めないとな。

 

 

「もう必要ねーだろ…。とりあえず、割り当てられた部屋に行ってみるか…」

 

 

 ごゆっくり~。マス掻きするも無意味に全裸で鍛錬するも、部屋の中なら好きにするとよい。

 ああそうそう、俺の部屋は屋上に作った。景色はいいけど、昇るのが面倒なんだよな…まぁ壁を駆けあがっていけるけどさ。近い内に、執務室の書類とかもそっちに移す予定なんで、俺を探している時はそこに来てくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、地下室には茅場の部屋があって、何やら怪しげな実験をしていたりするが……これは黙っておいた方がいいかな。場合によっては博士もこっちに住んでもらおうかと思ってたが、うちの子達との確執が膨れ上がりそうだったから中止した。

 

 

 あと、後日赤丸ボタンの様子を見に行ってみると、周囲で乱闘した形跡があり、ボタンは鉄の箱で何重にも囲われて封印されていた。

 

 

 

 



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499話

人物紹介、一話分更新しています。

あと、物理で解決してみようをちょくちょく続けて執筆中。
うーん、2話目の大筋は書きあがったけど、オチが弱いな…。
一話目みたいに、都合がいいけどシンプルな話になってくれない。
もっとこう、身もふたもない展開を書きたいんだけどなぁ…。


 

 

 

 

 さて、家の事は取り敢えずこれでいいだろう。まだ部屋は余っているから、新しく見つかった滅鬼隊を迎え入れる事もできる。

 家庭菜園も一応準備は出来ている。例によってMH世界の植物なので、育つのが早い早い。肉や魚はともかく、これなら遠からず経済…いや備蓄的な準備も出来るだろう。

 それ以外の問題は、暫く過ごしてみないと分からない。どんなものだって、実際に使ってみないと使い心地は分からないからな。

 

 となると、次の問題は…システム作りかなぁ。基本的には前の暮らしと同じ、掲示板で連絡事項を伝えたり、任務に出るのには浅黄の試験をクリアしなければならなかったり。

 しかし暮らしや部屋が一人一人に分かれた事により、波長歩調が合わせづらくなったのも事実だ。起床時間就寝時間、飯を何処で食うか、ゴミはいつ何処に纏めて捨てるのか。

 仮にも共同生活を送っていたのが、一人暮らしの集まり状態になった訳だしなー。引き籠りだって出るかもしれん。プライベート空間で何をやってるかも分からない。…危険な事でなければ、何してても構わないんだけどさ。

 

 どうなる事かね。実に楽しみだ。子供達の成長を見るのは、実に楽しい…。

 

 

 

 

 

 

 

 子供達の事はさて置いて、だ。いよいよ異界浄化の準備が整ってきた。

 消えては現れる例の塔も、監視しているモノノフ達の報告によれば、頻繁に消える事はなく、消えたとしても暫くすればまた現れるのだそうだ。俺達が突入した直後に消えたのは、本当にタイミングが悪かったんだな。

 今回は目的とする場所も分かっているのだし、浄化も左程時間はかからない。出現した直後に突入すれば、消える前に終わらせる事ができるだろう。

 

 …心配があるとすれば、瘴気が消えた後、塔がどうなるか…だな。消えたり現れたりする現象は、それでなくなるんだろうか? 特に濃い異界の中では、時間を超えるような現象も発生するから、消滅出現もその為だと思ってたが…よくよく考えると確証がない。

 

 

 よし、博士に相談してみるか。どっちにしろ、浄化記録の準備がどこまで進んでるのか確かめないといけないし。

 

 

 

 

 

 

「いくら私が天才でも、実物も見てないのに断言できるか」

 

 

 …まぁ、そりゃそうよね。何やら茅場と難し気な話をしていた博士は、一言でそう切り捨てた。

 

 

「とは言え、大方の見当はついている。私の予測が的中しているなら、塔とやらの消失・出現はまた別の問題だ。瘴気に関わっているのは確かだがな。恐らく、しかるべき処置をしなければ、塔はこのまま出現・消失を繰り返すだろう。異界を浄化すれば消失までの時間は長くなるだろうが、同時に出現までの期間も長くなる可能性が高い」

 

 

 ほほう。流石というべきか…。

 とは言え根拠もなく鵜呑みにする訳にもいかん。

 その見当とは? 結局のところ、あの消える塔は何なんだ? そして、それが正解だとするなら、博士は一体どうしてそれを知っている?

 

 

「異世界だ」

 

 

 …いや茅場、そんな「イザナミだ」みたいなノリで唐突に会話に入ってこられても…しかも脈絡が無いし。

 と言うか、今更なんだけど茅場は茅場でどうして博士と一緒に居るんだよ。すぐにウタカタに来るのかと思ってたら、「興味深い人と会った」なんて言って博士達と一緒に来るし…。

 何がどうなって一緒になったんだ。

 

 

「私が興味を示す事なのだから、異世界絡みに決まっているだろう。出会った経緯は省くが、君同様に彼女にも異世界に関係がある。…そうだ、君が持っている、えぴたふぷれーとという武器も見せてほしいのだが」

 

 

 神機はもういいのか? エピタフプレート…そういや、前にも博士に見せてたっけな。

 そうか、あれに書かれているのって、俺が知っているどの言語でもない文字で、博士はそれを読めるんだっけ。同じような碑文が、マホロバの里近辺に散らばってたっけな。

 

 

「そういう事だ。君が知る世界とは別物かもしれないが、彼女は確かにこことは異なる世界の文明に深く触れている。異なる世界で栄えた文明の文字…これを解読できれば、それらがどのような場所なのか、どのような人々が暮らしていたのか知ることが出来るかもしれん! 更に、我々にとって全く未知の技術が使われている事は明白! 君とは違う方向性だが、彼女も非常に興味深い人材だとも!」

 

「人を研究材料扱いしているが、それはお互い様だから良しとしよう。方向性が非常に偏っているが、私に迫る頭脳を持っている男だしな」

 

 

 おお、博士にしては珍しく高評価してるな。

 経緯はよく分からんが、とにかくお互いに利用価値を見出した訳だ。

 

 で、話を戻すが、結局アレは何なんだ? 博士がそれを知っている理由は?

 

 

「お前は『前』に、カラクリ石があった『舟』を見たのだろう。要するにあれと同じだ。ただし、こっちの『舟』…お前が言う所の『塔』はまだ一部の機能が生きているんだろうな。異世界へ移動しようとする機能が。それが時折発動し、何処かに……そうだな、文字通り異世界まで移動できている訳ではなさそうだから、遠く離れた現世か、或いは次元の狭間とでも言うべき場所に一時的に移動する。そこから推力不足で戻ってくるのだろう。それが消失と、その間は時間が経過しない現象の正体だ」

 

 

 待てい茅場。機能の一部が、って言っただろうが。直すにしても異界をどうにかせにゃ何もできんわ。

 

 舟…アレか。色々話したり推測も混じったりしたからどれが結論だったかイマイチ覚えてないが…確か、鬼を討伐する為に送り出された船団…って話だったかな。

 それが放浪の末、この地に何隻か墜落した、と。

 

 

「そういう事だ。言うまでもないが、私が作っている鬼の手も、あの舟に使われている技術や、マホロバ近辺にあった碑文の技術が大きく関わっている。それらを調べていくうちに、異世界で使わている文字や、何処の機能がどう影響しているのか予想できるようになったのだ。」

 

 

 成程ねぇ。…まだ言ってない事があるのは確かだが、まぁそこまで聞く必要もないか。何もかもを知らなければ信用できないと言うなら、それは誰も信じてないと言う事だし。

 博士から隠している事を聞き出すとか、温厚な方法じゃまず無理だ。武力に訴えるともっと無理だ。勝ち負けで言えば勝てるだろうけど、意地を張り通して口を噤むのが目に見えている。色事なら…ワンチャンあるかもしれないが、諜報目的でヤるのは憚られる。いや、相手が完全な敵なら、ハニトラと割り切って口説き落とすなり、イくにイけない生殺しにして遊ぶのもいいんだけど。

 

 

「ふむ。では、その機能を一時停止させる事も出来るのだな?」

 

「当然だ。私が知っている舟と同じ形式であれば、すぐにでも出来る。違ったとしても、最悪動力源をふんだくってしまえば止まるだろう。…いいカラクリ石が手に入りそうだな」

 

 

 そんじゃ、まずは異界の元となっている部分を浄化、それと同時に記録。

 それが終わったら塔…舟の移動機能を停止させ、封印されている子達の救助はそれからだな。

 

 こっちはもう準備できてるけど、そっちは?

 

 

「少々機材に凝ったから時間がかかったが、問題ない。さっさと始めるぞ」

 

 

 いやウタカタの里からも人出してもらう事になってるから。

 まぁ、あっちもそう準備に時間はかけないだろう。異界の浄化が本当に出来るのなら、例え自分達の手が届かない場所であっても即座にやってほしい、と言うのが本音だろうし。

 

 さて、ウタカタからは誰が来るのかな?

 

 

 

 

 

 問い合わせてみたところ、随分な大所帯になっている事が判明した。

 異界浄化が可能なら、その瞬間をお頭である自分が確認せずに誰がする、という大和のお頭。

 そういう記録は自分の役目だという秋水。

 学者的な解説・知識であれば自分も負けてはいない、そもそも彼らの監視は自分の役目だという那木。

 鬼が出るような場所ではないとは言え、護衛は必要だからとついて来る気満々の初穂。

 何かと醜態を曝してしまった為、汚名を返上したいと主張する桜花。しかしこれは周囲の状況から、あまり行けるとは思っていないようだ。

 

 …要するに、殆どの主要メンバーは、現場を確認したいと思っている訳だな。

 まぁ、異界浄化は人類にとって悲願のようなもの。それが本当に叶う歴史的瞬間が来るのなら、そりゃ誰だって見たいだろう。逆に名乗りをあげなかった人達は、それよりも自分の役割を優先したという事だろう。

 

 特に、初穂と秋水はなぁ…。初穂にとっちゃ時を超える元凶になった異界が消える瞬間だし、過去に死んだ仲間達を助ける為に戦力を送り込む…なんて考えてる秋水にしてみれば、異界浄化の価値はどれ程のものか。

 モノノフの編成は基本4人までなんだけどなぁ…まぁ、別に問題はないけどさ。それくらいが連携しやすい数って意味でしかない。

 

 これで何人だっけか…博士は勿論、異界浄化の真実を確かめにきたって真鶴だって居る。何人かは完全な非戦闘員として割り切るか。

 鬼が出るとは限らないが、こういう時に話がスムーズに進んだ試しがないからな。

 

 何にせよ、異界浄化よりも危険なのはその後だ。

 うちの子達や大和のお頭には話を通して、備えもしてもらっているが…異界が消えれば、その後に起こるのは鬼達の縄張り争い。それに負けて逃げて来た鬼達による、里への襲撃。

 まぁ、消失させる異界の場所が場所だから、そう強い鬼は来ないだろうけどな。

 

 



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500話

 

堕陽月肆拾日目

 

 

 はい、そういう訳でやってきました、異界浄化です。

 結構な大人数で来てしまったが、色々な意味で無駄にはならなかったな。

 

 ええまぁ、予想通りにトラブルがありましたよ。問題なのは、その半分くらいを引き起こしたのが茅場と博士って事だ。

 いやもううちの阿呆どもが迷惑かけて、本当に申し訳ない。

 ただ、それに見合う利益はしっかり叩き出すだろうから、今は多めに見てやってください。

 

 

「お前が起こす騒動に比べれば、この程度なら軽いものだ。…まぁ、貸しにしておくがな」

 

 

 とは、ガタが来始めている(と本人は主張している)体に鞭打って、クッソ重たい人形のようなものを持ち運ぶ大和のお頭。

 一人では持つのも難しいその人形を、大和のお頭と秋水と、護衛としてついてきた紫でようやく抱えている。

 …秋水は基本的に非力だからあんまり役に立ってないが。しかし紫でさえ一人で持つのは難しいとは、どんな重量してるのやら。

 

 

「いや、重さよりもとにかく持ちにくいんだ、この人形。重心の位置がころころ変わると言うか…」

 

「おい博士とやら、この人形は本当に必要なのか。せめて帰りに回収すればいいだろうに」

 

「当然必要だ。つべこべ言わずにさっさと運べ」

 

 

 何に使うつもりなのやら…。

 何かあったらすぐに動けるように、護衛班は持ち運びに参加してない。これから大仕事が待っている俺もだ。

 …お偉いさんに率先してさせる仕事じゃないんだがなぁ…。

 

 

「気にするな。俺も偶には体を動かさなければならんと思っていたところだ…と言う事にしておこう」

 

 

 へい。

 

 

 

 

 …この人形を拾うまででも色々あった。

 従来の予定だと、まず最優先で異界浄化を行い、安全を確保した後にこの『舟』の機能を停止、それから封印されている子を一人二人運び出す…という予定だったが、急遽変更となった。

 

 以前はこの舟…塔の中はかなりの瘴気で満ちていたが、再度やってきてみれば、瘴気密度は激減。充分な活動時間を確保できそうだった。

 しかし、それを見て舌打ちしたのが博士である。

 曰く、異世界への移動機能が活発になっている可能性が高い。つまり、このままだと早い内に塔は消失し、俺達を抱えたまま暫く現世に戻らなくなるかもしれない、と言うのだ。

 

 証拠はあるのか、と問われたものの、それにまともに取り合わないのがこの女。実際、聞いて理解したところでそれが事実かを確かめる術はない。

 信じるべきか迷う皆を他所に、博士と茅場はさっさと奥に進もうとしていた。

 博士的には「凡人どもに説明している暇が惜しい」、茅場的には「異世界の技術が見られる。もし止められなくて異世界に移動してしまっても、それはそれで良し」だそうな。本当にブレねぇな…。

 

 結局二人についていく事になり、その間に根拠を聞いたのだが、少なくとも説得力はあった。

 塔に満ちていた瘴気が薄まっているのは、備わった浄化機能が働いているから。つまり、その為の動力源が活性化…少なくともその設備を稼働させられる程度には補充されており、それらは他の設備の動力も担っている可能性が高い。

 となると、次に起動しそうな装置は何か。…言うまでもない。何度も稼働しては推力不足で不発となっている、異世界への移動機能だ。

 さっさと停止させないと、何が起こるか分かったものではない。単に異世界に移動してしまうだけならまだ良し、移動先すら定められてない状態だろうから、妙な場所…土の中や海の中、そもそも生物が生息できないような場所に放り出される可能性すらある。

 

 半ば半信半疑な部分もあったが、結果的には大正解。迷いなく進む博士が見つけ出したのは、明かにヤバげな点滅やスパークを散らすよく分からん設備。これが異世界移動の為の設備なのか。

 茅場が早速飛びついて行ったが、放置しておくと瘴気で死ぬまで調べ続けそうだったので、引っ張り戻した。

 

 そして設備の真ん中にある…なんだ、蓋っぽいのをブチ壊して開けると、これまたあからさまに臨界点な光とか霊力とかなんかよく分からん力を撒き散らすカラクリ石。

 博士に目配せされて、鬼の手を出してカラクリ石を引っ張りだしたが……こりゃ素手で触るようなもんじゃないな。

 鬼の手で握りしめ、干渉して何とか暴走させる事なく落ち着かせた。

 

 …設備の事がなくても、あのまま放置していたら洒落にならん爆発とか起きていたのは目に見えている。とりあえず、博士の言葉に従ってよかった。少なくともこの舟に関して一定の知識があると信用を得たようだし、これで傍若無人なだけの女という評価は…多少は払拭されるだろう。

 

 

 で、そのカラクリ石は博士が研究材料として確保。かなり大きな奴なんで、思わぬ拾い物だったとホクホク顔でした。

 そして近くに転がっていた、幾つもの人形。破損し、故障し、明かに動かなくなっている物の中で、一つを選んで持って帰ろうとしている。

 もう爆発しそうなカラクリ石も無いのだし、後から確保でいいと思うんだけどなぁ…。

 

 

「そう思うのなら、壊れた人形を幾つか見てみたまえ。関節を初めとし、明かに不自然な破壊が見て取れる。その上、動力源…小型カラクリ石と思われる部分を奪われている。破壊の仕方からして、少なくとも人ではあるまい。…人形を狙う何かが居ると思った方がいい」

 

 

 成程。機械相手の狩りはあんまりやってないから、あんまり観察してなかったわ。

 しかし、それだと無事な人形を狙って俺達の方にやってくるのでは…?

 そういう疑問はありつつも、一応専門家の言葉なので、人形を確保した。外を見ても、異世界移動は発動していなかったらしく、塔は消えていなかったそうだ。

 よしよしセーフセーフ、では肝心の異界浄化へ向かおうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして始まる予定外のトラブル第二段。

 まぁこっちは大丈夫と言うか、想定内だったよ。鬼が出たってだけだしね。

 

 …多分、鬼だ。瘴気を生み出す穴の中から出てきたし。しかし、瘴気の穴の先が全て同じ世界とは限らないんだよな…。

 まぁ、同じ瘴気の中から出てきたんだし、鬼って事でいいだろ。なんかこう、メカメカしかったけどな。ガララアジャラみたいな蛇……と言うより、形状的にはデビルガンダムの触手みたいなイメージだった。

 …モンスター、じゃないな。アラガミ…? うーん……アラガミとは違うと思うんだよなぁ。こう、殴った感触とかね。また妙なのが出てきたな。

 ああ、人形を襲って食ってた鬼みたいだし、体が段々それに近付いて行っただけかもしれないな。

 

 

 ともあれ、こっちのトラブルは単純だ。襲ってくるなら叩き潰せばいい。

 天井の隙間とかに入り込んでゲリラ戦を仕掛けてきたが、狙いが人形と分かった時点でどうとでもなる。囮に使ったら、茅場が庇おうとしたり博士がガチギレしたりしたが。

 

 誘導したら占めたもの。普段以上に多い人数も、相手の図体がでかかったから連携の邪魔にはならない。妙な能力を持っていたようだが、それも機械人形の中のカラクリ石を捕食するのに特化したもの。

 外敵がほぼ居ない状況で育ってきた為か、率直に言って弱かった。俺が出るまでもない。……ヒマだ。

 いや最近マジで戦ってないし。最後にやったのがフロンティアだっけか? 体が鈍る。

 

 

 

 

 さて、そういう訳でようやく俺の出番。異界浄化の瞬間がやってきた。

 …ここでしくじったら気まずいなぁとか、中途半端に成功させると今度こそ地脈変動からのオオマガトキ第二段が起きるかもなー、なんて雑念がよぎったが、それはそれ。各種機材と期待・疑心の籠った視線の前で、バッチリ決めてやりましたとも。

 

 異界が消える瞬間が、傍からどのように見えていたのかは分からないが、とにかくこの場に満ちていた瘴気は一瞬で消失。キレイサッパリ、クリーニングにかけたみたいに清浄になった。うーん、屋内なのにチベットの山頂で深呼吸してるみたいに空気が美味しい。

 部屋の外を見てみれば、そっちの瘴気も見事に無い。シノノメの里でやった時と同じように、連鎖反応を起こして近辺の瘴気は丸ごと消滅した。

 

 うーん、何度やっても気分がいいぜ。屋外で、一変した景色を見れると猶更気分がいいんだが。

 ついでに言えば、この塔がある場所自体、里の近くで異界じゃないんだよな。近場の異界まで、ある程度余波は飛んでいると思うけど。

 

 それでも、塔に満ちていた瘴気が一斉に消え去ったのは、モノノフ達にとって結構な衝撃だったらしい。

 博士でさえ、興奮気味に機材の記録を見直している。

 

 

「…一瞬の出来事だったが…本当に瘴気を全て浄化したのか…。信じられん…」

 

「同感…です…」

 

 

 意識しているのか居ないのか、大和のお頭からこぼれた呟きに、呆然としている真鶴が反応する。

 他の反応も、似たり寄ったりか、驚いている暇があったら解析するかのどっちかだ。

 

 もっと大騒ぎになるかと思ったが…まぁいいか。とりあえず、外の様子がどうなっているかは後で確認しよう。

 封印されている子達を一人か二人、運び出したい。そっちに行っても構わんよな?

 

 

「ああ。…だが、この人形を運ぶ人員は先に戻してくれ。いつまでもこいつを抱えているのは、流石に厳しい。主に腰に」

 

 

 大和のお頭でも、腰には逆らえんか…。いざ戦闘となれば、現役以上に斬った張ったしそうなものだが。

 まぁ、誰だって重い荷物をいつまでも好き好んで抱えたりはしないだろう。

 

 戻るのはいいんだけど、ちゃんと護衛も連れて行ってくれよ。異界を浄化したって事は、鬼達の住処を纏めて吹っ飛ばしたって事だ。それだけならいいんだが、居場所がなくなった鬼達はどうすると思う?

 

 

「…我々も、オオマガトキの後で覚えがあるな。住処を失えば、新たな住処を求めて彷徨う。まだ残っている異界に向かえば、鬼と鬼の間での縄張りの奪い合いだ。負けて逃げて来た鬼達は、傷ついた体でも食える餌を探す…つまり人里に向かうだろう」

 

「残っている異界に向かわないなら、そのまま人里を襲いに来ると思った方がいいな。どっちにしろ、ウタカタの里が襲われる訳だ。つまり今までと変わらない」

 

 

 そうだな。鬼の移動頻度が上がるだろうから、ばったり鉢合わせする危険が増えるだけだ。

 

 

 

 

 

 さて、そういう訳で封印されている子達の元にやってきた。

 残っているのは、博士、真鶴、那木、初穂、浅黄。

 皆、円筒に閉じ込められ眠っている滅鬼隊員達を見て、眉を顰めている。……色んな意味で。

 

 

「ウタカタの近くで、こんな事が起きていたなんて…」

 

「…皆さまも、この方々と同じように封じられていた、と聞き及びましたが…なんという非道を…。……あ、あと貴方もなるべく見ないようにしてあげてください」

 

 

 へい。

 

 痛ましそうな那木と初穂。

 気付けなかった、とか考えない方がいいぞ。気付きようがない事だし、むしろ気付いたところでどうしようもなかった事なんだから。

 

 

「そうは言っても、気になるのも仕方ないだろう。…なんだ、この………なんだ。……浅黄殿、あなたは彼女達の関係者だと聞いているのだが…」

 

「何も言わないで」

 

 

 

 …平然としている…いや、珍しく興味深そうに封印されている子達を覗き込んでいる博士はともかくとして、他の面々は心を痛めると同時に、目のやり場に困っていた。

 だって皆、服は着ているけど明らかにおかしい服なんだもの。

 

 体にピッチリ貼り付いて、ライン丸出しのボディスーツ。

 肌がやたらと露出しており、角度によってはお嫁に行けなくなってしまうようなデザイン。

 意味も無く…ひょっとしたらあるのかもしれないが…カラフルで煽情的、色使いもセックスアピールを強調しているかのよう。

 ちなみに男も女も似たようなものだ。

 浅黄や雪風達は素っ裸で封印されていたが、これとどっちがマシだろうな。

 

 ことに、この世界の人達にとっては、色々な意味で意味不明な衣装だろう。彼らの服飾文化は、どれだけ進んでいるとしても大正程度。…いや日本人のエロ根性なら、そのくらいの時期にはこの手のエロ衣装を作ってたかもしれないけども。

 動きやすそうだとかみっともないだとか以前に、ただただ異質さの印象が先に来る。

 

 …要するに、変質者とか痴女にしか見えてない。実際、俺からしてもソッチ系の趣味を疑わざるを得ない恰好だ。

 以前の滅鬼隊は、この格好で活動していたんだろうか? …もしそうだとしたら、是非ともこの格好でお相手してもらいたいものだ。興奮度合いで1割くらいデカくなりそう。

 

 

「…おい、この中から何人か連れ帰るのだったな。だったら、こいつとこいつにしておけ」

 

 

 円筒をカンカンと叩く博士。そこに入っている二人の女には、他の子達には見られない特徴があった。

 一人は…まぁ服装とか体格は他の子達も同じだから置いといて…よく見れば、頭から角が生えている。ツインテールとリボンで見えにくくなっているが…隠しているつもりだろうか?

 もう一人は……なんか、すっごい見覚えがあるんだけど。

 

 目を横に向ければ、遠くを見ている浅黄の姿。そりゃそうだろうなぁ。

 自分のそっくりさんが、痴女そのものの衣装で円筒の中に浮かんでるんだ。現実逃避もしたくなる。

 

 …もう暫く逃避させといてやるか。

 博士、この2人にするという根拠は? こっちのそっくりさんなら、まぁ分かるんだが。

 

 

「戯け。私が見ていたのは、その中身ではなくこいつらを保存しているカラクリだ。私も最初は、『舟』を後から利用して、こいつらの保管庫にしたのだと思っていたが…殆どの円筒は違う。設備の形と接続形式からして、この舟に元々据え付けられていたものだ」

 

 

 …つまり?

 

 

「お前は、異世界から送り出された鬼の討伐隊を一人、知っているんだろう。こいつらの内の何人かは、それと同じだ。しかもこの舟は、結構な人数が載っていたと見える」

 

 

 鬼の討伐隊…ホロウの事か。…この子達が、ホロウと同類…?

 でも、ホロウはこんな恰好してなかったぞ。

 

 

「送り出された時期か国が違うんだろうさ。聞けば、お前の知人は単体で時空間の移動を可能とするそうではないか。舟の機能で、集団で移動するのとは運用方法が全く違う。何らかの技術革新によって運用方法が見直されたか、それとも余力がなくなった為に最後の一人を送り出す事しかできなかったのか…どちらであってもおかしくはないな」

 

 

 成程ね。しかし、この子達がホロウの同類だとして、どうしてこんなところで封印される事になっているんだか…。

 

 

「そんな事を私が知るか。…だが、異世界や別時間への転移は非常に難しい技術だ。世界の壁を超える時、どんな障害が起きるか分からん。もし最初は上手く行っていたとしても、酷使を繰り返せば部品は摩耗し、徐々に朽ちていく。何度目かの転移で、致命的な事が起こったんだろう。そこを、何者かに発見された…といったところか」

 

 

 ふむ…確かに、前から疑問ではあったんだよな…。

 滅鬼隊の始まりは、記憶を失って彷徨っていた一人のモノノフであると聞いている。そのモノノフの体に使われていた技術を解き明かし、それによって強化・改造されて出来上がったのが滅鬼隊だと。

 しかし、たった一人の体を…胸糞悪い話だが、例えば徹底的に解剖して調査したとして…それ程の技術を、それだけで解明できるものだろうか? サンプルをとって解析するにしても、幾つもの解析対象が必要になる筈。

 全国を探して、何人かは同じように記憶を失った討伐隊を見つけて、拉致してきた可能性はあるが…。

 

 成程。一から技術を解き明かそうとしたんじゃなくて、ある程度以上形になった設備があったから、それを解析したって事か…。

 

 

「だろうな。つまり、ここに居る者達は滅鬼隊の源流である可能性が高い。何処まで記憶を保っているかは分からんがな…。この円筒、洗脳や記憶の削除に使う事もできるようだ。元々は精神的な傷を受けた際、それを忘れさせる為に使う装置のようだが…。今の滅鬼隊にかけられている、えらく都合のいい暗示も、元はこいつを真似たものだろう」

 

 

 ふーん…たった一目で、よくそこまで分かるな。

 

 

「各装置に、簡単な説明書や走り書きがついているからな。私の読める言語だ」

 

 

 そりゃ親切な事で。で、話を戻すが、この二人にしようって理由は?

 

 

「滅鬼隊の資料には一通り目を通した。だがこいつのように、角…つまり異形の姿を持つ者は居ない。この衣装も、この国では一般的なものではない……どの国でもこんな露出度の高い恰好は、一般的ではないと思うが…。つまり、こいつはこの世界で作られた滅鬼隊員ではなく、異世界からの鬼討伐隊の一人だ」

 

 

 成程な。了解した。

 どっちにしろ、誰を連れて帰るって明確な指針は無かったんだ。この子と、浅黄のそっくりさんを連れて帰るとしよう。 

 …この子達、起こすのに一発ヤらなきゃいかんかな…。

 

 

「必要ないだろう。浅黄っぽい奴は微妙だが、こいつには、例の暗示もかけられてないんだ」

 

 

 それもそうか…。ま、良かったって事にしておこう。残念なんて思ってない。

 

 

 

 

 

 

 外に出て景色を眺めてみると、瘴気で埋め尽くされていた雅の領域の半分くらいが正常になっていた。

 と言っても、異界の影響で狂った植物や地形、建物なんかに変化はない。ただ瘴気が消えただけだ。

 

 …中途半端にしか効果が無かったみたいで、なんかこう、スッキリしないなぁ…。

 

 

 

 

 

 



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501話

 

 

堕陽月肆拾壱日目

 

 

 無事、封印されていた子達のうち、角が生えている子と浅黄のそっくりさんを担いで戻って来た。

 お祭り騒ぎ状態だった。胴上げされた。

 その後は一晩、飲んで喰って騒いでヤッて…夜を徹しての大騒ぎ。

 

 異界が浄化されたからなぁ…。とは言え、流石にウタカタ近辺の異界全部ではない。

 ウタカタに一番近い…ゲーム的に言えば、最初に出撃できるチュートリアルステージの、雅の領域。…の、半分くらいが消失した。つまり、『舟』の中にあった瘴気の穴が原因だったのは、その辺りまでって事だな。

 残り半分の異界を生み出す瘴気の穴が、この近辺にあるって事になるが…そっちは博士が急ピッチで何か開発しているようだから、それの完成を待とう。

 

 

 ともあれ、異界浄化の実例を見せた事で、俺達の重要性は高まったと言えるだろう。大和のお頭にも忠告されたが……注目度が一気に跳ね上がる。 

 事実、たった一夜が過ぎただけなのに、「あれをやった奴、こっちにも寄越してくれ」という書状が幾つか届いているらしい。

 …異界浄化の噂話は、前から知ってたんだろうな。フカシやハッタリだと思いつつも、監視…と言うよりは近隣の偵察をしていたら、まさかの事実。大慌てで連絡を取ろうとしている、と。

 

 俺としても、活動の場をウタカタに限定する気はない。クサレイヅチが現れやすいのがここだろうから、本拠地を移すつもりはないが、各地の異界を浄化するのは大歓迎。それだけ人間の為に使える土地が増える、鬼を追い詰められるって事だしね。

 まぁ…あまり無計画にやると、自然現象よろしくとんでもないしっぺ返しが来るかもしれないから、様子を見ながら浄化しないといけないだろうけど。

 

 だがどっちにしろ、異界浄化には瘴気の源となっているモノを見つけ出す必要がある。浄化してほしいと言うなら、まずそれを見つけてから連絡してもらわなければ。

 こっちから出向いて、瘴気の穴を探して…なんてやっていたら、留守にしている間にウタカタで何が起こるか分かったものではない。特に、情緒不安定になったり、欲求不満になったりしたうちの子達が、何をやらかすか分かったものではない。

 …日頃の平静な時なら、とりあえず自活していけるくらいには常識的になってきたんだけどな…。俺の成分が枯渇して不安定になると、やっぱりまだまだなぁ…。

 

 

 

 さて、異界を一部とは言え消失させた訳だし、これからどうするか? という会議が行われています。数人ほど、飲み過ぎで顔を青くしていますが、リバースはしないでしょう多分。

 まずは大和のお頭から労いの言葉をかけてもらい、褒章その他はまた別途話をすると言う事にして。

 

 

 

「さて、これから鬼をどう攻めるか、だが…まず、異界を追われた鬼達の襲撃頻度は?」

 

「非常に少ない…と言っても、日頃から毎日一度はあるのがこの里の実態。日に2、3度に増えたものの、強力な鬼は一度も発見されていません」

 

「小型の鬼だけ近付いて来るのは、入り込まれると非常に危険ですが…そこは結界が弾いてくれますし、結界が無くなっている間に張り巡らせた罠や警戒網も残っております。油断は禁物ですが、簡単に侵入される事はないかと」

 

「俺達も散策ついでに周囲の様子を見てるけど、あんまり鬼は近付いてきてないな。まぁ、異界が削られてからたった一日だ。もう暫く警戒を続ける必要はあるだろう」

 

「うむ…皆も警戒を続けてくれ。では、これからどうするかだが…以前に異界を消滅させた時、鬼達はどのような反応をしたのだ?」

 

 

 昨日、舟でも言ったけど、血みどろの縄張り争いに突入していたな。人里に近寄ってくる奴は、あんまり居なかった。

 居たとしても、縄張り争いに敗れ、傷ついたやつらだ。手負いを侮ると痛い目を見るが、倒しやすいのも事実。だから、暫くはこっちからちょっかいを出さずに、鬼同志で傷つけ合わせていた。

 

 

「…妙手でござるな。鬼達が勝手に疲弊してくれる上、その間に我々は戦力を整える事ができる。しかし生きる場所が変われば生態も変わるのが世の常。鬼とて同じでござる。様子見は必須かと」

 

「うむ。偵察は、これまで通り速鳥に任せよう。ただし、決して一人で先走ってはならん。鬼に襲われたら、無理に撃退しようとせずにすぐに引き下がれ。里が直接襲われるのでもない限り、この状況での小競り合いは損失にしかならん」

 

「御意」

 

「なんでえ、それじゃこっちから攻めたりしねえのか」

 

「何もしない訳ではない。橘花が千里眼の術で見た、オオマガトキを起こす…かもしれない塔も探さねばならん。恐らく、異界消失の影響はそう遠くまで出ていまい。あの辺りの鬼は、そう強くはないからな」

 

 

 弱い鬼が強い鬼の縄張りを奪おうとしても、返り討ちにされるだけだもんな。それでも数の差や状況次第で勝ち目がある範囲だけど、異界の奥に居る…つまり強い鬼は、逃げ出すよりも反撃しようとするだろう。だからこそ、鬼同志が争ってくれる。

 これが逆に、強い鬼が弱い鬼の縄張りを奪おうとすると…逃げて来た鬼が人里に押し寄せてきて大惨事だ。

 

 

「そう考えると、これからも異界浄化を続けるとしたら、順序だてて行っていく必要がある訳か…。そう都合よく、瘴気の穴が見つかるかという問題もあるが」

 

「ただ浅い方から行えばいい、という訳ではないな。強い鬼程数が少ない。数の暴力が最も厄介なのは、鬼の側も同じ筈。縄張りを奪おうとする鬼達と、それを阻止しようとする鬼達。上手く拮抗状態を作れればいいのだが…」

 

「いい着眼点だと思うが…手綱を握り切れると思わない方がよさそうだ。戦が思い通りになる筈もない。鬼達の生存競争であれば猶更だ」

 

 

 そうだな…。そう考えると、上手く煽ってた牡丹の有能さがよく分かる。

 鬼達の内輪揉めは、続いてくれれば幸運と割り切るとして…異界の浄化にせよオオマガトキを起こす塔の捜索にしろ、今まで踏み込んでいなかった部分に入り込む必要がある。シノノメの里でもそうだったが、十中八九、濃すぎて踏み込めない異界の奥だろうな。

 

 

「瘴気を生み出す元がある場所ですので、異界が濃くなるのも道理でございます。候補となる場所は大分絞り込まれますが、『塔』の内部にあったような特殊な状況にあるやも…」

 

 

 実際、地面に埋まっていた事はある。瘴気の穴とはちょっと違うけど、瘴気の元になっていた物が、鬼に同化されて乗っ取られてた事もあった。

 異界消失を繰り返せば、鬼達だって学習するかもしれん。瘴気の元に近付くと、集団で襲ってきたり、何らかの術で隠す可能性もある。

 

 

「だがそれなら、鬼達が守ろうとしている場所に何かがあるって事だな。鬼達が学習した後だから、今すぐの話じゃないが」

 

「いいや、奴らの知性は侮れん。徒党を組んでウタカタに攻勢をかけ、搦め手によって橘花の意識を奪った事を忘れた訳ではあるまい。…あるまい!」

 

「落ち着け桜花。確かにその通りだが、異界消失の瞬間を目にした鬼は居るまい。奴らとて、まだ何を警戒すればいいのかも分かっていない筈だ」

 

「それ以前に、暫くは自分の縄張りを確保するので手一杯なんじゃない? 状況が落ち着いたら、『またこの縄張りも消えるかも』って不安に思って、警戒するようになると思うけど」

 

「待て待て、話が脱線してきているぞ。まずは今後の方針だ。今まで踏み込まなかった場所、瘴気の濃い場所を探索する訳だが…その辺の地形を分かってる奴、居るか?」

 

 

 

 ……居ない。瘴気無効の装具を借り受けている速鳥でさえ、路の無い場所には極力踏み込まない。瘴気が濃いだけでなく、異界の流動が激しい為だ。活動限界の問題が無くても、何処に飛ばされるか分かった者ではない。

 シノノメの里でも、まずは地形の把握から始めたなぁ…。

 

 

「範囲を絞って探そうにも、流動に巻き込まれる危険だけは避けられんか…」

 

 

 呻くように大和のお頭が零したその時、バタンと扉が開かれた。

 人払いをしていた訳ではないが、呼ばれてもいないのに会議の場へ堂々と乗り込める人物はそう居ない。

 すわ緊急事態でも起こったかと一瞬緊張が走ったが。

 

 

「凡人どもが雁首揃えて頭を捻ったとろこで、天才の足元にも及びはせん。使えない頭を使おうとするくらいなら、天才の指揮に任せて体だけ使っているがいい」

 

「…博士、だったか。いきなりやってきて随分な言いようだな」

 

 

 イラッと来ている人多数。まぁ無理もないか。『舟』について一定の見識があると認められたとは言え、傍若無人な上に成果らしい成果はまだ上げていないのにこの態度だ。

 そうでなくても、こんなに上から目線で詰られれば、誰だって反発するが。

 

 

 どうしたよ博士。目の下に隈が出来てるぞ。

 随分熱心に研究していたようだが、その言い方だと何ぞ使える物でも出来上がったか。

 

 

「当然だ。…と言いたい所だが、流石に作ったばかりで実践の資料が足りん。微調整は必要だ。だが、今のままでも瘴気の元の凡その位置までは割り出せる」

 

「ほう? 大きく出たな」

 

「当然だ。私の頭脳の成果を見るがいい。まずこれだ」

 

「…手袋?」

 

 

 博士が出したのは、見覚えのある手袋だ。

 資料も揃ってるし、真っ先に形に出来るだろうとは思っていたが…鬼の手か。

 

 

「その通り。こいつが使う、伸び縮みする具現化した手は見た事があるか? これはその元となった道具だ」

 

「あのとんでもない術か…。鬼に再生を許さないなど、未だに信じられん。…これをつければ、我々もあの手を使えると?」

 

「使うだけならな。どこまで使えるかはお前達次第だ。ただ、こいつの鬼の手は色々特別性だ。使いやすいよう改造はしたが、そう簡単に同じ事が出来るとは思うな」

 

「あ、じゃ私使ってみる! 一回やってみたかったのよ! つければいいのね?」

 

「ああ」

 

 

 …初穂、それ前に見た時は、外すと爆発してたぞ。

 外さないように博士が虚言を吐いてるんじゃなくて、本当に爆発したぞ。しかも大型鬼に強い損傷を与えるくらいの衝撃が。

 

 

「ふぁっ!?」

 

「…改良されているんだろうな?」

 

「使い勝手がよくなるように改良はしているが、そこは改良が必要な点か?」

 

「ちょおおぉぉぉぉ!?」

 

「いや必要だろ。外せないって事は、使い手が限られるって事だろう。上手く使えなかったら完全に無駄になるし、道具として必要な時に受け渡しできないのは重大な欠陥だ」

 

「冗談だ。普通に外しただけなら、爆発しないようにしてある」

 

 

 つまり自爆機能は健在ではある訳な。最後の手段としては有効な攻撃だけど、進んで使いたいものじゃないな。

 貴重なカラクリ石を仕込んでわる訳だし、量産できるようになった訳じゃあるまい?

 

 

「ちょっと! 私は! 私の心配は!?」

 

 

 でぇじょうぶだ、そうそう吹っ飛ぶ事はない。俺なんか体内に直接埋め込んでる状態だけど、何の問題もないんだぞ。

 自爆させる必要が出る事も、そうそう無いだろ。仮にも一人前のモノノフ扱いされ始めたんだし、自分の身は自分と仲間達で守れるだろ。

 

 

「それはそうなんだけど、なんかこう釈然としないと言うか」

 

 

 じゃあ何か、ここで俺が『大丈夫だ、初穂は俺が絶対に守る!』(主人公感)とか言い出したら?

 

 

「何それ。仲間を守るのは言うまでも無く当然だし、それ以上にモノノフたる者自分で自分を守って死力を尽くすのが当たり前でしょ。それが出来ないなら、任務に出る資格は無いわ。私だって戦えるんだから、戦えない足手纏い扱いしてんじゃないわよ」

 

 

 うむ全くだ。ここで顔を赤らめるような恋愛脳じゃなくて安心したわ。俺も含めて、うちの子達は大体色欲脳だからな。

 

 

「……お頭、こいつ刺してもいいっすよね?」

 

「刺したところで通用も感じないだろう、この男は。さて、話がまたしても盛大にずれたが、この鬼の手の手袋で何ができると?」

 

「想像力が追い付けば、理論上は何でもできる。だが、まずは瘴気の元探しからだな。そうだな…鬼の手を嵌めた指で輪を作り、そこを覗き込め」

 

「こう?」

 

「その穴を通せば、色々な物の流れが見える。水、風、霊力、その他諸々。見たいと思った物が輝いて見える。無論、瘴気もな。今は風の流れでいいだろう」

 

「んー…? お? おっ、おぉ? なんかこう、あちこちにきらきらしたのが舞ってるんだけど。…あ、窓から吹き込んできた。これが風?」

 

 

 ほほーう、鬼の目を他の物にも使えるようにした感じか。鷹の目ともちょっと違うな…。

 これで瘴気の流れを追って、大本を見つけ出そうって訳か。視認できるのは大きいな…。

 これは使ったまま動いても大丈夫なのか?

 

 

「鬼の手自体は問題ない。あとは使い手が集中力と想像力を切らさずにいられるかだ」

 

「なら、一人が憑かれたら他の者が交代すればいいだけだな。同じように見えるのかの検証は必要だが」

 

「うむ…これなら、瘴気の元探しが大分楽になる。言うだけの事はあるようだ」

 

「ふん、当然だ。既に次の鬼の手の作成も始めている。材料も大体揃っているが、その前に一つ確認しなければならん事があった。鬼の手をお前達がどこまで使いこなせるかだ」

 

 

 ? それは確かに確認が必要だろうけど、博士がそれを気にするのか?

 お前なら出来る限りのものを作り上げて、「後はお前らで使いこなせ。できなきゃお前達が悪い」くらい言いそうだが。

 

 

「お前は私を技術が全ての変人だと勘違いしていないか? 私の目的は鬼をこの世から叩き返す事だ。その為に有効な道具を作るが、誰にも使えない道具なぞ無用の長物だ。使われない、必要とされない、使う事ができない高性能な道具を一つ作るくらいなら、簡単に量産できる簡素な道具を作ってばら蒔くわ。私が天才で周囲が凡人である以上、私の要求を全て満たせる相手がそうそう現れないのは当然の事だ」

 

 

 …ちょっと意外。

 博士が周りに合わせるなんて技術を持っているとは……いやいや、これ以上言うと後が面倒くさくなりそうだから、話を進めよう。

 

 

「この鬼の手は、異界浄化が可能なのか?」

 

「当然だ。こいつでも、想像さえ追いつけばどんな事だって出来るだろう。ただし、それは具現化させた鬼の手を意のままに操る事ができ、詳細な想像を作り上げ、それを充分に反映させることが出来れば、だ。人間の想像は、普段はそこまで細かくされるものではない。例えば木の実を一つ想像しろと言われても、大きさ、色、形くらいは思い浮かべるだろうが、味、硬さ、虫食いの痕、成分、どんな木から実ったのか…そういった詳細な部分までは、意識しないと思い浮かばない。鬼の手の真価を発揮するのに必要なのは、頭の中にしかない想像が、目の前に本当にあると誰もが錯覚するくらいの、言わば『投影』なのだ」

 

 

 念の修行なのかバキのシャドウなのか正義の味方の魔術なのか。

 …しかし俺、そこまで意識して想像してないぞ?

 

 

「お前は体に直接カラクリ石を埋め込んでいるからな…。安全性が心もとない分、扱いやすくなっているのだろう」

 

 

 そういうものかね。確かに、もう「体の一部なんだから、思うように動かせて当然って認識になってたが…。

 ところで、もう装着しちゃったし、使わせるのは取り敢えず初穂って事でいいか?

 

 …本当に爆発しないか試験するには、里の外でやらなきゃならんし。

 

 

「やっぱり不安…」

 

 

 心配するな、思いっきり放り投げれば被害が及ばないくらいの規模の爆発だった。…改良で規模が大きくなっていなければ、だが。

 最悪、崖の上から放り投げて即逃げれば何とかなるだろう。

 

 

「その場合、落下した鬼の手は貴様が責任もって探すように。何、その程度では故障もせん」

 

「では、瘴気の元探しは初穂と速鳥で行え。恐らく瘴気が濃い場所に踏み込む必要があるが、速鳥に持たせている装具がもう一つある。それを付ければ、問題なく入って行けるだろう。…いいな?」

 

 

 はいよ。預けてるんだし、壊さなければ好きに使ってくれ。

 それで、これから即突入か?

 

 

「いや、まずは異界の状況を確認する。まだ瘴気が残っている場所に行けば、その鬼の手の機能も確認できるだろう。深入りせず、鬼の様子を確認したらすぐに戻れ」

 

「承知」

 

「まぁ、そうしないと外せそうにないしね…」

 

「では、私はこれから研究に戻る。私の傑作を使わせるのだ。上手くやれ。何か確認したい事でもあれば、そこの色惚けか私の助手共に聞け」

 

 

 そこの色惚け…息吹の事かな?

 

 

「そんな安い冗談、突っ込む気もしない」

 

 

 ご無体な。

 そんじゃ初穂。折角鬼の手を装着したんだし、半日あれば簡単な扱い方くらいは覚えられる。

 鬼の手は空中戦のとっかかりにも使えるし、感覚的には鎖鎌とほぼ同じ運用方法、延長線上でいいだろ。

 

 

「うーん…まぁ、折角つけたんだし、有効な使い方を覚えるのは大事ね。持ち腐れにしてると、博士に馬鹿にされそうだもの。よし、一丁やってやるわよ! 他の準備は任せるから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 お姉ちゃんネタでおだててやると、呑み込みの速さが3倍になった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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502話

家計簿アプリ使い始めました。
このところ、ルンバやら炭酸メーカーやらで、出費が激しすぎたもので。
そもそも貯金が段々減ってきてるからなぁ…。

でもゲームは欲しい。
来年2月にペルソナ5スクランブル。
3月に仁王2。
うー、待ち遠しい。
12月と1月はモンハンとペルソナ5Rのトロコンを目指して、ちょっとずつ進めていくつもりです。

さて、それはそれとして、年末年始の連日投稿、できるかなぁ…。


堕陽月肆拾弐日目

 

 初穂は鬼の手を、戦闘よりも移動手段と割り切って使用し始めたようだ。生身では鎖分銅を使ってもまだ届かないような場所に、一緒に行動していた速鳥を抱えて一瞬で飛び上がる事が出来る。

 この有効さは、初穂以上に速鳥がよく分かっただろう。一応言っておくと、見えない壁なんかないぞ。

 鬼すら注意を向けないような岩場、木の上、崖の上等に軽いジャンプ気分で移動できる。直線的にしか移動できない問題はあるが、それは鎖分銅使い特有の空中移動や、速鳥のNINJA体術を組み合わせる事でアクロバティックな軌道を可能とする。飛んで行った先によっては、バランスを取るのが大変な場所もあったようだが。

 

 ともあれ、見事斥候の任を果たしてきた初穂と速鳥による報告が行われた。

 尚、鬼の手は取り外しても爆発はしなかったものの、外す時に妙な電撃っぽいものが流れて初穂が涙目になったそうな。

 

 約半分が消失した雅の異界だが、今のところ大きな変動は無いそうだ。

 予想外だが、浅い部分から消滅していったからな…。消滅した辺りには、強い鬼は居なかったって事か。弱く小さな鬼であれば、異界消失の影響もそう強くは受けないのかもしれない。

 鬼同志の縄張り争いによる消耗を期待・予言していた身としては少々肩身が狭いが、そういう事であれば引き続き瘴気の元を探し回ればいいだろう。縄張り争いが起きそうなのは、それからだ。

 

 鬼の手の使用者として、暫くは初穂を中心とした探索が行われる。速鳥は別件…別の領域で、鬼達が作り上げようとしている塔探しだ。

 初穂は移動、戦闘、探索と、見事鬼の手を使いこなして見せた。本人は今一つ違和感があると言うが、博士も及第点を出すレベルだ。どうも、鎖分銅の延長線として扱ったのが良かったらしい。

 

 ……それとも、自分で使う時は『鬼の手』じゃなくて『姉の手』と呼ばせたのが鍵だったんだろうか? だったら、速鳥には天狐の手と…いやダメだ、逆に動かせなくなりそうだ。

 

 

 何にせよ、探すべき場所は瘴気がひどく濃い場所で、そうであれば鬼の手によってその流れを明確に視認できる。二つ目の瘴気の元は、遠からず見つかるだろう。

 そんじゃ、その間に何をすべきだろうか。

 やる事なんざ山ほどあるが、幸運にもこの里にはそれを分担して行ってくれる人達が居る。俺しかできない事、俺がやるべき事はそう多くない。

 

 …暫く大人しくしてたし、久々に狩り放題に行っちゃ駄目かな…。異界を浄化させるんじゃなくて、消失させる鬼が居るって事になったし、そいつの仕業って事にしとけばバレへんよな…。

 

 

「失礼します、那木です。大和のお頭から、『そろそろ余計な事考えてそうだから、監視を再開しろ』と言われてきました」

 

 

 Holy Shit!

 

 

「何がまずいので?」

 

 

 あ、那木さん表情が怖いです美人なんだから落ち着いて。あと横文字分かるんすか。

 

 

「異国の言葉も、多少は学んでおります。もっとも、その言葉については明日奈様から先日教えていただいたばかりですが。それで、何を考えておいででしたか?」

 

 

 いやそのあのな…。えっと、そう、前々から考えていたイベントというか祭りについてだな!

 那木はあの時居なかったっけ。そのうち落ち着いたら、うちの子達とウタカタのモノノフで、練武戦でもやろうって大和のお頭と話してたんだよ。

 ただ、普通に向かい合って殴り合うだけじゃ面白味がないし、なーんかこう、仕込でもできないかなーって。

 

 

「……………」

 

 

 視線が痛い。過去のループで、那木からこれ程に猜疑の視線を向けられたことは無かった。

 

 

「…まぁ、よいでしょう。練武戦の計画の事は、私も聞き及んでおります。ですが、正面から戦うからこその練武戦では?」

 

 

 そうなんだけど、ただ正面から工夫もせずに戦われてもなぁ…。強弱や得手不得手がはっきり出るのは利点だが、実際の戦いってそういうものじゃないだろ?

 自分より強い敵を相手にした時にこそ、戦い方や真価を問われる。

 切り札として道具を持ち込む、地形を利用する、周囲にある小石だって投擲すれば武器になる。何よりも仲間と協力する。

 弱者はそうやって強者に挑むし、それをあしらえないようなら強者ではない。

 

 何より、鬼を相手にして鍛錬を積むのであれば、一人で戦う理由なんぞ無いに等しい。そうしなければいけない状況ってのはあるけどさ。

 

 

「仰る事は分かりますが…私の弓とタマフリとて、個人では真価を発揮しにくいので、自然と練武戦では振るわぬ成績となってしまいますし。ですが、それならばどうすると?」

 

 

 んー………班を組む…得点制にする…芸術点を競う…装備を限定する…罠を仕掛ける…鬼を捕まえてきて、倒す速さを競わせる…。

 

 

「……(弓を手に取るべきか迷っているようだ)」

 

 

 突き詰めると、闘技場になるんだよなぁ…。しかし、そんな施設何処にあるんだって話だし…。

 

 

「は? …あの、この建物のようにご自分で作れるのでは? 骸佐様が愚痴を零しておられましたが、すたんだっぷほぉむ号なる巨大カラクリに変化する機構まで組み込んだとか」

 

 

 

 

 

 

 

 その手があったか! 素で思いつかんかったわ!

 考えてみりゃ、一対一での普通の闘技場、高低差が多い立体闘技場、まず舞台に辿り着までに全滅する超人専用通路だらけの闘技場(と言うかアサシンの墓所)、カラクリ満載の特殊闘技場まで作り放題じゃねーか! 不具合は出るけど!

 

 

「…私、ひょっとして余計な事を言ってしまったでしょうか…。あ、あの、お作りになるのは構いませんが、せめてお頭の許可を得てくださいまし。そもそも、これからは異界浄化の方法も見つかり、鬼達に邪悪な企みがある事がわかり、より一層戦いが厳しくなっていきます。言っては何ですが、練武戦の舞台づくりの為にモノノフとしての責務が滞るようでは…」

 

 

 心配ない、そろそろ俺抜きでも部隊運営が出来るようになってきたしな!

 とは言え、確かにお頭の許可は必要か…。後で揉めたりしないよう、場所や管理責任、使用時の注意事項まで書面で纏めておかないとな。

 

 

「ほっ…」

 

 

 …………素面で言っても断られるだろうから、泥酔させて一筆書かせよう。

 ハンターでも数杯で酔い潰れる、異国って言うかMH世界の酒を味わうが好い。強すぎてハンター以外飲酒禁止な代物もあるけどな。

 

 

 

 

 …よし、何とか誤魔化せたな。那木は頭はいいけど人が良過ぎて、疑うのに向いてない。…あれ、それを監視役にするって、大和のお頭何考えてんだ? 裏…と言うか、別の目的があったりしない? まぁいいか。何か考えてるにしても、俺らを害する前提で行動する人じゃないし。下手に真意を探るより、信頼してますよアピールした方がええやろ。

 

 そうそう、話は変わるけど、連れ帰って来た子達はどんな感じ?

 

 

「あの、浅黄様に瓜二つの女性と、頭に角が生えている子ですね。何事もなければ、数日中に目を覚ますと思われます。大きな怪我も、呪いの類の痕跡もありません。ただ…」

 

 

 那木はいい淀むと、痛まし気に目を伏せた。

 …那木がこうまで沈痛な表情をするとは、何事だろうか。手術…の話じゃないな。それだったら、多分まだ手が震えて動けなくなる。トラウマを乗り越えるようなイベントは、まだ起こっていない。……時系列的に、起きてないとヤバい気がするが。

 

 

「ただ、お二人とも…特に浅黄様似の方は、極度の疲労状態にあるようです。肉体だけでなく、精神的にも」

 

 

 …目も覚ましてないのに、精神的に疲弊しているってよく分かるな。心の疲弊が体調に影響する事は、確かに珍しくないが。

 

 

「その極致でございます。私も、あれ程の心労の兆候は初めて見ました…。博士様のお言葉によれば、彼女達が封じられていた円柱は、中に入れられた者の時の流れを遅くし、その上でゆっくりと治癒していく効力があるそうです。どのような仕組みなのか、真実なのか、疑問の尽きぬところではありますが…。それが事実だとすると、封じられる前は…間違いなく、疲労で一歩も動けない状態であったでしょう」

 

 

 一歩でも動ける状態なら、封じられると分かってりゃ死力を尽くして逃げようとするわな…。

 それができない程、二人とも疲弊していたのか…。

 具体的な症状は? 外相は無かったんだよな?

 

 

「重度の栄養失調を初め、神経の乱れ、臓器の疲弊、その他諸々…。髪質一つ、肌の色一つでも分かる事は多いものです。…彼女達が自分の意思で封じられたのでないのなら、恐らく以前の彼女達は、奴婢の立場すら極楽かと思う程に酷使され、精根尽き果てたのでしょう。そして気を失ったまま、封じ込められた」

 

 

 封じられろって言われて、素直に従う訳ないわな。そして敵に回すと厄介なくらいの実力がある相手。搦め手で戦力を削るのも、道理っちゃ道理だが…。

 そうであるなら、何故そこまで酷使されて従ったんだろうか。彼女達には、今目を覚ましている浅黄や滅鬼隊のような暗示は無かったと思われるのに。

 

 

「その他、気になる事と言えば、浅黄様似でないお方に、角が生えている事ですが…。少なくとも、外側から縫い付ける等の手術によってつけられたものではないようです。角の根本にも不自然な傷跡は無い…。生来のものでしょう」

 

 

 鬼の角が生えた女の子、か。呪いで半身を鬼に変えられた女を知ってる身としては…正直何も思わんなぁ。今更その程度じゃ。

 うちの子達だって、鬼の成分を混ぜ込んで妙なタマフリを使えるようにした、って子達だから。

 

 近い内に目を覚ますと言うなら、それを待つとしよう。何か覚えているかすら、現状では推測しかできない。

 ……浅黄の語る、以前の労働環境からして、疲弊しきった原因には予想がつく。目を覚ましたら、本人が拒否したとしても休養させようと、心に誓った。

 

 



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503話

 

堕陽月肆拾参日目

 

 

 博士が何かやってた。鬼の手の研究も形になって、さぁ乗って来た次の発明だ…とばかりに休憩せずにハッスルしてんじゃないかと思って、様子を見に行ったのだ。何せ、茅場も神機観察を放り出して、博士の研究所に入り浸っていると言うのだ。フィーバー状態になっているに決まっている。

 その心配については、助手となったグウェンや真鶴があれこれ世話を焼いていたので、杞憂に終わったのだが…。

 

 

「丁度いい死人を調達しろ」

 

 

 って言われた時はどうしようかと思ったよ。ていうか、丁度いいって何やねん。新鮮な死体が必要なのか? 蘇るのだこの電撃でなのか? それとも今から適当に、悪党探して狩ってこいって意味なのか?

 博士の事だから必要な要請で、成果に繋げてくれると確信してはいるけど、流石にタイーホすべきか真面目に悩んだ。

 

 戦闘態勢に入りつつあった俺を止めたのは真鶴だった。若干疲労が見える彼女は、博士が何の研究をしているのか説明してくれた。

 先日の異界浄化の際に拾ってきた、クッソ重い人形。そう言えば、前に博士と会った時のループでもこれを持ち帰っていたような。

 

 あのカラクリ人形にカラクリ石を仕込み、自立起動するカラクリ人形にしようとしているらしい。つまりロボットな。

 じゃあどうしてそこで『死人を持ってこい』なんて言うのかね。

 まさか死体にカラクリ人形を仕込んで、人間に化けさせようってのか。何というナマハゲ。お前はそこで乾いて行け。

 

 

「馬鹿者め。死体は要らん。必要なのは魂だ」

 

「うむ。人間と見紛う程の外見を作るだけなら、さして難しくないからな」

 

 

 …何気なく超技術が開発されてる気がするが、カラクリ石なら仕方ない。だってイメージを具現化する石なんだもの。

 

 

「凡人にしては理解が早いな。人に見せかける為の仕掛けはそんなところだ。だが、流暢に動かし、鬼を騙せるような囮にしようとすると、どうしても常に想像を補助する存在が必要となる。そこで死人だ。放っておけばそのまま死んでいくしかない死人の魂を、このカラクリ石の人形に閉じ込める。そうすれば、体は死んでも人格は死なずに済むし、私達の偉大な発明の礎となる栄誉も得られる。私は新たな助手と研究資料が出来て万々歳。茅場は異世界の技術と言うだけで鼻血が出る程興奮している。八方が得をする完璧な理論だ」

 

 

 そうね、死人がそうそう転がってない、人が死にかけてる時点で得もクソもないって所を覗けばその通りよね。

 …死にかけの人なんか出ないに越した事はないけど、実際上手くいけば死ぬしかない人を、一人助けられる可能性はあるんだよな…。

 

 

「ちなみに、その施術の為に軽く半日はかかるぞ。機材もあるから、死にかけの人をこちらに連れてくるしかない」

 

 

 …使い物にならへん。重症人は研究室で出てるんじゃない、戦場で出ているんだ。…爆発とか毒ガスとかが出て、研究室でヤバい事になる事もあるけど。

 

 

「やかましい。重症人の処置は、この件についてはあくまでついでだ。本来ならば人のミタマなど用いず、人形の中枢部に存在する核となる場所へ、制御文を書き込む予定だったのだ。その核の部分が根本から破損している上、こいつが好き勝手に弄り回して機能を増設したおかげで、自動制御ではとても間に合わなくなったのだ」

 

「君とて思いついた機能を片っ端から詰め込んでいたではないか。それが無ければ、持ち帰った当日に人形を動かす事も可能だったのに」

 

「……まぁいい。面白い物も多くあったし、不問としよう。と言う訳で、死人はよ」

 

 

 はよ、じゃねーよ。せめて死にかけの人って言え。

 …つーか、これってよくよく考えたら、物体に人を宿らせる…つまりアラタマフリみたいなものじゃないか。俺はランダム要素が強すぎて封印してたけど。

 じゃあ死にかけの人を拾ってこなくても、その辺の鬼から解放したミタマにでも取引を持ちかけりゃいんじゃね?

 

 

「だからそれを連れてこいと「おおっと待ったぁ! そういう話なら僕も噛ませろ! 念願の自分専用の体だぜぃ!」……明日奈、だったか。なんだいきなり」

 

 

 いや、このノリは木綿季だな。そういや、前から自分だけの体が欲しいって言ってたっけ。

 確かに、木綿季は条件に見事に当て嵌まるな。

 体は死んでて、ミタマになっても意識がはっきりしていて、当面成仏する予定もない。

 

 しかし、いいのか? 体を得る事が出来るにしたって、これだぞ、これ。

 3頭身ってどころじゃないし。

 一度憑依したら離れる事もできそうにない。冗談抜きで、自分で動かせるだけの人形になりかねんぞ。

 

 

「それでも僕は自由に出歩きたいんだい! ご飯の味が分からなくても、眠る必要がなくなっても、僕は自由が欲しいんだ! 夜の遊びは…残念だけど、なんだったら僕が道具を使って責めてみるのもいいし」

 

 

 …この人形にオナホで責められるとか、新境地だな…。バブルヘッドナースの方が、まだ気分が出そうだ。

 

 

「ふむ、確かに条件に合致する。そして、彼女ほど安定し、熟練したミタマであれば、その問題もほぼ解決できるだろう」

 

 

「え? 茅場さん、それどういう事? なんかいい話っぽいね? 教えて、教えて?」

 

「単純な話だ。この人形は、従来であれば五感など無く、中枢に書き込まれた命令通りに動くカラクリでしかない。もしもミタマを宿したとしても、五感と言えるものは…そうだな、カラクリに元々備わった、情報処理の為の画像と音…つまり視覚と触覚くらいしか残らなかったろう。だが、私と博士で色々と弄り回してみた結果、面白い事になりそうだった」

 

 

 …あんたら二人が弄り回したって時点で、嫌な予感しかせぇへんが…聞こうか。

 

 

「なに、難しい話ではない原動力としてカラクリ石を仕込むのだから、鬼の手と似たような事ができると踏んだまでだ。…実際、そういう機能を付ける事は成功したんだが、ちょっとばかり予想外の展開になってしまった。私自身の予測すら上回る、私の才能が恐ろしいな」

 

「そういうのいいから、早く、早く!」

 

「…君に細かい話をしても、逆に混乱させそうだから率直にまとめるが…憑依した者が、この人形の体を『自分の体だ』と思えば思うほど、人間と同様の機能が備わる事になった。先程上げたような五感は勿論、体そのものさえ再現されるだろう。この2頭身の体ではなく、生前の体か、ひょっとすると『自分はこう育つだろう』という明確ないしきさえあれば、未来の体さえ作り出せるやもしれん。…荒唐無稽だと思うかね? だが、君自身がそれを可能であると証明している。鬼の手を具現化させ、物理的な干渉すら可能としているだろう?」

 

 

 それは…まぁ、そうだが…。俺の手も半透明で、形だってすぐに変わるぞ。

 

 

「それは想像力がまだ足りていないか、そこまで集中して想像していないのだろう。お前は鬼の手を当然のように扱っているが、そこまでの精度を求めているか?」

 

 

 いや、目的を果たせれば鬼の手の形自体はどうでもいいから、そんなに拘ってないな。それなら、今度試してみるか。

 要するに、体が再現されるかもしれないとは言うけど、それは熟練すればって話なんだな? そもそも理論上の話であって、実際に可能かどうかはやってみないと分からない。

 

 

「それでもいいよ! 何が何でも使いこなして、自分だけの体を手に入れて、また明日奈と一緒に鬼と戦う。その為だったら何でもするよ! …それに、多分普通に出来ると思うよ。手本には事欠かないし」

 

「ほう? 私の偉業を、既に成し遂げている者が居ると言うのか?」

 

「偉業って言うかなんて言うか……ねぇ、明日奈?』『うん、まぁ…ね。聞かない方がいいと思うわ。真面目に研究するのが馬鹿らしく思えてくるから」

 

「ぐだぐだ五月蠅い、さっさと吐け」

 

「…仕方ないなぁ。やってるのはこの人だよ、この人。しかも鬼の手も使わずに」

 

 

 …え、俺? いや幾ら俺でも、鬼の手無しにその手の具現化は…。

 

 

 

 

 あ。

 

 

「…『烙印』があるでしょ。それで毎晩、霊山から直葉を召喚して具現化させた上、『りーふぁ』に変身させたりして好き勝手してるんだもの。見本には事欠かないわよ」」

 

「ほう、また貴様か。気に入らんが…その烙印とやらには興味がある。実演してみせろ」

 

「ふむ、異世界の技能かね? それでなくても興味深くはあるが」

 

 

 ……えぇ………。

 

 

「やかましい、とっととやれ」

 

 

 

 

 

 

 …呼び出した直葉は、見事に色ボケて、真昼間から盛るものだと思い込んでいた。実際そうした事もあったし。

 そしてそれを見て、一部とは言え自分達が研究して実現した事が、怪しげな房中術に先取りされていた事をしり、ちょっとブルーになっていた二人だった。

 

 

 とりあえず、木綿季は明日奈の体から離れ、人形に取り憑く事となった。危険は無いのか、本当にいいのかと、色々と相談はあったが、木綿季を止める事はできなかった。

 まだ体の具現化はできないが、人形の体を操るという点においては成果は上々。憑依して半日もしていないと言うのに、連続バク転からのムーンサルトまで決められるようになっていた。

 しかも体の各所に仕込まれた隠し武器と、生前に覚えていた剣術…と言っても、人の体とは違うので形ばかりを真似たものだが…で明日奈を相手に一矢報いるくらいの戦闘力。見物していた隊員達も、信じられないとばかりに目を見開いていた。明日奈の戦闘能力は、隊の中でも間違いなくトップクラスなのだ。戦闘特化の隊員でも勝てない。全力を出した浅黄なら、何とか渡り合えるくらいか。まぁ、一矢報いる止まりで、結局勝てなかったのだけど。

 うーむ、これが明日奈をして天才だったと言わしめた木綿季の実力か。まともに鍛錬できたのが生前、幼少の頃だけだったのにこれ程とは…。惜しい人材を無くしたものよ。死んでも生きてるけど。(某浮遊霊感)

 

 しかし問題もあった。一度人形に憑依してしまうと、抜け出す事が出来なかったのだ。最初から予想されていた問題ではあったが、体をちゃんと作るまで、ご飯も昼寝もまぐわいも出来ない。

 それでも自由が欲しいと断言したのは本人なので、自由の対価として受け止めるしかないが、なるべく早く問題を解決したがっている。俺もしたい。木綿季と明日奈を並べてヤりたいし。

 その為、肉体具現化の見本として、日中からも直葉が召喚される事になるのだった。本人は役得と悦んでいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、木綿季の事は一旦置いておいて。

 夕方になると、那木に呼び出された。別に色っぽい話ではない。

 塔から連れ帰った子達の内、浅黄によく似た方が目を覚ましたのだ。

 彼女達は隊舎の空き部屋に運び込み、那木に診療を任せていた。間もなく目覚めるだろうと聞いてはいたが、思っていたよりも早かったな。

 

 うちに居る浅黄も呼ぶように伝達し、現場に向かう……と、何やら緊迫した空気。

 那木はニコニコと笑いながら、浅黄にの彼女を看病しているが、お互いの間に微妙な警戒心が漂っている。妙だな、那木が患者にこんな視線を向けるなんて。笑顔で覆い隠してはいるが、襲い掛かってくる敵を見る目だ。

 

 

「…あなたが、この人達の頭領?」

 

 

 開口一番にご挨拶だな。ここに居る子達の纏め役ではあるが、那木は違うぞ。彼女は里のモノノフで、俺達は流れて来た…傭兵集団のようなものだ。

 うちの子達についての説明は必要かな? 見た目的にも、君の係累なのは確定的に明らかだが。

 

 

「…いいえ、必要ないわ」

 

 

 …この子、俺に対してもえらい敵意を向けてくる……いや、少し違うな。敵意ではあるんだけど、明確なものじゃない。苛々と言うか鬱憤と言うか、形にならない屈折した感情と言うか…。

 こっそり(と言っても多分気付いてるだろうけど)那木に目をやると、こちらも視線で返された。那木の視線が、表情だけは笑ったまま、部屋の飾りとして置いてあった植木鉢に向く。

 ………おいおい、まさか起きた途端にこいつで殴られそうになったのか?

 確かに殺気の残り香みたいなものを感じるが、状況把握もできない内にそれをやるか?

 

 明確な危険人物、敵対の意思ありと判断しそうになったが、当の那木がそれを視線で制止……しようとして、何かを振り払うように頭を振った。

 そして、いつになくハッキリとした口調で断言した。

 

 

「なりません。この方は疲れていらっしゃるのです。医師として、絶対安静を要請します。心身ともに静養せねばならないと言うのに、敵意を向けるなど以ての外です」

 

 

 …俺よりも、浅黄似の人の方が驚いていた。

 わざわざ口に出して伝えたのは、『自分達は腹芸はしない』というアピール…いや、宣言かな。医者として、患者からの信頼は非常に大事だし。

 

 すまない、少々殺気立ってしまった。お前さんがどういう境遇で、どんな感情を持って行動しているのかは想像しかできないが、事前に心身ともに疲弊しきっていると言うのは聞いていた。心が荒むのも無理はない。よければ、暫く休んでいるといい。

 どっちにしろ、君のお仲間もここで一人眠っているし、封じられている子達も沢山いる。放り出してどっか行く訳にもいかんだろ。

 

 

「いえ別に正直言うとそのまま封じてほしいくらいなんだけど」

 

 

 ………えぇ……?

 どういう事なの、浅黄似の人。さっきから思っていたけど、なんかこの人スレてない? 別に100%いい子で居ろとは言わないけど、雰囲気と言動が矢鱈攻撃な気が…。

 俺達に気を許してないから…じゃないよな。 何となくだけど、素の状態な気がする。

 

 …あ、そうだ。聞き忘れてたけど、君の事は何と呼べばいい? 封じ込められる前の記憶はあるんだよな?

 

 

「…浅黄よ」

 

 

 顔だけじゃなくて、名前まで完全に同じかよ…。個人名じゃなくてシリーズ名を答えたって事は、自分一人の名前が呼ばれない状況で生きて来たか、或いは『浅黄』がシリーズになる前だったのか。

 

 どうしたもんかと那木と顔を見合わせていると、扉が開いた。

 何人かが覗き見しようとしていてひゅっと頭を引っ込めたが、それはいい。

 

 

「若様、呼び出しに応じて参上し……あら」

 

「………」

 

 

 目を見開く浅黄似の人って言うか浅黄。そして元々居た浅黄。とてもややこしい。

 見た目は結構違うんだけどね。外見の部位は物凄く似通っているけど、眠っていた浅黄は表情が荒んでいる。多分、安らかに眠ってれば瓜二つなんだろうな。…寝てた方の浅黄は、寝ている間も常に魘されてそうだけど。

 

 

「…次代の私、と言う事ね」

 

「…そういう事よ。不甲斐ない『浅黄』だけどね。…他の皆を巻き込んで封じられた。『浅黄』から作られたのに、不甲斐なくて悪かったわね」

 

 

 …うん? 『浅黄』から作られた? え、君らって、元は普通の人だったのを、原形が残らないくらいに改造されたって聞いてたんだけど。

 まさかのクローン? と言うか、寝ていた方が原典? うちの浅黄は、クローン浅黄だったのか。まぁどうでもいいが。

 

 

「くろぉん?」

 

 

 あー…対象者の体の一部から情報を読み取って、そっくりさんを作り出すって技術だ。

 例えば爪、髪の毛、唾液、血。そう言った、一見すると誰の部位かも分からない代物を元に、肉体を作り上げる。

 外見は勿論、身体能力とかも同じくらいの人間を作り上げられる…のかどうかは怪しいもんだが。

 

 

「…驚いた。そんな事まで知ってるの。…そうよ、一部の滅鬼隊には、その技術が使われている。そんな名前で呼ばれてはいなかったけど。…そして、あなたの所に居る『浅黄』は、私の体から作られた『浅黄』よ。…私自身も、別の誰かの体から作られたそうだけどね」

 

「……若様、少し二人で話をさせてもらえないかしら。彼女がどういう状態なのかは私の方が正確に把握しているし、どうなるにせよ話は通しやすいと思うわ」

 

 

 構わないが…本人の意思が優先だぞ。まぁ、仮に一人でどこかに行ってしまいたいと言われても、封印前の常識で行動されちゃ敵わないから、一般的な事を学習するまで留まってもらいたいとは思うが。

 

 

「その間、彼女を働かせるつもりはある?」

 

 

 ? 本人がそうしたいと言うなら、体を回復させてから。

 モノノフとしての仕事でも、菜園の世話をするだけでも構わない。現状、人手が足りてない訳じゃないからな。

 

 …そう答えると、何故か寝ていた方の浅黄から非常に猜疑心の籠った視線を投げつけられた。さっきから何だと言うのか。流石にちょっとイラッとしてくる。

 

 

「そう。…なら、後は私が話すわ。悪いんだけど、二人にしてちょうだい」

 

「かしこまりました。…浅黄様……ええと、どちらの浅黄様でも、何かありましたらお呼びください。私は安静にしていただく為、幾つか準備を整えてまいります」

 

 

 んじゃ、俺はそろそろ飯の時間だな。後で御粥でも持ってこさせるよ。

 …ほら、扉の向こうで覗き見してる連中も散った散った。…と言うか何でこんなに集まってるんだ…。

 

 廊下を埋めつくすような隊員達が、一目散に逃げていく。

 残っていたのは詩乃だけ。逃げる必要も感じてないらしい。

 

 詩乃、こんな所で何やってたんだ、皆。

 

 

「単純に、あなたが気になっただけでしょう。私達の中心人物になっているんだし、隊の皆は刷り込みや普段の言動のおかげで、否応なく目が追ってしまうのよ。…それに、少しだけど殺気が漏れてたからね」

 

 

 注目度高いなぁ、俺…。それに、自分達が暮らす場所の中で殺気を感じれば、そりゃ気にもなるか。

 それを感じ取れるくらい敏感な感覚を持ってるのを喜んでおこう。油断さえしてなければ、あの程度の殺気にも気付く事ができるんだと。

 

 

「それより、あの『浅黄』をどうする気? こう言っては何だけど、皆からの好意は高くないわよ。経緯はよく分からないけど、あなたに殺気を向けたり、随分な態度を取っていたから」

 

 

 …どうしよ。実際、俺もあの態度にはちょっと思う所があったし。どんな理由があるにせよ、あの態度がそのまま続くのであれば、いい結果にはならないだろう。

 俺が許しても、他の皆まで許容してくれるとは限らない。博士は普段の言動の結果を出し、なおかつ距離を置き、助手というクッションを置く事で、何とか敵対しない関係を保つことができたが…。

 一般的な事を学ぶまで留まってほしい、と言っておきながらこんな事を考えるのも気が引けるが、距離を置くという名目で放り出す事も考えた方がいいかもしれない。

 

 …浅黄がどういう風に話を付けるか次第、だな…。………殺気を感じた。すぐに治まったが、話し合いが拗れたんだろうか? 戦いの気配はしないが…場合によっては突入した方がいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 晩飯喰ってたら、魂   の  叫 びを 聞い    た。

 

 

    「 嘘だ ッ!」っ     て聞こ  え   

                            た。

 

 

 

                  に涙

 み      何も言えず       した。

   んな

 

 

 

 

                目で見よう

 暖                         と、

    か

        く、長い

 

 

 

            頷い

 

                    た。

 

 

 

 



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504話

 

 

 

堕陽月肆拾肆日目

 

 

 朝になると、普段より7割増しで甘えてきた浅黄に布団をかけ、寝床の後始末を時子に任せて大和のお頭の元に向かう。浅黄似の…寝ていた方の浅黄が先代なので、うちの浅黄が似ている、というのが正しい?…とにかくあの子が目を覚ましたので、その報告に向かう為だ。

 結局、あの子は暫くここに留まる事になった。その先の事はまだ考えていないが、うちの浅黄から聞いた話が本当であれば、是非ともここに居たいとの事。…本当であれば、と言ってるから、まだ疑ってんだろうなぁ…。それも仕方ないよなぁ。

 

 

「ほう、目を覚ましたか。後で俺も様子を見に行くか」

 

 

 いやー、やめた方がいいわ。あんまり上役と関わらせない方がいい、今は。

 

 

「? よく分からんが…やはり心も体も弱っているから、重圧になるような事をするな、と言う事か?」

 

 

 うん、大体その理解でいい。本人も苛立ちを振りまきまくってるから、暫くそっとしておいてやってほしい。 

 そんな訳で、あんまり話も聞けてないんだ。過去の記憶はしっかり残っているようだけど、何故あそこで封じられていたのか、封じられる前の状況はどうだったのか、他に封じられている子達はどんな子達なのか。全く不明だ。

 下手に聞き出そうとすると、錯乱しそうでなぁ…。そうでなくても、お前には関係ないだろう、みたいな態度で噛み付いて来るんだよ。

 

 

「むぅ…まぁいいだろう。滅鬼隊への仕打ちは様々な意味で問題だし看過もできんが、どうしたってそれは過去の事だ。当事者は、恐らく殆ど死に絶えているだろう。…外法の類で、人の寿命を超越でもしていれば話は別だが。非情なようだが、今優先すべきは鬼達への対処と、異界の浄化だ」

 

 

 そう言ってくれると助かるよ。あの子達を起こせば戦力は補充されるかもしれない。でもその背後を掘り起こしたところで、鬼との闘いには役に立たない。

 他の子達を目覚めさせるかは、もう少し様子を見て決めようと思う。…浅黄似のあの子が、あんな風になっちまった一因かもしれんしな…。

 

 

「ふむ? …しかし、聞けば随分な問題児のようだな。お前の所の連中が、よく許しているものだ。暴発しないように気を付けておけよ。仮にも身内…いや、それ以前に病人に対して私刑を行うようであれば、俺としても黙ってはおれん」

 

 

 あー…………まぁ、確かに、俺への態度に怒り狂って、先走りそうな奴は居るけども。天音とか特に。

 多分、大丈夫だと思う。

 

 

 …あんな声を聞かされちゃあな…。後から浅黄に何を言ったのか聞いたけど、本当に涙が止まらなかった…。

 

 

 

「…?」

 

 

 

 皆で集まって、飯食ってる時にな…。音を極力漏らさない構造になってるのに、それを貫いて絶叫が聞こえたんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嘘だッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まともな上役と、指示に従う同僚なんて恵まれた職場に、私達が巡り合える筈がないッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 って。

 

 

「………………………」

 

 

 大和のお頭は、そっと目頭を隠した。

 もうあれだよ、あの子ブラック企業に勤め続けて肉体的にも精神的にも完全に過労死した状態だったんだ。那木が絶対安静と断言するのも納得だ。

 刺々しいのも疑わしいのも、統合失調の類…と言うよりは、今までの環境が酷すぎて、自分にとって良い働きをする全ての物が信じられなくなっているんだ。

 

 

 ちなみに、浅黄が彼女と話した内容だが。

 最初、ここ…つまりウタカタの里と、ここの部隊は非常に居心地が良いところで、貴方もきっと休める筈。暫く静養してはどうか、と伝えたのだが、首を横に振られた。

 

 浅黄(寝)曰く。

 自分達を集めて使おうとしている連中なんて皆同じで、利用して使い潰す事しか考えていない。約定は破るし、支援なんて考えもしないし、負担も周囲への影響も考えずに、自分の欲望を満たそうとするだけ。

 同僚達は、やたらと自己評価が高く、自分ならどうにかなると思い込んで突っ込んでいっては失敗し、失敗したらお前が指揮をとっていなかった為だと抜かす。そうでなくても、後始末は自分に丸投げだ。

 どいつもこいつも内心で私(浅黄)を軽んじて、都合の悪いことを擦り付けるのしか考えてない。

 そんな連中に囲まれたところで、気が休まる筈がない。

 

 浅黄(起)曰く。

 気持ちは物凄くよく分かるし、自分も貴方程ではないが、似たような状況にあった。

 心も体も疲弊し、疑心暗鬼になって貴方のような考えに陥りかけた事もある。

 その自分が保証する。

 ここは安らげる場所だ。

 どの道暫くは動かない方がいいし、その間だけでもここの人達の事を観察してみてはどうか。

 

 浅黄(寝)曰く、

 まっっっっっったく信用できない。 

 むしろ信じようとすると胃が拒む。吐きそう。

 体が弱っているのを推してでも動かないと、今でも誰かが何かやらかして、その後始末が降りかかってきそうで、頭がおかしくなる。

 絶対安静なんて言っていられない、今動かなければ私は

 

 

 

 

 浅黄(起)、前方首固めで動けなくする。上手な締め技は、優しい。

 曰く、

 今の私達の頭領は、以前の連中とは比べるのが失礼なくらいに有能でまともで優しくて器量も大きい。卑猥だけど。

 体が治って、世間の状況も把握した上でなら、一人で飛び出すのも止めはしないと言っていた。

 彼が信じられなくても、同じ『浅黄』である私の事なら、多少は信じられるだろう。

 私が信じてついて行く事を決めた、彼を少しだけ見ていてほしい。

 

 

 

 浅黄(寝)曰く、

 やはり信じられないが、首を絞められたおかげで完全に動けなくなってしまった。

 やらなきゃいけないと焦りばかりが溜まるが、もうどうしようもない。

 胃が壊れるのを覚悟で休むしかない。(自覚が無いだけで、胃に限らず色々壊れている。特に精神的に)

 せめてあなたが信じるという上司の事を教えて。

 

 

 

 こんな感じらしい。褒め殺しされてるようでむず痒い事この上なかったが、よくよく考えてみると要求する上司像の最低限度が低すぎるだけである。

 何だかんだで結局、浅黄(寝)はうちに留まる事になった。

 あれこれ理由をつけているが、今のところ一番重要な理由は……封印されている子達を放置しておくと、後から自分に災難が降りかかってきそうだから。いっそ、封印されている間に根切にしてしまえば…なんて血走った目で言い出したもんだから、気絶させておきました。

 

 浅黄(寝)の発言がどれくらい事実なのかは分からないが、封印されている子達は相当な問題児揃いらしい。うちの子達も問題児ではあるけど、俺が言う事は素直に聞く分、まだ御しやすい。

 最悪、パージする事も視野に入れなければならないかもしれない…。

 

 

 ところで、瘴気の元に関しては見つかったのか?

 

 

「先日の探索で、当たりはついたそうだ。明らかに、一際濃い瘴気の流れが流れ出ている場所がある。近い内に、再度動いてもらうぞ。初穂はまだ、鬼の手を使いこなせていないからな」

 

 

 はいよ。じゃあ、話は全く変わるんだが…以前に話をしていた、交流としての練武戦。あれの為の舞台を整えたいんだが。

 ただの舞台じゃつまらんだろう。普段はちょっと変わった訓練に使えるような、そんな場所を作りたい。

 許可を貰えないかな。

 

 

「ふむ…雅の領域を浄化できたら、鬼達の縄張り争いが一段落するまで、手を出さない方が良さそうだしな。その時に練武戦をやるのは賛成だ。…だがまず図面を寄越せ。たららと共に見分する。お前の事だから、何か危険な仕掛けを施すやもしれん」

 

 

 やだなぁ、危険な仕掛けがあるから変わった訓練に使えるんじゃないか。

 とは言え、流石に致命に繋がるような仕掛けは施すつもりはないよ。……作ってる間にどっか狂って、勝手に出来上がるかもしれないけど。

 それをたたらさんが見分してくれると言うなら大歓迎だ。バグ取りを自主的にやってくれるなら、こんな有難い事は無い。

 

 

「ところで、封じられていた方の浅黄は、結局何と呼ぶ事にしたのだ?」

 

 

 クローン浅黄って事で、黒黄にしようかな…。本人は、呼び名なんて何でもいいて言ってるんだけど、ありゃ自分の名前に拘りすら持てなくなってる状態だからな。

 今まで『浅黄』として生きてきたんだし、それを否定する訳にもいかんのだよなぁ。

 『アサギ』として呼び分けする事にした。発音変えればどっちを呼んでるかは分かるし、一緒に生活してたって別に問題は起きんだろ、常識的に考えて。

 

 

「まぁ、うちの里にも悟助が3人、華太郎が2人、さやが2人居るからな。さやは字が違うが」

 

 

 そういやそうだったな。

 小太郎も3人居たっけか。小なのに矢鱈と腹がでかい小太郎と、小なのに背高のっぽの小太郎と、小って割にはちんこがデカい小太郎。ちなみにちんこがでかいのを知っているのは、茂みで立ちションしているところにバッタリ会ってしまったからだ。

 

 

 

「…ついでに聞いておくが、お前はどうやって彼女達を統率できたのだ? 最初は経験不足故の慢心や猪突猛進が目立っていたが、それも徐々に改善されていると聞く。特別なタマフリを使えるからと言って、それを頼みにする様子も、使えない普通のモノノフを見下す様子もない。正直な話、最初に伝え聞いた時には軋轢が生じる事も覚悟していたのだが」

 

 

 滅鬼隊と言えば、霊山に古くから伝わる極秘精鋭部隊…って事になってるらしいからな。選民意識が高いと思われるのも無理はない。

 

 どうやって統率できるようになったかと言えば…暗示の効果もあるんだろうけど、一番大きいのは教育だろう。殆どの子が、過去の記憶が全くない、忘失した状態だったからな。

 生活どころか暇潰しの方法すら知らない、判断基準が何もない状態。そこに慕う相手からの一言を受ければ、その比重はとてつもく大きくなるだろう。要するに、子供が親の言いつけを守るのと同じ事だ。…ちょっと厳しめの事を伝えているのもあるから、無意味に反抗しようとは思わないだろうし。

 真っ新の状態だから出来た事。…段々自我が育ってきて、その内反抗期とかにも突入するんだろうなぁ。

 

 特殊なタマフリに関しても、色々あったが……あいつらの昔の運営主連中の事を教えたら、すっごい納得してた。

 

 

「昔の…と言うと、彼女達を封じた連中か。技術力はともかく、随分と悪辣で………それ以上に阿呆の集まりだったと聞いているが」

 

 

 その阿呆な連中が研究して、使えるようにしたタマフリだぞ。…信頼して扱えると思うか?

 

 

「……猿が鍛冶師の真似をして見た目だけは立派な刀を作れたとして、信頼して使えるかという問題だな」

 

 

 うん、そういう事。

 自分達を生み出した連中の間抜けさ加減を聞いて、流石に皆落ち込んでたっけな…。もう見ず知らず、会う事もない相手だから関係ないと割り切ればいいんだけど、そんな連中に生み出された俺達は、とてつもない抜け作揃いなんじゃないか?って。

 最初は『自分のタマフリはこんな事できる、すごいんだぞー』みたいな話もあったけど、これを聞かせてからは『当てにしてると妙なしっぺ返しが来そう』みたいな感じになった。

 勿論、使い方さえ誤らなければ強力な武器になる事は変わりないから、試行錯誤は続けさせてるけども。

 

 この話をしたのは確か、うちの連中を纏めて相手取って大騒ぎした少し後だったな。

 使えるタマフリと戦術があまりにも噛み合ってないんで、意識改革を考えて話したんだったか。おかげで、凛花は煙化能力を格闘に使うのは控えて、別の使用方法を模索するようになったんだ。

 

 

 

 

 さて、そんじゃアサギの様子を見に戻るよ。あの調子だと、何かの拍子にうちの子達と激突しないとも限らない。

 長い目で見てやろうと、皆で誓いはしたけど、喧嘩売られたら即買うだろうしな。

 

 

 

 

 





---------特別付録☆二人の浅黄、会話記録------------

 自分達の纏め役について聞かれた浅黄。
 語るのは正直気が進まない。恥になるとか、恥ずかしいとかではなくて。


「…どう考えても嫌味か自慢にしか聞こえないと思うけど、それでも聞きたいの?」

「今の状況を正確に把握しないといけないのよ私は。じゃないと何が起きるか分からないから、胃痛で寝られなくなるのよ」

「………あんまり渋っても、さっき言った事が嘘だと思われかねないし…。いいけど、聞くって言いだしたのは自分だからね?」

「いいから早く言いなさい。一言で言えば、あの男をどう評価する?」

「………簡潔に言えば…」


 浅黄はアサギの顔を見て、少しだけ言葉を選んだ。告げるのは間違いなく本心で。彼女をここに留めておく、安静にさせておくのに一番効果的な表現は。



「一言で言えば、理想の上司ね」

「…どんな風に?」






「まず無茶振りされない」


「その一言だけで殺意が溢れるほど妬ましいッ………! ゴフッ」


 ちょっと口と目から血を吐いたが、予想の範疇だった浅黄は構わず話を続ける。
 薄情なようだが、自分も過去の事を思い出して、ちょっと憂鬱になっていたのだ。

 『やれ』と言われれば拒否する事のできない立場。
 私利私欲に塗れた、曖昧極まりない命令。
 なまじ力に自信を持つゆえに暴走する、短気で猪の方がまだ賢い部下達。
 それを諫めるどころか、「自分達が作り上げた傑作だから、お前達は無敵だ」などと吹聴する自称天才ども。
 勿論、自分達が色々な後始末を押し付けている自覚もない。
 記憶が消えるから失敗したという自覚も無い。
 ただでさえ経験不足の上、度々記憶を消されて学習する機会すら奪われる。
 支援するどころか、失敗して無様な姿を曝させる為に送り出す上司達。
 任されるのは表沙汰にできない穢れ仕事と、自分と同じ立場の道具を増やす為の人攫い。
 成功しても失敗しても、待っているのは上役達の気分とさじ加減一つで理不尽な罰則を設けられる。
 逃げれば暗示による発狂死が待つ。
 摩耗しきって、強制された感情だと知りながら情に縋り、最後には全員を巻き込んで封印された。

 今にして思う。いっそ死んでいればよかったのだ。
 『自分が死んだら、隊員達は』なんて考える必要なかった。自分が死んでも、次の『浅黄』が作り上げられるだけ。何も変わらないが、少なくとも自分は楽になれる。



 浅黄の口からもちょっと赤い液体が流れたが、頭を振って悪い記憶を振り払う。
 そうだ、未来に目を向けよう。今の頭領は、封印前に比べれば文句の付けようがない。未来は明るく開けている。散々悲惨に使い潰されてきたのだから、これからは幸せになってもいい筈だ。
 とりあえず、今夜の閨では甘えさせてほしい。アサギを説得した褒美として願えば、心の底から蕩けるような一時の後、甘い眠りにつくような気絶まで追い込んでくれるだろう。


 現実逃避も兼ねて、今までの頭領がやって来た事を話していく。
 霊山での目覚め、オオマガトキによって変わり果てた世界の事を聞かされ、無気力だった自分を保護。
 権力者と話をつけ、封じられていた皆を解放し、そしてウタカタへ。
 ウタカタへやってきても、大小色々やらかしながらも現地勢力と協力体制を築き上げ………。








 黙って聞いていたアサギは、一つ溜息を吐くと、感情が全て擦り切れ切った元人間のような口調で声を出した。


「つまり……あなたはこう言いたい訳ね。
 縁も所縁も無かったあなた達を全員連れて霊山から脱出した上、この里で何もない状態からあっという間に生活環境を作り上げる。
 現場の戦いに理解があり、当人の実力は計り知れず。
 捨て駒にされないのは勿論のこと、無茶振りされないどころか任務を任せる時には詳細な情報分析と人選を必ず行い、任務の成功失敗を問わず終了後には労いを忘れず、休養を義務付け、多額の報酬を準備。
 金策を初め、組織運用の為に様々な施策を行い、兵站の補給を徹底する。
 多数の問題を作りながらも近隣の里とは友好的な関係を維持。
 多くの鬼に襲撃された時には、予め作り上げていた防衛線を活用し、隊員総出で撃退、重傷者を出さなかった実績がある。
 最近では自分一人だけで作業を回していると、何かあった時に全員が動けなくなるので、各種育成にも力を注いでいる。
 元よりの暗示と実績が相まって非常に人望が強く、ここに居る子達は大抵の事は素直に聞く。
 非常に身内に甘いが必要最低限の一線は譲らず、それを超えればどんな多大な功績をあげようと厳罰に処すと公言。


 部下達は過去の記憶が無く、経験不足、知識不足である事をかなり強く自覚している。
 更に、大勢で頭領と戦って一矢報いる事もできずに蹴散らされた為、過剰な自信を抱けるような環境ではない。
 任務を受けるようになる前には必ず教育を受けさせられ、事前準備の重要さ、詳細な情報によって得られる優位と利点、それを知らない場合の危険さを叩き込まれる。
 どのように報告を挙げるのか、書類も整えて一定水準の情報を纏められるよう統一。
 それらを読み解く訓練もさせ、それを齎す探知や援護役の重要性を説く。
 このため、判断を誤っての苦戦はあるものの、無意味な抜け駆けで突撃していく者は居ない。

 
 植え付けられた性癖を忌避したり嘲笑ったりする事もなく、むしろ互いが楽しむ為の方法と捕らえている。
 優しく初めて蕩けさせてから激しくするのも、最初からわざと粗略に扱って嬲るのも可能で、相手の気分に合わせてくれる。
 女癖は悪いけど、あなた達全員を相手にしてもまだ余裕がある。
 …方法は感心したものではないけど、これはつまり部隊全体の安定させるくらいの余力を残していると言えるわ。。
 しかも、無理をしてではなく嬉々として。
 部下達も程度や立ち位置の違いはあれ、頭領に求められれば拒む気にならないくらいには頭領を慕う。

 男の隊員も強い恩義を感じていて、女所帯で居心地が悪く独立を考える事はあるようだけど、それも別動隊として動くという意味が強い。
 頭領自身も、本当に本人達がそれを願うのであれば、準備をして送り出し、時に援助をする事も構わない。




 なるほど。聞けば聞く程理想的じゃない。…理想的すぎて、信じられないくらいにはね」


「…やっぱりそう思う? 私も本心と事実を出来る限り正確に語ったつもりなんだけど、話してる間に『こんな都合のいい話無いわ』って思い始めたもの。でも事実なのよね…。考えてみれば、どれだけ奇跡的な力関係の上に成り立っているのか…」


 アサギは淡々と語り、それを受けた浅黄も遠い目をする。自分がどれだけ奇跡的な環境に居るのか、改めて理解した。…実は都合のいい夢だったりしないだろうか? 現実の自分は封印されたまま、この世の終わりまで…いや、オオマガトキが再発した後も、あの施設の中でゆるゆると朽ち果てて行こうとしているのではないだろうか? もしそうだったら、現実なんてどうでもいいからこの夢の中に浸らせてほしい。その為なら、百日夢だって喜んでかかるぞ。
 
 スゥー、ハァーっとチャドーめいた深呼吸をするアサギは、相変わらずの無表情だ。
 だが、その無表情の裏で激しい感情が渦を巻いているのが、浅黄には手に取るように分かった。


「…少なくとも、あなたが本当にそう思っているのは理解したわ。普通に考えれば、どうやったって成立しないような環境だけど、そこは百歩譲って良しとしましょう。頭領の人徳にせよ特異な状況による結果にせよ、潤滑油役や副長役が上手くやっているのなら、そういう上手く回る組織もあるかもしれない。…でもね、私は一つだけ信じられないの。それが何よりも致命的よ。あなたも『浅黄』なら分かるでしょう」

「…言ってみなさい。この建物は、大抵の音を外に漏らさないようにできている。思いっきり叫んで構わないわ」




 目を閉じ、アサギは思いっきり息を吸い込んで、必要以上に大きな声で…それを止める気にはなれなかった…雄叫びをあげる。顔から色々な液体が噴き出て見れたものではないが、責めてはならない。これはブラック企業の為に魂の一欠片まで磨り潰された哀れな人間が、ようやく吐き出す事が出来る積もりに積もった鬱憤なのだ。






「嘘だッ!まともな上役と、指示に従う同僚なんて恵まれた職場に、私達が巡り合える筈がないッ!!!!!




 アサギは込み上げてくる涙とか感情とか色んなものを閉じ込めて、冷徹に言葉を続けた。それが自分の為であり、頭領の望みでもあり、そして彼女が最も求めている言葉だからだ。


「そのまともな上役と同僚が居る組織に、今なら加われるわよ」

「不束者ですが何でもいたしますので末永くよろしくお願いしますッ!」


 浅黄は窓から夕陽を眺めて目を細めた。涙が一滴、堪えられそうになかったからだ。
 しかし既に目の幅と同じ太さの涙が流れていた。

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505話

 

 帰り際、真鶴に会った。

 おっす、博士のお遣いか?

 

 

「いや、私用だ。甘味を買ってこいとは言われたが。マホロバの里に手紙を出す。…異界浄化を、確かにこの目で見たとな」

 

 

 そっか。…やり方を教えてやれればいいんだけど、鬼の手が必須だしなぁ。

 博士がいずれ幾つか作ってくれるとは思うけど、使いこなすにも時間がかかるし、何より数は限られる。

 

 

「それでも進展があったのは確かだ。異界の瘴気の元があると言う事すら、我々は…恐らくはマホロバのモノノフ達も把握していなかった」

 

 

 今からでもそれを見つけておけば、いざと言う時に話が早い…か。マホロバの里に一番近い異界は…確か、「安」の領域だったか。

 あの辺をうろついていた時期があるんだが、やたらと瘴気が濃い区域があったな。根の国、なんて呼ばれている領域だった。それに相応しい瘴気の濃さだったが…怪しいのはあの辺か? いや、あの場所は風の流れが少なくて淀んでいるから、瘴気が長年かけて流れ着き、密度が上がっただけかも…。

 

 

「…随分詳しいな。我々ですら、そこまで把握はしていない。…近くに来ていたのであれば、サムライを頼ってくれればよかった。そうすれば、もっと早く縁が出来ていただろうに」

 

 

 当時は異界浄化なんて夢のまた夢だったけどな。

 …最悪、こっちが落ち着いて、マホロバの里で瘴気の元が見つかってるなら、そっちに行って浄化するのも有りか。

 

 

「そう言ってくれるとありがたいが、恐らく簡単に帰ってこれなくなるぞ。質問攻めにされるのは勿論、鬼内…モノノフ達に絡まれるのが目に見えている。マホロバの里のモノノフ達は、ここのモノノフ達とは違う」

 

 

 外様との確執もあって、外の人間に対して排他的なのは知ってるよ。

 悪い連中じゃなさそうだったが、付き合いやすい連中かと言われるとな。サムライにも似たような事は言えるが。

 

 

「…この里は、いいな。強力な鬼が蔓延る最前線で、事実犠牲者も出ているが、里全体は信じられない程上手く回っている。君達のような外様を受け入れるだけの土地、物資、何よりも里人のおおらかさ。マホロバではこうはいかない。あそこの連中が、この里の人達のようであればどれ程良かった事か…。…我々がモノノフに対して強い不信感を持っているから、猶更確執ができやすかったのも確かだが」

 

 

 確かに、改めて考えるとちょっと信じられないくらいのお人好しだ。大和のお頭一代で里を作り上げた訳じゃないだろうが、オオマガトキで追い詰められた世界で、よくもここまで整えたものだ。

 友人とか出来た? …その、例えばモノノフの。

 

 

「友人かどうかは分からないが、那木殿とよく話す事はあるな。彼女もモノノフだと思うと、どうにも構えてしまうが…。あと、あの説明癖は何とかならんのか。解説は有難いし、為にもなるし、話も分かりやすいが、ただ只管長い…」

 

 

 何ともならんな。趣味を通り越して生き甲斐だろ。

 

 

「グウェンとは友人だな。本人がはっきりと言葉にしてくれた。異人の言動は慣れないから、少々照れ臭い」

 

 

 日本人に比べると、明け透けだからなぁ…。血筋的にはブリカスだったっけ? それにしては天使みたいな性格なんだけど。

 ちなみに、うちの子達と友人になったりは?

 

 

「…彼女達もモノノフだし、それ以上に博士の助手をやっているからな…。物言いたげな視線をよく向けられる」

 

 

 …すまん、文句を言いたければ博士に直接言えと…いや、それで研究に遅れが出ても困るし、何より聞く耳持つ筈が無かった…。

 

 

「いや、あの程度なら実害はないし、気にする程の事でもない。その辺を肩代わりするのも助手の務めと思っておこう。博士が研究に集中できれば、異界浄化やそれに役立つ道具も作れる。それは我々サムライにとっても喜ばしい事だ。作った道具のいくつかは、サムライに送ってもいいと言質を取ったしな。広域の結界を張る事ができる道具があれば、結界の外で暮らしている外様の安全は大きく改善される」

 

 

 ちゃっかりしとるわ。

 …ん? なぁ、手紙を渡すと言うか、持っていく人ってあの人だよな。

 

 

「ああ、そうだが。……あれは、この里の神垣の巫女?」

 

 

 視線の先には、相変わらず動き辛そうな神垣の巫女衣装を来て、飛脚(多分)に手紙を渡している橘花。

 そう言えば、雪華…シノノメの里の巫女と文通始めたんだっけ。やろうと思えば、夢渡りの術で毎晩会える筈だけど。

 おーい、橘花。

 

 

「あら、おはようございます。お散歩ですか?」

 

 

 朗らかに笑う橘花だが、ケツ穴キュンキュンしているのは慣れた者なら一目瞭然である。本人的には、この場で衆目に晒されながらファックされてもいい、と言うかされたいと思っているようだが、視線でオアズケを告げる。シュンとした。

 手紙に視線を向けると、健全に楽しそうな笑みを浮かべる。

 

 

「お察しの通り、雪華さんとの文通です。毎晩夢渡りを使うのも面倒でしょうし、寝不足になっちゃいますからね」

 

 

 なるほど。人には言えないような相談は夢でやって、普通の話は手紙でするのね。二度手間と言ってしまえばそれまでだけど、雅と言えない事も無い。 夢での話と違って、物として記録も残るし。

 俺と橘花が話している間に真鶴は手紙を託し、俺達を見ていた。

 

 

「この里もシノノメの里とやらも、随分神垣の巫女が出歩くのだな…」

 

「ええ、大和のお頭が、閉じこもってばかりでも気に障るだろうと。マホロバの里は違うのですか?」

 

「違う云々以前に、実をいうと遠目に見かけた事があるだけでな…。あなたに言っても仕方がないが、私達は外様…結界の中で暮らす事ができない。鬼内達は、私達が神垣の巫女を攫う事も考えているようだ。仮に神垣の巫女を本当に攫う事が出来たとしても、協力をとりつけられるかは別問題だというのにな。」

 

「そんな…。それでは、いつ鬼に襲われるか…」

 

 

 そうだな。かと言って、無理に結界内で暮らせるようにしたとしても、軋轢が邪魔をする。

 どっちに原因があるとかはまた別の話として、「一緒に住め、仲良くしろ」だけで済む話じゃねーな。

 

 でも、その状況を覆す為に真鶴はここに居るんだろ。

 

 

「そういう事だ。我々とて、手をこまねいているだけではない。今後どうするにせよ、我々の価値を高め、示す必要がある。無視できない程の価値を。幸い、鬼内達は異界浄化の話を聞いても、単なる虚報か噂話と思ったようだ。これに先んじて、異界浄化の方法を得る」

 

 

 実際、丁度いい立場に滑り込んだしな。霊山で揉め事に巻き込まれて博士の助手にされたって聞いたが、結果を見れば幸運だったか。

 …そう言えば、一体何に巻き込まれたんだ?

 

 

「詳しい背景までは聞かなかったが、多数の逮捕者が出て、あちこちで混乱が起こっていたそうだ。他所からやってきた私達は、そいつらを逃がす為の手勢と勘違いされた……らしい」

 

 

 なんじゃそりゃ。逮捕者云々はうちの子達関係や、九葉のおっさんが派手に粛清したんだろうけど、なんでそこで勘違いされるかね。

 他所から霊山を訪れる人は、そう珍しくもないだろうに。

 

 

「私に言うな。不運だった…結果的には幸運か。さて、私はもう行く。そろそろ博士が、甘味が切れたと喚き散らす頃だ」

 

 

 行動パターン把握しとる…。で、甘味は渡すの?

 

 

「無制限に渡す訳がないだろう。頭脳労働に甘い物がいいとは聞いているが、そればかり食べているようでは体を壊す。まずは普通の食事からだ」

 

 

 サムライの副長は、オカンみたいな事を言って去って行った。

 俺もそろそろ戻るかな。色々とやっておきたい事ができたし。

 

 

「ご一緒してもいいでしょうか?」

 

 

 いいけど…あんまり構ってやれないぞ。遊ぶのはやる事やってからだ。

 

 

「大丈夫です。眺めているだけでも、気持ちよくなれますから」

 

 

 …本当に、何でも気持ちよくなるんだなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

堕陽月肆拾伍日目

 

 

 唐突でなんだが、うちの子達と最も仲がいい里の人間は誰か? と聞かれれば、俺は富獄の兄貴を挙げる。

 本人は否定するだろうが、面倒見がよく、強くなる事に真摯で、話しかければ意外と気さく。

 教えを請えば、多少は武術の伝授もしてくれる。

 

 よく権佐、骸佐が組み手をやっているが、流石の実力。今のところ、一本も取れていないらしい。明日奈や神夜でさえ、正面から向き合えば一度も勝てないのだから、富獄の兄貴の対人戦闘能力が伺える。

 それがどこから広まったのか、腕に覚えのある隊員達がちょくちょく顔を出すようになり、富獄の兄貴が使っていた稽古場を半ば乗っ取ってしまったような形になった。

 一人で稽古できなくなった富獄の兄貴だが、代わりにいい稽古相手が出来たとばかりに、嬉々として組み手を受けているのだそうな。

 

 そんな訳で、強面な外見とは裏腹に気のいい兄貴分的な立場になっている。

 そんな富獄の兄貴の様子がおかしいと、骸佐から報告が入った。

 

 動きや戦い方が妙に険しく、僅かだが殺気が籠っている。別に、うちの子達が気に入らないとか、敵対している訳じゃない。

 無駄な力が入っているのは本人も自覚しているらしく、落ち着こうと瞑想したり、組み手を切り上げて只管武術の型を繰り返している。

 

 

 …単純に考えれば、ストーリーイベントの時期かな。

 ダイマエンか…。あいつとやり合うのは、ゲームでは安の領域だったっけ。 まだ雅の領域しか歩き回ってないぞ。

 でも空を飛べる鬼だし、自由に移動していてもおかしくない。

 

 富獄の兄貴はホオズキの里を壊滅させたダイマエンを追っている。対になっている石が近づくと光る石を持っていて、その対の石がダイマエンの腹の中にあるんだっけ。

 どうすっかな…。

 仇討ちはさせてやりたい。あの人には別ループながらも、色々と世話になっている。

 それを差し引いても、ダイマエンの飛行能力は驚異的だ。いつ何処で強力な鬼に遭遇するか分からないってのは、好ましい状況じゃない。今の俺にとっては片手間に狩れるような相手でしかないが、それだってご親切に目の前までノコノコ現れてくれればの話でしかない。

 

 

 取り敢えず、危険で機動力の高い鬼の痕跡を発見した事にして、警告しておくか。見つけても先走らない、勝てると思って襲い掛からない、いつ頭上から襲い掛かってきてもおかしくないと思え。見つけたら可能な限り、一目散に逃げる事。

 そして何よりも、抜け駆けしない、させない。

 一人で任務に出る事を禁じ、それらしい者を見つけたら隊員であるか否かを問わず制止し、報告すること。…これの本当の目的は、うちの子達の暴走防止じゃなくて富獄の兄貴だ。ゲームストーリーじゃ、あの人も例に漏れず単騎特攻しからな。

 しかも、結局近場に強力な鬼が居る以上放っておく事はできないので、単なる戦力の逐次投入にしかなっていなかったし。

 

 …声かけただけじゃ止まらないよなぁ…一回、落とし穴かけて止めたっけな。肥溜め付きの落とし穴で。

 流石にアレをもう一回やるのはちょっと…。他の人が引っ掛かる可能性が高いし、何より隊の皆が世話になってる人を糞まみれにするのは流石にまずい。

 …厳命すれば、一人で出て行こうとする富獄の兄貴を力ずくで…いや、勝ち目がない。うちの子達も大分育ってきたが、まだまだ経験不足だ。

 

 

 あれこれ考えても仕方ないな。とりあえず、富獄の兄貴の様子を見に行ってみよう。

 

 

 

 朝一番、隊員達はそろそろ起き出してくるかという時間帯。富獄の兄貴がいつも武術の習練をやっている場所にやってきた。

 朝日の中、半裸のムキムキマッチョが外見に反して静かに、そして繊細に型を繰り返す姿は、いっそ神聖さすら……いやそれは感じないな。結構汗かいてるし。

 思えば、俺もああいう基礎練を行わなくなって久しい。狩りに行けずに退屈だなんて言ってないで、地道に訓練しなきゃな…。

 

 内心で反省しながら、少し観察。

 …確かに骸佐達が言うように、不自然な昂ぶりが垣間見える。無駄な力み、雑念、飛び散らされる霊気。

 自覚もあるようだが、それによってむしろ更に苛立っているように見えた。

 

 

「…おい、いつまでそこ居るんだ」

 

 

 観察が終わるまで、かな。うちの子達から様子がおかしいって聞いて、気になって来てみた。

 

 

「ちっ、無駄に目ざとい餓鬼どもが…」

 

 

 餓鬼なのは否定しないけど、見る人が見れば一目瞭然だぞ。里の連中はとっくに気付いているだろうよ。

 自分でも自覚してんじゃねーの? 何があったんだ。

 

 

「別に、大したこっちゃねえよ。俺だって、思い出したくも無い事を思い出す日もある」

 

 

 ふむ…。この人がこうまで苛立つなんて、やっぱり例の件だろう。昔の事を思い出して不機嫌になってるって言ってるし。

 

 その昔の事はどうか知らんが、夢ってのはお告げだとか虫の報せだとか言うぞ。モノノフだったら、猶更霊感とかそういうのも鋭くなるしな。

 何だか知らんが、備えておいた方がいいんじゃないか?

 

 

「ふん、くだらねえ」

 

 

 呆れたようにあっさりと言い放つ。まぁ、この人そういう迷信とか当てにしないしね。

 ……しかし、持ち歩いている石に全く意識を向けなかったのは意外だな。誘導するような言動は心苦しかったが、対になっている石が光ると言うのは富獄の兄貴も知っている筈。

 

 …ひょっとして、光ってない? 単なる俺の勘違いだった? うーん…。

 

 

「それより、ちっと付き合え。前から興味があった。お前、無手でも結構やれんだろ。お前の所の連中を相手にするのもそこそこ面白いが、やっぱ餓鬼でな。手応えが欲しいと思ってたんだ」

 

 

 人間相手の武術は専門外なんだがな…。ま、俺もそろそろ体動かさなきゃならんと思ってたし、お付き合いさせてもらいましょ。

 

 

 

 

 

 結局富獄の兄貴との組み手は引き分けに終わった。パワーとスピードじゃ俺が勝ってるんだけど、武術の妙だね。タイミングを計ってこっちを捕まえるのが上手いのなんの。

 そこそこ白熱した組手になったんだけど、飯の時間で終わってしまった。

 気分転換にはなったようだし、無駄じゃなかったと思う。

 

 その後、富獄の兄貴の様子を調べてみたんだが、どうも本当に石は光っておらず、関係ないようだった。寝不足気味な事もあり、本当に寝覚めが悪いだけのようだった。

 本人も、仇のダイマエンを探して異界を彷徨うような事もない。普段通りに任務をこなしている。

 

 

 …むぅ、どう…なのかな、これ。ゲームの世界であれば、確実に何かの前触れだ。

 予知夢とまでは言わなくても、無意識に何かを感知した故の第六感と言う事は有り得る。 

 

 もっと有り得るのは、百日夢のような鬼からの呪い。結界は復活しているがそれを擦り抜けた例はあるし、富獄の兄貴は頻繁に任務で結界外に出ているから、その時にかけられた可能性もある。

 …暫く観察した方がいいかな。

 

 

 

 

 お昼ごろ。雅の領域の、瘴気の元が見つかったと連絡が入った。博士が新しく作った鬼の手を使っての発見。成果が具体的に実ってくれたおかげで、博士に向けられる目も多少は良くなったようだ。

 当の博士の態度は相変わらずなので、人当たりは良くないが。

 

 瘴気の元の場所は、安の領域に近い河の水源。多分、水脈を辿れば塔があった洞窟近辺に辿り着くだろう。あのミズチメは、その地下水脈を通ってあの場所に辿り着いたのだろう。

 さて、瘴気の元が見つかった以上は、浄化を行う訳だが…初穂、やってみる?

 

 

「んー、成功する気がしないわ。想像力が大事なのよね。じゃあ自信が持てない以上、挑戦するべきじゃないわ」

 

 

 意外だなぁ。お姉ちゃんに任せない、くらい言いそうだと思ってたが。

 

 

「そう言いたいところなんだけど、何て言うか力が足りてる気がしないのよね。上手く使いこなせてないって事なんでしょうけど…」

 

 

 ふむ、じゃあ俺がやるか。博士の研究的には、俺じゃなくて初穂がやった方がいいんだろうけど。

 失敗すると危険だからなぁ。

 危うく第二のオオマガトキが起きるところだった。

 

 

「おい、その話聞いてないぞ。しかも過去形と言う事は、貴様一度やったな?」

 

 

 …………そ、その時はそんな危険な事があるとは知らなかったし。

 今はちゃんとした専門家に術式組んでもらってるから大丈夫。

 

 

「それでも先に言わんか! 瘴気の元を見つけた初穂が、その場で試していたらどうする!」

 

 

 うわぁ、すっごい有り得る。

 これ、下手にやり方広めると危険じゃないか? 生兵法でやろうとする奴が出かねない。

 あの時は、異界に続く大穴が出来たっけなぁ…。

 

 

「貴様に反省という言葉はないのか…」

 

 

 あるけど、問題ないと思っている事を一々確認しないもの。これを報告してなかったのは確かに失敗だったけど、その可能性を思いつきもしなかった。

 

 

「思いつかなかった、ではないわ。人の上に立つ以上、能力不足や思慮不足は明確な罪だ。しかもお前の行動は、今や人類の存続に大きく関わっている。何せ、現状では唯一異界を浄化できる人間なのだからな。貴様の一挙手一投足が、世界の運命を変える程の影響を持つことを自覚しろ」

 

 

 は、はい…。

 今回はマジで大和のお頭怒ってる。そりゃそうだよな、危うく世界が滅ぶところだったんだもの。流石に俺も反省する。軽挙妄動は自分でもどうにかしたいと思ってるよ…。

 で、結局異界浄化は俺が行くって事でいいんだよな?

 

 

「そこですぐに話を変えるあたり、全く己を顧みてないのが手に取るように分かるぞ。貴様のその性格が治るとは既に思っていないが、しっかりと、徹底的に話を聞かせてもらう。一切合切を吐くまで逃げられると思うな」

 

 

 …あい。…これがまともな上役なんて評価されてるとは、浅黄に申し訳なくなってくるよ…。

 

 

 

 

 とにもかくにも、明日には異界浄化を行う事となった。護衛と言うかお目付け役としてついてくるのは、富獄の兄貴、初穂、桜花。

 初穂は異界浄化の瞬間を目に焼き付けて、自分でも出来るようにする為。残りの二人は純粋に監視と護衛だね。桜花は最近空回りしまくってたけど、橘花が目を覚まし、(表面上は)上手く行っているからか、実力が発揮できるようになってきていた。

 

 速鳥に渡していた瘴気を防ぐ装具も使い、万一のトラブルにも備えて後備え、救援隊も組織。更に備えて、今日の内に斥候部隊を出して露払いまで行うそうだ。

 鬼の指揮官が居る以上、異界浄化なんて前代未聞の事態を軽く見て見逃す筈がない。浄化に瘴気の元が必要なのを察しているかどうかは分からないが…近辺に罠を張る可能性は低くない。

 まず間違いなく一戦あるだろう。不謹慎ながら、それなり以上に楽しめる奴が出てほしいものだ。だって欲求不満のままだと、それこそ奇行とその場のテンションで突っ走って何をやらかすか分からないもの。

 



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506話

 

 

堕陽月肆拾禄日目

 

 

 一晩房中術で補給しまくった。自室に呼んだ子達と遊ぶのは勿論、風呂でも堪能したしトイレにもなってもらったし夜這いもかけた。

 おかげで朝は殆どの子達が起き出してこれなかったけど、誰にも怒られない。

 …こういう状況に居るから、大和のお頭に怒られるようなお馬鹿頭領のままなんだよな…。でもここを放棄する気はないし。

 もしもこのタイミングで鬼の襲撃が来たら? 目さえ覚ませば、オカルト版真言立川流でブーストされたタマフリの嵐が火を噴くぞ。

 あとスタンダップホーム号も。

 

 出発前、病人二人の様子を見に行った。アサギはまだ安静にしている必要がある……と言うより、働いてない状況に慣れる必要がある。寝ている状況だと逆に胃と心が休まらないとかで、那木も少し早めに安静状態を解こうと思っているらしい。…医者が体が弱っている病人に向かって『運動した方がマシ』と判断するなんて、どんだけストレス溜まってるんだ…。社畜根性が身に付き過ぎだろ。あ、考えたらまた涙出てきた。

 もう一人の子は、まだ眠ったままだ。…考えてみれば名前も知らない。アサギだったら知ってるかもしれないな。戻ったら聞いてみよう。

 

 幾人かに見送りを受け、その内の一人…まだ手を出してない子に「無事に帰ってきたら、私と…」とお誘いも受けた。行きがけの駄賃として一揉みさせてもらった。

 

 

 とにもかくにも出発。朝は鬼も眠い時間帯なのか、動きが鈍い奴が多い。昨晩から張り込んだ斥候部隊のおかげで、邪魔するような鬼は居なかった。

 途中、富獄の兄貴を観察してみたが、いつも通り…いや、少し眠そうだ。

 ついでに、例の石を意識している様子もなく、周囲を警戒はしていても、空を飛ぶ鬼…仇のダイマエンを探す様子も無い。

 

 

「あん? …ああ、また妙な夢を見ただけだ。ここ数日、こればっかりでな。お告げだ夢占いだを当てにしている訳じゃねえが、これだけ続くと確かに何かあるんじゃないかと思えてくるな」

 

「なになに、何の話? 何かあったの?」

 

「なんでもねぇよ。お前は異界浄化を覚える事だけ考えてろ」

 

 

 適当にあしらわれて不満そうな初穂だが、何かを察したのかそれ以上言いつのろうとはしなかった。

 桜花はそれを見て何か考えているようだが、今は任務に集中する腹積もりらしい。…ん? どうした、桜花。

 

 

(今回の任務が終わったら、富獄について話がある)

 

 

 …わかった。後で時間を取る。

 桜花は既に何かを察しているようだ。俺のようなゲームストーリーや前ループ等のカンニングと違い、元々ウタカタの里モノノフ部隊の中核となっていた彼女だ。俺が知らない何かを知っていたり、察したりする事も多いのだろう。

 

 それだけ告げると桜花は考え事を辞め、周囲を見回しながら歩き続けた。

 途中、何度か斥候部隊から報告を受け、特にトラブルもなく瘴気の元へ。普段であれば踏み込めないような瘴気溜りに入り込む時、3人が顔を顰めたがそれだけだ。

 ここから先は斥候も入り込めなかった場所なので、鬼を退けながら進まなければならない。道案内できるのも、初穂のみだ。

 鬼の指揮官が何か仕掛けるとしたら、普通に考えればこの先である。瘴気無効の装備の事を察知していないとすれば、侵入者をここで足止めするだけで全滅させられる。

 

 

「初穂、この先はどれくらいかかる?」

 

「距離は大した事ないんだけど、とにかく歩きづらいわ。それでも長くて半刻ってところよ。何事もなければね」

 

「…この瘴気の中に半刻か。装具で無効化されるとはいえ、ぞっとせんな」

 

「まぁ、な。普段であれば30数える間もなく動けなくなりそうだ」

 

 

 俺でも長くは保たないな…アラガミ化すればともかく。空気に粘度すら感じられるような瘴気の濃さ。それだけ瘴気の元が近く、長い間溜り場になっていたって事か。

 

 

「その中を、私と速鳥は延々歩き回ってたのよ。…こっちよ。道を見失いやすいから気を付けて」

 

「そりゃ案内役のお前の事だろ」

 

 

 初穂に案内され、曲がりくねった道を…獣道と言うか鬼道?…を歩く。植物が乱雑に生えており、視界は良くない。

 その中でも、幾つかの鬼の痕跡を発見できた。

 …小物ばっかりだな。

 

 

「どうしたの?」

 

 

 初穂、ここを通った時、どれくらい鬼に襲われた?

 

 

「…この辺じゃ無いわ。もうちょっと先にある、少し開けた場所があるんだけど、そういう所でしか襲われてない」

 

 

 大型だけ?

 

 

「ええ。小さな鬼は、道中では全然でなかったわ」

 

 

 と言う事は、やっぱり待ち伏せされてるっぽいな。さっきから小型鬼が移動した痕跡があちこちにある。

 しかも、全て奥に向かってるようだ。大型は……痕跡が無い。居るとしたら、かなり高く飛べる奴らだな。

 

 

「…空を飛ぶ鬼、か」

 

 

 富獄の兄貴の顔付が少し変わる。すぐ上を見て、もっと顔を顰めた。

 

 

「ここで上空から襲い掛かられると厄介だな。避難できる場所がない。…最悪なのは火を使われる事か」

 

「いや、この辺の木は水気が強い。あまり燃えない…それだと煙が多く出るか」

 

 

 どっちにしろ、ここはさっさと抜けるべきだな。進んだ先で戦闘になるのは間違いない。

 ……やろうと思えば、別行動できるぜ。こういう茂みの中での行動は大得意だ。鬼の手を使って立体起動すれば、待ち伏せしている鬼達の死角に回れるかもしれない。

 

 

「……いや、やめておけ。今回の任務では、お前を無事に異界に送り届ける事が最優先なんだ。我々以上の実力者である事は手合わせせずとも分かっているが、君を独りで行動させては本末転倒だ。待ち伏せの対処は…………お前、確か………よし、3人とも聞いてくれ」

 

 

 ……了解、隊長の指示に従う。

 意外だなぁ、策を練る事が出来るとは。

 

 

「お前は私を…と言うかモノノフを何だと思っているんだ。戦いに長く身を置けば、策や事前準備の重要さは嫌でも分かる。分からなければ生き延びられん」

 

 

 うちの子達を思うと耳が痛いと思うべきか、だったら単騎特攻ばっかりするなと言うか。

 うちの子達は教育の成果が出たのか、段々マシになってきたから…今までは重要性を理解しても、それを奪われていただけだと思いたい。

 

 

「? 誰かやったのか? 私も一時ミズチメ相手にしようかと思ったが、結局やらなかったし。……貴様、手を出してないだろうな」

 

 

 ………いや、ウタカタに来る前、明日奈や神夜と出会ったシノノメの里に来るよりも更に前の事だよ。

 あと橘花に迫るような事はやってないよ。やったとしても本人が拒めばすぐ手を引く。

 言っちゃなんだけど、うちの子達で手いっぱいだぞ本当に。

 

 

「…………何か引っかかるものはあるが…。確かに、あの人数を相手にするのなら、橘花に手を出す余裕はないか」

 

 

 常識的に考えれば体は保たないよね。実際、うちの子達全員にはまだ手と言うかちんぽが回ってないからなぁ。積極的じゃない子にはあまりちょっかい出そうとしてないのもあるが。

 

 ちなみにこの会話の間、初穂は富獄の兄貴に頭ガックンガックンされて全然聞こえていなかったようだ。

 何すんだと怒る初穂をあしらう兄貴。フォローありがとうございます。別に聞かれたって全然問題ないんだけども。

 

 

「っと、こんな事してる場合じゃなかったわ。そろそろ広場に着くわよ。策の準備はいいの?」

 

「おう。いつでもこい」

 

「掛け声はこちらでかける。いち、にの、さんで投げろ。さ『ん』と同時だ。その後の段階は頭に叩き込んだな?」

 

 

 あいよ。んじゃ、行きますか。

 

 

 

 間もなく到着した広場は、予想よりも狭かった。周囲を見回して、鬼が出現しそうな場所の見当をつける。打ち合わせしていた通り、目標となる位置を手信号で伝えた。

 広場の真ん中に差し掛かると同時に、けたたましい声が響く。鬼の襲撃の合図か。

 

 アメノカガトリが1体と、この近辺では見かけた事のない蝙蝠のような鬼…アマツミツツカが1体。

 それに加え、周囲の草陰からぞろぞろと湧き出てくる小鬼達。

 

 問題ない、想定内だ。全員が背中を預け、4方向に向き合う。

 

 

「いくぞ! いち、にの、さ『ん』!」

 

 

 ほい、閃光玉。丁度俺達の頭上で爆発するように。

 全ての鬼が俺達を包囲していた状態なので、ほぼ全体に効果が行き渡った。小型鬼は、前に居た鬼や草木が遮蔽物となって何とか目が見えている者も居るようだが、動けない者が壁になって、どのみちまともに動ける状態ではない。

 

 続いて、桜花が懐から取り出した袋を柄で一度叩く。硬いものが割れる音がした。それを落下したアマツミツツカに投げつけてやると、小型鬼がわらわらと群がり始めた。アメノカガトリも、目が回復していないのか突っ込んでいって大事故になる。

 

 

「思ったより効果が高いわね。私達の役割がなくなっちゃった」

 

「いいから気を高めろ。小鬼共がああまで密集してるって事は、大型に威力を届かせるには貫通力が要るって事だぞ」

 

「わかってるわよ。桜花、こっちは準備できてるわ。いいわね!?」

 

「ああ、思いっきり行くぞ! 直伝!」

 

 

 4人が集まり、高まった霊力が共鳴する。力が桜花の剣に集中し、空に向かって掲げた太刀から光が伸びる。

 極太の光柱が、まっすぐに振り下ろされた。

 

 

「鬼千切・極!」

 

 

 他人が放つのを見るのは初めてだなー、なんて呑気な感想を持ちつつ、光の柱にチェスト関ヶ原されていく鬼達を見守る。

 小型鬼が弾け飛び、大型鬼の部位が乱れ飛ぶ。密集しているところにぶちこんだから、すっごい効果高いなぁ。

 

 最後に一際強く光り輝き、弾け飛んだ後には、死屍累々の光景が広がっていた。アメノカガトリもアマツミツツカもボロボロで藻掻いているが、どう見ても瀕死だ。小鬼の群れが盾になっていなければ、確実に一撃死していた事だろう。

 

 

「よしトドメだ攻めろ攻めろ!」

 

 

 富獄の兄貴の声に合わせて、2匹の鬼を纏めてタコ殴り。戦闘は極めてあっさりと終了した。

 太刀を鞘に納め、周囲に敵が残っていない事を確認して、桜花は息を吐いた。

 

 

 

「ふむ、上手く行ったな。使うのは2度目だが、大したものだ」

 

 

 鬼の骸の傍に、小さな布切れが落ちている。桜花はそれを拾い上げてジロジロ見ていたが、風に吹かれて布切れは飛んで行ってしまった。ポイ捨てはよくないぞ、異界の中でも。

 と言うか、その袋は何なんだ? 作戦を聞いた時には、鬼を呼び寄せる力がると聞いたが、すごい効き目だったな。

 結構長くモノノフやってたつもりだけど、そんな道具見た事ないんだが。

 

 

「まぁ、モノノフは道具を使う事が少ないからな。下手な道具を持って行っても、異界の瘴気で壊れてしまったという話もよく聞くし。…この袋に入っていた石は、秋水が作った非常に怪し気な石だ。術なのか、素材自体が特別なのかは知らないが、鬼を誘き寄せる力を持つ」

 

「秋水が? ふーん、あいつそんな事できたんだ。…大丈夫なの?」

 

「試した時には鬼が次から次へと押し寄せてきて、死にかけたと言っていたな。上手く使えば、大型鬼を一体ずつ結界近くに誘い込む事ができる。瘴気の無い場所だから、優位に戦えるだろうな」

 

「なるほど、余計な横槍が入らないのはいいな」

 

 

 それにしても即効性ありすぎだろ。本当だったら、俺と初穂で鬼を纏める予定だったのに、一目散に団子状態になりやがって。

 

 桜花が提案した作戦は、基本は単純なものだった。

 まず閃光玉で目晦ましして動きを止め、桜花が持ち込んでいた石で鬼を誘導する。大型鬼は俺と初穂の鬼の手で、掴んで強引に一か所に纏める。そしてまとめて鬼千切・極で蹴散らす。

 大型鬼がもっと居たらとか、閃光玉や石が効かなかったら、という場合も想定していたが、基本はこれだ。効かなかったどころか、効きすぎて俺達の出番が無くなったけど。

 

 

「…それにしても…やはり君の力は頭一つ二つ飛びぬけているようだな。私達はかなり本気で力を練り上げたというのに、君はまだまだ余裕のようだ」

 

 

 ん? ああ、鬼千切・極の話か。共鳴させる必要があるから、俺だけバカみたいに力を練り上げても逆効果なんだよな…。

 と言うか、俺は桜花がこの術知ってるのが意外なんだが。これ、結構前に失伝した技の筈だぞ。

 

 

「橘花から教わったのだ。その橘花は、以前に倒れて君の過去を見た時に知ったそうだ。君も使えるんだろう?」

 

 

 出来る事は出来るが、あんまり使わないんだよなぁ。俺って一人で暴れてる時の方が多いし、複数人でやってると大抵力が昂る前に戦いが終わる。

 廻の方がまだ使い勝手がいいくらいだ。

 

 

「廻?」

 

 

 明日奈や神夜が居たシノノメの里で開発された、鬼千切の発展版だ。

 極は全員で高めた力を一人に集中させて一気に解き放つが、廻は4人がそれぞれ連続攻撃で相手を足止めしつつ、全員の力を共鳴・分配して同時に打ち放つ。

 極が力ずくで敵を叩き斬る正面突破の術なら、廻は全方位からの包囲攻撃。

 術の過程は違うが、全体的な威力や効能は大して変わらないな。

 

 

「…他にも色々と手札があるようだが、広める気はないのか?」

 

 

 広めるのは別に構わんけど、考え無しに放出するのも良くないらしい。

 覚える事が多くなれば、その分一つの技術の習熟は浅くなる。調子にのって突っ込む奴も居るから、段階的に出していきたいんだよ。

 少なくとも、うちの子達がその辺の分別をつけるまでは放出できん。

 ただでさえ、油断と慢心しやすい傾向にあるんだ。ウタカタのモノノフ達には悪いが、下手な事教えられんのだ。

 

 

「……まぁ、な。最近じゃまともになってきているが、最初の頃は酷かったからな…」

 

 

 根拠のない自信。噛み合ってないと自覚のない戦い方。純粋な力不足。思いついた事を考え無しに実行する。

 遠い目をする富獄の兄貴。俺も空を見上げた。瘴気の為に空が暗い。

 

 

「納得はできんが…君が優先すべきは、確かに君についてきている者達か。君達の数が減るのは、ウタカタにとっても痛手だし」

 

「そういう事は、瘴気を浄化してから話しましょうよ。この瘴気溜まりに長くいるってだけで気分が滅入るわ。大体、ちんたらしてたらそれこそ増援が来るじゃない」

 

 

 そりゃそうだな。初穂に一本取られたわ。

 とにかく進もう進もう。初穂、ここと同じ場所はあと幾つある?

 

 

「ここと同じ規模がひとつ、もう少し小さな場所が一つ。…そこでも襲われるかしら? 一度に襲ってきた方が厄介だと思うんだけど」

 

「でかぶつが狭い所に何匹も集まったところで、身動きがとれなくなるだけだ。戦力の逐次投入は愚策だが、入り切れない戦力を無駄に送り込むよりはいい。何にせよ、待ち伏せされていた以上、今後も何事も無く終わると思うな」

 

 

 今回の任務だけじゃなく、今後の異界浄化もな。

 ここでわざわざ待ってたって事は、異界浄化に瘴気の元が必要な事も、そこに至るまでに人間がどういう道を通らなきゃいけないかも予測されてるって事だ。

 相手の行動から瘴気元の位置を逆算する事もできるかもしれんが…誘導される可能性も高い。

 

 …まぁ、その辺は帰ってから考えるか。今は初穂の言う通り、さっさと任務を終えるとしよう。

 

 

 

 

 

 そうして進むと、初穂の言う通り似たような場所が2つあった。

 殲滅手順は最初と同じ。ただ、秋水が作った石はもう無かったので、俺と初穂の鬼の手でどうにかした。

 同じ手段が通用したという事は、最初の戦いの様子を見ていた鬼は居なかったようだ。偵察とかしていないという事は、鬼の指揮官は待ち伏せだけ指示して、その後の観察などは行っていないらしい。

 

 鬼千切・極を連発した3人は、それなりに疲労しているようだ。富獄の兄貴は、霊力的な消耗はともかく、暴れ足りないようだったが。

 

 

「ふぅ…これで襲われそうな場所は最後よ。意外とあっけなく終わったわね。作戦が良かったのかしら?」

 

「確かに、思った以上にうまく嵌ったな。だが油断は禁物…なのだが、これ以上何か仕掛けられる場所があるだろうか…」

 

 

 んー……もしも俺が鬼の指揮官なら…相手と状況にもよるけど、最後の罠は敵の狙っているものその物に仕掛けるな。

 強敵達を打倒して、疲弊しながらもやっと辿り着いた先。例えばそうだな、宝箱なんかだとしよう。

 今までの苦労と犠牲が報われる、この宝物の力があれば里は救われる。感極まりながら箱を開けると…どーん! 或いは毒でも散布されるか。

 

 

「腹立たしいほど有効な手ではあるな。とは言え、いくら鬼どもでも、瘴気の元…つまり鬼どもの住む世界に通じる穴をどうこうできるのか? 出来るんだったら、とっくにあちこちが穴だらけになってそうなもんだが」

 

 

 さぁ。あくまで一例だし。それごと握り潰せる、と言い切れるとよかったんだけどな。

 そもそもこの策を本当に使うとするなら、鬼達の居場所を作る一要素を犠牲にする前提だ。

 ウタカタの里で例えれば、鬼を一時的に近づけなくする為に、里を守る結界石の柱を丸ごと爆弾にするようなもんだ。どう考えても採算が合わない。

 

 

「…仮にそこまでやるとするなら、里が完全に包囲され、助けが来たが全て戦死し、里の皆も残っていないという完全に全滅状態だな。つまり死なば諸共」

 

「考えたくも無い事考えさせるなじゃないわよ縁起でもない! とにかく! 今はさっさと異界を浄化する! どんな鬼が来たって、異界浄化が成功すればすっごい有利になるんだから!」

 

 

 せやな。さっさと……いや、もう一匹居るようだぞ。あの痕跡は…ダイバタチだな。さっきのアマツミツツカもそうだが、この辺に居るとは珍しい。

 霊山よりも更に西で見かける鬼なんだけどな。

 まぁいいか。さっさと片付けるに限る。

 

 

 

 

 さて、ダイバタチをすっ飛ばして異界浄化だが。…ん? ダイバタチ? 突進しまくってくるから、初穂が散々スッ転がしてたよ。鬼返しもすっかり得意になっちゃって。思った以上に使いこなしてるな。 

 

 一応周囲を調べてみたものの、特に怪しい痕跡は無し。罠の気配もないし、嫌な予感もしない。本当に、さっきの戦力逐次投入が鬼達の手札だったのか。せめて最後のダイバタチが異界浄化の瞬間まで潜み、術の行使で動けなくなった俺を狙う…くらいの事をやってくれたら手応えが出てきたのに。

 引っ掛かるものはあったが、取り敢えず浄化だ浄化。

 

 今度の異界浄化の術は、周囲の変化がよく分かる場所だった事もあり、壮観だった。見ていた3人からも歓声が上がるほど。

 …まぁ、よくよく見てみれば瘴気が消えただけで、捩じくれ曲がった妙な植物とか、どっからか流れて来た場違いな建築物とか、そう言うのは全く動いてないんだけどな。

 それでも空気の清浄さ…粘度すら感じる瘴気が無くなったのは肌で感じられるし、何より土地の流動が無くなるのが大きい。苦労して作った地図が、流動のおかげで使い物にならなくなるからなぁ…。

 他にも、残っている鬼達を追い払ってしまえば、清浄になった土地で農業やら何やらできるようになるだろう。

 

 うん、自分でやった事を褒めたたえる訳じゃないんだが、やっぱり異界浄化の効果は大きいわ。

 

 

「…何と言うか、胸がすく思いぜ。あれだけ苦しめられた異界が、こうも一瞬で消えていく…。初穂、どうだ、できそうか?」

 

「一応、術式も教わってはいるんだけど………厳しい。何かこう、補助になりそうなものとか…或いは、もっと別の方法とか…」

 

「(……姉がどうのこうので煽ってやれば、何とかなりそうだと橘花が言っていたが…)とにかく、任務は完了だ。瘴気が消えたとは言え、周囲の鬼が突然全滅した訳ではない。むしろ、混乱している間に我々をみつけたら即座に襲い掛かってくるだろう。里の方に向かわれても厄介だし、適当に注意を惹いてから帰るぞ」

 

 

 へいへい。手応えがない分は、数で埋めるとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 適当に暴れて帰る時に、富獄の兄貴の懐が光った。…例の石だ。このタイミングでかよ。

 

 



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507話

堕陽月肆拾漆日目

 

 

 

 幸い、富獄の兄貴がいきなり突撃するような事はなかった。

 対になっている石が光るという話も、「与太話だろ」の一言だ。…実際に光ったところって、見た事ないんだろうか? ホオズキの里の巫女、『ちびすけ』に渡された時に光ったりしなかったんだろうか。

 考えてみりゃ、そういう石の話を他所で聞いた事もないしなぁ。ホオズキの里に伝わる秘密の石だったりするんだろうか。

 

 何にせよ、まずやる事は。

 うちの子達に、もしも富獄の兄貴が一人で異界に出ようとしていたら、隊員総出で止めるよう通達した。

 「えっ、あの人に喧嘩うるの?」みたいな反応もされたが、別に殴りかかれとは言ってない。とにかく話しかけるとか道を工事中にして迂回させるとか、何でもいいから足止めして俺を呼べ。……機転を利かせるくらい育っていてくれる事を願う。

 

 

 

 

 それはそれとして、那木が溜息を吐いていた。2度目の異界浄化で皆の顔が明るい中、一人だけそんな顔をされると気になるじゃないか。

 どうした、色惚けに囲まれて春が来ない事を嘆き始めた訳じゃなかろう。もしそうだったら全力で口説くが。

 

 …一応言っておくが、上記の事は口にしてないからね。

 で、那木に聞いてみたのだが。

 

 

「ええ…異界が浄化された事は喜ばしいのですが、あの方が全く目覚める気配が無いのが気にかかりまして。体には不調はないのですが…」

 

 

 あー…あの子が入っていた装置の影響かもしれんなぁ。かなり長期間封じられていたみたいだし、引っ張り出す方法もちょっと強引だったから、何か不具合でも出たのかもしれない。

 やっぱり、眠ったままだと問題ありか。

 

 

「それはそうです。日頃から全く動かない訳ですから、体は徐々に弱っていきます。栄養も足りているとは言えませんし、このままではそれこそ衰弱死してしまうやも…。………私に…出来る事は…」

 

 

 那木は悲壮な表情で、自分の腕を見下ろした。みるみる内に顔が青ざめ、両腕が震え始める。

 その両手をそっと包んで。

 

 

 纏めて柏手を打った。パァン、と乾いた音が響き渡る。

 

 

「っ…な、なにをなさいます! おどろきまみた!」

 

 

 まみた?

 

 

「…失礼、かみまみた」

 

 

 まだ噛んどる。

 無理するな。手当くらいならともかく、手術ができない事は知ってるよ。

 大体、手術しようにも何処が悪いか分からんじゃないか。とりあえず腹掻っ捌けばどうにかなるって話でもあるまい。

 

 

「それは…そうでした。つい、自分の無力さに考えが走ってしまい…。わ、私の手術の事はともかくとして、やはり目覚めさせる為に手を尽くすべきだと思います」

 

 

 うん…それは俺も同感。

 このままだと、アサギが何かやらかしそうな気がするしね。先日、まだ寝ている子の様子を見に来たアサギ。顔に触れて、心配そうにしている…と思いきや、震える手で喉に手をかけようとしたのは流石にヤバかった。

 起きている時の彼女達に散々苦労させられて、身も心もすり減ったようだから…『今ここで永眠してくれれば』と、つい心に過ってしまったんだろう。

 早い所どうにかせねば、アサギの自制心が擦り切れてしまいかねない。

 

 しかし、そうはいっても何かいい方法あったかなぁ。

 またのっぺらミタマ共を送り込んで、悪夢を見せて叩き起こすか? しかし人格崩壊しそうな気がする。

 いつぞややった時は、引き上げさせたにも関わらず、眠る度に悪夢として登場していたようだし。

 

 元気ドリンコは…あれは眠気覚ましになるけど、流石に眠った人間が即起きる訳じゃないな。

 何かないかなぁ…。

 

 

 

 

 暇潰し用の玩具探しや、今までのループの事を思い返そうと ふくろ の中を漁っていると…………ん?

 

 

 

 

 

 あれ? これってひょっとして…。

 

 

 

 

 

 

 なんでこんな物がここにあるの? そりゃ確かに作られてしまったけど、これを貰った覚えはないぞ。

 あのまま持っていた筈…ひょっとして押し付けられた?

 

 

 

 いや、よくよく考えれば、俺は記憶にないループも何度も経験しているみたいだ。改めて ふくろ の中を見てみると、作った覚えがないどころか見覚えのない素材まで入ってる。、その中でこれを手に入れていたのかもしれない。

 あいつの事だから、興味が向けば何でも作りそうだし。

 しかしこれ効果あるかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 試してみよう。

 

 

 

 

 では行くぞ!

 

 

 

 紅月がマホロバの里に持っていった筈の、清麻呂作・むわぁじっくモーニングスター・おはようマイ・マザー一番星君グレ~ト~~~~!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女が寝ている部屋に持ち込んだところ、那木に矢を向けられました。あ、なんか久しぶり。

 

 

 

「…その刺々しい、どこをどう見ても物騒な道具で、何をなさるおつもりですか」

 

 

 これでド突けば起きる。かもしれない。

 これは俺がいつの間にか手に入れていた特殊な武……もとい呪具で、こいつで殴ればどんな深い眠りからも一発で目覚める代物だ。

 使い方は単純、勢いよく振り回して脳天に一発叩き込むだけ。

 ちなみに狸寝入りだったり、殴る寸前に目を覚ましていたら…死あるのみ。

 

 

「どこをどう聞いても許容できる部分が全くありませんが………実績は? せめて、実際に使用した事はあるのでしょうね?」

 

 

 何にだって初めてはあるものだ。いや多分試しに使ったんだろうなと思う奴はいるんだが、その後の報告を聞く前に死に別れてしまってな。

 なーに大丈夫だって。ミタマは『癒』でいくから。刀で殴っても矢で射ても傷つかないどころか毒も凍結も炎上も治る。眠りだって当然治る。戦いでいつもやってる事じゃないか。

 万一の事があっても、この子は滅鬼隊の元になった子だぞ。思いっきり殴ってもたん瘤くらいしかできないってうおおおぉぉぉぉぉぉ!?!?!?!?!!

 

 

「なりません! なりません! 医師として以前の問題です! 何を考えているのですかあなたは!」

 

 

 ちょっ、乱射はやめれ! 病人の部屋で暴れるな!

 

 

「そのような物騒な器物を持ち込むあなた様が言えた事ですか! その危険な物体を渡しなさい!  持たせていると、また隙を見て忍び込んで使おうとするでしょう!?」

 

 

 ちっ、分かっていらっしゃる。仕方ないなぁ。何だかんだで結構な貴重品なんだぞ、これ。

 自分でも何処で手に入れたか分からないから、今後手に入るかも分からないし。

 

 大人しく取っ手を差し出せば、まだ警戒している那木は矢を弓に番えたまま、ジリジリと摺り足で近寄ってくる。…今更だけど、那木に矢を向けられると初期ループの死を思い出すな。その後のループで那木を存分に好き勝手して、トラウマは解消されてるけども。

 ほれ、割と重いから気を付けろよ。

 

 

「……どう考えても、これで殴られると永眠する重さですわね。刺々しくて持ちにくい、あっ!?」

 

 

 あっ。

 

 

 おはようマイ・マザー一番星君グレ~ト~~の鎖が何かに引っ掛かり、バランスを崩す那木。投げ出される鉄球部分。落下先の、眠っている女。

 激突音。こけた那木もその上から頭突き。収納していなかった矢と弓が更にドサドサドサ。なんだこのピタゴラスイッチ。アルゴリズム体操でも踊ればいいのか。

 

 しかし、結構凄い音がしたな…。この子もかなりの石頭と見た。

 

 

 

「う……う……ん…」

 

「!?」

 

「…あれ……わたし…」

 

 

 那木、血ぃ出てる血ぃ出てる。この子も出てる。

 と言うかマジで目が覚めた。

 

 

「まさか、本当にこれで目が覚めたのですか…?」

 

 

 この呪具の効果か、それともミタマ『癒』の効果か。那木は普段から『癒』にしてるからな。

 何にせよ、結果的には殴った事で目が覚めたようだ。

 

 

「い、いえそれよりも今は止血を! あっ、無理に動かないでください、頭を強く打っているのです!」

 

「? ? ?」

 

 

 目が覚めた子は、頭を押さえて顔を顰めながらも大人しく那木の治療を受けている。

 那木、とりあえず包帯持ってくるけど、他に必要な物は? 薬草とか必要?

 

 

「いえ、それよりも先に白湯と、昼餉には粥をお願いします。林檎などがあれば、摩り下ろして持ってきてくださいませ」

 

 

 了解。こっそりモーニングスターを回収して、部屋を出る。

 とりあえずアサギに声をかけておくか。あの子がどんな子にせよ、過去の事を知っていて、面識があるアサギが居た方が話が早く進むだろ。

 那木に頼まれた事は通りすがりの子に任せ、アサギの元に向かう。…一応、寝ていた子が起きたが、まだ病み上がりなので大挙して見物に行かないように、と通達は出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アサギに宛がわれた部屋に向かってみると留守だった。おかしいな、那木からはまだ安静にしてないといけないと聞いているんだが。

 隣の部屋の不知火に聞いた所、朝早くに起き出してウタカタに向かったらしい。

 何だろ。まさか任務を受けるつもりか? 流石にそこまで無茶はしないと思いたいが、とにかく休むのに慣れてないようだったし…ちょっと探しに行ってみるか。

 

 

 鬼疾風で駆け抜けること暫し。新手の鬼の襲撃と間違えられそうになりつつも、情報収集。

 『見慣れない女』という曖昧極まりない条件でも、至極あっさりと居場所を特定できた。この里のほぼ全員が顔見知りだもんなぁ。浅黄も里の方に来る事は殆ど無いし。今では見慣れない女を見たら、うちの子だと思え…とまで言われているらしい。実際その通りだ。

 アサギが向かったのは受付所。…まさかマジで任務受ける気か? 流石に木綿ちゃんや大和のお頭が止めてくれると思いたい。

 

 やや焦りつつも向かったところ。

 

 

「アサギさん…ですか? それなら、あちらの書庫にいらっしゃいますが」

 

 

 …書庫? と言うか、あそこって任務の記録とか報告書とか、鬼に関する資料を補完しておく場所じゃなかったっけ? 主に秋水の縄張りだ。

 

 

「はい、そうです。…任務、ですか? いえ、書庫の利用許可をとって、すぐに入って行かれましたよ。何だかお疲れのようでしたが」

 

 

 そりゃ、本当はまだ寝てなきゃいけない筈だしな。

 様子を見に来たんだけど、俺も書庫に入っていい? と言うか、そもそも見せていいの?」

 

 

「見せてはいけない資料は、あそこにはありませんから。実のところ、お父さんが保管しているから、どこにあるのか私も知らないんですよ」

 

 

 まぁ…受付嬢の仕事は、精神的に過酷だものな。知ってはいけない事や、知るだけで衝撃を受けてしまう事もある。

 大和のお頭が、そこまで娘にやらせる筈もない。…本音を言うと、受付嬢さえやらせたくないのかもしれない。死者が出た時、いの一番に報せを受け取る立場なんだしな…。

 

 ともかく、アサギが無茶をしていないようで何よりだ。いや、今ここにいる事自体無茶と言えば無茶なんだが。

 秋水、邪魔するぞ。

 

 

「どうぞ。アサギさんでしたら、貴方達からの報告書を主に読み耽っています。静かにしてくれて結構です。…なんか泣いていますが」

 

 

 …泣いてるのか。…いい意味での涙である事を願おう。

 書庫に入ると、独特の匂いが出迎えた。霊山の書庫もそうだったけど、紙の匂いって独特だよなぁ。ついでに言うと埃も多い。

 床を見れば、積もった埃に足跡が見える。それを追いかければ、アサギはあっさりと見つかった。

 書類の束を手に、片手で口元を抑えているようだ。

 

 アサギ、と声をかけると、振り返る。…目元に涙の痕が見えた。

 

 

「…頭領さん、何か用事?」

 

 

 ああ。伝えておく事があるんだが…それよりも、もう起き上がって大丈夫なのか? 医者の許可は?

 

 

「出たわよ。じっとしていると心労が異様に溜まるようだから、激しい運動をしない事を条件に動き回ってもいいって」

 

 

 ……どんだけ社畜根性が身に付いてるのかなぁ、この人…。

 で、真っ先にやってきたのが、この書庫? 何の為に。

 

 

「世話になるとは言ったけど、もう一人の浅木から聞いた事が全て事実とは、流石に思えなかったもの。どう言われていたのか知らないでしょうけど、褒め殺しなんてものじゃなかったわよ」

 

 

 過大評価されてるなぁ、俺。せめて、その評価を落さないように頑張っていくとしますかね。やらかしは無くならないだろうけど。

 で、結局何を見てたんだ? 何か分かった事や、疑問に思った事は?

 

 

「そうね…。少なくとも言われた事が嘘ではない事はよく分かったわ。あの子達に、よくこれだけ書類を書かせたものね。随分と苦心したようだけど」

 

 

 まぁ、な。やっぱり書類仕事が面倒だとか嫌だとか、そんな事しなくても鬼を倒せばいいんだろうって考えてる子は多かった。

 面倒なのは報告様式を工夫して簡略化させればいい。何が何匹出たか、自分で一から書かせるんじゃなくて、鬼の一覧表を作ってそこに数字を書き込む。その他の収穫の報告も似たような形式にした。自分で文字を書く必要を極限まで減らして、意識しなくても全員がほぼ同じ形式で報告できるようにした。報告書と言うのは、画一的な方が読み取る側も楽なのだ。

 嫌な理由の大半は、『面倒』『意味が無い』だから、それによって得られる利点を体感させた。俺の言う事なら大抵素直に聞いてくれるから、教育は楽だったな。それでも何とか使い物になる、って程度でしかないが。

 直接戦闘が苦手な子にはこっち方面を重視させて、補助を任せた。それを軽く見るようなら、書類地獄に叩き込む。

 

 鬼を倒せばいいだけって言う子には、今までそうやって鬼を斬っただけで、何が変わったかと問いかけた。

 無意味とは言わないが、10や20の鬼を斬ったところで、危険の排除にしかならないのだ。それによって得られた成果を持ち帰り、活用し、ようやく鬼を倒した事に意味が産まれる。

 と言うかぶっちゃけ、ちゃんと報告しないと、報酬に差がつくようにしてるんだよ。

 報告書が無ければ報酬から差っ引くんじゃなくて、報告書を出したら報酬があがるって伝えてある。元々全額渡すつもりで予算を確保してるんで、報告書が無い場合は差っ引かれてるも同然なんだけど。

 

 

「正直な話、これを見てもまだ信じられないくらいだわ。あの子達がこれ程の情報量を持ち帰るなんて。しかも、功を逸った抜け駆けも無い」

 

 

 

 そこはちょっと厳しく躾けています。

 任務の失敗を責めはしない。生きて帰れば上々。

 判断の失敗を怒りはしない。常に正解を引くのは不可能だし、結果的に正解だったかどうかは未来の更に未来になるまで分からん。

 実力と相性を鑑みて、任務に連れていけないと判断するのも何も言わん。

 結果的に失敗してしまうのは、どうしようもない事だ。

 

 だが、準備を怠り、報酬に目が眩み、身内を軽んじ、役割を弁えず、個人の評価のみを求め、己が自分の力の身で立っていると思う者は、確実に災厄を呼び込み、全隊員を危険に晒す。

 もしもそのような行為を行ったと判断した場合。

 

 

 それまでにどれだけ功を挙げていようと、絶縁の上で追放と処す。

 

 

「それは…」

 

 

 何かを口にしようとしたアサギは、不意に眉をしかめた。

 軽い処置だ、とでも言いかけたのだろうか? 確かに、あの子達の実力なら、今なら他所の里に行っても充分通用する。自分で居場所を作る事だって出来るだろう。

 

 だが、問題はそこではない。暗示の効果が未だに消えていない彼女達にとって、俺との縁切りは処刑宣告に等しい。

 どれだけ強くても、どれだけ他所で上手くやれるとしても、主に会えない状況が徐々に精神的な負担となっていき、最後には狂い死にしてしまう。

 

 彼女達にとって、絶縁・追放は、最後まで苦しんで死ねと宣告されるに等しいのだ。

 一方的な処刑の権利を握っているのは健全な状態とは言えないが、全体を死に至らしめる悪因を放置しておく訳にはいかない。

 

 

「よくそれで受け入れられているものだわ。その内、狂死覚悟の上で反乱されるんじゃない?」

 

 

 そこまで発展するかは分からないが、内輪もめの兆候ならもう出てるよ。具体的には、任務報酬の内訳でね。

 言い訳に思われるかもしれにないが、あの子達が人間として育ってきている以上、こればっかりは避けられん。

 …正直、一人一人に部屋割りしたのは時期尚早だったかな、と思う事もある。

 

 

「…そういう揉め事の種こそ、早めに知って摘み取りたいのだけども。どんな問題が起きているの?」

 

 

 一人一人に部屋が出来た事によって、段々と物欲も増してきたみたいでな。あれが欲しい、これを飾りたいい、夜食を常備しておきたい、晩酌したいとか。

 その為には当然ハクが必要になる。任務を受けられる子は積極的に受けるようになったし、ちょっとでも報酬を増やしたいと、苦手な書類仕事にも手を付けるようになった。 

 大体良い事尽くめだったんだが…鹿之助だけ報酬が多い、と言い始める奴が出てなぁ。

 

 

「鹿之助? …ああ、あの男の子ね。書類の記録によると、頻繁に探索任務に出ているわね。反面、大型鬼との戦闘には物凄く消極的。男性陣で連れ出して何度か戦った事はあるようだけど、目立った戦果は上がらなかったようね。報酬までは目を通してなかったけど…多いの?」

 

 

 うん、他の子達と比べて多いのは間違いない。それも理由がある…と言うか、うちの生命線の一つだぞ、鹿之助は。

 敵の居場所から、埋まった素材の場所まで見本があれば大抵探知できる。今度、瘴気の元を探知できないか試してみようと思ってた。

 

 敵の居場所を知る事が出来るというのも大きいが、それ以上に重要なのは、ハクの塊なんかも探知できるって事なんだよ。分かるか?

 日常的に探索に出てるが、その度に大量の換金素材を持ち帰ってくるんだ。

 アサギだったらこの重要性が分かるだろ? 資金…と言うか資ハクは人の世界で生きる以上、物凄く重要だぞ。ミタマの強化にも使えるしな。

 うちの子達の飯を作るだけでもハクが要る。全員分の飯代を、最初は俺の個人的な貯金から、或いは霊山の知り合いから援助してもらって遣り繰りしてた。

 

 それだけだったらまだ足りてるんだが、任務を受けた子達に充分な報酬を用意しようと思うと、どうしたって足りない。

 任務の報酬はウタカタも出してくれてるんだが、その一部を運営資金とすれば、当然報酬は減る。それじゃあ申し訳ないから、別の手段…鹿之助が確保してきたハクを報酬に当てている訳だ。

 つまり、皆の給料の大半は、鹿之助が拾ってくる換金素材から出ている訳だな。

 

 

「面倒な事してるわね。…ちなみに、あなたの報酬と言うか給与は? 運営資金とやらがそのままあなたの財布?」

 

 

 そんな事したら横領じゃないか。いや、確かに一時的に資金から払い出しする必要がある場合もあるが。

 俺の給与額はその時次第だな。一定期間内の任務報酬から、皆に対する給与と報酬、その他諸々の経費を引いて、残った額の一部を運営資金として貯めこみ、更にその残りをボーナス…あー、皆に特別報酬として渡す分を引いて…残った額が俺の給料。

 

 ま、俺個人は殆どハクを使わないんだけどね。武器防具はこの辺の鬼の素材でわざわざ作る必要もないし、施設の類は自作できるし、何か必要な素材があればその辺駆けまわって集めるなり、うちの子達に任務ついでに探してもらうし。

 何かの時に使えるから、ちまちま貯め込んでる。

 

 

「私も組織運営に詳しい方じゃないけど、…健全なのかそうでないのか、判断に困る運営ね…。まぁ、あの連中みたいに、得られた利益を殆ど中抜きしたり、後先考えず資金を食いつぶす訳じゃないのなら問題ないわ」

 

 

 お前もお前で組織に求める基準が低いな。と言うか、その連中と一緒にされるのは色んな意味で心外だぞ。

 人を好き勝手に改造する外道がどうの、じゃなくて、利いただけでも分かる低能阿呆っぷりと同列扱いされたくないというか。

 

 

「…そうね、人生で最大級の侮辱だったわ。ごめんなさい。…そんなのの下で働いてたのよね、私…………………気が滅入るから、この話はここまでにしましょう。ところで、この鹿之助と言う子…度々捜索任務について、護衛も付くのよね。私も同行させてもらっていいかしら」

 

 

 却下だ。

 

 

「…何故?」

 

 

 自分の体調を鑑みて言え。大方、うちの子達が大人しく、弱い鹿之助の護衛役を真面目にやってるか確かめるつもりなんだろうが、まともに動けないお前を行かせるはずないだろう。

 今ここに来ているのさえ、じっとしていると返って心労が溜まるからという、那木の苦渋の判断の結果なんだ。

 ここまでの道程でさえ、息が切れただろう。まだ顔が赤くなってるままだ。

 護衛される側を増やせば、当然負担も増える。しかも鹿之助と違って、敵や素材の探知という役割をこなせる訳でもない。せめて、無理なく運動が出来るようになってからにするんだな。

 

 ついでに言えば、鹿之助はうちの重要人物だ。心身ともに不安定な状態のお前を、異界の任務に同行させられる筈がない。

 

 

 

「……そうね、御尤も。ここは思っていた以上に労働環境がいい場所のようだし、お世話にならせてもらうわ。ところで、私に何か用があったの?」

 

 

 居心地じゃなくて労働条件というところに涙。

 用事はあったけど、一言報せに来ただけだ。

 

 眠ってた角がある子、目を覚ましたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「    ぐふっ  」

 

 

 

 血を吐いた。診療所に担ぎ込んだ。

 迷い一つなく『心労』の診断を下された。

 

 

 

 

 

 アサギは里の診療所に任せ、屯所に戻る。

 目を覚ました子の様子を直接見に行こうとしたら、那木に止められた。

 いやもう殴らないよ? 目が覚めてるし。起きてる人をあれで殴ったら死ぬから。

 

 

「寝ていても死にます。…いえ、そこも問題でしたが、あの子には暫く男性を合わせない方がよいかもしれません。言動の端々から、男性に対する敵意が見え隠れしています。あなたと顔を合わせたのは、彼女が起きた直後のみですが…『自分の頭が痛いのは、さっき出て行った男が何かしたからではないか』と言われました」

 

 

 男性に対する敵意。男嫌いなのか…。あと俺のせいと言われて否定しきれんのが辛い。

 理由は分かるか? 過去の記憶は?

 

 

「封じられる前の事は、全く覚えていないようです。男性を嫌う理由も、自分では分かっていないと思われます。あなた達が彼女を解放した事を伝えましたが、『感謝はするけどきっと何か裏がある』とまで…」

 

 

 何だか知らんが、随分拗らせているようだな。アサギ同様、前に何かあったんだろうか? それとも、洗脳染みた行為で妙な性癖が植え付けられたか。

 …でも彼女、滅鬼隊の元になった人物の一人…だと思われるんだよな。暗示の類はかかってなさそうだ。

 

 

「詳細は分かりませんが、記憶もない状態で、心身ともに安定しているとは言えません。その状態で、嫌いな人物を近付ければ、やはり負担の元となります。医師として、それは認められません」

 

 

 …分かった。俺も、今すぐどうしても会わなければいけない理由は無い。うちの男連中にも、この部屋に近付かないよう通達しておこう。あっちから会いに来た場合については、その限りではない。

 だが、彼女は他の封じられている子達にどう対応するべきかの試金石でもある。経過観察ついでていいので、彼女がどういう人物か、どのような考えに基づいて行動しているのか、出来る限り纏めてほしい。

 そういった目で患者を診る事に抵抗があるかもしれないが、これはウタカタにとっても必要な事だ。

 彼女の価値観や行動原理が現代のモノノフとかけ離れたものであった場合、迂闊に里で自由にさせてしまうと、どんな諍いが起こるか分からない。

 

 

「…分かりました。患者が今後も健やかに過ごせるよう取り計らうのも、医師の務めにございます。………あと……その、お話は全く変わるのでございますけども」

 

 

 うん?

 

 

「私、治療や手術の類が全く行えなかったのですが」

 

 

 うん、今朝に自分でも言ってたね。

 

 

「…気が付けば出来るようになっておりました。あの凶器で怪我をされたあの方を大慌てて治療していると、ふと気が付けば」

 

 

 えぇ…。そりゃ包帯巻いたりするのも、治療っちゃ治療だが。

 

 

「簡単な手当てでも、以前であれば手が震えておりました。ですが、慌てはしたものの、手は淀みなく動き…。これは…つまり、まず殴りつけてから治療すれば、私はまた施術する事もできるという事でしょうか?」

 

 

 いや殴っちゃダメだろ。相手は怪我人や病人なんだし。

 …まぁ、克服の兆しが見えたって事にしとこうよ。殴り医師とか、藪医者ってもんじゃねーし。

 

 

 ところでもう一度話は変わるが、結局寝ていた子の名前は分かったのか?

 

 

「はい。どうやら『きらら』という名のようです。本人もいささか自信がなかったようですが」

 

 

 変わった名前と言えば変わった名前だが、その程度なら珍しくも無いな。

 ちなみに、あの角は?

 

 

「…聞いておりません。どうにも、触れてほしくないようで…気付いてない振りをしました」

 

 

 そうか…意識が無い間に看病されていて、本当に気付かれてないと思ってるなら、かなり頭がお花畑だが…。

 ま、何にせよ暫く安静って事だな。病人の看病を任せっきりにして申し訳ないが、よろしく頼む。

 

 あぁ、あとな、里の診療所でアサギが世話になってる。あの子…きららさんが起きたと聞いたら血反吐吐いてぶっ倒れた。こっちも暫く安静にさせとこう。

 

 

「アサギ様ー!?」

 

 

 折角手術とかも出来るようになったんだ。アサギの事も頼むわ。心労に手術が必要なのかは知らないけども。

 

 

 



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508話

予告もせずに何ですが、年末年始の連続投稿を開催します!
12/31から1/5まで、毎日17時に投稿。既に予約済みです。
その分、一話の文章量が少ない事もありますが、ご了承ください。


堕陽月肆拾溌日目

 

 

 アサギは暫く、里の診療所で世話になる事になった。ちょっとでもきららさんと離しておこう、という事だ。

 そのきららさんはと言うと、今のところ大人しく那木に世話をされている。

 元が活発な女性らしく、さっさと体を動かしたいようだが、長く封印されていた為かまだ上手く動けないようだ。

 また、男性の話が出ると、途端に期限が悪くなるらしい。

 男嫌いなのは別に構わんが、自分で理由も分かってないのにえらくアカラサマだなぁ。これも植え付けられた感情の類なんだろうか。

 

 何にせよ、全ては彼女が充分回復し、実際に対話を試みてからだ。それまでは全て、参考意見程度に留める。

 

 

 

 

 さて話は変わるが、やはり富獄の兄貴が異界捜索任務に頻繁に出るようになった。

 朝昼晩と、行動限界の少し前まで異界を歩き回り、里の結界内で休んで瘴気が体内から抜けたらまた捜索に向かう。

 文字通り限界ギリギリまで粘る訳でもないし、単騎で出歩く訳でもない。その辺の冷静さを失ってないのが救いだ。

 

 様子がおかしい事には、里の皆も気付いているらしく、声をかけたり、一緒に哨戒に向かったりしていた。それでも、詳細な理由を聞いた者は居ない。

 …と言う事は、やっぱり自分一人でケリをつける気満々だなぁ。

 あの人の事だから、「里の連中を死なせたのは、俺が弱かったせい」くらいは考えるだろう。

 全てを守る英雄を気取っているのでなく、自分の力でこの世を生き抜く武人としての考えだ。誰が来ようと何が起きようと、自分の責任で対処するのが当たり前。不条理であろうと理不尽であろうと不運であろうと、対応できないのは自分の力不足の為。願いに反する事を阻止できないのは、自分の手が届かなかった為。

 

 まぁ、何にせよ他人から見れば、面倒な意地を張っているだけなのであるが。

 俺だって他人の事は言えないけどな。デスワープしてなかった事になったループの仇討ちに拘ってたりもしたし。

 

 どうしたものかね…。今までの経験から言えば、何だかんだ言ってもゲームストーリーと同じ事は起こる。

 修正力とかそういう話じゃなくて、それが発生する条件が既に整ってしまっているんだ。今は起こらなかったとしても、時期が少々ずれるだけだ。

 どの道発生するイベントだし、上手くやれば強い信頼や結びつきを得られる。失敗すれば…最悪の事態が発生する可能性もあるし、充分な信頼を得られずに那木に射られたループの時のような展開に…。

 

 まず有効な手段としては、ダイマエンを先に見つけてしまう事か。それが出来れば、またしても単騎特攻を仕掛けたとしても、すぐに追いつく事ができるだろう。

 しかしどうやって探すかな……………

 

 

 

 

    あっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は? 鬼の手の能力を使って、特定の鬼を探す?」

 

 

 ああ。俺も似たような事をやった事あるし、多分初穂も出来ると思うんだ。

 対象になる鬼を明確に想像して、鬼の手を通してその痕跡を見る感じで。

 

 

「うーん、出来る出来ないで言えば、多分できると思うけど…瘴気の穴を塞ぐのと違って、想像しやすいし。でも、文献でしか知らない鬼だと追いかけられる気がしないわね。その、ダイマエンって鬼は実際に見た事ないわ」

 

 

 仮にこの近辺に居たとしても、つい先日まで半人前扱いだったモノノフに相手させる鬼じゃないしな。

 その名に違わない、厄介な鬼だよ。……ゲームじゃミズチメと並んでクソ扱いだったっけなぁ。

 

 

「で、そのダイマエンがどうしたの、突然。そんな強力な鬼が近くにいるなら、私だけじゃなくて皆に伝えるべきでしょ」

 

 

 目の前に出てきてくれりゃ、半刻と経たずに四肢と首を切り落としてやれるんだけどな…。

 富獄の兄貴が、そいつを追っているようなんだ。

 

 

「…異界浄化の後から、様子がおかしいような気がしてたけど…それ、確か? どうしてその鬼を追ってるって分かるの?」

 

 

 ホオズキの里って知ってるか?

 うちの連中が組手の相手をしてもらってる時に、幾つか技を教えてもらったんだ。その時に、その里に伝わっていたって技が幾つかあった。

 俺もこの前、組み手をして気付いたが、あの人の使う武術にはホオズキの里の技が色濃く残ってる。元はもっと別の武術だから、立ち寄った時に学んだんだろうな。一月二月程度じゃない、もっと長く留まって交流した筈だ。

 

 

「ホオズキの里…って言うと、確か何年か前に鬼に滅ぼされた…」

 

 

 ああ。俺も詳しい事は知らないが、空を飛ぶ鬼一匹にやられたらしい。空を飛ぶと言えばヒノマガトリやアメノカガトリ、この前見つけたアマツミツツカや亜種のナルハヤテも思い浮かぶ。

 だが里の痕には炎や雷の類は殆ど見当たらず、砕けた岩やら羽やらが散らばっていたそうだ。

 

 

「それでダイマエン…富獄がその里と懇意にしていたとしたら、仇討ちを考える可能性は確かにあるわね」

 

 

 (ちなみに、里の痕云々は出任せだ。でもダイマエンがやったのは事実だし、あいつが暴れたらそういう痕になるのは確かだ)

 別に仇討ち云々はいいんだよ。どっちにしろ鬼は斬らなきゃならん。

 最近じゃ、昔の夢…多分その里の夢を度々見るらしいし、案外そいつに喰われた里の人達からの救援信号の類なのかもしれん。

 とは言え異界は広いし、探し回ったところで見つけられる可能性は如何ばかりか。

 

 が、それなら見つけられそうな奴に頼めばいいだけの話だろ?

 

 

「それで、瘴気の元を見つけ出せる鬼の手の使い手。…つまり私やあなたに声をかけるかも、って事ね」

 

 

 そういう事。或いは博士に頼んでもう一つ鬼の手を準備してもらう…と言うのも考えたが、博士は現在、茅場と一緒に人形弄りに熱中してる。多分話も聞きやしないぞ。

 鹿之助だと標的の一部でも持ってなければ探知はできないし、そうなると一番可能性が高いのは俺と初穂だ。

 

 協力して探すのは別に構わん。だがモノノフの悪しき伝統・単騎特攻は絶対に止めたい。

 もしも協力を頼まれたら、その時は討伐に俺達も連れて行く事を条件としてほしい。約束を反故にして突っ走る事も視野に入れ、鬼の居場所が大体わかったら情報共有しよう。

 うちの子達にも見張らせて、突っ走らないように予防線を張る。

 

 

「そこまでする…。まぁダイマエンは資料で見るだけでも相当強力な鬼みたいだし、里一つを壊滅させるような鬼が弱い訳ないし、一人で行ったら流石の富獄も危険よね。思い詰めてると戦力差なんかお構いなしに行動しそうだし、予防線は張っておくべきよね」

 

 

 そう言う事。それじゃ、頼んだぞ。

 富獄の兄貴への予防に鬼の手の訓練、普段の任務と色々やる事は多いと思うが、頑張ってくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初穂は鍛錬に戻り、俺は自室に戻る。何かやるにしても、今日の仕事を終えてからだ。

 部屋では、勝手に入った(許可もしてるし、合鍵も渡しているが)神夜が、四つん這いになって何やら唸っていた。むっちりヒップが突き出されて、思わず襲い掛かりそうになった。襲っても悦ばれるだけだが、仕事が先だ。

 どうした、神夜。何か探し物か?

 

 

「え? いえいえ、ここ最近、仕事をしていなかったなと思いまして。ここに何を置こうか考えていたのです」

 

 

 仕事? いつもしてるだろ。鬼の討伐もそうだし、うちの子達の面倒を見るのも。

 

 

「そちらではなく、シノノメの里に居た頃の生来のお仕事ですよ。寝具作りです。ここにも『べっど』を置けないかと思いまして」

 

 

 ああ、そういや作ってたな、ベッド。俺に抱かれる為に自作して、招いてくれたっけ。その後乱入者も含めて実時間で一週間、体感時間で半年近く延々と睦みあったっけな。

 なんだ、アレを思い出して、もう一回やりたくなったか?

 

 

「あ、あははは……実は…その…大体合ってるけど、ちょっと違うと言いますか…。今の、皆でくんずほぐれつするのもとてもとても気持ちよいのですが、初めての夜の直後にあんな事になったじゃないですか。一晩くらいは、独占してみたいなって…」

 

 

 …そういう事は早く言…いや、もっと早く察するべきだったな。…他の子達にも、同じ事を思っている子が居るよなぁ。最初からそれが当然だった子とか、観客が居た方が燃える子もいるから、全員が全員とは言えないが。

 っと、この状況で他の女の事を持ち出すべきじゃなかったな。

 

 

「いえいえ、まだ寝具作りも手を付け始めたばかりです。二人きりなら、やっぱり自作した『べっど』の上で抱かれたいので、その時まで楽しみにしています。…でも、大きさをどうするかが問題なんですよ。この部屋に作るのであれば、当然沢山の人が同時に使うじゃないですか。シノノメの里で作った時も、想定していたのは私、あなた、明日奈さんの3人分くらいです。雪華さんが追加されましたけど、密着すれば何とか乗れるくらいの大きさでした。ですが、ここで皆も使うとなると…」

 

 

 ああ…特大でもまだ足りないかもな。と言うか、二人きりで使いたいのに、他の子達も使う事を前提にするのもおかしな話だなぁ。

 

 

「そこはそれ、どっちにしろ皆さんも興味を示すのは目に見えてますし。畳に敷いた布団の上で睦みあうのもよいですが、『べっど』の上も違った趣があります。具体的にには、腰が跳ねる時の動きと反発が………ま、二人きりで使うものは、私の自室に据え付ければいいです。さて、こっちの部屋にはどうしたものでしょう。小さければ使える人数が少なくなり、大きければその分空間を圧迫する。不評にはならないと思うのですが、それでも一度設置するとそうそう動かせなくなりますし、何より『べっど』の下が掃除しにくくなりますし…」

 

 

 いっそ、新しい部屋でも作るかな。いやでも素材を勝手に使うのはなぁ…。立て直しの時に、頭領特権って事でもうちょっと作っておけばよかったか。

 しかし、そういう睦言の為の部屋を作っても怒られる気はしないな。何だかんだで、殆どの子が使う事になりそうだし。

 

 

「少なくとも、私や明日奈さんは全く問題にしませんね。あまりにも度が過ぎるようでしたら止めますが、今回のは部屋一つくらいの話です。あなたの不思議な建築方法なら、資材もそう使わないでしょう」

 

 

 ……本当に作っちゃおうかな…。神夜が割と本気で期待した目で見てくるし。

 かなり本気でそう思い始めた時、扉がノックされる。

 はいどうぞ。

 

 

「若様、少しいいかしら…あら、神夜さん。お邪魔でしたか?」

 

「残念ながら、いいえです。ちょっとお仕事の相談をしてました。別に重要と言う程の事ではないので、そちらが先にお話しても大丈夫ですよ」

 

「…なら、お言葉に甘えて…」

 

 

 何だ、凛花か。訓練は順調か?

 と言うか、一人とは珍しいな。

 

 

「いつも凛子と一緒に居る訳じゃないわ。それと訓練は…ふふ、努力が実ったわ! 朝の試験で、ようやく合格よ!」

 

 

 ほぉ、そりゃ目出度い。浅黄が認めてるんなら、俺としても否は無い。

 正直、お前達の戦力を遊ばせておくのは勿体なかったからな。合格に安心せず、苦手な方面も努力を続けてくれよ。

 いつも凛子と一緒ではないとは言え、大抵一緒に切磋琢磨してたろ。凛子はどうなんだ?

 

 

「あー、実はまだ合格してないと言うか…体調の問題で、今日は試験を受けられなかったというか…」

 

「ああ、重いんですね…」

 

 

 …ああ、そういう。ま、その辺の体調管理も実力の内。無理して試験に臨まないだけの理性があって何よりだ。

 それで、任務に向かうのは何時だ? 行き先は?

 

 

「もう決まっているわ。…流石に、最初から大型鬼の相手をさせてくれるとは思ってなかったけど…これはどうなのかしら。最初に受ける任務は、若様達が見つけてきた『塔』とやらの探索よ」

 

 

 あそこを? …気分のいいもんじゃないぞ。お前達同様に封じられている人達が居る。そして、それを助け出す事は、まだやってはいけない事だ。

 

 

「分かってるわよ。助けてはいけないんじゃなくて、『まだ』助けてはいけないんでしょ。あの浅黄にそっくりなアサギさんとか、今日目が覚めたばかりの…きらら、だったかしら? あの子がどういう子なのか確かめてから。理由は分かるし、助けていい時期は決して遠くなさそうだもの。焦りはしない。助け出してきたとして、面倒を見る為の負担は若様に行くのが分かりきってる。勝手に連れ出して、いい事した気分になって、後は任せたなんて言わないわ」

 

 

 そっか。うん、ちゃんと前後や自分の行動の影響を考えてるな。

 しかし、あの塔をねぇ。確かにウタカタの人達からしてみれば、得体の知れない施設がすぐ傍にある訳だしな。

 異界への転移機能を停止したから、現れては消える現象も無くなった。つまり、調べに入ってそのまま戻ってこれなくなる事も無い。

 

 

「そう言えば…シノノメの里で、お頭が入り込んでいた塔も、ここの塔と同じなのでしょうか? 異世界からの、鬼を討伐する為の舟…」

 

 

 どうだろうな。前に博士が、複数の舟で多くの戦力を送り出したと思われる…って言ってたけど、それがほいほい見つかるか…。同じ場所を目指して同行していたなら、近場で複数見つかる事も納得できるが。

 何にせよ、あの塔にはまだ何かありそうだ。未知の技術、住み着いた鬼、隠された事実…。

 

 興味を示しそうなのは、やっぱ博士かな。それに…そうだ、案外秋水も興味を持っているかもしれん。時空を超える技術…あいつからすれば、喉から手どころか上半身が生えるくらいに欲しいものだろう。

 

 

「博士の依頼…いや、任務には違いないわね。しっかりやらないと。それに、未知の技術とやらを発見できれば大手柄になりそう」

 

「だからと言って、あれこれ弄り回してはいけませんよ。それこそ何が起きるか分かりませんし」

 

「分かってるわ。それに、ついでに調べるくらいならともかく、手柄に逸ったら…」

 

 

 

 待っているのは絶縁。

 

 想像するだけでも恐ろしいのか、凛花は口を噤んだ。

 ま、そもそも未知の技術を探そうにも、どこがどう未知で、何が重要なのかも分からんからなぁ。俺もちょっと観察してみたが、ありゃ理解できそうなのは博士とか茅場くらいだ。

 適当な物持って帰ってあれこれ主張するより、真面目に探索こなした方が給料は多いぞ。

 

 で、実際のところ要件は? 試験合格と、初任務に行くって報告か?

 

 

「それもあるけど、事前準備の重要さは散々説かれたもの。例の塔についての報告書は読んだけど、やっぱり当人から聞くのが一番いいじゃない」

 

「確かに。…でも、それなら権佐さんや富獄さんのところじゃなく、真っ先にここに来た理由はなんでしょう?」

 

「…それは…その……」

 

 

 神夜の目が笑っている。多分俺の目も笑っている。しかもオヤジ臭く。

 何で俺の所に来たか?

 単純である。任務に向かう前の子達には、精神的な安定性・霊力的な戦力を底上げする為に、オカルト版真言立川流を使っている。…嫌がる子にするつもりはないんだけど、今のところ嫌がられた事は無い。

 つまり、彼女がここに来たのは、その『お誘い』の為でもあった。

 

 

「あ、あの、まずは塔の話を…」

 

「まぁまぁ、そういう事でしたらまずは席についてくださいな。立ち話するような事でもないでしょう。お茶を出しますよ」(訳:逃がしません) 

 

 

 そうそう、ゆっっっくりと話をしようかね。大事な任務の事だからね。(訳:自分から言い出すまで粘るぞ)

 ああ、そうそう神夜、『上物』の茶があっちの部屋の棚にあるから使ってくれ。普通の茶と違って、薄目で頼む。

 

 

「はいはい、あれですね。大丈夫です、何度か呑んで分量も分かってますから。私もいただきます」

 

 

 いそいそと『上物』のお茶を淹れに行く神夜。ちなみにその茶葉の缶には、『六穂特製』と書かれている。

 あの子はヤバイ毒から母乳が出る毒まで、何でも作れるのだ。安全性は、夜に何度も試して実証済み。あとは分かるな!

 

 さぁ、媚や…もとい、お茶による利尿作用やら感度倍増やらにいつまで耐えられるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 満ち足りた表情で力尽きた凛花は、何か言うまでもなく、神夜が凛子の部屋に連れて行った。世話を任せるつもりなんだろうが…一足先に試験に合格しただけでなく、色々経験した相棒を見て、凛子はどんな顔をするのだろうか。

 更に、今夜は凛花と仲のいい子達を集めて猥談大会を開催するようだ。コトの感想を聞くだけでなく、根掘り葉掘り自分から喋らせるつもりらしい。神夜曰く、『一足先に女になった事ですし、先輩風を吹かさせてあげようという親心ですよ』だそうな。

 神夜も中々悪趣味になってきた。(褒め言葉)

 俺もその語りを、凛花を顔を見ながら聞いてみたいものだが、それは悪趣味とかいう以前にムラムラが我慢できなくなってその場にいる子を纏めて食い散らす未来しか見えない。

 ここは、雪風と不知火でも摘み食いしながら盗聴する程度に抑えよう。

 



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509話

堕陽月肆拾玖日目

 

 

 任務に出掛ける凛花を見送る時、ちょっとした頼み事をした。

 安全第一だし、無理に武勲を求めるのは禁じていたが、もしも封じられている子達が着ているような服…体にぴっちり吸い付き、露出度が非常に多いあのスーツ…を見つけたら、優先的に持ち帰ってほしい。

 言われた凛花は不思議そうな顔をしていた。まぁ、彼女達にしてみれば、奇異すぎてエロさを全く感じない恰好だろうからな。

 コスチュームプレイの為に持ってきてくれ、と言われても首を傾げるだろう。そんな事の為に、ではなく、あんな恰好の何処がいいのか?という意味で。

 敏感な部分を指先でなぞりながら頼めば、頬を赤らめながらも頷いてくれた。もしも発見して持ってきてくれたら、真っ先に衣装の効果を実感させてやらねばなるまい。

 

 ちなみに、背後で凛子が凄い表情をしてた。後でガムシャラに刀を振って訓練していたが、あの分だと今日の試験も不合格だな。半分以上俺のせいか。流石に悪い気がした。

 

 

 それはそれとして、アサギがもう復活してきた。決して体が治った訳ではない。今でもカノジョノカラダハボドボドダ!  いや冗談抜きで。特に胃腸関係が。

 それでも、無理に寝かせておく方が心労が溜まると言う事で行動を許可された。…先日もそうだったけど、それでいいのか医療班。俺としても、あの魂の叫びを聞いてるから、反論できない…。

 

 もういっそ完全に安心できるまで、好きにさせてやるべきかと半ば本気で思いながらも話を聞くと、きららさんの様子を見に来たとの事。そう言えば、起きた事は伝えたけど、どういう様子だとかは伝えてなかったな。

 記憶を失っているんだが…。

 

 

「構わないわ。むしろ好都合よ。以前のあの子のまま動き回られたら、絶対にろくでもない事になる」

 

 

 …それ程か。

 

 

「男嫌いなのよ、あの子。あまり接点が無かったから詳しく知らないけど、とにかく衝動的で、嫌いな者への態度を隠そうともしない。流石に助けてくれた人に対してまで無条件に突っかかるとは思いたくないけど、『助けてくれたのは女の人で、男になんか助けられてない』とか言いかねないわ」

 

 

 子供でもそこまで意地を張らんぞ…。それだけ男を嫌う理由は知ってるのか?

 

 

「いいえ。記憶が消えているなら、思い出させるのも不可能に近いでしょう。でも、理由が分からないというだけで我慢するような子じゃないわ。どこまでも直情的で、我慢とか待つとかいう事を知らない。そんな子なのに、宿す力だけは異常に強い。ゴウエンマを一瞬で氷漬けにした事もあると聞いたわ」

 

 

 …成程、力を持った子供そのものか。確かに厄介だな…。

 とは言え、「あまり接点が無かった」と言う割には、悪評だけがポンポン飛び出てくる辺り、アサギの経験に基づいたフィルター…偏見が入っている可能性も否定できない。こんなになるまで胃壁と精神を削られているのだから、悪感情が増幅されていてもおかしくないものな。

 

 さて、どうしたものか。仮にアサギが言うような超問題児であれば、外の世界に放流しても危険が及ぶ。彼女自身だけでなく、俺達にもだ。

 滅鬼隊の一件は、未だ霊山を混乱に陥れたままだ。九葉のおっさんが上手くやり、ウタカタの人達が快く受け入れてくれたから安穏としていられるが、問題を起こせばそれも露と消える。得体の知れない力を持った異端のモノノフが、いつ自分達に牙を向けるか分からなくなるのだ。うちの子達も同類扱いされ、疑いの目を向けられてもおかしくない。

 

 

 …説得の材料もあるにはあるが、本人も見ない内に考えても空想にしかならないな。まぁ、覚悟を決めて行ってみますか。

 

 

 

 

 

 

 

 世話を任せている那木に伝言を頼み、アポを取る。案の定、あまりにいい顔はされなかったようだ。那木自身、まだ嫌っている男性を近付けるのには賛同しかねるのだろう。

 だが、アサギの心労とどちらを取るかと聞かれた場合、苦渋の判断ながらアサギを取る。…心労一つでここまで譲歩されるのだから、彼女の以前の職場については推して知るべし。もう本当にどんだけ酷かったのやら。

 

 扉を開けて部屋に入ると、上半身を起こしているきららさんと目が合った。

 あからさまに嫌悪で顔が歪んだ…まるでGを見つけた時のように…が、仮にも自分を封印から解放した人間だというのは聞いているらしく、即座に罵声が飛んでくる事は無かった。

 俺に続いて入って来たアサギを見ても、表情に変化は無し。…少なくとも、以前に付き合いがあった記憶はなさそうだ。

 

 

 病状のところに失礼する。ここの子達の纏め役をやっている者だ。

 こっちのアサギは…きららさんと呼んでも?

 

 

「…馴れ馴れしいわ。男なんかに呼ばれる事自体、虫唾が走る」

 

 

 …うちの子達が聞いてなくてよかったわ。下手しなくてもその場で敵対確定だ。

 俺も嫌っている相手と積極的に関わろうとは思わんが、状況が状況なんで呼ばざるを得ない。他に呼び方も知らないんで、きららさんと呼ばせてもらう。

 

 こっちのアサギは、きららさんの元同僚らしいんだが…記憶はあるか?

 

 

「ご紹介に預かったアサギよ。…相変わらずのようね、あなた」

 

 

 血を吐きそうな顔色で、冷たい視線を送るアサギ。それを見たきららさんは、何かを思い出そうとじっと顔を見つめていたが、やがて首を横に振った。心当たりは全く無いようだ。

 非友好的な視線を送りつけられても、俺に対するよりも態度は柔らかい。

 

 

「あまりいい関係とは言えなかったけど、私とあなたは同じ場所で戦っていたわ。その頃とは、あらゆる意味で状況が変わった。世界全体がね。今までの常識は……どれくらい頭に残っているのか知らないけど、どっちにしろ殆ど通用しないわ。あなた、これからどうするのか当てもないでしょう。悪いことは言わないから、せめて状況を把握できるまでは、ここで世話になりなさい」

 

「…嫌よ。その男が頭領なんでしょ? 立場を笠に着て、何を要求するか分かったもんじゃない…いえ、分かり切ってるわ。男なんて、どいつもこいつも獣よ」

 

「…あなた達がそんな連中ばかりだから、私が苦労していたのよ…。その言い分で確信したわ。あなたをそのまま放り出せば、巡り巡って私達に災いを運んでくる。男だ女だ、好きだ嫌いだで行動していられるような世じゃないのよ。以前もそうだったけど、今は猶更」

 

「何よ、私が全ての元凶みたいな言い方して。私が何をしたって言うのよ。そもそもあなた誰? 全然記憶にないと言うか何一つ覚えてないけど、あなた私の何なの」

 

『黙りなさい』

 

「…っ!」

 

 

 …おや? 今の発声は…。ちょっと強い力と意思が籠った声だった。

 あれは、浅黄と同じような滅鬼隊を統率する為の声なのか、それとも素で怨念が籠り過ぎた為の声なのか…。

 いや、もう暫く静観するか。

 

 

「何をしたかと言うなら、今のあなたの態度そのものがその答えよ。状況を全く把握できないとは言え、相手が男性だと言うだけで攻撃的になり、助けられた事実を無視して、呼び名を確認しただけなのに馴れ馴れしい? 虫唾が走る? 心の中で思うだけなら、まだ良かった。だけど、そうやって関わる男性一人一人に毒を吐いていくつもり? あなたの行動は、自覚の有無に関わらず私達の評価にも繋がる。困るのよ、また以前みたいに無駄に仲間内でいがみ合ったり、協力者を怒らせて約定を反故にされたり、敵でも味方でもなかった一般人を凍り付かせて雪女だと騒がれたり、隠密任務だって言ってるのにどいつもこいつもお構いなしに障害物を全て叩き壊しながら突撃した挙句に隠蔽も後始末も報告も処罰も全部私に押し付けたり、『なんとなく』で真夏に湖を凍り付かせて意味も無く噂話になったり、触るなと言ってるのに封印の注連縄に触って鬼を解放したり、よく分からない装置を適当に弄って鬼の大群を召喚したり、裏も取れてない情報を鵜呑みにしてゲフオォ!?」

 

 

 首筋に手刀。喋るな。もうそれ以上喋るな。

 説得じゃなくて鬱憤を吐き出すだけになってる。しかもすっきりするどころか、思い出して自分でダメージ受けてるし。

 うん、さっきの声は素の声だな。

 

 崩れ落ちたアサギを那木に任せ、きららさんにふり返る。

 アサギの剣幕に恐れをなした訳ではないだろうが、なんか微妙な顔をしている。…これはアレだな、『え、昔の私ったそんなお馬鹿さんだったの? 冗談よね? でもあの剣幕は…』って顔だな。

 確かに、自分がそれをやったのだと言われると、否定したくもなるだろう。…それ以上にアホな事を、思い返すと散々やってきた俺だけども。

 

 

 あー、とりあえず話を進めよう。さっきの話が本当なのかは、また後で考えるとして。

 

 

「あ、うん」

 

 

 呆然とした状態であっさり返事が返ってくる辺り、根は素直な子らしい。よくも悪くも。

 何にせよ、話を進めるなら今の内だ。頭が回ってない、男嫌いの意識が先に出てないうちに終わらせる。

 

 俺としては、君がどっか行くならそれはそれで構わんと思っている。何なら支度金とか弁当とか持たせてもいいくらいだ。

 ただ、アサギが言ったように、君は滅鬼隊の一員として考えられているだろう。詳細は省くが、君が居た状況からして、そう的外れな推測でもないと思っている。

 その君が外に出て、いくら俺達と無関係だと口にしたとしても、あちこちで揉め事を起こして悪評を立てれば、こっちにまでその影響を受ける。

 

 …何かやらかすのを前提にしているのが不満そうだな。

 だったら聞くが、今の人間がどういう状況にあるか理解しているか_

 オオマガトキから何年経った?

 いや、オオマガトキが起きる前に封じられたようだから、それ自体知らないか。

 人間がどれだけ追い詰められてるか理解してるか?

 霊山を中心として、どれだけの土地と人間が残ってると思ってる?

 その中で互いが争わないように、互いに距離を置き、食い扶持を確保して人が住める土地を守る為の決まり事が作られた。それをどれだけ理解できてる?

 皆が食い扶持を確保する為に、どれだけ必死になってるか見た事があるか?

 

 男相手に突っかかるとか、そんな問題じゃない。単純に、知らない以上はいつ何処でやらかしてもおかしくないんだよ。

 

 

 

 …と、一方的な話だけをしてしまったが、拘束する事しか考えてない訳じゃない。

 状況や世間の事を把握するまでここに留まってもらえるのであれば、相応の見返りを用意できる。

 

 まず衣食住。一応言っておくが、飯担当者はほぼ女性だ。

 次に、君のお仲間と対面できる。…まだ封印されてる状態で、受け入れる準備が整ってないからすぐには解放できないが、一人くらいは見覚えのある相手がいるかもしれない。その子と話してみれば、過去の記憶が蘇るかもしれない。

 

 

「…………それだけ?」

 

 

 いや、まだあるぞ。…さっきから目が揺れてるな。メリットは惜しいが、それでも男性の下に着くのが嫌でたまらないって事か?

 であれば、次の交換条件は猶更突き刺さるだろう。

 

 

 これは衣食住の住とも被る事だが…住む場所の条件の問題だ。

 君が今すぐ何処かに旅立ったとして、当然の事ながら、どこに行っても男性は居る。当然だな、人類の半分は男性だ。それが嫌なら、女だけ集めて山賊団とか結成して、人里から離れて暮らすしかない。当然、結界もなく、鬼に襲われ、食べ物も手に入る保証は無く、まともな生活は送れない。

 

 が、ここは例外だ。うちの子達は、事情があって9割以上が女性でな。このアパート…あー、長屋みたいなもんだが…の中で生活してれば、男と関わる機会なんぞ数える程しかないぞ。俺は屋上の部屋を使ってるし、男連中は基本的に絡んで行動する事が多いし、女ばっかの所は居心地が悪いからってあんまり入ってこないからな。

 まぁ、任務なり何なりで里と関わるようになれば、流石に女ばかりとは言えないが、私生活ではほぼ関わり合いが無くなるのは確かだ。

 

 

「そういう事なら、話に乗ってあげるわ。あんたの顔を見ないように気を付ければいい訳ね」

 

 

 そうなるな。俺も、自分を嫌っている人間に必要以上に関わろうとは思わん。何か用事ができたなら、秘書・執事連中を間に挟めばいいだろう。ただし、あんまり悪し様に言わないように。仮にも上司を貶されて、いい気がする奴は…………山のように居るけど…社交辞令の範疇で済むようにな。

 

 

「私があんたを何と言おうと、関係ないでしょ。…でも、確かにさっきの人が言ってたように助けられはしたみたいだから、その分は考えてあげるわ」

 

 

 やれやれ…。アサギが胃を痛めるのがよく分かるな。

 他の連中もこんな感じなんだろうか? 解放するのが嫌になってきた。

 

 さて、それじゃあ後の事は那木に任せる。看病だけじゃなくて、知りたい事があったら質問するといい。

 懇切丁寧に、『説明』してくれるから。アサギはまた宛がった部屋に寝かせておくよ。

 

 

「お任せください! あと、アサギ様への薬は後でお届けします」

 

 

 …いい笑顔だね。別に、彼女の態度にイラッと来たから憂さ晴らし…ではないぞ。何も覚えてない状態なら、しっかり説明した方が分かりやすいだろうしね。…長い話を理解できるだけの頭があるかは疑問だが。

 

 しかし、さっきのアサギの声…いや声質も気になるけど、あの内容…。

 滅鬼隊の言動や戦果が残念なのは、運営主がアレな連中だったからだと思ってたんだが…元々だったのかなぁ…。いやでもあの子は、博士の推測によると滅鬼隊の元、つまり恐らくはホロウと同類なんだろうし…待て、考えてみればホロウも割と残念な奴だったか。

 

 

 

 

 

 

 

 アサギを部屋に運んで寝かせようとした時、丁度目を覚ました。

 視線だけで周囲を確認し、状況を把握。…自分がやった事を思い出したようだった。

 

 おう、起きたか。

 

 

「…醜態を曝したわね。随分優しく気絶させてくれたこと」

 

 

 これ以上心身ともに負担をかける訳にはいきません。

 と言うか、どうすれば休めるんだアサギは…。何もしてなきゃ勝手に不安になって心労が溜まるし、好きにさせてると過去の厄介事を思い出して崩れ落ちるし、冗談抜きで昏睡にでもしておいた方が回復するんじゃないかと思えてきた。

 

 

「そうなったら、多分魘され続けるわね。もういっそ忘失でも……いえ、やっぱり形の無い不安に襲われ続ける気が…」

 

 

 ………アサギ、とりあえず飯食って酒飲んで、ゆっくり寝ろ。

 親しい友人は出来たか?

 

 

「友人? ……考えた事ないわね。もう一人の私とは仕事相手という印象が強いし、目を覚ましてからは不安を紛らわす為にあれこれ動き回ってただけだったもの」

 

 

 そうか…。んじゃ、俺と一緒に飯食おう。

 仕事の話でも、他愛ない話でも、何でもいいから人と話ながら食おう。

 

 もしも誰かに対して殺意を持ったなら、まず定時で仕事を終えて、帰宅したら私服に着替え、散歩の後に友人と飯を食い、ゆったり風呂に浸かって、恋人と二人きりで語らい、ほろ酔いになる程度に酒を飲み、残った時間を趣味に注げ。夜は暖かく柔らかい布団でぐっすりと眠り、朝日と共に目を覚ませ。ほんの少しばかり二度寝して、消化のいい朝飯を食って、軽く体を動かしてから理想の一日を思い浮かべる。

 それでも尚殺意が消えてないのであれば、すぐに家を出て殺しに行け…てな。誰が言った言葉だったか忘れたし、大分変ってると思うけども。

 

 

「…それが出来るような環境であれば、私はああまで擦り減らなかったわ…」

 

 

 ……なんだ、その…すまん…。

 

 

「…友人も恋人も居ないんだけど」

 

 

 だから俺が一緒に行こうって言ってんの。ほれ、過去の事ばかりじゃなくて前を向いて行こう、前を。

 幸い、俺のやる事は大体終わってるし、急ぎの案件も無い。

 幸か不幸か、今アサギがやるべき事も無いだろう。将来の懸念に対策するにも、そう有効な手段は残ってない。だったら、今は体を休める時だ。それで納得できないなら、体調を万全に戻す仕事と考えな。

 

 

「仕事から離れろ、と言いたいんじゃないの?」

 

 

 世の中には、仕事してた方が気が安らぐ人だって居るからな。無理に力を抜こうとするのも、逆に疲れるもんだ。自分にとって一番楽な状態でいればいい。

 今はその仕事もできないような体だから、二番目に安らぐ状態を見つけようって話だ。

 

 さ、行こうか。今日の飯は秘蔵の一品を引っ張り出すぞ。明日奈に力作を頼まなくちゃな。

 肉、魚、野菜、果物、何が好きだ?

 

 

「…魚。あとは…蕎麦かしら。食べやすいし」

 

 

 ふむ、麺類か。MH世界で各地を回っていた時に買ったのが幾つかあったな。GE世界では…ああ、パスタならあったっけ。小麦はまだ辛うじて栽培されてたからな。

 魚介出汁の蕎麦をメインに、小ぶりな鉢でおかわり自由。立食パーティ…には汁物は向かないが、バリエーションを揃えてみよう。

 蕎麦、うどん、ラーメン、パスタ。調味料や汁、具を工夫すれば幾らでも。

 幾ら明日奈でも、初めてみた物を完成された味まで持っていくのは難しいだろうが、レシピはあるからちゃんとした物は出来る筈。

 無茶振りしてしまう事になるが、信頼の証としてゴリ押ししよう。未知の素材を扱うのは楽しいって、本人も言ってたしな。

 

 

「まだ行くとは言ってないんだけどね…。はぁ、まぁいいわ。確かに、これ以上無理に動いても効率はよくなさそうだし、折角封印から目覚めて、あの子達の世話からも解き放たれたのに、今までと同じ事しかしてないんじゃ意味が無いわ」

 

 

 そういう事。新しい趣味でも見つけようか。

 

 俺も、ちゃんとしたデートは久しぶりだな。アサギにそういう意識は無いかもしれないが、エスコートするって意味では的外れでもないだろう。…メンタルケアの為の、路上介護のような気がしなくもないが。

 

 

 

 

 

 

 この後、気晴らしの一日を楽しんだ。

 ウタカタの里を散策しては橘花に意味深な含み笑いを向けられ。

 晩飯まで時間があったので、趣味の開拓として釣り(MH世界で作った太公望を使用)をしながらボーッとして。

 飯時には二人で特別席(と言ってもちょっと離れた場所にあるだけ)で、珍しい夕飯の奪い合いを肴に、漫才を眺める気分で飯を食い。

 半ば露天風呂と化している大浴場(男女別)で、星を見ながら湯当たり寸前まで温まり。

 恋人ではないものの、あの飯が上手かった、あの時逃した魚は絶対大物だった、などと他愛も無い話をして。

 秘蔵の酒を嗅ぎつけて来た子達に一升瓶ごと渡して追い払い、ウタカタで作った酒からGE世界の配給ビール、MH世界の地酒までチャンポンして晩飯の残りをツマミにして。

 考えてみれば、そこまで酔っぱらってる時点で、翌日は二日酔確定だから、気晴らしは半ば失敗したようなものだったけど。

 いい気分で布団に潜り込み。

 

 

 

 

 その後朝までセックスした。

 

 

 

 

 ちゃうねん(震え声)

 いやマジでちゃうねん(震え声)

 手ぇ出すつもりなかったねん。

 布団に入ったのも別々と言うか、酒が回ってフラフラしているアサギを部屋まで送り届けて、ちゃんと寝付かせて出てきたねん。

 すっごい気持ちよさそうに酔っぱらって、歯磨きだけさせて布団に放り込んだら、のび太並みの寝付きの良さで眠ってくれたねん。

 

 でもその後、目を覚ましたアサギに逆夜這い喰らったねん。

 「何で襲わないのよ」なんて言ってたんだよ。ただし目がぐらぐらしてたので、正常な判断力は微塵も残っていなかったと思われる。むしろ、起きて動き出した後、その辺で眠り込んだり、全然違う子を間違えて逆夜這いしなかっただけマシなレベルだ。

 何で襲わないって言われても、流石にリハビリ中の病人を襲うほど腐れた人間になった覚えは………覚えは……まぁ、あると言うか、むしろ俺の場合抱いた方が体力回復に繋がるといいますかね? オカルト版真言立川流で、体の中から癒します。

 でも疲れ切っているアサギを連れ出しておいて、送り狼は流石に無い。と言うか、アサギはどうして俺に襲われると思っていたんだろうか? 少なくとも、今日のデートの間にそういう事を仄めかしたり、そんな気分にさせるような事をした覚えはないのだけども。

 

 

 

 まぁ、何にせよ。酔っぱらっているとは言え、真夜中に男の部屋に来るってそう言う事だし。女からの申し出を袖にして、恥をかかせるのも忍びないし。

 そのまま朝までしっぽりしました。

 いつものヒィヒィ言わせて悦ばせるやり方じゃなくて、どっちかと言うとマッサージに近いけどね。アルコール前後のマッサージはあんまりよくないが、そこはそれ、これもオカルト版真言立川流でどうとでもなる。エロなら大抵の事はできるのだ。未だに理屈は把握できてないが。

 

 

 

 追記 アサギは処女じゃなかった。「こんなに優しく達せられたのは初めて」だそうな。…やっぱり、この子も他の滅鬼隊同様、オナホ扱いされていたんだろうか。でももう俺専用だ。過去の事なんか路傍の石にしか思わないくらいに、魂から染め上げて行こう。

 

 

 

 

 



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510話

堕陽月伍拾日目

 

 

 目が覚めると、隣で寝ていたアサギがひっついていた。俺の胸板を枕代わりにして、安らかな寝息を立てている。

 普段は眠ると悪夢に魘されてばかりだったそうだが、苦し気な表情もないし、体に添えられている指先にも力は入っていない。リラックスした状態だ。

 

 一日のバカンスと、一夜のラブエロマッサージは、よく彼女の心を癒してくれたようだ。

 勿論、たった一日の気晴らしで数年以上に渡る激務の傷が全て癒される訳じゃないが、幾らか楽になったのは確かだと思う。

 心の傷を癒すのに、異性の肌ってのは高い効果があるしな…心を許した相手であるのが条件だが。俺もループ始まりの頃、水商売のオネーちゃんにお世話になったものだ。あれで死の恐怖を克服…はしなかったけど、何とかハンターに復帰できたっけ。懐かしい…。

 一晩睦みあった事で、お互いの事を色々知る事ができたのも大きい。

 追い込みはしなかったものの、「好き」「愛している」「頼ってほしい」とか、色んな事を囁き、ちょっと強引ながらもアサギに応えさせた。これまた刷り込みみたいなもんだが、アサギも悦びながら「好きよ、もっと奥まで来て」「こんなに優しくするなんて、責任を取りなさい」「もう戻れなくていいから、もっと溺れさせて」とか色々言ってくれたものだ。

 

 浅黄と似ているようで違う体だったなぁ…。

 今度、二人ならべてヤッちゃおうか。少なくとも、枕元で自分と瓜二つの顔を眺め、安心したような表情を見せている浅黄は拒まないと思う。

 

 

 …おい明日奈、何で浅黄が朝一でここにいる訳?

 

 

「そりゃ、昨晩に酔ったアサギが貴方の部屋に入って行くのを見かけたもの。面白い事になるかなと思って、早朝に起き出して連れてきました」

 

 

 さよけ…。で、面白かったか?

 

 

「割とね。今は良かったって顔をしてるけど、最初は複雑な顔してたわよ。別人とは言え、自分そっくりの人間が好きな人に抱かれてるって、嫉妬するのも無理ないわね」

 

「ちょっ、明日奈さん!」

 

「いやいや気にする事ないって。私だって、私の体を使って木綿季が抱かれているのを見ている時には、複雑な気分だったもの。でも、開き直れば悪くない物よ。次に自分が抱かれる時、一層燃えるしね~」

 

 

 この子、寝取られ趣味みたいなものが芽生えてないか? 複数人プレイオッケーと言うか前提になるまで躾けたから、嫉妬の感情が妙な方向に向かっているっぽい。だが好都合だ。

 …つーか明日奈。昨晩はアサギ以外誰も部屋に来なかったけど、何か仕込んだろ。

 

 

「あ、やっぱり分かる? 実を言うと、アサギさんをあなたの部屋まで誘導したのは私です。その辺で座り込んで寝ちゃいそうだったし…。その後、邪魔しちゃいけないってみんなに通達したの」

 

「つまり、アサギが抱かれたのはもう皆に知れ渡ってるって事ね…」

 

 

 せやな。先日だって、凛花が抱かれた後に、猥談大会開かれて大わらわだったみたいだし、珍しい事でもなかろ。

 むしろ仲間意識でも芽生えるんじゃないの。

 

 

「…つくづく妙な状況に陥ったものね…。今更、統率役に返り咲こうとは思わないけど、本当にこれでいいのかって気がして来たわ」

 

「いいんじゃない? アサギさん、すっごく安心した表情で寝てるもの。寄りかかれる好きな人がいるって、大事な事よ」

 

 

 おう、どんどん寄りかかってこい。出来る限りの事はやって、一人じゃ手に負えない事なら皆に手伝ってもらって、助けて助けられてを繰り返していきゃいいさ。

 …さて、起こしに来たんだし、もうそろそろ起きなきゃな。

 

 

「別にいいわよ。もう少し、アサギさんとゆっくりしてて。お風呂の準備もしておくから。今日の仕事は…今のところ、特に急ぎの事はないわね。昨晩の夜中に、凛花が任務を終えて戻って来たから、後でその様子見だけしてちょうだい」

 

 

 分かったよ。初任務の後だし、詳しく聞かないとな。体調や戦果もそうだが、また自信過剰になって暴走しないように。…あと、プレイ用に使えそうなエロスーツが見つかったかどうかもな。

 

 

「あの恰好、私もあまり好きじゃないのだけど…何考えてあんな風にしたのかしら…。まぁいいわ。眠ったふりをしている、もう一人の私をお願いね。…朝餉の用意をしておくわ」

 

 

 ん、ありがとう。…だそうだぞ。

 胸元の重みに目をやると、頭を動かしたアサギと目があった。

 

 

「…おはよう。結局襲ったじゃない。この獣。…何だか体も心も楽になったから、いいけど」

 

 

 むしろ俺が襲われた側なんだけどね。返り討ちにして丸呑みしただけで。

 ところで、何処から何処まで覚えてるんだ?

 

 

「晩酌してしこたま飲んで…部屋に送ってもらって眠ったのは覚えてるわ。そのあと、厠に起き出して…気が付いたらこの部屋の前に立ってたわね」

 

 

 ああ、そういえばちょっと聖水の味が痛い痛い痛い乳首摘まむならもっと優しく。

 

 

「全く…。でも、そこから先は曖昧にしか覚えてないのよね。とっても気持ちよくて、情熱的に愛してくれたような気はしてるんだけど。だから…」

 

 

 乳首に立てていた爪を指先に変え、優しく触れながら、舌を突き出してなぞり上げる。

 

 

「…ね?」

 

 

 今度は、全部覚えていられるようにだな。どんなに気持ちよくて恥ずかしい事をされても、絶対忘れられなくしちゃうぞー。

 

 

 

 

 

 

 

 …尚、実際には昨晩の事は全て覚えていた模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アサギは飯食った後に二度寝タイム。「こんな贅沢が許されていいのかしzzzzzz」って感じで布団に入るとすぐ熟睡した。何だかんだで、体は回復しても体力は回復してなかったんだろう。

 むしろ臓器やら何やらが一時的に活発化して、体を治そうとしている為、余計なエネルギーを使わせないよう本能的に眠りを欲したようだ。

 何でもいいから、ゆっくり休んでくれ。仕事してる方が心が安らぐ人種も居るとは言ったが、病人に仕事させるとか、本当は言語道断なんだからな。

 

 

 

 さて、とにもかくにも面倒事が一段落したって事で。やるべき仕事も少なくなったので、博士の所に様子見に行った。

 …真鶴と、人形状態の木綿季が稽古中だった。

 

 容赦なく放たれる矢の連射を、体の小ささと振り回す刀で捌き切り、ちょこまかと動き回る木綿季。うーん、もうこんなに体を使いこなせるようになってるのか…。明日奈の体を使って稽古してる所を見た事があったが、つくづくとんでもない才能だ。置くべきところに置けば、G級ハンターは確実だったろう。

 

 

「あ、見てたの? 声かけてくれればよかったのにー」

 

 

 おう、悪い悪い。熱中してるみたいだからつい、な。…ところで真鶴、何を落ち込んでんの?

 

 

「いや…侮っているつもりはなかったんだが、こうも攻撃を見切られると、流石に自信が…」

 

「いやいや、かなり危ないよ。この体の頑丈さに任せて耐えたのも何度かあったしさ」

 

 

 普通、至近距離で放たれた矢なんぞ対処もクソもないんだよなぁ…。放たれる前に射線から逃れなきゃブッスリだ。

 ところで、体の具現化の調子はどうなんだ?

 

 

「それがさぁ、中々話が進んでないんだよね。最初からある程度は出来たんだけど、練習の時間が確保できないって言うか」

 

 

 ? 言っちゃなんだけど、木綿季は別にやる事無いんじゃないか? 任務を受けられる訳じゃないし、仕事らしい仕事も任されてない。体がちっちゃいから、任せられる事も無いし。

 実際、こうやって剣術修行する時間はあるんだろ。

 

 

「…博士が、彼女を使って何やら実験実験実験で…。度々調整されているようなんだ。そして一度調整すると、暫く鬼の手…と言うか体の具現化を禁止される。よく分からないが、機構が馴染むまで全力稼働は禁止と言う事らしい」

 

 

 ああ、慣らし運転が終わるまで無茶をするなって事か。

 分からないでもないが、度々それをやるって…一体何を仕込まれてるのやら。

 

 

「自分でも知らない間に、出来る事が変に増えていくんだよねー。この前だって、突然右腕が分離して飛んで行ったから何事かと思ったよ」

 

 

 ロケットパンチかよおい、是非とも見せてほしい。

 

 

「拾いに行くのが面倒くさいからやだ。他にも、何処に何が居るのか、俯瞰的に図に出来るようになったり、遠くの声を拾えるようになったり………あれ? 誰か来る。これは確か、鹿之助君と…初穂さん?」

 

 

 …あの二人? なんか嫌な予感がするんだが。

 程なくして、ドタバタガサガサと草木を踏み分ける音と共に、悲鳴のような声が聞こえてきた。

 

 

「若ぁぁぁぁ若ぁぁぁぁぁぁぁえらい事しちゃた助けてぇぇぇ!!!」

 

「ちょっとちょっとちょっと呑気にカラクリと遊んでる場合じゃないわよ早いとこ追いかけないとぉぉ!!!」

 

 

 …なんかもう大体予測がついちゃったんだけど、敢えて聞くぞ。一体何事だ?

 

 

「「富獄(さん)が仇の鬼の所に一人で向かっちゃった!」」

 

 

 

 

 

 

 …ガッデム。

 



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511話

 

 

 

 走りながら状況の整理。

 以前に初穂に相談したように、富獄の兄貴が仇の鬼を探しているのは知っていた。それを探す方法として、初穂に相談しに来ると予想していた。或いは、誰の力も借りず、異界の中を当ても無く歩き回って探すのか。

 どっちにしろ、標的の痕跡になるものが無ければ不可能だ。そう思っていた。

 

 

 が、よくよく考えたらものスッゲー初歩的な見落とししてたじゃねぇか!

 鹿之助だよ鹿之助! うちの超重要人物、資金から素材集めから過労死レベルで活躍できるレーダー役!

 

 富獄の兄貴は、鹿之助に助力を頼んだらしい。

 如何に鹿之助の探知能力が便利とは言え、それで探知するには実物のサンプルが必要だ。例えば埴輪を探している場合、レーダー能力でまずその埴輪を見て、それによく似た反応を示す物体を探す。

 鬼が相手の場合も同じだ。鹿之助はダイマエンなんて鬼は見た事もないので、探す事は不可能……だったのだが。

 

 件のダイマエンには、他の奴にはない特徴がある。ホオズキの里を襲って住民達を喰らった時、一緒に呑み込んだ石…富獄の兄貴が持っている、対になる物が近づくと光る石を宿しているのだ。

 鹿之助はそれを渡され、「これと同じ物が近くにないか探してくれ」と頼まれたそうな。

 そうだよねー、それがあったよねー。ちょっと考えれば気が付いただろうに、こんなうっかり…うちの子達より頭弱いよ、俺…。

 

 

 鹿之助は、仇の鬼がどうのとかは説明されておらず、単に『珍しい素材だからもう一個ほしいって事かな?』と考え、気軽に請け負ってしまった。

 一緒に異界に探索に行き、結果は見事に発見。異界の中だが、普段人が入り込む場所ではない。『大体この辺』…安の領域の中心付近…で答えると、『そうか。世話になったな』とだけ言ってその場を去った。

 

 

 その翌日…つまり今日…の朝、任務に出掛ける初穂とばったり会って、これこれこういう事があった…と何気なく話す。

 それを聞かされた初穂、まさかと思って富獄の兄貴を探すと、秋水から「さっき異界に探索に行きましたよ」との情報を得る。

 

 で、大慌てで俺の所まで駆け込んできたと。

 

 

「大和にも伝言はしておいたけど、丁度皆出払ってて…動かせる戦力が私とあなた達しか居ないのよ」

 

 

 鹿之助には、増援の案内をする為に待機するよう命じて来た。どう考えても戦力の逐次投入にしかなってないが、見捨てるよりはマシ。…送られる戦力が、どれ程あるかも怪しいが。うちの子達だと、ダイマエンの相手はちと荷が重い。明日奈達級のじゃないと、増援を寄越されても意味がない。

 なんでそんな時に限ってこんな面倒事が起きるんだろうな。

 

 

「多分狙って出て行ったんでしょ。あなた達が居るから今はそうでもないけど、元々人手不足もいいところだったのよ。主力部隊が里に残っている時の方が珍しかったんだから。今でも時々、救助だの急に必要になった素材の採取だので、動ける人が居なくなる事はちょくちょくあるわ」

 

 

 つまり戦いっぱなしだったのか…。よく保ってたな、この里。

 まぁいい。それより富獄の兄貴に早く追いつかなきゃならん。相手が単なるダイマエンなら瞬殺できるが、昔の事とは言え里一つ分をまるまる食い尽くした鬼。…妙な力を持っているかもしれん、気を付けろよ。

 

 

「気を付けろと言われても、普通のダイマエンすら見た事ないから、どう気を付ければいいか分からないんだけど。岩を吐くとか、羽を飛ばしてくるくらいは聞いた事あるけどさ…」

 

 

 さて、初穂と一緒に富嶽の兄貴を追いかけてここまできた訳だが、どうしたものか。

 仕留めるだけならどうとでもなる。しかし、それで富獄の兄貴がどう思うか。

 仇を横から掻っ攫ったところで、感謝はされないだろう。文句は言われるだろうが、自分が一人で仕留めきれなかった為、と割り切るだろうから、そういう意味じゃ後に引く事は無いと思う。

 だけど、やりきれない思いは残るだろう。

 信頼を得るどころか、元々流れ者である富獄の兄貴は、またどこかへ行ってしまうかもしれない。

 

 …でも助けに来たんだし、戦わないって選択肢は無い。………うまい事加減して、トドメを任せるかな…。でも間違いなくバレるよなぁ…。

 

 

 どうしたものかと悩んでいたら、遠くからガンガンと激しい激突音が響いてきた。

 これは…殴打の音、だな。リズムで分かる。富獄の兄貴の連打だ。…ちょっと精彩を欠いてる気がするな。

 しかし、何を殴ってるんだ? 生物ではない。鬼でもない。金属音に近いが、ちょっと違う。…何かと遭遇したのか?

 

 初穂と顔を見合わせ、隠れながら進む。こんな音がしてれば、鬼だって何事かと思って寄ってくるだろう。

 実際、音の元に近寄ろうとしていた鬼を数匹、背後から首を堕として始末した。初穂も随分腕上げてるなぁ…。鎖鎌の鎖で首を縛って、鬼の手でひっくり返して脳天から叩き落す。ふむ、鬼の手と武器の複合技か。やった事ないな…。新しいアイデアだ。

 

 

 音の元まで辿り着くと、予想通りに富獄の兄貴だった。小道の前で拳を振るっている。確かあの小道の先は、安の領域の中でも特に瘴気が濃かった近辺だ。

 

 

 

「…何してるのかしら、あれ…。……あれは…結界? でも橘花が使うような結界とは何か違う…すごく嫌な感じがするわ」

 

 

 苛立たし気に、小道を遮る結界らしきものを叩いている。…力技で結界をぶっ壊そうとしてるのか。

 しかし、何でこんな所に結界が。

 

 ともかく追いついたんだし、話だけでも聞いてみようか。

 

 

「そうね。…ちょっと富獄! 一人で飛び出して何やってんのよ!」

 

「…あぁ? てめぇら、何でここに」

 

 

 何でも何も、一人であんたが飛び出していったって聞いて、慌てて追いかけて来たんだよ。

 ホオズキの里の事は知ってるから、大方滅ぼした鬼が近くに居るんだろうと思って。

 

 

「…ちっ、鹿之助に口止めしときゃよかったぜ…。知ってるなら首を突っ込むな。これは俺の問題だ」

 

「里の近くに、里一つ壊滅させるような鬼が出てるのに無関係も何もないでしょ」

 

 

 大体、探索の為に鹿之助の力は借りたじゃないか。都合のいいとこだけ力を借りておいて、後は首を突っ込むなってのは話が良過ぎるぞ。

 そもそもこの結界に阻まれて、立往生してたみたいじゃないか。こっから先、進む当てでもあるのかよ。

 

 

「ぐ、いやそれは…」

 

 

 富獄の兄貴も、自分の行動に筋が通っていない事は自覚していたんだろう。それを推してやってきたのだから、意地の強さも一入。が、意地と論理はまた別問題である。

 

 

「別に、あたし達も無理に止める気はないのよ。強力な鬼が近くに居るなら、どの道放っておけないもの。それに、自分一人の手で倒すのに拘ってどうするのよ。四方八方から殴るだけ殴って、留めだけ刺してもいいじゃない」

 

「……お前、そんな性格だったか…?」

 

 

 身も蓋もない意見だが、俺も同感。身内の仇を追ってるって意味じゃ俺も似たようなもんだけど、他者の力を借りる事に抵抗はないぞ。

 で、実際のとこ、この結界は何よ? 道を塞いでるが、それ以上にこの禍々しさは何ぞ。瘴気を煮詰めたような結界やんけ。

 

 

「…神垣の巫女の力だ」

 

「…は? 橘花の?」

 

「違えよ。あいつに喰われたホオズキの里の巫女、ちびすけの力だ! この結界は、ちびすけのミタマを使って鬼が張っている結界なんだよ!」

 

 

 …鬼が、神垣の巫女の力を…? 鬼がミタマを喰うのは確かだし、それがまだ腹の中に閉じ込められているのも確かだろうが…食った奴の力を扱うなんて出来るのか。

 いや、似たような例ならあるか。捕らえた人間の姿を真似る事もあったし、有り得ないとは言い切れない。

 

 しかし、そうなるとこの結界の先は…人間が張った結界なら、内部は瘴気が浄化される。鬼が結界を張るとなれば、その内側は凄まじく濃い瘴気が渦巻いているだろう。下手に破れば、結界に空いた穴から瘴気が鉄砲水みたいに飛び出してくるんじゃないだおるか。

 さっきの乱打で壊れなくてよかったな。直撃喰らってたら、何もしない内に行動限界に達してたかもしれん。

 

 

「そんなにやばいの? 確かに凄い瘴気が見えるけど…」

 

 

 目の前に指で丸を作り、結界の中を覗き込む初穂。

 

 

「と言うか、確か富獄、昔の夢を見て寝覚めが悪いって言ってなかった? ひょっとして、これって富獄を誘い出す為の策なんじゃない?」

 

 

 いや、それだと結界をこんな所に配置して、拒むとは思えん。

 さっき言った瘴気の鉄砲水を仕掛けるにしても、これだけ強固な結界にしちゃ罠として発動しない。

 それに力に自信のある鬼なら、罠を仕掛けるよりも最初に結界を消しておいて、侵入してきたら退路を塞ぐだろう。濃い瘴気の結界の中に閉じ込め、活動限界を迎えるまで嬲るもよし、のこのこ一人で入って来た獲物をさっさと仕留めるもよし。

 と言う事は…モノノフが来る事は予測していたが、好ましくなかった? 

 

 

「じゃあ…富獄の夢は、食べられた人達からの救難信号…?」

 

「だああ五月蠅えな! だとしても俺は行くんだよ! ようやく見つけたんだ、逃すものか!」

 

 

 ちょっと落ち着け、罠だから行くなとは言ってない。あんたは罠を力づくで噛み切る人だし、この面子でやればダイマエンもそう手強くない。最後の一発もあんたに任せる。

 何より、神垣の巫女と同じ力を使える鬼なんざ、危険すぎて野放しにできん。

 

 

「そっか…。こんな、瘴気に満ちた結界を幾つも作り出されたら堪った物じゃないわね。それに、万一他の能力…例えば千里眼とか、夢渡りとかまで出来るようになったら…」

 

 

 モノノフの情報が筒抜け…理解できるかはともかくとして…になるし、下手すると無防備な夢の中に鬼が現れて、夢の中で食われたらそのまま死んでしまう…なんて事も有り得る。

 この状況で最悪なのは、逃げられる事だ。逃げて力を使いこなせるようになれば、追いかけるどころか発見する事すら困難になる。

 確実に、この場所で仕留めなければならない。

 

 

「…結果的にだけど、富獄が先走ったのが功を奏したわね。のんびり準備している間に逃げられたら、最悪の鬼が産まれていたかもしれない。ま、後でみっちり大和からお説教があるだろうけどね」

 

 

 せやな。ついでに言うと、焦って追いかけてきて、そのまま一緒に突入しようとする俺達にも多少はお叱りがあるやろな。

 まぁ、予想外の脅威を発見したから、多少は酌量の余地があるだろうけども。

 やれやれ、結局俺も討鬼伝伝統の…単騎じゃないけど特攻するのか。うちの子達に何と言えばいいのやら。

 

 ともかく、俺と初穂の鬼の手なら、この結界を安全に破る事が出来る。一番厄介な、空を飛んで逃げるのも、叩き落すのはそう難しくない。

 どうよ、富獄の兄貴。まさかこれでも首を突っ込むなとは言うまいな。

 

 

「……兄貴はやめろ。前々から思ってたが、何で俺を兄呼ばわりするんだ…」

 

 

 否定しないから肯定と取る。兄貴呼びは………まぁ、昔の癖みたいなもんだ。世話になった人にそっくりなんでな。一大決戦の時、肥溜めの落とし穴に叩き込んで大喧嘩したが。

 さて、戯言はともかくとして、一丁結界破りと洒落込みますか。

 

 初穂、お前やってみるか?

 

 

「いいわよ。この前も、ミフチが作った巣を粉々にできたし、自信あり。一見強固な結界だし、実際に殴る斬るじゃ難しそうだけど、橘花が張った結界に比べれば脆いもんよ。内側からなら、すぐ破れるわ」

 

「破れなかった俺に対する嫌味か? つーか、普通は結界内部に破ろうとする奴を入れないもんなんだよ」

 

 

 別に嫌味って訳じゃないが、富獄の兄貴も他生は術を覚えた方がいいんじゃないか? この結界だって無暗矢鱈とブッ叩くんじゃなくて、弱い所を見極めて衝撃を貫通させるように打てば、半壊くらいにまでは持っていけると思うぞ。

 この結界の場合は、使い手が拙いからだけども。

 

 

「俺だって知識がない訳じゃねえよ。ただ苦手だし、下手に考えるよりもぶん殴った方が効果があるだけだ」

 

「脳筋極まりないけど、実際術に対する対処法としてはあんまり間違ってないのよね…。ちょっと、結界破るから、下がってなさい」

 

 

 ほいほい。少し下がって初穂の様子を見る。

 鬼の手の為の手袋を付けた腕を掲げ、微妙に動かしている。あれは鎖分銅を振り回す動きだ。暫く待っていると、手袋から沸き出した緑色のモヤモヤが、正しく鎖の形をくみ上げていく。

 程なくして、先端の鎖まで形が出来上がった。

 

 …見事な具現化だ。半透明でなければ、本物と言われても納得できる。初穂が普段使うよりも数倍以上長く、先端の鎖分銅は鋭く尖った形をしているが、動きに不自然さが全く見えない。

 普段使っている鎖鎌の延長線上の武器として具現化する事で、扱いやすく仕上げているようだ。ふーむ、実物に沿った具現化にはこういうメリットもあるんだな。技巧を凝らして、本物同様に扱わなければならないが、その分イメージがしやすい。

 俺の、その場限りの都合のいい形で具現化させるのと正反対だな。

 

 思えば、鬼の手の使い手としては俺も未熟もいい所なんだな。俺以外の使い手は、かつてのループで出会ったホロウと…後は橘花が遊びで使っていたくらい。

 後は自分の思い描いたままに具現化と応用を続けてきた。それも一つの道であるとはいえ、どうしても自分だけの発想に限定されるので、方向性は固着してしまう。他人が使っているのを見れば、新しい発見が山と湧くのも当然だ。

 あの具現化を俺が応用するなら………鬼杭千切を具現化? うーん、何かパッとしないなぁ…。

 

 

 ともあれ、回転を速めた初穂の鬼の手は、投擲の動作に従って結界に向かう。鋭い円錐状の先端は、結界に一瞬だけ拮抗したものの、ドリルのように潜り込む。同時に、抉じ開けられた穴の隙間から、瘴気がウォーターカッターのような勢いで飛び出した。

 霊的な視覚で見通せば、先端が結界内側の脆い部分を貫いたのが見える。

 

 

「よっ、ほっ、とっ、こうやって…っと」

 

 

 更に初穂が両腕で、伸びた鎖状の部分を上下させたり引っ張ったり。それに連動して、結界内部に入り込んだ先端が、触手…もとい蛇のようにのた打ち回り、結界を構成する核を食い荒らしていく。

 実物であのような動作をしても同じような動きはできない為、初穂のイメージを補強する為の動作なんだろう。基本は実物同様に具現化させて、都合のいいところだけ想像で補完。何気に高等技術を使いこなしている。…姉ネタで弄りまくったから、ブーストかかりすぎたか?

 

 

「はい、これで終わりっと。どんなもんよ」

 

 

 初穂が一際強く引き戻す動作をすると、内側からバキンと結界を破って先端部分が飛び出してきた。そして消失させると同時に、結界が完全に砕け散る。

 腕組みして感心する富獄の兄…もとい富獄と、拍手する俺。いやこれは本当に感心するわ。

 

 

「えっへん! …なんて威張りたいのは山々だけど、そんな事してる場合じゃないわね。今の結界を破った衝撃で、確実に鬼に気付かれたわ。結界破りの衝撃は術者に少なからず衝撃を与える筈だし、出来る限り素早く仕掛けましょう」

 

「消耗しているなら、猶更逃げを打つ判断も早くなりそうだしな…。事ここに至って、確かに一人でやると意地を張っても意味がねえ。言いたかねえが、頼りにさせてもらうぜ」

 

 

 はいよ。

 

 

 

 …そこからダイマエンが隠れている場所は、そう遠くなかった。一本道で迷う事もなかったのだが、少しおかしな事があった。

 幾つも結界が張られているのだ。それだけであれば道を阻もうとしていると思えるのだが、その結界は何かを守っている訳ではなく、その辺に適当に放置されている。

 まるで割ってくれ、都合が悪ければ素通りしてくれ、と言わんばかり。

 

 

「…この結界、なんだろ。どう思う?」

 

 

 うーん…結界を破られれば、術者に反動が返るって事は、多分身に染みて理解しただろうから…普通なら、余分な結界は消すよな。

 作った結界を意味も無く、その辺に放置していれば、それを割られただけで戦いもせずに傷を負う事になる。

 

 と言う事は…何かの罠? どれか一つに仕掛けがしてあって、触れたら爆発する…とか。

 

 

「…………この結界は…ちび助が作った結界とよく似てるな。中心付近が上手く作れてないところがそっくりだ。……おい、鬼が巫女の魂を飲み干したとして、結界ってのはそれで簡単に使えるようになるもんか?」

 

 

 言われてみりゃそうだな。食った奴の力を無条件に使えるんだったら、巫女の力を使う鬼や、タマフリを使う鬼がもっと溢れているだろう。

 そもそも、鬼が人間の術を使える事すら疑わしい。鬼は鬼の固有能力を持っているようだが、人間が使う術とは根本的に別、と言うのが通説だ。

 と言う事は…。

 

 

「…まさか、取り込んだ巫女の魂を苦しめて、強引に結界を張らせている…? と言う事は、さっき結界を破ったのって、『ちび助』に衝撃が言っちゃってる訳!?」

 

「…野郎……!」

 

 

 落ち着け! もしそうであれば、結界がこうまで瘴気に塗れるのは不自然だ。この結界は、少なくとも鬼の力を元にして作られてる。

 術を使うのが『ちび助』で、力の源が鬼。…こういう場合、術を破られた衝撃はどっちに行くのか…。

 術を使う者に行くなら、『破ってみたらどうだ』って鬼の嫌がらせ。力の源の方に行くなら、鬼を弱体化させる為の『ちび助』の援護とも見れる。…しかし、鬼に喰われた魂がそこまで外部に干渉できるか…。

 

 

「どっちでもいい。直接殴り倒して、舐めた真似をした報いを受けさせる!」

 

 

 …ま、確かにそうだな。

 じゃあ、結局のこの結界は、割らずに放置する方向で?

 

 

「いや。手がかからない奴だけでも壊していく。実のところ、俺はこいつがちび助からの援護だと思ってるんでな」

 

「援護? ここで結界を壊して、鬼を消耗させろって事?」

 

「ああ。ちび助だけじゃねえ。あの里の連中は、鬼に喰われたとしても大人しくしてる奴らじゃねえ。腹の中で、反撃の機会を伺っているに決まってる」

 

 

 おいおい…幾ら何でもそりゃ無茶な。確かにミタマとなって人格が残る例だってあったけど、流石に鬼の腹の中じゃ手も足も出ないだろ。

 実際、今までのループだってダイマエンに取り込まれた何か出来た例は無かった。…でも、確かに毎回毎回同じ場所同じ時期なのに、予想もしなかった事が次々起きるしなぁ…。

 

 まぁ、富獄がそう言うなら、手間取りそうにない物だけでも壊していくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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512話

おそまきながら明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

元旦は鼻風邪気味なので寝正月、2日の出勤でめっさしんどい思いをした時守です。
やっぱ繁忙期はキツいわ…。
スタッフが集まらなかった日は特に…。

それはそれとして、P5Rクリア&トロコンしました。
うーん、出てきたタイミング的にアウトっぽいなぁ、でもワンチャンあるかなぁ、P5Sには登場人物に無いしなぁと思っていたあの人、やっぱりでしたか…。
まぁワンチャンを漂わせるような描写はありましたが。

それはそれとして、これからどーしようか悩み中です。
アワード取りに行くかなぁ…。


 さて、ダイマエンと接触、無事勝利した訳だが…うーん、人間の底力を垣間見たなぁ。まだまだ俺も、人の力を甘く見ていたって事か。

 毎度毎度、来た見た勝った形式のお話になってて申し訳ないが、狩りをしながら日記をつける訳にもいかんのでご容赦願いたい。まぁ、俺の日記は思った事が勝手に記される自動書記なんだけども。

 

 手早く割れる結界だけを消しながら進んでいた訳だが、それはつまり俺達の居場所を敵に知られる事にも繋がる。

 待ち伏せからの奇襲を受ける事も考えていたんだが……いやはや凄いもの見たわ。

 

 ダイマエンは逃げようとしていた。空高く飛び上がり、痕跡も残さず飛んで行ってしまえば、流石に鬼の手を使っても追いすがる事は難しい。

 だが、それをさせなかった者が居た。……富獄の兄貴が言っていたように、ダイマエンの腹の中に残っていた『ちび助』である。

 

 いや、明確に話をして肯定されたんじゃないんだけど、状況的にそうとしか思えなくてね…。

 とにかく、俺達がダイマエンを発見した時、ダイマエンは空を飛ぼうとしていた。が、結界に阻まれて飛び上がれなかったのだ。…自分が張った結界に阻まれて。

 

 何を言っているのか分からないと思うが、俺も最初に見た時は訳がわからなかった。飛び上がったと思えば頭上に結界が展開され、頭をぶつけて落下してくる。方向を変えてもう一回飛び上がったら、今度はそっちにも結界が展開され、また頭をぶつけて落下する。

 …コント? 頭突きの練習? それとも自分で自分を痛めつけて快感を得る、伝説の一人SM?

 で、試しに手近にあった結界を一つ壊してみると、ビックリした猫のように跳ね上がり、また頭上に出現した結界に頭をぶつけて落下する始末。

 …あれって、飛び上がった先に出現した結界を頭突きで壊せたとしても、その衝撃で体勢を崩して落っこちるんじゃないかなぁ…。

 

 

「…行くぞ。悪いが、お前らはその辺の結界を破りまくっておいてくれ。それだけでも、奴の行動を大幅に制限できる」

 

「…………ま、仕方ないわね。結界を破るなら、私達が適役だもの。馬鹿な意地を張ってる訳でもないし」

 

 …自分の拳でやりたいって魂胆が見え見えだぞ。ま、確かに下手に囲んで攻撃するより、そっちの方が効率は良さそうだが。何せそこらの結界を破るだけで、何処に居てもダイマエンの動きを止められる、消耗を与えられるのだ。

 ダイマエンにとっては、クソゲーなんてレベルじゃないだろうな。使えば回避不可能、大ダメージを受ける上に行動不能になるステージギミックが無数にあるんだから。負けイベだってここまで一方的じゃねーよ。

 

 そういう訳で、俺と初穂は直接戦闘を富獄に任せ、無心にその辺の結界をガンガン叩き割っていた。

 当然、その衝撃はダイマエンにフィードバックされ、七転八倒もいいところだった。羽は禿げ上がり、嘴には罅が入り、爪は砕け…正直、こうやって結界壊すだけでもストレスで死んでいくんじゃないかと思ったくらいだ。

 

 とは言え、ゲームでもクソ面倒くさい鬼として有名だったのは伊達ではない。

 途中から何故か内股になりながらも富獄に襲い掛かり始めた。やはり巫女の力をある程度使えるのは確からしく、富獄の動きを結界で阻もうとしたり、純粋に守りに使ったりと、このまま長じれば本気で厄介な鬼となっていただろう。

 尤も、結界破りの衝撃を連発され、自力で展開した結界は非常に貧相なものだったが。

 

 その代わりに厄介だったのが、何とこちらのミタマに干渉する能力。強化したミタマの力が弱体化されるのだ。

 封印ではなく弱体化。しかも、恐らくは永続的に。

 そういや、ゲームでもそんな機能あったよな。鎮魂…だったか? ミタマのレベルを下げて、再度強化する事でスキルを習得しなおす、と言う。

 これは時間がかかる術らしく、弱体化させられたのは微々たるものだったようだが、それでも戦いが長期化していたらと思うと…。

 実装されていたらクソ鬼ってレベルではない。

 

 とは言え結界との同時行使は相当な負担がかかるらしく、フラフラになりながら術を使っていたが。

 

 

 そんな状態で富獄の拳に耐えられる筈も無く、あっさりとKO。倒れたダイマエンに圧し掛かり、見事な打ち下ろしの一発で顔面をぶち抜いて仕留めた。

 

 

 

 …ダイマエンから解放され、成仏していく魂達を見ながら考えた。

 常識的に考えれば、いくら神垣の巫女と言っても、鬼に呑み込まれた状態でミタマと化し、内側から鬼に対して何かをするというのは考えられない。

 

 ダイマエンの不利になるような形で結界が幾つも展開したのは、得た能力を制御しきれなくなった為だろう。

 人間の術者にだって、ちょくちょくある事だ。突如目覚めた力や跳ね上がった能力にキャパシティがついて行かず、無意識に術を使ってしまったり、威力の強弱を誤ってしまったり。

 今回の例で言えば、あちこちに結界が張られていたのは狙った場所に上手く発動させる事ができず、数うちゃ当たるで発動させたため。移動しようとした先に結界が展開されたのは、そちらに行こうと意識を向けた先が結界の発動先となってしまったため。

 

 しかしそれにしてはタイミングが良過ぎた。移動を妨害し、割りやすい位置に弱体化の為の結界を配置される。更には、富獄が最近何度も見ていた夢。何者かの意図が介入していた、と思った方が余程納得がいく。

 

 

 …どう思う、富獄?

 

 

「言っただろ。あいつらが大人しく食われたままでいる筈がないってな。あの夢も、ちび助が俺を呼んでたんだろうよ。助けを求めるんじゃなくて、『手伝ってやるからこいつをぶっとばせ』ってな。…だから気に入ってたんだよ」

 

 

 随分と逞しいというか、ガンギマリした里だったようで。鬼の利益になるくらいなら自決を選ぶ、木綿季の同類であったか。

 …富獄といつ巡り合えるかも分からなかっただろうに…人間の意地を見た気分だわ。英霊のミタマになれた訳でもないのに、鬼の腹の中で何年も反撃の機会を伺い続けていたとは。結界の展開が偶然じゃないとするなら、何年もかけて腹の中から徐々に干渉し、術を使う為の機能を侵食していったんだろう。執念としか言いようがない。

 

 

「さて…あの腐れ鬼もぶっ飛ばしたが、お前らに借りが出来ちまったな」

 

「別にこんなんで貸しだの借りだの言うつもりないわよ。洒落にならない鬼が里の近くで生まれる所だったんだし、むしろ今の内に倒せてお手柄じゃない」

 

 

 んだんだ。

 ま、どーしても借りが出来た気分になるんだったら、その分戦果と……大和のお頭のお説教肩代わりで返してくれや。

 

 

「俺が3倍説教されたとしても、お前らの分を引っ込める奴じゃねーだろ。…ま、口裏くらいは合わせてやるよ。お前らが追いついた時には、もう俺とダイマエンがやりあってたって事で」

 

「ここに来るまでに結界を破った跡は?」

 

「俺を誘い込んだ後、退路を断って増援を防ぐ為に張られた結界だった。つまり俺が来た時にはまだ張られてなく、後から来たお前らが破った。これでいいだろ」

 

 

 ま、そんなトコでいいでしょ。

 …ところで、手柄がもう一つ立ったみたいだぞ。 

 

 安の領域の瘴気の源、見つけた。どうもあのダイマエン、ここの守りを任されていたっぽいな。結界の能力の事を知って任されたのかは分からんが。

 

 

「え、うそ、どこどこ? 鬼の手使って見まわしても、何にも見つからないんだけど」

 

 

 真上。霧に紛れて分かりにくいが、あそこから瘴気が落ちてきてる。

 さて、どうすっかな…どうやらここは地形の流動も無い、安定した場所のようだ。いきなり浄化はやめた方がいいか。

 

 

「まどろっこしいが、これ以上勝手に行動すると説教じゃすみそうにねえな。いつでもやれるなら、今無理にやらなくても……ん?」

 

 

 どうし…ん、声? これは……鹿之助の声か。あの馬鹿なにやってんだ。異界の中で大声あげるとか、鬼を呼び寄せるようなもんだろうに。

 

 

「お前を呼んでるみたいだな。…いや、俺と初穂もか」

 

「増援に来てくれたって事でしょ。はやく行ってあげましょうよ」

 

 

 そうだな。鬼に居場所が知られるなら、猶更さったと行かなきゃな。そんじゃ、異界浄化はまた今度って事で。

 

 

 

 

 

 

 

 駆け足で来た道を引き返すと、半泣きの鹿之助、神夜、明日奈、詩乃に遭遇した。おいおい、現状の最高戦力揃えて来たな。

 今にもガチ泣きになりそうな鹿之助とは裏腹に、他の3人は大して危険も感じて無さそうだし、ついでに心配もしていないようだ。どっちかと言うと、鹿之助が大騒ぎするから落ち着ける為についてきたって感じだ。

 

 

「若ぁぁぁ~~~!! 富獄さん、初穂さーーん!! よく無事でえええ!!!」

 

「ああはいはい、落ち着きなさい。お姉ちゃんが負ける筈ないでしょ」

 

「いつ姉になった…と言いたい所だが、見た目的に違和感ねえな」

 

 

 姉妹と言われても納得できるな。

 皆すまん、心配をかけた。富獄は連れ戻したし、狙っていた鬼も倒した。ついでに異界の元も見つけたから、安の領域浄化も可能になった。

 そして全員無事だ。怪我らしい怪我もない。

 

 

「そうそう負ける事はないと思ってたから、そこは心配してなかったわ」

 

 

 あ、そう。

 

 

「ま、それでも安心はしたけどね。詳しい話は戻ってから聞くわ。この瘴気の濃い場所の中で長話してもね。とにかく里に戻りましょう」

 

 

 せやな。…しかし、よく鹿之助がこの瘴気の中に飛び込んできたもんだ。しかも先頭。

 泣き喚きながらも、俺達を探してレーダー役として走ってきた。…探知役であれば、先頭じゃなくて中心に居させて被弾の危険を下げるべきなんだが…鹿之助の暴走かな。

 責任感と心配のあまりに突っ走ったか。意外な一面を見たな。

 

 

「? 若、どうかした?」

 

 

 いや、根性あるなと思っただけだ。度胸が無いだけで。

 

 

「褒められたのか貶されたのか…。だって富獄さんを案内しちゃったのは俺だしさ…。万一の事があったらと思うと、居ても立ってもいられなくて。若からだって、増援の人達の案内を頼まれたし…」

 

 

 こいつもビビりではあるが、いざとなったら腹を括れるタイプだったらしい。それで無謀に瘴気の中に突っ込んできたのは減点だけど、収支黒字で評価上昇って事にしておこう。戦う者としては失格でも、人として、男としてと考えればね。

 さ、とにもかくにも帰ろうか。富獄が、心配したんだと泣き喚く鹿之助を宥めているのを眺めながら、帰路に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人揃ってかなり怒られたが、状況が状況だったので仕方ないと恩赦を貰えました。

 



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513話

P5S、購入する事に決めました。
それまでP5Rは一区切りずつプレイして、残った時間はモンハンのトロコン目指すかな。
でも金冠は流石に苦痛ですし、今はMRを100にしないと続けられないし。
そもそもコントローラボタンの様子がおかしく、押し込んだら戻らないとか、溜め切り中にタックルが暴発する事もあり。
使い始めてまだ3か月くらいだぞ…前の奴も早くおかしくなってたので、別のコントローラを買うべきか。

しかし、P5S発売から3週間程度で仁王2発売か…。
リハビリする時間は無さそうです。


堕陽月伍拾日目

 

 

 取り込んだ巫女の力を使う鬼。報告はしたものの、そう簡単に信じられるような案件ではない。

 今までそんな鬼が確認されてないのだから存在する筈がない…とは言わないが、今まで里が壊滅し、巫女まで食われた事は何度かあった。なのにそれらしい鬼が一度も確認されていないのだから、疑惑が湧くのも無理はない。

 

 

「神垣の巫女と同様の結界を使う鬼、か…。単なる結界なら、今までにも前例はあるが…少なくともダイマエンが結界を使うという話は聞いた事が無いな」

 

「扱い切れてなかったようだがな。もしも、これが長じていったらと思うと血の気が凍るな。神垣の巫女の力なら、里の結界に外から干渉する事もできるだろう」

 

「そうなれば、橘花の負担は…。返す返すも、その場で討伐できたのは大きな成果だ。…単騎特攻した富獄は許さんが」

 

「悪かったって、本当に…」

 

 

 主力部隊が集まり、会議を行っている。俺と富獄と初穂は正座。モノノフなら3時間くらいは余裕なので、罰としては軽めである。

 

 で、あのダイマエンは突然変異の類だったのかね。見た所、術を使う以外に大きな違いは無かったが。

 

 

「そうそう新種が現れるとも思えん…が、それを言ったら突然変異もそうそう現れるものではない。どちらであれ、そう言った物が現れる時には、何かしら理由があるものだ。最近、見慣れない鬼の報告も増えたし、先日に至ってはナナキキすら出た」

 

「ナナキキ…?」

 

「む…そうか、知らない者も多いな。オオマガトキの頃にはちょくちょく見かけた鬼なのだが。先日、こいつが遭遇した」

 

 

 俺? ……ああ、いつぞやの、ノヅチに瘴気が纏わりついてたアレね。正体不明の名も無き鬼、でナナキキ、だっけ。

 でも、あれからそれらしい物は見てないぞ。

 

 

「ナナキキの姿は一つとは限らん。極端な言い方をすれば、名前もついてない雑多な鬼、理由は分からないが普段と行動が違ったり、普通ではできない事をやってのける鬼、正体不明の現象は全てナナキキに分類されるからな。俺も斥候組から聞いた程度だが、最近おかしな行動をとる鬼が多いらしい。報告するほどのものでもないと思っていたようだし、確かに聞いた分だけだと、俺でもわざわざ報告はせんな。鬼達がオオマガトキを企んでいるようだし、その影響かと思っていたが…」

 

「オオマガトキを目論んだとしても、それで新種の鬼が出来上がるとは考えにくいな。オオマガトキで『扉』が開いたら、そこから新種の鬼が出てくる…ならまだ分かるが」

 

「理由は分からんが、今まで見た事がある鬼に対しても、従来通りの戦い方が出来なくなるかもしれんな。各自、全ての鬼を初見の相手だと思って相手取るように。次に、今後の動向だが…」

 

 

 

 

 大和のお頭からの他の議題は、大体こんな感じだった。

 

・最優先事項は、オオマガトキを引き起こすと思われる塔の破壊。

・その為に探索を続けるが、小鬼達の行動の変化がそれに影響されてだとすると、観察する事で情報が得られるかもしれない。

・速鳥は変わらず、塔の捜索を主任務とする。

・俺と初穂は安の領域の浄化。

・遺されている雅の領域は、瘴気の元を探索はするが、すぐには浄化しない。敢えて残しておく事で、浄化された安の領域から逃げて来た鬼達の住処とし、里まで押し寄せてくる事を防ぐ。

・小鬼からの情報集めの為、これからは斥候任務にも同行するように。

 

 

 …なるほどね。全部浄化してしまうんじゃなくて、鬼を押し込める隔離所を作っておこうって訳だ。流石の戦上手。

 こちらとしても異論はない。

 

 心配なのは…斥候任務についてだなぁ。うちの連中、マシになってきたとは言え血の気が多いからなぁ…。鬼の観察なんかして何が面白いんだ、ってサボったりしなけりゃいいんだが。そうでなくても、真面目に観察しましたが何の成果も得られませんでしたぁ!なんて事になるような気がする。うちの子達はいい子で、実力もある子達なんだけど、頭の弱さはね…。

 

 

 

 それはそれとして。

 

 

「ああ、それとな、もう一つ見せておく物があった。話が長くなってすまんが、これが最後だ。もう少し付き合え」

 

「会議や評定なんて、予定の3倍の時間をかけても進むかどうか…ってのがお約束ですがね。見せておくものとは?」

 

「こいつの所の隊員が、先日の『舟』の探索で持ち帰って来たものなんだが」

 

 

 俺の所の? …ああ、凛花か。そういや、富獄の件でドタバタしていて出迎えも労いも出来てなかったな。初任務だったし、緊張や疲労も一入だろう。後で会いに行っておかないと。

 で、あの子が持ち帰って来たもの…ああ、そう言えば…。

 

 

「これだ」

 

「これは…………服………なの、か?」

 

「まぁ…服…だな。俺達が見つけた連中も、こんな感じの恰好だったし」

 

 

 薄すぎる、ボディラインがはっきりと浮き出る布地。

 被覆面積が低すぎ、女性として大事な場所が見えそうで見えなかったり、むしろ見せようとしているとしか思えないデザイン。

 そのくせ妙に頑丈で、刃で斬りつけられてもそうそう通らない対刃性能。

 

 見つけたら持って帰ってきてくれって頼んでおいたんだよな。

 

 

 って言うか、これ絶対C〇BRAとかに出てくる女性のスーツだって。水着と言うかレオタードと言うかボンテージと言うか紐と言うか。

 

 

「…何でこんなの着てるんだ?」

 

「破廉恥…と言うより、面妖だな…」

 

「こんなの着てる奴が居たら、嫌でも目が行くぜ。奇異の目で見るか、性的な場所に目をやるかは人それぞれだろうが」

 

「いやぁ、俺でもそういう目で見るより、自分を大事にしろって言うぜ…」

 

「那木、確かこのような服を着て活動していたと思われる二人が…」

 

「お一人は過去の事忘失していますので…。もう一人は、過去の事を思い出そうとすると血を吐く癖があるので、許可を出しかねます」

 

「癖なんだ…」

 

「…………………………ふむ…」

 

 

 口々に『ないわー、正直これはないわー』的な意見を述べる中、じっと衣装を見つめる者が一人。…いや俺じゃないよ。速鳥だよ。

 両肩部分を摘まみ上げ、ひっくり返したりして矯めつ眇めつ。

 眺めているのは、一言で言えば全身タイツ。胸の部分が膨らんでいるので、女性用と思われる。

 非常に高い伸縮性を持ち、成人の女性が着るには少し小さめ。…ただし乳の部分は平均以上の大きさだ。滅鬼隊の子達からすると平均級になってしまうが。…巨乳揃いだもんなぁ、ウチの子達…。

 

 極めて薄い、それはもう0.01mの今度産よりも薄そうな生地で、もしも着れば男女問わずボディラインどころか筋肉の付き方まで丸見えになってしまうだろう。サイズが小さめだから、尚の事。

 最初からそういう仕様なのか、それとも部品は別の場所に保存してあったのか、大事なところを隠す物は何もない。乳首はもちろんの事、男が着ればオニンニンのサイズと勃起状態が一目瞭然だし、女性が着れば…まぁ、入り口の場所とか毛の生え具合とか分かっちゃうんじゃないかな。

 常識的に考えれば、そう言った秘部を隠す、ないし防御する為のカバーがどっかにあると思うんだが。

 

 

「…ちょっと速鳥、何をじろじろ見てるのよ。まさか誰かに着せた所を想像してるんじゃないでしょうね」

 

「うむ…。別段誰とは言わんが、想像してみた」

 

「「「………………」」」

 

 

 桜花、初穂、那木の冷たい視線が突き刺さる。エロい衣装に見えなくても、誰かにこの格好をさせる事を考えた時点でアウトなようだ。

 俺? アウトどころか出禁状態ですけど?

 

 が、速鳥の視点はそーいう事とは違ったようだ。

 

 

「一見奇抜な衣装だが、よくよく見れば理に適っている。動きを妨げる虚飾の一切を取り外し、伸び縮みする生地はどのような姿勢にも対応できる。肌を露出するのは、空気の流れを感じ取る為」

 

「む…」

 

「まぁ…そう考えられなくも…」

 

「色合いは派手な物が多いが、それも衣服の印象を強くする為。衣服に注意を惹かれ、顔の印象が薄くなる。当然、着替えてしまえば見つかる危険は減るであろう。所謂、変装の術。…忍び衣装に近いでござるな。そう考えると、肌の露出にも違った意味が産まれてくる。色仕掛けはくノ一の十八番。戦闘中、異性の注意を逸らす為に肌を晒す事も珍しくはない」

 

 

 …まぁ、そうかもしれんけどよ…。

 でも、これって封印されている子達…鬼を相手にする子達の衣装だぞ。

 

 鬼を相手に、人間が色仕掛けして通じると思うか?

 

 

「…………鬼にとって、人間なんざ食料だろ。食料から色仕掛けされてもな」

 

「精々、普通の人間より美味そうだなって思うくらいじゃないの? そういう意味では色仕掛けに意味があるかもしれないけど」

 

「そもそも、鬼が人間と同じ部分に興味を惹かれるのかすら…」

 

 

 同じ理屈で、変装の術もあんまり意味ないな。鬼からしてみれば人間の顔なんぞ見分けが付きそうにないし…そういう意味じゃ、派手な色で見分けやすくする事はできるだろうけど、それこそ何の意味があるやら。

 …つまるところ…人間相手に使うならともかく、鬼を相手にするモノノフが使うとなると…。

 

 

「…完全に欠陥品でござるな。動きやすいのは評価できるが、注意を惹くのはむしろ人間側…つまり味方の注意を散漫にさせる。対刃性能が高いと言っても、それはこの薄さの割には、と言うだけで、しっかりと作られた鎧にはほど遠い」

 

 

 結局はそうなるよなぁ。いや人間相手に使えるだけまだいいのかもしれんけど…。

 

 

「あんまり使えないと思うが…。俺もお嬢さんの大事な所を目にしたいと思う事は多々あるが、こうまで奇抜な恰好だと嬉しさよりも『なんだこいつ』って感覚の方が強い」

 

 

 息吹がそう言うとは…。うーむ、未来を先取りしすぎとるなぁ…。

 速鳥、こういう意見もあるが、どうだ?

 

 

「一切人の目につかない事を前提とした、潜入任務の類であれば、使えない事はない…が結論でござるな。理に適っているとは言ったが、一理あるだけで問題が無いとは言っておらん」

 

「ふむ…そういう意味なら、速鳥、お前使ってみるか? 何だかんだで、まだ単騎での異界探索を続けてもらう事になりそうだ。人目も無いし、潜入任務だが」

 

「拙者はこの服が最も慣れているので不要にござる」

 

 

 即答だった。

 …結局、この衣装は滅鬼隊を作った連中の趣味なんだろうか。それとも、『舟』が旅立った国で使われていた物なんだろうか。

 博士の意見を聞いてみたい所ではあるが…。

 で、この服どうするよ?

 

 

「どうもこうも、お前の所の隊員が、お前に頼まれて探してきたものだぞ。お前が持って行けばいいだろう。探索中に見つけたものは、一部の例外を除いて発見者の物とするのが通例だ」

 

「我々としても、持っていても意味がないし…茅場辺りに押し付けるか? あの舟にあったという事は、異世界の代物だろう。大喜びしそうだ」

 

 

 ああ、また暫く徹夜で調べそうだな。しかし仮にも女性が着ていたと思われる服を、矯めつ眇めつ感触から匂いから味まで徹底的に調べようとするだろうなぁ…酷い絵面になりそうだ。

 

 …そんじゃ、持ち帰って来た分は俺達預かりでいい? 茅場や博士には研究材料として一つずつ渡すとして、折角凛花が見つけて持ち帰って来た物を、『使えない』の一言で放り捨てるのも忍びない。

 それに、こいつは舟でまだ封印されている子達の持ち物かもしれないし、ひょっとしたら俺達が分からないだけで、うちの子達が着たら発動する、特殊な機能とかがあるかもしれない。

 実際、うちの雪風は専用の武器を用意されてたみたいだしな。それがどういう物なのかはよく分からんが。最初に目を覚ました時、それらしい事を口走ってた。

 

 

「構わん。ああ、もしも本当にそんな機能があるのであれば、報告だけは頼む。別に取り上げようとも思わんが、今後似たような物が見つかったら参考としたい。…他に議題がある者は居るか? …よし、ならば今回の会議は終了とする。準備が整い次第、次の作戦を開始するぞ。まずは異界の浄化からだ」

 

 

 

 

 

 

 

 さて、誰にどんなシチュエーションで着せるかな。

 え、隠された機能? そんなの、『着たらエロい』って機能に決まってるじゃないか。他があっても、オマケだオマケ。

 

 

 

 



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514話

連続投稿も本日が最後となりました。
書き溜めの大部分を吐き出してしまったので、これからまた書いていかねば。
そして全然話が進んでない不具合。

やっぱり年末年始の接客業はキッツイですわ。
気力が尽きたので、明日は一日酒飲んでゴロゴロする事にします。


 那木と共に屯所に戻る。那木が一緒に来ているのは、アサギときららさんの看病の為だ。

 どさくさの内に治療が出来るようになり、トラウマを克服した為…と言う訳でもないと思うが、楽しそうに世話を焼いている。

 

 実際の所、二人の様態はどうなんだ?

 

 

「アサギ様は、先日から急に様態が回復しましたね。過去の事を思い返すと血を吐くのは相変わらずですが、目に見えて表情や顔色が違います。あなたのお陰、と申されていましたが…一体どのような妖術を使われたので?」

 

 

 まぁ、妖術っちゃ妖術だな。外法もいいところだ。

 体内から霊力で体を刺激して、内臓の各種機能を増幅させた状態で、不安や怨恨なんか全部忘れてしまうくらいに頭の中を真っ白にさせる。後は心身ともに安心した状態を保たせ、栄養のある食事と良質な睡眠。

 手法に問題があるだけで、やった事と言えばそんなもんだよ。

 

 

「体内から直接…。理屈は分かりますが、それ程に人の機能を操るとなると、精密極まりない操作と力加減が必要になる筈。人の体をどこをどう弄ればどうなるのか、造詣の深さも必要になります。何より、人の体は構造こそほぼ同じですが、一人一人の差が生じる。目に見えない、直接触れる事もできない臓腑であれば、それこそ手探りで施術せねば…」

 

 

 あー…なんだ、その、手探りなのは文字通りと言うかな。

 侵入させた霊力を、気脈の流れに沿って進ませて、触れ合っている部分、体全体で反応を見て施術するというか。

 

 

「つまり触診のようなものですね? しかし、触れ合っている部分が体全体とは……………………ぁっ」

 

 

 …まぁ、そういう事です。具体的に語るつもりはないんだけど、内臓を活発化させるのに必要な刺激は、大抵気持ちいい刺激なんで…。

 

 

「い、いえ、その、あの、ひ、人肌は心を安らげる特効薬であるのは、古来から知られている事ですし……ワタクシハケイケンシタコトガアリマセンガ…不躾な事をお聞きしました…」

 

 

 いえ、こちらこそこんな方法ですいません…。医者としてはあまりにも……いやもうこの話止め止め。回復したんだからそれで良し!

 じゃあ、もう一人の方は?

 

 

「そちらは順調に元気になり、歩き回る許可は出しています。周囲に男性が居ない状況に、余程安心されているようで。代わりに、貴方が居る屋上の部屋には近づこうとすらしませんが」

 

 

 タフだなぁ…。過去の事を何か思い出したりは? 男嫌いの原因でも、あそこに封印されていた理由でも、封印されている子達の事でも、何なら暴走しまくってアサギに心労をかけていた事でも構わんが。

 

 

「そちらは一切、回復の兆しがありません。思い出したくない記憶なのか、それとも切っ掛けが無いだけなのか…過去の事に話が及びそうになると、露骨に嫌な顔をします」

 

 

 ……アサギが言ってたような、暴走しまくって馬鹿やってる自覚も無いような無能だったら、と思うと不安なだけじゃね?

 本当にアサギがああなるまで追い詰めるくらいの無能な味方なら、俺だったら絶対思い出したくないぞ。

 

 

「…何とも言えません。ええ本当に返答に困る考えです…。あの時はきらら様も呆然としておりましたからね…仮に思い出さなかったとしても、考え方や行動の仕方がそのままであれば、また同じ事を繰り返してしまいそうですが…」

 

 

 生来の気質はどうにもならんからなぁ…。精々、教育と言うか躾けで行動基準を変えていくか、外付けの制御装置を付けるしかない。

 …教育と言えば、何処まで今の状況を説明できてるんだ?

 

 

「人間が追い詰められている事と、その原因たるオオマガトキが起こった事と、里周辺の状況くらいですね。もっと詳しく説明したかったのですが、何故か熱を出して寝込んでしまいまして。病み上がりの方に無理をさせるとは、那木は医師失格です…」

 

 

 いや失格なのは医師じゃなくて解説者としてというか何というか。…すまんきららさん、ツンツンした態度にムカついたからって、那木に説明役を任せるべきじゃなかったわ…。

 結構な時間があった筈なのに、それだけしか説明してないという事は、いつもの説明癖で微に入り細に入り、更に脱線しまくって関係のない事まで解説しまくったんだろう。相手はまだ上手く動けない状態だったから、逃げるに逃げられなかったんだろうなぁ。そして知恵熱が出るまで延々と話を聞かされた、と。

 …今度、何か差し入れでも持って行ってやろうかな。いやでも男嫌いなんじゃ、むしろ嫌がられるかな…。

 

 

 

 …ん?

 

 

「若、少しいいだろうか」

 

 

 おう、凛子か。別に構わんが、込み入った話か? 那木も居るが。

 

 

「あー…いや、込み入った、と言う事でもないんだが、あまり聞かれたい話でもないというか…」

 

「でしたら、那木はお暇いたします。どの道、薬の調合等の作業が残っておりますので。それでは」

 

「すまない…。この埋め合わせは、任務で請け負う」

 

 

 任務? と言う事は……ほう、とうとう浅黄から合格をもぎ取ったか。

 

 

「そういう事だ。凛花に随分と遅れをとってしまったが、ようやく私も鬼と戦う場に出られる。…とは言え、自分の未熟さは先日の模擬戦で嫌と言う程理解したからな…。まずは下積みから始めなければ」

 

 

 そういう慎重さを得てくれただけでも、俺としては万々歳だよ。分かっているとは思うが、一応言っておくぞ。

 

 

「『凛花に負けないように』などと考えるな、だろう? いや、凛花に限った事ではないか。功名心や敵を侮る事による先走り、脚光を浴びる役目を求めるあまりに裏方や味方を軽んずる者こそ、最も憎むべき敵である。……そして、それを犯した者は…」

 

 

 そこまで口にして、凛子は口を噤んだ。ブルリと体を震わせた。

 言葉の先は、言うまでもない。絶縁、追放。

 それは彼女達にとって、何より恐ろしい拷問付きの死刑宣告だ。

 

 俺も、こればっかりは甘い顔をする気はない。…する気はないだけで、最後の最後に情に流されてしまうかもしれないが…少なくともそういう姿勢であるという事は徹底する。

 

 

「正直な話、功名心と言うか競争意識がある事は自覚している。しかし消そうと思って消せるものではない。消えてない物を、見て見ぬふりをして消えたと思う方が余程危険だろう」

 

 

 まぁ、道理だな。そう言った焦りを抑え込むのが理性とか武って呼ばれてるものだが、その一言で自分の心を好きなように操作できるなら、人は人でなくなってしまうだろう。

 なら、どうするつもりだ? 浅黄が合格を出したからには、その辺の抑え方も考えていると思うんだが。

 

 

「心頭滅却するまで素振りをする!」

 

 

 ………。

 

 

「…いや冗談だ。雑念を払うには丁度いいが、幾ら私でも脳味噌まで筋肉で出来ているような事は言わない。そもそも根拠すらない精神論なら、浅黄さんが許可を出さない」

 

 

 脳筋じゃなくて完全に頭滅鬼隊になったかと思ったぞ…。浅黄が乱心して許可を出したのかと思った。このところ、感情に任せて刀を振り回してたからな。

 

 

「う…いやその、凛花に色々と………あの、煽られて…神夜殿まで茶々を入れたりして、凛花が自慢たらしく語る語る…」

 

 

 …うん、まぁ、そこで苛立ちを抑えられないのはよく分かるよ。

 俺だって、チェリーボーイだった時に童貞ってバカにされたらな…。あまつさえ、一足先に『卒業』した奴がああだったこうだったと鼻高々に語れば、煩悩少年じゃなくても真昼間からマハムドオン撃ちまくりよ。

 

 凛花を使って猥談女子会を画策した神夜を、「こいつも悪趣味になってきたなぁ」なんてのんきに思ってたもんだが、自分の立場に置き換えるとな…。

 困った事に、それで止めようとは思わないんだが。

 

 

「あれから昨日まで、浅黄さんに挑んだのも合格の為と言うより、思い切り斬りかかっても大丈夫な相手だったからだし…。剣士として恥ずべき事だと分かっているんだが、そうでもしないと気が晴れなかったんだ」

 

 

 うん、許す。と言うか、神夜の行為を容認した俺が許さないとか言える立場じゃねえ。

 で、話を戻すが、実際どうするつもりなんだ。別に、話さなければ任務に出さないなんて言うつもりはないが、気にはなるし、もし他の子達にも応用できるようであれば、是非共有したい。

 

 

「応用…はちょっと…。どんどん難しくなっていくだろうし…いや、方向次第…なのか? 私が考えたのは、命が掛かってない場面で競え、と言う事だ」

 

 

 うん…それは正しい理屈だな。と言うか、命懸けの場面で仲間と功を競い合う事の方が根本的におかしいんだが。

 つまり、任務で先に活躍された分、普段の稽古とか、報告書の内容とか、何なら駆けっことか飯の早食いとか。

 

 

「大体そんな感じなんだが、稽古の勝敗は五分五分だし、足の速さは凛花の方が身軽だし、早食いは……まぁ、それも芸の内かもしれないが、勝っても達成感が無いし」

 

 

 報告書の内容は。

 

 

「…………………要するに私は、極めて穏便で、『勝った』と思える優越感があり、逆襲されても問題なく、更に無理なく続けることが…」

 

 

 報告書の内容は。

 

 

「…………が、がんばりましゅ…」

 

 

 よろしい。

 

 

「…えーっと、その、要は、あー………その………凛花が、まだしてない事を…」

 

 

 うんうん、続けて。普段、単刀直入な凛子がこれだけ言い淀んで、明日から任務を受けるって時点でどういう内容なのか予想はついたけど続けて。これ、凛花も同じ事やったからね?

 

 

「っ……つ、つまりっ………しゅ、出発前の…………伽っ……でっ……! り、凛花が…まだっ、してないような…事を……!」

 

 

 顔を真っ赤にし、つっかえつっかえになりながらも口にしようとする凛子。

 じりじりと距離を詰められている事に、気付いているのだろうか。

 

 勿論、凛子がそうやって乙女心と羞恥心と競争意識のど真ん中で右往左往するのを愉しみながら、どんな事をしてやろうか画策中。

 さぁって、本当にどうしてやろうかな。凛花は割とスレンダー寄り(あくまで比較的)な体だったが、凛子は逆に肉付きのいい純正ムッチムチボディ。何処を触っても柔らかいのが、一見しただけでよく分かる。

 凛花が魚の活け造りなら、凛子は分厚いステーキだ。ただし甘目。調理法がまるで違うし、食べ方だって当然違ってくる。

 

 まだシてない事…凛花の相手をしたのは一度きりだから、ヤッてない事もヤらせてない事も山ほどある。

 だが凛子が望んでいるのは、凛花を相手に『追いついた』『追い越した』と思える行為なんだろう。

 色事に勝負を持ち込むのも一興、だが度が過ぎれば無粋。

 

 だが、色事で勝負すれば遺恨は残らない…と言うのは、些か以上に浅慮が過ぎる。

 凛子が凛花に自慢すれば、今度は凛花が凛子以上の行為を望むのは目に見えている。その後は再度凛子が望み、また凛花が望み…。

 …競い合うようにして淫悦の穴に堕ちていく。 

 それを凛子は分かっているのだろうか? 俺としては二人が進んで肉奴隷として研鑽を積んでいくのは、見ていて愉しいしヤッて気分がいい。

 しかし、それで二人がこれまで通りの仲でいられるかは話は別だ。

 

 となると…。うむ。

 

 

 

 じりじりと間合いを詰めていると、気が付けば凛子も後退り、最後の樹に退路を塞がれていた。あるある、モンスター(比喩ではない)から逃げ回ってたら、段差や障害物に引っ掛かって乙とかね。

 で、追いかけるモンスターである俺としては。

 

 

「ちっ、近い、若、近い、近いっ…」

 

 

 それよりも、何をされたいのか言ってみ? ん? おっと、どこに行こうと言うのかね。

 ムスカみたいなセリフと共に、腕を突き出して逃げようとした凛子の移動を遮る。壁ドンをマジでやる日が来るとは…いやシチュエーションプレイのごっこ遊びなら何度かやったんだけどさ。

 

 間近で目を覗き込みながら、片腕は凛子の逃げ道を塞いだまま。もう一方の手は、さりげなく抱き着こうとするように、体に手を這わす。

 僅かに甘く痺れるような感覚を与えながら、緊張と羞恥で硬くなった体を楽しむ。やはり彼女も性処理の道具として体を調整されているのか、送り込む刺激は順調に彼女の欲望を煽り、それを忌避感なく受け入れているようだ。

 

 だが、自分から行動する事はない。凛子から行動させる事もしない。

 あくまで自分の意思で、抱いてくれと口にさせてからだ。

 

 

 この場で青姦も考えたのだが、それはちょっと捻りが無いし、凛子の羞恥心を増幅させるなら、むしろ時間を置いた方がいいだろう。

 まずこの場で体の火照りを煽るだけ煽り…ボディタッチ、軽い頬への口付け、甘ったるい囁き、ついでに耳舐め…夜までオアズケ。自慰も禁止。オカルト版真言立川流で、触れ合っていない間も愛撫されるような感覚を残してやった為、もどかしくて仕方ないだろう。

 その間に、立会人を集める。凛花の時は、神夜が一緒だったしな。それ以上の事をお望みとあらば、見物客、助手、先生役と人数を集めなければなるまい。

 

 更に、凛花が持ち帰って来たあの衣装、あれを着させてみよう。元々、持ち帰って来た凛花にご褒美兼効果の実証をさせようと思ってたんだが、先に凛子がそれを使ったら?

 凛花の目からも奇異に見える衣装だが、嫉妬を上手く煽ってやれば「本当は私がしてもらう筈だったのに」みたいに考えるだろう。

 

 よし、このプランで行こうか。思えば、うちの子達はコスプレとか衣装に拘るとか、あんまり無かったもんな。…神夜や明日奈は素でコスプレみたいな恰好だけど。

 ランジェリーは、まだこの里じゃ作れてないし、これを切っ掛けにエロい衣装が広まるかもしれない。

 

 

 

 ま、それはそれとして、今は凛子をフェザータッチで弄るとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 …夜、凛子の初体験をかぶりつきで見物してもらいました。本番まな板ショー、実に楽しかったです。

 凛花がヤってない事って要望だったから、まずパイズリから仕込み、処女卒業の前にアナルの味を覚えさせた。見物客の一人として来ていた橘花が、嬉々としてアドバイスしていたのが印象的だったなぁ。

 

 …印象的と言えばもう一つ、注目すべき事があった。凛子に着せた衣装についてだ。

 凛花を、自分の手柄を掻っ攫われたような気分にさせて、処女卒業後のレズプレイタイムでタチ役に回ってもらったんだが…いやプレイ内容はこの際関係ない。

 衣装について印象に残った事と言うのは、隠された機能を発見した事だ。

 

 

 なんとこの衣装、破られても勝手に修復されるのだ。

 

 

 どこに…と言うか、前にナマで突っ込む為に、大事な部分を破いてからコトを進めたんだが、凛子を腰砕け状態にして引き抜いた時、明かに破れ目が小さくなっていたのだ。

 もしやと思って、皆で精液がブローバックする部分を見物していると、完全に破れ目が消えてしまった。ブローバックは、衣装の中に閉じ込められている訳だな。

 ちなみに、後ろに突っ込む時には破らなかった。お掃除フェラもさせる予定だったし、流石に自分の直腸に突っ込んだモノを咥えるのは、まだ抵抗がありそうだったからね。その内やらせるけど。

 

 その後のレズプレイタイムでも、抵抗する凛子を抑え込んであっちこっち引き裂きながら弄り倒していたが、プレイが一段落する頃には大体修復されていた。

 …何度でもお気軽に破く事ができるエロ衣装。

 これ、絶対に強姦ごっことかフェティッシュなプレイする為に作られた物だよな…。エロい服でなかったら、戦闘で損傷を受けた時の為の機能と主張できただろうに。

 

 

 ま、それなら猶更、存分に堪能するだけだがね。伸縮性が高いおかげで色んな子が着れるし、幾らでもリサイクル可能。ついでに、うちの子達は相手が俺だったら強姦っぽいやり方でも喜んでしまう子が多い。

 至れり尽くせりだなオイ。

 

 最初は奇異の目で見ていた子達も、これを着ると俺が一層奮起と言うか勃起する事を知ったし、体のラインがモロ出しなのに大事な所はギリギリ見えない、チラリズムに通じるエロスに気付き始めた。こりゃーこれからコスチュームプレイが広まるでぇ。

 凛子と凜花のWパイズリで張りあうのを楽しみながら、今後の遊びを妄想して終わった一日でした。

 

 



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515話

堕陽月伍拾壱日目

 

 

 凛子が初任務を受けに行くのを見送って、今日と今後の予定を考える。ゲームストーリー的に言えば、そろそろ中盤を超えた頃か。

 この後は確か、指揮官であるゴウエンマ、塔を隠す結界を張るクナトサエとヤトノヌシ。キャラエピソードで言えば、速鳥と桜花だな。それが終わったらトコヨノオウを倒して、ストーリー完結。…続編が出てなければ、だけどな。

 そこまで行けば、クサレイヅチが姿を現すだろうか。あいつが出てくるタイミングが、今一つ確信できない。

 俺が死んだ時には出現してるんだろうが、その割には奴が居なければ死にそうにない状況で、唐突に姿を現す事もあった。

 

 …実のところ、誘き出す方法に心当たりが無くもない。あいつは因果を喰らいに来ているのだから、とにかく大きく、大量の因果を集めれば、それを目当てに出てくる…んじゃないかな、とは思う。

 問題はどうやって出てくるかだよな…。MH世界の時みたいに、ラヴィエンテ染みた超ド級災厄を引き連れてきたらと思うと…。

 

 狩り取るだけなら、多分何とかなると思う。周囲の状況や、引き連れてくるオプションで大きく難易度は変動するだろうけども。

 ただ、奴を仕留めると言う事は、因果を奪われなくなるという事で。…それはつまり、死によるリセットが効かなくなるという事ではないだろうか。

 それでも叩き斬って千歳を取り戻すのは確定事項だが、それまでに誰か死んだらと思うと…。

 

 今まで何だかんだと身内や近しい人間が死んだ記憶は無いんだよな。それも多分、死人が出たような因果は吸い取られて残っていないってだけなんだろうけど。

 奴を目の前にした時、取り返しのつかない過ちを犯した後だったら? それを帳消しにできる手段が目の前にあって、それを無くす事を引き換えに千歳を取り戻す事が出来るとしたら。

 …刃が鈍らずにいられるだろうか。

 

 ……考えても仕方ないか。元々、死んでリセットなんてものがあるのがおかしいんだ。

 取り返しのつかない過ちも、毎度毎度無かった事にしていたらキリがない。どこで何を取りこぼすか分からないのが人生だが、それを防ごうとするのが努力する人生ってもの。

 失敗が起きるより先に、あれを叩き斬ってしまえばいいだけの事。奴への怒りが喉元過ぎて、その後何かの失敗があった時、「あいつを生かしておけば」と後悔するくらいでちょうどいい。やり直しの効く人生なんぞ、終わりのない迷路でしかないのだ。

 

 

 

 さて、そんな葛藤は置いといて、安の領域浄化作戦が今日の予定だ。

 瘴気の元の場所は分かったし、それを守っていたと思われるダイマエンも倒した。その後に強力な鬼が移動した痕跡もないので、大した障害は残ってないだろう。

 

 と言う訳で、初穂。お前、瘴気の穴潰しをやってみるか?

 

 

「…そうね。色々と工夫して、上手くやれそうな気がしてきたし、これ以上は実践しないと上達できそうにないわ」

 

 

 俺としても、初穂のやり方を見てみたい。自分のやり方と違っているかもしれないし、同じやり方でも客観的に見れば新しい発見もありそうだ。

 後は、護衛として誰を連れて行くかだが…うちの子達から2人出してもいいかな? 1人はあんまり戦わせたくないんだけど。

 

 

「こっちも人手不足は相変わらずだから、そっちから出すのはいいんだけど…戦わせたくないってどういう事?」

 

 

 アサギを連れて行きたいんだ。連れてはいくけど敵と会っても戦わせず、見物だけさせたい。

 最近は体を休めていたおかげで、大分回復してきたが、やっぱりうちの子達への不信感みたいなものが残っててなぁ…。

 うちの子達が、暴走せずにちゃんと指示に従うところを確かめないと安心できないらしい。

 

 

 

「…どんな環境で戦ってたのよ…」

 

 

 そういう事が信じられなくなっちゃう環境だ。聞いてやるな。大和のお頭でも涙を禁じ得ないんだぞ。

 正直な話、うちの子達が前の職場の連中と同じだと思われるのは癪どころじゃないからな。向こう見ずな所はあるけど、ちゃんと考えて行動できるように頑張ってるんだぞ、みんな。…深く考えるのが苦手なだけで。

 

 

「よくわかんないけど、連れて行くならちゃんと面倒みなさいよ。率直に言わせてもらうけど、戦えない人を戦いの場所に連れてくる意味、分かってるのよね?」

 

 

 当然だ。責任はとる。

 さて、残りの一人は……いかにも冷静な奴を連れて行っても、アサギの不安払拭には弱いな。むしろ、直情的な奴がどれくらい冷静に動けるかを見せた方がいい。

 となると…。

 

 …やっぱ、手頃なのは雪風か。単純思考で押せ押せタイプ、好戦的で負けず嫌いな面が強い。そして意外と忠犬と言うか、認めた相手の指示なら素直に従う。問題は、認めてない相手に反発している時だが…まぁ、ここの集団に居る間は大丈夫だろう。

 若干人選に不安は残るが、あんまり時間が無いからな。これがまだ手を出してない子達だと、任務前に18禁タイム作らなきゃならん。体感時間操作で時間を捻出するのは簡単だけど、ヤッた後に連れて行ったら流石にバレるだろ。初穂から「任務前に何やってんのよ」って視線が飛んでくるの確定である。それに、やるならやるで精根尽き果てるまで悦ばせてあげたいしね。

 

 じゃあ、二人を呼んでくるわ。そっちも準備整えとけよ~。

 

 

 

 

 

 雪風とアサギを探すが。

 

 

「雪風? 里の友達と遊びに行くって言ってたわよ」

 

 

 あっさりと詩乃からそう言われてしまった。

 

 おっふ、そう来たか。里との仲が良好なのに越した事はないし、急に決めた事だから仕方ないわな。

 うーん、それじゃ誰にしようか。いかにも猪突猛進っぽくて、実際頭を使うのはあんまり得意じゃなくて、そんでもって割と忠実な奴…。

 

 …ああ、あいつが居たか。舞華は?

 

 

「舞華? あの子はまだ任務を受ける為の試験にも合格してないし、人がいる所は好きじゃないみたいだから…」

 

 

 となると…近場の森の中かな。あいつ、放火魔なところがあるから、周りに燃える物が沢山ある状況が好きだし。

 先にアサギを探しておくか。

 すまんな、詩乃。

 

 

「別にいいけど、無事に帰って来なさいよ。油断と慢心はどんな強者も殺す毒なんだから」、

 

 

 おう。戦えない奴を連れて行こうとする時点で慢心してると言われれば反論できんが、世間知らずのお姫様を護衛している気で行くよ。

 …実際にはうちの子達のお守りに近いけども。

 

 

 

 

 

 アサギは至極あっさりと見つかった。体が回復してきたと言っても、あまり活発に動くタイプではない。

 最近は何もない時間を楽しむ事も覚えたらしく、景色のいい場所でボーッとする事も多いようだった。それでも、ふと心に不安が過ると気になって気になって仕方なくなるようだが。

 

 予想通り、今日は屋上で里の景色を眺めていた。…景色を楽しんでいるというより、定年退社した後に何をしたらいいのか分からなくなったおっちゃんみたいに見えるが…。

 話しかけ、うちの子達の働きぶりを確かめてみるかと聞くと、一も二もなく頷いた。やっぱり不安だったらしい。

 

 

 

「…ところで、きららの事なんだけど」

 

 

 うん? あの跳ねっかえりの嬢ちゃんがどうかしたか? 男と接触してないからか、今のところ問題があるって話は聞いてないが。

 

 

「どうも、鬼と戦いたいようなの。あの子は元々戦闘特化の子だったし、それが自分の役割だと思ってるのかもしれないわね。…それでも男と組むのは嫌だから、ここの子達と一緒にやれないか声をかけてるみたい」

 

 

 …一人で突っ込もうとしたり、任務に関係なく異界に突入したりはしてないんだな?

 

 

「前だったらしてたわね。状況を多少は理解してるのか、見ず知らずの土地でいきなり無茶をする程馬鹿じゃなかったのか…」

 

 

 前にアサギが喚き散らした、封印前の話を反面教師にしてんじゃね? 自分がそこまでお馬鹿さんだなんて信じたくない、って表情だったぞ。

 しかし、あの子が任務ねぇ…。出るの自体は構わんが、あの態度で里の男に接するのなら問題だな。折角良好な関係なのに、不和を招きかねん。

 

 …そもそも、あの子はどういう子なんだ? どうして男嫌いなのか、何か知ってはいないか?

 

 

 

「…博士が言っていたそうだけど…あの子は確かに、滅鬼隊の源流の一人よ。私も聞いた話でしかないけど、『舟』の中で倒れていたのを発見されたらしいわ。少なくとも、私や他の子達のような、作られた隊員じゃないわね」

 

 

 ふむ…。『舟』の中に居たって事は、異世界から転移してきたって事だな。作られた隊員じゃない…元からああだった?

 彼女がホロウみたいな出身だとすれば、異世界で鬼を倒す為に作られ、恐らくは集団で送りだされたのだろう。

 

 

「目を覚ました時には、相当揉めたそうよ。男性不信と言うより、人間不信と言った方が正確だった程に。治療すら拒んだらしいわ。…お構いなしに療養させたそうだけどね。それも、気遣ってではなく、ほぼ研究の為でしょう」

 

 

 そこらへんは、当事者を知らんから何とも。

 しかしそういう状況なら…ある程度の予想はつくな。

 

 鬼を倒す為に送り出された戦団だが、戦いを乗り越える度に徐々に数を減らしていき、用意していた資材や備蓄も減っていく。

 舟での移動を繰り返しているのであれば、恐らく外に出て気晴らしするのも難しかっただろう。

 閉所に閉じ込められる事は、それだけで心理的な負担になる。

 

 そして、戦いによる負担、閉所に閉じ込められる負担、未来が見えず徐々に追い詰められていった人間は…。

 

 

「内輪揉め、或いは生贄…ね。ありそうな話だわ。そこから立ち直ったと思えば、まだいい方…なのかしら」

 

 

 さあね。どっちにしろ、今のままじゃ本人よりも周囲が困るのは確かだな。

 しかし、本人が男嫌いの原因を自覚してないってのは厄介だな…。どこに地雷があるか分からんし、根拠のない感情は理屈じゃどうにもならん。

 

 

「…口説けば? 私達みたいに。あなたなら多少の男嫌いくらい、何とかなるんじゃない?」

 

 

 それやっても、俺に対する態度しか改めないから意味ないだろ…。

 ふむ、どっちにしろ、本人の事を知らなきゃどうにもならんな。余計な刺激を与えまいと避けてきたが、虎穴に踏み入らざるを得ないか。

 …あー、久々だなーこの感じ。やっぱ人間関係の問題は苦手だ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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516話

1人暮らしなのに、ガス料金が9,000円近い…何故?
風呂の温度維持機能を使ってるから?
それとも追い炊きするから?
風呂の水量が多すぎるんだろうか?
割とマジで不正を疑っている今日この頃です。

うーん、P5Sが待ち遠しい…。
仁王2も待ち遠しい…。


 

 …ちょっと意外なものを目にした。と言うか耳にした。

 頭領名利に尽きる、っていうかね…。

 

 アサギとの話の後、屋上から周囲を見回して、近くの森に居る舞華を発見。基本的に一匹狼…とまでは言わないが、群れるのを嫌う気質だが、例外は居る。どうやら若い浅黄こと浅木と一緒に居るようだった。

 ともかく場所は分かったので、アサギには集合場所と時刻を伝えて移動。

 

 特に隠れる気は無かったのだが。

 

 

「あら、若」

 

 

 おや、浅木。…こうしてみると、やっぱりややこしいな。浅黄と浅木とアサギって…。

 

 

「同感だけど、改名しろなんてお断りよ。どうしてもって言うなら、懇ろなお二人に言うのね」

 

 

 別にどうしてもとは言わないけどな。…浅木の態度は、他の2人と比べると少々棘がある。俺が嫌い云々よりも、単純に上から命令されるのが嫌いらしい。そりゃ誰だって好きじゃないが、とにかくこの子も一匹狼と言うか、組織人となる事を良しとしない気質だった。

 だからだろうか? 俺との接触も、暗示を発動させない為の最低限に抑え、後は気ままにぶらぶら歩き回っているのをよく目にする。

 仕事は…任務にはついてないし、サボっていると言われないギリギリのラインしかしてない。仕事してるだけマシだね。

 

 …要するに、ちょいとヤンキー入った、不良ぶりたい時期な訳だ。肉体年齢も丁度そのくらいだし。

 自分の未来の姿とも言える、浅黄とアサギが俺と懇ろになってるから、それへの反発もあるんじゃないかと思う。

 

 

「何か用かしら? 私は散策で忙しいのだけど」

 

 

 思いっきり暇じゃねーか。

 いや、用があったのは舞華に対してなんだよ。…条件を考えれば、浅木でもいい気がしてきたが…。

 

 

「どっちでもいいなら、私はお断り。あなたの事が大好きな、愛妾さん達に言いなさいな。…ところで、舞華に用と言う事は、この先に行くつもり?」

 

 

 ああ、そこに居たのは、屋上から確認できたから。

 …何かあるのか?

 

 

「いいえ。…でも、そうね…気配を消してから進みなさいな。私にはどうでもいい事だけど、下手に突いて騒ぎがこっちに来ても迷惑だもの」

 

 

 それだけ言って、浅木は番傘をくるりと回して去って行った。…いつも持ってるな、あの笠。

 気配を消して進め…。どういう事だろうか。どうでもよさそうな顔をしていたが、忠告自体は本心っぽい。心配3割、悪戯心3割、残りは素直に教えてやらない反抗心ってところか。

 少なくとも、致命的な事になるような企みではなさそうだが…。

 

 折角忠告されたんだし、無視するのもなんだ。コソコソ行くとしますかね。

 

 

 

 

 …と思っていたが、あっという間に浅木の忠告の意味は理解できた。

 森の奥、舞華が居る筈の場所から、2人の声が聞こえてきたからだ。

 1人は言うまでもなく舞華。もう一人は……きららさん。

 

 …うわー、なんか面倒くさい場面かな…?

 バレたら更に面倒くさい事に発展するなと思いつつ、気配を消したまま近寄っていく。

 

 

 二人は適当な岩に腰かけ、何やら愚痴っているようだ。ちなみに舞華は煙草を吸っている。多分、GE世界でリンドウさんが吸ってた奴だ。これも、いつの間にか ふくろ の中に入ってた。俺は吸わないので、よく木の枝を加えている舞華に渡してみたんだが…大当たりだった。他にも欲しがっている子は居るので、近い内に研究資料として茅場に渡して複製してもらう予定。

 愚痴の内容は……定番と言うかなんというか、色んな事に対する不満。あれが面倒だコレが鬱陶しい、退屈だ、周りがいい子ちゃんばっかりで息苦しい、男の好き勝手にさせてるなんて信じられない、絶対その内ろくでもない事をする。

 

 

 …その内ろくでもない事をするというか、とっくにしまくってんですがね。それで何度大和のお頭に怒られた事か。

 散々好き勝手に言われてるが…まぁ、こんなもん…だよな? 環境や上司に対する不満なんて、幾らでも沸いて来るし、むしろ無い方が異常だし、きららさんはともかく舞華は本気で俺を鬱陶しく思ってる訳じゃないよな?

 思えば里にやって来て、風呂沸かし当番に任命してから、話す事すら少なくなっていたような…。…やっぱり、もうちょっと平等に目をかけた方がいいかな…。舞華もあんまり任務とかに積極的な方じゃないから、よく働いてくれる子達を重点的にコミュニケーションをとるのは仕方ないと思うんだが…。

 

 

 しかし…大丈夫かな、コレ。俺の事じゃなくてきららさんが。

 俺への罵詈雑言に頷いてくれる相手が見つかった為か、彼女は饒舌に俺に対する不満点をあれこれ述べている。

 舞華も、それにそこそこ同意しながら不満を零しているのだが……気付いているだろうか? 加えている煙草を、さっきから小刻みに上下させている。目元に力も入っている。…あれは、不機嫌になってきている顔だ。

 今更ながらに首を突っ込むべきか、隠形を辞めて、今来たばかりを装って話をするべきか。

 

 迷っている間に、きららさんは舞華の決定的な一線を越えてしまったようだ。

 

 

 途中から不満を零す事もやめて黙っていた舞華は、喋り続けるきららさんを睨みつけながら、煙草を咥えて大きく息を吸い込んだ。あっという間に灰になっていく煙草。どこぞの地上最強の生物が、葉巻で似たような事やってたな。

 フゥーーーッと灰の中の空気を全て押し出すように、きららさんの顔に向かって吹き付ける。

 

 

「だからあんな奴ケホッケホッ、ちょっと、何すんのよ!」

 

「おい、いい加減口を閉じろ。…気付いてないようだから、今のうちに言っておいてやる」

 

 

 簡易灰皿(たたらさん作)に火を押し付けて揉み消しながら、舞華は立ち上がった。微妙に熱気が漏れ出している。自然界最高級の炎とやらが、舞華の感情に連動して猛っているのだろう。

 

 

「ここで一時でも暮らすなら、若に舐めた口を効かないこった」

 

「好きでここで暮らしてるんじゃないわよ。出ていかれると困るって、あいつが言ったんだから。何よ、悪口言ったらご飯抜きにでもされるの? 本当に狭量な頭領ね」

 

「不満を零したところで、よっぽど的外れな事言ってない限り、どうこうするような人じゃねえよ。むしろ、上に対する不平を遠慮なく言えるのは風通しがいい証拠だって言って笑ってる」

 

 

 ……まぁ…言う、かな。いい気分はしなくても、それを理由に即処断はしない。

 ただでさえ、周囲が全肯定ハム太郎ヘケケ並みに肯定してくる環境に居るのだ。実のところ、この環境に慣れて自分と異なる意見を受け付けなくなった独裁者になってないかと、自問自答する日々である。

 

 

「でもな、そいつは若本人だけの話だ。若の周りにゃ、同じ暗示やら何やらをかけられてるらしい俺達でも引くくらいの狂信者じみた連中が揃ってる。妙な事をしないように、神夜さん達も手綱を握っちゃいるが、そもそもあの人達も基本的に若第一主義だ。そいつらだけじゃねえ。若は間違いなく、俺達の中心だ」

 

 

 睨みつけて威圧しながら……と言うか、完全にガン付けしながら舞華は続けた。

 最初は言い聞かせるように、或いは自分の激情を抑えるようにゆっくりと発していた言葉が、徐々に強く、早くなっていく。

 

 

「口五月蠅いだけの気に入らねえ、借りがあるから従ってるだけの頭領ならまだしも、飯くれて、大っぴらに暴れても顔を顰められるどころか褒められる場所をくれて、ケツ持ちまでして俺らの為にあれこれ走り回ってくれてんだ。そんな人を嫌いになんてなれるかよ。俺らが腹いっぱい美味い飯食えるのも、暖かい寝床で手前がぐっすり眠れるのも、そもそも封印から目を覚まさせてくれたのも、全部あの人が…あの人達がやってくれてんだ。あたしだって、こいつ(煙草)をくれた恩がある。それを多少の不平不満が出るくらいならともかく、『頼んでない』だの『気に入らない』だので唾吐きかけるような真似すりゃあ、俺らは仁義忘れた忘八者以下だろうが。手前はそういう風に見られてんだよ。少なくとも、俺らの頭領に世話になっときながら、牙を剥き出しにする恩知らずってな。さっきもお前が来た途端、浅木がさっさと離れてっただろう。絡んでもろくな事にならないって思われてんだよ。他の連中にどう思われてもいいから、突っ張り続けるってんなら好きにしろよ。お前が何を考えようが、俺の知ったこっちゃねえ。だが、目に余るようなら報いを受けてもらうぜ。俺だって黙っちゃいねえからな!」

 

 

 ドン、と炎が吹き上がる。

 元々気が長いとは言えない舞華だ。延々と愚痴に付き合わされて、導火線が短くなっていたのもあるだろう。

 

 …正直、話の内容と言うか理屈よりも、舞華がここまで言ってくれる事に目頭が熱くなる。ヤンキー入った普段の言動からも分かる通り、舞華はどちらかと言うと群れに反発する一匹狼タイプだ。

 不良漫画の、ヤバいけど実は身内に優しい主人公を見たような気分だ。

 親の心子知らずと言うが、本当に伝わってないのかは分からないもんだねぇ…。鬱陶しがられているけど、親心を理解していてくれた……親として名利に尽きる。

 

 その一方で気になるのは、きららさんの表情だ。男嫌いと言うのを差し引いても、彼女は極度の強気で負けず嫌いだと聞いている。舞華の迫力に一瞬だけ戸惑うのは分かるが、その直後に見せた表情が分からない。

 

 

 

 やっと友達が出来たと思ったら、即座に裏切られたような表情。

 

 

 その表情を浮かべていたのはほんの一瞬で、すぐに冷気を撒き散らしながら「やるっての?」とばかりに舞華を睨み付ける。

 …これは…やっぱり、さっきアサギと話した、あの想像は大体当たってたって事だろうか。封じられる前の更に前、発見されたばかりの頃のきららさんは極度の人間不信だったと言う。この地に辿り着くまでの、鬼との闘いの旅で、手ひどい扱いを受けて来たんだろう。記憶を失った今でも、そのトラウマが残っているのかもしれない。

 

 基本的に俺至上主義か、俺に対して好意を隠そうともしないからなぁ、うちの殆どの子達。

 男が居ない環境はきららさんにとって快適ではあっただろうけど、周囲は揃って俺の事を…自分の周りの中で、唯一気に入らない男の事を中心として生活している。…とんでもなく鬱陶しかったろうなぁ。周囲の環境が快適なだけに、一つだけ残る不快感が猶更目につく。

 そんな中で見つけたアウトローな二人。浅木と舞華。こいつらは基本的に反骨精神旺盛と言うか、大勢に迎合する事を嫌う節がある。まぁ、要するに逸れ者…に見える訳だな。

 きららさんから見たら、自分と同じように俺を嫌っている、少なくとも行動原理の中心としているようには見えない二人は、同類のように見えたのかもしれない。

 ものの見事に、そのシンパシーは打ち砕かれた訳ですけども。

 

 

「はん、訳が分からないわね。あんな奴の何処がいいのよ。大体、男なんてみんな同じよ。いやらしい事しか頭にない、性欲塗れの猿同然じゃない。偉そうにしてるだけで何の力もない、私達みたいな特別なタマフリだって使えない。要するに、恩を盾に皆をいいように利用してるだけじゃないの」

 

「恩を返すのは当たり前だろうが。偉そうにしてるだけで何の力もない? こんだけの環境を作り上げる事ができる奴を、どこをどう見れば何の力もないだなんて言えるんだ」

 

「無いじゃない! あたしみたいに氷を操る事もできない、あんたみたいに炎を出す事もできない! 基本的なタマフリしか使えない、ただのモノノフでしょ」

 

「………ああ、それで『力が無い』ってか。……呆れたもんだ。アサギはお前らを率いていた為に、過労死寸前になってたって聞いたが……納得だ。馬鹿な事言ってる阿呆に、分かりやすく言ってやる。物の試しだ。そこの岩、壊してみろよ」

 

 

 舞華が示したのは、腰かけるのに丁度良さそうな岩。

 言われるままにきららさんは岩に向かい、片手を突き出した。冷気が集まり、迸る。

 

 

「……ふんっ! せいっ! …これがどうしたのよ」

 

 

 氷に包まれ、次の瞬間には突きが叩き込まれる。粉々になる岩。…使っている所を見たのは初めてだが、確かに強力な能力だ。相手が無機物の岩だったから冷気の効果は半減したが、生物であればまともに動けなくなった所に、全力の一撃が叩き込まれるのだろう。

 きららさん自身の身体能力も高く、それを扱う為の体術も俄仕込みではない。ちゃんとした役目を与えて適切な所に設置すれば、いい戦力になるだろう。…暴走しなければ、だけど。

 

 それはともかく、きららさんが岩を砕いたのを見た舞華は、やれやれと首を振った。馬鹿にされたと思ったのか、ヒートアップする(漏れ出るのは冷気だが)きららさんをよそに、今度は舞華が動く。

 炎を出す…ような事はせず、近くにあった石を拾い、別の岩…きららさんが壊した岩と同じくらい大きな岩に向かい、思い切り叩きつけた。

 

 ガン、ガン、と硬質な音が何度か響く。ひび割れていく石と岩。何度目かの激突で、石が割れてしまった。

 

 

「…それで? 何が言いたい訳? 岩を割ろうとしたみたいだけど、結局失敗してるじゃない」

 

 

 せせら笑うきららさんを全く意に介さず、舞華はもう一度別の石を取り、岩を殴りつける。

 三つ目の石が砕けたと同時に、岩はひび割れ砕け散った。

 

 

「…勘違いをしているようだがな、俺は一撃で壊せとも、タマフリを使って壊せとも、粉微塵にしろとも言ってない。俺は『岩を壊せ』と言っただけだ」

 

「それが何よ」

 

「お前はタマフリを使って岩を壊した。あたしは道具を使って岩を壊した。そこにどんな違いがあるってんだ?」

 

「はぁ? 違うでしょ! 私は一発で壊したし、時間だってかかってないし、あんたがやったのと違って粉々でしょ!」」

 

「同じだ。今回は石ころしか手元になかったらちょっと時間がかかったが、準備しとけばもっと短時間で同じ事ができただろうよ。条件は『壊す』だけなんだからな。…わかんねーか? お前が根拠として考えている『力』、あたし達が使えるような『特別なタマフリ』なんぞ、手間と道具を省略する事しかできねえんだよ。日頃から準備してりゃ、そこらの弱小モノノフだって同じ事ができるんだ。本当にこれが特別な力だってんなら、人の手ではどうやっても再現できない事をやって…例えば時間を巻き戻すくらいの奇跡を起こしてから言えってんだ」

 

 

 おお…教育の成果が出ている。目を覚ました頃は、特殊能力を振り回す事しか頭になかったのに。…やはりアレか、自分達を作り上げた連中の馬鹿さ加減を教えたのが効いているんだろうか。

 ちなみに、舞華のこの言いようは、任務に出る為の教育で口を酸っぱくして言い聞かせた事そのものだ。ちゃんと聞いてたんだな。

 

 

「そもそも、若はタマフリかどうかは知らんが、妙な能力を幾つも持ってるぞ。今のところ、異界の浄化を実現した唯一の人間だしな。単純な強い弱いで言っても、あたしを含めた50人以上を真正面から押し返して打倒すくらいの化け物だ。そんな人をどうやったら弱いだの、特別な力を持ってないだの言えるんだよ」

 

「はぁ? 法螺にしたって盛りすぎでしょ。大体あいつ、元はあなた達ちも違うただの一般人だったそうじゃない。そんな奴が特別な力なんて持ってる訳ないわ。見栄を張る為に出鱈目言ってるんじゃないの」

 

「一般人だろうが何だろうが強い奴は強いだろうが。異界浄化だって皆知ってるし、すぐそこで起きた事なのに何で知らねえんだよ。ああ、男と会いたくないからって閉じこもってりゃ、色んな事に置いていかれるのも当たり前だわな。大体、強い弱いを言ったらてめえこそどれ程のもんなんだよ」

 

「…なんですって?」

 

「昔の事を覚えてないんだろ。実際に鬼と戦った記憶もないし、聞いた話じゃアサギに物凄い苦労を掛けてたみたいじゃないか。それでよく自分は強いなんて言い張れるもんだな。それこそ、法螺拭いてるようにしか見えないってもんだ」

 

 

 今度はきららさんの声色が変わった。どうやら舞華は、的確に地雷を踏み抜いたらしい。

 あー、どうやらきららさんって、頭に生えてる角の通りに、鬼としての性質を持ってるみたいだからなぁ。今この世界で猛威を振るっている鬼じゃなくて、昔話の鬼っぽいというか。

 力を重視して、直情的で、嘘が嫌い。

 他人に対する評価は勿論、自分に対してもそれは当て嵌まる。そんな鬼…と言うか人を相手に、「お前は実は弱くて、イキッてるだけじゃないのか?」なんて言えば、そりゃ即座にキレるわな。

 きららさんが本格的に臨戦態勢に入ろうとしているのを野生(或いは不良の)勘で感じ取ったのか、舞華の体から熱気が漏れ始める。同時にきららさんからも冷気が漏れて、二人の温度差がものすごい事になり始めた。ヒートアップ具合では同じくらいなのにね。

 

 

 っと、いかんいかん、呑気に分析してるところじゃないわ。さっきの話は、舞華のイメージ的に聞かれたくないだろうから、ついさっき来たばかりと言う事にして…。

 ほい、音爆弾。

 

 

 キィィィィンと甲高い音と同時に飛び出す。二人は反射的に耳を抑えてうずくまっていた。…思いっきりバインドボイスを受けた時のリアクションだな。むぅ、音爆弾でこのリアクションか…。慣れない音だって事を差し引いても、咄嗟に動くくらいの事はしてほしかった。

 …いや、見た目的にはオイシイんだけどね。ガタイがよくておっぱいも大きい二人が、耳を抑えて勢いよく蹲る。そりゃ成大に揺れるってもんさ。

 さて、戯言はこの辺にして。

 

 

 はいはいそこまで。物騒な気配撒き散らしてんじゃねーよ。

 

 

「あんた…!」

 

「若!? ちょっ、いつから!?」

 

 

 いつからって、お前らがタマフリについての話してる辺りからだが?(と言う事にしておこう)

 

 

「お、おう、ならいいんだ…いやあんまりよくないけどいいんだ…」

 

 

 さっきまでの熱気はどこへやら、冷や汗を拭う舞華。俺への態度について激昂してたのを知られたくなかったんだろう。不良キャラ的に、イメージに合わないからだろうか。…タマフリについての話も、真面目に授業を聞いてた事を示すから知られたくはないだろうが、最初の話題に比べればマシってところか。

 安心したのも束の間、俺に向けて殺気を放ち始めるきららさんと、それに気付いて再び熱気を漏らし始める舞華。

 

 

 ったく…一切喧嘩するなとまでは言わないが、やるならタマフリだの真剣だの使うんじゃないよ。武器で殴りつけていいのは、鬼と敵だけだ。

 自分のタマフリに自信を持ってるなら、猶更人間相手に使うもんじゃないって自覚してくれ。

 

 

「うっさいわね。あんた何でこんな所に居るのよ。顔を見なくていいのが唯一の美点だったのに。しかも盗み聞きだなんて、品性の欠片もないわね」

 

「てめぇ…」

 

 

 舞華やめろ。俺もきららさんに用事があったんじゃなくて、舞華に用事があって探してただけだ。

 そしたら品性どころか理性もない殺気が漂ってきたんで、急いで来ただけだ。(と言う事にしておこう)

 気付かなかったのはあんたらの不注意だ。目の前以外にも敵がいるのを忘れてるからだ…。

 

 ま、いい。この場であんたとどうこうする気はない。舞華、これから任務に行くぞ。付き合え。

 

 

「…あ? あたしが、か? 面倒くさい…っつうか、あたし浅黄の試験受かってねえぞ。それこそ面倒だから、受けてもいないし」

 

 

 特例を今まで出してなかった訳じゃない。諸事情あって、舞華が向いてて、その実力もあると判断した。とは言え、今回限りだから、今後も鬼を焼きたいと思ったらやっぱり浅黄の試験に受かる必要はあるが。

 ああ、今回の任務で充分な実力があると判断されれば、試験の免除も考慮しよう。

 

 行く気はあるか?

 

 

「そういう事なら、受けるぜその話。…あと、書類での報告も免除にならねえ?」

 

 

 今回限りだぞ。

 …ところで、二人での話はもういいのか? 殺気振り撒く話だったら、張り倒してでも止めにゃならんのだが。

 

 

「いや、話はもう終わりだ。気にする事でもねえよ」

 

「ちょっと、全然終わってないわよ。あたしは」

 

「終わりだ。あたしが言う事はもう言った。お前の意見は聞いてねえ。これ以上、お前に付き合うつもりも理由もねえんだよ。後は勝手にしろや。どうなろうと、俺の知ったっこっちゃねえからよ。若、任務の内容は」

 

 

 異界浄化の護衛だ。鬼との戦闘は少ないだろうが、油断するなよ。

 重要度で言えば、そこらの鬼討伐よりも余程高いんだから。

 

 

「へっ、確かに暴れられないんじゃ面白くねえが、異界浄化にゃ興味あったからな。瘴気が一遍に消し飛ぶ光景は、一度でいいから見てみたかった。んじゃ、準備してくる」

 

 

 上機嫌になった舞華は、きららさんを他所に自室に戻ろうと歩き出す。背後から睨みつけられている事に、気付いているのかいないのか。

 全く相手にされていないのが分かったのだろう。きららさんは血が滴りそうな程に拳を握りしめ、舞華の背中を睨み付ける。

 

 …やっぱりただ説教されたり言いたい放題言われただけじゃないな。この反応は、何かしら心の傷を抉った時の反応だ。自覚はないんだろうけども…。

 下手をすると、それこそタマフリまで使って殴り掛かりそうだ。

 

 こりゃ放っておくといかんと思って、視線に割り込む。

 単純な彼女は、あっさりとターゲットをこっちに移した。元々男嫌いな事も手伝って、容易く殺気の行き先が俺に変わる。

 

 激情のままに力を振るおうとしたようだが、悪いがそれをさせる訳にはいかん。やらせたら、それこそ彼女を許しておく事ができなくなる。一線を超えさせる訳にはいかない。

 殺気…は彼女の性格上、起爆スイッチにしかなりそうにないので……。

 

 

 あっ、オニビが居る。

 

 

「なんですって!?」

 

 

 きららさんが振り返った瞬間に撤退。あっ、ごめーん見間違いだったわ。見間違いだから嘘じゃないよ嘘じゃ。

 背後からの咆哮を聞き流しながら、こんな手に引っ掛かる単純さを割と真面目に心配した。

 

 …とりあずこの場の激発は免れたが、ありゃ放っておくわけにはいかんな…。男嫌いが思っていたより根深かったのもあるが、周囲との確執が致命的なものになりつつある。

 ようやく見つけた同志でさえ、実は敵側で手酷く拒絶される始末。

 ストレスや怒り悲しみが、彼女の暴発の元になるのは目に見えている。どっかでストレス解消させるなり、味方を作らせるなりしなきゃいかん。

 

 …だが、うちの子達じゃ駄目だな。俺に関する事で相容れそうにない。

 里の人達は…彼女の性格を鑑みるに、問題を起こす可能性が高い。

 となれば…まだ封印されている奴らの中で、女の子を連れてくるか…。でもきららさんと同じような性格だったら、それこそ不和の元だし。

 

 さて、どうしたものか。…早めの対処が必要だが、今は初穂・舞華・アサギで領域浄化が先だ。あまり待たせると初穂がキレそうだし、さっさと行くとしますかね。

 それにしても、舞華があんな風に言ってくれるとは…。……ご褒美あげたくなっちゃうよ。

 

 



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517話

仁王の再プレイ中。
完全に一からやってます。今度は旋棍メイン、大太刀サブ。
やっぱり楽しいゲームだなぁ。

執筆、P5R,MHWと同時進行は流石にきついので、P5Rは一旦ストップ。
トロコンしてるし…アワードは流石に面倒くさくなってきたから、もういいかなって。
MHWは悉ネルギガンテも撃破したから、後はゆるゆるやっていきます。

それはそれとして、仁王のウィリアムって元海賊だったんだよなぁ。
外伝ネタとして、アサシンクリードブラックフラッグのエドワードの船にウチの色ボケが乗っていたら…と考えました。
そしてその船にウィリアムも乗っていて、アサシンの技やハンター、モノノフとしての技、ミタマ(ウィリアムの場合は精霊)の力の使い方を教えられていたら…。

…壁越え段差越え暗殺で、仁王がヌルゲーになりそうだw
なお、時代的に無理があったので諦めました。
エドワードは1700年、ウィリアムは1500年代だったよ…。


 なんかえらく遠回りした気分になったが、安の領域浄化作戦、成功。

 今回はトラブル…と言う程のトラブルは無かった。舞華も言いつけられた通り、暴走したりせず大人しく護衛を務めていた。大型鬼を見つけても戦いを仕掛けたりせず、小型鬼は近付いてきたところを炎で牽制して追い払う。

 退屈だ退屈だとボヤきはしても、いつ何が出てきてもいいように油断はしてないし、索敵も怠らない。出発前にも地図で進む道近辺の情報を確かめていたし、簡易の物だが非常にの備えも持ってきている。

 ヤンキーっぽい言動とは裏腹に、勤務態度は優等生そのものだった。

 

 

「…………」

 

「…さっきから何見てんだよ。気になる事でもあるのか」

 

「いえ……私の部下だった連中を思い出して、あの子達もこれくらいやってくれれば…と思っていただけよ」

 

「…反応に困るな…」

 

 

 舞華も、アサギの魂の叫びを聞いていた一人だ。あんな叫びを挙げる程に擦り切れた人間に対し、何を言えと言うのか。

 首を傾げている初穂は…うん、知らないままでいいよ。悲しい話は、あんまり言いふらすもんじゃない。

 

 

「まぁでも、言いたい事は分かるわね。事前の確認を怠るモノノフって多いのよねー」

 

「あたしもそう見えるってか? …これに関しちゃ、耳に胼胝ができるくらい散々言われたからな。それに、逸れ者ってのは危険に敏感なんだよ。仲良しこよししてる連中と違って、何かあったら自分でどうにかしなきゃなんねーんだ。一見しただけで勝てる相手かどうか判別できるくらいでなきゃ、逸れ者なんざやってられん」

 

「あんた別に逸れ者って程じゃないでしょ。一人でいる事が多いって聞いてはいるけど」

 

「細かい事言ってんじゃねーよ」

 

 

 せやな、ちょっと破落戸入ってるけど、うちの自慢のいい子やな。

 どこぞの筋肉殴り合い漫画で、似たような事言ってたなー。不良の才能、って奴だっけ。

 まぁ、実際の不良にそんなマメと言うか、自分で対処しないといけないと思ってる奴は殆ど居ないと思うけどね。その場のノリで反抗して戻れなくなって、都合が悪くなったら他人のせいにして喚き散らす。…普通の人間も大して変わらんな。

 

 こうして話している間にも、周囲の警戒は怠ってない。任務に出るのは初めての筈だが、危険に敏感と言うのは本当のようだ。まだ索敵の精度が甘くはあるが、そこらへんは場数の問題だな。

 とにもかくにも、舞華を連れてきたのは正解だったようだ。

 一見すると単なるアウトロー、猪突猛進で血の気が多い猪武者が、その実指示と任務に忠実で、用心深く振る舞う。

 未だに味方不信が治ってないアサギに対する、いいパフォーマンスになっただろう。これも一種のギャップ萌えか。

 

 元々、これで意外と役目には素直に従う子だったんだけどね。最初に任せた風呂焚き係も、結局一日も欠かす事なく定時でやってたし。

 

 

 

 

 そんな話をしつつも、特に問題なく現場まで到着。

 ただ、初穂が瘴気の穴封じに手古摺った。やれそうな気はしてきた…と言ってても、実際にやるのは初めてだからな。仕方ないっちゃ仕方ない。

 6回目での成功…早いと思うべきか、遅いと思うべきか。下手するとオオマガトキ第二段が起きる作業を、5回失敗しないと異界を浄化できない。…成功率が高い、とはとても言えないなぁ…。いや知らずにやって、異界に通じる大穴を作っちゃった俺が言うのもなんだけど。

 こりゃ、鬼の手が量産できたとしても、異界浄化の術を伝えていいのかは考え物だな。鬼の手の扱いを充分に修め、術を間違いなく発動させられればいいが、どちらか一つでも欠けた者が行えば、それだけで人類滅亡の危機だ。絶対、「自分なら大丈夫」とか「英雄になるんだ!」とか「半人前扱いしやがって、見返してやる!」みたいな感じで暴走する奴が出るに決まってる。

 

 なお、5回失敗したのにどうしてオオマガトキが起こってないかと言うと、俺が暴走を防いだから。と言っても、その内2回はそもそも術の発動自体に失敗していたらしく、何も起こらなかったのだが。

 横から見てると、何がどうなって失敗したのかよく分かる。こう、穴を塞ぐ為の術と瘴気を反転させる為の術がぶつかり合って歪んだり、瘴気を一か所に集めておく為の動きが強すぎて瘴気濃度が高くなりすぎたり、それらが壊れた瞬間に反動で……ああ、言葉にするのは難しいな。

 とにかく、その兆候が見られた時点で、より強い鬼の手の力で術自体を掻き消す。反発は適当な逃げ道を用意してやればいいだけだ。

 

 最初は上手く行かずに膨れ面になった初穂だが、どこをどう改善すればいいかを伝えれば、反映されるのは早かった。ちなみに、失敗したらオオマガトキというリスクは初穂には伝えてない。それで尻込みされても困るから。…後になってネタ晴らししたら、殴り掛かって来たけどな。更に大和のお頭にもチクりやがったおかげで、またお説教だ。まー無理もないわな。知らずに世界を滅ぼしかねない所業に加担させてた訳だから。

 人の領域を取り返す為に、人を滅ぼす危険を乗り越える。矛盾しているようで矛盾してない。

 

 

 ま、それはいいんだ。そこまでは特に何事もなく進んだ。安の領域が消えた事で鬼達が狂乱していたようだが、里までは余波は届かない。念のため、瘴気が消えた一帯を一通り調査してきた。夜までかかってしまったが、結論としては問題なし。

 大和のお頭の判断で残されていた、雅の領域の残滓が堤防となったからだ。鬼達はそっちで縄張り争いに没頭している。

 

 

 

 

 

 のはいいんだが、そこにきららさんが突っ込んでいったとか何考えてんだ。

 

 

 

 いやマジで何考えてんだ。任務も受けず、手続きもせずに突っ込んでいくんじゃねーよ。いや、一応理由はあったらしいんだ。

 昨日の舞華との小競り合いがトドメになったのもあるんだろうが、せめて準備していけよ。道具は鍛錬場から持ち出した、練習用の手甲。防具は無し、普段着のまま。行き先の方向だけ聞いて、場所や地形の確認もせずに飛び出す始末。幾らフラストレーションがたまっていたからって…こんなん、アサギが血反吐吐くのも無理ないやん。

 里のモノノフからの報せが無ければ、冗談抜きで誰も気付かず放置してたかもしれんのだぞ。

 

 

 事の発端は、俺達が安の異界を浄化したころに遡る。異界が浄化されれば、鬼達は泡を喰って飛び出し、新たな居場所、異界を求めるのは自明の理。

 今回だってそうだったし、雅の領域の一部を残しているのはその為だ。実際にそれらは想定通りに動き、想定通りに機能し、人里へ被害を出す事なく、鬼達を食い止めて見せた。

 

 

 

 

 

 

 丁度、そこに鹿之助達が探索に出ておってのぅ。

 

 

 

 

 

 いやな、あそこって鬼達が狭い領域をめぐって争いまくるから、放っておいても色んな素材やらハクやらが撒き散らかされてるんだよ。

 その分、手負いの鬼や歴戦の鬼も多いんだが…そういったのを避けながら、素材を集めるのに鹿之助は最適で。

 いい稼ぎにもなるし、鹿之助の度胸付け+自信付けにも繋がるから、仲のいい里のモノノフ二人組となら探索に行っていいって事にしてたのよ。

 あの二人、悪運が強いタイプだし、腕の方は……まぁ、戦うならともかく、逃げ隠れしたり生き延びるだけなら、モノノフ全体でも滅多にお目にかかれないクラスだ。あの二人をつけておけば、鹿之助が万一しくじっても、死ぬことはないと踏んでいた。…超重要人物に対する扱いじゃないが、鹿之助本人にも意地があるのだ。

 

 

 で、その領域に向かって、安の領域から締め出された鬼達が集まってくる。それを観測した里のモノノフが、鹿之助と一緒に居るモノノフの友人で、現在探索中だという事を知っていたんだ。

 里で慌てて救助隊を組織すると同時に、俺達にも知らせようとしてくれた……んだが、そこで出くわしたのがよりにもよってきららさんだった。

 舞華と口喧嘩、その後俺にあしらわれてから、皆の所に戻る気にもなれず、森や道の外れを苛々しながら歩き回っていたらしい。

 

 そして、きららさんを里の人達と極力関わらせてなかったのが、ここで裏目に出た。

 見慣れない女=うちの子、という認識を持った里のモノノフが、きららさんに鹿之助達が探索中の異界に、鬼が押し寄せてきた事を伝えたのだ。

 彼女に伝えれば、俺達全体に伝わると考えたんだろう。実際、他の子達だったらそうだった。すぐにでも執事秘書チームに報せて、対策を練った事だろう。

 

 

 …が、きららさんはうちの子達の連絡網とか全然知らない。俺が不在の時、誰が皆を纏めているかなど全く知らなかった。

 明日奈や神夜が相談役みたいな立場になっている事さえ知らない。…あの二人は特に俺にベッタリだから、関わりたくなかったんだろう。

 

 素直に皆に知らせればいいものを、何をどう考えたのか、彼女は自分で鹿之助達を助けに行った。

 これが発覚したのは、里のモノノフ達が救助隊を結成し、俺達の屯所にやってきた時だ。

 里のモノノフの予想では、うちの子達は臨戦態勢を整えている筈だった。何せ、雅の領域の残滓で食い止められる筈ではあるものの、鬼が里の近くまで大挙して押し寄せてきている上、そこには身内が居るんだから。

 少なくとも警戒態勢をとっていなければおかしいだろう。

 

 物々しい装備でやってきた里のモノノフ達を見て、敵対したのか!?裏切りか!?と早とちりしなかったのは救いだったね。

 「何やってるんだお前ら!」と怒鳴りつけられた時は反発を持った者も居たようだが、事の次第を知らされたらそれも吹っ飛んだようだ。

 

 突然、鬼が押し寄せてくるかもしれないと言われて、各々勝手に動き出そうとしたが、そこは神夜の一喝で鎮まった。好き勝手に動くのではなく、各々役割を決めて早急に対処する。

 尤も、当の神夜はすぐに救助隊として前線に向かってしまった為、実際の統率は明日奈と詩乃がとったが。

 

 

 俺達が事の次第を知ったのは、異界浄化から戻ってくる途中。救助隊と鉢合わせした。

 何故、最初の報せが皆に伝わってなかったのか…は、まぁ、なんだ、最初に報せを受けたのがきららさんだって事で見当がついて。アサギが血を吐きながら崩れ落ちた。多分、前にも似たような事があったんだろう。伝令を広めずに自分だけで突貫するような事が。

 流石にこの状態のアサギを連れて行く訳にはいかないので、舞華にはアサギを任せて帰還させ、俺と初穂は救助隊に同行した。

 

 

 

 異界の中では、結構な数の鬼達が氷漬けになったり、粉々にされていた。…これを一人でやったのか…。ちょいと見縊ってたかもしれんな。例え高い戦闘力を持っていても、行動が無茶苦茶だから意味ないけど。

 氷漬けになった鬼達や侵入者にはお構いなしに、あっちこっちで縄張り争い続行中のようだ。

 きららさんには悪いが、まず探すべきは鹿之助とその友人。身内かつ稼ぎ頭な鹿之助が最優先だ。

 悪いがきららさんは…見かけた時に余裕があれば助けもするが、正直ちょっと庇えるような所業じゃないからな…。情報の遮断に独断専行、功を焦った上にろくな準備も対策もせずに戦いに赴く。…はっきり言わせてもらえば、組織を崩壊に持っていく人種だ。このまま異界で果てるようならどうぞご勝手に、としか言いようがない。

 仮に鹿之助達を助けていたとしても、何らかの形での対応は免れない。

 

 

 とにもかくにも、異界の中を探し始める。

 俺の鷹の目と、初穂の鬼の手を使った追跡で、鹿之助達の痕跡は見つかった。…かなり奥の方まで進んでしまっていたようだ。そこから先は、鬼達の争いで痕跡がグチャグチャになって分からない。

 

 

「ちょっと、もう一つ痕跡があるわよ。これがその…きらら、だったかしら? の足跡ね」

 

 

 全然違う方向に向かってるな。異界に到着して、当てずっぽうで探し始めたか…。

 そっちは後回しだ。まず鹿之助達を追う。

 

 

「いいの? 結構な数の鬼に囲まれてるみたいだけど」

 

 

 良くはないが、自業自得だ。鹿之助達を保護した後、場合によっては助けてやるよ。

 あっちで暴れてるのに注意を惹かれてるおかげで、気付かれずに進みやすいし…。

 行くぞ。皆も極力戦闘は避けてくれ。もしどうしようもない状態になったら、さっき渡した特製音爆弾で合図。保護対象を発見したら狼煙で合図だ。

 

 

 

 

 …と言う訳で、少数部隊に分かれて探索を開始。極力戦闘は避けるように…なんて言っといてなんだけど、俺はむしろ積極的に鬼を狩った。

 瞬殺すれば手間も取らないし、注意も惹かないし、何よりこの近辺に鹿之助達が居るのだとすれば、安全に繋がる。…きららさんの方に行く鬼も、多少は少なくなるだろうし。

 

 鹿之助達が進みそうなルートを予測し、鷹の目も使って探すが…現在進行形で行われている縄張り争いのおかげで、やっぱり手掛かり無し。

 あいつらの事だから、逃げ回るか隠れるかしていそうなものだが…幾つか心当たりを当たってみたものの、むしろ小鬼が隠れているばかり。こいつらも、周囲の大型鬼の争いから避難しているんだろうか。

 

 

 程なくして、キィンと甲高い音が聞こえた。音爆弾だ。鹿之助達が見つかったのか。

 急いでそっちに向かうと、救助隊の一班と、半泣きになってあちこち煤けている鹿之助と、同じく泣き喚きながら逃げ回っていたらしく顔から出る物全部垂れ流しなモノノフ二人組が居た。その二人組は、救助隊にしがみついて何やら喚き散らしていた。…やっぱ死にそうな目に合いながら死なない人種だな。

 

 

「わわわわわわ若ぁぁぁぁぁ怖かったよぉぉぉぉぉ!!!! 鬼がいきなり大暴れしだしてさぁぁぁぁ!!!」」

 

 

 あーもう、泣くな泣くな。よく無事だった。

 いや、悪かったな。異界浄化に向かった時には探索に出るなって通達しとかなきゃならなかった。

 

 その話は後にして、さっさと帰るぞ。もう暫く、ここは荒れそうだ。

 

 

「うん…そうだ、きららさんは!?」

 

 

 あ? 何でそこであの人が出てくる?

 

 

「助けに来てくれたんだ。鬼に囲まれて逃げられない状態で…きららさんが注意を惹いてくれた間に脱出できたんだけど、あっちこっちで鬼が暴れてるから異界から出られずに…」

 

 

 一度は会ってたのか…。しかし助けに来ておいてそれって、あんまり意味が…いや、結果論だ。少なくとも、一度鹿之助達は助けられてるんだし。もうちょっと人数なり道具なり揃えてきてれば…と思うが、それだと間に合わなかった可能性もある。

 どうしたもんかな。正直な話、きららさんの行動は許容できるもんじゃない。鹿之助の一助になってくれたとしても、それは…。

 

 

「助けに来てくれた時、きららさんが叫んでたんだ。『男だろうと女だろうと、仲間は絶対に見捨てない。あいつらと一緒になんて、絶対にならない』って」

 

 

 …過去の記憶が蘇ったんだろうか? それとも、トラウマが無意識に口に出たのか。

 何にせよ、仲間を想うが故の暴走だったのか。それは免罪符とするつもりはないが、酌量の余地くらいはあるだろうか。うちの子達を、仲間と呼ぶくらいには大事に思ってくれていたのなら。

 

 ……分かった。初穂、こいつらの護衛を頼む。俺はきららさんの助力に行く。

 

 

「いいの? いや見捨てろなんて言わないけど、話を聞く限りでも相当な男嫌いだったじゃない。拗れたりしない? 私が行こうか?」

 

 

 いや、先走ったとは言えうちの子達の為に奮闘してくれてるんだ。その気持ちに礼くらいはしてやってもいいだろ。音を聞いた限りじゃ、奮戦しつつもそろそろ体力に不安が出てきた頃だろうし。

 何より、鹿之助に叫んだ言葉が事実なら、こいつらの保護の為に吶喊してきたんだ。目標が無くなれば素直に引く…と思う。それすら拒むなら、それまでの話だ。

 

 

「そんな醒めた事言わないでくれよ若ぁ! 助けに来てくれた人が、それが原因で死んじゃったら、罪悪感で眠れなくなりそうなんだよぉ!」

 

「あー、私からもお願い。助けられた借りも返さずに死なれると、流石に気分が悪いわ」

 

「俺は割とどうでもいいと言うか、助けられたくないなら別にいいんじゃないかと思うけど…確かに、一時とは言えおかげで窮地を脱出できたしな。すぐ別の鬼に追いかけられたから、あんまり意味なかったけど…」

 

 

 おめーはおめーでもう少し恩を感じたら? まぁいい、分かった分かった。ごねるようなら、張り倒して連れて帰るわ。その後で面倒見切れないから放り出すよ。

 これに関して異論は認めん。動機はどうあれ、あいつはそれだけの事をやらかした。

 

 

「う…」

 

 

 …まぁ、ごねたらの話だ。素直に戻るなら、対応は少しは検討する。そんな顔すんなよ。

 じゃ、初穂、そっちは任せたぞ。

 

 



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518話

九州に転勤の辞令を受けました。
まぁ、九州だろうと北海道だろうと構わない…いややっぱ北海道はバイクが危険そうだから勘弁。
行けと言われりゃ、貰うもの貰ってる以上行かなきゃならんのがお仕事です。
今回は転勤の準備期間もそれなり…と言うか常識的なくらいにはありますし。
…あれ、準備期間20日程度って、常識的なのか?


それはいいのですが、向こうでの初出勤時期がP5Sの数日前。
当日を公休にしてもらって遊び倒そうと思ってたんですが、スケジュール的に難しいなぁ。

しかし、ダウンロード版にしようかディスクを買おうか迷ってたのがこんな事になるとは。
引越し先でネット環境が整っていなかった場合、ダウンロードできなきゃ当然プレイ不可能。
予約したら14日以降はキャンセルもできないから、下手すると二重に購入しなければいけなくなってたかも…。



追記
イベントガチャが最後のひとつになるまで天音さん来てくれなかった。
若様にしか仕えないのは分かったけど、そーいう事すっから影が薄くなるんだぞ(言いがかり)


 …と言う訳で、さっきから轟音が連続している場所へ。聞いた感じじゃ、凍らせてから粉砕してるみたいだな。

 その膂力と体力は大したもんだ。うちの子達の中でも、上位に食い込みそう。

 …無駄にでかい音を立てているのは、鹿之助達を逃がす為に、鬼の注意を惹こうとしている…んだよな? 故意にやってるんだよな? そうである事を願う。

 

 ともあれ、見つけた時には彼女はかなり消耗していた。やっぱ、後先考えずに飛ばしたらしいなぁ。鹿之助達を助けるなら、適当なところで切り上げて護衛に向かった方がいいだろうに。

 呆れ交じりに見て、さっさと伝えるだけ伝えて帰ろう…と思ったんだが、足が止まる。

 

 近寄る鬼達を氷漬けにし、正拳をぶちこんで粉砕しながら、彼女は何かブツブツと呟いていた。正面から目てしまったんで、つい唇を読む。

 

 

『仲間は、見捨てない…見捨てない…。私だって、仲間、だから…仲間って、認めて……もっと…鬼を倒せば…手柄を立てれば…』

 

 

 …なんじゃこりゃ。なんか半分トランス状態になっとらんか? いや、単純な混乱か。マジで昔の記憶やらトラウマやらが蘇ったのかもしれない。

 戦い方も、後先考えずに全力を出すというよりは、近付いた鬼を条件反射で攻撃しているといった印象だ。文字通り、心ここに非ず。

 …本人としても不本意な状況であるのは間違いないと思う。自分から意識を半ば飛ばすなんて事、する筈がない。

 

 しかしだからこそ、本音が零れているとおも思える訳で。

 

 

 鹿之助達が聞いた、『仲間は見捨てない、あいつらと同じにはならない』と言う言葉。そして今の呟き。更に男嫌い、元は人間不信。

 この二つから予測されるのは………って、あ。

 

 呑気に考察していたら、きららさんが攻撃を受けてしまった。無理ないわな。殆どの鬼の知能はあんまり高くないが、あんな条件反射のみの動きで戦ってりゃ、そりゃ幾らでも隙ができるわ。回避行動すらロクにとらないから、体当たりが迫るまでに氷漬けにできなければ、それだけでアウトだ。

 ヒノマガトリの、炎を纏った突進で吹き飛ばされた。

 

 追撃に移ろうとしている鬼が多い。しゃーないなぁ、まだ殆どの奴には見せてないんだけど。

 

 

 腕だけアラガミモード! 駆け抜けながら叩き斬る!

 

 ふらふらと立ち上がったきららさんの脳天にチョップを入れて、更に首元を掴んで掻っ攫う。

 

 

「おげぅっ!?」

 

 

 女の子が出すべきではない声が出たけど気にしない。理由と切っ掛けはどうだかわからんが、こんな鉄火場で惚けているのが悪い。

 進行方向の鬼を腕から生えたブレードで一閃し、包囲網を脱する。

 

 乱暴に放り出すと、結構な音を立てて尻から落下した。…安産型なデカ尻である。

 

 

「あだっ!? ちょっ、あんたねぇ、何を……する…の…」

 

 

 何故か呆然とする。何がしたいんだこいつ…。

 やるべき事もせずに後先考えずに飛び出すし、戦ってると意識が虚ろになるし、今度は怒るかと思ったのに絶句してるし。

 

 もういいや、なんでも。さっさと要件を済ませよう。

 

 鹿之助達は保護された。もうここで戦う理由も益もない。この場は手伝ってやるから、さっさと引き上げるぞ。

 

 

「え、あ、うん」

 

 

 いやに素直だったのが気にかかると言えば気にかかるが、もう何でもいいからさっさと終わらせる。

 彼女の目は、俺の腕から生えているブレードに釘付けだった。…そういう趣味か? フェチか? という笑いも誘えないジョークは置いといて。

 自画自賛するようでなんだが、アラガミモードの俺の攻撃は、一発一発が鬼千切や、フルパワーの溜め攻撃みたいなものだ。この程度の鬼が相手であれば、近付かれないよう振り回しているだけでも充分すぎる。味方に当たるとヤバいが。

 しかし雑な攻撃をするのも何となく狩人の流儀に反する気がするので、近付いた鬼は首を飛ばす。

 

 数体斬って、残った死体を鬼に向かって投げつけてやると、それが障害物となって追撃を防いだ。

 更に、正常に戻った(多分)きららさんが死体を凍らせ、消えていくのを防ぐ。

 

 程なくして、鬼の気配は無くなった。俺達を見失ったようだ。

 …とは言え、執念深い鬼が追跡してくる可能性はある。一応、攪乱してから戻るぞ。

 

 

「……ちょっと」

 

 

 何だよ。用事があるなら手短にしてくれ。色々と苛立ってるんだよこっちは。

 いつもであれば確実に言い返されるというか言いがかりをつけられる言葉だったという自覚はある。しかしそれに構わず、縋るような目で彼女は俺のブレードを見ている。

 

 

「いいから答えなさい。その腕……鬼の腕…?」

 

 

 …まぁ、似たようなもんだ。厳密に言うと違うが、あっちこっち転戦している内に呪いをかけられてな。放っておいたら鬼と言うか鬼神になって死ぬ呪いだったんだが、どういう訳だか制御できるようになった。理由は未だに分からん。

 流石にばれると色々面倒な事になりそうだから、普段は使ってない。だが戦力って意味じゃ、現状でこいつを超えるくらいの強化にはまだお目にかかってない…いや、普通の体で出来る強化はこの状態でも大抵できるから、超えようがないんだけどな。

 

 …それで? 結局こいつがどうかしたのか。

 

 

 

 問いかけながらも、彼女の反応を予測する。

 さっきの考察は中断したが、彼女の行動原理はほぼ理解できた。あくまで推測、だけど。正直な話、それを鑑みても酌量の余地はない。……でも、同情の余地は…あるかな…。

 

 

「あの…さ、私、前の事は覚えていないって言ったけど、実は一つだけ…具体的な事じゃないけど、なんとなく思い出した…事が、あるんだ。私は……仲間、と、思っていた人たちに…見捨てられた…って、こと」

 

 

 つっかえつっかえで話す言葉は、俺の推測を裏付けるものばかり。あまりいい気分ではない。

 

 

「覚えてないけど、私は、頑張った。…と、思う。仲間だって認めてもらおうとして、鬼を、沢山倒して。私は、鬼の仲間なんかじゃ、ないって、言おうとした……たぶん。……そこから先は…覚えてない…」

 

 

 …だろうな。この直情極まりなく、頭が残念な子は、その分身内に対して非常に甘い。理屈や善悪ではなく、心情が全てだ。

 例え相手から一方的に縁切りを宣言されたとしても、それであっさり割り切る事などできず、どうにかして元の鞘に収まろうとするだろう。

 覚えてないのは、改善される前にこの地に辿り着いて記憶を失ったか、改善どころか改悪されて、思い出すのを拒んでいるかだろう。

 

 しかし、鬼の仲間…ね。そう言われたのか。それを言いだしたのが、きららさんと一緒に居た戦団なのか、行きついた先で関わった現地人なのかは知らないが…それが男だったと思われる。

 それを真に受けて、自分を疎外した仲間達への不信感と、その原因となった男性(多分)への不信、もう一度認めてほしいという欲求、また拒絶されるという不安、その為に心身ともに擦り切れてしまった事によるヒステリー。

 それが彼女の男嫌いの正体だ。

 

 鹿之助を単身で助けに行ったのも、その身を案じた事もあるが、『仲間』を助けてくれば自分の力が認められ、コミュニティに入れてもらえるかもしれないという承認欲求……いや、孤独から抜け出したいという渇望からだ。そこまで自覚しているかは微妙な所だし、言いがかりと言えなくもない。

 どっちにしろ、報せを誰にも知らせず特攻していったのは事実なので、そこんとこは弁護できないが。

 

 

 …それで。突然そんな事を語りだして、何を考えてる? 俺に何を求める?

 

 問いかけると、きららさんは黙って……不安を隠しきれない表情で……頭に手をやった。大きめのリボンで結んでいた、ツインテールが解かれる。

 髪の毛が落ちて、牛のような角が現れた。

 

 

「………………」

 

 

 

 ……………。

 

 

 

「………………」

 

 

 

 ………………いや何か言えよ。っていうか髪を解かれても、何を見せたいんだお前は。

 

 

「え。この角を見て、何か思わないの!? こう、同じ鬼っぽい姿を隠している者同志の共感と言うか、そもそもどうして角が生えているんだとか! 私、多分この角のせいで迫害されてたんだけど!?」

 

 

 んーな事言われても、俺は別にばれても構わない…いや今は大和のお頭に張り倒されそうだし、別の場所に居た時も確かに隠してたけど。

 角が生えてるって今更言われてもなぁ…。

 

 ……ひょっとして、気付いてなかったのか? 俺や那木に限らず、うちの子達は大体知ってるぞ。

 

 

「 何 故 ! ? 」

 

 

 お前を『舟』から引っ張り出して連れてきたのは誰だと思ってる。封じられていた時にも角は丸見えだったし、那木は診察した時に全身を確認した。

 そもそもお前、大浴場で湯に浸かってる時に髪の毛が濡れて、角の形が丸見えだったらしいぞ。

 どうも、あんたがその角について触れられるのを嫌ってるみたいだったから、皆で気付かないフリをしようって事になってたんだが…。

 

 

「あああああああ!!!!!」

 

 

 …何と言うか、あるゆる意味でポンコツだなぁ…。

 頭、と言うか角を抑えて座り込んでしまった。

 

 

「じゃ、じゃあみんなが冷たかったのは!?」

 

 

 自分で言うのもなんだけど、仮にも頭領の事を悪し様に言って和を乱し続けてりゃ、嫌われもするだろ。上や他人の悪口は一時的には円滑な交流材料だけど、やりすぎたり長期的に見れば好感度は下がる一方だぞ。

 要するに空気読めてないって事だ。

 

 自分の角が気付かれている事すら気付かなかったきららさんは、反論も出来ずに黙り込んだ。見事なopz。…rではなくpなのは、言うまでも無く円やかな部分の為である。

 ほれ、何でもいいからさっさと帰るぞ。鹿之助を助けてくれたし、礼って訳じゃないが治療はしてやる。

 崩れ落ちたまま動かなかったので、首根っこ引っ掴んで歩き出した。

 

 

 

 さて、実際の所、落としどころをどうしたものか。

 ここで自分の秘密(にしていたつもりの事)を晒したのは、今まで悪かった、仲良くしたいって意思表示みたいなもんだろう。

 男嫌い、人間嫌いよりも、初めて出会った同類と和解したいって気持ちが優先された。

 

 

 

 正直な話、彼女のやった事は重罪どころの話ではない。重要な連絡を伝達せず、自分で勝手に対処しようとした。一歩間違えれば、鹿之助達が鬼に喰われただけでなく、押し寄せてくる鬼達に気付かず奇襲を受けていた可能性さえある。

 しかもその理由は、「力を示して認めてもらいたいから」。…力を誇示するのが目的ではなく、仲間に入れてほしい、が真意だったとはいえ、自己顕示欲により仲間を蔑ろにし、抜け駆けした事には変わりない。

 

 

 

 そういった行動をした者は、これまでにどれだけ功績をあげていたとしても、縁切りの上追放と処す。

 これはうちの子達に常々言い聞かせている、暴走防止の為の鉄則だ。

 

 

 

 が、彼女の暴走も危険な状態にある仲間を見捨てられないという思いから来たもので…率直に言えば、判断ミスと言う事も出来なくはない。子供だって対処できる問題に対する判断ミスだが。

 加えて、彼女はうちの子達と違って教育を受けてないし、上記の掟だって聞いていたかすら怪しい。

 更に鹿之助の窮地に助力となった功績もある。

 

 何より、この子をこのまま放り出す事はできない。

 俺の心情的にも、独りぼっちで友達が欲しいと泣いている、根が善良な子(根『は』善良、の方が正確か?)を放り出すのは気分が悪いし、初めてであった同族…鬼との混ざり物…から拒絶されて放り出されれば、彼女がどんなヤケを起こすか分からない。

 

 しかしここでお咎めなしとしてしまえば、後に響くのが目に見えている。

 

 

 

 …うん、何かペナルティを設けて、それを落としどころとするか。

 ここで妥協したら組織として成り立たないと言われても、組織人としての自分よりも私人としての自分を優先するのが俺の生き方だ。

 両立できずに破綻するならそれまでの事。どの道、人が集まった組織で捻じれの無い構造なんて期待できないんだ。うん、自己正当化完了。

 

 さーて、どんな罰ゲー…もといペナルティにするかな。 勉強漬けはペナルティには含まれないな。うちに所属させる以上、絶対に受けさせる。自分がやらかした事の馬鹿さ加減は、そこで学んでもらうとしよう。

 他の皆が『仕方ない』『ここまでやるなら』と思えて、尚且つ見ている俺が愉悦できるようなもの…。

 

 

 まず皆のパシリ役は当然。度重なる不和とやらかしのお陰でヒエラルキー最下位だから仕方ないね。

 性的な意味で俺の玩具になる…これは却下。男性不審が激化しかねないし、そもそもうちの子達の価値観からしたら罰どころかご褒美みたいなもんだ。

 じゃあ護衛という名目で、橘花の玩具にさせるのは? きっと、尻の気持ちよさや背徳感を嬉々として布教し、開発する事だろう。きららさんが嫌がったとしても、立場を嵩にムリヤリ調教まであるかもしれない。…でもやっぱり駄目だな、今度は女性不審になりかねないし、それ以上にまともな状況判断もできない人間を神垣の巫女の護衛になんて付けられる筈がない。

 

 ちょっと趣向を変えて、ミスした分は戦果で取り返せと言うのは? …取り返すよりも教育が先だ。

 じゃあ、皆の書類を代行するのはどうだろう。……おお、これは割と有りじゃないか? 教育の為の予習にもつながるし、皆の作業軽減にもなる。その分、苦手な作業を強いられるきららさんは堪ったものじゃないだろうが、だからこそ贖罪しているアピールにもなる。でもこれじゃ俺が楽しくないなぁ…。プラスアルファで何か考えっか。

 しかしまだ弱い感じもする。

 

 ううむ、匙加減が難しいな…。本来許すべきではない事を行った人を許そうとしているんだから、当たり前だが。

 真面目な罰を与えるか、何とか矛先を逸らしてお茶を濁すか…。

 いっそ皆に処罰を決めさせれば…いかん、鹿之助に絆されたごく少数以外は、追放とか処刑とか洒落にならん処罰を主張しそうだ。

 

 極端な罰は無し…と言った時点で、彼女達は納得すまい。うーん…あいつらが納得しそうで、致命的ではないもの…。

 …ああ、そうか。一度で済まそうとするから、罰が大きく重くなる。でも小さな罰で続けてもなぁ…。

 小さすぎず、大きすぎず…………あ、いや待てよ?

 

 どっちもあって、どっちもない…。つまり………うん、こうすれば程よい匙加減も……不可能ではない? 上手い事、引くのをコントロールするなり、入れた物をすり替えれば……誰の案とは分からないように細工して…。

 そして面白そうなのがあれば、それを……。

 

 

 うん、処罰決まり。

 

 

 引き摺られたままのきららさんが、何かを察したようにブルリと震えた。

 

 

 

 



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519話

相変わらず仁王プレイ中。
手古摺ったけど、1週目序盤で立花宗茂さん撃破できました。
やっぱ勝手を知ってると違うな。
気力回復低下と攻撃力低下で、とにかく組打ち狙いでどうにかなった。
あとマキビシ。
武器からして従来とは違うモノを使ってましたが、搦め手をもうちょっと増やしてプレイしようかな…。


 

堕陽月伍拾弐日目

 

 

 異界浄化成功、その余波で危険に陥っていた3人は無事、今後は浄化をする時には探索を禁じる。また、安の領域から押し寄せた鬼達は、雅の領域の残滓で縄張り争いを続け、今も里まで近付く鬼は居ない。この辺までの報告は問題なし。

 言うまでも無く、問題はきららさんの事だ。

 

 彼女がうちの子達への連絡をぶった切った事は、既に大和のお頭にも知られている。

 とりあえず反省の証として、俺と一緒に正座させているが、不満そうな空気が全く隠せていないので意味はない。と言うか、自分がやった事がどういう事だったのか、まだ理解できてないのだこの小娘は。戻ってくるまでに説明したんだけどな…。

 多分、封じられる前も、この地に流れ着く前でも、団体行動をとった事は殆ど無かったんだろうなぁ…。集団で行動する為のノウハウを、全く持っていない。そういう子だからハブられるようになったのか、鬼の混ざり物みたいに見られ始めてから団体行動がとれなくなったのかは分からないが。

 

 

「…そうか。で、どう対処するつもりだ」

 

 

 

 黙ってなさい。自分がやった事がどういう事だったのか、説明したでしょうが。下手をすれば里が全滅するような案件だったんだぞ。…ったく、本人の性格だけじゃなく、言い方も悪かったかなぁ。何もかもお前が悪い、みたいな説明の仕方しちゃったし…。正直それでも加減した表現だけど、負けん気が強すぎる彼女には受け入れられないやり方だっただろうか。

 

 何か反論しようとしたきららさんを一睨みして黙らせ、大和のお頭に向き合う。

 このまま放置すれば、何処に行って何をやっていても同じ事が起きる。かと言って死を以て償わせるには、僅かながら酌量の余地と、うちの子・そっちのモノノフを助けた功績がある。

 そっちもあの二人から、何か嘆願が上がってきてるんじゃないのか?

 罰則を与えて、一から教育するのが落としどころだ。代わりに、正式にうちの子として配属させる。

 

 

「…………」

 

 

 俺達と別れて先に戻った鹿之助達は、きららさんがやらかした事を知ったものの、それでも恩は恩、『仲間』と言ってくれたのだからと、何とか印象回復、罰則があるのであればその軽減をしたいと駆けまわっていた。里側のモノノフ二人は…どこまで真剣にやってたかは微妙だが、同じような事はしてると思う。

 それでも、『他の助けが出ないようにして、自分が助けに行ったのを手柄と言うのか』みたいな意見も多かったし、以前からの悪感情も積み重なって追放が妥当、みたいな空気になっていた。処刑と言われて躊躇うくらいで留まっていたのは、救いなのか何なのか。

 

 大和のお頭の眉間に皺が寄る。納得してないな…。もうちょっと言い募るか。

 

 

 

 そもそもこの子は…気分の悪い言い方になるが、うちの子じゃなかった。

 本人も俺の下につくなんて真っ平だ、って言ってたしな。『舟』で見つけて連れてきて、体調が整って独り立ちしても問題なくなるまでここに居るってだけの、言わばお客さんだった。

 当然、指揮系統がどうなっているかだって教えてないし、危急の際に誰に何を言えばいいかだって伝えてない。こっちからの命令に従う義務もなかった。

 今回の暴発は、無知と伝達不足からくるものでもあった。

 それらを棚上げして、『お前はやらかしたからもう居場所はない、出て行け』ってのはちょいと筋が通らんな。

 

 

「お前の言い分も、かなり無茶だがな…。…いいだろう、これで貴様に臍を曲げられても面倒だ。だが、貴様がその女を庇って抱き込んだ以上、また何かあるようであればその責は貴様にかかる。また、貴様が通達したとしても、貴様の配下の者は少なからず不満に思うだろう。それらが暴発した時、我々は手を貸さない。それが最低条件だ」

 

 

 分かってる。前言を翻すような形で彼女を受け入れるんだ。俺に対する反発もあるし、それ以上に彼女に対する視線は厳しいものになるだろう。…そこから自分の居場所を作っていかなきゃならん のだ。

 最悪、うちの子達が割れる事も覚悟の上だ。

 ああ、心配ないよ。そうなったとしても、そっちに迷惑をかけず治める算段はできてる。

 そこに至るまでに、何とか納得させる算段も。

 

 

「ふん…。貴様らは確かに多くの功績を挙げているが、それで帳消しにするのもそろそろ限界だ。弁えて動けよ」

 

 

 分かってる。

 

 

 

 

 

 

 大和のお頭の元から戻る途中、きららさんに話しかけられた。

 同族だと言う認識が出来た為か、態度はかなり軟化していた。

 

 

「…ちょっと、言われっぱなしだったじゃない。あんた今まで一体何したのよ」

 

 

 おめーのやらかし程ではないわい。今までにも色々と危ない橋を渡ってたってだけだ。…必要もないのに渡る事も多かったけどな。

 ともあれ、自分がやった事の重大さがまだ実感できてないと見える。アサギから聞いた昔のやらかしが、まだ生易しいんだと思えるような事だったんだぞ。

 

 

「……助けに行ったのに」

 

 

 それでもだ。その意思だけは認めるが。どっちにしろ、今のままじゃ他の連中が納得せん。今までの言動もあるからな。今のままじゃ、皆に受け入れてもらうなんて夢のまた夢。

 放り出せって言われるのが確実だが、俺も折角見つけた『同類』を放り出すのは気が引ける。

 他の連中を納得させる為に、相応の扱いをさせてもらうぞ。

 

 

 不満そうなきららさんだが、ここは譲れない。

 アサギも言っていたが、彼女はどこまでも直情的で感情的だ。今回はそれが最悪の形で発露した。

 頭では自分のミスを理解している筈なのだが、感情が納得しておらず、それが何よりも優先されている。自分は善意で行動したのだから、それで褒められる筈、認められる筈、怒られるのは納得いかない…そんなところか。

 実際、善意やサービス精神が裏目に出ると、精神的にダメージ受けるからなぁ。それで意固地になっちまったか。

 

 子供なんだ、要するに。

 

 それでも、ここで断って突っぱねるのなら、本気で放り出されると察しているのか…どっちかと言うと、親が『おいて行くぞ』って言ったのを真に受けて泣きそうになってる子供かな…、渋々頷くきららさん。

 

 

 しかし何だな、きららさんの過去にそういう事があったのであれば、まだ封印されてる連中を解き放つのはやめた方がいいかな。言動も問題がありそうだし、きららさんにも…。

 

 

「…同類なんだし、きららでいいわ」

 

 

 …そうか。んじゃ、きらら。

 

 

「……うん」

 

 

 …なんか微妙に甘酸っぱい空気が流れた気がする。

 それはそれとして、きららに対して悪感情を持ってるんじゃないか?

 

 

「そうかもしれないけど……私は解放するべきだと思う」

 

 

 なんでまた。また、きららを鬼の仲間だとか言いふらすかもしれないんだぞ。

 

 

「それでもよ。…同じ場所で戦った仲間…の筈だもの。仲間は見捨てない。例え、あっちから縁切りだって言ってきたとしても」

 

 

 …意地っ張りなのに根っこだけいい子とか、面倒くさいなぁこの子…。一度仲間だと思ったら、絶対に離れないのか…。仲間思いなのは『買い』だけどな。

 まぁ最初の一人がきららで、色んな意味で特殊な子だったから、それだけ見て判断するのも早計と言えば早計か? アサギは全部まとめて封じ込めろって言いそうだが。

 

 

「若ー! きららさーん!」

 

「うん?」

 

 

 声をかけられて振り返ると、手を振り回しながら鹿之助が走ってきた。

 おー、どうした。確かきららの減刑嘆願で走り回ってたんじゃないのか。

 

 

「え、そんな事してくれてたの?」

 

「そりゃ、助けてくれたのに、それが原因で処罰って言うのはさ…。確かに失敗もあったと思うけど、もう知らないとは言えないよ」

 

「…………あ、ありがと…」

 

 

 散々自分のミスを指摘されていた為か、礼を言われた事による嬉しさも一入のようだ。

 で、具合の方はどうなんだ?

 

 

「それが…里の人達には、協力してくれる人はそこそこ居たんだけど…うちの皆や、里のモノノフは…」

 

 

 まぁ、そうだろうな。

 でも、とりあえず追放やら極刑やらは無しにするから安心しろ。罰則は免れないが……しかし、里のモノノフまでそういう態度を取るのであれば、そいつらにも参加してもらった方がいいかもしれんな。

 

 

「…何に?」

 

 

 罰ゲー……もとい、罰に。

 

 

「いや若、げーってなんですかげーって」

 

 

 取って置きの考え。きららにはかなりしんどい事になるが、これを乗り越えればうちの子達からの視線も改善されると思うし、里のモノノフにも「ここまでやる程反省している」って示す事もできる。

 尚且つ、上手くやれば目を背けるような罰は免れる事ができる。

 

 

「…ねえ鹿之助、なんか嫌な予感しかしないんだけど」

 

「俺の首筋もぴりぴりしてる…。こういう時の若の考えに、ろくな事はないんだよな…」

 

「しかも、内容はその時まで秘密にするって…」

 

「……きららさん、強く生きて」

 

「ちょっとおぉぉぉぉ!? 減刑嘆願してくれてるじゃないのぉ!」」

 

「そうだけどさぁ! それでも皆を納得させるような落としどころなんて、思いつかないしさぁ!」

 

 

 うーん、仲いいなこの二人。

 と言うか、きららの男嫌いはどうしたんだ。

 

 

「え? …どうって…どうもなってないけど。今も嫌いだし」

 

「でも助けに来てくれたよな」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

 ……ヱ?

 なんか会話が噛み合ってないような…。仲間を見捨てない、仲間が危険なら助けに行くのは当たり前、くらいの認識は持ってるきららだが、この場合は………。

 

 

 ……なぁ……きらら…。ひょっとしなくても、鹿之助を女だと思ってないか?

 

 

 

 

 

「違うの!?」

 

「違うよ! 俺男だよ! れっきとした男性だよ! 名前だって男の名前だろ!?」

 

「髪長いし華奢だし女の子にしか見えないし、名前は三郎って名前の子も居たし、てっきり同じ事かと」

 

 

 ああ、環ことタマちゃんな。何で女の子なのに三郎なのか、未だに誰も理解できてない。

 他にも男性に見える女性も居るし…天音とか…、二人が接触する切っ掛けはあまり多くないし、勘違いするのも分からないではないが…。

 

 

「………ち、ちくしょぉぉぉぉ!! 俺だって、俺だっていつか逞しい体になってやるぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

 ……鹿之助は泣きながら走って行ってしまった。…減刑嘆願、やめちゃうかもしれないな…。

 

 

「……流石に後で謝っておくわ…」

 

 おう、そうしとけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、夕飯を終え、全員を集めて伝令。

 俺の隣に座っているきららに、『何でテメェが若の隣にいるんだ』的な視線が集まっているが、きららは気付いてない。自分のやった事を謝る事すらできない。

 と言うより、そんな事に気付く余裕がない。飯の直前まで、微に入り細に入り自分がやってきた事がどういう事態を引き起こすか徹底解説し、何故嫌われていたのか論理的に教え込み、更に目を覚ました初日に喰らってトラウマとなった那木の説明にたっぷり突き合わせたので、意識が無くなっているのだ。

 

 

 

 …と言う訳で、本人には充分に反省させた。

 とは言え、それで言動全てが突然改められる訳でもないし、無条件に信用する事はできない。

 皆の気が済むとは、俺だって思っていない。

 

 そういう訳で……彼女に対する刑の一部を、君達の裁量に委ねようと思う。

 

 

「「「「「「「「追さ嬲処獄放ら刑し門り首殺」」」」」」」」

 

 

 お前ら殺意高いなちょっと落ち着け。

 切り捨てて終わりなら、わざわざ助けに行きやせん。…鹿之助が減刑嘆願しようとしていた事を知ってる奴も居るだろう。

 こいつの迅速かつ軽率な行動のおかげで、鹿之助が危機一髪で鬼から逃れられた事も事実。

 

 あー、ともあれ、だ。処罰の為に、こういう物を用意した。

 

 

 

 ドンと、目の前に置いたのは、30cm四方の箱だ。上に細い穴が開いていて、裏側には錠前。前面には『本日の厳罰』と書かれている。

 率直に言ってしまえば、目安箱と言う奴だな。アンケートボックスでも可。

 

 

 きららに課せたい罰を募集する。案があるなら、書面にしてこの中に入れろ。生命に直結するようなものから、精神的に死ぬような奴、生かさず殺さず便利に使うような刑まで何でもいい。名前は不要。誰が何を書いたか分からないのも、この処罰の特徴だ。また、それを探る事も禁ずる。

 一日に一回、この中から抽選で一枚引く。それに書いてあった内容がきららへの処罰だ。

 

 

「一日に一回と言う事は、何日か続けるつもりですか?」

 

 

 最低限、30日を考えている。

 その間に、彼女がやってられっかと反逆すればそれまでの事。今度こそ反省の色無しとして処分する。

 逆に、期間を耐え抜き、その間に致命的なものや永遠にさようならする罰が当たらなければ、それは所謂天命である。神は言っている、ここで死ぬ運命ではないと。

 

 どうだ?

 

 

「罰の内容に制限は?」

 

 

 特に無い。強いて言うなら個人名を指定した内容は禁止。例えば『一日、アサギの言う事を何でも聞く』とかな。この場合、アサギを明確に指定せずに、籤引きで当たった相手の言う事を一日なんでも聞く、なら可とする。

 

 

「当選しなかった罰は引き継がれるんですか?」

 

 

 応募された内容は、一日毎に破棄して新しく募集する。どうしてもやらせたい事があるなら、連日同じ内容を応募する事だな。

 なお、応募者はここに居る人達に限らない。里のモノノフでも応募可能。

 

 …他に質問は? 無いようだな。それじゃ、明日からこの罰は開始する。

 朝飯の後に籤を引くので、何かやらせたい事がある奴はそれまでに案を入れておくように。

 応募用紙と筆記用具は、箱の横に置いておくから。ああ、一応言っておくけど、壊して中身を見るのは禁止な。

 

 

 ではこの話は終了。きらら、いつまで惚けてる。勉強の続きの時間だ。愉しい愉しい那木の解説がまた始まるよ。

 

 

「Я」

 

「ちょっときららさん大丈夫なのか若!? 今の何語!?」

 

 

 露西亜語じゃなかったけか。教えてねーんだけどな、そんなもの。

 罰も兼ねて色々と一気に詰め込んだから、脳味噌の回線が妙な具合に繋がったのかもしれない。

 まま、ええわ。そのまま常識とか隠密行動の基本とか、色々叩き込んじゃいましょうねー。…あわよくばそのまま洗脳な。

 

 



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520話

堕陽月伍拾惨日目

 

 

 昨晩はロリを頂きました。性的な知識すら殆ど持っていないガチロリでした。

 …ロリとヤッた事は結構あるけど、純正ロリは久しぶりだなぁ。

 

 きららの洗の…もとい教育を那木に任せ、部屋に戻ってきたら玖利亜が待っていた。

 玖利亜はうちの子達の中では珍しく、ツルペタ、低身長、性格まで幼いちみっ子である。雪風的にお仲間と思っているよーだが、当人の性的意識が低すぎて、何の仲間と見られているのか理解できていないようだ。

 

 で、どうした玖利亜。よい子も悪い子も寝る時間だぞ、と言って頭撫でてみたんだけど。

 

 

「よとぎの当番…」

 

 

 と言われた。言わせた犯人は誰なのか答えなさい。

 

 

「? 災禍が、ふあんていになって来てるから治してもらえって」

 

 

 災禍、キサマか。しかし不安定になって来ているのなら、無下にはできん。

 このところ、やる事が色々あってスキンシップが少なくなってたのは否定できんし…。玖利亜だけじゃなく、他の子達とももう少し触れ合う必要がありそうだ。まだ喰ってない子を特に。

 

 ともあれ、昨晩は玖利亜をずーっと可愛がっておりました。

 文字通り何も知らない子を染めていく背徳感、たっぷり堪能させていただきましたとも。

 

 具体的に言うと、乳首責め特化。性感と呼べるような神経がまだ発達していなかった為、元より敏感な部分にちょっと強めの刺激を断続的に。

 小さな体を背後から抱きかかえ、仰け反らせた胸の先端をカリカリッ、カリカリッと引っ掻き続けました。耳元では指の動きに合わせた囁き、抱きすくめる事によって逃げる事も抵抗する事もできない状態。

 最初は首を傾げていたのに、徐々に頬を赤く染めて口と目が半開きになっていき、足をピンと伸ばして仰け反る玖利亜は可愛かった。

 何が何だかわからなくても、引っ掛かれる刺激が欲しくなって胸を突き出しておねだりする。股からチョロチョロ流れ出ているのにも気付かないほど夢中になって、未成熟な体で必死に男を受け入れる準備を整えていく。

 

 勿論本番もしましたよ。カリカリカリカリ引っ掻きながら。腰の動きと指の動きを連動させて、どっちか片方だけでもされると、連動して他の所も気持ちいいのを思い出してしまうように仕込みました。

 いやぁ、初潮すら迎えてないって知った時はついナニがいきり立つ…もとい罪悪感を感じてしまったわ。

 玖利亜の体は小さくて抱っこもしやすいので、仕事中に抱き抱えている事もできそうだ。…抱き抱えて何をするかって、そりゃー体感時間操作の一助になってもらうんだよ。

 

 

 

 

 …さて、俺のいつもの性事情はともかくとして、一晩寝込んで魘されて、何とか正気に戻ったきららは、他の面々と一緒に飯を食っている。

 朝食はなるべく揃って食べるようにしているが、きららがここで食べるのを見るのは初めてだな。男が居るってだけで、極力近寄らないようにしていたからね。

 今は……言っちゃなんだが、あまり居心地は良さそうではない。俺に対する強い嫌悪は消えたようだが、それでも他の男性に対する不信感は残っているし、それ以上に周囲から『今更どのツラ下げて』みたいな視線が向いている。

 

 きららの今までの言動を許そうとしている事事態、うちの子達の間に亀裂を入れるような行為なのは否定できんな。それをどうにかする為に、頭を捻っていた訳だが。

 

 

 

 

 揃っていた皆が飯を食い終わった後、パンパンと手を叩いて注目を集める。

 はいはい注目。それじゃ、昨日言ってたきららへの罰の時間だぞ。

 

 

「…………」

 

 

 きららは不安そうな表情を覆い隠し、きららは罰の発表を待っている。

 彼女の視線が向いている目安箱は、一見してパンパンになっているのがよく分かった。たった一晩で、これだけ刑を望む声が集まったとも言える。きららに対する悪感情がどれだけ強くなっているのか、よく分かった。

 …ある程度は仕方ないとは言え、あまりいい気分のものではない。無責任に、自分には関係ないから、刺激的なものを見たいから殺せ…という感覚も入っているのかもしれない。

 

 だが、おあいにく様。 目安箱の中に腕を突っ込み、自分でも中身が見えないようにして書き回す。

 

 

 

 

 引くのは…………これだ!

 

 

 

 取り出した紙を、皆に見えるように広げると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  『  腹 踊 り 』

 

 

「…………………」

 

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………え、なにこれ」

 

「…………………なん……でしょう…」

 

「…………………」

 

 

 

 何って…これが罰だろ。

 

 

「腹踊りって、あれですよね。お腹に顔とか書いて、突き出したり凹ませたりして表情を変えて踊る」

 

 

 せやな。実は結構難しいんだぞ。表情が変わって見えるくらいの動きは、全身を連動させたり限界まで腹を凹ませ膨らませないと…。

 

 

「いやそうじゃなくて何で罰が腹踊りなのよ!? 私、百叩きとかを予想してたんだけど!?」

 

 

 予想通りだったら罰にならんと思ったんじゃないか?

 或いは、ちょっと普通じゃ許せない事だけど、尊厳をかなぐり捨てて恥を掻くなら、まぁ許してやってもいいか、くらいに考えたとか。

 または、やっぱり気に入らないから精神的な嫌がらせをして爆発させよう、ってつもりかも。

 

 まぁ、問答無用で追放を引かなかっただけ、籤運としては悪くないと思うが…。どうする?

 この罰を一か月耐え抜く事を条件に、ここに居る事を皆に認めてもらう、という話で締結していた以上、俺としては庇う事もできんのだが…。

 

 

「…………ちょっと待ってて」

 

 

 きららは暫く俯いたままプルプル震えていたが、拳を握って調理場に向かった。

 やっぱプライドが許さなかったか? 見世物になって堪るかって、怒り爆発するのか? プライド高いからな…同族にはダダ甘になるけど。

 しかし実際刑罰としては軽い方だ。重罪に対する致命的なペナルティを、コメディチックな刑罰…悪い言い方をすれば見世物笑い者にする事で相殺しようとしているんだし。

 これで投げ出すようなら、正直庇いようが…。

 

 

 なんて思っていたら、きららはすぐに戻って来た。その手には包丁………じゃなくて、一升瓶と、共用部に接地されていた墨と筆。…おい、それ料理酒…。

 

 

 

「んぐっ…ぬぐっ……んぐっ…ん、ふっ……………ぷはぁぁぁぁ…………やったろーじゃない! 腹踊りでもどじょうすくいでもじょんがら節でも何でも来いやー!!! でも素面だけは勘弁な!」

 

 

 おおう、鬼の咆哮。料理酒を喇叭飲みして顔を赤くし、思い切りよく着物の上半身を開ける。

 ばるんばるんと規格外の巨乳が、サラシの上からでも揺れるのがよく分かった。

 

 唖然としている皆を他所に、自分から腹に筆を入れ、くいくいと器用に腹を出したり引っ込めたり。

 酒の力を借りているとは言え、女のプライドも何も投げ出して罰をこなそうとするその姿は、追放一択だった皆にも何かしらの感銘を与えただろう。多分。

 

 

「きららさん…お、俺も一緒にやります! 酒、酒…」

 

「料理酒はさっきの1本だけですよ。ちゃんとしたお酒持って来ましょう」

 

「朝っぱらからなんだけど、今日は全員休みって事で宴会にしちゃいましょう。全員吐くまで酔っぱらいなさい」

 

「どこかでこんなお祭りあったわね…。へっそ出ーせよいよい、と」

 

 

 きららだけに恥を掻かせまいと名乗りを挙げる漢・鹿之助。

 正気に戻る前に全員酔わせて、宴会芸に変えてしまおうとする神夜と明日奈。

 詩乃は既に追加のツマミを作り始めている。

 呆然としたままだった時子に喝を入れ、大和のお頭への伝令を頼んだ。

 里と屯所近辺の罠を全て稼働させ、今日一日うちの子達が全く警戒しなくても問題ない状態にしていく。

 

 俺? 俺は目安箱の中身を、一枚を除いてこっそり処分しました。具体的には神機に食わせた。……味が俺にまで伝わって来たけど、これは神機の抗議だったんだろうか?

 まぁ、それはともかくとして……筆跡鑑定されたら面倒だからな。

 

 一応言っておくと、きららを庇う為にイカサマをした訳じゃない。こうなる事も充分に考えられたけども。

 目安箱の中に入っていたのは、皆がそれぞれ書いて応募した罰だ。

 

 だが…頭領が応募してはいけないとも、一人で何枚も入れてはいけないとも言ってない。その事を…どうか思い出して(ry

 

 と言う訳で、この目安箱に入っていたのは、9割以上俺が書いた罰である。一見して分からないように、ちゃんと筆跡も変えてるんだぞ。細かい所見られたらバレるけど。

 抽選前に中身を改められたりすると困るので、他の子達の応募用紙も入ったままだ。他の子達の応募用紙は一番下か、一番上部分にあるので、真ん中辺りから引けば大体俺が書いた奴が来る。

 この腹踊りだって俺が書いた罰の一つだ。……ちょっと悪い事したな、とは思っている。皆が寝静まってから応募用紙を書いて入れたんだけど、内容考えてる内に深夜のテンションになっちゃって…。まぁでもこれくらいネタに走った方が、意表は突けるからこれはこれで良し。

 

 さて、うちの子達が宴会で理性を飛ばしている間に、明日の分も用意しますか。筆跡はとにかく乱した方がいいな。酔っぱらって、何を考えてこんな罰にしたんだか分からないって感じで。

 どうすっかなぁ…コスプレさせてもネタが通じない事が多そうだし、某僕はカワイイ子みたいに、バラエティ系と言うか体張ったアレコレがいいかな…。滝つぼダイブにノーロープバンジー、禁断の獣(と書いてぬこと読む。ネコではない)を手懐けさせる、激辛鍋、我慢大会、名前をトンヌラに変える……滅鬼隊の源流になるくらいだし、ちょっとしたハンター並みの頑丈さがある筈だから、過激なのにしちゃってもいいよね?

 

 

 宴会準備をしながら考え込んでいると、ふと指先に触れるもの。懐に入れていたそれは、一枚だけ処分しなかった処罰の応募用紙だ。

 いや、これ処分と言うか神機に喰わせると、何となく毒とか呪いを受けそうな気がして…。抽選の為、応募箱に何気なく手を突っ込んだ時に、異様な存在感を感じた応募用紙だ。それはもう、「これを引いたらきららがヤバイ」と一発で分かるくらいに。

 咄嗟にその紙は指先で折り曲げて握り込んで隠し、普通の一枚…つまり腹踊りと書かれた用紙を引いたんだが、この紙は一体…。

 

 誰にも見られないよう、厠で広げてみる。

 

 

 

 

 ………………うわぁ………怨念籠りまくっとる…。

 

 

 

 ……次の罰には、「アサギに誠心誠意徹底的に詫びる」を入れよう。いや、身に覚えのない事を詫びたところで、誠心誠意にはならない。ただ頭を下げただけだ。「アサギの気が済むまで愚痴に付き合う」くらいにしておくか。そんで、折り目とかで目印つけて、確実に引くようにしよう。

 この鬱憤が晴れる前にコレを引いたらと思うとゾッとする…。

 とりあえず、この紙は保管しておこう。きっと呪いとかに使ったら、いい媒体になる。

 

 

 と言うか、これは俺の失策でもあるな。きららの行動を、罰則付きとは言え許して、身内に加える事でアサギのトラウマが刺激される事を見落としていた。

 うぅむ…彼女の行動の責は俺にかかるのであって、アサギにはもう影響は及ばない……いや駄目だな。責が及ぶ及ばないに関わらず、近くできららの行動を見ているだけで、またアサギが血を吐きそうだ。

 やはり、二人を極力接触させないようにするしかないか。どの道、きららには監視を付ける必要もあるし。

 とりあえず、この宴会中はなるべくアサギの近くに居て労わろう。酔っぱらって文句を言われても仕方ないわ。

 

 

 

 結局、この日は丸一日宴会と言うか隠し芸大会になった。うちの子達も意外と芸達者である。何処で覚えて来たんだろうか…。

 ちなみにきららは、激しく腹を動かした事でアルコールが回ったのか、途中でダウンしてしまった。

 

 

 



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521話

ほほう、2月6日にP5Sの体験版。
これはやり込まなければなりませんな。
仁王2は出来なかったからなぁ…。

引越の準備も一段落して、後は仕事内容をどれだけ引き継げるかになっています。
引越当日からネットも使えそうですし、後は出勤日の問題かな…。

それはそれとして、PS4の自動イジェクトがまた始まりました。
オノレ静電気。
うーむ、台や静電気除去ブラシでも買おうか…。
いやいっそproに買い替え…2か月ツマミのグレードを落とせば買えるくらいだし…。
でも故障もしてないのに乗り換えるのはなー…。


堕陽月伍拾肆日目

 

 

 本日のきららは、丸一日アサギに付き合う事になった。…まぁ、何だ、最悪の命令はしない筈だから、頑張れ。念のため、本日は任務に行く予定がない紅を監視役として付けている。

 他の罰則としては、茅場の異世界語りに付き合うとか、博士の実験台とか、その手の物も用意してたんだけどね。

 

 それはそれとして、昨日の体を張った罰のおかげなのか何なのか、うちの子達も暫くはきららの様子見をする事にしたようだ。

 プライドをかなぐり捨てたとは言え、腹踊り一つで態度が和らぐ辺り、うちの子達も単純と言うか何と言うか…。

 

 正直、イカサマの手管としては単純極まりないやり方だったから、誰が気付くか不安だったんだけどね。気付いたのは一人だけだ。いや、多分気付いてて指摘するかどうか迷ってる子も居るだろうけども。

 少なくとも、気付いて話しかけてきたのは一人だけ。

 

 静流だ。

 

 眼鏡が似合う金髪巨乳。女教師の恰好とかさせたら、さぞ似合うだろう。

 普段の彼女は、里近辺の防備を固める為、鬼を惑わす植物をあちこちに植えて育てている。なので、日中に執務室にやってきた時には何事かと思った物だ。

 

 

「若様、少しいいかしら」

 

 

 ノックをして入って来た静流は、フェラ音が盛大に聞こえていただろうに、顔色一つ変えなかった。

 …体感時間操作の為に、今日は詩乃をご奉仕係にしていました。普段のクールっぷりは、毎度毎度コトを始めると宇宙の彼方に消えてしまう。今だって、静流が入って来てもお構いなし、フェラに夢中で気付いてすらいなかった。

 ここで止めたら、すっごい不機嫌になるのが目に見えてるな。オアズケするタイミングでもないし。

 

 あー、詩乃をこのままにしていいなら、構わないが?

 

 

「…できれば人払いしてほしいのだけど…」

 

 

 どうせこうなった詩乃は、何も耳に入らんよ。卑猥な命令の類なら別だが。

 

 

「いいの? きららさんについてのお話だけど」

 

 

 思わせぶりな言い方。あまり愉快な話ではない、という意味だろう。

 少し考えたが、仮に詩乃に聞かれていたとしても問題は無いと判断する。多分、詩乃も俺が小細工している事には気づいているし。

 

 

「そう…。なら率直に聞くけど、彼女をどうするつもりなの? 昨日も今日も、あの罰則は意図的に選んだものよね?」

 

 

 どうもこうもない。罰を耐え抜けば、皆の見る目も変わってくるだろ。適度に悲惨な姿を見せれば、敵意も同情に変わる。

 個人的な心境を言えば、独りぼっちで泣いてる子供を放り出すのは気分が悪い。

 

 確かに行動に問題だらけだったが、根が素直だからしっかり教えて躾ければ、そこは解決できる…筈。

 

 

「そう…。ま、私達は構わないのよ。色々と不満や不安はあるけど、若様が決めた事なら受け入れるわ。でも、里の人達はそうじゃないでしょう?」

 

 

 ああ、心配してるのはそっちか。

 まぁ、そうではあるんだけどな…。きららを里の男となるべく接触させないようにしていたから、今までの言動による悪印象は無い。

 しかしやった事がやった事なので、とてもなぁなぁで済まさせてくれるとも思えない。今の罰則だって、何だかんだ言って俺の意向を最優先にする傾向があるうちの子達だから受け入れられたようなものだ。

 

 悪印象が残るのは避けられない。それを、再度お役目に就かせるまでにどれだけ教育して、挽回できるか…。きららがこの里に居られるかどうかは、うちの子達の感情よりもそっちにかかっている。

 俺の今までのやらかして結構な前科が作られてるからな…。大和のお頭も、そろそろ本気でキレてもおかしくない。

 

 

「…大和のお頭はともかく……他の人達ならどうにかできるかもしれないわ」

 

 

 ? 他の人達って言うと…モノノフ達? それとも里人?

 

 

「両方よ。いくら大和のお頭が怒り心頭だったとしても、里の多くの人達から嘆願されれば、無視はできないでしょう」

 

 

 それでもやる時はやる人だが…。

 そもそも、里の人達がどうして嘆願してくれるんだ。そりゃ無暗に人が罰せられる事を望む気質じゃないが、無条件に許してくれる訳じゃないんだぞ。

 

 

「簡単な話よ。私は元々、そういう任の為に調整されているんだしね」

 

 

 …は? ……あ……あー……。

 そういや静流の資料を読んだ時、そんな記述があったな。潜入捜査や色仕掛けによる調査・篭絡を専門とするくノ一。

 原型をとどめないくらいに変質してきたとは言え、仮にも鬼の相手を専門とする滅鬼隊にしては珍しく、対人の謀略を専門とした隊員だ。

 

 つまり、静流の提案の意味は…。

 

 

「里の男達を篭絡させて、若様に都合のいい声をあげさせるわ。やり方は…分かるでしょ?」

 

 

 分かる。分かるから承諾できんな。 

 綺麗事だけで世の中を渡っていくつもりもないが、危険が大きすぎる。

 里の皆は謀略によって操るべき相手じゃなく、同盟相手だ。真っ当な説得ならまだしも、寝技に頼るべきじゃない。

 

 

「別にそこまでする必要はないわよ。二人きりで『お願い』するくらいで充分」

 

 

 かもしれん。だが危険はある。

 何より、一度関係を作ったら後に引きずる。男は勘違いする生き物だからな。

 距離を置けるならまだしも、里の人達にとっては隣人が恋敵になるようなもんだ。露見したら修羅場待ったなし。

 

 交渉方法としては真っ当な方だとしても、色々やらかしまくって、更にきららを庇おうとしてる上に、うちの子を複数人相手の色仕掛けに使って里人の関係に亀裂を入れたとしたら、今度こそ許されん。

 例え許されたとしても、信用は地に落ちる。

 

 

「かもしれないけど……打てる手は全て打った方が…いえ、それが若様の判断なら従うわ。下手を打つくらいなら敢えて動かないのも選択だものね」

 

 

 ありがとう。

 …と言うか、この手の策謀はいつかバレる事を前提に使わなきゃならんからな…。単純に状況に合ってないわ。

 

 

「そう? 本人の記憶にも残らないような記憶操作とかもできるわよ」

 

 

 いやそれこそ信用を失うし、露見した時の反発が大きいだろ。

 本心からそういう関係になるのであれば……………まぁ、何も言わんが。多分。

 

 

「ふふ、想像したくも無いのが見え見えよ、若様」

 

 

 自分は好き勝手に女増やしといてどのツラで、って言われると辛いけど、俺って独占欲が強くてなー。

 うちの子達については独占欲の他に父性みたいなのも出てるらしくて、他の誰かとくっつくと考えると嫁を嫁に出すような気分になる。娘じゃなくて嫁を。

 

 

「寝取らせ趣味はどうかと思うわ…。若様がそういう趣味が無いのは幸いだけど」

 

 

 …それに、こういう言い方をすると能力を疑っているようで悪いんだが……いくら色仕掛けの為に調整されているとは言え、やったのが例の連中だぞ。

 果たしてどれ程当てになるものやら…。

 

 

「あら、だったら試してみればいいじゃない。若様が相手なら、私も仕事やお役目抜きでお相手するわよ。結構自信あるんだから」

 

 

 自信あるったって、経験に裏打ちされた自信じゃなくて、目覚めた時から持っていた「何となくできそうな気がする」って自信だろうに…。

 ま、そういうお誘いなら断る事は……イテッ

 突然鋭い痛みが股間に走る。目をやれば、「私がしてるのにいい度胸じゃない」とでも言いたげに、詩乃が上目遣いで睨みつけていた。怒って軽く歯を立てたようだ。

 

 

 …悪いな静流、今は詩乃が悋気出してるから、今夜に部屋までおいで。…それとも、俺から夜這いされる方が好みかな。

 

 

「あらあら、だから詩乃さんに聞かれてもいいのかって言ったのに…。それじゃ、今夜部屋に行くわね。準備万端に整えていくから、期待してて頂戴」

 

 

 静流は頬にキスをして、颯爽とした動きで部屋を出る。揺れる桃尻に目を奪われて、今度は詩乃がタマを強く握り込んだ。潰すわよ、とでも言いたいのか。

 やれやれ、悋気はいいが実力行使に出るとはね。まだまだ躾け方が甘かったようだ。

 

 尚も口で搾り取ろうとする詩乃を押し退け、机の上に引っ張り出す。

 

 お仕置きの時間だ。さぁ、一番恥ずかしいところを、自分で見せてみな。

 

 

「アァ……ハァ……ハァ………っ……」

 

 

 小さく息を呑み、興奮と期待に塗れた顔色で、机の上に上半身を乗せ、バックの体勢で尻を突き出す。僅かな躊躇いと共に、自分の手で尻肉を掴み、不浄のの穴の奥を見せ付ける詩乃。

 奥まで腸液でヌルヌルと輝き、期待でヒクついているそこに、容赦なく滾り切った肉棒を突き込んでいく。

 程なくして、ケダモノの声が響き出した。

 

 ちなみに、静流は部屋から出た後、ガッツポーズしたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、詩乃はダウンし、交代して体感時間操作の為のお相手になった天音が腰砕けになった辺りで、本日の書類仕事は終了。

 まだ太陽は頂点にも達していない。体感時間操作の有難さが実感できる。

 

 今日は何をしようかな。夜は静流と約束しちゃったから、何かやるなら今のうち。

 久々に新しい施設でも考えるか、それとも全く話が進んでいなかった練武戦の相談でもするか。うちの子達とのスキンシップ……は、ついついR-18に発展させちゃいそうだ。それは別にいいんだけど、静流との逢瀬を楽しむ為に、ちょっと貯めておくのもいいだろう。

 

 うーん……このところ、あんまり体動かしてなくて(セックスは除く)、ちょっと訛ってるしな…。

 偶には真面目に狩りに行くか。フロンティア並みの相手は流石に期待できないが、異界の奥の方に行けばそこそこ手応えがあるのも居るだろう。

 …そういや、いつぞやのループで下半身のみの鬼も出たな。他の鬼と合体して操られている(そしてその鬼が弱くなると潰れる)鬼だったが、今やりあったらどうなるだろうか。

 今回も見つかるとは限らないが、もしも鬼達が勝手に封印を解いて暴れ出したら、また話がややこしくなる。今のうちに仕掛けて斬ってしまうのも、悪い選択ではないか。

 

 …よし、一丁行くか! 一人で行ったのがバレると怒られそうだから、こっそりと。

 散々禁止した単騎特攻を自分でやってる? 俺はいーのだ!

 

 

 

 

 

 

 そういう訳で、まだ浄化されていない異界までやってきました。

 うーん、通り道に元異界を通ったが、改めて見ると感無量だなぁ。瘴気の毒への対抗策が無かった頃は、何度限界を迎えて力尽きた事か。

 環境ってのは、どんなに強くなっても打ち勝つ事ができない難敵だからな…。中には天候を自分の都合のいいように変えてしまう、古龍みたいな規格外も居るが、それにしたって地形までは変えないからな、基本的には。

 

 途中でお役目遂行中のモノノフ集団を発見。浄化された区域の中で残っている鬼の討伐が、今の彼らの主な任務だ。

 異界が無くなった事で行動しやすくなったとはいえ、敵が弱くなった訳じゃない。一応様子を見ていたが、無理なく倒せるだけの実力を持っているようだった。

 

 …今までのループに比べると、一般モノノフ…主力ではないモノノフ達の戦力が上がってるな。

 何でだろう…と考えたが、単純な事だった。うちの子達が居たからだ。

 戦力になる人の人数が増えれば、個人個人の負担は減る。任務に駆り出される事も少なくなるし、それだけ怪我も減るし、その治療の為に動けない時間だって減る。

 そうなれば、自分の為に使える時間も増える。具体的に言うと趣味とか鍛錬とかね。

 

 そこで一直線に鍛錬に走る人は少ないだろうが、そこは新たに頼りになっている戦力が、うちの子達だからな。

 一見すると極上の美女美少女美ょぅι゛ょばっかりだもの。いいトコロを見せたいと思いもするだろうし、彼女達が大暴れしているのに自分達が縮こまってるんじゃ…という意地もあるだろう。男として強くありたいという気持ちと、新参者にばかり任せておけるかと言う守護者としての気持ちだね。

 ……身近に接していると、頭が残念なところとか、暗示のお陰で頭領にベタ惚れな所とか、色々見えてくるだろうが……自分にも出会いが!みたいな事を考えている人だっているかもしれない。

 …やっぱり、静流の色仕掛けを使わせるのは危険だな。引っ掛かりはするだろうけど、その後が厄介だ。

 

 

 ともあれ、大丈夫そうだったので離脱。異界に潜り、記憶を頼りにあの鬼が封印されていたと思しき場所を探す…が、流動の為か、それらしい物は見つからなかった。

 んん…この辺に無いとなると…もっと別の場所に流れたか。ろくな手掛かりも無いし、探し出すのも難しそうだ。

 どうしよう…手応えがある相手が居なくなってしまった…。

 そこらの雑魚じゃ、束になって襲ってきても相手にならんし……乱獲すると縄張り争いが激しくなって、話がややこしくなりそうだ。

 しかしこのまま帰るのも面白くない。

 

 

 

 ん~~~…………あ、そうだ。今回ループでは今までとは明らかに違う所があるじゃない。あそこ見物に行ってみよう。

 ……謎の鬼(ダレダロウナー)が消し飛ばした、古の領域に。

 

 実際の所、あそこをしっかりと探索はしてないんだよな。大暴れしてた時には我を忘れてたし、その後は何か勘付かれると面倒だったから、痕跡だけ消してさっさと立ち去った。

 残っているのは、更地になった大地だけ。鬼すら近寄らないときた。

 しかし、ゲーム的に考えれば、そういう場所こそ何かありそうじゃないか。イベントが終わった(消し飛んだ)後のマップ。最初期のチュートリアル以来、一度も訪れず、そのまま忘れ去られていくダンジョン。だがそういう場所にこそ、何の脈絡もなくレアアイテムとか2~3番目に強い武器とか隠しボスとか開発スタッフの小ネタとかが転がっているものだ。RPGのお約束だネ。

 

 よし、善…ではないけどとにかく急げ。あの辺まで入ってこれるモノノフは速鳥くらいで、その速鳥も謎の鬼に対するトラウマの為になるべく近付きたがらないようだが、グズグズしていればそれだけ発見される危険も高くなる。

 何か面白い物が見つかる事を祈って、レッツらゴー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …うん、確かに面白い物はあったな。何で異界の穴がこんなトコにあるんだ? しかも超界石っぽいのとセットで。

 

 

 

 

 

 まず、古の領域にやって来たんだが…動く物一つ無い。天敵がいない区域の筈なのに、鬼が入って来た形跡すらない。一体どれだけ恐れられてるんだ、例の鬼。…と言うか、そこまで怒り狂ってたのか…。

 風も吹かず、空にも雲一つかかってない、更に視界を遮る物もない。隣の異界まで視認できるちょっとした荒野。

 一応念のため、鬼の目とか鷹の目とか使って見てみたが、やっぱり何も視認出来ず。緑色の粒子も確認できなかった。…ギリギリセーフやな。

 

 やっぱり外れだったかなぁ………と溜息を吐いた時、違和感を感じた。

 こう、何と言うか……遠近感を狂わされているような、よくできた騙し絵を自覚せずに見ているような、そんな感覚。

 首を傾げてよく観察しても原因が分からず、とりあえず歩き回ってみた。

 

 そして見つけたのが、この……異界の穴。

 シノノメの里で異界浄化に失敗した時、開いてしまったのと同じ穴だ。ただし、この穴が見えるのは一方からのみ。別の方向から見ると、対面が普通に見える。…シノノメの里に空いた穴って、こんなんだったっけ? いや、あそこに空いた穴の反対側から見る事はできなかったな。山にドンと被さってたから。

 入ったら出てこれない…と言う事は無く、普通に出入り可能。穴を潜った先は、まだ破壊されてなかった時の古の領域だった。ただし、その辺に居る鬼はかなり強力だったが。

 向こう側の出口には超界石があって、妙な光を放っていた。

 

 …ていうか、これ超界石だよな。これもシノノメの里にあった奴だ。宝玉を入れると、何故か別世界の物がランダムで出てくる。シノノメの里にある奴は、一人の男をガチャ沼に沈めてしまったそうだが…。

 この光は、あのガチャが発動する時と同じ光のように思える。

 

 と言う事は……ひょっとして、こいつが何らかの理由で発動したから、異界の穴が開いたのか?

 それとも、謎の鬼が大暴れした結果、世界とか空間とかに傷がついて、そこから進んでいった断裂がこの超界石に引き寄せられたのか。

 何にせよ、ここは普通の異界とは違う。

 

 

 

 

 

 実に探索のし甲斐があるな! 訛った体に丁度いい相手も多そうだしな!

 よし、狩りまくるぞー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ、満足満足。久方ぶりに命の危険を感じられる狩りだったわー。

 マジでヤバかったのは、帰り道が塞がれかけた事だけどね。超界石の光が弱まって、異界の穴が消える寸前だった。

 その辺の鬼から入手した宝玉を突っ込めば、もう一度道が広がったんだが…いや慌てたのなんのって。

 もしも完全に道が途絶えてしまったら、再度超界石を起動させたとしても、同じ場所に繋がるかは分からない。

 試すなら試すで、安全な方法を考える必要があるな。

 

 …塞ぐ…のはちと勿体ないな。暫く様子見して、自然消滅するなら仕方なし、そうでないならストレス解消の狩場として活用するか。

 

 しかし、何だってあそこに異界の穴が出来たのやら。

 …ひょっとしなくても謎の鬼のせいだよな………誰にも気付かれてないよな? 明日奈達はともかく。

 

 

 うーん…そう言えば、シノノメの里でやった時も、異界浄化に失敗したから…だよな。

 ここでは術は使わず、結果的に異界を浄化してしまった訳だが……ひょっとして、大量の瘴気を、何らかの方法で消滅させる時、上手く処理できなかったら異界の穴が出現するんだろうか。ちゃんとした異界浄化の術は、その辺までフォローしてくれていると。

 …つまり、ここで大暴れした事によって、やっぱりオオマガトキ第二段が勃発する可能性があった訳か…。……我ながら、何でこうも何度も何度もオオマガトキを起こしかけるのやら。

 

 

 ま、いいか。そこそこ体も動かせたし、危険を感じたおかげで生存本能が滾ってるし、帰って静流との逢瀬を楽しみにしますかね。

 

 

 



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522話

 

 

堕陽月伍拾伍日目

 

 

 ふぅ~~~………。

 

 ほふぅ~~~~~…………。

 

 朝だなぁ…。空が白んできてるし、鳥の声がする。

 心地よい倦怠感を感じたまま、敷布団の上で胡坐をかいている俺。なんちゅーか、煙草とか煙管が欲しいな。ヤッた後の一服って、なんかカッコイイし。煙草の類は苦手だから吸ってないけど、こう、雰囲気がね。

 

 

 

 

 

 

 尤も、隣で寝ているのが穏やかで幸せそうな美女ならともかく、完全屈服して脳味噌吹っ飛んで性欲最優先の、アヘ顔ダブルピース女じゃ、雰囲気もクソもありゃしないけどな。

 で、静流。お前、まだ里の人達を篭絡とか言えちゃう訳?

 

 

「え…えへへへ…いい…ませぇ~ん……静流は…若さ…ま…専用の……です…」

 

 

 昨晩の、自信に満ちて飄々とした態度は何処へやら。大股開きと理性の無い顔で、譫言を漏らして痙攣している。

 腰が抜けてるとか、そーいう問題じゃない。やっといてなんだけど、精神的にぶっ壊れてないか、本気で心配になる乱れ度合いだった。それでも一晩攻め続けた俺も俺だけども。

 

 まぁ、予想できた結果ではあるな。静流は閨の技術にかなりの自信を持っていた。

 実際、昨晩はかなり楽しませてもらったものだ。

 いつも通りに皆で飯食って風呂入って、その後に静流は俺の部屋までやってきた。手土産に持ってきた酒とツマミも美味かった。

 

 静流は雰囲気や事前の会話も重視するタイプで、その辺も見事なものだった。

 会ったら即抱き合うような、一直線じゃあなくて、ちょっと焦らすようで、ほろ酔いにしながら相手を持ち上げていい気分にさせ、それでいて主導権を確保してからお楽しみに突入。

 テクニックだってかなりのものだった。接吻も、手淫も、口淫も、紅葉合わせも、明かに専門家的な技術を持っている。

 気持ちよく射精させるのも、寸止め地獄で情けない悲鳴を挙げさせるのもお手の物。

 受けに回っても余裕たっぷりで、体を弄り回されても自分のペースを崩さない。喘ぎ声をあげても、まだ余裕があるのがよく分かった。ついつい、「この女を本気で善がらせてみたい」と思ってしまう。

 

 そんじょそこらの男なら、あっという間に禁断の性の味を覚え込まされ、骨抜きになってしまっただろう。

 少なくとも、彼女を色仕掛け用に調整した奴は、かなり『分かっている』奴だったと思われる。机上の空論だけじゃない、それなり以上に女との接し方と、女からの接され方を知っている奴だったんだろう。

 

 

 

 

 

 尤も、本番に突入した瞬間に、そんな評価は吹っ飛んだけどな。

 

 

 

 

 いや、もう何て言うか…弱かった。突っ込んだだけでガチイキするくらいヨワヨワだった。

 体の表面を責められるのは強いのに、肝心の一番大事な部分がクソ雑魚まんこもいいところだった。

 オカルト版真言立川流を使うまでもない、いやそれどころか基本的な技術を使う必要すら無い。男に突っ込まれたら、それだけでアヘアヘ言っちゃう、童貞君にも負けちゃうような、超絶的に打たれ弱くて快楽最優先の、ド淫乱ちゃんでした。

 

 

 …まぁ、予測できた事ではあったな…。予測可能回避不可避な案件だが。

 だって静流って確かに色仕掛け用に調整されてるみたいだけど、それをやったのは阿呆の集団だぜ。

 しかも国営オナホ作った上、そいつらを任務に出して無様に失敗するのを期待してたような。

 それを加味した上で静流の状態を考えると……任務中は男を焦らして手玉に取る、凄腕の間諜。しかしいざ本番となると…つまり、精神安定の為に主に抱かれるとなると…あっという間に完堕ちして屈服する、主に対してだけは雑魚助極まりない女になる。

 

 何だかなぁ…。いや俺もそーいうの好きだけどね。周りに対してはツンツンしてるけど、自分に対してだけ従順で献身的になるとか、独占欲とか優越感が超刺激されます。

 …でもこれ、もしも任務に送り出した先で手や口だけじゃ終わらなかった場合、本番になったら即堕とされるんじゃなかろうか。と言うか、任務失敗を期待して送り出したのだとしたら、堕とされるのも期待されている訳で…。

 ………寝取られ趣味でもあったんだろうか、彼女を調整した奴は…。

 

 

 ともかく、これじゃ篭絡も何もあったもんじゃない。多分、静流ならそこまで行かなくても相手を操る方法は心得てるだろうが、それがエスカレートしたら…。

 色恋に狂うと、人は理性が吹っ飛ぶからな。思いを募らせるあまり、暴走する奴が出ないとも限らん。それで強姦でもされたら……即堕ち、かな…。まぁ寝取り返すのは簡単だろうけども、あらゆる意味で対人関係が滅茶苦茶になっちまう。

 

 まぁ、なんだ。そっち系の技術を全て使うなとか、否定する訳じゃないから、これからちょっとずつ耐性を付けていこうな。

 自分で言うのも何だけど、俺の相手して理性が吹っ飛ばない程度になれば、仮にナニかされてもそうそう好き放題される事は無いと思うから。

 

 

「は、はぁ~……い……さっそく…れんしゅう、しましょぉ…」

 

 

 やれやれ、完全に頭が性欲一色になってるな。俺もあんまり人の事言えないけど、生活に支障が出る程ではないぞ。人生には何度も支障が出たけどな。

 とりあえず、一回気絶させるか。一眠りすれば頭も冷えるだろう多分。

 …ぶっ飛んだ理性を回復させるセックスも出来なくはないんだけど、あれは専ら羞恥心を消さない為に使ってるからなぁ…。

 自分の失態(痴態)を思い出して頭を抱えそうなのもあるし、起きたら暫く一人にしてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、静流の世話を時子に任せ、朝風呂を浴びて頭をスッキリさせてから考える。

 時期的には、そろそろ鬼の指揮官…ゴウエンマとやり合う頃だっけか。

 

 ゲームストーリー的にはどうだったっけな…。確か速鳥のイベントは、ゴウエンマ戦の後だった筈。

 しかし………それ以上の事が思い出せん。ゴウエンマ戦って、何かあったっけ?

 里の皆の特攻癖は、速鳥を除いて一通り終わってる筈だし、ゴウエンマに関連したエピソードは特に無かった気がするんだが。

 

 …鬼の指揮官、前半戦の山場な割には、普通に狩りに行ってただけのようだった気が…いやそれが悪いとは言わないけど、思い返すともうちょっと盛り上がりや話の展開に変調が欲しかったような…。

 いや、この考えはいかんな。ゲームとして考えるならともかく、今は現実だ。余計なドンデン返しなんかあっても困る。

 

 とは言え、実際問題っちゃ問題なんだよな。何だかんだで、橘花の口八丁のお陰で鬼の指揮官やオオマガトキを呼ぶ塔の事は知れているが、実物は未だに手掛かりすら見つかってない。

 今までのループでも、ここまで見つからなかった事は無い。

 …橘花が千里眼で見たのは、鬼の場所じゃなくて俺の過去だったからな…。もしもゴウエンマが従来とは違う場所に移動しているとしたら、どうやって見つけたものか。

 速鳥を初めとした偵察班も色々頑張ってくれているようだが、異界は広大な上に入り組んでいる。手掛かり無しじゃ、ちょっと見つけ出せる気はしない。

 

 ……実は古の領域の中に居て、既に消し飛ばされていた…なんてオチはないよね? 或いは、例の穴を抜けた先の異界に居るって事もないよね? ない事を祈るが、一応調べに行った方がいいかもしれんな…。

 

 

 差し当たり、俺達が今優先すべき事としては、やはり異界の浄化だろうか。

 オオマガトキを起こすなら、恐らく周囲にそれなり以上の瘴気が満ちているのが条件の一つ。異界を浄化してしまえば、その条件を完全に潰してしまえる。もしも異界を浄化した場所に塔が無くても、探索する範囲を狭める事は出来る。

 

 …となると、次の目標はゴウエンマが居た筈の戦の領域だな。戦の領域に至るには、まだ浄化されてない乱の領域を抜ける必要があるが…そう長い距離を進まなければいけない訳じゃないから、別に問題は無い。

 一応大和のお頭に報告して、うちの子達メインで探索する事にしよう。

 

 さて、あの辺の鬼って何が居たっけな。異界浄化の影響で、今までにない鬼が出てくる可能性もあるが、情報を纏めておいて損は無い。

 あの辺の鬼と相性のいい子を選ばねば。

 

 

 

 

 

 

 

 夕方。

 今日もそこそこ充実した一日だった。と思う。

 大和のお頭からは、今度の動向についても了承を貰えたし、きららの事も……次は無いという条件で様子見を許してくれた。

 ついでに、鬼の指揮官討伐・オオマガトキの為の塔をぶっ壊したら、その時こそお祭りも兼ねて練武戦を行おうって話になった。

 来年の話をすると鬼が笑うと言うが、笑ってればいい。油断しているところに首を掻き斬るまでだ。

 

 練武戦か…。うちの子達、どれだけやれるかな。

 改善が必要な点も多いけど、ちゃんとした教育を受け、実戦経験を積み、その後の反省会までしっかりやらせているお陰で、結構な勢いで実力を伸ばしている。

 それでも対人戦とは勝手が違うし、何より里のモノノフ達は経験という点では間違いなくうちの子以上。極限状態で生き残るための底力は、恐らく比べ物にならない程だ。

 防御に徹されて、焦れて来たところで反撃を狙われれば、実力差を覆される可能性は充分にある。

 ま、負けも時には必要なもんだ。

 

 

 …それまでに、きららが皆に認められればいいんだが。

 

 

 

 

 そのきららは、紅に担がれて目を回しているんだけどね。

 ……紅、何がどうなった。

 

 

「む、お父さ…もとい若。何って言われても、見ての通りとしか言いようが…。今日の罰は、アサギさんの愚痴に気が済むまで付き合う事、だったろう」

 

 

 …気が済むまで付き合って、こうなったのか…。

 

 

「正確に言うと、気絶したのを見てようやく矛を収めてくれた、って感じだな。どれだけ鬱憤が溜まっていたのか…。見ていて同情するくらいだったぞ」

 

 

 どっちに?

 

 

「両方に。自分がやった事らしいが、身に覚えのない事で責められるきららもだし、それだけ負担をかけさせれ続けていたアサギさんも。…なぁ若、まだ舟に封じられている人達がいるが、本当に解放するのか?」

 

 

 ああ、時期はともかく、いつかはするつもりだ。

 …どうした? 反対と言うか、懸念事項でもあるのか?

 紅にしては珍しいな。普段であれば、むしろすぐにでも解放したいと思ってそうなのに。

 

 

「ああ、それは確かだ。封じられている同胞を見捨てるなど、正しき人の道ではない。…だが、アサギさんから聞く過去の話を考えると、どうにも…。きららを迫害していたらしいし、その他の問題行動も、聞けば聞く程な…」

 

 

 その懸念はよく分かる。

 でもきららもその問題児の一人で、問題行動にも理由はあった。努力の方向を盛大に間違えていた訳だが。

 ちゃんと言い聞かせて、自分達の行動の何処が悪かったのか自覚させれば、案外何とかなるかもしれん。幸い、過去の記憶が残ってない子も居るだろうしね。

 

 それ以前に、少なくとも放置はできんのだ。

 滅鬼隊の戦力は証明されてしまった。ちゃんと下地を整える必要があるとか、教育が必須だとか、その辺の事はさておいて、強力な力を持った無所属のモノノフ。記憶を失っているかは目覚めさせないと分からないが、もしも何も覚えていないようなら、恩を着せれば自分の陣営に取り込むのも容易だろう。

 …要するに、まだ眠っている子達を狙って、政治屋気取りや戦力が欲しい連中が集まってくるかもしれないんだ。

 まぁ、本当に危険な状況に陥っている里なら、援軍を出すのも吝かじゃないが、目を覚ましてない、何が出来るのかも分からない子を道具のように渡すのは違うだろう。

 

 

「成程…。そうなるくらいなら、起こしてここで現在の状況を教え込み、我々の一員として扱った方がいいという事か。追放になる場合や、独立を望む場合もあるだろうが」

 

 

 そういう事。誰かが手を伸ばしてくる前に、全員起こして自分で判断できるようにするのが理想なんだけどな…。

 ところで、きららと随分仲良くなってないか? 紅も、きららのやった事は許容しがたいって考えだったのに。

 

 

「やった事は確かに許容できないが、彼女の引け目には私も覚えがある。…私の力は、今でも忌避すべきものだと考えている。それを知られ、孤立したらと思うと……仲間と認められる為に暴走した彼女の気持ちも、分からないではない」

 

 

 紅が言う力とは、彼女の切り札…圧倒的な再生能力と身体能力を齎す、鬼の力だ。恐らく、滅鬼隊の源流に近い力なんだろう。ひょっとしたら、きららから得られたデータを元に、紅は創り上げられたのかもしれない。

 鬼を素材にして異能を取りつけられているのは他の子達も同じだが、紅はその力に対する忌避感が特に強い。

 彼女がよく口にする、「正しき人の道」に拘るのも、その鬼の力に対する反発なんだろう。

 自分を人と異なる異物であると考えている節があり、孤独感を抱えている。そのくせ、根が寂しがり屋で甘えん坊。とっ捕まえて甘やかしている時に、俺を『お父様』と呼んでしまって慌てる事もあった。

 そんな紅は、きららの過去…鬼の仲間ではないかと迫害されていた彼女に、自分を重ねて見ているのかもしれない。

 

 全く、優しい子だねぇ。甘いとも言えるけど。

 

 

「…それは若だって同じだろう。きららを斬り捨てる事を良しとできなかったから、こうやって代案を出したんだ」

 

 

 

 尤も、その忌避すべき鬼の力は、再生能力は処女膜復活に、身体能力は締め付けやバキュームを強烈にする為に、躊躇いなく使われている訳ですが。

 うちの子達は目を覚まさせる為に纏めて睡姦したからな。破瓜を体験できるというのは、かなり羨ましがられています。

 

 更に言うなら、日ごろから「正しき人の道」に拘っているのに、本人は背徳的な好意にゾクゾク来てしまうらしい。

 まだ良識を捨てきれる程、『趣味』に耽溺している訳ではないので、まだ不浄の穴を弄り回す程度。指も入れられない段階なので、舌先で念入りに穿り返す。

 触れてはならない場所を敢えてゆっくりと開発され、体が変わっていく絶望とと羞恥心と背徳感を二人で堪能しています。

 

 

「そ、それは! お父様が! …って、きららも居るのに、道端で何て話をしてるんだ!」

 

 

 きららは気絶してるから問題ない。うちの子達なら、紅が甘えん坊な事はとっくに知れ渡っているので、猶更問題ない。

 ちなみに紅のお父様呼びは、睦言では完全に定着している。最初に呼んでしまった時は盛大に慌てたが、近親相姦ごっこが出来ると悦んで、むしろ命じて続けさせた。

 本人も最初は拒否しようとしたが、甘えさせられて骨抜きになった上、禁断の関係に大興奮してしまった。そしてその興奮が忘れられずに、人前では若、男女の時間ではお父様と呼ぶようになった訳だ。

 

 

「うああああああ何喋ってるんだ改めて何やってるんだ私ぃぃぃぃ!!! お父様の馬鹿ぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

 

 …からかい過ぎたかしら。鬼の力まで使って、きららを担いで爆走して行ってしまった。

 お詫びに、今夜の夜這い最初の一人目は紅にするか。…いや、それとも特殊嗜好部屋(SMルーム)に呼んだ方がいいか? 緊縛くらいなら、今の紅でも抵抗なくヤれそうだし。

 

 ふむ……ともあれ、まぁ、問題ないな。きららにも早速、仲のいい相手が出来たようだし。おっと、鹿之助も助けられて懐いてたっけな。

 後は、このままギリギリ洒落で済ませられる程度の罰が続く事と、きららの忍耐力が限界を迎えない事を祈るだけだ。

 

 …適当なところで、きららのケアもしなきゃいかんな。

 舞華とは喧嘩したままだろうし、上手く受け入れられる為に……………舞華?

 

 …いかん、舞華の報酬の事忘れてた。普通の任務の受け方じゃなかったから、報酬の受け取り方も違う。どこでどう受け取るのかも伝えてなかった。

 それに、大きなトラブルは無かったが初任務で疲弊しただろう。精神的に不安定になっている可能性はある。場合によっては、抱いて落ち着かせてやらなければいけない。

 

 とりあえず、遅くなって悪かったあと謝って、状態を見るか。

 報酬内容は…ハクにするか、武器とか道具がいいか……本人に選んでもらおう。

 

 

 

 

 

 

 追記

 

 舞華は特に不安定にはなっていなかった。

 報酬を聞いたら、ハクを希望された。里で豪遊したいようだ。

 

 



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523話

引越直前になって誤算が…。
酒屋に行って、割引券とポイントカードがあるのを思い出して、残高を聞いたらまさかの5,000円近く。
引越し先には同じ系統の酒屋が無いので、使わなければ無駄になる。
ツマミじゃ使い切れないので、仕方なくアサヒドライを1ケース購入。
現在、我が家の冷蔵庫にはビールがずらりと並んでいます。
冗談抜きで、それしか入ってない。

…引越当日までに飲み切れるかな…。
義務で呑んでも美味しくないけど、残すのも勿体ない。
…ポイントカード、誰かにあげればよかったかなぁ…。


 

堕陽月伍拾禄日目

 

 

 紅に新たな背徳の悦びを教え込んだ翌日。

 

 本日の罰として博士にこき使われているきららを肴に、里の甘味屋で一番高い品を食っている舞華。

 鹿之助は里の人達から探し物を頼まれ、骸佐はたたらさんと武器の事で何やら話し込み、権佐は何故か畑仕事を手伝っている。

 道場では神夜が思う存分稽古に明け暮れているし(相手してる里のモノノフさんに同情する)、本日の食事当番の明日奈は買い物中。詩乃は最近の趣味、バードウォッチング(兼狩り)で肉を確保しようとしている。

 子供達と遊んでいるのか遊ばれているのか、雪風が子供を追いかけて走っていくのが見えた。それをあらあらと微笑みながら見送る不知火…その乳やうなじに男達の視線が集まっているのに、気付いているのかいないのか。

 散歩していた橘花は俺と会うやいなや雌の顔になるし、秋水は何やら難しい顔で術の研究中。

 

 …何気ない一日って奴かねー。平和平和。…道場で地獄見てる奴も居るようだが。

 そんな中、大和のお頭から召集がかかった。

 俺だけじゃなく、里の主力陣全員にだ。……って事は、お説教じゃないよな、きっと。ここで「今からお前達には殺し合ってもらう」とか言い出したら……キャラじゃねーな、思い浮かばんわ。

 

 

 

 

「塔の場所が判明した」

 

 

 塔の。……って、オオマガトキを開く為の塔?

 

 

「ああ、その塔だ。里から最も距離が離れた異界、乱の領域の奥深く。そこに多くの鬼が集まり、塔を築き上げようとしている」

 

 

 乱だったか…。惜しいな、隣の戦の領域を先に浄化しようと思ってたんだが。

 いやそれはいいんだが、またゲームストーリーからズレが出たな。今更だけど。

 ストーリー展開の順番で言えば、まず鬼の指揮官であるゴウエンマの居場所が判明し、その討伐後に塔を発見、その塔を隠す為の結界を張る鬼が現れて、そこから速鳥イベントに突入…と言う流れだった。

 指揮官討伐がすっ飛ばされてるんだな。

 

 …正直、気がかりと言えば気がかりだ。オオマガトキの塔の周囲には、多くの鬼が集まっていた。しかしその鬼は一体一体は強力だったとしても烏合の衆だった。

 そこに、指揮官役のゴウエンマが加わったとしたら? …塔を守る鬼達が、組織立った抵抗を見せるようになるかもしれない。

 

 

「乱の異界か…。俺もまだ行った事はねえな。到着するまでに活動限界が来ちまう。おい速鳥、お前、そんな所まで一人で行ってたのかよ」

 

「…任務ゆえ」

 

「…? どうした、速鳥。何か気になる事でもあるのか」

 

「…………例の謎の鬼の痕跡が、全く無いのが気にかかる。古の領域を消し飛ばした鬼神、拙者が見た何よりも危険な鬼。探索中に奴の痕跡が無いか注意していたが…戦いの痕跡はおろか、足跡一つ見つからぬ。…貴殿、何か心当たりはないだろうか?」

 

 

 うぇ、お、俺? 何で俺に聞く?

 

 

「…何でも何も、お前の知人だったんだろう」

 

 

 あー…いや、知人だった可能性が高いってだけで、具体的な事は何も覚えてないんで…。(という設定だったよな)

 こ、痕跡を探すって言っても、相手は人と大差ない大きさの鬼だぞ。異界の中でその足跡を探すのは、流石に厳しいんじゃないか? 初穂みたいに、鬼の手を使った霊視術みたいなのがあっても。

 

 

「? 貴殿にしてはおかしな事を…。鬼に限らず生物が活動すれば、痕跡は必ず残るもの。忍びの術を持ってすれば、その痕跡の一欠片を探し当てる事も不可能ではない」

 

 

 不可能ではないってだけで、確実じゃないだろうに…。それに、そういう探索術は、それまでに積み重ねた伊呂波があってこそだろう。お前が気にしているのは、完全に未知の鬼だぞ。俺だって、奴が普段どういう生活をしているのか、全く検討がつかない。

 …ただ、周囲の異界に一切痕跡が無いってのは、確かに不自然だな。

 異界を喰らう性質上、他所の場所に行くとは思えないし、他の鬼の縄張りに入り込んだらその周辺ごと即斬殺するだろうし…。

 

 …どこにも痕跡が無いって事は、まだ移動してないんじゃないか? 消し飛んだ古の領域の何処かに潜伏しているとか…。

 

 

「…あれ以来、古の領域を訪れていないが、隠れられるような場所は無かったでござる。地面に潜って姿を隠したとしても、その痕跡なら見つけられる」

 

「その鬼に関しては確かに気になるが、痕跡すらないのであればどうしようもない。…案外、ずっと遠くの異界に去ってしまったのかもしれんぞ」

 

「…うむ…」

 

 

 楽観は禁物だが、腹も減ってないのに暴れ出す事は無い…と思う。少なくとも人間相手に興味は示さないよ。その分、暴れ出したら周囲に何が居ようがお構いなしだけど。

 

 

「まーなんだ、もし現れて暴れ出したら、その場を任せてさっさと逃げるのもありじゃないか? 領域そのものを消し飛ばすような大暴れをしたら、塔だって無事ではいられないだろ」

 

「…それも一つの手ではあるが、不安が大きいな。せめて、その鬼を誘導する方法でもあれば…」

 

「そう言えば秋水、あんたそういう術を研究してなかった?」

 

「…ええ、今もしています。未完成ですが、それなりの成果は出ていますよ。尤も、その鬼が人から変じた未知の鬼である以上、通用するかは分かりませんが」

 

「いや、その鬼に効果が無くても、周囲の鬼をその鬼に向かわせられれば…」

 

 

 

 喧々囂々。……心臓がバックンバックン跳ねてますが、何とか気付かれていません。

 どうしよう…いやもうこの際、鬼に変わる事がバレるのは別にいいんだ。俺個人はどうとでもなる。里から追放されたとしても、どっか別の場所に移り住んで独立できるくらいには、うちの子達も生活+戦いに慣れてきている。

 …でもぜってー怒られるよなぁ…。気にするのそこじゃねーだろって話だけど、ぜってーこっぴどく怒られるよなぁ…。

 バレたらマジで追放も有り得る。鬼に対する恐怖じゃなくて、散々やらかした上に、異界を消し飛ばすなんてとんでもない事やってしらばっくれてた罪で。

 

 …うん、何も言うまい。ここまで来たら、今言っても後で言っても怒られる度合いが違うだけで罰の内容に変化はあるまい。結果が同じなら、隠し通せる可能性に賭ける…! きっと殺人を犯した人間が逃げ隠れするのはこんな心理からだ……。まぁ俺とっくに殺人犯になってんだけど。だが凌辱用の汚ッサンを殺った事に後悔は一切ない。証拠も残してないし。

 

 

 それはそれとして、速鳥の様子がなんかおかしいな。謎の鬼の事をきにかけているのは確かだろうが、他に懸念を持っている…よーな気がする。

 こーいうのを放っておくと、必ず面倒な事になるんです。経験上分かります。

 しかし、誤魔化したという事は正面切って聞いても正直に答える訳もなし。

 

 …あとでこっそり尾行してみるか。とりあえずこの場は例の鬼が出現した場合の対策について話し合い、翌朝に討伐に向かう事になった。

 

 

 

 

 

 

 さて、速鳥を早速尾行している訳ですが………なんであんたまで居るの、息吹=サン。

 

 

「何でも何も、速鳥の様子がおかしいのに気付いているのはお前だけじゃないってだけだ。あいつ、忍びみたいな恰好してるのに、隠し事とか苦手なんだよな」

 

 

 覆面で殆ど表情見えないけど、態度に出るもんなぁ。他に気付いてるのは?

 

 

「全員。皆で様子見に来るとすぐ気付かれるから、一人一人交代で見張る事になった」

 

 

 …いつ相談したの? 俺、そんな話聞いてない…。仲間外れにされたみたいで、地味に凹む。

 

 

「俺らが相談する前から、さっさと尾行に向かっていったからな。相談しなかったのは、お前の方だよ」

 

 

 ……凹む。そして、やむ…。

 で、実際の所、速鳥に何があったんだろうな? こうしてこっそり様子を伺ってても、気付いてないっぽいのがまた…。普段であれば何かしら勘付くだろうし、そこからの対応も色々想定してたんだけど。

 

 

「分からん。塔の情報を持ち帰って来た時から、あの状態だ。と言う事は、異界で何かあったんじゃないかと思うんだが…」

 

 

 異界かぁ…。異界で速鳥が悩むような事、何かあるかな…。人は居なくて、あるのは鬼と…廃屋くらいだろうに。

 廃屋の中で、何か気になる物でも見つけたんだろうか。

 

 こうして見ていると、速鳥は何かと空を見上げている。…いや、空…じゃないな。屋根の上、木の上だ。空を飛んでいる鳥にも目が行っているようだ。

 空を見上げてない時は、家屋の隙間や物陰など。

 

 

「…確かに、そいう所を見てるな。……犬猫や鳥を探してる、って事か? 天狐もそうだが」

 

 

 目をやるところを元に考えれば、その可能性は高そうだな。天狐は一度目が合うと、硬直するんだよなぁ速鳥は…。

 しかし、異界の中で動物に関わる何かを見つけた? うーん、正直考えにくいぞ。

 

 

「異界で生きていける動物なんて、天狐くらいだからな…。それに、言っちゃ何だがたかが犬猫、だ。いや命の重さを比べる訳じゃないが、重要な戦いについての会議中にまで、それを引き摺るとは思えん。…天狐の事ならともかく」

 

 

 天狐の事ならともかくな。それに関しちゃ、実物が居たら会議の時でも目が釘付けになりかねんからな…。

 …しかし、こうやって尾行してても手掛かりは掴める気がしないな。

 

 

「そこは同感。こりゃ、さっきの話の時に無理にでも詰め寄った方がよかったかもな。多分口を割らなかっただろうけど。せめて、何か物証でもあれば…」

 

 

 物証ねぇ…………。

 

 

 …鷹の目!

 

 

 

 

 

 ……ほほぅ。速鳥、その物証とやらを隠し持ってるみたいだぞ。

 

 

「…どういう事だ?」

 

 

 思い返して気付いたんだが、左の懐に何度も意識をやっている。動きには出してないけども。

 そこに何か潜ませてるな。……形状からして…袋…か? あまり大きな物、重い物じゃない。それこそ、雀が銜えて飛べるくらいの物だ。中身は多分、紙だな。…文か、絵か…。

 

 

「動きに出してないなら、どうしてそこまで分かるんだよ」

 

 

 武術やってりゃ、大なり小なり経験した事あるだろ。あ、こいつここを狙ってるな、ここを防御しようとしてるな、って感覚。速鳥が本気で隠してるならともかく、平時なら意識も追いやすいよ。

 形状に関してはほぼ推測。速鳥の服に大きな膨らみは無かったし、服が乱れる様子も無い。と言う事は平べったく畳む事ができて、重さも無い。

 それに入れられる物で、速鳥が気にしそうな物となれば、何らかの情報を齎す物か、異界特有の物理法則に縛られない『何か』の素材だろう。

 …まぁ、物理法則に捕らわれないから、いざ取り出してみたらとんでもなく大きな岩だった、なんて落ちもあるかもしれないが。

 

 

「よくもまぁそこまで頭が回るもんだ。…そいつを奪う気か? 速鳥に気付かれずに奪うのは、至難の技だぞ。気配探知は、俺達の中でも随一だ。気付かれずに近付く事さえ…」

 

 

 ? 何でわざわざ、気付かれずに奪い取る必要があんの?

 

 

「え」

 

 

 真正面から堂々と強奪します。どっちにしろ、それを元にして速鳥が何を隠していたか問い詰めるんだから、隠れるだけ無駄。

 ついでに言えば、明日の出発までにこの件を解決しておきたい。

 多少強引でも、話が早そうな方法を取るよ。こういう事を放置しておくと、鉄火場のど真ん中で大爆発する。

 仲間に秘密を作るのはいけません、あった事全部話なさいとまで言う気はないが、明らかな危険の種を放置する気もない。

 伊吹なら、この危険性は分かるだろ。

 

 

「まぁ、な。今まで救助に向かった先で、全滅寸前にまで追い詰められた部隊が、過去の確執が噴き出して状況にも関わらず仲違い中、って言うのも何度か見た事があるし。こんな時にそんな事で争ってる場合かって叫んだけど、今思うとこんな時だからこそ、そういうのが噴き出すんだな…」

 

 

 そうね、例え大型鬼との決戦中だろうと、浮気を知ったら即断して刺しにくる女も居るからね。

 さて、そんじゃ悪いが他の皆とも連携して、速鳥の誘導を頼めないか? これまでの推測が間違ってなければ、どこそこに『様子のおかしい動物が居た』とでも言えば、様子を見に来るんじゃないかな。

 場所は……道場でいいか。自然と手合わせに持ち込めそうだし。

 

 

「…いや別にいいけどよ、よくもそうすぐに仲間を嵌める為の段取りが出てくるな…。普段何考えて行動してんだ」

 

 

 こんなもの普通世普通。癖のある連中を纏めたり誘導したりするなら、これくらいはできないと。

 味方じゃなくて敵を誘導する事を考えて、それを味方の場合に当て嵌めてもいいしね。

 

 

「…人の上に立つって大変だな…。それはともかく、次の尾行は桜花の担当だから、そっちに伝えておくわ」

 

 

 頼んだ。俺は道場で、神夜の相手でもしてるから。

 息吹に手配を任せて、言葉通りに道場へ足を向けた。

 

 さて、何事だろうな。速鳥が気にする事で、他人に話したがらない…。いの一番に思い浮かぶのは、速鳥の過去関連だろう。

 忍びだった頃の仲間…と言っていいモノか…とにかく同僚から連絡でもあったのだろうか。

 

 …よくよく考えてみれば、速鳥の過去の事はあまり知らないな。いや他の連中の事も、さわりだけしか知らないようなもんだけど。

 幼子を斬る事を受け入れられず、仲間を斬って足抜けしたと聞くが…そもそもどうして幼子なんぞ斬る必要があったのか。裏切って不意を突いたとは言え、速鳥一人に全滅させられるような連中なら、元々腕が立つとは言えないだろう。

 そんな奴らを、一体どういう風に任務につけたのか。下手をすると、忍びとは名ばかりの野盗崩れ同然の集団だった可能性すらある。

 そもそも、ちゃんとした訓練を受けた忍びなんぞ、そうそう転がっているものではない。そして、速鳥は間違いなくちゃんとした訓練を受けた忍び。…にしては、甘さを捨てきれなかったようだし…。

 …どうにも状況がチグハグな気がする。速鳥にとって、単純にどうしても捨てられない一線がそこだった、という可能性もあるが…。

 …いや、これ以上考えても仕方ないか。速鳥の問題が、本当にかつての同僚によるものだったと決まった訳ではない。

 

 

 とにもかくにも、やってきた速鳥に怪しまれては意味が無い。

 とりあえず道すがら天狐を探して確保。これで速鳥の注意を惹き付ける事ができるだろう。

 

 久しぶりの、鳴き真似による意思疎通をしながら道場へ向かう。…懐に抱き抱えた天狐に、キュイキュイ鳴きかけているのを見られて生温い視線を向けられたが、まぁいいや。途中ですれ違った舞華の羨ましそうな視線には気付かなかった事にする。可愛い物好きだからね、隠してるつもりみたいだけど。

 ドタンバタンと結構な音が響く道場に到着。

 中を覗いてみると、予想通りに神夜が笑顔で大暴れしていた。昏倒させられ、道場の脇に寄せられているモノノフ数名。死屍累々である。

 

 おーい、神夜、その辺にしとけ。

 加減無しでぶっ飛ばしてると、その内相手にされなくなるぞ。

 

 

「その時は、あなたがお相手してくださいね♪ それに、ちゃんと加減はしています。皆さま、負けて堪るかと奮起される事極まりないです♪」

 

 

 …いやそれ、女に負けたくないって以上に、見えそうで見えない我儘な体に触れられないかって助兵衛心が丸出しになってるだけだと思うが。

 そう言って、まだ意識を保っている数名に目をやると、サッと逸らされた。助兵衛心のみではないが、図星らしい。

 だが気持ちはよく分かるし、そもそも神夜の服装はその為のものだ。見事に術中に嵌っている。…今夜もこいつらが羨ましがるドスケベボディを可愛がってやろう。

 

 が、今はそういう意味じゃない可愛がりの時間だ。

 構えろ、神夜。久しぶりに、真正面から相手してやる。

 

 

「………あはっ♪ 燃え上がる事、極まりないです…!」

 

 

 おおう、完全に本気だ。本来の得物、斬冠刀ではないとは言え、気炎は間違いなく実戦のもの。

 最近、相手は雑魚鬼(と言っても激戦区の大型だが)ばかりで、俺が直接遊んでやるのは閨ばかりだったからな。その鬱憤が溜っていたらしい。

 こっちに来てから、今まで知らなかった色々な物を見て回った為か、随分腕を上げているようだし…楽しみだ。

 

 …どうしよう、速鳥が来るのを忘れて遊んでしまいそうだ。

 

 



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524話

ただいま、絶賛引っ越しの最中です。
それはそれとして、ちょっと展開に詰まり気味。
書き溜めできず、また少し更新がとどまってしまうかもしれません。

いやホント、転勤でドタバタして、新しい環境に慣れないせいですよ?
決してP5Sにかまけてじゃないですよ?
とりあえず22日までは投稿予約済みです。


 

 

 神夜との稽古はかなり白熱した。速鳥が来た時、すぐに終わらせられるようちょっと強めに相手していたんだが…それが逆に燃え上がらせてしまったようだ。

 死地を悦ぶ神夜だもんなぁ。強めに叩けば、そりゃ激しくなるってもんだわ。

 稽古相手だった里の皆さんから、畏怖…と言うより羨ましそうな視線を向けられました。

 竹刀(特注品)を振るいながらも、秋波がダダ漏れだったからねぇ。殺気の籠った…と言うより、殺気に乗せて送られてくる秋波だけど。

 

 見ていたモノノフ達の中には、以前にうちの子達を纏めて相手した時に混ざっていた者も居たようだ。「やっぱ化け物染みてる」って声もちょくちょく聞こえた。

 

 

 

 …さて、神夜の腕前とチラリズムや、寝技(文字通り)を存分に堪能できた辺りで、何故か秋水と一緒に速鳥がやってきた。

 …何で秋水? チラッと目を向けるが、知りませんとばかりに目を背けられる。…初穂辺りに引っ張り込まれたか? それとも案外、揺さぶりをかけようとしていた橘花に逆に引き込まれたか? 今の橘花なら楽勝そうだから困る。

 関節を極めてきた神夜の体を腕力だけで跳ね返して、放り投げて距離を取る。神夜は猫のように空中で回転し、何事もなく着地した。

 

 …あんなでっかい得物使ってるのに、大した体捌きだこと。

 そういや、いつだったか投げた月輪を足場に空中で跳躍した事もあったっけな。

 

 

「当家に伝わる奥義の一つです。嘘か真か、何処かの忍びから教わったものと聞いています」

 

 

 忍び、ねぇ…。

 速鳥、お前同じ事できる? …天狐ばっか見てんじゃないよ。見事に引っ掛かってやがる。

 

 

「……きゅい」

 

 

 …このまま懐に手を入れてブツを抜き取っても気付かないんじゃないかな…。

 

 

「む…失敬。そういった技術も聞いた事はあるが、拙者には無理だ。双刀を使い、敵の体を駆けあがる事ならできるが」

 

 

 それも冷静に考えると大概だけどな。

 …速鳥も、対人戦にはそこそこ覚えがあるだろ? ちょっと相手してくれんかね。

 

 

「…正直、貴殿を相手に渡り合えると思う程、己惚れてはおらん。貴殿が図抜けた実力者である事、とうに知れ渡っている。…正確に言うならば、実力を測れない程の実力者である事、か。そもそも貴殿の底が見えぬ。…以前から問うべきかと思うておったが………この際だから聞いておこう。お主、一体何だ? 純粋な人か?」

 

 

 不純な人間ではあるぞ、心根的に。

つってもなぁ…。人間の証明なんてどーやってやればいいんだよ。人間は誰だって自分が人間である事に疑問なんざ持たないぞ。周囲から否定されまくって、段々自信が無くなってくることはあるが。

 かく言う俺も、時々自分が人間じゃなくて情報生命体とか覚書(メモ)とかのっぺらぼうとかじゃないかって気になる事がある。

 

 

「尻目ではないのか」

 

 

 屁ぇこいて窒息死させたろか? それとも目から光線でも放ってやろうか。

 つーか屁よりも光線よりも汚物が怖いわ、処理が面倒だから。

 

 ま、俺を怪しむのも分かるけどな。一時、暗殺者の集団と協力してた事もあるし、人殺しの為の技術も身に付いてる。実力云々よりも、そっちが気になってるんだろう?

 …あれ、これ言った事あったっけ? 前の時だったか…。

 

 

「…………」

 

 

 構えるなよ。俺の相手は人間じゃなくて、鬼、怪物、神様だ。

 信用できないなら…一手、合わせてみたらどうだ? 殴り合って分かるとは言わないまでも、手筋から探るくらいはできるだろ。

 

 

「それこそ、格上を相手にやっても一方的に見透かされるだけであろう」

 

 

 …チッ、乗ってこないな…。このまま帰られると、作戦失敗になってしまう。

 と言うか俺って速鳥にここまで疑われてたのか…。いやこの時期の速鳥だと、そもそも信じていると言える相手は大和のお頭くらいだったけども。

 

 

「でしたら、私がお相手いたします! 話の流れがよく分かりませんが、格上でなければよいのですよね。シノノメの里にも忍びの術を修めた方はいましたが、速鳥さんはそれ以上の腕前とお見受けします。その業、是非とも堪能したい事極まりないでえす! さぁ! さぁさぁ!」

 

 

 おおっと、ここで神夜が突っ込んだ。やる夫板界隈であれば、アップでAA化されそうな満面の笑みだ。でっぱいの前で手を組んでいるが、それだけで色仕掛けになりそうなんだよな、この子…。

 このフルスマイル、本人の性格とは裏腹に、非常に圧しが強い。戦い関係であれば猶更。

 天真爛漫、人を疑う事を知らない幼子のような無垢な笑み、素性的な意味での育ちの良さと体的な意味での育ちの良さが強調される姿勢、無意識の圧力で承諾を求めてくるプレッシャー。

 これを断るには、幼い子供の無邪気なおねだりを一刀両断し、その辺のお子様を真顔でブン殴るような非情な精神が必要になるだろう。ただしそれは犯罪だ。

 

 ズイズイ迫る神夜に、壁際に追い詰められる速鳥。そうだろうそうだろう、お前にその笑みは曇らせられまい。子供を斬る事を拒否して仲間を斬った程だからな。戦いが絡んだ神夜の頭は、遊びに夢中なお子様同然だぞ。

 むっちり美少女に迫られる速鳥を羨ましがっている者も居るようだが、当の本人はそれどころではないようだ。…こいつに色仕掛け、通じてるのかよく分からんな。

 戦いの最中に反応されたら邪魔だからって、切り落としたりしてないよな? 昔の忍者は、変装とかに邪魔だから薬を使って毛根を絶滅させる事もあったと聞いたし、それと同じノリで去勢していたとしても……いや、考えるのは止めよう。男として踏み込んではならない領域がある。速鳥が反応してないのは、覆面で顔が分かりづらいのと、ひんぬー派だからだ。物理的に反応できないんじゃないんだ。

 

 数分後、神夜の可愛らしい(断り辛い)駄々に屈服した速鳥は、道場の真ん中で双刀(木刀)を持って構えていた。

 

 

「…辛うじて、失敗は免れましたね」

 

 

 うん。でも、何で俺があんなに怪しまれてるんだろうなぁ…。うさん臭さでいったら、秋水の方がずっと上だと思うんだが。

 実際、陰陽寮所属だしな。

 

 

「陰陽寮云々なら、僕よりも茅場さんが当て嵌ると思いますが。人でなし度合いで言えば、僕はまだ軽い方です」

 

 

 あいつは異世界関係の餌を与えておけば、とりあえずは何もしないから…。

 

 

「…本当にそう思いますか?」

 

 

 ……その内、なんかとんでもない物を持ち出してきそうだな、って気はする。考えてみれば、神機を見せたのは失敗だった気がしてきた。

 あれ、危険な事に定評があるアラガミ細胞を使った武器だもんな…。万一再現でもされたら…。よくよく思い出してみれば、この世界にはアラガミ細胞と似たような存在がある。虚海が使う、蝕鬼の触媒だ。アラガミは何でも捕食して摸倣して増える。蝕鬼は何でも取り込んで分裂して増える。仮定は違うが、性質は非常に似通っていた。

 しかも今、博士と一緒に研究に携わってるんだよな…。よくよく考えなくても劇物混ぜちゃってる…。しかもそこに、素直だけどやたらバイタリティに溢れたグウェンも居る。……ブレーキ役の真鶴の苦労が目に浮かぶ。今度、何かいい酒でも差し入れしてやろう。

 

 ま、まぁその話は後だ。今は速鳥が先決だ。一体何を隠しているのやら。

 

 

「大体予想は付きましたけどね」

 

 

 え、本当に? 何事?

 

 

「大方、出所不明の情報を掴まされたのでしょう。口留め付でね。黙っているという事は、少なくとも今は不利益になる予測が立たず、信を置くべきか迷っていると思われます」

 

 

 出所不明の情報…。異界から帰って来た時からああなったって事は、異界の中で?

 …………あっ。

 

 鳥や小動物を妙に気にかけていると思ったら……虚海か。そういやあいつ、動物と会話が出来たっけな。

 

 

「…虚海さんの事まで知っているとは。まるで本人と会った事があるような言い方だ」

 

 

 …まぁ、ね。あいつは俺の事を知らないだろうけども。

 とは言え、陰陽寮で知ってるのはそれくらいだな。秋水と、虚海と、後は茅場。普段何やってるのかすら知らないしね。

 

 で、虚海が速鳥に何か情報を持ってきたって? 恐らくは、オオマガトキを呼ぶ塔に関する情報を。

 

 

「証拠は速鳥さんの懐にあるのでしょう? 奪って確かめてみてはどうですか」

 

 

 そうだな、決まった訳じゃないから確認は必要だ。証拠だって必要だし、その為に速鳥をここまで誘き寄せたんだし。

 …イイ感じに、神夜に意識が向いてるな。背後から素破抜き、もとい羽交い絞めにして抜きとるとしよう。…稽古に水を差された神夜が拗ねるだろうけど、仕方ない。

 

 では、不意打ちごめ「横槍はいただけません!」うおお!?

 

 

「ぬっ!?」

 

 

 あと一歩で間合い、と言う所まで無音で距離を詰めたが、俺に気付いた神夜から木刀が飛んできた。稽古に使っている奴じゃなく、壁にかけられていた予備の木刀だ。

 避ける間に速鳥には距離を取られ、邪魔スンナとばかりに神夜の追撃。そっちは下がって避けたけど。

 

 

「…何のつもりか。先程も妙に稽古に「余所見もいただけませんねえ!」ぬおお!?」

 

 

 …あかん、神夜にバーサークしとる。速鳥との稽古がそんなに楽しかったか。確かに正面から戦っているように見えて、忍び特有の動きが沢山使われてたけども。

 速鳥が俺を警戒するのも構わず、いいから続きだ、乱戦上等と言わんばかりに笑顔で斬りかかる神夜。ついでに俺にも斬りかかる。しっかりと退路を塞いでいる辺り、そーいうところだけは理性が残っているようだ。

 

 あーもう滅茶苦茶だよ。後ろの秋水が呆れた顔をしているのが、見なくても分かる。

 

 

 

 しゃーないなぁ。ここまで来たんだ、もう四の五の言っても仕方ない。

 速鳥、その懐に隠してる奴見せてみろやぁ!

 

 

 

 

 15分後。

 

 

 

 いつもとは違うやり方で神夜を気絶させて鎮圧。ドサクサに紛れて、速鳥が隠していたブツも掏り取った。

 速鳥は逃げようとしたが、隠し持っていたブツが奪われている事に気付き、渋い顔で足を止めた。観念したようだ。

 

 

「随分と強引な事をする…。必要が無いから伝えなかっただけだと言うのに」

 

 

 そういうのを放置しておくと、確実に面倒事の元になる。

 つーか、お前は態度に出過ぎだ。皆、何かあったんじゃないかって心配してたぞ。

 懸念事項があるなら共有するべきだ。何があったのか知らんが、速鳥に起きた事が他の連中に起きる可能性は高い。

 

 

 そう言いながら、奪った袋から取り出したのは、予想通りにオオマガトキの為の塔についての情報が書かれた文だった。

 明らかに速鳥の字ではない。

 

 …やっぱり誰かからの情報提供か…。

 速鳥、何でこれを隠した? こいつの送り主がどういう意図を持っていたか、敵か味方かはともかく、共有した所で問題は無かっただろう。

 

 

「文の最後を読めば分かる。これの事を秘密にしておくなら、新たな情報を提供する、とあるのだ」

 

 

 どれどれ……あ、本当だ。

 

 

「現状、不審ではあるが情報という益があり、敵対している訳でもなく、対価を要求されるのでもなく、そして何よりこやつを探ろうにも手掛かりが無い。更には時間すら無い。どの道、これよりは塔の破壊を最優先とせねばならぬのだ。ならば余計な事は伝えずお役目に集中し、そして次の接触を待つべきと考えていたのだ」

 

 

 だというのに、と避難がましい目をする速鳥。

 そういう訳でしたか…。確かに、これは俺の判断ミス、踏み込み過ぎだ。情報提供者(虚海)が何を考えて接触してきたのかは分からないが、問答無用で露見してしまった今、次の接触は期待できない。

 速鳥が自分からバラしたのだろうと、俺達が探り当てたのだろうと、再度接触してくる可能性は大幅に下がる。

 

 …完全に勇み足と言うか余計な事しちまったな…。

 いや待て、露見したのはまだ俺だけだし、何とか誤魔化しが…。

 

 

「効きませんね。既に皆さん集まっているようです」

 

 

 秋水が示す先には、入り口の扉隙間から覗く、目、目、目。

 …なんだか妖怪っぽいな。

 

 スパンと扉を開けて、初穂達がぞろぞろと入ってくる。突然やってきた主力陣に、ぶっ倒れたままのモノノフ達は目を白黒させていた。

 

 

「話は聞かせてもらったわ! 人類はめつぼーする!」

 

「何の話だ初穂」

 

「別に特に意味は無いけど、何となく言ってみた。悪かったわね、速鳥。あんたいっつも一人でお役目するし、相談とか報告も大和にばっかりだったから、てっきり意味も無く抱え込んでるのかと思ったわ。と言うか、隠すんだったらもうちょっと取り繕いなさいよ。何もしなくても、何かあったってみんなに露見してるじゃない」

 

「その言葉、お主からだけは言われたくなかった」

 

 

 謝っているのかいないのか。普段の速鳥の態度に一因があると言っているのは間違いない。

 …うん? 大和のお頭は居ないのか?」

 

 

「ああ、居ない。『速鳥が言うべきではないと判断したのなら、それで構わない』と言ってな。探る事までは止められなかったが」

 

 

 …信じている訳だね、俺達と違って。

 普段のコミュニケーションが足りてない為だ、と言い訳してもいいだろうか。

 

 

「で、実際の所どうなんだ? こうして周囲を見ている分には、不自然な人間は居ないし、ここに居る連中だって吹聴するような事は無いだろう。ばれそうになったが逃げきった、として誤魔化せないか?」

 

「それこそ、相手がどこの誰かも分からぬのだ。誤魔化しようも確かめようもない。…この文は、異界の中で鳥が持ってきた物だ」

 

「鳥…? 何かの比喩か?」

 

「いや、文字通りの意味だ。雀であった。異界に普通の動物がいるだけでも珍しいというのに、その鳥は拙者の前に文が入った袋を置くと、距離を置いて様子を見た。中身を確認し、文を読むのを見届けてから飛び立ったのだ」

 

「捕らえられなかったのか?」

 

「流石に距離がありすぎた。…どう見ても目的意識を持って行動している。そもそも、雀に人の文字が…分かるとしても、書けるとは思えん。何者かが使役しているのは間違いない」

 

「鳥を使役…ああ、それでお前、里に居る犬猫鼠やら鳥やらを妙に意識してたのか。鳥を操れるなら、他の動物だって操れてもおかしくない」

 

 

 下手をすると、操るところか会話までできるかもしれないな。天狐という、人と僅かながらも会話できる前例はある。

 この辺に居る小動物がこの光景を見ていたら、ちょっと誤魔化しきれそうにないぞ。不自然な動きをする動物なら探し出せるが、ここに普通に居合わせただけの動物に後から接触されたら…。

 

 

「動物相手に情報を漏らすなと命令しても、全く意味はありませんね。そもそも何を漏らしてはいけないのかすら理解できないでしょう。……僕に一計あります。ここは任せていただけませんか」

 

「一計…?」

 

「ええ。詳しい事は、いつ誰に見られているか分からないので言えませんが、悪くはならないでしょう」

 

 

 秋水の言葉に考え込む一堂。

 現状、確かに秋水の案とやらに乗るしかない。良くも悪くも、こちらからは一切接触する方法が無いのだから。

 

 むぅ…俺としては、どうするにせよ、これ以上速鳥の意見を無視して暴走する訳にはいかないとしか言いようが…。

 

 

「…拙者は構わぬ。どの道、今は塔に集注するべきだ。その後に、独自に調べさせてもらう。その時は、今度こそ余計な事をせぬように」

 

 

 はい…。

 よっぽど頭に来たのか、いつになく言葉が刺々しい。普段であれば、最初から期待していなかった、何も信頼していなかったとばかりに淡々と話を進めるのに。

 

 

 

 

 

 解散して、決戦の準備を進めながらも、俺はどうしたもんかと考えていた。

 勿論、速鳥の事だ。虚海の事もあるな。

 

 速鳥が何か抱えているというのは当たっていたが、それに対する判断を信じず、無用に突っ込んでしまった。

 そういうのを放置しておくと、致命的な時に限って噴き出して、どうにもならなくなる…これは間違ってはいない。経験則でもあるし、誰もが認める事だろう。

 しかし、今回に限ってはそれは間違いだった。速鳥はしっかりとした根拠と明確な筋道を持って、俺達に余計な情報を渡さなかっただけだった。

 

 時期は違うが、ゲームストーリーと同じだとすると…失点の挽回の為に一人任務に向かった速鳥を、信用しなかった…と言う事になる。それまでのストーリーで、意味も無く単騎特攻を繰り返されまくっていたので、信用しろと言う方が無理、という意見もあるが。

 任せる事と助力に行かない事が同じではないように、黙している事を暴く事と心配している事は違う。

 とにかく、速鳥の心象は最悪…とは言わないまでも、他人に頼らない傾向に拍車をかけてしまった事になりそうだ。

 …厄介な事しちまったが、どうこう言っても仕方ない。いつでも正解の選択肢を引ける訳じゃないんだし、よくある事だ。

 速鳥については、今後挽回していくしかないだろう。信用信頼、考え方の問題だ。すぐにどうこうできるような話じゃない。

 

 …ところで、秋水の策とは一体どんな物だろうか。

 素直に教えてくれるとは思えなかったが、一応聞くだけ聞いてみた。

 バレたらまずい話なら、口には出さないだろうし…。

 

 

「ああ、あの策ですか。何もありませんよ」

 

 

 …はい?

 

 

「何もありません。強いて言うなら、本人を確認して、正面から説得するだけです」

 

 

 説得って…いや、確かにそうか。秋水は虚海本人と面識もあるし、接触する方法もあるんだっけ。

 バレていないようならそのまま放置、そうでないなら利を提示して誘導すると。

 

 

「そういう事です。こう言っては何ですが、虚海さんはあまり策謀には強くありませんから、丸め込むのはそう難しくありません」

 

 

 まぁ…なぁ。かなりポンコツだもんな。術は凄いが、立ち回りが不器用すぎる。

 根が善人なのが、スレて自棄になって悪人気取ってるようなもんだからな。それに付き合わされる方は堪ったもんじゃないだろうが。

 

 わかった、虚海に関しては秋水に任せるよ。何か手伝いが必要だったら言ってくれ。

 

 

「…不要です。あなたが居ては、むしろ虚海さんも警戒するでしょう」

 

 

 確かにそうか。そんじゃ、あいつを頼むよ。

 

 

「………この際なので、二つ言っておきますが…あの男と直接の繋がりは無いようですが、僕はあなたに気を許している訳ではありません。ですが、その戦闘力、集団を纏め上げる力、得体の知れない知識と道具…。僕の目的の為に、それらは大きく役立つ筈です。あなただけでなく、その配下も。その為に力を貸しているにすぎません」

 

 

 前にも似たような事言われたなー。

 秋水の目的って言うと、過去に遡って北の里の皆を助けに行く、か。

 

 

「それと…自覚があるかは分かりませんが、あなたは陰陽寮からも注目を集めています。虚海さんもその一人です。用心する事です」

 

 

 それだけ言って、秋水は去ってしまった。

 …陰陽寮から注目、ねぇ。陰陽寮所属の茅場が既に居座ってるし、今更だと思うんだが。でも秋水が忠告してきたって事は、それだけじゃないよな…。

 まぁ、注目を集めない方がどうかしてるってのは確かだが。

 異界の浄化から始まって、滅鬼隊…うちの子達の復活、それに伴う霊山でのあれやこれや…。

 

 うーん、改めて考えると火薬庫みたいなとこだな。これだけ詰め込まれてたら、逆に手を出したくなくなりそうだけど。

 陰陽寮は他の連中を知らないから置いといて、虚海が俺に注目する理由…。あいつの目的は、元々居た時代に戻る事だった筈。物珍しくはあるだろうけど、異界浄化は虚海にとってそう興味を惹かれるものじゃないだろう。

 はて、何があいつの興味を引いたのやら…。

 

 

 ま、いいか。まずは目の前に迫った戦いに集注しよう。

 



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525話

何とか引越完了して、ネットにも繋げました。
しかし正直この物件はハズレだった…。
安い物件には、安い理由があるもんですね。

広さは申し分ない。
職場まで5キロだけど、これはまぁいい。
4階まで上がるのは面倒だけど、これも割り切る。
洗濯機は屋外に付けなきゃいけなかったけど、それもカバーを買ったからもういい。
カバー到着までに雨と雪が来たけど。
風が強くて洗濯物が吹き飛ばされそうだったから、屋内用の洗濯物干しを買った。
エアコンは全部屋に行きわたりそうになかったから、持ち運べる冷暖のファンヒーターで対応。
届くまで、指がかじかんで執筆が滞りました。ていうか風邪ひきそう。
駐車場に屋根が無く、バイクカバーを一々持って上がるのが面倒なので、組み立て式のガレージを買った。アマゾンの住所変更してなかったんで、前住所に送られて転送代5,000円くらいかかった。

これだけ買って、計算上では予算から5万オーバー。
新生活の為の準備としては、ちょっと割高だけど許容範囲内だと思う。


ただただ、風呂が追い炊き専門とは…。
冷たい水で湯張りして、そこから改めて温める。
湯が混ざってないから上だけ熱いし、温度調整機能も無い。
湯が温まる速度も安定しない。
お風呂目当てに選んだのに…もうちょっと詳しく聞くべきでした。
一晩置いてもそこそこの温度は保っていたようなんで、出勤前に温め、帰ってきたら水で調節、かな…。

そもそも、風呂の準備が自動でできるけど通勤に30分以上かかるんじゃ、割に合わなくて当然だわぁ…アホやった…。
バイク通勤、はやくできるようにならんものか…。


堕陽月伍拾漆日目

 

 

 ゲームシステムの話になるが、MH・GE・討鬼伝共に、基本的には4人で標的に挑む。ラヴィエンテみたいな集団戦もあるが、それは例外。

 この4人と言うのは、ゲームバランスを保つ為の制限なんだろう。

 人が少なすぎれば苦戦するし、多すぎれば楽過ぎて手応えが無くなる。巻き込み事故も増える。

 

 が、これが現実になればどうだろうか。

 命が掛かった戦いである以上、ゲームバランスもクソもない。楽に勝てるなら、確実にそれをやるべきだ。巻き込み事故については問題だが、それも攻撃方法を限定する、一度に襲い掛かる人数を抑えるなど、手段は色々ある。

 だというのに、どの世界も基本は4人編成。数に任せて袋叩きにするという、人類が持つ最強の戦術を使う事は少ない。

 理由は単純、戦力となり得る人間の数が少ないからだ。

 

 ハンター、ゴッドイーター、モノノフ、何れも超常的と言って差し支えない力を持つ者達。それに反比例して、その人数は非常に少ない。強力なモノを相手にできる、優秀な人材なら猶更。

 ある程度以上強力な相手をターゲットにすると、言ってはなんだが有象無象が数を揃えても戦力にならない。数ばかり揃えても、鎧袖一触とばかりに蹴散らされて終わりだ。

 

 だからと言って、強力な戦力…この里で言えば、主に主力陣…を一点に集中させてしまえば、入れ違いで攻め込んでくる鬼に対処できなくなる。

 少数精鋭で敵を倒すと言えば聞こえはいいが、数と質が両立できない為の苦肉の策と言った方が正しいのだ。

 今でこそ4人で戦う為の効率的な戦術が開発され、下手に人数を増やすよりも効果的な戦いができるようになっているが、それでも限界はある。

 例えば、今回の戦いのような、多くの鬼が待ち受けている異界に攻め込む時。

 

 ウタカタの主力陣を、全て投入しての総力戦になる…が、もしもそこで反対に鬼が攻め込んできたら?

 鬼の指揮官は、まだ討伐できていない。オオマガトキを起こす塔の完成が奴らの目的なら、それを囮として里を滅ぼしに来る事はないと思うが…やれなくはない。

 

 

 例え杞憂であるにせよ、里を無防備にする訳にはいかない。

 

 

 

 

 

 まぁ、主力陣が居なくても、うちの子達が居るんだけどね。

 

 今回のループでの、一番の違いはソコだよな。うちの子達と言う、戦力はそれなり、人数は大、オツムはちょっと不安な戦力が揃っているのだ。

 そのおかげで、ウタカタの里のモノノフ一人一人にかかる負担が減り、負傷者の数が減り、逆に鍛錬に使える時間が増えて、戦力が増強されている。

 

 要するに、里のモノノフとうちの子達を総動員すれば、防衛部隊を作り、一部を休息に回しても、尚人数が余るくらいなのだ。

 

 

 

 

「斬冠刀・月架美刃!」「隼の術!」「旋風斧刃!」「逸刀流! 胡蝶乱舞!」

「マザーズ・ロザリオ!」「“四刀流・蛸殴り!」「体術-地の型!」「雷の鉄槌!」

「本家・まざーずろざりお!」「旋風陣!」「凍奔征走!」「電遁の術 」

「鬼千切ぃ!」「忍法・風神・空陣!」「風遁・気流乱舞!」「土遁・裂閃牙!」

 

 

 

「……うーん、数の暴力…」

 

「これが人間が持つ最強の戦術だな」

 

 

 と言う訳で、残った子達は全員異界攻めの真っ最中です。

 桜花達を初めとした主力陣は勿論の事、うちの子達にも班を組ませて、近寄ってくる大型鬼を片っ端から叩き潰している。

 更に交代要員の子も居るし、雑魚的を優先的に狩る係も居るし、正直過剰戦力かなって思わなくもない。

 

 どーでもいいが、明日奈に異国語を教えていたら、マザーズ・ロザリオの発音が良くなっていた件。その隣では、元々の開発者である木綿季がカラクリの小さな体で同じ技を繰り出している。…よくあの体でやれるもんだ。

 

 鬼達も結構な数を揃えて待ち構えていたようなのだが、分断・足止め・タコ殴りを繰り返すだけで、大型鬼があっと今に溶けていく。

 うちの子達、オツムには少々不安があるけど、火力がやたらと高いからなぁ。速攻戦術が一番有効なのは間違いない。

 鬼達は、やはり指揮官に指示こそされているようだが、集団行動は苦手らしく、何より目の前の標的に釣られやすい。容易く孤立させる事ができた。

 そこへここぞとばかりに襲い掛かり、最大火力を連続ブッパしていくうちの子達。後詰めも居るからって、後先考えずにバカスカ撃ちまくる。

 

 何と言うか、凌辱的光景だな…。そこかしこで獲物を輪姦して潰していってるよーな…いや鬼を相手にそんな感想持つはずないだろって言われるとそれまでなんだけど。

 

 

 おっと鹿之助と凛子、消耗し過ぎだ。骸佐と凜華に変われ。

 紫、突出しそうになってるぞ。浅黄の隣を守るのを忘れなるな。

 

 

「ようやく出番か。見てるだけで退屈だったぜ。手応えのある戦いにはなりそうにないが」

 

「そうね。出番がないまま戦いが終わるかと思ったわ」

 

 

 退屈だと言いながらも、警戒と準備を怠ってなかった事に成長を感じる…。

 素直に交代した二人は、備蓄として用意していた携帯食料と水に齧りついた。

 ふーむ、凛子は元々討伐系の任務を好んで受けていたから心配してなかったが、鹿之助も結構動けるようになってるじゃないか。最初は敵の感知役として連れてきて、集団の中心でレーダーだけやらせておこうと思ってたんだが…。

 敵の進入路が限定されて、索敵の必要性が一時的に低下する場所があったので、戦闘に参加させてみた。いつも通りにビビるかと思ったが、頼りになる仲間が沢山居るからか、それとも一大決戦という場に連れてこられて何もしないんじゃ惨めになりそうだからか、意外にも進んで戦い始めた。

 …あの雷遁の術っての、新開発した必殺技みたいだな。あれを試してみたかったのもあるかもしれない。

 

 

「今更なんだが、人数が多いというのはそれだけで心強いな。隙が増えるのも確かだが…。ここまで楽に異界を進めるのは初めてだぞ」

 

 

 桜花が呻くように声を漏らした。

 ま、人数が多い上に、一人一人がそれなり以上に戦えるという事実上の精鋭部隊だからな。実際、ウタカタでなければ主力扱いされるくらいの実力がある子ばっかりだし。

 …油断と慢心はいただけないけど。あと報告書の適当さ。

 

 

「それらも随分改善されていると言うではないか。…実のところ、君達が使っている報告書の一部は、我々も真似させてもらっていてな…」

 

 

 報告形式は統一するに越した事はないな。同じ内容で2枚書くないし目を通すなんて時間の無駄だし。

 うちの子達でも出来るように、を念頭に作ったからある程度は直感的に報告できるようになってると思う…。

 

 …そう言えば、うちの子達に対する授業に、里のモノノフもちょくちょく顔を出し始めたって聞いたが…。

 

 

「お察しの通りだ。我々も充分は教育を施せているとはとても言えない。前線で戦うモノノフは、どうしても生き残る為の武力を偏重するからな。書類仕事を学ぶくらいなら、腕に磨きをかけると言う者ばかりなのだ。君に所の授業で、色々覚えてくれればと思ってな」

 

 

 …どこも同じだねぇ。鉄火場に出る以上、自分の命が最優先になるのは仕方のない事だが。

 にしても、こうして直接戦っているところを見るのは初めてだが……里のモノノフ、随分腕を挙げてるな。

 

 

「里の中でも、特に期待されている若手がどんどん腕を挙げていてな。班の中核を担ってくれるようになったのだ。他にもそれぞれの役割を持った人員が充実してきた。よい循環が出来上がって来た…」

 

 

 と、油断してると何が起こるか分からないのが世の常なんだよな…。

 差し当たり、この戦いを無事で終わらせんと。

 

 

「やめろ。そういう事を改めて言うと、必ず何か起こるんだ。君達が言う所の…ふらぐ、だろう。明日奈が外来語だと言っていたが。……そろそろか。息吹、初穂と交代して富獄の援護に回れ。初穂は休憩だ」

 

「あいよ。ったく、美女と一緒に戦いたいもんだぜ」

 

「まだ行けるけど…本番はこれからだしね」

 

 

 外来語とはまたちょっと違う気がするが…。まぁいいか。

 いかにもな会話はこれくらいにして、鬼の意図を考えてみる。フラグを立てるまでもなく、鬼が何か罠を張っているのは間違いないのだから。

 

 指揮官がこの先に居るのは間違いない。鬼達は明らかに目的意識と連携を持って襲ってきている。

 しかし、それにしてはやっている事は戦力の逐次投入でしかない。何を考えているのか…。

 

 虚海からの接触も無い。既に速鳥の事がバレているのか、今はその必要が無いと思っているのか。

 ………。…………?

 

 

 おい桜花…速鳥はどこに行った?

 

 

「分からん、いつの間にか消えていた。ただ、出立前に途中で離脱するとは聞いている。問題は無い」

 

 

 無い…のか? 事前に言ってたんだし、まぁいい…か? 今までなら誰にも言わずに行動してただろうし、進歩していると言えばしているか。

 こっちも無理に探し出さず、今度は黙って信じておかないと、それこそどうにもならないくらいに拗れてしまいそうだし…。

 事前に宣言して姿を消した以上、予定外の事でもないし、不必要な事でもない筈。…ここは静観するとしよう。

 

 

「それにしても…問題児と聞いていたが、彼女の力は頭一つ分飛び出しているようだな。さっきから大威力の攻撃ばかりしているのに、消耗した様子が殆ど無い」

 

 

 うん? ああ、きららの事か。今まで色々と悪印象や悪評を積み重ねてきたから、ちょっとでも汚名返上させておこうと思って。

 正直、予想以上の暴れっぷりだわ。他の皆は交代させて回復時間を設けてるのに、きららはその必要さえ生じない。むしろ、戦いの場で水を得た魚のように溌剌としている。

 うちの子達の源流だけあると言うべきか、これだけの力の為にハブられる原因になったとみるべきか。

 

 ま、あの子の事はまた後で考えよう。最近じゃ、毎日の罰のおかげでちょっとずつ受け入れられてきたしな。

 悪感情が薄れたというよりは、体を張った芸人扱いされているような気がしなくもないが。

 

 

 

 さて、そんな事を考えている内に、オオマガトキの為の塔が見えてきた。

 完成率は……4割から5割、ってところか? 今までのループだと、見つけられるのは出来上がる直前だったんだが…随分と早く来てしまったようだ。

 里に到着してからの期間で言えば、今までよりも長いと思うんだけどな…。ゲームストーリーで言う速鳥イベントが省略されたから、その差だろうか? 或いは、異界の浄化・消滅で鬼達の労働力が減少したためか。

 

 

 

「む……いたぞ、ゴウエンマだ。恐らく奴がこの場の指揮官だな」

 

 

 桜花の目が向く先には、塔の前で何やらやっているゴウエンマが見える。………なんか…石を積んでるように見えるんだが?

 

 

「…指揮官自ら、塔の作成に加わっているようだな。面倒な作業を部下任せにしないとは、敵ながら天晴な奴だ」

 

「言ってる場合か。…鬼ってのは、石の塔を崩す側の筈だけどな」

 

「それこそ言ってる場合でもないだろうに。我々とて鬼を狩る鬼だから、何もおかしくは無い」

 

 

 余裕の軽口だね。

 …あれ、でもちょっとおかしくないか?

 

 

「うん?」

 

 

 あの塔を作り上げるのは奴らにとって最重要事項だから、指揮官が現地に居る。分かる。

 あの場所を守る為、大勢の鬼を待機させて防衛戦力にする。ここも分かる。

 塔を作り上げる為、指揮官も作業に加わる。まぁ分かる。

 

 …目の前まで敵が迫ってるのに、半分も完成してない塔の建造に力を入れる。……これが分からない。

 

 

 

「む…確かに、後少しで完成するという状況ならまだしも…」

 

「作業を続けるくらいなら、外敵の駆除だよな…。鬼の気質的に考えても」

 

「ちょっと待って、半分も完成してないってどうしてわかるの?」

 

 

 鬼の手と目を通して見てみろ。貯めこんでる力の総量はあまり多くないし、塔を作る為に周囲を破壊した跡がある。その範囲を考えると、完成した塔は少なくとも今の倍以上になる筈だ。

 

 

「…いや、今はそれを考えるべきではない。目の前に鬼が居る。ならば斬るだけだ。どの道、あの塔をこれ以上高くされても面倒だろう。壊すのに手間がかかる」

 

 

 まぁ、確かに。壊した途端に大爆発して周囲を巻き込む、なんて罠の類でもないようだし。

 この場で急に方針転換するのもややこしい。取り敢えずあれをぶっ壊すのには賛成だ。

 

 まだ敵の数は多いが、こっちの戦力も充分温存されている。このまま戦闘続行だ。

 詩乃、こっちも戦闘に入るから、指揮を頼む。狙撃や援護は、俺達にはいい。指揮官を守ろうとして強行突破してくる奴の足止めを優先してくれ。

 

 

「わかったわ。言うまでも無い事だけど、何が起こるか分からない。気を付けていきなさい」

 

 

 はいよ。…さて、ぶっ壊してきますか!

 既に先陣を切っている桜花の後を追って走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴウエンマは割と簡単に倒す事ができた。初手の鬼葬で片足をぶっ潰したからな。動きが物凄く制限された。

 何より、塔に被害を出すまいと必死だったようで、塔に向かって爆弾とか投げたらそれを自分から庇いに行くのだ。つまり身を犠牲にして、塔を守ろうとしている。

 

 その心意気、敵ながら素晴らしい。多くの鬼達の努力と希望の結晶である塔に傷一つ付けさせまいと、己の身も顧みない自己犠牲の精神。

 

 

 

 だが無意味だ。

 

 

 ネタで言ってるんじゃなくてマジで無意味だ。今この時だけ塔に被害が出るのを防いだって、その被害の元凶である俺達を排除しない限り、結果は変わらない。

 …さっき感じた疑問そのままだが、本当にこいつ指揮官なのか? 行動の順位が滅茶苦茶すぎる。

 結局、戦力を逐次投入するだけで伏兵や策らしい策も無かった。ここまで指揮能力が無いと、そもそもここの鬼達を集結させる事ができたのかすら疑問に思えてくる。

 …いや、しかし実際に集結してる訳だしなぁ…。

 

 ともかく、ゴウエンマは至極あっさりと討伐された。途中から、皆して塔の方に狙いを定めたからな。待機していたうちの子達にも参加させ、塔に向かってバカスカバカスカ撃ちまくった。

 そしてそれを庇って、もろに攻撃を受けたゴウエンマ。片足が無いのに仁王立ちみたいな事ができたのは大したものだが、何もできずに討伐されてしまった。

 

 

 

「…これで終わり…か? あっけないを通り越して不自然すぎるな」

 

「同感だぜ。いくらこっちに充分な戦力があったとは言え、鬼どもの行動が間抜けすぎる」

 

 

 まだ残っている大型鬼達を掃討しながら、口々に不審を募らせる主力モノノフ達。

 それに対して、うちの子達は勝った勝ったとばかりに勝鬨を挙げている。まだ敵が残ってんですけどね。いやまぁ大きな声を出して勝利宣言をし、相手の心を折る効果だってありますが。実際、慄いたらしき鬼達は散り散りに去って行こうしてるし。

 

 ……逃げる鬼達も、組織立った動きじゃない。思い思いに、とにかくここから離れようとしているようだ。

 破損した塔に執着する者も居ない。

 …恐らくだが、入れ違いで里を襲撃された訳でもない。そういうヤバい気配は感じない。

 

 

 

「……なんだ、景気の悪い顔してるな」

 

 

 伊吹だって同じだろ。得心が行かない、って顔してるぜ。

 ……しかし、いつまでもここに留まってても意味は無いか。活動限界時間も、そう遠くは無い。

 

 何かするにせよ、一時撤退が必要か。

 

 

「そうだな。…速鳥は、まだ戻らないのか。撤退の狼煙を上げておこう」

 

 

 …それしかないか。何処にいるかも分からないし、探しに行けば二次遭難者が出るだけだ。

 人付き合いに難はあるが、腕は確かな奴だ。無事に戻ってくるだろう。

 

 

 

 さて、とにもかくにも撤収するぞ。

 いつまでも浮かれてんじゃない! 里に戻って後始末するまでが戦いだ!

 

 

 

 

 



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526話

P5S、発売!
…した当日は社長が来るってんで朝っぱらから面談があるし、出たくも無い懇親会に出なけりゃならないしで、一日何もできませんでした。
畜生、これだからお偉いさんってのは!
まぁ次の日から連休だし、遊びつくすんですけどね。

しかしそれ以上に問題だったのは、エアコンが無い事による寒さ。
気力ががりがり削られます。
そりゃハンターだってあっという間にお腹がペコちゃんになるよ。
ゲームする気にもならないし、執筆だって指が動かず頭も回らず進まない。
全く、エアコンは世界の至宝ですな。

…と思っていたら、到着当日に妙に暖かくなるし、電気契約変えてアンペア上げたのに使ったら即ブレーカーが落ちる。
挙句、プレステ4の再インストールが必要になった為にセーブデータが吹っ飛びました。
最初のジェイルを攻略して、さぁこれから面白くなる!ってところだったのに…。

暮せば暮すだけ、外れ物件への恨みが募っていきそうです。


堕陽月伍拾溌日目

 

 

 …朝だぁ。流石に疲れた様子の速鳥・桜花と一緒に、里に戻る。

 なんか色々と出迎えられて、もみくちゃにされました。こっそりちんちん触られたけど、あの感触はアイツだな。後でセクハラしてやろっと。悦ぶだけだろうけど。

 

 

 えー。何があったかと言いますと…昨日の塔を破壊して戻る途中に、一悶着あったのです。

 いや、よくよく考えてみれば充分に察せられる事だったのに…。間抜けだなぁ俺も。

 その後の事は……いやあれはちょっと予想できんわ

 

 

 

 

 

 

 とにかく、戦いを終えて全員居るのを(速鳥を除いて)確認し、隊列を組んで帰還。

 戦っていた時間は長いという程ではなかったが、活動限界は思っていたより近付いていた。俺は耐性があるから何ともなかったんだけど、塔の周囲は何気に瘴気が濃かったらしく、瘴気の侵蝕が激しかったようなのだ。

 元々、瘴気って鬼達の遺体から出る特殊な粉塵だからな…。一か所で倒した鬼が多ければ、多少は瘴気が濃くなるのも、まぁ納得できなくはない。

 

 …あのゴウエンマは、それを狙っていたんだろうか? 時間を稼いで活動限界を迎えたモノノフを叩き潰そうと?

 それにしたって、効率が悪すぎるよなぁ…。

 

 

 

 なんて考えていた、正にその時。

 突然速鳥が現れた。深手は負ってないが細かい傷が多い。そして何よりも体力を消耗しているようだった。

 

 

「速鳥、無事だったか! こっちも問題なく「囮でござる!」…何?」

 

「貴殿らが破壊した塔は、囮であった! 奴らの本命の塔は他にある!」

 

 

 

 …! そういう事か…!

 さっきの塔は捨て駒、或いは予備。鬼がそこまでやる筈がないって先入観にやられた…!

 

 

「塔がもう一つ…いや、下手をするとまだ予備があるかもしれない…!? 速鳥、その場所は!?」

 

「一つ目の塔があった場所の、更に奥。瘴気が非常に濃く、鬼達と結界に守られている」

 

「塔の様子は!? オオマガトキは起こるのか!?」

 

「分からぬ。だが、貴殿らが破壊した塔の2倍以上の規模であった。上空にも奇妙な雲が渦巻き、いつ何が起きてもおかしくない」

 

「今から急いで向かえば!」

 

「いや、異界に入ってすぐに向かうのならまだしも、今からではどう考えても到着前に活動限界を超える」

 

 

 …あの塔の鬼達は、囮と時間稼ぎの両方を担っていた訳か…。

 どれだけ戦力を揃えても、活動限界時間が迫れば撤退せざるを得ない。

 参ったな、見事にひっかかっちまった。

 

 

 …今から全員里に戻したとして、瘴気が抜けて再突入できるまで、どう考えても半日以上…か。

 ま、仕方ないね。行動に変更なし。

 全員、里まで戻れ。

 

 

「おい、本気か!? …いや、このまま突っ込んでもどうにもならんかもしれないが…」

 

 

 そこで突貫するって言わない事に本気で安堵してるよ。

 このまま引き返して戦えば、塔に辿り着く前に活動限界で死ぬ。塔は破壊できず、オオマガトキは阻止できない。

 里に戻って休んでから再度出撃すれば、消耗した体力は回復し、充分な時間の余裕を持って突入できる。それまでにオオマガトキが起こるかどうかは賭けだがな。

 

 

「……その件について、お主に協力を要請する。瘴気無効の装具を身に付けている者は、まだ戦えるであろう。全員戻す必要はない」

 

 

 …うん?

 不満そうな皆を説得して、とにかく一度異界から抜けさせるつもりだったのだが、速鳥から予想外の言葉。

 

 協力? 考えがあるなら乗るが…どうする気だ?

 

 

「拙者が見たところ、でしかないが…本命の塔は、決して頑丈な訳ではない。鬼達の力で強引に積み重ねられているだけで、強度は脆弱と見た」

 

 

 突貫工事の急拵えって事か…。奴らも焦っているようだな。

 それで?

 

 

「不安定な塔を維持する役目の鬼が、何体か居る。奴らを仕留める…とまでは言わぬまでも、動揺させれば塔に何らかの影響を与える事はできよう。攪乱し、オオマガトキの発動を遅らせる」

 

 

 なるほど、攪乱と陽動に徹する気か。端的に言えば嫌がらせ。

 いいぜ、このまま帰ってオオマガトキが起こらない事を祈るよりは建設的だ。

 

 体質状、俺に瘴気無効装具は必要ない。残った装具で連れて行けるのは…。

 

 

 目を輝かせている神夜と、カラクリボディのモノアイを輝かせている木綿季は却下。木綿季に至ってはそもそも瘴気無効装具すら必要ないが、この二人は絶対に暴走して陽動ではなくガチ戦闘になる。

 明日奈はその辺の分別はついてるが、前線に出ずっぱりだったので消耗が激しい。タマフリも、もう使えて一回二回程度だろう。

 詩乃……狙撃が得意で援護・攪乱向き。だが俺が離脱した後の統率役を任せられるのは詩乃くらい。

 

 ウタカタの里で動けるのは…充分な余力を残しているのは桜花だけか。装具はまだ数があるが、余力が無いんじゃ意味が無い。

 

 

 俺・速鳥・桜花で攪乱に向かう。残りはウタカタに戻って回復に努め、明日の昼になっても戻らないようであれば全戦力を塔の破壊に回せ。

 いいな?

 

 

「…いいだろう。このままのこのこと帰るのも癪だ」

 

「それは俺達に帰れって言ってるのと同じだぞ、桜花。…とは言え、確かに消耗しちまった。…調子に乗って、大技を連発し過ぎたか…」

 

 

 不覚、と言いたげに息吹は足元を蹴り飛ばした。速鳥以外、全員鬼の策略に引っ掛かっちまったからな…。

 話してる時間も惜しいな。

 

 詩乃、うちの子達の統率は任せる。…頼むから、「楽しそう」とか言って突っ込んでくる連中を出さないようにしてくれよ。

 

 

「一番面倒な事を割り振られた件。一応言っとくけど、何でもかんでも従うと思わないようにね。…皆、不満を隠そうともしてない。心配されてるのよ。連れていかれない事を不満にも思ってる」

 

 

 仕方ないだろ、実際体力と時間の両方が足りてないんだから。

 俺一人で向かうって言ってるんじゃない。折悪しく、うちの子達の中からは出せる人員が居なかっただけだ。

 

 ま、深追いせずに適当な所で切り上げるよ。…桜花、速鳥、よろしくな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 キリが無かったので、強引に話を切り上げて、速鳥の案内の元に異界の奥へ進む。

 …道中、口にすべきかどうか迷っていた疑問を、桜花が代わりに口にした。

 

 

「速鳥、我々が破壊しようとしていた塔が囮だというのは、何故わかった? あの塔についても…お前が持ってきた情報だろう」

 

「…………元より、己で得た情報であっても全てを信じてはおらん。塔に積み上げられる岩は、全て同じ方向から鬼達によって運ばれてきていた。ただの岩なら、その辺りにある瓦礫を使えばいい。 似たような大きさの石なら、幾つもあった」

 

 

 言外に『例の情報提供者から接触があったのか?』と問う桜花と、否定も肯定もせずに根拠を話す速鳥。

 …実際、虚海からの情報なのかは微妙なところだ。もしも囮の方を、それと知っていながら報せたのだとしたら…虚海は鬼に加担している事になるのか? 囮の塔をオオマガトキを呼ぶ塔だと偽り、破壊させて本命の塔を作らせる。

 …いや、あいつはオオマガトキ自体には大して興味を持っていなかった。それにポンコツだから、囮の塔を本物と思い込んでも無理はない。

 

 

「あの塔に使われていた岩は、何処か決められた場所から採って来た物でなければならない。ならば、そちらを破壊する事が出来れば、第二の塔を建造される恐れもなくなるのではないか。そう推測して鬼達の来た道を逆走して行ったら、より大きな塔を見つけたのだ」

 

「…成程。裏の裏を読む、か。自分で言うのもなんだが、その手の事は苦手中の苦手だからな…。大手柄だ、速鳥」

 

「手柄に興味は無い。ただ任を果たすのみ」

 

 

 そーいう言い分と考え方が、忍びっぽいって言われるんだけど自覚してっか?

 

 

「…………む…」

 

 

 まぁ、実際の忍びでもそこまで自分を殺せる奴なんか、そうそう居ないだろうけども。

 で、岩はその塔の付近から採ってきてるのか?

 

 

「うむ…見た所、天高く積み上げられた塔の破片や、周囲に散らばる岩のようだった。何らかの理由で使えなかった岩や、出来上がった塔から零れ落ちた力が宿った岩を再利用したのであろう」

 

「何らかの理由、か…。使うには貯めこまれた力が弱すぎたとしたら…。だが、破壊した塔に貯め込まれた力は、決して少なくなかった。…想像以上に、時間が無いのかもしれん」

 

 

 最悪、この3人で突入する事も考えはしよう、考えは。

 しかし攪乱で済むならそれに越した事はないが………速鳥、具体的な方策はあるか?

 

 

「小鬼が大型鬼に引き連れられて岩を囲み、叫び声を挙げているのを見た。塔に積み上げる為の岩を作るに際して、奴らは何かの儀式を行っているようだ。大型鬼はしぶとく、肝が据わっている者も多い。蹴散らすなら、儀式を補佐する小型鬼だ」

 

「周囲に護衛らしき鬼は?」

 

「居る。ゴウエンマも居た。今まで何度か見た事がある鬼だが、一際強大な鬼だった」

 

 

 本命の指揮官って事か…。できればそいつを潰したいところだが、周囲に他の鬼も居るとなると危険だな。手古摺って、集団で襲い掛かられるのが目に見えてる。

 確かに、攪乱するなら一撃離脱で仕留められる雑魚鬼の方だな。

 

 後は……雑魚一匹一匹やったとしても、間違いなく気付かれる。やるなら、囮を立てて注意を惹き付ける必要があるな。これは俺がやろう。

 自慢しているようで何だが、戦闘力・生存能力共に随一だと自負する。

 

 ……? 速鳥? どうかしたのか?

 

 

「…お主が全力で戦っても、指揮官を討ち取るのは厳しいか?」

 

 

 何を考えての発言か今一分からんが、護衛を蹴散らしながら討伐して、塔の破壊を並行作業で進めるのは、二人の協力があっても流石に厳しい。

 そもそも、この瘴気濃度じゃ瘴気無効の装具も完全には向こうかしきれないだろう。

 速鳥は最初から装具をつけてたからまだまだ余裕があるだろうが、最初は着けずに戦ってた桜花が活動限界を超えちまう。

 

 

「オオマガトキの再来を防げるなら、私の命など…」

 

 

 姉を失った橘花を誰が慰めるのかなぁ?(ニチャア

 

 

「私の命など軽いものだが、この場限りの対応の為に命を賭けても意味が無いな。奴らを上手く攪乱すれば、それだけでオオマガトキを遠退けられるのだしな! だから橘花に妙な事をするなよ!? やったら祟るからな! 菅原道真公も驚きの、ものすっごい祟りを起こすからな!!!!」

 

 

 分かってるよぉ(今回ループで手を出してきたのは橘花だったけどね! まぁ誘惑されただけで、押し倒したのは俺だけど)

 ま、とにかく方針は決まったな。

 

 俺が正面から乗り込んで敵を惹きつける。二人はその間に儀式の妨害。無茶を言うようだが、決して深追いせず、とにかく徹底的に邪魔に努める事。

 桜花の活動限界が近いのを忘れるな。いつでも退路を意識するんだ。

 

 

「言うだけなら簡単だが…」

 

「あの大群を相手に囮を務めるのと、どちらが簡単なのやら。まぁいい、どの道やるしかない。…空を見ろ、どうやら塔は本格的に完成が近いようだ」

 

 

 速鳥に言われるままに空を見上げると、確かに今までのループで何度か見た怪しい空模様。…あそこから、トコヨノオウとかが出てくるんだが…考えてみりゃ、トコヨノオウとオオマガトキは関係あるんだろうか?

 確かにオオマガトキの際にラスボスとして立ち塞がるし、顕現したらオオガマトキの訪れを告げるとは書かれていたけど、どういう関連性があるとかは…いやこんな事考えてる場合じゃないか。

 

 

 

 

 …ん?

 

 

 

 ………あれ?

 

 

 

 なんか……立ち上る力の色に、見覚えがあるような気が…いやオオマガトキの為の塔は今までにも見たから当たり前と言えば当たり前なんだが、それに別の力が混じっているような気が。

 

 

 

 

 なぁ速鳥、儀式を行っている鬼って、見覚えのない鬼だった?

 

 

「む? …いや……うむ? …中心になっていると思われる鬼は何体かいたが、それ自体は見慣れた、或いは資料で見た事がある鬼だった。しかし、よく思い返すと妙な模様が体表にあった気が…。資料にもそのような特徴は載っていなかったし、見た事のある鬼にもそのような特徴は今までなかった筈」

 

「…亜種、或いは何かしらの特異な状態になっている鬼かもしれん、と言うことか」

 

「可能性はある」

 

 

 ……すまん、突入する前に、その鬼を見てみたい。何処か偵察できる場所は無いか?

 

 

「ならばこちらへ。高台の上から覗く」

 

 

 速鳥に案内され、近場の高所に移動。幸い、まだ気付かれていないようだ。

 囮の塔を破壊して、満足して帰ったと思われているのかもしれない。

 

 それはそれとして、塔の周りで謎の儀式を行っている鬼達を遠眼鏡で覗き見る。

 

 

「…そんな物持ってきてたのか」

 

 

 かさばらないし、いつも持ち歩いてるぞ。遠い所の情報を得られるのは、それだけで大きな利点だからな。(覗きには使ってない。窓際で橘花に自慰をさせ、それを見ていた事ならあるが)

 と言うか、速鳥は道具も使わずこの距離から視認したんだろうか?

 さて、問題の鬼達は、と…。

 

 

 …大型鬼を見れば、体から赤い光が立ち上っている。…マガツヒ状態…とは別物だな。いや、平時に比べて弱っているのは確かか。

 じゃああの赤い光は……いや、それ以前に速鳥が言うように体の表面にある模様…。

 

 

 あれ、黒蜘病の特徴やん。形は蜘蛛じゃない……どちらかと言うと…龍? ギザギザのついた線が、鬼の体を曲がりくねりながら這い回っている。…文字通り、現在進行形で這い回っている。これが黒蛛病と同じ症状だとしたら、超絶的なスピードで病状が進行している事になるが…。

 そして立ち上る赤い光…性質的には、恐らく血の力。モノノフが使う霊力とは、似ているようで異なる力だ。

 

 また別世界の要素が出てきた訳だが…まぁ、それは今更だから別にいいや。それよりも、この現象がどういう影響を与えているか、だ。

 黒蛛病は、単なる病気ではない。特異点を探そうとする地球の意思、地球自身の血の力が人の身に注がれ、許容量を超えて溢れ出した結果。

 地球が力を注いでいる訳じゃなさそうだが……その力の供給元は、大型鬼じゃない? 塔から溢れ出る力…でもない。あの塔にあるのはオオマガトキを開く為の貯蔵分だし、零れた力を使ってそれ以上の力を籠められるってそれどんな永久機関だ。

 

 と、言う事は…?

 まさかと思って小型鬼を見てみると、これまた龍のような模様と立ち上る力。…こーれーはー…。

 

 

 

 

 …見つけた。一匹の土竜に、他には無い特徴が見える。突き出た鼻、全身から溢れ出る血の力…感応波、体表にはジャガーのような斑点。

 どう見てもガバラ・ガバラ型土竜です本当にありがとうございました。

 

 

「…どうした?」

 

 

 儀式の大本が分かった。ほれ、貸してやるから見てみろ。あの、一匹だけ鼻が出ている土竜だ。

 あいつの使う力には覚えがある。詳細は省くが、周囲の鬼の力を強制的に引き出す術だ。

 

 

「土竜か…。本当だとすれば厄介だ。一度潜られると追跡が厳しい」

 

「強制的に、か…。代償は大きそうだな」

 

 

 ああ。あの刺青のような模様は、その結果だろう。引き出された力が強すぎて、体に負担がかかってるんだ。

 承知でやってるのか、湧き出す力の全能感に酔って気付いてないのかは知らんがな。

 

 

「そういう事なら、周囲の鬼の体力は低いとみてよいであろう。命を削って力を発揮しているのだからな」

 

 

 代わりに悪い情報がもう一つ。やつらの体は、全身が毒みたいなものだと思え。

 力の元や術の性質がかなり違うようだが、俺が知ってる奴だと接触感染の可能性があった。人から人へな。鬼から人に感染してもおかしくない。

 軽い症状であれば俺が対処できるが、過信はしないでくれ。知ってるのと同じ症状になるとは限らん。

 

 

「そういう事だと、お前こそ大丈夫なのか? 奴らを一身に惹きつける事になるんだぞ」

 

 

 俺は体質上、ほぼ無効化できるから問題ない。前居たところで、色々あったんだよ。

 それ以前に、傷を負うつもりもないからな。

 

 

「傷を負うつもりで負う奴は…居なくても、傷を受けるのを覚悟で戦うのは当たり前だな。助言は受け取っておこう。…そろそろ行こう」

 

 

 よっしゃ、一丁暴れてやるとしますかね。

 神機よ、久々に出番だぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 …ってな訳で、MH世界スキルの挑発と、GE世界スキルの騒音と、タマフリの長髪…もとい挑発だ、のっぺらミタマに髪は無い…を使って敵を引き付けて大暴れした。

 登場時には貴重な大樽爆弾Gを使って、ヒーローの登場シーンよろしく見栄を切って鬼を相手に名乗りをあげ、久々に鳴き声挑発使って敵を引き寄せる。

 挑発…煽られて怒った鬼を相手にスキル挑戦者とか色々発動させ、力の限りに殴り合いとなった。

 

 …割と真面目に苦戦したわ…。

 

 血の力で強化されてるのは予測の範疇だったけど、その強化度合いがイカれてる。一言で言えば、疑似狂竜病。

 集まって来た鬼達の体に、赤い電流みたいなのが走り始めたのを見た時に、嫌な予感がしたんだ…。

 本気で斬り付けて、ようやく普通の鬼に普通に斬り付けた程度のダメージが入る。いや本当に硬い硬い。狙ってやったのかは分からないが、鬼と狂竜病とは厄介極まりない組み合わせだ。

 

 鬼は、普通のモンスター(と言うのもなんかおかしいが)と違って体を殴りつけただけでは生命力を削れない。ガワを破壊して、生命力で作った部位を攻撃しないと、どれだけ攻撃しても倒れない。

 そのガワが阿保みたいに硬くなって、部位破壊も一苦労ときたもんだ。おまけに再生力も桁違い。

 鬱陶しさが普段の3倍くらいになってしまった。

 狂竜病のデメリットである、明後日の方向を向いての攻撃とかは一切ない。理性は保たれているままのようだった。これはまぁ、隙が無い代わりに行動を予測しやすかったから、悪いと一概には言い切れないけども。

 攻撃を何発か喰らって恐竜症らしき症状を発症するも、克服もできない。いくら反撃を当てても、頭の中が引っ掻き回されるような感覚を捻じ伏せても、狂撃状態にもならない。

 生命力を削って疑似マガツヒ状態になっている為か、生命力が多くない事だけが救いだった。

 

 俺が手古摺り、じりじりと追い込まれていくのを見て、鬼達はどんどん集まって来た。

 一人で乗り込んできた間抜けを食うのは俺だとばかりに、大型鬼達が押し寄せてくる。

 このままだと割と真面目に危険。包囲され、巨体に逃げ道・避けるスペースの一切を奪われ、今度は俺が袋叩きにされてしまう。

 

 見ている二人にバレるのを覚悟で、アラガミ化を使うか?と覚悟を決めた時だった。

 突然鬼達が苦しみだした。

 異変が起こっているのは明らかだった。何せ、やつらの体で今なお侵蝕を続けていた龍のような刺青が、暴れ回っていたのだから。

 

 這い回る、ではない。明らかに宿主を食い散らかそうとしていた。事実、竜の刺青が通った跡には、鬼達の体に裂傷が出来ていた。ガワだけではない、生命力で作られた体にもだ。

 

 

「無事か!? …いや残念だなんて思ってないぞ」

 

「無事のようだが…おかしな事が起きているようでござるな」

 

 

 おう、桜花、速鳥! 儀式の元になってた奴を倒してくれたか。

 確かに、土竜相手にしてはちょっと時間がかかったかな。

 

 

「あれは普通の土竜ではない。妙な力を持っている時点でそれは分かっていたが…正直、予想以上だったのは確かだ。潜る・硬い・しぶといの三拍子だよ」

 

「我々に気付いた鬼が、阻止せんと襲い掛かって…いや、今はそんな事を言っている時ではない」

 

 

 そうだな。儀式の元になっている鬼は潰したんだし、塔に爆弾でも投げつけてさっさと撤退……っておいおい…。

 なんじゃこりゃ…。

 

 

 周囲の鬼達の殆どが死んでいく。俺達が斬るまでもなく、狂竜病の刺青に生命力を食い尽されて死んでいく。

 そして刺青が死んだ鬼の体から這い出て、塔に向かって飛んでいく。

 辺りの鬼の中には生き残った者も居るようだが、そいつらも生命力が激減し、体に損傷を与えながら刺青が飛び出していった。…とりあえずトドメ刺しといた。

 

 え、いや本当にナニコレ?

 

 理屈は分かるよ? 血の力にせよ、狂竜病にせよ、奴らは外から力を注がれる事で強化されていた。その術者…あの鼻付土竜だな…が消えた事で、注がれた力が暴走を始めたんだろう。

 そしてその力を呑み込むだけの力が無かった宿主を食い破った、と。

 分からないのは、それらが何故かオオマガトキの塔に向かっている事だ。

 

 …でもこの現象って、ひょっとしてアレか? GE2のクライマックスシーン、黒蛛病が患者の体から剥がれて吸収されていくシーンと同じアレか?

 と言う事はつまり、あの塔に黒蛛病なり狂竜病なり、その宿主の霊力なりが飛んで行って……って、やばいやばいやばい!

 

 

「呆然としている場合か! あの龍のようなものを打ち落とせ! 塔に回収される力を少しでも減らせ! あの塔が完成してしまう!」

 

「くっ!」

 

 

 速鳥が懐から取り出した手裏剣や苦無を乱舞する。

 俺も神機を銃形態に変え、もう一方の手でライトボウガンを構え、二丁拳銃(ただしメッチャごつい)で片っ端から打ち落とす。

 

 

 

 

 それでも、打ち落とす事ができたのはほんの僅か。この場所に居る鬼達の殆どから、四方八方から飛んでくる力。数が多いし、遠いし、何より角度的に打ち落とせない物も多い。

 多くの黒い刺青が塔に吸収され、岩の表面を這い回る刺青が合流して、徐々に太く大きくなっていく。

 その形は、正に塔に巻き付く巨大な邪龍。塔の表面を赤い電流が走り回り、邪龍の模様が頂点に達し、空に向かって大きく吠えたてて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 塔に足が生えた。拗ね毛の生えた、某腰ミノ踊りオヤジのような足だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すっくと立ち上がった塔は。

 

 

 

 

 

 

 

 すたこらさっさと、妙に軽快に走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん?

 

 

 

 

 

 

 んんん?

 

 

 

 

 

 



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527話

 

 

堕陽月伍拾玖日目

 

 

 

「……………」(こめかみを揉む)

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

 ……………。

 

「……………」(腕組みして上を向く)

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

 ……………。

 

「……………」(眉に唾を付ける)

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………」

 

 ……………。

 

「……………」(こめかみを揉む)

 

「……………」(それぞれの反応)

 

「………盛ってないよな?」

 

 

 土産の脛毛を見ろよオラァン!

 

 目の前に、抜け落ちたと思しき脛毛を採取してきたのを放り出す。率直に言って触りたくなかったが、重要な手掛かりになりそうな物を放置してくる訳にもいかない。

 ちなみに、籤引きで負けた俺が持ち帰る羽目になった。

 

 

「…すね毛、と言われてもこれだけではな…。秋水、分析を頼む」

 

「さっきから見ていますが…確かに、今まで知られている鬼の部位には当て嵌まりませんね」

 

 

 大きさが大きさな上に、無駄にストレートでキューティクルが利いてる毛なんだよな…。

 ゴウエンマを初め、殆どの鬼の体毛はちぢれ毛で、ミズチメの髪にしては太くて長い。弾力なども、明かに別物だった。

 

 

「…正直色々な意味で信じられんが…お前達3人が揃って嘘を吐くとも思えんし、幻術の類に騙されているのも考え辛い。証拠もここにあるし…。では、その後…その、走り去った塔はどうなった」

 

「…面目ない。流石に速度と言うか足幅が違い過ぎ、追う事ができませなんだ」

 

「山も川も谷も、文字通り一飛びだったからな…。速度もそうだが、走破性が驚異的だ」

 

 

 足跡はあるのに、足音が殆どしないとかおかしいよな。少なくとも、あの異形の塔の重さが圧し掛かってるはずなんだが…鬼の体が物理法則を逸脱するのは往々にしてあることだが。

 まぁ、空を飛んで行かないだけまだいい方か。

 

 

「なんつぅか、絵面を想像するだけでも一苦労なんだが…それで、肝心のオオマガトキはどうなんだ? オオマガトキがいつ起こるか分からないから、攪乱だけでも…って話だったが」

 

 

 あくまで私見だが、またすぐに起こるって事は無いと思う。塔には強い力が宿っちゃいたが……足を生やす事に、結構な力を費やしたようだ。

 オオマガトキ発生に必要な力がどれくらいかは分からないが、最初に見た時の6~7割くらいにまで目減りしていたように感じた。

 走り去った塔がどういう行動原理を持っているのか分からないが…あれでは起こそうにも起こせないだろう。

 

 

「一先ずの危機は去った…いや、先送りにできた、と言った方が正しいか。しかし、依然として塔そのものは健在。巨大な鬼が産まれたと考えると、あまり安心してもいられん」

 

「確かに。あの塔がそのまま人里に突っ込んでくるような事があれば、それだけで大惨事となるでしょう。また、あの塔がオオマガトキを引き起こそうとしているのんであれば、居場所を変えて再度力を貯め込む事も考えられます。

 

「塔そのものがオオマガトキを目論んでなくとも、他の鬼が塔を利用して…と言う事も考えられる。どの道、放置は愚策だな」

 

 

 しかし、どうやって奴を追いかける? そもそも、居場所すら分からん。仮に追いつく事が出来たとしても、足を止めなきゃ破壊しきる事は難しいぞ。異様に身軽だったもの。

 耐久力については……鬼達の力で強引に積み上げられた塔だから、力を削り取ればそれだけ脆くなる筈だが…。

 

 

「異能の力も持っていると考えておいた方がよかろう。仔細はお主の方が詳しかろうが、あの塔は奇妙な力を持った鬼達から力を吸い上げておった。それが蓄積されていると考えると、尋常ではない術を使う可能性は高い。…あの足がそれだと言われると、反論もできんが」

 

 

 そっか…。アレの力を使えるとすると…周囲の鬼を活性化させたり、狂竜病状態にする事も考えらえるんだよな。

 本来の塔よりも、貯えている力は少なくなっているが、防御力が爆上がりしてる事も考えられるのか。実際、何発か叩き込んだ遠距離狙撃も殆ど効いてなかったように思える。

 近辺に居た連中も、思いっきり斬り付けないと傷も入らんかったし…あれと同じくらいの硬度だと考えると厄介だな。まぁ皆大好き大樽爆弾なら固定ダメだけど、それが適応されるかも怪しいなぁ…。

 

 

「居場所を探るだけなら、千里眼の術がある。幸い、今の橘花は充分余力を残しているし、シノノメの里の巫女との遣り取りで、よい力の増幅方法を教わったそうだ。体に負担がかかる事は無い」

 

「橘花に脛毛を触れと言うのですか!? …い、いえ、言っている場合ではないのは承知しています…。つい…」

 

「…脛毛は…お嬢さん方には、ちょっときつい…か?」

 

 

 微妙なところですよね、息吹=サン。

 そこまで気にする事でもない、とも感じなくもない。…シモの毛なら駄目だろうけど、脛の毛だしな。…下半身の毛である事に変わりはないが。

 ……まぁ、好き好んで触りたい毛じゃないわな。惚れた相手の体ならともかく。それだとしても、脛毛なんてどう反応しろと言うのか。………脛毛だろうが白髪だろうがケツの毛だろうが、嬉々として舐めたがる者も居る事は黙っておこう。

 

 

「ともかく、橘花の術で塔の場所をもう一度探ろう。上手く行けば、何を目的として動いているのか推察できるかもしれん。嫌な顔をされたら……何とか埋め合わせをするという事で」

 

 

 

 

 

 橘花は快く…とは言えない表情だったが、強い拒絶をする訳でもなく受け入れた。毛が大きすぎて、脛毛とは考えにくかったのも一因だろう。

…埋め合わせとして、『お守り』でも渡そうと思ってたんだが、不要になったかな。

 

 

「おまもり…ですか? 里のお店では売ってなかったと思いますが、どのような?」

 

 

 …陰毛とか入れてる奴。男の毛で意味があるかは疑問だけど。

 

 

「ください(食い気味)」

 

 

 また今度ね。ちゃんと洗ってからでないと。と言うか、提案しといて何だけど、何に使うんだ。

 

 

「色々ですよ。それはもう、文字通りのお守りにする、舐める、しゃぶる、自慰に使う、術…というよりおまじないに使う。使い道は多彩です」

 

 

 …まぁ、俺も口淫の時にそのまま呑み込む事はあるけどさ…。

 

 

 

 

 肝心の千里眼の術の結果だが…塔は確かに見つかったようだ。集中する橘花が、目を閉じたまま話している。

 

 

 

「……塔は、今も走り回っているようです。凄い速度…。あっ、周囲の景色が変わりました。これは…乱の領域と、安の領域を飛び越えたようですね」

 

「今も走り回っていて、しかも場所に縛られていないのか。これはまた、一層厄介な…」

 

「乱、から安…。最初に逃げ去った方向とは、全く違うな。何を目的としているのか分からん」

 

「塔だけなのか? 周囲に鬼が居たりしないか?」

 

「見る限りでは…ですが、取り巻きは居ないようです。と言うより、居たとしてもついてこれないのではないでしょうか。…あ、また領域が変わったようです。…跳躍しました」

 

「進路順路の問題もあるであろうが、領域を一つ瞬く間に駆け抜ける…。背後から追っても、追いつける気がせん。待ち構えねばなるまいが…そうしたところで、目当ての場所で止まるかは別の話か」

 

「そのまま駆け抜けるか、下手をすると飛び越えられちゃうんじゃない?」

 

「ずっと走り通しなのか? 流石に鬼でも、それは疲れるだろうに」

 

「いやそれよりも、オオマガトキの予兆はあるか?」

 

「いえ…見える限りでは、それらしい物はありません。ただ只管に走っているだけです。周囲に力が渦巻く気配もありませんし…」

 

「橘花、体の負担は…」

 

「大丈夫です。充分余裕はあります。…鬼、と言うか塔の側から術への抵抗もありませんので、負担が増す事もありませんし」

 

「それもまた妙だな。人でも鬼でも、千里眼の術には無意識に反抗するものだが…」

 

 

 皆、それぞれに疑問を上げ、橘花は出来る限りそれに応えていく。

 ちなみに、体に負担が無いのは本当だ。事前にオカルト版真言立川流で、しっかりブーストさせたからね。

 

 しかし有効な情報は得られない。ただただ凄まじい速度と踏破性で、目的にも分からず走り回るだけ。

 オオマガトキを起こそうとしているのか、このまま放っておけば起こるのか、すら分からない。

 

 どうしたものかと考えていると。

 

 

「あっ!? …術が解けました」

 

「どうした、橘花!? 反撃されたのか!?」

 

「い、いえ、驚いて集中が解けてしまっただけです」

 

「驚く? …走る塔以上に驚きの事が?」

 

「………こ、こける塔と言うのは、驚きだと思うのですが」

 

 

 

 

 

 

 

 こける?

 

 

 

「はい…段差に蹴躓いて成大に、塔を地面に打ち付けながら、どっしーん、と…。誇張抜きで、周囲が振動していました」

 

「いや……こける、って何でだよ…」

 

「その後、周りを壊しながらのたうっていて……起き上がろうともがいているように見えましたが」

 

 

 ………思い返してみれば、あの塔にあるのって足だけだったよな…。

 

 

「うむ…目も無ければ耳もなく、鼻も無い。当然口もない。蚯蚓でさえも、一見では分からぬが目はあると言うのに。…どうやって周囲の状況を把握しているのであろう…」

 

「触覚だけでも風の流れである程度把握は出来るが……実は、把握してなかった…とか?」

 

「では谷やら河やらを飛び越えたのは」

 

「……………勘…? 或いは水の冷たさや谷から吹き上げる風を感知したとか」

 

「起き上がろうと悶えると言うのは」

 

「……手、ないからなぁ。人間で言う体に値する部分が塔だから、曲げる事もできないし。重さで言えばどう考えても足ではなく塔に重心がある。立ち上がるのも一苦労だろう」

 

 

 さもあらん。人間だって、上半身を一切不動、錘付で足の力のみ使って立ち上がれと言われれば、そうそうできる事ではない。

 

 

 

 

 …暫く、何とも言えない沈黙が下りる。

 ……割と何とかなるんじゃね、これ。

 

 

「う、うむ…。何処かに罠を張り、一度転倒させる事ができれば、後はどうとでも…」

 

「いや待て、倒れた後も起き上がる為とは言え、あの巨体がのた打ち回るんだ。それなり以上の脅威…の筈だ」

 

「他の鬼に追いつかれて利用される可能性も忘れちゃいけないな。対処が早いに越したことはない」

 

「しかしどっちにしろ、進路を予測しなきゃ罠も張れねぇぜ。移動の速度と踏破性は相変わらずの脅威なんだからよ。しかも俺らと違って、濃い異界の中でも時間制限が無い」

 

「進路を的確に予測した上で、勘で逃れられぬよう十重二十重の罠を張り巡らさなければなりませんね。しかし、どうしたものか…」

 

 

 異界の中で罠を張るなら、うちの子達の出番だな。人数に任せて露払い、仕掛け、観測に誘導まで人海戦術で行ける。罠だって、あいつらの特殊なタマフリを活用すれば、普通のよりももっと凶悪な物が出来るだろうぜ。

 俺も、マイクラ能力使って地形作りから誘導の為の壁まで何でも作れる。

 

 

「準一級の戦力が多数って、こういう時には本当に有難いな。舞蔵とやらはよく分からんが、お前さんが家やら水場やら作るのに使ってた能力か」

 

「あの力ならば、かなり大掛かりな罠が張れるな。問題は、それに引っ掛かるかと言う事だが…走る、逆走する、跳躍する…これらをされるだけでも罠への誘導は難しくなる」

 

「……あのさ…」

 

 

 どうした、初穂。

 意見なり疑問なりあるなら、積極的に口に出すべきだぞ。特にこういった会議の場では、黙るのはむしろ悪徳だ。

 

 

 

 

「……みんな、色々意見出してるけど………その塔の抜け作さ加減を誤魔化そうとしてるだけよね」

 

 

 

 

 ……訂正、黙っていた方がいい事もある。

 

 

 

 

 

 

 

 初穂の空気をぶった切る発現はともかくとして、足止めするのに一工夫必要なのは事実である。

 幾つか案を出し合った。幸い、あの塔が再度オオマガトキを起こすとして…それが自らの意思なのか、周囲の鬼が利用する形でなのかは分からないが…、塔に残っている力は半分と少し程度。作り上げられた足を、分解して再度吸収したとしても、十全な力が満ちるには足りないだろう。

 鬼による儀式や、或いは地脈から力を吸収するなどの方法で、削れた力、足りない力を補填するのには暫しの時間がかかる筈だ。

 

 

 まず行わなければならないのは、塔が進む進路の予測。これは俺・那木・秋水の合同作業となった。

 俺が異界を周って痕跡を辿り、その情報を那木と秋水が分析して行動原理や傾向を予測する。

 

 その間に、速鳥の指示の元、うちの子達や富嶽、初穂と言った細かいことを考えるのが苦手な連中が、人海戦術で罠に必要な素材を作る。

 速鳥が指揮を執っているのは、元忍びとしての知識…罠や誘導についての詳細な知識があるからだ。

 桜花はその総括、息吹は補佐。

 まぁ、イイ感じに回ってるんじゃないかな。

 

 パトロン権限で、博士や茅場にも協力を要請したところ、「こんな事もあろうかと」などと言いつつ、怪しい道具と、労働力としてグウェン・真鶴を提供してくれた。

 真鶴がかなり疲れ切っていたのが気になる。こき使われているんだろうか。

 

 …そう言えば、真鶴は元々、異界浄化の方法を確かめにこの里に来たんだったが……そっちの成果はどうなんだ?

 

 

「ん? ああ…成果はそれなり、と言ったところだ。お前達が異界浄化を繰り返したおかげで、博士も大分研究が進んだようでな。刀也達にもいい報告が出来ている。…とは言え、やはり鬼の手が必要な事もあり、まだ戻れそうにはないが…」

 

 

 正直、下手に教えていいモノでもないからな。下手をすると、再度オオマガトキを、今度は人の手で引き起こしかねない。

 異界が全て浄化されたら、一切を封じなければいけないかもしれないな。…いや、どっちにしろ異界の元となる穴が必要だから、そこは考えなくてもいいか。

 

 まぁなんだ、お前さんとは一度ゆっくり話をしてみたいと思っていた。今は任務があるから無理だが、ちょいと付き合ってくれるとありがたい。

 

 

「……これが俗に言う、軟派と言う奴か」

 

 

 硬派でないのは間違いないけど、そーいう話じゃないと思う。

 いつも女に囲まれてる俺だけど、偶にはそーいう関係じゃない人と、純粋に話をする機会は必要だと思うんだ。

 

 

「男と話せ」

 

 

 話そうとすると、「羨ましいんだよ!」って心の声が聞こえてくる事が…。

 まぁ、とにかくまた今度。美味い茶菓子を用意しとくよ。

 

 

「まだ受けるとは言ってないのだが…まぁいい、仕事だ」

 

 

 

 

 

 



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528話

仁王2、体験版クリア。
いやー死にまくった死にまくった。
常闇がキツすぎる。
特技での気力削りを理解できないとどうにもならなかった。

さて、次はクライマックスだったP5Sだな。
次の休みに博物館でも行こうかと思ってたのですが、このご時世ですしね。
家でダラダラするとしましょう。

…書き溜め、どうすべぇ…。


 

 塔が逃げ去った足跡を辿り、異界の中を歩き回る事丸一日。

 鬼疾風という、現在の長距離最速移動手段を以てしても、塔を追いかけるのは至難の業だった。ただ真っ直ぐ追うだけならまだしも、塔の痕跡はあっちにフラフラこっちにフラフラ、何処で向きを変えているのか分かったものではない。

 周囲にそれらしい痕跡が無いか探知しながら高速で走るのは、かなり神経を使う。

 暫く痕跡が無いと思ったら、いつの間にか方向転換されており、それを探すのに時間を食った事もあった。

 

 たった一日での成果としては上々な方だが、流石に数が足りない。

 夜になると持ち帰った痕跡の記録(主に抜け落ちた脛毛)を並べ、3人で頭を突き合わせる。

 

 

 痕跡が発見されたのは、ここ、ここ、ここ、ここ、ここここここここ…

 

 

「鶏ですか貴方は」

 

 

 都合の悪い事や失敗は3歩で忘れる鳥頭でございます。一回死んだら、因果を奪われたことは全て忘れます。

 冗談はともかくとして、あの塔が移動した道は、直線にすると大体こんな感じだと思う。

 

 野を超え山超え谷超え川越え、よくぞここまで走ったもんだ。俺が一日かけて付け回した距離も、あの塔なら半日とかからず走り抜けたろうよ。

 

 

「…痕跡があったのは、足跡と脛毛のみにございますか?」

 

 

 いや、橘花が千里眼の術で見た所以外でもこけていたらしくてな。あっちこっちにのた打ち回った跡があった。

 こけた後は、大なり小なり方向を変えて走り出しているようだな。

 

 

「速鳥さん達が見た情報の通りなら、方角どころか行き先を確認する能力すらないのでしょう。七転八倒して起き上がった後は、当ても無く、それこそ勘に任せて走っているものだと思われます」

 

「起きている限り、走り続けるだけ…休息を挟む様子すらない、ですか。鬼とて体力は有限の筈。つくづく、真っ当な鬼ではないようですね。…自発的に止まるのを期待する事は出来ません。罠を張る為、まずは行動傾向の分析です」

 

 

 そうだな。で、まずは現地調査した俺の意見を言わせてもらう。

 知っての通り、こいつは川とか谷とかの地形は基本的に飛び越えていく。だけど、全ての場所でそうできている訳じゃない。何度か引っ掛かって、転げまわった跡があった。

 

 

「地形を察知するのには、条件が必要と言う事ですね」

 

 

 その通り。そして、地形を感知できたら、そっちに走り出しているように思う。

 目暗状態で走ってるからか、こいつの進路は基本的にふらふらしている。だけど、飛び越えた地形のもう少し手前まで来ると、明かにその地形の方に方向転換してるんだ。

 

 

「どうなっているのか全く分からない道を進むよりは、短い間でも先が見えている道を進んだ方がいい…と言う事でしょうか」

 

「人の思考に当てはめれば、それに近いかもしれませんね。それならば、安全な場所を探して足を止めるべきでしょうが…そこはこの塔…いえ、鬼の特性でしょうか」

 

 

 鬼の生態は意外と生物的だけど、あの塔はそもそも生物なのかも怪しいからな…。

 そもそも、何で走り続けてんだろーな。

 

 

「あなた達から聞いた話を強引に繋ぎ合わせると…倒れた鬼達の体から、何らかの力が塔に吸収されたのですよね。であれば、その力の…そう、方向性とでもいうべきものが、『走れ』だったのではないでしょうか」

 

「塔に向かって走れと言うのもおかしなお話ですが…。ですが筋は通ります。塔を守らなければならない、守れないというのなら遠ざけなければならない。その意思が力と共に流れ込み………その、足が生えるというのは、少々予想外だったと思われますが」

 

「鬼としても、少々どころではなかったのではないですかね。何にせよ、塔に与えられた指令は『走る事』のみだったのでしょう。何処に行けとか、行って何をしろとか、そういったものがない。なので、ただ只管に走るだけとなっているのです」

 

 

 なんつーか、ぜんまい仕掛けのカラクリみたいだな。そういう機能しか持ってない。

 …いや待て、仮にそうだったとしても、奴には自分にとって走りやすそうな道を感知して、そっちを選ぶという傾向がある。自意識とまでは言わなくても、判断を下す精神みたいなものはあるんじゃないか?

 

 

「必要なのは精神云々ではなく、塔にとっての「走りやすそうな道」の基準だけです。…ですが、精神らしきものがあるとすれば、時間と共に成長する恐れはありますね」

 

「塔の精神…そこまで行くと、どのような行動をとるか予測できなくなりそうです。それ以前に、そこまで時間をかけるとオオマガトキが起こっている可能性もありますが」

 

 

 話を戻そう。こいつにとって走りやすい道…遮蔽物のない平原?

 

 

「それは違うと思われます。あなたが痕跡を集めてくださった場所と道を鑑みるに、むしろ山、川と言った場所を選んで走っているようです」

 

「それに遮蔽物が無いと言っても、どうやってそれを確かめるのか。何も無いところでも頻繁にこけている事からして、感覚器は左程鋭くないのでしょう。下手をすると、本当に足の触覚しかない可能性すらあります」

 

 

 触覚…触覚か。やっぱそれで判断してるのかな…。

 だとすると……足元の感覚と、風が判断基準か。水辺や山川からは、強くて冷たい風が多いからな。風が吹きつけてくるって事は、その前は基本的に空間が空いてるって事だし、そういう場所を「走りやすい場所」としているのか。

 

 

「それなら誘導は簡単そうですね。地面も走りにくい、小石…と言っても塔にとってなので、相応の大きさになりますが…をちりばめておけば、撒き菱代わりにもなるでしょう」

 

「それを準備するのは、結構な大仕事になると思われますが…」

 

 

 大丈夫、うちにはその手の作業に強い子が結構いる。俺も出来るし。

 とは言え、誘導するならそれなりに場所を選ばんとな。

 

 今いる場所を予測して、そこからの移動経路を予測ないし誘導して、そこに到着するまでに充分な準備期間を確保でき、なおかつ決戦に適した土地…。

 

 

「…そんな都合のいい場所、ある筈がありませんね。特に準備期間の部分が」

 

 

 せやな。妥協は重要だ。

 でも、もうちょっとだけ考えてみよか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人でああでもないこうでもないと知恵を出し合い、何とか幾つかの案を形にする事ができた。

 と言っても、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる作戦でしかない。

 予め何か所かに大規模なトラップゾーンを作っておき、交代でそこを見張る。塔が近付いてきたら増援を呼び、誘い込んで足止め、そのまま撃破が基本的な流れだ。

 暫くは異界の中で罠作りだな。

 

 第二案として、異界の浄化を提案されもした。あの塔は鬼達の意思を受けて異界の中を走り回っているが、異界の外はどうなのか?

 獲物を追いかけるなどの理由が無ければ、鬼達は基本的に異界から出てこない。あの塔も同じなのではないか?

 だとすると、残っている異界を浄化して異界を無くしてやれば奴の行動範囲も自然と狭まるのではないか?

 

 …その異界を浄化するのに、異界の元となっている場所を探さなきゃならんので、これまた時間が足りないって事で却下となったけども。

 どっちにしろ異界浄化は進めなきゃならんから、異界の元を見つけたら実行してもいいかな。

 

 報告は秋水に任せ、俺と那木は屯所に戻る。那木は相変わらず俺達の監視役という立場なので、こっちで寝起きしていた。ちなみに私室も割り当てている。

 

 

「それにしても、よくご無事で…。皆さま、非常に心配していらっしゃいました」

 

 

 抑えに回ってくれたと聞いた。本当にありがとう。あの子達が大挙して参戦してたら、話がもっとややこしくなる所だった。

 いや、決して足手纏いとか考えてる訳じゃないんだけど、向き不向きがあるし。

 

 

「分かっています。不備や異論はあるでしょうが、結果的には必要な処置でしたのは間違いありません。…ですが、それでも心配は重なるものです。特にあの方々は、あなたを中心として纏まって…いえ、生きていますから。それが手の届かない所に行くかもしれないと思えば、心労はいかばかりか…」

 

 

 …大分安定してきてると思ってたんだけどな…。やっぱ、俺が居ない状況にも慣れさせなきゃならんかなぁ…。

 

 

「それ以前に、あの方々は力を振るえば、その分精神的に不安定になると聞きました。戻ったら労ってあげてください。…見ているだけで、落ち着きが無くなっているのがよくわかりました」

 

 

 それ程か。大分安定してきた、なんて考えてた俺が節穴だったか…。

 しかし労う、ねぇ…流石に人数が多いな。一番手っ取り早く安定させる方法は、言うまでも無く例のアレだが。つまり那木公認でズコバコしてくれと言われている…のかな?

 

 戯言はともかく、大きな戦いを乗り越えた後だし、何かしら褒章なり生活の改善なりが出来なければ、士気にかかわる。

 労いの言葉一つやハクで済ませるのも味気ないし、何かしら考えてみるか。

 

 

 

 

 

 

 屯所に戻ってうちの子達の様子を見てみると、那木の言っていた事は誇張でも何でもない事がよく分かった。

 皆、どこか気もそぞろで、落ち着きが無い。集中して稽古しているように見える子も、ふとした拍子に気が緩むし、昼寝している子は微妙に魘されているし、座禅を組んで瞑想している子もそわそわと体を動かしている。

 

 …大規模だったとはいえ、たった一度の戦いを経ただけでこれか…。個人にかかる負担という意味では、休みながら戦えたんだし、普通の任務よりもむしろ軽いくらいだと思うんだが。

 逃亡防止の為の暗示もかけ直してないから、効力は徐々に薄れている筈。

 うーん、不安定になる条件が、イマイチ分からん。

 

 いつものヤり方は希望者のみにするとして、とにかく皆と話をしに行くか。

 怪我の治療や、症状が比較的重い者の対応を那木に頼み、目につく相手に片っ端から声をかけていく。

 

 

 話の内容は…まぁ、戦ってた時の事を褒めるのが主。こんだけ女性と関係を持ってて何だが、あまり俺の話題は多くないのだ。

 まぁ40人以上の人を相手に、それぞれ全く違う話をしろって方が無茶振りだと思うが。

 

 

 それはそれとして、改めて問題を発見した。いや分かってた事だったんだけど、最近はそれを感じていなかった。

 一人一人と充分な会話をしようと思うと、どうやったって時間が足りん。

 何を今更、って言われればそれまでだけど、物理的に足りないのだ。

 

 不安定になってる子達は、ただ一言二言声をかけただけで安定する訳じゃない。それだけでも大分違うらしくはあるが、やはり充分に安定させるには相応の遣り取りが必要になってくる。

 今までだとご褒美・お仕置きと称して交合し、体感時間操作で時間を捻出できていたが、無しだとね…。

 会話は交合よりも効果が薄いし、言葉を交わせば交わすだけ時間がかかる。必要な時間は数倍以上だ。それを40人以上。時間も足りんが、会話のネタも足りん。

 

 …労いの会話でまで、体感時間操作の為にセクハラするのはどうかと思うしなぁ…。いや悦ばれそうではあるんだけど。

 

 さっさと抱いて安定させろ、という御尤もかついつも通りな意見もあるが、それだっていつでも使える手段とは限らない。俺はオールオッケーだとしても、彼女達から離れて別の場所に居る事も考えられる。

 例えそれが頭領だとしても、個人が居なくなっただけで回らなくなる組織は健全ではない。何かしらの手段を用意しないと。

 

 

 ま、差し当り今回は、夜のスマッシュシスターズ(竿姉妹的な意味で)で希望者は安定させて、残りは会話でどうにかするとしますかね。

 

 

 

 

 



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529話

P5Sクリア。
割と楽しめたと思います。

敵の数は無双物なのに、ゲームシステムというかバランスは確かにペルソナでしたね。
弱点を突くかどうかで非常に難易度が変わりますし、普通の無双物とは完全に別物でした。
これは新しい分野っぽいのではなかろうか?

ストーリー的には、従来の改心とは違うやり方でした。
ぶっ飛ばしてからシャドウ相手の語りとはいえ、ボス達の心根を変えたのは一貫して怪盗団の言葉でした。
この辺に今回のストーリーのテーマがあるような無いような。
特別な改心という力が無くても、人と人との繋がりで人は変わっていける。
そういうテーマがあったんじゃないかと思います。

……はて、このSSは何かテーマを決めて書いていたような、そうでもなかったような…?


そしてただいま、難易度RISKYプレイ中。
カンストの義経でも、チュートリアル戦闘で瞬殺…成程、こいつぁリスキーだぜぇ…。


黄昏月壱日目

 

 

 新しい暦に突入。なんか今回は異常に長かった気がするが、これも全て鬼とかクサレイヅチとか諸々の都合の仕業なんだよ。

 年越しそばならぬ暦超え乱交も結構盛り上がったなぁ。非参加者から、五月蠅いとばかりに天井ドンされまくるくらい。防音防震にしてるのにね。

 おかげで大部分の子は安定したので、取り敢えず良しと言う事にしておこう。

 

 残った子だけなら、会話だけでも充分間に合う。いつもの手段が取れなかった場合の対応は、後々考えるとして…。

 今の問題は、相変わらず逃げ回っているらしき塔。

 虚海から速鳥に続報が入ってないかと期待したが、今のところ無いらしい。或いは隠しているだけなのか。

 

 安定した子達は、優先的に任務…塔をスッ転ばす為の罠の製作を担当させ、そうでない子達はそれぞれ世間話をする。

 …その中で、幾つか面白そうなネタが上がってきた。いや面白がっちゃいけないとは思うんだけど。

 

 鹿之助、骸佐、権佐。数少ない男性チームが、何やら里の女性、並びに男性に言い寄られているとか。

 一応言っておくが、女性はともかく男性に言い寄られているのはおかしな意味ではない。任務に行く時に班を組みたいとか、特に目的も無く駄弁ったりとか、そういうのだ。

 簡単に言えば、友人が出来たって事かな。打算交じりなのも否定はできんが。

 

 

 

 女性陣は…かなり本気で狙ってるっぽいのから、ちょっといいなと思って話しかけてるの、家を継ぐ者を探しているのまで様々だ。

 先日の大暴れで、彼らの将来性を見出した者が居たらしい。

 

 ……ただ、鹿之助に言い寄ってる女性は、かなり視線が偏っているよーに見えるんだが…ケツを掘られないよう、対策だけ教えておこう。

  

 

 ちなみに俺には、そーいう話は無い。

 ……まぁ、仮にも一組織の頭領で、更にその組織の9割以上を妾・愛人同然の扱いにしてる男に、そうそう話しかけようとは思わんわな…。

 寂しくなんてないやい。

 

 えー、それはともかく、3人に言い寄ってる女性達だが、骸佐は少女くらいの年齢に、権佐は熟女(この世界での基準。具体的には口外しない)に人気があるようだ。鹿之助は年齢を問わないようだが、まぁ、さっきも書いた通り、目が、ね? 捕食者になってる奴も居れば、金…じゃない、ハクになってる奴も居る。

 ………俺がやってる房中術、覚えてみる?

 

 

「いらねーよ。今のところ、所帯を持つとか考えてもいねえ。大体、下手な事すると里との確執に繋がるだろうが」

 

「俺は…さわりだけでも覚えておきましょうか。出来れば、迫られたのを穏便に回避する方法を主に」

 

 

 なんでぇ、つまんねーな。別に俺みたいに無節操に手ぇ出せとは言わないが、もうちょっと欲を出したり、人との繋がりを作ってもいいんだぞ。

 うちの子達は、良くも悪くもうちの中だけで完結できちまうし。 

 

 あと権佐、悪いが俺の術の中に回避の方法は無い。問題が起きたりしたら、捻じ伏せて解決するばっかりだからな。

 つーか、初手回避でって…。

 

 

「俺も男として欲が無い訳じゃないんですがね、それ以上に相手を選ばなきゃならんもんで。…下手に関係を作ると厄介そうなのが多いんでさ」

 

「具体的には?」

 

「人妻、未亡人、嫁ぎおく…もとい、ご縁がなかったご婦人方、その他諸々。下手なことをすると、そのまま絡め取られそうなんですわ」

 

 

 おおう……なんか納得。そういう雰囲気あるわ、権佐。不倫物の小話の主人公っぽいというか。

 他二つはともかく、人妻はやばいな。旦那がそういう趣味だってんならともかく。

 俺も、人の女には手を出さないようにしてるんだが…酔っぱらってやっちまった事に気付いた時には青ざめた。旦那さんが恩人みたいな人だったから、猶更…。

 

 

「何やってんだよ大将…。つかそんな経験してるんだったら、もう少しくらい女遊びを自重しろよ」

 

 

 それは鳥に水中で呼吸しろと言ってるようなもんだ。自重したら自重したで、不満を言う子も出そうだし。

 鹿之助は?

 

 

「この流れで聞く!? …きょ、興味はあるけど、ほら、その…あれで…」

 

 

 二人が断ったからって、自分も断らなくてもいいんだぞー。

 …割と本気で身に着けとけ、掘られそうになった時の逃げ方を。受け入れ方でもいいけど。

 

 

「なんの想定をしてるんだよ若ぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 女であっても、目覚めるときは目覚める。そーいう事だ。

 まーなんだ、別に積極的に仲を深めろとまでは言わないから、人脈は作っておけ。もしも独立する事になったとしても、助けてくれるようにな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、居た居た。頭領さんよ、ちょいといいかい?」

 

 

 里を歩いていると、息吹に声をかけられた。

 珍しいっちゃ珍しいな。別に不仲って訳じゃないが、単純に話す機会は少なかった。息吹も、男と話してる暇があるなら女に声をかけてるし。…ナンパというよりは、軽い挨拶程度の声掛けだが。

 

 今は用事もないから、構わないよ。塔追跡の為の痕跡もそこそこ集まったから、異界に向かう必要もないし。

 

 

「そうかい、そりゃお疲れさん。…でよ、明日奈嬢に聞いたんだが、お前さん異国の事に詳しいんだって?」

 

 

 詳しいっていうほどでもないが。俺が知ってるのは、極一部の土地の偏った知識だけだ。

 …俺の知っている『異国』が、この世界のこの時代にあるとも思えんしなぁ…。

 

 

「それならそれで構わないさ。ものは相談なんだが、異国にはお嬢さん方と懇ろになれるような催し物ってのはないのかい?」

 

 

 懇ろに、ねぇ…。あるにはあるが、その手の催しは定着しないと効果が薄いぞ。縁もゆかりもない聞いたこともない…かどうかは知らないが、突然聖人…仏教でいう釈迦牟尼の誕生日を祝え、と言われたって戸惑うだろ。

 

 

「やるなら、由緒正しい謂れがどうの…って話じゃなくて、もっと分かりやすい催しか…。今この里でもできそうな事といえば、盆踊りくらいなんだよな…」

 

 

 …しかしいきなりどうしたんだ。女好きなのは知ってるが、「お前さん程じゃないよ」うっせ、俺は単なる色狂いだ。

 ご婦人に声をかけるのが趣味なのは知ってるが、本気で誰かと懇ろになろうとはしていないだろ。お茶に付き合ってくれれば儲け物、くらいにしか期待してない。

 それが悪いとは言わないが、突然そんな事を言い出す理由がわからない。

 

 誰か惚れた女でもできたか?

 

 

「いーや、俺はこれでも一途な男なんでね。心は揺るがないさ」

 

 

 …故人に、だろうけどな…。これに関しては、俺がどうこう言う問題じゃないし。

 しかし、それならどうして突然そんな事を。

 

 

「前に、大和のお頭とお前さんが練武戦を計画してたのを思い出してね。腕を競うのも悪くないんだが、折角美人さんが増えたんだ。ちょっとくらい盛り上がってもいいんじゃないかと思ってな」

 

 

 その美人さんは、ほぼ俺のお手付きなんですが。

 

 

「…知ってるよ…」

 

 

 血涙やめーや…。人間関係をややこしくする事が目的じゃないだろうし、要するに狙いは景気づけか?

 

 

「そういう事だ。ここ最近、戦力が増えたおかげで楽になっちゃいたが、その分激戦も増えた。体の疲れもあるが、それ以上に精神が疲弊してる。元々、豊かではあっても変化に富んだ里じゃない。祭りもあるにはあるんだが、まだまだ先だし、何よりも代り映えしなくてなぁ」

 

 

 うーん…マンネリ打破か。結構難しい問題だ。

 ただ奇抜な事をやるだけだと、訳が分からないと引かれて終わり。

 皆が参加できて、安全で、興味を惹く洋風のイベント…。

 

 単純に考えれば、バレンタインデー、クリスマス、七鍵守護…もとい、ハロウィン、

 

 

「ふむふむ。刃練蛇韻、苦離済増、覇路得院。名前からして独特だな」

 

 

 その当て字もね。異国には一部を除いて漢字なんて無いんだから、仮名表記にしとけ。

 他には……パイ投げ祭り、チーズ転がし祭り、トマト祭り、水かけ祭り、ワインかけ祭り…。酒やら肉やら魚やらとにかく食い放題の祭りもあるし…。

 

 

「食い放題はちょっと無理だな。そこまで里も懐に余裕がある訳じゃない。水かけ祭り…はまだちょっと肌寒いし。…ちーずやらわいんやらは、確か異国の酒や食べ物じゃなかったか?」

 

 

 パイもトマトモだ。

 

 

「食べ物で遊ぶのは良くないな。節分だって、後から食ってるんだし。うーむ…」

 

 

 食い物から離れれば…そうだな、燈篭流しみたいなのがあった筈だ。紙で作った燈篭みたいな奴を飛ばすんだ。上手く行けば空に向かって上がっていくんだよ。

 燈篭流しを水面下から見てりゃ、あんな感じになるんじゃないかな。

 

 でかい人形を用意して燃やす祭りとか、火薬を使った玩具を飛ばす祭り、仮面をかぶった祭り、どろんこ祭り、猫祭り…俺に一番縁があるのは、狩猟祭だな。

 

 

「ふぅん…色んな祭りがあるんだな。世の中は広いぜ。…仮面? 仮面を被ってどうするんだ? まさか被るだけって事は無いだろ」

 

 

 それだけでも結構楽しいもんだぞ。普段やらない事をやれるって言うのは、それだけで冒険してる感があるしな。

 何をするかって、色々あるんじゃないか。

 軽い仮装を楽しむも良し、普段と違う自分を演じてみるもよし、本気で変装して正体不明の怪人を演じるも良し。皆が皆、誰なのか分からなくなったら…普段言わない本音とかも言えるようになるかもな。

 目の前に居るのが誰なのか分からない。本音をぶちまけて居る自分が、誰なのか気付かれない。

 

 結構…面白くなると思うよ。

 

 

「確かにそれは興味があるが…後々の人間関係が大丈夫かな…。じゃあ、その火薬を仕込んだ玩具ってどんなのだ? 危険じゃないのか」

 

 

 火薬なんだから、そりゃ危険はあるよ。要は花火だよ、花火。小型の奴な。

 そもそも火薬は戦略物資だし、使わせてくれるとは思えんよ。

 

 

「…お前、こっそり隠し持ってたり…」

 

 

 材料しか持ってないな、今は。

 そうだなぁ、人と人の距離を縮めやすい催し…。

 

 

 

 

 ………アレかな。祭りって程じゃないけど、その分準備も簡単だし、何かあっても籤運とか冗談って事で片づけられそうだし。

 

 

「おっ、何か思いついたか?」

 

 

 名前が思い出せないんだけどな…。

 

 まず、準備するのは男女で同じ人数の参加者。別に同じじゃなくてもいいけど、後が面倒になったり、あんまり美しくない絵面が出来上がる可能性もあるのでお勧めしない。

 次に紐。更にそれを覆い隠す布。

 

 

「ふむふむ。男女の距離を縮めて精神的に充実させようってんだから、男女で同じ人数を集めるのは道理だわな。それで?」

 

 

 紐をあみだ籤状に結ぶ。多少動かす事が出来れば、尚いいな。それを布で覆い隠したら準備完了。

 参加者には男女で分かれてもらい、それらに向かって意味深な問題を出す。そうだな、例えば『愛が有れば年齢どころか性別、種族の差も関係ない?』とか。ちなみに息吹の返答は?

 

 

「お前が真面目に答えるんなら俺も答えるぞ」

 

 

 んじゃいいや。

 で、答えた結果によって適当に配置とあみだ籤の結び目の位置を変えていく。何問か答えてもらった後、足元の紐をそれぞれ持ってもらい、その先に居た相手に酷薄。

 

 

「成程ねぇ。縁結びとは、中々粋な遊びじゃないか。しかも遊びでしかないから、そう深く捉える必要も無い。斬新だな…」

 

 

 斬新? と思ったが、時代背景が背景なだけにそう感じてもおかしくはないか。

 世界的に見れば珍しくもなんともない凡庸な発想でも、その地に無かったのであれば革新的なアイデアに思えてしまう。

 

 ま、深く捉える必要はないと言っても、運命だとか託宣とか言って気にする奴は多そうだけどな。

 それならそれで、その奇貨をどう活かすかは本人次第だ。

 

 

「よし、その線で行ってみるか! とは言え今はまだまずいな。事が片付いて、練武戦に合わせて企画するか」

 

 

 そうだな、殴り合いだけじゃ皆も飽きるだろう。

 シノノメの里じゃ、練武戦の前に隠し芸大会なんかもやってたしな。

 

 企画だけでも通知しといた方がいいな。当日になっていきなり「こんなのやります」って言われても、戸惑うだけだし。

 

 

「おう! さーて、俺も参加してみっかね。お嬢さん方と楽しいひと時になりそうだ」

 

 

 意気揚々と息吹は去っていく。早速準備を始めるようだ。

 何と言うか、意外とお祭り男だったのね。まぁ伊達男って言うだけあって、華やかで騒がしいのが好きな奴だからな。

 

 さて、俺はどうするかな。参加してもいいが…うちの子達がどんな藩王をするやら。

 折角だし、うちの子達の間で色々と行事を定着させてみてもいいかもしれない。

 

 それこそさっき息吹と話したハロウィン、バレンタイン、クリスマス。

 …クリスマスは俺がプレゼントを準備しなきゃならんな。一人一人の好みに合わせた物にしないと…。

 いやそれよりも厄介なのは、うちの子達に気付かれないようにプレゼントを置いて来る事か。

 

 

 ……安全地帯に居ると思っている間は、あの子達はヒジョーに呑気だから、気付かれずに忍び込む事自体は問題ないが…絶対、プレゼント置くだけじゃ済まない。

 ちんぽと精子とイキ地獄がプレゼントだよ受け取れよオラァ!になるに決まってる。男は除く。

 ヤるのは別にいい。時間だって体感時間操作でどうとでもなる。でも、ヤッちゃったらプレゼントを置いて行くのが俺だって気付くよなぁ。気付かなかったら気付かなかったで、知りもしない男に犯されたって事になっちゃうし。

 折角クリスマスを企画するんだ。サンタさんにも拘りたいじゃないか。流石にサンタクロースを、勝手に部屋に忍び込んで女を犯し、代わりに欲しくも無い施し物を置いて去っていく、夢も希望もないレイパーにする訳にはいかない。

 ……まだ、実在するって信じてるしね。ただしおじいさんじゃなくてエロサンタの方を。

 

 

 

 

 うん、楽しい事を考えると、やる気も出てくるな。うちの子達にも楽しんでほしいし、早い所あの塔をぶっ壊してしまおうか!

 問題はその方法だけど、な…。

 

 



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530話

寝起きで布団の中で微睡んでいる時、異様にムラムラして濡れ場の妄想が捗るのは何故だろう。
あの時の妄想をそのまま書き綴れば、今までより高品質な濡れ場が短時間で書けるだろうに…。
最近、またしても展開に詰まってます…。
仁王2に逃げて行進が留まるかも…。


 今日も那木と秋水で塔を誘導する方法を相談している…のだが、秋水が一つ、おかしな資料を持ってきた。

 書物なんだけど、そう古い物じゃない。

 

 

「漫画? これは絵画集ですが」

 

 

 あー、いや漫画も絵画ではあるんだけど…何て言えばいいのかな。

 漫画って、討鬼伝世界の時代には無かったんだろうか? 日本人なら江戸どころか平安時代から何か作ってそうなもんだが。鳥獣戯画とかだってあるし。

 

 ま、いいや。この絵画集が、何か?

 

 

「これは、ある人から託されたものです。描かれてから、まだ数年も経っていません。僕も一読しただけで、くだらない本だと捨て置いたのですがね」

 

「くだらない……と言うと、どうでもいい事しか書かれていなかった、と言う事でしょうか? 誰にとってどうでもいいのかは疑問ですが」

 

「どうでもいい、と言うよりは…信憑性も何もない、法螺話としか思えなかったのですよ。事実、最初に『これは筆者の創作・考察である』と書かれていますから」

 

 

 つまり、それこそ漫画…いや、小説を含め、空想の物語しか書かれていないって事か。それがつまらない物だとは思わないが、情報源としての価値は無い事は否めないな。

 で、その法螺話の本を、何だって持ち出してきた? あの塔を止めるのに、いい方法でも書かれてるのか。

 

 

「…当たらずとも、遠からずです。…ここを見てください」

 

 

 秋水が差しだした頁は、挿絵が付けられた頁だった。だが、そこに書かれた情報につい目が惹かれる。

 富士山のような山に、手足が生えている。山の中心には円らな目が鎮座しており、これがまたシュール極まりない。

 …思わずツッコミ入れたくなる図ではあるが…これがどうした? 絵面が似てるのは確かだが、あれは山じゃなくて塔だし、あれには足しかないぞ。

 

 

「ええ、ですがあちこちにある走り書きを見てください。塔が産まれる経緯について、かなり正確に言い当てています。更に、この鬼が産まれるのに関連した鬼についても」

 

「関連した鬼? この塔に力を注ぎ込んでいた、と言う鬼ですか」

 

「『紅き力を使い、他の鬼を扇動して命を削って怪力乱神と成さしめる。己が力尽きる時は、他の鬼から奪った力を集めて結晶と成し、別の鬼に託す』。偶然にしては、一致が過ぎます」

 

 

 紅い力、他の鬼達への影響、死んだ後の反応…確かにな。微細なずれはあるが、大体一致している。

 と言う事は何か? 秋水は、これを預言書の類だと考えているのか?

 

 

「いえ、預言書ではなく………記録、なのではないかと考えています。かつてのモノノフが遭遇した、鬼や危機。そこから導き出される予測。ただ、とても信じられないようなものだったので、単なる妄想としか扱われなかったのではないでしょうか」

 

「拝見いたします。…………この記述が確かなら、オオマガトキのような危機が、過去に何度もあった…と言う事のようですが」

 

「可能性は無いではありません。『向こう側』は、常にこの世界と繋がろうとしている…これはモノノフの定説です。であるなら、僕達が知るオオマガトキよりも更に前に、同じ事が起こらなかったと言えるでしょうか」

 

 

 それは確かに有り得そうだが…それにしちゃ、本がえらく新しいな。書かれている文字や文章も。

 

 

「写本したものだそうですよ。そしてこれを持っていた人は、これを実際に体験していたとしてもおかしくない人…と言えば、あなたには分かりますか?」

 

 

 …虚海、か?

 

 

「いいえ、別の方です。…もっと古い方ですよ。もう故人ですが」

 

「? どういう意味でしょうか?」

 

 

 いや、俺と秋水の、友好的ではない知り合いって事だ。

 

 …つまり、陰陽寮の連中って事か…。何ぞ実験にしくじって死んだのか、或いは絶望でもしたのか。虚海から聞いた話だと、望みを絶たれて絶望した陰陽寮幹部が、彼女の目の前で塵となって死んでいった事があったらしい。

 生きてりゃもっと情報が取れたかもしれんが…。

 そいつは、鬼の研究をしていたのか?

 

 

「ええ、何かに取りつかれたように。…これは他の皆も似たようなものですが。ですので、こういった本を読んでいても、そう不自然には思っていました。…話を戻します。全てを信用できる訳ではありませんが、この本には例の塔にも通じる情報が書かれていると思われます。他に当てもない事ですし、これを読み解いていきます」

 

 

 …わかった。俺も確かに興味はある。読ませてくれ。

 那木と二人で本を覗き込む。

 

 ページを捲っていくと、確かに見た事も聞いた事も無い鬼の図解が幾つも記されていた。

 勿論、中には知っている鬼の記述もある。…が、そこに書かれている情報は、とても真実とは思えない物も多い。少なくとも、今判明している鬼の生態とは全く違った情報が書かれている事も多かった。

 

 

 …成程、確かに空想本と言われても無理はないな。

 

 

「確かに…。ある程度の事実に基づいて描写されていますが、矛盾もありますし、幾ら鬼でもこれはできない…と思われるものもあります。無論、可能性が全く無いとは言えませんが」

 

 

 鬼だって変化も進化もするし、一時に得られた情報がずっと正しいとは限らないものな。

 とは言え、この多彩さ……一人で考えたものとも思えん…。しかも細部にまで記載がある。

 

 なぁ秋水、これを書いたのはどんな奴だった? …ひょっとして、妙に未来を見透かしたような言い方をしたり、異国の知識を幅広く持っていたり…。

 

 

「いいえ。そもそも他人と会話する事が、極端に少ない人でした。僕が出会ったのは、彼が死ぬ寸前で……言っては何ですが、半ば痴呆になっていたようです。そんな人が書き綴っていたので、猶更信憑性が無かったのですが」

 

 

 

 ……………すまん、もう少し中身を読み進める。那木、悪いがちょっと先に見せてもらうぞ。

 

 更に頁を読み進める。普通に読むだけでなく、鷹の目まで使って。

 本自体に、鷹の目に反応する部分は無い。これ自体は本当に単なる本だ。写本らしいしな。

 

 だけど、記載されている鬼の情報を流し見ていくと……まさかと思っていたが、大当たり。

 モンスターの情報が、鬼の情報として書かれていた。

 

 ただし、MH世界のモンスターじゃない。GE世界のアラガミでもない。

 

 

 水滴型の水色の体に、無駄に円らな目、弧を描く真っ赤な口。

 

 世界一有名なモンスターが、そこに描かれていた。偶然ではない。

 それ以外にも、小鬼…所謂ゴブリンやら、茸に足と眉毛と目ができた踏みつぶされそうな生き物やら、もじゃもじゃの毛に目玉と手足がついてるだけの生物とか、尻尾に火がついているトカゲとか。

 

 …DQのスライム、FFのゴブリン、マリオのクリボー、遊戯王のクリボー、ポケモンのヒトカゲ…。

 記されている生態の情報も、妙にリアリティがある。まるで見て来たかのような…。

 

 ……俺、じゃない。因果を全て奪い尽されて記憶を失っていれば分からないが、少なくとも俺はこいつらと会った事は無い。それっぽい世界に夢でいった事はあるが、この情報はもっと長期間観察しなければ分からないものだ。

 それも、一か所ではなく様々な土地で、多くのサンプルを採取しなければ分からない。

 一体どういう事なのか…いや、考えるまでもないか。

 

 

 俺と同じ、何度も繰り返している『前任者』が居るのは予測していたが、別の世界とはちょっと予想外だなぁ。

 これを書いた陰陽寮の人は、そういう人だったんだろう。俺とは違う世界間で、ループを繰り返している誰かさん。俺と同じように夢でこの世界に流れ着いたのか、それとも流れ着いた結果絶望して本当に終わったのかは分からないが…話をしてみたかったな。

 

 それは置いといて、そういう人が書いた物なら、参考にするだけの価値と信頼性はありそうだ。俺と同じ狩りに特化したタイプとは限らないが、資料を見る限り分析が得意だったのは間違いなさそうである。

 

 

「どうされました? 何か分かったので?」

 

 

 ああ、遊びで書かれた代物じゃないって事は分かったよ。少なくともこの著者は、こいつらが本当に存在する、或いは存在したと考えて書いたもんだ。

 尤も、今のこの世に…とは限らないがな。鬼だって場所や時代が変われば姿も変わるし、奴らの本来の居場所については俺達も全く何も分かってないだろ。

 

 

「かつて存在していた鬼、或いは『向こう側』に生息しているかもしれない鬼と言う事ですか。興味深くはありますが…本題に戻りましょう。あの塔を足止めする方法です。関連があると思しき記述を読み漁っていくと、有効とされる方法がありました。ただ詳しい事は書かれておらず、供物が必要なのだそうです」

 

 

 ほほう、供物。つまり何らかの儀式をするという事か。あまり時間がかかるような方法は取れないが…。

 いやそもそも、儀式のやり方も書いてない訳だな。

 

 

「はい。ただ『何も言わずとも、分かる者には分かる』とあり、謎の図柄が一つ乗っているだけでした」

 

 

 秋水は本を受け取ると、頁を捲って差し出してきた。

 

 

「これは…何とも珍妙な図でございます。何かの動物でしょうか? いえ、鬼? 私も様々な図鑑に目を通していますが、このような物は一度も…」

 

「これを使えば、塔…この本の場合は山ですが、これが転倒して動けなくなる、とあります。…山がひっくり返ったら、塔よりひどい事になりそうですが…」

 

「何にせよ、名前すら分からないのは不便でございますね。三日月を連ねたような形…。三十日月、とでも名付けましょうか」

 

 

 いや、名付けなくていい…。

 と言うか、コレか、コレやるのかぁ…。いや確かに理屈は分かるよ。意図も使い方も一発で分かるよ。大きさの問題がありすぎるけど。

 どこから持ってこいってんだよコレ…。

 

 

「む、これの事をご存じなのですか?」

 

 

 うん……。

 

 

 

 実芭蕉だ、これ。

 

 

 

 バナナだよ、バナナ。

 足止めにコレ使えって言われたら、使い方なんか一つしかねーじゃん…。

 

 

「使い方までご存知とは、相変わらず得体の知れない方だ…。しかし、この実芭蕉とやらは何処に行けば手に入るのか」

 

 

 それも問題ない、俺が持ってる。MH世界産のやたらデカいやつと、GE世界産で品種改良された挙句に血の力の影響を受けてやたら巨大化した奴を。

 

 

「では、使い方はご存知で? お味の方は? そもそも、どのような物なのでしょうか?」

 

 

 果物だよ。日乃本には……無い事は無いだろうが、時期を考えると滅多にお目にかかるもんじゃないだろうな。日本に入ってくるようになったのは、明治時代ごろからだった筈だし…。

 味は…種類にもよるが、基本的に甘いな。暖かい地方で栽培され、栄養価も豊富。柔らかくて消化にもいいから、病人食にもできるね。

 外部の皮は簡単に剥ぎ取る事ができ、中身にそのまま喰らい付く。

 足止めに使用するのは、この皮だ。

 

 

「果物。成程、桃のように邪気払いの力を持った果物なのですね。古来より、多くの果物は縁起物とされ、邪悪を打ち払う、陽の力を貯め込む、浄化するなど、様々な効能があるとされてきました。この実芭蕉とやらもその一つなのですね」

 

 

 あー、いや、うん、縁起物と言うか何と言うか。ある意味物凄く古典的な、逆らい辛い力(お約束)を秘めた代物ではあるけど。

 

 

「実芭蕉とやらにそのような効能があるとしても、それ単品ではそこまでの効果は望めないでしょう。儀式に使うにしても、ただの実芭蕉ではなく特別な要素を持ったものでなければなりません。準備する物などはありますか?」

 

 

 強いて言うなら、滑った先に設置する連動型の罠かな…。バナナに加えてピタゴラスイッチまでやっておけば、無効化される事は無いだろう多分。

 バナナの皮でどうにかなるような相手なら、空気とか場の流れとかいうものを無視できない奴だろ。

 あと、このバナナは最初から色々と普通のバナナじゃない。呪的な力もそこそこ持ってる筈だ。(何せ別世界の物だからな。フロンティアで、ラージャンが後生大事に持っていたバナナだ。…食べるんだろうか? あの超攻撃的生物が)

 

 

「…その理屈で非常に不安になりましたが、まぁいいです。散々問題を起こしながらも問題を解決に導いてきた手腕を信じましょう」

 

 

 そう言いながらも、秋水の目は非常に懐疑的だった。どうやら、別の方法を自分で探すつもりらしい。それは別に構わない。対抗策は幾つあってもいい。

 さて、そうなると奴を何処で迎え撃つかだな。

 

 

「その件なのですが、一つ案を閃きました。…と言うよりも、放っておいても勝手に止まるかもしれません」

 

「? 那木さん、それはどういう意味で?」

 

「知っての通り、塔には感覚器と呼べるものはほぼ無いようです。あちこちでぶつかって、転がりながら進んでいるのがその証拠と言えます。…ですが、決して無傷で進んでいる訳ではないのです。今朝方、橘花様に再度千里眼を使っていただいたのですが…塔が落としたと思われる脛毛、そして血があちこちにあるようでした」

 

 

 血が…。確かに、裸足で走って蹴躓いていれば、大なり小なり傷は負うわな。

 

 

「ええ。そしてその傷は、無償で治る物ではありません。例え鬼と言えども、それは同じ事。体の中に貯め込まれた生命力を消費して傷を癒しています」

 

「傷を負えば、それだけ塔は力を消費する。確かに道理ではありますが、その量は決して多いものではないでしょう。延々と走り回ったところで、オオマガトキを開く程に貯め込まれた力が全て消え去るとは思えませんが」

 

「ですが、疲労が蓄積する事には変わりありません。我々が、疲労や怪我を治そうと思った時、どのような事を行いますか?

 

 

 どんなって……そりゃ、医者にかかる、寝る、安静にする、タマフリを使う、傷薬や回復錠を呑む、後は…。

 

 

「日乃本人ならあるでしょう、打ち身にも切り傷にも冷え性にも効くと謳われる万能の治療法。即ち……温泉です」

 

 

 …俺も日ノ本人の端くれとして、温泉の効能に疑いを挟むつもりはないが…。

 温泉と塔と、どう繋がるんだ。

 

 

「傷を負う。治す。疲れる。温泉に触れる。暖かくて心地よい。動きたくなくなる。仕留める。以上にございます」

 

 

 いやいやいや、それはねーべ。確かに温泉の暖かさなら、足しかない塔でも感じられるかもしれないが、あの足が入るような温泉なんて無いし、あーもう何て言ったらいいか。

 おい秋水、なんか那木がトチ狂ったこと言い出したぞ。

 

 

「……有りですね」

 

 

 オイィ!?

 

 

「温泉と言いますか、暖かい湖なら異界にあります。戦の領域の外れに、溶岩の熱で温められ続けた湯が流れ込み、かなり深くなっています。異界の流動もほぼ無く、安定した場所…。塔の巨体があそこに入れば、水の抵抗でまともに動けなくなるでしょう」

 

 

 あー、まぁ、塔の重量を支える足も、腰から上が完全に不動の状態じゃ、立ち泳ぎすらできそうにない…と言うか、あの重さじゃどうやったって浮力は得られないか。

 確かに水の中に叩き込む利点は大きそうだが…逆に、奴が水中に潜み続けたらどうする? 潜って討伐するのは、流石に厳しいぞ。(俺一人なら、水中呼吸できるけど)

 

 

「流石に塔が全て沈む程ではありません。水深は塔の高さの4~5割ほど。屈む事ができない構造ですし、籠城…と言うか潜水される危険は無いでしょう。驚異的な踏破性を以てしても走りやすい道は限られていますし、一度誘い込んでしまえば明後日の方向に逸れていく危険も少ない。逃走経路も予測しやすい。実芭蕉が通じなかったとしても、それなり以上に足止めは可能でしょう」

 

 

 またえらく都合のいい場所があったものだな…。

 

 

「嘘か真か、かつてはとある強大な鬼との決戦の為に作られた土地と言われています。異界に呑まれて流動し、長い間行方不明だったのですが、近年流れ着いたのを発見され、そこに湯が流れ込んで今の形となったとか。尤も、その鬼については何も伝わっておらず、誰がどのようにして作った土地なのかも分かりません。珍しい土地を見て誰かがそれらしく語った法螺話と思われます」

 

 

 ふぅん。

 …名前も何も伝わってない鬼か。クサレイヅチを連想させるね。もし本当に奴が関わっていたのだとすれば、情報が全く伝わってない事も説明がついてしまう。

 さっきの、俺の同類が塔(或いは山)とやり合う時の為に何か準備してたんじゃないか、とも思えてくる。

 ま、それを言いだしたら何でもありになっちまうから、あんまり真実味の在る推測じゃないけど…。

 

 何にせよ、やり合うならそこか…。

 誘導に関しては、もう単純に追い立ててやるのが一番かな。「逃げろ」って意思が行動原理になってるんなら、危機を感じればとにかくそこから離れようとするだろう。

 幸い、人手と火力は足りている。うちの子の中でも火力が高い子達ををあちこちに配置して、猪狩りみたいに行く先々で威嚇してやればいい。

 

 

「飛び越えていかれないかが最大の問題ですが…」

 

 

 痕跡を追いかけて行って分かった。いくらあの塔が健脚でも、流石に飛び上がるには助走が必要みたいだ。まぁ、本体の重量が絶対凄いからな…。

 助走に必要な距離や速度も予測できたから、そこは小細工してどうにかできるわ。

 …我ながら、クラフター能力が反則過ぎる。ほぼノータイム、ノーリスクで地形加工が出来るんだから。流石に大きな物は時間がかかるが、段差を自由自在に作成・削除できるうえ、獣道にまで手を加えられ、やりようによってはバリスタや大砲は勿論、撃竜槍まで据え付けられるんだから。

 

 …こいつがあればなー。いつぞやメゼポルタ広場がミラボレアスに襲われた時も、兵器を設置しまくって手数で押すって楽な戦法ができたのになぁ。

 ま、あれはあれでミキがなんか覚醒してくれたから、そういう意味じゃよかったんだが。なお、襲撃による負傷者死傷者と被害総額には目を逸らすものとする。だってあの世界のフロンティアだと、壊滅なんて日常茶飯事だもの。

 

 

 

「…正直、好ましいやり方ではありません。今までの戦いもそうですが、あなた方が里に来てからというもの、あなたやその配下の特殊技能に頼りっぱなしです。無論、それがなければ厳しい戦いであった事は否定しません。ですが…」

 

 

 何だ、俺らが反乱でもおこしたら…ってか。

 

 

「いいえ。一人の技能によって成り立つ集団は、それが無くなれば容易く瓦解する。それ以上に、そのやり方は個人に負担を集めます。僕は一人を犠牲にして切り捨てるやり方を認めない。…程度は違えど、これも同じ事です」

 

「秋水様…いえ、ならばこそ私達がこの方々の助けとならねば」

 

「…自らその場所を指定したとは言え、貴方達は今も里で最も危険な場所に陣取り続けています。そして先の戦いでも、里のモノノフ以上の負担を跳ねのけ、戦果をあげた。これを常態としてしまっては、僕にとってもあなた方にとっても里にとっても、望ましい結果には繋がらないでしょう。だからこそ…」

 

 

 ……え、何? 要するにお前、俺らを心配してくれてんの?

 

 

「………………呆れた見解ですね。あの男との繋がりがある貴方達は僕にとって許容できる存在ではありません」

 

 

 否定になってないな。

 もうちょっと追及してみたい所だが、あんまりやり過ぎると臍を曲げそうだ。

 言葉面と本人の思惑はどうあれ、結果的に俺達の負担を憂えているのは確かだし、あんまり弄るのも悪いかな。

 

 ともあれ、次善の策が必要なのは同感だな。俺や、うちの子達が何らかの理由で居なくなっり、戦えなくなった時の備えとか。

 その辺をもうちょっと詰めてみようか。

 



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531話

いかん、仁王2が楽しすぎ…じゃなかった展開に詰まりすぎてて投稿に間に合わない。
17日は弱くしていますが、投稿・執筆が難しい状況になる事もあり、暫くお休みをいただくかもしれません。

滅鬼隊投入により色々と予定が狂いまくっていますし、この機会にプロットを練り直したいと思います。
ここまで来たらエターだけは回避するつもりですので、気長にお待ちくださいませ。


 

 策が形になったので、大和のお頭に報告。これは秋水に任せた。

 俺と那木は準備にかかっている。とは言え、いつ決行するかは大和のお頭次第だ。

 早い方がいいとは言え、塔が今どのあたりを走り回っているのかもあるし、狙った時に開戦できるとは限らない。

 

 …最悪、アラガミモードで追い回す事も考慮に入れている。

 異界を喰らう鬼という設定上、塔を標的にして現れてもおかしくない…と言う事にしておこう。

 しかし、アラガミモードでも、正直言ってどこまで追いつけるか…。あの姿で戦う時は、大抵速攻でケリをつける短期戦ばっかりだった。GE世界でシオを連れて(アラガミを)食い歩きした事はあるが、あの時も激しい運動はしなかった。

 長距離を長時間、高速で走り続けるのは初めての事かもしれない。

 変身もどこまで保つか分からない。やるなら時期を見計らわないと…。

 

 ていうか、やったら速鳥のトラウマが再発して戦えなくなる可能性もあるか。我ながら無茶苦茶やったっぽいもんなぁ。

 ……本気度で言えば、シノノメの里でクサレイヅチの姿をしたアデダキニを瞬殺したのと同じくらいだろうか? いや、一瞬とはいえ姿を見た明日奈達はそう怯えてはいなかったし、そもそも相手も紛い物。怒り度合いで言えば、異界を消し飛ばした時の方が数段上かな。

 

 

 

 …もう一つの手段で言えば、レイジバーストか。GE世界で月から地球に落っこちて以来ほぼ使えてないが、あれは大幅なブーストが約束される。

 だがそれも誓約を満たした上での、充分以上の感情の激発が発動条件。簡単に満たせるもんじゃない。

 この状況で感情に任せた戦い方はしたくないな…。マジギレしながら冷静に戦える程、俺は成熟していない。クサレイヅチを目にした瞬間、色んなものをブッチして斬りかかるくらいだし。

 俺も、うちの子達のオツムの具合を笑えんな…。

 

 

 

 …元々頭のよくない俺が、変に賢しく行動しようとしても失敗のもとにしかならんな!

 今まで俺が死んで来たのは、馬鹿な事をやらかしたり目に見えるフラグを放置した以上に、ロクでもない皮算用を当てにして調子コキまくったからだ。

 もういっそ何も考えず、欲望を隠しもせずに突っ走った方が長生きできるんじゃないかな!

 

 

 手始めに、決戦準備と称してうちの子達と乱交タイムと行きますか!

 

 

「うちの子達、だけですか?」

 

 

 お前は言わなくても嗅ぎつけて混ざってくるだろ、橘花。

 心配するな、邪神に捧げられる淫らな生贄の役をやってもらう。邪神は言わずもがな俺だけどな。

 

 

「いいですねぇ。あ、でしたらその後は淫堕の巫女として、まだお手付きでない方の調教のお手伝いも…」

 

 

 それまで意識保ってられるかな。今後、神垣の巫女としての力を振るってもらう事になるかもしれないし、今のうちに思いっきり強化しておきましょうねー。

 ちゅーか橘花…お前、「お手付きでない方」ってもしかして…。

 

 

「……人目を忍んでの逢瀬も胸が高鳴りますが、流石に隠れて通うのも面倒になってきたので。お姉様も、身の回りの世話をしてくれる侍女も、まとめてどーんとどうぞ。ああ、後腐れのないよう、夫や恋人が居る子は除外していますよ。神垣の巫女に幻想を抱いている子から、ちょっとお話したら鼻息を荒くして目を輝かせる子まで取り揃えました」

 

 

 ついに自分から生贄を捧げ始めたぞ、この巫女。いや今までのループでされた事を垣間見てるんだから、むしろ遅いくらいなのか?

 まぁいいや。喰っていいなら、遠慮なく。(そんなだから毎回死ぬんだよ、という声が聞こえた気がする)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、うちの子達にも派閥みたいなものはある。誰と誰が仲がいいとか、誰を中心にしたグループがあって、どのグループと対立しているとかではない。そう言うのもあるにはあるが、少なくとも問題の元になる程厄介なものではない。

 この場合の派閥と言うのはアレだ、夜の趣味の事だ。

 

 具体的には、最大派閥の虐められたい派、次に多いご奉仕します派、影で増え続けている交合もいいけどその後の寝物語もいいよね派、広く浅く集まっている雰囲気重視派、異常な行為全般に興奮を覚えてしまう派、若様に甘えたい派、若様を甘やかしまくって母性を感じてほしい派など。

 少数派なところでは、本格的に百合に目覚めたけど若様ならお好きにどうぞ派、感覚共有や体の操作でちんぽを使う側の快感に目覚めたフタナリになりたい派(尚、この派閥はちんぽ生やして俺を掘りたい派、生やしたまま犯されて連結射精したい派で内ゲバしているらしい)、分身した若様に壊れるまで輪姦されたい派、その他諸々。

 ……これって俺のせい? そういう行為を先導したのは間違いなく俺で、俺に犯されて悦ぶように調教しまくったのも俺だけど、それ以上に本人の資質とか業の影響なような気がする。

 

 ちなみにこの派閥、掛け持ちも特に珍しくない。そのおかげか、派閥の関係がややこしい事極まりないんだけどな。

 甘えたい派に所属しているけど、願望を口に出すのが恥ずかしくてこっそり虐められたい派になってるも居るし、甘やかしたい派がフタナリになって掘りたい派に堂々と掛け持ちしている事もある。

 誰もが似たような事をやっているもんだから、違う派閥と掛け持ちしてもどうこう言われる事が無い。

 むしろ、夜な夜なある程度の数の派閥同志で集まって、あれこれ語り明かして「わかる…」「わかりみがふかい」とかやっているようだ。ちなみにその間、俺はその子達の上の上の上の部屋辺りで腰振っている訳ですが。

 

 性癖やら趣味の違いは、一歩間違えれば仲違いに繋がるものだが、そこは明日奈が教えた合言葉で乗り切っているらしい。

 曰く、

 

 

「いえす若様! ぷりーずたっち!」

 

 

 だそうな。外来語を教えている途中、イエスロリータノータッチの言葉を教えた事はあったけど、まさかこう改変してくるとは…。

 ちなみにぷりーずたっちの部分は、言うまでもなく『いつでも手を出してください』的な意味である。

 そりゃ遠慮なく手ェ出すけどさ、これを唱和してるのを聞いた時には何事かと思ったわ。

 

 

「んっ……改めて聞くと、おかしな事になっているが…お父様は、別に気にしなくてもいいと思うぞ。私達が勝手にやっているだけだし、お父様に迷惑をかけるような事は絶対に無し、と決まってるからな」

 

 

 雰囲気重視で、珍しく一対一の情事の後、乱れた吐息、汗ばんだ体のままぴったりと体を寄せ首に腕を回して抱き着いている紅。

 ちなみに彼女は雰囲気重視派かつ寝物語もいいよね派だ。甘えたい願望を恥ずかしがっているようで、そっち派閥に属していないつもりだが、既にお父様呼びも周知の事実。既に甘えたい派でも5本の指に入る程の甘えん坊として見做されている。

 実際、匂いを擦り込もうとするように体を擦りつけて甘えてくるし、抱き寄せてやると本当に嬉しそうな顔をする。そのまま指を動かしてやれば。

 

 

「…最近、そっち(お尻)が好きだな」

 

 

 紅もようやく尻で絶頂するのに慣れ始めたからな。恥ずかしいのに、尻が疼いて仕方ない、でも欲望に素直になりきれない。

 実に弄り甲斐がある時期だ。

 

 

「そ、そんなの、人の道として正しくない…あっ、んっ、ま、また…入ってくるぅ…」

 

 

 正しくないから背徳の悦びがあるんだぞー。ほれほれ、ここがええんか、ここがええんやろ? ほぉら、もう堪らなくなってきた。

 お父様に抱き着きながら、不浄のの穴で善がる気分はどうだ? お父様が可愛がってくれるのと、正しい人の道とどっちが大事かなぁ? 嬉しそうに揺れてるお尻に聞いてみようか。

 尤も、何も言われなくても綺麗に洗ってくるんだから、期待してたのは明白だけどな。

 

 

「そ、それは……あっ、あっ、あっ」

 

 

 お尻は正直だなぁ。もっと弄ってと締め付けてくるぞ。まだ挿入してないけど、精液だらけのお尻を弄り回されると、液が潤滑油になってもっと気持ちいいんだぞ。

 口で拒むような事を言いながらも、弄られている尻は嬉しそうに締め付け、手足を俺の体に絡めて自慰をするように股ぐらを擦りつける。

 あっという間に目が潤みだし、乳首がはっきりとわかる程勃起し、全身から雌の香りが臭い立つ。

 

 分かり切ってても、紅の口から聞きたいな。

 正しき人の道ってやつと、こうしてる時間、どっちが大事だ?

 

 

「……………ゴク…」

 

 

 俺の耳元に唇を寄せ、陶酔しきった吐息と共にどちらを選ぶか囁いてくれる。

 頭を撫でて、体勢を入れ替えた。組み敷いて抵抗できない状態にしてやると、目に見えて期待の色が浮かぶ。

 正直な紅には、ご褒美をあげなきゃね。さっきはお尻の開発が主だったから、今度は子宮で達せさせてあげよう。

 

 

 

 

 



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532話

 

 

黄昏月弐日目

 

 

 昨晩二人きりだった紅は、今日は目に見えて意気軒高だった。たっぷり可愛がったし、それだけ集注して体をケアしたもんな。

 最近は乱交ばっかりだったけど、基礎が疎かになってたかもしれない。

 うちの子達はそうそう文句を出さない、よく言えばいい子、悪く言えば都合のいい子ばっかりだったから気付かなかった。

 乱交のテクニックは一対一のテクに遜色ない程には磨いているが、やっぱ用途の違いってあるな。

 

 そういう訳で、暫くは大人数での行為は控える事にした。一度にお相手する人数を減らしてオカルト版真言立川流のブースト効果を集中させる。その分、情事の回数を頻度を増やしてバランスを取る。

 要するに、なるべく一人一人、多くても2人相手程度でじっっっっくりと楽しんだり悦ばせたりしゃぶりつくしたりする訳だ。

 幸い、時間の問題については体感時間操作で解決できるからね。

 

 それに、普段俺がやっていた事務仕事やら何やらも、秘書執事チームが大分育ってきた為、本格的に任せてもよくなってきた。試験期間も兼ねて、3人に業務を丸投げして俺は休暇という事にしてみた。

 今日の朝一番に前触れも無く伝えたのは、かなり本気で悪かったと思うが…それでも動じる事なく了承してくれるのだから、いい子すぎると言うか何と言うか。

 激励として、朝一番に一人ずつたっぷり時間をかけてヤりました。ツヤツヤした顔と、満足した腰、そしてたっぷり精液を注ぎ込まれた膣のままで張り切っている3人は非常に頼もしかった。

 

 

 

 

 …さて、これから一人ずつ皆に会いに…と思っていた時の事。

 

 話はちょいと変わるが、昨日の日記に書いた派閥について覚えているだろうか? うちの子達は大体、あの手の性癖的な派閥に(本人の自覚が無い事もあるが)属しているのだが、例外も居る。

 一番分かりやすい例を挙げれば、浅木だな。浅黄・アサギの若い頃のような姿をした、ちょっとアウトロー入っている逸れ者。ちなみに、うちの子達の中で名前がややこしい人筆頭でもある。

 浅黄もアサギも割と甘えたい派なんだが、そもそも浅木は俺と関わるのを忌避している節がある。集団の中に紛れ込むのを嫌う気質もあるし、お偉いさんに命令なんかされたくないわ、という性格の現れでもあるだろう。

 

 彼女ほどではなくても、周りと今一つ馴染めてない…と言うより、周囲の価値観に合わせられない子は何人かいる。尚、最近のきららは色物枠として受け入れられつつあるので、ここには含めないものとする。

 その価値観に合わせられない子の一人が、この子である。

 

 

「幾ら何でも不純すぎです! 人を纏める立場にあるのですから、もっと風紀というものをお考えください!」

 

 

 風使いの深月。

 黒髪巨乳でどこを触っても柔らかそうなむちむちした体付きの、生粋の委員長気質である。

 曲がった事が大嫌い、目の前の悪事を見逃せない、生真面目で潔癖な一面があり……まぁ、何だ、某To愛るな漫画の破廉恥さんみたいなもんだ。

 

 決して悪い子ではない。むしろ、常識的に考えればこっちの方がおかしいのは言うまでもない。

 無論、この子も俺との接触が無ければ皆が不安定になっていく事は承知の上だし、自分もその一人である事は自覚している。俺が節操無しに手を出していても、自分達の安定の為に仕方なくやっている…という一面があるのも理解している。建前でしかなくても。

 色々と倫理観とか常識とかとの葛藤があったようだが、今までは何も言ってなかったんだが……とうとう限界を超えたらしい。

 

 

「小耳に挟んだだけでも、朝から昼までの間だけで時子さん、災禍さん、天音さん、詩乃さん、まりさん、明日奈さん、雪風さん……一体どれだけ爛れた生活を送っているのですか…」

 

 

 小耳に挟んでない子もかなり居るね。体感時間操作に任せてヤりまくってるし。

 と言うか一体誰から聞いたんだ。

 

 

「本人が惚気ていました。今日は若様が…その、二人きりになってくれると聞いて、何やら怪しい動きをしていた人も多く居ます」

 

 

 ああ、それで行く先行く先、妙に皆と二人の状態で鉢合わせしたんだ。

 いやはや皆ヤる気満々だね。さて、次は何処の誰に会いに行こうか…。

 

 

「会いに行こうか、ではありません! 風紀と! いうものを! 考えてほしいと言っているのです! この有様を、ウタカタの方々が知ったらどう思う事か…」

 

 

 もう何人か知ってるんだけどね、那木とか大和のお頭とか。特に那木は、最近じゃ聞き耳立てるようになってきている。その後何をしているのかは…まぁ、言わぬが華。ただ最近、藁人形と五寸釘と俺の髪を探そうかと呟いていた事だけ記しておく。

 察する人は察しているし、眉を顰められる事も少なくは無い。里の同盟相手のような立ち位置にあるから、表立って何か言われる事は無いが。

 

 言っている事はわかるが、しかしなぁ深月。実際にどうしろと言うのだね。

 知っての通り、皆の精神を安定させるには俺との触れ合いが最も効率がいい。人数が人数だけに、他の方法は難しいし、とにかく時間が足りない。

 何より、もうすぐ大きな戦がある。数は一体だけだが、先日の鬼の襲撃よりも大規模な戦いになるだろう。

 それに備えて、各人の霊力補給、精神安定は必須と言っていい。性感もとい生還率を上げる為にも、中止する事はできないぞ。

 

 

「それは私も承知していますが、せめてもう少しやりようがあるのではないでしょうか。聞いただけでも、その、屋外とか、すぐ傍に誰かいるのに声を潜めてとか、口にするのも憚られる卑猥な道具とか……せ、せめて決められた部屋で順番に…」

 

 

 ヤリ部屋作れと申したか。いや俺の寝室は既にそうなっているんだが。

 しかし、その案はあまりよろしくないな。俺の術は、相手…女の側がどういう気分で受けるのかも重要なんだ。

 一室で行っていれば確かに情報漏洩、風紀の乱れの危険は低くなるかもしれないが、受ける側にしてみれば一人ずつ呼び出されて同じ状況で抱かれるだけ。…面接やってるのと大差ないじゃないか。流れ作業で相手されるとなれば、あっちだって面白くない。

 

 

「そ、そういうものでしょうか…?」

 

 

 そういうもんだ。同じ事ばかりじゃ俺が面白くないってのもあるが、それだって術の効力に大きく影響する。

 深月が言う『異常な行為』や『卑猥な道具』も、術の効力低下を防ぐ為の工夫の一環なんだよ。

 

 これは俺と言うか、術を使う時に限った事じゃない。普通の男女、夫婦間でも円満の秘訣としてしばしば行われる事だ。

 こう言っちゃなんだが、深月が思っている程異常な事じゃない。

 

 

「………う、うぅん……でも、幾ら何でも…あんな事が……普通…?」

 

 

 悩む深月。大した中身の無い詭弁だが、真面目すぎる深月は頭領からの言葉を馬鹿正直に受け入れようとしている。

 だが、やはり倫理観が反発してどうしても納得できないようだ。

 

 この性格が元からなのか、それともこのように調整された結果なのかは分からない。しかしどの道、このまま放置しておくと不和の元になるのがオチだ。

 深月が言っている事が尤もであっても、それだけで人は…と言うか、うちの子達は納得すまい。人は楽しみや癒しを奪われれば反発するものである。俺だって、今現在からしてセクロス禁止と言われて思いっきり反発しているしな。

 

 

 ふむ。であれば、深月。少し付き合え。

 全て要望通りにする事はできないが、少し代案を考えてみよう。並んで歩いたり、話をするだけでもある程度の安定効力は期待できる。霊力補充まではできないが……効率は落ちるけど、接吻で済ませられない事もないしな。

 俺達だけで話し合って決めても仕方ない。頭領たる者、配下から意見を吸い上げるのは必須事項だ。 

 

 幸い、今は皆俺に遭遇しようとしているようだし、ちょっと歩けば参考意見を聞ける相手も出てくるだろう。

 

 

「…そうですね。確かに、現状を無視して強引に規則を作っても遵守できないでしょうし、それはそれで健全な風紀とは言えません。まずは意識改革から始めないと」

 

 

 まぁそうだな。そこが一番重要なところだ。さて、行こうか。

 とりあえず、館内をふらふら歩いてみるか。日差しがいいから、気分も良さそうだしな。…しかし最近雨が降らんな。

 

 

「水不足の心配はないそうですが…。風も穏やかですね。いいお洗濯日和です。…自発的にしてくれる人が少ないのが問題ですけど」

 

 

 そこは個人の生活空間を作り上げた弊害かなぁ。洗濯は纏めてやるとしても、服を持ってくるだけでも億劫だって人種は結構居るし。

 そういう人達にただ『やれ』『こういう理由があるからしなければならない』って言っても効果は薄い。何らかの動機付けをして、無意識にやるくらいの習慣にしてやらないとな。

 ま、その辺も含めて行くとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あへぇ……は、あ、はぁ……こん、こんなの気持ちよすぎぃ……禁止なんかできなぁい…」

 

 

 そして即落ちした。いつものパターンですね本当に御馳走様でした。ワンパターンでゴメンナサイ。

 

 まず意見を聞く為に散歩と称して外に出て、廊下のど真ん中でちんこを出した。

 唐突な露出を見て、何が何だか分からずフリーズした深月を問答無用で押し倒す。当然抵抗されるが、その程度でどうにかなる筈もなく。

 誰も来てなかったが、来たとしても関係なかった。見られながらでも犯すつもりだし。

 

 見た目通りの柔らかい体を押し倒して強引に股を開かせ、暗示の効果によるものか本人の意に反して濡れ始めていた膣に強引にイチモツを捻じ込んだ。

 そのまま、痛いほどに締め付ける膣を蹂躙してやれば…1分もしない内に声が甘くなり、反抗しようとしている腕は逆に絡み付き、股間から生ずる快楽に支配されて堕落していく。

 

 廊下のど真ん中だというのに声を抑える事もせず、ただただ性欲のままに乱れ狂う。

 結局、誰も通りかかる事は無かったが……もしも誰か来ていたとしても、お構いなしだった事だろう。

 膣内射精を一発決める頃には、見事に交合の事しか頭にない雌犬と化していた。

 

 そのまま放置するのも何だしと、秘密の部屋(単なるSMルームだが)に連れ込んでやると、今度は明らかに期待した目で股を濡らす始末。

 どうやら風紀委員のような倫理観・正義感は完全に反転し、アブノーマルで背徳的あればある程興奮する、ド変態溶かしてしまった。

 

 これは俺の手腕がどうの、本人の性質がどうのと言うよりも、そういう風に調整されてたんだろうな。

 うちの子達を作った連中の趣味全開だ。もういい加減、そいつらの嗜好も読めている。

 要するに、ギャップと滑稽なのと、支配欲が満たされるシチュエーションが好きなんだろう。

 

 今回の深月で例えて言えば、真面目で潔癖で規律にうるさい委員長の古〇川が、首輪刺青ボテ腹ドラッグ人体改造フタナリビッチ化その他諸々特盛状態になったようなもんだ。しかもチンポ一発捻じ込まれただけで。

 元が潔癖であればあるほど、堕ちた時の落差を楽しめる。エロさを楽しむか、滑稽さを楽しむつもりだったのかは微妙なところだが…・

 

 

 何にせよ、深月の地雷を撃ち抜いてしまった訳だ。

 この子も暗示の影響は抜けてないんだし、一発ヤッちゃえばチョロいだろ、そうすれば不和の元にはならなくなる…と思っての行動だったんだが(改めて文字にすると我ながら最低だ)これはなぁ…。

 いや、確かにこういう風にするつもりだったんだろ、と言われれば否定できない。もっと時間をかけて、ゆっくり調教していくつもりだったけど。

 

 …都合よく扱い過ぎたしっぺ返しが来た、かな…。考えてみれば、俺のオカルト版真言立川流も、うちの子達にかけられている暗示より更にタチが悪いと言える代物だし。

 深月にしたって、襲われて理性が溶けるまでは抵抗するくらいには嫌がっていた。それを無視して強引に事を進めたんだし、俺ってガチで強姦魔…。今更かいと言われるだろうが、気になって来た。

 

 

 ………とりあえず、深月はこのままにしておこう。強引に事を進めてしまった詫びに、しっかり愉しませておく。

 幸い、鞭から蝋燭から浣腸から、今の深月にはNGは無いに等しい。下手をすると寝取らせだって楽しんでしまいそうだ。

 正気というかまともに戻られて言いふらされても困るし、普段の言動だけは今まで通り、睦言に関しては何でもありのド変態奴隷になるくらいに躾け直しておこう…。

 

 

 まずは本人も興味を示しているように、三角木馬に乗せて鞭打ちからかな。そこから分身による輪姦、後に他の子達にも紹介して、表向きは風紀委員、裏では皆に何をされても抵抗しない性奴隷オモチャとして位置付けるとしよう。

 ……ちなみに、この考えを聞いた深月は戦慄し、恐怖ながら法悦により失禁・絶頂した。

 

 



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533話

 すっかり変態プレイにド嵌りした委員長っぽいのは、日頃から梁型を咥え込ませておいといて、その後も女の子と遊び続ける。

 遊んでるのかメンタルケアの仕事してるのか分からなくなってきたが、愉しいし気持ちいいからどっちでもいいや。

 しかしアヘ顔Wピースは一体誰に聞いたんだか。…この子も、元々ある程度の興味はあったらしい。ムッツリさんでもあったのね。

 

 それはともかく、会う子を片っ端から腰砕けにしながら歩いていると、きららとバッタリ会った。

 なんか二人で話すのは久しぶりな気がする。……が、何か元気が無いような気がするのだが。

 

 きらら、大丈夫か? 餡蜜食べる?

 

 

「私、冷え性だから温かい善哉の方が」

 

 

 別にそっちでもいいけど…。と言うか、冷気を扱うのに冷え性なのか。

 

 

「扱うから冷え性なのよ。服だって通気性のいい物じゃないと、冷たい空気が纏わりついて大変なんだから。…元気が無いって言うか、ちょっと疲れてるのは確かかも。最近、ちょっときついのが続いたから」

 

 

 きついの…ああ、毎朝の罰則の事な。

 確かに最近、精神的なのから肉体的なのまで、色々と面倒なのが当たってたな。時子の手伝いの時なんて、経理の計算だったか。

 

 

「経理…費用…仕入れとの違いって何…? 予算とお小遣いってどう違うの…? ううう、資産と資本なんて数えて何に使うの、そもそも何が何なの…。表を見ているだけで頭が茹ってきて、自分で氷を作って冷やしたわよ」

 

 

 …まぁ…数字の羅列は、見慣れない人からしてみると理解不能の一言だもんな。ろくな説明をされてないのに手伝わされれば、そりゃ自分が何やってるかもわからなくなるし、知恵熱も出るか。

 と言うか、うろ覚えで語った簿記の知識を自力で運用できるところまでもっていった時子がスゲェ。ちゃんとした簿記ではなくて、精々家計簿レベルだとは思うけど。

 

 

「ドリュウの百匹退治も精神的にきつかったけど、あの手伝いよりはよかった…。何だか身の危険を感じたけども」

 

 

 触手プレイされる予感でもあったんかいな。さもありなん。小鬼達に輪姦されるくらいありそうだ。ここの鬼達は、人間を性欲の対象としては見ていないようだが。

 まーなんだ、しかし当初に比べれば色々と打ち解けて来たんじゃないか? 最近じゃ、罰を手伝ってくれる子も多いだろう。

 

 

「ええ、そうね。鹿之助もそうだけど、最近だと紅とか。…内容によっては真っ先に逃げるけど…」

 

 

 元々きららへの罰則だからな。手伝わない事を責められはせんよ。しんどい作業をこなしてこそ、反省の意思を強く示せる。

 

 

「そういうもんかしら…。ところで、ちょっと話は変わるんだけど、ほら、例の塔の話。あれを追い詰める算段って出来てるの?」

 

 

 大体のところはな。今はその準備段階だ。何か気になる事でもあるのか?

 …例えば、昔ああいうのと戦った事があるとか。

 

 

「それはどうだろ…。あってもおかしくはないけど、記憶が無いし。でも、もしあるんだったら……ほら、あれよ、私が封じ込められていた舟、あそこに何かあるんじゃない?」

 

 

 …確かにありそうだが、今から探し出して解読するのはちと難しいな。茅場に話だけ振っておくか。

 

 

「気になる事って言うか、この前蛇子ちゃん達と話してて話題に出たんだけど…。あの塔って、過去にも居たのかな、って事」

 

 

 …どういう事だ?

 

 

「だって、あの塔がオオマガトキを起こすんでしょ。この世界はオオマガトキが起きたからこうなった、って話じゃない。確か、まだ10年も経ってないんだっけ。その時にも同じ事が起きたんじゃないの?」

 

 

 それは……どうだろう。オオマガトキが起きた時、近場に居た奴なら知ってるが…そいつも、その場所で何が起きたか直接は知らないしな。

 でも走り回る塔に限らずとも、あんだけでかい物が、空に穴をあけるような力を以て鎮座してれば、誰でも本能で気付く…。

 

 

「で、どんどん話が発展していったんだけど、鬼はどうしてオオマガトキを起こそうとしているのか。どうしてこの世界にやって来たのか。どうして人を襲うのか。考えてみると、分からない事ばかりなのよ。いや、知識では知ってるわよ? 鬼が食べるのは、人間…特にそのミタマ。だけど鬼達が元々居た世界は、人間が存在しない世界だって言うし…」

 

 

 段々と矛盾や知識の穴に気付いてきた訳か。

 確かに、俺も鬼に関して知ってる事は、実地で体験した狩り方と、伝え聞いている生態や由来のみ。

 それらが正しいという証拠さえ、一つも無いんだよな…。

 

 

「大体、オオマガトキをもう一回起こしてどうするのよ。今でさえ、人間は滅亡寸前じゃない。はっきり言えば、放っておいても滅ぶわよ、人間」

 

 

 意外と冷静に情勢を把握しとるな。実際、崖っぷちもいいトコロなんだよなぁ…。俺が全力で暴れたとしても、局地的な被害しか出せないし。(具体的には異界すら残らない死の荒野化)

 確かにその状況で、わざわざオオマガトキをもう一回なんて、手間がかかるってもんじゃないよな。

 鬼達は社会性を持っているが、同時に野生の獣でもある。それらが纏まって、命令系統に従い、大きな一つの目的を達成しようとする。

 

 …人間を滅ぼす、では辻褄が合わない。鬼にとって、大部分の人は餌である。誰が餌を好き好んで絶滅させようとするだろう。

 直接食い荒らした結果滅ぼすならまだしも、オオマガトキなんてやり方じゃどれだけ腹に入るかもわかったものじゃない。

 

 

 …鬼達に、別の目的がある…と言いたいのか。

 

 

「こ、根拠とか求められても困るんだけど。皆との雑談の間に、話が逸れて逸れていつの間にかそういう結論になっただけだし」

 

「ふん、救いようがないな。なまじ正当に辿り着いているだけに、捨ててしまうとは手の施しようもない」

 

「うんげぇっ!?」

 

 

 げっ、っておま…凄い声出たぞ、きらら。

 と言うか博士じゃねーか。なんでこんな所に居るんだ。

 

 

「私が何処に居ようと、貴様如きでは理由は理解できんだろう。天才故の気紛れよ」

 

「何処で会おうと、こいつに付き合うと酷い目に合う予感しかないわ…。罰でこいつらの所に方向に出された時は、それはもう思い返すのも憚られる目に…」

 

 

 つまり気分転換の散歩と。きららはちょっと落ち着け、こいつはいつでもこういう奴だから諦めるしかないぞ。しかし、負けん気の塊みたいなきららがこうまで苦手意識を露わにするとは、一体なにがあったのやら…。

 んで、正当と言ったな。

 博士はその正解を根拠付きで知っていると?

 

 

「天才だからな。…とは言え、それを抜きにしても、貴様らに真実に辿り着けと言うのは、少々酷な話か。それはどうでもいいとして」

 

 

 いや知ってるなら語ってくれよ。

 

 

「面倒だ。知りたければ自分で調べろ。他の連中ならともかく、『繰り返し』のある貴様なら手掛かりは山ほど持っているだろう。気付かないのは貴様が愚鈍なだけだ」

 

 

 山のような手掛かりなら、それこそどっから手をつけていいのか分からんわ。

 ヒント…手掛かりをくれ、手がかりを。

 

 

「山のようにある手掛かりに、一つ二つ加えたところで何も変わらん。思い当たらないなら、地道に発掘するんだな」

 

 

 んな事言われたってなぁ…。『正当に辿り着いているだけに、捨ててしまうとは』って事は、さっきの会話の中に正しい答えがあるって事か?

 

 

「そんな事はどうでもいい。例え鬼の目的が私の推察から外れていたとしても…有り得ん話だがな…、奴らを一匹残らず一層するのは変わりない」

 

 

 まぁ、そりゃそうだな。ところで何の用事があって話しかけてきたんだ? 単なる散歩だったとしても、お前が意味の無い事をするとはちょっと思えん。

 少なくとも、目的があって話しかけたんだと思うが。

 

 

「フン。例の塔について、貴様が延々と手をこまねいているから、いい加減鬱陶しくなってきただけだ。あれを追い詰めるのに、そんな手間が必要か」

 

 

 いや必要だろ。流石にあの巨体と機動力だ。真正面から挑んでも逃げられるだけだ。そもそも奴自体、どうやら敵に襲われたら抗う事をせずに逃げの一手らしいからな。逃の一手に徹する相手ってのは、一番倒しにくい相手だぞ。

 

 

「鬼の手があるのに? しかも貴様の自前の物と、私が作った物が揃っているんだぞ。あの程度、どうとでもできる。全く手のかかる…。奴と戦う時には私も呼べ。初穂から鬼の手を回収して私が使う」

 

 

 博士が戦闘に参加するのか? 珍しい事もあるもんだ。

 ……焦れったくなっただけじゃない、何か妙な因縁でもあるんじゃないかと思えてきたが。

 

 

「…そんな物はどうでもいい。貴様らが不甲斐なさすぎて、放っておけば最悪の事態になりかねんと思っただけだ。オオマガトキは、流石に私にとっても洒落にならん。さっさと片付けて、研究を再開する」

 

 

 ふむ、まぁ戦力が増える事に異論はないが。

 オオマガトキの目的ね…。また考える事が増えたな。考えるだけならロハだし、暇な時に思うくらいでいいか。

 

 用件は済んだとばかりに散歩に戻った博士を見送り、きららは大きく溜息を吐いた。

 

 

「…何だったのかしら」

 

 

 さぁ。

 …そう言えば、きららは…精神的に大丈夫なのか?

 うちの子達は、あいつらを封じ込めた連中から暗示をかけられたおかげで、長く俺と接していなかったら色々不安定になるんだけど。

 大きな決戦前で精神が不安定になっちゃ話にならないし、今は皆と会って激励(意味深)とかしてるんだが。

 

 

「別に、私にそんなのないわよ。無いけど………」

 

 

 きららは何か考え込んでいるようだ。

 ちなみに、次に会いに行くのは…あっちの森だから、多分舞華が居るな。若い方の浅木も、ひょっとしたら居るかも。

 

 

「…あっそ。じゃ、私は別の方に行くわ。…何よ、単にあいつと馬が合わないだけよ」

 

 

 いつぞやの喧嘩が、まだ後を引いてるのかね?

 舞華自身も付き合いのいい方じゃないし、無理に会わせる必要もないと思うが…。

 

 きららは早足に立ち去ったが、まだ何やら考え込んでいるようだ。塔やオオマガトキ…の事じゃなさそうだが、話す気も無さそうだ。

 必要だと思ったら、自分から相談するだろう。その程度の分別は……ついてきている、筈…。同族意識のおかげで、無駄な意地は張らなくなったからな。

 

 

 

 

 

 

 森までやってきた。舞華はいつも座っている定位置で、苛立たし気に懐を探ったり、何故か咥えている木の枝を上下に振っていた。

 無意識なのだろうが、周囲に火の粉が舞っている。

 

 …おい炎を抑えろよ。森が火事になったら大事だぞ。

 

 

「あ? …ちっ、若かよ…。何か用があるならさっさと済ませてくれ」

 

 

 …こりゃ相当苛立っているな。今までは、ツッパリっぽい言動をしながらも、俺に対する敬意はそこそこ持っていたのに。精々が、世話になったパイセンに対する程度の経緯だと思うが。

 何の用かと言われれば、様子を見に来たとしか言えないな。舞華に限らず、一人一人見て回ってるんだが。

 

 

「ならもう様子は見たろ。さっさと行ってくれ」

 

 

 むしろ行けなくなったな。随分と情緒不安定になってる。

 里に行って豪遊はもう飽きたのか?

 

 

「この前の報酬は、もう使い切っちまったよ。…っとに……情緒不安定とかそんなんじゃねえよ。単にこれが切れただけだ。茅場の野郎、まだ新しいのができねえのかよ」

 

 

 ピコピコと揺れる、口に咥えた木の枝。ああ、煙草が無くなったのね。

 すっかりニコチン中毒になっちゃって…。それで苛立ってるのか。

 

 しかし、構造的には単純だから、茅場ならあっさり作れそうなもんだが。

 

 

「なんか、材料が無いんだとよ。それ抜きで作った奴を一本吸ってみたんだが、どうも不味いというか締まらねえと言うか…」

 

 

 ニコチン…茄子との葉からも取れるらしいけど、タバコ類以外からは量が少ないんだったか。

 充分な量が確保できなかったのか、それとも配合具合の問題か…。

 

 どっちにしろ、本人は否定しようとしているようだが、この苛立ち方は尋常ではない。炎のコントロールが効かなくなりかけている程だ。このまま風呂を沸かさせたら、火傷しそうな熱湯になってしまいかねない。

 …前に戦線に出した時も、報酬はハクのみ、俺からの接触・スキンシップ・R-18はほぼ無かったからな。

 安定しているように見えて、やはり暗示の効力からは逃れられていなかったのだろう。

 

 ともあれ、この状態の舞華を放っておくなど論外だ。戦い前に落ち着かせる…いや、火事になる前に落ち着かせる必要がある。

 タバコ……はもう無かったな。

 舞華の事だから、自分が苛立ってるのは暗示なんてよく分からない物のせいだ、なんて認めはしないだろう。ツッパリみたいな言動通りに、結構な意地っ張りだ。

 

 となると………まぁ、いつもの手段だな。

 舞華。

 

 

「…んだよ、しつけえなっ……!?」

 

 

 

 真正面から鷲掴みにする。予想外過ぎて、舞華の脳が追い付いていない間に、両手でつかむ。

 そして揉む。

 

 うむ……こうして触ってみると分かるが、やっぱデカイなこいつ。しかもムッチムチ。しかも何が凄いって弾力が凄い。かなり力を入れても押し返してくる。…これ、もっと揉んだら更に育つぞ。

 更に、先端を爪先でカリッとしてやると。

 

 

「ぁぅんっ」

 

 

 感度もいい。慣れてない故の感度と、肉体従来の感度だな。つまり自慰も殆どしてないのに、ある程度開発されていると。

 見た目はイケイケのダイナマイト(色んな意味で。むしろバズーカ)なヤンキー、実際は可愛い物好きで自慰も恥ずかしがるような乙女、更に天然の敏感ボディ。

 うーむ、作成者の意図は、アレだな。強気なギャル(死後)を犯したらベタ惚れされてしまった、とかそーいうシチュエーションとみた。

 

 

「い、いきなり何しやがんだこらぁ!」

 

 

 認識が現実に追いついたのか、躊躇わず拳を顔面に飛ばしてくる舞華。だがその程度では当たってやれぬ。俺はラッキースケベでお色気シーンしてぶっ飛ばされるラブコメ系主人公ではなく、意図的にセクハラして怒られ嫌われながらも無傷で逃げ切る老獪な妖怪スケベジジイ系のキャラなのだ。しかも夜這いかけて最後までヤッちゃう系の。

 いきなり胸を揉まれて相当にお冠らしく(当然と言えば当然だが)、舞華は力任せに拳を振り回す。中にはバーンパンチみたいになってるのもあった。…予備動作の万歳ポーズしてくれれば、ぶるんと震えただろうに。

 

 ま、それはそれとして。適当なところで舞華の腕を掴み、怒りと羞恥と僅かな性感で真っ赤になっている顔を覗き込む。

 

 

 舞華、命令だ。夜に俺の部屋に来い。夜伽の相手をしろ。

 

 

「ざっけんな!? まともに正面から口説かれるならまだしも、合意も得ずにいきなり人の胸をも、も、揉むような奴に誰が抱かれるかよ!?」

 

 

 ぐうの音も出ない正論である。でも沢山いるんだよなぁ…。暗示無しでもバッチコーイな奴が何人いた事か。俺が手を出す前からそんな感じになってた事さえあったもの。具体的には、GE世界のナナとかリカとか。

 あの子達、比喩も誇張も抜きで、衆人環視の中でいきなり押し倒して捻じ込んでも悦んで受け入れるくらいだったから…。

 

 まぁそんな極端な例は置いといて、とにかく舞華を抱く事に決めた。

 おっぱい触って更に決意が固まった。改めて見返すと極上に美味そうなカラダしてるし、舞華自身の精神も不安定になってる。頭領として、その状態の子を放置する訳にはいかん。

 

 

「せめて最初に精神を理由にしろよ! 冗談じゃねえぞ、俺は御免だからな! いくら頭領の命令だからって、何でも従うと思ってんじゃねえぞ…!」

 

 

 乳の間から、得物である銃を取り出す。……いくら爆乳でもあんなものが入る筈もないが、細かいことは気にしてはいけない。

 炎を纏って、完全に臨戦態勢だ。

 …うーむ、完全に意固地にしてしまったようだ。当たり前だボケ、というツッコミが聞こえるが気にしない。

 

 これはこれで悪くない展開だ。舞華みたいなタイプは強者にはそう立てつかない。隙に暴れさせて鎮圧すれば、鬱憤晴らしにもなるし力量差を知らしめる事にもなる。

 ついでに言えば、舞華はカワイイ物好きかつ、か弱い乙女扱いされたい願望もあるようなので、それも満たしてやれるだろう。…いや、か弱い乙女扱いと、屈服させられるのとは全く別物だが、まぁレディコミでヒロインが美形竿役に手籠めにされる的な展開にもっていけば大丈夫だろう多分。この子達のちょろさ…と言うより、この子達を作った連中の仕掛けそうな事なんて手に取るように分かる。…同類の色狂いだkらね!

 

 さて、ちょっとばかり暴れるとしますかね。

 

 

 

 

 その後、怒りの貞操の危機からか、非常に奮戦した舞華だが、怒りのままに炎を振りまいた結果、スタミナ切れを迎えてダウン。敢え無く敗北となった。

 仰向けに倒れ、ただでさえ大きな胸を更に膨らませて荒い呼吸をしながら、俺を睨みつける。そのまま犯されると思ったのか。

 

 本気で頭領ではなく、強姦魔を見る目を向けてくる舞華に近付いて…そのままお姫様抱っこで抱え上げた。

 当然抵抗されるも、お構いなしに…しかしやましい事はせず(ふとももの感触は堪能してたけど)に歩いて行くと、徐々に反抗が小さくなってきた。予想通りお姫様抱っこのシチュエーションはツボだったようだ。

 

 部屋まで…俺の部屋じゃなくて、舞華の部屋まで連れていき、途中で見つけた災禍を世話役につけて部屋に戻す。

 

 

 手荒にして悪かったな。だが少しは鬱憤も晴れただろう。今日はもうゆっくり休むといい。災禍、拒むようなら部屋にまでは入らないでやってくれ。

 …さっきの夜伽の件は本気だ。嫌というなら無理強いはしないけどな。その気があるなら、夜に部屋を訪ねておいで。

 

 

「お、おう? …………おう?」

 

 

 

 目を白黒させている…と言うより、これまた展開についていけない舞華。うん、実を言うと俺も自分で何やってんのか今一つ分からない。

 雰囲気的にアレだ、ハーレクィンとかお耽美小説の、美形悪徳領主に嵌められて全財産掻っ攫われた上に奴隷に落とされたけど、それは実はヒロインを自分だけの物にする為で、手に入れてからも歪んだ愛情を注いでくる…的なアソビ?

 これで好意的に思えるようになる奴が居れば、相当な手遅れだと思う。

 

 まぁ、そうなるように仕掛けはしたんだけども。

 おっぱい揉んだ時に、思い返す度に情欲が湧き上がるようにオカルト版真言立川流を仕掛けたからね!

 




次回、久々に濡れ場を書くつもり……なんだけど、久しぶり過ぎて感覚が無くなって手古摺ってます。

…あと、性欲減衰もあるのかなぁ。
もう30半ば…(独身)。
高校生から大学生くらいだと、何もしなくても妄想が湧いてきて、書いてる間に次の展開が浮かんできたんですが、実生活で使わない機能だろ?と言わんばかりに、性欲が弱まっている気がします。
いや、エロと実際の性欲は別物だと考えるようになったんでしょうか?

何にせよ、次の更新がいつになるか、かなり微妙です。




仁王2はやってるけどその為じゃないよ! 展開に詰まってるからだよ!


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534話

恥ずかしながら帰ってまいりました。
遅くなりまして申し訳ございません。
久しぶりの濡れ場で、詰まりに詰まっておりました。
なんちゅーか、精神的にEDになったように書けなくなっていました。

…いえ、決して仁王2ばっかりやってた訳ではないのです。
2周目が終わったので、これから称号やら厳選やらに入りますが。
そーいえば素晴らしい101人もリメイク…いやそれは置いといて。

色々とショッキングな事がありました。
特に志村けんの訃報! ああ、バカ殿様見なくなってどれくらいになるかな…。

あと、とうとう勤務先が臨時休業となり、自宅待機となってしまいました。
設備を放置できないので2日に1度は出勤ですが、まぁそれすら無くなったら家で体を壊すまで酒飲んで飯食っての繰り返しになりそうですし。
やる事があるって、意外と精神的に安定に役立つようです。
コロナウィルス、最初に聞いた時には「すぐ治まるとは思わない方がいい」と考えてましたが、ここまで広がるとは…。

このSSが暇潰しの一助となる事を祈ります。
暫くは、また4日に1度の17時投稿ができそうです。


 

 と言う訳で、夜。晩飯の後も何人か相手して、安定化が必要な子が残っていない事を確認。…この一日でうちの子達の半数近くを相手にした事になるが、まぁいつもの事ですな。

 今日一日、執務を任せておいた秘書・執事チームからの報告書を受け取り、執務室でそれに目を通す。

 

 報告書の中には、災禍からの舞華に関する記述もあった。あの後、力尽きて動けなくなっていたものの、断固として自室に入る事を拒まれた。…大方、可愛い物だらけの部屋を見られたくなかったんだろうが…まぁそこはいいか。

 暴れた後だったし、湯浴みをさせて自由にさせたらしい。ただそれだけの世話しかしなかったが、その間にも舞華を観察していたようだ。

 

 曰く、『今までのようにあからさまな苛立ちは消えているが、やはり不安定。若様のご寵愛が必要です』との事。既に狙っているのは気付かれていたか。まぁ当たり前だけど。

 更に追記で、『若様の仕掛けは十全に機能しているようです』。…これもバレたか。思い出す度に欲情してしまう仕掛けの事だな。

 良い悪いはともかくとして、根が乙女な舞華にとって突然胸を掴まれるなんてインパクトが強すぎるからなぁ。意識しようとしまいと、何度も思い返してしまうのも無理はない。そしてその度に疼く体、ときめく胸、昂る精神。元々あった好意に相まってしまえば…。

 

 

 

 こうなる訳だ。

 

 

 

 

 部屋の扉がノックされる。音の発信源は床の辺りだから、足でノックしたようだ。

 書類を整えながら声をかける。入っていいよ。

 

 

「…邪魔するぜ、若……」

 

 

 躊躇いがちに入って来たのは、言うまでも無く舞華である。

 湯上りのなのか、浴衣を着て石鹸の匂いを漂わせている。どうやらしっかりと『準備』してきたらしい。

 しかしそれらとは裏腹に、苛立たし気、恨めし気な目付きで俺を睨んでいる。威嚇や恨み事のつもりなのかもしれないが、罠にかかった獲物がそんな目をしても嗜虐心しか煽らない。

 

 

 さて、舞華。早速だが、夜に来たって事は…命令を果たしにきたって事でいいんだな? それとも、こんな悪逆非道な頭領には従えないから、ブッ飛ばして出ていくかい?

 

 

「……っ……ああ、今からでもぶっ飛ばしてやりてぇ…! なんでこんな奴が俺らの頭領なんだ…! 頭じゃこんな奴に応える理由は無いと思っても、相手があんただってだけで体が疼く、嬉しくて頭が沸騰しそうになる…」

 

 

 破れ鍋に綴蓋だと思うけどね。どっちも単体では使い物にならないって意味でも。

 お前は煙草が切れたせいだと思いこもうとしていたが、自分が不安定になっているって事くらい自覚できていただろう。そこで妙な意地を張って、相談したり助けを求めたりしなかったのは間違いなくお前自身の落ち度だよ。

 

 …っと、コトの前にこんな色気の無い話をするのも悪いな。

 

 

「そう思うなら、最初からもうちょっとまともなやり方をしろよ! せめて正面からこう、その気になるような言葉をかけてくれよ! なんでいきなり胸倉掴んで揉んでくるんだよ!」

 

 

 うん、ごめんそこは俺の趣味。舞華みたいな子は、正面から捻じ伏せて身も心も俺の物だって思い知らせたくなるんだ。

 こんなエロカワいい女、俺の女にしない手は無い。

 

 

「か、かわっ!? いつまで小馬鹿にする気だ…。あたしみたいな女が可愛い訳ないだろうが」

 

 

 その反応だけでも充分可愛いんだよなぁ。

 うん、決めた。ただ屈服させるだけじゃ悪いと思っていたし、こうなったら徹底的に可愛がって、舞華の魅力を自覚させてやろう。尤も、その魅力は舞華が望む可愛さとはちょっと方向性が違うかもしれないが。

 

 何だかんだでカワイイ発言で心が揺れたのか(チョロい)、険を和らげて視線を逸らし、ブツブツ言っている舞華の手を惹き、寝室へ向かう。

 女を卑しい手で貶め、犯す鬼畜ムーブはここまで。

 

 ここから先は、何も知らないファッションヤンキーギャルを褒め、甘やかし、口説き落として心の底からデレさせる、イチャラブえっちのムーブである。

 

 

 

 

 舞華をベッドの上に座らせる。自分がこれからされる事も気になるが、ベッドも気になるようだ。この世界には普及してないからね。

 神夜が作ってくれたベッドの上には、頭領特権とマイクラ能力を駆使して作り上げたフカフカの布団とクッションが敷き詰められている。腰かけると沈みこんで体を受け止める感触に戸惑う舞華。

 

 

「…なんだこりゃ。随分と柔らかいな」

 

 

 ベッドと言う、神夜が作ってくれた寝具だよ。柔らかくて寝心地がいいし、布団を敷きっぱなしにできるのが利点だな。

 それに……やる事やる時にも、気分が出るしね。

 

 

「…………」

 

 

 奥歯を噛み締めて、これからされる事の不安と恥辱に耐えている舞華。何とも嗜虐心をそそる表情だが、今はそちらよりも心から蕩けさせる路線だ。

 舞華、体に触るぞ。

 

 

「……っ…勝手にしやがれ…」

 

 

 小さく吐き捨てる舞華の手に触れる。ビクンと跳ね上がる体。それを安心させるように、指と指を絡めて握り、もう一方の手で舞華の指先から腕にゆっくり触れる。

 手触りをゆっくり確かめるように、ゆっくりと指を添わせ、体温に寄り添う。

 

 問答無用で蹂躙されると思っていたのか、肩透かしを食ったような顔の舞華。綺麗な手だ、と口にすると顔がまた赤くなった。つくづく純情な子だ。

 別にお世辞を言ったつもりはない。舞華の指先は白く細やかで、乱雑なイメージとは裏腹に綺麗に手入れされている。

 緊張しているのもあるだろうが、腕を指で触るだけでピクピクと反応する。

 

 …指先って敏感だからね。撫で続けると変な気分になってくるんだよ。俺のやり方だと、言うまでも無く変どころかエロな気分だけど。

 深窓の姫の手に口付けるように、手の甲に唇を落とす。

 

 

「ばっ、な、なにやってんだよ!?」

 

 

 あんまりにも綺麗な手だから、我慢できなかった。

 それに、舞華自身がこの綺麗さ可愛さに無自覚だというのはちょっと勿体ない。無自覚だからこその可愛さもあるんだけど。

 

 

「だっ、だからあたしが可愛い訳が、うぁ!?」

 

 

 もう一度、手にキス。今度は手の甲ではなく、絡めている指に。繋がれている手を微妙に動かして掌全体をマッサージし、唇と舌で更に愛撫する。

 落ち着かないようで、手だけでなく体全体をもぞもぞと動かしている。腰を捻り、太腿を擦り合わせる仕草が何とも言えないいやらしさを醸し出す。

 

 小さく唾液の音をさせながら舞華の手指に愛撫を続ける。目を閉じて唇を噛み、送り込まれる感覚に耐えている。

 余計な事を口走ったら、また何か言われたり行為が激しくなると思ったんだろうか。それは間違っていないが、何も言わなくても結果は同じである。

 意地を張って声を堪える姿が可愛い。ちょっと怖いけど気持ちよくなってきた姿が可愛い。可愛い可愛いと言われて、そんな筈ないと思っても嬉しくなってしまう姿が可愛い。

 

 

「ば、ばか……やめろ、よぉ……」

 

 

 顔を真っ赤にし、俯きながら声を絞り出す。可愛いと言われるのが、余程嬉しく恥ずかしいらしい。そういう所がまたツボに入る。

 そんな風に心を掻き乱されていても…いや、いるからこそ、体の反応に逆らえなくなる。

 掌は体の縮図だ。掌から解されていけば、体だって解れていく。性感を送り込まれれば、体全体に伝播していく。

 

 心を言葉に掻き乱され、体を解され、卑猥な感覚を少しだけ送り込まれて、舞華の体が勝手に『準備』を整えていく。

 反抗・抵抗を捨てられずに緊張で固まっていた体は、徐々に硬さを失って弛緩しはじめる。

 それこそ、か弱い乙女が今正に布団の上で剥かれようとするかのように、呼吸を荒げて力なく体を横たえる。…グラビアっぽいポーズになっているのは偶然だろうか?体を横たえていると、体のムチムチ具合が強調されるな。グッド。

 

 

 そのまま一気にのしかかる…事はしない。手から腕、腕から肩と、順番に手と唇を這わせていく。

 舞華にとって抵抗が少ない所を見抜き、そこを解して睦言を囁き、心と体の抵抗を一枚ずつ引き剥がす。

 ただし、大事な部分には決して触れない。服も脱がせず、その下に手を潜り込ませる事もしていない。

 まだ舞華は俺を受け入れている訳ではない。体の反応で緊張が緩んでいるだけだ。心から俺を欲しいと、自分はこの人の女なのだと自覚させたい。

 そう時間はかからない。舞華は既に雰囲気に酔い始めている。可愛いと囁かれ、丁重に扱われて、姫のように丁重に扱われるこの状況に。

 またしても耳元で、時には体に触れながら睦言を注ぎ込み、体のツボを弄り続けていく。

 

 

 

 

 程なくして、体中の緊張を強制的に解され、甘く痺れるような弱い性感に浸されて、舞華の体は完全に弛緩しきって転がった。

 ベッドの柔らかいクッションが、朦朧とした目で虚空を見る舞華の体を受け止める。ベッドの上で息を荒くしている彼女の体は、俺がつけた唾液と滲んだ汗で僅かに輝いている。

 

 

「っ…っ…っ、だよぉ……そんな…やさしく、すんなよぉ……あたま、おかしく…なっちまう…」

 

 

 なってしまえばいいじゃないか。男と女が絡み合う時に、おかしくなってない奴なんて居ないよ。

 ほら、もっとおかしくしてあげよう。

 

 頤を上向かせ、ゆっくりと顔を近付ける。息を乱していた舞華は暫く逡巡していたようだったが、何も言わず目を閉じ、唇を少しだけ突き出した。

 抵抗を諦めたと見るべきか、それとも受け入れたと見るべきか。まだ半々…いや、雰囲気に流されている部分が多いから、まだ受け入れられてはいないか。

 服は心の鎧でもある。全て剥ぎ取られれば弱気にもなるし、流されやすくもなるだろう。

 

 体を抱き寄せながら、ゆっくりと、焦らしながら唇を落とす。

 体から、舞華の鼓動が伝わってくるようだ。加速する一方のその鼓動からは、不安、諦念、緊張、そして期待、幸福、悦びが伝わってくる。

 この不幸と幸福の間で葛藤する心を、悦び一色に塗り替えて突き落としてやるのだと思うとゾクゾクする。

 そんな邪な心が伝わらないよう注意しながら、抱き寄せた舞華の唇の感触を堪能した。

 

 時間にして、10秒も経ってなかっただろう。舞華本人は、その緊張からかもっと長く感じたようだが。

 唇を合わせるだけの接吻は、それだけで終了した。

 

 

「…………?」

 

 

 あれ、それだけ? とでも言いたげに、薄く目を開く舞華。普段の俺の言動から、もっと貪欲に(よく言えば情熱的に)接吻を受けると思っていたんだろう。

 しかしこれはフェイント。

 薄目を開けて様子を見ようとした舞華の顔を引き寄せ、何度も接吻の雨を降らす。長く唇をつけるような接吻ではなく、付けては離し、付けては離し。

 不意を突いた以上に予想外だったのか、慌てて顔を離そうとする舞華だが、それで逃がす筈もない。そうやって、恥ずかしがっているのを抑えつけてモノにするのが愉しゲフンゲフン

 

 一度唇をつけるだけの接吻なら、バンジージャンプに臨む気概で覚悟はできただろう。しかし肩透かしを受けた直後に、何度も何度も繰り返される接吻。

 例えていうなら、清水の舞台から飛び降りるつもりでいたら、途中で木の枝に引っ掛かっては折れて落下、また引っ掛かって折れて落下と、心臓に悪い自由落下を細目に繰り返したような感じだろうか?

 

 最後に一際強く吸い付き、軽く唇に舌を這わせて接吻を止める。腕の中の舞華は、既にぐったりして力が抜けきっていた。

 

 

「っ…は……はぁっ……わ、わかの……ばかやろー………はじめてだったんだぞ…」

 

 

 だと思ったから、一生忘れられないくらいの接吻にしてあげたかった。

 ま、忘れられなくするのは、接吻だけじゃないんだけども。

 

 ともかく、まだ始まったばかりだというのにすっかり消耗してしまった舞華。気力消費は激しかったようだが、緊張は吹っ飛んだようだ。

 最初の守りを突破して、今度は体に攻め込む番。

 フェザータッチで肩や腕を撫で回していたのを、徐々に体の中心に持っていく

 

 くすぐったそうな、甘い性感を受ける舞華の体は、反射的に捩って逃れようとする。しかし体の興奮を示す乳首と秘部はしっかりと悦楽を享受している事を物語ってくれた。

 特に、うちの子達の中でも上位に食い込むであろう、柔らかく大きな巨乳の先端は、ビンビンに立ち上がっている。今すぐにでもむしゃぶりついて、敏感なそこを扱き上げてヒィヒィ言わせてやりたくなるが、それはまだ早い。

 気持ちよすぎて苦しい、でもそれが好き…と言うのがうちの子達の大好物のシチュエーションだが、舞華は心から蕩けさせると決めている。一切の不安や苦痛なく、今後も俺に抱かれる事に一切抵抗を作らないようにするのだ。

 

 とは言え、このむっちむちおっぱいを放っておく手は無い。なので。

 舞華、ぎゅーってするぞ。

 

 

「え? ちょ、まっ、お、おまっ!?」

 

 

 惚け始めている顔を放り出す程以外か。舞華の体に、正面から思いっきり抱き着いた。

 その深くて柔らかくて圧力の在る谷間に、顔面を潜り込ませる。

 

 おおっ、この深さ、柔らかさ、圧力、そして舞華の雌の香り…。ここが桃源郷か!

 最初に舞華を叩き起こした時から、ずっと後悔してたんだ…あの時、目覚めさせる事だけ考えて、この乳を揉まなかったのはなんでなんだ、と。

 

 

「なんでじゃね、んぁっ! か、顔動かすなぁ!」

 

 

 こんなの潜るし動かすし嗅ぐに決まっとるわい。いつもいつもぶるんぶるんさせて男を誘惑しやがって…。

 うちでなかったら、こんな乳犯罪級だぞ。絶対にこの乳目当てに性犯罪者が出るに決まってる。この、悪い乳め悪い乳め! でもいい乳だ!

 

 

「あたしが男を誘ってるような言い方すんじゃねーよ! お前、あたしをそんな目で見てたのかよ!」

 

 

 見るに決まっとるわ! 体の特徴だけで言っても、お前はそれだけ魅力的なんだよ!

 性格に見合った大胆な体しやがって、男だったら一度でいいから好きに弄んでみたいと思うに決まっとるわ。人によっては、弄ばれて絞られてみたいとも思うだろうが。

 

 

「体がいやらしいって言ってるだけじゃねーか…褒めてるつもりかよ…」

 

 

 無論褒めている。

 …褒め言葉として最低だと思うが、それでも舞華は嫌な気はしなかったようだ。女性としての自己評価が酷く低い子だから、褒められるだけでも嬉しいのかもしれない。…悪い男に引っ掛かるタイプだ。現に今俺に引っ掛かっている。

 

 それはともかく、舞華は何だかんだ言いつつ抵抗しない。

 胸の谷間にいきなり顔を突っ込まれるパフパフ状態で、明後日の方向に視線をやって羞恥心を誤魔化しながら、大人しくしている。

 

 俺もいきなりアクションを起こさず(全身のむちむち感は堪能しているが)、舞華に抱き着いたまま。お互いの体温と鼓動を伝えあい、同調させていく。

 暫くそうしていると、舞華が戸惑いながら腕を動かした。自分の胸に埋まっている俺の頭に腕を回し、「いいのかな?」みたいな動きで、そっと抱きしめてくれる。

 おっぱいごと腕を回しているので、顔に感じる乳圧が更に強くなった。普通の人なら窒息の危険があるくらいだ。だが俺は乳から酸素を吸いこめるので、存分に堪能する事ができる。

 

 もっと、という意味を込めて顔をスリスリする。

 これでいいんだ、と分かった舞華は、少し力を強めてきた。赤くなった顔の口元は、満更でもないと言うように少しだけ歪んでいる。

 母性本能が刺激されたのか、俺の体を包んでいるという状況に、何やら気分が良くなってきたようだ。

 加えて、自分の体で興奮してくれている、という優越感もあるのだろう。時々腕を動かし、乳圧を変えて愉しませてくれる。

 

 

「…なぁ、若……あたしの胸、そんなにいいのか?」

 

 

 いいとかよくないとか、そういう次元ではない。最高です。

 

 

「お、おう………へへ、案外悪い気はしねえな」

 

 

 この乳は俺のものだい。他の男になんかやらないやい。だから、この乳の使い方…どうすれば気持ちよくなれるのか、一生かけて教え込んでやるからな。

 興奮で汗ばんできた乳にペロリと舌を這わせると、ビクンと大きく体を跳ねさせる。

 しかし、予想していたように大慌てはしなかった。

 

 

「なんだよ、あたしのおっぱい舐めたくなったのか? 仕方ねえなぁ…若にそう言われちゃ断れねえよ。ほらよ、好きにしてみろよ? それとも、まだこの中に潜ってたいか?」

 

 

 いつまでも潜っていたいくらいですが、お言葉に甘えてもっと色々したくなりました。

 で・わ・えんりょなく!

 

 舞華の谷間から顔面を離し、指をワキワキさせながら乳に近付けていく。

 それを目にしながらも、舞華にはさっきまであった恐れは無い。緊張はあるが、それ以上に「触らせてやるよ」とでも言わんばかりだ。

 褒められて自信がついた、その気になった…と言う事か。

 舞華に自分の魅力を分からせるつもりだったので、それはそれで喜ばしい事だが…この態度は実にアレですなぁ。ナマイキなヤンキーギャルそのものですわ。

 

 これはしっかりと、わからせなアレしないといけませんねぇ?

 

 心の底から一切の抵抗が無くなるくらい蕩けさせるのは変わらないが、チョーシこいた態度にはオシオキってものが必要ですわ。

 本人からも許可が出た事だし、これから色々と弄り回しましょうねぇ。勿論、おっぱいだけじゃなくて、女の子の中で一番秘密の部分もね。

 、

 尊いものは正面から掴んでこそ価値がある。尊くて丸くて柔らかいそれを、真正面から鷲掴みにできる事ほど嬉しい事は無い。背後から不意打ちで掴み取るのもそれはそれでイイが。

 誰憚る事なく、舞華の乳を弄ぶ。根本から絞り上げるようにキュキュッと小刻みに捻り上げる。

 胸が捩れる感覚に、最初は舞華も戸惑ったようだが、内部マッサージも加えると途端に反応が変化した。

 

 

「んっ…む、胸の、中がなんか……おっ、おぅ、変な感じが…」

 

 

 嫌じゃないだろ?

 

 

「………気持ちいい、かな…んっ、捻るなぁ」

 

 

 それが気持ちいいのに。ま、捻らなくても気持ちよくするけどね。

 舞華の弱点は、大体わかった。一番弱いのは、この下乳の付け根と~。ここの血管に沿った部分と~。あと、谷間のこの辺~。

 

 

「いっ、ちょおっ、お、おまっ、待てって、なんか、胸、おかし、ひっっ!?」

 

 

 弱点ばかりを突かれて、強気な態度がいきなり崩れたな。まぁまだ突いてない、揉んだだけなんだけど。

 しかし、さっき顔を突っ込んでたところが舞華の弱点そのまんまだったんだな。と言うより、この弱点の配置は……パイズリしたら、摩擦で勝手に気持ちよくなっちゃう位置と見た。

 羞恥と快楽で歪みながら奉仕する舞華…イイね。エロ可愛い衣装を着ているともっとイイね。本にも可愛い恰好ができるからWin-Winだ。

 

 二つの丘の先端に指を這わす。いきり立った乳首を指先で摘み、優しく擦る。

 間断なく摩擦で刺激しながら、少しずつ力を強め、体の昂ぶりと性感への慣れに合わせて刺激を送り込んでいく。

 

 

「っ、そ、そこ、敏感なんだからよぉ…もうちょっと、やさし、くぅ…」

 

 

 そうやってまともに喋れる時点で、ちゃんと加減してるんだよなぁ。痛くするとかじゃなくて、夢中にさせないように。

 いきなり快楽を貪るだけの獣に落としてもつまらんからね。

 

 充血しきった乳首を寄せ合って引っ付けてみる。…二つの丘が一つになって山になった。その頂上には桜の木。うーん、絶景だ。と言うかマジでデカイ。

 なんかこう…つけてみたくなるな。アクセサリーと言うか、リングとか。穴を開けなくても付けられるタイプで、クイクイ引っ張って遊べる奴。ま、そこはまだ先か。

 やるなら先に、自分で舐めるくらいの事から仕込まなければ。

 

 

「なめ……って、ここを自分で舐めろってのかよ…。なんだその変態…」

 

 

 そういうのを見るのが、男としては楽しいんだよ。でも無理強いはしようと思わないし、何よりここを舐られる快感を知らないんじゃ積極的にやれないだろうから…まずは俺がどうすればいいのか教えてあげないとね。

 自分の手で双丘を支えさせると、乳を自分から差し出しているような体勢になる。それを自覚しているのかいないのか、「仕方ねぇなぁ」みたいな表情を浮かべている。尤も、乳首の方は早く弄られたくて仕方ないらしく、ピクピク震えて自己主張しているが。

 

 

 いっただっきまーす。

 

 

 知能指数の低さが推し量れる声を上げながら、はむっと双丘の先端に吸い付いた。本能で体を硬くした舞華だが、口の中で与えられる刺激にあっという間に溶けていく。

 潤滑液を使うと、刺激の強さと柔らかさを両立できるからね。時々軽く歯を立てて、アクセントを与えるのも忘れない。

 

 

「っ、あっ、あっ、あんっ、ちょっ、はぅ、ま、まって、あっ、おかしな、こえ、でるっ」

 

 

 待たない。もっと声出させる。

 敏感な部分を執拗に刺激され、堪え切れずに盛れてしまった喘ぎ声。もっと上げさせようと、舌先で口内の乳首を弄り回し、吸い付き、擦り合わせる。

 舌で愛撫される感覚だけでなく、自分の乳首同志が擦り合う感覚にも襲われる舞華。

 それでも乳を突き出す姿勢を崩さないのは、頭領命令だからか、それとも無意識にもっと刺激を欲しがっているのか。

 

 

「……っ…! な、なぁっ! む、胸が好きなのは、わか、ぁん、わかった、からっ、ぁっ、もう、そろそろぉ…」

 

 

 もじもじと足を擦り合わせ、言葉を濁して誘ってくる。

 相当な度胸を振り絞ったんだろう。照れ隠しにか、俺の頭をまた乳の間に挟むように抱きしめてくる。双丘が潰れて、柔らかい感触が顔面に広がった。

 乳ばかり弄っていたが、思っていた以上に体は火照っているようだ。少なくとも、上半身の快楽が伝播して、未経験の子宮がメスとして目を覚ますくらいには。

 

 何にせよ、準備は充分整った。頭は乳に吸い付いたまま、今度は下半身に手を伸ばす。足に触れると、逃げるどころか自分から腕を足で挟み込んでくる。太腿に挟まれ、興奮で血流が加速しているのが伝わって来た。と言うか、こっちの圧力もすごい。筋肉と柔らかさと暖かさ、いやらしさが詰め込まれている。

 そこは既に垂れ落ちた愛液で濡れており、どんなに強く挟んでも拘束力はない。むしろ、スベスベした内股に手が這いずり回るのを強く感じる事しかできない。…それこそ、望むところであるだろうけど。

 

 早く早くと強請るように、太腿で手をスリスリされる。リクエストに応え、一番大事な未踏知まで指をやると、ゴクリと唾を呑む音が聞こえた。同時に、物欲しげに入り口がヒクつく感触も。

 刺激を欲しているのは体の奥深く、女の一番大事な部位。しかし、未経験の秘部は外側を弄られるだけでも充分な刺激だったらしい。いや、一番奥を刺激された時にどんな感覚になるのか知らないから、未知の感覚に過剰に反応してしまっただけだろうか?

 

 ともあれ、舞華のマンコは文字通り指先一つ…割れ目を上から下にツーッと撫で上げるだけで、ビクビクと震えて絶頂した。

 余韻も冷めやらぬうちに、続けて愛撫。最も敏感な小豆を苦しくない程度に撫で回す。痺れるような、不安を齎さない程度の悦楽を送り込んでいくと、あっという間に股間の緊張が解れていく。

 秘部のぬめりと温度が急激に上がり、濡れ具合が加速する。

 

 全く、本人の隠れた(隠しているつもりの)純情乙女気質に反して、何ともイヤらしい体をしているものだ。舞華を調整した奴はいい趣味している。

 だがその趣味を満喫しているのは俺だ。はははは悔しいか。人が手間暇かけて作り上げた作品を横から掻っ攫うのは愉悦的な楽しみがあるのう。ま、目の前の女をよがらせる悦びに比べれば、オマケみたいな愉悦だが。

 

 

「わ、わかっ…ど、どうにか、して、くれっ…頭が…股が…熱くて、もう我慢できねえ…! な、なにが、なんだかわからねえけどっ、わたしの体の中で、何かが欲しくて欲しくて仕方ないって叫んでるんだよ…!」

 

 

 『あたし』じゃなくて『わたし』か。もう虚勢を作ろう余裕も無い。それだけドロドロに惚けてくれているのだ。

 

 ちょっと時間をかけて準備したのは確かだけど、もう子宮が完全屈服しているようだ。ブチ込む前からこの調子とは…。種付けした後、どんな風になるのか楽しみだ。

 もう少し焦らして、俺の肉棒が欲しければ媚びて媚びて媚び諂うよう躾けようかと思ったが、そろそろ俺も堪らなくなってきた。

 これも舞華の体がエロすぎて、惚けた態度が可愛すぎるのが悪い。

 

 と言う訳で…お仕置き棒(兼ご褒美棒)の出番です。

 力が抜けた体を横たえて、股下に陣取る。両足を掴んで大きく股を広げさせると、つい先程まで弄り回していた秘部が目に入る。

 そこは、まだ一度しか使った事が無い(目を覚まさせる時に突っ込んだからね)と言うのに、男に飢え、雌としての機能を目覚めさせ、肉欲に耽る事だけに特化した、卑猥極まりない雌穴だった。

 

 先端を入り口に接触させると、それだけで熱い。炎を操る能力が暴走しているかのような熱さ。濡れて解れて発情して、蹂躙される為だけにあるオスを喜ばせる為だけにある穴。

 一息に貫かれると思ったのか、舞華はギュッと目を閉じて体を硬くさせる。(力が入らなくなっているので、、何も変わっていないが)

 

 が、それはちょっと風情が無い。先端をくっつけたまま、舞華の体に覆いかぶさる。先端を擦りつけて期待と焦れったさを盛り上げながら、両手を繋いだ。指と指を絡める恋人繋ぎ。

 予想外の行為に戸惑って薄目を開けた舞華に頬を寄せ、耳元で囁く。

 

 

 接吻しながら一つになろう。痛かったら、思い切り手を握ってくれ。

 

 

「接吻しながら……それ、恋人みたい…そういうの、憧れてた…」

 

 

 普段なら意地を張って認めないであろう願望を零す舞華。密かに憧れていたシチュエーションに、僅かに残っていた理性が酩酊していく。

 最初に見せていた反骨精神はどこへやら。もうすっかりリードされ、手を惹かれるままに愛情と悦楽の沼に自ら沈み込んでいく。

 

 宣言通りに唇を合わせると、舌を突き出してきた。どこをどう絡めればいいのかも分かっていない、舞華のがむしゃらな求愛に応え、こちらからも唾液を送り込む。

 舞華が喉を鳴らす音を聞きながら、催促するようにヒクついていた秘部に向かって腰を進める。

 

 彼女の手が強く握りしめられる。痛みは殆ど無い筈。膜はとっくに破っているのだし、俺の剛直を受け入れられるくらいに入念に準備した。体に痛みがかからないよう、少しだけオカルト版真言立川流も使っている。…使わなくても、このカラダなら最初から肉欲を貪れたようだけども。

 それでも、未知の経験・感覚に対する戸惑いは消し去れない。胎の中へ進んでくる異物、剛直から伝わる熱さ、それを受け入れて悦ぶ自分の体、勝手に締め付けてもっと奥へと誘おうとする雌の本能。

 悲鳴のような悦びの声は、俺の唇と舌に吸い込まれている。音としては聞こえないが、彼女の体内から漏れ出る声が、ダイレクトに俺の体内まで伝わってくる。ある意味、耳で聞くよりもこちらの方が分かりやすいくらいだ。

 

 ゆっくりと腰を進め、舞華の膣内を切り拓く。時折剛直をビクビクと震えさせてやると、膣が嬉しそうにうねって悦びを伝えてくる。

 たった一突きするのに1分以上の時間をかけて、舞華の雌の道を行き来した。それだけの間で、彼女の弱点を4つも見つけてしまった。予想通り、彼女も随分と雑魚まんことして設定されているようだ。その辺は、追々鍛えていくか、あえて雑魚のままヒィヒィ言わせて遊ぶとして。

 

 ゆっくりと腰を前後させ、その間に舞華の弱点をねちっこく責める。弱点を擦る度にキスしている唇から涎が溢れ、恋人繋ぎしたままの両手が握りしめられる。

 …が、それも長くは続かない。まともな性行為が初めての舞華は、襲い掛かる悦楽に抗う事などできなかった。

 数回腰を前後させた後には、接吻もできなくなり、仰け反っては悲鳴を響かせるようになっていた。

 握りしめられていた片手は俺の肩に回されて、体全体でしがみ付かれる。欲望に染まり切った爆乳が押し付けられて、何とも心地よい。乳首が当たっているのがよく分かる。

 

 

「わかっ、わ、かっ、それすごっ、これが、これが交合っ、なんか、すげえ! あたまぶっとぶ! はらのなかが、これがほしかったって、さけんでる、のぉ!」

 

 

 一番奥まで突き込んだら、すぐに引きはせずにぐりぐりと抉ってやる。舞華の胎は、これが一番好きなようだった。

 最奥を捏ね回される度に悶絶し、M字開脚していた足はいつの間にか俺の腰に回されて、もっと奥までと言わんばかりに挟み込んでくる。

 

 ゆっくりとした前後運動を、徐々に早い動きに切り替えていく。ねちっこさは少々減るものの、動きが早ければ突きを受けた際の衝撃も強くなる。それを受けている舞華は、子宮を撃ち抜かれるような悦びを叩き込まれている事だろう。

 尤も、この程度では序の口なのは言うまでもない。その気になれば、今すぐにでもトラウマものの悦びを刻み込んで、嬉ション失神・後になって恐ろしくてたまらないけど、体は肉棒が欲しくて仕方ない状態にまでもっていく事もできる。

 だけど、今はこれくらいが舞華にとって一番いい塩梅だろう。

 興奮・悦楽・初体験による達成感・そして一段落したらまだ続けられるくらいには残る体力と精神力。

 行為に溺れた後は冷静になってゆっくりして、もう一度溺れに行く。初めての夜はこれくらいが一番エロいと思うんだ。

 

 

 さて、そろそろ舞華も限界だ。一突き、一擦り毎に喜悦の声を漏らして悶絶しているし、これ以上続ければクライマックスを感じる前に失神してしまいかねない。

 剛直の緊張を緩めて、男を絞り出そうとする肉穴に身を委ねる。猛烈な膣圧と肉の蠢きに、あっという間に射精感が高まってくる。

 

 

 舞華、よく頑張ったな……胎を意識するんだ。膣内射精、するぞ?

 

 

 聞こえているのかいないのか。頭では理解できなくても、雌の体が反応した。

 一際強く蠢く膣に誘われて、もっと奥へ、もっと奥へと進んでいく。同時に、剛直の根本から湧き上がった感覚が、膣の圧力で根本から先端へと導かれる。

 我慢をする事は無い。今この瞬間にぶちまければ、俺も舞華も最高に気持ちいい瞬間に浸れる。

 

 だけど、こうして睦みあうのも名残惜しくて。

 

 

 

 

     最後の一突きは、せつない

 

 

 

 …なんか妙なフレーズを重い壁ながら、俺は舞華の中に精液を注ぎ込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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535話

 

 

 

 小一時間後。

 

 

 

「なぁ、気持ちいいか? 気持ちいいよな? 気持ちいいって言ってくれよ、若ぁ」

 

 

 

 舞華は俺の頭を胸元に抱え込み、爆乳で包んでいた。足を絡め、体を上下に動かして必死に擦り合わせる。

 潤滑剤すら無いが、舞華の肌は汗に塗れて潤いを増し、発情しきった柔らかい肉のおかげで息苦しさを感じる事は無い。最高級の肉布団に包まれている気分だ。

 

 

 …初めて…いや、二度目だったっけ。とにかく目を覚ましている間に初めて射精を受けた舞華は、その後暫く放心状態だった。

 消耗した体力、あまりにも心地よかった行為、そしてその余韻。

 何よりも、それらに浸っている間に抱き寄せられて囁かれた、『お前は俺の可愛い女だ』という宣言。

 それらにうっとりとして、時々「…へ、へへへ…」とか照れ笑いしながらも、布団の中で寄り添っていたのだが…。

 

 暫くして体力が回復してくると、あまりにも一方的にいいようにされたのが不満に思えてきたらしい。

 負けん気もあるが、どっちかと言うと好奇心とか、自分の手で惚れた男を気持ちよく善がらせてあげたい・みたいとか、そういう欲求が鎌首を擡げてきたようだ。

 

 しかし、人の話を大人しく聞いたり、上から目線であれこれ指示されるのが嫌いな舞華のこと。

 フェラやパイズリ、手コキを仕込もうかと思ったが、「あーうっせぇな、いいからあたしの良い様にさせてくれよ」と言われて断念。様子を見てみると、今やっているようにとにかく全身を合わせ、抱き合いながらムニムニしはじめたのだ。これはこれで気持ちいい。

 

 …実際の所、思ったようにやってみたかったのではなく、俺の剛直を見て舞華がヘタレただけなのだが。

 いや、最初は舞華もちゃんと指示通りにヤッてみようとしていたのだ。

 

 一発膣内射精しただけじゃ治まらん、夜はまだまだこれからだぜ、いつも抜かずの5連発が朝飯前なんだから余裕だろ…と言わんばかりに、ギンギンにエンジンがかかったままの我がちんこ。

 触れたら噛み付く、もとい触れたら押し倒してブチ込む気満々のそれを目にした途端、顔が引きつって伸ばされた手が引っ込められた。

 それでもコイツから与えられた悦楽は忘れてないのか、チラチラ盗み見しているし、おっきくなったまま、ピクピクするのを見て喉を鳴らしているのだが。

 

 ともあれ、「好きにさせろ」なんて事を言い放ってしまった舞華は、前言を翻してあれこれ指示を請う事もできず。

 とにかく「男って乳が好きらしいし、とにかく密着させりゃ若も嬉しいだろ」みたいな考えで、こうやって抱き着いてスリスリしている訳だ。

 前知識も無く、舞華がどんな事をしてくれるのか楽しみだったので、宣言通り好きにさせているのだが…うむ、これはかなりイイ。むちむちボディと爆乳に包まれて、暖かさと卑猥さと安らかさに満たされる。

 直接的な射精にまでは繋がらないが、雄への奉仕として考えればかなり秀逸なのは間違いない。

 気に入った動きがあれば、抱き着いている舞華の胸に吸い付いたり、腰や尻を触って合図を出す。それが気に入られた行為だと本能的に察した舞華は、より一層強い力で抱きしめてくれる。

 

 

 とは言え、ずっとこのままと言うのも少々興が醒める。舞華の体も、オスの体に密着する事で再び高まってきているし、そろそろ

 

 

 

「な、ななななんんあなんあああぁにをやってんんのおおおぉぉぉ!!!?!!??」

 

「…あぁん?  …って、な、何でてめぇがここに居るんだ見るんじゃねえよ!」

 

 

 …? 突如響いた絶叫。

 舞華に抱きしめられ、乳で視界が塞がれ、耳も塞がれている為に様子が見えない。何か慌てているようだが。

 慌て過ぎて喉がおかしくなったのか、舞華ではない誰かさんの声が掠れ気味で誰なのか聞き分けられなかった。

 舞華は舞華で、慌てていても俺の頭を離そうとしない。むしろより一層強く抱き着いた。

 

 

 そういや、鍵かけてなかったな。と言うか、基本的にいつ誰が参戦してもいい(美女限定)ので、乱交現場には鍵をかけてない事が多い。

 でも、夜毎夜毎にこういう卑猥な行為に溺れているのはうちの子達なら皆知ってるから、参加するつもりの子しか入ってこないし、仮に緊急の連絡なんかで飛び込んできたとしても、慌てるような事じゃないと思うんだが…。

 

 とにもかくにも、相手を確認しない事には話が進まない。

 未だに俺の顔を挟み込む爆乳に指を伸ばし、人差し指で舞華の性的急所を抉る。

 

 

「ぅあんっ!?」

 

 

 不意を突いた為か、抱きしめていた力が緩む。乳を揉む手はそのままに、顔を抜き出して闖入者を確認してみると…。

 

 

 

 

 舞華に負けないくらいの、女性にしては大きな体躯。

 服の上からでも分かる、これまた舞華とタメを張れるくらいの巨乳。

 強気な顔付は、今はパニックになって真っ赤になっていた。さっきの舞華が上げた声も、ちょいと刺激が強かったか。

 そして何より、角を隠す為の特徴的なツインテール。

 

 

 …きらら?  どうしてここに?

 

 

「ど、どうしてもこうしても! ………いやその、ちょっと…私の話は置いといて! だから何やってんのって言ってんのよ!」

 

 

 ナニ。

 

 

「うぇ!?」

 

 

 交合。睦言。まぐわい。セックス。男女のヒメゴト。

 

 

「そ、そんなの見ればわかるわよ! 何でそんな事してるのかって!」

 

 

 何でって言われてもなぁ。お互いに気分が盛り上がったから?

 

 

「…おい若、今更否定はしないが、結構強引な手段を取られた事はまだちょっと怒ってるからな?」

 

 

 気持ちよくしてあげるから許して丁髷。…謝罪の意思が毛ほども感じられない? せやな。

 舞華の言う事はともかくとして、必要な事でもあるのは確かだぞ。きららにはこの手の暗示は使われてないが、うちの子達の殆どは、定期的に主となっている者…この場合は俺だな…と、こういう深い付き合いをしないと精神的に不安定になってしまう。

 特に舞華は自分は大丈夫だって意地張ってたおかげで、暗示がかなり強烈に効いてしまってる。

 念入りに対処しておかないと。

 

 

「「ね、念入り…」」

 

 

 どんな想像をしたのか、喉をゴクリと慣らすのが一人と、赤面して俯くのが一人。どっちがどっちとは言うまい。

 ちなみにこうしている間にも、舞華の尻やら乳やらに手を這わせているし、ナニはギンギンにいきり立っているままだ。きららの視線がチラチラ吸い寄せられているのが分かる。

 

 

 で、それは置いといて、きららは突然何の用だったんだ? 何だかんだで、男嫌いが治った訳じゃないし、今まで俺の部屋には近寄ろうとしてなかったろうに。

 

 

「ちょっ、若、このまま話続けんのかよ!? せめて服をあぅ!?」

 

 

 はーい、舞華はいい子にしてましょうねー。ついでに見られながら悶える快感も覚えましょうねー。

 指を一本秘部に入れ込み、文句を言えない程度にネチョネチョグチョグチョ。声を聴かれるのだけでも堪えようと、舞華は両手で口を塞いでいる。それでも漏れる声が非常にエロい。きららも目が釘付け…いや、そのすぐ傍にある俺のちんこにも目が行ってるな。

 

 それで結局、どうしたん、きらら? 目的も無く訪ねてきたとは思えないが。

 

 

「え…あ、いや…その…」

 

 

 この状況で平静に話を続けろと言うのも無茶振りだとは思うが、妙にきららの歯切れが悪い。

 普段であれば、良くも悪くもズバッと言うのに。逢瀬の現場に踏み込んだ為にバツが悪い…のもありそうだが、もっと別の問題な気がする。

 こんな場面に遭遇したら、彼女の性格からして一目散に退散しそうなもんだ。踏みとどまったって、いい事なんてありゃしないだろうし…。

 

 …それだけ引くに引けない、或いは今でなければできない要件? かもしれないが、それだと舞華との色事に過剰反応しているのが…。緊急の要件なら、誰が居ようとそのまま言うべきだしな。

 じっときららを見つめて観察してみる。視線を受けて、きららは目を逸らした。

 

 普段のきららと違う所は、すぐに見つかった。

 …口紅を引いている。髪の毛も散髪で整えた後に、普段以上に丁寧に梳いたようだし、着ている浴衣も上等で新品。うちの子達に支給されている物とは違うから、自前で購入したもののようだ。

 風呂上がりなのか、体からは僅かに石鹸の香りと、湯気が立ち上っている。爪も手入れしたばかりだし、よく見れば口紅以外にも薄っすらと化粧が施されている。

 別段、きららも身嗜みに無頓着ではない…むしろ拘る方だ…から、一つ一つなら珍しい事ではないが、一度にこれだけ揃うと話は変わってくる。意識して、徹底して身なりを整えたのだ。

 

 更に内面観察術できららの感情まで覗き込む。

 不安、焦燥、好奇心、期待、肩透かし、怒り、嫉妬、情念。

 『断られないだろうか、拒絶されないだろうか』

 『今を逃したら、機会が巡ってこないかも』

 『抱かれるってどんな気持ちなんだろうか』

 『きっと大丈夫』

 『覚悟を決めて来たのに、まさか』

 『不潔! 不潔! やっぱりこれだから男は!』

 『節操無しに手を出しまくって! よりにもよってこいつなんて!』

 『自分がそこに居る筈だったのに!』

 

 …やや支離滅裂なところがあるが、それだけ混乱しているのか。

 何にせよ、きららの要件は理解できた。抱かれに来たんだろう。

 きららが以前よりも俺に好意的になっているのは確かだが、突然こんな行動に出るとは思えない。

 昼にも少し話をしたが、その時の内容が何らかの琴線に触れたのか。

 

 『機会が巡ってこないかも』か…。

 確かに、そういう状況ではあるんだよな。戦いの中で生活していれば、負けて死ぬ危険があるのは当たり前。事に、今は塔によるオオマガトキが起きる可能性がある。そうなれば、例え個人として負け無しだったとしても、生活拠点が潰れ、世界が瘴気に満たされて、遠からず息を引き取る事になるのは目に見えている。

 だったら、今のうちに心残りを昇華してしまえ、と考えるのもおかしな事ではない。

 ついでに言えば、早く済ませればいいと言う問題ではないが、早く済ませればそれだけ楽しめる時間が増えるのも事実。

 以前のきららであれば、死んでも御免と言い切る考え方だろう。今のきららにとっても、そんな理由で体を明け渡すのは相当な決断だったろうが…。

 

 何にせよ、その清水の舞台から素っ裸でダイブするような覚悟で下した決断は、ものの見事に空ぶった。

 いやまだ三振してはいないものの、既にツーアウトくらいだ。

 覚悟を決めて男の元に逆夜這い(本人は認めないだろうけど)しに来たら、既に他の女と一発キメていたとか、そりゃ女のプライドがガタガタになっちまうだろう。ここで乱入して俺を奪い取ろうとできる程、きららはスレていない。

 

 …でも俺はスレてるんだよね。修羅場そのものの状況に突っ込まれても、『もう一人食っちゃえるドン!』なんて考える程度には。

 うん、覚悟してやってきた上に先を越されて激昂状態のきららと、初体験を終えたばかりでピロートークも楽しめてない舞華には悪いが、この状況は新たなお楽しみの前段階でしかない。

 

 丁度いい。

 この二人は前々から馬が合わないとお互いが公言していたし、この機会に親睦を深めてもらうとしよう。

 そして上手い事煽ってやれば………ゲヘヘヘヘ

 

 

 

 

 

 



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536話

 

 

 

「ちょっと…あんた、退きなさいよ。胸が当たってんのよ胸が」

 

「そりゃこっちの台詞だ。馬鹿の一つ覚えみたいに乳押し当てやがって、もうちょっと工夫してみろよ。これだから未通子は」

 

「あんただって同じ事してるじゃない! 私の方が大きいし気持ちいいわよ!」

 

 

 はい、そういう訳で、現在舞華ときららの乳に包まれております。ちなみに、きららはまだ服を着たままです。着衣ックスっていいよね。

 うーん、ここまでデカくてハリのある乳はそうそう無いよ。しかしどっちが大きいかは非常に悩ましいところである。サイズだけで語るのもなんだしね。そもそも形のタイプが違うから。

 正直、二人そろって奇乳一歩手前の爆乳だなーとは思う。まぁ、うちの子達にはそういう子が結構いるのですが。

 

 …ところで、きららの乳のこの独特の感触……。ほほぅ…これは陥没タイプですな。暴き出して先端をシコシコしてあげるのが楽しみでえす。

 

 お互いに良くも悪くも意識し合っているからか、並べるとそれだけで張りあってくれる。

 扱う力は炎と氷で正反対なのに、二人は似た者同志である。負けん気が非常に強く、体格も女性にしては大柄、根が乙女チック。特殊な性癖持ち以外の男であれば、一度は…いや、何度でも心行くまでモミクチャにしたくなるような肉付きのいい体。

 そして、二人とも意外と尽くすタイプである。

 

 ああしろこうしろと指示した訳でもないのに、二人は競い合うように卑猥な行為に身を染めていく。

 最初は肉棒にビビッていた舞華を見て、『私はこんな事だって出来る』とばかりにきららがちんぽに接吻。それに対抗した舞華が、少ない語彙から精一杯卑猥な言葉を選んで囁きながらの手コキ。更に抵抗したきららは、逆に好意を囁きながら接吻…ちんぽじゃなくて唇の方だ。

 負けて堪るかと、今度は舞華がちんぽに接吻、更に舌で先端を舐め回す。対抗意識満々のきららが、接吻で舌を絡めてくる。

 

 …とこのように、相手に対抗している間は羞恥心とか未体験の行為への恐怖心が薄れるのか、それとも単に気に入らない相手に出し抜かれるのが嫌なだけなのか、積極的にアレコレやってくれるのである。

 ギスギスした雰囲気になるのはよろしくないが、二人の貼り合いがどこまで行くのか興味はあった。

 何より、この後『どっちもちんぽに勝てないんだから、棒姉妹同志仲良くしなさい』と骨の髄まで叩き込むので、それまでちょっとばかりいがみ合っても場を盛り上げる為の前座としかならないのであった。実に悪趣味。

 

 

 とは言え、問題が無い訳ではない。

 二人の性的知識は非常に低いらしく、『男を喜ばせるには、とにかくぎゅっと抱き着けばいい』くらいの認識しか無いようなのだ。あながち間違ってはいないね。こんな美女に好意を持って抱き着かれれば、大抵の男は嬉しいもんだ。

 実際、さっきの舞華もそうだろう。指示を受けるのが癪に障るとか言って、俺の体を包むように抱き着いてきたが、そこには技術も何もあったものではない。とにかく体を強く密着させ、擦りつける事ばかりだった。いや充分気持ちよかったし興奮したんだけど。

 手コキやらちんぽに接吻やら舐めるのやらも、勢いでやっているのが丸見えだ。『本当にこのやり方でいいんだろうか?』って感情が伝わってくる。初々しくていいカンジだが、こういう張りあってる状況で二人がそれを抱えてるのもな…。

 

 

 

 …と言う訳で、今の状態。左に舞華、右にきらら。位置を調整して、丁度俺の頭の左右に胸が来るようにして、二人の腰に腕を回して抱き寄せている。

 当然、俺の頭は4つの白くてふわふわして暖かい物に包まれていて、その上では…俺の肉眼では見えないけど…二人の顔が真正面から向き合う形になり、火花を散らしているのが分かる。

 別に、乳に埋もれるのが目的なのではない。これは最初の準備状態にすぎない。

 

 これから二人は、俺に指示された事を交互に実行する。充分に気持ちよければ、体の何処かを愛撫してご褒美。駄目なら罰として、別の行為を言い渡す。それでも駄目なようなら、今度は相手のターンに移る。これを繰り返す事になった。

 …勝ち負け? そんなもん定めてない。ぶっちゃけ、俺が愉しむ事と、きららの初体験をさせる事、そして二人の中を(睦言の間だけでも)取り持つ事が目的だしね。

 対抗意識と性的興奮バリバリで、二人は勝ち負けの取り決めをしてない事すら気付いてない。とにかく、『目の前のこいつにだけは負けられない!』って意志のままに、自分から淫獄へ飛び込んできているのだ。

 

 さて、それじゃ始めますかね。

 初手は…きららで。舞華はついさっきまで、『本番』やってたからね」

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 ただそれだけの指示でも、微妙な緊張感が走った。きららの『私が優先なのね』と、舞華の『あたしはもうやる事やってるんだぞ』というお互いに対する優越感が。

 普段なら背筋が冷えるような緊張感も、俺という男を巡る雌の争いだと思うと優越感が湧いてくる。替りに、ちゃんと円満解決(揃ってチン負け)させてやらないと。

 じゃあ、きらら。最初は接吻から行こうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 接吻。告白。手コキ。自慰。口淫。足コキ。股を俺の足に擦りつけての自慰。乳首に奉仕。耳舐め。どんな事をされると妄想していたのか告白。太腿ズリ。淫語。パイズリ。その他諸々。

 抱き着いたまま出来る基本的な事は、二人に大体ヤらせたな。

 二人はもうすっかり酩酊状態。相手に負けない為に奉仕しているのか、そのお返しで自分を気持ちよくしてくれるから奉仕しているのか分からなくなっている。

 それでも一番恥ずかしくて可愛い姿…イクところを余人に見られたくないのか、昂ってくるとついつい手が止まってしまい、その隙に相手に逆転されるのをお互い繰り返している。本当に似た者同士と言うか、実は既に仲がいいんじゃないかと思えてきた。

 

 尤も、それもそろそろ限界のようだ。肉の疼きが、羞恥心を上回りつつある。どっちが先に欲望に屈してもおかしくないが、今はきららを優先してやらなきゃなるまい。

 覚悟を決めてやってきたのを、こんな意地の張り合いに引き込んだんだし、それくらいは汲んでやらなきゃ可哀そうだ。

 何より、本当に張り合わせるなら、お互い同じ立場(貫通済みの棒姉妹)にしてやらないと面白くな…もとい、少々不利が過ぎるだろう。

 

 

 乳首に吸い付かれて仰け反るきららに追撃する。今までは、片方を責める時にはもう一人も同じように何らかの責めを加えていたが、今度は意図的にきららだけを強めにする。

 きららの乳首は、勃起しても未だに全長を顕してない。埋もれている部分を吸い出そうと、歯で軽く挟み、バキュームを加え、唇で擦り上げる。

 更に、もう一方の胸に腕を回し、陥没している部分に指を突き込む。爪先で内部をカリカリと引っ掻くように刺激してやれば、鋭く小さな刺激に我慢できないのか背筋が跳ねた。

 

 

「あっ、あっ、駄目、だめっ、それだめだって、だ、ぁめぇ…!」

 

 

 普段隠れている故に敏感な部分を、集中して責め挙げる。片方の乳首が、完全にいきり立って露出した。

 興奮と体質が相まって、空気に触れるだけでもきららの体はビクビクと震える。

 そこへ来て、舌と指での連続攻撃を受けたのだから、耐えられる筈も無く。

 

 弱点への連続攻撃に、体はあっけなく、精神は悲鳴を挙げて陥落する。

 肉欲に体が屈する瞬間、舞華が目を皿のようにしてきららを見つめているのに気が付いた。

 

 

「み、見ないでぇ……!」

 

 

 気に入らない相手に対する強気な態度ではなく、羞恥に悶える乙女の悲鳴を挙げながら、ビクビクと深く激しい絶頂に押し上げられた。

 絡み付いている足の根本から、熱い液が噴き出したのが分かった。

 

 

「…………へ、へへっ、あたしの勝ち…だよな」

 

 

 それを見ていた舞華は、やはり呆然としたまま、とりあえずという感じで宣言したのだった。

 

 勝ち負けの定義なんてしてなかったんだけど…ま、確かにそれでいいよな。審判の俺が勝手に勝負を決めた形になっちゃうけど、それはそれでまぁ良し。

 さて、それじゃあ…まずはきららに負けたお仕置きだな。

 

 

「おいおいちょっと待ってくれよ若ぁ。そこは普通、勝ったあたしにご褒美が先だろ?」

 

 

 先程味わわされた肉棒の味を思い出しているのか、淫蕩そのものの表情で舞華は俺のちんぽに手を這わせる。最初はいきり立ったコレに怯えていたが、きららとの張りあいのお陰で大分慣れてきたようだ。冷静になったら、真っ赤になって転げまわるのが目に見えているが。

 それはともかく、まぁちょっと待ってな舞華。舞華にとっても、これはこれでご褒美になるだろうからね。

 

 今一つ納得いってない舞華から体を離してきららを抱き抱え(ここでも勝ったのは自分なのにって顔だった)、方向を変える。

 きららは初めての絶頂で身も心も混乱状態にあるらしく、されるがままに従った。

 下手な男よりも大きな体が脱力しているのは、普通に考えれば抱き抱えるのは一苦労だろうが、俺にはむしろエロさしか感じない。無抵抗、消耗しきった無気力、何よりも体の肉感…。つくづくボリューム満点の女である。

 

 どこを触っても柔らかい体に手を添えて、俺に背中を預けさせる。背中が胸元に当たると、フルマラソンしたよりも早い鼓動が伝わって来た。そんなに絶頂が強かったのか。それとも、こうして俺と素肌で触れ合うだけで鼓動が跳ね上がるのか。

 何にせよ、膨れ面の舞華を放っておく訳にはいかない。

 朦朧としたままのきららの足に手を添えて、思いっきり左右に開かせる。

 

 ほーら、きらら。きららの一番大事な所、見てもらおうなー。勿論、初めての瞬間も、かぶりつきでな。

 

 

「……ぇ……?」

 

 

 舞華、ここをよく見てみろ。自分じゃまじまじと見える所じゃないし、それこそ他の女のここなんて見た事ないだろう?

 いい機会だから、どこがどうなってるのか教えてやるよ。勿論、本番まな板ショー…演劇付でな。

 

 

「お、おいおい、あたしはそういう趣味は…」

 

 

 無い、と言いたかったのかもしれないが、その視線は完全にきららの股間に釘付けだ。割れ目のすぐ傍にある剛直にも目が行っているが。

 足を左右に広げている為に、隠す物は陰毛のみ。それも手入れしてきたらしく、薄目に切りそろえられている。

 左右に軽く引っ張ってやるだけで、くぱぁと音がしそうなくらいに粘着質な感覚がする。

 そっち系の趣味が無くても、誰だってつい目が行ってしまう。銭湯とかで同性の体(特にその一部)をつい見比べてしまうのと同じだね。

 

 流石に正気に返られると暴れ出しそうなので、先手を打って惚けさせる。指先で敏感な部分を丁寧に愛撫し、首筋に舌を這わせ、弛緩しきった体に追い打ちをかける。

 先程までのイかせる為の愛撫とは違い、マッサージをするように強すぎず弱すぎず、そして絶頂するには弱すぎる程度の、快楽のぬるま湯。

 思考を溶かすその感覚で、きららの反逆の意思を塗り潰していく。

 

 

「あっ、あっ、あ…へぇ…ぁはぁ…」

 

 

 恍惚として性感に浸り、白痴のようにだらしなく体を痙攣させる。

 その秘部に、舞華の視線が突き刺さっているのすら気付いてない。

 

 俺の指で全てを暴かれ続けるきららの秘部。それを見て、舞華がゴクリと喉を鳴らしていた。

 自分で言うのも何だが、それこそ新種の生物か、触手のように蠢く俺の指は、きららを秘部から捕食しようとしているように見えた事だろう。実際、そうしてしまいたくなる程にはこの肢体は魅力的だ。

 アンバランス一歩手前、暴力的なまでのセックスアピールと、雪のように白い肌、処女雪そのものの誰にも触れられた事の無い肌。

 うちの子達のように意図的に調整された訳でもない筈なのに、よくもここまで性欲を掻き立てる要素が揃ったものだ。

 

 そして、欲望をそそられるのは男だけではなかったようだ。

 舞華は文句すら言わずに、あられもない声を上げては体をくねらせるきららに見入る。声と艶姿に興奮を覚えているのは、彼女の爆乳の先端で自己主張するピンクの突起を見れば一目瞭然。

 ならば。

 

 

 舞華、お前も触ってやれよ。ここ…は今から使うから、こっちとか、こことかな?

 

 

「っ……な、何で俺がそんな事を…」

 

 

 頭領命令。あと、きららが早く力尽きれば、それだけ早く舞華の番になるぞ。それに、男と女の逢瀬に突然割り込んだ悪い子へのお仕置きにもなる。

 

 

「…そ、そういう事なら…や、やってやるぜ」

 

 

 若干躊躇いながらも近付いて、舞華は中腰になった。大股開きで全てを曝け出しているきららの正面に立つ形だ。

 近付く事できららから振り撒かれる色香が直撃したのか、呼吸が一層荒くなったのが分かる。

 

 恐る恐る、自分の同じくらいの膨らみに手を伸ばし、ほんの少しの躊躇の後、意外な程優しく双丘を包み込む。

 

 

「…で、でっけえ…」

 

「あ、あ、まい、か…? なんで…あたしの、むね、さわって…」

 

「……こ、こんなでっかいの、触るだろ! 普通!」

 

「んっ、あっ、だ、だめ、そんな、らんぼう…なのにぃ…なにこれ、むね、ばくはつ、するぅ…」

 

 

 せやな、触るな。きららのおっぱいは、俺に弄ばれて気持ちよくなる為に育ったんだから、そりゃ触ってあげなきゃ失礼ってもんだ。

 そして俺が許して命令してるんだから、舞華だって触るよな。ほれ、気持ちよくしてやるこった。さっきまで、俺にされてたみたいに。或いは、自分でスる時みたいにな。

 

 

 舞華は暫く逡巡していたが、敏感な小豆を弾かれて嬌声をあげたきららが身を悶えさせると、慣れない手つきでその胸を揉みしだき始める。

 お世辞にも柔らかいとは言えない手付きは、多分舞華が自慰をするのと同じやり方だったのだろう。自分なりに、きららを気持ちよく悶えさせたいと本当に思っているようだ。

 

 対するきららも、全身が否応なしに性感になる程発情させられている為、拙い愛撫でも充分な快楽が得られているようだ。

 簡単に言えば、『悔しい、でも感じちゃうビクンビクン』状態。尤も、あまり悔しがっても嫌がってもいないのだが。そんな理性はとっくに蕩け果てた。

 今のきららは、体が求めるままに肉欲に溺れる獣同然。そして、それを貪ろうとする二匹の獣も、また昂ぶりきっていた。

 

 

 舞華は執拗に、きららの乳房に愛撫を加える。拙い手で揉み、擦り、吸い、舐め、思いつく限りの手段で快楽を引き出そうとする。拙さ故にあまり上手く行っているとは言えないが、それすらアクセントにしてしまえばいいだけの話だった。

 全身を嬲り尽くされて、快楽に突き動かされて悶える体。

 その最も奥が最高に昂ぶりきったのを感じて、ようやく俺の出番が来る。

 

 きららの入り口に剛直を宛がい、照準を定めた。

 それと同時に小豆を強く捻り上げ、鋭い快楽と痛みで惚けていた意識を強制的に集中させた。

 

 更に、構わず胸にむしゃぶりついたままの舞華を引き離し、うつ伏せにさせる。抗議するように顔を上げた舞華は、目の前の光景に絶句した。

 舞華の頭は、正にきららが広げた足の真ん前、真ん中にある。即ち、今正にいきり立った剛直が獲物に食いつかんとする姿。

 

 本番まな板ショー、だな。舞華、しっかり見ておけ。

 きららが大人の女になる瞬間だ。ああ、勿論『手伝い』も忘れないようにな。

 

 

「……………」

 

「っ、  、   、  っ…………! ん~…っ!」

 

 

 舞華はもう言葉すらない。その瞬間を、目を皿のようにして今か今かと待ち受ける。

 そしてきららは、今この瞬間にも秘部をまじまじと覗き込まれ、更には破瓜の瞬間まで晒し者にされていると言うのに、知った事かとばかりに接吻を求めてきた。初めてはキスしながらいい、と言う事かな。

 

 勿論構わない。何だったら、絡めた舌に噛み付いても構わないくらいだ。

 さぁ、可愛く、痴れた声を聴かせておくれ。

 上半身を片手で愛撫し、もう一方の手で腰を抑え込んで。ゆっくりときららの中に侵入していく。

 

 

 まだ、先端しか入っていないというのに、思わず腰が引けるような…或いは一気に貫いてしまいたくなるような感触に襲われる。

 控え目に言って、きららのナカは最高だった。豊満に育ち、戦う為に鍛え上げられた肉の全てが、俺を悦ばせる為だけに蠢いて収縮する。

 汗と性臭に塗れた香りが、媚薬と化して全てを埋め尽くしていく。

 

 破瓜の痛みは奪っていない。むしろ、強く意識させる為に直前に意識を引き戻したくらいだから。

 じりじりと肉壺を割って押し入られる、身を裂く痛み。そのピーク…膜を突き破るまであと少し。

 一生に一度の、特別な痛み。きららの性格からして、忘れたり感じずに済ませるのは我慢できないだろう。

 

 だが、その痛みは思ったよりも強かったようで。肩越しにキスをする絡み合うような体位で、貪るように舌を絡めてくる。痛みを堪える為に、別の刺激に没頭しようとしている。

 

 

「ん……んんんんぅっぅ!!?!?」

 

 

 そして、善意からか悪意からか、それとも肉欲からなのかは分からないが、更なる『助力』が齎された。

 

 

「む……なんつぅか……変な味がするな。さっきもちょっと口を付けたけど………ああ、『いやらしい味』って奴か…」

 

「ちょ、ちょっ舞華あっ、い、いぃ、なん、なんなのぉ、この感覚…痛いのと、ぬるぬるするのと、気持ちいいのが、もう訳わかんなぁい…」

 

 

 

 唾液をたっぷり塗した舌を伸ばした、舞華である。目の前の生々しい結合部分を舐め上げてきた。

 きららの小豆は勿論、まだ入り切ってない俺の肉棒にも口付ける。棒の下から、秘部の上まで舐め上げたかと思えば、キスマークでも残そうとしているかのように吸い付いたり、指で弄り回したり。

 見ているだけでは我慢できなくなったのか、それとも単にきららを善がらせてやろうと思っただけか。

 

 きららの悲鳴に構わず…いや、むしろ嗜虐心を煽られたのか、口元を歪めて舌の動きを速める。

 きららの秘部を責めれば、同時に俺の剛直へも舌が当たる。俺に奉仕しているのか、きららを気持ちよくしているのか、それとも自分の嗜虐心を満たしているだけか。

 更に言えば、唾液を塗りつけられれば、それが潤滑剤になって挿入もスムーズになる。全く以ていいサポートだ。

 

 とは言え、舞華の愛撫に意識を持っていかれるのはちょいと癪だ。いや、そうやって百合百合な事やってるのも、充分以上に大好きなんだけど。

 ここはやはり、もっとイイコトして舞華以上に善がらせてやるしかあるまい。

 とは言え、膣を責める訳ではない。まだ初めての侵入の最中だし、激しく動くにしても小さくゆっくりねちっこく責めるにしても、きららの体はまだそこまで開発されていない。

 

 つまり…今責めるべきは…。

 

 

 こっち、だな。

 

 

 胸を鷲掴みにしていた手を、きららの頭に持っていく。

 ツインテールのふわふわした感触が気持ちいいが、今はそこではない。

 髪の中に、硬めの感触がある。人間であれば、こんな所に硬質な部位は無い。が、彼女の場合は例外だ。

 きららの最大のコンプレックス。

 

 『角』だ。

 

 普段から髪型で隠している(つもり)の、小さな二つの角。髪を掻き分けて指をそっと触れさせると、目の色が変わる程の反応があった。

 拒絶ではない。コンプレックスに突然触れられた驚き…でもない。そこから得られる、性感だ。

 

 

「あ、あ、あた、ま、とけ…うぅうぅ…」

 

 

 言葉まで溶け出す程、きららの頭は快楽一色で染め上げられる。

 敏感になり過ぎた角は、撫でられただけで性感を発生させる。この分だと、少し開発してやれば髪の毛が擦れるだけでも腰砕けに成程の性感帯になるかもしれない。そうなったら、どうやって生活していくだろうか? 興味、ありますねぇ。

 

 が、そんな後の事は置いといて、抵抗されないのをいいことに、好き放題にきららの角を撫で回し、自前の角で子宮を目指す。

 舞華も気分が盛り上がっているのか、軽口も叩かず只管舌できららの秘部と俺の剛直を責め立てる。

 膣からは古来から連綿と続いてきた生命の快楽、舞華からは同性からの愛撫というアブノーマルな刺激が、角からは脳内を直接掻き回すような異質で凌辱的な快感が。

 それぞれきららを壊して、都合のいいメス…いや、穴にしてしまおうと責め立てる。

 

 舞華のサポートを邪魔しないよう、激しい動きこそしないものの、きららを責め立てる腰の動きを徐々にえげつないものに変えていく。

 弱点を抉って快感の味を覚え込ませ、わざとそのポイントを外したり、先端やカリ首で撫でるように弱めの刺激だけ送り、内部でピクピク動かして、啼いて懇願するまで焦らしぬく。

 人語を忘れそうになるまで焦らしたら、「何でもいいからもっとして」と叫ぶきららに、淫靡な約束を幾つも取り付ける。

 

 俺に求められたら、日中であろうと人目の中であろうと、いつでも何処でも股を開く事。

 毎日、情事を思い出して自慰に耽り、自らの体を淫靡に開発していく事。

 その妄想の内容と行為を逐一記録に残し、告白する事。

 情事の際は首輪をし、自分の立場を示す事。

 可愛がってもらう為の淫靡な『オネダリ』の台詞を、自分で幾つも考えておく事。

 

 その他諸々、きららが何を言ってるのか理解できてないのをいい事に、幾つも幾つも確約させた。

 正気に戻ったら忘れてる? 問題ない。ちんこを見せれば、体が勝手に真実である事を納得する。そういう風に仕込む。

 

 10個以上の身勝手な契約をほぼ一方的に結んだ頃には、きららはもう返事をする事もできず、俺の体に背中を預けて荒い息を吐くだけになっていた。

 体は反応しても、声を出す体力すら残ってないらしく、背中を逸らしてされるがままになっている。爆乳が突き出る状態になっているので思いっきり揉んでやるも、返ってくるのは性感を受けた事をを示す生理反応のみ。

 

 

「んだよ、もうへばっちまったのか? 詰まんねぇなぁ…。若、どうにかなんねえ?」

 

 

 きららが来なければ、舞華が同じ状態になってたんだけどね。

 とは言え、主賓がこれでは少々面白みに欠ける。…でも流石にきららも限界なんだよな。思っていたよりもタフだったからと言って、好き放題し過ぎたか。

 

 うん、じゃあきららを一段落させて、次に移るとしましょうか。そろそろ待ちきれなくなってきたんじゃないのか、舞華?

 

 

「……へへへ…」

 

 

 照れ笑い、或いは不敵な笑いを浮かべたつもりのようだが、その笑みはメスイヌがようやく餌を与えられて尻尾を振っているようにしか見えない。いや、実態を鑑みれば……麻薬中毒になったジャンキーが、薬を与えてくれる人を前に愛想笑いをするような…いかん、中毒性を考えると洒落にも比喩にもなっとらん。

 と、ともかく…一応言っておいてやるけど舞華、顔は離しておいた方がいいぞ。

 

 

「あん? これからがしゃ、しゃ、射せ…その、本番だろ? 間近で見せてくれよ。それに、さっさと終わらせれば私の番が早くなるしな」

 

 

 興奮している為か、聞き分けが悪い。まぁいい、俺は忠告した。そうなったらそうなったで、見ごたえのあるシーンになりそうだし。

 じゃ、ちょっと激しく動くから、場所がずれやすくなるぞ。上手い事調整しな。

 

 きららの腰に両手を回し、がっちりと固定。今までのように胸や角を織り交ぜた愛撫ではなく、腰一つでメスを落とそうとするオスの本懐の姿勢。

 それを本能で察したのか、ろくに反応を見せなくなって尚性感に貪欲なきららの膣は、嬉しそうに広がり、奥までの路を曝け出す。

 舞華はこれから始まる蹂躙劇に…或いは、それと同じ事をされる未来に…期待でゴクリと息を呑み、拙いながらも責めに参加する体勢だ。気付いているのか居ないのか、それこそ犬のように尻を高く掲げてフリフリと振っていた。

 

 さて、いくら屈服させ隷従させる為の蹂躙とはいっても、本気でやればきららは耐えられない。初めて男に与えられる法悦を記憶する事もできずに、気を失ってしまうだろう。

 最初に最後まで追い込むのは愚策。なので…キリのいい所まで押し上げるとしよう。

 

 これまでの律動で把握した、きららの体の構造を分析する。

 弱点が一つ、二つ、三つ…それらの繋がりを理解し、どことどこが繋がっていて、どんな反応で何処に反応が連鎖するかを予測。

 それらを繋ぎ合わせ、辿るべき道を…確定!

 

 

 大きなストロークで、上下運動を繰り返す。一直線に突き上げるだけではない。一突きの間にも微妙な角度や変化をつけ、意図的に跳ねさせる事でアクセントをつけ、体の中に意図した通りの刺激を与えていく。勿論、その間にも快楽を引き出して、きららの頭の中を興奮と肉欲でグッチャグチャにするのも忘れない。

 元々、弄られまくって防御力がゼロどころかマイナス、その上呼吸で空気に触れるだけでも体内から性感が発生してスリップダメージが発生するという、詰んだ状態である。

 勿論、状態異常耐性だってお察しである。

 

 しかも今度の前後運動は、オカルト版真言立川流の補助効果付き。気持ちよくさせる事よりも、意識・気力の回復に効果を裂く。

 すると、まぁ何という事でしょう。

 されるがままのマグロ、或いは反応しないダッチワイフ状態だったきららの目に、ほんのちょっとだけ意識が戻り始めたではありませんか。

 

 戻った意識で感じるのは何か。快楽? 愛情? 羞恥?

 誓いが、そのどれでもない。

 戻った意識が急速に染め上げられて、顔に浮かぶのは………焦り。

 

 

 

「ちょっ、ん、ぅぁっ、ま、待って、あんっ、駄目、だめっ、だめぇ! まって、まってぇ!」

 

 

 駄目。待たない。もっとする。

 

 

「ひひひ、急にいい声出すようになったじゃねーか。わかるぜぇ、若のこいつが極上だからなぁ。ほれ、もっと泣き喚けよ」

 

 

 ソリが合わない相手が見も世も無く悲鳴を挙げている様が楽しいのか、反応すると分かると更に調子に乗って責め立てる舞華。

 自分が絶対的に優位な状況にあると自覚し、それを笠に着て相手を嬲る様は漫画の3流悪役のようだ。(俺も似たようなもんだが)そして、そういう悪役の末路は言うまでも無く決まっている。

 意外な反撃を喰らうのだ。

 

 

「だめ、だめだめだめだめだめでるっ、で、ちゃううぅぅぅぅぅ!!!!」

 

「わぷっ!?」

 

 

 音がしそうな急激な締め付け、そして実際に聞こえた水音。舞華にしてみれば、完全に不意打ちだっただろう。

 きららの秘部から飛び散った液体は、ものの見事に舞華の顔…しかも突き出していた舌と口に直撃した。

 

 初体験で潮を吹く。自分から何が飛び散ったのかなど、理解していないだろう。ただ、秘部に近く、しかし違う場所で異様に高まっていく熱に怯え、焦り、しかし蹂躙する快楽に逆らえずに、全てを明け渡してしまった。噴き出したのはその証。

 

 

 更に続けて、きららの絶頂に合わせて俺の昂ぶりも解放する。

 体の奥に撃ち込まれる灼熱の塊に、限界をとっくに超えて張り詰めていた体から、完全に糸が切れてしまった。

 締まり切っていたあらゆる筋が緩み、緊張の反動のように全ての力が抜けていく。

 今までの緊張が強ければ強い程、その緩みは大きくなり…狙って刺激し続けていた場所は、当然もう力なんて全く残っていなかった。故に。

 

 

「ぁ……ぁ…ぅ…ぁ…」

 

 チョロチョロチョロ…

 

「……………」

 

 

 今度は黄色い液体が小さく流れ出た。

 勢いは殆ど無かったが、それでも最初は少しだけ飛んで、呆然として口を開けたままだった舞華に飛沫が降りかかった。

 きららの中から剛直を抜く。引き抜かれてもまだ穴が開いたままの膣から、ブローバックが溢れてきた。

 

 きららはともかく、舞華が我に返って激昂されても面倒なので、その前にコトを進めてしまう。

 待たせたな、舞華。こっちおいで。

 

 

「え……あ、いや…あたしは…顔にも口にもかかったし…」

 

 

 だいじょーぶ。出してすぐのお小水なら汚くないしな。

 

 せめて口元を拭おうとする舞華の腕を掴んで止め、強引に引き寄せる。躊躇っていた舞華も、一度接吻を受けてしまえばもう逃げられない。

 僅かに香るアンモニアの匂いにも構わず、深く舌を絡め合う。

 さっきまできららを責める事に集注して意識から外れていたようだが、舞華の体の火照りも今や限界。素肌で抱きしめ触れ合うだけで、もう達してしまいそうになっている。

 

 急に思い出した体を苛む肉欲に、舞華は抗おうとすらしない。さっき散々叩き込まれた肉棒の味を思い出し、今すぐにでもブチ込んでほしいと全身で訴えかける。

 ほんの少しだけ横目できららの姿を確認し、舞華の腰をガッチリと固定した。

 

 

「いい…この格好、凄くいい…! 正面からぎゅっと抱き合って、恋人同士って感じがする…!」

 

 

 対免座位。正面から抱き合い、接吻しながら強く繋がる体位。根が乙女な舞華としては、理想的な体位なんだろう。

 感極まってビクビクと震える体を優しく抱きしめ、その一方で捻じ込まれた剛直の動きは服従した雌を好き勝手に扱う、身勝手なオスそのもの。そしてそれを受ける舞華は、そうやって身勝手に使われるのを愛情表現として受け止める、悪い男に引っ掛かって抜け出せない女そのものだった。

 

 

 乱暴に子宮を突き上げられ、知ったばかりのメスの快楽に存分に溺れる舞華。

 既に強がっていた口調も見栄も剥ぎ取られ、口からは喘ぎ声と俺に媚びる言葉しか出てこない。

 そーいやこいつ煙草無くてイラついてたし、煙草吸う代わりに俺のちんぽ咥えるように躾けようかなー、と考えていた時。

 

 夢中で楽しんでいる舞華の背後で、ゆっくりと起き上がる影があった。言うまでも無く、倒れていたきららである。

 まだ体に上手く力が入らないらしくフラフラしているが、薄暗い部屋の中で爛々と光る、座った眼光だけはよく分かる。と言うか、マジで発光している。……これ、鬼がマガツヒ状態になった時とかに見せる目だよな。…オカルト版真言立川流で体力を回復させると同時に、きららの秘めたる力を開花させてしまったようだ。

 まぁそれはともかくとして。

 

 ゆらりゆらりと幽鬼のような足取りで、しかし足音を一切立てずに忍び寄るきらら。その眼光は、交合の場面でなければ俺もちょっとお漏らししていたかもしれない迫力だった。

 言っちゃ悪いが、なんちゅーか……山姥? こんな若くておっぱい大きい山姥なら、刃物じゃなくて搾精で殺してくれそうですな。

 

 が、その若い美山姥が標的としていたのは。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 ガッシと…いや、ミシィっと音がしそうな強さで、舞華の肩が握られた。邪魔をされた苛立ちよりも、その手から感じる気迫に我に返った、と言った方がいいだろうか。

 うーん、邪魔が入ったとは言え、それで興奮が醒めてしまうのはいかんな。半ば意図的にそうしていたが、もうちょっと激しくしてもよかったかもしれない。

 ま、それはともかく。

 

 

「…人が抵抗できないのをいい事に、好き勝手やってくれたじゃない…」

 

「お、おおぅ……い、いやそれ程でも…。そ、それより寝てろよ、なっ? 無理して起きてこなくても、若の相手はあたしが…」

 

 

 ギン、と目が更に赤く光る。どうやら地雷を踏んだらしい。

 

 

「心配しなくても、何だか体に力がありあまってんのよ。だから、しっかりと礼をしないとね…。あんたが前を弄り回してくれたんだから、あたしは『後ろ』を弄ってやるわ」

 

「う、うし………? …!?」

 

 

 舞華が顔色を変えた。きららが何を言っているのか分からなかったようだが、俺が尻を鷲掴みにし、左右に広げると勘付いたようだ。

 きららが何処でそんな事を覚えたのかは分からない。…直腸まで捧げてくれた子は沢山居るから、その中の誰かから聞いたんだと思うが…。

 爛々と光る眼で、突き出された舞華の尻に狙いを定める。意外な事に、一番負担の少ない小指を選び、更に唾液で濡らして潤滑油を付けている。

 

 それを見て舞華は逃げようとするが、尻をガッチリと固定されている上、挿入されているちんぽが気持ちよすぎて力が入らない。

 

 

「ちょっ、おい、おい待てきらら! 若も放せって! おい、おい!」

 

 

 だいじょーぶ、ちゃんと気持ちよくなれるから。なれるようにしてあげるし。体はとっくに準備整いまくって、何をされても気持ちよくなるようになっちゃってるし。

 きらら、入れるのもいいけど入り口を触って焦らしたり、お尻を叩いてやるともっと喜ぶぞ。

 

 

「悦ばねえよ! 離せ! はな……お゛ぅ゛っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、滅茶苦茶悦んだ。

 



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537話

 そして、コトの後。

 

 

「別に今更文句はいわねーけどよ…。お前、何でいきなり若の所に来たんだ?」

 

「んー…改めて聞かれると、ちょっと言葉に詰まるんだけど」

 

 

 いがみ合っていた二人は何処へやら。今は二人とも、俺の体の上でうつ伏せに寝そべっている。舞華が左半分、きららが右半分と器用に分かれていた。

 ソリが合わないのは相変わらずだが、それなりに付き合い方と言うか、折り合いは付けられたらしい。

 やはり裸の付き合いは、最上のコミュニケーションよのう。ゆっくり話をしたい時は、お茶よりも床に誘いましょう。

 

 まぁ、実際の所、二人が張りあったりヤったりヤられたりしているのを高みの見物していた俺に対して、「とっちめるならまずはこっちからね」で団結したと言った方が正しいのだが。

 結果は…言うまでもあるまい。ダイナマイトボディ二人が協力し始めたとは言え、初めて男を知ったばかりの小娘二人で俺に太刀打ちできる筈もない。

 上になったり下になったりしながら、軽い百合プレイまで仕込んで精神的にも体力的にも限界ギリギリまで善がらせました。

 

 消耗しきった二人が回復するまで一眠りして、今はピロートークの時間である。寄り添う二人の体温が心地よい。

 肉付きの良さをダイレクトに感じられて、ついつい剛直がオッキしてしまうが、今は放置。俺はともかく、二人は最低限の体力しか回復していないのだ。

 まぁ、こっそりチョンチョンと触ってくるので、続きをしようと言ったら応じてくれそうではあるけども。

 

 それはともかく、どうしてきららが突然やってきたのかは、俺もちょっと気になるな。以前に比べれば穏やかになったとは言え、男嫌い…と言うより、人間不信が治った訳でもなかろうに。

 

 

「…ちょっと、そういうのは普通、受け入れる前に聞くんじゃない?」

 

 

 据え膳を食わない訳がないだろーが。どんな理由でやってきたのだとしても、断るとか有り得ないから。覚悟を決めてやってきた女に恥を掻かせられるか。

 

 

「どう考えても色狂いなのを正当化してるだけなんだけど。…ったく、本当に私も何でこんな奴を…。人生間違ったかしら…」

 

 

 何を今更。間違い度合いで言えば、滅鬼隊になった時点で…いやまぁ、何も言うまい。

 人生は長いんだし、人間万事塞翁が馬だ。一時の間違いでどうこう言ってちゃ、世の中渡っていけないぞ。

 

 

「自分で言うな自分で。…で、結局のところ、どうなんだ?」

 

「んー…昼間に、ちょっと話したのよ。鬼の目的とか、オオマガトキがまた起こったらとか…。起こさせるつもりもないし、どんな鬼が来たって負けるつもりはないけど…いつどうなってもおかしくないのも事実。もしかしたら、この瞬間にも『塔』が何かして、私達の手の届かないところでオオマガトキが起こるかもしれない。そう考えるとね…。まぁ、私も、男は嫌いだったけどあんたはそうでもないし、興味が全く無いと言っても嘘になるし、一度は経験してみたかったというか何と言うか」

 

「あー…まぁ、何となくは分かった…と思う。確かに、こんな気持ちいいの知らずに死んじまうなんて、文字通り人生損してるな」

 

 

 お褒めに預かり光栄ですな。でもこれが普通だとは思わないように。その理屈で行くと、人間の殆どが損してる事になっちゃうからな。

 と言うか、やっぱりまだ男嫌いのままなんだな。うちの子達と話しているのはちょくちょく見かけてたんだが。

 

 

「鹿之助君とか骸佐や権佐の事? …別に必要も無いのにつっかかろうとは思わないわよ。……何よ、悪かったと思ってるわよ、起きたばかりの頃の事は。自分でもどうしてあれだけ苛立ってたのか分からないんだから」

 

 

 まぁ、トラウマ抱えて自覚もしてなけりゃ、苛立ちもするし抑えるのも難しいわな。

 ちなみに、里の男達とは?

 

 

「そもそもあんまり話す機会もないから何とも…。任務や罰の時以外、この家からあんまり出ないから」

 

「意外と引き籠ってるな…。退屈しないのかよ」

 

「んー、最近では話をしてくれる人も増えてきたから、それ程でも…。外と言うか、知らない人がいる所に行こうとすると、何だか気が萎えるのよね」

 

 

 …トラウマのせいか、人見知りになってるな。うちの連中が気を許してきてるから、猶更他の人に会いたくないんだろう。

 ちと問題だが、こればかりはゆっくり対処するしかない。下手に強制しても、テンパった挙句に問題でも起こすのがオチだ。

 

 

「そう言うあんたはどうなのよ。はっきり言って、自分から来るようには見えないんだけど? あんた、そんな度胸ないでしょ」

 

「あんだと!? あたしは大丈夫だって意地張ってただけだ! ……猶更悪いって言われると、反論できねーけど…」

 

「煙草、だったっけ? あれが無くなって苛々してるんだって言ってたけど、どう見ても暗示とやらでおかしくなってたものね」

 

 

 うん、かなり不安定になってた。そこまで意地張れるというのは、ある意味凄いとは思うけども。

 今後はちゃんと、おかしくなってきたと思ったらすぐに言うんだぞ。まぁ、そうでなくてもこっちから夜這いするか、真昼間に真正面から押し倒して犯すけど。

 

 

「真昼間…」

 

「夜這い…」

 

 

 何を想像したのか、顔を赤くする。ちなみに拒絶はされてない辺り、いい塩梅に味を占めているようだ。

 さて、そういう訳で。

 

 

「…ちょっと、お尻撫でて何をする気よ」

 

「お、おま、弄るのはいいけど尻の穴はあああああ」

 

 

 じゃあ、続きと行きますか。夜はまだ長いからな! 体感時間操作も使ってたもの。

 まんこの主が誰なのか、徹底的に教え込んでやらんとな!

 

 

 

 

 

 

 

黄昏月参日目

 

 

 

「…ふ、ふふ、ふふふふふふ」

 

 

 朝飯時。

 全員とは言わないまでも、大体の子達が揃って飯を食うのがうちの習慣だが、その中で異彩を放っている子が一人。

 言うまでも無く、きららである。

 普通に飯を食っているように見えて、明後日の方向を向いたかと思えば、俺をチラ見したり、突然だらしない表情になって小さな笑い声を垂れ流す。率直に言って不気味である。

 

 が、うちの子達は動じない。よくある事だからな。そして殆どの子達が、一度は通った道でもある。ここまでわかりやすいのも珍しいが。

 ちなみに昨晩の相方である舞華は、部屋に閉じこもって出てこない。どうやら正気に戻って、乙女心的に会うとな行為を山ほどやっていた事に気付いてしまったようだ。…多分、布団に潜り込んでるんだろうな。思い出しては発情している気配があったから、多分昼頃には一回自慰して風呂に入る為に出てくるだろう。

 

 とにもかくにも、きららが俺と関係を持った事は、居合わせた一同にはマルッとお見通しな訳だ。

 …若干荒れた気配がするな。まだきららに隔意を持っている子も居るようだから、その辺だろうなぁ。

 仮にも俺が身内と認め、更に関係を持った訳だから、直接的な危害を加えはしないと思うが………あ、一人が懐から紙を取り出して、何か書き込んだ。あれは、食後に引く罰の籤に投票する紙だな。成程、罰という名目であれば多少過激な事をしても止められない。ルール上、追放や極刑などの記入も可ではあるし。

 

 さて、あれを引くと流石にちょいとまずそうだ。確率的にはそう高いもんじゃないが、そう言うのに限って当たるのが芸に…もとい世の常。上手い事抜き取って…、

 

 

「きららちゃん、何だかご機嫌ね」

 

「ふふふふ! よくぞ聞いてくれたわ! 今の私に敵は無い! なんかこう、力が漲りまくってるのよ!」

 

(大方、若様が『あれ』した時に房中術を施したんだろうなぁ)

 

「罰則だろうが鬼だろうが、何でも来ーい! 束になって掛かって」カーンカーンカーンカーンカーン「…」

 

 

 

 …鬼の襲撃を知らせる鐘だな。しかも乱打…って事は緊急事態…? この鐘の音は、うちの見張りの子じゃなくて里の方から…?

 

 

「「「「「「……………………」」」」」」

 

「…わ、私のせいじゃないでしょ!」

 

 

 Q.フラグを立てた人に責任はあるか?

 

 

 

 

 

 

 



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538話

ううむ、モチベーションが…。
執筆もそうですが、仕事に私生活にその他諸々、ちょっと不安定になってる気がします。
仕事の作業量は減っている(多分)けど、その分普段と違う対応が増えて混乱しまくってます。
臨時休業の影響で休業手当だのなんだの普段使ってないから忘れ切っていた知識が要求されて、もう皆大混乱しとるなぁ…。

基本的に不要な外出をしない時守ですが、遊びに行けない事がこれ程苦痛だったとは。

仁王2も最近では逢魔が時ミッションをこなすだけになってきたし、段々閉塞感が…。
家に居ると飲むか食べるかゲームして寝るかしか選択肢が無いから、食費がかさむかさむ。
小説書いててもゲームしてても酒飲んでてもAV見てても、時々「虚しい」とふと思ってしまう。

あああバイク走らせて観光名所いきたーい!
とっとと収束してくれーい!


 防衛線の意地ときらら弄りは残った子達に任せ、里に急行する。

 里で鐘を乱打しているという事は、かなりの異常事態だ。以前であれば鬼の襲撃は珍しくなかったが、今では異界浄化と橘花による結界強化の成果もあって、そうそう鬼が近寄ってくる事もない。

 そもそもからして、里から鬼襲来の警報が来る、と言うのが分からない。発見するなら、結界外部に近いうちの子達だと思うんだが。

 …哨戒役がサボっている…とは思いたくないなぁ。

 

 ともかく、状況を確認しなければならん。

 里に駆け込み、いつもの受付所まで来ると、主力陣以外のモノノフ達も忙しく駆け回っていた。鎧を着込み、武器を持ち、薬を準備し…籠城の備えでもしているかのようだ。

 受付に来るまでの里の様子も尋常ではない。避難の準備を始める者達も居た。

 

 

「来たか。状況は一刻を争う。俺は陣頭指揮を執るから、状況は初穂に聞け」

 

 

 それだけ言うと、大和のお頭は何かの作業に行ってしまった。…いつも仁王立ちして微動だにしない大和のお頭がこうまでするとは…やはり尋常ではなさそうだ。

 で、その初穂は何処だ。

 

 

「こっちよ。上がってきなさい」

 

 

 声を掛けられて顔を上げると、里に建てられた物見櫓の上で初穂が険しい顔をしていた。

 …初穂の恰好じゃ、見上げてもパンチラは無いなぁ…なんて考えながら登る。

 

 で、こりゃ一体どういう事だよ。

 

 

「はい、遠眼鏡。見ればわかるわ。…改めて見ると、危険がどうのと言う以前につくづく頭痛い光景だわ」 

 

 

 物見櫓に接地された遠眼鏡を覗いてみる。

 

 

 

 …むさくるしい足と脛毛が映った。正直、色々やる気が失せた。

 

 …いかんいかん、これ塔の足だよな。走ってるぞ。しかも向きからして、里に向かって一直線だ。

 何だってまたいきなりこんな事に…。塔は異界の奥の方をフラフラ彷徨ってて、里に近寄る気配は無かった筈。確率的に無い訳じゃないが、何故今になってこんなに一直線に…?

 

 

「塔の後ろの方、見てみなさい。鬼も色々考えてるものね。…と言うより、私達だって考えた手を、鬼が使わないと無意識に思い込んでいただけかしら」

 

 

 後ろ…?

 

 

 

 ………塔が走って巻き起こす土煙で、視界がほぼ遮られているが……居る、な…。

 一匹二匹じゃない。大型鬼から小型鬼まで、無数に蠢く鬼達の群れ。それらから塔に向かって投げつけられる、石やら岩やら炎やら冷気やらカマイタチやら…。

 鬼が塔を迫害でもしてるのか?と思ったが、違う。

 

 あれは追い立てているんだ。いやある意味迫害と同じだが、3方から攻撃して、塔を誘導し走らせているのだ。

 

 

「私達だって、にたような事は考えたでしょ。あの塔は襲われた時、まず真っ先に逃走を選ぶ。危険の少ない方に走る。だったら、上手く攻撃すれば行き先を誘導できる」

 

 

 …確かにな。だが、鬼がそれをやるとは思っていなかった。鬼にも知恵と、群れるだけの社会性があるのにな。…先手を打たれたな…。

 大和のお頭はどうする気なんだ?

 

 

「勿論、迎撃…いえ、撃退するわ。出来れば、あの塔もこの機会にどうにかしたいけど…。やる事は単純よ。塔に向かってあの鬼達以上の火力で攻撃するの」

 

 

 …できるのか?

 

 

「私達だけなら手数が足りないけど、あんた達ならできるでしょ。前にあんたが設置した大砲とか、火薬類も全部解禁。あんた達の特別なタマフリは、攻撃力にかけてはちょっと頭おかしいくらいだものね」

 

 

 攻撃力が頭おかしくても、頭が弱いと意味ねーんだけどな…。

 まぁ、確かにうちの子向けだな。迫ってくるデカブツに向かって、全力でぶっ放せと命じればいいだけだ。あの子達もそういうの好きだしね。

 で、背後から追われる以上の火力を差し向けられた塔は、今後は逆に鬼達に向かって突っ込んでいくって訳だ。

 

 

「そうね。でも、そう簡単に行くとは思ってないわ。鬼の力は、人間よりも強いもの。正面から打ち合うだけじゃ、押し負けてしまう。だから、私達の出番って訳」

 

 

 私達…俺も含めて?

 

 

「いえ、あんたはそっちの子達の纏め役をお願い。私達…里の主力で鬼達の中に殴り込む」

 

 

 ほお、随分大胆じゃないか。確かに合理的だな。

 正面切って火力勝負と見せかければ、塔を追い立てる鬼達の注意もこっちに向きやすい。その隙を縫って、鬼達を背後から強襲、と。

 単純ながらも効果的な作戦だ。…いつの間に考えたんだか。

 

 

「襲撃の報せを受けた大和が、その場で立案してたわよ。塔の事を聞いてから、こういう事態も予測してたみたい。あの大和がねぇ…。と言っても、塔の迎撃を全部任せるって事じゃないわ。一番負担がかかる場所をあんた達に全部押し付けても禍根の元になりそうだし、殴り込み担当以外はそっちに合流するから」

 

 

 少しだけ、しんみりした空気を漂わせる初穂。それはそれとして、お前は舌の準備を手伝わなくていいのか?

 

 

「陣地作りとかは詳しくないし、人手も一応足りてるから、塔の見張りをしておくようにって言われたのよ。お姉ちゃんを邪魔者扱いして…。と言うか、あんたこそ皆に通達に行かなくていいの?」

 

 

 そうだった。

 俺は他の連中と合流して迎撃の準備を整える。何かあったら連絡してくれ。

 武運を祈る。

 

 

「そっちもね」

 

 

 

 …一気に話が動き始めたもんだ。ゲームで言えばクライマックス近辺か…。まだ消化してないイベントも幾つかあったと思うが。

 正直な話、もう前ループでの知識とかもほぼ当てにならない。出たとこ勝負で行くしかない。それが当たり前なんだしね。

 

 うちを目指して鬼疾風で駆け抜けて、きららをからかいまくっていたうちの子達を臨戦態勢にさせた。

 

 

 

 

 

 

 現在の状況を図にすると…こんな感じかな。

 里…ウタカタの里

 滅…滅鬼隊。うちの子達。

 塔…追い立てられる塔。脛毛が見苦しい。

 鬼…塔を追い立てる鬼達。

 主…里の主力部隊。

 

 

 里_滅________←塔_←鬼

 

 で、うまい事追い返すとこうなる。

 

 里_滅_塔→________←鬼

 

 そしてまた塔が鬼に追い返されて、

 

 里_滅______←塔_←鬼

 

 これだとどんどん距離を詰められるだけなので、

 

 里_滅____←塔_←鬼←主

 

 こんな感じで背後を突く。さて、上手く行くかね。

 

 

 

 

 

 

 塔は相変わらず、ほぼ一直線に里に向かって走ってきている。進行が予測される道には、俺達の家もある。

 …万一突破され、また家を破壊されたら……いつぞやのようにマジギレし、身バレも構わずアラガミモードで荒れ狂ってしまうかもしれない。色々な意味で、突破させる訳にはいかなかった。

 

 うちの子達も気合十分。やる事が単純だから…と言う理由ではないと思いたい。

 意外にも、戦狂いな神夜は逆にあまり楽しくなさそうだった。まぁ、神夜が好むのは、刃を使っての斬った張っただからな。滅鬼隊と違って遠距離を攻撃できる大火力なんて持ってないし、出来るのは精々大砲等による砲撃のみ。趣味じゃないんだろう。

 とは言え、それで手を抜いて家や里を壊される訳にもいかないので、真面目にやっているが。

 

 俺も、マイクラ能力で作り上げた陣地に、片っ端から大砲やらバリスタやらを据え付けている。撃龍槍も付けようかと思ったが、今回は里に近寄らせないのが最優先。激竜槍が当たるような距離まで接近されたら詰んだに等しい。あの身の軽さを見るに、都合よく撃龍槍の前に来て待ってくれるとも思えないしな。

 程なくして里から来たモノノフ達とも合流し、各地に陣取る。

 

 

「頭領さん、ちょっといいかな」

 

 

 うん? …ああ、鹿之助の友人の双子か。兄なのか弟なのか知らんけど。

 

 

「一応俺が弟なんだよ…。あの姉は妹よりも手間がかかるが。それはともかく、大和のお頭からは、あんたの指揮下に入れって言われてる。殆どのモノノフは大砲の扱いとか知らないから、それしかできないとも言うけど」

 

 

 普通の大砲は一朝一夕で扱えるようなもんじゃないからなぁ…。俺が作った奴は、弾込めして火をつけるだけのMH仕様だから簡単だけど。

 まぁそれは置いといて、使った事がないんじゃ射程とかも分からないだろう。発射の合図があるまで、迂闊に撃たないように注意してくれ。

 

 

「分かったけど、その合図って何なんだ?」

 

 

 俺も一丁、特製の銃を持ってるから、それを空に向かって打ち上げる。嚆矢の代わりだな。

 お前さんは…そうだな、青い光が昇ったら打ち始めてくれ。他にも赤とか緑とかいろんな色があるから、間違えないように。

 

 ああ、もしも博士や茅場…って言っても知らんか。

 

 

「いや知ってる。あんたらを訪ねてきて里の外れに住み着いた、気狂…変じ…変た………得体の知れない二人だろ」

 

 

 その表現、そのまま言っても本人以外は誰も否定せんだろな。

 あいつらから要望があったら、可能な限り答えてやってくれ。自分の興味のままに突っ走る連中だけど、世話になってる里に不利な真似はせん筈だ。自分の首を絞めるだけだからな。

 うちの子達とはちょいと相性が悪いから、余計な軋轢が起きないようにそっちで対処してくれると助かる。

 

 

「…何か不安だが…伝えておくよ。出来る範囲で、だからな? あとやばくなったら逃げるぞ俺は」

 

 

 それがいい。と言いたい所だが、この里が破られたら、それこそ行き場がなくなるからなぁ…。貯め込んできたハクだって持ち出せない。お前が言ってたハクの力での戦いだって出来なくなって、何もかも自力調達しないといけない自給自足の生活の始まりだ。生き残ってたらだが。

 

 

「あーあーあーあー聞きたくなーい! どうにかしてくれよあんた! とんでもなく強い部隊の頭領なんだろ!?」

 

 

 言われんでもどうにかするわい。俺だって家が壊されたら………壊されたら……………思い出したら、腹が…!

 

 

 …ん? どした?

 

 

「い、いや…物凄い表情だったぞ、あんた…」

 

 

 む、すまん。思い出したら怒りが…。…無駄話はこれくらいにしよう。

 そろそろ塔が肉眼でも見えるようになってきた。配置についてくれ。

 

 

 

 

 

 迫る塔。その後ろから追いかけてくる鬼の群れ。

 遠目から見ても、結構な迫力だった。それ以上にシュールだが。

 

 うちの子達もモノノフ達もそれぞれ担当の場所に陣取り、攻撃の合図を今か今かと待っている。

 俺は近場の高台の上で、近辺を俯瞰。少し遠い所に目をやれば、桜花を初めとしたモノノフ主力部隊が鬼達の背後に回る為、隠れて移動しているのが分かった。

 

 …改めて見ると、総力戦だな。

 モノノフは勿論、一般里人も動員されている。流石に鉄火場に送り出すのではなく、後方支援という形だが。例えば戦いが長引いた時の為の陣中食作り、怪我人が出た時の為の備え、足りなくなった物資の運搬要員…。

 突然このような作業に駆り出されて文句ひとつ言わずに役割を果たすあたり、大和のお頭の人望が伺える。どんなに危機的状況であっても、皆がそれを理解できている訳でもないのにな。

 

 ともかく、里もうちの子達も、一丸となって塔の襲来に備えている。人間がここまで一致団結する光景なんて、そうそう無いぞ。追い詰められている世界なら特に。

 ……昔、考えていた事を思い出すな。まだアラガミ化も出来ず、オカルト版真言立川流も…あの頃はまだ覚えてなかったっけか?

 自分にムスヒノキミ…つまり討鬼伝ゲーム主人公と同じ素質が欠片もないと自覚し、オオマガトキを防ぐ方法が何かないかと悩んでいた。

 その時に浮かんだ案の一つ…ひょっとしたら、使えるかもしれない。

 

 まぁ、オオマガトキが起こったら、の話だが。そうする前に、塔を完全に破壊してしまうのが望ましい。あくまで次善の手段である。

 

 

 

 …いかん、迫る塔を前に余計な事を考えている暇は無かった。そろそろ射程に入る。

 砲撃の合図を出すべく、OPを充填した神機銃形態を空に向けた。

 

 

 

 

 

 

 開戦の号砲が響き渡ってから、約3時間。戦況は膠着状態にあった。

 用意した砲弾は半分を切り、皆にも疲れが見え始めている。

 

 塔は相変わらず逃げ惑っているが、里の方に来て俺達に追い返されもすれば、逆走して鬼達に近付いては鬼に追い返される、を繰り返して右往左往。

 綱引き…じゃないな、二人でババ抜きやってババを押し付け合ってるような気分だ。

 

 ある意味では当然の帰結かな。

 追い返されて陣地から離れれば、その分追い立てる鬼達に塔が近づく。そうなれば鬼達から大量の至近弾が浴びせられるので、塔からしてみれば脅威度、危険度は爆上がりだ。

 逆に、幾ら陣地や長距離用の武器、タマフリを用意したとは言え、やはり距離が離れれば火砲の密度は薄くなる。それだけ脅威度が下がるという事だ。

 結果、塔は危険度が低い方向に向かってくる。つまり俺や里に向かってくる。

 

 そして今度は俺達に近付けば、鬼からの距離が開いてそちらの脅威度が下がり、俺達との距離が近づいた為に浴びせられる攻撃が増えて脅威度が上がる。そうすると今度は鬼達に向かって方向転換。

 …これを延々と繰り返している。

 

 正直言ってジリ貧だ。このまま続けば、敗北は免れない。

 物資は既に底が見えているし、それ以上に塔を追い立てる鬼達は、どんどん里に接近しているのだ。ここからは、こちらの火力は徐々に下がり始めるだろう。対して、鬼達は変わらない火力で追い立ててくる。

 塔を押し返すのが難しくなるのが目に見えている。

 

 

 無論、鬼達の背後に回り込んだモノノフ主力陣も奮闘している。

 後方の大型鬼が、何匹か打ち取られているのが見えた。だが、単純に間に合ってない。鬼達のしぶとさもさる事ながら、奴らは損害度外視で塔を追い立てているようなのだ。

 足を止めて応戦してくる敵よりも、逃げて遠ざかる敵を倒すのが難しい。背後から斬りかかっても殆ど反撃されないので、好きに攻撃できているようだが…逃げに徹され、距離が離れてしまえば、その利点も消えてしまう。

 

 これは…思ったよりヤバいな…。。

 塔…いや、鬼達に対する足止めが必要だ。塔を追い返せたとしても、鬼にここまで接近されてるって時点で非常に危険な状態だ。

 かと言って、これ以上火力を集中させると継戦が難しい…。

 

 

 

「若様、一案あるわ。聞いてくれる?」

 

 

 ん? 静流か。…うちの子達の中でも割と頭が良くて計画の立案も出来る子だ。あまり無茶な事は言い出さないだろう。耳を傾けるだけの価値はある。

 

 

「ありがと。 実は、以前から任せられていた仕事の中で…」

 

 

 …ふんふん。ふむふむ。

 ほほー…。

 

 …いいな。実にいい。不安要素はあるが、手軽で大打撃、風向きもいい。

 しくじってもデメリットは殆ど無い。

 上手く行かなかったとしても、塔と鬼達を大きくビビらせる事ができそうだ。

 よし、その手で行こう。

 

 ただし、一発に全てを賭けるんじゃなくて、二発目、三発目を打てるようにはできるか?

 

 

「…できる…けど…当然、その分威力は下がるわよ。追い払えなくなるかも」

 

 

 「こっちの方が危険だ」と思わせるなら、一発限りの爆発じゃ意味が無いんだ。俺達が居る方からは、大爆発だけど一回限りの脅威。鬼達が居る方向からは、、爆発程じゃないが延々と続いて迫ってくる脅威。どっちに逃げるかと言われれば、爆発が終わった方だ。

 少なくとも、「2度目があった」と思わせるだけで脅威度は段違いになる。

 

 

「もう一つ問題が。十中八九、タマフリの使い過ぎで私が動けなくなるわ」

 

 

 それは…問題だな。人数自体は辛うじて足りているが、静流は統率役が務まる数少ない子だ。彼女が行動不能になるのは、いささか異常に問題がある。

 とは言え、当座を凌がない事には……。

 

 …よし、いつもの手段だ。静流、策の準備をすると伝えて、戻ってこい。具体的には、あっちの物陰に。

 

 

「……あの、若様…ひょっとしなくても、ここで? いえそれ以上にこんな時に」

 

 

 こんな時だからこそ活用するんだよなぁ。元々俺の房中術は、力を増幅する為…いや元の目的はよい性交の為だけど、力を増幅する機能もある。戦いの前の夜に使えば戦力増強が出来る代物だ。

 時間については体感時間操作があるから気にするな。20回やっても、実際の経過時間は30秒にも満たない。

 

 

「に、にじゅ…若様を一人だけで…20…しかも容赦も休憩も無し…」

 

 

 静流は、青褪めながら紅潮するという器用な表情を見せた。そして、想像しただけで下腹部から雌の匂いが立ち上って来た。ヤると言った俺が言うのも何だけど、本当にこういう方面では心配になってくるなぁ、うちの子達…。それ以上に救えないのは俺の頭とちんぽ? 御尤も。

 でも、有効である事には違いないので。

 身内からは察されながらも戻って来た静流を連れて、物陰に引っ込んだ。

 

 

 …力を増幅する事よりも、静流の俺専用クソ雑魚まんこで色々すっ飛んでしまわないように加減するのが大変だった。

 ていうか、戦の真っ最中だからか、静流も生存本能が刺激されたらしく、いつもより燃えてね…。即落ち2コマ状態だった。その後、18コマ分の容赦ない追撃が入った訳ですが。…訂正、加減はしてたから容赦あったわ。

 

 

 コトが終わった後、知らなければ全く気付かないであろうくらいに素早く後始末をして取り繕ったのは、色事特化の面目躍如と言ったところか。まぁ身内にはバレバレだったみたいだが。

 …さっきから、うちの子達によるタマフリ攻撃が激しくなってるのは気のせいじゃない。…ヤる目的じゃなくて、力を回復する方法があったから手加減をしなくてもよくなっただけだ。そう思いたい。ちょっと自信が無い。そして要請されたらホイホイ受諾してしまうであろう自分が情けない。

 

 それはともかく、静流は策の準備に移った。策の内容は極めて単純。

 今までのループでも何度も行ってきた、大量の火薬でドン!だ。その火薬は、MH世界産の火薬草やハッカの実を静流の能力で急成長・増殖させ、風遁使いの深月に飛ばさせる。

 …静流が居れば、火薬をなんぼでも量産できてしまうと言う、よくよく考えると後に引きそうな問題もあるが……まぁ、今どうこう言う事じゃない。

 

 

 

 とにもかくにも、作戦開始だ。

 塔はかなりの距離まで接近している。これまでであればそろそろ引き返すくらいの砲火に晒されているが、背後から追いかける鬼達が山場と見て追い込みをかけているらしく、引き返す様子が無い。

 やはり、ここらで一発ドカンとビビらせてやらなければならん。爆発で塔が壊れても、それはそれで良し。

 

 

「若ぁ、静流から準備が出来たって合図が来たぞ!」

 

 

 おし、全員一旦手を止め、、対閃光・衝撃耐性! 大爆発で吹っ飛ばすぞ! 

 体を低く伏せて、口を開けて目と耳を腕で塞いでおけ!

 とんでもない音で、耳が馬鹿になって聞こえなくなる可能性があるから、今のうちに次の指示を出しておくぞ。爆発の後は、すぐに周囲の確認だ。動けなくなってる子が居たら、タマフリで癒してやれ。復帰次第、再度砲撃を開始しろ!

 

 

 …準備良し、距離よし、全員の対爆発体制良し。静流、深月、始めろ! 着火は俺がやる!

 俺の声に応え、静流がタマフリを使う。何時になく強力な力を感じるそのタマフリで、彼女の手元にあった火炎草・ハッカの実が急激に成長・発芽・実を付けて枯れ果てるを繰り返す。

 そこそこ程度の量しか無かったのが、あっという間に増殖し、同時に深月が起こした風で散布されていく。

 草・花・実が風に乗って飛んでいくその光景は、一見するとメルヘンで長閑な光景だった。 

 

 

 …よし、量はこんなもんだな。こっちからの砲撃が止んだ事で、脅威がなくなったと見たのか、塔が走るスピードを上げてきた。

 罠かもしれない、という疑念は持たないらしい。やはりそういう事を考える機能も持っていないのか。

 

 まぁいい、とにかく一発目、いくどー!

 

 静流と深月が伏せたのを確認して、神機を取り出して構える。

 行けやブラストォォォォ!!!!

 

 

 

 

 

 



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539話

 

 

 

 ……うっへぁ…。想像以上の爆発が起きた。こりゃ火薬の量が多すぎたかな…。比喩抜きで地形が変わったんじゃないか?

 里まで響く強烈すぎる震動。音と認識するのも難しいくらいの轟音だった。対爆発態勢をとって尚、強烈な衝撃で呻いている子達が居る。幸い、鼓膜が破裂したとか、目が飛び出たとかの致命的な損傷を負った子は居ないようだが…。

 

 一方、塔はと言うと、後ろ向きにぶっ倒れているようだ。上手い事爆発を喰らってくれたらしい。全身から煙が立ち上り、脛毛もとい両足には幾つも傷がついている。塔本体にも、微細な罅が幾つも入っていた。

 うーん、イイ感じ。

 爆発って本来は効率のいい攻撃方法じゃないんだが、元になったのが大樽爆弾を作るのに使われる火薬だからな。物理法則を超越してダメージが入ってくれたようだ。

 半ば、威嚇の為だけに爆発させたようなもんだったが…嬉しい誤算だ。

 

 全員、次の準備に入れ! 動けない子が居たら、タマフリで癒してやるんだ!

 手近な子にタマフリを使いながら聞こえているのか今一つ不安だが声を張り上げる。

 塔は倒れはしたが、力尽きた訳ではない。また立ち上がって逃げるだろうが、また鬼に追い返されて迫ってくるのは目に見えている。その時までに、次の一発を放てるようにしておかなければならない。

 

 何人か動き始めた子達が居るのを確認して、近場の木に登って塔の背後を双眼鏡で見る。

 

 

 …塔を追い立てる鬼の群れも、流石にさっきの爆発に驚いたようだった。爆風の余波を浴びたのか、ひっくり返っているミフチやクナトサエが見える…あ、桜花が鬼千切で首を刈り取った。 

 混乱している鬼の群れの中で、主力陣がここぞとばかりに大型鬼を斬り伏せていく。…が、それでもまだ数が多いな…。

 

 塔も起き上がり、背を向けて逃げようとしている。狙い通り、こちらを脅威と見做したようだが、背後の鬼達をどうにかしない限りまた戻ってくるだろう。

 そしてその背後の鬼達は、今でこそ足を止めて桜花達と戦っているが、また無視して塔を追い立て始めるだろう。或いは、幾らかの鬼だけ足止めとして残すか。

 

 考えてみりゃ、塔は突っ込んでくるのはヤバいし、その力でオオマガトキが引き起こされるかもしれないとは言え、能動的に動く敵じゃない。極論、放置していても危険は薄い。

 …真に優先して排除すべきは、塔そのものではなく背後の鬼達だったか…。だから大和のお頭も、主力陣を防衛ではなく鬼達の排除に向かわせたんだろうな。その辺の戦略眼は流石である。俺もまだまだ修行が足りん…。

 

 

 ともあれ、俺達が今集注すべきなのは塔の撃退である事には変わりない。

 …鬼達をどうにかするのは…。

 

 

「派手な事をやった割には、あまり意味が無かったようだな。全く、これだから凡才は」

 

『でも景気はいいよね! 僕も近くで見たかったなー!』

 

 

 振り返ってれば、いつもの仏頂面の博士と、カラクリの体でぴょんこぴょんこ跳ねている木綿季が居た。

 ……博士、木綿季? どうしてここに。

 

 

「どうもこうも、貴様らが手古摺っているから手を貸しに来てやったんだ。里が壊滅されては、私も面倒なのでな。流石に改造に時間が足りず、茅場がぶっ倒れた」

 

『倒れたって言うか、時間短縮の為に危険なやり方をしたら、改造は上手く行ったけど感電して気絶しちゃったんだよ』

 

 

 何やってんねん、茅場…。と言うか、らしくないな、あいつがそんなやり方をするなんて。

 いや、単にそれが最も効率がいいからやっただけか?

 

 

「それと、来ているのは私達だけではないぞ。ほれ、あっちだ」

 

 

 指さす方向…里からの通り道に目をやると、そこには見慣れた二人が見慣れない恰好をして歩いてきていた。…訂正、一人は走ろうとしていたが、どうやら体力が尽きたらしい。

 橘花と、大和のお頭だ。

 ただし、橘花は普段の神垣の巫女衣装ではなく、動きやすさを重視したらしい下女のような恰好。…素材がいいから、それでも絵になるなぁ。今度はああいう恰好で…いやそれは置いといて。

 大和のお頭も、いつもの黒い服ではなく、甲冑を着込んでいる。ありゃ確か、モノノフ特装暁…しかもかなり使い込まれている。

 

 二人とも、その恰好は?

 

 

「我々も参戦するからな。流石にいつもの恰好ではいかんだろう。昔作った装具で、残っていたのがこれだけだったのでな。と言っても、今の俺は橘花の護衛役くらいしか務まらんが」

 

 

 参戦ときた。

 

 

「はい、私達も戦います! いつもの恰好では、ここに来るのにも時間がかかってしまいますから、この格好で。 …できる事はそう多くないので、博士頼みなんですけど…」

 

「わざわざ敵の前に出る必要はない。…が、念には念を入れる姿勢は好ましい。お前に求めるのは神垣の巫女としての霊力のみだ。後は私と茅場が改造したこいつがやる」

 

『僕がやるって言っても、この体が勝手に動くだけだから、僕のやる事なんてないんだけどね。それはそれで詰まらないなぁ』

 

 

 つまり、博士のびっくりどっきりメカで何かするつもりな訳か。それでどうにかなるなら、最初から使いたかったもんだが。

 

 

「やかましい。予め準備していたものではなく、必要になるであろう機能を予測して即興で作り上げたものだ。破壊力だけを高めて放つような代物ではないぞ」

 

 

 まぁ、何でも構わん。…む、また塔が近づいてきているな。

 二発目の爆発を使う。皆、準備に入れ。

 

 それで、必要な機能って?

 

 

「簡単に言えば、結界の増幅だ。遠い場所に張る結界のな。塔を追い立てる鬼達が、斬り込んだ連中を相手にしないのだろう」

 

 

 大当たり。いつから予測してたんだ?

 

 

「ふん、策を聞いた時からだ。そして遠い場所で、同じような事をする鬼達を見た事がある。その時も鬼が足を止めない事が最も厄介な事だったからな。対策を練っておくのは当然だろう」

 

 

 前例あり、って事か。鬼がこんな風に、組織立って行動するのは珍しい事だと思うが…いや、それは今はいいか。

 それで結界。塔と追い立てる鬼達の間に結界を張り、鬼達は主力陣が討滅。塔は…どうするかな。

 

 

「脅威を感じ無くなれば動かなくなるのだろう。最終的に討伐する事に変わりはないが、近付いて来ないのであればこちらも手を休めればいい。何なら、鬼を狩る連中の加勢に行ってもいいだろう」

 

 

 …成程。大和のお頭、何か問題は?

 

 

「無い。俺の策が裏目に出るところだったが、いい所に策を持ってきてくれた」

 

「そう思うのなら、研究費と甘いものを寄越せ。おい巫女、さっさと始めるぞ。結界を張るには相応の力が要るが、覚悟はいいな」

 

「はい! 姉さまも、皆さまも命を欠けて戦っています。私だけ安全な場所に居られる道理はありません。…それに、力を使い過ぎたとしても、回復させてくれる方が居ますから」

 

 

 うちの連中と同じような事言いよってからに…。…回復はさせるけど、、故意に力を使い過ぎたらオアズケすっからな。

 おっと、もう一点確認。橘花が木綿季の体を使って遠方に結界を張る、これは分かった。そっちに力を割く事で、里全体の結界に影響はあるか?

 

 

「こいつの力の総量次第だな。ある程度の増幅機能も備えているが、その殆どは遠方に力を投射する為に充てられる。複数の結界を張るだけの力を絞り出せなければ、当然どちらかが薄くなる」

 

「大丈夫です! 橘花は負けません!」

 

「…やる気だけでどうにかなる問題ではないが、気迫の問題でもあるのだよな…」

 

 

 何だか張り切りまくっている橘花と、諫めるべきかと悩む大和のお頭。

 橘花としては楽しんでいる訳ではないだろうが、ある意味では望んだシチュエーションでもある。

 かつては、「自分もモノノフのように自らの力で立って、路を切り拓いていきたい」と望んでいた。そっくりそのまま望んだ状況ではないが、自分も命を賭けてこの場所に立っているという事に、ある種の昂揚を覚えているようだった。

 ……今の橘花はなー、他のループで俺と関わってアレコレあった事から学んでいるし、妙な方向に振り切れて、変に度胸がついてるからなぁ…。

 内心で、寿命を削る事を怯え嘆きながらやるよりはいいんだが。

 

 取り敢えず言える事は、これを知ったら後から桜花がエラい事になりそうだって事だ。

 

 

『あれこれ言っても仕方ないじゃん。ここまで来たんだから、さっさとやってさっさと終わらせようよ。こうやって話してる間にも、鬼達は里に迫ってきてる…うわ、塔が近いね!』

 

 

 おおっと、二発目の爆発行くぞ! 

 橘花、俺と大和のお頭の後ろに。自分用の小規模結界を張っておけ。

 博士は……まぁ、平気だろ。

 

 

「人類の至宝たる私の頭脳を何だと思っている。おい橘花、私もお前の結界に入れろ」

 

「はい、では術を使います。…さっきの音は、離れていても体に響く凄い音でしたからね」

 

「地形を変える気か、お前は…。毎度毎度他に手がない状況だから何も言わんが、本来ならこんな策がそうそう許されると思うなよ」

 

 

 大丈夫、ここの地形なら爆破し慣れてるから、後に響かない程度に出来る。

 

 

「そうは思えん爆発だったし、ここを何度も爆破した事があるように聞こえるが」

 

 

 気にしない気にしない。静流、深月、準備はいいな? もう一発どーん!

 …ふぅ、いい音だぜぇ…! 派手に行かなくちゃな、派手に。

 

 …大和のお頭の目が怖いけど気にしない。これは塔を追い返す為に必要な事なのだ。

 とは言え、行けてももう一発、それも威力も半減以下になるだろう。今のうちに手を打たなければならない。

 

 

「お任せください! 木綿季さん、お願いします」

 

「僕自信は何もしないんだけどなぁ…」

 

 

 カラクリの3頭身体しかないから、大戦に参戦できないとぼやく木綿季を他所に、橘花は術を発動させる。

 霊力がカラクリの体に入り込んでいき、内部でよく分からない動きと共に増幅されるのが分かった。

 

 

「よし、それでいい。木綿季、あちらに腹を向けろ」

 

「こう? …おわっ!?」

 

 

 腹部からシャキーン!と音をさせながら、砲塔のような物が飛び出した。ギュオオオオオッと何かが高まる効果音と共に、キュリキュリキュリキュリ回転音、グゴゴゴゴゴゴ腹の虫、ズドドドドドクックドゥードゥルドゥー…。

 …とにかくなんかよく分からん効果音を挙げながら、木綿季の砲塔から霊力が投射された。砲弾のように飛んでいき、着弾した場所に壁のような結界が出来上がる。

 

 

 …成程、仕組み自体は鬼の手を遠距離仕様に特化させたようなもんか。行う動作を限定させる事で自動化してる…代わりに汎用性を無くしてるな。近距離での使用も出来そうにない。

 それを差し引いても、力の増幅率と有効範囲が圧倒的…。この辺に新機軸の技術が盛り込まれてると見た。

 

 

「生憎根本から大外れだ。これは鬼と手とは全く関連性のない技術しか使ってない。私がそれしか作れないとでも思っているのか」

 

「な、なんか体の中で、体が自分の知らない動きをしてるっておかしな気分…」

 

 

 …おい、木綿季がいきなり自爆したりは…。

 

 

「せんわ。つくづく私の頭脳を舐めているな。…まぁ今はいい。ほれ橘花、力を送り続けろ。木綿季は体を動かして結界の場所を調整し続けろ。腹踊りのように動かしてな」

 

「この頭身で腹踊りは無理があるなぁ…」

 

 

 ぼやきながらも、器用に体を上下させたり左右に回したりしながら、結界の位置を調整していく。

 設置された結界は相当に強靭なようで、進もうとしている鬼達を小揺るぎもせずに阻んでいた。炎やら岩やらが投げかけられるも、全て跳ね返していた。

 

 鬼達は、突然現れた障壁を破ろうとする者、迂回しようとする者、自分達の背後に喰らい付いているモノノフ達を迎撃しようとする者が混在し、揉めているようだ。

 

 

「…ふむ、塔を追い立てるという点において統率は取れていたが、それ以外に関しては統一されていない…。やはり指揮官となる鬼は、あそこには居ないようだな」

 

「指揮官が近くに居ない状態で、あそこまで纏まって行動できていた…。鬼の気質としては珍しいな。強者が近くに居れば従うが、離れれば好きなように動くのが鬼の基本的な行動原理だというのに」

 

「大方、最初に命令して、後は勢いで走らせていたのだろう。血と狂乱に酔わせ、目の前の獲物だけしか見えない状態にしていたのだろうが……。確かに、鬼のやり口としては異例だな」

 

「…人が仕組んだ事だと思うか?」

 

「人かどうかは知らん。…が、それが出来るだけの知恵を持っている奴が居るのは確かだな。狙いはオオマガトキか…それとも…」

 

 

 何やら博士が考え込んでいる。話をしていた大和のお頭にも反応しない。

 …オオマガトキ以外に、目的なんかあるのかね。…いや、鬼だって別に人の世を滅ぼして得があるとは思えないし、オオマガトキの先に何かがあるのかもしれない。

 まーその辺の事は置いといて。

 

 おお、鬼達が次々に討伐されている。

 流石に、まともに戦いになると主力陣は強いな。うちの子達がやるより討伐早いんじゃないか? うちの子達は火力が飛びぬけてはいるけど、状況判断とかが甘いからなぁ…。

 塔はとりあえずの危険が感じられなくなった為か、橘花と木綿季で張った結界から少し離れた所で腰を下ろしている。やっぱりあれの行動原理は、近くに危険があったら反射的に逃げ出すってだけで、状況判断力は無いみたいだ。じゃなければ、自分を追い立てていた鬼の群れが近いというのに呑気に休むなどしないだろう。

 

 この間に、俺らも態勢を整えるか。まだ鬼が全滅した訳じゃないし、もう一騒動ある気がしてならない。

 塔を追い立てる作戦を考えたのがどんな奴かは分からないが、ここまでお膳立てできる奴なら、次善の策を用意してないとは考えにくい。

 何が起きてもいいよう、気を引き締めないと。

 

 



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540話

 

 うちの子達に激を飛ばし、各種補充・回復を急がせる。

 …疲れ切っていた子達には、静流と同じ方法で強引に回復させたりもした。それでも消費した砲弾その他の量が非常に多いので、もう一度砲撃するとしてもさっきの8割程度が限界か…。

 

 

「若! 変な手紙が来た!」

 

 

 鹿之助? 変な手紙って…伝令とかじゃないのか。

 

 

「いや、何ていうか……鳥が持ってきたというか…俺の頭の上に落としていったというか…」

 

 

 鳥ぃ? ……ああ、そういう事ね。送り主に心当たりがある。見せてみな・

 

 動物が運んできたって事は、虚海なんだろう。どうして鹿之助宛てなのかは分からないが。

 しかもこんな怪しい渡し方…いや、確かに速鳥から前例を聞いているけどね。とにかく、問題は中身だ。どれどれ…。

 

 

 ……………。

 

 

 

 …大和のお頭、やばい。見事に嵌められた。

 

 

「どうした? その手紙は?」

 

 

 速鳥へ情報提供してた奴からの手紙。このままだとどうやってもオオマガトキが起きる。

 

 

「何!?」

 

 

 総員に伝達しろ!

 次に塔が戻ってきたら、再度威嚇を始める。だが塔自身には絶対に当てるな! 威嚇に留めろ!

 

 

「はぁ!? 何言ってんだよ若! 当てずに追い返すなんて無茶だろ!」

 

 

 事情が変わったんだよ。このままぶち壊すのはまずい! いいから全員に伝えろ!

 

 塔の力が弱まってる、逃げる為だけに貯えられた力を使ったんだと思い込んでたが…違った。

 塔は貯め込んだ力を熟成させていたんだ。オオマガトキは単に大量の鬼の力があれば起こせるものじゃない。雑多に籠められた力を一つにまとめて、特定の性質を持たせる必要がある…と、ここに書いてある。

 

 

「事実かどうかの確認が出来んが…説得力はあるな。餓鬼の力がいくら集まったとしても、オオマガトキを開けるかと言えば怪しいものだ。霊力とて、別人の力をただ重ねるだけでは何の効力も期待できん」

 

 

 鬼千切・極だって、集めた力を練り合わせてから高め、放つしな。 

 逃げ回っていた塔の中では、貯め込まれていた力が徐々に馴染んでいっていたんだ。

 

 逃走にも力を使っているから、全体の量としては目減りしている。完全なオオマガトキを起こす事はできないが、ここら一体を瘴気の海に沈めるくらいの事は出来るそうだ。

 発動条件は、塔から力が解放される事。

 

 

「つまり…破壊すれば…」

 

 

 その場でドカン、って事かな。直接破壊以外でも、内部の圧力を貯め込むだけの元凶さがなくなれば、耐えかねて噴出する可能性もあるそうだ。

 これが鬼達の本命って事か…。

 塔が里に突っ込んで大損害を出せばよし、もしも撃退されれば塔にそれだけ損害が出来ている。つまり破壊、ないし力の噴出がしやすくなる。例え追い返されて塔が他所に逃げたとしても、今度は鬼達だけの力でぶっ壊せる程に脆くなっている…。

 

 

「対策は書かれていないのか? 噴出する力を、ごく少量ずつにするなどはどうだ?」

 

「無理だな。最初から噴出の為の機構がついているならともかく、あれでは少しでも漏れればその周囲から崩壊していくだけだ。…さっきの爆破が利いたらしいな。もうあちこち罅が入っているぞ」

 

 

 博士は通常通りの平静な…聞きようによっては他人事のような口調だが、僅かに眉間に皺が寄っている。

 鬼の手でどうにかならんかな。

 

 

「貴様の想像が追い付けばな。あの塔全てを包み込み、力を外に漏らさず、また貯めこまれている力を消し去ってしまう。出来るか?」

 

 

 …いやすまん、流石にそこまで精巧な想像は無理だ。どっかで綻びが出て、そこから漏れる。破壊するだけならともかく、そんな器用な事が出来る程、俺も熟達できてはいない。

 破壊は論外、別の場所で逃がせば鬼がやるだけ。…詰んでない?

 

 

「たわけ、詰んでいるなら盤面を破壊するまでの事だ。天才に諦観は無い」

 

「では、どうなさいます? 私と木綿季さんも結界を張り続ける力は残っていますが、追い立てる鬼達の数が多く、討滅には時間がかかるようです」

 

「我々だけでは思いつかんなら、この手紙の送り主に知恵を借りるのはどうだ」

 

『でもどこにいるのかな。鳥を使って渡してきたなんて、接触するつもりも、自分の居場所を教えるつもりもないんじゃない?』

 

「その気があるなら、最初から対策なり何なり書いているだろうしな。とは言え、確かに現状では手札が足りんな。頭数は揃っているが…」

 

 

 博士がうちの子達にチラリと目をやる。…そして無言で目を伏せ、首を振った。

 ああうん、一部を除いてうちの子達は頭脳労働に弱いからね…。その脳筋っぷりは普段の生活にも表れていて、比較的近い場所で暮らしていて接触する機会が多かった博士もよく知っている。博士は博士で、茅場同様に研究に熱中し過ぎて倒れていたりするなど、真鶴に結構な苦労をかけているのだが。

 うちの子達を頭脳労働の頭数に数えるのは、俺も賛成できない。

 

 

 

 …頭数…。

 

 頭数、か。

 

 

 

「…どうした。何か浮かんだか?」

 

 

 ああ。以前から案として考えてはいたんだが、正直言って上手く行くか微妙な所だ。

 ムスヒの君と同じ事をする。発動させたオオマガトキを、抑え込むんだ。

 

 

「ムスヒの君と…? ムスヒの君ってあれだよね、モノノフの始祖になった人。多くのミタマを従えて…なんだっけ」

 

「ざっくり言えば、オオマガトキを打ち破った、だな」

 

「お前ら…自分達の始祖の伝承くらい、しっかり覚えておけ…。だが、伝承にもムスヒの君がどうやってオオマガトキを打ち破ったかは伝わっていない。何か知っているのか?」

 

 

 ああ。鬼が時空を乱す力を持っているのは、当然知っているよな。オオマガトキってのは、要するに時間軸が滅茶苦茶に乱れた結果作り出される、異界に通じる穴だ。

 この時間軸が乱れるってのが肝でな。

 実際に何がどういう風になってるのかは俺にも分からんが、これを正しい順番で並べ替えてやる事で、生み出された異界への穴を埋める事が出来る。

 

 

「…曖昧な概念を用いて説明しているのは気に食わんが、乱れているのなら正せばいい。道理ではあるな」

 

 

 博士も納得したところで、次の話だ。

 ムスヒの君は、一人で多くのミタマを宿せる希少な体質だった。オオマガトキに挑んだ時も、それらを宿していた。そしてミタマ達が正しい順番で繋がる事で、時間軸の乱れを正した…らしい。

 必要なのは、こう言っちゃなんだがそんじょそこらのミタマじゃない。時代に大きな影響を与えるような、偉人・英雄・英傑のミタマである事が条件だ。

 

 

「…時代を代表する大人物が、時間軸の乱れの近くで正しい順に並び、結びを成す。ただ並ぶだけでなく霊的に繋がるのであれば、乱れた空間にある程度の影響を及ぼしたとしても不思議はない」

 

「しかし、その多数のミタマはどうするのです? 里にも、あなたの所にも、複数のミタマを宿せる人物など…」

 

 

 単純だよ。

 

 一人で無理なら、皆でやればいい。

 一人に一つのミタマしかないなら、100人1000人で手を取り合って、100と1000のミタマを繋げればいい。

 一人に宿ったミタマの力が微弱だったとしても、束ねて大きな力にすれば、オオマガトキを防ぐ事ができるかもしれない。

 

 つーか、本当の「結びつき」ってそういうもんだろ。

 

 

「…お前の話が事実なら、ミタマとミタマを正しい順番で結び付けなければならないのだろう?その順番はどうする。誰が誰のミタマを宿しているかなど、俺も把握してないぞ。基本的に秘める事だ。一人一人聞いて回って、正しい並び順とやらを導き出す時間は無いぞ」

 

「そもそも本当に結びつけると思うのか? 3人居れば派閥が出来る、それが人間の習性だ」

 

 

 別に全員が全員と結ばれなくてもいい。ただ普段から比較的仲のいい相手を2人見繕って繋がって行けばいい。誰とどうつながるかは、俺達じゃなくてミタマ自身の判断に委ねる。ミタマだって、自我や記憶、判断能力を持ってるんだ。隣にいるミタマが、自分よりも前の時代に居たのか後に居たのかくらい分かるだろ。

 普段からミタマにあれこれやってもらってるんだし、今くらいはミタマの指示に従って行動してもいいじゃないか。

 

 

「…有り、だな。それぞれが繋がる相手を探し、班を作って大きくしていく。大きくなった班同志で、その中の一人と一人が繋がる事ができれば、二つの班が統合される」

 

「それで正しい順に並び変えられるとは…いや、ミタマが結びつく事自体がオオマガトキに影響を与えるのであれば、無理に全員が繋がらなくてもいいのか。一発勝負、それが正しい理論であるという保証もないが…他にすぐ打てる手もない、か」

 

 

 博士と大和のお頭は、苦々しく塔と鬼達を見た。

 追い立てる役の鬼達は、モノノフ主力部隊に狩られて大分数を減らしている。もう残っているのは烏合の衆と言っていいだろう。それでも里に近付かれるのは死活問題なので、一匹残らず狩り尽くさないと安心できないが。

 塔はと言うと、自分の状況を理解しているのかいないのか、橘花と木綿季が張った結界近くでボケッと座り込んでいる。

 

 

「…いや、違う。あれは座り込んでいるのではなく、動けなくなっているのだ。足の動きをよく見てみろ」

 

 

 脛毛だらけの足なんぞ見てもなぁ…。イテッ、冗談だよ殴るなよ博士。

 で、足? …痙攣してるな。成程、立つに立てなくなっているのか。

 さっきからドンバンドンバンやってたから、傷でも受けたか? …いや、不自然なくらいに傷が無い。少なくとも、さっきの爆発はまともに浴びた筈なのに。

 

 

「大方、脛毛が鎧代わりになったんだろう。塔本体には傷が入っているというのにな」

 

 

 脛毛にそんな効力が…。悪路を平然と走り抜けて傷一つ無かったのは、脛毛と異様に分厚い足裏のお陰と言う事か。

 そんな心底どーでもいい事はともかくとして、傷を受けた訳でもないのに走れない…捻挫したという訳でもなさそうだ。

 純粋に、体を持ち上げる力が無くなっているようだ。

 

 

「走る力が無くなったというより、走る必要が無くなったから、そちらに力が回されなくなったのだろう。塔自身に自覚があるかは知らんがな。いずれにせよ、塔が走れなくなった以上、鬼が接近する前にどうにかしなければならん」

 

「そうだな、結界を超えて鬼が塔に近付けば、ここぞとばかりに破壊してオオマガトキモドキを起こすだろう。…ここで陣取る必要は無くなった! 総員、塔の元まで急行するぞ! 残った鬼達を討伐してから塔に対処する!」

 

 

 大和のお頭の号令に、里のモノノフ達が一斉に動き始める。うちの子達にも同行するよう伝え、俺も一足先に…と思ったが。

 橘花、お前も来るんだよな。

 

 

「ええ、勿論です。鬼達を足止めする結界を張り続けなければいけません。 ここで私と木綿季さんだけ取り残されても困ります」

 

 

 ま、そうだな。よし、木綿季、俺の頭の上に乗れ。橘花は俺が背負っていく。

 揺れないように走るから、そのまま結界は張り続けてくれ。

 

 

「お任せ! 速度出して行こう!」

 

「あなたに背負われるのも久しぶり…いえ、私自身は初めてでしたね。繋がったまま山野を駆けた事もありましたが。あれもまた中々に刺激的でした」

 

 

 それはまた今度、カタがついたらな。…大和のお頭に妙な事聞かれるから、そーいう事は言わないように。

 さて、向こうに着いたら…。

 

 

「一応言っておくが、そのまま参戦するような事はするなよ。お前のところの連中を取りまとめてもらわねばならん。先程の策を使うのであれば猶更だ」

 

 

 …むぅ、ちゃっちゃと鬼を片付けた方がいいと思うんだが?

 

 

「その間、橘花を守る者が居なくなる。口惜しいが、万一鬼に接近されたり塔が暴れ出したりしたら、俺や里のモノノフでは力不足だ。お前の所の連中も、護りは苦手だろう。間違いなく最強戦力のお前を、橘花から離したくない」

 

 

 …分かった。大和のお頭の判断に従うよ。

 確かに、俺達が塔を囲い込んでも、大人しくしていると考えるのは楽観が過ぎるしな。

 

 それじゃ行くぞ。…博士は?

 

 

「もう行った。対象を観察するなら、近くで見るに越した事はない。と言って」

 

 

 相変わらずだなぁ…。よし、行くぞ!

 

 

 

 

 

 



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541話

今更気付いたことー。



修羅連舞砕、崩撃雲身双虎掌じゃねーか!
で、これをどう使えと。


 

 鬼疾風を使う訳でもなく、移動するうちの子達と里のモノノフと共に塔の近くへ。

 「橘花様を背負うとか羨ましい」みたいな声も聞こえたが、背負う所の話じゃないだよねー。いや今はナニもしてないけど。

 

 それはともかく、状況は思ったよりも厄介だったようだ。

 塔が動かなくなっている。これはいい。

 橘花と木綿季の結界に阻まれ、鬼は足止めされている。これもいい。

 

 主力部隊が少々手古摺っている。…この辺からが問題。

 塔に近付いて分かったのだが、既に塔からは貯めこまれた力が徐々に流れ出しているようだった。オオマガトキを起こす為の力であると同時に、その力は普通の鬼達に力を与えるものだったらしい。元が、鬼達が集めた血の力モドキだからな…。納得できる話だ。

 このため、塔に近付けば近づくほど禍々しい空気や気配が漂い始め、異界…と言うよりは、力場が形成されている。鬼達には強化、主力部隊には弱体化の効果が現れているようだった。

 妙に鬼達が粘ると思っていたが、この為かぁ…。

 

 流石に俺もこの力場を消し飛ばす、なんて真似はできない。やれるとしても、味方への被害をお構いなしにやる事になる。流石にそれは…。アラガミ化したら、異界を消し飛ばした鬼が俺だってバレるしな。

 

 

 

 クッソ、虚海が突然出てきて手を貸してくれないものか。…いかんな、他人の力を狩場で当てにするようじゃ。

 

 

「おい、何か出てきたぞ。お前、あれを知っているか? 少なくともこの世、通常の鬼に属するものではない。…貴様、異界の知識を持っているのだろう」

 

 

 博士が俺の頭を叩いて注意を向けさせる。

 指さす先は、塔の真上。

 

 

 …空に穴が開こうとしている。赤黒い雲に覆われた空、その中にぽっかりと開いた向こう側の見えない円。

 あの光景には覚えがある。オオマガトキが開かれる時の光景だ。

 ゲームでも見たし、何度か現実でも見た。…実を言うと、あんまり覚えてないが。

 

 

 でも、いつもと何か違うような気が。

 雲は赤黒いだけじゃなくて、なんか赤雷みたいなのも走りまくってるし、ウネウネした物体が円から伸びてきてるし。……あれは……木? の根っこ…に見えるが…。

 何だ、鬼達の世界にある木にあの円が繋がってるのか?

 

 

「…違うな。あれは根ではない。枝だ。…この世界の樹木とある程度以上の共通点があるとすれば、だが」

 

 

 枝ぁ? …確かに言われてみれば…大きさに惑わされて根だと思ったけど、特徴的には…。と言うか、大きさで言えば根だろうが枝だろうが異様の一言か。

 どっちにしろ、何であんなところからそんな物が出てきてんだ。しかも瘴気まで噴き出してきてるし。

 

 

「あれは…鬼達の世界に繋がった訳ではなさそうだ。正確には、そこまで届かなかったようだな。どこか妙な、次元の狭間とでもいう所に繋がって…あの枝はそこから…」

 

 

 博士が言葉を止めた。珍しく絶句している。

 もう一度俺も空に目を向けて……うん、これは黙るわ。

 

 

 円の中が見えてきた。その先では、得体の知れない肉の海のような物が蠕動を繰り返していた。

 その肉の海から、何かがせり上がって来て、向こう側から円を覗き込んでいる。

 

 顔が見える。人の顔だ。色々と異形だけど。

 金髪、赤く光る眼、ひび割れた真っ白な肌。なまじ整っているだけに、無機質さを感じさせる表情と異質さで言いようのない不気味さを感じさせる容貌。

 鬼なのだから…いや、鬼ですらないのだから、人間味が感じられないのは当たり前だ。だが、あいつはあんな姿になる前から、人間味なんて感じさせなかった。

 

 

 

 

 

 

 っていうか、ラケルてんてーの顔じゃねーか!

 

 

「羅蹴天帝? 何者だ」

 

 

 いや大和のお頭、日本人名じゃねーから。天帝でもないから。うえええ、何やってんだあの人…元々人かどうか怪しかったけど、まさかああまで人間辞めるとは…。

 と言うか、アレがラケルてんてーに関係しているとしたら、鬼じゃなくてアラガミ関連か? ここ討鬼伝世界…いや、博士が言ってたように、あの円を通じて次元の狭間みたいな所に繋がったのか。だったら何が出てきてもおかしくはないが…。

 

 いやいや、顔が…顔らしき部分が俺の知り合いと一致しているだけだ。無関係って可能性も、無くは無い。

 

 

「あなたをじっと見据えているようですが…」

 

「どう見ても友好的な感じじゃないよね」

 

 

 口元が動いている。えーっと……じ? り? う? す? …ジュリウス、か…。

 …本人くさいなぁ。

 

 何でこんな所にあの人が出てくんだよ…。…でも、ちょっと見えてきたぞ。

 

 あの木の部分と、肉の海。GE2のエンディングであった……なんだっけ、螺旋の樹、だったっけか。

 木の部分が螺旋の樹だとすると、肉の海は終末捕食か。そういや、あんな感じのに呑まれてデスワープした事もあったっけな。あっという間の出来事だったから、あんまり覚えちゃいないが。

 

 詰まる所、あれは螺旋の樹が作られはしたものの、何らかの理由で拮抗できずに圧し負けたか、出来上がった後にラケルてんてーの謀略で壊れたか何かした結果なんだろう。ラケルてんてー、自分が死んだ場合の謀略も準備してたからな。

 んで、いよいよもってどうにもならなくなったので、榊エモン辺りがどうにかして次元の狭間を開くようなトンデモ装置を作り上げ、そこにあれを放り込んだ、と。

 そしてアレは何もない空間(多分ね)を漂い続け、今回のオオマガトキもどきでそこに繋がってしまった。

 

 …どんな天文学的確率だと言いたいところだが、大方そんなもんだろう。

 今までのループであんな物が出来上がった覚えはない。いつぞやループに至っては、俺が直に首を跳ねたくらいだし。

 と言う事は…クサレイヅチに因果をまるごと奪われた、覚えていない幾多の繰り返しの中でああいう事があったんだろう。………それ言い出したら、何が出てきてもおかしくねーんだよな。橘花の話じゃ、覚えてたら確実に廃人になるくらいに繰り返してるらしいし、それだけ繰り返せばあんなモノが出来上がる可能性も多少はあるわな…。

 

 

 

 

 ていうか、これマジでヤバイんですけど。オオマガトキモドキと終末捕食。どっちも世界レベルの案件じゃないですかヤダー!

 オオマガトキモドキはまだ対策を考えておいたけど、この状況から終末捕食って、打つ手が思い浮かばないよ!

 

 …いや待ておちつけ、あれは終末捕食そのものじゃない。ラケルてんてーと混じってるみたいだし、特大級にヤバそうだがアレ自体は単なるアラガミだろう。何でも食って、延々と大きくなり続けるアラガミ細胞の塊。

 だったら、消し飛ばすなり次元の狭間に押し返すなり、まだ何とか出来る筈。

 

 

「考えは纏まったか? なら、さっさとあれをどうにかしろ。何だか知らんが、不愉快で仕方ない」

 

 

 まぁ、全てを捕食する現象の具現みたいなもんだからな。本能的に嫌ってもおかしくはない。

 しかし、こうなるとうちの子達が一緒に来ていたのは幸運だな。アレには物理攻撃はほぼ効かないが、霊力を使った攻撃なら通る。俺が囮をやっている間に、タマフリをありったけ叩き込ませよう。

 

 …空の円から、枝…まるで手のようだ…が這い出して来る。

 強い抵抗を突き破ろうとするように、ラケルてんてーによく似た顔が空間の断面に押しつけられる。塔から立ち上る瘴気で、次元の穴が少しずつ広がっていく。

 

 一拍置いて、何かが突き破られるような音と共に、終末捕食の頭がこの世界に顔を覗かせた。

 

 

 

 さて、どうしたもんか。どうにかしろと言われてもな。いやどうにかしなけりゃ、冗談抜きで滅亡の危機なんだけど。

 アレが地上に降りてくる前に潰すのが理想なんだが、流石に距離があり過ぎる。タマフリだって距離で減衰するんだから、ここから上に向けて撃ったとしても、届くころには豆鉄砲同然だろう。

 幸い、終末捕食は一気に全身をこの世界に押し込む事はできないようだ。体に対してオオマガトキモドキが小さすぎる。自分の体の形を変えて何とか通れるようにしようとしているが、何度もつっかえていた。体の形を変えるにしても、限界はあるらしいな。

 

 ここから攻撃しても効果は薄い。というか、何でも喰らう終末捕食だし、叩き付けられたエネルギーを吸収してしまう可能性もある。

 攻撃が通る可能性が一番高いのは…やっぱり神機の直接攻撃かな。触れた部分から喰われなきゃいいんだが。

 

 …何にせよ、こうしていても始まらんか。とにもかくにも距離を詰めなきゃならん。

 橘花、すまんがそばを離れる事になる。うちの子達に守ってもらってくれ。

 

 

「大丈夫です。私とて戦う手段が無い訳ではありません。何より、戦場に出てきた時点で覚悟は決めています。私の事に構わず、全力で戦ってください。それが、きっと一番の解決方法です。今までの繰り返しでも、そうだったんですから」

 

 

 …そうか。そうだったかな。下手に暴れて事態をややこしくした覚えばっかりだけど。

 じゃ、行ってくるぞ。

 

 

 

 あまり気は進まないが、行く先は座り込んでいる塔の上。現状、この近辺ではあそこが一番終末捕食に近付ける。

 塔がじっとしてるとは限らないから足場が不安定になる上、終末捕食が塔を破壊したら落下一直線。おまけに塔から漏れ出す瘴気でデバフ山盛りという悪手だが、他に方法が無い。

 

 

 塔の体を駆けのぼる。抵抗があるかと思ったが、塔は脛毛もとい足を投げ出して座り込んだまま微動だにしない。

 …まるで、気力を全て失ってしまったかのような無頓着振り。考えてみれば、塔はオオマガトキを起こす為に逃げろ、という命令を与えられて、それに従っていた。モドキとは言えオオマガトキを発生させた以上、逃げ回る理由も無くなったのかもしれない。

 或いは、そうするだけの意識すら無くなっているのか。塔から溢れ出している瘴気は、塔に貯め込まれたエネルギーそのもの。塔はそれを消費して、足を作ったり、逃げ回ったりしていた。ならば、そのエネルギーが減って行けば、出来る事は少なくなるし、それどころか意識さえ無くなっているかもしれない。

 そうだとしたら、足場が揺れ動く心配が一つ減るので、有難い事ではあるんだが…。

 

 

 

 塔の天辺に駆け上がった時には、終末捕食ラケルてんてーは細く伸ばした体をこの世界に随分と捻じ込んでいた。全体像がどれだけあるか分からないが…いや、さっき見えた分だけでも、この10倍はあったな。

 木からぶら下がって獲物を見る蛇のように、伸ばした体で俺を見ていた。ラケルてんてーの面影が残る顔は、よく見れば小さくじゅりうす、じゅりうすと繰り返している。

 意思を持っての事とは思えない。ここにジュリウスが居ないのは明白だ。こいつが発生したループでのジュリウスは……あまり考えたくないが、螺旋の樹みたいなものが終末捕食に取り込まれているという事は、そういう事なんだろう。

 ラケルてんてーの意思が無いとしても、俺を注視してるって事は、獲物として興味を持っているか、計画の邪魔になる障害だったという意識だけが残っているのか。

 

 何にせよ、こっちに集注してくれるのは有難い。このまま下に降りられるのが一番危険だからな。

 

 

「じゅ  り  う す !!!」

 

 

 それって鳴き声? なんて思う暇も無く、体を伸ばして掴みかかってくる終末捕食を避ける。ラケルてんてーの顔部分目掛けて、神機による銃撃。更に伸びた胴体に斬り付ける。続けてタマフリと投げナイフで追撃。

 塔に激しく体をぶつけた終末捕食。予想はしていたが、痛痒を感じている様子は無い。

 

 …が、攻撃が全く通らないという訳でもないようだ。投げナイフは刺さったものの、そのまま取り込まれた。神機による銃撃、つまりオラクルパワーはほぼ無効。効果があったのは、タマフリと神機による直接攻撃のみ。この分だと、鬼杭千切もどれだけ効果があるか。

 線引きの根拠がイマイチ分からないが、それで削り切れ、或いは押し返せって訳だ。

 

 終末捕食の動きは……。

 

 

 

 よっ、 ほっ

 

  うらっ!

 

 

 …よし、読めるし対応できる。率直に言って、こいつの動きは単純だ。ただ只管に俺を狙って、スピードとパワーに任せて捕らえようとしてくる。 

 体自体は不定形で、どんな動き・形も自由自在の筈なのだが、実際にはそれこそ蛇の動きに近い。こいつの動きの軸になっているのは、オオマガトキモドキから突き出された部分。

 どんなに不定形で、素早く形状変化したとしても、体を支える軸が丸見えであれば予測はつく。素早く立体的に動く為に、骨や関節のような部位を捨てられてない。つまり、半分近くは生物と同じ動きなのだ。

 終末捕食だってアラガミと同じ性質を持ってるみたいだからな。食った物を学習した結果、俺のよく知る敵の動きに近付く…か。皮肉なもんだね。

 

 大きな蛇型の相手は慣れてるよ。ラヴィエンテにぶっ飛ばされた時の事は、忘れたくても忘れられないくらいだからな。

 

 

 が、動きが読めても押し返せるかって言われると別の話でねぇ!?

 奴が俺を捕らえようと近付いてきた瞬間しか攻撃が与えられない。カウンターの形にはなるが、それで奴に与えるダメージが大きくなる訳じゃない。質量が違い過ぎる。

 ついでに言えば、迂闊に部位破壊もできやしない。終末捕食の欠片がその辺に散らばったら、今は何も無かったとしても今後どうなる事か…。

 

 さらに厄介な事に、終末捕食が何度もぶつかり、足場の塔が崩れかけている。元々罅が入っていたのに、これだけ耐えているのは素直に凄い。内部にまだ残っている瘴気が、塔の崩壊を防いでいるのだろうか。

 だがそれも、あまり長くは保たない。塔に終末捕食がぶつかる度に、罅が増え、溢れ出る瘴気が尽きていく。

 何より、この終末捕食は『塔を喰らっている』。本命は俺のようだが、ついでとばかりに齧りついては取り込んでいるのだ。

 その為に動きが泊まる一瞬を狙い、あちこち斬りつけているのだが…。

 

 

 

 

 …考えろ。

 

 終末捕食となってまで、ラケルてんてーの姿でいるのは何故だ? 単なる残滓? それとも核となる部分がある?

 俺を執拗に狙うのは、俺の中のアラガミ細胞に反応しているだけか? それとも明確…曖昧かもしれないが…な意思を以て俺を障害と認識しているのか。

 ジュリウスの名前を繰り返し呟いているのは? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わっかんねーから大樽爆弾Gをくらえぃ!

 

 

 

 

「じゅ     りぅ すすすすす   」

 

 

 よく分からんが効いたらしい。流石はMH世界の最終兵器。

 静流達に、タマフリ使って爆弾量産させようか…駄目だ、単なる爆弾ならともかく、大樽爆弾は作り方に秘密があって教えていない。単なる火薬アタックで効くかな…。

 



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542話

 終末捕食の飛び掛かりを回避した隙に、チラリと眼下を見る。

 周囲の鬼達はほぼ掃討されており、ウタカタの主力陣もうちの子達も塔の元に集まってきている。あと、塔の足は無くなっていたが、何故か脛毛だけ抜け落ちて残っていた。

 しかし集まってくれたはいいものの、現状で参戦できるかと言われれば話は別だ。崩れかけの塔の上でホイホイ飛び回れるのは俺と速鳥、後は初穂。だが2人も3人も飛び回れる程、塔に足場は無い。

 

 「空に穴が」」「間に合わなかったの…?」「あの鬼は一体」と、口々に驚愕しているのが聞こえた。まぁ、実際大きさからしても超巨大鬼に分類されるし。

 と言うか、この光景ってアレやな、多分討鬼伝ストーリーのED…トコヨノオウを倒した後のシーンだな。

 ラスボスを討伐し、塔の元まで辿り着いたモノノフ達。しかし既にオオマガトキは開きかけていた。絶望しかけるも、その時橘花から貰った結界石が光を放つ。…で、ミタマ達が正しい順番で繋がり、「ムスヒは成れり」でオオマガトキが閉じると。

 

 

 …どうしたものかな。結界石、持ってないよ。

 つーか、この状態でオオマガトキが閉じたら、這い出てきている終末捕食がこの世界に残ってしまわないか? 核になってる部分から切り離されて活動停止してくれるならいいんだが。

 

 とりあえず、下に向かって援護射撃を依頼し、終末捕食の突進をまた避ける。…援護射撃って言っても、どれだけのタマフリが届くかなぁ。

 もうアラガミ化してしまうか? …いや、結果は同じか。あの終末捕食はアラガミだって食べる。継戦時間が短くなって、ついでに後々の自分の立場が悪くなるだけだ。

 

 どうしようか悩んでいたら、下からドンドンと爆裂音。何事かと思えば、終末捕食目掛けて大砲の弾が飛んできた。成程、据え付けていた大砲の向きを変えて使ったのか。

 しかしギリギリ届くかどうかの高度なので、着弾しても効果は薄い。むしろ着弾させられた事を褒めるくらいの難易度だが。

 

 終末捕食の目が、自分を害そうとしている獲物達に向けられる。

 そっちを見るな、と効果が無くてもオラクルバレットを叩き込もうとした時、下から初穂が塔を駆けあがって来た。

 

 

 おいどうした、この場で二人も暴れられんぞ。

 

 

「すぐ戻るわ。悔しいけど、私も速鳥もここで戦えるだけの技量はないから。それより、一発逆転の作戦を進めてる。悪いんだけど、もうちょっとあいつを引き付けて。タマフリ、霊力の攻撃は通じるのよね?」

 

 

 作戦…。ちょいと不安だが、どっちにしろ今の俺じゃ打つ手がないな。タマフリが利くのは確かだな。

 了解、どれくらいかかりそうだ?

 

 

「あいつからの妨害が無ければ、お茶が冷めるくらいの時間で終わるわ。準備が整ったら那木が鏑矢を打つ。もう一回あいつの注意を逸らして、私か速鳥がまだ来るから。仕上げの一発、任せるからね」

 

 

 了解。大一番にも慣れたもんだ。何とか決めてやるさ。

 

 

「…正直、ちょっと悔しいわ。私達の里の事なのに、後からきた人達に頼りっぱなし」

 

 

 何言ってんだい。俺らだってもう里の一員だろが。前も先もあるもんか。

 

 

「お姉ちゃんなのに、弟や妹に頼ってるのが悔しいの。…できる限りの援護をするから。してほしい事があれば、何でも言ってね」

 

 

 ん? 今何でもするって…いや言ってないな。冗談はともかく、その一発逆転の策を早めに用意してくれ。

 できれば、塔が崩れ落ちる前にどうにかしたい。

 

 

「わかって…うぁ!?」

 

 

 叫びを挙げる初穂と同時に飛び上がる。直後、俺達が居た場所を終末捕食の体当たりが薙ぎ払った。

 反撃するよりも前に、初穂の着地先を確かめる。

 

 いかん、あの軌道だと自由落下…

 

 

「あっぶな! そんじゃ、頼んだわよ~」

 

 

 …そういや鎖鎌使いだったね。

 初穂は器用に空中で体勢を入れ替え、鎖分銅を塔に打ち込む。それを起点にして体を塔の方に引っ張って、軌道修正しながら落ちて行った。

 あれなら途中でちゃんと着地できるな。

 

 よっしゃ、それじゃ気を取り直して。

 終末捕食に対する嫌がらせと対処法を、改めて考えるとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 攻防を繰り返す事数度。観察と反撃を続け、幾つか分かった事がある。

 

 まず、こいつの破片は終末捕食として機能しない。部位破壊したとしても、通常アラガミと同じように結合が解けて消えるだけだ。

 やはりこいつには核となる部分があってそこに繋がっている事か、或いは一定以上のアラガミ細胞が結合していなければ活動しないらしい。

 これは朗報。核を特定できなくても、粉々に砕いてしまえばこいつは戦闘能力、捕食能力を失う。一番心配だった、散った細胞が大事の元になるんじゃないかという心配は無くなった訳だ。

 

 次に、ラケルてんてーのような知略は無いに等しく、反射で(或いは食欲で)動いているという事。

 ラケルてんてー並みとは言わないまでも、人並みの知能があれば、下に居るモノノフ達を害するのは簡単なのにそれをしなかった。塔から剥ぎ取った岩を落下させるなり、自分の体の一部を伸ばして薙ぎ払うなりすれば、即全滅とは言わないまでもちょくちょく突き刺さる援護射撃は無くなるだろうに。そしてそれを防ぐ為、俺が隙を晒すのも予測できるだろう。

 考えてみれば、それもおかしくないかもな。

 終末捕食が発生した時点で、本来であれば止める術はない。ただ接触するもの全てを喰らい続ける。それを止める方法は無い。ただただ力圧し、いや食欲任せでいいのだ。ラケルてんてーのような知略を残す必要はない。

 今、俺だけを狙っているのは、アラガミ細胞に反応しただけ。率直に言えば『美味そうだから』だろう。

 

 だったら、どうしてラケルてんてーの面影を残しているかだが…単純に、最初に学習したから…だろうか? その方が『食べやすい』と判断して、その形を残し続けたのかもしれない。

 流石のラケルてんてーも、終末捕食に取り込まれて尚自己を残しているとは……いや、ラケルてんてーじゃなくて、彼女に囁いていたアラガミの意思か。だったらラケルてんてーが消えても、そっちだけ残る可能性はあるな。

 

 後は……疑似餌、かな。何度か反撃したが、全くと言っていいほど自分を守る動きをしない。ただただ俺に喰らい付いてくるだけ。

 脳天を撃ち抜こうが、目玉を潰そうが、喉を掻き斬ろうが、心臓がある筈の部分を穿とうがお構いなしだ。しかもあっさりと再生する。これだけやっても痛痒を殆ど感じてないようだ。

 よく分からない巨体の中に、一か所だけ造形が違う部分があれば当然目立つ。誰しも、そこが急所、少なくとも重要な部分だと思い込んでしまう。

 

 仮に、姿を現している部分全てが、人間で言う手に該当するとしたら…。手にあるのは触覚のみ。それで充分な情報を得る事は難しい。

 さっきから単調な動きしかしないのは、こちらの状況を殆ど把握できてないからだとしたら? アラガミ細胞の気配だけを頼りに、手を適当に振り回したら発見できた塔にちょっかいを出しているとしたら?

 

 オオマガトキで開いた円を見る。

 そこからは、ずっと終末捕食の体が伸び続けている。ゆっくりとだが、全体をこちらに押し込もうとしているようだ。

 …やはり、核となる部分があの先にあると考えた方がしっくりくるな。

 目の前のラケルてんてーボディを破壊したところで、終末捕食は活動を停止しないだろう。

 

 つまり…どうにかして押し返すか、オオマガトキを閉じるかせにゃならんのね。

 しかし、終末捕食の体が邪魔して閉じられないんじゃないだろうか?

 

 

 

 

 …趙火力で押し返すしかない…か。現状じゃどうにもならんな。

 やっぱり、ここは後の事なんぞ考えずにアラガミ化するしか…!?

 

 

 覚悟を決めようとした時、塔の根本近辺から力の急激な昂ぶりを感じた。その強烈さは、俺でさえ背筋が寒くなるほど。

 何より異常なのは、霊力でも血の力でもない、今まで感じた覚えのないエネルギーだという事だ。

 

 膨れ上がる力は天井知らずに高まっていく。

 眼下を見れば、そこでは塔を囲んで手を繋ぎ、輪になっているうちの子達と里のモノノフ達。その中心、塔に体を寄せるようにして立つ橘花。

 

 立ち上る力が空まで届き、オオマガトキの円を照らす。

 

 

 

「 じゅ   じゅ  じゅ  ぅぅぅぅぅ!!!」

 

 

 終末捕食が苦悶の声を上げた。見れば、円が僅かながら縮小しようとしているようだ。無理矢理通ってきた胴体部分が締め付けられている。

 …だが、やはり胴が邪魔になってオオマガトキが閉じない。あのまま閉じてくれたら、終末捕食の本体とチョン切れてくれたろうに。 

 

 

 

「お待たせ!」

 

「呆けている暇はない! 決めるでござる!」

 

 

 

 速鳥と初穂が駆け上がって来た。その背中には、何故か荷物が抱えられている。

 風呂敷で包まれたその荷物を、俺の前にドンと置いた。ジャラジャラと擦れる音を立てるそれは。

 

 

 

 …宝玉? こりゃ、シノノメの里で使ってた宝玉じゃないか! どっから持ってきたんだ!?

 いや、そんな事言ってる場合じゃないか。

 

 宝玉には一つ一つに強烈な力が籠められている。それが、こんなに数があれば…。

 

 

「締めの一発は任せるって言ったでしょ。叩き斬ってしまいなさい!」

 

 

 おうさ!

 これだけあれば、特大濃厚な鬼千切・極で行ける!

 

 さぁ…力を束ねて……!!!!

 

 宝玉に貯めこまれた力が、俺に伝わってくる。

 塔の周りを囲む皆から更に力が送り込まれてくる。

 

 暴走しそうな力を抑え込み、形を与えていく。長く、長く伸ばす。

 出来上がった輝く剣は、1キロ近い長さとなった。それだけの大きさにしても、その密度は全く薄れない。

 

 

 

 一発目ぇぇぇ!!!!

 

 

 輝く剣を横薙ぎに払う。狙いはオオマガトキの円から飛び出ている胴体部分。

 防ごうとしたらしい動作ごと、全く抵抗を感じずに叩き斬った。

 

 

 二発目ぇぇぇ!!!!

 

 

 今度は突き。剣を一度縮めて構えを変え、狙いを定める。

 あえて切れ味を鈍く変化させ、勢いを付けて伸ばした。伸びろ如意棒、って気分。

 一撃目で切り落とした断面に叩き込む。

 剣を伸ばし続ける事で強引に抵抗を突き破り、尚もこちらに出ようともがいていた終末捕食を押し返した。

 押し返した先で、終末捕食の何処かを破壊した手応えがあった。…致命傷かどうかは分からない。

 

 すぐに剣を縮めて引っ込めると、つっかえていた物が無くなったオオマガトキの円は、眼下の皆から立ち上る力に触れて、急速に収縮、そして消滅した。

 

 

 だがまだ気を抜かずに乱舞!

 

 塔から飛び降りながら剣を振り回す。狙いは本体から切り離されて落下していく、終末捕食のラケルてんてー部分。

 皆に当たらない程度に剣を伸ばし、真っ二つ。更にもう一閃、一閃、一閃。

 

 

「落ちるぞー! 円陣はもういい、退避せよ!」

 

 

 大和のお頭の号令が聞こえる。そりゃそうだ、このまま終末捕食が落下したら、塔を囲んでいる皆に直撃コースだった。

 下に居る者達が繋いでいた手を離して各々退避する。

 それと同時に、注がれ続けていた猛り狂う力が急速に衰えていき、作り出していた剣が消えてしまった。

 

 これ以上の攻撃は不可能と判断し、空中ダッシュで軌道を変えて着地。

 一息吐くと、横から分厚い手で肩を叩かれた。

 

 

「おう、大したもんだったぜ! あれだけの力を見事に制御するたぁな」

 

 

 富獄の兄貴…。

 

 

「押し寄せていた鬼達は討伐できたし、オオマガトキも防げた。…で、あれはまだ動くのか?」

 

 

 …いや、そんな気配は無いな。だが例え動かなくても、あれは存在そのものが危険だ。強いとか弱いとか、何が出来るとかに関係なく、徹底的に滅却せにゃならん。

 

 

「ほう…。おい、聞いたかお前ら! 最後のひと踏ん張りだ! あのでかいのは動く様子はねえが、油断だけはすんなよ! 後は好きなようにぶっ放せ!」

 

「「「「応!」」」」

 

 

 疲労の色を滲ませながらも、モノノフ達が気炎を上げる。この粘り強さは、うちの子達にはまだ無いな。過酷な戦を長期間戦い抜いてきたウタカタのモノノフだからだ。

 とは言え、うちの子達も黙っている筈も無く。

 

 

「あたし達も負けてられないわ! 瞬間火力はこっちが上なんだから、どんどん撃ちましょ!」

 

「あまり大人数でやってもタマフリが干渉し合いかねないわね。交代制でいきましょう」

 

「若様が一番厄介なところをどうにかしてくれたんだ。後は俺らがやらないと、無駄飯ぐらいになっちまうぞ」

 

 

 疲れは隠せないものの、まだまだやれると主張している。この子達のタマフリは、普通のタマフリよりも強力な分、負担も大きいからな。結構な長丁場になったし、意地だけで立っている子もいるようだ。

 ここで止めるのも何だな…。

 

 全員、油断だけはしないように。そいつ、何をやらかすか分からないからな。特定の刺激を与えたら爆発、そして復活なんて事になっても驚かないくらいだ。  

 直接触れるのは厳禁だ。タマフリで潰せ。

 

 

 

 指示を出して少し下がる。何かあった時にすぐ気付けるよう視線だけは離さないようにして、適当な場所に腰を下ろした。

 腰を下ろすと、どっと疲労感が押し寄せてくる。久方ぶりに、本気で疲れた。

 相手が相手だったのもあるが、それ以上に注ぎ込まれた力を制御するのに神経と体力を使った。

 

 

「お疲れ様でした。恰好よかったですよ」

 

 

 おう、ありがとう橘花。…と言っても、正直何がどうなったのか把握してないんだけどな。

 一発逆転の策があるって言うから乗って、後は状況に流されるまま斬りまくっただけだし。

 策ってどういう事だったんだ? あの宝玉は何だ? 何がどうなってオオマガトキが止まったんだ?

 

 

「御所望とあれば説明しますよ。元は、あなたが立てた策に、明日奈さんと神夜さんが追加要素を作った感じなんですけどね」

 

 

 まぁ、確かに宝玉の事を知ってて、使い方を理解してるのはあの二人と木綿季くらいだわな。

 しかし、あんな量をどっから持って来たんだか…。

 

 

「シノノメの里からです」

 

 

 …そりゃ、確かにあそこにしか無いけどさ。どうやって…。

 

 

「そうですねぇ、どこから話したらいいか…。いえ、一から説明していきましょう。まずはオオマガトキを閉じた力ですが…」

 

 

 俺の隣に座り込み、橘花は一つ一つ語りだした。



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543話

緊急事態宣言解除はいいが、せめてもうちょっと準備時間をよこせ!
15日に本社から判断が下されて、16日からお仕事再開とかスケジュールが無茶苦茶すぎるわ!

この状況で、上層部に真っ当な舵取りを期待するのが無茶なのは分かってますが、もうちょっと何とかならんかったのであるか…。
いや自分だって結構な大ポカやらかして、各位に迷惑をかけて信頼を損なってしまいましたが。
営業再開前に凹む…。

要請解除になったら、気になっていた博物館とかにも行けそうなのが救いです。
でも安心して行けるかって言われるとな…。


 まず、オオマガトキを閉じたのは、俺が発案したムスヒの方法と同じだった。

 つまり、ミタマとミタマが繋がり合い、その余波で因果を正す。これを、ここに居る全員で行った訳だ。

 

 発案した時は解決していなかった、誰と誰が繋がるか、についてだが…これはミタマの指示に従ったらしい。

 ここで少し勘違いしていた事が発覚した。オオマガトキを防ぐには確かにミタマ同士が繋がる必要があったのだが、それは別に時代順に並べる必要は無かったらしい。まぁ、結果的に大体そんな感じにはなるらしいんだけど。

 博士曰く、ミタマ同志、何らかの関係を持っている者と繋がればよかったのだ。

 知人同士であれば、当然因果はある。知人でなくても、同じ時代を生きたミタマであれば、薄くても因果は生じている。それらが繋がればよかったのだ。

 

 

「そもそも、一言で同じ時代と言っても、いつミタマになったのかは分かりませんからね。天寿を全うしてミタマになった方も居れば、本来死なない筈だった時期に鬼に因果を乱されて死んだ方も居ます」

 

 

 まぁ、確かに。同じ場所、同じ時間を共に過ごしていた者でも、いつミタマになるかはそれぞれだものな。ミタマ達自身、自分が辿った歴史の流れと違う…みたいな事を言ってた事もあるらしいし。

 それでも、強い因果を持つミタマ同志が順々に並んでいけば、自然と時代順にもなるか。

 

 100人以上のミタマの結びつき…それだけあれば、確かにオオマガトキを閉じる事だって出来るだろう。あの時感じた、桁外れに高まる力を思い出す。

 …役割分担ではあるんだけど、俺だけそこに入っていなかったのはちょっと寂しいなー。

 いや、のっぺらミタマが誰と結びつけばいいんだって話だが。

 

 

「そんな事はありませんよ。鬼千切・極…でしたか。あれを使った時、宝玉からの力だけでなく、皆からも力を注がれていたではありませんか。いわば、貴方を中心として皆が繋がっていったのです、私が仲介しましたけどね」

 

 

 そう言う橘花の手の中には、見覚えのある石があった。何度かループで預かった事もある結界石だ。持ってきてたのか…。

 

 

「ええ、私にとってもあなたにとっても、お守りのようなものですから。結界を張る媒介にもなりますし、持ってこない理由がありません。この石を通し、皆の力をあなたに託したのです。ムスヒによって生じる力だけではありません。皆が霊力を振り絞り、戦う貴方に届けようとしたのです」

 

 

 …動かない終末捕食にトドメを刺そうと、タマフリを使い続けている皆を見る。

 疲弊しているのは激戦が続いた為だと思っていたが、確かにそれだけでは説明がつかない程、皆の霊力が底を尽きかけている。

 そこまでして援護してくれたのか…。

 

 

「ですが、元より霊力も尽きかけていた為、充分な力が集まらないのではないか、という不安がありまして…。そこで持ち出されたのが、あの宝玉です。聞けば、あの宝玉は貯めこまれた力を癒す事に使う事も、逆に力を籠める事もできるそうではないですか」

 

 

 確かに、異様なまでに汎用性が高いんだよな…。でも、あれがあるのはシノノメの里だけだぞ。明日奈達なら最後の手段として持ってきていてもおかしくないが、それにしたって数が無い。

 

 

「…それはその…実は、雪華さんが…」

 

 

 雪華? 少し目を反らす橘花。

 

 

「……話には聞いていましたが、まさか本当にあれ程の力を持っているとは…。私もそれなりに術や力、それに……何と言いますか少々特殊な性癖に対する寛容さには自信があったのですが、実際に目にすると寒気すら…」

 

 

 何か妙なものに戦慄しているようだが、一体何がどうなったというのだ。そもそも雪華が何故ここで出てくるのか、そろそろ説明を続けてほしいな。

 

 

「はい…。宝玉を使って皆を回復させようとしたのは神夜さんなのですが、やはり数が足りず、充分な回復量は得られませんでした。その時、突然明日奈さんが叫んだのです。『雪華! 見ているんでしょう、宝玉を送って!』と」

 

 

 ……マジか。超絶反則技じゃねーか…。

 確かに雪華は、その力でよく俺を覗いている。千里眼の術をノーリスクで使い放題になっているのだ。特にエロい事している時とか、戦っている時とか、雪華の視線を感じる事は珍しくない。

 

 

「何事かと思いましたが、すぐに分かりました。あの多数の宝玉が、この場に転移してきたのです。…物質の転移は、私にもできると言えば出来ますが…その物質に強い霊力が籠められていれば、それだけ必要な力は跳ね上がります。籠められた力と術が干渉されてしまいますから、それを防ぐために転移させる物をより強い力で包み込んでから転移させないといけないのです。加えて、転移先が遠ければ遠い程、強い力と…それ以上に緻密な制御が要求されます。それこそ、数日かけて力を蓄え、身を清め、儀式の準備をして、それでようやく半里の距離を飛ばせるかどうか。ですが、雪華さんは千里眼の術を使用していた直後に、間を置かずあれだけの宝玉を送って来たのです。しかも、シノノメの里からこの戦場に直接。どれ程の力があれば、そんな事ができるのか…」

 

 

 ああ…。今のあいつは、色々特別性だからな。力の強さだけで言えば、橘花が10人居てもまだ及ばないくらいだ。

 それにしたって、あいつも結構きつかっただろうけどな。力の絶対量はまだ余裕があるかもしれんが、制御に関しては橘花とそう差はない筈。…いや、突然手に入れた大きすぎる力を制御するうちに、上達した可能性はあるな。ずーっと千里眼の術を使ってるから、自然と熟練していくだろうし。

 転移の術は、転移先の設定やら計算やらが非常に面倒くさいと聞く。それも、千里眼の術で視認した場所に送るのであれば、幾らか難易度が下がるかもしれない。

 

 

「別に、雪華さんが怖くなったとか、そういう事じゃないんです。文通も続けてますし、とてもいい人だというのは知っています。『趣味』に関しても色々と話が合いそうですし」

 

 

 それについては橘花の方が上だろうなぁ。色々仕込んだとは言え、一緒に居られた期間は非常に短かった。体も開発はしていたが、特殊なアレコレに関してはまだまだ教え込めていなかったのだ。

 …二人の性癖や開発についてはともかくとして、怖くなったというよりは単純に驚いた、って事かな。隣にいる友人が、ふと振り返った瞬間に世紀末覇者ばりの筋骨モリモリバスターゴリラになってたら、そりゃ驚くわな。

 

 

「言っている意味が今一つ分かりませんが、そういう事ですね。誰だって、突然自分の隣に突然山が現れたら驚きます。…ええ、そういう事ですね。言葉にしたらすっきりしました。ええ、怖がっているんじゃありません。これまで通りのお付き合いができそうです」

 

 

 そりゃよかった。…ていうか雪華はこのやり取りも……いや、視線を感じない。流石にこの距離の転移は疲れたか。今度、労ってやらないと。

 …もしもこの転移を軽く済ませられるようであったら、橘花を経由して宝玉から何から送って貰い放題、なんて考えたけど流石に無理か。…一応言っておくけど、対価は払うからな。今回送ってくれた宝玉についても。

 

 

 

「話を戻しますね。雪華さんが送ってくださった宝玉のおかげで、皆はかなり回復できました。宝玉は力を失いましたが…それを捨てるのは勿体ないとばかりに、今度は神夜さんが」

 

 

 神夜の指示で、皆はそれぞれ一つずつ懐に宝玉を入れた。その状態でムスヒを行い、更に橘花経由で俺に霊力を送り込む。

 こうする事で、力の余波が宝玉に浴びせられる。力を貯め込む性質を持つ宝玉は、溢れ出た力、飛び散った力…つまりロスとなる筈だった霊力を吸い上げて、また力を得た。

 それを速鳥と初穂で俺の元まで持ってきて、皆から注ぎ込まれる力+宝玉の力を束ねて鬼千切・極にした訳だ。

 

 ついでに言えば、普通なら一発撃った後にすぐ消え去ってしまう鬼千切・極を持続して振り回す事ができたのは、力が注がれ続けていた為。

 逆に消え去ってしまったのは、終末捕食の落下から逃れる為に円陣を解いた為、注がれる力が少なくなって維持ができなくなった為だ。 

 

 

「…と、大体こんな所ですね。何か聞きたい事はありますか?」

 

 

 いや、大体の事は分かったと思う。見事なサポート…いや、援護だったよ。助かった。

 

 

「そちらこそ、あの大物を見事退治されましたね。惚れ直し…あ、姉様がこっち見た」

 

 

 無駄に勘のいい奴だな…。手遅れだって事にだけは気付いてないみたいだが。

 さて、休憩はこの辺にして、俺も処理に加わりますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終末捕食の体の処理には、朝までかかった。

 何せ物が大きすぎた上に、直接接触は禁止でタマフリのみという縛りがあったからな。時間がかかるのも当たり前だ。

 もう放っておかないか?と言う考えも出るには出たのだが、ここは里のすぐ近く。見た目も不気味だし、得体の知れない物を放置しておくと後が怖い。

 …大分追い込まれてたんだな、改めて見ると。

 

 結論から言えば、また動き出すかも?という懸念や、取り込まれるかもしれないので直接接触を禁じたのは杞憂だったようだ。

 本体から切り離された為なのか、それともGE世界とは違う世界に居るからなのか、アラガミ細胞は完全に活動を停止していた。

 同じアラガミ細胞でしか傷つけられないという特性も消え、単なる死骸となっている。

 更に細胞同志で結合する力も弱まっていたらしい。ある程度小さく砕いたら、黒い水のようになって溶けてしまった。アラガミを討伐した後、死骸がああなるんだよな。

 

 

「それで、結局あれは何だったのだ? 異国の女の姿をしていたが、外つ国にはあのような鬼が居るのか」

 

 

 あれは鬼とはまた別者だよ。まぁ、大まかな所は間違ってないけど。

 …あれは何でも呑み込んで増殖していく…言ってみれば、アレ自体がオオマガトキみたいなものだ。放っておいたら、それこそ人だろうが鬼だろうが呑み込んでいってどうにもならなくなる。

 救いなのは、二匹も三匹も居るものじゃないって事かな。

 

 

「ふむ…。だが、オオマガトキの穴の向こうに居た本体を討滅できた訳ではあるまい。それに、一匹現れたのであれば、可能性が低くとも二匹目が出る可能性はあるぞ」

 

 

 …そうなんだよなぁ。またどっかで、あいつが出てくるんじゃないかって不安は確かにあるよ。今回あいつが出てきたのは、塔が作ったオオマガトキモドキが偶然あいつが居る空間に繋がったからだと思うが…。

 あいつを異空間に追放したのだって、多分殺し方が見つからなかった為だよなぁ…。

 それでもどっかでカチ合う可能性は高いんだから、対策を考えておかないと…。

 

 ところで、塔の方はどうすんだ。中に籠められていた鬼の力は、完全に消え去ったようだが。

 

 

「今すぐと言う訳ではないが、破壊せねばならん。もう鬼に利用されるような力は残ってないが、だからこそ非常に脆い。ただでさえ罅やら何やらが入っているのだ。いつ崩れ去るか分かったものではないぞ」

 

 

 そうか。そうだな、何かに使えないかと思ったけど、安全を考えればそれが確実か。

 じゃあ、この辺一帯は暫く封鎖した方がよさそうだな。幸い、塔が瓦解したとしても、里に影響が出るような場所じゃない。人が居なければ怪我人も出ないだろ。

 

 

「うむ…。その辺りの事は、また追々決めるとしよう。今は、この戦いを乗り切れた事を喜ぼう。幸い、死傷者も居ないしな」

 

 

 大勝利だよなー、本当に。死人が出なかったのは、苛烈な直接戦闘を行ったのが里の主力陣だけだったから、と言うのもあるだろうけども。

 さて、終末捕食も砕けるところまでは砕いたし、全員撤収するぞー!

 でかい戦を超えたし、一休みして宴会するぞー!

 

 



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544話

お仕事復帰ちゅー。
うーん、一か月近く休業してれば、色々忘れるのも当たり前だよなぁ…。

仁王配信クエスト、1日で終わってしまった…。
メインミッションじゃないから、短いのは当たり前ですが。
DLCは7月末。
それまではベルカの空を飛び回るとします。

それはそれとして、自分の作品を読み返してきて思います。
とにかく冗長。
文章量が無駄に多くて目が滑る。
何といいますか、そこそこ食べられる味付けのご飯に、過剰に調味料をブチ込みまくって元の味が分からなくなっているような…。

内容がどうのよりも先に、そっちをどうにかするべきか…。


 

 

 

黄昏月肆日目

 

 

 流石に皆疲れ切っていたらしく、屯所に戻るなりバタバタぶっ倒れて眠り始めた。

 放置しておく訳にもいかないので、以前使っていた布団を引っ張り出してきて、そこで雑魚寝。

 

 俺自身も、久々に骨に来る戦いだったんで倦怠感がある。狩りで疲労を感じるなんて、いつ以来だろうか。ここ最近、まともに狩りに出てなかったしな。でもまぁ、気分のいい疲れだ。後味が悪い事になった人も出なかったし。

 そういや、虚海は結局現れなかったなーとか、皆に対する労いをどうしようかとか、いろいろ考えている内に、俺も寝落ちしてしまった。

 

 

 

 

 

 目を覚ましたのは、自分の腹の虫と、漂ってくるいい匂いに釣られてだった。

 屯所の広間で皆爆睡しているが、姿が見えない子が何人か居る。耳を澄ますと、予想通り台所の方から声と足音が聞こえる。…明日奈だな、これは。

 

 

 おはよー。

 

 

「あら、もう起きたの? もう少し休んでてもいいのに」

 

 

 そりゃ明日奈だって同じだろ。…広間に居なかった子は、皆昼飯の準備手伝ってんの?

 

 

「私はそこまで負担がかかるような役割じゃなかったから、まだ余裕があるわ。…と言うより、いつもご飯の準備をする時間になったら、自然と目が醒めちゃって。皆もそうみたい。食事係担当としては、寝過ごすのだけはできないからね」

 

 

 食事が用意できてなかったら40人以上の欠食児童が出来上がるからな…。

 戦いが終わった直後にすまんなぁ。

 …里の方がどうなってるかは、何か聞いてる?

 

 

「あっちも似たような状況みたいよ。うちと違って戦わない一般人も沢山いるから、その人達がお世話してるみたい。宴の準備もね。ああ、宴は夕方から始まるみたい。私達も参加してくれって念を押されたわ。食材やお酒なんかは、あっちが持ってくれるそうよ」

 

 

 そっか。でも何も無しってのも申し訳ないな…。皆の分を用意している時間は無いが、代表して何か持っていくかな。その辺で猪でも仕留めてこようか。

 ともあれ、何かすぐ食べられる物は…。

 

 

「はいはい、もう出来上がってるわ。温めるから、食卓で待ってて」

 

 

 寝坊助の子供をあしらうような声音で、ひらひらとあしらわれてしまった。いや、すぐ飯食えるんなら文句は無いんだけど。

 食卓に座り込んで、飯が届くまでの僅かな時間。…何とも無しに、物思いにふける。

 

 

 

 これでストーリーはクリア、なのかなぁ。

 イベントは色々すっ飛ばしたような気もするが、少なくとも鬼達が目論んでいたオオマガトキは阻止できた。

 主要人物達の問題も、大体は片付ている…と思う。

 

 ……この後、どうなんのかなぁ。

 討鬼伝は追加版だか続編だかが出る、って聞いた覚えがあったが、その内容までは全く分からない。ただ、もう一波乱あるのは確実だろう。

 どんな話になっていくのか、見当もつかない。

 

 俺個人で言えば、クサレイヅチをぶった切って千歳を解放するという目標があるので、それに向けて動きたいところであるが…。そのクサレイヅチは、姿も気配も感じられない。

 奴の居場所を特定するなり、誘い出す方法を見つけるなりするまでは、目の前の事に一つ一つ対処していくしかない。

 

 差し当っては、まだ残っている異界の浄化だろうか…。

 

 

「はい、お待たせ。…難しい顔してるわね。考えなきゃいけない事が山ほどあるのは分かるけど、今くらい後回しにしてもいいでしょ。空腹のままだと、ろくな考えが浮かばないわよ」

 

 

 目の前に、何とも食欲をそそる匂いを立てる朝食が置かれる。白米、味噌汁、沢庵、焼き魚、卵焼き。うむ、これぞ和の朝食って感じだ。

 

 

「時間が無さすぎたから、いつもに比べるとちょっと手抜きになっちゃってるけどね」

 

 

 いやいや、十分すぎるくらいだわ。それじゃ、いただきまーす。

 

 

 

 

 飯を食っていると、匂いに釣られたのか一人、また一人と起き出してくる。流石に疲労は隠せないが、食欲は旺盛なようだ。一晩中戦い続けてたんだし、これくらいは当然か。

 こりゃ、俺も手伝いに回った方がよさそうだな。飯の後は風呂にも入りたいだろうし、色々準備しておいた方が良さそうだね。

 

 心配なのは肉体面よりも精神面。タマフリを使いまくった事による、暗示の発動だ。何だかんだで、まだ充分乗り越えられている訳ではない。

 飯を食ってる子達をこっそり観察してみたが、やはり普段に比べてソワソワカリカリしている子が多い。空腹の為…と考えるのはちょっと希望的観測が過ぎるな。 今夜にでも対処しておくか、いつもの方法で。…労いの一環って事にしておこう。

 

 

 

 起きてきた者達に夕方からの宴会の事を伝え、隙に過ごしていいが参加できるくらいに余裕を残しておくよう伝える。

 自分は差し当たり、露天風呂や大浴場の準備だ。いつも沸かすのは舞華に任せっきりだが、昇温装置やら何やらはマイクラ能力で作成済みだ。半自動で作り上げられた物なので、原理的にこれでいいのかと言われると少々自信が無いが。

 ついでだし、一番風呂を浴びさせてもらおうかな。

 

 

 

 

 

 結局、宴会の時間まで皆思い思いに過ごしたようだ。

 疲れたからと二度寝を決め込む者、頑張った自分への褒美と称して甘味処に走る者、資材の在庫が気になって休む気になれないと最低限の仕事に走る者、筋肉痛が酷いからと整体に行く者、そして倒した鬼達の素材がまだ転がってるかもしれないと戦場跡に出掛ける者。

 ちなみに、整体に行った者は同じく整体を受けている大和のお頭と鉢合わせしたそうだ。…翌日に筋肉痛とは若いっすね。本人は「久々に前線で戦ったが、鈍り過ぎた。鍛え直さねば」なんて言ってたらしいが…。

 鬼達の素材集めに向かったのは、鹿之助の友人を中心とした若手モノノフ達。当然、鹿之助も連れ出された。本人は疲れて休みたかったようだが、素材集めするなら鹿之助の能力は必須だものな。ご愁傷様。

 

 直接戦闘に参加した訳ではないが、忙しそうにしているのは里の鍛冶屋・たたらさんだ。

 機能の戦いで使用した武器防具の修繕は勿論、武具の製造・鍛錬・改造に大忙しだ。昨日の戦いは大規模だった分、手に入ったハクや素材も非常に多い。それこそ、まだ取り残している素材が残っているんじゃないかと思う者が出るくらいに。

 大きな戦い、苦戦を強いられた後に幾つもの素材と金が手に入ったらどうするか。考えるまでもない、戦力強化だ。

 冗談抜きで命に直結するからな…。今日はお役目も無しと大和のお頭から通達が出ているし、今のうちに武器の手入れや強化を、と考えるのは自然だろう。

 

 それを一度に頼まれた たたらさんは、たまったものじゃないが。

 仕事が早くて上質な人なんだけど、限度があるよな…。てか、普通は鍛冶仕事って一本打つにも何日何時間もかかるのが当たり前だし。その当たり前を平然と覆すあたり、たたらさんにせよMH世界の鍛冶屋にせよ、やはりどこかおかしい。

 そーいや、今は居ないけど前ループで会った流れの鍛冶師の清磨なんて、ろくに設備も無い場所で鍛冶してたような……いや、考えるのやめよ。鍛冶仕事に時間がかかり過ぎて、装備を整えられずに全滅しました…なんてオチが無いだけありがたいじゃないか。

 たたらさんには悪いが、頑張ってもらうしかない。

 

 あと、博士は昨日の戦いで何やら発想を得たらしく、目を覚ました茅場と何やら話し込んでいる。これに関しては、普段からあまり関わりあいになる機会が少ない為、何を考えているのか分からない。

 一緒に居る真鶴がひどく疲れた顔をしているのが気になったが、ストッパー役としてグウェンも居るし、そう酷い事にはならない…と思う。きっと。何だかんだで、昨日の戦いでも貢献してくれたし。

 

 他に変わった事は……ああ、そういやもう一つあったっけ。

 これは又聞きでしかないんだが、昨日の戦いを切っ掛けとして、一般モノノフ達がくっついた、或いは微妙だった仲が進展したらしい。

 鉄火場を潜り抜けた後はどうしたって昂るし、吊り橋効果もあるだろう。元々そういう関係になりかけていた者も居たし、結構な数がくっついたっぽい。

 …こりゃ、半年先くらいにベビーラッシュがあるかもしれんな。

 別に悪い事じゃないよなぁ。鬼が人質とってくるとも考え辛いし、何が何でも生きて帰る、あいつの為に強くなるなど、大幅な士気向上が期待できそうだ。

 その分、人間関係がややこしくなっていくかもしれないが。

 

 ちなみに、くっついたのは一般モノノフばっかりで、主力陣…つまりゲームストーリーの登場人物達には一切その手の話は無かったそーな。

 まぁ、桜花は色恋よりも橘花を守る事ばっかり考えてるし、初穂は自称お姉ちゃんだし、樒さんは何考えてるか分からないし、那木はモノノフ基準の適齢期を過ぎてるからって諦めてるみたいだしなぁ…。…口説きに行くべきかな、これ。特に那木はうちの屯所の常駐して監視兼保険医さんをやってくれてるから、ただでさえ出会いが無い状態なんだし…。

 橘花に至っては………まぁ、その、本性がどうの、それ俺のせいだろとか、そういうの以前に神垣の巫女だもの。声をかけられる猛者なんぞ居ないし、居たとしても桜花に切り捨てられそうだし、当人がもう俺にしか興味持ってない。

 

 

 

 

 

 

 そんな事を、散歩も兼ねてうちの子達や里の様子を見ていた訳だ。ぐるっと回る程度だったが、それでも宴会の時間になった。

 あちこちで篝火が焚かれ、里の中心の広場では一際大きな薪が組まれている。

 それを囲むように沢山の机が並び、その上に数々の料理が並んでいた。

 椅子が無いって事は、立食形式か。俺も含めて礼儀作法に不安があるし、ありがたいね。

 

 えらい豪華だな…。いや本当に、これだけの量の食料があったのかと感心するくらいだ。それをたった半日で調理した料理人達にも頭が下がる。

 普段であれば、大和のお頭もここまで大盤振る舞いはしないと思うが…。

 それだけ、昨日の戦いがキツかったという事か。鉄火場を超えた後は、何らかの見返りがないと士気に関わるからな。いくら大和のお頭が慕われているからって、「皆、よく戦ってくれた! だが勝って兜の緒を締めよ。鬼との闘いはまだ続くぞ! 各自備えよ!」だけでは不満も出よう。

 

 …俺もそうだな。何か目に見えて、形が残る褒章を用意しないと。単純に考えればハク、つまり金なんだけど、ハクに関しては昨日の戦いで皆そこそこ手に入れてるみたいだし…。

 やはり、何らかの娯楽施設がいいだろうか。………遊園地とか?

 

 

 また難しい事を考え始めた頃、大和のお頭が現れた。手には盃を持っている。

 

 

「さて、皆、昨日はよく戦ってくれた。いや、昨日だけではない。特にここ最近は、戦力も増えたがそれ以上に鬼の動きが活発だったからな。疲れも鬱憤も溜まっていよう。蔵を開けての大盤振る舞いだ。後に引くような諍いを起こさなければ、今日は細かいことは言わん。好きに飲んで喰え! では、乾杯!」

 

 

 宣言して盃を掲げると、皆から歓声が上がった。

 あちこちで酒樽が開けられ、下戸な人以外は次々に駆け寄っていく。酒が飲めない者には別の飲み物が用意されている。果実や蜂蜜を使ったジュースだが、これまた結構貴重な品だ。

 

 まーとにもかくにも飯だ飯! 頃合いを見て皆の様子を見て、酌でもしに行くかな。こういう場面で上司がしゃしゃり出るのも面白くないだろう。

 適当な所で、静かに飲むとしますかね。………飲み過ぎたらこの後に響きそうだし、何よりも酒で過ちを起こした前科が山のようにあるからな。

 

 

 

 

 …と思っていたんだが、うちの子達の方から絡んでくる。…いや悪い気はしない、むしろそれだけ慕われていると思えば嬉しいんだけど。

 ただ、こういう時は知人だけで固まらず、里の人達とも交流を持ってほしいんだが。あっちも見た目極上のうちの子達とお近づきになりたいと思っているようだし。

 まぁ、それこそ好きにさせりゃいいか。他の人達と交流してほしいというのも、俺の願望でしかないし。

 

 

 

 酌を受けてばかりでは申し訳ない、という建前の元、あちこち歩き回って軽い話をする。うちの子だけじゃなくて、里の皆ともね。

 大和のお頭とは、昨日の戦いで雪華が送ってくれた宝玉の謝礼をどうするとか、そういう事も少し話したんだが、まぁ宴会でそんな話してもね。あっちも里の人達に多く話しかけられていたし、あんまり時間を貰うのも申し訳ない。

 

 やらかしが心配だった子もいるが(筆頭が沙耶根尾。鬼が相手とは言え、殺戮を好む)、幸い美味い飯に気を奪われているらしく、知らない里人にしつこく話しかけられても暴れる気配は無い。…口説くのはまず無理だと思うぞ。口説けちゃったら、後が大変だけど…。

 

 

 

 

 …で、適当なところで宴席を外れ、つまみと酒を持って静かな場所へ。里の外れ、休憩用の机と椅子があるだけの、何も無い場所。

 日中でも、ここを使う人はあまり居ない。

 

 

「よう、お前もこっちに来たのか。ここはあまり目立つ場所じゃないんだがよく知ってたな」

 

「…………」

 

 

 …居ない筈だけど、どうして息吹と速鳥が居るのかなぁ?

 

 

「騒がしい雰囲気が苦手な奴や、酒は静かに飲みたいって奴も居るだけの話さ。俺はそんなんじゃないんだが、速鳥がな」

 

「…苦手という訳ではない。ただ、どうしても毒を警戒する癖が抜けぬ。宴席でそれは周囲が醒めるだろう」

 

「…って訳で、お嬢さん達と仲良くなれる好機を棒に振って、こいつに付き合いに来たって訳さ」

 

「…………」

 

「はは、お前さんもちょいと変わったかな。前までだったら、『気遣いは不要』の一言で済ませたのに。それどころか、宴席に顔を出したかすら怪しいな」

 

 

 ありそう…。自分一人だけ、こっそり里周辺の見回りとかしていそうだ。

 

 否定も肯定もしてないが、速鳥は悪い気はしていないらしい。覆面をずらし、静かに酒に口を付けた。

 俺も持ってきたツマミと酒を机に置いて腰かける。少し離れた場所から聞こえる大騒ぎが、むしろ静寂を引き立てた。

 伊吹も珍しく軽口を叩かず、この静寂を楽しんでいるようだ。

 

 

「…ん」

 

「かたじけない」

 

 

 空になった速鳥の器に、息吹が酒を注ぐ。逆も行った。

 俺も注いだり注がれたり。

 

 

「…………貴殿らは」

 

 

 うん?

 

 

「貴殿らは、好む動物などは居るか?」

 

「は?」

 

 

 息吹が戸惑った声を出した。その問いの意図を理解して、更に戸惑った。

 雑談だ。

 速鳥が雑談をしようとしている。

 悪い事ではない。むしろ好ましい事だ。人との関わりをあまり持とうとしない速鳥が、自分から歩み寄ろうとしているのだから。

 

 息吹も俺もどういう風の吹き回しかと思ったが…いや、考えてみればおかしな事でも何でもないな。共に戦う仲間なんだし、いつ何が切っ掛けで距離が縮まろうと不思議でもなんでもない。

 

 

「そうだなぁ、俺は猫が好きかな。どれだけ尽くしてもつれない態度なのに、時々見せてくれる愛らしい姿が堪らない。まるで素敵なお嬢さんみたいだ」

 

 

 俺が好きな動物ねぇ…。人間の女、は駄目だよな。

 その時の気分にもよるけど、ペンギンとか好きかな。見てるだけで涼しくなるし、何より無害! 猪や蜂に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだよ。

 

 

「ぺんぎん…? そりゃどんな動物だ? 速鳥、知ってるか?」

 

「いや…。図鑑などでも見た覚えはない。それは、どのような動物なのだ?」

 

 

 鳥の一種なんだけどな。空は飛べない、でも泳ぐ事ができる。色々種類があるが、こんな感じの嘴があって…。

 

 

 

 

 男3人で、他愛もない話を続けていった。男同士の付き合いは久しぶりだし、ついつい興が乗って飲み過ぎちまったよ…。



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545話

 ちょっと頭がフラフラするが、男3人の飲み会は終了。俺一人で呑んだ酒の量を跳ね上げてしまった。

 宴会場に戻ると、結構な有様になっていた。

 まだ飲み比べを続ける奴、とにかく甘い物ばかり食ってる奴、酔い潰れて端っこに転がされてる奴。

 

 …里の人達が、一部居なくなっている。揉め事があった様子は無いから、どっかにシケ込んだかな?

 うちの子達? 高いびきかいてる子は居るけど、居なくなってる子はゼロだね。言い寄っていった男達は、全員撃墜されたよーだ。…個人的に、嬉しいって感情を抑えられん。好意100%じゃないとしても、他の男より俺を選んでくれたって事だから。

 

 

 大和のお頭、そろそろ潮時じゃないっすかね。飯も酒もほぼ無くなりましたし。

 

 

「うむ。俺もそろそろ眠くなってきたな…。久々に飲み過ぎたか」

 

 

 木綿ちゃんに怒られないようにね。片付けその他は明日でいいでしょ。

 明日の里周辺の警護も、俺らでやっておくから。

 

 

 ほれ、皆お開きの時間じゃぞい。歩ける奴は、歩けない奴に肩を貸してやれ。爆睡してる子は、荷車でも使って引っ張っていくから。

 

 

「若、荷車持ってきたぞ」

 

 

 おう、ありがとう骸佐。…大丈夫か? かなり顔が赤いぞ。

 

 

「あー、里の男連中と、ちょっと飲み比べて…」

 

「おいおい骸佐、顔が赤いのはおねーさんに言い寄られてたからじゃないのか」

 

「しかもかなり押されてましたな」

 

「余計な事言ってんじゃねー鹿之助に権佐! そういうお前だって!」

 

「ははは、生憎俺は適当に流しましたんで。一夜の火遊びなら結構だが、もう少し気楽な身でいたい」

 

「…俺はそういう話、無かった…」

 

「いや鹿之助は…なんでも無い、気付いてないならそっちの方がいい…と思う」

 

「何だよ骸佐!? 何かあるなら言ってくれよ! 怖いじゃん! いやそれ以上に彼女ができるかもしれないじゃん!」

 

 

 

 …鹿之助、里の女性に結構狙われてるんだよな…。牽制しあって動けなくなってるみたいだけど。少なくとも、この3人の中で異性からの好感度(ただし不純)が高いのは鹿之助だろう。

 まー落ち着け鹿之助、何なら見合い話みたいなのもその内持ってきてやるから。真剣な奴じゃなくて、軽いお付き合いとかの奴でいい?

 

 

「それはありがたいけど、この手の事で若様にだきゃー慰められたくねー!」

 

「…こればっかりは」

 

「日頃の行いですなー」

 

 

 ぐうの音も出ねぇ。

 

 

 

 

 

 今夜の事を考えると、特にな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、その後。『俺』は明日奈の部屋でジュースを飲んでいる。隣には、軽くイタした後、薄い布団を被って体を隠して横たわる明日奈。言うまでもないが、隠した事で余計にエロスが際立っている。

 頭を『俺』の膝に乗せたまま、片手でいきり立っている俺のちんぽを優しく撫で回しながら雑談していた。

 

 

「ふーん、あの3人がねぇ…。どうして骸佐は、彼女作らないんだろ? 誰でもいいとは言わないけど、居るのと居ないのとでは人生の楽しみが全然違うのに。私はあなたと会うまで、彼氏が欲しくてしかたなかったわ」

 

 

 硬派だよなぁ…。無責任な事を絶対しない、って意味じゃ尊敬できるけど、据え膳食わぬのもどうかと思うぜ。

 いざという時にヘタレる、なんて事がなければいいんだが。

 いっその事、一度そういう店に連れて行った方がいいかもしれん。……でも、この里って遊郭みたいた施設が無いんだよね。

 

 

「遊郭と言えば…どっちがお客さんになるのかは別として、正に今みたいな状況よね。どの部屋でもいやらしい事してる。隣の、神夜や詩乃の部屋にも居るんでしょ? あなたが」

 

 

 そうだな、二人の部屋にも『俺』が居るな。そんで睦言の真っ最中。

 あの二人だけじゃなくて、うちの子達で関係を持った事がある子の部屋には、全員『俺』が居る。

 そしてそれぞれコトの真っ最中だ。…浅木(若い方ね)みたいに、抱かれるのを忌避している子の場合、精神安定の為のお話のみだが。

 

 どういう事かと言われれば、話は単純だ。分身して、それぞれの部屋に向かっただけだ。某NINJA漫画の影分身の術みたいなものである。オカルト版真言立川流の術なので、戦闘等に使えないのが欠点だ。

 流石に40人近い人数に分身するのは初めてだが、エロ関係に限って言えば不可能ではない。

 

 …なんだけど、流石に感覚が無茶苦茶になるな。誰が本体と言う事でもない。強いて言えば全員が本体、本物。

 五感はそれぞれの『俺』の感覚が優先されているが、別の『俺』の感覚を受ける事もできる。

 

 

「うーん…。今更私以外抱かないで、なんて事は言わないけど、片手間にされるのは面白くないわ。…でもしっかり愛してくれてるのはよく分かるし」

 

 

 あんまり深く考えなくていいんじゃないの。色んな意味で普通の状況じゃないんだし、普通に悋気を出せるような話でもないだろ。

 大体、この状況でも愛撫を止めないあたり、答えはしっかり出てると思うけどな。

 

 

「そうなんだけどね…。でも、どうしていきなりそんな事を? いつも通りの乱交でよかったんじゃない?」

 

 

 乱交は乱交でいいんだけど、二人きりなのもいいじゃないか。この状況を二人きりと言い切っていいのかは微妙だけど。

 単に俺がヤりたかったから、って訳じゃない。

 昨日の戦いで、皆にタマフリを使わせ過ぎた。今日少し観察しただけでも、やっぱり不安定になっている子が多かった。

 乱交するにしても、どうしたって触れ合う時間と面積は限られる。人数が増えれば、それだけ接触は減る。

 だったら、俺が増えるしかないじゃないか。

 

 

「本当に増えられるとは思わなかったわ…。ところで、他のあなたの事も感じられるって事は、皆がどんな事しているのか分かるって事?」

 

 

 ああ、分かるよ。…明日奈、悪趣味な顔しているぞ。

 

 

「別にいいじゃない。どんな風にされているのかなんて、あなたと居れば知るのが早いか遅いかの違いしかないわ。こんな風に、一対一の状況が珍しいくらいだもの」

 

 

 そうは言ってもな…。普段とあんまり違わないと思うけどなぁ。

 えーっと、まず俺の自室で、召喚した直葉を背後から乳揉み中。

 神夜は実家に伝わるっていう房中術で、乳の大きさを活かしてご奉仕中。

 詩乃は名前を呼ばれるのが好きだから、正面から抱き合って囁き・耳舐めしながら穏やかに交わってる。

 木綿季は………まだカラクリの体から出られないし、自分の体をちゃんと創る事もできてないから、カラクリの中に霊力的触手を送り込んでアヘアヘ言わせてる。声だけでエロい。

 雪風は主導権を握ってみたいって言うから、騎乗位で好きにさせてる。

 不知火は溢れる若さや勢いに蹂躙されるのが好きだから、四の五の言わずに押し倒して犯し続けてる。

 天音は全裸四つん這い、後ろから突かれながら散歩中。

 災禍は赤ちゃん言葉であやしながら授乳手コキ。

 時子は最近興味が出てきた縛り羞恥攻めで悶えてる。

 まりは口淫から眼鏡に向けて顔射したところ。

 浅黄は過去の任務で鍛えられた房術を試したいって言うから、受けに徹している。

 アサギの方は「本当にまともな職場だった…ちゃんと指示に従ってる…」って感極まって泣いてたから慰めックス。

 玖利亜は対面座位で繋がりながら、お互いに乳首責め。

 紫は手弱女扱いされたい子だから、優しく姫を扱うように。

 静流もゆったり交わってる。激しくするとあっという間に果てるクソ雑魚まんこにされてるから。

 紅はお父様と娘の疑似近親相姦。

 六穂はデレデレで甘えてくる。しかも敏感になる為の毒を使ってる。

 深月は全裸土下座から、自慰をしながら足の裏を舐めて奉仕中。

 それから…沙耶根尾に…凛子に…凛花に…藍那に…舞華に…きららに…

 

 

「うーん……………確かに、普段とあんまり変わりないわね。と言うか、舞華ときららは何時の間に?」

 

 

 これ聞いてその感想っていうのが一番問題だけどな。二人を抱いたのは、戦いの前の夜だった。

 全く、この建物作った時に防音防震にして、更に男の部屋を別棟にしておいてよかった。部屋によっては上下左右の部屋から、音が漏れ出してるんだよ。

 

 あと、橘花のところに忍んで行ったら、侍女の一人を篭絡して待ち構えてた。

 俺に差し出す為に調教したらしい。

 

 

「…橘花、凄いわ。神垣の巫女なのに。いや、思い返すと雪華や歴代巫女もそうだったけど」

 

 

 あの子の場合、巫女やってたからその反動でな…。

 …ところでさ、俺の術に感覚共有ってのがあるのは知ってるだろ。身を以て。

 

 

「ええ。おかげでおちんぽがどんな風に感じるのか、体で理解したわ。神夜が抱かれている感覚を直に感じながら、あなたの目の前で自慰をした事もあったわね。それが?」

 

 

 …今使ったらどうなるのかなーって。

 皆が抱かれている快感を全員で共有して、更に射精の快感をごっちゃにして叩き込んだら…。

 

 

「…いや流石にそれは壊れるわよ。ちょっと興味あるけど、絶対脳味噌焼き切れる。下手しなくても、みんな纏めて廃人になるわ」

 

 

 ですよねー。 想像した明日奈も、恐ろしそうだが若干心惹かれているようだ。

 何と言うかこう、麻薬的な魅力の快楽だ。手を出したら、周囲を巻き込んで破滅する。でもその破滅を含めて魅了される。

 完全にキメセクそのものだ。

 

 

「きめせく? 何それ、気持ちいいの?」

 

 

 簡単に言えば、薬で女を昂らせて犯すってこと。しかも中毒性がある奴でな。

 

 

「女として許せる事じゃない……んだけど、もっと性質の悪い事をやってるのが居るのよねー」

 

 

 本当にな。半ば洗脳か人格改造の領域に踏み込んでるんだよなぁ…。

 中毒性も、得られる快楽・興奮もヘタな薬じゃ足元にも及ばない。中毒性に関しては、薬物依存的な話じゃないが。

 

 

 

 

 まぁ、そういう明日奈も相当なもんだけどね。さっきから、いつ『これ』を付けてくれるのか、ずっと期待してただろ?

 ふくろ から取り出したのは、紐のついた首輪。

 自覚があるのかないのか、目にした瞬間に表情がドロドロと溶けていく。

 

 犬にするように首輪をつけてやると、スイッチが切り替わったのが分かる。

 ご主人様が大好きな雌犬になる。

 

 …さっきの感覚共有の話、やってみようかなぁ? どれくらいの快楽で人間が死ぬのか…興味はある?

 

 

「…あなたがしたいなら…いいわ。何だってするし、壊されるならあなたがいいの…」

 

 

 …さっきの答えと真反対の返答。こうなったらもう、明日奈は俺に絶対服従になる。

 いい子だ。ご褒美に可愛がってやるよ。

 

 明日奈は横たえていた体を起こし、自分から尻を向ける。ご主人様の肉棒を受け入れようと、秘裂を差し出した。

 

 

 



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546話

 

 

黄昏月伍日目

 

 昨晩は楽しかったなー。

 一人一人を相手にした後、全員眠りについたら夢の世界に引き摺り込んで、シチュエーションプレイで好き勝手しました。

 じっくり一人の体を味わうのもいいけど、王様気分・ご主人様気分という意味では、やっぱり沢山の子を侍らせて好き勝手する方が味わえるね。

 

 ちなみに夢の中の舞台は学校。寺小屋という意味ではなく、女子高ね。うちの子達はそこの学生と教師、或いはPTA会長などの学校関係者。俺はそこで好き勝手できる支配者、みたいな設定だった。

 皆には馴染みのないシチュエーションだけど、そこは夢の中だから。理屈とか経緯とか全く分からないけど、夢の中では「そういう設定だ」ってなってる事、よくあるよね。

 ………ん? よくよく考えると、これってエロに浸かってる場合じゃない気がしてきた。上手く使えば、文字通り睡眠学習に使えるんじゃなかろうか。それこそ、繰り返し同じ夢を見させれば、うちの子達にもっと書類仕事の重要さとやり方を教え込める気が…。

 …まぁ、それは痕で考えよう。夢の中へ引き摺り込むのだって、オカルト版真言立川流の一部だ。エロ関係でない事に使える気がしない。、

 

 ちなみに夢の中でやった事は、箇条書きにするとこんな感じである。

 

・校長の浅木を篭絡して、エロい校則を作ったり、制服をコスプレにしたりする。夢の中なら、コスチュームからランジェリーまで自由自在。

・それを止めようとする副校長のアサギを、校長命令として見本にする。日中から梁型を挿れたまま、誰かに聞かれたらスカートをたくし上げて見せなければならない。

・性奴会長の明日奈を、全校集会で堂々と犯す。ご主人様に仕える生徒(性奴)の見本を実演する。

・性奴会副会長の神夜を、全教室でご奉仕のお手本にする。

・PTA会長として相談(という名目の逢引)に来た不知火を、雪風と一緒に保健室で接待する。

・親子丼を見ていた保険医の那木に、性の個人レッスンを行う。

・舞華のようなヤンキーギャルを生徒指導室に連れ込み、性活指導。

・紫や時子のような教師役に「うわキッツ!」な恰好をさせて授業させる。勿論後でご褒美、ないしお仕置き。

・風紀委員長の深月には、トイレ役を命じる。流石に食〇はさせてないが、飲尿とウォシュレット後の尻舐めは嬉々としてやってくれた。

・その辺を歩いている時にムラッと来たら、通りすがりの子を問答無用で襲って良し。抵抗したり止めるのは校則で禁止されているので、やったらエロい罰則が待つ。

 

 

 うむ、どこのバカエロゲーじゃろな。

 

 今日は殆どの子が朝からハイテンション状態だった。更に、夢で見た新しいプレイに興味を示す子も居た。

 昨晩たっぷり可愛がって、体力回復・霊力増幅まで施したからね。仕方ないね。

 とは言え、それをぶつける先も無いんだけどな。

 鬼達も大きな損害を受けた為か、自分達の縄張り争いにかまけて里の近くまで寄ってくる事はなかった。

 

 …とりあえず、自分達で稽古しておくよう指示を出す。勢いに任せて何か妙な事をしでかさないとも限らないからな。異界に突撃とか。

 そのテンションを、書類仕事その他に向けてほしいと思うのが贅沢なんだろうか…。先日の戦いで消費した物資が多すぎるからなぁ。在庫の確認やら補充やら設置した大砲の片付けやら、やらなければならない事は山のようにある。

 でもそれを任せられるのは、秘書執事チームくらいなんだよな…。

 そもそもテンション高く書類仕事ってむしろ失敗しそうだし、これは一人一人に少量の仕事を割り振ってやらせるしかないか。

 

 

 

 

 それと、ハイテンション状態なのはうちの子達だけではない。………俺の後ろを三歩下がってついてくる、那木さんもニコニコハイテンション状態でしてね? ついでに言うと、さっきの夢の中にも登場しとるじゃろ?

 俺と言うナマモノを知る方ならば、何が起こったのかなんて説明の必要すらあるまい。

 

 ちゃうねん、と言っても何処が違うんだよボケとしか言われそうにない訳ですが。少なくとも最初からそのつもりではなかった事だけは告げておく。

 いやね、昨日の『俺』の一人、浅木と話だけしてイタさなかった『俺』が、彼女の部屋から退室し、どっかに乱入してサンドイッチ・輪姦プレイにしようかなー、なんて考えていた時だ。

 廊下でいつになくベロベロになっている那木を見つけたんだ。それはもう、酷い酔っぱらい状態だった。厠に行くつもりだったようだが、彼女の部屋にも厠は設置されてるのですが…。

 

 普段の那木なら、ここまで呑まない。本人は割と酒精に強い方だし、何よりも飲み方を心得ている。

 激戦後の打ち上げと言う事を差し引いても、ここまで呑む事は無い。と言うか、少なくとも宴会では飲んでなかった。

 

 …じゃあ何でまっすぐ立つのも難しい程酔っぱらったかって言うと、周りの部屋からギシギシアンアンが聞こえまくって、呑まなきゃやってられなかったからだ本当にごめんなさい。

 …半ば諦めていたとは言え、やっぱ他人がイチャつくのを心穏やかには見てられないよな…。厠から那木の部屋に連れ帰ったら、普段のキャラを放り投げる勢いで愚痴を零された。

 自分には女性としての魅力が無いとぼやいていたので、そんな事は無いと褒め殺した。

 

 

 そして押し倒された。騎乗位でヒィヒィ言わせた。夢の中でも善がり狂わせた。以上。

 うん、全くもっていつもの事ですな。強いて違いを挙げるなら、酒の過ちを起こしたのが俺ではなく相手の方だったって事くらいだ。

 

 まー結果的に特に問題は無い。女をコマすのは今更問題に上げるようなもんでもねーし、那木もそこに文句は出さないように躾けるのは簡単だった。元々、妾なんかも珍しくない世界観だし、本人以上に詳しいからね、那木の体は。

 何かやらかした時に、那木が庇ってくれる可能性が増えたと思えば、外交的にもそんなにアカン事じゃない。

 個人的にも非常に嬉しいしね。

 

 

 

 さて、那木の事は一旦置いといてだ。

 本日はもう一つ、特筆すべき事がある。 

 

 きららに課された罰則の事だ。

 

 独断専行・情報伝達を怠った罪に対し、本来であれば追放物だったのをどうにか誤魔化して設けた罰則。

 罰則の案を募り、毎朝それの籤を引いて実行する。例え即追放であろうと、死刑であろうとだ。

 最初の罰則は皆の前で腹踊りだった。それ以降も、何とかかんとか殺意の高い指示を避け、本日まで漕ぎつけた。

 初めは「許すまじ」と言わんばかりの罰則ばかりだったが、最近では随分軟化してきた。笑い者になろうが重労働をさせられようが、文句を言わずに(時々口から魂が抜けてるが)続けている事から、少なくとも謝罪の意思は本物だと認められたらしい。…つまり、その分容赦なく玩具や便利な道具扱いされていたという事だが。

 

 その罰則が、本日で最終日となる。これを乗り越えれば、きららは正式にうちの子として扱われる。

 先日の戦いにおいても大いに尽力した事もあり、不満の視線はあまり無い。

 

 無いのだが………おい、この罰則書いたの誰やねん。

 

 

「若、提案した者を探らないという規則だったのでは」

 

 

 いやそうなんだけどさぁ…。最終日に狙ったようにこれって。

 …いや待てよ、本当に狙っているとしたら。

 

 きららとイタした翌朝からあの戦いが始まったし、観察できるような暇はなかった。…気付いてる奴は気付いているだろうが、確信を持っているのは二人。

 どっちだ?

 

 

「…ちょっと、いいから最後の罰則を見せなさいよ。話が進まないじゃない」

 

 

 …きらら。早く終わらせたいのは分かるけど、どっちにしろこれ、夜までかかるぞ。

 ほれ、これ見てみ。

 

 

「えーっと…達筆すぎて読みにくいわね。…………『被虐総受』…? ……? ………???」

 

 

 意味が分からない、って顔してるな。そっち系はまだ教え込んでないから無理もないか。

 つまりだ…睦言で、沢山の人達に虐められろ、って事だ。なお、ここで虐めるというのは可愛がる事を指す。

 

 

「…? …………!!!!!!!??!??!?!!?」

 

 

 おお、顔色が急変した。

 きららはまだノーマルな事しか経験してないからなぁ。いや初体験が舞華との3Pなのは充分アブノーマルなのかもしれんが、縛るとか道具を使うとかはやってない。

 虐める=可愛がるについては、昨晩たっぷり体に教え込んだから理解しているが。

 

 と言うか、これ書いたの明日奈か舞華のどっちかだよな。きららと関係を持った事を知っているのは、現場に居た舞華と、昨晩話をした明日奈のみ。

 そして無駄に達筆なこの字。舞華のキャラじゃないな。

 

 ジトッと明日奈に視線を向ければ小さく舌なめずりして応じられた。うむ、グッジョブ。

 どーやら明日奈もきららの体に興味津々らしい。女色は仕込みまくったからね。当然の結末だね。

 それはそれとして、何考えてこんなもの入れたの?

 

 

(半分冗談だったんだけど。まさか引き当てるとは思わなかったし)

 

 

 そりゃ、確立自体は低いだろうが。

 

 

(それに、受け入れられてきたとは言っても、まだ反発も残ってるでしょ。なのに貴方に抱かれたなんて知れたら、また再燃するかもしれない。だったら、いっその事大っぴらに理由を作って、ついでに最後の憂さ晴らしにした方がいいかなって)

 

 

 あー、きらら、悪いが罰則は罰則だ。準備しておくから、夜になったら部屋に来なさい。

 参加希望者は、お仕置き部屋に来るように。時刻はまたあとで通達する。あ、参加者は女性のみな。

 

 

「いや言われなくてもこんなんに参加しねーよ…。人間関係が無茶苦茶になる…」

 

 

 まぁ、初体験の状況としては最悪だしな…。後できららにどんな目で見られるか分かったもんじゃないし。

 俺は今更だからいいけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、何をされるのか不安がっているきららに、教材として指南書(要するにSM系の艶本)を渡して不安を煽…もとい、覚悟をさせておき。

 お仕置き部屋ことSMルームを手入れする。うちの子達も、これらの扱いにはあんまり慣れてないからね。使われる方に慣れた子は居るんだけど、手入れができるかと言われればまた別の話だ。

 …うむ、目隠し緊縛宙吊りで行くか。苦しくないよう、程よく縛られている感が出るよう調整しておかねば。

 

 それを終えたら、今度は大和のお頭の元に向かう。

 話すべき事は多くあるが、まず優先しなければならないのは雪華…シノノメの里への謝礼だ。

 

 

「うむ。あの宝玉とやら、大した効力だった。あれ一つあるだけで、部隊運営が大きく変わってくるだろう。…それを大量に送ってくれたのだ。早めに返礼をせねばならん」

 

 

 だな。あの宝玉、シノノメの里だとその辺に転がってる物なんだけど、あの量はすぐ集められるようなもんじゃない。

 生活の備蓄として保管してあった物を、一斉に吐き出させてしまったんだろう。それも、雪華一人の判断で。

 今頃、暖を取るのにも苦労してるんじゃないだろうか…。

 

 

「神垣の巫女であれば、それ相応に配慮はされるだろうが、流石にウタカタの里が危険だったので転移の術で送りました、と言ってもそうそう信じられまい。…神垣の巫女が、生活の為に里の者から借金をする、と言うのも恰好がつかん。不信に繋がる」

 

 

 そこは、俺が関わってて、雪華に異常なまでの力が備わった事を考えれば、ある程度納得はしてもらえるだろうが…。

 まぁ、何にせよ返礼は早い方がいい。雪華にとっても里にとっても結構な負担になっただろうし。

 それに、今後も取引を続けたいなら、猶更色を付けて送らないといかんだろ。

 

 

「そこまで露骨にする気はないが、そういう事だな。事実、いざという時に備えてあの宝玉とやらは喉から手が出る程欲しい! 火薬以上の戦略級物資だぞ、あれは」

 

 

 それを使って、霊山と取引できないか交渉している筈だ。直通の販路を作るのは、少し不味くないか?

 霊山とウタカタが対立…とまでは言わないが。

 シノノメの里から取引を持ちかけておいて霊山を蔑ろにしたとなれば、少なからず問題が出る。

 

 

「無論、無理な交渉をする気はない。まず借りを返しておくだけだ。…まぁ、結果的に喜ばれそうではあるが」

 

 

 やっぱり賄賂送るんじゃないか。

 

 

「何を言う。心証をよくする為に礼と手法を尽くすだけだ。と言う訳で、任せたぞ」

 

 

 …………はい?

 

 

「お前が直接礼を言いに行くのだ。あちらには知己も居るのだろう? 初対面の我々が行くよりも、話も通しやすかろう。ああ、返礼の品はこちらで用意する。追加で持っていきたいのなら止めはせんが」

 

 

 いやいやいやちょっと待った、大和のお頭。何でいきなり俺が使者に仕立て上げられるん?

 里からの礼なんだし、里人を使者にするのが筋じゃないの?

 

 俺だって、うちの子達をあまり放置するのは不安しかないし、過去の経験から行くと遠征とかから戻って来た時には、毎度毎度拠点が壊滅していたという実績が…。

 

 

「実績云々については、ウタカタの里を舐めるな、と言ってやる。何が来ようが、そうそう遅れはとらんよ。お前を使者にする理由は他にもある。移動速度が段違いだし、護衛も事実上不要だから里の戦力を派遣する必要が無い。それに何だか知らんがお前、大荷物を持たせても全く苦にならんだろう。下手な蔵よりも収納量が多い袋を持っていると聞くぞ」

 

 

 …誰だよ、ばらしたの…。確かに ふくろ に入れておけば、どれだけの大荷物を持って行っても移動の邪魔にならない。鬼疾風で駆け抜ければ、霊山経由で向かったとしても2~3日程度で帰ってこれるだろう。

 

 

「ばらすもなにも、お前がその袋から大砲を取り出して設置しているのを目撃しただけだ。その場で作っているのかと思っていたのだがな」

 

 

 オゥ、シット

 我ながら迂闊が過ぎる。いや、今更 ふくろ の事がばれた程度でどうこう言わんけども。

 

 うーむ…いやしかし、やはり不安が…。一週間程度なら、うちの子達を放置していても不安定にはならないだろうけど…。やっぱり帰って来た時にどんな惨状になっているか。物理的に拠点が壊滅してるんじゃなくて、資材とか片付け的に壊滅しているような気が…。

 

 

「ならば、俺も細目に様子を見に行くと約束しよう。そちらには那木も常駐しているし、生真面目な人材も多いと聞く。そう悪い事にはならんだろう。…それと、お前を推す理由はもう一つある。橘花が、絶対にお前でなければならないと断言しているのだ」

 

 

 橘花が? そういやあいつら、文通だけじゃなくて、夢で会って話をするようにもなってたっけな。

 …そうか、雪華に頼み込まれたのか。

 しかし、それなら橘花から直接俺に言えばいいだろうに…。

 

 

「丁度、使者を誰にするか考えていたところだったからな。それに、自分が頼んでも素直に頷くとは考えにくいと思っていたようだぞ」

 

 

 いや頼まれれば出来る限りの事はする……でも確かに難しいところではあるな…。暫く里を離れると伝えた時の、うちの子達の反応も微妙なところだし。

 個人的に会いに行く、ではなく公務の一環と言う事であれば、うちの子達も文句は言えないだろう。

 …口煩い上役が居なくなって清々した…と言われないだけありがたいんだが、こうも自分が好かれている事を前提として話すのも気色悪いな…。

 

 

「経緯や形がどうあれ、慕われているのは事実だ。構わんだろう。ともあれ、そういう訳だ。任せたぞ」

 

 

 はぁ…仕方ないか。

 それで、いつ出発すればいい? 行こうと思えば、すぐにでも行けるが。

 

 

「いや、正式な礼とするからこそ、先触れを忘れてはならん。文を出してからだ」

 

 

 了解。

 この際だし、シノノメの里だけじゃなくて、霊山の様子も見てくるわ。

 そろそろ、うちの子達関連の大捕り物騒ぎも落ち着いてるだろう。何か手紙とかあるなら持っていくぞ。

 

 

「ふむ…そうだな、九葉へ…いや、奴ならもう察しているか。不要だな。ならば……幾つか文を認めるから持っていけ。渡す相手が分からなければ、何ならそれこそ九葉に渡しても構わん」

 

 

 …どんだけツーカーの仲なんだ…。いやツーカーと言うか、「こいつらなら放っておいてもやるだろう」って信頼? 言葉にし辛い評価。

 仲がいいと思われるのは心外なんだろうけど、そうとしか見えねーんだよな…。

 

 まぁいいや。とりあえず、個人的な土産も持っていきたいから、そっちの選別に移るわ。

 はー、うちの子達への指示もしとかないといかんし、急にやる事増えたわ…。雪華達に会うのを楽しみにして励みますかね。

 

 

 

 急にやる事が増えたので、自室に戻って書類仕事を始める。…いつもの体感時間操作による仕事時間短縮を行おうとしたのだが、誰を呼ぼうかな。

 幹部級(明日奈達だね)の子達や秘書執事チームには別件を頼んでいるから、呼ぶのは気が引ける。一度関係を持った子達なら、個人的な用事が無ければ悦んで引き受けてくれると思うが…。

 

 そこでふと思い出すのは、労いと称した一対一での睦みあい。あの時に浅黄から受けた房術は中々凄かった。

 やはりちゃんとした手管を持っている人の奉仕は一味違う。神夜も家に伝わる房中術は持っているが俺としか経験が無い。今まで抱いてきた子の殆どはそういう技術を持っていなかった為、俺好みに仕込んで染め上げたが、それは裏を返せば俺の知っている技術しか伝えられないという事。

 その点、浅黄が使った術は体系だった研究と技術に支えられ、本人の経験も(不本意な物も多かったろうけど)豊富、練度も申し分ないと言う、技術として一線を画すものだった。

 浅黄本人に言わせると、「後ろ暗かったり、失敗前提の任務の為に体を使うのと、意中の相手に奉仕する為に使うのとでは気合の入り様が違う」と言う事だったが、それを差し引いても結構なモノだった。

 

 

 ……よし。

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で、浅黄とアサギには書類仕事の手伝い兼妨害をしてほしいんだが。

 

 

「手伝い兼妨害ってどういう事よ」

 

「…まともな職場かと思ったのに…。別に嫌とは言わないけど、何でそんな事を」

 

 

 誘惑されたいって事だよ言わせんな恥ずかしい。「本当に恥ずかしいわ色んな意味で」

 アサギには体感時間操作の事は話してなかったっけ? これを使うと作業効率が跳ね上がるんだが、使うのに条件があってだな。「…何でそんな馬鹿みたいなとんでもない術があるの…」

 

 何でって言われてもなー。欲望は人間の動力源だぞ。もっと気持ちよく、もっと長く愉しむ方法を模索していたら、いつの間にか出来上がっちゃったとしか言いようがない。

 ちなみにこれ、お楽しみ以外には使えません。単体で使おうとしても発動しなかった。

 と言うか、今更だけどこれって「体感」時間操作じゃないよな。どう考えても、周辺一帯の時間が本当に早くなってるとしか思えん。ややこしいから呼び名は変えないけど。

 

 

「はぁ…。馬鹿馬鹿しいとは思うけど、頭領の希望だし、効率に繋がるなら仕方ないわね。……失敗前提の任務を押し付けられるよりはいいし」

 

「それを言わないで、アサギ…って自分の名前みたいでややこしいわ。つまるところ、先日の房術が思いのほか気に入ったから、二人がかりで責められてみたいくなったのね」

 

 

 うん。仕事は仕事でちゃんとします。でも房術は全力でかけてほしいです。

 それはもう、書類に向かう俺の理性を引っぺがす勢いで。

 淫乱双子美女(熟女でもギリギリ可)のダブル密着濃厚色仕掛け…実に楽しみだ。

 

 そう告げると、二人はやれやれと頭を振って、僅かに口元を歪めて左右から俺に抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 誘惑に屈するまで、散々焦らされ好き勝手されながら仕事しました。

 いやぁ、体中を撫で回しながらちんぽにだけは触れない焦らしと、小馬鹿にしながら挑発する声、甘やかし褒めたたえる媚び声を同じ音声で左右から囁かれ、更にねちっこい耳舐めまで…。結構なお点前でした。

 誘惑に負けてから? そりゃ好き放題してくれたお礼しましたよ。ただ、その途中にね。

 

 

 

  コンコン

 

 

「若、少しいいかしら」

 

 

 ちょ、ちょっと待ってろ!

 

 コトの真っ最中だったのを、慌てて片付ける。絶頂寸止めで善がっていたアサギが悲しそうな声を上げたが、後回しだ。

 …いや、別に見られても問題ないんだけど、この声は浅木だ。…物凄くややこしいけど、若い方の、集団に馴染む事を良しとしない浅木だ。

 精神安定の為に抱かれる事を良しとしない、意地っ張りだけどある意味まともな価値観を持っている。

 彼女に仕事部屋で盛っていたと知られるのは、流石に不興を買うだろう。しかも自分のそっくりさん2人が相手だ。

 

 消臭玉を使って、乱れていた服を手早く直して扉を開ける。

 

 

「………………あんたらね…」

 

 

 即、ジト目で見られた。

 振り返ってみれば、臭いこそ消えた物の、床に体液による染みや水たまりが多数あるし、浅黄の口からは奉仕した時に抜けた陰毛が出ているし、アサギに至っては完全に生殺し状態だった為に発情しきった表情が丸わかりだ。

 …中断するだけ無駄だったな。開き直って、情事を見せた方がよかったかもしれない。

 

 眉間に青筋を浮かべるくらいに苛立っている浅木。うん、これは色んな意味で怒るよね。隠蔽するならせめてもっと上手くやれと。

 

 

 

 あー、それで、要件は? お前が俺に自分から話しかけるなんて珍しいじゃないか。しかも部屋まで来るとか。

 

 

 

「…いえ、もういいわ。これを渡すように、里の人から頼まれただけよ」

 

 

 無表情のまま青筋を太くして、袋を押し付けて踵を返す。流石に声もかけられん。

 と言うか、浅木が扉を閉めると同時に、アサギに背後から抱き着かれて引き倒されました。はいはい、続きね。俺も中途半端なところで止まって不完全燃焼だったから、しっかり発散しますよっと。

 浅木の今後の行動が怖いけど…。

 

 

「大丈夫よ。あれも『私』ではあるもの。反抗期の跳ねっかえりでも、あなたの事を好きになるわ」

 

 

 …その理屈はどうかと思うけど、ありがとう浅黄。

 

 

 

 

 

 

 

 

 書類仕事は大体片付いた。浅木が持ってきた里人からの荷物は、シノノメの里への返礼品の目録だった。土産を持っていくにしても、重複しないようにしなきゃいかんものな。

 さて、こっちからの土産はどうしたものか。たたらさんに頼んで、興味深い鍛冶作品の一つでも持って行こうか。練の姉御への技術提供の話だってあるしな。…今まで日記に書いてなかっただけで、ちょくちょく鍛冶関係の資料とかを買って送ってはいたのよ。

 

 里の名物…色々あるけど、宝玉の対価に出来るような代物はそうそう無い。

 返礼は大和のお頭がそれなり以上の物を選んでくれてるから、純粋に土産として喜ばれそうなものを考えた方がいいかな。

 

 ……甘味…かな。シノノメの里は、物資という物資が足りず、宝玉のおかげでどうにか存続してきた状態だ。霊山との取引が始まり、多少は改善したかもしれないが、それでも保存が利く物、生活に直結する物が殆どだろう。

 大和のお頭も、意図してか偶然なのか、そういった有用な品を主な返礼品としている。

 うん、俺からの土産は甘味、或いは娯楽品にしよう。

 

 専門店に、今のうちに頼んでおかないと、場合によっては霊山で買い足す事も必要かもしれない。

 ああ、それとシノノメの里出身の子達に、何か持って行ってほしい物があるか聞いておかないと。近況報告だってしたいだろう。こっちに来てから色々と変化もあったし、結構な規模のトラブルもあった。里の外ではこんな事が起きてますよ、みたいな世間話にしてもいいだろう。

 

 

 今日の所はこんなもんかな。あんまり根を詰めすぎてもなんだし。

 塔近辺の様子を見ておきたかったが、もう日も暮れてきた。早い内の調査がいいのは確かだが、視界が不明瞭な状態で調査してもまともな成果は得られない。

 

 

 

 

 

 と言う訳で、飯食って、渡した指南書を熟読中のきららをお仕置き部屋に連れ込んで来ます。

 

 



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547話

仁王2に飽きがきたので、今度はエスコン7へ。
ノーダメクリアが終わったので、次は4時間クリアを目指していきます。

そして今更DBゼノバース2を再開してみました。
うーん、なんか色々新要素入ってる。

さて、6月になったら色んな施設が解禁…されるかなぁ。
施設が解禁されても、マスクは必要になりそうです。
息苦しい状態で観光しても今一つ楽しくない。

…また登山行ってみようかな、人が少ないからマスクも必要なさそうだし。
最初に向かってみたコースが上級者コースだったんで、遭難するかと思いました。
まさか山の中に分け入っていくとは…。
ハンターってあんな道を進んでいくんだろうなぁ。



 

 

黄昏月禄日目

 

 

 きららがいい感じにMっ気に目覚めています。昨晩、皆に散々アレコレされた挙句、上になったり下になったりしながらくんずほぐれつイキまくったからねー。

 罰則と言う禊も終え、裸の突き合いを経て、色んな意味で、彼女はうちの子達の仲間入りとなりました。

 

 何をやったかって?

 えーっと…まず最初に、お仕置き部屋に連れ込むでしょ。明らかにヤバい雰囲気がプンプンしているのに戦慄していた…もとい、幾つか指南書にあった道具を見つけて何をされるのか想像していたきららを、安心させようと軽いお話、それから接吻。

 ちなみに「こんな部屋で安心しろなんてどうやっても無理な話」とはきららの弁。全く以てその通りでございます。まぁ、ディープキス一つであっさりと陥落しちゃったんだけど。

 

 で、惚けている間にささっと拘束具を付けて、仰向け・大股開きの体勢で宙吊りにする。一応言っておくが、体に負担がかからないよう初心者用の各種支え付だ。

 普段であればもうちょっと体を愉しませてもらうんだけど、本日のお題は被虐総受。被虐は現在進行形で拘束されているから満たしているとして、総受が始まる前にきららの準備を整えてやらなければなるまい。

 

 潤んだ秘所に、ちょっと強引に挿入。処女喪失してまだ3日目のそこは、すっかり俺のモノに媚びる形に作り替えられている。穴のご主人様が誰なのか、これでもかと言う程教え込まれているのだ。

 何せ、初日からして3Pで一晩中、その翌日には一対一で一晩中蹂躙されていたからね。尚、この場合の一晩中とは、文字通りの一晩中に比べ数倍の時間が内包されている。

 

 ともあれ、突き込まれた事できららの体はあっという間に蕩け始める。まだ硬さが残っていた体が柔らかくなり、陥没乳首の中でピンクの突起が起き上がろうとする。

 形ばかりに残っていた抗議の声や抵抗も薄れていき、拘束されたままながらも『もっと突いて』とばかりにくねりだす腰。

 激しい凌辱を望まれているのは分かっていたが、今は敢えてゆっくりとした動きで焦らし昂らせていく。

 

 それと同時に、用意しておいた目隠しとボールギャグ…口枷を取り付ける。はい、これで声を我慢する事も、抗議の声を出す事も、周囲の確認をする事もできません。

 何か呻いて主張しているようだけど、それこそ声も出せないから仕方ないネ!

 

 懇願か反発か欲望か、とにかく粘度の高い唾液をダラダラと垂れ流しにしながら、きららはまだ焦らされる。

 腰の動きによる責めだけでなく、流れ落ちた唾液をローション替わりに使って胸を揉みしだき、まだ顔を出さない乳首を指先で虐め、淫核を扱き上げ、それでもまだきららが望むような絶頂には至らせない。

 

 

 そうやって、生殺しにしてどれくらいだろうか。体感時間操作を使わない睦みあいは久しぶりだから、ちょっと時間間隔が狂ったな。

 きららが、『もう何でもいいから果てさせて』と体全体で主張するようになったころ、ようやく待ち人が来た。

 

 

「お待たせ~。…うわぁ、すっごい。私達でもここまでされた事って、あんまり…いえ、結構あるわね」

 

「しかも頻繁な事極まりないです。頑張ってくださいね~、まだ苦しいのが先に来るかもしれませんが、もうちょっとで焦れったさと小刻みな波で極楽が見えてきますよ~」

 

「…発案者なだけあって、言動がえぐい…」

 

「発案されたのは明日奈さんなのでは…」

 

「原案が神夜さんなんだって。明日奈さんから相談されて、即思いついたとか」

 

 

 明日案、神夜、詩乃を筆頭に、ゾロゾロと入ってくるうちの子達。 

 その表情は様々だ。これからの淫らな宴に昂揚している者も居れば、どっちかと言うときららに対する不満を解消する目的できた者も居る。何となく参加した子も居る。

 だが共通して、きららの淫らな姿に注目しているという事だ。

 

 体位を変えて、きららの背後に回る。体を捻る時の摩擦がきららの秘所に不意打ちをかけたようだ。『ん゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ!?』って悲鳴が聞こえたけど容赦しません。まだ焦らします。

 背後から抱え上げる状態になり、股を大きく広げさせて、体の一切合切を曝け出させる。

 脳味噌が溶けかけている状態でも、無遠慮な視線が、 体中に突き刺さるのは分かったようだ。見られた事で、急激に締め付けが強くなる。視られる快感はまだ教え込んでいないのだけど、結構な素質がありそうだ。

 

 体を隠そうとしているようだが、拘束具がガチャガチャ音を立てるだけ。この音って、結構重要だよね。動けないと言うだけでなく、繋がれて飼われているという実感を強調する高価がある。

 

 

 

「うわ…こうして見ると胸大きい…。お母さん並みに大きい…」

 

「不知火さんからは、巨乳を責める手管も伝授されているのよね。実験台は主に不知火さん本人で」

 

「え、雪風って若様に呼ばれてない日は、不知火さんと親子で?」

 

「若様をお父様って呼んで抱かれる紅程では」

 

「それよりも、まずはどうする? 若様からは、今夜に限り一切制限無しと言われているが」

 

「個人的な苛立ちをぶつけてはいけません。これはあくまで懲罰です。…なので、遠慮なく準備された道具を使いましょう」

 

「若様、もうお尻って使えます? こちらの梁型で、前後から…」

 

 

 尻はまだ仕込んでないから、表面だけ嬲るなり嘗め回すなり、入れるにしても指くらいにしておけ。

 

 好き放題言われている間も、きららの体を燃え上がらせようと、小刻みに悦楽を送り込む。拘束具が肌に擦れるだけでも性感が走る程に。

 無遠慮な視線と屈辱的な言葉に晒されながらも、きららは抵抗しようとする。

 

 …何の為に?

 

 体を動かせば、無条件に性感が走る。

 注がれる視線で感じるのは、恥ずかしさよりも興奮。

 何をするのか相談している声からは、不安よりも期待。

 

 抵抗しようとして得られるのは、『それを捻じ伏せられている』という屈服感。自分が所有されてオモチャにされているという『陶酔感』。

 そしてそれらの全てが混ざり合う、多幸感に溺れていく。

 既に抵抗は、解放される為ではなく、より強い悦楽に溺れる為の手段でしかなくなっていた。

 

 鍛えられた、しかし雪女を連想させるような白い肌に、次々に手が伸びる。

 妬みを籠めて巨乳を鷲掴みにし、女性ならではの精緻な愛撫を全身に施し、唇で吸い付いては痕を残し、舌で嘗め回して体液を啜りながら唾液塗れにし、性欲を満たす為だけに作られた淫猥な道具を手にした痴女達が迫る。

 

 目隠しで何をされているのかも理解できない状況の中、きららは被虐と恍惚の海に沈んでいく。

 

 

 

 

 

 …と、大体こんな感じだったかな。

 流石に体力自慢のきららも途中でダウンしてしまい、そこからがくんずほぐれつの大乱交だった。

 目隠しや拘束具を外し、他の子達と同様に、優しく、いやらしく、激しく絡み合う。互いの体で触れ合っていない部分は無いと言えそうな程に入れ替わり立ち替り。

 誰のどの穴に、何発出したか数える気にもならない。体感時間操作を使って尚も一晩明けてしまう程の時間をかけて、淫靡な宴は幕を下ろした。

 

 おかげで、きららは全員のネコ的な立ち位置を確立したようだ。

 

 

 

 

 

 さて、バカエロな話は置いといて。

 皆が張り切ってくれたおかげで、もう在庫の残数状況が把握できてしまった。補充に必要な期間は、そう長くない。

 これは使用していた資材が少ないのではなく、元から過剰な程に貯め込んであったのと、補充する為の効率的な組織作りが進んでいたからだ。

 静流がその筆頭だな。塔を撃退する時の策に用いた、火薬を少々強引に作り上げる方法。あれは彼女達が日々模索して、実践してきた結果だ。

 実験・分析・その結果の応用まで出来る子はそうそう居ないが、それらを一人で行う必要はないし、頭脳役を引き受けられる子が1人居れば、その下に作業員をつけるだけで効率は大分違ってくる。

 

 分かりやすく言えば、MH世界の農園染みた物を自分達で作り上げてしまった訳だ。流石にあそこまで異常な成長速度は無いが、その分タマフリを駆使し、収穫できる時期をずらす等して、いつでも一定量の資材を補充できるようになっていた。

 …本当になー、頭自体はそんなに悪くないんだよな、うちの子達…。ただ殆どの子が、それを使わなかったり、おかしな方向にばっかり行くだけで…。

 

 と、とにかく、火薬に限らず各種物資は明日には最低限の量は確保できるようだ。

 昨日、一昨日とお楽しみしまくったので、精神的にも安定した状態。これならば、暫く俺が離れても、そう酷い事にはならないだろう。

 激戦のすぐ後に頭領が現場を離れるというのは不安や不満が残るかも知れないが、そこは何とか納得させるしかない。

 

 

 いきなり「俺、暫く離れるから」ではいけない。

 前もって、重要人物には先に話を通しておくべきだろう。明日奈、神夜、詩乃は問題ない。ぶっちゃけ、離れててもすぐに召喚できるから。

 霊山に居る直葉を呼び出すのと同じ術、『烙印』をかけているからな。何日か置きに召喚し、ヌチョヌチョ愉しむついでに近況を確認しておけばいい。

 

 問題になりそうなのは、やはり滅鬼隊の子達か…。

 浅黄とアサギは問題ない。精神的には安定している方だし、二人とも諸々の事情で人を纏める役になる気はないが、それとなくサポートするくらいの事はしてくれる。

 雪風は…精神的には大丈夫そうだが、軽挙妄動に走りそうなのが怖い。他の子達にも言える事だが、ちゃんとした抑え役を作っておかなきゃならんな。…うちの子じゃなくて、いっそ里の隊の下に就かせた方がいいだろうか?

 

 それから、何より問題になりそうなのは…。

 

 

 

「「「なりません!!!」」」

 

「返礼に向かわねばならない、それは分かります! ですが何故若様が向かう必要があるのですか!」

 

「せめて護衛を、お供をお付けください! 私が是非!」

 

「そういう問題ではないでしょう天音! 若様は我々の要です! 若様が居なければ、我々は結束する事すら難しい!」

 

 

 …この秘書執事チームの3人だよ。いや本当に、ここまで強硬に反対されるとは思わなかった。

 何だかんだ言って俺の決定には従ってくれていたんだが…いや盲目的に従うんじゃなく、主張するべき事はちゃんと主張していたし、反対意見を述べた事もある。

 だが、ここでこんなに大騒ぎするような事か…? ずっと戻ってこないならともかく、長くても10日に満たない期間だぞ。

 

 

「ええ、若様の仰る事も分かります。精神的に不安定な傾向がある者でも、先のような大事に遭遇しなければ暫くは平常に過ごせるでしょう」

 

「ですが、問題はそこではないのです。我々が『不安定になる』事ではなく、我々の『象徴』が居なくなる事は、非常に強い危険性を持つのです」

 

「恥ずべき事ですが、我々は所詮世間知らずの集団です。所謂『常識』と呼ばれる判断基準を持たず、身内内での基準でしか行動できません。その基準すら、統一されていない」

 

「その我々が持つ、最大の共通点が若様です。若様を中心にして集まり、従い、そして一つになる。絶対の指針があるからこそ、私達は烏合の衆ではなく、一つの集団でいられる」

 

「これだけの人数の…その、問題児が揃っていて、多少のいがみ合いはあっても不和は無く、更に離反も無い。これがどれだけ稀有な事か、若様ならお分かりなのでは?」

 

 

 それは…確かにそうだが。

 正直、『こんな窮屈な暮らしなんか真っ平!』とか叫んで出奔しないのが不思議な子だっている。沙耶根尾とか。

 相性の悪い隣人が居ても、必要以上に接触しないだけで、致命的な決裂に至る事もない。言われてみれば、何だかんだでこの集団に留まり、酷い規則破りもなく、強い反発や不満も無い。具体的には『給料上げろ』『お小遣い頂戴』も無い。

 体を使ってある程度の不平不満を解消しているとは言え、これ程文句が出ないのは考え辛い。

 

 しかし、だからと言ってそれが俺の影響と言われてもな…。仮にそうだったとしても、離れて数日で問題が起こるとは考えにくいが…。

 と言うか、いつまでも俺から離れられないって訳にはいかんだろ。

 そうでなくても、「こうするように」と行動や考え方の指針を作っておけば…。

 

 

「…数日程度なら、何とかそれで保つやもしれません」

 

「…………非常に不安ですが、我々の存在が若様の枷となるようでは本末転倒。若様が居ない状態で秩序を保つのも我々の役目か…」

 

「若様が遠出するのは止められないけど、その間の規律を決めるのは私達だけで決めていいものじゃないわ。何より、若様が指針となっているからこそ私達は一つで居られる。それを私達が組み上げた指針で代理しようとしても、崩壊するだけね」

 

 

 口々に意見を述べる秘書執事チーム。何とか納得はしてくれたか。

 それじゃ、指針とする標語でも作るか? あんまり時間が無いから、そんなに上等な物は出来ないが…それを肉付けしていってくれればいい。

 

 そう提案すると、3人は視線で話し合ってから頷いた。

 

 

「「「お戯れは程々にお願いいたします」」」

 

 

 仮にも頭領に向かって真っ先に出てくるのがそれかい! 珍しく真面目に考えようとしてたのによぉ! よく分かってんじゃねーか!

 

 

「その言葉だけで、既に言われる理由も言うべき事も多々ありますが…」

 

 

 …ああ分かった分かった。真面目に考えるつもりだったけど、程々に戯れてやるわい。よくよく考えてみれば、あんまり堅苦しい指針作っても反発を招きそうだしな。

 指針っつーか、幼稚園児向けの『おやくそく』くらいで考えたろ。…………うん、それくらいでいいような気がしてきた、マジで。

 

 

 

 

 

 ま、何はともあれ、重要人物への話を通す事はできた。他の子達を蔑ろにしているつもりはないが、一目置かれている奴が先に納得してしまえば、そうそう異論反論も出ないもんだ。

 とは言え、最後の最後まで天音が「せめて護衛を!」と言って譲らなかったんだけどな。…俺の足の速さについて来れる奴、居ないからなぁ。速度特化の子ですら、瞬間速度はともかく持久力では大きく劣る。

 

 …いい機会だし、鬼疾風の伝授でもやってみるか。俺を追いかけてくる為…と言うのは少々己惚れが過ぎるかもしれないが、いい餌になるんじゃないかと思う。遊びに行ける範囲も増えるしな。

 …でも少量ながらも霊力を使うから、練習しすぎたら不安定になるな。安定した状態ならともかく、不安定になった状態で手綱役が居ないと、それこそ俊足で死地に突っ込んで潰される気が…。

 うん、安定している幹部クラスだけに教えよう。それ以外の幹部クラスには別の技術を教えて誤魔化す。

 

 さて、そうと決まれば出発準備。ウタカタ→霊山→シノノメ→霊山→ウタカタの順かな。多少は寄り道もするかもしれん。途中、異界の浄化を求められる事も考えておこう。

 うちの子達は、ちゃんとお留守番できるかな。時々手紙でも送って……送っても俺が帰ってくる方が早そうだ。

 

 

 

 

 

 

 



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548話

 

 

黄昏月漆日目

 

 

 朝、暫く遠出する事を皆に告げた。反応は様々だ。ふーん、の一言で済ませる物、最初からお土産を頼む者、ついて来ようとする者、「何でもするから捨てないで」と暴走する者。…ハイライトを消して包丁を手にしようとする子も居たが、刺しに来るんじゃなくて自分の手首を斬ろうとしている顔だったな、あれは。

 事前に話を通していた幹部勢の手を借りて何とか落ち着かせ、離れる目的と期間、そして留守を任せる人選を告げる。

 

 と言っても、大まかな部分は従来通り。

 明日奈、神夜、詩乃を中心、秘書執事チームを補佐として組織を運営し、それぞれの大まかな仕事を決める。宿題として、鬼疾風を初めとした幾つかの技を教えておく。体得できなくても問題はないが、真面目に練習していればお土産が豪華になります。

 

 普段と大きく違う点は、お役目に行く時、必ず里の誰かの指揮下となる事。滅鬼隊のみで任務につく事を禁じる。

 これには各所から不満が上がった。自分達では力不足だ、と言われているように感じたのだろう。

 しかし、全く無いとは言わないが、これは必要な事だ。里のモノノフとうちの子達と、どちらが強いとか何が足りてないとか、そういう問題ではない。

 先日の戦は、鬼にも大きな被害を与えた。奴らはこれから、縄張り争いなり新たな企みをするなり、何にせよ大きく生態を変化させるだろう。いつどこで何が起きるか、起きているのか分からない。

 そんな時、異変により早く気付けるのは、来訪者な上に常識を今一つ理解してない滅鬼隊よりも、周辺を熟知している里のモノノフ達だ。

 未知の鬼に遭遇すれば、主力級はともかく一般モノノフが生きて帰ってこれる可能性は低くなる。そうなった時、うちの子達が一緒に居れば、対抗できる確率は跳ね上がる。

 里のモノノフに索敵・異変感知を頼み、滅鬼隊がそれを守る。これが理想的な形である。

 

 

 

 というような建前を言い聞かせました。ええ、建前です。

 本音? 不安定になったり、お目付け役が消えてヒャッハーするうちの子達が心配だったに決まってるじゃないですか。

 いや、最初に比べれば、ちゃんとできるようになってるんだよ。情報を軽視しないようになってきたし、補助や指揮官が居るとどれだけ戦いやすくなるか身に染みている。過度な自信は圧し折った(過去形)し、イケイケドンドンしている時にはつい罠を警戒してしまうくらいに、訓練でトラウマ…もとい訓戒を刻み込んだ。

 でも、それも平時であればの話。

 主と離れ、霊力を使えば使う程精神的に不安定になるんだから、安心なんぞ出来る筈がない。彼女達の頭領として信用も信頼もするけど、性質を否定する事はできん。

 

 男連中は安定してんだけどな…。主が女になってるだけで、似たような暗示がかけられている筈なんだが。

 …ひょっとして、誰か意中の人が居て、その人とよく顔を合わせるから安定しているとか? でもそれらしい視線は見た事ないなぁ…。

 目を覚まして最初に見た異性であれば滅鬼隊の誰か、滅鬼隊以外であれば神夜や明日奈達が真っ先に思い浮かぶが、どう深読みしてもそれらしい気配は感じない。

 男連中まで暴走するよりはマシだが、どうなってんだか…。

 

 ともかく、全面的に納得した訳ではないようだが、何とか受け入れてくれた。大和のお頭達にも、一時的にあっちの指揮下に入る事は伝えてあるし、これで心置きなく(すごい心配だけど)旅立てる。

 …帰ってきたらすぐに顔を出さずに、どうしていたかの調査もしてみようかな。そうでないと、俺が居ない間の行動は正確には理解できない。うちの子達はいい子だけど、失敗を全て正直に話すかと言うとそんな訳じゃないからな。俺だってそうだし。

 

 

 

 

 

 また誰かが「やっぱり護衛を」とか言い出さない内に、里から返礼品を受け取り、ついでに個人的な土産も準備して、霊山に出立する。

 何人かのモノノフ達に見送られ、一路霊山へ急ぐ。うちの子達を連れて、霊山から里へ来た道を逆走した。

 あまり馴染みのない道なので、鬼疾風を使いはしても、あまり速度は出さない。

 

 この辺は異界や鬼の侵蝕もなく、どっちかと言うと熊とか猪の方が多い。危険と言えば危険だが、まぁぶっちゃけハンターの前では食料よね。MH世界の奴らならともかく、ここの獣は普通の獣だ。

 特筆すべき事もなく………いや、一つあったわ。

 

 道を進んでいる途中、飛脚らしい人に会った。里から霊山に向かっているらしく、後姿を見かけた。

 正直言って、変質者にしか見えなかったが。何せ、ほぼ素っ裸で道を延々と走り続けているのだ。身に付けているのは、褌と草鞋、そして肩に背負った荷物のみ。

 ……露出狂?と思っても無理は無かろう。そりゃ、近付きたくなくてつい足が鈍ったり、迂回路を探したりするってもんよ。

 しかも異様に素早い。下手すると俺より足が速いんじゃなかろうか。遠回りしたとは言え、結構な速度で走った筈なのに、気が付けばあの飛脚は俺の前を走っている。何度あのケツを拝む事になったか…。

 

 率直に言って関わりたくなかったのだが、日が暮れて一休みしていると、後から走って来た飛脚とばったり顔を合わせてしまった。焚火を炊いたのがまずかったか。

 悪いが一緒に一休みさせてくれ…と言われた時は、断固拒否するべきかかなり真剣に悩んだ。結局、了承してしまったが…。

 

 

 しかしこの露出狂(仮)、意外と常識人であった。腰を下ろすと荷物から取り出した服を着こみ、一緒に休ませてくれる礼として果物を振る舞ってくれた。

 聞くべきか少々迷いながらも、何故裸で走っていたのか、と聞くと。

 

 

「そりゃあ汗だくになるからに決まってらぁな。俺達ぁ、一秒でも早く荷物を届ける為に、延々と走ってるんだぜ。汗は掻くし体は火照るし、ちょっとでも体を冷やさなきゃなんねぇだろ」

 

 

 文字通り一日走ってれば、そりゃあ汗も掻くだろうが…でも普通、褌一丁にはならんだろ。飛脚って言ったら、ほれ、前掛けとかつけてるもんだろ。

 

 

「いくら何でも、四六時中褌一丁な訳ねぇよ。里とか霊山の近くとか、人に見られそうな場所に近付いたら服を着るんだよ。普段はこんな道、飛脚くらいしか居ねぇもの」

 

 

 それは…まぁ、確かにそうだな。鬼があまり出ないとは言え、安全が保証されている道でもないし、一般の人が里と霊山を行き来するメリットは殆ど無い。

 誰も居ないなら、見た目を気にせず効率だけを求めて裸になるのも、まぁ選択肢として無くはない……か?

 

 

「そういう訳で、俺は飛脚になって裸で走れるって訳だ。他の連中もそうすりゃあ、もうちょっと早く行き来できるだろうによぉ」

 

 

 ………ん? 裸で、走る…じゃなくて走れる…? しかも他の飛脚はやってない?

 …つかぬ事を聞くが、あんたはどうして飛脚になったんだ?

 

 

「そりゃ裸で走れるからよ! 流れる汗、吹き抜ける風の感触、何よりも開放感! 飛脚は俺の天職だぜ!」

 

 

 飛脚だから裸になるんじゃなくて、裸になる為に飛脚になったんかい!

 やっぱ露出狂じゃねーかこいつ!

 

 

 

 

 

 …限りなくどうでもいいと言うか関わりたくない事だが、足の速さに自信があった露出狂飛脚は、俺の移動速度を知って好敵手認定していたそうな。

 つーか、あいつはウタカタ・霊山間の専属飛脚らしい。そういや、何度か届け物を持ってきたのを見かけたような…。大和のお頭からの信も厚い、結構な重要人物、縁の下の力持ちだったんだが…。

 …いやな秘密を知ってしまった…。

 

 

 

 

 

 

-----------------------Side 滅鬼隊--------------------------

 

 

 頭領がシノノメの里へと旅立った直後。留守を任された秘書執事チームから、全員に召集がかけられた。

 面倒くさがる声も多かったものの、来なければ飯抜きという懲罰が待っている。

 そこで公表されたのは…。

 

 

「と言う訳で、若様が不在の間は、これらの指針に従って行動するように。違反は許さん」

 

「天音、言いたい事は分かるけど、いきなりそう言っても反発されるだけよ」

 

「…これは私達が考えた事ではなく、若様からの指示だ。自分が不在の間、我々をまとめる為にわざわざ下知をくださったのだ」

 

 

 大上段から一方的な通達になっていた事は自覚したのか、天音が言葉を付け足した。しかし、それだけではいそうですかと納得できる筈も無く。

 …と言うより、根本的な問題があった。

 

 骸佐が半ば呆れたように手を挙げる。

 

 

「あー、そいつに従う事自体は、別にいいんだが…本当にその内容で、間違いはないんだな?」

 

「………言いたい事はよく分かるけど、間違いないわ。私達が余計な解釈を付け足したりはしていない」

 

「……………どう見ても、子供相手の『おやくそく』じゃないか…」

 

 

 呻く骸佐は、掛け軸に書かれた文章を読む。

 

 

『おともだちとなかよくしましょう。』

 

『けんかをしたあとはあやまりましょう。』

 

『ごはんをちゃんとたべましょう。』

 

『慢心駄目、絶対』

 

『やくそく(隊長の指示)はまもりましょう』

 

 

「………若様が、『これくらい単純にしないと頭に入れない子も居るから』って…」

 

 

 骸佐は頭を抱えた。文字通り子供扱いされたようで頭に来たのは確かだが、否定できなかったからだ。

 頭領という文鎮役が居ない現状、いつヒャッハーしはじめてもおかしくないのが何人か居る。 

 特に、これから暫くは任務で里のモノノフの指揮下に入る事になる。それも、主力級ではなく、戦闘力で言えば自分達よりも弱いモノノフの下に。自分より弱い相手の下に組み込まれるというのは、心情的に面白い事ではない。明確な理由があったとしてもだ。

 

 

「思う所があるのはわかりますが、これも若様の指示の一環です。例外は一切認めない…とまでは言いませんが、若様が帰ってこられた時、呆れられるような様になっていては合わせる顔がありません」

 

「このような指針をを残したのも、私達はその程度の評価しか得られていない為です。若様にとって、私達はまだまだ手のかかる子供でしかない。それが妥当な評価かどうかは、この際関係ありません。私達は、若様に付き従いはしても、荷物、枷になる事などあってはなりません」

 

 

 災禍と時子から告げられた言葉に、それぞれが小さく言葉を交わし始める。

 思う所は色々あるようだが…。

 

 

「これを指針にしろって言っても、普段からやっている事でしかないわよね。つまるところ、特別な何かを意識する必要はないって事じゃない」

 

「アスカの言う通りよ。今求められているのは特別な事ではなく、この集団を維持する事。無茶苦茶な事をしなければ、そうそう酷い事にはならないわ」

 

 

 その無茶苦茶な事をしでかさないかが心配されているのだが、それは言うまい。

 

 

「ともかく、若様が不在の今、鬼達に付け入る隙を見せてはならない。安全・確実が第一だ。全員、哨戒任務を中心に請け負ってもらう」

 

「ちょっと待ってください! 哨戒はいいんですが、あまり頻繁にお役目を受けるのはまずくないでしょうか? タマフリを何度も使えば、私達は徐々に不安定になっていきます」

 

「分かっている。それを考慮して、休日・任務の日を割り振った。また、精神的に不安定になる兆候が見られたら、暫く休んでもらう事になる」

 

「それで充分な哨戒ができるんでしょうか…」

 

 

 

 ワイワイガヤガヤと、徐々に活発に意見が交わされ始める。

 神夜・明日奈・詩乃の3人はその中に敢えて加わらず、楽しそうに眺めていた。

 

 

「子供が育っていくのを見るようで、感慨深いわねぇ」

 

「ええ、最初に起きた頃に比べると、随分色々な事を考えるようになってきました」

 

「…まともに育てられると、こうなっていたのね…」

 

 

 遠い目をして、過去の自分達の扱いを思い出しているらしい詩乃。ふとした拍子に感じる闇に、神夜と明日奈は冷や汗を垂らした。

 ともあれ、もう暫く口出しする必要は無さそうだ。子供達の自主性に任せて、どこまでやれるか見てみようと、3人は顔を合わせて密かに笑った。

 

 

 

 

 

 

 



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549話

Ninja Simulatorか…。
Samurai Simulatorも興味はあり。
Steamは全く手を出してなかったけど、この機会に触れてみようかな?
そう言えば、買おうか迷っていたGunGrave VRもあったなぁ。
でも、VRに関しては設定が今一つ上手く行かなかった覚えが…。
デスクトップの画面を移すやり方でどうにかなったけど、遅かったような気がする。
しかし今の環境だと、VR機器の動作もそんなにモッサリはしてないし…。

とりあえずエスコンの続きやろう。


 

黄昏月溌日目

 

 

 一晩明けて、露出狂飛脚と別れる。朝日を浴びて、再び素っ裸になりながら走り去っていった。…服を脱ぐの以外は、割と常識人だったのが腹が立つ。

 追い抜こうと思えば追い抜ける速度だったが、何となく何度も追いつかれて顔を合わせそうになる気がして、俺が速度を落として先に行かせる事にした。

 

 さて、霊山についたら何をするべきか。

 九葉のおっさんに顔見せくらいはしておくべきか。大和のお頭は、何も伝える必要はないと言っていたが、それを差し引いてもこっちは支援してもらった身だ。取引の結果とは言え、礼を尽くしておいて損はない。

 霊山の状況を知るにも、自分で調べるより専門家に聞いた方が手っ取り早いだろうしな。

 

 状況の専門家と言えば、美麻と美柚はどうしているだろう。文美さんと仲直りはできたんだろうか。

 それに、美柚は自覚は無いが、滅鬼隊の生き残りの一人だった。それを嗅ぎつける奴が居ないとも限らない。

 

 桐人君の女性恐怖症は克服できただろうか? 惚れた女の子とは進展があっただろうか。

 …一応、夜伽で召喚した直葉から色々話は聞いてるんだけどなぁ。「お兄ちゃんの事なんか話す暇があったら、おちんぽ様と体でお話ししたいんです」と言い切っちゃう子になったからなぁ。

 

 雷蔵はどうしているだろうか。滅鬼隊の騒ぎで結構な大捕り物を演じたようだし、出世ルートに乗っているかもしれない。

 

 …ま、この辺は時間が余ったら顔を見せておけばいいか。

 最優先事項は、当然直葉だ。出立の前夜、召喚した直葉に、もうすぐ霊山に向かうと伝えておいた。物凄い嬉しそうな顔してたっけな。おめかしして出迎えてくれそう。

 夜毎に召喚して可愛がってやっていたものの、直接抱いた事は一度だけ、その後はドタバタしてすぐに離れてしまった。流石に俺も申し訳ないと思うわ。

 だから霊山に居る間は、なるべくあの子と一緒に居ようと思う。…別に、泊めてもらって宿代の節約をしようとしている訳ではない。

 

 

 後は…そうだなぁ、霊山君ってのを一度見てみたいもんだ。神垣の巫女のトップらしいし、美人なんだろうなぁ。…或いは、巫女は巫女でも年が…ゲフンゲフン

 流石に無理だわな。日本で言えば(ここも日本ではあるんだけど)、天皇陛下みたいなもんだ。一故人がそうそう会いに行ける相手じゃない。と言うか、下手な事したら色んな所が敵に回る。

 

 うん、留まるとしても精々一泊、シノノメの里からの帰りに一泊程度だろうし、出来る事はそのくらいかな。と言うか、それ以上の時間があっても、直葉と過ごすと思う。

 直葉かぁ…なーにして遊ぼうかなぁ。

 

 

 

 …色々妄想しながら走っていたら、ついつい素っ裸飛脚に追いついて、汚いケツを見てしまった。テンションが下がった。

 

 

 

 夕方になって、ようやく霊山に到着。追いついたのに気付かれて、露出狂飛脚と並んで走る羽目になってしまった。色んなものが萎えていくのも無理はないと思う。早く直葉の乱れる姿を見て、気分を立ち直らせたい。

 なお、露出狂飛脚は霊山が近づくとまた服を着た。たったそれだけで、一皮むけば脱ぎたがりの裸族の面影がすっかり消え去ってしまう。

 霊山の入り口に立っている門番にも顔パス、しかもかなり親し気で信頼されている模様。……俺もこの外面のおかげで、全然気付かなかったんだよなぁ…。自分がアレな事を自覚しているから、それを隠す術も覚えている、か。面倒くさい奴だ。

 こいつ露出狂だぞって暴露してやりたくなったが、信じられんだろうな…。

 

 

 まま、ええわ。取り敢えず、この露出狂飛脚とは一旦お別れ。霊山からウタカタへの帰り道でまた出会うかもしれないが、その時はその時だ。

 誰も居ない場所で、素っ裸で(エレクチオンさせながら)走っている事を除けば、誰にも実害は無い筈だからね! うん、俺もよく外で裸になったり、局部を露出させたり結合させたりしてるもんな! 青姦は気持ちいい。故に問題なし、うん。

 

 

 それはそれとして、流石に俺は顔パスでは霊山に入れない。以前に来た時はここまで検閲は厳しくなかったと思うが、滅鬼隊に関する醜聞で色々あったんだろう。霊山から逃げ出そうとした関係者も、それを逃がす為にやってきた奴らも多かったらしいしな。

 一応、検閲担当者をこっそりと観察していたが、俺の検閲をした後も不自然な行動を行った様子はない。滅鬼隊の面々を連れ去った男として、陰で指名手配でもされてるかと思っていたが、大丈夫そうだ。

 

 えーっと、直葉はどこに居るかな。『烙印』でつけた淫紋をキュンキュンさせてやれば、ご主人様が来たのを理解して迎えに来てくれそうだが…流石にそれは悪いかなぁ。

 と言うか、直葉を性欲一直線に調教しまくったから、下手すると再会するなり下半身に飛び疲れて、衆人環視の中でおっぱじめてしまいかねない。

 

 やっぱりこっちから会いに行こう。この時間帯なら……多分、管理している道場を閉めて片付けの最中かな。そこなら他人も居ないだろうから、即おっぱじめても大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 少しばかり道を間違えながらも、道場に到着。この時間なら、直葉以外には誰も居ないだろうと思っていたが…なんだ、数人の気配があるな。

 何やら動き回っているが…不審者ではなさそうだ。でも直葉は…いや、居るには居るが、普段誰も居ない道場の外れに居るな。誰かと一緒のようだが…。

 

 道場を覗き込んでみると、そこに居たのは若いモノノフと、モノノフ志望らしき数人の少年たち。どうやら、道場の掃除をしているようだ。

 …大掃除でもしてんのかな? 確かに道場は使った者が掃除する決まりになってるけど、こんな時間まで使用者が残ってる事は無かったし、普段なら直葉が引き受けていた細々とした作業までやってるようだが…。

 

 首を傾げていると、一人の少年モノノフが俺に気が付いた。

 

 

「あー、悪いけど、今日はもう店仕舞いしてるんだ。用事があるなら、明後日か明々後日に頼む。明日は、道場の持ち主が用事で出かけるんだ」

 

 

 道場の持ち主って、直葉の事だよな? 用事があって会いに来たんだが…。

 そう告げると、少年モノノフの顔付が少し険しくなった。

 

 

「またか…。言っておいてやるが、はっきり言って無駄だぞ。皆、玉砕してるんだからな。大体、会った事もない人間から交際を迫られても、承諾する訳がないだろう。将来有望なこの俺でさえ…」

 

 

 待て待て待て。何か勘違いしてないか? 俺は直葉の知己だ。見ず知らずの人間でもないし、予め今日会いに来ると言うのは伝えておいたし、本人も承諾しているぞ。

 

 …反論すると、更に目付きが厳しくなった。…この感情は……嫉妬や猜疑?

 周囲を見回せば、似たような視線がちらほら飛んでくる。聞き耳立てていた少年たちが多いようだ。

 

 そして『玉砕』ね…。直葉を召喚して遊んでる時に、何度か言ってたっけな、『知らない人に告白された事があった』って。

 つまり、こいつらはその一人か、これからそうしようとしているって事か。

 まー無理もないよなー。元々、『こんなC学生が居るか!』ってくらいに男好きのする体だったのに、毎晩の調教でセックスアピール超特盛、女の悦びを骨の髄まで叩き込まれた事で無意識な色気を振りまきまくる、青少年の股間に悪すぎる犯罪染みた女の子になっちゃったんだもの。どんなに真面目な青年少年のモノノフだって、下心が湧いてしまっても無理はない。

 こいつらが本気で直葉を好いているのか、それとも体に惹かれただけなのかは微妙なところだが…玉砕した後も虎視眈々と機会を伺い、邪魔者を排除しようとしている訳か。

 

 

「あっ!」

 

 

 まぁ、当然の如く無駄な努力だった訳ですが。

 喜びが滲む声が響き、次の瞬間には俺の懐にいつもの温もりがすっ飛んでくる。それを見た少年モノノフ達は、目を見開いて絶句していた。

 俺の腕にすっぽり抱きしめられて、直葉は俺の胸板にぐりぐり顔を押し付ける。ブンブン振られる犬の尻尾を幻視した。

 

 

「おかえりなさい! ごめんなさい、お迎えしようと思っていたのに…」

 

 

 いいよいいよ、道場の仕事を放り出す訳にはいかんだろ。そういう真面目な所も(ギャップの要因になって)魅力だって。

 頭を撫でてやると、嬉しそうに喉を鳴らす。盛りに盛られた双丘が押し付けられて、ぐにぐに形を変えるが、これは意識してやってますね…。

 

 一頻抱擁を愉しむと、直葉は周囲の少年たちに向かって頭を下げた。

 

 

「ごめんなさい、今日の用事と言うのは、この人の事なんです。お兄ちゃんや雷蔵おじさんにも会わせてあげたいから、皆さんのご厚意に甘えて、今日は帰らせていただきます」

 

 

 丁寧な言い方で、しかし有無を言わせず断定する。唖然とした視線もお構いなしだ。

 言うだけ言って、『行きましょう』とばかりに腕を組まれた。何時になく強引に腕を惹かれて歩き出す。

 

 少し歩いた所で、道場から阿鼻叫喚の声があがるのが聞こえた。

 …よかったのか? あんな対応で。色々手伝ってくれてたんだろう? 普段の真面目で礼儀正しい態度を放り投げちゃって…。

 と言うか、さっき道場の外れにいたけど、告白されてたんじゃないのか。その次の瞬間にあんな態度を見せ付けられたら、心が折れるな。

 

 

「いいんです。みんな、いやらしい顔で私の胸ばっかり見て…。道場の管理を手伝ってくれるから我慢してましたけど、何度も告白されて時間を取られますし。道場を閉める時間になっても何かと理由を付けて長居するから、『こすぷれ』もしにくくなっちゃいました。諦めてくれるなら、そっちの方がすっきりします」

 

 

 おおう、取り巻きを便利に使ってたのか。しかも邪魔になったらポイ捨て上等とか、悪い女になったな…。道場に長居しようとしたのは、直葉へのアピール、好感度稼ぎの為だろうか。それを知ってて一刀両断…。

 まぁ、俺以外の男は目に入らないくらいに躾けたからな。ある意味俺のせいか。

 それに、いやらしい視線で見られるのは嫌か。

 

 

「好きな人から見られるのと、そうでない人とは全然別物ですもん。…それに、あなたは見るだけじゃないでしょ?」

 

 

 ぴったり付けた体から、興奮で上がった体温が伝わってくる。下腹部に目をやれば、既に淫紋が浮かび上がっているのが服の切れ目から見えた。

 引っ張られている方向は、桐人君と直葉の家でも、雷蔵のおっさんの職場でもなく、連れ込み宿が立ち並ぶ方向。

 やれやれ、再会して即ホテル行とは…欲望に素直になったもんよのー。いや、最初からそうだったっけ? 命を助けられた直後に、明日奈と神夜に相談して睦言に混ぜてもらったくらいだもんな?

 

 

「だって、直接抱いてくれるなんて久しぶりですから…。夜毎に呼び出してくれるけど、やっぱりこの体で抱いてほしい…」

 

 

 分かってる分かってる。今まで遠隔でしか可愛がってやれなかった分、今日はたっぷりナマで、ぶっ壊れるくらいに可愛がってやるよ。

 道場の童貞連中が想像してシコって妄想してる内容なんて目じゃない、もっと変態みたいで、もっと取り返しがつかないところまで堕ちるような、すっごい事してやるよ。

 

 囁いて耳に舌を這わせると、直葉はそれだけで体を痙攣させ、小さな絶頂を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体感時間操作とオカルト版真言立川流を駆使して、直葉を体力の限界まで…いや、それを回復して更に体力の限界を超えさせる、を繰り返す事……えーと、少なくとも8回くらい。

 欲求不満を解消してなお余りある、それこそ直葉が本気で「死んじゃう」なんて言いだすくらいに可愛がった後。

 腰回りが充実した感じになった直葉に連れられ、彼女の家にやってきた。

 

 

「ただいま! お兄ちゃん、白浜さん、お待たせ~」

 

「兄貴! お久しぶりっす!」

 

「師匠~! 僕の事忘れてないですよね!?」

 

 

 おう、桐人君と…え、兼一君? いや忘れちゃいないけど…何で直葉の家に?

 

 

「やっぱり忘れてるぅ! シノノメに戻った後、もう一度こっちに来て滅鬼隊事件の手伝いをするって言ったじゃないですかぁ!」

 

 

 いやそれは覚えてるけど、まさかもう往復してきたのか? あの道程を、一人で?

 

 

「流石に一人じゃ無理でしたけど、『もう』って言ったって月が変わるくらい経ってるじゃないですか。それだけ時間があって、里のモノノフとも力を合わせれば、充分往復できますよ」

 

 

 ………言われてみれば、もうそんなに経ってるんだっけ。ウタカタでの日々が濃すぎて、全然実感なかったぜ。

 それで、霊山に来てからは雷蔵…禁軍の手伝いか。

 

 

「ええ。警備隊の下っ端扱いですけどね。目をかけてもらってます」

 

「宿舎に空きがないから、うちに下宿させてるんですよ。俺としても、競い合える相手がすぐ近くにいるのはありがたいんで」

 

 

 そういやお前ら、仲が良かったもんな。

 庭に立ち会いの後があると思ったら、そういう事か。道場でやれよ。

 

 

「この二人が手合わせすると、他の人達の手が止まっちゃうんですよ。それは別にいいし、憧れて道場の使用希望者が増えるからいいんですけど」

 

「憧れ…られてるのかなぁ。偶に女の子に声を掛けられるのが怖い…」

 

「師匠から教わった鍛錬をしていたら、全力で距離を取られたんですが」

 

 

 才能無し素質無し腹括った時しか根性出さないのお前が強く成ろうと思ったら、まともなやり方で行ける訳ねーべ。ま、大分成長したとは思うけども。

 ま、久しぶりに会ったんだ。最近の活躍でも聞かせておくれ。戦い以外にも、二人とも気になる子だって居たよな。

 

 

「兄貴の活躍も聞かせてください! 聞きましたよ、ウタカタの里で物凄い戦いが頻発してるって」

 

「異界が一つ、浄化どころか消し飛んだって聞いたんですが……事実だとしたら、確実に師匠の仕業ですよね、これ。何やらかしたんですか」

 

 

 キメツケ、イクナイ。

 オレ、ムザイ。

 ワルイノ、オニ。

 

 

「こっち見て言いましょうね~。立ち話も何ですし、ご飯の用意しますね。奮発して、お鍋の準備してるんです! いいお酒も買ってきました!」

 

「気が利くな、スグ! そのまま兄貴の嫁になって、俺と兄貴を文字通り義兄弟にしてくれ」

 

「師匠と兄弟になる為に、妹を差し出すのはどうかと思うよ桐人。それはそれとして上等なお鍋! 直葉ちゃんのご飯は美味しいから楽しみです!」

 

 

 

 

 この後、4人で酒飲みながら盛り上がった。

 話題は専ら、兼一君と桐人君の最近の活躍だ。直葉はあまり話題に入らず、甲斐甲斐しく世話をしてくれてたけども。

 二人はメキメキと力を伸ばしており、『自分で言うのもなんだけど』と前置きするものの、結構な戦果を挙げたようだ。

 戦いにおける自信もつき、気になっている子とも徐々に距離が近くなっており、公私ともに充実した日々を送っている。先日など、『友人と遊びに行く』という名目で、Wデートまで行ってきたらしい。尤も、お泊りは勿論、二人きりになる時間さえ殆ど無い、本当に集団で遊びに行っただけだったようだが。

 

 うーむ、青春しとるのぅ。

 

 個人的に興味があったのは、兼一君の活躍話。面白いとかじゃなくて、情報収集的にな。

 禁軍の手伝いをしているだけあって、手に入りにくい情報も結構持っていた。話せない情報も多いようだが、何が話せて何が話せないのかだけでも、結構な情報源になる。

 

 とりあえず言える事は、霊山での滅鬼隊騒動は、一段落ついているという事だ。ただ、滅鬼隊が解放された事を切っ掛けにして逮捕された連中の余罪が、多いこと多いこと。その分関係者も芋蔓式に引きずり出され、そっちの処理に苦労している。

 …それは、一段落したと言えるのか…?という疑問もあるにはあったが、今調べているのは別件扱いされているらしいし、『滅鬼隊関連は』片付いた、と言う事なんだろう。

 

 それでも、霊山で都市伝説扱いされていた実力者集団・滅鬼隊(なお実態…)を欲する者は多いが、今その手を伸ばそうとする間抜けは居ない。

 北の地を見捨てた鬼こと、九葉のおっさんが目を光らせているし、下手に動けば野心を持っている事を暴露するも同じ。

 更に、ここ最近は滅鬼隊の居場所となったウタカタで、とても捨て置けないような戦いが頻発している。送られてくる報告を全て鵜呑みにしている訳ではないが、下手にウタカタから戦力を引き剥がせば、それこそ中ツ国滅亡の危機に直結する。

 それが分かる程度には、『使える』人材が残っているようだ。

 

 つまるところ、『使えない』人材については、『掃除』されたという事っぽいが。いや、掃除と言うのよりは膿を出された、って事かな?

 これも九葉のおっさんの仕業だろうか。陰謀や暗躍を全部あのおっさんのせいにするのもどうかと思うが、今や逆らうのも難しい程の権力やら何やらを握ってるらしいからな…。普通の人なら、権力の味を占めて暴君になってそうなくらい。

 

 

 そうそう、九葉のおっさんと言えば、それ繋がりで兼一君と桐人君が周囲から注目されているらしい。

 俺を通して間接的にとは言え、北の地を見捨てた鬼と関わりを持ってしまったからな。昨日だって、二人に向けて九葉のおっさんから「こちらに顔など見せる必要はない。貴様が居ると色々騒がしくなるからさっさと行け」と伝言が届いたそうな。

 …らしいと言えばらしいけど、冷たいよなぁ。

 まぁ、確かに滅鬼隊の頭領の上、異界を浄化させる術を持った人間が居るとなれば、よからぬ事を考える者が出てもおかしくない。状況を読めない『使えない』人材は始末されていても、良くも悪くも状況を読んだ上でリスクとリターンを天秤にかけられる人材は残っているかもしれない。温厚な人間にも、魔が差す事はあるだろうしな。

 

 …もしもそれで成功したとして、後悔するのは目に見えてるけどな。俺が大人しく従う筈もないし、うちの子達がそのまま使い物になるかっつーとね…。反発、反逆、反骨、過信、油断、慢心。うちの子対が成長していない訳じゃないんだが、どーしてもそれらと切っても切れない関係にあると確信があるんだよなぁ…。

 そもそも、うちの子達を纏められているのは、人徳やシステム云々よりも、濃厚で意味深なスキンシップがあってこそ。それを無くせば、自然とうちの子達の仲も険悪になっていくだろう。スキンシップが足りない子は、段々不安定になっていくから猶更だ。

 …こうして考えると、体感時間操作の術の貢献度は桁外れだなぁ…。

 

 

 それはそれとして、うまい酒と鍋、可愛い子の酌、尽きない話題で話が弾む弾む。二人とも、明日は任務も無い為か、二日酔い上等で呑みまくる。

 …直葉が二人を酔い潰そうとしているようにも見えるが、まぁいいか。二人が潰れようが潰れまいが、夜のお楽しみに変わりはない。

 

 ん? なに? 部屋で寝たフリしてるから、夜這いをかけてほしい? 了承。

 

 

 

 にしても…話を聞く限りじゃ、こいつらかなり腕を上げたな。単に誇張しているだけじゃない。体付も一回り鍛え上げられているのがよく分かる。

 実力が近い者同志が近くで暮らした事で、ミックスアップでも起きているのか。…結構な修羅場をくぐったようだが、話には出てきてないなぁ。言えない事でもあるのかね。

 

 …ふむ。

 

 

「ん? なんすか兄貴。 白滝啜りながら考えこんじゃって。酒…はまだ残ってますね」

 

「…あ、なんか僕嫌な予感が…」

 

 

 いや、どうせだから二人と手合わせしていこうかなと。兼一君にやらせてる鍛錬だって、初心者用をちょっと強引に鍛え上げる為の鍛錬だ。今の実力に合わせた鍛錬を見繕ってやりたい。

 桐人だって、兼一君に付き合っちゃいるが、やっぱり白打と二刀流じゃ求められるものが違う。どうせなら、ちゃんとした訓練方法(ハンター基準)を教えてやりたい。

 技の一つ二つくらい、教えておいても悪い事にはならんだろうし。

 

 

「兄貴の技! 訓練! 是非とも「早まっちゃ駄目だ桐人ー! お前、初めて鍛錬に付き合った時の事を…いや、今でもどんだけ悲鳴を挙げてるか分かってるのか!? あれがもっと…あれだ、口にするのも憚られるような事になるんだぞ!」……………で、できらぁ! 兼一! お前もやるよな!? 俺が強くなるんだから、お前もなるよな!? 「ぼ、僕を巻き込むなぁあぁぁぁぁ畜生ぉぉぉぉ!!!」」」

 

「お兄ちゃんも兼一さんも頑張って~」

 

 

 反応が対照的だなー。まぁ兼一君が悲鳴を挙げるのも分からんではないが。そして直葉は完全に他人事である。

 俺だって、かつてハンターとして叩き上げられた時は散々な思いをしたもんだ。…後になると、『なんであんな程度の辛さで音を上げていたんだろう』って思えてくるけども。

 

 ちょっとどころではなく葛藤したらしき桐人だが、それでも受けると言い切った。

 兼一を巻き込んだのは、地獄への道連れが欲しかっただけなのか、それとも好敵手に強くあってほしいからか。

 いずれにせよ、泣き喚き逃げ出そうとしながらも、自分と共にのた打ち回る事を選ぶと、桐人は確信していたようだ。

 

 うむ、では二人そろってしっかり訓練メニューを考えてやりますか。それはもう、「何をしている」と聞かれたら「後悔している」と即答するくらいに。

 

 

 ま、手合わせするのは明日の朝だな。今日は結構酒が入っちまったし、もう時間も時間だ。近所迷惑になる。

 どこでやるかな…。その辺の異界で…。

 

 

「いや異界は駄目でしょ!? いつ何処で鬼に襲われるか分からないし、時間制限ができちゃうし。やるなら、道場でやった方がまだ…安全…かな…」

 

「うちの道場でやってもらえれば、3人の戦いに憧れて利用者が増えるかも…」

 

「俺も道場がいいと思うよ、兄貴。いくら俺と兼一が、ちょくちょく朝から組手とか不審な鍛錬してるからって、近所迷惑で怒られるのが目に見えてるし」

 

 

 既に怒られた事あんのね。んー、しかし一応お忍びなんだよな。あんまり大っぴらに人目につくのは好ましくない。

 道場でやるとなると、早朝でも人が居そうだしなぁ。

 

 

「じゃあその辺の山か異界ですね!」

 

「掌返すの早いぞ直葉」

 

「優先順位に従っただけだもん」

 

「女って…」

 

 

 兼一君、女を極端だと感じるな。直葉が極端な性格してたんじゃなくて、俺が極端に変えちゃっただけだから。

 …いや、やっぱ女は全体的に極端だわ。女じゃなくても極端なのが同じくらいいるだけで。

 

 まーえーわえーわ、とにかく今は飲め飲め。二日酔いで動けなくなるくらいになってたら、俺を倒す好機もあるやもしれんぞ。

 

 

「むしろ兼一が、二日酔いで動けなくなって手合わせから逃げそうな気が」

 

「ににに逃げるもんか! ここまで来たらやってやる! …でもとりあえずはお酒と鍋だね」

 

 

 うむ全くだ。

 その後、二人は翌日から始まる新境地の訓練の事を忘れようとするかのように、食って飲んで騒いで寝た。

 そして兄とその友人を酔い潰れさせた直葉は、自室に俺を招いてしっぽり楽しんだとさ。

 

 

 

 

 

 



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550話

 

 

 

 

-----------------------Side 滅鬼隊(鹿之助)--------------------------

 

 

 

 よっ、俺、鹿之助。

 ウタカタの里に滞在している、傭兵部隊……みたいなものの一員だ。本当なら、『滅鬼隊』って名前があるんだけど、どーも若様がその名前が好きじゃないらしくて、あんまり使われないんだよな。

 まぁ、その滅鬼隊って、霊山で都市伝説扱いされている隠密部隊の事だったり、その実なんだか酷い扱いをされていた、色々な意味で後ろ暗い組織の名前らしいから、別の名前にしてもいいんじゃないかなって思ってるけど。

 諸手を挙げて賛成しそうだよな、浅木さんとかアサギさんとか。

 

 隊の名前は置いといて、若様がウタカタを離れてから1日。若様と触れ合えない女性陣は、徐々に精神的に不安定になっていくと言われているけど、流石にたったこれだけの時間で発症する程じゃないようだ。

 那木さんとかに言わせると、『自分は大丈夫だ』って言い張り始める辺りから危険らしいけど…。

 本当におかしくなっちまったら、どうにかして止めるしかないよなぁ。万一、ウタカタとの間で責任問題にでもなったら……うぅ、考えるだけで恐ろしいよ。

 

 もしもその『万が一』が起きてしまった時、重要になってくるのは普段の言動だ。

 これは神夜さんに言い含められた事なんだけど、多少の問題があっても普段から信頼を得ていれば、一度や二度はどうにかなる。許してくれる。逆に、小さな問題がでも日頃から疎まれていれば、致命的な汚点に仕立て上げられる。

 『若様を見てれば分かるでしょう』って言葉が、物凄い説得力だった。

 まぁ、その後に明日奈さんが『戦狂いのあんたも似たようなもんでしょ』とも言ってたけど。

 

 

 そういう訳で、俺達…俺、骸佐、権佐の男三人衆は、主にウタカタのモノノフ達との交流を深めるよう命じられた。

 別に、特別な事をしろって訳じゃない。俺は前から、資材やハク、それに敵の探知能力を目当てに頻繁に任務に誘われる。骸佐や権佐は、主に討伐系の任務に。それになるべく応じて……言葉を飾らなければ、『貸しを作れ』って事かな。

 

 今朝も探索に同行した。成果は……資材とかより、大型鬼を見つける方が多かった。成果という意味ではがっかりだけど、その分危険を減らすという意味では貢献できたし、手前味噌ながらよくやった方だと思う。

 ただ、探索に向かったのが、オオマガトキもどきが起きそうだった、あの塔周辺なんだよな。里にも近いし、場所が場所だから、あんなに大型鬼が居るって言うのはちょっと問題じゃないかな…。

 報告には挙げておいたし、ウタカタのお頭にもあっちのモノノフから連絡されてる筈。何事も起きない事を祈っている。いや本当に。

 

 

 少し遅い昼飯を食おうと思って、お気に入りの蕎麦屋に入ったら、見知った顔が集まっていた。

 

 

「あれ、骸佐、権佐、それに二人も」

 

「ん? ああ、鹿之助か。飯食うなら座れよ。奢らないけど」

 

「むしろ奢ってちょーだい。今日も探索行って、設けたんじゃない?」

 

「奢らないよ…。今日はハクより鬼が沢山見つかって、逃げてきたようなもんだから」

 

「討伐しちまえばよかったじゃないか」

 

「ま、鹿之助は直接戦闘が苦手だからな。実力よりも、萎縮する癖が問題だ」

 

「うぐ…」

 

 

 権佐の容赦ない、的確な言葉が突き刺さる。分かってるよ、自分が必要以上に臆病だって事は。

 

 

「無意味に勇敢になられるよりはいいんじゃないか? 宝探しの最中に、鬼に向かって突撃されちゃ敵わんぜ」

 

「そーね。あんたと一緒で、逃げる隠れるに徹してればいいんじゃないの」

 

 

 他人事丸出しの口調で慰めて…多分慰めてくれてるのは、いつもの双子モノノフだ。

 思いっきり欲得ずくと言うか、行動原理が酒・ハク・怠けるな駄目人間なんだけど、付き合ってみると悪い連中じゃない。いい奴とも言い辛いけど。

 

 

「にしても、これだけ揃うと流石にちょっと狭いな。すみません、座敷とか使っていいですか?」

 

「構いませんよ。ご注文、そちらに運びますね」

 

 

 ぞろぞろと連れだって座敷に入る。あまり使われている部屋ではないようだ。

 

 

「そういえば、4人とも知り合いだったのか?」

 

「いや、ついさっきまで満席だったんで、相席になっただけだな。鹿之助とよく一緒に居るってくらいの認識はあったが」

 

「そうね。あたし達も、あんたらの隊の事はあんまり知らないもの。女ばっかりの中で、数少ない男だから印象に残ってたけど」

 

「あー、じゃあ自己紹介くらいしとくか。俺は和真。こいつは亜玖阿だ」

 

「…失礼ながら、珍しい名前だな。確か……異国の言葉で、水…という意味だった気が」

 

「ああ、曽婆さんが外つ国人だった…らしいんだけど、とっくに死んじまってるから何も分からなくってな」

 

「まぁ、日ノ本人離れした美貌だって自覚はあるわよ~」

 

 

 …その美貌も、真昼間から酒を飲みまくっているようでは台無しだな。

 しかも、既に5本目のようだ。酒瓶が転がっている。

 

 

「別にいいじゃない。私はもう、今日はやる事ないのよ。文句言われる筋合いはないわ」

 

「やる事あっても、飲む時は飲むけどな、この馬鹿は…」

 

 

 呆れたように言う和真。だけど、俺は忘れていない。。以前に彼と一緒に受けた任務で、口元から酒精が漂っていた事を。

 

 

「おっと、俺は権佐。鹿之助が世話になってるな」

 

「骸佐だ。話は聞いてるぜ。ハクの力で戦う、って発想は結構面白い」

 

「…い、いや、頭領さんもそうだったけど、そんなに真剣に評価されても困るんだけどな。そんなに真剣に考えてた訳じゃないし」

 

「そうね。大体あんた、本当にそんなハクがあったとしても、戦うどころかお酒に次ぎ込むか、霊山まで行って遊女屋あたりで散財するだけじゃない」

 

「てめーは妙な詐欺に騙されて、一文の得にもならない塵芥を仕入れてきそうだけどな」

 

「どうどう。…ハクと言えば、この前の戦いでの報酬はどうなったんだ? 結構な実入りだったろ。…まさか、それも全部酒に…」

 

 

 マジかよって顔をした骸佐に、和真はパタパタと手を横に振る。

 

 

「いや、流石に俺もそこまで散財しねえよ。多少は武装を強化したし、将来的に楽して暮らせるだけのハクは貯め込んでおきたいしな。ただ、報酬が大きくても、やっぱ支出がなぁ…」

 

 

 溜息を吐く和真。隣の亜玖阿も、少し苦々しい表情をしている。基本的に能天気な彼女が、こんな顔をするのも珍しい。

 しかし、支出?

 

 

「支出って……そんなに金を使うような事、あるのか? そりゃ武器強化とかにハクは必要だけど、そんなに頻繁にできるもんじゃないし」

 

「だよな。ミタマに捧げて強化したとか?」

 

「…博打でも打ったか?」

 

 

 それぞれの考えを口にするが、2人から向けられたのは呆れたような、そしてそれ以上に妬ましいと言わんばかりの視線だった。

 

 

「何言ってんのよ。生活費よ、生活費! 食費は勿論、いざと言う時の薬の備え、破れた服や布団の買い替え、道具の手入れ! 炭一つとっても有料なんだから! 里の中で生きるって事は、一秒ごとにハクが! お酒の為に使えるハクが減っていくのと同じなのよ!」

 

「だな。主力部隊とは言わないまでも、中堅どころくらいになって任務を引き受けて行けば、もうちょっと懐も温かくなるんだけど、俺らじゃ危ないってもんじゃないからな」

 

 

 力説する亜玖阿だが、正直今一つピンと来ない。

 考えてみれば、俺達に限らず、隊の中でそう言った金銭の問題を意識しているのは極一部だ。

 食事はほぼ上げ膳据え膳状態。担当になっている時は料理も片付けもしているとは言え、仕入れまでやっている訳じゃない。仕入れをするにしても、『限度はこれだけ』と数字を伝えられるだけで、その数字の根拠になっているのが何か、それを超えたらどうなるのか、それを稼ぐのにどれだけの労力が必要なのか意識した事もない。

 消耗品も、皆で使う物であれば若が作るなり購入するなりしてくれる。

 家賃や税を取られる事もない。…いや、税に関しては任務の給与から天引きされているので、意識してないだけか。

 金がかかるような趣味もない。…と言うよりは、趣味を見つけられている奴が非常に少ない。

 

 とにかく、ハクを使用する機会が非常に少ないのだ。強いて言うなら、こうして里に飲み食いしにきている時くらいか。それにしたって、ハクが無ければ隊に戻って飯を食えばいいだけ。

 ハクが大事である事は、散々言い聞かされている。だが、それが無くなる事についての危機感は非常に薄い。支出の必要が非常に少ない為、任務を受けていれば勝手に溜まっていく…くらいの認識しかないのだ。

 改めて自分達の状況を考えると、、親の庇護下でお小遣いを貰っている子供同然だ。尤も、そのお小遣いは任務と言う名の『お手伝い』をして稼いだものなので、自力で稼いでいると言えなくもないが。

 

 

「あ゛ー……折角、結構な報酬が入ったのになぁ…。鎧の修繕とかやったら、自由に使える金が殆ど無くなっちまってさぁ…。あんたらのとこの頭領が羨ましいぜ。この前の戦いだって、あんなでかいのをほぼ一人で押し返してよ。あんだけ強けりゃ稼ぎ放題だろうに」

 

「そりゃ若はな…。あの人は俺らとは別次元だからな…。俺達みたいに弄られたって訳でもないのに、何なのかねえあの強さは」

 

 

 権佐がしみじみと呟く。滅鬼隊の事情についてはあまり説明されていないので、弄られた云々は口外すると不味いかもしれない。

 まぁ、和真なら大丈夫だろう。何となくヤバい裏事情を聞かされそうだから、聞かなかった事にしたな。彼は保身に定評のある男なのだ。亜玖阿は酔いが回ったのか、ひっくり返って腹を出して寝ていた。

 

 

「お前らから見てもそれくらいなのか…。今だから言うけど、最初に来た時は里の皆から気味悪がられてたんだぜ。今まで何度援軍を要請しても断ってた霊山から、いきなり一個小隊が送られてきて、しかも美形で強い奴らばっかり。何かあると思うのも当たり前だろ」

 

「最初は分からなかったけど、今は『ああ、あれってそういう事だったんだ』って思い当たる節はあるな…」

 

「そんな事問題にならないくらいに助けられてるから、あっさり疑念も消え去ったけどな。でもあの頭領さんだけはな…。なんだ、その、そっちの人達は大体お手付きって思われてる。女衆からの軽蔑が…」

 

「そこは男からも軽蔑していいと思うんだが」

 

「いや、正直あそこまで行くと軽蔑どころか尊敬するわ、心の底から。そこでひっくり返って寝てる奴を見てれば、現実の女ってのは死ぬほど面倒くさいってよく分かる。それを何十人と侍らせて大した軋轢も生じさせないとか、尊敬以外にどうすりゃいいんだよ」

 

「妬めば?」

 

「妬めねえよ…。女だらけの中に自分だけ男とか、肩身が狭いってもんじゃない」

 

「それは本当にその通りだよ。だから俺達も、男3人で固まって行動してる事が多い。…若を連れて行こうとすると、女連中の目が厳しくなるんだ」

 

「あー、だから女の連中に比べて、お前らをこっちで見かける機会が多いのか。…だったら、この後探索に行かないか? そっちの頭が弱いのは、酔いが回って暫く起きないだろうから、この4人で」

 

「俺、午前中にも行ったばっかりなんだけど…」

 

「儲けも無かったし、すぐに逃げたから疲れてもいないだろ。戦闘は骸佐と権佐に任せればいいじゃないか。それに鹿之助の索敵が加われば、普段は危険だから入り込めない異界で荒稼ぎも…」

 

「別に俺達は構わんが、お前も少しは戦えよ。手を貸すくらいならともかく、いいように扱われて力の安売りをするようじゃ、他の連中にも迷惑がかかる」

 

「…やっぱり、あんまり深入りしない方向で…」

 

 

 掌を返した和真に呆れたのか、骸佐が俺に目を向ける。「こいつ大丈夫か?」って事かな。

 言いたい事は分かるし、危険からは全力で逃げまくる奴だけど………………え、ええと…それを打ち消す程の長所が………わ、悪知恵はある。…つまり利用されてるって事で…と、とにかくこれでも、せこいだけで悪い奴じゃないから! 

 

 自分でも今一つ、大丈夫だと太鼓判を押す事ができなかったんで、丁度やってきた蕎麦を誤魔化すように掻き込んだ。

 

 



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551話

ガングレイブVRの購入は無しだな…。
事前にプレイ動画見てよかった…。

さて、7月末には仁王2DLCですが…Ghost Of Tsuhimaに興味が沸いてきました。
隻狼は見送って、暫くはエスコン7のトロフィー集めするつもりだから、次の購入はこいつかな。


 

黄昏月玖日目

 

 

 朝。兼一君と桐人君が起きてくるよりも早く起床。隣りで眠っていた直葉も起きて、イチャイチャしながら朝飯の準備。

 もしも桐人君が見たら、居心地が悪くなってこの家から出て行ってしまいそうだなぁ…。

 

 二人が(二日酔の頭を抱えて)目を覚ます頃には、いつもの直葉に戻っていた。

 蜆の味噌汁が美味いのぅ。

 

 

「うー、体が重い…。直葉ちゃん、本当にありがと…」

 

「調子に乗り過ぎたな…」

 

 

 調子に乗ったというか、現実逃避したというか。やっぱり手合わせはやめとくか?

 

 

「いえ、それは絶対に受けます。兄貴が戦ってるところ、見た事ないですし」

 

 

 そう言えばそうだったな。詩乃の弾を切り落とした時くらいか。俺も桐人君の戦いは見た事なかったっけ。

 兼一君は?

 

 

「桐人がやるって言ってるのに、僕だけ逃げたら格好悪いというか、角が立つじゃないですか…。幸か不幸か、二日酔いもすぐ治りそうです。前とは違うってところを見せてやりますよ」

 

 

 おう、よく言った。期待してるぞ。

 ところで、兼一君はシノノメの里から、モノノフ達と来たんだよな。その人達は? 俺の知ってる奴か?

 

 

「練武戦で手合わせした事はあった筈ですけど、瞬殺されましたからね…僕も人の事は言えませんが、多分覚えてないかと。その後、特に話をした訳じゃないそうですし。あの3人は、他所に遠征にでかけてます」

 

 

 遠征? 異界巡りでもやってんのか?

 

 

「いえ、道場巡りです。『外の流派を教わる事で、白浜でさえ強くなってるんだから、俺達だって外の流派で強くなれる筈!』って言って。霊山のめぼしい道場は廻ったんで、別の里まで足を延ばしたんですよ。僕も本当は行く予定だったんですが、師匠が来ると言う事で今回は抜けました」

 

 

 そりゃ悪い事を…俺は別にしてないけど、なんかすまんな。半日にも満たない間だが、その分みっちり鍛えてやらねば。

 しかし、外の流派を学べば強くなれるって、随分短絡的だなぁ。

 他流派との交流は悪いことじゃないが、練度を上げないと意味がないだろうに。

 

 

「どっちかと言うと、自分に足りないものを埋めてくれる技術を探している、って感じですね。皆、こっちに来る前は武器の扱いばかり学んでいたんですけど、柔術を取り入れて相手の体勢を崩すようになったり、手甲の攻撃を強化する為に新しい技を探したり…」

 

「俺も何度か付き合ったんですけど、やっぱり所変われば品変わるというか、霊山じゃ伝わってない技とかが結構ありましたね。一見使い辛い技でも、意外な使い道があったり」

 

 

 なるほど、ただ一日体験するだけじゃなくて、それなりに考えてやってる訳か。ある程度強くなったら、そこから先は自力で自分を伸ばしていくしかないからなぁ。

 そういう腹積もりなら、無駄にはならんか。

 実際、シノノメの里の武術は統一され過ぎている。使い手毎に多少の特徴はあるが、使える技は似たり寄ったり。手の内も知れ渡っている。

 なので、意表を突くような戦い方を一つ身に付けただけでも、里内での強者番付に大きな変動が起きるだろう。

 

 …一番大きな変動は、万年最下位だった兼一君がメキメキと実力を伸ばしている事だろうが。

 そう言えば、シノノメの里で練武戦には参加したのか? 時期的に、一回は開催されてるだろ。

 

 

「生憎、僕がこっちに戻ってくる時には、情勢が落ち着いてないからって延期になってしまって。実際、霊山との取引の為に皆大忙しだったから、仕方ないんですけどね」

 

 

 それでも全敗の汚名は返上したかった、と愚痴る兼一君。ま、気持ちは分かる。今なら結構な順位に食い込めるだろうからな。

 ただ、平時の貢献度と今までの練武戦での成績で残機変動する仕組みだから、一回でも負けたらそれまでなのは変わらんだろうな。初っ端から泥高丸とカチ合ったら、まず間違いなくそこでジ・エンドだ。

 

 

「勘弁してくださいよ、こういう時に限らず悪い予感とか当たるんですから」

 

 

 だったら、猶更勝てるように鍛錬しとかんとな。兼一君に何を教えるべきか…。

 武術の才能、からっきしだもんな、この子…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝飯を終え、二人の二日酔も治まって。

 二人を伴って、適当な異界に向かった。流石に直葉は連れてきていない。日中の道場の仕事もあるし、モノノフでもない子を異界に連れて行ける訳がない。

 

 

「わざわざ本当に異界でやるんですか? 時間制限ができてしまいますけど…」

 

「そこらの山でも良かったんじゃ?」

 

 

 別にそれでもよかったんだが、やっぱりモノノフの戦いは異界が基本だしな。瘴気の有無で、動きはかなり変わってくる。

 体に瘴気を取り込まないような戦い方を覚えなきゃならんし、逆に鬼纏みたいに瘴気があるからこそ使える技だってあるだろ。

 

 

「鬼纏…って、兼一が時々使う、急に動きが早くなる技だよな」

 

「そうだよ。あれ、やり方教えなかったっけ? 桐人、使えないの?」

 

「どーも、瘴気を自分から取り込むってのに抵抗があって、今一つ上手くできなくてさぁ」

 

 

 ま、普通のモノノフならそうだわな。毒を自分から飲み干すようなもんだ。

 …そうだな、桐人君に教える技は、その辺にしとくか。瘴気や毒を自力で無効化できる技。それがあれば、瘴気の取り込みをするにしても多少は気が楽になるだろ。

 

 

「ありがとうございます! …できれば攻撃技が良かったけど…」

 

 

 そっちは手合わせの結果次第だな。必要で、使いこなせそうな技があるなら、教えるのも吝かではない。

 勿論、兼一君もだ。

 

 

「…その場合、僕らの鍛錬の辛さは加速度的に跳ね上がるでしょうね」

 

 

 よく分かっているではないか。

 ま、技を教えるったって、たった一日で体得できるものでもない。やり方と理論を教えて、見本を見せて、後は自分で練習しろ。

 無理だと思ったら、或いは覚えても意味が無さそうだと思ったら、辞めてしまっても構わん。何を覚えて何を手放すのか、それも自分で選ぶこった。

 

 

「…やってやりますよ! 強くなりたいって望んだのは僕なんですからね! ここで逃げたら、死んだ家族に胸を張れない!」

 

 

 おう、よく言った。シノノメの里に行ったら、お前さんの家族の墓にも手を合わせておくか。

 人のムズ湖に何やらしてんだって祟られるような気もするけど。

 

 さて…話をするのもいいが、そればかりでは稽古の時間が短くなるばかりだ。そろそろ始めるとしようか。

 俺を鬼だと思ってかかってこい。

 

 

 

 具体的には、鍛錬と言う名の拷問を押し付ける鬼として。

 

 

 

「うらぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 その一言で、キレた兼一君が襲い掛かって来た。…そんなに辛かったのかな…。それでも続ける根性は、間違いなくシノノメでも随一だと思うんだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 キレた状態でも、意外と兼一君の戦い方は落ち着いていた。と言うより、他にやり方を知らないから、一番馴染んでいるやり方を体が勝手に選んでるんだろうな。どっかで聞いた極意のよーだ。

 兼一君の戦い方は、以前に教えていた時と変わらない。だが、その練度は確かに以前より一回り二回り高くなっていた。

 基本に忠実で、自分に出来る事と出来ない事を見誤らない。相手がどんなトリッキーな動きを仕掛けても、決められた動きの中で対処する。

 一見地味で、「それしかできないのか」と言われそうなやり方だが、これをこなせるだけでどれだけの修練を積んだか分かるだろう。

 

 千招あるをおそれず、一招熟するをおそれよ。

 

 その境地にはまだ遠いが、間違いなくそれに通じていく戦い方だ。

 

 

 とは言え、やっぱり冷静とは程遠い状態な事は変わりなく。

 ほれ、突きを絡めとって投げ飛ばし、追撃の…って、

 

 

「御免!」

 

 

 おっと。桐人君が、踏み込もうとした足を狙って斬りかかって来た。逆に下がって避けるが、兼一君は体勢を立て直してしまった。頭も冷えたのか、さっきまでの狂乱した様子は全く見られない。

 

 

「ありがとう桐人、助かった」

 

「いいって事よ」

 

 

 いい割り込みじゃないか。慣れてるのか?

 

 

「ええ、助けられるのにも。…任務中に、女の子が近くに居て動きが鈍った事もあるんで…」

 

 

 そこを逆に、兼一君に助けられてる訳な。

 やれやれ、二人とも精神面はまだまだか。…俺も人の事は言えないが。

 じゃ、仕切り直しと行こうかね。

 

 

「今度は俺が! せぇいっ!」

 

 

 桐人が、両手に持った刀で攻勢に出る。

 袈裟、唐竹、逆風、刺突。

 そしてそれらの隙を埋めるように振るわれる、もう一本の太刀。

 片手で振るわれる太刀筋に、乱れと言えるようなものはない。

 

 …そう、片手。片手なのだ。これまた、モノノフとしては特異な戦い方と言える。

 双刀ではない。普通の双刀なら、太刀に比べて半分くらいの長さにして、両手に逆手で持つのがモノノフの一般的な戦い方だ。その際の動きも、敵の体を足場にして駆け上がったりと立体的な戦い方をする。

 それに対して、桐人君の戦い方は違う。一本一本が普通の太刀と同じくらいの大きさであり、飛び上がるような事はせず、無暗に動き回らない。2本の太刀を、純粋に攻撃用として使っている。

 

 ふむ…随分と鍛え上げたな、その腕…特に手首。

 

 

「前から、考えてた戦い方なんですけどね! どうしても力が足りなくて、片手で斬り付けたら太刀を落としてたんですよ!」

 

 

 そらそーだ。幾ら鍛えた人間だって、真剣を片手でまともに振れる奴はそうそう居ない。増して、鬼という大質量を相手に、刃筋を立てて接触させるのは難しい。下手に叩き付ければ、刀が折れる前に手のひらからすっぽ抜けるに決まってる。

 そこで目を付けたのが、兼一君のやってる訓練って訳か。

 

 

「そうです! 聞けば、殆ど筋力もついてなかった兼一が! 一月もしない内に、鬼の体に素手で後を残すくらい鍛え上げられたと聞いて! 後悔しましたけどね!」

 

 

 成程な。確かに、有効な戦い方だ。

 二刀流はむしろ防御に優れているのが鉄板だが、桐人君の一撃一撃は、一般的なモノノフが両手で斬り付けるのと同じくらいの威力と鋭さがある。

 また、積極的に前に出て、敵を追い詰めようとする戦い方…兼一君とは良くも悪くも真逆だな。二人で稽古しあっているのに、よくもこうまで正反対に育ったものだ。

 

 とは言え…。

 

 

「くっ! そこっ! てぇい!」

 

 

 甘いわ! 一撃目の影を縫うようにして抉り込まれた刺突。体を反らし、両肘の内側に裏拳を打ち付ける。

 肘を強制的に曲げられ、がら空きになった腹へ直蹴りのカウンター。

 

 

「ごぉ!?」

 

「桐人!」

 

 

 割り込んできた兼一君……違う、狙いは桐人を庇うんじゃなくて、俺への攻撃!

 至近距離からの体当たりを受け止め、更に足腰を連動させた突き上げを顔を逸らして避ける。

 

 今のはちょいと危なかった。攻撃の連携も、庇うか隙を突くかの判断も含めて、上々だな。

 

 

 とは言え、さっきの桐人は焦り過ぎだ。まだ使い始めて間もないから、攻撃の連携が少ないな?

 これが通じなかったから別の攻撃で、それも通じないからまた別の…ってなってるのが見え見えだったぞ。決まった動きが連携の要になってるのが分かったし、何より焦りで攻撃が単調になってた。

 いくら途切れの無い連携が特色でも、起点を抑えられ、単調になっちゃ返し技のいい的だ。

 

 

「いてて…そこをたったあれだけの遣り取りで見つけ出して突ける人なんて、そうそう居ないと思うんですけどね…」

 

「そこはほら、まぁ、師匠だし。僕なんか、それを理解してもまだ追いつかないし…」

 

 

 俺に限った事じゃねーよ。気づきそうな奴、出来そうな奴、両手に余るくらい思いつくぞ。

 見破れないとしても、結果的に同じ行動をとってきそうな状況もある。鬼ってのは頑丈な上に脳筋が多いからな。連撃を受けきる事を覚悟で、強引に体を捻じ込んでくるぞ。

 

 

「う…た、確かに、何度か危なかった事が…」

 

 

 何にせよ、練度の問題もあるが、その戦い方に固執しない事だ。折角、1本でも使える太刀を使ってるんだ。行動が読まれてきたと感じたり、手数よりも一撃の重さが必要になったら、一本収めて普通の太刀で戦えばいい。

 二刀流は強力だし、もっと応用が利きそうだが、慣れと練度って意味じゃ今までの戦い方の方が高いだろ。

 

 

「な、成程…。二刀連撃の途中で太刀を収めて追撃したり、逆に居合みたいにして二本目を抜いて、そこから繋げたり…。一気に連携の種類が膨れ上がる!」

 

「ちょっ、師匠! 僕にも! 僕にも何かないですか!? 桐人にようやく追いついてきたのに、また勝ち越される!」

 

 

 

 兼一君は、そうさな…。穿龍棍の応用でも教えてみるか。武器を使わない無手なのには変わりないが、蹴り技とか、龍気穿撃を疑似的に再現したものとか、色々あるし。

 さて、その辺りを踏まえて、もうちょっと手合わせを続けてみるか。

 二人が思っていた以上に成長していたから、中々楽しくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、行動限界ギリギリまで手合わせを続けた。異界から出て、今後の鍛錬について説明したら、二人は何故か力尽きてしまった。…うん、まぁ、気持ちは分かるよ。

 

 繰り返すが、やるかどうかは自分達で決めていい。まともに面倒も見てないんだ。正直、師匠面出来る立場だとも思わんしな。

 …それじゃ、悪いが俺はそろそろ出立しなけりゃならん。何時頃になるかは分からんが、霊山からの帰りにまた寄るよ。

 直葉達によろしくな。



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552話

 

-----------------------Side 滅鬼隊(きらら)--------------------------

 

 

 

 えーっと、きららよ。…誰に向かって挨拶してるのかしら、私。

 あいつが出立して、まだ3日目。そんなに長い時間が経った訳じゃないわね。

 …にも関わらず、周りの皆からは「あれ、まだ三日しか経ってない…?」って声が沢山聞こえる。どれだけあいつに会いたいんだか。早く帰ってこないかなぁ。

 

 …わ、私は別に、そんなに会いたいとは思ってないんだけどね! …ただ、その、体が疼いてしかないって人も…だから私じゃないわよ!? そりゃ、色々と過激な初体験と、その後の…変態みたいなあれのおかげで、色々捻じ曲げられたような気はしてるけど、私がこの3日間を妙に長く感じるのは、それが理由じゃないからね!

 いや本当に。

 

 何でこんなに1日1日を長く感じるかって言うと、暇だからよ。単純に、暇で暇で仕方ないの。

 あいつが居た時は、日に2,3回は何かあったものね…。鬼の襲撃に始まって、行方不明者の捜索、隊員同志の小競り合い、あいつが考案した何かの催しとか…。

 それが、あいつが居なくなった途端に綺麗さっぱり何も起こらなくなってるの。

 

 隊員同志でのあれこれは、近くに気力の源になる人が居ないから、そんな元気もないだけ…って事になるかもしれないけど、鬼まで来なくなってるのはどういう事かしら。いや、平和でいいんだけども。

 

 

 かく言う私も、一日が急に平和になってしまったので、時間を持て余している。遊びに行くにも、何だか気が抜けちゃってね…。…べ、別にあいつが近くに居ない事には関係ないわよ。

 それはともかく、いい機会なので、私は以前から気になっていた事を確かめに行く事にした。

 

 その気になっていた事とは、私が封じられていたらしい遺跡の事。

 色々聞かされてはいるんだけど…自分で言うのもなんだけど、あまり理解している訳じゃない。どうして私はあそこに封じられていたのか、他に封じられている連中とどんな関係があったのか、そもそもあの遺跡が何なのか。

 一通りの事は聞いている。ただ、聞いた時は関わる物全てを警戒しているような心境だったし、何よりも実物を見た事がなかったから、今一つ何について話しているのか、実感すら湧かなかった。そんな状態で話を聞いても、理解できないのは当たり前よね。…私の頭や想像力が弱いって事じゃない、筈。

 

 何にせよ、あそこには私に関わる何かがある。…覚えていないけど、あそこに封じられている人達と、私の仲は険悪だったらしい。

 そうだとしても、いつまでも放置と言うのは流石に気分が悪い。

 

 仲間は見捨てない。

 

 例え、記憶になくて、迫害されているのだとしても、同胞を見捨てる事だけはしたくない。

 

 …とは言え、流石に無計画に開放しても、それはそれで問題になるという事は私だって分かる。アサギさんから聞かされた、(自分の事とは思いたくないが)過去の行動を聞くと、絶対に何か起こるのは目に見えている。

 …それに、もしも解放された人達が過去の事を覚えていて、私を目の仇にしてきたらと思うと…。

 もしもそんな事をやらかせば、追放されるのはあっちの方になる…とは思うんだけど、どうにも不安が拭えない。皆を信じてない訳じゃないんだけど…。

 

 

 ともかく、そんな風にぐちぐちと考え込むのも性に合わないし、何より実物を見なければ名案が浮かぶ筈もない。

 だから、遺跡に直接確かめに行ってみよう…と思い立ったのよ。

 

 

 以前なら、自分一人で充分だと先走ったかもしれないけど、私は成長する女! 少なくとももう『大人』の女! 誰かに助力を求めるくらいの分別は身に付けているのよ! ……あれ、これって胸を張れるような事かしら。まぁいいか。

 ただ、その助力がね…。

 

 隊の皆は妙に気が抜けちゃってて、あんまり戦えそうな人が居ないのよね。それに、万が一何かと戦いになったら、私はともかく他の皆は力を使えば使う程、精神的に不安定になる。いつ鬼が襲ってくるか分からない状況だし、不用意に誘うのもどうかと思う。

 うーん、かと言って、あいつが帰ってくるまで何もしないというのも…。

 

 

「…む?」

 

「え? あ…真鶴、さん? 何だか久しぶりね」

 

「ああ。そちらは…色々あったようだな。まぁ、受け入れられたようで何よりだ。頭領殿との関係もな」

 

「…あれ? あなたも、あいつに顔を顰めてなかったっけ?」

 

「私は男性に苦手意識があるだけで、頭領殿に含むところはないぞ。…異性関係については物申したいとは思うが、隊の特殊な状況も分かってはいる。私がどうこう言うべきではないだろう」

 

 

 そこは言ってもいいと思う。…その一員になった私が言うのもなんだけども。

 

 真鶴とは、私が目を覚まして間もない頃からの付き合いだ。…一年にも満たないけど、私が覚えている帰還の8割近くの付き合いだから、個人的には古い友人、って感じかしら。

、初めて会ったのは……私が目を覚まして間もない頃。思い返すと、色んな意味で頭を抱えたくなるというか、首を吊りたくなるというか、申し訳なさで切腹したくなるような時期だった。

 当時の私としては、至極真っ当な判断で動いていたつもりなんだけど………いえ、これを言うのはやめましょう。覚えてもいない私怨で周囲との和を乱した挙句、勝手に出撃して仲間を見殺しにしかけるとか、言い訳もできないわ。

 

 とにかく、当時の私は、あいつを中心とした人間関係を受け入れられず、誰かと話す事さえ億劫だった。だって、ここに居る人達って、多かれ少なかれ絶対にあいつに強い影響を受けているんだもの。

 隊の中だけじゃなくて、里の人達ですら例外じゃない。あらゆる意味で(いいか悪いかはともかく)一目置かれているから、何かと言うとあいつの話題が出る。

 男性不信だった私は、あいつの話題が出るだけで拒絶反応を出していたの。

 

 そんな中で出会ったのが、この真鶴さん。隊の人間でもなく、里の人でもなく、なおかつあいつの所業に眉を顰める、数少ない人だった。

 尤も、それも今思い返せば、半ば以上私に合わせてくれていたんだろうけども。だって、真鶴さんがあいつの異界浄化術を学ぶために、拠点の里からこの里に来たんだもの。普段の言動について思う所はあっても、不興を買って目的の妨げになるような事をする人じゃない。…冷静に見えて激情家なのは否定できないけど。

 

 ともかく、人との話し方すら半ば忘れていた私にとって、真鶴さんは得難い話し相手だったのだ。

 

 

「このところ色々あったけど…大丈夫だったの?」

 

「大丈夫と言えば大丈夫だが…実のところ、最近の大戦すら先日知ったばかりなんだ。このところ、博士と茅場が異常なほどに張り切っていて、それに振り回されてばかりだったんでな…。無理が祟って倒れるように眠り、目が覚めたら戦勝の宴だ。何が起こったのか、全く分からなかった。茅場も同様の状態だったから、文句も言い辛い」

 

 

 ああ…。騒ぎの時に全然見かけなかったと思ったら、倒れていたのか。

 それだけ、博士が持ってきたカラクリの貢献度は高いと聞いているけど、具体的な事は私も聞いてない。ただ、色々な意味で不完全燃焼になっている事は見て取れた。

 だったら。

 

 

「…ねぇ、真鶴さん。あなた、今は暇? 確か、何処かの隊の副長をしていたのよね。腕に自信はある?」

 

「ん? 暇…と言えば暇だな。茅場は何やら机に向かって訳の分からん事を延々と呟いているし、博士は甘味を食べて昼寝を始めたし、術を学ぼうにも当事者が居ない。腕については………そこらの男には負けんとだけ言っておこう。比べた訳ではないが、弓の扱いにかけては那木殿とも張りあえるつもりだぞ」

 

「よっし! ねえ、それじゃちょっと付き合ってよ。行きたいところがあるんだけど、一人じゃ危ないし、皆は何だか気が抜けちゃってて当てにならないし」

 

「私とて暇という訳ではないのだが…。どこに行くんだ?」

 

「私が封印されていたところ。遺跡の事は知ってる?」

 

「あそこか…」

 

 

 真鶴は難しい顔で考え込んでしまった。あの遺跡に行くのは嫌なんだろうか? 確かに、人が水で満ちた円柱の中で浮いているなんて、土座衛門みたいなものを見ても愉快な気持ちにはならないだろうけど…。

 

 

「…実のところ、私が居た場所…マホロバの里の近くにも、謎の遺跡がある。博士はよく出入りしていたようだが、漏れ聞いた話だと、ここの遺跡もそれと何らかの関連があるようなのだ。一度、調べてみるべきだとは思っている」

 

「だったら」

 

「付き合うのは構わない。だが、無策に入り込むのも、目的を明確にしないまま行くのも看過できん。しかも、ここの遺跡は時間の経過によって消えたり出現したりするそうではないか。大前提を確認するぞ、きらら。卿は何の為に、何を求めてその遺跡に踏み入る?」

 

 

 

 突然、難しい事を言われて混乱しそうになった…けど、私の目的を聞いてるのよね。…あれ、冷静になってみると、難しい事なんか聞かれてないじゃない。

 

 

「目的は色々あるけど、一番大きいのはあそこに封じられている人達を解放したい、って事ね。ただ、私が解放したいからそうする…なんてやり方が通じないのは分かってるの。聞くと、昔の私と強い確執があったとか、行動も問題だらけだったとか…。だから、まず最初の段階として、あそこにいる人達の事を知りたい。ひょっとしたら、見ている間に私も何か思い出すかもしれないし」

 

「つまり偵察、情報収集か。障害になると考えられるものは?」

 

「えっと、まず鬼と…やっぱり時間? 貯め込まれている動力が尽きたら、暫く消えたりはしないって聞いてるけど」

 

 

 そう答えると真鶴は小さく溜息を吐いた。

 何よ、間違った事は言ってない筈だけど。そういう反応されると、何だか不安になって傷つくじゃない。

 

 

「その具体的な時間を調べなければならん。又聞きの情報で作戦立案など、無謀が過ぎる。それ以前に、遺跡はウタカタのモノノフによって監視されている。無断で立ち入る事は許されていない。まず許可を取らねばなるまいよ。消失・出現の時間については、同様に里のモノノフが集計をとっている筈だ。鵜呑みにはできんが、まぁ目安くらいにはなるだろう。他の者達には話を通したのか? 下手をすると、またしても独断で突撃したという事になりかねんぞ」

 

「うぐ……そ、それは駄目。やっと受け入れてもらえたのに、また白い目で見られる事になる。下手をすると今度こそ追放される」

 

 

 立て板に水とばかりに繰り出される真鶴の指摘に、ついつい怯む。

 だけど、やっぱり彼女に相談したのは大正解だ。こういう段取りは、私達(←私だけじゃない! ここ重要!)の大の苦手なところ。私一人で考え込んでいたら、彼女が言うようにまたしても致命的な失策を犯すところだった。

 追放だけで済めばまだいい方。ウタカタが管理している遺跡に勝手に入り込むなんて事をしたら、里と隊との間にも亀裂が入るかも…。

 

 

「ふぅ…。そこで踏みとどまれるようになったのだから、まだいい方か。以前の卿なら、知った事かとばかりに突き進みかねなかったからな」

 

「いや流石に私もそこまでじゃ……………な、なかった…と、思いたい…。男に言われたのでなければ、ちゃんと聞き入れた………筈…」

 

 

 いや本当に。ともかく、真鶴の協力のおかげで、やるべき事は分かって来た。

 真鶴にとっても益のある事だからか、彼女は積極的に手伝ってくれる。

 おかげで、今日一日くらいは遺跡が消える事はなさそうなのが分かり、更に探索に入る為の許可まで取り付けてしまった。

 

 遺跡に向かう道中で、色々話をする。

 

 

「ちゃんとした手続きを把握していれば、これくらいの事はできるんだ。ここの里は、マホロバと違って隔意が無いからな…」

 

「そっちの差とも、何だか厄介なところみたいね」

 

「まぁ、な…。…ところで、聞いていいのか微妙な質問だが、よくぞ男性嫌いを克服したものだ。正直、私は癇癪を起して里から飛び出していく事まで想定していたのだが…一体何があったんだ?」

 

「うーん……改めて口にすると、ちょっと難しいというか、私とあいつの秘密と言うか…」

 

 

 『同族』だと思った途端に態度を反転させてしまった辺り、自分でも安い人間だと思う。

 それを考えると、私は男を嫌っていたというより、人間そのものを嫌っていたのかもしれない。ただ嫌いなだけじゃなくて、受け入れてほしくて仕方なかったんだと思う。

 

 

「…そうか。参考にはならんな」

 

 

 真鶴も、私程じゃないけど、男の人に対して過敏に反応する事がある。…昔、何かされそうになったんだと思う。

 私とあいつの事を聞いてきたという事は、それを克服したいと思っているんだろうか? 何とか力になってあげたいけど…どうすればいいんだろう。

 

 

「…何を考えているのか、わかりやすいな、卿は。別に私は、異性に対して恐怖を持っていたりする訳ではないぞ。不心得者には半殺……もとい少々厳しい態度を取るが、それは元からだ」

 

 

 …元からなんだ。一度、彼女が里の男性に怒っているのを見た事があるけど…あれは怖かった。静かに怖かった。弓に手をかけてたし…。

 

 

「それくらいの気迫でいた方が、副長として隊を律するには丁度いい。冷静さを欠く要因になっているのは否定できんから、出来れば克服したくはあるが…」

 

 

 それって大丈夫なんだろうか? 迫力があった方がいいというのは分かるけど、反発されるんじゃないだろうか。

 真鶴達の状況まで理解している訳じゃないから、あまり無暗に口を挟めないけど…。

 

 

「ついでに聞くが、男と結ばれるというのは……その、どうなんだ?」

 

「どうって……え、聞きたい? 惚気が聞きたいの? 惚気ていいの?」

 

 

 語るわよ。思いっきり語るわよ。…いや、語れない事だってあるんだけど。具体的には、最後の罰則の夜とか。…あれで、なんか変な扉開いちゃったのを自覚してるのよね…。でもこれを話したら、真鶴がどんな反応をするか…。

 ………冷たい視線で見られるかも? …ちょっと胸が高鳴る辺り、本当に危険な扉を開いてしまったと思う。

 

 

「そういう話を………して、いる事になるな。私も年が年だ。婚姻を意識する事もある。…意中の相手がいるというのがどんな心持なのかもわからん。頼れる殿方が居るという事は、非常に心安らぐものだ、と聞いてはいるが…」

 

 

 え、つまり初恋もまだって事? 私と違って、見た目通りの年月を生きてきてる筈なのに。

 …あ、ひょっとしたら、初恋はした事があっても、過去にされた事とかで塗り潰されてるのかも…。こんな世界だし生きるのに必死で色恋にかまけていられない、という事情もありそうだ。

 

 …閃いた!

 ここで、恋人(その恋人が山ほど居るけど)が居る事の良さを、がっつり語って聞かせれば、真鶴の興味も強くなって、過去の克服に繋がるんじゃないかしら!?

 

 よーし、結ばれて数日程度で、一緒に遊びに行けた事もないけど、どんな風に心持が変わったのか、語りまくってあげるわ!

 

 

「…(ア、イヤナヨカン)…ところで、以前から疑問に思っていたのだが」

 

「え、何? これからいい話をしようと思ってたんだけど」

 

「遺跡も近いし、またの機会にしよう。いや、前々から思っていたのだが…卿らの頭領、聞けば卿らを率いるようになる前から多くの異性と肉体関係を持っていたそうではないか」

 

「そう聞いてるわね。存分に軽蔑していいわよ」

 

「いや、あそこまでいくと、人を束ねる者として逆に尊敬する…。だがそれはそれとして、そこまで好き勝手やっておきながら、子供の一人も居ないのだろうか?」

 

「は?」

 

「いわゆる種無し、という線も考えたのだが…」

 

「ちょっと、嫌な事考えさせないでよ。私達にも直に降りかかってくる問題なんだけど」

 

「卿らが全員子を孕むというのも剛毅と言うか奇怪な話だが、ならば何故連れ合いの一人も居ないのか…」

 

「………それ、は……」

 

 

 言われると言葉に詰まる。『避妊は確実、快楽の為だけに睦言ができるぞ』と最低男そのものな発言をしたのは聞いた事がある。…可愛がってもらってる時に。

 でも子供がいるかどうかは聞いた事が無いわ。

 多分、私達が知らない沢山の人とも関係を持っているんだろう。…じゃあ、その人達はどうしているんだろう?

 

 

「言動が完全に色情狂の類だとしても、あれで責任感は強いのだろう。そうでなければ、わざわざ卿らを抱えてこの里まで逃げのびてくるとは思えん。子供を授かったとして、捨てた…とは考えにくいな。単純に考えれば、女癖の悪さの為に相手から捨てられたか」

 

「普通はそうなるだろうけど…それもちょっと考え辛いのよね、あいつの場合…」

 

「…頭領殿は、異性としてそれ程に魅力的だとでも?」

 

「あー、うん、そんな感じ」

 

 

 こればっかりは、体験しないと分からないわ。たった一晩で、もう離れるなんて考えられないくらいに、支配される悦びを仕込まれる。

 断言できるわ。あれをもう感じられなくなるなんて、耐えられない。分かれるなんて考える事もできない。都合のいい女でいいから、また抱いてほしくて仕方なくなるに決まってる。

 

 それに、子供が出来たりしたら…あいつの事だもの。それこそ、何が何でも離れようとしないでしょう。

 

 

「…明日奈さんと神夜さんが、お酒が入って盛り上がってた時に話してくれたんだけど…シノノメの里で会った時は、独り身だったんだって」

 

「…そうか」

 

 

 それって、つまり…。このご時世だものね。

 誰しも、言葉に出せない傷跡がある。どんなに強くたって、例外じゃない。

 

 …せめて、自分達の周りではそんな事が起こらないように、全力で鬼を討つ。

 両手を打ち付けて、決意を新たにした。

 

 

「ちょっと違いますね」

 

「うわ!?」

 

「…神夜殿? いつから…いえ、何故ここに」

 

 

 唐突に神夜さんが現れた。…相変わらず、凄い恰好だ。私も露出が多いけど、それは冷気が籠って冷え性になるからで…いやそれよりも。

 

 

「違う、と言うと?」

 

「日課のお散歩をしていたら、興味深い話が少し聞こえただけですね。あの方は種無しという訳ではありません。と言うより、あれだけの房術を修めているのです。例え種が無かったとしても、それを改善する術を知らない筈がありません」

 

「…なんか生々しいな」

 

「それはもう、睦言のお話ですから♪」

 

 

 にこにこと天真爛漫な笑顔の神夜さん。…これで、戦狂いな上に床ではえげつない事を同じ顔で行うのだから、女って恐ろしいなと思う。聞けば、最後の罰則も発案はこの人だったとか。

 …いつか下剋上を…と思わなくもないけど、そういう事を考える時に限って楽しそうな笑みを向けてくるのだから、背筋が凍る。…と言うより、下剋上されてもそれはそれで楽しんでそうなのよね、この人。

 

 

「私とも出会う前の事ですので実際に見た事はありませんが、孕ませた事はあるそうです。ただ、その方達は…死に別れた訳ではありませんが、事情があって酷く遠い所に行ってしまったそうです。そして、鬼に奪われた子供を取り返す為にここまでやってきたのだそうです」

 

「鬼が…子供を奪う? それって、言い辛いんだけど……いえ、せめて魂だけでも…と言う事ね」

 

「普通の鬼じゃないので、文字通り食べている訳ではないらしいですよ。それに、まだ出産までは至ってなかったのだそうです」

 

「…? 話がよく分からないのだが」

 

「イヅチカナタと言う、時空を回遊し、因果を奪う鬼の仕業です。その鬼に因果を奪われれば、過去の体験を失ったり、今の自分を忘れて過去の自分に戻ってしまったりするそうです。…そして、子が宿ったという因果を奪われれば…」

 

「…なるほど、その因果を取り戻そうとしている訳か。やっぱり話が抽象的すぎて、あまり想像できないが。そもそもいかに鬼と言えど、因果を奪うような力を持っているものやら」

 

 

 同感。と言うか、あいつにそんな過去があったのね。

 考えてみれば、あいつの事はあまり知らない。私と同族で、異様に強くて、異様なんて言葉じゃ治まらない程女好きで、私達の面倒を見るくらいには甲斐性があって…。でも昔の事は全然知らない。

 ……でも、知らないのは私だけじゃないのよね。

 

 

 …これは…逆に、好機?

 皆が慕うあいつの秘密を、自分だけが知っている…。……な、なんかこう、優越感と言うか、他の人より一歩前に出ている感があっていいわね!

 

 とは言え、どうやって調べた物かしら。流石に、そういう事をほいほい突き止められるほど、頭がよくないという自覚はある。

 増して、私が知っているのは自分が暮らしている場所近辺の事だけ。関係者に話を聞こうにも、本人は暫く戻ってこないし、神夜さん達と出会う前の話と言う事は、そもそもどこの誰が関係者なのかもわからない。

 

 …どうしたものかしら。

 

 

「何をしている? 遺跡の調査に行くんだろう」

 

「あ、そうだったわね。ちょっと別の事に頭が飛んでたわ」

 

 

 いけないいけない。あいつの事も気になるけど、まずは自分だ。

 自分の過去の事を知るだけじゃなく、今後、あの人達が解放された後の動向にも大きく影響するかもしれないんだ。浮かれていないで、まずはこれに集注しないと。

 

 

「遺跡ですか? 特に何かあるとは思いませんが…閉じ込められないようにしてくださいよ」

 

「ああ、分かっている。では、失礼するよ」

 

「また夕飯の時にね」

 

 

 神夜さんに手を振って、真鶴とまた遺跡に向かう。さて、何か思い出せるといいんだけど。

 

 

 



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553話

 

 

黄昏月玖日目

 

 

 霊山から、シノノメの里に向かってダッシュ中。とは言え、流石にあまりスピードも出せないな。

 異界の中に長く沈んでいた地区だけあって、あっちこっちがボロボロで、生態系も滅茶苦茶になっていた。道順自体は、シノノメの里から兼一君達と一緒に進んだ道を逆走すればいいので迷わないが、舗装もされてない獣道…いや、通るのは鬼だから、鬼道か。

 

 この道は、今後はシノノメの里と霊山との遣り取りに使われるであろう道。そこに鬼が居座られると、よろしくない事になるのは目に見えているだろう。そういう訳で、鬼の痕跡を見つけては、ちょくちょく寄り道して狩っているのも、時間がかかっている理由の一つだ。

 この分だと、今日も道中で野宿だな。

 

 …これ以上進むと、雪の中で野宿する羽目になりそうだ。出来なくはないが、流石に肌寒い。この辺で足を止めるか。……なんか、虚空から強い視線を感じる。雪華がまた覗き見て、早く来てほしいと急かしているんだろうか?

 だがオアズケ。……感じる視線が恨めし気になったが、大人しく引き下がったようだ。うむ、待てができる子は偉いぞー。

 

 

 

 ……火を起こして座り込む。

 聞こえるのは風の音、虫の声、遠くで蠢いている獣だか鬼だかの足音。…ひとまず、周囲に危険は生物は居ない。

 

 …そして、それ以上に誰も居ない。

 久しぶりだ、こんなに静かで一人なのは。こうやっていると、ふと今までの事が単なる夢だったんじゃないか、と思えてくる。

 実際、夢でもなければ有り得ない事ばかりだった。

 

 気が付けばモンスターハンターの世界、死んだら死んだでゴッドイーターと討鬼伝の世界を転々とし、戦う力を身に付けて、マジカルチンポ染みた房中術を修め、美味い飯を喰らい、絶世の美女美少女を侍らせ、そして強大なモンスター達と渡り合う。

 濃密すぎる体験で、夢でしかありえない状況なのに、あれが夢だと言われても逆に納得できないくらいだ。

 

 或いは、やっぱり俺自身が単なる夢のようなものなんだろうか? 思い出したくもなかったが、俺はのっぺらミタマの集合体。どっか別の世界から繋がった、インターネットか何かで破棄され残骸となって積み上げられたデータの塊、破損したメモ帳。

 そんな俺が意識を持ってる事自体、冗談か奇跡みたいなもんだろう。まぁ、人間に意識がある事だって、元はと言えば奇跡みたいなもんだし、そこは別にどうこういう事じゃないか。

 

 独りになって思い返せば、つくづく無茶苦茶な道を進んできたものだと感じ入る。

 考えてみれば、同じ世界の同じ時間を過ごしていた筈なのに、同じような道を歩んだ事は殆ど無かった。立場を変えやり方を変え、毎回毎回違う道を探り続けた。

 MH世界では、一介の底辺ハンター、上級ハンター、G級ハンター、各地を飛び回る特殊なハンター、更に開拓、フロンティアでは猟団長。

 GE世界なら、極東に関わるのは同じだが、ゴッドイーターとして適応できず暗殺され、出撃中毒扱いされ、榊博士の、或いは支部長の協力者になり、マスク・ド・アラガミと化し、農園を経営。何故かGKNGなんて団体の創始者に指定され、更に何故かアイドルの面倒を見て。

 討鬼伝世界だと、知らない里に世話になったり、浮気がばれて那木に射られたり、千歳を里の中心人物にしようと画策したり、富獄の兄貴を足止めしようとう○こ塗れにしたり、蝕鬼の触媒を取り込んでしまったり、マホロバの里で大暴れしたり…。

 

 討鬼伝世界は基本的にゲームストーリーを追う感じになってたけど、毎回毎回予想外の事や知らない人が登場して、話がややこしくなっていってたっけなぁ。

 因果を奪われて記憶に残っていない周回だってあるだろうから、その時も全く違う選択をしていたんだろう。

 

 普通、ループものってある程度同じ行動をしないか? 未来に何が起こるか知っているというアドバンテージを、問答無用で放り投げている。

 まー前回と同じ事しかしないんじゃつまらないし、何よりモンスター達の行動は予測できない。最初っから、あんまり当てになるアドバンテージじゃないけども。

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、サトリと言う妖怪を知っているだろうか? 某弾幕シューティングゲーのお姉ちゃん、或いは毛根に多大な負担をかけて妖怪を滅する力を与える槍の物語なんかに出てきた、あのサトリだ。 

 人の心を見通す、サルのような姿をして描かれ……………ま、まぁ例外は何事にもあるし、擬人化は日本人の十八番だからな! とにかく、昔の伝承では猿のような姿をしているとされ、山中で人前に現れては、次々に相手の心を読み当てる。敢えて人に害をなさず、捕らえようとすればそれを見通して逃げるという。

 この妖怪、休んでいる旅人の隣、或いは焚火の反対側に、気配もなくいつの間にか座っていたのだという。

 本当に害がないのかは、正直言って分からない。心を見通す、つまり考えだけでなく、過去にあった忘れたい事なんかを見通したり、本人も意識していなかった醜い考えを見通して心に傷を与えたりする事もできるかもしれない。

 

 

 ………だが、目の前でクッソウザッてぇNDK?NDK?ステップを繰り返しているのっぺら共に比べれば、よっぽど無害で可愛げがあるだろうさ!

 

 

 ああそうだな、お前らそんな事できたよな! 俺の指示とか関係なしに人の夢に入り込んで好き勝手したり、実態化させる方法だってあったもんね! 絶対に実体化させないと決めてたけど! とうとうこいつら、勝手に実体化して俺の外で遊び始めやがった! 

 最初に、焚火を挟んでぬぼーっと座ってた時は、それこそサトリかヤマコかと思ったわい!

 

 しかし、俺が気付いた事を理解した途端、のっぺら共はあっという間に散り散りになり、小馬鹿にするようにリズミカルに踊り、芸をし、顔の部位も無いのにニヤニヤといやらしい表情を浮かべて煽りに煽りああああああああ!!! しかも、サトリではないが俺の一部である為か、俺の行動をある程度見透かして逃げる避ける逃げる避ける!

 

 煽り耐性ZEROと言われても構わん! こいつらを今すぐ狩り尽くす! こんなのを放置しといたら、異界が極楽に見える魔境が出来上がってしまうわ!

 シノノメの里の皆の為にも、恥を天下に晒さぬ為にも! 我、これより荒神となる! 全員死ねよやぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 …かくて、静けさは何処へやら。かつてない力を以て、俺はのっぺら共を一晩かけて駆逐した。怒りと苛立ちのあまり、過去最大出力のレイジバーストが発動してしまったぞ。おかげで、今まで今一つ自由に発動させられなかったレイジバーストの使い方を、何となく理解できてしまったが………全く嬉しくなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

-----------------------Side 滅鬼隊(浅黄)--------------------------

 

 

 こんにちは、浅黄よ。

 あの人が出立して数日。意外な事に、隊はそこそこ正常に運営されているわ。

 好き勝手な事をしない、夜はちゃんと家に戻ってくる、里の人達と問題を起こさない、無意味に異界に単身突撃しない…。

 かつての職場環境とつい比べてしまって、涙が出そうよ。 意図的に失敗させようとする環境が話にならない、と言われればそれまでなんだけど。

 

 今の私は、隊の纏め役でも重要な幹部でもなく、一人の隊員として少し引いた視点で彼女達を見ていられる。

 だからこそ、自分が頭領に向いていなかった事がよーくわかるわ。元々、自分が人の上に立てるような人間だとは思っていなかったけど…。

 

 こういう、『自分が居なくなっても回る体制』を作ろうという発想が、全く無かったもの。

 そういう事が出来た状況じゃなかったのも確かだけどね。むしろ、そういう環境改善を実行しようとしたら、上司が妨害してくる始末だったし…。

 何かと自分で対処、自分で対処、自分で対処。手が足りなくなるのも当たり前だ。

 私は、部下を信用した事なんて殆ど無かった。どうせ失敗させられる、或いは問題を起こすのだと決めてかかっていたようなものだ。そしてそれは大体正しかった。

 

 …ちゃんと規則を作って、それに従わせている。自分が居なくなっても大丈夫だと、信じて任せられる。

 そんな所が、あの人の器の大きさの証なのかもね。

 

 

 とは言え、これだけの人間が集まっているのだし、良くも悪くも問題が起こらない筈もなく。

 

 

「…里の一部に、不穏な動きがある?」

 

「ええ。ただ、私も確信がある訳じゃないの。お人好しの多いこの里で、急に掌を返すような事をされるのも考えにくいし」

 

「…任務でも、先走って里に迷惑をかけるような事は起きてないものね」

 

「重要な事だけど、信頼性の薄い情報を報告するのは気が引ける。私よりも世の中の事を知っていて、相談できそうなのは貴女くらいよ」

 

 

 私に相談してきたのは静流。

 彼女の記憶は失われているけど、過去の隊で信用できた数少ない人よ。頭も切れるし、問題は起こさないし、精神的にも安定している。

 

 消去法で相談に来たと言われているようだけど、状況判断としては間違ってないわね。

 疑念は放置しておけないけど、それが元で無用な軋轢を生んではいけない。

 

 

「そもそも、一体どうしてそんな話が出てきたの?」

 

「任務を終えて、里を歩いている時に聞いたのよ。5人のモノノフが集まって、小声で話し合っていたわ。『襲う』とか、『奪う』『誰を狙う』とか、物騒な言葉が聞こえたわ。『そう思っているのは、自分達だけではない』とも。私に気付いたら、すぐに散ってしまったけど。顔も見れなかったわ」

 

「あなたが気付かれたの?」

 

「そもそも隠れてなかったのよ。往来だったし」

 

「………」

 

 

 往来で、人を襲う計画など立てるだろうか? 人目を避けられる場所は、いくつもあるというのに。

 この里はそう広くない。何か犯罪染みた事をやらかせば、あっという間に広まってしまう。

 

 ただ、静流が出鱈目を言う理由もないし、直接見聞きしたのも確か。聞き間違いとも思えない。

 人が人を襲う理由など、幾らでも転がっている。鬼が何らかの術でそういう争いを煽った例もある。

 この里の近くに、そういった術を使う鬼が居るとも考えにくい…いえ、ミズチメは里の近くに居たのよね。

 

 

「…前例と疑惑がある以上、放置もできない。事を明るみに出せば調べにくくなる…。私達で調べましょう。他の子達は……巻き込まない方がいいわね」

 

「…そうね」

 

 

 隠密行動、腹芸が出来る隊員は、片手で数えられる程度。調査の伊呂波なんて期待できない。

 …正直、そんな大事にはなりそうにない、という予感もあったし。

 

 

 

 買い出しも兼ねて、静流が話を聞いたという場所に行ってみた。

 往来って言うか……思いっきり茶屋ね。ここで本当に襲撃の計画なんて立てる奴が居たら、そいつは相当な大馬鹿者か大物よ。

 だから、静流も自分が見聞きした情報なのに、半信半疑なのでしょう。

 

 

「静流、例の人達が話をしていた場所は?」

 

「そっちの空席になっている所よ。…不自然に空いているわね。何かあるのかしら…」

 

「すみません、そこの席を使ってもいいでしょうか?」

 

 

 店員さんに声をかけてみると、あっさりと了承された。

 不自然にならないよう、この席について聞いてみると…常連5人組がいつも使用している席なのだそうだ。

 とは言え、指定席と決まっている訳でもないし、その常連も今日は帰った後。使用するのは全く問題ない。

 

 

「いつもこの席を使っている5人組、か。話をしていたのはその人達かしらね」

 

「恐らくは…。と言うより、その人達なら何度か見た事があるから、顔も分かるわ」

 

「性格は?」

 

「物騒な事を考える人種じゃないわね。ただ、何だか不満を零していたという話は聞いた事があるわ」

 

 

 不満。

 自分達の存在が邪魔、という事かしら? …いえ、邪魔なら襲って始末するならまだしも、『奪う』という言葉が出てくるのが分からない。

 

 注文したお茶を啜りながら、私と静流は黙考した。

 幾つかの可能性が脳裏を駆け巡るけど、どうにもしっくりこない。単なる誤解から、本当に襲撃を企てている可能性まで考えてみたけども、違和感がありすぎる。

 

 

「…そもそも何を奪うのかしらね」

 

「うん?」

 

「奪うという事は、どうしても欲しい物があって、普通の方法では手に入らないから、強引な手段を取るという事でしょう。だけど、それに値するような物が、私達にある?」

 

「特別なタマフリ…がまず真っ先に思い浮かぶけど、奪えるような代物じゃないわね。私達が持っていて、里の人達が持っていないもの…」

 

 

 ハク…ではないでしょう。少なくとも、先日の大騒ぎのお陰で、大抵のモノノフの懐は潤っている。一気に使ってしまう人も居たようだけど。

 武器や防具…これも違う。うちの隊員の武器は、里の人達の武器と大差ない。ごく一部、特別性の武器を持っている者も居るが、手にしたところで扱える筈もない。何より、違法なやり方で奪ったのなら、すぐに露見する。

 道具…例えば、先の戦いで使ったような大砲、大弩など。これはありえる気がする。使い勝手がいいとはとても言えないが、鬼との闘い、特に里の防衛において非常に魅力的だろう。

 しかしこれも違う。奪ったところで運用できるかは話が別。無理に使おうとすれば、里の財政が破綻してしまいかねない。

 

 とは言え、そういう危険があると、一目でわかる筈もないか。うちが運用できているのだって、あの人や静流達が普通ではない方法で、運用の手間を省いているから……………手間を省く?

 

 

「「………あれを欲しがってる訳ね」」

 

 

 私達は、ほぼ同時に同じ結論に辿り着いたようだった。

 でも襲って奪えるような物でもないし、そんな考えに真っ先に辿り着くとは思えないんだけど。

 

 

「まぁ、欲しくなるのも分かるわね。これから暑くなる季節だし、特に。…そう言えば、何人か里から遊びに来ていたことがあったわね。そこから知られたのかしら」

 

「多分、欲しがられてるのはそれだけじゃないわ。私達が何気なく暮らしている部屋一つとっても、常識からかけ離れているもの。どれか一つ手に入れるだけでも、生活が激変するわ」

 

 

 確かに。

 …さて、どうしたものかしら。思っていた通り、物騒な話ではなかった。少なくとも、そうなる程に話は進展していなかった。

 しかし、あちらの要望を満たす事は難しい。

 一部の品物については、何とか理解が追い付いているが、再現も移動も難しい。

 

 

「…結局、あの人が帰ってくるのを待つしかないのね」

 

「後は、里の人達を屯所に受け入れるか…かしら。部屋にまでは入れないにしても、広場を使わせるくらいいいんじゃないかしら」

 

「どれくらい、という制限があるけどね。一斉に押し寄せてくるとまでは思わないけど、人間、一度楽を覚えると元には戻れないから」

 

 

 はぁ、本当にどうしたものかしら。博士でも呼んで、設備を増築できるか聞いてみようかしら。

 あの人が居れば、求められればさっさと作ってしまうかもしれない。

 

 私達の部屋全てについている、『えあこん』『水洗厠』『冷蔵庫』『電灯』『こんろ』『時計』など、どれもこれも里の人達からしてみれば涎泉の品ばかり。

 私だって、あれらが無い生活に戻れと言われれば、思い切り顔を顰めるだろう。

 偶然、屯所を訪れてそれらの恩恵に預かった者達にしてみれば、その衝撃は如何ばかりか。

 そりゃあ、部屋を奪ってでも自分の物にしたくなるだろう。

 

 

「馬鹿馬鹿しく思えるかもしれないけど、生活環境の違いは待遇の違いよ。下手な人間関係よりも不満の元になるわ。あんなに便利な物を私達が独占して使っているとなれば、妬みの元になるのも当然よ」

 

「…手軽に渡せるような物はないわね。私達が個人的に手に入れた物以外は。私達を含めて、全てが若様の持ち物だもの」

 

「………」

 

 

 静流は冷静で頭もいいけど、やっぱりこの子も滅鬼隊なのよね。

 頭領に対する絶対的な忠誠を刷り込まれている。自分を含めた全てが、あの人の為に存在すると言い切っている。

 

 …あの人は、そういう暗示を嫌い、徐々に解除していくと言っていたけども……進展が無いわね。いえ、むしろ刷り込みよりも強烈に惚れこんでない?

 分かるけども。…あんなに気持ちよくされたら、離れさせようにも離れられないわ。私だって、単なる部下と上司の関係に戻れと言われたら恥を投げ捨てて泣きつくもの。

 

 

「ともかく、これに関しては形だけでも譲歩している姿を見せた方が良さそうね。若様が居ないのに勝手に許可を出す訳にはいかないけど、充分な対価を出すのなら、設備の一部を里に提供する事を考えている、としましょう」

 

「私達だけで決められる事じゃないわ。明らかに越権行為よ。秘書・執事の3人にまず話を通しましょう。……それにしても…」

 

「うん?」

 

「襲うとか狙うとかの言葉が出てくるくらいだし、強姦でも狙ってるのかと思ったわ。…昔の隊だと、敵にも味方にも散々狙われたから」

 

 

 思い返すだけで憂鬱になる。私達をそういう環境に引き摺り込む上司達が最悪だったが、それ以外の者も倫理観も何もあったものじゃなかった。何を考えて味方に対して眠り薬なんて飲ませるのか。

 

 

「…狙われると言うと………鹿之助君とか?」

 

 

 …能力的にも容姿的にも、狙われてもおかしくないのよね…。しかも性別を問わず…。でも襲う先がいきなりそっちになるとか、女としての尊厳が…。

 

 

「いえ、常連の5人組って全員女性よ。…言っては何だけど、異性にあまり縁がない…ついでに言えば、何をとは言わないけど逃しかけている…」

 

 

 …婚期か…。耳が痛いわ。

 嫁ぎ送れる=異性を襲うなんて考え方、名誉棄損になりそうだし、この話はここまでにしましょう。

 

 本題に戻るわ。すぐに物騒な事に繋がる事はなさそうだけど、不平不満の元は摘み取っておくに越した事はない。

 家の何かが故障した時、あの人でないと直す事すらできないというのは問題だ。

 博士や茅場を呼んで、解析なり再現なりさせてみるべきだろう。異世界の技術ではあるから、茅場なら喜んで飛びつく筈。

 

 はぁ、今の生活で、どれだけあの人に頼っているのか、改めて突きつけられるわね。未だに、皆で霊山から逃げてきた時と変わっていない。或いは、あの人ならそのまま自分と一緒に居ろ、くらいは言うかもしれないけど…。

 寄りかかる先、帰る先がある喜びと、それに縋りつくしかないのは別物だ。大人の女としての誇りもある。あの人の…いいえ、皆の力になれるよう、色々考えてみましょう。

 



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554話

 

 

 

黄昏月拾日目

 

 

 

 シノノメの里に到着。雪華、風華、練の姉御が出迎えてくれた。

 …出迎えは有難いんだけど、えらく偏った面子だな。関係をもった相手のみとは。

 

 

「里の全員で出迎えられたかったかい?」

 

 

 いや、そんな事はないけど。…雪華、嬉しいのは分かったからいきなり飛びついてくるなって。人が見てるぞ。主に嫉妬している風華が。

 

 

「どっちに嫉妬しているのでしょうね? ふふふ、この子ったら、一人で眠る夜にはあなたの名前を呼びながら」

 

「ね、姉さま!」

 

 

 それは興味深いお話ですな。

 それはそれとして、何かあったのか? 何だか里がざわついてる。あちこちに、武装したモノノフが動き回っている形跡がある。

 

 

「ええ…今朝方、新種の鬼が確認されたのです。それも里の近くに」

 

 

 ほう、新種! 不謹慎ながら、興味深いな。

 どんな鬼なんだ? 今までの鬼の中で、似ている鬼は居るか? 数は? 大きさは? 狂暴か?

 誰がどうやって見つけたんだ?

 

 

「直接接敵したんじゃなくて、遠眼鏡を覗いていたモノノフが偶然見つけたって聞いてるよ。確認した時点では、数は少なくとも小型が10体。その場所に急行したら、既存の鬼には当てはまらない痕跡が散らばっていたんだってさ」

 

 

 小型が10…結構多いな。自然に集まる数じゃない。統括する個体が居るな。

 

 

「かもしれない。そして、それを蹴散らした鬼が居る」

 

 

 …ん? んん?

 

 

「新発見された鬼を調査しに行ったら、そこにはどでかい斬撃の痕が刻まれていたんだと。人間の身の丈程もあるような大太刀で、横一文字、縦三本線で刻まれていた。少なくとも、小型鬼に出来るような事じゃない。フウマみたいな、小型で強力な鬼でもな。しかし、大型鬼の足跡らしいものも見当たらないんだと」

 

 

 …………ちなみに、それが発見されたのって、いつどの辺りで?

 

 

「時刻は明け方、場所はあっちの山の中腹辺りだな」

 

 

 ………一番最初に聞けばよかったが、新種の鬼の外見は?

 

 

「人型の顔なし…いわゆる、ノッペラボウそのものなんだそうだ。山の中を集団で歩き回り、よく分からない儀式のような事を延々と行っていたらしい。里に対する呪いでもかけようとしたのかもしれんな」

 

 

 

 

 

 

 

 …お、おう。そいつかどうかは知らんが、俺もちょうどその辺りで野宿をしてたな。思い返せば妙な夢を見たような、微睡んでいる間に妙な気配を感じて太刀を振り抜いたような。

 何匹か、夢現に叩き斬ってるかもしれん。

 

 

「…は、発見されたのは……10匹以上だそうですから…きっと、もっと、沢山…居ます…」

 

 

 …そうだね、風華。そう考えるのが普通よね。

 どうしよ、無駄に騒がせてしまったようですっごい気まずい…ん?

 

 練の姉御、発見されたのは早朝で、その場には横一文字、縦三本線の痕跡があったんだよな?

 

 

「ああ、そうだけど?」

 

 

 …そうか。

 …妙だな、昨晩はあののっぺらミタマ共を狩り尽くす勢いで大暴れしてたけど、そんな傷跡作ったか? 

 あいつらは好き勝手に動いて…確かに一時的に集まる事はあったけど、同じ場所で4度も腕を振るった覚えはない。少なくとも、アラガミ化した状態で生える、特大ブレードは。

 怒りと苛立ちに我を忘れて、記憶が飛んだ? いやそれは無い。苛立たしいことこの上なかったが、クサレイヅチの姿を見てプッツンした時程じゃない。

 

 …本当に、新種の鬼が居るかもしれんな。それも、遊び半分になっているとは言え、回避率と煽り力が無駄に高くて、これでもかと言う程しぶといのっぺらミタマ共を狩れるような鬼が。

 

 

 おし、その鬼の捜索には俺も一枚噛ませてほしい。…とは言え、先に用事を済ませるのが先か。

 雪華、頬擦りも服の中に手を忍ばせるのも止めないから、ちょっと冷静になってくれ」

 

 

「……むぅ」

 

 

 拗ねない拗ねない。やる事全部済ませてからの方が、お楽しみにも力が入るってもんよ。

 とりあえず、寒雷の旦那の所に案内してほしい。返礼の品を渡すにしても…。

 

 

 …と、まず一番最初に言わなきゃいけない事を忘れていたな。

 雪華、宝玉の転送のおかげで、物凄く助けられた。おかげで、うちの隊の皆も、ウタカタの里も無事で済んだ。

 本当にありがとう。お礼と言っては何だけど、出来る限りの事はする。

 

 

「ん?」

 

「いま」

 

「できるかぎりのことをするって」

 

「「「言った?」」」

 

 

 仲いいね君達。…予防線を張るようで悪いが、出来る限りの事は、だからな!

 ウタカタを離れてシノノメで暮らせ、とか言われても困る。

 

 

「そこは大丈夫ですよ。そうしてくれたら嬉しいですけど、あなたにも目的があって行動しているのは分かってます。それを邪魔するようなことはしません」

 

 

 ですが、と雪華は表情を歪ませた。一見すると怜悧、実際に付き合ってみるとフレンドリーな雪華だが、こんなに情欲に歪んだ顔を見られる男は俺だけだ。

 

 

「私達、3人に使ってくださいね? 『烙印』」

 

 

 …ゆ、雪華に使うのは、まぁ構わないというか、ずっと覗いてた時から『私にも』って気配を感じてたから、想定内だけど。

 風華と練の姉御にまでか? どういう術なのか理解してんの?

 

 

「いや、私は全く。その『烙印』ってのは何なんだい?」

 

「私は…その、姉さまから、『とても気持ちよくしてくれる、素敵な術です』としか。姉さまも一緒なら、いいかなって…」

 

 

 練の姉御は至極あっさりと、風華はモゾモゾと体を縮こませて口籠る。しかし、目付に期待が滲み出ているのを自覚しているだろうか。

 …まぁ、術を受けるかどうかは、詳しい説明を聞いてからの判断に任せるよ。間違いなく一生を左右するような影響があるから、ちゃんと考えて受けてくれ。

 

 

「ふぅん…それにしても、本当だったんだねぇ。雪華が言っていた、、遥か遠くのウタカタの里まで、宝玉を転送してあんたを助けたって話」

 

「練さん、疑っていたんですか!?」

 

「そりゃ疑いたくもなるさね。雪華が虚言を弄して詐欺を働くような子じゃないとは分かってるが、話が荒唐無稽すぎるし、それで自分の宝玉の貯えが無くなってしまったから貸してほしい、だぞ」

 

 

 あー、やっぱりそうなってたか…。袋に一杯の宝玉とか、いくら神垣の巫女でもほいほい吐き出せるような代物じゃないものな。しかも、送ってくるまでの時間から考えれば、貯蓄量を計算して温存なんて考えていたとは思えない。

 文字通り、全財産を叩いて助けてくれたんだな。

 

 

「…姉さまに感謝してください。……神垣の巫女が、ご飯を食べるハクもなくなるなんて前代未聞です」

 

「その分、風華がお汁粉を沢山奢ってくれました!」

 

 

 うーん、奢らせてもらって風華が嬉しそうだ。

 しかし寒雷の旦那も、疑ってる訳じゃないんなら融通してやってもよかろうに。

 

 

「暖を取る為の宝玉まで使い切ったから、風華の部屋に入り浸ってなぁ。それはもう、風華が嬉しそうに世話を焼く世話を焼く。こいつにしてみりゃご褒美そのものだったろうよ。それを取り上げようとすると、涙目の膨れ面になってじーっと睨みつけてくるんだよ。それに、いくら事が事だって言っても、宝玉は里の共通財産みたなもんだ。例外を作るのは好ましくなかったんだろうさ」

 

 

 なるほどねー。まぁ金は厳格に管理するもんだし、例外は少ない方がいいわな。

 実際、いくら雪華が強力な力を得ているとは言え、ウタカタまで宝玉を飛ばしたって聞いた時は耳を疑ったからな。目の前に証拠があったから、信じるのも早かったけど。

 

 

「自分から宝玉を貸してくれる、と言う方は居たのですが、どうにも気が引けて…練さんや風華にお世話になっていました」

 

 

 貸してくれるって言うなら、素直に借りれば…。

 

 

「……お頭なんです。牡丹様じゃなくて、前お頭で、再び里長として復帰した、両さんです」

 

 

 ………うん、俺でも借りんわ。

 つーか、両さんは結局お頭になったのな。霊山との取引や策謀やらを考えれば、これ以上ない程適任ではあるが。

 

 …つーか、確か霊山から使者が来ている筈だよな? 識っていう、超が付く程悪役顔のおっさんが。

 聞いた話じゃ、何だか珍妙な事になっているそうだが。

 

 

「あー、あのおっさんな。確かに悪党面で、里に来て超界石に飛びついて、訳の分からん醜態を曝していたもんだが」

 

 

 …ガチャは、底なし沼だからな…。深淵に沈んでしまったのさ…。

 

 

「沼なのか異界なのかよく分かりませんけど、今はもう落ち着いてらっしゃいますよ。最初は皆、警戒したり……その、ちょっと色々と問題なる人だな、って思っていましたが、今ではむしろ頼りにされています。…借金を笠に、いいように使われてもいますが」

 

 

 …頼り? どういう事だ?

 立場で言えば、霊山の遣いで軍師だろ。下手に隙を見せたり、信じすぎたりすれば、どんな策略に引っ掛かるか…。

 と言うか、借金?

 

 

「ええ、今の私なんて足元にも及ばない程、負債塗れです。自業自得と言いますか、お頭と寒雷さんの策略の結果と言いますか…」

 

「くくくく、言うてくれるな。否定できんのがまた痛い」

 

 

 !? どちら様!?

 

 

「ふむ。お主が噂の、異界を消し去るモノノフか。私は識。霊山の軍師よ」

 

「元…がつきます…」

 

「細かい事を気にするでない」

 

 

 元…が細かいか…?

 いやいやいや、あんた霊山の軍師って、それ超重要人物じゃん。九葉のおっさんと同じ階級だろ。

 それがいきなり元ってなんじゃい。そうそう辞められる、辞めさせられるような立場じゃないだろ。

 九葉のおっさんだって、北の地を見捨ててもまだ軍師なのに。

 

 

「あれは当時、オオマガトキによる戦乱でどうしようもなかった為だ。後の結果で、そうしなければ人全体が滅んでいたと判断されたしな。それに、紛糾しなかった訳ではない」

 

 

 そらそうよな…。例え霊山側が、致し方ない判断だったと認めても、人の感情まで鎮まる訳じゃないし。

 しかし、それらがあっても九葉のおっさんはまだ軍師なんだぞ。一体何をやらかせば、それと同じ重要人物が無職になってんだよ。

 

 

「自営業を営んでいるので無職ではないな。何をやらかした、か…。強いて言うなら、重要人物だからこそだ」

 

 

 はぁ?

 首を傾げると練の姉御が呆れたように肩をすくめた。

 

 

「ちょっと考えてもみなよ。軍師でも神垣の巫女でも里長でもいいけど、重要な立場にある人が、仕事をいきなり放りだして私事にかまけ始めたらどう思う?」

 

 

 あ…あー…。

 そういや、里に来るなりいきなり超界石でガチャにド嵌りしたって…。

 

 

「ついでに言えば、立場が高い分、政敵も多くてな。隙を見せた途端、あっと今に解任されてしまった」

 

 

 されてしまった、じゃねーよ。

 …こいつ、こんな性格だったか? 殆ど話した事はなかったが、もっとこう…重厚感がなかったか? 少なくとも、クサレイヅチの能力で皆が動けない中、一人だけ平然としていた時には凶相もいいところだったが。

 

 

「性能の確認と称して、越界石を使う為に霊山からの使いとしての全予算を注ぎ込み、それを使い切ったら自分の全財産を注ぎ込み、更に目的の物が出ないからと里の皆からあの手この手で宝玉をせしめて…」

 

「せしめたとは人聞きの悪い。皆、進んで貸してくれたではないか」

 

「…お頭の命令でしたから…」

 

 

 両さんの? ………おい、それって超界石に夢中になっている間に、文字通り貸しを作りまくろうという策略じゃ…。

 

 

「その通り。先程神垣の巫女も言っておったが、里長と 万事屋の若旦那の謀略よ。普段なら引っ掛からんのだがな…」

 

 

 引っ掛かる以前に、あちこちから借金してる時点で論外だろ。

 仮にも霊山の軍師まで上り詰めた人間が、何をやってやがる。

 

 

「私とて人間だ。ずっと探し求めていたクラネの手掛かりが目の前に突然現れれば、狂乱もする。他の手段も模索していたのだが、必要な物が見つからなくて手詰まりだったのだから猶更だ」

 

 

 クラネ?

 

 

「かつて、鬼との闘いに巻き込まれて特殊な異界に引き摺り込まれた私の娘だ…。愛しいクラネ…。今も時間流の中を漂っているだろう。あの子を取り戻す為なら、私は何でもしよう。越界石には、その異界から物を引き出す力がある。あれを研究すれば、クラネも取り戻せる筈だ」

 

 

 そう言いながら、識は懐から取り出した物を撫でる。あれが、超界石から現れた、クラネとやらが持っていた物なんだろう。

 

 …攫われた娘の手掛かり、か…。

 分からないではない。俺だって、クサレイヅチに奪われた、まだ生まれてもいなかった娘を解放しようとしている。同情と言われるかもしれないが、協力を求められたら無下にはできそうにない。

 

 だがそれはそれとして、娘の私物…履き古された靴、それもスニーカーのように見える、大きさからして小学生になったばかりくらいか?…を愛し気に撫でる姿は、拗らせたロリコンストーカーにしか見えなかった。

 

 

「その為に、宝玉を融通してくれ…って話だったな。全部を全部信じてる訳じゃないが、本当かも、と思うくらいには必死だったからな」

 

「ああ、感謝しているとも。だから、超界石から出てきた物は、全てではないが里へ融通しているのだ」

 

 

 全てではない…手元に残してるのは?

 

 

「超界石の研究に役立ちそうなものと……里の者達が、宝玉を対価としてでも欲しがりそうなものだな」

 

 

 なるほど、それで稼いだ宝玉を、また超界石に突っ込むと。…賭博師みたいな生計だな。

 その内、交換に使える素材が一つも出ずに、詰んでしまうんじゃなかろうか。

 

 

「流石に他にも収入源はある。話しかけたのは、それが本題でな。簡単に言えば、相談を請け負っておる。お主も一度は訪ねてくるといい」

 

「評判はいいんですよ。最初は『その場の勢いで借金漬けになった軍師の知恵が、当てになるのか?』みたいな声もあったんですけど」

 

「余計な事は言うでない」

 

「細かい事は………気にしない…んでしょ…」

 

「そうね、風華。ともかく、困っている事とかあったら、あっという間に解決してくれるんです。この人のおかげで、新しい戦い方も開発されました。泥高丸さんなんか、頻繁に相談にきて鬼纏の改良を進めているんです」

 

 

 ほー。まぁ、仮にも霊山軍師だものな。娘さんが絡まなければ、頭のキレは一級品か。

 しかし、相談する事…ねぇ。全くないとは言わないが…。

 

 

「そうだな…。お前が追っている鬼の話などどうだ?」

 

 

 …………。

 横目で雪華を見るが、無言で否定。彼女が話した訳ではないようだ。

 

 

「現れただけで、周りの人間は動けなくなる。対策が必要だろう? 『以前』の私がしていたようにな」

 

 

 …………なるほど、話をする価値はあるらしい。どっちの意味かは分からんが。

 とは言え、それは私事でしかない。今はウタカタの里から、救助の返礼の為に訪れているんだ。まずはそっちをこなしておかないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 識は、予想してはいたがやはり只者ではないようだった。とは言え、ある程度の境遇の予測はつく。

 あの、クラネとやらの手掛かり…吐き古されたスニーカー。そう、スニーカーだ。ちなみに、踵の部分になんか文字らしきものが書かれていたが、読めなかった。多分名前なんだろう。

 明らかにこの世界の技術と釣り合ってない。

 娘さんがそれを使っていたというなら…識も、何処か別の時代から連れてこられたのだろう。娘が時間流に取り込まれたとか言ってたが、それは識自身も同じだったんじゃなかろうか。

 

 それよりなにより重要なのは、あの最後の言葉。『以前』の私がしていたようにな、の部分。

 …あいつ、ループの記憶が残ってるのか?

 俺がクサレイヅチを追っている事も知っていたし…一筋縄ではいきそうにない。…衝動のままに突っ走って、霊山軍師から借金漬け賭博師に身落ちするような奴だけども。

 

 



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555話

 

 

 識の事は後で…具体的には明日くらいに話をしに行くとして、雪華に連れられて両さんの元に向かう。

 風華・練の姉御は、自分の仕事があるらしくそれぞれの職場に戻って行った。

 

 里長用の屋敷は、暫く見ない間に随分と様変わりしていた。

 何だかよく分からない小物と酒瓶が、所せましと置かれている。酒は…まぁ分かるが、他は何だろうな。木彫りの熊やら刀の鍔やら何かの絵やら、統一性が無い。ただ、それらが非常に大事に扱われているのは分かった。

 

 

「ああ、これですか? お頭が集めた蒐集物ですよ。異界で拾ってきた物もありますし、霊山との取引で手に入れた物もあります。よく分かりませんが、『出すところに出せば、相当な値が付く』だそうで」

 

 

 財テク用かな? いや、それにしては愛着を持って扱っているのが分かる。

 まーアレだろな、マニアックなコレクションと言うか、貴重なプラモ・フィギュア・カード的な。

 

 

「お頭、寒雷さん。雪華です。お連れしました」

 

「おう、入ってくれ。…よう、元気そうで何よりだ」

 

 

 雪華の声に応えたのは、部屋の主ではなく寒雷の旦那の声。襖が開かれると、囲炉裏を前にした寒雷の旦那。そして、部屋の奥で何やら作業台に向かっている両さんの姿が見えた。

 えらく集注しているらしく、声が聞こえてないようだ。

 

 

「ああ、こいつの事は放っておいてくれ。こうなったら梃子でも動かん。…ま、どうせ居ても悪巧みするか、妙に専門的な知識をひけらかすかしかしないから、あまり意味はないけどな」

 

 

 それでいいのか里長が。

 

 

「今の場合だといいんだろうな。特に悪巧みが。こいつの機転のおかげで、霊山との取引で随分と優位に立てたもんだ」

 

「識さんを見事に陥れてましたからねぇ…」

 

 

 何をやらかしたのかと聞いてみれば、使者としてやってきた識の有様を、霊山に伝えたのだそうだ。…オオマガトキで見捨てた謝罪や、今後の付き合いに関する取り決め、霊山の意向を伝える役割、宝玉や超界石に関する研究などを丸ごと放り出し、全財産+公的な資金を超界石ガチャに注ぎ込む様を。

 そりゃ、識が解任されるのも無理ないわなぁ。霊山の使者を汚点とし、それを使者として遣わした事に「どれだけ舐めれば気が済むのか」と難癖をつけ、同時に宝玉の有用性もアピールする事で「だったら勝手にしろ」と突き放されるのを防止する。

 それを元にして、散々に譲歩を引き出した…か。

 うーん、ようやるわ…。

 と言うか、それだけされて識がよく大人しくしてたな。

 

 

「あいつも色々と後ろ暗い身だからな。今、霊山に帰るのは自殺行為だと分かってるんだろうよ。……待たせたな。白浜からも聞いてるぜ、霊山でもウタカタでも随分派手にやってるそうじゃないか」

 

 

 ああ、両さん。あんたも相変わらずみたいだな。里人からの評価も含めて。

 識が後ろ暗いって、無駄に説得力が……ああ、いやそれよりも先に面倒な事を済ませてしまうか。

 

 

 シノノメの里のお頭。

 ウタカタの里から、窮地を救われた礼として…。

 

 

「ああ、やめろやめろ、そういう堅苦しいのは好かん。とっとと済ませてしまえ。要は、雪華が言っていたあの話だろう? 流石に、大量の宝玉をウタカタまで転移させるとは信じがたかったが…その礼か。期待してもいいんだろうなぁ?」

 

 

 わっるい顔してんじゃねーよ、両さん。相応の物を運んできたが、言っちゃなんだが里そのものの意思で助力されたんじゃなくて、雪華一人の咄嗟の行動だったからな。一番重要な礼は、雪華本人に手渡す事になる。

 …と言っても、送ってきてくれた宝玉に力を最充填したものと、ウタカタの名産品、物資、それに雪華がしてほしい事があったらできる限りそれに沿う、と言う事になるが。

 あ、これ雪華向けと里向けの目録な。

 

 

「…………」

 

 

 おう、雪華、無言で目の色変えるなや。

 

 

「ふむ……まぁ、落としどころと言えば落としどころか。確かに、力を尽くしたのは雪華一人だったんだしな。その割に返礼が多いのは、これからの付き合いを見越しての事か。…確か、大和…だったか。話の分からん武断者という訳じゃなさそうだ」

 

「俺は気に入らんな。こういう時はもっと徹底的に毟り取るもんだ。他の里の神垣の巫女の力を借りておきながら、この程度とは舐めているのか、ってな」

 

「ならどうする? ここでごねても、こいつにそんな権限は無いぞ。どれだけ強くても、立場で言えば一介の外様だ。むしろ、ここで貸しを作っておいて、後々の販路の布石にした方がいいだろう」

 

「……貸し、か。………いや、それを言ったら俺達はこいつに借りがあるからな。さっさと返しておかんと、尻がむず痒くて仕方ない。今はこれで良しとしておこう」

 

 

 そらどーも。貸し借りを語るのは、それこそ苦手なんだけどな。

 ともかく、そういう訳で色々持ってきた。結構な量があるんだが、何処に置けばいい?

 

 

「ああ、俺の蔵に「お前は勝手に金策に走るから、俺の店で管理する。流通させるにも、そこで管理するのが一番楽だからな」………ちっ」

 

 

 既に何か企んでいたようだ。

 興味がないではないが、最終的にろくな事にならないのは明らかなので首を突っ込まないでおこうと決めた。

 

 

「ところで、ちょいと協力してほしいんだがな。…ああ、商売の話じゃない。新しい鬼の痕跡が発見された、と言うのは聞いたか?」

 

 

 ああ、雪華達からな。ノッペラ坊みたいな奴と、でかい爪痕を残す鬼…だったかな?(スットボケ)

 しかも、昨日の夜遅くに山の方で大暴れがあったとか。

 

 

「うちの連中も捜索に出ているんだが、どうにも足取りが掴めん。外から来た鬼かもしれんし、何か心当たりはないか?」

 

 

 …さぁね。俺も気になってたから、捜索に参加させてもらおうと思ってたんだ。

 とは言え、流石に今日は長旅の疲れもある。明日からでいいかな。

 

 

「おう、構わん。今日は、以前お前が使っていた部屋を使うといい。風華に感謝しろよ。お前が来ると聞かされて、部屋を掃除してたんだ」

 

 

 へえ、風華が。複雑な感情を持たれてると思ってたけど、思ってたより好かれてるのかな…。 

 

 

「それはそうと、明日奈や神夜、木綿季はどうしている? 霊山では白浜にも会っただろう。牡丹も一緒だよな。向こうでの話を色々聞かせてくれ。こっちも色々と情報網を構築しようとしているが、流石にここから道が繋がっているのが霊山だけの状態では、どうしても限界がある。…あと、雪華の覗き見とかな」

 

「私はこの人の周囲しか見えません(見るつもりがありません)ので…」

 

 

 はいはい。両さんが喜びそうな話もあるよ。

 そうさなぁ、まずあの二人の様子だけど…。

 

 

 

 

 それから暫く話をして、懐かしい…と言う程でもないが、寝泊まりしていた家に入る。

 風華は相当念入りに掃除してくれたらしく、塵一つ落ちていない。そして、置いた覚えのないでかいベッドが部屋に鎮座していた。

 …これ、神夜が作ったベッドだよな? と言うより、この里にベッドは、その試作品の一つしかなかった筈だが。

 そういや、神夜と明日奈の家もどうなってんだろうか。

 運び込むのも大変だったろうに…。

 

 

「大丈夫です、神夜さんから許可は貰っています。私の『初めて』を捧げた床ですし、使われないからと言って放置するのも気が引けましたし…。今日は思い出の床で…」

 

 

 家に入るなり、ねっとりとした情欲を隠さなくなった雪華が、ベッドに乗ってシナを作って見せた。

 無論、俺も一晩も発散してなかったお陰で、極太兵器がいきり立って仕方なくなっている。…里に到着して以来、ぴったりくっついている雪華からヤりたいヤりたいって無言の秋波を受け続けていたからな!

 

 

「ふふ…あの夜以来、私も、風華も、練さんも、毎晩体が疼いて仕方なかったんですよ? それぞれ、精一杯趣向を凝らしてお待ちしていましたので……存分に可愛がってくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 追記

 

 風華、ロリボディなのにそんなエグい下着を…。どっから調達してきたの……犯罪ですよ! 喜んで犯罪者になりますが!

 

 

 …え、なに、識の店から買い取った? ………は、はんざいですよ(恐)

 

 

 

 

 

 

 



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556話

 

 

-----------------------Side 滅鬼隊(詩乃)--------------------------

 

 

 どうも、詩乃よ。滅鬼隊員の名前としては、あやめだけどね。

 もうその名前で呼ばれる事もないでしょう。あやめと言う名前を知っているのは、以前からの記憶を保っている浅黄や紫くらいだもの。

 そう考えると、ちょっと感慨深く…もないわね。私にとってあやめの名は、霊山でいいように使われていた、陰鬱な記憶を呼び覚ます物でしかないから。

 ま、どうでもいいわね。私は詩乃。自分から名乗り始めた名前だけど、霊山では呼ぶ人は居なかった。だけどここには居る。それだけで、私がここに留まる理由になる。

 

 

 それはそれとして、最近、隊の中で注目が集まっている道具がある。

 以前からちらほらと話題に上がっていたのだけど、あまり突っ込んだ事を聞くのも…という、今更極まりない遠慮で放置されていた事だ。

 

 それを使っているのは、神夜と明日奈。

 物が物だけに、目にする機会は限られているし、目にしたとしても一般的に流通している物ではないから、奇異の目を向ける事の方が多かった。

 あの人は大好物みたいだけど。

 

 その道具とは…。

 

 

「「私達の下着?」」

 

「ええ。注目が集まっているの、知らない?」

 

 

 この二人が付けている、『ぶらじゃー』だ。

 最初に私が目にしたのは……まぁ、言うまでもないけど、一緒に裸になる時だ。何だろうとは思ったけど、その後に無茶苦茶にされてしまった事で、そのまま放置。任務に出る前に禊をする際に目にした事もあったが、改めて聞くにも気を逃してしまい、よく分からないがお洒落の類だろうと思っていた。

 

 あれを付けていると、夜毎の楽しみが激しくなるという話もあり、気にはなっていたんだけど…それとは全然違う方向から話が湧いて出た。

 里のモノノフ…特に那木からだ。

 最近の那木は、里よりもこちらに居る事が多い。元々、私達の(或いはあの頭領の)監視役として遣わされてきたのだけど、今は身も心もこっち側の生活に染まりかけているようだ。と言うか、食われたのが見え見えだ。

 その那木が、何度か里に戻って同僚達と話した時に、色々と情報を垂れ流しにしてしまったらしい。勿論、患者の情報や、漏らしてはいけない事までは話していない。それこそ、こちらの生活でどんな事があった、嬉しかった、便利だった、珍しい物があった等の世間話程度だ。尤も、それが切っ掛けになって、私達の部屋の道具を一部でも手に入れたい、みたいな話が持ち上がったらしいけど…。

 

 一般の里人達には、そう言った生活を便利にする物が注目されたのだけど、女性モノノフの場合はぶらじゃーの効能に注目した。

 即ち、揺れる乳の支え・抑え。

 

 死活問題よね、モノノフとしても女としても。

 前線で戦う女性モノノフは、大抵は晒しで胸を抑えている。…抑える程無い、という例外も居る。胸があまり大きくなるのは、戦う者としてはあまり歓迎できる事ではない。重りが増えるようなものだから。

 女性としては……微妙な所ね。大きければいいという物でもないけど、無いと気になる。大きすぎると奇異の目を、時には欲望の籠った目で見られる事も珍しくない。気にした所で、大きくも小さくも出来ないのが悩ましいところだわ。ただ、型崩れさせたくないのは共通ね。いつまでも綺麗な姿でいたいものよ。

 晒しは戦う時には必須だけど、無理に抑えつけている物でもあるから、形が悪くなる原因にもなる。那木もそれは例外じゃないわ。

 ……今までは、半ば伴侶を得る事を諦めていたようだけど、食べられちゃって色気が出てきたんでしょうね。最近、美容の為の運動をしているのと見かけたわ。

 

 そこで那木が注目したのが、神夜。改めて考えると、凄い大きさしてるもの。うちの中でも、対抗馬はきららくらいじゃないかしら。

 で、その神夜はあの通り、晒しも巻いてない、目の毒極まりない恰好で、斬冠刀を振り回して大暴れしている。だって言うのに、胸は震えるくらいで、動きが阻害される様子は殆ど見えない。

 更に言うなら、巨・美・敏と三拍子揃った天然物だ。…そんな物を振り乱されて、里の若者達の性癖が拗れないかちょっと心配。

 

 ともかく、どうして動きが阻害されないのか? 直接聞いたのか、それとも彼女が身に付けている奇異な物の効果だと直感したのかは知らないが、ぶらじゃーに胸を支える効果があると那木は理解した。

 そしてそれを里のモノノフにも話してしまった。

 

 

「うーん、確かに最近、里に行くと妙な視線を感じるなーとは思ってたんだけど」

 

「しかも異性よりも同性からの視線でしたね。こんな格好をしているから、注目されるのには慣れているんですが、どうも視線の質が違うような気がしていたんです」

 

「睨みつけられるとか、妬まれるとかじゃなくて、純粋に胸の辺りに視線が集中してたわね。神夜はいつもの事でしょうけど」

 

「いえいえ、いつもであれば胸だけでなく足や太腿にも」

 

 

 …見られているのを自覚してるのよね、この人…。まぁ、彼女の家系の役割を考えれば、それも不思議ではないけど。

 自分の胸元に目をやって、困ったような顔をしている。

 

 

「これが欲しい、って言うのはモノノフとしてよーっく分かるんだけど…数が無いのよ。シノノメの里でも、偶然手に入った物しかなかったし。練さんが摸倣しようとはしてたけど…難しいわね」

 

「練…って言うと、シノノメの里の鍛冶師だったわね。…たたらさんと比べてどうなの?」

 

「練さんには申し訳ないですけど、たたらさんの圧勝です。元々、ちゃんとした訓練を受けた訳ではないので。たたらさんに現物を渡せば、複製してくれるかもしれませんが…」

 

「ああ、洗濯したとしても、自分が使った褌を他人に渡すようなことはちょっとね…」

 

 

 乙女心的に抵抗がある。…あの人だったら? おかずにするなり履くなりしゃぶるなり、お好きにどうぞ。

 ついでに言えば、たたらさんも作るのに抵抗があるんじゃないだろうか。

 

 

「でも、実際便利な道具は共有すべきではあるのよね。士気向上や戦力増加に繋がるのであれば、猶更。…シノノメの里から、お土産として新品を持ってきてくれれば…」

 

「お土産をそのまま試作品として渡すのもどうかと思うけど。こっちから、買ってきてほしいと連絡する方法があれば…」

 

「里のお抱え飛脚でも間に合わないわね。概念だけ伝えれば、何とか作ってくれないかしら」

 

「…ところで、『ぶら』を欲しがっている筆頭は那木なの?」

 

 

 そう思われるのも納得の大きさよね。弓を引くのに邪魔になってないのが感心するくらい。

 でも、筆頭は彼女じゃない。

 

 

「一番興味を持ってるのは桜花ね。二番目が初穂」

 

「…桜花さんはまだしも、初穂さん…いえ何でもありません」

 

 

 必要なのか、とは口に出さない。万一聞かれたら、戦争になりそうだし…。

 でも実際、必要なのは確からしい。初穂は鎖鎌使いで空中を飛び回るから、重心を安定させる方法は是が非でも欲しいらしい。

 桜花はと言うと、こちらも同じような理由。普段は晒しをきつく巻いているので分からないが、意外と大きい。その大きいのを、一見して分からないくらいに強く締め付けて抑えているのだから、当然呼吸だって苦しくなる。

 

 

「…ちなみに、『ぶら』を使い始める前の神夜はどうやって戦ってたの? どう見ても、晒しで抑えられる大きさじゃないわよね。しかも、鎖鎌使い程じゃないけど空中を飛び回るような戦い方をするし」

 

「私の場合は斬冠刀が重心になりますから、おかしな動きさえしなければ、体勢が崩れる事はないですね。この刀の重さからすれば、私のお乳の重さなんて誤差ですし」

 

「それだけじゃないでしょー? これの重さを上手く使って、勢いを付けたり殺したりもしてるじゃない。戦ってる時は、他の女の子への当てつけかと思うくらいに揺れてたもの」

 

「言わないでくださいよー。当時は大変だったんですよ。こんなに膨らむとは思ってもみなかったんです。おかげで、体の動きを一から再構築する羽目になりましたし…」

 

「そして出来上がったのが、お乳の動きで体を制御するおっぱい剣術と」

 

「絡んできますねぇ明日奈さん。そんなにこれが羨ましいんですか?」

 

 

 胸を張る神夜の胸元には、小さく充血した後がある。…吸い付いた跡ね、あれは。

 

 

「べっつにー? 大きいとそれはそれで大変って言うのは、神夜を見てたらよく分かったしね。手に余るくらいの大きさなら色んな使い道があるけど、掌で包めるくらいのが丁度いい、みたいなところもあるし」

 

 

 …なんだか微妙な雰囲気になってきたわ。本気で揉めてる訳じゃなさそうだけど。

 まあ、ご執心の相手が相手だものね。大きかろうと小さかろうと、骨の髄までしゃぶりつくされて、それを悦んでしまうんだから。本当に、たちの悪い男に掴まったものだ。…今までよりもずっといい環境だけども。

 

 

 

「話を戻すけど、これに限らず、里の人達から『これ、うちにも欲しい』って言われてるのが幾つかあったでしょう? 先日、浅黄達も言っていた事よね。設備的なものを渡すのは難しいから、まずこれにしたらどうかと思うんだけど」

 

「分類的には私達の私物だから、渡したら隊の運営に角が立つ…って事もないのよね。問題は…」

 

「私達の抵抗、と言う事ですね。流石に気恥ずかしいというか気まずい事この上ないです」

 

「伽の時に、好き勝手に使われたり汚されたりしているのを見ていると猶更ね…」

 

 

 ついでに言えば、明かに雄を挑発する目的で作られている物もある。わざわざそれを選んで渡す理由もないが、あんなのを日頃から付けていると思われるのはちょっと…。

 

 

「色々と問題をすっ飛ばすけど、要するに重要なのは胸の抑え、支えって事よね。うーん…現物はある訳だし、私達で分析して似たような物を作り出せないかしら」

 

「それこそたたらさんにどうにかしてもらった方がいいと思うけど…確かに、その辺が落とし所かな」

 

「なんなら、那木さんにも解析を手伝ってもらいましょう。私達より学がある方ですし、大きさ的にも割と近いです」

 

「そうね。元々あの人から情報が流れたみたいだし、責任とってもらいましょう。着せ替え祭りが捗るわね」

 

 

 …二人の目を見ればわかる。確実に、玩具にするつもりだ。下手をすると、彼が帰ってくるまでの性欲発散の為の玩具になるかもしれない。

 ま、いいか。下手に止めると私が標的になる気がするし。それはそれで、まぁ、悪くはないんだけど、弄ばれるのって気持ちよくても体力的、精神的にきついから。

 

 

「だけど、無償で提供するのもちょっと癪よね。私達は里の世話になってるけど、その見返りとして戦力になってる。立場で言えば対等…とまではいかなくても、一方的に要求されるような立場でもない筈よ」

 

「まぁまぁ、これは里としての要求ではなく、個人個人が興味を示しているだけなのですし、そう固い事を言わなくてもいいのでは?」

 

「そうなんだけど、最近は里の人達から『あれが欲しい』『これが欲しい』『うちにもつけてくれ』って声が大きくなってきてるのよ。私だって、こんな生活知っちゃったら元には戻れそうにないけど」

 

「夜は暖かく昼は涼しく、甘露の如き水に豪華な湯船。床は雲を褥にするがごとし…霊山君だってこんな生活してないわよ」

 

「だから、猶更無償で提供していいのかって思うのよ」

 

「だから猶更いいんじゃないの。中途半端に欲を掻いたり、けち臭い事を言うのが一番損をするやり口よ。貸しを作るなら目いっぱいが当たり前。対価が価値に見合ってなくても構わない…むしろそっちの方が都合がいいわ。この里の連中なら、借りを踏み倒すような事はまず無いわ。使えば使うほどその便利さに取り込まれ、無くす事なんか考えもできなくなっていく。そうなれば占めたものよ。快適な生活環境は、仕事の効率にも直結している。里にとって、私達は…少なくとも頭領は、必要不可欠の存在になる。もしも敵対する事にでもなったら、その供給を止めてしまえば士気はがた落ち。どうするのか決めるのはあの人だけど、少なくとも提供して私達に損はないわ」

 

「「うわぁ…」」

 

 

 引かれた。…そんなに酷い打算だったかしら。こんなの、霊山の暗部に関わる人なら、10歳程度の子供だって考えられるわよ。…10歳で暗殺者してた霊山の人間なんて、私以外にお目にかかった事ないけどね。

 

 

 

 

 

 



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557話

 

 

黄昏月拾壱日目

 

 

 えー、必要かどうかはともかくとして、ツルペタボディ〇学生の風華に、娼婦ぐらいしか着ないようなエッグい下着を売った識の名誉の為に一言。

 あの下着は識自身が売り物として仕入れた訳ではない。単に、いつもの超界石ガチャで出てきた品だった。

 幾ら何でもこれはなー、と識本人も考えていたようだが、娘召喚ガチャの為に宝玉が必要だったし、その為ならば対価は問わないと決めていた。

 

 何より、求めたのは風華本人だった。売り物として並べるのもちょっとなぁ、とお蔵入りにしようとしたところ、タイミング悪く目撃されてしまったのだとか。

 辛うじて「自分が着る」とは言っていなかったし(業が深い事に、この里では風華以外に着られないようなちびっこ向けの大きさだったが)色々な事に目を瞑って売り渡したんだそーな。

 後になって、娘さんに懺悔したい気分になったそうだが。

 

 いくら娘を助ける為なら何でもすると言ったって、限度はあるよな、限度は…。

 

 

 

 

 昨晩はかなり愉しませてもらった。雪華達との逢瀬の事だけじゃない。里の連中の歓待で、いいもの飲み食いさせてもらったしな。

 里が色々と変わっているのにも驚いた。半分くらいは、両さんの発案と識の提案の組み合わせらしい。

 

 モノノフ達の戦い方も、霊山から仕入れた技術を組み込み、新たな戦術を作り出そうとしていた。

 泥高丸の鬼纏なんか、その最たるもんだな。試行錯誤中で、まだとても形になっているとは言えないが、完成すれば俺に一矢報いるくらいの効果がある!と断言するくらいだ。

 

 

 春になっても雪に覆われていた里周辺も、気温の上昇で随分と雰囲気が変わったものだ。

 異界が消失したのも一因だろうが野山の恵みがそこかしこに見受けられる。野原を開墾しようとしているのか、耕された土地も幾つかあった。

 食糧事情は、劇的に改善されたと言っていいだろう。

 

 

 そして何より違うのは、やはり里人の表情だ。

 俺がやってきた時には、じりじりと迫る絶望に抗い、最後の一瞬まで戦い抜く気概と、滲み出る焦燥を感じていた。焦燥は勿論のこと、最後まで戦う気概…とは、裏を返せば勝利は無いと思っているようなものだった。

 里を出ていく頃には、ようやく見えた希望に必死に縋りつこうとしているのがよく分かった。それこそ、掴んだ好機を捕らえる為なら、どんな対価でも構わない、とばかりの気迫だった。

 

 そして今は……なんだろうな。生きて勝利を掴む事。未来に辿り着く事。そして、日々が充実したものである事がよく分かる表情だった。

 尤も、本人達にそれを言えば、少なくとも最後の一つは否定されるだろう。

 何せ。

 

 

 

「おい、またお頭が抜け出したぞ!」

 

「何か企んでるな! 探せ探せ!」

 

「新種の鬼を捕獲に向かったか!? それともまた宝の匂いでも嗅ぎつけたか!?」

 

 

 …彼らが退屈していない、程々に刺激的な日常を送れているいるのは、何かと問題を起こす両さんのおかげ…せい? なのだから。

 

 

 

 

 今日は泥高丸と共に、新種の鬼の捜索に出る。一応言っておくが、自分で自分を探す誤魔化しではなくて、振るった覚えのない大きな斬撃の痕を残した鬼だ。

 しかし、瘴気が無くなったこの近辺で、そんな強力な鬼が出るのかって疑問もあるんだよな…。

 

 それはそれとして、出発前に識の店を訪ねた。偉い繁盛しているな、と思ったら、姿を消した両さんの行く先について相談を求められていたようだ。

 

 

「…いや、この時期であれば、新種の鬼をどうこうしたとて、儲けの種にはならん。恐らくそれは陽動だ。ならば……先日興味を示しておった、鉱山があったな。そちらか」

 

「鉱山! お頭がいかにも好みそうな話だな。よし、そっちを探ってみる! 全員準備しろ、山狩りだ!」

 

 

 識の言葉に、疑いもせず走っていく若いモノノフ。…しかし、えらい気合が入ってるな。

 よう、来たぞ。随分信頼されてるじゃないか。

 

 

「お前か。あのお頭の考えそうな事を幾度か言い当てたら一目置かれるようになったのだ」

 

 

 あの人の行動を先読みするってだけでも凄いが…いや、あの人の場合途中まで予測できるか、途中から予測できなくなるか、だろうな。

 その二択で予測できる方を告げて、暴走する前に首根っこを抑えたと。それでも充分凄いが。

 

 

「分かっているではないか。…長く生きてきたが、見た事のない人種だな。あまり観察したい人間でもないが…。そういう意味では、お前もだが…」

 

 

 両さんと同類扱いとか、失礼だと憤慨すればいいのか、光栄だと笑って流せばいいのか。

 だが、識の目付きはそういう冗談を言っているものではなかった。この里で出会ってから見せていた、何処か不真面目で軽薄な…三枚目染みた印象の目ではない。かつて、クサレイヅチの影響の中で平然と動き回っていた時と同じような、狂気と鋭利さと陰鬱さを煮詰めて凍結させたような、触れるのも憚られる狂相が顔を覗かせた。

 

 

「………ふ、ん。成程な。どの道、現状では私の計画は無意味だった訳か。まずは貴様を排除せねば」

 

 

 一人で納得してんじゃねーよ。聞きたい事も知りたい事も山ほどあるが…やる気だってんなら、この場で相手するぞ。

 

 

「それこそ意味がないな。この距離で貴様から逃げおおせるとは、如何に私でも欠片も思わん。仮に貴様を殺せたとしても…それこそ全てが無に返るだろう?」

 

 

 …自力で繰り返しの事に気付いた奴は初めてだよ。しかも、前の記憶が残っているとは。

 

 

「全てを覚えている訳ではない。私が知っているのは、貴様と出会った私がどのように見えたか、というくらいだ」

 

 

 本当かねぇ…。軍師の言葉を鵜呑みにするなんぞ、自分から釣り餌に飛び掛かる魚みたいなもんじゃないか。

 

 

「クククク、疑われたものだ。まぁいい、信じるかどうかは好きにする事だ。さて、そうさな…聞きたい事、知りたい事があると言っていたが……対価は準備しているのだろうな?」

 

 

 …一応、里に留まる間の軍資金に、って事で貰った宝玉持ってきたが…これでいいのか?

 返事をする前に、識の手が雷のような速度で伸びて、掌の上にあった宝玉5つを奪い取った。…そこまでガチャを回したい…もとい、娘を助けたいのか。

 だが理由はどうあれ、給料が入るなり課金しまくっている爆死の人にしか見えない。

 

 

「毎度。…さて、貴様が知りたがっているのはどの話だろうな。対策か、正体か、起源か…」

 

 

 思わせぶりな言葉を漏らすくらいなら、全部話せ。

 何を話すかはそっちの選定に任せるが、内容によっては追加報酬を出そう。

 

 

「うむ、話が早いな」

 

 

 …最初から追加報酬狙いかよ。がめついぞ、このおっさん。

 

 

「そうさな……。貴様、イヅチカナタと因縁があるだろう。奴に奪われた因果を、一部ではあるが回収する方法と言うのはどうだ?」

 

 

 手持ちの宝玉全部だ。疾く話せ。すぐ話せ。今話せ。

 

 

「よかろう。これは、お前が言う『以前』の事を私が覚えている理由にも通じる事だ。知っての通り、イヅチカナタは因果を奪う。奪った因果を体の一部に貯め込み、貯蓄としている。ここまでは知っているか?」

 

 

 ああ、知ってる。因果だけじゃなく、生身の人間を取り込む事もあったよなぁ………!!!!

 

 

「ほう、それは珍しい。興味深いが…今は置いておこう。イヅチカナタは、因果を奪い喰らう鬼…とされているが、その実態は違う。奴は『因果を集める鬼』なのだ」

 

 

 喰らうのではなく、集める…? つまり、奪った因果を消費する事はない…と?

 

 

「いいや、消費はされる。因果とは即ち、原因と結果の結びつきを指す。この結びつきは何事も無ければ維持されるが、生憎と時間という偏屈極まりない邪魔者があるのでな。時間が経てば経つ程、原因と結果の間に別の要因が入って行き、その結びつきは徐々に細くなっていく。まぁ、完全に消え去る事はまず無いだろうがな」

 

 

 奪い、貯め込んでいる因果が死蔵されている間にすり減っていく…か。………俺の娘も…。

 

 

「…貴様も、か…。…話を進めるぞ。イヂツカナタは、個体差はあるが何らかを核として、解離された因果が集まった集合体だ。そういう意味では、因果を集めるだけなのも、生存に必要な食事をとっていると言えるかもしれんな。だが、奴は本来それを許される役割に無い」

 

 

 ………ん?

 因果の集合体…いやそれは前からそれらしい考察はあったが。…そういや、俺ものっぺらの集合体だったな…。

 いやそれよりも立場? 個体差?

 

 

「イヅチカナタの本来の在り方は、全てを呑み込む暗黒の穴ではない。あれは、言わば貯蔵庫だ。入れた物を保管し、然るべき場所に運び、護り続けて吐き出すのが本来の役割」

 

 

 ちょい待った。…そもそもの話なんだが、イヅチカナタって複数居るのか?

 俺、少なくとも一時期には一体しか居ないと思っていたんだが。

 

 

「む? そこからか。珍しい鬼だが、居るぞ。亜種までいたな。確か、カガヨウモノ、だったか…。大体、一時期と言っても、奴は時空を回遊しているのだぞ。同じ個体が同じ時期、別の場所に存在していても何ら不思議はないわ」

 

 

 マジかよ…。ん? つー事は、俺が追いかけてるクサレイヅチが、千歳やあの子達を奪った鬼とは限らないのか?

 

 

「そいつを見た事が無いから何とも言えんが…いや、以前に見はしたのか。覚えておらんが。だが、その心配はないだろうな。イヅチカナタは貴様から大量の因果を奪っている。因果を奪われたと言っても、完全に貴様との繋がりが断たれている訳ではない。か細い糸のような繋がりだが、数が揃えばそれなりの引力となるだろう」

 

 

 そっか…。まー仕留めたイヅチが狙ったイヅチでなかったとするなら、また探し当てて斬るだけだわな。気が遠くなりそうな作業だが。

 それに、あのクサレイヅチはどういう訳だか俺に纏わりついている。今更、どこかに行くとも思えん。

 

 

「話を戻すぞ。奴は、正しい手順を踏めば、取り込んだ因果を自ら吐き出す。後は、その因果の本来の主が近くに居れば、自然と戻っていくだろう。だが、その際にはイヅチカナタと戦えるとは思わん事だ。どんな因果を奪われたのか知らんが、身に覚えのない記憶が濁流のように押し寄せてくだろう。確実に、脳の処理能力を大幅に超える」

 

 

 その場でぶっ倒れるって事か。…あのクサレイヅチの前で…。

 奪われた因果、つまり記憶を取り戻すか。それとも問答無用で始末して、千歳や産まれてもいなかった子を取り戻すのか。

 いや、取り戻すったって産まれる前の子供をどうやって取り戻す? 解放すれば、フラウやセラブレス達の元へ自然と飛んで行ったりするのだろうか。…その場合、いつの時期だろうな。全てがリセットされているのだから、俺と会った事もない筈。下手をすると、見ず知らずの男に知らない間に孕まされてた、なんて事になりかねん。

 

 …考える事は色々あるが、とりあえずその正しい手順ってのは何だ? どうやれば、奴に因果を吐き出させる事ができる?

 まさか『開けゴマ』なんて合言葉で反応してくれる訳じゃないだろう。

 

 

「大まかなやり方はそれに近いな。イヅチカナタには、それぞれ巣と言える場所がある。そこで特定の合図や状況に反応し、因果を吐き出すのだ。これは考察だが、イヅチカナタはそのように作られているのであろうな。人の手によるものか、もっと別の種族によるものかは不明だが、要するに奴らは『特定の何かを収集し、それを定められた場所まで運搬し、それを補充するのを至上命題とされているのだ。貴様の追うイヅチカナタは、色々と規格外のようだがな」

 

 

 

 ふむ…。マイクラで、作られた物資を自動回収して、保管箱に入れる為の機械がクサレイヅチだと。

 しかし、その例えで行くと…クサレイヅチの行動の目的は様々だ。麦を狩り集める者、鉱石を掘り返す者、整地ついでに資源を集める者。

 …と言う事は、その合図って…。

 

 

「当然、それぞれ違うだろうな。何を目的に作られ、どんな時に貯蓄を解放し、そしれその鍵となる合図は何か…。これらを解き明かし言い当てるなど、不可能に等しい。故に、結論は単純だ。騙すのだ。その場所がイヅチカナタの巣であり、貯蓄を吐き出すべき状況であると錯覚させるのだ」

 

 

 …ハッキングかな? ID…使用者を偽り、パスワードを探り当て、内側に潜り込んで奪い取る。ハッキングじゃなくても、泥棒強盗と似たようなもんだな。

 しかし、騙すったってそれこそどうしたもんか…。

 

 

「まずは五感と意識を奪い、自分の状況を見失わせる事から始めるのだな。要するに混乱させろと言う事だ。奴は天敵の居ない生態ゆえ、危機管理能力は高くないと思われる。一度騙してしまえば、そうそう気付く事はあるまい」

 

 

 うーん…憶測を元に行動するのは不安……いや、いつもの事か。

 つまるところ、膾切りにして戦闘能力と生存能力と生殖能力を奪い、現実逃避させてから解放させると。

 

 

 …叩き斬った方が早くね?

 

 

「それも良かろうが、奪われた因果が戻ってくるかは定かではない。まぁ、どちらにするかは貴様の判断次第だ。ただ、これは憶測になるが……貴様が特定のイヅチカナタに纏わりつかれているのなら、その理由と解放の合図は、恐らく切っても切れない関係にあるだろう。貴様を延々と追い回すその理由こそが、奴が因果を吐き出すべき状況に直結している」

 

 

 ………俺の行動が、奴の合図。

 それが正解だという確信もないが…いや、確かに筋は通る、のか?

 あいつが俺を追い回すのは、俺自身が識が言う所の『巣』…因果を吐き出すべき場所だとしたら。

 

 …俺から奪った因果を貯め込み、俺自身に向けて吐き出すのがクサレイヅチの役目? …やっぱり、イマイチ筋が通らない。

 しかし、識は随分とクサレイヅチの生態に詳しいようだ。これらの証言を、的外れ、上辺だけの戯言と断ずるのも難しい。

 

 

 …正直、出費の元が取れたと考えられるかは微妙なラインだが…収穫ではあった。 

 

 

「また何かあれば頼ってくるがいい。本来なら対価は宝玉のみとしているのだが、貴様には恩を売っておいて損は無さそうだ」

 

 

 生憎と、恩は売られるものじゃなくて売るものだと思っている。数日したらウタカタの里に戻るから、機会はないと思うが…まぁ、覚えておくよ。

 こっちも、あんたが娘に会えるように武運…じゃないな。ガチャ運を祈っておこう。

 

 祈りが物欲センサーに引っ掛かるかもしれないが。

 

 

「おいやめろ何だか知らんが嫌な予感しかせん」

 

 

 

 

 

 

 

 識が宝玉を手に超界石に向かって走っていくのを見送り、俺は適当なモノノフ達と合流する。

 これから、新種の鬼を探して山狩りだ。さて、俺の知らない鬼が出てくるか…それとも、記憶にないだけで傷跡は俺がやった事だったのか。

 何にせよ、新しく考案された戦術とやらもあるようだし、そこそこ楽しめそうだ。

 

 

 …何より、昨日ののっぺらが万一残っていたら、塵も残さず切り刻まねばならんしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 本願寺顕如=サンに迷惑をかけにいっていたのっぺらが居る事が判明。土下座したら百式観音ならぬ百式不動明王の拳で張り倒されました。

 畜生、この分だとのっぺら共、思っていたより多く残っているっぽいな。本気で山狩りせねば。

 



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558話

ゴーストオブツシマまであと僅か。
…なのはいいんですが、正直執筆に詰まっています。
思い付きで突っ込んだネタを膨らましきれずお茶を濁す、考えてはいたけど思ったより話が膨らまなかった等で、無駄に停滞してしまっている…。
幾つかのネタはお蔵入りにして、そろそろストーリーを本格的に進めようかと思っています。
…なので、4日に1度投稿が保てなくなってしまっても、それは津島を走り回っているからでも、期間限定で再公開された天魔を見てる訳じゃないよ!
…多分。


-----------------------Side 滅鬼隊(骸佐)--------------------------

 

 

 

 ……ん? ああ、すまん、呆けていた。骸佐だ。

 どうにもここ数日、気が抜けてな…。鍛錬は怠っていないんだが。

 

 言い訳をするようだが、気が抜けているのは俺だけじゃない。うちの連中は、何処か楽観的になっている節がある。大戦を乗り越えて自信がついた為か、すぐには大きな戦いは無いだろうと思っているのか。頭領が居ないから、というだけではないな。

 実際、現状くらいであれば問題はない。慎重になり過ぎるのも問題と言えば問題だし、湧いてくる鬼は雑魚ばかり。万一がないよう、徒党を組んで任務をこなしている。相当な不運がなければ、最悪の事態は起こらない。

 頭領が残した言葉を、全員それなりに意識して動いているしな。

 

 その点、ウタカタの連中は流石と言うべきか。戦いが終わった後だと言うのに、もう次の戦いに向けて備えを始めている。

 と言っても、次に何が起こるか分かってないので、とにかく備蓄、修練、その他諸々を徹底しているのだ。

 

 少し話す機会があったのだが、ウタカタの主力・桜花によれば、「本当に厄介なのは、鬼の企みなどではない。鬼が跳梁跋扈するのが当然となっている、この日常なのだ。企ては潰せば終わる。だが日常は世界を根本から変えなければ、決して終わる事はない」…だそうだ。

 なるほど、至言だ。終わらない戦いほど厄介なものはない。敗北するまで延々と続く、勝利など無い戦い…考えたくもないな。

 桜花に対する俺達の評価は、何時ぞやのやらかしでかなり下がっていたが…こうして見ると、ウタカタ部隊の中核を担っているのもよく分かる風格だ。剣の腕も、悔しいが今の俺では勝てそうにない。

 

 そして、その桜花から奇妙な話が舞い込んできた。と言っても、俺は執事秘書組からの又聞きだが。

 

 

 

「幽霊? ……時子、それは冗談の類…いや、比喩か?」

 

「比喩…が近いかしらね。報告を受けた大和のお頭も、『何かあるかもしれない』とは言っていたけど、鬼だとも、文字通りの幽霊だとも言ってないわ」

 

「ただ、そういう奇怪な現象が幾つか目撃されているのは確かよ。ならば、何かの前兆と考えるできでしょう」

 

「…確かに」

 

 

 時子と災禍の言葉に頷いた。普段と違う事が起こっているのであれば、それは予兆だ。それも、大抵は不吉な。

 

 その現象を、最初に目撃したのは桜花。誰も居ない場所から呼びかけられただの、夜道で不気味に光る人影が目撃され、そのまますーっと消えていっただの、不気味な鎧武者が茂みの中で見えない何かと戦っていただの、古典的な怪談みたいな話が幾つかあったのだそうだ。

 それらが異界であれば、鬼の仕業だと断定するんだが……これは里の中、結界の中での話なのだ。

 

 

「…現状、被害らしい被害は…」

 

「出ていません。強いて言うなら、一部のモノノフと里人が怯えているくらいです」

 

 

 鬼を斬るモノノフが、人の霊に怯えるのか…。

 鬼と幽霊は別物、と言われると確かにその通りではあるが。

 

 と言うか、何故それを俺に? 他人事とは思わないが、少なくとも俺はそういう事に詳しくはない。

 心当たりがないかと言われても、それこそ全く思い当たらない。幽霊と言えば夜だろうが、俺達男組は、夜はさっさと眠って出歩く事はまず無いのだ。…何処で頭領が盛ってるか、分からんからな。目撃したら気まずいってもんじゃない。

 

 調査をさせるにしても、鹿之助の方が適任だと思うが…。

 

 

「…性格を鑑みても?」

 

「俺が悪かった」

 

 

 

 場数を踏み、隊に貢献してそれなりに自信がついてきたようだが、人の性格と言うのはそう簡単に変わるもんじゃない。切っ掛け一つで、鹿之助の自信は空気が抜けた風船のように萎んでしまいかねない。

 そうでなくても、怪談とか苦手みたいだしな…。

 

 

「無論、調査を担当するのは骸佐のみではありません。今も、天音が現場を確認して回っています。それに加えて、男性陣を統率し、あなたも調査に回ってください」

 

 

 俺に隊長役をやれ、と言う事か。それは別に構わない。男三人で任務を請け負う時も、何だかんだで自分が中心になって動いているという自負はある。権佐も鹿之助も、補助役に回る傾向があるからな。

 しかし、俺も頭を使うのはあまり得意じゃない。誰か、頭脳役が欲しいところだが…うちの連中で、頭を使うのが得意なのは…。

 

 

「すみません、静流や不知火といった面々は別件に対応中です。どの道、頭脳労働や調査を担当できる人材が殆ど居ないという状況は何とかしなければいけません。ここは、ウタカタの人に助力を請うべきでしょう」

 

「そして調査のやり方や心得なんかも学んで来い、と言う事か。しかし、誰に助力を求めるか…」

 

 

 すぐに思い浮かぶのは、割と繋がりのある富獄や和真。

 しかし富獄は主力だし、他の任務で忙しいだろう。和真は…性格にも能力にも難あり。面倒事、しかも恐ろしいかもしれない事に積極的に首を突っ込む筈もない。

 

 となると………少々面倒だが、あいつに頼むか。

 

 

 

 

「幽霊、ですか。確かにそういった噂話は届いています」

 

 

 嫌がる鹿之助を、権佐と一緒に引っ張って、陰険眼鏡こと秋水の元までやってきた。

 こっちに視線も向けず、資料を整えている態度に少々腹が立ったが、協力を求めているのはこっちだ。多少の不快は我慢せねば。

 

 

「な、なぁ秋水…本当に、出る…のかな」

 

「さぁ。僕は幽霊を信じても否定してもいませんので。ですが、火の無い所に煙は立ちません。何かが起きているのは確かですね。…この資料も外れ、と…」

 

 

 目を通していた資料を、几帳面に積み上げる。表紙に目をやってみると、古い書体で今一つ読めなかったものの、怪談集…のように見えた。

 なんだ、こいつも調査中だったのか?

 

 

「秋水、今わかっている事は? お前さんの事だ。調べながら、何か統計でも取ってるんだろ」

 

「よくお分かりで。とは言え、この短期間では大した記録はとれませんでしたが…これをどうぞ、権佐さん」

 

「どーも。…って、渡されても正直何が何だか分からんな。幽霊騒ぎが目撃された場所と時期…か?」

 

 

 ほう、どれどれ。覗き込んでみると、地図と細かい数字が並んでいた。

 題名に書かれているから内容は分かったが、これで何か推測できるのか? ……これでも、任務を受けるようになる前の書類仕事の重要性では、そこそこ成績は良かったんだがな…。

 

 

「期待しているようですが、それだけの資料で意味のある情報を抜き出すのは、僕でもまず無理ですね」

 

「なら何で見せた?」

 

「権佐さんに聞かれたからですが、何か? そもそも幽霊騒ぎが始まったのは、ここ数日です。分析できるほどの数が発生していません。その中でも、単なる見間違いや思い込みもあるでしょうしね」

 

「ぬ、ぬぅ…」

 

 

 言われてみれば、それもそうだ。情報の全てを鵜呑みにしてはいけない。

 とは言え、それならそれで何を信じて調査を続ければいいのか…。

 

 

「そうですね…。仮説になりますが、気になる事はあります。僕がそれを調べるので、その裏付けをお願いします」

 

「つまり、お遣い?」

 

「そうなりますね。別に貴方達を安く使おうとは思っていませんよ。僕は協力を求められたので、仮説を述べた。あなた達はそれが的中しているか確認する。それだけの事です」

 

「力の安売りをするなと言われているが、ここでそれを言う気はねぇよ。里の問題は俺達に直結する問題でもあるんだし、懐で何か起きてるならおちおち昼寝もできん」

 

「結構。では、僕の予測ですが…」

 

 

 

 

 

 

 今一つ釈然としないものを感じはしたが、秋水の要望に従って確認に向かう。

 目撃情報があった場所の確認と、それを目にした人を探し出して直接話を聞く。…後者が真面目に厄介な話だった。

 この里の人間は限られているとは言え、噂話の始まりなんてそうそう見つけられるもんじゃない。本人に自覚が無い場合は猶更だ。

 

 …そしてその調査の結果、確認の指示を受けた3件中2件は単なる錯覚であった事が判明した。

 誰も居ない場所で呼びかけられる声は、聞いた本人についているミタマの声。祭祀場の樒さん曰く、『元々無口なミタマの上に、モノノフ本人の方もミタマの声を聴きにくい体質』だそうだ。何故かよりにもよって、人気のない夜道で話しかけた為に、幽霊の声と勘違いされてしまった。勘違いされたミタマは、不貞腐れてタマフリを起こすのもやめてしまい、件のモノノフはご機嫌取中だとかなんとか。

 

 あちこちで目撃されていた不気味な人影は、修行中のモノノフだった。しかも一人ではない。速鳥、初穂、雪風、神夜さん、里のモノノフ・俺達問わず。

 最近、夜中の奇襲に備えて夜間訓練が流行ってるんだよな…。何せ、里に最も近い異界が潰れたからな。仮に鬼達が里を襲撃するとしたら、少しでも人目を誤魔化して接近できる夜になるだろう…と言うのが、里のモノノフ達の見解だ。確かに頷ける理屈だよ。

 そんなもんだから、普段の道場とは違う、森の中や整備されてない道を走り回ったり飛び回ったりする連中が多いんだ。

 特に鎖鎌や双刀使いは、飛び上がって三次元的な動きをする事も珍しくない。視界の悪さも相まって、突然消えたように見えたんだろう。鎧武者の正体もこれだった。

 これらが判明した結果、、大和のお頭から夜間訓練の場所を指定され、利用する場合は必ず申請すること…という決まりが設けられた。

 

 

 正直な話、ここまでで俺達のやる気は限りなく低下している。別に切った張ったや、鬼でも人間でもミタマでもない『何か』と戦う事を希望していた訳じゃないが、肩透かしもいいところだ。

 しかも、あんな事を言いながら、秋水は『大体予想通りですね』なんて事を言いやがる始末。適当な事を吹かしてるだけじゃないだろうな、と思ってしまうのも無理はないだろう。

 

 

「どんな化け物が出てくるかと思ってたけど、これなら残りの話もすぐに片付きそうだな!」

 

「幽霊が居ないとわかったら、途端に元気になってるなぁ鹿之助。俺はむしろ残念だね。霊体を相手に、俺の槍が通じるのか試してみたかったんだが」

 

「俺はもう、正直何でもいいから帰りたくなってきた。一応治安維持任務でもあるんだし、張り切ったのが馬鹿みたいじゃないか…」

 

 

 捜査のやり方を覚えるにも、どこからどう学べってんだ。顎で使われただけじゃないか。確かに聞き込みはしたけども。

 

 

「まぁまぁ、とにかく今日はもう帰ろうぜ。いい時間なんだしさ。残りの一つもこんな落ちだと割り切ってれば、気にならないだろ」

 

「あー、まぁ時子達への報告はこっちでやっとくわ。阿保な落ちだったが、笑い話の種くらいにはなるだろ」

 

 

 ……そうだな、不貞腐れてるのも疲れるし、明日もさっさと終わらせちまうか。

 えーと、秋水から確認の指示は受けてないが、他の怪談は…。

 

 

『夜毎に響く啜り泣き』

 

『怪奇!人面犬・猫・豚・その他諸々。なお人語を解し被虐趣味あり』

 

『人里の陰に、突如現れる気味の悪い液体や水たまり』

 

 

 …ちなみに、若が出立してからは一切発生していない。

 

 

「……………」

 

「………………」

 

「…………………や、これは発生場所と内容を聞いた時点で、もう真相の検討はついたし」

 

「「せやな」」

 

 

 宿舎の中でやるならまだしもよ…。人里の物陰でやってんじゃねーよ、若…。あんたの女癖にどうこう言うつもりは無かったけど、流石に文句言いたくなってきたぞ。

 つーか、隊の連中は特殊な趣味の持ち主しか居ないのか…。

 

 

「聞き込みの途中でアサギさんに会って、少し話をしてみたんだけど…『無意味に物を壊さないだけ、まだいいわ』だってさ」

 

「そういや、きららの奴が唐突に湖を一つ凍り付かせた事がある、って言ってたよな。理由は未だに不明だとか。本人も忘失してるから、首を傾げてたっけ」

 

「下を比べてどうするんだよ。上を見ろ、上を。…後は何だったか…」

 

「女の声がする、ってのが一つ。ただ、これは他の事件とは明らかに離れた場所で起きたらしい。…その分目撃者も少なくて、面白がった誰かが便乗して流した噂…だと思うけどな、俺。さもなきゃ、若がこっそり誰かに手を出したとか」

 

 

 俺も鹿之助の意見に同意する。…正直、調査が惰性になっている自覚はある。

 別に、秋水の言葉に従うのが癪だ、という理由じゃない。単純に、阿保らしくなってきただけだ…。

 

 

「で、それと…ああ、『道端で蠢くよく分からない何か』だったか。表現まで投げやりになってきたな」

 

「と言うか、怪談かこれ? この話の出元だけははっきりしていたよな。樒さんだった」

 

「あの人か…」

 

 

 …判断に迷うな。何を考えているのか分からない人だ。ただ、能力自体は疑いようがない。

 同時に、無意味な発言で周囲を引っ掻き回しそうな気もするが…いや、これは内心が分からないって思っている事からくる、俺の勝手な印象なんだが。

 

 で、どういう内容だったか。

 

 

「樒さん曰く、日時を問わず、道端で何かが蠢いているんだと。目には何も見えないけど、ミタマはそこに何かあるって騒ぐし、樒さんの感覚にも微妙に何かが引っ掛かる。蠢くものは、あっちこっちで発生しては、すぐに消えてなくなるらしい」

 

「…権佐、ひょっとしてそれ『さんちちぇっく』失敗してるんじゃないか? 若様の言ってた事だからいまいち要領を得ないけど、失敗したら一時的に正気ななくなるらしいぞ」

 

「それを俺に言われてもな。それを言ったら、一番失敗してるのは若様じゃないかな」

 

「言うな。出てきては消える、じゃ検証もできんな…。取り敢えず、樒さんが何かを感じたって場所に行ってみるか。鹿之助、感知を頼むぞ」

 

「やるだけやるけど、とんでもない物に引っ掛かったりしないよな…」

 

 

 

 そう言いながらも、鹿之助は怯えていない。…この案件も、他のと同じで下らない落ちが待っている、と思っているんだろう。正直、俺も同感だ。

 何にせよ、明日だ明日。溜息を吐いて、俺達は帰り道についた。

 

 



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559話

 

 

黄昏月拾弐日目

 

 

 半日ほどかけて山狩りしたものの、のっぺら共は居なかった。

 全部狩り尽くした…か、実体化の制限時間が過ぎて、消えてしまったのかもしれない。まぁ、吐き気を催すウザいのが消失したのは何よりだ。問題は、機会があったらまたしても実体化するかもしれない、と言う事だが。

 

 ああ、見た事のない大型鬼も、居るには居たな。人型で、鎧を着込んだような姿の鬼だった。でもあんまり印象に残ってないんだよな…。だって弱かったし。

 いや、鬼の生態という意味では、見るべき所は多かったけども。

 道具を使う、珍しい鬼だった。武器として道具を使う鬼は幾らか居るが、身を護る防具…鎧と盾を使うのは初めて見た。しかも、鱗などが鎧の形になっている、という意味ではない。明確に、何者かが加工して、外骨格として身に付けた鎧だった。

 鬼にもある程度の社会性、上下関係などがある事は今までにも分かっていた。だがこの鬼の存在はそれ以上に、道具を作って誰かに渡す鬼が居る、という可能性を示唆している。無論、自分一人で作って、自分で身に付けている、という可能性もあるが。

 

 仮にそんな鬼が実在して、この近くに居るのだとしたら…ここらの鬼が、軒並み強化されてしまう恐れもあった。種類にもよるが、道具を使えそうな形状の鬼は珍しくない。

 鬼の目・鷹の目を駆使して痕跡を追いかけたのだが、まだ浄化されていない異界の中から出てきた鬼のようだ。

 随分な距離を移動してきたようだが、一体何が目的だったのか…。

 

 気になりはするが、これ以上の探索しようと思うと時間がかかり過ぎる。俺もそう長く留まっていられる訳じゃない。

 

 

「そう心配するな。後の事は、俺達で調べていくさ。…と言っても、また同じようなのが出てくるかもわからん状況だがな」

 

 

 泥高丸…。いや、心配してる訳じゃないんだよ。あの鬼自体は、まぁ4人揃えば普通のモノノフでも充分勝てるくらいの力しかなかったしさ。

 どっちかと言うと、これからの鬼の在り方が大きく変わっていくかもしれない、って方が気になる。

 

 

「ああ、確かにそいつは心配だ。俺も、そこらの鬼が道具を使い始めたら…と思うと、どうにかして鬼纏の参考にできないか頭を捻らざるをえん」

 

 

 それはいつもだろ。相変わらず鬼纏に拘ってるな。

 鎧の完成度からして、鍛造方法は確立されていない。手探りで作ってるのは間違いない。

 何せ、見掛けは重厚でも、それを支える部分が貧弱過ぎた。正面から何度か衝撃を与えてやれば、それだけで剥がれ落ちてしまうような代物だったのだ。まぁ、数発はモノノフの攻撃を無効化する、と考えると、あまり馬鹿にできる物でもないんだが。

 

 

「うーむ…新種、新種と考えていたが、一度文献を当ってみるかな。存外、過去にも目撃された事のある鬼かもしれん」

 

 

 その場合、当時は鎧は着けてなかったかもしれないな。着けていたら、鬼の生態研究で絶対に追及されているだろう。知能、鬼の社会構造、その他諸々、どれをとっても無視できる話じゃない。

 

 

「確かに。ところで話は変わるが、雪華の所に居なくていいのか? 礼の為に来ているのだしな。お前達の関係について、無粋を言う気はないが…」

 

 

 ああ、雪華は多分、昼寝してるよ。昨日は夜遅くまで語り合ったんでな。(練の姉御と、風華も) 

 夕方までは起きてこないだろ。両さんや寒雷の旦那とも話すべき事は話したし、あとやるべき事と言えば…土産の準備くらいかな。

 

 

「そうか…。なら丁度いい。少しばかり、手合わせに付き合ってもらおう」

 

 

 おいおい、例の鬼の調査はいいのか。

 

 

「鬼纏に関する研究ならともかく、俺は調査とか書類仕事とかは苦手なんだ。こんな時の為に副官が居るのさ。……手合わせのついでに、いつぞやの話の続きも聞かせてもらいたい」

 

 

 いつぞやの話? …ちょくちょく話をしていたけど、どの話やら…。

 

 

「…嫁のご機嫌取りの話だ。あの時聞かせてくれた技のおかげで、麗亜も満足してくれているのだが…やはり同じ技ばかりでは飽きが来るものだろう」

 

 

 ああ、下半身の話…。別にいいけどさ…子供とか考えてる? 何なら、確実に的中させる術も教えるけど。

 

 

「子供を考えてるのかって、それお前にも言える事だからな。子供…子供か。欲しいとは思ってるんだが…うーん、孕んだらご機嫌取りも使えなくなるしな…。しかし、そうか…。もう孕ませてもいいんだよなぁ」

 

 

 むしろ孕ませちゃいけない理由があったのか。

 

 

「そりゃ、ちょっと前までのシノノメの状況じゃな。赤子と言えど、人が増えれば消費も増える。女モノノフであれば、貴重な戦力が減る事にもなる。産まれても、暖かい飯や寝床が無ければ遠からず死ぬ。死んだらそれまで食わせた分が無駄になる。産むか否かだけでなく、いつ産まれるかまで決められてたようなもんだ。ああ、ちなみにその辺を計算して統制していたのは寒雷だぞ」

 

 

 状況が状況だから無理もないが、よく不満が噴出さなかったもんだ…。

 ま、ええわ。折角産んでも大丈夫な状況になったんだし、孕ませてしまえよ。百発百中の術、教えてやるからさ。

 

 

「使うかどうかはともかくとして、有難く教えてもらおう。…が、それは手合わせの後での話だ。ほれ、道場行くぞ。待ってる連中だっているんだからな」

 

 

 待っている? 誰か居たっけか。

 …ああ、兼一君と一緒に訓練してた、あの教官か。

 

 

「それも居るが、練武戦で大暴れしただろうが。あれから鍛え直して、再戦したいって奴らが結構いるんだ。立場的には客人だから、こっちから喧嘩ふかっける訳にもいかなくてな。引き受けてくれて助かったぜ」

 

 

 誰も全員とやるとは言ってねえよ! …まぁ、いいけどさ。

 

 

「それにしても時期が悪いというか何と言うか…あいつがまともに動けるようになっていれば、戦わせてみたかったもんだが」

 

 

 ん? 誰か重症でも負った人がいるのか? それとも、期待の新米モノノフでも出てきたか?

 覚えている限りじゃ、数か月で大化けしそうな新米には心当たりがないし、医者は暇になったってぼやいていたと思うが。

 

 

「ああ、少し前にどっからともなくやってきたモノノフでな。言ってる事はよく分からんかったが、まぁとにかく訳ありらしい。だが手練だぜ、あれは。得物は間違いなく大業物、それを負傷した体で十全に扱える技量、死に至る程の大怪我を数日で…全回復でこそないが、動き回れるくらいに回復させる体…。代わりにタマフリは苦手らしいが」

 

 

 ふ、ん…? 興味あるな。そいつは今どこに?

 

 

「寝床で寝てるだけじゃ、治るものも治らないって言ってそこらの山野を駆け巡ってるぜ。前にも何度か出て行ったが、従来通りなら10日は戻ってこない。あれで勘も体も鈍ってるって言うんだから、恐ろしいもんだ。外にはお前以外にも結構な化け物が居るんだな」

 

 

 なんか酷い言われようだ。

 まぁ、世の中には化け物染みた実力者はゴロゴロ転がってるからな。俺だってその氷山の一角にすぎん。

 

 しかし、そんなに戻ってこないんじゃ、会ってみるのは無理か。ま、次の機会がある事を祈りますかね。

 それじゃあ、道場に行ってお望み通りに暴れるとしますか。危機的状況が去ったからって、気を抜いてる奴は居ないよな? もし居たら、兼一君より弱くなってるって言ってやる。

 

 

「あいつが前に戻って来た時、随分な変わりようを見せ付けたから、説得力はあるだろうな。さて、一番槍は俺だぜ。鬼纏だけだと思うなよ。数か月程度の期間だったが、以前に指摘された欠点も、それ以外も一から叩き直した。一味違うってのを見せてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道場での大暴れは夜まで続いた。本当なら夕方で辞めておくつもりだったのだが、騒ぎを聞きつけた両さんが煽る煽る。しかも寒雷の旦那まで悪乗りしてきた。

 臨時練武戦と銘打たれ、唐突に開始された試合は、当然の如く博打の対象となっていた。

 俺は博打には参加させてもらえなかったから、何をどう賭けていたのかは知らないが…両さんが部長に怒られたような顔になり、ついでに識が高笑いしていた事から、大体の結末は想像できた。

 

 鍛え直したというモノノフ達の評価については、2つに分かれる。

 一つ目は、打ち直し、研ぎ直し…と言ったところか。以前の練武戦の結果や、兼一君の成長に奮起し、基本に立ち返って徹底して鍛え上げた連中。

 以前の、鬼纏を偏重する戦術も改善され、全体的な底上げが見られる。

 

 二つ目は……過渡期、かな…。

 霊山とのやり取りが再開されて、本格的に色々な技術や情報が入ってくるようになった。

 それをきっかけに、シノノメの里では失われていた技や戦術が幾つも伝えられ、独自に磨き上げてきたものと混じり始めているのだ。

 とは言え、技術のミックスなんてそうそう上手くできる筈もない。俺も一時期、3つの世界の戦術を織り交ぜて良いとこ取りできないかと四苦八苦していたもんだ。

 技と技の繋ぎが上手く行かなかったり、おかしな体勢になって自分から隙を作ってしまったりしているが……長い目で見れば、確実な戦力増強に繋がるだろう。

 問題は、そこまで気力と工夫が継続するかだけどな。

 ま、そこは行く末を見守るくらいでいいだろう。無理に技術を混ぜる必要はない。効果が低い、或いは難易度が高すぎると判断されれば、徐々に廃れていくだろう。

 …ただ、ここの連中は泥高丸を見てるからなぁ。たった一代で、兄との夢という執念を以て、鬼の瘴気を有効利用する鬼纏なんて術を編み出した。それに触発され、意地でも形にしてやろうと踏ん張りまくるかもしれん。

 

 

 



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560話

津島を駆け巡っている冥人の皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
時守はちょくちょく菅笠衆に斬り殺されています。
執筆が疎かになってしまいそうですが、何とかちょびちょび書き連ねています。


それはそれとして、far様から挿絵をいただいてしまいました!
あらすじにリンクを貼っているので、是非ともご覧くださいませ。



-----------------------Side 滅鬼隊(第三者視点)--------------------------

 

 

 

 頭領が居なくなってから、滅鬼隊女性陣の夜は、比較的静かだったと言える。食事、風呂に続いて、思い思いの時間を過ごし、早めに就寝する。(夜警担当は除く)

 普段と違う点を挙げるとするなら、それぞれの時間の比率が変わっている事だろうか。

 今までは、趣味の時間を削って風呂に長く入っていたり、眠る時間が……まぁ、とにかく遅くなったり、早く寝ていても途中で叩き起こされたりする事も多かった。苦ではなく、悦んでいたが。理由は言うまでもない。

 

 ともかく、今の彼女達は夜のお楽しみが無い(一部は同性で盛り上がったりもしたが)分、刺激的ではないが平穏で自堕落な生活を満喫していた訳だ。

 …が、趣味と言える程の趣味を持っているのはごく一部。夜中、部屋の中でできる趣味と言うのは意外と少ない。長い暇潰しに出来るようなものであれば猶更だ。

 暇を持て余した結果、誰かの部屋に集まって将棋なんかで時間を潰していたのだが…。

 

 

「っ、っ、っ、……ぷはぁー! さー、夜のお茶会、はぁーじまぁーるよー!」

 

「明日奈、流石に瓶から直接飲むのはどうかと思うわ」

 

「大丈夫、お酒じゃなくてお茶だから!」

 

「せめて般若湯くらいに…」

 

「どっちにしろ、既にへべれけ極まりないです…」

 

 

 …あまりに暇すぎたのか、明日奈が人を巻き込んで騒ぎ出した。

 真昼間から飲み続けていたのか、珍しく一見して分かるくらいに赤くなっている。

 

 

「いやー、やる事は大体やっちゃったし、もう暇で暇で。呑むか食べるくらいしかやる事ないのよ」

 

「極端な過ごし方ですね…。以前にいらした…シノノメの里、でしたか? そちらではどのように過ごされていたのです?」

 

「あっちはそれこそ、酷い雪のお陰で外出さえできない日が多かったからね。趣味じゃなくて、凍死しない為に色々やってたのよ。それで時間を潰してたんだけど…」

 

「暇潰しの種は、それだけじゃありませんでしたよね? 明日奈さん、常々妄想してたじゃないですか。もしもこんな日に彼氏が居たら、って」

 

「…妄想の後、虚しくなるのまでが定番よ。今現在、その彼氏が居なくなっちゃってる訳だけど…いやぁ、こんなにやる事無くなるとは思ってなかったわ。人肌を知っちゃっただけに、一人寝の夜が辛いし」

 

「一人寝…? 昨日は私の部屋に来てなかったっけ?」

 

 

 ジト目で明日奈を見るきらら。ちなみに少し眠たげ。

 

 

「…神夜並の大きさを改めて体感したくて、つい…」

 

「その前は私とお母さんの部屋に来たわよね。しかも、本番真っ最中に乱入して」

 

「…疑似とは言え、母娘の背徳的な情事につられて、つい…」

 

「むしろ、若様が居なくなった初日から女色の常時に耽りまくってたな」

 

「刺激的な夜が無くなって、体が疼いて寝るに寝れなくなっちゃって、つい…」

 

 

 性の欲望に一直線すぎる。無駄に色ボケに似てきた。

 口々に自分の所業を責め立てられて、明日奈は膨れ面になった。

 

 

「別にいいじゃない。嫌だって言ったら、すぐに手を引いたわよ。きららだって、雪風だって不知火だって、紅だって何だかんだと乗り気だったじゃないの」

 

「……あ、あまり私の事は構わないでくれ…」

 

 

 顔色をその名の如く赤く染め、紅は目を反らした。色事に溺れやすいが、普段はそこそこ常識があるのだ。そこそこ程度でしかないが。

 それを見て、雪風は軽く肩をすくめて、ツマミとして出されたするめを咥えた。

 

 

「まぁ、気持ちは分かるけどね…。毎晩とは言わないまでも、数日置きに、体力の限界まで散々満足させられてたのが、いきなりお預けだもの。調子も狂うし、体も鳴くわ」

 

 

 そういう雪風は、呼び出されたりしない日には母親の不知火とネチョっていたりする。そうすると、夜這いに来た誰かさんが興奮するからだ。一人で寝るより心地よいし。

 夜の生活に関しては、ここに居る者…と言うか滅鬼隊の面々は似たり寄ったりだ。呼び出されて弄んでもらうか、もしもお呼びがかかったり、忍んできた時に備えて準備してから眠る。

 そして、今は時間と体を持て余している。

 

 

「…そんな訳で、毎晩毎晩そればっかりってのも何だと思ったから、お茶会を開く事にしたのよ。いやらしい事しか楽しみが無いなんて、不健全だわ」

 

 

 超肉食系かつ被捕食者の明日奈が言うと、微妙に説得力が無い。

 

 

「実も蓋もない事を言っちゃうと、一人で慰めながら寝るんじゃなくて、適度に酔っぱらってぐっすり眠りましょ、って事。無理に飲めとは言わないけど、お酒に慣れておいて損は無いしね」

 

「そうは言われても、どうしたものやら…」

 

 

 雪風は途方に暮れた。一体何をすればいいのやら。

 単にお茶(隠語)を呑んで無駄話すればいい、何なら別に話もしなくていいのだが、こういった経験の無い雪風には今一つ分からない。

 

 

「まぁまぁ、取り敢えず呑みましょ。自然と話題も湧いてくるわよ」

 

「別に猥談になっても、それはそれで構いませんしね。恥ずかしがるような事は………ありますが、まぁお互い様ですし」

 

 

 ほら呑んで呑んでと、明日奈はお茶を注いで雪風達に渡す。

 結構な上物を用意したらしく、香りだけでいい酒だと分かる。呑み慣れてない雪風でも、ゴクリと喉が鳴った。

 

 

「そういえば…きららと紅は、お酒って飲んだ事あるの?」

 

「私はあるぞ。お父様…もとい若様の晩酌に付き合ってな。『娘の手から酌をされるって、父親の浪漫だなぁ』なんて言ってたけど」

 

「よく分からない感覚ね。私は、記憶に無いけど多分呑んだ事ある…かしら。お酒って言われて、すぐ味が思い浮かぶくらいだし。…でも、あんまり好きじゃなかったかな…多分」

 

 

 好きではないと言いながらも、手の中にある盃に注がれるのは好奇の視線。彼女のかつての環境を考えると、酒が不味かったというより、美味しく飲める環境になかったのだろう。

 とは言えすぐに口を付けるのは躊躇われるらしい。

 

 

「そういう雪風は?」

 

「お婆ちゃんが、体がちゃんと出来上がるまで呑んだらいけません、って…」

 

「山本先生ですか…。意外とそういう所は厳しい人ですからね。とは言え、あの方もくノ一です。お酒との付き合い方を覚える、という名目なら許してくれると思いますが」

 

「………うぅ~……」

 

 

 興味あり。だが大好きなお婆ちゃんの言葉も無視できない。

 

 

「その、お婆ちゃん…とは? 雪風も私達と同じ境遇なのだし、そんなのが居たとは聞いた事もないが」

 

「そうですか? 一度は会っていますよ。霊山で目を覚ましたばかりの時に……ああ、あの時は若い姿でしたね」

 

「若作りなお婆ちゃんなの?」

 

「あはは、若作りって程度じゃないわよあの人! 実年齢はさっぱり分からないけどね。『山本科』も、本名じゃなくてあの先生の家が代々受け継ぐ通り名みたいなものだし。いつ代替わりしたのかも分からないのよねー」

 

「そうだったの!? じゃあお婆ちゃんの本名は?」

 

「そこは開き直って、『お婆ちゃん』を名前だと思えばいいんじゃないですかね。笑って許してくれますよ、『おばさん』なんて呼ばなければ」

 

「止めなさい、暗殺されるわ」

 

 

 真顔の明日奈。かなり本気で怖いようだ。

 

 

「そんな人が…。私達もここで戦って、かなりの経験を積んでいると思っていたけど、世の中って広いんだな…」

 

「おまけに、変なところで奥が深い。…としたり顔で語れる程、私達も世間の事は知らないんだけどね。何せ、故郷の里から出たのも、この数か月が初めてなんだから」

 

「そうだったのか…。てっきり私は、若と一緒に何年も過ごしているものと…」

 

「それも勘違いですねぇ。初めて出会って、まだ半年も経っていませんよ。いやはや、思えば不審極まりない出会いでしたねぇ。あの頃の明日奈さんは、よく『彼氏が欲しい』とぼやいていたものです」

 

「へー。もっとこう、幼馴染とか深い仲だと思ってたわ」

 

「幼馴染より深いわよ。まぁ、私の幼馴染は疎遠になっちゃって、この前再会したばっかりだったけど…」

 

「桐人さんですね。幼い頃に明日奈さんに捕食されそうになり、女性恐怖症になってしまった可哀そうなお方です」

 

「ちょっ!?」

 

「明日奈にもそんな時期があったのね。今からじゃ想像もできないわ」

 

「それを言ったら、神夜だって言い寄る男達を何度叩きのめして再起不能にしかけた事か! 笑顔で脳天から、竹刀とは言え斬冠刀を一閃よ。見ていて『あ、死んだ』って思った数は、両足の指を足しても数えきれないわ」

 

「神夜さんは相変わらずだったんですねぇ」

 

「ああ。対戦相手を笑顔でどんどんぶっ飛ばしている姿が目に浮かぶな」

 

「ちょっ!? 明日奈さんと真逆の反応で心外極まりないのですが!?」

 

「だって…なぁ?」

 

「うん…こればっかりはね…」

 

 

 日頃から神夜に何かと懐いている紅ときららだが、流石に援護できる話と出来ない話がある。神夜の体を間近で見たいが為に挑み、精神に傷を負わされたモノノフは、ウタカタの里だけでも結構な数になる。その時の、彼女の光輝かんばかりの笑顔と来たら。

 慌てる神夜に対し、優越感たっぷりに明日奈は語る。

 

 

「私は違うのよ、私は。いやー、欲求が満たされて、気持ちに余裕があるっていいわねー。焦ってがっついてた昔の自分が滑稽に思えてくるわ」

 

 

 酒、もとい茶を飲みながらへらへらと。

 どう見ても煽っている。

 

 

「うぬぬぬ、シノノメの里で『永世第一位・噛み付いてきそうな女』『殿堂入り・男を捕まえる為に犯罪を犯しそうな女』と呼ばれていた明日奈さんの分際で」

 

「え、私そんな風に言われてたの」

 

「犯罪を犯しそうな、って……あれ、古馴染みじゃないなら、若との出会いはどうだったんだ?」

 

 

 何か危険そうな話題になるのを感じたので、咄嗟に方向修正をかける紅。

 紅にとって、明日奈と神夜は頼りになる姉貴分のような存在だった。世間の事をよく知っていて、強く、頭領との仲も一際よく、何よりも右も左も分からなかった自分達を導き、纏め上げてきた女傑達。

 茶で昂揚しているとは言え、それがこのような赤裸々な話をするのは想像した事もなかった。

 

 

 

「どうって……怪しい事極まりなかったですね。話した事はなかったと思いますが、私達の里は陸の孤島状態だったんですよ。オオマガトキの際に、四方を非常に濃い異界で囲まれてしまいまして、行くも来るも不可能だったんです。元々、年中雪が積もっていて、人の行き来も少ない里でした」

 

「ざっと8年間、少人数の里で何とか遣り繰りしてたわ。その間、人が訪れた事は一度も…いえ、一度だけあったっけ。幼い頃だったから、あんまり覚えてないけど。そんな閉塞した場所で、神夜と二人で哨戒してたら唐突に現れたのよ。おかしな口調で、失礼~なんて言いながら」

 

「雪の野原を行くにはあまりも軽装でしたし、そもそも得物から服まで見た事もない装いでしたし、色んな意味で状況にそぐわない人でしたね。正直、鬼が化けているのではないかと疑ったものです。その後、すぐに鬼に遭遇して共闘しましたが、こっそり警戒してたんですよ。ばればれだったみたいですが」

 

 

 実際、怪しい事極まりない男であった。今でもほぼ正体不明である。

 本人の異常なまでの戦闘力、生産力に加え、異界浄化というとんでもない能力。こんなものがホイホイ湧いて出る筈もない。絶対に背後に何かある…と、色々な所が背後関係を洗おうとしている。無駄だけど。

 

 

「で? で? そこからどうやって恋仲になったの?」

 

「きららったら興味津々ね。私は知ってるわよ、前に明日奈本人に聞いたもの」

 

「あ、ちょっ、雪風、待っ」

 

「なんか里の伝統ある浪漫ちっくな日に告白したのよね! そしたら抱きしめられて接吻してくれて、そのまま朝まで一緒に過ごしたのよね!」

 

「…………………明日奈さん?」

 

「……………う、嘘は言ってないし」

 

「そうですね、言ってない事があるだけで。超絶肉食獣な明日奈さんは、思い余って壁を壊すくらいの勢いで迫り、指一本で返り討ちにされた挙句、秘部を掻き回されながら里の中を連れ歩かれて、部屋に着いたと思ったら一晩かけてぐっちょんぐっちょんにされたんですよね。首輪を付けられたら即絶対服従になるくらいに」

 

「…かえりうち? かべをこわす?」

 

「つれあるかれる?

 

「く、首輪…」

 

 

 状況が分からず、?を浮かべる雪風、紅。壁ドンならともかく、蝉ドンは知らない人には想像もつくまい。あときららは首輪に興味を示していた。

 明日奈は明後日の方向を向いていた。

 

 

「え、えーと、よく分からないけど…それじゃ明日奈が先にくっついたのね。じゃあ、その後に神夜はどうしたの?」

 

「…暫く悩んでいたのですが、未練がましくも諦めきれず…」

 

「自作の寝具の使い心地を確かめてほしい、って部屋に誘ったのよね。寝具って自分も含むの? おっぱい枕?」

 

「ちゃんとした寝具ですー。大体、その後すぐに事件があって、そのまま明日奈さんと雪華さんと木綿季さん、それに巫女様方で一週間泊りがけになったじゃないですか。おかげで二人きりの時間が殆どありませんでした。まぁあれがあるから、今のような関係があるのですが」

 

「体感的には、一年くらいに感じたけどね」

 

 

 内輪の話になってきた。

 体感時間操作の事は雪風達も知っているが、雪華さんとか巫女様方って誰だ。

 

 

「意外と色々あったんだなぁ…。しかし、こう言ってはなんだが……若に不満とかは無いのか? 私は正直、目を覚ましてからこの状況が当たり前だったから、あまり違和感も感じないんだが」

 

「不満? そりゃあるに決まってるじゃない。しかも沢山。はっきり言うけど、あの人って人としてかなり駄目な部類だからね」

 

「色事に関しては、性根がかなり腐ってますからねぇ…」

 

「女同士でも楽しめるくらいには慣れてきたし、人が増えれば増えるほどできる事も多くなってお楽しみも奥深くなっていくけど、これ以上増やされちゃ堪ったもんじゃないわよ、全く」

 

 

 しみじみと呟く神夜。性根が腐るというか、単純に色狂いである。

 40人近い女を侍らせ、その殆どが既にお手付き。しかも避妊具の使用無し。…怪しげな術による避妊はしているが。

 毎晩毎晩…いや、気が向いた時にはそこらの女を引っ張り込んでスッキリし、執務中にも机の下に女を仕込んで奉仕させ続ける。

 飯時だろうが風呂だろうが厠だろうが、いつでも何処でも盛りっぱなし。

 体力が保つのか以前に、『飽きないの?』という疑問さえ湧いてくる。

 

 

「私も気持ちいいのは好きですし、裸で寄り添ってお喋りするのも楽しいですが、流石にそればかりでは…。もっとこう、健全な遊びもしたいのですよ。一緒にお出掛けとか、背中を合わせて戦う任務とか。本当に睦言を愉しむ為には、それ以外の時間も重要なのですよ」

 

「独占できないし、いいように遊ばれっ放しだし、そもそも言動もね…。『重い女や病んでいる女をちんぽ一つで善がり狂わせて、都合のいい女に変えるのが愉しい』なんて真顔で言っちゃうのよ」

 

「……あぁ……言いそう…」

 

「言うってか、実際に私達、そうされてるよね…」

 

 

 遠い目をするきらら。

 もしも、今の自分を目を覚まして間もない頃の自分が見たら、全力で殴りかかってくるだろう。正直な話、冷静な目で見れば、殴られようと殴ろうと文句は言えない状況である。

 『都合のいいように扱われるのを良しとして! 矜持ってものは無いのか!』と言われそうだ。もしも自分が他人だったら、絶対に言う。或いは視界にも入れたくないと、徹底して関わりを拒否する。

 

 

「変な恰好させたり、いやらしい事を言わせるのが好きだしね。私達を辱めるのがそんなに好きなのかしら」

 

「好きだからやってるんだろうな…。それを楽しんでいる私達も私達だが」

 

「辱めるのも好きだけど、それ以上に女の子が自分を悦ばせる為に、恥ずかしいのを堪えてあれこれしてくれるのが嬉しい、だそうです」

 

「真面目な話、一回本気で痛い目に合わせた方がいいのでは」

 

「でも、それで自重するようになったら、私達も困る…」

 

 

 雪風の何気ない一言で、全員が一斉に沈黙する。

 あれこれシたりされたりしているが、そのおかげで気が狂いそうな程に熱い夜を過ごしている。あれが無くなるのは…ちょっと耐えられる気がしない。

 

 

「…そもそもの話なんだけど、『普通の行為』ってどんなのなんだろ。里の人達の井戸端会議でちょっとだけ聞いたんだけど、睦言だってそこまで気持ちよくならないらしいわよ」

 

「こっそり買った、睦言の指南書には、若が教えてくれた事以上のことは書いてなかったな…。里のご婦人に勧められた、実用性の高い教本だと聞いていたのだが」

 

「紅、そんなの買ってたの…。房中術なら、神夜の家にも伝わってるわよ。私も少しだけ教えてもらったけど、あれは凄かった…」

 

「その凄いのを一通り身に付けている私でも、弄ばれるばかりなので内容はお察しです。そこらの指南書よりも有用な指南書だったのは確かですが」

 

「と言うか、実際どうやってるのかしらね。体感時間操作もだけど、分身したり霊力で体の中を掻き回したり、感覚を共有させたり…やりたい放題だもの」

 

 

 他にも召喚、体の作り替え、淫紋、その他諸々。既に房中術とは関係のない世界に突入しかけているが、エロにしか使わないので間違いなく房中術なのである。しかも邪法の。

 

 

「ふぅん………ち、ちなみに、特に印象深かった行為って、何かある? 私は…まだ、その、あんまり回数を重ねてないし、あっという間に何が何だか分からなくなっちゃうから、よく分からなくって」

 

「陥没乳首を弄り倒されるのが好きなのは知ってるわよ」

 

「う、うっさい! それを言ったら雪風だって、自分から豚の真似なんかしてたじゃない!」

 

「相手をお父様と呼んで疑似近親相姦を楽しむ人がそこに」

 

「私を巻き込むな!」

 

「幼子の姿になって甘えたり、甘やかしたりするのも楽しい事極まりなく…」

 

「きらら、覚悟しといた方がいいわよ。多分、その内乳首姦されるから」

 

「は? ちく………え? え? か、神夜? 明日奈がが言ってるの、冗談よね?」

 

「……『烙印』を使えば、負担なく交わる事ができるようにですね」

 

 

 いつの間にやら、茶、もとい酒も周り、話す内容も過激で下劣になっていく。

 色んな意味で相互理解も深まっていくので、悪い事ではないのだろう、多分。

 

 翌朝、彼女達は互いにキスマークを多数付け、二日酔いになっていた事を追記しておく。



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561話

黄昏月拾参日目

 

 

 今日でシノノメの里を出立する事になる。

 正直、何が出来たって訳じゃない。強いて言うなら、既にお手付きだった3人に『烙印』を施したくらいだ。これでいつでも何処でも呼び出して犯せる、都合のいいオナホになったも同然だ。

 尤も、当の本人達は『離れた所から召喚できるのだから、近くに居ても出来る筈。と言う事は、自分で自分の体を好きにできるのでは?』なんて事を言い出す始末だ。その発想は無かったわ。

 昨晩は、発案者の練の姉御を中心に乱交しました。女陰に俺のモノを受け入れながら、召喚された自分自身で自分の尻穴を抉るなんて高度な事までやってしまった。回数で言えば、練の姉御は数えるくらいしか抱いてないんだけどな…。やっぱこの人、精神的にどっか壊れてるわ。

 

 寒雷の旦那とかは、折角やってきたのにもう帰ってしまうのか、もう少し雪華達を構ってやれ…みたいな事を言われたんだけど、当の雪華が大丈夫と言い切るものだから、何も言えなくなっていた。

 いや本当に、悪いとは思ってるのよ。いくら召喚して可愛がってやれるようになったとはいえ、やはり生身で触れ合うに越したことはないし、もっと他愛のない話でも何でもして、二人の時間を作ってやりたかった。

 

 …でも、うちの連中も心配でね…。戻った時に何やらかしてるか…。

 その言葉に頷いてくれるのは両さんだった。

 

 

「おう、俺も色々と伝手を辿って調べてみたんだけどな…。俺が言うのも何だが、相当なじゃじゃ馬だぞ、お前の所の連中。扱いが悪かったから、ってのもあるだろうが、色々やらかして、それで扱いが悪くなっていったのもあるらしい」

 

 

 それを調べられるって、どんな伝手持ってんだか。滅鬼隊は仮にも極秘事項だった筈。

 と言うか、この人がじゃじゃ馬扱いするって…。

 

 

「それはそうと、昨日の鬼の事が分かったぞ。出立の前に、聞くだけ聞いて行け」

 

 

 泥高丸?

 昨日の鬼って、あの鎧を持ってた鬼の事か。えらく早いな…。

 たった一日で調べ上げるって、お前の副官、どんだけ優秀なんだよ。

 

 

「ああ、これに関しちゃ調べたというより、お頭が知ってた鬼でな。そこから当たったそうだ。過去の文献も幾つか残ってる」

 

 

 …ふむ、聞いておこうか。ウタカタの里でも、なんつったか……名前の無い鬼、みたいなのが出てきたし、何かの前兆かな…。

 

 

「ナナキキの事か? あいつらだったら、里が異界に囲まれた頃にはよく出たぞ。疑心暗鬼や先が見えない不安に誘われて現れる鬼、と言われているからな。状況が安定してきたら、徐々に消えていった」

 

 

 あの鬼にそんな裏設定が。

 確かに、目撃されたのは俺達が里に移り住んで間もない頃。うちの子達も、右左がようやく分かりかけてきた頃だ。

 時期的には、そういう心境になってもおかしくない。

 

 …いや、それも興味深いが、例の鬼は?

 

 

「『ヨブコキ』と呼ばれる鬼だ。交戦した例は非常に少ないが、全国各地で…ああ、オオマガトキ前はな…目撃例がある」

 

 

 ヨブコキ…キは鬼のキとして、ヨブコって何だ。呼ぶ子?

 それに、戦った例は少ないのに、何度も発見されているって何でまた。

 鬼を発見したら、モノノフだったら即斬りかかるだろうに。

 

 

「名前はお察しの通り、呼ぶ子、だ。呼子鳥という鳥を知っているか? ああ、実在の鳥ではなく、伝承の鳥だ。山彦の声を返す鳥」

 

 

 鳴き声が人を呼ぶように聞こえる鳥、って意味ならウグイスとかホトトギスが当てはまるけど…伝承の方は知らんな。

 そこから名前を取ったと?

 

 

「ああ。山中、或いは異界の中でずっと人を見つめ、その行動を真似る鬼。モノノフ達が行ってきた事を、遅れて返してくるから、山彦のような鬼、呼子鳥ならぬ呼子鬼…ヨブコキ、って訳だ」

 

 

 え、えらい強引な名付け方やな…。まぁ鬼の名付け方も、モンスターやアラガミの名付け方も似たようなもんだけど。

 で、行動を真似る…?

 

 

「おう。と言っても、猿真似もいいところだがな。モノノフの戦い方を真似たって話もあれば、山から農民を見つめた挙句、異界を耕していたなんて話もある。適当に棒を振り回したり、地面を延々と叩いてるだけだったんだけど」

 

 

 …いやそれ道具を使う鬼より洒落にならないんじゃね? 鬼が人間を観察してるって事よ?

 今は徒党を組んで人里を狙うくらいの事しかやってないけど、人間の事を学習・分析でもされた日にゃ、分断されて各個撃破されるぞ。

 

 

「確かにその危険はあるが、人間の事をすぐに理解できるほど、価値観は似通ってないだろう。それに、観察されているというなら、もっとずっと前からだ。今から心配しても仕方ない」

 

 

 それは…まぁ、そうかもしれんが…。

 

 

「それに、この鬼はどうやら他の鬼と折り合いが悪いらしくてな。他の鬼とは同行しないらしい。普通の鬼にしてみれば、餌の動きを観察するくらいなら、さっさと襲い掛かるって事だろうな」

 

 

 なるほど。

 …で、そのヨブコキが真似したのは…。

 

 

「武器、防具の製造と使用…だな。幸い、武器防具の製造する役割の鬼が居る、という訳じゃない。同じ事がいつか起きないとも限らんが、差し当たり倒した一体以外には出ていない。……が、一つ疑問があるな」

 

 

 うん? 

 

 

「あの鬼、どこで武器防具作りなんか見たんだろうな? 異界から出てくる鬼も居るが、武器防具作り…つまり鍛冶ってのは設備が整った場所でしかできんだろ。異界から出る鬼も居るとは言え、里の外から鍛冶仕事を観察できるとは思えんのだよなぁ……」

 

 

 

 

 

 ………異界近辺で鍛冶。ろくな設備もない状況で作品を仕上げる手腕。ついでに遠方からの放浪癖。

 

 おう、誰を観察したのか予想がついたわ。

 今度会ったら張り倒しておく。

 

 

 清麿…やっぱあいつは柱に括り付けておくべきだ…!

 

 

 

 

 

 

 

 今は面識のない、何時か出会った放浪の鍛冶屋を襲撃しようと心に決めて。…いや、別に清麿が悪いって訳じゃないんだけどな。鍛冶仕事を鬼に見て盗まれるなんて、誰も考えやしないだろうし。

 幾つかの土産を持たされ、大勢に見送られながら里を出た。…わざわざ集まってくれるあたり、本当に有難いなぁ。何があったって訳じゃないが、感謝されてるようで結構気分がいい。

 

 欲を言うなら、里に流れ着いたという異国のモノノフに会ってみたかったもんだが。どういう訳だか、会える気がしない。何と言うか、何処に行ってもどれだけ追いかけても擦れ違いになりそうで。

 

 

 一応、帰り道も周囲を索敵しながら進む。のっぺらが残ってる可能性もあるからな。野宿はしない。奴らが出現する機会を与えないよう、全力で駆け抜ける。

 徹夜で走り抜ける事になるので、今日は日記をつけるのも、雪華達を召喚して楽しむのも出来そうにない。

 

 

 …いや、いっそ繋がったまま鬼疾風で走ってみようかな? 疾走感セックス…人目もないけど青姦にもなるな。誰かが居れば、のっぺら共も沸いて出ないだろうし。

 うし、一丁やってみるか。

 

 

 

 

 

 追記

 

 

 流石に人間一人を抱えて真っ直ぐ走るのは、重さよりも持ち方的に考えて厳しかった。なのでお試しの結果、召喚できる中で最も体躯の小さい風華をちんぽケース代わりにして走る事になった。

 人間離れしたスピードと、不規則な震動や開放感が相まって、中々好評でした。

 

 

 

 

 

 

-----------------------Side 滅鬼隊(まり)--------------------------

 

 

 えっと…こんにちは。まり です。使えるタマフリは、筋力の増強と、土の操作。戦うのは得意ではないんですけど、書類仕事が丁寧と言う事で、若様には目をかけてもらってます。

 趣味は読書なんですけど、最近では建築に興味が出てきました。若様みたいにぽんぽん作れると思ってる訳じゃありませんが、私のタマフリを凄く活用できるんです。

 自分では『地味かな…』って思ってた弾振りですけど、若様にその使い方を教えられて、見る目が完全に変わりました。建築補助とは、即ち地形の変更。ただそれだけでも、出来る事は山のようにあります。塹壕を作って敵の侵入を阻むも、そこに水を引き込んで水路を作るも、自由自在。平野を砦に変える事だって出来ます。

 実際、一度異界の中で大型鬼の群れと遭遇した時、簡易の砦を作り出して応戦した事がありました。自画自賛になりますが、あの時は物凄く貢献できたと思います。最終的には、作り上げた砦を一気に崩落させて生き埋めにしましたね。

 

 それはともかく、最近の私は主に、夜中の哨戒を任されています。

 緩みかけている空気の中、誰も見てない状況でも腐らず真面目に仕事をしてくれそうだ、という理由です。…実際、最近は鬼の襲撃もありませんし、自分でも油断しているかな…と自覚する事が何度かあったので、複雑な気分ですけども。

 むしろ、最近では里との関係の方が問題になりつつあるそうです。何でも、強いものではありませんが、多くの要望を寄せられているとか。

 …里の方々が、道理を無視した要求を行うとは考えにくいですが、すぐに許可も拒絶もしないという事は、何かしら判断に迷う理由があるのでしょうか…。

 

 

 やっぱり、私達には若様が居ないと駄目なんでしょうか。こういった判断は、今までずっと若様が下してきていました。私達は、それについて行けばよかった。

 あからさまではありませんが、普段と違う様子の人もちょくちょく見受けられるようになってきました。

 部屋に籠りっきりになったり、ふとした拍子に涙が零れたり、激昂しそうになったり、逆に何事にもやる気が無くなって空を見上げてぼーっとしていたり…。

 これが、話に聞いていた、私達にかけられた暗示…。私も一度、霊山から里に来る間に狂乱しそうになりましたが、聞いていた以上に酷いものです。こんな扱いをされて、以前の私達はどうしていたのでしょうか……いえ、どうしようもなかったから、封じられて、今の私達が居るのですね。

 …これ、放っておくと若様の足を引っ張る原因になりますよね…。寵愛をいただける理由が増えるのはいいんですけど、これは何とかしておかないと…。

 

 

 

 …話は変わりますが、今日の夜警は里の周囲の巡回です。本当は物見櫓で、遠くから鬼が接近しないかの警戒だったんですけど…凛子さんにお願いして、代わってもらいました。その為、本来の担当だった凛花さんと一緒に夜回りをしています。

 油断こそしていない…つもりですが、実際に特に何かがあった訳でもなく、決められた哨戒の路を進み、時々擦れ違う他の夜警担当者と会釈をする程度です。

 

 そんな中、ふと凛花さんが切り出しました。

 

 

「…ねぇ、まり。そろそろ教えてくれないかしら」

 

「は? 何を、でしょう?」

 

「どうして今日に限って、場所を代わり違ったの? 真面目なあなたの事だから、気分で…と言う訳じゃないでしょう」

 

「それは…その、少し気になる事があったからで…」

 

「懸念事項があるのなら大小問わず共有する、と言うのが若様の教えの基本よ。忘れた訳じゃないでしょう」

 

「そうなんですけど、言う機会を逃したと言いますか……昨日の夜警の後、目を覚ましたらもう夕方だったんで」

 

「報告書には? 出発前に確認した記録では、それらしい情報は書かれてなかったけど」

 

「書きました。ですけど、情報量が少なすぎたので…不要、或いはそれだけの情報では邪魔になると判断されて添削されたのかもしれません」

 

 

 必要な情報は伝えるべきですが、それ以外の情報を渡せば混乱させるだけ。この見極めは難しいですね。その一時は正しかったとしても、後々から見れば間違いとなる事もある。

 私自身、見間違いかとも思うような事だったので、強くも言えません。

 

 

「それで? どんな事が気になってるのかしら。少なくとも、それで担当交代を申し出るくらいには、何かあるんじゃないかと疑っているんでしょう」

 

「あそこの担当がきついのも確かですけどね…」

 

 

 暇潰しもなく、景色に代わり映えもしない物見櫓の上で、一人で一晩明かすのはかなり辛い。時期が時期だから暑苦しいし、何よりも暇すぎて眠くなる。担当時間の変更を提案したいです。一人二人で丸一晩じゃなくて、5人くらいで交代しましょうよ。

 それはともかく、私が気にしているのは、何というか……景色が歪んだような気がしたんです。

 

 あれは、昨日の夜警中の事。私一人で物見櫓に立ち、眠気を堪えながら四方を順に確認していました。

 一方は里、その反対には異界に至る道。左右には山が立ち並んでいます。勿論、山の中には灯りなんてものはありません。危険すぎる獣などは間引いているとは言え、基本的に動物の領域です。

 ですので、夜中、しかも新月に近い夜なんかは目を凝らしてもただただ闇しか見えません。

 そっちを見ても、あまり意味が無いと言われればそれまでなのですが…。

 

 

「そこで何かが見えた、と言う事?」

 

「…見えた…と言うよりは…眩暈とか覚えた時に、景色が歪む事ってありません? あんな感じに、こう、山の輪郭がぶれたような気がしたんです。そのまま何が起きるでもなく、すぐに元に戻ったのですけど…」

 

「山の輪郭が…と言う事は、何かあったとしたら、結構な空間に対して何らかの干渉があった、と言う事よね。…念のために聞いておくけど、本当に疲れや眠気による立ち眩みの可能性は?」

 

「…ない、とも言えません。私、他の皆に比べて暗示の効力が出やすいみたいですから…。若様が居なくなって、気付かない内に心労が溜まっているという事も考えられます」

 

「自分で言うのもどうかと思う理屈だけど、冷静に自分を顧みれるのはいい事ね」

 

「本当なら、担当を代わってもらうだけでなく、大事を取って検査するなり、休むなりするべきだったんですけど…代わりの人を探す時間もなくて」

 

「……従来の役割分担以外にも、待機組を作るべきかしら。もしも誰かが動けなくなった時に、すぐに代わりに入れるように」

 

 

 それは…皆嫌がりそうですね。必要な役割だとは思いますが、特に作業も割り当てられず、ただただ部屋の中で時間を潰すだけになりそうです。

 それに、その人たちを当てにして、気分で役割を押し付ける…なんて事も発生しそうですし。

 

 

「ま、それは後で考えましょう。まりちゃんは、今日の夜警が終わったら、すぐに休むこと。報告や相談は、私がやっておくわ。明日も夜警?」

 

「いえ、一日完全にお休みです。美味しい物でも食べて、一日ゆっくりしますよ」

 

「………心労がかさんだ時の為に、若様の体液が染み込んだ布団とか確保してたんだけど………要る?」

 

 

 …………………相手をしてもらった時の、自前のがあるから大丈夫です…。

 

 

 

 



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562話

アサシンクリー…もとい、ゴーストオブツシマ、大体終了。
風に誘われて蒐集物を集めたら、ストーリー終わらせてトロコンに向けて作業かな。
思ってたのと少し違いましたが、充分楽しめました。
エピソードの回想機能とか無さそうなのが残念。

さて、次は仁王2DLCだ…。
落ち着いて執筆できるのはいつになるやら。


 ちょっと恥ずかしい(そして隊の女性ならほぼ共通している)事を言い合ったのは置いておきまして。

 山の中に何か見えないか気を配りながらも、私達は哨戒を続けました。ですが、何か変わった事がある訳でもなく…あったらあったで困るのですが…。

 哨戒する路の、7割ほどを進んだ時です。凛花さんが足を止めました。

 

 

「待って。誰か来る。……3人」

 

「…? 今夜の警備担当だと、先程擦れ違った人達で最後の筈…」

 

 

 気配を探ろうとしますが、私には今一つ分かりません。やっぱり凛花さんは凄いです。若手の中でも主力級と言われているだけはあります。…若手もなにも、殆どの人が同年代みたいなもので、目を覚まして半年も経ってないのですけど。

 敵…野盗の類でしょうか? この近辺にそのような命知らずが出たという話は聞いていません。何せここは、鬼との戦いの最前線です。どう考えても、旨味と命の危険が釣り合いません。

 

 

「武器を持ってるけど、殺気は感じない…。…と言うより、何だか覚えのある気配ね。あちらも私達に気付いたようだし、接触してみましょう。油断はせずにね」

 

「はい!」

 

 

 戦いになってもいいように、手甲を着けて進みます。自画自賛になるようですが、私の突きは怪力のタマフリとも相まって、一撃の威力なら富獄さんにも褒められる程です。

 相手が誰だとしても、うまく当てて行けば足手纏いにはならない筈。……自信ないけど…。

 

 

 という緊迫した思いとは裏腹に、謎の3人組は極めて気軽に近付いてきました。

 

 

「おーい、お仕事お疲れ様ー」

 

「…鹿之助君? それに骸佐君と権佐さんも」

 

「俺だけさん付けなのは、ちょいと堪えるものがありますな」

 

 

 …ここで謝ると、猶更権佐さんを傷つけるような気がします。

 それはそれとして、一体こんな時間に何を? 今日は警備担当などでは無かった筈…。

 

 

「ああ、俺達はちょっとした調査に駆り出されててな。最後の一件がこの辺りで、これくらいの時間に発生したらしいから調べに来たんだ」

 

「そう言えば、時子さん達から何かを任されてたらしいわね。どうなの、進捗の方は?」

 

「それが、さっぱりだ! 調べた話の殆どはくだらない落ちだった。本命の目的は調査そのものじゃなく、そのやり方を里の人間から学べ…って事だったんだが、こんな話から何を学べばいいのやら」

 

「俺は楽でよかったけどなー。本当に幽霊とか出てきたら堪らないよ」

 

「俺は逆に見てみたいな。鬼とどう違うのか、槍が通じるのか、興味がある。ああ、門限後に外出する為の手続きはとってるぜ」

 

 

 鬱憤を吐き出すように、骸佐君は大仰な動作で空を仰ぎました。寡黙で真面目な彼が、ここまで言うとは…一体何があったんでしょうか?

 逆にほっとしている鹿之助君と、面白がっているような権佐さん。……権佐さん、その余裕っぽく見える態度も、年上扱いされる要因だと思いますよ。声には出しませんが。

 

 

「…その調査に関して、聞いてもいいですか? 私も少し気になる事があって、ここに来る為に夜警当番を代わってもらったんです」

 

「いいよな、骸佐? …うん。実は、樒さんから聞いたんだけど…」

 

 

 ………なるほど。…なるほど? なんていうか…。

 それを調査しろって、普通に無茶振りじゃありません? 何ですか、『何も見えないけど何か居るような気がするから、それについて調べなさい』って言われてるようなものじゃないですか。

 

 

「そりゃそうだし、今までの話も阿保くさい結果ばかりだったが、指令は指令だ。それに、その『何か』を感じたのは祭祀堂の樒さんだ。あの人、巫女としての力は神垣の巫女に迫る程らしいぞ。そんな人が感じ取って、人に話すような事なんだから、何かあっても不思議はない」

 

 

 骸佐君は、どっちかと言うと『そうあってほしい』と思っているような口ぶりでした。意気込んで臨んだ調査が全て空騒ぎだった、では収まりが悪いのでしょうか?

 でも、その話…。

 

 

「実はこっちも……」

 

「……ほう?」

 

 

 ちょっと笑う骸佐君と権佐さん。鹿之助君は嫌そうな顔をしていました。

 

 

「森の中か…。確かに、道中で蠢く…と言われていたから、そっちには注意を向けていなかったな」

 

「ですが、まり嬢ちゃんが歪みを目撃したのは昨日、樒さんが感知したのは数日以上前。辻褄が合いませんな」

 

「蠢く何かが、歪みの前兆だったとすれば…どうだ?」

 

「ふむ。例えば…その小さな歪みがあちこちで散発的に起きていて、それが樒さんの感知に引っ掛かっていた…という推論かしら?」

 

「ああ。目の前に転がってる情報を、強引に繋げただけだが…存外、いい線行ってるんじゃないか? 大規模な何かが生じるなら、それだけ予兆があってもおかしくないだろう」

 

 

 ううん…頭ごなしに否定も出来ず、積極的に肯定も出来ず…。

 仮にそうだったとして、結局あの歪みは何なんでしょうか。本格的に、錯覚ではない気がしてきました。

 

 

「実際の所、鹿之助君には何か感知できないんですか?」

 

「いや…正直何にも。普通の森だね。…こうして見ると、気味が悪いけどさ。ただ、俺の探知もミタマにまでは効果が無いから…。もしも実体のない幽霊とかだったら、感知できないかも」

 

 

 ありそうな話ですけど、それを言い始めると切りがありません。

 退屈そうにしていた権佐さんが、軽く背伸びをしました。

 

 

「やれやれ、これじゃ夜警でも探索でもなく、単なる夜道の散歩だな。埒が開かんし、ここは一つ山の探索に行ってみようか。それで何事もなければ、今日は解散って事で」

 

「ええ~!? いやもうこのまま解散でいいじゃん! 結局、何も無かったんだって! 樒さんの勘違いか、蠢く何かはどっかに行っちゃったんだって!」

 

「だったら猶更、怯える事はないだろ。単なる位山に入って行くだけだって」

 

「その山が怖いんだよ! 見ろよこのまっっっっっくらな闇! 絶対何か出るぜ!?」

 

「出るなら出るで、調べなきゃいけないんじゃない?」

 

「それ以前に迷うよ~! 右も左も分からない真っ暗な森の中で夜通し過ごすなんて、何も来なかったとしても確実に遭難するってば~!」

 

「それなら猶更、お前を連れて行かなきゃならんだろうが。探知を使えば、夜道も昼間の平原も大して変わらないだろうに」

 

 

 余程嫌なんでしょう。じたばたと駄々を捏ねるように抵抗する鹿之助君は、まるでお風呂に入れられるのを抵抗する子犬のようです。

 こういう姿が、一部の里の人達に異様な(そして密かな)人気を博しているそうなのですが…。

 

 

「落ち着いてください、鹿之助君。私達も一緒に行きますから。ね、凛花さん」

 

「そうね。本来の道筋からは離れるけど、哨戒の一部と言う事にしておきましょう。大丈夫よ。確かに遭難はこわいから、そう奥までは進まないわ」

 

「ほれ、お嬢さん方がこう言ってくれてるんだ。覚悟を決めな。お嬢さん方の前で喚き散らす趣味がある訳でもないだろ」

 

「うぅぅぅ…」

 

 

 喚き散らしてほしい趣味の方なら何人か…いえ、黙っておきましょう。

 私としても、渡りに船の出来事です。気になりながらも、山の中に踏み込んで行けなかったのは、その暗さと遭難の危険性の為。鹿之助君が居てくれれば、逸れてしまったり、迷ってしまったりする確率は非常に低くなります。

 

 鹿之助君には悪いですけど、覚悟を決めてもらいましょう。

 

 

「…うーん、この子がこのままだと、流石にちょっと不安ね。ちょっと発破をかけましょうか」

 

「うん? いい方法でもあるのか?」

 

「任せなさい。ねえ、鹿之助君。あなた達が調べていた怪談の話、女の子達から注目を集めてるのって知ってた?」

 

「…え? し、知らないけど…」

 

「不安がっているのが半分、面白がっているのが半分、といった所だけど…これを解決したら、注目されるわよ」

 

「…………」

 

「光も見えない夜の山に踏み込んでいく、勇敢なモノノフ。その中心は、当然感知役のあなたよね。株があがるでしょうね」

 

 

 …鹿之助君、迷ってますね。怖い、でも男らしい行動で注目を集めたい。

 それはいいんですけど…これ、若様の定めた規範に反してないですよね? 慢心駄目、絶対。おやくそく(隊長の指示)は守りましょう。…隊長…はこの場合、鹿之助君になりますね。帰ろうという指示は…これは指示ではなく提案なので、まぁよしとしましょう。

 手柄を焦って突っ走っている……にも、当てはまらないと思います。これは調査の範疇ですし。

 

 

「……よし、行くっ!」

 

「よく言った、鹿之助!」

 

「それでこそ男の子。足が震えてるのは武者震いね。さて、鬼が出るか蛇が出るか…」

 

「鬼は出ないんじゃないでしょうか。ここは結界の内側ですし」

 

「じゃあ蛇が出たら?」

 

「晩酌のつまみかな…」

 

 

 軽口で、主に鹿之助君の…少し私も…の恐怖心を紛らわせながら、私達は山の中に踏み込みました。

 

 

 

 そして、若干後悔しています。鹿之助君が居ない状態で、森の中に入り込んだりしないで正解でした。

 ここに居る皆、多少なりとも恐怖を感じているでしょう。

 

 夜の森に入った事がない訳じゃありません。任務や訓練で入り込み、そこで一晩過ごした事だってあります。若様にこっそり連れ出されて、乙女として口では言えないような事に耽ったりも…。

 でも、これ程に暗くはなかったし、何も見えない有様でもありませんでした。考えてみれば、あの時は月明りの強い夜でしたし…。

 

 私達が慣れたと思っていた森や山は、危険が無いように整備された場所だったんでしょうか…。

 それとも、私達には感知できない『何か』があるから、こんなに暗くて不気味なんでしょうか

 

 

「な、なぁ、骸佐…。調査に入るのはいいんだけどさ、何処まで行くって決めてなかったよな?」

 

「ああ…少し見回るだけのつもりだったが、この暗さは予想外だ。お前を連れてきておいてよかったぜ」

 

「褒めたって誤魔化されないからな! …でも、実際どうする? 暗いし足場は悪いし、何より俺の探知にもなーんにも引っ掛からない。続けても無駄だと思うんだけど…」

 

「確かに、さっきからちょいと強引だな、骸佐。いつもならもう少し具体的な目標を立ててから行動するのに」

 

「…どうにも、このところ肚が落ち着かなくってな。ふとした拍子に、妙な焦燥を感じるんだ。目の届かない、だがすぐ手の届くところで、何かとんでもない事が進行しているような…」

 

「ふむ…」

 

 

 …どう、なんでしょう。そういう焦りも、暗示の効力の一部なんでしょうか? 全く違う、とは言い切れないのが恐ろしい所です。

 或いは、いわゆる思春期の少年少女も、時にそんな感覚に襲われる事がある、と聞きますが…。

 

 

「だけどさぁ、それだって言っちゃなんだけど、根拠のない感覚でしかない………んぅ?」

 

「どうしたの、鹿之助君?」

 

「…いや、さっきあっちの方で、何か変な感じが…」

 

 

 私達の目が、一斉に彼が指さす方向に向かいます。

 山の奥の方…ですが、どっちにしろ何も見通せません。

 

 

「…鹿之助、遠いのか?」

 

「いや、すぐそこ。この状況でも、足音に気を付けて走って、1分かからない距離」

 

 

 …近いですね。でも、誰も鹿之助君が言う『何か』を感じられません。

 

 

「…分かった。そいつを見に行って、何も発見できなければ今日は撤収しよう。元々、俺の根拠のない勘でしかない。これ以上突き合わせるのも悪いからな」

 

「私達も、夜警の続きがあるから、そういてくれると助かるわ。まりちゃん、結局何も見つかりそうにないわね」

 

「私も、半ば勘みたいなものですし…。それに、何事も無ければそれが一番です」

 

 

 私の言葉を最後に、全員が黙り、足音を消して歩き始めました。

 …ですが、後から思えば、この時点でみんな油断していました。感覚を研ぎ澄ましても何も感じられませんし、鹿之助君のせいにする訳ではありませんが、『そう大した事でもなさそう』みたいな印象でしたから。

 せめて、武器に手をかけておくべきでした。奇襲はいつ何処でかけられるか分からないから奇襲。いつ何処に敵が沸いてもおかしくない。そう若様に散々叩き込まれていたのに…。

 

 どうせ何も無い。そう願っていたのか、たかを括っていたのか…。私達は、あまりにも予想外な光景を目にして、固まってしまいました。

 

 

 

 真っ暗な森の中、僅かな月光に照らされる、醜悪な姿を。

 小柄ですが、生理的な嫌悪感を掻き立てられる姿。

 小さいけども鋭い牙と爪、全体的に細いのにそこだけ膨らんだ腹、申し訳程度に垂れ下がった腰蓑(?)。

 

 

「ゲゲッ」

 

『餓鬼ッ…!?』

 

 

 何で。ここは結界の中なのに。入ってこれる筈がない。もしも入ってこれたとしても、餓鬼程度なら結界の効力に圧し潰されて消滅する筈。

 揃いも揃って、驚愕の声を出してしまったのも最悪でした。

 

 私達に見られている事に気付いた餓鬼は、すぐに踵を返して逃げ出そうとします。

 

 

「逃がさん!」

 

 

 真っ先に飛び出したのは権佐さん。餓鬼など一突きとばかりに、躊躇いなく槍を突き出します。

 私は驚いて、戦うどころか目で追うだけでもやっとでしたけど、その鋭い突きは間違いなく餓鬼を間合いに捕らえていて、次の瞬間には餓鬼の喉元を食い破る筈でした。

 

 

「「止まれ権佐!!」」

 

 

 ですが、そうはならなかった。突き出された槍は、鬼を一突きにするどころか、逆に食べられてしまったかのように穂先が消滅していたんです。

 それを感知したのは、誰が先だったんでしょう。少なくとも、突撃しようとしていた権佐さんを引き留めたのは、鹿之助君と骸佐君の腕でした。…鹿之助君は、止めきれずに手がほどけてしまっていましたけども。

 

 権佐さんは、何故止める…とも聞かず、突き出していた槍を掲げてみています。

 

 

「…助かったぜ、二人とも。よく分かったな」

 

「俺は…なんかあの餓鬼から、物凄く嫌な感じがしたんで、咄嗟に…」

 

「…俺は、普段黙ってるミタマが突然『止めろ!』って叫んだんで」

 

「そうかい。…何にせよやばかったぜ。ありがとな」

 

「仲間だろ。助けられただけで礼なんか言うなよ。それにしても…みんな、見たか? 今の餓鬼…」

 

 

 ええ、見ました。あの鬼…。

 

 

「転移を使って逃げて行った…わね。ここに居ただけでも異常だって言うのに。結界の内側で、転移なんかできるものなの?」

 

 

 そう。権佐さんの槍に貫かれる筈だった餓鬼は、あろう事か、突然現れた黒い穴に入って逃げて行ったんです。

 あの穴には、この場に居る皆が見覚えがあります。規模こそ違いますが、あれは先日の大戦、オオマガトキで開かれた穴と同じように思えます。

 権佐さんの槍は、その穴に突き込まれた事で、こんな風になってしまったんです。もしも体ごと、あの中に入り込んでいたらと思うと…。

 

 元々、鬼が異空間…あの黒い穴から現れるのは、そう珍しい事ではありません。

 ですが、それは大型の鬼であれば、です。小型の鬼、しかも鬼の中でも特に力の無い餓鬼が、空間転移なんて大技を…?

 結界に守られた場所に、鬼は出入りできません。増して、空間を渡って入り込んでくる、或いは出ていくなんて…。もしそんな事が出来ているのであれあば、人はとっくに生息領域を削られ、滅んでいる筈。

 

 では、あの餓鬼は一体…? 昨日のあの歪みは、この前兆だったのでしょうか?

 

 

「……予想してたものとは違ったが…最後の最後で、とんでもない物が出てきたみたいだな」

 

 

 強張った口調の骸佐君。また、大きな戦いが始まるのでしょうか。

 不安を堪え切れず、つい口に出そうとした瞬間に。

 

 

 

      ターン………

 

 

「! 銃声!」

 

「しまった! 転移で逃れたからって、結界の外とは限らないわ! 誰かが襲われているのかも」

 

 

 ! 確かに、結界の中から外へ逃れるよりも、中から少し離れた中に移動する方が、難易度は低そうです。

 そして銃声と言う事は、襲われているのは人間…早く助けに行かないと!」

 

 

「鹿之助!」

 

「こっちだ!」

 

 

 仲間が襲われているかもしれないと知り、恐怖がぶっ飛んだんでしょうか。それとも、見た目単なる餓鬼だから、そんなに怖がる必要が無いと思っているのか。

 何にせよ、鹿之助君は言われる前に駆け出しました。私達も、それに続きます。 

 

 …走りながら、ふと疑問を感じました。この方向は、夜回りの道の方向です。暗い森から脱出する方向なので、それは渡りに舟なのですが…もうこの辺りを歩く警備担当は居ない筈。

 一体、誰が襲われているんでしょう?



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563話

8/4 ご指摘をいただき、会話文の一部を修正しました。
相馬とは初対面、と書いていましたが、429,430で対面済みでした。
申し訳ございませんでした。

ネタが無くなって無理矢理捻り出そうとすると、こんな事になるんだなぁ…。


 

黄昏月拾肆日目

 

 

 風華を抱えて一晩走る。流石にその状態で、一晩で霊山に辿り着くのは無理だった。明け方くらいになったらちんぽケースにしていた風華を送還し、そこからは真面目に走った。

 おかげで、昼頃には霊山に到着できた。また素っ裸の飛脚に会わないかと憂鬱だったが、杞憂だったようだ。

 

 さて、霊山に到着したはいいが、どうするかな。また直葉の元に世話になるのが一番手っ取り早いし、あの子も喜んでくれるだろうし、ついでに夜は悦ばせるが、前と同じと言うのも芸が無い。

 戻る時にもう一度顔を見せる約束だったから、どの道会いに行くのは変わらないが…。

 霊山の他の知り合いと言えば…九葉のおっさん、雷蔵、美柚と美麻、文美さん、後は誰か居たっけなぁ…。友好的でない相手に会いに行っても仕方ない。兼一君や桐人君の意中の相手を見に行くのも面白そうだが、あまり引っ掻き回すのも躊躇われる。引っ掻き回すどころか、もしも欲望に負けてついつい手を出してしまった日には………考えたくもない。桐人君なんか、女性恐怖症が女性不信、下手をすると人間不信に変わってしまいかえない。

 

 とりあえず飯でも食うか。今から直葉達の家に行こうにも、この時間じゃ道場で仕事中だろう。飯食わしてもらってばかり、と言うのも躊躇われる。

 もしも直葉達がウタカタに来たら、その時に成大に歓迎してやるのは確定として…何か土産でも持って行ってやりたい。ちょっとお高めの饅頭とかでもいいかな。

 

 それはそれとして、飯、飯。空腹による直感と、漂ってくるいい匂いを追いかけてフラフラと足を進める。

 程なくして、昼飯のメニューは決まった。美味そうな匂いに見合うだけの値段のようだが、余裕余裕。いやぁ、金持ってるっていいね。

 普段は全然使わないからなぁ…。飯も寝床も隊の運営資金で、健全な範囲で調達してる。生活費がほぼ必要ないレベルだ。個人的な武器は、正直現状では作る必要が無い。と言うより、今以上に強力な武器を作る為の素材が存在しない。

 そもそも、隊の運営費や積立を差し引いたとしても、収入がかなりの額だから、俺にも相応のハクが入ってくる。多少使ったとしても、溜っていくばかりなんだよなぁ。

 

 

 入った店は、思ったよりグレードの高い店のようだった。一見さんお断りでなくて助かった。

 注文の後、景色のいい個室に通されて、そこで待つ。

 暇潰し用なのか、瓦版が置いてあった。文美さんの会社作成じゃないな。内容からして、霊山の息がかかった会社なのかは…流石にこれだけじゃ分からんな。

 …4コマ漫画が無いのが残念だよなー。文美さんに提案したら根付かないかなぁ。

 

 読み進めていくと、幾つか覚えのある名前や内容があった。

 『次号は北の地を見捨てた鬼を独占取材』とか書いてあるけど、命知らずだなぁ。と言うか受けたのか、九葉のおっさん。

 『暗殺者を抱えていた高官が極刑』……これ、詩乃を囲い込んでいた新川某じゃね?

 『明かされた滅鬼隊の真実、彼らは今何処に』……彼女達じゃなくて彼等、となってるから、あまり深い情報は知れてなさそうだ。

 『最前線・ウタカタの里で激戦続く。霊山から送られた援軍により辛うじて勝利』……この援軍ってうちの子達の事か? 確かに霊山から来たのは確かだが…いや、九葉のおっさんの情報操作っぽいな。こうしておけば、俺達は公的に認められた部隊という後ろ盾を作る事が出来る。

 

 細かい所まで読んでる訳じゃないが、意外と情報が載って…………うん? 『英雄の帰還』…?

 

 

 

 ……ほほう。

 よし、飯の後の予定は決まったな。そう言えば、このところ全然あの人に会っていなかったからな。

 今回ループではシノノメの里から霊山に来るまでに少しばかり同行した程度の関係だが、まぁ大丈夫だろう。何だったら、九葉のおっさんの名前を出してもいい。

 …いや、それ以前に『英雄に会いに来た』とでも言えば、あっさりと会ってくれそうな気はする。

 

 …忙しい筈なんだけどね、あの人……相馬さんも。

 

 

 

 さて、飯だ飯! あ、すんません、土産にしたいんですけど持ち帰りって出来ます?

 …持ち帰りはできなかったけど、いい土産屋を紹介してもらった。あと、ご飯美味しかったです。高級料亭な味だったぜ…。

 

 

 

 

 

 

 瓦版によると、相馬さんは百鬼隊としての任務を終え、霊山に戻ってきているそうだ。

 流石に居場所の情報までは載ってなかったが、初期の頃のループではあの人に散々世話になった。霊山での職場の位置も知っているし、行きつけの店も大体分かる。

 まぁ、職場にいるならまだしも、休日として出歩いているとするなら、会えるかどうかは運次第だけどな。行きつけの店しか使わないって訳じゃないし、私用で外出する事だってあろうだろう。

 

 とにもかくにも、行ってみますかね。

 あの人の職場は、霊山の中心…から、ちょっと外れた所にある。お偉いさんなら、中心となっている山に職場を構えるんだけどな。基本的に、職場が山の中心に近付けば近づくほど、地位が上がるように並んでいる。

 …実を言うと、その為にお偉いさんは要らん苦労をしているとかなんとか。何せ、お偉いさんであっても住居は山の外側だ。そこから職場に辿り着くまで、一山超えなければならないのだ。…何でこんな構造にしているのやら。

 

 相馬さんは、「年中、霊山以外の場所を走り回っている俺の為に、わざわざ執務室など作る必要はない。そこらのあばら家で充分だ」などと嘯いて、わざと山から離れた場所に自室と執務室を構えている。

 …これは建前であって、「毎日毎日、意味もなく無駄に長い道を進むのは面倒だ」ってのが本音だ。実際、周囲には店もあり、山の中の部屋で仕事をするよりよっぽど快適だったりする。

 重要な書類や貴重な武具も置いているから、流石にあばら家とまではいかないし、住み込みで警備や家の手入れを行う人も居るんだけども。

 

 

 さて、そんな相馬さんの家にやってきたんだけど……ふむ、こりゃ留守だな。お手伝いさんなのか、百鬼隊の人なのかまでは分からないが、知らない人の気配があるだけ。

 お出かけ中と見た。

 時間からして、飯…にはちょっと遅いな。あれこれ考えるより、聞いてみた方がいいか。

 すみませーん。

 

 

 

 

 

 

「おう、よく来たな。壮健そうで何よりだ」

 

 

 ドーモ、ソウマ=サン、オヒサシブリデス。ハンター…じゃなかったゴッドイーター…でもあるけどモノノフ…で、滅鬼隊頭領デス。

 

 …あっさり会えました。留守だと思ってたら、丁度戻って来たところに鉢合わせした。えらい都合がいいと言うか何と言うか…。これも前ループでの因果の影響だろうか?

 と言うか、その名乗りも相変わらずっすね。時間が繰り返されてるんだから当たり前だけど。

 

 

「話は聞いている。随分派手にやっているようだな。ウタカタの里には、俺の恩人も居るのでな。おかげであの人が助かった」

 

 

 ウタカタに恩人…大和のお頭の事だろうか。確か、オオマガトキで共に戦った事があると言っていたような…言ってなかったような…。男の事だし、結構前のループだしで、あまり正確に覚えていない。

 …俺の事を聞いたというのは、九葉のおっさんから?

 

 

「それもあるが、あれだけ大きな騒ぎになれば嫌でも耳に入る。面倒な事だが、政治も俺達の動きに直結するからな。……………ふむ」

 

 

 相馬さんに、正面からじっと見つめられる。他意は無いと分かっているが…微妙にケツがむず痒くなるな。初対面で抱き着かれた時の事を思い出す。

 それに、この人には独特の圧があるんだよな…。威圧なんてしている訳じゃないけど、大きな岩を真下から見据えたような、何かでっかくて重厚な物の気配を感じる。…英雄と称するだけあって、人格的にもでっかいんだろう。

 それはそれとして、人の顔をあまりジロジロ見るのはよろしくない。何か気になる事でも?

 

 

「…ふむ。…………同行した時にも思ったのだが…何処かで会ったか?」

 

 

 ……いや、あの時が初対面で、これが二度目の筈だ。心当たりでも?

 

 

「いいや、俺には無い。あるとしたらお前ではないか」

 

 

 何言ってるのかよく分かりませんね。俺が相馬さんに会っているとしたら、相馬さんだって俺に会ってるでしょ、常識的に考えて。

 英雄ともあろうお方が、いきなりよく分からん事を仰る。

 

 

「何かの拍子に遠目から見た、と言う事も考えられる。…いや、すまんな。気にする程の事でもないか。初対面の人間に、知己を見るような目で見られたので気になっただけだ」

 

 

 ドッキーン

 そんな顔してましたかね…。百鬼隊と隊長殿については、色々噂を聞いてましたからね。初対面じゃない気分になってたかもしれません。

 

 

「そうか。さて、生憎俺も暇ではない。話題の滅鬼隊頭領が会いに来たというから時間を取ったが、要件次第では土産も受け取らずに帰ってもらう事になる」

 

 

 はいな、これ手土産。ちょっとお高めの羊羹。

 で、要件は率直に言えば、有事の際に共闘を図りたい。

 

 

「共闘ね…。率直にちょくに言わせてもらえば、検討には値せんな。俺達は独立した遊撃部隊のようなものだ。凶兆有りとされれば何処にでも行くし、何処ででも戦う。現地に居る者の手を借りる事もあるだろう。故に、要請されずとも共に戦う」

 

 

 特別扱いする理由は無いって事ね。

 

 

「ついでに言えば、お前達の強さにも疑問が残る。…封じられる前の滅鬼隊の話は聞いた。なんとも胸糞悪くなる話だが、それはそれとして能力の評価は甘くはならん。特殊なタマフリを使えるとは言え、準備不足、命令違反、作戦無視、更には支援や補給を軽んじる行動ばかりしてきた隊を信用できると思うか」

 

 

 全く思わん。…が、今はその辺の重要性を叩き込んだ上で運用してるよ。

 そもそも、あいつらがそうやって失敗ばかりだったのは、あいつらを扱ってた連中が記憶を消して学習の機会を学んだり、間違った情報を吹き込んで失敗するように仕向けていたからだ。…元々、あんまり頭よくないのは否定できないけど。

 俺の言葉だけで信用してほしいとは言えないが、ウタカタで大きな問題が起こっていないのは証明にならんかな。

 

 

「ふむ…。覚えておこう。しかし、それを差し引いても共闘要請が必要なのか? 聞いている話では、先日の大戦でもウタカタに大きな被害は無く、巨大な鬼を斬り伏せて追い払ったそうじゃないか。鬼も、そうそう一致団結して何かを企む事は無い。暫くは自分らの食い扶持や縄張りを確固としたものにする為、異界の内で争いに明け暮れるだろう。……それとも、近い内に何かがあると思うのか?」

 

 

 ああ、思う。近い内に、ウタカタ近辺で必ず何かある。先日の戦に負けず劣らず、でかい規模の何かが。

 半ば勘のようなもんだから、根拠を示せないのが痛いけど。

 

 

「いや、お前ほどの強者の勘であれば、考慮には充分値する。…向き合っただけで、腹の底が震える程だ…。その強さにも興味が尽きんが、一先ずは置いておこう。…その何かが起きた際に、百鬼隊の助力が欲しいという事か」

 

 

 できれば、だけどな。居なけりゃ居ないでどうにかするさ。

 ただ、それでなくてもうちの子達の事を考えると、いざという時に助けてくれる伝手は作っておきたい。

 今は霊山に粛清の嵐が吹き荒れたおかげで、妙なちょっかいを出してくる奴は居ないが、喉元過ぎれば熱さを忘れると言うだろう。

 

 

「人間の性だな。お前達が成果を出せば出すほど、その危険は高くなる。……助けを求められるのも、英雄の宿命か…。いいだろう。直接どうこうする気はないが、お前達の事は覚えておく」

 

 

 ありがたい。そうしてくれるだけでも…と言うより、現状でそれ以上にやれる事は無いな。

 何かが起こる予感がすると言っても、まだ何事も無いのだから百鬼隊を動かす事はできない。誰かが何か企むとしても、これまた未来の話で、誰がそうするか分からない以上、予防策すら練る事はできない。

 

 

「ところで…お前は異界を浄化する術を使えるのだったな。実際に幾つか消滅させてるようだが…信じがたい話だ。その術は、俺達にも使えるのか?」

 

 

 使う事はできるけど、制御をしくじればもう一回オオマガトキが起こると思え…と言われてるよ。危険すぎて公開も出来ん。

 

 

「…では、例えば異界の流動を、意図的に引き起こす術などは無いか?」

 

 

 流動を…? ………考えた事も無かったな…。

 正直に言えば、それらしい術は無い。博士辺りに相談すれば、何か出てくるかもしれないが。

 

 何でまた、そんな術が必要なんだ? 異界の流動は、人間にとっては歓迎できるもんじゃない。

 長い年月と犠牲を払って、比較的安定した領域を解き明かす事ができた。移動できる道、そこに住む鬼の習性、異界の中で手に入る資材…。

 一たび流動が起きてしまえば、そういった物の全てが無駄になってしまいかねない。

 

 

「…分かっているさ。だが、俺にも目的があってな。異界を全て浄化されても困るのだ。ああ、異界の浄化自体は大賛成だぞ。どんどん浄化して、鬼どもの居場所を全て削り切ってしまえ」

 

 

 浄化させたいのかさせたくないのか、どっちやねん。

 

 

「人と関わり合いになる事がない程の辺鄙な場所に一つだけ異界を残して、他は全て浄化するのが理想だな。そしてその異界の中で流動を起こさせる」

 

 

 …益々訳が分からない。一体何の為に。

 

 

「百鬼隊には、幾つか決まり事があってな。その中の一つに、『誰かが死んだらその意思を継ぎ、願いを叶える』というものがある。例えば、妹を立派に育てあげる、誰かに想いを告げる、家族の元に帰る…とかな」

 

 

 …そうだった。この人は、死んでいった仲間の無念を背負い、そして異界で行方知れずになった亡骸を探し続けているんだった。

 随分前のループで聞いた。すっかり忘れてたぜ…。

 

 と言う事は、流動を起こすのは…。

 

 

「異界の地はただでさえ広大な上に、絶えず流動で場所が入れ替わっている。時間の流れすらあやふやだ。奴らをまだ探し出せていないのは、その為だ。だが、逆に考えればどうだ? 異界を意図的に流動させる事ができるなら…」

 

 

 わざわざ異界の奥地へ向かわなくても、目の前の場所だけ調べればいい。そこに居ないと分かれば流動をおこさせ、別の土地を呼び込む。その繰り返しで、後は確率の問題…と言う事か」

 

 

「そういう事だ。ま、これは俺の都合にすぎんから、無理強いは出来んがな。仲間達の骸を探し出すのと、鬼を全滅させ異界を滅ぼす事。両立させる覚悟はできているが、どちらが重要かと言われれば、後者に決まっている。亡骸は、鬼が居なくなった世界で探せばいい。で、どうだ? 出来そうか?」

 

 

 研究はしてみるよ。あまり迂闊に試す事はできないけども。

 この術を研究してれば、相馬さんも色々便宜を図ってくれそうだしな。

 

 

「ははは、強かな事だ。いいだろう、気にかけておいてやる」

 

 

 ついでだし、探している亡骸の特徴を教えてくれ。それっぽいのがあったら、確保しておくよ。

 …もしも行方不明になった亡骸が身に付けている物で、特徴的な物があれば、それも欲しい。そういう品を元にして、広範囲を探索できる能力持ちがうちには居るんだ。

 

 

「ふむ…隊章でいいか。まだ発見できてないのは一人だけだ。弓使いの男で、歳は22。腰にひょっとこ面をぶら下げている」

 

 

 …ひょっとこ? 何故? 確かにそういう防具はあるkが、腰って事は、被る訳でもないでしょうに。

 

 

「何だか知らんが、ひょっとこが好きだったんだ。防具として使える物じゃない、単なる装飾品だ。宴会では被って踊る事もあったな。同じ物が土産屋に売っていたから、見本が必要なら買っていくといい」

 

 

 珍しい趣味ではあるけど、他人に迷惑をかけるようなもんじゃないし、どうこう言う必要もないか。

 百鬼隊の隊章と組み合わせれば特定は簡単そうだ。後は、広大な異界の中で巡り合える事を祈るのみ。

 

 

 

「さて、折角来たんだ。手土産の一つもくれてやりたい所だが、丁度いい物が無くてな。代わりに、英雄の強さを見せてやろう」

 

 

 お、手合わせか?

 

 

「それも悪くないが、モノノフの本分は鬼の討伐だ。任務を受けに行くぞ。そっちの方が鬼も減る」

 

 

 はいな。夜までには終わらせよう。会いに行かなきゃいけない子がいるんでね。

 

 

「女か。聞いているぞ。随分と派手な関係を持っているそうじゃないか」

 

 

 夜の英雄豪傑ですから。夜じゃなくてもやるけど。

 そういう相馬さんこそ、嫁さん探したら?

 

 

「あいつを探し出して、鬼を全てぶっ殺したら考えてみるさ。…尤も、意中の相手には手を出せんがね」

 

 

 あれ、気になってる人が居るのか。相馬さんなら、顔・立場・地位・腕っぷしと揃ってるし、言い寄れば何とかなるんじゃないの?

 

 

「そういうのに靡く人ではない。…何より、汚すような事はできん。恩を仇で返す事になるしな」

 

 

 汚すって。一体誰なんだろうな。何だか知らんが、恋慕と言うよりは神聖視しているような気がする。

 言い寄るのが、恩を仇で返すって……人妻か? ……相馬さんが人妻スキー…あれ、なんか違和感ないな。

 まぁ、あんまりとやかく言う気はないが…兼一君や桐人君と違って、分別のついてる大人だし、老後の事だって考えてるだろう、多分。

 

 

 さて、任務を受けるのはいいが、この辺で手応えのある相手っているのかね。

 霊山の近くの異界は殆ど無いし、あったとしてもうちの子達を隠していたような人工的なものばかり。手強い鬼なんか居ない気がする。

 人の生息域中枢のすぐ近くに、強力な鬼が出るような異界があっても問題だが…。

 

 

 

 強い鬼を討伐する任務はあったが、少し遠出が必要だった。…と言うか、これ普通のお役目じゃなくて、百鬼隊が引き受ける任務だろ。ついでだから手伝えってつもりで巻き込んだようだ。

 便宜を図ってもらう事になるんだし、それくらいは構わんけどね。

 

 

 追伸 馬に乗るのが苦手なので、鬼疾風で走ってついて行った。帰り道では、見ただけの鬼疾風を相馬さんが習得していた。流石の実力。

 さて、遅くなってしまったが、直葉のところに行こうかね。

 

 

 

 



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564話

え、マジ?
arcadia消えるの?
保存…多すぎィ!

しかもActionが終わってしまってる…。
畜生、保存してたデータはウィルスにやられてそのままだよ!


 

-----------------------Side ウタカタ(桜花)--------------------------

 

 

 

 おはよう。私はウタカタの桜花だ。

 唐突に何だが、最近のウタカタの里は明るい雰囲気が漂っている。良い事だ。

 以前からも、決して暗い里ではなかったが、そこはやはり最前線。毎日の鬼の襲撃や、決して少なくは無い重症人、時に出る死者の為、どうしても先行き不安な面はあった。

 今もそれは解決している訳ではないが、以前よりも『どうにか出来るぞ!』という、前向きな空気が感じられるのだ。

 

 現に、新参のモノノフ達は今までよりも鍛錬に精を出しているし、道行く里人達も心なしか健康的になっているように見える。

 それに、橘花もよく笑うようになった。以前のような、どこか心を押し隠したような笑いではなく、心の底から活力が溢れ出る、満面の笑み。私がずっと見たかった笑顔がそこにある。…時々、得体の知れない『何か』を感じるような気がしなくもないが……私の妹に限って、そんな事は無い!

 

 

 …とは言え、良い事ばかり起こるほど、世の中は甘くない。

 明るく良い雰囲気と言ったばかりで前言を翻すのは何だが、どうにも浮かれた雰囲気も感じる。緊張感が無くなっているというか、今までの臥薪嘗胆の念が消えかけていると言うか…。そして橘花が、あの隊の者達と…特にあん畜生と矢鱈と仲良くなっているような…。

 これを息吹に話してみたところ、

 

 

「そりゃなぁ。先日の大戦じゃ、大きな被害も無く大勝。そのおかげで大量のハクが手に入って、里の殆どの連中がお大尽状態だ。おまけに大量の戦力が参戦した事によって、無理をせざるを得なかった哨戒や偵察、救護なんかの問題も解消されてる。更にはその頼りになる戦力は、見目麗しい美女と美少女と美男子揃いだ。これで湿気た顔をする奴は、相当な悲観論者だぜ」

 

 

 との返答が返って来た。

 なるほど、確かに。ここ最近は、朗報ばかり届いていたからな…。

 ついでに言えば、若手モノノフの多くが張り切っているのは、彼女達にいい所を見せたいが為と言う訳か。やれやれ…邪念を持ったまま修行しても、効果は薄いだろうに。

 

 で、橘花の件は。

 

 

「……お、俺よりも姉のお前の方が詳しいだろ。まぁ、何だ、強いて意見を捻りだすのであれば、あいつらが結界の端近くで鬼達を追い返してくれるおかげで、橘花の結界に殆ど負担がかからなくなった訳だからな。俺達とは別の感謝を持ってもおかしくないし、それが切っ掛けで仲良くなる事だってあるだろ」

 

 

 ……まぁ、それもそうか…。しかし、あの時の息吹は明後日の方向を見て何をしていたんだ? 色恋の問題がどうのと呟いていた…いや、いない! いなかった! 橘花があいつに懸想するなんぞ、時が巻き戻ったとしても有り得ん! 有り得んのだッ!

 …見苦しい姿を見せた。

 実際の所、私も奴には…向こうの頭領殿に感謝してはいるのだ。以前に私がやらかした時にも、笑って済ませてくれたものだ。

 彼の武力は、特殊な力を持つという彼女達の中でも、一つ二つ程度ではなく抜きんでている。先日の大戦でもそれは明らかだ。

 ウタカタの里の防衛に貢献してくれたのは間違いない。

 橘花が明るくなったのも、少なからず…認めたくはないが…彼が関係あるのだろう。

 

 …が、橘花を奴に触れさせるなど言語道断! 私の個人的な感情を抜きにしても、周りに女を侍らせて爛れた関係を築き上げている男なんぞに、妹を任せられるものかよ。

 

 

 問題があるのは、それだけではない。最近、里の者達が彼女達の生活を羨んでいる。

 私も一度、よく話すようになった凛子殿の部屋に招かれたのだが……最初は面食らった。何が何だか分からない物が部屋を埋め尽くしているのだから。

 暑くも冷たくもない清潔な壁と床、瞬時に燃え上がり消える炎、部屋を煌々と照らす灯り、仕掛け一つで後始末してくれる厠、そしてそこから飛び出して尻穴を清め……つい声が……いや何でもない。

 

 今はまだ明確な問題にはなってないが、暮らしの格差はいつの世も不満を産むものだ。特に、あれは彼女達自身が作り上げた物ではなく、頭領殿が勢いで何となく作り上げてしまったものだそうだから…。高いハクを使って自前で購入したというなら諦めもつくだろうに。

 実際の所、私だってあの部屋に住みたい。堕落してしまいそうな予感もするが、それを差し引いてもあの部屋は魅力的だ。

 むしろ、私よりも橘花を住まわせてやりたい。あの兵舎も、実はいくらか部屋が余っていると聞いた。頼み込めば、意外といけるのではないだろうか?

 …だが、そうなると当然、頭領殿の傍にいる事になる訳で…いやそれよりも、橘花が結界の外側に近い場所で暮らす事になる訳で……しかし快適さは………うむむ、悩ましい…。

 

 

 

 …ふぅ、このような事で悩めるのも、ある意味贅沢なのだがなぁ…。今までであれば、襲撃襲撃襲撃、異界で鬼の討伐調査討伐奇襲される、行方不明者の捜索に救助に弔いにと、余裕も何もあったものではなかった。

 改めて、現状の有難さを認識する。

 とは言え、いつまでも彼女達に頼りっぱなしでは居られん。橘花を守るのは私だ、という意地もある。もしも何らかの理由で、彼女達がウタカタを去る事になったら…。その時に備えなければならない。

 

 

 

 最近はそんな事を考えながら、日々鍛錬し、異界が浄化された後の地区を調べて安全確保をしていたのだが……まさか、いきなりこんな問題が豪速球で投げつけられてくるとは、思いもしなかった。

 今日の朝、大和のお頭に呼び出された。私だけではない。那木、息吹、富獄、初穂、速鳥。自分で言うのもなんだが、以前からウタカタを守り抜いてきた精鋭のみだ。

 …この時点で嫌な予感はしたのだが…。

 

 

「…結界の中に、餓鬼…ですか?」

 

「うむ…。俄かに信じがたい話だが」

 

 

 お頭から聞かされたのは、昨晩に骸佐殿達が目撃したという鬼の事。

 ただの餓鬼なら珍しくもないし、討伐すればいいだけだが、結界の中に居るとはどういう事か。

 

 

「橘花を疑う訳じゃないが…結界に綻びがあった、或いは抜け道のような物があるって事は?」

 

「そうだとしても、結界内部の圧力に餓鬼が耐えられるとは思えん。徐々に浄化され、鬼としての形を保てなくなるのが関の山だ」

 

 

 確かに。だからこそ、結界は結界たり得る。里と異界を区切る巨大な壁であるだけでなく、内部に侵入した異物の力を削ぎ落とす罠でもある。

 それ程に高性能だからこそ、術者たる神垣の巫女の命を削っていく。

 

 その内側に、鬼が居た。普通なら問答無用で消滅するくらいに弱い鬼が、平然と。…これは一体…。

 真だとするなら、人の安息の地が無くなるに等しい。

 

 

「しかも転移によって逃げた。結界の内外を行き来する物ではないが、その難易度は推して知るべしだ。どう考えても、ただの餓鬼ではない」

 

「…その餓鬼はどうなったので?」

 

「逃げた先に居た人間を襲っていたが、その場で返り討ちだ」

 

「怪我人は?」

 

「…怪我人も負傷者も居らん。ただ、無事とは言い辛い…」

 

「………」

 

「落ち込むな、息吹。その餓鬼によってどうにかされた訳ではなく………いや、ややこしくなるから、襲われた者についての説明は後に回す。現在、たたらや秋水が残された素材を調べているが、まだ詳細は明らかになっていない。…だが、現時点で一つの懸念が浮かんでいる。みな、頭の中に可能性としては浮かんでいるかもしれんが…」

 

 

「…ちょ、ちょっと待って、ちょっと待って大和。それ洒落にならない。私が考えてる事、間違い…よね」

 

 

 初穂が何を考えているのか、口にしてもらわなければ分からないが…確かに、私も幾つかの可能性が思い浮かんでいる。

 その中でも、最悪と言っていい可能性は…。

 

 

「…神垣の巫女の結界に耐える鬼……ではなく…」

 

「根本的に効かない鬼、ってか。いつかは現れる、って与太話を聞いた事はあったが…」

 

 

 富獄が腕を組み、眉根を寄せている。私も正直、似たような反応をしたい。

 

 鬼とは異形の生物だが、それなりに共通点はある。例えば大なり小なり角があること、死んだら体を構成している物質が飛び散って有害な毒…つまりは異界となる事、人の魂を喰らう事。

 少なくとも、これらの例から外れた鬼は、今のところ一度たりとも確認されていない。

 そして結界は……詳しい理屈は省くが、前述のような共通点を利用して鬼を拒むものだ。鬼である筈ならば、必ず効く筈なのだ。人が水に押し込められ続ければ、いずれ息が保たなくなって溺死するように、結界の中の鬼も長くは生きていられない。

 

 だが、その例外が本当に実在したとなると…。

 

 

「…とにかく、里の警備を厳重にする必要があるな。今までは結界の淵周辺を中心としていたが、これからはいつ何処に現れてもおかしくない」

 

「そうだな。下手をすると、寝ている間に部屋の中に転移してくる事すら有り得る。風呂とか厠とかでも」

 

「冗談じゃないわよ…。と言っても、どうすればいいのかも分からないわね。本当に、根本的に効果が無いんだとしたら、橘花が身を削って結界を強化したとしても意味が無いし」

 

 

 結界の強化など論外だ。これ以上、橘花に負担をかけさせはせん。

 …が、それを言ってる場合でもないのだな。どこに現れてもおかしくないという事は、今この瞬間に橘花の背後に現れる可能性があるという事。

 いくら私が橘花を守ろうと努めても、文字通り四六時中付きっ切りでいる訳にもいかない。鬼の討伐にも行かなければならん。何より、私の集中力も体力も保たない。意地でどうにかなる範疇ではない。

 

 

「…逆に思うのですが、それは本当に鬼なのでしょうか??」

 

「仕留めた遺体を見たが、確かに餓鬼だったぞ。那木、何か気になる事でも?」

 

「大した根拠がある訳ではありませんが…いかに鬼とは言え、そこまで唐突に体質が変わるものでしょうか。炎を纏う鬼でさえ、炎の武器で多少なりとも痛手を与えられます。だというのに、全鬼に共通して効果があった結界が、突然完全に効かなくなる…。幾ら何でも唐突過ぎます」

 

「ふむ…。確かに、毒を盛られ続ければ、人は多少なりとも免疫を得るもの。しかし全く効果が無くなるとは考え辛い…。しかし那木殿、鬼でなければ何でござるか?」

 

「そこまでは…」

 

 

 説得力のある考えだったが、それ以上は那木にも分からないらしい。

 だが、この時私は天啓を得た。あまり嬉しくない天啓だが。

 

 

「…心当たりが一つある」

 

「何だ、桜花? 鬼でないなら何だ。妖怪か、神か、それとも南蛮人か?」

 

「グウェンに土下座してこい貴様…。私も何と言えばいいのか分からんが、先日の大戦でオオマガトキの穴から出てきた、巨大な女の体。あれなのではないか? あの後色々と忙しくて、詳しい事を聞くのをすっかり忘れていたが、鬼とは違うものだとあいつが言っていただろう」

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

 それぞれ、黙って考え込む。

 自分で言うのも何だが、それなりに説得力はあると思うし、真実に近いんじゃないかと思う。

 あの女は、鬼として考えても明らかに異質だった。はっきりと人の面影を残し、人名(多分)を叫ぶ。思えば、細切れにされた後の死骸も、徹底的に切り刻み燃やし尽くすまで、塵となって散じる事は無かった。鬼祓ではなく、奴の指示によって塵まで徹底的に焼却したものだ。

 …これは即ち、結界が効かなかった事を意味しているのではないか?

 

 

「…奴が帰ってきたら、聞き出さねばならん事が増えたな。時期的に、そろそろウタカタに到着する筈だ」

 

「つーか大和のお頭、あの鬼については結局有耶無耶になったままだったのか?」

 

「聞いてはいるが、どうにも要領を得なくてな…。鬼とはまた違った異界で生きていた、ある種の天災のようなものだというのは分かったのだが。結局、異端の鬼という認識で落ち着いた」

 

 

 …まぁ、説明は下手そうな奴だしな…。那木とは別の方向で。

 …ん? 足音…。

 

 

「お待たせしました。分かった事があるので、報告にきました」

 

「随分早いな、秋水。調べ始めて、まだ数刻と経っておらんだろう。たたらは一緒ではないのか?」

 

「たたらさんは、あの鬼の素材を使った武具を考案中です。僕は…調査結果と言いますか、調べるまでもなく異常な事が発見されたので、差し当たりそれを報告にきました。一番最初に知りたがる事でしょうしね」

 

 

 …秋水にしては、言葉に棘というか嫌味が感じられない。

 どちらかと言うと、衝撃を受けて消沈したようにさえ見える。

 …嫌な予感が高まってくるな…。

 

 

「さて、では調べた結果ですが…構造自体は、通常の餓鬼と変わらないようです。体格、内臓、爪や牙の生え方など、どこをどう見ても一般的な餓鬼ですね。ですが…」

 

 

 もったいぶるな。早く言え。心臓と胃に悪いだろうが。

 

 

「ですが、明かに結界の効力がありません。何せ、討伐されてから今まで、ずっと結界の中で安置されていたというのに、体の分解が一切始まらないのですから。いえ、例え異界の中であっても、死んだ鬼は体が塵と化していきます。これを考えると、そもそも鬼であるかどうかさえ怪しい」

 

「…だが、鬼と行動原理は変わりない。少なくとも、人を襲おうとしたのだろう」

 

「ええ、そうですね。…結界が効かない以外にも、もう一つ注目すべき点がありました。むしろこちらの方が厄介かもしれませんね。何せ……刃が体に通らないのですから」

 

 

 刃が…? つまり、攻撃を無効化する、と言う事か?

 

 

「少なくとも、僕とたたらさんが体を切り分けようとした刃では、全く歯が立ちませんでした。奇妙な感触でしたね…。骨はともかく、皮は柔らかく、手で押せば形が変わるほどです。ですが、いざ切り裂こうとすると突き刺そうが刃を引こうが、全く通じないのです。近場に居たモノノフに手伝ってもらい、霊力を籠めた刃でようやく解体できました」

 

「…刃が通じないだけなら、まだやり様はあるが…流石に大型鬼になると、ちと厳しいな。後で寄って、どんなもんか見てみるか」

 

 

 うむ…。秋水が解体できなかったと言っても、刃を扱う専門家ではないからな。素人では切れないが、それなりの腕があれば斬れる、という例も多い。

 そうでなくても、刃が通じない理由は確認しておきたい。

 そもそも、霊力を纏わせての攻撃なら、モノノフなら皆できる事だ。それしか通じないとなると、消耗が跳ね上がるが…。

 

 

「…何にせよ、従来の鬼の常識が通じない相手が出てきたか。混乱を招く可能性もあるが、里内の警備を厳重にする為にはこの事を公開せざるを得ん。里人から詰め寄られる事は無いと思うが…」

 

 

 …そう願いたい。今までにも何度も見た。身内を失い、助けに行ったモノノフに『どうして間に合わなかったんだ』『役立たず』『お前が死ねば良かったのに』と、怒りや悲しみをぶつける姿。…我々はモノノフ。人々を守る盾、鬼を斬る鬼。だから、人を守れなかったのであれば、その咎を受けるべき…なのかもしれない。例えそれが、やりきれない思いを抱えきれない故の八つ当たりだったとしても。

 行為の是非はともかくとして、人は追い詰められれば何にでも牙を向ける。例え相手が、自分の命綱であったとしても。里の平穏を守れないモノノフを、或いは鬼を防げない神垣の巫女を、不安の矛先にする事は確かに考えられる。

 そうさせない事が、我々の役割なのだがな。橘花を守る為とは言え、同じ里の人に刃など向けたくない。…今となっては、この里も私にとって守るべき場所なのだから。

 

 ともかく、今はその結界が効かない鬼の遺体を見てみるか。



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565話

 

黄昏月拾伍日目

 

 

 直葉と、『烙印』の効果で呼び出したシノノメの女達を交えて乱交した翌朝。俺はそのままウタカタに向かって旅立った。

 残念な事に、兼一君や桐人君とは会えなかったんだけどな。泊りがけの任務で、明後日くらいまで帰ってこないそうだ。

 まぁ、お陰で直葉の家の中、一目も憚らずにヤりっぱなしでいられたんだけど。寝室は勿論、風呂に台所に厠に玄関にと、家に精液と愛液の匂いが染みつくんじゃないかと思うくらいヤりまくった。いつもの事で、これまたいつも通りに消臭玉先生が大活躍したけども。

 消臭玉先生にはいつもお世話になってるな。なんなら回復薬よりもお世話になってる気がしてきた。

 

 それにしても、兄の居ない間に、セフレを連れ込んでヤりまくる妹(年齢詐欺ボディ)…。……エロゲやな。でもその兄の方が、女性恐怖症なんだよな…。しかも俺が直葉とくっつくのを超歓迎しているし。なんちゅーか……催眠NTRモノだけど、催眠をかける前から兄妹揃って完落ちしてるよーな状況だ。

 いやまぁ別に文句は無いんだけども。

 

 新聞社姉妹にも会えず終いだったし、正直ちょっと不完全燃焼だ。…別に、何かシようと思っていた訳じゃない。いや本当に。

 今はうちの子達だけで手いっぱいだからなー。これ以上誰かに手ぇ出すつもりないのよ。……据え膳は食うけど。

 

 

 さて、こうしてトボトボ歩いていても仕方ないし、切り替えて行こう。

 うちの子達は元気にしているだろうか。暗示が発動して、不安定になっていないか。何よりも、慢心突撃大惨事(見てられない意味で)になったりしてないだろうか。以前の扱いが扱いだっただけに、正直言って不安が拭えない。

 妙な事を仕出かさないよう、訓示ならぬ『お約束』を設けてきたが…言葉だけで言動や考え方が改められるなら、苦労は無いわな。

 

 

 不安なのはそれだけじゃない。相馬さんにも語ったが、確実にもう一騒動あるのが目に見えている。しかもこの前のメガラケルてんてー並み、或いはそれ以上の騒動が。

 メタ的な考え方になるが、先日に戦…つまりはオオマガトキが開かれるまでは、ゲーム的に考えれば討鬼伝無印のストーリーだ。ここまでは知ってる。今まででも、ここまでは辿り着いたし、切り抜けた事もある。

 だが、このループに入る前の事を思い出すに(それも、俺自身の記憶ではない可能性が高いが)、討鬼伝の続編だか追加版だかが発売される、という話だった。単なる追加パッチくらいならともかく、別途で分けて発売したくらいだ。ストーリーにも必ず続きがあるだろう。と言うか、無かったら詐欺扱いでいいと思う。

 何だかんだで、大まかな流れはゲームストーリーに沿って展開されるのは、これまでのループでの実績が示している。…それ以外の部分は、変わりすぎな程変わっていたりもしたが。

 

 思えば、そのストーリーの関係者だと思われる人間にも多々心当たりがある。

 虚海なんぞ、その筆頭だろう。性格的にはともかく、外見的には如何にも暗躍しているキャラだしな。

 あいつ一人でも十分すぎるほどキャラが立っているが、それに加えて幼いころの虚海…千歳まで関わって来た。何かありますって言ってるようなもんだろう。その後のループで千歳と出会えなかった事を考えると、千歳の出現は完全にイレギュラーだったっぽい……いや、クサレイヅチに捕らわれてるから関わってこれないだけかもしれん。

 

 …いかん、殺気が漏れ出して、半径3メートルの草木が勝手に枯れてしまった。新手の鬼の仕業にされないかな……適当に耕して誤魔化しておこう。

 

 虚海の他には……そういや、九葉のおっさんも虚海の関係者だったな。なんか策謀を仕掛けてたっぽいが…。そう考えると、九葉のおっさんも追加版の登場人物か? 何だかんだで、何度も関わってるしな。

 その繋がりで、保護されていたグウェンも…これはちょっと微妙かも。

 九葉のおっさんを中心にして考えると、その部下である相馬さんと百鬼隊、他は……霊山の息がかかってる新聞社社長の文美さんも? 娘の二人は、チョイ役として関わってそうな気がする。

 

 

 あとは…そうだな、一番ありそうな奴を忘れてた。

 仮に、虚海が討鬼伝追加版ストーリーの関係者だったと仮定した場合…それに関するボス鬼は、間違いなくクサレイヅチだろう。何せ、かつての戦いで虚海が時間移動する原因となり、更に体が変質した事になった切っ掛けだ。

 そうなると、俺と同様にクサレイヅチを追いかけている、ホロウが関係者候補に躍り出てくる。虚海とも関係者だしな。

 あいつは時空を回遊するクサレイヅチを追えるくらいだし、ループによる影響を受けてない可能性も考えられる。時間の巻き戻しから逃れているかもしれん。だから、前に討鬼伝世界でデスワープした直後…MH世界でも、GE世界でデスワープして討鬼伝世界にやってきた今回も、何処かにホロウが居ないかと探していたんだが…完全に空振り。

 もう会う事は難しいか? と思っていたが……ここらが本当に諦めるかどうかの分岐点だな。

 

 もしもホロウが討鬼伝追加版の登場人物だとすれば、そのストーリーが始まるであろうこの時期に現れる可能性が最も高い。

 …逆を言えば、これで会えなきゃお手上げだけどね。

 仮に会えたとしても、ループの影響から逃れているかどうかはまだ分からない。ホロウに関しては、完全に出たとこ勝負で行くしかないな。会えたら幸運、くらいで考えておいた方がいいかもしれない。

 

 

 

 これらを踏まえて考えるに、今からするべき事は?

 

 …クサレイヅチへの対策は勿論のこと、虚海、並びにホロウの捜索か。

 特に虚海は放っておくとヤバい。今までちょくちょく名前が出ても、直接会っていなかったから放置してたが…考えるまでもなく愚策だった。

 ホロウは絶望し、元の時代に帰る事を切望している。帰れたところで、静かに暮らす事ができるかなど考えてもいないだろう。ただただ帰る、その意思だけが遺されている。

 その為に、ホロウを呼ぼうとした。ホロウはクサレイヅチを追い続け、そして時代の変わり目に現れるという『翠瞳の乙女』として、僅かに書物に残されていた。

 時代の変わり目を作り出す為に、虚海は混乱を巻き起こそうとしていた。

 

 …触鬼という外法を使って。あれの触媒だけでも、回収しておくべきだったか。

 いや、虚海が持ち歩いている触媒があるか。全て一度に捕らえて一切現れないようにしてしまわないと、触鬼は周囲の物体を取り込んで幾らでも増える。だから九葉のおっさんも、すぐには虚海を捕縛しなかったんだ。

 

 そうだな、ホロウよりも先に虚海を確保しなけりゃならんな。多分、触鬼との闘いが討鬼伝追加版の主な展開なんだろう。クサレイヅチはその後か、前か。

 虚海を捕らえれば、ストーリーの半分以上を端折ってしまう事になるかもしれんが…まぁいいだろう。俺としては、クサレイヅチをぶっ潰すのが優先だ。

 

 

 

 …いや、それも重要だが…まず何よりもするべき事は、うちの子達の様子見だ。暫く会えなくて欲求不ま…もとい、暗示の効果が発動しているかもしれん。何だかんだで、そっちの解除には殆ど手を付けられていなかったからな。

 うん、これは皆の精神安定の為なんだ。ウタカタから旅立って以来、多くて4人程度しか一晩に抱いてなかったから、2桁くらいで大乱交したいなんて、そんな事は8割くらいしか考えていない。

 

 

 

 

 

 

 …霊山からウタカタに向かう道をひた走り、珍しい事に特にトラブルもなく進む。一応、途中で小高い丘に登ってウタカタ近辺を観察したが、特におかしなところは無い。

 騒乱の気配もないし、おかしな煙も立ち上ってない。…いつもの、出掛けて戻ってきたら大惨事のジンクスも外れたようで何よりだ。

 最悪、鬼とどうこうじゃなくて、うちの子達と里の間に何か軋轢が出来てる事まで考えてたからな…。

 

 いい子でよくお留守番できました。えらいねぇ~。白い液体を奢ってあげよう。抜かずの9発でいいかな?

 男連中にも、ちゃんと褒章をやらんとな。飯、酒、武具、後は……こっそり艶本でも渡すか? でも持ってないんだよなぁ。だって実物の方が良かったから。いやエロゲは別腹なんだけど、ここエロゲ無いし。

 フロンティアで作ってた猟団に居たような、タカリ根性の強い連中なら、褒章も割と簡単なんだけどな。矜持持ってる奴は、良くも悪くも厄介なもんだ。

 

 

 ……こんな事言ってちゃ、頭領失格だな。しっかりあいつらを理解して、活かせる環境を整えるのが俺の役目だ。

 

 

 

 

 

 

 さて、程なくしてウタカタに到着。俺の帰還を嗅ぎつけたのか、うちの子達が道で待ち構えていた。

 出迎えご苦労…と言いたいところだが、目付きがそーいう感じじゃないな。出迎えではあるんだけど、どっちかとゆーと好物の餌を持ってきてくれる飼い主を見つけた犬、とゆーか。…やっぱこれ、精神的に不安定になってるよ。濃厚すぎる接触で、スキンシップ不足を早急に解消する必要がある。

 …会いたかったのは分かったから、猫だんごみたいに俺の全身に纏わりつくのは止めなさい。歩きにくい。

 

 それ以外にも、早急に判断が必要な案件がある、と秘書執事チームから伝達。『返って来たそうそうに、我々の力不足で申し訳ない…』と項垂れられたが、判断がつかない案件を無理に進めるよりは余程良い。

 これから大和のお頭に、シノノメであった事の報告に行くんだが…先に済ませておいた方がいい案件はあるか?

 

 

「あります。詳しい事は、状況を調べている大和殿から伝えられますが、お耳を」

 

 

 お、耳舐めかな?

 

 ………………ナヌ…? そんな鬼が出た…マジか…。

 

 

 

 

 

 

 縋りつくうちの子達(特に不安定になっていた子は、指だけでこっそり落ち着かせて)を振りほどき、大和のお頭の元へ。

 …遠くから見た時は分からなかったが、いつもの里の様子とは少し違う。軽装とは言え、武装したモノノフ達が里の中を歩き回っているのだ。普段であれば、お役目に出る時以外は武器防具は着けていないのに。里人を不安にさせない為か、極力荒っぽい気配は抑えようとしているようだが…。

 

 俺が戻って来たという知らせは既に受けていたらしく、大和のお頭にいつも通りの堂々たる仁王立ちで出迎えられた。いつもその恰好で、腰痛くならないの?

 

 

「よく戻った。遣いの任、ご苦労だった」

 

 

 どうも。遣いったって、やってた事は顔見知りと話し込んでたくらいなんだけどな。

 多少は鬼の討伐に手を貸したけど。

 

 

「構わん。必要な事は書に認めておいたし、橘花と向こうの神垣の巫女経由で談合も終わっている。お前の役割は、書状と謝礼を届けに行く事だけだった」

 

 

 …それはそれで構わんのだけど…普通、そういう商談をするのなら、相応の権限を持った人間を付けるべきじゃないか?

 あっちからも、細かい事はいい、って態度だったから気にしてなかったが。

 

 

「ああ。シノノメの里の頭領は、両津の奴だろう。死んではいないと思っていたが、予想通りだったな。一時期姿を晦ましていたそうだが…。あいつが相手なのであれば、生半可な人間では話がややこしくなるだけだ。何でもいいから、本人と頭領で直接やりとりする必要がある。まぁ、今回は巫女同志の念話による話し合いとなったが。全く、つくづく変わらんな、あいつは…。談合の間、大から小まで先を見越した小細工だらけだったぞ。あれほどの先読みと狡知、戦に使えればどれ程頼もしい事か」

 

 

 なるほど、納得。仮に俺に相応の権限があったとしても、あの人相手じゃ譲歩すら引き出せるか怪しいもんだ。まぁ、何だかんだで利用できる相手をポイ捨てはしないだろうから、悪い結果にはならないと思うけど。

 過去の事でも思い返しているのか、大和のお頭は含み笑いを漏らしている。

 

 …親しいんで?

 

 

「取り立てて、という訳でもないがな。霊山での修行中、何度か関わった事があった。九葉を振り回せるのは、当時からあいつくらいだったものだ。見物だったぞ、鉄面皮の九葉に構わず引き摺ってきて、あれやこれやと知恵を出させている場面は。…さて、そちらの報告はともかくとしてだ」

 

 

 …おう。

 

 

「お前のところの者達から既に聞いているようだが、知っての通り結界の効果が無い鬼が出た。更に、霊力付でなければ刃も通らず、鬼祓すら効果が薄い。今のところ、一体しか確認されていないが、突然変異だとしてもこのような鬼が現れるとは思えん。裏に何かある…早急に正体を突き止めねばならん」

 

 

 実物を見る事はできるか?

 

 

「うむ、ついてこい」

 

 

 大和のお頭に連れられ、里の外れへ…って、ひょっとして博士のところか?

 何かあったとしても、人の居住区から外れた所だから、被害は軽くなるだろう。研究者としても、博士と茅場以上の人間はこの里には居ないだろうし…適材適所っちゃその通りか。

 

 

「ああ、その通りだ。秋水も頭はきれるが、研究者という訳ではないからな。術や薬を弄り回す事はあるが、奴は結果を求める研究だ。この場合、結果よりも原因を究明する為の研究だから、不適切だな」

 

 

 なるほど。

 しかし、結界が効かない鬼…一体誰が見つけたんだ?

 

 

「む? 聞いてないのか? お前の所の男衆だ。尤も、その時は驚きのあまり取り逃がして、仕留めたのは別の者だが」

 

 

 結界のド真ん中で突然鬼に遭遇すれば、驚きもするか。それでも即動けないのは減点だが。

 

 

「いや、一人は驚く前に動きはした。単純に、鬼の転移に間に合わなかっただけだ。……お前は、特異な鬼について思う所は無いのか?」

 

 

 うん? いや実物を見てみない事には何とも…。でも少なくとも外見は餓鬼だったんだろ?

 鬼が何らかの進化を遂げるとして、その性質だけが突然変わるというのは考え辛い。ミタマを取り込んだ鬼だって、餓鬼・黄泉みたいに多少は色が変わるだろう。

 体質が変化したっつーなら、体も変わりそうなもんだが…。

 

 

「気にしているのはそこではなく……いや、直接見てから考えた方がいいか。博士、茅場、居るか? 入るぞ」

 

「おお、お頭! いらっしゃいだ。お茶の用意をするから、少し待ってくれ」

 

「すまんな、グウェン。博士達は、まだ研究中か?」

 

「ああ。よく分からないが、二人ともひどく険しい顔をして調査中だ。ああなると、何度呼んでも出てこない」

 

 

 …真鶴も言ってたが、飯を抜く事すら日常茶飯事なんだってな。

 変人二人の世話を押し付けて申し訳なく思えてきた。

 

 

「大丈夫だ! 博士も茅場も真鶴も、いい人だからな。何より、安全だしご飯は毎日食べられるし暖かい寝床で眠れる。これで文句をつける理由はないさ」

 

 

 そのレベルで満足してもらって、それはそれで困るのだが…。忘れてた、グウェンはビャクエンに追われながら、大陸を横断して日本まで渡って来てたんだった。この子のバイタリティは並じゃない。

 彼女にとって、博士達の世話はビャクエンを警戒しながら旅を続けるよりは楽なんだろう。

 

 にしても、ここって博士、茅場、グウェン、真鶴で暮らしてるんだよな。女の園に男が一人って状況なのに、茅場じゃ色気のある話を連想できんな。性欲があるのか、本気で疑う男だし。

 …ん? 異世界大好きの茅場が、鬼を研究する? 確かに鬼も異界、別世界からの訪問者だが…それで顔付が厳しいってのは何でだ。

 結界が効かない鬼というのは人類にとっては大事だが、あの二人がそれで顔色を変えるかと言われると…。

 

 

 …なぁグウェン、俺も研究現場に入っちゃあかんかな?

 

 

「叩き出されはしないと思うぞ。ほら、お茶だ。邪魔をするな、くらいは言われるかもしれないが」

 

 

 それくらいなら、博士基準なら挨拶みたいなもんだわ。大和のお頭、俺の茶菓子食っていいよ。ちょっと見てくる。

 なーんか嫌な予感するわぁ…。

 

 

 研究室の扉をそっと開くと、予想とは違ってかなり片付いていた。多分、毎晩グウェンがちまちま掃除してんだろうな。

 そして博士と茅場はと言うと、餓鬼の死骸を弄り回しているようだ。グウェンが言っていたように、表情は険しい。そして、その隣で木綿季が退屈そうに突っ立っている。どうやら、カラクリ人形の機能を起動して、何やら記録しているようだ。

 

 さて、肝心の餓鬼はと言うと……うん、見た目は普通に餓鬼だな。そこら辺の異界を歩き回ってる餓鬼だ。黄泉ですらない。

 しかし遺体が塵にならずに留まっているので、明かに普通でないとも分かる。

 

 ちょいと御免よっと。研究に熱中しているようだが、俺にも見せてー。

 

 

「あ! 帰って来たんだ!」

 

「む? 貴様、ようやく帰ってきおったか。必要な時に限って不在にしおって、使えん奴だ」

 

 

 いつどこで誰に必要とされるかなんざ、未来予知でも出来なきゃ分からんだろ。流石に文句が無茶だぞ。

 と言うか、俺を必要としてるって? 博士からそんな言葉が出るとは珍しい。

 しかし、研究に関しちゃ俺は素人もいいところだぞ。

 

 

「そんな事は分かっている。だが、既に知っている事を喋るくらいはできるだろう」

 

 

 …?

 

 

「説明するのも面倒だ。こいつを調べてみろ。…茅場、木綿季、少し退け」

 

 

 茅場は相変わらずだな…。と言うか、こいつがここまで熱中するって事は、この餓鬼も異世界関連か?

 何やら考察を纏めているらしい、自分の世界に入りっぱなしの茅場を他所に、餓鬼を見てみる。

 

 …やはり、外見上はどこをどう見ても単なる餓鬼にしか見えない。

 だが、その体に触れた瞬間、自分の顔が引きつるのが分かった。

 

 この感覚は…。

 

 

「気付いたようだな。そう、確かにこいつは鬼だ…半分以下がな」

 

 

 外見は餓鬼、内臓などの構造も、恐らくほぼ餓鬼と変わりない。だが…体を構成する物質が全く違う。

 普通の鬼が砂粒で体を作り上げているとするなら、こいつの体は鉄の粒で構成されているようなものだ。

 

 しかもこいつは…。

 

 

 

 アラガミ細胞の感触だ。

 

 

「そう。貴様が持っている、あの神機…と言ったか。あれの性質とよく似通っている」

 

 

 似通ってるってもんじゃねーよ。こいつ、アラガミじゃねーか!

 …あれ、いや、半分…って言ったよな、博士? じゃあ、残り半分は…。

 

 

「そっちは鬼だが…単なる鬼じゃないな。こいつの体は、大別して3種類の物質で構成されている事が分かった。一つ目、貴様が言う…荒神、だったか。その物質。二つ目、通常の鬼と同様の塵。そして三つ目、触れた物を取り込もうとする何か。この一つ目と三つ目がどういう訳だか互いを喰らい合っている状態だな」

 

 

 …ん? ちょっと言ってる事がよくわかんないんだけど。

 二つ目は、いいよ。こいつも鬼みたいだからな。一部とは言え、他の鬼と共通しているってのはわかる。

 一つ目も……良くは無いが、とりあえず置いておこう。鬼かと思ったら、実はアラガミだった。根本的に鬼とは違う生物だからな。結界が効かないのも頷ける。理に適った話だ…。スゲーわかる…。

 三つ目は……ああうん、これどう考えても触鬼っすわ。触れた物を何でも取り込み、増殖する鬼。虚海が生み出した、恐らくは討鬼伝追加版の主な敵。…清麿よりも先に、あのポンコツを捕まえておくべきだった…。何がどう関わっているのかは分からんけど、これ絶対に虚海のやらかしだろ。しかも本人も意図してなかった。あいつはそういう星の下に産まれとるからな…。

 

 

 だがアラガミ細胞と触鬼の細胞が食い合ってるってのはどういう事だああ~っ!?

 同じ餓鬼の体だろっつーのよーっ! 舐めやがってこの鬼はぁ~超訳が分からんぜぇー!

 

 

「やかましい」

 

「あっ、何か出た」

 

 

 あいてっ! 何すんだ木綿季。いきなり鉄球なんてぶつけてきて、危ないじゃないか。

 

 

「僕じゃないよ。博士が何か起動させただけだよ」

 

「ふむ…銃を仕込んでみるつもりだったのだが、この程度の威力ではな。小型化する事は出来るが、まだ威力が間に合っていないか」

 

 

 人に向けて鉄砲撃つんじゃありません。と言うより、撃たせるんじゃありません。

 …それは置いといて、実際何だ、この鬼は…。

 

 

「お前も理解したようだが、この鬼の体の中で、二つの物質が互いを取り込みあっている。互いを取り込む速度が均衡し合っている為、どちらか一方に塗り潰されるという事は無いようだ」

 

 

 アラガミと触鬼の混ざり物…荒鬼とでも呼ぶべきか。ある意味、俺と同じ状態だな…。

 しかし、この二つが関わっているとなると、経緯は大体予測できるな。

 

 おそらく、この前のメガラケルてんてー(仮)の破片か何かを、虚海が入手したんだろう。で、物は試しと触鬼の触媒を使ってみた。何故餓鬼の姿になったのかは………恐らく、アラガミ細胞が学習した中で、一番簡単に真似できたか、情報が多かったんだろう。

 結界が効かない理由も、まぁ予測は出来た。こいつの体を構成している触鬼の細胞と、アラガミの細胞は、その量こそ均衡を保っているが、分布、配置は常に流動しているようだ。自分でやっているのか、勝手にそうなるのかは分からないが、アラガミ細胞で体皮を作る事で、結界の圧力を無効化できるんだろう。…アラガミ細胞にも、霊力自体は通じた筈だから…自分でも鬼の霊力を使えるようになって、それを学習したのだろう。

 

 …厄介な物作り出しやがって…。

 

 

「…ふん、貴様にしては上等な推察か。他に分かる事は?」

 

 

 どれだけ増えても不思議はない、って事くらいかな。

 こいつの中で蠢いている2種類の細胞は、どっちも他者を取り込んで自分を増殖させる性質を持つ。しかも際限なく、恐るべき速度でだ。

 …で、最悪な事に、こいつを作ったであろう術者は、黒幕で悪党っぽく振る舞ってるけど、はっきり言って頭脳が間抜けだ。元々、アラガミ細胞はとても手に負えるようなもんじゃない。絶対にどこかで暴走する。

 

 最悪なのは、こうしてこの鬼が死んでも、細胞自体は生きて喰らい合っているって事だ。今は互いを取り込みあう事が手一杯のようだから、この状態を保っているが…どっちか一方が機能停止したら、残った一方がそれを取り込んで…。

 

 

「その後は、体外の物を取り込んで増殖していく、か。止める方法は?」

 

 

 ……正直、心当たりはない。

 いや、アラガミ細胞の方は、この世界ではあり方が違うというか、終末捕食なんぞ起こしても全く意味が無い状況だから、稼働しているの自体が不思議……ああいや、全アラガミ細胞が終末捕食の為に動いている訳じゃないか。一度、大勢から総スカン喰らってデスワープしたくらいだし。

 単純に、この細胞も生きているだけって思った方がいいな。

 

 …こいつに通じるかは分からないが、アラガミ細胞は異界の中で機能不全を起こした例がある。そこから何とかできる…かもしれん。

 

 

「ふむ…半分が鬼だから、異界の中に放り込むだけでは無理だろうな。効果が出るとしたら、アラガミ細胞とやらと、触鬼とやらの細胞を切り離す必要がありそうだ」

 

「その方法を模索するのは、我々の役目だな。…ふふふ、このアラガミ細胞とやら…明らかに異世界の代物。実に興味深い…!」

 

 

 …おい茅場、研究するのはこの際止められないが、それを利用して何かやろうなんて思わない方がいいぞ。

 毎回毎回、最初はそこそこ上手く行っているように見えても、それ以上のしっぺ返しが返ってくる。

 

 

「…今は納得しておこう。私としても、十全に理解できていない物を利用する愚を犯そうとは思わない。研究が先だ」

 

 

 そう願う…。

 木綿季、頼むからこいつらの監視をしっかりとしておいてくれ。真鶴やグウェンと協力してな。

 

 

「どう考えても荷が重いよ…。僕の体の、さっきの銃だって知らない間に取りつけられてたのに」

 

 

 …自爆機能が取り付けられてないか、確認しときなさい。

 

 

 

 



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566話

書き溜めが尽きて、展開にも詰まってます。
暫く定期投稿できなくなるかもしれません。
ついでに言えば、エアコンもなくて夏バテ気味…。
4階の部屋なので、窓を全て開けていればそこそこ風は入ってきますが、やはりクーラーは必要かな…。


 

「む、戻ったか。随分話し込んでいたようだな」

 

 

 ああ。色々と頭の痛い鬼だよ。

 だがとにもかくにも、元凶を確保せにゃならん。あまり絡んでこないからって、放置していたのは大失敗だった。

 

 

「…どういう事だ。結界が効かない鬼が出現した原因を、お前は知っていると?」

 

 

 ありゃ人為的に作られた鬼だよ。どこまで意図してかは分からないが、関わってそうな奴は一人知ってる。

 で、そいつはあの鬼を生み出す為の触媒を隠し持ってる。……恐らくは、2種類…つまり、メガラケルてんてーの破片と、触鬼の触媒。

 

 

「触鬼…聞いた事がない鬼だが…」

 

 

 そっちは後で纏めて説明するよ。

 ともかく、触鬼の触媒については、隠し場所に心当たりがある。移動させていなければ、こっそり回収できる筈だ。見張りの類は居ないからな。

 ただ、首謀者…虚海の居場所については、正直見当がつかん。この前の大戦では近所に居たみたいだが…。

 

 

「人相書きを作れ。密かに捜索しよう」

 

 

 作るまでもなく特徴的だけどな。何せ、顔の半分が鬼になってるんだから。

 

 

「…呪いか?」

 

 

 似たようなもんだ。長い間、随分な目に合い続けてきたらしい。

 だが、そうだとしてもこれは見過ごせん。

 

 

「そうだな。…しかし、本気で疑っていた訳ではないが…彼女ではなかったか」

 

 

 うん? いや、確かに虚海は彼女だった時期も…いや無いわ(今のループでは)。

 

 

「? 虚海とやらは、人の体に乗り移る事でもできるのか?」

 

 

 ? ? そういう術はあるかもしれんが、やらないと思うぞ。

 ? ? ? なんか会話が食い違ってないか?

 

 

「うむ…。俺が言っているのは、先日里を訪れた女の事だ。無論、顔が鬼になっているという事もない。ただ、時期が時期だけにあの鬼と何か関係があるのではないかと勘繰った。何せ、あの餓鬼が骸佐達の元から逃げのびて、その先で襲った女だったのだからな」

 

 

 あー、そういう事か。彼女って、連れ合いって意味じゃなかったのね。

 …ってか、そんな人居たのか。ってか、襲われて無事だったのか?

 

 

「うむ。脳天に一撃入れただけで仕留めたそうだ。だが、夜中の山中を彷徨い歩き、人知れず結界の中に侵入していた女だ。あまつさえ、忘失していると来たものだ。何者かと警戒もしよう」

 

 

 忘失…記憶が無いと? …あ、餓鬼に襲われて、その傷で…。

 

 

「傷一つ無い。忘失に関しては、本人がそう主張しているが、確認のしようが無いからな。疑いたくはないが、身元の確認すら出来ん上、問題になっている鬼に丁度遭遇したとなれば…流石に」

 

 

 積み重なり過ぎてるな、確かに。例えばあの餓鬼を生み出した張本人、ないし関係者が証拠隠滅を計り、それを目撃されたから忘失と言い張る…と考えられなくもない。

 正直、暴論だとは思うが。

 

 

「そうだな。俺としても、本気で疑っている訳ではない。身元を本人も思い出せない以上、予想もしない面倒事が出てくるかもしれん、とは思っているが」

 

 

 じゃあどうすんの。

 …まさか、追い出す?

 

 

「それこそまさか。大戦を超えたとは言え、腕の立つモノノフは一人でも欲しい。そもそも疑わしい、厄介事の規模で言えば、貴様らに比べれば可愛い物よ」

 

 

 人数的にもね。んじゃ、里で暮らしてもらうのか。

 …うちで引き取るか? まだ部屋は空いているぞ。

 

 

「やめておこう。貴様のお手付きとして見られるのが落ちだ。…それに、聞いているかは知らんが、お前達の生活環境に注目が集まっている。非常に快適で羨ましい、自分もあそこに住みたい…とな。新参者というだけでそこに放り込んでは、里に余計な確執の元を作る事になる」

 

 

 …ああー…。特に何も考えずに作って使わせてたが、確かに知られたらそうなるか…。

 うーん……そっちにある程度提供するのは構わないが、流出しないかが問題だな。それに、現状じゃ俺以外に作れる人間も直せる人間も居ないだろ。うちの設備が当たり前のように広まった後、俺が居ない時にぶっ壊れたらと思うと…。

 

 

「俺としても、得体の知れんものを生活環境の基盤にしたいとは思わん。無償で寄越せと言えるような関係でもない。とは言え…」

 

 

 あまり無碍にするばかりでも反発の元となる、か。

 …何か簡単なもの、考えてみっかなぁ…。要するに、俺以外でも再現できる人が居ればいい訳だし。

 何だったら、遊び場作って提供するって事もできるし。

 そうだな、プールなんかが簡単か? あー、でも衛生管理…いや川遊びみたいなもんだと思えば…。

 

 

 …話が逸れた。作るにしても、ちゃんと周囲と相談せにゃならん。

 作るだけ作って、俺達を無下にできないよう価値を上げる事も考えてたが、そればっかりでもイカンな。最悪、俺が修理工扱いされる事になってしまう。毎度毎度、俺も後先考えずに行動してるもんだ。

 治そうったって治せるもんじゃないね。俺自身は考えて、相談もして行動してるつもりなんだから。…これでもそうなんだよ…。

 

 

 ところで、結局その忘失した人はどうするんだ。腕がいいらしいが、忘失してるって事は心身に異常があると思われるのも事実。

 医者は何て言ってるんだ? 本人の希望は?

 

 

「検査した限りでは、異常は見受けられんとの事だ。だが、頭は神仏の領域だからな…。医者にも断言は出来ん。本人は至って健康と主張し、モノノフとして任を受ける事を望んでいる。記憶は無くても、鬼が敵だというのは忘れていないようだ。…後は、腹いっぱい食う為の生活費が必要、とも言っていた」

 

 

 既に生活の心配か。現実的な人だな…。暫く里の好意に甘えるのもありだと思うが。

 そういや、名前は?

 

 

 

「ああ、ホロウと名乗っている」

 

 

 

 

 

 

 

 

      は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄昏月拾禄日目

 

 

 えー、昨日は大騒ぎになりました。いや、いつものエロ的な意味なんだけどね。

 みんなの精子安定の為、という建前の元、既にお手付きの女衆を大部屋に集めて大乱交しました。一人一人をじっくり味わうのもいいけど、やっぱ俺はコッチの方が好きだな。何人もの美女を侍らせて王様気分に浸れる。

 数が多ければ多い程いい、阿保な中学生みたいな発想だが、実際人数が多ければ多い程、出来る事は増えるしなぁ。

 互いの肌を合わせ、あられもない姿を見たり見られたり、お互いを弄り合う事で、絆が深まる…と言うのも馬鹿にできない。実際、これで連携が上手くなった子は何人もいる。

 

 …それに感覚共有があるから、複数人の快感が混ざって頭の血管がキレそうなくらいの悦楽を産む事が出来る。この感覚の上限がどこにあるのか、俺にも未だに分からない。

 ともかく、「五月蠅くなりそうだから、里の友人のところに泊めてもらうわ」と言って屯所から出て行った男衆には悪いが、とにかく愉しい一夜になりました。

 勿論、足腰砕けて動けませーん、なんて有様にはしていない。むしろ腰回りが充実して、霊力的にも感情的にも張り切っている子達ばっかりです。

 

 

 

 …それはともかくとして。

 俺は今、女に会いに行くのに、柄にもなく緊張しています。本人には女という意識があるのかすら怪しいが。

 

 そう、言うまでもなく、ホロウに会いに行くのだ。護衛と称して離れない雪風を伴ったまま、ホロウが居ると聞かされた茶屋へ向かう。

 …あいつ、そんなに腹ペコキャラだったっけか? クール系の見た目とは裏腹に、意外とすっとぼけたというか、不思議ちゃん、真顔で突拍子もない事を言い出す奴ではあったが…境遇を考えれば、無理もないよな。人との関わりは殆ど無く、あってもクサレイヅチを追いかける度に強制的な別れとなり、新たな地では常識から何からまるで違う環境を強いられる。これで常識的な行動が出来る奴なんて居る筈がない。

 

 

「…ねぇ、どしたのよ? さっきから表情が硬いわよ、若。お腹でも壊した? 物陰でする?」

 

 

 おっぱい揉む、の上位版みたいな言い方してきやがったな、雪風。流石に俺も、パコッて腹痛が治りは…するな。

 何でもいいが、今はそういう事をしに行くんじゃないの。

 

 

「よく分からないけど、行くならさっさと行きましょうよ。少なくとも、ここで渋い顔してたって何も変わらないわよ。危険な事でもあるって言うなら、私も手伝ってあげるから片付けましょ」

 

 

 …昔の女の知り合いに会いに来た、って言ったら?

 

 

「手籠めにしちゃえば終わりじゃない、若の場合」

 

 

 ぐうの音も出ねぇ。俺だって、美人さんだとしても無理な相手は居るんだぞ。

 そもそもあいつとは、そういう関係になるとは思ってないし…。

 

 ええい、確かにこれ以上悩んでも時間の無駄だ。雪風の言う通り、当たって砕けるか。

 

 

 

 茶屋につくと、里の中では見ない顔が、マイペースに団子を頬張っていた。既に何本か平らげているらしく、その脇には皿と串が積み上げられている。

 そしてメニューに目を通す…まだ食う気か。

 

 傍らには使い込んでいる銃、頭に付けている赤い華の装飾…うん、間違いなくホロウだな。

 

 

 …失礼、相席いいか?

 

 

「どうぞ」

 

 

 こちらに大した興味もないらしく、メニューから目を離さずにあっさりと一言。…まぁ、偶然相席になっただけの相手をジロジロ見ていたら、それはそれで問題だが。

 そして俺と雪風は、意図的に相席になったホロウをジロジロと見ている訳だが。

 

 

「…うぐいす団子…いえ、ここは締めの三食団子…いえ、王道の白玉善哉…」

 

 

 …鬼を相手にしている時でも、こうまで真剣な目にならなかったぞ、こいつ…。俺らに見られている事に気付いてないのか、気付いてても団子を優先しているだけなのか。

 まぁいい、丁度いいからもうちょっと観察しよう。

 

 体に関しては正直、俺の知ってるホロウと全く同じにしか見えない。実際本人なんだしな。

 性格……かなり違うように…いや、やっぱそのまま…? 忘失が本当だとしたら、クサレイヅチを追う使命や、重い境遇の事も綺麗サッパリ忘れ去り、お気楽な部分が前面に出てきている可能性もある。

 

 うぅむ、本人なのは間違いないと思うが、以前のループの記憶を持っていたのかは分からんな…。

 …そうだ、こいつの持ち物はどうだろう? あのループの時と違う事……。

 

 まず真っ先に思い浮かぶのは、ホロウが使っていた鬼の手の制御装置…手袋だ。あれを持ってれば、俺と一緒だったループから色々受け継いでいると確信できる筈。…でも、それらしい物はない。

 外しているか、途中で置いてきたという可能性も…。

 

 …ああ、いや無いわ。

 あの時、クサレイヅチの視界を遮る為、ホロウが外してブン投げたんだった。結果、手袋は博士が言っていたようにマジで大爆発を起こし、クサレイヅチを追い込んだものの…人質とされていた千歳を見て動揺し、俺は逆に仕留められてしまった。

 鬼の手の制御装置は、あれで粉微塵になっている。そりゃ着けてる筈もないわ。

 銃に傷…目立った物はない。あの戦いの時でも特に無かった。特徴になるようなもの、無し。

 

 

 

 結論、マジわかんねぇ。

 と言うか、よくよく考えりゃ、覚えてたとしても意味ないんだよな。なんたって忘失してるんだから。無くなった事になっているのか、それとも忘れただけかという違いは大きいが、ホロウにとって俺が見ず知らずの他人でしかない、という点には変わりない。

 今後、記憶が戻った時が怖いと言えば怖いが…。先の事は考えても仕方ない。

 

 …ただ、確信を持った。やっぱコイツ、ゲームストーリー追加版の登場キャラだ。

 このタイミングで里を訪れて、凄腕モノノフ、ゲームでは登場してなかった銃使い、更に記憶喪失なんて香ばしいキャラが通りすがりの一般ピープルな筈がない。

 …と言う事は、クサレイヅチも追加版のボス鬼って事か。思う所はあるが……いや、少なくともゲームストーリーには、MH世界とGE世界を飛び回ってるなんて設定は無いだろう。全てがゲームと同じになってる訳じゃない。だが、このままいけば間違いなくクサレイヅチに遭遇できるだろう。そこだけは有難い事だ。

 

 

(ちょっと、いつまで観察してんのよ。暇なんだけど。知り合いじゃなかったの)

 

 

 忘失してる知り合いとか、こっちから一方的に知ってるだけの他人じゃねーか。

 おやつ食べていいから、静かにしてなさい。

 

 …確かに、観察して得られる情報なんぞこれくらいか。

 なぁ、少しいいか。

 

 

「お待たせしました。栗きんとんです」

 

「…………」

 

 

 話しかけた瞬間、マジの殺気を当てられました。飯の邪魔をするなって事ですね分かります。隣に居た雪風が咄嗟に反応しそうになるも、構えに移る前にホロウは栗きんとんに箸をを伸ばしていた。

 グルメ漫画よろしく、静かに、だが真剣に味わっているのがよく分かる。…ああ、グルメ漫画っつっても、孤独な方ね。ミスターとか、食ったら脱げる方のグルメ漫画じゃありません。

 …仕方ない。食事が終わるまで待つか。俺も甘い物食べたくなってきた。

 

 

 

 

 さっきの注文では締めと言いつつ、追加の注文を続ける事4度。ようやくホロウは食事を終えた。代金は…現代日本で言えば、一人で5桁到達に該当、かな。

 これ、どう考えても財布の中のハクを丸ごと使い切ってるだろ。

 

 

「…御馳走様でした。では、稼いで夜も来ます」

 

「ご、ごひいきに…」

 

 

 店主さんの頬と腕が引きつっているように見える…。明日奈に言って、誰かを手伝いに来させた方がいいだろうか。

 どうやらホロウ、任務を受けて、その報酬を当日の飯に使い切る、という生活パターンを構築しているようだ。まだ訪れて数日しか経ってないが…ああ、そういや前のループで会った時にも言ってたな。路銀は大切だとか、転移したらそれまで浸かっていた通貨がとっくに廃れていて、何度も素寒貧になったとか。いつ使えなくなるか分からないなら、貯蓄せずにそのまま散財するのも分からんではない。多少は貯蓄すべきだとは思うけど。

 

 あー、そろそろいいかな?

 

 

「? どなたでしょうか。私はこれから任を受けに行くのですが」

 

 

 …さっきから待ってたんだが、全然気づいてなかったんかい。

 いやそれよりも、一人で任務に行く気か?

 

 

「はい。他人との連携は苦手のようですし、報酬の取り分が減ります」

 

 

 報酬に関しては、複数の任を受ければいいだろ。その分、1件に対する労力と危険度が減るから、総合的に見ればそっちの方が稼げる筈だ。

 連携が苦手だというなら、無理に息を合わせようとしなくてもいい。鬼から狙われる確率が半分に下がるだけでも、随分やりやすくなるんだぞ。

 何で報酬独占の為に、一人で突っ込んでいこうとしとるねん。

 

 

「なるほど。では協力を要請します。これよりモノイワ20体の討伐に向かいます。受付所で落ち合いましょう」

 

 

 ……うん?

 首を傾げる俺を他所に、ホロウはすたすたと歩いて行ってしまった。

 

 

「…ちょっと、どうすんのよ。普通に巻き込まれたわよ、私達。まさか行くの?」

 

 

 …行くしかないだろ。小型鬼討伐とは言え、いつ何が出てくるか分からんのだ。放っておく訳にもいかん。

 うちの子達が同じ事をしたら、即罰則・再教育・最悪追放の行動だが、あいつはうちの子って訳でもないからな…。

 

 

「そうよね、戦功に目がくらんで突撃、援護や連携を蔑ろにして、自信過剰になって突貫。やったらいけない、って徹底的に教えられてきた事だもの。だから猶更、何かあっても自業自得だし放っておけば?って気持ちになるんだけど…」

 

 

 あいつも一人で戦ってた時期が長かったからな…。他人に合わせるのが苦手なのは分からんでもないが、あの強引で我が道な性格は素なのか…?

 正直、俺も一人で突っ込んで破滅する馬鹿なら切り捨てたいんだが、相手に用事や価値があるならそうも言っていられん。

 こっちから提案した助け合いを放棄するようじゃ他者からの信頼も損なわれるし、理解し合おうというならこっちからの歩み寄りは大前提だ。多少の傷を被ってもな。

 

 とにかく、俺の知ってるホロウなら、独特の理屈と行動原理で動くが、話が分からん奴でもない。流されてる自覚はあるが、もう少し付き合ってくれ。本格的に駄目だと思ったら、あいつが相手でも縁を斬る。

 

 

「…仕方ないわね。それじゃ、ちゃっちゃと済ませましょ」

 

 

 



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567話

筆が進まない…書き溜めができない…。
スランプと言うか、行き当たりばったりで話を進めてきたから詰まっていると言いますか。

単に暑すぎて気力がわかないだけかも。
4階でそこそこ風があるから、扇風機で充分…なんて思ってましたが、最近は特に夜がきつい。
エアコン、つけるべきか…いやしかしアンペアが…。
扇風機の風を冷たくする方法とかあったなぁ。
試してみようか…。


 

 討伐自体はスムーズに進んだ。小型鬼が相手だし、探す方が手間取ったくらいだ。大型鬼の乱入もあったが、ホロウは無理に戦おうとせず煙に巻いた。俺達も居るから、戦ってもよかったとは思うが…無駄な戦いをしないのは高得点だな。

 銃の腕も相変わらず見事なもので、精密機械のような正確さ。同じ銃使いの雪風が、対抗意識を燃やす程だ。…雪風にとって、銃は近~中距離武器だから、ホロウのような遠距離射撃とは分類が全然違うけどな。

 

 最後のモノイワを撃ち抜き、『どうやったらこの鬼を食べられるでしょう…』と呟いていたのを聞いて、雪風がドン引きしていた。

 …やっぱこいつ、以前に会ったあのホロウじゃないか? マホロバの里で、鬼を材料とした料理の研究とかやってたものな。ホロウはあれを食った事あったっけか?

 

 討伐数で負けていた雪風が歯噛みしていたところ、ホロウから唐突にこんな発言が飛び出した。

 

 

「協力に感謝します。…ところで、貴方達は誰ですか?」

 

「いやそこからかい!?」

 

 

 …マジか、こいつ協力要請までしていながら、誰を相手にしてるのかすら分かってなかったのか。自己紹介とかする暇もなかったから、名前も知らないのは理解できるが、せめて相手の所属くらいは確認しておくべきだろ…。

 忘失した時に、色々と無くしてはいけないものまで忘れ去ってしまったのではなかろうか。確か記憶喪失にも種類があったよなー、所謂エピソード記憶のみ吹っ飛ぶ場合と、常識的な事まで消えてしまう場合と…。

 

 

「任務について一家言あるようなので、ウタカタのモノノフと考えていました。ですが先程の戦いを見ると、武装も戦い方も一般的なモノノフとは異なるようです。あなた達は誰ですか? 私はホロウです」

 

 

 無表情のまま問いかけるホロウ。やっぱり、常識とかに致命的な穴が出来てる気がしてきたぞ。

 あー、俺達はウタカタ所属ではないが、諸々の事情があってここに居座っている流れのモノノフ集団だ。

 

 

「モノノフの集団…私が最初に出会ったあの男達ですね。あなたが彼らの頭領ですか」

 

 

 成り行きだが、そうなってる。

 話は聞いてるよ。忘失してるんだって? うちの子が拾ってきた…って表現もおかしいが、見つけてきた子と聞いたから気になってな。ああ、含む物があるって事じゃない。単純に気になっただけだ。

 

 

「そうですか。助言と助力に感謝します」

 

 

 …感謝はいいから、言動は改めてくれよ。最低でも、一人で突貫は勘弁してくれ。最近、ようやく何かというと一人で挑んでいくモノノフの悪習が改善されてきたんだ。

 ただでさえ狭いこの里で、人間的に孤立したら状況が悪くなる一方だぞ。村八分…いや里八分にでもなったら、ハクを持ってても飯が食えなくなる。

 

 

「その場合は異界や森で食材を確保します。…ですが、それは困ります。早急に改善しましょう」

 

「…なんか変な奴ね…」

 

 

 雪風、そう言うな。本人は言われても気にしないだろうが、俺達だって傍から見れば五十歩百歩だ。

 

 

「私とホロウ・50歩。若・100歩………100…? 1000…?」

 

 

 言いたい事があるなら、四つん這いになれば聞いてやらんでもないぞ。ただし豚の鳴き声で言うならな。

 まぁいい、とにかく帰ろうか。

 

 …何度か鬼の手を見せたが、あまり興味を向けなかったな。やっぱりループの記憶が無い…いや、逆にあるのか? 鬼の手は、威力も使い方も従来のタマフリは一線を画す。鬼と戦う者であれば、普通は大なり小なり興味を示すだろう。それを、見慣れたモノであるかのようにスルーする…。無意識でも記憶に残っていて、『珍しいものではない』と判断したとか?

 …やめた、考えても無駄だって結論したばかりだろうに。考えれば考えるほど疑わしくなってくるだけだ。

 

 差し当たり、伝えるべきはクサレイヅチに関してだよな。

 現状はどうあれ、ホロウはあのクソッタレを追い続けてきた。今は忘失しているとしても、いつか記憶が戻ってまた追いかけるかもしれない。…と言うより、まず間違いなく追加版ストーリー終盤近くで記憶が戻って、そこからクサレイヅチと決戦だろう。

 万一またしても取り逃がすような事があれば、また時空を超えて追いかける。いい加減、それも終わりにさせてやりたいもんだ。…俺のループも、な。

 

 幸い、俺が追いかけている因縁の鬼として、クサレイヅチの存在はウタカタのモノノフ達には話してある。

 追いかけている途中に何度か出会った、とでも言っておけば、ある程度の境遇は話す事が出来るだろう。異世界から送られてきた、人の魂を力に変えて戦う人造人間云々は置いといて。

 

 それでホロウがクサレイヅチを狩る事を志すかは分からないが、興味が無いと言い切るならそれはそれで構わない。正直、助力が必要なのは単体戦力のホロウより、クサレイヅチの因果剥奪を防ぐ結界を張れる樒さんとかだし、今のこいつの無軌道ぶりを見ていると、協力してもらったところでなぁ…という感想しか出てこない。

 とりあえず、話をするだけしてみるか。

 

 

 ホロウ、この後時間はあるか?

 

 

「いえ、夕飯の時間です」

 

 

 お、おう…。じゃあ、少し長くなるが、近い内に話がしたい。

 伝えておかなければならない事が……何故距離を取る?

 

 

「いえ、骸佐や明日奈を初めとした隊の方々から、『女に見境の無い色狂いだから、迂闊に二人きりにならない方がいい』と聞いていますので」

 

 

 …反論のしようもないが、そういう話じゃねーよ!

 

 

「若、信頼とか実績とか、あとこれまでの負債って知ってる?」

 

 

 雪風が負債何て言葉を知ってる事に驚いて、一周回って平静になったわ。

 別に二人でなくても構わん。信頼できる奴と一緒でいい。

 

 聞きたくない、興味が無いってんなら好きにすりゃいいさ。

 

 

「そもそも何の話をするのですか。ここで話せばよいでしょう」

 

 

 雪風に聞かれても別に困りはしないが、単純に異界の中で長話する趣味は無い。

 話の内容は、忘失してるお前の記憶についてだ。あまり長い付き合いだった訳じゃないが、一時お前と同行していた事がある。身の上も、ある程度ではあるが知ってる。

 証拠になる物なんぞ無いし、身の上話も深く聞いた訳じゃないがな。

 

 

「…………」

 

 

 ホロウの目が僅かに見開いた。信じるかどうか、迷っているのだろうか。

 …と言うか、正直今の行動を見ていると、自分の過去に興味があるのかさえ怪しかったな。そんな事より夕餉です、と一刀両断されたらどうしようかと思った。

 

 

「…夕餉の後で伺います。では、小腹が空いてきたので失礼します」

 

 

 それでもそっちが優先なのね。

 …なぁ雪風、不謹慎な事を聞くが、忘失してるってのはどんな気分だった? 目を覚ましたばかりの頃とか…。

 

 

「どう、って言われても…私はあんまり気にならなかったわね。今にして思うと、良くも悪くも暗示の効果に影響されてたんじゃないかしら。ほら、私達って若と話したりしてないと、どんどん不安定になっていくでしょ。でも逆を言うと、それさえしてればあんまり不安にはならない。…ひょっとしたら、なれない、かもしれないけど」

 

 

 …あー…成程なぁ。生来の能天気さもあるかもしれんが、不安になれないってのは有り得るか。滅鬼隊を操っていた前の連中が、捨て駒にしやすいようにそういう細工を施していてもおかしくない。

 それにしては、最初は一緒に居た皆に…特に伝子さんに…人見知りしていたような気もするが。まぁ、伝子さん迫力あるからな。あらゆる意味で。

 

 参考にはできんな、これは。元々ホロウ自身も独特のペースで行動してる奴だから、他の人を参考にしようってのが間違いかもしれんが。

 まぁいい。とにもかくにも、話す機会は得られた。知った後にどうするかはホロウ次第。どういう道を選ぼうと、クサレイヅチとやり合う時に手助けしてくれるならそれでいい。

 

 さて、雪風、帰るぞ。そろそろ活動限界も近いだろう。

 

 

「はーい。あーあ、雑魚ばっかりでつまんなかったわ」

 

 

 それでも油断してなかったのは褒めてやる。さ、帰るまでが任務だぞ。きびきび動け動け!

 

 

 

 

 

 

 

 帰り道、早速飯をカッ喰らっているホロウを見かけた。ありゃーまた当日中にオケラになるな…。

 

 

 

 

 そして、ホロウは宣言した通りにやってきた。しかも、狙ったかのように晩飯時に。

 …無言で催促され、客人として扱う事になってしまった。まぁ、一人分増えたくらいじゃ家計には響かないから、別にいいんだが…本当に図太くなったな、こいつ。

 ホロウを最初に発見した鹿之助達が積極的に話しかけている。気がある…とかではなく、純粋に心配してか。まぁ、助けた人が記憶喪失なんかになってりゃ、そりゃ気になるよな。当の本人はまるで気にかけていないようだが。

 

 いつもなら、飯を終えれば4,5人連れだってお楽しみの時間なんだが、ホロウと話をしなければならないのでお預け…としたところ、恨めし気な視線と、『また手を出す気か』みたいな視線が注がれた。…うん、そう見られても仕方ないって事は、昼間に雪風から散々言われたよ。

 でもちょっとだけイラッと来たので、オカルト版真言立川流秘術・遠隔強制絶頂の術で、その場で足腰立てなくしてあげました。一部、緩んで乙女の尊厳がアレな事になっちゃ子も居たけど、睦言中では潮吹きもお漏らしもいつもの事だから、気にしなくてもいいよね。

 味気ないから、普段は使わないんだけどねー、この術。女をヒィヒィ言わせてイかせるのは、やっぱ自分のチンチンでやってナンボでしょ。例外としても、バイブとかの小道具。それにしたって人の手が介在してなきゃ面白くない。薬に頼るのは…合意の上でプレイの範疇ならいいかな。

 

 ちなみに、突然矯正を上げてへたり込んだ子達を見て、ホロウは首を傾げていた。多少は性行為の経験があるような事を言ってたが、忘れているのかイッた事がないから理解できないだけなのか。何にせよ、へたり込んだ子達を他の子達が介抱しているのを見て、興味を失ったようだ。

 

 

 

 俺の自室に入ると、ホロウは何やら眉を顰めた。

 どうした。消臭玉だって毎日使っているし、特に不衛生にはしてないと思うんだが。まぁ、掃除してくれてるの、災禍とかだけど。

 

 

「はい、特に不衛生とは思いません。むしろ涼しく、片付いており、快適な環境だと判断します。ですが、部屋に入ると名状しがたい悪寒が走りました」

 

 

 悪寒ってお前……幽霊が出る部屋でもあるまいし。この建物、思いっきり新築だぞ。それこそ出来上がって半年も経ってないし、使うのも俺やうちの子達くらいのもんだ。

 何で幽霊なんか出るんだよ。

 

 

「幽霊と断定しているのではありません。霊力の類が染みついている訳でもありません。ですが、ここで何らかの強い情念が、繰り返し放出されたように思います。あくまで勘ですが」

 

 

 …お、おう…。強い情念、ね…。

 ……やっべ、心当たりありまくりだわ。だってここ、俺の私室だもの。言い換えれば…言い換えなくても、ヤリ部屋、乱交部屋だもの。

 強い情念? 性欲を極限まで肥大させて、それを脳味噌がパーになっちまうような勢いで、毎晩毎晩放出させまくっとります。

 更に言うなら、この部屋は…おかしな言い方になるが、『トドメを刺す為の部屋』だ。大抵の場合、まだ欲望に溺れる事へ抵抗を示す女を抱く時は、その女の部屋だったり、人目につかない何処かだったりする。そう言った女を堕落させ、ちんぽの為なら何でもする都合のいいメスに引きずり落す為の場所が、この部屋だ。妙な小細工など無い、正面から雄の力で屈服させる為の部屋。

 SM部屋も同じような役割の部屋ではあるが、あちらが拷問室なら、ここは処刑台のようなもの。

 大事な『何か』を快楽と欲望で塗り潰す為の部屋。出来上がって半年も経たないが、毎晩オスとメス、ご主人様と肉奴隷の情念が染み込んでいるのだ。

 俺は部屋の主だから何も感じていなかったが、そりゃ勘のいい奴なら寒気くらい感じるよなぁ。

 

 …が、それを教えたところで、話がややこしくなるだけだ。増して、ホロウをここで犯すつもりもない。

 第六感に訴えかける程の情念が染みついている部屋だが、逆に言えば第六感でしか感知できない程に、その手掛かり、片鱗となる物は無い。いくら悪寒がすると言っても、証拠が無いのだから証明だってできやしない。だから、単なる気のせいと言う事で押し切ろう。

 とにもかくにもホロウを座らせ、時子が持ってきてくれたお茶とお菓子で釣って誤魔化す。

 

 

 さて、なんか色々と、話をするまで時間がかかってしまったが…準備はいいか?

 

 

「はい。腹八分目ですので、眠くなる事もないでしょう」

 

 

 うちに来る前にも散々食っといて、まだ腹八分目かい。こんな腹ペコキャラだったかな、こいつ…。

 まぁいいか。痩せの大食いなんぞ、ハンターの間じゃ珍しくもないし。

 

 さて、どこから話したものか…。まず大前提として聞くが、『イヅチカナタ』というクソ鬼の名に心当たりはあるか?

 

 

「イヅチカナタ………いいえ、知りません。ですが……聞き覚えは…あるような…」

 

 

 …奴の名を聞けば、思い出すかと思ったが…そんな簡単な話じゃないか。

 イヅチカナタは特殊な鬼で、時空を回遊する力を持つ。一部の鬼は、時空を歪める力を持つとされているが、奴の能力はそれとは一線を画す。過去と未来、現在を漂い続け、大きな因果が集まる時代…歴史の変わり目に姿を現してきた。

 奴が与えた影響の大きさは…俺にも分からんが、どれ程の歴史に影響が出たやら。

 

 

「…その鬼が、何か。英傑のミタマを喰らい、歴史を歪めるのは、鬼であればどの個体でも行おうとする事です。規模は驚異的のようですが、それだけでは特別に危険視する必要があるとも思えません」

 

 

 …本当に、記憶を失ってるんだな…。この鬼の脅威を誰よりも知ってるのは、間違いなくホロウだったのに。

 この鬼の最も危険な点は、その隠蔽能力にある。こいつがいつ何処で出現し、猛威を振るったとしても、誰一人としてこいつの事を覚えていられないんだ。かつては、お前が産まれた国をたった一匹で滅ぼした…らしいのにな。

 クサレイヅチが持つ、もう一つの能力…と言うよりは、食事方法の為だ。

 

 

「私の国を滅ぼした…? 食事?」

 

 

 …国じゃなくて世界らしいんだけど、そこはややこしくなるから言い換えておく。

 あいつの能力は、因果の奪取。奪った因果を喰らうのさ。これを受けると…色々な症状になるが……例えば、過去から現在に続く因果を奪われると、その期間の記憶が無くなる。更に現在の因果を奪われる事で、過去の状況しか認識できなくなる。

 鍛えに鍛えて、鬼を斬る為に強くなって実際に何匹も鬼を斬ってきたモノノフが、それを忘れて新米になっちまう。前例はないが…下手をすると、鬼を倒したって因果を奪われたら、その鬼が復活してしまう可能性さえある。

 

 簡単に言えば、あいつの能力を受けた時点で、抵抗どころか情報を残す事さえ出来なくなるんだよ。

 極稀に『食い残し』が出たり、そういう人が記した書物に、ごく僅かに分かった事が記載されてるくらいだ。尤も、突然現れる正体不明の鬼で、姿も殆ど見せない、周囲はみんなおかしくなっちまった訳の分からない状態で、まともに情報収集なんかできやしない。遺されるのは、与太話扱いされても無理はないような情報だけって訳だ。

 

 

「…ならば、何故あなたは…そして以前の私は、その鬼を知っていたのですか」

 

 

 俺は単純。奴の『食い残し』だからだよ。尤も、どういう訳だか俺は奴につけ回されてるらしくて、何度も因果を奪われて、記憶を部分的になくしてるみたいなんだけどな。あれを叩き斬って、奪われたものを取り戻さなきゃ、平穏に生きるなんて夢のまた夢よ。

 ホロウの場合は…クサレイヅチが国を滅ぼした、って言ったろ。詳しい事は俺も知らんが、滅ぼされる寸前に討伐しろと送り出されたんだと。とは言え、ホロウ自身もあまり覚えてた訳じゃないらしい。クサレイヅチに因果を奪われて、その辺の記憶が無くなったのかもな。

 

「復讐でしょうか。それに関しては全く興味が湧きません」

 

 

 そうか。まぁ確かに、私情じゃなくて使命感って感じで追いかけてたな。

 何にせよ、俺が知ってるホロウはそういう奴だった。どうやってるのか知らないが、イヅチカナタが出現する場所を探知する事ができたらしい。ただ、俺と一緒に居た時には、どういう訳だからそれが出来なくなってたんだ。だから、クサレイヅチに纏わりつかれているらしい俺についてきた。

 

 大体こんなところかな。ああ、言ってない事は色々あるが、ややこしくなるから詳細は省かせてもらってるぞ。お前さんの様子じゃ、教えたところで理解も想像も追いつきそうにない。

 

 

「構いません。ここまで聞かされた事の中でも、左程琴線に響く情報はありませんでした。真偽の問題ではなく、単純に私の在り方の問題でしょう。以前の自分に興味はあるが、左程重視する理由もありませんので」

 

 

 …それじゃ、イヅチカナタを追う事はしないのか?

 

 

「考えるだけ無意味です。現在も、私はそのイヅチカナタの居場所を探知できません、追いかける事は不可能です。ですが、私はこの里から離れる理由も持ちません。必然的に、あなたの傍にいる事になります。ならば遠からず、私もイヅチカナタに襲われるでしょう。その時は自衛の為に戦うのみです」

 

 

 積極的に追いはしないが、どの道戦う事になる…か。確かにそうかもな。

 正直、それで通じる相手か、とも思うが……でも戦闘能力だけなら、俺一人で充分なんだよなぁ…。毎度毎度予想外の事が起こるから、余裕かましてられるような立場じゃないのは分かってるんだが。

 

 これでいいのかな、と考えていると、ふとホロウが口を開いた。

 

 

「…もしや、私の記憶はイヅチカナタに奪われたのでしょうか。目を覚ました時、激しい頭痛と割れた石が傍にあったので、頭部を強く打ち付けて忘失したと思っていたのですが」

 

 

 それは……どうだろうな。記憶喪失なんてそうそうなるもんじゃないが、全く無いとも言い切れない。ゲームシナリオ的に考えると……ガチで事故による記憶喪失か、因果簒奪か…どっちも有り得そうだな。

 知人から聞いた話によると、クサレイヅチから奪われた因果を取り戻す方法もあるようだし…でも条件が厳しすぎるというか正確な事は分かってないし、そもそもクサレイヅチの居場所まで辿り着く事もできん…。

 

 

「可能性はある、と言う事ですか。どの道、相対したら仕留める以外の選択肢は無いようですね。外見や生態など、詳細な情報を要求します」

 

 

 はいよ。ちょいと長くなるが…天音に追加の茶菓子持ってこさせるか。

 

 

 



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568話

最近、短めなのが多くて申し訳ないです。

テルマエ・ロマエのゲームってマジか…。


 

黄昏月拾漆日目

 

 

 ホロウに何もせず、話だけで終わらせた事に関して「何か悪いモノでも食べた?」と聞かれたので、一晩SM部屋に招待してお仕置きしました。お仕置きされるのが分かって、後から同じ事を聞きに来た子も居たけどな。色ボケしてるのは俺だけじゃない。

 それはそれとして、俺は暫く調査任務に付く。目的は勿論、虚海の発見と拘束だ。

 あいつは根っこがお人好しで、ポンコツで自棄入ってる癖に、逃げ隠れと陰陽術の腕は立つ。妙なところで悪知恵も働く。何せ、九葉のおっさんが手間暇かけて捕らえようとしてたくらいだ。捕らえれば終わりとはいかない。下手に捕らえれば、それを切っ掛けに『何か』が発動するように仕組んでいるんだろう。…大方、触鬼の出現だろうけどね。

 戦闘能力という意味なら、うちの子達の上位に食い込んでいる子なら問題ないだろうが、そういった搦め手は未だに苦手としている。加えて、何処に隠れているか分からないのに探索しろと言うのも無茶な話だ。

 

 その点、俺であれば虚海の手管はある程度把握しているし、一度捕捉できれば鷹の目なり何なりで追跡するのも容易い。

 自分で言うのも何だが、捜索には最適な人材だ。

 

 

 

 …と、思っていたのだが。

 

 

「若様! 見ていただきたい案件が!」

 

「若様! いえ旅の間に溜った書類が!」

 

「若様! 神夜さんが稽古をつけてほしいと!」

 

「若様! 里の人達からの嘆願が!」

 

「若様! 任務で張り切り過ぎてえらい事に!」

 

「若様! 茅場から話を聞かせてほしいと面会の申し込みが届いています!」

 

「若様! 給料前借りさせてください!」

 

「代理人を指名せずに居なくなるからこうなるのよ!」

 

「やっほー! ようやく体の具現化に成功したよ! これで前線で戦って自分の体で同衾できるね!」

 

「若様! 真鶴が博士の手伝いをさせられて、胃を痛めています!」 

 

「若様! 差し入れです! 食べてください!」

 

 

 

 あああああなんじゃこりゃああぁぁぁあああ!!!! どいつもこいつも若様若様と! ノイローゼにする気かい!?

 …いやまぁ、休暇明けの仕事なんてこんなもんだろうけどさ。溜っていた案件の確認だけで、丸一日潰れるとかあるあるでしょ。

 確かに、これは頭領としての代理人を指名してなかった俺の失策か。秘書執事組を業務分担の為の筆頭として据えたものの、頭領の許可を取らなければいけない案件はどんどん溜まっていく。秘書執事組が怠けたりしたとは考えられないので、どうしようもない案件だけが溜まってこれか。

 それ以外にも、久しぶりに俺とのスキンシップをとった事で、気合が入り過ぎたり、何でもいいからちょっとでも構ってほしいとばかりに話しかけてきたりする子もいる。

 

 …って、木綿季じゃねーか! しかも人形じゃなくて人間の体の! いつの間に!?

 

 

「一昨日のお楽しみで、色々満ち足りて出来るようになりました! これで十全に戦えるぞー!」

 

 

 はえー、カラクリの機能をそこまで完全に使いこなしおったか…。こりゃ凄い。

 体に触ってみても、本物の人間の体とまるで変わらない。ついでに言えば、鍛え方も物凄い。うちの子達にも引けを取らんぞ、この体…。乳のサイズはともかくとして。…この子は小さい方がエロいから、これでいいと思う。

 

 あれ、でも木綿季って、もっと幼い頃に病で亡くなったって聞いたぞ。何で育った体をここまで創り上げられるの?

 

 

「想像しまくった! それに、そのまま育てば自分がどんな姿形になるかなんて、大体わかるじゃん」

 

 

 普通はわからねーよそんなもん。

 その言いぐさだと内臓まで自分で想像したんだな。明日奈も言ってたが、冗談抜きで鬼才だな、こいつ…。

 

 

「まぁねー。それより…ちょっと忙しそうだね。いつもの、仕事中の傍仕え…今日は僕にしてみない? 体を作る時に、色々小細工してみたから…ちょっと自信あるよ?」

 

 

 君も欲望に素直だねぇ…。

 元々傍仕え担当が居るから、その子と一緒にな。

 

 

 はぁ、溜まっていた案件が一段落するまで、俺が直接探索に出るのは無理だな。

 虚海の行動を予測して、その辺りを重点的に探させるしかないか。うちの子達で探し出せるか、正直言って不安だ。

 例のアラガミと触鬼の混合状態の鬼だって、どこに出てくるか分からない。

 

 雑魚が相手でも油断禁物。ウタカタのモノノフ達と組ませて、迂闊な事をしないか互いに監視させ合うくらいのつもりでいた方がいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、この日は溜まっていた案件の確認だけで終わってしまった。

 それでも、新種の鬼についての通達と、首謀者と思われる人物(虚海)の捜索については伝達できたので、これはこれで良かったかもしれない。

 俺が探せば、近くにいる虚海を探し出せる確率は高くなるが、そもそも近くにいるかどうかさえ分からない。うちの子達の人海戦術で探せば、近くに居ても分からないかもしれないが、残された手掛かりを見つけられる可能性は高くなる。

 どっちがいいと言えたものじゃないが、全員の意識合わせが出来たと思えば悪い事じゃないか。

 

 問題は、虚海が敵視されないかって事かな。

 やらかした事が事だから、敵対者として扱われるのは仕方ない。だが、曲がりなりにも前ループで肉体関係まで持っていた(半ば無理矢理犯したようなもんだったけど)俺としては、切り捨てて終わりにするのに正直抵抗がある。

 一度抱いた女を手放したがらない、コレクションみたいに手元に置こうとし続ける、俺の悪癖だなぁ…。

 

 

 

 それを差し引いても、虚海を斬り捨てて終わりにするのは、ちょいと酷が過ぎると思う。

 虚海、もとい千歳。皮肉なもので、その名の通り1,000年の時を超えた女。元々は善良で素直そのもの。誰かの為に働く事に疑問も躊躇いも持たず、かつては人々を守る正義の味方の組織として、モノノフを結成した女。

 いわば、始まりのモノノフの一人。

 

 その功績の大きさは、今なお続く鬼との闘いを顧みれば、自然と分かるだろう。

 もしも千歳がモノノフを立ち上げなかったとしても、同じような流れで誰かが似た組織を作り上げていたかもしれないが…それにしたって、千歳の功績である事には違いない。

 極論、彼女がモノノフを発足させなかったとしたら、オオマガトキで溢れた鬼に抵抗できず、人は全て滅んでいた可能性さえあるのだ。

 

 友を増やし、仲間と一緒に戦い、鬼の脅威に対抗を続ける中、イヅチカナタとの決戦を迎える。

 その中で力及ばず敗れ、彼女はイヅチカナタの巣の中へ落ちた。時空のねじ曲がった空間の中を漂い、流れ着いた見知らぬ地。

 あまつさえ、その半身は我がものとは思えない程に変わり果ててしまった。

 異形の身で、人に受け入れられる筈もなく、石を投げられ追われる日々。

 

 …あのお人好しの千歳の事だ。いつかは分かってくれると信じ、酷い罵声や冤罪を甘んじて受けた事や、恐怖の目で見られるのを承知で力を振るった事も、一度や二度じゃないだろう。

 報われた事が全く無かったのかまでは分からないが、ああまで摩耗し、ねじくれてしまったのだから、報われた事があったとしても微々たるものでしかなかった筈だ。

 

 そして絶望し、最後に縋るのはかつての時代に戻る事。それが無理なら、もうすべて終わりにしたい、とさえ考えている。

 …こんな報われない話、あっていいもんかよ。探せばそこら中にある悲劇だとしても、いやだからこそ、目につくところに転がってるならぶっ壊してしまいたい。

 本人が死を望んでいるならそうしてやるのが慈悲だったとしても、虚海にはせめて『生きていて良かった』と思わせてやりたいんだ。そこから生きる希望が再燃してくれれば最高だ。 

 

 

 

 …幸いな事に、今のところはうちの子達にとって、虚海は見ず知らずの他人で、陰謀を企んでいる危険人物でしかない。危険視はしていても、個人的な怨恨は無いのだ。

 ならば、和解して身内認定してしまえば、この里は虚海にとっても第二の故郷になり得るだろう。

 ぶっちゃけ、うちの子達の中に入ってしまえば、あの外見もあんまり気にされないだろうしね。精々、夜中に厠に行く時にバッタリ会ったら漏らしそうになるくらいだろ。

 

 

 和解の手段? そりゃーいつものアレですわ。ちょっと犯罪っぽくなるが、前ループの時だってそれで有耶無耶の内にこっちの陣営に引っ張り込めたからな!

 処女かつ童貞なままだろーし、少なくとも雌の幸せって奴を強制的に嘗め尽くさせて懐柔します。

 少なくとも、『人肌の温もりなど、もうこの身に縁が無いと思っていた』なんて言わせません。…いや、過去形にさせるんだから、むしろ言わせなきゃいかんのか。

 

 

 

 ともかくそう言う訳で、当面は虚海の確保を優先して動く。

 …ちなみに、これに関する通達を行った時、きららから「それってつまり、抱きたいから探して連れてこいって事?」と言われました。…間違っていないから困る。

 かなり本気でブン殴られたけど、流石に無理もないわ。

 

 

 

 

 追記 木綿季の体はエロくてギミック満載だった。

 

 

 

 

 

 



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569話

店長が転勤してしまう…。
異動になってから、まだ1年経ってないぞ!
人事部、どうなっているのだね人事部!
コロナウィルス影響下で、退職者が何人も出て穴だらけなのは分かるが、本当に大丈夫か人事部!

あと、仕事の愚痴になるかもしれませんが、難癖をつけてくる客にはさっさと警察を呼べ、と学びました。
畜生、もうちょっと初動が早ければ、迷惑な客を出禁にできたのに!


黄昏月拾溌日目

 

 

 犯したいから攫ってこいと言われたようなもんなのに、律儀に指示に従ううちの子達は将来大丈夫だろうか…。

 いや犯す云々を差し引いても、新種の鬼出現の首謀者なのは決まったようなもんだから、探し出さなきゃいかんのだが。

 

 俺も、今日からは探索に加わる事が出来る。と言っても、各種事務作業後の余った時間で、だけどな。

 虚海が拠点にしそうなところをざっと巡ってみたが、痕跡は無い。うーん、あいつの事だからこの辺だろうな、と思ったんだが。

 ここらでないとすると…触鬼の触媒を隠していた、あの洞窟だろうか? あそこはちょいと遠いなぁ…。いや遠いからって行かない理由にはならないんだけど。

 

 

 …ん、いや待てよ…そうか、遠い。遠いんだ。あの虚海の隠れ家に行くには、曲がりくねった洞窟を抜けるか、雪原を一つ越えていかなければならない。

 人間だって気軽に踏破できる距離じゃないし、増して転移を使えるとは言え餓鬼が歩きで移動できる筈もなく。

 

 …大体からして、あいつはどこでアラガミの細胞を手に入れたんだ? 他所で、と言う事は有り得ない。この世界にある細胞は、メガラケルてんてーの体のみ…。

 そうか、あの時滅却した体以外にも、破片がどっか残ってたか。と言う事は、奴が潜んでいたのは里の中…少なくとも結界近辺だな。

 鬼に結界が効かないのは、それが理由かもしれない。結界内に取り残されていたアラガミ細胞が、その圧力を跳ね返す為の構成を学んでしまったんだろう。

 

 で、それを拾った虚海が、何の気なしに…考え無しにとも言う…触鬼の細胞と掛け合わせてしまったところ、あの鬼が産まれてきたと。

 …んー、でもその鬼が結界の中にわざわざ現れたってのがよく分からんな。

 確かに餓鬼は鬼達の斥候みたいな役割を果たす事はあるが、夜の山の中で一匹だけフラフラしてるってのも…。

 折角作り出した特殊な鬼を、捨て石にするみたいに放り出すってのも分からない。触鬼の触媒を使っているというだけでも、虚海にとっては貴重な戦力になる筈。

 

 そもそも、触鬼で混乱を引き起こそうとするなら、人里の近くに出現させる事自体、効率が悪すぎる。何処か離れた異界に何匹か放逐し、増殖させてから人里に誘導した方が、よっぽどの脅威になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 …ちょっと待てよ、虚海だぞ。あの虚海だぞ。悪党ぶったポンコツだぞ?

 なんか今までとはちょっと違った方向で、スゲェ嫌な予感してきた。

 

 

 

 …時子、ちょっと地図持ってきてくれ、地図。いや異界じゃなくて、里の近辺だ。

 えーっと、先日の大戦があったのがこの辺で…滅多切りにしたメガラケルてんてーの破片が飛び散ったのが……高度からして、これくらいと仮定しようか。

 で、この中でメガラケルてんてーの破片、残滓を発見したとしたら……………。

 

 

 …ポンコツ自暴自棄虚海ちゃん VS 欠片とは言え狡猾で殺意が沸くほど面倒臭いメガラケルてんてー+制御とか安定って言葉とは無縁のアラガミ細胞…。

 これは賭けが成立しないレベルの戦力差ですわ…。

 やっぱり、そういう事なのかね…猶更放っておけんわ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上に上って、山を見つめて目を凝らす。

 炎天下なんでウンザリする日差しだが、高所故に風があるのが有難い。

 

 足元…床下の自室から、秘書執事の声が聞こえてくる。

 

 

「む? 時子、若様はどうなされたのだ。また自ずから異界の調査か?」

 

「いえ、止めるつもりだったのだけど…何故か、里の内側に注目しているみたい。今は上で里を眺めてるわ」

 

「…里の中に何かがあると…? 若様の慧眼は、一体どこまで見通しているのか…」

 

 

 …慧眼って言われてもな。正直、その場その場の場当たりでしか考えられてないぞ。

 ついでに言えば、その中でも悪い予感ばっかりが的中する。あんまり褒められた事じゃねーよな…。

 でもその悪い予感が的中するのが、『考えもしなかった最悪の事態を間一髪で防いでいる』ように見えるらしい。物は言いようである。

 

 それはともかく、里の中に目を付けたのは、正直言って消去法だ。異界に虚海らしき痕跡が無く、触鬼の気配もない。

 となると、彼女は活動を控えて潜伏している…少なくとも、していたと思われる。

 

 確かにいい隠れ場所だろうな。里のモノノフは強者揃いとは言っても、一般人まで強かな訳じゃない。あいつの術の腕なら、人払いで誰も近付かない隠れ家を作るなり、2~3人の認識を誤魔化して居座るなりは難しくないだろう。

 どっかの家に居座れば、下手に外出こそできないが、衣食住は確保できるし、うまくやれば里の内情まで筒抜けだ。

 

 …いや、あいつの場合、隠れ家の方がありそうだな。人を操って利用する事に躊躇いない程度にはスレてしまってるが、他者との関わりを積極的に持ちそうにない。術をかけて操っても、誰かと話している内にボロが出る。そんなリスクを犯すくらいなら、山中に穴でも掘って立て籠りそうだ。

 あくまで類推だから、誰かの家に居座ってる事も考えて、様子見様子見…。

 

 

 …こうして見ると、長閑な里にしか見えないな。家に畑に河に山。普通の…オオマガトキ前の世界ではともかく、この世界の立地としては理想的だ。自給自足ができて、四方を囲む山が天然の要塞となり、結構な人が暮らしてもまだ余る土地が広がっている。

 各場所では、日々の暮らしに必要な作業を行っているのが見えた。洗濯、狩り、料理、鍛冶、農耕、釣り、そして鍛錬。武器を携えたモノノフの集団が、異界に向けて出発するのも見えた。あ、うちの子達も同行してるな。

 …ちょいと土地が余ってるね。空いた空間に、里人が使える遊戯施設でも作るか? 『あの涼しい環境が欲しい!』って声も上がってるそうだし…川の水を利用したプールなら、その後のメンテもそれ程難しくないだろうし。

 

 いかんいかん、考えが逸れた。

 里の中の隠れ家…まず真っ先に思い浮かぶのは空き家だが、流石に住んでいれば誰かが気付く。結界の効かない鬼に警戒して、モノノフ達が里の中まで巡回してるんだから猶更だ。

 術で誤魔化す…にしても、樒さんと橘花の探知を逃れるのは、いくら虚海でも難しいだろう。速鳥だって、術は分からなくても違和感はそうそう見逃すまい。

 となると、純粋に人目につかない場所で、出入りも難しくない…。

 

 …よし、大体の目星はついた。行ってみるかな。

 

 

 

 

 

 

 目を付けていた場所の内、4つ目の場所を訪れた。こうしてみると、里の中でも人目につかない場所と言うのは案外多い。常に人目が無い訳じゃないが、隠れ潜もうと思えば割とどうとでも出来るものだ。

 そういう場所こそ警戒するのが、速鳥のような忍者なのだが…。

 

 訪れた先で、その速鳥が何やら周囲を見回していた。

 よう、速鳥。何か探してるのか?

 

 

「む、貴殿か…。いや、以前からこの辺りでよく天狐や鳥を見かけていたのだが、最近様子がおかしい。何かあったかと確認にきたのだが…」

 

 

 警戒じゃなくて、天狐観察の時間かい。休日みたいだし、好きにすればいいけど…。

 …? いやちょっと待て、今までのループで、この辺に動物が集まる事なんてあったか? 確かにどこに居てもおかしくはないが…。

 

 速鳥、その天狐とかが居たのは…えーと、かなり前からか? 具体的には、俺達が里に来る前。

 

 

「いや、ごく最近でござるな。長く見積もっても、一月程度」

 

 

 …ひょっとして、この近くに速鳥が来たら、天狐が駆け寄ってきてたりした?

 

 

「……うむ…」

 

 

 それを目当てにここに来たのか…。でも天狐に限らず、動物がここに居て、速鳥の注意を惹いてたって事は…。

 速鳥、ちょっとこっち来てくれ。多分、この辺だと思うんだが…。

 

 

 速鳥を伴い、目を付けた場所へ。

 珍しくもない、民家の一軒家。裏側は藪になっており、普段人が立ち入る事は無い。

 

 

「…これは…!」

 

 

 速鳥が目を剥いた。そりゃそうだろう、藪の中に人が入れるような穴が、ぽっかり空いているのだから。

 大当たり、だ。動物たちがここで動き回っていたのは、近付いた奴や気付きそうな奴の気を逸らす為だろうな。

 

 

「天狐が、我々を謀って、この穴を隠していたと?」

 

 

 天狐自体に、そんな意識があったかは分からんけどな。

 こいつを隠していたのが俺の知ってる奴だとしたら、天狐に言う事を聞かせるくらい朝飯前だ。動物の言葉が分かるんだからな。

 ほれ、速鳥も知ってるだろう。謎の情報提供者だ。

 

 

「むむ…確かに、鳥を操って我らに文を届けていた。鳥に言う事を聞かせられるなら、天狐にも…。……何と羨ましい…」

 

 

 出来る奴は意外といるぞ。俺も特定の動物なら、挑発して大泣きさせるか我を忘れるくらいに怒らせるくらいの事はできる。

 他には……ああ、ホロウも出来たっけな、そう言えば。忘失した状態でも分かるのかは疑問だけど。

 

 

「興味深い話だが、それは後でゆっくりと聞かせていただきたい。今はこの穴が優先」

 

 

 そうだな。さて、鬼が出るか蛇が出るか。前者ならモノノフとして切り、後者ならハンターとして捌いて食おう。

 …と恰好をつけてみたものの、中はそう深い穴ではなかった。 すぐに突き当りがあって、上を向けば民家の床下が見える。

 

 

「新しい穴ではない…。そしてこの配置…。恐らくは、先代か更に前の代で作られた抜け道か、隠し倉庫であろう」

 

 

 隠し倉庫? 抜け穴にしろ、何だってそんな物が…。あぁ、ゲームストーリーで使ってた家にも、なんか仕掛けがあって

 

 

「この里とて、人同士の戦果と無縁でいられた訳ではない。鬼の事も知らぬ野盗が里を見つけて襲い掛かって来た事もあれば、大掛かりな戦に巻き込まれた事もある。そんな時の為の抜け道は、今でも里に幾つか残っている」

 

 

 成程ね…。そういや、マホロバの里にも抜け道があったな。しかも神垣の巫女の部屋に直行する抜け道が。

 

 

「何故そのような物を知っているのか、興味が尽きぬが…否、聞くまい。どうせ厄介事の種にしからなぬ…」

 

 

 偶然見つけただけなんだけどな。とは言え、里の守りの要への直通路を知ってるとあれば、場合によっては問答無用で消されかねんか。うん、余計な事は言わないようにするよ。

 …で、結局この穴は、そういう危険な事態に備えての穴か。見た所、完全に忘れ去られて手付かず状態だったようだが…。

 

 

「静かにしていれば、まず気付かれる事はあるまい。誰しも、己の足元に空間が広がっていて、しかもそこに人がいるなど考えもせぬ」

 

 

 考えてたら、むしろ精神的におかしくなってるよな。医者にかかるか、とにかく寝ろと意識を奪うくらいに。

 …生活の痕らしきものはある。

 茣蓙とか灯りとか、あと飯を食ったらしい痕。少なくとも快適な環境ではないな。だが暮らせない訳ではない。

 虚海の術を上手く使えば、引き籠っても生活に支障は出ないだろう。

 

 …とは言え、ここに潜んで一体何をしていたのか…。

 

 

「ここに居た御人が情報提供者であるならば、何故隠れるのか…。仮にも先日の戦で力を貸してくださった。疑わぬ訳ではないが、大和のお頭であれば無下にはすまいに」

 

 

 人間不信なのさ。

 …ん? これ、天狐の抜け毛だ。ここに出入りしてたのか。

 

 

「むぅ、餌で釣って手懐けたのか…それとも、言葉だけでそうまで仲を深められるものか…」

 

 

 一匹じゃない。少なくとも2~3匹が出入りしてる。

 ……うん? いやでも1匹の毛を除いて、ちょっと古いな。

 

 

「壁際に、爪の痕、寝転がった痕…。退屈を持て余してたようだ」

 

 

 穴の中をあちこち歩き回ってる。何かを調べてるとか、掘り出そうとしている…って動きじゃないな。

 単純に、やる事が無いから何となく…って感じだ。

 

 

「…天狐は気儘な性質。退屈しているというなら、一か所に留まる獣ではない。なのに留まっていたという事は、退屈を耐えるような明確な目的がある筈」

 

 

 どう考えても、ここに居た奴に用事があった…だよな。餌付けされて飯を食いに来たのか、友達に会いに来ただけなのかは分からんが。

 どちらにせよ、この天狐はあいつには会えなかったみたいだな。でも、何度も通ってる。

 

 

「行方不明の友が戻る事を信じて、何度も足を運ぶか…。くっ、なんと健気な…」

 

 

 感動して泣いてる天狐好きは置いといて、この分だと天狐は近くに居そうだ。足の向くまま、異界の中すら平然と歩き回るのが天狐という生き物だが、だからと言って特別足が速いという訳ではない。

 頻繁に出入りしているのだから、そう遠くにいる訳ではないだろう。

 とは言え、どうやって探したものか…普通に追うのが手っ取り早いが、ちと面倒だな。

 

 

「む? 探す必要なら不要でござる。この毛の色と艶からして、ホロウ殿に懐いている天狐であろう。彼女の元へ向かえば、自然と見つかる筈」

 

 

 

 

 

 

 

 速鳥の言う通り、飯を食うホロウの足元に蹲る天狐を見つけた。ホロウからもらったらしい団子を食っているが、どうにも元気が無さそうに見える。

 毛の色や艶、長さから見て、確かにあそこにいた天狐のようだ。

 

 

「む…どうしました、二人とも。天吉に何か用ですか」

 

 

 丁度飯を食い終わったホロウ。またオケラ常態かな。

 あー、ちょいと天吉に聞きたい事があるんだが…ホロウ、お前天狐の言葉って分かるか? 以前は分かったんだけど。

 

 

「ええ、しっかり翻訳できますが。天吉は今、落ち込んでいます。あまり無理はさせないでください」

 

 

 ホロウの言葉を理解しているらしく、「キュイィ…?」と弱弱しくも無駄に愛嬌のある動作で、俺達を見て首を傾げる天狐、もとい天吉。

 この時点で速鳥が使い物にならなくなってしまったが、まぁいいか。

 

 それじゃ天吉、少し教えてほしいんだけど。

 

 

『 ドウシ タノ』←天狐語を翻訳すると、こんな感じに聞こえます。ヒアリングは苦手なんだよ…。

 

 

 人を探してるんだ。体の半分が鬼のメス。名前は虚海。きっと、天吉と一緒に居たと思うんだけど。

 

 

『シッテル  トモダチ  ツレテ  イカレタ サガシテ オネガイ』

 

 

 潤んだ目(天狐が涙するなんて初めて見たぞ)で俺を見つめながら訴える天吉。

 速鳥でなくても一発で尊死しそうな愛くるしさだが、発言の方が問題だ。

 

 連れていかれた? 誰が、誰に連れていかれた? 何だかんだで、逃げ隠れするのは得意な奴だ。

 天吉が肯定したし、あそこに虚海が居たのは確実。あいつを連れて行く…つまり誘拐するって、相当難易度が高いぞ。

 

 

「私も天吉に頼まれ、異界を周って探していましたが、手掛かりとなる物は発見できていません。誘拐犯の目星をつけるべきでしょう」

 

 

 誘拐犯ねぇ…。里の中で、誰か不審な動きをしたり、居なくなった人を探せって事か?

 ……いや、あの床下の空間には、虚海以外の人間が出入りした形跡は無かった。一番新しい足跡も、自分の足で出て行ったものだし……外に出た時に攫われたのか?

 

 

「……ゲフッ 天吉殿は…その誘拐犯を、見ておられぬのか…」

 

 

 覆面の下の血をどうにかしろよ、速鳥。血に溺れて溺死するぞ。

 でも確かにそうだな。

 天吉、虚海を連れ去ったのはどんな奴だった?

 

 

『トモダチ』

 

 

 …? ごめん、言ってる事がよく分からなかった。

 天吉の他の友達が、虚海を連れ去った、って事?

 

 

『チガウヨ』

 

 

 …虚海が、虚海を連れ去った?

 

 

『ソウダヨ』

 

 

 …ホロウ、どういう事だかわかるか?

 自分で自分を連れ去るって、別に誘拐でも何でもないじゃないか。

 これ以上詳しい事は、俺の天狐語力じゃ聞き出せそうにない。

 

 

「少し待ってください。天吉、キュウゥキューンコンコンカーッ」

 

 

 無表情で天狐と語らっている。速鳥が人生の師を見つけたような顔をしていた。

 

 

「…お待たせしました。虚海とやらは、失踪する直前におかしくなっていたようです。何かに取り憑かれたように譫言を繰り返し、操られているような有様だったそうです」

 

「おかしくなってしまった本人の足で、何処かに行ってしまった。だから友が友を連れ去った、という事か」

 

 

 そのようだな。しかし、あいつを操る…ねぇ。鬼…じゃまず無理だな。結界の中に術を届かせる鬼は居るが、虚海が今更そんな術中に嵌るとは思えん。

 完全に不意を突かれた上に、未知の『何か』に遭遇したとしたら…。

 

 …………ああ、大体わかった。

 

 

 

 あの阿呆、アラガミ細胞に取り込まれやがったな。

 

 

 取り込まれるというか、取り込むというか…感染、と言った方が正確かもしれない。

 鬼の体の方か、人の体の方かは分からないが、触れた時に何らかの切っ掛けで細胞が活発化し、取り付いたんだろう。

 

 例の結界が効かない鬼を作り出した時か? いや、実験中に取り込まれ、操られた結果あの鬼を作り出したって線もありそうだ。

 

 

 …しかし、この世界でアラガミ細胞が動くとして、その目的は? 終末捕食を起こそうとする世界ではない…となると、食欲か。

 俺も制御できるようになるまでは、散々空腹に苦しめられたからな。

 

 隠れ家から出て行ったのは、飯を求めてか、そのままだと天狐すら食ってしまいそうだったからか。どっちであっても、アラガミ細胞による行動と、自発的な行動の2通りの理由が考えられる。

 何にせよ、こりゃ人里近くには残っていそうにない。意識を乗っ取られて下手に暴れでもしたら、その場で討伐対象とされてしまう。

 

 

 …まだ虚海の意識が残って、それなりの判断ができているのだとしたら……よし、行き先の見当がついた。

 

 

「真か。一体どこへ…」

 

 

 …消し飛ばされた、古の領域。あそこなら人も居ないし、鬼すら畏れてか近付かない。

 おかしくなってしまったとしても、周囲に被害は無いだろう。

 

 

「………! あそこか…。よもや、異物に精神を蝕まれながらも、他者の被害を考えて…」

 

 

 いや、多分打算の問題だ。意識を乗っ取られていては、いざ戦いとなっても策謀を巡らす事もできないし、逃げ出す判断すらできるか怪しい。

 周囲に何もないなら、意識が無くなっても危害を加えられる可能性は低い。

 まぁ、結果的に周囲の心配をしていると言えなくもないがね。

 

 

「何れにせよ、確かにあの場所は我々も避けてきた。…どの道、一度は調査する必要があるか」

 

 

 …そーいやあそこ、毒みたいな緑の燐光があったんだっけ。

 早い所行かなきゃ、アラガミ細胞がまた余計な物を取り込むかもしれんな。その前に、虚海が倒れる方が早そうだけど。

 

 速鳥、悪いが大和のお頭への報告を頼む。

 俺は古の領域に直行する。

 

 

「一人で行く気でござるか。単騎特攻を戒めていたのは、他ならぬ貴殿であろうに」

 

 

 他の事ならそうするが、こればっかりは準備をしようが人を増やそうが意味が無い。

 あそこの緑の燐光が消えない限り、人が立ち入る事は出来ん。

 俺はあの燐光に耐性がある。敵の出現が考えにくい以上、今回は一人で向かうのが最善策だ。

 

 

「その燐光と言うのは、どのような毒でしょうか。私も毒には耐性がありますが」

 

 

「あれは尋常の毒ではない。恐らく、鬼や人が使う毒とは根本的に違う何かでござる。近寄るべきではない。…と言うより、貴殿は何故耐性があるのだ」

 

 

 あそこを消し飛ばした鬼は、俺の知り合い(という設定)だって言ったろ。クサレイヅチを追いかけている間に、何度か同行した事もあって…まぁ、その時に色々あったんだよ。

 ホロウなら案外耐えられるかもしれないが、正直試してほしいとは思わんな。

 

 …とは言え、虚海を確保できたとしたら、運搬役は必要か。うちの子達と一緒に、古の領域の外で待機してほしい。

 

 

「了解しました。天吉の友人の為です。一肌脱ぎましょう」

 

 

 

 

 

 



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570話

 

 

 

 

 さて、そういう訳で、やってきました古の領域。相変わらず何も残ってない。時折、緑の燐光が振ってくるが、その頻度は以前より低くなっているように思える。

 上手くやれば、燐光に触れずに奥まで歩いて行く事も出来るかもしれない。ただ、目に見えなくても毒素は残っている筈だ。歩いているだけでも、毒に蝕まれていくのは避けられまい。

 

 ここに虚海が居るのか、だが……ビンゴらしい。ここに来るまでに、虚海の物らしき痕跡が幾つかあった。

 

 

「ここが古の領域、だった場所…。鬼に消し飛ばされたとは聞いていましたけど…なんだか怖い…」

 

「同感です。虚海とやらは、よくここに平然と入っていけたものです。…それに、奇妙な音が聞こえます」

 

「ええ、何かが噴き出すような音が、かすかに…」

 

 

 運搬役として連れてきた まり とホロウが、口々に評する。

 ホロウでさえ、入って行くのを躊躇うか…。ここを消し飛ばした時の俺、一体どれだけガチギレしていたんだか。それとも、単純に残された毒を恐れてか。

 

 二人が聞こえている音は、俺も聞こえる。領域の奥の方から聞こえるようだが、自然に起きるような音ではない。…なんつーか………貯め込んだ空気を、猛烈に吐き出しているような? モンスターや鬼のブレスとも少し違う印象だ。

 

 

「あの…若様、その虚海と言う人の足跡ですけど、おかしいですよね。途中で元気そうになったり、ふらふらと左右に揺れながら歩いたり…」

 

 

 ああ、ころころと状態が変わったな。にも関わらず、まっすぐこの場所を目指していたように見える。

 アラガミの意識か、虚海の意識かは微妙なところだが、ここに拘る理由でもあったのか?

 

 …何にせよ、見つければ分かる事か。

 それじゃ、手筈通りにここらで待機し、退路の確保を頼む。中に入った俺は、一定時間ごとに狼煙を打ち上げる。もしもそれが絶えるようであれば、緊急事態と判断して救援を求めろ。速鳥がその辺の手配をかけてくれている。

 

 

「承知しました。武運を祈ります」

 

「気を付けて…」

 

 

 まり の心配そうな声に軽く手を振り、古の領域へ進む。

 どっちに行っても何も無いのは分かっているから、音が響いて来る方向に向かう事にした。

 …意外と砂埃が激しく、見通しが悪い。

 

 俺に緑の燐光は効かない筈だが、やはり気分がいいモノではない。一部の人にとっては、脳髄が逆流するほどヒャッハーな気分になれると評判なよーだが、少なくとも俺はその範疇に入らないようだ。

 

 ………虚海はどうだったんだろうか?

 いや、体が半分鬼だっつっても、この毒に耐性があるとは思えない。仮に鬼の方にあったとしても、人間の体にゃ毒だろう。

 アラガミ細胞にとっては? ……学習する恐れはあるが、やはり最初は基本的に毒。

 とても有難がるとは思えない。

 

 

 

 …でもなー、なーんかさっきから嫌な予感してるんだよな。今でも充分話がややこしいけど、更に面倒くさくなる予感が。

 大体、ここに望んで歩いてきたのだとしたら、十中八九狙いはこの燐光だ。誰も居ない環境、と言うのも狙いだったのかもしれないが…食欲の化身であるアラガミ細胞が、喰らう物の無い場所に来たがるとも思えない。

 

 

 …噴き出すような音と、砂埃が激しくなってきた。砂嵐と言ってもいい程になりつつある。

 思えばこの砂も奇妙だ。今までこんな砂煙は立ってなかったし、風だってそこまで強くなかった。だというのに、前方…つまり音が響く方向から吹き付けてくる。

 …断続的な振動まで響いてきた。

 目の前には、一際濃ゆい砂嵐が壁のように吹き荒れていた。

 久しぶりだな、ここまであからさまなのも…。

 

 

 

 

 どう考えてもボス部屋手前の演出です、本当にありがとうございました。

 

 

 

 

 ついでに言えば、ちょっと信じがたいが、この音と砂嵐の原因も見当がついた。

 …えー、マジ? よりにもよって、そっちの方面に行っちゃう?

 と言うより、何でそこに辿り着いてるの? 確かにこの燐光に関係してはいるだろうけど、そっちの情報なんて全く無かった筈よ?

 

 …色々と世界観がぶっ壊れる覚悟を決めて、砂嵐に腕を突っ込む。気分的には、砂嵐と言うよりは白い霧に侵入していく感じだった。

 世界の壁を破って侵入したような感触を突っ切り、砂嵐の中に入ると。

 

 

 

 

 

 

 そこには全長5メートルくらいの、全身機械鎧の巨人が蹲っていました。

 

 

 

 

 緑の燐光を、ごく僅かに纏っています。

 

 

 

 背中の噴出口らしい部分から、猛烈な勢いでジェットが噴き出し、砂を舞い上げています。わー、砂嵐の原因はこれだったんだねー。 

 

 

 

 浮き上がっては落下し、地響きを立てる。どうやら空を飛ぼうとしては失敗しているらしい。鬼なんだから、物理法則無視して飛ぶくらいの事はできそうなのにネ。

 

 

 

 

 右腕には見覚えのある杭。俺の鬼杭千切によく似ているネ! このループで使った覚え無いのに。ていうかとっつき…。

 

 

 

 鎧の隙間、本来であれば関節や接続部があると思われる個所には、これまた別の意味で見覚えのゼリー体がはみ出している。…あれ、GE世界のヴィーナスと同じ物じゃね?

 

 

 

 そして、本来コックピットがあると思われる部分は剥き出しで、そこには四肢を埋め込まれ、脱力して俯く虚海が。ああ、やっぱりパーツとして利用されてるのね。

 

 

 

 

 

 俺が砂嵐の中に入って来た事に気付いたのか、巨人は背中からのジェット噴出を止め、顔を上げた。

 鋭い曲線で構成された顔の真ん中で、単眼が不気味に光を放つと、埋め込まれていた虚海を覆うように鎧が閉じていく。

 

 着地の衝撃で膝をついていたが、ゆっくりと立ち上がり、俺に向き直る。全身に力が漲り、戦闘態勢に入った事が分かった。

 燐光を身に纏う………うん? 緑ではなく、赤? …俺の知らないエネルギーの可能性がある。耐性は当てにしない方が良さそうだ。

 

 

 俺が神機を構えるよりも先に、巨人が動き出す。轟音と衝撃波を伴い、巨体の印象を裏切る猛烈な加速度で飛び上がり、片腕に装着された銃らしき部分から実弾が降り注ぐ。更に踏みつぶそうと圧し掛かって来た。

 足元を潜り抜けるようにして擦れ違い、抜き放った神機(銃形態)で反撃するが、フィールドのような物に弾かれる。

 

 砂塵が巻き上げられているが、お構いなしに膝裏のヴィーナスっぽい部分を狙って突撃・刺突。だが方向転換すらせずに、背中のジェット噴出で迎撃された。

 複雑に吹き荒れる砂嵐が、巨人の姿を覆い隠す。どういうカラクリなのか、あの巨体を全く探知できない。空に浮かぶにしても、地面を歩くにしても、あの巨体なら確実に震動がある筈なのに、それが無い。

 

 

 

 考えるより先に、体が勝手に反応した。正面に対して全力で防御態勢。砂の幕で隠されたすぐそこから、強い光が放たれる。

 考えられる限りの強化を施した神機とバフ越しでさえ、全身に響く重い衝撃と、明らかに体を犯す異物感が貫いてきた。連続で放たれた砲撃が、盾だけでなく周囲にも着弾し、裏側から爆発を届かせる。地面が砂だけでよかった、石や岩があれば破片で傷を負っていただろう。ダメージ無し、状態異常はあるが詳細不明なので漢方薬(この世界ではこっちの方が手に入れやすい)で対処。

 …成程ね、隠れたんじゃなくて、探知できなくさせてたのか。動かなければ、あの巨体と言えども震動は無い。認識できなかったのは、ステルスフィールドか隠のタマフリみたいなものだろう。ついでに言えば、正面から不意打ちをしかけられるという意識は少ないので、奇襲の成功率もかなり高い。

 

 こいつは、単なる鬼とは違う。アラガミとも、モンスターとも違う。

 明確に自分の能力を把握し、戦術戦略を練り、現在進行形で進化する、最も厄介な存在だ。

 

 久しぶりに本気でヤバい。だというのに、俺の心が湧きたっている自覚がある。

 このところ、手応えの無い敵ばかりだった。(メガラケルてんてーは割と面倒だったが)それどころか、自ら狩場に立つ機会すら少なくなる始末。

 

 退屈してたんだ。

 

 強い敵と戦いたくなる。

 

 身体は闘争を求める。

 

 アーマードコアっぽいのが目の前にいる。

 

 アーマードコアシリーズの収入は増えないかもしれないが、俺大歓喜。

 

 フロムとコラボしたい(身の程知らずこの上なし)

 

 

 …いや、一回コラボと言うかクロスしてたな、夢の中で。

 ま、いいや。とにかく…やろうか。まり やホロウには悪いが、連絡している余裕も暇もない。戦いの音が響くだろうから、それで生存を知らせるしかないだろう。いや、そんな事考えてる暇すら無さそうだ。

 

 久しぶりに、頭領としての立場も、三つの世界の関係も、女の事も、イヅチカナタの事も忘れ、目の前の獲物を狩る事だけに没頭した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …何で俺は、鬼が跳梁跋扈する討鬼伝の世界で、世界観無視したハードボイルド機動兵器と闘ってるんだろうか?

 

 

 



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571話

 

 

 

 

黄昏月拾玖日目

 

 

 

 いやぁ~、ヤバかったヤバかった。本気で強いでやんの。絶対アレはレイドボスの類だよ。

 戦ってるうちに、ガンガン進化していきやがって…ジャンプは最初からやってたけど、途中からホバリング、クイックブ…もとい短距離ダッシュ、空中ダッシュ、浮遊と、機体を動かしている間にあっという間に学習・応用していきやがった。もうちょっと時間かけてたら、多分超々長距離の音速越え移動とかも使い始めたね。流石はアラガミ細胞と言うべきか。

 殴っても殴ってもダメージの蓄積が見えないと思ったら、いつの間にやら周囲の緑の燐光を取り込んでエネルギーに変換、自己修復なんて芸当まで身に付けていた。

 戦い方もどんどん狡猾になるし、秒単位で武装が洗練されていくし。

 

 逆に、こっちは赤い燐光の毒素除去が間に合わなくなっていき、動きが鈍りかけた所に一発受ければ即死確定の踏みつけが………いや、一発までなら耐えられたな、多分。ラオシャンロンに踏まれても死なないからね。でも多分、連続ストンピングとかするつもり満々だった。一回受けたら、抜け出すのはちょいと厳しそうだ。

 

 

 

 

 あと何がヤバかったって、熱くなりすぎて虚海の事忘れるところだったんだよネ! 最後の時なんか、危うく胸部装甲ごと鬼杭千切・乱舞でブチ抜くところだったZE! 咄嗟に神機と刀の二刀流で、抉るように装甲を切り払い、虚海の服に噛み付いて強引に引きずり出した。

 まぁ、いい予行練習になったけどね。丁度、クサレイヅチに取り込まれた千歳があんな感じだった。今回と同じ要領でやれば、千歳を傷つける事なく救出できるだろう。

 

 …まぁ、その行動切り替えの一瞬の隙を狙われて、ただでさえボロボロだった体に、トドメが入っちゃったんだけども。いやデスワープはしてないよ。

 俺もあいつを見習って、緑の粒子を生命力に還元する術を身に付けたから。虚海を連れて戻る時には、装備は滅茶苦茶だけど、俺自身は軽い重症で済んだってくらいまで回復していた。…軽い重症? ライフが1でも残っていれば、俺達は元気いっぱいに走り回れる。ライフが0になっても、リンクエイドなり猫車なりの後はまた全快する。要するにそういう事だ。

 

 

 もう少し、奴との闘いについて語りたいところだが……いや、やっぱり辞めよう。言葉にするのも無粋だし、何となく特別な闘いだったように感じる。無暗に人に漏らすものじゃない。

 と言うか、正直それどころじゃないからね。

 

 帰ってくるなり医務室に引っ張り込まれ、物凄い勢いで色んな人から説教を受けています。しょーがないでしょ、実際時間をかけたって突入できる人数が増える訳じゃないし、虚海の身がどんどん危険になっていくだけだったんだから…。

 反論したら更に怒られた。

 

 いや、反論して怒られるのも無理はないか。俺を助ける為に、相当な無理をしようとしていたみたいだからな。

 俺が古の領域から出てきた時には、救援部隊が待機していた。うちの子達だけじゃない、里のモノノフもだ。

 桜花、息吹、速鳥、那木……そして橘花。

 

 …そう、橘花。橘花だ。尻穴狂いの神垣の巫女だ。どうしてここに居るのか素で分からなかったが、話を聞いて仰天した。

 

 

 

 なんと、俺の救援の為に、里を一時無防備にする事を決めたらしい。ここに居ない面々は、揃って里の防衛についている。

 

 古の領域は強力な毒で満ち、とても生身では入って行けない。だったら、毒を弾く結界を使えばいいじゃない。

 と言う事で、結界の専門家である神垣の巫女を引っ張って来たのだそうだ。…正確に言うと、橘花が現場に押しかけて来たらしいけどな。毒を弾く結界には相当な力を籠めなければならず、遠距離で結界を張るのではとても足りない。だったら出来るだけ近くで術を使えばいい。

 …理屈は単純だし分かるが、これが大変な決断であった事は言うまでもないだろう。

 

 神垣の巫女を、異界に連れてくる。この時点で正気を疑われてもおかしくない。

 鬼に奇襲でも受けたら、戦う術のない巫女を守りながらの戦いになる。もしもそれで橘花がどうにかされてしまったら…。

 いや、それ以前に、モノノフと違って瘴気への耐性も低いのだ。戦わなくても、活動限界までに戻れず死んでしまう可能性は非常に高い。

 

 さらに言えば、里を守っている結界だ。術者の橘花が離れてしまえば、当然結界は消える。

 …俺を助けに来る為に、里を無防備状態にするとか、誰が予想できるよ…。

 

 

「貴様を助ける為だけではないがな」

 

 

 あ、大和のお頭。

 

 

「確かに結果的に見ればそうなるか。聞けば、例の鬼を生み出した下手人がそこにいると言うではないか。放置しておく事は、とても出来ん。更に、貴様は自分一人の為…と考えているかもしれんが、その一人はこの里の半分近い戦力を纏めるのに欠かせない一人だ。貴様が居なくなれば、比喩でも誇張でもなく彼女達は破滅する。路頭に迷うくらいならまだいい方で、狂い死にさえする可能性があるのだろう? お前は自分一人を助ける為と思ったかもしれんが、実際は彼女達を、そしてその戦力によって助けられている里の皆を助ける為でもある。ついでに言うなら、お前の扱いはシノノメの里との関係にも大きく影響を及ぼすだろうからな。全く、軽率な言動とは裏腹に、無駄に重要人物になりおって」

 

 

 否定はできんが、随分話を大きく持ってきたな…。

 それにしたって、里を無防備にするとは思わなかった。

 

 

「まぁ、異界浄化の影響もあり、最近の里近辺には鬼が少ないからな。襲撃を受ける可能性は低いし、仮に受けたとしても、短期間ならば撃退できるだけの戦力はある。そう分の悪い賭けという訳でもなかったさ」

 

 

 それにしたって大博打だったと思うが…いや、助けにきてくれようとした上に、俺がそれを無駄にしちゃった訳だから、もうこれ以上何も言えんな。

 話は変わるが、虚海はどうした? 事の張本人……と思われるとはいえ、あれも俺の知人ではある。先日の戦での情報提供者でもあるから、あまり無体には扱わないでほしいんだが…。

 

 

「無体も何も、未だに目を覚まさんから寝かせておくしか出来る事が無い。監視はつけているがな。…ただ、検査したところによると、体のそこかしこが変質しているらしい」

 

 

 変質…鬼の体の事なら、あいつは以前からそうだったんだが…。

 

 

「それとはまた別に、だ。茅場が狂喜乱舞して服を剥こうとした、と言えば分かるか?」

 

 

 はい牢屋行。…アラガミ細胞に気付きやがったか。しかし、虚海を剥こうとしたって事は……虚海にアラガミ細胞が? またややこしい事に…。

 古の領域で戦った姿からして、多分アラガミ細胞だけじゃないだろう。学習してあそこまでの技術力を実現できたとしても、どう考えても素材が足りない。

 虚海が持っていた触鬼の触媒も無くなってたし…どう考えても、取り込んであの機械巨人の素材にしてる。で、虚海はその機械巨人に取り込まれていた訳で…。

 

 下手すると、俺と同じようにアラガミ細胞・触鬼の触媒を取り込んで、ミックスした何かになっている可能性がある。

 …暴走してないのが奇跡だな…。

 

 

「検査は博士に任せたが、結果は似たようなものだったな。目の色を変えたぞ」

 

 

 …余計な事をしないように、釘を刺しておくか。鬼にせよアラガミにせよ、いくら博士が天才だとしてもそうそう手に負えるようなもんじゃない。

 と言うか、思えば天才の類ほど、アラガミ細胞を上手く扱って、その後に暴走させてたような気がする。…アラガミ細胞自体が、自分達を扱おうとする天才の思考回路を学習してたんじゃないかと思えてきた。

 

 

 どっちにしろ、虚海に関しては目が覚めるまで待つしかないか。

 

 

 

 

 …あ。

 

 

 ごめん大和のお頭、ちょっと通達しておいてほしい事があるんだけど。里だけじゃなくて、うちの連中にも。

 

 

「構わんが、何だ?」

 

 

 また新種の鬼が現れる可能性がある。今度は古の領域近く…或いは、里からそこに至るまでの経路で。

 こう……蚤…いや、状況を考えると蜘蛛? 外見はササガニの新種みたいなものになりそうだ。

 

 

 

「ふむ…。戦力は? また、そやつが現れると思う根拠は何だ? 名はあるのか?」

 

 

 鬼じゃないんだが、俺の知ってる伝承だと『AMIDA』って呼ばれていた。

 主な移動方法は飛び跳ねる、そして近寄ってきて自爆。物によっては酸を吐く。下手をすると飛ぶ。

 それと、状況にもよると思うが、阿保みたいに頑丈でしぶとい。

 

 尤も、最大の脅威は武装じゃなくて、精神汚染能力だけどな。

 見た目は気持ち悪いの一言なんだが、どういう訳だか暫く接している人間が可愛い可愛い言い出して、女の子扱いしたり男の娘扱いし始めたり、脳味噌を擽るような可愛らしい声の幻聴を聞き始め、異様な輝きを放つ目で猫かわいがりし始める。

 

 

「   うん?   」

 

 

 こいつが現れると思う根拠は、虚海を回収する時に戦った……鬼と呼んでいいのか分からんが、とりあえずあの鬼だ。

 あれもとある地域の伝承にある存在なんだが………少なくとも、虚海も、虚海を乗っ取った奴も、この伝承を知ってる筈がないんだ。

 でも、それを再現していた。

 

 

「……なんか色々引っ掛かるが、それで?」

 

 

 機会鎧巨人を再現したんだったら、AMIDAを再現しない筈がない(断言)

 と言うか、鬼が再現しなかったら、自分で開発しそうな奴らが近くに2人もいるんだよぉぉぉ!!!

 

 

「理由になっとらんわ! …いや、しかしあみだ…あみだ、か。…考慮に入れておこう」

 

 

 おろ? 自分でも正直、根拠にならないと思ってたんだが…。

 

 

「何だかんだで、貴様の嫌な予感は大体的中してきたからな。…それに、目を覚まさない虚海だが………魘されていてな。…譫言で、網がどうの虫がどうの、自爆がどうのと…」

 

 

 

 …………取り込まれている間に、精神汚染されたか…?

 早い所、起こしてやらんと。……追加でのっぺらでも送り込むか? …駄目だ、化学反応を起こしてえらい事になる未来しか見えない。虚海は廃人まっしぐらだ。

 どうしたものかなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 叱責やら治療やらが一通り終わり、自由に動けるようになったので、虚海の様子を見に行く。

 護衛…と言うかもう完全に監視役になっているアスカがぴったりと付いて来るが、流石にこれは仕方ないよな。心配かけちまってるし…。

 

 医務室ではなく、特別な結界が張られた小屋で、虚海は眠っていた。この結界は橘花と樒さんの共同作成で、外に出る事も、入って行く事も、術を貫通させる事もまずできない仕掛けとなっている。更にはその小屋の四方を、モノノフが固めている。

 …早い話が、牢獄だな。

 目を覚まさないままだし、体に相当な負担がかかっているしで、罪人用の牢獄に入れていると目を覚ます前に衰弱死しかねない、という判断だそうだ。

 

 事実、虚海は魘され、譫言を呟くものの、目を覚ます兆候は全く見られない。汗が滲み、苦悶の表情で、布団の上で体を捩る。…ひどく、弱っているのが見て取れた。

 世話役の医師見習いが一人だけ傍についており、時折水を飲ませたり、汗を拭いたりしている。だが、彼女も虚海が何をしたのか聞かされているらしく、決して友好的とは言えない態度だった。

 それでも邪険にされないのは、寄り添っている天狐…天吉のおかげだろうか? 虚海を友達と称していただけあって、よく懐いている。

 魘される虚海の顔を覗き込んでは悲し気な声を出したり、起きろと言いたげに肉球で頬をペチペチ叩いたり。

 

 

 …そしてそんな天吉を、付き添って来たらしいホロウが眺めている。

 

 

「…ああ、あなたですか。下手人の確保……いえ、救出でしょうか。お疲れ様でした」

 

 

 実際、結構疲れたね…。勝つには勝ったが、体が鈍ってんな。鍛え直さないと。

 …ところで、どうしてここに? 虚海に…何か気になる事でも?

 

 

「……いえ。天吉が気にしていたので、一緒に来ただけです」

 

 

 …そうか。その…何か気にかかったりはしないのか? お前はこいつとも、過去で関係があった筈なんだが…。

 随分人相が変わっているから気付かなくても無理はないと思うが、こいつはお前を…。

 

 

「いいえ。顔を見ても、特に引っ掛かるものはありません」

 

 

 …そう、か。…虚海にとっちゃ、本気できついだろうな…。

 元の世界に帰る希望、ホロウが見つかったと思ったら、自分の事を覚えていない上に、元の時代に帰る方法もないと来た。どうして世界は、ホロウにここまで厳しいのやら。

 

 

(…ねえ、ちょっと、若)

 

 

 ん? どうした、アスカ。

 

 

(さっきから思ってたんだけど、なんかこいつ、態度悪くない? つっけんどんと言うか、突き放すような言い方ばっかりしてるんだけど)

 

 

 …言われてみれば、確かに。思えば、再会(ホロウにしてみれば初対面だろうけど)した時から、妙に当たりが強いというか俺に構わず行動するというか。

 別に、うちの子達みたいにとにかく俺を行動の中心にするべきだ、なんて事は言えないが……考えすぎか? まるで、俺と共に行動するのを拒否しようとしているような…いやでも協力要請してきたり、こっちからの要請には応じてくれたしなぁ。

 

 なんかこう、壁を感じるのは確かなんだ。

 前ループで一緒に行動していた時は、とにかくマイペースではあったけど、慇懃無礼ではなかったし、和を乱さない程度には、人に合わせて行動していた。

 

 

(私も何度か里でこいつを見たんだけど、他の人とは普通……まぁ、普通だったわ。意見も言うし、求められれば大抵の事は応じる。…鉄面皮だけど)

 

 

 それは元からだ。前触れもなく、突飛な行動に走るのもな。単純に、警戒されてるのかな…。今の俺って、普通の女性から見れば近付きたくもない女狂いだし。でも、先日二人で話した時には、そんな感じは………ああでも、クサレイヅチの話も聞くだけ聞いて興味ないって顔だったし、そういう意味では拒絶されてたのか?

 ううむ…仮に俺が、背後で陰口叩かれていて、ホロウから便所虫を見るのと同じ視線を向けられているのだとしても、虚海の事にまで嘘を吐くとは思えん。失った記憶の、数少ない手掛かりなのだ。俺の言葉を拒絶する為だけにそれを否定するなんて、とても考えられん。…と言うか、そこまで徹底して拒絶されているとは思いたくない。真面目に。

 

 んー…単純に、失った記憶はそう簡単には思い出せないという事か…或いは、クサレイヅチが前のループでホロウの因果を奪っていきやがったのか。

 これまでの旅路の因果を奪われてしまったのなら、クサレイヅチ討伐に執着を見せない事も、虚海に対して何の反応も示さない事も説明はつく。

 俺に対して、妙に壁を感じる理由にはならないけど…。

 

 

(何にせよ、退散した方がよさそうね。邪見にされて逃げるようで気に入らないけど…理由はどうあれ、ホロウは虚海の様子を見に来て、天吉という理由があるとはいえ留まっている。口では否定しているけど、無意識に感じる物でもあったんじゃない?)

 

 

 む…そういう見方もある、か。

 そうだとしたら、俺が居る事で余計にホロウの拒否感を煽りかねない。虚海を起こす事も出来そうにないし、一旦退散するか。

 ……『来るな…自爆……跳ねるな、飛ぶなぁ…』と魘されている虚海には悪いが。

 

 …つーか、虚海が目を覚ました時、ホロウを見たらどう反応するだろうか。前ループでも顔を合わせてたが、あの時はホロウの記憶があったからな…。狂乱しなければいいんだが。

 



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572話

書き溜めが完全に尽きた…。
話を進めるアイデアも気力も沸いてこない。
本格的にスランプっぽいです。
気分転換したいし、暫く更新が滞るかもしれません


 

黄昏月弐拾日目

 

 

 虚海が眠っている間に、隠されている触鬼の触媒を確保する事にした。

 北の地に通じる、結界石の洞窟を抜けた先。雪原に面した場所に、虚海の隠れ家がある。いつぞやのループでは、ここでデスワープしたっけな。虚海が触媒を発動させようとしたら、俺が持ってた触媒まで発動してしまって、それに取り込まれた。おかげで、何でも取り込み一部に出来るという、某ピンクの悪魔みたいな能力が手に入ったが。

 

 バタフライ効果で、隠し場所が別の場所に移されている事も考えたが…事態は予想以上に深刻だったようだ。

 

 

「で、若様。ここに何があるってんです? 誰かが暮らしていたようですが」

 

 

 護衛として連れてきた権佐が、渡したホットドリンクを片手に周囲を見回している。

 洞窟を抜けなきゃならんからな。土遁で壁を無視して進める奴を連れてきたんだが、あっさりと到着してしまって拍子抜けである。

 

 ここで暮らしてたのは、この前連れ帰って来た虚海だよ。あの姿だからな…人目を忍んで隠れるのも分かるだろう。

  

 

「焚火の痕、妙に霊力が強い場所、それに食い物…。しかし、ここ暫くは使われていないようだ」

 

 

 最近は里の近くに居たみたいだからな。一人になりたい時か、邪魔されずに研究したい時くらいしか使ってなかったんだろう。

 ま、長く居たい場所でもないだろうからね。寒いし、天然の結界石に遮られてるとは言え鬼はすぐ傍にいるし、隙間風が五月蠅いから昼寝にも向かないし。ああ、酷暑の季節であれば、涼みにくるのもいいかもしれんがね。

 

 

「長く真っ暗で入り組んだ洞窟を抜けて、季節も何もない異界の中で避暑ですか。何とも優雅なことで。で、若様…この穴は、何ですかね」

 

 

 …何だろうね。

 

 

 洞窟の一角、妙に霊力が強い場所…から1メートルほど離れた場所に、穴があった。地面から掘り起こされたものではなく、土中から何かが這い出てきたようだ。

 その穴は緩く傾斜していて、穴の奥は…霊力が強い場所、つまりは触鬼の触媒の隠し場所の辺りに続いているような。

 

 注意して探ってみれば、前ループの時に比べて、感じられる霊力が弱い気がする。…どっちにしろ、確保する為には掘り起こさなけりゃならんか。

 権佐、穴を掘るの手伝ってくれ。ああ、タマフリ使って土を透過とかはするな。下手に刺激すると、妙な形で発動するかもしれんからな。

 

 

「はいよ。ちっ、地面が凍ってやがる。ちょいと乱暴に行きますかね」

 

 

 …まぁ、物理的な衝撃じゃ、起動はしない筈。最悪、俺が逆に侵蝕して止めるか。

 

 

 …掘り起こしてみたら、そもそも触媒が無かった。と言うか、触媒があったと思しき場所から、横穴が続いていた。

 って事は…触鬼、勝手に動き出してやがるな。虚海が自分でやったとは思えん。触鬼をばら蒔く事自体に抵抗はないだろうが、こんな場所で放り出しても意味が無い。増殖するまで放置するにしたって、もっと適した場所がある。

 

 んで、触媒が勝手に動き出すのも考え辛いから………ああ、成程。

 里で入手したアラガミ細胞は、ここで保管しようとしたんだな。そして大部分はここに、一部は虚海の体に滞留して、前者は触媒を取り込んで動き出し、後者は虚海を乗っ取ったと。

 …勝手に動き出して出て行ったって事は、もう増殖と進化を始めてるな。虚海を乗っ取った細胞とは別系統になってるから、AMIDAは再現してないと思いたいが…。

 

 権佐、予定変更だ。この辺の鬼を何匹か狩る。全部とは言わないが、結界の効かない例の鬼とか、変異した未知の鬼が居る可能性がある。

 

 

「ほう…? 護衛は退屈な任だと思ってましたが、中々に面白くなりそうですな。骸佐や鹿之助に自慢できるってもんです」

 

 

 骸佐はともかく、鹿之助は羨ましいとは思いそうにないけどね。

 とりあえず、この穴から這い出した鬼の後を追うぞ。ったく虚海め、相変わらず妙なところで抜けてやがる。明確な悪意を持った企みよりも、本人も意図しないところで発生した騒ぎの方が被害が大きいとか、どんだけポンコツなんだか…。

 

 

 

 

 

 洞窟から出るなり、ミズチメみたいな奴に襲われた。凍り付いた蛇っつーか…。初めて見た鬼だが、以前に図鑑で見た事がある。

 確か、名前は凍波…イテナミ。タマハミ状態になると、ひっくり返って顔が蛇になる。名前の通り寒い地方にしか出現しない鬼だ。

 

 サクサク倒してしまっても良かったんだが、久々に手応えがある相手だと権佐が喜んでいたので、半ばそっちに任せきりだった。

 うーん、腕を上げてるな、権佐の奴…。普段はのんびりした姿ばかり見かけているが、早朝の習練は怠っていないらしい。

 

 権佐がイテナミと戯れている間に、俺は周辺を散策する。

 何匹か小型の鬼を狩ったが、その中で『当たり』は2匹。外見も行動パターンも、他の鬼と全く変わらないので、狩ってみるまで区別がつかないのが厄介だ。

 見分けがつけば、すぐに狩らずに暫く観察できるんだけどな…。

 

 恐らくだが、狩った2体は大本になった鬼じゃない。狩ってから、剥ぎ取りの要領で解体してみたが、触鬼としての成分と、アラガミ細胞が非常に少ない。

 増殖してできた鬼だな、これは。分裂する時に、僅かな成分と細胞しか与えられなかったんだろう。それでも、触鬼としての力で何でも吸収していき、触鬼の成分とアラガミ細胞を増やしていく。最終的には、小型鬼から中型鬼、そして大型鬼へと変貌していく…。

 その速度がどれくらいの物かは分からないが、あまり楽観視はできそうにない。

 

 触鬼の分裂は、恐らく身を削っての分裂だ。分かりやすく言えば、HPを半分にして自分をもう一体増やす、スライムなんかがやりそうな増殖方法。増殖元となる個体にとっても、結構な負担となる筈だ。本来であれば、その強力な力を以て、その辺にあるものをすぐに取り込んで回復するんだろう。

 だが、今は充分な力も無く、回復もそうそう出来ず、出来たとしても小型鬼程度になるのが精々。

 そんな吹けば飛ぶような状態で、どうしてわざわざ戦力にならない小型の鬼を増やすのか。

 

 考えられるのは2通り。

 囮か、種の存続を優先したか、だ。

 

 触鬼の成分とアラガミ細胞を最も多く持った個体が居て、そいつがより強大になるまで、デコイとして小型鬼を放ったか。

 或いは、その個体が自分が弱くなる事を良しとしてでも、自分の同族を増やし、全滅の可能性を遠ざけたか。

 

 どっちにしろ、小型のこの鬼があちこちに沸いて出るのは間違いなさそうだ。

 どうすっかな……いっそ古の領域みたいに、まるごと吹っ飛ばすか? いや、流石にそれは不味い。可能不可能は置いといて、ここら辺は見捨てられた地…つまりシラヌイの里に近い。歴とか、凛音が居る里だな。あっちにどんな影響が出るか分からない。

 …消し飛ばすんじゃなくて、異界浄化が現実的かな。

 

 あー、でも異界浄化しても、例の鬼にはあんまり関係ないんだよな…。他の鬼と同様に、四方八方に逃げ出されると探すのも大変だ。

 となると、やっぱり増殖・強化される前に、この場で倒しておく事が望ましいか。

 

 クソ、強い結界を張る道具でもあればな…。それを透過する奴が目標だって判別できるんだが。例の鬼には、結界が効かないもんな。そもそも産まれた場所だって、天然の結界石の洞窟内部だし。

 無い物ねだりしてても仕方ないか。取り敢えず、この辺の奴らを片っ端から狩り尽くそう。

 

 

「若にしては思い切った考えですな。だが大賛成です。何も考えずに槍を振るえばいい」

 

 

 お前と違って、考えにゃならん事が色々あるんだよ。でもまぁ、今回はそういう事だな。

 はっきり言って、有効な方法が見つからない為の苦肉の策だけども。

 

 さて、小型中型大型問わず、目についた奴を片っ端から狩りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 半日後。

 遊び疲れているのに、まだ遊び足りないと言わんばかりの権佐を引き摺って帰路につく。なんつーか、散歩中に抵抗する犬を引っ張るような気分でした。

 結構な数を狩ったし、「こいつが大本かな?」と思う奴も居たが…正直、根絶やしに出来たかと言われると…。

 一匹でも残っていれば、そこから鼠算式に増殖するだろうしなぁ…。定期的に狩りにくれば、増殖を防ぐ事ができるだろうか?

 

 ああ、大本っぽい奴の事だが…はっきり言えば、奇形児だった。

 鬼の姿形なんて大体が理不尽なもんだが、それに輪をかけて意味不明な形状をしていた。色々な鬼の色々な部位が、出鱈目に繋ぎ合わせられたような…。

 ……どうも違和感があるな。アレが最初の一匹だったとして、どうしてあんなにグチャグチャな姿になったのか。アラガミ細胞が片っ端から学習した、触鬼の細胞と喰らい合って正常を保てなくなった、色々と理由に心当たりはあるが…。

 

 …駄目だ、これ以上考えても結論は出ない。ただ分かっているのは、まず間違いなく今後も奴らが増殖するって事だけだ。

 触媒の確保は出来ず、鬼が増える事を座視するしかない…。任務失敗、かな。

 

 

 

 

 

 

 里に戻ってきて、大和のお頭に事の次第を報告する。話を聞いて、大和のお頭は小さく唸った。

 

 

「…思った以上に、事が早急に進んでいるな。北の地か…。あそこまで遠征するのは、正直地理的に厳しいものがある」

 

 

 俺達は、半ば反則技で突っ切ったからな。小人数だからできた事だし。

 だからと言って、座視していれば最悪の事態が訪れる。強力な鬼が、大挙して押し寄せてくる訳だ。

 

 

「…場所を考えると、ウタカタよりもシラヌイの里が危険かもしれんな。遣いを出しておこう」

 

 

 助けを求めてきたらどうする?

 

 

「助力はするつもりだが…その時は、お前達に向かってもらう事になるかもしれん。考え辛いがな。シラヌイの里は独立不帰。霊山とも対立関係にある里だ。名目上、我々は霊山側だからな。お互いの為にも、あまり軽率な事はできん」

 

 

 助力が軽率、か。人を率いるってのは面倒なもんだ。…ま、凛音のお頭もあの性格だしな…。柔軟性はあるんだけど。

 で、実際の所、どうする? 相手は勝手に増殖して、数で押してくる鬼の群れだ。後手に回れば回る程、手に負えなくなるぞ。

 

 

「分かっている。…最も望ましいのは、眠っている虚海が目を覚まし、触鬼の停止方法を教えてくれる事だが…」

 

 

 いやー、無理なんじゃないかなぁ。あいつ、後の事なんか考えてないぜ。

 仮に考えてたとしても、増殖している鬼達は変質している可能性が高い。虚海にだって止められない。

 

 つまりは、狩るしかない訳だ。

 

 

「…現在、博士、茅場、秋水に例の鬼…この際だから正式に名付けるか。『荒鬼』を誘き寄せる餌を作らせている。元は秋水が完成させかけていた術式でな。鬼を呼び寄せる効果を持つ」

 

 

 また厄ネタっぽい物作ってるなぁ…。上手く使えば、鬼を一匹ずつ釣り出す事もできるから、便利なのは否定できないけど。

 完成したらそいつで釣って根切、か。

 

 

「うむ。上手く行けば、触鬼が取り込んだ時点で致命的な毒になる薬も開発できるかもしれん、と言っていたな。それが確かなら、勝手に全滅してくれる事もあるか」

 

 

 それは期待薄じゃないかなー。どんな毒だって、希釈されれば効果は薄くなるもんだし、飲み続ければ耐性が出来る。

 ましてアラガミ細胞だもんなぁ…。最終的には、向こうがその毒を武器にしてくるまで見える見える…。

 

 まぁ、あの博士が『上手く行けば』なんて言ってる時点で、相当な夢物語扱いだと思うが。

 

 

「いや、言ったのはグウェンと真鶴だ。あの二人、最近では助手として色々覚えてきているようでな。術の開発なども手慰みに行っているとか」

 

 

 ほぉ。門前の小僧何とやら、だな。元々、真鶴は異界浄化の術を覚える為に訪れたんだから、その一環として学ぶのは理解できるが。

 …そう言えば、その異界浄化、そろそろ続けても構わんかな?

 

 

「うむ。これまで続けてきた調査で、瘴気の元になっている穴がどのあたりにあるのか、大体見当がついた。資料を纏めてあるから、瘴気の濃い場所に潜り込む時の参考にしてくれ」

 

 

 ありがとう。そんじゃ、俺は暫く異界浄化に集注しますかね。

 悪いが、暫く触鬼…じゃなかった、荒鬼の対処はそっちでやってくれ。必要であれば、うちの子達にも協力させる。

 

 …ただでさえ、里の中の警備も必要だってのにな…。

 

 

「言っておくが、無理に人手を増やそうと考えるな。まだ眠りについたままの滅鬼隊も居るが、一人受け入れるだけでも相当な波乱が起こると思え。ただでさえ、今の食糧事情もかなりの綱渡りになっているのだ」

 

 

 うん? まだ余裕があるんじゃなかったのか?

 うちでも家庭菜園作って、そこそこの効果は出始めたし…。

 

 

「今まではな。だが、鬼との闘いが激しく成れば、それに応じた褒章を出さねばならんし、何よりも喰わねば体が保たん。士気を維持するには、相応の支出が必要だ」

 

 

 なるほど。今までは余裕だったとしても、これからの事を考えると厳しい…か。

 ハクは強い鬼を狩れば、それに応じて入ってくるが、飯は育つまでどうやったって収穫できんからな。

 異界浄化した場所も、鬼を全て追い払い、土地まで清浄になっているか確認しなければ農作もできん。もどかしいもんだ。一次産業の重要さが身に染みる…。

 

 

 

 

 あーもう、色々面倒だなぁ。クサレイヅチと女の尻を追いかけるばかりの生活が懐かしいぜ。…だからって、うちの子達を放り出す気にはなれないんだけどさ。

 

 

 

 



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573話

台風のせいで、バイクガレージのテントが壊れました…。
いやそれだけで済んだんだから、恩の字なんですけども。

3万くらいしたのが、郵送先を間違えて再送をお願いしたおかげで、5万くらいになっちまったんだよなぁ…。
それが僅か半年で…。

前から何度も風で飛ばされていたので、こりゃイカンと思って解体して家に運び込んだのですが、解体する時に上手く引っこ抜けずに折れてしまっていた模様。
部品のみ購入する事もできるようですが、少なく見積もって5,000円以上…。
しかもまた台風が来たら、同じ事になる可能性大。

…バイクカバーに戻します。
バイクで移動する時には、ブロックの下にでも入れておこう。
雨が降ってる時に被せるのは大変そうですが、仕方ありません。


黄昏月弐拾壱日目

 

 

 うちの子達を数人連れだって、異界浄化に乗り出した。

 ここ暫くの観察によると、鬼達の縄張り争いは大分落ち着いてきて、そろそろ共食いも期待できなくなってきたらしい。

 

 だもんで、もう一回住処を粉々にして、他所の異界で縄張り争いしてもらいましょうね~。うん、改めて聞くと酷いね。まぁやるけど。

 

 それと、これは考察の段階でしかないが、今までのように一つ異界を潰しては様子を見て、落ち着いてからその異界を潰す…と言う手法よりも、同時に複数の異界を潰し、そこの鬼を同じ異界に誘導した方がいいのではないか、という案が出た。

 2つの異界の鬼同志の縄張り争いより、3つの異界の鬼の縄張り争いの方が、よく傷つけあってくれるのではないか?と言う事だな。

 まぁ、それ自体は構わない。今までは一つずつしか異界を潰してなかったし、複数同時に潰したらどうなるか、って実験も必要だろう。最終的には全部…いや、相馬さんの希望で一部残すかもしれないが、とにかく鬼の居場所は無くすんだから。

 

 

 

 そういう訳で、うちの子達も瘴気の元調査に駆り出す事にした。

 …きららに拒否されるのは、予想外だったけど。

 

 いや拒否って言うかね、別の仕事が入ってたのよ。仕事と言っても任務じゃなくて、里の人達にお願いされたってだけなんだが。

 何事かと思ったら、『最近暑いから、氷を作ってくれ』だってさ。…いやよく分かるよ? うちの屯所と違って、里には冷房なんてもの無いからさ。熱中症も洒落にならない。

 そこへ来て、きららの能力は救いだろう。水を集める必要もなく、ただ空気を冷やしてどでかい氷を作る。一家に1個、部屋の真ん中なり風の通り道なりに氷塊を作っておけば、一日冷たい風が吹いてくれる。

 結構な稼ぎになる、ときららは笑っていた。

 

 …これ、任務に出るから断れ、なんて言ったら色んな人との関係が悪化しそうだなぁ…。まぁ、きらら以外にも戦力は充実してるんで、そっちを優先してもらっても構わないのだけど。

 

 

 

 俺と、三郎ことタマちゃん、六穂、それに木綿季の4人で瘴気の濃い異界に踏み入る。

 ちなみに人選の根拠としては、六穂は毒や瘴気に強い体勢を持つ為、木綿季はそもそも本体がカラクリなので瘴気が基本的に効かない為。タマちゃんは、瘴気への耐性は一般的だが、現地の鬼を配下に付けて道案内が期待できる為である。

 

 戦力的には……率直に言ってしまえば過剰だな。俺が居なくても、この近辺の異界の鬼なぞ、軽く蹴散らせる。

 …実際に暴れてるのは、木綿季だけだがな。

 

 人間と同じ生身(?)の体で戦えるのが、よっぽど嬉しいんだろうなー。基本的に無気力な六穂、引っ込み思案なタマちゃんを後目に、すっごいいい笑顔でばっさばっさ斬りまくっている。おお、今のは明日奈の切り札、『まざーず・ろざりお』じゃないのか? そういや木綿季が本家だって言ってたっけな。

 

 楽しんでるのはいいが、あくまで異界の元探しが本命なんだけどなぁ…。

 

 

「…ちょっと若様、いつまで勝手にやらせてるの。見てるしかやる事がないんだったら、帰りたいんだけど、僕」

 

 

 そう言うな、尻を撫でてやるから。

 木綿季も久々の実戦だし、どこでしくじるか分からん。もうちょっとお守に付き合ってくれ。

 

 

「あ、っ…んっ…こ、こんなところでされても、生殺しにしかならないよ…。さっさと終わらせてしけこもうよ…。そんで早く体を変えて孕ませてよ…」

 

「あ、あうぅ…」

 

 

 物言いたげなタマちゃん。チラチラこっちを見ているが、辞めろとも混ぜてとも言わない。…この子には、起こす時以外は手を出してなかったしなぁ。

 タマちゃんに手を出すかどうかはこの後決めるとして。確かにそろそろ進めないと、タマちゃんの活動限界が近いな。木綿季を暴れさせるだけで終わってしまう。

 

 おーい木綿季、暴れながらでいいからついてこい、移動するぞ。

 

 

「はーい! 19匹目ぇ!」

 

 

 …また物凄い剣閃で、本人申告19匹目、実際には21匹目の大型鬼を討伐。

 本当にすげぇな…。この濃い瘴気の中に居る鬼達は、縄張り争奪戦に勝ち抜いただけの事はあり、特に強力な個体…少なく見積もっても上位以上の個体が多い。

 それを連続で、時は複数同時に相手取って連戦連勝。明日奈をして、幼い頃から『天才』だの『剣鬼』だの言わしめるのも頷けるってもんだ。

 

 

「…あの…若様…」

 

 

 ん、どしたのタマちゃん?

 

 

「…なんだか、鬼の数が…多い…」

 

「同感だね。瘴気が濃い場所は鬼にとって居心地がいいとは言え、幾ら何でも多すぎない?」

 

 

 …言われてみれば、確かに。21匹目の大型鬼。小型ならまだしも、こんだけデカイのが限られた土地の中に集結していれば、縄張り争い待った無しの筈なのに。

 そもそもこれだけ続いて襲ってくるというのもおかしい。複数体同時に木綿季に襲い掛かった時も、お互いの行動の邪魔にならない範囲で、でしか同時に出てこなかった。

 

 …戦力の逐次投入…になっているように見えるが、休む暇を与えない波状攻撃、という見方もできる。

 見た所、腹を減らしている訳でもない奴が多いし…縄張りに入り込んだ俺達を、本能的に撃退しようとしているだけ…にしては連携が取れている。 

 

 なんだ、また指揮官の鬼でも出たか? だとしたら、さっさと潰しておきたいもんだが。

 

 

「…面倒だけど、放っておいた方がもっと面倒になるか。若様がやるって言うなら付き合うよ」

 

「…私も…です」

 

 

 うん、ありがとう。正直、放置してても木綿季がどうにかしそうな気はしてるんだけども。

 よし、そんじゃあもうちょっと奥の方に進んでみるか。

 

 

 

 

 

 

 

 瘴気の中を進んでいくと、それに反応して鬼達が襲ってくる。やはり、この先にある物に近付けさせまいとしているようだ。

 ただ、気になるのは鬼達の気迫である。必死、という言葉では足りないような勢いで、それこそ自爆上等で仕掛けてくる事が増えた。先程までは余裕綽々だった木綿季も、表情を変えて慎重に鬼達と渡り合っている。

 無論、俺達も黙ってみている訳ではない。六穂は何だかんだと言いつつも、鬼に毒を仕込み、五感を潰し、背後から一突きするなど、補助と後衛を同時にこなしている。タマちゃんは、手頃な鬼を洗脳して、盾にしたり同士討ちさせたり。

 俺は…まぁ、適当に斬ってりゃそれでカタが付く。

 

 

「…やっぱりおかしい」

 

「どしたの、タマちゃん? 異界の中なんて、大抵のものはおかしいよ」

 

「それは否定しないけど…洗脳しようとしても、抵抗が強い…。一度洗脳に成功しても、すぐに弾き飛ばそうとする」

 

「さっきから、次々に操る鬼を変えてるのはそれが理由か。長い間操ってられないんだね」

 

「うん…こんなの初めて」

 

 

 タマちゃんの初めて…ふむ、続けて? なんて聞くに堪えないお約束は置いといて。

 それだけ強い意志を持っている、と言う事か? 俺も鬼を利用、洗脳するような術には詳しくないから、確かな事は言えないが…。もしそうだとしたら、指揮官を守る、なんてのが動機じゃないな。

 命じられただけでそんなに強い意思は生じない。隷属からは強い力を得られはしない。自発的な意思の発露こそ、力に繋がる…。

 

 

「じゃあ、こいつらは自分から僕達を阻もうとしている、って事だよね。それだけ重要な物が、この先にある…。なんか気になって来た!」

 

 

 木綿季は元気だねぇ…。俺はさっきから、何だか嫌な予感がビンビンしてるよ。また頭の痛い事が起きる気がして仕方「うぁ!?」「タマちゃん!?」

 

 目の前のカゼキリを斬り伏せて振り返ると、体制を崩したタマちゃんが吹き飛ばされていた。表情からすると、攻撃を受けた痛みより、信じられないと言った動揺が強い。

 どうやら、洗脳を弾き飛ばした鬼が出たらしい。さっきから抵抗が強いと言っていたが、完全に無効化されるのは予想外だったのか。

 

 咄嗟に飛んだらしく、強いダメージは無いようだが、その分勢いが付いたようだ。丁度、坂道になっていたのも悪かった。ゴロゴロと転がり落ちていく。

 

 

「やばいやばいやばい! あっちはまだ鬼が沢山居るよ!」

 

「あの子、複数体同時に洗脳できたっけ!?」

 

 

 出来たとしても弾き飛ばされるだろ! 木綿季、突っ込め! 他の鬼はこっちで引き付ける!

 

 

 久々の『挑発』系のタマフリ・スキルを総動員し、鬼達の注意を惹き付ける。…が、反応が薄い。俺よりも、転がり落ちて行ったタマちゃんを追おうとする鬼が結構いた。

 まぁ、それはつまり俺に背を向けるって事で、致命的な隙を晒すって事なんだが。

 

 無防備な背中、首、足を狙って連続で剣を振るう。一撃、多くても二撃で部位を粉砕して足を止め、木綿季が進む道を切り開く。

 

 

「六穂、目晦ましお願い!」

 

「ったく、しんどいんだけどなぁ!」

 

 

 鬼達の背中を踏み台にして走る木綿季、それに狙いを付けようとする鬼に毒霧を吹きかけて視界を塞ぐ六穂。

 そして、何だか知らないがさっきまでの比ではない勢いで暴れ始める鬼達。

 

 …この気迫…覚えがある。さっきまでは分からなかったが、これはアレだ。

 子供を守ろうとする親モンスターと同じだ。子供に手を出されてゴゴモアが怒った時とか、卵を持ち逃げしようとするハンターを追いかけるリオ夫妻とか。

 タマちゃんが転がり落ちて行った先に、子供だか卵だかがあるんだろうか。でも襲い掛かってくる鬼の種類がバラバラだし、単なる子供の鬼って訳でもなさそうだが…。

 いや、とにかく行けば分かるか。タマちゃん救出が最優先、何か発見できれば儲けもの。

 

 先行した木綿季に追いすがるアメノカガトリを神機銃形態で撃ち落とし、追おうとする鬼を六穂と共に足止めする。

 

 

「タマちゃん! 何処!? 返事して!」

 

 

 木綿季の声が響いて来る。藪の中に突っ込んでしまったらしく、姿が見えない。

 異界の藪は危険だ。何が出るか分からないし、どこに通じているかも分からない。下手をすると、初穂のように時を超える可能性さえある。

 

 …が、その心配は杞憂だったようだ。藪の中から、一際巨大なミフチが姿を現す。…と思ったら、体の上にタマちゃんが乗っていた。

 無事だったか……あれ、何か違和感があるような?

 

 まぁいいか。洗脳したミフチを足として使い、タマちゃんは木綿季を拾って戻ってくる。

 

 

「…ごめん、油断した…」

 

「無事でよかったよー。タマちゃんちっちゃいし、軽装だからさぁ」

 

「本当にね。ま、今回はそれほど手間じゃなかったけど……………………ちょっと、それなに」

 

「それより早く、異界浄化を…」

 

 

 また反逆されても面倒なので、ミフチはさっさと使い捨てた。

 六穂が目を見開いてタマちゃんに注目している。俺も正直すっごい気になるけど、今は言ってる場合でもない。

 

 

「んー…? 鬼の攻撃が、止んだ?」

 

 

 油断なく周囲を見回す木綿季。彼女が言う通り、さっきから怒涛の攻勢をかけていた鬼が距離を取っている。

 だが、戦意を喪失している訳ではない。むしろ姿を隠してもはっきりとわかる程の殺意を滾らせている。

 

 試しに少し進んでみると、その邪魔をしないかのように行き先から移動する。…何が何でも殺したいのに、何らかの理由があって手出しできない、近付けない……ように見える。

 

 

「若様…瘴気の元っぽいの、見つけたかも…」

 

 

 本当か? 何処で? いつ?

 

 

「さっき転がり落ちて行った先に、川があって…その下流の瘴気が、格別に濃かった。そこに瘴気の元があるか、ひょっとしたら上流から流れてきたのが溜まっているのかも…」

 

 

 成程、お手柄だ。どういう訳だか鬼も寄ってこないみたいだし、ちゃっちゃと移動するぞ。思ったより時間くっちまったし…。

 俺と木綿季はともかく、二人の活動限界時間も近付いている。あまり長くここには居られない。

 

 

 

 タマちゃんが言っていた通り、川の下流に瘴気の元があった。

 そこに近付いても、鬼達は相変わらず遠巻きに俺達を睨みつけるだけ。…これから異界浄化される事を、理解していないのか? 浄化の場面を見た鬼は…居なかったな。周囲の敵を掃討してから術を使っていたし。

 

 …まぁいいか。浄化を始める。3人とも、敵を近付けないようにしてくれ。

 

 

「わかった」

 

「りょーかい!」

 

「……それより先に、そっちを追求した方がいいと思うんだけど?」

 

 

 六穂の至極尤もな言葉から敢えて耳を塞ぎ、瘴気の元に向かい合う。

 制御にしくじればオオマガトキ第二段…ではあるものの、いい加減にこの術にも慣れた。左程強い集中も必要なく、あっさりと術が発動。鬼の手で介入された瘴気の元を中心に、一気に瘴気が晴れていく。

 

 

「おー…晴れたねぇ。あはは、鬼達が大慌てしてるよ。さっさと逃げないと斬っちゃうぞー」

 

「やるんだったら君だけでやってよね。僕は正直、もう面倒くさい。ただでさえ、超がつく程面倒くさそうな話が残ってるんだから」

 

「…………」

 

 

 そうね、正直見なかった事にして終わらせたくもあるけどね。

 さて……改めて、タマちゃんよ。

 

 振り返った先には、目を逸らし、お腹を抱えて立っているタマちゃん。そのお腹は、つい30分前までのツルペ…もといスレンダーな未成熟ボディとは裏腹に、大きく膨れ上がっている。

 そう、それはもう、胎児が居ますと言わんばかりに。

 

 

 

 

 その膨れたお腹はどうしたんだね? 正直に言って見なさい。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………若様に……孕まされたの」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 無駄に真実味がある嘘を吐くんじゃありませんッ!

 



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574話

執筆が捗らない為、一話を短めにして話数を稼ぐ小細工を繰り出す。
うーん、こういう事してるから気が乗らなくなっていくんだな…。
書きたいシーンを書いてれば、こんな事はあまりないんだけど。


「…………若様に……孕まされたの」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 無駄に真実味がある嘘を吐くんじゃありませんッ!

 幾ら俺でも、触れずに5分足らずで臨月にできるかい! 

 

 二人も『やっぱあんたか』みたいに見てくるなー!

 

 ええから腹に隠してる物見せなさい!

 

 

 手を伸ばすと、タマちゃんはササッと逃げた。撫でられるのを拒否する猫のように逃げた。更に手を伸ばすと、バックステップで避けた。

 …え、何でこんなに嫌がられてるの? いや、普通の人なら俺の所業を見れば、触れただけでも孕ますような全身精液男扱いして全身全霊で拒絶するかもしれんが、うちの子よ? タマちゃんとのスキンシップは少ない方だけど、それでも拒まれた事ないよ? 頭撫でたら、自分から頭を押し付けてくるくらいには慕われてたよ?

 俺の手が微妙に届かない距離を維持し、じりじりと見つめ合う俺達。

 

 その間に漂う緊張感をどう見たのか、六穂も木綿季も俺に向かい合ってタマちゃんの前に出る。…これ、面白がってやがるな、二人とも。

 

 

「いや別に。ただ、理由はどうあれ触られたくないみたいだし、同じ女としてはそっちに味方するべきかなって」

 

「僕もまぁ何となく? 偶にはいい薬になるでしょ。それに、うちの子の中でも玖利亜と並んで年少の子だし、あんまり強引な事すると泣いちゃうかもよ」

 

「流石に玖利亜と同じ年代扱いには文句を言いたい…けど感謝…」

 

 

 タマちゃんが何を抱えてるのか確認した方がいい、って言ってたのは六穂の方だろうに…。

 でも駄目です。お子様相手に酷いとか言われても、許容できません。

 

 ああ、普段であれば多少の秘密は構わんさ。頭領であっても全てを把握できる訳じゃないし、しなければいけない義務がある訳でもない。

 でも、これは明らかに見逃していい範疇を超えている。

 

 分かってるのか? さっきの鬼達の様子がおかしかった理由は、タマちゃんが隠そうとしている物とまず間違いなく関係がある。

 タマちゃんが戻って来た途端に、鬼達は攻撃を辞めた。だが遠巻きに包囲する事は辞めなかったし、異界浄化で住処が消滅しても、まだここに留まって俺達を狙っている鬼も居る。

 

 鬼達はな、『人質を取られた』と解釈してるんだよ、今の状況を! そんな状態で里まで連れ帰ってみろ! そいつを取り戻そうとする鬼が押し寄せるだろうが!

 

 

「そんな事ない…! 人質じゃない、この子は友達!」

 

 

 …って事はやっぱりそこに居るんだな。

 軽い殺気を籠めて、タマちゃんの膨らんだ腹を睨みつける。それに呼応したように、膨らんだ胎がもぞもぞと動く。

 

 

 

「出てきちゃ駄目…!」

 

「え、本当に居るの」

 

「!」

 

 

 不動金縛り!

 

 意識が逸れた一瞬を逃がさず、3人纏めて動けなくする。

 蠢く腹に、服の隙間から手を突っ込んだ…ちょっと興奮した。

 

 が、すぐにその手触りに顔を顰める。

 

 

 …やはり、AMIDAに取り憑かれていたか…。

 

 

「駄目! 何も悪い事してない!」

 

 

 人と鬼…鬼って言っていいのか分からんが、とにかくこいつとは同じ世界には住めないのだよ。主に世界観的に。 

 甲殻の部分を鷲掴みにして、ワサワサと足だか触手だかを動かすAMIDAを取り上げる。

 

 幸いな事に、取り憑かれたのはタマちゃんだけのようだ。木綿季と六穂は、『うげっ!』とばかりに顔色を変える。

 そろそろ金縛りの効果が切れるが、流石にこれ以上タマちゃんの味方はしないだろう。

 

 これくらいなら自力で破れる筈だし、離れても大丈夫だろう。

 抵抗するように参を飛ばすAMIDAをなるべく体から遠ざけながら、振り返って歩いて距離を取る。後ろから悲痛な鳴き声が響いて来るが、ここで情に絆されるわけにはいきませぬ。

 ただ、何で俺がナウシカのお父様みたいな事をしなければならんのか、それだけが気がかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて。動けるようになった六穂と木綿季がタマちゃんを止めてくれている間に、彼女の目の届かない場所までやってきた。

 相変わらず、鬼達はでかいのも小さいにも、隠れて俺を包囲しているようだ。

 

 さてどうしたものか。

 本家のバウシカのパパ上なら、例え王蟲の幼虫であっても殺す事はせずに野に還すだろう。だって一匹でも怒らせたら洒落にならん事になるし。

 だがこいつは触鬼でアラガミでAMIDA。情けをかける理由は無いし、放置しておけば必ずや超ド級の災いを招くだろう。

 

 しかし…ここでこいつを粉砕したら、周囲の鬼達が敵討ちだと暴れ出さないだろうか? 余計なところだけ王蟲に似やがって。

 チラリと目をやってみれば、口元の足付近から触手のような物を伸ばし、俺に向かってうぞうぞと蠢かせている。

 生意気に、攻撃でもしようとしているのか? 実際、酸は飛ばしていたが。

 それとも、俺に対して触手プレイでもお望みか。それこそ生意気というものである。

 

 

 …と思っていたら、違和感を感じた。精神に直に擦り寄られるような感覚……テレパス、か? そういや王蟲ってそんな能力持ってたっぽい……いやこいつは王蟲じゃない、AMIDAだAMIDA。

 なるほど、これを使って鬼達や、タマちゃんを篭絡した訳か。タマちゃんは同じテレパス系…洗脳寄りだけど…の能力を持ってるし、感応してあっという間に引き摺り込まれてしまったのだろう。

 

 伝わってくるイメージは、確かに不快な物ではない。無邪気に懐き、じゃれついてきて、遊ぼうと誘われているような印象だ。無邪気過ぎて、逆に狂気を感じるが。

 

 

 

 …このテレパス、うまく使えば虚海を叩き起こせないだろうか?

 …いや、辞めといた方がいいよなぁ。だってあいつ、AMIDAがどうのって魘されてるんだよ。そこに本物のAMIDAを放り込んだら…本気で精神崩壊するんじゃね? それこそ、鹿之助と仲がいい姉弟の亜玖阿が泣き喚くような感じで。ちょっとやってみたい。

 それを差し引いても、虚海が作り上げた触鬼でアラガミ細胞が混ざり合った個体で、そういう意味では俺と同類だ。何やらかしてもおかしくない。

 

 つまり、こいつを始末するかどうかだが…。

 

 

 甲殻を砕こうと、ひびが入る程に握りしめても、伝わってくるイメージに変化はない。

 代わりに周囲からの敵意が強くなる。

 

 

 …どの道、この一体だけを始末したところで、他の個体が残っている…か。

 

 

 

 

 少しだけ細工して、俺は手に持っていたAIDAを放り投げた。

 周囲を囲んでいた気配の殆どが、それに向かって殺到していく。保護しよう、とでもしているのだろうか。

 

 よくもやってくれたな、とばかりに突っ込んできた数匹の鬼だけ始末して、踵を返した。

 

 

 

 

 

 

「あ、若様。戻って来たんだ。…さっきの奴は?」

 

 

 適当に放り投げておいた。…始末したら、流石に恨まれそうだからな。

 恨めし気に、かなり本気で怒っているらしいタマちゃん。殺してないと聞いて、一先ず胸を撫でおろしたようだ。

 

 

「タマちゃん…さっきも言ったけど、流石にあれは駄目だよ。いや鬼と友達になるってのも面白そうではあるんだけど、可愛いから……可愛い? からって、鬼を見逃すモノノフなんかいないって」

 

「まぁそうだよね。本気で連れて帰るつもりだったでしょ。やめてよね、鬼と一緒になんか暮らしたくないよ、僕」

 

「……………」

 

 

 口々に非難されている。少しは頭が冷えたのか、そうされても仕方ない事をした自覚は出てきたようだ。

 だがやはり感情が納得してない。…テレパスを使って篭絡された、と言っても認めないだろうな。感情を強制するようなテレパスじゃなかったのは事実だし。

 

 …これ以上伝える必要はない。奴は野に還った。悪いが、二度と会わない事を祈るよ。どうやったって、一緒には生きていけないんだから。

 

 

 

 

 黙り込むタマちゃんの手を引いて、異界を後にする。

 

 

 …ああ、野に帰ったのは確かさ。大勢の鬼達に囲まれてね。…その甲殻の中に、火薬を押し込んだけどな。

 これで死ぬと確定した訳じゃない。運が良ければ、火に触れずに体を洗い流す事もできるだろう。…真っ先にあいつを保護しに行った鬼の中に、ヒノマガトリが居たけどな。

 

 非道とは思わない。タマちゃんが友達認定したとしても、俺にとっては最優先で始末するべきなのには変わりない。

 あの場で大勢の鬼に襲われるのを防ぐ為に利用しただけの事。

 

 …本家AMIDAも無駄に頑丈だったし、存外生き延びている可能性もあるかもな。

 やれやれ…俺にしては随分迂遠で不確かな事をしたもんだ。俺もあのテレパスに、多少は感化されてしまってたのかな…。

 

 



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575話

PS5、5万か…。
高いけど、DMCとかfalloutとか欲しかったゲームも入っているようだし、大体のソフトは動くようだし、元は取れる…かな。
問題は、予約できるかどうかだよなぁ…。
車が無いから、近場で買えそうになければ通販するしかない。
しかし転売ヤーどもは見てるだけでムカつくなぁ、35万とか…。

そもそも直前にアサシンクリードヴァルハラが出るし、時期的に仁王2の第二段DLCもこの頃だろうし、焦る必要も無いか。
初期版は何かしら不具合がある、と言うのが世の常ですしね。


黄昏月弐拾弐日目

 

 虚海が目を覚ました。特に何かイベントや切っ掛けがあった訳じゃない。朝が来たから目が覚めた…みたいな感じで、普通に起きたそうな。

 ひどく疲弊しているが、精神的な異常は無し。

 強いて言うなら、酷いマイナス思考と言うか、人間不信の傾向があるが…これは無理もない事だろう。

 

 目を覚ました直後、自分が人里に居ると知って、まず逃げ出そうとしたくらい人間不信だ。…虚海の世話をしている医師も、半身の鬼の体に関しては未だに顔を顰めるからな…。

 危害を加えられる、捕らえられて処刑されると考えるのも無理はあるまい。

 

 尤も、体がまともに動かなくて、逃げるに逃げられなかったみたいだけどな。

 これは取り込まれていた事による後遺症なのか、それとも単純に疲労、或いは暫く寝たきりだった為に筋力が衰えてしまった為なのかは…暫く経たないと分からないだろう。

 肉体的には問題ないけど、アラガミ細胞の謎の性質によって動かなくなっているとか、鬼の体が更に変質してしまったとか、そういう可能性もあるからな。

 

 

 とにもかくにも話をしなければ始まらない。

 大和のお頭と、俺、秋水の3人で部屋に向かう。護衛をつけるべきではないか、という意見もあったが、病床の相手に物々しい恰好でおしかける訳にもいかない。不要な警戒を抱かれると、上手く行く話も上手く行かなくなる。ついでに言えば、大和のお頭の護衛と言う意味では、俺一人でも充分なくらいだ。

 

 

「陰陽寮の虚海、か…。例の鬼を作り出した張本人。あまり甘い顔はできぬが…」

 

「大和のお頭が非情に徹したところなど、一度として見た事がありませんね」

 

 

 だな。なぁなぁで済ます気はないだろうが、非情な決断が出来るとは最初から思ってない。

 まぁ、そうなるだろうと思って、虚海の身の上を色々話した訳だが。

 

 

「あなたもあなたで、何処で虚海さんの事をそうも知ったのやら…。虚海さんは一度聞きましたが、あなたの事は全く知らないそうですが」

 

 

 人間、どこで誰に見られてるかなんてわかるもんじゃないからのー。

 知らない相手に一方的に知られているなんて、よくある事さ。特に悪巧みしてる奴はな。

 

 

「よく、はないと思うが」

 

「そうでしょうか? 珍しくないと思いますが」

 

 

 …秋水が言うと、なんかストーカー染みた情報収集とかしてそうな気がしてくるなぁ。

 俺は俺で前ループと言う、ある意味前世の記憶みたいな電波入った戯言な訳だが。

 

 ところで、ホロウは呼んでないのか。

 

 

「ホロウと知人なのだったな。だが、今のホロウは記憶を失っている。そうでなくても、結界の効かない鬼を生み出すなどというとんでもない事をしてくれた輩だ。今後の動向も確認できてないのに、協力者になるかもしれん人物に引き合わせられる筈が無かろう」

 

 

 ホロウを疑ってる訳じゃないんだろうが…いや、ここは疑わなければいけない場面か。虚海を切っ掛けにして記憶が戻って、過去に絆されて…って事も考えられるし。

 俺としては、絆されてしまっても問題ないんだけどな。記憶が戻れば、クサレイヅチ討伐の使命も思い出すだろう。

 その為であれば、虚海を無罪放免とする手助けをするのも吝かではない。

 

 

 

 

 さて、そういう訳でホロウの部屋を訪れたのだ。

 声をかけると、中で人が緊張するのが伝わって来た。…しかし動けないようだ。

 ホロウの世話をしている医師が出迎えてくれる。

 

 

「失礼する。…気分はどうだ」

 

「……ようは、無いの」

 

「でしょうね。いくら虚海さんと言えど、鬼に取り込まれて気分がいい筈がないでしょう。…いえ、取り込まれた割には、まだ気分がいい方なのでしょうかね」

 

 

 秋水、何を煽ってんねん…。

 虚海に対して言いたい事や鬱憤でも溜まっていたのか、珍しくあからさまな笑顔で話している。

 

 

「嫌だなぁ、病人を相手に顰め面をして話していては、余計に悪化しそうじゃないですか。これは気遣いですよ、気遣い」

 

「これほど白々しい気遣いもない…」

 

「うむ全くだ」

 

 

 苛立ちを堪えて、唸るような声を出す虚海。それに心底同意する俺と大和のお頭。

 …秋水を連れてきたの、失敗だったか?

 

 ジロリと大和のお頭が睨みつけると、秋水は肩を竦めて一歩引いた。これ以上、話を引っ掻き回すつもりは無さそうだ。

 

 

「陰陽寮の虚海だな。俺はウタカタの大和。…と言っても、お前はこの里の事を色々と知っているようだし、紹介は不要か」

 

 

 ああ、動物と会話できるって事はもう知ってるよ。動物達を味方につけて、里の家の地下に隠れてたこともな。

 

 

「…いんや、直に見るのは初めてじゃ。獣と言葉を交わす事は出来ても、視界を共有はできん。獣の目では、人の判別はよう出来んのでな」

 

 

 特徴があれば別だけどな。長い棒を持ってる奴(槍使い)とか、遠くからいつも見つめてくる人(速鳥)とか、いつもご飯をくれる人とか。

 この分類でいくと…大和のお頭は、目が片方だけの人、とか?

 

 

「…よう分かっておるの。そういうお主は、『番が沢山いる人』とか『食べられそうでこわい人』だったな」

 

 

 おっふw

 番が沢山居るのはむしろ誇らしいが、そういう風に見られてるか…まぁハンターだもんなぁ。

 

 ま、それはいい。

 率直に聞くが、虚海。お前、メガラケルてんてー…オオマガトキのあの穴から出てきた奴の欠片をどうした。

 お前が切り札として持っていた、触鬼の触媒は?

 

 あれを使って、何をしようとしていた。

 

 

「…言う理由があるのかの? 言ったところで詮無き事よ。既に種は撒かれた」

 

「虚海さんの意図しない形で、暴走して…ですね」

 

「…秋水、貴様…」

 

「僕は別に虚海さんを売ろうという気はありませんよ。元より、僕達は味方や仲間ではありませんしね。ですが、少なくともここで口を噤んだところで意味はありません。既に殆どの事が暴かれ、その裏付けに来ているだけですので」

 

 

 まぁ、そうだな。態々聞き出す必要がある事は少ない。

 何を思って世に混乱を巻き起こそうとしたか、触鬼とは何か、どうして取り込まれていたのか、何をしようとしていたのか。大体の事は把握できてる。

 極論すれば、今聞きたいのは……好きな食べ物とか?

 

 

「……おはぎだ」

 

「何を聞いとるか阿呆」

 

 

 別にいいじゃん、質問に答える気がある、って証明にはなるでしょ。

 じゃあ改めて…俺達に協力する気があるかどうか、だ。

 

 

「…阿保らしい。本当に把握しておるなら、そのような無為な問いをする筈もない。何のつもりか知らぬが、おんしらに手を貸す理由など無いわ」

 

 

 そう言うと、虚海は仰向けに倒れ込んで天井を向いてしまった。

 虚勢やポーズ…じゃないな。本当に投げやりになっているようだ。…なんつーか、今までとちょっと違う反応だな。

 今まではもっとこう、良くも悪くもリアクションがあったと思うんだが。

 

 前ループと何もかも同じでなければいけない理由は無いが、何事も無ければ同じような事ばかり起こるのもループの特徴。虚海をここまで投げやりにさせる『何か』があったのか…。

 いや、触鬼やアラガミに取り込まれるって、精神的ダメージを受けるには十分過ぎる経験ではあるが。

 

 全てに投げやりになっている事で、虚海は妙な雰囲気を纏っているように見える。おかげで、あのポンコツ虚海がとてつもない陰謀の黒幕にさえ見えてしまう。

 退廃的な色気と言うべきか、色々な物をじわじわと侵しながら暗く深い穴に誘い込んでくるような……そうだ、『破滅』の気配。ラケルてんてーの本性に通じるような、『何か』が感じられる。

 内心で戸惑っていた。多分、虚海はそれを見透かしていただろう。そしてその上で、どうでもいいからと追及も利用もていない。勝手にしろと、何も無い天井を見上げるばかり。

 

 どうなっているのかと頭を回転させるが、回答はすぐ横から飛んできた。

 

 

「いやはや…相変わらずですね、虚海さん。大仰な計画を建て、それが出来るだけの実力と準備があるというのに、いつもいつもどうでもいいとばかりに、直に放り出す。興味を見せたかと思えば、翌日には路傍の石と変わらぬ視線を向ける。それが僕らには恐ろしかった。注ぎ込んだ労力への対価に固執する事もなく、全てが些末事と言わんばかり」

 

 

 …え、誰の事、それ?

 ……いやいやいや、待て待て、逆だ。秋水がこう言っている以上、それが今までの虚海だったんだ。俺が知らなかっただけで。

 

 

「その名の通り、虚ろな海、暗く深く冷たい海を思わせる…。僕達には、それが理解できなかった。僕達はただ一つの目的の為、全てを利用する者の集まりだった。それに属しながら、全てに興味が無いあなたの姿は異端だった」

 

 

 つまりは、何だ…。ポンコツだった虚海の姿は、『何かあったから』そういう風になったんだ。

 絶望に沈んで無気力になっていた虚海が、何かしら心に熱を宿し、興味を持って動き出した事で……アレな言い方だが、色んな歯車が狂ってポンコツと化していった、と。

 いや、よりにもよってアラガミ細胞を利用して呑み込まれる辺り、最初からポンコツだったのは確かなんだけどさ。それも秋水からしてみれば、『化け物に呑み込まれても平然としていた』ように見えるんだろう。

 

 

「ですが、弱り切った姿を見て、ようやく分かりました。実力が桁外れだったのは確かですが、何よりも深かったのは、貴方の絶望。そこから来る無気力さが、僕達の目を見誤らせていた」

 

「…おんしらが、勝手に恐れておっただけよ」

 

「ええ、そうだったのでしょうね。己の目的にどこまでも執着する陰陽寮だからこそ、あなたの無気力さが理解できなかっただけです。あなたにも目的はあるのでしょうが、既に叶う事は無いと諦めている。この度の策謀も、ついで、或いは惰性でしかない。違いますか?」

 

「おんしがそう思うのなら、そうなのであろうよ。どうしても聞きたければ、わっしの事を把握していると豪語するその男にでも聞くがよい」

 

 

 ………成程にゃー。何を言われてもお構いなし、些事など知らぬとばかりのこの態度。

 そんで術の腕や研究についても一級品。…アラガミ細胞については一級品程度で扱えるようなもんじゃないが、触鬼なんて物を作りだせる時点で、研究者としての腕も確かなのは変わりない。

 秋水達が勘違いして、一種の超越者みたいに見てしまうのも分からないではない。

 

 

 

 知ってるとアレだけど。勘違い物をリアルに見るとこうなるんだな…。まぁ勘違い物で勘違いが露見する事は少ないけど。

 

 

 とは言え、種が割れてしまえば後は簡単。

 ポンコツに引っ張り込んでやるとしよう。要するに、未練なり欲望なり、虚海が自発的に動かざるを得ないような衝動を引き起こせばいいんだ。

 

 つまりは……まぁ、いつもの手段で肉欲漬けにしてしまえばいい訳だ。

 とは言え、いきなりそれをやるのは大和のお頭が許すまい。性的虐待は、明かな拷問だ。条約なんぞ無い世界だが、人道に反する事をそうそう許してくれる人じゃない。

 

 大和のお頭にこっそり耳打ちし、ホロウに関して教えていいか許可を取る。

 お頭は少し沈黙したが、暫し後に頷いた。

 

 さて、どう切り出すか…。

 この無気力さを見るに、ただ名前を出しただけでは強い興味は惹けそうにない。元々、世界を混乱させてホロウ…翠瞳の乙女を呼び出すという計画も、ほぼヤケッパチ。残金1000円になるまでパチンコで擦った挙句、こんなの残っててもどうしようもねーやとばかりに1000円も万馬券狙いでお馬さん競争に次ぎ込むような心境だったろう。

 ホロウがこの場に居るとしても、『どうせ無駄』という意識は取り除けそうにない。

 …事実、ホロウは記憶を失っているし、虚海を元の時代に送り返せる能力なんぞ、多分無い。

 

 …よし、ホロウの名前だけで無理そうなら、数で押すか。

 

 

 

 ホロウ。

 

 

 

 ピクリ、と体が動く。だがそれ以降は反応なし。続けていくか。

 

 

 

 正義のモノノフ。腐れ…もとい、イヅチカナタ。

 

 

 

 

 

 千歳。

 

 

「………その名で呼ぶな」

 

 

 体を動かしはしなかったが、睨みつけてきた。

 千歳の名前は、虚海にとっては捨て去った過去であると同時に、戻りたい時代の象徴。やはりこれは無視できなかったか。

 

 なぁ千歳。

 残念ながら、俺にはお前の望みを叶える方法は無い。色々と経験してきたが、過去への逆行なんぞ聞いた事もない。……デスワープは、ちょっと違うしな。

 

 だが、幾つかの心残りを解消する事は出来る。どの道、やる事も無いし、自分から積極的に死のうともしてないだろう。

 動けるようになるまでの間、そっちに注力したらどうだ? そしてその結果が気に入ったなら、俺達に力を貸してくれ。

 

 

「……私の事を知っているというのは本当のようだが、心残りか。思い当たらんな…。面倒だし、興味も無い」

 

 

 また興味を失ったように、フイとそっぽを向いてしまう。だが、まだ多少は聴く気が残っている。この場合、本当に興味が無いのであれば、さっさと眠る体制に入るだろう。

 興味が無いと言い張っているのは、心残りとやらに期待して、また失望するのが嫌だからだ。

 

 構わず接近し、耳元で囁く。

 

 

 

 

 処女を卒業したくないか? なんなら、童貞を捨てる手伝いもしてやるが。

 

 

 

「…………~~~!!!!」

 

 

 おお、反応絶大。

 寝返りをうつような形で、動かない筈の腕を振って殴って来た。だが避ける。

 

 シモのコンプレックスってのは強力で根深いからな。幾ら絶望して無気力になったからって、無反応でいられるものじゃない。特に、拗らせてる奴のは。

 虚海の拗らせ具合は、ひどいもんだからのー。鬼になった体の中でも、最も受け入れられない部分だろう。

 年頃の少女(呪いを受けた当時はね)にとって、興味もあるかもしれないが、触れたくもない部分。汚らわしい、鬼の陰茎、魔羅。

 

 しかも無駄にデカくてゴツくて禍々しい。しっかり朝立ちまですると来た。

 

 虚海にとって、誰かと懇ろになる事が出来ない最大の理由でもあろう。

 例え、鬼の体を受け入れられて、枕を同じにする関係になろうとして…互いに裸になった時に突き付けられる、ナニ。

 初見であれば、俺だって逃げ出しかねない。具体的には、『実は男で、俺を掘る為に近付いてきたんだな!?』みたいな感じで。…そうでなくても、恋人が実は同性だった…なんて疑惑があれば、そりゃあ混乱する。

 

 そんな風に拒絶されるのを恐れて、人に近寄らなくなっていくのも無理はない。

 

 

 

 

 が、俺なら別に問題は無い!

 千歳…ここに居る虚海じゃなくて、まだ若い千歳も同じ状態だったが、お構いなしにヤってたからな!

 千歳は正面から抱き合うのが好きと言っていた(ちなみにその場合、大きくなった千歳のモノが俺の臍に当たる事が多い。イッた時にはぶっかけられるが、それもまた良し)が、カラダの方は後ろから抱きしめられて突き上げられるのが好きみたいだった。その時に彼女のナニを扱いてやると、いい声で鳴いたんだよなぁ。

 早くクサレイヅチから解放して、またキンタマが空っぽになるまで搾り取って、それ以上に注いでやりたい。

 

 …話がそれた。

 

 地雷を踏み抜かれた虚海は、今からでも呪術を発動させそうなくらいに俺を睨みつけているが、ああ、そういう反応がいいねぇ。

 以前のループでも、そんな目をした虚海を無理矢理躾けてやったものだ。結果的に、本人も悦んでいたから問題ない。コンプレックスも解消されたしね。

 …何より、虚海は涙目になっていぢめられてるのがよく似合うしね! 千歳とは違って、嗜虐心がビンビン刺激されちゃうのよ。

 

 今すぐにでも事に及んでしまいたいが、流石に大和のお頭と秋水の前で強姦に及ぶのはマズい。

 今でさえ、『何を言った?』と大和のお頭の目が厳しくなっているんだから。

 

 

 

 ま、そういう訳だ。お前が気にしている事は、俺にとっては些事もいいところなんでな。折角産まれてきたんだ。一生に一度くらいは経験しておいてもいいんじゃないか?

 返事はまた聞きに来るわ。

 

 

 大和のお頭、悪いけど後は任せる。

 …話を引っ掻き回したけど、虚海も今なら平静じゃいられないだろう。何か話すなら今の内だぞ。

 

 

「…全く、お前は…。いや、確かにあのままだと何を言っても受け流されたがな…。一応言っておくが、強引な真似をするなよ」

 

 

 分かってる。うちの子達に顔向けできなくなるような事はしない。

 ちょっと考えたけども、本当に無理矢理なのは好きじゃないしね。

 …釘をさしてくる辺り、何を言ったのか予想がついてるみたいだ。虚海の経験はともかく、俺が言いそうな事は分かるんだろうな。

 

 

 言いたい事だけ言って、さっさと退散。

 後始末を任せる大和のお頭と秋水には悪いが、これ以上の事はできそうにない。やらない方がマシだった、と言われると反論できないが。

 

 

 

 さて、虚海は何とかこっちに取り込むつもりだが…それはそれとして、ホロウをどうしたもんだろうか。

 虚海がショックを受けるとか、その辺の事を差し引いても、あいつとの間に感じる壁はどうにかしたい。いざクサレイヅチを前にした時、ホロウの戦力を当てにできないとなると…いや勝てるには勝てるだろうけど、少々面倒な事になるかもしれない。

 

 しかし、どうやって記憶を取り戻させたものか…。ゲームストーリーであれば、過去の関係者…つまり虚海と出会う事で、何らかの切っ掛けになりそうなもんだが。

 でももう会ってるしなぁ。その上で、ホロウも何も思い出さなかったし。

 

 

「キュ、キュ、キュイッ」

 

 

 ん? …おお、天吉じゃないか。

 なんだ、一人…もとい一匹か? ホロウは一緒じゃないのか。 これから虚海の所にお見舞いか? 今難しい話をしてるからな。虐めてる訳じゃないから、入って行くなら無茶しちゃ駄目だぞ?

 

 

「キュイッ、キュイィ」

 

 

 そっか。お見舞いに木の実を持っていくか。それくらいならいいだろ…。

 ん? 何? ホロウと博士が話?

 

 …なーんかイベントの予感がするな。どっちだ?

 

 

「キュイ」

 

 

 飯処? …ホロウが入り浸って離れないから、博士が会いに来たのかな。

 呼び出したところで、来るかどうか疑問だしなぁ…。飯で釣れば話は別だろうけど、博士はそっち方面はあんまり強くない。

 

 

 

 天吉に教えてもらった通り、飯処では二人が会話していた。

 割り込もうかと思ったが、ホロウの俺に対する態度もあるし、ひょっとしたら聞かれたくない話でもしているのかもしれない。

 …なので、気配を消して忍び寄り、耳を澄ます。

 

 …忍び寄っても、5分くらいはホロウが飯食う音が響くだけだった。

 どうやら、話をする対価として博士が奢っているようだが…あの博士が、よく大人しく待ってるもんだ。それだけ重要な話なのだろうか。

 

 

 

「……トキワノオロチ…?」

 

「そうだ。聞き覚えはあるか?」

 

「………………………わかりません。記憶が無いので」

 

「記憶が無くても思い出せ。お前の素性は、奴から聞いて私も知っている。イヅチカナタを追っているなら、十中八九関わりがある筈だ。甘味を追加してやるから、死ぬ気で思い出せ。心当たりはないか」

 

「……………」

 

 

 ぜんざいを啜りながら、ホロウは考え込んでいる。

 トキワノオロチ…知らない名前だ。鬼の一種だろうか? でも大蛇ってくらいだし…。まぁ蜘蛛で鬼なんてのも居るし、蛇で鬼が居てもおかしくないが。

 博士の言い方だと、クサレイヅチに関係がある鬼なんだろうか。しかし、追いかけ続けてるけど、俺は聴いた覚えが無いな。

 

 

「…響きに覚えがあるような気はします。どのような鬼ですか?」

 

「イヅチカナタとは少し違うが、時空を超える鬼だ。現在は封印されている筈だが、何せ時間移動を可能とする鬼だからな。いつ何処に出現してもおかしくは無い」

 

「時空を超える力なら、鬼ならば大小の差はあれ持っています。特に珍しくないのでは」

 

「奴の力は桁違いだ。奴の為に滅んだ国は数知れない程にな。もしも奴を操る事ができれば、遥かな過去だろうと未来だろうと、行けない場所はないだろうよ」

 

 

 ほう…。それはまた恐ろしい話だ。しかし、操る…ねぇ。博士がそんな事を言い出すって事は、その鬼を操る方法、或いは操りそうな奴に心当たりでもあるんだろうか?

 鬼を操るなんぞ、真っ当な人間の発想じゃない。…いや、真っ当じゃない連中は珍しくないけどさ。

 考えてみれば、虚海とか真っ先に目論みそうじゃないか。上手く行けば過去に戻れる、下手をすればクサレイヅチと戦って鬼門に流されたという過去すら改変できる…。

 虚海だけじゃない、秋水だってやりそうだ。…本当に、その鬼を操る事が出来るのなら、だけど。でも、出来なくても出来るようにする為の研究なんだよな。

 

 

 …つーか、博士は前ループの時に、ホロウにその鬼の事を聞かなかったんだろうか。少なくとも俺は聞かれなかった。

 あの博士の事だから、もしも聞き出していたとしたら次ループの自分に対して確実に情報を残す筈。

 …聞かなかったのか、聞いてはいたが不十分な情報だったのか、それとも単に理由があって伝えてないだけか。

 

 

「危険な鬼と言う事は理解しましたが、拘る理由でもあるのですか」

 

「貴様らと同じように…いや、今の貴様は違うのだったな。私にも多少のしがらみや因縁はあるというだけだ。その因縁も、何かおかしなことになっているようだが…」

 

「よく分かりませんが、やはり思い出せる事はありません。記憶が戻れが、何か思い出すかもしれませんが」

 

「…そうか。ならば行くぞ」

 

「? どこへでしょうか?」

 

「記憶を戻す方法に心当たりがある。流石に確実にとは言えんが、座して待つよりは可能性はあるだろう」

 

「……そういう事であれば、食事が終わってからお付き合いします」

 

「さっさと食え。私は準備をして、先に向かっている」

 

「どこへですか?」

 

 

 

 なんかホロウの食いつきがちょっと強いな。流石に自分の失われた記憶は気になるのか。

 博士は代金(ホロウの分含む)を置くと、傍らに立て掛けてあった得物の銃を持ち、振り返りもせずに言う。

 

 

「滅鬼隊の源流が封印されているという遺跡だ。あそこはいつも存在している訳ではないから、さっさと来る事だ」

 

「話に聞いた、現れては消える遺跡ですか。今存在しているとは限らないのでは」

 

「いいからさっさと来い」

 

 

 …博士は行ってしまった。

 ホロウはマイペースに、残された団子を味わっている。…いや、ちょっとだけ上の空かな。

 

 しかし、そうか、あの遺跡…箱舟か。

 確かに言われてみれば納得だ。前のループで博士も話していたが、ホロウには恐らく『同類』…クサレイヅチを討伐する為に編成された仲間が居る。

 その仲間…と言っていいのか分からないが(だってホロウは一人だけで追ってたし)、それが箱舟の連中である可能性は充分にある。

 少なくとも、箱舟自体はホロウと同じ世界の代物だと思う。茅場が狂喜乱舞して、遺跡と一緒に消失するのもお構いなしに調べてたしな。

 

 その箱舟を見せれば、失われた記憶が刺激される可能性は高い。少なくとも、このまま茫洋として座して待つよりは。

 どうするかな…ホロウがどういう反応を見せるのか、興味はある。案外、以前のホロウ自身さえ忘れ去っていたようなレアな情報とか出てくるかもしれない。

 しかし…俺が行くと、なんかホロウがやる気を無くしそうな気がするんだよなぁ。

 

 依然、ホロウとの間に感じる壁は消えてない。気のせいではなく、確かに拒絶されてしまっている。

 もっと言ってしまえば、何かと俺との同行を拒否しようとしているようだった。

 理由はともかく、俺が行ったら臍を曲げて『帰ります』なんて事になるような…。そもそも、ここで出たら盗み聞きしてましたって白状するようなものだし。

 

 

 …よし、俺じゃなくて他の誰かに行ってもらおうか。あの遺跡に興味を持ってる子も居たし、別段不自然ではないだろう。

 急な任務になるから、丁度よく誰か掴まるとは限らないが…。

 とりあえず、ここに居てもホロウに気付かれる危険が増すだけだ。一旦、屯所の方に戻るとしよう。

 

 

 

 

 

 丁度暇していたらしい、凛子・凛花のコンビに依頼。急な話だったのに、二つ返事で引き受けてくれる辺り、本当にいい子だよ。 

 報酬は夜の優先権でいいって言うし。…いや、流石にそれだけじゃ悪いんで、ハクも出すけどね。そもそも優先権って言っても、誘ってくれればホイホイついて行く、或いは誘い込むからな。何ならその場で即本番もありだ。

 

 ホロウを探るような言動はしないように、ときつく言い含めた。頭は悪くないんだけど、対人経験が極端に少ないのはうちの子達の共通の弱点。余計な事は考えない方がいい。

 



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576話

どうも、時守です。
今回、うちの色ボケの考え方と言うか行動がキモすぎるかな…と思いましたが、正直今更でした。

それはそれとして、重要報告です。
今回の話で、完全に書き溜めが尽きました。
2話分くらいの文字数だったので、分ければまだ4日間更新を続けられたかもしれませんが、正直言って完全に行き詰っています。
展開が思い浮かばない事に加え、最近では書いていても読み返しても、「これ面白いのかな…冗長なだけだよな…」と、自分自身でさえ思う始末。
更にはリアルの職場で厄介な事になっており、執筆の時間が取れません。

今回の話が終われば、本格的に終わりに向けて話を動かす予定でもあるので、一度頭を冷やし、プロットを練っておきたいと思います。
何度も申し訳ありませんが、暫く更新はお休みさせていただく事としました。
復帰しても、定期更新に戻るかは怪しいところです。

思えば更新止まる止まるも何度目か…。
なるべく早く復帰したいと思いますが、職場が落ち着くのが一か月以上先となりそうです。
エターだけは避けるので、どうかお待ちくださいませ。

…プロット練り直しのついでに、人物紹介も進めておくべきか…。




 

黄昏月弐拾惨日目

 

 

 はい、皆さんこんばんは。壁にかけてある時計が12回の鐘の音を響かせた直後、日付変更した瞬間です。そろそろ寝ないと明日に響きますが、人によってはこの時間こそが最も盛り上がる時間となります。

  つまり…寝起きドッキリ…もとい、夜這いのお時間でございます。

 ん? 意味が分からない? いつもの事?

 

 いやまぁそうなんだけどね。一日の終わりには、大抵自室で少なくとも5~6人以上の子達を羽化登仙の境地まで連れて行って、ヤり足りないから参加してなかった子達の部屋に勝手に入って、寝ている所をいきなり貫いたりするのが日常だから。

 満足して自分の部屋に戻ったら(夜這いした子の部屋で、我が物顔で眠る事もあるけど)、今度は逆夜這いされる事もよくあるし。

 色ボケしてるのは俺だけじゃなくて、うちの子達もなのだよ。

 

 …話が逸れた。

 ともかく、今回はちょっと違う夜這いなのです。具体的に言えば、同意を取っておりません。アポなしでこっそり忍び込み、嫌だと拒否されても犯します。

 普通、夜這いってそーいうもんでしょ。

 

 

 …普通に犯罪だって? 聞こえませんな。

 

 そして今、俺はその夜這いに誰を連れて行こうか悩んでいる。

 うん? 連れて行くのは女の子だよ。俺、基本的に独占厨だもの。抱きたいと思った相手を、他の男にヤらせてやる理由は無い。

 

 

 まーレズプレイさせるなんて日常茶飯事だから、誰を連れて行っても嫌だと言われる事は無いと思おう。同意を得ずに行為に及ぶ点に関しては………多分、拒絶って選択を考えもしないんじゃないかな。うちの子達にとって、俺との交合=超が付く程極上のご褒美って認識だから、拒む人がいるなんて考えもしないんじゃなかろうか。…そうなるくらいに、毎晩毎晩躾けまくってるからね!

 そういう訳で、うちの子達から拒否反応が出る事は無さそうだが、相手が相手でねぇ…。

 

 もうお気づきかと思うが、今回の夜這いのターゲットはずばり、虚海である。

 

 

 ん? 大和のお頭から、強引な真似をするなと釘を刺された? そんな釘、刹那で抜けちゃったよ。

 

 合意を得ればいい訳だしな。昼間の反応でも確信したが、虚海は睦言に興味津々……いや、ちょっと違うな。自分を抱きしめてくれる男なんて現れない、自分は一生処女のままで、ついでに童貞なんだと諦めて、自分には関係ないと遠ざけていた。

 が、そんだけ抑圧されれば、反動で無意識化の興味は膨れ上がる。ちょいとつついてやっただけで、過剰なくらいに反応する。

 

 

 今、虚海はきっと布団の中で悶えている事だろう。

 本当に『卒業』できるのか、自分の裸を前にしても萎えないのか、いや何故裸を見せる前提で考えている、確かに経験は無いし興味が全く無いとは言わないがこんな流れで経験するというのも、それにしても今更だがどうせ死ぬなら一回くらいは経験してみても…って感じで、ヤッてみたい自分と認めたくない自分の間で悶々としている。

 何でそこまで断言できるかって? 前ループで無理矢理関係を持った後の虚海が、正にそんな感じだったんだよ。

 

 つー訳で、態度は拒否しようとするかもしれないが、真顔で迫れば確実に堕とせる。口説ける。合意を得られる。なのでこれは合法。

 …やっぱり犯罪? 聞こえませんな。

 

 

 で、ここで悩んでいる理由に戻るんだが……処女は俺が奪う…もとい貰うからいいとして。

 

 

 

 童貞の方、どうすっかなーって事だよ。

 虚海のイチモツが、俺のよりもナンボかデカいって事については、あんまり気にしてない。男として負けたくない部分ではあるが、総合力では圧勝していると自負しているし、何ならドーピング染みた技だって幾つかある。ガチで馬並み、それ以上にする事も出来る。

 でもモノがモノ…何せ鬼の体のモノだ…だから、扱うにはそれなりの技術だって必要だろうし、『梁型ならいいけど、若様以外のちんぽは嫌』って子も居る。『烙印』で体を改造して肉棒を生やさせてフタナリプレイも、人によっては拒否感がある。

 

 オナホで虐めてやるプランも考えたんだが、折角だし処女も童貞も同時に卒業させて滅茶苦茶にしてあげたい。

 それくらい強烈で、忘れられない快感にした方が、気力の元になるだろう。絶望して死を選ぼうとしても、『折角だからあと一回』『死ぬ前にもう一回』『…死んだらこれもできなくなるんだな』みたいな感じで。

 

 うん? そんな都合よくいく筈がない?

 まぁそうだな、オカルト版真言立川流がなければ、そんな展開にはなりゃしないわな。でもそうさせるんだよ。

 

 

 …なんか色々脱線したが、つまり虚海の童貞を捨てさせる為に、誰を連れて行くかって問題だ。

 虚海はまだ、体を自分で動かせないからな…。こっちから虐め…もとい、可愛がってやることになる。…そう言えば、奉仕や受けの技術は色々教え込んでるけど、女側が主導権を取って…って技術を持ってる子は少ないな。いつも俺が虐める側に回ってた。

 

 となると、候補は大分絞られてくる。

 俺と一緒に虚海を手籠めにできる技術を持っていて、虚海のちんぽにも臆さず嫌悪感を見せずに触れられる子と言えば…。

 

 

 静流、だな。

 

 

 色仕掛け用に調整されていただけあって、色香や体を使う事に抵抗が少ない。多少強引に関係を持つ事にも。

 俺…と言うか、主のちんぽに対してはクソ雑魚まんこになるけど、それ以外の技術は上々。『優しく虐める』系の、絡めとって引き摺り込んで溺れさせるようなプレイが得意だ。

 

 

 ふむ…。

 

 

 金髪眼鏡のナイスバディ(テクも極上)が、フタナリ虚海の下半身をがっちり、しかし優しくホールドし、ネズミを弄ぶ猫のような表情で、イキそうでイケないギリギリの状態で焦らし続ける。

 コンプレックスの部分を弄り回されて、涙目になる虚海。しかしちんちんは正直だった。もっとして、と言わんばかりにピクピクと先端から先走りを垂れ流し、優しい声で童貞童貞と小馬鹿にされて、屈辱を感じながらも柔肌に興奮してしまい、そしてM性感に溺れていく…。

 

 

 

 いいね、実にいい。静流の容姿もシチュエーションにこれでもかと言う程相性がいい。

 

 一発突っ込んでしまえばアヘアヘ確定なのがちと残念だが、俺以上のイチモツを持っている静流に弄ばれている虚海を前に、格の違いを見せ付けるように静流を征服するとか、実に燃えるじゃないか。

 虚海の内なる獣が目覚めて、鬼のちんぽをフル活用した精剛になる可能性もあるが、その場合は二人係で静流を汚しに行くので、それもまた良し。

 

 

 

 

 

 

 と言う訳で、静流を呼び出した。

 呼んだ時間が時間だったので、二人っきりでのお楽しみかと期待させてしまったのは悪かった。気合い入れて準備してきてくれたからな…。

 期待とは裏腹に、他の女を襲いに行くから手伝え、なんて言われても即切り替えて承諾する辺り、うちの子達は本当に狂ってる。狂わせた。

 二人きりどころか後ろ暗い任なのは申し訳ないが、その分埋め合わせはするから勘弁してくれ。静流も見られるのは嫌いじゃなかろ。

 

 静流を伴い、人目を避けて虚海の居る家へ。普段に比べ、夜間の警備は厳しい。

 これは別に俺が何かするのを警戒してるんじゃなくて、結界の効かない鬼対策の為だ。

 とは言え、モノノフは基本的に人間相手の戦いは素人…とまでは言わないが、ちょっと心得がある者なら、人目を避けて進むのは難しくない。主力陣クラスの達人が居れば話は別だが、そっちは日中の任務に割り当てられて、夜は普通に寝てるからな。

 

 静流と共に、最小限の明かりだけ灯された里を進む事暫し。

 虚海が居る小屋には、見張りが立たされていた。気配を探ってみたが、中に確かに居るな。

 昼間に俺が立ち去った後、大和のお頭と虚海の間でどんな話がされたのかは分からないが…あまりいい結果ではなかったと見える。

 いや、例えいい結果だったとしても、すぐには見張りを外す事はできんな。

 

 さて、どうしたものか。見張りの目を誤魔化すのは朝飯前だが、コトに及んでいる間、一切気付かれないかと言うと、流石にそれは難しい。

 声を抑えてヤるのもオツなものだが、虚海が声を抑えられるとも思えん。そんな生温い快楽で済ますつもりは、俺にも、何だかんだ言って楽しみにしている静流にもない。

 気絶させる…いや、流石に後でバレるな。虚海の見張り兼護衛を任せられるだけあって、待機しているモノノフは中々の手練のようだ。気絶させる事は出来ても、後から『何者かが襲撃してきた』と確実に証言されるだろう。

 

 どうしたものかと思っていると、静流がトントンと肩を突いてきた。

 振り返ると、これ見よがしに懐から取り出した袋を振ってみせる。

 

 中を見てみると……捕獲用麻酔薬。…の、完成一歩手前の状態。ネムリ草とマヒダケを粉末状にして混ぜたモノだった。

 …何でこんなモノ持ってきてるの?

 

 無言で目を合わせると、静流はニコリと微笑んで、粉末を風に乗せてばら蒔き始めた。

 程なくして、見張り役はふらりと倒れそうになる。物音を立てられても困るので、飛び出して支えた。得物の槍に体を預けさせ、一瞬微睡んだかのような状態にする。

 

 

(上手くいったわね、若様)

 

 

 お、おう…。まさか人間相手に捕獲用麻酔薬モドキとは…。いつの間に作ったんだ?

 

 

(若様が寝物語に教えてくれたじゃない。便利そうだから作ってみたのよ。私の能力なら、材料は簡単に増やせるもの。若様の作り方そのままだと人間には強すぎるけど、こうして粉末にして、少しだけ吸わせれば、人間にも丁度いい感じに効くのよ)

 

 

 …一体、いつ誰でそれを実験したのか。そして、それをどうして誰に使うつもりだったのか。静流を呼び出して、そのままこっちに来たんだぞ。つまり使うつもりだったのは…。

 にこりと笑う静流の態度の裏側に、闇を感じた。

 

 ま、まぁ、それはいいか。 少なくとも、俺にはこの薬は効かないしな。ハンターたる者、足元で捕獲用麻酔玉を20個破裂させたとしても、平然としていられるものだ。むせもしない。…俺以外? 使う必要を生じさせない事で、何とか対処しようと思います。今回限りで封印指定です。

 

 

 小屋に忍び込むと、モゾモゾと布団の中で蠢く音が聞こえてくる。やはり虚海は部屋の布団に横たわっている。

 ……こっそり橘花辺りが先回りしてるんじゃないか…なんて思っていたが、それは杞憂のようだ。代わりに、虚空からの視線を感じる。……どうやら雪華が、例によって期待を込めて覗いているようだ。普段より視線が強いな。夢で繋いで、橘花も覗きに相乗りしてないか?

 

 

「…ねぇ、若様。布団の真ん中、盛り上がってない?」

 

 

 漫画みたいに、もっこりと盛り上がってるな。予想通り、悶々としているようだ。

 気にするまいと思っても、つい想像して興奮してしまっているんだろう。

 

 …と思っていたら、虚海が上体をしんどそうに起こして、布団を剥ぎ取ってしまった。時期的に、まだ暑いからなぁ。

 白く、ゆったりとした病衣は、薄っすらと汗で濡れ、肌にへばりついているようだ。

 そして、足の間からは、顔に見合わない、勃起したイチモツが。

 

 

「うわぁ…。本当に若様より、少し大きい…」

 

 

 事実だけど、なんかちょっともやっと来るな。

 

 

「気にしなくてもいいじゃない。大きいって言っても少しだけだし、何よりも若様のと違って大きいだけだもの。若様のは…反りといい熱さといい亀頭の段差といい、女を善がらせて孕ませるのに特化しているって、一目でわかるもの。雄としては圧勝よ」

 

 

 あいつ、雌だから当たり前っちゃ当たり前なんだけどな。あと、孕ませ特化の形になっているのは否定しないが、孕ませたことはまだ数える程しかない。…デスワープでなかった事になっちまったけど。

 つーか、孕ませ特化の形とか、よく分かるなー。誰かの見た?

 

 

「いいえ。若様が嫌がるから、他の男とは関係を持ってないし、色の術も使ってないわ。ただ、予め刷り込まれた知識なのか、過去の経験なのか…。色々と知ってるのよ」

 

 

 また横になるのかと思った虚海は、憎々し気に自分の股間に目をやる。ギチギチに反り返っているソレが目に入ると、左手を握ったり開いたりした。

 大方、昂ってしまって眠れないのを、イチモツのせいだと思っているんだろう。間違ってはいないな。

 純粋な女、或いは男であれば、自慰でも何でもして性欲を発散させれば、多少は落ち着くだろうが…虚海にとって、それは取りたくない手段であるらしい。

 ちなみに、利き腕である右手を使わないのは、人の手だと鬼のイチモツには刺激が弱いからと思われる。

 

 

「女性の部分だけで落ち着く、って事はできないのかしらね」

 

 

 難しいんじゃないかな。絶頂自体はできるかもしれんが、金玉には精子が溜まってるだろうし、吐き出さないと落ち着かないと思うぞ。

 『烙印』で体を弄って、男性器を生やさせた時には、大体みんなそんな感じだったし。

 

 …静流はそういや、そっち方面は未経験だったな。『烙印』も使ってないし。

 また今度提案してみよう。

 

 

 こっそり見ていると、虚海は躊躇いながら、自分のイチモツに触れるか触れないかのところで逡巡している。

 吐き出してスッキリするならするで、厠でやった方がいいと思うんだけどな。自分の精液が飛び散った布団や部屋で、気分よく眠れるとも思えんし。

 

 さて、このまま虚海が自分の性欲に屈するまで葛藤を見物するのもいいが、流石にそれは哀れと言うモノ。

 何より、覚悟を決められると「自分で処理するから、さっさと出て行け」と言われそうだ。口では拒絶しながらも、心根の期待が隠せない状態が一番落としやすい。

 

 静流に目配せし、気配を消したまま虚海の視界の外を通って背後に回る。

 暗闇の中とは言え、ここまでしても気付かない辺り、精神的にも相当に乱れているようだ。もう、頭の中がエロい事で一杯になっているんだろう。

 

 今にも性欲に屈し、左手をイチモツへ、右手をその下の女の部分に伸ばそうとした時に。

 

 

「こ~んばんわ。一人で慰めちゃう寂しい子、見つけたわ」

 

「!?」

 

 

 おっと、騒がない騒がない。両手も掴んで封じちゃいましょうね~。

 

 背後に回った俺が虚海の左手を掴み、口を手で塞ぐ。

 正面の静流が右手を抑え、足に体重をかけて動きを封じた。反り返っているイチモツが隠れないよう、病衣の裾を開けさせる。

 

 

「…!! ~~!!!」

 

 

 何言ってるか大体予想はつくけど、夜這いに来ました。女連れで。

 うん? 処女卒業、童貞捨てる手伝いをするって言ったじゃん。だから夜な夜な人目を忍んで尋ねてきたんだけど。

 

 

「~~~!!!(許可も得ずに入り込むのは尋ねるとは言わん! そもそも承諾した覚えはないわ!)」

 

 

 でも嫌とも言われなかったし。 

 それに、口ではどう言いながらも、興味津々なのはソッチを見れば…なぁ、静流?

 

 

「ええ、そうね。ふふっ、私に圧し掛かられてるだけで、もう射精しそうになってるわよ?」

 

 

 可愛いわぁ、などと嗜虐的に囁きながら、静流は自由になっている手で虚海の足から秘部、そして玉袋とイチモツにすーっと指を這わす。

 おそらくは自分でも数える程しか触れた事のない花園を、欲望を煽るように微弱な刺激を与えていく。

 

 屈辱にか、意に沿わない快楽にか、目の端から涙を滲ませて藻掻こうとする虚海。だが腕も足もがっちりと捕らえられ、更に擽るような愛撫を受けて腰から力が抜けてしまう。

 心はともかく、体は完全に屈したがっているのを自覚しているだろうか。少なくとも、鬼のイチモツは静流の柔肌の熱さを感じただけで、今にも暴発してしまいそうに昂っている。

 それを見た静流は、にんまり笑って深く息を吸い込んだ。

 

 

「これだけでも、堪らないでしょう? ふぅ~……」

 

「………!!」

 

「ふぅ~………ふふっ、白いの、滲み出てきたわよ?」

 

 

 おおう、どんだけ昂って敏感になってるんだか。まさか静流の息を先端に吹きかけられるだけで、我慢の臨界を超えるとは…。るインドオーガズム、と言うやつだな。

 強い刺激、決定的な刺激で噴き出すのではない。絶頂の瞬間に刺激を止め、しかし精液がダラダラとお漏らしされていく射精。

 あれでは性欲は発散などされるまい。ほんの僅かに漏れた白濁が、虚海のイチモツを濡らしながら滑り落ちる。絶頂してはいるが小さすぎ、溜った欲望を刺激するだけだ。

 

 

「どう? こんな小さな絶頂でも、他人の手で施させると気持ちよさが全然違うでしょう? でも、こんなのはまだまだ序の口よ。今夜はこれが生き甲斐になっちゃうくらい、気持ちよくしてあげるから。楽しみにしててね」

 

 

 欲望が滲むのは、虚海の体だけではない。ビクビクと、薄い絶頂に震える虚海の心も、着実に折れてきている。

 また、虚海を嬲るのを明らかに楽しんでいる静流も、性欲に身を任せようとしている。

 

 このまま虚海が溺れてしまうのを見物するのもいいが、虚海を『女』にする役目は譲れない。

 体に殆ど力が入らなくなっているのを確認して、抑えつけていた腕を解放し、病衣の裾から内側に潜り込ませていく。

 

 指先に微弱な霊力を籠め、鬼の体を撫で上げる。

 

 

「……っ…! く、はっ……な、何故…こんな感触は、一度も…!」

 

 

 なに、鬼の体だって触覚はあるんだ。触り方次第で、いくらでも性感は引き出せるさ。

 鬼の皮膚は普通の人間の肌よりも硬くて厚いから、ちょいと強めに刺激する必要はあるけどね。霊力を通せば、肌の下に隠されている神経を直接刺激するのだって朝飯前よ。

 

 ほれほれ、虚海の体の弱い所はよーく知ってるぞ。虚海自信よりな。このまま、反抗しようとする気力すら湧かないくらいに蕩けさせてやろう。

 

 

「や、や、めぇ……」

 

「だぁめ。若様に抱いてもらえるなんてご褒美なんだから、大人しく食べられちゃいなさい。おいたが過ぎるようなら、おちんちんに悪戯しちゃうわよ」

 

 

 ご褒美なのは自分達にとってだけで、おいたをしているのは俺なのだが、静流はそれを理解した上で言葉で責める。

 更に今にも破裂しそうな剛直を、その深い谷間で包み込んでしまった。ただし、根本は彼女の手がしっかりと握っている。

 射精を禁じられ、そのくせ肉棒には柔らかく暖かい感触で包まれ、虚海の下半身は切なさともどかしさと快楽で、何が何だか分からない状態になっていく。いきり立つ肉棒と玉袋で隠れている秘裂も、強引に貯め込まれていく快楽を逃がそうとするようにだらだらと愛液を垂れ流す。

 

 今にも全てが溶けてしまいそうな感覚の中、虚海はそれでも抗っている。

 本人の精神力故なのか、それとも羞恥心を捨てきれないのか。絶望に抗おうとしていた時期が、彼女を良くも悪くも鍛え上げたのかもしれない。

 尤も、その抗いを辞めさせてしまう方法も、よく心得ているんだけどな。

 

 理性が薄れていく虚海に喝を入れるように、首筋に舌を這わせる。ねっとりとした感触に、ゾクゾクとした刺激を浴びせられて、虚海は寸でのところで我を取り戻した。

 

 

「や、め、ろ……何を…狙って…」

 

 

 ん? 狙い? そりゃ単純だよ。

 

 

 

 虚海が欲しい。俺がかつて知っていた『千歳』ではなく、今の虚海が。

 言ってる意味が分からない? 女として欲しい、と言ってもまだ分からないかな。

 

 ああ、そりゃ確かに、虜にしてしまえば色々協力してくれるだろうって打算はあるよ。でもそれが無くても虚海を抱きたい。抱きしめたい。乱れさせて、俺の痕跡を魂にまで刻んでしまいたい。

 

 

「…な……ぁ…」

 

 

 信じられない、とでも言うように目を見開く虚海。いや、事実信じられないんだろう。

 別に嘘を吐いているのではない。少なくとも、虚海は俺にとって充分に性欲の対象だし、愛着もある。こんなポンコツ放っておいたら、肝心な所で転んで自覚も悪意もないまま大惨事を引き起こしそうだという不安もある。

 何にせよ、俺は虚海を『欲しい』と思っているし幸せになってほしいとも思っている。少なくとも、諦観の中で朽ちていくのではなく、いぢられまくって涙目になるくらいにしてほしいと思う程度には。

 

 異形となった虚海を、そのような目で見る者などいなかっただろう。…いないかな? 体の半分は人間の美少女だし、日本人の性癖なら半分鬼でフタナリでも大喜びする奴は多そうだが。

 信じられないなら、これでどうだ?

 生身の人間ちんぽを後ろからグリグリと押し当ててやる。股の間から、そそり立たせると、先端が鬼ちんぽの半ばあたりをぺちぺち叩いた。

 静流の手とも違う感触が何なのか、思い当たった虚海は赤面しながら呆然とするという、器用な表情を見せた。

 

 男が自分の体で興奮している…という現象は、虚海にとって初体験だっただろう。人外の体にもお構いなしの色狂いなぞ、想像すらしていなかった。

 だが実感として突きつけられたソレは、失われていた雌としての自信の呼び水となり、自分が本当に欲されているのではないか、という考えを思い起こさせる。

 無論、まともな思考と言えるものではない。今もなお静流によって愛撫され、快楽を注ぎ込まれている体に影響されて、何でもいいから行為を続ける理由を作りたがっているだけだ。

 

 

 

 だが、それでも虚海は満たされる。虚海が欲していたものは、それだ。

 愛される事。身も心も受け入れられる事。これに尽きる。

 拒絶されつづけた身の上で、ずっと願い続けていた事だ。例え、そのやり方がまともなモノではなかったとしても。

 

 

 絶句する虚海の唇を奪い、舌を絡めとる。

 鬼の体は体表まで。口の中は普通の人間と変わりない。以前のループでも、何度か強引に奪った唇。落とし方は百も承知だ。増して、虚海は俺の求愛を信じたがっているし、体は犯されたがっている。

 虚海が思い描くような『幸せな接吻』とは全く違う、捕らえた獲物を溶かして吸収するスライムのような接吻でも、心の防壁を壊すには充分すぎた。

 

 舌先を動かし、俺の接吻に応じる虚海。それを見て『堕ちた』と判断したのか、静流は愛撫を次の段階に進ませ始めた。

 これまでは欲望を煽る愛撫。ここからは…ただ只管、雌の喜びを刻む愛撫。

 

 

「二人とも…私も忘れないでよね。ああ、心配しなくても、男の部分も若様は愛してくれるわ。その為に、私を連れてきたんだもの」

 

 

 男の部分を気持ちよくするのは、流石に女には及ばないからなー。

 さぁ、静流。虚海の覚悟も決まったようだし、そろそろ一発ヌいてやってくれ。俺は…女にするからさ。

 

 

「……ん、んむぅ…」

 

 

 何をされるか不安に思ったのか、それを紛らわすように虚海は自ら接吻を求める。ぎこちないが、激しい舌の動きは虚海に注ぎ込まれた快楽と欲望の度合いを示していた。

 それに応じる俺を眺めながら、静流は虚海の鬼ちんぽを包んでいた乳をどかし、今度は顔を近付ける。

 横目で虚海が自分をチラ見しているのを確認して、見せつけるように舌を長く突き出した。

 

 ドロドロとした粘土の高い唾液に包まれたそれを、鬼ちんぽの先端に押し当てる。

 

 

「~~~!?」

 

 

 敏感になっていた部分は、それだけで射精しそうになったようだ。またしても、鬼ちんぽの根元をきつく握りしめて絶頂を阻止する。

 それと同時に、開いた手で鬼ちんぽの隣にある人間ちんぽ…俺のちんぽを弄り始めた。

 

 確実に俺の性感を高めながら、射精したくても射精できないよう、静流は虚海を口で責め立てる。奉仕しており、虚海もそれだけの快感を得ている筈なのに、実態は奉仕される側が虐められている。うん、こういうの好きだわ。

 そして静流に合わせ、俺は上半身の愛撫を深めていく。乳房を弄り、耳に舌を捻じ込み、霊力を循環させて一体感を作り出し…。

 だがまだイカせない。その気になれば、今この瞬間にでも気絶するような絶頂に導けるが、それはあまりにも勿体ない。

 男性の部分、女性の部分、共通の部分を纏めて達させてしまいたい。

 

 じゅるじゅると口淫の音を響かせて鬼ちんぽを嬲る静流を眺めながら、虚海から唇を離す。

 接吻で塞がれていた口から漏れ出てくるのは、日中の虚海からは想像もつかないような情けない声。絶頂を封じられ、翻弄される虚海は、知らない感覚に抗う術を持たない。ただ切ない衝動のまま、体をくねらせ意味の無い喘ぎ声を上げるしかない。

 もっと声を上げさせてやりたくなって、今度は俺が舌を伸ばす。這わすのは唇ではなく、耳。

 耳朶を舐め上げ、唾液を塗し、奥へ奥へと舌を捻じ込んでいく。じゅるじゅると卑猥な音を、これ以上ない程間近で聞かせてやる。

 虚海を卑猥に追い詰めるのは、音だけではなく、感触もだ。他人が触れない敏感な部分を、柔らかい舌で愛撫してやれば、慌てふためいて逃げようとし始める。体に力が入らなくなっているから無駄だけどね。

 

 反対の鬼の体側の耳は、霊力の糸を伸ばして全体を擽るようにしながら侵入する。

 ただでさえ敏感な部分に、体内の快楽神経を直接刺激する霊力を送り込んでいるのだ。更に言えば、霊力に乗せた思いは『愛しい』や『気持ちよくしてあげたい』など。

 耳だけでなく、脳に直接送り込んでいるようなものだ。

 愛される事を切望していた虚海にとって、これ以上無いほどの特攻効果が見込めるだろう。

 

 

 ねっとりと、捕らえた獲物をしゃぶるような舌使いで虚海を責め立てる。

 このまま続けていたいのは山々だが、はやいところ一区切りつけた方がいい。音を防ぐような結界を貼っている訳じゃないし、外の見張りもいつまで眠っているか分からない。目を覚ましたら、異常が無いか部屋の中を覗くくらいの事はするかもしれない。

 体感時間操作を使ってはいるが、引き延ばすにも限界はある。

 切りのいいところで虚海を休ませ、諸々の対策を打ってから、回復した虚海と改めてヤるべきだ。

 何より、静流の手コキに俺自身も長くは耐えられそうにない。そろそろ一発射精したくなってきた。

 

 静流に目で合図すると、頷いて少しだけ体勢を変える。

 虚海の入り口に俺のちんぽを宛がうと、上から垂れ下がっている鬼の金玉に竿が触れた。ずっしりとして、中々に重い。こんなの抱えてれば、そりゃ欲求不満だろうよ。それを解消しに来てやったんだけどな。

 未だに耳から…いや、全身を巡る悦楽に悶えている虚海も、いよいよ女になる瞬間が訪れた事を理解したらしい。

 ぐにゃぐにゃに蕩けていた体に、僅かながら緊張で力が入る。

 

 俺の動きに合わせ、静流が大きく口を開けた。嘗め回すだけだった鬼のちんぽに、顔全体で覆いかぶさる。

 咥えられるのだと、虚海は理解したろうか。口の中特有の温かさと湿気、滑りで暴発しそうになっている。静流が射精を抑え込んでいるようだが、それすら跳ね除けてしまいそうだ。

 

 抵抗を掻き分け、虚海の中に入って行く。人の体と鬼の体が交じり合う秘部のこの感触は、虚海以外では味わえないレアモノだ。

 柔らかい部分と硬い部分、そして他に類を見ないくらい強い締め付けと、何よりも非常に硬い処女膜。普通の人間では、この抵抗を貫くのは生身では難しいだろう。奥に辿り着く前に射精するか中折れするか、辿り着けたとしても貫けないかだ。

 それくらい硬い膜を、小細工も何もないちんぽの堅さで捻じ伏せる優越感。

 

 一度膜を破って超えてしまえば、その奥は極楽だ。

 まるで、膜を破った事で主人を定めたかのように、一斉に肉が絡みついて来る。

 気遣いなどまるで無しに腰を動かしてやれば、悦びで獣の声が溢れ出る。膜が破れた傷を抉ろうが、子宮の奥を突き上げようが、その全てが悦び。

 

 

 悦んでいるのは、雌の部分だけではない。鬼ちんぽは静流の口の中にすっぽり含まれ、猛烈なバキュームフェラを受けている。

 ひょっとこ顔もお構いなしに、顔を歪めて鬼ちんぽをしゃぶりつくす静流。激しい頭の上下運動をしながら、何度も何度も喉を鳴らす。

 膜を突き破るのと同時に鬼ちんぽを咥え込み、そして禁じていた射精も解き放ったのだ。

 勿論、我慢などできる筈も無く即座に暴発。口の中から溢れ出すそれを、一部は呑み込み、一部は潤滑油として利用し、重い金玉を空にしようと追撃をかける。舌先で擽り、頬の内側で先端を受け止め、喉の動きで全体を扱き、尿道に残る精液を吸い上げ、指先では金玉と根元を撫で回し、射精直後で敏感になっている鬼ちんぽを何処までも追い詰めていく。

 

 静流の技巧は、俺でさえ唸らずにはいられない程だ。いくら鬼の皮膚が刺激に強いとは言え、それで耐えられる筈もない。

 止めどなく迸り続ける射精の快楽。辛さと紙一重…いや、明かにそれを通り越している状態だが、静流は手と、口を止める事はしない。

 俺が止めようとしないから、と言うのもあるが、虚海がそれを悦びきっているからだ。

 

 鬼ちんぽを絞り上げられながら、俺の肉棒で処女地を蹂躙される。

 雌の悦びと雄の悦びが絡み合い、虚海の中で渦を巻く。

 肉の悦びだけではない。オカルト版真言立川流を用いた精神的交流で、心の底から満たしていく。人肌の温もりが、虚海の孤独と絶望を溶かしていく。

 

 もはや、虚海の中に拒絶は微塵も残っていない。

 ただただ愛される事に耽溺し、拙い動きで愛し返そうとする、健気な生き物がそこに居た。

 

 擦り切れ、何もかもを投げ出そうとした女が見せる、全てを捨てて縋りつく姿。愛おしさと、捻じ曲がった征服欲が膨れ上がる。

 俺の快楽が急激に膨れ上がり、虚海の中のイチモツが内部から圧迫する。自分の上にそそり立つ鬼ちんぽを、体越しにしたから突き上げるように、激しく虚海を責め立てる。

 それを余さず受け止める虚海の腰と、上手く繋がれるように補助し、更に鬼ちんぽを搾り取る静流。

 

 3人の絡み合いは、俺が欲望を解放した事によって終わりを告げる。

 虚海の中に思い切り精液を吐き出すと、力の限りに締め付けられて歓迎される。それに連動するかのように、静流に咥え込まれていた鬼ちんぽがビクビクと跳ねて、静流の体越しでも分かるくらいの精液を吹き上げた。

 静流も静流で、白濁…いや、汚濁を喉を鳴らして全て呑み込んでいく。精を呑む度に、静流の体が絶頂でビクビクと震えている。

 

 その状態がどれ程続いたか。三位一体、と言い張れるくらいに深い絶頂と一体感。

 全身を包む、心地よい快楽の余韻と虚脱感、幸福感。

 

 いつしか虚海の体から力が抜けて、俺に背中を預けるように倒れ込んでくる。

 同時に、ちゅぽん、と間の抜けた音を立てて、静流が鬼ちんぽから口を離した。離れる時にも残された精を啜り取っていたらしく、虚海の先端からタラタラと唾液が零れ落ちている。

 けふっ、と軽く咳き込んで…いや、どっちかと言うとゲップかな? …静流は明らかに欲望に身を委ねた表情で、呟いた。

 

 

「この味……若様の精液が混じってるみたいね」

 

 

 うん? …比喩じゃなさそうだな。静流が俺の味を間違えるとも思えんし。

 しかしそうなると、虚海は自分が射精された精液を、そのまま自分の精液として射出したという事だろうか? どういう構造しているのやら。

 だが興味深い。精液がそうなるのなら、中で小便とかしたらどうなるのか。尻に突っ込んで出したらどうなるだろうか。

 

 処女を卒業したばかりの虚海を相手にかなり鬼畜な事を考えているが、虚海は虐められて輝くからいいのだ。

 

 

「ぁ……」

 

 

 ? 脱力して呆然としていた虚海が、小さく声を上げる。意味の無い喘ぎではなく、明確な意思が載った言葉のようだ。

 おーい、どうした? 呼びかけながら、まだ敏感さが残るであろう体を、強すぎない程度に愛撫する。

 

 

「ぁ…暖かい…」

 

 

 …………。

 

 

「……男の、腕の中とは……このように心地よいものだったのか…」

 

 

 漏れた言葉の通り、虚海は安心しきった赤子のような表情で、俺に身を預けている。

 絶望に浸った姿は何処へやら。あれほど拒絶しようとしていた性的な行為への嫌悪も全く見られない。

 

 あーもう、可愛いこと言うなぁ、この子は。もう昂ってきちゃうじゃないか。

 

 

「ちょっと、若様? ぐっときたのは分かるけど、もうちょっと抑えた方がいいんじゃない? 初めてなのよ、この子は」

 

 

 だからこそ思いっきり刻み込みたいんだよなぁ。

 …でも、まぁ、そうだな。

 もう一つの主題が残っているか。

 

 

「……ぇ…?」

 

 

 本当は、どっちも同時に卒業させてやるつもりだったんだけどな。あんまり可愛いもんだから、つい先走ってしまった。

 すまんな、静流。色々準備してきてくれたのに。具体的には媚薬とかオナホとか。

 

 

「んー、思ってたより御立派けど、あっという間に我慢できなくなっちゃう情けな~い鬼ちんぽだったものねぇ。結果的にはこれでよかったんじゃない? おしゃぶりだけであれだもの。次に進んだら、あっという間にぴゅっぴゅしちゃうわ」

 

「…何の…話だ…?」

 

「とっても気持ちいいお話よ。ふふっ、夜はまだ長いんだから…最高の一夜にしましょうね」

 

 

 おっと、始める前に結界張って、外の見張り番にも細工して…これで良し。

 さぁ、虚海。無事に女になったことだし、今度は男になってみようか。

 遠慮するな。静流の口は極上だったろう? 女の快楽もいいが、男の快楽は今しか味わえないぞ。呪いが解けたら、多分その鬼ちんぽは消えるからな。

 

 期待……いや、覚悟してろよ。静流の膣内は極上だぞ。

 今度は俺が補助に回ってやる。本当だったら、俺の女を他の男に触れさせるなんて絶対やらないが、虚海は女だしな。女同士だから問題ない。

 

 

「さぁ……楽しみましょう? いきなり本番じゃ我慢でもきないみたいだから、まずは玩具で扱いてあげる」

 

 

 副音声に『搾り尽くしてあげるわ』と聞こえただろう。

 淫魔のような女を前に、虚海は少しだけ怯えを抱き、しかし先程の快楽と安心感を思い出したのか、鬼ちんぽはむくむくと天を衝く。

 捕らえた獲物に圧し掛かるように、静流は美麗な体を見せ付けながら虚海の体に吸い付いた。

 



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577話

どうも、時守です。
約一か月のご無沙汰です。
まだモチベーションが完全回復したとは言えませんが、このままだと執筆自体しなくなってしまいそうなので、ぼちぼち再開させて会させていただきたいと思います。

大雑把なプロットは出来上がりましたが、いざ進めるとなると中々難しく、文章量だけが増えるものですね。
巻き展開を意識するくらいでちょうどいいのかもしれません。

そろそろ本格的に寒くなってくる時期です。暖房器具が炬燵のみで指先を温められないのが困りもの。
寒すぎると、冗談抜きで何もする気なくなるんですよね…。
もうちょっと防寒対策考えます。


黄昏月弐拾肆日目

 

 虚海に男女の悦楽を異論兄三で教え込んだ翌日。別に何があった、という訳ではない。

 少なくともこの日は、相変わらず寝たきりだ。…理由は違うけどな。

 昨日までは無気力と、そもそも体自体が動かなかったからだが、それはもう完全に回復した。昨晩は自分から腰を振りまくるくらいには、体が動くようになっていた。

 股間の快楽に夢中になった虚海は、滑稽ながらも可愛かった。メスとして溺れ、オスとして嬲られ、一生縁が無いと思っていた肌の温もりと締め付け、何より内部を蹂躙される感覚に酔い痴れる。

 スキモノMっ子ちゃんとして、一晩かけて念入りに仕込んであげました。

 

 今の虚海は、絶望と諦観を抱え、終わりの時をただ待ち続ける虚海ではない。

 叩き込まれた淫悦の味に溺れ、何も考えないようにしようとしてもエロい妄想で頭が一杯、いぢめられるのを想像して朝から晩まで思わずフル勃起しまくっちゃう淫乱メス奴隷虚海ちゃんなのだ。

 

 

 おかげで、文字通り寝ても覚めてもちんちんがもっこりしてしまうんで、動きにくい事この上ないんだけどね。

 つーかその状態だと流石に何があったかバレバレで、大和のお頭に即制裁されてしまうので、禁術を使って対処しました。

 秘術・汚泥(えど)の術……勃起不全状態にする、男として使うのを躊躇われるような術である。

 こうでもしないと、「年がら年中発情してちんちん膨らませてます」と体現してしまう色狂い状態になっちゃったのだ。

 やりすぎたかな、と思わなくもない。だが反省しない。反省してもそれが活かされた事は無い。

 

 と、ともかく、虚海が動けないのは、単純に疲れ切っているからだ。体が動かなくなっていたのは治ったが、元々体力派ではなかったのに一晩腰を振り続けた。慣れない運動に加え、いくら悦んでいたとは言え、過剰なまでの悦楽と羞恥の波に、精神の方が疲弊してしまったようだ。

 今日一日はぐっすり眠って(寝てても夢の中で腰振ってそうなので、夢も見せないように眠らせました)、明日か明後日くらいには動き出すようになるだろう。

 …一応、夜這いをかけて調教したのがバレないよう、今まで通りの無気力を装えと指示はしているが……あいつに腹芸を期待するのもな…。

 虚海本人じゃなく、橘花とかに上手い事誘導を頼んでみるか。橘花の演技力は、過去ループの記憶を読み取った事で天元突破したからな。やろうと思えば、今からでも里人全員を傀儡にできるレベルで、意識誘導が上手くなっている。

 何とか誤魔化してくれるだろう…と思いたい。上手く行ったら虚海をオモチャにする時に優先的に誘う、とでも言っておけば嬉々としてやってくれるだろう。

 

 

 …そんな惨状でも、虚海を味方に付けられた事は確かだ。

 ご褒美なりお仕置きなりを餌にすれば、股座を熱くしながらホイホイ言う事を聞いてくれるだろう。

 

 と言っても、現状で虚海を仲間に引き込んだところで、あまり大きなメリットは無いんだけどな。

 触鬼や荒鬼を生み出しはしたものの、奴らを統率できている訳ではない。むしろ暴走した鬼に取り込まれた。

 陰陽寮に所属してはいるものの、横の繋がりなど無いに等しいから情報源にもならない。

 術の腕は確かだが、絶対に虚海でなければいけない、という案件も無い。

 ぶっちゃけ、放置しておくのが忍びなかったので、俺の私情で引き入れたようなものである。

 

 

 ……まぁ、何だ、居ても害になる訳じゃないし、戦力にはなりそうだし、知識も豊富だし、使い所も居場所もそのうち見つかるだろう。なんだったら、うちの子達全員の共同ペットにしたとしても、幸せそう…だと思う。うん。

 千歳とは別の意味で、里のアイドルになりそうだ。或いはマスコット。

 なりそうだ。なる。すりゅ。

 

 

 

 

 

 虚海に関する戯言は置いといて、ちょっとよろしくない情報がある。

 昨日、遺跡に向かったホロウと博士、そしてこっそりついていかせた凛子凛花がまだ戻ってきていないのだ。

 博士は…興味深い装置でもあれば、解析に夢中になって帰ってこないかもなー、とは思う。

 うちの子達も、俺から頼まれた任務だから…と張り切って、夜遊びに参加できる回数が一回減るとしても任務に集注するくらいの事はあるだろう。

 だが、ホロウが飯の時間になっても戻ってこないのは可笑しすぎる。

 

 宵越しの銭は持たぬとばかりに、最低限の生活費以外は全て食費に注ぎ込み、日がな一日食って喰って喰らって一眠り。満腹中枢が壊れているんじゃないかと思うような生活を送っているホロウである。おやつと晩飯と夜食と朝飯とブランチを逃がすとは、とっても思えん。

 問い合わせの為に受付所に行く途中、真鶴とバッタリ会った。

 

 

「貴殿か。…丁度いい、博士を見なかったか」

 

 

 昨日、ホロウと一緒に遺跡に向かうと話していたのが最後だな。

 そっちは? 博士と一緒に、うちの子達も遺跡に向かった筈なんだが。

 

 

「いや、私も同じだ。まだ戻ってきていないのか…。捜索に向かわねば」

 

 

 えらく焦ってるな? …いや確かに、安全とは言えない場所に向かった挙句に戻ってきてないのは焦るべきなんだが、それにしてもやけに過保護というか親身と言うか…。

 鬼が沢山出る場所に行った訳でもなし、仮にも一端のモノノフで大人なんだし、一晩姿を見ない程度で狼狽えるか?

 

 それともあれか、帰って来た博士に無茶振りされるとか考えてる?

 

 

「…かもしれん。無茶振りされるのも、その通りだな。だが、こなす価値のある無茶振りだ」

 

 

 うん?

 

 

「博士や茅場の元で、作業を手伝ったり世話をしたりしてきた。…あの二人は無茶を言うし突拍子もない物を作るし傍若無人で危険な研究ばかりで人格破綻者で生活無能力者で…」

 

 

 待て待て待て、いつまでその愚痴を続ける気だ。

 

 

「…すまん。とにかく色々と問題だらけな奴らだが、あの頭脳は本物だ。鬼との闘いに、人類にどれだけ貢献するか分からん。奴らを死なせる事が、一体どれだけの損失になるか考えたくもない」

 

 

 

 ほう。随分と評価してるもんだな。いい方にも悪い方にも。

 元は博士と同じ場所で暮らしていて、あまり良く思っていなかったと聞いたが…。

 それに、真鶴は元々異界浄化の方法を学びに来たんだよな。最近じゃ、博士の世話に付きっ切りになってるが。

 

 

「まぁ、そうだな。怪しげな研究をしている魔女だと言われていたよ。今でもその認識は変わってないし、その認識が相応しいとも思っている。異界浄化にしても、こう言ってはなんだが君に教わるより、彼女の分析を当てにした方がよさそうだ」

 

 

 …うーん、ちょっと納得はいかんが…確かに俺も理解して術を使ってるかと言われると…。それに、再現する、もっと簡単な方法に改造するという意味なら、博士の研究の方が確かに適任か。

 …って、のんびりお喋るしてる場合じゃなかったな。

 

 おーい木綿ちゃん、ちょっと聞きたいんだけど―。

 

 

「あ、頭領さん。珍しいですね、自分で来るなんて」

 

 

 直接狩場に出る機会に恵まれなくてね。

 それは置いといて、ちょっとうちの子達や博士、ホロウの事を聞きたいんだけど。

 

 それを聞いた木綿ちゃんの顔が曇る。部屋の中心に居る大和のお頭から視線が飛んできたが、泣かせてる訳じゃないから。

 

 

「それが、まだ帰ってきていないんです。遺跡には鬼も出なくなりましたし…。消えたり出現したりする現象も、つい先日出現したばかりですから、暫く消える事は無いと思われたのですが…」

 

「まさか…消失した、と?」

 

「はい…。朝に見張りに向かった隊の方々が、慌てて知らせてきてくれました」

 

 

 むぅ…消えた、って事は異次元跳躍の機能を働かせたって事だよな。遺跡が消失する事自体は度々あったが、今回に限って出現から消失までの時間が短すぎる…。

 消失してから、出現するまでの時間は?

 

 

「何とも言えず…。ただ、最短で出現するとしても、今までの例で言えば半日はかかります」

 

「昨日の昼に出発して、夕方ごろに遺跡に入って…仮に夜に遺跡が消えたのだとしても、まだ騒ぐほどの時間ではないな。長い時だと、再出現まで2日はかかった」

 

 

 再発までの期間が短いという事は、それだけ動力も溜まっていないと考えられる。

 つまり、機能を停止させて戻ってくるのも早くなると考えられるが……ちと楽観が過ぎるかな。

 

 困った事に、検証しようにも、救助に向かおうにも、遺跡が再度現れるまで何もできないんだよなぁ…。

 

 

「うむ…。一応、こちらで茅場にどうにかできないか掛け合ってみよう。異世界絡みの事だし、博士は茅場にとっても重要な協力者と認識されている。多少の知恵くらいは貸してくれるだろう」

 

 

 茅場が、自分の興味がある事以外には人非人な奴と認識されている件。間違ってはいないと思うが。

 俺はどうするかな…。鬼の手でどうにかなるか? 博士に言わせると、想像力次第でどんな事でも出来るって話だが…次元跳躍はまたレベルが違う話な気もする。

 

 差し当たり、何か異変が起こったのを前提にして準備しておくか。

 うちの子達の治療、博士とホロウが何かに襲われていた場合の防衛・迎撃の準備。

 

 大和のお頭、そういう訳なんだけど、暫く遺跡付近に布陣していいか?

 

 

「構わん。里からも人を出す…と言うより、既に動いている。遺跡が消えるのに人が巻き込まれたと知れた時点でな。今、秋水にも何かできる事が無いか調べさせているところだ。ああ、それと茅場と滅鬼隊にも連絡を飛ばしている。入れ違いだったようだがな」

 

 

 流石に行動が早い。

 ただし秋水が割と酷使されている件。他に頭いい奴、あんまり居ないからね…。那木も学者肌ではあるけど、研究者気質ではないし。

 

 とにかく、必要な手続きやら準備やらはもう済んでるって事ね。

 そんじゃ真鶴、悪いけど俺は別行動するわ。うちの子達が妙な事しないか見てないといけないしね。

 

 

「一番妙な事をやらかしそうな奴は、今ここに居るのだがな。まぁ、貴様がやる事で事態が悪化した事は(信じられない事に)ほぼ無いから、自由裁量を与えるが」

 

 

 そりゃどうも。

 とは言え、今回ばかりは待つしかできそうにないけどな。他に出来る事と言えば………遺跡があった場所を囲んで火を焚きまくって、踊り狂って召喚の儀式とか?

 

 

「鬼ですらないとんでもないナニカが出てきそうだから辞めろ。そもそも見ているだけで里人が不安を抱くわ」

 

 

 俺も那木に拉致監禁されて集中治療を受けさせられそうだな。

 うちの子達は……どんな反応が出るか微妙なところだ。

 

 ま、とにかく動くとしますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、その日一日は大した事はできなかった。

 遺跡が再出現した時に備えての準備は殆ど出来上がっていたし、里周辺で何か異変が起こっていた訳でもない。

 事実上、できるのは待つだけであった。

 

 遺跡と共に消えた4人を心配しているかと言われれば、心配はしているが、それ程焦っている訳ではない…と言うのが正確なところだろう。

 遺跡は度々消えたり現れたりするのは知っていたし、消えてからまだ1日経つか経たないか。心配はしても、不安になる程ではない。

 

 俺自身も、気になってはいるが、当てもなく走り回る程でもなく、いざ鎌倉という時に備えて力を貯えて温存しておこうとする程度の冷静さはあった。……つまり、いつも通りにうちの子達をつまみ食いしてはオカルト版真言立川流で力を増幅させていた、と言う事だが。

 ちなみに今日の執務補助担当(体感時間操作の為に、主に机の下でご奉仕する役)は不知火だ。流石のテクニックでした…分野によっては静流以上だ。

 不知火は演技をさせると上手いんだよなぁ。元が人格が崩壊寸前まで弄られ続けた副作用という笑えない話の産物ではあるが、ごっこ遊びが上手い上手い。うちの子達の中でも、不倫ごっこを楽しめる希少な人材である。他の子達は、頼めばやってくれるんだけど「想像の中だけとはいえ、若様以外の妻にされるのはちょっと…」という声が多い。いや、それだけ慕ってくれてるんだから文句言ったら罰が当たるけども。

 ついでに述べておくと、不知火のシチュエーションは「政略結婚したが、愛も無ければセックスレスで欲求不満の奥様が若い男にド嵌りする」です。セックスレスなのにテクニックが凄いのがミソですな。家庭板案件の気配を感じるw

 

 そんな訳で、不知火の熟した肉を(執務を途中で放り出して)ぐっぽり貪った後、個人的に武器防具の手入れを行っていた。

 こればっかりは、他の連中に任せる事はできないからな。ただでさえ神機を誰かが触るとえらい事になるし、他の世界の素材は扱い方が独特だから、この世界のやり方では研ぐのも難しい。

 …ちなみに、鹿之助が一度、MH世界の武器を持った事があるんだが…すぐに悲鳴を挙げて放り出した。「とんでもなく大きな犬に襲われるのが見えた」だそうだ。

 そういや、MH世界の武器にはモンスターのミタマみたいなものが宿ってたっけな。鹿之助はそれを探知してしまったんだろう。そこで立ち向かって捻じ伏せられれば、MH世界の装備を預けられたんだがな…。まぁ、鹿之助じゃなくても厳しいか。MH世界のモンスターは、鬼とは違った迫力がある。立ち向かう事ができたとしても、捻じ伏せられそうな奴は…うちの子達だと、正直厳しい。

 

 手入れ自体は今までも細目にやっていたのだが、やはり本職のやる手入れには程遠いし、本格的な手入れは久しぶりだ。こうして見ると、細かい綻びやガタつきがちょくちょく発見される。

 自分で、随分と弛んでいたものだと自戒する。

 やはり道具の手入れは、もっと細やかに行っておくべきだ。しかしそれには時間が足りないので、今度から手入れにも体感時間操作を使おうと思う。…俺が使う武器なんだし、柄を梁型代わりに使うくらい構わないよな?

 

 

 

 ともかく、唐突に武器防具の手入れを始めたのは、予感があったからだ。

 もうすぐ、また一波乱ある。厄介な鬼が出てくる。いや、鬼かどうかすら怪しいか。とにかく、クサレイヅチを斬る前に、もう一匹くらいのデカい鬼…イベントボスを乗り越えないといけない気がする。

 それこそ、俺が直接出張る必要がありそうな鬼がな。そうなったら、うちの子達でも、ウタカタの主戦力を総動員しても厳しいだろう。

 

 さて、どんなのが来るか…。単純に強い鬼か。クサレイヅチのような、真向から戦う事すら難しいような鬼か。何らかのギミックがある状況か。

 何にせよ、久方ぶりに大暴れする事になるだろう。

 

 

 

 

 …目の前にあるヌヌ剣の刃には、俺の歪んだ笑みが浮かんでいた。刃の湾曲によるものではない。自分でも、口元が吊り上がっているのが分かる。

 …やっぱり俺も、根っこはハンターなんだな。可愛い子や美人さんを侍らせ、好き勝手に食い散らかす愉しい生活を送っていると思っていたが、第四の欲求とも言える狩りへの衝動が発散されていなかったようだ。

 いや、そこが欲求不満になってるから、余計に女に走る………いや違うわ、フロンティアに居た頃から好き勝手食い散らかしてたし。

 

 まぁ、何でもいい。狩りの欲求を満たすチャンスだ。千歳救助が最優先だが、それはそれ、これはこれ。ここまで来て、至極あっさりと解放されても、それはそれで興醒めと言うもの。

 怨敵との最終決戦には、やはりカタルシスが欲しい。

 

 

 

 なーんて事を考えてたら、突然全身を衝撃が貫いた。

 別に、俺のケツを狙ってる子達に奇襲を喰らった訳じゃない。ドガバギと物がぶつかる音が連続する。部屋の外から、ギャーギャーとうちの子達が大騒ぎする声が聞こえる。

 

 

「地震だ!」

 

 

 なんか久しぶりだな、と呑気な感想が頭を過る。でも取り敢えずはそういう事だ。

 直下型地震だな、こりゃ。この家の耐震性能は……いや耐震もクソもねーわ。だってこの家、基本的に不思議パワーでブロックを空中に固定しているし。極端な話、1Fが全部崩落したとしても、2F以降は普通に空中に浮いたままです。

 でも片付けが大変そうだな。

 

 なーんて、呑気に考えていられるのは、これが天然モノの地震ではないと確信があるからだ。

 この揺れは、なんつーか、違う。地震じゃなくて、爆発の衝撃に近い。伊達に地震大国で産まれ…てなかったな、俺。ループが始まる前の記憶は、ほぼ他人の物だった。でも地震じゃないのは分かる。…今までのループでも、モンスターが引き起こした地鳴りとかでえらい目に合ってきたからな。それくらいの区別はつく。

 それはそれで、すぐ近場でとんでもない爆発があったって事で大問題と言えるが、少なくともこの衝撃自体は一過性のものだ。家を崩す程ではない。…ウタカタがちと心配だが。

 

 

 予想通り、地震は30秒もしない内に収まった。代わりにうちの子達が外でやいのやいのと騒いでいる。

 はぁ、取り敢えずこの騒ぎを収めますかね。地震を体験した事がない、或いは知識でしか知らない子も多いだろう。『お』『は』『し』の鉄則だって知りもしない。

 …書類に対する意識改革だけじゃなくて、避難訓練とかやっとくべきだったな…。

 

 

 

 



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578話

 

 

 

 

 

 

 混乱している非常時であっても、俺の一声は有効だった。いや、混乱しているからこそ、かな。

 良くも悪くも、皆思い思いに動こうとしていたからなぁ…。次の揺れに備えてすぐに外に避難しようとする者、それを指示しようとする者、必要最低限の物だけ持ち出そうとする者、パニックになっている者、何とか宥めようとして自分もパニックに呑まれる者…。

 命優先で、まず避難が正しいが、自分だけでなく周りの人も非難させようとしている子も居たな。何かを持ち出そうとする子だって、私物ではなく今後有用そうな物を持ちだそうとしていたようだし。まぁ、それで便器を外して持ち出してきたのはどうかと思うが。壊れてるし…。いや、野外生活で糞尿の処理に困るというのは実に同感なんだけどね。

 

 とにもかくにも号令一喝。全員を屯所の外に連れ出し、万一倒壊しても影響のない場所まで離れて点呼をさせる。

 …よし、全員居るな。つっても戻ってきてない凛子凛花以外は、だけど。

 

 んじゃ、次は状況確認と対策だ。

 明日奈、神夜達と共に結界周辺の警戒に当たってくれ。鬼の仕業と限った訳じゃないが、騒ぎに乗じて襲ってこないとも限らない。

 災禍、隊員番号1から20率いてウタカタに迎え。救助と状況把握を最優先としろ。

 那木、災禍達に同行して、怪我人の治療に当たってくれ。

 時子、21から30を率いて屯所の整理を任せる。火を消し、必要な物を持ち出しておけ。俺の部屋に全部屋の鍵束があるから使え。第二波第三波があるかもしれん、いつでも外に飛び出せるようにな。

 天音、地震…いや、衝撃の元凶を探る。残りを率いて供をしろ。

 

 何か確認する事は? ……よし、じゃあ行動開始!

 

 

 

 

 落ち着いてくれれば、うちの子達は極めて迅速に動き出す。秘書執事チームが必要な役を割り振り、最低限の事を確認してからそれぞれ散っていく。

 残っているのは、天音が率いて俺に同行する子達だけだ。 

 

 

「若様、元凶を探ると言っても、心当たりがあるので?」

 

 

 ああ、衝撃の元がどっちのどの辺りにあるのかは検討がついている。伊達に地震慣れしてないわ。

 遺跡に行くぞ。敵は…いないと思うが、一応武装はしておけ。時子が武器庫から持ってきてくれる。

 

 

 夜道を走りながら、幾つか考えを纏める。

 おそらく、さっきの衝撃は遺跡が出現した衝撃なんだろう。今までの出現・消失でこんな衝撃が発生した事は無かったが、何か異常でもあったのか…。少なくとも、遺跡と無関係という事は無いと思う。

 遺跡が出現したのだとしたら、中に入っていた凛子凛花、博士、ホロウも戻ってきている筈。何かあったとしても、そうそう遅れをとる面子ではないが…フィラデルフィア事件みたいに、時空跳躍の歪みに巻き込まれて…なんて事になってなきゃいいんだが。

 彼女達が遺跡に向かったのは、ホロウの記憶が戻るのではないかと期待しての事だ。さて、少しでも思い出してくれたのかね。

 

 

 

 

 遺跡があった場所に着くと、数名のモノノフが倒れていた。

 慌てて助け起こすが、意識が無い。…大きな怪我も無いようだ。

 鬼に襲われたのかと思って周辺を見回すも、それらしき足跡は無し。どうやら、間近で発生した強烈な衝撃により、吹き飛ばされて気を失ったらしい。

 

 見れば、遺跡に繋がる洞窟は酷い有様で、いつ崩落してもおかしくないくらいだった。

 そして、その有様を見て確信する。遺跡が戻ってきている。何故今回に限りこんな事になったのかは分からないが、やはり衝撃の発生源はあの遺跡だ。

 

 それだけに、中に居る筈の4人と、まだ目覚めていない滅鬼隊の源流達が心配だが…この洞窟を直接進むのは、流石に危険だ。

 倒れているモノノフの護衛に数人を残し、周辺の探索を行う。どっかに別の入り口でも開いていてくれないかと思ったが……流石にそう都合よくはいかないか。

 むぅ、地面に潜れる系の奴を連れてくればよかったな。

 

 

「どうします、若様。今からでも権佐のようなタマフリ使いを呼びに…」

 

 

 いや、あいつは里の救援に向かわせて、今頃走り回ってるだろう。見つけ出すのに手間を食う。

 それよりも…。

 

 

「それよりも?」

 

 

 さっさと突っ込む! 下手な考え休むに似たりよ!

 全員距離を取っておけ、万一生き埋めになったら、色々まとめて吹き飛ばして脱出してくるか「「「「「なりません!!!!」」」」」おおおお!?

 

 

「若様が最も危険な役に突撃してどうされるのです!」

 

「そうだよ! 頭領は後ろで構えてるものでしょ常識で考えて!」

 

「私達に散々単騎特攻するなって言ってるのに、自分から行ってどうするのよ!」

 

 

 む、むぅ…ぐうの音もでない。一番手っ取り早くて効率的なのは確かなんだが。

 確かに軽率が過ぎるのも確か。…動揺してたんだ。そういう事にしとこう。

 

 

「…しかし、どうしたものか…洞窟の天井を支える支柱でも作るか?」

 

「どうやって?」

 

「出番のようね!」

 

 

 ここぞとばかりに声を上げたのは、寝巻姿で手甲だけ纏っているきららだった。抜群のスタイルと体格で胸を反らされると、白くて丸いのがポロンとしそうになるが、この場でそれに注目を集める者は居ない。だってよく皆の性的な玩具になってるし。

 ちなみに、寝る前で髪を解いていたらしく、ツインテールが無くなって角が見えている。後ろから手を伸ばして結んでやった。

 

 

「ありがと」

 

「きらら、何か手があるのか?」

 

「ん、まぁ別に難しい話じゃなくて、氷の柱で天井を支えようってだけよ。別に氷じゃなくても、何でもいいけどね」

 

「む……残念ながら、この場で支えになるような物を作れる隊員は居ないな」

 

 

 選別している暇が無かったから、おおざっぱに分けて連れてきたからなぁ。

 水使いやら炎使いやら、他の者のタマフリも、体を頑丈にするとか、身体能力を跳ね上げるとか、強力ではあるが支えにするのは難しい。それでも出来る事はあるんだが。

 

 

「なら、きららと共におれが行く。おれの目なら、暗闇でも問題ない」

 

 

 …分かった、藍那。任せる。

 きららも気を付けろよ。言っちゃなんだが、二人ともどんどん行け行けな性格してるからな。崩落すると思ったら、引き際を見誤るな。

 

 

「見誤るつもりはないけど…中の4人を見捨てるのは御免よ」

 

 

 仲間を見捨てない気持ちは分かるし美点だと思うが、それでも戻ってこい。

 目の前で4人が死にかけてるならともかく、崩落して道が塞がれただけなら、別の手段も取れる。ちょいと危険度が増すがな。

 二次遭難は絶対に避けろ。

 

 

「…遭難かどうかは微妙だけど、分かったわ」

 

「安心しろって。敵と戦う訳でもないんだ。おれ達だって、それくらいの分別はある」

 

 

 …そう願う。任せるぞ。

 

 

 

 

 

 

 自信ありげな二人を見送り、残った俺達はもう一度周辺を捜索する。

 大した考えがあった訳ではない。遺跡出現の衝撃で、何処か地割れが出来ていたり、山崩れの前兆でも生じているのではないかと思った。

 幸いにしてそれらしい兆候は無く、遺跡に向かった二人が戻ってくるまでの時間潰しにしかならなかった。

 

 見張り役をしていたモノノフ達は既に目を覚ましており、状況の確認と、自分達が知っている情報の交換を行っている。

 と言っても、大した事を覚えている訳ではない。いつも通りに、火を焚いて視界と暖を確保し、退屈だと思いながらも緊張を維持していたが、突然の轟音と衝撃であっという間に意識が持っていかれてしまった。

 

 

 

 …んー、ちと気になると言えば気になる…か?

 確かに遺跡出現の衝撃は大きく、離れた場所まで届くくらいだったが…突然それを浴びせられて気絶するか? 仮にもこいつらは、最前線のウタカタで戦っていられるくらいに鍛え上げられたモノノフだ。

 それが気を失うくらいの衝撃……有り得ないとまでは言わないが、それにしては倒れていた場所が気にかかる。

 こいつらが一溜りも無く気絶するような衝撃なら、もっと吹っ飛ばされていると思うんだが…。

 

 

 そんな事を考えていると、遺跡に通じる洞窟の中に灯りが見えた。

 一斉に注目が集まる。

 

 

「出迎えとは、貴様らにしては殊勝だな。それならそれで、灯りくらい用意してこいと言うのだ」

 

 

 …この尊大な声は博士だな。声真似する鬼って可能性もあるので、いつでも動けるように警戒していたが、それは無用だった。

 松明を持ったホロウ、その後ろに続く博士、凛子、凛花、そして救助に向かったきららと藍那。

 

 よかった、全員無事だったか…。きらら、藍那、よくやってくれた。

 

 

「よくやったも何も、正直殆ど何もしてないんだけどな…」

 

「支柱を作りながら進んだら、普通に遺跡から出てきてたわ、4人とも」

 

 

 そうなのか? まぁ、それはそれで構わんけども。

 全員怪我は無さそうだな。

 

 

「ああ。若様も皆も、心配をかけてしまったようで済まない」

 

「どうなる事かと思ったけどね…。若様、幾つか報告しなければいけない事があるわ。時間を取れるかしら」

 

 

 ああ。だが、今は里の救助という作業も控えている。それを置いてでも聞いた方がいい話か?

 

 

「では一言だけで済ませます。この近辺に、非常に強力な…他の鬼とは比べ物にならない鬼が呼び寄せられる事になりそうです」

 

 

 …どうしてそうな…いや、それは後回しか。

 何時頃になりそうか、予測はつくか?

 

 

「博士の言葉を借りれば、いつどこに出てきても…それこそ、今この瞬間この場に出現してもおかしくないと…」

 

 

 …博士がホロウと話していた、トキワ某ってヤツか…。あの博士が因縁のある相手なんて表現するくらいだから、普通の鬼じゃないのは確かだ。

 しかし、そうなると逆に考えるだけ無駄とも思えるな。いつ来てもおかしくないなら、いつ来てもいいようにするしかない。『頑張る』とか『気を付ける』みたいな精神論じゃなくて、他の事を斬り捨ててでも最低限の備えをしておかないと。

 取り敢えず言えるのは、ここで立ち止まってても時間の浪費にしかならないって事だ。

 

 報告は後で詳しく聞く。今はここから退避し、里の状況を見に行くぞ。

 ホロウ、博士、そっちはどうする?

 

 

「私も里に向かいます。甘味処が壊滅していたとしたら、全力を以て立て直しに貢献します」

 

「私は帰って一眠りする。代わりに真鶴を救助に寄越そう。ああ、そっちの二人が言っている鬼は、今すぐここには現れん。大体の場所と時間は予測しているから、それまで準備しておくといい」

 

「何? さっき言っていた事と違う…おい待て博士、話を」

 

「待ちなさい、凛子。今は里の救援に向かうのが先よ。博士がああ言う以上、確信があるんでしょう」

 

「む……」

 

 

 凛花に抑え込まれる凛子。博士は随分と信頼…信頼? まぁとにかく、言う事がハッタリとも的外れとも思われていないようだ。この短時間に、印象が変わる事でもあったんだろうか。

 …まぁいい。博士がああ言ってるなら、信じるのは吝かではない。頭脳だけは一級品だものな。

 

 幸い、遺跡に通じる洞窟も、きららが上手く凍り付かせたおかげでそうそう崩落しそうにない。まずは里に向かうとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局里に戻ったのはほぼ、無駄足となってしまった。

 いや、いい事なんだけどね。里には思った程被害が出ていなかったってだけだから。

 流石に無害とまではいかないものの、倒壊した家もなければ重症人も居ない。轟音に飛び起きて出てきた人達が騒いでいるが、混乱に陥っている様子は無い。

 

 …と言うか大部分の里人達は慣れ切った様子で、片付けして二度寝(夜中だから寝直すが正しいか)に入る体制のようだ。

 幾ら地震大国日本とは言え、図太過ぎやしませんかね?

 

 

「単純に、慣れの問題だな。確かに地揺れには驚いたが、夜中に叩き起こされるの自体はそう珍しくないからな」

 

 

 あら、息吹。…寝間着姿とは珍しい。

 

 

「ほっとけ、着替える暇があったら一人でも避難を手伝おうとしたんだよ。…幸い、無駄になったみたいだけどな」

 

 

 で、慣れてるって? 少なくとも、俺が里に来てから、地震なんぞ一度も起こってなかったと思うんだが。

 それに慣れているとしても、すぐに寝るってのはどうかと思うね。余震だってあるかもしれないし。

 

 

「慣れているのは、夜中に叩き起こされる事だよ。最近じゃお前さん達のおかげもあって、鬼の襲撃は減ってたが、ちょっと前まで夜中に襲撃を知らせる八点鐘が鳴り響くのもいつもの事だったからな。無警戒に眠り直すのも問題だが、その度に朝まで起きてちゃ身が保たない。すぐに避難の必要が無いなら、少しでも体を休めよう…ってのがいつもの判断だ。最初は襲撃が終わって、迎撃に出た連中が戻ってくるまで起きている…って子も居たんだが、繰り返されるとどうしても、な」

 

 

 理に適っているのかいないのか…。まぁ、里の人達が寝てようが起きてようが、前線で鬼の襲撃を迎撃するモノノフにとっちゃ関係ないわな。

 今回は、鬼の襲撃は無いみたいだな。警戒に当たってるうちの連中からも、ウタカタの哨戒からも狼煙とか上がってない。

 

 散らかった物の片付けだけして、とっとと寝ちまうのがいいかな。

 

 

「そうしとけ。…心配していた、遺跡に行っていた4人も戻って来たようだし…一安心ってところだな。俺は念のため、朝まで起きてるよ。目が冴えちまった」

 

 

 着替えとけよ。男の寝間着姿なんて、需要は無いぞ。

 

 

「生憎、ウタカタ一の伊達男の寝間着姿ともなれば、涎を垂らして見入るご婦人だっているんだよ。そっちこそ、さっさと眠っちまえ」

 

 

 いや、うちの子達の様子を見ておきたい。必要であれば、朝まで付き添って落ち着かせてやらないといけないし。

 遺跡で何があったのか聞くのは、その後にするかな。

 どーせ、何だかんだと理由をつけて集まってきて、いつも通りの爛れた展開が朝まで続くのは目に見えてるし。

 つーか中途半端な所で終わって、俺も不完全燃焼だし。

 

 

「………朝になるまで、丑の刻参りとでも洒落込むか…。里の男連中も参加してくれそうだ…」

 

 

 丑の刻、もう過ぎてるぞ。

 

 

 

 



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579話

 

 

 

 

 結局、起きた皆を集めて乱交…とはならなかった。

 鉄火場を、特に山場も無く超えた結果、殆どの子は緊張の糸が切れて眠気がぶり返してきたらしい。…小さく聞こえる、釘打ちの音が気になって雰囲気が出なかった、と言う事もあるかもしれないね。

 

 まー添い寝を求められたから、分身して一人一人に付き添ったんだけども。

 分身する為には、少なくとも一人はエロもやっておかなければいけないので、自室で玖利亜の乳首をコリコリし続けました。裸のょぅι゛ょの微かな膨らみをカリカリ引っ掻き続け、遂にはイキッ放しにまで押し上げる愉悦…。

 …その興奮が分身にまで伝わって、眠りかけている子達に狼藉を働いてしまったかは定かではない。

 ただ、今までお手付きにしてなかった若い浅黄こと浅木が、翌朝から人目を忍んで甘えてくるようになった、とだけ言っておく。

 

 そして、その玖利亜が忘我の境地で、乳首を刺激されたり、体を揺さぶられたりする度に掠れた嬌声を上げている間、俺は凛子と凜花の話を聞いていた。

 …文字通りの状況です。ょぅι゛ょを性的に弄びながら、任務から帰って来た二人の話を聞いていました。

 二人とも、特に気にしてなかったけどね。執務中、俺が性欲処理係を侍らせてるのはいつもの事だし、体感時間操作を使う為という立派な口実…建前…風流…実利を伴った趣味であるからして。

 

 

「ヒッ…ヒッ…ヒゥ…」

 

「…と言う事が、遺跡の中で起こった一連の出来事です」

 

 

 息も絶え絶えで、口元から涎が流れ落ちている玖利亜の事をまるで気にせず、残った俺達3人は少々真剣な話を続けている。ほぼ忘我の状態だろうに、俺の腿には幼い割れ目が必死にぐりぐりと擦りつけられる感覚が続いている。

 凛花の報告を聞き、頭の中で情報を整理する。凛子にも視線を飛ばすが、特に訂正も追加報告も無し。二人の見解は、ほぼ一致しているようだ。

 …遺跡であった事についてのコメントは、博士の言う事をほぼ鵜呑みにしたようなものだったが…これは別に問題ない。自分で全く考えていない訳ではなく、報告はあくまで「博士の見解はこうだった」という前提条件から離れていない。私見を挟んでいないだけなのだ。ただ、遺跡について自分達よりもはるかに詳しく、操作方法まで理解している博士の見解に対し、異論を挟める余地が無かったというだけで。

 

 遺跡であった事は、大雑把に並べると次のようなものだった。

 

・偶然を装って、凛子・凛花が博士・ホロウと合流。察しているのかいないのか、同行は別に止められなかった。

・遺跡内部の、滅鬼隊源流の人達が封じられている円柱の場に到着。博士は、破損が少なく比較的綺麗な円柱に入るよう、ホロウに指示する。

・ホロウは円柱に入り、博士は遺跡を操作。ホロウが入った円柱は他の隊員の円柱同様に、謎の液体で満たされ、ホロウは意識を失う(溺れた訳ではない)

・暫くすると遺跡全体が震動、灯りが明滅して謎の音声が流れてくる。

 博士曰く、『ホロウが円柱で眠った事を切っ掛けにして、船の予備動力が起動したのだろう」との事。

・遺跡の振動は小さくなるも絶え間なく続き、奇妙な感覚に捕らわれる。そして遺跡の外への出入口が厳重に閉ざされた。

 博士曰く、『予備動力が稼働したら、すぐに異界跳躍を行ったのだろう』との事。

・大体半日ほどすると、ホロウが円柱から解放される。何やら博士と二人で話し込んでいたが、異国の言葉のようで内容は不明。

・更に時間が流れ、また謎の声が流れる。灯りの一部が消える。

・突然、遺跡が大地震のような衝撃に見舞われて、その機能の殆どが停止。

・博士が『元の場所に戻ったようだ』と言うので外に出ようとしていると、探索に来たきらら・藍那と遭遇、脱出。

 

 

 

 ……あまり簡潔に纏められていないが、それは置いといて…とりあえず一言。よく帰ってこれたな…。

 下手したら予備動力起動したまま、どっか別の時空、時間に跳んで行ってたかもしれん。

 

 

「そこは博士はあまり心配していなかったようです。予備動力はあくまで予備で、それも長期間の放置で劣化したもの。万全の状態ならまだしも、遺跡を別の次元にまで連れて行くだけの力は残されていない筈、と」

 

 

 何にせよ、博士にしては軽率だな…。得体の知れない遺跡の装置を当てにするとか。いや、ひょっとしたら十全に調査したから、予備動力起動も、エネルギー不足で戻ってくるのも、全て想定の範囲内だったとか?

 でも所詮、予想は予想。いくら博士が自分の頭脳に自信を持っていると言っても、確証も無いのにそこまでやるかと言われると…。

 

 いや、博士の行動についての考察は、一旦止めよう。

 重要なのはホロウの方だ。元々、二人が遺跡に赴いたのは、ホロウの記憶を蘇らせる為だったからな。

 ホロウが円柱に入った事について、何か説明はあったか? また、出てきた後のホロウの言動に変化は?

 

 

「博士が言うには、あの円柱は入った者を封じる物ではなく、治療するのが本来の役割らしい。もっとも、特定の人間…あの遺跡に関係している者でなければ、効力は激減するそうだが」

 

 

 ふむ。遺跡…『舟』に乗って鬼の討伐に出た連中にしか、効果が無い。

 単純に考えれば、そういう機能を持った人造人間、改造人間と、それ専用の調整装置って事なんだろうが…。ホロウも直接ではないだろうが、関係者と言えば関係者だな。同じ世界、同じ国…かどうかは分からんが、限りなく近い技術で『製造』されたんだろう。

 だからホロウを遺跡に連れて行ったのか。過去の記憶を刺激するだけでなく、調整装置で脳の不具合を治そうとしたんだろう。

 

 

「はい、本人はそのように言っていました。真偽の程は分かりませんが…」

 

 

 説明を省く事はあっても、無駄な嘘は言わんだろ、博士は。

 それで、ホロウ治療が切っ掛けになって遺跡が稼働、結局動力切れになって戻ってきて…?

 

 

「いえ、戻る前にホロウの治療は終わりました。記憶は…一部のみ戻った、との事です」

 

 

 一部? …まぁ、一部でも戻れば充分か。あいつの人生、クサレイヅチを仕留める事だけに注がれてるようなもんだからな。

 どの部分を思い出しても、本来の役割は分かるだろう。

 

 …千歳や俺の事は思い出しているだろうか…。その辺、何か言ってなかった?

 

 

「戻った記憶が整理できてない、とは言っていました。様子がどうだったかと言われると……」

 

「考え込んでいたように見えたが、正直な事を言わせてもらうと、空腹に耐えていただけのような気も…」

 

「…途中でお腹を盛大に鳴らしていたものね…」

 

 

 …記憶が戻っても腹ペコキャラには変わりなしかよ。

 いきなり性格が変わっても、それはそれで困りそうだが。既にホロウの大食いは周知の事実。3杯目を大盛りおかわりしないようなら、体調不良を心配されるくらいだものね。

 

 …ホロウについては分かった。じゃあ、お前達が戻って来た時に言っていた、「強力な鬼が出現する」と言うのは? 直後に博士に否定されてたが。

 

 

「それも、遺跡の機能の一つだそうです。これは博士も計算外だったようですが…」

 

 

 はぁ? 遺跡…と言うか、舟にどうしてそんな機能がついてるんだ? 目当ての鬼を追いかける為の機能なら分かるが、鬼を呼び寄せるって…。

 

 

「博士に言わせると、むしろ必須機能だそうだ。この辺はあまり詳しく説明されてないが…舟が本来進む場所…いや空間……えーと、とにかく舟の活動領域と言うのは、恐ろしく広いらしい。そこでただ一匹の鬼を追いかける、見つけ出すのは、砂漠の中から胡麻一粒を見つけ出そうとするようなものだと」

 

「だから鬼を呼び寄せる、と言う事ね。こっちから探し当てるのが難しいなら、あっちから寄ってこさせればいいじゃない」

 

 

 成程なぁ…。標的にしている鬼がどんな鬼なのかイマイチ分からんが、確かに納得できる話だ。俺だってクサレイヅチを延々追いかけているが、追いつく事が出来るのは大抵デスワープ直前のみ。それ以外の時は、何処にいるのかすら判明してない。見つけ出すよりも、こっちに呼び寄せる方が効率的なのはよく分かる。

 …そこは分かったが、何でいきなりそんな物が稼働してんのかな。

 

 

「その辺が、博士にとっても計算外だったようで…。元々、あの遺跡は完全に機能を停止していた訳ではありません。これは、動力源が溜まり次第、時空転移を行おうとしていた事から明かです」

 

 

 うん、確かに。本来であれば切っておかなければいけない機能が延々と働き続けた訳だな。おかげで必要最低限の動力が溜まった時点で発動し、動力が少なすぎて何処にも行けずに戻ってくるという、完全な無駄遣い。

 

 

「それと同様に、幾つかの機能が稼働したままだったのです。ただ、動力不足で効果が出ていなかっただけで。恐らくですが、遺跡が機能停止してあの場所に出現したのは、戦いによる損傷か何かで、ちゃんとした手順を踏まずに…その、『落下』したのではないでしょうか」

 

 

 成程…。普通であれば停止させておくべき機能が、幾つも動いているのはその為か。

 単純に考えれば、引き寄せた鬼にしてやられたか、何らかの自然災害(時空間でどんな自然災害が生じるのかは知らんが)によるものか。

 その機能は今も?

 

 

「博士が停止させましたが、呼ばれた鬼が近づいてきている可能性はあるそうです。それも、あの遺跡に乗っていた者達が追いかけていた、討伐すべき鬼が」

 

「鬼とて知性や記憶はある。自分を追いかけていた者がそこに居て、以前に何らかの痛手を被っているなら、今度こそ息の根を止めようと近付いてきてもおかしくない。…逆に逃げる可能性もあるが」

 

 

 いや、逃げるのはまず無いと思う。何だかんだ言って、鬼達は基本的に攻撃的で狂暴だ。命の危機が近づいても、普通の動物やモンスターみたいに逃げて休むという事はしない。

 敵の居場所が分かったら、間違いなく潰しに来る。

 

 

 …どんな鬼が引き寄せられるのか、予想はつくのか?

 

 

「時空を回遊する能力を持った鬼、としか。鬼の生態系は謎に包まれていますし、時空間…という場所がどんな場所なのか今一つ理解できませんが、人が踏み込んだ事の無い場所なのは確かです。そこに生息している鬼がどんな奴なのか、検討も付きません」

 

 

 …時空回遊となれば、クサレイヅチが真っ先に思い浮かぶが…確かに未知の鬼が出てきてもおかしくない。

 博士が言っていた、何だ、トキワなんちゃらって可能性もある。

 

 じゃあ、博士が言っていた「今すぐこの場所には来ない」と言うのは?

 

 

「それは博士に聞かなければ…。私達もあの時初めて聞きましたし。頭が良過ぎる人の考えは理解できない…」

 

 

 それもそうか。

 …他に何か報告しておく事はあるか? 無いなら、報告はここで一旦終了とする。

 

 

「では、念のために一つだけ。舟が起動した時、中で眠っている者達が目覚めようとしました」

 

 

 …それは、聞く限りだとかなり大事だと思うんだが。

 

 

「いえ、すぐに博士が遺跡を操作して、再度眠らせましたので。『どんな連中にしろ、面倒事の元にしかならん』と」

 

 

 ……超絶ファインプレーだぜ、博士。俺も直接会って人となりを確認した訳じゃないが、きららの過去の扱いを考えるとな…。

 そうでなくても、恐らくは長期間、舟という閉鎖された環境で過ごしてきた、異国の集団。一人二人程度ならまだいいが、一気に全員が目覚めて里と関わるとなると、風習や意識の違いで揉めるのは確実。

 どっかで解放してやらなきゃならんとは思うが(別に何か義理がある訳でもないけど、きららが仲間を見捨てるのを嫌がるからね)、今はまずい。

 いつ強力な鬼が襲ってくるか分からない状況で、身の内に爆弾作りだすような真似してられっか。

 

 んじゃ、全員また眠りについたって事でいいんだな?

 

 

 

 …ん、よし、よくやってくれた。まずは体を休めるといい。

 

 

「いえ、結局戦闘らしい戦闘もなかったし、舟の中でも交代で睡眠はとったし、特に疲労はありません」

 

「食事もしたしな。……それよりも、任務の報酬を…」

 

「ヒッ…ヒッ・・・…イ、ァァァァ…」

 

 

 足に擦りつけられていた生暖かい感触が、一際激しく動くのが分かる。プシュ、と液体が飛び散ったのが分かった。

 目をやれば、とうとう限界を超えたらしく、玖利亜が仰け反って気をやったところだった。脱力して倒れるのを抱えて、布団に寝かせてやる。

 

 やれやれ、悪い子だなぁ。折角夜伽に指名したのに、本番前に眠っちゃうなんて。罰として、子作りはオアズケにしましょうかね。

 

 

「…どう見ても、若様が指先一本で玖利亜を滅茶苦茶にしていた…いや、したかったから、意図的にそうしたようにしか見えない」

 

「そうね、無理と訴えても、容赦なく昂らせ続けていたものね」

 

 

 どっちにしろ気絶しちゃってるんだから、どーしようもない。

 さて、任務の報酬だったか。

 ハクは後日纏めて渡すとして…任務を依頼した時に二人が指定してきた報酬は……夜の優先権、でよかったかな?

 

 振り返り、玖利亜の痴態でいきり立ったままのイチモツを見せ付ける。

 二人は揃って雌の表情になると、緩やかに帯を解き、服を脱ぎ捨てる。

 そして恭しく跪き、卑猥で屈辱的な隷属の言葉を悦んで口遊んだ。

 



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580話

酒飲んでる途中、何か物凄い不安に襲われました。
これが蟲の報せ…?
それとも将来に対する不安?(独り身低収入)

…よし、飲んで忘れよう!
最近、第三のビールで悪酔いするのに懲りて、別のアルコールに変えました。
ソーダ水メーカーが家にあるので、レモンサワーの素とか割って飲んでます。
1本500円ちょっとで、あまり濃いめにしなければ2日くらいは余裕。
…あれ、普通にコストパフォーマンス優秀じゃね?


 

黄昏月弐拾漆日目

 

 うん、やっぱり競わせるというのは重要だね。仲良く協力して、と言うのもいいもんだが、やはりライバルとの張り合いは人の成長を加速させるものだ。

 普段、仲がいい親友や相棒と言える相手だからこそ、負けたくないという気持ちがより高みを目指す原動力となる。

 

 何の話かって、そりゃ凛子と凜花ですよ。

 跪いて、自分の方がより優れた…つまりは淫猥な…雌だと言わんばかりに、自らより淫らな姿を曝していく。

 一人一人じっくり味わうのもいいが、より痴態を楽しもうと思ったら、こういうエッセンスは外せない。

 

 エッセンスと言えば、玖利亜も凄かったな。

 自分がぶち込んでもらえる筈だったちんぽを横取りされたのが相当頭に来たらしく、目を覚まして状況を把握するなり、二人に向かって飛び掛かった。

 単に、自分にはない豊満な乳にイラッと来ただけかもしれないが。二人だけじゃなく、俺に対しても抗議するように甘噛みしてきたりもした。

 勿論、最終的には玖利亜にも中出ししまくって満足させたのは言うまでもないが、それまでの玖利亜は結構ゾクッと来たなぁ。無表情のまま、怒りと蔑みをミックスさせたような雰囲気で、淡々と大人の女二人を責め立てて踏みにじる…。ロリコンなドM豚さんには涎物のシチュエーションだった。

 

 

 昨晩のお遊びの事はともかくとして…俺達は今、受付所でホロウと博士を囲んでいる。

 二人から「話がある」と呼び出された為だ。俺はある程度、話の内容の予想はついていたが、やはり詳細を聞かなければならない。

 

 

「ホロウの記憶が戻った!?」

 

「はい、一部ですが」

 

 

 相変わらず無表情のまま、ホロウは告げる。

 …一部?

 

 

「それは目出度い事…でいいんだな?」

 

「祝う程の事であると思うなら、奢ってください」

 

「破産するから嫌だ」

 

 

 せやな。

 で、ホロウ。記憶が戻ったって事は、以前に話した事は思い出したって事でいいんだな?

 やはり、遺跡の機能を使ったという事か?

 

 

「…はい。あの遺跡は、どうやら私の故郷に連なる技術で作られているようです。博士が言うように、私の記憶障害にも効果がありました」

 

「ただの記憶障害であれば、完全に治る筈なのだがな。遺跡の稼働が完全ではなかったか…」

 

 

 ブツブツと呟く博士は不満顔だ。自分の予測通りに事が運ばなかったのが、気に入らないのだろうか。

 ちなみに、記憶を失った原因については?

 

 

「覚えている限りでは、着地に失敗した事による頭部強打です。鬼を追ってこの世界に転移してきた私は…」

 

「いや待て待て待て。お前達はどうやら以前からの顔見知りのようだが、我々は知らない事ばかりだ。もう少し前から説明しろ」

 

 

 む、すまん…。先走ったか。

 ホロウ、俺は暫く口を挟まない。そっちで説明してくれ。

 …いや、その前に一つだけ。

 

 

 ホロウ、俺の事を覚えているのか?

 

 

「…はい。あなたがどれ程私の事を覚えているのかは知りませんが」

 

 

 …? なんか引っ掛かる言い回しだな。

 まぁ、後で詳しく話を聞こうか。邪魔をした、続けてくれ。

 

 

 

「…私はホロウ。遥か遠い世界の遠い国から、時空を超えてある鬼を追い続けています」

 

「…は? 時空を超え…?」

 

「………」

 

 

 秋水の目がギラリと光る。が、ちょっと黙ってなさい。

 お前の目的が過去改変で、それに繋がる手掛かりになるのは分かるが、今は置いておけ。

 

 

[その鬼の名はイヅチカナタ。時空を回遊し、因果を喰らう鬼です。…そっちのそれから、既に聞かされているかもしれませんが」

 

 

 それ呼ばわりは酷いなぁ。…ホロウの態度、やっぱり冷たいな。

 何かやったっけか。女関係にホロウがどうこう言うとは思わんし、前のループで何かやらかしたっけか…?

 

 

「確かに、その鬼の名は以前に聞かされた事がある。こいつの因縁の鬼だと聞いているが…」

 

「この時代に来たのも、イヅチカナタを追っての事です。ですが、転移前の戦闘で正常な移動が出来ず、空中に投げ出されました。受け身を取ったのですが、運悪く石が…」

 

「ああ…そう言えば最初に来た時、随分なたん瘤が出来ていたと…」

 

 

 コントじゃあるまいし…いや、放り出された先が山や森なのであれば、充分起き得る事であるが。…記憶喪失になるより、頭が割れて死ぬ方がよっぽど有り得そうではあるが。

 

 

「それだけで記憶障害になったのであれば、遺跡の機能で治る筈なのだがな。…やはり経年劣化で、完全にとはいかなかったか」

 

 

 そう言いながらも、博士自身は何やら納得していないようだ。

 

 

「…尋ねるが、逆に思い出せていない事はどのような事だ?」

 

「思い出せてない事を述べよ、と言うのも難しい話だが、どのあたりの事が思い出せない、という傾向などは?」

 

「…記憶の中が虫食いになっているような感覚で、まだ把握しきれていません。ですが、時空転移を行う直前についての物忘れが多いような気がします。後は……旅の途中、各地で食べた物について全く思い出せません!」

 

「ホロウが…食事の事を覚えていない…!?」

 

 

 思い出せません!じゃねーよ…。

 以前はこいつ、ここまで飯に執着してなかったからだろ。クサレイヅチを追う為の特別製人間だからって、完全記憶能力まで持ってる訳じゃなし、当時興味のない事を忘れたっておかしくないよ。

 少なくとも俺が知ってるこいつは、食事は補給程度にしか考えてなったぞ。重要ではあるが、生き甲斐にしてる訳じゃなかった。

 

 

「そ、そうだったのか…。今日一番の衝撃的な報せだぜ…」

 

 

 そこまでか。まー確かに、俺もあのホロウがどうしてこうなったって常々思ってたけど。

 

 

「昔の私の方がおかしいのです。食事ほど、戦うのにも生きるのにも重要な事はありません。美味しい食事は精神的な活力源にもなります。これまでの私は、その活力の元を無作為に処理していたような物。これでは勝てる戦も勝てません」

 

「…間違っちゃいねぇが、言うべき時を間違ってんじゃねぇかって気がするぜ」

 

 

 同感だよ、富獄の兄貴。

 

 

「話が逸れているな。それでホロウ、俺達に知らせておきたい事とは何だ? 確かに記憶回復の件も重要だが、それだけではないように見える」

 

「遺跡の起動に伴い、強力な鬼が接近しつつあります。これもイヅチカナタ動揺、時空を超える力がある為に周辺の警戒はほぼ無意味でしょう。いつ出現してもおかしくありません」

 

「…ああ、聞いている。だが博士によると、すぐに、という訳ではないようだが?」

 

「遺跡にはその鬼を呼び寄せる機能があり、それは停止させましたから。ですが、恐らく位置を覚えられました」

 

「だが、それならそれこそすぐに…その機能を停止させる前に現れるのでは?」

 

 

 ホロウは博士に目を向けた。

 何やら考え事をしていたようだが、気だるげに博士は口を開く。

 

 

「時空を回遊する鬼には、特殊な性質を持つ物がおおいらしい。他の鬼はどうか知らんが、遺跡が呼び寄せようとしていた鬼には心当たりがあるのでな。その性質により、今しばらくの出現は無いと判断した」

 

「その性質とやらを説明してほしいんだが…」

 

「…一言で言えば、時空回遊という能力であっても、文字通り何処にでも行ける訳ではないという事だ。人が地面を歩くのに、障害物を避けたり乗り越えたりしなければならないように、奴らにも行けない時、場所があるんだ」

 

 

 成程ね。

 時空の流れが川のような物て、奴らは船に乗っているようなものだとすれば、川が分岐していない所に進める筈もないし、川が続いていたとしても水深が浅かったり、幅が船より狭いようであれば、進んで行ける筈がないと。

 

 

「大体そんなところだな。とは言え、別の方向から進んできたり、或いは船を降りて歩き、泳ぎでやってくる可能性はある。今すぐではないにしろ、遠からず襲来すると思っておけ」

 

「…その鬼の名は?」

 

「遺跡に残っていた記録を調べた限りでは……『トキワノオロチ』と呼ばれる鬼のようです。これについては、博士の方が詳しいようですが」

 

「…他とは一線を画す力はあるが、単なる鬼にすぎん。背景やら生態やらをわざわざ気に掛ける程ではない。鬼は斬るものだ。モノノフなのだからな」

 

 

 そうだろう、と言外に説明を拒む博士。面倒だから、というのではない。本人も言っていたが、何かしら因縁があるんだろう。

 能力その他については、もうちょっと説明が欲しい所だな。クサレイヅチと同じような力を持っていて、いざ目の前に出現しても戦う事すらできない…なんてのは御免被る。

 

 

「調べた限りでは、そういう能力は無いな。時空回遊以外、目だった力は無い…と思われる。ただ、世…もとい、国を一つ二つ単騎で滅ぼすと言われる鬼だ。単なる暴力以外にも、何かあると思った方がいいだろうな」

 

「…危険な鬼の話は真偽問わず多々あるが、単体で国を亡ぼすまで言われるのは中々ないな…」

 

 

 国を亡ぼす鬼、ねぇ…ミラボレアスみたいだな。…強い事は強いが、国を亡ぼせるかっていうと疑問が残るな。単純に、手数とリーチ的に考えて。

 しかし参ったな、出現時期から戦い方まで、ろくに情報が揃わない。こりゃ、出たとこ勝負でやるしかないか?

 

 

「…逆に呼び寄せるなら、出来るぞ。あの遺跡の誘因機能を動かしていれば、遠からずやってくる。時期は…半日前程度になら分かるな。場所はの候補は何か所かになるが」

 

「へーぇ、流石天才。それもトキワノオロチの習性とやらを知ってるからかい?」

 

「そんなところだ。後で地図を渡してやろう」

 

 

 待ち構えるにしても、準備は必要だな。

 そんなとんでもない鬼なら、監視させていた人間が連絡する間もなく吹き飛ばされるって事も考えておかなきゃならん。

 安全策を徹底させても、まだ足りるかどうか…。

 

 

「もう一つ、告げておかねばならない事がある。トキワノオロチと同じくらいには厄介な話だ」

 

「まだ何かあるの? いい加減お腹いっぱいなんだけど」

 

「初穂、話を聞いてお腹が膨れるとはどういう事ですか。話とはどんな味がするのでしょうか」

 

「少なくとも美味しい味じゃないわね…」

 

 

 まぁ、美味い話ならいくら聞いてももう御免って事にゃならんからな。

 で、その話ってなんぞ。

 

 

「トキワノオロチに呼応して、イヅチカナタが出現する可能性が極めて高い」

 

 

 ……………。

 

 

「イヅチカナタ…って、ホロウとこいつが追いかけてる鬼よね。そいつが……ぅぁ」

 

 

 ん? どした、初穂。…みんなも何で構えてんの?

 

 

「お前がとんでもない殺気…いや鬼気だすからだよ! 心臓止まるかと思ったわ!」

 

「笑ってるのが逆に怖いぞ! 顔を戻せ顔を!」

 

「ちょっ、木綿! 木綿が気絶してる!」

 

「木綿ーーー!!!!」

 

「失礼…大丈夫です、気を失っているだけでございます」

 

「周りに気当たりで気絶した奴が居ないか探すぞ! 話は後回しだ!」

 

 

 

 …いかん、余計な感情が漏れ出しとったか。えらい騒ぎになってるのを冷や汗流して眺めている。

 自分で顔を触ってみると、俺ってこんな顔できたんだな、と自分でドン引きするくらいのオリジナル笑顔になっているようだった。鏡が無いのが助かるような残念なような。

 

 

 

 

 

 暫く後、大和のお頭からかなりガチの説教を受け、俺は橘花が張った結界の中でぐるぐる巻き・正座・足の上に獄門用の石のコンボで座り込んでいた。

 木綿ちゃんにまで余波が行ったんだから、親として激怒するのはよく分かるが、ここまでやりますかね。

 

 

「この程度では全く足りん。この際だから、今まで溜った鬱憤を晴らして、やらかしも徹底的に反省させたいくらいだ」

 

 

 大和のお頭の隻眼が、思いっきり座っている。これは比喩抜きで拷問も考えている目だ。

 木綿ちゃんに、直接的で意図的でないとは言え危害を加えてしまったからな…この場でザクザクされないだけでも有情だね。

 

 ……あ、やべ、マジで間合い計ってやがる。ここにいる面子が止めずに、殺れると判断したら抜刀する気だ。

 まぁ、この状態でも俺を殺るなんて無理ですけどね。少なくとも那木は止めてくれるし、仮に斬られたとしても死なないし。冗談抜きでヤバイ傷を受けたら、勝手にアラガミ化して再生するもんね。…その場合、また説教されるネタがどーんと増えるけど。

 

 で、どういう事よ。クサレイヅチが出現するって。

 あいつが俺に纏わりついてるらしい、って事は聞いた事あるが、トキワノオロチに呼応してってのは何ぞ?

 

 

「詳しい理屈は私も知らん。だが、遺跡に残っていた記録を読み漁ったところ、イヅチカナタとトキワノオロチが度々接触していたという情報があった。前後の記録も確認したが、まず間違いはない。トキワノオロチと戦っている間に横槍を入れられた事が、何度もあったようだ」

 

 

 …トキワノオロチが、クサレイヅチを呼び寄せている…と?

 ホロウ、何か心当たりはあるか?

 

 

「いいえ。少なくとも、私の知る限りではトキワノオロチという鬼とは遭遇した事も、名前を聞いた事さえありません。…ですが、私も活動できるのは通常の空間でのみです。もしも『舟』が進むような時空の狭間の中でのみ、トキワノオロチとイヅチカナタが接触していたのだとしたら、認識のしようもありません」

 

「そういう貴様こそ、心当たりはないのか。鬼ですらない化け物共と顔見知りのようじゃないか。この前のでかい金髪の女とか」

 

 

 あれは関係ないと思うなー。…でも、あいつも時空の狭間で漂ってたみたいだし、案外どっかで接触してるかもしれん。

 …全く別の方面からの話になるが、実を言うと心当たりが一つ、無いでもない。

 

 知人から聞いた話で、根拠も何もありゃしないんだが…クサレイヅチは、因果を奪うのではなく、運ぶ役割を持っているらしい。

 

 

「運ぶ…? 何処にだ? 鬼なんだから、捕らえた魂は喰うんじゃないのか?」

 

 

 俺にも分からん。そこまで詳しい話を聞けた訳じゃないしな。

 ただまぁ、似たような習性を持つ生物は結構いるな。冬に備えて、巣穴に食い物を沢山貯え込むようなもんだろう。

 

 で、そいつの話によると、クサレイヅチは特定の状況で、貯め込んだ因果を吐き出すんだと。

 クサレイヅチが働き蜂、トキワノオロチとやらが巣だと考えれば…辻褄は合う、かな。

 結局は、そこで食われるのかも知らんが。

 

 

「…興味深い話だな。話の内容よりも、その出所が。…しかし、今はそうも言っていられんか。トキワノオロチだけなら、結果はともかく戦いは成立する。だがイヅチカナタまで居るとなると、奴の能力を防ぐ強力な結界を張りながら、その中のみでトキワノオロチを相手にしなくてはならなくなる。無論、結界が破られれば遠からず因果簒奪の餌食だ」

 

 

 やってられねーな、そりゃ。

 トキワノオロチがどんだけの力を持ってるのか知らないが、クサレイヅチの影響を抑えるだけでも手一杯だろうよ。

 因果簒奪を防げて、更に簡単に壊されない結界…雪華でも厳しそうだな。

 

 

「それでもやるしかあるまい。結界は橘花と樒でどうにかする。シノノメの里との取引も始まって、宝玉がいくらか手に入ったからな。そう無謀でもないだろう」

 

「そうですね…。宝玉があれば、かなり強力な結界が貼れます。持久力も大きく高まるでしょう。…ですが、相手が相手です。もう一押ししましょう」

 

「もう一押し? 橘花、何かいい考えでもあるのか?」

 

「はい。…虚海さんに手伝ってもらうんです。ホロウさん、彼女についての記憶は戻っているのでしょう?」

 



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581話

 

 一旦話し合いを切り上げて、ホロウ、俺、そして秋水は虚海の元に向かった。

 橘花の発案については、結構揉めた。確かに虚海の腕はいいが、味方という訳でもなし、素直に協力してくれるか? 敵対は考えないとしても、今は無気力状態もいいトコロだ。

 秋水が説得に手を貸してくれるとして、記憶が戻ったホロウにどれだけ反応するか。そのホロウからしても、虚海の望みを叶える…元いた時代に戻す事はできない。結局、また絶望して無気力になるのではないか。

 

 

 …と言うのが、橘花と俺以外の見解な訳ですな。

 ぶっちゃけ、ホロウの件が駄目だったとしても、R-18な行為を餌にすればナンボでも手伝ってくれます。今の彼女は、某煩悩霊能者並みに性欲に満ち溢れているのだ。…いや、流石にそりゃちょっと言い過ぎか。サカリの犬くらいでいいや。

 尤も、それを知っているのは襲った俺、同行した静流、千里眼で覗き見していた雪華と、夢で繋がって連動して覗き見していた橘花のみである。

 …うん、雪華の覗きは感知してたけど、橘花もなんだ。こっそり参加しに行こうか、かなり迷っていたらしい。上手く抜け出す事ができず、諦めたようだが。

 虚海を手籠めにした翌日には、皆には見せない下卑た性欲に満ちた笑みで、「虚海さんも仲間入りですね♪」なんて囁かれたもんだ。

 まぁ、そんな訳で、虚海に協力させる事は簡単だ。ベイビーサブミッションもいいとこだ。…赤ちゃんの手を捻るとか、罪悪感で死ねるけども。

 

 どっちにしろ、橘花と樒だけで因果簒奪なんて反則的能力を防ぎつつ、大型鬼の襲来を受けても壊れない結界なんて、宝玉があっても技量的な意味で難しい…と主張し、とにかく駄目元、出来なくても失うものはないとして押し切った。

 ホロウとしては、非常に気まずい気分のようだ。

 虚海が眠っている間に、一度顔を見に行ったからな。その時は知人だと言われても全く何も思い出せない結果に終わった。今、こうして会いに行く気分はどんなものだろうか。 

 

 しかも、虚海が今までやってきた事は、分かった限りでは知らされている。

 かつてはホロウの仲間の一人として、世の為人の為に、鬼と戦うモノノフという組織を立ち上げた一人。正義のモノノフを称する程に純真で正義感が強くてお人好しでアイドル…は俺がプロデュースしたんだっけ…だったあの千歳が、ポンコツなのはともかくとして鬼を使って世を乱すようなテロリストになっちまってるんだものなぁ…。

 …そして今から会いに行く虚海は、中身が自慰を覚えた性欲猿に変貌している。うーん、この落差よ。

 

 

 しかし秋水、お前さん、いつになくよく関わってくるな。

 いつもだったら、部屋の隅っこで話を聞きながらも、我関せずとばかりに自分の仕事や調べものばっかりやってるのに。

 

 

「酷いいいぐさですね。僕がそうやって下調べしているからこそ、話が早く進むというものですが」

 

 

 そこは理解してるけどね。事前準備や鬼の情報の話ならともかく、荒事の話に秋水が首を突っ込んでも、大した意見も出せないだろうし。

 ただ、それでも人に直接は関わらない、基本的に傍観者みたいな立ち位置に居ただろ。まぁ、橘花には妙なちょっかいを出そうとしていたようだが。

 

 

「ただ単に、僕も傍観したまま死ぬのは御免被るというだけです。聞いた話だと、先日の大戦よりも危険な状況のようですしね」

 

 

 さっさと逃げればよかろうに…とは思わないのかね。

 

 

「御冗談を。…僕は、誰か一人に犠牲を押し付けて助かるとか、見捨てるとかいうのが大嫌いなんですよ。ええ、それだけはしてやるもんか」

 

 

 お、おう…。いきなりいつも以上に真顔になりおって。

 つくづく初対面の印象とは真逆だよな、こいつ。一見するとクールで冷徹な秀才君って感じで陰険で粘着質…なのは変わらないが、言ってる事は割と熱血だ。

 そう言えば、橘花に対してストレスをかけて神垣の巫女の地位から降ろさせようとしていたのも、橘花一人が犠牲になるのが気に入らなかった…という解釈もできる。かなり拡大解釈してるけど。

 

 それも多分、絶対に見捨てないという信念とかじゃなくて、九葉のおっさんに対する意地とか当てつけみたいなもんだと思うけども。

 

 

 何でもいいが、一緒に来るって事は、虚海を説得する案を持ってるって認識でいいんだろうか?

 

 

「なくはない、という所ですが…正直、あなた方に任せた方が上手く行きそうです。僕が虚海さんを見に行くのは……ある種の怖い物見たさでしょうか。あの虚海さんが、どんな有様になっているのか…」

 

 

 ………ところで秋水、虚海と話をした日の夜って何か変わった事あったっけ?

 

 

「僕はありませんよ。僕は。誰かさんが如何にも何かやりそうな気はしていましたけどね」

 

 

 あっはっは、バレテーラ。

 証拠が無くても、確信してるんじゃはぐらかしようがない。…大和のお頭には黙っといてくれよ。

 

 

「橘花さんにはばれているようですが。…いえ、正直言って今の橘花さんを相手に化かし合いは無謀ですね」

 

 

 本当にな。なんであんなんなったんだろ…何やらかしたんだ、前の俺…。

 さて、馬鹿話もこれくらいにしようか。ホロウも自分の世界に入ってないで、ちゃっちゃと行くぞ。

 悩まなくても、話すのに支障はない程度には立ち直ってっから。

 

 

 

 

 

 虚海の部屋に入ると、微かな性臭が鼻についた。…どうやら我慢できずにオナッたようだ。鬼ちんぽは勃起封じ状態だから、女の体の方だろうね。

 普通の人では気付かない程度の匂いだから、秋水もホロウも気付かないだろう。気付いたところで、虚海が恥ずかしいだけだから、別にいいんだけど。

 

 やってきた俺と秋水に何か声をかけようとした虚海だが、続いて顔を出したホロウに絶句した。

 

 

「…久しぶりですね、千歳」

 

「……………ホロウ…ホロウ? 本当に…あのホロウ?」

 

「はい。あなた達と共に鬼と戦い、天狐の言葉を教わったりしたホロウです」

 

「……あぁ……あぁ、ホロウ! ほんに来た! 今更来た! はっ、あはははははは!!!」

 

 

 何がツボにはまったのか、布団から身を起こした状態で虚海は大笑いする。

 ついついやかましいと蹴り倒したくなったが、流石にそれは空気が読めないってもんじゃないので自重した。

 

 絞り出すような笑い声をあげる虚海を、ホロウはじっと見つめている。まるで信じたくないものでも見ているかのような顔で。

 

 

「…千歳…随分、様変わりしましたね」

 

「くっ、くはっ、はっ、は……ふ、ふふ、変わりもするさ。こんな姿に成り果てて、百年以上の歳月を過ごせばな…。情も無くし志も擦り切れ、精も根も尽き果てたとも」

 

 

 欲望だけは尽きてなかったけどな…。

 

 

「元の世界に帰りたい。それだけが私に残った望みだった。その為にホロウ、おんしを呼び出そうとしていたのさ。その為に、世を混乱に陥れようとした」

 

「失敗して、自分が鬼に呑まれていたようですがね。…全く、柄にもない事をするからです」

 

「ほっとけ。……ホロウ、おんしがここに居るという事はイヅチカナタが近くにいるのだろう。私にとっては全ての元凶となった、憎んでも憎み足りぬ鬼だが…それも今はどうでもいい。私を、あの時代に戻す事はできるか…?」

 

 

 ホロウをじっと見つめる虚海。だが、あまり重要だとは思っていないようだ。

 そもそも最初から期待していない。…今までの人生の中で、諦観が完全に根付いてしまったのか。それとも、つい先日覚えた『オタノシミ』に夢中になって、帰ろうという気があまりなくなってしまったのか。

 

 だが、ホロウはそうは捉えなかった。あの『千歳』が、こんな有様になる程の悲惨な道をたどり、全てに絶望しながらも唯一残された望み…それも、実現可能とはとても思えないような代物…だ。地獄に垂れた蜘蛛の糸同然だ。

 そして…それを一刀両断しなければならない。

 

 

「…無理です。私に時代を逆行する機能はありません」

 

「……そうか…。そう、か…」

 

 

 俯く虚海。意外とショックだったんだろうか? …いや、普通に考えれば最後の望みすら絶たれて、文字通り絶望するような状況なんだけど。

 今の虚海はなぁ…。

 

 

「…ならいいさ。元々、大した期待もしていなかった。「その大した事のない期待の為に世を混乱させるのはどうかと思いますが」…お前も大して変わらんだろう。…望みは潰えた。残った時間は、夢に沈むように過ごすとしよう。灰となって散るまでな…」

 

「…無為に過ごすくらいなら、もう一度私達に手を貸してください。イヅチカナタは、あなたにとっても敵の筈」

 

「そしてもう一度、あの穴に落ちるのか? あの真っ暗な穴の中に。…今度目を覚ましたら、残った半身も鬼になっているやもしれんな。…ふふ、そうなったら今度こそ身も心も鬼となるのもいい」

 

 

 いやよくねーだろ。何を陰鬱な想像して影作ってんねん。灰になるって、燃え尽き症候群かよ。

 

 

「文字通りの意味だよ。…陰陽寮には以前、私と同じように半身が鬼となった者が居た。私程ではないが、結構な長生きでな…。そいつは最後、どうなったと思う? ……望みが叶わないと悟った時、崩れ落ちて散っていったよ。文字通り、体の端から塵になってな。…いずれ、私もそうなるのだろう」

 

 

 …体一つ残す事を許されない、か。

 しかし、今もそうなってないという事は、まだ何か望みや執着があるんだろう。クサレイヅチが襲って来れば、それすら奪われる。

 文字通り、最後の望みすら奴に奪われるのは癪だろう。

 それとも、因果も魂も奪われて、永遠にクサレイヅチの腹の中で飴玉にされるのがいいか?

 

 

「……ふん、分かっている。元より、ホロウに含むものは無い。…確かに、昔はモノノフを立ち上げた事自体が間違いだった、と思った事もあったがな。いいだろう。その時になったら手を貸す」

 

 

 おし。思ったよりゴネたけど、言質はとった。流石にホロウの前で、虚海の鬼ちんちんを弄り回して言う事を聞かせるのもアレだったからな。…いや弄るのはそこだけじゃないよ、おっぱいも女陰も不浄の穴も弄るよ。

 

 

 

「千歳、私は…」

 

「もうその名で呼ぶな。私は虚海だ。あの頃の千歳は、既に死んだ。鬼として扱われる事にも、悪行を成す事にも耐えられずに死んだ。戻ってくる事は、無い」

 

 

 ………居るんだよなぁ、千歳…。クサレイヅチの中に、だけど。

 いやまぁ、そうだとしてもこの虚海とは別人な訳ですが。

 

 

 

 

 

 

 虚海の協力を取り付けて、俺は部屋を去った。ホロウはもう少し話をしたいと言うので残り、秋水は「拍子抜けでしたね」と言い捨てて何処かに行ってしまった。自分で言っていた通り、大した用事ではなく見物気分で来ていたようだ。

 ま、何にせよ、クサレイヅチ討伐の為に手を貸してくれるのは確かだろう。クサレイヅチを放置してしまえば、『女』になった瞬間の事も忘れ去ってしまう。

 今の虚海にとって、快楽と性欲は生きる意味そのものと言っていい。…事実、さっき話をしている間も、腰をモゾモゾさせて弄りたそうにしていたからね。

 ありゃー今日明日中に解消してやらんと、夢精とかしそうだな。勃起封じの術も、虚海なら自分で解除してしまいそうだ。

 

 うちの子達へのお披露目もあるし、舞台を整えておかないとな。

 …お披露目と言えば、今日の夜伽当番は明日奈、神夜、詩乃の3人だったっけ。幹部級、っていう表現も何だけど、うちの子達の中心人物大集合だ。

 ヤりすぎてしまうかもしれん…。

 

 と言うかそういう気分だ。まったりイチャチャ、王様みたいに奉仕されまくるのもいいんだけど、今はなんかもっと攻撃的な気分になっている。合意があっても怖気づくような強烈な凌辱とかしたい。

 いつもなら、相手の子達が疲れ切ったらそこで切り上げて、適当に摘まみ食いとかしに行く(だから当番スケジュールとかあってもあまり意味が無いんだよね)んだけど、今は気絶しようが許しを請われようが壊れようが、お構いなしに一晩中責め立ててやりたい。

 さーて、どうすっかな。分身して輪姦プレイか。久々に触手でも出して、全身ぐっちょぐちょにしてしまおうか…あ、触手の先頭に口とかつけて、全身prprもいいかな。それとも、女達の体をふたなりにして乱交させるか。

 

 

「おい、全身性欲変態男」

 

 

 ん? ああ、博士か。虚海の協力ならとりつけきたぞ。

 

 

「…躊躇いなく返事をするな、貴様…。まぁいい。貴様にこれを渡しておく」

 

 

 …なんぞ、これ。手紙?

 

 

「『前回』の私と同じだ。万が一があった時の為、『次』の私へ受け継がせる手札だ」

 

 

 ああ、そういう…。博士にしては珍しいな。私が居るのに失敗などありえん、くらいは言いそうだが。

 

 

「例え私が失敗しなかったとしても、貴様らが失敗する可能性は充分にある。お前は何度も何度も繰り返している。経緯はどうあれ、それだけ失敗を続けているという事だ」

 

 

 それを言われると、ぐうの音もでない…。っとに、何でしくじるんだろうなぁ…。クサレイヅチだけなら、もうソロで討伐するだけの力量はあると思うんだが。

 毎度毎度、理不尽極まりないトラブルが湧き出てくるんだもんなぁ。

 メガラケルてんてーだってその類だもの。

 

 

「そう思っているなら、またしくじるだろうな」

 

 

 …何?

 

 

「イヅチカナタも、トキワノオロチも、単体で国を亡ぼすような鬼だ。確かに貴様は比肩する者を探すのに苦労するような凄腕だが、そんな鬼に簡単に勝てると思うか? …奴らの真価を、貴様はまだ知らん」

 

 

 真価とな。トキワノオロチの事は知らないが、クサレイヅチにまだ知らない何かがあると…。

 いや、確かに言われてみれば、以前からクサレイヅチの様子はおかしかった。デスワープした直後に姿を現したり、何故かいきなりラヴィエンテに乗っていたり、体に赤い電撃みたいなものが走っていたり。奴には、俺の知らない『何か』がまだ残されている。

 鬼に限らず、追い詰められた生物は時に思いもよらない力を発揮する。奴の力を見切ったつもりでいれば、手痛い反撃を喰らうだろう。

 

 

「そういう意味とは少し違うが…。理解したならそれでいいか。ではな。精々うまくやる事だ」

 

 

 はいよ。

 …ふぅ、痛い所突かれたな…。今まで何度もしくじっているのに、どうして根拠も無く上手くやれると思うのか。

 最近、色々上手く行ってたからな…。そういう感覚が薄れていた。

 と言うより、今までもそうだったかな。調子に乗ってるところに足元を掬われるか、頭上からとんでもない災難が振ってきて潰される。

 まだ勝ってもいないのに、兜の尾を緩めてた気分だわ…。

 

 

 

 …しかし、クサレイヅチの真価、ねぇ…。因果簒奪以外に、何があるんだろうか…。

 

 



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582話

 

 

 

黄昏月弐拾溌日目

 

 

 

 明日奈達が本日一日は行動不能です。ハッスルしすぎました。

 賢者モードになってようやく理解したが、どうやら俺は戦の前で昂っていたらしい。攻撃的なセックスがしたくなったのも、その影響だろうなぁ。

 

 ま、それは置いといて。

 クサレイヅチ対策の結界は、橘花・虚海・樒さんの3人で着々と進んでいるようだ。

 博士と茅場は、グウェンと真鶴を連れて何やら調査したり、怪しい数式を書き連ねたりして、クサレイヅチとトキワノオロチの出現場所を探っているようだ。

 

 俺も昨日博士に言われた事を反省し、心機一転して錆び落としに励んでいる。

 …ん? この辺の鬼が相手じゃ、錆び落としにもならない? うん、普通にやってればそうだよね。

 

 

 

 だから、鬼に混じってうちの子達が襲ってきます。

 うちの子達だけじゃなくて、里のモノノフも襲ってきます。「女の敵!」とか「しっとの心が燃え上がるぅぅぅ!」とか「俺だって若みたいに…は多すぎるから、一人でいいから彼女がほしいんだよぉぉ!」叫ぶから、いつ何処から来るか見え見えです。つーか最後の鹿之助だろ。

 すっごいいい笑顔で木綿季が挑んで来ます。何? 新しい技思いついたって?

 大和のお頭がマジ奇襲してきました。この前木綿ちゃんを気絶させた事を根に持ってるようだ。

 ホロウも参加しているようです。姿の見えない場所から、鬼と戦っている時に容赦なく狙撃を見舞ってきます。

 

 …割りとガチで命狙ってるのが何人か居ますね。

 いやー、うちの子達もこの短期間で強くなったもんだ。以前にも似たような戦いで力量差を教え込んだが、随分と様変わりしている。

 咄嗟の機転は勿論のこと、作戦、連携、戦術、戦略、タマフリの使い方に至るまで、非常に洗練されている。…奇襲なのに叫ぶっていうのには目を瞑る。

 

 

 

 何をやってるって、まぁ、こういう事だ。鬼だけでは相手にならないなら、追加で相手を持ってくればいい。

 鍛錬として正しい事をやっているかと言われると、反論のしようがないんだけどね。無暗に戦うだけで強くなれるなら、喧嘩っぱやい奴程強くなれるって事になっちまう。

 それでも、危険を感知する感覚を鋭敏化させるくらいの効果はある。ハンターにとって、一番重要な要素だ。

 

 

 波状攻撃を凌ぎ続け、間を縫って鬼を葬り、時にセクハラし、斬り合いながら握り飯を頬張り、ついうっかりでミフチの巣を崩落させる。…いや、ミフチの巣なんぞ見つけた先から潰していいんだが、ササガニがワラワラ沸いて出てさぁ。いつの間にか攻撃に混じっていた桜花が、青い顔になっていた。叫んだり腰を抜かしたりしなかったのは、主力陣としての意地からか。

 中々にいい鍛錬になったけど、これは別の意味で問題かな…。

 束になっても俺一人を倒せない、足止めするのが精いっぱい。桜花達が本気で俺を敵と見做して戦いにくればまた話は違うだろうが、それにしたって力の差が開き過ぎている。

 ウタカタのモノノフは強い方に分類されるんだが、それでもこの結果だ。以前の模擬戦に比べれば充分に奮闘できていたが、大分自信を喪失させてしまったようだ。

 

 うーん、ウタカタでもブートキャンプせにゃならんか? しかし、強くする為とは言えよそ様の部隊の訓練にあまり首を突っ込むのもな…。大体、訓練っつっても一日二日で効果が出るようなもんじゃない。…そう言うのも無くは無いんだが、それをやると普段の防衛に支障をきたす。

 下手な事をするよりは、こうして俺を相手にして連携の訓練でもさせといた方がいいだろう。

 

 

 

 それはそれとして、模擬戦帰りにようやくホロウを捕まえた。延々と遠距離から芋スナしてきやがってからに。

 

 

「貴方が相手なら、それが最も有効なので」

 

 

 ああ、確かにな。だが普段から避けてるのはどういう事だ。

 過去の記憶について、こう、話し合っておく事とかあるだろう。

 

 前の繰り返しの事は覚えてるんだな? 

 

 

「…ええ、貴方が覚えていない繰り返しの事も」

 

 

 俺が覚えていない繰り返し…。橘花も千里眼で読み取ってたし、状況証拠は山ほどあったから疑う訳じゃないが…そっちでも一緒だったのか。

 何回くらいだ?

 

 

「私も思い出せない部分が多くありますが、共に行動していたのは少なくとも5回以上です。全く会わなかった場合もあります」

 

 

 そんなにか…。そこまで行くと、最初に出会った時の事が本当に最初だったのかとさえ思えてくるな。

 …根本的な事を確認するけど、俺達が最初に会ったのはマホロバの里でよかったか? 遺跡の中で一触即発状態になっていたら、博士が乱入してきたやつ。

 

 

「はい、私の記憶でもその通りになっています。紅月と共にウタカタの里までやってきました。最後はイヅチカナタと戦ったようですが……どうやら仕留め損ねたようですね」

 

 

 …ああ、そうだな。今度こそしくじらない。

 ところで、俺が覚えていない俺は一体何をしてたんだ? ホロウはその時何を?

 

 

「今と変わりありません。イヅチカナタが現れるとしたらウタカタの里だと、いつもここにやってきて、女性を囲い込んでいました。ウタカタの里に来るまで何をしていたかまでは知りません。…聞いたら大抵挙動不審になるので、真っ当な事はしていないでしょう」

 

 

 は、犯罪はしてない筈…ばれてない筈…多分…。

 

 

「私はイヅチカナタを追おうにも、相変わらず探知機能が働きません。貴方の近くにいると思われたので、止むを得ず貴方を探して動き回っていたのです」

 

 

 そ、そうか…。ん? ウタカタに居ない場合もあったんだよな? その時はどうしてたんだ。

 俺と同じように、『前にあった事を踏まえて…』とか、そういう事はしなかったのか?

 

 

「手掛かりを探して旅をする事もありましたし、ウタカタで足を止めて待つ事もありました。ただ、ウタカタで会えなかった場合は大抵再会できませんでしたね。確か…ウタカタに来る途中の道で、一度見つけただけです。私自身も毎回違う場所に出るので、ウタカタに向かうまで時間がかかります。何より、当時の私に残っていた記憶は、あなたと最初に出会った一回だけです」

 

 

 …うん? え、何? 前にも記憶喪失になってたって事?

 

 

「少し違います。先程、私はあなたと同様に繰り返していると言いましたが、それを認識できたのは今回が初めてです。マホロバの里で貴方と出会い、そしてウタカタの里に来てイヅチカナタと戦った。…いつの間にか見知らぬ場所で倒れていた私は、目覚めるまでの間に何があったのか全く覚えていない」

 

 

 成程ね。多分、俺もそれと同じ状況なんだろうな。

 毎回デスワープして目を覚ますけど、前の世界と今回の世界の間で、何かがあったなんで思った事すらなかった。

 ホロウの場合、同じ世界で繰り返されるんだから猶更だ。クサレイヅチを仕留め損ね、時空跳躍した先で目が覚めた…それしか分からないだろう。

 

 

「今になって思い出したのは、遺跡の調整機能によって記憶障害の一部が取り除かれた為でしょう。…ただ、虫食いになった記憶ばかりです。転移前は勿論、イヅチカナタと遭遇したと思しき場面も殆ど思い出せません」

 

 

 成程。

 …で、本題に移るが、クサレイヅチ対策、何か手札は増えてるか?

 

 

「いいえ。あの時に使っていた鬼の手も既にありませんし、状況は良くありません。…ですが、今まで使っていなかった手札が一つあります。魂食いです」

 

 

 魂食い…そういや、そんな機能があるって言ってたな。他者のミタマを取り込んで、ホロウ自身を強化するんだったっけ。

 …おい待て、前もそうだったけど、俺の魂を使おうとしているんじゃないよな?

 

 

「それを考えていましたが、現時点であなた以上の戦力はありません。それを動けなくするのに釣り合う効果があるか、疑わしいのです」

 

 

 そうか…。そうそう新しい技や道具なんて手に入る筈もないか。

 んじゃ、これまでと同じやり方で戦わなきゃならんのだな。

 

 

 

 

 

 

 

 ところで……今までの繰り返しで、俺ってお前に手ぇ出した?

 

 

「いえ、肉体関係を持ったことは、思い出す限りでは一度もありません」

 

 

 マジか。…それ、本当に俺なのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久々にホロウと長々話した気がする。

 しかし、やはり何となく壁を感じている。ホロウの考えは読みにくいんだよな…。正直言って、思い当たる事は無い。

 強いて言うなら、俺が思い出せなくなっているループの中で、何か致命的に敵対するような事があった、とかだが……それだと記憶が無い内から素っ気なかったのが分からない。記憶を失っても尚、嫌悪感が消えないくらいに嫌われていたとか? それならそれで、ホロウはざっくり言ってきそうなものだ。

 

 嫌われるの自体は…嬉しい筈がないが、構わない。自分が女に必ず好かれるなんて考えるほど、ナルシストでも己惚れやでもない。

 ただ、正直言って見過ごせない。

 

 今まで、こういったフラグを「大丈夫だろう」とか「是非もないよネ!」とか言ってスルーしてきた結果、致命的な場面で何度噴き出してきた事か。

 解決、せめて究明する必要がある。

 

 とは言え、今ホロウに付き纏っても逆効果にしかならない。さっき話している間にも、徐々に拒否感が募っていた。

 迂闊に突けば、それこそ銃を向けられる程の諍いに発展しかねない。そうばってしまえば、連携どころの話じゃない。うちの子達だって、どこまで抑えが利くか分からない。

 里のモノノフ達は止めようとしてくれるだろうけど、それがかえって里を割るような抗争にまで発展する恐れがある。

 

 探りを入れさせるなら…まずうちの子達は難しい。元々接点が少ない上に、腹芸が出来る子は少なすぎる。

 里のモノノフ達……例えば那木。…候補ではあるな。

 いっそ、天狐にでも探らせるか? …駄目だ、会話は出来るから聞き出す事はできるかもしれんが、何だかんだ言って人間の価値観とは違うから、正確な情報は望めない。

 

 

 

 となると……虚海。

 元よりホロウの関係者で、再会したばかりだから色々話をしようとしても不自然ではない。

 多少不審な態度をとっても、長い年月で性格が変わったと言い張る事もできる。

 

 …適任だ。適任ではあるんだが…………不安だなぁ。

 だって虚海だもんなぁ。ポンコツなのはまぁいいとして、今となっては色に溺れてるし。そうさせた俺が言うのもなんだけど…。

 

 

 

 

 うーむ…別に一人に絞る必要もないんだが、無暗に当たらせても訝しがられるだけ。一人がメインで、もう一人はサポート、誘導…。

 この中で有効な組み合わせは…………ん? 誘導?

 

 

 

 …あ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、それで私に探りを入れてほしい、と言う訳ですね。承りました。虚海さんが主、私は補助がいいでしょうね。…ご褒美、期待していますね?」

 

 

 人目を忍んでやってきたのは、神垣の巫女の屋敷。勿論、目の前で笑顔になっているのは橘花である。

 隣りには、荒い息を吐く半裸の世話役が転がっているが、これは俺がやったのではない。俺への貢ぎ物にする為に、橘花が篭絡している真っ最中だっただけだ。

 ちなみにその後ろには世話役の女2人が控えているが、騒ぎもしない。むしろ橘花に弄られていた女を羨まし気にチラ見している。とっくの昔に篭絡済みで、俺も味見した事のある女達だ。

 

 …いつもの橘花ならともかく、今回ループの橘花はエラい事になってるからな。

 演技、誘導、誘惑と何でもござれ。つくづく思うが、俺は忘れたループでどれだけの躾けを橘花に施してきたのだろうか。……なんつーか、自分でやってる筈なのに、記憶が無いから他人にされたような気分になってくるな。寝取られ属性は無いぞ、俺。

 

 

「それにしても、ホロウ様ですか…。私が読み取った記憶でも、確かにウタカタを訪れていた事があるようです。しかし、その時は不仲な様子は無かったと思うのですが…」

 

 

 うーん…。それがいつのホロウなのかも分からんし、参考にするにはちょいと情報不足だな。

 ああ、念のために言っておくが、あんまり強引な真似は無しで頼む。

 

 

「分かっていますよ。私、そんなに強引じゃありません」

 

 

 …そこで転がってる女の子には、強引な真似してねーの?

 

 

「してないですよ、あなたに比べれば。それに、この子は自分から興味を持って志願してきたんです。…もっとも、私達の戯れをわざと目撃させたり、こういう事がどれ程気持ちよく素晴らしい事なのか、何度も語り聞かせてあげましたけどね」

 

 

 思いっきり誘導しとるやないかい。強引っちゃ強引だが、要するに今回はそういう事を求めてるから何も言えん。

 とにかく、後は頼むぞ。俺は虚海に話を通しに行くから。

 

 

「ええ。…ところで、味見していかれないのですか?」

 

 

 チラリと横目で、まだ起き上がる事もできない女の子に目をやる橘花。

 

 興味はあるが、人が躾けてる最中に横から手出しするのもなんだしな。

 俺がやったら即落ちほぼ確定だし、堕ちる過程を楽しむなら橘花に任せた方がよさそうだ。

 『調理済み』になってから食わせてもらうよ。

 

 

「残念ですねぇ…。ご褒美の前払いもいただけると思ったのですが」

 

 

 

 

 

 

 



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583話

予約してある投稿は、今回分で最後となります。
骨折の経過は順調なようですが、充分な書き溜めはできておらず、次回の投稿は 12月以降になりそうです。



 

 虚海と話をして調査を頼むと、少し渋い顔をされた。

 騙す訳ではないが、知人友人を誤魔化して胸の内を探るという事に抵抗があるようだ。尤も、ご褒美を仄めかすだけで簡単に吹っ飛ぶ抵抗のようだが。

 …肉欲の為に、虚海が俺の側に付いたと知ったら、ホロウはどんな顔をするかな。

 

 それはそれとして、博士がクサレイヅチやトキワノオロチが出現する場所を予測できた、と報せがあった。

 いつもの集会所に向かうと、既に皆は地図を囲んで話し合っていた。

 

 遅れてすまん。奴らは何処に出るって?

 

 

「来たか。出現すると思われるのは、ウタカタから少し離れた異界だ。強いて言うなら、戦の領域に近い」

 

「第二候補、第三候補の場所もあるようだが…」

 

「流石に確実な事は言えん。時空の事は、私にとっても未知の領域だ。ここまで予測できるだけでもありがたいと思え」

 

「そりゃそうだがな…」

 

 

 ふむふむ。どの予測地点も、里から東にある異界、特に広大な場所だな。

 遮蔽物が極端に少ない。戦いやすいっちゃ戦いやすいか。

 

 出現したらどうすると思う? 最初は包囲で考えてたんだが、ヒノマガトリみたいに空を飛ばれると手が出せなくなる。

 

 

「間違いなく飛行能力はあるだろうな。時空の流れを回遊する鬼が、地面に足を付けて歩くとも思えん」

 

「なぁ、遺跡にはその鬼を引き寄せる機能があるんだろ。いっその事、そっちで待ち構えてはどうだ?」

 

「…有り、だな。だが、その分ウタカタに近い場所で戦う事になるぞ」

 

「逆を言えば、補給もしやすい。結界担当が3人居るし、宝玉もあるし、そうそう破られないんじゃない?」

 

「いや、相手は国を亡ぼすような鬼だ。普通の鬼の尺度で考えるのは危険だろう」

 

「確かに…。それに、イヅチカナタとやらの因果簒奪を防ぐ機能を付ける為、強度が犠牲になっているやも…」

 

「そこは確認だな。…と言うより、イヅチカナタの因果簒奪の事を考えれば、ウタカタの結界近くで戦うしかないのでは?」

 

「出現前にトキワノオロチだけでも討伐…と言うのは楽観がすぎるわね」

 

 

 

 口々に見解を述べて意見を交換し合う。この光景も見慣れたもんだ。

 俺としては、誘き寄せる前に平野で討伐してしまいたい。アラガミモードになる可能性は高いし、その状態で全力出したら里に余波が押し寄せるだろう。

 鬼は撃退したが、里が半壊じゃ笑い話にもならない。

 

 しかし、平野で撃退するなら、出現地点の3択で正解を引かねばならないわけで…。

 どっかで待ち構えて、違う場所に出現したら鬼疾風で向かう…と言うのも考えたが、何処に出現したかの伝令が到着するまでの時間を考えるとリスクは高い。

 

 

 

 

 

 

 

 会議の流れは変えられず、結局ウタカタ近く、遺跡に誘き寄せて戦う事となった。

 まぁ、それは別に構わない。利益不利益、危険や対策を考え、これが現時点では最良の形、という結論に達したのだから。

 俺の個人的感情はさておいて、効率的に戦力を発揮できる形になった事は確かだ。…問題は、それを十全に使わせてもらえるかどうかだが。

 

 

 大雑把な流れは、こんな感じだ。

 

・遺跡の装置を起動させて、トキワノオロチを呼び寄せる。

・備えていたウタカタ主戦力+うちの子達で迎撃する。

・イヅチカナタが出現したら、俺とホロウで討伐に向かう。

・速攻で叩き潰して、取って返してトキワノオロチを撃退。

 

 

 

 ……うん、こんな感じなんだ。言いたい事は色々とあるだろうし、本当に迎撃できるのかとか、そーいう事は沢山言いたいと思うけど、実際こんなもんなのだ。

 敵の全貌や戦力が殆ど分からないから、こんなガバガバな作戦しか立てられなかったんだ。

 その分、怪我人が出た時の救助方法とか、補給経路とか、そういうドクトリンは出来る限り突き詰めたけども。

 

 

 ところで、ガバガバさとは別に、一つ気になった点はないだろうか? 主に三つ目。

 

 

 

・イヅチカナタが出現したら、俺とホロウで討伐に向かう。

 

 

・イヅチカナタが出現したら、『俺とホロウで』討伐に向かう。

 

 

・『俺とホロウで』

 

 

 

 …うん、そうなんだ。

 総勢2名、参陣!になるんだ。

 

 いや、ちゃんとした理由はあるんだよ。

 前のループ、千歳と一緒の時を思い出せばわかる。あの時、千歳を中心として結束していたモノノフ集団は、クサレイヅチの因果簒奪の影響を受け、互いの事を忘れて連携を失っていった。

 自分が目の前の鬼と戦っているという事すら忘れて、過去の出来事に捕らわれた。

 千歳や俺でさえ例外ではない。

 

 はっきり言って、数を揃えても意味が無いのである。

 その為、大和のお頭は俺とホロウにクサレイヅチ討伐を任せた。俺とホロウなら…自分でも分からないくらいに長い間、クサレイヅチを追い続けてきた俺達なら、因果を奪われても関係ない。ただ目の前のクサレイヅチを斬る事だけを考えていればいい。幸いにして俺もホロウも、単体でクサレイヅチを正面切って相手できるだけの戦力はある。

 …千歳を解放しなきゃならんのだがね。あと、それだけの戦力がある筈なのに、今まで失敗してきたんだよなぁ…。

 

 色々不満と言うか疎外感みたいなものはあるが、それをひっくり返すだけの材料も無い。

 ホロウも俺に対して拒絶があるとはいえ、感情で否を突き付けるような真似をする筈も無い。…正直、いつ地雷を踏んで大爆発するかドキドキしています。いっそ自分から爆破解体してしまおうかと思うくらいに。

 

 

 

 そんな訳で、非常に気まずい雰囲気になりながらも、ホロウと二人で作戦会議しています。他の皆は軍備について相談や準備を進めている。

 お互い、クサレイヅチとは何だかんだで長い付き合い(ヴォエッ!!)になってるし、奴の手の内は読めている…と思っていたんだが、この前の博士の話を聞いた後だとねぇ…。

 今までのクサレイヅチの行動や傾向を見ていると、不自然さを感じた事も一度や二度ではない。その辺も含めて、打ち合わせが必要だった。

 

 

 で、今までの繰り返しで、どんな感じだった?

 俺は博士が言っていた通り、まだ知らない何かが残ってると思う。そもそも、トキワノオロチとクサレイヅチに何か関係がある、と言うのだって今回が初耳の情報だったし。

 

 

「…確かに。私も長く奴を追っていますが、それらしいものは一度として目にした事はありませんでした。博士の言う事です、憶測であっても可能性は高いのでしょう」

 

 

 同感。

 今までの俺の繰り返しだと…そうだな、現地の巨大生物(ラヴィエンテ)に乗って襲撃をかけてきたり、脈絡も無く宇宙から巨大生物が襲来したり(この前のGE世界)、なんか赤い電撃みたいなのを纏っていたり…あと何があったっけか。

 

 

「私の繰り返しの中では、そのような行動は一度として認識されていません。…と言うより、今思い出している繰り返しの中では、イヅチカナタと遭遇した記憶は一度もありません。そこに辿り着くまでに、何処かで記憶が途切れます」

 

 

 そうか…。

 トキワノオロチと接触しようとしているなら、そこには何かしら理由があるだろう。意味の無い習性とも考え辛い。2体揃ったら、合体技でも出してくるんじゃないだろうか。

 参ったな、千歳の事もあるってのに…。

 

 

「…? 千歳? 千歳に何かあるのですか? 確かに、体はイヅチカナタとの闘いで変形してしまいましたが、それは今どうこう言う事では…」

 

 

 …ん?

 

 

「何です?」

 

 

 いや…ちょっと待って、ちょっと待って。確認。最初に俺と会って、その後一緒にクサレイヅチと戦った時の事、覚えてる? ほら、鬼の手使ってた時の。

 

 

「はい、そこは最後まで覚えています。あの時はあと一手まで追い詰め、私が使っていた鬼の手を目晦ましにしてあなたが強襲を仕掛けました。…私が覚えているのはそこまでですが、仕留め損ねたという事でしょうね」

 

 

 …ああ、不甲斐ない事に。

 俺を見るホロウの目に冷や汗を垂らしながら、確認を続ける。

 

 その時に、見えなかったのか? 俺がしくじった理由…。

 

 

「鬼の手の爆発で、貴方達がどのような遣り取りをしたのかは分かりませんでした。あの状態から、どうすれば返り討ちに合うのか分かりかねますが」

 

 

 …そっか、爆発が目晦ましになったのはクサレイヅチだけじゃなかったか。

 危ねぇ…あやうくそのまま、纏めて殺すとこだったかもしれん…。

 

 …あのな、ホロウ。クサレイヅチの中には、千歳が居るんだよ。

 

 

「…何を言っているのです。千歳なら、今この里に居るではありませんか。…それとも、千歳の因果が、と言う事ですか?」

 

 

 いや、文字通りの意味だ。何でそうなったのかはよく分からんが、クサレイヅチの体内に、千歳が囚われている。

 ホロウと出会う前の繰り返しで、千歳…スレてポンコツになった虚海じゃなくて、次代を飛ばされて間もない頃の千歳と一緒になった事があったんだ。…これ、前にも言ったっけ?

 その時、クサレイヅチと戦って、仕留め損ねたんだが……どうもその時に、千歳を取り込みやがったらしい。

 ホロウと共にクサレイヅチと戦った時、最後の一撃をくれてやろうとした瞬間に、胸の部分が開いて千歳を見せ付けてきやがった。咄嗟に刃を止めたが、危うく千歳に斬り付けるところだったんだよ。…で、その隙を突かれて返り討ちって訳だ。

 

 

「…千歳が、イヅチカナタの中に…。今まで、一度もそのような事は目にした事がありません」

 

 

 人質を使う必要を感じなかったのかもな。大抵の相手は、因果簒奪で棒立ちになり、抗う事すら出来なくなる。

 外敵と直接接触する必要すらないだろう。

 …考えてみれば、どういう体の構造してるんだ…と思うけどな。鬼の生態なんて元々出鱈目極まるようなもんだが、体の中に人を取り込んで拘束するなんざ、何の意味があるってんだ。

 

 

「俄かに信じられる話ではありませんが…やる事に変わりはありません。イヅチカナタを倒します。そして千歳を解放する。…そうなると、千歳が二人になるのですね」

 

 

 そうなるな。ややこしくはなるが、そう問題もないだろう。

 あの時の千歳は、虚海とも仲良く…とは言わないが、それなりに折り合いをつけてたしな。

 

 そういう訳で、千歳を助けつつクサレイヅチを仕留める方法だが…。

 

 

 二人で暫く連携について話し合った。

 

 

 

 

 



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584話

開けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

どうも、時守です。
半端ない寒波が押し寄せる昨今、いかがお過ごしでしょうか。
非常に遅くなって恐縮ですが、戻ってまいりました。

思えば一か月半前にバイクで事故って腕の骨折をして以来、非常に不便な生活でしたが、何とかなるものですね。
風呂に入れないのがきつかった…コノクソサムイノニ

夜中に信号無視して横断歩道を渡っていたお婆ちゃんを避けてスッ転んだのですが、交通事故としてはまだマシな結果でした。
相手には怪我無し、自分は骨折するも命に別状は無し。
骨は何とかくっ付いて、現在リハビリ中です
相手が保険会社に入っていたので補填やら修理費やらも出る。
7割程度しか出ませんでしたが、バイク屋さんがその範囲内でどうにかしてくれて、先日ようやくバイクが手元に返ってきました。
あと慰謝料も貰えるらしい。…ドラマや893の専売特許じゃなかったのね…ちゃんとした権利だったのか。

尽きかけていた書き溜めもある程度出来上がりました。
厄介な場面を超えたので、暫くお気楽チョイエロな日常を書きたいものです。
今までのような定期更新は難しいと思われますが、またお付き合いいただけると幸いです。
…こんな事を言った矢先になんですが、新年のお年玉として、連続更新を開催いたします。
まぁ1/1から1/3までですが。



さて、ヴァルハラと悟りの道の続きを…。


黄昏月弐拾玖日目

 

 

 迎撃の準備は整った。たった一日で? と思うかもしれないが、元々頻繁な鬼の襲撃に備えて色々な対策をしている里だ。

 規模こそ大きいが、普段の軍備の延長線上でしかなかった。要するに、元々準備してあった上に慣れている、と。

 

 俺自身の準備も済んだ。

 出来る限りの武器防具を備え、道具も準備し、禊も行って精神統一。

 …いつものパターンなら、オカルト版真言立川流を駆使して、パワーアップという名目で乱交に耽るのだが、今回はそれも無しだ。

 

 …どこからか、『悪いモノでも食ったか?』と言われた気がした。いやまぁ言われるような事ばっかしてたのは事実なんだけどね。

 

 オカルト版真言立川流で、自分も相手も強化できるのは確か。今まで散々その恩恵に預かってきたのだから、これは間違えようのない事。

 だが、やはり代償というのはあるものだ。相手が腰砕けになる…とかではなく、何て言うか精神的にね。

 愉しいし気持ちいいし霊力も強くなるんだけど、弛むのはどうしようもない。

 

 色にかまけて、戦いに向かっていた精神がブレてしまう。

 

 クサレイヅチに加え、今回はトキワノオロチとかいうトンデモ鬼が出てくるのだ。どんな奴なのか分からないが、最悪ラヴィエンテ並みの化け物だと思っておく。

 そんなのが相手なら、多少霊力が増えるよりも、精神から油断や腑抜けを排除した方がいい。

 

 …ただ、その分うちの子達の様子をしっかり見ておかないといけないけどね。

 『自分達なら勝てる、鬼なんぞ何するものぞ!』って感じの子も居れば、『そんな鬼に勝てるのかな…』と不安がっている子も居る。

 根拠も無く勝てると思って楽観するのも問題だが、どっちかと言うと厄介なのは後者だ。大分安定してきたものの、不安やストレスを感じると不安定になる暗示は消えた訳ではない。放っておけば、加速度的におかしくなっていく可能性があった。

 いつもであれば、肌と肌の触れ合いで安定させている(そしてそれを期待している子も多い)のだが、今はその手段を封じてるからな。

 会話や軽いスキンシップで安定させていくしかない。

 

 …いつもの方法を使わない事に対して、『何か悪い物でも食べましたか?』って言われたけどな…。

 

 

 

 

 

 

 

 ま、それは置いといて…。

 

 

 

 

 その時は思っていたよりも早く、そして分かりやすく訪れた。

 博士がトキワノオロチ出現を予想した異界の一つで、異変が起きた。そこに居た鬼達が、一斉に他の異界に向かって散っていった…いや、逃げ出したのだ。

 異界を消失させた時の動きに似ていると言えば似ているが、あの時とは違い縄張り争いする暇もなく、とにかく恐怖しながら逃げに徹している感じだ。

 

 何か言われるまでもなく、皆が直感した。あそこから、鬼すら畏れる悍ましい『何か』が現れるのだと。

 異変を察知したウタカタの人達の行動は早かった。

 事前に決められていた通り、篝火を焚き、一般人を避難させ、撃退の為の各設備を起動。橘花、虚海、樒さんの3人で里を覆う結界を強化し、遺跡の誘導装置を起動させる。

 そして動けるモノノフ全員が臨戦態勢に入った。

 

 

 

 …俺とホロウは待機前提だったけどな。最初からクサレイヅチの対応要員にする、と言われては居たが、なんか疎外感…。

 

 

 そのクサレイヅチも何処に出てくるか分からない為、俺とホロウは見張り櫓で里の周囲を見回していた。双眼鏡で問題の異界を覗き込んでみると、異界上空の空間がおかしな事になっているのが分かった。

 黒い穴みたいなものが出たり消えたり、雲が一部だけ歪んだり。

 …あの黒い穴、多分アレだよな。時空の穴と言うか空間の穴と言うか、そんな感じのアレ。そう言えば前の騒ぎで、メガラケルてんてーが這い出てきた穴もあんな感じだった。

 

 黒い穴は、少しずつ大きくなり、消える時間よりも現れている時間の方が長くなる。

 ああうん、何も言われなくてもすぐ分かりますな。あそこから何かが出現しようとしている。何ともオーソドックスな演出ですこと。

 

 ホロウの肩を叩いて指さすと、無言で頷かれた。

 見張り櫓の下に居る伝令に異常を伝え、自分達はクサレイヅチの出現を警戒。

 

 …と言っても、やはりあっちが気になる。トキワノオロチなる未知の鬼、その威容は様は果たしてどのような姿なのか。

 

 

 

 程なくして、空の歪みは黒い穴となり、消える事が無くなった。もはや誰の目にも異変は明らかだ。

 その下、少し離れた場所ではモノノフ達が臨戦態勢で待ち構える。うちの子達も、遠距離からの援護射撃の構えに入っている。

 

 

 

 最初に姿を現したのは、竜の頭だった。ラオシャンロンを連想させるような、典型的な竜。

 口元には炎の吐息が漏れている。長い首がずるずると這い出てきた。

 

 何だ、確かにデカいが普通の鬼じゃないか…と思ったら、殆ど同じような竜の頭がもう一頭。

 更に一頭、一頭…。

 

 

「…あれがトキワノオロチ…」

 

 

 とうとう全ての姿が現れる。5つの頭を持った竜……いや、怪獣。

 体の全てに強烈な力が漲っているのが分かる。そもそも質量からして脅威だろう。

 自己主張するかのように、5つの頭が次々に叫び声を上げる。ここまで響く遠吠えで、異界ごと空気がビリビリ震動した。

 

 …確かに、強そうではある。強そうでは。

 討伐隊を作り上げて、時空を超えてでもどうにかしようとするのも、分からんではない。

 

 だが、それだけだ。ホロウ、どう見る?

 

 

「…強力な鬼ではあります。ですが、あれ一体で国一つ焦土にできるかと言われると、疑問が残ります」

 

 

 俺も同感。見た目から推測できる範疇でしかないが、攻撃のリーチもそう長くは無いだろう…いや接近戦を挑む者にとっては充分なリーチかもしれないが。

 仮に、あの口元の炎がとんでもない威力で、あっという間に燃え広がるのだとしても、あの遺跡…『舟』を作り出すような技術力を持った国を亡ぼせるとは思えない。

 

 

「…早合点は危険です。奴には、まだ何か…」

 

 

 ホロウの言葉が止まった。理由は明らかだ。

 トキワノオロチが出てきた穴から、ボトボトと別の『何か』が落下してきたからだ。トキワノオロチ程ではないにせよ、普通の大型鬼程度には大きなそれは、俺も見た事のない異形だった。

 

 鬼とも違う。鬼はまだ生物的な印象が強いが、それはまるで無機物を悪意を籠めて繋ぎ合わせて、動かしているような…。或いは、煮えたぎる何かを無理矢理生物の形に押しとどめたような…。或いは、壊れかけの機械が狂いに狂って自己改造したような…。

 統一性さえない、化物の集団が溢れ出ていた。

 モンスターではない、アラガミではない、鬼ではない。今まで見てきた夢の中で遭遇した化け物たちとも違う。

 

 あれは、もっと別の場所で存在していた『何か』だ。

 

 

「ええ。恐らく、トキワノオロチが時空を回遊するうちに、巻き込んできた『何か』なのでしょう」

 

 

 …千歳のように、か。

 イヅチカナタとの闘いで、千歳はあの穴に…トキワノオロチが出てきたような、あの真っ暗な穴に落ちた。

 幸運にも……いや、不幸中の幸いとさえ言っていいものか、彼女は別の穴から抜け出す事が出来た。…体を半分、鬼に変えられて。

 そして、抜け出す事ができなかった者達の末路が、アレなんだろう。

 

 元は、俺達と同じ人間だったのかもしれない。そうでないのかもしれない。俺も見た事も聞いた事もない土地から流れ着き、呪いの塊とされた名前も姿も知らない誰か。

 思う所がないとは言わない。

 

 だが、どうにも和解の道は無いようだ。

 言葉が通じないとかいう以前に、地面に落ちたら即暴れ出している。動きからも分かるが、理性と呼べるようなものは全く残っていないようだ。

 無理もない。あの真っ暗な穴の中で、一体どれだけの時を彷徨い続けたのか。どのような場所なのかは想像するしかないが、自分から動く事もできないような状態で、少しずつ体が変質していくのを見続ければ発狂もしよう。

 

 空に空いた穴は少しずつ小さく成ろうとしているようだが、その間にもポツリポツリと新たな怪物が降ってくる。

 トキワノオロチは勿論、あれらを放置してはいけない。

 

 現地では、トキワノオロチにモノノフ主力陣が、それ以外の怪物達にそれ以外のモノノフとうちの子達が挑んでいた。

 今すぐにでも援護……と言うか、乱入したい欲求に駆られる。情勢が不利とか皆が危ないとかではなく、未知のモンスターに対するハンターの根源的欲求だ。

 それに従えば…千歳を助け出す機会が無くなる。抑え込んで周囲を更に見回した。

 

 …ホロウ、どうだ? 何か見つけたか? クサレイヅチの場所を探る機能はどうなった?

 

 

「残念ながら、イヅチカナタに繋がるような物は何も見つかりません。感知も故障したままのようです。あちこちからイヅチカナタの反応が生じます」

 

 

 ……うん? あちこちから?

 ちょっと待て、それっていつからそうだったんだ?

 探知機能が故障しているとは聞いてたが、具体的にどういう風になってるんだ?

 

 

「あなたと初めて出会う直前からですが。先程言ったように、イヅチカナタの反応が複数生じています。情報の解析機能が誤作動しているか、探知に反応すべきでない物をご認識しているものと…」

 

 

 ……クサレイヅチが複数存在する、という可能性は?

 

 

「…どういう事ですか」

 

 

 文字通りだ。俺もつい最近まで一匹だけだと思っていたが、シノノメの里で会った識って奴に言わせると、クサレイヅチは亜種も含めると結構な数が居るらしい。

 ずっとそいつらが、ちょっかいも出さずに俺達の近くに居た、というのはちょっと考え辛いが、万が一って事も…。

 

 

「……………」

 

 

 ……………。

 

 

「……………直近の反応は、あの山の上空です。先程から、じりじりと近付いて来ようとしています」

 

 

 結界に阻まれてるって事かな。他は?

 

 

「地図を。……こことここ、それにここ…直進しているのだとしたら、移動経路はこのように予測されます」

 

 

 …里を囲むように移動しているな。里から因果を吸い上げるのが狙いか…。

 複数匹が同時に襲ってきたのだとしたら、いくら結界を強化していたとしても防ぎきれそうにない。

 

 ホロウ、俺は遊撃に出る。すまんが見張りは任せる。

 

 

「引き受けました。千歳の無事を祈ります。武運も」

 

 

 

 なんか俺の事がついでみたいになってるけど、まぁいいか。

 見張り櫓から飛び降りて、ホロウに教えられた場所に向かって失踪する。

 

 それにしても、「情報は共有した( ・`ω・´)キリッ」とか言っといて、何て無様な…。情報の扱いについて、うちの子達と一緒に学び直した方がいい気がしてきた。

 

 

 

 

 

 

 鬼疾風を使えば、目的の場所まで駆け抜けるのはそう時間はかからない。鬼の手を使って、障害物を飛び越えたりもしたからな。

 里を覆う結界を抜けた辺りから、確かに奇妙な感覚を覚えてきた。

 体の内側から、何かが外に引っ張られているような、些細だが不快な感覚。

 

 …これはクサレイヅチの因果簒奪の前触れだろうか? それとも、決戦が迫っている事に対する不安でも感じているのか。

 

 空を見上げれば、地上の争いなど知らぬとばかりに星と月が光っていた。

 その中に幾つか、不自然な星がある。少なくとも、昨日までは瞬いてなかった星だ。流れ星や惑星ではない。そもそも、雲がかかっている部分にも関わらず、輝きが隠れていない。

 

 やはり、居る。

 

 奴のツラを思い浮かべて、すぐにでも狂乱しそうになるのを抑え込み、山の上へ。

 殺意を籠めて空に浮かぶ星(仮)を見上げ、神機の銃口を向ける。

 

 そこでようやく、自分が捕捉され、しかも敵意を向けられている事を理解したらしい。

 生意気だ、潰れてしまえと言わんばかりに、嫌な感覚が膨れ上がる。同時に周囲から、青い燐光が立ち上り始めた。

 言うまでも無く、クサレイヅチの因果簒奪が発動した証だ。

 

 だが、クサレイヅチは姿を現さない。まぁそうだよな。

 ただの人間がどうするって話だ。自分の存在を感知できても、手の届かない空の上、しかもあいつは時空を超えて身を隠している。普通に考えれば、ロケット弾を飛ばしても命中させられる筈がない。

 奴の感覚で例えてみれば、目障りな虫けらが、生意気にも自分に近付こうとしている、くらいのものだろう。因果簒奪を発動させたのも、虫を追い払う為に手を振ったか、虫よけスプレーを振りまいた程度の認識でしかない。

 

 

 ------こいつじゃない。

 

 

 こいつは、千歳を捕らえて俺につきまとっていた、あのクサレイヅチじゃない。

 奴なら、その羽虫は自分を傷つける事ができる羽虫だと、身を以て知っている。時空の狭間に隠れていたとしても、因果簒奪を使うだけで潰れるだろう、なんて楽観をするとも思えない。

 

 ならばやる事は一つだけ。

 クサレイヅチでなくても、イヅチカナタは狩る。肝心のクサレイヅチが、他のイヅチカナタとどう違うのか、見極めるいい機会だ。

 

 星に向けて銃撃を討ち放ち、それに続いてアラガミモードを発動させて飛び上がった。

 

 

 

 …本命のクサレイヅチは、ちんちんレーダーで千歳っぽい気配を探れば見つけられるかな、なんて思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、一言いいかな。

 

 

 

 

 

 弱ッ! イヅチカナタ弱ッ!

 

 

 

 動きが鈍いし、脆いし、部位破壊される度に怯むし! あと拡散連続エネルギー弾撃つし。

 パワーは強いっちゃ強いが、それだってフロンティアのモンスター達の方が余程恐ろしい。何てったって恐くない。天敵がいない状況で生きてきた為か、危機感も足りないし、天敵を欺く狡猾さもない。

 アラガミ化無しでも、普通に勝てるぞこいつ。

 

 ……こんな奴に、今まで散々手古摺って来たのか…?

 …いや、まだだ、まだ。クサレイヅチの本領が因果簒奪なのは分かり切った事だし、何よりも、やはりあのクサレイヅチは普通のイヅチカナタとは違うようだ。

 気配そのものが違ったし、体に赤い電流も走ってない、体調不良のような動作も無い。何より千歳の気配も無い。

 

 推測だが、クサレイヅチは俺の因果を度々吸い上げて食っているのだから、その分強くなっているのではないだろうか?

 質の悪い物を食って育つより、質のいい物を食って育った方が体が強くなるのは道理だろう。

 

 

 

 ……と言うか、そうであってほしい。討伐しようとする怨敵が強い事を望むのも本末転倒だが、こんだけ手間かけさせて、散々ヘイトを高めてくれやがった相手がこんなにもあっけないんじゃ、俺が報われない。

 …いや、俺が報われなくても、捕らえられてる千歳や、まだ生まれてすらいなかった俺の子の因果が報われてくれればいいんだけどさ。

 

 ともあれ、イヅチカナタを一体討伐。

 クサレイヅチがどこにいるかは分からないが、残ってる奴らを虱潰しに狩るとしよう。

 討伐したイヅチカナタが隠れていた空間から飛び出すと、予想通り空中に放り出された。落下中に視線を巡らせたが、結構な激戦になっているようだ。

 トキワノオロチは地面に降りてモノノフ達を相手にドンパチやっている。奴と共に出現した異形達は大分数を減らしているようだが、空の上に空いた穴から、まだ時折ポトポトと出現しているようだ。

 

 

 …小康状態、と言ったところか。

 あっちの援護はまだ後でいい。里の周囲のイヅチカナタをどうにかする方が先だ。

 

 一体を問答無用で潰されて、ようやく危機感を覚えたのか、それぞれのイヅチカナタが因果簒奪を使い始めたようだ。

全く、随分呑気なものだ。相手の無能を期待するのは好きじゃないが、実際に無能なんだから仕方ない。遠慮なく弱点をつかせてもらおう。

 

 地面に着地して、次の標的の場所へ向かう。

 青い光が乱舞するが、影響は感じない。結界のためか、俺に耐性が付いているのか、いずれにせよ選ぶべきは電撃戦、速効であることには変わりない。

誰かに見られていても構わない。アラガミモードのまま駆け抜ける。

 

空を見上げれば、明らかに輝きを増した不自然な星がいくつか。あの中に千歳をとらえているイヅチカナタが居る。

 不思議と怒りを感じなかった。今やるべきことだけが、体を突き動かす。

 瞬く間に山を駆け抜け、二つ目の星に向かって跳び上がった。

 

 

 

 

 

 

 



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585話

 

 

 

 そのまま、イヅチカナタを葬ること2体。

 率直に言えば、どちらも弱かった。だが、それぞれ個体差はあったように思う。

 体の大きさ、咄嗟の行動、判断力、機転。少なくとも、以前のように千歳を盾にしようとすることはなかった。

 

 …何と言おうか、やっぱり俺が追いかけているクサレイヅチは、良くも悪くも他とは違う個体のようだ。地金があると言うべきか、自分の性能を使いこなしているというべきか…。あれは鬼というより、人間の戦い方のような気がするな。

 

 

 尽きない疑問を抱えながらも、三体目を討伐。空中に放り出されるとき、また周囲を確認する。

 状況は目まぐるしく動いている。地面に降りていたトキワノオロチはいつの間にか空へ飛び上がっているし、暴れていた怪物たちは数こそ減ってないものの、顔触れが随分変わっている。どうやら倒した分だけ新しい怪物が出現していたらしい。

里の守りとして残ったホロウは、独自で何か見つけたようで里の内部に向かって動き出していた。

 気になることは多いが、今は方針転換すべきではない。自分は、クサレイヅチ共を始末することに専念する。

 

 

 

 

 ほどなくしてもう一体のイヅチカナタを討伐すると、やつらの動きが変わった。

 今までは里を囲んで因果簒奪の効果を及ぼそうとしていたのが、里から離れて移動し始めている。逃げた? …にしては進む先が全員一致している。

 あの方角は、みんなが戦っている方角…トキワノオロチがいる方向だ。合流しようとしている?

 

 …真意はどうあれ、あちらに行かれると危険だな。あそこには因果簒奪を防ぐ結界もない。やつらの能力が発揮されたら、みんなあっという間に戦えなくなってしまう。

 トキワノオロチも、空を飛んでこちらに合流しようとしてきているようだ。埒が明かないとみて、戦い方を変えるつもりか。

 

 

 こちらに背を向けて移動を図るクサレイヅチ共を追いかけて、さらに一匹討伐。だが流石にそこまでだった。

 腐っても強力な鬼だけあって、頑丈さ、しぶとさは相当なものだ。一匹を討伐する間に他の個体…残り2体のイヅチカナタが、トキワノオロチに接触するのを許してしまった。

 

 …ミッション失敗、か…。いや、ならば尚の事、塞ぎ込んでいる時間は無い。

 まだ取り返しがつかないと決まった訳じゃないし、皆は戦っている真っ最中だ。頭領の俺が真っ先に諦めてどうする。

 それに、イヅチカナタとトキワノオロチが揃った時、何が起きるのかしっかりと見定めておく必要がある。…防げれば、それが一番良かったのだが。

 

 

 とにもかくにも、現場に向かう。

 空を飛ぶトキワノオロチは、遠目にもそれなりの被害を受けているように見えた。みんな、随分頑張ってくれたらしい。

 だが、残念ながら仕留めるには遠い。外殻こそ損害を与えているが、トキワノオロチから感じる生命力や威圧感は、殆ど減っていない。

 やはり、国を亡した鬼と言われているだけの事はある。しぶとさだけでも、他の鬼とは桁違いだ。

 

 

 追いかける俺を他所に、とうとうトキワノオロチとイヅチカナタは対面してしまった。

 空の星のような光に化けていた2体のイヅチカナタが姿を現し、背中から生えている触手のような物を掲げる。その先端に、言い表しようのない『何か』が貯め込まれているのが分かった。

 それに応じるように、トキワノオロチは口を大きく開く。炎でも吐くのかと思ったが、その逆か。何かを受け止めようとするように、口を開いて制止する。

 

 

 

 

 

 寒気を感じた。

 

 

 

 

 『それ』をさせてはならない。

 

 

 

 フロンティアに居た頃でさえ感じなかった程の、強烈な悪寒と嫌悪。

 何がおきるのかは分からないが、何をしようとしているのかは明らかだ。イヅチカナタの触手に宿るナニカを、トキワノオロチに注ごうとしている。

 

 

 だが、間に合わない。トキワノオロチもイヅチカナタも、上空に居る為にとても手が届かない。神機の狙撃も、距離を開けられ過ぎた為にリーチ外。

 …阻止できない!

 

 

 これから始まるであろう、悍ましい『何か』を思って、苛立ちのままに歯を食いしばる。

 

 

 だが。

 

 

 

 突然、イヅチカナタの触手が突如千切れ飛んだ。2体のイヅチカナタの、全ての触手がだ。

 『何か』を放出しようとしていた触手を引き千切られ、二体のイヅチカナタは苦しんでいるようだ。トキワノオロチも邪魔が入った事に苛立っているのか、口元から炎を撒き散らしながら咆哮を上げている。

 千切れた触手は、青い光を撒き散らしながら地面に落ちていく。あの位置なら…他のモノノフ達が向かえるな。再生しないよう、鬼祓で散らしてしまってほしい。

 一瞬見えたのは、地面から空に向かって駆け上がる、流れ星のような光。

 

 驚異の未来を一発で打ち払ったその軌跡を辿れば、銃を掲げて紫煙を立ち上らせる、見覚えのある姿。

 

 

 『標的に命中。作戦成功』

 

 

 恐らくはそう呟いているであろう、ホロウが居た。

 先程の銃撃は、鬼千切…だが普通の鬼千切ではなく、鬼千切・極のようだ。あれなら、一発で複数部位を破壊できるからな。一人でどうやって発動させたのかは分からんが…。

 

 

 どうやら、イヅチカナタが移動し始めた時から、移動先を予測して決定的な瞬間を待ち構えていたらしい。俺より移動速度が速い訳じゃないから、偶然いい位置に居た、と言うのもあるだろうが…何にせよ、大手柄である。

 相当に霊力を籠めたのだろう。疲労の為か、近くの岩に倒れ掛かるのが見える。

 あそこで動けなくなるとヤバいな。まずはホロウの救出を優先するか。

 

 

 

 

 

 

 何にせよ、奴らの企ては何とか阻止できた。

 また余計な事をしないうちに、どちらか片方だけでも片づけてしまおう。トキワノオロチの戦闘力は未知数だが、イヅチカナタを始末するのに、そう時間はかからない。2匹いても特に問題は……!?

 

 星が、一つ動いている。さっきまでは、動いていなかったはずの星。……違う! 普段の夜なら、あんなところに星は無い!

 あれは、星に擬態していたイヅチカナタだ!

 

 ようやく気付いた俺をあざ笑うかのように、星の周囲が歪み、見慣れた巨体が姿を現す。間違いない。あのイヅチカナタは、俺が追い続けているクサレイヅチだ。

 頭がカッと熱くなり、同時に体の中心に酷く冷たく重いものがのしかかる。相反する二つの感情が駆け巡るが、冷静さを失うことはなかった。確実に仕留める。千歳達を開放する。そのことだけ考えていれば、暴走せずに済んだ。

 

 …とは言え、むしろ暴走した方が良かったかもしれない。クサレイヅチはさきほどの2匹と同じように、トキワノオロチに向けて、なにかを放出しようとしているようだ。

 ホロウも次弾は放てそうにない。俺の射程距離にも入っていない。

 早い話が………間に合わない。

 

 

 

 

 

 クサレイヅチが、青い光…因果を放出するのが見えた。それを、今度こそ受け止めようとトキワノオロチの顎が開く。

 鉄砲水のように、怒涛の勢いで溢れ出た青い光。

 

 それを見た時、以前にシノノメの里で識から聞いた話が脳裏をよぎった。

 

 

 

『イヅチカナタは、因果を奪い喰らう鬼…とされているが、その実態は違う。奴は『因果を集める鬼』なのだ」』

 

『イヅチカナタの本来の在り方は、全てを呑み込む暗黒の穴ではない。あれは、言わば貯蔵庫だ。入れた物を保管し、然るべき場所に運び、護り続けて吐き出すのが本来の役割』

 

『正しい手順を踏めば、取り込んだ因果を自ら吐き出す』

 

 

 

 

 

 

 これか。これがその、然るべき場所、正しい手順と言う奴か!

 識が言っていた通りだった。イヅチカナタの本来の役割は、因果の貯蔵庫……いや、もういっそ『弾薬庫』と言った方が分かりやすいか?

 

 

 因果を浴びたトキワノオロチから、暴悪的なまでのプレッシャーが撒き散らされるのを見て確信する。

 因果を食って力に変えているのは、クサレイヅチじゃない。トキワノオロチの方だ。

 クサレイヅチは…その能力で国を滅ぼし、歴史を滅茶苦茶に書き換えてしまうような恐るべき鬼は…、トキワノオロチの元に因果を運んでくる役割を果たす、働き蜂でしかなかったのだ。

 

 だが、それも納得だ。

 余波だけで破壊を引き起こすような力の塊。フロンティアでさえ、ここまで並外れた力を持つモンスターは、そうそうお目にかかれない。

 因果をエネルギー源とするってのは、これ程強力な力を引き出せるのか。

 

 

 天井知らずに跳ね上がっていく力に、寒気を覚える。

 だが、逆に絶好の好機でもあった。

 クサレイヅチもトキワノオロチも、因果の供給の為に動きを止めているし、奴らの体を駆け巡る力を鬼の目で見通せば、急所、重要な器官も一目瞭然。

 

 あとは、あそこまで届く攻撃があるかどうか。

 ホロウはもう動けない、うちの子達も里のモノノフ達も遠くに居る。やれるのは自分だけ。

 神機のスナイパーでも届かない、3つの世界のどの道具でも無理。

 

 

 …道具。

 

 

 

 いや、ある、あるぞ! いっちばん単純な道具なら、俺ならワンチャンある!

 

 人が用いた原初の道具、その名も『石ころ』。念のためにMH世界製。

 単なる石ころ(100回投げつければハンターも倒せる石ころだが)に、俺の全霊力を籠めて! First…Comes…Rock…!

 

 

 アラガミ化し!

 

 

 余計な事は考えず、ただブン投げる! セイヤッサーボンジャンッ!

 

 

 

 

 

 

 …自分でやっといてなんだが、脳筋過ぎて引いた。

 アラガミ化した俺の身体能力を限界以上に振り絞っているとは言え、キロ単位で離れた相手に対しての攻撃が投石ってどうよ? 人の手でそんな距離を投げられる筈もない。

 

 まぁ、届いたんですが。しかもクサレイヅチの重要機関に直撃。レーザー送球もいいところだ。

 我ながらナイスすぎるピッチングである。これならやきう界にちょっとした話題を引き起こせるのではなかろうか。

 え、俺ってばいつのまにイ〇ローのミタマを装着してた訳?

 

 

 具体的にどれくらいナイスかと言うと、余波で衝撃波が起こり、目視できるくらいである。空気を文字通り切り裂いて飛翔した石ころの後に、彗星の尾のような輝きが後を引く。

 ソニックブームで木々が薙ぎ倒され、大気摩擦で発生したらしい炎が撒き散らされ、何故か地割れまで発生し、クサレイヅチを貫通した石ころは壊れる事もなく雲を吹っ飛ばしながら遥か彼方に消えていく。

 

 

 当然、こんな物が直撃したクサレイヅチはただでは済まない。

 物理法則から半ば逸脱している鬼だから爆裂四散こそしなかったものの…されていたらされていたで、中の千歳がどうなったか考えたくもないが…体の3割ほどが吹き飛んで、放出しようとしていた因果も飛び散った。

 

 被害甚大なのは、クサレイヅチだけではない。

 余波だけで、トキワノオロチでさえ結構なダメージを被ったようだ。今まで、モノノフ達やうちの子達の攻撃を散々受けて軽傷で済んでいたのに…恐らく、クサレイヅチから因果を受け取る為に、シールド的な何かをオフにしていたんだろう。

 イ〇ローの威光がダメージを与えたんじゃないかと思ったが、それは忘れておく。

 

 

 …しかし、やはりこの一発は失敗だったかもしれない。

 アラガミ化が強制的に解けたと思ったら、体のあちこちから不協和音が飛び出してくる。全身全霊を、問答無用で籠めた一発だったからな。「もう二度と投げられなくなっても構わない」ってくらいの思いで投げた。

 アラガミモードはあらゆる能力が上昇し、能力配分も自分の意志で随意に変えられるけど、その分ストッパーが無かったんだな。

 10ポイントを使って自在に能力を上げ下げできるけど、うっかり11ポイント目を使ってしまうと物凄いしっぺ返しが来る。今までアラガミモードの全力以上を使った事は無かったし、初めての経験だ。 

 

 

 …なんて、呑気な事考えてる場合じゃない。

 ちょっと誇張抜きで動けない。完全に自爆技だった。

 

 この状況で、あの2匹が暴れ出したら…いや、因果の受け渡しを終えられたら、どうなる? 俺やホロウ抜きで、クサレイヅチとトキワノオロチを相手にできるのか?

 うちの子達もモノノフ達も手練が揃っているが、因果簒奪の権能にどこまで抗えるか。それに、さっきのトキワノオロチから放たれるプレッシャーからして、まともに戦う事自体は間違いなくらいの力の差がある。

 無理に阻止して動けなくなるくらいだったら、万全のまま戦った方がまだ…。

 

 

 

 

 …と、論じても意味の無い後悔を抑え込んでいると、問題の二匹の鬼は急に動きを変えた。

 苦しんだ後、怒りに燃えて俺を狙ってくる、或いは暴れ出す……かと思いきや、先程までの気炎は何処へやら。吠える事も無く距離を取り、それぞれ別の方向に消えてしまった。飛んで逃げたとかじゃなくて、鬼が移動する時に使う黒い穴を開けてソソクサと。

 

 

 

 

 

 ……ん?

 

 

 …あれ?

 

 

 え、ちょっと待って、何処行ったの…いやどっか行ったんなら待たなくていい。このまま戦っても全滅するのは目に見えていたし。

 でもこのタイミングでどうして居なくなるワケ? 逃げた? でも逃げる理由なんて…。

 

 

 

 混乱しながらも、とりあえず立ち上がろうとした…が、その瞬間に違和感に襲われた。

 自分の中に、『何か』が侵蝕してくるような異物感。だがその異物感は、無くしてきた物が戻って来たかのような安堵感と混ざり合っている。受け入れるべきか、跳ね除けようとするべきか。

 

 悩む暇も無く、異物感に覆い尽くされて、意識が遠のいて行った。

 

 

 



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586話

暖かい家が欲しかったのです。
仕事で疲れて帰ってきたら、暖かく迎え入れてくれる家が。
自分には縁のないものだと思っていました。
理由をつけて無理だからと諦めていました。




ですが、ふとした閃きを得て、手に入れる事ができると気付いたのです!
新しい家族を迎えます!


家族が増えるよ! やったねたえちゃん!





エアコンやファンヒーターと言う家族がね!
(物理的に)暖かい家が欲しかったんだよぉ!
去年は乗り切ったけど、今年はマジで寒い。
手が動かなくて執筆できないし寒くて気力が削れるしストレスで口内炎になりまくりです。
喋ったり食べたり、舌を動かすだけで痛いっす。

古い部屋なのでブレーカーの使用量が問題になってましたが、ブレーカーの配線が分かれている事に気付き、これなら付ける場所によってはどうにかなんじゃね、と考えたのです。

…あとは数万円出して買ってきた後に、「ブチッ」とブレーカーが落ちて使えない、或いは使えるけど出力が足りなくて全く温まらないという結末が訪れない事を祈るばかりです。

え? リア充的な意味で暖かい家? 来世で手に入るといいね!


黄昏月惨拾日目

 

 夢を見ている

 

 

 

 

 

 

 

黄昏月惨拾壱日目

 

 

 目が覚めると一日過ぎていて、片付けも色々と終わっていた。看病してくれていた子達が感極まって抱き着いてきたけど、随分心配させてしまったらしい。

 医者として走り回っていた那木も、目を覚ました俺を見てほっとした表情を見せてくれた。

 

 

 それはいいんだが……結局、あの後何がどうなったんだ? 負傷者はどれくらいだ? クサレイヅチとトキワノオロチは?

 

 

 …ほうほう。

 負傷者重傷者多数なれども死者は無し……また? あ、いやいや不満がある訳じゃないよ。死人が出ないって最高だよ。

 ただ、あれだけ強力な鬼とその群れとやり合ってそんな都合のいい話あるのかな、って。

 少数精鋭での戦いならまだ分かるし、一回だけなら奇跡と割り切る事もできるけど、前の大戦でも似たような結果だったろ? ちょっと都合よすぎないかな、って…。うん、それが実力の為せるわざと言われれば納得もするし、都合がいいに越したことはないんだけども。

 

 

 どうにもスッキリしないモヤモヤ感があったものの、それはあくまで俺個人の話。確固たる証左もないのだから、論じても仕方のない事だ。

 それよりも、あの後一体何がどうなったのかと言うと…。

 

 

 

 

 …は? クサレイヅチも、トキワノオロチも逃げた? あの状況で?

 

 

「はい」

 

 

 淡々とした表情で、何故か説明に来たのはホロウ。共闘して少しデレた?と期待したが、相変わらず壁を感じる。…いや、むしろ今までよりも明確に拒絶されているような気が…。でもだったらどうしてホロウが説明役を買って出たのだろう。

 …いや、今はホロウの考えよりも、状況の把握だ。

 

 

 逃げたというが、どこに行ったのかは分かるのか? また襲来してくる可能性は?

 そもそも誰の見解だ?

 

 

「博士の見解です。何処に行ったかは不明ですが、遺跡の誘導機能が届く場所に居るのは確かなようです」

 

 

 近いとみるか遠いとみるか、微妙な場所だな。何せ次元を隔ててやがる。しかも、あっちに限ってはその隔たりをひょいと超えてくると来た。

 …逃げた、というのはどういう事なんだ?

 あの状況であの力の波動。ホロウの鬼千切や俺の投石で被害を与えられていたとは言え、あのまま戦っていればまず間違いなく大打撃、下手をすると里ごと全滅だった筈。

 結界が保てているのが不思議なくらいだったからな。

 

 

「ええ。現に樒や橘花、千歳は体力を使い果たし、3人交代で辛うじて結界を維持できている状況です。正直な話、見た目…つまりは発足(はったり)以上の意味はありません。鬼に襲われれば、容易く結界は砕け散るでしょう」

 

 

 隙を見せないように、形だけの結界張ってるのか。それだけなら神垣の巫女でなくても出来るって事ね。

 …しかし、そこまで消耗していたなら、猶更奴らが逃げる意味が分からん。

 

 

「…これも博士の言ですが…脅威を感じて退いたのではなく、予定通りにいかなかったから退いたのだ、と」

 

 

 …よく分からん。

 

 

「我々が追うイヅチカナタに限った事なのかは分かりませんが…どうもあの2種の鬼は、他の鬼とは違う性質を持つようです。まるで、人から躾けられた獣のようだと」

 

 

 …………躾け、ね。

 

 

「誰が躾けたのか、どうやったらそんな事が出来るのかは分かりませんが…博士が言うには、『安全装置』が働いたのだそうです。何か重大な…そう、例えば重く大きく、爆発する危険がある荷物を運搬して手渡ししていたとしましょう。しかし、その途中で予期せぬ事が発生しました。梱包が解けたか、運び手の草履が切れたか、何でもいいです。そんな時にまずするべき事はなんですか?」

 

 

 そりゃ、安全確保でしょ。荷物は地面に置いて、爆発に備えて距離をとって……って、ああ、そういう事か。

 奴らは因果の受け渡しをしようとしていたが、突然予期しない被害を受けた。例え体力的に余裕があったとしても、その状況で強引に続けるのは何が起こるかわかったもんじゃない。だから、まずは離れて落ち着くまで様子を見る事…。

 少なくとも、奴らを躾けた誰かさんはそう考えた訳だ。

 

 まぁ、考えられん話じゃないよな。あんなとんでもない力を捻りだす技術があるなら、有事に備えての安全装置くらい10個20個付けとるわ。

 

 

「あくまで博士の言が正しければ、の話ですが。とは言え、私も奴らが撤退したのではなく、離れて様子を見ていると考えるのは賛成です。…あまり喜ばしい話ではありませんが」

 

 

 …そうだな。クサレイヅチから因果を受け取った途端に溢れ出した、あのトキワノオロチの力…。ありゃちょっとやそっとじゃ抵抗できん。国を亡ぼす程の力と言うのは誇張ではなかったようだ。

 

 少し整理しよう。

 クサレイヅチとトキワノオロチは、人工…少なくとも、誰かに何かしらの加工を施されて産まれた鬼である。

 奴らは遂になっている生物兵器で、クサレイヅチは因果と言う燃料を集め、それを消費してトキワノオロチは真価を発揮する。

 ただしその扱いには慎重を要しているらしく(その割には、作った国はトキワノオロチに滅ぼされたっぽいが)、アクシデントが発生した時には供給作業を一時中断し、距離を置く。

 

 …で、また時間を置いてから供給作業、と。

 

 

 うーん、トキワノオロチはともかく、クサレイヅチについては以前から色々考察してたんだけどな…。色々と矛盾が生じるが、そもそもその考察だって何処まで正しいかすら分からなかった。

 あんまり気にするような事でもないのか…?

 それとも、クサレイヅチって特性上、設定が後からゴタゴタついてるだけなのか? 奴は因果を喰らう…正しくは集める鬼。色々な因果を吸収した結果、無駄で矛盾した設定が後から後から付け足されていって、何が真実かすら…。

 

 

「ところで、一つ聞きたい事があります。私と共に、『キカヌキの里で』戦った時の事を覚えていますか」

 

 

 うん? キカヌキって…ああ、堅悟さんのあの里な。

 共に戦ったって言っても、主に人間の足の引っ張り合いが相手だったっけどな。

 堅悟さんには世話になったが、あんだけ排他的な里でいつまでも留まろうとは思えんよ。

 鬼を斬れば斬るだけ、恐ろしい物を見る目で見られちゃな。

 当面の敵は片付けたんだし、後はあっちで何とかしてもらうしかない。

 まぁ、堅悟さんがヤバイとか、助けてほしいとかあるなら、また色々やるのはいいけどさ。

 

 あの時の事がどうかしたのか?

 

 

「…成程、そういう答えになりますか」

 

 

 だから何よ? 気になる事があるなら、話してくれなきゃわからんよ。

 特にホロウは境遇がややこしい上に、頭の中がかなり天然だからな。

 

 

「芯から色狂いのあなたに言われたくありません。自覚が無いようなので言いますが、あなたは『その記憶を今まで失っていました』。つい先日まで、こうして私と出会った繰り返しは何度目だと思っていましたか?」

 

 

 そりゃ二度目………え?

 …違う、キカヌキの里で再会した。人と出会う気になれずに荒野を彷徨っている時に出会った。色々な事を放り出して自棄になっている時に銃撃を受けた。

 ウタカタの里で再会した事もある。クサレイヅチを追いかけている途中に、奴の巣でバッタリ会った事さえあった。

 出会わない繰り返しの方がずっと多かったのは確かだが、それでも何度も巡り合った。

 

 にも関わらず、少なくとも俺は昨日…いや一昨日まで、「ホロウと会ったのはこれで2度目」と何の違和感もなく考えていた。

 そして、それが変わっている事にまるで気付いていなかった。

 

 

「奪われた因果が戻って来た、と言う事でしょう。私も昨日は混乱しました。イヅチカナタから、奪われた因果を取り戻すなど考えた事すらありません」

 

 

 そうか…。俺は、ある意味ずっと考えてたかな。因果に限らず、千歳や俺の子を取り戻すって考えてたが…それが可能なら、確かに奪われた記憶だって帰ってきてもおかしくない。

 今まで何度も記憶を奪い取られているのは予想されていた事だし、そこまで不思議な事じゃないか。

 

 

「あの時、イヅチカナタからトキワノオロチに因果の受け渡しを阻止しましたが、恐らくそれでしょう。行き場の無くなった因果が、元のあるべき場所に戻って来たという事です。確認できてはいませんが、恐らくこの里に居る何人かにも同様の現象が起こっているでしょう」

 

 

 うへぇ…。地雷とか爆弾なんて範疇じゃ納まらないんだが。俺の今までの人間関係的に考えて。

 何せ、ホロウに指摘されるまで俺は自分の記憶にまるで違和感を覚えていなかった。そういう事があった、ということも、それが何も意識せずに思い出せるという事も。

 今までの覚えていない繰り返しの中では、自棄になって橘花を攫い、里を滅ぼすような事をやらかした事もあった。誰にどう憎まれていても不思議ではない。

 厄介なのは、それを確かめる事すらできないという事。下手に記憶を刺激すれば、それが切っ掛けになって余計な事を思い出させてしまうだろう。

 

 おまけに、自分の中でもよみがえった記憶が事実なのか妄想なのか区別がつかない。

 忘れていた前ループについてホロウと情報のすり合わせをしてみたが、「こんな事もありました」…え、ナニソレ身に覚えが無い。あんな事もあったよね?「…確かにありましたが、その真相はこうでした」…それはホロウがこの部分を知らないからそう見えているのでは。「それを言ったら、そこのソレをあなたも知らないでしょう」そういえばあの時ってこんな事なかったっけ。「いえ、それはありませんでした。冗談で似たような事を言っていたのは覚えていますが、それを事実と勘違いしているのでは」。

 …一事が万事この調子だ。因果が全て戻ってきている訳でもなく、元より同じ事件に対しても統一した見解が出ていた訳でもない。思い出した情報と、奪われたままの因果と、こうだろうという憶測や思い込みと、間違った記憶、さも現実にあったかのように沸いて来る妄想とと…。

 とにかく記憶がゴチャゴチャになっていて、どの記憶がどれなのか分からない。

 

 

「率直に言って自業自得の極みですが、それでイヅチカナタ討伐に支障がでても困り物です。白を切るのが一番いいでしょうね。幸い、今回の記憶が上書きされるような事にはなっていません。私のように、あなたが『繰り返している』事を理解している人でもなければ、恐ろしく現実味のある妄想や白昼夢としか捉えられないでしょう」

 

 

 ……その白昼夢の中で、俺が繰り返しについて語っていたら?

 

 

「それこそどうしようもありません。単なる夢の中のこじつけと受け取るか、それが真実だと判断するかは相手次第です」

 

 

 …とりあえず、毒見と腹に雑誌は基本だな…。

 それにしても、妙な気分だ。因果を奪い返す、記憶が戻ってくるというくらいだし、洪水のように失われた記憶が押し寄せてくるのかと思ったら、言われないと気付かないし、言われても「そんな事もあったな」って感じでしか思い出せない。そーいや、目を覚ますまでに混沌とした夢を見ていたような気がするが、案外あれがその記憶の濁流だったのだろうか? それにしては、明かに世界観が違ったり、こんな事起きる筈がないだろって光景もかなりあったりしたが。…いや、それも単に知らない世界に飛ばされた記憶だったり、複数の記憶が交じり合ったりしてたのか?

 ついでに言えば、戻って来た記憶も虫食いだらけみたいだ。

 ホロウと出会った一部の事は思い出せたが、その前後がどうなってるのか今一つはっきしりない。

 

 

「まだ奪い返せていない、と言う事でしょう。ひょっとしたら、既に一部は消費されてしまい、永遠に戻る事はないかもしれません」

 

 

 …むかつく話だ。やっぱクサレイヅチは(PI----)しないと気が済まん。

 

 

「…今、何か妙な音が」

 

 

 なんだ、発禁音でも聞こえたのか。口に出してはいけない事を言葉にしてしまった場合やあまりにもアレすぎる言葉を打ち消す、世界の意志みたいなものだ。まぁ出鱈目だが。

 

 

「………ふむ…」

 

 

 発禁音の冗談を真に受けた訳でもないだろうが、ホロウは何やら考え込んで立ち上がった。

 なんだ、どっか行くのか。

 

 

「ええ。イヅチカナタの再来に備えなければいけません。あなたが目を覚ましたという事は他の方々にも伝えておくので、後日大和のお頭の元まで出頭しなさい」

 

 

 

 出頭って、自首する犯罪者じゃあるまいし……いや、戻った記憶次第では、そうなってもおかしくないのか。

 誰からいつどんな怨みを買ってるか分からなくなってるって、とんでもねー事になってきたな…。

 こりゃ、なるべく里人との接触は避けた方がいいかもしれない。クサレイヅチはウタカタの里近辺で遭遇する事が多いから、俺も大抵この里にやってきていた。つまり、それだけ爆弾をこさえた可能性が高い。

 うちの子達だって、いつのどんな記憶が残ってるか分かったもんじゃないが、皆はずっと封印されてた訳だし、今までのループで俺と関わってる可能性はまだ低い。

 

 

 はぁ…。もともと自分が爆弾みたいなものって言われれても反論できないのは自覚してたが、まさか里が一つ丸ごと火薬庫同然になるとは…。

 最低でも、うちの子達との抗争が起こる事は避けなきゃならん。最悪、里から離れる事も考えておくべきか…。

 

 ったく、ようやくクサレイヅチに追いついたと思ったら、妙なところから火種が出てきやがる。毎度毎度のパターンだが、これまた失敗のもとになる流れかなぁ…。

 

 

 

 …いかん、ちょっとブルーになってきた。うちの子達と交流して癒されよう。どっちにしろ、様子見しておかないとならんしな。

 

 

 

 

 




これにて年始の連続投稿は終了となります。
次は7日の17時の予定です。

改めて、今年もよろしくお願いいたします。


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587話

 

 癒された。エロい事した訳じゃない。頬に接吻までだ。

 何ていうか、俺、心配されてたんだなぁ…って実感しました。眠っていたと言ってもたった一日程度、大した外傷も無かった。なのに、顔を見るなり駆け寄ってきて、抱き着いたり泣きそうになったり寝起きの酒を進めてくる子の多いこと多いこと。

 骸佐、権佐、鹿之助の男組も、起きている俺と会って大きく安堵の息を吐いていた。

 

 愛されてるっていいなぁ、と心の底から思う。

 …それはそれとして、不安定になる兆候が出ている子も多いから、今日か明日辺りに精神安定と言う名目で乱交しますけどね。

 差し当たり、今日は男組と飲みに行きたい。激戦が続いて、あいつらも結構参ってたみたいだしな。 

 

 

 

 それはそれとして、情報共有や確認も必要なので、大和のお頭の元に向かわなければならない。

 なるべくウタカタの里との接触を減らしておきたい、と思った矢先にこれなのだから、世の中うまくいかないものだ。

 

 …色々思い出した桜花に、いきなり斬りかかられたりしないよね? 他の連中にも恨まれる心当たりを、山ほど思い出せる。どれがどこまで事実なのかは分からないけど。

 例えば富獄の兄貴なんか、因縁にケリを付けようと一大決戦に出ようとしたところに、下剤を仕込んで動けなくして、先にダイマエンを討ち取った事があった。何の為にそんな事をしたのかは思い出せない。

 例えば息吹なんか、ゲームシナリオ通りに哨戒班の死人を防げず落ち込んでいた頃に、同じくヤケッパチになっていた俺とつるんで酒におぼれ、心の古傷を抉りまくって、二人そろって急性アル中にまで陥り、完全にリタイアになってしまった事があった。その後、戦力が足りずにウタカタは滅ぼされた。

 例えば速鳥なんか、どういうルートだったか思い出せんがウタカタと敵対し、速鳥が元々所属していた忍びの集団を発見、唆してウタカタを襲わせた。勿論、速鳥との関係を暴露するように叫ばせながらだ。

 

 桜花と橘花の時は更に酷い。

 橘花も言っていたが、俺が橘花を…神垣の巫女を攫って逃げた事がある。その後、俺は人の立ち入らない(鬼は居る)場所で掘っ立て小屋を作り、その中で延々と橘花を凌辱し続けた。今みたいに色狂いになってない橘花を、相手を気持ちよくさせる事なんかまったく考えず、自分の憂さを晴らす事だけ考えて。

 勿論、神垣の巫女を失ったウタカタの里は滅んだ。鬼に囲まれ襲われるのも構わずに、俺は飯も食わずに只管橘花を凌辱し続け、最後は動けなくなって橘花ごと鬼に喰われた。

 …んだと思っていたが、実態はもっと悪辣だ。

 ウタカタが滅びても、どういう経緯か生き残っていた桜花。たった一人の妹を攫った下手人、そしてウタカタ滅亡の元凶である俺、何よりまだ生きているかもしれない橘花を追い、どうやってか俺達の元まで辿り着いた。

 

 そこで見たのは、凌辱され尽くし、しかしまだ息のある橘花。命だけは助けられた、そして貴様だけは許さん…!と、至極当然の怒りに燃える桜花だったが…背後から刺され、一太刀浴びせる事もできずに崩れ落ちた。

 刺したのは、言うまでもないだろうが凌辱…調教され、俺に犯される為なら何でもするようになった橘花。

 絶望する桜花に、変わり果てた橘花が悦んで凌辱される様を見せ付け、おまけに神垣の巫女として里に居た頃の貯め込んできた鬱憤まで吐き出させ、心を圧し折った。

 で、ここぞとばかりに囲んで襲ってきた鬼に喰われて、3人揃ってデッドエンド。

 

 簡潔に言えば、裏切って妹を連れ去った挙句、洗脳して助けに来た姉を殺させた。まぁ結局揃って死んだが。

 

 

 ………なぁ、これ本当にあった記憶じゃなくて、連想ゲーム的に浮かんできた妄想だよな? いくら俺でも、シラフじゃここまでやらんぞ。

 橘花を攫って逃げ、ウタカタ滅亡の元凶になった事が事実だとしても、流石にここまで悪辣外道下劣な事はしないんじゃが。…でも、自棄になったり拗らせたりしてる人間って、普段からは想像もできない事をやらかすしな…。

 これが徹頭徹尾マジの記憶だったとしたら、里から私刑にされても文句ひとつ言えん。むしろ今すぐにでもセルフ斬首して全てを無かった事に…全てが単なる妄想で、思いつきさえしなかった事にしてしまいたい。自分から因果をクサレイヅチに喰わせてしまいたいくらいに忘れたい。

 やろうと思えばいくらでも出来てしまうのがまた…。

 

 

 このよーに、嘘か真か分からない怨みの元や、そこら辺の民家を見ただけでも「あー、そういやあの家、焼き討ちした事があったよーな無かったよーな」「あそこの人妻、篭絡した挙句に旦那と破局させてポイ捨てしなかったっけ。でも手を出した女を捨てた事だけはないし」と湧いて出る『やんちゃ』(←ただし規模は考えないものとする)の記憶がボコスカ出てくるのだ。

 マジで誰に斬り付けられるか分からない。下手すると、俺の一族郎党(うちの子達だね)皆死ね矢とかにもなりかねん。

 

 一応言っておくが、恨みを買った記憶ばかりではないぞ。恩を売った記憶もあれば、逆恨みされて張り倒しただけの記憶もある。…うちの娘を嫁に、と言われたこともあったな。でもその娘、どう見ても初潮前だったんですが。まぁアリだけど。

 

 

 

 …いかん、また心が荒んできた。とにもかくにも用心せねば。

 仕込んだアサシンブレードをいつでも発動できるようにしつつ、大和のお頭の所へ。……木綿ちゃんに手ぇ出した記憶も薄っすらあるんだけど、バレないよな? 少なくとも木綿ちゃんはいつも通りに仕事してるし、大和のお頭も即斬りかかってはこなかった。…出された茶に毒も無い。

 

 

「…何を警戒しとるのだ、お前は。また何かやらかしたか。…寝ていた状況でも何かやりかねんのが貴様だ」

 

 

 あ、いえ別に。ちょっと夢見が最悪だったもんで…。大和のお頭に合わせて言えば、木綿ちゃんが見ず知らずの馬の骨と駆け落ちした夢って言えば分かるでしょーか。

 

 

「…………うむ、あれだけの戦いの後だし、嫌な夢を見るのもおかしくあるまい。茶菓子を用意してやろう、食え」

 

 

 納得はしてくれたけど、怒気が滲み出てきた。あと手が震えている。想像してしまったらしい。

 ちなみにその夢だと、駆け落ち相手は俺だったりするけども。…そーいや、木綿ちゃんに手ェ出して、大和のお頭がマジで斬りかかって来たから返り討ちにしちゃった記憶もあるような無いような。返り討ちにした結果は覚えてないが、これは思い出したくない為なのか、妄想だから生きてても死んでてもおかしくないってだけなのか。

 

 

 

 まだ毒を警戒しながら茶を啜り、状況を確認していく。と言っても、大部分はホロウから聞いていた通りだ。

 クサレイヅチとトキワノオロチは逃げたが、去った訳ではない。遠からず再度襲来するというのが共通見解。

 あの因果受け渡しを行ってから襲来するか、それともウタカタ近辺で再度受け渡しを計るのか、この辺は微妙な所だ。

 

 

「恐らくこの地で因果の受け渡しを行うだろう、と博士は言っていたな。理屈はよく分からんが、奴らの移動できる範囲の関係で、そうなる可能性が高いらしい」

 

 

 ああ、時間と空間を行き来できると言っても、それなりに制約があるって話ね。

 それなら、まだいい方か。最初から、トキワノオロチのあの力を発揮して襲ってきたら、流石に勝てる気がせん。

 

 

「うむ…。先日の戦いでも、死者こそ無かったが被害は大きかったからな。橘花も樒も虚海も力尽きる寸前だったし、回復の為の宝玉もあらかた使い切ってしまった」

 

 

 もう一回、同じように襲ってきたら…結界が保てない。そうなると、クサレイヅチの因果簒奪で全員戦闘不能だ。

 希望があるとすれば、次に出てくるイヅチカナタは、俺が標的にしている一体だけって事かな。

 

 

「それも希望的観測にすぎん。イヅチカナタとやらは決して数が多い訳ではないようだが、それでもあれだけ集まっていたのだ。前回は近くに居なかったイヅチカナタが、新たに近寄ってきている事も考えられる」

 

 

 いや、そうやって近付いてきていたやつは、前ので全部だと思う。トキワノオロチが出現するのに合わせて、他の奴らも出てきた…つまりそれだけ数が揃うのを待っていた、って事じゃないかな。

 また鬼を誘き寄せる遺跡の誘導機能を動かせば近寄ってくるかもしれないが、これ以上の数が揃わないから襲ってきたんだと思う。

 

 

「ふむ、一理はあるか…。いずれにせよ、ある程度の希望的観測に縋るしかないか。最初から因果の受け渡しとやらを行って、あの力を発揮してきたらほぼ勝ち目無し。イヅチカナタが複数現れ、結界を超えて因果簒奪の力を行使すれば詰み。やれやれ、敵の無能に縋らねばならんとは…俺も焼きが回ったな」

 

 

 あんたで焼きが回ってるなら、俺は何だろな。焼かれ過ぎて真っ黒に焦げていそうだ。

 

 

「であるならば、一つここで明確にしておく必要がある。もしも奴らが揃い踏みして現れたら、貴様はどうする?」

 

 

 ? どうって……質問の意味が分からない。戦うけど、そういう事を聞いてる訳じゃない…よな?

 

 

「ああ。『どちらと』戦うのかだ。俺としては、貴様はトキワノオロチの相手をさせたい。先日の戦いを見るに、例の力を発揮していなければ、他のモノノフでも対抗はできるが、純粋に『火力』が足りん。イヅチカナタの力も脅威だが、トキワノオロチは敵の首魁と言えるだろう」

 

 

 それは……………。

 

 判断に迷った。

 俺個人としては、クサレイヅチを斬りに行きたい。千歳を、俺の子達を、奪われた因果を取り戻したい。

 そして、クサレイヅチがそこに要ると知った以上、状況も何もかも無視してブチギレして斬りかかっていきそうな気しかしない。

 

 だが戦力比較で考えると、どうしたって俺はトキワノオロチの抑えに回らせるべきだった。トキワノオロチは大きく、タフで、力強い。単純に強いのだ。数の暴力を蹴散らすほどに。また、例の力を発揮してこられたら、それこそ全力を出した俺以外に対抗する事はできないだろう。

 翻って、クサレイヅチの特殊能力は驚異的だが、本体そのものはそこまで強い訳ではない。事実、ホロウは鬼千切の一発でクサレイヅチの触手を撥ね飛ばして見せた。因果簒奪の影響が及ぶ前に接近戦に持ち込めるなら、ウタカタ主力部隊なら充分に勝ち目はある。

 それこそ、数さえ揃えれば袋叩きにしてしまえるだろう。

 …だがそれも、因果簒奪を掻い潜って接近できれば、という前提あってこそ。

 

 

 …トキワノオロチが例の力を発揮してないなら、先にクサレイヅチを仕留めるべきだと俺は思う。俺個人の意思を抜きにしても、だ。

 

 

「ほう。その心は」

 

 

 因果を受け渡しする事で、トキワノオロチは真の力を発揮する。因果ってのがどんな風に力に変換されるのかは分からないが、使えば無くなる消費型である事は間違いないだろう。 

 トキワノオロチの真の力も、決して長続きするもんじゃない…と考察する。

 クサレイヅチからの、因果の供給あってこそ。…補給を潰すのは、人間相手の戦であっても常套手段だろう?

 比較的脆く、そして力の源泉になっているクサレイヅチを先に集注的に叩くべきだ。上手くすれば、因果の受け渡しを阻止して、力を発揮させる前に始末できるかもしれない。

 

 

「成程な。理に適った話だ。だが、それに反対する者も居る」

 

 

 反対…? 俺をトキワノオロチか、とにかくクサレイヅチ以外の担当にすると?

 それなりの道理があって、納得できれば従うのも吝かではないが…。ブチギレして突撃するのを我慢できるかは別として。

 

 

「生憎、道理と呼べるほどの説明は受けていないな。貴様をイヅチカナタに近寄らせてはならない、の一点張りだ」

 

 

 …珍しいな、大和のお頭がそんな…こう言っちゃなんだが、戯言を真に受けるとは。

 今まで俺も色々とお目溢ししてもらったり、融通を利かせてもらったりしたが、それは損得計算をしっかりこなしての事だろう。寛容な態度にも、ちゃんとした根拠があった。

 なのに、どうして今更、根拠も提示されない世迷言に耳を傾ける? いや、それ以前に誰がそれを言ってるんだ?

 

 

「…………ホロウだ」

 

 

 ……なん…だと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クサレイヅチとトキワノオロチの戦いで、俺をどこに配置するか。この問題は先送りとなった。

 いつ奴らが戻ってくるか分からない状態で、先送りなんかしてもロクな事にならんのだが、事が事だ。大和のお頭も、ここはきっちりと納得してから配置を決めなければならないと考えているようだ。主に俺の暴走を警戒していると思われる。

 

 確かに、以前から再開したホロウとの間に壁があったのは感じていた。

 幾つかの因果…記憶が戻って、「こんだけやらかせばホロウから嫌われもするか」と思う心当たりもできた。だが逆にホロウのやらかしを俺がフォローした事も同じくらいあったし、助け合った事だってある。

 何より、クサレイヅチと討伐するという一点において、少なくとも利害は一致すると考えていた。

 クサレイヅチを戦う上で、俺にとってもホロウにとっても、互いは有益な戦力の筈。出来れば自分で仕留めたい、という私情を差し引いても、協力しない理由は無い。

 

 だというのに、何故?

 

 …ホロウの真意を確かめなければいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 今夜はうちの子達とスキンシップして、色々落ち着かせないといけないから、明日以降にな。

 

 

 



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588話

 

 

黄昏月惨拾弐日目

 

 

 久しぶりに野獣になりました。

 最近じゃ、ご奉仕される王様ムーブや、少ない人数を(一人だけを相手にする事の方が少ない)丁寧にしゃぶり尽くす…もとい可愛がるばっかだったからなー。滾りに任せて片っ端から食い散らかしたのは久しぶりだ。

 どれくらい食い散らかしたかって、参加者全員ダウン、完全防音にしておいたのに翌日には男3人から「「「夜は静かにしろ!」」」ってド突かれるくらいだ。相当うるさかったらしい。嫉妬も入っていたようだが。

 

 とりあえず女連中は精神的に安定したようだし、次は男3人の様子見かな。女性陣に比べて安定している傾向が強い男組だが、戦場のストレスってのは一見しただけじゃ分からないものだ。

 特に鹿之助なんか、ギャーギャー泣き言を喚き散らしながら戦ってたらしいし。途中から泣き喚く余裕すら無くなったのか、急に静かになって能面のような顔で鬼に攻撃をし続けてたんだと。…プッツンいっちゃったのね。

 男組にも何くれとフォローしてきたつもりだが、やっぱり人数が多い女性の方にかまけていたのは否定できない。…その女性の方のフォローやケアも、主にRー18なお楽しみばっかりだったけど。

 デカい戦いの後だし、いい酒でも持って男子会すっかね。

 

 良い酒は流石にすぐには手に入らない。MH世界産の酒は美味いんだけど、骸佐達の舌には合わないらしいしな。生まれ育った土地の酒が一番なんだろう。

 里の商人に頼み込んで、近日中にいい酒を仕入れてもらう事になりました。

 他にも、いい武器防具…は自前で作った奴に愛着があるらしいので、それを強化する為の珍しい素材を幾つか。

 後は……話の種に、この前里の人から貰った宝の地図(?)を。里の一般人が自宅の掃除をしていた時に隠し棚を見つけて、そこに入っていたのだそうな。ウタカタから少し離れた場所の地図で、いかにもそれらしい×点が付けられている。

 確かめに行こうにも一般人では異界に入らない場所でも危険なため、自分で行くのは諦めて通りかかった俺に押し付けた、という訳だ。

 俺もこの手の宝探しは嫌いじゃないんだが、正直言って大したものが期待できないのも確かだからな。

 骸佐と権佐はあまり興味を持ってなかったようだが、逆に鹿之助が飛びついた。どうやら里の双子と一緒に一獲千金を夢見る内に、宝探しの楽しさに目覚めてしまったようだ。…異界に近い場所だから、行くなら戦力になる奴を連れて行けよ。

 

 鹿之助は、早速いつもの二人を誘ってくると飛び出していった。戦の直後だってのに元気な奴やなー。

 

 

 

 さてそれはそれとして、本題に入ろう。

 今現在の最大の問題は、ホロウの真意だ。ついこの前思い出したばかりだが、今まで完全に忘れ去っていたループでも、ホロウの目的は一つだけ。俺と同じでクサレイヅチの討伐だった。当然、会うと大抵は共闘していた。例外は、俺の心が圧し折れて、酒か女に溺れていた時くらいか。

 だが、共に戦っていた時には、問題なく付き合えていた筈だ。……どの記憶も、ループの途中までしか思い出せておらず、知らない部分で何かあったと言われれば反論できないが…。

 

 そのホロウが、俺をクサレイヅチとの闘いから除外しようとしている、と言う。戦力的に考えて、クサレイヅチではなくトキワノオロチの方に当たらせようとしても不自然ではないんだが、どうも大和のお頭の言い方からして、とにかく俺をクサレイヅチに関わらせない、という方を重要視しているようだ。

 別にホロウが裏切るとは思っていない。何せ敵が敵だし、内応とかしたところで意味がある筈もない。

 

 じゃあ何で?

 

 

 

 その真意を確かめるべく、俺はホロウを飯屋に誘った。…財布が軽くなった。

 飯で釣ったら速攻でついてきやがったな…。俺を戦線から外そうと謀略(って程でもないが)を張り巡らせようとしていたのに、どんだけ面の皮が厚いのかと。

 

 そんだけ面の皮が厚いなら、普通に聞いても素直に答えるんじゃないか?と思ったら。

 

 

 

「はい、あなたをイヅチカナタに関わらせるべきではありません。大和のお頭にも進言しました」

 

 

 堂々と開き直ってんじゃないよコンチクショウが!

 おま、おまえアレだ、一応俺とあいつの関係知ってんだろ!? 繰り返しに閉じ込めた挙句、延々と人を食い物にし続けやがって! 千歳も、まだ生まれてない俺の娘(息子かもしれないが)もあいつに取り込まれてるって言っただろ!

 とにかくあのクサレイヅチにお礼参りすんだよ!

 俺の仇討ち云々はさておいても、何だって俺を戦力外通告するんだよ!

 

 

「あなたが居ると負けるからです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたが居ると、イヅチカナタには勝てません。少なくとも逃げられます。仕留める事は不可能です。故に貴方を関わらせるべきではないと大和のお頭に進言しました。理由までは説明していませんが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 おい…オイィ、そりゃどういう事ですかねぇ?

 俺が? 足手纏いだって言ってんのか? この俺が?

 そりゃ確かに数々の揉め事を煽りまくって噴出させ、ある地区ではMr.いらん事しいとまで言われた事のあるこの俺だが、邪魔と言われるほど弱くは無いぞ。と言うか揉め事を引き起こす事にかけては、お前もそう大して変わらんからな、常識知らず。

 

 

「常識云々はどうでもいいです。揉め事に関しても、殆どは元からあった問題が噴出してきているだけなので、私がとやかく言う筋合いはありません。周囲に合わせて連携もできますし、武力については私が知る中では間違いなく最上。戦わせない手はありません」

 

 

 だったらどうしてだ!? クサレイヅチを見たらその場で理性が飛ぶからか!?

 そう言われたら反論できないが、とりあえずこの前の戦では割と理性的に行動してたぞ!

 

 

「いかなる理由も理屈も関係ありません。あなたがどれだけ強くても、貴方が居ればそれだけで負けます」

 

 

 なんだテメェ……因縁つけてんのか? 何が何でも、負けるのは俺のせいだって言いたいのか?

 確かに今まで散々仕留め損なったり、会う事もなく死んで来たが、それは毎度毎度とんでもない横槍が入ったからで…

 

 

「はい、正にそれです。それこそが、あなたを関わらせてはならない理由です」

 

 

 何?

 

 

「あなたは、先日イヅチカナタから多くの因果を奪い返し、忘れていた『繰り返し』を思い出しました。ですが、その中で最後まで思い出せる繰り返しは、幾つありますか」

 

 

 そんなもん、分からんよ。どれが本当の記憶で、どれが妄想で、どんな修正が掛かってるか分かったもんじゃない。

 幾つかはそれっぽい記憶もあるが…。

 

 

「私はあなたよりも多くの事を思い出しています。その中の何れの記憶も、イヅチカナタと遭遇するか、それに備えて準備をしたのに遭遇前に終わりを迎えるかの結果に終わっています。そして、遭遇した時への備えが大きくなればなるだけ、強烈な横槍が入ってくるのです」

 

 

 それは……まぁ、確かに心当たりがあるが。前GE世界のループなんて、宇宙規模のミラバルカンが唐突に出現するとか訳がわからなかった。

 

 

「では、これにも心当たりはありますか? 貴方の言う『前回』以前の因果が、ずっと持ちこされてきている事に。先日の2度の大戦で確信を得ました。あれだけ大規模で、強力な鬼を相手にした戦いだったというのに、2度とも死者が出る事は無かった。喜ばしい事ではありますが、あまりに出来すぎている。…ですが、説明はつきます。あなたは今までの繰り返しで、死者を減らそうと努めた。その因果が積もり積もって、あなたの周囲に漂っている」

 

 

 …心当たりと言うか、それは以前から気付いていた。好感度上昇が早すぎる、というのはループの初期の頃に抱いた疑問だ。

 ループの度に女を口説きやすくなるのなんか、その典型だ。『前回』で仲が良かった人達とは好感度があがるのが凄く早い。MH世界のフラウなんか、がその最たる例。フロンティアの時なんか、誰にも靡かないアイドルが、一目見たルーキー(フロンティア基準)に秒殺でゾッコンだぞ。普通に考えれば無いよ。

 ループを重ねる毎に侍らせる女の数が増えるし、物事がスムーズに進むようになり、逆に巻き込まれるトラブルの数が増え、活動の規模も大きくなっていった。

 全てが全てとは言わないが、それは繰り返しによる因果が残り、それによって加速され…………?

 

 

 

 あれ、でも、それって……と言う事は…。

 

 

 

 

 

 

「ええ、そうです。同様に、あなたは『イヅチカナタを付け狙うが、仕留め損ねる』という因果を積み上げ続けてきました。或いは、それを狙ってイヅチカナタが食い残したという可能性すらあります。近くに居ても逃げられる。確実に仕留められるだけの準備を積み上げても、その因果が邪魔をして全てを無に帰すような横槍を引き起こす。準備の規模が大きければ大きいほど、大きな横槍を」

 

 

「断言します。イヅチカナタ討伐において、あなたが出来る最大の役割は『何もしない事』です。千歳やあなたの子を解放したいのであれば、手を引いてあなた以外の者に任せなさい」

 

 

 

 

 

 

 ふざけるな、と叫んだ。…そのつもりだった。

 クサレイヅチへの報復と、千歳や俺の子達の解放、失われた記憶の奪還…どれが最も重要かと問われれば、正直言って俺にも分からない。理性は解放を願っているが、胎の底にそれらを溶かしつくすようなドロドロとした感情を貯め込んでいるのも事実。それでも、解放が最も重要だと考えているのには違いない。

 そう、解放だけなら…ホロウのいう通りでも構わない筈。俺の手で解放してやりたいとは思うが、とにかく解放されてくれればそれでもいいとも思う。誰かの手で引っ張り上げられるのに、自分の手が届くまで鬼の腹の中に沈んでいろなどと、どの口で言えるものか。

 

 

 だが、一回のハンター、モノノフ、ゴッドイーターとして考えるなら論外だ。ずっとずっと追いかけてきた獲物を前に黙ってみているなど、どうして許容できようか。

 追い回した先で、知らない誰かに仕留められていたのであれば、『先を越された自分が間抜け』というだけだ。

 共に戦ってトドメを持っていかれたなら、『俺達で仕留めた』と思える。

 力及ばず標的を目の前にしても足手纏いだからすっこんでいろと言われるなら、『必要な事すらできていない自分が無能なだけ』と割り切る事もできよう。

 

 しかし、充分以上に戦う力を持ち、目の前に標的が居て、今正にそいつと戦おうとしているのに、手を出すななどと承諾できるものか!

 

 

 

 …そう叫べなかったのは、ホロウの言葉が事実だと、一瞬以上に考えてしまったからだ。

 繰り返しによる因果の蓄積があるのは、経験で理解している。

 女絡みの因果ばかりに目が行っていたが、クサレイヅチを取り逃がす、会えないという因果が積み重なっていても、おかしくはない。

 事実、今までのデスワープの原因で、とても常識や確率論では考えられない理不尽な横槍が何度入った事か。忘れていた記憶も含め、勝てる筈の戦いに、何度しくじった事か。

 

 …説明は、つく。辻褄が合う。仕留められないのも、度々とんでもない事件が起きるのも。

 一度や二度であれば不運や油断もあろう。だが何百と繰り返して、一度として仕留める事ができていないのだ。

 負けたと思いたくないから言い訳と言われそうだが、実力以外に何かあると考えるのは当然だろう。…今までろくに考えてなかったけど。

 

 

 

 反論の言葉が消える程、ホロウの理論は俺の中で腑に落ちてしまった。

 知った事かとも、その因果を覆すとも、気炎を吐く事すらできない。

 

 …無駄だったのか。あれやこれや今までやってきたけど、逆効果だったとでも?

 

 

「さぁ、そこまでは私にも。因果だけでどこまで物事が決まるのか、私にもわかりかねます。ひょっとしたら、努力ややり方でひっくり返せるものかもしれませんし、どんな事をしても結末が決まり切っているものかもしれません。…知った事かと開き直って乱入されると私が困るので、慰めはかけません。ですが、代替案を用意しました」

 

 

 …代替案?

 

 

「はい。私としても、あなたをただ隔離して終わりと言うのは、不安で勿体なくて不吉で危険で自殺行為不憫哀れ不足死兆自爆準備鬼門でおやつも喉を通らなくなりそうなので、余計な心配を消し去る為にも、おやつの為にも考えてみました」

 

 

 どんだけを俺を警戒してんだよ!? はっきり言うけど、お前も同類だからな!

 と言うか、おやつの為が主じゃあるまいな…。今までだったらそれは無いと断言できるが、記憶を失って腹ペコキャラになってから、記憶戻ってもどっか壊れたまま……いや、やっぱ元々だったわ。

 

 それはともかく、どんな代替案を? 俺に出来る事なら、なんでもしません!

 …何でもはする筈なかろ。どういう案かも聞いてないし、因果の為に勝てないってのも後から色々穴を見つけられそうだからな。

 

 

「……まぁ、いいでしょう。乗るかどうかはあなた次第です。ですが、否とした場合、イヅチカナタとの闘いに一切首を突っ込まない事を要請します」

 

 

 (口先だけ)誓おう。(後で抜け道探そう)

 

 

「即答した時点で信頼が一切なくなりましたが…協力が必要なのは私も同じ事。いいでしょう、その方法を教えます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『あなたのミタマを、私に差し出しなさい』

 

 

 

 

 

 

 

 ……え、死ねって言ってない? 死んでもループするだけよ? むしろクサレイヅチに逃げられるんじゃね?

 

 

 

 



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589話

アサシンクリードヴァルハラ、一通りクリアしました。
相変わらず最後のほうは作業ゲーになりますな。

しかしサブイベントが1個だけ進行不能バグの餌食になっているらしく、トロコンができぬ…うぬぬ、なんかこう気分悪いぜ…。
再インストールしても無駄だったし、カスタマーセンターでメール送るかな…。

バイクはあるけど、緊急事態宣言の事を差し引いても、もう少し暖かくなるまでは外出する気になれそうにありません。
次は仁王2の悟り以降か、まだやってないエスコンのDLCを買おうか…
モンハンライズはニンテンドースイッチ持ってないんだよなぁ。


黄昏月惨拾惨日目

 

 

 

 はー、どうしたもんかどうしたもんか。

 昨日のホロウとの話から、約半日。動揺していた心根も何とか落ち着き、色々と考えられるようになってきた。

 

 考えたところで、色々腑に落ちる結果にしかならなかったんだけどね。最悪な事に。

 単なる予測で証明できんじゃろがい!と開き直るには、積み上げてしまった実績が多すぎるし、辻褄が合い過ぎる。

 つまるところ、考えれば考えるほど、俺は因縁の戦いに参加できない、参加したら敗戦確定って結論が出てしまう訳だ。

 

 で、それに対するホロウの代替案…ミタマを差し出せ、って話についてだ。

 よくよく話を聞いてみれば、死ねと言われている訳ではない。結果的に、それに近いと言えば近いようだが。

 

 すっかり忘れていた事だが、ホロウには『魂喰らい』という機能がある。詳しい話を聞いたのは、これが初めてだ。

 他に聞いたのは、最初にあったループの時に触りだけと…ああ、忘れていた繰り返しの中でも、チラホラそんな話が出てたっけな、

 これがどういう機能かと言えば、鬼達がやっているようにミタマを燃料として強い力を発揮する、と言うモノだ。トキワノオロチも、ミタマと因果という違いはあっても同じ事をやっているな。

 これを使えば、ホロウは凄まじい力を発揮できる。俺の魂を使えば、それこそ真の力を発揮したトキワノオロチに対抗する事も可能…というのがホロウの計算。

 

 あくまで計算上の話でしかないのが難点だ。何せホロウ自身、ミタマ喰らいの機能は一度も使った事がないと来た。

 ミタマを捕らえて食って力を発揮するという、まんま鬼のやり方だもんなぁ…。もしも使っている事を誰かに知られたら、それこそ鬼扱いされてしまうだろう。そうなると現地協力者が敵になってしまう可能性が高く、それ故今まで実用した事は無かったのだそうだ。妥当な判断だと思う。

 

 じゃあ今回はいいのかって話だが、相手が俺だしそうそう死なないだろう、と根拠にならない事を言っていた。

 死んでもループするだけだと思うが、魂にまで傷がついたら次のループがどうなるか分からんのだけどな…。

 

 

 そんな訳で、今の俺は2択…いや、3択を迫られている訳だ。

 魂を差し出し、千歳達の救助とクサレイヅチ討伐を、ホロウに託すか。

 今後のループでホロウが非協力的になるのを承知の上で、知った事かと自ら打って出るか。

 今まで積み重ねてきた因果を何とか無効化して、ホロウを納得させて戦いに行くか、だ。

 

 どれにするかと言われれば当然三つ目なんだが、ホロウを納得させる方法も、因果無効化の方法も思いつかない。

 幸いもう暫く時間はあるようだが、打開策が思い浮かばないんじゃ同じ事だ。

 

 

 

 うーむ……ちょいと気分転換するかね。

 自分一人で考え込んでも仕方ない。幸い、今の俺には話を聞いて一緒にあれこれしてくれる仲間が大勢いる。意見を聞くのもありだろう。

 ……有益な意見を出せる子がいるかどうかは、ちょっと言葉に詰まるけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE 明日奈

 

 

 明日奈は内心で、頭を抱えて溜息を吐いた。

 彼女が居るのは、自分に割り振られた仕事部屋。明日奈自身はこの部屋に居る事は少なく、部屋にいるよりも歩き回ってやるべき事を見つける事の方が多いが、誰かからの陳情を聞く時や、内密の話がある時には部屋を使う。

 そう、陳情だ。改めて考えると、頭が痛くなってくる。

 

 明日奈は自分が『優秀な凡人』止まりの人間だと考えている。自分の強さにも容姿にも、その他色々な能力にもそれなりに自信を持っているが、とび抜けた能力ではないし、何より経験不足だ。

 何せ産まれてから殆どの時間を、孤立していたシノノメの里で過ごした世間知らず。

 実戦を経験したのは割と早い方だったが、その後は持て余されて、時々鬼が出るくらいの巡回ばかり割り当てられていた。この数か月で劇的に戦闘経験は増えているが、それでも決して多いとは言えない。…特に、このウタカタの里では。

 

 とにもかくにも、明日奈は自分が人の上に立つべき人間だとは思っていないのだ。仮に纏め役を担うとしても、数人程度の班長くらいで手いっぱい。

 

 

『…なのに、どうしてこんな立場になってるのかしら…』

 

 

 どう考えても切っ掛けは一つ。あの時から、彼女の運命は急激に変わり始めた。

 それはまぁいい。どの道、あの境遇のままではいつか破滅が訪れるのは目に見えていた。あの状況に風穴を開けてくれた事に関しては、感謝するしかない。……念願だった、彼氏にもなったし。

 彼と共に里を出た事も後悔してない。見知らぬ土地、見知らぬ人々、美味しいご飯、そこで出会うかつての知人、全力で挑む事が出来る強い敵。そして愛し愛される実感と、夜毎に沈められる無上の悦楽の底なし沼。

 一人の人間として、モノノフとして、女として、間違いなく明日奈は 光り輝かんばかりの人生を過ごしている。

 

 

 ただ、どーして自分が滅鬼隊の子達の纏め役の一人になっているのか。これが分からない。

 いや分からなくはないのだ。今は随分良くなってきたが、彼女達が霊山で目を覚ましたあの時、集団行動はおろか常識さえない状態だった。下手をすると自発的な意思があったのかすら怪しい。

 そんな彼女達に、自立した生活や、周りに合わせた行動をとれだなんて期待できる筈がない。事実、今や各種書類仕事の主力となった秘書・執事の3人組でさえ、ウタカタの里に訪れた直後は知識と現実との乖離で、全く何もできない状態だった。

 であるならば、平凡な小娘であっても自分達がやるしかないじゃない。

 

 …今更投げ出したいなんて無責任な事言い出すつもりはないが、どうして組織人としての経験も無い自分が幹部扱いになっているんだろうか。

 

 そんな半ば現実逃避じみた考えを浮かべながら、対面に座る女……深月に目を向ける。

 彼女は相談したい事があると明日奈の部屋までやってきて、深刻な顔で語ったのだ。

 

 

「……もう一回、言ってくれるかしら? 何が必要だ、って?」

 

「ですから……風紀です! 羞恥心と言うか、自制心です! 主に若様に。毎日毎日、その、人目も憚らずにあっちでこっちでいかがわしい事ばかり…。私達の精神安定に必要という理屈では納まりきりません!」

 

「あー、まー、そりゃねー」

 

 

 だってどう考えてもお楽しみしてるだけだもの。女の方も。

 風紀を正さなければならない、と言うのもすごーくよく分かる。何せこの家(異国ではまんしょん、と言うらしい)では、その手の行為が発生してない時間が無いに等しい。

 言うまでも無く主犯は『若様』。仕事しながらでも机の下で奉仕させているし、それ以外の時ではちょっと催したら手近な女を組み敷いて発散している。そしてそれを見つけた者が混ざりに行く。明日奈もよく乱入するし、される事も多い。女同士で慰め合っている事もある。

 ついでに言えば、明日奈、神夜、木綿季の3人は暗示なんぞかかってないので、その為の精神安定行為など不要である。単に好き合った男女でベタベタする理由が欲しいだけだ。

 

 風紀、爛れまくりである。何それ美味しいの、と本気で聞き返しそうだ。

 

 

(確かに、このままじゃ不味いのよね。里との交流も増えてきて、部外者がやってくる事だって増えてきてる。それに、皆はここの生活しか知らないから、今後も当然ここが基準になる…。そうなったら、独り立ちなんかさせられる気がしないわ。独り立ちと言わないまでも、単独行動とか旅行とか)

 

 

 かく言う明日奈もつい先日、真昼間から廊下で首輪&尻尾付き四つん這い全裸散歩(匂い付けのオプション付き)で楽しんでいる真っ最中に来客があり、見られる直前に慌てて隠れた事がある。そのまま中止にはならず、声を殺しながら発情犬まんこを虐めてもらったが。あれで見られていたらと思うと背筋に色んな意味でゾワッとした感覚が走る。

 

 このように、この建物内の常識で行動されては、あっという間に痴女扱いされるのが落ちだ。或いは、欲望に任せて知らない男に襲われるか。…知ってる男でも襲われるかな。

 常識というか認識を改めさせる為にも、深月の言う通り普段の言動の改正は必要だ。

 

 

(…でも、ねえ? …んーっと………あーっと…)

 

 

 

 日ごろの聡明さは何処へやら、あーとかうーとか意味をなさない言葉だけが口から零れ出る。

 必要である事も、やるべき事である事も分かっている。

 

 でも気が乗らない。

 

 何せ。

 

 

 

(……勿体ない、わよね…)

 

 

 酷すぎる理由だと理解しているものの、どうしてもこう考えてしまう。

 色んな反対意見が脳裏をよぎるが、最後に残るのはコレなのだ。何度考え直してもコレなのだ。

 

 

(何が勿体ないって、こんな日常他では絶対経験できないでしょ。朝から晩まで好きな人と爛れまくって、異常な性癖を皆に受け入れられるどころか、自分以上におかしい性癖を持ってる人が居て、そこかしこで見せつけてくる…刺激的な場面を幾つも見られる。時にはそれを自分から経験しに行く。誰に憚る事もなく、欲望を満たし合える。何より抜け出そうと思わなくなる程気持ちいい! この環境を壊すとか、何でそんな事しなきゃいけないのよ)

 

 

 理性では節制しなければいけないと思っていても、一度覚え込まされた肉欲の味は忘れられない、止められない。止まりたくもない。

 まだまだ先がある。色欲の先、法悦の底、被虐と嗜虐の入り乱れる肉欲の先…自分はまだ、そこへ堕ちている真っ最中なのだ。このまま、底の底まで…いや、底を抜いて落ち続けたい。例えその先が破滅でも。

 

 考えるだけで疼き始めた体を抑え込んで、目の前の少女に何を言うべきか考え…。

 

 

「………うん?」

 

「…なんでしょうか?」

 

 

 

 緊張した深月の顔をじっと見る。深月はいささか怯んだようだが、真っ直ぐ見返してきた。

 だがその態度にこそ疑問が残る。

 

 

(…そもそも、何で私に相談する訳? どう考えても、もの申すならあの人……は言ったところで改めるとは思えないから、せめて詩乃か神夜…いや、立場は違うけどやっぱり私と同じね。好きなように交われるこの状況を変えようとは思わないでしょう。…でも、そもそも何でこの子がこんな事を言い出したかって言うと…………)

 

 

 明日奈の(色ボケした)脳細胞の中で、電流が走る!

 …彼女はにっこり笑い、深月に向かい合った。

 

 嫌な予感を感じた深月が距離を取る前に、閃光のように手が翻り。

 

 

「あひゃん!?」

 

 

 深月の胸を鷲掴みにした。

 その時の明日奈の表情は、先程までとは真逆だった。相談を受ける統治者ではなく、獲物を追い詰め、喰らわんとする捕食者の顔。顔芸上手いね。

 

 

「深月…。本音を言いなさい?」

 

「ほ、本音!? あっ、明日奈様、駄目です、胸、揉まないで…!」

 

「清純ぶってんじゃないわよ。ちょっと揉まれただけで気持ちよくなる事しか頭になくなる雌豚のあんたが、風紀? ご主人様に犯してもらえるなら、どれだけ人目があっても股を濡らして大開にするあんたが? 四六時中、虐めてもらう事ばかり考えている淫乱雌奴隷のあなたが? 説得力ってものがないわねぇ?」

 

「んっ…んんっ…ち、乳首、捻るの、駄目ですぅ…」

 

(そうそう、これよこれ。こういう『遊び』が気軽にできるのもいいわよね~。同性の魅力に欲情できるなら、この環境は天国…いえ、色情地獄だわ)

 

 

 口では抵抗しながらも、体はなされるがまま。明日奈は指先を捏ね回し、言葉でなじって、深月を追い詰める。同じ肉棒の下で、何度も何度も絡み合った仲だ。好きな愛撫や急所など、それこそ目を閉じていても分かる。特に深月は責められるのが大好きな被虐淫乱変態なので、猶更。

 当然、こうされる事で深月が悦んでいる事もお見通しだ。

 

 責められるとあっという間に従順になってしまう深月には珍しく、捏ね回して罵っても喘ぐばかりで本音を言わない。

 明日奈はちょっと頭に来た。責めていた手を引っ込めると、深月は息を荒くしたまま床に座り込む。床に粘液が垂れているのは今更だ。

 

 明日奈は机に腰かけて、足袋を脱ぎ捨てる。白く細い足が露わとなった。

 同性でもつい目で追ってしまいそうな艶めかしい足を、見せつけるようにして深月の秘部へと押し付ける。

 

 

「ほらほら、大事な所を踏んであげるから吐きなさい。…違うわね。もっと虐めてほしいなら言いなさい。何を考えてあんな事を言い出したのかしら。淫乱奴隷の分際で、私を誤魔化そうとしてるんじゃないわ。変態極まりない、頭の中に肉欲しか詰まってない無様な理由があるんでしょ? 言ってみなさい」

 

 

 唇を歪めて、愉悦に浸りながら明日奈はグリグリと足を動かす。無造作にやっているように見えて、的確に深月の急所と趣味を抉っていく。SMのSはサービスのSと言うが、見事に体現していた。

 白状しようとしたのか誤魔化そうとしたのか分からないが、声を出そうとする深月を陰核を摘まんで妨害する事数度。

 

 つまらない理由(確信)で頭を悩ませてくれたお返しを終えて、明日奈は口元を抑えて考え込んだ。

 ついでに秘部を弄っていた足を引っ込め、深月の顔の前に突き出した。

 深月は言われるまでもなく卑猥で卑屈な謝罪の言葉を吐いて、自分の愛液で濡れた明日奈の足の指に舌を這わせて掃除し始める。

 

 

「うーん……無理矢理感が足りない、か…」

 

 

 予想通りに肉欲と異常性癖が詰め込まれた頭アレな忍者みたいな話だったが、悲しいかなここに居るのは爪先から天辺まで仕込まれまくって、彼女達以上に深い肉欲を持つ明日奈。言っている事が理解できてしまった。

 

 

(うちの子達は被虐趣味を植え付けられている子が多かったし、それに嗜虐趣味のあの人が拍車をかけたもんね…。好きな人に無理矢理手籠めにされる、って遊びで興奮するって子は結構居るわ。私も嫌いじゃないし)

 

 

 足の指の間を舐められる感触を楽しみながら、明日奈は思う。ついでに舌を指で捕まえてみた。クイクイ引っ張って遊ぶ。

 

 

(でも遊びだもんねぇ…。いや本気であっても困るんだけど。今は誘われたら気軽に受けるし、ごっこ遊びでも『無理矢理』って感じが出しにくいのよね。あの人は抵抗を捻じ伏せて屈服させるのを愉しむところがあるし、もうちょっと抵抗が強い方がいいのかしら)

 

 

 そうすれば、もっと激しい快楽を…と深月の事を言えない淫乱ド変態な妄想で頭がいっぱいになりそうになった時、明日奈に閃きが走った。

 

 

「…そう、そうね。風紀もそうだけど、このままだと風情がないものね。……深月、いい提案よ。ご褒美は何がいい? ……そう、舌を摘ままれた状態で器用に喋るわね。『虐めてほしい』だなんて、骨の髄まで変態よねぇ」

 

 

 弄ぶだけ弄んで、手土産替わりにしようと明日奈は決めた。

 

 

 

 

 

 



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590話

 

SIDE 神夜

 

 

 深月から受けた相談を、明日奈は神夜の元まで持ってきた。

 勿論、深月を連れて抱かれに行った後だ。いつもの体感時間操作のおかげで、時間は全く経過していない。

 深月自身は…もう暫くお仕置き部屋で玩具にされている事だろう。明日奈は一発ヤッてスッキリしてから抜けてきたのだ。

 

 

 神夜は普段、用事や興味のある事がない時は、稽古場で剣を振るっている。戦狂いは相変わらずで、迂闊に近付くと模擬戦を要求される為注意が必要だ。

 今日も今日とて素振りをしていた神夜は明日奈から持ち込まれた話を聞いて首を傾げた。

 あと、つい先程までヤる事ヤっていたらしい痕跡を嗅ぎつけてちょっと嫉妬した。

 

 

「見られるの禁止…ですか?」

 

「ええ。最近…と言うか元々そんな感じだったけど、人目も憚らずに色事に耽っている事が多いじゃない? 流石に里の人に知られるとまずいわ」

 

「はぁ、それはそうですが…」

 

 

 神夜は他人事のような口ぶりだった。元々彼女は、(露出狂一歩手前の姿をしていながら)外で致す事はあまり無い。部屋の中で、暖かく柔らかい布団の中で、密着して甘えながらするのが好きだからだ。…外で誘われたら拒否はしないし、それはそれで燃えるよう仕込まれているが。

 確かに、自分達の生活態度が色んな意味でまずいという自覚はあるから、反対もしない。

 

 が、明日奈がそれを言いだすとは思っていなかった。これでもシノノメの里に居た頃からの、10年以上の付き合いがある幼馴染。今となっては互いの体で知らない事が無い程に分かり合っている。

 乳房の重さなど序の口、秘部の皺と形から直腸の味は勿論のこと、房中術というナニカで生やされた男根を使って女陰の締め付けの強さまで知り、更には互いの体を交換して貪り合った事さえある。

 最後におねしょした日から初体験の体位まで、知り尽くしていると言えた。

 

 なので、この真面目そうに見えても煩悩満載な幼馴染が、折角彼氏(明日奈だけの彼氏ではないが)とねっちょり遊べる状況を崩す筈がないと確信していた。

 

 

「…何よ、その目は…。…まあ、お察しの通り裏があるんだけどね。このまま皆を放っておくと、将来不味いのも本当だけど」

 

「建前は結構ですので、何を企んでるか素直に教えてくれません?」

 

「…相変わらず一刀両断してくるわね、あんた…。まずどういう事をするかだけど、『所定外の場所で色事に耽っているのを発見された場合、睦言一週間禁止』よ」

 

「一週間禁止ッ…!?」

 

 

 神夜の顔色が変わる。それがどれ程(ここの女性達にとって)厳しい罰則なのか、身に染みているからだ。

 夜毎、淫らな宴に浸って開発され続けた体は、たった一晩欲望を発散しなかっただけでも、ゆっくり眠れなくなる程に夜泣きし始める。

 

 神夜と明日奈、他に木綿季や那木に関してはその程度で済むが、雪風達のような暗示を受けている子達は冗談抜きで生死に関わる。

 

 

「大丈夫よ。話したり、触れたりするのまで禁止にする訳じゃないわ。精神的に不安定にならない程度なら、それで充分よ」

 

「た、確かに元はそうだったかもしれませんが、今はどうでしょう? 暗示とは関係なく不安定になりそうです。それに、皆が従うでしょうか? …いえ皆が従っても、多分本人が一切自重しない気が…」

 

 

 全くである。どう考えても、あの色狂いが従う筈がない。

 そもそも、ここに居る女性達は多かれ少なかれ倒錯した趣味を開発されていて、禁止されている事を行う事で興奮…背徳感を得るなど珍しくも無い。

 

 

「本人にも話は通してあるわ。最初は渋ってたけど、裏の目的を話したら大喜びしてたわよ」

 

「ですからその裏の目的と言うのは?」

 

「『抵抗させる事』」

 

 

 神夜の頭の上に?が飛んだ。言ってる意味が全く分からない。

 

 

「理屈は簡単。見つかりそうな場所で事に及んだら、一週間の睦言禁止が待ってるのよ。求められたとしても、流石に躊躇するわ。…それを捻じ伏せられて犯されるとしたら?」

 

「……詳しく聞きます」

 

 

 神夜の目がギラリと光った。何だかんだ言って、彼女も充分欲望と変態性癖に忠実だった。

 詳しく聞く、と言いながらも、神夜の頭は目まぐるしく回転して明日奈の真意を看破していた。戦いと食欲と色事に関しては、彼女の頭は明晰なのだ。…戦に関しては、その場のノリで理性を無視する事が多々あるが。

 

 

 ともあれ、明日奈の意図はこうだ。

 罰則を設ける事で、睦言を行う場所を選ばせる。つまり常識を身に着けさせる。

 見つかったら、露見したら酷い事になる…という意識を植え付け、危機感を煽る。

 これにより、本心から抵抗するようになった女を、構わず強引に手籠めにするという歪んだ興奮を引き起こす…ひいては、より深くねちっこい責めが期待できる。

 

 

「つまるところ、今のままでは風情が無い…そういう事ですね? 外で事に及ぶ場合、『見られてしまう』という羞恥心と、『見られたら大変な事になってしまう』という破滅と紙一重の昂揚、想像が肝要。今の状態ですと、見つかったところで全く不利益はありません。羞恥はあるでしょうが、それも徐々に慣れていく。ただただ、『普通ではない場所でまぐわっている』というだけになってしまっています」

 

「説明するまでもなかったみたいね。とは言え、これがすぐに受け入れられるとは思ってないわ。みんな、したくなったらする、誘いに行くのが当たり前になっちゃってるし」

 

「ですね。『若様に求められているのに、拒む理由は無い』と皆言いそうです。私も言います。今までの生活が当たり前になっている皆からすれば、どうして突然に睦言を禁じられねばならないのか、となりますよ」

 

 

 さもありなん。彼女達にとっては、何よりのストレス解消で精神安定剤で名誉で娯楽なのだから。

 

 

「罰…と言う形だけでは不満の元でしょう。人は束縛だけが増えると鬱陶しく感じるものです。ここはひとつ、遊戯と言う形にしてはどうでしょうか? 罰とは別に、事に及んでいるのを見つけた者には褒章を出すとか」

 

「匙加減が問題ね。褒章の内容によっては、発見者と被発見者が結託する事も考えられるわ」

 

「確かに…あと問題は、行為に及んでもいい場所と時間帯をどうするか、ですよね。全面的に禁止されるなんて、謀反を起こしてでも阻止します」

 

「当然よ。私だって刺激的な時間が無くなるのは嫌だもの。ああ、そうなるとあの人本人に関する特例が必要ね。欲望を抑えきれるとも完全に隠れきれるとも思えない…あの人本人が一週間の行為禁止になっちゃったら、巻き添えで全員がって事になるし」

 

「…行為禁止一週間は決まりとして、場所と時間……普通、睦言と言えば夜に行うものですし、夜の自室であれば見つかっても不問にするとか?」

 

「そうね、基本はそれでいきましょう。と言うより、それが無かったら人の部屋に無断で乗り込んで発見!なんて事をしかねない子がいるし」

 

 

 …こうして改めて考えてみると、結構な問題児集団だった。頭領からして爆弾同然の問題の塊なので、然もあらん。

 二人はもう少し話を詰めて、他の幹部級に話を通しに行くのだった。

 

 

 

 

 神夜は詩乃に、明日奈は木綿季に話を持っていく。

 全体に話を公開する前に、まず組織の主要人物に話を通しておく。こういった運営法は、滅鬼隊の子達と共に情報や書類の重要さを教え込まれた時に学んだ事だ。

 

 その前に、稽古の為に汗をかいていたので、昼間から一風呂浴びに行く。

 廊下を歩き、ふと振り返ってみると、小さな水滴が幾つも歩いた後に落ちていた。自分が汗まみれである事を改めて自覚し、少し恥ずかしくなる。

 

 

(以前は、このような事で心を揺らす事は無かったのですが……寒くて汗もすぐ乾いていましたし)

 

 

 故郷であるシノノメの里の事を思い返しながら、早足になって浴場へ。

 清掃時間以外はいつでも暖かい湯が貼ってある大浴場は、住民全員に絶賛されている憩いの場である。男性浴場女性浴場、頭領用の浴場と分けられており、男女浴場は日毎に入れ替わる。…尤も、男性浴場に関しては使用者が頭領を含めても4名しか居ない事もあり、『広すぎて落ち着かない』と自室の風呂を利用する事の方が多いようだが。

 そして、数少ない『頭領がコトをおっ始めない聖域』でもあるのだった。何故なら、浴槽の湯がエラい事になって、急遽湯の入れ替えが必要になってしまうから。風呂場でナニかしたいのであれば、頭領用の浴場(と言う名のプレイルーム。エロい道具多数完備)のが不文律だ。…それを破ってヤるのがいい、という困ったちゃんも多いが。

 

 ちなみに浴場の清掃時間は、朝食の後。

 日中は任務や稽古上がりの者が汗を流しに来るし、夜は就寝前に体を洗う。夜中はあちこちでお楽しみした者が、自室で湯を沸かすのを面倒がって痕跡も露わに入浴しにくるし、朝一番は昨日に玩具にされて身を整える事もできなかった者が入りに来る。単純に朝風呂を楽しみにしている者も居る。比較的利用者が少ないのが、朝食の後の時間と言う訳だ。

 

 

(日中の睦み事禁止…となると、今までのように稽古の後に抱き寄せられる事も無くなるのでしょうか…。それは嫌ですねぇ。鍛錬で滾った体の命じるまま繋がり合うのは、昂ること極まりないです))

 

 

 汗を掻いている状態だと、汚いどころかむしろ興奮して迫ってくるのはよく知っている。

 汗にしろ匂いにしろ、女性の生々しい部分や、恥と感じる部分が好きなのだ。乳房の谷間や脇、鼠径部に溜った汗を堪能するように、ねっとりとした舌使いで責められる感触を思い出す。…我慢できなくなりそうなので、途中で止めた。

 

 

(いえ、一般浴場では行為に及ばないというだけなら、専用の風呂を使えばいいだけですね。そこはこれまでと変わらないです。…あそこを例外の場所に指定すればいいですね)

 

 

 自分の欲求を満たす為なら、意外と頭を狡く回せる女、神夜。

 あれこれと思い浮かべながら斬冠刀をしまい、汗にまみれた服を脱いで浴場へ。中に入ってみると、見慣れた顔が一人。

 

 

「あれ、神夜?」

 

「雪風さん? 珍しいですね、こんな時間にお風呂なんて。日中はいつも外を走り回っているのに」

 

「任務上がりよ。ちょっと寒い所に行ってたから、温まりたくて」

 

「ああ、乱の領域ですか。…そんなに寒いでしょうか?」

 

「話に聞いたシノノメの里ほどじゃないと思うけどね」

 

 

 汗を流して湯船に並んで浸かると、横からかなり強く睨まれた。雪風が大きな乳房に対して敵愾心を持っているのはとっくに知っているので、特に不思議にも思わない。

 手を伸ばしてきても、好きにさせている。本気で痛いと思うような事は(この場では)やってこないし、凝り固まった筋を解すのに丁度いいからだ。

 何より、雪風も度重なる情事のおかげで、女の体をどう責めればいいのか自然と体に染み込んでいる。特に雪風の場合、巨乳の代表格こと不知火と疑似親子睦言を繰り返しているので、自分にはない巨乳を恨みがましくねちっこく弄繰り回しているのだ。そりゃー責めるのも上手くなる。

 

 

「雪風さん、相変わらず胸が好きですね」

 

「むしろ嫌いなんだけど…いや例外は居るし、神夜も例外だけど。…と言うか、相変わらず『さん』付よね。立場云々をあんまり気にするつもりはないけど、先達だし纏め役だしで目上なのに」

 

「そこはまぁ、私の性分ですから。明日奈さんだって、十年来の付き合いでも自然とさん、を付けますからね」

 

「うーん、距離を感じるって事もないから、別にいいんだけどさぁ。ていうか、そういう神夜こそ、こんな時間に稽古上がりとか珍しいじゃない。いつもだったら、時子さんとかが呼びにくるまで剣を振ってるのに」

 

「ああ、それなんですけどね…」

 

 

 明日奈から聞いた話を雪風にすると、あからさまに顔を顰めた。

 

 

「ええ…何それ。なんでそんな事を制限されなきゃいけないの?」

 

「一般常識に当て嵌めて考えると、全くの正論…いえ、ちょっと論点がずれていると思いますが正論なんですよねぇ。雪風さんだって、霊山での生活を思い出せば、ここの暮らしが異常だって事くらいわかるでしょう?」

 

「………………………そう? 言われてみれば、そう……なのかな…。いつでもどこでも構わず、女の子と遊んでた覚えしかないんだけど」

 

 

 目覚めたばかりで、右も左も分からなかった頃を主ぢ明日雪風。しかし今一つ実感がわかないようだ。思い誰かさんのせいで。

 あの人はそうでも、他の人は違ったでしょう…と言われるが、そもそも雪風は他の人の事など殆ど覚えていなかった。具体例として山本お婆ちゃんや土井先生達を例に出され、ようやく納得する。

 

 

「でもやっぱり面倒よ。別に今のままでもいいじゃない。独り立ちとか考えなくていいじゃないのよ、ずっと一緒に居ればいいじゃない」

 

「世の中、そうできるとは限らないんですよ。例えば山本お婆ちゃんに会いにシノノメの里に行く時とか、全員で移動するのは難しいでしょう。と言うか、全員揃っていたとしても、ここと同じ行動が出来るとは思ってはいけません。本来、睦言とは隠れて行うべきものなのですから」

 

「……そういうもんかしら」

 

 

 神夜はちょっと頭が痛くなった。こういう風に教育されてしまった原因の一端…主な原因はいつもの人…は自分達にあるとはいえ、ちょっと浮世離れし過ぎではなかろうか。

 このまま、ずっと楽園(性的・生活環境的な意味で)の中で暮らしていけるなら、それもいい。だがいつまでもウタカタの里に居るとは限らないし、反目し合って出ていく子が現れる事だってあり得る。それはとても悲しい事だが、だからと言ってはいさようなら、発狂死するか野垂れ死んでね、だなんて言える筈もない。

 

 

(建前ではなく、これは本気で制限を設けねばなりませんね…。それで私達の時間が減るのは痛恨極まりありませんが、我が子達の為なら致し方ありません)

 

 

 …完全に我が子認定していたようだ。外見的にも中身的にも年上が居るが、それも含めて我が子である。

 

 

「…ともかく、そういう理由で日中の睦言には制限がかかります。なので……楽しんでおくなら今の内ですよ?」

 

「…一緒に行く?」

 

「さっきまでは深月さんがお仕置き部屋で玩具にしていたらしいので、まだ仕事を始めたばかりでしょうね。補助役(机の下でじゅぽじゅぽ役)はもういるでしょうから、もう少し温まってから遊びに行きましょう」

 

「温まって、湯ほぼにしていきましょ。お酒も持っていこうかな」

 

「あの人に酒魔羅は必要ないと思いますけどねぇ」

 

 

 さて、どういう風に楽しもうか。もうすぐできなくなってしまう、場を弁えない遊びがいいだろうか?

 さっきまで…ひょっとしたら今も…嗜虐心を満たしていたようだから、反対に恋人のように甘々で蕩けるような時間がいいだろうか。

 逆に被虐欲を満たすような遊びがいいだろうか?

 幸いにして、道具や衣装は揃っている。

 

 

「衣装については、未だに謎が残りますが」

 

「あ、それ言えてる。まぐわいの趣味はまぁ分かるけど、服の趣味だけはわかんないよね。あんな恰好のどこがいいんだろう?」

 

 

 二人の頭に浮かんでいるのは主にお仕置き部屋に備え付けてある複数の衣装。

 『ぶらじゃー』や『ぱんてぃ』に興奮する姿。

 二人に限らずこの世界の人間にとって、下着もコスチュームもオーパーツもいいところである。煽情的な姿も奇異にしか見えず、性的なニュアンスも見いだせない。対〇忍スーツやバニーガール姿など、露出度より先に?マークが飛ぶ始末。

 おかげで、里一番の鍛冶師が女性用下着を作っていても、新たな装具としか認識されずに変態の汚名を被る事が無かったのは、幸いと言っていいのだろうか…。

 

 

 



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591話

 

SIDE 雪風

 

 

 神夜と二人で汗を流し、さっぱりして浴衣に着替えた。胸を揉み過ぎて、場所も弁えずに途中でちょっと盛り上がりかけたのだが、別の入浴者の気配を感じて中断した。

 水を差された分、本命と楽しく遊ぼうと決める…が、ふと声を上げて立ち止まった。一緒に歩んでいた神夜が振り返る。

 

 

「どうかされたのですか、雪風さん?」

 

「いっけない…。お母さんから頼まれ事されてたんだった。残念だけど、遊びに行くのは後にするわ」

 

「そうですか。でしたら、遠慮なく私が独占させていただきます♪」

 

 

 手伝う気を微塵も見せずに、役得と言いたげな神夜だが、雪風から向けられるのはむしろ心配そうな視線である。腰とか大丈夫かな、と。

 

 雪風が頼まれていたのは、不知火が担当している作業。里の周囲に張り巡らされた罠(主に幻影や毒)の手入れである。

 がさつ……もとい、細かい作業を面倒臭がる雪風にそんな事任せて大丈夫か? むしろ自分が幻影ひっかかるか、媚毒にひっかかってアヘるんじゃね? という疑問はあるが、一応その辺は不知火も考慮している。……見る人が見れば、任せた時の不知火の顔にびっしりと汗が浮かんでいたのが分かっただろうが。

 

 そこまで不安なのに任せるなよ…と言われそうだが、これで失敗させないのも問題だ。

 彼女達が引き受ける任務は充実したサポートと仲間が居る為、滅多な事では危険な状態異常や右も左も分からない状態には落ち込まない。

 だからこそ、そうなった時の対処法や搦め手を知っておく必要がある。そういうお手本の場として、里周辺は最適だった。何せ、不知火や静流を筆頭とした搦め手の専門家が知恵を絞って作り上げた迷い路だ。うっかり入り込んだ里のモノノフが、えらい目にあって搬送されてきた事が何度かある。

 

 

(まったく、お母さんの任務を何で私がやらなきゃいけないのよ。手が足りない時に助力しあうのは分かるけど、こういう面倒なのは苦手なのよ。お母さんだって、別に用事がある訳じゃ……あったのかしら?)

 

 

 ただし、当の雪風はそんな親心を全く理解していなかった。

 頭は悪くないし、義親子中も爛れた関係になる程には良いし、周囲を見て考えるよう教え込まれてもいるのだが、だからといって周囲の気遣い全てを理解できる筈も無かった。

 むしろ、雪風自身は適性のない技術を無理に習得するより、さわりだけ覚えて、あとは得意分野を伸ばすべき。むしろ中途半端に覚えるくらいなら、いっその事知らない方が…と考えていたりもする。…本気で考えているのではなく、どうにも性に合わなくて腰が引けているだけだ。宿題を後回しにする小学生のようだ。

 

 とは言え、流石に無理もないだろう。異常な境遇と戦闘能力を持っているが、雪風は本来遊びたい盛りの年頃だ。

 右も左も分からなかった頃とは違い、それなりに経験を積み、よくも悪くも自分で考えるようになっている。

 一言で言えば反抗期だ。

 

 とは言え、お役目であるからには、やる事はやる。

 一緒に作業する予定(実際は教師役)の静流達と合流し、本当なら今頃、それはもう濃厚で密接でねっちょんねっちょんな時間を過ごしていた事を想い、ちょっと不貞腐れ気味に作業を手伝う。

 手伝うと言っても、出来る事はあまりない。先日の戦いの余波で壊れた部分は既に再調整されているし、作業が必要な部分は専門的な知識が必要で、素人の雪風には手に負えない。

 なので。

 

 

「…今度はどこに行けばいいの…?」

 

「そこをそのまま進んで頂戴。ああ、黒い線が見えたら、絶対越えちゃ駄目よ。迷い路の中に入り込んで、間違えた道を進んだら死ゲフンゲフン、傷だらけになるから」

 

「死って言ったぁ!?」

 

「だって鬼を撃退する為の罠だもの」

 

 

 雪風は実験だ…もとい、被験者の役割となっていた。既に4つの罠を体験したのだが、真っ直ぐ立っていられないほどフラフラだ。

 平衡感覚を奪う罠、幻影を見せる術、認識できないのに神経を掻き乱す現象、いつの間にか口の中に忍び込んでくる甘露と言う名の睡眠薬…。

 どれも予め言われていないと気付けない…いや、言われても気付く事が難しいものばかり。

 こんなものが所狭しと敷き詰められていると言うのだから、能天気な雪風をして背筋が寒くなる。これが母の実力なのか。

 

 

「酩酊状態って意味なら、これよりもっと凄いのを何度も経験してるでしょうに」

 

「こ、こんな訳のわかんない状態に覚え何てないわ…」

 

 

 5つ目の罠を体感した雪風は、そこで白旗を上げた。気力はまだ残っているが、単純に足腰が立たない。どうやら麻痺毒の類を受けたらしい。

 先程までの4つの罠からも回復しきった訳ではないので、心身ともに乱れまくって、地面で大の字になって動けないでいた。ついでに言えば、呂律が回らなくなっている。上記の台詞は翻訳したものです。

 

 

「なーにを生娘ぶってるんだか。毎日毎日、若にしてもらてるでしょー? 前後不覚で動けなくなるくらいにさぁ」

 

「どう考えても、系統が違うわよ…」

 

「あー、でもよかったなー。前から使ってみたかった毒を試せて。鬼に仕掛けても意味ないし、人に悪戯すると流石に怒られそうだしで、機会を伺ってたんだよ」

 

「き、機会があったからって使うなぁ…!」

 

 

 にやにやと陰気な笑みを浮かべて雪風を見下ろしているのは、毒の使い手である六穂。

 子を作れない、普通に恋人を作る事もできない体質の為にひねくれていた娘だが、それを解決できる頭領に心酔する女。……そして、今の状態でも性格に難があるのは変わっていなかった。

 

 それとは対照に、雪風を膝枕している静流は溜息を吐いていた。その態度以上に、視界を塞ぐ大きな丸い膨らみが雪風を苛立たせている。知っているが、敢えて無視する静流だった。

 

 

「うーん、困ったわね…。予想以上に効果が高すぎて、殆ど実験できてないわ。正直、もうちょっと回避できると思ってたんだけど」

 

「わ、罠って回避できるもんなの…? と言うか、自分から罠にかかりにいかせておいて…」

 

「罠に嵌るのと、抵抗できないのは別物だよ。特にこういう、感覚系の奴は。神夜さんも一度試したんだけどねー」

 

「ああ、あれは凄かったわね。薬も術も効いている筈なのに、『心頭戦に昂れば、どのような不調も平時と同じ極まりないです!』とか言って無効化されて、一閃しただけで周囲の罠が壊されて」

 

「おかげで直すのが大変だった…」

 

 

 遠い目をする二人。文句を言いたいが、本格的に口が動かなくなってきた雪風。

 雪風はせめてもの意趣返しに、この二人には…いや、母に対しても睦言の制約条例の事は話すまいと心に決めた。せいぜい普通にまぐわってなさい。私は今のうちに、今後できなくなる遊びを満喫しておくから。

 

 

(…なんだかあまり勝った気がしない…)

 

 

 雪風は不貞寝する事にした。

 

 

 

「…寝ちゃったよ。ところでさぁ静流。若がやれって言った事だし文句をつける気はないんだけど、この罠って必要なのかな? 鬼を相手にするんじゃなくて、人間相手にしか効果が無い罠も結構作ったじゃん」

 

「ん、まぁそこはね…。最初は里との信頼関係も築けてなかったから、いざと言う時の為って考えてたみたいよ」

 

「…僕達だけが知っている罠の抜け道を使って、伏兵戦とか考えてた?」

 

「ええ。逃げる時に壁代わりにするとかね。…でも、里との関係が安定するにつれて、対鬼用の罠に段々変えて行ってたんだけど…昨日から、また人に利く罠も一定数混ぜろ、って指示が来たのよ」

 

「ふーん…。まーた余計な事考えてんのかなぁ。今更、里の連中相手にやり合う理由が出来るとは思えないけど。…ま、それも若がやれって言うならやるけどね」

 

 

 若干、剣呑な気配を醸し出す六穂だが、静流にたしなめられてすぐ落ち着いた。

 六穂としても、ウタカタと積極的に揉めたい訳ではない。飯は美味いし、お人好し揃い(それ故に陰キャには眩しくて辛い)だし、距離を置いて付き合っていくには最良の環境だと思っているからだ。

 

 静流としても、人間相手の罠は必要ないと思っている。ウタカタと戦う事は無い…と思っているからではない。理由が無くても、2人揃えば争い、3人揃えば派閥が出来るのが人間だ。

 ただ、こうやって人間用の罠を作る事で、ウタカタの猜疑心を煽る可能性が高いと思っている。そうでなくても、稀にこの罠の中に迷い込む者がいるのだ。重症人でも出たら、目も当てられない。

 だが静流としても、命じられれば結局は従うしかない。

 

 

「私達の最大の弱点ね…。若様の意思を何より優先しているから、意見できる者は居ても、諫められる人、強引にでも止められる人が居ないの等しい」

 

「……独裁者って言っても、差し支えない状態なのは確かだね。僕はどうこうする気はないけど」

 

「……………」

 

 

 静流は頭を抱えた。確かに自分達の性質上、頭領に逆らうのは不可能に等しい。

 今はその必要すら殆ど感じてないからいいものの、彼が道を誤った時、自分達は共に滅びにいくしかないのだろうか。

 

 現実逃避気味に、いつの間にやら鼻提灯を膨らませている雪風を見て溜息を吐く静流だった。

 

 

 

 

 

 

SIDE 木綿季

 

 

 木綿季の朝は早い。と言うより、実は寝る必要が無い。

 何せ体はカラクリで中身は霊魂。博士によるカラクリの手入れの時以外は、いつでも動き回っていられる。

 他のミタマによると、「生きていた頃の習性で眠気はある筈」との事なのだが、鬼に何年もミタマを捕らえられ、昼も夜もない生活を送っていた木綿季は、その辺の習性を半ば忘れてしまっていた。

 

 その為、皆が寝静まった夜中であっても、夜道の散歩に出たり、屋上で剣を振るったり、夜の女子会が行われているのを敏感に察知して菓子折り持って参加しに行ったりと、とにかく動き回っている。

 長く囚われの生活であった為に、その分取り戻そうとしているかのよう…と思いきや、親友の明日奈に言わせると「睡眠時間はともかく、生きてた頃からあんな感じだった」との事。

 

 とにかくこの世の全てを愉しみ尽くそうとするような生き方をしている木綿季であるが、そんな彼女でも不快と感じる事はある。

 例えば友達が嫌な顔をする事。

 例えば鬼を斬るのを止められる事。

 例えば…。

 

 

「鬼に捕らわれていた時の話を聞きたい…?」

 

 

 例えば、無力な餌として囚われていた時の事を思い出す事。

 カラクリの姿なので表情は動かせなかったが、嫌そうな雰囲気を醸し出す。

 

 彼氏からの頼みであっても、思い返すだけで顔を顰めるくらいには屈辱だった日々だ。若くして死んだのは、まぁいい。無念だったが、病魔に負けた自分が弱かっただけだ。

 魂だけとなり、右も左も分からない状態で彷徨って、鬼に捕食されたのも間抜けなだけだ。

 

 だがそこからが地獄だった。

 鬼の腹の中で、自害する事も出来ずにただ時間が過ぎていく。時折感じる、鬼の力の源としてじりじりと力を吸い取られる感覚。

 屈辱だった。敵の糧になるくらいなら、自らの首を躊躇いなく落とすのが木綿季という人間(当時10歳未満)だが、それすら封じられ、幼いながらも鍛えてきた剣を振るう事もできない。何せ体が無いのだから。

 

 だが、それ以上に苦痛だったのは『退屈』だ。

 動かせる体も無い、話し相手も居ない、時折外の景色は見えるが基本的に真っ暗。鬼が体を動かす音は伝わってくるが、不快な音でしかない。常人なら発狂して当然の状況だ。

 が、木綿季は耐えた。普通に過ごした。暇だ暇だとミタマになった状態で騒ぎながら、大の大人でも三日と経たずに音を上げる環境で、年単位で鬼の腹の中に居た。

 いつか訪れるかもしれない、鬼が討伐されて自由になる日の為に……なんて事は考えず、とりあえず死ぬ事も逃げる事も出来ないので生きた。

 

 

「…っと、そんな感じだったかな。鬼は頭に来るのに斬れないし、退屈だし、段々力を吸われていく気がするし、暇だし、とにかく大声出したりして気晴らししてたなぁ」

 

 

 そして人生の半分以上を費やす事になった、そんな屈辱と退屈な日々を、とっくに『過去の事』として割り切っているのが木綿季である。

 良くも悪くも刹那的で、過去を振り返らず未来を視ず、ただこの時に何をするのかだけで駆け抜ける。対価に何を要求されるとしても。それが木綿季の根っこだった。

 

 

「で、それがどうかしたの? 『若』君」

 

 

 木綿季に問いかけたのは、この集団の頭領の男。木綿季にとっても、一応恋人…と言っていい、筈だ。多分。

 ぶっちゃけて言ってしまうと、木綿季にとって頭領に従う理由はあんまり無い。鬼から解放してくれた恩人の一人で、故郷を助けてくれた英雄と言っていい。

 が、抱かれてもいいと思うような出来事は無かった。

 明日奈の体に宿り、『生前出来なかったんだから』と気軽に初体験を迎えた結果、『何これすっごい気持ちいい!』と病み付きになってしまっただけだ。

 

 

(ま、ここは居心地がいいし、この人は強いし面白いし、離れる気はないんだけどね)

 

 

 だが理由が無くても、気に入った相手にはとことん執着する女だった。ネコのように気儘な割に、犬のような忠誠心がある。

 

 それはそれとして、囚われていた時の事を聞いたのは、『ミタマを削られるとどんな風になるのか』を知りたかったかららしい。

 確かに、鬼の餌になる感覚を知っている生きた人間はまず居ないだろう。ミタマなら沢山いるのだが、感覚とか死生観とかが変質しているので情報源としてはあまりアテにならない。

 

 

「…は? 近い内に、ミタマを齧られるかも? 何それ、そんな強い鬼が来るの? …違う? そう」

 

 

 …別に頭領が喰われないのを残念がっているのではない。強い相手が襲ってくると期待して、肩透かしを食っただけだ。 

 

 

「うーん、もしそうなら今のうちに沢山戦って、強くなっておこうと思ったんだけど。真面目な話、ミタマから力を奪われると何もできなくなるよ。僕も慣れるまでは、何度も意識が途絶えたし。魂に関する事はよく分からないけど、要するに気力みたいなものじゃない?」

 

 

 吸い取られれば、精神的に疲弊しきって気を失う。或いは死に至る。

 木綿季は経験でそれを知っていた。一度は肉体的に死に、鬼の腹の中では何度も何度も力を吸われて死の淵に至った。…そのせいで死の感覚に慣れて、ギリギリの土壇場でも平常心で居られるようになったのは皮肉である。

 

 

「てか、鬼じゃなければ何にミタマを齧られるのさ? また何か妙な事考えてるね。…ふーん、よくわかんないけど、難しい決断なんだ」

 

 

 軽く話を聞いた木綿季だが、悩みの内容を全て白状された訳でもなく、繰り返しやら何やらの背景事情を知らされている事も無い。そんな状態で、何が問題でどうすればいいのか、答えなんぞ出せる筈も無かった。

 ただ、彼氏が悩んでいるのは確かなので…できる事はやってみよう、と思ったのだ。

 

 カラクリの体に内臓されている機能を稼働させ、人間の体を投影する。「成長した自分」を想像して具現化させるのに、既に10秒も必要なくなっていた。

 頭の中で、それだけイメージが固まっているのだ。その分、巨乳化するなどのアレンジは難しくなっているが。

 

 

 

「じゃ、しよっか。…うん? 何でって、悩んでるんでしょ。じゃあしようよ。うん、睦言。まぐわい。交尾。いやー、下手な考え休むに似たりって言うじゃん。ちゃんと考えて、それでも結論が出てない問題なんでしょ。延々と頭を抱えてたって意味ないよ」

 

 

 一理ある。一理あるが、この考えると言う行為を戦闘においてしか使わない阿保の子にいわれると、どうにも最初から考える事を投げ捨てているようにしか聞こえない。

 そもそも、何でそこで色事しようという展開に繋がるやら。

 

 

「気持ちよくて、楽しくて、すっきりするでしょ? まぐわってすっきりすれば、大抵の事はどうにかなるよ、多分! 昔お母さんから聞いたんだ、『そうあれかしと叫んで絡めば、世界はするりと片付き申す』って」

 

 

 おい馬鹿やめろ、判事が来たらまとめて死ぬ。と言うかお母さん何者だ。木綿季は十字架のペンダントを持っていたし、晩年(死んでるけどまだ死んでないが)に編み出した奥義にも『マザーズ・ロザリオ」などと名付けるくらいだから、例の宗教と何か関わりがあってもおかしくないか。

 

 

「そう言ってもさー、僕には戦う事くらしかできないし。若君だって、戦うか女の子を喜ばせるくらいしかできないじゃん。いやできるのかもしれないけど、しないじゃん。出来もしない事や決められない事に悩んで時間を使うくらいなら、出来る事を全力でやった方がいいと思うよ。だからさ、ほ、ら、ね? ごほーし、ごほーしするから♪ 舌の使い方、色々工夫したんだよ」

 

 

 

 チェシャ猫のような笑みを浮かべて木綿季は圧し掛かる。なんのかんの言って、この手の誘いを断られた事など無い。この彼氏は、据え膳は骨の髄までしゃぶり尽くす男なのだ。

 

 これでも、元気付けようと考えてやっている事だ。決して、新しく覚えたエロい技術を試してみたいだけではない。

 具体的には、3本に増やした舌でベロベロしながらディープスロートとか、膣内のヒダを全て極小の舌に変えて、本番とナメナメを同時に行うミミズ千匹ならぬ舌千本扱き穴とか。

 投影した人の姿で、幾つも仕込んだビックリどっきり精搾り機能でどうやって驚かせてやろうと考えながら、木綿季は粘膜の接触に耽った。

 

 

 

 

 

 そして、集中が維持できなくなり、人の姿の投影が出来なくなった後。

 

 

「ん、どしたの? …悩みが解決した? よくわかんないけど、よかったね! 言ったでしょ、一発抜いてすっきりすれば、色んな事は片付き申す…って」

 

 

 



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592話

 

SIDE 浅黄

 

 

 浅黄は窓から差し込む光の中、未だに慣れない感触に包まれて目を覚ました。

 慣れてしまっていた、寝心地が悪く寒い寝所や、任務途中で横にもならずに目を閉じて仮眠をとっていた時の感覚が抜けきらず、目を覚ました時は大抵戸惑いを感じる。特に今回は、規則正しく生活している浅黄にしては珍しく、日中での目覚めなので猶更だ。

 辛うじて自室の布団の中である事は理解したが、何故こんな時間に眠っていたのかが分からない。

 

 暫く視線を彷徨わせ、朦朧とした頭で体を起こそうとすると、全身に甘い痺れが走る。思わず迸る嬌声で、ようやく目が覚めた。

 任せられている仕事(任務ではなく、隊員達の稽古相手)を終えて暇を持て余していたところ、頭領からお誘い(R-18)があったのだった。そういう行為は基本的に夜と、執務中の体感時間操作だけにしている浅黄は断ろうとしたのだが、あれよあれよという間に押し切られてしまった。元より悪い気はせず、断固断ろうとも思っていなかったので、それはまぁ別にいいのだが。

 

 

 …ちなみに一言補足を入れておくが、某ソシャゲで言えば彼女はア〇ギ本人ではなく、クローンア〇ギに当たる。舟に封じられ、「まともな上役と、指示に従う同僚なんて恵まれた職場に、私達が巡り合える筈がないッ!!!!!」と魂の悲鳴を挙げた方のアサギがア〇ギ本人である。

 

 

 体に残る甘い痺れは行為の余韻。気絶して一眠りした後もまだ体が高ぶっているだけでなく、女の最も大事な部分で自己主張するような熱が残っている。彼から注ぎ込まれた精液の熱さである事を、浅黄は…いや、この隊に属する女であれば誰でも知っていた。

 随分と濃いのを注いでくれたらしい。股間を見てみれば、流れ出ているかと思われた精は無く、全てが子宮に収まっている。最後の一発は、蓋の役割を果たせるくらいに粘度が高かったようだ。

 

 

 が、その反面、起きたばかりの体は、おかしな時間に目を覚ました故の眠気と、更に空腹を主張する。

 

 

(…若とのまぐわいは、時間を気にしないでいいし、体の調子も整えられるんだけど、お腹が空くのと時間間隔が狂うのだけが難点ね…)

 

 

 さもありなん。必要時間を凝縮しているだけで激しい運動をしている事には全く変わりないし、事後の睡眠時間も含めると一日が36時間になるくらいの長さに感じるようになる。これで感覚が狂わない筈がない。

 そんな事を考えていると、部屋に据え付けられている厨房から見知った顔が出てきた。

 

 

「…おはよう、でいいかしら」

 

 

 もう昼過ぎだけどいいんじゃない、と軽く返す若は、お盆に乗せた濃いめのお茶を運んできた。お茶請けに菓子もついている。

 茶を啜り、腹に固形物を放り込んでようやく頭がはっきりした。

 

 

「まったく…。無茶をしてくれるわ。まだ体に力が入らない」

 

 

 めんごめんご、とふざけているとしか思えない返答を返す若だが、浅黄は微笑んで何も言わない。惚れた弱み、と言う奴を存分に満喫していた。

 相当に好き勝手してくれたが、実際に浅黄にとって怒りが巻き起こる程の事ではない。かつての環境を思えば、ちょっと強引に部屋に連れ込まれるくらい、どうと言う事は無い。 

 とは言え、気になる事はあった。

 

 情事の痕跡が色濃く残る体を薄い布団で隠し、膝を抱えて顎を乗せる。

 

 

「それで…どうかしたの? らしくないじゃない。…うん、いつも色に溺れているから、普段通りと言えばそれまでだけど、建前でも拒む相手に食い下がった事は無かったでしょう」

 

 

 …その理由は、そもそも建前でも拒む相手がほぼ居なかったから、でもあるが。

 例えお誘いを断られても、代わりに受けたいと願う者がゾロゾロ居る状況なのだ。相手に拘り…どうしてもその時にその相手を抱きたい、という理由でなければ、食い下がる必要も無い。つまりは、性欲処理、或いは女を弄んで暇潰しができればいいという男として最悪な考え方でもあるが。

 

 浅黄の問いかけに、鼻の頭を擦り、大したことではないんだが…と前置きする。

 

 

「…睦言の頻度を増やす事にした? ………これ以上? 今でさえ、誰かと絡んでない時間の方が少ないのに?」

 

 

 これ以上増やすと言われても、普通は物理的に無理なくらいだ。 

 24時間の内、30時間くらいは女体と触れ合っている。オーバーしている6時間に関しては、体感時間操作で水増しした分と、分身して複数人と同時にパコッている分だ。

 今この瞬間でさえ、恐らく分身が誰かを犯している真っ最中だろう。浅黄が部屋に連れ込まれる前に、別の『若』が誰かを伴って部屋に入って行くのが見えた。

 

 色事を増やす事自体は問題ない、筈だ。やるべき事はやっているし、相手になる子達もご指名とあらば体力の限りに悦んで応じるだろう。精神的な安定になり、またオカルト版真言立川流なる面妖な術のおかげで戦力増強にも繋がる。色狂いの汚名を被るとしても、それ以上の利益があると言えた。

 対外的な問題も特にない。どういう訳だか、ここ最近は里との直接の接触を避けているようだし、頭領としての責務を放り出して遊んでいるとしても、すぐに醜態が知られる訳ではない。

 問題点と言えば、事の後に疲れて眠るか腰が砕けるかして、動けない時間が増える程度だ。

 

 だが、理由が分からない。

 

 

「どうしてまた。今までも好き勝手やっていたけど、それ以上に、とは思わなかったでしょう」

 

 

 ムラッと来る→即発散なので、欲求不満にはなっていない筈。…なっていない筈。自分達がクソ雑魚まんこ過ぎて退屈と言われたら真面目に自殺しそうなくらいに傷つくが。

 いくら三大欲求と言えど、無限に欲望が湧き上がる訳ではない。胃袋に限界があり、それを超えて物を食べ続ければ苦痛意外の何物でもなくなるように、性欲も欲求以上に発散させようとすれば苦しみになる。

 普通は性力体力に限界があり、精巣が空になれば射精もできず、イメージ的に言えばサキュバスにエナジードレインされて骨と皮だけになって塵となって死ぬような末路を辿るのだろうが、この頭領は残弾無限が誇張でもなければ発足でもない。やろうと思えば、食傷状態になって心底ウンザリしながらも、延々と腰を振って射精し続ける事もできるのだ。

 

 

「…ふぅん、必要になった? つまり義務? ……そんな訳がないわね。どう見ても必要以上に楽しむ気だもの」

 

 

 細かい理由までは語られなかったが、どうやら数多くの女をコマさなければならないらしい。

 かと言って、必要だからという味気ない理由で行為に走る訳ではないようだ。

 

 それならまぁいいか、と浅黄は考えるのを辞めた。行為がおざなりになる訳ではないようだし、彼が必要だと言っているのなら、嘘ではないんだろう。建前ではあるかもしれないが。

 何より、既に自分は纏め役という立場を降りて、彼の先導に身を任せる立場にある。やれと言われればやるまでだし、ヤらせろと言われれば股を開く。それだけの話だ。

 

 だから、浅黄は股を開く。つい先程(実時間で5分前)まで散々弄り回し、巨根をジュボジュボ抜き差しし、若干腹が膨れんばかりに精を注ぎ込まれた秘部と直腸を自ら開いて見せびらかす。

 

 

「そういう事なら…もう一度、しましょうか。今日やる事は全てこなしたし、明日はお休み(未だに自分に縁がある制度と信じられない)だから…好きにしていいわよ?」

 

 

 規則正しく生活していた浅黄だが、偶には羽目を外してハメてもらってもいいだろう。

 欲望に素直になった彼女の秘部は、既に準備万端だった。

 

 

 

 

 

 

 

 組み敷かれ、弄ばれ、絞り取り、2匹のケダモノと化しながら、薄れゆく理性の中で浅黄は思う。

 ああ、ここでの生活は最高だ。叶うなら、ここでこのまま老いて、或いは絶頂の果てで死んでいきたい。いや、やっぱり死ぬ前に子供を産んでから死にたいかな。でもそうなると、子供を残して死ねなくなるか。

 いずれ孕ませてもらう幸福な未来を想い、浅黄は犯されている子宮を更に疼かせる。

 

 かつての悲惨な扱いも、比喩抜きで胃に穴を開けてくる問題児達を束ねた過去も、いい思い出…にはならないが今この時の幸福さを引き立てるスパイスになりつつある。

 まとも…と言っていいのか微妙なところだが、しっかりした頭領、頼れる仲間、善良な隣人、暖かく美味い食事と清潔な寝床、戦略的な戦い方、しっかりした事前調査と援護。

 

 何より、こうして抵抗もなく身を任せる事ができる法悦。

 かつて受けた凌辱を鼻で笑うような、全てを上書きしていく悦楽。

 異常かつ屈辱的な行為を悦ぶ被虐性癖と、それを満たす嗜虐的な行為。

 合意の上であっても悲鳴を挙げるような快感を強制的に注ぎ込まれながら、囁かれるのは甘い愛の言葉。

 

 そして、それらに溺れて屈する事に、何の躊躇いを感じる必要もない。

 かつては不本意な快感を強要され、それに耐えなければならなかった。万一屈してしまえば、仲間達を裏切り、果てに用済みになった自分も始末されていただろう。自分の為にも他の人の為にも、どんな拷問を受けても耐え抜かなければならなかった。

 それに比べて、同じ事をされていても今はどれ程甘美な事か。

 堕ちればいい。狂えばいい。屈服してしまえばいい。

 その先で、生涯を通して尽くすと誓った男の手の中により深く落ちていくとしても、何の問題があろうか。むしろそれこそが幸福だと信じられる。洗脳されているかのような考えだが、そうだったとしてもこの中から抜け出したいとは思わない。

 

 楽園に至ったかのような安らかさと共に、浅黄は肉欲の海に深く深く潜り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

SIDE 不知火

 

 滅鬼隊の兵舎は、マンションと同じような作りになっている。…変形機能を持ったマンションがあるか、と言われると反論に困るが、構造的にはそんな感じだ。

 入口となる扉があって、中にはキッチン・トイレ・風呂などの設備があり、あまり大きくは無いが複数の部屋があり、その住人が思い思いの生活を送っている。

 基本的に、一人ずつそれが宛がわれているのだが、不知火はその中では珍しく、雪風と一緒に生活していた。

 

 理由はそう大したものではない。

 刷り込まれただけの関係と言えど、不知火にとって雪風は娘だからだ。そしてその雪風も、不知火を母として扱う事に大きな抵抗はなかった。…お婆ちゃんとして扱うのだとしたら、山本お婆ちゃんと被る為に抵抗を見せたかもしれない。

 

 見ず知らずの親子という奇妙な関係から始まった二人だが、割と上手く共同生活を営んでいた。

 雪風からしてみれば、任務から帰ったら『お母さん』がご飯を用意して待っていてくれる。風呂を沸かすのも洗濯するのもやってくれる。時々口うるさく、子供にするようなお説教をされる事もあるが、そう悪い気分ではなかったようだ。

 

 不知火にとっては…雪風は、心の支えと言えた。

 不知火は、封印される前の記憶を持っている数少ない一人である。だが、その記憶も信を置けるようなものではない。

 潜入任務などの為に、かつては人格と記憶を散々弄り回された。その影響で不知火は徐々に不安定になっていき、狂気一歩手前の状態だったのだ。

 過去の事を確かめようにも、全ては時と異界に埋もれて遥か彼方。

 

 何もかもが信じられない過去と記憶の中、目の前に残っている唯一の存在が雪風…『娘』だった。

 例え植え付けられただけの記憶と感情だったとしても、確かに雪風は目の前にいる。『親子』という関係を受け入れ、娘として振る舞ってくれている。

 

 だから。

 

 

 だからこそ。

 

 

 

 

「たとえ若様の要望であっても、私の、そして雪風の記憶を操作する事は断固拒否します」

 

「…別にいいと思うんだけどなぁ。それくらい…。記憶操作って言ったって、『自分が初めて』って思いこむだけじゃない」

 

「それでも許しません!」

 

 

 睦言については大抵の事なら二つ返事で承諾する不知火が、断固として拒否を示していた。

 

 不知火と雪風が暮らす部屋、真ん中にちゃぶ台が置いてある畳が敷き詰められた部屋。特に飾り気も無いが、何となく暖かい印象を与える空間なのは、その住人による影響なのだろうか。

 そしてちゃぶ台を挟み、不知火、雪風、『若』が向かい合っている。熱いお茶を啜り、煎餅を齧る雪風と、ヒートアップする不知火。

 意外な所で反逆され、『若』は面食らっているようだった。

 

 そう深い考えの元で口にした事ではないのは、分かる。だが地雷を踏み抜かれた不知火は、中々落ち着きそうにない。

 

 

(ええ、分かっているわ。この人の事だから、『最近はみんな色々慣れてきたみたいだし、ちょっと刺激的な事やってみよう』くらいの気持ちだったんでしょう)

 

 

 そこは理解している不知火。この色狂いの考えそうな事だ。

 慣れてしまったのなら、その時だけでもいいので忘れてしまえばいい。その程度の暗示くらい、『若』の手管にかかれば朝飯前だろう。色事関係限定であるが。

 

 大方、『普通の親子を手籠めにして親子丼してみたい』くらいの考えだったんだろう。

 それくらいなら、不知火は何も言わない。見ず知らずの家庭を無茶苦茶にするような事ならともかく、自分達でそれをやろうと言うなら大歓迎だ。

 親子で『若』に奉仕するなど日常茶飯事だし、娘が居る前で襲い掛かられたり、或いは自分が居るのに娘が抱かれるのを見せ付けるのも問題ない。むしろ興味深いし、見られて燃えるのも事実。

 

 好き勝手に扱われても許せるくらいの愛情と恩義と、快楽に絡めとられている。煮るなり焼くなりお好きに使ってくれればいい。

 異常な行為も、良くも悪くも受け止められる。

 淫語は当然、お尻も序の口、緊縛から鞭打ちまで朝飯前。なんなら娘に性的に襲われるのだって構わないし、娘を襲うのをお手伝いするのも二つ返事で引き受けよう。親子中を深める触れ合いにしかなってない。

 

 

 だが、記憶操作と認識操作だけは受け入れられない。他の誰もがまるで問題なしとばかりに了承していても、不知火だけは受け入れられない。

 

 封印される前に施された認識操作と記憶改竄で、不知火にはそれらに対する絶対的な不信感と嫌悪感が植え付けられてしまっている。

 『若』が内面観察術で彼女の精神を覗き込んだ時には、『砕けた破片が継ぎ接ぎだらけで団子になってる』と称した程だ。

 そこへ、遊びにちょっと刺激を加える為に、心の傷をほじくり返すような提案をされたのだ。そりゃ怒りもするだろう。

 

 雪風からは何か言いたげな、そしてちょっと恨めし気な視線を感じるが、例え娘からの頼みであっても受け入れられない。恨めしそうなのは、勉強の為に自分の代わりに生かせた仕事が上手く行かなかった為だと思うが…。

 

 既に『若』は提案を引っ込め、これ以上追及する気はないようだ。不知火の事情を知りながら、迂闊な提案をした事も悔いている。

 これ以上がなり立てても得るものはないと分かっているが、どうにも止まれない。

 

 

「…ねえお母さん、そこまで怒らなくてもいいじゃない。ほんの一時の事なんだし、最初からやりたくないならやらない、って言ってるんだし」

 

「雪風、少し黙っていなさい。記憶はそんな簡単に、消したり変えたりしていいような物じゃないのよ」

 

「言ってる事は分かるけどさあ…。今のうちに色々愉しんでおいた方がお得と言うか…」

 

(この際若様ももう少し叱られるべきでしょう。私達も、何もかも言われるがままに受け入れるお人形さんではないと言う事を、改めて思い出してもらわないと)

 

 

 感情を治められない事についてそう建前をつけて、不知火は抗議を続ける。

 この話に飽きてきたのか、若を弁護しようとしているのか、雪風が口を挟むが一顧だにしない。

 

 暫し問答を繰り返し、若からは何度も平謝りされ、不知火はようやく矛を収める。

 あまりにも意固地になりすぎて、『一緒にやっていけないのなら仕方ない。元気でな』なんて事になったら、それこそ大事だ。

 

 

「…ここまで言っておいて何だけど、私と雪風以外なら暗示をかけたり、一時的に記憶を操作するだけなら何も言うつもりはないから」

 

「ええ……。お母さん、あれだけ怒ってたのに、さっきの今でそれを言う?」

 

「人間の意識なんて、元々不安定でどんどん風化していくものよ。意識しなくても誘導されたり上書きされたりする事だってある。演技に集注し過ぎて没頭してしまう事だってある。合意の上で、そういう範疇の事なら、ね」

 

「まぁ、合意なら簡単に得られるでしょう。それも、若がひどい事や取り返しのつかない事はしないし起こさないって考えてるからだけど

 

 

 色事関係に限定すれば、である。

 色々考えているように見えて、若はかなり大雑把で行き当たりばったり、そして衝動的に行動している事は周知の事実だった。それでどうにかなっているのだからタチが悪い。

 

 

「そもそも、私が禁止を訴えても、他の子達が二つ返事で了承してばかりだったら、いつかまたやろうとするでしょう。こういうのを禁止しようとしたら、一人じゃなくて全員で共有しないと止められないのよ」

 

「うーん…ああ、それであんな話が出てきてたのね…」

 

 

 雪風は何やら納得しているが、詳細を話すつもりはないようだ。意に沿わない任務(兼訓練)を押し付けられ、えらい目にあった恨みは忘れていない。

 

 それは置いといて、何やら考え込んでいる色狂いが一人。二人は「あ、またろくでもない事考えてる」と思ったが、口には出さずに結論が出るのを待った。不知火としては、また許容できない事を言い出さないか。雪風としては、多少馬鹿な事でも面白そうなら参加するつもりで。

 果たして結果は…………許容範囲で『面白い事』だった。

 これには不知火さんもニッコリ。

 

 

 

 

 

 と言う訳で。

 

 

 

「お母さん、お腹空いたってさー。今日のご飯なにー?」

 

「新鮮な山芋や鰻が沢山採れたから、今日の夕飯は豪勢よ。もう少し待っていなさい」

 

「はーい。さ、『お姉ちゃん』と遊びましょ♪」

 

 

 不知火の『料理を手伝って覚えなさい』という視線を振り切って、雪風は『弟』に絡みつく。

 『弟』はいつになく初々しく反抗し、抱き着く『姉』の体を引き剥がそうとする。それすら楽しいのか、雪風は更に密着しようとするの繰り返し。

 横目でこっそり嫉妬の視線を送りながら、『母』は夕飯と言う名の性力増強メニューを作り続ける。普段の若なら必要ないだろうが、今はこれくらいやっておかなければ。もしもこれで過剰にパワーアップしてしまっても、それはそれで問題ない。

 

 

 

 ここはごく普通のモノノフ一家の家。(というシチュエーションの、不知火と雪風の部屋)

 父親は居ないが、優しい母と構いたがりの姉、そしてちょっぴり反抗期入った『弟』の3人が仲良く暮している。(父親の名前は、仮に達郎としよう)

 今日も今日とて、姉と『弟』は無事に任務を達成して帰って来た。(まぁ、二人が一度部屋の外に出て、そのままUターンしてきただけなのだが)

 裕福とは言えないが日々の食事に事欠かず、暖かく和やかな生活を送っている3人。

 

 

 ただ、変った事が一つ…、。

 

 

 

 この母親と姉は、『弟』が大好き過ぎて、その童貞を喰ってしまいたくて溜まらない、超絶息子・『弟』大好きな変態さんだったのです。

 反抗期に入った『弟』は二人からのスキンシップを恥ずかしがり、事あるごとに逃げ回ります。

 そこで、『弟』成分が枯渇して我慢の限界に達してしまった母と姉は結託し、『弟』を二人ががかりで襲って気持ちよくして気持ちよくなって絞ってラブって溺れてしまおうと企んでいるのでした。

 

 勿論、『弟』はそんな事には毛ほども気付いていません。今までも何度か、睡眠薬や母のタマフリで幻術を見せられ、ちんちんをクニクニ弄られたり、裸を視姦されたり、prprで味見されちゃっている事なんか何も知らないのでした。

 その為、現在進行形で抱き着いてジャレてくる姉の手付きが妙に官能的で、ついついオッキしてしまう自分が嫌になっています。姉に触られただけでその反応って、童貞ってレベルの問題じゃないですね。

 

 そうやって姉に体を密かに高ぶらされ、母からはこれでもかという性力増強メニューをぶっこまれ。

 同じ部屋での生活ゆえに、自慰で発散する事もできず。風呂上がりの艶姿を見せ付けられて更にギンギンになり。

 

 川の字になって(当然、『弟』が真ん中。3人プロレスに余裕で耐えられるよう布団はピッタリくっつけています)寝るに寝られない夜を過ごし、今日に限って寝相悪く二人がじりじりと接近してきて…。

 

 

 

 

 

 弟は、二匹の野獣の餌食となってしまったのです。

 

 

 

 

 

 

 ………というシチュエーションプレイを、『若』自身に暗示をかけて堪能したのでした。不知火と雪風に暗示をかけるのが駄目なら、自分にかけて別のシナリオと役にしてしまえばいいじゃない。

 なお、無自覚なオカルト版真言立川流使い手と、処女という設定なのに明らかに異常なテクを持った姉、水商売よりも淫靡な母のぶつかり合いがどのような結果に終わったのかは、ちんことまんこだけが知っている。

 襲った二匹の野獣は、『やっぱり人妻や未亡人は、童貞を誘惑して搾り取る姿が特にいやらしいと思うの』『抵抗しようとして、気持ちよさで力が抜けていく姿に、子宮が燃えた』などと供述しており…。

 

 

 

 

 なお、このプレイが後日ホロウに伝わり、とある閃きを彼女に与えるのだが、それはまた別の話…。

 

 

 

 

 

 

 

 



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593話

暫く隊員達視点で日常を描いていくつもりでしたが、短編を複数書くのは下手な長編より難しいのだと言う事をすっかり忘れていました。
要するにネタ切れです。
なので、そろそろお話を進めつつ、いいネタを思いついて書きあがったら余談として話に突っ込んでいこうかと思います。


 

 

SIDE 六穂

 

 

 毒使い・六穂の朝は基本的に遅い。基本的にテンションが低く、ダウナーなのだ。

 目を覚ましても布団の中でゴロゴロしている事が多く、腹の虫が鳴くか厠に行きたくなるまでまず動かない。

 

 今日も今日とてそういう目覚めを迎えたが、動きたくない理由は少し違った。

 

 

(……若だ…。そう言えば、昨晩は僕の部屋に泊まったんだっけ)

 

 

 泊まって何をしていたかは言うまでもない。この性欲の塊が大人しくしている訳もないし、六穂だって気持ちいい事は大好きだ。つい最近まで、自分には縁のない事だと思っていたから猶更。

 

 目を覚ました六穂の前には、鍛え抜かれた男の体が横たわっている。寄り添って眠っていた為に、互いの体温が体によく馴染んでいた。

 女の…特に毒を宿した女である自分とは違う体臭と、据えた匂いを吸い込んだら頭が痺れるような感覚を味わう。

 

 

(あー…やっぱ好きになってるんだなぁ…。僕の体を変えられる人だから、じゃなくて僕自身がこの人とくっついていたいんだ…)

 

 

 自分がこんな感情を持つなんて、想像すらしていなかった。いや、想像した事はあったが、自分に無いものを当たり前のように持っている普通の人達に嫉妬するだけだった。

 とは言え、全く不満が無い訳でもない。

 

 

(人の部屋に、他の女を連れ込んで好き勝手するところとかね…)

 

 

 顔を上げて左右を見れば、そこには昨晩は居なかった女性が4人。当然のように情事の痕跡を残しており、自分とは別の方向から若に抱き着いている。

 ふと自分の体を見ると、痕跡こそあれ、白濁は体に残っていない。

 

 

(昨晩は、体中が真っ白に染まるくらいぶっかけられまくったんだけど…この感触からすると、ふき取ったんじゃなくて舐めとられたかな。人が貰った精液を横取りしやがって…)

 

 

 唾液の匂いが残る肌を、匂いを上書きしようとするように男の体に擦りつける。

 

 …まぁ、こういう所が不満点な訳だ。

 2ケタの女性と肉体関係を持っているのは、自分達の体質のせいだと考えるとしても、人の部屋に勝手に他人を呼び込むのはどうなのだ。

 ついでに言えば、今日のこれはまだいい方。二人きりの夜を過ごしたとしても、ヤり足りなければ相手を置いて、更なる獲物を喰らいにフラフラと他の女の元へ行く始末。下手をすると、後始末さえせずに放置していくのだ。

 完全に、女を食い物や玩具にしているのがよく分かる。

 

 しかし、そんな人として駄目な男に参ってしまっているのだ。六穂だって、他の女の部屋に連れ込まれて抱かれた事はあるし、ヤり足りないと彷徨っていた時に自ら喰われに行った事もある。

 彼の態度ややり方に怒るどころか、率先して助長しているのだから救いようがない。

 ついでに言えば、六穂自身も気絶させられた他の女の部屋に連れ込まれ、ヤってる途中に小腹が空いたので部屋にあったお菓子をつまみ食いした事がある。多分、今日は自分のが餌食になっている事だろう。

 そうなるのを見越して、媚毒を仕込んでおいたが……結果は同じなのだから、あまり意味がなかっただろう。

 

 

 窓から差し込んでくる光を見ると、もう少し眠っていられるだけの時間はありそうだ。

 しかし中途半端に頭を動かした為に眠気は消えてしまっており、布団の中もいい加減暑くなってきた。6人も同じ布団の中で密着していれば、そりゃ暑くなるのも当たり前だ。

 起きるのも面倒だし、起きたところで時間が中途半端すぎてやる事がない。

 

 

(やる事がない、と言えば…若は隙あらば女の子と絡んでるけど、他に趣味とかないのかな。僕はわざわざどこかに遊びに行こうとも思わないけど、逢引で遊びに行くとかしないのかな)

 

 

 彼は見た目以上に多芸な人物で、屋外での釣りから裁縫の類まで器用にこなし、やたらと芸達者だ。

 しかしそれを楽しんでいるかと言うと、そうでもない。大抵は、必要な作業の一環として行っているだけだ。

 

 趣味が女を虐める事…なのはまぁ、男性の普遍的な欲望であるから許容範囲としても、他に楽しみや時間の潰し方を知らないと言うのは人としてどうかと思う。面倒くさがりの六穂でさえ、趣味があると言うのに。

 

 

(そう言えば、前に一度そんな話してたのを聞いた事があったっけ。娯楽といえば『てれび』や『ぴーしー』らしいけど、聞いた事ないや。何だろ)

 

 

 一応、それらしい物は大広間…エントランスに、それっぽい四角い箱が据え付けられているのだが、誰も使い方を知らない。

 一時期、若がそれにかかりっきりで何とか動かそうとしていたようだが、結局どうにもならなかったようだ。『ほぉそぉきょく』や『鯖』が無いとかなんとか。

 よく分からないが、若の事だから卑猥な遊び方をするのだろう。公衆の面前に、そんな物を据え付けるのはどうかと思ったが、それ以上に卑猥な事をあっちこちっちでやっているので、今更その程度では騒ぎにすらならない。

 

 

 とりあえず言える事は、この中途半端な時間では起きた所で趣味に使う事すらできない、と言う事だ。となれば…。

 

 

 下に視線を向けると、昨晩散々大放出して女体を弄んだ暴れん坊が、疲れなど知らぬとばかりに布団を大きく押し上げている。

 

 

(朝の一番搾り…競争率が高くて、中々ありつけないんだよね。役得♪)

 

 

 さて、昨晩は散々虐めてくれたこの暴君を、どうやって可愛がってあげようか。

 本番をする程体を動かしたい訳ではないし、そもそも他の女が抱き着きまくっているので跨る空間を確保できない。家主権限で蹴っ飛ばして退けてもいいのだが、相当可愛がられたらしくて全く目を覚ます気配がない。ひょっとしたら、ついさっきまで遊ばれていたのかもしれない。

 

 

(うーん…胸か、足か、手か…やろうと思えば何処ででも受け入れられるから、迷うなぁ…)

 

 

 さしあたり、そそり立つ棒の先端を片手で撫で回しながら、丁度目の前にあった乳首に吸い付く六穂。結局のところ、彼女もまぐわい以上に楽しい趣味は見つけていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

SIDE アサギ

 

 普段、アサギは任務に関わるような事から一歩引いた立場を取っている。意見を求められる事があれば述べるが、戦場に出る事は無い。

 先日の大戦の時も、背後で援護というやり方で戦っており、少なくとも前線に出はしなかった。

 浅黄という、全く同じ姿形を持っている者がいるが、こちらは普段は任務は引き受けずに稽古相手を務めている。…少なくとも、それで上位の者と認められるだけの腕が立つし、大戦でも相応の力を示した。

 前線には一度として出なかったアサギとは正反対に、だ。そんな二人が並び立てば、比較されて劣った方に負の視線が向かうのが人のサガ。

 

 そのアサギが、改善されてきたとは言え武力や武功を偏重する気風のある滅鬼隊の中で軽視・問題視されないのは、『それも仕方ない』と思われる程の事情があるからだ。

 その一つが、医者…那木による診断結果である。

 

 率直に言って、戦いに耐えられないほどボロボロなのだ。長年、悲惨な戦いと激しい不摂生を続けてきたかのように、芯から崩れかかっている。

 一見するとしなやかに鍛え抜かれた美しい体なのだが、血を吐くなど日常茶飯事、過去の事を思い出せば胃が痛んで頭痛が起き、ストレスを感じれば吐き気に眩暈に食欲不振に睡眠不足と、繊細を通り越して貧弱極まりない体に成り果ててしまっている。

 それでも大抵の鬼なら一瞬で相打ちにまで持ち込める(鬼を狩っても、アサギ自身が自爆する)だけの実力はあるのだが、流石にその状態で戦えという鬼畜は居ない。いざとなったら、覚悟を決めるつもりではあるようだが。

 オカルト版真言立川流の秘術を尽くしても、その体を完治させるには長い時間がかかるだろう。

 

 それ以上に、本人が治りたくないと思っている節もある。

 体が治ってしまえば、また過去のように悲惨な扱いに逆戻りするのではないか、という疑念がぬぐえないらしい。

 つまり「学校に行きたくないから、病気を治しません」と言ってるようなものだが…。

 

 

 そしてそれらは周知の事実である。にも関わらず、アサギに対して不満を述べる者は居ない。

 みな、聞いているのだ。

 覚えているのだ。

 そして誓ったのだ、暖かく、長い目で見守ろうと。

 

 …と言うか、「まともな上役と、指示に従う同僚なんて恵まれた職場に、私達が巡り合える筈がないッ!!!!!」と叫ばせる程に追い詰めてしまったのがかつての自分達なのだとすれば、記憶がないとしても罪悪感が募ろう。

 覚えていない過去の所業が枷となって、アサギに向かって文句も言えない状態となっているのだ。

 

 アサギ自身も、そういう状態に甘んじているばかりではない。

 戦力復帰するくらいなら体を治したくないと思っているのも事実だが、この職場は過去とは色々違うと言う事も実感し、認識を改めようとしている。

 以前は、『かつて自分を苛んだ問題児達に囲まれている』という、人間不信ならぬ元部下不審に苛まれていたが、それは大分マシになってきた。行き届いているとまでは言わないが、しっかりと教育されて暴走の兆候もない。過去の自分と比べて涙し、また勝手にストレスを感じるが、まぁそこはいい。

 『自分を扱う上司なんて糞野郎ばかり』という上司不審にも苛まれていたが、むしろこっちは、何でもするので捨てないでくださいと、全裸土下座からの足舐め尻舐めも躊躇わない程に忠誠を誓った。元問題児達を引き受けた上に更生までさせてるとか、仏様かな?

 

 …前置きが長くなったが、そのアサギが密かにストレスを感じている事が一つある。

 それが、これである。

 

 

「と言う訳で、改名を提案したいの」

 

「はぁ、改名…ですか」

 

「…改名、ねぇ」

 

 

 そこはかとなく情事の痕跡が残る、若、神夜、詩乃。

 若の部屋に相談にきたところ、この3人が何やら話し込んでいた。

 

 アサギの提案を受け、若と神夜は首をかしげ、詩乃は深く頷いていた。

 

 

「その改名とは、何についての改名かしら。あなたの名前? アサギと呼ばれる子は、うちだけでもあなたを含めて3人も居るから、ややこしいのよね」

 

「ああ、そう言えば詩乃さんも元は『あやめ』と呼ばれていたのでしたか。扱いに反発して、自分は違うと自らの名を名乗り始めたとか」

 

「そっちにも思う所はないではないけど、今は別問題よ。私は、この隊の名前を変えたいの」

 

 

 ふむ、と腕を組んだ。どうやら聞く体勢にはいったようだ。

 どのようにして許可を取りつけるか、纏めてきた説得材料を頭の中で見直して読み上げる。

 

 

「そもそも『滅鬼隊』と言うのは、一般的には霊山に伝わる御伽噺。霊山君直属の、影の精鋭部隊の事よ。その実態はともかくね。だけど、滅鬼隊は壊滅した。他ならぬ、その統治者達の目論見で、様々な表に出せない要素と一緒に、纏めてね。殆どの隊員達の記憶まで抹消してるんだから、手が込んでるわ」

 

「…今思うと、わざわざ封印前に記憶を消す処理を施すって…意味ないわよね。あいつら、ほとぼりが醒めたら回収してまた使い倒すつもりだったわね…」

 

「でしょうね。それでも、消えてない記憶はあるものよ。私以外にも、浅黄や紫とか、記憶が残ったままの者も居る。記憶は無いけど、体が覚えている事だってある。そういう中に、誰かが消したい過去を持っている者が居たとすれば…」

 

「持っていなかったとしても、そこから漏れるのではないか…と妄想した時点で、黒になるでしょうね」

 

「そういう事よ。だいたい、今のこの隊自体、正式には『滅鬼隊』じゃない。その残党を拾ったあなたが面倒を見ているだけの、言わば流れの傭兵集団。何と無しに流れで滅鬼隊みたいな扱いされているけど………滅鬼隊の名前、継ぎたいと思う?」

 

 

 (#-△-)ないわー

 

 (ノ´・ω・)ノ⌒*

 

 (ヾノ・ω・`)ナイナイ

 

 

「ええ全く以て同感よ」

 

 

 御伽噺の精製部隊、なら畏れ多くも憧れもしよう。

 だがその実態は、使い捨てどころか失敗させて嬲り者にする為の国営オナホール集団。わざわざ敵地に向かわせて捕縛されるのを期待するという、手の込んだ強制デリヘル嬢扱い。

 実力を過信し、油断・慢心・脳筋が座右の銘、準備不足に命令無視に反省もできない猿以下の集まり。武力と外見だけは突出しているのだから猶更手におえない。そして、扱い手が意図してそのようになるよう仕向け、学習した事すら忘れさせるのだから救いようがない。

 

 そんな汚名や、アサギ達のような少数派のまだまともな隊員達が死に物狂いで築き上げた数少ない実績が、滅鬼隊の名を継いだものに降りかかってくる。

 借金の方がまだ有難味を感じる負債である。

 

 

「…長くなったけど、つまりはそういう事よ。元が縁起の悪い名前と化しているし、後ろ暗い連中が嗅ぎつけてくるような背景は、可能な限り遠ざけるべきでしょう。更に言うなら、ここの子達も滅鬼隊の名前を不満に感じる者は結構多いようよ」

 

「そうなのですか? うーん…確かに、名前を変えるだけで負担が生じる訳ではないですし、九葉さんの隠蔽工作の一助になるなら、吝かではない事極まりないですが」

 

「私も実のところ、滅鬼隊と呼ばれたいかと言われるとね…。正直、呼ばれるだけで思い出したくもない過去に殺意が募ってくる…」

 

 

 めらめらと静かな殺気を滾らせる詩乃。そんなに嫌だったのなら、もっと早くに言えばいいのに…と思いながら、更に根本的な問題へ。

 で、改名するとして、どのような名前にする?

 

 

 4人で腕を組んで考え込む。

 

 

「……滅鬼隊…滅鬼隊………鬼滅隊?」

 

 

 新しい戦い方に開眼できそうだが、ラスボス…最後の敵の頭が無残になりそうだ。それなりのドラマがあった上でラストバトルがアッサリ終わるならまだ分かるが、最後の敵が小物過ぎると萎えるから却下。

 …てか、あれは滅じゃなくて殺か。考えてみりゃ物騒な名前だこと。

 

 

「珍しいですね、敵の無能は歓迎起べきとか、獲物の中身が狡猾だろうが残念だろうが狩るのには変わりないとか言いそうなのに」

 

「それ以前に、漢字を前後に入れ替えただけじゃない。過去との決別の為なら、全く違った名前にした方がいいわ。……蟹蒲隊」

 

「微妙に最初のと縁を感じると言うか、何の集団か分からない」

 

「…そもそも何の集団? この人の後宮集団とすると、男性陣が蚊帳の外扱い、或いは衆道要因扱いされるし」

 

「こう言ってはなんだけど、実態を考えるとよく言ってもこの人専属の娼婦の集団、悪く言えば身内で乱交しまくる痴女の集団…」

 

「色事を連想させる名前は、本格的にそういう集団扱いされそうだから忌避するとして…例えば、『アサギと愉快な仲間達』?」

 

「何で私が中心なのか知らないけど、もしそれにするなら愉快の前に『不』を付けるわ」

 

「突撃一番隊、などいかがでしょう?」

 

「突撃するしか能のないお馬鹿さんの集団になりそうだからやめましょう。そもそも何を基準に一番なのか」

 

「前に寝物語に話していた、異国の英雄集団の名前はどう? なんて言ったかしら…あ……あ…アヘるんだーず?」

 

 

 アベンジャーズな。怒られるぞ…アヘらせてるのは主に俺だけど。外国語は覚えられにくいし、呼びにくいんじゃないか? 事実、詩乃だって間違って覚えてた訳だし。

 そうだなー、鬼に限らず人に仇成す存在と戦うって言うなら……対魔「その名前にしたら、若を殺して私も死ぬ」………うん、この名前にしたら何もかもがお釈迦になると運命が言っている気がする。

 

 

「むぅ……法則と言うか、規則を決めましょう。まず、呼びにくくなるから外来語は無し。名前に籠める意味、次に……そう、例えば~~隊にするとか、〇〇団にするとか、何とか族とか…ああ、社って考えもありますね。皆で営む傭兵会社」

 

「族…一族、か。それはいいかもしれないわね。団や隊も同じ目的の元に集まっているという意味では同じだけど、一族と考えればより強い結びつきを作り出せる」

 

「文字通りの家族になる、って事ですね。なんなら女性陣はみんな姉妹になってるけども」

 

「そういう意味なら、××一家、なんてのもいいかも」

 

「いいとは思いますが、きりがありませんね。そもそも、私達だけで決めていい問題かどうか…」

 

「決定権は若にある…とは言え、確かに他の人に意見を募るのも重要だし…」

 

 

 あんまり硬く考えてもいかんな。急ぎの問題って訳でもないし、今のところはたたき台だけ考えて、それで皆に聞いてみないか?

 

 

「それがいいわね。流石に『名前が格好悪いから抜けます』って子は出ないと思うけど」

 

「それやるくらいなら、改名を阻止しようとするでしょう、常識的に考えて」

 

「それじゃ、ちょっと頭を柔らかくする為に、いつもの遊び……は色事に考えが寄ってしまうので……これでどうでしょう?」

 

 

 神夜が何処からともなく取り出して見せたのは、えらく大きな酒樽だった。何処に持っていたという疑問に対しては、ハンターと大樽爆弾に対してもその疑問を持てるのかと返させてもらう。

 そして表面には『桜』と書かれた和紙。

 

 

「…酒樽?」

 

「しかも滅多にお目にかかれない上物と見たけど…どこからこんなの持ってきたのよ」

 

「先日、稽古仲間の里のモノノフさんと賭けをして勝ちまして。『樽一つ分』が取り分だったのですが、折角勝ったのだからと、ごっそりいただいてきました」

 

「ちょっ…それ恨まれてないかしら? 樽って普通、もっとこう…少なくともすぐに用意できる樽なんて、そんな大きな物じゃないわよ」

 

「こっちもそれ相応の物を賭けての結果ですから。まぁ恨みがましい目はされましたけど」

 

 

 充分に怨恨の元になっている気がするが、貰ってきてしまったものは仕方ない。正式に賭けて手に入れた物を返して来いと言うのも道理に合わない。

 今日の執務は一通り終わってるし、有事の際の当番も戦力・気力共に申し分ない。酔っぱらってしまっても構わないだろう、とアサギまでもが結論付けた。

 

 

 

 

 そして。

 

 

 

 

 

 夜。具体的には夕食の後。

 予想以上の美酒に、ついつい樽を空にしてしまったが、それはいい。

 意識や記憶が怪しくなっているが、全員起きている。揉め事や襲撃も発生しなかった。

 珍しい事に、本当にエロい事にも突入しなかった。下ネタは話に出たが。

 

 問題は、コレだ。

 4人は部屋の壁に貼り付けられている、数枚の紙に目が釘付けになっている。

 それはアサギが持ち込んだ問題に対する回答。つまりは新たな隊の名前案だ。

 

 

 

・鼻で落花生を食べる族

 

・耳で口噛み酒を造る会

 

・しっと(される)団

 

・手札遊戯で思いを伝え隊

 

・名前ェ!それは我々にとって新たな光だぁ!

 

 その他諸々…。

 

 

 これはひどい。

 ついでに、決でも取ったのか、それぞれの横に正の字でカウントが書いてある。ただし、どう見てもここに居る人数より多い。一人複数票だとしても計算が合わない。

 ……記憶や意識は怪しくなっていたが、途絶えてはいない。いなかった、筈だ。

 

 

「…誰かこれに賛成した覚えのある人…」

 

「「「……………」」」

 

「じゃ、じゃあこれを提案したような気がする人は…?」

 

「「「…………………………」」」

  

 

 

 ……夏(作中時間)の夜長の、ミステリー…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一晩あけて、まぁ折角話し合ったんだから、と言う事で……一番マシと思われる名前に決まった。

 

 

 

 結論!

 らぶらびっつ団! テーマソングまで書き込まれてたぞ!

 

 

 

 なお、受け入れられるかどうかは定かではない。

 

 



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594話

 

SIDE きらら

 

 きららは少々ご機嫌斜めだった。

 朝一番は、遠足に行く小学生よろしく日が昇るのを待ちきれないとばかりに跳ね起きたと言うのに、昼を過ぎるくらいには急転直下して不機嫌に、オヤツの時間が迫る今では頬を膨らませて不機嫌さを伝える程度には持ち直していた。

 だが、きららが遺憾の意を示していると言うのに、同行者二人…特に意中の男は全く意に介さない。無視されているのではないかと、怒りを通り越して不安になってくるくらいだ。

 時折声をかけられるし、機嫌をとろうとするかのように手を握られたり、尻を撫でられたりするから、全く気付いてない訳ではないだろうが。…尻を撫でるのがご機嫌取りになっているのは今更だ。起きたばかりの頃とはつくづく変わるものである。

 

 

(全く、あんな思わせぶりな事言って…。こっちは昨晩の『お祭り』にも参加せずに体調を整えてたって言うのに!)

 

 

 内心ではやはり、苛立ちが募る。

 事の起こりは昨日の事。一日のやるべき事を全て終え、蛇子や紅と一緒にお喋りに興じていたところ、『彼』から声をかけられたのだ。

 「重要な用事があるから、明日一日付き合ってくれ」と」。

 

 流石にそれで即「嫁入り! 結婚! 輿入れ!」という発想にまでは飛ばなかったものの、それに近い妄想はした。「告白!」とならなかったのは、既にお互い好意を伝えあっているからだ。尤も、彼の好意はきららだけに向けられたものではないのが引っ掛かるが。

 一緒にいた二人が騒ぎたてた事もあり、気恥ずかしくなって自室に引っ込んだ。

 そして来るべき決戦(?)に向けて、髪の手入れに服・下着選び、大浴場で徹底的にお肌の手入れ、隈とかつくらない為に夜伽の参加券を蛇子(紅とじゃんけんして勝った)に譲って疼く体を抑え込んで熟睡してきたのだ。

 

 だと言うのに、大事な用事とやらは楽しい事でも色っぽい事でも、おまけに二人きりでの事ですらなく。

 集合場所についてみれば、彼と一緒に、よりにもよって博士が居る始末。

 

 どういう事かと詰め寄るも、「用事の内容なら、昨日説明した筈だが」と平然と返される始末。…全く覚えていなかった。覚えていなかったが、蛇子と紅が「これ聞いてなかったみたいだけど、どうする?」「まぁ、伽の参加権をくれると言い出したのは本人だし…」みたいな顔をしていた事を思い出した。帰ったら〆ると決意する。

 きららは博士が苦手、と言うよりは嫌いだった。元々あまり接点があった訳ではないが、傍若無人な態度と行動に、やたらとでかい態度と口利き、何を考えているのかサッパリ分からない上に、普段から意味不明な怪しげな研究に没頭している。

 それこそ、博士が以前に暮らしていた場所で『魔女』と呼ばれていた事を知った時など、心の底から納得してしまったものだ。

 

 「彼」から一目以上置かれている事も、苦手意識の理由の一つだ。特に、頭脳面では遠く及ばないという自覚があるから。

 

 そしてその苦手な博士と共に出掛ける先は、よりにもよって「舟』。きららがかつて封じられていた場所であり、記憶にはないが多くの仲間が未だに眠る場所。

 ……そしてかつて自分が迫害されていたらしき場所でもある。

 事実、何があったのかは未だに全く思い出せないが、この舟の中に居ると物凄く嫌な気分になってくる。

 

 それでも、この舟に残る仲間達を見捨てる事はしない、いつか開放する決意が変わる事は無い。

 例えかつて、自分を迫害した連中だとしても。…いや、だからこそ見捨てない。

 利己の為だけに、根拠のない恨みの為に誰かを見捨ててしまえば、自分が心底嫌った「何か」と同じになってしまう気がするから。

 

 

(…だけどさぁ、何だってこんな所にわざわざ来てる訳? しかもあいつ、女ばっかりじろじろ見てるし…。私の方が! おっきいでしょ! 形だって負けてないし! 開発されてるから感度もいいし! しかもあんたの好きにできるでしょ!)

 

 

 なお、好きにできるのは彼だけではない。きららは総受けな立場に居る故、迫られるのにヨワヨワなのである。

 

 透明な筒に封じられている女をしげしげと見ている彼を睨みつける。

 きららから見ても結構なモノをお持ちの女だ。大きさでは負けてないが、バランス的にはちょっと危機感を覚える。

 むきーっ!と内心でハンケチーフを噛んで引き千切って意味もなく氷漬けにした。もしもこれをアサギが見たら、「内心だけで済ませるようになるなんて…!」とどこか間違った感激の涙を流しただろう。

 

 なお、無いに等しい名誉の為に追記しておくが、彼は女の体ばかりを見ていた訳ではない。

 封じられている男性の様子も、同じくらいの時間をかけて観察していた。きららが『女の胸ばかり見てる』と感じるのは、気に入らない事が強く印象に残っている為と、それ以上に『こいつならそうするわね』という先入観によるものだ。つまり自業自得。

 …ただ、眺めている時間は同等でも、観察眼の鋭さは男を見ている時が1とすると、女を見ている時は10くらいである。

 

 

 

 内心で荒れ狂っているきららを知ってか知らずか、残りの二人は筒の中に居る者達を見ながら話し込んでいた。

 

 

「…やっぱり見覚えのある子が何人か居る。名前まで分かったが…この子は、そう……紫水だ。タマフリはスタン……もとい、「操」の強化型。生み出した強力な式神を自在に操作し、また自分の生命力すら活用する。合ってる?」

 

「ああ。資料にあった名前や特徴と一致した。多少は予測していたが…改めて調べると、酷い物だな」

 

「そうだな…。ある種の必然と言うべきか、クサレイヅチのせいと言う事にしておくべきか…」

 

 

 博士がチラリときららに目をやる。何か文句あるのかと、きららは威嚇するように睨みつけるが、まるで意に介さない。こういう所がムカつくのだ。

 でもムカつくよりもちょびっと寂しくなったので、相手をしてくれる方の袖を引っ張る。

 

 

「ちょっと、さっきから何の話してるのよ。そもそも何で私をここに連れてきた訳?」

 

「ん…きららを護衛に選んだ理由は、ここに良くも悪くも縁があるから…かな。勿論個人的に(良い方にも悪い方にも)信頼もしてるが、言っちゃなんだけどそれは他の皆も同じだし。…きららは、ここの皆を助けたいんだろう? なら、気にならないか? 記憶がないとは言え、自分がどうして杜撰な扱いをされていたのか」

 

「それは…あんまり気にならない……けど、助けた後の事を考えると、それじゃ駄目なのよね…」

 

 

 ほう、と博士が意外な物を見た目をする。

 目覚めたばかりのきららであれば、後先考えずにいたかもしれないが、ここ暫くの生活で色々学んでいる。これで意外と、地頭は悪くないのだ。悪くないだけなのが欠点だが。

 

 かつての自分が、意味もなくぞんざいに扱われていたのだとは思わない。人間、差別やイジメの理由なんて何でもいいものだが、そこには何かしらの切っ掛けがある。建前でしかないものであっても。

 自分がそうなった理由が何だったのか、全く分からないが…同じ事が、解放した人間で起きたらどうするのか。

 

 この世界は、きららが知っていた(記憶は無いが、知識としてあった)世界とは様変わりしている。世界の殆どが異界に沈み、モノノフは歴史の陰に隠れる事を止め、鬼が闊歩し、人々は今にも途切れてしまいそうな希望の糸を、必死に紡ぎ続けて生きている。

 こんな状況で、かつての世界と同じように行動していたら、どんな事になるか。少なくとも、目覚めたばかりの自分がやりそうな事を考えてみれば、前向きな想像は全くできなかった。そしてその余波を被るのは、自分達だけではない。

 

 何があったのか、知らなければならない。最低限、ここに眠る者達がどのような考えで行動していたのか知り、対策を立てなければならない。

 …と分かっていても、それ以上どうすればいいのかがサッパリ分からないのだが。

 

「で、何? ここを見に来て、何か分かる事があるの? 今までだって、何度か調査に来てたじゃない。成果が上がったって話は聞いてないけど」

 

「失敬な。成果が上がっていたから、ここに何度も来ていたのだ。貴様らに知らせていなかったのは、説明したところで理解できる筈もないからだ。この舟の技術を解析して得た、動力の活用技術や保存技術を逐一聞かされたいか?」

 

「う…」

 

 

 この際聞くのは構わないとしても、博士自身に理解させるつもりがあるのかが疑わしい。知りたければ自分で勝手に調べろ、私の時間を浪費させるな…と言いそうだ。

 

 

「ま、今回きたのは、新しい手掛かりが見つかったからなんだけどな。手掛かりって言うのもちょっと違うが、別視点から考えてみようって事で。大当たりだったみたいだぜ。きららの前でこう言うのもなんだが…こりゃ酷いわ。きらら一人が疎外されるだけで済んでたのって、奇跡だぞ。発覚してないだけで、似たような事は沢山あっただろうが…」

 

「…私の前でそれを言うの、という感想は、記憶や実感が少ないからいいんだけど……そんなに?」

 

「内乱と言うか限られた空間内で殺し合いになってないのが不思議で堪らんくらいにはな」

 

「ええぇ…」

 

 

 博士の証言に反発するのも忘れ、ドン引きする。

 彼は女の入った管を撫でながら…確か、さっき言っていた『紫水』だったか…遠い目をして語る。

 

 

「根っこはいい奴と言うか、気丈な奴が多いから。極限状態まで追い込まれても、そうそう屈する事は無いよ。だからこそ、鬱憤が貯め込まれるのが怖いってのはあるが…」

 

「随分と、よく知ってるみたいに言うわね」

 

「ああ、知っている。…思い出したんだ」

 

「…は? 女の事を忘れてたの? あんたが?」

 

「記憶を奪われてたんだから仕方ないだろ。…クサレイヅチが…」

 

 

 チリチリと殺気が漏れ出す。やばい部分に踏み込んだ、と察したが、幸いな事にそれ以上は爆発しなかった。

 大きく息を吐いて、呼吸を整える。

 

 

「話を戻すが…例えばこの子は、元々舟に乗っていた子じゃない。いや、この子だけじゃない。ここで封じられている人達の7割以上がそうだ」

 

「? どういう事よ、この遺跡って確か、特別な鬼を倒す為に討伐隊を乗せて…えーと、なんか普通じゃない空間を進んでいた舟なんでしょ? 何でそこに部外者が乗ってる訳?」

 

「自らの意思で乗り込んだのか、何らかの理由で巻き込まれたのか…。その辺はお前が記憶を取り戻した方が正確に分かるだろうさ」

 

 

 そう言われても、思い出せないものは思い出せない。

 

 

「ま、ある種の必然かな。この舟は、トキワノオロチを追っていた。だが強力な鬼だ、簡単に討伐できる筈がない。追いついて戦う事ができたとしても、被害は出ただろう。そうなると考えるのは、戦力の補充だ。舟の中で人を増やす事ができないなら、何処かから連れてくるしかない」

 

「そうだな、トキワノオロチを追った先で辿り着いた、見ず知らずの土地でな。奴らは時空を移動するから、何千年前の世界に連れていかれる事さえあったろう。その先に居るのは、風習も違う、考え方も違う、言葉が通じるかすら怪しい。全くの異民族。友好的な関係を築けるかどうかは、試してみる気にはならないな」

 

 

 相手からの視点で考えると特に、と博士は付け足した。

 それを聞いて、きららは考える。例えば自分がモノノフではなく一般人で、鬼についても何も知らない。そんな中、突如現れる巨体の怪物と、それを追って来たという鉄とも違う金属でできた塊、そこから現れる人々。

 こうして考えると、あらゆる意味で怪しいことこの上ない。自分だって、仲良くできるかと言われると腰が引けるだろう。

 

 

「仮に友好的な関係を築けたとしても、人間ってのは自分の生活で手いっぱいなもんだ。追い払って、戻ってくるかどうかも分からない脅威を討伐する為に一緒に来てくれ…なんて言われて、ほいほいついて行ける奴なんかそう居ない。…例えば、元居た場所で居場所が無くて、何でもいいから何処かへ行ってしまいたいって奴くらいだな」

 

「…随分と、詳しいじゃない。その子だけじゃないの?」

 

 

 紫水の入った管を撫で続けるだけでなく、懐かしい物でも見るように、他の管も眺めている。

 

 

「ああ…ある種の必然、かな。俺はクサレイヅチに付き纏われて、俺自身も奴を追っている。つまり、俺が立ち寄った場所ってのはクサレイヅチが居た場所だ。で、クサレイヅチはトキワノオロチと強い結びつきがある。これまでにも、ちょくちょく合流しようとしてたんだろうさ。…そして、俺が居なくなった時に訪れて、『舟』もやってきて…」

 

 

 大きく溜息を吐いた。

 そこから先は想像に難くない。彼を追いかけようとしたか、それとも彼が居なくなった欠落を何らかの形で埋めようとしたのか、或いは単純に戦いに巻き込まれてしまったのか。

 

 まるで呪いのようだ。彼の事だから、何処に居ても何をしていても、何か大きな揉め事に巻き込まれていたのは間違いない。

 それを現地の人と仲良くなりながら解決し、円満に分かれたと思ったら、毎度毎度後からトキワノオロチという更に大きな戦がやってくる。彼の知らない所で。

 そして、そこで縁があった人物を連れ去るようにして消えていく舟。

 

 

「乗り込んだ奴の意図がどうであれ、舟の中は無茶苦茶になるな。見知らぬ者、食い違う考え方、未知の風習、噛み合わない実力や戦い方。記録を見る限り、指揮官と言える立場に居た者は早々に戦死したようだ。むしろ、元々舟に乗っていた…つまりトキワノオロチを討伐するという意思統一された面子は殆ど消えて、指揮系統すら確立されていない。どんな出来た人間が居たとしても、これで派閥も作らず隊を纏めろと言うのは無理な話だ」

 

「モノノフは時代によって、考え方や隊の制度もまちまちだからな…。正式な訓練を受けていない人も居るし、タマフリの使い方を覚えただけで前線に放り込まれる事だってある。上からの命令、ってだけで私情を押し殺せる奴なんて殆ど居ない」

 

「そうでなくても、問題児の寄せ集めのようだがな。時空を超える鬼討伐なんて得体の知れない旅に同行しょうとする奴らだ。元の居場所に馴染めなかったか、爪弾きにされていた奴らが殆どだろうよ。少なくとも、まともに生活を送れている奴がこの舟に自分から乗り込む理由は無い」

 

「よ、要するに……一言で言うと……呉越同舟…?」

 

 

 …きららの結論に、二人は本気で驚いた。見事に要約されていたからだ。どれだけ頭が弱いと思われているのか、きららはちょっと傷ついた。

 

 

「まぁ、何だかんだ言ったが、そういう事だ。引っ張っておいてなんだが、きららが迫害された具体的な理由は分からん。ただ、誰がそうなってもおかしくない環境だったって事が分かっただけだ。…後は、男女問わず知ってる奴が多いから、一人ずつなら何とかなるんじゃないか、って事くらいかな」

 

「記憶が残っていれば、の前提だがな。封じられたから記憶が消えたのか、それとも例の『繰り返し』でなかった事になっているのか、何とも言えん」

 

「ぬぅぅ…また何だかよく分からない話になってる…」

 

 

 彼からは生暖かい視線を貰えた。博士からは視線一つ貰えなくなった。

 彼はもう一度紫水や他の女達に視線を戻し、少し眺めてから口を開いた。

 

 

「…多分、無かった事になってるだろうな。解放されて、記憶を失ってなかったとしても、俺の事は知らないだろう」

 

「ほう? 何故わかる」

 

「俺の知らない傷跡が沢山ある。傷跡の特徴から、何を相手にして受けた傷なのかは大体わかるが…中にはそうそう現れない奴も居る。一緒に居た時に共闘したんだが、その時にはあんな傷は受けなかった筈だ」

 

「根拠にするには弱いな。珍しい鬼と言っても、生涯に二度遭遇しないとは限らん。こんな、時空を超えて移動する舟に乗っているなら尚更な」

 

「もう一個、明確な根拠があるぞ。みんな、俺がつけた傷が残ってない」

 

「…貴様がつけた傷?」

 

 

 

 

 

 

「ん。女になった時に受ける傷な。つまり、処女膜が残ってる」

 

 

 

 やっぱりそういう関係かと、話の内容はよく分からなかったが、とりあえずきららは必殺技・凍奔征走を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 



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595話

 

 

ちょっと日付が飛んで、

黄昏月肆拾日目

 

 

 ホロウに戦力外通告されてから、約一週間の日が流れた。

 最初こそ悩んだものの、幸いにも初日に解決方法が見つかった為、後はそれをずっと実践していた。解決方法と言ってもホロウを説得できる材料と言う事ではなく、接近禁止令を出し抜く方法が見つかった、と言うだけだ。しくじったらその後のホロウとの関係が一層危険な物になりかねないが、俺の勘はここが勝負所だと囁いている。

 

 実際の所、俺もいつまでこうやって人間(…ハンターって人間だっけ…)をやっていられるか分からない。

 俺は因果について論じられるほど詳しくも頭が良くもないが、世界の中で一個の生物として真っ当に生きるのに、どうやっても必要不可欠な存在だと言う事は予想が付く。それをホイホイと取り上げられたりくっつけられたりして、正気を保っていられるだろうか。

 クサレイヅチ自体、俺と同じように因果を奪われたり取り込んだりを繰り返した元人間って仮説まで立てているのだ。俺が同じ事にならない保証はどこにもない。

 正直、まだまだ余裕があると思っていたんだがな…。想像以上のループを繰り返している事が明らかになったのだ。残り回数なんぞ分かったものではない。

 まぁ、逆に言えばまだまだ猶予がある可能性だってあるんですけどね。俺もそろそろ奴の顔は見飽きたし、何より千歳やうちの子達を解放してあげたい。この好機に全力ブッパする所存です。

 

 

 あと何回繰り返せるかの問題はともかくとして、この数日間何をやっていたかと言いますと、ただ只管に盛っていました。

 そこ、いつもの事じゃんって言わない。いつもは愉しむ為に盛ってるんだけど、今回のはちゃんとした目的意識があって盛っていたんだからな。楽しんだけど。

 

 元々、オカルト版真言立川流という技術は(俺はエロの為に身に付けたけど)互いのエネルギーを交換しあい、増幅する事を目的として創設された技術だ。……少なくとも、建前はその筈だ。初めて読んだ指南書に書いてあったのを、今でもはっきりと覚えている。

 で、俺はそれを丁寧に丁寧に、ずっとヤり続けていたのだ。

 相手を気持ちよく、そして興奮させた方が効率は良くなるので、結局はもっとエロくもっとエロくと繰り返していったわけだが、結果は変わらないのでどうでもいいだろう。

 

 これによって得られた結果は、霊力、ひいては魂の増強。魂と霊力は別物で色々とややこしい関係があるんだが、そこら辺は省く。これらを直接強化できるのが、オカルト版真言立川流の真骨頂だな。

 何で今更そんな事をしたかと言うと、ぶっちゃけホロウに食わせる為だな。

 あいつの魂喰らいの機能は、燃料とする魂が強く大きければ、それだけ強い力を発揮できるらしい。どうせ喰われるなら、徹底的に強化して、クサレイヅチとトキワノオロチを一蹴できるくらいの力を発揮してほしい。

 

 

 そんな訳で、その辺の事情を理解したうちの子達の協力の元、可能な限り盛り続けて、限界を超えた強化を行い、ホロウに宛がわれた家を訪ねた。。

 強化の内容を具体的に言うと。

 

 

 

「…随分と……何と言いますか、肥えましたね」

 

 

 

 一目見たホロウから、そんな言葉が出るくらい。

 一応言っておくが、物理的に太った訳じゃない。とにかく霊力を貯め込んで凝縮しまくったので、霊的視覚を持つ者から見ると……なんだ、その、饅頭? おにぎり? 小錦? 特にホロウはこれから魂を喰らう事になるので、より食い物っぽく見えてるんじゃなかろうか。

 こころなしか、ホロウの視線が極大饅頭に齧り付こうとしている時に似ている気がした。

 

 

「何のつもりですか。霊力を貯め込み増強する術があるのは知っていましたが、そこまで貯め込むと逆に戦えないでしょう」

 

 

 その通り。のんびりしていれば大丈夫だが、下手に動くと溢れ出しそうなのだ。限界を超えた強化、と称するだけあって歪な状態に仕上がっている。

 例えていうなら…マッチョがサイズの合わないシャツを着込んでる感じ? ちょっと力むと世紀末救世主よろしくあっという間に素っ裸。ただし下半身も含む。

 …どっちかと言うと、排泄をギリギリまで堪えている感じ、の方が伝わるかな。ちょっとでも気を抜くと、ズボンの中に納まりきらない大惨事が発生する。

 

 で、何のつもりかって言われれば、そりゃホロウに協力しようとしているんですが、

 強い魂を使った方が、強い力を得られるって言ったのはお前だろ。

 

 

「確かにそうですが……」

 

 

 何企んでやがる、と言わんばかりの視線を向けられた。

 まー無理もないよね。俺が居ると勝てない、と断言されたものの、それで大人しくしていると思う程、ホロウは楽観的じゃない。

 ホロウ同様、クサレイヅチを延々と追いかけてきた執念を知っているのだ。素直に諦めると思う方がどうかしている。

 

 実際の所、企むと言う程大仰な事を考えている訳ではない。

 単純に、『多少傷ついても気にならないくらい強く大きな魂になれば、ホロウに魂を齧られた後でも動けるんじゃないか』って程度の事だ。だから延々と霊力で魂を補強し続けた。要するにあれだ、安全なエイヴィヒカイト?

 とは言え、ホロウの魂喰いによるダメージがどれくらいになるか分からないし、どういう形式で魂を抜き取り、燃料とするのかは分からない。正直言って、対策としては博打もいい所だ。

 

 

 …最悪、肥え太らせたのっぺらミタマどもを身代わりにする事も考えたんだが…それも結局、俺の体を削るって事なんだよなぁ…。

 ともあれ、もしもこれが上手く行ったとしても、ホロウに察知されたら作戦失敗だ。上手く行こうが行くまいが、動けない体を装わなければならない。

 

 

 と言うか、今更聞くのもなんだが…魂喰いは今から使うのか? クサレイヅチどもが現れてからじゃなく?

 

 

「はい。まずはミタマを私の中に取り込みます。必要な時になったら、それを燃料とする二段階方式です」

 

 

 そっか。…まぁ確かに、戦いの場で都合よく取り込めるミタマが居るとも限らない。事前に取り込んでおくのが効率的なやり方だわな。

 

 

「それと、魂喰いを行う事自体初めてですが…この機能は、生きた人間からミタマを奪うのは本来の使い方ではありません。理論上は可能ですが、戦略的にも推奨されていません。推測になりますが、ミタマを抜き取られた貴方は、殆ど動けなくなると思われます」

 

 

 ああ、それは予想できた。

 その間の世話は、那木に頼んである。時間になったら迎えに来てくれるから、体はそっちに渡してくれ。

 …うちの子達には、本当の事は言うなよ。トキワノオロチ討伐に必要だから、力の殆どをホロウに預けて動けなくなる…って事にしてある。魂を燃料にする云々を伝えると、猛反対どころか下手をするとホロウに殺気が向きかねん。若の魂を返せって、闇討ちどころか真正面から来る。

 

 

「承知しました。…では、準備はいいでしょうか」

 

 

 

 …ああ、やってくれ。

 

 

 

 

 

 

 目を閉じて、床に座り込む。胡坐を組んで、手は両膝の上。目を閉じ、リラックスして呼吸を深く。瞑想に近い精神状態。

 

 

 

 

 

 

 

 ……目を閉じているのでホロウが何をしているのか見えないが、奇妙な感覚があるので分かった。

 どうやら魂喰いを発動させているらしい。発動までに時間がかかったのは、躊躇いでもあったのだろうか。

 

 

 ……何かが触れる感覚がある。肉体的ではなく、もっと深い所に。霊力とは違う。のっぺら共に触れられるのとも、また違う。

 オカルト版真言立川流を使っている時、似たような感覚を感じるな。これが魂に触れられる、と言う事なんだろうか。

 

 

 …この部分を、抜き取られるのか。

 思っていたより、怖くも痛くもないもんだな。ある意味、死ぬような物だと言うのに。まぁ、何度もデスワープを経験しているからかもしれないが。

 

 

 

 …意識も意外とはっきりしてる。

 

 

 

 

 

 

 魂のより深い場所に、何かが絡みついて来る。痛みは無いが、くすぐったい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 引っ張られる。くすぐったい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      引っ張られる

 

 

            くすぐったい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            引っ張られる

 

                  ばらんすがくるう

 

 

 

 

 

 

引っ張られる

くすぐったい

 

 

 

引っ張られるばらんすがくるう

 

 

引っ張られるくすぐったい

 

引っ張られるくすぐったい

引っ張られるくすぐったい

 

 

 

 

 

引っ張られ…………

 

 

 

 

 

 

 

 すいませーん、ホロウさん? まーだ時間かかりそうすかねぇ?

 何ていうか、神経を直接コショコショと撫で回されているような感覚が続くだけで、魂取られてる感じがしないんですが? なんつーか、くしゃみが出そうで出ない感覚が全身に広がってるって言うか…。

 

 

 片目を開けてホロウの様子を見る。ひょっとしたら、もう魂を抜き取られてるんじゃないか…と思ってたんだが、そんな事は全く無かったようだ。体は相変わらず座ったまま、視点も空中に移ったりしてない、やろうと思えば手足も動かせる。

 どういう事だとホロウの様子を見てみると、ホロウ自身も困惑しているようだった。

 

 

 

「…おかしい。魂喰いが発動しません」

 

 

 発動しないぃ?

 おいおいおい、そりゃどういう事だよ。これでも結構悩んで、覚悟決めて来たんだぞ。

 魂喰いは、トキワノオロチとクサレイヅチ討伐の戦略の鍵だ。それが発動しないんじゃ、前提からひっくり返ってしまうじゃないか。

 一体どうした、故障でもしてるのか。

 

 

「…いえ、各種機能は正常に働いています」

 

 

 働いてないやないかい。クサレイヅチ探知機だって、上手く動いてなかったじゃないか。

 

 

「あれは故障ではなく、複数のイヅチカナタを感知していた為と判明したではありませんか。前例がない事態だったので、故障と誤認していただけです。魂喰いも、稼働している感覚はあります。あなたのミタマに機能が接触し、抜き取ろうとしています。ですが、抜き取れません」

 

 

 確かに、魂に何かが接触してきている感覚があるが…。

 …単純に、強化しすぎたとか? ミタマの容量が大きくなりすぎて、重さと大きさが許容量を超えて引っこ抜けなくなったとか。

 

 

「それも考えにくいです。本来であれば私の中にミタマが吸収されていきますが、許容量を超えているのだとしたら既に私の中は限界まで満たされている筈」

 

 

 …齧られて一部を引っこ抜かれる、って感覚も無いな…。なんつーか、本当に魂を引っこ抜こうとしているのか怪しいくらいだ。

 できる限り力を抜いて、無意識の抵抗もしてない状態…のつもりだ。その状態で全く干渉できてない状態…。

 吸引能力が低下している?

 

 

 

 と言うかホロウ、魂喰いが出来ないなら、その機能止めてくれんか。

 さっきから全身がむず痒いと言うか、魂がくしゃみをしそうと言うか……………へ、

 

 

 

 

 

 

 

 ヘェッキシ!!!!

 

 

 

「あっ」

 

 

 

 あっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突になんだが、今の俺はダムみたいなものだ。

 限界を超えた強化、過剰なまでに霊力を貯め込み、それをちょっとばかり強引に術式で押し留めている。ギッチギチに詰め込んで、強引にガムテープやビニール紐で包装した段ボール箱に似ている。

 しかも、中身をちゃんと整理して入れたのではなく、力で強引に詰め込んだ段ボール箱だ。

 そして梱包しているその紐は、二重三重にしているとは言えあまりにもか弱い。

 

 そんな状態で…おかしな言い方になるが、『中身』が飛び跳ねたらどうなるか。

 

 

 

 

 無論、弾け飛ぶ。パァーンと逝く。中身が飛び出す勢いで吐き散らかされる。

 

 

 

 

 

 

 

 ただし、中身は指向性の無いエネルギーの濁流とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

バコォン「旦那様!?」「ちょっ!?」「あっ、俺の傑作が!」「なんだぁ!?」「キャー覗き…あれ、誰も居ない」「あら、夜這いならぬ昼這い……もう行ってしまわれるなんて、つれないお方」

 

 

 ホロウの部屋の壁を蹴り破って、ちょうどやって来た那木が驚くのを尻目に、里を駆け抜けました。

 人家をぶち抜いて、たたらさんが打っていた武器を足蹴にして、息吹の目前を横切り、禊中だったお嬢さんからは紳士的に目だけ背け、橘花の部屋を素通りして…。

 

 それはもう、アラガミ化しての鬼疾風よりも速く突っ走った。合言葉はラディカルグッドスピード!

 …極限まで強化すれば、人の身でアラガミのスペックを超える事もできるんだな…。いい勉強になったよ。

 

 

 

 

 

 

 その代償として、里の裏山の更に裏が盆地になったけどな。

 ギリギリまで抑え込んだものの、そこまでしか移動できなかった。無意識に咆哮をあげながら爆発するその様、まるでベジータのファイナルエクスプロージョンの如し。

 

 

 

 

 

 …元々、強引に圧力をかけて霊力を安定させてたからね。そこにホロウの魂喰いでコショコショされて、バランスを崩した挙句に、くしゃみ一つで最後の綱が切れてしまった。

 このままでは爆発する(比喩抜き)と、咄嗟に色々ぶっ壊しながら被害の及ばない所まで突っ走ったのである。

 

 

 

 

 

 

 なのに、大和のお頭のみならず、那木やたたらさんやうちの子達からメッチャ説教受けました。

 そりゃ、勝手にホロウ共々、怪しい術で戦力強化を目論んで失敗した挙句、地形を変えるくらいの大爆発を引き起こし、俺自身も自爆を受けたヤムチャみたいな状態になったが……そこまで怒られるとか、解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 



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596話

 

 

黄昏月肆拾壱日目

 

 半日くらい寝込んだ。無理な霊力運用に加え、自爆と言う形で生命力ごと吹っ飛ばしちゃったからね。いくら俺でも、体内から超エネルギーで蹂躙されれば重症にもなる。

 もう回復したけどね。

 夜まで安静にして気脈を整えて、そこから先はいつも通りのオカルト版真言立川流で生命力を活性化、ちょっと強引に体を修復した。

 流石に自分で動くのはきつかったので、今日は皆に騎乗位で頑張ってもらいました。自力で殆ど動けない状態なのをいい事に、焦らしプレイから授乳手コキまで好き勝手にされたが、興奮や快楽に繋がっているので実益にもなっている。

 …まぁ、みんなして普段はやられっぱなしなのだからと、主導権を握れる状況を楽しんでいたのは否定できないと思う。

 

 ともあれ、一晩使って回復に努め、なんとか戦闘に支障がない程度には回復した。今でも粗方問題は無いが、あと一晩アラガミ化して過ごせば、完全に自然回復できるだろう。

 もしもその間にクサレイヅチどもが接敵してくるようなら……うん、もうちょっと腰振ってから出撃になるかな。

 

 

 …そして今、その回復よりも優先させている事がある。ホロウとの話だ。

 うちの子達のホロウに対する視線は、率直に言って好意的なものとはかけ離れてしまっている。

 何か失敗した時、俺に矛先が向かない弊害だな…。簡単に言えば、『うちの頭領が大怪我したのは、お前がしくじったせいじゃないか?』って疑惑が集中している訳だ。

 ある意味間違ってはいないかな。魂喰いが上手く作動しなかった訳だし。例え上手く作動していても、十中八九俺は動けなくなっていた可能性が高いんだが。

 

 医師として目を離す訳にはいかないと主張する那木を、内密にしなければならない話だと説得して部屋の外で待機してもらい、ホロウと話を進める。

 

 それで、結局魂喰いが稼働しなかった原因は分かったのか?

 

 

「いいえ。あの後、異界を巡って鬼を倒し、見つけたミタマで試しましたが、同様に取り込む事さえ出来ませんでした。あなたの魂の問題ではなく、私の機能に問題があると思われます」

 

 

 魂喰いは、考えていた戦略の要だ。使用できないとなると、前提がひっくり返っちまう。

 自分で言うのも何だが、奴らと戦うのに俺はきっと必要になる。例え、クサレイヅチを仕留められないって因果を強める事になるとしてもな。

 

 

「はい、その通りです。ですが、魂喰いによる力を発揮できれば、あなたが参戦不可になる事と引き換えに、私が相応の力を振るう事が出来る筈でした。イヅチカナタとの負の因果を遠ざけ、人数は減るものの強力な戦力を得る」

 

 

 そうだな。それに同意したから、俺は限界まで霊力を貯め込んで、より強力な『燃料』になろうとしていた。(実際には、ミタマを齧られても動けるようになろうとしていただけだが)

 しかしこうなると、そうも言っていられない。魂喰いができないのなら、やはり俺も前線に立つ。

 

 

「いいえ。私の不手際で前提がひっくり返されて申し訳ありませんが、それは認められません。あなたが居れば、確実に負けます。トキワノオロチに勝てるとしても、イヅチカナタを取り逃がす事になります」

 

 

 …それも、まぁ、事実ではあるか。

 だったらどうするよ? 自分で言うのも何だが、俺級の戦力を今から見つけ出してくるのは難行ってものじゃないぞ。不可能に近い。

 となると、俺を戦力投入して、どうにかして因果をひっくり返した方がまだ目があると思うんだが…。

 

 

「…わたしとしては、何とか魂喰らいを発動させたいと思っています」

 

 

 何故そこまで魂喰らいに拘る? 強力な機能なのは確かなんだろうが、拘るべき力でもないだろう。むしろ、使わなくていいならそれに越したことはない種類の力だ。

 稼働させられないならそこで割り切って、別の手法を探せばいい。動かない原因を探るのに使う労力を、別の部分に次ぎ込むべきだ。

 

 

「理由はいくつかありますが、まず代替えに出来る手段があったとして、確実性や効力が見込めるとは思えません。魂喰いに匹敵する程の力を得る方法がそうそうあるとも思えない。次に、単純に私の体・機能に異常があるのであれば、解明しておきたいのです」

 

 

 確かに、自分の体に不調が潜んでいるんじゃないか、って不安はな…。

 でもそれを言ったら俺の体なんてマジで訳が分からんのですが。いや比較の問題じゃないって事もよく分かるけども。

 

 

「更にはっきりと言わせてもらいますが、あなたが余計な事をできないよう、行動不能にしておきたいとも考えています。言葉や理屈で説得しようと、あなたの執念が鎮まるとは思えません。必ずあなたは、その場に駆け付けようとするでしょう。……更に言うなら、そうやって霊力を貯め込んできたのも、その為の布石を作ろうとしているのだと見ましたが」

 

 

 ぐっ……。

 ま、まぁ、多少はな…。(見抜いてたか…)

 具体的にどうこうは考えてないが…。

 

 

 

「それと…」

 

 

 ん? それと?

 

 

 

「魂喰いと言うくらいですし、味はどんなものなのか気になりまして」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヲヰ、ソレガホンネジャアルマヒナ。

 

 

「…比喩表現です。私も魂喰らいを使うのは初めての事ですから。使った時、どのような状態になるのか検証しておく必要があります。その点、あなたは最適な相手と言えるでしょう。仮にまたイヅチカナタに敗北して逃げられたとしても、貴方の中に情報は残ります。次に私と会った時に、その情報を伝えればいい」

 

 

 情報として残るったって、因果を奪われて忘れ去るかもしれんやないかい。

 

 

「ついては、この件について一つ聞きたい事があります。あなたは自分に対して暗示をかける事ができると聞きました。それはどれ程強力な物ですか?」

 

 

 

 ん? 何だ、藪から棒に…。

 どれくらい、って言われてもな…。物によるけど、結構強力だと思うぞ。何せハンターの技だしな。

 自己暗示によって普段使ってない力を引き出すとか、ハンター式睡眠法だって瞑想と暗示の合わせ技みたいなもんだし。

 まぁ、割と強力な方じゃないか?

 

 

「………成程。自己暗示を繰り返し使っていると、徐々に暗示にかかりやすくなる体質になると聞きますが」

 

 

 人間は良くも悪くも学習するらかね。充分有り得る話だ。

 何だ、俺に暗示をかけるのか。どんなのを?

 

 

「あなたがイヅチカナタに近付かないよう、対策を打ちます。先程も言いましたが、大人しくしているとはとても思えませんので」

 

 

 疑い深い奴だなぁ。無理もないけど。

 

 …いや待てよ? 対策を立てるのはおかしくないが、それが暗示っておかしくないか? 確かに『そういう事をさせないように考えを誘導する』ができるなら効果的だと思うが、不確定要素が多すぎる。ホロウがそんな物を当てにするかな。

 他に手がないから仕方なく、って事も考えられるが……こいつ、他に何か企んでるんじゃなかろうか。

 

 

 

「もう一つ聞きますが、あなたは性交を行う事で、相手の体の詳細を調べる事が出来ると聞きましたが、事実ですか?」

 

 

 うん、それは普通にできるね。霊力を通して体内の反応を見るとか、単純に体の反応で神経とかがどうなっているのか推察するとか。

 邪法に近いやり方になるが、魂まで触れる事も出来るぞ。

 

 

「それは、人間ではない相手とも可能でしょうか」

 

 

 …何と性交させようとしてるのか知らないが……まぁ、可能…だな。(かつての夢の世界で、モン娘相手にも十分通用したし)

 とは言え、相手次第でできる事できない事は変わってくるぞ。構造や大きさが人間に近ければ近い程、出来る事は増える傾向にある。

 

 

「では、私のような人造人間でも可能と言う事ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 …は?

 

 

 

「私の構造は、人とは違いますが、大きさや外見は概ね同じです。あなたに診察を依頼します」

 

 

 …は?

 診察って何の為…ああ、魂喰いが使えない理由を特定しろって事か。

 …できる…とは思うが、そもそもホロウの体の構造自体、把握してないからな…。微に入り細に入り、体中を執拗に弄り回す事になるぞ。ホロウの構造次第では、一回二回で終わるかも怪しい。

 

 

「構いません。後の戦闘に支障がないのであれば、多少の危害を加えられる事も想定に入れています」

 

 

 危害って…ああ、スパンキングとかか。流石に初心者相手に、いきなりソッチ系に走るつもりはないが。

 今までの症例を鑑みると、苦痛よりも「気持ちよすぎて苦しい」って場合の方が多かったぞ。いや自慢じゃなくて、文字通り。

 

 

「苦痛も快楽も同じです。…そもそも、私も今までの旅で多少の経験がありますが、そのどれも特筆するような感覚を覚えた事はありません。また、私に触れた人間も、よく分かりませんがすぐに辞めていました」

 

 

 ほーん。まぁ分かった。そういう事なら、こっちとしても特に問題がある依頼ではないし…早めに取りかかるか。

 ただ、事の前には湯浴みをして、体や衣服を清潔にしておくのが一般的な礼儀だ。

 思うに、今までの経験ではそういう事をしていなかったのが、萎えて辞める原因だったんじゃないかな。基本的にホロウが現れるのは、クサレイヅチとやり合う最中か直前、そうでなくても時代の変革期の真っただ中で衛生状況に気を使ってられる場面じゃなかっただろうし。

 

 

「…確かに、今のように快適な衣食住が保たれている状況は稀有でした。では、要望通りに清潔にしてから再度来ます」

 

 

 うん、うちの子達のも話を通しておく。少なくとも、因縁を付けられる事は無いと思うから、安心してくれ。最悪、何かあったら言ってくれればいい。

 じゃあ、また後で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …ケケケ、予想外の展開になったが、こりゃ好都合だわ。

 魂喰いに堪える為に力を貯め込んできたが、それをオカルト版真言立川流にまるごと注ぎ込んでやろう。与える霊力が強ければ、その分快感や幸福感がマシマシになっていくからな。ドロドロに溶かし尽くして、「イヅチとの闘いにくるな」なんて考えもしない程服従させてやろう。

 

 単純な欲望だけで考えても、人造人間だろうが不感症だろうが、美人が俺に抱いてくれって言ってるのに断る訳がない。むしろ断るようなら俺じゃない。

 うちの子達からは「なんであんな奴を」と不満が出るかもしれないが、そこは「わからせ」の為だとでも言っておけば納得するだろう。

 

 それにしても、ホロウが性の影響を甘く見ていて助かった。これまでの経験…と言っても、ホロウが経験したのは胸や尻を少しばかり触らせただけで、本番は無いと言っていた。

 ホロウが無反応だったり不衛生だった事で萎えた、と言うのもあるのだろうが、単純に度胸や性根の問題なんだろうな。見ず知らずの相手に協力しようって、お人好しな奴らだ。多少見返りを求めたとしても、それで女を好き勝手にするって所まで至れなかったんだろう。あからさまにヤリ捨て、約束を守る気が無い相手であれば、ホロウが察知して潰してるだろうしね。

 

 だが俺は違う! 無反応だろうが無表情だろうがヤる! ヤって堕とす!

 これまでの経験とも呼べないような経験を鼻で笑うような性感で以て蹂躙してくれるわ!

 「セックス? 大した事ないし、男なんてどうでもいいわ」とかしたり顔で語る女を、チン媚びするしか頭にないド低能メスまんこに突き落とす…。実に滾るシチュエーションではないか。

 ヒャッホー、今までそういう目で見た事ない女だったが、意識して見ると意外とそそる女やないけ。遠慮なく雌にしちゃろ。

 

 

 

 …真面目な話、クサレイヅチとやり合うのを拒否しようとするホロウを、理屈も戦略も抜きに説得できる、千載一遇の好機だからな。

 当初の予定通りに魂喰らいが発動し、俺がそれに耐えられていたとしても、ホロウに気付かれる可能性はある。最初だけ騙しぬけたとしても、いざ戦いが始まれば確実に気付く。

 そうなったら、戦いの最中に実力行使してでも俺を排除しに来る可能性がある。

 

 戦いの最中に、味方に向けて発砲する筈がない…と思うのは浅はかだ。かつては浮気がバレてしまった時の那木という前例だってある。あの因果が残っているとしたら、同様に目の前の敵を放り出してでも刺しに来る可能性は否定できない。

 それ以前に、ホロウは俺が居れば無条件に負けると考えているのだ。俺を排除せず共闘すれば、どれ程有利に事を運んだとしても最終的には取り逃がす。逆に、どれだけ味方に不利益になろうと俺を排除できれば、万分の一でもクサレイヅチを仕留める可能性は残る。だったらホロウとしては、義理も道理も戦略も放り出して、後者を取るしかないだろう。

 

 だからこそ、ヤる。ホロウが逆らわないくらいに、誰が主か徹底的に刻み付ける。

 排除しようとしてきたら、お手・お座り・イけ、だけで失禁して動けなくなるくらいに躾ける。

 

 

 ま、それはそれとして診察は真面目にするけどね。

 自分は正常な筈なのに、機能の一部が働かないって不安になるじゃろ。不確定要素や不安要素は取り除いておくに限る。

 魂食らいの原理が理解できれば俺にも応用できるかもしれないし、ホロウを躾けるのに体の構造を把握しておくに越したことはない。

 最初は真面目に調べて、分かった時点でそのまま屈服させにかかるとしよう。

 

 

 

 …うちの子達も混ぜた方がいいかな? ホロウに対して良くない印象を持っている子が多いし、きららの時と同じように全員の玩具状態にしてヘイトを取り除くか…。

 いや、辞めておくか。ホロウが警戒しそうだし、診察ともなれば一対一で丁寧にやった方がいい。隣に極上のメスが侍っていると、欲望のままに暴走してしまいそうだしな。

 

 



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597話

唐突に何ですが、13日に短編を一つ投稿しています。
ハリポタ小説で、タイトルは『スネイプ先生を幸せな胃痛枠にしてさしあげたい。 』
衝動的に書いたもので、設定もクソもありゃしませんが、暇潰しになれば幸いです。(意訳:殴らないでね)


 

 

黄昏月肆拾弐日目

 

 

 …なんかよく分かんない事になってきた。

 うん、ホロウの件だ。

 

 えーっとな、意気込んでいたんだが、昨晩だけで堕とす事はできなかった。別にホロウの抵抗力が強かったとか、俺が手緩かったとかじゃなくて、変なところから妙な事が発覚して、それどころじゃなくなってしまったのだ。

 いや……うん、そのまま続ければ、ホロウも堕として色々解決できたと思うんだが、俺だって多少なりとも先人を敬う気持ちとか、その友人が尊厳も使命も投げ捨てて即落ちするのを見せるのは忍びなかったと言うか。

 

 

 

 ちょいと整理していこうか。

 まず昨晩、ホロウは要求した通りに身嗜みを整え、俺の部屋までやってきた。男に抱かれる為の恰好としては野暮ったいとしか言いようがなく、本当に体を洗っただけ、って感じだったな。実際、ホロウにしてみれば男女の交わりではなく、診察を受けに来ただけなのだから無理もないが。

 どっちかと言うと、来るのが少し遅かったのが気になった。明確に時間を指定した訳ではないが、どうも俺の所に来る前に博士の家に寄っていたらしい。

 博士とホロウの接点は……実を言うと、そこそこある。

 博士が覚えていなくても、ホロウは俺と一緒に博士の家に住んでいた事があるし、互いが持つ技術と知識を交換しあう事もあるそうだ。

 例えば、ホロウがもう一度鬼の手を作ってもらおうとしていたり、博士は対価としてホロウを解剖させえろと迫っていたりな。

 流石に解剖とまではいかないが、分析までは許しているとかなんとか。

 

 …でもこのタイミングでの博士訪問だからな…。普通に考えて、何か企んでるだろ。精々、俺が何か企んでいた時の反撃手段程度である事を祈る。

 うちの子達に少々ガンを付けられたようだが、『分からせ』の為に呼んだと通達しておいたのが効いたのか、邪魔立てされる事は無かったようだ。

 

 

 俺の部屋で二人きり。そういや、以前にもホロウがこの部屋に入った事があったっけ。あの時は、「妙な情念を感じる部屋」って言われたっけな。

 それも納得だ。だってこの部屋、ヤリ部屋だもの。下手なラブホよりも、散々女が乱れ狂った場所だもの。そして、堕ちかけの女にトドメを刺す時に使ってる部屋だ。耐えようとしていた悦楽と、屈服により箍が外れた事による解放のカタルシスが染みついているのだ。霊力らしい霊力が無くても、感受性の鋭い人間なら部屋に入った瞬間に『何か』を感じ取るだろう。

 

 それを何処まで察しているのか分からないが、ホロウは落ち着かないようだった。

 予め準備しておいたベッドに腰かけて、柔らかいクッションを手持無沙汰に触っている。一見すると、これから行う情事に不安になったり期待しちゃったりする乙女のようだが、ホロウは考え方と感受性がホロウなので乙女ではなかった。乙女で放ったが、体は女なのでこれから雌にします。

 とは言え、堕とすのは最終目的地点であって、最初からそういう事をする訳ではない。まずは診察、次いでホロウに悦びを教え込み、なおかつ自分もねっちょりとしゃぶり尽くして、最後に屈服だ。尤も、最後の後にしおらしくなったホロウの乱れる姿を愉しませてもらうかもしれないが。

 

 

 若干緊張…というより警戒している感じもあったので、まずは誠実に。ヤる事自体は接吻や愛撫である事に変わりはないが、真面目に調べ始める。

 服を脱がし、長旅を続けてきたとは思えない白く滑らかな肌を視て、指を、唇を這わす。

 

 

 調べ始めてまず分かった事だが……ホロウは不感症のようだった。

 まぁ、無理もない。人の構造を真似て作った体と言えど、性感なんぞ鬼の討伐には不要だからな。最初は最低限でも備えられていたのかもしれんが、長い旅の間に徐々に機能しなくなっていったんだろう。体の機能ってのは、使わなきゃ劣化するからな。

 

 不感症と言えど神経も霊脈も通ってるし、反応を引き出すなんぞ朝飯前よ。

 …と思っていたのだが、この辺から誤算が出始めた。

 

 

 ホロウの体は、確かに人間に限りなく近い。外科的なものか、或いは遺伝子的なものか、手段は不明だが強化されている体。こう言っちゃなんだが、ホロウの体は『素材』が違うだけで、基本的に人間と同じと言えた。ちょこちょこブラックボックスはあるけどね。

 その中で、明らかに全く別物と成り果てている部分が一つあった。

 

 

 子宮だ。

 

 

 正確に言えば、子宮に当たる部分…かな。

 物理的に違っているだけじゃなく、霊的な構造も全く違う。何と言うか、子宮の代わりに超小型の核融合炉が仕込まれてるようなもんか。核融合炉の仕組みとか知らないから、あくまで見た感じと言うか触れた感じだけど。

 

 …ホロウとヤッたら、ここにチンコ突っ込むのかぁ…。まぁ問題ないけどさ。

 複雑な構造だろうと霊脈は通ってるから霊気を流すのは問題ない。と言う事は、内側から体を弄り回すのも、眠っている性感を目覚めさせるも感度3,000倍にするもより取り見取りだ。…もうちょっと構造を把握しないと、充分な効果は見込めないだろうけどね。

 ともあれ、魂喰らいのプロセスは見当がついた。外部から取り込んだミタマをここに閉じ込め、薪として燃やして燃料にするんだろう。完全に、鬼がミタマを捕らえて力にするのと同じ原理だな…。グロい仕掛けを作るもんだ。

 …こうして考えると、核融合炉じゃなくてピザ窯に思えてくるな、火継的に考えて。

 

 

 ここまでで、ホロウの体の事はある程度把握できた。性感を呼び起こすには、既に充分だった。

 だが、魂喰らいが発動しなかった理由はまだ分かってないし、屈服させるならやはり子宮からだろう。ここがホロウの体の要なのだし、もっとしっかりと理解しないと……と考えたのが間違いだった。いや、むしろ大当たりだったのか。

 

 

 魂喰らいの機構はひどく複雑で、知りたいのならもっと近くで、もっとよく目と知恵を凝らして触れなければならない。

 ホロウの全身に潜り込ませていた霊力(この時点で、大抵の女は腰砕けになるが、ホロウは「むず痒い」程度にしか感じてなかった)を、更に深くへと浸透させ……………『それ』に気が付いた。

 

 

 

 『何か居る』と。

 

 

 最初は訳が分からなかった。だって俺が探ろうとしていたのは子宮だぞ? そんな所に、誰がどうやって存在すると言うのか。

 

 

『私に触れられるのか。私の声が聞こえるのか?』

 

 

 …しかも、こっちからコンタクトしている事を知覚し、リアクションを返してくる…明確な知性と自我を持っていると来たもんだ。

 だが、そこは色々と非常識な事にも耐性がある俺だ。敵意は感じないし、最初こそ混乱したものの、すぐに状況の見当がついた。

 

 

 これはミタマだ。物理的な存在ではないミタマであれば、肉体の中に入り込む事も容易。所謂、憑依の一種だな。

 そして、このミタマが居るのは魂喰らいの装置の中である。

 ホロウが俺のミタマを取り込めなかった理由は、これだろう。魂を格納するべき場所に、既に他の魂が入り込んでいた。定員オーバーなのだ。押し込もうとしたって押し込めるものではない。

 いつから取り込まれているミタマなのか、どうして取り込んでいる事をホロウが自覚できなかったのかなど、色々と疑問はあったが…とりあえず、このミタマと会話する事にした。声に出す必要はない。このミタマの元にまで霊力の糸を伸ばし、それを通じて意志をやりとりする。

 

 

 まず第一に聞くべきは…。

 

 

 どちら様!?

 

 

『む、人に名前を聞く時は、まず自分が名乗るのが当たり前だぞ。そんなのじゃ友達できないぞ』

 

 

 人に対して『友達できない』なんて言うのは、当たり前とは言えないなぁ。

 

 

『それもそうか。失礼した。うん、私も久しぶりに名乗りたいし、お互いに水に流すのがいいだろう。まぁ、私はお前の名を知っているのだが』

 

 

 うん? どっかで会った事あるか?

 

 

『いいや、直接話すのは初めてだ。だが、外の事が見えるようになってきた頃から、私も色々と思い出してきたんだ。それまでは退屈で死ぬかと思ったけどな。何せ真っ暗闇で何もない』

 

 

 

 …なんか妙に情報ブッ混んできたな。

 外が見える? 魂喰らいに捕らわれた状態で、外って見えるのか。

 何も無い暗闇の中で、どれだけ過ごしたんだろうか。普通、3日と経たずに発狂するぞ。

 

 

『んんっ、話が逸れたな。私の名はオビト! お前達が言う、『始まりのモノノフ』の一人だ! 千歳からも聞いた事があるんじゃないか? ああ、今は虚海だったか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん?

 

 

 

 

 …うん?

 

 

 始まりの…モノノフ…。

 

 

 

 そのフレーズは何度か聞いた事がある。

 うん、千歳を代表に、ホロウ、虚海が該当する。…そういや、オビト…オビトって、名前にも聞き覚えがあるな…。

 

 

 あれは確か千歳と一緒だったループで…と言うか、この当人も言ってるが、始まりのモノノフの一人として、千歳から話を聞いた事があるような…。

 

 

 

『だから、そう言っているだろう。頭に入っていないようだから、もう一回言うぞ。私はオビト。今正にお前が交わろうとしているホロウと共に、鬼を討伐する為の組織・モノノフを結成した者の一人だ。私は友達を増やしていただけなんだけどな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Q.つまり、どういう事だってばよ。

 

 

 

 A.小生意気な女を貶めてやろうとおにんにんをギンギンにさせていたら、所属しているグループの超絶偉い人が『その子は私の大事な娘だ』と言いながら、何をするのか特等席で見物していました。

 

 

 

 

 

 

 ………ええぇ…。

 この流れでヤんの? 見られながらヤるのは初めてじゃないが…いや、別の男に見られながらは初めて…じゃないな、詩乃を新川某から寝取る時にもやったっけ。

 でもあの時は相手が外道だったし、詩乃も乗り気だったし…。

 

 正直言って水を差されたと言いますか……いやホロウにしてみりゃ、これは診断なんだから旧友が見ていても全く関係は無い、って感じなんだろうけども…。

 

 

『ん? どうした? ホロウの診察を続けないのか』

 

 

 …そしてこの人にとっても同じらしい。

 なんだ、この……なんだ、会社の接待とかでお偉いさんと一緒にストリップショーとか行ったら、その娘さんが出てきたのに怒りもせず、『あれは仕事である以上、何も恥じ入る事は無い。それよりもしっかり娘を鑑賞してくれたまえ』と言われているよーな…。

 

 

 

 このまま突き進んで、ホロウにチン媚アヘ顔コキ穴カキタレ化させる事も出来るだろう。しかし、その姿をモノノフの始祖に一部始終晒してしまう事になる。

 ついでに言えば、ホロウの胎の中に居座っていて、霊脈とも強い結びつきが出来ているらしいオビト…さんも、睦言を続ければオカルト版真言立川流の影響を強く受けるだろう。具体的に言えば、ホロウがヒィヒィ言ってる間にオビトさんが『んほぉ!』になってしまいかねない。

 中性的な顔と体格をしているようだが、だからと言って俺は男をアヘらせる趣味は無い。

 

 

 

 うむむむ……う、うん、ここは一旦ストップしますか。

 当初の予定通り、ホロウの体の構造は大体把握できたし、魂喰らいが発動しなかった理由も分かった。

 つーか、この状況で魂喰らいを発動させるとヤバいよな。モノノフの始祖が、燃料として丸焼きにされてしまう。ホロウにとっても友人だったらしいし、色んな意味でこのまま進める訳にはいかない。

 一度の診察で終わるとは限らない…と伝えてあるし、ここは情報を整理するのが望ましいだろう。

 ヘタレたって言うな。ヤるなら懸念事項を全て排除し、徹底的に貪れる環境を作りたいだけだ。ホロウがアヘってる内側で、美少年とは言え男がアヘアヘしてるとなれば萎えもする。

 

 

 

 もう暫くオビトさんと会話して情報を交換し(その間に、『もう友達だから呼び捨てでいいぞ』と言われた。『ん、ホロウを抱かないのか?』とも言われた)、診察をいったん切り上げとする。

 

 

「…構いませんが…わざわざ身を清める必要は無かったのでは?」

 

 

 いやいや、予定外の事があって中断しただけだから。本当なら、最後までイタしているから。

 えーっとな、それで、今回分かった事なんだが…。

 

 

 

 

 衣服を着ながら、ホロウに説明。

 

 

 

「…私の中に……オビトのミタマが…?」

 

 

 ああ。つい最近…ホロウが記憶喪失から回復したころまで、ずっと何も無い暗闇の中で暇だ暇だと言いながら過ごしていたそうだ。その時は、自分が何者なのかの記憶もなく、ね。

 外の景色も全く見えなかったんだと。今は、ホロウの目を通じて見えるようになってるらしいけどな。

 

 

「……オビトらしいですね。初めて出会った時も、屋敷に幽閉されて退屈だと喚いていたものです」

 

 

 本人は、『イヅチカナタとの決戦で死んだ時に、ホロウの体に入り込んだんじゃないか』って言ってたが……身に覚えは?

 

 

「………無くは無い、です。あの時の記憶は、私自身も因果を奪われ穴だらけの状態となっていますが…僅かに思い出せるようになった記憶で、オビトのミタマが鬼に奪われそうになっていた場面があります。その時、咄嗟に魂を吸収していたのかもしれません」

 

 

 こう言っちゃなんだが、自分の中にミタマが吸収…保管されているって、分からんものなのかな。

 霊的なものとはいえ、体内に異物が入ってるんだから、違和感とか満腹感みたいなものを覚えそうなもんだが。

 

 

「異物とは言え、数年間抱えたままであれば慣れもします。…あの時は…友人を失った直後でしたし、私も落ち込んでいたので、その為に体が重く感じているのかと…。因果が奪われていたので、魂喰らいを咄嗟に使った事も覚えていませんでしたし」

 

 

 うーん…まぁ確かに、普通は考えもしないか。自分の中に友人のミタマがあるなんて。しかもそれが、燃料にする為のミタマとして、だもんなぁ…。

 

 つーか、魂喰らいはどうするよ?

 このまま無理に使うと、オビトが燃え尽きてしまうぞ。友人を薪として使いたい訳じゃあるまい。解放とかできるの?

 

 

「考えた事もありませんので、何とも…。魂喰らい自体、捕らえたミタマを解放する事は想定されていません」

 

 

 何と言うか、色々と中途半端と言うか、残念な機能だな…。オビトのミタマが劣化も何もしてない状態なのを鑑みるに、捕らえたミタマを保護する機能はありそうなんだが。

 技術的に無理だと判断されたのか、それとも被害を問わずクサレイヅチを仕留められればいいって考えで作られてたのか…。

 …酷な質問をするが、仮にこの状態のまま魂喰らいを発動させたら、どうなる? オビトのミタマが酷い事になるが、それは一旦度外視して…クサレイヅチとトキワノオロチに対抗できると思うか?

 

 

「不可能です。オビトのミタマは、モノノフのミタマとしては平均的な力しかありません。考えたくもない事ですが…オビトのミタマの力を全て使い潰したとしても、それ程の力は得られないでしょう」

 

 

 つまり、もしもオビトを解放できなかった場合、魂喰らいを充分な形で起動させるには、オビトを無駄死にさせなければならないと…。

 何と言うタチの悪い…。

 オビトも騒いでるぞ、死ぬのは仕方ないが、犬死には御免だって。

 

 

「オビトの……友人のミタマを燃やすくらいなら、魂喰らいなど使いません」

 

 

 俺ならいいんか。

 

 

「あなたは死にそうにありませんし。仮に死んだら、イヅチカナタに負けるという因果も消えてくれるかもしれません。…以前の私であれば、使うにせよ使わないにせよ、もっと葛藤と躊躇いがあったと思いますが…繰り返しの中で、私にも心境の変化があったようです」

 

 

 つい先日まで、お互い完全に忘れ去ってたけどな…。ツゥカ、ヤッパコノオンナメニモノミセタル

 んじゃ、とりあえず次はどうするよ。

 理想を言えば、オビトのミタマを何とか解放して、代わりに……まぁ、俺のミタマなり何なりで魂喰らいを発動させる、なんだろうけど。

 

 

「……先ほども伝えましたが、魂喰らいは捕らえたミタマを解放する事は想定されていません。解放できないとしたら…オビトのミタマを傷つけないまま、魂喰らいを発動させる必要があります」

 

 

 どんな頓智だよ。…と言いたいところだが、さっき把握した構造を考えると…できない事は無い、かな。

 手段は幾つかあるが…一番簡単なのは、ミタマの居場所となっている部分に………あー、何と言うか、保護液と、代わりの燃料を満たす事、かな。

 魂喰らいが発動したら、中に居るミタマが燃やされる。なら燃やされないように結界で覆い、その周囲に代わりの…そう、ミタマが無理なら霊力を籠める。

 

 

 いや、まず考えるべきは、オビトのミタマが解放できないか、って事だな。

 触れてみた限りでは、確かに開放できるような機能は見当たらない。…燃料にされるミタマが、逃げ出せるような道を作らないって事かもな。

 中々にえぐい機能を考えるもんだ。

 

 

「私の中に宿ったミタマの解放……放出…。どうやればいいのか、見当もつきません…。博士に相談するべきでしょう」

 

 

 それも有りだが、一応俺からも方法を一つ提案できる。

 これも、オカルト版真言立川流の秘術……いや、邪法に近い術なんだけどな。

 

 

「採用するかはさておいて、聞きましょう」

 

 

 簡単に言えば、肉に宿らせて排せ……もとい、アレだ…その、出産するんだよ。

 霊的な道ででる事ができないなら、肉体に宿らせてヒリだせばいいじゃない。

 

 ある種の生まれ変わりみたいなもんだ。俺も使った事は……うん、忘れていた繰り返しも含めて無いけど、多分そういう事。

 そんなに不思議じゃないだろ? オビトが居るのは、人間であれば子宮がある場所だ。そこに種を注いで赤子が宿る。まだ自意識もない赤子に、ミタマであるオビトが宿る。結果、出来上がるのはオビトの生まれ変わりだ。

 

 

「出産…どう考えても、イヅチカナタとの決戦には間に合わないでしょう。十月十日もイヅチカナタが待つとも思えません」

 

 

 それも含めて邪法なんだよ。

 母体を改造する『烙印』って邪法があるんだが、これはその赤子版だ。どんな子供を作るか、操作できるんだ。

 男女の性別は勿論、背が伸びやすい、体の某所が大きくなりやすい、頭の回転が速い、その他諸々…。生まれ育つ環境にも強く影響されるから、必ずしも意図した通りに育つとは限らないが、そういう資質を持った子供を意図的に作れる。

 勿論、『子宮に居る頃から異常なまでに成長が早い子供』とかもな。本来の使い方じゃないから安全性は保障できないし、どれくらいの早さで出産に至るかもわからん。ついでに母体への影響は……まぁ、そこは『烙印』で体を改造すれば何とか。

 

 それでも、オビトが外に出る為の仮の肉体が出来上がる。

 

 

 

「…では、その肉体はどうなりますか。急激に育ち、オビトが外に出る為だけに孕まされた肉体は」

 

 

 …多分、そう長くは生きられない…と言うより、元々生きているとは言えないだろう。

 嫌な言い方になるが、赤ん坊じゃなくて単なる肉の塊が腹の中に出来るんだと考えた方がいい。……仮にも産道を通るものに対して、こんな事を言うのも気分が悪いがな。

 ついでに言えばそれだって、本当に育たない肉の塊なのかは分からない。俺も使った事がないから。

 使った事があるとしても、『命や魂は宿ってない』と言われているだけで、実際にそうなのかは……育ててみないと分からない。

 

 

「私に、子供に対する特別な感情はありません。…ですが、邪法である所以はよく理解できました。それは最後の手段として覚えておきます。私が了承しても、オビトが拒むでしょうし」

 

 

 そんな赤子を生贄にするような助かり方なんて…か? まぁ、気持ちは分かるがね。提案しといてなんだが、俺だって気が引ける。

 となると、解放するのは後回しとして、魂喰らいの最中にもオビトを保護する方向で動くか。

 

 

「それもありますが、私は博士に相談してきます。以前から一つ考えていた事があるので。あまり使いたい手段ではありませんが、事がここに至ってはそうも言っていられません」

 

 

 …今からか? 診察の続き……は、しない?

 オビトを保護しようとするなら、続きをする必要があるけど。魂喰らいの器の中に、俺の精…もとい霊力を満たして、それを使ってオビトを保護、並びに代わりの燃料とするつもりだが。

 

 

「はい。それを試す前に、一つ確認しておく必要ができましたので。施術は後日お願いします」

 

 

 

 それだけ言うと、ホロウはさっさと服を着こんでしまった。立ち上がりで多少フラついた所を見ると、ナニの行為も多少は影響しているようだ。

 据え膳を自分から下げさせてしまった形になるが………ま、まぁ…状況が状況だったしな。

 うちの子達には、『緊急事態で続けるわけにはいかなくなった』と『もうちょっと長く愉しみたいから、今日は軽めにしといた』のどっちがいいだろうか…。

 

 うーん…しかし、やっぱこう、敗北感があるなぁ…。

 今日はホロウを一晩中弄ぶつもりだったが、それもできなくなっちまったし…他の女の所に行くのも、なんか負けたと言うかフラれた挙句に女に泣きつきに行くみたいで嫌だ。やっぱり、見られていようが知った事かと続けるべきだったかな…。

 久々に女絡みで失敗した気分だ…。 

 

 

 

 

 

 

 



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598話

濡れ場が…濡れ場が書けない…。
最近は滅鬼隊関係で、サラッと流すようなエロばっかだったからだろうか…。

ここから難しい場面が続きそうだし、省略するのも手だとは思いますが、恐らくこのSSで最後の濡れ場になりそうだし、折角なんだからちゃんと書きたい。
次か、その次のを投稿したら、また少し間が開くかもしれません。


 

 

 

黄昏月肆拾惨日目

 

 

 結局、昨日は虚海のところにやって来た。女に泣きつくみたいで嫌だ、と言っておきながらどうかと思ったのだが、ヤる以外にも相談しなきゃいけない事があったからな。

 虚海は先日の戦いで力を使い果たし、まだ回復しきっていない状態だ。橘花・樒さんとの交代制で結界を維持しているのも、回復を妨げている理由の一つだろう。

 

 夜中に彼女の部屋に忍んで行ったところ、自前のまんことちんこを準備万端にして出迎えてくれた。

 ……真面目な話をしたかったんで、そういう事をするつもりじゃなかったんだが……俺を前にした虚海は完全に発情状態に入っており、一発ヤるまで冷静に話を聞いてくれる状態ではなかったのだ。

 だから虚海を抱いたのは、泣きついたんじゃない。求められたし、必要だったから応じただけだ。

 

 

 

 そんなちっぽけな意地と見栄は置いといて、虚海に話をしたかったのは、言うまでもなくオビトの事である。

 斯斯然然ありまして…。

 

 

「オビトが生きている………だと…?」

 

 

 いや死んではいるんだけどな。ミタマになってるから。

 

 オビト生存(?)の話を聞いた虚海は、思った以上に動揺していた。嬉しくもあり、もの悲しくもあり…と言った表情だ。

 死んだと思っていた知人が生きていると知れば、普通は喜びそうなものだが…と考えたが、虚海の境遇に思い当ってその考えは改めた。

 

 

「ふ、ふふふ………ほんに、皮肉なものよな。ホロウといいオビトといい『千歳』といい、何故今になって現れるのか。過去がわらわらと這い出てきて、私に今更何をしろと言うのか」

 

 

 …そうだった。普段のポンコツ具合ですっかり忘れていたが、虚海は時間を超えて流されてからというもの、心は擦り切れ、人の為に戦おうとしていた正義感も圧し折られ、人道にもとる行為も幾度となく行ってきたのだった。

 そこに、かつて志を共にした仲間達が次々と現れる。…まるで、運命が当てつけでもしているかのように。

 

 と言うか、今『千歳』って…。

 

 

 

「…先日の戦で、私の因果も少しは戻って来た。最初は、力尽きて倒れた時に見る悪い夢かと思ったがな…。あまりにも鮮明すぎるし、何よりも様々な事に説明が付き過ぎる。おんしの先の事を見透かすような言動、異様な戦闘力、私の体や過去を知っていた事、そして豹変した橘花……神垣の巫女。何度目なのかは分からんが、繰り返しているのだろう?」

 

 

 …まぁ、な。と言うか、悪い夢扱いかよ、千歳。

 

 

「おんしも自分の前に、穢れも妥協も知らない若い自分が現れれば嫌でも分かる。…いや、おんしの場合は爛れた人間関係を指摘されて、羨ましいかと返しそうだが」

 

 

 流石に自分を相手にその煽りはしないよ…。精々、オカルト版真言立川流の指南書を渡して『成したいように成すが好い』と囁くくらいだよ。

 

 

「邪神の囁きそのものではないか。まぁよいわ。所詮は過ぎ去った事、無かった事になっている事だ」

 

 

 ……千歳がクサレイヅチの中に居るってのは、黙っておいた方がいいだろうか…。流石に気分が悪いから見捨てろとは言わないだろうし、仮に言ったとしてもちんこかまんこを踏みながら命令すればあっさり従うと思うが。

 まぁ、今はオビトの話だし、伝えるにしても後でいいか。

 

 ともかくだ。

 オビトを何とかせにゃならん。今のままだと、ホロウの魂喰らいを発動させたら贄になっちまう。

 

 

「魂喰らいか…。話に聞いた事はあったが、一度も使った事がないと言うから忘れておったわ。いや、当時の私は、仲間が鬼と同じような事を行うとは思いたくなかったのか…。いずれにせよ、放ってはおけんな。顔を合わせたいとは思わんが、流石に贄になると言われては見過ごせん」

 

 

 会いたくない、か。オビトのあの性格からして、関係ない、友達だと押しかけてきそうだが、まぁそれならそれでいいだろう。虚海にとっても悪い結果に繋がる可能性は低そうだ。

 と言うか、オビトは今の虚海の事を知っているんだろうか? ホロウが因果を取り戻した辺りから、外が見えるようになったと言っていたし…。逆を言えば、それまでの事は全く知覚していなかった。知っているとしても、この里に流れ着いて俺に犯され、腰を落ち着け…いや肉体的な腰はむしろ貪欲になり過ぎて落ち着きもクソもなくなっているのだが…てからの虚海だけだろう。

 

 

「むぅ…魂喰らいの原理がよく分からんから何とも言えんが、引っ張り出せそうは方法なら幾つか心当たりはあるな。問題は時間だ」

 

 

 それな。そもそも、クサレイヅチもトキワノオロチも、そろそろ戻ってきそうな気がするんだよな。撃退してからそこそこの時間が経ったし、傷も癒える頃だろう。

 もうちょっと発覚が早ければ、色々取れる手段もあったのに。

 

 

「全くだ。…私は別の作業もあるし、あまり時間を取れんしな…」

 

 

 別の作業? 結界の維持の事か?

 ヤるだけヤって霊力は回復増幅させたし、あまり負担にはならないと思うんだが。

 

 

「結界の維持を甘く見過ぎだ。神垣の巫女だからこそ、結界を貼りながらでも平然と行動できるが、本来であれば超が付く程の難易度である事を忘れるな。力だけでどうにかなる話ではない。専門外の私や樒では、集中する必要がある故、結界を維持している間はほぼ動けん」

 

 

 確かに、里をまるごと覆う結界だもんな。普通の術者じゃ逆立ちしても出来ん芸当だったわ。

 だからこそ、神垣の巫女が貴重で重要に扱われるんだよな。

 

 で、作業って?

 

 

「…聞いてないのか? …ああ、そういえばおんし、何をやったのか知らんが最近は里の者を避けていたな。簡単に言えば、総力戦の準備だ」

 

 

 総力戦…。確かにそれは準備も必要だが、これまでの戦いも総力戦の繰り返しみたいなもんだったろう。物資や士気が尽きないのが不思議なくらい、総力戦が頻繁にあるってどうかと思う。

 

 

「それだけの戦いが連続で発生するのだから仕方あるまい。普通は、一生に一度あるかないかという規模だしな…。だが今回のは今までとは決定的に違う。里の者、文字通り全員が戦力となる」

 

 

 ? 里の全モノノフが…………うん?

 文字通り全員…って、まさか一般人も? …いやいや、まさか…。

 

 

「そのまさかだ。訓練中の未熟な若手モノノフは勿論のこと、農民、稚児、妊婦、家畜まで全て戦力扱いだ」

 

 

 扱ってどうすんだよ、そんなもん。

 頭数だけ揃えればいいってもんじゃなかろうに。戦えもしない人間が、戦いの場に出てきても足手纏いにしかならねーよ。KAMIMAZEでさえ、成功させるにはそれなりの技術が要る。

 雁首揃えて鬼の餌になるくらいなら、里の中で畑でも耕してた方がよっぽど貢献になるわい。

 誰だよ、そんな乾坤一擲を履き違えたような、神算鬼謀を自分に向ける自滅用軍師は。

 

 

「当事者全員さ。それと早合点するな、鬼と斬り合う場に出る訳ではない。何度も繰り返される戦いで、自分達も何かしなければ危険だと言う事を実感したんだろう。確かに何が出来ると言う訳ではないが、それでも『何かできる事をしよう』とする辺りは好感が持てるな」

 

 

 それで足引っ張る結果になっちゃ、何もしない方がまだいいと思うんだが……その辺は考え方と状況の違いかな。

 んで、実際何をさせるつもりなんだ?

 例え里人全員からの歎願があったとしても、大和のお頭が非戦闘員を対策もなく戦闘に放り込むような真似をするとは思えん。むしろ、そんな事を言い出したら『銭湯に行って水風呂で頭を冷やせ』とでも言いそうだ。どうでもいいが、サウナの後でも水風呂で潜っちゃいけないぞ。

 …そういや、サウナの設置はしてなかったな…。

 

 

「一言で言えば、霊力の捻出だ。これも割と外法の類なのだがな…。里人から絞り出した霊力を使い、前線で戦うモノノフ達の強化・回復に当てるのさ。その為の儀式場を作り上げた。使用者がその場に留まっている間、徐々に霊力を吸い上げて貯め込むという寸法だ。…即興で組み上げたものだから、手入れが大変でな…。おんしの交合も、似たような術であろう? あれ程の劇的な効果や効率は望めんが、参加者の数が数だ。相応の効果は望めよう」

 

 

 あー、成程。確かに総力戦だな。そして邪法だ。

 本来であれば、人間を罠っつーか呪いをかける為の術なんだろ。指定した場所に居る人間は、知らないうちに徐々に生命力を削られ、いつしか衰弱死…って奴。

 

 ……ん? と言う事は、里の人達も繰り返していると…。

 

 

「だから言ったであろう、外法の類だと。生憎と、数日程度で安全性を高める為の制限を付けられる程、単純な術ではない。あまりに霊力が吸い上げられれば、当然死に至る。…まぁ、その前に卒倒するだろうがな」

 

 

 自分から命削って、戦いの準備をしようとしているのか…。

 流石に生活に支障がない程度にしてくれると思うが、戦況が悪いと知らされたら自分の命を丸ごと糧にしようとする奴さえ出るかもしれんな。ここの住人、最前線の住人だけあって何気にガンギマリ勢が多いんだよなぁ…。

 だからって、力になってくれるのを拒否するのもおかしな話だし…。

 

 

「そもそも、下手に何もしないよう抑圧したら、それこそ何をやらかすか分からんと言うのがお頭の判断だ。最悪、鎌とか鍬とかを武器にして鬼に殴り掛かりに行く奴が出かねん」

 

 

 ライフコッドの住人かな? クワこうげき! カマこうげき!! イネカリ斬り!!!

 出来るんだったらガチで戦ってもらうのも有りかもしれん。

 

 

 うん、いい方法じゃないか。

 モノノフの強化に繋がり、足手纏いは出ず、里人も疲労感というダメージを負う事で『自分も何かしたのだ』という達成感と、共に戦っているという意識も出来る。

 ちょいと安全性に問題があるが、そこはまぁ、個人の責任と言う事で。

 

 

「即興で作り上げた物な上、使用者が絶えず訪れるので、微調整が大変なのだ…。今日もこれから赴かねばならん。…まぁ、面倒だと感じていたが、張り合いは出てきたな」

 

 

 一発やってすっきりしたからか?

 それともオビトの件があったからか?

 

 

「…阿呆」

 

 



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599話

賭けぬ…進まぬ…。
でもエロに手を抜くのは男として敗北宣言した気がする。
すみませんが、暫く投稿が遅れそうです。

あと北斗が如くのレア装備をコンプリート枠にした奴はノロウィルスで呪う。


 

黄昏月肆拾肆日目

 

 

 何ていうか、里のド真ん中でサバトを目撃した気分だ。

 虚海が言ってた、霊力貯蔵の為の儀式場を見学してみたんだが……里のど真ん中の大きな広場。ここが儀式場になるのは分かる。術を維持する為の方陣やら呪物やらを置かなきゃならないので、相応の広さが必要になる。

 術の本来の使い方が使い方…衰弱死させる呪いだもんな…なので、おどろおどろしい呪物を多数設置しなければいけない。元々禍々しかった呪物が、術の影響を受け、流れていく霊力の余波を浴びる事で、更にその不気味さを増していく事になる。…これの為に効力が徐々に強まってしまうので、その辺の微調整が虚海の仕事だったようだ。 

 そして、その儀式場の中に自ら入り、祈りを捧げ、霊力を消耗してフラフラになって帰っていく里人達。

 

 ……どうみてもヤバい宗教の現場にしか見えません。

 常習性のあるクスリをキメて、意味不明な邪教の祈りを捧げているかのようだ。実際、生命力を削っていると言う意味では大差ない。

 それが里の中央広場で行われてるんだから世も末だ。実際、オオマガトキで世は終わりかけたが。

 こんなん、この状況でなかったら即弾圧対象ですよ。大和のお頭だってキリシタン狩りの勅令出すわ。

 …俺の場合? 俺は、まぁ、なんだ、サバトならうちの子達と一緒に毎晩やってるから、正直言って何も言えないっス。クスリはないけど、俺との性交はクスリよりヤバいし。

 

 しかも里の人達の祈り方がまた…。お面(モノノフの装備でもある)被ってヨイヤサヨイヤサ踊る人も居れば、何処から持ってきたのか太鼓を叩いて盛り上がっているのも居る。人体構造の限界に挑むような複雑怪奇ポーズ…JOJO立ちしてるよ完成度たけーなオイ…をとっている者も居れば、自分でケツをしばいて『びっくりする程悠頭陽亜! 驚き仰天悠頭陽亜!』と繰り返している者も居る。下手な男装して宝塚みたいなムーブかましている奴も居れば、本物の女より注目される女装をして姫ムーブしているのも居る。

 意味不明もいいところだが、とりあえず本人が盛り上がったり興奮したりするのであれば、それは生命力の活性化、霊力の増強にも繋がるので、一見意味不明でも本人が良ければ無意味な行為ではないんだろうが…。

 正直言って、状況にかこつけて、普段は人目を気にしてできない奇行や隠していた性癖を、これ幸いとぶちまけているだけのようにも見える。切羽詰まった状況だから、混乱しているだけだと後から言い訳もできる…できる、と思う、多分。

 

 ……この里、こんなに濃い奴多かったっけ…。

 いやまぁ確かに、人間誰しも心の底に秘めた願望があるもんだし、思い出したループの中でもそれっぽい言動の心当たりはチラホラあったが。

 そしてそのイカれたトンチキ騒ぎをしている間にも、徐々に里人達の疲労や負担が溜まっていくのはよく分かる。最初は元気はつらつで脱ぎ芸しながら儀色場に入って行った人が半刻も騒いだ後にはげっそりした表情で帰っていくのだ。

 …理性を捨てて騒いでいないと、自分の生命力が衰退していく恐怖に耐えられない、と言うのも理由の一つだろうか?

 

 何にせよ、 (-_-) ←こんな表情になって黙々と儀式場の調整を務めている虚海には、心の底から敬意と哀悼の意を表する。SAN値が削れてるな、あれは…。

 教育に悪いから、うちの子達にはなるべく近寄らないよう伝えておこう。…恐怖や違和感を感じるより、『なんか楽しそう』って突っ込んでいきそうな子が何人か居るからね…。

  

 

 

 さて、ウタカタの里で発足した新興邪教の事はともかくとして、ホロウの事だ。

 博士にオビトの事を相談したところ、ある解決方法を提示されたそうだ。方法自体は単純だったが、聞いた俺も『その手があったか』と思わず感心してしまった。

 ま、乱暴な方法なのは否定できないけども。

 

 やり方は至って単純。腹をブッた斬って手づかみで取り出す。これだけだ。

 

 イメージで言えば、帝王切開みたいなものだろうか? オビトを捕らえているホロウの体を物理的に切り開く。

 魂喰らいの機能は、霊的な機構と肉体的な機構を混ぜ合わせたものとなっているので、どちらか片方だけでも排除できれば、拘束力は各段に弱まる。

 しかし、霊的な防御もそう簡単には突破できまい。何せ、魂喰らいを発動させた場合、最も強く力が燃え上がる場所だ。防壁は可能な限り強化されているに決まっている。

 なので、そっちは肉体に宿す事で対策を取る。何だかんだで、肉体と魂の結びつきは非常に強固なもの。肉に宿った魂に干渉するのは、非常に難しい事なのだ。

 

 

 まぁ、つまり箇条書きにするとこういう事よ。

 

・まずホロウを孕ませる。(オカルト版真言立川流)

・邪法により、胎児を出産可能な状態まで一気に育てあげる。

・オビトに取り憑かせる。

・帝王切開。

・肉の壁は切り開かれた事でなくなり、霊的機構の壁はオビトが宿った肉体によって強引に無視する。

 

 

 …普通、帝王切開なんぞしたら術後の後遺症で戦うどころの話じゃなくなるのだが、そこもオカルト版真言立川流で予防できる。

 オビトが難色…と言うか断固拒否していた問題点も、普通に解決されてしまった。

 オビトが嫌悪していたのは、産んだ命を…一時の依り代の為に作られたの肉の塊にすぎなかったとしても、その命を捨てる事。

 

 であれば、死なせずにそのまま育てればいいではないか。ちょっと生れが特殊なだけの、一人の人間として生かせばいい。

 何せ、オビトはミタマだ。ミタマがモノノフの体に宿るのは当然の事。

 

 簡単に言えば、魂喰らいの中から連れ出してきた礼として、産まれてきたこの守護霊になれって事だな。

 逆に、もしも本当に命も魂も宿らない、単なる肉であったのなら、それこそオビトがその体を使えばいい。誰に憚る理由も無い、オビトの為に準備された体なのだから。

 

 いやー、単純すぎて盲点だったわ。

 術によって歪められて産まれた体がどれくらい生きていけるのかは分からないが、宿ったミタマ…オビト…による加護もあるし、不調に対してすぐに調査・対処をしていけば結構長く生きられる可能性は高い。

 

 

 ……まぁ、何だ、その、5割の確率で使えるようになる、最終手段的治療方法もありますしね? ミタマが男だったとしても、体が女ならまぁ、ハイ、そういう事です。…生まれる前から近親相姦考えられてるって、酷いなんてもんじゃねーな。

 実を言うと5割ですらないしね。種をつける時にチョチョイと小細工すれば、性別の固定も朝飯前よ。今のところ性別を指定する気はないんだが、延命を考えると最終手段的治療は使えた方がいいよなぁ、やっぱ…。

 

 

 と言うか、今更ながらにオカルト版真言立川流が便利過ぎる。

 避妊から始まって、診察、強化、回復、肉体改造、分身、召喚、読心、体感時間操作、夢操作、ええとあと何だっけ。出来る事が多すぎて、何の術なんだか分からなくなってきたな。まぁ何を使うにしても、エロが絡まなきゃ発動もしないんで、間違いなく睦言の為の術なんだが。

 

 

 

 そういう訳で、結局ホロウを孕ませる事になった訳だ。ホロウからも反対の声は無い。元々診察の為に最後までする予定だったし、されたら自分がどうにかなるんじゃないかという危機感はホロウには無い。

 問題があるとすれば、オビトの反応だな。肉体を使い捨てにしない事で、再誕に関する反対は納めてくれたものの、行為自体の影響がどう出るか…。

 ホロウを孕ませ、肉体を変質させる過程で、『烙印』を使用する必要がある。これは被験者に激しい快楽と恍惚感を与えるもので(オカルト版真言立川流の術は大体そうだが)、ホロウの中に居るオビトにも同様の感覚を与える事が懸念されている。

 

 …下手をすると、モノノフの始祖がメス堕ちしてしまうかもしれない訳ですな。いやマジでどうしよう。確率5割で女性として生まれる事を考えれば、今のうちにやっちゃった方が…いやでも男性として生まれたら受け専になった挙句に、息子なのに俺に迫ってくる可能性も…。

 

 

 

 先達に対する敬意と欲望を天秤にかけて暫く悩んだが、重要視すべき事を考えれば自然と結論が出た。

 優先すべきは千歳や産まれる前の我が子の因果奪還、そしてクサレイヅチの討伐。クサレイヅチの討伐についっては、ホロウにとってもオビトにとっても異存はないだろう。ホロウにしてみれば悲願、自らが生み出された存在意義でもあり、かつての仲間達の仇討ちでもある。オビトだってそうだ。体を失い、ホロウの中に閉じ込められ続けた原因は、間違いなくクサレイヅチ。報復の意味でも、これ以上犠牲者を増やさない為にも、何よりも優先して討伐すべき。

 

 

 

 でも流石に面と向かって告げる勇気は無いので、『オビトまで気持ちよくなるのは予想外だった』という体で行こう。予め覚悟しておけば、抱いている女の中で男がアヘってても割り切ってヤれる自信はあるから。

 

 

 

 

 

 不安要素もあるが、事はすぐに始めるべきだった。と言うのも、クサレイヅチが、戻ってくる予兆があったのだ。

 情報源は、他ならぬホロウ自身。今までは複数のイヅチカナタを探知していた為に故障していたと思われていたレーダーだが、現在では残るイヅチカナタは一体だけ。俺の標的たるクサレイヅチのみだ。その状態であれば、正常に稼働する。

 そのレーダーから、接近の感ありと知らされる。近付いている、と。

 

 

 無論、その報せはすぐに里を駆け巡った。

 ある意味ではまだ良かった方だろう。クサレイヅチがいつ戻ってくるか分からない状態で、里人達の霊力を延々と捧げていたら、いざという時には誰も動けなくなっていた、なんて事になりかねない。

 …或いは、それが常態化して、緊張感が無くなってしまうというパターンもあるか。

 

 

 

 

 まーそんな訳で、他の皆が戦闘準備に走り回っている間に、俺とホロウは二人っきりで、俺の部屋で対面している訳だ。…オビトを入れれば3人…いや意識しない意識しない、二人きりって言ったら二人きりだ。

 ホロウはご丁寧にも、先日と同じように湯あみをして身嗜みを整えてやってきた。それも…。

 

 

 

 …何と言うか、めかしこんだな。

 

 

「そうでしょうか? 基準が分かりません」

 

 

 んじゃその恰好は何よ。どう見ても嫁入り衣装にしか見えないぞ。

 黒を基調とし、華をあしらった着物、着物に焚き籠めた香に簪、角隠し。ついでに懐には短刀。

 

 

「いえ、嫁入りではなく生贄と見立てて設えたそうです。この短刀は自決用だとか。だとしても、刺すにも斬るにも使えますが」

 

 

 設えた…って誰からだよ。

 

 

「ここの住人からです。『以前は涙を呑んで見逃したが、おのような粗末な恰好で若様にお目通り願うなど許さん!』と叫ばれて」

 

 

 何考えてんだ、あいつら…。いや確かに目上の人間に合うなら、それなりに整えた格好をしろと言うのは常識だし、ホロウのあの恰好は……そんなに粗末なもんじゃなかったんだがなぁ。でも素っ気ないと言うか、事務的なのは確かだったか。

 最近じゃ下着とかも増えてきて(たたらさんが色々作っているのだ)、伽の際に着飾って来てくれる子も多くなってきた。そういう意味じゃ、あの子達の事だから『若様に抱かれるならもっと卑猥な恰好して愉しませろ!』ってくらいの考えだったのかもしれない。

 

 生贄に見立てる、ってのはよく分からない………いや、分かるな。実際、贄として喰らおうとしているようなもんだし。

 と言うか、あいつら本気で俺を神みたいに扱ってないか? 生贄って基本、神とか悪魔とかとにかく上位者に捧げるもんだろ。

 

 ま、まぁいいか…。切っ掛けはどうあれ、それなりに着飾ってくれた方が剥き甲斐があるのは確かだし。

 

 

 

 今更聞くが、ホロウは本当にいいんだな?

 隣の部屋に、割腹手術の為に那木や茅場や博士を待機させてる辺り、完全に覚悟完了してるとは思うが。

 

 

 

「構いません。オビトを魂喰らいの燃料にするなど、断固拒否します。その為なら、孕むも割腹も受け入れますとも。ですので、早急にお願いします。イヅチカナタの接近は近い。腹を裂いた後の回復の時間も考えると、時間は一秒でも惜しい」

 

 

 …分かった。じゃあ、始めるぞ。

 

 

 宣言してホロウに近付くが、微動だにしない。

 前回の感覚を思い出して、怯えるなり恥じ入るなりしてくれれば盛り上がったんだがな…。前の時もそうだったが、つくづく性感も欲望も無い体をしているようだ。

 

 ま、いいか。

 とは言え、やはりホロウに羞恥系の悦びは望み薄。溺れさせる方に集注する。

 

 

 服の上から体を抱き寄せ、互いの体温を移し合うように抱きしめる。接吻はまだしない。

 抵抗は無かった。前回の時よりも、むしろリラックスしているくらいだ。一度目に大した事ができなかったから、警戒する必要がないと思っているのか。

 

 だがそれは大きな間違いだ。

 前回はホロウの体を調査するところから始め、性感を呼び覚ますのは後回しになっていた。

 だが、今は充分に全身を理解し、そしてその情報を十全に活かせるだけのシミュレートを散々行ってきたのだ。具体的に言うと、妄想の中で延々とホロウを犯し続けていたと言う事だが。

 

 所詮はシミュレート、妄想に過ぎないって? いやいや、俺レベルになるとちょっと違ってくるのよ。

 唐突に小難しいウンチクが始まるが、霊力ってのは要するに感応しあう力だ。オカルトの領分ではなく、「人間が強く意識していると、脳はそうなるように働いて行く」って奴。運が悪い運が悪いと思っていると、本当にそういう流れを引き寄せてしまうってアレだね。

 これをね、エロい妄想に当て嵌めたらどうなると思う?

 霊力を使うモノノフにして、血の力を使うゴッドイーターにして、人間かどうか怪しいハンターにして、オカルト版真言立川流の使い手であるこの俺がやると。

 

 

 勿論、妄想はただの妄想でしかない。だが、確かにそれを想い、念じ続ける事で効果はあるのだ。ホロウの体は、誰の手にも触れられず、知らない間に勝手に開発されていっているのである。

 信じられないかもしれないが、これぞ俺が辿り着いたオカルト版真言立川流の新境地である。まぁ、前から夢の中で犯して、実際の体にも影響及ぼしていた事はあるからね。その発展形みたいなもんだ。

 妄想すればするほど、実行する時にバフが…あっちからしたらデバフ? 気持ちよくなれるならバフ?…かかる。極まれば、頭の中で卑猥な事やってるだけで、ちょっと触られただけで理性がダウンするくらいに堕としてしまえるかもしれん。

 うちの子達は、特にこれに敏感だからなー…やろうと思えば、一切手を触れず、視線も合わせず、声もかけない状態で即イキまでもっていける時もある。あっちからすると、普通に飯食ったり鍛錬してたりしていたのに、突然腰が抜けるくらいの快感が走り抜けるという、迷惑極まりない事態なので、あまり使わないが。…風情も無いし。

 

 

 うちの子達の事はともかくとして、まずはホロウだ。霊力は既にホロウの体に浸透させた。一番重要な子宮にも行きわたった。…そこに要る誰かさんにも盛大な影響を与える事になるが、こればっかりは仕方ない。

 さぁ、この不感症の天然女を蕩けさせようか!

 



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600話

投稿が遅れて申し訳ありません。
職場でとんでもねー事が起きてしまい、その後始末に上司がかかりっきり。
その分、時守も補助やら代理で進めなければならない案件が多く、残業しまくって執筆時間が削られてしまっています。
いやマジで上司、呪われてるんじゃないかと思うくらいハードラック…。
スランプで書けないというのもありますが、流石にこれを放って一人だけ定時で帰るのは心が痛みます。

次回投稿も暫く時間が空くと思いますので、ご了承くださいませ。


 

 

 

 

SIDE ホロウ

 

 

 ホロウにとって、性行為とは旅費を得る為の手段でしかなかった。忌避するものでも、好むものでもない。ただ少しばかり胸や股座に触れさせれば、短い時間でそれなりの金銭が手に入る。

 最後まで行為を行った事は無い。どういう訳だか、そういった行為を要求してきた相手はすぐに辞めてしまい、つまらない物を見るような目を向けられる事も多い。それこそ、ホロウにとってはどうでもいい事だったが。

 

 今回もそれと同じだ。旅費を得る為ではなく自分の中に居るオビトを助け出す為という違いはあるが、性行為自体に思う所は無い。

 事実、前回の診察を受けてもそれは変わらなかった。ここの女性達…らぶらびっつ隊の者達が揃って絶賛しているのを聞いた事はあったが、評判の割には大したことは無い、としか感じなかった。

 それは彼が上手いとか下手とかいう事ではなく、自分に元々備わってない機能だからだろう、と考えていた。

 

 

 

 だからこそ、触れられ抱きしめられるだけで反応する体に戸惑った。

 

 最初は攻撃、襲撃を受けたのかと思った。突然、体を強い衝撃が貫いたからだ。鬼の体当たりを受けた時のような、体の芯まで響く衝撃。

 敵が…イヅチカナタが来たのだと考え、抱きしめる腕を跳ねのけて飛び起きようとした。しかしそれを正面から抑えつけられ、布団に押し付けられた。

 

 

「何をしているんです、敵が!」

 

 

 そんな者は来ていない、逃がさないと囁かれ、腕を掴まれた。その時、掴まれた腕から同じような衝撃が走る。押し倒された拍子に体と体が触れ合い、そこでも同じような感覚が生じる。

 そうしてようやくホロウは理解した。この衝撃は攻撃によるものではなく、性行為によるものだと。

 

 

(し、しかしただ触れただけでこのような…。私にその手の機能は無い筈ですし、所謂愛撫すら行っていないのに)

 

 

 触れただけでこのような衝撃を受けていては、一般的な生活すらままならない。

 突然鋭敏になった自分の体に戸惑い、自分を拘束する腕を振り払おうとするが。

 

 

(力が入らない……体が痺れる…!?)

 

 

 話に聞いていたような、何もかもを蕩けさせるような快楽ではない。だが、むず痒い、甘い痺れが体のそこかしこから生じている。無視しようと思えば無視できるが、つい体を動かしてしまうような、感じるまいとしてもつい意識してしまうような、そんな痺れと痒み。それが体中のそこかしこから生じ、ゆっくりと広がろうとしている。

 その痺れと痒みから逃れようと体を捻るその動きは、彼の情婦達に…指先の動き一つで悶絶するまで弄ばれ、あられもない痴態を晒す女達にそっくりだった。

 つまりは、男の劣情を煽り、肉欲を引き出す動きである。

 

 体中から生じる得体の知れない痺れは、どんどん体を蝕んでいく。精神や理性にはまだ影響がないが、それもいつまで保つか怪しいものだ。

 未知に対する警戒心が、あっという間に心を満たす。

 

 反射的な抵抗の動きを抑えつけられ、「オビトの為だ、抵抗するな」と囁かれた。

 その囁きすら、脳を痺れさせるような眩暈を引き起こさせる。耳元の呼吸音が、脳の中に侵入されているような錯覚を引き起こす。  

 

 

(逃げなくては……逃げては…逃げては、いけない…。オビトの為…)

 

 

 勝手に反応して動く体に戸惑いながらも、ホロウは自分に言い聞かせるように心の中で繰り返す。

 ぐらぐらと揺れる頭の中、それ以外の思考が塗り潰されていく。それは決して嘘でも間違いでもないが、誘導された考えである事も確かだった。

 

 意図的に無抵抗になろうとしているホロウを蹂躙しようとしているように、体を包む布に手を掛けられる。服を脱がそうとしている、と察したホロウの頭に言いようのない衝動と恐怖が沸き上がった。

 

 今までは、殆どの場所は服越しに触れていた。遮る物があってさえ、このような異様な痺れに浸っている。これが直接触れられたら、一体どうなってしまうのか。これが恐怖。…ただ、ホロウの体は無意識に、その恐怖の裏に別の感情を感じ取っていた。

 そしてもう一つの衝動は……ホロウはこの感覚を知らない。言葉にできない。

 だが、あえて近い名前を付けるなら、羞恥であるのだろう。

 

 今まで、ホロウは恥辱と言うモノを感じた事がない。

 そういう感覚が最初から設定されていなかったのか、それとも因果と共にイヅチカナタに奪われたからなのか、或いは体を見せる事が恥と思う文化と触れ合ってこなかったのか。

 いずれにせよ、ホロウが服を纏っているのは防寒や擦過傷を防ぐ為である。もしも服を脱いで体を見せる必要があるなら、誰の目があろうと羞恥一つなく全てを曝け出すだろう。

 

 そのホロウが、反射的に体が動くのを、意味をなさない声が漏れるのを感じる度に、心の中で何かが滾る。

 そして、服を脱がされるという行為に、言いようのない不安感が浮かんでくる。

 服とは心の鎧だ。ただ何かを纏っているというだけで、人は安心する。肌を見せる事を恥と思わないホロウでさえ、それは例外ではない。

 させてはならない、と本能が抵抗するが、オビトの為だと理性がそれをせき止める。結果、ホロウは自分の心身を焼くチリチリとした『何か』に身を焦がされ、それを猶更強く感じ取る事になる。

 

 着飾った服…ホロウの目から見ても、上物だと分かる…が乱されていく。

 徐々に露わになっていく白い肌が、自分の物とは思えないほど異質に見える。『淫靡』という表現に理解が遠かったホロウだが、嫌でも理解できた。

 今、自分はひどく淫靡な姿をしている。美でもなく淫らでもなく、淫靡な姿。

 

 気づけば着物の裾は開けられ、汗ばんだ乳房と生足がモゾモゾと自分の意思に反して蠢き、体中に感じていた甘い痺れは、別の感覚に変わり始めている。

 体が末端から徐々に溶けていくような、或いは神経が剥き出しになって自ら刺激を受け取りにいっているような。

 

 体を覆う服が、鬱陶しい。

 ついさっきまで心を覆う鎧であった筈が、今では心地よい感覚を遮断しそれを求める為の動きをさせない拘束具のように思えてくる。

 服をずらされ、肌を外気に晒す行為すら心地よい。

 体の感覚を阻害する拘束具である服が、快感を徐々に増していく引き立て役に成り果てる。

 

 

「はっ……ぁ……くっ………  く、うぅぅ…っ!?……!」

 

 

 荒い呼吸が聞こえる。その声の主が自分だと気づいたのは、一際大きな声を上げた時だ。

 特に強い行為をされた訳ではない。ただ脇腹を二本の指で、すーっと撫でられただけ。触れるか触れないかの接触でしかなかったのに、ホロウの体全体に電流を流されたかのような衝撃が走る。

 

 未知の刺激を受けるのは、初めてではない。長い長い旅路の中、鬼から受けた毒で前後不覚になった事もあれば、薬の副作用で風が吹くだけで痛むような体になった事もある。体調を崩し、熱さと寒さを混ぜ合わせた言いようのない不快感に身を浸した事もある。歯を食いしばって耐えられるものもあれば、そうでないのものもあった。

 だが、歯を食いしばる事すらできない感覚は初めてだ。

 

 

 

「あっ、はっ、い……ぅあ、あっ、 ん、んんん……んうぅうぅ、あ、ぁ、ぁぁ、あああ!」

 

 

 訳も分からず声を漏らすまいとしたのに、気付けば口が開いている。唾液に濡れた舌が突き出され、体が打ち上げられた魚のように痙攣する。

 力が抜ける。体が望む。心が怯えているのに、本能が欲する。そして『オビトの為』と叫ぶ理性が消えていく。

 

 抵抗する体を抑えつける役割を担っていた理性が、徐々に消えていく。だが、もう体は逃げ出そうとはしていない。

 ホロウは、『人は快楽に逆らえない』という言葉を、体で実感し始めていた。

 

 

(食い縛れない……体が…熱くなってくる…! ですが……それ以上に、もどかしい…!)

 

 

 まだ辛うじて布地…服ではなく下着…に包まれた女性として重要な部分。鋭敏な神経が集まっている場所に、言いようのないむず痒さが集まっている。

 触れてほしい。この熱をもっと高めてほしい。この感覚で焼き尽くしてほしい。

 

 どうしてそうして欲しいのか…性感を欲している自覚すらないまま、ホロウは乱れていく。

 自覚もなく卑猥にくねる体、それを彩るのは他の女達の悪意(善意?)で付けさせられた華美な下着、更に覆い隠していた清楚な服。その構図は、分厚い理性の下に隠されたホロウの欲望を顕しているようだった。  

 

 

 無意識のうちに羞恥を感じているのか、それとも弱い姿を見せる事を拒否しているのか、訳も分からずホロウは体の熱を『なんとか』しようとする。

 この熱に支配されてしまったら、何かが変わり、そして終わる。それは本能で分かっていたし、今までの繰り返しの中で何度もそうなった女達を見てきたから、嫌と言う程よく分かっていた。

 

 

 かつての繰り返しの中で、鬼に家族を皆殺しにされて、自棄になって独りだけで復讐の為だけに生きている女モノノフが居た。一晩見ない内に、体に触れられるだけで顔を赤らめて服従する女に変わっていた。

 男女関係に潔癖で、彼を軽蔑しきっていた女が居た。半刻もしないうちに、彼の後ろをいそいそと三歩下がってついていくようになっていた。

 里の為に滅私奉公し、人の心がないようだとさ言われた里長が居た。いつの間にか、里の全てを捧げものにするのすら躊躇わない狂信者と化していた。

 長に心酔して彼を警戒していた副官は、その立ち位置と姿勢こそそのままに、仕事以外の場では彼にべったり張り付いて甘えるようになっていた。

 戦いと鍛錬が人生の全てと言わんばかりだった武術家も、目的の為なら自分の命も駒として扱う策謀家も、亡き夫に操を立てていた未亡人も、育ててくれた母に感謝しているその娘も、男を惑わし破滅させると謳われた娼婦も、野盗の殺人鬼も、まだ孕む事が出来ない幼子さえも、みんなみんなこの男と一晩過ごしただけで、別人かと思う程の変わりようを見せていた。

 

 何故、自分だけが例外だと思ったのか。イヅチカナタの討伐だけを使命として、長い長い旅路を歩んできた自分だけは大丈夫だと思ったのか? 自分にとって、性行為が大したものではなかったから?

 それは関係ない。性行為が問題ではないのだ。性行為をするだけで人があの風に変化するなら、世の中はもっと歪な形になっている。 

 そうだ、性行為ではない『何か』が問題だったのだ。

 

 

(何故……何故、一体何が問題で……何故、そんな事を、見落として……っ! 因果…!?)

 

 

 刻一刻と悦楽に呑まれ、動かなくなりつつある理性が空回りする。

 この状況から抜け出そうと考えるのではなく、自分の失敗の理由を求める…これ自体が、迷走している行為と言えるだろう。

 それでも理由に気付いたのは流石と言うべきだが、それはホロウがこの淫獄から抜け出せないという証左を突き付けるものでしかなかった。

 

 

 ホロウが彼に、イヅチカナタ戦での戦力外通告をする理由。それが因果だ。今まで繰り返しで何度も何度も積み重ねられた因果によって、彼はイヅチカナタに打ち負ける事が決まっている。

 だが同時に、別の事も決まっている。彼は女を口説き落とし、侍らせ、従属させる。そう、女であれば、誰でもその対象となり得るのだ。人造人間のホロウでも、それは例外ではない。

 そして因果によって、そうなりやすい流れも創り上げられる。

 

 

(…私も……因果に、囚われた…。自分も対象に含まれる事に気付かず、因果に誘導されている事にも思い至らず…!)

 

 

 心と体が、じわじわと溶けていく。

 快楽が自分の深い所に絡みついて、同化していく。

 内側に入り込んだ悦楽が、自分を塗り替えていく。

 

 

 内側から湧き上がる熱、否定したくても否定できず目を逸らす事すらできない悦楽、望んでいない筈なのに湧き上がる欲望。

 それら全てにグチャグチャに書き回されながら、ホロウの精神の最奥は、吹雪の中に体一つで放り出されたかのように凍えていた。

 

 

(震える…。次の瞬間が訪れる事が、溜まらなく精神を圧迫する…。これが……これが、恐怖…!?)

 

 

 どんな苦痛にも孤独にも動じなかったホロウが、無力と絶望に圧し掛かられる。

 ホロウは今まで恐怖と呼べる感情を持ったことは、殆ど無かった。鬼と対峙しようが、人に敵意を向けられようが、攻撃を受けて死の危険に直面しようが、「不都合」くらいの感覚しか覚えなかった。それはイヅチカナタを討つ為だけに作り出された人造人間に、そのような感情は不要とオミットされた為なのか、本人の気質なのかは微妙な所だ。

 かつて感じた恐怖といえば、オビト達と共にイヅチカナタと戦い、彼のミタマが奪わそうになった時くらいか。その時も、焦りはあっても恐怖は無く、そもそもその記憶は因果ごと奪い取られていた。

 

 そのホロウが、初めて心底怯えたのは、『自分を塗り替えられる感覚』だった。

 染み込んでくる悦楽が、自分を根底から蝕んでいくのが分かる。オビトの為という意識が消えていく。欲しくなかった筈の刺激が、どんどん心地よくなっていく。イヅチカナタという怨敵さえ、思考の片隅にも存在しなくなっていく

 あまりにも素早く、深くまで侵蝕される。

 

 心地よいからこそ、想像すらできない悦楽を注ぎ込まれているからこそ、尚更に悍ましい。

 自分を全く別物に変えられる…それは現在の自分の死であるとも言えるのだ。この男が自分にしている事は、自覚なく死なせ、また都合のいい人格を植え付けようとしているのに等しい。悦楽で誤魔化しているだけで、二度と解ける事のない洗脳を施しているようなものだ。

 だと言うのに、必死で言い聞かせなければ、体が男を受け入れようとして、魂が悦びの内に屈しようとてしまう。

 『嬲り殺しにされる事を悦んでしまう』など、おぞましくない筈がない。

 

 自分はどうなってしまうのか。

 悦楽に呑まれ、変わり果ててしまうのか。オビトはどうなる。トキワノオロチはどうする。イヅチカナタを討たねばならないのに、まさかそれすらどうでもよくなってしまうのか? 今までの繰り返しで見てきた女達のように、この男の為なら何でもする奴隷のような存在に成り果ててしまうのか。

 

 想像したくもない自分の姿が脳裏に過る。

 露出の多い馬鹿げた衣装に身を包み、恍惚とした目で彼に擦り寄り、淫売そのものの表情で媚をうる自分。

 理性よりも先に、感性と本能が拒絶の叫びを挙げる。

 

 

 だがもう遅い。

 

 ホロウは完全に術中に嵌っていた。どうなってしまうのかという恐怖さえ、『どんな悦楽で自分を変えてくれるのか』という期待に変えられていく。

 爆発しそうな程に疼く体は、恐ろしい悦楽を送り込んでくる手に触れられる瞬間を、今か今かと待ち望んでいる。

 

 それでも辛うじて繋ぎ留められていたホロウの理性を断ち切りトドメを刺したのは、体を這い回る冒涜的な手ではなかった。

 

 

 

 ホロウの視界に飛び込んできた、己という雌を屈服させようと猛り狂う象徴を見た瞬間、ホロウは知らない感覚に…初めて至った絶頂に晒される。

 挿れられるどころか触れてさえいないソレに、体も魂も、勝手に屈してしまったのだ。

 絶頂による悦楽と衝撃で、繋ぎとめていた糸がぷっつりと切れる。

 

 

 

 最後に『もうどうとでもなれ』と叫んだのは、自分だったのだろうか…。

 

 



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601話

SIDE 色惚け

 

 

 

 

 

 

 

 予想以上の反応だったのは、否定しない。

 性行為を甘く見ていたホロウを翻弄するのは簡単だった。前回と違い、何処をどう弄れば反応を引き出せるかきっちり把握できていたし、精神的にも物理的にも逃げ道は真っ先に断った。予想外の感覚に戸惑っている間に霊力を体内に打ち込み、力を籠められないように小細工して抵抗を封じた。

 悦楽こそ自覚してないものの、初めて数分も経たない内に、ホロウは俺の腕の中で藻掻く事しかできない獲物と成り果てた。

 

 喜悦に歪む表情こそ見る事はできてなかったが、体はしっかりと反応し、その刺激を受け取っているのは明らかだった。

 慣れない感覚を処理できていないだけ。であれば、刺激を少し弱めて受け止められるようにし、じっくり味わわせて自覚させる。不感症だからといって、強い刺激だけを与えればいい訳ではないのだ。

 

 体の隅から、徐々に性感を呼び覚ましていき、未知の刺激に身悶えるホロウを堪能する。

 ホロウからしてみれば、四肢が溶けていっているか、異様な何かに呑み込まれていくように感じていただろう。それに対して恐怖を感じてないのは流石の胆力と言うべきか。

 

 まぁ、総じて想定通りの反応を得ていた訳だ。

 人は快楽に逆らえないが、それはホロウも同じだったようで、どんどん体の攻略は進んでいった。肝心の精神にも、徐々にだが影響を与える事ができた。

 長い長い旅を歩み続けてきた鉄の精神を蕩けさせるにはまだ手間がかかるが、これならいける。クサレイヅチと戦うな、などと言わないよう、徹底して堕とす事ができる。

 

 そう確信して愛撫の手を進めると同時に、少しばかり残念にも思った。

 文句がある訳ではないが、順調すぎると感じたのだ。ホロウに何か策や演技があると思ったのではない。むしろそっちの方が愉しめそうだが。

 手応えがなさすぎる、簡単すぎる。上手くいくのはいい事だが、どうにもヤり応えを感じない。

 つまらないなどと失礼極まりない事は言わないが、拍子抜けと感じたのも確かだった。

 

 考えてみれば、ホロウに見劣りしない美女をとっかえひっかえしている上、その子達はみんな俺と交合が大好きで、技術的にもホロウはマグロ、うちの子達は試行錯誤して色々愉しませてくれる。…そりゃ色々と物足りなく感じるのも無理はないか。

 別に萎えはしないけど。こういう子を堕として、自分好みに染め上げていくシチュエーション、実にいいじゃないか。堕とされたホロウがどんな風に様変わりし、好意を示し、媚を売り、痴態を晒すようになるのか。楽しみである。

 

 

 …そんな事を考えていたのは、間違いなく俺のミスだった。未来の事を夢想して、ホロウから少しばかり意識が逸れていた。

 そんな状態でも俺の体は滞りなく動き、本番に向けての準備を進めていた。つまるところ、ホロウの愛撫を続けながら、俺も服を脱いだ訳だ。ナニを丸出しにした訳だね。

 

 

 

 ……数々の女を抱き、善がり狂わせ、欲望に染め上げて堕落させる因果を纏った、このマジカルなイチモツを。

 

 

 

 流石に予想外だったわ…。俺のナニが事実上マジカルチンポになっていたのはとっくに分かっていたが、まさか触れさせるどころか見せるだけでホロウの理性の糸を引き千切ってしまうとは。

 うむ…自分で言うのも何だが、どんだけ女を狂わせてきたんだろうか…。因果簒奪の影響で記憶が整理できてないから、自分のやらかしがどんだけのものなのか今一つ…。

 

 

 何にせよ、ブチ切れたホロウは表情からして別人だった。いつもの無表情は何処へやら、飢えた肉食獣…いや、飢えを思い出した野獣? 力が入らなかった筈の体を跳ね起こし、残っていた服を破り捨てる。夜着に見えてもモノノフ御用達の服だし、かなり頑丈な筈なのだが。

 衝動と湧き上がる力に任せて俺の体を押し返し、騎乗位の体制に持ち込んだ。

 さっきまでの冷静であろうと抗っていた様子は微塵も残っていない。正に野生解放。

 

 

 俺を抑えつける体から、強い熱が伝わってくる。…精神的、感覚的な話ではなく、物理的に熱くなっている。体温の上昇、血流の加速、アドレナリンの過剰生成…明らかに尋常な状態ではない。

 幾ら何でも興奮しすぎだと思ったが、ホロウの体内に渦巻く力を感じて理解した。

 

 おそらく、これが魂喰らいの力だ。ナニの最中に俺を押し返すくらいの強化度合い…。ホロウに搭載された最終兵器と言われるのも納得である。

 

 体内に侵入させた霊力が、ホロウの胎にまで回って燃料となっている。

 …少し中を探ってみたが、幸いオビトは無事なようだ。…燃料にされてない、って意味では。……なんだ、その、予想通りと言うか何と言うか、モノノフの始祖がミタマの状態でアヘッってる姿を見るのはちょいと不敬と言いますか。だがこれも彼を引っ張り出す為なので、アヘアヘしてるのには目を逸らして続けます。

 

 

 

 それにしても見事な豹変具合である。

 体の疼きを鎮めようと、形振り構わず俺を貪りに来ている。経験がなくとも交わる事で肉欲を鎮められると、本能で分かっているのだろうか。

 イチモツを握り潰さんばかりに確保されて、強引に挿れようとするも、慣れてない行為に戸惑っているのに加え、俺はイチモツに力を入れたり抜いたりして、膣内に迎えようとするホロウの攻勢をのらりくらりと避ける。噛み付かんばかりの目で睨みつけられるが、生憎おれのイチモツは安くない。…うちの子達には毎日大安売りしているようなもんだが、あの子達は好き好きオーラで接待してくれるからね。それに対して、ホロウは俺に対する愛情も何もなく、ただ欲望を満たす為に棒を使おうとしているのでしかない。そうそう犯されてやる気にはならんよ。

 

 完全に欲望に塗り潰されている……ちょっと頭を使えば、俺を誘惑するなり行為を委ねるなりしてスムーズに進められるだろうに。

 だが、考えてみればこれがホロウの素なのかもしれない。記憶を失った時のホロウを思い返すと、イヅチカナタ討伐という使命や、名前も残さず去らねばならないという境遇を忘れ、食欲の赴くままに行動していたものだ。今は色々思い出したものの、それらの全てを性の衝動で塗り潰したのは俺だ。今のホロウは、飯と同等かそれ以上の情熱を、性欲に捧げている事になる。

 

 

 …とは言え、やはり技巧も機転も無いに等しい。苦しむ体を自ら慰めるという発想も出てこないようだ。

 疼く体の熱はますます燃え上がったホロウを苦しめ、魂喰らいの機能すら快楽の為に変換される。…これはちょっと予想外。確かに浸透させていた霊力には『気持ちよくなれ』と籠めていたが、それを魂喰らいで燃やす事でより強い効果が現れるとは…。

 

 快楽を生成する為の霊力は絶えず魂喰らいに流しこみ(余波でオビトが〇精しているっぽいが)、内側から快楽で焼かれる痴態を楽しみながら、ホロウの腕をとって自分の胸へと押し付けてやる。

 拒絶されると思ったのか、俺の腕を振り払おうとするが、適当に動かされただけの腕で何が出来る訳でもない。胸に掌を押し当て、その上から手で包み込むように揉んでやる。

 ただそれだけの行為だったのに、ホロウは背筋を仰け反らせ、言葉にならない叫びを挙げた。

 

 そして次の瞬間には、両手で自分の胸を鷲掴みにし、乱暴に指を喰いこませる。…愛撫、自慰と言うよりは、とにかく体の中に籠った熱をどうにかしたいのだろうか。

 一方で、下半身は意識してかせずか、自らの内に迎え入れようとする動きを止め、秘部をイチモツに擦り合わせるような動きに変わっていた。未経験、それも自称不感症の女の股座とは思えないほどに濡れそぼったその部分からは、強烈な雌の匂いが香り立っている。腰を前後する度に強くなるその香りは、今まで知らず知らずのうちに貯め込んでいた性欲を纏めて吐き出しているかのようだ。

 複雑な割れ目の感触と陰毛が擦りつけられる感触が、俺の剛直を昂らせていく。

 同時に、ホロウも剛直の感触で際限なく昂っていく。目にするだけで、ホロウを性欲の獣に変えてしまうようなマジカルな剛直だ。直接触れる事で得られる悦楽がどれ程のものか。少なくとも、ホロウは期待外れとも拍子抜けとも思っていないようだ。

 

 腰を動かしてホロウが快楽を得やすいようサポートしながら、同時に力の限りに自分の胸を握りしめている手を解してやる。

 愛撫とはこうやるんだ、とばかりにホロウの手と指を上側から操り、強弱をつけ、ツボを押さえた指使いを教え込む。程なくして、飢えた獣そのものだったホロウの声が蕩けていき、自らの愛撫に没頭し始めた。

 

 乳房には爪の痕が残っており、病的なまでに白い肌の上でくっきりとしたコントラストになっていた。それでも力を全く緩めようとしていなかったのは、体を焼く熱の方がずっと強かったからか、或いはその痛みさえ悦楽に変換されていた為か。

 いずれにせよ、傷と痛みを全うに感じ取る事は出来ない状態だろう。

 

 

 

 

 既に理性は完全に破壊された。ならば、次は心の番だ。

 欲望を満たすだけではない。羞恥と屈辱と興奮を。組み敷かれ、屈する事で身を浸す諦観を。その先にある法悦の底なし沼を。ホロウの魂に刻み込む。

 

 自慰にかまけて俺の事を忘れているようだったので、これ幸いと体制を変える。騎乗位(まだ入っていなかったが)から一気に体を逆転させ、マンぐり返しの状態に。

 自慰の邪魔をされたホロウが反抗しようとする前に、両足を掴んで大きく広げさせてやる。俺の目の前にホロウの秘部が広がった。既に下着は破り取られ、秘部を隠すのは陰毛のみ。大きく足を広げた事で、ピンク色の未踏の道が顔を覗かせた。

 雌の香りが立ち込めるその場所に、息を細く長く吹きかける。つい先程までチンポに擦りつけられ続けていた秘部は、砂漠で水を与えられた旅人のように必死で刺激を貪ろうとする。息を吹きかければ吹きかけるだけ、ホロウはビクビクと震えてオアシスの如く愛液が滲み出る。 

 

 空気に触れるだけでもピクピクと痙攣する秘所に視線を注ぎ、180度開脚させていた足を更に左右に引っ張る。

 股割りの痛みも抵抗も無い。新体操も余裕ですと言わんばかりの恰好で、曝け出された内側のピンク色の粘膜が物欲しげに奮える。

 

 大っぴらになった内部を、なぶりあげるように観察する。

 視線を受けるだけで刺激を感じているのか、ホロウが喘ぎ声を漏らし続けていた。

 

 

 

 普通の人間と同じように見えるが……少し違うな。筋肉の付き方が、普通の人間とは違う。子種を搾り取る為の穴じゃない。

 だが、締め付けの強さは見ているだけで想像できた。全身が強化された人造人間の穴…。 

 舌を伸ばして抉り込んでやれば、下になっているホロウの顔からくぐもった声が飛び出した。慣れない体制の為か、喘ぎ声も素直に出てこないようだ。その分、刺激が発散される事もなく、ビクビクと体だけが反応している。

 溢れ出る愛液をこそぎ取るように舐め回し、音を立てて啜ってやる。

 …薄味、かな。普通の女は、多少の差はあれ酸っぱい感じの味があるんだが…とにかく薄い。粘り気も少ない。ま、これはこれで悪くないものだ。

 

 珍しい味が気に入って執拗にクンニを施していると、イチツに向かって生暖かい空気が吹きかけられた。そういえば、まんぐり返し状態になったホロウの目の前に、俺の剛直が突きつけられた状態になってたな。

 舌を止めてちょっとだけ見てみると、逆様になったホロウの目は剛直に釘付けになっており、剛直がピクピク震えるのに連動してホロウ自身も痙攣している。

 …ああうん、目にするだけで理性の糸を引き千切るイチモツが目の前に突き付けられ続けていれば、そりゃ問答無用でアクメを迎えるか。

 しかも見ているだけでは物足りなくなったのか、無様な表情になるのも構わず大きく舌を突き出し、先端の先走りを舐めとろうとしていた。

 

 正直、舐めとるどころか食い千切りにきそうな予感はあったのだが、それならそれで構わない。俺のナニを睦言中に食いちぎれるものならやってみろと言うのだ。……いや本当にできるなら辞めてほしいが、睦言中に限れば毒から物理まで、快楽系以外の攻撃は全て無効化できるからね。思いっきり噛み付かれても傷一つ付きません。

 ちょっとずつ顔に先端を近付けてやると、スンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ、モゾモゾと体をくねらせて近付けようとする。

 その間にもクンニを受けて体を震わせ、次々と愛液を湧き上がらせる。…少しずつ、味が濃くなってきたように思う。

 

 とうとう、ホロウの口まで俺の剛直が届く。その途端、ホロウは首の関節を外したのかと思う程に頭を跳ね上げ、一気に剛直を咥え込んでしまった。

 生暖かく、湿った感触と共に、硬い感触が剛直を襲う。勢い余って噛み付いてしまったらしい。

 内心で溜息を吐いたが、そうくるならそうくるでこちらにも考えがある。理性がなくなった状態とは言え、人様のイチモツに噛みつくという暴挙に出たのだ。オシオキされても文句は言えないだろう?

 

 

「んっ!? んぐっ、んごぉぉぉ!?」

 

 

 咥え込まれた剛直を、抵抗せずに更に押し込んでやる。歯が思いっきり食い込んで擦れるが、お互いに痛みは無い。快楽に繋がらない苦痛的な刺激は、全てシャットアウトできるのだ。

 だから、ホロウの喉奥に向かって腰を動かし、強烈なイマラチオを行っても全く問題は無い。

 角度を調整し、上から下に突き込むようにピストンを続ける。無理な態勢で受け入れた為、ホロウは何度も喉奥に先端を打ち付けられるが、全く構わず、もっと奥へ誘うように舌と喉を絡み付かせる。

 

 

「っ、ご、ふっ、んぐぉ、ふっ、じゅぷっ、んぐんむぅぅぅ!!!」

 

 

 唾液が剛直に絡まり動きが一層スムーズになっていく。下半身は上から舌に犯され、口は男の下半身に汚され、目からも鼻からも体液が零れていると言うのに、ホロウの貪欲さは止まらない。

 絶える事なく体が痙攣し続け、絶頂に続く絶頂に叩き込まれているのがよく分かった。時折開く目は、白目になっており、まるでトリップした麻薬中毒者のよう。

 そのくせ、引き抜こうとする時には唇を窄めて思い切り吸い上げ、歯を立ててでも逃がすまいとする。自分の口を犯すものこそが、己の欲望を満たし快楽の世界に誘ってくれる唯一無二の棒である事を、既に体が認めてしまっているのだ。

 

 だが、標的にしているのは体ではなく心。体だけでなく、ホロウの魂こそ犯すべきなのだ。

 その為に最も効果があるのは何か。

 勝てない、と思わせるのもいい。

 抜け出したいとさえ思えなくするのもいい。

 

 だが一番効果があるのは、精液だ。たっぷりと霊力が詰まった雄の象徴、女を孕ませ自分の物だとマーキングする子種。それを体内に送り込み、籠められた霊力で魂に干渉する。

 性欲処理用のコキ穴になるのだと、そうすればこんなにも気持ちいい法悦の中に沈むとが出来るのだと教え込むのだ。

 

 

 ホロウの喉の締まりとバキュームは、ちょっと珍しい程に強烈で、具合よく腰を振ってやればあっという間に剛直に熱い物が込み上げてくる。

 勢いのままに腰を振り、舌を秘部に捻じ込み、頭を固定して思いっきり突き入れてやれば。

 

 

 

「ん、んごぉぉぉぉ❤❤❤❤❤❤っっ!?!?!!」

 

 

 

 遂に声がで聞こえだした。

 言葉にならない歓びの声があがる。喉の奥までぶっとい棒を突き込まれ、食道どころか胃袋に直接精液を吹きかけられるような射精を受けて、まだ処女だと言うのにホロウは潮を吹き散らした。

 俺の顔面に体液が降りかかるが、全く気にならない。むしろ征服欲が満たされて、口元が歪んでいるのが分かる。もしもこれが潮ではなく小水だったとしても変わらないだろう。

 

 そして、ホロウの反応を見て確信した。彼女の体は、俺が思っていたよりも頑丈だ。戦いに特化させる為に強化された、と言う事だろうが……当然ながら、それ以外にも活用できる。

 つまり、ちょっとくらいのハードプレイなら何の問題も無いと言う事ですな!

 ドMちゃんの素質も見られないのに、初っ端からスパンキングとか流石に敵認定の元になるかな、と思ってたが、これなら余裕余裕。事実、息が出来ないくらいに喉に突っ込まれても悦んでるしネ!

 

 もうちょっと試してみようと、射精の後も更に喉を犯してやると、これまた良い反応。

 苦しいのは確かだろうが、この痙攣は苦しみと悦楽の狭間にある反応だ。しかも僅かに動く舌で、剛直を歓迎するように這い回ってくる。

 これ幸いと、もう一発の為にピストンを続ける。今度は征服だの隷属だの関係なく、ただ気持ちよく果てる為だけのピストンだ。思いやりも何も無いその動きにも、ホロウは躊躇いなくついてくる。

 とは言え流石に慣れない行為だし、ノウハウがある訳でもなし。俺とホロウが悦楽を得る代償に、ホロウの体力、並びに酸素は急激に目減りしていった。追加の一発を吐き出した後は、口からも鼻からも白濁を逆流させて咳き込み、白目になって虚空を見上げるだけになってしまった。まんぐり返しにしていた体を解放すると、大の字になって布団に横たわる。時折小さく咳き込んで白濁を吐き出しながらも、恍惚とした表情だけは崩れない…白目だけど。その姿を一言で言うならば、赤道直下に連れてこられたアザラシ、打ち上げられた魚、凌辱プレイ後の〇魔忍。

 

 …量だけとは言え、手加減無しの射精は、流石に受け止めきれなかったか。うん、普通の人間の射精ならともかく俺のはね…。勢いに関しても、ちょっとした水鉄砲並みだったからな。やろうと思えば、壁に穴を開けられるジェット水流並みの破壊力も出せてしまうぞ。

 ともかく、一気に体力を削ってしまい、ホロウはまともに動けない状態だ。体自体は頑丈だが、酸素不足はどしようもない。

 流石にこの状態のホロウに、追撃をかける気はない。冗談抜きで腹下死する危険もある(生き返らせられるけど)。何より、反応があるだけのマグロを嬲ってもあまり楽しくないのだ。

 

 

 なので次の段階。

 屈服しそうになっている魂に、今度は安らぎを与えます。

 グチャグチャになっているホロウの顔を軽くふいて整え、脱力した体を背後から抱きしめる。そのまま自分も布団に倒れ込んで、天上を見上げる。

 愛撫をしたり、処女を奪いにいくわけではなく、純粋に休憩タイムだ。

 

 ただし、その間にも互いの間に霊力を循環させ、気息を整え、意識を呼び戻し、性欲が完全燃焼しない程度の性感を与えて、本番へのコンディションを整えていく。

 尤も、体の調子を整えるのは副産物に過ぎない。リラックスする体に釣られて安らぐ心、互いが一体となっているような安心感と幸福感を呼び起こす。流し込んで与えるのではなく、自らの内から湧き上がらせるのがポイントだ。

 例え、そういう感覚を覚えるよう仕組まれ誘導されているのだとしても、自分の中から湧き上がる感情は本物だ。

 

 

 見た事もない程に息を荒げ、まだ痙攣する体を持て余しているホロウは、俺の抱擁に反抗するでもなく、ぐったりとして身を委ねる。

 首筋に口付けたり、髪を撫でたり、匂いを嗅いだりなどにも反応しない。

 …湧き上がった安堵感に身を委ねているのだ。激しい欲情から一転して、日向で微睡むような静かな時間。ついつい本当に眠りかけてしまったようだが、流石にそれは阻止した。

 

 

 しばらく時間が経って…と言っても、体感時間操作があるから、実時間は全く経過していないが…ホロウの呼吸が落ち着いてきて、ようやく彼女はまともに口を開いた。

 

 

「……本当に、性質の悪い男です」

 

 

 否定はできんが、第一声がそれかい。

 

 

「それ以上に何を言えと…。完全な判断ミスでした…。あなたに抱かれる事だけは忌避しなければならなかったと言うのに」

 

 

 そこまで言う? 言っちゃなんだが、それなり以上に丁寧にしたつもりだぞ。

 …いやまぁ、最後の方は色々と突っ走ったのは否定できんが。

 

 

「猶更悪いです。…こうして理性を持って会話ができるのもほんの少しの間だけでしょう。あなたは指先一つで、私を先程のような獣に変えられる。…既に詰んだ状態です。私が貴方の望む答えを吐くまで、幾らでも私を好きにできる」

 

 

 …そうだな。ホロウを抱きたいと思ったのも事実だが、狙いはそれだ。

 一度寝技(意味深)に持ち込んでしまえば、お前が相手でも意のままに出来る。狙いは…いうまでもなく、クサレイヅチとの戦いだ。

 ホロウも気付いていたようだが、因果がどうの勝ち目がどうのと言われても、引き下がるつもりは一切なかった。魂喰らいだって、受けた後にこっそり戦いに参加しようと思ってたしな。

 

 

「そうでしょうね…。そんな懸念すら忘れていたとは……因果と言うのは本当に厄介な…」

 

 

 随分と物分かりがいいな。いつものホロウなら、空気も読まずに無茶苦茶やって抵抗してきそうなものだが。

 

 

「意味のある抵抗ができる状態であれば、それもしたでしょう。ですが…文字通り心も体も絡めとられている状況では、勝ち目はありません。…こうしている間にも、貴方は私を懐柔しようとしている。そして、私はそれに気付きながらも抗いたくないと思い始めている」

 

 

 …この時のホロウの表情は、何とも言い難いものだった。

 初めて知った暖かさと心地よさ、そして安らぎ。

 それによって上書きされていく使命。

 何もかもを塗り潰す快楽の拷問。

 

 既にホロウの体は術中に落ちており、抵抗する事すらできない。

 したところで無駄なのだと、心の支えも侵蝕されている。

 

 

「強制的に心を開かされる…。これ程の恥辱は無い筈なのに、心地よくすら感じる…」

 

 

 忌々しいと吐き捨てながら、ホロウは自分を抱きしめている腕を沿うように撫でた。

 はっきりと自覚しての事だろう、その動きには普段のホロウとは明らかに違う艶と熱が籠っている。

 

 肩越しに振り返り、俺と目を合わせたホロウは告げる。

 

 

「睦言であなたに抵抗できるとは思っていません。逃れようにも、この腕が解かれれば、私はすぐに先程以上の獣になって、肉欲を満たそうと襲い掛かるでしょう。そして逆に捻じ伏せられ、二度と逆らわなくなるまで犯される」

 

 

 …自分で言って、興奮し始めてないか?

 

 

「気に入らない事ですが、期待があるのは事実ですね。…ですが、これだけははっきりと告げておきます」

 

 

 おっ、絶対に負けない発言かな?

 

 

「私は貴女の思うように変えられてしまうでしょうが、何もかもが思い通りに行くなどと思わない事です。例えあなたの害になる事が一切できなくなったとしても、意趣返しくらいならできるのですよ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふむ。

 

 何もかもが上手く行くなんて思ってないわい。こんだけ失敗して繰り返し続けてるのに、何の考えも無しに全て上手くできるなんて思えるものかよ。

 ホロウが言ってるのはそういう事じゃないんだろうが……でも、それならそれでどうしてこの場で言っちゃうのかねー、この子は。

 

 

「っ…! っ、はっ、はっ、はっ、はっ…!」

 

 

 抱きしめていた腕を解き、ホロウの上体を起き上がらせる。

 その途端、薬物でも打たれたかのようにホロウの表情が変わっていく。…いや、薬物を打たれたんじゃなくて、逆だな。俺という薬物が抜けてしまった事によって、ホロウの禁断症状が始まってしまったのだ。

 簡単に言えば、休憩タイムは終わりで、本能丸出しの種付けタイムが始まるよー。

 

 ホロウの言ってる意趣返しとやらは気になるが、そこは素直にさせて吐かせる事にする。

 意趣返しってくらいで報復とは言わなかったから、もしも気付かずしてやられてしまっても、そう酷い事にはならないだろう。もしなるような企みなら、コトが終わって黙っていられる筈もない。

 

 

 

 

 

 

 ………ん-、なんか既視感あるなぁ…。こうやってフラグを立てて、盛大に回収した事が何度かあったような……どこであったっけ…。

 思い出せん。

 思い出せんと言う事は、大した事じゃないか、因果的に回避不可能な事なんだろう。ホロウが、俺に堕とされる事を想像できなかったように、俺もこの既視感の元に気付けないのかもしれない。

 

 

 …猶更、致命的な事に繋がりそうだなぁ…とは思ったものの、目の前の女体に意識が奪われ、思考の隅へと追いやられる。

 いかんなぁと思いながらも、あっという間にギンギンにそそり立つイチモツの衝動に屈した。

 

 

 肉欲を満たそうと襲い掛かってくるホロウを受け止め、逆に押し返す。暴れるかと思ったが、胸や尻をを掴めば喘ぎ声を漏らし、それどころか肌に視線をやるだけで堪らないとばかりにヒクヒクと体を震わせる。

 どうやら俺との接触=快楽という図式は、上手くホロウに刻み込まれているようだ

 イチモツの先端を内股の辺りに触れさせると、それだけで雌の香りが強くなる。すべすべの肌に先走りで跡を残し、時折秘部に擦らせる。

 

 ケダモノの如き喘ぎ声を黙殺し、腰を掴んで股を開かせる。

 ホロウは何を言うでもなく、ここに来いとばかりに大きく両足を開き、割れ目を突き出した。

 卑猥なオネダリでもさせてやりたかったが、この状態じゃ言葉が喋れるかすら怪しい。想像以上に強い性欲が眠っていた事に苦笑して、肉棒を雌の穴に押し込んでいく。

 

 

「ア……ッァ……オ、ふっ、、オ、おぉぉぉ…❤❤❤!」

 

 

 見目麗しい女性が発したとは思えないような喘ぎ声。

 一寸進むたびにホロウは全身で悦びを表現する。複雑さは無いが、強烈すぎる締め付けで侵入者をしごきあげ、更に奥への挿入と精液を要求する。

 またも白目状態になって、殆どトリップしている薬物ジャンキーのような有様だ。

 ピストンに合わせて腰を振っているようにも見えるが、ホロウにそれができるだけの理性もノウハウも残っていない。膣の蠕動に連動するように震える全身に、俺が合わせているだけだ。より奥まで、弱点に直撃するように、未踏の道を抉じ開けて悦楽と従属を教え込む。

 

 一挙手一投足に反応して悦楽の悲鳴をあげるホロウを見ていると、愉悦と愛情が入り混じる劣情が強く頭を擡げてくる。

 今まで頭の片隅に残っていた、クサレイヅチとの闘いの為だとか、余計な事をさせないようにだとか、そういう雑念が追いやられていく。残るのはただ、この女を気持ちよくして善がらせたい、征服したい、愛でたい、孕ませたいという欲求の身。

 オカルト版真言立川流の、ちょっとした欠点かな…。強制的に心を開かれるのは、相手だけじゃない。単に、俺が一回抱いた女に情が移ってしまうチョロい男だと言われると反論できないが。

 でもまぁ、これでいいんだろう。欲望と快楽だけを満たす交わりも嫌いじゃないが、やっぱり好きな相手とやるのがいいもんだ。好きな相手が多くなりすぎるけど、嫌いな相手が多いよりいいだろう。

 

 

 だから抱く。孕ませる。

 オビトを助ける為、生み出す為という名目で、今回は避妊の術は無しだ。久々の本格的な孕ませに、睾丸の奥でぐつぐつと煮えたぎる情熱を感じる。

 ホロウもそろそろ限界のようだし、一発目の白濁を躊躇いなく開放した。

 

 

 

❤❤❤❤❤❤❤❤!!!!!」

 

 

 

 射精の瞬間、ホロウは痙攣していた全身を硬直させ、すぐに俺の体に全身で抱き着いてきた。

 絶頂続きでもう休ませてくれと懇願しているようにも、精を注ぐ雄を逃がすまいとしているようにも、恋人の暖かさを全身で感じようとしているようにも見える。

 

 そうだ、変われ。変わってしまえ。

 クサレイヅチを討伐する使命とか、その為に作られた人造人間だとか、そんな事は全て忘れて、俺に抱かれて子を孕む為の、都合のいい性欲処理穴になってしまえ。

 

 いずれにせよ、俺の白濁は即胎ボテになれとばかりの勢いで、ホロウの胎内に注ぎ込まれていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 一発ヤッた後の一休み。と言っても、ホロウはほぼ意識が飛んでおり、ピロートークもできない有様なので、本当に体を落ち着ける時間でしかない。

 体を清める事はしなかった。どうせ、この後も5発6発と注ぎ込むつもりなのだ。

 

 ホロウの精神力を舐めてはいけない。確かに未知の感覚や欲望で翻弄する事はできたが、長年独りでイヅチカナタを追い続け、悲壮感の一つも見せない根性(或いは感性の鈍さ)は伊達ではないのだ。

 今この時だけ蹂躙して屈服させても、後から何か企む可能性は十二分にある。そういう意味では、俺の同類と言ってもいいかもしれない。懲りないと言うか、目的に向かって延々と進み続けると言うか…。

 事実、先程のホロウも言っていたではないか。『意趣返しくらいなら出来る』と。あれは自分がどうなったとしても、その企ては必ず成功するという確信があるからこその言葉ではないか。

 

 …ま、こんなのは建前だ。実際は、思っていた以上にホロウがエロ可愛くて、もっと貪りたくなっただけである。元々、日に何十発とヤッている身の上だし、一発出した程度で収まる筈もない。

 あと、ご奉仕とか尻とか色々仕込みたい。自分主導で楽しむ方法も教えてやった方が、のめり込みやすくもなるだろうし。

 

 

 さぁて、この無自覚な性欲強め見た目クールビューティを、どう染め上げてやろうか。

 ホロウの意識が戻るのを今か今かと待ちながら、彼女の淫らな姿を脳裏に思い描き、愉しい未来図を夢想する。手に入れた女をどう調教しようかじっくり吟味する、ある意味一番楽しい時間である。

 

 

 

 …そして、俺は気付かず、忘れ去っていく。ホロウの企てを吐かせる事も。……実は一発目の余波で既にメス堕ちして、『新しい体は、父上に抱いてもらえるよう女体がいいな』なんて考えている、ホロウの胎の中に居るオビトの事も…。

 

 

 



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602話

黄昏月肆拾伍日目

 

 

 今日は朝っぱらから大騒ぎです。里までは騒ぎが届いていないものの、うちの屯所はクィーンランゴスタとブナハブラとドレッドパイクが入り乱れ、時々コクーンが無限湧きして乱闘しているような大騒ぎ。

 騒ぎの中心は、毎度毎度の事ながら俺……ではありません。

 

 ついでに言えば、大騒ぎと言うのは雰囲気だけで、みんなして黙りこくっています。ウロウロと歩き回ったり、座禅を組んでは3秒で目を開けたり、意味もなく木の枝を銜えて振ったり、何故か生えている尻尾を落ち着きなく振り回したり。

 かく言う俺も、どうにもじっとしていられない。

 

 いや、何か予感がするとかじゃないんだ。むしろ確信ならあるが。

 色々と繰り返してきた俺としても、初めての経験だな…。こんなにも落ち着かないのは。いつぞやの忘れていたループで記憶や戦う術を全て失った状態で、岩陰でイビルジョーから隠れていた時よりも落ち着かない。

 周りの子を抱いてスッキリしようって気分にもなれない。ついでに言えば、流石にこの状況で求められても、うちの子達も嬉しくは………ない、と思う、多分。

 

 

 

 

 何をしてるかって? 俺は何もしてねーよ。男ってこういう時無力だな…。

 

 お産だよ、お産。

 誰のって、ホロウの。産まれるのは当然俺の子だ。…と言うかオビトだが。

 

 ヤッたのは昨晩の事だが、オカルト版真言立川流のおかげで半日もあれば臨月状態になり、ついさっき見事に破水して、今は特急で設えた分娩室で唸っている、って訳だ。

 医療の知識が多少はある子も居たが、産婆を務めているのは那木と博士だけ。

 うちの子達だと、個人的な感情を拗らせて妙な事をしでかしかねない。何せつい先日まで散々失礼な態度(傍若無人さで言えば、俺もどっこいどっこいだが)をとってヘイトを集めていたホロウが、誰よりも先に俺の子を出産しようとしているのだ。『若の御子に何かあってはいけない』という意識と、『なんでこの女が』という嫉妬の板挟みにあって、暴走しそうな予感がする。

 那木もその辺はちょっと複雑な顔をしていたが、流石に本職医師。すぐに切り替えてホロウの介護にあたっていた。後で搾り取られそうだが、それはどっちにとってもご褒美なので問題は無い。

 

 

 …話が逸れたが、まぁとにかくそういう状況だ。

 半日足らずで胎が大きくなったホロウは、そこそこに母体にも無理をさせてしまった。恐らく、今の頑強さは一般人よりも少しマシ、といった程度だろう。

 そもそも、着床して即出産させるこの術も、実際に使うのは初めてだ。手応えこそあったが、やはりスムーズに出来たとは言い辛い。

 

 実のところ、更なる術を施して出産の手間をカットする事も考えていたのだが、那木に張り倒された。

 ただでさえ怪しげな術で、真っ当な生命の誕生方法からは離れている上に、更にその術を施すにはボテ腹のホロウと交わりながらでないといけない…と言われれば、そりゃ医師として那木もキレるわな。普通に考えりゃ流産一直線だ。

 …ちなみに術のかけかたは2種類あって、本番以外(例えば尻とか口とか)のエロをしながら術をかけるか、膣に突っ込みながら術をかけるかだ。後者だと産道が塞がってしまいそうだが、ちんこの先端に赤子の頭を吸着させて引っ張り出すという、何が何だか分からない術である。

 

 

 本当にうまく施術できているのか。ちゃんとオビトを産めるのか。産めたとして、ホロウは無事なのか。

 一般的な男親が抱く心配とは若干方向性が違う気がするが、とにかく俺は分娩室の手前で何とも言えない気持ちを抱えて悶々とし、その隣には心配してくれているのか、ホロウが気に入らなくても出産は気になるのか、産まれてくる赤子を視たいのか、うちの子達も勢揃いして微妙な雰囲気を醸し出している。

 

 

 ホロウに情が移っちまったからなぁ…。オビトも見殺しには出来ないし、実際の出産同様に2人分の命がか関わっているのは変わりないか。

 どっちにしろ、体感時間操作を使っている時よりも時間の流れが遅い気がするぜ。さっきも時計(デジタル。この世界では、ここにしかない)を見たけど、まだ30秒も経っていなかった。

 

 いっその事、ハンター式睡眠法で眠って時間が過ぎるのを待とうかとも思ったが、それは男親としてどうかと思うしなぁ…。いっそ出産もプレイの一つとして楽しめるようになれば気楽に居られるかもしれないが、散々エロを貪って来た俺でもそこまで上級者じゃない。むしろ赤ちゃんに関しては初心者もいいところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …いかん、思考の種が尽きた。

 色々考えるべき事はあるし、雑念でも何でも思い浮かべる事はできるんだが、頭の中を横滑りしていくだけで気晴らしにもならん。

 

 と言うか、この考え自体6回くらいした気がする。

 はぁ…10回目に突入する前に

 

 

 

 

   ア゛ァ”ー 

     ヴァー

  アー

 

 

 

 聞こえた。

   気が付けば扉の前で立ち上がってた。

 

 

 扉を開こうとする俺の腕を、紫や神夜が全力で止めていた。背後では誰かが俺を羽交い絞めにしている。

 退け、邪魔するな!

 

 

「ちょっ、まだ産まれてないです! 落ち着いて!」

 

「若様ぁ、ご無礼仕る!」

 

「殿中、殿中! なにいきなりトチ狂ってるんですか!」

 

「ああああ力強いいぃぃぃ赤ちゃんがぁぁぁ!!!」

 

「やかましい」

 

 

 おっふ、扉が顔面に。だが効かぬ。

 それより博士、出てきたって事はホロウは! オビトは!

 

 

「やかましいと言っとる。無事だが消耗している。入るなら静かにしろ。…気配まで消せとは言っておらん」

 

 

 博士の言葉を無視して、絡みついている連中の腕を全てウナギのようにニュルッと抜け出して、足音一つ立てずに部屋の中に突入。

 そこには我が子……と言うかオビト……と言うか…うん俺の子だろ、どう考えても…を胸に抱くホロウと、それを労う那木、そして元気に鳴き声を挙げている赤子のオビト。

 

 

 

 

 

 気が付けば、ホロウとオビトを抱きしめていた。苦しくないよう、無意識に力加減が出来ていたのは褒められていいと思う。

 言葉が出ない。感謝か、労わりか、オビトは本当に魂喰らいの中から出てこれたのか、感情的なものから事務的な事まで言わなきゃいけない事が山ほどあるのに、喉がつっかえて舌が動かない。

 …最初はホロウを屈服させる為の子作りだった。オビトを助け出す為の子作りだった。愛情が全くなかったとは言わないが、胎が大きくなっていく様を見守る事もなかった。感慨深い、という程の深みもない筈。…それでも、こうして感動に打ち震えている。

 

 那木に肩を叩かれて、何か言われたが…あんまり耳に入ってなかった。

 ただ、疲れ切ったホロウの腕が、オビトを前に掲げた事で、『抱いてあげて』と言っているのは分かった。

 おそるおそる…飛竜の卵を運ぶ時だって、こんなに持ち方に苦労した事は無い…受け取り、

 

 

 なんつーか………理屈とか時間とか、関係ないもんなんだなぁ。(←この辺、後から日記に書き加えた分。当時は感極まって、言葉すら理解できない状態だった)

 

 

 

 

 

 

 まぁ、その感動も「こうして顔を合わせるのは初めてだな。友達…と言いたい所だが、今後は娘としてよろしく頼むぞ、ととさま」なんて、生後5分の娘が宣った事で、色々と吹っ飛んだ訳ですが。

 よく見てみれば、オビトは普通の赤ちゃんとは明らかに違った。体が一回り二回り大きいのは個性だとしても、既に髪も歯が生えそろっていて、しっかりと目を見開いて焦点も合っている。そして今のように平然と喋る。

 …生まれた直後からこの状態って、天才〇カボンかよ…。そういう術を施した俺が言うのも何ですけどね…。

 蓮の花が咲いたり、天上天下唯我独尊と叫ばなかっただけマシかなぁ…。

 

 と言うか、娘になったのね…。性別に関しては手を加えていなかったから、どっちになるか微妙なところだったが………そっかー、モノノフの始祖をTSさせちゃったかー。これ皆に知られたらどうなるだろうな…。

 我が子である事は間違いないが、色んな意味で気が遠くなった俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして2時間後。

 オビトを見ようと、義母として認識してもらおうと、或いは単純な好奇心で押しかけて来たうちの子達も、何とか落ち着いて。

 産後だと言うのにご飯をモリモリ食べて気力体力を回復させたホロウと、俺、そして我が娘オビトは部屋の中で改めて顔を突き合わせていた。

 

 なお、オビトは既に二足歩行、3歳児くらいの大きさにまで成長した。…そういう風に施術した自分が言うのもなんだけど、マジで早すぎる…。本当に体が大丈夫なのか、不安になってくるくらいだ。

 

 

「ん? 私の体に何かあったら、ととさまがどうにかしてくれるだろう。幸い女の体なんだ。先日のホロウのように」

 

 

 まってまってまって近親相姦前提はやめて。本気でどうにもならないなら最後の手段として考えはするけど、畜生道には足を突っ込みたくない。

 

 

「親子を纏めて抱くのも、近親相姦に当たると思いますが。今までの繰り返しで、何度もやったでしょう」

 

 

 ……は、母親と娘がヤッてるんじゃなくて、俺が母親と娘を喰ってただけだから。親子で直に交わらせてはいないから!

 

 

「梁型を使って、親子で繋がらせた事もあったと聞きます」

 

「私とホロウが抱き合うのか…。と言うより、私はホロウをははさまと呼んだ方がいいのかな」

 

「呼ぶのは構いませんが、生来の親も居るでしょう」

 

「あんまり覚えてないなぁ。随分前の事だというのもあるが、実を言うと会った事も殆ど無いんだ。何分、私は気味悪がられて幽閉されていたからな。正直、親とも思っていなかった」

 

 

 おう、いきなり闇を覗かせないでくれませんかね。治安も倫理も今とは全く違う時代だったのはよく分かりますがね。

 

 は、話は変わるがだな、真面目にオビトは大丈夫なのか?

 あんまり考えたくないが、実はここに居るオビトは人格や記憶がコピー…摸倣されているだけで、まだホロウの魂喰らいの中にオビトが居るとか…。

 

 

「自分が模造品なのか、と問われてもな…。失礼云々以前に、単純に答えようがないぞ」

 

「いえ、既に私の中には誰も居ません。感覚で分かります……体の一部が、ごっそりと無くなった気分です」

 

 

 

 まぁ、腹の中に抱え続けていたものが排出された訳だからな…。自覚があろうがなかろうが、胎ボテから普通の胎にいきなり戻れば、喪失感もあろう。

 オビトにはアホな事を聞いてしまった。自分が本当に自分かなんて、誰がどう答えられるっつーのやら。人格の同一性は連続性によってのみ証明される、だったっけ? と言うか、その理屈で行くと何度も死んで繰り返してる俺はどうなるんだって話である。

 

 体が大丈夫なのかに関しては、暫く様子を見るしかないな。術は上手くできた筈だが、比較対象も失敗の経験も無いから何とも言えん。

 

 

「そもそも、私はどこまで成長するんだ? 生後一日も経ってないのにこの有様だ。明日になったら老婆になっているぞ」

 

 

 いや、急な成長はそこまでで止まるよ。事実、こうして話している間にも体に変化はないだろう。

 さっきまでは猛烈な勢いで髪が伸びて爪が伸びて垢が…っと、それは置いといて。

 

 魂喰らいは結局、発動できるようになったのか?

 

 

「問題ありません。発動するだけなら最初から可能でしたから。…幸か不幸か、燃料の為のミタマを取り込む必要もありません。あなたから注がれた精と霊力を燃料と出来るようです」

 

 

 …それが何で、幸か不幸かなんだ? 普通に幸だと思うが…。

 

 

「あなたが行動不能になっていませんから。魂喰らいにあなたのミタマが必要なのであれば、合法的に行動不能にできます」

 

 

 …まだ言うか。そういう考えをさせないくらいに躾けたつもりだったが。

 

 

「…躾けられている自覚はあります。ですが、あなたの目的はイヅチカナタの討伐以上に、奪われた千歳や赤子の解放でしょう。であるならば、あなたに仇成してでも止めた方が、その目的に近付けるでしょう」

 

 

 イエスマンになる事が忠義ではない、か。あの時の言葉はそういう意味だったのかね。

 だがそれに関しては何を考えようと引き下がらぬ。意地でも皆を解放して、奴をぶった斬る。

 

 

「私には因果云々はよく分からんが、それだけで未来が決まるようではつまらんな。友達と力を合わせれば、敗北の因果も覆せるだろう」

 

「…まぁ、オビトならそう言いますね…。確かに敗北の可能性が非常に高い、と確定している、では違いますが…。まぁそれはいいでしょう。どうしても戦うと言うのなら、止めようとは思わない程度には考えが変わってしまいました。ただし、その裏で色々と企てさせてもらいますが」

 

 

 企てる、ね…。

 実際の所、どうなんだ? クサレイヅチとやり合って、勝算はあるのか?

 負けるつもりで戦う筈がないが、それを差し引いても奴らの能力は厄介極まりない。俺やホロウがある程度耐性があるが、それ以外の者だとまず戦わせてもらえない。

 

 …更に言うなら、次の戦いではもう一捻り二捻りあると思った方がいい。

 

 

「同感だな。超がつくほど強力で、特別な鬼が二体揃うんだ。ただ強い奴らが合流したんだと思わない方がいい」

 

「…我々の予想を超える、何かを繰り出してくると?」

 

「恐らくな。それが何なのかは、想像もつかないが」

 

 

 だよなぁ…。クサレイヅチにしてもトキワノオロチにしても、ほぼ実態も正体も不明だもの。

 博士ならもっと何か知っているかもしれんけど。

 

 

「いえ、博士もこれ以上の事は憶測でしか分からないそうです。そもそも、どうしてトキワノオロチの事知っていたのか疑問ですね。イヅチカナタと深い関わりがある鬼なのに、私でさえトキワノオロチの事を聞いたのは初めてです」

 

「友達になれば、いつかは教えてくれるかな」

 

 

 素直に友達になるような女じゃないし、なったとしても素直に口を開くほど単純な女でもないんだよなぁ…。

 ………うん?

 

 

 障子の向こうに陰がさした。このシルエットは災禍だな。

 

 

「若様、ご歓談中に失礼します。里より召集がかかりました。危急の件ゆえ、若様のみならずホロウ殿も すぐに来るようにと。…いかがされますか」

 

 

 静かな口調の中に、僅かに不機嫌そうな声色を感じる。仮にも自分達の頭領が、顎で呼びつけられるような扱いをされいるからか。しかし実際、立場的には里に置いてもらってる形になるからなぁ。

 大和のお頭なら、立場を笠に着てマウント取ってくるような事もしないだろうし、呼び出しには相応の理由があるものだ。……俺のやらかしの叱責とかね。

 

 

 

「ん、どこか行くのか? 私も行くか、ととさま」

 

 

 …いや、頼むからこっちで待っててちょーだい。万が一にもこの子がホロウの子子で、昨晩から今日の半日で産んで、しかもモノノフの始祖で性転換しているなんて話になったら、どんな雷が落ちるか分かったもんじゃない。

 俺とホロウは行ってくるから、うちの子達と友達になってやってくれ。諸事情あって世間知らずな子ばっかりなんだ。

 

 

「それは世間を知らないだけでなく、あなたが基準となるのに不適格だったのでは」

 

 

 言うな。でも自分で言うのもなんだけど、俺じゃなけりゃあの子達纏めて養っていけないぞ。特に暗示的な意味で。いくら美人揃いで獣欲が滾るって言っても、普通はあれだけの人数を相手にしたら干乾びちまうわ。

 

 

 

 



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603話

暖かくなってきたし、花見にでも行こうかな…。
最近、汗疹が酷い時守です。

サウナの楽しみ方に目覚めてから、毎日のように入ってりゃ、そりゃ肌も荒れるわな…。


 

 

 

 さて、そういう訳でホロウを伴って、いつもの集会所…大和のお頭が年中仁王立ちしていたり、木綿ちゃんが何気に朝から晩まで受付嬢やってるブラック労働環境だったり、ゲームシナリオでは何かと集まって話をしていたりする馴染みの場所だ。

 そこには主要人物が勢揃いしていた。里の主力陣は勿論のこと、橘花や樒さん、博士、茅場、秋水、虚海、真鶴…。鍛冶師のたたらさんまで呼び出されたようだ。

 

 連れ立ってやってきた俺とホロウを見て、あらあらと意味深な笑みを浮かべる橘花、ジト目になる虚海、諦めたような目で物言いたげな表情をする大和のお頭。

 …なーんで一緒に来ただけで、こんな反応されてるんだろうね。実績がありまくるのは自覚しているが、今までホロウは俺に対しては割とツンケンしていたし、今も察せられるような片鱗は……………えーと、普段よりも半歩距離が近い、くらいかな…。

 

 

(それだけでも、容易に想像がつくくらいにはあなたに慣れましたからね、皆さんが)

 

 

 お黙り橘花。わざわざ念話まで使う話か。

 だが実際にその想像ま全く外れていないので、余計なツッコミを貰う前に話を進めよう。

 

 大和のお頭、遅くなったようですまない。随分と人が集まっているようだが、何の話だ? 吊し上げするくらいなら、宴会がしたいぞ。

 

 

「この状況で吊るし上げられるとしたら間違いなくお前だが、生憎といい口実が無くてな。お前一人の為に、その下の連中全員と事を構えている暇はない。それよりホロウ、随分と消耗しているようだが?」

 

「ええ、今朝まで出産していたもので」

 

「? 犬のお産にでも立ち会っていたのか?」

 

「そんなところです」

 

「い、犬………ぷくく…」

 

 

 首を傾げる桜花と、それを聞いて笑いをかみ殺す橘花。

 そりゃ確かに、桜花の反応も当然だろう。ホロウと俺が懇ろになった事が想像できたとしても、たった一晩で着床妊娠出産、3歳児まで成長していると、一体誰が考えるのか。

 お産が軽い犬だってそこまでじゃないぞ。

 

 だが真に恐るべきは桜花よ。

 無自覚ながら、モノノフの始祖をワンコ呼ばわりしやがった。これ、本当の事を知ったらどうなるだろうなぁ。……俺が斬られるだけか。始祖様をなんでいきなり女体化させてやがる、って。

 

 

「…まぁいいだろう。本題に入る。全員聞け。神垣の巫女から託宣が下った」

 

 

 空気が一瞬で切り替わり、緊張が走る。

 託宣。簡潔に言えば神託。神仏からのお告げ。

 はっきり言ってしまえば、怪しげなものである事は間違いない。この世界に神仏が居るなら、何で鬼がこんなに溢れ出してんだって話である。

 

 だが神垣の巫女の場合、確固とした術の事である………らしい。

 神垣の巫女の術は幅広い。その全てを納めている者など、それこそ霊山君…神垣の巫女のトップくらいだが、その中には占術の類もある。鬼の部位を使って行方を探る、千里眼の術なんかも占術と言えない事は無い。

 その中の一つに、皮肉を込めて『託宣』と呼ばれているものがある。

 

 無意識に行使される術であり、何を占うのか、いつ占うのかなどは一切指定できない。

 ただ絶対的な悟性により、遥か未来の事までピンポイントで見通せる。……例えば、20年後の自分のパンツの柄とか、向こう隣りの田吾作どんが200年後にどんな墓に入っているのかとか、拾った浮世草子のオチ(つまりネタバレ)とか、隣の山の一匹の蟻さんが昼寝するタイミングとか…。

 …まぁ、何だ、そんなの知ってどうするんだって事ばかり悟ってしまう。その状況で役に立つ情報なんて、10のうち1あればいい方。

 そのくせ、それは絶対的に正しい情報だったりする。………らしい。

 

 そして、この術は未来の自分から情報が送られてきているのだ、と言われている。

 時に鬼やミタマは時空を超えて移動することが出来る。それと同じように、未来の己の魂が、過去の自分に本当に必要な情報を送り出してくるのだと言われている…らしい。

 ……パンツの柄が必要な情報だとは、とても思えないけども。

 

 

 らしいらしいと、ちゃんとした情報がない?

 だって俺だってまともに使われてるところ、見た事ないんだもの。橘花や雪華との寝物語で少し聞いたくらいだ。

 普通だったら習得しても使っても全く意味の無い代物だし、そもそもその『託宣』が本当に託宣なのか、それともふとした拍子に思い込んでしまっただけなのかすら、他者からすれば区別がつかない。ただ情報が一致したもの、或いは確認できずに否定できなかったものだけた『託宣』とされ、外れたものは単なる世迷言として片付けられるとか、そういう話じゃねーの?

 

 しかしそれは使用者である神垣の巫女であるから、そう感じるもの。

 他者から見れば、里を守る神聖な巫女が、自分達の及びもつかない『何か』…それこそ神仏からお告げを受けたようにしか見えないだろう。事実、『託宣』を受けたと言われている場面では、全ての情報は正しかったのだから。正しかった時の事しか、残っていないだけだとしても。

 

 

 

 

 

 

 …そんな訳なんで、まぁ、何だ、『いきなり後付けの設定持ち出してくるのやめーや』とは言わないでほしい。

 

 

「…橘花が、『託宣』を受けたと?」

 

「いいえ姉様。私ではありません」

 

「? どういう事よ? 託宣って神垣の巫女が受け事があるっていう、あれでしょ? 橘花以外に誰が居るのよ」

 

「この里には確かに橘花しか神垣の巫女は居ないが、里の外に出ればそうではない、と言う事だ」

 

 

 …あ。ひょっとして、雪華が?

 

 

「その通り。あの里の巫女は、お前にご執心のようだな。…里ぐるみで世話になっているし、橘花と親しくしてもらっている事もある。…以前から夢で橘花とよく会っていたそうだが、随分慌てて交信を繋いできたらしい」

 

 

 うーん…雪華が俺や周りの事を案じてくれるのは、素直に嬉しいが…。

 しかし、よくそんな情報が降りてきたもんだ。

 託宣って言ったら、的中率はともかくとして役に立たない情報ばっかり出てくる代物だって聞いてたんだが。

 

 

「それが、雪華さんに力を託された先代様方中に、風変わりな方が居たようで。何でも、他の術は殆ど適正がなかった代わりに、託宣が頻繁に起こり、精度も高く、身近な人の未来がよく見えたそうです。……里を守る神垣の巫女としては落第を通り越して没落と言える程だったので、色んな意味で持て余されていたようですが」

 

「未来を視てしまうからこそ、畏れられるってか? やるせないねぇ…」

 

「いえ、単に性格が悪くて、得られた情報を愉悦にしか使わなかった為、嫌われていたそうです。それも真っ当な神垣の巫女になれない劣等感などではなく、素でそんな性格だったとか」

 

「…そっちの方がやるせないねぇ…」

 

 

 うーん……あー、あの子かな。橘花の体を借りてた時だから素顔とかはわかんないけど、ちょっと性格に問題ありな子だったっけな…。

 褒め殺しにしたらチョローンといったけど。どーやら、性格の悪さを棚上げしてチヤホヤしてくれる人が好きなタイプだったらしい。

 

 

「で? その託宣がどうしたって? シノノメの里の巫女が慌てて橘花に繋ぎを取ったって事は、こいつや連れ合いの絡みか?」

 

「…前から思ってたが、どうしてお前はそんなにお嬢さん達に好かれてるんだ…羨ましい…」

 

 

 若干眠くなってきているっぽい富嶽の兄貴。この人にとって、経緯とか背景は割とどうでもいい事らしい。

 どうして好かれてるって息吹…強いて言うなら、色々功績を上げたからじゃないか? それが全てとは言わないが、恩もあるから色々好意的に捉えられている部分はあるし。

 向こうに居た時は、そこまで大きなやらかしは無かったからな。(なお、第二次オオマガトキ発生未遂は未遂の為ノーカウントとする)

 

 

「…それよりも、託宣の内容を」

 

「そうね、息吹が天狐を探し始める前に」

 

「むっ………きゅ、きゅい…」

 

「…私も長年生きて、獣の言葉を人に教えた事はあるが…ここまで筋の悪い奴も珍しい…」

 

 

 まだシリアスモードを維持できている速鳥、ツッコミを入れる初穂、そして憐れむ虚海(オッキしているのを隠している)。

 それはそれとして。

 

 

「橘花」

 

「はい。…昨晩、私の夢に雪華さんが訪れてきました。里が戦火に包まれる託宣を受けた、と」

 

「里が……いや、すまない。続けてくれ」

 

「先日、2度にわたる大戦が生じました。幸い、どれも乗り越える事はできましたが…今回の託宣で見えた戦火では、致命的に違う点があったそうです。雪華さん曰く、『里全体で、全ての人と人が、憎み合い諍いあっていた』と」

 

 

 人と人…。この世界のこの状況で?

 どんな状況でも故あれば争い、故無くても争おうとするのが人間だけど、それにしたって経過ってものがある。

 この里は人間関係も良好で、備蓄の類も充分、共に大きな戦を乗り越えたおかげで仲間意識もあって、俺達という部外者を抱えているが関係はそこそこ…とにかく、最前線だと言うのに奇跡みたいに上手くいってる里だ。

 それがいきなり人間同士…? いや、奇跡的だからこそ、いつ崩れておかしくないという考えもできるが…。

 

 

「その光景が起きるのは……今日から4日後です」

 

「近いよ!?」

 

「確かに近いが、具体的な日付が分かるのは有難い。だが、たった4日で一体何が…」

 

「いや、争っているのが4日後と言うなら、実際に事が起きるのはその前日かもしれん」

 

「鬼の仕業です。雪華さんが視た光景の中で、里の上空を覆うような一体の強大な鬼が、人と人が争うさまを眺めていました。鬼は人を操る力があると思われます」

 

 

 んー、前例はある…な。

 だが里全体でとなると話は違う。千日夢みたいに行動不能にさせるだけの呪いなら、まだ複数人にかけられるが…誰も彼もに同じような憎悪を植え付けるとなると…。

 

 

「…その鬼は、イヅチカナタではないのでしょうか。奴は因果を奪い、現状を理解させなくする事もできます。意図的にそこまで出来るかは怪しいところですが、誰も彼もを人生で最も苦しかった時、憎くて仕方なかった時に戻してしまえば…」

 

「でも、あのイヅチカナタって鬼、あんまり大きくないんじゃない? そりゃ小型や中型に比べれば大きいけどさ」

 

「…そもそも、本当に鬼は一体しか居なかったのでしょうか? 先日の戦いを鑑みるに、今度襲ってくるのは戻って来たトキワノオロチとイヅチカナタと考えるのが自然でしょう。どうして一体だけなのか…」

 

「実はもう一体居る?」

 

「いや、託宣による神垣の巫女の悟性は絶対的と言っていい。『一体の鬼』とあるからには、間違いなく一体だと思っていい」

 

 

 襲ってきた時には二体だったけど、託宣で見た場面までの間に一体を斬り捨てていたと言う事は?

 

 

「それは…有り得…いや待て、初穂も言ったように、イヅチカナタはそこまで大きな鬼ではない。やつらが同時に襲ってきて、既にイヅチカナタを倒しているのなら、どうして里人は争いを続ける?」

 

「止め所を失ったか………普段表に出ていない不満や殺意が爆発した?」

 

「むぅ…鬼を放り出してまで互いに刃を向けるような不平不満が、この里にあるか…?」

 

 

 

 

「……あると言えば…確かにある、か」

 

 

 大和のお頭? それは何だ?

 正直、俺からしても大きな不和の目を見つけるのが難しい里だと思うんだが。

 

 

「最近の戦況だ。ああ、確かに大きな戦いを、小さな被害で二度も乗り越えた。これは確かに誇るべき事で、皆の結束や自信の元となっただろう。だが、それが短期間で何度も続くとどうだ。…人は疲弊するものだ」

 

「…確かに、言われてみれば…。皆が意気軒高だから見逃していたが、戦いを一度乗り越た時点で、普通に考えれば疲労困憊もいいところだ。本人が気付かずとも、疲弊は必ず溜まっている…精神的なものならば特に」

 

「先の見えない状況ってのはきついからな…。でかい山場を乗り越えても、すぐ同じような山場が来る。状況が好転しない状況には、どんな強兵でも立ち向かえない」

 

 

 それにしたって、不平不満が爆発するのが急すぎる…。そういう水面下の不満を噴出させるような鬼か?

 

 

「何にせよ、良好な状態に見えても、それは薄氷の上に成り立っている状況だ。備蓄は食料こそ多いが、戦略物資の一部が少なくなっている。もう一度大きな戦を乗り越えれば、戦力運営に支障が出る程だ」

 

 

 そこまでかよ…。資材は充分に貯め込まれていると思ってたんだが。

 

 

「平時であれば充分すぎる程だ。言い訳にもならんと言ってしまえばそれまでだが、こんな大戦が連続で起きる状況がおかしいだけだ。……何にせよ、次の戦いで決着をつけ、体勢の立て直しを図らねばならん。襲ってくるのがイヅチカナタやトキワノオロチにせよ、他の何かにせよ、確実に仕留めるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、どういった対策をとるかで色々と話し込んだ。

 ああは言っていたものの、襲ってくるのは間違いなくクサレイヅチとトキワノオロチだろう…と、ホロウと俺、そして博士の意見は一致している。

 ホロウのクサレイヅチ専用レーダーにも感があるし、俺自身も予感というか予兆を感じている。

 博士は博士で、トキワノオロチについて何やら確信があるようだし。

 

 ただ、襲ってくるのがその2体だとしても、別の未知の鬼を連れてこないとも限らないんだよな。

 

 

 今度は一体どんな理不尽が襲ってくるのやら。前のGE世界の最後で出てきた、惑星級のミラバルカンとか来たら、抵抗のしようがないんだよなぁ…。

 しかしそんな泣き言を言っても仕方ない。出来る事をやるしかないか。

 

 

 

 

 

 

 

 追記

 

 会議を終えて屯所に戻ったところ、オビトがうちの子達の9割を友達にしていた。なんというコミュ力。これがムスヒの君の実力か…。 

 

 

 

 

 



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604話

難産続きです。
うーむ、終盤になると色々と設定がブレたり、強引な展開が多くなってしまう…。

ともあれ、ようやくこのSSも終わりが見えてきました。
決着の付け方だけは考えているので、後はそこにどう持っていくか、です。
エンディングや伏線回収がその後の問題です…。


余談ですが、先日ようやく、北斗が如くのトロフィーコンプリートしました。
敵が落とすアイテムが最大の難関とは…。
普通に戦っても、あんまりドロップしないんですね。
宿星護符(トキ・ラオウ・レイ)で殲滅するとアイテムドロップ率が目に見えて違いました。

次はP5Sのトロコン、これはバンドレベルが93くらいまで来ているので、そう遠くないでしょう。
その次は仁王2、そこからエスコンのDLCかな…。


…い、いえ、遊んでばかりで執筆しないんじゃなくて、執筆が行き詰ってるから気分転換してるだけでですね…。


黄昏月肆拾禄日目

 

 

 2,3日中にクサレイヅチが襲ってくる、と皆に伝えたところ、「またかよ…」みたいに少々ゲンナリした空気が漂った。うちの子達はタフだけど、やはり大きな戦いが連続で続くのはしんどいらしい。

 まー、うちの場合は大きな戦いの後には必ず労い(意味深)をやってたし、それ以外にも個別に希望を出来る限り叶えているから、里に比べれば精神的疲労も少ないだろうけどね。頑張った成果が形になって手に入る、と言うのはいい士気向上になる。

 マイクラ能力のおかげで、設備面の強化が非常に簡単なのが有難かった。個人所有のベッドや、道場の建設から露天風呂、マッサージ機、食料を育てるプラントまで手間さえかければどんどん出来上がるんだから。

 おかげで屯所は既に、どこぞの旅館のような有様だ。高級旅館と称するには、ごった煮すぎて情緒が無いけど。

 

 

 ここで活躍してくれたのが、他でもないオビトである。流石モノノフの始祖と言うべきか、言葉巧みに皆を盛り上げる。ちょっとした扇動を見た気分だが、当人にそんなつもりはあるまい。

 単純に、イヅチカナタを討伐しないとひどい事になり、更にととさま(俺な)にとっても自分にとっても因縁の相手である事を強調しただけだ。

 それだけで士気と言うか殺意が爆上がりになるんだから、オビトの人望が凄いのか、うちの子達が単純なのか。「若様とオビトに舐めた真似をしくさったイヅチカナタを処すぞー!」「「「「おおおお!!!」」」って感じで円陣組んで気合を入れてるし。

 

 

「ととさまがそれだけ好かれているんじゃないか? 私の言葉に耳を傾けてくれたのも、『ととさまの娘だから』という部分が大きかったようだし」

 

 

 …かもしれんが…もう完全に娘になってるのね、オビト…。いやまぁ、いいんだけどさ。本人は満更でもないようだし、ホロウも友人兼娘って形で納得してるようだし。

 とは言え、それが通じるのも今回だけ…いや、良くて次の一回までか。

 襲ってきた時点で、何とかカタをつけなきゃな。

 

 

「ところで、かかさまはどうしたんだ?」

 

 

 まだ寝てるんじゃないか? 消耗した体を癒す為に、昨晩は遅くまで頑張ってたからな。

 …初めてしった肉欲を堪能しているようにも見えたけどね。

 

 …オビトが『どうやってととさまに迫ろうか…』って呟いていた気がするが、俺は何も聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 色々話が逸れまくったが、要するにこれから迎撃の準備を整えようとしていた訳だ。

 日頃から里を防衛する為の備えはしているし、何なら大型鬼に襲われる想定だってしているが、クサレイヅチとトキワノオロチは色んな意味で規格外すぎるから、別途準備を整えなければならない。

 

 

 

 

 で、そんなタイミングを見事について襲ってきやがった訳だよ!

 

 

 

 

 また襲ってくるのは分かっていたから、備えはしていたんだが…流石にこの短期間で戻ってくるのは想定外だよ!

 

 

 あーもう、やだなぁこの急展開な感じ!

 デスワープの予兆をひしひしと感じる。思えば、今までのループでもこうやって、想定外のところで襲われて一気にhageる展開が何度あった事か。禿げてないが。

 

 

 準備がまるで整ってなかった。橘花達も、まだ回復しきってないのだ。

 先日の戦いで宝玉はほぼ使い果たし、補充もできてない。クサレイヅチの因果簒奪を防ぐ結界を張るのは難しい。残り少ない霊力を振り絞って咄嗟に結界を張ってくれたが、長くは保たない。

 『覚醒』した以後の橘花にしては珍しく、本気で苦しそうな表情で結界を維持している。そんな橘花を見て桜花が暴走しかかったものの、止める前に自制していた。…色々とイベントを端折ったけど、それでも皆成長しているもんだな。

 

 そんな感慨はともかくとして、里の住人とうちの子達は、可能な限り橘花の住処…神垣の巫女の神殿近くに集められた。

 クサレイヅチ出現の影響で、空に穴が開き、朝っぱらから黄昏色に染まっている空を見上げながら、住人達は不安げに声を交わしている。

 

 

 その中で大和のお頭が壇上に立った。

 

 

「急な呼びかけだったが、集まってくれた事に感謝する。見て分かると思うが、緊急事態だ。特殊な力を持つ鬼が襲来している。橘花がその力を防ぐ結界を張っているが、里全体を覆う結界は維持できん」

 

 

 いつも通りの仁王立ち腕組ポーズで、集まった者達に状況を説明していく。

 ……大和のお頭、無表情を取り繕っているが、内心で物凄く苦い顔…いや、今にも反吐を吐きそうな顔をしている。それだけ不本意な決断を迫られていると言う事だ。

 

 そりゃそうだろうな…。頭領として、非常な決断を迫られている。

 大和のお頭なら、必要であれば下せる決断だ。俺だって、多分同じ決断を下すだろう。

 

 

「このまま座して待っても、一刻と経たずに橘花が力尽きて結界が消え、そして俺達も全滅するだけだ。故に……結界を縮小し、最低限の守りだけを残す。その中でかの鬼を討つ準備を整え、挑む」

 

「……あ、あの、大和のお頭…結界の縮小とはどれ程に…」

 

 

 恐る恐る声を上げたのは、一般里人の小太郎君。うちの子達とも割と仲良くしてくれる(ちょっと下心あり)ナイスボーイだ。

 それはともかく。

 

 

「…橘花が結界を張っている、この祈祷場だけだ」

 

 

 大和のお頭の答えに、静まり返る。

 橘花が居る祈祷場は、ちょっとした屋敷になってはいるが、それでも大きな屋敷とは言い辛い。10人も入れば手狭、20人が入れれば身動きすら難しくなるくらい。調度品などを撤去すれば、30人行けるか?

 

 そして、この場に集まっている者は軽く3桁。里の一般人に、主力から見習いまでのモノノフに、偶然訪れていただけの商人や旅人…。

 どう考えても、祈祷場の中に入り切る人数ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 つまり、大和のお頭の決断は……襲ってきた鬼を殺す為に、里の殆どの者を見殺しにする、という意味になる。

 

 

 

 

 

 当然ながら、これを告げられた里の人達は恐慌一歩手前だった。むしろその場で暴動が起きなかっただけ理性的と言えるだろう。

 大和のお頭が、如何に里人からの信頼を得ていたとしても、「このままじゃ勝てないから、お前ら命諦めて」なんて言われれば、その場で反乱祭りが起こってもおかしくない。

 

 実際、爆発寸前まで狂熱は高まった。裏切者、鬼を倒す為に私達を生贄にする気か、という罵声を浴びても大和のお頭は動じない…掌は血が滴る程握りしめられていたが。

 ここだけ聞けば、そう罵られても仕方ない決断ではある。

 モノノフが鬼を倒すのは、人を守る為、人の世を続かせる為だ。それが出来なければ、いくら鬼を狩っても意味がない。

 クサレイヅチやトキワノオロチの能力や強大さを考えれば、自分達を犠牲にしてでも討ち果たす事は選択肢に入るだろう。それ程に、人の世にとって脅威で厄介な鬼なのだ。

 

 だが生贄にされる方は知った事ではない。

 自分達は確かに鬼とは戦えないが、皆が生き延びる為に里の一因として、あれこれ尽力してきたのだ。それを「結界に入りきらないから」という理由で切り捨てられそうになれば、謀反の一つも起こすだろう。

 

 うちの子達の反応は……反発が半分、最後まで話を聞こうとしているのが半分…かな。十分すぎるほどな反応と言っていいだろう。真っ先に声を荒げなかったのは、本気で褒めてやりたい。

 何せ、俺達の立場を考えると、縮小された結界の中に入れてもらえる可能性は限りなく低いのだから。

 

 

「ただし!」

 

 

 

 爆発の兆候を牽制するように、大和のお頭は声に強い圧を籠めて続ける。

 

 

 

「これは皆を見捨てると言う事では決してない。確かに死の危険は、モノノフに限らずこの場に居る全員に降りかかる。だが、皆が生き延びる最大の可能性である事は確信している。これは……里の、いや、人間の総力戦であると心得よ! 老いも若きも、男も女も、この死地を切り抜ける為に死力を尽くさねばならん! 力なくとも、抗わなければならない時がある…それが今だ!」

 

 

 …カリスマ、かなぁ。

 こういうところ、本当に適わんわ…。理屈も何もありゃしない、非戦闘員に武器も持たずに鬼と戦えと言っているのは変わりないのに、昂っていた不満の狂熱は一先ず矛を収めた。

 話だけでも聞いてみよう、という状況だろうが…。

 

 

「襲ってきている鬼の力は、因果簒奪。直接危害を加えに来るのではなく、その力によって無力化し、その状態から魂を奪うというものだ。逆を言えば、結界の外でその力の脅威に晒されても、即座に死に至る訳ではない。その間に標的の鬼を仕留め、能力を解除させる。そうすれば結界も従来の大きさに戻す事が出来る」

 

 

 要するに、準備を整えて敵をブン殴ってくるまで囮になれ、と言っている訳だ。

 実際、それ以外に手の打ちようがないのも確かだが、普通に暴論である。ついでに言えば、確かにクサレイヅチの因果簒奪には即効性の死の危険は少ないが、トキワノオロチという存在については言及していない。

 …いや、襲ってきているのが託宣の通り一匹だけだとしたら、トキワノオロチじゃなくてクサレイヅチの方だな。じゃなければ、因果簒奪が起こっている筈も無し。

 

 

 囮になれと言われた皆は、ざわざわと小声で囁き合っている。納得できない話だろう。だが大和のお頭の信用や実績を考えると、戯言とも言い切れない。

 本当にそれしかないなら、やるしかない。でも恐ろしい。

 こういう時の為のモノノフではないのか。どうして自分達が。いっそ力尽くで。いやそうしたところで結界が消えてしまえば同じ事。

 

 

「…若、いいか?」

 

 

 骸佐か。ああ、言ってみろ。

 

 

「あの大将の言ってる事は、どうなんだ? 好き好んで打つ手じゃねえのは確かだし、俺もあの大将の事は信用している。俺達は…戦う術があるんだから、結界の外で囮役だろう」

 

 

 …ああ。皆には厄介な戦いを任せてしまう事になるが、この状況を被害最小限で切り抜けるとしたらこれしかない。

 

 

「…若が…お前がやれって言うなら、どんな結果になろうと死力を尽くすさ。元より、腕っぷしで生きてるんだしな。…賭ける価値は、あるんだな」

 

 

 間違いなく。これだけ絶望的な状況に追い込まれても、自棄にもならず、理想に溺れもせず、それでも最善の結果に向かって走り続ける。それが出来るから、俺は大和のお頭を信頼してんのさ。

 そら、連中も腹を括ったみたいたぞ。流石は最前線の里、鬼の脅威に日々晒されながら生活しているのは伊達ではない。最初は動揺したようだが、これも「いつか来るかもしれなかった未来」でしかなかったらしい。

 ざわめきが治まるにつれ、誰を結界内に残すか、外に出る時にどうやって鬼に抗うか、真剣に話し合い始めていた。

 …この場で暴動を起こしても勝ち目はないし、同じ人間に刃を向けるくらいなら、鬼に一矢報いるまで…と、そういう論調のようである。

 

 

 

 

 

 



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605話

執筆の時間が取れない…。
ゲームする時間もあまりない…。
二度寝の時間が長すぎるから?
それとも仕事の残業が多すぎる?
ただでさえ薄いシフトの日に、朝と夜で1人ずつ欠勤が出てしまい、中抜けして対応する羽目になりました。

その他色々と立て込んでおり、短い話しか投稿できそうにありません。
と言うか、今までどうやって4日に1回投稿なんてこなしていたのか、自分でも分からなくなってきた…。


 

 

 さて、結界を縮め、斬首戦を仕掛けるまで暫く時間がある。ゲーム的に言えば、最終決戦前の最後のセーブポイント、或いはコミュ時間だね。

 フツーに考えれば、ヒロインとちょっといい雰囲気になったり、「絶対勝とうな」的なサツバツだが微妙に甘ったるい会話が交わされるシーンだろう。モノによっては、決戦前に気合を入れる為にパコパコしたりする。ハーレムルートなら3P4Pにも発展するだろう。

 が、生憎と俺のヒロイン候補は多すぎるし、乱交もいつもの事だし、流石にこの状況でおっぱじめると顰蹙なんてレベルじゃない。

 霊力のパワーアップはできるから、無意味とまでは言わないが…どう考えても、他の人達に超絶動揺と悪印象を残すな。

 せめて一人一人話をして激励したいところだが、40人以上も居るんだからどう考えても時間が足りない。

 

 なので、戦いの準備は明日奈達に任せ、俺は別のやるべき事を行う事にした。

 

 

 

 つまり情報収集だ。クサレイヅチへの抵抗力が特に強い、俺にしか出来ない事と言っていいだろう。あとはホロウも出来るかな。

 そもそも、クサレイヅチが来ているのは因果簒奪が発動しているから確定として、トキワノオロチの姿が見当たらないのが気にかかる。見当たらない云々を言えば、クサレイヅチの姿も無いのだが。

 クサレイヅチは前の戦いの時でも擬態していたから、今回も何らかの手段で隠れているとして…トキワノオロチの巨体であれば、流石に隠れるのは難しそうなもんだ。異空間に隠れるにしたって、何らかの痕跡は残る。

 

 そもそも、託宣の通りに本当に一匹だけで来ているのか、これが非常に怪しい。予言自体が怪しいが、今までのパターンから考えると何かしらのどんでん返しがあるに決まっているのだ。

 

 

 

 

 そういう訳で、俺は現在、結界を抜けて周囲の捜索を行っている。斬首戦術かけるにしたって、敵の居場所が分からなければどうしようもないしな。

 クサレイヅチの居場所は、大体わかる。奴がぶちまけた因果を取り戻して、奴との繋がりが強くなった(オェッ)のか、それとも単なる経験則で予測しているのか。

 

 どっちにしろ、クサレイヅチの場所は間違ってはいないだろう。事前に、ホロウにレーダーを使って感知してもらったしな。

 奴が居座っているのは、古の領域だと思われる。……と言うか、以前に俺が暴走して領域ごと消し飛ばしてしまった、あの場所だ。

 

 …あそこ、まだ緑のアレが残ってる筈なんだが……汚染されて毒状態にでもなってくれんものか。

 

 

 それにしても、やはり今回のクサレイヅチは通常とは明らかに違う。

 因果簒奪の力は、これ程までに射程距離は無かった筈だ。確かに、領域一つを覆えるくらいの影響力はあったが、それもクサレイヅチが中心付近にいるからこそ。領域一つ以上隔てた場所へ、遠隔で簒奪…と言う真似はできない筈だ。少なくとも、繰り返しの中でそういった芸当をしていた記憶は無い。

 …ふむ、因果簒奪が発動しているのは、里近辺のみ…か。他の鬼に襲われるのを覚悟で領域に入り込めば、因果簒奪から逃れ…いや、現在は里を中心に発動しているとしても、場所を変えられないとは思えない。因果簒奪と他の鬼、同時に襲われるリスクは犯すべきではない。

 

 

 

 

 さて、なにはともあれ(元)古の領域に到着。相変わらず砂しかなく、時々緑の光が漂っている。だがその光の中に、青白く輝き、そして動きに指向性を持った光が混じっていた。

 あの光は間違いなく、クサレイヅチによって簒奪された光。量が少ないのは、対象にしている場所が遠いからか、結界に阻まれて充分な量を奪い取れていないのか。

 何にせよ、奴がここに居る事は確かである。

 

 自重も何も投げ捨てて、一人で吶喊したくなるのを抑え込む。いかんぞ、それは頭〇魔忍への道だ。モノノフもそうだが。

 持ってきていた双眼鏡を覗き込み、領域を見回す。

 因果の光が吸い寄せられる先に、奴は恐らく居る。隠れているか、姿を曝しているかは分からない………が…………っ、て、ん? んんん?

 

 

 

 …見間違い、かな?

 

 

 

 

 いま、ラヴィエンテが……見えた、ような……。

 

 

 …双眼鏡を外し。肉眼で見る。…いない。本当にラヴィエンテが居るなら、サイズ的に見逃す筈ないよな…。うん、やっぱり見間違いだよね。

 もう一回双眼鏡を覗き込む。

 

 

 …ラヴィエンテが居る。……いや待て、よく見ると違うな。

 距離と双眼鏡のおかげで大きさを見誤ってたが、実際のラヴィエンテに比べると随分小さい。それでもそこらの鬼よりずっとデカいが。ああ、それこそトキワノオロチより数倍でかい。

 それに細かい差も見える。牙の形や角の数も違う。

 

 何より、よーっく目を凝らせば、体の真ん中あたりから、竜の首が生えている。

 …ん? 分かりづらい? そうだな、確かに正確性にも欠ける表現だった。

 

 

 こう称した方がいいだろう。

 

 

 トキワノオロチの首の一本が、ラヴィエンテそっくりになっている、と。

 更に、そのラヴィエンテになった首の根本には、クサレイヅチが乗っていた………いや、乗ってるんじゃない。融合してないか、あれ。腰から下が、ラヴィエンテの根本にずっぽり入り込んでいる。

 

 …訳が分からないよ……と思う前に、かつてのループの記憶がよぎる。

 MH世界で、あいつ同じ事やってなかったか?

 

 あの時、唐突に襲ってきたラヴィエンテの背中に、クサレイヅチが乗っていた事をはっきり覚えている。…イャンクック大先生との乱闘に巻き込まれたこともね!

 …意図は分からんが……ひょっとして、これがクサレイヅチの本来の在り方なのか? 因果の貯蔵庫として、トキワノオロチに付き従うのが。

 クサレイヅチは、ラヴィエンテをトキワノオロチと誤認していた…? でもサイズが違い過ぎる…いや、考えてみればクサレイヅチは随分前から調子が悪そうだった。病人と同じ状態で、頭が回っていなかったのかもしれない。

 

 

 

 嫌な予感がしたので、ラヴィエンテとなっている首以外にも目を向ける。

 …クサレイヅチから湧き出る因果の光が、トキワノオロチの首に入り込んでいく。

 

 それに連動して、首達の形が徐々に変わり始めていた。

 首の一本は、鱗ではなく毛皮に覆われ初め、雷や炎、得体の知れない光を帯びていく。

 

 他の一本は、明かに生物とは思えない、金属類で構成された極めて直線的なシルエットに変わっていく。体の各所から突起が生えていくが、あれはひょっとしなくても銃口や砲座の類か。

 

 更に一本は、骨格からして全くの別物に変わろうとしているようだ。何に変わろうとしているのかは分からないが、頭だの口だのの位置を明らかに無視し、裂けたり膨らんだり生やしたりして、根本的に形を変えていく。

 

 変わっていくのは、トキワノオロチの体だけではない。トキワノオロチから漏れ出した因果の光が周辺の地面に降り注ぎ、そこに変化が生じている。砂しかなかった死の土地に草が生えたり水たまりが出来たり岩が出来たり。そしてその出来上がった岩やら何やらが浮き上がり、トキワノオロチの体にくっついていく。

 

 …なんじゃありゃあ…闇鍋もいいところだ。盛ればいいってもんじゃねーぞ。

 放っておくと、七英雄最終形態みたいになりそうだ。或いはネオエクスデス。

 

 正直言って意味不明な上に後出し設定極まりないが…しかし、これで託宣の『鬼が一体しかいなかった』というのは分かった。クサレイヅチとトキワノオロチ、合体していたから一体とカウントされていた訳だ。元々、トキワノオロチも沢山頭があるけど一体としてカウントしていたし、そう不自然な事でもない…だろう、多分。絶妙に不親切と言うか、トラップみたいな託宣だけども。

 いずれにせよ、奴の本領…因果をエネルギー源として凄まじい力を発揮する、という機能は既に発動しているのだろう。クサレイヅチと合体している時点で、ほぼ確定だ。ついでに言えば、今までになかった遠距離因果簒奪も、それによって生じた力で強引に発動させているのではないだろうか。

 

 ……考えれば考える程、厄介な化け物だなぁ…。国を亡ぼしたってのも、納得できる。

 本体はとんでもない膂力と炎を吐き出し、質量に任せて敵を粉砕する重戦車みたいな性能。

 その力を発揮する為の燃料は自前で調達してくることが出来る上、それをされた側は状況を正常に認識できなくなる。一度力を発動させてしまえば、燃料調達のリーチも極端に広がる。おまけにMP回復とバッドステータス付与を同時にやってくるとか、狂っとるな。しかもほぼ確実にレジストできない。

 外敵が居なくなるまで自動で補給を続ける、一種の永久機関じゃね?

 そんな化け物だからこそ、扱いをしくじって即滅亡コースを辿ったんだろうけども。

 

 

 まま、ええわ。とりあえず居場所は分かったし、奴の能力も見当はついた。確定までは出来ないが、博士や茅場に話せばもうちょっと絞り込んでくれるだろう。

 あまり欲を掻いて発見されても面倒だし、退散するとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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606話

ふと気が付くと、短めですが2~3話分くらいの書き溜めが出来上がっていました。
ただし10日以上過ぎている。
そして話が殆ど進んでない。
でも、ちょっとは調子が戻って来た…かな?


 

 

 

 

 里に帰還したところ、既に結界は縮小されていた。

 てっきり、結界の中に留まれなかった人達が、儀式場の周囲に屯していると思っていたのだが…逆に、警備の人すらいなかった。

 まさか全滅!?と思いきや、あちこちから人の気配はする。…既に因果簒奪の影響が出始めているようだが、今のところ死者や、互いに争う気配はないようだ。

 あと、何故か民家の外に、包丁やらハサミやら、刃物が一杯放置してあった。

 

 儀式場に向かうと、結界の内側で周囲を警戒していた真鶴と鉢合わせした。

 

 

 よう、真鶴。お前も結界内に残ったか。

 

 

「ああ、戦力としてな。…あちら側では、私達は結界の外だったんだがなぁ…」

 

 

 状況が状況だから、とボヤく真鶴。妙な居心地の悪さがあるらしい。

 戦力扱いされてるって事は、どっちにしろクサレイヅチへのカチコミ隊にカウントされてる。死地に向かうのは変わらないんだけどな。

 

 で、皆はどうしてるんだ? どうにも、里のあちこちに散らばってるようだが…。

 

 

「結界の中に居られないのなら、せめて家の中に籠るそうだ。まぁ、鬼が襲ってきたとして、野晒か建物の中かで言えば、建物の中の方がまだいいだろうさ。後は……本当にやっているのかは知らんが、互いに縛り合ったり監禁したりするそうだ」

 

 

 

 

 

 

 ……What’s?

 

 

「外来語は分からん。…いや言いたい事は分からんでもないが。縛り合ったり、監禁したり、だ」

 

 

 

 …何でいきなりそうなった? 里人全員、SMに目覚めた? それともメンシス学派化? 里が獣狩りの夜に包まれてしまう。

 

 

「託宣の話は聞いたな。巫女の予言に、人が互いに争う場面があったそうじゃないか。ならば、争うに争えない状況にしてしまえばいい…と言う理屈で、誰かを害そうにも身動きできない状況にしたそうだ」

 

 

 誰も居ない状況に、物理的に閉じ込めてしまえってか。監禁(合意)であったとは…。

 後から解放されなかったら、飢え死にコースやん…。

 ついでに、家の外に放置してあった刃物その他は、武器になりそうな物を極力遠ざけようとしたからだそうな。まぁ道具なんて大体のものは鈍器に出来るから、悪足掻きと言ってしまえばそれまでだが。

 

 

「とりあえず、里の事はいい。誰かが監禁から抜け出して暴れ出すようなら、我々が対処しよう。それより偵察に行ってきたのだろう。成果はあったか」

 

 

 ああ。…大和のお頭と博士、茅場は何処だ? 話しておかなきゃならん。

 …にしても、真鶴も災難だな。

 元はと言えば、異界浄化の方法を知る為にこの里まで来たってのに、博士にこき使われるし、何度も何度も大戦に巻き込まれるし。

 

 

「…ふっ、確かにな。だが悪い事ばかりではないさ。よい友人も得られたし、それ以上に協力者が出来た。我々サムライは、マホロバの里では立場が弱いからな。大きな組織と繋がりを持てるのは有難い。異界浄化の方法に関しても、無収穫と言う訳ではないよ。…まぁ、この戦いが終わったら、一度戻るのはありかもな」

 

 

 …そうかい。納得してるんだったら、それに越した事はない。

 だが死亡フラグを立てないように。

 

 

 

 

 

 

 

 儀式場の中は、静かに大騒ぎだった。

 あれだよ、ゆっくり急げを全員にやらせたような感じ。

 確かに静かは静かだ。互いの邪魔にならないよう、静かに戦支度を整えている。だが人口密度が非常に高いんで、何もしなくてもざわめきが生じるし、何よりもこれからの過酷な戦いに向け、戦意や僅かな恐怖が漏れ出している。

 

 相手も相手、状況が状況だからな。気負うのも無理はない。

 立て続けの大戦なだけでなく、本来なら守るべき里人達を差し置いて結界の中に居る、という負い目も感じているんだろう。

 

 だからこそ、猶更勝たねばならない。力を示さなければ面目が立たない。

 …んだけど、博士達の予測によると、それも難しいんだよねぇ…。

 

 

 持ち帰ってきた情報を、大和のお頭や頭脳派軍団に話したところ、物凄く苦い顔をされた。

 そりゃそうだ、ただでさえ厄介な相手が、もっとワケワカメな状態になっていってるんだから。鬼の生態が謎だからって、何でもやっていい訳じゃねーぞ。だがそれを俺に言われても困る。俺は見た事を伝えているだけだ。文句があるなら、刃でクサレイヅチとトキワノオロチに直接届けてほしい。

 

 

「以前から推測はしていたが…やはりか」

 

「ああ。イヅチカナタ…何と羨ましい…!」

 

「違う」

 

 

 おい茅場、クサレイヅチが羨ましいって何じゃ。奴と同じように俺に斬られたいって事か? …いかん、俺もイラついてるな。ムカつく軽口だが、ここまでキレる必要もなかった。

 で、博士、何がやはりだって?

 

 

「お前の言うクサレイヅチは、イヅチカナタの中でも特別製だと言う事だ。お前から因果を散々吸い取った為ではなく、元からな。性能自体が、他のイヅチカナタとは一線を画していたんだろう」

 

「ふむ…。他のイヅチカナタからして、そもそも資料がないから基準が分からんが…何か分かった事があるのか」

 

「うむ。このイヅチカナタの能力は…いや、イヅチカナタ単体なのか、トキワノオロチと交じり合う事によって生じた能力なのかは分からんが…」

 

「奴が特別製だと言うなら、そこは一先ず考えなくてもよかろう。同じ能力を得る個体が出る可能性はあるが、相当な希少種と見た」

 

「…それもそうか。話が逸れたが、奴の能力は…」

 

 

 

 

 

 能力は…?

 

 博士は言い淀んだ。もったい付けていると言うよりは、口にするのも忌々しいと言わんばかり。

 代わりに言おうとしたのか、口を開こうとした茅場を制し、改めて声を出す。

 

 

 

「奴の能力は、因果の『押し付け』だ。因と果を、切るも結ぶも自由自在と言う訳さ。…生物兵器の化け物が、随分と思い上がったものだ」

 

「押し付け…? 簒奪は因果を奪う事。そうなったら、周囲の事が認識できなくなったり、過去にあった事が無かった事になってしまうのだったな。因果を押し付けられたら……どうなる?」

 

「逆になるでしょうな。かつて、何処かの誰かから奪った因果…例えば全くの他人の憎悪を植え付けられたり、負ってもいない傷によって死に至るなど当たり前。無機物に生物の因果を押し付けたら…存在自体が変わってしまいかねませんな」

 

 

 茅場、それってつまり…俺が見たアレか。そこらの砂とかが、形を変えてトキワノオロチの一部になっていったのは、そういう理屈って事か。

 

 

「恐らくは。下手をすると、因果の押し付けで未来まで決められてしまう可能性すらある」

 

 

 いやそこまで………有り得る!

 と言うか、今までの俺が正にそれをやられていたっぽいぞ。今まで何度も無茶苦茶な横槍で奴を取り逃がしてきた。ホロウも言っていたが、それは俺の周りにそういう因果が漂っているからだと…。

 

 

「フン、それに気付かず追い続け、いいようにあしらわれてきた訳だ。間抜けな話だな」

 

 

 うっせい。知っていたとしてもやる事は変わらんわ。奴は仕留める。千歳達は解放する。無理だろうが負けが決まってようが、これは変わらん。

 出し抜こうにも奴の情報は集めなきゃならんし、何度かの遭遇は下地作りの為と割り切っとったわい。…全部忘れてたけど。

 

 が、今回は情報収集だのなんだのは言わん。確実にこの戦いで仕留める。

 

 

「意気込みは結構だが、既にお前は因果を押し付けられているのだろう。負けの因果が確定しているなら、お前は近付かせる事はできんぞ」

 

 

 止められても行く。手段を被害を問わずに行く。

 悪いが大和のお頭、こればっかりはどうなろうと譲る事は無い。

 

 

「貴様がそうやって無策に突っ込むから、いつもいつも取り逃がしていたのではないか?」

 

 

 それでも行く。

 

 

「ほう…」

 

「大和のお頭、お待ちください。止める必要はありません」

 

 

 大和のお頭の空気が変わりかけた時、間に入って来たのはホロウだった。

 本気で大和のお頭を張り倒して傀儡にしてでも向かうつもりだったんだが…ここはホロウに任せてみるか。何か考えがあるようだし。

 

 

「どういう事だ、ホロウ」

 

「彼にまとわりつく因果については既に私も気付いていました。ですので、博士と協力してそれを無効化する手段を整えています」

 

「なに? …本当か、博士、茅場」

 

 

 こっちも初耳なんだが…いや黙っておこう。

 しかし、その因果について気付いてからまだ数日も経ってない…いや、それは俺がホロウから告げられたのが数日前で、ホロウはもうちょっと前から気付いてたんだっけ。

 それにしたって、半月も経ってない筈だが…。

 

 

「事実だ。正直、私としてはどう考えても無理と言うか話にならんだろうと思っていたのだが、博士が『いけるな』と乗ってしまってな…」

 

「こればかりは茅場には分からんから、そう考えるのも無理はない。まともに考えていれば、私も銃弾で返答しているところだ。……さて、これだ」

 

 

 

 博士が取り出したのは…………な、何と言うか………PSVR?

 そこまでメカメカしくないんだけど、どう見てもヘッドセットの類なんですが…。

 

 なぁ博士、これ頭に被るもんだよな? 目が見えない状態でも戦えない事は無いけど、流石にそんな面倒くさい事をやってられる状況じゃないんですが。

 それとも、内側が映像を映してくれるのか? クサレイヅチの姿だけ変えて。相手がクサレイヅチじゃないなら、負ける因果も無効化されるとか。

 

 

「たわけ、そんなひ弱な因果なら、ここまで面倒な事にはなっておらんわ。こんな形だが、これは鬼の手の一種だ」

 

「鬼の手…と言うと、こいつが時々出現させる、あの霊力の塊か? ………手?」

 

「元と原理がそうだった、というだけだ。これを使えば一回限り…効力は恐らく一戦分程度だろうが、押し付けられた因果を無効化できる。そこから先は貴様次第だ。…原理を聞きたいか?」

 

 

 是非とも。成功するにせよ失敗するにせよ、覚えておいて損は無いだろ。

 そもそも因果の無効化は、俺が奴と戦うには必須条件だ。何らかの失敗で壊されたりした時の為、ちょっとでもいいから理解しておきたい。

 

 

「殊勝な事だが、詳しく説明するだけの時間もない。ただ、これだけは忠告しておく。使うなら至近距離で使え。出来るなら、周囲に人は……最小限にするようにな」

 

「博士?」

 

「…私も多少は影響されていると言う事だ」

 

 

 

 ホロウと博士が、なんか意味深なやり取りをしている…。

 しかし、なるべく人が周囲に居ない状況で…か。周りにまで何らかの被害や影響が出るって事かな?

 

 

「ああ、曲がりなりにも因果を捻じ曲げる訳だからな。周囲にどこまで影響が出るか分からん。使い方は、敵の前でこれを被り、この突起を引き抜くだけだ」

 

 

 えらいお手軽だな…。簡単すぎて不安になってくるぞ。

 取り込んだ鬼の手ですら、使うのに強く詳細な想像が必要なんだが。

 

 

「その分、装置を起動させる手間はいらんだろう。特化させた分、不要な機能を削ればそれくらい手軽に出来る」

 

 

 そういうもんかね…。

 まぁ、ここまで来て疑う気はないけども。効果がないならないで、やる事は変わらないし。

 

 

「ふむ…対策があると言うなら、認めるのも吝かではないが…原理の説明すらないのではな…」

 

「ちっ……一言で言えば、負ける因果よりも多く、勝てる因果を集めるというだけだ。やっている事は普段の戦いと変わらん。負けに繋がる要素を排除している。ただ、それが目に見えにくい因果という存在であるだけだ。単なる願掛けだと思うか?」

 

「……いや、因果によって負けが決まっていると言われるよりは、余程分かりやすい話だ。元より、結果が最初から決まっているなど思いたくもない。道が敗北に繋がっているのなら、道のない場所を切り拓くのがモノノフの本懐というものだ」

 

 

 …納得してくれた、って事でいいのかな。

 流石の大和のお頭も、ここで人情を基準にはしないと思ってたが…。いや、最後までそのスタイルを貫けるなら、それは立派な道の一つだ。許してくれてるんだから、余計な事は言うべきじゃない。

 

 

 

 

 



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607話

順調に行けば、あと1~2話で決着がつきそうです。
そこからエピローグ、オチ、裏話して完結…の予定。
最後の裏話が色んな意味で物凄く難産になりそうです。

随分と長くなってしまい、更に投稿も遅くなってしまいそうですが、もう少しで長く続いたお話も終了です。
どうかお付き合いをお願いいたします。



追記
簿記検定ネット試験3級落ちた…。
仕分けは大体わかったんですが、残高試算表と、聞いた事もない項目が出てきて混乱。
スマホアプリだけで勉強しても受かる気がしません。
簿記は練習量が大事なんですね。


 

 さて、いつまでもウダウダやってても仕方ない。現実はゲームと違って、何もしてなくても時間は進むのだ。…おかげで休日がものすごい勢いで過ぎ去っていくのだが……俺の場合は体感時間操作があるからな! 相手してくれる女も沢山いるからな! 充実した、適度な長さの毎日を送れます!(自慢&自語)

 まーともかく、とうとうクサレイヅチ&トキワノオロチに向けて突撃…となった訳だが、その前に一つだけ書き忘れていた事があった。

 

 あのクサレイヅチとトキワノオロチの融合体だが、正式に新種の鬼として名前が定められた。

 まぁ正式にって言ったって、もう一度出現するかどうか非常に怪しい鬼だけどな。何せ超古代文明に人工的に作られたらしき鬼…トキワノオロチと、イヅチカナタの中でも変異種なのか、これまた特別製のクサレイヅチが融合しないと出現しない鬼だ。名前をつけたところで、資料も残るか怪しいもんだ。

 呼びやすくなるから、まぁ異論はないが…。命名したのは博士。

 

 

 因果を奪うだけでなく、押し付ける…全く関係のない相手と、結びつける力を持つ。

 

 

 

 故に、ムスヒホトキ。

 

 

 因と果を結び、解く鬼。成程、よく言ったもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、行ってくる!」

 

「「「応!」」」

 

 

 桜花を中心とし、里のモノノフ達が、そしてうちの子達が気勢をあげる。

 今回の戦いは、班…チームと呼べるものは無いに等しい。それぞれが自筆の手紙…命令書を懐に入れ、個人個人で目的地へ向かう。

 ムスヒホトキの力は里を中心として働いているので、その範囲を抜けて暫く進んだ辺りが合流地点だ。

 

 

 

 これは因果の押し付け・簒奪による仲違いを避ける為の処置である。

 どんな強い絆で結ばれていても、その記憶を奪われ、或いは全く違った記憶を植え付けられれば、どんな形で崩壊に至ってもおかしくない。それを乗り越える可能性だってあるが、大一番で精神論に頼るべきではなかった。

 一人だけしか居ないなら、仲違いなどしようがない。

 

 因果を奪われ、記憶や認識が正常な状態でなくなったら、懐に入れた命令書で何をすべきか確認するのだ。

 …もっとも、これもやらないよりはマシ、程度の安全装置に過ぎないが。今まで何度か因果簒奪を受けた人達を見てきたが、目の前に俺が居ても全く反応なし、と言う事もあったものだ。それこそ、セクハラしても全く気付かれないくらい。…一発ヤッたら、なんか回復した事もあったっけな。

 …とにかく、懐の命令書も、存在を忘れて気付かなかったり、読んでいる筈なのに認識できないって可能性もあるからな。

 

 

 何人が予定の場所まで辿り着けるか、正直俺にも見当がつかない。

 ただ、動けなくなってしまったとしても、即死には至らないだろう。結界が無い状態になっているとは言え、鬼の生息地域からはまだ離れた場所だしな。

 

 今回に限っては、動けなくなった連中を助けようって気はない。経緯はどうあれ、クサレイヅチの因果簒奪に抗しきれずに戦闘不能になってしまったのだ。助けて正気に戻す事ができたとしても、接敵した時に耐えられる見込みは少ない。

 肉盾にもできない以上、参戦しない方がマシ…という結論は避けられなかった。

 

 

 さて、そういう訳で抵抗力的にも機動力的にも頭一つ分以上飛び出している俺は、一足お先に合流地点に到着した。

 誰も居ない…それこそ異変を察知したのか、鬼すらいない場所で待ちぼうけする事数十分。妙に凪いだ気分になっているのはまぁいいとして、本音を言えば今すぐ一人で吶喊かけるべきじゃないかと真面目に考えた。

 特攻癖のある頭モノノフになってしまう、うちの子達に言い聞かせている事と真逆を行ってしまうというデメリットはあるが、この場で座して待つのはそれ以上のデメリットを引き起こすようにも思える。たった一時間足らずであってもだ。

 

 今こうしている間にも、クサレイヅチ改めムスヒホトキは自己改造を続けている事だろう。最終的に何処まで変わるか、どんな形に至るかまでは分からないが、時間をかければかける程強力になるのは間違いない。何せ、今までの俺のデスループ直前の因果を取り込んでいるだろうから。…前GE世界の惑星級ミラバルカンなんぞ再現しやがったら、それだけで星ごと詰むだろう。

 ついでに言えば、博士から貰った装置の事もある。

 具体的にどんな効果があるのか今一つ分からないが、『極力、周囲に誰も居ない状況で使え』と言われている。有効範囲は狭く、効果時間も長くないとの事だから今はまだ使わないが、その条件で使おうと思ったらやっぱり一人で行くべきでは?

 

 

 …いやいや、博士も言ってたじゃないか。勝てる因果をより多く集めるだけだ、と。一人で吶喊するのが『勝てる因果』に含まれると? 足並みそろえて仲良しこよしが常に勝利の秘訣とは思わないが、ここで一人で勝手に行動するのはどう考えたって負けフラグだろ。誰が来るのか分からないが、大人しく到着を待ってろって。

 

 …という考えを、既に6回くらい繰り返した。

 うーん、合流地点の指定を間違えたかなぁ…。せめてムスヒホトキが双眼鏡で見える場所にしておけば、ちょっとでも情報収集できただろうに。

 

 

 そんな事を考えていると、ようやく一人目の到着者が現れた。

 誰かと思えば、桜花じゃないか。

 

 

「…貴様が協力者か? それとも黒幕か?」

 

 

 …は?

 

 

「……この指令書を見ろ」

 

 

 …あーはいはい、そういう事ね。うん、協力者の方だよ。

 どうやら桜花、因果簒奪の有効範囲を抜けてきたのはいいが、影響からは逃れられなかったらしい。俺の事も覚えてないし、状況も良く分かってない。

 桜花自筆の指令書には、記憶を奪う鬼が襲ってきている事、その討伐の為に合流地点に向かっている事、争っている者を見つけても先に進む事を優先する事、そこに居るモノノフと協力して戦えと、要約するとそんな事が書かれていた。……協力者は人格面に多大な問題があるので、注意するように…とも。

 

 しかし黒幕って?

 

 

「こんな訳の分からない状況にいきなり放り出され、右も左も過去の事も分からなくなっているんだ。いくら自分の筆跡で協力しろと書いてあっても、疑うのは当然の事だろう。あまつさえ、人と人の諍いを見逃せとまで書いてある」

 

 

 まーたしかに…。と言うか、右も左もわからないって、ここは通い慣れた道だろうに。

 …ちょっと待て、過去の事も分からない? 俺の事を忘れるのはまだ分かるとして、逆に何を覚えている? 里の事は? 妹の事まで忘れてるんじゃなかろうな。

 

 

「里…何処かの里で戦っていたのは、朧ながらに覚えている。刀の扱いも、記憶は無いが体が覚えていそうだ。妹…そうだ、私は妹を……橘花を守る為に戦っていた!」

 

 

 そこまで忘れてたのかよ。思ってたより、因果簒奪の影響力が強いな…。こりゃ他の連中もどれだけ辿り着けることか…。

 

 

「他の連中? お前以外にも誰かいるのか」

 

 

 …マジかよ…。顔合わせたら思い出すかな? 

 ともかく、相手は規格外の大型鬼だ。あれを潰そうとして総力戦に出てるからな。合流こそできてないが、人数は結構なものがあるぞ。

 本来、モノノフは多くても4人一組の行動だが、その10倍は居る。……全員合流できれば、だけども。

 

 

「…基準はよく分からんが、本当に大事になっているようだな…。ん? と言う事はここに来るまでに見かけた連中も…?」

 

 

 戦いに参加できない里の人達も居るけど…どんな連中だった? …お?

 

 

「鎌とか鍬とか持って、虚ろな目でうろつきまわっている人や、鎧と武器を身に着けて、周囲を異様に警戒している…多分モノノフとか…」

 

「………関わるべきではない。理性は期待できん」

 

「なっ!?」

 

 

 おー、速鳥。お前はどこまで何を覚えてる?

 

 

「…拙者の事も知っているのか。どうやら、味方として判断してよさそうだ」

 

 

 …お前さんもそこまで忘れてるのね。素直に姿を現した辺り、何もかも忘れ去っているって訳じゃなさそうだが。

 

 

「貴殿に察知された故、身を隠すだけ無駄と判断したのみ。それより、ここに来るまでに見た者達だが、疑心暗鬼に陥って行動不能になった者が多数いた。動ける者も、周囲を警戒し、出会った者と斬り合いにまで発展していた」

 

「!? その者達は!?」

 

「痺れ薬が手持ちにあった故、動けなくして放置した。拙者の指令書には、そこまで書かれていたからな」

 

 

 ああ…里人同志が争う託宣があったから、予め用意しておいたのか。流石に周到…。

 それに、桜花達が到着までに矢鱈時間がかかったのは、周囲を警戒しながら進んでたからなのね。

 

 

「そうだな。…残った者達を助けに…」

 

 

 無理。戻ればまた、記憶を奪う鬼の影響下に入る事になる。そうなりゃ元の木阿弥、ミイラ……は分からんだろうから即身仏取りが事故って仏さんになっちまうだけだ。

 元より覚悟の上で出てきたんだし、助けられるだけの物資も時間も無い。

 助けたところで、記憶を奪う鬼…ムスヒホトキに同じ術をかけられたら元の木阿弥だ。そうなるくらいなら、大本の鬼を狩った方がまだ被害が少なくなる。

 

 …納得できんだろうが、これも大和のお頭……お前達を纏めていた里長の決断だ。血が滴る程、拳を握りしめてたがな。

 あと、お前さんの指令書にもそういう内容が書いてなかったか?

 

 

「ぐっ…」

 

「…拙者としても忸怩たるものがあるが…」

 

「言いたくありませんが、仕方ありませんなぁ。俺らの手はどこまでも届く訳じゃない」

 

「それでも、目についた奴だけは、な」

 

「!? 何奴!?」

 

 

 権佐と息吹か。連れだって到着とは仲がいいな。槍使い同志で親交があったのは知ってるが。

 

 

「ほー。なんか馬が合うと思ったが、元から知り合いだった訳か」

 

「さっきも自然と動きが合ったし、互いの動きを熟知している感はあったな」

 

 

 ん、何かと戦ったのか? …よく見れば、槍の穂先に血がついている。でも、ここらに鬼は居ないし…。

 

 

「ここに来るまで、何度か諍いを見つけたんでな。まとめて叩き潰しただけだ。…ああ、放置しても致命傷には至らんぜ」

 

 

 それは刺したのは事実と言ってるようなもんだが。よく息吹が人に切っ先を向けたもんだ。

 

 

「いやいや、刺したのはこいつ…権佐だっけ? だけだ。俺は石突で殴り倒しただけだから」

 

「俺が刺そうとしたのを止めに入ってきてな。ちょいと揉めたが、それで一緒に行動し始めた」

 

「うわぁぁぁぁ!!!! あああやっと人が居たぁぁぁ!」

 

「おい馬鹿、あんまり先行するな!」

 

「迷子になっちゃうでしょうが!」

 

 

 …今度は鹿之助、骸佐、雪風か。騒がしい奴らだなー。

 おーい、お前ら3人、状況はどれだけ分かってる? ってか、俺の事覚えてるか?

 

 

「若ぁぁぁぁ! 怖かったんだよぉぉぉ見かける人見かける人なんか殺気立ってるし、銃声まで響いて来るしさぁぁぁ!」

 

「やかましい! …覚えてはいるが、色々記憶が飛んでるな。顔を見て、ようやく思い出せた」

 

「私があんたの事を忘れる筈ないでしょうが。…あれ、でもなんか思い出せない事もあるような…」

 

 

 覚えててくれたかー。かなり嬉しい。

 つーか、3人揃ってよく辿りつけたな。うちの子達では、権佐に続いて2番乗りだぞ。もっと早く来れそうな奴らも居るのになぁ…。

 

 

「ああ、それ多分、道が分からなくなってるんだ。俺らはこいつ…鹿之助の探知能力があるのを覚えてたから、指令書にあった協力者らしい反応に向かって進んでたんだが」

 

「ふと気が付いたら、見知らぬ場所で一人きりだったもんね。地図はあったけど、現在地が分からなければ落書きと同じよ」

 

 

 …記憶が奪われた事で、土地勘が無くなったのか。長年この里で過ごしていた里人達ならともかく、うちの子達はその辺をやられると弱いな…。

 こりゃ、思った以上に辿り着ける人は少なそうだ。

 

 

「銃声…と言う事は、やはり誰かが争っているのか…」

 

「失礼します。…争ってはいますが、あれは人と人との闘いを止める為です。危害を加える為の発砲ではありません」

 

 

 おう、那木も到着っと。どういう事だ?

 あの銃声、誰がやってるのか知ってるの?

 

 

「ええ。ホロウ様が、自分は鬼の力に抵抗力が強いので、限界まで人の争いを抑止すると」

 

 

 ホロウか…。確かにあいつなら、鬼の力に影響される事も…。

 いやしかし、別に悪いとは言わんのだが、あいつの使命からしてクサレイヅチを討つのに消耗しに行くのは…。

 

 

「そのホロウ様から、言伝を預かっております。『あなたの勝利を確信しているので、私はこちらに回ります』と」

 

 

 

 

 

 ……そう、か。

 参戦を認めさせるどころか、託されてしまった…か…。

 こりゃ責任重大だなぁ…。いや責任とか言ってる場合じゃなしに全滅するか否かの瀬戸際なんだけど。

 まぁ何にせよ、負けられない理由がまた一つ増えたと思っておこう。

 

 

 …あれ、でも待てよ、ホロウってそんな事言うキャラだったっけ?

 任せるにしても、もうちょっと毒を吐きそうな気が…。

 

 

 

「遅くなったみたいね! 後はお姉ちゃんに任せなさい!」

 

「ったく…。よりにもよってこいつに当たるとは…。騒がしいったらありゃしねえ…」

 

 

 続いて到着した初穂と富獄の兄貴により、思考が中断された。富嶽の兄貴はあからさまにゲンナリしている。来る間に、初穂が相当騒いだんだろう。精神的にも戦力的にも成長しているのに、騒がしいのは変わらない奴だ。

 …それはそれとして今なんか、すごいヤバイ事に勘付きそうになった気がしたんだが…。

 うーん、何だったか…思い出せん…。

 

 

「おい、何頭抱えてんだ。状況を一番把握しているのは、みたところ手前だ。多少無茶な事でも文句は言わねえから、説明するなり指示を出すなりしろ」

 

 

 ん? あ、お、おう。

 …あ、もう時間か…。

 

 辿り着けたのはこれだけか。想像以上に少ないと言うか何と言うか…。

 ホロウが自ら残ったのを差し引いても、ほぼウタカタの主力陣じゃないか…。なんかの補正でも入ったか? もしもこの場面がゲームシナリオに含まれているのなら、うちの子達は居らずに主力陣+ホロウ+主人公だったんだろう。

 

 

 ま、気を取り直して…来れない奴が多いのは残念だが、これ以上待つことはできない。

 この面子で突っ込むとしますかね、正直、もうちょっと辿り着けると思ってたんだがな…。特に明日奈や神夜、詩野とかの幹部級。土地勘が無いって意味じゃ、そこらの一般モノノフよりも弱いから、仕方ないと言えば仕方ないのか。

 

 

 …にしても、皆記憶が虫食いだらけになってるだろうに、よく落ち着いてられるな…。俺なら、誰も彼もを警戒しているだろうに。

 

 

「落ち着いていると言うのも変だが…まぁ、何というか、腑に落ちる感覚はあるな」

 

「それな。何と言うか、自然に立ち位置が分かると言うか」

 

「そうね。いつもこうだった、って感じがするわ」

 

「ああ、だから信用したのはあるな。この位置取りが俺らの日常だった、って感じがするぜ」

 

「…不確かなれど、体は覚えておるのだろう」

 

「人は忘れ去ってしまった事でも、思い起こす事ができないだけで実は覚えていると申します。例え鬼の力に毒されようと、残るものがあるのでしょう」

 

 

 いつも…ねぇ。

 確かに、大物と戦う時や、厄介ごとに立ち向かう前には、こうやって集合してたっけな。真ん中に立ってるのは、俺じゃなくて大和のお頭だったけど。

 …いや、そうでもない…か? 確かに大和のお頭が中心の事も多かったけど、ループの中では俺が中心だったことも多かった。……やらかしたのがバレて、俺だけ正座してるのも多かったけどな。

 

 そう考えると、確かに因果を奪われても何かが残っているってのは…うん、納得できなくはない。

 

 

「俺らはまぁ、若の前で気合入れるのもよくあるっちゃよくあるよな」

 

「ああ。俺らっつーより、どっちかと言うと雪風達だけど」

 

「何よ、頭領が活入れてるんだし、おかしなことないじゃない」

 

「おかしいとは言ってないが、傍から見ると狂気じみてるのは自覚した方がいい」

 

 

 そーだな、権佐。半ば意図的にそういう方向に持っていってる俺が言うのもなんだけどな…。そっちの方が統率しやすいんだよ。チヤホヤされるの好きだし。

 

 

 さて、いらん方向に話を振ってしまったが、お望み通りに戦いの時間が始まるぞい。

 誰がどこまで覚えているかさっぱり分らんから改めて伝えるが、標的の名はムスヒホトキ。因果を奪い、押し付け、貯えた因果を燃やして超絶的な力を発揮する、超古代の怪物、規格外の鬼だ。

 因果と言っても分かりにくいだろうから、単純に記憶を捏造したり奪ったり、或いは既にあるモノを全く別の物に強引に変えてしまう鬼だと思ってくれ。

 姿形は現在進行形で変化しているようだから情報は無いが、馬鹿みたいにでかい龍や獣、カラクリの集合体のように見える。でかい龍の首元には、小さめ…と言っても普通の鬼よりずっとデカイが…の鬼が一匹張り付いている。これが因果を奪う力を齎している鬼だ。こいつをぶっ殺せれば、大幅に弱体化を狙えるだろう。個人的に用事もあるから、俺も優先して狙う。

 外見から得た情報は、あまり当てにするな。奴は自分自身にも因果を付与して、外見も中身も改造しまくっている。ゴウエンマそのものの姿してるのに、脈絡もなく氷やら睡眠の術やら使ってきてもおかしくない。

 

 細かい事は言わないが、ここで奴を仕留められなければ、ウタカタの里を通り越して人類史が無茶苦茶にされてしまいかねん。鬼が時間を超えて移動する能力を持っているのは知っているだろうが、あれがオオマガトキあたりに出現したら、それこそ抗う事もできない戦力差になる。

 四の五の言わずに、奴を討ち取れ。隣にいる人間が親の仇だった事を思い出しても討ち取れ。その記憶は偽物だろうから、それより先にムスヒホトキを討ち取れ。結婚の約束をした恋人が既に死んでいたのを思い出しても、泣く前に仕留めろ。俺が里を滅ぼした男だとしても、ムスヒホトキを討ち取ってから殺しに来い。

 

 いいな?

 

 

 ………よし、いくぞ!

 

 

 

「「「「「「「「「「応!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 まずは俺、那木、雪風の遠距離攻撃組3人の連続鬼千切で、空を飛んでいる状態から叩き落す。そこから先は、各自別れて包囲戦に移

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         失敗した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 失敗した

 

 

 

 

 

 

 

 失敗した

 

 

 

 

 

 

 

 

 失敗した失敗した失敗した

 

 

 

 

 

 

 

 

    もどってきた

 

 

 

 

              とりもどした

 

 

 

 

 

           でも

 

 

 

                     どうして

 しくじった

 

 

      みんな

 

            うらぎり

 

 

    うしなった

 

                 もどらない

 

 

 

 

               これが

 

   むくいだっていうのか                

                 だけど

                      あんまりじゃあないか

            いくらなんでも

 

                 みんな

    そんなめで

 

 

 

          みるな

 

 

                    よ

 

 

 

 

 

 

 



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608話

遅くなりました!
…いや、ちゃうねん、真面目に執筆してたけど、展開に詰まったり、表現が思いつかなかったり、丁度いい区切りがつかなかったねん。
決して仁王2で、ようやく解放された奈落獄でホイホイレベルが上がるぜぇぇぇ!とか叫んでたんやないねん。


むぅ、斜体タグの効果が無い…。
二段階拡大タグももうちょっと大きくしたいのに…。
うーむ、使い方が間違ってるのだろうか?


某月 某日

 

 

 

 …………あー………しにたい…

 

 

 ていうかきえたい……。

 

 

 こういう時こそデスワープ……すりゃよかったのになぁ…。

 なんで心臓動いてんのだろうか…。失意の余り、体が勝手に死にそうなもんだが……。あれか、忘れ去っていたかったのっぺら共が体を勝手に維持しているのか…。ありえるなぁ、他人事なら俺も嬉々として強制延命処置を施すし…醜態を見て笑い転げるだろうし……。

 

 

 

 

 

 

 

 …えー、ちょいと気分を変えまして…。

 ここは某国某土地、某月某日、某は某かの鬼だかモンスターだかアラガミだかよくわかんないのを張り倒し、某丘の上で某海域を眺めております。

 某ばっかり何も分からんと言うなかれ、俺だってここが何処なのかイマイチ分かっていないのだ。

 ていうか、この土地自体も、張り倒した怪物も、名前がついてないどころか人に認識されていない可能性さえある。

 

 

 いつもの夢でどっかに飛ばされているという訳じゃない。まして、返り討ちにあってデスワープした訳でもない。

 ただ、傷心のまま流れに流れ、ふと気づけばこんなトコに居たってだけの話だ。

 

 

 あの時…確かに、俺はクサレイヅチを仕留めた。それは間違いない。

 ああ、勝利したさ。二度と俺に付き纏わないよう、生命活動を停止させ、ありとあらゆる部位を分解し、決して蘇られないよう俺が持っているあらゆる手札を注ぎ込んでその存在を否定しきった。

 

 勿論、奴を仕留めただけではない。

 念願かなって千歳は解放できた。まだ名前もついていなかった、俺の子供達の因果も奪い返した。

 奪い返したのは彼女達だけではない。もう二度と戻ってこないと思っていた者達でさえ戻って来た。那木とかだったら、かつてこっそり橘花の尻に浮気して、決戦の真っ最中に射てきた事とかもな。

 …妄想とか計画止まりだった筈のアレやソレも、実際には(7割くらいは)その通り、実行しなかった(止めたものと、やろうとしてできなかった事では後者の方が多い)事も思い出した。残り3割だけでも、騒乱の火種になるには充分すぎるくらいだったが。

 

 

 

 ………ああ、結果としては最上級と言っていいだろうさ。

 

 

 

 

 

 ただ、犠牲になったものが大きすぎただけで。

 

 

 

 

 

 

 裏切られた、と思ったのは事実だ。今でも思ってる。

 でもよ……仕方のない事だったとしても、あれはあんまりじゃないか……。俺みたいな奴には、あれがお似合いだってか………は、はは…。

 

 

 

 …ああ、気分がまた沈んできた…。何もかも忘れて、どっか行こう…。

 

 

 

 

 

 

某月 某日

 

 

 …あれから随分経った気がする。野生にかえってフラフラしてたから、時間間隔が狂い切っているようだ。

 何もかも忘れて気晴らしに没頭したためか、多少は心の整理がついた…と思う。

 

 まぁ……状況だけ見れば、悪い結果にはなってないんだろうし…な。今までとは違う状況にいきなりなっちまったから、俺も従来の考え方が出来なくなってるだけで、混乱もそう深くは無い。

 

 

 デスワープした訳じゃないが、いつも通りの回想からいこうか。

 と言っても、正直俺もあんまり詳しい事は覚えてない。クサレイヅチ改め、ムスヒホトキの因果簒奪の影響に抗い切れなかったと言うのもあるが、それ以上に………ああいや、やっぱこの辺は後で。

 

 

 

 まぁ、なんだ、ムスヒホトキはとにかく厄介だった。それは確かだ。

 ゲームバランスを投げ捨てたようなパワーと巨体(一部)に加え、奴さんの攻撃方法が意味不明極まりない。因果簒奪と押し付けの効果なんだろうが、前触れもなく炎や氷が発生するのは当たり前、何にも触れてないのにいつの間にか体に傷が出来ていたり、突然離れた場所に転移させられたり…とにかくノーモーション、ノータイム、ノーリスクで撃ってくる。

 見て避けるのも対策するのも不可能。運と勘に任せて避け、後は気合で耐えて無防備になるのを承知で回復するしかないと言う、クソボスオブザイヤー…を通り越してミレニアムに上げられそうな奴だった。プレイヤーがボスキャラにメタ張るのはいいけど、ボスキャラがプレイヤーにメタ対策してきてんじゃないよ全く。

 

 更に言えば、戦闘センスも非常に高い。何手も先を読んで状態異常を付与したり、見える攻撃と見えない攻撃を使い分けて俺達に圧力をかけたりと、やりたい放題だった。分身しなかったのだけが救いである。(頭が複数あって連携してに行動するから、分身しているようなもんだが)

 

 

 それでも、近付くだけなら何とかなったんだ。

 いくら相手からのデバフや攻撃が不条理極まりないとは言え、こっちの面子もそうそうたる顔ぶれ。歴戦のモノノフ揃いだ。(うちの子4人は、歴戦と言うには少々経験が足りないが)

 後から追い付いてきた援軍も結構な人数が居たし、理不尽な攻撃も『そういうもの』と割り切ってしまえば、必要以上に動揺する事は無い。さっさと受けた傷を回復して、じりじりとにじり寄っていく。

 

 

 ムスヒホトキの変態もいつの間にか止まっていて、俺達の迎撃に集注しているようだった。

 当初は遠距離攻撃組の連続鬼千切で叩き落す予定だったが、奴は空を飛ぶのを辞めて地上戦を仕掛けてくる。それは余裕の表れとかじゃなくて、その戦い方が一番攻撃力が高いと判断したからだろう。事実、奴の大質量と馬力は脅威の一言では済ませられない領域にあり、体当たり一つとっても正面からブチ当たれば蹴散らされて全滅確定しそうな強さだった。 

 おまけに、近付けば近づくほど奴の攻撃の密度が上がる。遠距離から苦しめてきた理不尽な攻撃だけでなく、集まっている体(首?)からの迎撃がな…。目を引くのはヴィオランテによく似た体だが、それに隠れるように色々な形の体が集まっていて、近付くとそいつらが一斉に飽和攻撃してきやがる。狩りゲーじゃなくて弾幕ゲーの領域だね、あれは。

 

 とは言え、飽和攻撃が手に負えないなら、分散させるまでの事。リスクは高かったが、散会して包囲、全方向からチクチク削る作戦に出た。

 ……と見せかけ、隠れて俺が急接近。ムスヒホトキの体に一体化している、クサレイヅチを暗殺する……と言うのがその時に決まった作戦だった。

 自分で言うのも何だが、この面子の中では隠形・瞬間火力共に最高位だ。俺以上の適任は居らず、反対する者も……まぁ、記憶が奪われている為か、多少疑われる部分はあったが、居なかった。

 

 

 

 事実、隠れて近付くのは簡単だったよ。ムスヒホトキにも気付かれず、クサレイヅチまであと一跳躍という距離まで間合いを詰めた。

 

 

 

 …だけど、ここで敗北の因果が牙を剥く。

 

 

 

 何の脈絡もなく、俺の足元で音が鳴った。最後の一歩を詰める為、跳躍した瞬間の事だ。

 何かを踏んだ訳じゃなく、足音をたてた訳でもなく、天狐が居た訳でもない。何が音を立てたのかもわからない。周囲の事を考えれば、多少の物音なんて響いても一顧だにされないだろうに、どういう訳だか妙に音が響き渡った。

 今までの事を考えると、突然次元に穴が開いて、音だけがそこから響いてきた…なんて事になっても驚かない。

 

 ただ一つ確かなのは、最悪のタイミングでムスヒホトキに気付かれたって事だ。

 

 

 進めばムスヒホトキの集中砲火。退けば距離が開いて再度鉄壁の迎撃網を抜けなければならない。

 二択を迫られた俺が選んだのは……手札を切る事だった。

 

 既に跳躍していた体を、体勢を強引に変える事で軌道変更。フワッとした、狙い撃ちにしてくださいと言わんばかりのジャンプになってしまったが、急いで懐に手をやった。

 取り出したのは、博士から手渡されたPSVR(仮)。

 激戦の最中に自ら視界を封じる事に、若干の不安と……なんか本能からの警告を感じたものの、いずれにせよ既に選択の余地は無い。

 

 

 信じるぞ、博士……!

 

 

 祈るようにPSVR(仮)を被って、起動。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、覚えのある感覚に包まれて、俺は暗闇の中に居た。

 焦ったものの、周囲の状況は肌の触感から把握できている。…代わりに、視覚、聴覚、嗅覚が完全に効かない……いや、塗り潰されている?

 

 戸惑う俺の視界に、光が灯る。

 光は瞬く間に博士の形を取った。

 

 

 

『あーあー……よし、記録は順調に作動しているな。さて、この記録が再生されていると言う事は、渡した装置を使ったようだな。それでいい。貴様なら理解していると思うが、この映像は記録を再生しているだけだ。貴様が何を言おうと反応はせん』

 

 

 …記録? いや記録なのは分かるが、何で今このタイミングでそんな物を再生させる?

 博士はクサレイヅチの傍で使えと言っていたが、幾ら何でもこんな記録を悠長に見ていられる時間は無いぞ。

 だが体は正常に動いてくれず、嫌が応にも記録に見入る事になる。

 

『ああ、体が上手く動かないのなら正常に機能していると言う事だ。お前の言う…体感時間操作、だったか。それを発動させているだけだ』

 

 

 …なぬ?

 俺の体感時間操作は、影響下に居る奴は普通に動けるんですが………どうやって発動させた? いやそれ以前に、何でわざわざそんなものを発動させた? そりゃ、体感時間操作が発動した状態で戦えれば、常時クロックアップ状態だから物凄く強力なのはわかる。こうして悠長に動画を見ている間にも死んでないんだから、体感時間操作自体は発動しているんだろう。

 が、体が動かないんじゃ片手落ちもいいところだ。

 

 …なんか…いやな感じがしてきたな…。予感という意味でもそうだし、脳味噌の表面を撫で回されているような不快感が…。

 

『この装置の効果について説明してやろう。きさまの脳味噌でも理解できる表現にするのに苦労したぞ。全く、もう少しまともな思考をしろと言うのだ』

 

 

 ……なんで俺は動画で罵られてんだろうか? しかもこんな緊迫した状況なのに。

 

『恐らく勘違いしているだろうから、最初に言っておく。はっきり言うが、お前が使ったこの装置には、因果をどうこうするような機能は無い。当然だな。因果とは即ち運命に等しい。いくら私が天才でも、数日程度で運命を変えるような道具を作れるものか』

 

 はいぃ!?

 ちょっと待て話が違う! いや確かに、考えてみりゃ当然の事ですけどね!

 

『だが、因果を操作する方法もある。因とは原因、果とは結果だ。結果が伴うように因を動かせば、果はそれに伴って変わっていく。イヅチカナタの力は因をすっとばして果を引き寄せるものだが、因が齎す影響を全く無視できるようなものではない。早い話が、勝てる戦い方で戦えば勝利が近づく』

 

『この装置は、貴様に『勝てる戦い方』を強要するものだ。素面では絶対にやらないであろう手段だ。いかに目的…捕らわれた身内を解放する為なら何でもする、と言ったところで、心理的な忌避感もあるだろうからな』

 

 …嫌な予感が更に膨れ上がって来た。

 こいつ、俺に何をさせようとしてるんだ。

 

 絶対に勝てる戦い方なんて、そんな都合のいいものがあるものか。G級ハンターだって、時にはモスに殺される事だってあるのに。

 

 

『ところで、お前の言う繰り返しの記憶だが……実は私も幾つか思い出した事があってな。イヅチカナタから奪い返した因果の影響だろう。捏造、歪められたりした記憶ではないようだ。恐らく気付いていると思うが、他にも記憶が戻っている者は多い。…殆どが、単なる夢か妄想だと思っているようだがな。何人かに話をきいたところ、ある共通点が浮上した』

 

 

 博士の記憶が戻ってたのか。確かにそうなってもおかしくないが、そんな素振りは全く見せなかったから分からなかったぞ。

 にしても、共通点ね…。あまり深入りすると地雷を踏み抜きそうだから、あまり調べられなかったんだよな。

 

『一つ目、繰り返しの記憶を一部でも思い出したのは、現状確認できる限りでは全て女だ。そして、思い出した記憶の中で、必ず貴様と肉体関係を結んでいた。…ああ、ホロウは例外だ。イヅチカナタから因果を奪った際、かなり近くに居たからな。自分の因果を浴びて、『思い出した』のではなく『取り戻した』のだろう』

 

 ホロウはともかくして、思い出した全員が…。

 確かに俺なら里の女全員に手を出した事があっても違和感はないが、それしか思い出してないってのは妙な話だ。手を出してないループだってあっただろうに。橘花でさえ、手を出さずにあまり関わり合いにならなかったループもあるのだ。

 

 ………ん? あれ? 博士も思い出してるって事は……え、俺、博士にまで手を出してたの?

 

 

 

 

 

『……………思い出してないようだが……あの時は、随分好き勝手に弄んでくれたな…」

 

 

 

 

 ……さ、寒気がする程のプレッシャーを感じる…。能面みたいな顔で、ここまで迫力を出せる奴も珍しい。それ以上に、嫌な予感を通り越して確信を得てしまった。

 こ、これは…博士の陰謀だ…!

 

 

 

『さぁ、本題だ。奴に勝てる戦い方を強要する、と言ったろう? そのやり方は単純だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ムスヒホトキを手籠めにしろ。交合してこい。犯せ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『貴様が持つ、何よりも確実な手段だろう? 何度も何度も繰り返した中で、何よりも暴威を振るい、何よりも好んで、何よりも勝率が高い、敵すら恭順させる最高の手法だ。貴様の周囲にはイヅチカナタに敗北する因果が漂っているように、貴様の交合には相手を屈服させる因果が満載になっている。ならば相手が同性であろうと異種族であろうと不倶戴天の仇敵であろうと関係ない。犯し、隷属させろ』

 

 

 

 

 

 

 

『それとな、この装置の効果だが……因果を操る効果なんぞないが、代わりに一つだけ機能を持たせた。簡潔に言えば催眠暗示だ。薬物付のな。そろそろ体全体に不快感が蔓延している頃か。装置を作動させた時、首筋に注射されるように仕込んだのだ。私と茅場と那木、そしてお前のところの薬物系に強い連中が総力を結集して作り上げた幻覚系の興奮剤だ。いくら貴様でも、そうそう解毒は出来ん。催眠は言うまでもない。今こうして私の映像を見ているだろうが、その背景に暗示の効果を付け足している。効果は至って単純。ムスヒホトキが性的な対象に見えるようになる。これだけだ』

 

 

 

 ………ハッ!!

 

 ちょっ、待て、待て、待て、ショッキングすぎて脳味噌が受け入れられない何をやらせようとしてんだよりにもよってこんなのかよ!

 

 

 

 

『ついでだから言っておくが……この映像は、暗示が利き始めるまでの時間稼ぎだ。更に言うなら、この手段を使ったのは確実に勝てると確信していた事もあるが、それ以上に私を好きにしてくれやがった報復だ。今の貴様がどんな顔をしているのか、直接見られない事だけが残念だな。録画しているから、後で回収するが。…よし、もう催眠も完全にかかっただろう。では行け、色情狂』

 

 

 

 映像が終わるのと同時に、PSVR(仮)が割れた。

 

 からだがあつい

 

 視界が戻り、感覚も戻った。

 

 あたまがくらくらする

 

 首筋に刺さっている針を引き抜いて放り捨てる。

 

 かんがえがまとまらない

 

 この場に居たら集中砲火を受けると判断して、全力で距離を取る。

 

 いきりたつ。

 

 目をムスヒホトキに向けると

 

 

 

 

 

 女が居た。

 いずれ劣らぬ美女美少女美幼女揃い、並んで俺と向き合っている。

 どうでもよさそうにしているクール系美女も居るし、野暮ったいがよく見たら結構な物をお持ちの引っ込み思案美少女も居る。敵愾心が強そうなヤンキー系も居る。八尺様かと思うような長身美女も居た。

 特に目を引くのは、彼女達の真ん中でニヤけた笑いを浮かべている美幼女。

 

 

 

 こいつら、ムスヒホトキのそれぞれの首か! 催眠でこんな風に見えてるだけだ! やたらと個性豊かなのは、因果を使って自分を改造しまくった結果だろうか? よく見れば、全員目元がものすごくよく似ている…気がする。

 

 

 

 という冷静な分析は、女の姿を見た瞬間に、湧き上がる興奮と性欲にかき消された。

 

 

 ニヤけた美幼女……メスガキを見た瞬間、全てが振っとんだ。

 

 クサレイヅチィィィィィ!

 

 

 

 

 

 

 わからせの時間だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!

 

 

 

 

♡゛♡♡!?゛…゛!?!♡♡゛゛??♡♡♡…?…♡♡゛…♡♡…?゛♡゛?…♡゛゛♡゛?゛♡…♡…!?゛♡?゛♡………゛!?゛?゛♡!?!♡♡!??♡゛!?!?……゛♡!?゛?」…?♡!?…゛゛゛♡゛?…?゛!?゛゛゛…!?゛゛♡♡♡♡?♡゛♡♡♡?゛゛???゛♡゛゛!♡♡…♡゛?♡…゛♡゛?♡゛??゛゛゛!?゛…♡゛?♡゛♡♡!?゛?゛…?゛゛!……♡゛♡゛?゛゛♡…゛♡!?!♡゛゛?♡゛…?」゛♡?

 

 

 

 

 

 

 気が付いた時には、全て終わっていた。記憶もまぁ、あるにはある。記憶の中の映像が、催眠暗示を受けたままの光景なのが救いなのかそうでもないのか。

 ……ああ、しっかりと覚えているさ。

 

 クサレイヅチと思しきメスガキにわからせしまくって、出産までさせて、更にはまだ足りぬとばかりに延々と責め立てて遂には腹下死にまで追い込んだのを。

 メスガキだけじゃない。周りの女達も、反抗しようとしたり逃げようとしたりするのを捕らえ、手練手管を費やして命乞いをする程に善がらせ精神崩壊させたのを。

 死んでも許さんとばかりに、無理矢理蘇生させ、苦痛よりもなお辛い悦楽に沈め込んで、魂ごと崩壊させたことを。

 

 

 …考えてみれば、初めてだな…。女を愛でる為でも隷属させる為でもなく、自分の快楽と愉悦の為でもなく、明確な殺意を持ってオカルト版真言立川流を使ったのは…。

 

 

 

 

 ユメから醒める前の最後の光景は、全ての女を犯し尽くし、倒れ伏した女達が並んでいる状態だった。

 暗示が解け、薬物の効果も切れて我に返ると、そこにはバラバラになったムスヒホトキとクサレイヅチの遺体。その前で仁王立ちする俺と愚息。

 あちこちに見慣れた白濁がこびりついているのがまた、精神的ダメージを煽る。

 

 

 自分がやらかした事について色んな意味で気が遠くなった。

 何で俺は鬼を犯してんの? しかもいままでずっと追い続けてきた宿敵の鬼を。

 

 いや、それもショックなんだけど、よくよく考えると周囲には…。

 

 

 

 遠い目をしながら周りを見渡すと…。

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ、その、視線がね……。

 

 色狂いを通り越し、変態に目覚め神を超え魔人に至りゼロに戻る、性癖的な意味での新世界開闢を見たような、コズミック変質者を目の当たりにしたような…。

 

 

 

 誰だってそうなる、俺だってそーなる。世界の運命をかけた一大決戦をやっていたと思ったら、その中心人物が突然股座をいきり立たせ、怨敵を犯しにかかるのだ。相手が同じ人間型ならまだ辛うじて分からんでもないが、相手は鬼に分類していいのかすら迷うような異形の怪物。そんなのに本気で欲情してりゃ、誰だってドン引きするわ。仮に相手が天狐だったとしても、速鳥でさえ理解できん状況だわ。

 博士の奴、『極力他に誰も居ない状態で使え』ってこういう事かよ……。せめて目撃者を減らせ、って事だったんだろう。かつての繰り返しの中で抱かれて、情が移ったって事か? 意趣返しも兼ねてこんな策謀を練ってくれやがったんだろうが、もうちょっとやり方がなかったのかよ…。中途半端な情けが身に染みる。

 つぅか、PSVR(仮)を渡された時の反応からして、ホロウもこれの事を知ってやがったな? 下手するとあいつの発案である可能性すらある。

 

 しかも、決戦が始まる前は居なかった人も沢山いる。どうやらメスガ……もとい、クサレイヅチをわから…もとい、戦い始めた辺りで、里周辺の因果簒奪は解けていたらしい。そっちから因果を奪うより、目の前の敵を撃破しなければならないと判断したんだろう。

 で、因果簒奪の影響から抜け出した人達は、予め予定されていた通りに決戦の場に集結、援軍として参戦。

 

 

 そしてムスヒホトキとエロエロしている俺を目撃。それはもう実に楽しそうに、文字通り相手が死んでもヤりまくっている姿を目撃。

 

 

 里のモノノフ達は勿論、うちの子達もね。いつの間にかホロウも追いついてきたようだが、似たような目を向けていた。貴様が仕組んだ事じゃろがい。

 

 

 

 

 すくいはないんですか

 

 

 

 




最後のムスヒホトキの悲鳴は、喘ぎ声ジェネレーターを使ってみました。

次話分は大体出来上がっているので、早ければ4日後です。
それで何とかオチまで持って行って、その後裏話を投稿して完結…の予定。

裏話に関しては、色々と回収しきれなかった伏線や、裏設定なんかも盛り込みたいと思っています。
ついでなので、質問事項があれば受け付けておこうかな…と思います。
後日、活動報告に質問事項募集を挙げようと思いますので、疑問があればそちらにお願いします。
全て答えられるとは限らない(つまり忘れているか考えてない)ので、ご了承くださいませ。
ついでに、説明がややこしい質問であると、その分執筆が遅れる可能性もありますので、お手柔らかにお願いします(;´∀`)


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609話

~前書きの戯言~

 「今の自分の知識と経験を引き継いで、子供の頃に戻れたらどうなるか」

 誰しも一度は考えた事がある空想だと思います。
 時守も何度考えたか、数える気にもなりません。
 ですが、都合のいい妄想だけを考えているならともかく、真剣に考えてみたら、常に結果は同じです。

 何も変わらない。

 変わる事があるとすれば、精々履歴書やテストの点数欄に書き込まれる数字と名前が少々違ってくる程度でしょう。
 何故なら、知識と経験を受け継いでいたとしても、現在の自分の性格も受け継がれるだろうからです。

 内向的で、排他的で、自分だけの世界に没頭したがる自分。
 方向性はどうあれ、逆行・転生したところで、それだけで自分を変える事ができないのは、誰でも同じだと思います。
 何せそれまでの自分の経験が、引き継がれた経験が、人格を形成する強固な土台となるのですから。

 スペックだけ引き継いで過去に戻っても、一日一日を何気なく暮らし、今までと、前回の自分と同様の行動しかしないでしょう。
 弁当のおかずを一方的に欲しがる同級生に「じゃあ代わりに何かくれよ」という事もせず、慕ってくれた下級生(未だに理由が分からない)に「それ、俺の名前と違うよ」と伝える事もせず、大嫌いだった鬱陶しい連中に文句を言う事もできず、親しい付き合いなんか全然無しに3(PI-)歳まで年を食い、ただただ黙っていた自分の人生をリピートするしか想像できません。
 もしも、そんな事は無い、自分なら前回とは全く違う生き方が出来ると思う方は、これからでも自分の人生を変えていけると、心底思っている方なんだと思います。

 このSSは、そんな思いから生まれました。
 異常な世界でも、異常な環境でも、何度も何度も繰り返しても、その度に違う行動をする。
 性格は変わっていなくても、前回とは確実に違う『何か』を生み出す。

 変わっていけるんだ、全然成長できてなかったとしても、以前とは違う行動ができるんだと思いたい。
 逆行、ループ、デスワープという特異な状況の中で変わっていけるのなら、今からでも自分も変わっていける。
 そう思いたいからこそ、毎回のループで彼には違う行動を取らせてきました。

 それを是と思うか非と思うかは、時守には分かりません。
 ですが、同じような事件・案件に差しかかった際、前回と違う対応が出来るのは確かです。
 ループが無くても、人生には何度も何度も似たような困難が降りかかってくる。
 その時に、前回よりも悔いの無い選択が出来るのであれば、逆行ややり直しなんかしなくても、人は変われるんだな、と考えるようになりました。
 




 上記は全て酔ってるときに後付で出てきた理由で、最初は単に討鬼伝極が出るのが嬉しかったから書き始めただけなんだけども。
 思えば遠くへきたもんだ。



 

 

 

 

 

     ハッ、また意識が涅槃に跳んでた。

 

 

 

 どうせなら体ごと涅槃にいってデスワープ出来りゃいいものを…。

 

 

 

 …ま、まぁ、ここまではアレだ、致命傷で済むんだ。

 当時は真剣に自殺を…今までのループの中で一度として選んだ事のない選択だったけど、それを今回ばかりは本気で考えた。

 

 だが、そんな致命傷を吹っ飛ばしてしまう程衝撃的な事があったのだ。

 

 

 

 原型をとどめない程にわからせ…もとい、(主にピストンの衝撃で)叩き潰されたムスヒホトキの遺体の中、得体の知れない体液に塗れて、彼女は倒れていた。

 ああ、見た瞬間呼吸が止まったよ。ずっと追いかけ続けていたんだから。

 

 本当に現実なのかと疑問に思うよりも先に、彼女に駆け寄っていた。

 黒く長い髪、ほっそりとした手足、体を覆う白い服…は体液で極彩色になっていた。体の半分が大きく変わっているが、見間違える筈もない。

 

 

 

 

 千歳だ。

 鬼となっていた体半分が人間のものに戻っているが、間違いなく千歳だ。

 

 

 

 千歳だ。千歳、起きろ、起きてくれ。目を覚ませ! クサレイヅチから解放されたんだよ! 起きろよ!

 

 

 

 

 …そんな感じの事を喚き散らしていたと思う。

 例え、目の前にいる千歳が本物だったとしても、間に合わなかったのではないか、目を覚ます事はないんじゃないかという不安がある。ずっとクサレイヅチに取り込まれていたのだ。どんな影響があってもおかしくない。

 どれくらいの間喚き散らしていたのかは、自分でもよく分からない。ただ、周りを俺を遠巻きに見ていた連中も、気が付けば怪我人らしき人物に対処する為に近付いてきていた。

 那木が千歳を診断しようとし、他の者達は周囲に残敵が居ないか、何か異変がないか確認しようとしていたのだが…。

 

 

 千歳の瞼が、僅かに動いた。

 

 

 気が狂いそうな焦燥と歓喜と不安の中、千歳の瞼が開いていく。

 

 

「………………    …」

 

 

 まだ意識がぼんやりとしているのか、焦点の合わない目で俺を見上げて。

 

 

 それでも確かに、俺の名前を呼んでくれた。

 生きていた。目を覚ました。覚えていてくれた。

 

 感極まる、とはこういう心持だろうか。

 

 

 解放されたのは、千歳だけではない。

 いつの間にか空から降り注いでいる、無数の青く輝く光…これは因果の光だ。だが因果簒奪のように空に昇っていくのではない。叩き潰した鬼の中に蓄えられていたものが吹き上げられ、そして降り注いでいる。

 その中で、確かに感じる因果がある。

 

 

 フラウやセラブレスの子供達。まだ産まれてなかった赤ちゃん達の気配を、確かに、隣り合うように感じる。

 

 

 こんなに嬉しい事があっていいんだろうか。報われてくれたのだ。

 長い長い繰り返しを乗り越え、怨敵を討ち果たし、囚われの恋人を解放し、奪われた子供達を奪還して…。

 

 視界が歪むと思っていたら、ぼろぼろと涙が零れていた。それすら、抱き起こした千歳の胸元に水滴が落ちているのを見てようやく気付いたくらいだった。

 

 

 

「………      ……」

 

 

 もう一度、千歳が俺の名前を呼んでくれた。微かに、だけど確かに微笑んで。

 

 目の前に横たわるのが幻ではない事を実感したくて、震えながら、壊さないようにぎゅっと思い切り抱き着いた。

 半身の鬼化が解けた千歳の体は、健康的な10代の少女の体そのものだった。

 千歳も、まだ力があまり入らないのか、ぎこちない動きで抱き着き返してくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あのね わたし    イヅチカナタに つかまって て から    ずっと みてきたの」

 

 

 

 

 あの   

 

 

 

「わたし にきづいてから   ずっと たすけようと してきて くれたね」

 

 

 

    千歳さん

 

 

「  ありがとう  」

 

         抱きしめてくれるのは嬉しいのですが

 

 

「でもね」

 

              なぜ、背中越しに首を掴むのでしょうか

 

 

「許せない事もあるの」

 

 

 

 

 

「色んな女の人と、浮気しまくってるのは、いいよ。そうでもしないと、疲れて壊れちゃってたのは、イヅチカナタの中で見ていたから、分かるよ。許すよ」

 

 

 

   しかもこの感触は

 

 

「どうせ全部無かった事になるからって、悪い事をしちゃった事もあったね。それもいいよ。『私は』許すよ。無かった事になったんだから、これ以上どうこう言えるのは思い出した当事者だけだもの」

 

 

       また片腕が鬼になってませんか

 

 

「でもね」

 

 

 

  い、いや、この感じは鬼だけじゃなくて、アラガミの気配が……更にこの呼吸法は紛れもなく狩技・獣宿し…!

 ていうか、腕どころか全身が鬼に…! こ、これはまさに俺のアラガミモードと同じ…!

 

 

 

「絶対に許せない事が、一つあってね。思い出したみんなが口を揃えて言うだろうから、私が代表して言うね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達と交わってた時よりも、あの鬼を犯してた時の方が興奮してたのはどういう了見だーーーーー!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 あ う゛ ぇ し ッ !!!!!

 

 

 

 音速を超えてすっとんできたパンチで、ぶっとばされてムスヒホトキの残骸に叩き付けられた。

 技を超える純粋なパゥワーとでも言わんばかりの超威力。

 

 再会早々に何でいきなりブン殴られなきゃならんのだろうか。いや、後から思えば、千歳はクサレイヅチに捕らわれてからも、奴の目…だか、吸収してくる因果だかを通じて俺がやってきた事を見てきたみたいだし、それを考えると殴られるどころか絶縁、下手すると処刑されても文句は言えないとは思うんだが。思い出した事だけでも浮気三昧に悪行三昧。何度再審を訴えても、問答無用で有罪判決になるだろう。

 でもあの時、千歳は『そうでもしないと疲れて壊れちゃった』と、許してはくれたしなぁ。…許されたからいいってもんじゃないが。

 

 

 

 

 そして更に混乱は続く。

 叩き付けられたムスヒホトキの残骸から、俺の体に押し出されるようにしてボコッと出てきたのが一人。

 

 

「ふぅ、ようやく外に出られたぞー。外の空気が美味しいなー。お腹がいっぱいにならないのが残念」

 

 

 聞き覚えのある、しかしいる筈のない声。

 まさかと思って振り向こうとしても、千歳のパンチのおかげで体が痺れて動かない。…かつてないダメージだぞマジで。それでも目玉だけでも動かし、声の主を確認しようとしたら、ひょいとばかりに持ち上げられた。

 両脇に手を突っ込まれ、人形を持ち上げるようにして対面させられる。

 

 ムスヒホトキの体液や肉がへばりついて、見るも無残に汚れてはいるものの、白い服と、それ以上に白い肌と髪を持つ彼女は、俺と目を合わせると嬉しそうに、ちょっとイタズラっぽく笑って見せた。

 

 

 

 

 ………シオ…?

 

 

「シオだぞー。農園で、アリサと一緒に3人暮らししてたシオだぞー。時々ツバキも一緒だったなー」

 

 

 なん、で…?

 

 

「イヅチカナタに捕まってた! 助けてくれてありがとなー!」

 

「イヅチカナタに捕らえられてたのは、私だけじゃないのよ。あなたの子供だって奪われて捕らえられてたんだし、他に居てもおかしくないじゃない」

 

 

 それは……そう、なの…か? そうなのかもしれんが、何か問題とするところが根本的に違っているような?

 

 色んな情報が一気に押し寄せてきていて、頭が混乱している。

 …と言うか、クサレイヅチを斬った……斬ってないけど、とにかく仕留めた為か、色々と思い出してきた。まだ戻ってなかったループの記憶が、雪崩のごとく押し寄せてくる。

 

 い、いや、それよりも今優先するべきは…。

 

 

「こうしてお話するのは初めてだなー。シオだぞー」

 

「千歳よ、よろしくね。お互い、他に誰か捕らえられているのは分かってたけど、話す事なんてできなかったものね」

 

「これからゆっくり話そうなー。でも、それよりまずは…」

 

 

 …あの、シオさん……なんだか手が物騒な形に変形しているのですが…。

 しかもこの感触、アラガミのものじゃない。千歳も同じような感じだが、アラガミ以外の何かが色々混じっている感じがする。

 

 

「このセッソー無しのカイショー無しに、みんなでオシオキだなー。丁度いい機会だなー。ここにいないアリサ達の分まで」

 

「そうね。いつもみんな、なぁなぁで誤魔化されたり、床の中で納得させられたりしてたけど、物事には限度があるって事を教えてあげるわ。色々と因果が戻ってきてるんだし、これもその一つって事で」

 

「そうだな、毎回毎回橘花を弄んでくれたようだしな。おまけに橘花と共謀して何度私を襲った事か」

 

「思えばかつての浮気の制裁も、直接下す前に死なれてしまいましたし」

 

「おねーちゃんはそこまで気にしてないけど、それはそれとして今回私に何もしてないってどういう事よ」

 

「私は今回が初めてでしたので特に言う事はありませんが、腹いせに丁度いいので参加します」

 

「皆が何を言っているのかよく分かんないけど、とりあえず若が悪いのは確かだわ」

 

「若様のする事に異論を挟もうとは思わないのですが、流石にこれは女としての矜持が傷ついています…」

 

「私も色々思い出したわ。前も助けられていたけど、その分やってくれたわねって思った事も何度あったか」

 

「その趣味、矯正してあげるわ…。あんたがそっちの方面に進むとか、頭痛くなってくる」

 

「悪い事言わないから、ここで報いを受けておきなさい。ここで無傷のままだと、後からもっと大きな報いが回ってくるわ」

 

「そういう趣味を否定はしませんが、当事者になると別の話極まりないです」

 

「ま、こんな僕でも、あんなのに比べられて下扱いされると、頭に来る程度には矜持があるみたいでね」

 

 

 俺を囲んで口々に、物騒な雰囲気で言葉を発する。

 シオ、千歳、桜花、那木、初穂、ホロウ、雪風、災禍、アサギ、きらら、明日奈、神夜、木綿季…包囲網はどんどん厚くなっていく。拳を握ったり、武器をとったりの違いはあるが、とりあえず言えるのはとにかく殺気立っている事。

 

 

 …体が動かん。そして逃げ場がない。 

 

 

 

 

 

 

すくいのてはないんですか

 

 

 

 

 …ないみたいですね。

 

 女性陣は個人的な感情で苛立っているのと、怪物相手に交合するモノノフの恥の変態を生かしておきたくないのと、女の敵を叩けそうだからとりあえず叩こうとしているの3種類。

 男性陣は、状況はよく分かってないようだが、ヤバイ雰囲気を察したのか距離を取って遠巻きに眺めている。危険な場所には近づかない。危険になったら走って逃げる。素晴らしい危険回避能力ですな。

 念仏唱えて笑ってる奴とか、女衒は地獄に落ちろとばかりに自分の武器を女性陣に貸そうとしている奴もいる。

 

 

 ………マジどうしよ。アラガミ化して耐えられるかな…。

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「

               

天誅!!!!!

                   

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 そして、気が付けば俺はどっかの河辺に流れ着いていた。

 いやーもう見事にボロボロだったわ…。

 

 何がどうなってそうなったのかは、俺もよく覚えてない。

 リンチは御免だとばかりに、動かない体に鞭打って必死に逃げたような気もするし、女の敵はタヒねとばかりに怒り狂う女衆に投げ捨てられたような気もする。誰かが俺を独占しようと掻っ攫った所に邪魔が入って乱闘、その余波で吹っ飛ばされたような気がしないでもない。

 まぁ、ボコられたのは間違いないよね。

 

 そもそもあの辺に川なんぞ無かったと思うんだが………うーん、どっかに移送して投げ捨てられたのか? しかし、あの権幕だとそんな悠長なことをしているとは思えんしなぁ。

 最初はデスワープしたのかと思ったんだけど、そういう訳でもなさそうだった。

 

 

 

 …まぁ、何にせよ、こうして生きている以上、死なないように動かなければならない………いや、正直言ってクサレイヅチ相手にあんな真似してしまった心の傷で、死んでしまいたい気分だったが…訳で。

 ただ、このまままっすぐうちの子達の元に戻るのも躊躇われた。

 とんでもねー場面を見せ付けてしまったバツの悪さもあるし、それをやっていた俺を見る目が……理解できない、恐ろしい怪物を見るような目が…。わけのわからんものを見る目を向けられるのは慣れてると思ってたんだが、身内から向けられるとまたダメージが違うなぁ…。今までも身内にもおかしなものを見る目で見られ続けていた? それは半ば意図してやってた事だから、また別の話。

 

 …何にせよ、目を覚ました河辺がどのあたりに位置するのかも分からず、とりあえずサバイバル生活していた訳よ。

 うちの子達にかけられていた暗示も、大分弱くなってきているからな。すぐに帰らなくても、揃って錯乱して全滅…なんて事にはならない筈だ。代わりに欲求不満になるかもしれないが、そこはタコ殴りにしてくれた意趣返しって事で。

 全く土地勘のない場所に来てしまったらしく、進めど進めど異様な地形ばかり。そのくせ瘴気が無いので異界ではない。

 人が暮らしている形跡さえろくに見当たらないと来た。

 

 

 …そうして、何ひとつ分からない土地で一からサバイバルを続け、今に至ると言う訳である。

 いやー、生活するのに苦労するレベルで秘境なのはまぁいいとして、少なく見積もって一か月以上彷徨い続けるハメになるとは思わなかった。

 

 マジで人が居ない。人が暮らしていた形跡がない。

 討鬼伝世界の殆どは異界に沈んでいるし、かつては残っていた建物や人の営みの後も、風化したり鬼に蹂躙されたりで無くなっているのはおかしくないんだが…ここまで何も無いとなぁ。

 

 加えて、生育している動植物が未知のものばかり。

 異界の産物と言ってしまえばそれまでだが、それにしては妙に生気が漲っているし、動物も……なんつーか、鬼特有の悪意を持ったデフォルメと言うか、生物としての形を歪めて尖らせたような雰囲気がない。何より、仕留めても瘴気となって消えていく事がない。…どっちかと言うと、単純に未知の生物に思えるくらいだ。

 

 なーんか……世界的なレベルで、とんでもない事起こってないか?

 

 

 

 

 

 …いや、まさかなぁ。クサレイヅチは犯……もとい叩き斬って、千歳達を解放し、俺の因縁にもケリはつけたけど、それだけだし。

 それで一体何が起こるって言うのかね。うん、俺の自意識過剰だね。

 

 つまらん事考えてないで、そろそろ本気でみんなの所に戻る事を考えよう。サバイバルは嫌いじゃないが、いい加減に落ち着いた状況で飯と風呂とセックスがしたい。

 ……いい加減、心の傷も癒えてきた…と思う。

 あと、俺が居ない隙を狙ってうちの子達に誰かがちょっかい出したら………キレそう。お構いなしであしらっただけでもキレそう。うちの子達に手ぇ出すな!

 

 

 …あー、でもウタカタに戻るとえらい事になりそうだよなー。

 具体的に大和のお頭の殺意が。俺もようやく記憶の整理がついてきたんだけど、その中では木綿ちゃんにまで手を出した事があったし。『木綿に手を出すな』はウタカタの里で公式に文書化されるくらいの掟なんだよな。

 それ以外にも、里を崩壊か、その一歩手前くらいにまで導いてしまった事も何度か…。ああ、思い返すと頭とか良心とかいろいろ痛い。

 

 

 

 

 

 その辺は帰ってから考えよう。とにもかくにも、現在地と地形を確認し、どっちに向かうか決めなければならない。

 地形が無茶苦茶すぎて、河辺水辺を辿るって手段も使えないのが痛い。

 こうなるともう、とにかくどっか高いところか…。今まで彷徨ってきた道の中で、幾つかあったな。ちょっと道を戻ってみますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて考えて、歩き続ける事数日。

 

 

 

 彼女達は唐突に現れた。

 

 

 

「やっと見つけたわ。この私から逃げようだなんて、相変わらず度胸だけはあるわね」

 

「教官先生! お久しぶり…久しぶり? なんだかよく分かりませんけど、無事でよかったです」

 

「ようやく追いつきましたね。まったく、あまり心配をかけないでください」

 

「確保対象を確認。護衛に移行します」

 

 

 お約束の4人パーティで、俺を見るなりいきなり襲い掛かって…いや敵意を持ってじゃないんだけど、とにかく抱き着きにと言うか、逃げられないように確保しようと組み付いてきた。

 俺としては、驚きと混乱で逃げるどころじゃなかったけども。

 

 

 ナターシャ。

 カノン。

 紅月。

 2B。

 

 

 ……え、ナニコレ? なんでこの4人が一緒にいるの?

 紅月まではギリギリ理解できるけど、他の3人はマジで何でここにいるの? 居られるの?

 

 ここ、討鬼伝世界だよね?

 ナターシャはMH世界のレジェンドラスタ、カノンは…まぁ、何だ、最後のループ…何故かGE2の時期から始まったループでは開拓民扱いされて会う時間も無かったっけ。

 紅月は俺とアレコレしていたループの記憶が戻って、捕まえに来たのか殴りに来たのかはともかくとして追いかけてきたと分かるけど……2Bに至っちゃマジで分からん。MH世界で見た、現実と微妙にクロスする夢で暫く一緒に過ごしたが、彼女の元の世界の立ち位置だってろくに分からない。

 

 

 

 混乱している間に、素早く簀巻きにされてしまった。

 

 

 

 

 

 誰が俺を運ぶかで一悶着あったものの、咄嗟の時でも手が塞がらない(重力制御で武器を振るうからね)2Bに担ぎ上げられて運ばれている。

 無表情を装っているが、すっごい嬉しそうなのが見え見えだ。随分と感情豊かになったものよ…。いつぞやの夢でも、最後の方は大体こんな感じだった気がするが。

 

 

 んで、結局どういう事なん?

 

 

 

「教官先生、ひょっとしたらと思ってましたけど……世間がどうなっているのか、全く知らないんですか?

 

 

 この一か月ほど、だーれも居ない天外魔境を一人でフラフラ歩き回ってたんでなぁ。

 真面目な話、ここが何処で、どういう経緯でここに居るのかもわからんのだ。最近はともかく、最初の頃は人と接する気になれずに、人が居ない方へ方へと進んでたし。

 

 

「道理で見つからない筈よ…。2B達の猟団の、かんしえーせー? が無ければ発見にどれだけかかった事か…」

 

 

 かんしえーせー…監視衛星!?

 いやいやいや、何でそんなものあんの!? そりゃ確かに、2Bから聞いた話なら、彼女の世界になら残ってるかもしれんけど!

 

 

「では、その辺りは私から。…ふふ、那木さんが居たら嬉々として説明しそうですね」

 

 

 ああうん、その辺は長くなるから辞めてくれると嬉しい。

 

 

「………索敵を続行中…」

 

 

 …なんか褒めるというか労ってほしそうな気配が。

 うん、2B、運んでくれて嬉しいよ。自由にしてくれたらもっと嬉しいけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 俺の運び方はともかくとして、紅月から聞いた話は衝撃的だった。この一か月の散策でおかしいおかしいとは思っていたが…まさかマジでそんな事になっているとは。

 一言で言えば、世界の合併?

 

 分かっているだけでも、MH世界、GE世界、討鬼伝世界の3つの世界が交じり合っているのだ。

 地形は地図を一から作り直さなければならない程にぐっちゃぐっちゃに変化しており、ちょっと探しただけでも聞いた事もないような国や土地、動植物があちこちに転がっているとか。夜空を見上げれば自重しろと言いたくなる数の星が瞬き(少なくともその一つは2B達の拠点である)、海を見れば渦巻竜巻シャークネード津波のオンパレード、大地を見渡せば見知らぬ土地、見知らぬ人々、見知らぬ生物に見知らぬ怪生物ときた。

 今まで俺が彷徨っていたのもその一部で、まだ全く人の手が入っていない秘境と考えられているそうだ。

 

 いや本当にどうしてそうなった。

 クサレイヅチを潰した事が原因か? しかし奴は確かに危険な鬼で因縁の相手ではあったが、そんな世界融合なんて自称を引き起こす切っ掛けになるとは思えんのだがなぁ…。

 

 

 

 で、どうなってるって?

 

 

 

「人と人の関係で言えば……今のところという前提がありますが、正直言って平和ですね。見知らぬ隣人が突如出現した時には相当に混乱しましたが、今では小康状態に落ち着いています。マホロバの里に至っては、以前より平穏なくらいですね。外様の方々の住居問題なども、一段落つきましたし」

 

 

 ええ…嘘だろぉ?

 切っ掛けは分からんが、世界が急激に変わったって事だろう? しかもそこには見知らぬ人が沢山居る。生活様式も文化も…まぁ、共通点はあるが、文字からして違う世界だぞ。

 そんなのがいきなり出現したら、すわ侵略者かと早合点して武器を持ってつっかかるのが人間って生き物だ。

 

 

「あんたの意見も尖り過ぎな気もするけど……今回に限っては、タイミングが良かった以上に、他2つの世界が限界まで追い詰められていたってのもあるでしょうね。人間が滅びる寸前まで追い詰められて、物資も殆ど無くなった世界よ。そこに豊富な自然がある世界が突然現れた。ここで国が『奪い取る』とか『高値で売りつける』とか考える前に、友好的な関係を結べたのは大きかったわ」

 

 

 …GE世界と討鬼伝世界を、MH世界の物資で援助してるって事か!

 成程、そりゃあ大人しくもなるわ。個人間での小競り合いはともかく、戦争なんざ絶対に仕掛けられんだろ。どう考えたって物量が違う。

 世界が入り混じってるみたいだから、その辺から物資を取り放題…なんて考えもあるかもしれんが、3つの世界の素材はとにかくそれぞれ癖が強いからな。物資があっても、使用の為のノウハウが無きゃ意味がない。

 

 

「同じ荒神細胞からしか攻撃を通せない荒神、生物とは思えない程に強力な生命力を宿すもんすたぁ、そして霊力を用いた攻撃でなければ効果が薄く、再生してしまう鬼…。それぞれの世界に居た外敵の対処法が必要でしたし、それらを融通し合う必要があったのも重要です。まぁ、国よりも先に、現場のモノノフ・ごっどいーたー・はんたーの皆さんが真っ先に意気投合したようですが」

 

「えらい人同志の話し合いが、早めにできたって聞いてます。…嘘か本当か、その中で教官先生のお話が凄く重要だったとも」

 

「普通なら嘘って思うんだけど、最優先捜索対象として指定された上に、私違まで派遣されたんだもの。あながち間違いって訳でもなさそうなのよね…。首脳会談でも話が分かるトップが全陣営揃い踏みしていたって話だし、正直言って何者かの意図を通り越して胡散臭ささえ感じるわ」

 

 

 うーん…よくもまぁ、そんな都合のいい話になったもんだなぁ…。俺の捜索に関してはともかくとして。

 とにかく、今は3世界+αがごちゃ混ぜになって、それでも平和と。

 

 

「アラガミと鬼とモンスターとよく分からないのの相手でてんやわんやだけどね」

 

 

 この辺には、よく分からないのしか居ないっぽいね。

 

 ところで…最初に聞いておくべきだったんだけど、みんなって記憶はどれくらいあんの? 揃って俺の事は思い出してるみたいだったけど、そもそも…なんつーか、いつの時期の皆なのか…。

 それに、うちの子達……っと、この言い方だとMH世界の猟団とか、GE世界のアイドルやGKNGとかも含まれそうだな…。ウタカタの里に居る筈の子達はどうなってる?

 

 

「繰り返しの記憶がどれくらいあるかは人それぞれね。基本的に、世界融合が起こった日に思い出しているようよ。私なら…そうね、あなたに分かりやすく言えば、あなたがまだ訓練所の訓練を受け始めた頃、かしら」

 

「私は、開拓地でアラガミと戦ってた頃です。調べてみたんですが、教官先生は月に行ってしまったみたいでしたね。それ以外の記憶もあるので混同しやすいですけど」

 

「黄昏月の肆拾漆日目でしたね。2Bさんは?」

 

「…記憶の欠損は認められていません。ですが、以前に訪れた世界を基準とするなら、ナターシャさんのいう日付になるかと」

 

 

 ふむふむ、MH世界は毎回のループ開始時、GE世界は月から変えてって来た日…つまり前回ループの始まりか。

 討鬼伝世界は、クサレイヅチを仕留めた世界戦の日付が続いていると。

 と言う事は、うちの子達もちゃんと封印から解放された状態でいる訳だな。

 

 

「ええ。…あなたを袋叩きにしたと言う事で、色々な所から厳しい視線を向けられましたが、事情を知ると『自業自得』となりましたよ」

 

 

 …あの、紅月さん、笑顔が怖いのですが。

 

 

「自業自得よ。こっちに来る前に会ってきたんだけど、パピとか凄い顔してたもの。またお母さんって呼んでくれたけど、母から奪う事も辞さない、覚悟を決めた女の顔だったわ…」

 

 

 お゛お゛う゛…。

 と、ところで結局、俺はどうしてここに居るんだろうね? そして、そんな状況でよく見つけられたな。

 

 

「露骨に話題を逸らすあたり、都合の悪い事から逃げようとする癖は変わってないんですね、教官先生。そういう所もステキですけど」

 

 

 …カノンって、こんなダメンズスキーだったっけ…? いや確かに修羅場になるかと思ったら欲望一直線に3Pに突入してくれたりと、割とアレなところもあったけど。

 

 

「私達も、らぶらびっつ隊からの伝聞でしか知りませんが…一通り貴方をしばき倒した後、突如地震が起こったそうです。マホロバの里でも…いえ、全国各地、それこそカノンさんやナターシャさんが居た場所でも大きな地震が起こったとか。今にして思えば、あれは世界融合による衝撃だったのでしょうね。凄まじい揺れだった割には、何故か被害は殆ど無かったようですが…」

 

「その揺れの中で、突如開いた空間の孔に吸い込まれてしまったそうよ。空間がどうの、世界がどうのはよく分からないけど、随分と狙いすましたような話だこと。なんと言ったかしら、イヅチ・高菜?が作る空間によく似ていたそうだから、まだ生きていて反撃しようとしたんじゃないかって騒ぎになったそうよ。特に千歳が」

 

 

 ああ、千歳ってクサレイヅチの孔に呑み込まれて時代を超えた挙句、体が鬼になったんだもんな。そりゃ慌てもするわ。

 で、当の俺は意識のないままその穴に呑み込まれて?

 

 

「単純に考えれば、この辺りのどこかに放り出されたのでしょう。そして目を覚ましたあなたは状況がどうなっているのかも把握できずに放浪、私達はあなたが呑み込まれた穴の解析を行って、どうにか当たりを付けて探しに来たのです」

 

 

 …空間の解析…って、どうやって? どの世界にも、そんな真似ができそうな技術は無かったと思うんだが。

 MH世界は時々謎の技術力を持っているが、基本的には原始的と言っていい。

 GE世界はアラガミ出現前には結構な化学文明を持っていたが、いわゆる現代社会的な範疇でしかなく、空間云々は机上の空論。

 討鬼伝世界は、オカルト技術とも言える技術が育っているが、解析云々は苦手で、個人の力に頼るところが多い。

 

 

「ええ、私達には出来ませんでした。強いて言うなら神垣の巫女の千里眼の術ですが、それを試す前に2Bさん達の組織が接触して来たんです。ね?」

 

「…はい。空間転移や、時空の歪みの解析は最近になって研究が始まりました。それを用いて、どのあたりに空間が繋がったのかを調べ、監視衛星により居場所を突き留めました。地形の問題で見失う事も何度もありましたが、今も監視は続いている筈です」

 

 

 都合のいい話もあったもんだなぁ…。というか今も見られてるのか。流石に衛星かの視線は分からんな…。

 ちなみに、何でそんな研究が始まった訳で?

 

 

「……猟団長の世界に移動する方法を探そうと、全部隊の希望で最優先事項として…」

 

 

 ほほう、つまり俺に会いたかったと。

 俺に限らず人間にも、かな…。あーもう、可愛いなぁこの子達は!

 

 

「2Bを可愛がるのは後にしてあげなさい。感情を持つ事は禁止されている、なんて言いながら内心では嬉しくて荒れ狂ってるんだから。この子、最初に私達レジェンドラスタに接触してきたのよね。空からいきなり妙な塊が落ちてきて、そこから出てくるものだから、最初は新手のモンスターかと思ったわ」

 

 

 うーん、この一か月くらいの間で随分な情勢の変化というか世界の改変があったんだな…。

 そんな中で、よく俺を探しに来れたもんだ。世界情勢は大混乱の真っただ中だろうに。

 

 

「あなたの事を覚えている人は、あなたが思っているよりずっと多かったと言う事ですよ。放置しておくと何をしでかすか分からない、どこか他の組織に確保される可能性がある、戦力として考えたら使わない手はない…。色々理由はありますが、各世界の重要人物と言える方々の中に、あなたと接点があった方が多く居て、口を揃えてあなたの重要性を訴えたのです。…その理由が、個人的な理由なのか、情勢的な理由なのかは微妙なところですが」

 

 

 心当たりが多すぎるのぅ、やらかした事も功績も含めて。

 ちなみに、人選の根拠は? 不満がある訳じゃないんだが、ハンター、ゴッドイーター、モノノフ、アンドロイドとご丁寧にバラけさせて…。

 戦い方も文化も考え方も何もかも違うんだから、下手に一緒に行動すると軋轢になったりしない?

 

 

「そういうのも確かにあるけど、あなたを捕まえるのが最優先って事で手を組んだわ」

 

「それもありますが、必要に駆られてですよ。世界が変わって以来、未知の鬼、荒神、もんすたぁが続々と発見されています。いつどこでどれに出くわすか分からないのです」

 

「アラガミはゴッドイーターの攻撃以外は効果が薄いですし、モンスターはとにかく頑丈で力強いからハンター並みの火力を撃ち込まないと倒れない、鬼に至っては霊力を使って正しい対処をしなければ何度でも再生します。遭遇した敵にに有効ない対処法がないと、途端に不利になりますから…。今はそれぞれ1人ずつが班を組んで動くのが基本なんです。残り1人は、出てくると思われる敵に合わせて変えますね。今回は、監視衛星から映像を受け取れる2Bさんになりましたけど」

 

「後はまぁ、消去法? 捕まえに…もとい迎えに行きたいって人は、あっちこっちに居たんだけどね。まず未開の秘境に踏み込む訳だから、サバイバル能力と戦闘能力は必須。これだけで8割は足切りよ」

 

「らぶらびっつ隊の皆様は、世界融合直前に袋叩きにしたのだから今回は譲れ…じゃなくて、会ったらその場でまた実力行使に及びかねないとして除外されました」

 

「私は開拓地に居たんですけど、隠密戦闘が評価されて抜擢されました。勿論、教官先生に会いに行こうと立候補もしましたけどね」

 

「立場がある人だと、そうそう動けない事もあったようです。猟団ストライカーの方々とか、団員で連絡を取り合ってはいますが集合できていない状態ですし、ごっどいーたーの方々は復興に駆り出されててんやわんや…。私は時期里長として期待されてはいますが、今はまだ一般モノノフの立場でしたので動けましたが」

 

 

 ほうほう。…ちなみに、真っ先に立候補してきそうなフラウとかは…? まさか刃傷沙汰にはなってないよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

「妊婦を開拓地に送り出す訳にはいかないでしょ」

 

 

 

 

 

 

 

 ほへ?

 

 

「に・ん・ぷ。心当たりがないとは言わせない…と言うか、心当たりしかないわよね? …奪われていたのを、奪い返したんでしょ?」

 

 

 …そりゃそうだ! そっかー、フラウが妊娠してんのかぁ……。あ、と言う事はセラブレスも?

 やっべ、これは愛に…もとい会いに行かないと!どのツラ下げてって言われても行かないと!

 

 

「それでも自分が行くってゴネたんだけどね、あの子…。もう暴れる暴れる。あんたが霊力の扱い方まで教えたもんだから、レジェンドラスタの中でも短期戦なら頭一つ突き抜けちゃってねぇ。酒場が一つ潰れたわ。…2Bのところに比べれば、まだマシだってのがね」

 

「マシ…だったんでしょうか? 何やら装備品を持ち出して、A2さんを初めとした方々と壮絶な空中戦を繰り広げたそうですが」

 

「マホロバの里からでも見えましたねぇ、夜空の中で幾つもの箒星と閃光が閃くのが」

 

「…最重要護衛対象に対し、最も確実に護衛が出来る者を選定する為です。…それと先程の話ですが、アラガミに関しては、少し性質が変わってきているようです」

 

 

 うん? 2B、どういう事だそりゃ? (内心を見通してニヤニヤしている。)

 

 

「ゴッドイーターからの攻撃しか通じない、という部分です。アラガミは徐々に変質しています。有機物・無機物問わず捕食する雑食性と、驚異的な進化速度はそのままですが、外傷を与える事が容易となっています」

 

 

 ふーん、それもまた興味深い話だ。

 アラガミは元々、限界に近くなってしまった世界全てを喰い尽し、生命を再分配する終末捕食の末端、星の意思による存在だった。

 世界が統合され、充分な資源(不必要なくらいに充分すぎる!)を得て世界が延命された事で、その役割を失ったんだろうか。

 

 そう考えると、3つの世界の…2Bの世界も含めると4つ、或いはこれまで見てきた夢の世界の統合にも色々と意味があるように思えてくる。

 討鬼伝世界、GE世界、2B達の世界は共に滅亡寸前だった。だが、そこにMH世界という生命力が過剰なまでに満ち溢れまくった世界が融合したら…。

 

 

 

 …融合っつーか、受け入れの方が正しいかな?

 肝っ玉母ちゃんが、生活苦で立ち行かなくなった一家を2つ、「困った時はお互い様だよ!」とか言いながら家に住まわせているよーな。

 

 

 

 

 

 

「さて、立ち話も何ですし、この未開の地でいつまでも貴方を捕縛しておくのも、それはそれで危険です。いったん戻るとしましょう」

 

「そうね。このあと貴方をどう“ケジメ”するかは各々の裁量に任せる事になるけど、ここでやる案件じゃないでしょう。殴ったり撃ったり斬ったり訴えたりしたい子は、それこそ数える気にもならないくらいいるんだから」

 

 

 ……ちなみに、その色々したい方々の割合はどれくらいで…?

 

 

「2B? アンドロイドとやらは、こういう統計の話は得意なのよね?」

 

「…データベースによると」

 

 

・許しはするけど気が済むまで殴る…80.9%

 

・ここまで来ると怒りより称賛を感じる…62.%

 

・自分から土下座しにくるまで一切関わらない…59.0%

 

・一回会ってから考える…45.4%

 

・一滴も残らず搾り取って、心底後悔するまで許さない…30.1%

 

・もっと気持ちよくしてくれるなら許す…26.2%

 

・あきれ果てて色々どうでもよくなった…19.5%

 

・絶縁…2%

 

・どれにも該当しない感情がある……99.98%

 

 

「…統計を合計すると、300%を超えるのはどうして?」

 

「一人で複数回答も可能な為です。パーセンテージは、アンケートを受けた方々のうち、どれだけがこの意見に賛同したかの意味です」

 

 

 

 うーむ……なんだかなぁ。いや、やらかした事を考えれば温情極まりないって事は分かるんだが。

 何にせよ、一人一人会いに行かなきゃならん。改めて絶縁されたり、毒とか叩き付けられてもそれはそれで仕方ないってもんだ。

 それを言ったら、まずは目の前の4人に対して詫び自殺でもしなくちゃならんが…。

 

 

「やめさない。自殺されても一文の得にもならないわ」

 

「そうです。どうせ会いに行ったら行ったで、何を言われても同じ対応になるでしょう。体で説得しにかかるに決まっています」

 

 

 紅月、それはちょっとひどくない? 俺だって嫌がる相手を無理矢理するのは…………ご、合意の上での遊びの範疇ならともかく、基本しないよ?

 

 

「……見知った相手と体、どこをどう触れれば屈服するのか分かり切っている雌が目の前に居て、口では嫌だと言いながらも知ってしまった肉欲を持て余し、拒絶の中に少しだけ期待が混じる。言葉巧みに唆して拒否感を薄れさせ、夜這いをかけて最後の抵抗を突き崩して、一晩かけて都合のいい女に染め上げる…」

 

 

 あっあっあっあっあっ、欲望が煩悩がリビドーが征服欲が! ナターシャちょっと止めてマジ止めて会いに行った相手が全部獲物にしか見えなくなっちゃう。

 

 

「教官先生、教官先生。そんな事より…まず私達に対してやらないといけない事があるでしょう? ひょっとして、気付いてません? 教官先生なら、見ただけで分かるって全員一致の見解だったんですけど。その為にもはやく拠点に戻りましょうよ」

 

 

 カ、カノン…教官先生ね、今ちょっと自分の中のオスとモラルが戦ってて色々とそれどころじゃなくて…。

 いや、話逸らした方が気が紛れるか。

 

 その、やるべき事って一体なんだ? 謝罪とか求婚とか、そっち系の話だろうか?

 

 

「まぁ、間違ってはいませんけど」

 

 

 

 俺の言葉を聞いた4人は顔を見合わせて、処置無しと言わんばかりのリアクション。

 感情を隠そうとしている2Bでさえ、あきれ果てたと言わんばかりに天を仰いでいる。

 

 なんだよぅ、自分だけが気付いてないとか、不安になってくるじゃないか。

 トドメ刺すならさっさと刺してくれよ…。そんな温情を請える立場かと言われるとそれまでだけど。

 

 

「仕方ないわね。これ以上ここでゴネられても面倒だし、さっさとヤる気出して拠点まで帰ってもらうとしましょ」

 

「そうですね。では、私達の体をよーく見てください」

 

「もう一つのヒントは、私達の記憶が戻ったのは何時なのか、ですよ」

 

「…私の体は義体ですが、改良も重ねてありますので…構造的には人と大きな違いはありません」

 

 

 か、体…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…私達全員、まだ処女よ」

 

「心はあなたに散々躾けられたままですけどね」

 

「教官先生を思い浮かべると、まだ男の人を知らない体なのに、子宮が疼いちゃうんです…」

 

「人間に…猟団長に奉仕する事が、我々アンドロイドの悦びです…」

 

 

 

 

 

 

   だから    

する事は、きまっているでしょう?

 

 

 

 

 速攻で彼女達の拠点に連れ帰ってもらって、遠慮なくビーストモードで大暴れしました。

 

 

 うん、これぞ狩りの醍醐味だね! 逃げる獲物、向かってくる獲物、まだ気付いてない獲物を知略と技の限りを尽くして屈服させる。時に力及ばず追い回され、喰らい尽される。その間を綱渡りするスリル、興奮、高揚感。

 相手が女だろうがモンスターだろうが何だろうが、やり方が違うだけでそれは全く同じだった。

 

 ああ、全く困ったものだ。

 関係者各位に土下座行脚を始めるつもりだったのが、狩り行脚にしかならなくなってしまったじゃないか。

 

 詫びに行くんじゃなくて、狩りに、犯りにいく。

 結局、ループを脱出しようが何しようが、俺はそういう生き物に成り果ててしまってるって事なんだな。

 

 

 

 

 

 

 

~数か月ほど経過~

 

 

 

 

 まぁ、そんな感じで人間社会(定義が若干怪しいが)に舞い戻った俺は、なんやかや色々あった後に、全国行脚の旅に出ている。

 目的は勿論、色んな人に土下座&詫び割腹…と見せかけた女漁り。反省? してたんだけど、この煩悩には逆らえなかったよ。

 

 勿論、目的は女だけじゃない。何だかんだ言っても元はハンター、ゴッドイーター、モノノフである事に変わりはないのだ。

 世界が融合した事で、自然界もてんやわんやの生存競争、適応進化の嵐が始まっている。人間だってその中に組み込まれているのは言うまでもない。

 新種のモンスターが出現したり、進化の方向間違えてんじゃねーかってアラガミが出てきたり、どっから湧いて出たんだと小一時間ほど問い詰めたくなる鬼が目撃されたり、モンスターでもアラガミでも鬼でもない正体不明の生物が跋扈していたり、見た事も聞いた事もない国が少し離れた地域に出現していたり…。

 そういった、従来の技術だけでは対応が難しい揉め事の解決役を担う事となった。

 

 最初はMH世界のハンター組織、GE世界のフェンリル、討鬼伝世界の霊山、ついでに各世界の政治の間で、俺の扱いをどうするか喧々囂々の話し合い(拳は最後の武器で、それまでに恩や餌や情報や金やらで殴り合ったようだ)が行われていたのだが、結局各世界のトップとその側近から、『どう拘束しようとしても絶対に思い通りに動かないから、もう都合のいいように使って後は好きにさせようぜ』という意見が出され、実際にそうなってしまった。

 今の俺は、逸れ者みたいなものだ。

 各組織からのバックアップを受けることが出来る代わりに、国からの支援や庇護は無い。法に守られることがない代わりに、法を守る必要も無い…犯罪を犯したら処罰はされるけど。

 まー要するに、「もう面倒見切れん、悪い事しなければ何処でナニやってても構わないが、何かやらかしたら手段を問わず処分する」とされてしまった訳だね。

 そんな立場だから、基本的には未開の地を探索する任を受ける事になる。誰も居ない所なら、問題も起こせないだろうって魂胆だ。未開の地と言っても、人の生息地域からそう離れた場所じゃないけどね。何せ世界各地の地図を一から作り直さなければいけない状況だし。割と距離的には近いから、色々思い出した人達に会いに行くのも、そう支障はない。

 

 特例措置もいいところだが…まぁ、やってきた事がやってきた事だしな…。

 そしてこれからも色々やるからな。

 

 

 …いや、別に早速処分されそうな事をやらかしていくんじゃないんだ。

 ただ、やらなきゃいけない事が山積みになっているってだけで。

 俺の子を孕んでいる女達に会いに行って、女漁りに、あんな事をやらせてくれやがった博士とホロウへのお仕置き(分からせ)に、やらかしてきた土下座行脚に、まだ封印されたままの滅鬼隊面々の解放に、フロンティアで結成していた猟団に所属していた奴らの様子を見に行って、必要かどうかは知らんがGKNGにも顔を出して、忘れていたループや夢で得た能力の検証もして、その上で各組織からの使い走りもやって……数え上げればキリがない。

 

 

 ああもう、体が幾つあっても足りやしない! そして下半身も乾く暇がない。

 もう何人か会ってきましたが、口では色々と言いつつそれはもう愉しませてくださいました。ちょっと殴られたけど。

 

 

 

 

 まぁ、なんだ、色々と環境は激変したが、因縁にもケリをつけ、慕ってくれる子も沢山いて、そこそこ程度に命の危機(人からもモンスターからも)もあり、順風満帆な人生を送っています。

 今まで何かとトンデモない事に巻き込まれ続け、クサレイヅチに食い物にされ続けてもきたけど、これなら収支は大幅に黒字だね。あくまで今のところは、だけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……でも、どうしても頭から離れない懸念が一つある。

 

 

 

 

 

 

 俺は本当に ル ー プ か ら 開 放 さ れ た ん だ ろ う か

 

 




展開が強引すぎると感じる方も多くいると思いますが、ご容赦くださいませ。
この終わり方は、大分前から決めていた事です。

融合後の世界での事や、登場人物達がどうなっているのかなど、説明しきれないことが山のようにありますが…例えば、虚海はイヅチカナタの呪いが解けて人間の体に戻っているとか、囚われていた千歳は色々な因果を取り込んで、主人公と同じハンター・ゴッドイーター・アラガミ・モノノフ・鬼の混合体状態になっているとか、そもそも千歳と虚海だけじゃなくシオが2人居る状態になってしまうとか、因果が戻ったタイミングの問題でフラウとセラブレスが処女懐胎した状態になっているとか…。

全て書いていたら、それこそまた半年くらい間が開いてしまいそうですので、断念させていただきました。


近日中に聞いてみたい事や疑問に思っている事のアンケートを、活動報告で行おうと思います。
それを盛り込んだ次話の裏話を投稿したら、狩りゲー世界転生輪は一区切りとさせていただきます。
これがまたかなり時間が空いてしまいそうですが、どうか気長にお待ちください。



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狩ゲー世界蛇足・或いはペイラー榊が語るそれからとこれまでとこれから

やべぇよやべぇよ…セール中だったから、ブラボと隻狼を同時購入しちゃったよ。
とりあえずブラボからやってます。隻狼やってからブラボだと、「ジャンプできない!」でストレスを感じそうなんで。
いつになったらクリアできるんだ…。
ようやくレベルアップできるようになったばかりです。



思い返せばこの4年間、実に様々な事がありました。
感想をいただいて励みにしたり、愚痴をこぼしてしまったり、転勤したり、緊急事態宣言が発令されたり、催眠音声や耳舐め音声に嵌ったり、18禁作品として運営さんから注意をいただいたり、事故ったり、対魔忍RPGXを始めたり、鬼滅が異様なくらいにヒートアップしたり、妹が結婚して子供まで生まれたり。
なんのかんのと乗り越えてこられたのは、偏にお付き合いくださいました皆様のおかげです。
本当にありがとうございました。

しかしそれはそれとして、思い返すと反省点も数多くあるSSでした。
誤字脱字に設定矛盾、行き当たりばったりで書いているから食い違う記述。
そもそも長くても中編で終わらせるつもりだったのが、4年も続いてしまった時点でお察しです。
特に討鬼伝編最終ループは反省しまくりです。
ハーレムは好きですが、人数出せばいいってもんじゃありませんね。

ですがおかげで、色々と学ぶことも出来ました。
プロットや初期設定の大切さ、書き分けできる人数制限の重要性、筆が乗っている時とそうでないときの格差。我流で文章を書いていると、どうしてもわかりづらくなる現実。
お付き合いしてくださる皆様のありがたさ。

これらを活かして、次の執筆を……と行きたいところなのですが。
次の作品の当てもなく、時間・ネタ・情熱共に確保できているとは言い辛い為、暫く筆を置かせていただきます。

かつて投稿した幻想砕きの剣、その始まりが…え゛、2005年…? エターになった作品も多いですが、思っていた以上に執筆歴が続いていたようです。
次に投稿できるのがいつになるかは分かりませんが、またいつかお会いできるのを楽しみにしております。






 

 

※この話の間、語っている人物の表情や口調は一切全く微塵たりとも変化していません。その辺を気を付けて想像してください。

 

 

 

 

----Side ペイラー・榊----

 

 

 

 やあ、久しぶり。元気そうだね。

 あんな剣幕の女性陣に追いかけ回されて、よく生きてたねぇ。これまで戦い続けてきた経験は伊達じゃないって所かな? 女性を怒らせるとアラガミよりも鬼よりもモンスターよりも怖いと言うのは、スターゲイザーの私でさえ逃げられない真理らしいね。

 

 …そうかい、まだ追いかけられてるのかい。ま、アリサ君が君を諦めるとは思えないしね、色々な意味で。

 私としては、見ている分には愉快だし、悪い事にもなってないから、好きなだけ仲良く追いかけっこしてくれたまえ。

 どうせ君の事だ、ただ追いかけ回され狩られるだけじゃないんだろう。…逆に孤立させてから狩っている(意味深)? そしてアリサ君もそれはそれで問題なしとしているが、追い詰めて殴るのは諦めてない…。 お盛んだね…いや詳しく聞きたくない。いくら私でも、生々しい他人のプレイの話なんか聞いても気分はよくないよ。

 

 

 

 

 ああ、私は窓の外の景色を見ていただけさ。本当に、様変わりしたものだ。

 以前は極東近辺こそ、GKNGの尽力で植生が復活していたが、今は外を眺めれば遠くの山さえ色とりどりの木々に覆われている。世界を超えて活動していた君でも、これが私達の世界にとってどれだけ衝撃的な事なのか、理解できるだろう?

 

 三つの世界が融合した事で、恩恵もあったが問題もあった。

 その最たるものが食料問題だね。我々の世界と…君が言う『討鬼伝』世界は、人の住める土地すらなくなり、徐々に飢えて死に向かう事が定められていた。終末捕食やオオマガトキとやらが起こらなくても、これを覆す方法は全く見つかっていなかった。

 だけど、『MH』世界とやらの食料と土地は、それらを全て補って余りある程だ。

 食料、資材、技術、文化、それぞれが交じり合い、新たな形を形成し、失われた形もある程度は取り戻せた。人間に限らず、3つの世界の生物が繁栄するには、十分な下地が整ったと言える。

 

 

 

 逆に、問題の最たる物は外敵だね。アラガミは、まだいい。未だ数を減らす傾向が全く見られないが、アラガミ細胞はその役割を終え、変わりつつある。行き詰った世界を全て食い尽し、リセットする為のアラガミは、生命力と可能性に満ちた世界に取り込まれた事により、自らの役割を終えようとしている。

 ……尤も、ただ消えるつもりはなく、モンスターのように普通の………私達から見ると『普通』とは言えない生態だが、普通の土着生物のようになろうとしているようだね。

 

 

 モンスターも、徐々に変わり始めているという話を聞いた。この世界の主と言えるのは、ゴッドイーターやモノノフが現れても、人間ではなくモンスターだと言っていい。

 強靭な肉体、生命力、火を噴き空を飛び……個体にもよるが、アラガミが赤子に思えてくるようなモンスターさえ居る。彼らは新たな外敵の出現に呼応するように、進化を始めている。

 それこそ、アラガミ細胞の進化能力を真似たかのように。

 

 

 鬼は相変わらずのようだ。尤も、私は鬼達についてそこまで詳しい訳ではないけども。だが、元は全く違った世界で生息していた一個の生態系、という話も納得できる。この世界にやってきても、彼らは自分達のテリトリー…異界を作り出し、そこで生息しようとしている。

 尤も、その程度ではモンスターやアラガミの侵入を阻止する事はできないようだけども。

 

 人類の戦力、生活力は倍になったが、外敵の力は3倍以上になったと思っていいだろう。

 

 

 

 

 

 知っているかね?

 世界が融合した後、多少の混乱はあったが、人には大きな被害が出ていない。見知らぬ隣人との諍いは、全くと言っていい程発生しなかったんだ。突然蘇った、覚えのない記憶に混乱したり、つっかかって行こうにも武器も道具も無く、誰もが動くに動けない状態で膠着状態に陥っている間に、各世界の穏健かつ理性的な指導者達が接触・協定を結んだ事により、見知らぬ隣人だった者達は、見知らぬが有用な隣人となり、人々の諍いは抑え込まれた。

 恐らくは、3つの世界の生物達にも、物理的な被害は出ていなかっただろう。点々と交じり合った世界だったが、例えば融合した時に建物同志がぶつかりあって破損したり、混乱が起きて人的被害が出た数は、0に等しい。

 

 

 まるで、誰かが長い時間をかけて、世界と言うパズルのピースを、ピタリと嵌るように加工したかの如く、ね。

 

 

 そう、世界規模で…単純計算して、星三つ分の規模で融合しながら、天変地異一つ起きていない。例えば海だ。三つの世界が融合した結果、潮流は複雑に絡み合い、突如として容量を増した海水、星の重力等。異変が起こる下地は幾らでもあった。しかし、海は相変わらず薙ぎ、時に荒れ狂うままだ。

 こんな事が起こる確率が、どれ程低いと思う? 天文学的、という表現でさえまだ足りない。

 誰か…『何か』が全てを計算して、摩擦さえ起らない完璧なスマートさで、意図して配置したとしか、思えないんだ。

 

 

 ここに関しては、ある程度説明はつくんだけどね。元々、君も『ひょっとしたら』と思っていたんだろう?

 君が飛び回っていた三つの世界……それらはかつて、一つの世界だった。これはほぼ間違いないだろう。大陸ではなく、文字通り世界によるパンゲアとは、随分スケールの大きな話だね。元々一つの物だったから、くっつけるのにそう無理はなかった……とは、少し暴論がすぎるかな。地形でさえ、100年も経てば様変わりする。それらをくっつけ合わせて全く被害が出ないのは、やはりおかしい。…となると、やはり何らかの見えざる手の介入を思い浮かべずにはいられないよ。

 だが、融合の方法はともかくとして、世界がかつて一つだったのは確かだ。各地から取り寄せられた資料がそれを証明している。

 

 MH世界の『塔』や、残された古代文明の痕跡。不自然なまでに断絶して欠損していたそれらが、世界融合の後には欠損が埋められている。…調べてみれば、各世界に謎の遺跡として残っていたそうじゃないか。我々の世界で分かりやすい例をあげれば、ナスカの地上絵だね。製法も役割も謎のままだったけど、世界融合の後には関連があると思われる別の遺跡が、すぐ近くに出現していた。…その関連性は、まだ調査できていないけども。

 

 

 もしかしたら、世界はこうやって存続してきたのかもしれないね。  

 自分だけが存在している状態では、いつか力尽きてしまう。そうなった時に、誰も助けてくれない。

 だから幾つかに自分を分けて、それぞれで生き延びようとする。もしも何れかの世界が力尽きそうになっ時には、無事な世界と融合する事で命を保つんだ。

 そう的外れな推測ではないと思うよ。どれ程のスパンで、分離・融合を繰り返してきたのかは想像もつかないし、ひょっとしたら時には人為的に分離・融合を行う事さえあったのかもしれないがね。。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはそれとして、君、最近どうやら悩んでいるようだね。……その内容を当ててみせようか?

 何、考えて推理する程の事でもないさ。

 

 

 

 

 「自分は本当に、繰り返しから解放されたのか?」

 

 

 

 そんな不安が、透けて見えるよ。

 こればかりは試せないからねぇ…。もしも本当に繰り返しから解放されていれば、試した次の瞬間には全てを失う事になる。君なら、案外幽霊になって存続できるんじゃないかとは思うけどね。

 

 

 

 

 …そうだね、確かに君はイヅチカナタ…という鬼を討った。その鬼を討った途端、君を含めた何人もの…君さえ覚えていなかった繰り返しの中で、君と粘膜的接触を一度でも持っていた相手の記憶が蘇った。

 同時に、イヅチカナタに喰われていたシオや千歳君も解放され、更には君が言う、三つ以上の世界が融合した。

 

 ハッピーエンドと言っていいだろう。君にとっては、今までの行為全てを清算しなければならない、どんなミッションよりも困難な修羅場の始まりだったようだがね。そこら辺はどうしようもなく、自業自得だと割り切り給え。……(女)狩りを楽しんでいるから困難ではあって辛くはない? あ、そう。

 

 

 

 

 

 だが、そのハッピーエンドの中に、君が繰り返しから脱したという証拠は、何一つ現れていない。

 イヅチカナタと君の因縁を聞いてはいるが、イヅチカナタが君を繰り返しに閉じ込めていたという証明は何一つされていない。

 ただ、その鬼は君が繰り返す直前に現れ、そして記憶を奪って消えて行った。その中で、君を過去に飛ばすような事をしたとは、誰も証言できてない。

 

 まぁ、全くの無関係ではないと思うけどね。世界全てが、君が死ぬ度に特定時点まで巻き戻されていた訳だけど、君と因縁があったイヅチカナタだけはその影響を受けていなかったんだから。

 その上、そのイヅチカナタを討伐したタイミングで世界融合だ。ただの偶然にしては、出来すぎている。

 

 

 …イヅチカナタの役割にも、疑問が多いしね。

 イヅチカナタは複数体居たそうだが、君と因縁のあったイヅチカナタは明らかに例外個体と言える。高い知能もそうだし、行動原理だってそうだ。

 君は、おかしいと思った事はないかい? どうして千歳君は、イヅチカナタに取り込まれていたのか。千歳君だけではない。シオもそうだ。…ああ、ややこしい言い方だったね。

 

 

 

 君を伴侶と見做している方のシオだよ。そう、ソーマと一緒に居るシオではない。君が討伐したムスヒホトキの中から現れて、君を袋叩きにしたシオだ。

 

 

 

 ややこしいねぇ、シオが二人いると言うのは。ふふ、特異点が二人か。そう考えると訳の分からない状況になっているものだ。まぁ一番訳の分からない存在は、今正に私の目の前にいるんだがね。

 ソーマも苦い顔をしていたよ。シオ同志は、あっさりと友と呼べる関係になっていたが……どうにも、複雑な思いも抱えているようだ。それでも、千歳君と虚海君の関係よりはシンプルだが。

 無理もないね。シオはあれで感受性豊かな子だ。突然、双子以上に似通った姉妹が現れて、それが自分とは別の相手を伴侶としている…。文字通りの姉妹なら当然の事だが、あのシオ達は同一人物に限りなく近い。

 君も、ソーマに張り倒されたんだろう? 繰り返しの中で、君がシオに『さっさとソーマを押し倒してしまえ』と嗾けたから、と言っていたが…それ以外の感情も絶対にあるね。

 

 

 

 話が逸れたけど、君が死んだら…いう所の、『デスワープ』ってやつだね…全てが特定の時点にまで引き戻された。この辺の原理については見当もつかないけど、イヅチカナタが『因果』を奪って行ったのは間違いないだろうね。そう、因果だ。間違っても、物質を奪っていくのではなかった。

 にも関わらず、どうしてシオと千歳君はその体ごと取り込まれていたのだと思う? 繰り返しの中では、虚海君もイヅチカナタに何度も遭遇していただろうに、彼女は因果を奪われるのみで、体は囚われにはならなかった。

 

 

 …私は、こう考えているんだ。君にとってイヅチカナタは、憎んでも憎み足りない怨敵だったかもしれない。

 だけど、その実態は君の為の存在だったんじゃないか、ってね。

 そんな顔をしないでくれたまえ。根拠のない話じゃないんだからさ。

 

 私の考えは…科学者としては運命論、或いは『神』…高位次元の第三者が前提の考えになるから、噴飯物もいいところだが…。この世界融合を目論んだ者がいるとすれば、それにとって君は『道具』になるだろう。

 そうだね、一つ一つの世界を彫刻に例えよう。元は同じ木や石から削り出された、全く違った形に掘られた彫像だ。

 勿論、これらを一つの彫刻に合体させる事なんか、そのままでは出来ない。雰囲気もコンセプトも違うし、調和が取れない。それ以上に、互いの装飾が邪魔になって、並んで立てる事さえできはしない。

 この彫刻を一纏めの作品にしてしまうには、どうすればいいか? 簡単な事さ。邪魔になっている部分を切り落としていけばいい。そうすれば、並べて一つの作品に出来る。やり方によっては、部位を絡ませて合一させる事さえ出来るだろう。

 

 …その、無駄な部分を切り落とす為の彫刻刀が…君だ。君は繰り返しの中で、世界が互いを受け入れるのに邪魔になる部分を排除させられていたのさ。その邪魔になる部分が、どういう理由でどんな風に邪魔になっていたのかまでは、類推する事しかできないが…。

 そして、どんな切れ味の鋭い彫刻刀も、使い続ければ木屑だらけになっては鈍る。その木屑を取り除くのが、イヅチカナタの役割だ。

 君も自覚はあるんだろう? イヅチカナタによって因果、記憶を簒奪されていなければ、数えるのも億劫な程に繰り返されたループを乗り切る事はできなかった。肉体は復元されても、精神が確実に壊れていただろう。

 

 さて、そう考えると、イヅチカナタの行動にも別の意味が見えてくる。

 もしも本当にイヅチカナタが君の為の存在ならば……取り込んだシオや千歳君、そしてもうすぐ産まれそうになっている君の赤子達は、どうして消化されていなかったんだろうね。

  

 イヅチカナタは、因果を食料、ないし燃料として奪っていく。因果と言えども消耗品である事には違いないだろう。…千歳君が取り込まれてからも、何度も何度も繰り返しは続いた筈だ。それこそ、女遊びにかまけなければ、君であろうとも壊れてしまう…と、イヅチカナタの中で見ていた千歳君が悟るくらいには。それ程に長い間、どうして彼女達は『消化』されずに残っていたのか。

 まして、イヅチカナタの最後はムスヒホトキと化して、因果を燃やして力を得ていたんだよね? ますます無事である理由が分からない。

 君を相手にする為の人質としてとっておいた…という考えもできなくはないが、私の考えは逆だ。

 

 

 イヅチカナタは、君にとって重要な物をとっておく為の、保管庫だったのさ。基準については……こう言ってはなんだが、希少度ではないかな。

 

 

 言っている意味が分からない? 文字通りさ。

 どれだけの回数を繰り返したのだとしても、滅多に起こらない事と言うのはあるものだ。

 

 例えば、時代を超えて流された直後の千歳君が、君の前に現れる事。

 例えば、君が言う『ゲームシナリオ』を無視して、シオを君が掻っ攫う事。

 例えば、避妊を行わずに交わって、子を成す事。

 

 どれも、確率的に考えれば非常に低く、そして君にとっては手放しづらい事だろう?

 千歳君の例に関しては、時空流離にあって君の目の前に現れる可能性は、ほぼ0に近い。

 シオに関しては、君の意識次第だろうが…ソーマとシオのカップリング、という固定観念が根付いているだろう。君、いわゆる『寝取り』の趣味はないだろ?

 子を成す事に関しては言わずもがな。君はどれだけ女性を虜にしようと、避妊だけは続けてきた。遠からず死んで、無かった事にされてしまう…とずっと忌避してきたんだろう。充分な力を付けたと確信した、ただ一度のループを除いて。

 

 

 それらがイヅチカナタに奪い取られれば…成程、君が激怒するのも当然の事だ。

 しかし、逆に考えてみよう。イヅチカナタが、それらを奪い取らなければ、一体どうなっていたのか。

 

 君が死ねば、全ては巻き戻されてなかった事にされる。意志や思い出を継ぐ者も無く、父無し子という形でさえ残らない。何もかもが、文字通り『何も無かった』となる。

 最初は、覚悟していたんだろう? どこかの世界でイヅチカナタを討伐し、因果を解放したら…他の世界の人達とは、もう会えなくなるだろう、と。『デスワープ』が出来なくなるなら、それこそ永遠の別れとなっただろうね。

 

 でも、結果的にはどうだい? イヅチカナタがそれらを『保管』していたおかげで、討伐したら全てが帰って来た。三つの世界の融合というおまけ付きでね。

 

 

 …そんな状況に追い込んだのがイヅチカナタなのだから、感謝する理由はない? 辻褄が合わない?

 

 

 おいおい、忘れたのかい?

 イヅチカナタが本当にデスワープ、繰り返しの原因だったのか…と疑っているのは、君自身だよ?

 

 

 感謝云々に関しては、まぁ、そうかもね。イヅチカナタにそんな意識があったのかと言われれば、まず間違いなく否だろう。君が意図せずして、世界融合に邪魔な要素を排除していたように。

 ま、この推測が的を得ているとしたら、これらの流れを意図したのは世界融合を目論んだ高位存在だろうね。単に珍しいから残したのか、利用した君に対する褒章や贖罪なのか、もっと別の動機…例えば、今後必要になってくるから…なのかは分からないが。

 

 

 …今後? …うん、そうだね。まだ何かあると思っているよ。世界融合のような大きな出来事かは分からないけども。

 さっき、世界を彫刻に例えただろう。その例でいくと、最後の調整が残ってるんじゃないかな。作品と作品をくっつける事は、確かに出来た。ではそれで終わりかと言うと、そんな筈はない。全体のバランスを見ながら、不要な部分を削ったり、付け足したりして形を整えていくだろう。

 そして、その道具に使われるのは、恐らく君という彫刻刀だ。…君が適さない作業、という可能性もあるが。

 

 

 

 …うん? 自分でどれくらい、その仮説を信じているかって?

 そうだね、精々1割ってところかな。だって、この説は見えない誰かさんが、君やイヅチカナタを完璧に操っていないと成立しないんだよ。しかも全く気付かせずに。

 …それでも、どうにもこの仮説が頭から離れなくてね。丁度いいから、君にちょっと語ってみただけさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 話は変わるけど、君、今まで世話になった人達に会いに行っているんだよね。

 ラケル君はもう尋ねたのかい? …まだ会っていない。君にしては迂闊だね。君にとって、ラケル君は最高級の警戒対象だったろうに。

 

 …ふぅん、確かにレア博士にとっては複雑だろうね。私も、まさか彼女があんな風になるとは思ってもみなかった。

 うん? それも知らされてないのかい。これは余計な事を言ったかな。

 調べればわかる事だし、もう素直に告げてしまうが……あの世界融合の日の事だ。彼女は突然、意識を失って倒れたのさ。そして翌日に目を覚ますと同時に、悲鳴を挙げて閉じこもった。

 

 …ああ、間違いないよ。介護したジュリウス君もそう証言したし、監視カメラや、倒れた彼女のメディカルチェックを行っていた機材にも記録が残っている。彼女お得意の隠蔽や捏造ではない。

 今もなお、彼女は自室に閉じこもり、職務の一切も、ジュリウス君からの接触すら拒んでいる。人が変わった、としか言いようがない。

 このため、フライアの運用は一時凍結、ブラッド隊も一時的に別のチームに組み込まれている。

 まぁ、これまでの世界の地形と様変わりしたから、フライアはどちらにせよ運用が難しくなっているがね。あんな巨体で今の世界を進んでいては、環境破壊問題待ったなしだ。そこから誘発される、アラガミやモンスター、鬼達のスタンピードもね。

 

 

 レア君が君に知らせなかったのは、君がラケル君を一切信じていないからだろう。それだけ虚偽と策謀に塗れた人間…うん、人間だ。……いやいや、私は陰謀も策謀も使わないよ。ただ、ちょっと先の事を見越しているだけさ。

 まぁ、何にせよ、ラケル君が突然そんな様になったと言われても、君なら『絶対に何か企んでいるだけ』と一蹴するだろう。実のところ、私も最初はそう思っていた。

 

 今は違うのかって? うん、ひょっとしたら…と言うより、思い当たる節はあるんだよね。

 彼女は以前の世界では、彼女はアラガミの意思…それが的確な表現なのかはともかくとして…に取り憑かれて策謀を張り巡らせていたんだよね。何処に居てもアラガミの意思に囁かれ、何をすればいいのか指示されていたんだ。終末捕食を起こす為に。

 でも、今の世界ではどうだい? 終末捕食は、行き詰った生命を全て取り込み、再分配する為のシステムだが……この世界に、そんなものは必要かな?

 現に、アラガミ達は徐々にその生態や役割を変えて行っている。まるで、現地の生物……この場合は主にモンスターを指す……に溶け込もうとしているかのように。まぁ、あの進化速度をそのままに、モンスター達のような強大な生命力を得たらと思うと、とてつもない怖気が走るが…それは置いておこう。

 

 ともかく、私はこう考えている。

 ラケル博士は、自分を導いていた保護者、導き手から放り出されたのではないか…と。

 アラガミの意思が消失したのか、世界が変わったから終末捕食計画は不要と放り出されたのか、ラケル博士の脳内チャンネル的な何かが変わって受信できなくなったのか…そこら辺は不明だが、とにかく彼女を常に肯定し、ただ一つの目的だけを示し続けてきた導が突然無くなった。

 そうなると、残ったのは何か? 支えを失い、人を同族として見る事が出来ず、何を肯定していいのか分からない子供が一人だけだ。

 

 絶対としていた支配者が突然消えたらどうなるか、という例だね。

 とは言え、あくまでこれは仮説にすぎない。レア君も一度だけ会いに行ったそうだが、だんまりを決め込んでいたようだよ。それも含めて演技と言われればそれまでだが……一度、確かめてみた方がいいのではないかね?

 なんなら、君がアラガミの意思の代わりに収まる事だって出来るだろうさ。うん、いつもの手段でね。

 

 …と言うより、君は繰り返しの中でラケル君には何もしてなかったのかい? 厄介な相手だからこそ、最も信頼を置ける手段で無力化しようとしても不思議はないんだが。

 ………ほう、異種であっても相手の外見が女の子っぽければいけるが、中身が完全に人形にしか見えなかったから、そういう対象と思えなかったと。…ちなみにその異種というのは、例えば最近接触があった『もん娘』と言う奴かね? …いや、私は別に興味はないんだがね、種族的な好奇心があるだけでね。

 

 ふむ……予測はしていたが、やはり……うん?

 ああ、いや、以前から一つ疑問に思っていたんだが、ループの記憶を持っている人と持ってない人の違いは何なのか…不思議に思っていたものでね。

 世界が融合してから、繰り返しの記憶を持つ人はあちこちに現れた。それが真実なのか捏造された記憶なのかは不明だし、その内容も千差万別。ただ、9割以上が女性だね。

 

 ちなみに、私も少しはあるよ。君とヨハンの3人で、血の力や霊力に関する実験を行っていたね。…覚えてるかな?

 

 この記憶に気付くまでは、君と肉体関係を持った女性のみが記憶を宿していて、ごく一部の男性は虚偽情報か妄想の類かと考えていた。

 が、当然ながら私は男性で、君は死んでも同性には手を出さないだろう。性転換したら別かもしれないが、そんな記憶も技術も残ってない。

 

 

 となると…次点で浮かび上がってくるのが、君と別の接点があるのではないか、と言う事だ。

 おかしな話ではないだろう? 繰り返しの中、イヅチカナタは君と、君の周囲の因果を延々と貯め込んでいた。それを解放して、その因果が元に戻れば…それらをループの記憶として取り戻す。

 自然と、君と接点のあった者だけが、その頃の記憶だけを宿す事になる。

 

 君と強い結びつきを持つ者程、その記憶が多くなる訳だ。

 とは言え、肉体関係を持つ…というのは、条件としてはそう的外れではないと思うよ。君が行う性交渉は、相手の中に君の霊力を強く送り込む事になるのだろう。それを目印として、イヅチカナタは因果を奪っていたんじゃないかな。

 事実、男性であっても記憶を宿している者は、多少なりとも君に霊力の訓練を受けたと証言しているようだ。君がフロンティアで率いていた猟団や、直接鍛えたロミオ君のように。

 

 私自身も、訓練ではないが調査の一環として君の霊力を受けた事はあるしね。

 以前のラケル君なら、調査と称して君の力を取り込んだりしていてもおかしくないが……もしそれをやったら、『手駒』を懐柔されてしまうと考えたのかもしれないね、彼女の背後で囁いていたアラガミの意思が。

 或いは、どの繰り返しでも、徹底して君が忌避してきたのかな? 一言で言えば…食指が動かなかった、と言う事なのかね。

 

 

 何にせよ、一度は会いに行くべきだと思うよ。レア君と一緒に。

 彼女が行ってきた行為は裁かれてしかるべきものだが、同時に証拠隠滅はほぼ完璧であり、証言者となり得るのは彼女の行為を把握していたレア君以外には居ない。

 逆にこれから行う事…終末捕食を起こす為の本格的な策謀は、世界が変わってしまった故に全く実行してない有様だ。

 極端な話でも何でもなく、君達の行動一つで、彼女の行く先は決まるのさ。

 

 

 …目の前で銃殺刑にされても安心できない? 今までの事を考えると、死んだ後も幽霊とか遅延プログラムとかで何か仕掛けてきそう?

 そう思うなら、猶更確かめる事だね。彼女の本質が全く変わっていないのか、それとも本当に親を亡くした幼子に成り果てたのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 …うん? お土産?

 ああ、これはありがとう。見慣れない植物だね。確かに、一見して竹のように見えるが…ふぅむ、かつて我々の世界に育っていた植物とも、異界の中で育つ植物かどうかも怪しい植生とも、巨大生物が闊歩する大地に生い茂っている珍妙な動植物とも違う。

 収斂進化の形跡はあるけど、これは私達が全く知らない、未知の物だと言っていい。

 

 また知らない土地を発見したようだね。

 まったく、この世界は一体どこまで広くなったのやら…。軌道衛星から見ても正確な数値が測定できないんだから、異界のように、どこかしら物理法則が狂っている場所があるのは確かだろう。

 

 

 そもそも君の島からして、明かに真っ当な島じゃないからね。

 なんだい、何処にあるのかもわからないのに、君と契約したらどこからでも歩いて入れる島って。ああうん、君もいつの間にか使えるようになってた能力で、理屈なんて知らないって言われるのは分かってたよ。理屈を述べられても、科学的な物じゃないのも。

 

 その島があるからこそ、君は未開の地にも大した備蓄も無く踏み込んで行けるのだし、島を経由して遠方に物資やら何やらを届ける事もできるから、世界的に見ても物凄く助かっているんだけどね。

 運送業界が大変な事になるかとも思ったけど、そこも狙ったように影響がない状況に落とし込まれていたし。

 

 元々は、艦娘の皆が暮らす為に開拓した島だったけど、世界融合の際に規模が大きくなり、更には『アーティファクト』と化して、君が認めた相手ならどこからでも出入りできるようになった…か。

 どーも君は、その島をお手付きにした子達を囲うマンションか、家賃や土地代の要らない自宅くらいにしか思ってないようだけど、どう考えても大事なんだよなぁ…。つつくとトンデモない事になるのが目に見えてるから、有力者は全員見て見ぬふりをしているだけで。

 

 

 藪をつつくのは辞めておいて、今度の土地はどんなところだい?

 ……へぇ、大きな壁の中に閉じこもっている人達が居て、その壁の周りには頭の悪そうな巨人が沢山居た? そしてそこにイビルジョーが入り込んでいて大惨事…。

 違う? 巨人の相手が面倒くさくなったんで、捕獲したイビルジョーを連れてきて放牧した? …君、ハンターだろ? 自分から積極的に生態系を崩してるじゃないか…。

 

 それ以外にも、伝え聞いた話だけでも中々に救いの無い場所だったようだね。

 国交と言うには遠すぎ、現在では行き来できるのは君とその一派くらいだけど、この世界に組み込まれたと言う事は、何かしら救いがあるのかもしれないが……そこはこれから次第か。

 少なくとも、食料関係は改善されるだろう。

 

 

 …これも、君の島を通じて持ってきた訳だね。

 私も一度訪れたが……いや、正直もう一度行きたいとは思わないかな。興味深い場所であるのは確かだけど、何と言うか、アウェイが過ぎる。

 そりゃ、あそこは君とその周辺の人の為の場所だから、そうは思わないだろうが………いや、それを加味しても君、疎外感とか肩身の狭さとかを感じる事はないのかい?

 右を向いても左を向いても、前にも後ろにも何処で何をしていても、君に向かって秋波を送る女性ばかりだったじゃないか。何処に行っても女性の気配…君流にいうなら、雌の残滓かな…が充満している。

 こう言ってはなんだけど、島に一歩踏み込んだ時点で、『あ、ここ私の、と言うよりオスの居場所ないな』と確信したよ?

 例え王様みたいに好き勝手できるとしても、普通は居心地の悪さくらい感じると思うんだけどな。…そういう感性が擦り切れているからこそ、そんな事になってるんだろうけども。

 

 

 とはいえ、気を付ける事だね。

 君の島では、君が関わったあらゆる文化や技術がごちゃ混ぜになっている。それこそ、私達の把握してない技術体系があると、容易に想像がつく。

 それに虎視眈々と目を光らせている者は、あちこちに居る。

 君の身内に手を出してでも…と考える者がまだ現れてないのが不思議なくらいさ。関係者の殆どが普段は君の島で暮らしている為、或いは下手なアラガミよりもずっと強力な戦力を持っているから、という理由があっても。

 そもそもからして、嫉妬で何でもいいからやってやろう、という男が結構な数でいるみたいだ。…君の島に行きつけないから、何もできないようだけど。

 

 

 

 それにしてもなんだね、行きたいとは思わないけど、やはり君の島は興味深いよ。

 3つの世界の繋がりが、次々に見つかるからね。他の土地でも文化や技術の交流は盛んに行われているが、君の島は密度も数も段違いだ。

 

 この前分かったのは、歌姫、アイドル達の血の力、神垣の巫女の関係性だったっけ。

 歌姫の力はモンスター…特に古龍を操り、アイドル達は歌と血の力で黒蛛病に犯された大地を豊穣の地に変えた。

 そして神垣の巫女の扱う術に、正にその力があった。

 

 歌姫の力は、古代文明によって人為的に組み込まれた力が、先祖返りによって発現したものらしいが…それが神垣の巫女が使う術の一つと瓜二つ。

 聞けば、神垣の巫女の術も、遥か古来より伝えられ続けた術で、その発祥は謎の包まれていたと言う。

 それらを繋ぐミッシングリンクが、それぞれの世界に痕跡として散らばっている。

 トキワノオロチによって滅びた超古代文明の技術の一端が垣間見えるね。

 

 

 そうやって調べて行けば、失われた古代文明の技術の再現も有り得る。或いは、それぞれの技術を組み合わせ、古代のものとも従来のものとも違う、新たな『何か』を生み出す事だってあるだろう。

 実に夢とロマンが広がる話じゃないか。

 

 

 それだけに、取り扱いには気を付けないとね。

 現に超古代文明は、それらの技術の扱いを間違えて滅んだのだから。

 先程の仮説…世界融合の為に、影で蠢いていた神のような存在が実在するとしたら、猶更だ。何がその存在の怒りを誘発するか、分かったものじゃない。

 その怒りに触れれば、気付かず操られていた君のように、何かが誘導されて襲ってくるかもしれない。

 ……例えば、話に聞くシュレイド王国…伝説の黒竜とやらに、一夜で滅ぼされたとされる国のように。

 いや、もっと言えば、君がアイドル達のプロデューサーもどきになっていた時のように、超巨大な龍でいきなり世界を薙ぎ払う…みたいに、かな。 

 

 

 まぁ、仮定に仮定を重ねた話だからね。気にするだけ仕方ないとも言える。

 本当にそんな上位存在が存在するなら、人間の尺度や感性で図ろうとするのは間違いだろう。それを恐れて足踏みしていては、何もできやしない。

 あるかどうかも分からない天罰を恐れていくくらいなら、自分達の行いで世界に害を与えないよう気を配った方が余程前向きというものさ。

 

 それに、少なくとも今のところは、それぞれの文化が混じりあっても上位存在の怒りを買う事はないだろう。何せ、わざわざ世界を融合させてくらいだからね。

 

 

 

 

 だけどね、私は本当に恐ろしいのは、アラガミでも鬼でもモンスターでも、上位存在でも。人ですらない、と思っている。

 

 

 

 

 

 君だ。

 

 

 

 

 君の存在そのものが、今の私の最大の懸念なのだ。

 恐らく、君が思っている以上に、私は君を危険視している。

 

 

 

 鬼? モンスター? アラガミ? いやいや、そんな程度ではない。君の戦闘力は、私の知るそれらよりも尚高いが、それでも私が最大の懸念と言う程ではない。

 だってそうだろう? 君はどこまで行っても、一人でしかないんだから。君に縁がある者全てを総動員したとしても、千人に満たないだろう。軍事力、組織力、人脈という点で考えても、懸念という程ではない。……一応、君の人格というか性格も信用してはいるんだよ?

 総括するが、君が他人の力を含めた全力を奮ったとしても、精々が小国一つを焼野原にするのが関の山だろう。それは大きな被害だが、歴史的に見れば前例がある程度の被害にすぎない。

 

 

 

 

 私が君を危険だと思っているのはね。

 

 

 

 

 その繰り返しだよ。君が感じている不安そのものだよ。

 

 

 

 君が今までずっと囚われてきた、繰り返しだよ。時代の枷とでも呼ぼうか。

 君が死ぬ度に…或いは、意識が二度と戻らない状態になる度に、君は同じ時間軸にまで引き戻される。世界も同じだ。

 同じ時、同じ場所、同じ状況から、何度も何度も繰り返された。

 

 今までは、外的な要因からの死だった。肉体的な損傷による死だった。

 だけども、もしそれ以外による死であれば?

 

 精神的な死ならどうかな?

 

 

 人間の精神は、あまりに長い時間に耐えられるようにはできてない。君が生きる事に飽き、或いは生に倦んで、考える事すら放棄してしまった時…世界はどうなると思う?

 君が言う、デスワープが行われた直後に、君の精神が自壊したら?

 君がデスワープしても、精神が回復しなかったら?

 

 デスワープした1秒後に、またデスワープしたら? それが終わりなく延々と続いたら、どうなるかね?

 

 

 

 君に巻き込まれて、世界が戻される。まるで鎖に繋がれた囚人のように、君が戻される時間から一定距離しか進めない。

 

 

 これの尤も恐ろしい所は、寿命によっても同じ事が起こるかもしれないという点だ。君が百年…いや二百年生きたとして、死んだ瞬間に二百年前に戻される。世界も戻る。

 この後、人が滅ぶにせよ栄えるにせよ、悠久の時間が横たわっていた筈なのに、そこに世界が辿り付く事は無い。君の寿命が、世界が行ける範囲になる。

 

 

 君は、いつ爆発するかも分からない、解体する事さえできない、有史最も危険な歴史破壊弾頭だ。もしも君が精神的な死を迎えれば、問答無用で世界は引き戻され、そして永遠にその瞬間から動かなくなる。…君の繰り返しが消えていなければ、の話だけどね。

 物理的な排除は論外。それは君が言うデスワープに直結する。コールドスリープも不可能だ。君の意識が戻らなくなった時点で、やはり結果は同じ。

 地球の外に放り出す、という手段も考えたが、最低でも銀河の外までもっていかなければ、その効力は怪しいだろう。君の言うデスワープは、惑星の並びすらも元の通りに戻してしまっていたのだから。

 

 

 

 

 もう少し言わせてもらうとね、イヅチカナタという鬼の最大の役割は、これに対する対抗策だったんじゃないかと思うのさ。

 君も、全ての繰り返しを覚えていては心が保たなかった自覚はあるだろう。

 

 

 

 君が全てに絶望し、疲れ果て、廃人になってしまったらどうなると思う?

 君が何度も繰り返した始まりの瞬間から、世界は5分と経たずに延々と繰り返される。それを防ぐ為、君には耐えきれない…或いは将来的にそうなる要因となりそうな記憶を、どんどん奪っていったんだろう。

 結果、君は何百何千は下らないであろう繰り返しを、人の寿命と精神の限界を遥かに超えるであろう体験を忘れ、精神を崩壊させる事なく繰り返しを乗り切った。

 結果論で語るなら、君と関係を持ったシオ君や千歳君も独立した一つの存在として現れた訳だが…まぁ、ここは置いておこうか。

 

 

 君に残っていた記憶は、イヅチカナタが食い損ねた記憶ばかりだった。君が生き延びた期間…時間にして平均3か月から、イヅチカナタの処理能力を超え、その残滓が君に残った。2か月以下なら、ほぼ全てがイヅチカナタの腹の中と言う訳だ。

 君の記憶に残っている事、或いは君がずーっと書いていた日記に残っている記録は、この辺りじゃないかな?

 2か月以下でも、特に強固な因果であれば、残っていたものもあるかもしれないが……実際、ホロウ君の事は討鬼伝世界の記録に僅かに残っていたんだろう? 生憎と、因果の強弱に関して判断できる程、博識ではなくてね。推測程度なら出来るが、検証できない推測なんて幼児の落書きみたいなもんさ。

 

 

 

 

 

 

 

 もう少し語るとしよう。君にとっては、想像するだにおぞましい事だろうけどね。

 

 

 …今となっては確かめようもない事だが…君はね、イヅチカナタの「種」…予備でもあったんだろう。

 そんな顔をしないで、話を最後まで聞きたまえよ。

 

 いいかい、さっきも話したが、3つの世界は最も被害のない形での融合を望んでいた…と思われる。

 君とイヅチカナタはその為の鑿と槌だ。何度も同じ時間を繰り返し、その間に君が世界の形を変え、イヅチカナタがそれを整える。それについての是非は語らないよ。

 でもね、考えてもみたまえ。そこまで緻密な計算と計画を企てた意思が…神だか世界の心だかは不明だが、そのための道具を一つだけしか用意しなかったと思うかい?

 

 イヅチカナタは、君や世界から奪った因果を溜め込み、食料、あるいはその力としていた。君がイヅチカナタを討った事で、それらの因果が解放されたのがその証拠だ。因果が世界中に戻され、いくつもの繰り返しの記憶が、君と関係を持った者だけに復活した。

 だけどね、考えてみたまえ。君から奪った因果が君に帰ったとして……君は、それに耐えられると思うかい? 実際耐えた? まぁ、そうだね。

 つまり…君はいくつもの因果の集合体、と言える訳だ。

 

 何かに似ていると思わないかね? いくつもの因果を身に宿して、それを存在の証明とし、そして力に変える。

 

 

 …イヅチカナタにそっくりだろう。

 

 これは悪辣な想像、勘繰りではあるが…本来、イヅチカナタが討たれた際、その因果は全て君に収束する筈だった。それに耐えられない君は、因果に逆に蝕まれ、人でない何かに姿を変える。…そう、「次」のイヅチカナタに。

 そうしてイヅチカナタになった君は、自分の食料を確保する為、獲物を探す。君と同じように、繰り返しに放り込める誰かを探す。

 先ほどの例えで言うと、君は鑿だったが、槌が壊れた為にその代理となり、新たな鑿が用意された、ということさ。

 

 ひょっとしたら、君が倒したイヅチカナタも、そうやって生まれてきたのかもしれない。繰り返しの先達ともいえる誰かが、君の怨敵たるイヅチカナタだったのかもしれない。

 ああ、そう言えば一度、千歳君を人質にとった事があるんだって? …それも案外、人間だった頃の悪知恵の残り香なのかもしれないね。

 

 うん? じゃあ、どうして君は無事なのかって? 

 それは簡単さ。もう槌も鑿も必要ないからだよ。偶然なのか必然なのか、或いは別の何かの条件を満たしたからなのか、3つの世界を無理なく融合させる為の準備が整ったんだ。…多分、何かしらの要素で融合の邪魔になっていた『因果』が全て削り取られたからだと思うけど。

 だから、世界は君をイヅチカナタにする必要がなくなった。

 まだ準備が整っていなかったのだとしたら、世界は君をイヅチカナタとしたろうね。

 

 本当に、気分の悪い話さ。君が必死に討ったイヅチカナタは最初から倒される事も想定済みで、折角勝っても姿すら見せない第三者の横槍で、君の勝利は最悪の形で…君自身が怨敵になってしまうという形で破壊される。

 君が無事なのは、すでに用済みと判断されたからに過ぎない。

 

 …いや、ひょっとしたら、後始末さえされずに放り出された事さえ考えられる。もしも君の繰り返しが終わってなかったら、いつか…膨れ上がった因果に耐え切れず、君はイヅチカナタになってしまうかもしれない。使われなくなった道具が、経年劣化で勝手に壊れてしまうかのように。

 まぁ、正直な話、最悪の可能性だとは思ってないけどね。

 

 うん? ああ、最悪ではない。君を切り捨てるような言い方になってしまうが…最初に言った、君を最大の脅威として考えている、という話を覚えているかい?

 君がイヅチカナタになって、世界の外に行ってしまえば…君の精神の死による、世界の停滞は避けられるかもしれないからね。

 

 

 不自然な事なら、まだまだ…と言うより、数えるのも億劫な程にある。

 そもそも、君の境遇について明確な答えと言えるものは、何一つ現れていないんだ。これは君以外の人間についても同じ事だろうけど、君の場合は少し意味が異なるね。

 何故、君は同じ時を繰り返していたのか。何故、君はイヅチカナタに目をつけられたのか。何故、君は三つの…或いはそれ以上の世界を渡り歩いていたのか。

 君の体は一体何なのか? 君の過去の記憶はどこまで本当なのか?

 全てがはっきりしないまま、君はイヅチカナタを討ち、その旅の終わりを迎えた…ように見える。まだ繰り返しは続いているかもしれないからね。

 

 君の活躍で…と言っていいのかは疑問だが、とにかく君がイヅチカナタを討った時と同じくして、3つの世界は融合した。

 三つ以上の世界、というべきか。君が今まで夢という形で記憶していた、主だった三つの世界以外の世界も、いくつも見つかっている。

 

 だが、おかしいと思わないかい?

 

 

 

 

 

 これまで10以上の、不確定のモノも含めれば3桁以上の世界が交わった事が確認されていると言うのに、私達が創作の存在として語られている世界は、片鱗すら見つかっていないのだよ?

 

 

 

 

 

 勿論、未だ人知が及ばない、超次元的な理屈が関与している可能性はある。観測者仮説にあるように、我々が認識できる事象の外にその世界があったり、何かの壁に阻まれているだけかもしれない。だけどね、私は君の話を聞いていると、どうにもそうは思えないんだ。

 何度考えて、どう矛盾を修正しても、『君の記憶の元となった世界は、存在しない』という結論に達してしまう。

 

 

 君の記憶にある元の世界では、私達は物語という形で存在したと言う。それについてどうこう言うつもりはないよ。今こうしている私達だって、何処かの世界で物語とされているかもしれない。

 

 でもね、君の記憶にある世界には、とある違和感が付いて回っている。

 成程、確かに誰かが想像した世界や歴史が、別の次元でそっくりそのまま再現される可能性はあるかもしれない。逆に、何処かの誰かが、他所の世界の現象を何かしらの形で覗き見てしまい、それを創作という形で作り出したりする事もあるかもしれない。

 この時点で、先程言ったような『壁』は存在が否定されるか、少なくとも穴がある事になるね。

 

 

 だけど、その可能性はどれくらいのモノだと思う?

 

 

 宇宙で、人間と同レベルの知的生命体が存在している星を探し当てるのと同じくらいには、低い可能性さ。

 だけども、その天文学的に低い可能性に見事に当てはまる物語が、君の世界に幾つ存在した?

 君が把握しているだけでも、『モンスターハンター』の各種シリーズ、『ゴッドイーター』とその続編、『討鬼伝』…は続編が出ると言う事だったけど、この分だとその話も実際に起こった可能性が高いね。

 他にも『アサシンクリード』、『大神』、『戦国BASARA』、『アーマードコア』、君も今一名前を憶えていないものを上げればキリがない。世界が融合してからも、心当たりがある世界は見つかっているんだろう?

 天文学的に低い筈の可能性が、君が居た世界に何故こうも揃っていると思う?

 

 

 

 考えられる結論は、大雑把に分けて2つだ。

 その世界が、そういった事象や…いわゆる電波、天啓が幾つも交錯する場所であった可能性。事象のクロスロード、とでも呼ぼうかね。

 

 そしてもう一つは…君なら既に予想しているだろうが、君の記憶が全て虚構である可能性、だ。幾つもの世界から零れ落ちた景色や出来事の情報が降り積もり、君と言う人格と、虚構の記憶が作り上げられた。これは君も自覚している。

 ああ、君が言う「のっぺら」がこの情報に当たるんだろうね。

 

 ある意味、夢を見ているようなものだね。それこそ、天文学的な量の情報が積み重なり、その中で相性のいいものだけが繋ぎ合わされた結果、過去が捏造され、君の人格がシミュレートされている。

 もしもこの説が正しい場合、君が過去として記憶しているものは全てまやかしだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 …まぁ、繰り返していうが、これは検証もできない、考えられる限りで最悪の想像、というだけだ。こうだとは限らないし、仮にそうだったとしても、何かを諦める必要はない。

 相手が世界の意思だろうと神だろうと、人の力を信じている。君の力もね。君が先程話したような存在だったとしても、こうして私と話している君の存在はどうやったって否定できない。君は間違いなく、人と、一つの命と名乗っていい。君の意思と人格がある限りは…我思う故に我あり、という奴さ。

 すぐに、とも絶対にとも言えないが、乗り越えていけると確信して………おや?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしたんだい、顔が青いよ? まるで、死んだと思ったら、生き返ったみたいに。

 

 

 

 

 

 

 

 





後書き

以上で狩りゲー世界転生輪、終了です。

予想はしてましたが、途中から何書いてるか分からなくなってしまいました。
総括すると、次のような感じです。


・世界は融合と分裂を繰り返していたんだよ!(多分)
・世界融合しましたが、人間達はうまく付き合っています。
・でも外敵も混ざり合ったり進化したりでえらい事になっています。
・ソーマとくっついたシオと、イヅチカナタに捕まっていたシオは別々に存在します。虚海と千歳も別々に居ます。
・イヅチカナタの本当の役割は、デスワープでなかった事にされない為の保管庫だったんだよ!
。ラケルてんてー、心が折れて引き籠り。
。色惚け、ドラエモソ染みた秘密道具により、島一つを専用ハーレム化。探索のサポートとしても使いながら、未開の地を冒険中。
・もしもループ解放が叶ってなかったとしたら、色惚けの寿命以上には世界が続いていかないんとちゃう?
・……今、ループして戻ってこなかった?


…箇条書きにして感じますが、詰め込みすぎですね。
書いていなかったループの事や、今後の事も沢山あります。
……GE世界で、ブリカスムーブして色惚けをいいように操ろうとしたダージリン(仮名)のお仕置きックスとか。
それに巻き込まれて調教され、気を引く為に娘を差し出すちよきち(仮名)とか。
虎視眈々と近親〇姦を狙うオビト(女性化)とか。
滅鬼隊にはループ中に何度か関わり、その時は話の分かる上司として、浅木に死ぬほどありがたがられていたとか。
封印から一人一人(ちんぽで)解放している滅鬼隊とか。


まだまだ書いておきたい事はあったのですが、まとまり切らないのでここまでとさせていただきます。


執筆200話目くらいで終わり方とオチを決めて、その後はちょくちょく書き足していました。
ちなみに、他のオチ候補と言うか最後の一言候補は次の2つでした。


①行くぞ、もっと友達を増やしに!(討鬼伝・オビトのミタマ入手時の台詞。繋がった世界で新しい友達を作りに行く)
②…俺の名前? …………「ああああ」でいいんじゃない?



それにしても、設定が加わる度に話が捻じれる捻じれる。
プロットやメモ書きの重要性を、再認識しています。
そして何より、文章が装飾過剰で読みにくい、伝わり辛くなっている事を自覚しました。


書きたい題材が見つかるまで、筆を置かせていただくつもりですが、その間にスッキリした文章を書けるよう勉強します。
また、次回作を執筆するにあたり、次の通りを課題をとしていきます。


・プロットを作っておく。
・主人公を強化しすぎない。
・音読で推敲してから投稿する。
・無理に定期投稿しない。
・何でもかんでもブッ込まない。特に登場人物の人数制限を作る。
・予定以上に長く続けない。


こんなところでしょうか。
ハーレム禁止も追加しようかと思いましたが、モチベーションや展開に関わりそうな気がしたので撤廃。
どんなお話になるかは分かりませんが、いつか創作サイドとして戻って来たいと思います。

後書きが長くなりましたが、この辺りで失礼させていただきます。
長い間お付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。






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