インフィニット・ストラトス ─死に損ないの戦争目録─ (46い猫)
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始まりの戦場で

 

 始まりの戦場で

 

 西暦20XX年。とある一人の技術者が宇宙開発用パワードスーツとしてインフィニット・ストラトス────ISを発明した。

 人口増加により、地球に住めなくなると予測して開発したものであった。だが、ISの性能を見せ付ける為に引き起こした『白騎士事件』。それによりISは宇宙開発用パワードスーツでは無く、武装パワードスーツとして扱われる事になったが、ISには致命的な欠点があった。

 男には乗る事が出来ず、そもそも起動させる事すら不可能であった。

 そんな欠点の影響で世界ではISに乗れる女性が優れている。男は劣っているとして男尊女卑という思想が蔓延る世の中となってしまった。

 

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 そんな世界で男に産まれでしまえば人権は無いに等しい。祝福されてこの世に産み落とされる事は無く、男というだけで忌み子扱いされる。そうして産まれついてから忌み子として扱われてきた子供は端金で裏で売買される事となった。

 そんな忌み子の中で更に異質な少年が居た。その少年は曰く死なない。どれだけ過酷な戦場に送り込もうとも、生きて生還する。その少年と共に送り出した子供は全員死んだのに、何故かその少年だけが生き残る。そんな不気味な噂から数多の戦場を渡り歩き、とある傭兵に拾われて少年兵達を束ねる立場となった。

 その死に損ないの死神の名前はイグニス。

 

 これはそんな死神の戦争目録である。

 

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 人の焼ける臭いと人の死臭が辺りに漂う。思わず嘔吐きそうになるが、それを堪えて奥へと進む。

 仮の拠点となっているテントの中に入り、イグニスは開口一番に仲間の死を告げた。

 

「また死んだぞ。今度は二人だ」

 

 そう言って死んだ二人の戦友の存在を唯一証明出来るドッグタグを机の上に乱雑に放り投げた。

 安っぽい金属音だけがテントの中に木霊している。少年の報告を受け、苛立ちを顕にしたのは上官である軍人だった。

 

「貴様ら穀潰しは一体、どれだけの物資を無駄にすれば気が済むんだ! また二人死んだ!? 戦果すら挙げられず犬死かね!」

「......前線に出てこないアンタらに文句を言われる筋合いは無い。前線の指揮は俺に一任されてる筈だ。一応は上官であるアンタに報告しただけ。......アンタらは後方で敵の爆撃に怯えながらふんぞり返ってるといい。直にこの争いは終わるさ」

 

 そう言って、イグニスは仲間のドッグタグを拾い上げてからテントを出て行く。

 ズカズカと自分の持ち場である多脚戦車の置き場へと向かう。そこにも仲間が待つテントがあり、その中へと入った。自分が率いている少年兵達が待っており、話を聞く為に近付いてくる。

 

「今度は何だって?」

「戦果すら挙げずに犬死か。とさ」

「随分な言い様だな。この戦場は俺らだけで維持してるってのにさ」

「仕方無い。俺らみたいな忌み子はどこに行っても扱いは変わらない。自分達で道を切り拓くだけだ」

 

 イグニスは死んだ仲間のドッグタグを自分が着けているドッグタグに通して再度首に掛ける。

 

「それ、死んだ仲間全員の分か?」

「あぁ......俺が拾ってやれたヤツらの分だけしかない」

「私達の分まで拾ってくれるのかな、イグニスは」

 

 悲しそうな顔をするイグニスに問い掛けるのは部隊で二人しかいない女の片割れのニナと呼ばれる少女。

 彼女は特殊であった。女に生まれたにも関わらず、何故彼らと共に戦っているのか。彼女が戦争孤児だからだ。

 イグニスが初めて駆り出された戦場で彼女を拾った。見捨てる事も、無視する事も出来なかった彼が仲間に迎え入れたのだ。

 共に戦い続けて来た戦友。だからこそ、彼は彼女の言葉に真摯に答える。

 

「拾うさ。......でも俺は、一度たりともお前達に死ねと命令した事は無い。俺らのゴールは人として生きる事だ。だから今日も生きる。生きて、人としての権利を勝ち取るぞ」

『了解!』

 

 イグニスの元で戦っている残りの少年兵四人が返事をする。そうして全員が多脚戦車へと乗り込む。

 彼らが駆る多脚戦車とは、対IS戦を想定して造られた兵器である。ISの機動力に追い付く為にあらゆる地形を走破可能な脚部。

 理論上はISの装甲を砕ける貫通弾を発射可能な主砲。接近戦用の副武装である軽機関銃と高周波ブレード。そして武装では無いが、機体固定用のワイヤーガンと豊富とは言い難いが、堅実な武装を持つ。だが多脚戦車にも欠点が存在している。

 機動力確保の為に装甲は無いに等しいという事。それ故に、多脚戦車に搭乗して生存した者はここに居る五人を除いて他にいない。

 そんな動く棺桶と揶揄される戦車に乗り込み、彼らは今日も人の生き方を獲る為に戦う。

 

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 天候には恵まれず雨。しかし多脚戦車の機動力が落ちる事は無く、戦場を縦横無尽に駆け回る。

 

「ニナ、アーシャは右翼側を突き崩せッ! レオとルカは俺に着いてこい。正面から突破する!」

『了解!』

 

 五機の多脚戦車は二手に分かれてそれぞれ進んでいく。進んでいく最中、少しの移動時間で愚痴を零すのは同じく生き残った忌み子であるルカ。

 

「全く、我らが隊長は人遣いが荒い。正面突破なんて自殺行為だぜ」

「問題ない。今、敵は左翼側に集中している。無能な上官共も無能なりに役立つ、という事だ。正面と右翼側から敵を削りつつ、挟撃するぞ」

 

 砲弾で敵兵を吹き飛ばし、更に先へと進んでいく。幸いな事にこの戦場にはISが居ないようで、対IS用に開発された多脚戦車に人が敵う訳もなく、ただ敵兵を蹴散らす。

 目前の勝利に手を伸ばしかけたその時、アーシャから通信が入る。

 

『大変。こっちにISが来たッ! 多分、敵国の正規軍部隊よ』

「チッ......こんな時にッ! 仕方無い。レオ、ルカの両名はニナとアーシャの援護に迎え。俺はここでお前らの方に敵が向かない様、ここで足止めする」

 

 イグニスの命令にレオとルカは押し黙った。自殺行為である事は火を見るより明らか。だがそれ以外に案が無いのも事実で、彼女らを見殺しにする事も出来ない。故の命令である事を理解していたから黙る。

 

「......良いか! お前ら死ぬなよ! 俺達は人として生き抜く。こんな所で死ぬな!」

『了解!!』

 

 全員の返事を聞き、安心した様な表情を浮かべるイグニスは二人を見送り、大勢の兵士相手に大立ち回りを演じた。

 ワイヤーガンを使い、木々の隙間をすり抜けて副武装の軽機関銃で薙ぎ払う。近付く兵士は高周波ブレードで切り払った。戦車や装甲車は対IS貫通弾で撃ち抜く。

 傍から見ていれば清々しい程の無双っぷり。だがそれだけの大立ち回りを続けていれば、やがて多脚戦車にも限界はやって来る。それは脚部の不調である。

 駆動部にガタが現れ、自慢の機動力は陰りを見せた。そして最後には脚部が折れて崖を転がり落ちる。

 六つもあった筈の脚部は全て崖から落ちた際に全て折れた。強制的にコックピットハッチを外して外に出る。

 

「一体どれだけ落ちたんだ......随分と戦場から離れたもんだ」

 

 軋む様な痛みを堪えながら、戻ろうとするとイグニスの背後に人が立っていた。

 

「ッ......敵兵......じゃないな...? 誰だ」

「私の名前は篠ノ之束。君を雇いに来たんだ」

「こんな戦場のど真ん中で良くもまぁ、そんな事を言えたもんだな」

 

 イグニスは拳銃の銃口を向けながら呆れた様に告げる。しかし束は素っ頓狂な顔をして問い返す。

 

「戦場のど真ん中? どこが? 君の居た戦場からここは随分と離れたよ?」

「............」

「君のお仲間はもう諦めな。ISに勝てる兵器はISしか無いよ。あんなポンコツじゃぁ......自殺行為だ」

「随分とISに詳しいみたいだな? 俺は数度、そのポンコツとやらでISを破壊してる」

「そりゃぁ......だってISの産みの親だもん。私」

 

 イグニスはその言葉を聞いた途端、血相を変えて束に詰め寄った。

 

「お前のせいで俺やアイツらがどれだけ苦しんだと思っている! ニナやアーシャはISで両親を失った! 俺やレオ、ルカは忌み子だと忌み嫌われ、家族に捨てられ、人としての扱い等受けて来なかった! 全部、お前がISなんてものを作り出したからだ!」

「......そうだね。だからケジメを付けようと思ってさ。彼らは......あれだけど、君だけは助けられる。死に損ないの死神君。君の名前は?」

 

 イグニスは目の前にいる女に怒りの矛先を向けたが、彼女の悲しそうな目を見た時、彼女は果たして本当に望んで戦争兵器になりうるISを生み出したのだろうかと疑問に感じた。

 

「............俺の仲間は?」

 

 仲間の生存を確認したい。きっと望みは薄いだろうとどこか諦めが過ぎるイグニス。自分があんな選択をしなければ、そう思ってしまう。

 

「さぁ......? 私は君の事しか分からないからなぁ。他に居た仲間は分からないや」

「そうか............」

「仲間の分も生きてみたら? もしも彼らに対して何か思うところがあるのなら」

「......人として生き抜いて死ぬ。お前らの分も生きなきゃなぁ......」

 

 イグニスはそう言ってドッグタグを握る。

 

「さて、もう一度聞くよ。君の名前は?」

「俺はイグニス。ただのイグニスだ」

「フルネームが無いの不便だね。そうだなぁ〜」

 

 束は腕を組み、頭を捻って考える。やがて思い付いた様子で彼に姓を与えた。

 

「君は今日からイグニス・アルストリアとして生きるんだ」

「変な姓だな。だがまぁ......雇い主のアンタに従うさ」

 

 イグニスはそう言って彼女の手を取るのだった。

 



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入学前準備

 前回からだいぶ時間が空いてしまい、申し訳ありませんでした




 

 入学前準備

 

 イグニスが篠ノ之束に拾われ、彼女の付き人となってから一ヶ月が経過した。

 イグニスが彼女の拠点に帰ると既に一人、付き人と思わしき人物が待っていたのだ。彼女は自動走行可能な車椅子に乗った盲目の少女────名をクロエ・クロニクルという。彼女の過去を束から聞いたイグニスは束の言葉の意味を知った。そして今に至る。彼は今、束のボディガード兼お世話係として寝食を共にしていた。

 

「いっくん、料理上達したよねぇ〜ホント。最初の頃なんて酷かったのに」

「......悪いと思ったから一ヶ月で最低限人に食わせられるレベルにしたんだ。俺らは食えりゃ味も見た目も気にしなかったからな」

 

 皿洗いを終え、食後のコーヒーを啜りながら彼女の言葉に答えるイグニス。そんなイグニスに対し、束は唐突に話題を変えて問う。

 

「ねぇ、いっくん?」

「何?」

「君、少年兵の癖に戦い方が下手くそだよね」

 

 唐突な一言にイグニスは口に含んだコーヒーを吹き出しそうになるが、何とか堪えて飲み込む。

 

「藪から棒に何だ急に。基本なんて誰にも習わなかったからな、下手くそなのはそのせいだ」

「あー違う違う。下手くそは下手くそだけど集弾率自体は差程悪くない。寧ろ良いと言っても良い。なのに君は頑なに接近戦に拘ってる。何で? もっと上手くやる方法一杯あるよね?」

 

 束の試す様な眼差し。イグニスは一ヶ月間の共同生活で目の前に立つ女がどんな人物なのかを大まかに知る事が出来た。

 彼女がこちらを試す時、はぐらかす事も誤魔化す事も出来ないのだ。彼はそれを知っているからこそ、溜め息を吐きながら答える。

 

「......銃じゃ相手を殺した感覚が無いからな。前に居たんだよ、仲間の死体に隠れてこっちの隙を窺ってるヤツ。そんなの一分一秒が惜しい戦場で一々構っていられないからな。近接武器で一人ずつ潰してった方が効率が良い」

「なるほどね、随分な蛮族戦法を取るじゃないか」

「綺麗なやり方は時間が掛かる。正々堂々とかそんなの知ったこっちゃ無い。勝った方が正義で、殺した方が強いんだよ」

 

 彼女はイグニスの答えを聞いて諌める様な言葉を吐くが、表情と声音は満足そうにしていた。形だけの注意という訳だ。そんな戦い方はダメだよ、と口では言うが彼女も彼女とて彼の考え方に凡そ同意している。

 

「まぁね。だから君には感謝してる。人体の急所を一撃で仕留める術に長けてるから違法な研究所潰しも楽々だよ」

「そりゃどうも。今日もか?」

「うん。今日も今日とて潰し回るよ。今日はロシアだ」

 

 イグニスはその言葉に頷く事も答える事も無くその場を去り、自身のISを整備する為に整備室へと向かった。

 

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 整備室に鎮座している白い鎧の様なIS。肩の装甲は無く、内部フレームが剥き出しになっており、左前腕にはガントレットが装着されている。

 束が用意したISではあるが、彼女が制作したものでは無いらしい。彼女がイグニスにISを譲渡する前にそう言っていた。

 このISはとある研究所を潰した時に束が戦利品代わりに頂戴した物。人体とISを接続し、操作時のタイムラグを極限まで減らすシステムを試験的に導入したIS。システムの名前は阿頼耶識と言うらしく、イグニスには阿頼耶識と繋がる為の手術が施されていた。背中の肩甲骨辺りにISと接続する為のコネクタが取り付けられている。

 別に生活に支障をきたす様な見た目では無く、服さえ着てしまえば目立たない。

 しかしその効果は絶大であり、麻酔無しの激痛が伴う手術にさえ成功してしまえばあらゆる兵器を自分の体と同じ様に操る事が可能となる代物。

 

「こんなのにも役に立つんだな」

 

 イグニスは自虐的に笑ってISを纏う。ゆっくりと息を吐きながら目を開く。網膜にはISの詳細データが投影され、ISの装甲がまるで自分の肌になった様な感覚を覚える。

 ISとの接続が完了した事を知らせるアナウンスを耳に入れながら、イグニスは目的地へと出発した。

 

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 目的地は極寒の地であるロシア北方に存在している違法な研究を続ける場所である。吹雪に曝されながらも距離を詰めるイグニス。

 

「どうもこんにちは。そして死んでくれ」

 

 アサルトライフルを装備した警備員へと無慈悲にメイスを振り下ろした。直後、ゴシャッと肉が潰れる音がする。

 肉片と化した死体へ目もくれず、淡々と奥へと進んでいくイグニス。

 一人、また一人とメイスで潰していく。時には床に叩き付け、壁に叩き付け、メイスの先端に搭載されたパイルバンカーで刺し貫く。慈悲も無く、情けも容赦も無く警備員や研究員を殺して回る。最後は研究所は肉片と血痕で染まっていた。

 血塗れになったメイスを肩に担いで最奥へとやって来たイグニスを待っていたのはISを纏った()の研究員であった。

 

「男がISに乗れるなんてな。驚きだ」

「驚いている様には見えないがね。これが我々の研究成果さ。女を生かさず殺さず小さな箱に詰めてIS側に女が動かしていると誤認させる」

「悪趣味な研究成果だな。それを作るのに一体何人の人を犠牲にしてきたんだ」

 

 彼の言う言葉が言葉通りであれば、男が乗るISの後ろ側にある小さな四角いボックス。その箱には犠牲となった女性が生体部品として組み込まれているという事である。それをイグニスは問うている。

 

「さぁ? そこら辺の親も居ないストリートチルドレンなんて幾ら死のうが誰も気に止めないだろう? 私もその一人でね、数なんて数えていない」

「そうか......そうか。......もう喋らなくていいぞ」

 

 イグニスはその言葉を言い終えると同時に敵と定めた男へと跳ぶ。たった一度の跳躍で自身の間合いへと入るや否や先制攻撃としてメイスを振り下ろした。

 

「おっと......危ないじゃないか」

 

 すんでのところで回避した男はイグニスへ語り掛けるが、彼は男の言葉に耳を貸さない。何もかもを無視して次の攻撃へと移る。

 メイスの振り下ろしを避けられたイグニスはメイスを支えにして両足での飛び蹴りを放つ。矢の様に飛ばされた男は壁に激突して、動きを止めた。

 運悪く男の腕が間に挟まったものの、男が纏うISの腕部装甲を粉砕する。

 

「なんて威力の飛び蹴りなんだ......腕の装甲が一撃でこんなに......素晴らしいな!」

「......」

「無視かよ」

 

 イグニスは無視を徹底する。目の前の男は人ですらない。人の形をした何かだから。コミュニケーションなんてものを取るつもりは毛頭無いのだ。

 だからこそ、イグニスは冷酷に冷徹にただただ目の前にいる男を鏖殺する為に動く。

 イグニスの連撃に男は反撃に出れず、防戦を強いられている。男が反撃に転じようものならすぐにでもその意思と行動を潰し、淡々と追い詰める。

 

「クソッ! こんな筈では無いんだ! このISのスペックならこんな無様な真似は......!!」

「もう良いよ、お前。さっさと死んでくれ」

 

 パイルバンカーを炸裂させて胸を貫いて一方的な殺しを終えたイグニス。ISの各部から熱を放出する。

 眼前には息絶えた男の死体が転がっているが、イグニスは男の死体には目もくれず、男がISに乗れる様にする為のボックスとやらを拾い上げた。

 

「こんな小さい箱の中に何が......」

 

 イグニスは呟きながら箱の中身を見て言葉を失い、その場を後にするのだった。

 

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 拠点に戻るや否やソファーに身を預ける様に座り込み、天を仰ぐ。

 

(あんなもんが研究の成果だって? 巫山戯てやがる......)

 

 見た瞬間、吐き気を覚えて逃げる様に帰ってきたイグニス。未だ彼の網膜には箱の中身が焼け付いていた。

 そんな状態のイグニスに束はいつものおどけた様な声音で声を掛ける。

 

「やぁやぁ、グロッキーだね」

「あんなもん見てマトモで居られる訳がないだろ」

「流石の君でもアレ程のものは見た事無い?」

「殆どのヤツは人の形を保ってた。腕だけ、首だけ、足だけ。まぁ色々見てきたけど......中身だけってのは初めて見た」

 

 イグニスは過去の記憶を遡る。束はただ黙って彼の話を聞いている。

 

「この世界は何かが壊れてる」

「それは何?」

「人の良心か、優しさか、はたまた常識か。何かが致命的なまでに壊れてると俺は思う。今まで生きてきて色んなヤツを殺して来たけど......どいつもこいつも人として何かが欠けたヤツらばっかだった」

「そんな世界ばっかり見てきた君には一つ重大な任務を授けよう」

 

 束はそれまでの雰囲気を壊す様に朗らかな表情でイグニスへと声を掛けた。

 

「任務?」

「そう。私には大事な大事な妹が一人だけ居るんだよ」

「それで?」

 

 イグニスは要領を得ない束の話にストレスを溜める。

 

「来年度からIS学園に入るらしいんだよ」

「......成程」

 

 そこでイグニスは全て察してそれだけ呟く。束もイグニスの反応を見てただ頷いた。

 

「護衛って訳じゃないんだけどさ、彼女を見守ってあげて欲しいんだ。一週間に一度どうだったのか報告して貰う以外は自由で良いからさ」

「つまりは束、アンタの妹が学園で問題を起こさずにちゃんと生活出来ているかどうかを見守って欲しいって事だな? 護衛はしなくていいのか?」

「可能ならして欲しい。世界で唯一無二のIS操縦者育成機関だからね。色々と厄介事は舞い込む。でも君が無理をして傷付く必要は無いから」

 

 彼女の言葉はイグニスには分からなかったが、一先ずはその任務に対して同意する。

 

「まぁ、分かった。んで、その学園の入学式はいつなんだ?」

「ん? 明日」

「......お前、本当にいい加減にしろよ」

 

 イグニスは束に対して怒りを顕にしてそう呟いて、入学式に間に合わせる為に急いで準備を始めたのだった。

 




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