異世界国家群、日独冷戦世界1970へ召喚 (赤目のサン)
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前日譚『グラ・バルカス召喚』
第一話『Gra-Bar
『「グラ・バルカス帝国の紳士淑女諸君!ギーニ・マリクス氏の言葉に傾聴せよ!」』
勉強机に並ぶ子供達は、ただ黙って、教室正面に備え付けられたプロジェクター、その映像を食い入る様に見つめている。
『グラ・バルカスとは何たるものか。帝國歴527年10月11日、帝都ラグナの帝国文化会館。その大ホールにて。かつて軍で中隊長を務め、常に国民の最前線に立ったギーニ・マリクス氏は、その問いにこう答えた。』
ナレーターの声に、子供達は映像中央に見える弁論台へと、目を向けた。
『「…諸君。私は今日、諸君らに、考えて頂きたいと思っている。
…"グラ・バルカスとは、何たるか"を。」』
グラ・バルカス第八帝国。
惑星ユクドにて世界最強を誇った大帝国である。
世界最強の技術力。
世界最強の陸海軍並びに航空隊。
その全てが世界最強、そう言っても過言では無い。
『「通常、演説では、この手の問答を一言で表すべきである。
…しかし…それは"グラ・バルカスを一言で表せ"、そう申している事になるだろう。
しかし…しかしだ。
一文で表すならば、先代皇帝グラ・トリアン陛下の言葉を借りるべきであろう。
"グラ・バルカスに味方は居ない。あるのは帝国陸軍と帝国海軍である"。」…と。
この言葉は、第八帝国の始皇帝、グラ・トリアン陛下の御言葉であり、
如何にマリクス氏が帝政を尊重する人物か、それが分るであろう。
マリクス氏は続ける。』
…淡々としたナレーションは、マリクスの演説を引き立てる。
偶然か、はたまた仕組まれたものか。
『「…バルカス列島共和国は崩れ去り、再び偉大なる帝国は帰還した。
今や新世界から中央世界に至るまで、この世の全ての国家が、辺境の地、バルカス列島を敵視している。
…列島1億の臣民は、島国と言う特殊な大地で幾度となく結束した。
…もう生まれ損なった帝国などとは言わせない…!
殲滅戦論者の蘇る時が来たのだ…!
結束こそ全て!結束こそ全てである!!
結束!結束こそ!我ら列島人を奮い立たせる一番の理由なのだ!」
…………』
…此処で、不自然なカットが入る。
『マリクス氏の演説は、次第に熱を帯び始める。』
しかし、その不自然さを埋めるように、またも淡々としたナレーションが入った。
『「戦争とは如何なる時にすべきか!
戦争とは如何なる時にするものか!
戦争とは如何なる時に行われるのか!』
戦争とは何たるか!」
…………
マリクス氏は声を震わせる。
「そして大戦争とは何たるか!」
「グラ・バルカス帝国の紳士淑女諸君!
グラ・バルカス帝国の臣民諸君!」
…………
そして最後にマリクス氏は、国民への叫びをあげた。
「結束の勝利にィッ!万歳!」
マリクス氏は颯爽と立ち去った。
我らに事を任せたかの様に。』
…しかし、列強国第一位であるグラ・バルカスは、列強国第二位たるケイン神国との長きに渡る戦争の末、列強を含む周辺諸国から包囲網を形成され、窮地に陥っていた。
―――帝國暦527年12月31日、正午。
突如として天上は漆黒に包まれ、グラ・バルカス第八帝国は、惑星ユクドより消滅した。
…同日午前、グラバルカスは、対グラ・バルカス帝国包囲網(以下、「連合国」とする)より最後通牒を突き付けられていた。
この事象は、連合国艦隊がグラ・バルカス目指して西進していた、正にその時であったのだ。
現実世界の湾岸戦争が如き"一方的な世界大戦"の"危機"から、脱したのである。
「…晴天。恐ろしいまでの晴天だ。」
グラ・バルカス第八帝国海軍、東方艦隊は、潜水艦からなされた敵艦隊発見の一報を受け、バルカス列島東方海域を航行していた。
その最中、辺りが闇に包まれる謎の現象に遭遇。
今こそ空は蒼く染まっているが、艦隊は先程まで、少しばかりの混乱に陥っていたのである。
「長官、御報告が。」
東洋艦隊司令長官、カイザル・ローランド海軍大将。
艦橋で暫時の困惑を味わった彼は、自身の乗艦する戦艦グレードアトラスターの艦長、ラクスタルより、ある報告を受けた。
「敵艦隊が消えた?…それは…見失ったと言う意味かね?」
「…いえ。目の前で消滅したと…
そう通達が上がっています。」
…カイザルは首を傾げる。
「その様な事が有り得るか?」
先程まで潜水艦群は、グラ・バルカスへ西進しているとみられる、連合国の多国籍艦隊を追跡していた。…筈であった。多国籍艦隊の残音は、聴音員のヘッドホンから唐突に消え去ったのである。
「…何らかの新兵器の可能性もあります。大昔に我が国で潜水戦艦の構想がありました。その様な突飛な兵器で無ければ、艦隊が消える
かつて、"運命戦争"と呼ばれる戦争があった。
その戦争で猛威を振るったのが、グラ・バルカスの潜水艦群であった。一時は戦艦不要論が出た程であり、艦艇の潜水機能は、近未来の主力兵器として注目されていた。
…しかしカイザルは言った。
「…艦長、今は何故消えたかを考える時では無いぞ。今我々は如何に行動すべきか、それを考え無ければならん。」
カイザルは続ける。
「多国籍艦隊の位置を見失ったならば、本国に戻るべきだ。軍本部と東方艦隊隷下の全艦隊に、帰投する旨を通達しろ。」
「そうしますと無線封鎖を破る事になりますが…?」
指令書には、緊急事態等を除いて無線封鎖を行う旨が記されていた。
「…多国籍艦隊が列島沿岸を攻撃している間、"東方艦隊は遠洋で休んでました"じゃ顔が立たんだろう。
良いかね、東方艦隊は本国へ帰投する。」
この日、グラ・バルカス第八帝国は…。
グレゴリオ暦1968年12月31日正午の、
日独冷戦世界へと召喚されたのであった。
…前日譚『グラ・バルカス帝国召喚』
【挿絵表示】
〈グラ・バルカス第八帝国〉
バルカス列島に領土を持つ立憲君主制国家。首都はラグナ。皇帝はグラ・ルークス。首相にあたる帝王府長官はカーツ。惑星ユクドにて世界最強を誇った国家であり、それ故プライドも高い。しかし最近は、数年前の運命戦争で大損害を負った事もあり、"
『時に我々は自覚せねばならん時がある。それが何であれ、政治屋は国民を導かねば。』
―――グラ・バルカスの政治家・元軍人、ギーニ・マリクス。―――
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第二話『グティマウンと富嶽』
グラ・バルカス帝国海軍東方艦隊が、母港への帰投を決断した、丁度その頃。
東方艦隊と同じく、連合国の多国籍艦隊へと向かっていたリーテ潜水艦艦隊は、バルカス列島より東方へ300km進んだ海域で、あるものを発見した。
「やはり、あの陸地は何処の海図にも載っていませんでした。」
シータス級潜水艦アリアロスのセイルにて。
艦長ネトリールの双眼鏡、その見つめる先には、存在しない筈の陸地が浮かんでいたのである。
…グラ・バルカス帝国が異世界に召喚された翌日―――
今朝方、帝都ラグナの飛行場を飛び立った、グラ・バルカス帝国陸軍航空隊の長距離偵察機は、
『定期連絡。PG-14発、ラグナ・コントロール宛。目標の陸地は未だ発見出来ず。現在位置は、西経140度45分、南緯35度14分。燃料残量、巡航速度で34時間24分12秒。オクレ。』
『こちらラグナ・コントロール、先程の定期連絡、了解。哨戒を続けよ。オクレ。』
この機は、驚異的な航続距離を誇る"超重爆撃機グティマウン"、その偵察型であり、惑星ユクドにおける"蒼の覇者"であった。
…しかしこの後、その称号は覆される事となる。
「…――あれは…何だ?」
航空機関士の指さす先。
"その機"は、コックピットの視界外から突然現れた。
「
コックピットは混乱に包まれている。
「写真撮ってくれ。」
「分かりました。」
…グティマウンの前に現れたのは、ブーメランの様な形をした航空機であった。
「…速いな…!もう追い越して行きやがった。」
すると、その機はグティマウンの前方に移動し、まるで先導する様に飛び始めた。
「…―――おいおい何する気だ…帝國軍機に強制着陸を求めるのか?」
「機長、管制に指示を仰ぎましょう。」
その頃、グティマウンの前に現れた航空機のコックピットでは。
『識別不明機は、無線通信、威嚇射撃、共に応じず、未だ
指示を求む、どうぞ。』
『了解、少し待て。』
グティマウンの侵入を領空侵犯と捉え、強制着陸を促していた。
それもその筈、グティマウンは、
『識別不明機に対し強制着陸を実行、領空外に針路を変更した場合は帰投、5分以内に針路を変更し続けた場合は撃墜せよ。どうぞ。』
しかしその時、グティマウンは左に旋回。
来た方向に針路を変更した。
グティマウンの撃墜は回避されたのであった。
…グティマウンに対し強制着陸を促した航空機。
その正体とは、イタリア空軍の迎撃戦闘機Me-740であった。
…数時間後―――イタリア保護領モロッコ王国、カサブランカ空軍基地。
「今朝の領空侵犯機の写真です。この国籍マークを見て下さい。」
ガンカメラが撮影した領空侵犯機には、赤丸に十字を描いた印が描かれていた。
「日本…の様に見えるが、この十字は一体何だ…?」
「今の所不明です。」
「…しかし近頃の情勢を顧みれば、日本と考えても差し支えないかと。」
そう、グラ・バルカスのグティマウンは、日本の富嶽に酷似していたのである。
「まさか…
グレゴリオ暦1966年4月1日。
大日本帝国軍は、東経70度に引かれた暫定国境線をオーバー・ザ・ラインし、69年までにトルキスタン全域並びにロシアのウラル以東を掌握した。
この時、1965年に始まった大ドイツ内戦により、ドイツの影響力は極限にまで下がっていたのである。
そんな中、イタリアの領空に日本の航空機が領空侵犯したとなれば、アフリカに日本軍が来ると言う考えに至るのも当然であった。それに、
「…情報を"カエサリア"に上げる。
…"カエサリア"。
第二次世界大戦中、アメリカは"ローマ陥落"と言う危機的状況に際し、同地に原子爆弾Mark.1リトルボーイを投下。王都ローマは更地と化した。
終戦後、この
即ちカエサリアとは、この"イタリア共和国"の首都であり、政府の代名詞であるのだ。
イタリア共和国の首都カエサリア、首相官邸にて。
今度の日本軍機領空侵犯事件を受け、緊急閣僚会議が行われた。
「本日午前10時32分、スペイン大使館より、"レーダーが識別不明機を補足し、スクランブル発進した"旨の通達がありました。その時のスペイン軍機は、識別不明機との接触には至りませんでした。
そして午前10時58分、我が国の地対空レーダーシステムが識別不明機を補足。
午前11時にカサブランカ航空基地から2機のMe-740がスクランブル発進し、午前11時3分に当該識別不明機と接触。
この時、既に識別不明機は領空を侵犯しておりました。
重要なのが此処からです。
その識別不明機には大日本帝国の国籍識別マークが描かれており、
機体も、多少の違いはあれど、大日本帝国軍の戦略爆撃機に酷似しておりました。
近頃の世界情勢を顧みましても、この識別不明機が大日本帝国の所属と断定しても差し支えないと存じます。」
報告書を読み終えた空軍参謀長は、イタリア共和国大統領ルイージ・ロンゴ書記長*1の方に目を向けた。
「―――報告は以上です。」
ロンゴはただ一言、「…そうか。」とだけ答えた。
すると、陸軍省事務総長が発言する。
「大統領。…もしこれが、日本のアフリカ侵略の前触れだとしたら…これは大変な事になりますぞ…!」
「落ち着け。我が国は日本の支援で成った国。10年もかけて
大日本帝国は、1950年代初頭から、イタリアの左翼系反政府組織を支援し続け、
1966年、遂にガリバルディ旅団がカエサリアを掌握したのであった。
それが世界唯一の社会主義国家、イタリア共和国の成立過程である。
「しかしですよ、仮に侵略が目的ではないにしろ、日本は飛行計画書の提出を行わずに、故意に戦略爆撃機を我が国の領空に侵入させた訳です。偵察目的であれば、衛星や高高度偵察機を使えばいい。しかし戦略爆撃機ですよ?…目的が理解出来ません。」
「失礼。その件について
この世界では、ファシスト党体制下のイタリア王国並びにイタリア社会共和国の諜報機関"
「我々が把握している日本の動向、その全てを精査した結果、アフリカ侵攻の前触れと思わしき行動は、今度の領空侵犯を除き、全く見られませんでした。彼等はロシアに注目しております。」
「では…今度の領空侵犯は事故だとお思いで?」
…すると、
「長官?」
「……それに関して、一応…御報告せねばならぬ事があります。
少し
円卓に並ぶ閣僚全員に、とある画像が配られた。
「一枚目の資料が、昨日の午前11時30分に撮影された衛星画像です。そして二枚目。特にモロッコ西方に注目して下さい。こちらは昨日の午後1時に撮影された衛星画像になります。…お判りでしょうか?」
「…島が…増えてますな。」
イタリア保護領モロッコ王国の西方800km地点。
午前11時30分時点で何もなかった筈の海域に、
午後1時の画像では巨大な列島が現れていたのだ。
「覚えていらっしゃるでしょうか。
昨日の昼頃、一時的に昼の空か真っ暗闇になった事を。」
「…そんな事もありましたな。まだ原因不明ですが…まさかこの列島が関係していると?」
「えぇ、あの間に列島が突如として出現したのです。」
「馬鹿馬鹿しい…そんな非科学的な事があってたまるか…!
その写真は加工では無いのか?!」
「御言葉ですが、この画像は全く編集を加えておりませんよ。
変な言い掛かりは止めてもらいたいものですな。」
「何を…!?」
陸軍事務総長と
同じ円卓に座る外務大臣は、部下からの報告を受けた。
「失礼、皆様お聞き頂きたい。
外務・国際協力省より御報告があります。
先程、午後3時40分頃。在カエサリア日本大使館より、今度の領空侵犯についての回答がなされました。以下、回答文です。
『今度の識別不明機について、我々大日本帝国は一切関わっておらず、貴国の申す"日の丸の上に十字が描かれた機体"は存在せず、別の国家の可能性が高い。』との事であります。」
一瞬ではあるが、場は静まり返った。
【挿絵表示】
〈イタリア共和国〉
イタリア半島及びアフリカ北岸、東岸に領土を持つ社会主義国家。首都はカエサリア。国家元首はルイージ・ロンゴ書記長。
『首が挿げ替わっても、内戦は未だ続く。』
―――イタリア王国、イタリア共和国の政治家。ルイージ・ロンゴ。―――
追記:2024年3月17日23時33分。
どういう訳か、後書きが跡形も無く消え去っていたので、書き直しました。
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第三話『罪深き
一週間後…グレゴリオ暦1969年1月8日。
首相官邸、会議室に続く廊下にて。
「先程、スペイン大使館より通達がありました。」
報告を受けたのは、イタリア共和国外務大臣である。
「モロッコ沖に出現した列島に関する通達であります。今月6日、スペイン領カナリア諸島近海に国籍不明の艦隊が現れ、スペイン海軍が臨検を行った所、所属国の名前はグラ・バルカス第八帝国であり、各国との国交樹立を求めている事が判明したと。」
「…つまりあの列島には国があると?」
「まだ事実関係を精査している段階ですが、恐らくあの列島は"グラ・バルカス第八帝国"と考えて宜しいと存じます。」
「よし…大統領に報告する。
「何もない所から島国が出現する
まさか十年近い衛星の監視から逃れ、数百年にのぼる航海の時代を経ても、発見されなかったと言うのか?」
「…大統領、グラ・バルカスに関してはこの際、超常現象と考えた方が手っ取り早いかもしれませんぞ。」
「ともかく、グラ・バルカスとは早めに国交を樹立した方が良いだろう。…恐らく、忙しくなるからな。
外相、スペイン政府にもそう伝えておいてくれ。」
会議は、大西洋で発生した超常現象の議題で持ち切りであった。
円卓から少し離れた壁際。
ある人物が座っている。
彼の座っている椅子、閣僚らと比べれば、ほんの少し質素な椅子ではあるが、閣僚会議に招かれていると言う事は、相当の人物である事に変わりは無い。
「失礼、皆様。」
…するとその声に、閣僚らは一斉に壁際の人物の方へ向いた。
「…何かね?」
「御言葉ですが、今はその様な事を考える時では無いと存じます。
今は対独政策について考えるべきです。」
図々しい発言ではあるが、誰も咎めようとする様子は無い。
「…確かに、そうですな。」
今、イタリアは国防の危機を迎えている。
1965年に、総統の後継者問題を発端として始まった『大ドイツ内戦』は、大ドイツ国臨時政府指導者、カール・ハンケの死により、"終演"を迎えつつあった。
内戦終結後、ドイツは再び、かつての影響力を取り戻すであろう。
「皆様にお伝えしたい事がございます。
"我が国"は貴国に、増援としての派兵を決定致しました。」
「そ…それは真でありますか?!」
「ええ、勿論。加えて貴国には、我が国の陸海軍並びに航空部隊の活動、衛戍を認めていただきたい。」
「皇族が来るのか?此処カエサリアに?」
スペイン政府の通達によれば、グラ・バルカス第八帝国の皇族、"グラ・ハイラス"侯爵が、国交開設交渉の為に、イタリアへ訪れると言うのだ。
「日本の近衞公爵閣下も、我が国との和平交渉の為に、渡航しようとした事があったではありませんか。」
「…グラ・ハイラス殿下がイタリアへ到着するのは何時頃だ?」
「現在、スペインにて日程交渉を進めています。」
…一ヶ月後―――大ドイツ国領ジブラルタル。
「…な…何だあの馬鹿デカい戦艦は…!?」
ジブラルタの閘門に、グラ・バルカスの外交使節を乗せた、
戦艦グレードアトラスターが現れた…!
艦内のサロンにて。
シュナップスを嗜みながら、舷窓より外を眺める人物。
「これは運河かね?」
「左様であります、殿下。」
グレードアトラスターは、ゆっくりと下降を始める。
ジブラルタには、アトラントローパ計画に基づき、巨大なダムが存在していた。
「これ程の物を作れる国家だ…少なくとも本国のタカ派と比べれば、話は通じるだんろうな…?」
彼は本国にて、ハト派の筆頭であった。
グラ・バルカスは、異世界転移と言う未曾有の事態食料並びに資源の問題に陥っており、一部のタカ派が新世界の征服論を唱えているのだ。
そんなタカ派を抑え込む為、タカ派の筆頭で皇族の、"グラ・ハイラス"直々に、イタリアへ渡航したのである。
その後、グラ・バルカス艦隊は、パレルモ近郊の軍港に入港し、使節団は高速鉄道でカエサリアに向った…。
「グラ・ハイラス殿下。この度はお会い出来て光栄です。
イタリア共和国書記長及び大統領、ルイージ・ロンゴと申します。」
「大統領閣下。本日は宜しくお願い致します。」
…グレゴリオ暦1969年2月2日―――首相官邸。
第一回交渉の少し前。ルイージ・ロンゴとグラ・ハイラスは、首相官邸の一室にて、会談を行った。
「今回、我が国は未曾有の危機に襲われました。
我が国の食料は半年も持たないでしょう。
どうか、我が国をお助けください。」
「…前向きに検討致します。国家というものは、共に助け合うべきですからな。」
この時、ハイラスは、話の分かる相手で良かったと考えていた。
しかし…ハイラスによる国交開設交渉が行われる事は…
無かった。
「失礼します!先生!」
一人の若手政治家が、エンリコ・ベルリングェル侯爵の部屋に慌ただしく入って来た。
「落ち着け…何があった。」
「カエサリアで暗殺事件です!」
「またか…、今度は一体誰が死んだ?」
ベルリングェルは、若干呆れた様な、慣れた様な声で、今回の被害者が誰であったかを聞いた。
「…先程、首相官邸で…
大統領が爆殺されました!」
「何だと…!?」
ベルリングェルは、先程まで咥えていた葉巻を灰皿に擦り付けた。
「それは本当かね…?!」
「間違いありません…。犯人は
「分らん、敵が多すぎて一体誰だか…。」
過激派左翼、旧政府組織、極右勢力、はたまた共産党内部の権力闘争か。
鉛の時代真っ只中のイタリアでは、テロリズムが日常と化していたのである。
「…当面の間、大統領の職務は私が引き継ぐ。
しかし…官邸に近づけると言う事は、犯人はもっと深くに行ける筈。党内で少しでも反体制派と関わりのある者をリストアップしろ。」
―――…党内の粛清などあってはならん事だ。しかし今回は…。―――
書記長及び共和国大統領、ルイージ・ロンゴ。
グラ・バルカス第八帝国の皇族、グラ・ハイラス。
グレゴリオ暦1969年1月20日。首相官邸にて
【挿絵表示】
〈イタリア共和国〉
イタリア半島及びアフリカ北岸、東岸に領土を持つ社会主義国家。首都はカエサリア。国家元首はエンリコ・ベルリンゲェル書記長。忠実では『非難を生むことなく、"違い"を"避けられないもの"として"認識"し、それを認めた統一を行う必要がある』と訴えたベルリングェルだが、この世界では恐らく、それは果たされないであろう。今やイタリアに味方は居ない。共産主義と言う歪なイデオロギーは、この日独冷戦世界では"(周りと)違い過ぎる"のだから。
『もし第二次世界大戦に米ソが勝利していれば、イタリアは違ったのだろうか?』
―――イタリア王国、イタリア共和国の政治家、エンリコ・ベルリングェル侯爵―――
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挿話「
今、大ドイツ内戦は終演を迎えつつある。
グレゴリオ暦1969年2月10日。
果てしなく続く灰色の大地。
「「Heil Hitler!」」
燃え盛る炎の前で、彼らは万歳と叫ぶ。
「…指導者閣下…まだ終わっていないと言うのに…。」
「死んでしまわれた…。」
…この日、大ドイツ内戦における民主派勢力、
大ドイツ国臨時政府の指導者、カール・ハンケは…亡くなった。
大ドイツ国臨時政府は、東のセルゲイ・フォン=タボリツキー率いるロシア大公国と、西のラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ率いる大ゲルマン帝国に挟まれ、瓦解を始めていたのだ。
一方、ハンケの導いた臨時政府より西。
シュトゥットガルトに首都を構える、大ゲルマン帝国シュヴァーベン政府。
全欧州指導者となった"ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ"は、
官邸のソファに腰かけ、蓄音機から流れる音楽を嗜んでいた。
『Nun
『Sag
…既にレコードは、"
『
…ギービヒ家の当主、グンターが教えを乞う姿に、
ハイドリヒは…かつてのヒムラーを連想した。
7月2日。
この日は、狩猟帝"ハインリヒ1世"の命日である。
クヴェードリンブルク大聖堂の地下。
納骨堂に、冷ややかな風が流れる。
その風は、ある人物を伝い、奥の棺桶に向って流れていた…。
親衛隊全国指導者たるハインリヒ・ルイポルト・ヒムラーは、
尊前にて跪き、ハインリヒ1世との霊的交信を試みていた。
「天におわします我らがハインリヒ1世陛下…どうかお力添えをお頼み申し上げます…。」
毎年、この日の深夜12時になると、彼の言うハインリヒ1世との霊的交信の末、「今宵のハインリヒ1世の思し召しは…」と、親衛隊の方針を語るのが常であった。
…実際の所、今まで交信に成功出来た事は無く、その度にヒムラーは、それっぽく部下に託言を述べているだけであり、ヒムラーは今、今後の親衛隊の方針について考えている。
この事について、ハイドリヒやヴォルフ、カルテンブルンナーは気づいており、ヒムラーが瞑想を始める直前に、"今後の親衛隊の方針で、この様になったら素晴らしいだろう"と、それとなくヒムラーに伝えていた。
…しかしハイドリヒは、その日……見た。
ヒムラーの目が、輝いた瞬間を。
「止めろ!儀式を止めろ!」
ヒムラーの目が変わった。
「クソッたれが!まだ私を呪うか!カール!」
その瞬間、ハイドリヒは、ヒムラーと目が合ってしまった。
「ハイドリヒ!ハイドリヒ!私は操られていたんだ!君も知っているだろう!?」
「閣下、落ち着いて―――」
「私は操られていたんだ!私はぁあああ!!
ああああああああ!!!!」
絶叫しながら納骨堂を飛び出すヒムラーに、ハイドリヒ
…しかし納骨堂を出た直後。ヒムラーの姿は…既に無かった。
その後、ヒムラーは近くの山林で発見され、ヴェヴェルスブルク城に連れ戻された。
この事はハイドリヒ
ハインリヒ・ルイポルト・ヒムラー、親衛隊全国指導者。
グレゴリオ暦1965年7月2日。彼は、ヴェヴェルスブルク城と共に死を迎えた。
地獄の業火に包まれるヴェヴェルスブルク城。
…ハイドリヒには…それが、あの燃え盛るヴァルハラの様に見えた。
…果たして、あれは第三幕第三場で燃え堕ちた、ヴァルハラ城であったのか…?
その先に待ち受ける事は何たるか、ハイドリヒは、蓄音機から流れる声に、耳を傾けた。
…今思えば、あのヴェヴェルスブルク城を築城させたのは、ヒムラー本人では無かった―――。
『覚えていらっしゃるでしょうか、ハイドリヒ殿。お久しぶりです。』
まだオペラは、第一幕に差し掛かったばかりである。
小舟の上では、勇者が角笛を、高らかに鳴らしていた。
要約:「大ドイツ内戦は近々終ります」
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