怪しさMAXの陰陽師は、むしろ一級陰陽師になりたいようです。 (S・DOMAN)
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怪しさMAXの陰陽師は、むしろ一級陰陽師になりたいようです。

急に思いついて書いたのでストックがありません(ガチ)
なので続きません()


 

 

 この物語に道化はおらぬのです。

 

 無理矢理こじつけるのなら、そう。全員が道化になりうる。そしてその在り方を当の本人が楽しんでいる。場を引っ掻き回しただ通夜の様な空気を明るいものにするだけの道化は、ここには存在しえないのですよ。

 

 なれば、拙僧は、拙僧は、はい…

 その長い旅の道中を適当に盛り上げたりでもしましょうか?

 フリーレン殿には十分に希望がありまする。ではヒンメル殿には?あの愚かしくも最後まで足掻ききった勇者は、その生のある間に十分報われたと言えるので?

 

 

 

 

 

 

 

「今日はいつにもまして元気だね。また新しいいたずらでも思いついたの?それともドッキリ?……どちらにせよあまり大きな音は立てないでね。今魔法の研究してるから」

 

 

 そう言って拙僧には一別もくれず、さも拙僧の存在そのものが迷惑であるかの様に振る舞うこの御方を誰が偉大なる魔法使いだと思うでしょう?ですが聡い者なら勘付くやもしれませぬ。最上級の絹にも劣らぬ純白の御髪に、そこから自らの存在を主張するように飛び出す長く尖った耳を見れば!

 眼前の少女を、かの邪悪なる魔王を討ち滅ぼせし勇者一行の魔法使い、フリーレンであ―――」

 

 

「静かにしてって言ったよね」

 

「―――ハイ」

 

「フリーレン様、魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)しますか」

 

「やっちゃえ」

 

「ン゙ン゙ン゙―――」

 

 

 ふう。酷い目に会いました。こう見えて拙僧善行ばかり積んでおりますので、何故にあのような扱いを受けるのか甚だ疑問なのですが…

 まあ人間誰しも飯時前だと少々気が立ってしまうものでしょう。ンンン……少々、刻んだ玉葱が目に染みまするなァ…

 

 

「今日のごはん当番はドーマン様なんですね。何を作っておられるのですか?」

 

「今日は良い肉が手に入りましたから、ここは少々短絡的ですがステーキでもと思いまして。ハイ」

 

「うーん……もし良ければ手伝いましょうか?」

 

「いえいえ!いえいえいえいえこのような些事は拙僧にお任せなされ!ささ、拙僧のことは気にせず、フェルン殿は魔法の訓練にでも行かれるのがよろしいかと。確かまだ連射性に難があるのでしょう?次はちゃんと仕留められると良いですなァ……ンンンンン…」

 

 

 そのように揶揄って言いますと、幼子の様にからかわれたのが恥ずかしかったのでしょう。フェルン殿は僅かばかり頬を赤らめて、ぽかぽかと拙僧の頭を殴られます。ンフフ……お止めなされお止めなされ……拙僧現在料理中にございまする……料理中に包丁を持っている人間の体を揺すろうとするのはお止めなされ…普通に危のうございます…

 

 

 

 

 

 

 

「ドーマン様。これはどういう事でしょうか」

 

「ハイ?」

 

「なぜ今日の晩ごはんはステーキではなくビーフシチューなのでしょうか」

 

「ハイ…」

 

「ハイじゃありません。むすー」

 

「あーあ。また怒らせちゃった。これで五回目だ。新記録だね」

 

「い、いえ、まあ。その……そう!正に肉に火を入れようとする直前で思い出したのです!確か行商人の方が『今回の肉は煮たほうが美味である』と仰っていたのを!」

 

「それ、嘘ですよね?」

 

「ハイ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 晩御飯を食べ終わり、三人分の食器を片付けるドーマン様を尻目に、私はフリーレン様と作戦会議をしていました。

 

「フリーレン様。今日はどうでしたか?」

 

「ダメだね……致命傷は与えられていない。狙いはいいけどその都度的確に『核』を動かして避けてるんだ。逃げる核の動きを予測して撃たないと絶対に当たらないよ」

 

「ンンンー。ですがー、中々イイ線いっておられますぞー。その調子でしたらー、今年の春頃にはー、しっかり当てられるようになりますぞー」

 

「そう、でしょうか…」

 

「フェルンは頑張ってるよ。私はうまく当てれるようになるまで一年かかったからね。このペースだと半年かからないんじゃない?あとドーマン。もう夜だからあまり大きい声は出さないようにね」

 

 

 そんなふうに励ましてくださるフリーレン様とドーマン様になんだか申し訳なく感じ、俯いてしまいます。私達の旅に同行しているドーマン様。彼の『核』を撃ち抜くという訓練は、私が今までにフリーレン様から与えられたどんな訓練よりも難易度の高いものでした。訓練を初めて既に三ヶ月が経つというのに、未だにコツは掴めていません。

 落ち込む私を見かねて視線を泳がせるフリーレン様でしたが、何かを思い出したように声をあげられます。

 

 

「……あ。フェルン、そろそろ時間だよ」

 

「分かりました……私、何か暖かいものでも持ってきますね」

 

「ンンン!フリーレン殿?ホットミルクですぞー」

 

「……むすー」

 

「ンフフフフ!」

 

「ドーマン。あんまりフェルンをいじめないであげてね……えっと……よし」

 

 

 そう言ってフリーレン様は、手のひらに収まる大きさの小さな黒い板を取り出しました。フリーレン様が魔力を流すと板は青く輝き始め、宙に浮かぶ映像が現れます。

 

 その映像には、フリーレン様と同じように椅子に座って微笑みかける勇者ヒンメル様(・・・・・・・)の姿が映っていました。

 

 

『繋がってるかい?もしもーし。大丈夫かな……僕のイケメン顔、ちゃんと映ってる?前みたいに映像乱れたりしてないよね?』

 

「ちゃんと繋がってるよ。いつもやってるでしょ…」

 

『おやぁ。今日こそは私が一番乗りだと思っていましたが。いやいや、お二人には敵いませんねぇ』

 

「ハイターまたお酒飲んでるし……生臭坊主め」

 

『フリーレン。今日は俺も一緒だぞ』

 

「アイゼンまでお酒飲んでるの?今日はハイターの所にいるんだね」

 

『ちょっと野暮用でな。たまたま聖都に行く用事があったから驚かせようと思ったんだ』

 

『あ、そういえば……今から一週間ほど滞在する予定なんですよね?宿は取りましたか?』

 

『取ってないぞ』

 

『『「えっ」』』

 

『ハイターの所に泊まる予定だったからな。取ってないぞ。ハイター。今日から一週間よろしく頼む』

 

『ア、アイゼンっていっつもそうですよね!私のお部屋のこと何だと思ってるんですか!?』

 

 

 あはははは―――

 

 楽しげな笑い声が寒空に響きます。

 

 

 

 勇者ヒンメルの誕生から103年。中央諸国。冬の厳しい寒さも、こうしていると不思議と暖かく感じるのです―――

 

 




なんだか久々に文字を書いた気がするぞ
まー続きが欲しかったら言ってくれ。れれれれれrr


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2

 

勇者ヒンメルの誕生から103年。冬。中央諸国、野営地でホットミルクを飲みながら。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばフリーレン様。ドーマン様は一体何歳なのでしょうか?」

 

「さあね。多分本人に聞いても知らないって返されると思うよ。そういうの興味ないんじゃないかな」

 

「でもフリーレン様と同じぐらい長生きされているんですよね?エルフではないのに」

 

「そうだね。エルフじゃないのに年を取らないんだよ……フェルンは、なんでだと思う?」

 

「……不老不死ですか?それとも影武者とか」

 

「多分どっちもだろうね。確実に死んでるだろう場面に何回か出くわしたことがあるけど、次見た時には何事も無かったみたいにけろっとしてるから。ヒンメルたちと旅をしてたときはよく先走って、ダンジョンのトラップに引っかかって串刺しにされてたね」

 

「フリーレン様が覚えるレベルで串刺しにされておいてなんで死んでないんですか……じゃあ、いつ頃知り合ったんですか?フリーレン様ぐらい長生きされているなら、どこかで歴史に名を残すような発見をしていてもおかしくないと思うのですが」

 

 

 フェルンは『勇者ヒンメルの冒険譚』読んだことないの?

 

 はい…ハイター様は恥ずかしがって置いておられませんでしたから…

 

 うーん…

 

 ドーマンと初めて会ったのは、私が住んでたエルフの集落が魔族に襲撃された時だよ。

 その時は将軍級の魔族もちらほらいてね。危うく村が壊滅する所だったんだけど、その時に偶然師匠が―――いや、そう、フランメ―――フランメが助けてくれたんだ。お陰で村は今でもあるし、死人も出なかったんだけど、私は特に怪我が酷くてね、先に治療されることになったんだ。

 それでね。時間が無いって言うからとりあえず、バッサリ切られたお腹の部分を治してもらうために服を捲ったんだ。

 

 

 それで気付いたらフランメが二人に増えてたんだよ。

 

 

「―――えっ。ちょ、ちょっと待ってくださいフリーレン様。展開が急すぎます」

 

「そうかな?……そうかも」

 

「その偽物のフランメ様が…」

 

 

 そう。ドーマン。それで逃げようとしたドーマンの襟首を掴んで引き倒し、顔面が陥没するまで殴りつつ、同時にお腹も治してくれたのが師匠だよ。あの時のドーマンはずぶ濡れになった猫みたいで面白かったね。

 

 

「今では考えられないですね」

 

「アイツは今も変わってないよ」

 

「失敬な!拙僧も歳を重ねれば性格だって変わりますぞ!」

 

「ほらね?おちょくられるとすぐに出てくる所とか」

 

「言われてみれば確かに…」

 

 




驚きの短さだ
でも会話形式だと書くの楽しいぞ
これは小説だろうか、いや違う(反語)


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3

少しだけ書き方が変わりました


 

 

勇者ヒンメルの誕生から103年。冬。中央諸国、飲み干したコップを洗いながら。

 

 

 『寒いから洗い物お願い』と仰ってフェルンに洗い物を押し付けていたフリーレンだが、今は焚き火に当たりながら毛布に包まっている。ちなみにドーマンはツッコミを入れた後どこかに消えてしまった。猫は気紛れなのだ。

 

 

「フリーレン様。明日こそは洗い物お願いしますね」

 

「明日もお願いぃ…」

 

「ちょっとフリーレン様?流石に怒りますよ?」

 

「だって寒いんだもん…」

 

 

 ぐずって頭まで布団を被るフリーレンには威厳なんて微塵もない。本当に、こうしていると見た目相応の子供にしか見えないのにとフェルンは思う。

 そんな彼女もやはり手が冷たくなってしまうので、自分の分も手早く済ませて拠点に戻ると、ドーマンがミノムシみたいになったフリーレンの口に歯ブラシを突っ込み歯磨きをしていた。

 

 すかさず杖を取り出し先を頭に向ける。

 

 

「『魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)』」

 

 

 放たれた光線は、心なしか戦闘に用いるものより太く感じた。実はフェルン、師であるフリーレンの助言を仰ぎつつ、ゾルトラークを自分用に改造しているのだ。

 普段使いに優れた速射性に優れる白タイプ、殺意多め魔力消費多めの必殺技系黒タイプ、他にも赤やら青やら時代が違えばそれだけで大道芸人として食べていけそうなぐらいの膨大な作例を用意しております。

 今回ドーマンに放たれたのはしっかり黒い。いつもの二割増しで黒い。光線がドーマンを飲み込み胴と上腕を消し飛ばした。

 

 

「ンン!?フェルン殿!?流石に今撃たれるとフリーレン殿が危のうございますぞ?」

 

「……はっ。すみません、なんだかつい出ちゃいました」

 

「フリーレン殿。ハイター殿……いったいどこで育て方を間違えたというのですか…」

 

「というかドーマン様。なにもそこまでしなくてもいいと思います。歯磨きまでサボり始めたらフリーレン様が本当にダメ人間になってしまいますよ」

 

「いえ、実は拙僧昔手慰みに犬を飼っていた時期がありまして。その時の経験で他者の歯を磨くのも、まあ多少は?できますので?」

 

「うあー。わふぁふぃはいぬのかわぁいなの(私は犬の代わりなの)?」

 

「いえいえそういう訳では決して!ただ何かこう、フリーレン殿を見ていますとなァ。何だかよくわからぬ気がムクムクと湧き上がってくるような…」

 

「『魔族を殺す魔法(ゾルトラーク)』」

 

「ン゙ン゙ン゙―――」

 

 

 この半裸ゴリラは突然何を言い出すんだ。フリーレン様の教育に悪いでしょうが。そうしてフェルンが息を吐いた次の瞬間には、吹き飛ばされた上半身が元通りに回復していた。

 肉が増殖したり、徐々に再生していく訳ではなく、何もなかったかのように一瞬で元通りになる。何度見ても訳の分からない再生力だ。

 

 

「ぐじゅぐじゅ……ぷっ。よくやった、フェルン。今のゾルトラークは良かったよ」

 

「ンフフフフ!撃つのがあと数秒早ければちゃあんと『核』を撃ち抜けていたのですが!まあまだまだ時間はありますので、明日以降気長にやるのが宜しいかと」

 

「……あの、ドーマン様。先ほど胴体を吹き飛ばした時頭が落ちずに宙に浮いていたんですが」

 

「なんと?不思議な事もあるものですなぁ」

 

 

 まただ。

 フェルンも魔法使いの末席に座る者として、どうしてもドーマンの扱う魔法の詳細が気になる時がある。ですが、聞いてみてものらりくらりと躱されて、結局詳しい内容は分からないままなのだ。

 彼が頻繁に使用する『姿を隠す魔法』などであれば魔導書もどこかにあるのだろうが、『死んでも復活する魔法』なんてものは少なくとも現代には存在していない。だが実際、ドーマンは何度身体を吹き飛ばされても、身体を構成する核を撃ち抜かれない限り死なない……さながら魔族のように。

 そんな神の御業にも等しい魔法が現存していたら、教会なんて必要無くなってしまうだろう。

 

 そんなに凄い魔法がドーマンに扱えるなら、ご長寿仲間のフリーレンにも扱えるのではと最近思うようになっているのだが、生憎というか幸運なことにと言うべきか、フェルンはフリーレンが復活する場面を見たことが無い。だが確かに、目の前で吹き飛ばされたフリーレンが出来の悪い映画のフィルムのように復活するのを目の当りにしたらショックで数か月寝込む自信がある。うーん……やっぱり習得してないのかも?

 うん、たぶんそうだ。「ああいう魔法は趣味じゃないんだ」とか言ってそうな気がするし。

 

 というかそもそも、フリーレン様が死ぬような状況なんてイメージできません。一対一なら現代の魔法使いでは太刀打ちできないでしょうし。

 

 

「フリーレン様ってなんでこんな変な人と旅をしてるんでしょうか…」

 

「置いて行っても勝手についてくるんだよ…」

 

「ストーカーじゃないですか!?」

 

「ヒンメル達と会う前からそんな感じだからさ、もう慣れたよ」

 

「嫌な慣れですね…」

 

 

 



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4

 

 

 色々な集落や街を転々としていると、持ちきれないほど多くの荷物ができる事もある。主にフリーレンが原因なのだが。

 フリーレンの物欲は留まるところを知らない。二つ前に訪れた街では単眼巨人の頭蓋骨を。更にその一つ前では抱えきれないほど大量の魔導書とくれば、普段は……温厚なフェルンであっても怒らないほうが難しいだろう。

 道中必須となる食料の購入代金まで魔導書購入に充て始めた時は、何かやらかしたドーマンに向けるのと同じ目を向けていた。それ以降流石のフリーレンもちょっとは反省したのか、激しい物欲も鳴りを潜めている。

 

 今は。

 

 ……旅の荷物は少ない方が楽であると分かっているのに、旅行鞄にはできる限り沢山のモノを詰め込みたがるのが人間の性だ。

 因みに、フリーレン達が持ちきれなかった分の荷物はドーマンが保管してくれているのでとても安心。

 もちろんフリーレンは何か言いたそうな顔をしていた。していたのだが、『でしたらやっぱりお店に返してきますか?』とジト目で言われてしまったため引き下がるしか無かったのだ…

 

 そして、今は村を出発して半日ほど。朝の五時にフェルンとドーマンの二人がかりで優しく激しく叩き起こされた彼女にとって幸いなのは、冬季の朝にしては大分優しい寒さだった点だろう。

 

 

「そろそろ見えてくるはずなんだけど……お、見えたよフェルン。あれが次の拠点になる街だね」

 

「冬季なのに妙に賑わっていますね。お祭りの準備をしているのでしょうか?」

 

「…………うん。その……あの街の近くにはリーゼル渓谷っていうのがあるんだけど…」

 

「えっ?それってアイゼン様の住んでおられる場所では…」

 

「そうだよ」

 

「―――マズいですよフリーレン様!?アイゼン様のお誕生日プレゼント何も用意していません!」

 

「ふっふっふ。大丈夫、抜かりはないよ。この日のためにちゃんと用意しておいたんだからね」

 

 フリーレンはやけに自信満々な様子でそう言うが、フェルンは心配で落ち着かなかった。ああいう顔をしている時のフリーレンは大抵何かやらかすので、あまり信用できない。

 

 心配だ…

 

 

 

 

 

 

 

 設備や建物の新しさ、露天商の垂らす天幕の汚れ具合などを見るに、そもそもこの街は数年前まで無かったのではと感じた。

 事実、すれ違った町人に話を聞いてみると、この街はまだ出来てから十年も経っていないのだという。元々あった村を取り壊し再開発したのだとか。

 道行く人々は皆笑顔で、上水道がしっかりと整備されており、家の扉には鮮やかなリースが飾られている。人伝に聞くばかりの、聖都の華やかさにも劣らないだろう。

 お祭り前夜といった街の浮かれ具合に当てられて頬も自然と緩むというものだ。

 

 だがそれも無理はない。あと数日もすれば、この街を守る勇者一行の一人、戦士アイゼンの生誕祭が開かれるのだから。

 ……念の為、この生誕祭は決して本人が要望したものでは無く、『せっかく本人がいるのだから生誕祭を開けば儲かるに違いない』という商魂たくましい者と、ただ単に騒ぎたい者達によるお祭りである事は知っておいてほしい。

 

 宿を取ろうとしたらどこも観光客で一杯で泊まれなかったので、とりあえず先にアイゼンの所へ行くことになった。

 

 

「お、フリーレンか。事前に連絡した通りだな」

 

「フェルン達が朝ゆっくり寝かしてくれないからね……ここ数年は時間通りに起きてるよ…」

 

「そうか。フェルン、フリーレンの世話は大変だろう」

 

「どうしても起きない時はドーマン様も手伝ってくださいますし、今のところは大丈夫です」

 

「あ、はいこれ、お土産」

 

「ありがとう……何だこれは。薬か?」

 

「ふっふっふ。『服だけ溶かす薬』だよ。アイゼンってこういうの好きでしょ?―――あだっ」

 

「……あ、どうも。フリーレン殿がいつもお世話になっておりまする。こちらお土産の火酒と内陸部では滅多に食せぬ海鮮系のツマミですので、今度ハイター殿と会った時にでも…」

 

「おう。そうか。よく俺の前に顔を出せたな。あれだけ『臆病だから脅かすのを止めてくれ』と言ったのにお構いなしに夜襲撃を仕掛けてきやがって。おかげであの旅の間、俺はほとんど寝不足だったんだぞ」

 

「何をおっしゃいます!?ちゃんと加減したでしょう!?」

 

「そもそもするなと言っているんだ」

 

「ンフフフフ…」

 

「笑ってごまかせると思っているのか……まあいい。流石に魔王討伐直前には襲撃して来なかったからな―――それはそれで腹が立つな。フリーレン。少し席を外すぞ」

 

「ソソソ?厠ですかな?」

 

「お前も来い、ドーマン」

 

「ソソソソソ…」

 

 

 最後までいやいやと抵抗を続けていたドーマンだったが、見かねたフリーレンに杖で頭を小突かれ『ちゃんと反省しないとダメだよ』と言われると、遂に観念したのかアイゼンに首根っこ掴まれて引きずられ、扉の向こうへ消えていった。

 

 

「どうしましょうフリーレン様。ドーマン様が連行されちゃいましたよ」

 

「………………ま、多分悪いようにはならないと思うよ」

 

「―――?そうだと、いいのですが…」

 

 

 閉じた扉の向こうを見るフリーレンの眼差しは、心無しか先程より幾分冷ややかなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして戻ってきたドーマンは、見る方が痛くなりそうな位に顔を腫らしていた。音を置き去りにする速度で放たれた拳がドーマンの頬を的確にブチ抜いた結果である。

 

 

「まったく酷い目に合いましたぞ。ソソソソソ…」

 

「お疲れ様。薪と具材は用意しといたから、顔を治したら牛乳と卵取ってきて」

 

「容赦ないですねフリーレン様…」

 

「あ、ハイ」

 

「治るんですね…」

 

 



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