モンハンXXの術式を持って透き通る世界へ (麦茶130)
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二度目の転生
「中々に楽しめたぞ、俺をここまで追い詰めたのはお前が初めてだ。」
(……。ああ。俺は、負けたのか。)
男はそう思いながら自分の首が刎ねられてしまったことを感じ取る。
(呪力も残り僅か、あの宿儺でも反転術式はもう回せない。)
薄れゆく意識の中で視界の端に虎杖悠仁と日車寛見がこちらに来ている姿を捉え、男は今世と別れを告げる。
(
この瞬間に、五条悟の次鋒として投入された400年前最強の神童、一条龍弥は死亡した。
──はずだった。
「……は?」
確かに死亡した龍弥の前に広がっていた景色は一面の砂漠だった。
俺は元高校生の転生者だ。と言っても別に事故にあった訳じゃない。普通に寝て起きたら何故か呪術廻戦の江戸時代に転生していた。
そして俺には生得術式があった。モンハンに関する術式だ。分かりやすく言うと種類が多い十種+特定の物しか作れない構築術式って感じの。まあ本当はもっとあるし今の説明もちょっと違うんだけど。
それで俺の呪術廻戦での人生をザックリ説明すると、噂を聞きつけて襲いかかって来る術師や呪詛師を返り討ちにして、根が善の傾向がある人は仲間に引き入れて──って感じでやってたな。実力的には鹿紫雲って人が一番強かった。まあ俺の呪力特性と相性が悪すぎてそこまで苦戦はしなかったんだけど。根っからの戦闘狂で別に悪人でも無さそうだったので仲間にしたかったけど自滅技を使ってきたので叶わなかった。だが15歳の時に不治の病に罹ってしまった。長くても2年って医者に言われた時は絶望したよ。
でもそんな状況でも術師達はお構い無し。問答無用で自分に挑んで来る。病気のせいで少年とは思えないような重さの体に鞭打って無理矢理動いてんだけど、16歳になった時に頭に縫い目がある羂索が契約を持ちかけてきた。
俺としては自分の興味だけで周りの人間を不幸にするような奴は嫌いだから始末したかったんだけど、いつの間にか最強と呼ばれるようになっていた自分でも流石に今のコンディションでは羂索にはどう足掻いても勝てないので諦めて呪物化を受け入れた。いつかこいつと復活して大量の一般人を手にかけるであろう呪いの王を討つために。
そして現代にて受肉。何百年の間生得領域で過ごすのはいくらモンハンのフィールドとはいえ精神がどうにか成りそうだった。5億年ボタンとかあっても絶対に押さないね。死滅回遊ってのに参加することになって、一般人を襲ってポイントを稼ごうとするプレイヤーを狩ってたら秤という人と会った。呪術高専という所の人であったようで、どうやら俺は現代には慈悲深き術師として伝わっていたそう。なので高専の人達とすぐに協力関係を結ぶことに成功。
それで何やかんやあって現代最強の五条悟の封印を解き、五条悟と宿儺のタイマン。五条が勝ったかのように思われたけど、まさかの世界を断つとかいう斬撃を宿儺が習得し、五条悟がやられてしまった。そして次鋒として俺が投入。受肉体による変身で完全体になってきたので、俺も宿儺と同じように見てラーニングして世界を断つ斬撃をお見舞いしてやった。いやー、戦ってて楽しいと思ったのは初めてだったな。自滅覚悟の戦法で宿儺を骨とか内蔵がもろ見えるくらいまで追い込んだんだけど、まさかの方法で全快されて首を刎ねられた。
──説明終わり。
「んで……何処だ?ここ。」
龍弥は体を起こし、
「おいおい、マジか……。」
傷だらけの光輪を頭に浮かべる少女と、デカい蛇のような機械がいた。
「ここ、ブルアカかよ。」
なおすぐに原作知識無くす模様。
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無謀
(何百年もの記憶があるせいで断片的なことしか覚えていないが、俺の記憶が間違いでなければ恐らくあれはユメ先輩だ。)
龍弥は機械の蛇と相対している息も絶え絶えな傷だらけの少女の正体を凡そ推測する。
(今すぐ彼女を助けに行きたいけど……最悪だ。アイテムの貯蓄も調伏も全てリセットされてるし、呪力量も宿儺と戦った時に消費された分が適応されてる。)
龍弥の術式、「竜龍猟術」は一番最初に小型モンスター達が与えられ、そこからG1相当のモンスターの調伏から進めなければならない。
(今持ってる手札でユメ先輩を助けに行くには……こいつだな。)
「"アイルー"、来い。」
「お呼びかニャー?」
龍弥が唱えた呪詩に反応し、二匹のアイルーが空間の歪みから現れる。
「彼女を安全な所へ。」
「分かりましたニャー。」
龍弥の指示を聞いたアイルー達は、ユメの元へと四足歩行で向かう。
「さてと……俺も追わなきゃな──って、うわっ、汚っ。」
駆け出そうとした龍弥は自分が着ている和服に宿儺との戦いで血がべっとりと付いているのを確認して思わず口から感想が零れる。
(ま、今はそんなこと気にしてる暇はないな。)
すぐに邪魔な思考を振り切り、龍弥もアイルーの後を追って駆け出す。
「ごめんね……ホシノちゃん。私ここまでかも……。」
傷だらけの体で仰向けに力なく倒れていたユメは、喧嘩してしまった唯一の後輩に喧嘩別れになってしまいそうなことに謝罪の意を零す。
「─────……。」
目の前の巨大な機械の蛇が、死を告げるように静かに口元に光を収束させる。
"アツィルトの光"
ユメを葬るために口からレーザーが発射される。
「……っ!」
ユメはこれから来るであろう痛みに怯え、思わず目を瞑る。
「"リノプロス"。」
「……?」
ユメはいつまで経っても来ない痛みを不思議に思い、目を開ける。
「大丈夫?」
ユメに着弾するはずであった機械の蛇のレーザーは、突然間に入ったヤケにゴツい鎧を纏った人に防がれていた。
「チッ、一発しかもたねぇか……。」
目の前に割って入った人は舌打ちし、鎧を解除してその姿を顕にする。
「えっと……あなたは?」
「ん?ああ、俺は一条龍弥だ。──だが、自己紹介をしてる暇は無さそうだぞ?」
「─────!!」
突然の乱入者にレーザーを防がれたことで機械の蛇──ビナーは声を荒らげる。
「アイルー、頼んだ。」
「任せてくださいニャー。」
「猫……?」
ユメは、キヴォトスの人型のネコ市民とは少し異なるアイルーと呼ばれた二足で立つ猫の姿に困惑する。
「って……きゃっ!?」
二匹のアイルーはどこからともなく担架のような車輪のついた物を取り出し、そこにユメを持ち上げて乗せる。
「街の方へ。時間は俺が稼ぐから。」
「了解しましたニャー。」
「ダメ!あれは一人でどうにかなるようなものじゃないよ!?君ヘイローもないのに!」
「死なない程度にするから、安静にしとけ。」
ユメの必死な説得も虚しく、アイルーは担架を引き、街の方へと向かっていく。
「死なない程度にって言ったけど──死ぬな、これ。」
「……──────!!」
(やるしかねぇな……"あれ"で。不死の縛りで死んでも時間かければ生き返れるし。何とかなるでしょ。)
龍弥は、自身が死ぬかもしれない状況で非常に楽観的にビナーと相対していた。
恐らく次話は不死の縛りと邪眼の説明入ります。
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無自覚
(時間を稼ぐとしてもどうするべきかな……。)
現在の龍弥の手札は小型モンスターのみである。そして「竜龍猟術」では龍弥の脳が耐えられる3体までのモンスターを同時に顕現することが出来る。
(既に2枠はアイルーで使ったし……小型モンスターでは大したことは出来ない。)
「─────!!」
「どこ見てんだよ!」
ビナーはユメを追おうと動き始めるが、龍弥は呪力で強化した足で力強く踏ん張り高く飛び上がると、ビナーの側頭部を空中で体を捻りながら蹴る。
「チッ」
しかし、宿儺との戦いで消耗した分呪力の出力と精密操作性が落ちているのか、弾かれてしまった。
「─────……」
ビナーは地面に着地した龍弥に対し、口元に光を収束させレーザーを放とうとする。
(さて……リノプロスは破壊されてしまった……。あのレーザーを防げる小型モンスターの装備はもうない。どうしようか。)
先程ユメを守る時に使用した鎧の顕現。「竜龍猟術」はモンスターそのものの顕現だけでなく、身を守る装備としてモンスターを顕現させることも出来る。しかし、リノプロスは先程の一撃でダメになってしまった。破壊されたモンスターは12時間後に復活する。ここで龍弥が選んだ行動は
「いいよ、火力勝負といこうか。」
純粋な力比べ。
「"骸龍"、"怨嗟の慟哭"、"奈落の妖星"。」
龍弥は呪詩を唱え、一切の手順を省かずに
"アツィルトの光"
「"瘴龍"」
ビナーから極大のレーザーが照射され、ビナーに向けて開かれた龍弥の左手の手のひらからビナーのレーザーに勝るとも劣らない極大の赤黒いビームが放たれぶつかり合う。
「──────!!」
凄まじい砂埃が舞い、それが晴れると両者の姿が顕になる。結果としては、龍弥が押し合いに勝った。その証拠にビナーの顔が一部損壊している。しかし。
「ま、こうなるか。」
龍弥の
龍弥が行ったことは至極単純。縛りによる術式の借用である。自身の体の一部を差し出すことで生得術式の中にいるモンスターの術式を一度だけ借りることができる縛り。
かなり無茶な縛りであるが、それを可能にしているのが彼の持つ禁忌達の力が宿る邪眼である。邪眼は、五条悟の六眼と同じように術式とは別の外付けの要素で一種の特殊体質。故にXX系統のモンスターの力しか使用出来ない術式とは違い、XXにはいない煉黒龍グランミラオスの力も宿っている。そんな邪眼には術師の呪力量と呪力出力の底上げと、縛りや術式の解釈を広げてそれを実現する効果や、相手の呪力などのエネルギーの大まかな流れを見ることが出来る力、別の時空や時間にアクセスすることが出来る能力*1等が備わっている。不死の縛りもグランミラオスの不死の心臓を模倣して邪眼との縛りによって実現しているもの。
しかし、良い恩恵しか受けられない六眼と違い、邪眼は術師の反転術式を禁じ、呪力の精密操作を難化させ、強力な縛りには大きな犠牲を払わなければならないというデメリットがある。そのため、別の時空や時間へのアクセスや不死の縛りを実行すると、禁忌達に意識を乗っ取られたり善性を失ってしまうリスクがあるため迂闊に使用できない。また、呪力の精密操作の難化により術式を使用する際に呪詩の詠唱を省くことが許されない。
「そう来るか!」
ビナーは左手が欠損している龍弥の姿を確認し、押し切れると踏んだのか、巨体を使った体当たりをお見舞いしようとする。
(呪力で身体能力を強化すればこの体当たり自体は躱せるし、注意を引き続ければユメ先輩が安全な所へ行く時間は稼げる。そして安全な所へ避難出来たことを確認すれば俺も逃げればいい。)
ここで龍弥は真正面から態々ビナーの攻撃と張り合う必要はない。攻撃をいなし続ければいづれか自分も逃げるチャンスが出来る。しかし、彼は強者である。不治の病で体を侵されようと、隠居することはせず向かってくる術師や呪詛師は真正面から退け続けてきた。そして現代では、態々相性のいい裏梅ではなく宿儺を相手に選んだ。
何が言いたいか。それは彼が善性を持ちながら無自覚の戦闘狂であるということ。故に──
「それは雑魚の思考だ。」
かつて戦った雷神と同じように、真正面からの迎撃を選んだ。
龍弥「左手切り落とされるの痛くないか?まあ確かに痛いけど別に慣れてるから平気」※元一般高校生
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黒い閃光が散る音
てかアビドス3章公開されてから書けば良かったと後悔しております
龍弥の指示により、ユメを担架に乗せ街の方へと向かっていたアイルー達は、段々と住宅街に差し掛かる地点で一人の少女と遭遇する。
「ユメ先輩!?連絡付かなかったから心配したんですよ!一体どうしたんですかその傷!それにそのネコも!」
「ケホッ、ケホッ。ごめんね……ホシノちゃん。」
「その傷で起き上がったらいけません!安静にしないと……!」
「私はもう自分で歩けるから……。」
「とにかく今すぐ病院に──」
「それより、やってほしいことがあるの。」
「何ですか!?」
ユメはボロボロの体を起こし、担架から降りてホシノに告げる。
「私を逃がすためにヘイローが無い男の子が戦ってるの。あのままじゃあの子も助からない……!助けに行ってあげて!」
「ヘイローがない!?どうしてそんな人が砂漠に……!?兎に角、分かりました!先輩は頑張って自力で病院に行っててください!」
「気を付けてね……!ホシノちゃん……!」
「それなら僕が案内するニャー。」
「じゃあよろしくね!」
ホシノは愛銃を背中に背負い、アイルーの後を追って砂漠を全力で駆ける。
(私のせいだ……!私がユメ先輩にキツく当たったせいで……!私のせいで誰かが死ぬなんて、それだけは!)
龍弥はビナーの巨体を生かした突進を真正面から迎撃するために、腰を深く落として構えを取り、失った出力を補うために呪力を集中して練り上げる。呪力を練り上げると呪力が右拳を中心に赤黒く光り、稲妻のように滾り始めた。
(この感覚……多少はコントロールが戻ってきたな。)
龍弥の右拳から発せられている稲妻はまるで黒閃を思わせるが、その正体は彼の呪力特性により宿されている龍属性の力である。この龍属性の呪力は、彼に対する炎、水、雷、氷によるダメージを大幅にカットし、彼の呪力に蝕まれた者は炎、水、雷、氷のいずれかを使用する際に出力を大きく減少させられてしまう。
「───────!!」
「──……。」
ビナーが吠えながら向かってくる中、龍弥は静かに口角を吊り上げる。龍弥は宿儺との死闘に続いて、転生してすぐにビナーとの戦闘と戦い続きであり、疲労がかなり蓄積していた。だが、龍弥は純粋に戦闘を楽しんでおり、宿儺との戦闘を経てノリにノっていた。
──ビナーとの距離が5mに迫る。
(今なら、出せるかもな。)
龍弥にはある確信があった。
──ビナーとの距離が1mに迫る。
「喰らっとけ!」
龍弥は右拳を思いっきり突き出し、ビナーの顔面にお見舞いする。
呪力を用いた戦闘において、次のような現象が稀に起こることがある。打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み。
衝突の際はその名の通り、黒く光った呪力が稲妻の如く迸り、平均で通常時の2.5乗の威力となる。
その現象の名を──
「黒閃!!」
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