fragment de brouillard グリモア〜私立グリモワール魔法学園〜 (magenta0827)
しおりを挟む

転校生




ただ普通に友達と過ごして、恋をしたかっただけなのにーー






 

 

 

 ーー2015年9月27日 埼玉県風飛市中心街 第8次侵攻

 

 

 体が揺れる感覚で私は意識を取り戻した。

 次に襲ってきたのは口いっぱいに広がる鉄の味。

 

「あ……れ……」

 

 口の中のモノを吐き出す。

 赤色の液体が自分の口を伝って地面に落ちる音が聞こえる。

 

「(頭痛い…ボーってしてる…)」

 

 視界もボヤけてて耳もあんまり聴こえない……私、何してたんだっけ?

 しばらく何も考えずにしていると耳が徐々に戻ってきた。

 初めに聴こえてきたのは獰猛な獣みたいな叫び声、それに加えて重いものが地面に激突する轟音。

 地面に接している自分の体が激しく振動する。

 

「ぅ……!」

 そのおかげでか視界も徐々に戻ってくる。

 でも映った風景は悲惨なものだった。

 見慣れた街並みはビルだった瓦礫に埋もれてしまって見る影もなくなってしまっていた。

 その風景を見て色々思い出して頭がハッキリしてきた。

第8次侵攻ーー魔物ーー子供ーー

 あぁ…私は《私立グリモワール魔法学園》の《魔法使い》で戦ってて…それで…?

 

「(そうだ…私、子供を助けようとして……)」

 

 親とはぐれたのか…それとも死んだのか、立ち尽くして泣いていた子供。

 その子供を頭から潰そうと飛びかかる数メートルはあるグロテスクな形をした魔物の口。

 気づいた時には体が動いていて……

 

「(…あ、体が…嘘…)」

 

 子供の代わりに潰れた自分の体を動かそうとして気づいた。

 どうして足の感覚がないのかなって思っていたけどその答えは凄く単純だった。

 

「(…もう、陸上、できないや…)」

 

 薄れていく意識の中で見覚えのある姿が二つこっちに走り寄ってきた。

 

「…もか、しっかりしろ!会長が…武田先輩が間に合ったぞ!」

 

「(怜ちゃん…)」

 

「私たちは助かるんだ!」

 

 必死な顔で私に呼びかけてくる怜ちゃんに対して私は、せっかくの綺麗な顔と巫女風の戦闘服が傷と汚れで台無しだなぁ…なんて事を呑気に思ってた。

 

「ゆかり、早く!智花が!」

 

「(夏海ちゃん…)」

 

 いつも笑顔で元気な夏海ちゃんが私のために医療部隊に助けを求めてくれている。

 

「(やっぱり夏海ちゃんに泣き顔は似合わないよ…)」

 

「子供も無事だ!お前が助けたんだ!」

 

 怜ちゃんのその言葉に私は安心した。

 あの子に襲いかかろうとしていた魔物に咄嗟に魔法を放ってからあの子がどうなったかわからなかったから。

 ブチって音がした。

 無個性な自分に少しでも特徴を、って思って幼い頃から髪に結んでたオレンジ色のリボンが千切れて自分の前に落ちた。

 明るいオレンジが赤黒く染まっていくのを見て改めて強く感じる。

 

 ……あぁ、私死ぬんだ…。

 

「(…ごめんね、足引っ張ってばっかりで)」

 

 友達に対して最期に思うのが謝罪だなんて……自分が情けなくて泣きそうになる。

 視界がボヤけて暗くなっていく。

 

「生き延びれば別の学園に編入できる…卒業するんだ、智花!」

 

 叫んでいる怜ちゃんの声が小さくなった気がする。

 

「(もっと訓練、ちゃんとしておけば…)」

 

「死ぬな!」

 

「(それとも、もっと…なにかしていれば?)」

 

 怜ちゃんと夏海ちゃんと初めて会った時、先輩と一緒に初めて魔物と戦った時、陸上部でみんなと一生懸命練習を頑張った時……。

 色んな思い出が頭の中を巡っていく。

 これが走馬灯なんだ……あ、そういえば…。

 

「(好きな人も、結局…いなかったなぁ…)」

 

 仲の良い両親を見て育ったからか私は恋に憧れてた……でも、できなかった。

 気がついた時には恋なんて言ってられないくらい戦いに身を置いていた。

 

「(もしやり直せたら、もし…かして……)」

 

 なんて都合のいい事を祈りながら私の意識は朦朧としていく。

 今際の際、怜ちゃんと夏海ちゃんの奥に白い髪の男の子が見えた気がした。

 

 ーー私、《南智花》の人生はそこで終わりました。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 ーー2014年8月14日 南智花の部屋

 

 

 目覚まし時計を止めて私は上半身を起こす。

 ……ちゃんと寝たはずなのに体が重い気がする。

 

「??????…な、なんだろう。今の夢…」

 

 イヤにリアルでまるで他人の記憶をそのまま見たような……あれ?どんな内容だったっけ…?そもそも今のは……

 

「………夢………?」

 

 ボーッとしていると枕元にあるデバイスの画面が間に入る。

 登校時間にはかなり余裕がある時間。

 このまま少し二度寝しちゃおうかなって思ってもう一度枕に頭を預けた所でデバイスの通知音が鳴った。

 

「…夏海ちゃん?」

 

 大切な友達からのメッセージがデバイスのロック画面に表示される。

 それを見て私は飛び起きる。

 

「今日…!新しい《転校生》の…!!?」

 

 今日入学してくる《転校生》の案内を頼まれてた事、そしてその準備でいつもより早く登校しないといけない事を思い出してパジャマから制服に慌てて着替える。

 

「もう…っ!なんで忘れてたんだろう…私のバカっ!」

 

 自分に悪態を吐きながら私は朝の身支度を急いで始めた。

 部屋を出る頃には奇妙な夢?らしきものの事なんてすっかり忘れてしまっていた。

 

「(男の子の転校生……少し緊張しちゃうなぁ)」

 

 なんて事を考えながら私は陸上で鍛えた脚を使って学園に向かっていった。

 

 

 

 

 

 ーー2014年8月14日 とある電車の中

 

「……?」

 

 ガタンガタン、と心地よく揺れる感覚で少年は目を覚ました。

 寝起きの頭で少年は周りを見回す。

 スーツを着て座り、ウトウトと船を漕いでいる20代後半ぐらいの男性、スマホをいじりながら立っている女子高生etc、etc……。

 少年は同じ車両に乗っている人達を見て自分が電車で移動していた事を思い出した。

 

「(変な夢だった気がする)」

 

 少年は頭を抱え、さっきまで見ていた奇妙な夢を思い出そうとしたが…。

 電車のアナウンスを知らせる電子音でハッとなる。

 車掌の鼻腔音による独特な高い声で次の駅が知らされる。

 

「次は〜風飛〜風飛です、右側の扉が開きます、ご注意下さい」

 

「(着いた…)」

 

 電車が止まり、ドアが開く。

 朝の7時を回ったばかりだというのに多くの人が外で待っていた。

 

「人多っ……」

 

 人の多さに少年はゲンナリしながらも風飛駅を歩いていく。

 朝だから余計に足音や人の会話がうるさくて仕方がない。

 

「(早く行こう…)」

 

 早歩きで駅の出口に向かい風飛の地に少年は足を踏み入れた。

 魔法学園があるという事もあり、少年が現在いる風飛の中心街は首都である東京と比べても遜色ないほど発展している。

 

「(あっつ……)」

 

 8月の半ば、ジリジリとした日差しが降り注いできてとても暑い。

 駅から降りて数分だというのに少年の額には汗が浮かんでいた。

 少年は目的のバス停を見つける。

 バス停には《私立グリモワール魔法学園》行きと書かれている。

 

「(そういえば…夢の内容忘れちゃったな…)」

 

「(まぁ、どうでもいいか…)」

 

 少年は溜息をつくとバスが来るまでベンチでボーッとしているのだった。

 

 

 

 

 

 ーー人間の天敵である《霧の魔物》が現れてから300年。

 人間を滅ぼさんとする魔物と人間の戦いは今もなお続いている。

 そんな戦いが続いている世界である日《魔法使い》として《覚醒》した1人の少年。

 しかし、彼は《魔法使い》ではあるものの戦う力はほとんどありません。

 これはそんな少年が魔物と残酷な現実に向き合い、世界を救うまでのお話です。

 

 

 

 

 

 







以下転校生君の設定です。
原作で描写された数少ない転校生君の特徴や雰囲気はなるべく取り入れているつもりです。


・名前
・あらすじの部分でも書いていますが名前は出さずにキャラ達からは《転校生》と呼ばれます。

・年齢
・メインヒロインさん(智花)と同じ高2

・クラス
・リリィ

・身長
・165センチ(身長が抑えめなのは転校生君はどうやらイケメンというより可愛い系の男の子っていう描写が原作で所々あるからです)

・外見
・サラサラしてて柔らかい茶髪に茶色の目をした中性的な細身の男の子(動物で例えると小犬みたいな感じ)
・パッと見で弱そうだと判断されるぐらいひ弱に見える。

・趣味
・昼寝
・風飛市をブラブラする(学園内でブラブラしてる事は有名になってる)

・性格
・常にボーッとしてるか眠そうと思われる無気力系。口数はどちらかといえば少ない。
口数に反比例して表情は豊かで表情から何を言いたいか察せられる。
嘘をついたり隠し事をするのが苦手(顔に出るので全部バレる)
人の頼みは断らないお人好し(やりたくない事でもよほどのことじゃない限り「まぁいいか」で納得する)
なんだかんだでなんでもできる器用貧乏。
恋愛には超鈍感(ソシャゲ主人公のお約束)
年上のお姉さんムーヴと年下に甘えられるのに弱い。

大体こんな感じでやっていきま〜〜す(多分転校生君はこんな感じだと思う)




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

初陣




ー初めてのクエストに出るあなた
 相手は危険な【霧の魔物】です
 どうかくれぐれもお気をつけてー






 

 

 

 《私立グリモワール魔法学園》ーー通称《グリモア》は日本の埼玉県風飛市にある魔法学園であり、世界に6つ魔法学園のうち、唯一の私立。

 少年が通う事になるこの学園は立地条件的に日本人が多くの割合を占めているが、他の学園からの留学生が多い。

 

 少年は風飛市の中心街からバスでこの学園に向かっていた。

 朝早い時間だからか少年以外にバスの乗客は居ない。

 初めはビルや整えられた街路樹などが立ち並ぶ都会の風景だったが、学園に近づけば近づくほど風景に緑豊かな自然のものが多くなっていく。

 

 バスに揺られる事約30分。

 整備が整った山道を走るバスの中で少年は流れていく木々をボーッと眺めていた。

 バスの心地良い揺れに少年の意識が徐々に夢の世界へと近づいていく。

 が、そんな少年の目を覚まさせる様に真夏の朝の日差しがバスの窓を貫いた。

 

「うっ…!」

 

 眩しくて少年の視界が眩む。

 眩んだ視界が戻るとバスの窓から古風な城の様な建物が見えた。

 

「(調べた通りだけど、全然日本らしくないな)」

 

 グリモアのヨーロッパ風の城の外見に関しては《初代学園長がヨーロッパのとある財閥の豪邸をそのまま移設した》という豪快な逸話が残っており、その血を引いている現学園長も齢100近い老人だが相当なやり手だという事が言われている。

 学園の前にあるバス停にバスが停まり、少年はバスを降りようと乗降口に近づく。

 

「君、見ない顔だね?」

 

「?」

 

 バスの運転手である人の良さそうなおばちゃんが少年に話しかける。

 

「ひょっとして新しく来た転校生かい?」

 

「はい、そうです」

 

「そうかい。魔法使いは女社会だからね。バカやる男友達は中々作りにくいだろうけど頑張るんだよ」

 

「…ありがとうございます。頑張ります」

 

 遠ざかっていくバスを見えなくなるまで見送ると少年はグリモアへと足を運んでいく。

 そうしてグリモアの正門に辿り着いた少年を出迎えたのは……

 

「私立グリモワール魔法学園にようこそ!君が噂の転校生だな、俺は進路指導官の兎ノ助だ。これからよろしくな」

 

 少年の目線の程の高さに浮かんでいる文字通りの喋る兎のぬいぐるみだった。

 

「……………は?」

 

 残っていた眠気が驚きで吹き飛んだ少年はそう言うのが精一杯だった。

 いや、それよりーー

 

「進路指導官…?先生ってこと?」

 

「ん?おおよ!女生徒達のお父さんと呼ばれてる兎ノ助とは俺のことよ!」

 

「(お父さん…?)」

 

 信じられないがどうやら目の前に浮かんでいる兎のぬいぐるみは学園の教師であるらしい。

 それにしても可愛らしい白い兎の見た目に対して低くてダンディーなイケボが相反していて違和感が凄い。

 

「さて、まずは生徒会室に案内したいんだが…智花のやつ遅いな…なんかあったのか?悪いな転校生、ちょっと待っててくれ」

 

 兎ノ助の言葉に少年ーー《転校生》は頷くと正門を抜けてすぐにある噴水の前にあるベンチに腰を下ろしてボーッと空を眺める。

 

「(なんか、ボーッとしてて眠そうなヤツだな…大丈夫か?)」

 

「…ちょっと聞いていい?」

 

「ん?なんだ、転校生」

 

「ぬいぐるみ?それともロボットかなにかなの?」

 

 転校生が兎ノ助について大雑把に質問する。

 魔法が当たり前に浸透しているこの世界でも《喋るぬいぐるみ》のインパクトは大きいのだ。

 

「俺か?俺は昔死んだ魔法使いの人格を移植された機械だ」

 

「……はぃぃ?」

 

 兎ノ助のあまりにSFじみた解答に転校生の口から間抜けな声がでる。

 

「そんな古臭い漫画じゃあるまいし……」

 

「って、俺もそう思うんだけど俺がここに居るのは事実だしなぁ…50年はここで進路指導官してるし」

 

「ごじゅう…!?(全然大人っぽくないな…)」

 

 転校生が兎ノ助に対して失礼な事を思っていると2人の後ろから駆け寄って来てるであろう足音が聞こえてくる。

 

「はぁっ…はぁっ…!兎ノ助さーん!!」

 

「ん…おっ、智花!案内役なのに遅れるなよな!」

 

 オレンジ色の大きなリボンが特徴的な女の子が息を切らしながらやって来た。

 グリモアの特徴的ともいえる青を基調とした軍服の様な制服を着ていることから生徒の1人なのだろう。

 

「す、すいません。その…クエストが発令されちゃって」

 

「え?マジで?」

 

「はい。今から魔物退治に行かないといけないんですが…」

 

 魔物退治という言葉に眠そうな表情でボーッとしていた転校生の表情が真面目なものに変わる。

 

「ふーん。ちょうどいいや。クエスト案内がてら、転校生も連れてけよ」

 

「ええっ!?そんな、危険ですよ!まだ魔法の使い方を知らないのに…」

 

「まぁまぁ。そんな強い魔物じゃないんだろ?」

 

「はぁ、えっと…だ、大丈夫なんですか?」

 

「遠くから見てるだけでもいい。クエスト行くのは早い方がいいからな。それに……」

 

 兎ノ助が転校生の方に顔を向ける。

 それに対して転校生は「ん?」と首を傾げる。

 

「智花も聞いてるだろ?コイツの体質。魔法が使えるとかは気にしなくて大丈夫だ」

 

「う、うぅ……わかりました」

 

「よし……転校生!」

 

「?」

 

 咳払い(どう見てもぬいぐるみなのにどうやって咳をするのかは謎)をして兎ノ助は話し出す。

 

「君の魔法使いとしての人生はここから始まる!頑張れよ!応援してるぜ!」

 

「うん。ありがとう、出来る限り頑張るよ」

 

「そ、それじゃあ行きましょうか!」

 

 兎ノ助に見送られながら智花と転校生の2人はグリモアを背にして歩き出す。

 

「あ、そうそう…!転校生さん!」

 

「ん?」

 

「私立グリモワール魔法学園にようこそ!よろしくお願いしますね!」

 

「うん。こっちこそよろしく智花」

 

 屈託のない笑顔で手を差し出した智花とそれにつられて口元に笑みを浮かべた転校生は握手を交わした。

 

 

 

 

 

「えーっ、コホン!……本当ならわたしが学園のするはずだったんですが、ちょっと順番が変わっちゃって…すみません、いきなりクエストになっちゃいました。クエストは独特な授業なので、行きながら説明しますね」

 

「うん。お願いします」

 

「でも出発する前に、クエストは受注する必要があります。

手順を案内するので、デバイスを出してもらえますか?」

 

「デバイス……?」

 

「…あ、デバイスって要するにケータイのことで…」

 

「僕、そんなの貰ってないけど…」

 

「え?ま、まだ支給されてないんですか!?」

 

「うん」

 

「デバイスが無いとクエストを受注することができないんです。どうしよう…」

 

 智花がアワアワと、転校生が立ちながらウトウトしていると2人の後ろから近づく人が。

 

「南さん。彼のデバイスを持ってきたわ」

 

「あっ、宍戸さん!」

 

 制服のシャツの上から羽織っている白衣と眼鏡に耳に付けているインカムが特徴的な女子生徒が2人に話しかけてきた。

 その女子生徒は好奇心を宿した目で転校生の顔を見つめる。

 

「あなたが転校生ね」

 

「うん。そうだよ」

 

「開発局の宍戸結希よ。兎ノ助からクエストに出ると聞いて、持ってきたの。はい」

 

 結希が転校生にデバイスを手渡す。

 デバイスの外見自体は背面にグリモアの校章が描かれている事以外は普通のスマートフォンと変わらない。

 転校生がデバイスの電源を入れるとーー

 

「おおっ…!」

 

 3Dホログラム映像で現在地付近の地図らしきものがデバイスから浮かび上がる。

 デバイスを新しい玩具を手に入れた子供の様に触っている転校生に結希は警告する。

 

「高価なものだから無くさないように注意して。…無尽蔵の魔力、興味深いわ。お願いだから、間違っても…最初のクエストで、死んだりしないでね」

 

「……わかった。気をつけるよ」

 

 転校生の返答を聞くと結希は踵を返して戻って行った。

 

「…あ、あはは…だ、大丈夫ですよ! クエストはわたしたちの力量に合うようになってるんで…さ、さぁ、行きましょう!」

 

 転校生が頷くと2人は改めて魔物討伐へ向かうために歩き出した

 

 

 

 

 

 2人は並んで歩いてグリモアの駐車場へと向かっていた。

 グリモアは軍隊でもあるため、駐車場には魔物討伐へと向かう学園生達を運ぶ為の車両が停めてある。

 

「(広いな……無駄に)」

 

 転校生が心の中でボヤく。

 グリモアの生徒数は約250人と平均的な学校と比較すると少なく、そしてグリモアの敷地はその少ない生徒数とは真逆でかなり広大で兎に角だだっ広い。

 ヨーロッパ風の外見の建物も相まって異国にやって来た気分になる。

 2人が駐車場に着くと車両と運転手が2人を待っていた。

 トラックの様な形をした軍用車両に乗り込み、約15分ほど揺られる。

 グリモアからさほど遠く離れていない山奥。

 そこで2人は車両から降りる。

 

「着きましたよ!転校生さん!」

 

「うん」

 

 2人が降りたのを確認すると車両はグリモア方面へと戻って行く。

 魔物がいるからだろうか?8月の半ばの山奥は蝉を始めとする虫達や動物が騒いでいる筈なのにそれらの生き物の気配が薄い。

 時折、蚊が目の前を通り過ぎては行くが。

 

「(鬱陶しい…!)」

 

 転校生が蚊と格闘している横で智花がデバイスを操作する。

 智花が何度かデバイスの画面をタッチすると、智花の制服が緑色の粒子に変わっていく。

 制服《だった》粒子は制服とは違う形へと変わっていき、最終的にはピンク色のワンピース風の服装になった。

 

「おお〜〜……」

 

「転校生さんも変身してみて下さい!あ、操作はですね……」

 

 智花の指示通りに転校生もデバイスを操作していく。

 そして、転校生の制服も形を変えていく。

 変わった自分の服装を見た転校生と智花の感想はーー

 

「……この季節には合ってないね」

 

「あ、あはは…確かに…暑そうです」

 

 変身した転校生の服装は黒のロングコートにズボンにブーツ。

 更にダメ押しにグローブと、とにかく黒い。

 真夏という今の季節に全く適していない服装である。

 

「(だけど格好の割には不思議と暑くないな……)」

 

 魔法学園の制服が特別性なのは有名な話だが、ここまで摩訶不思議なものだとは…と転校生は関心する。

 

「じゃあ、行きましょうか。今回の討伐対象はミノタウロスです!」

 

「うん。わかった(ミノタウロス…?気持ち悪い見た目してるんだろうな…)」

 

 神話で語られるミノタウロスの姿を想像して今から相対するであろう魔物の見た目を想像しながら転校生は智花の後ろを着いて行った。

 

 

 

 そんな2人を上空から小型のドローンが追跡していた。

 そのドローンを通してグリモアにある自分の研究室から結希は2人をモニターしている。

 

「貴方の体質、見せてもらうわ転校生君」

 

 普段、あまり感情を出さない天才の目は珍しく好奇心という名の光で輝いていた。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。