ご注文は楽しい日々ですか? (楠富 つかさ)
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一品目 ~プロローグのココア仕立て~

Side ココア

 

私、保登心愛はもうすぐ高校生になる15歳。今は進学先の高校がある街で、下宿先を探しつつ散策しています。

木組みの家と石畳の町並みがお洒落で、歩いていてもとっても楽しいのですが……、迷子かもしれないです……。香風さんというお宅に下宿するのですが……どこにあるんだろう? そんな中、私の目に留まった一軒の喫茶店。その看板にはコーヒーカップとウサギがモチーフになっていて、店名は

 

『rbbit house』

 

だそうです。ウサギ。きっと中にはウサギがいる!! せっかくだから、ちょっと休んでいこうかな。重厚感ある趣のドアを開けると、カランカランというベルの音がお迎えしてくれる。

 

「うっさぎ~うっさぎ~♪」

 

ウサギをモフモフしながらコーヒーが飲む。想像しただけでも笑顔になっちゃうよ。楽しみだな~。ウサギの歌を口ずさみながら、店内へ。

 

「いらっしゃいませ」

 

そう言って出迎えてくれたのは中学生くらいの小柄な女の子。お店の制服であろう青の格好が、髪の色ともマッチしていて、すごく可愛い。それと、その女の子の頭に乗っている白い毛玉。なんだろう、アレ? ていうか、ウサギ。ウサギがいない!!

 

「あの、どうかされましたか……?」

 

もしかしたら隠れているのかもと思って辺りを見回していると、女の子が戸惑いながら質問してきた。だから素直に聞いてみた。

 

「ウサギがいない!?」

「………(なんだ…この客)」

 

女の子は凄く怪訝な目をこっちに向けています。これがいわゆるジト目というものでしょう。それはさておき、やっぱりあの白いもじゃもじゃが気になるのです。

 

「……もじゃもじゃ」

「……は?」

「あ、いや、その……」

 

 あ! 声に出てた!?

 

「これですか? これはティッピーです。一応うさぎです」

えっ!? その白いもじゃもじゃが、ウサギさんなの!? だって耳は短いし、それにまん丸な体だし。あ~でも、モフモフしたら気持ち良さそう。そう、モフモフできるんだったら、どんな動物も大歓迎だよ!

一先ず落ち着いて、席に座った私に女の子が聞いてくる。

 

「ご注文は」

「そのウサギさんで!」

「非売品です」

 

切り返しがあまりに早かった。でも、負けられないよ!!

 

「……せ、せめてモフモフさせて!」

 

勢いよく椅子から立ち上がってお願いすると。

 

「コーヒー1杯で1回です」

「じゃあ3杯でっ!!」

「……かしこまりました」

 

待つことおよそ数分。私の目の前には注文した3杯のコーヒーが置かれている。さて、せっかく頼んだんだもの、しっかり味も満喫しないとね! シンプルなデザインのカップを口元へ。いい香りが鼻腔をくすぐって、ちょっと幸せ。

 

「この上品な香り! これがブルーマウンテンかー」

「いいえコロンビアです」

 

 ……あれぇ? ま、まぁ気を取り直して2杯目を頂こう…。

「この酸味……キリマンジャロだね」

「それがブルーマウンテンです」

 

 そ、そんなぁ…。 こ、今度こそ。最後だし、きっと当たるよ!

「安心する味! これインスタントの……」

「うちのオリジナルブレンドです」

 

 ……ご、ごめんなさい。まぁ、“兎”にも角にも。お、上手いこと言っちゃったかも! ティッピーと呼ばれていたウサギさんをモフモフする権利をもらったので、私は早速ウサギさんを抱っこしてみた。凄い……温かさともじゃもじゃの奥のふわふわ。モフモフのし甲斐があるね!

 

「はぁ~もふもふ気持ちいい~。いけないよだれが……」

「のおおおおお!」

 

 ……のおおおおお?

 

「……今このウサギ叫ばなかった?」

「気のせいです」

 

 おかしいなあ、でも今はモフモフすることが最優先!

 

「それにしてもこの感触癖になるなあ」

「ええぃ早く放せ小娘が!」

 

 ……小娘? 今絶対に小娘って言ったよ!

 

「何かこの子にダンディな声で拒絶されたんけど」

「私の腹話術です」

「腹話術!?」

「そんなことより早くコーヒー全部飲んで下さい」

 

そっかぁ、腹話術かぁ……。でも確かに喋ったような気がするんだけどなぁ……。まぁ、いいか。それより、道を聞いた方がいいよね。

 

「私ね、春からこの町の高校に通うの」

「はあ」

「でも下宿先を探してたら迷子になっちゃって…。香風さんちってこの近くのはずなんだけど知ってる?」

 

窓の外から視線を女の子へ戻す。すると、女の子は目をまんまるにしてこっちを見ていた。え? 私、何か変なこと言ったかな?

 

「……うちです」

「……え?」

「だからうちです。うちが香風です」

「えっ!?」

 

ま、まさかそんなことがあるなんて! たまたま立ち寄ったこのお店がそうだったなんて!!

 

「凄い! これは偶然を通り越して運命だよ!」

「…………(いきなり運命感じられた…)」

 

かくして私は無事に下宿先に辿り着くことが出来たのです! ふぅ、良かったよぉ。

 

「私はチノです。ここのマスターの孫です」

「私はココアだよ。よろしくね、チノちゃん」

 

チノちゃんかぁ、可愛い子だなあ。おっと大切なことを伝えてなかったや。

 

「あと高校の方針でね、下宿させて頂く代わりに、その家でご奉仕しろって言われてるんだよ」

「うちで働くということですね」

 

喫茶店ってどんな仕事するんだろう? やっぱりコーヒーを淹れたりするのかなぁ。接客もいいよね。そんな感じでいろいろと考えていたら、

 

「といっても家事は私一人で何とかなってますし、お店も十分人手が足りてますので……何もしなくて結構です」

 

いきなりいらない子宣言されちゃった…。衝撃的!! 食い下がったり泣き付いたりした挙句、なんとか落ち着いて、ここのマスターに話をしなければならないと思い至った。

 

「そうだ、ここのマスターさんはどこ? ご挨拶しておきたいんだけど……」

「祖父は去年……」

 

少しトーンの下がったチノちゃんの声。あっ、もしかしてお爺さん亡くなって…。私ったらすごく空気を読めない発言を…。じゃあ、もしかして…。

 

「そっか、今はチノちゃん一人で切り盛りしてるんだね…」

 

私より年下なのにしっかりして!

 

「いえ、父もいますし、バイトの方も2人いて…」

 

チノちゃんが何か言っているけど、きっと本当は寂しいんだ。だから! 私はチノちゃんのお姉ちゃんにならなきゃ! 思い切りチノちゃんを抱き寄せる。少しコーヒーの香りが漂ってくる。

 

「私を姉だと思って何でも言って!」

「あ、あの……」

「だからお姉ちゃんって呼ん」

「じゃあココアさん。早速働いてください」



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二品目 ~オリ主登場のポタージュ添え~

Side アンジュ

 

わたしの名前は今保田(こんほだ)杏樹(あんじゅ)。喫茶ラビットハウスでバイトを始めて半年くらい経つ16歳。目の前には同期で同い年のリゼちゃん。着替えの真っ最中かつ同性の前だからと、下着姿でそのしなやかな体躯を晒している。リゼちゃんを一目見て思うのはセクシーだということだろう。私も胸の大きさならそこまで負けていないと思うのだが、身長が10センチも違うと色気がでないのだ。それに、リゼちゃんの髪の艶はすごい。どんなお手入れしているんだろう。大人びた表情とツインテールの幼さがギャップで可愛い。

 

「アンジュ、どうした? そんなじろじろと見て」

「たまにはいいかなって思ってね」

「むぅ。私としてはアンジュの方が女の子らしくて羨ましいのだがな……と、何かくる。隠れるぞ」

 

突如、何者かの気配を察知したらしいリゼちゃんにクローゼットに連れ込まれる。流石に二人だと狭いが、リゼちゃんにぐっと抱き寄せられて、なんとか納まっている。この体勢…点身長差のせいでわたしの頭がリゼちゃんの胸に押し付けられている! 鼻血が出そうで心配だ。

 

「いい匂いと柔らかさ……むふふ」

「ん! くすぐったいから止せ。というか、息を殺していろ。……来た」

「制服持ってきますね」

「わ~い、制服着れるんだ♪」

 

誰かの声がした気がするが、リゼちゃんの心音でイマイチ聞えない。

 

「ロッカーから感じる。まさかドロボー!!」

 

更衣室にいる誰かがロッカーの扉を思い切り開ける。リゼちゃん一色の視界に少しだけ光が差し込む。

 

「下着姿のドロボーさん?」

「完全に気配を消したつもりなのに……。アンジュ、お前のせいか? そして、お前は誰だ?」

 

あ、ジャキって音が聞えた。アレを構えた音だね。と、思いつつ左腕でギュッと抱き寄せられたわたしの呼吸がそろそろ厳しい。

 

「えっと! その、ココアです! あと私、そういうの嫌いじゃないです!」

「どういうのだ? って、アンジュ、しっかりしろ!」

「あ、リゼちゃん……さっきね、真っ白な百合のお花畑がね……」

「何かあったんですか?」

 

あ、チノちゃんだぁ。

 

「チノちゃん! 強盗が女の子を人質に!」

「ち、違う! お前も何か言ってやってくれ! だって、知らない気配がしたら隠れるのは普通だろ!」

「じゃあその銃は何!?」

 

ん……ん。やっと頭がクリアになってきたよ。

 

「私は父が軍人で、小さい頃から護身術というか、いろいろ仕込まれているだけで、普通の女子高生だから安心しろ!」

 

【ろこどる】でもやるのかな? 似合うかも。

 

「説得力ないよ!?」

「取り敢えず、三人とも着替えてください。着たらホールに来てくださいね」

 

そう言ってチノちゃんは更衣室を出て行ってしまった。まぁ、お客さんがきたら開店休業状態だからね。仕方ないか。

 

「えっと、わたしは今保田杏樹っていうの。よろしくね」

「天々座理世、リゼで構わん」

「えっと、保登心愛です。ココアって呼んでくださいね!」

 

自己紹介を簡単に済ませ、制服に袖を通す。ココアちゃんはピンクの制服を着るようだ。わたしの制服がライトブラウン、リゼちゃんは青紫だ。着替えたわたし達はチノちゃんに言われた通りすぐホールへ向かう。

 

「じゃあ早速、そこにある荷物をキッチンへ運んでください」

 

チノちゃんが指差した先にあるダンボール箱。

 

「ココアちゃん。そっち手伝うよ。リゼちゃんなら持って行けるけど、普通は持ち上げるのが精一杯だから」

「私を何だと思っている!?」

「軍人の娘」

 

事実を告げるとリゼちゃんは黙って仕事へ戻ってしまった。むぅ、ダメだったようだ。

先に二つ持って行ったリゼちゃんがココアちゃんにメニューを覚えるように言っている。

 

「コーヒーの種類が多くて難しいねー」

「私は一日で暗記したぞ。訓練してるからな」

「すごい!」

「わたしも一週間くらいで覚えたかなぁ。大丈夫だって」

「まぁ、チノなんか香りだけでコーヒーの銘柄当てられるし」

「私より大人っぽい!!」

「ただ、ミルクと砂糖が必要なのよね?」

「あ、アンジュさん!!」

「あっ、なんか今日一番安心したー」

 

笑いに包まれる店内。まぁ、お客さんがいないけど。ん、あまりに暇だからチノちゃんがアレを取り出したや。

 

「チノちゃん何してるの?」

「宿題です。空いた時間にこっそりやってます」

 

ココアちゃんが問題をそっと覗くと、

 

「あ、その答えは128で、その隣は367だよ」

 

すごくすらすら解いていくなぁ。

 

「例えば、430円のブレンドコーヒーを29杯頼んだらいくらになる?」

 

リゼちゃんが問題を出した。えっと、430を30倍して430引けば――

 

「12470円だよ」

 

早い!! 凄いなぁ。

 

「私も何か 特技があったらなー」

「………(こいつ…バカそうに見えて意外な特技を…)」

「リゼちゃん、今とても失礼な感想を抱いたでしょ? わたしも全面的に同意だけど」

 

そんな感じで、ラビットハウスに新しい女の子がやってきました。




ごちうさは芳文社のコミックなので、一迅社のコミックのネタを使っていこうかなと思っています。でも、やっぱりきらら系のネタに走ったら笑ってやってください。きっとお客として混ざることでしょう。


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三品目 ~ココアの初仕事 三人称仕立て~

サブタイを決めるのが何気に難しい。
サブタイといえば、原作二話(アニメは羽、マンガは話で表記)のサブタイネタを今回仕込みました。わかるよね?


カランカラ~ン♪ お客さんの来店を知らせるベルが鳴る。

 

「いらっしゃいませー♪」

「あら、新人さん?」

 

来店してきた女性がココアに話し掛ける。

 

「はい。今日から働かせて頂くココアっていいます」

 

ココアが女性を席へ案内するのを見て、ココアの対人スキルに三人も感心していた。

 

「ふーん、ちゃんと接客できてるじゃないか」

「心配ないみたいですね」

「やったー! 私ちゃんと注文取れたよー!」

「あー」

「えらいえらいです」

「二人とも棒読み…!」

 

アンジュが何とも言えない表情を浮かべている中、ココアは思い出したようにチノに尋ねた。

 

「このお店の名前、ラビットハウスでしょ? ウサ耳つけないの?」

 

両手でウサ耳を表現しながら訊くココアにチノはジト目を向けながら答える。

 

「ウサ耳なんてつけたら違うお店になってしまいます」

「……(フルール・ド・ラパンはどうなるの?)」

 

誰にも聞けない疑問を心の奥に仕舞ったアンジュは、リゼの方を向いて大きく頷く。

 

「リゼちゃんとかウサ耳似合いそうだよね!」

「そんなもんつけるかバカ!」

 

そう言ってからリゼの頬が紅潮する。

 

「露出度高すぎだろ!」

「ウサ耳の話しかしてないのに!」

「リゼちゃん……バニーガールを思い浮かべていたでしょ?」

 

アンジュに図星を突かれて困惑顔のリゼにお構いなしで、ココアは質問をさらにぶつける。

 

「じゃあなんでラビットハウスなのでありますか! サー!」

 

着替える時にリゼが言った「上官に口を利くときは、言葉の最後にサーをつけろ」を忠実に守るココアに、リゼは普通に答える。

 

「そりゃティッピーがこの店のマスコットだからだろう?」

「うーんでもティッピーうさぎっぽくないよ。もふもふだし」

 

チノの頭の上にいるティッピーを撫でながら、ココアは言う。それを聞いてモカが尋ねる。

 

「じゃあどんな店名がいいの?」

「ズバリもふもふ喫茶」

「そりゃ、まんますぎるだろう」

 

そう素早くつっこんだリゼだったが、チノの方は……

 

「もふもふ喫茶…」

「気に入った!?」

 

珍しい程に目を輝かせるチノに、これまた珍しくアンジュがつっこんだ。そうして暫らく働いていると、お客さんの少ない時間帯となり少々暇が生まれてきた。その時、リゼがココアに声をかける。

 

「よしココア、ラテアートやってみるか?」

「らてあーと?」

 

頭に?を浮かべるココアにアンジュが補足で説明する。

 

「カフェラテにミルクの泡で絵を描くんだよ。この店ではサービスでやっているんだぁ」

 

すると笑顔を弾けさせてココアは自慢げに言う。

 

「あっ絵なら任せて! これでも金賞もらったことあるんだ」

 

そこにすかさずリゼが釘を刺す。

 

「町内会の小学生低学年の部とかいうのはナシな」

 

固まるココアにアンジュが、

 

「大丈夫だよ、すぐに上達するもん。ラテアートは」

 

フォローを入れて固まったココアを元に戻す。その間、リゼはお手本のラテアートを作り、チノは先ほど来店したお客さんの相手をしている。

 

「まぁ手本としてはこんな感じに……」

 

リゼがココアに見せたラテアートは定番の一つ、リーフだ。最初にミルクを少し高い位置から流し、その後口に沿えてジグザグに流し込み、仕上げに切るように真っ直ぐ流し込む。最後の真っ直ぐに流し込むミルクの量にさえ気をつければ、比較的簡単にできる。

 

「わ! すごく上手い!」

 

それを知らないココアは大はしゃぎでリゼを褒める。褒めまくる。

 

「そ、そんなに上手いか?」

「すごいよー。リゼちゃんって絵上手いんだね! ね、もう1個作って」

 

ココアがそうやってせがむと。

 

「あ、ココアちゃん。リゼちゃんをおだてると……」

 

アンジュがちょっとだけ困ったような表情を浮かべると、ココアもその理由をすぐに察した。

 

「そんなしょ、しょうがないな!! やり方もちゃんと覚えろよ!! 全くそんな上手くないって私なんか!」

 

そんなことを言いながら生まれたラテアート、それは……

 

「いや‥上手いってレベルじゃないよ。ていうか、人間業じゃないよ……」

 

砲身から煙を吐き出している勇ましい戦車の姿。単純に戦車がすごい上に、その迷彩柄が何よりも細かい。そんなお手本と言い難いラテアートを見た後じゃあ可哀想だと、アンジュがリーフ以外のシンプルなラテアートを披露する

 

「アンジュちゃんすごいよ!」

「えへへぇ。さぁ、ココアちゃんもやってみよー」

 

アンジュに促され、ココアもラテアートに挑戦し始めた。

 

「よーし、私もやってみるよ!」

「がんばれー」

「気楽にだよぉ」

 

リゼとアンジュの声援を聞きながら少しずつミルクを垂らすココア。ピックも使いながら絵を描いている。一方のチノは先ほどのお客さんの会計を済ませている。

 

「う……。なんか難しい……。イメージと違う」

 

完成はしたものの、満足のいく仕上がりではなかったらしい。

 

「どれ見せてみ……」

「お、ウサギさんだぁ」

 

そこには、少し困った顔をしたようなウサギの絵が描かれていた。

 

「……(か、かわいい!)」

「笑われてる!?」

「……(ココアちゃんったら、気付かないかなぁ。今のリゼちゃん、すごく嬉しそうな顔をしているのに)」

 

ちょっとした勘違いを起こしたココアは、そのままカップを下げるチノにもラテアートを作るように言う。

 

「もー! チノちゃんも描いてみて!」

「私もですか?」

 

そう言いつつ仕度をするチノを見ながら、リゼはモカに耳打ちする。

 

「あれ、確かチノの描くラテアートって……」

「えっと、一億円出すって言ったお爺さんがいたよね。追い払ったけど」

 

そんな会話を知らないココアは二人に笑顔を向ける。

 

「どんなのができるか楽しみだね

「できました」

 

持ってこられて作品はなんとも前衛的な仕上がりで……。

 

「こ‥これは……。チノちゃんも仲間ー!」

「仲間?」

 

見ようによっては下手とも言えるチノの絵にココアは仲間宣言を下し、それにチノは?を浮かべていた。

 

「ち、ちがうぞ。ココア、こういう絵は私たちのと一緒にしちゃ…」

 

説明をしようとしたリゼだが、困難だと気付き結局諦めた。

 

 

 

それからまた暫らく経ち、

 

「じゃあ今日はそろそろ閉めましょう」

 

喫茶ラビットハウスの閉店時間となった。

 

「おつかれさまー♪」

「おつかれー」

「おつかれぇ」

 

四人は更衣室に移動し、着替え始める。そこでリゼがココアに尋ねる。

 

「ココアは今日からこの家で寝泊まりするんだな」

 

「うん。そうだよー。チノちゃん。今日の夕飯、一緒に作ろうね」

 

ブラウスの袖から腕を抜きながら、チノに言うココアだが、

 

「一人でも出来ますよ」

 

そっけない返事をされてしまった。一方のリゼはそんな二人を見て、

 

「……(え…なにそれ…楽しそう)」

「リゼちゃん。はやく着替えてよぉ。帰れないでしょ?」

 

羨ましそうに固まっていた。そんなリゼにアンジュが着替えるよう促す。着替えおわり、リゼとアンジュを見送ったココアとチノ。ラビットハウスの住居部分へ移動したココアの耳に、渋い男声が届く。

 

「‥君がココア君か。よろしく」

 

現れたのは声の主、これまた渋い背の高い男性だ。

 

「こちら父です」

 

タカヒロと名乗ったチノ父にココアも挨拶する。

 

「お世話になります」

「‥チノと仲良くしてやってくれ」

 

そう言いながら店舗部分へ移動するタカヒロにティッピーも跳び移る。ここはウサギの面目躍如である。そんな一人と一匹にココアは首を傾げる。

 

「この喫茶店は夜になるとバーになるんです。父はそのマスターです」

 

その理由をなんとなく察したチノが説明すると、ココアは納得したように言うのだった。

 

「へぇ‥…そうなんだ。なんか、裏世界の情報提供してそうでかっこいいね」

「何の話です?」

 

当然、チノには何のことだかさっぱりだった。




雑談。この前、ここで《ご注文は百合ですか?》という作品に出逢いました。
どうして自分はこのタイトルにしなかったのだろうかと、すごく悔しくなりました。その上、めっちゃ面白かった。取り敢えず、その悔しさを胸に、頑張って書こうと思いました。以上。


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四品目 ~それぞれの夜 ホワイトシチューを添えて~

「じゃ。おつかれぇ」

「お疲れ様だ」

「ばいばーい」

「また明日、です」

 

モカとリゼがココアとチノに別れを告げて帰路につく。空は茜色に少しだけ濃紺が混じり、モカとリゼを夕日が照らす。

モカがリゼと腕を組もうとするのを、リゼが拒みながら締めようとするのを、さらにモカがいなす。そんな風に歩くこと十数分。鉄製の門が見えてくると、モカがスキップとともにリゼより数歩先を歩く。そして、

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

恭しく一礼するモカの仕草は、完全にメイドのそれだった。

 

「あぁ、ただいま。モカ」

 

喫茶ラビットハウスにアルバイトとして働く亦里萌佳の本業は、天々座家に仕える、リゼ専属のメイドさんなのだ!

 

 

一方ラビットハウスの居住スペースでは、ココアとチノが夕飯の仕度に取り掛かっていた。

 

「夕飯はシチューでいいですか?」

 

髪をポニーテールに結い上げ、エプロンを身に着けたチノがココアに問いかける。ココアは頷きながら、

 

「野菜を切るのは任せて!」

 

と言って、冷蔵庫から野菜を取り出す。二人がキッチンに並びながら調理を進めると、

 

「なんかこうやってると姉妹みたいだね♪」

 

ココアのテンションが少しずつ上がっていく。花が咲くような笑みをチノに向けるが、

 

「はぁ……」

 

反応は薄い。少しだけ思案顔を浮かべたチノがぽつりと、

 

「(姉妹……か)ココアお姉ちゃん……ですね」

 

そう呟いた。この一言がココアのハートを射抜き、

 

「もう一回言って」

 

右手にピーラー、左手に人参を握ったまま頬を染めて待ち続けるのだった。

 

「………………」

「お願いもう一回」

 

だがしかし、チノがお姉ちゃんと呼ぶことはなかった。

 

 

夕食を終え少し時間が経ち、チノはお風呂に入っていた。そこにココアが突入する。

 

「チノちゃーん、お風呂入ろ! ココア風呂だよー!」

「ココア風呂!?」

 

疑問符を浮かべるチノに入浴剤の小袋を見せる。粉末をサラサラといれると、ふわりと甘い香りが広がる。チノの隣に座ってお湯に浸かるココア。

 

「ね、今日は一緒の部屋で寝てもいい?」

「一緒に……ですか?」

「うん♪ 一杯お話したいことあるし」

 

にこりと微笑むココアにたじろぐチノ。

 

「ふ、不束者ですがお手柔らかに……」

「へ?」

 

ぶくぶくとお湯に沈みながらチノが言ったセリフをココアが疑問符を浮かべる番だった。

 

 

しばらく浸かって洗いっこを済ませた二人。パジャマに着替えてココアはチノの髪を乾かす。チノの父はドライヤーを使わないため、ドライヤーはチノの部屋に置かれている。

ココアはドライヤーの風をあてながら、指でチノの長い髪を梳く。ふと、ココアがチノに問いかける。

 

「そういえば、ティッピーは?」

「父と一緒です」

 

目を細めながら、ココアに髪を好きにさせるチノ。もう十分に、懐いている様子がなんとも微笑ましい。

 

「そっかー。ぎゅーっとして寝たかったのになー」

「ティッピーは抱き枕じゃないですよ」

「じゃあチノちゃんぎゅーっとして寝ようかな」

 

にこりと微笑むココアを鏡越しに見て恥ずかしくなったチノは、膝に乗せていたうさぎのぬいぐるみをココアに投げつけるのでした。

 

 

所変わって天々座邸。セミダブルとも言えそうなくらい広いベッドにうつ伏せで寝るリゼ。形と大きさに恵まれた胸が、17とは思えないくらいに艶かしい。

……ただ、していることはあまりに子供だった。

 

「聞いてくれよワイルドギース。今日、新入りが入ってきてなー、こいつがなかなか変わったやつでさ」

 

リゼの髪色に近い色をしたうさぎのぬいぐるみ、ワイルドギース。

 

「練習用ラテアートが余りまくって大変だったよー。当分カフェラテは飲みたくない……」

 

そんな彼(?)に話しかけるリゼ。……一見クールな彼女の、意外な一面である。

 

「ってなにやってんだ私はー! 寂しくない。寂しくないぞー!」

 

ただ、話しかけてからその恥ずかしさに悶えるのが一連の流れなのだ。ベッドの上で少しじたばたしていると、ケータイが光っていることに気付いたようだ。

 

「ん、メール? あれ、ココアからだ」

 

営業が終わって着替える前にお互いの連絡先を交換したばかりなのだ。ココアからの初めてのメール。そこには、

 

「……あいつ、こんなの作っていたのか。明日からもがんばろう、か」

 

ラビットハウスの四人をラテアートで描いたものが、添付されていた。その写真をそっと待ちうけにしたリゼの笑顔を、こっそりと見つめるモカ。

彼女たちの夜はまだ長い。




どうしてこんなに時間が空いてしまったのか……。
言い訳はしません。二期が始まるまでにもう少し更新したいです。
受験生の身ではありますが、頑張りますのでよろしくおねがいします。


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五品目 ~迷宮に注ぐココア~

お久しぶりです。映画を見たのでまた書きたくなりました。
もうじき冬休みなので1巻のお話は全て書ききりたいですね。
また、主人公の名前を含め改稿をいたしました。前話までも確認していただければ幸いです。


Side ココア

 

 

「普通に? 優等生っぽく? それともフリョーっぽく?」

 

可愛い制服だしどう着ようかなぁ。せっかくの入学式だし、なんかこう……いい感じに……。

 

「ココアさん、何してるんですか? そろそろ行きますよ」

「あ、チノちゃん!」

 

部屋に入ってきたチノちゃんは可愛い青の制服を着ていた。

 

「チノちゃんの学校、帽子もあるんだね。可愛い!」

 

もしやこの帽子の下にはティッピーが……!? いざ、ご開帳!!

 

「何を期待したんです?」

 

いない!! ……まさかいないなんて思わなかったよ。うん。そんなチノちゃんと一緒に一階へ降りる。まだまだ眠そうなチノちゃんが頭の上をわさわさする。

 

「チノちゃんどうしたの? ティッピーいないよ?」

 

ハッとしたチノちゃん。すぐに恥ずかしいのか顔が紅くなる。なんだか可愛いなぁ。

 

「ティッピーの位置を直すの、クセになっちゃってるんだね」

 

タカヒロさんに見送られて学校へ行く。チノちゃんも同じ方向らしくて、一緒に行けると喜んでいたら……。

 

「では、私こっちです」

「早っ!?」

 

すぐにお別れになってしまった……。一人とぼとぼと街を歩いていると、遠くに見覚えのある二人がいた。

 

「おーい、リゼちゃーん、アンジュちゃーん!」

「ココアちゃーん!」

「目立つからやめろ!」

 

アンジュちゃんは反応してくれたけどリゼちゃんからは怒られちゃったや。二人は私とは違うブレザータイプの制服を着ていて、なんだかお嬢様って感じがしてかっこよかった。ほら、タイが曲がっていましてよ、みたいな感じの。

 

「制服交換してみない?」

「いいね、セーラー服着るの二年ぶりかも!」

「お前ら……自分の学校行けよ」

 

ノリノリのアンジュちゃんだがリゼちゃんに止められてはしかたない。

 

「またお店でねー」

「迷子になるなよ」

 

二人にそう言われて別れ、学校へ向かっていると、

 

「あれ? また会ったね」

 

アーチが特徴的な交差点で二人を見付けてお別れすると、また五分後くらいに今度は階段ばったり会った。

 

「すごーい、また会った」

「ココアちゃん、学校の場所分かる? 迷子になってない?」

「大丈夫だよー」

 

心配そうなアンジュちゃんに見送られて、学校へ向かう。

 

「あれれー、まただー」

「ココアちゃん、ほんとにほんとに大丈夫?」

「わ、わたしは異次元空間に迷い込んだいのか……!?」

 

すっごく心配そうなアンジュちゃんと、なんだか頭の痛そうなリゼちゃんに見送られてまた歩き出す。ちょっと疲れてきちゃったかも。学校って遠いんだなぁ。

 

「うぅ、ちょっと歩き疲れちゃったなあ……」

 

体力はけっこう自信あるんだけどね。立ち止まって呼吸を整えていると、ふっと視界の片隅にウサギの姿が見えた。

 

「これが噂に聞く野良ウサギ……」

 

真っ白なウサギと目が合う。ダメだよ、ここでもふもふしてたら学校に送れちゃう! でも、でもでも……。

 

「はぁ~もふもふきもちいい~」

 

抱きしめたウサギの暖かさに気持ちがゆるむ。身体もゆるんだのかウサギが脱兎の如く逃げ出した! もうちょっと触りたい私は慌てて追いかけた。そしたら、ちょっと広い公園に着いた。

 

「あ、あれは……」




次回、千夜ちゃん登場!


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